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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

~このサイトのご紹介~ 魔性の淫楽への招待状

2026年03月22日(Sun) 21:12:01

はじめにお読みください。
一話読み切りのお話がほとんどですが。
吸血鬼ストーリーといっても。
「他では目にすることはまずないでしょう」
そう断言できるほど?変わった世界のお話なので・・・。

【付記】
弊ブログに登場する人物・団体はすべて架空のものであり、実在するかもしれない人物・団体とは何の関係もありません。
(2018.2.12念のため追加しました)

カテゴリの解説

2025年08月14日(Thu) 19:11:24

ひと言で吸血鬼ものの短編といっても、それこそいろんなお話が混在していますので。
カテゴリをちょっと、整理しました。
お話に共通のおおまかな設定については冒頭↑の「招待状」に書かれてありますが。
ちょっとだけ、付け加えておきます。

汚され抜いて。

2023年09月23日(Sat) 23:49:18

妻がエプロンを着けたまま食卓に座るのを、比留間は見るともなしに見ていた。
相変わらず活発に座を切り盛りして、娘の差し出すお替りにも腕まくりをして応じていった。
4人のなかで男ふたりはむしろひっそりとしていた。
特に怪人は、気配を感じさせないほどに、ひっそりしていた。
人間の食するものも、少しは口にするようになっていた。
監獄での経験がそうさせたのだが、それ以上にこの家に迎え入れられてから、艶子の作る食事が口に合ったのがおもな理由のようだ。
艶子も、ほんらい人間の血しか口にしないはずの男が、自分の作った食事を――ほんの少しにせよ――口にしてくれることにまんざらではないようすだった。

娘の真由美が箸を置いて起ちあがった。
「そろそろ学校行く」
いつも通りのボソッとした声色だった。
ちょうど食事を終えた怪人が、同時に起ちあがった。
「え・・・なによ」
真由美はちょっとたじろいだ様子で怪人とにらみ合った。
「頼むから――」
怪人は真由美以上に低い声色で、なにかを請うた。
「・・・・・・しょうがないなぁ」
真由美はいかにもイヤそうに口を尖らせると、
それでも白のハイソックスを履いた足許に相手がにじり寄ってくるのを遮ろうとしなかった。

男の唇が、真っ白なハイソックスのふくらはぎに、ニュルッと吸いついた。
そしてそのままジリジリと唇をせり上げるようにして、真由美のハイソックスを唾液で濡らすことに熱中し始めた。
「ねえ――ほんとに濡れたまま学校行かなきゃダメなの?」
戸惑ったような声色が、ここ数年不貞腐れ続けていた真由美に似つかわしくなく、両親の耳に新鮮に響いた。
「ああ・・・頼むよ」
男は上目遣いに真由美を見、嬉し気に白い歯をみせた。
「いけすかないっ」
真由美はむくれながらも、鞄を手に取った。
男のよだれのしみ込んだハイソックスのまま、学校に行くということらしい。

夕べは夫婦ふたりきりの寝室だった。
怪人が真由美と同衾を願ったためだった。
真由美も、「いいじゃん別に」と、他人ごとみたいな顔つきで、怪人を自室に受け容れてしまっている。

いったい何があったんだ――
両親の懸念は当然だった。
けれども艶子も比留間も、娘がいつものように起き出してくると、なにも切り出せなくなっていた。
夕べと今朝とで、娘と怪人との距離は、明らかに縮まってた。
歯を磨いている間も、怪人は馴れ馴れしく真由美の肩を抱きつづけていたし、真由美はそれを拒むふうもなかった。
制服に着替えるときも、怪人は真由美の部屋から出なかった。
なにをしているのかはわからなかったけれど、時折娘がキャッキャとくすぐったそうな声をあげるのを頭上に聞きながら、
両親はただ顔を見合わせただけだった。

娘が学校に行くと、それからすぐに比留間も勤めに出ていく時間になる。
比留間はいつものように妻に見送られて玄関を出ると、家の周りを一周して自宅に戻り、
家の中には入らずに庭の植え込みの陰に身を隠した。
「いったい、うちの娘になにをしたのよ?」
窓越しに、妻の声がした。
妻の懸念はもっともだった。彼自身もっとも訊きたいことだった。
「安心しなよ、ヘンなことはしちゃいねぇから――」
怪人の声色は、落ち着き払っていた。
「ヘンなことって――」
艶子が言いよどんでいる。
「あの子の血は旨いな」
男はうそぶくように、そういうと、ちょっとめんどうくさそうに、
「安心しなって。処女の血は貴重品なんだから」
といった。
艶子の安堵が、窓ガラスを通して伝わってきた。
「だけどさ」
艶子はもはや、怪人相手にため口である。
「ほんとうに、なんにもしなかったのかい?」
「あの子はくすぐったがってただけだぜ」
男はいった。
何ということか――
ひと晩じゅうかけて、娘の首すじや胸もと、それに太ももや股間に至るまで、舐め尽くしたというのだ。
「え――」
さすがに艶子が絶句したその唇に、男は自分の唇を重ねてゆく。
窓越しに映る妻は、身を揺らして戸惑いつづけ、それでも結局、男の口づけを受け容れていった。

ちゅっ、ちゅっ、ちゅちゅうっ。
吸血を伴わない口づけ。
だがそれは、夫の立場を脅かすに十分な熱さと深さを帯びていた。
「ちょ――主人出かけたばかりだよ、そんなこと・・・っ」
艶子は男の唇の追求を避けようとしながらも、そのつど頬を掌の間に挟まれて、けっきょく口づけを許してしまう。
狎れきった男女がそうするように、2人はつかず離れずしながら、キスを求めたり、拒んだり、強引に奪ったり、愉しみ合ったりし続けた。

窓の外では、比留間がひたすら、懊悩している。
なんということだ・・・ああ、何ということだ・・・
一夜にして犯されてしまった妻。
その妻は昨晩の交接を辱めとは受け取らず、いままたなんのためらいも見せずに再演するばかりの気色である。
俺の目がないと、ここまで許すのか。乱れるのか――
そう思いながらも、出ていって2人を制しようとするような無粋はするまい――と、なぜか思ってしまう。
邪魔をしてはいかん。そういうことは男としてよろしくないことだ。
人の恋時を邪魔するやつは――というけれど。
比留間は自分の妻のアヴァンチュールにすら、そんなことを考えてしまうような馬鹿律義なところがあった。
蹲る彼の頭上で、浮ついた口づけの微かな音が交わされて、夫の心を掻きむしるのだった。

「ね、、いいんだよ。姦っても。構やしないわよ」
なんということだ。
妻は自分から、身体を開こうとしていた。
「昨夜は引っぱたいたりして、悪かったね。亭主の手前、そうしなくちゃいけないかなって思っただけ。本気で叩かなかったろ」
という艶子に、怪人はいう。
「じゅうぶん痛かったぞ。憂さ晴らしにわざとやったな」
「ふふん、バレた?」
妻は自分を犯した吸血怪人すら、手玉に取っている。

艶子はまだエプロンをしていた。
男がエプロンに欲情するのを、よく心得てのことだった。
「あ!よしなさいよっ」
ドタッと押し倒す音がした。
激しくもみ合う音が、ガラス戸を通してやけにリアルに伝わってくる。
「ちょっと、ダメだよ。あっ――」
妻の声が途切れた。
ぐちゅっ。きゅううっ。
吸血の音が生々しく響いた。
比留間はたまらなくなって、植え込みから起ちあがった。
ガラス戸の向こうでは、組み敷かれた妻が、首すじを咬まれて目をキョロキョロさせている。
そんな妻の狼狽におかまいなく、男は自分の欲求を充たすことに熱中していた。
口許に散った血が、バラ色に輝いていた。
そして、そのしたたりが、はだけかかったエプロンに、そしてその下に身に着けた淡いピンクのブラウスにしみ込んでゆく。
「あ、あっ・・・なにすんのよっ」
ブラウスにシミをつけられながら、妻が抗議した。
血を吸い取られるよりも、服を汚されるのを嫌っているようだった。
比留間にとっても、想いは妻と同じだった。
あのブラウスは、やつが出所する前に迎えた妻の誕生祝いに買い与えたものだった。
夫婦愛の証しが、不倫の愉悦にまみれて汚されてゆく――なんという責め苦だろう?
始末の悪いことに、そんな状況が妻を悦ばせてしまっていた。
「きゃっ、やだっ、なにすんのよっ」
声では抗いながらも、吸い取った血潮を唇からわざとブラウスの胸めがけて滴らせてくる男の悪戯に、興じ切ってしまっている。
「ちょっと、やだったら――ほんとに失礼な人よねえ!」
身をよじって歯をむき出して抗いながらも、そうすることが男をよけいに楽しませることを、彼女は心得ていた。
男はなん度も女に咬みついた。
首すじに、胸もとに、わき腹に、ふくらはぎに――
艶子はわざわざ真新しいストッキングを穿いて、男の相手を務めていた。
肌色のストッキングは男の卑猥ないたぶりに触れるとフツフツとかすかな音を立てて裂け、
ふしだらに広がる裂け目が、男の欲情をいっそう駆り立てた。
「だっ、だめえ・・・」
そう声を洩らした時にはもう、破れ堕ちたストッキングはひざ小僧の下までずり降ろされて、
無防備に剥かれた股間に男のもう一つの牙を受け容れてしまっていた。
「あ・・・ぅ・・・うぅん・・・っ」
荒っぽいしぐさで男の吶喊に応えながら、女はもはや恥を忘れて、股間に渦巻く激しい疼きに身をゆだねていた。
「上手・・・もっとォ・・・」
妻の唇から、さらなる情交を求める声が洩れた。
組み敷いたブラウス姿から顔をあげて、男が窓越しにウィンクを投げてきた。
そんなもの――どうやってあいさつしろというのだ?
比留間は戸惑うばかりだったが、悩乱してゆく妻の様子から、もはや目が離せなくなっている。

「あ・・・ううん・・・」
意味のないうわ言をくり返す妻にのしかかり、怪人は囁きかける。
「だんなとどっちが良い?」
「あんたに決まってるじゃない」
ああ――なんと呪わしい返答・・・!
「別れてわしといっしょになるか?」
「ううん、それはしない」
「ほほー」
「あんただって、あいつの嫁を辱め抜きたいんだろ」
「よくわかってるな」
「あたしも、あいつの奥さんが犯され抜くのが楽しいの」
だって私――主人を愛してるから。

さいごのひと言は、窓の外からの視線の主へのものだった。
「時々さ――こんな感じで楽しもうよ」
彼女のひと言kは、どちらの男に向けられたものだったのだろう?


あとがき
前作の続きです。
そろそろ種が切れたと思ったのですが、まだ少しだけ残っていたみたいです。(笑)

出所した怪人、看守一家を征服する。 副題:チョイ役一家の意気地

2023年09月14日(Thu) 01:31:55

それはいつも決まって、食事のあげさげをするときだった。
看守の比留間湊(46)はお盆を受け取るとき、そっと指を差し出してやる。
檻の中の男は「いつもすまないね・・・」とひっそりと囁いて、比留間の指を口に含んだ。
ナイフを軽く擦った指先からは、血が滲んでいた。
囚われた男は、もと吸血怪人だった――

こんなことが、なん度続いたことだろう。
さいしょは、囚人が暴れないための予防策のつもりだった。
ほんの少しだけで良いから、人の血がもらえればな――
刑務所のなかの作業場で男が呟くともなく呟くのを耳にして、他の囚人への影響を心配した彼は、上役に相談した。
「あの男にほんの少しだけ、血を飲ませてやった方が良いんじゃありませんか」
「誰がそんなことを??」
尖った声の上役に向かって、私が自分の責任でやりますから――と告げると、責任問題に巻き込まれずに済む安心感からか、
案外あっさりと許可がおりた。
入所してすぐのころは、壁が破れんばかりにぶっ叩くわ、鉄格子をねじ切るわ、大変な騒ぎだったのが、
怪我をした看守の血が床に滴るのを舐めただけで、男はようやく落ち着いたのだった。

「気をつけろよ、相手は怪人なんだからな」
上役は看守に注意を促すことを忘れなかった。口先だけだったとしても。
しかし、彼の懸念は正しかった。
さいしょのうちは気づかなかったけれど。
摂取した血液と入れ替わりに、男は淫らな毒液をひっそりと、看守の体内にしみ込ませていったのだ。

「あなた、顔色がよくないわ」
妻の艶子(42)がそういうのを、看守は上の空で受け流した。
「ね、顔色が良くないって言ってるのよ!?」
気丈な妻は声を励まして、夫を正気づけようとした。
「わかってる――わかってるって・・・」
看守はフラフラと起ちあがると、その日も勤務先に出かけていった。

指先がジクジクと疼いた。
身体もどことなく、熱を帯びているような気がした。
きょうで三日、やつに血を与えていなかった。
そういう日が続くとどういうわけか、指先が疼き身体じゅうがゾクゾクと熱っぽくなるのだ。
男がいちどに摂取する血の量も、気のせいか少しずつ増えているような気がする。
突き出した指先が生温かい分厚い唇にくるまれて、ニュルッと舌を巻きつけられて、傷口にわだかまる血潮をキュッと抜かれる。
そんな仕草を忘れられなくなってしまったことを、彼はまだ上役に相談していない。

「いつもすまないな」
囚人はいつものようにひっそりと囁いた。
その囁きがいつになく、熱を帯びているのを彼は感じた。
キュウッ・・・
差し伸べた指先を口に含めると、男は比留間の指を強く吸った。
くら・・・ッと眩暈がするのを、比留間は感じた。
「出所が決まった」
男がいった。
言葉の内容ほどには、嬉しくなさそうな声色だった。

さっきまで。
もう少し・・・もうちょっとだけ舐めさせてくれ・・・
男に請われるままに指を差し伸べつづけていた比留間は、手に持っていたカミソリで、もう片方の人差し指を傷つけていた。
二本目の恩寵を享けた男は、どうやら心かららしい感謝の呟きを口にすると、
こぼれ落ちようとする赤いしずくを、素早く掬(すく)い取っていた。
ごくり・・・
自分の血が男の喉を鳴らすのを、比留間はウットリと耳にした。
そんなに旨いのか?
比留間は男が自分の血を旨いと褒められることに、深い満足感を見出していた。
男が出所すれば、このささやかで密かな愉しみも終わりを告げる。
そんな当たり前のことに、今ごろになって気がついた。
明日が出所という日に、さいごに自分の指を五本も舐めさせた後、
困ったらわしの家に来い――といって、妻や娘の住む家の住所を書いたメモを手渡していた。

「もしもやつが来たら、家にあげてやってくれ」
勤め先から戻るなり、比留間は妻にそう告げた。
「え・・・?」
艶子は怪訝そうに夫を見た。
「だって・・・吸血怪人なんでしょ?そんな危ないのを家にあげるわけにはいかないわ」
色をなして反論する妻をみて、こいつもすっかりやつれた――と比留間はおもった。
四十の坂を越えたあたりから、妻の容色は目に見えて衰えていた。
それは、受験やら進学やら、パート先でのいざこざやらで神経をすり減らす毎日が、
彼女の髪や肌の色つやを、粗砥(あらと=粗いやすり)で削り取るように殺(そ)いでいったためだった。
肩まで伸びた黒髪が、カサカサに乾いていた。
頬の輝きもかつてミス〇〇候補と言われたころにはほど遠く、
かつての面影を知らないものの目には、並以下のおばさんにしかみえなくなっていた。
俺たちはこうしてすり減っていくのか――比留間はおもった。

「たぶんな、若返るぞ」
「え?」
なにを言うの?という目で、艶子が彼を見あげる。
「言ったとおりの意味だ」
「信じられないわ」
「どうして」
「だってあなたを見ていたら、あの男に血を与えるようになってから、ずっと顔色悪いんだもの」
「少し過度になっていたのは認める」
夫は譲歩した。
「血は与えすぎても良くないのだ。だが、あそこでは俺以外、やつに血を与えるものがいなかった」
「なにを仰りたいの・・・?」
「なにも言わないで、やつに求められたらお前の血を吸わせてやって欲しいんだ」
自分で口にして、自分で驚いていた。
やつに居所がなかったら、俺のところに招んでやろう。
どうしてそんな仏心をおこしたのか。
やつを家に招んで、なにをどうするつもりだったのか。
それがいまになって、やっとわかった。
俺は・・・俺は・・・女房や娘がやつに血を吸い取られるところを視たいのだ。。。

やつは「現役」のときも、吸血行為は冒したが、人の生命は奪っていない。
だから、血を吸われたからと言って死ぬ心配はない。絶対にない――
そんなふうに力説する夫の言をどこまで信用したのか、艶子は「わかりました、仕方ありませんね」と折れていた。
「そのひとが私の血を吸いたがったら、ちゃんと吸わせてあげます」
まるで変なペットを連れ帰った家族に対するように、艶子は根負けしたように言ったのだった。


男が出所した後、一週間はその姿を見かけなかった。
案外、自分がかつて洗脳したものを見つけて、「感動の再会」を果たしているのかも知れなかった。
けれども比留間は、勤め先と自宅との行き帰りの間、どこかであの男を見かけないかと、心のどこかで期待していた。
そして一週間後の帰り道、男が寒々としたようすで家の近くの路地に佇んでいるのを見つけた。
「よう」
すすんで声をかけた比留間に、男は首をすくめてみせた。
「出所おめでとう。でも景気悪そうだな」
比留間の声はガラガラ声だったが、人柄の温みは男にも伝わっていたようだ。
見知らぬ雑踏のなかで知己に出逢えた歓びを、男は素直にはにかんだような笑みで伝えてきた。

自宅近くの公園で、凩に吹かれながら、男ふたりは寒そうにコートの襟を立てていた。
「悪いけどさ・・・」
男が遠慮がちに口火を切る。
「血が欲しいんだろ」
比留間がむぞうさにこたえた。
指か?と訊く比留間に、「脚でもいいか」と、男が問うた。
そういえば――
男が現役の吸血怪人のときには、人妻のパンストや女学生のタイツばかりではなく、
男の子のハイソックスまで血に染めながらかぶりついていた。
そんな過去の「活躍」を、すぐに思い出していた。
比留間は自分のスラックスのすそを、引き上げていた。

穿いていた靴下は、瞬く間に血浸しになった。
濃紺の靴下に縦に流れる白のラインが、隠しようもなく赤く染まっていた。
「このまま家に帰ったら女房がびっくりする」
苦笑する比留間に、「奥さんの血ももちろん要りようだ」と、怪人はあつかましい要求を突きつけた。
「良いだろう、ちゃんと話はつけてあるから――」
男ふたりがベンチから起ち上がったときにはもう、あたりは暗くなり始めていた。

「いらっしゃい――え?このひとが?」
艶子は目を丸くして、怪人を見た。
案に相違してごくふつうの中年男だったので、拍子抜けしてしまったのだ。
齢のころは、夫よりも五つ六ついっているだろうか?
白髪交じりに冴えない顔色、背丈も手足もずんぐりしていて、魅力のかけらもない男だった。
「まあ、まあ、お寒いですからどうぞ、おあがりになってください」
狭い敷居の奥に客人と夫を通すために後じさりするつま先が肌色のストッキングに透けているのを、怪人は見逃さなかった。

こたつを隔てて顔を見合わせている同年配の男ふたりに、艶子はお茶を淹れている。
なんということはない、だだのおっさんじゃないの。
艶子のなかには、相手をちょっと軽んじる気分が生まれていた。
ただ、ひとつだけどうにも、解決しておかなければならないことがある。
「あなた、ちょっと――」
艶子は頃合いを見計らって、夫を廊下に呼び出した。
(なんだい?)
妻の顔色を察して小声になる夫に、艶子はいった。
(あたしは仕方ないけれど、真由美にまで手を出さないでしょうね?)
今さらながらの心配だった。
(だいじょうぶだ、ちゃんと言ってある。本人とお前の了解なしに、そんなことはしないってさ)
(なら良いんだけど・・・)
艶子は熟妻らしく、新来の男に対する警戒を完全には解いていなかった。

「ちょっと表出てくる」
比留間はとつぜん、艶子にいった。
「真由美は塾だろ?どうせ遅せぇんだよな」
「ええ――晩ご飯まで帰らないけど」
比留間家の夕食は、真由美の帰りに合わせて晩(おそ)かった。
その前に――やつが自分の夕食を欲するに違いない。
さすがにその場に居合わせることに忍びなかった彼は、妻を怪人の前に残して、ちょっとだけ座をはずしたのだった。

「あの――」
艶子は恐る恐る、怪人に話しかけた。
「うちには年ごろの娘がいます。真由美と言います。大事な娘なんです。だから――」
緊張でカチカチにこわばった声を和らげるように、怪人はいった。
「どうぞご安心を。ご主人の血だけで生き延びてきたわしですから――そんなオーバーに心配しないでいただきたい」
「そうですか・・・?」
2人きりになった気まずさから、艶子はまるで生娘みたいに縮こまっていた。
「だいじょうぶです。血を吸うときもほんの少し――
 ご主人のときには少し吸い過ぎました。あの人しかいなかったから・・・
 でも貴女が協力してくれたら、ご主人もすぐに元気になりますよ」
「あ――」
艶子は絶句した。もうすでに、彼女の血液は彼の計算に入ってしまっているのだ。
思わず腰を浮かせかけたのが、呼び水になった。
怪人は目にも止まらぬ早業で、部屋から逃れ出ようとする艶子を、後ろから羽交い絞めにしていた。
「ひいッ!」
艶子はうめいた。
男の唇が、はだけたブラウスからむき出しになった肩にあてがわれたのを感じた。
生温かい唾液が自分の素肌を濡らすのを感じた。
おぞましい――思った時にはもう、咬まれていた。
ググッと咬み入れてくる鋭利な牙に、艶子ははしたなく惑乱した。
空色のブラウスを赤黒く染めて、看守の妻は血を啜られた。

怪人が熟妻の豊かな肢体を畳のうえに組み敷いてしまうまで、数分とかからなかった。
艶子はまだ意識があり、男の腕のなかでひくく呻きつづけていたが、
さっき咬まれた肩とは反対側の首すじに牙の切っ先を感じると、身を固くして押し黙った。
女が言葉を喪ったのをよいことに、怪人はふたたび艶子の膚を冒した。
ズブズブと埋め込まれる牙に、赤黒い血が勢いよく撥ねた。
ぐちゅう・・・っ!
露骨な吸血の音に、女は失神した。

玄関ごしにガシャーンとお皿の割れる音が聞こえて、比留間は思わず振り向いた。
自宅の灯りはなにごともないように点いたままになっている。
しかし、ガラス戸にかすかな赤い飛沫が撥ねているのをみとめて、思わずドアを開けて家のなかへとなだれ込んだ。

居間はしんとしていて、だれもいなかった。
恐る恐る覗き込んだ夫婦の寝間に、艶子は畳のうえにあお向けに大の字になって手足をだらりとさせている。
男は気絶している艶子にのしかかって、首すじに唇を吸いつけて、生き血を吸い取っている。
妻の生き血が吸い上げられるチュウチュウという音が、比留間の鼓膜を妖しく浸した。
男は身を起こすと、静かな顔つきで比留間を見あげた。
「シッ!」
とっさに唇に一本指を押し当てた吸血怪人を前に、比留間は逡巡した。
「見逃してくれ・・・」
男はひくく呟くと、比留間の返事を待たずにもう一度艶子に覆いかぶさり、こんどは胸もとに牙を当てた。
久しぶりに目にした妻の胸もとは思ったよりも白く透きとおり、痴情に飢えた男の唇にヌルヌルと嬲られてゆく。
突き立てた牙をそのまま無防備な素肌に沈めると、鮮血がジュッと鈍い音をたててしぶいた。
「おい――」
やり過ぎだろう?と咎めようとしたとき。
比留間はジワッとなにかが体内で蠢くのを感じた。
蓄積された毒素が、妻の受難を目にして目ざめたマゾヒスティックな興奮を掻き立てたのだ。
「ウーー!」
比留間は絶句してのけぞった。
「悪く思うな。俺は俺のご馳走にありつく・・・」
はだけかかった艶子のブラウスを、男はむぞうさに引き裂いた。

いつも見慣れた地味な深緑のスカートが、いびつな皴を波打たせて、じょじょにたくし上がってゆく。
肌色のストッキングに包まれた艶子の太ももが、少しずつあらわになってゆくと、
男は嬉し気に彼女の脚を掴まえて、ストッキングの上から唇を這わせていった。
そうなのだ。熟妻のストッキングはこいつの大好物だったのだ。
貪欲なけだものを家に入れてしまったことを、比留間は今さらのように悔やみながら、焦れに焦れた。
下品な舌なめずりが、艶子の足許になん度もなすりつけられた。
そのたびに、微かにテカテカと光るパンストが少しずつ、ふしだらに皴寄せられてゆく。
男は明らかに、艶子のパンストの舌触りを愉しんでいた。
「やめろ・・・やめてくれ・・・」
比留間はうめいた。
「あんたには良くしてやったじゃないか。恩を仇で返すのか?」
男はなにも応えずに、艶子の下肢のあちこちに牙を当てて、パンストをブチブチと食い破りながら、血を啜った。
ひと啜りごとに得られる血の量はさほどではなかった。
こいつ、ひとの女房の血の味を楽しんでやがるんだ。
比留間は相手の意図をありありと悟った。
まるで腑分けでもするようにして。
男は艶子のスカートをむしり取り、ブラジャーを剥ぎ取り、ペチコートを引き裂いてゆく。
「わ、わかった・・・わかった・・・艶子はあきらめる。全部渡してやる。だが、娘には手を出すな、絶対手を出すなよ――」
比留間は念仏のようにそうくり返しながら――艶子の腰周りに手をやって、自分の手で妻のショーツを脱がせていった。
「すまないね、だんなさん。恩に着る。悪いようにはしねえ」
怪人は比留間にそう囁くと、なん度目かの牙を艶子のうなじにお見舞いした。
サッと撥ねた血潮が、寝間の畳を濡らした。

むき出された怒張はみるからに逞しく、自分のそれよりもはるかに威力がありそうだった。
赤黒く膨れあがったその一物が、妻のふっくらとした下腹部に押し当てられ、そしてもぐり込んでゆく――
「あうううっ」
艶子が白い歯をむき出して、顔をしかめた。
それから「ひーーっ」と呻いて顔をそむけようとすると、それすらも許されず、男の唇をまともに受け止めさせられていた。
「あう・・あう・・あう・・」
もはやどうすることもできずに、艶子はただ、喘ぎつづけている。悶えつづけている。惑いつづけている――
ロマンチックではまるでない。絶対にない。
女房は実に見苦しく、芋虫みたいに転げまわっているし、呻き声だって可愛くなかった。
けれども、必死に手足を突っ張り、吸血に耐え、身もだえをつづけながら
ケダモノのように爆(は)ぜ返るペニスを受け止めてゆくその光景は、ひどく淫らで、底抜けにイヤラシイ――
四肢を引きつらせて受け留めた怪人のペニスが妻を狂わせるのを、比留間は目もくらむ想いで見届けてしまっていた・・・


「ただいまぁ」
いつもの投げやりな声色で、娘の真由美(16)が帰宅してきた。
制服のブレザーをむぞうさに脱ぎ捨てると、「母さん、水・・・」と、ぞんざいに言った。
いつものようにすぐに反応が返ってこないので、不平そうに部屋を見回して、真由美は初めて異変に気づいた。
家じゅう、いやにひっそりしている。
壁のあちこちに撥ねている赤い液体は・・・えっ?うそ。人間の血??
なにが起きたの!?
白のハイソックスのふくらはぎが、緊張に引きつった。
夫婦の寝間に、なんとなしの人の気配を感じて、白のハイソックスの脚は抜き足差し足、引き込まれるように部屋の奥へと歩みを進めた。
真由美は再び、足取りを凍りつかせてしまった。
寝間にはほとんど全裸に剥かれた母が、血に染まって倒れていた。
父もその傍らに気絶して倒れていた。
両親の首すじには、咬み痕がふたつ、同じ間隔でつけられている。
母の足許には、見慣れぬ黒い影がうずくまっていた。
黒い影は、母のふくらはぎを、いじましそうに舐めつづけていた。
ひざ小僧の下まで破れ堕ちてずり降ろされたパンストに、皴を波立てるのを愉しんでいた。
経験のない真由美にも、母親の身に起こったことがなんなのか、すぐに察しがついた。
「あ、わわわわわっ・・・」
さっきまでの投げやりな態度はどこへやら、真由美はガタガタ震え出した。
逃げようとしたけれど、脚が思うように動かない。
背後から伸びてきた掌が彼女を掴まえ、居間のじゅうたんの上に引き据えた。
なんとか逃れようとジタバタしたけれど、身じろぎひとつできなかった。
母のパンストを引き破った男は、こんどは娘のハイソックスに目が眩んでいた。
同じようにされる――本能的にそう察した真由美は声をあげて助けを呼ぼうとしたが、喉が引きつっていて声は満足に出なかった。
母親から吸い取った血に濡れた男の唇が、そのままふくらはぎに吸いつけられるのを感じた。
ひざ下をほど良く締めつけているしなやかなナイロン生地を透して、ヌルヌルとした唾液が生温かく、素肌にしみ込んでくる。
あっ――と思った時には、圧しつけられた唇にいっそう力が込められていた。
両親の首すじを咬んだ2本の牙が、ハイソックスを咬み破って、真由美のふくらはぎを激しく冒した。
十代の若い血潮がしたたかに、男の唇を濡らした。
学校帰りのハイソックスを真っ赤に濡らしながら、真由美は十六歳の生き血を吸い取られていった――
男はうら若い血を強欲にむさぼり、そして魅了されていった。
淡い意識をたぐり寄せながら、比留間は眠りこけた娘の横顔を見守った。
娘は自分の血の味を誇るかのようにほほ笑んでいるように見えた。
「あたしの血美味しいのよ、たっぷり吸い取って頂戴」
そんなふうに言っているように見えた。


1時間後。
ともかくも夕食を終えた3人は、吸血怪人を囲んでひっそりと俯いている。
部屋じゅう鮮血をまき散らして3人の血を喰らった男は、至極満足そうだった。
頭からは白髪が消えて、褐色に萎えていた顔色にも血色をみなぎらせている。
その「血色」は、自分たちの体内から獲られたものだと、3人とも知っていた。
真由美は怪人の横顔を精悍だとおもった。
自分の身体から吸い取られた血液がそうしているのだとしたら、ちょっと自慢したいような、不思議な気分に囚われていた。
艶子も同じように感じていた。娘まで牙にかけられたのはなんとしても悔しかったけれど、
自分が喪った血がむだになっていないのは良いことだと、想いはじめていた。

「ともかく飯を食いなさい」と言ったのは、怪人のほうだった。
乱雑に散らばった座布団やら、ひっくり返ったちゃぶ台やら、撥ねた血潮が滴る洗濯ものやら――
怪人は慣れた手つきでそんなものを取り片づけて、着られそうな洗濯物をふたたび洗濯機に放り込むと、
艶子は自分を襲った怪人を無視するように、血の気を失った無表情のまま晩ご飯を用意していた。
親子3人がひと言も言葉を交わさずに食事をしている間も、怪人は部屋を片づけ、壁に飛び散った血を雑巾でぬぐい取っていた。
真由美が箸を置くと、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
ふだんなら投げ出すように箸を置いて部屋に引きこもってしまう子が、珍しく殊勝なしぐさを見せたことに、母親は優しく反応した。
「疲れたでしょ?今夜は早く寝ましょうね」
「うん、そうする。明日も部活で早いし――怪人さんもおやすみ」
真由美は自分の血を吸った怪人にまでおやすみを言って、部屋に引き取っていった。


「これからどうするつもりなのですか?」
娘が姿を消すと、待ち構えていたように艶子がいった。
目つきは鋭く、詰問口調。相手は怪人のほうにだった。
もうこの家の主導権を握っているのは夫ではないと悟ったようすだった。
「ここのお父さんはこの人だからね――」
怪人は控えめにこたえた。
あんたのご主人は俺でなく、あっち――と言いたげにみえた。
この期に及んで亭主を立てたのは、自分によって初めてしたたかに血を吸い取られた比留間の気持ちを確かめておきたかったのだ。
もしも出て行けと言われたら、出ていくつもりだった。
その代わり、家人のだれもを死なさない程度に、致死量ぎりぎりまでの血を3人から頂いて立ち去るつもりだった。
「あんた、ひどいこと考えてるよな?」
比留間は相手の思惑を見抜いたようにいった。
「ウン、でもその代わり、俺は二度とここには寄り付かねえよ」
怪人はいった。

比留間は傍らの妻の横顔を見た。
覚悟していた吸血を予想以上のしつようさで受け容れさせられたばかりではなく、案に相違して犯されてしまった妻。
そのうえ気絶しているうちにとはいえ、「決して手は出させない」と力説していた娘の血まで吸い取られてしまった今、
裏切られたといちばん感じているのは妻のはずだった。

これがドラマだったらきっと、俺たち一家3人は、ただの雑魚(ざこ)に過ぎないはずだ。
出獄した吸血怪人の第一の犠牲者で、女房にも娘にも、役名すら与えられず、
お人好しな夫が仏心を起こして家に引き入れた怪人を相手に、続けざまに首すじを咬まれて、服を血に染めて倒れてゆく。
ただそれだけの役なのだ。
でも、そんな無名のチョイ役にだって、意地もあれば、プライドもある。
数十年積み重ねてきた人生の苦楽だってある。
俺は二十年以上いまの仕事を続けてきたし、
おととしは俺の勤続20周年を祝って、家族旅行で温泉に浸かってきた。
女房だってパートに精を出して家計を支え、なにより家族に飯を作って送り出してくれている。
娘が高校に受かったときにはみんなでよろこんで、街でいちばんのレストランで食事会をやったっけ。
そんな家族の積み重ねは――飢えた怪人に咬まれて血を流して倒れてしまうワンシーンだけで片づけられてたまるものか・・・

「まず、女房に謝ってくれ」
比留間はいった。
え?と振り向く2人のどちらに向けてともなく、彼はつづけた。
「俺はお前に指を切って血を吸わせてやった。
 そのうえで、お前が出所したら行く当てがねえだろうからって、良ければ家(うち)に寄って行けとも確かに言った。
 俺に淫らな薬を仕掛けて血を吸う歓びに目ざめさせたのはまだいい。
 でも、女房は自分が血を吸われることには乗り気じゃなかったんだ。
 そりゃそうだろう?
 だんながいる身でほかの男に肌に唇を当てられて血を吸われるんだぞ。
 おぞましいだけじゃ済まねえよな?
 でも女房は、なんとかがんばって、お前ぇさんに血を分けてやった。
 そのうちこいつもどうやら・・・乗り気になっちまったみたいで――その後のことはもういい。
 行きがかりとはいえ、あんなことをしてれば流れでそういうことにだってなるかも知れねえものな。
 女房の血を吸わせてやろうなんて思いついた俺がいけねぇんだ。
 でも、女房には頭を下げてくれよな。男女のことだから、亭主の俺でも立ち入れねぇかもしれないけれど――
 本気で嫌だったのなら、それは女房の問題だ。
 なにより許せねえのは――娘のことだ」
怪人はビクッと肩を震わせた。
言葉が静かなぶん、身に染みているらしかった。
「両親どちらも、娘に手を出して良いとは、ひと言も言ってねぇ。
 人の好意を踏みにじって、約束をほごにした。
 お前がこの家から出ていっても、そんなことを重ねていたら、きっとろくな死に方はしねぇだろうよ」
比留間は言葉を切ると、思い切ったようにつづけた。
「お前がろくな死に方をしなかったら、吸い取られた俺たちの血は無駄になるってことじゃないのかい?」

ガタ・・・とその時、比留間の背後でガラス戸がきしむ音がした。
建付けの悪いガラス戸は、ちょっと手をかけただけで耳ざわりな音を立てるのだ。
3人が振り向くと、そこには真由美が佇んでいた。
高校に入ってからテストテストで荒みかけていた頬が、いつになく透きとおっている――と両親はおもった。
真由美はおずおずと言った。
「あたし――いいよ。別に血を吸われても」
「真由美!」
艶子が声を張りあげた。
「あなた、勉強だってあるんだし、部活も頑張ってるんだろ?
 怪人さんに血なんか吸われていたら、テストで良い点取れなくなるよ?
 試合にだって出れないだろう?ずっと補欠じゃやだってこの間言ってたじゃないの」
「うん。そうだけど・・・いい」
真由美の声は、きっぱりしていた。
「あたし、父さんや母さんといっしょに、この人に血をあげたい・・・だって、楽しいんだもの・・・」
「俺の・・・勝ちだ!」
怪人は嬉し気にいった。けれどもすぐに神妙な顔つきに戻って、艶子にいった。
「あんたには詫びる、いろいろとすまなかった。
 でも、あんたの血は本当に旨かった。ありがたかった。久しぶりに、人妻の熟れた血を愉しませてもらった。
 刑務所でのお勤めの辛さが、吹っ飛ぶくらいのものだった――」
「ちょっと――」
艶子は真顔のまま、怪人と顔を突き合わせた。
次の瞬間、
ばしいんっ。
艶子の平手打ちが、怪人の頬を打った。
「これでおあいこに、してあげる。いいよねあんた?」
後半は、夫に対する念押しだった。


狭い家だった。
玄関を上がってすぐに居間があり、その向こうが台所。二階は娘の四畳半の部屋がひと間だけ。
あとは居間の奥に、さっき濡れ場と化したばかりの夫婦の寝間があるだけだった。
「怪人さんをどこに寝かせるの?」
艶子は所帯持ちの良い妻らしく、明日からの切り盛りが気になる様子だった。
「あたしと寝る?」
真顔でそういう真由美を、さすがに母親は「ちょっと・・・」と制した。
「あんたがガマンするんだね」
艶子は夫に向かって、フフッと笑う。
「そうだな――そうするよりないな」
俺は居間に寝るよと、比留間はいった。
艶子と怪人のために気前よく、寝間を明け渡すというのである。
「じゃあさっそく今夜から――」
怪人はにんまりとした笑みを艶子に投げた。
「まったくもう、いけすかない」
艶子は反撥しながらも、まんざらではなさそうだった。
さっき襲われていたときの艶子の腰遣いを、比留間はありありと思い出していた。
さいしょのうちこそさすがにためらっていたけれど――
あれは間違いなく、悦んでいるときの腰遣いだ。
服を破られまる裸にされて、股間にズブリと突っ込まれちまって。
それからあとのあいつの乱れようったらなかった――と、
失血で遠のく意識が妻のよがり声でなん度も引き戻されたのを、ほろ苦く思い出していた。

「あたし、明日学校休む」
真由美がみじかく告げた。
「制服濡れちゃったから学校行けないし、どうせだったらこれ着てもう一度楽しませてあげようか」
ハイソックスも履き替えてきたよ――少女は真新しいハイソックスに眩しく包んだ足許を、吸血鬼に見せびらかした。
「あたしも、真由美に負けないように頑張らなくちゃね」
 パンストはなに色がお好き?網タイツとかもあるんだよ?
 だんなが出かけてから楽しもうか?それともさっきみたいに、見せつけるのが好きなのかい?
 とっておきのよそ行きの服があるの。特別に着てあげようじゃないか。あたしの血で、タップリ濡らしておくれよ・・・」

女どものはしゃく声が部屋を明るくし、比留間家にはようやく平和が戻った。


朝の明るさが、雨戸のすき間から洩れてくる。
はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・ひぃ・・・
寝間から洩れてくるうめき声に、きょうも比留間はひと晩じゅう悩まされた。
ふすまの向こうで妻の艶子が、見慣れたこげ茶色のワンピースを着崩れさせて、
あお向けに寝そべる怪人のうえに太もももあらわにまたがっている。
太ももを覆うパンストは見るかげもなく裂け目を拡げて、
そのうえ男の舌が存分にふるいつけられた名残に、唾液に濡れ濡れになっていた。
ああ・・・くうっ・・・おおおっ。
激しく擦れる粘膜の疼きに耐えかねたよがり声が、ひと晩じゅうだった。
あー、寝られねえ、寝られねえ・・・
もっとも昼間も、事情を知った上役から、長期の休みをもらっていたのだ。
「寝不足でやってられないだろう」という配慮だった。

うちの一家はたぶん、「モブキャラ」だ。
「吸血怪人物語」では、いの一番に狙われて、家族全員が血を流してぶっ倒れてしまう、
たぶん役名もつかないようなチョイ役だ。
でもそのチョイ役にだって、意地がある。いままで生きてきた人生がある。
勤続二十年以上の真面目なだけが取り柄の男に、所帯持ちの良いしっかり女房。
あれ以来肌をよみがえらせて、すっかり若返った熟妻は、亭主の残業代で買った色とりどりのストッキングを穿いて。
学校の制服が似合うようになった、年ごろの娘、白のハイソックスを紅い飛沫でド派手に濡らして。
だれもがたいせつな、ひとりひとりなのだ。
「あんたの奥さん、つくづくいい身体してるな。相性が好いのかな?
 わしは気に入った。気が向いたらいつでも抱かせてもらうからな」
などと。
やつは勝手なことを抜かしているが。
女房にはさすがにいえないけれど――
俺はやつに女房を犯されるのが、このごろ無性に嬉しくなる。
女房の良さを、やつはちゃんとわかってくれている。
かいがいしくかしずく女房を、ちゃんと可愛がってくれている。
女房のあそこが、やつの精液で濡れ濡れになっても。
喉の奥まで、おなじ粘液をほとび散らされても。
ボーナスで買ったばかりのよそ行きのワンピースが台無しになるまでふしだらに着崩されても。
艶子のことを分かってくれるんだったら――
やつが俺に見せつけたいという愉しみとやらに、よろこんでつき合いつづけてやるんだ・・・
「女房を犯すのはやめてくれ~、ああお前、またそんな声出して、ダメだ、ダメだ。夢中になったらいけねぇって・・・」

吸血怪人を家庭に受け容れた男

2023年09月12日(Tue) 22:10:30

ぁ・・・う・・・
吸血怪人に背後から抱きすくめられて、篠浦恵子は顔をしかめてうめいた。
厚ぼったい唇が歪んで、白い歯をかすかに覗かせている。
引きつったおとがいのすぐ下に、男の唇がヒルのように吸いついていて、
唇に覆い隠された鋭利な牙が彼女の素肌を抉るのを視界から遮っている。

咬みついた瞬間飛び散った血が、恵子の着ている空色のブラウスのえり首を濡らした。
唇のすき間から洩れた一条の血が、そのブラウスのえり首から胸もとへとしたたり落ちて、彼女のブラジャーを濡らした。
透けない生地のブラウスに遮られて外からは見えなかったが、恵子は黒のレエスのブラジャーを着けていた。
毎晩のように彼女との交わりを遂げようとする夫を悦ばせるためではなく、
今夜訪れると予告してきた怪人のために着けたブラウスでありブラジャーだった。

唇が、素肌のうえをせわしなく、蠢いている。
ぴったりと密着した唇が大きくうねるたびに、
恵子の血がひと掬(すく)いずつ、飢えた怪人の喉の奥へと送り込まれるのだ。
襲われはじめたさいしょのうちこそ、身の毛もよだつ想いだった。
いまでも、生命の危険と背中合わせのこの「遊戯」に恵子の胸は不吉に騒ぐのだが、
いまでは、彼女の生命の源泉をひたむきに需(もと)めてくるこの唇を、いとおしくと感じるようになっている。

彼女は腕をだらりと垂れて、とうに抵抗をあきらめていた。
手向かいに対応する必要のなくなった男の腕は、彼女の豊かな身体を、想いを込めてしっかりと抱きすくめている。
切実に慕う恋人を抱くときの力の籠めかたが、恵子の胸を強引に過ぎず緩すぎもせずに、ほど良く締めつけていた。
貧血を覚えた恵子は、ひざから力が抜けるのを感じた。
恵子は姿勢を崩して、赤いじゅうたんに膝を突いた。
肌色のストッキングに包まれた膝だった。
そのストッキングさえ、愛人を悦ばせるために脚に通しているのが、いまの恵子だった。

そのまま身を横たえてしまうと、
彼の関心がそのまま自分の下肢に向けられるのを恵子は感じた。
生温かい唇がストッキングのうえから太ももに圧しつけられるのがわかった。
薄手のナイロン生地ごしに、なまの唇が露骨に蠢き、唾液をヌルヌルと粘りつけてくるのを、ありありと感じた。
もの欲しげで、好色な唇だった。
その唇がまだ、30代半ばを過ぎたこの女の、熟れた血潮を欲している。
「破かないで・・・」
恵子はうめいたが、願っておきながら男が彼女の言を容れないことを知っていた。
ストッキングを穿いた婦人の脚に好んで咬みつくのが、彼の習性だったから。
そしてそうする前に、いやというほどいたぶりを加えるのも、彼の習性だったから。
男の牙が恵子の皮膚を突き通し、生温かい血潮がストッキングを浸すまで、かなりの時間が経った。
刻が過ぎる長さは、自分の情夫が彼女の装いに満足し、愉しみ抜いた証であることを、すでに彼女は知っている。
足許をゆるやかに締めつけていたナイロン生地が緊張を失い、裂け目を拡げるにつれて頼りなくほどけてゆくのを、
彼女は小気味よげな含み笑いで受け流すことができるようになっていた。

貧血が理性をより深く惑わせるのを、恵子は感じた。
見えるのは天井と、視界の隅に滲んだ近すぎる頭髪――
パンストを片脚だけ脱がされて。
スカートは腰までたくし上げられていた。
ショーツは自分で、引き裂いていた。
「欲しい・・・あなたが、欲しい・・・」
はしたないお願いを声をあげて発してしまったことに、かすかな羞恥をおぼえた。
けれども、それが本心であることを、言葉を発することでより強く自覚してしまったのも確かだった。
声を発したことが、却って恵子の激情に火をつけた。
「ああっ、お願い!犯して・・・私を犯して!うんと苛め抜いてちょうだい!」
想いの赴くままに、声はしぜんと彼女の口を突いて出た。
あなたがいけないのよ・・・
さんざ淫らな言葉を口にしてしまいながら、恵子はおもった。
恵子が声をあげることは、夫の希望だったのだ。


「怪人と逢っているのだろう?」
夫の唐突な問いに、恵子は言葉を失った。
「彼」とは、誘拐されて以来始まった関係だった。
あのときは、いっしょに囚われた息子の機転で首尾よく彼女は救出されたが、
一夜を共にする間、身を揉んで嫌がる身体を開かされて、怪人の一物を受け容れてしまっていた。
いちどならず、なん度もくり返される吶喊に、しだいしだいに身体が反応し始めるのを、どうすることもできなかった。
厳重な包囲のなかにあって、突入をためらう当局や夫たちをよそに、彼女の操は破られ、汚され、淫らに変えられていった。

正義のヒーローに撃破された怪人は、悪の組織からも破門されたと聞いた。
どうやって生きていくのか。どうやって血を得るのだろうか?と、ふと思った。
もちろんその時点では、自分に辱めを与えた暴漢に対する同情などなかった。
けれども人の生き血を欲しがる輩が街を徘徊するのはどういうものだろうと、懸念を感じただけだった。

年月が過ぎて、その怪人が再び目の前に現れたとき、
怪人を出し抜いて自分の救出に貢献した息子が、先に咬まれていた。
白のハイソックスを血に浸して帰ってきた息子から事情を聴くと、彼女は当然のように憤慨しかつ恐れたが、
息子は母親を見あげていった。
「苛めちゃダメ。いまはかなりかわいそうな状況だから」
整った眼差しは冷静で、同情に満ちていた。
息子のはからいで路地裏にうずくまっていた怪人は、かつての面影がなかった。
彼なりに、反省し悔悛したのかも知れないと、恵子は思った。
どうしてそこまでする気になったのか、いまの恵子にもわからないけれど、
気がつくと自分からスカートをたくし上げて、自分の太ももを咬ませ、息子につづいて血を啜り獲らせてやってしまっていた。
でも――と、恵子は思う。
家事に追われて身なりに頓着しないでいた彼女は、路地裏に出る前にスカートに穿き替え、
ふだん脚に通すこともなくなったパンストまで、わざわざ新しいものをおろして穿いていたのだ。
怪人がストッキングやハイソックスを履いた脚を好んで咬む習性を憶えていたからだった。
もうその時点では、咬まれる覚悟を決めていたのだろう。
きっとそれは、彼女を訪ねてやってきたときから、もうそのつもりになっていたのだろう――
何しろそのあと彼女はまな娘にまでも言い含めて、まだ稚なさの残る首すじを咬ませてやってしまっていたのだから。
子どもたちの血まで吸わせたのはきっと、彼女なりの同情だったのだろう。
まだその時点では、男女の感情はなかった。
きっとそのあとだ。
そうだ、いちど咬まれた女は淫らな想いに理性を侵蝕されて、怪人の思うままにされてしまう――
私は彼の術に、まんまと嵌(はま)ってしまったのだ。

術に嵌められたことを、自分は必ずしも悔いていなかったと思う。
夫に黙っているという選択肢は、正直すぎる性分の彼女には、耐えがたいものだった。
彼女は怪人をそのまま家にとどまらせ――家のなかでさんざ犯されてしまうという代償付きだったが――ともかくも一緒に謝ってもらった。
肩を並べて頭を下げるふたりに、夫がなにを思ったのかはわからない。
もとより、帰宅直後の夫を怪人が急襲して、首すじを咬んだ「御利益」に他ならなかったに違いないのだが・・・
夫の言い草こそ、ふるっていた。
「うちにも近所の評判ってものがある、こんど来るときは、ちゃんと家にあげてお相手しなさい」――
はたしてそれは、どこまで夫の本心だったのだろう?

それ以来なん度となく訪れる彼の誘いには、最優先で応えてしまっていたし、
「怪人さん遊びに来てるの?いっしょに遊ぼうよ」と無邪気に言い募る子供たちを交えて、
ゲームをしたり勉強を見てもらったりしたことで、怪人は子供たちにも愛着を感じ始めていたに違いない。

さて、目の前の夫のことである。
2人そろって謝罪をして叱り飛ばされた痕、彼と逢いつづけていることは特段夫には告げていない。
けれども、なんとなくそれを悟っているような夫のそぶりは、おりおり感じていた。
ひと頃途絶えていた夫婦の営みは、あの夜を境に復活した。
けれどもそれは、恵子を下品に虐げるような、荒々しく一方的にむさぼるようなセックスだった。
お前の夫は、俺だ。お前は俺に服従しなければならない。それがこの家に嫁いだ、お前の務めなのだ――
身体でそう言いつづけているようなセックスに思えた。
夫権というものは、セックスだけで片づけられてしまうような、単純なものなのだろうか?ふとそんな疑問が、彼女の胸の奥をかすめていた。
恵子はまっすぐに夫を見て、いった。
「お逢いしています。翔一ややよいとも遊んでくれていますし、私も――」
それ以上言うな、というように、夫は手を振って恵子を遮った。
「いちど、視てみたいんだ。きみがどんなふうにあいつと接しているのかを――」
夫はあのとき、怪人のことを「あいつ」と呼んだ。
まだ認めているわけではない。きっと、憎くて仕方ないのだろう。
「乱暴はしないで」
という恵子に、「そこまで野暮じゃない」と言い切ってくれはしたけれど・・・


何十年ものローンを組んでやっと手に入れた自宅が、不倫の濡れ場となって汚されるとは――
篠浦俊造は、あらぬ声を洩らして愛人と乱れあう妻を覗き見て、どす黒い想いを滲ませる。
少し前まで。
自宅に情夫を引き入れながらも、
「ねえ、やっぱりよそうよ。ここで今するのは良くないわよ」
と言い募っていた妻。
それが彼女に残っていた最後の倫理観と理性だった。
少なくともそこまでは、恵子は彼の妻らしく振舞っていた。
けれども、ちょっと背を向けた隙を突かれて怪人に後ろから抱きすくめられてしまうと、事情はあっさりと変わった。
「あ!ダメ!」
と叫びながらも妻は、男の抱擁を受け容れてしまっていた。
本人がそれを自覚していなかったとしても・・・
心ならずも抱かれたのか、そうでないかは、はた目にもわかった。
もしも前者であったなら、嫌悪に身震いしながら身を揉んで、あるいは相手の男を振り放していたかもしれないのだから。
逡巡する妻の首すじに男の唇が這ったのが、とどめだった。
たまたまこちらに向けられた妻の顔。そして男の唇――
男はしんけんに、妻を需(もと)めていた。
白い肌にヌメるようにあてがわれた、赤黒く爛れて膨らんだ血の気の無い唇が、
相手が常人ではないことを告げている。
そう――妻を襲っているのは、吸血怪人だったのだ。
すでにいちどは退治済みの怪人だった。
正義のヒーローにあっけなくのされてしまい、刑務所で服役までしたという。
だが、模範囚として出獄した彼に、反省の色は果たしてあるのだろうか?
男は本能のままに妻の首すじに喰いついて、血を啜りはじめていた。
赤い血のすじがブラウスの胸もとに這い込んで、
それがひとすじのしずくであったのが一条の帯になってゆくのを、いやというほど見せつけられた。

ひざ小僧を突いてしまった妻が堕ちるのに、さほどの刻は必要なかった。
男はなおも容赦なく恵子の血を啜り、恵子は首すじを、そして脚を差し伸べて、男の欲求に応えつづけた。
恵子の胸から空色のブラウスを剥ぎ取ると、男は自分の唇を恵子の唇に熱烈に圧しつけてゆく。
自分の血をいやというほど吸い取った唇に、妻の唇は応えていった。
好きよ・・・好きよ・・・といわんばかりに。
そして妻の想いは、とうとう声になってあらわにされた。
「欲しい・・・あなたが、欲しい・・・」
うわ言のような声が、だんだんと大きくなって、しまいにははしたないほどの大声になっていた。
「私を犯して!うんと抱いて!」
「もっと、もっと苛め抜いてええっ!」
「ストッキング破くの、だめぇ・・・」
ふだんの思慮深く大人しい妻からは窺いようもない、あられもない淫らな言葉――
恵子は娼婦に堕ちた。そう思うしかなかった。
もとより、2人の関係はすでに知っていた。
妻は正座までして、相手の男と肩を並べて謝罪をくり返した。
けれども、「もうしません」とは、決して言おうとしなかった。
男のほうも、「奥さんのことは諦めます」とは、絶対口にしようとしなかった。
つまり、2人の意志は固い・・・ということなのだと、勤務先では「賢明課長」とあだ名された彼にも良く理解できた。

さいしょは家に入れるつもりがなかったという妻は、
男がさいしょに訪ねて来たとき、わざわざ家の外の路地裏で顔を合わせたという。
いちどは自分を拉致してアジトに連れ込んで、吸血行為にとどまらない暴行をはたらいた男である。
当然の警戒心だった。
けれども、いま男が置かれている状況に同情した妻は彼に自分の生き血を与え、
さいごにはほだされて家にあげてしまった――というのである。
なん度も逢瀬を重ねて一線を越えたという奥ゆかしさは感じられない。
衝動の赴くままにずるずると関係を発展させて、しまいに子供の目に触れかねない状況で濡れ場に及んだというのである。
いったい妻は、いつからそんなふしだらな女になってしまったのか。

かつて怪人の手で拉致されたとき。
いっしょに連れ去られた息子の機転のおかげで、正義のヒーローは彼のことを撃ち倒した。
けれども妻は、その憎むべき怪人と、一夜を共にしてしまっている。
あのとき拉致された妻は、吸血怪人と一夜を共にしている。
関係者は口を閉ざし、妻本人もなにも告げようとはしなかったけれど、ことが吸血行為だけに収まったとはとうてい、思えない。
そのときに身体を開かれた記憶が、それほどまでに好かったのか?
あのとき。
解放された妻は、嫌悪の情もあらわに身をうち震わせて、夫に身を寄り添わせた。
とっさの行動だったとはいえ、二児の母となってから疎遠になりがちだった妻の愛情を久しぶりに感じたものだ。
あのときの妻の振舞いは、嘘だったのか?衆目を取り繕うためのボーズに過ぎなかったのか?

いま妻は、やはり身をうち震わせて――
「夫」ならぬ「情夫」の逞しい腕のなか、恥ずかしげもなく裸身をさらけ出している。
太ももまでずり落ちた肌色のストッキングだけが、着衣を引き剝かれるまえの妻の品格の名残りとなっていた。
それですら――男の舌でネチネチといたぶり抜かれ、たっぷりと唾液をしみ込まされてしまった、情事の痕をありありと留めているのだ。
ああ、またしても突っ込まれた。これでなん度めだろう?
さいしょは押し倒されてすぐ、スカートをたくし上げられて犯された。
そのときも妻は、信じられないことに、
男の恥知らずな舌から頼りなくも貞操をガードしていたショーツを、自分の手で引き裂いていた。
それからじゅうたんのうえで身体をひっくり返され、バックから需(もと)められた。
額に汗をしたたらせ、四つん這いになりながら喘いでいる妻の姿は、屈従的で、
なにもかもを夫以外の男の手で教え込まれてゆく女奴隷のそれだった。
セックスの頻度さえもが、凄い。絶倫だ。
いや、それ以上に・・・
妻への執着の強さを感じさせる。いやというほど、感じさせる。

俺の妻が。
俺だけの妻が・・・
ほかの男の餌食になり、しつけられ、覚え込まされ、支配されてゆく。
俺の権利はどうなるのだ?
妻に対する俺の権利は、完全に取り払われてしまうのか?
このままでは、かけがえのない家庭が崩壊してしまうではないか!?
俊造は焦れに焦れた。
一刻も早く妻を救い出さなければ、妻は完全に男のために汚し抜かれ、骨の髄まであいつのものになってしまう。
そんな焦りがズキズキ高鳴る心臓を、とろ火で焙りたてた。
腰の上下が一回あるごとに、相手の精液が飛び散り妻の膣を濡らし、さらにその奥へとそそぎ込まれてゆくのを、ありありと思い浮かべてしまう。
やめろ、やめてくれ。話が違う!
しかし、懊悩する俊造の想いとは裏腹に、
彼のペニスが鎌首をもたげ、怒張をエスカレートさせて、先端がほころびて淫らな粘液を徐々に洩らしてしまうのを、彼はどうすることもできなかった。

妻が犯されているのに。
俺の名誉が踏みにじられているというのに。
どうしてこんな?勃起?そんな場合じゃないだろ!?
自問自答しながら、俊造は焦れた。焦れつづけた。答えは出なかった。
ズボンをしたたかに濡らした彼は、脱衣所に走り、脱ぐ手ももどかしくズボンを脱いで洗濯機に放り込んだ。
そして、片時を惜しむようにふたたび、不倫の現場に取って返した。

「あれぇ~、許して・・・」
妻は相変わらず、声をあげている。
もはやその表情に、苦悩や自責の翳りはない。
そんなものはとうに捨て去ってしまっていて、いまあるのは女の身としての歓びを全身に沁みとおらせた、愉悦に弾む熟れた肉体だけだった。
はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・
全身に愉悦を滲ませて。
女は黒い髪をユサユサと揺らしながら、うわぐすりを塗ったように滑らかな肌を、バラ色に上気させている。
これが妻か?本当に妻なのか?
いつもの所帯持ちの良い、しっかり者のお前はどこに行った?
「あぁん、もっとォ・・・」
なにを言っているんだ?それじゃあ場末のキャバレーの淫売女と変わりないではないか?
「ひいぃ・・・ひいぃ・・・あなた、すごぉい・・・っ」
やめろ、やめてくれ。お前はほんとうに、俺の妻なのか?「篠浦」恵子なのか?
男を抱き寄せる妻の指先にキラリと、なにかが光った。
結婚指輪だった。
指輪をしたまま俺を裏切っているんだ・・・
俊造は、完全な敗北を感じた。
妻は、頭のてっぺんから脚のつま先まで塗り替えられてしまったのだ。
夫ならぬ男の支配を受け容れて、ふしだらに腰を揺らしてヒイヒイ喘ぐ女になってしまったのだ・・・

さっきから。
男はなん度も、妻にキスをくり返している。
こんなに熱烈なキスを交わしたことは、果たして俺たちの間にあっただろうか?俊造はおもった。
新婚のころはいざ知らず、出産、引越し、人並みの出世を賭けたせわしない日々――
それらのなかで、そうしたことはすべておざなりにされてきてしまった。
今さらながら、それに気づいた。遅い。遅すぎる・・・
男はほんとうに、妻のことが気に入っているらしい。
片時も手放さず、身体を密着させて、それだけではない、そこはかとない妻に対する気遣いが、そこかしこに見え隠れする。
たぶん自分の性欲の発露だけではなく、相手の女が感じているのか、苦しいだけなのか、相手の身になって見極めようとする視線がそこにあった。
俺はそんなこと、考えもしなかった――
相手の男は、妻を得て嬉しいのだろう。幸せでたまらんのだろう。
妻の熟れた身体を楽しんでいるだけではなく、本能のままに生き血をむさぼる行為に溺れているだけではなく、
妻を気遣うことすら、この男にとっては歓びなのだろう。
そして、男を満足させることが妻の歓びになっている・・・

俊造はたまりかねて、とうとうドアを押し開いていた。

ちょうどふたりは、一戦を終えてお互いの息遣いを確かめ合っているところだった。
入ってきた俊造に対して、2人はゆっくりと顔を向けた。
男の顔にはなんともいえぬ親しみがよぎり、
女は謝罪するように首を傾げ、はにかむような照れ笑いを浮かべていた。
傾げた首すじには、咬まれた痕がくっきりと刻印されていて、傷口にはかすかな血潮がまだあやされていた。
「美味シカッタ・・・」
男が妻の髪を、血に濡れないよう掻きのけた。
怪人らしい機械的な声色だったが、妻に惚れている男の声だと俊造は感じた。

「素敵ナ時間ヲクレテ、ワタシハ感謝シテイマス」
男の言葉にてらいはなかった。
「あなた、ごめんなさい。でも嬉しいです」
女の言葉にも、真情があふれていた。
「ずいぶんと仲良くなったんだね・・・・・・おめでとう」
さいごのひと言に自分で驚きながらも、声にしてしまうとむしろ、いまの気持ちに正直になれた。
「さいしょは家内をモノにされたと聞いて、気が狂うくらいに腹立たしかったんだ。でも――」
俊造は言葉を切った。
怪人が、しんそこ申し訳なさそうなまなざしを、自分に向けている。
「子供たちもきみに懐いている。俺の居場所はここにあるのか?」
「ほら、ごらんなさい」
妻が、情婦をたしなめている。
「うちの人ったら、まじめなのよ。だから絶対、そう思われちゃうって言ったじゃない」
「真面目デ責任感ノアル、ゴ主人――自分ノ奥サンヲ辱メラレテ、イイ気ガスル訳ハナイ」
怪人は妻の言に相槌を打つように、あとをつづけた。
「必死ニ守ッテキタゴ家族。一生懸命働イテ、家ヲ建テテ妻子ヲ住マワセテ、ソレナノニ裏切ラレテシマウ。
 気ノ毒、カワイソウ」
うめくようなうわ言のように続けた後、彼はいった。
「ダカラ、ココハ貴方ノ居場所。居場所ガナイノハ、ワタシノホウ」
「でも、出て行きたくはない。そうだね・・・?」
怪人は、素直な少年のように頷いた。
「私の主人は、あなたしかいません」
そう告げる恵子の目線は、まっすぐ夫に向けられていた。きっぱりとした口調だった。
「俺の妻でいてくれるんだね?」
念を押すように訊く俊造に、
「コノ人ハ元カラ、アナタノ奥サン。ワタシハ、タダノ”オ邪魔虫”」
俊造は思わず噴き出した、
「怪人のきみでも、お邪魔虫なんて言葉を知っているんだね」
聞いて頂戴・・・というように、恵子が夫に向けて目で訴える。
「この人ったら、人妻を犯すのが好きだって言うの。いけないひとだと思いませんか」
「で――きみがこの街の人妻の代表として狙われてしまったということなのだね?」
拉致されてアジトまで攫われてしまった女性は、そういえば自分だけだった――恵子はいまさらながらのように思い出す。
「ほかの家の奥さんはその場で襲われただけで帰されたのに、きみだけは戻ってこなかった。とても心配だった」
「アノ時ノワタシハ、本当ニ悪カッタ。
 子供タチニモ心配サセタ。アナタノ気持チモ考エナカッタ。謝ル。改メテ謝ルーー」
男の頬は慙愧の想いに翳っていた。
「人妻代表さん」
俊造に、いつもの快活さが戻って来ていた。恵子のことをおどけたようにそう呼ぶと、
「長年尽くしてくれたご褒美にきみに愛人をプレゼントするよ。
 ぼくが決心して、きみに愛人を持たせることにした。せめて、そういうことにしてくれないか?
 きみのことが気に入ったこの男(ひと)を、ぼくは自分の家庭に受け容れる。
 子供たちもきっと、よろこぶだろう――」
恵子の目から涙があふれた。
「あなた、ありがとう・・・ありがとうございます。
 代わりに精いっぱいお尽くししますから、どうぞ恵子のふしだらをお許しください」
だれに教わったわけでもなく、三つ指ついて平身低頭していた。
俊造は、怪人に手を差し伸べた。
「貞淑な家内をここまで堕とされるとは、男として不覚でした。貴男の熱意が優ったのでしょう。
 家内を誘拐されたときには心配したけれど、きみのお目が高かったということだね。
 家内を択んでくれて、家内を狙ってくれて、夫として礼を言います。
 もういちど言わせてもらう。おめでとう」
物堅い夫が自分の妻を犯した男に握手を求め、お互いの掌を固く握り合わせるのを、恵子は感無量の眼差しで見つめていた。
「お祝いに、今夜は明け方まで、家内のことを明け渡すよ。ふたりで楽しんでくれたまえ。
 それから――きみが来たい時はいつでも言ってくれたまえ。家内のこと、独り占めさせてあげるから」

男と女は嬉し気に、しかし少しだけイタズラっぽく、ウフフと笑み合った。
「じゃあお願い」
恵子がいった。
「服を1着選んでくださらない?
 このひとのために装いたいの。
 貴方が択んでくれた服に着替えて、それを私のお嫁入り衣装にするわ」
え――?
俊造はゾクッとした。
心を読まれた想いだった。
着飾った恵子が目の前で征服される――
誘拐事件以後、彼の脳裏に灼きついた想いがこみ上げてきた。
吸血怪人とおぞましい一夜を過ごした妻。娼婦のように淫らになったかもしれない妻。
そんな恵子を想って、かつてなん度となく思い描いてきた淫らな光景が、いま目の前で現実のものになるのだ――
「じゃあ・・・
 怪人さんに誘拐されたときの服はどうだろう?
 いまでもきみが結婚式の時に着ている、薄いピンクのスーツ、それにネックレス。
 ちょうどぼくが買ってあげたイヤラシイ下着があっただろう?あれも一緒に着けたらどうかね?」
恵子はウットリとした目で、夫をみた。
「この人のこういうところが好きなの」
真面目なくせに、けっこうエッチなのよ――
それは愛人に対する、明らかな夫自慢だった。

10数分後、着替えて出てきた恵子は、目を見張るほど艶やかだった。
ひざ丈のスカートを少し短めに穿いて、太ももが微かに見え隠れしていた。
スカートのすそから伸びた豊かなふくらはぎは、純白のストッキングにピンク色に透けている。
犯される女の品性を示すように、ストッキングには微かな光沢がつややかによぎり、高貴さと淫靡さとを際立たせていた。

怪人は、ものも言わずに恵子夫人の胸を、背後から腕に巻いた。
「あれえっ」
芝居がかった夫人の声に、俊造はまたも激しく怒張をみなぎらせた。
「ボクノ後ニ、奥サンノ肉体、タップリ楽シムト良イーー」
怪人はそう言いざま、恵子を荒々しくじゅうたんの上に引き倒した。
きゃあっ・・・恵子はまた叫んだ。
子供たちが起き出して、ドアのすき間からそうっと中を窺っているのを俊造は背後に感じたが、
もはやそれでも良いと思った。
安心しなさい。お母さんは怪人さんと仲良くなるためにちょっとおイタをしているところだから――
彼は背中で、子供たちにそう伝えた。

真珠のネックレスが光る首すじにふたたび艶めかしい血をあやし、
逞しい猿臂に巻かれ、スカートごしに逞しい怒張を感じつつ、
引き裂かれたストッキングのたよりない感触を噛みしめながら、恵子は怪人と熱い熱いキスを交わす。
夫がプレゼントしてくれた真っ赤なブラジャーは男の手で、同じ色のショーツは恵子の手で引き裂かれた。
自分のプレゼントを引き裂きながら興じる二人を前に、夫が手で軽く拍手をするのが、視界に入った。
「あなた、私幸せ――」
そう心の中で叫んだ時、
夫の数倍は勁(つよ)い黒ずんだ肉塊が、自分の膣にもぐり込み力強く抉るのを感じて、
恵子は思わず、身を仰け反らせていった。

それから数時間。夜が明けるまで。
息せき切ってかわし合わされる呼気が絶えることはなく、
感謝と幸福感に打ち震える愛人の腕の中、恵子は恥を忘れて夫を裏切りつづけ、
俊造は物堅い課長夫人であったはずの妻がはしたなく堕落して、
篠浦家の主婦の操をほかの男の精液に濡らしてゆく有様に、惚れこんだように見入りつづけていた。


あとがき
これまた、一気に描いてしまいました。。
いうまでもなく、前作の続きです。
さいしょはヒロインをどの女性にしようかとあまり考えずに描いていたのですが、
そのわりにブレはほぼないと思っています。
じつは前作を描くときに、いちばん最初に思い浮かんだのがこちらの家庭なんですね。
昭和の家屋に住む、堅実なご家庭。
生真面目な夫に、控えめでしっかり者の妻。
無邪気でわけへだてのない視線を持っている子供たち。
どこにでもありそうなそんな家庭を襲った、小さな(小さくない?)嵐のてんまつです。
すみずみの表現も、いままでにない感じのをちりばめたつもりです。
どうぞお楽しみください。・・・って、あとがきだったんですよね、これ。(笑)

正義のヒーローに退治されながら生き残った、怪人のその後

2023年09月12日(Tue) 22:09:39

正義のヒーローに退治された吸血怪人がいた。
ふつう怪人が征伐されると爆発を起こして四散してしまうのであるが、
幸か不幸かこの怪人は爆発を免れ生存してしまった。
しかし、使命を果たせなかったことから悪の組織からは破門され、路頭に迷うことになった。
妊婦や幼児を連れた母親、それに病気の老女の血を吸わずに見逃していたことも露見して問題視されたのだ。
目にした女はことごとく襲って生き血を吸うことが彼に課せられた任務だったのだ。

飢えた怪人は切羽詰まって、路頭で一人の女性を襲った。
勤め帰りのOLだった。
そのため傷害罪で逮捕され、刑務所にぶち込まれることになった。
食を欲すればそれだけで罪になる。
怪人は必死になって、人間並みの食事を覚えようと努めた。そうでなければ餓死の運命が待っていた。
どうにか人間並みの食事を摂取できるようにはなったものの、
人の生き血を飲まなければこの人造人間の身体は急速に衰え死に至ることまでは変えられなかった。
いっそ死んだ方が良い――と思っていたところ、
またもや幸か不幸か、怪人は模範囚として刑期を短縮されて出獄することになった。
人間並みの食事を摂取することから、再犯の危険なしと判断されたのだ。
俺を野に放つのはまずい、終身刑を果たしたいと怪人は主張したが、手続きの関係で予定通り出獄させられた。

刑務所には1人だけ、親切な看守がいた。
彼は人間の血を欲する怪人の欲求に理解を示し、時折自分の指をナイフで傷つけて、怪人に血を吸わせていた。
怪人がどうにか所期の能力を維持できたのは、彼の血のおかげだった。
行き場のない怪人の身を案じて、看守は自分の家に彼を引き取った。
看守には30代の妻と、10代の娘がいた。
「2人にはよく言い聞かせてある。でも私にとっては大切な家族だから、どうか手加減してもらえないか」
怪人は、吸血した相手を洗脳することができた。
看守も少しばかり洗脳されてしまっていたので、こんな破格の善意を示してくれるようになったのだが、
まだ血を吸われていない身体のままで夫の言を信じた妻や、両親の言いつけに従った娘が立派だった――ともいえるだろう。
引き取り先となった看守の自宅では、一夜にして、妻も娘も吸血された。
2人の女は、自分たちの血が怪人の喉を愉しませるのを悦ぶ身体になってしまったし、
看守もまた、服を血に染めながら横たわり怪人の意のままにされてゆく妻や娘の甘美な受難を目にすることに、性的な歓びを覚えるようになっていた。
この3人の心の中では、自分たちが不幸になったという実感はまるでなかったのである。

怪人は看守の妻を自分の愛人どうぜんにあしらっていたが、看守はそれに対して苦情を言い立てることはなかった。
むしろ、怪人に愛されることで、自分の妻が生き延びられる見込みを持ったことに、安心しているようすだった。
怪人は看守の妻をまじめに愛した。
性欲を発散するだけの掌と、自分の身に真心を込めてくる掌とが違うことを、彼女はよくわきまえていた。
夫に対しては、切羽詰まった欲求に応えるすべも身に着けていたが、
怪人からは労りと慈しみに似た感情を帯びた掌を当てられることを、むしろ悦ぶようになっていった。
さいしょは寄る辺のない身の上に同情して意に染まぬセックスの相手をするだけの関係が、
心の通い合う文字通りの「情交」になってゆくのを、彼女はせつじつに感じていた。

怪人は夜中に夫婦の寝室を冒すことはあえてしなかったが、
看守が出勤していくと、送り出したその妻の首に腕を回して家の中に引きずり込んで、
もうたくさん!と言わせるまでスカートの奥を汚す行為をやめなかった。
そのうち看守も、怪人が夜這いどうぜんに夫婦の寝床に侵入してくるのを妨げずに、
自分の欲求を散じてくれた妻が時間差のある輪姦を遂げられてしまうのを、悦んで目にするようになっていた。

しかし、いつまでも看守一家の恩情にばかり甘えているわけにはいかなかった。
彼の必要とする血液は、看守や女2人から摂取できる血液量を、はるかに上回っていたためだ。
看守は娑婆に戻った怪人が「お礼参り」をしないかと恐れていた。
「そんなことはしない」と、怪人は誓った。
あくまで自分の催淫能力の虜になったものだけを餌食にして生きていくつもりだった。
彼の催淫能力には限界があって、だれでも彼でも誘惑できるわけではなかった。

まず手始めに、悪の組織に所属して任務を遂行していたころに餌食にした女たちを物色した。
彼女たちが、いちどは彼に洗脳された「実績」の持ち主だったからだ。


看守の家を出て数日が経っていた。
道行く人たちを無差別に襲うことだけはすまいと誓って出たのだが、
彼によって吸血の被害を受けた女性たちはほとんどが転居してしまっていた。

牙にかけた女性はたったの1人だった。
彼女はキャバレーのホステスで、かつて怪人が「現役」だった時、未明になった帰り途を怪人に襲われ餌食にされたのだった。
怪人の思惑に外れて、彼女の身体からはすでに「毒気」が去っていた。
いきなり襲った相手が本気で抵抗してきたことで、すぐにそれとわかった。
あわてて手を引っ込めようとしたときに、女は怪人の顔を見、相手の正体に初めて気づいた。
「なあんだ、あんたか」
女はそういって、紫色の派手なドレスをたくし上げ、太ももをさらけ出した。
「おやりよ、あんただったらかまわない」
女は怪人の魔力の影響を免れていたが、彼が女性の太ももに好んで咬みつくことはまだ憶えていた。
怪人は有無を言わさず彼女を抑えつけ、太ももに喰いついた。
ウッ・・・
女は甘くうめいて、生き血を吸い取られていった――

引きずり込まれた草むらのなかから身を起こすと、
女ははだけたドレスをむぞうさにつくろって、いった。
「服を破らないでくれてありがとね。何せ商売道具だからね。時々だったら声かけなさいよ」
明日は仕事の日じゃないから、少し多めに吸わせてあげるといった彼女の頬は、蒼かった。
自慢じゃないけど、気に喰わない男には身体を許したことなんか一度もないんだ――
女はわざと聞こえるように言い捨てて、ふらふらとよろけながら、通りに戻っていった。

ホステスの身体から摂った血が彼の干からびた血管から消えかかった、その日の夕刻。
怪人は薄ぼんやりとなりながら、とある大きな家の前に佇んでいた。
背後で、ハッとして脚をすくめる気配がした。
怪人が振り向くと、ピンクのスーツを着た若い女が1人、立ちすくんでいる。
かつて襲ったことのある、社長令嬢だった。
「現役」のときには人質に取って、アジトのなかでは度を重ねてうら若い血を愉しんだ相手だった。
たしか、父親が社長をしている中堅企業に勤めていたはずだ。
お互い見つめ合った目と目の間に、敵意はなかった。
「入りなさいよ」
女は言い捨てるようにして、インタホンを鳴らした。
「はい・・・」
インタホンの向こうから聞こえる落ち着いた声に、女はいった。
「あの時の吸血怪人さん、来たの。ママも逢うわよね?」
母親とは初対面だった。
けれど彼女は、娘を襲った憎い怪人との対面を希望していた。
ひと言詰ってやりたかったのだ。
誘拐事件のおかげで、娘の縁談が破談になっていたためだ。
「娘の将来を台無しにして、どういうことなのかしら!」
母親は土間から怪人をあげようともせずに、詰問した。
力づくならかんたんに籠絡できるはずの母親相手に、オドオドと接し、ぶきっちょに謝罪の言葉まで口にする怪人に、娘は好意を持った。
「ママったら、そうムキにならないでよ。私にしてみれば感動の再会よ。
 このひと、外であたしを襲って服を破いたりしたら近所の評判になると思って、ガマンして家の前で立ちんぼしてたの」
娘は怪人が昼間からずーっと外で待ちぼうけしていた怪人の本意を見抜いていた。
あの時のお見合い相手はその後別の女性と結婚したが、とんだ暴君でおまけに放蕩者だった――と娘は打ち明け、怪人を笑わせた。
久しぶりに、心から笑った気がした。
「勤め帰りのきちっとした服装、お好きだったわよね?」
娘はそういうと、怪人を自室にいざなった。
ここなら多少着衣を乱されても問題じゃない。
声さえあげなければ、ご近所の評判にならないから。
娘の囁きが怪人の耳たぶに暖かく沁みた。

遠慮しいしい咬み入れた首すじは以前と同様引き締まっていて、ほとび出る血潮の美味さも変わりなかった。
「ドラキュラ映画のヒロインに見えるかしら?」とおどける娘に、「すごく魅力的だ」とこたえて抱きしめていた。
知らず知らずお互いの唇を求めあって、重ね合わせていた。
娘が貧血を起こして畳のうえに倒れると、彼女の下肢に覆いかぶさって、ストッキングを穿いた脚に舌をふるいつける。
薄いナイロンのなよなよとした感触が、唇に心地よかった。
ストッキングに裂け目を拡げながら、自分のふくらはぎに牙を埋めてくるのを、娘はウキウキとしながら許していった。

往きがけの駄賃というわけではなかったが、母親も餌食になった。
リビングに降りてきた怪人が娘から吸い取った血に唇を浸しているのを目にした母親は、「人でなし」と罵った。
けれども、娘の安否を確かめようと母親が自室に入ると、
貧血を起こした娘は服を部屋着に改めて、伸べられた布団の上にちゃんと寝かされていた。
折り目正しいことを何よりも重んじる母親は、「礼儀は心得ていらっしゃるのね」と、気色を改めた。
「ママ、この小父さん――あたしの血だけじゃ足りないみたいよ」
娘はイタズラっぽくウィンクをした。
母親は大仰に吐息をついて、怪人にいった。
「お好きになさいな」
つぎの瞬間、痺れるような痛みが、社長夫人の首のつけ根に走った。
これと同じ痛みを、この娘(こ)はなん度も愉しんでしまったのだなと彼女はおもった。
怪人の持つ洗脳能力によって酔わされていると自覚していながら、
女は自分の血液を侵奪してゆく男の掌を、ブラウスのうえから取り除けることができなくなっていた。
したたる血潮がブラウスのえり首から入り込んでブラジャーを生温かく濡らすのを感じながら、
娘が吸血されるとき、自分の服を濡らして台無しにしてしまっても構わないと思ったのももっともだと感じ始めていた。
40代後半になろうとしている分別盛りの年配なのに、年ごろの娘のようなときめきを抑えきれなくなっていた。
自分の気持ちが若返ったことにほろ苦い歓びを感じながら、
社長夫人は娘に続いて、パンストを引き裂かれショーツを荒々しくむしり取られるのを許してしまっていた。

朝になるとこの家のあるじである社長が出張先から戻ってくる――という母娘の手で、怪人は追い立てられるようにして家を出た。
母親は、忘れた頃におととい来なさい――と、拒んでいるのか受け容れてくれるのかわからないことを言った。
娘のほうは、母親の言い草のあいまいさをはっきりさせるように、「待ってるから」とハッキリ言った。
いまの縁談がだめになったら別のくちを考えるわ、とも言ってくれた。
その日の朝に洗濯機に投げ込まれた娘のショーツが初めての血で濡れているのを、母親は見逃さなかった。


つぎの訪問先が夕刻になったのは、なんとかその家だけは立ち寄るまいと逡巡したせいだった。
夕べ訪れた社長の邸宅に比べると、古びているうえにふた周りも小さい一軒家だった。
そこは、堅実に暮らすサラリーマンの家だった。
バタバタと急ぎ足の小さな足音がした。
怪人が目を向けると、そこにはその家の息子が佇んでいた。
初めて襲った時と同じ、半ズボンに白のハイソックス姿だった。
「え?来たの?」
息子は目を見開いて怪人を見た。
「脱獄?」
「残念ながら、刑期が短縮になったのだ」
「それって、良かったってことじゃない」
「わしの身の上をわかっているだろ・・・」
怪人はさえない声で呟いた。
ああそうだね――と息子は、まだ幼さの残る声でこたえた。
彼は、怪人が人の生命を奪うのを忌んでいることを知っていた。
「殺人罪じゃなくて傷害罪だったから良かったんだね」
息子は晴れやかにそういった。ボクだって勉強してるんだよ――と言いたげな口ぶりがほほ笑ましかった。
「婦女暴行も絡んでいるから、厳罰だったがな・・・」
怪人はそう言いかけて、言葉を飲み込んだ。子供にまだきかせる内容ではないと思ったからだ。
「ここに来たってことは、血を吸いたいんだろ?
 ボクで良かったら、いいよ」
少年はハイソックスを履いた脚を、怪人のほうへと差し伸べた。
目のまえで怪人が、母親の穿いているストッキングを嬉しそうに咬み破るのを見ていた少年は、
男が長い靴下を汚しながら吸血する変態趣味の持ち主だと知っていた。
「ここでかい?」
「へえ~、周りの目を気にするんだ。進歩したじゃん」
少年は無邪気に声をはずませて、怪人をからかった。

少年に対する吸血は、路地裏で実行した。
真っ白なハイソックスに着いた血のりが赤黒いシミを拡げてゆくのを、少年は面白そうに見おろしていた。
「だいぶ体力がついたようだな」
怪人がいうと、
「もともと強い子だったけどね」
と、少年は負けずにこたえた。
逃げた人質を庇おうとして少年が機転を利かせたおかげで、正義のヒーローの到着が間に合ったのだ。
「だから、仕返しに来たのかとおもった」
「そうではないが・・・」
口ごもる怪人を見て、少年はアハハと面白そうに笑った。
少年は、怪人が家のまえでためらっている理由に心当たりがあるようだった。
「待ってな、母さん呼んできてやるよ」
怪人が心から望む再会をかなえてやるとあっさり口にすると、
少年はさっきと変わらぬ急ぎ足で、バタバタと自宅に駆け込んでいった。

10分ほどして、少年の母親が路地裏に現れた。
人目を気にしぃしぃ玄関から出てきたのを、怪人はよく見ていた。
この家で長いこと主婦をやっていかなければならない彼女にとっては、近所の評判がどうしても気になるのだろう。
「息子から聞きました。仕返しにいらしたの」
真顔になっている母親を前に、怪人はうろたえた。
なんということだ。ちっとも伝わっていないではないか――と、怪人は切歯扼腕した。
そうじゃなくて・・・と言いかけると、ムキになった顔つきが可笑しかったのか、母親はクスッと笑った。
「そういってからかってやれば面白いって、ショウくんが言うから――」
と、母親はいった。
あの子にはやられ放しだな――怪人は本音でそう呟いた。
「お時間あまりないの。子供たちに晩ご飯食べさせてあげないといけませんので――」
うちの人もそろそろ帰ってくるし、家にあげてあげることもできなくてごめんなさいね、と、母親はいった。
そして、穿き替えてきたばかりらしい紺のスカートをめくって、肌色のストッキングに包まれた太ももを、怪人の前にさらけ出した。
「悪いね、奥さん」
「うちの子がご迷惑をかけたので――あうッ!」
太ももに食い入る牙の鋭い痛みに、母親は言葉の途中で声を失った。
初めて噛まれたときの記憶が、いちどによみがえった。

あのときもこんなふうに、ストッキングもろとも食い剥かれていったんだっけ――
母親は反すうした。
あのときもこんなふうに、
スカートたくし上げられて、ふだん穿きのショーツを視られたのが恥ずかしかったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
ショーツを引きずり降ろされて、お外の空気ってこの季節でも意外に肌寒いのねなんて、のん気なこと思ったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
ハァハァと血の匂いの交じった息を嗅がされて、キスを奪うなんてひどい、うちの人としかしたことないのにって思ったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
ショウくんややよいちゃんや私の血の匂いだから、決して嫌な匂いじゃないのよって、思おうとしたんだっけ――
あのときもこんなふうに、
主人に悪い悪いって思いながら、いつもより大きなモノを突っ込まれて、思わずドキドキしちゃったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
絶対こんなのダメよって思いながら、いつの間にか怪人さんの背中に腕を回してすり寄ってしまっていたんだっけ――
あのときもこんなふうに、
このひと私の血を美味しそうに吸ってるなって、ちょっと嬉しい気分になっちゃったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
もぅ、なん回姦ったら気が済むのよ、そんなに私のこと気に入っちゃったの?なんて、いけないことに夢中になってしまったんだっけ――
――そして怪人は、若い母親が自分の凌辱に酔ってしまったことを、とうとうだれにも打ち明けなかった。

「あなたも逢ってあげなさい!」
母親に送り出されて招び入れられた路地裏で、
やよいちゃんはピンクのブラウスに血を撥ねかせながら、柔らかい首すじを牙で冒されていた。
座り込んでしまったやよいちゃんを後ろから優しく抱きしめながら、怪人は首すじから唇を離そうとしなかった。
新鮮な血潮が自分の喉だけではなくて、心の奥底まで暖めるのを感じていた。
咬まれる前やよいちゃんは、母さんやショウ兄ちゃんの血に濡れた牙を見せつけられたけど、怖いとは思わなかった。
むしろ、家族の血を帯びた牙にあたしの血も混じるんだなってほっこりとした気分になるのを感じた。
このひとがもっと兇暴だった時にいちどだけ吸われた体験が、やよいちゃんの心を柔らかく和ませていた。
咬まれるのはちょっと痛かったし、血を吸われるのは怖かったけれど、
怖がる自分を怪人が終始なだめすかして、なんとか落ち着かせようとしてくれたのを、やよいちゃんはまだ鮮明に憶えていた。

子どもたちが食卓に顔を合わせた時、母親はまあとあきれた顔になっていた。
息子は血に濡れたハイソックスをそのまま履いていたし、
娘はやはり、えり首に血の撥ねたピンクのブラウスをそのまま着ていたからだ。
怪人が私を誘拐したときといっしょだ――と母親は思い出した。
ショウくんは赤く濡れたハイソックスを見せびらかすようにして、
ボクたち、あの小父さんの仲間にされちゃった――と言って、彼女が気づかないうちに背後に立った怪人を指さしてくれたのだった。
「父さんに見られたらどうするの」
咎める母親に、息子はいった。
「父さんに内緒にするのは良くないよ」
そういう母親もまた、みるもむざんに食い剥かれたストッキングをまだ穿いていた。

「やよいはいいなぁ、首すじ咬んでもらえて。やっぱ吸血鬼っていったら、首すじだよね?」
ショウ兄ちゃんがそういうと、
「お兄ちゃんだって、ハイソックス濡らしてカッコいいじゃん。
 母さん、晩ご飯終わったらやよいもハイソックスの脚を咬んでもらいたいけど、いいよね?」
やよいまでそんなことを言い出した。
そうね・・・そうね・・・
失血で蒼ざめた母さんは、首すじにもふくらはぎにも、いくつも咬み痕をもらってしまっていた。
それらのひとつひとつがジンジンと好色な疼きを素肌の奥にしみ込ませて来るのを、どうすることもできなくなっていた。

背丈の違う肩を並べた兄妹を前に、怪人は2人を代わる代わる抱きしめた。
遠目にそのようすを見た母親は、あの人は血だけじゃないのねと、改めて思った。
いつもの夫の、ただ自分の性欲をぶつけてくるだけのセックスではないものを、怪人は短時間のうち、彼女の膚にしみ込ませていった。
やよいの穿いている白の縄柄のハイソックスがいびつに滲んだ血のシミを拡げてゆくのを見守りながら、
子どもたちの番が済んだら私がもういちど相手をしよう――と決めていた。

「なんてことだ!」
帰宅した亭主は、神妙に正座してすべてを告げる妻を見おろし、不機嫌そうに怪人を睨みつけた。
「あんた、この前で懲りて服役までしたんじゃないのか??」
亭主の怒りはもっともだった。
そういうえばこのひとにだけは、まだ謝る機会がなかったのだと怪人は思い出した。
いまさらながら・・・と頭を下げる怪人と、そのすぐ傍らで正座の姿勢を崩さない妻を等分に見て、亭主はいった。
「いちばんよくないのは――」
その後を口にしようかどうか、ちょっとだけ逡巡したが、帰宅そうそう咬まれた痕に疼きを覚えると、そのまま吐き出した。
「家内や子供たちを、家の外で相手をさせたことだ。うちにも近所の評判ってものがある・・・」
それは私がいけなくて――と言いかけた妻を亭主は制して、いった。
「これからは、ちゃんと家にあげてお相手しなさい」
返す刀で、亭主はさらにいった。
「あんたもあんただ。家内を口説きたかったら、こんな時間ではなく昼間に来なさい」
おれはそういうところを視る趣味はない――と、亭主はいった。
その晩、夫婦の交わりはいつにもまして濃く、
彼女は久しぶりに満ち足りた刻を、相手を変えて2度も過ごすことになった。


いったい、なん人”征服”したのだろう?
看守夫妻とその娘。
キャバレー勤めのホステス。
社長夫人と令嬢。
サラリーマンの一家4人。

それ以外にも。
刑に服する前に襲った勤め帰りのOLは、彼の出所を聞きつけて、婚約者を伴ってやって来た。
彼も納得しているので、私も仲間に加えてくださいと、彼女は懇願した。
彼女の体内には、初めて咬まれたときに植えつけられた淫らな衝動が、まだ色濃く残留していたのだ。
婚約者は自分の未来の花嫁を襲った牙を自らの身体に受け容れたうえ、
最愛の彼女の純潔をあきらめるという譲歩をしてくれた。
ただ――彼女が「初めて」を捧げるところは見届けたいと懇願した。
婚約者の処女を奪って欲しいという破格の申し出を、受け容れないわけはなかった。
秘められるべき「初めて」を共同体験したいという彼の本心を見抜いた怪人は、彼の希望に快諾した。
花嫁は華燭の典でまとうつもりだった白のストッキングを血に染めて、
「素敵・・・凄く素敵・・・」とうわ言をくり返しながら、
花婿の目の前で彼のことを淫らに裏切りつづけた。
人生最良のはずのその日に、花婿はもうひとつの災難に見舞われた。
披露宴がはねた後、独り身で自分を育ててくれた母親まで牙にかけられてしまったのだ。
若い身空で夫に死別した彼女は、怪人相手に青春を取り戻すために、嫁の身代わりを務めると言い、
自分の喪服姿を花嫁衣裳代わりに提供し、怪人に黒のストッキングの太ももをゆだねるようになった。

社長令嬢はその後、吸血怪人を自宅に引き入れたのが明るみになって家を出され、縁談も破談になりかけた。
けれども、縁談の相手は彼女に手を差し伸べた。
たまたま彼は、自分の母親をかつて怪人に襲われた男性だった。
「お母さんを殺さないで」という懇願を聞き入れてくれた怪人が、
「きみの婚約者をモノにしたい」懇願するのを、彼は素直にも受け容れた。
裁判のときにも彼は出廷して、「いうことをきく相手には終始親切だった」と、怪人に有利な証言をしていた。
そんな彼のことであったので、結婚を前提に交際中の彼女が吸血タイムに耽るのも、
おそらくはそのあと淫らな情事に発展しているあろうことも、すべて察しをつけながらも、
婚約者が怪人と交際を重ねることに嫌悪を抱かず暖かく見守りつづけていた。

社長夫妻は娘を許し、2人は晴れて結婚――
「お母さんの黒留袖姿を襲いたい」という卑猥な欲求さえも、花婿は好意的に叶えてやった。
感動の再会に、新郎の母親は感涙にむせび、見て見ぬしてくれた夫に感謝しながら、あのときと同じように脚を開いていった。
人知れず妻と娘を食い物にされたことにさいしょはご立腹だった社長もいまでは、
「堂々と来るなら、許す」と告げて、
自分の妻を目当てに時おり自宅を襲いに来る怪人に、もはや悪い顔はしないという。


俺には世界征服なんて、どだい無理だった――と怪人は思う。
けれども彼の「征服」したおおぜいの人の血が、自分の生命を支えてくれる。
彼らのことを守るのが、俺の新たな任務なのだ。
怪人はそう誓った。

その後の彼は、社長の運転手として雇われた。
運転手としては社長の再三の危機を救ったし、
悪だくみをしていたころに培ったデータ管理能力は、スパイの危険に曝された特許を守った。

社長から得た給与で、キャバレーを追い出された女を自分のもとに囲って養うようになり、
女はそのころに着た派手なドレスを、1着1着惜しみながら男の手に引き裂かせていった。

激務で健康を害した看守には、いまの会社に再就職の途を開いてやった。
出獄後初めて相手をしてくれた看守の妻と娘には、格別な愛着を感じていた。
看守の妻は家事の合間を縫って怪人の家を訪れて、奥さんに気兼ねしながらも激しく身をくねらせ呻き声をあげていったし、
娘のほうもまた、処女を奪われたことを口先では恨み言を言いながら、学校帰りの制服の裏に秘めたうら若い肢体を弾ませていた。
ふたりはキャバ嬢あがりという怪人の妻に分け隔てなく親しんだので、
時には男1人女3人での戯れに、時を過ごすこともしばしばだった。

いちばん悩みの多い時を迎えたのは、サラリーマンの一家だった。
パートに出た妻はその容貌のおかげでさまざまな誘惑にさらされたが、怪人の存在が不心得な男どもを遠ざけていった。
いじめに遭ったショウ兄ちゃんを救い、美しく成長したやよいちゃんには性の手ほどきをした。
さいごのひとつは、同等に言えることではないけれど――
いまでも週に一度は怪人に抱かれている母親が、たっての願いでそうしたことは、
きっと彼との情事がそれほど良い――ということなのだろう。
サラリーマンをしている亭主も、自分勝手な性の日常を反省して、妻を怪人に奪われないように思いやりのある夫になりつつあるという。

歪んだ形ではあるものの。
怪人は彼らのなかで、「正義のヒーロー」になっていた。


あとがき
凄く長々としたお話になりました。 苦笑
昨日あっぷをしたお話は、春頃から構想して書き溜めていたやつを仕上げてあっぷしたものですが、
これは久々に、入力画面にじか打ちで書き上げたものです。
案外こうするほうが、すんなりまとまるのかも知れませんね。(笑)

狩られた一家

2023年09月12日(Tue) 19:06:52

――公原亘 42歳 サラリーマン の家族構成――

公原まどか 39歳 専業主婦  亘の妻
公原理央  14歳 〇学二年生 亘・まどかの娘
公原鈴江  64歳 専業主婦  亘の母

連れ立って歩く三人の女とは距離を置いて、
三人の男吸血鬼がひっそりと、あとを尾(つ)けてゆく。

「理央ちゃんの白のハイソックス・・・」
そう呟いたのは、肥塚羊司、34歳。いわゆる、「きもおた」の独身中年。
「鈴江さんの黒のストッキング・・・」
そう呟いたのは、円藤静雄、42歳。公原亘の同期で元エリート・サラリーマン。
「まどか殿の肌色のストッキング・・・」
そう呟いたのは、烏鷺長生【うろ・ながお】、61歳。
肥塚・円藤ふたりの血を吸った、生粋の吸血鬼。
3人が3人とも、亘の家族の生き血を狙っていた。

――亘の述懐――

真っ先に三人がかりで血を吸い取られ、失血にあえぐわたしの前で、
まず太っちょの肥塚氏が、娘の理央にむしゃぶりついていきました。
理央は涙も涸れんばかりの顔つきで、憐みを乞うようなまなざしを自分を狙う吸血鬼に投げるのですが、
悲しいかな、それはなんの効果も同情ももたらさなかったようです。
彼女の柔らかいうなじは瞬時に喰い裂かれ、
噴き出る血潮が理央の着ている紺のワンピースを濡らしました。
肥塚氏は好みの年ごろの少女というご馳走を前に、少し焦っているようでした。
わなわなと手を震わせて理央の胸をワンピースのうえからまさぐると、
その手を体の線をなぞるように降ろしていって、こんどはワンピースのすそを引き上げてゆくのです。
「お願いです、やめていただけませんか。
 まだ子供なんですから、娘の名誉まで奪うのは止してください」
わたしの識る肥塚氏はいつもオドオドとしていて、根は素直で純朴な男でした。
けれどもその時の彼は、血の欲求に昂った狂った目つきになっていて、
わたしの訴えは耳に入らないかのように無反応だったのです。
肥塚氏は、理央の太ももに咬みつきました。
手かげんのまったくない咬みかたでした。
咬むまえに、ネチネチと唇を這わされて、あまりの気味悪さに理央はもう一度、悲鳴をあげました。
切なくなったわたしはもういちど、
「わかってください!
 きみが理央を気に入ってくれているのはよくわかりました。
 だから、その理央を悲しませるようなことはしないでもらえませんか?」
きみの気持ちが真面目なものなら、理央を嫁にと考えても良い・・・とまで、わたしはいったのです。
さいごのひと言は、彼の耳にも刺さったようです。
一瞬彼は嬉し気に白い歯を見せました。
けれど、すぐにその歯を理央の太ももに埋めてゆくのです。
もういちど、鋭い叫びがあがりました。
肥塚氏が理央の血をガツガツと食らって、食欲を充たして大人しくなったときにはもう、理央は気絶していました。
理央の履いていた白のハイソックスは、肥塚氏が執着するあまり、真っ赤に染まってしまっていました。
潔癖な理央がこのキモオタ中年と交際を深めて処女を捧げるのは、これよりもう少しあとのことでした。

「ふん、気色の悪いロリコンめ!」
気絶した理央に向かってなおも舌をふるいつけてゆく肥塚氏に、
わたしと勤務先で同期の円藤はそう、毒づきます。
「うちの娘と同じようにあしらいやがって。どこまで変態なんだよ!」
そうはいいながら。
彼もまた、我が家に女の生き血を求めてあがりこんできた輩です。

円藤はさすがに、同じ年頃の娘を持つ親でした。
なのできっと、すこしは理央のために同情してくれたのでしょう。
自分の娘を肥塚氏に狩られたことへの嫉妬も、少なからずあったのかもしれません。
肥塚氏は、ロリコンでした。
円藤の家が肥塚氏の侵入をうけたとき、肥塚氏はその牙をぞんぶんに振るって、
彼のまな娘のブラウスを真っ赤に濡れそぼらせられたにちがいないのです。
けれどもそんなふうに肥塚氏の吸血行為を批難しながらも、
円藤の口許にもすでに、女の血が散っていました。
抑えつけた掌の下には、わたしの母である鈴江が気丈にも腕を突っ張って、その肉薄を拒み続けていたのです。

円藤は、マザコンでした。
自分の母親が吸血鬼に襲われたとき、
よそ行きのブラウスやスカートに血を撥ねかせながら生き血を吸い取られ姿勢を崩してゆく様子を目にして、
それが胸の奥に灼(や)きついてしまったそうです。
どこのお宅にお邪魔しても、その家でもっとも年配のご婦人を襲うことで知られていました。
なので、円藤が母を狙ったのも、当然のことだったのです。
鶴のように細い首すじに、円藤が唇を這わせ、這いまわる唇の端からかすかに覗いた牙が皮膚を冒すのを、
わたしはなぜか、ゾクゾクしながら見届けていました。
血を吸われるものの愉悦を覚え込まされた身体は、同時に血に飢えた身体にもなり果てていて、
人を襲って血を獲るものの快楽が、まるで自分のことのように感じられるようになりかけていたのです。
咬まれた瞬間、母はウッ・・・とひくく呻いて歯を食いしばり、
自分の血がチュウチュウと聞えよがしに音を立てて啜りあげられるのに聞き入る羽目になっていました。
さっき息子であるわたしが散らしたように、
母もまた同じように、ブラウスに生き血をぶちまけながら啜られ続けたのです。

母を「供出」することに、父は当然ながら激しく反対しました。
そして、どうしてもそうせざるを得ないと知ったときにも、妻の仇敵に自分の血は吸わせまいと言いました。
結局父は、吸血鬼どもからもらった睡眠液で、そのあいだじゅう眠りにつくことにしたのでした。

円藤は強欲でした。
母が絶息して静かになると、ふくらはぎに唇を押し当てて、
黒のストッキングのうえからネチネチ、ネチネチと母の脚をなぶり抜くのです。
けれどもわたしには、その行為がたんに母を侮辱するものとは映りませんでした。
円藤の口づかいはどことなく、母親というものを慕っているような感情を帯びていたからです。
たしかに母のストッキングは唾液にまみれ、ふしだらにずり降ろされて皺くちゃになっていくのです。
でも――
彼がわたしの母に抱いている敬意はそこはかとなく感じられ、
わたしは彼が母を蹂躙してゆくのを許容することができたのでした。
脛の下までずり降ろされたストッキングを足首にたるませたまま、
母は女としての愉悦を、全身にしみ込まされて行ったのです。
後に父の許しを得て晴れて円藤との交際を許された母は、
同年代の婦人会の幹部となって、熟女たちの血液を差配する役に就くことになりました。


家内のまどかを襲ったのは、最年長の烏鷺(うろ)氏でした。
烏鷺氏は肥塚氏と円藤の両名を家族もろとも血を吸い尽くした張本人です。
先に襲われた肥塚氏は、円藤の娘をモノにする幸運に恵まれたのですが、
それだけでは飽き足らず、円藤の娘と仲良しであるうちの娘にまで魔手を伸ばしてきたのでした。

三名の吸血鬼のなかでいちばんのヴェテランの相手を仰せつかったまどかは、
恐怖に顔色を白くしながらも気丈に応対していきました。
もともと烏鷺氏はまどかのことを気に入っていました。
いつも「まどか殿」と敬称を着けて呼んでいて、
はた目にはほほ笑ましい関係のはず――でした。
けれども、血を吸う側と吸われる側に別れてしまうと、もうどうにもなりません。
烏鷺氏は、娘を庇ういとまも与えずにあっという間にまどかのことを掴まえると、
うなじにガブリと食いついたのです。
まどかのうまじから、赤い飛沫がサッと撥ねて、薄いピンクのブラウスを帯のように塗りつぶします。
彼女はなにかをいおうとしましたが、それは言葉にならず、
体内の血液を急速に喪い、顔色を色あせさせていったのでした。

安心せよ、生命は奪らぬ。
ただともかくもご婦人がたにはわしらの渇きを充たしていただかねばならんのぢゃ。
先日円藤の一家を襲った後、吸い取ったばかりの血を口許にあやしながら、
烏鷺氏はそうわたしに告げました。
烏鷺氏が家内の生き血を気に入ったのは、はた目にも明らかでした。
家内の体内をめぐる血液は、素晴らしい速さで烏鷺氏の喉の奥へと経口的に移動したのでした。
ほかの2人が各々の獲物の足許にかがみ込んで、
母のストッキングや娘のハイソックスを辱めることに熱中しだすと、
烏鷺氏もまた、家内の足許に舌を這わせ、肌色のストッキングを皺くちゃにしていくのでした。
旨めぇ、うんめぇ・・・なかなかのものぢゃ。
烏鷺氏は随喜の呻きを洩らしながら、ひたすら家内の足許を蹂躙してしまいます。
きちんと脚に通した肌色のストッキングを、ひざ小僧が露出するほど剥ぎ堕としてしまうと、
烏鷺氏はいよいよ家内に対して、男としての本能を発揮してしまうのです。
折り目正しい紺のタイトスカートを後ろから剥ぎあげると、
家内のショーツをむぞうさにむしり取り、気絶寸前の家内を背後から交尾したのです。
「奥さんどうやら、ア〇ルは初めてのようぢゃのお」
烏鷺氏は酔い痴れたものの呂律のまわらぬ口ぶりで満足の意を洩らしながら、
家内の秘められた初体験を根こそぎ奪い取ってしまったのでした。

失血量がいちばん多く、最後に眠りから覚めたまどかはその後、
烏鷺氏が自分の血を非常に気に入ってくれたことに満足し、
3日にあげず烏鷺氏宅を訪問しては、熟れた血潮を提供するようになったのでした。

ガツガツと乱暴にむしり取られた家族の血潮――
けれどもそれは、わたしたち家族をこの街に強く結びつける絆になったのでした。


あとがき
ひとつの家族が老若の区別なく同時に襲われて、血液を吸い取られてゆく――
まあそんな情景を描いたつもりなのですが、どうも本編は座りがよろしくないです。
吸血シーンも、ちょい残酷めかもしれませんね。。

ヴィンセントの花嫁

2023年09月11日(Mon) 16:26:23

ヴィンセントは勤め先からの帰り道、アリーとタマコに血を吸われた。
二人がかりの吸血は、はたちそこそこの若さを持つ彼にとってもハードだった。
彼の体内に蓄えられた血液の量は、みるみる減ってゆく。
微かになってゆく意識のかなた、ヴィンセントは喘ぎながら、
どうして自分が死に至るほどの吸血を享受しなければならないのかを反芻した。
理由は明らかだった。
彼のフィアンセであるナンシーを、アリーが欲したからだ。
ナンシーは19歳の女子大生で、来年の6月に晴れてヴィンセントと結婚することになっている。
碧い瞳に抜けるような白い肌、そして見事なブロンド髪の持ち主だった。
しかしアリーはナンシーを見初めて、彼女の血を吸い、その若い肉体をも手に入れたいと念願していた。
アリーはヴィンセントに、ナンシーの貞操を譲ってもらえまいかと持ちかけた。
ヴィンセントはナンシーを愛していたし、家名に瑕がつくことも恐れていた。
彼はアリーの申し出を断った。
もはや選択の余地はなかった。
アリーは仲間のタマコを語らって、ヴィンセントを夜道で襲い首すじを咬んだのだ。

この街は昨年から、吸血鬼と市民との共存を目ざすために、吸血鬼を受け容れると宣言していた。
外国から多数受け入れていた留学生たちも、血液提供の対象とされていた。
血に飢えた吸血鬼がおおぜい、この街に流れ込んできて、
市民たちを片っ端から襲うようになっていた。
市の当局は吸血事件については一貫して不介入の態度を示したので、
事件の被害者は放置――つまり吸われっぱなしになるのだった。
むしろ吸血鬼の側のほうが、ヒエラルキーを発揮して、混乱を収拾するのに有効な動きをとっているありさまだった。
そういうなかで、美少女として知られたナンシーが狙われたのは当然のなりゆきだった。

刻一刻と血液が喪われてゆくのをひしひしと感じながら、ヴィンセントはひたすら、耐えようとした。
なんとしても生き延びるんだ。彼らの食欲が去れば、手荒く解放されるのだから――
体内をめぐる血液を一滴でもよけいに喪うまいとして、彼は身を固くした。
しかし、そんな努力は無意味だった。
彼らははなから、ヴィンセントを殺害するために血を喫っているのだから――
その意図に気づいたときにはもう、遅かった。

頭がふらふらだ――
うっとりとした頭で、ヴィンセントはおもった。
もう・・・なにがどうなっているのか・・・よくわからない・・・
血を吸い取られてゆくときの唇の擦れる音が、耳もとに忍び込み、鼓膜をくすぐった。
美味しいのか?美味しそうだな・・・ボクの血・・・
ふと、そんなことを想った。
すると、まるでそれを聞いていたかのように、
「美味いぞ」
そう囁く声がかえってきた。
ああ・・・そうだよね・・・ボクもそれを感じる・・・きみが美味しそうに飲んでいるのがわかる・・・
ヴィンセントはその声にこたえた。
「でもまさか――吸い尽くしちゃうつもりじゃないだろうね??」
「いやふつうに、そうするつもりですが??」
ヴィンセントは、男がふざけているのかと思った。
「ちょ、ちょっと待って!ボクまだ死にたくないんだよ!!」
声をあげようとして、自分におおいかぶさる失血の倦怠感が、思った以上に大きいことを感じた。
ヴィンセントは、はっとした。
「・・・ボ、ボクのことを吸い殺して、ナンシーを奪う気だな?」
「・・・ご明察」
男のこたえは、冷酷なくらい穏やかだった。

すまないとは思っている。
卑怯な方法なのも、申し訳なく思っている。
でも俺はどうしても、ナンシーの肉体が欲しいのだ。
あの娘(こ)があの恰好の良い脚にまとっているグレーのストッキングをみるかげもなく咬み破って、
趣味の良いブラウスやスカートもろとも血浸しにして辱めたいのだ。
服という服を剥ぎ取った末に、あの娘の若々しい肢体を、自由にしたいのだ。
白く濁った精液を、身体の奥からあふれ出るほど、注ぎ抜いてやりたいのだ。
キミだって彼女をそうしたいのだろう?
だったら俺の気持ちも、わかってもらえないか?

そこまでいうと男は、ヴィンセントの首すじに這わせた唇にいっそう力を籠めて、血潮を啜り獲った。
なんという勝手な言い草だ。
ヴィンセントの憤慨をしり目に、男はなおも彼の生き血を啜り味わう。
キュキュキュッと鳴る唇が、傷口をくすぐったく撫でた。
「若い・・・うら若い・・・実に佳い血だ・・・」
男がヴィンセントの血に心酔しているのは、もはや疑いない。
彼はこの数少ない人間の友人の生き血の味を称賛し、彼の気前良ささえも褒め称えた。
「きみならではだ。大事な血をかくもたっぷりと馳走してくれるとは・・・」
違う!違う!そんなんじゃないっ! ヴィンセントはうめいた。
なんとかこの鉄のように硬い抱擁から抜け出して、自分の身の安全を確保しなくては!
「だったら・・・だったら・・・」
ヴィンセントはあえいだ。
「そんなに美味しいのなら、ぜんぶ吸い尽くす手はないだろう?そうだろう?」
「どういうことだ?」
「もし、もしも生命を助けてくれるなら・・・ナンシーを見逃してくれるなら・・・」
眩暈に心がつぶれそうになりながらも、ヴィンセントは言った。
「ボクの血をなん度でも、吸わせてあげるから!きみの好きな時に楽しませてあげるから!」
だから・・・だから・・・
息せき切って口走るヴィンセントの唇を、男の唇がふさいだ。
「あ・・・あ・・・」
知らず知らず、吸われる唇に唇で応えながら、ヴィンセントは激しく身もだえする。
「殺さないで!殺さないでくれ!なんでも言うことをきくからっ」
「ではこうしよう・・・
 わしはきみの血をほとんど吸い尽くす。全部ではない。あらかただ。
 きみはいったん墓場送りとなるが、七日間で生き返る。
 生き返った後、きみはわしの好きな時、ありったけの若い血液をわしに馳走する。
 それから――きみが墓場にいる間だけ、わしはナンシーを誘惑することができる。
 良いか、たったの七日間だ。
 その間にもしもナンシーが落ちなければ、わしは二度とナンシーに手を出さない。永遠にだ。
 これは賭けだ。お前はナンシーの身持ちを信じることができないのか?」
え・・・?
ヴィンセントは顔をあげた。
意識がもうろうとして来、視界が定まらない。
それでも男は、だいぶ緩慢になったとはいえ、まだ傷口に唇を吸いつけて、そこからさらに血を啜り獲っている。
これでは血の全量を費消してしまうのは時間の問題だったし、男はそれを容赦なくやり遂げようとしている。
だいじょうぶだ・・・たったの七日間だ・・・
と思ったのもたしかだった。
けれどもそれ以上に、
アリーがナンシーにどんなふうに挑もうとするのか?
その様子を想像した時にサッとよぎった妖しいときめきに、気づかざるを得なかった。
血を吸われ過ぎたのだ――と、ヴィンセントはおもった。
だから、吸血鬼ふぜいに同調する気分が芽生えたに違いない・・・彼の想いは、正しかった。
首すじに喰いつく牙の尖り具合をありありと感じながら、ヴィンセントは血を吸い尽くされてゆき、意識を遠のかせていった。


墓の中にいる間、魂は身体から離脱している――と聞かされたのを、なんとなく記憶している。
じじつ、ヴィンセントはいま、街灯の点る夜の通りを独りでいた。
目のまえでナンシーが、家の壁に抑えつけられていた。
どうやら学校からの帰り道らしい。見慣れたグレーのスーツ姿だった。
相手はいうまでもなく、アリーだった。
褐色の掌がナンシーの白いブラウスの胸に食い込んで、深い皴を波打たせていた。
アリーはいつものように、ほとんど半裸である。
襲った獲物をすぐに犯すことができるよう、余計なものは身に着けない――という主義なのだ。
赤黒く爛れて膨れ上がった唇から覗く長い舌が、ナンシーの白い首すじにからみついている。
19歳の素肌のうえ、ピチャピチャと音を立てながら、舌なめずりをくり返していた。
気の弱いナンシーはべそを掻きながら、男の蛮行を許している。
「な、なんてことを・・・・・・ッ」
自分の恋人に対するむごい仕打ちに、ヴィンセントは憤慨した。
「そう嘆くな。おとなしく舐めさせてくれれば、ひどい食いつき方をしたりはせん」
アリーは囁いた。
嘘だ。嘘に決まってる・・・ヴィンセントはなおも憤った。けれども彼の声は2人に届かなかった。
「ほんとうですね・・・?おとなしくしてれば、ひどいことなさらないんですね?」
ナンシーは頼りなげなまなざしを、アリーに投げた。
だめだ、信じちゃいけない・・・!そんな叫びも、2人には届かない。
「じゃ、じゃあ・・・どうぞ・・・」
やっとの想いでナンシーはそうこたえると、
再び首すじをヌメりはじめた舌の気持ち悪さに耐えかねたのか、静かにすすりあげていた。
「あまりなぶりものにしては、ヴィンセントのやつに悪いな」
アリーはそう呟くと、やおら牙をむき出して、ナンシーの首すじにザクリと食いついた。
白のブラウスに、紅い飛沫がサッと走った。
「キャアッ!」
鋭い悲鳴が、涙に濡れている。
なんということだ。なんということだ・・・ヴィンセントは自分の失策にほぞを噛む思いだった。

ごく・・・ごく・・・ごく・・・ごく・・・
アリーはナンシーの血を、喉を鳴らして飲み耽る。
もはや、もはや・・・とめようもなかった。
そして、ヴィンセントのなかでも、なにかが変わろうとしていた。
喉が渇いた。カラカラに渇いた。これはきっと――血で潤さないと満ち足りないのだ。
本能的に、それがわかった。
そうなると、目の前で旨そうに人の生き血を飲み耽るアリーのことが、うらやましくなる。
アリーのしていることを、肯定したくなってくる。
そうだ、やつはボクの花嫁の生き血が気に入ったのだ。
満足そうに喉を鳴らして、美味しそうに飲み耽ってるじゃないか!
悔しいけれど、嬉しいし、誇らしい・・・
ナンシーは自らの血で、アリーの渇きを癒している。
無二の親友の、アリーの渇きを。
アリーの逞しい腕に抱きすくめられながら、ナンシーは身体の力を失ってよろめき、身をゆだね、
そしてずるずると壁ごしに姿勢を崩し、尻もちを突いてしまった。

すでに意識はもうろうとしているようだった。
アリーは余裕しゃくしゃく、ナンシーの足許にかがみ込むと、
彼女の脚をおしいただくようにして、舌で舐め始めた。
ナンシーの穿いているグレーのストッキングを愉しんでいるのだと、すぐにわかった。
ほっそりとした脚を染めるグレーのストッキングはみるみるよだれにまみれ、皺くちゃにずり降ろされてゆく。
舌が躍っていた。ふるいついていた。じんわりといやらしく、ネチネチと意地悪く、這いまわっていた。
妨げる手だてもないなかで、アリーがナンシーのストッキングをあらゆる舌遣いで愉しむのを、見せつけられていた。

悔しい・・・悔しい・・・
ナンシーを無体にあしらわれたことに、ヴィンセントは当然屈辱を感じて悔しがった。
けれども彼は、自分のなかにべつな感情が芽生え始めていることを、いやがうえにも思い知ることになった。
ヴィンセントの血管からは血の気がひいて、干からびかけていた。
だから、血管の干からびた男がどれほど若い女の生き血を欲するものなのか、身に染みてわかるようになっていた。
だから、アリーがナンシーの首すじを咬んで、ゴクリゴクリと喉を鳴らし、美味そうに血を啜るの情景に、知らず知らず自分を重ねてしまっていた。
ナンシーの生き血、美味しそうだな。羨ましいな。欲しがる気持ちは分かってしまうな。
イヤだけど・・・わかってしまうな・・・
ボクだったら、もっと美味しそうに飲んじゃうだろうな・・・
悔しいけれど・・・嫌だけれど・・・ナンシーの血がやつの気に入ったことを、
どうしてこんなにも好ましく受け取ることができるのだろう・・・?


しくじった・・・
アリーは頭を抱えている。
ナンシーの血を飲み過ぎた、というのだ。
向こう三日は、立ち直れまい。
許された七日間のうちの、三日間だ。さいしょの一日も入れれば、すでに半分以上経過というわけだ。
なん度も咬まなければ、いくらわしといえども、ナンシーをたらし込むことはできない・・・
そういう悔しがり方だった。
気持ちはわかるけど・・・七日間の約束は譲れないよ。
ヴィンセントはいった。
「きみのナンシーに対する態度は、まずまず立派だった。
 ずいぶん強烈に食いつかれちゃったけど、
 きみはそうまでしてナンシーの血が欲しかったんだね。
 彼女の血は口に合ったのかい?」
「ああもちろんだ、期待以上だ。そこは悦んでくれていい」
「嬉しくはないけどさ――」
ヴィンセントはいった。
「ぼくにとっては、大事な彼女なんだ。
 必要以上に苦しめることだけはしないでくれよ」
「わかった――
 わしも初めてあの娘(こ)を襲って、いまのお前の気持ちが少しは理解できたつもりだ。
 チャンスは減ってしまったが、もう少しトライさせてもらうぜ」
アリーは不敵に笑った。
ヴィンセントは清々しく笑い返し、重ねられた唇にも熱っぽく応えてしまっていた。
それでも内心、自分の恋人を堕とされてしまうのではと、焦る気持ちで胸を焦がしてもいるのだった。


驚くべきことに。
四日かかるとアリーが請け合ったナンシーの容態は、翌々日には持ち直していた。
「来れるようになってからで良い。またお前の血を楽しませてくれ」
別れぎわ囁かれた約束に、ナンシーは律義に応じようとしていた。
その日は若草色のワンピースだった。脚にはあの夜と同じ、グレーのストッキングを脚に通している。
さすがにいつもより蒼い顔をしていることに、ヴィンセントの胸は痛んだ。
けれども、無理をおして出かけてきたナンシーに、目を見張る思いでもあった。
そんなにしてまできみは、あの男のために血を吸わせようとしているのかい?
心のなかでそう思わずには、いられなかった。

「あの・・・やっぱり破ってしまうのですか・・・?」
足許に唇を擦りつけようとするアリーに、ナンシーは脚を引っ込めながら、おずおずと訊いた。
「わしに楽しませるために穿いてきてくれたんだろう?」
アリーはヌケヌケとそういって、ナンシーをからかった。
「そんな・・・」
ナンシーは口ごもり、けれどもそれ以上はアリーの唇を拒もうとしなかった。
「あまりイヤらしくしないでくださいね・・・」
か細い声でつぶやくナンシーをよそに、アリーは舌をピチャピチャと露骨に鳴らしながら、
彼女のストッキングをもう、楽しみはじめている。
ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・くちゅ・・・くちゅううっ。
聞えよがしな下品な舌なめずりに、
ナンシーはべそを掻きながら唾液に濡れそぼってゆく足許を見つめ続けている。
はた目には。
本人が意識するしないに拘わらず、
ナンシーが彼らのふしだらな愉悦に寛容な態度で接しているようにみえた。
学園のなかで、ナンシーが自分の婚約者の仇敵のための熱心な血液提供者であるとの評価が、たった一日で定まっていた。
男はナンシーの金髪に輝く頭を抱きすくめ、時折髪に口づけをした。
血に染まった唇は彼女の金髪に不気味な翳りを与えたけれど、
彼女はもうそんなことは気にかけようとしなかった。


ヴィンセントの蘇生を明日に控えた夜――
例によって墓場を抜け出したヴィンセントは、蒼白い頬をこわばらせ、ナンシーの家へと向かっていた。
3回咬まれてしまえば、ナンシーはアリーの所有物(もの)になる――
さいしょのひと咬みは強烈で、ナンシーは数日間は起き上がれないはずだった。
にもかかわらず彼女は三日目には再びアリーと時間を持ち、グレーのストッキングを咬み破らせていた。
アリーはナンシーの血を嬉し気に飲み、ナンシーもアリーが自分の血を敬意をこめて吸い取るのを感じ取っていた。
ナンシーは再び、病床に沈んでいた。
周囲のものはナンシーを吸血鬼に逢わせまいと考えた。
けれども意外にも、そうした彼らの動きを無にしたのは、ナンシー本人だった。
彼女がアリーと3回目のアポイントを取ったと知ると、ヴィンセントはもういてもたってもいられなくなった。
彼はいったん死んだことになっているので、昼間は大っぴらに活動できない。
けれども、アリーがナンシーを誘惑するのもまた夜であったから、
ヴィンセントはナンシーを引き留めることができればゲームに勝つことができるのだ。
すでに、3回目のアポイントをナンシーがアリーに許した段階で、彼の勝ち目はなくなっていたのであるが――


その晩アリーは、ヴィンセントの母ローザのもとに訪れていた。
ローザは緋色のドレスを着て、アリーの腕のなかで夢見心地になっている。
ヴィンセントの血が美味かったのは、きっと母親の血筋なのだろう――
そうあたりをつけたアリーは、恥知らずにも、息子を奪われた母親の首すじを狙ったのだ。
ローザは抗議し、身もだえし、絶叫してアリーを拒んだ。
けれども、それだけでは彼女の静脈が吸血鬼の牙を免れるには十分ではなかった。
夫のアーサー氏の嘆きをよそに、ローザは自らのドレスを血に浸して、
ドレスのすそをたくし上げられると、脚にまとったタイツの噛み応えまでも楽しませてしまう仕儀となったのだった。
ガーターをほどかれてだらりとずり落ちたタイツが脱げかかる脚を足摺りさせながら、
ローザは息子の仇敵によって、その貞操を汚されていった。
翌朝――アーサー氏はアリーの訪問を受け、アーサー夫人の肉体は夕べの訪問客を存分に満足させたこと、
ローザは今後もアリーの訪問を受ける義務を持つことが告げられた。
アーサー氏は観念したようにアリーと夫人との前途を祝う言葉を口にするのだった。


今宵もローザは、その身をめぐる血潮で、息子の仇敵を満足させていた。
「いかが――?わたくしの血がお口に合うようなら、とても嬉しいですわ」
ローザは人が変わったようにウットリとした目で、アリーを上目遣いに見た。
その目線には、艶めかしい媚びがにじみ出ていた。
ヴィンセントはやり切れない想いだった。
婚約者かばりか、母親までも堕落させられてしまったのだ。
「どうぞこちらへ」
ローザは艶然とほほ笑むと、吸血鬼を庭園の奥へといざなった。
ヴィンセント邸の庭園のもっとも奥まったベンチに、白い影が浮かんでいる。
確かめるまでもなかった。ナンシーがそこにいた。

「ああ――」
ヴィンセントは絶望の呻きを洩らした。
「賭けに負けたな、親友よ」
アリーは嬉し気に呟いた。
敗者となった親友を必要以上に傷つけまいという配慮が、そこにはあった。
そうはいっても、彼はすべてを奪われてしまうのを、いま目の当たりにする義務を負ってしまっていたのだが・・・

ナンシーは純白のドレスのすそをちらと引き上げて、つま先を覗かせた。
高貴な白のストッキングが、か細い足の甲に透けていた。
ヴィンセントは、それがナンシーのウェディングドレスなのだと気づいた。
彼との華燭の典にこそまとわれるべき衣装が、いま吸血鬼との密会の場に着用されている。
これを完敗といわず、なんと表現すれば良いのだろう?
そして、ナンシーのもとまで吸血鬼を案内したのは、ほかならぬかれの最愛の母親だった。

意を決して、ヴィンセントは脚を一歩踏み出した。
ヴィンセントの出現にナンシーは目を見張り、なにかを言おうとした。
その瞳にかすかな逡巡や、後ろめたさがあるのを、彼は見逃さなかった。
ヴィンセントは穏やかに笑って、ゆるやかにかぶりを振った。
「彼の牙はどうだい?ナンシー?」
生前と変わらぬ声色に、ナンシーは思わず涙を泛べた。
それでじゅうぶんだった。
アリーが言った。
「ナンシーはヴィンセント夫人となるに相応しい」
「式の日取りは変えないわね」
ナンシーがほほ笑んだ。
街灯に照らされた彼女の金髪がかすかになびき、夜風に流れた。
「それから――彼の牙は最高よ」
「同感だ。ボクはどうやら夢中になって、吸わせすぎちゃったらしい――」
「ばかね」
ナンシーが笑った。
「まったくだよ」
ヴィンセントはこたえた
「おかげで彼と、不利に決まっている競争をする羽目になっちゃった。
 きみが、ぼくの一番の親友と仲良くなってくれれば嬉しいと心から――」
ヴィンセントの言葉は途切れた。
音もなくそう――っと近寄ったアリーがナンシーを抱きすくめ、首すじを咬んでしまったのだ。
「おいおい」
ヴィンセントは困惑顔。けれどももはやナンシーは迷いもなく、
自分のほうから首すじをアリーの顔に添わせるようにして、
ただひたすらうら若い血液を、渇いたアリーの飲用に供してしまっている。
アリーが唇を離すと、ヴィンセントは感嘆の声を洩らした。
栄えある日のために用意された純白のドレスには、一点のシミも残されていなかったのだ。


いまでも彼の家に保管されているふたりの婚礼の際に着用された純白のドレスは、
裏地が真紅になっている。
けれどもその濃過ぎる裏地は表面の白を汚すことなく、あくまでも裏側に秘められている。
未来の花婿の面前でナンシーの首すじを咬んで彼女を征服した吸血鬼は、
邸のなかにナンシーを連れ戻すと彼女をベッドに横たえてドレスのすそを掲げると、
純白のストッキングに包まれた太ももに再び、牙を咬み入れた。
ストッキングはみるかげもなく破れ、血に染まった。
ドレスの裏地が真紅に染められたのは、そのときのことだった。
ウェディングドレスをまとったまま、ナンシーはアリーの手で犯された。
血を抜かれた身体を木偶のように横たえて、ヴィンセントは花嫁の処女喪失を見届けた。
「花嫁の純潔は、きみからもらったようなものだな」
アリーがそういうと、ヴィンセントは失血にこわ張った頬をかすかに弛め、
「我が家の花嫁を、ぞんぶんに楽しんで欲しい――」と呟いた。
花嫁は恥を忘れて、ひと晩ベッドのうえで狂い咲いた。
ドレスの裏地を染める真紅には、このとき流された花嫁の純潔の下肢もいくばくか、秘められているという――


あとがき
外人さんを主人公にすることは、めったにないと思います。
ここはブロンドの女性をヒロインにしたかったので・・・(笑)
血を吸い取られた後のヴィンセントが、自分の婚約者を誘惑しようとする吸血鬼の心情にじょじょに惹かれてゆくあたりは、新機軸かもしれません。
ドレスの裏地の件は――ほぼ思いつきですね。(笑)

母の献血。

2023年09月11日(Mon) 16:25:40

欲しいな。
とうとつに口にする彼に、ぼくはとっさに自分の首すじ寄せていた。
1週間前、彼はぼくの血を初めて吸った。
とうとつに襲われたぼくは、彼の腕の中でもがきながら首すじを咬まれ、
ドロドロと流れる血を、ゴクゴクと威勢よく喉を鳴らしてむさぼり飲まれ、
貧血にくらくらした頭を抱えながらズボンのすそをたくし上げられ、
靴下のうえからふくらはぎまで咬まれていった。

首を咬まれている時点では必死に腕を突っ張って、
彼をこれ以上寄せつけまいとしていたけれど、
脚を咬まれた段階では、あまりにもキツい貧血で、頭を抱えてへたり込んでしまって、
足首を舐められているときには余裕で靴下の舌触りまで愉しまれてしまっているのに、
もうそれ以上姿勢を崩さずに、座りこむのがやっとのことだった。

けれどもぼくは、彼に血をあげたことを後悔していない。
それくらい、彼の咬みかたはキモチ良かったのだ。
首すじに食い入った一対の牙は、ぼくの理性をきれいに塗り替えてしまっていた。

欲しいな・・・
そういわれるたびにぼくはドキドキして、首すじの咬み痕をさらしたり、スラックスのすそを引き上げたりするようになっていた。
でも、きょうの「欲しいな」は違っていた。
彼はぼくにいったのだ。
まるで初恋の告白をするみたいに!
「こんどは、お前の母さんの血が欲しい」って――


家に帰るとぼくは、母に正直に彼の希望を伝えた。
「あいつ、母さんの生き血を欲しがってる」
ごくシンプルに、そういった。
母さんはびっくりしたように目を見開いて、でも意外に冷静だった。
あとで聞いたら、ぼくが初めて噛まれたときに、こういうことになるような気がしていた――って教えてくれた。

事前に伝えたのだから、母が本当に彼に咬まれるのが厭だったら、対策の立てようはあったはずだ。
父に相談しても良いし、街から一時的に逃げてしまうことだって、できたはずなのだ。
けれども母は、そのどちらもしなかった。
飢えているんでしょ?かわいそうじゃない――
どうするの?って訊いたぼくに、母はそうこたえてくれた。
優しい母らしいな・・・と、ぼくはおもった。
声は虚ろだったけど・・・そこはぼくが心配することじゃない。
母はあの瞬間、自分の息子の悪友の”女”になることを自ら択んだのだ。


学校で会った彼は、「きょう、お前ん家(ち)行くから」と、ぼくにひっそりと耳打ちした。
いつも家(うち)に遊びに来るときと同じ言い草だった。
ただ、いつもと違って、「お前はちょっとだけ遅れて来い」と、つけ加えた。


家に帰ると、リビングの空気が明らかにおかしかった。
思わず股間を疼かせながら、ぼくはリビングの扉を開いた。

あお向けに倒れた母に彼が馬乗りになって、雄々しく逞しく、抑えつけていた。
飢えた唇を母の足許に吸いつけて、
吸い取った血潮を頬ぺたに勢いよくしぶかせて、
肌色のストッキングを咬み破りながら血を吸い取っていた。
母は観念したように目を瞑り、なりゆきに任せているようだった。
キュウキュウ・・・チュウチュウ・・・というリズミカルな吸血の音が、
静かになった母のうえに覆いかぶさっていた。

父が気の毒だと、とっさに思った。
けれどもその思いは、彼の欲求を遂げさせまいと僕に決心させるには至らなかった。
ぼくに一度ならず突き刺さった彼の牙の記憶が、ぼくから理性を奪っていた。
吸血鬼を受け容れたこの街では、彼らに人の生き血をあてがうことが善良な市民の務めなのだと、
ぼくの新しい理性がぼくに囁きかけていた。

新しい理性によれば、いま母が許していることは崇高な行いであり、
彼女が数十年かけて熟成した最良の美酒で客人をもてなす行為だった。
母は自らの血を誇りながら、彼に飲ませていった。
彼も母の血にじゅうぶんな敬意を払いながら、飲み耽っていった。
そこには呼吸のぴったりと合ったふたりの心の動きがあって、
母はせわしない息遣いで肩を弾ませながらも、
みずからの熟れた血潮を楽しませる行為に熱中しつづけていた。

彼が母の首すじに牙を突き立て熱烈に咬み入れると、
母もそれに応えるように、ニッと笑った。
もぐり込んだ牙の切っ先から、微かにジュッとしぶいた血潮が、着ていたブラウスの襟首を濡らした。
艶やかな色だ――と、ぼくは感じた。
白い歯が、みずみずしい輝きを帯びていた。

数日前、彼女の娘――妹の柔肌をザクザクと切り裂いた牙が、
いま母の静脈に迫っている。
ぼくの血を、妹の血をもたっぷり味わった舌が、
鮮やかに切り裂いた傷口の周りをうねっている。

母が初めて血を吸われるところを目にすることができてラッキーだと思った。
妹がいっしょにいないのが、残念ですらあった。(彼女はまだ学校に残って部活に熱中しているはず・・・)
父もいまの母のもてなしぶりを見ておくべきだと感じた。(父はまだ会社にいて勤務に専念しているはず・・・)
家族全員の祝福とともに、母の生き血はズルズルと啜り取られるべきなのだ。

ジュルジュル・・・ごくん。
母の血潮で彼の喉がワイルドに鳴った。
いつまでも喉を鳴らしながら、彼は母の生き血をむさぼった。
それは素晴らしい眺めだった。
母は白のブラウスの胸に血を撥ねかせて、
はだけた胸もとから覗くブラジャーを血浸しにしながら、
彼の喉鳴りを聞くともなしに聞いていた。
胸に意図的に伸べられた掌が卑猥にまさぐるのを、かすかに頷きながら許していた。

ぼくはたまりかねて、母のうえに覆いかぶさる彼の腰に取りついて少し浮かせると、
ズボンをずるずると引きずり降ろしてしまった。
パンツを脱がすのは、少し難儀だった。
なにしろ彼の逞しい腰周りを覆う薄いパンツは、
ペニスの兇暴な膨らみで、テントのように張りつめていたからだ。
力まかせにパンツをずり降ろすと、入れ替わりに彼の一物がピンと突き立った。
赤黒くそそり立ったペニスは、蛇の鎌首のように、母のスカートの奥に狙いを定めていた――

スカートの奥に迫った彼のもうひとつの”牙”が、母の陰部にズブリと突き立った。
衣類に隠れて見えない行為が、母が歯ぐきを見せて顔をゆがめたことで、それと伝わった。
ユサ、ユサ、ギシ、ギシ・・・
フローリングの床をかすかに軋ませながら、
彼は母を相手に、しつような上下動をくり返した。
なん度となく息を接ぎながら、それは粛々と続けられた。
父だけもののであった操は、あっけなく汚辱にまみれ、
獣じみた息遣いとともに、他愛なく突き崩されていった。


振り向くと、そこには父がいた。
父は目のやり場に困りながら、微苦笑を浮かべていた。
ドアの向こうからは、妹が半身を乗り出して、こちらを窺っている。
いま母の身に加えられている”儀式”がどんなものなのか、
彼女も身をもって識り尽くしている。
真っ白なハイソックスを帯びたふくらはぎに流れる血が微かに淫らに染まっているのを、ぼくは知っている。
一家にとって重要なこの儀式に、みんなが間に合ったことが嬉しかった。
母も嬉しいらしく、頬に決まり悪げな、けれどもじつに小気味よげな微苦笑を泛べ、
豊かな腰をうねらせながら、自らの堕落ぶり、淫女ぶりを、衆目にさらしていった――


あとがき
吸血鬼の幼馴染に母親を征服されるお話ですが、
母親が彼の求愛から逃げずに受け止めるところとか、
息子が彼のズボンを脱がせて、自分の母を犯す手助けをするところとか、
さいごに家族全員が間に合って、一家の主婦の堕落を祝うところとか、
随所に新機軸を入れてみました。^^

由香里の「予定」 ――母親同士の味比べ。 スピンオフ――

2023年08月14日(Mon) 19:22:18

明日の夜の約束。
それが由香里と情人との逢瀬のことだと、良哉は最近になって知った。
その情人は50近い独身男で、由香里に恋するあまり独身を続けてしまったそうだ。
名前を豹治という。
思い余って彼が相談に言った相手は、人もあろうに由香里の夫、好夫の父親だった。

好夫の父は、役所勤めをしている。
上級官庁からの片道切符とはいえ、地元では立派に名士であり上流階級といえた。
その妻であれば、栄耀栄華とまではいわなくとも、なに不自由ない豊かな暮らしを保証されているといえる。
わざわざ夫を裏切って愛人を作る必要などこれっぽっちもなく、
かつまたそんな危険をあえて冒す必要など、彼女の側にはないはずなのだ。

豹治は役所の下の下の組織で長年、下働きをしていた。
経済的にも恵まれず、不満をもってもおかしくない不遇な立場だった。
好夫の父は、自分の妻に対する彼の好意に気づいていた。
不平不満なく日常を過ごす彼の強さが、じつは妻に対する好意の裏返しであることを知っていた。
その豹治が思いあまってやって来たとき、好夫の父はすべてを察していた。
「家内のことですね」
目下のものにもきちんとした敬語を使う彼に、豹治は小さくなっていた。

すでに三十代のころ、由香里は吸血鬼に襲われて血を吸われ、犯されていた。
鋭い牙で由香里の首すじを切り裂いて、彼女のワンピースをまだら模様に染めあげたその吸血鬼に対して、
彼は潔く負けを認め、彼女の夫として、愛妻の貞操を彼のためにいつでも楽しませることを請け合っていた。
そのことが却って、好夫の父の想い切りをよくしたのだろう。
「うちの家内が、好きなのですね」
好夫の父は豹治の意思を確かめると、妻とふたりきりになる時間を彼のために作ってやった。
「家内が嫌がったら、どうか虐めないでくださいね」
ほほ笑みながら好意を向けてくれた上司に報いるために――豹治はなんとしても、彼の妻を射止めようと誓った。
豹治は、好夫の父の好意を裏切った。
彼の腕の中で由香里は、「虐めないで・・・お願い、虐めないで・・・」と呟きながら、
怒張するペニスを突き刺されるたびに体液をほとび散らしていた。
それ以来。
由香里はほとんど毎日のように、夫を裏切りつづけた。

良哉はそんな由香里のために、夜に淫らに燃やす血潮を、じゅうぶんなだけ体内に残してくれた。
「さいきん、息子さんの友だちに抱かれてるんだって?」
情人のからかいに、
「それも主婦の務めですのよ」
とほほ笑み返して、好色な唾液にまみれた年配の情人の唇を、優雅に受け止めてゆく。
「嬉しいわ、逢いに来てくれて」
「おれもあんたとお〇んこするのを楽しみに、一週間働いてきただ」
男は女の華奢な身体をへし折るほどに強く抱きすくめ、頬ずりをくり返し、キスを奪いつづけた。
情人は彼女のブラウスをはだけると、奥にまで手を入れて、
ブチブチと音を立てて、ブラジャーのストラップを彼女の肩からむしり取った。
「アラ、ひどい!」
そう言いながらも由香里は、もう片方のストラップも好きなように引きちぎらせてしまっている。
良哉が彼女の黒のストッキングを好むように、豹治は由香里のブラジャーを剥ぎ取る行為に熱中するのだ。

――男ってみんな、勝手♡
押し倒されるままにあお向けになり、自ら脚を開いて男を受け容れながら、由香里は思う。
――あなたも、勝手♡
心のなかでそう思いながら、彼女はチラと、隣室の闇の向こうを見やった。
そこに彼女の愛する夫が、息を詰めて、いちぶしじゅうを見逃すまいとしていることを知るように。

好夫の母 ――母親同士の味比べ。 続編――

2023年08月14日(Mon) 19:09:01

お母さん、ちょっと出かけてくるわね。
そういって母の由香里がいそいそと出かけていくのを、
好夫は横っ面で見送った。
出かけていく先はわかっている。
幼馴染の良哉のところだ。

母親たちのなかには、相手のしれない男に抱かれに行くものも多い。
それに比べれば、母親の行き先がわかっているだけでも安心だ。
まして相手が、兄弟どうぜんにして育ってきた良哉なら。
自分の血をあれほど旨そうに啜ってくれる良哉なら。
母のことを自分の前で征服して、愛し抜いてしまった良哉なら。

好夫は首すじの傷口を撫でた。
下校直前に良哉に廊下に呼び出され、咬まれたばかりの傷口だった。
まだ良哉の牙が埋まっているかのような錯覚を、好夫は感じた。
ジンジンとした疼きは、これから母が受ける咬み傷の深さを想像させた。
そしてその想像は、好夫の理性をたまらなく崩れさせていった。

優雅な名流夫人として評判高い母が良哉の餌食になってしまうことを、好夫は好もしく感じていた。
母にもそういうラブ・ロマンスがあって良い――はた目には異常なはずの状況を、ごくしぜんに受け容れてしまっていた。

良哉は彼の血管を食い破り、シャツやズボンやハイソックスを血で汚すことを愉しんでいた。
良哉の支配下にいることが、たまらなく嬉しかった。
干からびた良哉の血管のなかで、吸い取られた母親の血液と彼自身のそれとが交じり合うことを妄想し、深い昂ぶりを覚えていた。
良哉はスポーツマンだった。
好夫は彼が試合で勝つために、母親と自分の血を消費してもらいたいと切望していた。


引き伸ばしたハイソックスの上から、良哉の唇が圧し当てられる。
薄いナイロンの生地越しに、なまの唇に帯びられた熱が染みとおってくる。
きょうの靴下、ずいぶん薄いんだね。
良哉が顔をあげて、いった。
これから破く、きみのママが穿いてくるストッキングみたいだ。

これから破く・・・
いともぞうさに形容句をつけられてしまった母の装い。
母は家にいるときでも、いつもストッキングを脚に通していた。
薄っすらと透けるナイロン製のストッキングは、好夫のなかでは気品のある貴婦人の装いだった。
それを目のまえのこの幼馴染は日常的に、悪ガキそのもののあしらいで、
舌なめずりでむぞうさに汚し、咬み破っているという。
きょうも母は家を出るときに、薄い墨色のストッキングを穿いていた。
ふだんは肌色のストッキングを穿く母が、初めて良哉に襲われて以来、
良哉と逢うときには墨色のストッキングを穿くことが増えている。
襲われた女は、襲った男の好みに合せたものを身に着ける。。
母がそれを実践していることに、好夫は衝動に似たマゾヒスティックな刺激を掻き立てられている。

良哉を愉しませるために好夫がきょう履いてきたハイソックスは、じつは父親のものだった。
勤めに出るときに履いていくもののなかで、とびきり薄いやつで、気に入りなのか何足も持っている。
一足くらいならバレないだろうと、箪笥の抽斗から失敬したのだ。
ストッキングのように薄いやつだから、きっと良哉の気に入るだろう。。。
このあたりの思惑は、恋人のためにめかし込む女の子と、さほど変わりはないと思う。

「気に入った?」
「ああ・・・良い嘗め心地がする」
本気で良いと感じると、良哉には童心が戻ってくるらしい。
しんけんな顔つきになって、好夫のふくらはぎを、靴下のうえからたんねんに嘗め続けている。
生暖かい唾液に濡れそぼり、ひと嘗めごとに皺寄せられながらも、
好夫もまた自分の足許に加えられるいたぶりを、目を凝らして見おろしている。
「破っても良いんだぜ?」
そんな誘いを、自分のほうから向けてしまっている。
「ほんとうはこれ、父さんのやつなんだ――」
好夫の白状に、良哉は意外なくらいに反応した。
「え?そうなの?」
自分が寝取った人妻の亭主が愛用しているストッキングまがいの靴下を、
その息子の脚に通させて嘗めいたぶっている――
そんな状況に、ズキリと胸をわななかせたようだ。

「ウフフ なんだか面白いな・・・」
嘗めくりまわす舌の動きがいちだんとしつようさを帯びるのが、靴下を通してジワジワ、ヌメヌメと伝わってくる。
「お前――もう漏らしちまったのかよ」
良哉はそうからかいながらも、濡れたズボンのうえから好夫の張りつめた股間に手をやり、まさぐってゆく。

「お前の血の味、うちのお袋に似てきたな」
吸い取ったばかりの血で口許を濡らしながら、良哉はいった。
「人ん家(ち)の母ちゃんつかまえて、どんだけ血を吸ってんだよ」
そのまま自分自身に返って来そうなことを言いながら、良哉は好夫の頬をつねった。

こいつ、うちのお袋といつ逢ってるんだろう?
どんなふうに押し倒しているんだろう?
そしてお袋は・・・どんな顔をして、こいつにちんちんを突き込まれているんだろう・・・?
母親を自分のペニスの意のままにされている好夫の歓びが、少しはわかったような気がした。


「お待ちになりましたか?」
好夫の母親は、いつもていねい口調だ。
涼やかな服装に、いやみのない薄化粧。
肩までの黒髪は、上品に結わえてある。
背すじをピンと伸ばし、流れるような細身の身体の線を、服の下にひそめている。
派手ではないがどこかゾクッとさせる細い眉に、瞳のきれいな眼。
いつもより濃いめに刷いた口紅だけが、二人の落ち合うことの意味を告げていた。

墨色のストッキングに透ける太ももを行儀よく、朱色のタイトスカートのすそから品良く覗かせている。
相手が子供でも、この人は姿勢を崩さない。
ひとりの男として、俺に接しようとする。
良哉は時折、この女(ひと)と逢うとき、知らず知らず身ずまいを正してしまう。
貫禄負けしているとは思わない。思いたくない。
だって、襲っているのは俺だから。
呼び出して、支配しているのも俺だから・・・

「少し待った。喉、渇いた」
良哉はわざと、ぶっきら棒にこたえた。
「また、お行儀悪くなさるのね・・・?」
由香里は小首を傾げ良哉を窺った。
軽く顰めた眉が、これから加えられる恥辱への虞(おそ)れを漂わせていた。
「きょうもきかせてくれるんだろ?あんたのかわいい泣き声をさ。
 こんなにお行儀悪く楽しんじゃってるんだと、あんたのダンナに聞かせてなりたいなあ」
そんな下卑た言い草を良哉はしながら、覚え込んだ苛虐的な愉悦をあらわに、由香里ににじり寄った。
細い両肩を摑まえて、力まかせに押し倒す。
いっしょに倒れ込んだはずみに過(よ)ぎった呼気が、ほのかに生々しかった。
密やかに洩れた女の声を塞ぐようにして、良哉は女の唇に自分の唇を押し重ねた。
女が吸い返してくるのをくすぐったく感じながら、
良哉もまた女の唇をヒルのようなしつようさで吸い返していった。

「あ、あなたぁ~っ、ごめんなさい・・・っ」
由香里が声をあげて嘆いた。
突き込まれたペニスに応えるように腰を弾ませながら、
それでも夫のために貞操が損なわれるのを憂いつづけた。
口では詫びながら、腰は求め、脚は絡みついてきた。
女の嘆き声に反応するように、良哉のペニスの先端からは、どびゅっ、どびゅびゅ・・・っと、
濃厚な精液が間歇的にほとび出た。
それは由香里の身体の奥深くを濡らし、熱くした。
由香里は、はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・と息せき切って良哉を抱きしめ、
ずり落ちかけた黒のストッキングを皺くちゃにしながら、なおも脚を絡めていった。

あんたのだんなに、いまのあんたを見せたいな――
毒づくように良哉が囁いたとき
そのときだけは、由香里は真顔になる。
「お願い。主人をおとしめるのだけはなしにしてちょうだいね」
え?と、良哉も思わず真顔になる。
「お願い」といいながらそれは、絶対の「お願い」に違いない。
「だって私も、たいせつなパパを裏切って貴男に逢っているの。
 ごめんなさいごめんなさいって言いながら逢っているの。
 きみは強いし大きいし・・・逢ってて楽しいわ。女として。
 でもね。
 エッチの相手は彼だけど、結婚するならやっぱり主人――
 そういうことも、わかってね。
 女は勝手な生き物なの――男と同じくらいにね・・・」

俺だって・・・人の奥さんを、幼馴染のお母さんを。
性欲のままに組み敷いて、スカートの裏側を精液で塗りたくったり、
ブラウスを血しぶきで濡らしながら生き血をむさぼったり、
勝手な生き物だ。まちがいなく。

勝手で良いのよ――
由香里は良哉の心を読むかのようにそう囁いて、彼の頭を抱きしめた。
愛すればいいの。
セックスを、愛しているっていうなによりの証拠にして、時を過ごすのよ。

細い腕で抱きしめられながら。
良哉はもうひとつの欲望で、ジリジリと胸を焦がしていた。
それは、由香里にもすぐ、伝わった。
「・・・明日の夜、約束があるの。
 それだけは行かせて――」
由香里はひっそりと囁き、願った。
わかったよ――
良哉は太く短い牙を、由香里のうなじに突き立てた。
ググっと力を籠めてもぐり込んでくる牙を、由香里は力強いと思った。
この子のペニスと同じくらい、強いわ・・・
白のブラウスにいつも以上に、噴き出る血潮をドクンドクンとほとばせながら。
良哉は親友の母の生き血を啖らい獲り、あさり摂っていった。

母親どうしの味比べ。

2023年08月02日(Wed) 22:57:43

はぁ・・・ふぅ・・・
うふっ・・・

ちゅるっ。ちゅるっ。
ごくりん。

柏木好夫と藤村良哉(りょうや)は息を詰めて、むき出しになった相手の素肌のそこかしこに唇を当ててゆく。
きょうの獲物は、音楽の翠川(すいかわ)先生。
「約束だよね?合唱コンクール終わるまで待ってあげるって言ったんだから・・・」
疲労困憊のていである翠川先生の顔を覗き込んで、良哉がいった。
「そんなこと言ったって、もうボクたちだいぶご馳走になってるぜ」
良哉の追及口調に比べて、好夫のいい方は困り果てた先生をかばうように穏やかだった。
ふたりとも、吸い取った血潮で口許を真っ赤に濡らしている。
背の低い良哉は裏返しにしたバケツのうえでつま先立ちをして、先生の首すじを狙っている。
なん度か咬み損ねたために、うなじからはよけいに血が撥ねて、
純白のボウタイブラウスには赤黒いしずくがチラチラと光っていた。
好夫は先生の足許にかがみ込んで、ふくらはぎを吸っている。
上背は良哉よりあるのに、どうしても脚にこだわりがあるらしい。
なん度も唇をあてがった脛の周りからは、
擦り切れた肌色のストッキングが、ふやけたように浮き上がっている。
「へっ!ご立派なことを言ったって、お前だってやることやってんじゃん」
良哉が憎まれ口をたたいた。
「ごめん、ごめんね・・・」
翠川先生はおずおずと二人にそういって、
もう耐えきれないというようすで、尻もちを突くようにして地べたにひざを降ろした。
失血のために、先生の頬は気の毒なくらい蒼ざめている。
食欲旺盛な十代半ばの、人の生き血を嗜みはじめた者たちに、二人がかりで生き血をせがまれては、
いくらふだん生徒に厳しい翠川先生といえども、こらえ切れるものではなかった。
「いいんだよ、先生。でももう少しご馳走してくださいね」
好夫は低く落ち着いた優しい声色だったけれど、先生の内ももに容赦なく牙を埋めた。
ストッキングがなおも、ブチブチッ・・・とかすかな音をたてて、裂けた。
良哉も楽しそうに、先生の肩先に、ブラウスの上から食いついてゆく。
真っ白なブラウスにまた、血のシミがバラの花のように拡がった。

「先生、いつものソプラノが台無しじゃん」
良哉はどこまでも、意地が悪い。
音楽の成績の良くないかれは、先生のお覚えがめでたくなかったからだ。
ここぞとばかりに意趣返ししているつもりなのだ。
好夫は苦笑いして、良哉にいった。
「うそだい、先生いつもアルトだぜ?」
良哉はムッとして、先生の肩先に再び牙をひらめかせようとしたが、好夫が制した。
「もうそれくらいにしておけよ。先生かわいそうじゃん」
「もうやめちまうのか?」
不平顔の良哉に、それでも好夫はいった。
「うん、もう少しで勘弁してあげようよ」

ちゅう・・・ちゅう・・・
くいっ・・・ごくん。

ひそやかな吸血の音はさっきよりも控えめに、しかし相変わらずしつように、
うずくまる先生に覆いかぶさるように、断続的にあがるのだった。


「美味しかったね、翠川先生の血」
好夫は満足そうに、口許についた翠川先生の血を舌で舐め取った。
手には、先生の脚から抜き取ったストッキングを、むぞうさにぶら下げている。
いつも吸血した相手からせしめる戦利品。
彼のコレクションはもう、なん足になっただろうか?
「ああそうだな」
良哉は好夫の声を横っ面で受け流した。
彼の首すじには、新しい咬み痕がくっきりと刻印されている。
音楽教師からむしり取るように獲たきょうの食事がいつになく性急だったのは、
いつもより蒼ざめたその顔色のせいだろう。
「良哉くん顔色悪いね」
好夫が気遣わしそうに良哉の顔を覗き込んだが、良哉はうるさそうにそっぽを向いた。
そして、そっぽを向いたまま、好夫にいった。
「オレーー半吸血鬼になったから」
「え?」
良哉の口ぶりはすこしだけ、誇らしげだった。

半吸血鬼。
もともと人間だったものが、一定量以上の血液を喪失するとそう呼ばれる。
血を吸い尽くされて死ぬわけではなく、もちろん墓地からよみがえるというような手続きを経ることもなく、
いままでと変わらず人間として生活するのだが、ほかのものと決定的に違うのは、日常的な吸血能力を備えることだった。
血を摂取されただれもが半吸血鬼になるわけではない。
吸血鬼が意図した人間を択んで血を啜り、吸血能力を植えつけていくのだ。
良哉は、数日はかかる吸血に耐えて、ついに半吸血鬼になったのだった。

「それでさ・・・」
良哉がいった。
「お前の血をもう少し吸わせてもらうからな」
え――?
ふり返る好夫の前に、良哉は立ちはだかった。
獲物を狩る獣の目をしている――と、好夫は思った。

あ・・・・・・
短い呻きを洩らして、好夫は身体の動きを止めた。
翠川先生からもらったストッキングが、砂地に落ちた。
良哉は、上背のある好夫にぶら下がるように絡みついて、その首すじに喰いついていた。
好夫はゆっくりと、ひざ小僧を地面に突いた。そして四つん這いになり、やがてうつ伏せに突っ伏してしまった。
しずかになった好夫の足許にかがみ込むと、良哉はふくらはぎに唇を吸いつけてゆく。
半ズボンの下からむき出しになった好夫のふくらはぎは、ねずみ色のハイソックスに包まれていた。
太目のリブが、陽の光を照り返してツヤツヤと輝いている。
整然と流れるリブに牙が押し当てられて、かすかな歪みが走った。

ごくっ。

良哉の喉が大きく鳴った。
その音はゴクゴクゴクゴク・・・とずうっと続いた。
切れ切れになる意識の彼方。
自分の血を飲み耽りながら、良哉が旨そうに喉を鳴らすのを、好夫は薄ぼんやりと耳にし続ける。

リョウくん、ボクの血がよっぽど美味しいんだな。
きみになら、いくらでも飲ませてやるよ。
満足するまで、ボクのハイソックスを汚しつづけてかまわないからね・・・・・・



「いつにする?味比べ」
良哉は蒼ざめた頬を歪めて、好夫に笑いかけた。
「そうだね――ボクはいつでもいいよ」
好夫の声はいつも通り穏やかだったが、顔色は別人のように良くない。
良哉のおかげで、自分も半吸血鬼になった――そう自覚せざるを得なかった。
帰宅した時、あまりの顔色の悪さに母親は色をなしたが、好夫は「いいんだいいんだ」と母を制していた。
半吸血鬼が半吸血鬼を作り出すことはほとんどなかったが、
良哉の血を吸った吸血鬼は特別に、良哉にその力を与えた。
「好夫だけは、オレが半吸血鬼にしたいんです」
自分の血を捧げ抜くとき、良哉はそういって、自分が半吸血鬼になったときの愉しみを確保したのだ。

「顔色、わるいね」
「きみもだけど」
二人は顔を合わせて、笑った。

味比べ。
二人とも半吸血鬼になったとき、ぜひやろうと約束していた。
母親を交換して、お互いに生き血を味わおうというのだ。
お互いの母親を襲って生き血を啜り、味比べをする。
それは、吸血鬼どうしの兄弟としての契りを交わすことを意味していた。
母親でなければ、妻でも良い――もとより二人はまだ若かったから妻はいなかったし、
その母親たちはじゅうぶん、美味しい生き血をその身にめぐらせている年代だった。
「うちのお袋、でぶだからな。襲いがいないだろ?」
良哉は自分の母親に対しても、仮借がなかった。
「そんなことないよ、きみ、ボクが肉づきの豊かな脚を好きなの知ってるだろう?」
好夫が取りなすようにそういった。
「太めの脚のほうが、ストッキングが映えるんだよね・・・」
好夫はウットリとして、良哉の家の方角を見つめた。

良哉は、好夫の母親を襲うのを楽しみにしていた。
好夫の家はまずまずの良家で、自営業でせわしない店舗兼住宅の良哉の家とは趣が違っていた。
彼の父親は役場に勤めていた。
もうすでに、ここの市役所に永久出向が決まっている身ではあったが、れっきとした上級官庁の出身者である。
市役所では、助役を務めていた。
助役夫人を襲う――友人の母親であると同時に、良哉のなかの彼女は、数少ないエリート一家の令夫人でもあったのだ。
好夫は、自分の母親に対して向けられた良哉の劣情に気づいていた。
もちろん息子として、彼の劣情をまともに受け止めることで母親がどんな目に遭わされるのかという危惧は持ち合わせていたけれど、
良哉にかぎってそんなに酷いことはしないだろうと考えていた。
母親同士も接点はなかったけれど、たまに学校で顔を合わせると、会釈し合う程度の仲ではあった。
お互い――相手の息子に生き血を狙われている同士という意識も、お互いに持っていた。


「良哉くんが、母さんの血を欲しがってるんだ。せがまれたら応えてあげてくれないかな・・・」
家に戻ると好夫はいった。
「いつになるの?」
好夫の母はいった。名流夫人の肩書にふさわしく、優雅で音楽的な声だった。
「近々だと思うよ。あいつ半吸血鬼になったから・・・母さんにはいろいろ迷惑かけちゃうけど・・・」
さすがに語尾を濁した息子の意図を、母親は正確に察している。
半吸血鬼とはいえ、吸血鬼となったものは皆、セックス経験のある婦人を襲うとき、なにを欲しがるのか――
この街の女たちは皆、知っている。

「お袋さあ――」
良哉がいった。
「明日、校舎の裏手。好夫の悩みを聞いてやって」
いつものぞんざいないい方に、
「まったくこの子は藪から棒に、なんなんだろうね」
と、良哉の母は小言をいった。
「わかってると思うけど、ちゃんとストッキングくらい穿いて来るんだぜ?」
怒ったような息子の声色に、良哉の母はちょっとのあいだ黙り込んで、
「それくらいわかってるわよ」
とだけ、いった。
「父さんには言うの?」
「言わなくたってどうせバレるじゃない」
「妬きもちやきそうだなぁー、あのスケベ親父」
「親のことをそんなふうに言うもんじゃないわよ!」
いつもながらの、母子げんかだった。

「アラ、柏木の奥さん」
「アーー良哉くんのお母さん」
学校の裏門の前、それぞれ反対方向からやってきた二人は、まるで落ち合うように脚を留めた。
良哉の母はいつもの一張羅ではなく、ついぞ見たことのないスーツを着込んでいる。
派手なオレンジ色のスーツは、まるであたりに夏の花でも咲いたかのように鮮やかだった。
柏木夫人は、爽やかなラベンダー色のロングスカートに、白のブラウス。
足許はこの陽気には似つかわしくなく、墨色のストッキングで包んでいる。
良哉の母とは対照的に、清楚なスタイルだった。
やっぱり奥さんは洗練されていらっしゃる――良哉の母はそう思った。
良哉の母はというと、オレンジのスカートスーツのすそから覗く太っちょな脚は、ねずみ色のストッキングをじんわりと滲ませていた。
お互いに――
ふだん脚を通すことのない色のストッキング(良哉の母などは久しぶりに穿いたはずだ)がなにを意味するのかを、お互いに読み取り合っていた。

「よう」
ぞんざいな声が、二人の婦人に投げられた。
声の主は正確には自分の母親のほうを向いていた。
さすがに親友の母親に向けた態度でないのは明らかだった。
「よう、じゃないだロ!礼儀をわきまえな!」
良哉の母は伝法に言い返した。
良哉は慌てて手を振った。
「きょうはもっとさあ、こう、ご婦人らしく・・・な?」
ほんとにもう・・・良哉の母はまだ、ムスムス言っている。
やがて良哉の後ろから、好夫も姿を見せた。
「良哉くんのお母さん、きょうはすみません」
好夫はいつもながら、礼儀正しい。
自分の母親のほうにもチラと目配りをして、動揺を悟られまいとしていた。
きょうの彼女の爽やかないでたちは、良哉のための装いなのだ。
今さらながらに、胸がどきどきした。
「行くぜ」
良哉は相変わらずぶっきら棒に、他の三人の前に立って、校舎の裏へと脚を勧めた。

校舎の裏には、小さなプレハブ小屋があった。
そこはいつも施錠されていなかった。
たまに生徒が入り込んで悪さをするのか、板の間にはいくらか、土足の足跡がついている。
「・・・ったくしょうがないな」
良哉は舌打ちした。
「こういうのは、前の日によく下調べしておくもんだがね」
良哉の母がいった。
「あたしは良いけど、こういうのって柏木の奥さんに申し訳ないじゃないの」
さすがに顔を曇らせた良哉を取りなすように、好夫がいった。
「そんなに汚れているわけじゃないし、人目をさえぎるにはここが一番良さそうですよ」
「好夫くんはいつもいい子ねえ」
良哉の母がいった。

「じゃ、始めようぜ」
良哉は目だって、口数が少なくなっている。
すでに吸血の欲求が胃の腑からはぜのぼってくるように感じていたのだ。
「うん、じゃあ・・・」
好夫もさすがに、生唾を呑み込んでいる。
女二人は目くばせし合って、それぞれが相手の息子の前に立った。
「横になってもらったほうが良いかな」
「ご婦人を最初から寝そべらすのはどうかな」
「それもそうだね」
良哉が珍しく素直にいった。
じゃ――
彼はおもむろに、柏木夫人に近寄った。
同時に、好夫も良哉の母のほうへと距離を詰めた。
女ふたりは生唾を呑み込んで、自分を獲物にしようとしている子供たちのほうへと目線を合わせてゆく。

「すこしかがむわね」
柏木夫人が良哉にいった。
上背のある柏木夫人の首すじを咬むには、良哉は少し背丈が足りなかったのだ。
「すみません・・・」
良哉は、別人のように礼儀正しい受け答えをすると、少し背伸びをして柏木夫人の両肩に腕を伸ばした。

あっ・・・
傍らから洩れた母親のうめき声に、とっさに好夫は振り向いてしまった。
母の着ている真っ白なブラウスに、早くもバラ色のしずくが散っていた。
またもや咬み損ねたらしい。
この間の翠川先生のブラウスと同じように、血潮がよけいにばら撒かれたように見えた。
母親と視線が合った。
――わたし大丈夫だから。
そう言っているようにみえた。
好夫はもう母親のほうを見なかった。
いつもがらっぱちな良哉の母が、おずおずと生唾を呑み込んで、棒立ちしていた。

すいません。
好夫はそういうと、彼女の足許にかがみ込んだ。
「こんなんで良かったかな・・・」
ねずみ色のストッキングに染めた脚を刺し伸ばしながら、良哉の母はいった。
「良い、すごく良いです・・・」
好夫は唇の周りに、唾液がうわぐすりのようにみなぎるのを感じた。
そして、彼女の足首と足の甲を抑えつけると、生え初めた牙をむき出して、肉づきゆたかなふくらはぎに咬みついていった。
ジワッ・・・と赤黒い血潮が撥ね、良哉の母のパンプスを濡らした。
破けたストッキングのそこかしこに赤いしずくが散って、ジワジワとしみ込んでいった。

ごく、ごく、ごく、ごく・・・
良哉の食欲は、すさまじかった。
柏木夫人は、目もくらむ想いだった。
ほとび出る血潮がブラウスを汚したのは、あきらめがついた。
吸血鬼の相手をすればどうしたって、服は汚れてしまうのだ。
かがんで中腰になったのが、よけい負担になった。
男はのしかかるように体重を預けてきた。
これが息子の友人のすることだろうか?
柏木夫人は畏怖をおぼえた。
夫人を畏怖させるほどに、その日の良哉はガツガツしていた。
ただひたすら、喰いついたうなじから牙を埋めたまま、
力づくでむしり取るようにして、彼女の血を飲み耽るのだ。
あ・・・あ・・・あ・・・
眩暈が夫人を襲った。
身体の平衡が失われたのを感じ、気づいたらもう引きずり倒されて、床のうえにあお向けになっていた。
自分の上から起き上がった少年の口許は、吸い取ったばかりの彼女の血潮がべっとりと着けていた。

少年はすかさず、夫人のロングスカートのすそをとらえた。
足許を覆っていたロングスカートは荒々しくたくし上げられて、空々しい外気が下肢を浸す。
「えへ・・・えへへ・・・へへへ・・・」
少年はイヤラシイ嗤いを切れ切れに発しながら、墨色のストッキングを穿いた彼女の脚を、舌と唇とで撫でくりまわした。
おろしたての真新しいストッキングに、唾液がヌラヌラとヌメりついた。
およそ紳士的ではない、無作法なやり口だった。
相手が息子の親友で、息子から相手をするように頼まれたのでなければ、毅然として「およしなさい」と言っていたに違いない。
猛犬のような牙を太ももにガクリと食い込まされて、再び血がほとび散った。
獣に襲われているようだ、と、夫人はおもった。
少年はその後なん度も、脚のあちこちに喰いついてきた。
左右かまわず、部位もかまわす、自分の牙の切れ味を試すように、夫人の柔肌を切り裂いてゆく。
ラベンダー色のロングスカートは、たちまち血に染まった。

好夫も、さすがに夢中になっていた。
差し伸べられた足許に喰いついた後、ねずみ色のストッキングのうえから唇をすべらせるようにして、
彼は良哉の母の穿いているストッキングの舌触りに夢中になっていた。
われながら、オタクっぽいやり口だと恥ずかしかった。
けれども良哉の母は、そんな好夫の想いが伝わるらしく、
「好きにしていいんだからね」と言ってくれて、彼の意地汚い欲求に精いっぱい付き合ってくれたのだ。
さいしょに咬みついたふくらはぎに熱中するあまり、良哉の母は貧血を起こして身体をふらつかせた。
彼女の身じろぎでそれと察すると、好夫は彼女を横抱きにして、床の上に横たえてゆく。
昂りきった彼女の呼気が、好夫の耳たぶを浸した。
小母さんもうろたえてるんだ――と、はじめて感じた。
いつ顔を合わせても、しっかり者の自営業主の妻である小母さんだったが、
牙をふるって迫ってくる吸血鬼の脅威の前には、ただその身をさらして欲望にゆだねるばかりだったのだ。
いくら半吸血鬼としての儀式とはいえ、幼馴染の母親を無用に傷つけたくなかった。
彼はオレンジのスーツの上半身にかじりつくようにして良哉の母のうなじに唇を寄せると、ガブリと食いついた。
首すじの太い血管を、あやまたずに断ち切っていた。

ハッ、ハッ、ハッ、
ひぃ・・・ひぃ・・・ひぃ・・・
息せき切った良哉に、喘ぎ喘ぎ肩を弾ませる柏木夫人。
すでにブラウスははぎ取られ、ブラジャーは飛ばされ、ロングスカートのなかで、ストッキングは片方脱がされていた。
ショーツの薄い生地を透して、少年はまだ童くさい息が直接、秘部にしみ込んできた。
ああ、この子に犯される・・・
夫人はさすがに、悩乱した。
彼女は夫のことを想った。
夫はいまごろ、こんなこととは知らずに市役所の奥まった部屋で執務しているに違いない。
金縁メガネを光らせた生真面目な横顔が、なぜかいまの彼女のありようを察しているような錯覚を覚えた。
太ももを伝って、柱のようにコチコチに固まった一物が、せり上がってきた。
初めて吸血鬼というものに襲われるようになってから、すでに夫以外の男性をなん人となく、彼女は識っている。
けれども――
よりによって、それが良哉くんだなんて・・・
白い歯が迷うように喘ぐのを、男の厚い唇に塞がれた。
一人前の男の呼気だと、夫人は感じた。

いいんだよ、思い切りやっちゃっていいんだからね――
良哉の母はそういって、好夫を励まし続けていた。
隣で母親が犯されているのをありありと感じながら、そうだからこそよけいに、異常な昂ぶりを覚えていた。
股間の一物が、自分のものではないように太い棒になっている。
すでにふたりの身体は、上下に合わさり、互いに互いの熱を感じ合っている。
良哉の母は思い切りの良い女だった。
入り口で惑っていた好夫の一物に手を添えると、自分の秘部へと導いて、さっきまで自分を苛みつづけた牙と同じように、
夫を裏切る行為をズブリと遂げさせていた。
良哉の母の中で、好夫の一物が白熱した閃光を放った。
破れかかったねずみ色のストッキングを穿いた脚がピンと伸びて、やがてじょじょに力を失い弛んでいった。

二対の男女は肩を並べて、息をはずませ合っていた。
四人呼気はばらばらで不協和音のようだったが、
彼らの意図するところはひとつであった。
ふたりの少年は互いの母親を相手に、見事に筆おろしを遂げていた。
そして、そのあとは好きなだけ――
大人のオンナの身体を覚えた怒張したペニスを、なん度もなん度も突きたてていっては、
初めて識った女たちの身体の秘奥へと、白く濁った体液を放射しつづけていった。


太陽は西に、傾こうとしている。
けれどもそれが、なんだというのだろう?
礼装をほどかれた女たちは、自らの血を浴びながらも、頬は嬉し気に輝いていた。
あれほどたっぷりと血を抜かれたにもかかわらず、
色とりどりに染まるストッキングに透けた素肌には、淫蕩な血色をみなぎらせていた。


「青春だな」
「まったくだな」
翌日登校してくると、良哉と好夫は顔を合わせて同時に言った。
お互いの熱した精液を、お互いの母親の体内奥深くにぶちまけ合った者同士の、奇妙な共感がそこにあった。
「オレ、洋子のことプレハブ小屋に誘った」
良哉がいった。
洋子とは、好夫の母の名前だった。
自分の母のことを呼び捨てにされて、好夫はくすぐったそうに笑った。
「じゃあボクは帰りに、きみの家に寄ることにするね」
「うちの親父、大丈夫だから」
良哉はイタズラっぽく笑った。

お互いの父親は、自分の妻が息子たちの餌食になったのを、夕刻帰宅して初めて知った。
どちらの妻も、息子も、家に戻って来ていなかった。
良哉の父は好夫の父を訪ねた。
「なんか、うちのアバズレ女は別にエエんですけれども・・・柏木の奥さまには大変なご迷惑を」
良哉の父は昔かたぎらしく、好夫の父に頭を下げた。
好夫の父はもちろんことのなりゆきに驚いていたが、
こういうときに夫がうろたえてはいけないと感じた。
「風変わりなことになってしまいましたが、これはおめでたいことなんだと思います」とだけ、いった。
そして、慇懃に頭を下げてきた良哉の父に応じるように、丁寧に頭を下げて、
「御子息の成人おめでとうございます」といった。
そのあと二人は連れ立って酒場に繰り出した。
お互いの息子たちが女の身体を識って大人になったことも、
お互いの妻の貞操が泥にまみれたことも、若い情夫が一人ずつ増えたことも、
どちらもいっしょに、祝い合った。
そして大酒をくらって、まだだれも戻って来ていない家に戻り、朝まで大いびきをかいて寝入ったのだった。



通勤用の靴下を破かれながら~ある夫婦赴任者の末路~

2023年06月15日(Thu) 13:51:39

【あらすじ】
前作と同工異曲。

この街に来て、ようやく一週間が経った。
吸血鬼のいる街だと聞かされて戦々恐々として家族と移り住んできたのに、
拍子抜けするほど何事もない。
きょうも廻河恵介(41)は、早すぎる退勤時間に戸惑いながらも、事務所を出た。
今でもその時のことを、あのときはいきなりでびっくりしたな――と思い出す。
襲撃はそれくらい、唐突だった。
社屋を出てすぐから、だれかが黒い影のようにひっそりとあとを尾(つ)けてくるのに、この不運な転入者は気づかなかったのだ。
背後から忍び寄ってきたその黒い影は、あっという間に恵介のことを、その力強い猿臂に巻き込んでいた。
「あ、なにを――」
声をあげた途端、首すじに尖った異物がずぶりと突き刺さるのを感じた。
疼痛を圧し包むように生温かい唇が柔らかに圧しつけられて、
にじみ出る血潮をチュウチュウと吸い取られてゆく。
「お、おい、きみ・・・っ」
恐怖に上ずった声が途切れた。
黒影はにんまりと笑むと、男の首すじに突き刺した牙を、根元まで突き通していった。

つぎに恵介が我にかえったのは、事務所の近くの公園のなかだった。
ふだんは人も来ない生垣の裏側に、引きずり込まれていたのだ。
吸血鬼がだれにも邪魔されずに獲物をたんのうするときによく使う場所だと、そのときの恵介はまだ知らない。
黒影は恵介のスラックスを引き上げると、こんどは足許に唇を圧しつけてくる。
恵介の靴下は丈が長めだった。
紺地に赤の縦のストライプの走ったしなやかな生地が、ふくらはぎの半ばまでを覆っている。
その上から圧しつけられた唇は、すこしの間恵介の靴下の舌触りを愉しむかのようになすり付けられた。
這わされた舌が分泌するねっとりとした唾液がじわじわと滲んでくるのを感じた。
恵介が意識を取り戻したのを、影はかすかな身じろぎでそれと察して、
抑えつける掌に、いっそう力を込めてくる。
首すじの疼痛が、ジンジンと響いた。
短い時間に少なからぬ量の血を奪われたのを、恵介は自覚した。
だらりと垂れた手足には力が入らず、けだるげに草に埋もれたままになっている。

「おい、きみ、一体何を・・・」
ふたたびあげた声は、またしても途切れた。
唇の両端からにじみ出るように突き出た尖った歯が、靴下ごしに皮膚を破って食い込んできたのだ。
滲んだ血が、靴下に生温かくしみ込むのを感じた。
「や、やめてくれっ!」
恵介は恐怖に縮みあがって叫んだ。
けれどももとより、黒い影は手かげんをしようとはしない。
飢えに任せて、渇きに任せて、ただひたすらに恵介の靴下を濡らしながら、こぼれ出てくる血潮を口に含み、喉を鳴らしてゆく。
首すじも、まだ噛まれていない側をもういちど嚙まれた。
ジュルジュル音を立てて、血を啜られながら恵介は、
意外にも、それが決して嫌な気分ではないことに気づきはじめていた。

恵介の耳もとで聞えよがしにゴクンゴクンと喉を鳴らすと、やっと唇を放して、
手の甲で口許を拭い、黒影は初めて、満足そうな吐息を洩らした。
旨い――と呟くのが、恵介の耳にも聞こえた。
「ど、どうするつもりなんですか!?」
切迫した響きを帯びた恵介の問いに初めて、影がこたえた。
「あんたの血を少しだけ、楽しませていただく」
「こ・・・殺す気か・・・?」
「おとなしくわしを満足させてくれたら、そこまではしない」
影は短くこたえた。
「眩暈がする」恵介がいうと、
「もう少しの辛抱だ」と、影は恵介を許そうとはせずに、
まだ噛んでいないほうのスラックスを引き上げると、靴下の上からまた舌を這わせた。
靴下を舐め味わい、噛み破るのを楽しんでいる――恵介は直感した。
少しでもよけいに楽しませれば、死なずに済むのか・・・?
ピチャピチャと舌を鳴らして靴下によだれをしみ込まされていきながら、恵介は短くうめいた。
噛まれる直前恵介は、相手が自分の履いている靴下を舌をあてがうようにしてヌルッと舐めるのを感じた。
芝生のうえでのたうち回りながら、恵介はしつように靴下を噛み破られながら吸血された。
噛み痕ひとつひとつは、擦過傷に過ぎなかった。
血の味と、靴下破りを楽しむには、きっとそれで充分なのだろう。
影は恵介にとどめを刺すように、ふくらはぎの真上から強く噛んだ。
靴下が大きく裂けて、血がジワジワと生温かくしみ込むのを感じた。
チュウチュウ、チュウチュウ――
自分の血が吸い上げられる音が、ひどくリズミカルだと思った。
そうこうしているうちに、恵介は失血からくる眠気に誘われて、意識を昏(くら)くしていった。

恵介の妻、美知子(38)が襲われたのは、その約30分後だった。
スーパーで買い物を済ませた美知子は、家路を急いでいた。
自転車の行く先を、黒い影のような男に遮られた。
「危ないッ!」
キッと音を立てて、美知子はかろうじてブレーキを踏んだ。
「奥さんこっち来て」
影は白い歯をみせてそういうと、美知子の手首を掴まえて、自転車から引き離そうとした。
揉み合うふたつの影がひとつになった。
影は美知子の首すじを嚙んでいた。
ギューッとつねられるような痛みに美知子は悲鳴をあげて飛びのき、逃げようとした。
自転車が音を立てて倒れ、野菜や洗剤がその場に転がった。
美和子の抵抗はむなしく、先刻夫がそうされたように、彼女の肢体は好色な猿臂に巻かれていった。
影は美知子の手を強引に引いて、傍らの草むらへと身を淪(しず)めた。

ひいッ・・・
美知子はうめいた。
男が今度は、反対側の首すじを狙ったのだ。
地味なモスグリーンのカーディガンに、紅い飛沫が飛び散った。
ちゅ、ちゅ~っ・・・
すかさず吸いついて来た唇が美知子の首すじに密着して、
まだうら若さを秘めた熟れた血潮を、ヒルのように貪欲に吸い上げてゆく。
美知子は姿勢を崩すまいとして、草むらの陰で両手を突いた。
影は先刻彼女の夫にそうしたように情け容赦なく、
美知子のうなじの皮膚の奥深く、無慈悲な牙をグイグイと食い込ませていった。
38歳の人妻の生き血は、さもしい食欲の赴くままに啖(くら)い取られてゆく。
血を啜る音が洩れるあいだじゅう、美知子は身を起こそうと力んでは、
男との力比べに負けてふたたびみたびと、ねじ伏せられていった。

美知子がその場に倒れ臥すと、影はにんまりと笑みを泛べた。
乱された紺色のスカートのすそから覗くふくらはぎは、濃いめの肌色のストッキングに包まれている。
クククッ・・・
含み笑いとともに、恥知らずな唾液を帯びた唇が、ストッキングを濡らした。
ひっ・・・
幸か不幸かまだ意識のあった美知子にとっては、生き地獄だった。
男はストッキングをしわ寄せながら、美知子の足許をゆっくりと舌で舐めまわしてゆく。
「な、なにをなさいます、失礼じゃありませんか!」
声だけは気丈にも、男の無礼を詰っていた。
男はひと言、「エエ舌触りぢゃ」と呟くと、
あとはもうものも言わずに、美知子のふくらはぎに食いついていった――
血を吸い上げるチューッという音が、あからさまなくらいに鼓膜にしみ込んだ。

さらに30分後。
美知子は自転車の荷台から買い物かごを降ろすと、たいぎそうに玄関のドアを開けた。
さっき襲われて懸命に抵抗していたときとは別人のように無表情で、顔色は鉛色になっていた。
「ただいま――」
だれもいない薄暗い室内に向かってひっそりと呟くと、
緩慢な手つきで、野菜や肉や洗剤などを、そこかしこへと片寄せてゆく。
背後からはぴったりと、黒影が付き添っていた。
「もう少しお待ちになってくださいね」
棒読みのように抑揚のない声を投げると、影はゆったりと肯きかえした。
破けたストッキングを片脚だけ穿いた恰好のまま、美知子はそれでも手早く片づけを済ませた。

むき出しになった脚に沿うように、脱がされたほうのストッキングがふやけたように垂れ下がり、ひらひらとまつわりついていた。
スカートの裏地には白い粘液がおびただしく飛び散り、それは片脚だけ穿いたストッキングにまで点々としみ込んでいた。
なにが起きたのかは、だれの目にも明らかだった。
草むらのなかで組んづほぐれつ、虚しい抵抗をくり返しながらも、美知子はショーツを脱がされた股間に、何度も衝撃を加えられるのを感じた。
黒影の陰茎は、飢餓状態だった。
がつがつとむしり取るように、否応なく美知子の貞操を奪い、女の入り口を強引に行き来させると、淫らに滾った熱情の塊を、彼女の身体の奥深くへとそそぎ込んでいったのだ。

女が家の片づけを終えてしまうと、影は女の足許へと這い寄った。
女は拒まなかった。
片方だけ穿いたストッキングも、見る影もなく咬み剥がれてむざんな裂け目を拡げていた。
男はむぞうさに女の足許に手をかけて、ストッキングを引きちぎった。
女は無表情に、自分の礼装を弄ばれるのを見おろしている。
美容院できちんとセットしたばかりの髪をくしゃくしゃにされたことのほうが、よほどこたえているようだった。
女は、手にしたタオルで粘液に濡れた脚をさっと拭い、買ってきたばかりのパンティストッキングの封を切ると、おもむろに脚に通してゆく。
男は、恥ずかしながら俺はストッキングフェチなのだと告白してきた。
奥さんのストッキングをもう一足楽しみたいとねだられて、家まで送って下さったらと約束してしまっていたのだ。

「じつはさっき、だんなの血も吸ってきた」男がいった。
「そうだったの」女も、他人ごとのようにこたえた。
「ご主人の血も旨かった」
「よかったですね」女はやはり、他人ごとのようだった。
けれどもさすがに頬に翳をよぎらせて、
「まさか・・・殺してしまったわけではないでしょうね」と訊いた。
「安心しろ。むやみに生命までは取らん。
 わしに好意を恵んでくれるかぎりはな」
「主人はあなたに好意的だったのですか」
「あんたの血も吸って欲しいと勧めてくれたのでね」
「ああ、そういうことなのですね・・・」
女はぼう然とあらぬ方を見やりながらも、得心がいったようすだった。
夫が決めた相手なら、私は操を奪われても良かったのだ――白い横顔がそううそぶいていた。
男はリビングの入り口のほうにちらと目線を寄せたが、女は男の仕草にも、男の目線の向こうに観客がいることも自覚しなかった。

「観客」はいうまでもなく、恵介だった。
手を出さないことを条件に、自分の妻が白昼狩られるいちぶしじゅうを、目の当たりさせられたのだった。
妻の血を吸って欲しいなどと勧めたり頼み込んだりした憶えは、毛頭なかった。
恐怖に駆られてそんなことを口走ってしまったのかと記憶を反芻したが、
さすがにそんなことをするはずはなかった。
体内に残された血液と同じくらいには、彼のなかにもまだ良識が残されていた。
けれども、その良識もいささか妖しくいびつに崩れかけていた。
「奥さんの血も吸わせてもらいたい」
男にそう求められて、正直悪い気はしなかったのだ。
それは明らかに自分の意志と利害に反したことであるけれど、相手が自分の血を旨そうに喫(す)ったこの男なら、妻の血液をあてがっても良いのではと思い始めていた。
妻を襲って血を啜ることを許可するなどというまがまがしい行為に走った覚えはなかったけれど。
気がついたら、妻が今頃の刻限に買い物に出かけ、人通りの少ない路を通って帰宅する習慣があることを告げてしまっていた。
「あなた、わたしを売ったのね!?」
そういわれてもおかしくないことだった。
けれども目の前の女は、相変わらず棒読み口調で、自分の血を啜ることを夫が勧めたことを、不謹慎なことだとは受け取っていないようだった。
「わたくしのこと――お気に召したんですか」
美知子が訊いた。
自分の血の味の良しあしを気にしているのだと気づくのに、少しの間が必要だった。
「生き血も、身体も――あんたいい女だ」
吸血鬼はもの欲しげににんまりと笑い、
美知子も横抱きにしてくる猿臂を受け容れながら、媚びるような上目遣いをした。
ためらう唇に、好奇心に脂ぎった唇が重ね合わされた。
ふたつの唇はせめぎ合うように結びつき、激しく吸い合った。
恵介のなかで、なにかが崩壊した。

妻と築いてきた豊かな結婚生活が台無しになったと思った。
けれども、いまはそのことを、惜しげもなくあきらめることができた。
夫婦を支配した男の体内で。
自分の血液の大半と、美知子のそれのほとんどとが、仲良く織り交ざり、干からびた血管を潤している。
その実感がなぜか、ドクドク、ドクドクと、乏しくなった血液を高ぶらせ、めまぐるしく駆けめぐらせてゆく。


恵介は、草むらに押し倒されたときの自分の妻の運命を反すうしていた。
生垣の向こうから、チャッ・・・チャッ・・・と、衣類の裂ける音がした。
あお向けの姿勢になっていた美知子の上に征服者が馬乗りになり、
胸をはだけたモスグリーンのカーディガンのすき間から覗く朱色のブラウスを、引き裂いていた。
あっ、なんということを・・・!
恵介はおもった。
声をあげようとしたが、喉が引きつって声が出ない。
男がブラウスを剥ぎ取ってしまう間、美知子はまったく無抵抗だった。
ブラウスをはだけて、ブラジャーの吊り紐に手をかけるのが見えた。
ブチッ、ブチチッ・・・
吊り紐を引きちぎる耳障りな音がした。
「くくくっ」
含み笑いを泛べた唇が、妻の乳首を飲み込んでゆくのを、恵介はただ見守るばかりだった。
妻は抵抗する意思を喪失して、自分の身体を好きなだけ愉しませてしまっていた。
もはや、男がなにをもくろんでいるかは明白だった。
血が頭にのぼぜてしまった恵介は、ついふらふらと起ちあがろうとした。
そのまま起とうとすれば起てたはずなのに――なぜか恵介は、身体の動きを止めてしまった。
左右両方の乳首を男が代わる代わる舐めるのを、無抵抗に胸をさらして受け容れはじめていたのだ。

真上を見あげた美知子の横顔には、軽い陶酔の表情さえ泛んでいる。
まさか・・・まさか・・・このまま家内をモノにされてしまうのか!?
恵介はおののき、うろたえ、それでも起ちあがることも声を出すこともできずにいた。
男は美知子のスカートをたくし上げてゆき、ストッキングをズルズルとひきずり降ろしてゆく。
じりじりとした焦慮が、恵介の胸を焦がした。
男はショーツにくるまれた股間にむぞうさに手を当てると、
鋭い音を立ててショーツを引き裂き、あらわになった処に、顔を埋めてゆく。
美知子は白い歯をみせて、ゆるやかにかぶりを振りながら、だめよだめよと呟いている。
けれどもそれが惰性の抵抗に過ぎず、もはや彼女が貞操を守る努力を放棄したのが、夫の目にはすぐにわかった。
昼日中の日光を満身に浴びながら、美知子の貞操は余すところなく食い尽くされてゆき、
彼女の夫は妻が吸血鬼の娼婦と化すのを


「さいしょに狙われるのがきみだと思って差し支えない。
 きみのことを征服しさえしてしまえば、あとは奥さんもお嬢さんも思いのまま――というわけだ。
 かれらは貪欲だからね。奥さんのほうは、身体もほしがるだろう。
 狙われてしまったら運の尽き――いや、それがなれ初めというものだ。
 気前よく、譲ってあげたまえ。
 最愛の奥さんのセックスを勝ち得るのに、若いころのきみが払った努力には充分敬意を表するけれど――
 でも、そうしたことも含めてあらいざらい、彼らのために差し出してしまうことだ。
 名流夫人の珠のような貞操も、彼らのいちじの気まぐれのために汚される――
 ここはそういう街なんだから」
わたし一人で相手をすることは可能ですか?恵介はいった。
この期に及んでさえどうしても、妻の美知子を吸血鬼の生贄に供してしまうのは忍びなかったのだ。
「もちろん可能だ。彼がそう言えばな」
都会のオフィスの上司はいった。
「わたしもそうしようと考えた。でも、身体が持たなかった。
 それに、わたしが吸い尽くされる前に、家内はわたしの知らないところでもう楽しんでしまっていた。
 女の操というやつは、じつに儚いものだね」
上司は、彼の妻はいまでも街に居ついていると教えてくれた。
部長に出世した今、都会の本社の部長夫人を犯す愉しみを、街の知己たちに与えているのだと。

通勤用の靴下を破かれながら――ある家族赴任者の献身

2023年06月14日(Wed) 23:38:24

【あらすじ】
吸血鬼と共存する街に、それと知りながら赴任してきた男性。
一家を血を狙う吸血鬼を相手に、自分、妻、娘と三人三様に、あっという間に征服されてしまう。
自分の血がいちばんつまらない――と思い込んでいた彼は、通勤用の靴下に執着する吸血鬼に共感を覚えて、
脚に通した靴下を、すすんで血浸しにされてゆく・・・



アアアッ、なにを・・・
言いさしもせずに声を途切らせたせつな、吸血鬼は容赦なくガブリと食いついた。
首すじから血が噴き出して、ワイシャツとネクタイを濡らす。
恵村喜美則は眩暈を起こして、その場にくず折れた。
圧し伏せられたうえからなおも喰いついて来るのをはねのける力は、残っていなかった。
喜美則は、自分の血がゴクゴクと喉を鳴らして飲み込まれるのを、じかに耳にした。
眩暈が酷くなり、待ってくれ、待ってくれ・・・と言いながらも、意識が遠のいてゆく。
吸血鬼はなおも許さずに、喜美則のスラックスを引き上げると、靴下の上からふくらはぎに噛みついてゆく。
じわじわと滲む血潮が、靴下を生温かく濡らすのを感じた。
血に飢えた牙がなおもしつように、靴下ごしにチクチクと刺し込まれるのがわかった。
靴下を破るのが楽しくて熱中しているようにさえ思えた。
やめろ、やめてくれ。血がなくなってしまう――
全身の血を吸い尽くされてしまうことに、恐怖をおぼえた。
それさえ免れるのなら、靴下を破く楽しみくらいなら、またくり返してやってもよい――とさえ感じた。
血を吸い取られること自体は、苦痛に感じなかった。
血液が傷口を通り抜けるたびに伝わる疼きが、彼の胸を妖しく焦がした。
体内の血液をじわじわと奪い去られる感覚にあえぎながら、喜美則はその場に昏倒した。

その約30分後。
キャアッ、なにをするんです!?
喜美則の妻の綾子が、立ちすくんだまま声をあげた。
足許に買い物かごが落ち、中身が周りに散らばった。
迫りくる危難を感じた綾子は、本能的に飛びのいた。
けれどもそのまま、男の強引な抱擁を、真正面から受け止めてしまった。
同時に二本の牙がズブリと、綾子の首すじに埋め込まれた。
綾子は、空色のブラウスに濃紺のタイトスカートを身に着けていた。
都会育ちの夫人らしく、ストッキングも脚に通している。
飛び散った赤い飛沫が、空色のブラウスに不規則な斑点を散らした。
それは、ワンピースを透してブラジャーにまで、生温かくしみ込んできた。
綾子が尻もちを突いたまま後じさりするのを許さずに、男は彼女の身に着けているワンピースのすそを荒々しくたくし上げると、こんどはふくらはぎに食いついた。
うす茶のストッキングがブチブチと音を立てて裂け、血の飛沫がこんどは彼女の足許を濡らした。
ひいっ・・・
息をのむ綾子の足許に、男はなおも好色な唇をすりつけてゆく。
もう片方の脚も狙われた。
無傷な薄地のナイロン生地は、みるみるうちに卑猥なよだれに浸されてゆく。
ストッキングを穿いたままの脚を舐めまわされながら綾子は、相手の男にストッキングの舌触りを楽しまれているのを自覚した。
「なにをするの、失礼なっ!」
潔癖な憤りをねじ伏せるように、彼女のふくらはぎをふたたび、牙が襲った。
埋め込まれた牙が、吸いつけられた唇が、自分の血を強引に求めるのを彼女は感じた。
同時に、ストッキングの伝線が腰周りまで伝いのぼるのがわかった。
脚周りをしなやかにガードしていたなよやかなナイロン生地はジワッと裂けて、じょじょにほぐれていき、
彼女の下肢はゆるやかな束縛から解き放たれて、そらぞらしい外気にさらされてゆく。
男は綾子をその場に組み伏せると、ブラウスを剥ぎ取り、ブラジャーのストラップを音を立てて引きちぎった。
片方だけ脱がされたパンストを素足にまとわりつかせたまま、腰周りから抜き取られたショーツがむぞうさに投げ捨てられる。
39歳の人妻はワンピースを着けたままの恰好で、吸血鬼の凌辱を受け容れた。

そのさらに1時間後。
綾子は男を、家に引き入れていた。
男から強いられのか。
自分から引き入れてしまったのか。
もうどうでも良かった。
綾子はリビングのじゅうたんのうえで、着崩れしたワンピースをまだ身にまとったまま、
男の強烈で濃厚なセックスを受け容れていった。
娼婦になったような気分だった。
夫のことを考えるとかすかな後ろめたさが胸をさしたが、すぐになれた。
ただひたすら、上下動に身をゆだねているのが小気味よかった。
娘の綾香が帰宅したのは、その時だった。
「母さん、どうしたの?」
何も知らないのどかな声が、リビングに届いたとき。
獲物になった母親の淫らな姿をみなまで見せずに、
男はまだ年端もいかない綾香へと矛先を剥き替えた。
娘を守る義務を果たすこともできずに、綾子は失血のあまりその場に卒倒していた。
母の代わりに出迎えた男が、口許から血を滴らせているのを見て、
「ええっ、だれですか!?」
中学の制服姿の綾香は、健康そうな白い歯をみせてためらいをうかべた。
けれどもそれは、一瞬のことだった。
男が口許に滴らせた血の持ち主が母親だということに気づいたときにはもう、少女は吸血鬼の猿臂にセーラー服姿を巻き取られてしまっている。
逃れるいとまも与えずに、男は少女の足許に唇を吸いつけていった。
濃紺のプリーツスカートの下から覗く脛を覆う真っ白なハイソックスのうえから、
醜いヒルのように膨れ上がった赤黒い唇が吸いつけられる。
母親の血に染まったままの牙が、ハイソックスを食い破って少女の素肌を冒した。
キャーッ。
母親似の小ぶりな唇から、鋭い悲鳴が洩れた。
ごくん・・・ごくん・・・
十代の少女の血潮が、勢いよく飲み込まれてゆく。
痛がる叫びは、だんだんと弱まっていった。
少女をねじ伏せると、こんどは首すじに嚙みついた。
そしてゴクリ・・・ゴクリ・・・と不気味な音をあげながら、少女の生き血をさも旨そうに啜り獲ってゆく。
皮膚を破った牙からは、淫らな毒液が容赦なく少女の体内に注入されてゆく。
両親を毒した淫らな毒液が、少女の体内へと素早くそそぎ込まれていった。
「もう少し、もう少しだけ、あんたの履いてるハイソックスを楽しませてもらうぞ」
男の呟きに少女は、
「いいわ、いいわよ・・・どうぞ・・・いっぱい噛んで・・・」
と、熱に浮かされたように口走りつづけていた。
男の唇が嬉し気に貼りつくたびに、母親似の小ぶりな唇は、
「あん!・・・あんッ!」
と鋭い声をあげ、
そのたびに真っ白なハイソックスはバラ色のほとびに浸され、紅い領域を拡げていった――


「新記録だったそうだね」
喜美則は苦笑しながら、縁が生まれたばかりの悪友を見あげた。
勤め帰りのワイシャツに、赤黒い飛沫が不規則に飛び散っている。
帰宅そうそうのあいさつ代わりに、したたかに首すじを噛まれたのだ。
皮膚を破って力強く食い込む牙の切っ先に太い血管を冒されて、働き盛りの血潮をビュッと潤び散らされると、強い眩暈と疼痛が、喜美則の脳裏を支配した。
われとわが血潮を惜しげもなく貪らせ飲み味わわれてしまいながら、
喜美則は彼を征服した男の魔力を礼賛しつづけていた。
初めて噛まれた翌日に、ここまで許してしまって良いのか?という懸念は心のどこかにあったけれど。
それ以上に、訪れたばかりのこの街で初めてできた知友に満足してもらいたいという想いがまさっていた。

吸血鬼と共存すると聞かされて、おっかなびっくり訪れた街で、
うわべだけ平穏な一週間が過ぎ、
そのあいだに喜美則の一家の血液を享受する吸血鬼が、闇の奥で決められていた。
選ばれた男は勤め帰りの喜美則を襲い、買い物に出たその妻の綾子を襲い、
さいごに下校してきた綾香の血潮まで、その柔らかな肢体から抜き取っていった。
夫に対する襲撃から2時間足らずで、家族全員の血液が喪われたのだ。
喜美則が新記録――と称賛したのは、そのことだった。

「喉が渇いていたから、記録作れそうだったんだ」
3人の血を奪った男はこともなげに、そうこたえた。
よくみると、喜美則とほとんど同世代のようだった。
「ぼくの血じゃあ、つまらなかっただろうね」
喜美則が悪友を気遣うと、
「そんなことはない。あんたの血が旨かったから、娘の血がよけい欲しくなったくらいだ」
とこたえた。
父娘で血の味は似るからね――とうそぶくのを耳にした喜美則と綾香は、くすぐったそうに目交ぜをかわした。
「奥さんもイイ獲物だった」
男はなおもうそぶいた。
「美味しかった・・・んですよね?」
綾子がおずおずと尋ねる。
「ああ、じつに旨かった」
男の満足そうな顔つきに綾子は愁眉を開き、
「痛い想いをしたかいがあったわ」
客人のもてなしを自分の務めと心得る堅実な主婦の顔になって、安どの笑みを泛べる。
そんな妻のようすを見て、喜美則もまた嬉し気に笑んでいた。
「家内を気に入ってもらえて嬉しいよ。仲良くしてやってほしい」
「まあ、あなたったら――」
綾子は少女のように、頬を赧(あか)らめた。

「家族三人ながら、履いてる靴下を楽しまれちゃったわけだね」
喜美則は苦笑しながら、男を見た。
男は失血で眩暈を起こし尻もちを突いた喜美則の足許に這い寄って、早くもスラックスのすそをたくし上げにかかっていた。
自分から引き上げたスラックスの下、丈の長めの通勤用の靴下が、ふくらはぎの半ばくらいまで、行儀よく引き伸ばされている。
きょうの靴下は濃いグレーで、赤と黒の幾何学模様が渦巻いていた。
「きょうのも凝った柄だな」
男は喜美則の趣味を褒めた。
「気に入ってもらえて嬉しいね。いっぱい濡らして噛んで、愉しんでくださいね」
喜美則はいった。
男の貪欲な唇がふくらはぎに吸いつくと、喜美則は苦笑いを泛べた。
圧しつけられた唇が、じつにもの欲しげに這いまわり、
おろしたばかりの真新しい靴下に、好色な唾液を思う存分、すり込んでくる。
「よほど気に入ったようだね」
「侮辱するようですまない」と詫びる男に、
「侮辱してくれて構わない。ぼくも愉しんでいるから・・・」
と、喜美則はいった。
熱っぽく上ずった声色になっていた。
辱め抜かれる足許に見入りながら、気に入りの靴下を履いた脚を惜しげもなく、下品でしつような舌なめずりにさらしてゆく。
「男ものの靴下なんか、そんなに面白くないでしょう・・・?」
そういう喜美則の言葉を態度で否定するかのように、男は喜美則の靴下をしつように舐め味わってゆく。
「靴下を辱められるのって、むしょうに興奮するものですね」
グレーの靴下が唾液に浸され、しつような舌にいたぶられてずり落ちてゆくのを見つめながら、喜美則はいった。
「俺も同じ気持ちだ」
吸血鬼はそういうと、喜美則のふくらはぎにやおら咬みついた。
擦り傷ていどのダメージだったが、靴下を血と唾液で汚すにはじゅうぶんだった。
男はくり返し牙を突き立てて、喜美則は脚をくねらせながら、あちこち角度を変えて嚙みたがる男の要望に応えてゆく。
喜美則の好意の深さを示すように、彼の履いている靴下はあちこちに噛み痕と血潮のシミを、ふんだんに滲ませていた。
強烈な口づけのたびに、濃いグレーの生地に、赤黒いシミが拡がる。
薄地の靴下は派手に裂けていき、蒼白い素肌をちらちら覗かせてゆく。
愛人が熱いキスを重ねるようにして、男は喜美則の靴下に欲情し、なん度も唇を吸いつけた。
濃くて熱い接吻を重ねるたびに、被虐の悦びを覚え込んでしまったその皮膚に、つねるような疼痛をしみ込ませていった。

「さいしょのときに履いていた靴下も、貴男好みの丈の長めのやつで良かったですね」
喜美則はいった。
男の靴下なんかつまらないだろう。妻のストッキングや娘のハイソックスのほうが満足してもらえるだろう――と思い込んでいたのに、
吸血鬼は存外、喜美則の通勤用の靴下も気に入っていた。
真新しいナイロン生地ごしに唾液を擦り込まれる行為に、さいしょ感じた侮辱は根深く残っていたが、むしろその屈辱感が、ほどよい刺激とスパイスになっていることに、喜美則は気づいている。
喜美則はむしろ喜んで、靴下を履いた脚を辱め抜かれていった。
唾液に染まった靴下は、牙をあてがわれ、擦り傷だらけにされながら、こんどは血浸しにされてゆく。
やがて失血が、彼を心地よい陶酔へと導いていった。
喜美則はソファからすべり落ちて、じゅうたんの上に尻もちをついた。


傍らでは彼の妻の綾子が、はぁはぁと肩で息をしていた。
夫のように、失血にあえいでいるだけではなかった。
夫が帰宅するまでのあいだ不倫セックスを愉しもうと誘われて、吸血されながらの情事に息せき切っていたのだ。
男の請いを容れて、着衣のままのセックスだった。
夫が気に入りだったモスグリーンのカーディガンを羽織り、さいしょに犯されたときの濃紺のタイトスカートを腰に巻き、それをさながら制服でもあるかのように着こなして、
30代の人妻を辱め抜きたがる男の前、自らを餌食に供していった。

着たまま引き裂かれた朱色のブラウスは大きくはだけて、胸もともあらわになっている。
吊り紐の切れたブラジャーが、胸の周りからふしだらに浮き上がり、乳首を無防備にさらけ出していた。
「破って楽しんでもらうためにおしゃれしているようなものね」
綾子がいった。
「きみの洋服姿がそれくらい、魅力的なんだろう」
彼女の夫が応じた。
身体のすみずみまで生き血を舐め尽くされた彼は、男に支配されることにむしろ、心地よい陶酔を覚えている。
「それなら嬉しいわ」
綾子は満足そうに、白い歯をみせた。
さっきまでなん度も愛し抜かれ、スカートの裏地には淫らな粘液を塗りたくられていた。
股間はすでに、おびただしくそそぎ込まれた精液に狂わされていた。
夫の目の前での行為が、いまはたまらなく快感だった。
夫の前で喘ぎ悶えてしまうことに、恥を忘れて夢中になっていた。

さいしょに襲われた日、まだ夫以外の男を識らなかった綾子は、けんめいに抵抗した。
そして、初めて操を奪われたことを夫に認めさせるために、夫の目の前での情交を共用されたときもまた、羞じらい、うろたえ、抗いつづけた。
その有様を、夫は見せつけられるがままに覗き見し、見届けていた。
必死に操を守ろうとする妻がねじ伏せられて、首すじを噛まれ、衣装を裂き散らされながら辱め抜かれてしまうのを。
そして、いちど夫以外の一物の味を覚え込まされてしまった身体が、招かれざる客人を歓待しはじめて、さいごには心づくしのもてなしをねだり獲られてしまうのを。
「きみはあのとき必死に抵抗して、妻としての務めを立派にを果たした。
 淫らな習慣を力づくで覚え込まされてしまったことについて、きみにはなんの落ち度もない。
 きみは立派に抵抗することで、貞操堅固な人妻をモノにする悦びを彼に与えた。
 最愛の妻の貞操だけど、あんなにひたむきに蹂躙されてしまったら――
 きみにたいする彼の情愛の深さを、認めざるを得ない。 
 ボクはきみの夫として、きみに素敵な恋人ができたことを祝いたい」
吸血鬼はにんまりと笑んだ。
「彼女は自分から、わしの胸に飛び込んできたんだ」
避けようもない抱擁を真正面から受け止めたことを、綾子はいまだに羞じらっている。
けれども、あのあと自分のうら若い血を欲しがる吸血鬼を前に衣装もろとも辱められ、
ためらいながらも身体を開いていった記憶は、いまでも鮮烈だ。
夫の名誉を泥まみれにさせてしまったことにも、もはや後悔はなかった。
そして彼女の夫自身も、妻の名誉をふしだらに蕩かされてしまったことに、歓びを感じていた。
吐き出されたドロドロの精液が妻のショーツにまとわり着き、陰毛のすき間へとしみ込んでゆくのを、息をこらして見守ってしまっていた。

「父さんえらいね、妬きもちやかないんだね」
傍らで、下校してきたばかりの綾香が呟いた。
通学用の白のセーラー服には、14歳の血潮が花が咲いたようにほとび散っている。
処女の生き血は貴重だから、彼らもむやみに犯したりはしない。
けれども当然のように、ファースト・キッスはあっけなく奪われていた。
自分や両親の血潮の匂いをむんむんとさせた口づけに、無垢な少女は陶酔した。
真っ白な通学用のハイソックスに加えられる凌辱も、含み笑いをしながら受け留めた。
早くももう、3足めを脚に通して破かせてしまっている。
従兄の夏梅(なつめ)くんと約束した将来は、いったいどうなるのだろう?
たぶん綾香の純潔を勝ち得るのは、夏梅くんにはならなのだろう。
次の夏休みに夏梅くんを此処に招んだら、婚約者のふしだらをこころよく許容してくれるだろうか――


「受け容れる吸血鬼の数が、来週で6人になります」
R助役が硬い表情で、口火を切った。
市の方針で街に吸血鬼を受け容れるようになってからは、新設された市の専門部署が、吸血鬼に血液を提供する男女をあっせんするようになっていた。
助役の訪問を受けたМ事務所の恵村調整役は、謹厳な顔つきでR助役の報告に接した。
「少なくともそのうちの一人は、明日市内に到着します。
 新規の血液提供者を、どうしても6人確保しなければなりません。
 それに、人間の人妻を輪姦したがっている吸血鬼が9名います。
 3名づつの3組です。
 なので、複数の吸血鬼の相手をできる女性を、最低1名ご協力いただきたいのです。
 ほかの2名は、市役所で引き受けます。
 うちひとりは、わたしの家内です。
 ご協力いただく奥さまの心の用意もあるでしょうから――遅くとも今夜のうちには・・・」
「お引き受けしましょう」
喜美則はむしろにこやかに答えた。
「わたくしの社に、先週転入してきた20代の社員がいます。
 ご夫婦で赴任しています。
 此処の事情は事前に言い含めてますから、この際夫婦ともあてがってしまいましょう。
 それに、たまたまですが、わたしの両親と家内の両親が、お盆でこちらに来る予定です。
 二組の夫婦が着くのは明日の昼になりますが、経験者ですからすぐに対応できます。
 当座はその6人でしのぎましょう。
 あと、輪姦のお相手には、うちの家内を差し向けます。
 だんなに見せつけたい――みたいなけしからぬ要求がありそうですね?
 それなら、わたしも悦んで同伴します。いかがでしょうか?」

久しぶりに

2023年05月19日(Fri) 21:08:30

わーっと描いちゃいました。 (^^ゞ
黒の礼服姿のまま、四つん這いに圧し伏せられて、
「アアもう勘弁」とか言いながら黒のパンストの足首を舐め抜かれてゆく――
そんな一情景を妄想したところからのスタートでした。
結論は例によって、めでたしめでたしの大団円。

新しい街で妻の交際相手にも恵まれ、充実した日常が待ち受けていることでしょう。^^

ほかにも書き溜めたのがいくつかあるんだけど、どれも結論に行きつかない・・・
気が向いたらあっぷしますね。

ご近所の弔問先で夫婦ながら亡者に襲われ妻が犯された件

2023年05月19日(Fri) 21:05:45

この街に吸血鬼がいるといううわさは、赴任する前から知っていた。
けれど、実際に足を踏み入れてみると、どこにでもあるようなごくふつうの地方の街だった。

忌中の回覧板がまわってきた。
はす向かいの色町さんというお宅で、ご主人が亡くなったらしい。
回覧板を持ってきたお隣の奥さんは、お通夜にいらっしゃいますよね?と念押しするように俺に言った。
「やっぱりこういうときには、行かなくちゃならないもんなのかなあ――」
俺が言うと女房の華菜は、
「しょうがないじゃない、ご近所づき合いが大切だっていうんだから」
と、相槌を打ってくる。
どちらも、気乗りしないことが見え見えの問答だった。

どうやら吸血鬼にやられたらしい――と、お隣の奥さんは声をひそめて教えてくれた。
ここの吸血鬼は、死ぬほど吸わないはずなんですけどねぇ・・・と、ふしぎそうに首をひねっていた。
ふつう吸血鬼といえば、人の血を吸い尽くして殺してしまうか、自分の仲間にしてしまう。
そんな固定観念を持っていたのだが、どうやらこの街に棲む吸血鬼は、そうではないらしい。
「人の生き血を純粋に愉しんで、舐め味わうんだそうですよ。
 あらいやだ、私ったら!変なこと言っちゃって。忘れてくださいねぇ」
奥さんはどことなく楽しげにそういうと、そそくさと背中を見せて自分の家のほうへと戻っていった。
早くも喪服に着替えていた彼女の足許を、黒のストッキングがなまめかしく透きとおらせていた。

夕刻になるとそれでも俺たちは、喪服を着て色町家を訪問した。
いちどか二度くらいしか顔を合わせていないはずのご主人の顔は記憶が定かではなく、
遺影にも見覚えがなかった。
ひつぎの前には喪主である奥さんと息子さん、それだけしかいなかった。
「あらいらしたのね」と愛想よく振舞っていたお隣の奥さんも、いつの間にか姿を消していた。
ちぃ―――ん。
お線香の匂いとともに鉦を鳴らす音がひっそりと響いた。
それを合図に、なんとしたことか、ひつぎのふたが突如として開いた。
なんと、死んだはずのご主人が、白装束のまま起き上がったのだ。
鉛色の顔で、目だけがランランと輝いている。
えええええっ!
俺はびっくりして、縮みあがってしまった。女房を逃がすのさえ忘れた。
ご主人は俺にやおら飛びかかってきた。
首のつけ根に痛みが走った。
なんとしたことか、ご主人は俺の首すじを噛んで、血を吸い上げ始めたのだ。
キャアッ――ッ!
華菜も思わず悲鳴を上げたが、組んづほぐれつする二人の男を前に、どうすることもできない。
グチャグチャと汚い音を立てて血を吸い上げられながら、
俺は貧血を起こして、その場にひっくり返っていた。

つぎの獲物は、いうまでもない、女房の華菜だった。
華菜は黒のストッキングの脚をすくみ上らせて、俺が血を吸い取られるのに目を見張っていたが、
俺がぶっ倒れてしまうと同時に、自分も尻もちを突いて、その場に動けなくなってしまった。
亡者と目を合わせてしまった華菜は、狼狽して部屋から逃げ出そうとした。
四つん這いになって、這う這うの体なのだ。
背後からすぐに、亡者に腰を抱かれて圧し伏せられた。
うろたえて手足をジタバタさせる華菜を抑えつけて、首すじに唇を吸いつけていった。
俺の血が撥ねたままの唇が、華菜のうなじを這った。
俺は助けを求めるように遺族のほうを見たが、彼らは姿を消していた。
ああ――ッ!
悲鳴一声、華菜はうなじに喰いつかれ、声と同じくらいの勢いで、血潮が畳に飛び散った。

キュウッ、キュウッ、くいッ、くいッ・・・
押し殺すような音を立てて、華菜の血は亡者の欲望のまま吸い取られてゆく。
俺は華菜を助けようと焦ったが、手足がいうことを聞かない。
失血で、すっかり痺れてしまっていたのだ。
どうすることもできないままに、みすみす華菜の血を吸われるがままになってゆくのだ。
やめろ・・・やめろ・・・華菜を殺すんじゃない!
叫んだつもりが、かすかな呟きにしかならなかった。
けれどもそれは、相手の耳に届いたらしい。
亡者はこちらをふり返った。
顔色が、さっきの薄気味悪い鉛色から、ずっと血の気を帯びていた。
そういえば、一昨日夫婦で買い物に出た帰りに、この人とは会釈をし合ったっけ。
化け物の顔が、血の気が戻っただけで、隣人のそれにたやすく変換した。
その血色は、俺たち夫婦の身体から吸い取ったものに違いないのだ。
おぞましさに、慄(ぞっ)とするのを覚えた。
「こ、殺さねぇ・・・」
化け物はうめくように、いった。
え?と訊き返そうとすると、なおも呟いた。
「あ、ありがたい・・・」
え?
俺は思わず、訊き返してしまった。
ひとの女房をつかまえて生き血を啜っておいて、「ありがたい」とは何事だ!?
けれども俺は覚っていた。
噛まれた傷口に浸潤するように、毒液が身体の奥にまでしみ込んできて、
男の意図をありありと、伝えてきたのだ。
男はせつじつに、俺たち夫婦の血を欲していたのだ。

男はすぐに俺から視線を逸らすと、すぐさま華菜に注意を引き戻していった。
華菜は負傷しながらも、手の力が緩んだのをよいことに、無体な抱擁から抜け出そうとしていた。
男は華菜の脚をつかまえ、抑えつけた。
肉づき豊かなふくらはぎが、薄手の黒のストッキングに映えて、ジューシーに透きとおっている。
「うふっ、エエな、エエのお・・・」
男はうわ言のようにそう呟くと、華菜のふくらはぎに唇を吸いつけてゆく。
唇の端から洩れた唾液が、ストッキングの表面に散った。
「ひッ!」
華菜の呻きが、恐怖に引きつった。
男は華菜の脚をストッキングのうえからヌルーッと舐め味わうと、
再び牙をむき出して、華菜のふくらはぎに喰いついた。
「ギャッ!」
華菜の悲鳴は、お世辞にもきれいなものではなかった。
圧しつけられた唇の下、ストッキングにツツーッと裂け目が拡がって、地肌の白さを見せつけた。
男はご満悦で、華菜の血を呑み耽っている。
ごくッ、ごくッ、ごくッ・・・
飲まれているのが女房の血でなければ、じつに豪快な飲みっぷりといえてしまいそうなほど、
男の喉はじつに旨そうに、華菜の血にむせ返っている。
「やめて、やめて下さい、お願いしますッ――」
華菜の訴えはその場に居合わせただれにも聞き届けられず、
しばらくの間は華菜の血で旨そうに鳴る喉鳴りだけが、部屋を支配していた。
男は、華菜のうら若い血液を、ひたすら楽しんでいた。

「誠に申し訳ございません」
傍らには、姿を消したはずの奥さんが戻って来ていた。
「主人が生き返るには、どうしても人さまの生き血が必要だったのです。
 それでどうしてもと、お呼び立ていたしました。
 お隣の奥さまも、じつは同罪ですの」
見ると、回覧板を届けてくれたお隣の奥さんも、部屋の隅に座って、きまり悪そうに会釈を投げてくる。
「さ、わたくしたちもお相伴しましょ」
喪主の奥さんに促されて、お隣の奥さんも喪服のスカートを引き上げて、黒のストッキングの太ももを露わにしてゆく。
「お相伴」とはこの場合、逆の意味だろう。
けれどももしかすると、「血を吸う」側だけが味わっているのではなく、
「血を吸われる」側も、なにかを得ているのかもしれない――そんな馬鹿な!俺は自分の妄想を、慌てて打ち消した。

「若奥さま、もうご無理ですよ。いくらお若くてもそれ以上いっぺんに飲ませちゃったら身が持たないわ」
喪主の奥さんはご主人を華菜から引き離すと、「こんどはこちら」と、
追いやるようにお隣の奥さんのほうへとご主人の身体をのしかからせてゆく。
引き上げられた重たい漆黒のスカートのすそから覗いた太ももは、素人の奥さんとは思えないほどなまめかしかった。
ご主人は、お隣の奥さんの腰を抱き寄せると、黒ストッキングの太ももに唇を吸いつけた。
パチパチと微かな音をたてて、ナイロン生地がはじけていった。
「うッ――!」
お隣の奥さんがおとがいを仰け反らせる。
ゴクッ、ゴクッ、グビッ・・・
華菜のときよりもさらに貪欲に、ご主人はお隣の奥さんの生き血を需(もと)めた。
奥さんがその場でぶっ倒れてしまうと、ご主人は喪服のブラウスを引き裂いて、
その下のブラジャーまで剝ぎ取って、乳首を口に含み、ぞんぶんに舐め味わってゆく。
もはや、彼の欲求が生き血だけにとどまらないことを見せつけてゆくのだった。

「どうぞこちらへ」
喪主の奥さんは、蒼ざめた顔で茫然としている俺たちを、隣の部屋へと招き入れた。
「この街に来てまだ間もないので、びっくりされたことでしょうね。
 でもこのあたりでは、こういうことよくございますの。
 主人がおふたりの生き血を頂戴した御礼代わりに、このあたりの慣わしをお伝えしておきますね」
差し出されたメモには、こんなふうに書かれていた。

汀 憲継
 色町若菜
   晴雄
   凛太
 伊香堅司  
   布美子(お隣の奥さま)

色町晴雄
 伊香布美子
 寺澤 晃
   華菜

これは・・・?
俺が声をあげると、奥さんはいった。
「この汀憲継というのが、おおもとの吸血鬼です。
 そうそう、ご自宅のお向かいさんですね。
 それがわたくし色町若菜を襲って男女の関係をして、ことのついでに主人や息子の血も吸ってしまいましたの。
 幸い息子の時は手加減してくれましたが、主人のときはつい吸いすぎちゃって・・・こんなことになりました。
 エエ、主人は自分の妻を犯した男に、生き血を吸い尽くされてしまったのです。
 じつは主人、前々から伊香さんの奥さまと不倫してたんですが、なにしろご近所でしょう?
 汀さまは伊香家のご夫婦も狙ったのです。
 でも――汀さまは伊香さまの奥さまに主人のことを取り持ってくれて――
 汀さまがご主人の血を吸っているあいだに、布美子さんしっかり浮気を楽しんでいらっしゃるのだわ。
 わたくしですか?わたくしは汀さまが時おり訪ねてくださるだけで満足なのです。
 幸い、主人とも関係は続いておりますし。
 でも、こんどは血を吸い尽くされてしまった主人のために、新たな血液の提供者が必要になったのです。
 血を吸い尽くされてしまっても、
 ひと晩明ける前にだれかの血で身体を充たすことができたら、吸血鬼にならずに済むの。
 主人は吸血鬼になるよりも、自分も血の提供者で居つづけたいと望んだので、
 (変わっておりますでしょ?自分の妻を犯した男に血を吸われたがってるなんて!)
 布美子さんに手伝ってもらって、おふたりをお招きしたのです。
 ひどいやつだとお思いでしょうか?
 でもここに棲んだ以上、いつかは必ずだれかに襲われてしまいますもの。
 どうせなら、お互いご近所のほうがなにかと便利ではないですか。
 あら、あら」
最後のひと言は、部屋の向こうの痴態に向けられたものだった。
「御満足ぅ・・・?」
妻の声に色町氏はウムと応じて、こちらの部屋へとあがり込んできた。
「お前も――」とだけ言うと、
奥さんはすべて心得ているらしく起ちあがって、黒のストッキングの脚を差し伸べてゆく。
ご主人が足許に抱きついてきくると、ためらいもなくストッキングを食い破らせて、
喉を鳴らしながら自分の血を飲み込んでゆくのを、ちっとも騒がず見おろしていた。
しつような愛撫は、両脚に加えられた。
奥さんの白い脛には、いびつによじれた帯のようになったナイロン生地の残骸が残るばかりになっていた。
「これで皆さん、おあいこね」
奥さんは軽く笑って、ストッキングをむざんに裂き取られた脚を見せびらかす。
華菜も、あちらの部屋でのびている隣の奥さんも、ストッキングを派手に裂かれてしまっていた。
女三人は、互いに顔を見合わせて、きまり悪げに笑った。

ご主人はなおも目を血走らせていたが、俺と目が合うと、いった。
「突然で悪かった。ぢゃがもう少しだけ、協力してくだされ」
え――?
俺が怪訝そうな顔をする間もなく、ご主人がのしかかってきた。
たたみのうえに抑えつけられた俺は、再び首のつけ根を食い破られて、
色町家の畳を自分の血で濡らした。

ご主人が俺を放して起きあがるときにはもう、
俺は貧血で頭をクラクラさせてしまっている。
「これでよしと」とご主人は呟くと、こんどは再び華菜の番だった。
華菜は、着てきたジャケットを脱ぎ捨てて、ワンピース姿だった。
四角い襟首に縁どられた胸もとの白さに惹きつけられるように、ご主人は華菜の肩に猿臂を伸ばしてゆく。
華菜は怯えた顔つきで、失血に苦しむ俺と、迫ってくるご主人とを等分に目をやっていたが、
「あなた、だいじょうぶ?」
と俺に身を寄せようとしたところをつかまえられて、またも首すじを噛まれてしまった。
「ああーッ!」
なん度めかの絶叫が客間に響いた。
「若けぇ、若けぇなあんたの奥さん――活きが良くって、気に入ったです」
敬語交じりのため口に、害意は感じられなかったけれど。
彼が俺の目の前で女房の首すじに噛みついて血を啜っていることだけは確かだった。
「やめろ、やめろ、放してやってくれ・・・」
俺は声も切れ切れに訴えたけれど、
「そうはいかねぇんだ、今夜は特別な夜なんだ」
と、ご主人はくり返すばかり。
「そうなのよ、特別な夜なのよね」
向こうの部屋から移ってきたお隣の奥さんは、犯された凄惨なままの姿で、ご主人を弁護する。
ブラウスは引き破られ、片肌があらわになっていた。
ご主人はなおも、華菜に迫った。

華菜は壁を背負う格好になって、もう逃げられなくなっている。
「奥さん、悪りぃが、もう少しだけ脚をイタズラさせていただくぞ」
厚かましくも、華菜の穿いている黒のストッキングを、なおもいたぶり抜きたいらしい。
華菜は怯えた顔で相手を見つめると、ちょっとだけ俺のほうへと謝罪するような目線を投げて、
やがておもむろに、あきらめたように、自分のほうから、ツツッ・・・と脚を差し伸べてゆく。
え?おい!?なにをしているんだ!?
俺は思わず声をあげようとしたが、喉が引きつって声にならなかった。
華菜が差し伸べたのは、まだ嚙まれていないほうの脚だった。
男は華菜のふくらはぎに舌を這わせると、
「エエ舌触りのパンストぢゃ」と、しんそこ嬉しげに華菜の脚を舐めまわしてゆく。
女ふたりは興味津々、華菜の受難に見入っていて、同性の危難を救おうとするけしきはみせない。
「破ってもエエな?」
わざわざ念を押して、華菜が小さく頷くのを見届けてから、
男は尖った歯をむき出して、華菜の脚の輪郭を犯した。
涙の痕のように、ツツーッと伝線がつま先まで走ってゆく。
キュウッ、キュウッ・・・と、ひとをこばかにしたような音を立てて、華菜の血は吸われた。
固く瞑られた華菜の瞼から、涙があふれた。
「あら、あら、かわいいわぁ」
喪主の奥さんが、はしゃいだ声をたてた。
「ほんとう――あたしもさいしょはそうだったのよ」
「アラ、わたくしもですわよ」
女ふたりは、楽し気に言い争っている。
その間に、男は華菜のふくらはぎにも、太ももにも、ワンピースごしに腰やお尻にも咬みついてゆく。
熱っぽい接吻を迫らせるようなやり口だった。
そして最後にもう一度、首すじに喰いついた。
意外にも、華菜は叫び声をあげなかった。
「あァ・・・」
かすかに洩れた吐息に、どこか聞き覚えがあった。
そして、慄っとした。
夫婦のベッドでアノときに洩らす吐息と、全く同じだったのだ。

華菜の恰好の良い脚から、黒のパンストがズルズルと引きずり降ろされてゆく。
無念そうに歯噛みをしながらも、華菜は相手の欲求に応えて、
パンストを脱がせやすいようにとさりげなく、脚の向きを変えていった。
ショーツも黒だった。
男は華菜の股を軽くおし披(ひら)くと、ショーツのうえからおもむろに唇を吸いつけていった。
ちゅるっ、じゅるっ、ぢゅるううっ。
接吻をくり返すたび、音が露骨でしつようになった。
薄いショーツのなかで、華菜の陰毛の一本一本が、恥知らずな唾液に濡れそぼっているのだろう。

目のまえでここまで夫権を侵害されながら、俺はなぜか腹を立てていなかった。
なぜだ?華菜が目の前で犯されようとしているのに――
首すじにつけられた咬み痕が、またもずきん!と強く疼いた。
そうだ、こいつのせいだ。
操を踏みにじられようとしている華菜の戸惑いよりも、俺はむしろ、
夫の前で人妻をモノにする特権を行使しつつある吸血鬼のほうに共感を感じ始めている――

いつの間にか。
華菜はワンピースの後ろのファスナーを降ろされてしまい、黒いブラジャー一枚になっていた。
電灯に照らし出された白い肌が、なめらかに輝いている。
たしかに――咬みつきたいというやつの気持ちが、いま痛いほどわかりはじめていた。
整然とした肌理をした、つややかに輝く白い素肌を、むたいに食い破り醜い噛み痕を刻印する。
それがどんなに楽しいことか、傷口の妖しい疼きが、刻々と伝えてきた。
「ご主人様、よかったですわね。ご自分の奥さんが初めて犯されるところを御覧になれるなんて」
喪主の奥さんが、ゆったりと言った。
自分の亭主が人妻を犯そうとしている場に立ち会っているとは思えないほど、のどかな声色だった。
口ぶりからして、皮肉や冷笑ではなさそうだった。
しんそこ、妻の貞操やぶりをいっしょに祝うことができる幸運を悦んでくれているらしかった。
この連中の貞操観念は、俺には理解できない――俺はなんとか、そう思おうとした。

男は、華菜のブラジャーとショーツに手をかけると、ピーッ、ピーッと鋭い音を立てて引き破くと、
乳房と秘部を同時に無防備にさらしてしまった。
「ご主人悪いね、今夜は楽しませていただくよ」
それが俺に対するご主人の、さいごの礼儀だった。
「ひーっ」
ご主人はにょっきりとふくれあがった一物を手にすると、それを華菜の股間に忍ばせてゆき、
悲鳴をあげる妻にのしかかって、こともなげに腰を淪(しず)め、妻を狂わせていった。

お茶の間に、母親の声があがった。
「凛太さん、もうお勉強はいいわ。こっちきて御覧なさい。
 母さんのときは嫌だったろうけど、よその奥さんだったら良いんじゃない?
 しっかり見て勉強するのよ」

十代前半の男の子にとって、刺激的すぎる勉強だったはずだ。
「ちょっとあたし、面倒見てくる」
お隣の奥さんが座をはずして、目を血走らせて階上の勉強部屋に引き取った凛太のあとを追った。
発育してしまったぺ〇スを揉んで、出してあげるのだという。
「時々飲んでもらっているみたい」
奥さんは、独り言のように、おそろしいことを口にした。

華菜も俺も、茫然として座り込んでいた。
さっきまで華菜は、豊かなセミロングの黒髪をユサユサ揺らしながら、ご主人と組んづほぐれつしていた。
さいしょはおずおずとだったが、一度刺し貫かれてしまうと、もう止め処がなかった。
「さいしょが好(よ)すぎたの、だからといって――していいことと悪いことがあるわよね」
華菜はうわ言のような口調で、それでもしきりに恥じていた。
「恥ずかしいのはこっちもいっしょだ」
俺は素直に応じていた。
「お前が夢中になってるの視て、興奮しちまった」
「あら、あら」
恥ずかしすぎる告白に対して、華菜は寛容だった。
ズボンがびしょびしょになっているのを見て、
「早く、クリーニングに出さないとね」
と、主婦らしい心配をした。

「若奥さん、ご主人、布美子さん、わたくし。
 四人もの方の血を思う存分吸い取らせていただいたおかげで、主人は死なずに済みました。
 心から御礼申し上げます」
改まった口調で、色町の奥さんがいった。
三つ指ついて頭まで下げられて、「いやいや・・・」と俺たちまでもが恐縮してしまい、
華菜にいたっては「ふつつかでした」とまでこたえてしまっている。
「ふつつかなんかじゃねぇよ」
男がいった。
「旦那さん、時々でエエから、華菜ちゃんの血ィ吸わせてもらえんかの?
 わしは吸血鬼にはならずに済んだが、嗜血癖は身に着いちまっておるから、
 これからも布美子さんのことは、日常的に襲うことに決めておるんぢゃ。
 ぢゃが、それだけでは足りんて・・・もうお一人、襲えるおなごがおれば、安心して暮らせるというもの。
 うちの家内には汀さまがいるから、亭主といえども手ぇ出せんのでな・・・」
それはなんとも気の毒に――と思ったが、
いちばん「気の毒」なのは、妻を吸血され犯された俺のほうではないだろうか?
ご主人は、俺の想いを汲み取っていた。
「あんたらご夫婦のご厚意がなければ、いまごろわしは吸血鬼に成り下がっておった。
 感謝の気持ちは忘れねぇ。おふたりを侮辱するようなまねも、もちろんしねぇ。
 いまは血がなくなってのぼせ上がっておるぢゃろうから、きょうの返事は要らねえから、
 明日以降、良い返事をきかせておくれでないか?」


家にたどり着いたのは、夜中すぎのことだった。
俺も無言。華菜も無言。
亭主のまえでほかの男を相手によがり声をあげてしまったことを恥じているのか、
華菜は終始目を伏せていた。
「護れなかった俺が悪いから」
と、俺は華菜をかばった。
俺も――目のまえで妻を犯されながら昂ってしまった恥ずかしさが、ついて離れなかった。
あれは恥ずかしい。どうみても恥ずかしい。
夫の風上に置けないほどの恥ずかしさだ。
けれども――
華菜のことをあそこまで大胆に、雄々しく踏みにじったあの牡(おす)の身体の力強い躍動が、
瞼の裏に灼(や)きついて離れなかった。

それぞれにシャワーを浴びて、寝に就いた。
ベッドルームに入るとやおら華菜を抱き寄せて、激しく唇を吸った。
華菜も、応えてきた。
さいしょは謝罪するような、おずおずとした応えかただったが、
回を重ねるにつれ、俺の熱情が伝わったかのように激しく乱れはじめて、
ここしばらく交わしていなかった愛の刻を、はげしく交わした。
血を吸われたうえに、あの男になん度も犯され、疲れ切っているはずの華菜だったが、
そんなようすは微塵も窺われなかった。
むしろ、俺が圧倒されるほどにむさぼり返し、互いにガツガツとむさぼり合ってしまっていた。
心地よい疲れと虚脱感を身体の隅々にまで感じながら、俺は眠りに落ちた。


ふと気がついたとき。
部屋はまだ、華菜と乱れあった直後と同じく明るかった。
われ知らずまどろんでしまったようだ。
時計を見ると、2時。
熟睡したようにも感じたが、気を喪っていたのは意外に短い時間であった。
傍らをみると、華菜の姿がなかった。
いつも几帳面な華菜に似つかわしくなく、クローゼットが開け放たれていて、
衣類を取り去られたハンガーが床に落ちていた。
箪笥の抽斗も半開きになっていて、切られたパンストのパッケージが屑籠に乱雑に放り込まれている。
すべてが、華菜らしくない振舞いだった。
なにが起こったのか、俺は直感した。

表に出た俺は、すぐにさっと身をかがめて、手近な物陰をさがした。
街灯がスポットライトのように照らす真夜中の路上。
身を寄せ合うふたつの人影が、ひっそりと佇んでいた。
確かめるまでもない、ご主人と華菜だった。
華菜はクローゼットから引っ張り出した、真っ赤なタンクトップに黒のミニスカート。
足許には、スケスケのストッキングを黒光りさせている。
先刻脚に通していた礼装用のそれとは打って変わって、光沢のギラつく派手めのものだった。
華菜の気に入りのブランドで、都会にいたころは親友の結婚式のときによく脚を透していたのを覚えている。
差し伸べられた白い首すじに、男の唇が這っている。
男はなん度も、華菜の首すじに噛みついてゆく。
それが愛撫に等しいあしらいなのだろうということは、はた目にもわかった。
華菜も惜しげもなく白い肌をさらして、醜い噛み痕をくり返しつけさせてしまっている。
華菜もまた、男の真意を汲み取っていた。
「赤い服にバラ色の血――」
華菜はクスッと笑った。
俺とふたりきりの時だけにみせる、密やかで挑発的な笑いだった。
ご主人は華菜を引き寄せて、口づけを交わした。
まるで恋人同士のように、華菜は優雅にその唇を受け止めてゆく。
「来なさい」
男は華菜の手を引いた。
引かれるままに、華菜は男の意思に従った。

ふたりとも、想いは同じ――ということなのだろう。
いちどは冷静に考えなさい、と言われながらも。
夫との激しい愛を交わした後も。
相手の男を忘れることができなくて、華菜は夫婦の寝室を抜け出した。
あの伏し目がちな態度も、自分の奥にとぐろを巻いた想いに対する後ろめたさでしかなかったのだろう。
華菜が家を抜け出したのとほとんど同時に、ご主人のほうも、華菜を俺の家から奪い取ろうとして、家を抜け出した。
ふたりの想いはからずも、スポットライトの下で落ち合ったのだ――
俺は、なぜか深い感動を味わっていた。
夫としては忌むべきはずの、妻の不倫の現場のはずなのに・・・

庭に面した居間は、開け放たれている。
さっきまで、ご主人本人が骸となって、ひつぎのなかに収まっていたあの部屋だった。
奥さんも息子も、とっくに寝たのだろうか。
他の部屋はどの部屋も、静まり返っていた。
部屋に引きずり込まれた華菜は、挑むような瞳で、ご主人を見あげていた。
ご主人は有無を言わさず、華菜の足許に唇を圧しつけてゆく。
軽く抵抗しながらも、どうやらそれは彼女の本心ではない。
圧しつけられてゆく唇も舌も、しだいしだいに熱を帯びて、
真新しい華菜のストッキングを、恥知らずなよだれにまみれさせてゆく。
夫である俺に、操を立てるポーズをとっているのか?
もしかして、俺が覗いているのに気がついているのか?
ずきり・・・と胸の奥に黒い衝動が衝きあげた。
あ・・・
華菜が痛そうに目を瞑った。
噛まれたのだ。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
先刻ほどに急調子ではないが、華菜の身体をめぐるうら若い血液を、明らかに味わい楽しんでいる。
あああー
華菜が身を伏せて、打ち震えた。
男がのしかかり、首すじを噛んだ。
紅いタンクトップに、バラ色のしずくが撥ねるのが見えた。

月は西へと降りかかっている。
あれから1時間も愛されただろうか。愛し抜かれただろうか。
華菜は黒のストッキングを片脚だけ穿いたまま、セミロングの黒髪をユサユサと揺らしながら、
あお向けになった男の身体のうえで、躍動していた。
時には四つん這いになって、後ろからのえげつない挿入を受け留めさせられて、
口に咥えさせられて、なかに噴き出されて、嬉しそうにむせ返っていた。

不思議に、怒りも悲しみも湧いてこなかった。
妻の肉体を雄々しく支配した牡が、妻のことをしんそこ気に入って、
その夜が明けるのもまたずに二人で落ち合っていた。
最愛の妻の貞操は、昨夜激しく散らされた。
それは、若い夫婦にとってとても大きな、かつ深刻でもある影響をもたらしたはずだ。
けれども――
苦痛と犠牲を強いられた上に奪われた果実を、相手の牡はしんそこたんのうし、深く愛し始めている。
華菜を女として、高く評価していることは間違いなかった。
俺にとっては忌むべき一夜も、彼らにとっては、記念すべき「初夜」だったのかもしれないのだ。
もしもあれが「初夜」だとしたら、喪服は花嫁衣裳だったということか。
夫婦という良心の呵責を打ち破って生まれた、激しい恋。
もしもあれを「初夜」と呼ぶのなら――外野の人間は祝うしかないんだろうな。たとえ亭主である俺も含めて。

俺は割って入ることも、ふたりの行為を制止することもせずに、
自らの敗北を静かに反芻しながらふたりがし遂げるところを見届けると、
あとはしずかに、足音を消して立ち去ったのだ。
最愛の華菜を、四十男の欲望に独り占めにさせてやるために――


週末は、静かな曇り空だった。
「行こうか」
俺がふり返ると、
「行こう」
華菜ははずんだ声で応じた。
行先はもちろん、色町の邸。
華菜はよそ行きのグレーのジャケットに、同じ色のフレアスカート。
「清楚な服のほうが、興奮するらしいの」
華菜は得意げにそういった。
あの夜からいままでも、幾夜となく俺のことを裏切った女の言い草だった。
俺はそれでも、華菜の言葉をくすぐったく受け流した。
純白のタイつきブラウスは、バラ色しずくを今度も鮮やかに散らされてしまうのだろうか。
脚に通した肌色のパンストも、おろしたばかりのものだった。
「穿き古しじゃ恥かいちゃうから」
照れ隠しにつぶやく華菜に、
「礼儀作法というものだね」
と、俺も応じる。
ひと足歩みを進めるたびに、露骨なくらい派手やかな光沢が、その足取りを艶やかに彩ってゆく。

華菜の素肌をみすみす食い破らせてしまうことが。
よそ行きの衣装もろとも、ムザムザと辱められてしまうことが。
夫の立場からすれば最愛の妻に対する凌辱が、
じつは道ならぬロマンスの成就なのだと、いまは納得できてしまう。
自慢の妻を、きょうも見せびらかしてやろう。
ピチピチと若い華菜の肢体に、目の色を変えてむしゃぶりついてくるご主人の顔色を想像するだけで、
俺は恥ずかしい欲情に股間が熱くなってゆくのを、ガマンすることができなくなっていた。

ふたりの首すじには、おそろいのように、初めて噛まれた痕が赤黒く二つ、綺麗に並んでいた。

街に棲みついた夫婦の記憶。

2023年04月11日(Tue) 15:14:29

工藤健斗さんは人懐こい男性だった。
奥さんのカオリさんも、似たような人柄にみえた。
カオリさんは程よく陽灼けした丸顔に満面の笑みを湛えて、
シンプルなデザインの白のブラウスにからし色のロングスカートを穿いていた。
「太いから隠してるんです」と笑いながら、こげ茶色のストッキングに包んだ太目の脚を、ごく控えめに覗かせている。

「この街ではね、女のひとは脚太いほうが良いんですよ」と健斗さんは笑う。
「なにしろ、嚙みごたえの良さって連中は重視しますからね」
どういうことなのか、吸血鬼と共存しているこの街にいちどでも棲んだことのある人なら、すぐに察しをつけるだろう。

この夫婦は、去年の秋にこの街に移り住んだ。
それ以前のことは、「ほかに行くところがなかったから」と、言葉少なにしか語ろうとはしなかったが、
この街を安住の地としてすっかり居ついていることは、夫婦のやり取りからも感じられた。

やがて待ち合わせの時刻に少し遅れて、五十年配の顔色の悪い男性が現れた。
旱川(ひでりかわ)タカトさんは、吸血鬼である。
生粋の吸血鬼ではなく、若いころ奥さんともども血を吸われて吸血鬼になり、
以来30年近く、街の人たちに血を分けてもらって生活している。
離婚した奥さんは、それ以来自分の血を吸った吸血鬼と同居生活をしているという。
結婚したばかりの妻を吸血鬼に奪われた形だが――
「前の妻とはいまでも交流があります。血を吸わせてもらうこともあるし、
 先方の吸血鬼とも仲良くしてもらっています。
 何しろ、わしのことを吸血鬼にした男ですから、困ったときの相談相手にちょうど良いんです」
タカトさんは淡々と語り、素朴に笑う。
そして、傍らに居たカオリさんに近寄ると、肩を抱き寄せてむぞうさに首すじを噛んでゆく。
吸いついた唇からカオリさんの血が洩れて、着ているブラウスを濡らしたが、カオリさんはニコニコと笑っていた。
ご主人の健斗さんも和やかな顔つきを崩さずに、タカトさんが自分の妻の生き血を旨そうに啜る音に聞き入っている。
「きょうはいちだんと、美味しそうですね」と、健斗さん。
「カオリの血は、いつだって旨いやね」タカトさんも目を細めてこたえてゆく。
奥さんのことを呼び捨てにされても、健斗さんの笑みは消えない。
奪い尽くされてもなお夫婦関係を維持している彼の、夫としての自信を表しているようにもみえた。

貧血でちょっとだけ足許をふらつかせたカオリさんだったが、
気丈にも踏みこたえて、長い髪をぞんざいに掻きあげながら照れ笑いを浮かべた。
「こんなのいつものことだもんね」
カオリさんは健斗さんに声をかけた。
「家内は彼の気に入りなんです。さいしょはさすがに、焦ったけどね」
健斗さんは屈託なく笑っていた――


【カオリさんの回想】

この街にいれば安全だけど、この街そのものがアブナイところだっていうんです。
でもほかに行くところがないし――仕方なくこの街に住むことにしたんです。
主人はすぐに仕事が見つかって・・・そのときの取引先が、タカトさんだったんです。
街に入る前にあらかじめ吸血される決められていて、その人に血を吸われることになるんですって――
「まるで配分されるみたいで、ちょっと嫌だったな」
主人も時々、そのときのことを思い出すみたいです。
でも、あたしが襲われるときには、主人は助けてくれません。
助けちゃいけないことになっているんです。
あたしも、身を守ろうとしたり、逃げたりしてはいけないそうで――
血を吸い尽くされちゃったらどうしようって、まじで焦りましたね。。。

街に引っ越してきてすぐに、土地の信金に口座作ったんです。
びっくりしたのは・・・窓口の女の人が着ている制服のブラウスに、赤い血が撥ねていたんです。
それなのに、何事もなかったように「いらっしゃいませ」ってにこやかにお辞儀をしてきて・・・
「あの・・・だいじょうぶですか??」って思わず訊いちゃったんですけど、
「このへんでは普通ですから」って、こともなげに返されちゃいました。
いまでは個人的に仲良くしているんですけど――当時はいまのご主人と付き合っていて、
でも勤務中に迫られて血を吸われちゃった相手にも迫られていて、恋人関係だったんですって。
そのひともうちといっしょで、ご主人と吸血鬼は仲が良くて。
お相手の吸血鬼が制服フェチな方なので、結婚してからも奥さんは信金で今でも働いているんです。
金融機関と言っても――このあたりは暇ですからね。。
勤務時間中に襲われる子が、なん人もいるらしいんです。

信金のお姉さんの態度を見て、これは大変なところに来てしまった――と、改めて思いました。
そこでね、女の浅知恵なんですけど・・・色仕掛けしちゃおうって思ったんです。
襲われて血を吸われるときにセックスしちゃえば、女として気に入ってもらえれば命だけは取られないかなって。
ダンナも助けてくれないし、身を守るにはそれしかないって。

襲われるさいしょの日、主人はあたしを連れて旱川さんのお宅にお邪魔したんです。
えーと、あのときの服装は、黄色とオレンジのない交ぜになったワンピース着てました。
いまでもたまに着てます。初めて咬まれたときに撥ねた血がついて、落ちないんですけど――
カラフルになっていいじゃないって、いうんですよ。男たちは、無責任ですよね。
ストッキングも着用義務づけでして・・・礼を尽くすということなのかなって思って穿いて行ったら、それが全く違って。
脚を噛むときにストッキングも一緒に咬み破って楽しむんですよね。とてもエッチなんですよ。

主人はあたしを連れてくると、玄関近くの部屋で待たされました。
奥の部屋には、あたしひとりが呼ばれたんです。
タカトさんは、父より少し若いかなってくらいの齢にみえました。
実際には、10歳くらいしか違わないのに、血を吸い取られて顔色が悪かったから、老けて見えたんですね。。
血で汚れてもいいように、作業着姿でした。
あたしの服はどうしてくれるのよ?って、あとで思っちゃいました。(笑)

お部屋ではふつうに初めましてのごあいさつをして、どこから来たの?とか、ご主人はなにをしていたの?とか、
ありきたりの会話をしました。
そこでちょっとだけ、気持ちが落ち着いたかな。
でも、あたしの首すじや足許を、値踏みするみたいな目つきでじーっと視ていたので、やっぱり怖かったです。
「あの・・・あの・・・お願いがあるんです」
核心事項は、あたしのほうから切り出しました。
血を吸われるのはわかってます。美味しいかどうかわからないですけど、一生けんめい差し上げます。
でも死にたくないんです。吸い尽くしたりしないでくださいねってお願いしました。
それから――もしあたしでよかったら、犯しても良いです。その代わり殺さないで。
主人来てますけど、問題ありません。愛人になります。気持ちよくしますからって。そこまで言っちゃいました。
あとで主人に渋い顔されたけど――でも主人あたしが血を吸われるのを助けてくれなかったんですからね・・・

そうしたら、この人言うんです。
「ミセスの人の血を吸ったら、抱くのがふつうだけど」ですって。
そんなこと聞いてなかったですから・・・えー?どのみち抱かれちゃう運命なんですか?って、軽く絶望しましたね。
もう生命を守る手段がない・・・あのときはほんとうに、困りました。
でも、彼・・・言ってくれました。
きみは真面目そうだし、誠実に尽くしてくれそうだし、とにかく死なせたりしないからって。
えっ?えっ?って、あたしもう戸惑っちゃいまして・・・夢見る花嫁でしたね。
彼はおもむろにあたしの肩を抱き寄せて、さっき咬んだときみたいに、ごくさりげなくあたしのことを抱き寄せて、
そっと首すじを噛んだんです。

生温かい息遣いが迫って来たなって思ったら、もう嚙まれてました。
血がじゅわッてにじみ出て、それをピチャピチャ舌を鳴らして舐めるんです。
つけられたのはかすり傷でした。さいしょはそれで済ませてくれるつもりだったみたいです。
でもそれだけじゃご満足いかないらしくて――やっぱりそのあとすぐに、強く嚙まれちゃったんです。

ワンピースに血が撥ねました。でもそれどころじゃなかったです。
痛たぁーーいっ!って叫んじゃいました。
主人にも聞こえたみたいで――気が気じゃなかったって後で言われましたけど・・・
でも、痛いのは最初だけでした。
この人、毒素を持っていて、痛みを麻痺させちゃうんです。
だからあたしはその毒素を植えつけられちゃって・・・
気がついたら、立ちすくんだまま、強く抱きすくめられた腕の中でした。
牙は根元まで突き刺さっていて、素肌に唇を這わされていました。
それが始終うごめくんです。ヒルみたいに。
イヤラシイって思ったけど、もちろんそんなこと間違っても言えやしない。
満足して、とにかく早く満足してあたしを放してって思ったけど。
犯すところまでいくっていうから、「早くして」って意味が違うことになってしまう・・・(笑)
とにかくもう、どうすることもできないまま、ひたすら血を吸い取られていったんですよ。
ドラキュラ映画のヒロインみたいで、きみはとても素敵だったって言ってくれるけど。
絶対、オロオロしてたと思うんです。

ひとしきり血を吸い上げられちゃうと、もう貧血起こしちゃって・・・
すぐにそれと察して、ソファに寝かせてくれました。
居心地の良いソファにゆったりと横たえられて、姿勢が楽になったと思ったのはつかの間で・・・
このひと、あたしの足許ににじり寄っていったんです。
エエ、お目当てはあたしの穿いているこげ茶のストッキングでした。

「ストッキングはけちらないで、新しくて高いやつ奮発して穿いて行きなさいよ。
 もしも持ち合わせがなかったら、あたしが貸してあげてもいい。
 当日着ていく服ともども、花嫁衣裳みたいなものなんだからね」
――って、お隣の奥さんが教えてくれました。
花嫁衣裳か。たしかに、あのあとすぐに「花嫁」にされちゃいましたからね・・・
なので、持っていた未使用のストッキングで、いちばん値の張るやつを、がんばって穿いて行ったんです。エエ、それこそ「奮発」して。

タカトさんたら、あたしのストッキングのうえから唇をジワッと吸いつけてきて、
たんねんに、たんねんに、糸の一本一本まで舐め分けてるのかとおもうくらいしつっこく、
あたしの脚を舐め抜いたんです。
薄地のナイロン生地のすき間から、タカトさんのよだれが素肌の奥深くまでしみ込んでくるような感じがして――
あー、またなにかを植えつけられちゃうなって感じました。
でももう、どうしようもないじゃないですか。
けだものの獲物になって血肉を貪り尽くされちゃう餌食なんですから・・・
ふだんだったら、男のひとにストッキングをいたぶられるなんて侮辱以外のものではないはずなのに、
ウットリしながらびしょ濡れになるまで舐めさせてあげちゃってました。

そのあとね、こんどは牙をググっと圧しつけてきて・・・
あーと思っているあいだに、ストッキング咬み破られながら再度の吸血です。
しつこかったですね。本当に・・・
片脚が済んだら、もう片方も――ええ、首すじのときよりもたっぷり吸い取られたんじゃなかったかしら。
でもあたし、このころになるともう、なんだかこの人に血を味わわれるのが嬉しくなっちゃってて・・・
子どものころ、健康優良児だったんです。体力にも自信ありました。
だから、あたしが楽しませてあげることのできる血の量をありったけ、彼に捧げちゃおうって思うようになっていたの。
ゴクゴクと喉を鳴らしてワイルドにむさぼられていたのに、ちっとも怖くなんかないんですよ。エエ、強がりとかじゃなくって。
貧血になって徐々に血の気が引いていくのがありありとわかるんだけど、
若くて健康なあたしの血で、身体を暖めて。いっぱい飲んで、味も楽しんじゃって・・・って、心の中で言いつづけていました。

気がつくと、彼の顔がすぐ目の前にあって――
その眼がとろんとして、あたしの顔を見入っているんです。
ああ、わかった。わかったわ――あたしが欲しいのね?あたしに愛してもらいたいのね?ってわかったから。
もうそのころには穿いていたパンストは破れ堕ちて、ひざ小僧の下までずり降ろされちゃってたんだけど、
自分からショーツを脱いで、どうぞ・・・って、囁いちゃっていました。

強かったですね。強烈でした。主人の何倍も――
ええ、股間から身体の奥まで突き刺されるような衝撃でした。
ジワッと滲んだ暖かい感触――あれ精液だったんですね。それがジワジワと身体のなかに拡がっていって――
あとからあとから、ドクドクとそそぎ込まれてきたんです。
受け留めなきゃ、それがあたしの務めなんだからって思って、
タカトさんの背中に腕を回して、身体をひとつにくっつき合わせて、
ついていくのが大変だったけど・・・激しい腰の動きに合わせて、腰を振ってお応えしました。

夢中だったのですぐにはわからなかったけど、主人ったら、あたしが腰を使ってるの視ていたんですよ。
気になってしょうがなくって、ドアを開けたら施錠されていたはずなのにいつの間にか開いていて・・・って言っていました。
あとで聞いたら、タカトさんも、さいしょに犯すところは主人に見せたかったらしいんです。
この女はわしのモノだって、宣言したかったんじゃないかしら。
あたしも・・・主人の視線がくすぐったくって。
ふだんのセックスよりもずっとずっと、舞い上がっちゃっていましたね。ああ恥ずかしい――


取材を受けている間、健斗さんはカオリさんのことを眩し気に見つめるばかりだった。
その様子は、心ならずも吸血鬼に肌身を許した自分の妻が悦びに目ざめてしまったことに、むしろ満足さえ感じているかのようだった。
カオリさんの談話を耳にしながらタカトさんが、さっき咬みついた痕をなん度も舐めまわして行くのも、咎めようとはしなかった。
「あの日あの時からですね、ボクもタカトさんにシンパシーみたいなものを感じるようになったんです。
 カオリのことを気に入ってくれているようでしたから、それがむしょうに嬉しくて――
 せっかく最愛の奥さんを抱かせちゃったんです。やっぱり気に入ってもらえたほうが良いじゃないですか。
 数えていたんだけど、カオリは七回も愛されたんですよ。
 生身の人間であそこまで深くなん度も女のひとを愛することはできないってくらいにです。
 彼女、目いっぱい犯され抜いて、その後白目を剥いてぶっ倒れちゃったんです。
 気絶したカオリのことを抱き支えながら、彼いうんです。今夜はカオリのことを独り占めさせてほしい・・・って。
 もちろん妻がもうぼくのところに戻ってこないのでは?という心配はありました。
 でも、奪うことはしないって約束してくれたのを信じることにしたんです。
 約束通り、タカトさんはカオリを解放してくれました。
 翌朝いちばんに彼女が玄関先に現れたのを見て、うれし泣きしてしまいましたね。
 その後はお昼までぶっ通しです。彼女はあんなに疲れた日はなかったって言っていますが、
 はっきり言ってボクとまる一日過ごすよりも、彼のところでひと晩過ごす方がずっと、重労働ですよ。(笑)
 それからはボクも彼との約束を守って、妻を彼の恋人として捧げたんです。
 最愛の妻の貞操を汚奪ってくれたのが彼で、良かったと思っています。汚されがいがありましたね。
 今では完全に家内は彼の奴隷ですけれど・・・後悔はないです。
 いまでは周囲には、ボクのほうからお願いして、家内を襲ってもらったと話してあります・・・」

彼の言葉はまだ終わらなかったが、インタビューを終えたタカトさんは再び、カオリさんににじり寄っていた。
夫の健斗さんはすっかり心得ていて、「ああまたですね」と言いながら、カオリさんのロングスカートのすそをたくし上げてやっている。
あらわになった健康そうな脚にタカトさんがしゃぶりつき、
それこそ「糸の一本一本まで味わい抜くほどに」彼女の気に入りのこげ茶色のストッキングを辱めてゆく。
強く圧しつけられた唇の下でストッキングが裂け、吸血の音が重なるにつれてその裂け目を拡げ、他愛なく剥がれ落ちていった。

最後にはタカトさんが、手近な草むらにカオリさんを引きずり込んで、道行く人の目も憚らずにブラウスを剝ぎ取って、
吊り紐を断ち切られたブラジャーからこぼれ出た真珠色の乳房をまさぐり抜いてゆくのを、
健斗さんはいつまでも満足げな笑みを絶やさずに見つめているのだった。

彼氏にバラした、処女喪失。

2023年02月19日(Sun) 01:33:10

浩美には、彼氏がいる。
同じクラスのけんじは、自他ともに認める関係だった。
お互い初体験がまだなのが、不思議なくらいだった。
原因はどちらかというと、けんじの側にある。
浩美がなん度も大胆になるたびごとに、彼は尻込みしてしまうのだ。
まだそこまでの責任は取れないし。
それが彼の言い草だった。
身体の奥深くの疼きを覚えはじめた若い肉体をもて多少あましながらも、それでほ浩美は満足だった。
けんじが浩美のことを大切に考えている証しだと思ったからだ。

周りの女子たちは、経験者がちらほらしていた。
それ以上に、街に横行し始めた吸血鬼の毒牙にかかるものが増えてきた。
身体を許した彼氏の影響力もさることながら、
吸血鬼の支配力は、それを軽く上回った。
浩美の親友の環(たまき)は、彼氏がいるのに、吸血鬼を相手に処女を捨てていた。
おかげで、彼氏とヤルときには大胆に振る舞うことができたと、あとから聞かされた。
相手が吸血鬼じゃ、どうしようもないな。
恋人の初めての男になり損ねた彼氏は、かなり残念がっていたけれど。
環の身体を自由にできる特権を与えられたことに、より夢中になっていて。
彼女のしたことを裏切り行為とは受け取っていないようすだった。
でもねぇ、と!環は声をひそめる。
あいつに、ヘンなこと、頼まれちゃっと。
なに?
気乗りしない口調で相槌のように返すと、環は聞いて頂戴よ度言わんばかりに、なおも声をひそめてくる。

お前の処女をもらえないのなら、せめてお前がなくすところを視たかった。
今度、再現してくれよ。

ええ〜!?
冷めた性格の浩美もさすがに声をあげてしまい、
シッ!と親友にたしなめられる始末だった。
それで、、、まさかリクエストに応じたの??
環は少しのあいだ口ごもっていたが、ためらいながらも頷き返してくる。
えー!あり得ない!!
あのときは、あわてて口を抑えたものだが。。

その浩美が、公然の彼氏を差し置いて、貴之とヤッてしまった――

血を吸われていたという特殊な状況――とは言いながら。
あのとき浩美は冷静だったし、相手のことを叱ったり詰ったりさえしていた。
そのいっぽうで、相手の好みに合わせて、脛までのハイソックスをキッチリと引き伸ばして、くまなく舐め尽くさせさえしてしまっていた。
いちど咬まれた首すじにキスも許したし、自分の血の着いた唇と唇を重ね合わせて、血の香りを嗅ぎながらのディープ・キッスにまで応じてしまった。
ショーツを脱いで意思表示をしたのも、自分のほうからだった。
たかがハイソックスの丈に目をつけてきただけの男にそこまでさせて、
さいごにはキッチリと、火照りを帯びて逆立った一物を、自分でも届かない秘奥まで刺し込まれてしまったのだ。

けんじがいうように、「責任」の問題をうんぬんするのなら、
彼女は越えてはいけない一線を、あっさり飛び越えてしまったことになる。
もしもけんじのお嫁さんになるとしたら――これはやばいわよね、、、?

ちょっと付き合って。
放課後貴之をつかまえて、浩美はぶっきら棒にいった。
けじめ、つけてくれるわよね?
貴之は、頷くしかなかった。
けんじは彼にとっても、仲の良いクラスメートだったから。

貴之を伴ってきた恋人にふしんそうな目を向けるいとまもなく――
あたし、この人に血を吸われてるから。
貴之に対してぶっきら棒な彼女は、どうやら恋人に向かってもそうらしい。
「う・・・!?」
なんと返事をして良いのか見当がつかなかったらしく、けんじは喉にものでも詰まらせたようななま返事をした。
「だれかに噛まれたのは、わかるって」
睨むように迫ってくる浩美にたじたじとなったのか、窮したように彼はいった。
たしかに、お気に入りのハイソックスは丈足らずで、咬まれた痕のふたつの赤黒い斑点は、まる見えになっていた。
それを浩美は臆面もなく、だれの目にも明らかに、くっきりと外気に曝していた。
まるで見なさいよと誇示するばかりに――

「でも、相手が貴之とはな・・・」
男ふたりは困ったように顔を見合わせる。
「なん度も咬まれてるのは見て分かったし、気の強い浩美のことだから自分の意思でそうさせてるのは察しがついたけどさ。。」
浩美はなおも、挑発するように告りつづける。
「咬まれたさいしょの晩にさ、もう犯されちゃった。
 抵抗しても逃れられないはずだけど。
 この人ったら意気地なしだから、本気で嫌がったらきっと、逃げ出せたと思う。
 でも、あたしのほうからパンツ脱いだの。
 なぜだかわかる?
 あんなミステリアスな迫りかたをされて、そのまま何もなしに終わるなんて、つまらないと思ったの。
 生き血をたっぷりと啜り取られて、あたしの本音や心の底のことまで、見通されたような気分になって。
 生命の欠片を口に含まれるって、とても濃いつながりだって思えちゃって。
 けんじには、悪いことしたと思ってる。
 でもね、したことはあんまり、後悔してないかな・・・」
浩美の一方的な告白に、けんじは彫像のように立ち尽くしていた。
「あの・・・その・・・」
ヘドモドしている彼を引き立てるように、浩美はいった。
「訊きたいことわかってるんだ。
 感じちゃったのか?イカサレちゃったのか?っていうんだよね??」
「あ・・・うん」
けんじはみっともなく頭を垂れながら、肯定している。
「さいしょは血も出たし、痛かっただけ。
 ヤれて満足としか、思えなかった。
 でもね、なん度も咬まれて、なんどもヤられているあいだに、キモチよくなった。
 イッちゃうようになった」
自慢たっぷりの自分の彼女から目を離すと、けんじは貴之を見た。 
「最近オレと目を合わせないのは、そのせいか?」
「そのせいだ」
棒読み口調で、貴之はこたえる。
「さすがに悪りぃなと思ってさ――でもやめられないんだ」
「お前も、浩美が好いってことだな?」
「浩美の身体に惚れちまった」
貴之はいった。
どちらもボソボソと、暗くて低い声色だった。浩美が噴き出してしまうくらいに。
気勢をそがれたふたりは、起こった事実を確かめ合うばかり。
「で・・・?」
「で・・・」
果ては重たい沈黙で、会話さえ途切れてしまった。
「これじゃ喧嘩にならないわね」
がっかりしたように、まず浩美が重たい沈黙を破った。
「喧嘩させる気だったのかよ??」
男ふたりは、口を揃えて声をあげた。
「たしかに――もしも浩美をオレから奪うつもりなら、相手になるけど。。」
けんじが初めて、しっかりとした顔つきになった。
「いや、そんなつもりはない」
「つもりはないって――」
「浩美が嫁に行くのは、俺のところじゃなくてお前のところだろ?」
「それはそうだけど――それでいいのか?」
「俺はそれが良いと思ってる」
「オレの女に手を出すなって言うべきなんだろうな、ここは一応」
いかにも気乗りのしない口調でけんじが口を開くと、
「俺がいさぎよく手を引くよって、言うべきなんだろうけどな、ここはやっぱり」
貴之も気の抜けたようなあいさつを返すばかり。
「手を出しても構わないって言ってくれないか」
「それはさすがに、言えないな」
「でも俺はたぶん、ガマンできないぜ?」
「できる限り、ガマンしてくれないか?」
「できる限りはもちろん、ガマンするつもりだけどな」
「できない場合もあると・・・?」
「それはお互い、聞きっこなし・・・」
あ、駄目!と、浩美が割って入った。
「あたしがだれとどう付き合うかは、あたしが決めるから」
ふたりは、げっそりとした顔つきになった。

「けんじのための純潔――奪(と)られちゃったときのこと再現してあげようか?」
「あ、ウン」
思わず答えてしまったあとで、いくら両手で口をふさいでも、もう遅い。
あっという間に貴之に、がんじがらめに縛られてしまった。
くしくもそこは、彼女が初体験を遂げた教室だった。
そう――二人は自分のクラスの教室で結ばれたのだ。
「こうだったよね?」
「こんなふうだったな」
浩美が不意打ちに教室の壁に抑えつけられるところ。
目も止まらぬ速さで首すじを咥えられ、咬まれてしまったところ。
ブラウスにほとばしった血が、バラの花が咲くように拡がるところまで、けんじの前で忠実に再現される。
腕を突っ張って抵抗したけれども、失血でだんだんと力が抜けて、とうとうもう一度うなじを咬まれ、ゴクゴクとやられてしまったところ。
ハイソックスの口ゴムの少し上あたりを、すはだに唇を直接あてて咬みついて、
静かに喉を鳴らして啜り取ってゆくところ。
ふたりが折り重なって、勁(つよ)く逆立ったぺ〇スが制服のスカートの奥に忍び込んでいって、
迫ってくる逞しい胸をわが身から隔てようと、彼女は腕を突っ張り、唾を吐きかけてまで抗いつづけて、
そしてさいごに、
ずぶり――と突き刺されてしまって、声も出ないほど感じていって――。

こんなふうだったんだ・・・
こんなふうだったのよ・・・
にんまりと笑んだ浩美の唇を、貴之のそれがふたたび塞いだ。
狎れあったディープ・キッスに熱中するふたりを、けんじはいつまでも見守りつづけて、
そしてその夜ひと晩、彼の未来の花嫁がよがり声をあげつづけるのを、聞き通していた。


披露宴の最上段に。
しゃちこばったけんじと取り澄ました浩美とが、肩を並べている。
「ほんとうは。未練があったんじゃないの?」
背後からヒカルが、毒を含んだ囁きを注いできた。
「いや、これで良かったんだ」
貴之は、振り返りもせずにこたえた。
あの純白のウェディングドレスの裏側を、自分の淫らな粘液でなん度も染めたことも、
いまでは楽しい、一コマの夢――。
「落ち着いたらまた、連絡するわね」
とりあえずは彼女の、そんなささやきをアテにしてみよう。
そんなときにはたぶん、けんじはわざと出張に出てしまうのだろう。
それとも案外、あの夜みたいに、どこかの物陰から、二人が熱い吐息を交わし合うところを、のぞき見してしまうのだろうか・・・?


あとがき

いちおう前作とともに、連作ものです。
発想のきっかけは・・・
たまたま行きずりに、3人連れの女子高生を見かけましてね。
うち2人はタイツ、でも真ん中の子がこの季節に、ブラウス1枚、ミニの紺のスカートの下、黒のオーバーニーソックスを履いていたんです。
インパクトありましたね・・・

餌食になった、3人の女子生徒。

2023年02月19日(Sun) 00:54:24

紺のスカートに白のブラウスの制服を着た女子生徒が3人、うつ伏せになって気絶している。
それぞれの足許には1人ずつ、吸血鬼の男がとりついていて、彼女たちのふくらはぎに咬みつき血を吸っていた。
まん中の男が真っ先に頭を上げて、隣の男を見下ろしている。
「ホントに、オーバーニーソックスが好きなんだなお前」
声をかけたのは、抑えつけた脚の主たちとさほど変わらない年ごろの青年だった。
吸い取ったばかりの血を、まだ口許にあやしている。
揶揄を受けた男もまた、顔をあげた。
「うるせェな、放っといてくれよ」
言葉は尖っていたが、口調はそれに不似合いなくらい照れくさそうだ。
言い返すその口許も、女子生徒の血で染まっている。
ふたりとも旺盛な食欲を発揮したのだろうか、彼らの相手を強いられた少女は、とっくに白目を剝いている。
言い返した男の餌食になった女子生徒は、太ももを大胆にむき出したミニ丈の濃紺のプリーツスカートの下、
恰好の良い脚を黒のオーバーニーソックスで覆っている。
だらりと伸びた脚には、ひざのあたりまでずり落ちかけた黒のオーバーニーソックスが、ふしだらに弛んで皺くちゃになっていた。
ふくらはぎには咬み痕がふたつ、赤黒い血のりに濡れていた。
「香織のときも、そうだった。黒のオーバーニーソックスを履いていた」
さいしょに声をかけた青年は、そういって口をとがらせる。
「お前の妹だとわかりながら・・・ついムラムラ来ちまったんだ」
許せと言うように下げた相方の目線に軽く応えながら、青年は続けた。
「ま――俺も似たようなものだからな」
緩めた口許からしたたたる血が、持ち主の履いている紺のハイソックスを濡らした。
彼女のハイソックスは少し寸足らずで、脛の途中までの丈だった。
口ゴムの少し上のあたり、たっぷりとしたふくらはぎが覗いていて、そのまん中にはやはり咬み痕がふたつ、綺麗に付けられている。
「ご立派なキスマークじゃん」
オーバーニーソックスを咬み破った青年が、こんどは香織の兄を冷やかす番だった。
「お目当ての浩美ちゃんをモノにできて、よござんしたね。貴之くん」
貴之と呼ばれた青年は、照れくさそうに笑い返した。

それよりさ、と、彼は続けた。
「オイ、親父!まだやってんのかよ。ちっとは手かげんしろよな!?」
3人のなかでいちばん右側で黙りこくっていた男は、やり合う若者二人を横っ面で受け流したまま、自分の獲物のふくらはぎを吸い続けていた。
相手を強いられていた少女はもちろん、とうに白目を剝いている。
息子くらいの青年にぞんざいな言葉を投げつけられて、
さっきからしつように餌食を漁っていた男もようやく、白髪交じりの頭をあげた。
「すまねェこってす、ちいっと吸い過ぎた――」
男のおとがいの下、ひざ下までピッチリと引き伸ばされていた紺のハイソックスはわずかにずり落ち、咬み破られた一角がかすかに血のりを光らせている。
「ひとの妹つかまえて、よくやるよまったく!」
オーバーニーソックス好きな彼はどうやら、この男のために気前よく、自分の妹を襲わせたらしい。
「ヒカルお坊ちゃん、輝美子お嬢様を喰わせていただけるなんて、一生恩に着ますぜ」
そう言いながら、郷助と名乗るその年配の吸血鬼は、輝美子お嬢様から吸い取った血を拳で無造作に拭い取った。
「お前が妹に目をつけていたのは、だいぶ前から分かってた。
 うまいことたらし込んじゃえよ?
 あいつの気が向いたら、また高嶺の花の輝美子お嬢様の処女の生き血にありつけるかもね」
ヒカルは初めて、白い歯をみせた。
女子生徒を襲って生き血を漁り摂るという惨劇のあととは、思えないくらい、爽やかな笑みだった。

「血を吸う日常も、悪くないだろ?」
ヒカルは貴之に言った。
「そうだな、こういう身体にしてくれて、感謝するよ」
貴之は、素直にこたえた。
「最初はびっくりしたし、暴れたけどな」
しょうがないさ、と、ヒカルはいった。
「俺も、血を一滴残らず吸い取られたときは、死ぬほど暴れた」
ヒカルの血を吸った張本人は、どうやら彼の目線の向こうにいる年配男らしい。
「俺の血を旨かったって言うから、許してやったんだ」
ヒカルお坊ちゃまの独白を耳にして、郷助はくすぐったそうに微笑んだ。

ヒカルの父は、開業医だった。
郷助はヒカルの家の使用人で、ふとしたことから吸血鬼になって、主人の息子を襲ったらしい。
おあいこさ、と、ヒカルは苦笑いした。
その前に彼は、悪友の貴之と語らって郷助の妻を襲い、それぞれ童貞を卒業していたのだ。
それはエエです、と、郷助はいった。
「女房の仇討ちなんて殊勝なことを考えた訳じゃありません。
 むしろ女房がお二人に女の手ほどきをさせていただけたのを、ありがたく思ってるくらいですから――」
そう、、郷助は自分の妻が襲われていると知りながら、家の鍵を中から施錠して、彼らのやりやすいように手助けをしていた。
そして、自分の妻がパンストを片方だけ脱がされた脚をばたつかせ、半泣きになりながらスカートをたくしあげられてたくし上げられてゆくのを、舌なめずりをして覗き続けたのだ。
彼が吸血鬼に咬まれたのは、そのすぐ後のことだった。
「あのあと女房は吸血鬼にもやられちまったけど――お坊ちゃんがたお二人のおかげで、覚悟がついたような気がしたもんです」

郷助が身体じゅうの血を抜かれた翌日のこと。
ヒカルが学校から戻ってきたとき、家に誰もいなかったのが「ご縁」の始まりだった。
首すじを咬まれて血を吸われると、
「うちで真っ先に吸血鬼になるのが、郷助とはね」
と言いながら、気の済むまで吸血に応じていったのだ。
吸血鬼のはびこり始めたこの街で、いつまでも逃げおおせることができるとは、ヒカルにはとても思えずにいた。
むしろ、自分の血を親しいものに吸われることに、安堵さえ覚えていた。

失血でぼうっとなりその場に倒れると、半ズボンの下肢に抱きつかれ、紺のハイソックスを咬み破られながら、さらに血を吸われた。
ハイソックスが好きなのかい?と問うと、郷助は正直に頷いた。
それなら、好きなようにさせてやるよ――彼は郷助が楽しめるようにと、ずり落ちかけていたハイソックスをひざ小僧の下までギュッと引き伸ばしてやった。
飢えていた郷助がヒカルの血を吸い終えたとき、彼の体内には人間として生き続けるために必要な量の血液は喪われていた。
こうしてヒカルは、半吸血鬼になった。
二人は、縄張りを線引することで争いを避け、周囲の男女の血を手分けして啜った。
主家の一家にほのかな憧れを抱いていた郷助は、ヒカルの両親を。
ヒカルは郷助の妻に初めて自分の牙を試して、この使用人の善良な妻を首尾よくその奴隷とした。
郷助はその見返りに、院長夫人をその夫の目の前で制圧して、主家の夫婦をその支配下に置いた。

院長夫人のブラウスには、吸い取られた血潮が撥ねて華やかなコサアジュを形作り、
はしたなくも夫の前で、理性を喪失した。
着衣を引き裂かれ剥ぎ取られてしまうと、見栄もプライドもかなぐり捨てて、
日ごろ嗜んでいるガーター・ストッキングの脚をくねらせながら、使用人の強引な欲望に応えていった。
郷助は片方だけ脱がせたストッキングを指でいやらしく弄びながら、
院長夫人の身体の奥に、その夫の目の前で、劣情に滾る白濁した粘液を吐き散らしていった――

ヒカルがつぎに狙ったのが、貴之の妹の香織だった。
香織は泣きじゃくりながら彼のお目当てのオーバーニーソックスを咬まれていったが、
いまでは兄のこの悪友の誘いを受けるときには、ひざ上最低でも15cmのミニスカートに黒や紺、果ては柄物のオーバーニーソックスを見せびらかすように脚にまとい、穿き替えまで用意をしてデートに出かける有様だった。
悪友に妹を寝取られた貴之は心平かではなかったが、
その実ヒカルの牙で、香織よりも先に首すじに咬み痕を付けられてしまい、吸血される悦びにも目ざめてしまっていた。
だから、悪友が妹を弄ぶことを、正面切って咎めることはなかった。
いまではヒカルのために、貴之の母親までもが、年甲斐もなくオーバーニーソックスを脚に通して、
娘の貧血を補うために、淫らなデートに日常的に応じる有様だった。
もともとヒカルが貴之の妹を襲ったのは、たまたま履いていたオーバーニーソックスに刺激を受けただけのことなので、
早晩彼が妹を棄てるのは、目に見えていた。
けれどもきっと妹は、教え込まれた経験を身に秘めながら、
そ知らぬ顔をして婿探しをするに違いない――と、貴之は見抜いてしまっている。


そんな3人が寄り集まれば、よからぬことが起きるのは自明のこと。
教師たちは自分たちの責任逃れに躍起となっていた。
生徒を襲うならせめて、自分たちが退校した後にしてほしいとばかりに、
夜も出入りをするのに必要な鍵を、わざと「紛失」してくれたのだった。
鍵を「紛失」をした教諭も、それをそそのかしたはげ頭の教頭も、
受け持ちのクラスや顧問をしている部に所属する教え娘に手を出して、
彼らに率先して、冒すべからざるはずの教室を、淫らな濡れ場にすり替えてしまうのだった。

冒頭の、3人の乙女が犠牲となった場面は、まさにそんな日常の出来事だった。

ヒカルはオーバーニーソックスの少女を連れて、教室から出ていった。
血の気の戻った少女はすっかり洗脳されて、何ごともヒカルの言うままだった。
もちろんヒカルは、この娘を恋人にするつもりなど、さらさらない。
茶髪のロングヘアをなびかせて少女が向かうべつの教室には、悪事の片棒を担いだ教頭が待ち構えている。
この女子生徒の処女は、夜の教室を自由に使用する便宜をはかってもらった御礼にする約束になっているはずだ。
そんなことはいまの彼女の知る由もないだろう。
美男のヒカルに夢中になるはずが、似ても似つかないはげ頭の教頭の、脂ぎった卑猥な唇をあてがわれるとは、まだ夢にも思っていないはずだ。

郷助が餌食にしたのは、ヒカルの妹の輝美子だった。
彼女は羞恥に頬を染めて、弛み落ちたハイソックスをおずおずとした手つきで引き伸ばしていった。
よだれまみれにされて咬み破られると知りながら、父親ほどの年配男に当たった不運を嘆くでもなく、相手を満足させようとけなげに振る舞っているのだ。
さすがに貴之たちと同じ教室でことに及ぶのは羞ずかしいらしく、これも教室から消えていった。
吸血初体験の今夜、処女までも喪うと――きっとヒカルも想像していたに違いない。


「ひどいよね、まったく・・・」
貴之と二人きりになると、彼の相手をした女子生徒はいった。
「夜遊びしようって言うから、何かと思った。
 制服にハイソックスで来いって言うから、変態なんだと思った。
 首すじを咬まれて、初めて分かった。
 怖い世界に踏み込んじゃったって。
 あたしの血、美味しかった・・・?」
貴之はいった。
「前から思っていたんだ。
 ハイソのすぐ上のあたりをかんでみたいって。
 きみのハイソの丈がちょうど目を惹いたのさ」
女子生徒は不平そうに、口を尖らせる。
「ハイソの丈で、あたしを選んだの?」
「そういうことだね」
「ひどい・・・変態!」
少女は罵ったが、声に力はなかった。
「貧血だよ、もう。。」
くりごとのように少女は呟いた。
「それくらい旨かったってことさ、きみの血は」
貴之はいった。
少女から吸い取ったうら若い血の芳香は、まだ喉の奥に澱んでいる。
そしてその活き活きとめぐる血液は、いま貴之の血管を妖しく浸し、皮膚を潤しはじめている。
「美味しいんだったら、まあいぃか。許しちゃおう」
少女はまた呟いた。そして貴之に向って、
「こっちの脚も、噛んでいいよ。
 どうせヤだって言っても咬みつくつもりなんだろうけど」
そういって、まだ噛まれてないほうの脚も、差し向けてきた。
丈足らずのハイソックスを、キッチリと引き伸ばして。
男は制服姿の女子生徒の足許に、かがみ込んだ。
教室の窓から差し込む薄明かりに浮びあがった影法師が、ひとつになった。
もつれ合った影法師は姿勢を崩し、平らになり、激しくうごめき、ぎごちなくもじもじとした身じろぎをくり返した。

「彼氏いるんだよ、あたし」
少女は弛み落ちたハイソックスを、また引きあげた。
太ももを伝い落ちる初めての紅いしずくが、口ゴムを浸すのもためらわずに。
「生き血も旨かった。あそこも、美味しかった」
「もう!」
男の言い草に、女は本気でその背中をどやしつけた。

女子学生は、太っちょが良い。

2023年02月04日(Sat) 21:23:32

女子学生を襲うとしたら。
俺は躊躇なく、太っちょのコを選ぶ。
飢えた吸血鬼の、悲しい本能で。
獲られる血の量は、体重に正比例すると識っているから。。
いつも好んで咬みつくことにしている、紺のハイソックスのふくらはぎだって、肉づきのあるほうが咬みごたえがあるというものだ。
きょうはどのコのハイソックスを咬み破って、べそを掻かせてやろうか――?

そんなワケで。
近所に越してきた、なにも知らなさそうなご一家の長女に、オレは狙いを定めたのだ。
お人好しなご主人に接近して、言葉巧みに信用されて。
娘さんの勉強見てあげますよと持ちかけた。
場所はもちろん、オレの家。
色々な本を持っていて、教えるのに都合が良いから、、というのが、娘を招き入れるためのもっともらしい口実。
邸のなかで襲ってしまえば、キャーとかワーとこ騒ぎたてても、もはやまんまとこちらのもの。
あとは制服のブラウス濡らしながら、クイクイ血を啜り抜いて、夢中にしてしまうのは造作もないのだ。
お目当てのハイソックス?
なぁに、向こうから咬んで破って・・・って、頼み込んでくるものさ。

智恵美というこの娘は、いかにも地味でモッサリさんな太っちょで。
貫禄たっぷりのウエストに、紺とグリーンのチェック柄のプリーツスカートを膝まで垂らし、
黒いだけが取り柄の引っ詰めた三つ編みを肩先に揺らして、
色気のかけらも感じさせない黒縁メガネのなか、潔癖そうな二重まぶたの丸い瞳でこちらを注意深く窺ってくる。
父親よりもよほど、手強そうにみえた。
けれども、その豊かな身体には、健康な血液がたっぷりと、脈打っている。
頼もしい体格の輪郭を通して、血潮の気配がありありと伝わってきて――オレは痺れてしまいそうになっていた。

ピンポンを鳴らして佇む足許は、案に相違して黒のタイツをしなやかに履きこなし、ふっくらと豊かなふくらはぎをしていた。
この黑タイツを破かれながら、べそを掻き掻き吸血されてしまうともつゆ知らず、娘は出されたスリッパを履いたつま先を、冷え込んだフローリングの上にすべらせてくる。

牙をむき出して立ちはだかると、さすがに恐怖に眉をあげ、引きつった顔をして後じさりしてゆく。
さあ追い詰めた!
あとは無理無体に抱きすくめて、首すじを咬んでしまえばこっちのもの・・・と思ったら。
智恵美はしんけんな顔つきで、血相変えてまくし立てた。
 吸血鬼だなんて、聞いていません!
 私、勉強を教えてもらいに来たんです。
 人の血がお要りようなのはわかりました。
 でも、父か母と話してください。
 私がいきなり咬まれたら、父も母も悲しみます!
 お願いです、どうかそんなことしないでください!
自分の娘の生き血が欲しいとねだられて、どこの親が応じるものか。
オレは娘を横抱きにして、首すじを狙って強引に唇を吸いつけた。
やめて!お願い!よしてッ!
智恵美は懸命に身もだえをして、オレを拒もうとする。
本気で嘆き、悲しんでいた。
悲痛なすすり泣きをくり返す少女を、オレはお人好しにも抱きしめて、もう怖いことはしないからと、なだめすかしてしまっていた。

相手が吸血鬼だと分かっても、このコは感心にも、それ以上うろたえもしなかったし、逃げようともしなかった。
 約束どおり、お勉強は教えていただきます。
 でも、血を差し上げるのは、母に訊いてからにしてください。
オレは約束どおり娘に数学と古文を教えたあとで、
まだ涙目をしていり智恵美の手を引いて、彼女の家のインタホンを鳴らしていた。

お勉強はどうでした?と問う母親に、
 お母さま。
 この方、私の血が欲しいと仰るの。
 でも、両親の許可をもらってからにしてくださいとお願いしたら、血を吸わないで来てくれたの。
 ちゃんとお勉強も教えてくれたのよ。
 私、この小父さまなら信用できるから、血をあげても良いと思ってるの。
 お母さまも賛成してくれますか?
智恵美の母親は、表情を消して立ち尽くした。

賛成のわけはない。
お引取りください で、さよならだ。
オレはげんなりとして、この母娘のやり取りを眺めていた。
ところが母親は意外にも。
オレのことを穴があくほど見つめると。
娘のことを弄んだり、侮辱したりさないで扱ってくださいますか?と訊いてきた。
すかさずもちろんですとこたえると、この子が恥ずかしい想いをしないようになさってくださいねと言って、
娘の勉強部屋から背を向けた。

「よろしくお願いします」
お勉強を教わるとき同じように、娘は正座して、神妙に手をついた。
オレはわれ知らずその手を取って、手の甲に接吻していた。
貴婦人・・・みたいですね。
娘は羞じらった。
「タイツを破りたいって仰ったわね。良いですよ」
差し伸べられた脚は、健康そうにピチピチとした生気が、黒タイツを通して伝わってきた。
オレは娘の好意に甘え切って――少女の履いている黒タイツをビリビリと破りながら、吸血に耽っていった。

ドアの向こうから。
息をひそめて覗き込んでくる者がいた。
いうまでもない、彼女の母親だった。
娘の危難を気遣って中の様子を窺っていたのに、
まな娘に対するオレのあしらいに、興奮を感じてしまったらしい。

抱きすくめた首すじに食いついて、制服のブラウスを濡らしながら吸血したり。
三つ編みのおさげを片手で弄びながら、初めてのキスをディープに奪っていったり、
特にタイツを咬み破る情景は、彼女の胸に染みたらしい。
自分の穿いているストッキングを咬み破られたくて、うずうずしてしまいました――と、だいぶあとで言われた。

日を改めて訪問してきた娘は、オレの希望を容れて、今度は紺のハイソックスを履いていた。
「ハイソックスも破りたいんですか?」
娘は生真面目な問いを投げてくる。
「旨そうだからな。あんたの脚に履かれていると特に」
とこたえると、「いやらしいですね」と言いながら。
ふくらはぎ刺し込まれてくるオレの牙を、息を詰めて見おろしてきて。
あちこち食いつきたがるオレのために、脚の角度を変えながら何度も咬み破らせてくれた。

パンティを舐め抜いた挙句、処女を汚したいと囁いたとき。
娘は半泣きになって、「まだ早い」と抗議した。
そして、「お嫁さんにしてくれますか」と訊いてきた。
あいにく――彼女とオレとでは、時間軸の移ろいがまるで違っている。
それは無理だとこたえると、ちょっとだけ考えさせてくださいといって――
それでも、パンティは濡れ濡れに濡れそぼるまで、舐め尽くさせてくれていた。

母親のパンストを咬み破るときには、
ご主人よりも先に、娘のほうに相談した。
きみを裏切るわけじゃない、オレはきみたち家族が好きなのだ――と見え透いたことを囁くと。
「それ、ずるいですよね」と、けしからぬ意図をしっかりと見抜かれて、
「でも、相談してくれて嬉しかったです」
「パパを泣かせることはしないでくださいね」
といって、オレの邪まな想いを遂げるのを同意してくれていた。
ご主人はむしろ、オレと奥さんとのメイク・ラブに理解を示してくれた。
「この街に来た時から、家族の血を吸われるのはわかっていました。
 それが貴男であることは、わたしにとってそう不幸ではありません」
と、言い切ってくれたのだ。
「娘の血が気に入ったのだから、きっと家内もやられちゃうんだと観念してました。まさか事前に相談してくれるなんて」
といって、
「じゃあわたしは、気がつかないふりをしていますね」
と、妻を寝取られることに同意してくれた。
奥さんはたったのひと突きで、オレに完全に征服された。

母親までモノにされたと伝え聞いて。
娘はフクザツそうな顔をした。
「お父さんもお母さんも不潔だなんて、思わないでくれよな」
とオレがいうと、「それは大丈夫」と請け合ってくれた。
そして思いつめた顔をして、打ち明けてくれた。

こちらに来てから、クラスの男子と付き合うようになった。
もちろん、身体の関係なんてない。
でも、できれば彼と結婚したいと思っている。
セックス経験のある女の血を吸うときには、犯しちゃうって母から聞いたわ。
だとするといつか、わたしは彼を裏切ることになってしまうの――と。

すんなり伸びたふくらはぎは、しなやかな筋肉の輪郭を、ハイソックスで縁どっていた。
「これ、智恵美さんのハイソックスなんですよ」
少年は爽やかに笑いながら、半ズボンの下にまとったハイソックスを、オレのよだれに塗りたくられていた。
彼女、いつもこんなふうにされちゃってるんですね?
パンティも舐め抜くところまではお許しもらってるんだ。
オレが子供じみた自慢をすると。彼も「へえすごいな」と素直に感心する。
「小父さんは、智恵美さんの純潔を欲しいのですか」
失血に顔をかすかに蒼ざめさせながら、彼は訊いた。
「欲しいね」
「彼女もきっと、その気です」
少年は、嬉しいことを請け合ってくれた。
「お願いがあるんです。
 彼女の純潔をプレゼントしたいのです。
 あくまでボクからのプレゼントとして、小父さんに愉しませてあげたいんです。
 その代わり、そのようすを、ボクにも見せてくれませんか。
 ボク自身が得ることができなくても。
 彼女がだれかに純潔を捧げるところを目にすることができたなら――それは一生の記憶になると思うんです」
ふと見ると、彼の後ろに智恵美が控えていた。
顔を心持ち俯けて、唇を固く噛みしめているようすからは、彼女の意思は窺えない。
けれども、恋人の考えを指示しているのだということは、オレにもよくわかった。
「きょう――初めて小父さまに咬まれてからちょうど一年になるんです。
 獲物にした女を一年もモノにできないのは、小父さまの世界では残念なことだそうですね。
 なのでわたくしも、観念することにしました」

目を瞑った少女の胸もとから、赤いリボンを取り去って。
しずかにブラウスの胸をはだけ、ハイソックスに区切られたひざ小僧を崩していって。
このごろ好んで穿くようになったスケスケのパンティから透ける陰毛をなぞるようにして、舌で舐め抜き疼きをしみ込ませていって。
「できれば制服のまま」という少女の希望を容れて、それ以上は脱がさずに。
少年は自分の花嫁の純潔をムザムザと汚されてしまう歓びに打ち震えながら、いちぶしじゅうを見届けてゆく。
ギシギシときしむベッドのうえで、生真面目な少女の純潔は、シーツに散った赤いしずくとともに喪われていった。
「泣いちゃった」
べそを掻いた彼女の目許を拭うのは、もはやオレの役目ではない。
手を振って別れを告げる少年にお辞儀を返してゆくと、
「学校卒業しても、時々お勉強教えてくださいね」
彼女はそういって、イタズラっぽく笑みかけていった。

悔い改めた鬼畜。

2023年02月04日(Sat) 20:39:09

つ、鶴枝、、、っ!
樋沼謙司は悲痛な声をあげて、男ふたりの手ごめにされた妻を見た。
鶴枝の後ろから髪を掴まえて、
向かい合わせに立ちはだかるもうひとりに女の顔がよく見えるように、
力まかせにグイと頭を仰のけた。
ご婦人の髪をつかむものではない。
鶴枝の正面に立った未知の男は、仲間を冷静にたしなめた。
しかし、続けたひと言は、樋沼を戦慄させた。
礼儀を尽くせばきっとこの女(ひと)も、機嫌よくお前の恋人になってくれるだろう。

そういうつもりだったのか!?
樋沼は鶴枝を背後から羽交い絞めにしている男を見た。
彼は追川志乃生(しのぶ)といって、大学時代からの友人だった。
結婚式にも招んだから、鶴枝とも面識があった。
もともと鶴枝目当てに、ぼくたちを此処に招んだのか?
ぼくは・・・鶴枝をこんな目に遭わされるために、鶴枝を伴ってこの遠い街を訪問した というのだろうか??

追川が言われるままに鶴枝の髪から手を離すと、
未知の男はあとを引き取るように女の顎を捕まえて、おとがいをつよく仰のけた。
そして、女の首のつけ根を咥えると、がぶりと食いついた。
アアッ!
鶴枝が悲鳴をあげた。
男は女を抱き支えたまま、あふれ出る血潮をゴクゴクと飲みはじめた。
クリーム色のブラウスに、ボトボトと血潮が撥ね、むざんな斑点を不規則に散らした。
薄い唇から前歯をむき出しにして、鶴枝は苦痛に顔を歪めた。
しっかりと食いしばる前歯の白さが、樋沼の目に灼きついた。
ごくり・・・ごくり・・・
男が喉を鳴らすたびに、鶴枝は頬をヒクつかせ、眉を顰め顔色を翳らせてゆく。
鶴枝・・・鶴枝・・・
夫の呼ぶ声に応えるように、鶴枝は細っそりした掌に力を込めて、迫ってくる男の逞しい胸を弱々しく拒もうと試みたが、むだだった。
ふたりの男に挟まれながら、彼女は姿勢を屈め膝を崩し、なよなよとその場に尻もちを突いた。
支えろ。
吸血鬼に命じられるままに、追川が女の肩を支えた。
失血がこたえたのか、鶴枝は肩で息をしている。
吸血鬼は鶴枝のうす茶のスカートをひざまでたくし上げると、ふくらはぎに唇を吸いつけた。
肌色のストッキングがかすかに波打ちながら、恥知らずな唾液に塗りつぶされてゆく。
や、やめろ、、、
鶴枝の夫は、力なく呟いた。
うろたえ、悲嘆にくれる夫にはお構いなく、吸血鬼は再び牙をむき出して、鶴枝の脚に咬みついた。
パチパチと音をたてて、ストッキングが破れた。
鶴枝の下肢を彩る淡い色のストッキングは、卑猥な舌に舐め味わわれ、本来の用途にはない辱めを受けながら、破れ堕ちてゆく。
ストッキングを器用に剥ぎ降ろしてゆく吸血鬼の唇に卑猥な意図が籠められているのを夫は感じたが、もはやどうすることもできなかった。
鶴枝を手ごめにするまえに血をしたたかに吸い取られてしまった樋沼は、身じろぎひとつできなくなっていたのだ。

鶴枝の脚からストッキングを引きむしってしまうと、吸血鬼は彼女のうえに馬乗りになった。
追川は我が意を得たりとばかり吸血鬼の手助けをして、鶴枝の両肩を抑えつけた。
吸血鬼は鶴枝のブラウスを引き破り、スカートを腰までたくし上げた。
お願いだ、やめてくれぇ、、
哀れな夫のすすり泣き交じりの訴えも虚しく、吸血鬼はにんまりと満足そうな笑みを洩らすと、
逞しい筋肉に鎧われた臀部をスカートの奥の細腰に沈み込ませた。
片方だけストッキングに包んだ脚を切なげに足摺りさせながら、鶴枝は犯された。

下腹部にめり込まされた一物がしつように突き入れ引き抜かれ、彼女の奥底をくまなく汚した。
忘れられないセックスを体験させてやる。
吸血鬼のそんな意図が、
強く力を込めた猿臂やスリップ越しに突きつけられる筋骨隆々とした胸板、
それに重ね合わされた唇から容赦なく嗅がされる生々しくも熱い息遣いを通して、
鶴枝を圧倒した。

気がつけば、男の背中に腕をまわして、しがみついてしまっていた。
荒々しい吶喊に耐えかねてのこととはいえ、夫の目の前でほかの男に抱きついてしまったはしたなさに慄えながら、
男が無理強いに強いてくる激しい上下動に腰の動きを合せていった。
妻のふしだらを咎めるような夫の視線が、呪わしかった。
貴方が守ってくださらないからこんなことになったのよ、と言いたくなった。
しかし、屈強な男が二人、それも一人は吸血鬼という異常な状況で、夫になにができただろう?
彼にできたのは、妻に先だって瀕死になるほど吸血されて、仇敵に自分の妻を征服するための精力を与えたことだけだった。

お次は俺の番――
今度は追川が、鶴枝に迫った。
吸血鬼による凌辱に半死半生となった鶴枝のうえに、容赦のない追い打ちが加えられた。
同じく強姦であっても、相手が顔見知りであるほうが、罪の意識の生々しさは倍加する。
「こんどは人間どうし、仲良くしようぜ」
男はむごいことを言って、悔し気に歯噛みをする夫のまえで、その妻に迫った。
女はもうスカートしか身に着けていなかったが、豊かな胸を震わせながら、抱きつかれてゆく。
――貴男は主人のお友だちですよね?
ノーブルな細面に精いっぱいの批難を込めた眼差しを投げながらも、
もはや彼女の身体は彼女のものであって彼女のものではなかった。

お前たちは悪魔だ・・・
近寄ってきた吸血鬼に、樋沼は毒づいた。
ああ、確かにな。
吸血鬼はあっさりと、夫の悪罵を認めた。
よく視ておくんだ。
自分の女房がヤられるところなんて、めったに観られるもんじゃないぜ?
吸血鬼は夫の視線をその妻のほうへと促した。
呪うべき宴の坩堝にあって、鶴枝は理性を奪い尽くされて、夢中になっていた。
二人めの男と組んづほぐれつしながらも、突っ込まれた一物の齎す疼痛に耐えかねて、
柳眉を逆立て細っそりとした腰を激しい上下動にゆだね切ってしまっている。
交わし合う口づけは熱を帯び、ほどかれた黒髪を蛇のように上背に絡みつけながら、
本能のもまの吶喊を許すたび、その髪をユサユサと揺らしていた。
「あなた視ないで」という叫び声はいつしか、「あなた、視て視て!」に変わっていた。
大人しい彼女としては信じられないことに、大きいッ!と声をあげ、自分から暴漢に抱き着いてゆく。
慎ましく淑やかだった若妻は、夫の旧友を相手の交接に、耽り抜いてしまっていた。


どうだ、少しは気が晴れたか?
女を夫のまえに置き去りにすると、吸血鬼は男に訊いた。
ああ、かなりスッとした。
男は言下にそうこたえたが、すこし経ってから呟くように続けた。
あのだんなさんには、ちょっと悪いことしちまったな――

樋沼夫妻は、吸血鬼の主催する婚礼にそれとは知らずに招かれていた。
招いたのはほかならぬ追川で、彼自身もついふた月ほど前に、当地に住み着いたばかりだった。
移り住んでひと月と経たないうちに、男はこの土地の流儀を思い知る羽目になった。
夫婦ながら吸血された挙句、目の前で妻を犯されモノにされてしまったのだ。
さっき自分たちが犯したのと、まったく同じ経緯だった。
強気な追川は、自分一人がこのような目に遭うことに納得がいかなかった。
当地では妻を吸血鬼に差し出した男はべつの人妻を襲う権利を与えられたので、彼はさっそくその権利を行使することにした。
手ごろな知人夫婦を選んでこの街に呼び寄せて、コトに及ぶことを目論んだのだ。
自分の欲望を遂げるためには、経験者の協力が必要だった。
彼は自分の妻を愛人にしてしまった吸血鬼に、力添えを依頼した。
それが、さっきの一件だったのだ。

もともとあんたが悪いんだぞ。
追川は吸血鬼に、責任転嫁した。
もちろんだ。
吸血鬼はこたえた。
「あんたの奥さんは魅力的だからな、俺はひと目で、ヤるしかない、と思ったんだ。
 だがこれだけは、言わせてくれ。
 女を憎んだり侮辱するためのセックスは止めることだ。
 お前はあのひとを欲しくて、此処に招んだんだろう?
 あのひとが恋しいなら、友だちにそう言えば良い。
 ただ踏みにじるだけのために招んだのなら、さっさと家に帰してやれ。
 ついでに自首することを薦めるね」
そんな勝手な・・・
追川はそう言おうとして、止めた。
相手の言い草に一理を認めたのだ。
確かに妻は犯されて、やつのものになってしまった。
手段は邪悪だったが、妻に熱烈に恋したことは間違いない。
そして、今でも愛している妻は、彼のもとを去ることはなく、ともに暮らしている。
吸血鬼は追川夫人を犯しながらも、夫婦別れをしないよう配慮を重ねてくれていたのだ。
時折遂げられてしまう不倫を除けば、なに不平を交えることのできないほど、妻は自分に尽くしてくれていた・・・

「それに俺は、女を選ぶのと同じように、だんなのことも見極めたうえで手を出している」
吸血鬼はいった。
「自慢するな――」
追川は口を尖らせたが、徐々に落ち着きを取り戻していた。
どういうことだよ?
声を潜めて問う追川に、吸血鬼はこたえた。
「妻を襲われて興奮してしまいそうな、寛大なご主人をもつご婦人だけを狙っているのさ」
追川は、一言もなかった。
「あんたにも権利はあるから、いちどは付きあった。
 だが、身体目当てに女をいたぶるだけのセックスしか考えないのなら、俺は手を切るぜ」
吸血鬼は真顔だった。
「わ、わかった・・・」
追川は観念したように、いった。
「俺は自首する。
 樋沼夫人は独身時代の俺にとって、理想の女(ひと)だった。
 でももう、取り返しがつかないよな。。」
追川はむしろ、サバサバとした表情になっていた。
「和美のことはよろしく頼む。
 いまだから言うけど――女房を気に入ってくれたのがあんたで、ほんとうは良かったと思っていたんだ」

追川が起ちあがると、控えめにノックする音がした。
誰だ?とドアを開けると、そこには樋沼夫妻が佇んでいた。
追川は、きまり悪そうな顔つきになった。
樋沼も、さらにきまり悪そうな顔をしていた。
鶴枝はその樋沼に隠れるようにひっそりと立っていて、夫の肩越しに追川を見つめている。
「さっきは――」
追川が言いかけると、樋沼がそれを遮るように、いった。
「追川くん、迷惑でなければ、その・・・うちの家内の恋人になってくれないか?」
え?
追川はあ然とした。

「申し訳ありません、お二人の話を立ち聞きしてしまいました。はしたないことです」
鶴枝は小さな声で頭を下げた。
「あのあと、主人と話し合ったんです。
 わたくし、主人以外の男性は、初めてでした。
 あまりのことに気を呑まれて、つい夢中になってしまいましたが――
 たぶん、夜のお相手の相性は、追川さんととてもよろしいと思ってしまったんです。
 主人は、わたくしと別れたくないと言ってくれました。
 ですので――恋人ということでいかがでしょう?
 ひとりの人妻として、恥ずかしい申し出だとは重々承知しております。
 でも――貴男の身体が忘れられなくなってしまったの。
 吸血鬼様も、よろしかったら・・・毎日のお相手はいたしかねますけれど、お尽くししたいと存じます」
樋沼が妻に代わった。
「情けない話だけど、きみには完敗だ。
 昔はぼくのほうがモテたつもりだけど――本丸を攻め取られちゃったね。
 生真面目な鶴枝をあそこまでたらし込んじゃうなんて、お見事だった。
 これからはきみのことを、男として尊敬するよ」
目を白黒させている追川に、吸血鬼はいった。
「だから言ったはずだ。俺は狙いをつけた女の亭主まで観察すると」

「鶴枝って、呼び捨てにしてもかまわない?」
鶴枝はにこやかに答えた。「ハイ、追川さま」

追川はきょうにそなえて、入念なリハーサルをしたのだと打ち明けた。
妻の和美を鶴枝に見たてて、二人の間に挟んでどんなふうに料理するかの手順を決めていたのだ。
「どうりで手早いわけだ」
樋沼はあきれた。
「奥さんの髪を掴んだりして、申し訳なかった」
追川は謝罪した。「人妻を恋人にするなら、もっと相手を気遣って」と、妻に忠告されたともいった。
「きみ自身、このひとに奥さんを犯されていたんだね」
「同病相憐れむということさ」
追川はこたえた。
樋沼は鶴枝に促されて、口ごもりながらいった。
「きょう鶴枝を連れてきたのは――
 さっきの”儀式”をもう一度やって見せて欲しかったんだ」
視るのがくせになりそうだ――樋沼はそういって笑った。
鶴枝は真新しいスーツを着ていた。
「このお洋服も、堕とすの楽しんでくださいね」
そして、真新しいストッキングを通した脚を、上目遣いの媚びを含みながら、差し伸べてきた。
「わたし、わたくしね――」
鶴枝は羞ずかしそうに、いった。
「髪を掴まれるの、嫌じゃないの。
 わたくしを主人の前で、さっきみたいに荒々しく引きずり回してくださいませんこと?」

吸血鬼に狙われた夫婦の、寛容な対応

2023年02月04日(Sat) 19:54:38

あなた、この方はいったい、、、
妻はそこまで言いかけて、絶句した。
素早く背後にまわった吸血鬼に、首すじを咬まれたのだ。
さっきまでわたしの身体から、働きざかりの血をたっぷりと吸い取った彼は、
わたしの妻の生き血も、喉を鳴らして美味そうに漁(あさ)り獲ってゆく。
おびただしい血を喪ったわたしは、吸血鬼の性(さが)を植えつけられてしまっていた。
長年連れ添った妻の安否を気遣うよりもむしろ、
三十代の人妻の活き活きとした血に酔い痴れる彼の満足感に、同感を覚えていた。

血を吸いあげるゴクゴクという音が、リズミカルにわたしの鼓膜を浸した。
妻が生命を落とす危険はなかった。
大人しく血液を提供しさえすれば必要以上の危害は加えられないことも、彼との交際を重ねるうえで熟知していた。
むしろ彼の友人の一人として、かち獲た獲物に彼が満足していることが、むしょうに嬉しかった。
たとえそれが、最愛の妻だったとしても――

わたしたち夫婦の血液が、干からびた彼の喉をおだやかに潤してゆく。
2人で力を合わせて、彼の喉の渇きを飽かしめているのだ。
夫婦ながら抜き取られた血液が、干からびた彼の血管を緩やかにめぐり、荒涼殺伐とした彼の心象を宥めてゆくのを感じて、
えもいわれない歓びが、わたしの胸をひたひたと浸していた。

仰向けに倒れた姿勢のままぼう然と天井を見あげる妻は、その身をめぐる血潮を好き勝手にむさぼらせてしまっている。
気絶した人間の血は、自由に漁り獲ってよい。
それが彼らのおきてだった。
もしも妻が、自分の血を彼らに与えることを希望していたとすれば、いまの彼女の振舞いは、吸血鬼のためのもっとも適切な応接だった。

ひとしきり妻の身体から血液を吸い取ってしまうと、彼は顔をあげてわたしのほうに視線を投げた。
口許にも、頬にも、ばら色のしずくをテラテラと光らせている。
さすがはあんたの奥さんだ。わしに対するもてなし方をよぅわきまえておいでぢゃな。
そんなはずはない、、、
彼女はただ、彼の腕のなかでうろたえ抜いて、好き放題に血液を摂取されてしまっただけなのだ。

紹介があとさきになってしまいましたね。
わたしの家内です。
富美子といいます。
今年で38になります。
貴男にとっては、食べごろだったのではないでしょうか?

わたしがいうと、彼も語った。

富美子さんの血液型はO型だ。ご主人といっしょだね。
処女のままあんたに嫁いで、浮気歴はない。
身持ちの良い奥さんだ。
几帳面で、規則正しい日常を送っていて、身体のケアもきちんとしている。
だから、血の味も良い。
齢より若々しい、熟れて麗しい血液をお持ちでいらっしゃる。
わしにご紹介くださるのは本意ではなかろうが、
わしはあんたの奥さんに惚れてしまった――

困ります。迷惑です。
うわべは拒みながらも、わたしは恋を告白された少女のように、胸をドキドキとはずませていた。
妻のことをたんに血液を摂取する対象としてしかあしられないよりも、
一人の女として興味をそそったことが、誇らしくもあり嬉しくも感じたのだ。

いつの間にか目ざめた妻が口をはさんだ。
「このかた、吸血鬼・・・?」
「ああそうだ。親しくしている友人なんだ。
 引き合わせるのがあと先になってしまったね」
わたしはこたえた。
お友だちなのね、と、妻はいった。
「だから時々、彼にはぼくの血を吸わせてあげているんだ。
 ぼくの血は、彼の好みに合っているそうだ。
 どうせ痛い想いをして吸い取られるなら、美味しく飲んでもらったほうが嬉しいと思っている――」
「だから、貴方の血を・・・?」
「そう。いつものようにあげていたら、とつぜんきみが入ってきた」
「わたくし、びっくりしてしまって――」
自分が血を吸われてしまったことよりも、
わたしの友人のまえで粗相がなかったかと、妻はそちらのほうを気にかけていた。
所帯持ちの良い彼女らしい反応に、彼とわたしとは安堵の目配せを交わしあう。

「貧血を起こしたね?だいじょうぶかい?」
わたしが気遣うと、妻はゆるやかにかぶりを振った。
「イイエ、だいじょうぶ。わたくし、体は強いのよ」
妻は気丈にこたえた。
初めて遭った吸血鬼に対して、幸い妻は嫌悪も恐怖も感じないようだった。
夫の親友として紹介されたこともさることながら、
吸い取られた血液と引き替えに体内に注入されてしまった毒液が、彼女をそうさせたのだろう。
妻は吸血鬼に優しく会釈を投げると、いった。
「いかがでしょうか?わたくしの血は、お口に合ったのでしょうか?」
妻はさぐるような目で、吸血鬼を見た。
自分の奥底まで識られてしまったかのような羞恥ににた感情が、妻の横顔を微かに翳らせていた。
「今年出逢ったどんな人妻よりも、美味でしたぞ」
吸血鬼な満面に笑みをたたえて、妻に言った。
「いやな方!」
妻はおどけて、彼の背中をどやしつけた。
彼が言外に含めたエッチな意図を、半分くらいは理解している様子だった。

――厚かましいお願いだが、
と、彼は前置きして、
「奥さんの血をもう少しだけ、恵んではいただけまいか?」
そういって、妻とわたしとを、等分に見つめた。
妻の生き血については、わたしにも夫としての発言権があると言いたげな様子だった。
妻はわたしを見て、良いかしら?と小声で訊いた。
彼女に応えるかわり、わたしはいった。
「よろこんで進呈しましょう。わたしに遠慮は無用です」
彼よりもむしろ妻のほうが、嬉しげにわたしを見返した。
では――というように、妻はおとがいを仰けて、吸血鬼に向き合った。
無防備にさらされたうなじに、鋭利な牙がゆっくりと刺し込まれてゆく。
痛みよりもむしろ心地よい疼きが伝わっているのが、彼女の顔色でわかった。
静かに音を立てて妻の血が啜り取られてゆくのを、
わたしはズキズキと胸をはずませて見入っていた。
ネッチリと食いついてくる牙に酷たらしい傷をつけられながら、
妻もまた自分の血を飲み耽る喉鳴りに聞き惚れるように、ウットリと目を瞑り吸血されていった。

男はわたしの妻を抱きすくめて、30代の人妻の熟れた血に酔い痴れてゆく。
吸血鬼に迫られた女はふたたびベッドに倒れ込みながらも、心尽くしのもてなしを続けて、血を捧げ抜いた。

男の抱擁から開放されると妻は、ふらつく頭を抑えながらも気丈に起きあがった。
気遣うわたしの目に「だいじょうぶ」と応えると、
姿見の前に身をさらし、首すじにつけられた咬み痕を、うっとりと眺めた。
首のつけ根のあたりに2つ、赤黒い痣がくっきりと刻印されている。
自分が吸血鬼の所有物になった証しを目にして、彼女は嬉しげに白い歯をみせた。
歯並びの良い前歯だった。
「わたくしのブラウス、汚さないでくださったのね?」
姿見に映された傷口に見惚れながらも彼女は、身に着けた衣裳を彼が毀損していないことを確かめると、
妻は自分の血を吸った男に、称賛のまなざしを投げた。
「ほんとうは・・・きみの服を汚したがっていたのだよ」
わたしは彼女に教えてやった。
餌食にしたご婦人は装いもろとも辱め抜くのが、彼の好みなのだと。
じゃあ汚して。
妻は驚くほどあっさりと、身に着けた衣裳を血濡らされてしまうことに同意した。
「代わりのお洋服、おねだりしても良いかしら・・・?」
こういうときの甘えた上目遣いは、妻のもつ魅力のひとつだった。
「もちろん――」
わたしも、気前の良い夫の顔になっていた。
では、もっと噛んで。
妻はにこやかに、男にいった。

絨毯のうえに抑えつけられて。
妻は唯々諾々と、三たび咬まれてゆき、
引き抜かれた牙からしたたり落ちるちしおで、真っ白なブラウスをしたたかに濡らされてゆく。
飢えた吸血鬼に襲われて、その素肌を魔性の牙の犠牲にされてゆく貴婦人を姿見のなかに認めながら、
妻は満足そうにまた、白い歯をみせた。

脚をイタズラしても良いかね?
吸血鬼が妻にそう囁くと、彼女はけだるげにベッドににじり寄って腰を下ろした。
ストッキングを脱ごうとした妻の掌を軽く抑えると、
彼女の足許を薄っすらと彩るナイロン製の生地のうえに、好色な唇を這わせてゆく。
「まあ、いやらしい・・・」
潔癖な婦人としては当然な批難を口にしながらも、
唾液をヌメらせながらストッキングをいたぶる卑猥なやり口を、妻は拒もうとはしなかった。
ためらいもせずに自分から脚を差し伸べて、
気品をたたえた足許の装いを男の愉しみに供してゆく。
自分の穿いているストッキングが、よだれをたっぷりとしみ込まされて、ふしだらによじれ、皺くちゃにされてゆくのを、
妻は面白そうに見おろしていた。
そして、求められるままに、ストッキングを惜しげもなく咬み破らせていったのだ。

吸血鬼はもはや、人妻を襲う獣と化していた。
男の荒々しい息遣いに切なげな吐息で応えながら、
夫婦の褥のうえに抑えつけられて、
迫られた唇に唇を合わせてゆく。
首すじに熱っぽく吸い着く唇が、べつの意図をもっていることに気づきながらも、
彼女はイタズラっぽい笑みをチラチラとわたしのほうに投げながら、
少しずつブラウスをはだけられ、
スカートの奥に手を入れられて、
破れたストッキングをずり降ろされてゆく。
失血のあまり身体の自由を奪われていたわたしは、
悪友の好色な腕のなかから最愛の妻を救い出すことができずにいた。
それを良いことに、彼はわたしだけのものだった妻の貞操を、モノにしてしまおうとしている――

わたしだけの妻が、ほかの男に奪われようとしている。
夫としての人並みな危機感に苛まれながらも、
そうした苦痛や羞恥すらも。わたしは愉しみはじめてしまっていた。
恥ずべき愉しみだった。忌むべき歓びだった。
けれども、血液もろとも人並みな理性を吸い取られたわたしはもはや、どうすることもできなかった。
妻を吸血鬼の意のままにさせてしまうこと。
それは夫としては恥ずべき行いだと承知していながらもなお――
わたしは妻の貞操の危機に、いい知れぬ悦びを感じはじめてしまっていた。
レイプに似た荒々しいあしらいに、妻もまた抗いながらも応えてゆく。
夫の親友である吸血鬼に理解を示して気前よく吸血に応じた妻は、
熟れた人妻の生き血を餌食にされてゆくことに歓びを植えつけられてしまっていたが、
こんどは女として獲物になることさえも、受け容れようとしている。

うす茶のスカートが、じょじょにせり上げられてゆく。
ストッキングを片方脱がされた脚が、白蛇のように淫らにのたうち、くねってゆく。
裂き堕とされた肌色のパンティストッキングがずり落ちて、ハイソックスほどの丈になって、ふやけたように妻の足許にまとわりついている。
健全なるべきわたしの令夫人の貞操は、このようにして汚された。
手練手管に長けた吸血鬼を相手に、ユサユサと身体がしなるほどにあしらわれて。
妻は完全に手玉に取られ堕ちていった。
荒っぽいロマンスに酔い痴れてしまっていた。


決めごと、しませんか?
嵐が過ぎ去ると、妻がいった。

わたしは再び彼の牙を首すじに埋め込まれて、ふたりが熱烈なロマンスにうち興じるための原資として、したたかに血を吸い取られてしまい、絨毯のうえに転がされていた。
思う存分血を抜き取られたあとの、奇妙にスッキリした気分に、わたしは浸されていた。
妻の細腰にくどいほどペニスを突きたてていった吸血鬼に対しても、
悪友の不埒な挑発に大胆に腰を振って応えてしまった妻にたいしても、
怒りの感情は湧いてこなかった。
ふたりのセックスはピッタリと息が合っていて、ヒロインがわたしの妻だという以外、申し分のないカップルに見えた。
妻は不倫の恋人を得たことを、わたしは妻が恋人を得たことを、悦んでいた。

妻はスーツのジャケットを、ブラウスをはぎ取られてむき出しになった肩に羽織り、片方だけ引きちぎられたスリップの肩ひもをもてあそんでいた。
めくれ落ちたスリップからは、豊かな胸を片方だけ、無造作にさらけ出している。
頭の後ろにアップにしてまとめあげていた黒髪はほどかれてジャケットの肩に乱れかかっていた。
お嬢さんのように、と言いたかったが、ふしだらに波打つようすはむしろ、娼婦のそれを連想させた。

「ごめんなさい、楽しんじゃった。」
ふだんにない稚なげな調子で、妻が呟いた。
「俺もだ。奥さんなかなかやるね。」
吸血鬼は、イタズラっぽく嗤った。
「悪かったな、ご馳走さん。」
わたしに向かって告げられたのは、あっけらかんとした謝罪だった。
「恥ずべきことに、どうやらぼくもそうらしい。」
わたしも告白した。
妻が犯されているあいだじゅう、わたしのペニスも逆立ちせんばかりに、昂りつづけてしまっていた。
それを吸血鬼も妻も目にしていたが、どちらの目にも軽蔑や批難の色はなかった。

「決めごとって、どんな?」
妻の申し出に、だいぶ間をあけてわたしは訊いた。
「貴方はこれからも、このかたに血を差し上げるおつもりね?」
妻がいった。
もちろんだ、と、わたしはこたえた。
「だとすると、わたくしのロマンスも受け容れてくださるおつもり?」
妻の瞳に、いくらかのためらいと不安とが浮かぶのを見てとると、わたしほいった。
「きみは、ぼくの妻を愛してくれますか」
向けられた問いに、彼は言下にこたえてくれた。
「もちろんだ」
「ありがとうございます。妻を奪われた甲斐があります」
「でも、奥さんをきみの手から奪い取ろうとは思わない。
 あくまでも、きみの令夫人のまま犯しつづけ奪い尽くしたいのだ」
「嬉しいです――貴男に妻を奪われて、満足です。
 貴男を家内の恋人として、ぼくたちの家庭に迎えたい・・・」
言いながらわたしは、胸が激しく掻きむしられるのを感じた。
それは無念さや屈辱からではなく、危険な関係を自ら受け入れることへの、ときめきによるものだった。


いまでは、三人のなかでは、ふたりのロマンスはこのように理解されている。

彼は人妻の生き血が好物だった。
ぼくはさいしょから、最愛の妻を彼の獲物として捧げたい感じていた。
人妻の生き血に飢えていた彼は妻を襲って生き血を美味しくむさぼり尽くしてくれた。
そればかりか彼は、妻に対して女としての関心を抱いてくれた。
妻は彼の吸血癖に理解を示し、彼の欲求にキチンと応えるべく、親友の妻として自身の血で渇きを飽かしめることに同意した。
そして、迫られるままに肌身を許し、夫であるぼくの前でロマンスを実らせた。

ぼくの前で結ばれた愛の儀式は、ぼくに対する裏切り行為だとは思っていない。
親友がぼくと同じ女性を好きになってくれたことを嬉しく思い、ふたりのロマンスを心から祝福している――

兄嫁を同伴して、乱交の宴に参加する。

2023年01月30日(Mon) 07:49:56

先生となれ初めてだいぶ経った頃。
兄が結婚しました。
お相手は、大学で知り合った都会育ちのお嬢さんです。
兄は24,義姉になる菜々恵さんも同い年でした。
僕の家では、「宴」に参加するのはもっぱら、僕の役目になっていました。
父にも兄にも、参加資格はありません。
特に父は、母の愛人が自宅に入り浸っているのに、母を寝取ったその男性と機嫌よく、酒を酌み交わしたりする人でした。
兄も、そうしたこの地域から離れたくて、いちどは家を出た人でした。
けれどもこの不景気のご時世ですから――父のあとを継ぐことになって、実家に戻ってきたのです。
もうこうなると、せっかくもらったお嫁さんは、ぼくの好餌 と言うことになります。
兄もそれを承知で、家に戻ってきたのです。

思春期のころから、母は父公認の愛人を家に囲っていました。
でもその母も、さいしょは気丈に抵抗したそうなのです。
そのありさまを密かに垣間見てしまったのが、兄だったのです。
着物をはだけながら、ふだんチラとも見せない肌身を露わにして犯されていった情景が、兄の脳裏に灼きついたのも、無理はありません。
それは兄にとって、大きなトラウマになってしまったのです。
自分の愛する女性がほかの男に蹂躙され、歓びを感じて屈従していってしまう――いつかそんな光景を自分のこととして再現しないか――兄はそんな夢想に取りつかれてしまったようでした。

「宴」の時期がめぐってきました。
結婚を控えていながら僕に処女を捧げた広野先生は、当時お婿さんと生活を始めたばかりでした。
そんなとき、兄は、「菜々恵を連れて行ってくれ」と、僕に頼み込んできたのです。
すべて言い含められていららしく、菜々恵さんは兄の後ろに黙って控えていて、羞じらうように俯いていました。
ふたりの間にまだ子供はいませんでした。
「跡継ぎの嫁をこういうことに出すのはねぇ」と、さすがの母も逡巡している様子でした。
兄は僕に言いました。
「菜々恵のことはお前に任せる。できればお前の手で、菜々恵をこの土地の女にしてやって欲しい。
 でもどうか、俺から菜々恵を奪わないで欲しい。身勝手なお願いだとは思うが、菜々恵がお前に愛されても、俺の妻のままでいて欲しいのだ」
兄の気持ちは、よくわかりました。
それに、菜々恵さんを兄嫁のまま抱き続けるという兄の提案に、そそられるものを感じました。
僕自身、菜々恵さんに惹かれていたのです。
菜々恵さんは都会のお嬢さんらしい派手さはなく、むしろ楚々としていて控えめな若妻でした。
僕の手で、兄嫁である菜々恵さんを開花させる。
なんとありがたい申し出でしょうか。
生まれてこのかた、これほど兄に感謝したことはありません。
ぼくはただ一つだけ、条件を出しました。
「菜々恵姉さんのことだけど――これからは”菜々恵”って呼び捨てにしての構わないかな」
二人は一瞬顔を見合わせ、まず菜々恵さんがちょっとだけ頷いて、それを追認するように、兄も頷き返しました。
こうして、菜々恵さん――いや菜々恵は、僕の奴隷となることが決まったのです。

「宴」の場では、相手があらかじめ決まっています。
自分が連れてきた相手をそのまま「宴」の相手にするというのは、異例でしたが。
今回はぜひそうさせてほしい――と、自分の意見を通したのです。
僕は菜々恵を、自分のものにしたかったのです。

めくるめく乱交の渦のなか。
兄からプレゼントされたスーツに身を固めた菜々恵は、僕の腕の中にいました。
ひざ丈のフレアスカートはむざんに跳ね上がり、太ももを露出させていて。
きちんと脚に通していた白のパンティストッキングは、片脚だけがかろうじて、ひざ下に弛んだまま残っていました。
白のパンストは、僕が兄のまえで、菜々恵に望んだいで立ちでした。
きょうから菜々恵は、僕の花嫁だ。
兄さんがなんと言おうと、彼女はきょう、二度目の結婚式を挙げる。
菜々恵にも、僕の気持ちは伝わっているようでした。
「家に帰ったら、兄さんのまえできみを犯すからね」
そんないけないささやきに、菜々恵は目を瞑ったまま、小さく、しかししっかりと、肯き返してくれたのでした。

担任の先生を同伴して、乱交の宴に参加する。

2023年01月30日(Mon) 07:27:14

僕が初めて街の秘宴に参加したのは、16歳のときした。
初体験は一年前のことで、相手は学校の担任の先生で、当時26歳でした。
広野令子という人でした。
同級生の間で、乱交の宴の練習と称するけしからぬ会をもった友人もいましたが、
たしかに僕は、どちらかというと少し年上の女性に関心があったように思います。
母には愛人がいて、その愛人さんは父におかまいなく我が家に入り浸りになっているありさまでしたし、
女きょうだいもいなかったので、初体験の相手に事欠いている――と耳にしたらしく、
ある日突然、「先生が相手をしてあげる」と、ぽつりと言ってくれたのです。
広野先生は都会育ちの人で、街の風習に染まっていなかったそうです。
それどころか、親の決めた縁談がすでに整っていて、翌年春に結婚を控えている――とまでいうのです。
「ほんとうにエエんですか?」
うちの母がさすがに先生を気遣ったのも、無理はありません。
けれども先生はなぜかキッパリと、「はい、春田くんに私の初めてを挙げようと思います」と言ってくれたのです。
「私の初めて」――そう、先生は処女でした。

処女と童貞では大変だろうということで、介添えがつきました。
介添えの役は、母が引き受けてくれました。
「きょうは先生じゃなくて、広野令子という一人の女として喘原くんに接します。よろしくお願いします」
広野先生はそういうと、いつも学校に着てくるこげ茶色のスーツのまま、我が家の畳のうえであお向けになりました。
先生は、パンストを穿いたままでした。こげ茶色のパンストでした。
脱がしても良いし、着たままでもかまわない――と、先生は言ってくれました。
僕は、ドキドキしながら先生の脛に触れていって――思わずパンストを引き破ってしまいました。
先生は一瞬、息をのんだようで、少しうろたえていました。
それが、僕の嗜虐心に、火を点けたのです。
母は、あお向けになった広野先生の両肩を抑えつけて、「もっと右」とか、「もっと強く」とか、僕を促しました。
さいしょのうちは、なかなかつながることができなかったのですが、
いちど入り込んでしまうと、先生は「ウッ」と小さく呻いて、それっきりシンとなってしまいました。
ひどく、あっけなかったのを覚えています。
母はふたりがつながるのを見届けると出て行ってしまい、父がいるにもかかわらず、そのまま愛人の部屋に籠ってしまいました。
でも、そのときの僕にとって、母の行方などどうでも良いことだったのです。
急いてきた呼吸を乱れ合わせて、先生と僕は、なんどもまぐわいました。
さいしょは「きつい」だけだったのが、快感になっていくのに、さほど時間はかかりませんでした。
昼過ぎから始まったのに、先生がうちを辞去したのは、もう暗くなってからのことでした。
母に促されて、僕は先生をアパートまで送っていき、そのまま泊り込んでしまったのです。
ちょうどその夜――虫が知らせたんでしょうね――先生のお婿さんになる人から、電話がかかってきました。
息をひそめている僕を傍らに、先生はいつもと変わらぬひっそりとした語り口で、
「きょうは職員会議が長引いたから帰りが遅くなった」
と言い訳をしていました。
人妻は浮気をしたときもきっと、こんなふうに虫も殺さぬ顔をして言い訳をするのだろうと思うと、
少し気分が複雑でした。
先生のお婿さんに、少しばかり同情の気持ちもわいていました。

初めて乱交の宴に出席した時にも、先生を同伴しました。
当時の僕にとっては、唯一肌を重ね合わせた異性であり、当然たいせつな人だったからです。
そのときの僕の相手は、従姉の春江さんでした。
春江さんは、隣町に嫁に行ったばかりなのに、
乱交の宴に参加するために、お婿さんに黙ってわざわざ里帰りしてきたのです。
「洋太くん(僕のこと)がすごいらしい」と、先生に聞かされて、いちど体験してみよう――と思ったそうです。

結婚を控えているのに教え子の僕を相手に処女を捨てた、広野先生。
新婚数か月の身でありながらわざわざ里帰りをして、乱交の場で操を汚した春江姉さん。
女の人のなかには、不可解な理由でわが身を男にゆだねてしまう人がいるようです。
もしかすると――堅苦しい日常、不慣れな日常で鬱積したものを、日常を引き裂いてしまうことで、忘れようとしているのかもしれません。

広野先生との交際は、先生の結婚まで続きました。
ところが先生が僕を相手に処女を捨てたことがお婿さんにバレてしまい、すぐに不縁になってしまったのです。
街に戻ってきた先生とは、僕との結婚も取りざたされたそうです。
でも先生は、「齢が違いすぎるのに、春田くんの将来を無にしたくない」と、頑としてその勧めに応じなかったそうです。
先生の不安定な立場は、半年くらいして解消しました。
お婿さんが考え直して、先生との復縁を希望したのです。
その半年のあいだ――ぼくは先生と始終逢っていました。
同じ学校にいるわけですから、教室だろうが、体育館だろうが、逢瀬の場には事欠きません。
先生もこのころには、セックスに慣れてきて、僕を十分すぎるほど、楽しませてくれたのです。
先生は、乱交の宴にも積極的に参加していました。
同伴するのは僕でしたが、主に年配の独り者の相手をしていました。
「お相手がいないのはお気の毒だから」というのが、先生の口癖でした。
そんな中での復縁でしたから、お婿さんはいろんなものを呑み込まなければなりませんでした。
処女を捧げた相手である、僕との関係。
年配者に対する性的奉仕の場となっている、「宴」との関係。
けれどもお婿さんは、そのすべてを受け容れることにしたようです。
「時々遊びにお出で」
今ではすっかり親しくなったお婿さんはそういって、同じ屋根の下、ふすまの向こうで、僕が先生を押し倒すのを、視て視ぬふりをしてくれるのでした。

母を同伴して、乱交の宴に参加する。

2023年01月30日(Mon) 06:58:08

月に一度、ぼくの町内では、秘密の集いが開かれます。
男性は必ず女性一名を同伴することが義務付けられます。
その女性は、自分にとって大切な女性であることも義務付けられます。
そして行われることは――そう、ご想像のとおりです。

ぼくの初体験の相手は、母でした。
とある法事の帰り道、黒のストッキングに包まれた母の脚が妙に気になって、
すぐに仕事に出かけて行った父と別れて帰宅したまでは良かったのですが、
母が喪服を脱ぐのを、手伝ってしまったのです。
内実は、力づくで襲ってしまった というわけです。
「なんということをするのよ!あなたって子は!?」
と叱られはしたものの、一度肌を合わせてしまった者同士は、どうしても今までのままではいられなくなります。
母はそれ以来、毎日のようにぼくの好みに合わせて黒のストッキングを穿くようになり、
パンスト破りにハマってしまった愚かな息子のために、そのたびにストッキングを惜しげもなく、破らせてくれたんです。
ぼくたちのあいだは、すぐに街のうわさになりました。
そして、父の耳にも入りました。
けれども父は寛大にも――お前も大人になったんだなと、母を抱くことを認めてくれました。
幼馴染の悪友三人を家に招んで、代わる代わる母を抱いたこともあります。
「あんたも困った子だねぇ」と苦笑いしながらも、母はよそ行きのスーツのまま、ぼくたちの精液にまみれてくれたのでした。

そんな母でしたから、こういう集いに初めて招ばれたときも、ぼくは母を連れていくことにしました。
もちろん父にも、事前に了解を取りました。
「仕方のないやつだな」と言いながら、「母さんをたいせつにするんだぞ」といって、父はぼくたちを送り出してくれました。
紫のストッキングを穿いた母の脚が、ぼくよりはいつも半歩遅れてついてくるのを、
自分の女を伴って出かけるようで、ぼくはいつも以上の満足を覚えていました。

集いの開かれる街はずれの荒れ寺には、ムンムンと人いきれがしていました。
乱交と言っても、そこにはある程度のルールがあって、自分の相手はほぼ決められているのです。
ぼくの場合は、友だちのお母さんでした。
そう――先日母を共有した仲間の一人の母親なのです。
友達のお母さん――晴美さんと呼びます――は、ぼくの好みに合わせて、黒のストッキングを穿いてきてくれました。
それがぼくたちの、目印でした。
母は、だれかあてがあるようでしたが、口ごもってとうとう教えてくれません。
自分の妻が浮気をしているのがわかっていても、浮気相手を秘されてしまうというのはこういうものかと、妙な想像をしました。

宴が最高潮に達すると、だれもがとりどりに相手を選んでいきます。
ぼくはまっすぐに、晴美さんのところに行きました。
晴美さんもぼくをみとめると、楚々とした上背のある立ち姿を、ぼくのほうへと歩み寄らせてきました。
上背があると言っても、育ち盛りのぼくにはもう、かないません。
ぼくたちはしっかりと抱き合って、受け口になった晴美さんの唇を、熱く熱く吸いました。
母以外の女性は初めてでしたが、晴美さんはぼくの手を取って、自分から胸繰りの深いワンピースの胸もとへと導いてくれました。
いつも友人のお母さんとしてしか接していなかった晴美さん――意外にエッチじゃん、と思いました。
見ると、晴美さんの息子である昭太くんが、こっちを気づかわしそうに見ています。
悪いね、というように、ぼくは昭太くんにウィンクを送ると、
昭太くんも、頼むね、というように頭を下げて、自分のパートナーになったべつのお母さんを押し倒していきました。
晴美さんのキスは生々しいほど熱く、辟易するほどしつこかったので、ぼくの中の「男」を引き出すのもあっという間のことでした。
ぼくたちはその場で折り重なって、晴美さんの深緑のスカートに精液を撥ねかしながら、
すっかり元気になった一物を、ずぶずぶと埋め込んでいきました。
片脚だけ穿いた晴美さんの黒のストッキングが弛み堕ちてゆくようすが、夢中になって腰を上下させている間もチラチラと目に入り、悩ましかったです。

母はとみると――なんと、叔父に組み敷かれていました。
紫のストッキングはどうやら、叔父の好みのようでした。
じつの姉弟なのに、乱れちゃうのか?
ぼくは嫉妬を覚えて、そのぶんを晴美さんにドクドクと注入してしまいました。
昭太くんは遠目に、ぼくたちの愛し合うようすを見ていたらしく、
「きみがあんまりお袋に入れ込むもんだから、よけいに興奮しちゃった」と言われました。
その日を機に、ぼくは晴美さんと付き合うようになったので、
昭太くんには時々、「お父さん」と呼ばれて、冷やかされたりしています。

あとから母から聞いたのですが、叔父さんとは結婚前からの関係だったそうです。
父もそれを知りながら母と結婚して、結婚後も時おり、姉弟相姦の機会をつくってあげたいたそうです。
父は、愛する妻をほかの男に寝取られることで、母への愛を確かめるタイプの男性でした。
だからきっと、母とぼくとの関係も、寛大に受け入れてくれたのでしょう、。
「お前に抱かれた日の夜は、お父さん激しいの」
翌日母はそんなことを言いながら、ぼくの手で胸からブラウスをはぎ取られていきました。

母はもしかすると、相姦の家系のひとなのかもしれません。
それがぼくに遺伝して、ぼくは母と結ばれました。
母は自分の弟とも関係を持ちましたが、初体験は実の父――ぼくの祖父に遂げてもらったそうです。
ぼくがその後、中学にあがった妹を押し倒して、入学祝いとしてセーラー服を剥ぎ取ってしまったのも、
その妹との間に生まれた娘――結婚相手との子どもということになっています――の処女をいただいてしまったのも、
母から伝えられた「血」のせいなのかもしれません。

「あなたが助平なだけよ」
と、いまでも時おりぼくのものになってくれる母は、年老いた頬に昔と変わらないえくぼを浮かべて、笑っているのですが。

一作目と二作目の、切っても切れない関係。

2023年01月30日(Mon) 04:19:26

久しぶりにあっぷできたと思ったら、がちで寝取られモノでした。。

一作目の餌食は、比較的若めのご夫婦。
まずご主人が咬まれて、それから奥さんが襲われます。
着飾ったスーツ姿、脚に通したストッキングを唇や舌で愉しまれ、血を撥ねかされたり咬み破られたり。
いつもどおりの段取りで、夫婦ながら妖しい堕落に導かれてしまいます。
妻を犯される夫。人妻をモノにした吸血鬼。
ふたりの間にはむしろ、清々しい共感が生まれ、
夫は吸血鬼が妻のことを愛人のコレクションにまんまと加えてしまったことを称賛し、
妻が吸血鬼に第二の嫁入りをすることを祝っています。

二作目の餌食は、うら若い婚約者。
処女の血を吸うだけだといって、親友の許婚を襲うのですが、
もちろん若い二人の行く先は無軌道な関係――
でも、幼いころから吸血鬼のことを知っていて、家族ぐるみですべてを受け容れている主人公は、
自分の未来の花嫁がみすみす侵蝕され寝取られてゆくのを、胸をはずませながら見届けています。
花嫁の純潔をゲットする吸血鬼と、その幼馴染の青年。
この二人の間にも、お互いを尊重し合う雰囲気がうかがわれます。

ふつうに考えて、ありえない関係ではあるものの。
まだまだこういう話(の)をいくらか、紡いでいきたいと思っています。

もしかすると。
一作目で自分の結婚式に友人夫婦を招いた人物は、二作目の花婿なのかもしれません。
婚礼の招待客も、花嫁も。
着飾った衣装もろとも辱めを受けながら、その辱めに歓びを見出し、夫や花婿ともども受け容れてゆく――
こういう街にはたぶん、争いは存在しないのかもしれません。

というわけで、とりあえずはここで、一区切り。

悪友の吸血鬼の毒牙にかかった婚約者の話

2023年01月30日(Mon) 04:06:11

はぁはぁ・・・
ふぅふぅ・・・
物陰から隠れて視ているボク。
その前で、ひと組の男女が、切なげな吐息を交わし合っている。
男のほうは、幼馴染の良作。生まれついての吸血鬼だ。
女のほうは、隣町に住むOLの初美さん。
なによりも。
初美さんはボクとの結婚を、控えていた。
親の決めた結婚相手だった。

良作が初美さんを見初めたのは、ボクが彼女を紹介するために、彼の家に連れて行ったときのこと。
良作の家は、ボクにとっては本家すじに当たり、いつもそうするのが慣わしだと聞かされていた。
ピンクのスーツ姿の初美さんが礼儀正しくお辞儀をして、辞去をつたえると。
直登はもう少し、ゆっくりしていけよと、彼はいった。
しかしそれは――とボクが腰を浮かしかけると。
直登さん大事な話があるって仰っていたわよね?と、初美さんのほうから気をきかせて、
先に失礼しますわと言って、座を起っていった。

ふたりきりになると。
良作は案の定、ボクに囁いた。
いい娘だな。きっと美味い血をもっているに違いない。
よければ味見させてくれ。オレがきみの未来の花嫁の身持ちを、確かめてやるよ。
本家には逆らえないしきたりで、結婚相手になる初美さんを連れてくるときっとそうなると、ボクは予期していた。
けれどももう、どうすることもできなかった。
母は良作の父に、嫁入り前に血を吸われていた。
姉も良作の叔父に、やはり女学校の入学祝いにと、血を吸われるようになっていた。
避けては通れない道なのだ。

処女の生き血を好む一族だった。
だから、嫁入り前の女たちは本家の者たちに自由に襲わせて、彼らの好物を気前よく振舞う――それが父の考えだった。
ボクは黙って肯くと、良作を行かせてやった。
今から出かければ、ちょうど人けのない丘のあたりで、初美さんに追いつくに違いなかった。
ボクが二人に追いついたとき。
良作はちょうど初美さんの前に立ちふさがって、強く強く抱きすくめたところだった。
こちらに背中を向けたまま、初美さんは首すじを咬まれた。
ジャケットにかすかに血が撥ねるのが、遠目にみえた。
初美さんは抵抗もままならず、ひたすら血を吸われつづけた。
そして、ひとしきり吸血されると、あっけないほどかんたんにくたりと姿勢を崩して、良作の腕に細身の身体をゆだね切っていた。

丘のてっぺんには大きな樹が植わっていて、その傍らには古びたベンチがあった。
ここでなん人もの少女が、良作の毒牙にかかり、このベンチに腰かけていた。

同級生の幸太郎の彼女は、下校途中を襲われて、
制服のプリーツスカートのすその下にかがみ込まれて、
白のハイソックスを真っ赤に染めながら14歳の生き血を吸い取られた。

従兄の志郎の婚約者は、勤め帰りのスーツ姿を襲われて、
肌色のパンストを見る影もなく咬み破られながら、
22歳のうら若い血潮を愉しまれていった。

ボクの未来の花嫁である初美さんも、その例外ではなく――
ピンクのスーツのスカートのすそを撥ね上げられて、
グレーのストッキングに包まれた太ももを、好餌にされてゆく。

裂き散らされた淡いナイロン生地が、まるでレイプのあとのように、彼女の足許にまつわりついた。

「視るのは良いが、手は出すな」
良作はボクに命じた。ボクは彼の言うとおり、すべてを遠くから見守っていた。
ボクの花嫁は、穢れなき処女の生き血を惜しげもなく吸い取らせて、若い吸血鬼の旺盛な食欲を満たしていった――

その日から。
良作と初美さんの密会が始まった。
婚約はごく儀礼的なものだった。
大人しくて真面目なボクを、初美さんは決して嫌ってはいなかったと思うけれど、深く愛されているという自覚もボクにはなかった。
人目を忍んで逢いつづける二人は、いつか吸血鬼と血液提供者の関係を越えようとしていた。
ふたりの交際が実りを結び始めてゆくのを、そ知らぬ顔をしながらも、ボクは胸わななかせて見守っていた。

初美さんの首すじには、だれの目にも明らかな吸血の痕跡が、どす黒い痣となって刻印されていたけれど。
だれもがそれを、あからさまに口にすることはなかった。
ボクがその密会の証しに気づいていることを、初美さんは薄々察していたけれど。
きょうは良作さんとお約束があるのといって、ボクとのデートを彼女が婉曲に断るのを、
ボクはやっぱり、胸を妖しく搔きむしられながらも承諾を与えてしまっていた。

結婚前なのにがんばるなあ――職場の同僚に冷やかされるほど、ボクは仕事に打ち込んだ。
そして、ボクが新居のための家産を増やすために尽力している最中に、
初美さんはよそ行きのストッキングをなん足も、彼の毒牙のための惜しげもなく愉しませ、破らせていった。
彼女の誕生日にプレゼントした純白のブラウスまでも、秘密の逢瀬の時にまとわれて。
熱情の痕跡が、放射状の真紅の飛沫となって染められて、
記念にとねだり取ったそのブラウスを、ボクは幼馴染から見せびらかされてしまっていた。

咬み破ったパンストを自分から脱いでくれと、良作が初美さんに望んだのは、挙式のひと月まえのことだった。
いつものように、良作に促されて覗く物陰から、いいわよという彼女の声を聞き取ると、
ボクは新婚生活をも、良作の手に塗り替えられるのだと察していた。
そして、そうであることに、なぜか忌まわしいという想いは少しもなく、
むしろドキドキと、胸はずませてしまっていた。

初美さんは良作を前に、咬み破られたパンストを、ゆっくりと脱いでゆく。
片方の脚だけ脱ぐと、良作は彼女の身体に手をかけて、二人は姿勢を崩していった。
彼の狙いが初美さんの首すじではなくて、股間であることも。もちろんすぐに、察しがついた。
彼は初美さんが腰に巻いたロングスカートを丁寧にたくし上げると、真っ白なショーツに守られた股間を露わにしていった。
ボクも、初めて目にする光景だった。
良作は、物陰にいるボクにも見えるように、初美さんの両脚を大きく開いてゆくと、
白のショーツのうえからおもむろに、唇を吸いつけてゆく。
初美さんはさすがに羞ずかしげに目を背けて、それでも従順に、ショーツの上からの唇の愛撫に、自分の秘所をゆだねていた。
くすぐったそうに唇を歪め、歯噛みをして。黒髪を揺らし、首を仰け反らせて。
覚えかけた妖しい快感に、耐えようとした。
良家の娘が決して冒してはならない過ちを、初美さんはむろん、きちんとわきまえていた。
「あくまで、吸うだけにしてくださいね。初めてのものはどうしても、直登さんにあげなければならないの」
声を潜めての彼女の訴えに、良作は鷹揚に了解の意を示した。
初美はほっとしたように肯くと、
きみのたいせつな処をもう少し愉しみたいという良作の申し出に随って、
身体を仰のけたまま、ショーツが濡れるに任せていった。
きっと――結婚した後は、ボクの新妻はすぐに、貞操を喪失してしまうのだろう。
けれども――もしも相手が良作だとしたら。
ボクはきっとよろこんで、新妻の貞操を彼の情欲のために捧げてしまうだろうと、もはや確信してしまっていた。

母は良作の父親に処女の血を吸われ、姉は良作の叔父にやはりそうされた。
そしてなによりも――母は嫁入り前に、良作の父に犯されていた。
姉もすでに嫁入り前に、良作の叔父と深い仲になってしまっていた。
それは、父から聞いたことだった。
もしも先方が望まれるなら、花嫁の純潔はお譲りしなければならないぞ――
実は父には、そう言い含められていた。
過去になん人もの少女の純潔を蝕んでいった彼の淫らな唾液が、ショーツを通して初美さんの身体の奥深くに浸潤してゆく。
クチュクチュ・・・チュチュッ・・・
唾液のはぜる音を忍ばせて、初美さんのスカートの奥に仕掛ける犯罪を。
ボクは息をこらして、見守るだけだった。

初美さんはなん度も、嫁入り前の股間を良作に許した。
そのたびにボクは呼び出され、自分の未来の花嫁がボクを裏切ろうとする有様を見せつけられた。
ボクに隠れてことを運びたくないのだと、良作はいった。
きっと、彼の言葉はそのまま彼の本音なんだろう。
そして、それとは裏腹に――
見せつけたい。
そんなどす黒い欲望も、彼は正直に打ち明けてくれていた。
凄く嫉妬している。
ボクの花嫁が不当に辱められるんじゃないかって、いつもハラハラしている。
ぼくがそういうと、
彼はとても満足そうに笑い返してくるのだった。

挙式を来週に控えた晩。
こんな遅くに電話が来るのかと思いつつ、ボクは良作の家の裏口にまわっていた。
深夜11時。
なのに初美さんは、良作の招きに応じている。
きょうの彼女のスカートは、真っ赤なミニスカート。
パンストは、いつもの肌色ではなくて、薄墨のようにうっすらと艶めかしい、黒のパンストだった。
「気合入ってるね」
良作がからかうと、
「やめてください」
初美さんは正直に、羞じらった。

墨色のパンストに包まれた初美さんの脚は、妖しく艶めかしく、
上品で淑やかなようにみえて、娼婦のように淫らにも映った。
健康に発育したふくらはぎを縁どって、絶妙なカーブを描くストッキングに、良作はわが物顔に、唇を吸いつけてゆく。
圧しつけられた卑猥な唇の下。
初美さんのパンストは、淫らな唾液にまみれ、ねじれ、ふしだらな皴を寄せてゆく。
激しく、しつように吸いつけられ舌を這わされてゆくうちに。
淡いナイロン生地は、凌辱に耐えかねたようにブチブチと微かな音をたてながら、裂け目を拡げていった。

まるでレイプのあとのようだった。
白い脚にまとわりついた、裂けた黒のパンストが、ひどく妖しくボクの網膜を射た。
パンストの向こう側でよく見えなかった初美さんの穿いているショーツが、例によってパンストを片脚だけ脱がされると露わになった。
初めて見る、真っ赤なショーツだった。
視てはならないものを視てしまったような気がした。
視たこともないほど薄地のショーツからは、淡い陰毛が微かに透けて見えたのだ。
「俺があの夜用に、プレゼントしたんだ」
あとで良作は、自慢げにそういった。
そんなことは、もちろんそのときのボクにはわからない。
あの淑やかな初美さんが、あんな刺激的なショーツを、ボク以外の若い男の前に曝すなんて――
良家のたしなみをきちんとわきまえていたはずの初美さんは、人目を忍んで深夜、良作に逢いに来て、
しかも真っ赤なショーツを露わにしているのだ。
「いいわよ、来て」
初美さんがそういうと、良作はおもむろに彼女の股の間に顔を突っ込んで、クチュッ・・・と音を立ててあそこを吸った。
自分の股間を吸われたような衝撃が、ボクの身体の芯を貫いた。
クチュッ、クチュッ、クチュウウッ・・・
密やかな音を忍ばせて、良作は初美さんの股間を吸いまくる。
そう、吸いまくるという表現が正しいほどに、
彼の唇は初美さんの潔い処から離れることなく密着し、吸い、また吸った。
初美さんはもう、立ってはいられずにくたくたと腰を落としてしまい、
ゆるくかぶりを振りながら、伝わってくる刺激をぞんぶんに受け止めている。

ガマンできなくなったら、途中で出てきても良い――良作には、そういわれていた。
けれどもボクは一度として、そうはしなかった。
不義の愉しみであったとしても、親友の幸せをみだりに妨げてはいけないような気がしたのだ。
ボクが思い切って部屋に入っていったのは。
彼が初美さんの股間から唇を離し、それから唇に唇を重ねて、熱い熱い接吻を交わし合い、
お互い名残を惜しむように身体を離しかけたときだった。

「直登さん・・・」
初美さんは絶句したけれど、ボクに知られているという予感を兼ねて抱いていたからか、さほどに驚いたようすはなかった。
「もっと早くに、俺の邪魔をすることもできたのにな」
良作の声色には、むしろ、「邪魔建てしないでくれて申し訳ない」という感謝の気持ちが込められていた。
身の潔白を証明しようと初美さんが身を乗り出して、徒労に終わりそうな抗弁を開始しようとしたのを、
自分でもびっくりするほど柔らかく、ボクは手で制していた。
「婚約解消はなしだぜ」
良作が悪びれずにそういうと、ボクはもちろんさ、と、こたえた。
初美さんは明らかに、ほっとした様子だった。

「どうしたいの?」
ボクが訊くと
「別れられない。別れる自信がない」
初美さんは、正直なことを告げた。
それは、ボクの心を踏みにじるような事実だったけれど。
「そうだよね」
と、ボクは同意を与えていた。
「お願いがあるんだ」
ボクは良作にいった。
「初美さんのことを、初美と呼び捨てにして欲しい」
「いまでも、そうしているよ」
良作は、悪びれずにいった。
「でも、きみから許可をもらえるのは、とても嬉しい」
彼はそう言ってくれた。
ボクは初美さんのほうを振り向いて、いった。
「花嫁の純潔は、誰に捧げたいと感じますか」
短い沈黙が、すべてを物語った。
このうえ、彼女になにかを言わせるべきではない。
ボクはそう思った。ボクを見つめる良作のまなざしも、同じ想いを告げていた。
「ぼくの花嫁の純潔を――きみにプレゼントするよ。どうか受け取って欲しい。
 ボクの前で、受け取って欲しい。今夜がボクにとっても、初夜のつもりだ――」

楽しい浮気ごっこが、すぐに始まった。
「お婿さんのまえで、裏切っちゃうのね♪」
血を吸われ慣れた初美さんは、もはや自分の白い肌に彼の接吻を拒むことはなかった。
それが飢えた接吻であれ、淫らな接吻であれ・・・
ボクは良作にしたたかに血を吸われ、身じろぎひとつできずにひっくり返った。
その目の前で、彼は初美さんに対して欲望を遂げる――
「いけないわ、いけないわ、お婿さんの前でだなんて・・・」
初美さんはさすがに羞じらい、腕を突っ張って、恋人の胸を拒もうとした。
せめてものこと、ボクに対して操を立ててくれようとする初美さんの気持ちが嬉しかった。
ショーツを良作のよだれにまみれさせ、陰毛までも濡らされてしまった彼女の純潔は、もはや良作の色に染めあげられている。
きゃあッ、きゃあッ・・・
はじける叫びをこらえかねて、彼女は身を揉んで羞じらったが、それはまるではしゃいでいるようにさえ見えた。
黒のストッキングを片方だけ脚に残したまま、初美さんは純潔を散らしていった。
初めての血が太ももにかすかに散るのが、
その血潮が良作の吐き散らした白濁した精液に上塗りされるのが、
スカートのすそ、洋服のすき間からチラついた。
何度も何度も、良作の逞しい腰が、初美さんのふっくらとした下肢にめり込んでゆく。
そのたびに初美さんはちいさく叫び、声をあげて、感動をあらわに振舞ってゆく。
「ああいけない、お嫁にいけなくなっちゃうこと私してる・・・」
初美さんは、両手で顔を覆って羞じらった。
ボクは彼女の傍らににじり寄って、しずかにその手を取り除けた。
「直登さん――?」
「きみが素敵な娘だというところを、ボクはもっと視たい。
 彼はボクの親友だ。花嫁を親友に気に入ってもらえて、ボクはとても満足している」
「直登さん・・・好き・・・」
初美さんの口から始めて、ボクを慕う言葉が洩れた。
そのひと言で、十分だった。
ボクは幼馴染の悪友のため、初美さんの両腕を抑えつけて、さらに何度も花嫁の凌辱を許していった。
「直登さん、わたくし、わたくし、この方に凌辱されているんだわッ!」
初美さんはそういって羞じらいながら、「ああッ、ああッ、ああッ!」と叫び、仰け反っていった。

未来の花嫁の純潔を、男らしく勝ち獲てくれた良作と。
当家の嫁のしきたりを忠実に果たした初美さん。
新婚初夜の床も、新居の夫婦の寝室も、きっと彼の精液に濡れてしまうだろうけれども。
ボクはとても、満足だった。
初美さんももちろん、満足だった。

妻のセカンド・ブライダル♡

2023年01月30日(Mon) 02:30:28

「好物なんだ、許せ」
男はそういって、妻の首すじに咬みついた。
そして、三十代の熟女の生き血を、妻の身体からしたたかに抜き取った。
妻は白目を剥いて悶えたが、四肢をガッチリと抑えつけられていて、ただ一方的に、血液を摂取されていった。

この街は危ないぜ――婚礼に招んでくれた親友の忠告を、無視したわけではない。
けれども妻も、「吸血鬼のいる街ですって?面白そう♪」と、自らすすんで、この危険な婚礼に帯同することを申し出たのだ。
山懐に抱かれたように蹲るこの街は、都会からはかけ離れたところにあって、
わたしたちは最低でも、二泊しなければならなかった。
そのさいしょの夜の出来事だった。

風呂あがりのわたしが、ホテルの部屋で真っ先に咬まれ、その場に昏倒すると、
脱衣所にいた妻が物音を聞きつけて、飛んできた。
夫婦ながら血を吸われるために、戻ってきたようなものだった。

都会の洋装を好むという彼らにとって、妻のスーツ姿は絶好の餌食だった。
ブラウスのうえから胸をまさぐられ、首すじを咬まれて、妻もまたほとんどわたしと同じ経緯で、その場に昏倒してしまった。
そして、彼女が再びわれに返った時にはもう、
肌色のストッキングを穿いた脚をたっぷりと、舐められ抜いてしまっていた。
新しくおろしたばかりのストッキングは、欲情を滾らせた唾液にまみれて、
みるみるうちに、淫らに濡れそぼっていった。
きっと――妻は犯されてしまうに違いない。
この街で花嫁を迎える親友は、たしかに言った――
セックス経験のある婦人を吸血の対象とするとき、彼らは生き血を餌食にした後で、性的関係まで遂げてしまうのだと・・・

さきに血を抜かれたわたしのなかに、嗜血癖が芽生えかけていた。
だから、彼が若い女の生き血に飢えていることに、同情も理解も感じ始めていた。
だからといって、その欲求の標的が妻であって、嬉しいはずはない。
けれども、鋭い牙を埋め込んで、ヒルのように這わせた唇で踏みにじるようにして妻の素肌を蹂躙されながら、
わたしはまったく、怒りというものを覚えなかった。
むしろ――活きの良い血にありつくことのできた同族を羨む気分さえ、感じ始めていた。

白い素肌にしつように吸いつけていた唇を引き離すと、
妻の身体から吸い取った血液が、口の端から微かに滴った。
わざと滴らせているのだと、はた目にもわかった。
乱れた純白のブラウスは、ボトボトとこぼれ落ちる真紅のしずくに濡れた。

妻は、かすかに意識が残っていた。
ブラウスを汚されたことに気がついたのだろう、かすかに眉をひそめて、
男と、そしてわたしの視線をも避けるようにして、目をそむけた。
それが、彼女にできる、精いっぱいの抵抗だった。

男はふたたび妻の足許にかがみ込んで、ストッキングを穿いた足許を凌辱することに熱中した。
室内の照明を照り返して淡い光沢を帯びたストッキングは、むたいに舌を這わされて、そのしなやかな舌触りを愉しまれていった。
妻は無念そうに、自分の足許を見降ろし、助けを求めるようにわたしを視た。
わたしはかすかに、かぶりを振った。
夫に引導を渡されたとさとった妻は、後ろめたそうに目を伏せると、
男が吸いやすいようにと、飢えた唇の動きに合わせて、脚の角度を変えていった。
深夜の宿を襲った吸血鬼は、こうして妻のストッキングを剥ぎ取る悦びを味わう権利をかち獲ていった。

むざんに咬み剥がれたパンストが、ハイソックスと同じ丈になって破れ堕ち、ずり降ろされてゆく。
失血のあまり身じろぎひとつできなかったのが、指先だけでもうごかせるようになったのは――
辱められてゆく妻の有様を目の当たりにして、妖しい昂ぶりと、
そして――認めたくはなかったけれど――忌むべき歓びとをおぼえ始めたからにちがいなかった。
妻は、真っ赤なショーツを穿いていた。
それは、わたしとの夫婦の夜を悦びに満たすためではなく、夫以外の男を誘うためでもむろんなく、
たんに彼女のおしゃれ心を反映したにすぎなかったのだが、男はそうはとらなかった。
「だんなさん、奥さんすっかりやる気まんまんのようだね」
冷やかすような口調はなぜか親しみが込められていて、侮辱されたような気分にはならなかった。
男の舌は、妻の真っ赤なショーツの上から圧しつけられ、しつように這わされた。
ショーツはみるみる、淫らな唾液にまみれていって、じっとりと濡れそぼり、秘められた陰毛までもが微かに透けて見え始めた。

「御覧にならないで・・・」
妻はやっとの思いで、いった。
「やす子、やす子」
わたしは思い切って、妻の名を呼んだ。
「非常事態だ。今夜にかぎり、きみはぼくの妻であることを忘れてくれたまえ」
好きに振舞ってもらって構わない――言外の意味を彼女はすぐに覚り、
そして・・・ショーツを自分の手で、引き裂いた。
ピーッと鋭い音が、部屋に響いた。

「だんなさん、すまねぇな・・・」
男はそういうと、そのむき出しの裸体を、妻の上へと重ねていった。
彼の逞しい腰が、妻の細腰に沈み込むのを、目を背けることなく見届けてしまった。
わたしよりもはるかに強靭な筋力に恵まれた腰は、ただのひと突きで、妻の狂わせた。

懊悩の夜更けだった。
朱を刷いた薄くノーブルな唇からは、絶え間なくうめき声が洩れつづけた。
さいしょのうちこそ耐え抜いた妻は、身に迫る凌辱をまえに身体を開かれていって、
ペニスのひと突きごとに反応を深め、ひと声切なげな吐息を洩らしてしまうともう、とまらなくなっていった。
吐息、吐息、吐息・・・
妻の貞操が永遠に喪われたことを、自覚せずにはいられなかった。
知らず知らず、わたしはその場で射精していた。
白く濁った粘液が客室のじゅうたんを濡らすのを、男も妻もみとめた。
どちらも、わたしを嘲ることはしなかった。
むしろ、互いに手足を絡め、身体を結びつける行為に、熱中してしまっていた。
馬乗りにのしかかられて前から犯され、
四つん這いになって後ろから奪われ、
それでも収まらない怒張を帯びた一物を、妻ははしたなくも唇に受け容れてゆく。
根元まですっぽりと咥え込んだ一物が、中で噴出したのだろう。
初めてのことにうろたえて、口許を抑えてむせ込んだ。
だいじょうぶか?と、男は妻の背中を撫でた。
妻は無言でうなずき返し、なおもペニスをねだった――わたしの前で。
足許にまとわりついたパンストはふしだらに弛みずり落ちて、
身に着けていたときには淑女だったはずの女は、もはや娼婦に堕ちてしまっていた。

わたしよりもはるかに剛(つよ)い怒張がくり返し妻の股間を冒すのを、わたしはただぼう然と見つめていた。
怒張は、妻の身体の奥から引き抜かれた後も、猛りに猛り抜いていた。
ヌラヌラとした体液でうわぐすりのように濡れそぼった一物は、
抜身の短刀が獲物を刺し貫くようなどう猛さで、なん度も妻の股間を冒しつづけた。
妻はそのあいだ、乱れた黒髪の端を口に咥えて、歯並びのよい白い歯を覗かせていた。

視ないで・・・視ないで・・・あなた視ないで・・・
妻はたしかに、そう繰り返していたはずだ。
それがいつの間にか、そうではなくなっていた。
あなた、視て、視て、視てえ・・・
腰を激しく振りながら、自分の身体を激しく求める逞しい腰の上下動にリズムを合わせながら、
彼女は頭を抑え、唇に手を当てて、随喜のうめきをこらえようとした。
こらえかねて、なん度も声を洩らした。
いい・・・いい・・・とってもイイッ!
激しくかぶりを振りながら、暴漢の男ぶりを褒め称える妻――
わたしにとって仇敵であるはずの男は、まんまと妻を手玉に取り、なんなく自分の支配下に置いてしまった。
男はなん度も妻に挑みかかり、夫だけに許されたはずの権利を不当に行使しつづけて、
妻もまたうめき声をこらえ、そしてこらえかねながら、男のあくなき欲求に、細身をしならせて応じつづけていった。


けだるい夜明けが訪れた。
わたしはぼう然として、ロビーで妻を待っていた。
男は妻を自室に略奪すると宣言し、わたしはぜひ伺いなさいと妻に促してしまっていた。
妻は乱れた髪を揺らして、わたしの許しにかすかな感謝と含羞を交えて、
男の促すままに従った。
朝6時に、ロビーで待ち合わせることになったのだ。

一睡もできずに昂ぶり疲れた身体をソファに持たれかけさせていると、
淡いピンク色のスーツをきちんと着こなした妻が、ロビーにハイヒールの足音を響かせて歩み寄ってきた。
「お待たせしました」
微かに揺れる栗色の髪は、夕べの乱れをほとんど感じさせなかった。
きこなしもいつも通り上品で、夕べあれほど淫らに舞った娼婦の気配を見事に消していた。
後ろから、男が影のように寄り添って、ついて来た。
「約束通り、奥さんをお返しするよ」
彼はそういったが、名残惜しそうにしているのが目に見えて見て取れた。
ピンクのタイトスカートの下から覗く妻の脚は、濃いめのグレーのストッキングに覆われている。
しなやかな筋肉の起伏がナイロン生地の濃淡になって反映し、いつになく艶めかしくうつった。
「式は午後1時からです。それまではお互い、暇ですな――」
男がなにを言いたいのか、すぐに察しがついた。
「家内のパンストをもう一度、破りたいんじゃないですか」
わたしは言った。
「図星――」
男はにやりと笑い、妻は損な男の尻を軽く打った。
ごく打ち解けた男女の間のしぐさだった。
「妻をすっかり、モノにされちゃったようですね・・・」
さすがにわたしは、悲し気に声のトーンを落としていた。
「ごめんなさいね、あなた。でも仰るとおり、すっかり奴隷にされてしまったわ」
「離婚は厳禁ですよ、おふたりとも」
男がたしなめた。
樋村夫人のまま妻を犯しつづけたい――そういう意味らしかった。
「午後1時まで、好きにしたまえ。旅路のロマンスだと思うことにするよ。夕べのことも、これから後のことも――」
口をついて出た言葉に、わたし自身が驚き、妻もあっけにとられた顔をした。
けれども妻は、救われたような顔になって、ここ最近みたこともないような丁寧にお辞儀をすると、
「もうしばらく、恋を愉しませてくださいね」
と、わたしに告げた。

わたしはてっきり、ふたりが男の部屋に戻るものだと思い込んでいた。
ところが、一人で寝もうとしたわたしのあとに、二人ともついて来たのには驚いた。
「わしがモノにした節子のオンナぶりを、貴方に見せつけたいのです」
男はいった。
どこまでもヌケヌケと・・・と思った。
けれどもわたしは、だれか違うものの意志に支配されたかのように、なんなく肯き返してしまっていた。
「家内はわたししか、識らない身体だったんですよ。でも今は、きみの恋の成就におめでとうというべきなのだろうな」
「負けをきれいに認める。清々しい行いですね」
彼はいった。
まんざら社交辞令ではないようだった。
「では力水をちょうだいしますよ」
彼はそういうと、わたしのスラックスのすそを引き上げた。
なにをするのだろうと思ったら、靴下の上から足首に咬みついてきた。
「靴下を破りながら吸血するのが好きでしてね・・・男女問わず」
彼はそういうと、わたしの履いていた丈が長めの靴下を咬み破り、静かな音を立てながら血を啜り始めた。
紺地に白のストライプの入った靴下はむざんに破け、啜り残された血に濡れてゆく。
「こっちも楽しむかね」
わたしが促すと、彼はもう片方の脚にも咬みついてきた。
「昨夜咬み破った家内のパンストほど、面白くはないだろう?」
「イイヤ、奥方を寝取ったご夫君の靴下を破くのは、けっこう乙な楽しみなんですよ」
「ひどい人だ」
わたしは男を軽く罵りながら、さっきから自分の神経をうっとりと痺れさせ始めていた吸血の感覚に、身をゆだね始めている。
「完全に気絶はさせませんよ。わたしは見せつけたいし、貴方も愉しみたいでしょうから――」

「きみに、わたしたち夫婦の体内に宿る血液と、妻の貞操を、改めてプレゼントしよう。
 貞操堅固な家内を見事に堕落させた腕前を認めて、きみを家内の愛人として、わたしの家庭に迎え入れたい。
 どうぞこれからも、家内を辱め、わたしの名誉を泥まみれにしてください」
わたしはそういって、笑った。
「素敵な浮気相手を見つけることができて、この旅行はとても有意義だったわ。まるでわたくしも、結婚式を挙げるみたい。
 貴方のご厚意に甘えて、遠慮なく貴方を裏切り、不倫の恋を愉しませていただくわ。
 負けを潔く認めることができる貴方に、惚れなおしましたわ」
妻も清々しそうに、笑った。
「ご結婚おめでとう」
わたしがいうと妻も、
「ありがとうございます」
と、細い首を垂れた。その首のつけ根には、彼に着けられた愛の証しがどす黒い痣となって、鮮やかに刻印されている。
「奥さんをわたしの恋人の一人に、よろこんで加えさせていただく。
 貴方の奥方を辱めるチャンスに恵まれたことは、今年で最も幸せな体験だったと告白しましょう。
 心づくしのプレゼント、嬉しくお受けいたしますよ」
彼もそういって、笑った。
三人三様、お互いをたたえ合い、愛を誓いあっていた。

薄れゆく記憶の彼方で、男は妻の唇に、唇を近寄せてゆく。
妻はうっとりとした上目遣いで、受け口をして、夫婦の血に濡れた唇を重ね合わせられてゆく。
二対の唇はお互いに強く吸い合って、結びついたように離れなかった。
ピンクのタイトスカートは腰までたくし上げられて。
グレーのストッキングはくまなく舐め抜かれ、咬み破られ、剥ぎ降ろされて。
白のブラウスはボウタイに血を撥ねかしながら、むしり取られていって。
荒い息と、昨晩よりもあからさまなうめき声。
主人よりもずっといいわ・・・という称賛と。
あなた、しっかり御覧になって・・・というふしだらな言い草と。
逞しい腰に絡め合わせた細い腰を、精いっぱいに振りながら、
妻はひたすら、堕ちてゆく。
お似合いのカップルの誕生を、わたしは自分の歓びとするしかなかった。
犯され、汚され、辱め抜かれてゆく妻の媚態を目の当たりに、わたしは恥ずかしい昂ぶりに身を委ねて、
親友よりもひと足さきに、自身の妻の「セカンド・ブライダル」を祝うことになったのだ。
新調したばかりのスーツを、花嫁衣裳の代わりにして――

大病院陥落す

2022年12月22日(Thu) 13:06:35

根取市の職員が、病院にやってきた。
少しだけ、緊張した面持ちだった。
彼は院長に面会を求め、一通の書簡を手渡した。
院長はちょっとだけ顔色を変えたが、何事もないかのようにその書簡を受け取ると、事務長の岡間を呼んでいった。
「入院患者を全員、すぐに第二病棟に移すように。第一病棟の今夜の夜勤には、看護婦全員を配置してほしい。
 ぜんぶでたしか――12人だったな」
「肥沼婦長を入れると、13人です。院長」
「わかった。もちろん婦長もだ」
事務長があわただしく院長室を出ていくと、入れ違いに肥沼婦長が入ってきた。
古風な白衣のすそからは、いい陽気の季節には不似合いな、もっさりとした白タイツの脚が、にょっきりと伸びている。
50にはまだ届かないはずだが・・・感情の消えた鈍い顔つきからは、婦長のぶあいそな人柄がありありと見て取れる。
「全員――って、どういうことですの」
耳障りな声で、婦長が訊いた。
「全員は全員だよ」
言いにくそうに院長がいった。
「――当院に、吸血鬼が大勢来るんだ」
婦長は初めて、顔色を変えた。

市役所からの書簡には、簡単にこう書かれてあった。
「患者収容要請 16名 うち吸血鬼3名 半吸血鬼13名
 対応依頼内容 看護婦等病院職員の血液を提供可能な全量供出すること」

「看護婦が足りません」
婦長がいった。
院長が言葉を挟もうとするのを遮って、「私を入れて13名ですよね」といった。
自分も血液提供の対象者になっていることを、冷静に受け止めているようだった。
「――家内と娘たちで、頭数を合わせよう」
院長も、感情を消した顔つきで視線を窓の外にそむけた。

先陣を切って送り込まれたのは、純血種の吸血鬼3名だった。
いずれも数百歳はいっているかというほどの、干からびた冷酷な顔だちをしていた。
彼らを乗せた車は、病院ではなく、その隣に面した院長の邸の前に停車した。
出迎えた院長が白衣を翻して玄関の中に消え、3つの影たちも、そのあとを追って吸い込まれるように扉の向こうへと姿を消した。

院長夫人の静枝は、明らかに度を失っていた。
けれども、おびえる娘たちの手前、気丈に背すじを伸ばし、自分たちの血を求めて上がり込んできた吸血鬼に丁寧に会釈をした。
「すまないが――看護婦さんも全員、今夜はご奉仕するんだ。お前たちも頼むぞ」
院長はそう言い捨てると、逃げるように自宅のリビングに背を向けた。
白衣の背中ごし、朱色のスーツに身を包んだ院長夫人が真っ先に、首すじを咬まれていった。
「痛くないから・・・だいじょうぶだから・・・」
娘たちの不安を少しでも和らげようとして、夫人はつとめて穏やかな口調であったが、
制服姿の娘たちの耳には入らなかったらしい。
おそろいの濃紺のセーラー服の少女たちは、三つ編みに結わえた黒髪を揺らしながら、次々とうなじを咬まれてゆく。

ちゅうちゅう・・・
キュウキュウ・・・
生々しい吸血の音が、部屋に充ちた。
さいしょにじゅうたんの上に座り込んだのが、院長夫人だった。
立て膝をした脚が朱色のスカートのすそからあらわになった。
男は無言のまま、冷ややかな視線を彼女の足許に落とした。
濃いめの肌色のストッキングが、院長夫人のつま先を包んでいる。
男は嬉しげに口許を弛めると、夫人のふくらはぎに、ストッキングの上から唇を這わせてゆく。
パチパチとストッキングがはじける音がした。
かすかな音とともに、薄っすらとした裂け目が、上下に拡がってゆく。
強く抑えつけた掌の下で、母親の穿いているストッキングが皺くちゃにされるのを、長女の真奈美は見た。

真奈美は、通学用の黒のストッキングを穿いていた。
母親にならって、よそ行きの装いを選んだのだ。
吸血鬼を悦ばせるために――
院長夫人は、お客さまをもてなすのがきょうのお勤めですよといって、長女にストッキングの着用をすすめていた。
うつ伏せにされた院長夫人が、ふくらはぎに押し当てられた唇と舌に、肌色のストッキングを大きくよじれさせてゆく傍らで、
やはりうつ伏せになった真奈美の足許から、薄墨色のストッキングが妖しくうねり、咬み剥がれていった。

次女のはるかは、母と姉とがうなじを咬まれ、足許を辱められてゆくのを、恐怖のあまり両手で口許を抑えながら見守っていた。
はるかを獲物に狙った男は、しばらくの間彼女のツヤツヤとした黒い髪を撫でるばかりで、すぐに毒牙を剥きだそうとはしなかったのだ。
背後にまわった吸血鬼をふり返るようにして、はるかはおびえた上目づかいで、哀願するような涙目で吸血鬼を見つめた。
吸血鬼はそろそろとはるかの足許にかがみ込むと、白のハイソックスに包まれたふくらはぎに、おもむろに食いついた。
「ひっ・・・」
あげかけた悲鳴をこらえながら、はるかは足許に拡がる真紅のシミに、身をすくませていた。

病院の正門に乗りつけられたマイクロバスから、無表情な男たちがぞろぞろと降りてきた。
だれもが、この街の住人で、この病院を利用した者も中にはいた。
その中の1人、中瀬次平(56)はつい先日咬まれて、半吸血鬼になっていた。
一人息子の俊作(33)も、夫婦もろとも咬まれていた。
夫婦で散策していた夕刻にひとりの吸血鬼が俊作の妻・絵美(28)に目をつけて牙をむきだして迫った。
俊作はもちろん妻を守って立ち向かったが、すぐに圧倒されてしまい、首すじを咬まれて大量の血液を喪失してしまった。
その場で倒れた夫に取りすがる絵美の首すじを、無慈悲な牙が冒していた。
若い夫婦は、したたかに血を吸い取られた。
絵美はスカートを穿いていた。
吸血鬼を伴い帰宅した夫婦は、どちらから言うともなく、代わる代わる自身の血液を吸血鬼の干からびた口にに含ませていった。
彼らは、この街に巣食う吸血鬼が、長い靴下を履いた脚に好んで咬みつく習性を知っていた。
俊作は、たしなんでいた球技のユニフォームであるストッキングをひざ下まで引き伸ばして咬ませてやり、
太目のリブが流れるふくらはぎに、点々と血潮を散らしていった。
絵美も夫にならって、薄手のストッキングを取り出して脚に通した。
そして、夫の前でいやらしくいたぶられ咬み剥がれながら、血を吸い取られていった。
若い血のほとんどを吸い取られた俊作は絶息して、妻が凌辱されてゆくのを薄まる意識のなかで見せつけられる羽目になった。
体内の血液のほとんどを喪った俊作は、半吸血鬼となった。
半吸血鬼となって嗜血癖を植えつけられると、血に飢えた者の気持ちがわかるようになっていた。
彼は自分たちの血を吸った吸血鬼を改めて歓迎した。
「絵美に惚れてくれるなんて、あんたも目が高いな」
などと、夫婦ながら血を吸い取った男を相手に軽口をたたいた。
自分の妻がまだ若く、二十代のうちに血をあてがうことができてラッキーだったとも言った。
絵美もまた、自分を犯した吸血鬼に夢中になっていた。
夫が在宅なのもかえりみず、気に入りの服でめかし込むと、グレーのストッキングの脚をくねらせて吸血鬼を挑発した。
俊作も、最愛の妻を吸血鬼がひと晩じゅう愛し抜くのを、昂りながら見守りつづけた。

俊作の母の涙子(るいこ、52)が嫁の不義に気づいたのは、それからすぐのことだった。
息子の家を不意に訪れたとき、絵美が愛人を相手に組んづほぐれつの情事に耽っているのを目にしたのが、彼女の運命を変えた。
涙子は、夫しか識らない身体だった。
いちどは毅然と、嫁の愛人の振舞いを咎めた涙子だったが、すぐに悲鳴をあげて逃げ回ることになった。
そして、絵美に羽交い絞めにされながら、首すじに牙を埋め込まれていった。
澱んだ赤黒い血が、涙子の緋色のブラウスにほとび散った。
妻の帰りが遅いのを心配した次平が息子の家に着いたときにはもう、妻は妻ではなくなっていた。
スカート一枚だけを腰に巻いて、破けたストッキングを片脚だけ穿いたまま、
リビングのフローリングの床に粘液をなすりつけながら、涙子は七転八倒していた。
次平は逆上したが、息子同様吸血鬼にはかなわなかった。
中瀬家の血は、吸血鬼の口に合ったらしく、彼も息子と同じように、血液のほとんどを気前よく飲み摂らせる結果になっていた。

中瀬家の女ふたりを支配下においた吸血鬼は、日本婦人の奥ゆかしい貞操を勝ち得た返礼に、夫たちを半吸血鬼に変えたのだ。
父親と息子は、吸血鬼の忠実な協力者になっていた。


バスを降りると中瀬次平は、息子の俊作をかえりみて、いった。
「真知子さんはお前がやるんだぞ」
真知子さん――この病院に勤める看護婦で、隣家の村瀬家の一人娘だった。
「じゃあ父さんは、佐奈子さんをお願いするね」
佐奈子さん――俊作の妻・絵美の妹で、この春に看護婦になったばかりの新人である。

看護婦たちは、ナースステーションに集められていた。
13人全員は入りきれないので、半数くらいの看護婦はロビーに立ち尽くしていた。
いずれ劣らぬ、肉づきたっぷりな健康そうな脚が、白衣のすそから伸びていた。
どの脚も、力仕事に耐える強さを帯びた脚だった。
血色のよい十二対のふくらはぎが、純白のストッキングに、淡いピンク色に透けている。

向こうからばたばたと、ざわついた足音が聞こえてくると、看護婦たちの間に無言の緊張が走った。
どんなときにも冷静な彼女たちだったが、
自分たちの血を経口的に摂取されるなどという経験はもちろん初めてだった。
真っ先に現れたのが俊作だった。
俊作は看護婦たちの中から村瀬真知子の姿をみとめると、まっすぐに歩み寄り、会釈抜きで肩を抱くと、首すじに咬みついた。
「きゃあッ!」
真知子の叫び声が、看護婦たちの恐怖を倍加させた。
続いて歩みを進めてきた次平が、友近佐奈子を引き寄せると、
「お、おじ様・・・っ!?」
と声を震わせる佐奈子を羽交い絞めにして、やはり首すじに食いついた。
節くれだったその掌は早くも、白衣のうえから胸をまさぐりはじめている。
「絵美の代わりに、わしの相手をせえ」
という呟きを、俊作は耳にした。
ほんとうは父は、絵美のことを犯したかったのだと気がついた。
家に帰ったら、絵美を襲わせてやろう――不吉な想いを脳裏にゆらめかせながら、俊作は俊作で真知子の白衣のわき腹に、グイッと牙を食い込ませていった。

落花狼藉だった。
ほかの半吸血鬼たちも、てんでに看護婦たちに迫り、抱きすくめてゆく。
抵抗は禁じられていたので、彼女たちは少しの間逃げ惑っただけで、一人残らずが飢えた掌を白衣に食い込まされてしまっている。
1人、また1人と、失血のあまり尻もちを突くものが続出した。
白亜の壁や床に鮮血が飛び散り、血だまりが澱んだ。

吸血された看護婦たちは、既婚未婚を問わず、犯される運命だった。
俊作が餌食にした村瀬真知子は、来月結婚を控えていた。
真っ白なパンストを引き破り、片方だけ脱がして、ショーツを足首から抜き取ってほうり投げ、
逆立つぺ〇スを白衣の奥へと強引に忍ばせて、太ももの奥の生硬な秘所を突き刺していった。
俊作は、真知子が処女だと気がついた。

次平は息子の嫁の妹を相手に、ぞんぶんに腰を上下させている。
「あんたぁ、生娘じゃなかったんだのお」
無神経な声がロビーに響き渡り、佐奈子は羞恥に顔を覆った。

「処女じゃなかったのなら・・・せめてけんめいにご奉仕するのよ」
傍らから佐奈子をたしなめたのは、肥沼婦長だった。
彼女は気丈にも、怯える若い看護婦たちをかばうように先頭に立って、真っ先に首すじを咬まれていた。
ほかの看護婦がそうされたように、彼女もタイツを片方だけ脱がされていた。
もっさりとした白タイツに血を滲ませながら、彼女はぶきっちょに、腰を上下させていた。
婦長は、夫を呼んでいた。
自分が犯されるところを見せるためである。
中瀬親子もそうだったが、彼らは好んで夫婦者を襲った。
まず夫の血を飲み尽くして、半死半生の傍らでその妻を犯して見せつけるのである。
けしからぬ嗜好だったが、血を抜き取られた男たちはむしろ嬉々として、自分の妻が凌辱される光景を見届けていった。
配偶者のいる看護婦たちは、できる限り夫を呼び寄せるようにと言われていたが、
ほとんどの看護婦は、自分が犯されるところを見られることをきらい、指示に従っていなかった。
婦長は、院長の指示に忠実に従っていた。

肥沼氏は勤務先から駆けつけて、妻が首すじに食いつかれるのを間近に見た。
彼は妻を狙う吸血鬼の前に割って入って、妻を庇おうとしたが、返り討ちに遭ってごく短時間に血液のほぼ全量を飲み尽くされてしまった。
不愛想な顔つきの肥沼婦長だったが、夫のためには良い妻だったらしい。
気絶寸前の夫は、辱めを享ける妻の掌を握り締め、妻も時おり気丈にその手を握り返していた。

半吸血鬼は、つい先日までふつうの市民だった。
看護婦と個人的に顔見知りの者もいたし、入院して世話になった者もいた。
入院した時に一番親身になってくれた看護婦を相手に選んだ者もいたし、
親友の婚約者を息荒く組み敷いていった者もいた。
看護婦たちは、今は一人残らず血の海に淪(しず)み、
ひたすらうら若い血液を啖(くら)われ、純白のストッキングを蜘蛛の巣のように引き破られ、白衣のすそを割られていった。

死屍累々・・・という感じだった。
死にきれない看護婦たちのうめき声が、ロビーに充ちていた。
もちろん、半吸血鬼たちは、彼女たちの生命を奪うことなない。
彼らはいずれも妻や母親、娘を吸血鬼に食われていて、その見返りにきょうの恩典に預かったのだ。

事務長の岡間が姿を現したのは、飽食が終わりかけたころだった。
彼は院長から、看護婦たちの介抱を命じられていた。
夫を呼んだ看護婦は、自分の夫に介抱されていたが、そうではないものが多かった。
岡間は事務員たちを指揮して、一人が肩を抱え、もう一人が脚を持ち上げて、看護婦たちを病室に運び込んでいった。
彼の風体は異様だった。
看護婦の制服を着用していたのだ。
腰にはスカートを着け、むき出しの脚には白のストッキングを通している。
まだ血を吸い足りないものがいたときのために、看護婦に扮して血を与えるためである。
幸い、13人の半吸血鬼たちは、きょうの獲物に満足したらしい。
それぞれが満足すると、てんでに引き揚げていった。
なかには、放心状態の看護婦の手を引いて、そのまま病室にしけ込むものもいたし、
それどころか顔見知りの看護婦を犯した者は、自宅や彼女たち本人の家に連れ去ろうとするものもいた。
だれも、制止する者はいなかった。
ナースステーションやホールに居合わせて病室に運び込まれたり半吸血鬼に連れ去られた看護婦は、12人だった。
1人足りなかった。
岡間は白のストッキングの脚を行きつ戻りつさせながら、ドアが半開きになった病室をひとつひとつ見て回った。
最後の1人を見つけたのは、そういう病室のひとつだった。
個室のベッドのうえで、看護婦が一人、年配の半吸血鬼に組み敷かれて犯されていた。
ストッキングを剥ぎ取られて剥き出しになった片脚はベッドのうえで立て膝をしていて、
もう片方の脚は、ひざ下までずり降ろされたストッキングを皺くちゃに弛ませながら、床に突いていた。
年配男は無同情に女を抑えつけ、荒々しく性欲を満たしてゆく。
中年のその看護婦は、紅を穿いていない薄い唇から、くいしばった白い歯を覗かせながら、恥辱に耐えていた。
「だいじょうぶか」
岡間は看護婦に声をかけた。
「だい、じょう、ぶ・・・」
女はかろうじて、こたえた。
看護婦の上にまたがっていた男は、やがて得心がいったらしい。
あらわにした股間から一物を引き抜くと、満足そうにひと息ついて、事務長をふり返って、いった。
「奥さん、ええ身体しとるのお。うらやましいワ」
「恥ずかしい」
岡間看護婦は、毒づくようにそういって、半裸に剝かれた身体を裂けた白衣で覆った。
「また楽しもうぜ、こんどは旦那抜きで」
男はヌケヌケと、岡間看護婦をからかいつづける。
「うちのやつは淫乱看護婦ですから、時々メイク・ラブをお願いしますよ」
夫の岡間まで、そんなことをいう。
さっき目の前で展開された熱烈セックスが、妻の本心だと、彼はよく心得ていた。
気の合った者を見つけて、ふたりで示し合わせて、早めに個室にもぐり込んだのだろう。

男が行ってしまうと、岡間看護婦は夫にいった。
「ほかの人たちは?」
「なんとか片づいた」
あくまで事務的なこたえだった。

ベッドの片付けられた広い病室に、
白衣を血で濡らした看護婦たちが横たえられている。
だれもが放心状態、失血状態。
立て膝をしているもの。
大の字になって伸びているもの。
裂けた白衣からこぼれ出た胸もとを、恥ずかしそうに押し隠すもの。
そんな同僚たちの間をまたいで通る岡間看護婦の足許には、
ハイソックスくらいの丈に破られた白のストッキングが、ふしだらな弛みを帯びていた。


3日後。
院長室に、肥沼婦長がいつもの仏頂面で現れた。
「看護婦は全員、復帰しました」
淡々と告げて立ち去ろうとした婦長の足許に、院長が目を光らせる。
いつもの厚ぼったい白タイツではなく、白いふくらはぎが薄地のストッキングに透けていた。
婦長のストッキングは光沢を帯びていて、毒々しいギラつきさえよぎらせている。
「驚いたね」
院長は、顔見知りの患者のほうをふり返った。
患者は婦長の夫の肥沼だった。
彼の首すじには、赤黒い咬み痕がふたつ、痣のように浮いている。
「どうやら先日の騒動で出逢った男と、すっかりウマが合ったようなんです」
情夫はもっさりとした白タイツより、つややかな薄地のナイロンを愛でたがっていた。
それに好意的に応えた妻は、退勤の途中寄り道をして、飢えた吸血鬼のために光沢入りのストッキングを破らせてやっているという。


市で一番の大病院は、こうして吸血鬼の手に堕ちた。
看護婦の不足分を立派に補った院長夫人も、娘たちも。
今ごろは立派なお屋敷の奥で、パンストやハイソックスに卑猥なよだれを塗りつけられて、
スーツや制服のスカートを、毒々しい精液で濡らされているころだろうか。

「男らしい」ということ。

2022年12月22日(Thu) 09:26:08

道具を使うなんて、男らしくない。
睡眠薬で陥れるなんて、もっと男らしくない。
ことの善悪はともあれ――そんなら力づくで征服するほうが、まだ男らしい。

そんなことをうそぶいているあの男に、「男らしく(?)」犯されたとき。
私はまだ、男を識らない身体だった。
けれどもあの男は、とっても上手だった。
前戯に時間をかけ、
まだ受け容れたところのない私の秘密の部位をたっぷりと濡らして、
それからおもむろに、侵入してきたのだ。
もちろん痛かった。すごく痛かった。
でも――心地よい痛さだった。

結婚まで処女でいるのがポリシーだった。
「世間知らず」さんのそんな人生設計は、あっさりと覆されてしまったけれど。
そんなことは、もうどうでも良いと思えるくらい。
ひと晩たっぷりと、楽しませてくれた。
ねんねだった私が明け方に家に戻ったとき。
幸いパパが出張中の留守宅を守っていたママは、なにかに気づいたみたいだけど・・・
とうとう母娘のあいだで、具体的に言葉を交わし合うことはなかった――

あの男は面倒見のよいやつで、
結婚適齢期になった私のことを気遣って、結婚相手を世話してくれた。
色白で良家の出の、ごく大人しい人だった。
なにも知らないその人は、私を処女だと思い込んで、結婚した。
婚約中も、あの男は始終ちょっかいをかけてきて、
だれかの婚約者をモノにしてみたかったんだ――
そういって。
嫁入り前の身体に、淫らな習慣をたっぷりと、教え込まれてしまっていった。
あたしはあたしで、ドキドキしていた。
未来の夫を裏切って、結婚前から不倫に耽るのが、ひどく小気味よかった。
たぶんあいつは、私の幸せのことも考えてくれていたに違いない。
夫になるひとは、良いところのぼんぼんで、しかるべき勤め先を得ていて、なによりも優しい人だった。
あたしはその人と華燭の典をあげるまで、花嫁ならぬ淫乱振舞いに身を焦がしていた――

新婚旅行から戻ってきて、一週間経ったとき。
あたしは初めての、人妻としての不倫を愉しんだ。
夫の出張中。
新居を抜け出し、二泊三日のあいだ、ずうっとホテルに入り浸って、
それからあの男と一緒に家に戻って、
夫婦のベッドを穢し抜く歓びに、はしたないうめき声をあげていた。

長女は、あの男の種だった。
長男は、はたしてどちらだろうか?
そんなこととも夢にも知らないお義父さま、お義母さまは、善良で幸福そうな笑いにすべてを包み切っていて、
なにくれとなく、あたしたち夫婦の面倒をみてくれている。
小さい子供をお祖母ちゃんに預けて――その息子を裏切って、操を汚しに出かけたことも、二度や三度ではない。
あの男はじつは両刀遣いで、じつは夫のこともたぶらかしていて、
夫はサイズがちょうど会うあたしの服を密かに持ち出して、身に着けて、
あたしの身代わりに、不倫女房よろしく、お尻にぺ〇スを突き立てられて、昼日中から喘ぎつづけるときもあるという。

しばらくして。
あの男はあたしから、離れていった。
きっと――ほかに手ごめにして楽しむ女ができたんだろう。
あたしは平気だった。
もともと、二人の関係は、あるようでなかったものだから。
あたしはあの男の味の余韻を股間に宿したまま、品行方正な専業主婦を気取りつづけていた。

ふと気がつくと。
かたわらに、勤め帰りの主人がいた。
主人は不思議なことを、口にした。

もう彼には逢っていないの?

え?
振り向くあたしに、主人は意外なことを口にする。
昔――あいつがぼくに、言ったんだ。
お前、いつまで経っても、結婚しない気なのか?って
そんなわけないだろ・・・?って、ぼくがこたえたら。
でもお前――女に声かける勇気ないんだろって言われた。
俺がいい女紹介してやるから。
でもその代わり、その女の処女は俺がもらうぜ って。
そのひと言を、聞いたとき。
ぼくは、ゾク・・・ッとしてしまったんだ。

ぼくと出会った時、きみはまだ、男を識らない身体だった。
あいつはぼくにきみの存在を見せつけると、すぐにきみに言い寄って――
きみのことを、自由にしてしまった。
でもぼくは、あいつに自分の花嫁の純潔を捧げたような気分になって――凄く凄く嬉しかったんだ。
毎日毎日、あいつはぼくの視線に見え隠れしながら、きみになれなれしくすり寄って、
ぼくの未来の花嫁を、じょじょに、じょじょに、少しずつ侵蝕していった。
それがたまらなく、ドキドキしたんだ。
嫉妬に震えて、胸の奥がズキズキしたんだ。
清純な花嫁の貞操が揺らいで、こらえ切れなくなって、弛み堕ちてゆくのを――
ぼくは視て視ぬふりをしながら、マゾの血を高ぶらせていたんだ。

きみも、いやというほど思い知らされているだろう?
ぼくは、あいつのぺ〇スの味を知っている。きみと同じように。
あんなに大きいもの突っ込まれたら、あんなにぐりぐりとかき回されちゃったら、理性なんて忘れちゃうよね。
きみが初めて体験したぺ〇スが、あいつのあのぺ〇スで、ぼくは良かったと思っている。
そして、いまでもあいつがきみのことを愛し抜いていてくれたことを、誇らしく思っている・・・

あたしを夢中にしたあの男が、ふたたびこの街に舞い戻ってきたのは。
子どもの世話が一段落した、ちょうどそのころのことだった。