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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

~このサイトのご紹介~ 魔性の淫楽への招待状

2020年03月22日(Sun) 21:12:01

はじめにお読みください。
一話読み切りのお話がほとんどですが。
吸血鬼ストーリーといっても。
「他では目にすることはまずないでしょう」
そう断言できるほど?変わった世界のお話なので・・・。

カテゴリの解説

2019年08月14日(Wed) 19:11:24

ひと言で吸血鬼ものの短編といっても、それこそいろんなお話が混在していますので。
カテゴリをちょっと、整理しました。
お話に共通のおおまかな設定については冒頭↑の「招待状」に書かれてありますが。
ちょっとだけ、付け加えておきます。

夕方6時以降の公園

2018年06月16日(Sat) 19:10:44

薄暗くなった街かどに「夕焼け小焼け」のチャイムが鳴ると、
公園で遊んでいた子どもたちはいっせいに、家路につく。
この街の子供たちは、お行儀が良い。
それもそのはず。
この街では、夕方6時を過ぎると、吸血鬼が出るのだから。

入れ違いに路地を行き交うのは、制服姿の女子中高生たち。
「みなみちゃん、いる?」
「みなみちゃーん」
時ならぬ若い声が、路地裏の一軒家の玄関のまえにひっそりと響く。
二人連れの少女たちは、おそろいの白いカーディガンに、
濃い赤と黒とのチェック柄のプリーツスカート。
革靴のなかにお行儀よく収まった白のハイソックスの脚が、
夕闇のなかで鮮やかに浮き上がる。
友だちの声に応じて玄関を出る少女の姿も同じ制服を着ていて、
セミロングの黒髪を揺らしてポーチを降りてくる。
三対の城のハイソックスの脚たちは、足並みをそろえて公園に向かった。

公園にはそこかしこにベンチがあって、
違う制服の子たちもひそひそ話を交し合いながら、
思い思いのベンチに腰かける。
みなみちゃんと呼ばれた少女も、
ほかの二人の少女とある間隔を取りながら、
それぞれベンチを選び腰を下ろした。

一陣のなま温かい風がひゅう~っと公園のなかを駆け抜けると、
それぞれのベンチのまえにはひとつずつ、
少女たちのまえに黒い影を立ちはだからせた。
「こんばんは」
少女たちはいつもよりちょっと遠慮がちな上目遣いをして、
自分の相手を値踏みするように見あげた。
影たちは思い思いに、
あるものは少女の足許にかがみ込んで、
ハイソックスの内ももに唇をすりつけてゆき、
あるものは少女をベンチのうえに仰向けにして、
うなじに唇を沈めてゆき、
あるももは少女をベンチのうえにうつ伏しにして、
ハイソックスのふくらはぎに唇を這わせてゆく。

ごく・・・っ。
ちゅうっ・・・
きゅううっ・・・

しのびやかな吸血の音がそこかしこであがり、
少女たちはシンとおし静まって、
刺し入れられる牙の痛痒さに歯がみしながら、
献血行為の陶酔に耽ってゆく――

6時以降の公園は、少女たちの秘密の場。
吸血鬼たちは自分のベンチにだれが座るかと胸躍らせながら、
夕刻の一陣の風を待ち焦がれる。

女房を吸血鬼に寝取られた後の、賢明な夫の行動。

2018年06月11日(Mon) 22:06:07

家に帰ったら、女房と娘の様子が変だった。
顔見知りに帰り道をつかまって、一杯気分で戻って来た俺にも、いつもとちがう様子がありありと見て取れた。
女房のやつはすまなさそうに、後ろめたそうに、
なにも言いたくなさそうに、でも言わなければいけなさそうにしていたし、
娘のほうはいつも大人しいやつなのに、それがいっそうふさぎ込んだみたいにしていて、
いつものようになにも言わないくせに、晩ご飯のあいだじゅう、俺と女房のことをチラチラと見比べていた。

娘が勉強部屋に引き取ると、女房が思い切ったように俺に話しかけてきた。
「あなた、ちょっとお話が・・・」
居間のすぐそばには、勉強部屋に通じる階段があった。
女房は娘の勉強部屋から一歩でも遠いところで話をしたかったらしくって、
夫婦の部屋へと俺のことを促した。

女房はいつも家では、スカートを穿いている。
太っちょの女房はすでに遠い昔から、ウェストのくびれとは無縁になってしまったけれど、
それでも身ぎれいにしていたいと思うからか、若いころのスカートをサイズを直して穿いていた。
改めて齢相応のものを買うよりは・・・という主婦らしいけちくささも見え隠れしていたけれど。
女房がふだんどんなかっこうをしているのか・・・などということには、
世の亭主のたいがいと同じように、俺も気にしなくなっていた。
それなのに、きょうにかぎって、
すそも腰周りもおなじにみえるほどずん胴に着こなした黄色のスカートが、
スカートの裾から覗く、ストッキングに包まれたひざ小僧が、
どことなく眩しく映った。

「ごめんなさい。ほかの男の人に抱かれてしまいました」
ふたりきりになると女房は、やおら三つ指突いて、俺のまえで深々と頭を下げた。
「どういうこと?」
思わず訊いた俺に、女房は包み隠さずすべてを話してくれた。
娘ののり子が学校帰りに吸血鬼に襲われたこと。
貧血になるまで血を吸われた後、血を吸った相手の吸血鬼に介抱されながら家に帰ってきたこと、
いつも学校に履いて行っているライン入りの靴下が血に濡れて、かわいそうだったこと、
貧血になったのり子が部屋でぶっ倒れてしまうと、吸血鬼はやおら女房につかみかかってきたこと、
「真っ赤なスカートなんか穿いていたのがいけなかったんです」
若いころの女房は派手好きで、今さら外に穿いて行けないようなスカートを後生大事に抱えていて、
家の中で穿き古していた。
そういえば、いま穿いている黄色いやつも、記憶をたどり切れないほど昔から、見覚えのあるやつだった。
ごめんなさい、ごめんなさいとひたすら頭を下げつづける女房を前に、
やつが女房を犯したのは、スカートのせいなどではないと、俺は心の中でくり返していた。


俺の帰り道を待ち伏せるようにして酒に誘ったのは、顔見知りの年配の男だった。
いつも陰気くさい顔つきをしたその男は、顔色さえもが蒼ざめていて、
周りから「大丈夫か」と声をかけられるほど弱り果てているときもあった。
それがきょうにかぎって珍しく顔色がよく、気分もよさげに俺のほうへと近づいてきて、
一杯どうですか?と誘いを投げたのだ。
二、三杯酌み交わして、ほろ酔い気分になってきたころ、年配男は思いきったように切り出した。

わしが吸血鬼なのを、だんなはご承知ですよね?
じつはわし、だんなに済まないことをしちまったんだ。
だから今夜の酒は、おごらせてくれ。
その代わり、黙って怒らないで、さいごまでわしの話を聞いてくれ。
年ごろの娘さんがいたよね?のり子ちゃんって言ったっけ。
ちょうど学校帰りに出くわして、わし、喉が渇いていたもんだから、のり子ちゃんにすがっちまったんだ。
のり子ちゃん、さいしょは怯えていたけれど、さいごは唇噛んでべそかきながら、「痛くしないでね」ってお願いされた。
なるべく痛くないように咬んだつもりだったけれど、ブラウスと靴下、汚しちまった。
それでも貧血になるまで、若い血をご馳走してくれて、
のり子ちゃん、見かけはぱっとしないけど、あ、ごめん、でも、生き血はすんごく美味かったな。
華やかで色っぽい味がした。やっぱり若い子の血はいいな。
で、貧血起こして立つのがやっとのあんばいだったから、家まで送ってやったんだ。
家ではおかみさんが、びっくりして娘を出迎えて、
のり子ちゃんも気が抜けちまったのか、制服のままぐったりとなって、
子ども部屋で尻もちついたがさいご、動けなくなって。
で、わしはおかみさんに詫びたんだ、ちっとだけ吸い過ぎたみたいだって。
そんでも、まだまだ吸い足りなかったから、ついうっかり、おかみさんの首すじまで咬んじまったんだ。
だんなは知ってるだろ?
わしらがセックスしたことのある女を咬んだ時は、することをしちまうんだって。
悪いけど、おかみさんとはそんな仲になっちまった。
家に帰ったら、おかみさんが話すようなら、聞いてやってくれ。
話さないようなら、知らんぷりをしてやってくれ。
あとね、三発までなら、わしのことなぐってくれて構わんからな。


「あの子、瘦せっぽちだから、血が足りなかったんだねきっと」
女房はふと、そんなふうに洩らした。
そう、きっとそんなところだろう。
娘から採った血だけでは足りなくて、足りない分を母親の身体から補ったのだろう。
「でもあたし、招(よ)ばれてるんだ。あのひとに。行ったらだめ?だめだよね?」
だめって言ってもらいたいのか、言ってもらいたくないのか、半々の感情を交えながら訊かれても、
亭主たるものどう応えればよいというのだろう?
どのみち結論はきまっているのだ。
女房は、俺のいないあいだに、娘と自分を襲った吸血鬼の邸に、出かけてゆく。
酒場で聞いたやつの言いぐさではないが、女房と娘の日常の変化に、俺は知らんぷりを決め込むことにした。


ウエストのくびれなどとっくになくなった腰周りに、くねずみ色のタイトスカートを穿いて、
白のブラウス、持ちつけない黒革のハンドバックに黒革のパンプス。
まるでPTAに行く時みたいな恰好をして、女房はいそいそと出かけていった。
勤めをわざと早めに切り上げた俺は、そんな女房のあとを尾(つ)けてゆく。
吸血鬼と人間とが仲良く共存しているこの街では、会社さえもこういうことには寛大だった。
「家内の素行調査で」といっただけで、上司はなにもかもわかった、という顔をして、早退届に印をついてくれたのだ。
ずん胴のスカート姿は後ろから視ても、ぱっとしない印象で、いったいこんな女をなぜ?と思いたかった。
むっちりと太いふくらはぎが、もしかしたら目あてかも知れなかった。
たしかに量だけは、血をたっぷり採れそうだったから。
けれども見慣れたはずの肌色のストッキングの脚は――なぜかいつもよりも、なまめかしく目に灼(や)きついた。
玄関に立つ女房の横顔を盗み見てはっとした。
わが妻ながら平凡な目鼻立ちが、いつもより濃い化粧におおわれている。
真っ赤に刷いた口紅をみて、女房は勝負するつもりだ、と、直感した。

閉ざされた玄関から、施錠される音は洩れなかった。
俺はふた呼吸ほど置いて、息を詰めてドアノブをまわす。ドアはしぜんに開いた。
まっすぐ伸びた廊下の向こう、鍵の手に折れた部屋から灯りが洩れている。
邸のあるじも女房も、きっとそこにいるはずだった。

恐る恐る覗き込んだリビングの真ん中に、ねずみ色のスカートの後ろ姿が立ちすくんでいた。
すでに女房を抱きすくめた吸血鬼が、ちょうど首すじを咬むところだった。
ドラキュラ映画だったら間一髪、ヒロインを救う場面だったが、
女房は金髪美人のヒロインではなかったし、
俺はただの間の抜けた寝取られ亭主に過ぎなかった。
男はむき出した牙を女房の太いうなじに突き立てて、カリリと咬んだ。
じわじわっと血が噴き出して、白いブラウスに撥ねたけれど、女房は身じろぎもしなかった。
そのまま男は力まかせに、ググっと牙を埋め込んで、女房の首すじを冒しつづけた。

ちゅ、ちゅう~っ。
あの野郎、美味そうな音を立てて、女房の血を吸いやがって。
嫉妬がむらむらと沸き起こったとき、ふと吸血鬼と目が合った。
ビクッと身体を硬直させる俺に、やつはイタズラっぽく笑いかけて、ウィンクまでして寄越す。
こんにゃろう、と、思いながらも、俺は顔をしかめてかぶりを振るばかり。
やつは許しを請うような目線を送りつつ、貧血に上体をユサッと揺らす女房のことを、手近なソファへと押し倒していった。

ねずみ色のスカートをたくし上げ、あらわになった太ももは、
もうすっかりご無沙汰になっている俺も、久々に目にしたのだけれど、
ちょっとだけよけいに肉がつき過ぎていて、ほんの少しだけだらしなくたるんでいた。

肌色のストッキングになまめかしく包まれた太ももは、血に飢えたものの目線を引き寄せて、
やつは俺の目線もいとわずに、吸い取ったばかりの血がついた唇を、チュウッと音をたてて吸いつけてゆく。

女房のやつは、わざわざ真新しいのをおろして穿いたらしい。
薄手のナイロン生地のしなやかさを愉しむように、やつはなん度も撫でつけるように太ももを吸い、ふくらはぎを吸った。
やつの唇を圧しつけられるたび、女房の脚のまわりでストッキングはふしだらによじれ、淫らな皺を波打たせてゆく。
俺はただ、魔法にかけられたように立ち尽くし、足許を辱められてゆく女房のことを見守るばかり。
やつはこれ見よがしに女房の腰を抱きかかえて、
ストッキングをしわくちゃにしながら、まるでまさぐるように唇を這わせつづけていった。

やつがとうとう牙をむき出して、おなじことをくり返し始めると、
思い思いに喰いつかれるまま、
女房の素肌をガードしていたたよりない薄手のナイロン生地は、脚の周りでブチブチとはじけていって、
ふしだらに拡がる伝線から、むき出しの素肌があらわになる。

うひひ、うひひ・・・やつは嬉しそうにほくそ笑みながら、女房のブラウスをはぎ取って、
尖った爪でブラジャーの吊り紐を断ち切ると、たわわに熟したおっぱいに唇を吸いつけ、さも美味しそうにむしゃぶりつけた。
乳首をチュルチュルと舐め味わいながら、わき腹や腰を撫でさすり、
首すじから二の腕をなぞるように撫で上げて、深々としたディープ・キッスを交わすと、
やおら下半身をあらわにして、ねずみ色のタイトスカートの奥へとさぐり入れてゆく。
女房のやつは無我夢中で、男の唇をよけようとしながらすぐにつかまえられて、
せめぎ合わされる唇に、知らず知らず唇で応えはじめてしまっていて、
ねずみ色のスカートが皺くちゃになりながらせり上げられてゆくのにも気づかない様子――
やがて、男の股間に生えた毒蛇は、女房の太ももの奥へと侵入して・・・
「ああっ~!!」
絶句する女房のうえにのしかかって、やつは我が物顔に腰をふるいながら、強引に上下動をくり返す。
「アッ、アッ、アッ、アッ・・・」
女房のやつ、焦りながらも身体の動きは正直に、無理強いな上下動に、自分の腰をぎこちなく、合わせていった。


その夜からしばらく経ったある晩のこと、俺は初めて告白を受けた酒場で、やつを前に盃を傾けていた。
あの晩、俺は先にその場を離れた。
女房を犯した後のやつと言葉を交わしてみたい気もしたけれど、
熱々なお2人さんをそのままにさせておいたほうが無粋じゃないという気がしたのだ。
目のまえで女房を犯されながら、やつに独り占めさせてしまった俺は、
もうとっくに女房の不倫の共犯者になり下がっている。
「なり下がる、なんて言いなさんな」
男はゆうゆうと酒を酌みながら俺にいった。

娘が気に入ったら、その母親がどんなものか、気になるもんだ。
のり子ちゃんは見かけはぱっとしないけど、(ひとの娘をつかまえてまだそれを言うか)
生き血の味はじつに佳い。
いつもうっとりしながら、愉しませてもらっている。
ライン入りの靴下、もう1ダースくらい破っちまったかな。
おかみさんも太っちょだけど、(ひとの女房をつかまえてそれを言うか)
生き血も美味いし、身体もいい。
あんた、おかみさんとは週になん回やってんの?
なんだ、ごぶさたなのか。もったいねぇ。
家ん中でもスカートにパンストって、いい趣味だな。
おかみさんのパンストも、もう1ダースはとっくに破ったな。
え?14足だって?あんた全部視ていたのか?

浮気の現場を残さず視ていたと告げる俺に、やつはくすぐったそうに、少し誇らしそうにして笑った。
すがすがしい笑いだと、なぜか思った。
俺も笑った。
男ふたりは、声を合わせて、笑いこけた。
笑い終えた後、気分がスッキリするくらい、腹の底から笑い合った。

あんた、本気でうちの女房に惚れたみたいだね。
いつもしんけんに女房と接してくれて、女房を夢中にさせてくれているね。
ご無沙汰にしていただんなとしては、感謝しなくちゃいけないのかもな。
俺は俺で、そこそこ遊んでいるから――あいつにはちょっと、済まない気でいたんだ。
さっきご無沙汰だと言ったけど。
さいしょに覗いたあの晩のあと、家に戻って来た女房のことを有無を言わさず押し倒してね。
物音が聞こえていたはずなのに、二階の勉強部屋は、やけにひっそりしていたっけな。
あんたがうちに来るときも、娘はいつもああしているのかい?

浮気帰りの女房を押し倒したその夜から、週になん度かはやっているんだ。
「夫婦のセックスも、たまにはいいよね」とか言いながらさ。
でもあいつ、あんたとの関係は断とうとしないんだよな。

迷惑かな?
やつは訊いた。
迷惑だね。
俺は応えた。
でも、歓迎する。
あとをつづけた俺に、やつはにんまりと笑った。
あんたのご一家を征服できて、嬉しく思う。
あんたに家族で征服されて、嬉しく思う。
やつの口真似で返してやると、「きょうはおごろうか」いつもと同じセリフを、口にした。
「けっこうだ」
俺はいつものように、やつの好意を謝絶した。
それはそれ、これはこれ。
俺の女房の貞操を、酒代なんかでごまかそうとするなよ。
あんた、本気で女房に恋をしてくれているんだから。


あとがき
前作のスピンアウトです。
どうも話が熟女のほうにエスカレートすると、ついつい熱がこもります。
このお話、今朝ほどあっぷしたつもりでいたら、あっぷできていませんでした。
改めて読み直して、再あっぷいたします。
2018.6.11 AM8:14頃脱稿

あまり美しくない少女の場合。

2018年06月11日(Mon) 04:49:26

そばかす顔に、三つ編みのおさげ。
大きくはない瞳に、特徴のない目鼻立ち。
そんな容姿の持ち主の粟井のり子は、あまり美しくない少女だった。

学校からの帰り道、喉をからからにした吸血鬼に遭ったのが運の尽き。
戸惑うばかりののり子はあれよあれよという間に公園の片隅に追い詰められていって、
頭をつかまれおとがいを仰のけられて、
首すじをガブリとやられ、白ブラウスの襟首を真っ赤な血潮で濡らしてしまっていた。

くらくらと貧血を起こすまで血を吸い取られると、
親よりも老けたカサカサの頬をした吸血鬼は少女をベンチに腰かけさせられて、
当時年ごろの少女たちの間で流行っていたライン入りのハイソックスのふくらはぎに、
にやけた唇を圧しつけられていった。
太めのグリーンのラインの上を、赤黒いシミがじわじわと拡がっていった。

個性のない容姿とかかわりなく、十四歳の少女の血は、飢えた吸血鬼の喉を心地よく潤した。
男は困り抜いている少女が戸惑いつづけるのもかまわずに、
両方のふくらはぎに代わる代わる喰いついて、
じゅるじゅる、じゅううっ・・・と、露骨な音を立てながら、少女の生き血をむさぼっていった。
けれどもこの土地に棲みつく彼らは人間に対してあまり残酷ではななったので、
ひとしきり少女の生き血を愉しんだ後は、
具合悪そうに俯くのり子のことを、学生鞄を担いながら家まで送っていった。
訪れた少女の自宅で、びっくりして娘を出迎えた母親を相手に吸い足りなかった血液を補充して、
ことのついでに、気が済むまで犯してしまうことも忘れなかったが。

それ以来、のり子は学校の行き帰りを待ち伏せる吸血鬼のため、
しばしば制服のブラウスやライン入りのソックスを血で汚した。
できの悪い少女は赤点を取りつづけ、男子にももてなかったけれど、
たぶんそれは吸血されてもされなくても、変わらない日常だったに違いない。
頭も悪く、あまり美しくなかったけれど、律儀で心の優しいところがあったので、
身体の調子がいまいちでも、「小父さん」と呼ぶ彼の喉が渇いたころと見定めると、
母親が止めるのも聞かずに、ライン入りのソックスを脚に通して、吸血鬼の待つ公園に向かうのだった。
それが「小父さん」のためにできる、精いっぱいのお洒落だと心得ていたようだった。

やがてのり子は、親の決めた相手と結婚した。
相手は同じ中学の同級生で、のり子が吸血鬼に血を吸われていることを知ったうえで結婚を承諾した。
披露宴の一週間まえ、呼び出されるままにのこのこと出かけていったのり子は、
吸血鬼の邸の奥深く、寝所に招かれて。
結婚祝いにといわれて、なん度もなん度もしつように犯された。
初めて味わう男の身体が、たんに股間を痛くするだけではなくて、たまらない快感だと思い知るほどに。

「わかってるよ、あのおっちゃんの児だろ?俺育てるからいいよ」
のり子の夫は、妻と同じくらい見映えのしない若者だったが、律儀で鷹揚な男だった。
お腹の子が自分の子ではないと知れたのに、
ひどくすまなそうな顔をして困り切った新妻を、そういってかばった。
嫁入り前も、人妻となってからも、のり子は夫に黙って吸血鬼の邸に通いつづけていたが、
のり子の夫は嫁の浮気相手のところに出かけて行って、とっくりと話し合って、
嫁が身ふたつになったらまた、逢わせてやると約束していた。
「小父さん」がただのり子の血が吸いたいだけで、自分に悪気がないのも恥をかかせたくないと思っているのも、よく心得ていて、
言ってくれれば周囲に怪しまれないように、車で送り迎えするとまで、約束して家に帰って来た。

「とんでもない嫁だ」と憤慨する母親をなだめて、
「母さんもいちど、嫁の浮気相手とよく話してみると良い」と促した。
いっしょに訪問した息子のまえ、気位の高い姑は、嫁の浮気相手に生き血を吸い取られる羽目に遭った。
「そうなるだろうと思っていたよ」
のり子の舅が苦笑しながら語りかけたのは、妻にではなく息子にだった。
気位の高い姑は、夫には黙りとおしたまま情交を重ね、
嫁や自分を目あてに吸血鬼が行き来するのを、嫁を非難するしかめ面だけはそのままに、許しつづけていた。

さいしょの息子は吸血鬼の種だったが、つぎの息子は夫婦の間の子であった。
従順な弟は、吸血鬼のお兄ちゃんが困っていると知ると、当然のことのように自分の彼女を紹介してやった。
のり子は嫁になる少女におだやかに接して、決して怖くないからお兄ちゃんのこともよろしくねと頭を下げた。

吸血鬼に生き血を吸われ、母親も、嫁ぎ先の姑も、息子の嫁さえ犯されて。
「ふつうなら家庭崩壊なのに、のり子さんだとよろずうまくいくものだね」
舅はそういって、おだやかに笑っていた。
容姿も学校の成績もぱっとしない少女は、吸血鬼に幸福を与え、周囲もあまり不幸にせずに、おだやかに齢を重ねてゆく。

「魔性の女」とは、案外こうした少女のなかに宿るのかもしれない――

白人男性に愛された妻

2018年06月04日(Mon) 07:28:19

海外旅行で泊まったホテルで、妻の美香は外人男性のトムに見初められて、
招かれた3人きりのパーティーの席、酔いつぶされたぼくの目のまえで、
トムに迫られた美香は犯されていった。
それが、ぼくたち3人のなれ初めだった。

服をはだけられながら、
スカートをたくし上げられながら、
ストッキングを引き裂かれながら、
落ち着いた色合いをしたルージュを刷いた唇を吸われながら、
きちんとセットした栗色の髪を振り乱しながら。

ぼくだけのものだったはずの乳房を、揉みくちゃにまさぐられつづけて、
唇と唇との淫靡なせめぎ合いに自分のほうから応えつづけて、
白く輝く皮膚を持った獣の臀部が沈み込んでくるのを、大胆に開いた股間の奥に迎え入れつづけて、
逞しい腰の強引な上下動に、さいしょは無理強いに、やがて積極的に、動きを合わせつづけて、
逞しい獣にのしかかられた美香は、華奢でちいさな身体の獣になって、渾身のテクニックで応えてゆく。
ぼくたちだけの秘密だったはずの、あのテクニックが、白人男性にも通用するのだと知って、
なぜかむしょうに、嬉しかった。妻を犯されている真っ最中なのに。
こうして、ぼくだけのものだったはずの美香は、めくるめく陶酔のなかに、堕ちていった――

日本人のミセスはこんなふうに、夫以外の男とも寝るのか?
トムの問いは、まじめだった。
すべての日本女性の名誉にかけて、ぼくはノーと答えた。
美香もまた、そんなことないわ、と、応えた。
そして一言、つけ加えた。
貴男のことが、好きになってしまったからよ――と。

でも、タカシのことも失いたくないの。
私にとっては優しい夫なの。
だから犯された私が応えてしまっても、許してくれるの。
さいごのところだけは少し違う――そう言いかけたけれど、うまく言葉にできなかった。
もしかすると美香のいうことは少しも違ってなくて、図星を指されたのかも知れなかった。

旅先にいる間だけの恋人関係を、ぼくが認める。
和解はそれだけで、成立した。
あなた、ゴメンね。
美香は深い瞳でぼくを見つめた。
Thank you,Taka.
彼は屈託のない目で、ぼくに感謝をしてくれた。
そして無償で捧げられた東洋人の人妻の肉体を心から愛する行為に熱中をした。
夫の目のまえであることもはばからずに。
それが、夫の好意に応える最善のやり方だといわんばかりに。

MIKAをボクの部屋で独り占めにしたい。今夜だけでもかまわないから――
彼の切実な願いを、ぼくは好意的にかなえてやった。
彼の部屋に送り出した美香は、返してくれると約束された午前2時きっかりに、ぼくの部屋に戻って来たけれど。
なにか言いたそうにもじもじするのを、ぼくはすぐに感づいていた。
もう少し、逢っていたかったんだろう?
図星を指された美香は、恥じらうように下を向いてしまった。
けれども声は、彼女が取り繕おうとした慎みを、みごとに裏切っていた。
「・・・・・・だめ?」
別れを強く惜しみながらも美香を時間どおりに帰してくれたファインプレーに、
約束の時間を朝まで延長するというファインプレーでぼくは応えた。
Thank you,Taka.
彼の心のこもった感謝は、ぼくの胸を居心地よくくすぐった。

朝を迎えると。
美香はすっかり、心のなかを入れ替えていた。
彼とぼくとが、どちらも居心地よく過ごせるように。
ぼくだけに向けてきた無邪気な視線を、美香はトムにも向けるようになって、
ぼくの尖った視線もはばからず、小娘のようにはしゃぎながら、彼の抱擁を受け容れた。
外人のまえで日本人が洋装でキメる――というだけでも、時には十分媚びにつながることを、いやでも思い知らされた。
けれどもそんな状況に、だれよりもぼく自身が、胸をズキズキと昂らせてしまっていた。
二人は笑いさざめきながら言葉を交わして、
気が向くとぼくのほうを、同意を求めるようにふり返って、
ぼくが無言のまま頷くと、手を取り合って隣の寝室のドアを開いて、
半開きのままのドアの向こう側、睦まじくまぐあい合った。
そんなふたりを、開け放たれたドアの向こう側から、ぼくはドキドキしながらのぞき見するばかりだった。
すっかり呼吸を合わせ合ったふたりは、夫の目にも似合いのカップル。
均整の取れた逞しい身体に組み敷かれたぼくの美香は、
華奢な身体に精いっぱいの熱をこめて、彼の欲情に応えてゆく。

そんなふうに、あのおとなしい美香が、夫であるぼくを平然と裏切ることが、
裏切っておいて「ゴメンね」って、嬉しそうな上目づかいでほほ笑むことが、
いつも以上にかわいくみえた。
そして逞しい肢体の持ち主の白人男性が、ぼくの愛妻を獲物に選んだことが、
一日じゅう飽きずに妻の身体を獣のように力強くむさぼり、溺れてくれることが、
ぼくにはなぜか、誇りに思えた。

まるで彼の好みに合わせるように洋装でキメて、
彼の前に出てウットリとほほ笑む美香は、
大柄な白人男性にたわむれかかられて、
華奢な身体つきにまとったブラウスをはぎ取られて、
きゃあきゃあとはしゃぎながら押し倒されてゆく。

足許にしゃぶりつけられる貪欲な唇に、
きちんと装われたストッキングを蹂躙していくことが、
逞しい手にブラウスをはぎ取られて、奴隷にされていくことが、
どうしてこんなにも、胸をズキズキさせるのだろう?

ホテルのプールサイドでは、
恋人のように寄り添う彼と美香とが佇む風景が、毎日のようにみられた。
美香はとっておきの水着を身に着けて、彼専用のファッションショーをくり広げて、
色とりどりのビキニを着けた華奢な肢体に、彼は欲情もあらわに乱れかかった。
だれもいない真夜中のプールは、
逞しい白人男性と華奢な東洋人の人妻の、痴態の場と化した。
人妻が旅先で恋に落ちて、国境や肌の色を越えたアヴァンチュールを愉しむことは、思っよりもありふれていたらしくって。
夫連れで来た女性客と単独の男性客とがプールサイドを並んで歩き、
人目がなくなったのを見はからって、目だたないようにひっそりとキスを交わすのも、
だれもいない隙に熱情もあらわに抱き合うのも、
ホテルの従業員たちは、見て見ぬふりをしてくれた。
ふたりとつかず離れずの距離を保っている夫が、彼と自分の妻との熱々な様子に不平を慣らさないのを、不思議そうに盗み見ながらも。

どこにも観光に出ないうちに、一週間が過ぎた。
けれどもぼくたち夫婦にとっては、それで十分だった。
美香は外人男性のベッドの上での優しさを。
ぼくは愛する妻をほかの男に愛し抜かれる歓びを。
しっかりお土産に持ち帰るのだから。
こんどは観光に来ると良い。
別れぎわトムはそういって、再来を期待した。
ぼくはぼくで、彼女一人でも行かせると約束をした。
出来れば二人で来てほしいな。
きみにも見せつけたいからね――と、トムはイタズラっぽくウィンクをした。
そうね、見せつけちゃいましょう――小鳥のようにさえずる妻が、心からいとおしかった。

婚前交渉(前作「結婚するのは、緋佐志とだから。」続編)

2018年06月04日(Mon) 05:52:06

「イヤ!服が皺になるじゃない!」
抑えつけられたベッドのうえ、京香は眉を顰めながらも、早くも男に首すじを吸わせてしまっている。
婚前交渉をするのに彼氏といっしょにホテルに行くのは、若い女の子のなかでは常識だった。
京香ももちろん、例外ではない。
ただし、相手が恋人ではなく彼女の生き血を欲しがる吸血鬼だということは除いて・・・の話だけれど。

緋佐志はきょうも、送り迎えをしてくれた。
ホテルの前で緋佐志の車を降りると、自分の背中に注がれる視線を痛いほど感じながら、
発育のよいふくらはぎをまっすぐに、ホテルのロビーに向けてゆく。
結納を済ませた後、なにも知らない京香の母親は娘にいった。
「お父さんは何ておっしゃるかわからないけど、結婚するんだからあとは京香の好きにしても良いと思うわ」と。
そう、たしかに「結婚するから」「好きにしている」。
ただし、「違う相手と」。
ホテルでの一夜で吸血レイプされたあと(まだ処女だけど)も、緋佐志はそれまでと変わらず優しかった。
ホテルで待っている彼と逢うと言ったときに、送り迎えをしてくれると言われたときには、耳を疑ったけれど、
卑屈な態度ではまるでなく、しつような吸血のあげく貧血にさいなまれる自分の恋人を気づかってのことだとすぐにわかった。
いま京香は、緋佐志に介抱されながら、血に濡れたブラウスの襟元を気にせずに、独り暮らしのマンションに、帰ることができるのだ。
いまあたしがしていることは、きっと不倫なんだろう。京香は思った。
そして隣でハンドルを握る恋人さえもまた、彼女の不倫の共犯者だった。


そうよ、不倫よ。ふ・り・ん♪
あの男の牙にかかって、あたしめろめろに酔わされちゃうの。
あなたを車で待たせて、密室のベッドのうえであいつに抱かれて、酔わされちゃうの。
あたしが処女でいられるのは、たんにあいつが処女の生き血が好きだから。
あいつの女になったあたしは、まだ犯されていなくて、処女のままだけど。
非処女の女よりもずうっと淫らに、ベッドのうえで乱れるの。
いまのあたしは、あいつの奴隷。
スポーツで鍛えた血液を愛でられるのが嬉しくて、つい余計に捧げてしまうの。
ひどい貧血は当然の報い。
でもあたしは眩暈と幸福感とで、くらくらしちゃうの。
あなたはあたしのことが気になって、あとを尾(つ)けて部屋のまえまでやって来て、
すぐにあいつに見つけられて、返り討ちに血を吸われちゃって、お部屋の前の廊下で寝るの。
わざと半開きにしたドアの向こう、
ベッドの上であたしたちがこれ見よがしに乱れるのを、したたかに見せつけられながら、

きみたちふたりはお似合いだって、あなたは言うの。
ぼくの京香を君に褒められて嬉しいって、あなたは言うの。
京香の若い血がきみを夢中にさせるのがぼくの希望だって、あなたは言うの。
結婚してからも京香を犯しつづけてほしいって、あなたは言うの。

京香はふふんと鼻で笑い、だいぶ離れてしまった車のほうをふり返り、これ見よがしに手を振った。
車の中からも、控えめに応えるのが見て取れた。


まっすぐホテルのロビーに向かってゆく恋人の足どりを、
緋佐志はズキズキ胸をはずませながら見送ってゆく。
突き刺されるような嫉妬に震えながら。
緋佐志に背を向けた彼女のキビキビとした足取りは、確かな意思をもって、不倫相手の待つベッドへと歩みを進めてゆく。
ひざ上丈のミニスカートから覗く健康そうな太ももを包むナイロンストッキングが、照りつける陽射しを照り返してテカテカと光り、リズミカルな足どりに合わせてよぎっていった。
あの太ももを活き活きとめぐる若い血液を、きみはたっぷりと吸い取られてしまうのか。
這わされてくる唇に、あのむっちりとした太ももを惜しげもなく吸わせて、ストッキングをブチブチ破かれながら吸血されてしまうのか。
緋佐志の心はざわざわと騒いだ。
でもそんなきみを、ぼくは止められない。
きみがぼくのことを裏切って、嬉しそうに笑いながら若い血液を吸い取られ、
ほかの男とベッドのうえで乱れるのを、ぼくは恥ずかしい昂奮を噛みしめながら、思い浮かべてしまうから・・・


部屋に入るとクリスはもろ手を挙げて迫って来て、京香をギュッと抱きすくめた。
「喉渇いているんでしょ」
京香が図星を指すと、「わかっているなら話は早い」といって、京香を勢いよくベッドのうえに投げ込んだ。
「あ!ちょっと!」
あわてる京香のうえに、クリスの逞しい胸がのしかかってきた。
うっ・・・
唇を奪われて嗅がされた、獣のような男の匂い。
「う、ちょっと・・・外に緋佐志がいるのよ」
婚約者の名前をわざと出すと、クリスはまんまと京香の手にのって、さらに責めを激しくさせた。

あれからクリスにもことわって、緋佐志ともキスを交わしたけれど、
クリスのときみたいな荒々しさはなかった。
幸福感と安心感はあったけれど、ドキドキさせるようなときめきはない。
――いいの。夫に求めるものと情夫(おとこ)に求めるものとは違う。
京香は車の中で息を詰めているであろう緋佐志を想いながら、クリスとの激しい口づけに柔らかな唇を痺れさせていった。


気がついたときには、部屋の前までたどり着いていた。
気がついたときには、京香の情夫に羽交い絞めにされて、首すじを咬まれていた。
気がついたときには、貧血の眩暈にあえぎながら、
ベッドのうえで乱れ合うふたりを前に、きみたちは似合いのカップルだと言いつづけていた。

さいしょの夜に。
「わかった、いいよ。あなたの女になる」
生き血をたっぷりと引き抜かれ、心の中身をそっくり入れ替えてしまった京香はそういって、吸血鬼の求愛を受け容れてしまった。
いつものハッキリとした口調だけが、以前の彼女と変わりなかった。
そのピチピチとした太ももを噛みたいとねだられると、ツヤツヤとした光沢を帯びたストッキングに縁どられた脚線美を、惜しげもなくさらしていって、
薄いナイロン生地を相手のよだれまみれにされながら、くしゃくしゃに皺寄せて、ずり降ろされていった。

京香は予定通り、緋佐志の花嫁になる。
京香が自分の恋人で、予定通り結婚をするといったのは。
吸血鬼の愛人として隠れ蓑が必要だったから。

吸血鬼のやつも案外お人好しで、
自分の地位を脅かしかねないはずの緋佐志を強いて排除しようとはせずに、
自分に会いに来る京香の送り迎えを、むしろ歓迎してくれていた。
やはり彼のほうも、隠れ蓑が必要だったから。


緋佐志は熱に浮かされたように、誰にともなく呟きはじめた。
君の牙には、京香の生き血がお似合いだ。
その牙を埋められて、ぼくの京香は君の腕のなかで、あんなに切ないうめき声をあげちゃっている。
ああ、ドキドキするな。ズキズキするな。
慎みなんかかなぐり捨てて、小娘みたいにはしゃいでいる京香。かわいいな。素敵だな。
君は処女の生き血が好きだっていうけれど、ほんとうは京香の生き血が好きなんだろう?
きっとぼくたちが結婚してからも、京香のことを襲うつもりだね?
ぼくはきみのことを、歓迎するよ。
ぼくの新妻を、ぜひ襲ってほしい。襲いつづけてほしい。
同じ女性を好きになったもの同士、ぼくたちは仲良くやれるはず。
不倫に耽る京香のために、ぼくは寛大な夫でい続けてあげるから・・・


あとがき
描いてみたかったこと。
結婚間近の女が吸血鬼を相手に、ボディコンスタイルに身を包んだムチムチと健康的な身体から、うら若い血を嬉々として引き抜かれてゆく様子。
恋人に送り迎えをさせながら、吸血鬼と熱い唇を交えてしまう女の、恥知らずな痴態。
キビキビとした足取りで情夫の待つ部屋へと足を向ける彼女の後ろ姿を、嫉妬にズキズキ胸をはずませながら見守る彼氏。
・・・まとめるのがたいへんでした。(笑)

結婚するのは、緋佐志とだから。

2018年06月04日(Mon) 00:19:48

ディスコのなかは、広々とした密室。
きらめく光芒の下、今夜も京香は踊り狂っている。

ムチのようにしなる腕。
激しいステップをくり出す、恰好の良い脚。
汗ばむ胸もと。火照る素肌。
ゆるいウェーブのかかった栗色のロングヘアが揺れる肩。

彼氏の緋佐志はそんな京香を遠くから、うっとり見つめる。
「遠くから見ているだけでも良いのかね?」
出し抜けに囁かれた言葉の主が、自分と同じ女をうっとり見つめるのを知っても、
緋佐志は自分でも訝しいほど、腹を立てなかった。

「彼女の京香です。この人、いま知り合ったばかり」
名前を言いかねて聞き直そうとする緋佐志をちらと見て、男はクリスと名乗った。
どう見ても日本人だけど・・・と訝る京香を「いいじゃない」と受け流し、
「そろそろ出るか?」と、いつの間にか三人の間を仕切っていた。
氷のように冷静なところを取り繕っていたけれど。
クリスは内心、昂ぶりを抑えかねていた。
ひざ上丈のタイトスカートから覗く京香の健康な太ももはピチピチと輝いていて、
ストッキングごしに桜色に透けた素肌が、悩ましかった。

クリスは言わずと知れた、深夜の女を狙うハンター。
しかしふつうのハンターとは違っていた。
生身の男と違って、冷えた身体を持ったこの男が欲したのは、
年ごろの女のうら若い血液を、干からびた自分の血管にめぐらせることだった。

2人で泊る予定のホテルに、「廊下に寝るさ」とうそぶくクリスと3人でチェックインしたが、
フロントはクリスのことを不思議がりもせずに、緋佐志にキーを渡してくれた。
通されたツインルームでちょっとのあいだ3人で飲んで、
あとはお2人さんを邪魔することなく廊下で寝る――そういう約束だった。
けれども男が約束を守る気がないことを、京香はとっくに見抜いている。
「緋佐志、だいじょうぶ?私のこと、ほかのやつに奪(と)られちゃうよ?」
なん度か言いかけたその言葉を引っ込めたのは。
案外京香も、この道の男にえも言われぬ期待を抱いてしまっていたから。

トイレに出た緋佐志が、なかなか戻ってこない。
いっしょについていったクリスが一人先に戻ってきたが、
2人きりの気まずい時間を過ごすのを嫌った京香は、ドアを開けて部屋を出た。
白のパンプスの足どりはすぐに止まり、その場に立ちすくむ。
首すじから血を流した緋佐志が、そこに倒れていた。
振り返ると、クリスの口許にバラ色のしずくが光っている。
緋佐志の胸もとに散った液体と同じ色だと見て取ると、
京香は男の正体を瞬時で察し、ダッシュでエレベーターホールに走った。
間一髪だった。
開放されていたエレベーターの扉は京香の目のまえで閉ざされ、
つぎの瞬間京香のスーツ姿は羽交い絞めになっていた。
「――ッ!」
息苦しいほど抱きすくめられた京香は、
首のつけ根のあたりに生温かい唇がヒルのように吸いつくのと、
その唇の両端から覗く尖った異物が皮膚を切り裂き、首のつけ根に疼痛を滲ませるのを感じた。
意識がスッと遠のいた。

気がつくと。
ベッドのうえにいた。
ホテルの部屋に引きずり戻されていたのだ。
気絶していたのは、数分間でしかなかっただろう。
傍らを見ると、緋佐志がベッドの傍らに尻もちをついて、放心したようにこちらに目を向けている。
京香のうえには、クリスがいて、薄笑いを泛べた唇を、ふたたび京香のうなじに這わせようとしている。
「うー、うー・・・」
京香はなん度もうなり声をあげて、首すじに迫るクリスの唇を避けようとした。
「だめ・・・だめ・・・だめえっ。あたし、緋佐志のお嫁さんになるんだからっ・・・」
痛切に叫ぶ京香を抑えつけて、男はなおも京香の身体から若い生き血を引き抜く行為を、力を弛めず続けてゆく。
「こ、殺さないで・・・」
ベッドの下から洩れる声に、男がかすかに頷くのを、京香も緋佐志も見逃さなかった。
男は少しだけ獰猛さを消して、京香の額を優しく撫でると、
「若い女の血が欲しい」とだけ、いった。
さすがに「どうぞ」とも言いかねて京香が黙っていると、
男は京香の両肩を抑えつけて自由を奪うと、再び京香の首すじを吸った。
抑えつけられ自由を奪われながら、京香は再び咬まれていった。
ズブッ・・・と食い込む牙が、今夜初めて受け容れるはずだった緋佐志の男性自身のように、京香の胸の奥を抉った。

セックスと吸血。
形は違うけれど、いま自分が体験しているのは間違いなく初体験なのだと、京香は感じた。
緋佐志の見守る目線をそれぞれに気づかいながら、ふたりはベッドのうえでせめぎ合い、
男は淫らな吸血行為をやめようとはせず、
女は忌むべき凌辱から逃れようとしてしくじりつづけていた。
緋佐志は自分の彼女が、吸血鬼相手にうら若い血液を提供しつづけて、
吸血鬼が彼女の血潮に魅了されてゆくのを、ただ息をのんで見つめつづけていた。
せめぎ合いを演じる若い女の肢体はじょじょに力を喪って、
やがて抵抗は屈従に変化してゆく。

クリスがやっと牙を引き抜いたとき、女と男は目を見開き合って、互いを見つめた。
女は上目づかいで。
男はまっすぐに見おろして。
京香は男のような口調で、いった。
「わかった、いいよ。あなたの女になる」
そして緋佐志のほうをふり返ると、
「でも結婚するのは、緋佐志とだからね」
というのを忘れなかった。

不倫の似合う女

2018年06月03日(Sun) 09:32:18

目のまえのじゅうたんのうえ、ここまで提げてきた黒い鞄が転がっている。
あたしはベッドのうえで、なん度めかの寝返りを打った。
あたしのうえには黒衣に身を包んだ男が、しがみつくようにしておおいかぶさっている。
息苦しいほどの距離感に、もうあたしは慣れ切っていた。

通学途中でこの邸に引き込まれ、初めて血を吸われた。
相手が吸血鬼だとわかったときにはもう、夢中になってしまっていた。
吸血鬼の邸に入り浸る娘を咎めに来た親たちは、娘を連れて邸を辞去するときにはもう、別人になっていた。
娘の生き血を喰らう忌まわしいはずの男と、母親はにこやかに言葉を交わし、
父親はついでにこいつもどうぞと、自分の妻を吸血鬼にすすめていた。
母親はまんざらでもなさそうな顔をしながら吸血鬼のベッドに引き入れられて、めでたく”結婚”までしてしまった。

それ以来。
家族のだれにも咎められずに、吸血鬼との逢瀬を愉しんで・・・いや、献血の奉仕に励んでいた。
彼は好んで、女の脚に咬みつく習性をもっていた。
さいしょに狙われたときには、白のハイソックスだった。
母親が吸われたときには、肌色のストッキングのふくらはぎにしつように唇を吸いつける吸血鬼を見て、
以来彼を愉しませるために、黒のストッキングを穿いて通学するようになった。

彼が落ち着いたら、家に電話しなくちゃ。
「娘は身体の具合が悪いので、きょうは学校を休ませます」
ママはきっと、そういって担任の先生をだましてくれるだろう。
あたしはお昼過ぎくらいまで、ずっと彼のお相手をする。
穿き替えてあげた二足目のストッキングにも、もう派手な裂け目がいくすじも、鮮やかに走っていた。

いまごろはホームルームか。
先生も、クラスメイトのみんなも、彼氏の嶋中くんもきっと、あたしがこんなことにうつつを抜かしているなんて、知らない――

「ずっと彼氏に黙ってるつもりか?」
吸血鬼が耳もとで、囁いて来た。
あたしは、ウン、と、応えてしまっている。
あたしがいまだに処女でいられるのは、彼が処女の生き血を好んでいるから。
あたしはきっと、彼より先に、この男に犯されるに違いない――それでもいいと、なんとなく思ってしまっている自分が怖い。
吸血鬼がふたたび、耳元に囁いて来た。
「あんたはきっと、不倫が似合いな女になることだろう。」
余計なお世話――そのひと言は、かろうじて飲み込んだ。
このひとに生意気を言うと、物凄く貧血になるまで血を吸われて、お仕置きをされるから。
そのうえで、「こんなに味わってもらえてうれしいです」なんて、心にもないことを言わされるから。


十年後。
あたしはやはり吸血鬼のお邸のベッドのうえにいた。
彼氏だった嶋中くんの苗字を名乗ることになったあたしは、専業主婦になって、
出勤していく嶋中くんをにこやかに見送ると、すぐにおめかしをして、このお邸にもぐり込む。
家に出入りするときには地味な服。そこであたしはよそ行きの派手なワンピースに着かえて、彼の寝室に入る。
そう、新婚の若妻の生き血は、一滴残らずこのひとのもの。
「やっぱりあんたは、不倫が似合いな女になったな」
耳もとで囁きほくそ笑む憎たらしい男にそっぽを向くと、
その姿勢のまま抱きすくめられて、首すじを咬まれた。
「ほどほどにしなさいよね、主人もそこにキスするんだから」
「安心しろ。家を出る時までには傷口はふさがっている」
そう、この人の咬み痕は、信じられないほど短時間で、あっという間に消えてしまう。
「あなたも、不倫が似合いの男じゃないの」
あたしがそう毒づくと、男はいった。
「だんなのまえで、お前を抱いて、思うさま愛し抜いてやりたい」と。
「それはだめ」
あたしはそういいながらも、のしかかって来る男の前、ガーターストッキングを穿いた脚を、早くも開きはじめていた。


まさかこんなに早くいなくなってしまうとはな。
嶋中くんの写真のまえ、吸血鬼は形どおり手を合わせると、寂しそうに言った。
「このひとのまえで、あたしを犯す夢がかなわなかったからでしょう?」
あたしが毒づくと、男はいった。
「でももうあんたは、自由な女だな」
男はにんまりと、嗤っていた。
「いやなやつ」
なおも毒づくあたしにあいつは迫って来て、行きもできないくらい強く、抱きすくめられた。
同時に唇も奪われていた。
身に着けた洋装のブラックフォーマルが、くしゃくしゃになった。
男の手がスカートの奥に這い込んで、ストッキングごしに太ももをいやらしく撫でまわしてくる。
ふと見ると、夫の写真が目のまえだった。
「あッ・・・このッ・・・」
男の意図をやっと察して抗うあたしを、男はなんなく抑えつけて、
夫の写真のまえで、あたしのことを犯しにかかる。
「あなた・・・あなた・・・許してえっ」
本気で許しを乞うほど、あたしは殊勝な女じゃない。
ただ、男をそそるために、わざと夫の名前を口にしながら――男の意のままに辱め抜かれていった。

だれにもほんとうのことを言わないあたし――
そんなあたしは、夫に秘密を隠し通す不倫に向いていたのかも。
「嶋中の母親を紹介してくれ」
耳もとで囁くあいつに、あたしは素直に肯いてしまっていた。

伯母の生き血を狙う甥

2018年06月03日(Sun) 09:06:34

晶恵伯母さんの血を吸いたい。
甥のケンゴがそういったと、義弟のタカヒロがわたしに告げた。
タカヒロとケンゴは、吸血鬼の親子。
もともとタカヒロはわたしの幼馴染で、年ごろになってから妹に近づいた。
色気づいてくると、こんどは母にまで近づいた。
わたしは中学にあがるまえから彼に血を吸われていたから、それがふつうだと思い込んでいた。
妹婿になったタカヒロは、わたしたちの隣に住んで、
以来日常的に、母のところに夜這いにやって来た。
色気づくと、自分より年上の女を欲しがるのは、どうやら父子で似たらしい。

妻の晶恵も、タカヒロの身体を識っている。
わたしと結納を済ませた晶恵をタカヒロが見初めて、
処女の家に生き血が欲しいとねだられたわたしは、晶恵を引き合わせてやって、
まんまと晶恵の生き血をせしめたタカヒロは、
嫁入りまえの晶恵の身体に、男の肉体を教え込んでしまっていた。
以来ふたりの関係は、途切れたり続いたり。
そこに、タカヒロの息子が色気づいて、晶恵に色目を使うようになったのだ。

晶恵はおしゃれなワンピース姿で義弟の家に招ばれていって、
帰りはわたしの運転する車内で、赤黒いまだらもように染められたワンピース姿で、あらぬことを口走っていた。
世代はくり返すらしかった。
以来ケンゴはわが家に夜這いをするようになって、
わたしは真夜中の散歩に、街をさまよった。
ケンゴよりすこしだけ年下の息子は、自分の母親が首すじを咬まれ犯されるのを、
物陰から胸をドキドキはずませながら、のぞき見するようになっていた。

どうしてそんなに協力的になれるのかって?
いちど、熟れた女の生き血の味を覚えてしまうと。
相手がそれを獲ることでどれほどの満足を得られるのかわかってしまうから。
だからわたしは、彼らが求めるときには進んで、自ら協力者になり下がってゆく。

――あの子ったら、食べ盛りなのよ。もう貧血・・・
妻はそんなふうに愚痴りながらも、今夜もこぎれいなワンピース姿で、義弟と甥のためにおめかしをする。
――伺うときにはきちんとおしゃれしなくちゃね。競争相手が多いもの。
   なにしろあの子ったら、担任の先生も同級生の女の子も、たぶらかしちゃっているんだから。
うそぶく妻の肩を抱いて、わたしは今夜もハンドルを握る。
彼らの獲物の送り迎えをするために。

前作の、多少誤解を交えた要約 ~一期一会~

2018年05月29日(Tue) 07:55:31

人間と吸血鬼が共存する街に、一人の学校教諭がいた。
教諭の教え子の一人は吸血鬼で、教諭の夫人に恋をしていた。
想いが高じて病になった彼のため、教諭は夫人を見舞いにやらせたが、
それは結果的には、最愛の妻に対する教え子の道ならぬ恋を成就させることになった。
有夫の婦人を吸血の対象とするとき、彼らはほとんど例外なく、肉体関係まで結んでしまうからである。
教諭夫人は、夫の身体しか識らなかった。
そして、夫に命じられるままにその教え子のために献血に応じ、その流れで凌辱を受けてしまう。

教諭夫人は、自分のことをものにした教え子に付き添われて帰宅したが、夫にすべてを告げた。
夫人は涙ながらに、
「操を奪われて悔しゅうございますが、若い男の身体を識ってしまった身です、どうぞ離縁してくださいまし」
と願ったが、教諭の容れるところにはならなかった。
教え子が彼からその妻を奪う意思を持っていないこと、恩師の名誉を守ろうとしていることを確かめると、
教諭は二人の仲を許容して、むしろ逢瀬を重ねることをすすめたのだった。
教え子の性癖を薄々知りながら、みすみす夫人を見舞いにやらせてしまった以上、
ふたりを結び付けたのはむしろ自分自身なのだと自覚していたからである。

夫人にも、いなやはなかった。
さいしょに挑まれたときには、うろたえながらも夫の教え子の衝動を食い止めようとした彼女だったが、
破れた洋服を気にかけて夜の闇を待つあいだ、すっかり打ち解けたセックスを交し合ってしまっていたのである。
教え子でもある吸血鬼は、恩師が離婚することを望んでいなかった。
同時に、彼女のことを、恩師の妻のまま辱めつづけることを願っていた。
教諭は、いびつな愛に目ざめた二人の願望を、好意的にかなえたのだった。

教諭が二人の逢瀬を三日に一度に限ったのは、過度の失血が夫人の健康を損ねることを気づかったためである。
そして彼の教え子は、許された権利を遠慮なく、限度いっぱいまで行使した。
事前に来訪が告げられているときには、教諭は妻と教え子とを二人きりにさせてやるためにわざと外出することが多かったが、
吸血鬼が衝動のままに息せき切って前ぶれなく現れたときには、そうはいかなかった。

教諭夫人は夫の目のまえで息荒く抱きすくめられ、装った清楚な衣装もろとも辱められていった。
吸血鬼に接するときに彼女が身なりを整え清楚な服装で装ったのは、決して相手の気を引くためではなく、
自らの品格を守ろうとするためだったが、むしろ逆効果だった。
初めての来訪のときスーツ姿で訪れた夫人の、ひざ下丈のスカートから控えめに覗くストッキングに包まれた脚に吸血鬼は欲情し、見境なく襲いかかったのだ。
さいしょの逢瀬以来夫人は、「品格を守るため」と言いながら、若い愛人の気を引くために装いはじめている自分に、気がついてゆく。

やがて夫人の衣装は少しずつ入れ替わって、
真っ赤なスリップや黒のストッキング、
ときには濃紺のストッキングで娼婦のように毒々しく染めた足許を、
ほんのすこしだけためらいながらも、夫の教え子のまえにさらすようになってゆく。

お茶を嗜む教諭夫人は、情事の現場と化した離れの茶室で、情夫にお茶を振る舞った。
そして、求められるままに着物をはだけて、わが身をめぐる生き血も、同じくらい熱意をこめて振る舞っていった。
一期一会。
ふたりは時には教諭を交えて愛し合い、今しかないひと刻をせつじつに過ごしたのだった。

やがて教諭の教え子たちが成長すると、交代で母校に勤めるようになった。
彼らは教諭夫妻が二人きりでいられる時間を作るため、
身代わりに自分の妻たちをかつての幼馴染に引き合わせることになる。
吸血鬼はクラスメイトたちの若妻の生き血に酔い痴れて、
一人また一人と、こぎれいな装いを持ち主の血潮で染めていった。
若妻たちは、いちど首すじにかぶりつかれてしまうと、唯々諾々と彼の意のままになって、
家事や育児の合間を縫って、彼専用の娼婦へと堕落していった。

それでも教諭夫人との交際は絶えることがなく、
彼女が奥ゆかしい老婦人となってのちも、
夫の目を憚り、ときにはあべこべに見せつけながら、
奥深い情を交し合いつづけたのである。


あとがき
要約というには長すぎますね。^^;
前作では、夫は不慮の災難の用に妻を襲われていますが、
本作では、ある程度見越したうえで愛妻を吸血鬼にゆだねる感じになっております。

一期一会

2018年05月29日(Tue) 06:24:44

ある若い吸血鬼が、人妻を愛するようになった。
相手は、自分の恩師の奥さんだった。
この街では人間と吸血鬼とが共存していたので、
その吸血鬼も、人間の学校で人間の先生から教えを受けていたのだ。

吸血鬼はわきまえのある青年だったので、自分の想いを押し隠すことにした。
けれども先生は、教え子の自分の妻に対する想いに感づいていた。
奥さんもまた、彼の想いに気がついていた。
やがて病を得た青年のもとに、先生は奥さんをお見舞いに行かせることにした。
「ユウトくんの見舞いに行って来てほしい」
夫にそう告げられた奥さんは、自分の身に何が起きるのかを薄々知りながら承知した。
彼女は夫を愛していたし、夫の判断を信用していた。
きっとそうすることが、いまの自分たちにとってベストなのだろうと。
「一期一会だよ」
夫はいった。
まるで謎をかけるように。
訪問先にはどんな一期一会が待っているのかと思いながら、
奥さんは行儀よく脚に通したストッキングのつま先を、地味な革製のパンプスに収めていった。


奥さんは身なりを整えて、夫の教え子のもとに出向いた。
吸血鬼の家は広い棲み処で、彼はその家で独りで暮らしていた。
奥さんが身なりをきちんとしたのは、恩師の夫人としての体面を整えるためだった。
決して、若い吸血鬼の気をそそるためではなかった。
夫もまた、そうすると良いとすすめてくれた。
身なりのきちんとした女性のほうが、そうでない女性よりも、乗じられることが少ないだろうからと。
しかし結果は逆だった。
奥さんのきちんと装われたスーツ姿に、
ひざ下丈のスカートから控えめに覗いた、ストッキングに包まれたふくらはぎに、
吸血鬼は欲情してしまった。
彼は奥さんの首すじにかじりつき、思うさま血を吸い取ると、
奥さんの穿いていた肌色のストッキングを牙でびりびりと咬み破り、
相手が恩師の夫人であるというわきまえを忘れて、彼女を犯してしまった。

「あれ!何をなさいますの!?いけません、お止しになって・・・」
奥さんはうろたえながらも夫の教え子を落ち着かせようとしたけれど、
失血で弱った手足は思うようにいうことをきかず、
たちまちねじ伏せられて、力ずくで凌辱されてしまった。
永年連れ添った夫しか識らない身体だった。
彼女は泣きながら犯されたが、
しかし識ってしまった若い男の身体に、四十代の熟れた肢体は敏感に反応してしまった。
さいごは不覚にも、別れぎわぎりぎりまで、肌を合わせてむさぼり合ってしまっていた。
これが一期一会というものなのか。
ひくひくと喘ぎつづける身体の芯の火照りにとまどいつつも、
これでいいのだろうか、こんなことでよかったのだろうかと懊悩しながら、
身に降りかかる嵐のまえ、どうすることもできなくなっていった。


長い時間が過ぎた。
教え子は恩師の奥さんに恥をかかせるつもりはなかったので、
彼女の洋服が破れて素肌をあらわにしてしまっているのが闇に紛れる刻限になってから、彼女を家まで送っていった。
ただし暗くなるまでにはまだ決して短くはない時間が必要で、
そうなるまでの間ふたりは、お互い恥を忘れてまぐわい合っていたし、
彼はもとより、彼の考えを聞かされた奥さんも、いつか相手の男と気持ちをひとつにして、
知らず知らず、これ幸いと脚を開いて刻を過ごしてしまったのである。

家に着くと奥さんは我に返り、自分のしでかしてしまったことを取り返しのつかないことだと感じた。
ふたりの男のまえ、奥さんはすべてを打ち明けて、
私は当家の名誉を汚してしまった、
もうあなたの姓を名乗りつづけるわけにはいかない、
どうか自分のことを離縁してほしいと夫に願った。
教え子の吸血鬼は、ただ頭を垂れるばかりだった。
先生は奥さんを愛していたし、教え子にも悪気がまったくないことを知っていた。
なによりも、彼らが人妻の血を吸うときは、ほとんど例外なく肉体関係を結ぶことも、薄々は聞き知っていた。
けれども真面目な教え子であった彼に限って、自分の妻に非礼をはたらいたりはしないだろうと思って、妻を見舞いに行かせたのだった。
先生は奥さんに言った。
いちばんに責められるのは、彼の習性をそうと知りながらきみを行かせたわたしにある。
きみがもし彼を愛してしまったというのなら、ぼくに止める力はないけれど、
そうではないというのなら、このまま家にいなさい、と。
また、教え子の吸血鬼にも訊いた。
きみは家内のことを愛してしまったのか、それともたんに、生き血と女の身体をむさぼりたいという本能のままにし遂げてしまったことなのか、と。
教え子はいった。
奥さまに罪はない、すべては自分の忌むべき本能のせいなのだ、と。
それからこうも言った。
自分は劣情の塊である、だから奥さまを襲ったのも、犯したのも、その忌むべき本能にしたがったまでなのだ、自分はたんに女の生き血と肉体が欲しくて、奥さまに挑みかかったのだと。
妻と教え子と、どちらも愛している恩師は告げた。
きみたちの関係が、割り切れるものだというのなら・・・
(妻を指して)きみはここに留まりなさい。
(彼を指して)きみはここに通ってきなさい。


それ以来。
教え子は卒業してからも、恩師の家に通い詰めた。
奥さんひとりで彼の必要とする血液すべてをまかなうことはできなかったが、
彼にはほかにも獲物がいたので、彼女の健康は保たれた。
けれども彼は三日にあげず恩師の家にやってきて、その妻の身体を欲しがった。
恩師は教え子の求めにこころよく応じて、
やって来た彼に家のなかで一番良い部屋をあてがった。
そして、彼の待つ部屋に行くよう妻に促していた。
奥さんもまた小ぎれいに装って、夫の教え子の待つ部屋へと足を運んだ。
彼女が身なりを整えて、きちんとした服装で教え子の前に出たのは、
教諭夫人としての品格を保とうとしたからであって、夫の教え子の気を引くためでは決してなかった。
永年習っているお茶の作法とどうように、彼女は夫の教え子をもてなそうとしていた。
どんな服装を身に着け、どの部位を彼の植えた唇にあてがい、
どんなふうに教諭夫人としての品格を辱められまいとして、
どんなふうに衣裳を剥がれて辱められてしまうのか。
いつも茶室で振る舞うお濃茶の代わりに、われとわが身をめぐる血潮を振る舞うことで、
彼女は彼女なりに、しんけんに刻を過ごそうとした。
それが、(半ば許されていることとはいえ、)夫を裏切る刻であったとしても。

それでも、せっかくやって来た彼のことを少しでも愉しませてやろうという心遣いから、
身に着ける下着はいままでの地味なものからセクシィなものへと換えられていって、
脚に通すストッキングは、より薄っすらとなまめかしいものへと変えられていった。
それまでと変わりなく装われた清楚で気品に満ちた服装もまた、
清楚なものを汚したいという、品格というものを貶めたいという
そんなけしからぬ訪客の願望をかなえてやうために、袖を通されるようになっていった。

地味で清楚な服装のなかに、それを辱める愉しみを見出しながら、
彼は彼で、奥さんの服装の変化に敏感になっていた。
三度に一度はまとわれるようになった真紅のスリップや、
週に一度を限度に脚に通される黒のストッキングや、
それこそ月に一度あるかないか、
しつようなおねだりにほだされて羞じらいながら脚に通される濃紺のストッキングや、
そうした彼女にまとわれた衣装をまえに、
彼は恥知らずなよだれを口に含み、吸い取った血潮を見境なくまき散らしながら、
教諭夫人が浄いものとしたがった一期一会を、淫らで荒々しいものへと、塗り替えていった。


奥さんが自宅に夫の教え子を迎え、献血に応じるようになってひと月ほど経ったころ、
彼女は夫にいった。
あのひととのお付き合いが、あくまで身体だけが目的のものだとしたら、何と虚しいことでしょう?
もちろん、四十代の女の熟れた血液を彼が望んでいることは、
今の妾(わたし)にはとても嬉しいことだし、
これからも応えつづけてあげたいけれど。
やはり男女の関係というものは、愛情という裏打ちがあるべきだと思うのです。
このような心は、貴方に対する裏切りになるでしょうか?
やはり、妾は貴方にふさわしい妻ではいられないのかもしれません、と。
夫はいった。
きみのいうことはもっともだ。
でも、いまのきみたちの関係が、たんに獣のような劣情だけで成り立っているとは、ぼくは思っていない。
きみたちはきちんと、愛し合っている。
少なくともきみは彼を迎えるときに、ほかの誰に対するよりも心を込めて接しているし、
彼もまた、ここに来るのを心待ちにしているのだから。
彼のきみに対する気遣いは、ふつうの我々人間たちの気遣いとは違っていて、
礼を尽くして装われたきみの服を念入りに辱めたり、
ぼくの目のまえできみを抱いてなん度も果たしてしまったり、
そういうことで、自分は今貴方から頂戴した獲物を愉しんでいると、ぼくに精いっぱい伝えようとしているのだろう。
それになによりも、きみのことをあれほど辱めて愉しんでおきながら、
毎日ここに現れないのは、きみの健康を損ねないために気を使っているのだから。

たしかに彼は、恩師の夫人との逢瀬を日々、心待ちにしていた。
三日に一度以上の吸血は控えていたし、どうしてもこらえきれないときには先生の家にやって来て、愛し合う行為だけを遂げていった。
そういうときは、先生は気を利かせて外に用事を作ったりするものだったが、
前ぶれのない来訪の時にはそういうわけにもいかず、
彼は恩師の目のまえで奥さんを押し倒して、
奥さんもまた、彼の激しすぎる好意に、ぎごちなく身体を合わせて応えていった。

彼は恩師とその妻にいった。
私は奥さんのことを愛している、さいしょからずっとその気持ちに変わりはなかった。
でも先生から奥さんを奪ってしまうことは、ぼくにはできない、
だからぼくは、奥さんのことを、先生の奥さんのまま愛し抜きたいと。
彼が望んでいるのが独占ではなく共存だと知って、心優しい夫妻は安堵しかつよろこんだ。
夫は、いつでも君が来ることを望んでいるし、妻を抱くためだけに来てもらってもかまわない、それはぼくにとって不名誉なことではなくて、むしろ悦ばしいことなのだからといい、
妻もまた、貴男がいらしてくださるのなら、妾(わたし)、いつでも夫を裏切りますわといって、控えめな目鼻立ちを和めて笑った。
言葉の露骨さとは裏腹の、穏やかなほほ笑みだった。
そして彼女は、その言葉と態度どおりに、夫に対しても客人に対しても礼節を忘れることなく接し、いよいよのときだけは恥を忘れて乱れ果てた。

身体ばかりか心まで通じ合ったふたりは、
恩師の目のまえで、
夫の目のまえで、
見せつけるようにして愛し合い、
永年連れ添った妻が肉体を征服されるところを目の当たりにする羽目になった恩師は、
教え子が逞しく成長したことを、いやというほど思い知らされるのだった。


やがて時が流れて、先生の奥さんと教え子の吸血鬼の関係は、だれもが知るようになった。
奥さんが教え子と深く結ばれて愛し合うことに、先生は満足していたけれど、
時には奥さんと二人きりで過ごしたいという、夫として当然すぎる気持ちも持つようになっていた。
道ならぬ愛を許されたふたりもまた、先生のそうした意を汲んで、少しずつ逢瀬を控えるようになった。
一定量の血液を必要とした吸血鬼が、最愛の人妻を夫のもとに帰すことができたのは、
かつてのクラスメイト達のおかげだった。
先生の教え子たちは全国に散らばっていたが、何人かは戻ってきて、先生の“窮状”を知った。
彼らはかつての同級生だった吸血鬼と個別に会い、恩師夫妻のふたりだけの時間を作るため、奥さんの身代わりに自分たちの妻を差し出すと申し出た。
ありがたい申し出に、吸血鬼にもいなやはなかった。
彼は同級生の娶ったうら若い新妻たちの首すじに、つぎつぎとかじりついていって、
養分と活力豊かな20代30代の血液にありついた。
もちろん、親友の妻といえどもそこには見境はなくて、
若妻たちは一人、また一人と犯され、吸血鬼の奴隷に堕ちていった。

先生の弟子たちは身内の秘密を守りながら連絡を取り合って、
恩師の妻の身代わりに自分の妻をあてがっても差支えのない者たちが、
まるで当番のように交代で母校に赴任して、
かつての幼馴染に、自分たちの妻の若い血液と肉体を提供しつづけた。
自分の妻の容姿に自身のない者は、
「俺の女房なんか、頭数だけだよね?」
と、吸血鬼に問いかけたが、案外そうした妻たちにこそ、彼は執着していった。
地味で清楚な婦人に魅かれる彼の習癖に、代わりがなかったからである。
なん人もの若妻たちが、夫以外の男の身体を覚え込まされ、
家事や子育ての合間を縫って、彼専用の娼婦として奉仕を続けた。

吸血鬼は母校の教諭夫人たちを、かつて恩師の奥さんにそうしたように押し倒し、血を吸い取り、犯していった。
そんな彼の習癖をただの病気と割り切って、かつての幼なじみたちは、
自分の妻たちが身に着ける清楚な衣装が、持ち主の名誉もろとも汚されるのを、
貞淑だったはずの自分たちの妻が、不倫の恋に酔い痴れるのを、
見て見ぬふりをし続ける。


齢を重ね、還暦近くなろうというのに、
それでも吸血鬼の恩師宅通いはつづけられた。
楚々とした着物に身を包み、永年習った作法でお茶を振る舞ったあと、
狭い茶室のなか、われとわが身をめぐる血潮を、お濃茶以上にたっぷりと振る舞って、
着物の下前をめくりあげられ、襦袢をたくし上げられて、
昼日中からまた、あられもない声をあげてしまう。
夫がそれを傍で聞いて、愉しんでいることまで知り尽くしながら。

青田君の奥さんと、うまくやっているのね?
エエ、二人は愛し合っているんです。
笹岡くんがもらったばかりの、新婚の奥さんまでものにしちゃったんですって?
エエ、あのひととも愛し合っているんです。
そのうえ、妾(わたし)とも?
ハイ、二人は愛し合っているんです。
「ふたり」と告げたときの情夫の微妙な口吻に気づいた彼女は、ふと笑いかける。
そこには夫も入っているのだ と。
「ふたりって、どのふたりのこと?」
わざと聞かれた問いに男は答えずに、いった。
一期一会 ですよね?
私は目のまえの獲物に専念するし、いま抱いている女(ひと)を愛し抜くことしか考えません。
青田くんの家では、青田夫人とその娘さん、
(うっかり口走った秘密に、あらあら・・・とクスクス笑いが続いた)
笹沼くんの家では、彼の奥さんやお母さん、
(まあまあ・・・と、教諭夫人はふたたび笑いこける)
この家では、貴女――
さあもういちど、と口づけをねだられて。
奥さんは「主人が視ててよ」と、いちどは拒んだが、
強引に押しつけられる唇に、唇で応えていって、
物陰から覗く夫の困ったような視線にもおかまいなく、またなん度めかの“一期一会”を重ねていった。

2018年05月28日(Mon) 22:29:50

さいしょのうちは、どうしてこんなにしつっこく、ひとの身体のあちこちに喰いつくんだろう?と思っていた。
やつと逢っているときは、首すじだけではなく、
肩、胸、二の腕、わき腹、太もも、ふくらはぎと、それこそありとあらゆる部位に喰いついてくるのだ。
わざと苦痛を与えるためか?
そう思ったときもあった。
けれども、どうやらそうではないらしいことが、最近分かってきたような気がしている。
やつらはただ、「噛みたい」のだ――と。

やつらは牙をとても大切にしている。
なぜって、それが人の心をも支配できる最強の武器だからだ。
いつも入念な手入れを欠かさない。
そして、ひとの女房を誘惑するときには、
――美女の素肌を噛む前に、手入れは欠かせないのだよ。
などと、もっともらしいご託まで並べ立てる。

仲間同士では、自分の牙が今月、幾人の美女の素肌に埋め込まれたのかを自慢し合っていた。
「わしは青沼の女房をモノにした。ついでにやかましいことをいう姑まで、奴隷にしてやった」
「わしなんか、隣家の嫁入り前の姉妹を3人ながら、ちょうだいした」
「くそ!俺が貧血にしてやったのは、勤め帰りのOL1人だけだ」
「ははは、そいつは残念だったな」
指折り数えて、競争相手よりも少なかった日にはたいそう悔しがって、
喉が渇いているわけでもないのに人間の女たちに襲いかかる。
そんなのの巻き添えにあったのでは、まったく迷惑極まりないのだが・・・
けれども、彼らの自己満足を満たすため、頭数かせぎに集められた女たちのなかに、
わたしの母や姉、そして妻までもが含まれていた。

自分の血でびしょ濡れになったワイシャツとスラックスにしみ込んだ、薄気味の悪い温もりを感じながら。
目のまえで妻が、わたしのときと同じように、色鮮やかな紫のワンピースを血塗られながら、噛み続けられていった。
あたかも、ひとの服を持ち主の血で彩るのが愉しくてしようがない――はた目にも、そんなふうに映った。
事実そうなのだ・・・と、妻を噛んだ男はいった。

撥ね散らかされる血。
洩れる悲鳴。
振り乱される髪。
血塗られてゆく衣裳。
裂け目を拡げるストッキング。
こたえられない噛み心地――
それらすべてが一体になって、彼らにサディスティックな悦びを与えるのだと。

きみたちは、サディストなのか?
わたしは訊いた。
たぶんそうだね。
男は応えた。
でも、噛まれる側に立っているあいだは、マゾヒストだったな――と。
そう。
彼もまた、吸血鬼になるまでは、わたしと同じふつうの市民だったのだ。

女房が噛まれたときにはひどく悔しかったけれども、
嗜血癖が芽生えてきてしまうともう、頭の中身がすっかり入れ替わってしまって、
噛まれている女房を視ているだけで自分が噛んでいるような気になって、
そのときにはもう、意識は吸血鬼の側に飛んでいたっけな――
さいごのころには、女房を噛んでもらいたくって、しぶるあいつを促して、夫婦でお邸に通ったものだよ。
マゾヒストはある意味、最良のサディストになり得るのさ。

たしかに。
相手のツボを知っているものほど、よく相手を支配できるのだろう。
妻を噛んでいる憎いやつは、吸血の本能を植えつけられたとき、すすんで女房を仇敵の欲望にゆだねて愉しんだという。
彼のいびつな歓びを、果たしていまのわたしは笑い飛ばすことができるだろうか・・・?

きょうも妻は、家のなかを悲鳴をあげながら逃げ惑い、部屋の隅っこに追い詰められて、
身じろぎできないほどに強く強く抱きすくめられた腕のなか、きゃあきゃあと声をあげ、噛まれてゆく。
貧血を起こしてひっくり返ったわたしは、目を血走らせ、股間を逆立てて、ふたりのようすから目を離せなくなっている。

どうやらマゾの境地を極めたようだな。
犯されて放心状態になった妻の上におおいかぶさって、
乱れたワンピースの裾から覗く太ももの奥に、どす黒くたぎった熱情の限りをそそぎ込んでしまったあと。
やつはわたしの胸の奥を見抜いたようにいった。
ここからは、あんたもサディストになる番だな。
どうやらそういうことらしいね。
気がつくと、身体じゅうの血のほとんどは、やつの牙に啜り取られたあとだった。
虚ろになった身体に淫らな夜風が吹きつけるのが、ひどく心地よい。
自分の身体が人の生き血を欲し始めた――わたしはありありと、そう感じた。

兄夫婦と姪を狙おうと思う。
わたしはやつに、宣言した。
口にしただけで、兄の一家の運命を握ったような気分になった。
さいしょから独りで狩るのは大変だぞ。おれが手伝ってやる。
もっともらしく囁く男の本音を見抜くのは、かんたんだった。
目あては娘のほうか?女房か?
どっちもだ。
男は嗤った。
わたしも嗤った。
お前の妻に手引きをさせろ。だんなはお前の妻に気があるんだ。
知ってる。
せっかくだ。武士の情けでいちどくらいは、抱かせてやるか。
やつとおなじ語調になったわたしに、男はいった。
3人とも、さいしょは俺が噛んで大人しくさせる。そのあとは、好きにやるとよい。
兄嫁は、あんたに先にやらせてやるよ。
ずうっと前から、執心だったんだろう・・・?

わたしは嗤った。
やつも嗤った。
嗤った口許から同じように尖った牙が閃くのを、互いに確かめ合いながら。

部活帰り

2018年05月25日(Fri) 09:06:18

あぁ~、美味かった♪
咬んでいた首すじから顔をあげた吸血鬼は、ニンマリと笑う。
「冗談じゃないわ!とてもメイワク・・・」
いつも気の強い菜々美は歯ぎしりして悔しがったが、
失血のために語尾は弱く震えていた。
声の弱さが悔しかったのか、こちらをギュッと睨みつけてくる少女に、吸血鬼はいった。
「助かった。すんでのところ、くたばるところだった。あぶないところで、あんたの若い血にありつけた。礼を言う」
「礼なんか言ってほしくない」
少女は言い返した。
「なあ、頼むから・・・もう少しだけ恵んでくれないか?死なせたりしないから」
「イヤだって言っても、どうせやるんでしょ?」
少女はあくまでも恨めし気に、男を見あげた。
「物わかりのいい子だな」
男はふたたび少女のうなじを咥えると、さっきしたたかに血を啜り取った傷口を、強く吸った。
「あうっ・・・」
菜々美は仰向けに倒れたままのけぞって、目を瞑り、歯を食いしばる。
苦し気にうつむいて両手で顔を覆う菜々美に、男は
「すまない、だいじょうぶか」
と、口ではいいながら、言葉だけの気遣いを自分で裏切るようにして、
少女の足許にそろそろとにじり寄る。
血に飢えた状態の自分のまえで逃げもせずに身体を横たえているのは、
血をいくら吸っても文句は言わないという意思表示――
そんなふうに自分に都合よく誤解してしまう習性を、どうすることもできなくなっている。
「あッ!やだ!やめてッ!」
鋭い声を発したセーラー服姿の足許に、男はハイソックスのうえから唇をなすりつけた。
部活帰りの少女は、所属している球技サークルのユニフォームのライン入りハイソックスをそのまま履いている。
白地に赤と黒のラインが入ったハイソックスに魅入られるように、
男は唇を這わせ、舌をふるいつけて、あぶく交じりのよだれをなすりつけながら、
菜々美の履いているハイソックスの舌触りを愉しみ始めたのだ。
「イヤッ!やらしいッ!は・な・し・て・・・っ」
叫び声の語尾がまたも、弱く縮こまった。
這わせた唇の下、バラ色のシミをナイロン生地に広げながら、男はふたたび菜々美の血を愉しみはじめている。

「このあたりの吸血鬼、やらしいよ。襲われちゃうと、ハイソックスの上から脚に咬みついてくるんだよ。
 女の人の履くストッキングやハイソックスが好きで、よだれで汚して咬み破って愉しむんだよ。
 あたしも何度か襲われたけど、血を吸われるよりハイソックス破かれる方がやらしくって嫌だな」
親友の朋美がいつか、そんなことを言っていたっけ・・・
失血でぼうっとなった頭でそんなことを考えながら、
ハイソックスごしに突き入れられてくる牙が痛痒いと、菜々美は思った。

「こないだも、先生の脚を咬んでいたよね」
男はこたえずに、もう片方の脚にもとりついてゆく。
菜々美は知らず知らず、男の動きに逢わせて、彼が吸いやすいように脚の角度を変えてやりながら、なおも言った。
「このハイソックス、ユニフォームなんだけど」
「知っている。ライン入りのやつって、いい感じだよな。学校出ていくところからつけてきたんだが、目だっていたよ」
男はそういうと、菜々美の穿いているハイソックスの、いちばん肉づきのよいふくらはぎのあたりに唇を這わせた。
「あっ、もう・・・やらしい」
菜々美は悔し気に唇をかんだが、さっきまでより従順になったのは、失血で身体の動作が緩慢になったせいだろうか。
「部活のみんなを裏切っているような気がして、なんか嫌だ」
菜々美は言いにくそうに言った。
「あんたはなんにも悪くはないさ」
男はわざとクチャクチャと音を立てながら菜々美のハイソックスに舌を這わせ、舐めまわしながらずり降ろしていった。
「悪いね。でも、あんたを辱めることができて、楽しいよ」
男の言いぐさを耳にして、菜々美はプッと頬をふくらませ、つぎの瞬間、パシィッ!と男の頬に平手打ちを食わせていた。
「これでおあいこにしてあげる」
少女は貧血になった頭を苦し気に振りながら、あとも振り返らずに立ち去った。


「菜々美、行こ行こ」
おどけた顔で誘いをかけてきたのは、チームメイトの志保だった。
彼氏のいる志保はいつも帰りが別々で、部活のとき以外あまり口をきいたことがない。
けれども志保の顔つき言葉つきはひどく親しげで、菜々美はつい釣り込まれてあとについていった。
同じサークルの由紀も、だまって菜々美のあとをついて来た。

「メイワクなんですけど」
三人の前に立ちふさがった人影が、きのう自分の血を吸った吸血鬼だと知って、菜々美は露骨に顔をしかめた。
「まあまあ、堅いこと言わないで」
そう言ったのは意外にも、男のほうではなくて志保だった。
志保は菜々美の腕をつかまえて、身体を息苦しくなるくらい、近くにすり寄せてくる。
「この人たちさー、ハイソックスとか好きじゃない。
 だからあたしたち、部活のときのハイソックスをこの人たちにサービスしてあげてるの」
「ええっ!?」
思わず声をあげる菜々美に、あとからついてきた由紀もいった。
「だいじょうぶだよ。みんなを裏切るなんて、そんなことないから。
 菜々美はおくてだったけど、みんなしてるんだからね」
いったいどこでそんな話を聞いたのよ?と、菜々美は志保をまともに見た。
気がつくと由紀は、菜々美のもう片方の腕をしっかりと抑えつけている。
ふたりで菜々美の前後を歩いていたのは、逃がさないようにするためだったのか――
「どっちかって言うと、あたしたちが菜々美のこと裏切っちゃたかな~?」
志保が菜々美の顔をのぞき込む。
「割り切って、いっしょに愉しも♪」
志保の声を合図に、黒い影がもうふたつ、物陰から音もなく姿を覗かせる。
「さ、菜々美もあたしたちみたいに、吸血鬼の小父さまに若い血を愉しんでもらおうね」
由紀は菜々美の腕を抑えつけた手に、ギュッと力を込める。
志保も菜々美の腕をつかまえながら、お姉さんが妹に言い聞かせるような口調で言った。
「菜々美も恥ずかしいのガマンして、このひとのこと愉しませてあげようね。
慣れたらどうってことないから」
男は菜々美の前に立ちはだかると身をかがめ、ライン入りのハイソックスの足許に唇を近寄せてくる。
「ダメッ!イヤッ!あッ!」
ひと声叫ぶと、菜々美は黙りこくった。
両側からチームメイトに抑えつけられたまま、
足許に吸いつけられた唇がハイソックスを咬み破って血を吸い取ってゆくのを、
どうすることもできなくなっていた。
「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」
怯えた震え声がじょじょに弱まって来ると、志保と由紀は菜々美の両側から頷き合って手を放す。
「あとはお2人で、うまくやってね」
そういってほほ笑む二人の背後にも、ひとつずつの人影がまとわりついて、
首すじに、足許に、思い思いに唇を這わせてゆく。
「あ、あなたたち・・・っ!?」
怯えた顔の菜々美にとどめを刺すように、志保が言った。
「彼氏には、ナ・イ・ショ。よろしくね」

三人の女子生徒は三人ながら、うら若い生き血をチュウチュウと音を立てて吸い取られて、
ひとり、またひとりと、その場に姿勢を崩してゆく。
「イヤだ、ほんとうに・・・」
「うひひ・・・クヒヒ・・・」
「好い加減にしなさいよね・・・」
「キヒヒ・・・ククク・・・」
せめぎ合う声と声だけが、夕闇の迫る路上にいつまでも繰り返されていった。


「学校のみんなを裏切るようで、嫌だ」
菜々美はやはり、駄々をこねていた。
セーラー服姿の学校帰り。
志保や由紀が学校指定の紺のハイソックスを履いたをためらいもなく咬ませてしまうのを目のまえに、
菜々美は往生際悪く脚をすくめて後ずさりした。
すぐ背後は、体育館の壁だった。
逃げ場を失って立ちすくんだ足許に、男はいつものように恥知らずな唇を吸いつけてくる。
「恥知らずッ!」
菜々美は相手を罵ったが、男は聞こえないふりをして、クチャクチャと音を立てながら、
菜々美のハイソックスをひとしきり舐めまわし、それから言った。
「わしに吸われると知っていながら、新しいのをおろしてきなすったね」
図星を突かれて菜々美は言葉に詰まり、口ごもりながら言った。
「恥掻きたくないもん」
「じゃあぞんぶんに、辱めてやる」
「しつこくしないでね」
「わしを愉しませるために、あんた来てくれたんじゃろ」
またも図星を刺された菜々美は、視線を宙にさ迷わせ、頭の上に広がる青空をじっと見つめると、
ちょっぴり唇を強く噛んで、それからいった。
「わかったわ。じゃ、お願い」
菜々美は気持ちを固めたようにもういちど「お願い」というと、
男がむしゃぶりついてくる足許を見おろした。
ひざ小僧の下まできっちりと引き伸ばしたハイソックスは、
よだれにまみれ、しわくちゃになってずり降ろされて咬み破られて、
ぬらぬらとした血のりとよだれとにまみれていった。
菜々美は、辱め抜かれてゆく足許から、決して目を放そうとはしなかった。

クラスメイト二人はもう、セーラー服をはだけられて、おっぱいまで吸わせてしまっている。
菜々美もまた、「それだけは嫌」と言いながら、
自分からセーラー服の胸当てをはずして、男のなすがままになっていった。

2018.5.20 構想
2018.5.23 加筆

保健部員の女子

2018年05月23日(Wed) 07:01:14

「きみ、だいじょうぶ?」
白いハイソックスの足が立ち止まり、気づかわしそうに声をあげた。
歩みを止めた腰周りに、アイロンのきいたプリーツスカートがゆさっと揺れる。
少女の足許には、同じ学校の制服を着た男子が一人、蒼い顔をして樹にもたれかかっている。
「貧血なの?あたし保健部員なんだけど、いっしょに養護室に行こうか?」
少年はかすかに顔をあげたが、少女と目線を合わせるのさえ、たいぎそうだった。
動いた目線の先に、少女の脚が触れた。
照りつける陽射しの下。
しっかりと立つ一対の発育のよいふくらはぎ。
真っ白なハイソックスに浮いた太めのリブと、ふくらはぎに走る二本の赤いラインとに、
少年の目がくぎ付けになる。
けだるそうな瞳に、獣の光が宿った。

歩ける・・・?と言いかけて半歩踏み出した少女の脚が、こわばった。
やおら伸びてきた腕が彼女の脚にツタのように絡みついて、
少年が少女の足許にすり寄るのと、スカートの下のふくらはぎに素早く唇が吸いつけられるのとが同時だった。
「えッ!?何を・・・!?」
少女の叫び声が、唐突に中断した。
「――――っ!」
咬まれた!と思った途端、強い眩暈にくらくらとした。
真っ白なハイソックスに赤黒いシミがほとび散って、
うごめく唇の下、脛の周りからしわくちゃになってずり落ちてゆく。
――いけない、立ってなきゃ。
逃げ出すよりも、尻もちを突くよりも、なぜか彼女はそう感じて、
少年がもたれかかっていた樹の幹に手を置いて、かろうじて身を支える。
意識の消える直前、
吸い取られてゆく14歳の血潮がハイソックスになま温かくしみ込むのを、彼女は感じた。

「ちわす」
養護室のドアが開かれ、虚ろな声が白衣の後ろ姿に投げられた。
生気のない男子の声に、養護教諭の辰野千栄はゆっくりと振りかえる。
枯れ木のようにか細い、顔色のわるい少年が、自分よりずっと体格の良い少女を、お姫さま抱っこしている。
少女のハイソックスを濡らす赤黒いシミを目にして、辰野教諭はなにが起きたのかをすぐにさとった。
「また、やり過ぎたのね?」
しょうがない子ね・・・という顔をして辰野教諭は少女をベッドに寝かせようとする少年を手伝った。
「そういうときは我慢しないで養護室に来なさいって言ったでしょう?」
優しく咎める教諭の言葉に、少年は素直にうなだれた。
「最近、先生顔色悪いじゃん」
「余計なこと気にしないの」
といいながら、教諭は自分の足許に目線を落とす少年の気配を敏感に感じ取る。
「まだ足りないの?」
「うん」
薄茶のスカートから覗いた辰野教諭のふくらはぎは、肌色のストッキングに包まれている。
少年は教諭の足許にかがみ込んで、教諭は少年の頭をいたわるように抱いた。
さっき少女のハイソックスを咬み破った牙が、教諭のストッキングをも獰猛に裂いた。
「あっ、痛ぅ。・・・手かげんしなさいよ」
教諭は教え子を咎めながらも、自分の足許に不埒をはたらく少年の吸血を許した。

「この子はね、3年A組の青沼輝子。あなたの一こ上よ。顔知らないのも無理ないね」
「あおぬま、てるこ・・・」
放心したようにつぶやく少年の掌をとって、辰野教諭は少女の名前を彼の掌になぞった。
「あお、ぬま、てる、こ。わかった?」
無言で肯く少年に、
「好きになっちゃったんでしょ」
と、辰野教諭はイタズラっぽく笑って顔をのぞき込む。
軽くウェーブした栗色の髪が白衣の肩にさわっと揺れたが、
少年の目線は蒼ざめた顔でベッドのうえに横たわる少女にくぎ付けになっていた。
「送ってってあげたらあ?一人じゃ歩けないわよー。
それに、このごろ暴走族が出て帰り道が危ないの」
教諭ののんびりとした口調に、少年は感謝するように頭をさげた。

「歩けるからいいよ」
輝子はすっかり、気の強さを取り戻していた。
「上級生を襲うなんて、いい度胸してるよね」
と、えらそうに先輩風を吹かせたのは、貧血がおさまらない自分を引き立たせるためだった。
少年のほうもそれと察しているのか、黙って輝子の傍らに寄り添って歩いている。
背後の気配にギョッとして少女が振り向こうとするのを肩を抑えて制すると、
「やべ。このごろ出没している暴走族。振り向くんじゃないぞ」
下級生の命令口調に、何よ、と言いかけた輝子は黙り込んで、少年に命じられた通り前だけを向いた。
少年はそれに反して後ろをちらと振り返り、バイクにまたがる獣たちのほうに目を投げた。
獣の影はギョッとしたように身体をこわばらせ、ブルン、ブルンと負け犬の遠吠えのようなエンジン音を轟かせ、一目散に去っていった。
「強いんだね」
輝子は白い目で、下級生の少年を見あげた。
少年はわざと輝子の目線から目をそらして、
「気持ち悪いんだろ」
とだけ、いった。
語尾が寂し気に震えるのを、感受性豊かな少女は聞き逃さなかった。
「うちに寄ってく?」
「やめとく。きみの母さんまで咬むわけにいかないだろ」
少年はさりげない口調で輝子を立ちすくませるようなことを言うと、輝子の家のまえできびすを返した。

「咬まれちゃったんだね」
玄関で迎えた母の陽子が、くったくのない笑みを浮かべて娘に言った。
「えっ!?」
血に濡れたハイソックスの足をすくませると、「靴下濡れてるじゃない」
母親はそういうと、くったくのない態度を変えずにいった。
「さあ、脱いだ脱いだ。母さんが洗っといてあげる」

「あの学校、吸血鬼がいるんだよね。昔から。
 母さんもね、学校帰りに外国人の兵隊に襲われて乱暴されそうになった時、
助けてもらったことがあるの」
え・・・?輝子は意外なことを言い出した母親の静かな横顔をふり返る。
「あのころは外国の兵隊がいばっていてね、法外なことをしでかしても、
 大人も怖がって、手出しできなかった。
 なのにあの人ったら、一撃で目くらましをかけてね、母さんのこと逃がしてくれたの。
 同じ制服を着ていたから、どうしてもお礼を言いたくて校内を探して――
 そうしたら女子の先輩が教えてくれた。あんたの彼氏の友だちだよって。
 それが、お父さんの友だちの――あんたも知ってるでしょ――兇野さん。
 感謝のしるしに、何度も血を吸わせてあげたし、父さんも賛成してくれたの。
 抱かれちゃったことだって、あるんだから」
意外な話に意外な話が積み重なって、目を白黒させているいとまもないほどだった。
それでも輝子はいった。
「家に呼んだけど、入ってこなかった。母さんのことまで襲っちゃうからって」
「こんどはちゃんと、家に呼びなさいよ」
母親の顔が少女のように若やいだように、輝子は感じた。

次の日――
後者の裏手のあの樹のまえで、輝子は少年をまえにおずおずと紙包みを手渡していた。
「これ、よかったら」
紙包みの中身は、昨日少年に咬み破られたハイソックス。
その子とおつきあいしたかったら、そうするんだよ、と、母親はいっていた。
少年が紙包みを受け取るのを「ありがとう」といって、輝子はそわそわと目をそらす。
「たまになら、献血してもいいからさ。あたし、保健部員なんだし」
ちょっとすくんだ足許が真っ白なハイソックスに包まれているのを、少年はもの欲しげに見つめ、
そんな少年の横顔に、少女はドキドキとして見入っていた。

差し伸べられた脚に、唇が吸いつけられてゆく。
しなやかなナイロン製の生地越しにヌルっと這わされる唇に、少女は「やらしい」と呟いたが、自分から脚を引っ込めようとはしなかった。
赤黒くただれた唇は、少女の履いているハイソックスのうえをもの欲しげに這いまわり、
ひざ小僧の下までお行儀よく引き伸ばされたハイソックスを、しわくちゃにしてずり降ろしていった。
このひとのためなら、堕落しても良い――
咬まれた傷口から処女の生き血を抜き取られてゆくのを感じながら、
輝子は自分から、姿勢を崩していった。


あとがき
登場する人物名・団体名は、すべてフィクションです。
このお話に限らないけど。

悪い予感・良い予感

2018年05月08日(Tue) 07:54:35

なんの前ぶれもなく、ハイヒールのかかとが取れた。
転びそうになるのをかろうじてこらえながら、
晴子は、いやな予感がした。
一時間後、夫の辰夫が吸血鬼に襲われて血を吸われ、
命を落としたという連絡が入った。

あわただしく昼食を済ませようとしたら、ブラウスにケチャップが撥ねた。
手早く拭き取ったあとにかすかに残ってしまったシミを気にしながら、
晴子は、いやな予感がした。
お寺に向かう途中、彼女は吸血鬼に襲われて、
漆黒のブラウスを目だたないシミで濡らす羽目になった。

お通夜に出るため家を出る間際、ストッキングを伝線させてしまった。
晴子は、いやな予感がした。
しめやかに終えられたお通夜の席で。
弔問客を送り出し独り本堂に残った彼女は、再び吸血鬼に襲われた。
変態!変態ッ!と、罵りながら。
穿き替えた黒のストッキングを卑猥な舌でいたぶられ、飢えた牙に裂き散らされるのを、
我慢して耐え忍ばなければならなかった。

地域の風習で土葬に付された夫の墓に詣でるために出かける間際、眼鏡を割ってしまった。
晴子は、いやな予感がした。
コンタクトなしで詣でたお墓の前で、彼女は吸血鬼に襲われて、犯された。
焦点の合わない視界の隅に、墓からよみがえったばかりの亡夫の辰夫の姿が映ったが、
夫は犯される妻の様子をただ、昂ぶりながら見つめているだけだった。

カーテンを開けたら、そこには晴れやかな朝の風景が広がっていた。
晴子は、良いことが起こりそうな予感がした。
夫の仇敵である吸血鬼に襲われて血を吸われ、犯されてしまったのに。
夫の仇敵であるはずの吸血鬼のまさぐりに反応して、感じてしまったのに。
女は立ち直りが、早いのだ。
彼女は服を喪服に着替え、きのうと同じように夫を弔うためにお墓に出かける。
セットしたばかりのセミロングの髪を緩やかに揺らし、軽くハミングをしながら。

自分の仇敵であるはずの男が妻を犯すのを、夫はむしろ昂ぶりながら見守っていた。
晴子を救い出そうとする行為が、彼女の歓びを奪うのをわきまえているかのように。
そんな貴方に感謝♪
晴子はそう呟きながら、夫の墓前に花を供える。

背後に立った翳に晴子は振り向いて、晴れやかにおはようございますと挨拶をした。
翳の主は挨拶を返さずに、やおら晴子を抱きすくめた。
きょうは眼鏡をかけているんですよ、という晴子に、それでかまわない、と、翳は返した。
吸血鬼なのに、お陽さまが出た後も人を襲うのね、という晴子に、その通りだ、と、翳は返した。
首のつけ根に食い込んだ牙が太い血管を食い破り、喪服の襟首と真珠のネックレスを濡らすのを、晴子は感じた。
全部吸い取ってもかまわないわ。
でも少しだけ、主人の分も残しておいてくださらない?
女の言いぐさに翳は頷き、応えの代わりに女の頸動脈を食い破った。

墓前で発見された皎(しろ)い肢体は、喪服を心地よげにくつろげて、黒のストッキングに伝線を幾すじも走らせていた。
快楽に酔い痴れた後のような惚けたような笑みを湛えて、それでも口許は淑やかに閉ざしていた。
尖った犬歯を押し隠す賢明さを、彼女は冷たくなった後も忘れずにいた。


なんの前ぶれもなく、パンプスのかかとが取れた。
転びそうになるのをかろうじてこらえながら、
晴子の母の詩乃は、いやな予感を覚えた。

報せをきいてあわただしく昼食を済ませようとしたら、ブラウスにケチャップが撥ねた。
晴子の妹の乃里子は、いやな予感を覚えた。

お通夜に出るため家を出る間際、ストッキングを伝線させてしまった。
辰夫の母の光江は、いやな予感を覚えた。

同じお寺の本堂で、深夜。
弔問客を送り出し、通夜を守ろうとした3組の夫婦は、吸血鬼たちの不意の来訪を受ける。
夫たちの血は、辰夫と晴子の生命を奪った吸血鬼が吸い取った。
そして、晴子の母の詩乃、妹の乃里子、辰夫の母の光江の順に、首すじを咬んでいった。

詩乃は、おろしたばかりの新しいパンプスを穿いて帰宅できなくなることを残念に思った。
永年連れ添った夫が血を抜かれながらも、嫉妬と羨望に満ちた目で身体を開いていく妻のことを見つめている事実よりも、
新しいパンプスをもう一度穿くことのほうが、彼女にとっては重要だった。

乃里子は、喪服が間に合わずに着けてきた白のブラウスに血が撥ねるのを厭わしく思った。
さっきのケチャップと一緒じゃない――ぐったりとなった夫が、恥を忘れて痴態に耽り始めた妻のことを目の当たりにしている状況よりも、
新調したばかりのブラウスに撥ねた血がクリーニングでも消えないことのほうが、彼女にとっては重要だった。

光江は、恥知らずな唇が自分の穿いている薄墨色のストッキングをよだれで濡らしていくことを恥ずかしく思った。
出がけに伝線させたストッキングは今ごろ、平穏を保った自宅の屑かごに放り込まれたままになっている。
そのほうがどれほど良いことか――
長年連れ添った夫の前、初めて識る他の男の肉体を味わい尽してしまったことよりも、真新しいストッキングで装った脚を辱められることのほうが、彼女にとっては重要だった。

弔いは済まされたが、弔われた者たちはすでに墓場から抜け出していた。
お義兄さま、意外にいい男じゃない。時々浮気するから、貸してね。
晴子の妹の乃里子は夫と姉の前、そういって肩をすくめてみせたし、
あなたの不始末を、私からも辰夫さんにお詫びしないとねえ。
晴子の母の詩乃は夫と娘の前、もっともらしくうなだれながら、2人の顔色を窺ったし、
息子とデキちゃったなんて、恥ずかしいですね。でも、家族で仲良くしなければなりませんね。
辰夫の母の光江は夫と息子の前、そういってふたりの顔色を見比べた。

ひと晩、妻たちのあで姿を見せつけられた夫たちは、なにも言わなかった。
彼らは故人を弔うために集まった女たちのなかから、喪服の似合うご婦人たちを選び抜いて、
半吸血鬼となった自分たちのため、いっしょに身内を弔ってくれないかと誘いをかけ始めている。
妻たちはそんな夫たちの所行を苦笑しながら見守り、
夫たちは浮気に走る妻たちの所行を苦笑しながら、見て見ぬふりを決め込んでゆく。

「すみません、靴のかかとが取れてしまって・・・」
弔問客の1人で40代の綺麗なご婦人が、顔いろの蒼い傍らの男性に、肩を貸してほしいと頼んだ。
彼女の夫はなにも気づかずに、顔いろの蒼い婦人たちに伴われながら、同じ色の喪服姿を埋没させてゆく。
肩を貸してほしいと頼まれた男性は、こころよく肩を貸してご婦人がわが身を支えるのを助けながら、訊いた。
「故人とはどのような関係で?」
「晴子さんの高校時代からの友人なんです。彼女、まさかこんなことになるとは」
「ご主人のことはご存じないのですね」
「エエ、結婚式にも都合で出られなかったものですから、お顔も存じませんの」
「ご夫婦とも、首すじに咬み痕がついていたそうですよ。もしかして吸血鬼にやられたんじゃ――って、地元の人たちは言っているんです」
「まさか、吸血鬼なんて」
「そうですよね?でも、吸血鬼に血を吸われると、気持ちよくなっちゃって、やめさせることができなくなるというんです。じつは私の妻も吸血鬼に襲われましてね・・・まあおかげさまで、いまでも元気で、ぴんぴんしてるんですけどね」
「また、ご冗談を」
「ご当地かぎりの話なんですよ。だから奥さまも内緒にしておいてくださいね。
吸血鬼の彼も、気の毒なんです。
毎晩のように、若い女の生き血を吸わないといけないので――
だからわたしも、彼が妻の血を吸うのを、見て見ぬふりをしてやっているんです」
「まあ、そうなんですか?」
「それよりも、これから先歩けますか」
「そうなんですの。主人は先に行ってしまいましたし、どうしましょう?」
かかとの取れたパンプスを手に、これ以上歩けないとご婦人は途方に暮れた。
彼女にはまだ、悪い予感を自覚していなかった。
男は言った。
「お墓に行くのはあきらめて、お寺でゆっくりしていきませんか?そこまでなら、彼女のご主人を差し置いてで恐縮ですが、お姫さま抱っこしてあげますよ」

顔いろの蒼い男は、不運なご婦人を抱きかかえた。
事情をよく心得ている地元のものの目には、
吸血鬼が獲物のご婦人を抱きかかえて、血を吸うためにねぐらに戻るところにしか見えなかったけれど。
ご婦人は、これからわが身に降りかかる災難など夢にも思わずに、行きずりの男に感謝の言葉を口にした。
数分後には、自分の血をしたたらせた口許から、おうむ返しに感謝の言葉を受けるとも知らないで。

両腕にずっしりとくる重みが、これから獲られる血の量を想像させて、
男は唇の奥に隠した牙を疼かせながら、良い予感にうち震えていた。
女は男の良い予感を予知することができないで、折れたパンプスのかかとのことを、いつまでも気にしていた。
パンプスを穿いて帰宅するチャンスがもうないことなど、まるで予想をしていなかった。

亡き妻になりきった夫

2018年05月04日(Fri) 06:17:47

「私が死んだら、女になれば?」
妻はそう言って、せせら笑った。
結婚後すぐにわたしの女装癖を知った彼女は、わたしのことを冷ややかに嗤った。
それ以外は、ごく円満な夫婦だった。
見栄っ張りな彼女はだれから見ても幸福な夫婦を演じ切ろうとしていた。
賢明でもある彼女は、わたしに対する内心の軽蔑を抑え込んで、
少なくとも家庭という共同経営者としては強調し合える、理想的なパートナーだった。
彼女が穏やかでさえいてくれる限りでは、わたしにとって彼女はどこまでも、最愛の妻だった。
しかし、わたしたち夫婦の間に、子どもを授かる日はついに訪れなかった。

四十手前という若すぎる死期を覚ったとき。
病床を訪れた裕福そうな老紳士をわたしに引き合わせて、
「この人よ。20年前、私が処女を捧げたのは」
妻はそう言って、またせせら笑った。

貴方とお見合いをしているときも、しょっちゅう逢ってたの。
結婚も、彼に相談して決めたわ。
それから――結婚してからも、よく逢ってたの。
怒った?
優しいのね?
こんな悪い奥さんでも、怒らないでいてくれるのね?
じゃあ私から、ご褒美をあげる。
あなた、私がいなくなったら、女になればいいわ。
女になって、この男(ひと)に抱かれるといいわ。
もしそうしてくれるなら、私の服をぜんぶ、貴方にあげる。
私がいなくなったら、どうせそうするつもりだったんだろうけど――
貴方が気に入っていた青紫のスーツも、濃い緑のベーズリ柄のワンピースも、
これからは好きに着られるのよ。
ちょうどサイズも、あつらえたようにぴったりだし。
どお?
女になって、貴方の奥さんを犯しつづけた男に抱かれるなんて。
あなたそういうの、好きそうじゃないの――

妻がいなくなってから、男はしばしばわたしたちの家を訪れて、
わたしとはひと言も言葉を交わさずに、静かにお線香をあげていった。
そんなことが三度続いたあと、
わたしは意を決して、線香をあげに訪れた彼のことを、妻の服を着て出迎えた。
彼はちょっとびっくりしたようにわたしを見つめ、ただひと言、
「加代子さんにそっくりですね」
とだけ、いった。
わたしにとっては十分すぎる、褒め言葉だった。

さいしょに選んだ服は、洋装のブラックフォーマル。
わたしは妻を弔うためにその服を着て、初めて男性の抱擁を受け容れた。
息荒く迫る男のまえ、乙女のように心震わせて目を瞑り、
お仏壇の前で彼に抱かれて、いっしょに妻のことを弔った。

喪服のスカートの裏地と黒のストッキングとを、彼の精液で濡らしながら、
不覚にも、昂ぶりの絶頂を迎えてしまっていた。
抱きすくめる猿臂の主を、逞しい背中に廻した腕でギュッと抱き返しながら、
妻のことを日常的に犯したという一物を、未経験の股間に迎え入れた。
「加代子が狂ったの・・・わかります」と呟いて、
無条件の奉仕を誓ってしまっていた。
男はわたしの頭を抱いて、「あなたは加代子だ」といい、
わたしは彼の耳もとで、「はい、わたくしは加代子です」と囁き返していた。
せめぎ合う息遣いを思いきり昂らせて、
わたしたちはなん度も果て、愛し合った。
同じ女性を愛した男性同士――わたしは最愛の加代子になり切って、
これからもあなたの最愛の加代子でいつづけると、男に誓っていた。

つぎはおめかしをして、都会に出かけよう。
こんどは喪服ではなくて、あの花柄のワンピースにしないか。
きみはご主人が結婚記念日にプレゼントしたというあの服を着て、
いっしょに映画を見て、お食事をして、ホテルにまで行ったのだよ。
あの日が戻ってくることを、わしは心から望んでいる――
妻の愛人はわたしの耳もとでそう囁いて、
わたしはただ、「加代子になって貴男に逢います」と、囁き返していた。

わたしは妻になり替わって彼の愛人になり、加代子という名前でこれからを暮らす――


あとがき
言ってるそばから、”魔”が降りてきました・・・。
^^;

すっかりご無沙汰になっています。(管理人のつぶやき)

2018年05月03日(Thu) 22:22:45

柏木です。
このところ、すっかりご無沙汰になっております。

どうしたものかこの1・2か月というもの、ぱったりと筆が進まなくなりました。
描きかけたものはじつはいくつとなくあるのですが、どうにもさいごまでお話が続きません。
どうやら柏木の身辺から、”魔”が遠のいているこのごろです。

こういう描きものは妄想の起きやすい夜のほうが進みがち・・・と思いきや、
(ココに以前からお越しの方はご承知かもしれませんが)
私の場合は起き抜けがもっとも妄想のほとばしる時間帯です。
そんな妄想が湧いてくることを、「”魔”が降りてくる」としばしば表現させていただいています。

いちど”魔”が降りてきますと、時には突き動かされるようにキーを叩きつづけて、
そのキーを叩くスピードよりもはるかに速く、
私の頭のなかで登場する人物たちが、私の思惑を超えて勝手にものを考え、話し、行為を遂げてゆくのです。
たいがいのお話が、かなり長いものも含めて、おおむね30分から1時間くらいのあいだに、一気に描き進んだものです。
(よって、時にはつじつまの合っていないお話もあるかもしれません・・・汗)

ところがこのところは、”魔”の降りてくることがほとんどなく、
かりに降りてきたとしても、見えたり聞こえたりするものがかすかで、しかもすぐに遠のいてしまって、
下書き――”魔”の動きが活発な時には、下書きをすることさえまれなのですが――を書きとめているうちに
”魔”の気配がだんだんと遠くなってしまって、結末まで至らない・・・そんなことがしばしばなのです。

もともとこのブログは、私のなかで沸き起こる妄想を止めることができずに、
「いっそ、妄想をすべて吐き尽してしまうまで描いてしまおう」という意図のもとに立ち上げたものです。
以来13年間の間に、3000以上のお話が、つむぎ出されてきました。
この流れがこのまま終わるとはとても思えないのですが・・・いまは大きな休止の時期なのかもしれません。
時折こちらにお見えくださる読者の皆さまには、良いお話を提供できず心苦しい限りなのですが、
事情をお察しの上、いましばらくお待ちくださいますよう、お願い申し上げます。

K学院中学校 2年E組 水越奈美の場合

2018年03月08日(Thu) 07:04:15

俺が狙った水越奈美は、一見地味な子だった。
仲良し七人組の女の子のなかではいちばん目だたない子にみえた。
でもどういうわけか、その子の面影はほかのだれよりも、俺の目をとらえて離さなかった。
どことなくノーブルで聡明そうな目鼻立ちが、俺の目のまえで血を吸われて堕ちていったお袋と、どこか似通っていたからかもしれなかった。

その子はもしかするとほんとうに、7人の仲良しグループのなかではいちばん目だたない子だったかもしれないけれど、
そんなことはまったく苦にしておらず、むしろ周りの子たちの引き立て役を、すすんで買っているようにもみえた。
きっと――友達の輪の中の居心地がとても良くて、
その中でちゃんとした自分の役割を自覚し、それに満足していたのだろう。

俺は喉の渇きをこらえながらその子の帰りを見送って、
彼女もなんとなく俺の視線に気づきながらも、わざと気づかないふりをして、
セーラー服のスカートの裾をひるがえし、通り過ぎていった。
そのうちに。
見境なく襲われることはないと踏んだのだろう。
ぐうぜん目が合ったときに、彼女は、きちんとした礼儀正しい会釈を投げてきた。
俺はいつになくどぎまぎとしてしまって、あわてて会釈を返すのが、精いっぱいだった。
心の中の危険な火がともったのは、たぶんきっと、そのときだった。
けれども、負け惜しみで言うわけではないけれど、決して喉の渇きに負けたからではなかった。
彼女の会釈に気合い負けしたわけじゃないというのは、もしかすると負け惜しみかもしれないけれど。

その日の夕方、奈美はいつになくお友だちと離れて、ひとりで家路をたどっていた。
いつも友だちに囲まれていて、ほかのだれよりもそういう機会が多い子で、なかなか近づくチャンスがなかったから、千載一遇の好機に俺の胸は不吉に踊る。
俺は相手が怯える想像にワクワクしながら、奈美の前に立ちはだかった。

案の定、奈美はビクッと立ちすくむと、細い目を驚いたように見開いて、俺を見つめた。
なにか言葉を口にしようとしたけれど、何と言っていいのか言葉を選んで逡巡している様子が、ありありとわかった。
俺は少女が言葉を探し当てるまで、意地悪く待ってやる。
「あの・・・あの・・・っ」
奈美はやっとの思いで、上ずる声を抑えかねながら俺に話しかけてきた。
「き、吸血鬼さん・・・なんですよね・・・?」
とつぜん訪れた危機に、とっさに思いつく言葉がなかったのだろう。
頭の回転が遅めなぶきっちょさが、むしろほほ笑ましくて。
俺は余裕しゃくしゃく、ゆっくりとうなずいてみせる。

「喉・・・渇いてるんですか・・・?」
少女はさぐるような視線で、俺を見る。
どんなに対等にやり取りをしたところで、お前はしょせん、掌の上に載った獲物・・・そんな余裕に、俺は物騒な満足感を満喫する。
「そうだから、あんたを呼び止めた」
「ああ・・・やっぱり・・・」
奈美は切なそうに、目を瞑る。
いままでガマンしてくれてたんだ・・・そう呟いたように俺には聞こえた。
その呟きに呼び覚まされるように、人間らしい気持ちがほんの少しだけ、戻って来た。

「あした、期末テストなんです。だからきょうは、襲わないで。
見逃してくれたら、あしたは必ず逢いに来るから。」
奈美は俺と目線を合わせるのさえ怖れるように、とぎれとぎれに、でもしっかりとした声色でそういった。
どうして俺は道をあけてやったのだろう?
この少女をセーラー服のうえから抱きすくめてやりたい。
襟首の白線に血がふきこぼれるほど、ガブリと強烈に食いついてやりたい。
そんな想いにゾクゾクしていたはずなのに。
「せっかく見逃してやるんだから、赤点取るんじゃないぞ。」
捨て台詞のようなからかいにさえ、セーラー服の後ろ姿は素直に肯きかえしてきた。

翌日。
あてにならないデートの待ち合わせに行くような気分で、俺は夕べあの子を通せんぼした四つ角に立っていた。
奈美は約束の時間に五分とたがわずに姿を現して、おずおずとこちらのほうを窺っている。
ぎらりとした目線を投げてやったら、ビクッとしてたじろいだけれど。
逃げようとはしないで、踏みとどまった。
真面目な義理堅さに、親からちゃんとしたしつけを受けた子なのだと感じさせた。
年ごろになった自分の娘が吸血鬼なぞに狙われて、今頃親どもはどんな気持ちでいるのだろう?

重たげに垂れさがる制服のスカートの下から覗く脛は、真っ白なハイソックスで覆われている。
きっと、友だちから教わったのだろう。
思ったとおりの、良い子だった。

「きのうはほかの子を襲ったの?」
俺が無言でかぶりを振ると。
「だったら――喉、すごく渇いているんでしょう?」
怯えた上目遣いに引き込まれるように。
気がつくと俺は、奈美のことをギュッと抱きしめてしまっていた。

「恥ずかしいから、人目の立たないところでしてね」
奈美はことさら笑顔を作って、なんとかいつもの素直で穏やかな自分を手放すまいとしていた。
俺は手をつないで、少女を強引に公園に連れ込んでいた。
「お嫁に行けなくなる公園」
年ごろの少女たちのあいだでは、そう呼ばれているらしい公園だったけれど。
「無茶なことはしないから」
という俺の囁きを、彼女は疑うことなく本気にしてくれた。
「怖くしないでね。痛くしないでね・・・」
少女は俺がむき出しにする欲求に怯えながらも、俺の患いを自分の血で取り除こうとして、
まるで看護婦のように懸命になってくれているようだった。
いよいよ俺が彼女のおとがいを仰のけて、首すじに唇を近寄せると。
「キャー」
怯えながらも小声で悲鳴をあげるふりをした奈美は、
セーラー服の襟首を俺につかまれながら、素直に首すじを咥えられていった。
柔らかくて温かなうなじの感触が、飢えた唇をゾクゾクと昂らせる。
俺は夢中で奈美の首すじを咬んで、嗜虐的な牙をその柔らかな皮膚にずぶりと埋め込むと、十代の少女の純潔な血潮に、もう無我夢中で、酔い痴れていった。

「もっと・・・いいよ」
貧血で顔を蒼ざめさせ、吸い取られた血潮で頬を濡らしながらも、奈美は俺のことを促した。
まだ足りていないと顔に書いてあるのだろう。
俺は遠慮なく、少女の足許に唇を吸いつけた。
じっと見下ろす視線を頭上に感じながら、舌をチロチロ這わせながら、
ハイソックスの生地のしなやかな舌触りを愉しんでやった。
「あぁ」
ハイソックスを咬み破りながら吸血を始めたとき――少女は初めて咬まれたときよりも、羞ずかしそうにした。
靴下を破られながら吸血されることのいやらしさを、本能的に感じ取ったみたいだった。

失血による息遣いの乱れを抑えかねているのが、抑えつけた両肩から、セーラー服を通して伝わってくる。
満足のゆくまで少女の血を味わうと、俺は奈美を放してやった。
「喉渇いたら、ガマンしないで声かけてね。できれば明るく・・・」
蒼ざめた頬に浮かぶ笑みは、いつもの穏やかさがそこなわれていなかった。
もしかすると俺はこの子のことを、犯さずに吸いつづけるのかもしれない。
静かに遠ざかってゆくセーラー服姿の後ろ姿を見送りながら、俺はふとそんなことを想っていた。



あとがき
登場人物や団体名等はすべてフィクションです。
2018.2.28構想 2018.3.8脱稿

K学院中学校 2年E組 仁藤真奈美と安西優子の場合

2018年03月08日(Thu) 06:51:25

クラスでも一、二を争う美人と自負しているあたしたち。
あたしと優子はいつも、学園祭の時だけ訪れる男子の注目の的になる。
そんな二人の初体験は、
あたしたちにはおよそふさわしくない年配の小父さまたちに汚される、
無理強いなものだった。

学園祭には、家族と招待客しか招ばないはずなのに、
それとも同級生の誰かに、家族が吸血鬼化した子がいたのだろうか?
空き教室で2人だけでいたあたしと優子の目のまえに現れたその2人は、
ひと目見ただけでそれとわかる、吸血鬼だった。

あたしも優子も立ちすくんでしまって、
おそろいの夏用のセーラー服姿を抱きすくめられて、教室の床に押し倒されて。
2人肩を並べて泣きじゃくりながら、首すじを咬まれていった――

泣きじゃくった涙が随喜のそれに変わるのに、十数分とかからなかったらしい。
あとでそれをあのひとたちから聞いてあたしたちは、
「・・・恥ずかしい」
と、そのひょう変するまでの時間の短さを恥ずかしがった。
「あまり苦しめたくなかったのだ」
あのひとたちは弁解するようにそう言ってくれたし、今ではそれを信じるつもり。
だってそのとき、最悪の展開を予感したあたしたちは、
「お願い、犯さないで!まだ処女でいたいの」
って、訴えて――彼らは聞き入れてくれたから。

その代わりあたしたちは、不思議な約束をさせられていた。
こんど校外で逢うときは、ハイソックスを履いてお出で と。
三つ折りソックスが義務づけられていたあたしたちは、
下校すると途中で靴下を履き替えて、吸血鬼の棲み処へと訪ねていった。
ほかの子たちと違うソックスを履いて道を歩くことに、周囲の目を必要以上に気遣いながら。
きっとあのときの落ち着きのなさ・・・一生忘れることはないだろう。

処女のまま生き血を愉しみたかったのか、
白のハイソックスをずり降ろしながら、いやらしい愉しみに熱中したかったのか、
あたしたちはしばらくの間、犯されずに済んだ。
夏に香織ちゃんが襲われて犯されたって聞いていたから、
そのうちあたしたちもきっとそうなるって思っていたし、
どうしてあの子たちは吸血鬼さんに振り向かれないのって思うようなパンクな子たちもクラスにいたから、
セックスを識っている子は周りにふつうにいたけれど。
やっぱり大人の女になるのは、まだ怖かったから。

冬になってもまだ、あたしたちは幸い、処女のままだった。
香織ちゃんが初めて襲われたその場で女にされちゃったことは本人から聞いて知っているし、
順子がバレンタインのプレゼントに処女を差し出したことも自慢されたけど、
やっぱりあたしたちは、まだ怖い。
でも――小父さまたちは、あたしたちに囁きつづける。

こんど夏服になったら、黒のストッキングを履いてお出で。
そうしたらきみたちのことを、一人前の大人の女にしてあげる。
自分から言い出すのは、羞ずかしいだろうから、それを合図にしようね。

いけない囁きはあたしたちの耳たぶを焦がし、鼓膜の奥底にまでしみ込んで、
あたしたちはいつのまにか、うなずき返してしまうようになっている。
三年生の夏――あたしたちはきっと、黒のストッキングをずり降ろされながら、
太ももの奥に「イヤってほど痛い(by香織ちゃん)」というモノを、突き刺されてしまうに違いない。



あとがき
登場人物や団体名等はすべてフィクションです。
2018.2.28構想 今朝脱稿

卒アルに夏服で載った私  K学院中学校 2年E組 福野香織の場合

2018年02月26日(Mon) 07:40:30

卒アルに載る写真を撮るタイミングは、とても早い。
なにも2年の冬に撮ることないじゃない。
ほかの子以上にそんなふうに思ったのは。
私がそのころ、学校に通っていなかったから。
クラス全員の撮影には間に合ったけど、お友だち同士のページの写真では、
私はみんなといっしょには写れなくって、切り抜きの形で混ぜてもらった。
それもみんなとは違う、夏服の写真で――

ちょうどみんなが先生の構えるカメラに向かってピースサインをしている頃、
私は病院のベッドで、赤ちゃんを抱っこしていた・・・

さいしょの出逢いは、とつぜんだった。
学校帰りの夜道で待ち伏せしていたそのいけない小父さまは、
父よりずっと年上のはずの、その小父さまは、
ずっと私の帰りが遅い日を待ちわびていたのだと、あとで教えてくれた。
提げていた学生鞄を振り飛ばし、けんめいに逃げたはずの私は、
獣のようにすばしこい小父さまの動きのまえにはなすすべもなく、
すぐにセーラー服の襟首をつかまえられて、首すじをガブリ!と咬まれてしまっていた  

ちゅうちゅう・・・ちゅうちゅう・・・
ひとをこばかにしたような、血を吸い上げる音を耳にしながら、
私は気が遠くなって、その場にひざを突き、四つん這いになり、
とうとう我慢できなくなって、仰向けに倒れてしまった。
セーラー服を汚したくないのだ――小父さまはすぐに、私がなんとか身を支えようとした理由に気づいてくれて、
倒れる瞬間地面と私の背中の間に腕を差し入れて、支えてくれた。
その代わり、もっと強く抱きすくめられて、私はしたたかに血を吸い取られていった。

K学院の子だね?
制服見れば、わかりますよね?
私はすねて、そんな答え方しかできなかった。
つねに礼儀正しく――を教えている校風に逆らってしまったことをとっさに恥じたのが相手に伝わったのか、
「そんなことまで気にするなんて、あんたは優等生なんだな」とだけ、小父さまは言った。
K学院の制服を着た子なら、ほかにいくらもいるじゃない――
私はとっさに、そう思った。
清楚な校風で知られたわが校でも、パンクな子たちはいくらもいる。
どうしてよりによって私なの?
わざわざ私に目をつけて、何カ月も前から血を吸いたいのを我慢して、帰りの遅い日を待ったという小父さまを、私は烈しい視線で睨んでいた。
「そう睨まんでくれ」
小父さまはそういって、もうひとしきり私の血を吸うと、
「献血に感謝する」といって、昔語りを手短にした。
「きみのお母さんも、K学院だったね?」

母は17の夏、制服姿の帰り道を、この小父さまに襲われた。
じたばたと手足をばたつかせて抵抗したけれど、手近な草むらに引きずり込まれて――
いちおうは都会といわれるこの街でも、昔はそんな草むらがあったんだ・・・
あたしはぼんやりとした横っ面を向けたまま、母の身に起こった手荒な初体験の話を、聞くともなしに聞き入ってしまった。
「あんまりよかったので、つい本気になった。それがきっかけで、あんたが生まれた」
え・・・?
ということは、私と小父さまとは、血のつながった親子?
目を丸くする私に、小父さまは言った。
そのとききみのお母さんには、つき合っていた男子がいた。
本当はその子に処女をあげたかったので、お母さんはひどく悔いていた。
けれども、その男子は物わかりの良い子だった。
お母さんのことが本気で、好きだったのだろう。
わしがお母さんの血を吸うことも、お母さんがお腹に宿したきみを生むことも、承知してくれたのだ。
わしは、後継ぎが欲しい。
きみのご両親が、きみの弟さんを生んだようにな。
でもわしの後継ぎは、実の娘と交わることで、初めてできるのだ。
小父さまは――お父さまと呼ぶべきなのかもしれないけれど――は、じいっと私を見た。
しんけんな眼だった。
「わかった」
私はぽつりと、そう言った。
どうしてそんなに物わかりがよかったのか、今でもよくわからない。
もういちどのしかかってくる小父さまを、拒もうとする代わりに
合服の袖を通した腕を小父さまの背中に廻して、小父さまを迎え入れていた。
丈の長いスカートをたくし上げるのに、小父さまはちょっとだけ手間取ったのを、なぜかよく憶えている。
いちどまくり上げてしまうと、小父さまは私のパンツを引き裂いて、むき出しの男性のシンボルを、やはりむき出しにされた私の太ももの間に、強引に突き刺してきた。
首すじを咬まれたときと似た快感が、私を貫いた――
結局私は、夜が明けるまで小父さまの相手をして、最後は悦び合い愉しみ合ってしまっていた。
帰りの遅い私を心配して、母がやって来たのを私は知っている。
でも母は、物陰に隠れて初めてセックスに夢中になってる私を見ると、
そして私の相手を見ると、
ホッとしたような諦めたような顔をして、回れ右をして戻っていった。
それ以来。
私は毎日のように小父さまのお邸に伺って、
セーラー服で良い。いや、セーラー服が良い。
という小父さまにせがまれるまま、
母校の制服を辱められながら、小父さまに服従する歓びにめざめていった。

母が従兄との縁談を持ってきたのは、そのころだった。
お式は、高校を卒業してからでいいから。
その子のことは、だいじょうぶ。
だって、小父さまが引き取って下さるのだから――
初体験ばかりか、子供まで生んだ身体を、従兄のマサハル兄さんは、お嫁さんにしてくれるのかしら?
なにも知らないマサハル兄さんがかわいそう――
そんなふうに思いかけた私のことを、母はたしなめた。

男のひとは、黙りとおしたほうが良い人と、なにもかも打ち明けたほうが良い人とに分かれるの。
お父さんは、何もかも知っているけれど。
姉さん(マサハル兄さんのお母さん)も、何もかも知っているけれど――
マサハルはどうかな?
いっしょに研究してみようね。
「ウン、そうするね」
思わず答えてしまっていた、私――
うふふふふふっ。
母の白い顔が、悪戯っぽく笑う。
私も母の笑いに応えて、母譲りの白い頬を、楽しげにゆるめていた。


あとがき
登場人物や団体名等はすべてフィクションです。

バレンタインのプレゼント K学院中学校2年E組 兼古順子の場合

2018年02月26日(Mon) 07:37:48

とうとうやって来た、この季節。
女の子たちはだれもが、お友だちにも言わないナイショの店で、
とっておきのチョコレートを買い込んでくる。
あたしもそんな中の1人。
お小遣いをはたいて、とびきり上等のチョコレートを買った。
でも、他の子みたいにラッピングをしてもらわないで、家に持って帰る。
自分の手でラッピングをして、中にお手紙なんか入れる子もいるから、
お店の人もべつだん不思議がらないで、あたしにチョコレートを手渡してくれた。
ラッピングしてもらわない理由は、ほかのふつうの女の子とは、ちょっと違う。
家に持って帰ったチョコレートは、あたし自身が食べちゃうのだから。

チョコレートは好きだけど、バレンタインのチョコをわざわざ自分用に買ってまでたべるほどではない。
でも、きょうのチョコレートは、とびっきりのやつじゃないとだめ。
だって、だって・・・
きょうがあたしにとって大切な日なのは、ほかの女の子たちと、変わりないんだもの――

チョコレートを食べ終わったあたしは、ママに隠れるようにこそこそと、
「ちょっと出てくる」
とだけ言って、お家を出る。
こんどここに戻って来るときにはもう、あたしは“女”になっている。
ママは何食わぬ顔をして、
「気をつけてね」
とだけ言って、玄関で見送ってくれた。
ドアを閉める間際、ママと目が合った。
気のせいか、心の中を見透かされているような気がした。
「がんばって」
ママの唇がそんなふうに囁いたような気がした。

あたしの制服は、セーラー服。
昔ながらの名門校だから、K学院の子は自分の制服を好きな子が多い。
あたしもその1人――
だから学校から帰ってきた後、ちょっと改まったところに行く時は、
ほかの女の子たちと同じように、制服で出ることが多い。
でも、きょうあたしが行くのは、塾でもバイオリンのお教室でもなく、
親にも言えないような場所。
そう、街はずれに棲む吸血鬼の小父さまのお邸なのだ。

出かける間際。
セーラー服のリボンを新しいものに締め直して、
白のソックスを、肌の透ける黒のストッキングに穿き替える。
玄関で見送られたとき、薄黒く染まったあたしの足許を、ママにしっかり視られていた。
><
まぁいいや。
きっとママも、通り抜けてきた道だろうから。
この街に棲む男の子たちは、みんな割を食っていて、
いちばんおいしところを、吸血鬼の小父さまに持っていかれちゃうのだから。

「きょうは、なんの日だか知っているよね?」
あたしのことを背中で迎えた小父さまに、あたしは精いっぱいの声でそういった。
「この国ほど、盛んではないけどな」
きょうの小父さまは、いつになく言葉が少ない。
いつもなら、あたしがお邸にお招(よ)ばれすると、
はぁはぁと息荒く迫って来て、
小父さまのためにわざわざ履き替えていった真っ白なハイソックスのうえから足を咬んで、
真っ白なハイソックスが真っ赤になるまで、
あたしの血を吸うのをやめようとはしないのに――
「バレンタインのチョコ、持ってきた」
「それは嬉しいね」
小父さまはまだ、あたしに背中を見せている。
あたしはためらいもなく、数歩進んで小父さまのすぐ後ろに立つ。
さいしょに逢ったときは、校長室だった。
校長先生をお待ちしているものとばかり思い込んでいたあたしの真後ろに、
この人は音もなく忍び寄って、
あたしの首すじを咬んで、あたしの人生を塗り替えた。
こんどはあたしが自分の手で、あたしの運命を塗り替える番――
「チョコレート、あたし食べちゃった」
「・・・?」
「とびっきり高い、最高級なやつ。あたしチョコ好きだから、先に食べちゃった♪」
そこで初めておじ様は、あたしのほうを振り向いた。
小父さま、ほんとうはチョコレートも食べたかったの?
そう思ったらふだんみたいな明るい顔に、しぜんになれた。
「いいよ。受け取って。あたしのバレンタインのプレゼント」
大胆にキメるはずのキメ科白――ちょっとだけ声がかすれてしまったのが、残念!

小父さまはビクッと身体を震わせると、こんどこそあたしめがけて、本気で迫って来た!
そう、吸血鬼の目ではなくて、男の目になって。
そのままストレートに、壁ぎわに抑えつけられたあたし。
囚われのお嬢様はそのまま首すじを咬まれ、唇を奪われて、
小父さまの手はいつの間にか、濃紺のプリーツスカートのなかに忍び込んで、
黒のストッキングの太ももを、それはいやらしくまさぐり始めた。
折り目正しいスカートのひだを、くしゃくしゃにかき乱されながら、
あたしはもぅ声も出なくなって、ひたすら小父さまの両肩に、しがみついていた。

押し倒されたじゅうたんのうえ。
突き刺された太い筋肉の塊に、違和感をありありと覚えながら、
じわじわとこぼれ出てくる処女喪失の証しのしずくが、
スカートの裏地にしみ込まないかと、そればっかりを気にかけていた。

暗くなってから帰ったあたしを、ママは何も気づいていないような顔つきで出迎える。
「シャワーと晩御飯、どっちが先?」
いつも通りののどやかな声色も、なにも変わりがなかった。
ママ、ほんとに気づいてないかな?
そんなとき、ママが何気なくあたしに言った。
「制服のスカート、新しいの買っといたから」
え?
小首をかしげるあたしに、ママはイタズラっぽく笑みかけてきて、
「ママからの、バレンタインのプレゼント」
スカート汚したでしょ?おなじ女の目が、そう言っていた。
それに、「おめでとう」って。
あたしは照れ隠しに、「シャワー浴びるね」とだけ言って、ママに背中を向けた。
15歳のバレンタイン。
その日、あたしはちょっとだけ早い成人式を、ママに祝ってもらった。


あとがき
登場人物や団体名等はすべてフィクションです。

惑い。

2018年02月22日(Thu) 06:42:22

夫が、セーラー服姿で帰宅した。
女装趣味をもつ夫は、このところ帰りが遅い。
夫の正体を知ったのはごく最近のことだったが、
内心戸惑いを覚えつつも、賢明な彼女は夫の感情を逆なですることはなく、
「周りに迷惑はかけないで」とだけ告げて、ほぼ黙認状態で表向きは平穏な日常を過ごしている
夫の帰宅を気配で感じた彼女は、ちょっとだけため息をついて、
そしていつものように黙って夫を迎えるために、座を起った。
彼女は、夫が帰宅するまでの間いつも、よそ行きのスーツを身に着けていた。

木内夫人は玄関まで夫を出迎えて、その背後にひかえる黒い影をも同時に見た。
それが、木内夫人と吸血鬼との初めての出逢いだった。
黒影の持ち主は、夫よりもずっと年上の初老の男だった。
表情の少ない彼の顔だちからは、初めて木内の妻を目にしたことによる感情の動きを、全く読み取ることができなかったし、
女装の夫と2人連れだった真夜中の散歩がどんな雰囲気だったのかすら、みじんも感じられなかったけれど。
どちらかというと陰性な夫の表情はいつになく晴れやかで、長時間の散歩が睦まじい会話で充たされていたことは容易に読み取ることができた。
木内夫人はそんな夫の顔を見て、かすかな嫉妬を覚えた。

男は木内の妻を見て、無表情に目礼しただけだったけれど。
目が合った瞬間、木内夫人は、着ていたよそ行きのスーツを突き刺すように、胸の奥にずきりとするものを覚えた。
男は木内の妻を、獲物としては見ていなかった。
夫の友人としての控えめな好意だけを表に出して、「ああこの人は・・・」と夫が彼を紹介するのさえ拒むように、夫妻の視線に背を向けて、つと立ち去ろうとしたのだった。

「あの・・・」
木内夫人は、思い切ってその背中に声を投げた。
歩み去ろうとした黒い影は夫人の声に足をとめたが、振り向きはしなかった。
「今夜は、主人がお世話になりました」
夫人は瞳を伏せて、折り目正しく頭を下げた。
吸血鬼は木内の妻をふり返ると、いんぎんな黙礼だけを与えて、去っていった。
相手が異形のものと知りながら、夫の友人として遇してくれた感謝がそこにあったように、木内夫人は感じた。

「着替え?それから、お風呂?」
男が去ると、彼女は夫に必要最小限な言葉を投げて、
木内はそんな妻にちょっとはにかんだ微笑で応えて、素直にその指図に従った。
夫の女装姿は、いまだに木内夫人の目になじみ切ってはいない。
男にしてはなで肩の夫だったが、それでもセーラー服には不似合いな肩幅だったし、
ウィッグの下にあるまぎれもない夫の顔も、女子生徒の初々しさとは異質なものを持っていた。
けれどもふだんの姿の夫にはない華やぎのようなものが、身にまとう女の服と違和感なくとけ込んでいることもまた、認めないわけにはいかなかった。

浴室からシャワーの流れる音が洩れてくる。
その音を聞きながらも、木内夫人はまだ、胸のドキドキを抑えることができなかった。
夫の女装姿に、いまさらうろたえたわけでは、むろんない。
生れて初めて目にする吸血鬼の姿に、恐怖を覚えたのか?
木内夫人は自分の異常な昂ぶりに戸惑いながらも、その理由を反芻する。
わからない。
男の投げたまなざしに、獲物を見るものの獰猛さはかけらもなく、彼女に恐怖を与えるなにものも帯びてはいなかった。
夫を送ってくれた妻からの感謝の言葉にこたえ、ただたんに、礼儀正しく黙礼して、去っていっただけ――
夫の友人としてのごく控えめな好意を滲ませたほんの一瞬の行動からは、
彼女に対するどんな思惑も、感じ取ることはできなかった。
少なくとも、相手は彼女を、獲物とはみなしていない。それは女の直感でそうとわかった。
しいて言えば、夫の散歩相手が吸血鬼であることに彼女が露骨な恐怖をみせないという賢明な態度に対する敬意を、ほんの少しだけ滲ませただけだった。
――やだ。どうしてこんなにドキドキしているの。
夫がシャワーを浴びている間、木内の妻は、答えのない反芻をくり返しつづけた。
きっと今夜は夫を優しく責めながら、自分が主導でベッドのうえでの営みを遂げてしまうはず。
それもおそらくは、いつになく熱っぽく――
得体のしれない胸の昂ぶりをなかばいぶかしみ、半ば怯えながらも、木内夫人はそんなことを思い描き、つい顔を赤らめた。

木内夫人は、心の奥底でわかっている。
胸が昂り血が騒いだのは、
今夜迎えた男が、いずれ彼女の血潮を啜り取ることを予感したから。
カサカサに干からびた年配男の唇が、彼女の誇るみずみずしい柔肌をナメクジのように這いまわり、
豊かに熟れた女ざかりの熱い血潮で唇の渇きをうるおしながら、喉を鳴らして酔い痴れるだろうことを。
彼女はそれを女の本能で直感し、啜り取られる運命を察した血液を人知れずたぎらせてしまったのだと。

「きみも良かったら」
貧血に悩む夫がそれを妻に打ち明けて、彼が自分の親友に愛妻の血液を提供することを望んでいると告げたとき、
木内夫人はためらいのない同意を与えたのだった。
――あのひとと2人きりで逢うのは心細いから、そこにはあなたもいて。
自分の願いに二つ返事の承諾を受け取りながら、木内夫人は自分の受け答えに慄きを感じる。
夫が意図した結末を、じかに夫の目のまえにさらしたい。
そんな悪魔的な意図を、わざと心細げな声色で伝えた自分のささやかな復讐心を、初めて自覚することで。


あとがき
女の心裡は、ときにエロいです。
でも同時に、ちょっぴり怖いかも・・・です。^^;


絵詞なし0052bubunじ04

※挿絵は手持ちのものを、ちょっと加工しました。^^

≪りんく≫
★前作
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3570.html

★イラストPart1
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3575.html

★イラストPart2
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3578.html

【ビジュアル版】交わりが拡がってゆく。 by霧夜様 Part2

2018年02月22日(Thu) 05:46:59

またまた!
前作「交わりが拡がってゆく。」のイラストを、霧夜さまから頂戴することができました!
木内の妻が夫に誘われるまま、吸血の場に臨もうとする場面までです。

「イメージ化したい人物の順位は娘>婚約者>妻の順」と、霧夜さまの中では最下位であるはずの木内夫人ですが・・・
惚れました!(笑)
とくに、1枚目と3枚目の、眉をひそめてややしかめ面になっている木内夫人。
この人、結婚を控えた長男と、どうやらまだローティーンらしい長女の二児の母なのですが。
若干若づくりなのは、むしろOKなのではないでしょうか。
むしろ、これくらいのなまめかしさは必要ですよね?^^
読者にとっても、彼女の血を吸う吸血鬼にとっても。^^

さいごの場面。
ほんとに、いいトコロで切れていますね? ^^;
びっくり驚愕する木内夫人。
この芝居がかった大げさなポーズが、なんともご愛敬です。
昭和の恐怖まんがみたいで。^^

と、いうわけで――
それらしい画像 とかではなくて、自作の小説が絵詞になって展開される吸血絵巻。
とくとお愉しみあれ。^^

次回以降がつづくかどうかは、霧夜様しだいです。(^^)


180222 01 180212霧夜 予備05


180222 02 180212霧夜 06


180222 03 180212霧夜 07


180222 04 180212霧夜 08


180222 05 180212霧夜 予備09


★オリジナルの本文
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3570.html

★前のイラスト
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3575.html

バレンタインのプレゼント

2018年02月17日(Sat) 10:09:44

誰にも覚られない隠れ家の、高級ホテルの一室で。
独りワイングラスを手に窓辺に佇んでいると。
己はどこまでいっても独りきりなのだ・・・と――
思わずにはいられない。
はるか眼下を行き来する幸せな男女たち。不幸せな男女たち。
かれらはいちように、その身に血液をめぐらせて、
まっとうな日々を、あるいはまっとうではない日々を、暮らしている。
己だけが独り、その圏外にいる。

安全圏だと?
絶対的な支配力を持っているだと?
それは孤独であるということと、なんの変わりもありはしない。

そんなことを独り思って鬱していると。
コン、コン・・・
人を憚るような、ひそかなノックの音が、背後の扉に響いた。
いまさら怖れるものなど、なにもない。
ためらいもなくひと息にドアを開くと、
そこには絶世の美女――

翔子・・・
思わずその名を口の端から洩らすと、女はいった。
「お忘れじゃなかったようね」
「忘れるものか」
「なにを憶えていらっしゃるの」
女の問いにこたえずにいると、
女は用心深く扉をロックして、それからもういちど、こちらをかえりみる。
「憶えているのは・・・血の味だけじゃなくって?」
「そんなことはない」
こちらの強がりを封じるように、女はゆったりと腰をくねらせて、ひと足よけいにこちらにその身を近寄せた。
「きょうはなんの日だか、覚えているわね?」
目のまえに華やぐのは、高価そうなシルクのブラウスの胸元を引き締める、ふんわりとしたリボンタイ。
「プレゼントはね、リボンを結ぶことで、初めてプレゼントになるのよ」
得意げに半ば開いた朱唇から、イタズラっぽく輝く白い歯がのぞいた。

女の両肩を抱きとめて、背中に腕を回して、ギュッと掻き抱くと、
うっとりとする唇のはざまに舌を入れて、並びの良い前歯をその舌でなぞってゆく。
「アラ、いやだ。口紅が落ちちゃうじゃない」
わざと冷静を装う女は、小面憎いほどの手並みで、男の本能を逆なでした。
心の中がポジティブに切り替わると、女の耳たぶを熱い呼気で覆ってやる。
「じゃあ、リボンをほどいて、中身を頂戴しようか」

俺はプレゼントに巻かれたリボンに手をやると、さっと解いた。
スカートの周りに巻かれたリボンも器用に外して、じゅうたんの床に落とした。

揉みしだく掌のなか、いや掌からあふれるほどに、女の胸は豊かに張りつめていた。
圧しつけつづけた唇に、呼び合うように応えてくる唇が、熱いものを帯びていた。
ふつうの人間と化した俺は、女を人として愛し抜いて、満ちたりさせて。
それから力の抜けた女の身体から、生命の源泉をしたたかに抜き取ってやる。
女の熱情、心意気、ひたむきさ。澱んだ悩み、歪んだ悲しみ、どす黒い鬱屈を余さず受け止めて、
のどを鳴らしてしたたかに啜り尽し、女の身体を浄化する。

あくる朝。
女は出勤前のイデタチに戻って、俺にもう一度抱かれるだろう。
「出勤前のOLを、貴男にあげる」と、囁いて。
そして週末まで2日も休みを取ったのといって、
楽しい仕事をわたくしから奪った見返りに、たっぷり愉しませて頂戴と、
わがままなおねだりをくり返すのだろう。

女の名は、翔子――
こちらの気持ちが荒んだときに、忽然と現れて。
こちらが正気づいたときにはもう、赤の他人の顔になって、元の世界へと戻ってゆく。
どちらが吸血鬼?
そんな自嘲をしたときにはもう、俺は己を取り戻している。


あとがき
どういうわけか、一気に書き抜いてしまいました。

制服に黒タイツ。

2018年02月14日(Wed) 07:41:44

「じゃあ俺はここで」
吸血鬼仲間で連れだって歩く道すがら、中学校の校門にさしかかると、
俺は一方的に別れを告げた。
処女の血を獲るには、ここに限る。
もう何年も通い詰めている、採血スポット。
それがこの、名門と言われた女子中学校だ。
「お前ぇも好きだな」
「ロリコン」
彼らは親しみを込めた揶揄を投げて道を分かれると、
それぞれの愛する人妻や恋人や姪っ子の待つ家へと、足を向けてゆく。

制服を着た真面目な少女たちのふくらはぎに咬みついて、黒タイツを咬み破りながら血を啜る。
乙女たちにしてみればおぞましい限りのそんな行為を、俺はこの学校で日常的に続けていた。
校長は俺たちと気脈を通じていて、担任の教師に受け持ちの生徒たちを調達させて、
出席番号順に生徒を呼び出しては、飢えた吸血鬼にあてがってくれる。
おとといは午前中に1人、午後に1人。きのうは1人。きょうは3人まとめて――
あしたはなん人の生徒の首すじに、牙を埋めようか?

連れてこられた生徒たちは、みんな真面目なおぼこ娘。
両親に愛され、手塩にかけて育てられて、
がんばって受験勉強をしてこの学校に合格をして、
献血という博愛行為を実践する学校という美名に惑わされた親たちの了解のもと、
校内に出没する賓客たちに、うら若い血液を啜り取られる。

娘の身の上を心配した母親たちが、俺にあてがわれた控室に姿を見せることもある。
娘を同伴してお手本を強いられた人妻たちは、真っ先に娘の前でうなじを咥えられ、
貧血を起こして姿勢を崩し、あげくの果てによそ行きのスーツの裾をたくし上げられて、
ストッキングをむしり取られながら辱めを受ける。
もっとも本番は、娘が気絶した後だ。
母親の受難を目の当たりに立ちすくむ黒タイツの足許に、卑猥な唇を這わせると、
生真面目な彼女たちは卒倒せんばかりにうろたえて、ずぶずぶと牙を埋め放題にされるまま、
体内をめぐる若い血液を啜り取られて絶息する。
発育のよいピチピチとした生気を帯びたふくらはぎは、俺の絶好の餌食――
黒タイツを破り放題に破りながら、俺は若い血潮に酔い痴れる。
娘が気絶してしまうと、こんどはもういちど、お母さんの番。
そう、いよいよ本番だ。
「服は破らないで、お願い」
そう懇願する従順なお母さんには、無用な恥は掻かせない。
ブラウスの釦をひとつひとつ丁寧に外し、
「嫁入り前の娘に、良い手本をみせなくちゃな」とか耳もとに囁いて、
ブラの上からおっぱいを撫で撫でしながら、まな娘のまえでお寝んねいただく。
身持ちの良いはずの良家の主婦は、いくつも若返ったように顔を輝かせ、娘のころに戻って、
昂ぶりに頬を染めながら、禁じられたはずの行為を夢中になって受け容れる。

名門とうたわれたこの女子中学校は、俺のパラダイス。
きょうもロリコンと笑われながら、俺は処女の生き血を漁りに校門をくぐる。


あとがき
連れだって歩く当校の道すがら。
黒タイツに包まれた脚たちを目のあたりによぎる、妖しい妄想は何故?

【ビジュアル版】交わりが拡がってゆく。 by霧夜様

2018年02月12日(Mon) 13:22:50

弊ブログを愛読してくださっている”霧夜”さまから、嬉しいプレゼントを頂戴しました。
先日こちらにあっぷした小説「交わりが拡がってゆく」の冒頭部分を、なんとビジュアル化してくれたのです。

せっかくなのでなにかひとひねりを・・・と考えはしてみたものの、そんなことよりも早く皆様にお見せしたいという衝動のほうが上回りましたので公開しちゃます!
(もちろん、ご本人の承諾つきです)

”霧夜”さまは数年前、柏木がたまに投稿しているpixivで知り合いました。
テイスト的に相通ずるものを感じてお声をかけてみたところ、なんと私のブログを時々見てくれていると知りまして・・・
以来、よきおつきあいを願っております。

しかし、自分の描いた妄想話をこうやって人さまにビジュアル化してもらえるのって、すごく嬉しいものですね。
”霧夜”さま、ありがとうございました☆


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OLたちと吸血鬼  ~妹とその親友~

2018年02月12日(Mon) 13:18:30

勤め帰りのOLを狙う凶悪事件が、続発していた。
そのほとんどは闇に葬られたが、数人のOLが被害を届け出たことから発覚し、
オフィス街ではOLの残業を禁止する企業まで出るほどだった。
襲われたOLは深夜、ビルの警備員に発見された。
帰宅途中現れた男にいきなり首を咬まれ、そのあとのことは憶えていないという。
気絶して間もなかったらしく、幸い着衣の乱れはなかったものの、
咬まれたのは首すじだけではなく、両脚も咬まれていた。
被害は貧血とストッキングが破けただけで、本人の希望もあって大事には至らなかった。
そのような事件がすでに、知られているだけでも三度、発生していた――


夜10時。
銀行員の中平直子は勤め帰りの道を急いでいた。グレーのスーツ姿が、明るい街灯の下に照らし出される。
ひざ丈のスカートのすそから覗くふくらはぎはうっとりするほど絶妙な曲線を誇っていて、
本人の意思とはかかわりなく、なにかを引き寄せてしまいそうだった。
事実――
「ひっ」
直子はひと声悲鳴を呑み込んで、前に立ちはだかった黒い影を凝視する。
「あなた・・・だれ・・・?」
「怖がらないでください」
「私、怖がらないわ」
勝気な直子はそう答えた。
だが、そのあとのことはもう、まったく憶えていない。
気がついたら首を咬まれ、倒れたところをベンチのうえに抱きあげられて、こんどは脚を咬まれていた。
ストッキングのうえをすべる舌がもの欲しげに這いまわり、唾液で濡らされるのをわずかに自覚した。
こいつ、いやらしい。
直子は直感的に相手の卑猥な意図を察知し、脚をばたつかせようとしたが、強い力で抑えつけられてびくともしなかった。
彼女は悔しげに歯噛みをしたが、失血で頭が痺れ、身体に思うように力が入らない。
そうこうするうちに、抵抗できないままにストッキングを咬み破られて血を吸われた。
男はご丁寧にも両方の脚にかわるがわるそのけしからぬ悪戯をくり返すと、やっと直子を放した。
身体から力の抜けてしまった直子は、男の思うままに吸血行為を許してしまった。


「それがね、そいつったら私のこと、タクシーに乗せて家の近くまで送ってくれたの。ずっとこうやって手を握ってね、すまなかった、ありがとう、助かったよって、しつこいくらい何度もくり返すのよ。私、もう、うるさくなっちゃって、“少し黙って。運転手さんに聞こえるわ”って言っちゃった。そしたらさ、そいつおっかしいくらいにぴたりと黙るの。私は貧血でふらふらだったけど、そうじゃなかったら笑ってたと思う。家まで突き止められるのはマズイと思ったから、近くでおろしてくれって言ったら、大人しく言うことを聞いてくれたわ。案外義理堅くて親切なやつだった。事件が表ざたにならないのは、そのせいかもね」
親友で同期の本条沙代里が出勤してくると、直子は待ってましたとばかり沙代里を給湯室まで引っ張っていって、吸血鬼に襲われてから解放されるまでのてんまつを、一気にまくしたてた。
「え~、怖くなかったの?」
賢明で慎重な性格の沙代里は、嫌悪と恐怖に口許に手を当てながら直子の話を聞き、夕べは貧血だったという親友を気づかった。
「で、銀行には届けたの?」
「まさかぁ、そんなのやだよ。首すじを吸われただの、ストッキング穿いた脚をイタズラされただの、そんなこと男の上司に言える?ましてあたしが言うとしたらあのドスケベ中松だからね!」
「そっか」
沙代里はそういって、直子の言い分に半分賛成した。


沙代里は勤め帰りのスーツ姿のまま、いっしょに暮している兄の氷唆志(ひさし)を待っていた。
田舎から出てきた兄妹は、同じアパートに住んでいる。
氷唆志にも沙代里にも恋人はいなかったので、どうやら成り立っている共同生活だった。
いずれはどちらかが先に結婚してここから出ていくとしても、沙代里には兄との生活が楽しかったので、いまの生活が一日でも長く続くと良いと考えていた。
このごろ兄は帰りが遅い。
勤めを終えて帰宅した沙代里が作ったせっかくの心づくしの夕食も、手をつけずじまいの日が何日か続いていた。
ちょうどオフィス街で吸血事件が相次ぎ始めたころだったので、帰宅の遅い兄のことを沙代里は本気で心配し始めていた。
玄関先でドアを開ける音がした。
さよりはちゃぶ台の前から起って、兄を迎えた。
氷唆志の顔色は、真っ蒼だった。
「どうしたの?お兄ちゃん」
気づかう沙代里の声も耳に入らないように、氷唆志はその場にうずくまると、「ちょっと離れていてくれ」とだけ、いった。
そうはいわれても・・・心配じゃないの。
沙代里は苦しむ兄のそばを立ち去りかねて、ちょっとのあいだ逡巡した。
それがいけなかった。
ふと顔をあげようとした氷唆志の目のまえに、ストッキングを穿いた沙代里の脚が佇んでいた。
気分の悪い兄を気づかう妹の、頼りなげな足許――
しかし、氷唆志の目はすでに、鬼の様相を帯びていた。
肌色のストッキングに包まれたふくらはぎは、若々しい生気に満ちていて、飢えた男の目にはジューシーな血色を感じさせた。
氷唆志は素早く妹の足許ににじり寄ると、足首を抑えつけ、ふくらはぎに唇を吸いつけてしまった。
本人の意思を越えたなにかが氷唆志を動かしているような、ひどく敏捷な動きだった。
「エッ?お兄ちゃんッ!?」
沙代里は目を丸くして立ちすくみ、不覚にも兄の望むままにふくらはぎを吸わせてしまっていた。
両方の脚を代わる代わる、いとおしむようにその唇で撫でさするように舐められて、
「ちょっと・・・お兄ちゃん、なにイタズラしてるの?やらしいよ」
沙代里は兄がふざけているのだと思って、兄の大人げない行為をたしなめた。
まるで子供のころに戻ったみたい――遠い昔兄妹で吸血鬼ごっこに興じたことを沙代里は思い出した。

――じゃ、お兄ちゃんが吸血鬼になるから、沙代里は逃げるんだよ。でも最後にはつかまえられて、お兄ちゃんに血を吸われちゃうんだ。

足許に唇を這わせてくる兄の行為をさえぎろうとして、沙代里は身をかがめる。
肩までかかる黒髪がユサッと揺れて、二の腕に流れた。
遠い記憶をたぐる沙代里の想いとは裏腹に、スーツ姿のまま黒髪を揺らすOLは、なまめかしい大人の体臭を滲ませてゆく。
「ちょっと・・・ちょっと・・・やめなさいよ・・・」
兄の悪戯を制止しようとした沙代里の声が、とぎれた。
氷唆志の唇から覗いた牙が、ストッキングを破り沙代里のふくらはぎに深々と刺し込まれたのだ。

ちゅ~っ・・・
ちゅ~っ・・・

素肌から抜き取られてゆく血液が、兄の唇に経口的に含まれてゆくのを目の当たりに、
沙代里は正気を失い白目になって、身体のバランスを崩した。
アパートのほの暗い照明の下、不気味な吸血の音が、間歇的につづいた。


「ねえ聞いて。総務のサトコなんだけど、ご執心なんだって」
「・・・え?」
耳よりの話を持ちかけてきた直子に、沙代里は眠そうな声でこたえた。
「あらー、寝不足?沙代里にしては珍しいわね。夕べ彼氏とデートだったとか?」
「そ、そんなんじゃないよ」
「あつ、そうか。沙代里はお兄さんとラブラブなんだもんねー」
直子はもちろん、沙代里が兄と暮らしていることを知っていたし、どうやら沙代里に彼氏ができないのは、お兄ちゃんのことが好きだかららしいことも、おおよそ察しをつけている。
「で、サトコがどうしたのよ」
沙代里は直子の挑発をやり過ごして、話の先を促した。
「例の吸血鬼事件、サトコも被害者だったのよ。でもサトコったら銀行にも届け出ないで、それ以来定期的に相手の吸血鬼と逢っているらしいの。こないだ私、まだ残業になっちゃって、通りかかった公園でサトコがあいつに咬まれているの見ちゃったんだ」
「えー、そうなの?」
“じゃあどうしてそのとき教えてくれなかったのよ“という沙代里の表情を察して、ナオコが続けた。
「そのときはサトコが彼氏と抱き合ってるのかなって思ったんだけど、ちょっと気になったからそのへんでちょっと時間をつぶして待っていたの。そうしたらサトコのやつひとりで公園のほうからやってきて、あたし声かけたのに無視してすーっと地下鉄のほうに行っちゃったの。聞こえないわけないと思ったんだけどな。で、そのときね・・・」
直子はちょっとだけ声を潜めて、いった。
「サトコのストッキングが、破けてたの。それも両脚」
「それだけじゃ吸血鬼かどうか、わからないじゃない」
「ストッキングが破けて、血が滲んでいたんだよ。あと、ブラウスの襟首もちょっと、汚れていたな」
「あなたも観察魔ねぇ」
「それからね、あの子ったら毎日、光沢入りのストッキング穿いてくるようになったの。こないだ帰りの更衣室で一緒になって、別々に着替えていたんだけど、ロッカーの向こう側でストッキング穿き替えてるのがなんとなくわかって、私知らん顔していたんだけど、出ていく後ろ姿だけ見たら、ほら、このごろよくあるじゃない、テカテカに光る光沢タイプのストッキング。あれ穿いてるのよ――きのうは違ったけど――彼氏がいるって話も聞かないし、もしかして・・・あいつに愉しませるために穿き替えたの~?って」
直子は整った目鼻をひん曲げて、小意地が悪そうにもうクスクス笑っている。
「もう・・・吸血鬼なんてばかばかしい」
沙代里はそういって話を打ち切った。
直子に言われるまでもなく、吸血鬼に襲われながら銀行に届けを出さなかったOLが数人いることは、うわさで聞いている。
彼女たちは相性がよかったのかもしれない。
だから自分が襲われたことは表ざたにしないで、その後も“彼”と逢いつづけて、血液を与え、ストッキングを破らせているのだろう。

そんなOLが、このオフィス街に何人いるのだろう?

「そういえば夕べはノー残業デーだったからね、被害を受けた女の子もいなかったんじゃないかな」
立ち去りぎわ直子はそういってバイバイ・・・と沙代里に小手をかざして、自分の課のミーティングルームへと向かっていった。
閉店の業務が一段落した後は、4時からまた気の重いミーティングだ。
そろそろボーナス商戦が始まるから、話題はきっとそれだろう。
今夜は帰りが遅くなるかも――沙代里はふと、氷唆志のことを想った。


「な、なによいきなり急にっ」
背後にひっそりと佇んだ沙代里に気がついて、直子はびっくりして飛び上がった。
「また吸血鬼が出たかと思ったじゃない!」
「あ・・・ゴメン」
うっかり気配を消してしまっていたことに気がついて、沙代里は素直にわびた。
「いいんだけどさあ、きょうはあなた、ちょっと元気ないんじゃない?早く帰ったほうが良いわよ」
元気のないときに吸血鬼に狙われたら、貧血じゃすまなくなるじゃない・・・と続けたときにはもう、ジョークのきついふだんの直子に戻っていた。
「それでさ、よかったら明日、うちに来ない?兄を紹介してあげる」
「エッ!?ほんと?それはラッキー」
直子が快活な笑いをはじけさせた。
「明日はノー残業デーだから、直子も早く終わるよね」
沙代里は念押しをした。
賢明で慎重な同期の親友の、いつになく蒼ざめた目鼻立ちに、冷ややかな笑みがよぎるのを、いつも目ざといはずの直子はうっかり見逃していた。


翌日の夜――
ちゃぶ台には沙代里の作った手料理が、乗り切らないほどに並べられていた。
でもまだだれもそれらの食事には見向きもせず、もちろん手もつけられていない。
その料理の山を横目に見ながら、直子は氷唆志の寝室でうつ伏せに横たわり、氷唆志に脚を吸われていた。
ふつうの若い娘らしく、ちょっとだけ改まってしおらしい感じで「お邪魔します」と玄関をあがると、顔色がいちだんとわるくなった沙代里が「兄を紹介するわ」と、奥の部屋に案内をした。
だれもいない部屋の半ばまで入った時、直子の後を追うようにして入って来た男を視て、直子は絶句した。
「やっぱり知っていたのね、兄さんのこと」
沙代里は顔にわずかに嫉妬の色を泛べて、動揺の走る直子の横顔を冷ややかに見た。
回りくどい逢わせ方をしたのは退路を断つためだったのだということを、直子はすぐに自覚した。
男は無言で立ちすくむ直子に迫り、ブラウスの襟首から覗く白い首すじに牙を突き立てていった。
「ゴメン直子、あまり大声立てないで。近所迷惑だから」
直子はなぜか沙代里の言いぐさに義理堅く応じて、貧血になってひざを崩してしまうまで、ひと声も立てずに血を吸い取られていった。
あとから直子は思ったのだ。
たぶん、あのぶきっちょで誠実な男になら、もう一度血をあげてもいい――心のなかでそう思っていたに違いなかったと。

姿勢を崩して畳のうえに倒れたとき、直子はストッキングを穿いた脚を狙われると自覚した。
血を喪う恐怖よりも、真新しいストッキングをおろしてきてよかった――などと思うことができたのは、沙代里の兄が自分のことを死なさずに血を愉しむつもりにちがいないと踏んだからだ。
果たして氷唆志は、その冷え切った唇を直子のふくらはぎにあてがって、初めてのときにそうしたように、念入りになぶり始めた。
氷唆志の口許から洩れてくる唾液は足許のナイロン生地をいやらしく濡らしたが、いやらしくぬめりつけられる舌に、かすかな好意が込められているのを直子は感じた。
その好意にすがるような気持ちで直子は男の卑猥ないたぶりを許し、彼がご丁寧に両脚とも唇を吸いつけて、ストッキングを破ってしまうのを、唯々諾々と許してしまった。
趣味のスポーツで鍛えた若い血が、ヒルのようにぬめりつく男の唇に吸い上げられてゆく。
直子はうっとりとした目つきになって、自分の血が吸い取られてゆくチュウチュウという音に、聞き入っていた。

「ありがとう。失礼なことをしてしまって、すまなかった」
貧血を起こして畳のうえに転がった直子のまえで、氷唆志は正座をして頭を垂れた。
卑屈そうな様子に、自分のしていることへの後ろめたさがにじみ出ていた。
「これからも兄に逢ってくれる?」
いつになく真剣な表情でひたと見すえてくる沙代里の目が、ちょっとだけ怖いなと思ったけれど――
直子は起き上がるとすぐに、いった。
「やだお兄さん!そんなにしゃちこばらなくたっていいじゃないですか!」
ほっとした兄妹が顔を見合わせるのをみて、直子はやっぱり兄妹って顔だちが似ているんだと思った。
「新しいストッキング穿いてきてよかったー、お兄さんの前で恥をかくとこだったわよ」
直子は沙代里にそういった。
お出かけ先のおしゃれに気を使い合う同性同士の口調だった。
「さっ、御飯にしよ。せっかくのお料理冷めちゃう」
直子は貧血をこらえて起ちあがると、率先してちゃぶ台についた。


兄はね、べつの吸血鬼に襲われて吸血鬼になったの。
その吸血鬼は私たち兄妹と同じ村の出身で、都会に出てきて吸う血にこと欠いて、兄を襲ったの。
今でも都会のあちこちを徘徊しているんだけど、あのオフィス街は兄のものって認めたらしいわ。
自分の血を全部与えることで、その権利を獲得したの。
兄は私がほかの吸血鬼に襲われて死んでしまうことを心配したらしいの。
でも、いまの生活を安穏に送るにはもうひとつ条件があって――今度その吸血鬼が戻ってきたときに、処女を二人捧げなければならないの。
それが、私とあなた――そう指さされても、直子は動じなかった。
「最愛の女性ふたりをモノにしてしまって、お兄さんを完全に支配してしまおうというわけね」
頭の良い直子は、呑み込みも早かった。
「お兄さんはそれでもいいの?妹と恋人が吸血鬼に抱かれてしまっても」
女ふたりは同時に氷唆志を見た。
「奪られてしまうのは嫌だけど・・・直子さんや沙代里が血を吸われるのを見たらちょっとゾクゾクしちゃいそうだな」
「その感覚、わかんない~」
女ふたりは声を合わせて、氷唆志に反論した。


「あなたが・・・兄を襲った吸血鬼・・・?」
勤め帰りの沙代里は息を詰めて、相手の男を見あげる。
その視線は催眠術にかけられたかのように虚ろで、本人の意思も吸い取られてしまったかのようだ。
「安心しなさい。死なせはしない。あんたはわしの親愛なる氷唆志の最愛の妹ごぢゃ。ほんの少ぅし、辱めを体験していただくことになるがな」
「わかりました。辱め、OKです」
沙代里は従順に目を瞑る。
真っ白なブラウスの襟首に、飢えた吸血鬼の牙が迫った。
妹に迫る危難を、氷唆志はただぼう然と見守っている。
氷唆志首すじからは血が流れ、さっきまで咬まれていた痕はジンジンと痺れるような疼きを帯びていた。
その疼きが、氷唆志の動きを封じてしまっていた。

吸血鬼はスーツ姿の沙代里の首すじを咬んで、沙代里は立ったまま相手への吸血に応じつづける。
ブラウスの胸元を結ぶ百合のようにふんわりとしたタイにぼたぼたと血潮がしたたって、
そのまま姿勢を崩して尻もちをついてしまった足許に、飢えた唇をなすりつけられて、
自宅のアパートで初めてそうしたときと同じように、勤め帰りのストッキングをチリチリになるまで咬み破られて・・・
沙代里が堕ちてゆくのを目の当たりに、氷唆志はそれでも、彼女の受難から視線をそらすことができなくなっている。
自分がしたときよりも、上手に破くんだな・・・やっぱり慣れてるヤツは、違うよな・・・
理性を失った氷唆志は、薄ぼんやりとそう感じた。
沙代里はブラウスをはだけられ、ブラジャーをはぎ取られ、あらわになった乳首を貪欲な唇に含まれむさぼられていった。
そして、兄の前で羞ずかしいことにスカートをたくし上げられてゆく。
肌色のストッキングの腰の部分の切り替えまでは、氷唆志も目にしたことがなかった。
もう1ダース以上も、妹のストッキングを咬み破って来たというのに。
いちど吸血鬼の腰を股間にうずめられてしまうと、沙代里は従順に相手の欲望に従いはじめてゆく。
戸惑いながら、ためらいながらも、身体を合わせ、ひとつになってゆくのだった。
そんなまぐわいが何度も何度もくり返されたが、男の振る舞いはどこか愛情に満ちていて、沙代里の身体をいつくしむようにして撫でつけ、まさぐり、舐めまわしてゆく。
氷唆志は激しい嫉妬とともに、沙代里の肉体を自らが属する吸血鬼に捧げたことや、愛する妹の肉体に吸血鬼が満足を覚えているようすであることに、えもいわれない充足感を感じていた。

すべてが果たされてしまった後、吸血鬼はいった。
明日はもういちど、お前の妹を凌辱する。そしてその翌日は、お前の恋人を抱かせるのだ――と。
氷唆志は口許をわなわなとさせながら、呟きで応じた。
「ハイ、あさって、直子を連れてきます。どうぞ直子の貞操も、心ゆくまでご賞味ください。未来の花嫁を、貴男と共有したいのです・・・」
痺れた唇がひとりでに動いているようだった。


直子は目を見開いて、吸血鬼と向かい合った。
黒い瞳もそうだが、白目も清らかに見える――氷唆志はそう思った。
その瞳はまるで催眠術にかかったように、意思が感じられなかった。
いつものあの勝気さも、饒舌さまでも失って、いま虚ろな目をしてわれとわが身をめぐる血潮を、吸血鬼の餌食にされようとしている。
未来の花嫁は、今や吸血鬼の腕のなか――けれども後悔はない。
自分の持っているすべてをあの人に捧げるのだ。そう氷唆志は思った。
「お兄ちゃんはそれでいいの?」
妹の沙代里はいった。
傍らの女二人は、自分の味方。いまもこれからも、無私の愛情を期待できる存在。
その二人を、吸血鬼の毒牙にかける。
それも、かつて自分の血を吸い尽した者の欲望のために。
氷唆志は身体じゅうの血管が震えるほどの昂奮を覚えていた。

「氷唆志さん、許してっ。許してねッ・・・」
いよいよ組み敷かれるとき、直子はそう叫んでこちらを見た。
だいじょうぶだから――という想いを込めて、氷唆志もその声に応じた。
ずぶり――
吸血鬼の牙が、直子の首すじを襲った。
あふれる血――うら若い熱情を秘めた血潮が直子のブラウスを浸し、男の唇を悦ばせる。
それがどんなに美味であるのか、体験し尽してしまった氷唆志だからこそ、相手の満足感も肌を接するほどに伝わってくる。
沙代里のとき以上の激しい歓びに、氷唆志は昂りにむせんだ。

貧血を起こした直子はその場に倒れ臥し、男は直子のふくらはぎにも、唇を吸いつける。
穿いていた肌色のストッキングが、パチパチとかすかな音を立ててはじけた。
やっぱり上手だ――氷唆志は胸を震わせて、恋人に加えられる凌辱を見守った。
妹のストッキングを咬み散らした牙が、いまは直子のストッキングまでもむざんに咬み剥いでゆく。
くたり、と首を垂れた直子が、四つん這いになり、やがてその姿勢を支えることもままらならず、うつ伏せになってゆく。
吸血鬼は直子のふくらはぎにもういちど取りつくと、チュウチュウと得意げな音を立てて、直子の血を吸いあげた。

じょじょにブラウスを脱がされてゆく直子の胸が、薄闇のなかであらわになった。
一昨夜の妹と、まったく同じ経緯だった。
吸血鬼は息荒く直子に迫り、まるでレイプのような荒々しさで、勤め帰りの直子のタイトスカートをめくりあげる。
直子が穿いていたのは、ガーターストッキングだった。
「あの晩のために、奮発したんだから」
あとで直子は沙代里に、妙な自慢をしたものだった。
ショーツをむしり取られた直子は、謝罪するように氷唆志を見、氷唆志はそれを受け容れるように、ゆっくりと肯きかえす。
むき出しになった浅黒い臀部が、開かれた白い太もものはざまに、ずず・・・っと、沈み込んだ。
ああ・・・
直子の顔が苦痛に歪み、口紅を鮮やかに刷いた小ぶりな唇から、白い歯が覗いた。
歯並びのよい歯だと、氷唆志は思った。
健全に育ってきた善意の若い女性が、いまやむざんに辱めを受けてゆく。
そんなありさまを、将来を誓いながらも許し、ただの男として愉しんでしまっている、もっと恥ずかしい自分――
けれども恥ずかしい歓びに目ざめてしまった氷唆志も、未来の夫のまえであられもない痴態をさらけ出してしまっている直子にも、後悔はなかった。

瞬間、吸血鬼は「え?」という顔で、直子のことをまともに見た。
「ウン、私――処女じゃない」
直子もまた、ぱっちりと目を見開いて、吸血鬼をまともに見た。
「貴様――」
吸血鬼の怒りは氷唆志に向いたが、本気で怒っているわけではなさそうだった。
「無理もないな、許す」
と、あっさり二人の関係を許していた。
「それでも、わしに花嫁を抱かれるのは、さぞやつらかっただろうな」
「とても悔しかったけれど・・・貴男はわたしよりも上手だし――でも、ちょっとだけ愉しんじゃいました」
エヘヘと笑う氷唆志は、沙代里の好きないままでの快活さを取り戻している。
「もう、エッチ!」
そういって恋人の背中をどやしつける直子もまた、自分を取り戻していた。

「時々なら、妹を抱きに来てくれていいんですよ。彼女はたぶん、結婚しませんから」
「それに、今度お目にかかるときには直子はぼくの妻となっていますが、好きな時に誘惑に来てくださいね。直子もきっと、ドキドキしながら貴男に抱かれるでしょうから」
「でもそういう夜にはきっと、沙代里がぼくのところに忍んできます。だからぼくは、寂しくはない」

「ひとつだけ果たされていない約束があるな――処女は2人」
吸血鬼はなおも貪欲だった。
「しつこいわね」
直子は白い歯をみせて、笑った。
「じゃ、私の妹を紹介してあげる。あの子独身主義なんだ。でも女が独りで生きていくのは、やっぱり大変だと思う。だからあなた、守ってあげて」
直子はどこまでも明るく、身勝手だった。


【付記】
このお話は5日の朝に、ほとんど完成していましたが、ちょっと直したかったのですぐにはあっぷしないでいました。
きょう、ようやく少し時間が取れたので見直しをして、あっぷしました。
細部は多少いじりましたが、おおすじはほとんど変わっていません。
モチーフとしては、バブル期のOLさんをイメージして描いてみました。
あのころのOLさんは、テカテカのパンストをよく穿いていましたっけ。
ビジネスな女性たちとオフィスな女性たちとが、装いひとつでは区別がつかなくなったのも、このころだったと思います。
「結婚するまで純潔を守る」という倫理観がおおっぴらにすたれてしまい、
女性たちが躊躇なく処女を捨てるようになったのも、このころだったかもしれません。

吸血鬼の子供の日記

2018年02月11日(Sun) 07:39:08

きょうは、生れて初めて学校に行きました。
吸血鬼の子でも学校に行けるよう、父さんが校長先生に話をしてくれたのです。
教職員会議や生徒会でもその問題が話し合われて、けっきょくぼくは学校に行けることになりました。
父さんはそのあいだに、ずいぶんおいしい思いをしたって言っていましたが、どういう意味だかよくわかりません。

授業中はふつうに勉強をしました。
でも途中で喉が渇いて気分が悪くなったので、手をあげて保健室に連れて行ってもらいました。
保健室には若い女の先生がいたので、すきをみて襲って、血を吸ってひと休みしました。
先生は具合が悪くなって床に転がっていましたが、ぼくは元気になったので、先生のことはほっといて教室に戻りました。
そのあと、担任の和佳奈先生に血を吸いたいってねだったのですが、拒否されてしまいました。

放課後は、新しくできた友だちのマサヤくんとハルタくんとハナヨちゃんといっしょに遊びました。
3人とも、ぼくに一方的に血を吸われて、ノビてしまいました。
ぼくは大人の吸血鬼に手伝ってもらって、3人を吸血鬼の村に運び入れました。
3人が正気づく前に、ぼくは吸血鬼の子供たちを5、6人集めておいて、3人に紹介してあげました。
それから吸血鬼の子供たちで、人間の子供たち3人の血を、代わりばんこに吸い取りました。
とくにハナヨちゃんはかわいかったので、大人気でした。
さいしょのうちは貧血を起こしてべそをかいていましたが、そのうちに慣れてくると仲良くなって、
お姫様ごっこをして遊びました。
きれいなお姫さまがおおぜいの吸血鬼に襲われて血を吸われてしまうという遊びです。
とても楽しかったです。

そのうち、人間の子供のお母さんたちが、心配して迎えに来ました。
吸血鬼の村からは、大人の人も出てきて、お母さんたちを出迎えると、「子どもは来るな」といって、
お母さんたちを家のなかに閉じ込めて、列を作って血を吸いはじめました。
あとでお母さんたちになにをしたのって聞いたら、「仲良くしただけだよ」って言っていました。
みんな、ほんとうは、人間と仲良く暮らしたいのです。
夕方、仕事から帰って来たお父さんたちが怒って村にやってきましたが、
大人の吸血鬼たちとすぐに仲直りをして、お母さんたちが献血に来るときには夫婦で来るって約束していました。

夜になると、担任の和佳奈先生が家庭訪問に来ました。
父さんの運転する車に乗って来た和佳奈先生は、ぐるぐる巻きに縛られていて、さるぐつわまでされていました。
ちょっと変わった家庭訪問でした。
人間の先生は、こんなふうに家庭訪問をするのかな?って思って、ちょっとふしぎな気がしました。
付き添いの教頭先生は、
「きょうは和佳奈先生がわがままを言って、血を吸わせてくれなかったんだってね。ごめんね」
といって、
「和佳奈先生はおわびをしたがっているから、気が済むまで吸うんだよ。
 若い女の生き血ををたっぷり採って、きみも早く大きくなるんだよ」
と、和佳奈先生を縛っているロープをぼくに手渡してくれました。

教頭先生に取り残された和佳奈先生は目に涙をためていやいやをしていたので、
「死んだりしないから大丈夫」といって、安心させてあげました。
和佳奈先生は、教室にいたときと同じく、水色のきれいなワンピースを着ていて、ストッキングをはいていました。
ストッキングは子供や高校生のお姉さんが履いているハイソックスと同じくらい、ぼくの好物です。
ぼくは、さっそく和佳奈先生の脚に咬みついて、肌色のストッキングをブチブチッと破きながら、
和佳奈先生の生き血をたっぷり吸い取ってしまいました。
それからぐったりとなった先生を組み伏せて、こんどは首すじを咬んで、ごくごくのどを鳴らして先生の血を吸いました。
きれいな水色のワンピースの襟首が真っ赤になるのを、先生は困った顔をして見つめていました。

先生にはまだ恋人がいないみたいなので、明日からぼくが恋人になってあげると言ったら、いやそうにしていたので、
そんな顔をするとみんなの前で咬んじゃうぞっていったら、恋人になるって約束してくれました。
明日からは、和佳奈先生はぼくの恋人です。指切りげんまんをして約束したので、まちがいありません。
和佳奈先生は、「担任としてのぎむを果たした」って教頭先生に認めてもらえて、
ふらふらになりながら家に帰っていきました。

学校は居心地が良くて、とても楽しかったです。
あしたは、だれの血を吸おうかな。

夏休みの自由研究

2018年02月11日(Sun) 06:42:10

ぼくたちは、青木先生からもらったヒントをもとに約一か月、吸血鬼に関する自由研究に取り組みました。
メンバーはAくん、Bくん、それにぼくCの3名です。
ぼくたちはまず、街に棲みついているという吸血鬼と接触を図るために、濃紺の半ズボンお制服を着用して夜の街を歩きました。

(Aくん)娼婦になったみたいな気分になって、ちょっとドキドキしました。(笑)

その晩襲われたのは、ぼくとAくんでした。
Bくんだけは、ハイソックスを履いていませんでした。
それで、次はBくんもハイソックスを履いてみたところ、ぼくたちを襲ったのとは別の吸血鬼が洗われて、脚を咬まれて血を吸われました。

(Bくん)あくまで実験だったので、条件を変えてみたのです。AくんとCくんが吸われた時点で、ぼくだけが無事でした。もしかしてぼくだけ真人間で帰れるかも・・・って正直思いましたが、ぼくだけ仲間外れになっちゃうのがやはり怖くて、すぐに血をあげました。数人でいるところを吸血鬼に襲われた場合全員咬まれてしまうというのは、そういう仲間意識が影響しているかもしれないと、あとで3人で話し合いました。

こうしてぼくたちは3名とも、さいしょの夜に吸血体験を遂げたのです。
3名全員が咬まれてしまうと、彼らは獲物を取り替え合って、ぼくたちの血を吸いました。
あとで吸血鬼の人たちに直接ヒアリングしたところ、血の味には個体差があるので、もっとも好ましい血を択ぶための作業だということでした。
でも、その後も彼らは分け隔てなくぼくたちを取り替え合って血を吸っていたので、嗜好にかかわりなく血液の摂取は行われることがわかりました。
全員が均等に吸血を受けるもうひとつの理由としては、血液の喪失量を同じにするためで、1人に負担が片寄らないための生活の知恵ではないかという意見が出ました。

でもそういう状態はさいしょの一週間だけでした。
初めのうち彼らがぼくたちを均等に分け合っていたのは、喉がカラカラの状態だったからでした。
ある程度飢えを満たされると、彼らはそれぞれにパートナーを決め合いました。
それはぼくたちの意思とは関係のないところで決められていて、
いつの間にかそれぞれの男子のところには決まって同じ人が来るようになりました。


次にぼくたちは、彼らに女子の血を吸わせてみることにしました。
実験に協力してくれたのは、Aくんの彼女のαさんと、ぼくの彼女のγさんでした。
Bくんにはまだ彼女がいないので、βさんを誘って自由研究の仲間になってもらいました。
彼らと相談したところ、ぼくたちみたいに3人同時にではなく、思い思いに襲いたいということでした。
あくまで実験なので、襲うときには事前にぼくたちに連絡をするようにお願いをしました。
彼らもぼくたちの自由研究には協力的で、αさんたちを襲うときには必ず教えると約束してくれました。
さいしょに咬まれたのは、γさんでした。
彼女は学年が三つ下で、女子たちのなかでは最年少でした。
襲った吸血鬼は、おもにCくんの血を吸っていた男でした。
彼がぼくをパートナーに選んだとき、すでにぼくがγさんと付き合っていることを知っていたそうです。
さいしょからγさんを目あてに、ぼくを選んだことになります。
γさんを襲った吸血鬼は、仲間の吸血鬼から、「こいつ、ロリコンなんだよ」って笑われていましたが、彼は苦笑いするだけで怒ることはありませんでした。
3人の間柄は、ぼくたちと同じように、円満だったのです。
彼がγさんを狙ったのは、彼自身が吸血鬼に家族ともども血を吸われたとき、娘さんがいまのγさんと同じ年頃だったことを聞かされました。

γさんが襲われた直後ぼくが介抱をしている間、彼女の感想を聞くと、「さいしょは怖かったけど、血を吸い取られていくうちにぼーっとなって、しまいには夢中になってしまった」ということでした。
異性のパートナーのいる女子の場合、パートナーに対する軽い罪悪感が芽生えることもわかりました。
次の日に襲われたAくんの彼女のαさんの場合も、ほとんど同じ感想を得ることができました。
罪悪感を持った理由は、「血を吸われているときに、キスしているときみたいな昂奮を感じてしまったから」であることを、二人の女子から聞き出すことができました。
(「お前ら、もうそこまでイッているんだな」との野次が、しきりにあがる)
興味深いのは、彼女ではないβさんも、Bくんに対して同じような感情を抱いたということです。
状況を遠くから観察していたBくんは、公園の草むらでβさんが血を吸われながら、「Bくん、ゴメン」と口走るのを聞いています。
βさんを介抱している最中にBくんがそのことについてβさんに訊くと、
さいしょのうち彼女は自分の発言を思い出せなかったようですが、やがて記憶が回復すると、
「なんとなくBくんに悪いような気がした」ということでした。
女子たちには全員ハイソックスを着用してもらいましたが、男子のときと同じように両脚とも咬まれていました。
女子たちの履いていた真っ白なハイソックスが血でべっとり濡れているのを見て、なぜかぼくたちもドキドキしてしまったのを憶えています。

興味深いのは、それまでつき合っていなかったBくんとβさんが、自由研究の期間中からつき合い始めたことです。
βさんはメンバーに加わった最初から、「Bくんのために自分の血をだれかにあげている」という意識を持っていました。
一方Bくんのほうは、さいしょはβさんに特別な感情は特になかったそうですが、
βさんが初めて咬まれるのを見て昂奮を感じてしまったそうです。
「責任取らなきゃっていうマイナスな感覚よりも、もっと彼女が咬まれるところを見たいという恥ずかしい感情のほうが大きかった」そうですが、βさんはそういうBくんの感情にも寛大で、お互いの気持ちを打ち明け合うことで、距離が縮まったと話しています。


さいごの実験は、1人の吸血鬼がひとつの家族を征服するのにどれくらいの時間がかかるか?というものです。
Aくんの家の家族構成は、Aくんとお父さん・お母さん・妹さんの4人家族。
Bくんの家は、両親のほか、離れに独立したお兄さんが半年前に結婚したお嫁さんと同居していて、さらに隣には叔父夫婦と従妹が住んでいます。
ぼくの家は両親と、近所に叔母夫婦が住んでいます。ちなみにγさんは叔母夫婦の娘です。
このように、それぞれの家族の人数は、Aくんが本人を含めずに3人、Bくんが同じく2人、近所の親類まで含めると7人、ぼくのところが2人もしくは4人です。

それぞれの家庭で頭数は違ったのですが、家族全員が吸血されるのに要した期間は、ほとんど同じでした。
従って、1人あたりの襲われた回数はAくんのところがもっとも頻度が高く、Bくんのところが低いという結果になりました。
いちど咬まれてしまうと気持ちの上でほぼ征服されてしまうことが経験上分かっているので、家族全員を支配下に置くにはそれでじゅうぶんだということが、両親の行動をみてもわかりました。

セックス経験のある女性が襲われた場合、性的関係を結ぶと言われていますが、この点の確認は取れませんでした。
親たちがいちように口を閉ざして、教えてくれなかったためです。
でもそれは、学校の課題よりは重要度の濃い話題であることだけは、確認することができたように思います。
3人の家庭を侵食している吸血鬼と父親たちとの関係性は必ずしも悪くなく、Aくんのお父さんは吸血鬼をゴルフに誘っています。父親が吸血鬼を伴って帰宅した際、履いて行ったロングホース(長靴下)に赤いシミが付着しているのを、Aくん自身が確認しています。
Bくんのお父さんも、自宅に居ついてしまった吸血鬼とBくんのお母さんとの交際には寛大で、2人でドライブに出かけたり、ホテルで待ち合わせをして2人きりで献血を行なうことにも、不機嫌になった様子はないということです。
ぼくの家でも吸血鬼が母とひとつ部屋で2人きりでいるときには、
「2人のじゃまをしないで、親子で将棋を指す」ことが習慣になっています。

A家、B家、C家のどの家庭でも、両親は吸血鬼の侵蝕を受ける以前よりも仲良くなったように感じられ、父子の関係も円満な形で経過しています。
状況証拠としては、日常的に吸血を体験している家庭の主婦は、吸血鬼と恋愛関係になっている可能性が大であると推測していますが、お互いの母親の名誉に関する部分でもあり、深く踏み込むことができなかったというのが今回の実験結果です。
吸血鬼が人妻とどんな関係を結んでいるかについての解明は、今後の課題です。
ぼくたちにとっても、自分や彼女の血を吸った吸血鬼によって、母親の貞操がどんな扱いを知るのはたいせつなことだと思うので、今後も観察を継続していくことで3人の意見が一致しました。
これで発表を終わります。



その晩生徒A・B・C3名の担任の教師(男性、43歳)が自宅でまとめたレポートの一部――


吸血鬼による家庭侵蝕の実態を探るため、良家の子弟であり身許の信頼できる生徒3名を抽出、吸血鬼に関する研究を夏休みの課題とするアドバイスを与えることに成功した。

彼らとその家族を被験者として実験を開始して1か月が経過し、このほど彼らの手による研究成果がクラスで発表された。
結果、生徒3名の家族を含む全員が吸血行為を体験するに至ったが、死亡した例は皆無である。
3名の吸血鬼はそれぞれの被験者の自宅に棲みついて、家族全員を対象に血液を日常的に摂取するようになった。
被験者の自宅に棲みついた時点で、彼らの吸血対象はほぼ固定化したと考えられる。

しかし、例外は非常にしばしば発生している。
その1は、生徒Aと交際しているαが塾からの帰り道に生徒Cと同居している吸血鬼(丙)に襲われたケース、
その2は生徒Bと同性愛関係に至った吸血鬼(乙)が、吸血鬼(甲)と共謀して、甲が自分の棲みついている生徒Aの自宅からその母親を誘い出し、街はずれの公園で輪姦に及んだケースである。
彼らの間では独占欲といったものはあまり存在せず、むしろ楽しみを共有することに意義を見出しているという印象を受ける。
もともとは彼らも人間であり、自分たちを襲った吸血鬼に妻を与えた経験もあり、そうした過去から仲間との強い共有意識が醸成されているのかもしれない。

3家庭及びその近在に住居する叔父・叔母夫婦や兄夫婦もまた、家族ぐるみで吸血の対象とされ、献血に応じている。
生徒Bの自宅近くに居住する叔父夫婦には娘がいる。
当初のうち両親は娘を吸血鬼にゆだねることに拒否反応を示していたが、
やがて母親のほうから「早めに体験させたい」という意思を持つようになり、
最終的には夫婦で相談をしたうえで娘の初体験の相手を選んでいる。
両親が自分の意思で選んだ相手は、生徒Aの血を吸っている吸血鬼であった。
最も縁の深い生徒Bのパートナーを択ばなかったのは、彼が生徒Bが実験を通して得た恋人の血を日常的に摂取していることと関係があるようだ。
3人の生徒が選んだ女子のパートナーもいずれも、自分の意思で相手を選んではおらず、男子の指示に従って吸血鬼との関係を結んでいる。
未婚の女子については、本人の意思よりも周りの意思によって吸血相手が選ばれる傾向が感じられる。

各々の家庭を構成する主婦たちは全員、最初に咬まれた段階で貞操を喪失し、
なおかつ1か月以内に3人の吸血鬼すべてと性的関係を結んでいることが確認されている。
夫たちが不平を鳴らさないのは、吸血鬼が彼らと主婦たちとの結婚生活を維持したまま自らの欲望を遂げ続けているためと推察される。
夫婦間も吸血鬼との距離感も円満裡に経過しているのは、従来よりも濃厚な夫婦生活に満足を感じた夫たちが、妻たちの不倫行為についてとやかくいわないことを決め、見て見ぬふりを決め込んでいるためであると思われる。

これらのレポートをまとめるにあたり、妻・華恵の献身的協力に謝意を示すことを許されたい。
生徒たちがさぐり得なかった夫婦の事情を本人たちから聞き出すことに成功したのは、ひとえに彼女の功績である。
生徒及びその家族を被験者として抽出する以前に、わたしは吸血鬼に妻を紹介し血液の摂取を許した。
そうすることで研究成果の実が深まると確信していたためである。
妻は当初、常識的な日常を送る健全な女性としての羞恥心から、吸血鬼と関係を取り結ぶことに躊躇していたが、
わたしが自宅に3人を連れてくると、「私はどうなってもあなたの妻です」と言って、求められるままに首すじをゆだね、
その晩のうちに3人の吸血鬼全員と交合を遂げた。
いまでも彼女はわたしの最愛の妻であり、吸血鬼の欲求の良きはけ口として振る舞いつづけている。
今後の研究に彼女の協力は不可欠であるし、妻を汚された経験を持つ夫として、同様の運命をたどる人妻を1人でも多く増やしたいと熱望しているところである。


あとがき
生徒たちが自分自身を始め、彼女や家族まで巻き込んで行う吸血鬼研究。
それがじつは教師の陰謀であったというオチでまとめてみました。

淫らな関係を客観的で乾いた文体で表現すると、不思議な妖しさを帯びるように感じます。