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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

~このサイトのご紹介~ 魔性の淫楽への招待状

2026年03月22日(Sun) 21:12:01

はじめにお読みください。
一話読み切りのお話がほとんどですが。
吸血鬼ストーリーといっても。
「他では目にすることはまずないでしょう」
そう断言できるほど?変わった世界のお話なので・・・。

【付記】
弊ブログに登場する人物・団体はすべて架空のものであり、実在するかもしれない人物・団体とは何の関係もありません。
(2018.2.12念のため追加しました)

カテゴリの解説

2025年08月14日(Thu) 19:11:24

ひと言で吸血鬼ものの短編といっても、それこそいろんなお話が混在していますので。
カテゴリをちょっと、整理しました。
お話に共通のおおまかな設定については冒頭↑の「招待状」に書かれてありますが。
ちょっとだけ、付け加えておきます。

血を吸われたことを母さんに告白する。

2024年01月25日(Thu) 00:55:53

「ぇ・・・?」
母さんは案の定、ボクから聞いたひと言に、頓狂な声を発した。
「・・・っていうことは、何?キミは吸血鬼にもう、咬まれちゃったっていうの?」
できの良くないボクのことを、母さんはよくそんな目で視る。
そして、そのつぎにおっ被(かぶ)せられる「常識を疑う――」という目つきが、
いつもならもっと、後ろめたい気分につながるはずなのに。
いまのボクが割合平気な心持ちでいられるのは、
吸い残された血液中に混入された毒素のなせるわざなのだろうか?

「やだ・・・あなたがそんなことしたら、母さんまで咬まれちゃうじゃない!いやよそんなのっ!!」
珍しく自分本位に取り乱す母さんのことを、ボクも、妹の由佳も、冷ややかに見守っている。
母さんの反応はますますエスカレートして、ヒステリックになってゆく。
「やだー!どうするのっ!?あなた子どもだからまだ知らないと思うけど――母さん犯されちゃうんだよ!?
 父さんにどんな言い訳すれば良いのよっ!?」
そういえば、たしかにそうだった。
由香里さんはボクに、「セックスの経験のある女子は例外なく犯される」って、確かに教えてくれた。
そうだとすると、ボクから吸血病を「伝染」させられた母さんもまた、犯されちゃうっていうことだ。
後先考えていなかったけど、そのときだけは母さんに、ちょっっぴりだけ済まないと思った。
ウン、そう。「ちょっっぴり」だけだったけどね・・・

なにしろボクは、花嫁の純潔を奪(と)られる覚悟で、由香里さんとの交際を取りつけたんだ。
こんなプラチナチケット――絶対に手放したりなんか、するもんか。

ふと見ると。
母さんの背後に、妹の真奈美が近寄っていった。
そして、うす茶のセーターにこげ茶のスカートを穿いた母さんの後ろで、そっと囁いたのだ。
「母さん――ゴメン。あたしももう、吸われちゃった・・・」
えっ!?
ボクたちふたりは、目を見開いて真奈美を見た。
真奈美は動じなかった。
「ウン、そうなの。咬まれちゃったの。あの公園で――」
ストレートのロングヘアを掻きのけた首すじには、たしかに咬み痕がふたつ、綺麗に並んでいる。
さっき咬まれたばかりなのか、傷口はまだ乾ききっていなくて、紅い血のりがテラテラと光っていた。

相手は・・・だれ・・・?
ボクがそう訊くと、
「たぶん、兄さんの血を吸ったのと同じひと・・・」
といった。
ボクたち家族の血を、複数の吸血鬼が奪い合う。そんなことにはならずに済みそうだ――と、ボクは少しだけホッとした。
それなら問題は簡単だよ――と、そう言いかけて、ボクはその言葉を呑み込んだ。
母さんが半狂乱になって、真奈美に向かって食ってかかったのだ。
「あなたねえっ!どうしたのよ!?なに考えているのよ!?ふたりともっ。吸血鬼に血をあげるなんて、どうなってるのっ!?」
母さんはその場に、うずくまってしまっていた。

まさかここまで母さんが、吸血行為に対して嫌悪感を示すなんて、思ってもいなかった。
お隣の奥さんだって。
父さんの友だちのご夫婦だって。
仲良く吸われているって、母さんそう言ってたよね??
他人のうわさなら気軽にできるけど、自分はヤなの??
そこまで問い詰めるのは酷なのかなって、ボクは思った。
そうしたら――女の子って容赦ないよなって、思わずにはいられなかった。
真奈美がボクの代わりに、言い放ったのだ。
「えー、だって母さん、お隣の奥さんだって飲まれちゃってるんだから、いまノらないと流行に乗り遅れちゃうよ~」

ただいまぁ・・・そのときだった。父さんが戻ってきたのは。
3人が3人とも、救われたような気がして、父さんのほうへと振り向いた。
ところが、父さんの様子は、それどころじゃなかった。
背広のジャケットは無事だったみたいだけど。
ワイシャツの襟首が真っ赤に濡れていた。
「悪い、母さん――お客さん連れてきたんだ。きみの血が欲しいってせがまれちゃって、断り切れなかったんだ・・・」

きゃー。

母さんが叫んだのは、無理もないことだった。

あー。あー。あー・・・
あお向けに組み敷かれた母さんは、こげ茶のハイソックスを履いた脚をバタつかせながら、もう首すじを咬まれちゃっていた。
唇のすき間からこぼれた血のりが床に滴るのを、ボクはしっかりと見届けていた。
その傍らで真奈美が、「あーあー♪」って言いながら、持ってきた雑巾で、床に散った血のりをむぞうさに拭き取っていった。
「母さん、こげ茶のハイソックス素敵だね。あとでたっぷり舐めまわしてもらえると良いね」
真奈美は他人ごとみたいに、のんびりとそんな独り言を洩らしていた。

「父さん・・・いいの・・・?」
さっき得た知識のままに、ボクは父さんに問いかけた。
――セックス経験のある女のひとって、犯されちゃうんだよね?
「そんなことにいちいち、念を押すものじゃない」
父さんは照れ臭そうに、笑った。
「母さんのハイソックスを、昼間から狙っていたらしいんだ。今夜は夜通しかもしれないな・・・」
苦笑しながら父さんは、首すじを濡らす血のりを掌で拭い、自分の口で舐め取っている。
母さんが好んで履いていたこげ茶のハイソックスがチリチリに食い剥かれるのも、想定内のことらしい。

「けどお前、さっき聞いたら冴島さんとこのお嬢さんと付き合うそうじゃないか?
 それは良いんだけど――」
さすがの父さんが言いよどんだ。
「わかってるって」
ボクはいった。
「あのひと――由香里さんのことを初めてヤるとき、ボクに見せてくれるって約束してくれたんだ」
そうだったんだな・・・父さんはむしろ、ほのぼのと笑った。
「父さんだって、母さんが目の前でほかのヤツと姦(や)るところなんて、もちろん初めてなんだからな」
「一緒に見学しても・・・良い・・・?」
というボクに、父さんはおうように笑って応えた。
「ああ、ぜひそうすると良い。創太の未来の花嫁は、初めてを奪(と)られるんだからな。
 もっと刺激的かもしれないぞ」
「う~ん、でも自分の母親が姦(や)られちゃうのも、かなり凹むと思うけどね~」
そんなのんきな会話を交わす親子のまえで。
母さんだけがひとり、大きな声で喚いていた。
「あ、あなたたちっ、ダメ、ダメよ、こんなところ、視・な・い・でっ!♡」
生真面目な母さんがひと晩じゅう弄ばれて、恥を忘れたことまでは――内緒にしておこう。(笑)


あとがき
これまた珍しく、書下ろしです。
お母さんの痴態が、けっこうコミカルになってしまいました。^^

追記
2月4日、ちょっとだけ改筆。

由香の彼氏。

2024年01月24日(Wed) 23:49:33

「え?私と?」
切羽詰まったぶきっちょさだらけの告白に。
由香里さんはけげんそうに、ボクのことを見つめた。
「こんなでぶっちょさんのこと、からかうもんじゃないわよ」
冗談ごかしのうそぶきの、語尾が少しだけ、震えていた。
そうじゃない――
ボクはけんめいに、言いつのった。
いつも冷静な物腰に、クラスをまとめる責任感。
だれに対しても献身的な、看護婦さんみたいな善意と情熱。
そんな優等生ぶりに惹かれたのだと――どうやってうまく説明できたのだろう?
とにもかくにも由香里さんは、ボクが嘘ん気ではないのを、わかってくれたみたいだった。

でもね――
由香里さんはなにかを、言いよどんだ。
それはたぶん、ボクの一方的な好意をはぐらかすためではなく、
本音でなにかを伝えようとしていた――と、ボクの目には映った。
何・・・?
ボクは探るような言葉を、由香里さんに投げかけた。
うぅん、なんでもない。よそうねこんなの、悪い冗談だよね・・・
由香里さんは思い直したように、そういった。
すこし冷静になって、一歩か半歩、身を引いたような言い方にきこえた。
冗談だなんて――
ボクが憤然として、もういちど言いつのろうとしたとき。
由香里さんははっとした顔つきをして、
ごめん、とだけ、ボクにいった。
「創太くん、本気で言ってくれてるんだよね、私、失礼なこと言ってしまった――」
由香里さんは心からの後悔を、独り言で返してくる。
訊いてもいい?と、ぼくはいった。
なにを・・・と言いよどむ由香里さんに、
「でもね」の続き――と、ぼくはいった。
わかった・・・
由香里さんは気おされたように、こたえてくれた。
けれどもとても、すべてを言いにくそうなのは、容易に見てとれた。
それでも「でもね」の続きを訊く権利がある・・・と、ぼくはおもった。

私ね、献血してるの。
知ってるでしょう?この街に吸血鬼が大勢いるって。
その中の1人に、家族みんなで献血してるの。
パパもママも、もちろん私も・・・
わかるでしょう?
首すじを舐められながら吸血されるんだよ?
それと、あのひとったら、ストッキングやハイソックスが好きなの。
だから、下校途中で呼び止められて、制服着たままハイソックスの脚を咬まれたりしているの。
それなのに私――学校の名誉を損ねているかもしれないのに――あのひとにせがまれるまま、その献血を続けているの。

それが由香里さんの話の、すべてだった。

えっ、それって、いけないことじゃないんじゃない・・・?って、言いかけて。
いやまてよ――と一瞬、想い留まった。
だって。
気がつかずには、いられなかった。
もしも由香里さんがボクの恋人になってくれたとして。
どうやら親ぐらいの年恰好らしいその吸血鬼に、
首すじを舐められハイソックスを破られながらの吸血を、耐え忍ばなければならないはずなのだ――ということに。
せっかく恋人になってくれるのにそんな不義理をするのは、
生真面目な由香里さんにかぎって、とてもできたことではないのだと――

そこまで言ってくれたあなただから、言わないわけにはいかないから、言うわ。
ママはね、吸血鬼に血を吸われながら、抱かれているの。
どういうことか、わかるでしょう?
そう、恋人同士みたいに、抱かれているの。
パパはそんなふたりの関係を気遣って、それ以上立ち入らないからって、ふたりのお付き合いを認めているんだ。
でも――
もしも、もしもね・・・
貴方と私が将来、結婚するとしたら――
あのう・・・セックスを経験した女のひととは、絶対そういうことをするんだって。
だから、貴方のお嫁さんになった途端に、私あの人に・・・その・・・犯されちゃう立場なんだよ。
だから・・・
いまのうちに私のことは、思い切ってくれないかな――

驚くべき事情と、決然とした態度とで。
ボクは旗を巻いて撤退するしかなかった。
いちどはちゃんと、考えてほしいな――彼女はそんなボクを責めるでもなく、独り言みたいにそういった。

一週間、ボクは考えた。
母さんが言っていた。
お隣の奥さんも、父さんのお友だちご夫婦も。
最近はみんな、血を吸われているみたい。
気味が悪いわこの街はって。
そうなんだろうか?
そういう、気味の悪い街なんだろうか?
ふと目にした窓辺の気色は、いつものように穏やかで、だれもが安心して暮らしている街そのものだった。

放課後、下校するところを待ち構えていたボクに、
由香里さんは覚悟していたらしく、まともに目線を合わせてきた。
「話・・・あるの?」
「うん」
「長くなりそう・・・?」
「うん、きみしだいで長くなる」
ボクは言葉に力を籠めていた。
それが由香里さんにも、伝わったらしい。
「じゃあ来てくれる・・・?」
むしろそっけない言葉つきで、後ろも振り向かずに家路をたどっていくのだった。

ここでね。
彼女が立ち止まったのは、自宅近くの公園だった。
ここでいつも、私血を吸われているの――
見学してく?
からかうような目つきの由香里さんに向かってボクが強く頷くと。
彼女はびっくりしたように、大きく目を見開いた。
冗談とか・・・やだよ。
由香里さんはボクのほうを見ずに、そういった。
「本気のつもりだから――」ボクはそう応えるしかなかった。

公園の隅っこにある噴水の傍らに、由香里さんは真っすぐに脚を進めていく。
真っ白なハイソックスが眩しい、まだ陽の当たる時分だった。
「あたしね」
由香里さんが、彼女には珍しい蓮っ葉な調子で口を開く。
「あのひとに楽しませてあげるときには必ず、新しいやつ履いて来るの」
彼女はじっと、自分の足許を見つめていた。
真新しい白のハイソックスは、夕陽を照り返して、太目のリブをツヤツヤと浮き彫りにしている。
吸血鬼ではないボクにさえ、それはとても美味しそうに映った。
「あたしがデブで、血をいっぱい獲れるから襲われているだけなんだ・・・けどね・・・」
彼女の声が、くぐもった。
もしかすると、そんな劣等感があるのかもしれない。
由香里さんのお母さんは、控えめで目だたないタイプだったけど、優しそうな女(ひと)だった。
あのひお母さんも、由香里さんともども血を吸われているんだ――と、ボクはおもった。
「あのひとったら、ママが本命なんだよね。私はその付けたり、おまけに過ぎないの」
由香里さんは初めて、本心をいった。
たしかに彼女よりきれいな女子はなん人もいるかもしれないけれど。
負けず嫌いで誇り高く、級長としての責任感をいつも満面に湛えている彼女が、はじめて見せた劣等感に。
ボクは脚がすくむ想いだった。

黒くて淡い煙が、辺りに立ち込めた。
ふと見ると。
背の高い顔色の良くない男が、国威に身を包んで、目の前にいた。
「この人が由香里の彼氏さんかね?」
男はいった。
「まだ、そんなんじゃないから」
由香里さんはこたえた。
「まだ」――ということは、まだボクにも見込みはあるんだろうか?と、ちょっとだけそう思った。
「あ・・・あのっ」
ボクは思わず、声をあげた。
半歩差し伸べた制服の半ズボンの脚は、濃紺のハイソックスに包まれている。
ふと見ると。
ハイソックスが脛の半ばまでずり落ちていた。
カッコ悪・・・ボクは思った。
あわててひざ小僧の下まで引き伸ばすしぐさを、男は笑いもせずに見守っていた。
「先にボクの血を吸ってください。やっぱり、女の子を守るのが男子の務めだと思うから――」
知らず知らず、ボクは彼と由香里さんとを隔てるように、立ちはだかっていた。
「けっこうな勇気だな」
男はいった。
「けれども――良いのか・・・?」
と、男は訊いた。
「ど、どういうことですか!?」
ボクはこたえた。
「血を吸われるようになったら、後戻りはできなくなる。
 いまならまだ、後戻りができる。
 彼女を諦めさえするのなら――」
男はいった。
「そんなつもりでここまで来たわけじゃありません」
ボクは本気で、口を尖らせる。
すると男は案外にも、
「すまん、すまん、そりゃそうだよな。失敬した」
と、困ったような顔つきをした。
その困惑した面ざしに、ちょっとだけ共感を覚えた。
「創太くん止しなよ」
背後から声がした。
「止さなかったら――ボクの彼女になってくれる?」
ボクはこたえた。
「信じらんないんだけど・・・」
由香里さんは、独り言(ご)ちた。
「答えて・・・」
ぼくはいった。
「わかった・・・彼女になる・・・」
背中越しにミニにする由香里さんの声が、涙声になっている。

初めて受け容れた牙は、思いのほか痛みを感じなかった。
けれどもそのまえに、ボクの履いているハイソックスをたんねんに舐め尽くす舌なめずりに、閉口するはめになった。
じっとりと這わされてくる舌が、しなやかなナイロン生地ごしに卑猥な情感を伝えてくる。
「男女問わないんだよ、わしは」
男はいった。
「わかった・・・わかったから、好きにしなよ・・・」
ボクは、そういうしかなかった。
嫌というほど繰り返した舌なめずりのあと、男はおもむろに、ふくらはぎを咬んできた。
痛・・・っ!
心のなかで叫んだのが聞こえたかのように。
男はふたたび、舌なめずりをくり返してくる。
傷口に埋め込まれた痛みが、ほどよくまぎれるのを、ボクは感じた。
チューッと音を立てて血を啜り取られるのが、音と気配とでわかった。
血液を引き抜かれるときの感覚が、無重力状態にいざなわれるようで、なんともいえなかった。
「悪い、悪いね・・・」
男がそう言いながら、なおも飽きもせずに舌なめずりをなすりつけてくるのに、
ボクはハイソックスを引き伸ばし引き伸ばししながら、応じていった。
あー・・・
貧血がにわかに、ぼくの脳裏を混濁させた。
「あー、具合悪くなったかな?無理するなよ」
吸血鬼はむしろ、ボクの体調を気遣っているようにさえ思えた。

その場に横倒しになってしまうほど尽くさせてしまうと、
ボクにはもう、由香里さんに対する吸血を妨げるための打つ手がなかった。
「次はあたしの番ね」
由香里さんが割って入るようにして、白のハイソックスの脛を彼に向って差し伸べた。
「彼女の血を吸っても良いか?」
男はわざわざ、ボクに訊いた。
「良くないよ――」
ボクはけんめいに、かぶりを振った。
「ゴメンね、創太くん。私この人に血を吸われるの、嫌じゃないの」
あの生真面目で近寄りがたい由香里さんが、制服のスカートをたくし上げんばかりにして、
白のハイソックスの脛を、男に向けて差し伸ばしていた。
見慣れた制服のハイソックスのリブの上に、ボクの血をあやした牙が突き立てられて。
ズブ・・・ッと刺し込まれてゆく。
そんな光景を、どうしてドキドキしながら、見守ってしまっているんだろう?
貧血に迷った脳裏を、真っ白なハイソックスに散る赤い飛沫が、狂おしく染めた。

いつの間にか。
尻もちを突いた由香里さんは、公園の芝生の上に組み敷かれていって。
「ああ・・・やめて・・・」と呻きながら、首すじを咬まれていった。
真っ白なブラウスに散ったバラ色の飛沫が、もう何も遠慮しないで良いのだと語っていた。
由香里さんの身体を流れるうら若い血液を、男は思う存分ゴクゴクと飲み込んでゆく。
惜しげもなく――というほどに。
由香里さんもまた、ブラウスのえり首をおし拡げんばかりにして、白い胸もとをさらけ出し、皮膚を破られていった。
男が由香里さんの血を想うさま吸い取ると、こんどはふたたび、ボクの足許にかがみこんで来る。
どうぞ・・・と呟きながら、ボクはそうっと、ハイソックスのずり落ちかけたふくらはぎを、自分から差し伸べてしまっていた。
男は無遠慮に、ボクのハイソックスを咬み破るのを愉しみながら、吸血に耽ってゆく。

ボクももう、由香里さんに負けず劣らず、吸血鬼の奴隷になり果ててしまっていた。
どうぞ・・・もっと咬んで・・・もっと楽しんで良いですよ・・・と、呟きながら。
紺のハイソックスの脚を、男の舌に、唇に、好むままに添わせていってしまっていた――


あとがき
由香里の身の上が気になっていたのですが、
最近にしては珍しく、あっという間に描けちゃいました。^^

後記
2月4日、少しだけ改筆。

吸血鬼とお母さんの鬼ごっこ

2024年01月24日(Wed) 20:33:54

淡い草色のワンピースを着た百合子が、公園のなかを逃げ惑っている。
「怖かったら逃げるね」
笑みを交えてそう応えた妻が、たしかに逃げ惑っている。
けれども、逃げ惑って――というのは、もはや適切な表現ではないかも知れない。
妻の足取りはあくまでも手加減したもので、
迫って来る吸血鬼に容易に肩を掴まれてしまうていどの緩慢なものだった。
ふり返りふり返りしながら肩までの黒髪をなびかせて、
ワンピースのすそを風にそよがせて、
すそから覗くふくらはぎを彩る淡い色合いのストッキングに、脛を適度に透きとおらせて、
巧みに吸血鬼を誘惑していた。
「あっ」
抱きつく猿臂に声をあげて、頑是ない子どもみたいに激しくかぶりを振って、
うなじに喰いついて来る牙を避けようとはするけれど。
その努力はもちろん、妻の身を守り通すことは無い。
力を籠めた猿臂に身体をギュッと固定され、否応なく咬まれてしまうのだ。
ビュッと飛び散る血潮が、ワンピースの肩に撥ねる。
妻の生き血をひと想いに吸い尽くそうとはしないで、
吸血鬼はわざとのように、華奢なワンピース姿を固い猿臂から解き放つ。

季節はずれの蝶が弱々しく翔ぶように、妻はふたたび弱々しい足取りで逃げ惑う。
そしてまたもや他愛なく捕まえられて、首すじを咬まれてしまう。
さほどの量を喪うわけでもないのに、男の腕のなかの妻は大仰に、
「ああ~っ」と絶望的な呻きをあげながら、生き血を啜り取られていった。
むさぼる喉が、美味そうに鳴った。
ひと口ひと口、彼は妻の生き血を愛おしむように飲み味わっている。
そして、猿臂に巻かれた妻をまたも解放し、弱々しい足取りを余裕たっぷりに追いかけてゆく。
いちどに吸い取る量をわざと加減して、この他愛ない鬼ごっこを長引かせようとしているのだ。
けれども妻のほうもまた、公園の外には出ようとはせずに、とりとめもなくパンプスの脚をもつれさせる。
そしてまた、あっけなく捕まえられて、逞しい腕のなかで切なげな呻きをあげるのだった。

なん度めか解放された妻は、よろよろとよろけて、噴水の礎石に身をもたれかけさせた。
失血で、動きが明らかに衰えていた。
立て膝をした妻の足許に、好色な唇が吸いつけられた。
ストッキングをしわ寄せながら、淡いナイロンの舌触りを愉しんでいるのだ。
妻は目許を翳らせて、羞じらうようにかぶりを振った。
めくれ上がらないようにワンピースのすそをひざ頭で抑えた掌は、
それ以上相手の不埒な愉しみを妨げようとはしていない。
じょじょに姿勢を崩す妻にのしかかるようにして、彼は妻のパンプスを脱がせ、
足の裏にまで舌を這わせた。
「あははははっ」
妻がくすぐったそうに、開けっ広げな笑い声をあげた。
男の舌は、悪魔に支配されたようにしつようだった。
ストッキングのうえからしゃぶりつけられた舌は、薄いナイロン生地を卑猥に舐め抜いた。
いやらしい舌なめずりが、妻の足許を上品に染めるストッキングに、露骨な皴を波打たせ、唾液をしみ込ませてゆく。
なん度も咬まれ、ストッキングをチリチリに咬み破られながら。
妻はじれったそうに身を揉んで、
「いけません」「やめてください」「ひどいです・・・」
と囁きをくり返し、情夫の痴態を制しようとしている。
けれども本心は言葉と裏腹であるのは、ひと目見てそれとわかるほどだった。
彼が愉しみやすいように、脚をさりげなくくねらせて、狙われた部位を舌に添わせてゆくのだ。
時おり、力を籠めて喰いつかれると。
「きゃあ~」
と大仰な声をあげて応じたが、むしろストッキングを咬み破られることに歓びを含んだような声色だった。

彼に掻き抱かれた妻は、ワンピースの前の釦をひとつひとつ外されていって、
さいごにはぎ取られたブラジャーに隠されていた胸を露出させた。
彼女が着古したこのワンピースをチョイスした理由がわかった。
前開きで、彼にとって脱がせやすい服だったのだ。
節くれだった掌が貧相な胸を愛おしむように覆い、しつような愛撫を加え揉みくちゃにしてゆく。
ピンと勃った乳首を賞玩するように唇に含むと、くちゅ・・・くちゅ・・・と卑猥な音を洩らしながら、舌で愛撫を加えていった。
もはや、つけ入る隙もないほどの愛撫だった。
乳首を噛まれる気遣いはないとわかったうえで、全幅の信頼をこめて開かれた胸は、むしろ誇らし気に舌と指とに晒されてゆく――

「パパ・・・」
娘が傍らで、上目遣いにぼくを見た。
下校中に申し合わせたようにぼくと待ち合わせ、前もってぼくの渇きを飽かしめてくれていた。
ブラウスに撥ねた血潮がその余韻となって、純白のブラウスを鮮やかに染めていた。
ぼくは娘と、視線を合わせた。
母親似の顔の輪郭が、妻のそれと重なった。
「どうやら、出る幕はなさそうだね・・・」
ぼくは情けなさそうに笑った。
「そうだけど――」
娘も、困ったように笑った。
「パパはいいの?」
「ぼくはかまわない。
 ママは嫌がっていないし、彼も楽しそうだ。
 このうえ邪魔するのは、やめにしておこう」
「ウン、わかった――」
娘の声は思いのほか、キッパリしていた。
「じゃあこのまま、さいごまで見届けようね」
逃がさない――と言わんばかりに、娘の掌がぼくの手の甲を押し包む。
ぼくは自分の掌を動かさなかった。

足摺りをくり返す脛から、片脚だけ脱がされたストッキングがじりじりと弛み堕ちてゆく。
強引な上下動に細腰をあずけながら、妻は相手の背中に腕を回し、
濃厚なキスに自分から応えはじめている。
もう、ぼくたち父娘に視られているのをじゅうぶんに、意識していた。
意識しながらも、夫婦のあいだでしか演じてこなかったであろう営みを、
人目さえも厭わずに、恥を忘れて、いや――誇らしげに、くり広げてゆくのだった。


あとがき
なん度も「逢う瀬」を見るにつけ。
ご主人も彼と奥さんとの仲を認めたようです。
めでたしめでたし。^^

鬼ごっこのシーンは時おり描きますが、
逃げては捕まえられ、逃げてはまた猿臂に巻かれ――というのは、ひとつの愛情表現のように思えます。

「怖かったら逃げても・・・」と、前作でのたまわったご主人ですが。
つかず離れずの愛情表現をスキなくくり返すふたりに、とうとう脱帽したようですね。^^

ぞんざいな扱いではなかった――

2024年01月24日(Wed) 20:29:51

ワインカラーの夕焼けが、濃紺の闇に飲み込まれようとしていた。
街灯がぽつりぽつりと点きはじめ、薄闇に染まりかけた足許が、かすかに明るくなった。
女学生たちがおそろいの制服の肩を並べて、三々五々、家路をたどっている。
血の渇きに目ざめたぼくは、娘の学校帰りを待ち伏せていた。
きょうも、由香里のハイソックスは白だった。
学校指定のハイソックスは、紺色と白とをチョイスできるようになっていたけれど。
由香里はわざと、血の色のきわだつ白を、好んで履くようになっていた。
見通しの良い小径を、由香里はこちらに向かって歩みを進めてくる。
彼らのいるあたりはまだ、夕陽に支配されていた。
そのさいごの陽の光を、真っすぐ伸びた太目のリブが、ツヤツヤと照り返していた。
若い血液をふんだんに宿した、むっちりとはち切れそうなふくらはぎの歩みが、
こちらに向かってくるのがもどかしい。
ぼくは通りがかりの女学生たちをやり過ごし、由香里のほうへと一直線に歩みを進めた。
由香里はすぐに、ぼくを認めた。
「怖い顔。目つき尖っている」
娘はそういって、ぼくをからかった。
「パパも、いっぱい吸われたんだね」
由香里は上目遣いでぼくを見た。
顔が心持ち、蒼ざめている。
そういえば。
出かける時は、紺のハイソックスを履いていたっけ。
「履き替えたのか?」と訊くぼくに、由香里は「うん」と応えると、
「いっぱい噛まれて持っていかれちゃった」と、つづけた。
半歩身を退いたぼくをみて、「でも、いいよ」と、由香里は告げた。
「パパに吸われるんなら、惜しくない」
セミロングの髪を掻きのけると、白い首すじが、うわぐすりを塗ったように滑らかに輝いている。
ぼくは、がまんできなかった。
由香里を抱き寄せて、うなじに唇を吸いつけていた。
いつの間にか備わった女の芳香が、微妙に喉を、鼻腔を刺戟する。
思わず力を籠めて、喰いついてしまっていた。
あふれ出てくる血潮に狼狽しながらも、ゴクゴクと音を立ててむさぼっていた。
囚われの女学生は、ぼくの腕のなか、むしろそうすることが自分の務めと心得ているように、背すじを心持ち反らした姿勢のまま、容赦なく突き込まれる牙を受け容れてった。

「パパもエッチだね」
由香里はそういいながら、ベンチに腰かけた姿勢で脚を咬ませてくれた。
足許を狙われていると知ると、ぼくに楽しませるためにわざと、ずり落ちかけたハイソックスを引きあげていた。
娘あいてに、はしたない――
そう想いながらも、通学用のハイソックスのしなやかな舌触りに、ぼくは少しばかり欲情を感じていた。
「気になってるんでしょ、ママのこと」
由香里は無口な娘だったが、場の空気を察するところがあった。
「ここで待とうよ、あたしも付き合う」
褪せかけた頬をいっそう蒼ざめさせながら、由香里は公園の入り口のほうを見やっていた。
そう。
妻はきっと、ここへやって来る。
妻を誘うときのデートの場所はいつもここなのだと、彼は教えてくれさえしていたのだ。

妻を待つ間じゅう。
娘の顔色の蒼さを気にかけながらもぼくは、血のりのついたうなじを吸いつづけずにはいられなかった。
傷口から漏れ出てくる血の量はおさまりかけていて。
舐め取るくらいにしか滲み出てこなかったけれど。
それでも由香里は従順に、ぼくに吸われるがままになっていた。

30分ほどもしたころだった。
辺りはもはや闇に包まれていて、公園のところどころにしつらえられたベンチのそれぞれを、街灯がスポットライトのように照らしている。
来てほしい、と思いながらも、来てはいけない・・・と感じていたそのひとが、見慣れた小柄な痩せ身を影絵のように忍ばせてきたとき、
思わず娘と目を見合わせてしまっていた。
「いつもここで百合子を愉しんでいる」
彼の言い草を確かめるために訪れた公園で、密会を観るはめになろうとは。

百合子はいつも見慣れた、茶色とオレンジの入り混じった、幾何学模様のワンピースを着ていた。
凝ったデザインのわりに地味な着映えになるのは、そういう柄なのか、本人が地味だからか――
足許に通した肌色のパンストはいつもながら野暮ったく映るけれど、
それすらも、妻にとっては精いっぱいの、彼のための正装なのだ。
肚の奥がカッと火照るような、嫉妬を感じた。
ひっそり佇む百合子に、彼は足早に近寄った。
一直線に迫って来る男の影に怯えるように、百合子が半歩後ずさりする。
「あの――」
百合子が声をかけた。
「喉渇いているんですよね・・・」
ひっそりとした声色に、優しい同情がこめられている。
彼はゆっくりと、肯いた。
「いつもみたいに、お願いできるかな・・・」と、彼は言った――
「はい、どうぞ」妻はこたえた。
妻はもう、後ずさりしようとはしなかった。

うつむき加減に佇む百合子の立ち姿を、男の猿臂がそうっと覆った。
気温が冷えて空々しくなりかけた外気から、庇うような仕草に見えた。
吸いつけられてくる唇に、百合子はためらいもせずに、うなじを添わせてゆく。
蛇のように喰いつく牙に身をゆだねたのが、かすかな身じろぎでそれとわかった。

ごくり・・・ごくり・・・ぐちゅうっ。
生々しい吸血の音が切れ切れに、薄闇を通して洩れてくる。
彼の喉が鳴るたびに。
妻はわが身をめぐる血潮を、惜しげもなく飲みむさぼらせているのだ。
彼にとっては、いまが至福の刻なのだ――と、ふと思った。
そう思うと、目を離せなくなっていた。
腕のなかの百合子は、満足そうな笑みさえ泛べて、露骨な飲血の音に聞きほれているようにさえ見えた。
あるいは、妻にとってもいまが、至福の刻なのかもしれない――と、ふと思った。
吸血行為に同情を覚えはじめたぼくの身体は、渇きかけた血管をはげしく脈動させた。
妻に対する他人の吸血行為さえ、わが身の悦びと錯覚し始めていることに。
ぼくは戸惑いを覚えていた。
脂の乗った四十代の人妻熟女の生き血に酔い痴れている彼が、羨ましいと思った。
そして、人妻の生き血に浸ることが許されることが、彼にとって好ましいとさえ、感じ始めていた。
そして、それと同じくらいに・・・われとわが身をめぐる血潮を惜しげもなく飲ませている百合子のことを、潔いと感じ始めていた。

「どうする気?」
由香里が上目遣いに、ぼくを見あげる。
「確かめてみたかったんだ」と、ぼく。
なにを――?と言いたげな娘に、ぼくはいった。
「彼に訊いたんだ。
 どうして百合子なのか?って。
 ママは見映えも地味だし、大人しいし、彼のような男をそそるタイプとは思えない。
 もっと若くて、派手めで、きらびやかな女性のほうに、どうしていかないんだろうって。
 そうしたら、言われたんだ。
 ――いつ招んでも、すぐ来てくれる。
人妻熟女の生き血に手っ取り早くありつくには、百合子にかぎる。
彼女は律義だから、俺の期待を裏切ることがない――って。
 だから、思ったんだ。
 ぞんざいな扱いをされるのなら、百合子の善意が穢されるんじゃないかって。
 でも――どうやらパパの思い過ごしみたいだね」
「そうだね」――娘もいった。
血を吸い取られてゆく自分の母親の立ち姿から、ひとときも目を離さずに。

抱きすくめられた妻は、恋人のような口づけの嵐に身を任せ、
ひと口ひと口愉しみながら血を啜られるのを、明らかに歓んでいた。

「怖かったら逃げても良いんだぞ」
なに食わぬ顔で帰宅したぼくは、妻にいった。
「ううん――だいじょうぶ。でも、怖かったら逃げるね」
妻は蒼ざめた頬に精いっぱいの笑みを泛べ、そう応えた。
ふと見ると。
茶色とオレンジの入り混じった幾何学模様のワンピースは、
不規則な水玉もようを新たに加えられる憂き目をみていなかった。
よほど入念に咬みついたのか。
首すじにふたつ綺麗につけられた咬み痕には、かすかな血のりが滲んでいるだけだった。


あとがき
半吸血鬼と化して娘の生き血を口にしながら、妻の受難を見守る夫――
取るに足らない、欲求を満足させるためだけの便利な女・・・と思われていたのなら切なかったけれど。
どうやら「彼」は、奥さんのことを本気で好きだったみたいです。
娘さんの直感の勝利ですね――

下校中の娘のハイソックスの足許を狙うなんて、お父さんエロいですよね。^^
あと、末尾は、次話へのつたない伏線です。^^

禁断の味わい。

2024年01月24日(Wed) 20:24:10

妻の百合子も。
娘の由香里も。
そして、それと同じくらいぼくまでも・・・
そろいもそろって、初めて吸われたときは。
脇役どころか、チョイ役の遂げる最期のようだった。
妻の百合子は夜の公園で、背後から羽交い絞めにされて、
ろくろく抵抗もできずに一方的首すじを咬まれてしまったし――
娘の由香里は授業中に、首すじから血を滴らせているクラスメートの子に呼び出されて、
母親に言われるままに自ら差し出した発育のよいふくらはぎを咬まれて、
紺色の通学用のハイソックスを破かれながら吸血されていった。

ふたりとも。
ろくろく抵抗もできないうちに、有無を言わさず血を吸い取られてしまったのだ。
もっともの話、そもそもが。
勤め帰りのぼくが狙われたのが、発端だった――

幸か不幸か。
相手は、人を殺めるのが嫌いな吸血鬼だった。
彼は三日にあげずわが家にやってきて、
ぼくを含め家族全員の血に舌づつみを打つのだった。
死なさない――という条件を突きつけられて。
ぼくたちはおずおずと素肌を晒し、血を吸い取られてゆくのだった。


「ただいまぁ・・・」
玄関の扉を開ける音と同時に、生気のない声が聞こえた。
でも、けだるげだったその声はすぐさま「あっ!」と短い叫びに変わり、
「ああ~っ・・・」
と、絶望的なうめき声につながっていった。
血を吸い取られるときの、か細い脱力感のこもった声色だった。

顔をあげると、玄関に佇む娘の由香里が、顔をしかめて姿勢を崩しかけている。
足許ににじり寄った彼が、制服姿の由香里の脛に、唇を吸いつけていた。
学校帰りのハイソックスがよほどお気に召したのか、
彼の唇はかなりイヤらしく、由香里の脛を這いまわった。
しなやかなナイロン生地を舐め味わうように。
舌が、唇がハイソックスに包まれた脚の輪郭をなぞり、
時おり唇に力を籠めて、喰いついてゆく。
喰いつかれるたびごとに。
脛を覆う白のハイソックスが、ビチビチと赤い血潮に染まっていった。

ちゅうちゅう・・・
ちゅうちゅう・・・
足許にあがる露骨な吸血の音に顔をしかめ、頭を抱えながら、
由香里はその場にくず折れた。

ぼくはどうすることもできずに、娘の受難を見守っていた。
つい今しがた。
娘の帰宅を当て込んで現れた彼に、スラックスを引きあげられると、
30分ほどかけて血を吸い取られたばかりだったのだ。
陶酔に似た疼痛と引き換えに、ぼくの血はそっくり、彼の干からびた血管へと移動していった。
そしていま、したたかに吸い取られた働き盛りの四十代の血液は、彼のなかで力強く脈打って、娘を襲う原動力となっている。
それに引き換えぼくのほうは、もう、起きあがる余力さえもっていなかった。
勤め帰りの薄々のハイソックスは、たしかに彼を悦ばせるために穿いたのだけれど。
思いのほかしつような舌なめずりに、妻の百合子のストッキングの脚に加えられた凌辱を重ね合わせていた。
あいつ・・・あいつ・・・百合子の脚をこんなふうにいたぶるのか・・・
嫉妬に焦がれながら血を吸い上げられて、気絶寸前まで追い込まれたところで、
ふと身体を放された。
彼の目線の彼方に、百合子がいた。

学生時代、お姫様のように憧れた女は、目のまえで男に組み敷かれ、
破られたストッキングを穿いたままの太ももを灯りの下にさらけ出し、
うなじに好色な唇を吸いつけられている。
彼はキュウキュウと、ひとをこばかにしたような音を洩らしながら、
百合子の血をさかんに口に含み、すでにかなりの量を飲み漁っていた。
彼の唇は、百合子の首すじにずうっと、貼りついていた。
百合子の首すじが、いとしくていとしくてならない――というくらいの執着ぶりだった。
たんに渇きや食欲を充たすためではなく、百合子の血の味をしんそこ楽しみ、味わっているように見えた。
しつような吸血にもかかわらず、百合子もまた、彼の腕の中で静かに目を瞑っていた。
失血のはやさに焦る様子も見せず、服に飛び散った血潮にうろたえる様子もみせなかった。
むしろ自分のほうからすすんで、彼の喉の渇きを自分自身の血液で癒そうとしているようだった。
彼が自分の血を気に入っていることを、はっきりと意識しているようだった。
自らの血潮の佳さを誇るように、背すじをピンと伸ばして、
床の上で濃厚なチーク・ダンスでも躍るかのように、身を寄り添わせているのだった。

美味そうだ――しんそこ美味そうだ・・・
彼に抱きくるまれながら吸血される百合子を見ているうちに、
そんな想いが、むしょうに湧きあがってきた。
失血が度重なるにつれて知らず知らず、
血に飢えたものたちの気持ちが、わかるようになり始めていたのだ。
こんなにも渇いた気分だったのか。
こんなにも切ない想いだったのか。
そう思うと――
目のまえで暖かい血に満たされている彼を見て、彼のためにはしんそこ良かったのだと思えるようになり始めていた。
目のまえで、妻や娘がほしいままに、生き血を吸い取られているというのに――

「あのひと、ママのこと本気で気に入ってるみたいだね」
いつの間にか傍らに、由香里がいた。
首すじからしたたる血潮が、制服の襟首をバラ色に染めている。
「ママのこと、とても気に入ってるんだと思う。
 パパ・・・ママのこと取られちゃわないようにがんばってね――」
娘はそう言うと、力尽きたかのように、ぼくのすぐそばで四つん這いになって、弱々しい吐息をセィセィと吐きつづけた。
「お前だって――気に入られしまっているんじゃないのか?」
ぼくがそういうと、娘はこたえた。
「私?私はただ、太ってて血を一杯獲れるからってだけじゃないかな・・・」
娘の言い草は、少し投げやりに聞こえた。
「気に入ってもらいたいのか・・・?」
ぼくが声をひそめると、
「どうなんだろう・・・わかんないや・・・
 でも私、血を吸われるのは嫌じゃないから、気にしないでね」
妻と娘を守れなかった情けない夫――と、ともすれば想い塞いでしまうぼくを気遣うように、娘はこたえた。
脛の半ばまでずり落ちた白のハイソックスが、血に濡れていた。
バラ色の飛沫が不規則な水玉もようとなって、真っ白な生地の表面に散っている。
ふと、渇きを覚えた。
「――いいよ・・・」
娘がそう呟いて、ハイソックスをひざ小僧の下まで引き伸ばすと、ぼくのほうへと差し向けてくる。
われ知らず、足首を掴まえていた。
ふくらはぎに、舌を這わせてしまっていた。
しなやかなナイロン生地の向こうに、温みを帯びた柔らかなふくらはぎが、息づくようなうら若さを伝えてくる。
そこからはもう、止め処がなかった。
どうやって喰いついたのか、憶えていない。
由香里のふくらはぎがキュッとこわばるのを、咬み入れた犬歯で感じていた。
唇の下で娘の履いているハイソックスが生温かく濡れるのもかまわずに、
それでもグイグイと、皮膚の奥を求めていた。
ちゅうっ・・・ごくり。
ぼくは目の色を変えて、まな娘の血潮で喉を鳴らしていた。

禁断の飲み物を得たぼくは、由香里を引き倒すと、首すじに咬みついていた。
由香里は抵抗しなかった。
むしろ自分から、荒い息を爆ぜるぼくの口許に、うなじを差し向けてきた。
じゅるっ。じゅるっ。
生々しい音を立てながら。
ぼくは娘のブラウスを、血浸しにしていった。
傍らで百合子が、スカートを腰までたくし上げられて、ひざ下までずり降ろされた肌色のパンストをしわ寄せながら、足摺りをくり返していた。


あとがき
チョイ役で血を吸い取られてしまうような人妻だって。
若いころにはいまの夫と、精いっぱいのロマンスを演じていたはず。
そんなあたりもちょっとだけ、表現してみました。

娘さん。
血を漁り獲られてしまう理由は、果たしてほんとうに、「太っているだけ」なのでしょうか・・・?

地味なパンストを愉しまれる。

2024年01月12日(Fri) 01:21:57

ビデオカメラのディスプレーのなか。
ギラギラと毒々しくきらめく白のストッキングの脚を、まるで白蛇のようにくねらせて。
その看護婦は病院のベッドのうえ、放恣に荒れ狂っていた。
すごいな・・・
画像に思わず見とれるぼくを、傍らの妻が軽く小突いた。
「うちの主人、こう見えていやらしいんです」
おどけた調子でそういうと、肩をすくめてみせた。
市内の病院で、看護婦相手に彼が演じた、いちぶしじゅうがそこに記録されていた。

「だんなさんのハイソックスも、ギラつきありだよね」
たしかに――ぼくが好んで履いている通勤用のストッキング地の靴下も、
婦人もののパンスト並みのゾッキサポートで編まれているので、けっこうギラつく。
「私の履いているの地味すぎますか?」
ひざ下丈の栗色のスカートの下、控えめに覗かせた脚をすくめながら、
妻は気遣うように、彼を見つめた。
脛の周りを包む薄地のパンストは、光沢もなく、もちろんギラつきもなく、ごく月並みな肌色だった。
その時々で色合いは微妙に変わるものの、同じブランドを履き慣れている妻には、それしかないらしかった。
「ウウン、やっぱり百合子はこれが良い」
彼はもの欲しげに、妻の足許に目線を這わせた。
「そうですか?」
妻はもう一度肩をすくめてみせたが、こんどはどことなく得意げにみえた。
見かけは多少地味でも、薄地のストッキングがもたらす翳りは妖しくなまめかしく、
彼を楽しませるためと心得て、いままでどおりの地味なパンストを脚に通しつづけている。

彼の唇が、妻の足許を狙っている。
妻の足許をほのかに染めるなよなよと儚いナイロン生地が柔らかく取り巻く足許を、
舌なめずりしながら狙っている。
「やだ」
妻は短く呟いて、近寄せられた唇を避けようとした。
「え・・・?」
ぼくのほうを身をよじって省みる妻の顔が、意外そうな色をよぎらせた。
妻の両肩を抱きかかえるように抑えつけて、彼のほうへとねじ向けてやったのだ。
あの好色な舌なめずりが、妻の穿いているストッキングを、じわじわと淫らに、しわ寄せてゆく――

よそ行きの上品な装いに、じかに唇を吸いつけ、舌を這わせて愉しまれてしまうことに、
さいしょのうち妻は眉を顰め訝りながらも、応じてゆくようになっていた。

「あ~」
目を瞑った妻は切なげにうめくと、おとがいを仰のけた。
圧しつけられた唇の下。
唾液に濡れたストッキングは、むざんに裂け目を拡げている。

ちゅう・・・っ。
滲む血潮を、爆ぜる唾液もろとも飲み込まれて。
妻は「ひっ」と声をあげる。
ぼくの手を握り返してくる掌に、しがみつくような力がこもった。

彼はストッキングの舌触りを愉しむように、妻の脚のあちこちに唇を吸いつけ、這いまわらせて、
時おり牙を軽く刺し入れては、裂け目を滲ませてゆく。
それらは涙の痕のように、チリチリと延びていった。
「百合子のパンストは愉しいな」
彼は妻の足首を握り締め、拡がる裂け目に目を細めた。
妻の纏う薄衣の素朴な色香を、彼なりに愉しんでいるのだ。
「もっと咬んでみせてくださいよ」
心臓が飛び出るくらいの昂ぶりを覚えながら、ぼくは彼を促していた。
「いやらしいわね」
妻が咎めるような上目づかいで、ぼくを睨んだ。
その尖った目線すらが、くすぐったくて、たまらない。

今夜もゆうに1時間は、彼は妻のパンストを愉しむつもりに違いない。
さいごには。
布団の上に仰のけられて、
大またを開かされて、
食い剥かれたパンストが、まるでハイソックスみたいにひざ小僧よりだいぶ下までずり落ちた格好で、
抑えつけられる快感に目ざめた妻が、控えめな吐息とあえぎを、洩らしつづけることになる。
行き場を失った白く濁った奔流を、彼から手渡されたショーツにほとび散らせながら、
ぼくはひと晩じゅう、堕とされた妻の痴態を歓びつづける。

クラスメートといっしょに遂げた初体験

2024年01月12日(Fri) 00:19:53

娘の通っている女学校は、紺のハイソックスを履く学校だった。
地味子と呼ばれた妻をモノにした彼は、当然のように娘にも秋波を送っていった。
「せっかくだから――していただきましょうよ」
母親がそういうのだから、娘の純潔はもう、時間の問題だと観念せざるを得なかった。

彼は正面切って、平日の真っ昼間に、娘の通う女学校を訪れた。
すぐに校長室に通された彼は、来意を告げると、好意的に迎えられた。
すでにこの学校の女学生はなん人も、彼の毒牙にかかっているのだ。
「2年A組の冴島由香里さん、校長室に――」
担任の女教師に先導されて校長室に現れた娘は、自分の血を目当てに来校した吸血鬼相手に、それとは知らず尋常に初対面の挨拶をしたという。
夫婦ながら吸われたあの晩。娘はとうの昔に寝入ってしまっていた。
「この方がクラスの授業を参観されます。教室までご案内してあげて――」
担任に言われるままに娘は、彼の先に立って、教室に案内した。
彼が娘の後ろ姿を、とくに紺のハイソックスに包まれた発育のよい脚に目を留めたことを、生真面目な女学生は知る由もない。
彼の狙いは、娘だけではなかった。
さいしょに彼が引き合わされたのは、学級委員の鈴村敏恵だった。
敏恵はその日、ストッキング地のハイソックスを履いていた。
優等生で文学少女の彼女は大人びたところがあって、
十代の少女には珍しく、人前に出るときには日常的に、ストッキングを嗜んでいた。
だから通学の際にもしばしば、学校の許可のもと、ストッキング地のハイソックスを好んで脚に通していたのだ。
彼女のおしゃれな装いを、飢えた牙で喰い裂いてやろうと彼がもくろんだことは、想像に難くない。
つぎの時間は、体育だった。
女生徒たちが着替えをするなかで、彼は鈴村敏恵を隣の教室に引き入れると、
無抵抗なこの女学生の首すじを、カリリと咬んでいた。
ブラウスの襟首に血を撥ねかせながら、鈴村敏恵はずるずると姿勢を崩し、その場で尻もちを突いていった。
娘たちクラスメートが運動場で息をはずませながら身体を動かしているあいだ。
慎ましく質実に装ったストッキング地のハイソックスを咬み剥がれていった。
身体じゅうの若い血潮を舐め尽くされてしまうと、
度を失った彼女はうろたえながら、それでも気丈に背すじを伸ばして、
授業を終えて戻ってくるクラスメートたちを待ち受けていた。
だれもが十代のうら若い肢体に、運動でめぐりの良くなった血液をピチピチとはずませていたのだ。

「涼子ちゃん、いい?」
つぎの授業中。
授業の途中から教室に戻った鈴村敏恵は、隣の席の少女に声をかけた。
そして、え?え?と訝しがる華邑涼子を教室から連れ出すと、
廊下で待ち受けていた吸血鬼に引き渡してやった。
鈴村敏恵の血をあやしたままの牙が、こんどは華邑涼子の首すじに、埋め込まれていった。
「授業中だから静かにしようね」
さすがに優等生らしく、鈴村敏恵ははしたない声をあげようとしたクラスメートの口許を、掌で柔らかに覆っていった。
華邑涼子のハイソックスは、太目のリブの入った学校指定のハイソックスだった。
鈴村敏恵みたいに脛の透けるハイソックスをおしゃれに履きこなす子は、ごく一部だった。
涼子のふくらはぎのあちこちに牙を刺し入れて、ハイソックスを他愛なく咬み破りながら、
彼はうちの娘の履いているハイソックスをどんなふうにいたぶろうかと、ワクワクしていたという。
娘の身代わり、予行演習のように喰われてしまった華邑涼子こそいい迷惑だったが、
それでも彼女は初体験の吸血行為に、息をはずませて夢中になっていった。
そしてとどめを刺すように首すじに喰い入れられてくる牙をまともに受け止めると、
同級生の鈴村敏恵どうよう、白のブラウスの襟首を勢いよく撥ねる血しおに浸しながら、無我夢中で吸血されていった。

「由香里ちゃん、いいよね・・・?」
ブラウスの襟首を血に濡らしたクラスメートがふたり、肩を並べて虚ろな目で迫って来るのに、娘は戦慄を覚えたという。
それでも娘が2人の親友に請われるままに吸血鬼の待ち受ける空き教室へとためらわずに脚を向けたのは、妻に言い含められていたからだった。
「お母さんね、昨夜恋を知ってしまったの」
妻はそう娘に語ったという。
「素敵な恋よ。あなたも同じ人に、恋をして良いのよ。
 むしろそうなることを、お母さん望んでいるの。
 あのひとに、貴女の若い血をあげてほしいの。
 首すじをちょっと咬ませてあげたら、貴女も素敵な恋ができるの。
 怖がらないで大丈夫。ちょっと抓(つね)られるくらいの痛みで済むから。
 お母さんの血を気に入ってくれたひとだから、あなたの血もきっとお口に合うはずよ」
妻はそういって、玄関でもじもじと躊躇っていた娘の背中を押したという。
「冴島由香里さん だね?」
彼のくぐもった声に、娘はゆっくりと頷いたという。
傍らで2人の友だちが、娘が咬まれるのをひと目見ようと、ウズウズしていた。
自分たちと同じように、友達が制服を血濡らせながら吸血される有様を、
露骨なくらい目にしたがっていた。
「きみの脚はきれいだね」
彼はいった。
両親ともに咬まれた牙に、自分の素肌が狙われていることに、
もはや麻痺してしまった彼女の意識は無反応に陥っていた。
「ねえねえ、ほら、おじ様に咬ませてあげて。
 由香里も早く、美味しいって言ってもらおうよ」
すでに餌食にされたクラスメートたちが口々にそういうのを横目に、
娘はそう・・・っと、紺のハイソックスの脚を差し伸べていった。

「地味子」と呼ばれた妻

2024年01月12日(Fri) 00:10:12

妻の百合子のことを、「地味子」と彼は呼んでいた。
「地味だから地味子だ」と、笑っていうのだ。
でも、侮辱された気分にはならなかった。
もしも妻を侮辱されたと感じるとしたら、それは彼が初めて妻のことを咬んだときに遡らなければならないだろう。

そう、彼は吸血鬼だった。

血に飢えた彼の毒牙にさいしょにかかったのは、ぼくのほうだった。
勤め帰りにぼくを襲った彼は、首すじを咬まれて昏倒したぼくの血を、ゴクリゴクリと喉を鳴らして楽しみ尽くすと、
こんどはスラックスを引き上げて、ひざ丈に伸ばして穿いていた靴下まで楽しみはじめた。
そのころ流行っていた、ストッキング地のハイソックスだった。
貪欲な舌なめずりに晒されて、皺くちゃにされてゆくことに憤慨しながらも、
ハイソックスごしにずぶりと埋め込まれる牙に、ぼくはあろうことか、性的な歓びを感じ始めてしまっていた。
男はぼくの片脚だけをしつように咬んで、提供可能と思える生き血を一滴余さず、むしり取っていった。
その場に横倒しになりながら。
このままご自宅に案内してくれはしまいか――と、ぼくはなん度も、請われていた。
家には妻がいる。きっとあんたの目当ては、妻の血なのだろう?
ぼくはそういって、あくまで彼の要求を拒みつづけた。
仕方がないな――彼はそう呟くと、公園のど真ん中にぼくのことを横倒しにしたまま、近くの公衆電話に足を向けた。
そして受話器を取ってなにやら囁くと、再び戻ってきて、言った。
奥さん呼んだから――たったそれだけだった。

「きゃあーっ!」
背後から羽交い絞めにされた妻は、首すじを咬まれて絶叫した。
吸血鬼の出没に慣れたこの街では、そのていどのことで人は出てきてくれないのだった。
ぼくの血に染まったままの牙を、妻の首すじにひと息に埋め込むと。
彼は頬に血潮を迸(ほとばし)らせながら、妻の生き血を飲み啜った。
頬に散った血潮は、ぼくから吸い取った分と、妻のものと、両方が混じり合っていた。
妻はその場に尻もちを突くと、男は妻のスカートをたくし上げて、
さっきぼくの脚にそうしたように、ストッキングに包まれたふくらはぎに、
好色な舌なめずりを、這わせていった。
すべて、ぼくの目のまえでのことだった。
ぼくに見せつけようとして、わざとそうしたのだった。
ゴクゴク・・・ゴクゴク・・・
妻の生き血は、じつに美味そうに、飲み尽くされてゆく。
頼むから・・・頼むから・・・妻を殺さないでくれ・・・
ぼくは必死に懇願した。
彼はぼくのほうを見やると、いった。
「大丈夫だ。
 気前よく血を分けてくれたあんたは、恩人だ。
 恩人の嫁さんを死なすほど、俺はひどいやつじゃない」
でも――と、彼は言いよどんだ。
恩人の嫁さんを、ともに愛する習慣を俺は持っている・・・
えっ。
絶句するぼくの前。
妻はその場に押し倒されて、ブラウスを剥ぎ取られていった・・・

逞しい腰の上下動に、妻の細腰が支配されてしまうのに、さして時間はかからなかった。
妻は無言で、おずおずと。
さいしょのうちは、ひどく遠慮がちに、そして行為そのものを忌むように、
むぞうさに圧しつけられてくる男の腰に、動きを一方的に支配されていた。
「地味子だなあ」彼はいった。
たしかに、妻は地味で、見映えのしない女だった。
「でも――俺はこういう子が好きなんだ」
彼は40に手が届こうかという妻のことを、こういう「子」と呼んでいた。
あとで訊けば――数百歳になるという彼にとって、ぼくたち夫婦はほんの子ども見えたのだろう。
彼は妻と身体を重ねつづけて、唇を吸い、うなじを吸って、
自分の背中に妻の両の腕(かいな)を巻きつけまでしていって、妻を支配してゆくのだった。
やがて、自由自在に操られてしまった妻は、ぼくだけの妻ではなくなっていた。
ぼくとの夫婦の営みよりも、遥かに大胆に腰を振って、彼の欲望に応えていった。

ひとしきり凌辱を済ませると、彼はいった。
「奥さん、あんた以外は初めてのようだな」
真面目な妻なんだ・・・
ぼくはさすがに、涙ぐんでいた。
「素晴らしいものを頂戴した。礼を言う」彼はいった。
そして、まだあお向けになったままの妻のスカートをたくし上げると、
太ももにしつようなキスを這わせた。
妻は恥ずかしそうにしていた。
あとで訊いたら、「穿き古しのストッキングが恥ずかしかった」と言っていた。
そんなときでも、いやそんなときだからこそ、そんなことが気になったのだろう。
妻の穿いているストッキングは、肌色のごくふつうのタイプのものだった。
そのふつうの主婦の穿いたふつうのストッキングを、男はじっくりと、味わっていった。
くまなく、味わい尽くしていった。
チリチリに破けたストッキングの脚を街灯に曝(さら)したまま、妻が気絶すると。
彼はもういちど、ぼくのほうへとにじり寄った。
そして、まだ咬んでいないほうの脚のスラックスを引き上げて、靴下の上から唇を吸いつけてきた。
ストッキング地のハイソックスを通して、男のなまの唇が、ひどく好色に迫って来る。
彼はボクの靴下を、唇で、それから舌でもてあそんだ。
さっき妻のストッキングにそうしたように、辱め抜いたのだ。
「あんた、薄い靴下が好きなんだな」
ぼくは、やっとの想いでいった。
「わかってくれて嬉しい」彼はいった。
「妻のストッキングも狙っていたのか?」
「そうだ。買い物に出た時にストッキングを穿いていた」
そんなころから――ぼくは呆れる思いだった。
「だが、あんたの知らないところで奥さんを先に襲うのは無礼だと感じた」
不思議なことを律義に考える男だった。
「ご主人の靴下のほうが、しっかりとした舌触りがするな。
 生地も少しだけ、厚いんだろう。
 だが、実に艶めかしい味わいだ。気に入った。何足も持っているはずだね」
「ああ持っているとも――」
ぼくはこたえた。
「破りたいなら、破ればいい」
半ばやけくそになって、ぼくはいった。
「遠慮なく、楽しませてもらおう」
彼はそういうと、ぼくのふくらはぎにズブリと牙を埋めた。
妻の穿いているストッキングと同じくらいしつように嬲りものにされながら、
ぼくの足許を染めていた薄地のナイロン生地は、ふくらはぎの周りでブチブチとかすかな音を立てて、裂けてゆく。
「ご満悦なようだな」
からかってやりたい気持ちになっていた。
しかし彼は悪びれもせずに、「ウン、ご満悦だ」とだけ、いった。
頭の奥が痺れてきた。
ヌルヌルと抜かれてゆく血液が妖しく傷口を撫でて、どこか官能的な気分をそそり立たせてくる。
いったいどうして・・・?と疑問に思うと、それを読み取ったかのように、彼はいった。
「奥さんもたぶん、同じ気持ちだ。
 たいせつな血液をいただくお礼に、少し楽しませてあげようと思うのだ」
いい気なことを・・・という言葉を、ぼくは飲み込んだ。
いつの間にかぼくは、ずり落ちかけたストッキング地の靴下を自分から引き伸ばして、男の舌に晒してやっていた。
「いい舌触りなんだろ?好きに楽しめよ」
ぼくは駄々っ子みたいに、口を尖らせていた。
「嬉しいね・・・」
彼はそれに応えるように、たんねんに舌を這わせてきた。
きめ細やかなやり口だと、認めないわけにいかなかった。
ぼくは素肌に、鳥肌を立ててしまっていた。
当然彼も、そのことに気づいているはずだった。
「妻のストッキングも、楽しみたければ楽しめばいい」
ぼくはすっかり、投げやりな気分になっていた。
「そうさせてもらう。まだ喉が渇いている。死なさない程度に、奥さんの血をいただくよ」
「妻さえよければ、ぼくはかまわない――」
さっきまでのぼくには予想もしないようなことを、ためらいもせずに受け答えしていた。

男の唇が再び、スカートをたくし上げられた妻のふくらはぎに吸いつけられてゆく。
妻はかすかに、意識を取り戻した様子だった。
失血で喘いだ身体は、うつ伏せの姿勢になっていた。
はからずも。
ふくらはぎを存分に、楽しませてやることのできる体位でもあった。
しつように這わされてくる男の唇を迷惑そうに見おろしていたけれど、
ピチャピチャと舌なめずりする男の悪戯を、やめさせようとはしなかった。
そして、ぼくがそうしたように、ずり落ちかけたストッキングを引きあげて、恥知らずな舌なめずりに、晒していった。

うふふ・・・ふふふ・・・
妻の口許から、含み笑いが洩れてくる。
彼は妻の穿いているストッキングをあますところなく咬み破ってしまうと、
妻の身体をあお向けさせて、またも首すじを咬んでいた。
妻の首すじが、そんなに気に入ったのか?
ぼくの投げた悪罵を横っ面で受け流して、それでも彼はこたえを投げ返してきた。
「ああ気に入った。地味子は佳い血を持っている。首すじの咬み応えも、なかなかよろしい」
彼の答えの不気味さのあまり、ぼくは背すじをゾクッと慄(ふる)わせた。

信じられなかった。
唇と唇が、重ね合わされた。
セミロングの黒髪を、男の指先で弄ぶままにさせながら、
妻は恋人のように、迫らせられた唇に応えていった。
ふたりは、お互い求めあうように吸い合い、また吸い合った。
自分の血の味を嗅がされながら、妻は「ほろ苦いですね」と呟いた。
彼はいった。「いやな匂いじゃないだろう」
「ハイ、嫌ではないです」
妻は案外なくらい、ハキハキとこたえた。
ふだんはボソボソと囁くように、低い声で話す妻だったが、
その活舌のよさは、初対面の人に向ける、よそ向きの顔をしたときの態度と同じだった。
「じゃあもう少し・・・」
彼に言われるままに唇を吸われ、吸い返しながら、妻は始終、ぼくの視線を気にしていた。
「あなた、ゴメン」
初めてふり返った妻は、ぼくに向かってそう告げた。
差し伸べられた妻の掌を、ぼくはぎゅっと握り返してやっていた。
「生命は助けてくれるみたいだから――」と、
まるで自分から望んで妻の生き血を与えた夫みたいなことを、ぼくは妻に向かって告げていた。
「ウン・・・」
妻は口ごもりながら頷き返してくると、
「じゃあ、あげられるだけの血は全部、あげまちゃいますから――」と、彼に向っていった。
彼は熱いキスで、妻の好意にこたえた。
それからふたりが身体をひとつにしてしまうのは、もはや当然のようななりゆきだった。
強引に迫らせられる逞しい腰に、妻の細腰は翻弄された。
さいしょのそれは、強いられた行為といってよかったが、
いま目のまえで妻が営んでいる行為は、決してそうではなかった。
男にかしずく女の所作になっていた・・・

「地味子さんの血を、時々楽しませてくれないか」
ぼくたち夫婦をひとまとめにして自宅に送り届けた彼は、夫婦の寝室に寝かしつけたぼくたちに、訊いた。
「いまさら、なにを――」というぼくに、
「あくまで地味子さんのご主人はきみだから」と、彼はいう。
「私からは言えない」
妻は身を横たえたまま、ぼくに目線を送ってそういった。
あの人に血を吸われたいだなんて、人並みな主婦の私には恥ずかしくて言えない。
そういう意味だとすぐにわかった。
挟み撃ちに合ったような気分だった。
けれどもたぶん、
彼はぼくのことを、冴島百合子の夫として尊重しているつもりなのだ。
そして妻もまたぼくのことを、自分の夫として重んじているつもりなのだ。
もう、しょうがないなあ――
失血にけだるく歪んだ理性を振り覚まそうとしながら、ぼくはいった。
「生命を奪らないというのなら――これからも妻の生き血をよろこんで、ご馳走しよう・・・」
「ありがとう」
「ありがとう・・・」
彼からだけではなく、妻からもお礼を言われてしまった。
「もちろんぼくも、あんたに血液を提供するから。
 できれば・・・妻に手を出すのは、そのあとにしてもらいたい」
ぼくはそういって、夫としての面目を、かろうじて保とうとした。
「薄いハイソックス、いっぱい買い置きしておきますからね」
妻は主婦の目に戻って、ぼくにそういった。
「ストッキングがお好きだなんて、変態ですよね」
妻はそう言って、あっけらかんと笑った。
彼も面白そうに、声をあげて笑った。
ぼくも二人と声を合わせて、笑っていた。
三人が初めて意気投合した瞬間だった。

「どうして妻のことを、地味子なんて言うの?」
ぼくは訊いた。
彼はちょっとだけはにかんだような目つきになって、こたえた。
「彼女のこと、きみと同じ名前で呼んじゃ悪いと思ったからね――」
ぼくは彼のことを、かわいいとおもった。
それが彼のたくらみだとしても、もう良いと感じていた。
「構わないさ。百合子はぼくにとって今でも最愛の妻だけど――
 もうすでに、きみの愛人の1人に組み込まれてしまったのだろう?」
「うん、まさに俺のコレクションのなかの、だいじな1人だな」
彼はヌケヌケと、そういった。
「愛人がいっぱいいないと、私いつも貧血になっちゃう」
妻が間髪入れず、援護射撃を入れてきた。もう完全に、愛人を弁護する立場だった。
「夫として許可しよう。
 きょうからきみの百合子だから――いっそ呼び捨てにしてもかまわない」
首のつけ根につけられた傷口が、ジンジンと妖しく疼いた。
「その代わり――ぼくの血も楽しんでくれないかな?」
うわ言のようになったぼくの声色を察して、彼はすぐさまぼくのほうへとにじり寄ると、激しく疼く傷口を吸った。
じゅるうっ。
生々しい吸血の音に、痺れてしまった・・・
ごくん、ごくん・・・露骨な音を立てて飲み味わわれながら。
ぼくは痺れを覚えたまま、彼の欲求に応えつづけた。
惜しげもなく、血液をむさぼり摂らせてやっていた。
「つぎは百合子の番だね」
嬉し気に弛んだ口許に、妻は自分のほうからキスを重ねる。
ぼくの血がたっぷり撥ねた唇に、妻の唇が妖しくからみついた。
「ご主人、悪いが百合子は俺のモノにさせてもらうぜ――」
彼はそう言って、思うさま血液を抜かれたぼくのすぐ傍らで、妻を犯し、そして狂わせていった。
頭を撫でられ、キスを雨のように降らされ、
破れ残ったストッキングを弄ばれて、貧しい乳首を存分に舐めまわされて。
妻は夢中になって、堕ちてゆく。

その夜、ぼくたち夫婦は彼の、忠実なしもべとなっていた。

同期の妻

2023年11月29日(Wed) 01:34:11

はじめに

連載?の途中ですが、別プロットのお話がさらっと描けちゃったので、そっちからイキます。^^


吸血鬼を受け容れたこの街には、都会のオフィスの支店がある。
街の出身者であるこの会社の社長は、故郷に錦を飾るため、
吸血鬼に血液を供給することを目的にこの支店を立ち上げ、社員たちを家族帯同のうえで赴任させていた。

初代の社員たちは、あっという間に食い尽くされて、
たった一週間で家族を含めて全員が捕食され、街の住民と全く同化していた。
そのつぎの一団も、すぐに同じ運命をたどった。

第三次として派遣された社員たちも、同様だった。
すこしだけ異なったのは、家族もろとも血液を善良提供する羽目になった第一次第二次の社員たちには、新たに動員された第三次の社員やその家族に対して、優越権が付与されていることだった。
表向きの日常生活を人間として生き、夜は半吸血鬼として人の生き血を楽しむ習慣を植えつけられた彼らは、
同じ会社の社員として、新来の同僚たちを淫猥な吸血の世界にいざなう役割を果たしていたのだ。

「きょうはこれで終業なのかな?」
三日前に着任したばかりの早勢貴之は、同期入社のノリカワをかえりみた。
「うん、拍子抜けだろうけど、ここの仕事はこんなもんさ」
ノリカワはのんびりとそう応えると、こんな早くに帰ったら嫁さんにうるさがられないかい?と冗談を言いながら、貴之を行きつけのラウンジに誘った。
ラウンジは街では唯一の五階建てビルの最上階にあった。
スーツの肩を並べて見晴らしの良い眺望を楽しみながら、
「こういうところは女を誘ってくるべきだったなあ」
と、ノリカワはのんびりと笑う。
「あはは。そんなことしたら嫁さんにぶっ飛ばされちまうよ」
結婚して1年の貴之は、まだ独身の同僚の冗談を、軽くかわした。
ノリカワに従(つ)いてくる女なんて、いるんだろうか?
貴之はひそかに思った。
どうみても風采の上がらない、人の好いだけが取り柄で、いかに生真面目な努力を重ねたとしても上司にすんなりと見過ごされてしまうタイプの男――貴之は悪意の持ち主ではなかったが、ノリカワのことをそう見ていたし、実際ノリカワはそういう男だった。

けれどもたしかに、夕陽に染まるがじょじょに暖色を喪ってゆくその光景はなかなかドラマチックで、ノリカワの言い草ももっともだと思わずにいられなかった。
貴之の妻・憲子は、ノリカワと面識があった。
面識があるどころか、3人は同期入社だった。
憲子は名門女子大を優等で卒業した才媛で、入社当初から同期からはもとより、周囲から注目された存在だった。
そんな憲子にノリカワが密かに想いを寄せていたことを、貴之はまだ知らない。
憲子と結婚すると告げられたノリカワは、無念そうな表情をとっさに隠し、親友の幸運を祝った。
風采のあがらないノリカワにとって、意中の女性をほかのだれかに攫われる経験は、初めてのものではなかったから、
貴之はノリカワの無念にまったく気づかずに、披露宴の友人代表まで彼に依頼したのだった。
ノリカワの無念、思うべし・・・

妄想のなかで、なんど反すうしたことだろう?
いつもの生真面目な表情など忘れたように、好色な色もあらわに迫って来る貴之をまえに、
純白のウェディングドレス姿の憲子が怯えながら後ずさりしてゆく光景を。
憲子を追い詰めた貴之はわが物顔で彼女を抱きすくめて、量感たっぷりなドレスのすそを大胆にまくり上げると、同時に彼女の身体を力まかせに押し倒していくのだ。
倒れ込んだ拍子にあらわになった太ももは、ひざ上までは真っ白なストッキングにピンク色の脛を滲ませながらも、健康そうな素肌を覗かせる。
脚に通した純白のガーターストッキングをふしだらに皺寄せながら、
ものなれた貴之の上下動に腰の動きを支配されながら、
おずおずと動きを合わせてゆく憲子――
その羞恥に赤らんだ頬にはいつか、淫らな色さえよぎらせてゆく・・・
淫らなものが清純なものを支配するとき、淫らなものは自身の淫猥で、相手をも淫らに染め抜いて狂わせてゆく――
そんな情景が、まるで焼きごてのように呪わしく、ノリカワの脳裏に刻みつけられた。

「おいおい、次なんにする?」
次のドリンクを貴之に促されて、ノリカワははっとわれに返った。
「アハハハ、ぼーっとしているところは相変わらずだな」
貴之は他愛なくわらった。
けれどもノリカワは、いままでの自分をこばかにされたような気分をひそかに味わった。
片田舎にありながら、社長の特命で創設されたこの部署を希望するものは多い。
けれどもそれには身体検査や心理テストを含む数々のハードルをクリアしたものにしか、開かれていない。
エリート感覚を人並み以上に身に着けていた貴之が、そういうポストに目をつけないわけはなかった。
そして、自分よりも早い段階でそのポストに、お間抜けで人の好いあのノリカワが、当たり前のように先着していることが、不思議でならなかった。

いつの間にか、男2人の隣には、ドレスに着飾った若い女性がついていた。
「こういう店なのか?」
貴之が訊くと、
「まあいいじゃないか」と、ノリカワはかわした。
「奥さんには黙っておくよ」ノリカワはのんびりと笑った。
相変わらずお間抜けなやつだ――貴之はおもった。
こんなお間抜けなやつがどうして、俺の狙ったポストに先に就いているんだ?
素朴な疑問は、嫉妬に満ちていた。
エリート社員にありがちな、すべてにおいて競争相手よりも優位でなければならないという意識を、貴之は当然のように持ち合わせていた。
貴之の隣に来た女性は、ピンクのドレスが良く似合う、はたちそこそこの娘だった。
目鼻立ちは秀でていて、ちょっと交わした会話で、彼女がまれに見る才気の持ち主だということも分かった。
一方、ノリカワの隣に控える水色のドレスの女はすこし年増で、それ以上にくすんだ印象で、どうみても30代後半だった。
まったく――こういうところでつく女の格でさえ、やつは冴えない。
貴之は心の中でほくそ笑んだ。
とはいえ、多少の軽蔑は感じるものの、ノリカワは当地では唯一の同期であり、警戒心を必要としない(つまり出世レースでの競争相手ではない)貴重な仲間だった。
貴之はそういう意味で、ノリカワに対して友情と親愛の情をもっていた。
彼は自分でも知らないうちにノリカワの恋する女を奪っていたが、もしその真相に気づいたとしても、彼は自分の自尊心を満足させただけだっただろう。

知らないうちに杯を重ね、刻が過ぎていった。
さあそろそろ――と起ちあがったときにはもう、9時を過ぎていた。
「アラ、もうお帰りになっちゃうんですか?」
ピンクのドレスの女が、軽い失望をあらわに上目遣いの秋波を送ってくるのが小気味よい。
「うーん、家では嫁さんが待ってるからね」
貴之はそういって、お会計を・・・と言いかけた。
その瞬間。頭と足許とが真っ逆さまになった。
のんびり屋のノリカワが、「おい、おい!」と、いつにない切迫した声をあげる。
「アラ、いけない!」
ピンクのドレスの女がとっさに貴之を抱きかかえ、冷たく絞ったタオルを額に当てる。
水色のドレスの女は視界の隅っこで、病院に連絡でもしているのだろうか、それまでの遅鈍な応対とは裏腹になにやらテキパキと手配していた。
飲み物になにか入っていたのか??と思う間もなく、貴之は意識を失った。

「だあーいじょうぶかあー?」
聞き覚えのあるのんきな声が、意識を取り戻したばかりの耳に飛び込んできた。
あお向けに寝そべった真上には、病院のものらしい無機質な天井が広がっている。
声のしたほうをふり返ると、ノリカワが気遣わしそうに自分のほうを見ていた。
ノリカワは黒いマントを羽織っている。勤め帰りのワイシャツの上からだから、どうにも不自然で、不格好にみえた。
「どうしたんだその恰好!?」
自分が倒れ込んだのも忘れて、貴之は怪訝そうにノリカワを見返した。
「あー、これかい?献血のご褒美だよ」
ノリカワは相変わらず、のんびりとこたえる。
「献血?」
訊き返す貴之に、ノリカワは真顔になってこたえた。
「そう、献血」
ノリカワの表情が微妙にくすんで、真顔になる。
「どうした――?」
もう一度訊き返すいとまもなく、ノリカワは身を乗り出してくる。
彼の口許が視界を離れたと思うとすぐに、首すじに鋭い痛みが走った。
「悪い!かんべんしてくれや」
咬みついてきたはずのノリカワがしんそこ済まなさそうに、手を合わせる。
ど・・・どういうことだ・・・っ!?
ノリカワとは反対側にいる誰かが、貴之の両肩を痛いほど強く抑えつけてくる。
そしてそちらの側からも、首すじのもう片側に同じ衝撃を加えられるのを感じた。
いったいなんなんだ?なにが起きているんだ?
貴之は混乱した。
ベッドの上に横たわる両方から抑えつけられて、首すじを咬まれている――それだけはどうにか知覚できたけれども・・・
なによりも、首すじの感覚が不気味だった。
ジンジンと痛みを滲ませる首すじに、生温かく湿ったものが圧しあてられてきたのだ。
そいつはにゅる・・・っと這いまわりながら、噴き出てくる血潮を、ゆっくりと、ネットリと、舐め取ってゆく。
人間の唇・・・?
ぎょっとしてふり返った。
え・・・?
貴之は信じられないという顔をした。
さっきのピンクのドレスの女が、ニタニタと笑っている。
うら若く知的で落ち着いたイメージを跡形もなく払いのけて、下品で強欲そうな色を泛べていた。
はたちそこそこ、と思っていたのは、どういう錯覚なのだろう?
女は六十はとうに越えた老婆だった。
そのうえ口許には、貴之から吸い取った血液を、ヌラヌラ光らせている。
女が貴之の血を喫(す)ったことは、疑いなかった。
「ど、どういうことだ!?なんなんだよこの女!?」
貴之は叫んだ。
「もう少し辛抱して・・・じきに憲子さんも迎えに来るから――」
ノリカワは相変わらず、のんびりとした声色だった。
ベッドのうえ、四つの掌に抑えつけられて、貴之はひたすら、二人に首すじを吸われつづけていった。
ノリカワと老婆とが、自分の血で喉を鳴らして旨そうに飲み味わってゆくのを、どうすることもできなかった。
「若いっていいわね」
ピンクのドレスの女がいった。
女の口許には、貴之の身体から吸い取った血潮が、生々しく輝いている。
「こいつ、スポーツ万能で女にモテたんだ。ぼくとは大違いだろう?」
「アラ、貴方だって良いところあるわよ」
女がいった。
自信もちなさいよ――と言われながらノリカワは、
「あんた優しいな、お世辞でも気がまぎれるよ」
と、まんざらでもなく感謝している。
「あんたも飲みなさいよ。恋敵の血は旨いわよ」
女がいった。
「ど・・・どういうことだっ!?」
恋敵という言葉を聞きとがめて、貴之が声をあげた。
ノリカワは女の誘いにウンと頷いて、起ちあがった。
そして、布団をめくると、貴之の太ももにかじりついた。
食い込んできた犬歯は尖っていて硬く、貴之は悲鳴をあげた。
「まだ効いてなかったのね」
女がいった。
「構わないから、思う存分やっちゃって」
女の指示に応えるように。
ズブリと食い込んできた犬歯は、皮膚の奥に脈打つ太い血管を食い破った。
じゅわっ。
大量の血が撥ねた。
布団に生温かい液体が飛び散るのがわかった。
「なっ、なにを――」
絶句する貴之におかまいなく、ノリカワはほとび出る貴之の血を嚥(の)んでいった。
そのうちに。
咬まれた傷口の痛みが鈍磨してきて、痺れを帯びた疼痛に変わってゆくのを、貴之は感じた。
「うふふふふふっ。効いてきたわね。あんたもやるじゃない」
女は、自分の相方を褒めた。

時間が経った。
首すじや太ももから流れる血の勢いが、さいしょのころよりはずっと、緩慢になっている。
失血のせいなのか、手心を加えた咬み傷が、自然に止血に向かっているものなのか。
「な、なんなんだよお前――」
ぼう然と呟く貴之に、
「うん、いきなりで悪りぃな」
と、ノリカワはなん度めかの詫びを入れる。
「あんた、謝り過ぎだよ」
ピンクのドレスの女が突っ込んだ。
「悪りい。ぼくの悪い癖だね」
ノリカワは従順に受け答えした。
「そうだな、今夜から貴之の血はぼくのものなんだもんな」
貴之はとびあがらんばかりに驚いた。
そんな貴之に応えるようにノリカワは、
「これ・・・」
と、ワイシャツのうえから不格好にまとった黒マントをちょっと持ち上げた。
「いまのぼくの正体」
ノリカワはみじかく告げた。


半年ほど前のこと。
ノリカワが赴任した最初の日だった。
所属長に招ばれて所長室に入ると、そこには見慣れぬ女が控えていた。
「ああ、ノリカワくん?この人ね、きょうからきみの女あるじだから」
所属長は事務的な口調でそういうと、スッと事務所から出ていった。
どうみても還暦過ぎの老婆は、無言で迫ってきた。
痩せこけた体格に似合わず、万力のように強い力で、ノリカワのことを押さえつけると、カサカサに干からびた唇を、その首すじにあてがった。
ノリカワが女の正体を自覚するのに、数分とかからなかった。
女はノリカワの血で、ゴクゴクと喉を鳴らした。
自分の血を愉しまれているのを、ノリカワはすぐにさとった。
死なす気なのか?それとも、たんに血を楽しんでいるのか?判断がつかないままに、女は自分の血を貪欲に含んでいった。
「あー、うー、こ、降参・・・」
ノリカワがそういうと、女は嗤った。
「あんた呑気なのねえ」
身体の力を失って足許に転がったノリカワは、言い返す気力もなかった。
「だいじょうぶ。あんたの若い血は、ぜんぶ飲んであげるから」
女はそういうと、軽くハミングしながらノリカワを抑えつけて、
ワイシャツから覗く首すじに、もういちど唇を吸いつけてきた。
「あ、あ、あ・・・」
うろたえているうちにも、血液はズイズイと、抜き取られてゆく。
「ぼく死んじゃうんですか」
ノリカワは訊いた。
「あなたしだいだね」
女はこたえた。
「まだ四十代のお母さんと、中学生の妹さん、いるでしょ?」
耳たぶに圧しつけられた囁きが、くすぐったい。
「お二人を招んで。だいじょうぶ、死なせない。
 招んでくれたら感謝する。とっても嬉しい。というよりか、援けてほしい。
 私のこと――」
女はそういうと、こんどはノリカワのズボンを脱がせて、太ももに喰いついてきた。
「若いひとの身体って、咬み応えがいいわ。あんたの身体って最高――」
女はいった。
貧相な体格をしたノリカワは、自分の体躯を褒められた経験がなかった。
「ぼく、運動音痴だし、全然ダメなんですよ・・・」
ノリカワは、やっとの想いでいった。
「あんたって、ほんとうに良い人だね。私、あんたの血を吸い尽くしちゃうかもしれない女なのよ」
女はいった。
「でも・・・でも・・・なんか話が通じそうな気がするから・・・」
ノリカワは、懸命につづけた。
「血をあげれば助けてくれるってことで、とりあえず良いですか?」
女は無言でうなずいた。
「でも、家族にはやっぱり、手を出さないで欲しいです」
それするくらいなら、ここで死んだほうがましだから・・・
生きるか死ぬかの瀬戸際でさえ、そう口にする気持ちがノリカワにはあった。
「もったいないなぁ――」
女はいった。
どうやら、獲られる血液の量と自分の生命とが、両てんびんにかけられているらしい。ノリカワはおもった。
でも――やっぱり家族は犠牲にできないよな――ノリカワは、覚悟を決めた。
女は意外に、寛大だった。
「わかった。助けてあげる。家族招びたくないなら、それもいい。でも、私のことも援けてほしい。これはお願い」
「ど・・・どうやって?」
女はノリカワの背中を抱き起して、彼の上体をひざで支えながら、いった。
「あんたの血を頂戴。くれられるだけで良いから。やっぱり若い血っていいな。あんたの血を吸って、改めてそう思った。
 生きるために欲しいし、楽しむためにも欠かせない。
 時々でいいからさ――」
「褒められているの?それとも、ぼくってあなたにとって、ただの獲物なの?」
ノリカワは呟いた。
「褒めているんだよ。家族を拘わらせたくないって言うあんたの心意気も素敵」
女はいった。
「でもあたしたちも、人間の血が要るの。こんなこと、都会では絶対無理。だからここの人たちといまは、仲良く暮らしてる・・・」
そういう街なのよ、ここは――と、女はつづけた。
わかったよ・・・
ノリカワは、とうとう観念した。
そして、人間の生き血がなければ生きていけないという女に同情した彼は、
「ぼくので良かったら、いいですよ」と――
自分の血液を提供することを約束していた。

「ノリカワくん、きみの査定をあげるからね」
翌朝出社すると、所属長はやはり事務的な口調で、ノリカワの昇給を約束してきた。
「夕べのことですか?」
ノリカワはいった。
「わかってるだろうけど」
所属長は乾いた声でこたえた。
「だったらいいです」
え・・・?
怪訝そうに見返す所属長の視線をはね返すように、ノリカワはいった。
「あのひと困っているみたいだから、自分の意思でそうします。
 でも、親からもらった血と引き換えに金をもらうなんて、あり得ません」
ノリカワの言い草に、所属長はグッと詰まったようだった。
「感心だね、きみは――」
うわべの言葉だけではなく、本音で感心したようすだった。
「そう言ってくれるのなら、きみは本当の意味での仲間だ」
所属長はいった。
「じつは私も、ここに来たばかりの時にはびっくりした。
 わたしも、妻と娘ともども、あの人たちに献血しているんだ。
 さいしょは自分のめぐり合わせを呪ったが、
 いまでは家族ぐるみで、仲良くやっているんだ。
 きみのような人が増えると、とても助かる。
 なにしろ・・・困っているひとが多いものでね」
自分の妻がモテるのって、夫としては嬉しいものだよ――と、所属長は小声でいった。


すべてが信じがたい話の連続だった。貴之はただ、お人好しな同期の顔を、穴のあくほど見つめ続けていた。
「それからね、しばらくしてぼくは、母さんと妹を招んだんだ。
 処女の血は重宝されるから、死なせることも吸血鬼にすることもないけど、
 セックス経験のある女のひとって、みんな迫られちゃうんだ。
 だから、母さんのことはあらかじめ父さんにも話さないと――って思っていた。
 父さんはね、なにか予感したんだろうね、ふたりを招んだときに、いっしょについてきたんだ。
 ぼくは3人のまえで、いまの状況を正直に伝えた。
 母さんに浮気してくれって頼むようなものだから、ひどい息子だと思われるとおもった。
 親子の縁を切られてもしょうがないかなって思ってた。
 それでもぼくは一人でこの街に残るから――って言ったら、
 母さんが号泣したんだ。
 あんた一人でなに悩んでるのよって。
 それから、『お父さん・・・良いですか?』って、父さんに訊いてくれたんだ。
 父さんは間違いなく、母さんに気おされていた。
 自分の妻が吸血されて犯されるなんて、ふつう受け容れられないよね?
 父さんもさすがに、かなりためらっていたけれど、さいごには、
 『ユウキを独りにするわけにはいかないもんな』って、言ってくれた。
 うちの一家が家族そろって献血するようになった功労者は、ぼくじゃなくて父さんだね。

長い時間かかったはずの打ち明け話なのに、ものの数分と経っていないように、貴之は感じた。
「え・・・じゃあ、いまはご一家でこっちにいるのか?」
「ウン、さいしょは一泊のつもりだったけど――妹の学校もあるしね――結局三泊していったんだ。
さいしょのうちは、沙織だけはよしましょうよ、将来があるんだから家に帰してあげようよって母さん言ったんだけど、
 沙織はみんなそうなるのに私だけ仲間外れなんて嫌だって言って・・・
 母さんには、七十過ぎの痩せこけたお爺さんがついて、
 父さんは母さんを襲う前に、自分を何とかして欲しいってそのひとにお願いして、さきに吸われて、気絶寸前までなって、
 その目の前で、母さんも首すじを咬まれていったんだ。
 母さんの血が美味しそうに吸い出されるのを見て、このひとたちに家族を紹介できて良かった――って思ってしまっていた。
 沙織は、そのお爺さんとはべつの男が欲しがって・・・
 希望者が3人いたんだけど、母さんは自分が咬まれる前にその人たちとお話してみたいっていって、
 でも、3人とも若い子の血が欲しいって必死な様子で――母さんも決めかねちゃって・・・
 それを見ていた沙織が、みなさんでどうぞって――
 沙織のやつ、制服着てきたんだけど・・・
 相手の男のうち、沙織に真っ先に咬みついたやつは、
 初めて好きになった子の制服が紺のジャンパースカートだったんだって、嬉しそうに言ってたっけ。
 ほかの1人は白のハイソックスが大好きだって、
 沙織の脚を咬んで、ハイソックスを真っ赤にしながら血を吸い取って、
 もう1人は、オレわき腹が好きなんだって、制服に穴をあけてごめんねって言いながら、
 沙織のジャンパースカートのうえから、わき腹に喰いついていた・・・
 母さんの希望者も、4人いたんだ。
 「沙織に勝っちゃったみたい♪」って、父さんのまえでわざと陽気に振舞って見せて、
 父さんは、気絶寸前まで失血しながらも、ずうっと意識を保とうとしていて、
 「殿方大勢にモテモテになって困っちゃう」って笑う母さんが堕ちていくのを、さいごまでしっかりと見届けたんだ。
 ぼくは一期生だったから、家族の血まで気前よく与えたお礼をもらえることになった。
 その後に赴任してくる同僚やご家族のなかから、好きな人を選んでいいって。
 ほんとうは、そんなの要りません――って言ったんだけど。
 無欲なのもいいけれど、きみも血を提供するんだから、少しは健康を維持することを考えなくちゃいけないよ――って、
 所属長に勧められて・・・
 ぼくの隣に座っていた、水色のドレスの人、いただろ?
 あの人じつは、次長の奥さんなんだ。
 次長は二期生で、ぼくは一期生だからね。
 当然ぼくのほうが、優越するルールなんだ。
 やって来た女の人たちのなかで、いちばん惹かれたのがあのひとだったんだ。
 あのひと、47なんだよ。若く見えるけど。
 でも、ああいう人好みなんだよね。こんなことだから、結婚できないんだろうけどね。
 次長は愛妻家だから、気の毒だよねって思ったけど――
 いまは、それなりに仲良くやってる。
 赴任中にだれにも咬まれないことは不可能って聞かされていたから、
 どうせだれかに咬まれるのなら、妻を好いてくれる人のほうがまだましだ・・・って、思ってくれて。
 「家内に目をつけるなんて、きみは目が高いね」って笑ってくれて。
 同じ女性を好きなもの同士、よろしく頼むよ――って、言ってくれたんだ。

「と・・・いうことはさ・・・つまり・・・」
貴之はあえいだ。
標的は自分だけではない。憲子が危ない。
そう実感した矢先、病室のドアが開いた。
「あなた、だいじょうぶ?」
憲子が心配そうに、ベッドの上の夫を見ていた。

そのあとのなりゆきを、貴之はずっと忘れない。
「アラ奥さん、よくいらしたわね」
ピンクのドレスの妖怪が、憲子に声をかけた。
なにも知らない憲子は礼儀正しくお辞儀して、
「主人がご迷惑をおかけしました」
といった。
「イイエ、そんなことないわよ」
とこたえる老婆の言葉は、本音と裏腹だった。
――これからたっぷり「ご迷惑」をかけるのは、こっちのほうなんだから――
横顔にそんな想いがありありと刻まれていた。

連れて帰れる状態なのですか?と訊く憲子に対して女は、
「ご夫婦でひと晩泊まれば良いじゃないですか」
と、わざとらしく笑った。
え・・・?
怪訝そうに首をかしげる憲子の背後に、ノリカワが迫った。
いけない・・・ダメだっ。
貴之は叫ぼうとした。
憲子、後ろっ。そいつにつかまるなっ。
――そう叫んだつもりだった。でも、声にならなかった。
その次の瞬間、後ろからノリカワに羽交い絞めにされた憲子が、首すじを咬まれて悲鳴をあげた。
悲鳴のすぐあとに、ノリカワの突き立てた牙が根元まで埋ずまるのを、貴之は視た。
妻の首すじに密着した頬にバラ色のしずくが大量に撥ね散るのも、貴之は視た。
じゅるうっ・・・と、ノリカワの喉が旨そうに鳴るのを、貴之は聞いた。
や、やめてえっ!と叫ぶ憲子が、吸血が進むについれて動作を緩慢にしてゆく。
自分の母親が父親の前で犯されたように。
ノリカワは俺の前で、憲子をモノにしようとしている――
貴之は、目のまえが真っ暗にまる想いだった。
エリートコースをひた走っているはずの俺が、どうして?
同期きってのエリートと結婚したはずの憲子が、どうして?
うろたえる貴之に向かって、ノリカワが声を投げた。
「貴之、悪りい。ぼく、憲子さんのこと好きだったんだ」
え?貴之は耳を疑った。聞いてないぞ、そんな話・・・
「でもそういったら所属長が、『じゃあ早勢くんの奥さんは、きみが面倒を見ると良いよ』って言ってくれたんだ。
 所属長も、自分の奥さんの相手は、奥さんのことを気に入ってくれたひとを選んでいたからね――
 次長だって、ぼくが奥さんのこと気に入ったから、吸血を許してくれたからね――
 ぼくに憲子さんはもったいないって、自分でも思うけど――
 できるだけのことをしてあげるつもりだから・・・・・・」
言葉も終わらずに、ドクドクと噴き出る憲子の血を、ノリカワはけんめいに口に含んでゆく。

「できるだけのこと」って、・・・なんだ・・・?
貴之はぼう然として、もみ合う二人を見つめていた。
血を抜かれた身体はぴくりとも動かなかった。
かつてノリカワの父親が先に血を抜かれて、自分の妻が犯されるのを見届けるはめになったときみたいに、
最愛の妻が凌辱されるところを目の当たりにするのを強制されるというのか・・・っ。
無念だった。理不尽だとおもった。
でも――ノリカワの牙は着実に憲子の素肌に肉薄して、首すじから肩先、わき腹と、なん度も喰いついていって、
そのたびに憲子は悲鳴をあげ、抵抗の力を弱めてゆく。
「憲子さんはおしゃれだなあ。いつも身ぎれいにしているから、憧れていたんだ――」
ノリカワは、真顔で告げた。
お前・・・ほんとうに憲子のことが好きだったのか・・・?
ハハ・・・
ノリカワは、乾いた声で笑った。
「きみとぼくじゃ、勝負にならないって。
 だからみすみす、お前が彼女に近づくのを、横目で見ているしかなかったんだ。
 無念やる方なかったけど、優れた男にはそうする権利があるんだものな・・・」
ノリカワの告白は、哀調を帯びていた。
ぐんぐんと上昇することしか視野になかった貴之のまなざしが、周りと、自分の後ろにも向けられてゆく。
そういうことだったのか――
貴之にも、非力だった幼年時代があった。
それから発奮してスポーツに励み、要領よく学歴も重ねて、いまの自分がある。
その積み重ねのうえに勝ち得たものに対して、後ろめたいなどとは思わない。
けれども、どうあがいてもどうすることもできないやつだっているんだ。
ノリカワは、そういう悲哀を30年以上、味わいつづけていたんだ。
貴之は、ノリカワがぶきっちょな努力家であることを知っていた。
同期で一番努力するやつだった。
なんて要領の悪い――だからいっつも、おいしいところを取り落とすんだ。
軽侮していたころのことを、遠く思い出す。
でも、立場が逆転したいまは、どうだろう?

「憲子・・・憲子・・・」
呼びかける妻は、もうこちらを視ていない。
憲子さんはおしゃれでいいなあ・・・こういうときでも、こぎれいなワンピースなんか着てくるんだもんなあ・・・
ノリカワの賛辞はきっと、本音なのだろう。
ひとを弄んで侮辱するやつでは、昔からなかった。
憲子はそのこぎれいなワンピースを、咬まれるたびに血浸しにしながら、
のけ反ったり、悲鳴をあげたり、お願い止してと哀願したりしている。
そのたびに。
ノリカワはゴメン、悪い・・・とぶきっちょに謝罪を重ねながら、
血に飢えた本能をそのまま、憲子に対してぶつけてゆくのだ。
「私の血、そんなに美味しいんですか!?」
とうとう憲子はそう叫んだ。
「あ、ハイ・・・!」
ノリカワは、叫び返した。
「私のことが好きなの!?」という叫びに、「好きです!」と応えるように。
憲子は困ったように佇み、夫を見た。
「大人しく飲ませてあげたほうが良いのかな・・・」
謝罪するような眼差しが、じわじわとくすぐったかった。
憲子が愉しみ始めていると、貴之は感じた。
咬まれるたびに。
着衣に血が拡がるたびに。
憲子は思い切り叫び、きゃあきゃあと騒いだ。
けれどもその声色に、いつかくすぐったそうな愉悦が混ざり始めているのを、貴之は聞き逃さなかった。
「私の服を濡らすのが楽しいんですか?」と訊き、はい・・・と答えられるとすぐに、
「もうびしょ濡れだけど、よかったらどうぞ」と、ワンピースのすそをたくし上げて、スリップのうえからお尻を咬ませてしまっている。

いままでなん人もベッドの上に押し倒してきた娘たちがあげるのと同じ声色を、目の前の妻があげ続けていた。

「少しなら。。。献血しても良いんじゃないかな・・・」
いかにも気の進まなそうな声色で、貴之は妻にこたえた。
「ノリカワは同期だから、きみがほんとうに困ることまでしないだろうから・・・」
言い添えた言葉に思わず本音を含んでのを、貴之は感じた。
「う、うん。そうするね」
憲子はかろうじてこたえて、ノリカワのほうを振り向いた。
「お洋服濡らすのが好きなんですか?」
「あ、ハイ。いけない趣味ですよね?」
「良くない趣味だと思います。女の人は怖がりますよ」と言いながら憲子は、
私はだいじょうぶだけど――とつけ加えていた。
ノリカワもその呟きを、訊き逃さなかった。
憲子はきれいな瞳で、ノリカワを見つめた。
「同期のよしみで、今夜はお付き合いしますから――」
それは、ノリカワがずっと待ち焦がれていた声だった。
差し伸べられたすらりとしたふくらはぎを、淡い光沢を帯びたナチュラルカラーのストッキングが包んでいた。
恐る恐る吸いつけた唇の下、うら若い血液を脈打たせる血管の気配にときめきを覚えながら、
ノリカワはむき出した牙に力を籠めて、憲子の素肌を食い破っていった――


あとがき
異常なお話ほどさくっと描けちゃうのは、どういうものなのだろうか?と、いつもながらに思います。(笑)

実現された妄想

2023年11月21日(Tue) 23:51:39

母さんを殺さないで――
清彦少年は、失血で自由の利かなくなった身体をジタバタさせながら、叫んでいた。
かなわぬ願いになるに違いない、と思っていた。
ところが、母親を掴まえて首すじを食い破り吸血に耽っていたその怪人は、信じがたい反応を示していた。
目が覚めたようにこちらに目を向けると、清彦少年の瞳をじっと見つめた。
深い瞳だ、と、少年はおもった。

代わりにボクの血をもっと吸っても良いから・・・
清彦少年はそういって、ふたりのほうへと身を近寄せようとする。
怪人は、気絶してしまった母親を放すと、少年のほうへとおもむろに這い寄ってきた。
「悪イガ、ソウサセテイタダコウーー」
くぐもったような声で怪人は少年の想いに応えると、
さっきからたっぷりと血を吸い取った首すじにもう一度唇を近寄せてきた。
清彦少年は、観念したように目を瞑った。

尖った牙が容赦なく、うなじの傷をもう一度抉ってくる。
新たな血が噴き出すと、怪人は心地よげに喉を鳴らして、少年の血に飲み耽った。
「美味イ・・・ジツニ美味イ・・・」
時おり傷口から口を放しては、怪人はなん度もそう呟いた。
二の腕の周りからギュッと抱きすくめる触手に込められた力は強く、清彦少年は時おり苦しそうに呻いた。
少年が呻くたびに怪人はわれに返ったように彼の顔を見、触手の力を弛めた。
頬を血塗れにさせながら、少年はいった。
「男の子でも、ハイソックスが好きだったんだよね?小父さん」

つい昨日のことだった。
少年の友人が3人ながら公園で襲われて、気絶したまま、白のハイソックスを履いたふくらはぎを舐めまわされていったのは。
あまりにおぞましい光景を前に、清彦少年はあわててその場を逃げ去り、かろうじて魔手を逃れていた。
けれども、前島君が穿いていた赤ラインが2本のハイソックスや、公原君が気に入っていたブルーのラインの上下に黒のラインが走ったハイソックスや、多田鳥くんが部活のときに履いていた紺のストッキングが順繰りに犯されて、唾液まみれにされた挙句咬み破られて濡れた血潮を拡げてゆく光景が、清彦少年の脳裏から去らなかった。
きょうの清彦少年は、赤のラインの上下に黒のラインが走ったハイソックスを履いていた。
公原君の履いていたハイソックスの色違いだったのは、偶然ではない。
怪人が三本ラインのハイソックスをいたく気に入って、いちばんしつこく舐めまわしていたのを、清彦少年は目の当たりにしていたのだった。

差し伸べられた清彦少年の足許に、怪人はもの欲しげに舌をふるいつけてきた。
ああ――
少年は無念げに眉をひそめた。
イヤらしい舌なめずりが、しなやかな厚手のナイロン生地ごしに、生温かく浸されてくる。
「本当に・・・ほんとうに母さんのことを助けてくれるんだね!?」
少年は怪人に念押しをした。
怪人は黙って肯くと、少年のふくらはぎの一番肉づきのよいあたりに、鋭利な牙を喰い入れてきた。
じゅわっ・・・
はじける血潮の生温かさを感じながら、少年はうめいた――


それが、十数年前のことだった。
いまでも清彦は、そのときのことを時折、胸に思い描くことがある。
そして、なぜかときめいてしまう自分に、自己嫌悪のようなものを覚えるのだった。
少年のか細い身体から提供可能な血液をむしり取ると、怪人はふたたび、彼の母親を襲った。
母親の光枝が着ていた白地に紺の水玉もようのワンピースは、赤黒い飛沫を不規則に、その柄に交えている。
ガッと喰いついた口許から撥ねた血が、ワンピースの柄をさらに塗り替えてゆく。
清彦の懸念を読み取ったように怪人は、彼のほうを振り向くと。
「安心しろ。きみのお母さんの生命は奪らない」――そう約束していた。

頬を血に濡らしながら、清彦の母・光枝は、咬まれていった。
肩や二の腕、わき腹、太ももと、ワンピースのうえから咬まれていった。
そのうえで。
清彦の識らない世界がくり広げられた。
セックス経験のある婦人を餌食にするときに、必ずといっていいほど行われる「儀式」だった。
たくし上げられたワンピースから覗く白い太ももを眩しいと、少年はおもった。
怪人は、母親の脚から肌色のストッキングを音を立てて引き裂くと、ショーツを脱がせ、それで鼻を覆った。
いやらしいやつだ、と、少年は感じた。どこか、嫉妬ににたような感情も波立った。
母親は、すっかり観念してしまったらしい。
手足をだらりと伸ばして、身動きひとつしなかった。
まだ意識があるのは、胸もとがかすかな鼓動を伝えて上下するのと、
男の非礼を咎めるように、時折瞬きしながら緩慢にかぶりを振るようすから、それとわかった。
けれどももはや、無抵抗に伸べられた太ももの間に男が入り込んでゆくのを、止め立てするものはいなかった。
激しく上下動する逞しい腰の下、母親が大切なものを穢されてゆくのを、彼は直感で感じ取っていた――

だいぶ経ったある日、怪人が捕らえられたことをニュースで知った。
父親は、被害届を出すのはよそうと母親に告げて、母親も黙って肯いているのを記憶している。
怪人が母親にしかけたことが不名誉なことだったということを識るには、まだ清彦少年は稚なかったが、
それでもめくるめく光景のなかで行われた儀式がただことでなかったことは、直感的に感じ取っていた。

怪人が解放されたと知ったのは、それからさらに数年後のことだった。
清彦は、どこかで怪人との再会を夢想していた。
母をむたいに襲い、自分たち親子の血をほしいままにむさぼった、おぞましい存在――
そう思い込もうとしたけれど。
母親の助命を訴える必死の叫びを受け容れてくれたこともまた、彼の記憶からは去らなかった。
話せばわかる相手。
けれども、人間の血液を摂取せずにはいられない存在――
そんなものと、また関わることは、自分にとって不名誉や不利益以外のものをもたらさないと分かってはいたけれど。
彼と共存する生活を、なぜか時おり、夢想してしまうのだった。
きっと、血を吸い取られたときに注入された毒液のせいだ、とわかっていたけれど。
そのことすらも、呪わしいことだとは、感じることができなくなっていた。

もしも自分に恋人ができたなら、あの怪人はうら若い処女の生き血で舌づつみを打ちたいと願うだろうか?
きっとそうに違いない。
けれども彼は、暴力的に襲われた彼の恋人が泣き叫び惨めに堕ちてゆくというような、悲惨な情景を想像することはなかった。
むしろ彼の恋人が初対面の怪人に恐怖しながらも、一定の理解を与えて、
羞じらい戸惑いながらあの容赦のない吸血管をその胸もとに受け容れてしまうところを、胸をときめかせて想像してしまうのだった。

俺は変態だ。
そう思わずにはいられない。
そのことが、彼の婚期を遅くしたし、彼が異性に近づくことをためらわせる原因になっていた。


地元の大会社の社長令嬢との縁談が降ってわいたように起こったのは、そんなときだった。
父が務める銀行の取引先という触れ込みだった。
30を過ぎたらさすがに身を固めないわけにはいかない。
そういう常識まみれの選択を考えるほどに、清彦は律義な社会人として暮らしていた。
現れた女性は、眩いほどの白い肌と、澄んだ大きな瞳の持ち主だった。
女性経験のない清彦は、気後れしつつも彼女に応対した。
ぶきっちょだが素朴な態度が却って好かったのか、女性の側からは色よい返事が寄せられた。

穂乃村悧香というその24歳の女性は、父親の経営している会社でOLとして勤務しているという。
いちど転職をしているのだが、その時にも縁談があったものの、なにかの事情で見送りになった――とも聞かされていた。
品行方正な母親に厳格に育てられた、箱入り娘という触れ込みだった。
たしかに、見合いの席に現れた母親は、美しいがいくらか妍のある婦人だった。
清彦はいくらかの気づまりを覚えながらも彼女とも接し、幸い悪からぬ心証を抱かれることに成功した。
このまま結婚するのだろうか?
怜悧に取り澄ました相手の女性との、なかなか縮まらない距離感に悩みながらも、
交際期間はだらだらと続いていく。
特に結論を急かされることもなく、初対面からすでに3ヶ月が経過しようとしていた。

その悧香に呼び出されたのは、とある週末のことだった。
「どうしても急に逢いたい」悧香からのたっての希望だった。
いつもは清彦のおずおずとしたオファーに悧香が無表情で応じる――そんなことのくり返しだったので、
彼は相手の珍しい反応に驚きながらも、よろこんで面会に応じたのだった。

通されたリビングには、豪奢なデザインのじゅうたんの上に、いかにも高級感のあるソファーセットが置かれていた。
通された部屋で肘掛椅子に腰かけるよう求められた彼は、テーブルを挟んで悧香と対座した。
「さっそくなんですけど――」
悧香はいつになくそわそわとした様子で、口火を切った。
「私――あなたのお嫁さんに、相応しくないと感じるんです」
大きな瞳に吸い込まれるように、清彦は彼女の目を凝視した。
「ああやっぱり・・・」
思わず口を突いて出た言葉を、悧香が聞きとがめた。
「あら・・・どうしてですの?」
いや、だって――
声にならない声が、清彦を硬直させる。
なかなか距離の詰め切れない、そのくせ自分との交際を断ろうともしないこの美少女の真意を測りかねて、彼は戸惑った。
「自分がモテない・・・と思うからです」
清彦は正直にこたえた。
「あら――」
悧香は目線を笑いに和ませて、清彦を見た。
「合わないと思ったら、すぐにお断りしているところです」
悧香はいった。
「ではどうして・・・?」
上ずる清彦の声を受けて、悧香は言いよどんでいたが、やがておもむろに口を開いた。
「わたくし――」
一瞬笑みを含んだ頬がふたたびこわばって、目線を下に落としている。
「貴方に対して申し訳ないことをしてしまったの・・・」
「それは・・・どんな・・・?」
ザワザワとした予感に、不思議な昂ぶりを覚えながら、清彦は訊いた。
「この街で暴れていた怪人の話ご存じですか」
それは地域でも有名な話だった。
なん人もの人妻が襲われて憂き目をみていたし、結婚前の娘たちも襲撃の対象となっていたのだから。
「あ・・・ハイ」
「わたくし2年まえ、あの怪人に襲われているんです・・・」
「え・・・」
清彦が顔をあげた。
「あの怪人が釈放されたこともご存じですか」
「エエ、ニュースでみました」
「――再会してしまったんです・・・」
「・・・と、いうことは・・・?」
「求められるままに血液を提供して――わたくし男のひとを識らずにいたのですが、つい先日識ってしまいました・・・」
・・・・・・ぇ。
声にならない声を、清彦はかろうじて飲み込んだ。
「怒ってもらって良いのだけれど・・・自分から求めて、あの男の身体を受け容れてしまったの」
「・・・・・・」
でもね、と、悧香はつづける。

わたくし、後悔してないんです。
勤め帰りにやって来たのを、わたくしのほうからこの家にお招きして、血を差し上げたの。
ご存じでしょう?吸血管がニュッと出て、胸をブスリと刺して吸血するの。
そのうちに相手の女性が気に入ると、擬態が解けてしまって、ただの男になって――醜く痩せこけたお爺さんなのよ――
そんなひとに、勤め帰りのスーツ姿をまさぐられながら、血を啜り獲られてゆくの。
さいしょはおぞましかったけど――わたくし、それが嬉しくなっちゃって・・・
貴方のことももちろん、考えたの。思い浮かべたの。ごめんなさいって心の中で謝ったの。
それでも、知らず知らず身体を開いてしまっていたわ。
強引に突っ込まれたペニスは、さいしょのうちこそ痛くてたまらなかったけど、じきに慣れたわ。
むしろ、激しく求められることで、ヒロインになった気分まで味わっちゃって――わたくし、最低の女ですね。
貴方との結婚を控えながらも、ほかの男に身を許してしまったんです・・・
ええ、それでも――後悔はしていません。貴方以外の方に処女を捧げたことを。
そして、これからもたぶん、あの方とのお付き合いは止められそうにない――
貴方と婚約しても、きっとセックスしてしまうし、貴方と結婚しても、きっと貴方を裏切って逢いつづけてしまう――そう確信しているんです。
そんな不埒な女を嫁にして、貴方にどんな得があるかしら?
ですから、お別れしましょう。
わたくし、一生独身で過ごします。
でも、彼がいればきっと、楽しい人生になると思っています。確信しています。
彼の奴隷になるのが、いまではとても、楽しいの。
そんな女と、貴方の幸多いはずの人生を、リンクさせるべきではない――貴方もそう思われますよね・・・?

さいごのほうでは女は俯き、顔を覆って涙ぐんでいた。
きっとだれとも結婚できない。
こんな恥ずかしい告白をしているいまでさえ、爛れた秘奥をヌラヌラ滾らせて、強引な吶喊を求め始めている自分がいる。
でも、わたくしはあの方に支配されるのが好き。楽しくってしょうがない――
婚約者を失う悲嘆に泣き濡れながらも、女の胸に後悔はなかった。

俯く肩に置かれた掌を感じて、女は顔をあげた。
間近に、清彦の顔があった。
「どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか・・・?」
清彦の唇が、目の前でそう動いた。
「え・・・でも・・・」
ためらう悧香の両肩に、清彦は手を置いていた。
「じつは・・・」
清彦は初めて、自分の過去を語った。
同じ怪人に襲われて、母親ともども生き血を吸い取られたこと。
身じろぎできないほど血を啜られたうえ、目の前で母親がメイク・ラブされてしまったこと。(彼はそういう表現で語った)
それ以来母親は、父親の理解を得ながら怪人と逢いつづけたこと。
そんな母親の逢瀬を、自分はよく目にしては、不思議な昂ぶりを感じたこと。母親を責める気には全くなれなかったこと――

「どういうことかというと」、清彦は言葉を切った。
見つめなおした悧香の顔つきは、同じ高さの目線にある。
澄んだ大きな瞳が、いままでになく間近に感じられた。
「同じ怪人に血を吸われていたんですね」
憑き物が落ちたように、悧香は声色を和ませている。
「貴女に、ただならないご縁を感じます」
清彦はいった。

もしも自分に恋人ができたなら、処女の生き血を吸わせてやろうと思ったこと。
その時も、恋人は泣きじゃくって激しく抵抗するわけでもなく、羞じらいながら血を吸い取られてゆくのを妄想したこと。
その妄想が決して不快なものではなかったこと・・・

「むしろ、悧香さんが自分から彼に処女を捧げたことを、ぼくは嬉しいと感じます」
清彦はいった。
「母もきっと、貴女を杉川家の嫁として歓迎すると思います」
そういって悧香をほっとさせると、清彦はさらに言った。
「これからご一緒しませんか?ぼくも――久しぶりに彼に血を吸わせてあげたい。
 それに、ぼくの未来の花嫁を支配してくれたお礼を伝えたい。
 婚礼の後の初夜には彼を招いて、目の前で花嫁を奪ってもらいたい。
 彼のことは真っ先に新居にお招びしたい。
 これを結婚の条件にしてくれますか・・・?」
悧香は羞じらいながら、こくりと頷いた。
過去に幾度となく妄想してきた、羞じらいながら血を捧げる彼女の面影に、そっくりと重なるのを彼は感じた。


あとがき

これは一気呵成に描いちゃいました。
どう考えてもヘンなお話なのに、すらすらと紡いでしまいました。 苦笑

社長令嬢が堕ちた夜

2023年11月21日(Tue) 22:35:37

やはりホットコーヒーは、ブラックにかぎる。
オトナのブラック。
自分で淹れたホットコーヒーがくゆらせる湯気の香りを楽しみながら、
穗乃村悧香(ほのむら りか)は、濃いブルーに金の縁取りの入ったコーヒーカップに口をつける。
外出の予定はないのに色濃く刷いた口紅が、金の縁取りを塗りつぶした。
悧香はかすかなため息を洩らしてカップについた口紅を拭うと、
傍らの口紅をもう一度、念入りに刷き直した。

硝子戸がガタンと、風が当たる音にしては不自然な音をたてた。
悧香はその音に振り向くと、腰かけていたソファからそっと腰をあげて、窓辺に立った。
「やっぱり来たんだ」
ひっそりとした微かな声色は幾分の冷笑を含んでいた。
名前のとおり怜悧な令嬢にに育った彼女の口から暖かみのある声が洩れることはふだんあまりなかったのだが、
いまの呟きには幾分のもの柔らかな感情が込められているのが、彼女の母親だったらわかっただろう。
悧香は白い手を伸べて、硝子戸をからからと引き開けた。
「また来たのね、イヤらしい怪人さん」
嫌悪と蔑みをあらわにしながらも、透きとおったその頬には愉快そうな感情も窺うことができた。
本人がそれをどこまで意識しているかは別として。


2年ほど前のこと。
初めて悧香の前に初めて姿を現した怪人は、気の弱い人が見たら即時に気絶するレベルの、おぞましくグロテスクな「なり」をしていた。
胸もとから伸びた透明な吸血管は直径数cmはあり、数m遠方の獲物に巻きついてからめ取ることができた。
勤め帰りのピンクのスーツ姿にツタのように巻きつけられた吸血管は、悧香よりひとり前の犠牲者の血液を留めて、まだ赤黒く半透明に染まっていた。
恐怖に立ちすくむ悧香は声をあげる間もなく、真っ白なブラウスごしに、吸血管の尖った先端をズブリと突き通されてしまった。
皮膚を強引に突き破ってくる異物をどうすることもできないまま、
急速に抜き取られる自分の血液が半透明の管を浸してゆくのを目の当たりにして、
彼女は目を大きく見開き、絶句し、さいごに目をまわしてその場に倒れ臥してしまう。
怪人の擬態は不完全で、性的欲情を覚えるとたちまち解除されてしまうのがつねだったが、
悧香のときも、その例外ではなかった。
醜く痩せこけた老人の実体に戻ると彼は、うつ伏せに倒れたこの若いOLの足許にうずくまると、
ヒルのように爛れた唇を恰好のよいふくらはぎに吸いつけた。
肌色のストッキングを皺くちゃに弄びながら。
劣情にまみれた唇や舌を無骨になすりつけて、悧香の下肢に凌辱を加えたのだった。
そのまま怪人のアジトに連れ込まれた彼女は、連日連夜、その身をめぐるうら若い血潮を、怪人の餌食にされたのだった。

正義のヒーローによって救出されたとき、彼女の理性は半ば崩壊しかけて、言葉を紡ぐことさえ覚束ない有様だった。
人質に取られた娘のために家族から差し入れられた服はことごとくが、擬態を解いた男の唾液に浸されて、
男が特に執着した通勤用のストッキングは、拘束された日数にまさる本数だけ、同じ憂き目をみていた。
この件が表ざたになって彼女は公私の両面で評判を落とし、親たちによって進められていた縁談も破れた。
もっとも縁談が破談となったことについては、悧香はむしろある種の解放感を感じていた。
彼女は勤め先を、自分の父親の経営する会社に変えはしたものの、今までと変わらぬOL生活を享受していたのだった。


彼女が怪人と”再会”したのは、彼が刑期を繰り上げて出獄してすぐのことだった。
人の生き血を求めて徘徊する怪人は、
さいしょは自身を日常的に看護していた看守の家に入り浸っていたのだが、
看守とその妻や娘の血液だけでは足りずに、かつて暴れた街へと舞い戻ってきたのだ。
かつてなん度も襲った「実績」のあるキャバレーのホステスの血を吸い取ると、つぎに向かったのが悧香の住む邸だった。
真っ白なブラウスの胸から毛むくじゃらの胸もとへと直接送り込まれた若い血液に、彼は少なからぬ恋着を抱いていたのである。
そして、彼女が装った生真面目なOLらしいお堅いお勤め用のスーツ姿もまた、けばけばしく刺戟的なホステスのそれと同じくらい、彼の恋着を誘っていた。

ウッソリとうずくまりながら自宅の様子を窺っている怪人をみとめて、悧香はハイヒールの歩みを止める。
その白い首すじに付けられた古傷が破れ、ひとりでに血に濡れてくるのを、悧香は感じた。
あいつだ――すぐにそうわかったけれど、もはや辱められた憎しみは湧き上がってこなかった。
ただ、うなじを伝い落ちた血が勤め帰りのブラウスの襟首を濡らす生温かい感触だけが、彼女の感覚を淫靡に彩った。
これはもう逃れられないな――と彼女は直感して、むしろその直感にある種の安堵さえ覚えていた。

掴まえた獲物に劣情を覚えるたびに、怪人の擬態は解かれてしまい、無力な老人の実体に立ち戻る。
悪の組織がこの怪人を「製造」したときの、致命的欠陥だった。
そして彼が欲情のままに人質の生き血を楽しんでいる最中に、正義のヒーローに付け入るスキを与え、征伐されてしまったのだ。
悧香は男が、強力な怪人の姿ではなく、街にとけ込みやすい実体の姿で現れたことに好感を持った。
そして彼に声をかけると、自宅にあげてしまっていた――
そこには彼にとって美味しい果実になりかねない、47歳の熟妻である彼女の母もいることも知りながら・・・。

出迎えた母親の由香里は蒼白になり、立ちすくんだ。
47歳の人妻の、肌色のストッキングに包まれたふくらはぎに、怪人はあからさまに欲情している。
絶句する母親に、娘はいった。
「ママったらいつも、こいつにひと言言ってやりたいって言ってたじゃないの」
24歳のあたしの、うら若い血潮に、47歳の熟妻であるママの生き血。
悦んでくれたら嬉しいわ――
悧香は心のなかで、ほくそ笑んでいた。



2年まえのこと。
「私――おかしくなっちゃったのかな・・・」
ブラウスを真っ赤に濡らしながら、悧香は呟いていた。
傍らに寄り添う怪人に向けて呟いているようでもあり、
ただうわ言のように独り言をしまだけなのかも知れなかった。
「こんなにいっぱい血を吸われちゃうのが嬉しい・・・なんて。やっばりおかしいわよね?」
ふた言めめは明らかに、怪人に話しかけていた。
貧血に顔は蒼ざめ、紫色になった唇には、蕩けたような笑みが泛んでいた。
怪人は悧香の背中を労るようやなさすりながら、
それでも一方で、彼女の首すじに食い入れた傷口に唇をあてがい、
ごく緩やかな調子で、しかし冷酷なくらい単調な音を漏らしながら、
彼女の血しおをしつように口に含みつづけている。
悧香に気遣いをしているようでなお、
捕らえた獲物から養分を摂取することには、あくまでも貪欲なのだ。
「ありがとう。楽になるわ・・・」
悧香はそれでもほほ笑みを絶やさずに怪人の掌を握りしめて、従順に己のうなじをゆだねつづけた。
眩暈が視界を遮るほどに拡がり、頭をふらつかせながら、
自分の血が啜り取られてゆく喉鳴りを、
しつように擦りつけられて来るかすかな舌なめずりを、
鼓膜で楽しみはじめていた。
男のなまの唇がべっとりとふくらはぎに吸いつけられると、白い歯をみせて咲った。
「おイタさんね・・・私のストッキング、よっぽど気に入ったのね?」
と、イタズラっぽい流し目で、相手を睨んだ。
応えの代わりにその唇が強く圧しつけられて、チクリと鈍い痛みが刺し込まれると、
ストッキングがチリチリとかすかな音をたててはじけた。
ふくらはぎ周りに感じていた緩やかな束縛がじょじょにほぐれてゆくのを、彼女は感じた。
ストッキングを破られる。
これで、なん足めなのだろう?
さいしょは侮辱に感じていたその行為がいまでは、
意志疎通が不器用な怪人なりの、自分に対する愛情表現にさえ感じられてくるのはなぜだろう?
錯覚に過ぎないのだろうか?きっと、そうに違いない。
けれども、しつように圧しつけられてくる唇を、悧香はもはや避けようとはせずに、
薄いナイロン生地の舐め心地を悦ぶように擦りつけられてくる唇に、舌に、
むしろそうされることを誇らしく感じているかのように、すすんで自分の脚をゆだねてしまうのだった。
そして、自分の穿いているストッキングが引き破られて、
脛の途中までずり落ちてしまうのを、面白そうに見届けていった。
囚われの姫は衣装を辱められながら、理性を忘れた堕落の淵へといざなわれていった――

「なぞなぞ。」
と、女はいった。
ブラウスの胸もとには撥ねた血が不規則なまだら模様を作り、
脚には破れたストッキングを片方だけ穿いているという自堕落ななりだったが、
女は気にしていなかった。
「私のブラウス、なん着汚した?」
「7着。」
男の答えは正確だった。
「囚えた日数分以上に愉しむと、度を越えるからな」
ウッソリとした言葉つきだけは変わらなかったが、声色そのものは別人のような色艶を帯びている。
捉えた女がその身にふさわしい品位を確保できるよう、
入浴の機会や化粧の時間も、じゅうぶんに与えられた7日間ではあった。
「きちんと装った女の人を虐めるのが、そんなにお好き?」
女はなおも言葉を重ねる。
はた目には気になる男に愛らしく絡んでいるようにしか見えないほどだった。
怪人は無言でうなずいた。
「どうせあなた、つかまるわ。もしかしたら、死んじゃうかもしれない」
悧香は冷徹に、自分を餌食にした獣の将来を予告する。
「そうだろうな」
怪人の応えは意外に素直だった。
「こういう害毒しかまき散らさないやつは、そうなったほうが良いのだ」
「そんなふうに考えていたのね」
失血による眩暈が、少し明るくなったような気がした。
悧香は怪人にいった。
「でもそうなるまでは――どうぞ私の血を楽しんで頂戴ね」
怪人が征伐されたとき。
与えることが可能な血液を一滴余さず提供した彼女は、口もきけないくらいの状態で保護されていた。


解放されて2年が過ぎて、けれども怪人に対する記憶は摩耗することがなく・・・
だが、悧香は不思議と、自分の血を吸い服を汚した怪人に対して、悪感情を抱かなかった。
ウッソリと蹲る老人の姿をした怪人を見つけると、なんのためらいも抵抗もなく、自宅に誘っていた。

悧香にとっては2年ぶりの再会だったが、母親にとって怪人をじかに視るのは初めてだった。
自分よりも明らかに齢が上の、こんなにもみすぼらしい老人が、よりにもよってうちの悧香を――
「ひと言言ってやりたかったんでしょ」という娘の挑発のままに、由香里は怒りと悔しさとを新たにした。
「どういうつもりで、うちにいらしたのよ!?」
悧香が飛び上がるほど大きな声で、由香里は怪人を罵った。
「娘の将来を台無しにしてくれて、どういうことなのかしら!?」
由香里は本気で、怒っていた。
娘の将来が壊された・・・ということではなく、自分自身の見栄が根こそぎにされたという怨みのほうが大きかった。
破談となった縁談の相手は、母親が自信をもって見つけてきた男だった。
もっとも彼はその後他の女性と結婚したが、かなりの暴君であるということは、この母娘の耳にも入っていたけれど。
自分の見栄を破壊されたことに、変わりは無かったのだ。
凄まじい罵声をふた言、無抵抗な怪人に浴びせると、由香里は大きく息をついた。
ふだん落ち着いた賢夫人として知られた彼女にとって、大きな声をあげることは意外に高いハードルだったのだ。
「ママもう気が済んだわ。お引き取りいただいて」
別人のように声の調子を落とした母親に、悧香はこたえた。
「私の血を差し上げたら帰ってもらうようにするね」
「え・・・?」
娘の意外な答えに、由香里は顔をあげた。
「血液不足なんですって。なんとかしてあげなくちゃ。
 管を豪快にブスリと刺されても良いし・・・口で直接飲んでもらうのも楽しいかも。
 こいつ、私のスーツ姿気に入っているのよ」
悧香は不敵に笑った。
そして、怪人のほうをふり返ると、
「勤め帰りのきちっとした服装、お好きったわよね?」
と、念押しまでしてしまっている。

さいごには母も、堕ちてくれた。
処女喪失の痛みはきつく、気絶してしまうほどだったけれど。
なん度も突っ込まれちゃっているうちに、痛いだけではない行為だとすぐに気づいて。
すこしでも早く痛みに慣れよう・・・快感とやらを味わってしまおう・・・そんなことを考えて。
覆いかぶさってくる怪人の性急な求愛から逃げようとはせずに、
スカートを着けたままの腰の奥に、魔力に満ちた棒状の肉塊を、
なん度も受け容れてしまっていた。
悧香にはふたたび、縁談が進行中だった。
相手の男性とも、なん度となく顔を合わせて、デートを重ねる間柄だった。
彼に対して申し訳ないという想いも、チラとはよぎった。
けれども、圧倒的な力で彼女を圧し伏せる欲情の強さのまえには、
氷のように堅い貞操観念も、あっけなく蕩かされてしまっている。
ごめんなさい、清彦さん。
悧香は、自分の夫となるかも知れない見合い相手に、心のなかでそういった。
けれどもそのあとすぐに、
でも――悪いけどひと足先に体験しちゃうわね。あとはなんとでもなるはずだわ。
という不逞な考えが、彼女の頭を支配していた。
身を擦り寄せてくる暴漢の逞しい胸に圧倒されながら、彼女は股間に溢れる歓びを感じないわけにはいかなかった。

次は、由香里の番だった。
リビングに入る母親をその場で餌食にするのかと思ったが、
降りていった怪人は、ほどなく母を伴って戻ってきた。
母は、怪人を出迎えた時と同じスーツを着ていた。
行儀の良い人で、家のなかでもスーツやワンピースにストッキングを嗜む婦人だったのだ。
同じスーツ ということは。
まだ彼女が暴行を受けていない、なによりの証拠だった。

血を吸い取られて貧血を起こした悧香は、怪人の手で伸べられた布団に横たわっていたが、
その様子を見て母親は少しだけ、安堵したようだった。
娘の気持ちも健康状態も考慮に入れない相手だったら、絶対しないだろう対応だと感じたためだ。
もっとも、タオル一枚かけられただけの娘は着崩れたスリップ一枚の半裸の姿だったから、
部屋に入ってきた由香里は、肌色のストッキングの脚をこわばらせ、立ち尽くした。
娘が処女を奪われたことが、残酷なくらいに明白だった。
嫁入り前の娘の不始末から目をそらしつつも由香里は、
礼儀だけは心得ていらっしゃるようねと呟いた。
悧香は、母の背中を押すべきだとおもった。
そして、この小父さん私の血だけじゃ足りないみたいよ、とそそのかすようにいった。
母親の反応は、意外なくらいにあっけなかった。
「お好きになさいな」
由香里はあきらめたように目を瞑ったのだ。
娘を疵物にされてしまった以上、もはや万事休すと覚ったらしい。
長年守り抜いてきた貞操を汚辱に塗れさせることを、ためらいもなく受け容れてしまっていた。

後ろから羽交い絞めにされながら首すじに牙を突き入れられる母親の姿を、
悧香はドキドキしながら見守る。
尖った牙が母親の白いうなじにもぐり込むと、赤黒い鮮血が鋭く撥ねた。
あ・・・あっ・・・
気丈にも悲鳴をこらえた母の様子が、娘の目にもいじらしく映る。
それでも朱を刷いた薄い唇はかすかに歪み、歯並びのよい前歯を覗かせた。
これがあの娘の感じた痛み――由香里は脳天が痺れる想いで、娘と同じ痛みを体験し始める。
首すじに圧しつけられた怪人の唇のすき間からは、ぬるりとした血の帯がひとすじ、どろりと伝い落ちて、
ブラウスの襟首を、そしてその奥のブラジャーを濡らした。
「もうじきママの誕生日だから・・・私ママに替えのブラウス買ってあげるね」
孝行娘がそう呟くのに頷きながら、由香里はお願いね、というのが精いっぱいだった。
姿勢を崩した由香里は、座布団のうえに膝を突いた。
ひざ小僧を包む肌色のストッキングが、かすかに波打ち、いびつによじれてゆく。
その上から脂ぎった唇が圧しあてられて、ストッキングの引き攣れが深くなった。
母親の着用するストッキングが、自分のそれと同じように淫らにあしらわれ、卑猥な口許を愉しませるのを、悧香は面白そうに見守っていた。

ママったら、案外ウブなのね。
悧香はおもった。
由香里はうろたえながらブラウスを剥ぎ取られ、強引に迫られた口づけにおずおずと応じていった。
ひざを突いて四つん這いになったふくらはぎに唇を這わされて、
ストッキングを皺寄せながら、失礼なことなさらないでください――と相手を制しようとするのを遮って、
「怪人さん、ママの穿いてるストッキングもたっぷり楽しんでね」
と言い添えていた。
「もう・・・あなたったら・・・っ」
由香里は目で娘を咎めたが、態度が言葉を裏切っている。
劣情もあらわな舌舐めずりの前に、評判の賢夫人と評されたこの熟妻は、
ストッキングで装った脚をすすんで差し伸べて、みるみるうちによだれまみれにさせてしまっていた。


「私――おかしくなっちゃったのかな」
2年まえのあのときと同じように、悧香は呟く。
ブラウスは血浸しにされて、生温かく胸もとを染めている。
スリップにまでしみ込んだ血潮のベトベトとした温もりを、悧香はいとおしいと感じた。
指先で首すじの傷をなぞり、あお向けになった目のまえにかざしてみる。
バラ色をした自分の血潮を、綺麗だとおもった。
そのまま指先を自分の口のなかに突っ込んで、自分の血を舐め味わっていた。
錆びたような甘酸っぱい味に、いつにない昂ぶりを感じた。
失血が、彼女のなかに半吸血鬼としての萌芽をもたらしていた。
自分の血を美味しい――とおもった。
だとすると、彼にとっても私の血って美味しいはず。
そして、ママの生き血も楽しんでくれているはず・・・
母娘ながら生き血を味わわれている受難を、悧香は楽しいと感じていた。

傍らの母親も、夢中になってあえいでいた。
顔の半分は、バラ色の血を光らせていた。
念入りに刷いた化粧が見苦しいまだら模様に剝げてしまうほど、
情夫の舌なめずりに惜しげもなく、頬をさらしていた。
破れ堕ちたストッキングを脛の途中までずり降ろされた脚を緩慢にすり足しながら、
血浸しにされたブラウスを大きくはだけ、豊かな乳房を誇らしげに露わにして、
娼婦のように大胆に大股を開いて、そそり立つ怪人の男根を、股間に咥え込んでしまっている。
令夫人と称えられたその身を恥辱にまみれさせても、もはや惜しげもなく、後悔もなく、
ただひたすらに、そそぎ込まれる精液の奔流に夢中になってしまっていた。
あなただけよ、あなただけよ・・・と、あらぬうわ言さえ口走っていた。
激しい精液の奔流が母親の体内に流れ込む有様を、娘はありありと想像していた。
彼女は手を伸ばして、だらりと床に伸びた母親の手を握っていた。
ママ、貞操喪失おめでとう――
娘がそう囁くと、由香里は無言で彼女の手を握り返してきた。

母が長年守り抜いた貞操と引き換えに、懸命になってお手本を披露してくれている。
つぎはもういちど、私の番ね・・・
悧香は口辺に嗤いを滲ませて、スリップ一枚に剥かれた自分に怪人がのしかかってくるのを、受け容れていった。
すぐ傍らで自分の母親が、
悧香さん、いけないわ、まだお嫁入り前じゃないの――と形ばかりの叱責を続けるのを、
薄笑いした頬で受け流しながら――


あとがき
まとまりは良くないのですが。
ここしばらく書き継いでいたモノをあっぷしてみます。
前作の続きです。

汚され抜いて。

2023年09月23日(Sat) 23:49:18

妻がエプロンを着けたまま食卓に座るのを、比留間は見るともなしに見ていた。
相変わらず活発に座を切り盛りして、娘の差し出すお替りにも腕まくりをして応じていった。
4人のなかで男ふたりはむしろひっそりとしていた。
特に怪人は、気配を感じさせないほどに、ひっそりしていた。
人間の食するものも、少しは口にするようになっていた。
監獄での経験がそうさせたのだが、それ以上にこの家に迎え入れられてから、艶子の作る食事が口に合ったのがおもな理由のようだ。
艶子も、ほんらい人間の血しか口にしないはずの男が、自分の作った食事を――ほんの少しにせよ――口にしてくれることにまんざらではないようすだった。

娘の真由美が箸を置いて起ちあがった。
「そろそろ学校行く」
いつも通りのボソッとした声色だった。
ちょうど食事を終えた怪人が、同時に起ちあがった。
「え・・・なによ」
真由美はちょっとたじろいだ様子で怪人とにらみ合った。
「頼むから――」
怪人は真由美以上に低い声色で、なにかを請うた。
「・・・・・・しょうがないなぁ」
真由美はいかにもイヤそうに口を尖らせると、
それでも白のハイソックスを履いた足許に相手がにじり寄ってくるのを遮ろうとしなかった。

男の唇が、真っ白なハイソックスのふくらはぎに、ニュルッと吸いついた。
そしてそのままジリジリと唇をせり上げるようにして、真由美のハイソックスを唾液で濡らすことに熱中し始めた。
「ねえ――ほんとに濡れたまま学校行かなきゃダメなの?」
戸惑ったような声色が、ここ数年不貞腐れ続けていた真由美に似つかわしくなく、両親の耳に新鮮に響いた。
「ああ・・・頼むよ」
男は上目遣いに真由美を見、嬉し気に白い歯をみせた。
「いけすかないっ」
真由美はむくれながらも、鞄を手に取った。
男のよだれのしみ込んだハイソックスのまま、学校に行くということらしい。

夕べは夫婦ふたりきりの寝室だった。
怪人が真由美と同衾を願ったためだった。
真由美も、「いいじゃん別に」と、他人ごとみたいな顔つきで、怪人を自室に受け容れてしまっている。

いったい何があったんだ――
両親の懸念は当然だった。
けれども艶子も比留間も、娘がいつものように起き出してくると、なにも切り出せなくなっていた。
夕べと今朝とで、娘と怪人との距離は、明らかに縮まってた。
歯を磨いている間も、怪人は馴れ馴れしく真由美の肩を抱きつづけていたし、真由美はそれを拒むふうもなかった。
制服に着替えるときも、怪人は真由美の部屋から出なかった。
なにをしているのかはわからなかったけれど、時折娘がキャッキャとくすぐったそうな声をあげるのを頭上に聞きながら、
両親はただ顔を見合わせただけだった。

娘が学校に行くと、それからすぐに比留間も勤めに出ていく時間になる。
比留間はいつものように妻に見送られて玄関を出ると、家の周りを一周して自宅に戻り、
家の中には入らずに庭の植え込みの陰に身を隠した。
「いったい、うちの娘になにをしたのよ?」
窓越しに、妻の声がした。
妻の懸念はもっともだった。彼自身もっとも訊きたいことだった。
「安心しなよ、ヘンなことはしちゃいねぇから――」
怪人の声色は、落ち着き払っていた。
「ヘンなことって――」
艶子が言いよどんでいる。
「あの子の血は旨いな」
男はうそぶくように、そういうと、ちょっとめんどうくさそうに、
「安心しなって。処女の血は貴重品なんだから」
といった。
艶子の安堵が、窓ガラスを通して伝わってきた。
「だけどさ」
艶子はもはや、怪人相手にため口である。
「ほんとうに、なんにもしなかったのかい?」
「あの子はくすぐったがってただけだぜ」
男はいった。
何ということか――
ひと晩じゅうかけて、娘の首すじや胸もと、それに太ももや股間に至るまで、舐め尽くしたというのだ。
「え――」
さすがに艶子が絶句したその唇に、男は自分の唇を重ねてゆく。
窓越しに映る妻は、身を揺らして戸惑いつづけ、それでも結局、男の口づけを受け容れていった。

ちゅっ、ちゅっ、ちゅちゅうっ。
吸血を伴わない口づけ。
だがそれは、夫の立場を脅かすに十分な熱さと深さを帯びていた。
「ちょ――主人出かけたばかりだよ、そんなこと・・・っ」
艶子は男の唇の追求を避けようとしながらも、そのつど頬を掌の間に挟まれて、けっきょく口づけを許してしまう。
狎れきった男女がそうするように、2人はつかず離れずしながら、キスを求めたり、拒んだり、強引に奪ったり、愉しみ合ったりし続けた。

窓の外では、比留間がひたすら、懊悩している。
なんということだ・・・ああ、何ということだ・・・
一夜にして犯されてしまった妻。
その妻は昨晩の交接を辱めとは受け取らず、いままたなんのためらいも見せずに再演するばかりの気色である。
俺の目がないと、ここまで許すのか。乱れるのか――
そう思いながらも、出ていって2人を制しようとするような無粋はするまい――と、なぜか思ってしまう。
邪魔をしてはいかん。そういうことは男としてよろしくないことだ。
人の恋時を邪魔するやつは――というけれど。
比留間は自分の妻のアヴァンチュールにすら、そんなことを考えてしまうような馬鹿律義なところがあった。
蹲る彼の頭上で、浮ついた口づけの微かな音が交わされて、夫の心を掻きむしるのだった。

「ね、、いいんだよ。姦っても。構やしないわよ」
なんということだ。
妻は自分から、身体を開こうとしていた。
「昨夜は引っぱたいたりして、悪かったね。亭主の手前、そうしなくちゃいけないかなって思っただけ。本気で叩かなかったろ」
という艶子に、怪人はいう。
「じゅうぶん痛かったぞ。憂さ晴らしにわざとやったな」
「ふふん、バレた?」
妻は自分を犯した吸血怪人すら、手玉に取っている。

艶子はまだエプロンをしていた。
男がエプロンに欲情するのを、よく心得てのことだった。
「あ!よしなさいよっ」
ドタッと押し倒す音がした。
激しくもみ合う音が、ガラス戸を通してやけにリアルに伝わってくる。
「ちょっと、ダメだよ。あっ――」
妻の声が途切れた。
ぐちゅっ。きゅううっ。
吸血の音が生々しく響いた。
比留間はたまらなくなって、植え込みから起ちあがった。
ガラス戸の向こうでは、組み敷かれた妻が、首すじを咬まれて目をキョロキョロさせている。
そんな妻の狼狽におかまいなく、男は自分の欲求を充たすことに熱中していた。
口許に散った血が、バラ色に輝いていた。
そして、そのしたたりが、はだけかかったエプロンに、そしてその下に身に着けた淡いピンクのブラウスにしみ込んでゆく。
「あ、あっ・・・なにすんのよっ」
ブラウスにシミをつけられながら、妻が抗議した。
血を吸い取られるよりも、服を汚されるのを嫌っているようだった。
比留間にとっても、想いは妻と同じだった。
あのブラウスは、やつが出所する前に迎えた妻の誕生祝いに買い与えたものだった。
夫婦愛の証しが、不倫の愉悦にまみれて汚されてゆく――なんという責め苦だろう?
始末の悪いことに、そんな状況が妻を悦ばせてしまっていた。
「きゃっ、やだっ、なにすんのよっ」
声では抗いながらも、吸い取った血潮を唇からわざとブラウスの胸めがけて滴らせてくる男の悪戯に、興じ切ってしまっている。
「ちょっと、やだったら――ほんとに失礼な人よねえ!」
身をよじって歯をむき出して抗いながらも、そうすることが男をよけいに楽しませることを、彼女は心得ていた。
男はなん度も女に咬みついた。
首すじに、胸もとに、わき腹に、ふくらはぎに――
艶子はわざわざ真新しいストッキングを穿いて、男の相手を務めていた。
肌色のストッキングは男の卑猥ないたぶりに触れるとフツフツとかすかな音を立てて裂け、
ふしだらに広がる裂け目が、男の欲情をいっそう駆り立てた。
「だっ、だめえ・・・」
そう声を洩らした時にはもう、破れ堕ちたストッキングはひざ小僧の下までずり降ろされて、
無防備に剥かれた股間に男のもう一つの牙を受け容れてしまっていた。
「あ・・・ぅ・・・うぅん・・・っ」
荒っぽいしぐさで男の吶喊に応えながら、女はもはや恥を忘れて、股間に渦巻く激しい疼きに身をゆだねていた。
「上手・・・もっとォ・・・」
妻の唇から、さらなる情交を求める声が洩れた。
組み敷いたブラウス姿から顔をあげて、男が窓越しにウィンクを投げてきた。
そんなもの――どうやってあいさつしろというのだ?
比留間は戸惑うばかりだったが、悩乱してゆく妻の様子から、もはや目が離せなくなっている。

「あ・・・ううん・・・」
意味のないうわ言をくり返す妻にのしかかり、怪人は囁きかける。
「だんなとどっちが良い?」
「あんたに決まってるじゃない」
ああ――なんと呪わしい返答・・・!
「別れてわしといっしょになるか?」
「ううん、それはしない」
「ほほー」
「あんただって、あいつの嫁を辱め抜きたいんだろ」
「よくわかってるな」
「あたしも、あいつの奥さんが犯され抜くのが楽しいの」
だって私――主人を愛してるから。

さいごのひと言は、窓の外からの視線の主へのものだった。
「時々さ――こんな感じで楽しもうよ」
彼女のひと言kは、どちらの男に向けられたものだったのだろう?


あとがき
前作の続きです。
そろそろ種が切れたと思ったのですが、まだ少しだけ残っていたみたいです。(笑)

出所した怪人、看守一家を征服する。 副題:チョイ役一家の意気地

2023年09月14日(Thu) 01:31:55

それはいつも決まって、食事のあげさげをするときだった。
看守の比留間湊(46)はお盆を受け取るとき、そっと指を差し出してやる。
檻の中の男は「いつもすまないね・・・」とひっそりと囁いて、比留間の指を口に含んだ。
ナイフを軽く擦った指先からは、血が滲んでいた。
囚われた男は、もと吸血怪人だった――

こんなことが、なん度続いたことだろう。
さいしょは、囚人が暴れないための予防策のつもりだった。
ほんの少しだけで良いから、人の血がもらえればな――
刑務所のなかの作業場で男が呟くともなく呟くのを耳にして、他の囚人への影響を心配した彼は、上役に相談した。
「あの男にほんの少しだけ、血を飲ませてやった方が良いんじゃありませんか」
「誰がそんなことを??」
尖った声の上役に向かって、私が自分の責任でやりますから――と告げると、責任問題に巻き込まれずに済む安心感からか、
案外あっさりと許可がおりた。
入所してすぐのころは、壁が破れんばかりにぶっ叩くわ、鉄格子をねじ切るわ、大変な騒ぎだったのが、
怪我をした看守の血が床に滴るのを舐めただけで、男はようやく落ち着いたのだった。

「気をつけろよ、相手は怪人なんだからな」
上役は看守に注意を促すことを忘れなかった。口先だけだったとしても。
しかし、彼の懸念は正しかった。
さいしょのうちは気づかなかったけれど。
摂取した血液と入れ替わりに、男は淫らな毒液をひっそりと、看守の体内にしみ込ませていったのだ。

「あなた、顔色がよくないわ」
妻の艶子(42)がそういうのを、看守は上の空で受け流した。
「ね、顔色が良くないって言ってるのよ!?」
気丈な妻は声を励まして、夫を正気づけようとした。
「わかってる――わかってるって・・・」
看守はフラフラと起ちあがると、その日も勤務先に出かけていった。

指先がジクジクと疼いた。
身体もどことなく、熱を帯びているような気がした。
きょうで三日、やつに血を与えていなかった。
そういう日が続くとどういうわけか、指先が疼き身体じゅうがゾクゾクと熱っぽくなるのだ。
男がいちどに摂取する血の量も、気のせいか少しずつ増えているような気がする。
突き出した指先が生温かい分厚い唇にくるまれて、ニュルッと舌を巻きつけられて、傷口にわだかまる血潮をキュッと抜かれる。
そんな仕草を忘れられなくなってしまったことを、彼はまだ上役に相談していない。

「いつもすまないな」
囚人はいつものようにひっそりと囁いた。
その囁きがいつになく、熱を帯びているのを彼は感じた。
キュウッ・・・
差し伸べた指先を口に含めると、男は比留間の指を強く吸った。
くら・・・ッと眩暈がするのを、比留間は感じた。
「出所が決まった」
男がいった。
言葉の内容ほどには、嬉しくなさそうな声色だった。

さっきまで。
もう少し・・・もうちょっとだけ舐めさせてくれ・・・
男に請われるままに指を差し伸べつづけていた比留間は、手に持っていたカミソリで、もう片方の人差し指を傷つけていた。
二本目の恩寵を享けた男は、どうやら心かららしい感謝の呟きを口にすると、
こぼれ落ちようとする赤いしずくを、素早く掬(すく)い取っていた。
ごくり・・・
自分の血が男の喉を鳴らすのを、比留間はウットリと耳にした。
そんなに旨いのか?
比留間は男が自分の血を旨いと褒められることに、深い満足感を見出していた。
男が出所すれば、このささやかで密かな愉しみも終わりを告げる。
そんな当たり前のことに、今ごろになって気がついた。
明日が出所という日に、さいごに自分の指を五本も舐めさせた後、
困ったらわしの家に来い――といって、妻や娘の住む家の住所を書いたメモを手渡していた。

「もしもやつが来たら、家にあげてやってくれ」
勤め先から戻るなり、比留間は妻にそう告げた。
「え・・・?」
艶子は怪訝そうに夫を見た。
「だって・・・吸血怪人なんでしょ?そんな危ないのを家にあげるわけにはいかないわ」
色をなして反論する妻をみて、こいつもすっかりやつれた――と比留間はおもった。
四十の坂を越えたあたりから、妻の容色は目に見えて衰えていた。
それは、受験やら進学やら、パート先でのいざこざやらで神経をすり減らす毎日が、
彼女の髪や肌の色つやを、粗砥(あらと=粗いやすり)で削り取るように殺(そ)いでいったためだった。
肩まで伸びた黒髪が、カサカサに乾いていた。
頬の輝きもかつてミス〇〇候補と言われたころにはほど遠く、
かつての面影を知らないものの目には、並以下のおばさんにしかみえなくなっていた。
俺たちはこうしてすり減っていくのか――比留間はおもった。

「たぶんな、若返るぞ」
「え?」
なにを言うの?という目で、艶子が彼を見あげる。
「言ったとおりの意味だ」
「信じられないわ」
「どうして」
「だってあなたを見ていたら、あの男に血を与えるようになってから、ずっと顔色悪いんだもの」
「少し過度になっていたのは認める」
夫は譲歩した。
「血は与えすぎても良くないのだ。だが、あそこでは俺以外、やつに血を与えるものがいなかった」
「なにを仰りたいの・・・?」
「なにも言わないで、やつに求められたらお前の血を吸わせてやって欲しいんだ」
自分で口にして、自分で驚いていた。
やつに居所がなかったら、俺のところに招んでやろう。
どうしてそんな仏心をおこしたのか。
やつを家に招んで、なにをどうするつもりだったのか。
それがいまになって、やっとわかった。
俺は・・・俺は・・・女房や娘がやつに血を吸い取られるところを視たいのだ。。。

やつは「現役」のときも、吸血行為は冒したが、人の生命は奪っていない。
だから、血を吸われたからと言って死ぬ心配はない。絶対にない――
そんなふうに力説する夫の言をどこまで信用したのか、艶子は「わかりました、仕方ありませんね」と折れていた。
「そのひとが私の血を吸いたがったら、ちゃんと吸わせてあげます」
まるで変なペットを連れ帰った家族に対するように、艶子は根負けしたように言ったのだった。


男が出所した後、一週間はその姿を見かけなかった。
案外、自分がかつて洗脳したものを見つけて、「感動の再会」を果たしているのかも知れなかった。
けれども比留間は、勤め先と自宅との行き帰りの間、どこかであの男を見かけないかと、心のどこかで期待していた。
そして一週間後の帰り道、男が寒々としたようすで家の近くの路地に佇んでいるのを見つけた。
「よう」
すすんで声をかけた比留間に、男は首をすくめてみせた。
「出所おめでとう。でも景気悪そうだな」
比留間の声はガラガラ声だったが、人柄の温みは男にも伝わっていたようだ。
見知らぬ雑踏のなかで知己に出逢えた歓びを、男は素直にはにかんだような笑みで伝えてきた。

自宅近くの公園で、凩に吹かれながら、男ふたりは寒そうにコートの襟を立てていた。
「悪いけどさ・・・」
男が遠慮がちに口火を切る。
「血が欲しいんだろ」
比留間がむぞうさにこたえた。
指か?と訊く比留間に、「脚でもいいか」と、男が問うた。
そういえば――
男が現役の吸血怪人のときには、人妻のパンストや女学生のタイツばかりではなく、
男の子のハイソックスまで血に染めながらかぶりついていた。
そんな過去の「活躍」を、すぐに思い出していた。
比留間は自分のスラックスのすそを、引き上げていた。

穿いていた靴下は、瞬く間に血浸しになった。
濃紺の靴下に縦に流れる白のラインが、隠しようもなく赤く染まっていた。
「このまま家に帰ったら女房がびっくりする」
苦笑する比留間に、「奥さんの血ももちろん要りようだ」と、怪人はあつかましい要求を突きつけた。
「良いだろう、ちゃんと話はつけてあるから――」
男ふたりがベンチから起ち上がったときにはもう、あたりは暗くなり始めていた。

「いらっしゃい――え?このひとが?」
艶子は目を丸くして、怪人を見た。
案に相違してごくふつうの中年男だったので、拍子抜けしてしまったのだ。
齢のころは、夫よりも五つ六ついっているだろうか?
白髪交じりに冴えない顔色、背丈も手足もずんぐりしていて、魅力のかけらもない男だった。
「まあ、まあ、お寒いですからどうぞ、おあがりになってください」
狭い敷居の奥に客人と夫を通すために後じさりするつま先が肌色のストッキングに透けているのを、怪人は見逃さなかった。

こたつを隔てて顔を見合わせている同年配の男ふたりに、艶子はお茶を淹れている。
なんということはない、だだのおっさんじゃないの。
艶子のなかには、相手をちょっと軽んじる気分が生まれていた。
ただ、ひとつだけどうにも、解決しておかなければならないことがある。
「あなた、ちょっと――」
艶子は頃合いを見計らって、夫を廊下に呼び出した。
(なんだい?)
妻の顔色を察して小声になる夫に、艶子はいった。
(あたしは仕方ないけれど、真由美にまで手を出さないでしょうね?)
今さらながらの心配だった。
(だいじょうぶだ、ちゃんと言ってある。本人とお前の了解なしに、そんなことはしないってさ)
(なら良いんだけど・・・)
艶子は熟妻らしく、新来の男に対する警戒を完全には解いていなかった。

「ちょっと表出てくる」
比留間はとつぜん、艶子にいった。
「真由美は塾だろ?どうせ遅せぇんだよな」
「ええ――晩ご飯まで帰らないけど」
比留間家の夕食は、真由美の帰りに合わせて晩(おそ)かった。
その前に――やつが自分の夕食を欲するに違いない。
さすがにその場に居合わせることに忍びなかった彼は、妻を怪人の前に残して、ちょっとだけ座をはずしたのだった。

「あの――」
艶子は恐る恐る、怪人に話しかけた。
「うちには年ごろの娘がいます。真由美と言います。大事な娘なんです。だから――」
緊張でカチカチにこわばった声を和らげるように、怪人はいった。
「どうぞご安心を。ご主人の血だけで生き延びてきたわしですから――そんなオーバーに心配しないでいただきたい」
「そうですか・・・?」
2人きりになった気まずさから、艶子はまるで生娘みたいに縮こまっていた。
「だいじょうぶです。血を吸うときもほんの少し――
 ご主人のときには少し吸い過ぎました。あの人しかいなかったから・・・
 でも貴女が協力してくれたら、ご主人もすぐに元気になりますよ」
「あ――」
艶子は絶句した。もうすでに、彼女の血液は彼の計算に入ってしまっているのだ。
思わず腰を浮かせかけたのが、呼び水になった。
怪人は目にも止まらぬ早業で、部屋から逃れ出ようとする艶子を、後ろから羽交い絞めにしていた。
「ひいッ!」
艶子はうめいた。
男の唇が、はだけたブラウスからむき出しになった肩にあてがわれたのを感じた。
生温かい唾液が自分の素肌を濡らすのを感じた。
おぞましい――思った時にはもう、咬まれていた。
ググッと咬み入れてくる鋭利な牙に、艶子ははしたなく惑乱した。
空色のブラウスを赤黒く染めて、看守の妻は血を啜られた。

怪人が熟妻の豊かな肢体を畳のうえに組み敷いてしまうまで、数分とかからなかった。
艶子はまだ意識があり、男の腕のなかでひくく呻きつづけていたが、
さっき咬まれた肩とは反対側の首すじに牙の切っ先を感じると、身を固くして押し黙った。
女が言葉を喪ったのをよいことに、怪人はふたたび艶子の膚を冒した。
ズブズブと埋め込まれる牙に、赤黒い血が勢いよく撥ねた。
ぐちゅう・・・っ!
露骨な吸血の音に、女は失神した。

玄関ごしにガシャーンとお皿の割れる音が聞こえて、比留間は思わず振り向いた。
自宅の灯りはなにごともないように点いたままになっている。
しかし、ガラス戸にかすかな赤い飛沫が撥ねているのをみとめて、思わずドアを開けて家のなかへとなだれ込んだ。

居間はしんとしていて、だれもいなかった。
恐る恐る覗き込んだ夫婦の寝間に、艶子は畳のうえにあお向けに大の字になって手足をだらりとさせている。
男は気絶している艶子にのしかかって、首すじに唇を吸いつけて、生き血を吸い取っている。
妻の生き血が吸い上げられるチュウチュウという音が、比留間の鼓膜を妖しく浸した。
男は身を起こすと、静かな顔つきで比留間を見あげた。
「シッ!」
とっさに唇に一本指を押し当てた吸血怪人を前に、比留間は逡巡した。
「見逃してくれ・・・」
男はひくく呟くと、比留間の返事を待たずにもう一度艶子に覆いかぶさり、こんどは胸もとに牙を当てた。
久しぶりに目にした妻の胸もとは思ったよりも白く透きとおり、痴情に飢えた男の唇にヌルヌルと嬲られてゆく。
突き立てた牙をそのまま無防備な素肌に沈めると、鮮血がジュッと鈍い音をたててしぶいた。
「おい――」
やり過ぎだろう?と咎めようとしたとき。
比留間はジワッとなにかが体内で蠢くのを感じた。
蓄積された毒素が、妻の受難を目にして目ざめたマゾヒスティックな興奮を掻き立てたのだ。
「ウーー!」
比留間は絶句してのけぞった。
「悪く思うな。俺は俺のご馳走にありつく・・・」
はだけかかった艶子のブラウスを、男はむぞうさに引き裂いた。

いつも見慣れた地味な深緑のスカートが、いびつな皴を波打たせて、じょじょにたくし上がってゆく。
肌色のストッキングに包まれた艶子の太ももが、少しずつあらわになってゆくと、
男は嬉し気に彼女の脚を掴まえて、ストッキングの上から唇を這わせていった。
そうなのだ。熟妻のストッキングはこいつの大好物だったのだ。
貪欲なけだものを家に入れてしまったことを、比留間は今さらのように悔やみながら、焦れに焦れた。
下品な舌なめずりが、艶子の足許になん度もなすりつけられた。
そのたびに、微かにテカテカと光るパンストが少しずつ、ふしだらに皴寄せられてゆく。
男は明らかに、艶子のパンストの舌触りを愉しんでいた。
「やめろ・・・やめてくれ・・・」
比留間はうめいた。
「あんたには良くしてやったじゃないか。恩を仇で返すのか?」
男はなにも応えずに、艶子の下肢のあちこちに牙を当てて、パンストをブチブチと食い破りながら、血を啜った。
ひと啜りごとに得られる血の量はさほどではなかった。
こいつ、ひとの女房の血の味を楽しんでやがるんだ。
比留間は相手の意図をありありと悟った。
まるで腑分けでもするようにして。
男は艶子のスカートをむしり取り、ブラジャーを剥ぎ取り、ペチコートを引き裂いてゆく。
「わ、わかった・・・わかった・・・艶子はあきらめる。全部渡してやる。だが、娘には手を出すな、絶対手を出すなよ――」
比留間は念仏のようにそうくり返しながら――艶子の腰周りに手をやって、自分の手で妻のショーツを脱がせていった。
「すまないね、だんなさん。恩に着る。悪いようにはしねえ」
怪人は比留間にそう囁くと、なん度目かの牙を艶子のうなじにお見舞いした。
サッと撥ねた血潮が、寝間の畳を濡らした。

むき出された怒張はみるからに逞しく、自分のそれよりもはるかに威力がありそうだった。
赤黒く膨れあがったその一物が、妻のふっくらとした下腹部に押し当てられ、そしてもぐり込んでゆく――
「あうううっ」
艶子が白い歯をむき出して、顔をしかめた。
それから「ひーーっ」と呻いて顔をそむけようとすると、それすらも許されず、男の唇をまともに受け止めさせられていた。
「あう・・あう・・あう・・」
もはやどうすることもできずに、艶子はただ、喘ぎつづけている。悶えつづけている。惑いつづけている――
ロマンチックではまるでない。絶対にない。
女房は実に見苦しく、芋虫みたいに転げまわっているし、呻き声だって可愛くなかった。
けれども、必死に手足を突っ張り、吸血に耐え、身もだえをつづけながら
ケダモノのように爆(は)ぜ返るペニスを受け止めてゆくその光景は、ひどく淫らで、底抜けにイヤラシイ――
四肢を引きつらせて受け留めた怪人のペニスが妻を狂わせるのを、比留間は目もくらむ想いで見届けてしまっていた・・・


「ただいまぁ」
いつもの投げやりな声色で、娘の真由美(16)が帰宅してきた。
制服のブレザーをむぞうさに脱ぎ捨てると、「母さん、水・・・」と、ぞんざいに言った。
いつものようにすぐに反応が返ってこないので、不平そうに部屋を見回して、真由美は初めて異変に気づいた。
家じゅう、いやにひっそりしている。
壁のあちこちに撥ねている赤い液体は・・・えっ?うそ。人間の血??
なにが起きたの!?
白のハイソックスのふくらはぎが、緊張に引きつった。
夫婦の寝間に、なんとなしの人の気配を感じて、白のハイソックスの脚は抜き足差し足、引き込まれるように部屋の奥へと歩みを進めた。
真由美は再び、足取りを凍りつかせてしまった。
寝間にはほとんど全裸に剥かれた母が、血に染まって倒れていた。
父もその傍らに気絶して倒れていた。
両親の首すじには、咬み痕がふたつ、同じ間隔でつけられている。
母の足許には、見慣れぬ黒い影がうずくまっていた。
黒い影は、母のふくらはぎを、いじましそうに舐めつづけていた。
ひざ小僧の下まで破れ堕ちてずり降ろされたパンストに、皴を波立てるのを愉しんでいた。
経験のない真由美にも、母親の身に起こったことがなんなのか、すぐに察しがついた。
「あ、わわわわわっ・・・」
さっきまでの投げやりな態度はどこへやら、真由美はガタガタ震え出した。
逃げようとしたけれど、脚が思うように動かない。
背後から伸びてきた掌が彼女を掴まえ、居間のじゅうたんの上に引き据えた。
なんとか逃れようとジタバタしたけれど、身じろぎひとつできなかった。
母のパンストを引き破った男は、こんどは娘のハイソックスに目が眩んでいた。
同じようにされる――本能的にそう察した真由美は声をあげて助けを呼ぼうとしたが、喉が引きつっていて声は満足に出なかった。
母親から吸い取った血に濡れた男の唇が、そのままふくらはぎに吸いつけられるのを感じた。
ひざ下をほど良く締めつけているしなやかなナイロン生地を透して、ヌルヌルとした唾液が生温かく、素肌にしみ込んでくる。
あっ――と思った時には、圧しつけられた唇にいっそう力が込められていた。
両親の首すじを咬んだ2本の牙が、ハイソックスを咬み破って、真由美のふくらはぎを激しく冒した。
十代の若い血潮がしたたかに、男の唇を濡らした。
学校帰りのハイソックスを真っ赤に濡らしながら、真由美は十六歳の生き血を吸い取られていった――
男はうら若い血を強欲にむさぼり、そして魅了されていった。
淡い意識をたぐり寄せながら、比留間は眠りこけた娘の横顔を見守った。
娘は自分の血の味を誇るかのようにほほ笑んでいるように見えた。
「あたしの血美味しいのよ、たっぷり吸い取って頂戴」
そんなふうに言っているように見えた。


1時間後。
ともかくも夕食を終えた3人は、吸血怪人を囲んでひっそりと俯いている。
部屋じゅう鮮血をまき散らして3人の血を喰らった男は、至極満足そうだった。
頭からは白髪が消えて、褐色に萎えていた顔色にも血色をみなぎらせている。
その「血色」は、自分たちの体内から獲られたものだと、3人とも知っていた。
真由美は怪人の横顔を精悍だとおもった。
自分の身体から吸い取られた血液がそうしているのだとしたら、ちょっと自慢したいような、不思議な気分に囚われていた。
艶子も同じように感じていた。娘まで牙にかけられたのはなんとしても悔しかったけれど、
自分が喪った血がむだになっていないのは良いことだと、想いはじめていた。

「ともかく飯を食いなさい」と言ったのは、怪人のほうだった。
乱雑に散らばった座布団やら、ひっくり返ったちゃぶ台やら、撥ねた血潮が滴る洗濯ものやら――
怪人は慣れた手つきでそんなものを取り片づけて、着られそうな洗濯物をふたたび洗濯機に放り込むと、
艶子は自分を襲った怪人を無視するように、血の気を失った無表情のまま晩ご飯を用意していた。
親子3人がひと言も言葉を交わさずに食事をしている間も、怪人は部屋を片づけ、壁に飛び散った血を雑巾でぬぐい取っていた。
真由美が箸を置くと、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
ふだんなら投げ出すように箸を置いて部屋に引きこもってしまう子が、珍しく殊勝なしぐさを見せたことに、母親は優しく反応した。
「疲れたでしょ?今夜は早く寝ましょうね」
「うん、そうする。明日も部活で早いし――怪人さんもおやすみ」
真由美は自分の血を吸った怪人にまでおやすみを言って、部屋に引き取っていった。


「これからどうするつもりなのですか?」
娘が姿を消すと、待ち構えていたように艶子がいった。
目つきは鋭く、詰問口調。相手は怪人のほうにだった。
もうこの家の主導権を握っているのは夫ではないと悟ったようすだった。
「ここのお父さんはこの人だからね――」
怪人は控えめにこたえた。
あんたのご主人は俺でなく、あっち――と言いたげにみえた。
この期に及んで亭主を立てたのは、自分によって初めてしたたかに血を吸い取られた比留間の気持ちを確かめておきたかったのだ。
もしも出て行けと言われたら、出ていくつもりだった。
その代わり、家人のだれもを死なさない程度に、致死量ぎりぎりまでの血を3人から頂いて立ち去るつもりだった。
「あんた、ひどいこと考えてるよな?」
比留間は相手の思惑を見抜いたようにいった。
「ウン、でもその代わり、俺は二度とここには寄り付かねえよ」
怪人はいった。

比留間は傍らの妻の横顔を見た。
覚悟していた吸血を予想以上のしつようさで受け容れさせられたばかりではなく、案に相違して犯されてしまった妻。
そのうえ気絶しているうちにとはいえ、「決して手は出させない」と力説していた娘の血まで吸い取られてしまった今、
裏切られたといちばん感じているのは妻のはずだった。

これがドラマだったらきっと、俺たち一家3人は、ただの雑魚(ざこ)に過ぎないはずだ。
出獄した吸血怪人の第一の犠牲者で、女房にも娘にも、役名すら与えられず、
お人好しな夫が仏心を起こして家に引き入れた怪人を相手に、続けざまに首すじを咬まれて、服を血に染めて倒れてゆく。
ただそれだけの役なのだ。
でも、そんな無名のチョイ役にだって、意地もあれば、プライドもある。
数十年積み重ねてきた人生の苦楽だってある。
俺は二十年以上いまの仕事を続けてきたし、
おととしは俺の勤続20周年を祝って、家族旅行で温泉に浸かってきた。
女房だってパートに精を出して家計を支え、なにより家族に飯を作って送り出してくれている。
娘が高校に受かったときにはみんなでよろこんで、街でいちばんのレストランで食事会をやったっけ。
そんな家族の積み重ねは――飢えた怪人に咬まれて血を流して倒れてしまうワンシーンだけで片づけられてたまるものか・・・

「まず、女房に謝ってくれ」
比留間はいった。
え?と振り向く2人のどちらに向けてともなく、彼はつづけた。
「俺はお前に指を切って血を吸わせてやった。
 そのうえで、お前が出所したら行く当てがねえだろうからって、良ければ家(うち)に寄って行けとも確かに言った。
 俺に淫らな薬を仕掛けて血を吸う歓びに目ざめさせたのはまだいい。
 でも、女房は自分が血を吸われることには乗り気じゃなかったんだ。
 そりゃそうだろう?
 だんながいる身でほかの男に肌に唇を当てられて血を吸われるんだぞ。
 おぞましいだけじゃ済まねえよな?
 でも女房は、なんとかがんばって、お前ぇさんに血を分けてやった。
 そのうちこいつもどうやら・・・乗り気になっちまったみたいで――その後のことはもういい。
 行きがかりとはいえ、あんなことをしてれば流れでそういうことにだってなるかも知れねえものな。
 女房の血を吸わせてやろうなんて思いついた俺がいけねぇんだ。
 でも、女房には頭を下げてくれよな。男女のことだから、亭主の俺でも立ち入れねぇかもしれないけれど――
 本気で嫌だったのなら、それは女房の問題だ。
 なにより許せねえのは――娘のことだ」
怪人はビクッと肩を震わせた。
言葉が静かなぶん、身に染みているらしかった。
「両親どちらも、娘に手を出して良いとは、ひと言も言ってねぇ。
 人の好意を踏みにじって、約束をほごにした。
 お前がこの家から出ていっても、そんなことを重ねていたら、きっとろくな死に方はしねぇだろうよ」
比留間は言葉を切ると、思い切ったようにつづけた。
「お前がろくな死に方をしなかったら、吸い取られた俺たちの血は無駄になるってことじゃないのかい?」

ガタ・・・とその時、比留間の背後でガラス戸がきしむ音がした。
建付けの悪いガラス戸は、ちょっと手をかけただけで耳ざわりな音を立てるのだ。
3人が振り向くと、そこには真由美が佇んでいた。
高校に入ってからテストテストで荒みかけていた頬が、いつになく透きとおっている――と両親はおもった。
真由美はおずおずと言った。
「あたし――いいよ。別に血を吸われても」
「真由美!」
艶子が声を張りあげた。
「あなた、勉強だってあるんだし、部活も頑張ってるんだろ?
 怪人さんに血なんか吸われていたら、テストで良い点取れなくなるよ?
 試合にだって出れないだろう?ずっと補欠じゃやだってこの間言ってたじゃないの」
「うん。そうだけど・・・いい」
真由美の声は、きっぱりしていた。
「あたし、父さんや母さんといっしょに、この人に血をあげたい・・・だって、楽しいんだもの・・・」
「俺の・・・勝ちだ!」
怪人は嬉し気にいった。けれどもすぐに神妙な顔つきに戻って、艶子にいった。
「あんたには詫びる、いろいろとすまなかった。
 でも、あんたの血は本当に旨かった。ありがたかった。久しぶりに、人妻の熟れた血を愉しませてもらった。
 刑務所でのお勤めの辛さが、吹っ飛ぶくらいのものだった――」
「ちょっと――」
艶子は真顔のまま、怪人と顔を突き合わせた。
次の瞬間、
ばしいんっ。
艶子の平手打ちが、怪人の頬を打った。
「これでおあいこに、してあげる。いいよねあんた?」
後半は、夫に対する念押しだった。


狭い家だった。
玄関を上がってすぐに居間があり、その向こうが台所。二階は娘の四畳半の部屋がひと間だけ。
あとは居間の奥に、さっき濡れ場と化したばかりの夫婦の寝間があるだけだった。
「怪人さんをどこに寝かせるの?」
艶子は所帯持ちの良い妻らしく、明日からの切り盛りが気になる様子だった。
「あたしと寝る?」
真顔でそういう真由美を、さすがに母親は「ちょっと・・・」と制した。
「あんたがガマンするんだね」
艶子は夫に向かって、フフッと笑う。
「そうだな――そうするよりないな」
俺は居間に寝るよと、比留間はいった。
艶子と怪人のために気前よく、寝間を明け渡すというのである。
「じゃあさっそく今夜から――」
怪人はにんまりとした笑みを艶子に投げた。
「まったくもう、いけすかない」
艶子は反撥しながらも、まんざらではなさそうだった。
さっき襲われていたときの艶子の腰遣いを、比留間はありありと思い出していた。
さいしょのうちこそさすがにためらっていたけれど――
あれは間違いなく、悦んでいるときの腰遣いだ。
服を破られまる裸にされて、股間にズブリと突っ込まれちまって。
それからあとのあいつの乱れようったらなかった――と、
失血で遠のく意識が妻のよがり声でなん度も引き戻されたのを、ほろ苦く思い出していた。

「あたし、明日学校休む」
真由美がみじかく告げた。
「制服濡れちゃったから学校行けないし、どうせだったらこれ着てもう一度楽しませてあげようか」
ハイソックスも履き替えてきたよ――少女は真新しいハイソックスに眩しく包んだ足許を、吸血鬼に見せびらかした。
「あたしも、真由美に負けないように頑張らなくちゃね」
 パンストはなに色がお好き?網タイツとかもあるんだよ?
 だんなが出かけてから楽しもうか?それともさっきみたいに、見せつけるのが好きなのかい?
 とっておきのよそ行きの服があるの。特別に着てあげようじゃないか。あたしの血で、タップリ濡らしておくれよ・・・」

女どものはしゃく声が部屋を明るくし、比留間家にはようやく平和が戻った。


朝の明るさが、雨戸のすき間から洩れてくる。
はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・ひぃ・・・
寝間から洩れてくるうめき声に、きょうも比留間はひと晩じゅう悩まされた。
ふすまの向こうで妻の艶子が、見慣れたこげ茶色のワンピースを着崩れさせて、
あお向けに寝そべる怪人のうえに太もももあらわにまたがっている。
太ももを覆うパンストは見るかげもなく裂け目を拡げて、
そのうえ男の舌が存分にふるいつけられた名残に、唾液に濡れ濡れになっていた。
ああ・・・くうっ・・・おおおっ。
激しく擦れる粘膜の疼きに耐えかねたよがり声が、ひと晩じゅうだった。
あー、寝られねえ、寝られねえ・・・
もっとも昼間も、事情を知った上役から、長期の休みをもらっていたのだ。
「寝不足でやってられないだろう」という配慮だった。

うちの一家はたぶん、「モブキャラ」だ。
「吸血怪人物語」では、いの一番に狙われて、家族全員が血を流してぶっ倒れてしまう、
たぶん役名もつかないようなチョイ役だ。
でもそのチョイ役にだって、意地がある。いままで生きてきた人生がある。
勤続二十年以上の真面目なだけが取り柄の男に、所帯持ちの良いしっかり女房。
あれ以来肌をよみがえらせて、すっかり若返った熟妻は、亭主の残業代で買った色とりどりのストッキングを穿いて。
学校の制服が似合うようになった、年ごろの娘、白のハイソックスを紅い飛沫でド派手に濡らして。
だれもがたいせつな、ひとりひとりなのだ。
「あんたの奥さん、つくづくいい身体してるな。相性が好いのかな?
 わしは気に入った。気が向いたらいつでも抱かせてもらうからな」
などと。
やつは勝手なことを抜かしているが。
女房にはさすがにいえないけれど――
俺はやつに女房を犯されるのが、このごろ無性に嬉しくなる。
女房の良さを、やつはちゃんとわかってくれている。
かいがいしくかしずく女房を、ちゃんと可愛がってくれている。
女房のあそこが、やつの精液で濡れ濡れになっても。
喉の奥まで、おなじ粘液をほとび散らされても。
ボーナスで買ったばかりのよそ行きのワンピースが台無しになるまでふしだらに着崩されても。
艶子のことを分かってくれるんだったら――
やつが俺に見せつけたいという愉しみとやらに、よろこんでつき合いつづけてやるんだ・・・
「女房を犯すのはやめてくれ~、ああお前、またそんな声出して、ダメだ、ダメだ。夢中になったらいけねぇって・・・」

吸血怪人を家庭に受け容れた男

2023年09月12日(Tue) 22:10:30

ぁ・・・う・・・
吸血怪人に背後から抱きすくめられて、篠浦恵子は顔をしかめてうめいた。
厚ぼったい唇が歪んで、白い歯をかすかに覗かせている。
引きつったおとがいのすぐ下に、男の唇がヒルのように吸いついていて、
唇に覆い隠された鋭利な牙が彼女の素肌を抉るのを視界から遮っている。

咬みついた瞬間飛び散った血が、恵子の着ている空色のブラウスのえり首を濡らした。
唇のすき間から洩れた一条の血が、そのブラウスのえり首から胸もとへとしたたり落ちて、彼女のブラジャーを濡らした。
透けない生地のブラウスに遮られて外からは見えなかったが、恵子は黒のレエスのブラジャーを着けていた。
毎晩のように彼女との交わりを遂げようとする夫を悦ばせるためではなく、
今夜訪れると予告してきた怪人のために着けたブラウスでありブラジャーだった。

唇が、素肌のうえをせわしなく、蠢いている。
ぴったりと密着した唇が大きくうねるたびに、
恵子の血がひと掬(すく)いずつ、飢えた怪人の喉の奥へと送り込まれるのだ。
襲われはじめたさいしょのうちこそ、身の毛もよだつ想いだった。
いまでも、生命の危険と背中合わせのこの「遊戯」に恵子の胸は不吉に騒ぐのだが、
いまでは、彼女の生命の源泉をひたむきに需(もと)めてくるこの唇を、いとおしくと感じるようになっている。

彼女は腕をだらりと垂れて、とうに抵抗をあきらめていた。
手向かいに対応する必要のなくなった男の腕は、彼女の豊かな身体を、想いを込めてしっかりと抱きすくめている。
切実に慕う恋人を抱くときの力の籠めかたが、恵子の胸を強引に過ぎず緩すぎもせずに、ほど良く締めつけていた。
貧血を覚えた恵子は、ひざから力が抜けるのを感じた。
恵子は姿勢を崩して、赤いじゅうたんに膝を突いた。
肌色のストッキングに包まれた膝だった。
そのストッキングさえ、愛人を悦ばせるために脚に通しているのが、いまの恵子だった。

そのまま身を横たえてしまうと、
彼の関心がそのまま自分の下肢に向けられるのを恵子は感じた。
生温かい唇がストッキングのうえから太ももに圧しつけられるのがわかった。
薄手のナイロン生地ごしに、なまの唇が露骨に蠢き、唾液をヌルヌルと粘りつけてくるのを、ありありと感じた。
もの欲しげで、好色な唇だった。
その唇がまだ、30代半ばを過ぎたこの女の、熟れた血潮を欲している。
「破かないで・・・」
恵子はうめいたが、願っておきながら男が彼女の言を容れないことを知っていた。
ストッキングを穿いた婦人の脚に好んで咬みつくのが、彼の習性だったから。
そしてそうする前に、いやというほどいたぶりを加えるのも、彼の習性だったから。
男の牙が恵子の皮膚を突き通し、生温かい血潮がストッキングを浸すまで、かなりの時間が経った。
刻が過ぎる長さは、自分の情夫が彼女の装いに満足し、愉しみ抜いた証であることを、すでに彼女は知っている。
足許をゆるやかに締めつけていたナイロン生地が緊張を失い、裂け目を拡げるにつれて頼りなくほどけてゆくのを、
彼女は小気味よげな含み笑いで受け流すことができるようになっていた。

貧血が理性をより深く惑わせるのを、恵子は感じた。
見えるのは天井と、視界の隅に滲んだ近すぎる頭髪――
パンストを片脚だけ脱がされて。
スカートは腰までたくし上げられていた。
ショーツは自分で、引き裂いていた。
「欲しい・・・あなたが、欲しい・・・」
はしたないお願いを声をあげて発してしまったことに、かすかな羞恥をおぼえた。
けれども、それが本心であることを、言葉を発することでより強く自覚してしまったのも確かだった。
声を発したことが、却って恵子の激情に火をつけた。
「ああっ、お願い!犯して・・・私を犯して!うんと苛め抜いてちょうだい!」
想いの赴くままに、声はしぜんと彼女の口を突いて出た。
あなたがいけないのよ・・・
さんざ淫らな言葉を口にしてしまいながら、恵子はおもった。
恵子が声をあげることは、夫の希望だったのだ。


「怪人と逢っているのだろう?」
夫の唐突な問いに、恵子は言葉を失った。
「彼」とは、誘拐されて以来始まった関係だった。
あのときは、いっしょに囚われた息子の機転で首尾よく彼女は救出されたが、
一夜を共にする間、身を揉んで嫌がる身体を開かされて、怪人の一物を受け容れてしまっていた。
いちどならず、なん度もくり返される吶喊に、しだいしだいに身体が反応し始めるのを、どうすることもできなかった。
厳重な包囲のなかにあって、突入をためらう当局や夫たちをよそに、彼女の操は破られ、汚され、淫らに変えられていった。

正義のヒーローに撃破された怪人は、悪の組織からも破門されたと聞いた。
どうやって生きていくのか。どうやって血を得るのだろうか?と、ふと思った。
もちろんその時点では、自分に辱めを与えた暴漢に対する同情などなかった。
けれども人の生き血を欲しがる輩が街を徘徊するのはどういうものだろうと、懸念を感じただけだった。

年月が過ぎて、その怪人が再び目の前に現れたとき、
怪人を出し抜いて自分の救出に貢献した息子が、先に咬まれていた。
白のハイソックスを血に浸して帰ってきた息子から事情を聴くと、彼女は当然のように憤慨しかつ恐れたが、
息子は母親を見あげていった。
「苛めちゃダメ。いまはかなりかわいそうな状況だから」
整った眼差しは冷静で、同情に満ちていた。
息子のはからいで路地裏にうずくまっていた怪人は、かつての面影がなかった。
彼なりに、反省し悔悛したのかも知れないと、恵子は思った。
どうしてそこまでする気になったのか、いまの恵子にもわからないけれど、
気がつくと自分からスカートをたくし上げて、自分の太ももを咬ませ、息子につづいて血を啜り獲らせてやってしまっていた。
でも――と、恵子は思う。
家事に追われて身なりに頓着しないでいた彼女は、路地裏に出る前にスカートに穿き替え、
ふだん脚に通すこともなくなったパンストまで、わざわざ新しいものをおろして穿いていたのだ。
怪人がストッキングやハイソックスを履いた脚を好んで咬む習性を憶えていたからだった。
もうその時点では、咬まれる覚悟を決めていたのだろう。
きっとそれは、彼女を訪ねてやってきたときから、もうそのつもりになっていたのだろう――
何しろそのあと彼女はまな娘にまでも言い含めて、まだ稚なさの残る首すじを咬ませてやってしまっていたのだから。
子どもたちの血まで吸わせたのはきっと、彼女なりの同情だったのだろう。
まだその時点では、男女の感情はなかった。
きっとそのあとだ。
そうだ、いちど咬まれた女は淫らな想いに理性を侵蝕されて、怪人の思うままにされてしまう――
私は彼の術に、まんまと嵌(はま)ってしまったのだ。

術に嵌められたことを、自分は必ずしも悔いていなかったと思う。
夫に黙っているという選択肢は、正直すぎる性分の彼女には、耐えがたいものだった。
彼女は怪人をそのまま家にとどまらせ――家のなかでさんざ犯されてしまうという代償付きだったが――ともかくも一緒に謝ってもらった。
肩を並べて頭を下げるふたりに、夫がなにを思ったのかはわからない。
もとより、帰宅直後の夫を怪人が急襲して、首すじを咬んだ「御利益」に他ならなかったに違いないのだが・・・
夫の言い草こそ、ふるっていた。
「うちにも近所の評判ってものがある、こんど来るときは、ちゃんと家にあげてお相手しなさい」――
はたしてそれは、どこまで夫の本心だったのだろう?

それ以来なん度となく訪れる彼の誘いには、最優先で応えてしまっていたし、
「怪人さん遊びに来てるの?いっしょに遊ぼうよ」と無邪気に言い募る子供たちを交えて、
ゲームをしたり勉強を見てもらったりしたことで、怪人は子供たちにも愛着を感じ始めていたに違いない。

さて、目の前の夫のことである。
2人そろって謝罪をして叱り飛ばされた痕、彼と逢いつづけていることは特段夫には告げていない。
けれども、なんとなくそれを悟っているような夫のそぶりは、おりおり感じていた。
ひと頃途絶えていた夫婦の営みは、あの夜を境に復活した。
けれどもそれは、恵子を下品に虐げるような、荒々しく一方的にむさぼるようなセックスだった。
お前の夫は、俺だ。お前は俺に服従しなければならない。それがこの家に嫁いだ、お前の務めなのだ――
身体でそう言いつづけているようなセックスに思えた。
夫権というものは、セックスだけで片づけられてしまうような、単純なものなのだろうか?ふとそんな疑問が、彼女の胸の奥をかすめていた。
恵子はまっすぐに夫を見て、いった。
「お逢いしています。翔一ややよいとも遊んでくれていますし、私も――」
それ以上言うな、というように、夫は手を振って恵子を遮った。
「いちど、視てみたいんだ。きみがどんなふうにあいつと接しているのかを――」
夫はあのとき、怪人のことを「あいつ」と呼んだ。
まだ認めているわけではない。きっと、憎くて仕方ないのだろう。
「乱暴はしないで」
という恵子に、「そこまで野暮じゃない」と言い切ってくれはしたけれど・・・


何十年ものローンを組んでやっと手に入れた自宅が、不倫の濡れ場となって汚されるとは――
篠浦俊造は、あらぬ声を洩らして愛人と乱れあう妻を覗き見て、どす黒い想いを滲ませる。
少し前まで。
自宅に情夫を引き入れながらも、
「ねえ、やっぱりよそうよ。ここで今するのは良くないわよ」
と言い募っていた妻。
それが彼女に残っていた最後の倫理観と理性だった。
少なくともそこまでは、恵子は彼の妻らしく振舞っていた。
けれども、ちょっと背を向けた隙を突かれて怪人に後ろから抱きすくめられてしまうと、事情はあっさりと変わった。
「あ!ダメ!」
と叫びながらも妻は、男の抱擁を受け容れてしまっていた。
本人がそれを自覚していなかったとしても・・・
心ならずも抱かれたのか、そうでないかは、はた目にもわかった。
もしも前者であったなら、嫌悪に身震いしながら身を揉んで、あるいは相手の男を振り放していたかもしれないのだから。
逡巡する妻の首すじに男の唇が這ったのが、とどめだった。
たまたまこちらに向けられた妻の顔。そして男の唇――
男はしんけんに、妻を需(もと)めていた。
白い肌にヌメるようにあてがわれた、赤黒く爛れて膨らんだ血の気の無い唇が、
相手が常人ではないことを告げている。
そう――妻を襲っているのは、吸血怪人だったのだ。
すでにいちどは退治済みの怪人だった。
正義のヒーローにあっけなくのされてしまい、刑務所で服役までしたという。
だが、模範囚として出獄した彼に、反省の色は果たしてあるのだろうか?
男は本能のままに妻の首すじに喰いついて、血を啜りはじめていた。
赤い血のすじがブラウスの胸もとに這い込んで、
それがひとすじのしずくであったのが一条の帯になってゆくのを、いやというほど見せつけられた。

ひざ小僧を突いてしまった妻が堕ちるのに、さほどの刻は必要なかった。
男はなおも容赦なく恵子の血を啜り、恵子は首すじを、そして脚を差し伸べて、男の欲求に応えつづけた。
恵子の胸から空色のブラウスを剥ぎ取ると、男は自分の唇を恵子の唇に熱烈に圧しつけてゆく。
自分の血をいやというほど吸い取った唇に、妻の唇は応えていった。
好きよ・・・好きよ・・・といわんばかりに。
そして妻の想いは、とうとう声になってあらわにされた。
「欲しい・・・あなたが、欲しい・・・」
うわ言のような声が、だんだんと大きくなって、しまいにははしたないほどの大声になっていた。
「私を犯して!うんと抱いて!」
「もっと、もっと苛め抜いてええっ!」
「ストッキング破くの、だめぇ・・・」
ふだんの思慮深く大人しい妻からは窺いようもない、あられもない淫らな言葉――
恵子は娼婦に堕ちた。そう思うしかなかった。
もとより、2人の関係はすでに知っていた。
妻は正座までして、相手の男と肩を並べて謝罪をくり返した。
けれども、「もうしません」とは、決して言おうとしなかった。
男のほうも、「奥さんのことは諦めます」とは、絶対口にしようとしなかった。
つまり、2人の意志は固い・・・ということなのだと、勤務先では「賢明課長」とあだ名された彼にも良く理解できた。

さいしょは家に入れるつもりがなかったという妻は、
男がさいしょに訪ねて来たとき、わざわざ家の外の路地裏で顔を合わせたという。
いちどは自分を拉致してアジトに連れ込んで、吸血行為にとどまらない暴行をはたらいた男である。
当然の警戒心だった。
けれども、いま男が置かれている状況に同情した妻は彼に自分の生き血を与え、
さいごにはほだされて家にあげてしまった――というのである。
なん度も逢瀬を重ねて一線を越えたという奥ゆかしさは感じられない。
衝動の赴くままにずるずると関係を発展させて、しまいに子供の目に触れかねない状況で濡れ場に及んだというのである。
いったい妻は、いつからそんなふしだらな女になってしまったのか。

かつて怪人の手で拉致されたとき。
いっしょに連れ去られた息子の機転のおかげで、正義のヒーローは彼のことを撃ち倒した。
けれども妻は、その憎むべき怪人と、一夜を共にしてしまっている。
あのとき拉致された妻は、吸血怪人と一夜を共にしている。
関係者は口を閉ざし、妻本人もなにも告げようとはしなかったけれど、ことが吸血行為だけに収まったとはとうてい、思えない。
そのときに身体を開かれた記憶が、それほどまでに好かったのか?
あのとき。
解放された妻は、嫌悪の情もあらわに身をうち震わせて、夫に身を寄り添わせた。
とっさの行動だったとはいえ、二児の母となってから疎遠になりがちだった妻の愛情を久しぶりに感じたものだ。
あのときの妻の振舞いは、嘘だったのか?衆目を取り繕うためのボーズに過ぎなかったのか?

いま妻は、やはり身をうち震わせて――
「夫」ならぬ「情夫」の逞しい腕のなか、恥ずかしげもなく裸身をさらけ出している。
太ももまでずり落ちた肌色のストッキングだけが、着衣を引き剝かれるまえの妻の品格の名残りとなっていた。
それですら――男の舌でネチネチといたぶり抜かれ、たっぷりと唾液をしみ込まされてしまった、情事の痕をありありと留めているのだ。
ああ、またしても突っ込まれた。これでなん度めだろう?
さいしょは押し倒されてすぐ、スカートをたくし上げられて犯された。
そのときも妻は、信じられないことに、
男の恥知らずな舌から頼りなくも貞操をガードしていたショーツを、自分の手で引き裂いていた。
それからじゅうたんのうえで身体をひっくり返され、バックから需(もと)められた。
額に汗をしたたらせ、四つん這いになりながら喘いでいる妻の姿は、屈従的で、
なにもかもを夫以外の男の手で教え込まれてゆく女奴隷のそれだった。
セックスの頻度さえもが、凄い。絶倫だ。
いや、それ以上に・・・
妻への執着の強さを感じさせる。いやというほど、感じさせる。

俺の妻が。
俺だけの妻が・・・
ほかの男の餌食になり、しつけられ、覚え込まされ、支配されてゆく。
俺の権利はどうなるのだ?
妻に対する俺の権利は、完全に取り払われてしまうのか?
このままでは、かけがえのない家庭が崩壊してしまうではないか!?
俊造は焦れに焦れた。
一刻も早く妻を救い出さなければ、妻は完全に男のために汚し抜かれ、骨の髄まであいつのものになってしまう。
そんな焦りがズキズキ高鳴る心臓を、とろ火で焙りたてた。
腰の上下が一回あるごとに、相手の精液が飛び散り妻の膣を濡らし、さらにその奥へとそそぎ込まれてゆくのを、ありありと思い浮かべてしまう。
やめろ、やめてくれ。話が違う!
しかし、懊悩する俊造の想いとは裏腹に、
彼のペニスが鎌首をもたげ、怒張をエスカレートさせて、先端がほころびて淫らな粘液を徐々に洩らしてしまうのを、彼はどうすることもできなかった。

妻が犯されているのに。
俺の名誉が踏みにじられているというのに。
どうしてこんな?勃起?そんな場合じゃないだろ!?
自問自答しながら、俊造は焦れた。焦れつづけた。答えは出なかった。
ズボンをしたたかに濡らした彼は、脱衣所に走り、脱ぐ手ももどかしくズボンを脱いで洗濯機に放り込んだ。
そして、片時を惜しむようにふたたび、不倫の現場に取って返した。

「あれぇ~、許して・・・」
妻は相変わらず、声をあげている。
もはやその表情に、苦悩や自責の翳りはない。
そんなものはとうに捨て去ってしまっていて、いまあるのは女の身としての歓びを全身に沁みとおらせた、愉悦に弾む熟れた肉体だけだった。
はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・
全身に愉悦を滲ませて。
女は黒い髪をユサユサと揺らしながら、うわぐすりを塗ったように滑らかな肌を、バラ色に上気させている。
これが妻か?本当に妻なのか?
いつもの所帯持ちの良い、しっかり者のお前はどこに行った?
「あぁん、もっとォ・・・」
なにを言っているんだ?それじゃあ場末のキャバレーの淫売女と変わりないではないか?
「ひいぃ・・・ひいぃ・・・あなた、すごぉい・・・っ」
やめろ、やめてくれ。お前はほんとうに、俺の妻なのか?「篠浦」恵子なのか?
男を抱き寄せる妻の指先にキラリと、なにかが光った。
結婚指輪だった。
指輪をしたまま俺を裏切っているんだ・・・
俊造は、完全な敗北を感じた。
妻は、頭のてっぺんから脚のつま先まで塗り替えられてしまったのだ。
夫ならぬ男の支配を受け容れて、ふしだらに腰を揺らしてヒイヒイ喘ぐ女になってしまったのだ・・・

さっきから。
男はなん度も、妻にキスをくり返している。
こんなに熱烈なキスを交わしたことは、果たして俺たちの間にあっただろうか?俊造はおもった。
新婚のころはいざ知らず、出産、引越し、人並みの出世を賭けたせわしない日々――
それらのなかで、そうしたことはすべておざなりにされてきてしまった。
今さらながら、それに気づいた。遅い。遅すぎる・・・
男はほんとうに、妻のことが気に入っているらしい。
片時も手放さず、身体を密着させて、それだけではない、そこはかとない妻に対する気遣いが、そこかしこに見え隠れする。
たぶん自分の性欲の発露だけではなく、相手の女が感じているのか、苦しいだけなのか、相手の身になって見極めようとする視線がそこにあった。
俺はそんなこと、考えもしなかった――
相手の男は、妻を得て嬉しいのだろう。幸せでたまらんのだろう。
妻の熟れた身体を楽しんでいるだけではなく、本能のままに生き血をむさぼる行為に溺れているだけではなく、
妻を気遣うことすら、この男にとっては歓びなのだろう。
そして、男を満足させることが妻の歓びになっている・・・

俊造はたまりかねて、とうとうドアを押し開いていた。

ちょうどふたりは、一戦を終えてお互いの息遣いを確かめ合っているところだった。
入ってきた俊造に対して、2人はゆっくりと顔を向けた。
男の顔にはなんともいえぬ親しみがよぎり、
女は謝罪するように首を傾げ、はにかむような照れ笑いを浮かべていた。
傾げた首すじには、咬まれた痕がくっきりと刻印されていて、傷口にはかすかな血潮がまだあやされていた。
「美味シカッタ・・・」
男が妻の髪を、血に濡れないよう掻きのけた。
怪人らしい機械的な声色だったが、妻に惚れている男の声だと俊造は感じた。

「素敵ナ時間ヲクレテ、ワタシハ感謝シテイマス」
男の言葉にてらいはなかった。
「あなた、ごめんなさい。でも嬉しいです」
女の言葉にも、真情があふれていた。
「ずいぶんと仲良くなったんだね・・・・・・おめでとう」
さいごのひと言に自分で驚きながらも、声にしてしまうとむしろ、いまの気持ちに正直になれた。
「さいしょは家内をモノにされたと聞いて、気が狂うくらいに腹立たしかったんだ。でも――」
俊造は言葉を切った。
怪人が、しんそこ申し訳なさそうなまなざしを、自分に向けている。
「子供たちもきみに懐いている。俺の居場所はここにあるのか?」
「ほら、ごらんなさい」
妻が、情婦をたしなめている。
「うちの人ったら、まじめなのよ。だから絶対、そう思われちゃうって言ったじゃない」
「真面目デ責任感ノアル、ゴ主人――自分ノ奥サンヲ辱メラレテ、イイ気ガスル訳ハナイ」
怪人は妻の言に相槌を打つように、あとをつづけた。
「必死ニ守ッテキタゴ家族。一生懸命働イテ、家ヲ建テテ妻子ヲ住マワセテ、ソレナノニ裏切ラレテシマウ。
 気ノ毒、カワイソウ」
うめくようなうわ言のように続けた後、彼はいった。
「ダカラ、ココハ貴方ノ居場所。居場所ガナイノハ、ワタシノホウ」
「でも、出て行きたくはない。そうだね・・・?」
怪人は、素直な少年のように頷いた。
「私の主人は、あなたしかいません」
そう告げる恵子の目線は、まっすぐ夫に向けられていた。きっぱりとした口調だった。
「俺の妻でいてくれるんだね?」
念を押すように訊く俊造に、
「コノ人ハ元カラ、アナタノ奥サン。ワタシハ、タダノ”オ邪魔虫”」
俊造は思わず噴き出した、
「怪人のきみでも、お邪魔虫なんて言葉を知っているんだね」
聞いて頂戴・・・というように、恵子が夫に向けて目で訴える。
「この人ったら、人妻を犯すのが好きだって言うの。いけないひとだと思いませんか」
「で――きみがこの街の人妻の代表として狙われてしまったということなのだね?」
拉致されてアジトまで攫われてしまった女性は、そういえば自分だけだった――恵子はいまさらながらのように思い出す。
「ほかの家の奥さんはその場で襲われただけで帰されたのに、きみだけは戻ってこなかった。とても心配だった」
「アノ時ノワタシハ、本当ニ悪カッタ。
 子供タチニモ心配サセタ。アナタノ気持チモ考エナカッタ。謝ル。改メテ謝ルーー」
男の頬は慙愧の想いに翳っていた。
「人妻代表さん」
俊造に、いつもの快活さが戻って来ていた。恵子のことをおどけたようにそう呼ぶと、
「長年尽くしてくれたご褒美にきみに愛人をプレゼントするよ。
 ぼくが決心して、きみに愛人を持たせることにした。せめて、そういうことにしてくれないか?
 きみのことが気に入ったこの男(ひと)を、ぼくは自分の家庭に受け容れる。
 子供たちもきっと、よろこぶだろう――」
恵子の目から涙があふれた。
「あなた、ありがとう・・・ありがとうございます。
 代わりに精いっぱいお尽くししますから、どうぞ恵子のふしだらをお許しください」
だれに教わったわけでもなく、三つ指ついて平身低頭していた。
俊造は、怪人に手を差し伸べた。
「貞淑な家内をここまで堕とされるとは、男として不覚でした。貴男の熱意が優ったのでしょう。
 家内を誘拐されたときには心配したけれど、きみのお目が高かったということだね。
 家内を択んでくれて、家内を狙ってくれて、夫として礼を言います。
 もういちど言わせてもらう。おめでとう」
物堅い夫が自分の妻を犯した男に握手を求め、お互いの掌を固く握り合わせるのを、恵子は感無量の眼差しで見つめていた。
「お祝いに、今夜は明け方まで、家内のことを明け渡すよ。ふたりで楽しんでくれたまえ。
 それから――きみが来たい時はいつでも言ってくれたまえ。家内のこと、独り占めさせてあげるから」

男と女は嬉し気に、しかし少しだけイタズラっぽく、ウフフと笑み合った。
「じゃあお願い」
恵子がいった。
「服を1着選んでくださらない?
 このひとのために装いたいの。
 貴方が択んでくれた服に着替えて、それを私のお嫁入り衣装にするわ」
え――?
俊造はゾクッとした。
心を読まれた想いだった。
着飾った恵子が目の前で征服される――
誘拐事件以後、彼の脳裏に灼きついた想いがこみ上げてきた。
吸血怪人とおぞましい一夜を過ごした妻。娼婦のように淫らになったかもしれない妻。
そんな恵子を想って、かつてなん度となく思い描いてきた淫らな光景が、いま目の前で現実のものになるのだ――
「じゃあ・・・
 怪人さんに誘拐されたときの服はどうだろう?
 いまでもきみが結婚式の時に着ている、薄いピンクのスーツ、それにネックレス。
 ちょうどぼくが買ってあげたイヤラシイ下着があっただろう?あれも一緒に着けたらどうかね?」
恵子はウットリとした目で、夫をみた。
「この人のこういうところが好きなの」
真面目なくせに、けっこうエッチなのよ――
それは愛人に対する、明らかな夫自慢だった。

10数分後、着替えて出てきた恵子は、目を見張るほど艶やかだった。
ひざ丈のスカートを少し短めに穿いて、太ももが微かに見え隠れしていた。
スカートのすそから伸びた豊かなふくらはぎは、純白のストッキングにピンク色に透けている。
犯される女の品性を示すように、ストッキングには微かな光沢がつややかによぎり、高貴さと淫靡さとを際立たせていた。

怪人は、ものも言わずに恵子夫人の胸を、背後から腕に巻いた。
「あれえっ」
芝居がかった夫人の声に、俊造はまたも激しく怒張をみなぎらせた。
「ボクノ後ニ、奥サンノ肉体、タップリ楽シムト良イーー」
怪人はそう言いざま、恵子を荒々しくじゅうたんの上に引き倒した。
きゃあっ・・・恵子はまた叫んだ。
子供たちが起き出して、ドアのすき間からそうっと中を窺っているのを俊造は背後に感じたが、
もはやそれでも良いと思った。
安心しなさい。お母さんは怪人さんと仲良くなるためにちょっとおイタをしているところだから――
彼は背中で、子供たちにそう伝えた。

真珠のネックレスが光る首すじにふたたび艶めかしい血をあやし、
逞しい猿臂に巻かれ、スカートごしに逞しい怒張を感じつつ、
引き裂かれたストッキングのたよりない感触を噛みしめながら、恵子は怪人と熱い熱いキスを交わす。
夫がプレゼントしてくれた真っ赤なブラジャーは男の手で、同じ色のショーツは恵子の手で引き裂かれた。
自分のプレゼントを引き裂きながら興じる二人を前に、夫が手で軽く拍手をするのが、視界に入った。
「あなた、私幸せ――」
そう心の中で叫んだ時、
夫の数倍は勁(つよ)い黒ずんだ肉塊が、自分の膣にもぐり込み力強く抉るのを感じて、
恵子は思わず、身を仰け反らせていった。

それから数時間。夜が明けるまで。
息せき切ってかわし合わされる呼気が絶えることはなく、
感謝と幸福感に打ち震える愛人の腕の中、恵子は恥を忘れて夫を裏切りつづけ、
俊造は物堅い課長夫人であったはずの妻がはしたなく堕落して、
篠浦家の主婦の操をほかの男の精液に濡らしてゆく有様に、惚れこんだように見入りつづけていた。


あとがき
これまた、一気に描いてしまいました。。
いうまでもなく、前作の続きです。
さいしょはヒロインをどの女性にしようかとあまり考えずに描いていたのですが、
そのわりにブレはほぼないと思っています。
じつは前作を描くときに、いちばん最初に思い浮かんだのがこちらの家庭なんですね。
昭和の家屋に住む、堅実なご家庭。
生真面目な夫に、控えめでしっかり者の妻。
無邪気でわけへだてのない視線を持っている子供たち。
どこにでもありそうなそんな家庭を襲った、小さな(小さくない?)嵐のてんまつです。
すみずみの表現も、いままでにない感じのをちりばめたつもりです。
どうぞお楽しみください。・・・って、あとがきだったんですよね、これ。(笑)

正義のヒーローに退治されながら生き残った、怪人のその後

2023年09月12日(Tue) 22:09:39

正義のヒーローに退治された吸血怪人がいた。
ふつう怪人が征伐されると爆発を起こして四散してしまうのであるが、
幸か不幸かこの怪人は爆発を免れ生存してしまった。
しかし、使命を果たせなかったことから悪の組織からは破門され、路頭に迷うことになった。
妊婦や幼児を連れた母親、それに病気の老女の血を吸わずに見逃していたことも露見して問題視されたのだ。
目にした女はことごとく襲って生き血を吸うことが彼に課せられた任務だったのだ。

飢えた怪人は切羽詰まって、路頭で一人の女性を襲った。
勤め帰りのOLだった。
そのため傷害罪で逮捕され、刑務所にぶち込まれることになった。
食を欲すればそれだけで罪になる。
怪人は必死になって、人間並みの食事を覚えようと努めた。そうでなければ餓死の運命が待っていた。
どうにか人間並みの食事を摂取できるようにはなったものの、
人の生き血を飲まなければこの人造人間の身体は急速に衰え死に至ることまでは変えられなかった。
いっそ死んだ方が良い――と思っていたところ、
またもや幸か不幸か、怪人は模範囚として刑期を短縮されて出獄することになった。
人間並みの食事を摂取することから、再犯の危険なしと判断されたのだ。
俺を野に放つのはまずい、終身刑を果たしたいと怪人は主張したが、手続きの関係で予定通り出獄させられた。

刑務所には1人だけ、親切な看守がいた。
彼は人間の血を欲する怪人の欲求に理解を示し、時折自分の指をナイフで傷つけて、怪人に血を吸わせていた。
怪人がどうにか所期の能力を維持できたのは、彼の血のおかげだった。
行き場のない怪人の身を案じて、看守は自分の家に彼を引き取った。
看守には30代の妻と、10代の娘がいた。
「2人にはよく言い聞かせてある。でも私にとっては大切な家族だから、どうか手加減してもらえないか」
怪人は、吸血した相手を洗脳することができた。
看守も少しばかり洗脳されてしまっていたので、こんな破格の善意を示してくれるようになったのだが、
まだ血を吸われていない身体のままで夫の言を信じた妻や、両親の言いつけに従った娘が立派だった――ともいえるだろう。
引き取り先となった看守の自宅では、一夜にして、妻も娘も吸血された。
2人の女は、自分たちの血が怪人の喉を愉しませるのを悦ぶ身体になってしまったし、
看守もまた、服を血に染めながら横たわり怪人の意のままにされてゆく妻や娘の甘美な受難を目にすることに、性的な歓びを覚えるようになっていた。
この3人の心の中では、自分たちが不幸になったという実感はまるでなかったのである。

怪人は看守の妻を自分の愛人どうぜんにあしらっていたが、看守はそれに対して苦情を言い立てることはなかった。
むしろ、怪人に愛されることで、自分の妻が生き延びられる見込みを持ったことに、安心しているようすだった。
怪人は看守の妻をまじめに愛した。
性欲を発散するだけの掌と、自分の身に真心を込めてくる掌とが違うことを、彼女はよくわきまえていた。
夫に対しては、切羽詰まった欲求に応えるすべも身に着けていたが、
怪人からは労りと慈しみに似た感情を帯びた掌を当てられることを、むしろ悦ぶようになっていった。
さいしょは寄る辺のない身の上に同情して意に染まぬセックスの相手をするだけの関係が、
心の通い合う文字通りの「情交」になってゆくのを、彼女はせつじつに感じていた。

怪人は夜中に夫婦の寝室を冒すことはあえてしなかったが、
看守が出勤していくと、送り出したその妻の首に腕を回して家の中に引きずり込んで、
もうたくさん!と言わせるまでスカートの奥を汚す行為をやめなかった。
そのうち看守も、怪人が夜這いどうぜんに夫婦の寝床に侵入してくるのを妨げずに、
自分の欲求を散じてくれた妻が時間差のある輪姦を遂げられてしまうのを、悦んで目にするようになっていた。

しかし、いつまでも看守一家の恩情にばかり甘えているわけにはいかなかった。
彼の必要とする血液は、看守や女2人から摂取できる血液量を、はるかに上回っていたためだ。
看守は娑婆に戻った怪人が「お礼参り」をしないかと恐れていた。
「そんなことはしない」と、怪人は誓った。
あくまで自分の催淫能力の虜になったものだけを餌食にして生きていくつもりだった。
彼の催淫能力には限界があって、だれでも彼でも誘惑できるわけではなかった。

まず手始めに、悪の組織に所属して任務を遂行していたころに餌食にした女たちを物色した。
彼女たちが、いちどは彼に洗脳された「実績」の持ち主だったからだ。


看守の家を出て数日が経っていた。
道行く人たちを無差別に襲うことだけはすまいと誓って出たのだが、
彼によって吸血の被害を受けた女性たちはほとんどが転居してしまっていた。

牙にかけた女性はたったの1人だった。
彼女はキャバレーのホステスで、かつて怪人が「現役」だった時、未明になった帰り途を怪人に襲われ餌食にされたのだった。
怪人の思惑に外れて、彼女の身体からはすでに「毒気」が去っていた。
いきなり襲った相手が本気で抵抗してきたことで、すぐにそれとわかった。
あわてて手を引っ込めようとしたときに、女は怪人の顔を見、相手の正体に初めて気づいた。
「なあんだ、あんたか」
女はそういって、紫色の派手なドレスをたくし上げ、太ももをさらけ出した。
「おやりよ、あんただったらかまわない」
女は怪人の魔力の影響を免れていたが、彼が女性の太ももに好んで咬みつくことはまだ憶えていた。
怪人は有無を言わさず彼女を抑えつけ、太ももに喰いついた。
ウッ・・・
女は甘くうめいて、生き血を吸い取られていった――

引きずり込まれた草むらのなかから身を起こすと、
女ははだけたドレスをむぞうさにつくろって、いった。
「服を破らないでくれてありがとね。何せ商売道具だからね。時々だったら声かけなさいよ」
明日は仕事の日じゃないから、少し多めに吸わせてあげるといった彼女の頬は、蒼かった。
自慢じゃないけど、気に喰わない男には身体を許したことなんか一度もないんだ――
女はわざと聞こえるように言い捨てて、ふらふらとよろけながら、通りに戻っていった。

ホステスの身体から摂った血が彼の干からびた血管から消えかかった、その日の夕刻。
怪人は薄ぼんやりとなりながら、とある大きな家の前に佇んでいた。
背後で、ハッとして脚をすくめる気配がした。
怪人が振り向くと、ピンクのスーツを着た若い女が1人、立ちすくんでいる。
かつて襲ったことのある、社長令嬢だった。
「現役」のときには人質に取って、アジトのなかでは度を重ねてうら若い血を愉しんだ相手だった。
たしか、父親が社長をしている中堅企業に勤めていたはずだ。
お互い見つめ合った目と目の間に、敵意はなかった。
「入りなさいよ」
女は言い捨てるようにして、インタホンを鳴らした。
「はい・・・」
インタホンの向こうから聞こえる落ち着いた声に、女はいった。
「あの時の吸血怪人さん、来たの。ママも逢うわよね?」
母親とは初対面だった。
けれど彼女は、娘を襲った憎い怪人との対面を希望していた。
ひと言詰ってやりたかったのだ。
誘拐事件のおかげで、娘の縁談が破談になっていたためだ。
「娘の将来を台無しにして、どういうことなのかしら!」
母親は土間から怪人をあげようともせずに、詰問した。
力づくならかんたんに籠絡できるはずの母親相手に、オドオドと接し、ぶきっちょに謝罪の言葉まで口にする怪人に、娘は好意を持った。
「ママったら、そうムキにならないでよ。私にしてみれば感動の再会よ。
 このひと、外であたしを襲って服を破いたりしたら近所の評判になると思って、ガマンして家の前で立ちんぼしてたの」
娘は怪人が昼間からずーっと外で待ちぼうけしていた怪人の本意を見抜いていた。
あの時のお見合い相手はその後別の女性と結婚したが、とんだ暴君でおまけに放蕩者だった――と娘は打ち明け、怪人を笑わせた。
久しぶりに、心から笑った気がした。
「勤め帰りのきちっとした服装、お好きだったわよね?」
娘はそういうと、怪人を自室にいざなった。
ここなら多少着衣を乱されても問題じゃない。
声さえあげなければ、ご近所の評判にならないから。
娘の囁きが怪人の耳たぶに暖かく沁みた。

遠慮しいしい咬み入れた首すじは以前と同様引き締まっていて、ほとび出る血潮の美味さも変わりなかった。
「ドラキュラ映画のヒロインに見えるかしら?」とおどける娘に、「すごく魅力的だ」とこたえて抱きしめていた。
知らず知らずお互いの唇を求めあって、重ね合わせていた。
娘が貧血を起こして畳のうえに倒れると、彼女の下肢に覆いかぶさって、ストッキングを穿いた脚に舌をふるいつける。
薄いナイロンのなよなよとした感触が、唇に心地よかった。
ストッキングに裂け目を拡げながら、自分のふくらはぎに牙を埋めてくるのを、娘はウキウキとしながら許していった。

往きがけの駄賃というわけではなかったが、母親も餌食になった。
リビングに降りてきた怪人が娘から吸い取った血に唇を浸しているのを目にした母親は、「人でなし」と罵った。
けれども、娘の安否を確かめようと母親が自室に入ると、
貧血を起こした娘は服を部屋着に改めて、伸べられた布団の上にちゃんと寝かされていた。
折り目正しいことを何よりも重んじる母親は、「礼儀は心得ていらっしゃるのね」と、気色を改めた。
「ママ、この小父さん――あたしの血だけじゃ足りないみたいよ」
娘はイタズラっぽくウィンクをした。
母親は大仰に吐息をついて、怪人にいった。
「お好きになさいな」
つぎの瞬間、痺れるような痛みが、社長夫人の首のつけ根に走った。
これと同じ痛みを、この娘(こ)はなん度も愉しんでしまったのだなと彼女はおもった。
怪人の持つ洗脳能力によって酔わされていると自覚していながら、
女は自分の血液を侵奪してゆく男の掌を、ブラウスのうえから取り除けることができなくなっていた。
したたる血潮がブラウスのえり首から入り込んでブラジャーを生温かく濡らすのを感じながら、
娘が吸血されるとき、自分の服を濡らして台無しにしてしまっても構わないと思ったのももっともだと感じ始めていた。
40代後半になろうとしている分別盛りの年配なのに、年ごろの娘のようなときめきを抑えきれなくなっていた。
自分の気持ちが若返ったことにほろ苦い歓びを感じながら、
社長夫人は娘に続いて、パンストを引き裂かれショーツを荒々しくむしり取られるのを許してしまっていた。

朝になるとこの家のあるじである社長が出張先から戻ってくる――という母娘の手で、怪人は追い立てられるようにして家を出た。
母親は、忘れた頃におととい来なさい――と、拒んでいるのか受け容れてくれるのかわからないことを言った。
娘のほうは、母親の言い草のあいまいさをはっきりさせるように、「待ってるから」とハッキリ言った。
いまの縁談がだめになったら別のくちを考えるわ、とも言ってくれた。
その日の朝に洗濯機に投げ込まれた娘のショーツが初めての血で濡れているのを、母親は見逃さなかった。


つぎの訪問先が夕刻になったのは、なんとかその家だけは立ち寄るまいと逡巡したせいだった。
夕べ訪れた社長の邸宅に比べると、古びているうえにふた周りも小さい一軒家だった。
そこは、堅実に暮らすサラリーマンの家だった。
バタバタと急ぎ足の小さな足音がした。
怪人が目を向けると、そこにはその家の息子が佇んでいた。
初めて襲った時と同じ、半ズボンに白のハイソックス姿だった。
「え?来たの?」
息子は目を見開いて怪人を見た。
「脱獄?」
「残念ながら、刑期が短縮になったのだ」
「それって、良かったってことじゃない」
「わしの身の上をわかっているだろ・・・」
怪人はさえない声で呟いた。
ああそうだね――と息子は、まだ幼さの残る声でこたえた。
彼は、怪人が人の生命を奪うのを忌んでいることを知っていた。
「殺人罪じゃなくて傷害罪だったから良かったんだね」
息子は晴れやかにそういった。ボクだって勉強してるんだよ――と言いたげな口ぶりがほほ笑ましかった。
「婦女暴行も絡んでいるから、厳罰だったがな・・・」
怪人はそう言いかけて、言葉を飲み込んだ。子供にまだきかせる内容ではないと思ったからだ。
「ここに来たってことは、血を吸いたいんだろ?
 ボクで良かったら、いいよ」
少年はハイソックスを履いた脚を、怪人のほうへと差し伸べた。
目のまえで怪人が、母親の穿いているストッキングを嬉しそうに咬み破るのを見ていた少年は、
男が長い靴下を汚しながら吸血する変態趣味の持ち主だと知っていた。
「ここでかい?」
「へえ~、周りの目を気にするんだ。進歩したじゃん」
少年は無邪気に声をはずませて、怪人をからかった。

少年に対する吸血は、路地裏で実行した。
真っ白なハイソックスに着いた血のりが赤黒いシミを拡げてゆくのを、少年は面白そうに見おろしていた。
「だいぶ体力がついたようだな」
怪人がいうと、
「もともと強い子だったけどね」
と、少年は負けずにこたえた。
逃げた人質を庇おうとして少年が機転を利かせたおかげで、正義のヒーローの到着が間に合ったのだ。
「だから、仕返しに来たのかとおもった」
「そうではないが・・・」
口ごもる怪人を見て、少年はアハハと面白そうに笑った。
少年は、怪人が家のまえでためらっている理由に心当たりがあるようだった。
「待ってな、母さん呼んできてやるよ」
怪人が心から望む再会をかなえてやるとあっさり口にすると、
少年はさっきと変わらぬ急ぎ足で、バタバタと自宅に駆け込んでいった。

10分ほどして、少年の母親が路地裏に現れた。
人目を気にしぃしぃ玄関から出てきたのを、怪人はよく見ていた。
この家で長いこと主婦をやっていかなければならない彼女にとっては、近所の評判がどうしても気になるのだろう。
「息子から聞きました。仕返しにいらしたの」
真顔になっている母親を前に、怪人はうろたえた。
なんということだ。ちっとも伝わっていないではないか――と、怪人は切歯扼腕した。
そうじゃなくて・・・と言いかけると、ムキになった顔つきが可笑しかったのか、母親はクスッと笑った。
「そういってからかってやれば面白いって、ショウくんが言うから――」
と、母親はいった。
あの子にはやられ放しだな――怪人は本音でそう呟いた。
「お時間あまりないの。子供たちに晩ご飯食べさせてあげないといけませんので――」
うちの人もそろそろ帰ってくるし、家にあげてあげることもできなくてごめんなさいね、と、母親はいった。
そして、穿き替えてきたばかりらしい紺のスカートをめくって、肌色のストッキングに包まれた太ももを、怪人の前にさらけ出した。
「悪いね、奥さん」
「うちの子がご迷惑をかけたので――あうッ!」
太ももに食い入る牙の鋭い痛みに、母親は言葉の途中で声を失った。
初めて噛まれたときの記憶が、いちどによみがえった。

あのときもこんなふうに、ストッキングもろとも食い剥かれていったんだっけ――
母親は反すうした。
あのときもこんなふうに、
スカートたくし上げられて、ふだん穿きのショーツを視られたのが恥ずかしかったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
ショーツを引きずり降ろされて、お外の空気ってこの季節でも意外に肌寒いのねなんて、のん気なこと思ったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
ハァハァと血の匂いの交じった息を嗅がされて、キスを奪うなんてひどい、うちの人としかしたことないのにって思ったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
ショウくんややよいちゃんや私の血の匂いだから、決して嫌な匂いじゃないのよって、思おうとしたんだっけ――
あのときもこんなふうに、
主人に悪い悪いって思いながら、いつもより大きなモノを突っ込まれて、思わずドキドキしちゃったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
絶対こんなのダメよって思いながら、いつの間にか怪人さんの背中に腕を回してすり寄ってしまっていたんだっけ――
あのときもこんなふうに、
このひと私の血を美味しそうに吸ってるなって、ちょっと嬉しい気分になっちゃったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
もぅ、なん回姦ったら気が済むのよ、そんなに私のこと気に入っちゃったの?なんて、いけないことに夢中になってしまったんだっけ――
――そして怪人は、若い母親が自分の凌辱に酔ってしまったことを、とうとうだれにも打ち明けなかった。

「あなたも逢ってあげなさい!」
母親に送り出されて招び入れられた路地裏で、
やよいちゃんはピンクのブラウスに血を撥ねかせながら、柔らかい首すじを牙で冒されていた。
座り込んでしまったやよいちゃんを後ろから優しく抱きしめながら、怪人は首すじから唇を離そうとしなかった。
新鮮な血潮が自分の喉だけではなくて、心の奥底まで暖めるのを感じていた。
咬まれる前やよいちゃんは、母さんやショウ兄ちゃんの血に濡れた牙を見せつけられたけど、怖いとは思わなかった。
むしろ、家族の血を帯びた牙にあたしの血も混じるんだなってほっこりとした気分になるのを感じた。
このひとがもっと兇暴だった時にいちどだけ吸われた体験が、やよいちゃんの心を柔らかく和ませていた。
咬まれるのはちょっと痛かったし、血を吸われるのは怖かったけれど、
怖がる自分を怪人が終始なだめすかして、なんとか落ち着かせようとしてくれたのを、やよいちゃんはまだ鮮明に憶えていた。

子どもたちが食卓に顔を合わせた時、母親はまあとあきれた顔になっていた。
息子は血に濡れたハイソックスをそのまま履いていたし、
娘はやはり、えり首に血の撥ねたピンクのブラウスをそのまま着ていたからだ。
怪人が私を誘拐したときといっしょだ――と母親は思い出した。
ショウくんは赤く濡れたハイソックスを見せびらかすようにして、
ボクたち、あの小父さんの仲間にされちゃった――と言って、彼女が気づかないうちに背後に立った怪人を指さしてくれたのだった。
「父さんに見られたらどうするの」
咎める母親に、息子はいった。
「父さんに内緒にするのは良くないよ」
そういう母親もまた、みるもむざんに食い剥かれたストッキングをまだ穿いていた。

「やよいはいいなぁ、首すじ咬んでもらえて。やっぱ吸血鬼っていったら、首すじだよね?」
ショウ兄ちゃんがそういうと、
「お兄ちゃんだって、ハイソックス濡らしてカッコいいじゃん。
 母さん、晩ご飯終わったらやよいもハイソックスの脚を咬んでもらいたいけど、いいよね?」
やよいまでそんなことを言い出した。
そうね・・・そうね・・・
失血で蒼ざめた母さんは、首すじにもふくらはぎにも、いくつも咬み痕をもらってしまっていた。
それらのひとつひとつがジンジンと好色な疼きを素肌の奥にしみ込ませて来るのを、どうすることもできなくなっていた。

背丈の違う肩を並べた兄妹を前に、怪人は2人を代わる代わる抱きしめた。
遠目にそのようすを見た母親は、あの人は血だけじゃないのねと、改めて思った。
いつもの夫の、ただ自分の性欲をぶつけてくるだけのセックスではないものを、怪人は短時間のうち、彼女の膚にしみ込ませていった。
やよいの穿いている白の縄柄のハイソックスがいびつに滲んだ血のシミを拡げてゆくのを見守りながら、
子どもたちの番が済んだら私がもういちど相手をしよう――と決めていた。

「なんてことだ!」
帰宅した亭主は、神妙に正座してすべてを告げる妻を見おろし、不機嫌そうに怪人を睨みつけた。
「あんた、この前で懲りて服役までしたんじゃないのか??」
亭主の怒りはもっともだった。
そういうえばこのひとにだけは、まだ謝る機会がなかったのだと怪人は思い出した。
いまさらながら・・・と頭を下げる怪人と、そのすぐ傍らで正座の姿勢を崩さない妻を等分に見て、亭主はいった。
「いちばんよくないのは――」
その後を口にしようかどうか、ちょっとだけ逡巡したが、帰宅そうそう咬まれた痕に疼きを覚えると、そのまま吐き出した。
「家内や子供たちを、家の外で相手をさせたことだ。うちにも近所の評判ってものがある・・・」
それは私がいけなくて――と言いかけた妻を亭主は制して、いった。
「これからは、ちゃんと家にあげてお相手しなさい」
返す刀で、亭主はさらにいった。
「あんたもあんただ。家内を口説きたかったら、こんな時間ではなく昼間に来なさい」
おれはそういうところを視る趣味はない――と、亭主はいった。
その晩、夫婦の交わりはいつにもまして濃く、
彼女は久しぶりに満ち足りた刻を、相手を変えて2度も過ごすことになった。


いったい、なん人”征服”したのだろう?
看守夫妻とその娘。
キャバレー勤めのホステス。
社長夫人と令嬢。
サラリーマンの一家4人。

それ以外にも。
刑に服する前に襲った勤め帰りのOLは、彼の出所を聞きつけて、婚約者を伴ってやって来た。
彼も納得しているので、私も仲間に加えてくださいと、彼女は懇願した。
彼女の体内には、初めて咬まれたときに植えつけられた淫らな衝動が、まだ色濃く残留していたのだ。
婚約者は自分の未来の花嫁を襲った牙を自らの身体に受け容れたうえ、
最愛の彼女の純潔をあきらめるという譲歩をしてくれた。
ただ――彼女が「初めて」を捧げるところは見届けたいと懇願した。
婚約者の処女を奪って欲しいという破格の申し出を、受け容れないわけはなかった。
秘められるべき「初めて」を共同体験したいという彼の本心を見抜いた怪人は、彼の希望に快諾した。
花嫁は華燭の典でまとうつもりだった白のストッキングを血に染めて、
「素敵・・・凄く素敵・・・」とうわ言をくり返しながら、
花婿の目の前で彼のことを淫らに裏切りつづけた。
人生最良のはずのその日に、花婿はもうひとつの災難に見舞われた。
披露宴がはねた後、独り身で自分を育ててくれた母親まで牙にかけられてしまったのだ。
若い身空で夫に死別した彼女は、怪人相手に青春を取り戻すために、嫁の身代わりを務めると言い、
自分の喪服姿を花嫁衣裳代わりに提供し、怪人に黒のストッキングの太ももをゆだねるようになった。

社長令嬢はその後、吸血怪人を自宅に引き入れたのが明るみになって家を出され、縁談も破談になりかけた。
けれども、縁談の相手は彼女に手を差し伸べた。
たまたま彼は、自分の母親をかつて怪人に襲われた男性だった。
「お母さんを殺さないで」という懇願を聞き入れてくれた怪人が、
「きみの婚約者をモノにしたい」懇願するのを、彼は素直にも受け容れた。
裁判のときにも彼は出廷して、「いうことをきく相手には終始親切だった」と、怪人に有利な証言をしていた。
そんな彼のことであったので、結婚を前提に交際中の彼女が吸血タイムに耽るのも、
おそらくはそのあと淫らな情事に発展しているあろうことも、すべて察しをつけながらも、
婚約者が怪人と交際を重ねることに嫌悪を抱かず暖かく見守りつづけていた。

社長夫妻は娘を許し、2人は晴れて結婚――
「お母さんの黒留袖姿を襲いたい」という卑猥な欲求さえも、花婿は好意的に叶えてやった。
感動の再会に、新郎の母親は感涙にむせび、見て見ぬしてくれた夫に感謝しながら、あのときと同じように脚を開いていった。
人知れず妻と娘を食い物にされたことにさいしょはご立腹だった社長もいまでは、
「堂々と来るなら、許す」と告げて、
自分の妻を目当てに時おり自宅を襲いに来る怪人に、もはや悪い顔はしないという。


俺には世界征服なんて、どだい無理だった――と怪人は思う。
けれども彼の「征服」したおおぜいの人の血が、自分の生命を支えてくれる。
彼らのことを守るのが、俺の新たな任務なのだ。
怪人はそう誓った。

その後の彼は、社長の運転手として雇われた。
運転手としては社長の再三の危機を救ったし、
悪だくみをしていたころに培ったデータ管理能力は、スパイの危険に曝された特許を守った。

社長から得た給与で、キャバレーを追い出された女を自分のもとに囲って養うようになり、
女はそのころに着た派手なドレスを、1着1着惜しみながら男の手に引き裂かせていった。

激務で健康を害した看守には、いまの会社に再就職の途を開いてやった。
出獄後初めて相手をしてくれた看守の妻と娘には、格別な愛着を感じていた。
看守の妻は家事の合間を縫って怪人の家を訪れて、奥さんに気兼ねしながらも激しく身をくねらせ呻き声をあげていったし、
娘のほうもまた、処女を奪われたことを口先では恨み言を言いながら、学校帰りの制服の裏に秘めたうら若い肢体を弾ませていた。
ふたりはキャバ嬢あがりという怪人の妻に分け隔てなく親しんだので、
時には男1人女3人での戯れに、時を過ごすこともしばしばだった。

いちばん悩みの多い時を迎えたのは、サラリーマンの一家だった。
パートに出た妻はその容貌のおかげでさまざまな誘惑にさらされたが、怪人の存在が不心得な男どもを遠ざけていった。
いじめに遭ったショウ兄ちゃんを救い、美しく成長したやよいちゃんには性の手ほどきをした。
さいごのひとつは、同等に言えることではないけれど――
いまでも週に一度は怪人に抱かれている母親が、たっての願いでそうしたことは、
きっと彼との情事がそれほど良い――ということなのだろう。
サラリーマンをしている亭主も、自分勝手な性の日常を反省して、妻を怪人に奪われないように思いやりのある夫になりつつあるという。

歪んだ形ではあるものの。
怪人は彼らのなかで、「正義のヒーロー」になっていた。


あとがき
凄く長々としたお話になりました。 苦笑
昨日あっぷをしたお話は、春頃から構想して書き溜めていたやつを仕上げてあっぷしたものですが、
これは久々に、入力画面にじか打ちで書き上げたものです。
案外こうするほうが、すんなりまとまるのかも知れませんね。(笑)

狩られた一家

2023年09月12日(Tue) 19:06:52

――公原亘 42歳 サラリーマン の家族構成――

公原まどか 39歳 専業主婦  亘の妻
公原理央  14歳 〇学二年生 亘・まどかの娘
公原鈴江  64歳 専業主婦  亘の母

連れ立って歩く三人の女とは距離を置いて、
三人の男吸血鬼がひっそりと、あとを尾(つ)けてゆく。

「理央ちゃんの白のハイソックス・・・」
そう呟いたのは、肥塚羊司、34歳。いわゆる、「きもおた」の独身中年。
「鈴江さんの黒のストッキング・・・」
そう呟いたのは、円藤静雄、42歳。公原亘の同期で元エリート・サラリーマン。
「まどか殿の肌色のストッキング・・・」
そう呟いたのは、烏鷺長生【うろ・ながお】、61歳。
肥塚・円藤ふたりの血を吸った、生粋の吸血鬼。
3人が3人とも、亘の家族の生き血を狙っていた。

――亘の述懐――

真っ先に三人がかりで血を吸い取られ、失血にあえぐわたしの前で、
まず太っちょの肥塚氏が、娘の理央にむしゃぶりついていきました。
理央は涙も涸れんばかりの顔つきで、憐みを乞うようなまなざしを自分を狙う吸血鬼に投げるのですが、
悲しいかな、それはなんの効果も同情ももたらさなかったようです。
彼女の柔らかいうなじは瞬時に喰い裂かれ、
噴き出る血潮が理央の着ている紺のワンピースを濡らしました。
肥塚氏は好みの年ごろの少女というご馳走を前に、少し焦っているようでした。
わなわなと手を震わせて理央の胸をワンピースのうえからまさぐると、
その手を体の線をなぞるように降ろしていって、こんどはワンピースのすそを引き上げてゆくのです。
「お願いです、やめていただけませんか。
 まだ子供なんですから、娘の名誉まで奪うのは止してください」
わたしの識る肥塚氏はいつもオドオドとしていて、根は素直で純朴な男でした。
けれどもその時の彼は、血の欲求に昂った狂った目つきになっていて、
わたしの訴えは耳に入らないかのように無反応だったのです。
肥塚氏は、理央の太ももに咬みつきました。
手かげんのまったくない咬みかたでした。
咬むまえに、ネチネチと唇を這わされて、あまりの気味悪さに理央はもう一度、悲鳴をあげました。
切なくなったわたしはもういちど、
「わかってください!
 きみが理央を気に入ってくれているのはよくわかりました。
 だから、その理央を悲しませるようなことはしないでもらえませんか?」
きみの気持ちが真面目なものなら、理央を嫁にと考えても良い・・・とまで、わたしはいったのです。
さいごのひと言は、彼の耳にも刺さったようです。
一瞬彼は嬉し気に白い歯を見せました。
けれど、すぐにその歯を理央の太ももに埋めてゆくのです。
もういちど、鋭い叫びがあがりました。
肥塚氏が理央の血をガツガツと食らって、食欲を充たして大人しくなったときにはもう、理央は気絶していました。
理央の履いていた白のハイソックスは、肥塚氏が執着するあまり、真っ赤に染まってしまっていました。
潔癖な理央がこのキモオタ中年と交際を深めて処女を捧げるのは、これよりもう少しあとのことでした。

「ふん、気色の悪いロリコンめ!」
気絶した理央に向かってなおも舌をふるいつけてゆく肥塚氏に、
わたしと勤務先で同期の円藤はそう、毒づきます。
「うちの娘と同じようにあしらいやがって。どこまで変態なんだよ!」
そうはいいながら。
彼もまた、我が家に女の生き血を求めてあがりこんできた輩です。

円藤はさすがに、同じ年頃の娘を持つ親でした。
なのできっと、すこしは理央のために同情してくれたのでしょう。
自分の娘を肥塚氏に狩られたことへの嫉妬も、少なからずあったのかもしれません。
肥塚氏は、ロリコンでした。
円藤の家が肥塚氏の侵入をうけたとき、肥塚氏はその牙をぞんぶんに振るって、
彼のまな娘のブラウスを真っ赤に濡れそぼらせられたにちがいないのです。
けれどもそんなふうに肥塚氏の吸血行為を批難しながらも、
円藤の口許にもすでに、女の血が散っていました。
抑えつけた掌の下には、わたしの母である鈴江が気丈にも腕を突っ張って、その肉薄を拒み続けていたのです。

円藤は、マザコンでした。
自分の母親が吸血鬼に襲われたとき、
よそ行きのブラウスやスカートに血を撥ねかせながら生き血を吸い取られ姿勢を崩してゆく様子を目にして、
それが胸の奥に灼(や)きついてしまったそうです。
どこのお宅にお邪魔しても、その家でもっとも年配のご婦人を襲うことで知られていました。
なので、円藤が母を狙ったのも、当然のことだったのです。
鶴のように細い首すじに、円藤が唇を這わせ、這いまわる唇の端からかすかに覗いた牙が皮膚を冒すのを、
わたしはなぜか、ゾクゾクしながら見届けていました。
血を吸われるものの愉悦を覚え込まされた身体は、同時に血に飢えた身体にもなり果てていて、
人を襲って血を獲るものの快楽が、まるで自分のことのように感じられるようになりかけていたのです。
咬まれた瞬間、母はウッ・・・とひくく呻いて歯を食いしばり、
自分の血がチュウチュウと聞えよがしに音を立てて啜りあげられるのに聞き入る羽目になっていました。
さっき息子であるわたしが散らしたように、
母もまた同じように、ブラウスに生き血をぶちまけながら啜られ続けたのです。

母を「供出」することに、父は当然ながら激しく反対しました。
そして、どうしてもそうせざるを得ないと知ったときにも、妻の仇敵に自分の血は吸わせまいと言いました。
結局父は、吸血鬼どもからもらった睡眠液で、そのあいだじゅう眠りにつくことにしたのでした。

円藤は強欲でした。
母が絶息して静かになると、ふくらはぎに唇を押し当てて、
黒のストッキングのうえからネチネチ、ネチネチと母の脚をなぶり抜くのです。
けれどもわたしには、その行為がたんに母を侮辱するものとは映りませんでした。
円藤の口づかいはどことなく、母親というものを慕っているような感情を帯びていたからです。
たしかに母のストッキングは唾液にまみれ、ふしだらにずり降ろされて皺くちゃになっていくのです。
でも――
彼がわたしの母に抱いている敬意はそこはかとなく感じられ、
わたしは彼が母を蹂躙してゆくのを許容することができたのでした。
脛の下までずり降ろされたストッキングを足首にたるませたまま、
母は女としての愉悦を、全身にしみ込まされて行ったのです。
後に父の許しを得て晴れて円藤との交際を許された母は、
同年代の婦人会の幹部となって、熟女たちの血液を差配する役に就くことになりました。


家内のまどかを襲ったのは、最年長の烏鷺(うろ)氏でした。
烏鷺氏は肥塚氏と円藤の両名を家族もろとも血を吸い尽くした張本人です。
先に襲われた肥塚氏は、円藤の娘をモノにする幸運に恵まれたのですが、
それだけでは飽き足らず、円藤の娘と仲良しであるうちの娘にまで魔手を伸ばしてきたのでした。

三名の吸血鬼のなかでいちばんのヴェテランの相手を仰せつかったまどかは、
恐怖に顔色を白くしながらも気丈に応対していきました。
もともと烏鷺氏はまどかのことを気に入っていました。
いつも「まどか殿」と敬称を着けて呼んでいて、
はた目にはほほ笑ましい関係のはず――でした。
けれども、血を吸う側と吸われる側に別れてしまうと、もうどうにもなりません。
烏鷺氏は、娘を庇ういとまも与えずにあっという間にまどかのことを掴まえると、
うなじにガブリと食いついたのです。
まどかのうまじから、赤い飛沫がサッと撥ねて、薄いピンクのブラウスを帯のように塗りつぶします。
彼女はなにかをいおうとしましたが、それは言葉にならず、
体内の血液を急速に喪い、顔色を色あせさせていったのでした。

安心せよ、生命は奪らぬ。
ただともかくもご婦人がたにはわしらの渇きを充たしていただかねばならんのぢゃ。
先日円藤の一家を襲った後、吸い取ったばかりの血を口許にあやしながら、
烏鷺氏はそうわたしに告げました。
烏鷺氏が家内の生き血を気に入ったのは、はた目にも明らかでした。
家内の体内をめぐる血液は、素晴らしい速さで烏鷺氏の喉の奥へと経口的に移動したのでした。
ほかの2人が各々の獲物の足許にかがみ込んで、
母のストッキングや娘のハイソックスを辱めることに熱中しだすと、
烏鷺氏もまた、家内の足許に舌を這わせ、肌色のストッキングを皺くちゃにしていくのでした。
旨めぇ、うんめぇ・・・なかなかのものぢゃ。
烏鷺氏は随喜の呻きを洩らしながら、ひたすら家内の足許を蹂躙してしまいます。
きちんと脚に通した肌色のストッキングを、ひざ小僧が露出するほど剥ぎ堕としてしまうと、
烏鷺氏はいよいよ家内に対して、男としての本能を発揮してしまうのです。
折り目正しい紺のタイトスカートを後ろから剥ぎあげると、
家内のショーツをむぞうさにむしり取り、気絶寸前の家内を背後から交尾したのです。
「奥さんどうやら、ア〇ルは初めてのようぢゃのお」
烏鷺氏は酔い痴れたものの呂律のまわらぬ口ぶりで満足の意を洩らしながら、
家内の秘められた初体験を根こそぎ奪い取ってしまったのでした。

失血量がいちばん多く、最後に眠りから覚めたまどかはその後、
烏鷺氏が自分の血を非常に気に入ってくれたことに満足し、
3日にあげず烏鷺氏宅を訪問しては、熟れた血潮を提供するようになったのでした。

ガツガツと乱暴にむしり取られた家族の血潮――
けれどもそれは、わたしたち家族をこの街に強く結びつける絆になったのでした。


あとがき
ひとつの家族が老若の区別なく同時に襲われて、血液を吸い取られてゆく――
まあそんな情景を描いたつもりなのですが、どうも本編は座りがよろしくないです。
吸血シーンも、ちょい残酷めかもしれませんね。。

ヴィンセントの花嫁

2023年09月11日(Mon) 16:26:23

ヴィンセントは勤め先からの帰り道、アリーとタマコに血を吸われた。
二人がかりの吸血は、はたちそこそこの若さを持つ彼にとってもハードだった。
彼の体内に蓄えられた血液の量は、みるみる減ってゆく。
微かになってゆく意識のかなた、ヴィンセントは喘ぎながら、
どうして自分が死に至るほどの吸血を享受しなければならないのかを反芻した。
理由は明らかだった。
彼のフィアンセであるナンシーを、アリーが欲したからだ。
ナンシーは19歳の女子大生で、来年の6月に晴れてヴィンセントと結婚することになっている。
碧い瞳に抜けるような白い肌、そして見事なブロンド髪の持ち主だった。
しかしアリーはナンシーを見初めて、彼女の血を吸い、その若い肉体をも手に入れたいと念願していた。
アリーはヴィンセントに、ナンシーの貞操を譲ってもらえまいかと持ちかけた。
ヴィンセントはナンシーを愛していたし、家名に瑕がつくことも恐れていた。
彼はアリーの申し出を断った。
もはや選択の余地はなかった。
アリーは仲間のタマコを語らって、ヴィンセントを夜道で襲い首すじを咬んだのだ。

この街は昨年から、吸血鬼と市民との共存を目ざすために、吸血鬼を受け容れると宣言していた。
外国から多数受け入れていた留学生たちも、血液提供の対象とされていた。
血に飢えた吸血鬼がおおぜい、この街に流れ込んできて、
市民たちを片っ端から襲うようになっていた。
市の当局は吸血事件については一貫して不介入の態度を示したので、
事件の被害者は放置――つまり吸われっぱなしになるのだった。
むしろ吸血鬼の側のほうが、ヒエラルキーを発揮して、混乱を収拾するのに有効な動きをとっているありさまだった。
そういうなかで、美少女として知られたナンシーが狙われたのは当然のなりゆきだった。

刻一刻と血液が喪われてゆくのをひしひしと感じながら、ヴィンセントはひたすら、耐えようとした。
なんとしても生き延びるんだ。彼らの食欲が去れば、手荒く解放されるのだから――
体内をめぐる血液を一滴でもよけいに喪うまいとして、彼は身を固くした。
しかし、そんな努力は無意味だった。
彼らははなから、ヴィンセントを殺害するために血を喫っているのだから――
その意図に気づいたときにはもう、遅かった。

頭がふらふらだ――
うっとりとした頭で、ヴィンセントはおもった。
もう・・・なにがどうなっているのか・・・よくわからない・・・
血を吸い取られてゆくときの唇の擦れる音が、耳もとに忍び込み、鼓膜をくすぐった。
美味しいのか?美味しそうだな・・・ボクの血・・・
ふと、そんなことを想った。
すると、まるでそれを聞いていたかのように、
「美味いぞ」
そう囁く声がかえってきた。
ああ・・・そうだよね・・・ボクもそれを感じる・・・きみが美味しそうに飲んでいるのがわかる・・・
ヴィンセントはその声にこたえた。
「でもまさか――吸い尽くしちゃうつもりじゃないだろうね??」
「いやふつうに、そうするつもりですが??」
ヴィンセントは、男がふざけているのかと思った。
「ちょ、ちょっと待って!ボクまだ死にたくないんだよ!!」
声をあげようとして、自分におおいかぶさる失血の倦怠感が、思った以上に大きいことを感じた。
ヴィンセントは、はっとした。
「・・・ボ、ボクのことを吸い殺して、ナンシーを奪う気だな?」
「・・・ご明察」
男のこたえは、冷酷なくらい穏やかだった。

すまないとは思っている。
卑怯な方法なのも、申し訳なく思っている。
でも俺はどうしても、ナンシーの肉体が欲しいのだ。
あの娘(こ)があの恰好の良い脚にまとっているグレーのストッキングをみるかげもなく咬み破って、
趣味の良いブラウスやスカートもろとも血浸しにして辱めたいのだ。
服という服を剥ぎ取った末に、あの娘の若々しい肢体を、自由にしたいのだ。
白く濁った精液を、身体の奥からあふれ出るほど、注ぎ抜いてやりたいのだ。
キミだって彼女をそうしたいのだろう?
だったら俺の気持ちも、わかってもらえないか?

そこまでいうと男は、ヴィンセントの首すじに這わせた唇にいっそう力を籠めて、血潮を啜り獲った。
なんという勝手な言い草だ。
ヴィンセントの憤慨をしり目に、男はなおも彼の生き血を啜り味わう。
キュキュキュッと鳴る唇が、傷口をくすぐったく撫でた。
「若い・・・うら若い・・・実に佳い血だ・・・」
男がヴィンセントの血に心酔しているのは、もはや疑いない。
彼はこの数少ない人間の友人の生き血の味を称賛し、彼の気前良ささえも褒め称えた。
「きみならではだ。大事な血をかくもたっぷりと馳走してくれるとは・・・」
違う!違う!そんなんじゃないっ! ヴィンセントはうめいた。
なんとかこの鉄のように硬い抱擁から抜け出して、自分の身の安全を確保しなくては!
「だったら・・・だったら・・・」
ヴィンセントはあえいだ。
「そんなに美味しいのなら、ぜんぶ吸い尽くす手はないだろう?そうだろう?」
「どういうことだ?」
「もし、もしも生命を助けてくれるなら・・・ナンシーを見逃してくれるなら・・・」
眩暈に心がつぶれそうになりながらも、ヴィンセントは言った。
「ボクの血をなん度でも、吸わせてあげるから!きみの好きな時に楽しませてあげるから!」
だから・・・だから・・・
息せき切って口走るヴィンセントの唇を、男の唇がふさいだ。
「あ・・・あ・・・」
知らず知らず、吸われる唇に唇で応えながら、ヴィンセントは激しく身もだえする。
「殺さないで!殺さないでくれ!なんでも言うことをきくからっ」
「ではこうしよう・・・
 わしはきみの血をほとんど吸い尽くす。全部ではない。あらかただ。
 きみはいったん墓場送りとなるが、七日間で生き返る。
 生き返った後、きみはわしの好きな時、ありったけの若い血液をわしに馳走する。
 それから――きみが墓場にいる間だけ、わしはナンシーを誘惑することができる。
 良いか、たったの七日間だ。
 その間にもしもナンシーが落ちなければ、わしは二度とナンシーに手を出さない。永遠にだ。
 これは賭けだ。お前はナンシーの身持ちを信じることができないのか?」
え・・・?
ヴィンセントは顔をあげた。
意識がもうろうとして来、視界が定まらない。
それでも男は、だいぶ緩慢になったとはいえ、まだ傷口に唇を吸いつけて、そこからさらに血を啜り獲っている。
これでは血の全量を費消してしまうのは時間の問題だったし、男はそれを容赦なくやり遂げようとしている。
だいじょうぶだ・・・たったの七日間だ・・・
と思ったのもたしかだった。
けれどもそれ以上に、
アリーがナンシーにどんなふうに挑もうとするのか?
その様子を想像した時にサッとよぎった妖しいときめきに、気づかざるを得なかった。
血を吸われ過ぎたのだ――と、ヴィンセントはおもった。
だから、吸血鬼ふぜいに同調する気分が芽生えたに違いない・・・彼の想いは、正しかった。
首すじに喰いつく牙の尖り具合をありありと感じながら、ヴィンセントは血を吸い尽くされてゆき、意識を遠のかせていった。


墓の中にいる間、魂は身体から離脱している――と聞かされたのを、なんとなく記憶している。
じじつ、ヴィンセントはいま、街灯の点る夜の通りを独りでいた。
目のまえでナンシーが、家の壁に抑えつけられていた。
どうやら学校からの帰り道らしい。見慣れたグレーのスーツ姿だった。
相手はいうまでもなく、アリーだった。
褐色の掌がナンシーの白いブラウスの胸に食い込んで、深い皴を波打たせていた。
アリーはいつものように、ほとんど半裸である。
襲った獲物をすぐに犯すことができるよう、余計なものは身に着けない――という主義なのだ。
赤黒く爛れて膨れ上がった唇から覗く長い舌が、ナンシーの白い首すじにからみついている。
19歳の素肌のうえ、ピチャピチャと音を立てながら、舌なめずりをくり返していた。
気の弱いナンシーはべそを掻きながら、男の蛮行を許している。
「な、なんてことを・・・・・・ッ」
自分の恋人に対するむごい仕打ちに、ヴィンセントは憤慨した。
「そう嘆くな。おとなしく舐めさせてくれれば、ひどい食いつき方をしたりはせん」
アリーは囁いた。
嘘だ。嘘に決まってる・・・ヴィンセントはなおも憤った。けれども彼の声は2人に届かなかった。
「ほんとうですね・・・?おとなしくしてれば、ひどいことなさらないんですね?」
ナンシーは頼りなげなまなざしを、アリーに投げた。
だめだ、信じちゃいけない・・・!そんな叫びも、2人には届かない。
「じゃ、じゃあ・・・どうぞ・・・」
やっとの想いでナンシーはそうこたえると、
再び首すじをヌメりはじめた舌の気持ち悪さに耐えかねたのか、静かにすすりあげていた。
「あまりなぶりものにしては、ヴィンセントのやつに悪いな」
アリーはそう呟くと、やおら牙をむき出して、ナンシーの首すじにザクリと食いついた。
白のブラウスに、紅い飛沫がサッと走った。
「キャアッ!」
鋭い悲鳴が、涙に濡れている。
なんということだ。なんということだ・・・ヴィンセントは自分の失策にほぞを噛む思いだった。

ごく・・・ごく・・・ごく・・・ごく・・・
アリーはナンシーの血を、喉を鳴らして飲み耽る。
もはや、もはや・・・とめようもなかった。
そして、ヴィンセントのなかでも、なにかが変わろうとしていた。
喉が渇いた。カラカラに渇いた。これはきっと――血で潤さないと満ち足りないのだ。
本能的に、それがわかった。
そうなると、目の前で旨そうに人の生き血を飲み耽るアリーのことが、うらやましくなる。
アリーのしていることを、肯定したくなってくる。
そうだ、やつはボクの花嫁の生き血が気に入ったのだ。
満足そうに喉を鳴らして、美味しそうに飲み耽ってるじゃないか!
悔しいけれど、嬉しいし、誇らしい・・・
ナンシーは自らの血で、アリーの渇きを癒している。
無二の親友の、アリーの渇きを。
アリーの逞しい腕に抱きすくめられながら、ナンシーは身体の力を失ってよろめき、身をゆだね、
そしてずるずると壁ごしに姿勢を崩し、尻もちを突いてしまった。

すでに意識はもうろうとしているようだった。
アリーは余裕しゃくしゃく、ナンシーの足許にかがみ込むと、
彼女の脚をおしいただくようにして、舌で舐め始めた。
ナンシーの穿いているグレーのストッキングを愉しんでいるのだと、すぐにわかった。
ほっそりとした脚を染めるグレーのストッキングはみるみるよだれにまみれ、皺くちゃにずり降ろされてゆく。
舌が躍っていた。ふるいついていた。じんわりといやらしく、ネチネチと意地悪く、這いまわっていた。
妨げる手だてもないなかで、アリーがナンシーのストッキングをあらゆる舌遣いで愉しむのを、見せつけられていた。

悔しい・・・悔しい・・・
ナンシーを無体にあしらわれたことに、ヴィンセントは当然屈辱を感じて悔しがった。
けれども彼は、自分のなかにべつな感情が芽生え始めていることを、いやがうえにも思い知ることになった。
ヴィンセントの血管からは血の気がひいて、干からびかけていた。
だから、血管の干からびた男がどれほど若い女の生き血を欲するものなのか、身に染みてわかるようになっていた。
だから、アリーがナンシーの首すじを咬んで、ゴクリゴクリと喉を鳴らし、美味そうに血を啜るの情景に、知らず知らず自分を重ねてしまっていた。
ナンシーの生き血、美味しそうだな。羨ましいな。欲しがる気持ちは分かってしまうな。
イヤだけど・・・わかってしまうな・・・
ボクだったら、もっと美味しそうに飲んじゃうだろうな・・・
悔しいけれど・・・嫌だけれど・・・ナンシーの血がやつの気に入ったことを、
どうしてこんなにも好ましく受け取ることができるのだろう・・・?


しくじった・・・
アリーは頭を抱えている。
ナンシーの血を飲み過ぎた、というのだ。
向こう三日は、立ち直れまい。
許された七日間のうちの、三日間だ。さいしょの一日も入れれば、すでに半分以上経過というわけだ。
なん度も咬まなければ、いくらわしといえども、ナンシーをたらし込むことはできない・・・
そういう悔しがり方だった。
気持ちはわかるけど・・・七日間の約束は譲れないよ。
ヴィンセントはいった。
「きみのナンシーに対する態度は、まずまず立派だった。
 ずいぶん強烈に食いつかれちゃったけど、
 きみはそうまでしてナンシーの血が欲しかったんだね。
 彼女の血は口に合ったのかい?」
「ああもちろんだ、期待以上だ。そこは悦んでくれていい」
「嬉しくはないけどさ――」
ヴィンセントはいった。
「ぼくにとっては、大事な彼女なんだ。
 必要以上に苦しめることだけはしないでくれよ」
「わかった――
 わしも初めてあの娘(こ)を襲って、いまのお前の気持ちが少しは理解できたつもりだ。
 チャンスは減ってしまったが、もう少しトライさせてもらうぜ」
アリーは不敵に笑った。
ヴィンセントは清々しく笑い返し、重ねられた唇にも熱っぽく応えてしまっていた。
それでも内心、自分の恋人を堕とされてしまうのではと、焦る気持ちで胸を焦がしてもいるのだった。


驚くべきことに。
四日かかるとアリーが請け合ったナンシーの容態は、翌々日には持ち直していた。
「来れるようになってからで良い。またお前の血を楽しませてくれ」
別れぎわ囁かれた約束に、ナンシーは律義に応じようとしていた。
その日は若草色のワンピースだった。脚にはあの夜と同じ、グレーのストッキングを脚に通している。
さすがにいつもより蒼い顔をしていることに、ヴィンセントの胸は痛んだ。
けれども、無理をおして出かけてきたナンシーに、目を見張る思いでもあった。
そんなにしてまできみは、あの男のために血を吸わせようとしているのかい?
心のなかでそう思わずには、いられなかった。

「あの・・・やっぱり破ってしまうのですか・・・?」
足許に唇を擦りつけようとするアリーに、ナンシーは脚を引っ込めながら、おずおずと訊いた。
「わしに楽しませるために穿いてきてくれたんだろう?」
アリーはヌケヌケとそういって、ナンシーをからかった。
「そんな・・・」
ナンシーは口ごもり、けれどもそれ以上はアリーの唇を拒もうとしなかった。
「あまりイヤらしくしないでくださいね・・・」
か細い声でつぶやくナンシーをよそに、アリーは舌をピチャピチャと露骨に鳴らしながら、
彼女のストッキングをもう、楽しみはじめている。
ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・くちゅ・・・くちゅううっ。
聞えよがしな下品な舌なめずりに、
ナンシーはべそを掻きながら唾液に濡れそぼってゆく足許を見つめ続けている。
はた目には。
本人が意識するしないに拘わらず、
ナンシーが彼らのふしだらな愉悦に寛容な態度で接しているようにみえた。
学園のなかで、ナンシーが自分の婚約者の仇敵のための熱心な血液提供者であるとの評価が、たった一日で定まっていた。
男はナンシーの金髪に輝く頭を抱きすくめ、時折髪に口づけをした。
血に染まった唇は彼女の金髪に不気味な翳りを与えたけれど、
彼女はもうそんなことは気にかけようとしなかった。


ヴィンセントの蘇生を明日に控えた夜――
例によって墓場を抜け出したヴィンセントは、蒼白い頬をこわばらせ、ナンシーの家へと向かっていた。
3回咬まれてしまえば、ナンシーはアリーの所有物(もの)になる――
さいしょのひと咬みは強烈で、ナンシーは数日間は起き上がれないはずだった。
にもかかわらず彼女は三日目には再びアリーと時間を持ち、グレーのストッキングを咬み破らせていた。
アリーはナンシーの血を嬉し気に飲み、ナンシーもアリーが自分の血を敬意をこめて吸い取るのを感じ取っていた。
ナンシーは再び、病床に沈んでいた。
周囲のものはナンシーを吸血鬼に逢わせまいと考えた。
けれども意外にも、そうした彼らの動きを無にしたのは、ナンシー本人だった。
彼女がアリーと3回目のアポイントを取ったと知ると、ヴィンセントはもういてもたってもいられなくなった。
彼はいったん死んだことになっているので、昼間は大っぴらに活動できない。
けれども、アリーがナンシーを誘惑するのもまた夜であったから、
ヴィンセントはナンシーを引き留めることができればゲームに勝つことができるのだ。
すでに、3回目のアポイントをナンシーがアリーに許した段階で、彼の勝ち目はなくなっていたのであるが――


その晩アリーは、ヴィンセントの母ローザのもとに訪れていた。
ローザは緋色のドレスを着て、アリーの腕のなかで夢見心地になっている。
ヴィンセントの血が美味かったのは、きっと母親の血筋なのだろう――
そうあたりをつけたアリーは、恥知らずにも、息子を奪われた母親の首すじを狙ったのだ。
ローザは抗議し、身もだえし、絶叫してアリーを拒んだ。
けれども、それだけでは彼女の静脈が吸血鬼の牙を免れるには十分ではなかった。
夫のアーサー氏の嘆きをよそに、ローザは自らのドレスを血に浸して、
ドレスのすそをたくし上げられると、脚にまとったタイツの噛み応えまでも楽しませてしまう仕儀となったのだった。
ガーターをほどかれてだらりとずり落ちたタイツが脱げかかる脚を足摺りさせながら、
ローザは息子の仇敵によって、その貞操を汚されていった。
翌朝――アーサー氏はアリーの訪問を受け、アーサー夫人の肉体は夕べの訪問客を存分に満足させたこと、
ローザは今後もアリーの訪問を受ける義務を持つことが告げられた。
アーサー氏は観念したようにアリーと夫人との前途を祝う言葉を口にするのだった。


今宵もローザは、その身をめぐる血潮で、息子の仇敵を満足させていた。
「いかが――?わたくしの血がお口に合うようなら、とても嬉しいですわ」
ローザは人が変わったようにウットリとした目で、アリーを上目遣いに見た。
その目線には、艶めかしい媚びがにじみ出ていた。
ヴィンセントはやり切れない想いだった。
婚約者かばりか、母親までも堕落させられてしまったのだ。
「どうぞこちらへ」
ローザは艶然とほほ笑むと、吸血鬼を庭園の奥へといざなった。
ヴィンセント邸の庭園のもっとも奥まったベンチに、白い影が浮かんでいる。
確かめるまでもなかった。ナンシーがそこにいた。

「ああ――」
ヴィンセントは絶望の呻きを洩らした。
「賭けに負けたな、親友よ」
アリーは嬉し気に呟いた。
敗者となった親友を必要以上に傷つけまいという配慮が、そこにはあった。
そうはいっても、彼はすべてを奪われてしまうのを、いま目の当たりにする義務を負ってしまっていたのだが・・・

ナンシーは純白のドレスのすそをちらと引き上げて、つま先を覗かせた。
高貴な白のストッキングが、か細い足の甲に透けていた。
ヴィンセントは、それがナンシーのウェディングドレスなのだと気づいた。
彼との華燭の典にこそまとわれるべき衣装が、いま吸血鬼との密会の場に着用されている。
これを完敗といわず、なんと表現すれば良いのだろう?
そして、ナンシーのもとまで吸血鬼を案内したのは、ほかならぬかれの最愛の母親だった。

意を決して、ヴィンセントは脚を一歩踏み出した。
ヴィンセントの出現にナンシーは目を見張り、なにかを言おうとした。
その瞳にかすかな逡巡や、後ろめたさがあるのを、彼は見逃さなかった。
ヴィンセントは穏やかに笑って、ゆるやかにかぶりを振った。
「彼の牙はどうだい?ナンシー?」
生前と変わらぬ声色に、ナンシーは思わず涙を泛べた。
それでじゅうぶんだった。
アリーが言った。
「ナンシーはヴィンセント夫人となるに相応しい」
「式の日取りは変えないわね」
ナンシーがほほ笑んだ。
街灯に照らされた彼女の金髪がかすかになびき、夜風に流れた。
「それから――彼の牙は最高よ」
「同感だ。ボクはどうやら夢中になって、吸わせすぎちゃったらしい――」
「ばかね」
ナンシーが笑った。
「まったくだよ」
ヴィンセントはこたえた
「おかげで彼と、不利に決まっている競争をする羽目になっちゃった。
 きみが、ぼくの一番の親友と仲良くなってくれれば嬉しいと心から――」
ヴィンセントの言葉は途切れた。
音もなくそう――っと近寄ったアリーがナンシーを抱きすくめ、首すじを咬んでしまったのだ。
「おいおい」
ヴィンセントは困惑顔。けれどももはやナンシーは迷いもなく、
自分のほうから首すじをアリーの顔に添わせるようにして、
ただひたすらうら若い血液を、渇いたアリーの飲用に供してしまっている。
アリーが唇を離すと、ヴィンセントは感嘆の声を洩らした。
栄えある日のために用意された純白のドレスには、一点のシミも残されていなかったのだ。


いまでも彼の家に保管されているふたりの婚礼の際に着用された純白のドレスは、
裏地が真紅になっている。
けれどもその濃過ぎる裏地は表面の白を汚すことなく、あくまでも裏側に秘められている。
未来の花婿の面前でナンシーの首すじを咬んで彼女を征服した吸血鬼は、
邸のなかにナンシーを連れ戻すと彼女をベッドに横たえてドレスのすそを掲げると、
純白のストッキングに包まれた太ももに再び、牙を咬み入れた。
ストッキングはみるかげもなく破れ、血に染まった。
ドレスの裏地が真紅に染められたのは、そのときのことだった。
ウェディングドレスをまとったまま、ナンシーはアリーの手で犯された。
血を抜かれた身体を木偶のように横たえて、ヴィンセントは花嫁の処女喪失を見届けた。
「花嫁の純潔は、きみからもらったようなものだな」
アリーがそういうと、ヴィンセントは失血にこわ張った頬をかすかに弛め、
「我が家の花嫁を、ぞんぶんに楽しんで欲しい――」と呟いた。
花嫁は恥を忘れて、ひと晩ベッドのうえで狂い咲いた。
ドレスの裏地を染める真紅には、このとき流された花嫁の純潔の下肢もいくばくか、秘められているという――


あとがき
外人さんを主人公にすることは、めったにないと思います。
ここはブロンドの女性をヒロインにしたかったので・・・(笑)
血を吸い取られた後のヴィンセントが、自分の婚約者を誘惑しようとする吸血鬼の心情にじょじょに惹かれてゆくあたりは、新機軸かもしれません。
ドレスの裏地の件は――ほぼ思いつきですね。(笑)

母の献血。

2023年09月11日(Mon) 16:25:40

欲しいな。
とうとつに口にする彼に、ぼくはとっさに自分の首すじ寄せていた。
1週間前、彼はぼくの血を初めて吸った。
とうとつに襲われたぼくは、彼の腕の中でもがきながら首すじを咬まれ、
ドロドロと流れる血を、ゴクゴクと威勢よく喉を鳴らしてむさぼり飲まれ、
貧血にくらくらした頭を抱えながらズボンのすそをたくし上げられ、
靴下のうえからふくらはぎまで咬まれていった。

首を咬まれている時点では必死に腕を突っ張って、
彼をこれ以上寄せつけまいとしていたけれど、
脚を咬まれた段階では、あまりにもキツい貧血で、頭を抱えてへたり込んでしまって、
足首を舐められているときには余裕で靴下の舌触りまで愉しまれてしまっているのに、
もうそれ以上姿勢を崩さずに、座りこむのがやっとのことだった。

けれどもぼくは、彼に血をあげたことを後悔していない。
それくらい、彼の咬みかたはキモチ良かったのだ。
首すじに食い入った一対の牙は、ぼくの理性をきれいに塗り替えてしまっていた。

欲しいな・・・
そういわれるたびにぼくはドキドキして、首すじの咬み痕をさらしたり、スラックスのすそを引き上げたりするようになっていた。
でも、きょうの「欲しいな」は違っていた。
彼はぼくにいったのだ。
まるで初恋の告白をするみたいに!
「こんどは、お前の母さんの血が欲しい」って――


家に帰るとぼくは、母に正直に彼の希望を伝えた。
「あいつ、母さんの生き血を欲しがってる」
ごくシンプルに、そういった。
母さんはびっくりしたように目を見開いて、でも意外に冷静だった。
あとで聞いたら、ぼくが初めて噛まれたときに、こういうことになるような気がしていた――って教えてくれた。

事前に伝えたのだから、母が本当に彼に咬まれるのが厭だったら、対策の立てようはあったはずだ。
父に相談しても良いし、街から一時的に逃げてしまうことだって、できたはずなのだ。
けれども母は、そのどちらもしなかった。
飢えているんでしょ?かわいそうじゃない――
どうするの?って訊いたぼくに、母はそうこたえてくれた。
優しい母らしいな・・・と、ぼくはおもった。
声は虚ろだったけど・・・そこはぼくが心配することじゃない。
母はあの瞬間、自分の息子の悪友の”女”になることを自ら択んだのだ。


学校で会った彼は、「きょう、お前ん家(ち)行くから」と、ぼくにひっそりと耳打ちした。
いつも家(うち)に遊びに来るときと同じ言い草だった。
ただ、いつもと違って、「お前はちょっとだけ遅れて来い」と、つけ加えた。


家に帰ると、リビングの空気が明らかにおかしかった。
思わず股間を疼かせながら、ぼくはリビングの扉を開いた。

あお向けに倒れた母に彼が馬乗りになって、雄々しく逞しく、抑えつけていた。
飢えた唇を母の足許に吸いつけて、
吸い取った血潮を頬ぺたに勢いよくしぶかせて、
肌色のストッキングを咬み破りながら血を吸い取っていた。
母は観念したように目を瞑り、なりゆきに任せているようだった。
キュウキュウ・・・チュウチュウ・・・というリズミカルな吸血の音が、
静かになった母のうえに覆いかぶさっていた。

父が気の毒だと、とっさに思った。
けれどもその思いは、彼の欲求を遂げさせまいと僕に決心させるには至らなかった。
ぼくに一度ならず突き刺さった彼の牙の記憶が、ぼくから理性を奪っていた。
吸血鬼を受け容れたこの街では、彼らに人の生き血をあてがうことが善良な市民の務めなのだと、
ぼくの新しい理性がぼくに囁きかけていた。

新しい理性によれば、いま母が許していることは崇高な行いであり、
彼女が数十年かけて熟成した最良の美酒で客人をもてなす行為だった。
母は自らの血を誇りながら、彼に飲ませていった。
彼も母の血にじゅうぶんな敬意を払いながら、飲み耽っていった。
そこには呼吸のぴったりと合ったふたりの心の動きがあって、
母はせわしない息遣いで肩を弾ませながらも、
みずからの熟れた血潮を楽しませる行為に熱中しつづけていた。

彼が母の首すじに牙を突き立て熱烈に咬み入れると、
母もそれに応えるように、ニッと笑った。
もぐり込んだ牙の切っ先から、微かにジュッとしぶいた血潮が、着ていたブラウスの襟首を濡らした。
艶やかな色だ――と、ぼくは感じた。
白い歯が、みずみずしい輝きを帯びていた。

数日前、彼女の娘――妹の柔肌をザクザクと切り裂いた牙が、
いま母の静脈に迫っている。
ぼくの血を、妹の血をもたっぷり味わった舌が、
鮮やかに切り裂いた傷口の周りをうねっている。

母が初めて血を吸われるところを目にすることができてラッキーだと思った。
妹がいっしょにいないのが、残念ですらあった。(彼女はまだ学校に残って部活に熱中しているはず・・・)
父もいまの母のもてなしぶりを見ておくべきだと感じた。(父はまだ会社にいて勤務に専念しているはず・・・)
家族全員の祝福とともに、母の生き血はズルズルと啜り取られるべきなのだ。

ジュルジュル・・・ごくん。
母の血潮で彼の喉がワイルドに鳴った。
いつまでも喉を鳴らしながら、彼は母の生き血をむさぼった。
それは素晴らしい眺めだった。
母は白のブラウスの胸に血を撥ねかせて、
はだけた胸もとから覗くブラジャーを血浸しにしながら、
彼の喉鳴りを聞くともなしに聞いていた。
胸に意図的に伸べられた掌が卑猥にまさぐるのを、かすかに頷きながら許していた。

ぼくはたまりかねて、母のうえに覆いかぶさる彼の腰に取りついて少し浮かせると、
ズボンをずるずると引きずり降ろしてしまった。
パンツを脱がすのは、少し難儀だった。
なにしろ彼の逞しい腰周りを覆う薄いパンツは、
ペニスの兇暴な膨らみで、テントのように張りつめていたからだ。
力まかせにパンツをずり降ろすと、入れ替わりに彼の一物がピンと突き立った。
赤黒くそそり立ったペニスは、蛇の鎌首のように、母のスカートの奥に狙いを定めていた――

スカートの奥に迫った彼のもうひとつの”牙”が、母の陰部にズブリと突き立った。
衣類に隠れて見えない行為が、母が歯ぐきを見せて顔をゆがめたことで、それと伝わった。
ユサ、ユサ、ギシ、ギシ・・・
フローリングの床をかすかに軋ませながら、
彼は母を相手に、しつような上下動をくり返した。
なん度となく息を接ぎながら、それは粛々と続けられた。
父だけもののであった操は、あっけなく汚辱にまみれ、
獣じみた息遣いとともに、他愛なく突き崩されていった。


振り向くと、そこには父がいた。
父は目のやり場に困りながら、微苦笑を浮かべていた。
ドアの向こうからは、妹が半身を乗り出して、こちらを窺っている。
いま母の身に加えられている”儀式”がどんなものなのか、
彼女も身をもって識り尽くしている。
真っ白なハイソックスを帯びたふくらはぎに流れる血が微かに淫らに染まっているのを、ぼくは知っている。
一家にとって重要なこの儀式に、みんなが間に合ったことが嬉しかった。
母も嬉しいらしく、頬に決まり悪げな、けれどもじつに小気味よげな微苦笑を泛べ、
豊かな腰をうねらせながら、自らの堕落ぶり、淫女ぶりを、衆目にさらしていった――


あとがき
吸血鬼の幼馴染に母親を征服されるお話ですが、
母親が彼の求愛から逃げずに受け止めるところとか、
息子が彼のズボンを脱がせて、自分の母を犯す手助けをするところとか、
さいごに家族全員が間に合って、一家の主婦の堕落を祝うところとか、
随所に新機軸を入れてみました。^^

由香里の「予定」 ――母親同士の味比べ。 スピンオフ――

2023年08月14日(Mon) 19:22:18

明日の夜の約束。
それが由香里と情人との逢瀬のことだと、良哉は最近になって知った。
その情人は50近い独身男で、由香里に恋するあまり独身を続けてしまったそうだ。
名前を豹治という。
思い余って彼が相談に言った相手は、人もあろうに由香里の夫、好夫の父親だった。

好夫の父は、役所勤めをしている。
上級官庁からの片道切符とはいえ、地元では立派に名士であり上流階級といえた。
その妻であれば、栄耀栄華とまではいわなくとも、なに不自由ない豊かな暮らしを保証されているといえる。
わざわざ夫を裏切って愛人を作る必要などこれっぽっちもなく、
かつまたそんな危険をあえて冒す必要など、彼女の側にはないはずなのだ。

豹治は役所の下の下の組織で長年、下働きをしていた。
経済的にも恵まれず、不満をもってもおかしくない不遇な立場だった。
好夫の父は、自分の妻に対する彼の好意に気づいていた。
不平不満なく日常を過ごす彼の強さが、じつは妻に対する好意の裏返しであることを知っていた。
その豹治が思いあまってやって来たとき、好夫の父はすべてを察していた。
「家内のことですね」
目下のものにもきちんとした敬語を使う彼に、豹治は小さくなっていた。

すでに三十代のころ、由香里は吸血鬼に襲われて血を吸われ、犯されていた。
鋭い牙で由香里の首すじを切り裂いて、彼女のワンピースをまだら模様に染めあげたその吸血鬼に対して、
彼は潔く負けを認め、彼女の夫として、愛妻の貞操を彼のためにいつでも楽しませることを請け合っていた。
そのことが却って、好夫の父の想い切りをよくしたのだろう。
「うちの家内が、好きなのですね」
好夫の父は豹治の意思を確かめると、妻とふたりきりになる時間を彼のために作ってやった。
「家内が嫌がったら、どうか虐めないでくださいね」
ほほ笑みながら好意を向けてくれた上司に報いるために――豹治はなんとしても、彼の妻を射止めようと誓った。
豹治は、好夫の父の好意を裏切った。
彼の腕の中で由香里は、「虐めないで・・・お願い、虐めないで・・・」と呟きながら、
怒張するペニスを突き刺されるたびに体液をほとび散らしていた。
それ以来。
由香里はほとんど毎日のように、夫を裏切りつづけた。

良哉はそんな由香里のために、夜に淫らに燃やす血潮を、じゅうぶんなだけ体内に残してくれた。
「さいきん、息子さんの友だちに抱かれてるんだって?」
情人のからかいに、
「それも主婦の務めですのよ」
とほほ笑み返して、好色な唾液にまみれた年配の情人の唇を、優雅に受け止めてゆく。
「嬉しいわ、逢いに来てくれて」
「おれもあんたとお〇んこするのを楽しみに、一週間働いてきただ」
男は女の華奢な身体をへし折るほどに強く抱きすくめ、頬ずりをくり返し、キスを奪いつづけた。
情人は彼女のブラウスをはだけると、奥にまで手を入れて、
ブチブチと音を立てて、ブラジャーのストラップを彼女の肩からむしり取った。
「アラ、ひどい!」
そう言いながらも由香里は、もう片方のストラップも好きなように引きちぎらせてしまっている。
良哉が彼女の黒のストッキングを好むように、豹治は由香里のブラジャーを剥ぎ取る行為に熱中するのだ。

――男ってみんな、勝手♡
押し倒されるままにあお向けになり、自ら脚を開いて男を受け容れながら、由香里は思う。
――あなたも、勝手♡
心のなかでそう思いながら、彼女はチラと、隣室の闇の向こうを見やった。
そこに彼女の愛する夫が、息を詰めて、いちぶしじゅうを見逃すまいとしていることを知るように。

好夫の母 ――母親同士の味比べ。 続編――

2023年08月14日(Mon) 19:09:01

お母さん、ちょっと出かけてくるわね。
そういって母の由香里がいそいそと出かけていくのを、
好夫は横っ面で見送った。
出かけていく先はわかっている。
幼馴染の良哉のところだ。

母親たちのなかには、相手のしれない男に抱かれに行くものも多い。
それに比べれば、母親の行き先がわかっているだけでも安心だ。
まして相手が、兄弟どうぜんにして育ってきた良哉なら。
自分の血をあれほど旨そうに啜ってくれる良哉なら。
母のことを自分の前で征服して、愛し抜いてしまった良哉なら。

好夫は首すじの傷口を撫でた。
下校直前に良哉に廊下に呼び出され、咬まれたばかりの傷口だった。
まだ良哉の牙が埋まっているかのような錯覚を、好夫は感じた。
ジンジンとした疼きは、これから母が受ける咬み傷の深さを想像させた。
そしてその想像は、好夫の理性をたまらなく崩れさせていった。

優雅な名流夫人として評判高い母が良哉の餌食になってしまうことを、好夫は好もしく感じていた。
母にもそういうラブ・ロマンスがあって良い――はた目には異常なはずの状況を、ごくしぜんに受け容れてしまっていた。

良哉は彼の血管を食い破り、シャツやズボンやハイソックスを血で汚すことを愉しんでいた。
良哉の支配下にいることが、たまらなく嬉しかった。
干からびた良哉の血管のなかで、吸い取られた母親の血液と彼自身のそれとが交じり合うことを妄想し、深い昂ぶりを覚えていた。
良哉はスポーツマンだった。
好夫は彼が試合で勝つために、母親と自分の血を消費してもらいたいと切望していた。


引き伸ばしたハイソックスの上から、良哉の唇が圧し当てられる。
薄いナイロンの生地越しに、なまの唇に帯びられた熱が染みとおってくる。
きょうの靴下、ずいぶん薄いんだね。
良哉が顔をあげて、いった。
これから破く、きみのママが穿いてくるストッキングみたいだ。

これから破く・・・
いともぞうさに形容句をつけられてしまった母の装い。
母は家にいるときでも、いつもストッキングを脚に通していた。
薄っすらと透けるナイロン製のストッキングは、好夫のなかでは気品のある貴婦人の装いだった。
それを目のまえのこの幼馴染は日常的に、悪ガキそのもののあしらいで、
舌なめずりでむぞうさに汚し、咬み破っているという。
きょうも母は家を出るときに、薄い墨色のストッキングを穿いていた。
ふだんは肌色のストッキングを穿く母が、初めて良哉に襲われて以来、
良哉と逢うときには墨色のストッキングを穿くことが増えている。
襲われた女は、襲った男の好みに合せたものを身に着ける。。
母がそれを実践していることに、好夫は衝動に似たマゾヒスティックな刺激を掻き立てられている。

良哉を愉しませるために好夫がきょう履いてきたハイソックスは、じつは父親のものだった。
勤めに出るときに履いていくもののなかで、とびきり薄いやつで、気に入りなのか何足も持っている。
一足くらいならバレないだろうと、箪笥の抽斗から失敬したのだ。
ストッキングのように薄いやつだから、きっと良哉の気に入るだろう。。。
このあたりの思惑は、恋人のためにめかし込む女の子と、さほど変わりはないと思う。

「気に入った?」
「ああ・・・良い嘗め心地がする」
本気で良いと感じると、良哉には童心が戻ってくるらしい。
しんけんな顔つきになって、好夫のふくらはぎを、靴下のうえからたんねんに嘗め続けている。
生暖かい唾液に濡れそぼり、ひと嘗めごとに皺寄せられながらも、
好夫もまた自分の足許に加えられるいたぶりを、目を凝らして見おろしている。
「破っても良いんだぜ?」
そんな誘いを、自分のほうから向けてしまっている。
「ほんとうはこれ、父さんのやつなんだ――」
好夫の白状に、良哉は意外なくらいに反応した。
「え?そうなの?」
自分が寝取った人妻の亭主が愛用しているストッキングまがいの靴下を、
その息子の脚に通させて嘗めいたぶっている――
そんな状況に、ズキリと胸をわななかせたようだ。

「ウフフ なんだか面白いな・・・」
嘗めくりまわす舌の動きがいちだんとしつようさを帯びるのが、靴下を通してジワジワ、ヌメヌメと伝わってくる。
「お前――もう漏らしちまったのかよ」
良哉はそうからかいながらも、濡れたズボンのうえから好夫の張りつめた股間に手をやり、まさぐってゆく。

「お前の血の味、うちのお袋に似てきたな」
吸い取ったばかりの血で口許を濡らしながら、良哉はいった。
「人ん家(ち)の母ちゃんつかまえて、どんだけ血を吸ってんだよ」
そのまま自分自身に返って来そうなことを言いながら、良哉は好夫の頬をつねった。

こいつ、うちのお袋といつ逢ってるんだろう?
どんなふうに押し倒しているんだろう?
そしてお袋は・・・どんな顔をして、こいつにちんちんを突き込まれているんだろう・・・?
母親を自分のペニスの意のままにされている好夫の歓びが、少しはわかったような気がした。


「お待ちになりましたか?」
好夫の母親は、いつもていねい口調だ。
涼やかな服装に、いやみのない薄化粧。
肩までの黒髪は、上品に結わえてある。
背すじをピンと伸ばし、流れるような細身の身体の線を、服の下にひそめている。
派手ではないがどこかゾクッとさせる細い眉に、瞳のきれいな眼。
いつもより濃いめに刷いた口紅だけが、二人の落ち合うことの意味を告げていた。

墨色のストッキングに透ける太ももを行儀よく、朱色のタイトスカートのすそから品良く覗かせている。
相手が子供でも、この人は姿勢を崩さない。
ひとりの男として、俺に接しようとする。
良哉は時折、この女(ひと)と逢うとき、知らず知らず身ずまいを正してしまう。
貫禄負けしているとは思わない。思いたくない。
だって、襲っているのは俺だから。
呼び出して、支配しているのも俺だから・・・

「少し待った。喉、渇いた」
良哉はわざと、ぶっきら棒にこたえた。
「また、お行儀悪くなさるのね・・・?」
由香里は小首を傾げ良哉を窺った。
軽く顰めた眉が、これから加えられる恥辱への虞(おそ)れを漂わせていた。
「きょうもきかせてくれるんだろ?あんたのかわいい泣き声をさ。
 こんなにお行儀悪く楽しんじゃってるんだと、あんたのダンナに聞かせてなりたいなあ」
そんな下卑た言い草を良哉はしながら、覚え込んだ苛虐的な愉悦をあらわに、由香里ににじり寄った。
細い両肩を摑まえて、力まかせに押し倒す。
いっしょに倒れ込んだはずみに過(よ)ぎった呼気が、ほのかに生々しかった。
密やかに洩れた女の声を塞ぐようにして、良哉は女の唇に自分の唇を押し重ねた。
女が吸い返してくるのをくすぐったく感じながら、
良哉もまた女の唇をヒルのようなしつようさで吸い返していった。

「あ、あなたぁ~っ、ごめんなさい・・・っ」
由香里が声をあげて嘆いた。
突き込まれたペニスに応えるように腰を弾ませながら、
それでも夫のために貞操が損なわれるのを憂いつづけた。
口では詫びながら、腰は求め、脚は絡みついてきた。
女の嘆き声に反応するように、良哉のペニスの先端からは、どびゅっ、どびゅびゅ・・・っと、
濃厚な精液が間歇的にほとび出た。
それは由香里の身体の奥深くを濡らし、熱くした。
由香里は、はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・と息せき切って良哉を抱きしめ、
ずり落ちかけた黒のストッキングを皺くちゃにしながら、なおも脚を絡めていった。

あんたのだんなに、いまのあんたを見せたいな――
毒づくように良哉が囁いたとき
そのときだけは、由香里は真顔になる。
「お願い。主人をおとしめるのだけはなしにしてちょうだいね」
え?と、良哉も思わず真顔になる。
「お願い」といいながらそれは、絶対の「お願い」に違いない。
「だって私も、たいせつなパパを裏切って貴男に逢っているの。
 ごめんなさいごめんなさいって言いながら逢っているの。
 きみは強いし大きいし・・・逢ってて楽しいわ。女として。
 でもね。
 エッチの相手は彼だけど、結婚するならやっぱり主人――
 そういうことも、わかってね。
 女は勝手な生き物なの――男と同じくらいにね・・・」

俺だって・・・人の奥さんを、幼馴染のお母さんを。
性欲のままに組み敷いて、スカートの裏側を精液で塗りたくったり、
ブラウスを血しぶきで濡らしながら生き血をむさぼったり、
勝手な生き物だ。まちがいなく。

勝手で良いのよ――
由香里は良哉の心を読むかのようにそう囁いて、彼の頭を抱きしめた。
愛すればいいの。
セックスを、愛しているっていうなによりの証拠にして、時を過ごすのよ。

細い腕で抱きしめられながら。
良哉はもうひとつの欲望で、ジリジリと胸を焦がしていた。
それは、由香里にもすぐ、伝わった。
「・・・明日の夜、約束があるの。
 それだけは行かせて――」
由香里はひっそりと囁き、願った。
わかったよ――
良哉は太く短い牙を、由香里のうなじに突き立てた。
ググっと力を籠めてもぐり込んでくる牙を、由香里は力強いと思った。
この子のペニスと同じくらい、強いわ・・・
白のブラウスにいつも以上に、噴き出る血潮をドクンドクンとほとばせながら。
良哉は親友の母の生き血を啖らい獲り、あさり摂っていった。

母親どうしの味比べ。

2023年08月02日(Wed) 22:57:43

はぁ・・・ふぅ・・・
うふっ・・・

ちゅるっ。ちゅるっ。
ごくりん。

柏木好夫と藤村良哉(りょうや)は息を詰めて、むき出しになった相手の素肌のそこかしこに唇を当ててゆく。
きょうの獲物は、音楽の翠川(すいかわ)先生。
「約束だよね?合唱コンクール終わるまで待ってあげるって言ったんだから・・・」
疲労困憊のていである翠川先生の顔を覗き込んで、良哉がいった。
「そんなこと言ったって、もうボクたちだいぶご馳走になってるぜ」
良哉の追及口調に比べて、好夫のいい方は困り果てた先生をかばうように穏やかだった。
ふたりとも、吸い取った血潮で口許を真っ赤に濡らしている。
背の低い良哉は裏返しにしたバケツのうえでつま先立ちをして、先生の首すじを狙っている。
なん度か咬み損ねたために、うなじからはよけいに血が撥ねて、
純白のボウタイブラウスには赤黒いしずくがチラチラと光っていた。
好夫は先生の足許にかがみ込んで、ふくらはぎを吸っている。
上背は良哉よりあるのに、どうしても脚にこだわりがあるらしい。
なん度も唇をあてがった脛の周りからは、
擦り切れた肌色のストッキングが、ふやけたように浮き上がっている。
「へっ!ご立派なことを言ったって、お前だってやることやってんじゃん」
良哉が憎まれ口をたたいた。
「ごめん、ごめんね・・・」
翠川先生はおずおずと二人にそういって、
もう耐えきれないというようすで、尻もちを突くようにして地べたにひざを降ろした。
失血のために、先生の頬は気の毒なくらい蒼ざめている。
食欲旺盛な十代半ばの、人の生き血を嗜みはじめた者たちに、二人がかりで生き血をせがまれては、
いくらふだん生徒に厳しい翠川先生といえども、こらえ切れるものではなかった。
「いいんだよ、先生。でももう少しご馳走してくださいね」
好夫は低く落ち着いた優しい声色だったけれど、先生の内ももに容赦なく牙を埋めた。
ストッキングがなおも、ブチブチッ・・・とかすかな音をたてて、裂けた。
良哉も楽しそうに、先生の肩先に、ブラウスの上から食いついてゆく。
真っ白なブラウスにまた、血のシミがバラの花のように拡がった。

「先生、いつものソプラノが台無しじゃん」
良哉はどこまでも、意地が悪い。
音楽の成績の良くないかれは、先生のお覚えがめでたくなかったからだ。
ここぞとばかりに意趣返ししているつもりなのだ。
好夫は苦笑いして、良哉にいった。
「うそだい、先生いつもアルトだぜ?」
良哉はムッとして、先生の肩先に再び牙をひらめかせようとしたが、好夫が制した。
「もうそれくらいにしておけよ。先生かわいそうじゃん」
「もうやめちまうのか?」
不平顔の良哉に、それでも好夫はいった。
「うん、もう少しで勘弁してあげようよ」

ちゅう・・・ちゅう・・・
くいっ・・・ごくん。

ひそやかな吸血の音はさっきよりも控えめに、しかし相変わらずしつように、
うずくまる先生に覆いかぶさるように、断続的にあがるのだった。


「美味しかったね、翠川先生の血」
好夫は満足そうに、口許についた翠川先生の血を舌で舐め取った。
手には、先生の脚から抜き取ったストッキングを、むぞうさにぶら下げている。
いつも吸血した相手からせしめる戦利品。
彼のコレクションはもう、なん足になっただろうか?
「ああそうだな」
良哉は好夫の声を横っ面で受け流した。
彼の首すじには、新しい咬み痕がくっきりと刻印されている。
音楽教師からむしり取るように獲たきょうの食事がいつになく性急だったのは、
いつもより蒼ざめたその顔色のせいだろう。
「良哉くん顔色悪いね」
好夫が気遣わしそうに良哉の顔を覗き込んだが、良哉はうるさそうにそっぽを向いた。
そして、そっぽを向いたまま、好夫にいった。
「オレーー半吸血鬼になったから」
「え?」
良哉の口ぶりはすこしだけ、誇らしげだった。

半吸血鬼。
もともと人間だったものが、一定量以上の血液を喪失するとそう呼ばれる。
血を吸い尽くされて死ぬわけではなく、もちろん墓地からよみがえるというような手続きを経ることもなく、
いままでと変わらず人間として生活するのだが、ほかのものと決定的に違うのは、日常的な吸血能力を備えることだった。
血を摂取されただれもが半吸血鬼になるわけではない。
吸血鬼が意図した人間を択んで血を啜り、吸血能力を植えつけていくのだ。
良哉は、数日はかかる吸血に耐えて、ついに半吸血鬼になったのだった。

「それでさ・・・」
良哉がいった。
「お前の血をもう少し吸わせてもらうからな」
え――?
ふり返る好夫の前に、良哉は立ちはだかった。
獲物を狩る獣の目をしている――と、好夫は思った。

あ・・・・・・
短い呻きを洩らして、好夫は身体の動きを止めた。
翠川先生からもらったストッキングが、砂地に落ちた。
良哉は、上背のある好夫にぶら下がるように絡みついて、その首すじに喰いついていた。
好夫はゆっくりと、ひざ小僧を地面に突いた。そして四つん這いになり、やがてうつ伏せに突っ伏してしまった。
しずかになった好夫の足許にかがみ込むと、良哉はふくらはぎに唇を吸いつけてゆく。
半ズボンの下からむき出しになった好夫のふくらはぎは、ねずみ色のハイソックスに包まれていた。
太目のリブが、陽の光を照り返してツヤツヤと輝いている。
整然と流れるリブに牙が押し当てられて、かすかな歪みが走った。

ごくっ。

良哉の喉が大きく鳴った。
その音はゴクゴクゴクゴク・・・とずうっと続いた。
切れ切れになる意識の彼方。
自分の血を飲み耽りながら、良哉が旨そうに喉を鳴らすのを、好夫は薄ぼんやりと耳にし続ける。

リョウくん、ボクの血がよっぽど美味しいんだな。
きみになら、いくらでも飲ませてやるよ。
満足するまで、ボクのハイソックスを汚しつづけてかまわないからね・・・・・・



「いつにする?味比べ」
良哉は蒼ざめた頬を歪めて、好夫に笑いかけた。
「そうだね――ボクはいつでもいいよ」
好夫の声はいつも通り穏やかだったが、顔色は別人のように良くない。
良哉のおかげで、自分も半吸血鬼になった――そう自覚せざるを得なかった。
帰宅した時、あまりの顔色の悪さに母親は色をなしたが、好夫は「いいんだいいんだ」と母を制していた。
半吸血鬼が半吸血鬼を作り出すことはほとんどなかったが、
良哉の血を吸った吸血鬼は特別に、良哉にその力を与えた。
「好夫だけは、オレが半吸血鬼にしたいんです」
自分の血を捧げ抜くとき、良哉はそういって、自分が半吸血鬼になったときの愉しみを確保したのだ。

「顔色、わるいね」
「きみもだけど」
二人は顔を合わせて、笑った。

味比べ。
二人とも半吸血鬼になったとき、ぜひやろうと約束していた。
母親を交換して、お互いに生き血を味わおうというのだ。
お互いの母親を襲って生き血を啜り、味比べをする。
それは、吸血鬼どうしの兄弟としての契りを交わすことを意味していた。
母親でなければ、妻でも良い――もとより二人はまだ若かったから妻はいなかったし、
その母親たちはじゅうぶん、美味しい生き血をその身にめぐらせている年代だった。
「うちのお袋、でぶだからな。襲いがいないだろ?」
良哉は自分の母親に対しても、仮借がなかった。
「そんなことないよ、きみ、ボクが肉づきの豊かな脚を好きなの知ってるだろう?」
好夫が取りなすようにそういった。
「太めの脚のほうが、ストッキングが映えるんだよね・・・」
好夫はウットリとして、良哉の家の方角を見つめた。

良哉は、好夫の母親を襲うのを楽しみにしていた。
好夫の家はまずまずの良家で、自営業でせわしない店舗兼住宅の良哉の家とは趣が違っていた。
彼の父親は役場に勤めていた。
もうすでに、ここの市役所に永久出向が決まっている身ではあったが、れっきとした上級官庁の出身者である。
市役所では、助役を務めていた。
助役夫人を襲う――友人の母親であると同時に、良哉のなかの彼女は、数少ないエリート一家の令夫人でもあったのだ。
好夫は、自分の母親に対して向けられた良哉の劣情に気づいていた。
もちろん息子として、彼の劣情をまともに受け止めることで母親がどんな目に遭わされるのかという危惧は持ち合わせていたけれど、
良哉にかぎってそんなに酷いことはしないだろうと考えていた。
母親同士も接点はなかったけれど、たまに学校で顔を合わせると、会釈し合う程度の仲ではあった。
お互い――相手の息子に生き血を狙われている同士という意識も、お互いに持っていた。


「良哉くんが、母さんの血を欲しがってるんだ。せがまれたら応えてあげてくれないかな・・・」
家に戻ると好夫はいった。
「いつになるの?」
好夫の母はいった。名流夫人の肩書にふさわしく、優雅で音楽的な声だった。
「近々だと思うよ。あいつ半吸血鬼になったから・・・母さんにはいろいろ迷惑かけちゃうけど・・・」
さすがに語尾を濁した息子の意図を、母親は正確に察している。
半吸血鬼とはいえ、吸血鬼となったものは皆、セックス経験のある婦人を襲うとき、なにを欲しがるのか――
この街の女たちは皆、知っている。

「お袋さあ――」
良哉がいった。
「明日、校舎の裏手。好夫の悩みを聞いてやって」
いつものぞんざいないい方に、
「まったくこの子は藪から棒に、なんなんだろうね」
と、良哉の母は小言をいった。
「わかってると思うけど、ちゃんとストッキングくらい穿いて来るんだぜ?」
怒ったような息子の声色に、良哉の母はちょっとのあいだ黙り込んで、
「それくらいわかってるわよ」
とだけ、いった。
「父さんには言うの?」
「言わなくたってどうせバレるじゃない」
「妬きもちやきそうだなぁー、あのスケベ親父」
「親のことをそんなふうに言うもんじゃないわよ!」
いつもながらの、母子げんかだった。

「アラ、柏木の奥さん」
「アーー良哉くんのお母さん」
学校の裏門の前、それぞれ反対方向からやってきた二人は、まるで落ち合うように脚を留めた。
良哉の母はいつもの一張羅ではなく、ついぞ見たことのないスーツを着込んでいる。
派手なオレンジ色のスーツは、まるであたりに夏の花でも咲いたかのように鮮やかだった。
柏木夫人は、爽やかなラベンダー色のロングスカートに、白のブラウス。
足許はこの陽気には似つかわしくなく、墨色のストッキングで包んでいる。
良哉の母とは対照的に、清楚なスタイルだった。
やっぱり奥さんは洗練されていらっしゃる――良哉の母はそう思った。
良哉の母はというと、オレンジのスカートスーツのすそから覗く太っちょな脚は、ねずみ色のストッキングをじんわりと滲ませていた。
お互いに――
ふだん脚を通すことのない色のストッキング(良哉の母などは久しぶりに穿いたはずだ)がなにを意味するのかを、お互いに読み取り合っていた。

「よう」
ぞんざいな声が、二人の婦人に投げられた。
声の主は正確には自分の母親のほうを向いていた。
さすがに親友の母親に向けた態度でないのは明らかだった。
「よう、じゃないだロ!礼儀をわきまえな!」
良哉の母は伝法に言い返した。
良哉は慌てて手を振った。
「きょうはもっとさあ、こう、ご婦人らしく・・・な?」
ほんとにもう・・・良哉の母はまだ、ムスムス言っている。
やがて良哉の後ろから、好夫も姿を見せた。
「良哉くんのお母さん、きょうはすみません」
好夫はいつもながら、礼儀正しい。
自分の母親のほうにもチラと目配りをして、動揺を悟られまいとしていた。
きょうの彼女の爽やかないでたちは、良哉のための装いなのだ。
今さらながらに、胸がどきどきした。
「行くぜ」
良哉は相変わらずぶっきら棒に、他の三人の前に立って、校舎の裏へと脚を勧めた。

校舎の裏には、小さなプレハブ小屋があった。
そこはいつも施錠されていなかった。
たまに生徒が入り込んで悪さをするのか、板の間にはいくらか、土足の足跡がついている。
「・・・ったくしょうがないな」
良哉は舌打ちした。
「こういうのは、前の日によく下調べしておくもんだがね」
良哉の母がいった。
「あたしは良いけど、こういうのって柏木の奥さんに申し訳ないじゃないの」
さすがに顔を曇らせた良哉を取りなすように、好夫がいった。
「そんなに汚れているわけじゃないし、人目をさえぎるにはここが一番良さそうですよ」
「好夫くんはいつもいい子ねえ」
良哉の母がいった。

「じゃ、始めようぜ」
良哉は目だって、口数が少なくなっている。
すでに吸血の欲求が胃の腑からはぜのぼってくるように感じていたのだ。
「うん、じゃあ・・・」
好夫もさすがに、生唾を呑み込んでいる。
女二人は目くばせし合って、それぞれが相手の息子の前に立った。
「横になってもらったほうが良いかな」
「ご婦人を最初から寝そべらすのはどうかな」
「それもそうだね」
良哉が珍しく素直にいった。
じゃ――
彼はおもむろに、柏木夫人に近寄った。
同時に、好夫も良哉の母のほうへと距離を詰めた。
女ふたりは生唾を呑み込んで、自分を獲物にしようとしている子供たちのほうへと目線を合わせてゆく。

「すこしかがむわね」
柏木夫人が良哉にいった。
上背のある柏木夫人の首すじを咬むには、良哉は少し背丈が足りなかったのだ。
「すみません・・・」
良哉は、別人のように礼儀正しい受け答えをすると、少し背伸びをして柏木夫人の両肩に腕を伸ばした。

あっ・・・
傍らから洩れた母親のうめき声に、とっさに好夫は振り向いてしまった。
母の着ている真っ白なブラウスに、早くもバラ色のしずくが散っていた。
またもや咬み損ねたらしい。
この間の翠川先生のブラウスと同じように、血潮がよけいにばら撒かれたように見えた。
母親と視線が合った。
――わたし大丈夫だから。
そう言っているようにみえた。
好夫はもう母親のほうを見なかった。
いつもがらっぱちな良哉の母が、おずおずと生唾を呑み込んで、棒立ちしていた。

すいません。
好夫はそういうと、彼女の足許にかがみ込んだ。
「こんなんで良かったかな・・・」
ねずみ色のストッキングに染めた脚を刺し伸ばしながら、良哉の母はいった。
「良い、すごく良いです・・・」
好夫は唇の周りに、唾液がうわぐすりのようにみなぎるのを感じた。
そして、彼女の足首と足の甲を抑えつけると、生え初めた牙をむき出して、肉づきゆたかなふくらはぎに咬みついていった。
ジワッ・・・と赤黒い血潮が撥ね、良哉の母のパンプスを濡らした。
破けたストッキングのそこかしこに赤いしずくが散って、ジワジワとしみ込んでいった。

ごく、ごく、ごく、ごく・・・
良哉の食欲は、すさまじかった。
柏木夫人は、目もくらむ想いだった。
ほとび出る血潮がブラウスを汚したのは、あきらめがついた。
吸血鬼の相手をすればどうしたって、服は汚れてしまうのだ。
かがんで中腰になったのが、よけい負担になった。
男はのしかかるように体重を預けてきた。
これが息子の友人のすることだろうか?
柏木夫人は畏怖をおぼえた。
夫人を畏怖させるほどに、その日の良哉はガツガツしていた。
ただひたすら、喰いついたうなじから牙を埋めたまま、
力づくでむしり取るようにして、彼女の血を飲み耽るのだ。
あ・・・あ・・・あ・・・
眩暈が夫人を襲った。
身体の平衡が失われたのを感じ、気づいたらもう引きずり倒されて、床のうえにあお向けになっていた。
自分の上から起き上がった少年の口許は、吸い取ったばかりの彼女の血潮がべっとりと着けていた。

少年はすかさず、夫人のロングスカートのすそをとらえた。
足許を覆っていたロングスカートは荒々しくたくし上げられて、空々しい外気が下肢を浸す。
「えへ・・・えへへ・・・へへへ・・・」
少年はイヤラシイ嗤いを切れ切れに発しながら、墨色のストッキングを穿いた彼女の脚を、舌と唇とで撫でくりまわした。
おろしたての真新しいストッキングに、唾液がヌラヌラとヌメりついた。
およそ紳士的ではない、無作法なやり口だった。
相手が息子の親友で、息子から相手をするように頼まれたのでなければ、毅然として「およしなさい」と言っていたに違いない。
猛犬のような牙を太ももにガクリと食い込まされて、再び血がほとび散った。
獣に襲われているようだ、と、夫人はおもった。
少年はその後なん度も、脚のあちこちに喰いついてきた。
左右かまわず、部位もかまわす、自分の牙の切れ味を試すように、夫人の柔肌を切り裂いてゆく。
ラベンダー色のロングスカートは、たちまち血に染まった。

好夫も、さすがに夢中になっていた。
差し伸べられた足許に喰いついた後、ねずみ色のストッキングのうえから唇をすべらせるようにして、
彼は良哉の母の穿いているストッキングの舌触りに夢中になっていた。
われながら、オタクっぽいやり口だと恥ずかしかった。
けれども良哉の母は、そんな好夫の想いが伝わるらしく、
「好きにしていいんだからね」と言ってくれて、彼の意地汚い欲求に精いっぱい付き合ってくれたのだ。
さいしょに咬みついたふくらはぎに熱中するあまり、良哉の母は貧血を起こして身体をふらつかせた。
彼女の身じろぎでそれと察すると、好夫は彼女を横抱きにして、床の上に横たえてゆく。
昂りきった彼女の呼気が、好夫の耳たぶを浸した。
小母さんもうろたえてるんだ――と、はじめて感じた。
いつ顔を合わせても、しっかり者の自営業主の妻である小母さんだったが、
牙をふるって迫ってくる吸血鬼の脅威の前には、ただその身をさらして欲望にゆだねるばかりだったのだ。
いくら半吸血鬼としての儀式とはいえ、幼馴染の母親を無用に傷つけたくなかった。
彼はオレンジのスーツの上半身にかじりつくようにして良哉の母のうなじに唇を寄せると、ガブリと食いついた。
首すじの太い血管を、あやまたずに断ち切っていた。

ハッ、ハッ、ハッ、
ひぃ・・・ひぃ・・・ひぃ・・・
息せき切った良哉に、喘ぎ喘ぎ肩を弾ませる柏木夫人。
すでにブラウスははぎ取られ、ブラジャーは飛ばされ、ロングスカートのなかで、ストッキングは片方脱がされていた。
ショーツの薄い生地を透して、少年はまだ童くさい息が直接、秘部にしみ込んできた。
ああ、この子に犯される・・・
夫人はさすがに、悩乱した。
彼女は夫のことを想った。
夫はいまごろ、こんなこととは知らずに市役所の奥まった部屋で執務しているに違いない。
金縁メガネを光らせた生真面目な横顔が、なぜかいまの彼女のありようを察しているような錯覚を覚えた。
太ももを伝って、柱のようにコチコチに固まった一物が、せり上がってきた。
初めて吸血鬼というものに襲われるようになってから、すでに夫以外の男性をなん人となく、彼女は識っている。
けれども――
よりによって、それが良哉くんだなんて・・・
白い歯が迷うように喘ぐのを、男の厚い唇に塞がれた。
一人前の男の呼気だと、夫人は感じた。

いいんだよ、思い切りやっちゃっていいんだからね――
良哉の母はそういって、好夫を励まし続けていた。
隣で母親が犯されているのをありありと感じながら、そうだからこそよけいに、異常な昂ぶりを覚えていた。
股間の一物が、自分のものではないように太い棒になっている。
すでにふたりの身体は、上下に合わさり、互いに互いの熱を感じ合っている。
良哉の母は思い切りの良い女だった。
入り口で惑っていた好夫の一物に手を添えると、自分の秘部へと導いて、さっきまで自分を苛みつづけた牙と同じように、
夫を裏切る行為をズブリと遂げさせていた。
良哉の母の中で、好夫の一物が白熱した閃光を放った。
破れかかったねずみ色のストッキングを穿いた脚がピンと伸びて、やがてじょじょに力を失い弛んでいった。

二対の男女は肩を並べて、息をはずませ合っていた。
四人呼気はばらばらで不協和音のようだったが、
彼らの意図するところはひとつであった。
ふたりの少年は互いの母親を相手に、見事に筆おろしを遂げていた。
そして、そのあとは好きなだけ――
大人のオンナの身体を覚えた怒張したペニスを、なん度もなん度も突きたてていっては、
初めて識った女たちの身体の秘奥へと、白く濁った体液を放射しつづけていった。


太陽は西に、傾こうとしている。
けれどもそれが、なんだというのだろう?
礼装をほどかれた女たちは、自らの血を浴びながらも、頬は嬉し気に輝いていた。
あれほどたっぷりと血を抜かれたにもかかわらず、
色とりどりに染まるストッキングに透けた素肌には、淫蕩な血色をみなぎらせていた。


「青春だな」
「まったくだな」
翌日登校してくると、良哉と好夫は顔を合わせて同時に言った。
お互いの熱した精液を、お互いの母親の体内奥深くにぶちまけ合った者同士の、奇妙な共感がそこにあった。
「オレ、洋子のことプレハブ小屋に誘った」
良哉がいった。
洋子とは、好夫の母の名前だった。
自分の母のことを呼び捨てにされて、好夫はくすぐったそうに笑った。
「じゃあボクは帰りに、きみの家に寄ることにするね」
「うちの親父、大丈夫だから」
良哉はイタズラっぽく笑った。

お互いの父親は、自分の妻が息子たちの餌食になったのを、夕刻帰宅して初めて知った。
どちらの妻も、息子も、家に戻って来ていなかった。
良哉の父は好夫の父を訪ねた。
「なんか、うちのアバズレ女は別にエエんですけれども・・・柏木の奥さまには大変なご迷惑を」
良哉の父は昔かたぎらしく、好夫の父に頭を下げた。
好夫の父はもちろんことのなりゆきに驚いていたが、
こういうときに夫がうろたえてはいけないと感じた。
「風変わりなことになってしまいましたが、これはおめでたいことなんだと思います」とだけ、いった。
そして、慇懃に頭を下げてきた良哉の父に応じるように、丁寧に頭を下げて、
「御子息の成人おめでとうございます」といった。
そのあと二人は連れ立って酒場に繰り出した。
お互いの息子たちが女の身体を識って大人になったことも、
お互いの妻の貞操が泥にまみれたことも、若い情夫が一人ずつ増えたことも、
どちらもいっしょに、祝い合った。
そして大酒をくらって、まだだれも戻って来ていない家に戻り、朝まで大いびきをかいて寝入ったのだった。



通勤用の靴下を破かれながら~ある夫婦赴任者の末路~

2023年06月15日(Thu) 13:51:39

【あらすじ】
前作と同工異曲。

この街に来て、ようやく一週間が経った。
吸血鬼のいる街だと聞かされて戦々恐々として家族と移り住んできたのに、
拍子抜けするほど何事もない。
きょうも廻河恵介(41)は、早すぎる退勤時間に戸惑いながらも、事務所を出た。
今でもその時のことを、あのときはいきなりでびっくりしたな――と思い出す。
襲撃はそれくらい、唐突だった。
社屋を出てすぐから、だれかが黒い影のようにひっそりとあとを尾(つ)けてくるのに、この不運な転入者は気づかなかったのだ。
背後から忍び寄ってきたその黒い影は、あっという間に恵介のことを、その力強い猿臂に巻き込んでいた。
「あ、なにを――」
声をあげた途端、首すじに尖った異物がずぶりと突き刺さるのを感じた。
疼痛を圧し包むように生温かい唇が柔らかに圧しつけられて、
にじみ出る血潮をチュウチュウと吸い取られてゆく。
「お、おい、きみ・・・っ」
恐怖に上ずった声が途切れた。
黒影はにんまりと笑むと、男の首すじに突き刺した牙を、根元まで突き通していった。

つぎに恵介が我にかえったのは、事務所の近くの公園のなかだった。
ふだんは人も来ない生垣の裏側に、引きずり込まれていたのだ。
吸血鬼がだれにも邪魔されずに獲物をたんのうするときによく使う場所だと、そのときの恵介はまだ知らない。
黒影は恵介のスラックスを引き上げると、こんどは足許に唇を圧しつけてくる。
恵介の靴下は丈が長めだった。
紺地に赤の縦のストライプの走ったしなやかな生地が、ふくらはぎの半ばまでを覆っている。
その上から圧しつけられた唇は、すこしの間恵介の靴下の舌触りを愉しむかのようになすり付けられた。
這わされた舌が分泌するねっとりとした唾液がじわじわと滲んでくるのを感じた。
恵介が意識を取り戻したのを、影はかすかな身じろぎでそれと察して、
抑えつける掌に、いっそう力を込めてくる。
首すじの疼痛が、ジンジンと響いた。
短い時間に少なからぬ量の血を奪われたのを、恵介は自覚した。
だらりと垂れた手足には力が入らず、けだるげに草に埋もれたままになっている。

「おい、きみ、一体何を・・・」
ふたたびあげた声は、またしても途切れた。
唇の両端からにじみ出るように突き出た尖った歯が、靴下ごしに皮膚を破って食い込んできたのだ。
滲んだ血が、靴下に生温かくしみ込むのを感じた。
「や、やめてくれっ!」
恵介は恐怖に縮みあがって叫んだ。
けれどももとより、黒い影は手かげんをしようとはしない。
飢えに任せて、渇きに任せて、ただひたすらに恵介の靴下を濡らしながら、こぼれ出てくる血潮を口に含み、喉を鳴らしてゆく。
首すじも、まだ噛まれていない側をもういちど嚙まれた。
ジュルジュル音を立てて、血を啜られながら恵介は、
意外にも、それが決して嫌な気分ではないことに気づきはじめていた。

恵介の耳もとで聞えよがしにゴクンゴクンと喉を鳴らすと、やっと唇を放して、
手の甲で口許を拭い、黒影は初めて、満足そうな吐息を洩らした。
旨い――と呟くのが、恵介の耳にも聞こえた。
「ど、どうするつもりなんですか!?」
切迫した響きを帯びた恵介の問いに初めて、影がこたえた。
「あんたの血を少しだけ、楽しませていただく」
「こ・・・殺す気か・・・?」
「おとなしくわしを満足させてくれたら、そこまではしない」
影は短くこたえた。
「眩暈がする」恵介がいうと、
「もう少しの辛抱だ」と、影は恵介を許そうとはせずに、
まだ噛んでいないほうのスラックスを引き上げると、靴下の上からまた舌を這わせた。
靴下を舐め味わい、噛み破るのを楽しんでいる――恵介は直感した。
少しでもよけいに楽しませれば、死なずに済むのか・・・?
ピチャピチャと舌を鳴らして靴下によだれをしみ込まされていきながら、恵介は短くうめいた。
噛まれる直前恵介は、相手が自分の履いている靴下を舌をあてがうようにしてヌルッと舐めるのを感じた。
芝生のうえでのたうち回りながら、恵介はしつように靴下を噛み破られながら吸血された。
噛み痕ひとつひとつは、擦過傷に過ぎなかった。
血の味と、靴下破りを楽しむには、きっとそれで充分なのだろう。
影は恵介にとどめを刺すように、ふくらはぎの真上から強く噛んだ。
靴下が大きく裂けて、血がジワジワと生温かくしみ込むのを感じた。
チュウチュウ、チュウチュウ――
自分の血が吸い上げられる音が、ひどくリズミカルだと思った。
そうこうしているうちに、恵介は失血からくる眠気に誘われて、意識を昏(くら)くしていった。

恵介の妻、美知子(38)が襲われたのは、その約30分後だった。
スーパーで買い物を済ませた美知子は、家路を急いでいた。
自転車の行く先を、黒い影のような男に遮られた。
「危ないッ!」
キッと音を立てて、美知子はかろうじてブレーキを踏んだ。
「奥さんこっち来て」
影は白い歯をみせてそういうと、美知子の手首を掴まえて、自転車から引き離そうとした。
揉み合うふたつの影がひとつになった。
影は美知子の首すじを嚙んでいた。
ギューッとつねられるような痛みに美知子は悲鳴をあげて飛びのき、逃げようとした。
自転車が音を立てて倒れ、野菜や洗剤がその場に転がった。
美和子の抵抗はむなしく、先刻夫がそうされたように、彼女の肢体は好色な猿臂に巻かれていった。
影は美知子の手を強引に引いて、傍らの草むらへと身を淪(しず)めた。

ひいッ・・・
美知子はうめいた。
男が今度は、反対側の首すじを狙ったのだ。
地味なモスグリーンのカーディガンに、紅い飛沫が飛び散った。
ちゅ、ちゅ~っ・・・
すかさず吸いついて来た唇が美知子の首すじに密着して、
まだうら若さを秘めた熟れた血潮を、ヒルのように貪欲に吸い上げてゆく。
美知子は姿勢を崩すまいとして、草むらの陰で両手を突いた。
影は先刻彼女の夫にそうしたように情け容赦なく、
美知子のうなじの皮膚の奥深く、無慈悲な牙をグイグイと食い込ませていった。
38歳の人妻の生き血は、さもしい食欲の赴くままに啖(くら)い取られてゆく。
血を啜る音が洩れるあいだじゅう、美知子は身を起こそうと力んでは、
男との力比べに負けてふたたびみたびと、ねじ伏せられていった。

美知子がその場に倒れ臥すと、影はにんまりと笑みを泛べた。
乱された紺色のスカートのすそから覗くふくらはぎは、濃いめの肌色のストッキングに包まれている。
クククッ・・・
含み笑いとともに、恥知らずな唾液を帯びた唇が、ストッキングを濡らした。
ひっ・・・
幸か不幸かまだ意識のあった美知子にとっては、生き地獄だった。
男はストッキングをしわ寄せながら、美知子の足許をゆっくりと舌で舐めまわしてゆく。
「な、なにをなさいます、失礼じゃありませんか!」
声だけは気丈にも、男の無礼を詰っていた。
男はひと言、「エエ舌触りぢゃ」と呟くと、
あとはもうものも言わずに、美知子のふくらはぎに食いついていった――
血を吸い上げるチューッという音が、あからさまなくらいに鼓膜にしみ込んだ。

さらに30分後。
美知子は自転車の荷台から買い物かごを降ろすと、たいぎそうに玄関のドアを開けた。
さっき襲われて懸命に抵抗していたときとは別人のように無表情で、顔色は鉛色になっていた。
「ただいま――」
だれもいない薄暗い室内に向かってひっそりと呟くと、
緩慢な手つきで、野菜や肉や洗剤などを、そこかしこへと片寄せてゆく。
背後からはぴったりと、黒影が付き添っていた。
「もう少しお待ちになってくださいね」
棒読みのように抑揚のない声を投げると、影はゆったりと肯きかえした。
破けたストッキングを片脚だけ穿いた恰好のまま、美知子はそれでも手早く片づけを済ませた。

むき出しになった脚に沿うように、脱がされたほうのストッキングがふやけたように垂れ下がり、ひらひらとまつわりついていた。
スカートの裏地には白い粘液がおびただしく飛び散り、それは片脚だけ穿いたストッキングにまで点々としみ込んでいた。
なにが起きたのかは、だれの目にも明らかだった。
草むらのなかで組んづほぐれつ、虚しい抵抗をくり返しながらも、美知子はショーツを脱がされた股間に、何度も衝撃を加えられるのを感じた。
黒影の陰茎は、飢餓状態だった。
がつがつとむしり取るように、否応なく美知子の貞操を奪い、女の入り口を強引に行き来させると、淫らに滾った熱情の塊を、彼女の身体の奥深くへとそそぎ込んでいったのだ。

女が家の片づけを終えてしまうと、影は女の足許へと這い寄った。
女は拒まなかった。
片方だけ穿いたストッキングも、見る影もなく咬み剥がれてむざんな裂け目を拡げていた。
男はむぞうさに女の足許に手をかけて、ストッキングを引きちぎった。
女は無表情に、自分の礼装を弄ばれるのを見おろしている。
美容院できちんとセットしたばかりの髪をくしゃくしゃにされたことのほうが、よほどこたえているようだった。
女は、手にしたタオルで粘液に濡れた脚をさっと拭い、買ってきたばかりのパンティストッキングの封を切ると、おもむろに脚に通してゆく。
男は、恥ずかしながら俺はストッキングフェチなのだと告白してきた。
奥さんのストッキングをもう一足楽しみたいとねだられて、家まで送って下さったらと約束してしまっていたのだ。

「じつはさっき、だんなの血も吸ってきた」男がいった。
「そうだったの」女も、他人ごとのようにこたえた。
「ご主人の血も旨かった」
「よかったですね」女はやはり、他人ごとのようだった。
けれどもさすがに頬に翳をよぎらせて、
「まさか・・・殺してしまったわけではないでしょうね」と訊いた。
「安心しろ。むやみに生命までは取らん。
 わしに好意を恵んでくれるかぎりはな」
「主人はあなたに好意的だったのですか」
「あんたの血も吸って欲しいと勧めてくれたのでね」
「ああ、そういうことなのですね・・・」
女はぼう然とあらぬ方を見やりながらも、得心がいったようすだった。
夫が決めた相手なら、私は操を奪われても良かったのだ――白い横顔がそううそぶいていた。
男はリビングの入り口のほうにちらと目線を寄せたが、女は男の仕草にも、男の目線の向こうに観客がいることも自覚しなかった。

「観客」はいうまでもなく、恵介だった。
手を出さないことを条件に、自分の妻が白昼狩られるいちぶしじゅうを、目の当たりさせられたのだった。
妻の血を吸って欲しいなどと勧めたり頼み込んだりした憶えは、毛頭なかった。
恐怖に駆られてそんなことを口走ってしまったのかと記憶を反芻したが、
さすがにそんなことをするはずはなかった。
体内に残された血液と同じくらいには、彼のなかにもまだ良識が残されていた。
けれども、その良識もいささか妖しくいびつに崩れかけていた。
「奥さんの血も吸わせてもらいたい」
男にそう求められて、正直悪い気はしなかったのだ。
それは明らかに自分の意志と利害に反したことであるけれど、相手が自分の血を旨そうに喫(す)ったこの男なら、妻の血液をあてがっても良いのではと思い始めていた。
妻を襲って血を啜ることを許可するなどというまがまがしい行為に走った覚えはなかったけれど。
気がついたら、妻が今頃の刻限に買い物に出かけ、人通りの少ない路を通って帰宅する習慣があることを告げてしまっていた。
「あなた、わたしを売ったのね!?」
そういわれてもおかしくないことだった。
けれども目の前の女は、相変わらず棒読み口調で、自分の血を啜ることを夫が勧めたことを、不謹慎なことだとは受け取っていないようだった。
「わたくしのこと――お気に召したんですか」
美知子が訊いた。
自分の血の味の良しあしを気にしているのだと気づくのに、少しの間が必要だった。
「生き血も、身体も――あんたいい女だ」
吸血鬼はもの欲しげににんまりと笑い、
美知子も横抱きにしてくる猿臂を受け容れながら、媚びるような上目遣いをした。
ためらう唇に、好奇心に脂ぎった唇が重ね合わされた。
ふたつの唇はせめぎ合うように結びつき、激しく吸い合った。
恵介のなかで、なにかが崩壊した。

妻と築いてきた豊かな結婚生活が台無しになったと思った。
けれども、いまはそのことを、惜しげもなくあきらめることができた。
夫婦を支配した男の体内で。
自分の血液の大半と、美知子のそれのほとんどとが、仲良く織り交ざり、干からびた血管を潤している。
その実感がなぜか、ドクドク、ドクドクと、乏しくなった血液を高ぶらせ、めまぐるしく駆けめぐらせてゆく。


恵介は、草むらに押し倒されたときの自分の妻の運命を反すうしていた。
生垣の向こうから、チャッ・・・チャッ・・・と、衣類の裂ける音がした。
あお向けの姿勢になっていた美知子の上に征服者が馬乗りになり、
胸をはだけたモスグリーンのカーディガンのすき間から覗く朱色のブラウスを、引き裂いていた。
あっ、なんということを・・・!
恵介はおもった。
声をあげようとしたが、喉が引きつって声が出ない。
男がブラウスを剥ぎ取ってしまう間、美知子はまったく無抵抗だった。
ブラウスをはだけて、ブラジャーの吊り紐に手をかけるのが見えた。
ブチッ、ブチチッ・・・
吊り紐を引きちぎる耳障りな音がした。
「くくくっ」
含み笑いを泛べた唇が、妻の乳首を飲み込んでゆくのを、恵介はただ見守るばかりだった。
妻は抵抗する意思を喪失して、自分の身体を好きなだけ愉しませてしまっていた。
もはや、男がなにをもくろんでいるかは明白だった。
血が頭にのぼぜてしまった恵介は、ついふらふらと起ちあがろうとした。
そのまま起とうとすれば起てたはずなのに――なぜか恵介は、身体の動きを止めてしまった。
左右両方の乳首を男が代わる代わる舐めるのを、無抵抗に胸をさらして受け容れはじめていたのだ。

真上を見あげた美知子の横顔には、軽い陶酔の表情さえ泛んでいる。
まさか・・・まさか・・・このまま家内をモノにされてしまうのか!?
恵介はおののき、うろたえ、それでも起ちあがることも声を出すこともできずにいた。
男は美知子のスカートをたくし上げてゆき、ストッキングをズルズルとひきずり降ろしてゆく。
じりじりとした焦慮が、恵介の胸を焦がした。
男はショーツにくるまれた股間にむぞうさに手を当てると、
鋭い音を立ててショーツを引き裂き、あらわになった処に、顔を埋めてゆく。
美知子は白い歯をみせて、ゆるやかにかぶりを振りながら、だめよだめよと呟いている。
けれどもそれが惰性の抵抗に過ぎず、もはや彼女が貞操を守る努力を放棄したのが、夫の目にはすぐにわかった。
昼日中の日光を満身に浴びながら、美知子の貞操は余すところなく食い尽くされてゆき、
彼女の夫は妻が吸血鬼の娼婦と化すのを


「さいしょに狙われるのがきみだと思って差し支えない。
 きみのことを征服しさえしてしまえば、あとは奥さんもお嬢さんも思いのまま――というわけだ。
 かれらは貪欲だからね。奥さんのほうは、身体もほしがるだろう。
 狙われてしまったら運の尽き――いや、それがなれ初めというものだ。
 気前よく、譲ってあげたまえ。
 最愛の奥さんのセックスを勝ち得るのに、若いころのきみが払った努力には充分敬意を表するけれど――
 でも、そうしたことも含めてあらいざらい、彼らのために差し出してしまうことだ。
 名流夫人の珠のような貞操も、彼らのいちじの気まぐれのために汚される――
 ここはそういう街なんだから」
わたし一人で相手をすることは可能ですか?恵介はいった。
この期に及んでさえどうしても、妻の美知子を吸血鬼の生贄に供してしまうのは忍びなかったのだ。
「もちろん可能だ。彼がそう言えばな」
都会のオフィスの上司はいった。
「わたしもそうしようと考えた。でも、身体が持たなかった。
 それに、わたしが吸い尽くされる前に、家内はわたしの知らないところでもう楽しんでしまっていた。
 女の操というやつは、じつに儚いものだね」
上司は、彼の妻はいまでも街に居ついていると教えてくれた。
部長に出世した今、都会の本社の部長夫人を犯す愉しみを、街の知己たちに与えているのだと。

通勤用の靴下を破かれながら――ある家族赴任者の献身

2023年06月14日(Wed) 23:38:24

【あらすじ】
吸血鬼と共存する街に、それと知りながら赴任してきた男性。
一家を血を狙う吸血鬼を相手に、自分、妻、娘と三人三様に、あっという間に征服されてしまう。
自分の血がいちばんつまらない――と思い込んでいた彼は、通勤用の靴下に執着する吸血鬼に共感を覚えて、
脚に通した靴下を、すすんで血浸しにされてゆく・・・



アアアッ、なにを・・・
言いさしもせずに声を途切らせたせつな、吸血鬼は容赦なくガブリと食いついた。
首すじから血が噴き出して、ワイシャツとネクタイを濡らす。
恵村喜美則は眩暈を起こして、その場にくず折れた。
圧し伏せられたうえからなおも喰いついて来るのをはねのける力は、残っていなかった。
喜美則は、自分の血がゴクゴクと喉を鳴らして飲み込まれるのを、じかに耳にした。
眩暈が酷くなり、待ってくれ、待ってくれ・・・と言いながらも、意識が遠のいてゆく。
吸血鬼はなおも許さずに、喜美則のスラックスを引き上げると、靴下の上からふくらはぎに噛みついてゆく。
じわじわと滲む血潮が、靴下を生温かく濡らすのを感じた。
血に飢えた牙がなおもしつように、靴下ごしにチクチクと刺し込まれるのがわかった。
靴下を破るのが楽しくて熱中しているようにさえ思えた。
やめろ、やめてくれ。血がなくなってしまう――
全身の血を吸い尽くされてしまうことに、恐怖をおぼえた。
それさえ免れるのなら、靴下を破く楽しみくらいなら、またくり返してやってもよい――とさえ感じた。
血を吸い取られること自体は、苦痛に感じなかった。
血液が傷口を通り抜けるたびに伝わる疼きが、彼の胸を妖しく焦がした。
体内の血液をじわじわと奪い去られる感覚にあえぎながら、喜美則はその場に昏倒した。

その約30分後。
キャアッ、なにをするんです!?
喜美則の妻の綾子が、立ちすくんだまま声をあげた。
足許に買い物かごが落ち、中身が周りに散らばった。
迫りくる危難を感じた綾子は、本能的に飛びのいた。
けれどもそのまま、男の強引な抱擁を、真正面から受け止めてしまった。
同時に二本の牙がズブリと、綾子の首すじに埋め込まれた。
綾子は、空色のブラウスに濃紺のタイトスカートを身に着けていた。
都会育ちの夫人らしく、ストッキングも脚に通している。
飛び散った赤い飛沫が、空色のブラウスに不規則な斑点を散らした。
それは、ワンピースを透してブラジャーにまで、生温かくしみ込んできた。
綾子が尻もちを突いたまま後じさりするのを許さずに、男は彼女の身に着けているワンピースのすそを荒々しくたくし上げると、こんどはふくらはぎに食いついた。
うす茶のストッキングがブチブチと音を立てて裂け、血の飛沫がこんどは彼女の足許を濡らした。
ひいっ・・・
息をのむ綾子の足許に、男はなおも好色な唇をすりつけてゆく。
もう片方の脚も狙われた。
無傷な薄地のナイロン生地は、みるみるうちに卑猥なよだれに浸されてゆく。
ストッキングを穿いたままの脚を舐めまわされながら綾子は、相手の男にストッキングの舌触りを楽しまれているのを自覚した。
「なにをするの、失礼なっ!」
潔癖な憤りをねじ伏せるように、彼女のふくらはぎをふたたび、牙が襲った。
埋め込まれた牙が、吸いつけられた唇が、自分の血を強引に求めるのを彼女は感じた。
同時に、ストッキングの伝線が腰周りまで伝いのぼるのがわかった。
脚周りをしなやかにガードしていたなよやかなナイロン生地はジワッと裂けて、じょじょにほぐれていき、
彼女の下肢はゆるやかな束縛から解き放たれて、そらぞらしい外気にさらされてゆく。
男は綾子をその場に組み伏せると、ブラウスを剥ぎ取り、ブラジャーのストラップを音を立てて引きちぎった。
片方だけ脱がされたパンストを素足にまとわりつかせたまま、腰周りから抜き取られたショーツがむぞうさに投げ捨てられる。
39歳の人妻はワンピースを着けたままの恰好で、吸血鬼の凌辱を受け容れた。

そのさらに1時間後。
綾子は男を、家に引き入れていた。
男から強いられのか。
自分から引き入れてしまったのか。
もうどうでも良かった。
綾子はリビングのじゅうたんのうえで、着崩れしたワンピースをまだ身にまとったまま、
男の強烈で濃厚なセックスを受け容れていった。
娼婦になったような気分だった。
夫のことを考えるとかすかな後ろめたさが胸をさしたが、すぐになれた。
ただひたすら、上下動に身をゆだねているのが小気味よかった。
娘の綾香が帰宅したのは、その時だった。
「母さん、どうしたの?」
何も知らないのどかな声が、リビングに届いたとき。
獲物になった母親の淫らな姿をみなまで見せずに、
男はまだ年端もいかない綾香へと矛先を剥き替えた。
娘を守る義務を果たすこともできずに、綾子は失血のあまりその場に卒倒していた。
母の代わりに出迎えた男が、口許から血を滴らせているのを見て、
「ええっ、だれですか!?」
中学の制服姿の綾香は、健康そうな白い歯をみせてためらいをうかべた。
けれどもそれは、一瞬のことだった。
男が口許に滴らせた血の持ち主が母親だということに気づいたときにはもう、少女は吸血鬼の猿臂にセーラー服姿を巻き取られてしまっている。
逃れるいとまも与えずに、男は少女の足許に唇を吸いつけていった。
濃紺のプリーツスカートの下から覗く脛を覆う真っ白なハイソックスのうえから、
醜いヒルのように膨れ上がった赤黒い唇が吸いつけられる。
母親の血に染まったままの牙が、ハイソックスを食い破って少女の素肌を冒した。
キャーッ。
母親似の小ぶりな唇から、鋭い悲鳴が洩れた。
ごくん・・・ごくん・・・
十代の少女の血潮が、勢いよく飲み込まれてゆく。
痛がる叫びは、だんだんと弱まっていった。
少女をねじ伏せると、こんどは首すじに嚙みついた。
そしてゴクリ・・・ゴクリ・・・と不気味な音をあげながら、少女の生き血をさも旨そうに啜り獲ってゆく。
皮膚を破った牙からは、淫らな毒液が容赦なく少女の体内に注入されてゆく。
両親を毒した淫らな毒液が、少女の体内へと素早くそそぎ込まれていった。
「もう少し、もう少しだけ、あんたの履いてるハイソックスを楽しませてもらうぞ」
男の呟きに少女は、
「いいわ、いいわよ・・・どうぞ・・・いっぱい噛んで・・・」
と、熱に浮かされたように口走りつづけていた。
男の唇が嬉し気に貼りつくたびに、母親似の小ぶりな唇は、
「あん!・・・あんッ!」
と鋭い声をあげ、
そのたびに真っ白なハイソックスはバラ色のほとびに浸され、紅い領域を拡げていった――


「新記録だったそうだね」
喜美則は苦笑しながら、縁が生まれたばかりの悪友を見あげた。
勤め帰りのワイシャツに、赤黒い飛沫が不規則に飛び散っている。
帰宅そうそうのあいさつ代わりに、したたかに首すじを噛まれたのだ。
皮膚を破って力強く食い込む牙の切っ先に太い血管を冒されて、働き盛りの血潮をビュッと潤び散らされると、強い眩暈と疼痛が、喜美則の脳裏を支配した。
われとわが血潮を惜しげもなく貪らせ飲み味わわれてしまいながら、
喜美則は彼を征服した男の魔力を礼賛しつづけていた。
初めて噛まれた翌日に、ここまで許してしまって良いのか?という懸念は心のどこかにあったけれど。
それ以上に、訪れたばかりのこの街で初めてできた知友に満足してもらいたいという想いがまさっていた。

吸血鬼と共存すると聞かされて、おっかなびっくり訪れた街で、
うわべだけ平穏な一週間が過ぎ、
そのあいだに喜美則の一家の血液を享受する吸血鬼が、闇の奥で決められていた。
選ばれた男は勤め帰りの喜美則を襲い、買い物に出たその妻の綾子を襲い、
さいごに下校してきた綾香の血潮まで、その柔らかな肢体から抜き取っていった。
夫に対する襲撃から2時間足らずで、家族全員の血液が喪われたのだ。
喜美則が新記録――と称賛したのは、そのことだった。

「喉が渇いていたから、記録作れそうだったんだ」
3人の血を奪った男はこともなげに、そうこたえた。
よくみると、喜美則とほとんど同世代のようだった。
「ぼくの血じゃあ、つまらなかっただろうね」
喜美則が悪友を気遣うと、
「そんなことはない。あんたの血が旨かったから、娘の血がよけい欲しくなったくらいだ」
とこたえた。
父娘で血の味は似るからね――とうそぶくのを耳にした喜美則と綾香は、くすぐったそうに目交ぜをかわした。
「奥さんもイイ獲物だった」
男はなおもうそぶいた。
「美味しかった・・・んですよね?」
綾子がおずおずと尋ねる。
「ああ、じつに旨かった」
男の満足そうな顔つきに綾子は愁眉を開き、
「痛い想いをしたかいがあったわ」
客人のもてなしを自分の務めと心得る堅実な主婦の顔になって、安どの笑みを泛べる。
そんな妻のようすを見て、喜美則もまた嬉し気に笑んでいた。
「家内を気に入ってもらえて嬉しいよ。仲良くしてやってほしい」
「まあ、あなたったら――」
綾子は少女のように、頬を赧(あか)らめた。

「家族三人ながら、履いてる靴下を楽しまれちゃったわけだね」
喜美則は苦笑しながら、男を見た。
男は失血で眩暈を起こし尻もちを突いた喜美則の足許に這い寄って、早くもスラックスのすそをたくし上げにかかっていた。
自分から引き上げたスラックスの下、丈の長めの通勤用の靴下が、ふくらはぎの半ばくらいまで、行儀よく引き伸ばされている。
きょうの靴下は濃いグレーで、赤と黒の幾何学模様が渦巻いていた。
「きょうのも凝った柄だな」
男は喜美則の趣味を褒めた。
「気に入ってもらえて嬉しいね。いっぱい濡らして噛んで、愉しんでくださいね」
喜美則はいった。
男の貪欲な唇がふくらはぎに吸いつくと、喜美則は苦笑いを泛べた。
圧しつけられた唇が、じつにもの欲しげに這いまわり、
おろしたばかりの真新しい靴下に、好色な唾液を思う存分、すり込んでくる。
「よほど気に入ったようだね」
「侮辱するようですまない」と詫びる男に、
「侮辱してくれて構わない。ぼくも愉しんでいるから・・・」
と、喜美則はいった。
熱っぽく上ずった声色になっていた。
辱め抜かれる足許に見入りながら、気に入りの靴下を履いた脚を惜しげもなく、下品でしつような舌なめずりにさらしてゆく。
「男ものの靴下なんか、そんなに面白くないでしょう・・・?」
そういう喜美則の言葉を態度で否定するかのように、男は喜美則の靴下をしつように舐め味わってゆく。
「靴下を辱められるのって、むしょうに興奮するものですね」
グレーの靴下が唾液に浸され、しつような舌にいたぶられてずり落ちてゆくのを見つめながら、喜美則はいった。
「俺も同じ気持ちだ」
吸血鬼はそういうと、喜美則のふくらはぎにやおら咬みついた。
擦り傷ていどのダメージだったが、靴下を血と唾液で汚すにはじゅうぶんだった。
男はくり返し牙を突き立てて、喜美則は脚をくねらせながら、あちこち角度を変えて嚙みたがる男の要望に応えてゆく。
喜美則の好意の深さを示すように、彼の履いている靴下はあちこちに噛み痕と血潮のシミを、ふんだんに滲ませていた。
強烈な口づけのたびに、濃いグレーの生地に、赤黒いシミが拡がる。
薄地の靴下は派手に裂けていき、蒼白い素肌をちらちら覗かせてゆく。
愛人が熱いキスを重ねるようにして、男は喜美則の靴下に欲情し、なん度も唇を吸いつけた。
濃くて熱い接吻を重ねるたびに、被虐の悦びを覚え込んでしまったその皮膚に、つねるような疼痛をしみ込ませていった。

「さいしょのときに履いていた靴下も、貴男好みの丈の長めのやつで良かったですね」
喜美則はいった。
男の靴下なんかつまらないだろう。妻のストッキングや娘のハイソックスのほうが満足してもらえるだろう――と思い込んでいたのに、
吸血鬼は存外、喜美則の通勤用の靴下も気に入っていた。
真新しいナイロン生地ごしに唾液を擦り込まれる行為に、さいしょ感じた侮辱は根深く残っていたが、むしろその屈辱感が、ほどよい刺激とスパイスになっていることに、喜美則は気づいている。
喜美則はむしろ喜んで、靴下を履いた脚を辱め抜かれていった。
唾液に染まった靴下は、牙をあてがわれ、擦り傷だらけにされながら、こんどは血浸しにされてゆく。
やがて失血が、彼を心地よい陶酔へと導いていった。
喜美則はソファからすべり落ちて、じゅうたんの上に尻もちをついた。


傍らでは彼の妻の綾子が、はぁはぁと肩で息をしていた。
夫のように、失血にあえいでいるだけではなかった。
夫が帰宅するまでのあいだ不倫セックスを愉しもうと誘われて、吸血されながらの情事に息せき切っていたのだ。
男の請いを容れて、着衣のままのセックスだった。
夫が気に入りだったモスグリーンのカーディガンを羽織り、さいしょに犯されたときの濃紺のタイトスカートを腰に巻き、それをさながら制服でもあるかのように着こなして、
30代の人妻を辱め抜きたがる男の前、自らを餌食に供していった。

着たまま引き裂かれた朱色のブラウスは大きくはだけて、胸もともあらわになっている。
吊り紐の切れたブラジャーが、胸の周りからふしだらに浮き上がり、乳首を無防備にさらけ出していた。
「破って楽しんでもらうためにおしゃれしているようなものね」
綾子がいった。
「きみの洋服姿がそれくらい、魅力的なんだろう」
彼女の夫が応じた。
身体のすみずみまで生き血を舐め尽くされた彼は、男に支配されることにむしろ、心地よい陶酔を覚えている。
「それなら嬉しいわ」
綾子は満足そうに、白い歯をみせた。
さっきまでなん度も愛し抜かれ、スカートの裏地には淫らな粘液を塗りたくられていた。
股間はすでに、おびただしくそそぎ込まれた精液に狂わされていた。
夫の目の前での行為が、いまはたまらなく快感だった。
夫の前で喘ぎ悶えてしまうことに、恥を忘れて夢中になっていた。

さいしょに襲われた日、まだ夫以外の男を識らなかった綾子は、けんめいに抵抗した。
そして、初めて操を奪われたことを夫に認めさせるために、夫の目の前での情交を共用されたときもまた、羞じらい、うろたえ、抗いつづけた。
その有様を、夫は見せつけられるがままに覗き見し、見届けていた。
必死に操を守ろうとする妻がねじ伏せられて、首すじを噛まれ、衣装を裂き散らされながら辱め抜かれてしまうのを。
そして、いちど夫以外の一物の味を覚え込まされてしまった身体が、招かれざる客人を歓待しはじめて、さいごには心づくしのもてなしをねだり獲られてしまうのを。
「きみはあのとき必死に抵抗して、妻としての務めを立派にを果たした。
 淫らな習慣を力づくで覚え込まされてしまったことについて、きみにはなんの落ち度もない。
 きみは立派に抵抗することで、貞操堅固な人妻をモノにする悦びを彼に与えた。
 最愛の妻の貞操だけど、あんなにひたむきに蹂躙されてしまったら――
 きみにたいする彼の情愛の深さを、認めざるを得ない。 
 ボクはきみの夫として、きみに素敵な恋人ができたことを祝いたい」
吸血鬼はにんまりと笑んだ。
「彼女は自分から、わしの胸に飛び込んできたんだ」
避けようもない抱擁を真正面から受け止めたことを、綾子はいまだに羞じらっている。
けれども、あのあと自分のうら若い血を欲しがる吸血鬼を前に衣装もろとも辱められ、
ためらいながらも身体を開いていった記憶は、いまでも鮮烈だ。
夫の名誉を泥まみれにさせてしまったことにも、もはや後悔はなかった。
そして彼女の夫自身も、妻の名誉をふしだらに蕩かされてしまったことに、歓びを感じていた。
吐き出されたドロドロの精液が妻のショーツにまとわり着き、陰毛のすき間へとしみ込んでゆくのを、息をこらして見守ってしまっていた。

「父さんえらいね、妬きもちやかないんだね」
傍らで、下校してきたばかりの綾香が呟いた。
通学用の白のセーラー服には、14歳の血潮が花が咲いたようにほとび散っている。
処女の生き血は貴重だから、彼らもむやみに犯したりはしない。
けれども当然のように、ファースト・キッスはあっけなく奪われていた。
自分や両親の血潮の匂いをむんむんとさせた口づけに、無垢な少女は陶酔した。
真っ白な通学用のハイソックスに加えられる凌辱も、含み笑いをしながら受け留めた。
早くももう、3足めを脚に通して破かせてしまっている。
従兄の夏梅(なつめ)くんと約束した将来は、いったいどうなるのだろう?
たぶん綾香の純潔を勝ち得るのは、夏梅くんにはならなのだろう。
次の夏休みに夏梅くんを此処に招んだら、婚約者のふしだらをこころよく許容してくれるだろうか――


「受け容れる吸血鬼の数が、来週で6人になります」
R助役が硬い表情で、口火を切った。
市の方針で街に吸血鬼を受け容れるようになってからは、新設された市の専門部署が、吸血鬼に血液を提供する男女をあっせんするようになっていた。
助役の訪問を受けたМ事務所の恵村調整役は、謹厳な顔つきでR助役の報告に接した。
「少なくともそのうちの一人は、明日市内に到着します。
 新規の血液提供者を、どうしても6人確保しなければなりません。
 それに、人間の人妻を輪姦したがっている吸血鬼が9名います。
 3名づつの3組です。
 なので、複数の吸血鬼の相手をできる女性を、最低1名ご協力いただきたいのです。
 ほかの2名は、市役所で引き受けます。
 うちひとりは、わたしの家内です。
 ご協力いただく奥さまの心の用意もあるでしょうから――遅くとも今夜のうちには・・・」
「お引き受けしましょう」
喜美則はむしろにこやかに答えた。
「わたくしの社に、先週転入してきた20代の社員がいます。
 ご夫婦で赴任しています。
 此処の事情は事前に言い含めてますから、この際夫婦ともあてがってしまいましょう。
 それに、たまたまですが、わたしの両親と家内の両親が、お盆でこちらに来る予定です。
 二組の夫婦が着くのは明日の昼になりますが、経験者ですからすぐに対応できます。
 当座はその6人でしのぎましょう。
 あと、輪姦のお相手には、うちの家内を差し向けます。
 だんなに見せつけたい――みたいなけしからぬ要求がありそうですね?
 それなら、わたしも悦んで同伴します。いかがでしょうか?」

久しぶりに

2023年05月19日(Fri) 21:08:30

わーっと描いちゃいました。 (^^ゞ
黒の礼服姿のまま、四つん這いに圧し伏せられて、
「アアもう勘弁」とか言いながら黒のパンストの足首を舐め抜かれてゆく――
そんな一情景を妄想したところからのスタートでした。
結論は例によって、めでたしめでたしの大団円。

新しい街で妻の交際相手にも恵まれ、充実した日常が待ち受けていることでしょう。^^

ほかにも書き溜めたのがいくつかあるんだけど、どれも結論に行きつかない・・・
気が向いたらあっぷしますね。

ご近所の弔問先で夫婦ながら亡者に襲われ妻が犯された件

2023年05月19日(Fri) 21:05:45

この街に吸血鬼がいるといううわさは、赴任する前から知っていた。
けれど、実際に足を踏み入れてみると、どこにでもあるようなごくふつうの地方の街だった。

忌中の回覧板がまわってきた。
はす向かいの色町さんというお宅で、ご主人が亡くなったらしい。
回覧板を持ってきたお隣の奥さんは、お通夜にいらっしゃいますよね?と念押しするように俺に言った。
「やっぱりこういうときには、行かなくちゃならないもんなのかなあ――」
俺が言うと女房の華菜は、
「しょうがないじゃない、ご近所づき合いが大切だっていうんだから」
と、相槌を打ってくる。
どちらも、気乗りしないことが見え見えの問答だった。

どうやら吸血鬼にやられたらしい――と、お隣の奥さんは声をひそめて教えてくれた。
ここの吸血鬼は、死ぬほど吸わないはずなんですけどねぇ・・・と、ふしぎそうに首をひねっていた。
ふつう吸血鬼といえば、人の血を吸い尽くして殺してしまうか、自分の仲間にしてしまう。
そんな固定観念を持っていたのだが、どうやらこの街に棲む吸血鬼は、そうではないらしい。
「人の生き血を純粋に愉しんで、舐め味わうんだそうですよ。
 あらいやだ、私ったら!変なこと言っちゃって。忘れてくださいねぇ」
奥さんはどことなく楽しげにそういうと、そそくさと背中を見せて自分の家のほうへと戻っていった。
早くも喪服に着替えていた彼女の足許を、黒のストッキングがなまめかしく透きとおらせていた。

夕刻になるとそれでも俺たちは、喪服を着て色町家を訪問した。
いちどか二度くらいしか顔を合わせていないはずのご主人の顔は記憶が定かではなく、
遺影にも見覚えがなかった。
ひつぎの前には喪主である奥さんと息子さん、それだけしかいなかった。
「あらいらしたのね」と愛想よく振舞っていたお隣の奥さんも、いつの間にか姿を消していた。
ちぃ―――ん。
お線香の匂いとともに鉦を鳴らす音がひっそりと響いた。
それを合図に、なんとしたことか、ひつぎのふたが突如として開いた。
なんと、死んだはずのご主人が、白装束のまま起き上がったのだ。
鉛色の顔で、目だけがランランと輝いている。
えええええっ!
俺はびっくりして、縮みあがってしまった。女房を逃がすのさえ忘れた。
ご主人は俺にやおら飛びかかってきた。
首のつけ根に痛みが走った。
なんとしたことか、ご主人は俺の首すじを噛んで、血を吸い上げ始めたのだ。
キャアッ――ッ!
華菜も思わず悲鳴を上げたが、組んづほぐれつする二人の男を前に、どうすることもできない。
グチャグチャと汚い音を立てて血を吸い上げられながら、
俺は貧血を起こして、その場にひっくり返っていた。

つぎの獲物は、いうまでもない、女房の華菜だった。
華菜は黒のストッキングの脚をすくみ上らせて、俺が血を吸い取られるのに目を見張っていたが、
俺がぶっ倒れてしまうと同時に、自分も尻もちを突いて、その場に動けなくなってしまった。
亡者と目を合わせてしまった華菜は、狼狽して部屋から逃げ出そうとした。
四つん這いになって、這う這うの体なのだ。
背後からすぐに、亡者に腰を抱かれて圧し伏せられた。
うろたえて手足をジタバタさせる華菜を抑えつけて、首すじに唇を吸いつけていった。
俺の血が撥ねたままの唇が、華菜のうなじを這った。
俺は助けを求めるように遺族のほうを見たが、彼らは姿を消していた。
ああ――ッ!
悲鳴一声、華菜はうなじに喰いつかれ、声と同じくらいの勢いで、血潮が畳に飛び散った。

キュウッ、キュウッ、くいッ、くいッ・・・
押し殺すような音を立てて、華菜の血は亡者の欲望のまま吸い取られてゆく。
俺は華菜を助けようと焦ったが、手足がいうことを聞かない。
失血で、すっかり痺れてしまっていたのだ。
どうすることもできないままに、みすみす華菜の血を吸われるがままになってゆくのだ。
やめろ・・・やめろ・・・華菜を殺すんじゃない!
叫んだつもりが、かすかな呟きにしかならなかった。
けれどもそれは、相手の耳に届いたらしい。
亡者はこちらをふり返った。
顔色が、さっきの薄気味悪い鉛色から、ずっと血の気を帯びていた。
そういえば、一昨日夫婦で買い物に出た帰りに、この人とは会釈をし合ったっけ。
化け物の顔が、血の気が戻っただけで、隣人のそれにたやすく変換した。
その血色は、俺たち夫婦の身体から吸い取ったものに違いないのだ。
おぞましさに、慄(ぞっ)とするのを覚えた。
「こ、殺さねぇ・・・」
化け物はうめくように、いった。
え?と訊き返そうとすると、なおも呟いた。
「あ、ありがたい・・・」
え?
俺は思わず、訊き返してしまった。
ひとの女房をつかまえて生き血を啜っておいて、「ありがたい」とは何事だ!?
けれども俺は覚っていた。
噛まれた傷口に浸潤するように、毒液が身体の奥にまでしみ込んできて、
男の意図をありありと、伝えてきたのだ。
男はせつじつに、俺たち夫婦の血を欲していたのだ。

男はすぐに俺から視線を逸らすと、すぐさま華菜に注意を引き戻していった。
華菜は負傷しながらも、手の力が緩んだのをよいことに、無体な抱擁から抜け出そうとしていた。
男は華菜の脚をつかまえ、抑えつけた。
肉づき豊かなふくらはぎが、薄手の黒のストッキングに映えて、ジューシーに透きとおっている。
「うふっ、エエな、エエのお・・・」
男はうわ言のようにそう呟くと、華菜のふくらはぎに唇を吸いつけてゆく。
唇の端から洩れた唾液が、ストッキングの表面に散った。
「ひッ!」
華菜の呻きが、恐怖に引きつった。
男は華菜の脚をストッキングのうえからヌルーッと舐め味わうと、
再び牙をむき出して、華菜のふくらはぎに喰いついた。
「ギャッ!」
華菜の悲鳴は、お世辞にもきれいなものではなかった。
圧しつけられた唇の下、ストッキングにツツーッと裂け目が拡がって、地肌の白さを見せつけた。
男はご満悦で、華菜の血を呑み耽っている。
ごくッ、ごくッ、ごくッ・・・
飲まれているのが女房の血でなければ、じつに豪快な飲みっぷりといえてしまいそうなほど、
男の喉はじつに旨そうに、華菜の血にむせ返っている。
「やめて、やめて下さい、お願いしますッ――」
華菜の訴えはその場に居合わせただれにも聞き届けられず、
しばらくの間は華菜の血で旨そうに鳴る喉鳴りだけが、部屋を支配していた。
男は、華菜のうら若い血液を、ひたすら楽しんでいた。

「誠に申し訳ございません」
傍らには、姿を消したはずの奥さんが戻って来ていた。
「主人が生き返るには、どうしても人さまの生き血が必要だったのです。
 それでどうしてもと、お呼び立ていたしました。
 お隣の奥さまも、じつは同罪ですの」
見ると、回覧板を届けてくれたお隣の奥さんも、部屋の隅に座って、きまり悪そうに会釈を投げてくる。
「さ、わたくしたちもお相伴しましょ」
喪主の奥さんに促されて、お隣の奥さんも喪服のスカートを引き上げて、黒のストッキングの太ももを露わにしてゆく。
「お相伴」とはこの場合、逆の意味だろう。
けれどももしかすると、「血を吸う」側だけが味わっているのではなく、
「血を吸われる」側も、なにかを得ているのかもしれない――そんな馬鹿な!俺は自分の妄想を、慌てて打ち消した。

「若奥さま、もうご無理ですよ。いくらお若くてもそれ以上いっぺんに飲ませちゃったら身が持たないわ」
喪主の奥さんはご主人を華菜から引き離すと、「こんどはこちら」と、
追いやるようにお隣の奥さんのほうへとご主人の身体をのしかからせてゆく。
引き上げられた重たい漆黒のスカートのすそから覗いた太ももは、素人の奥さんとは思えないほどなまめかしかった。
ご主人は、お隣の奥さんの腰を抱き寄せると、黒ストッキングの太ももに唇を吸いつけた。
パチパチと微かな音をたてて、ナイロン生地がはじけていった。
「うッ――!」
お隣の奥さんがおとがいを仰け反らせる。
ゴクッ、ゴクッ、グビッ・・・
華菜のときよりもさらに貪欲に、ご主人はお隣の奥さんの生き血を需(もと)めた。
奥さんがその場でぶっ倒れてしまうと、ご主人は喪服のブラウスを引き裂いて、
その下のブラジャーまで剝ぎ取って、乳首を口に含み、ぞんぶんに舐め味わってゆく。
もはや、彼の欲求が生き血だけにとどまらないことを見せつけてゆくのだった。

「どうぞこちらへ」
喪主の奥さんは、蒼ざめた顔で茫然としている俺たちを、隣の部屋へと招き入れた。
「この街に来てまだ間もないので、びっくりされたことでしょうね。
 でもこのあたりでは、こういうことよくございますの。
 主人がおふたりの生き血を頂戴した御礼代わりに、このあたりの慣わしをお伝えしておきますね」
差し出されたメモには、こんなふうに書かれていた。

汀 憲継
 色町若菜
   晴雄
   凛太
 伊香堅司  
   布美子(お隣の奥さま)

色町晴雄
 伊香布美子
 寺澤 晃
   華菜

これは・・・?
俺が声をあげると、奥さんはいった。
「この汀憲継というのが、おおもとの吸血鬼です。
 そうそう、ご自宅のお向かいさんですね。
 それがわたくし色町若菜を襲って男女の関係をして、ことのついでに主人や息子の血も吸ってしまいましたの。
 幸い息子の時は手加減してくれましたが、主人のときはつい吸いすぎちゃって・・・こんなことになりました。
 エエ、主人は自分の妻を犯した男に、生き血を吸い尽くされてしまったのです。
 じつは主人、前々から伊香さんの奥さまと不倫してたんですが、なにしろご近所でしょう?
 汀さまは伊香家のご夫婦も狙ったのです。
 でも――汀さまは伊香さまの奥さまに主人のことを取り持ってくれて――
 汀さまがご主人の血を吸っているあいだに、布美子さんしっかり浮気を楽しんでいらっしゃるのだわ。
 わたくしですか?わたくしは汀さまが時おり訪ねてくださるだけで満足なのです。
 幸い、主人とも関係は続いておりますし。
 でも、こんどは血を吸い尽くされてしまった主人のために、新たな血液の提供者が必要になったのです。
 血を吸い尽くされてしまっても、
 ひと晩明ける前にだれかの血で身体を充たすことができたら、吸血鬼にならずに済むの。
 主人は吸血鬼になるよりも、自分も血の提供者で居つづけたいと望んだので、
 (変わっておりますでしょ?自分の妻を犯した男に血を吸われたがってるなんて!)
 布美子さんに手伝ってもらって、おふたりをお招きしたのです。
 ひどいやつだとお思いでしょうか?
 でもここに棲んだ以上、いつかは必ずだれかに襲われてしまいますもの。
 どうせなら、お互いご近所のほうがなにかと便利ではないですか。
 あら、あら」
最後のひと言は、部屋の向こうの痴態に向けられたものだった。
「御満足ぅ・・・?」
妻の声に色町氏はウムと応じて、こちらの部屋へとあがり込んできた。
「お前も――」とだけ言うと、
奥さんはすべて心得ているらしく起ちあがって、黒のストッキングの脚を差し伸べてゆく。
ご主人が足許に抱きついてきくると、ためらいもなくストッキングを食い破らせて、
喉を鳴らしながら自分の血を飲み込んでゆくのを、ちっとも騒がず見おろしていた。
しつような愛撫は、両脚に加えられた。
奥さんの白い脛には、いびつによじれた帯のようになったナイロン生地の残骸が残るばかりになっていた。
「これで皆さん、おあいこね」
奥さんは軽く笑って、ストッキングをむざんに裂き取られた脚を見せびらかす。
華菜も、あちらの部屋でのびている隣の奥さんも、ストッキングを派手に裂かれてしまっていた。
女三人は、互いに顔を見合わせて、きまり悪げに笑った。

ご主人はなおも目を血走らせていたが、俺と目が合うと、いった。
「突然で悪かった。ぢゃがもう少しだけ、協力してくだされ」
え――?
俺が怪訝そうな顔をする間もなく、ご主人がのしかかってきた。
たたみのうえに抑えつけられた俺は、再び首のつけ根を食い破られて、
色町家の畳を自分の血で濡らした。

ご主人が俺を放して起きあがるときにはもう、
俺は貧血で頭をクラクラさせてしまっている。
「これでよしと」とご主人は呟くと、こんどは再び華菜の番だった。
華菜は、着てきたジャケットを脱ぎ捨てて、ワンピース姿だった。
四角い襟首に縁どられた胸もとの白さに惹きつけられるように、ご主人は華菜の肩に猿臂を伸ばしてゆく。
華菜は怯えた顔つきで、失血に苦しむ俺と、迫ってくるご主人とを等分に目をやっていたが、
「あなた、だいじょうぶ?」
と俺に身を寄せようとしたところをつかまえられて、またも首すじを噛まれてしまった。
「ああーッ!」
なん度めかの絶叫が客間に響いた。
「若けぇ、若けぇなあんたの奥さん――活きが良くって、気に入ったです」
敬語交じりのため口に、害意は感じられなかったけれど。
彼が俺の目の前で女房の首すじに噛みついて血を啜っていることだけは確かだった。
「やめろ、やめろ、放してやってくれ・・・」
俺は声も切れ切れに訴えたけれど、
「そうはいかねぇんだ、今夜は特別な夜なんだ」
と、ご主人はくり返すばかり。
「そうなのよ、特別な夜なのよね」
向こうの部屋から移ってきたお隣の奥さんは、犯された凄惨なままの姿で、ご主人を弁護する。
ブラウスは引き破られ、片肌があらわになっていた。
ご主人はなおも、華菜に迫った。

華菜は壁を背負う格好になって、もう逃げられなくなっている。
「奥さん、悪りぃが、もう少しだけ脚をイタズラさせていただくぞ」
厚かましくも、華菜の穿いている黒のストッキングを、なおもいたぶり抜きたいらしい。
華菜は怯えた顔で相手を見つめると、ちょっとだけ俺のほうへと謝罪するような目線を投げて、
やがておもむろに、あきらめたように、自分のほうから、ツツッ・・・と脚を差し伸べてゆく。
え?おい!?なにをしているんだ!?
俺は思わず声をあげようとしたが、喉が引きつって声にならなかった。
華菜が差し伸べたのは、まだ嚙まれていないほうの脚だった。
男は華菜のふくらはぎに舌を這わせると、
「エエ舌触りのパンストぢゃ」と、しんそこ嬉しげに華菜の脚を舐めまわしてゆく。
女ふたりは興味津々、華菜の受難に見入っていて、同性の危難を救おうとするけしきはみせない。
「破ってもエエな?」
わざわざ念を押して、華菜が小さく頷くのを見届けてから、
男は尖った歯をむき出して、華菜の脚の輪郭を犯した。
涙の痕のように、ツツーッと伝線がつま先まで走ってゆく。
キュウッ、キュウッ・・・と、ひとをこばかにしたような音を立てて、華菜の血は吸われた。
固く瞑られた華菜の瞼から、涙があふれた。
「あら、あら、かわいいわぁ」
喪主の奥さんが、はしゃいだ声をたてた。
「ほんとう――あたしもさいしょはそうだったのよ」
「アラ、わたくしもですわよ」
女ふたりは、楽し気に言い争っている。
その間に、男は華菜のふくらはぎにも、太ももにも、ワンピースごしに腰やお尻にも咬みついてゆく。
熱っぽい接吻を迫らせるようなやり口だった。
そして最後にもう一度、首すじに喰いついた。
意外にも、華菜は叫び声をあげなかった。
「あァ・・・」
かすかに洩れた吐息に、どこか聞き覚えがあった。
そして、慄っとした。
夫婦のベッドでアノときに洩らす吐息と、全く同じだったのだ。

華菜の恰好の良い脚から、黒のパンストがズルズルと引きずり降ろされてゆく。
無念そうに歯噛みをしながらも、華菜は相手の欲求に応えて、
パンストを脱がせやすいようにとさりげなく、脚の向きを変えていった。
ショーツも黒だった。
男は華菜の股を軽くおし披(ひら)くと、ショーツのうえからおもむろに唇を吸いつけていった。
ちゅるっ、じゅるっ、ぢゅるううっ。
接吻をくり返すたび、音が露骨でしつようになった。
薄いショーツのなかで、華菜の陰毛の一本一本が、恥知らずな唾液に濡れそぼっているのだろう。

目のまえでここまで夫権を侵害されながら、俺はなぜか腹を立てていなかった。
なぜだ?華菜が目の前で犯されようとしているのに――
首すじにつけられた咬み痕が、またもずきん!と強く疼いた。
そうだ、こいつのせいだ。
操を踏みにじられようとしている華菜の戸惑いよりも、俺はむしろ、
夫の前で人妻をモノにする特権を行使しつつある吸血鬼のほうに共感を感じ始めている――

いつの間にか。
華菜はワンピースの後ろのファスナーを降ろされてしまい、黒いブラジャー一枚になっていた。
電灯に照らし出された白い肌が、なめらかに輝いている。
たしかに――咬みつきたいというやつの気持ちが、いま痛いほどわかりはじめていた。
整然とした肌理をした、つややかに輝く白い素肌を、むたいに食い破り醜い噛み痕を刻印する。
それがどんなに楽しいことか、傷口の妖しい疼きが、刻々と伝えてきた。
「ご主人様、よかったですわね。ご自分の奥さんが初めて犯されるところを御覧になれるなんて」
喪主の奥さんが、ゆったりと言った。
自分の亭主が人妻を犯そうとしている場に立ち会っているとは思えないほど、のどかな声色だった。
口ぶりからして、皮肉や冷笑ではなさそうだった。
しんそこ、妻の貞操やぶりをいっしょに祝うことができる幸運を悦んでくれているらしかった。
この連中の貞操観念は、俺には理解できない――俺はなんとか、そう思おうとした。

男は、華菜のブラジャーとショーツに手をかけると、ピーッ、ピーッと鋭い音を立てて引き破くと、
乳房と秘部を同時に無防備にさらしてしまった。
「ご主人悪いね、今夜は楽しませていただくよ」
それが俺に対するご主人の、さいごの礼儀だった。
「ひーっ」
ご主人はにょっきりとふくれあがった一物を手にすると、それを華菜の股間に忍ばせてゆき、
悲鳴をあげる妻にのしかかって、こともなげに腰を淪(しず)め、妻を狂わせていった。

お茶の間に、母親の声があがった。
「凛太さん、もうお勉強はいいわ。こっちきて御覧なさい。
 母さんのときは嫌だったろうけど、よその奥さんだったら良いんじゃない?
 しっかり見て勉強するのよ」

十代前半の男の子にとって、刺激的すぎる勉強だったはずだ。
「ちょっとあたし、面倒見てくる」
お隣の奥さんが座をはずして、目を血走らせて階上の勉強部屋に引き取った凛太のあとを追った。
発育してしまったぺ〇スを揉んで、出してあげるのだという。
「時々飲んでもらっているみたい」
奥さんは、独り言のように、おそろしいことを口にした。

華菜も俺も、茫然として座り込んでいた。
さっきまで華菜は、豊かなセミロングの黒髪をユサユサ揺らしながら、ご主人と組んづほぐれつしていた。
さいしょはおずおずとだったが、一度刺し貫かれてしまうと、もう止め処がなかった。
「さいしょが好(よ)すぎたの、だからといって――していいことと悪いことがあるわよね」
華菜はうわ言のような口調で、それでもしきりに恥じていた。
「恥ずかしいのはこっちもいっしょだ」
俺は素直に応じていた。
「お前が夢中になってるの視て、興奮しちまった」
「あら、あら」
恥ずかしすぎる告白に対して、華菜は寛容だった。
ズボンがびしょびしょになっているのを見て、
「早く、クリーニングに出さないとね」
と、主婦らしい心配をした。

「若奥さん、ご主人、布美子さん、わたくし。
 四人もの方の血を思う存分吸い取らせていただいたおかげで、主人は死なずに済みました。
 心から御礼申し上げます」
改まった口調で、色町の奥さんがいった。
三つ指ついて頭まで下げられて、「いやいや・・・」と俺たちまでもが恐縮してしまい、
華菜にいたっては「ふつつかでした」とまでこたえてしまっている。
「ふつつかなんかじゃねぇよ」
男がいった。
「旦那さん、時々でエエから、華菜ちゃんの血ィ吸わせてもらえんかの?
 わしは吸血鬼にはならずに済んだが、嗜血癖は身に着いちまっておるから、
 これからも布美子さんのことは、日常的に襲うことに決めておるんぢゃ。
 ぢゃが、それだけでは足りんて・・・もうお一人、襲えるおなごがおれば、安心して暮らせるというもの。
 うちの家内には汀さまがいるから、亭主といえども手ぇ出せんのでな・・・」
それはなんとも気の毒に――と思ったが、
いちばん「気の毒」なのは、妻を吸血され犯された俺のほうではないだろうか?
ご主人は、俺の想いを汲み取っていた。
「あんたらご夫婦のご厚意がなければ、いまごろわしは吸血鬼に成り下がっておった。
 感謝の気持ちは忘れねぇ。おふたりを侮辱するようなまねも、もちろんしねぇ。
 いまは血がなくなってのぼせ上がっておるぢゃろうから、きょうの返事は要らねえから、
 明日以降、良い返事をきかせておくれでないか?」


家にたどり着いたのは、夜中すぎのことだった。
俺も無言。華菜も無言。
亭主のまえでほかの男を相手によがり声をあげてしまったことを恥じているのか、
華菜は終始目を伏せていた。
「護れなかった俺が悪いから」
と、俺は華菜をかばった。
俺も――目のまえで妻を犯されながら昂ってしまった恥ずかしさが、ついて離れなかった。
あれは恥ずかしい。どうみても恥ずかしい。
夫の風上に置けないほどの恥ずかしさだ。
けれども――
華菜のことをあそこまで大胆に、雄々しく踏みにじったあの牡(おす)の身体の力強い躍動が、
瞼の裏に灼(や)きついて離れなかった。

それぞれにシャワーを浴びて、寝に就いた。
ベッドルームに入るとやおら華菜を抱き寄せて、激しく唇を吸った。
華菜も、応えてきた。
さいしょは謝罪するような、おずおずとした応えかただったが、
回を重ねるにつれ、俺の熱情が伝わったかのように激しく乱れはじめて、
ここしばらく交わしていなかった愛の刻を、はげしく交わした。
血を吸われたうえに、あの男になん度も犯され、疲れ切っているはずの華菜だったが、
そんなようすは微塵も窺われなかった。
むしろ、俺が圧倒されるほどにむさぼり返し、互いにガツガツとむさぼり合ってしまっていた。
心地よい疲れと虚脱感を身体の隅々にまで感じながら、俺は眠りに落ちた。


ふと気がついたとき。
部屋はまだ、華菜と乱れあった直後と同じく明るかった。
われ知らずまどろんでしまったようだ。
時計を見ると、2時。
熟睡したようにも感じたが、気を喪っていたのは意外に短い時間であった。
傍らをみると、華菜の姿がなかった。
いつも几帳面な華菜に似つかわしくなく、クローゼットが開け放たれていて、
衣類を取り去られたハンガーが床に落ちていた。
箪笥の抽斗も半開きになっていて、切られたパンストのパッケージが屑籠に乱雑に放り込まれている。
すべてが、華菜らしくない振舞いだった。
なにが起こったのか、俺は直感した。

表に出た俺は、すぐにさっと身をかがめて、手近な物陰をさがした。
街灯がスポットライトのように照らす真夜中の路上。
身を寄せ合うふたつの人影が、ひっそりと佇んでいた。
確かめるまでもない、ご主人と華菜だった。
華菜はクローゼットから引っ張り出した、真っ赤なタンクトップに黒のミニスカート。
足許には、スケスケのストッキングを黒光りさせている。
先刻脚に通していた礼装用のそれとは打って変わって、光沢のギラつく派手めのものだった。
華菜の気に入りのブランドで、都会にいたころは親友の結婚式のときによく脚を透していたのを覚えている。
差し伸べられた白い首すじに、男の唇が這っている。
男はなん度も、華菜の首すじに噛みついてゆく。
それが愛撫に等しいあしらいなのだろうということは、はた目にもわかった。
華菜も惜しげもなく白い肌をさらして、醜い噛み痕をくり返しつけさせてしまっている。
華菜もまた、男の真意を汲み取っていた。
「赤い服にバラ色の血――」
華菜はクスッと笑った。
俺とふたりきりの時だけにみせる、密やかで挑発的な笑いだった。
ご主人は華菜を引き寄せて、口づけを交わした。
まるで恋人同士のように、華菜は優雅にその唇を受け止めてゆく。
「来なさい」
男は華菜の手を引いた。
引かれるままに、華菜は男の意思に従った。

ふたりとも、想いは同じ――ということなのだろう。
いちどは冷静に考えなさい、と言われながらも。
夫との激しい愛を交わした後も。
相手の男を忘れることができなくて、華菜は夫婦の寝室を抜け出した。
あの伏し目がちな態度も、自分の奥にとぐろを巻いた想いに対する後ろめたさでしかなかったのだろう。
華菜が家を抜け出したのとほとんど同時に、ご主人のほうも、華菜を俺の家から奪い取ろうとして、家を抜け出した。
ふたりの想いはからずも、スポットライトの下で落ち合ったのだ――
俺は、なぜか深い感動を味わっていた。
夫としては忌むべきはずの、妻の不倫の現場のはずなのに・・・

庭に面した居間は、開け放たれている。
さっきまで、ご主人本人が骸となって、ひつぎのなかに収まっていたあの部屋だった。
奥さんも息子も、とっくに寝たのだろうか。
他の部屋はどの部屋も、静まり返っていた。
部屋に引きずり込まれた華菜は、挑むような瞳で、ご主人を見あげていた。
ご主人は有無を言わさず、華菜の足許に唇を圧しつけてゆく。
軽く抵抗しながらも、どうやらそれは彼女の本心ではない。
圧しつけられてゆく唇も舌も、しだいしだいに熱を帯びて、
真新しい華菜のストッキングを、恥知らずなよだれにまみれさせてゆく。
夫である俺に、操を立てるポーズをとっているのか?
もしかして、俺が覗いているのに気がついているのか?
ずきり・・・と胸の奥に黒い衝動が衝きあげた。
あ・・・
華菜が痛そうに目を瞑った。
噛まれたのだ。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
先刻ほどに急調子ではないが、華菜の身体をめぐるうら若い血液を、明らかに味わい楽しんでいる。
あああー
華菜が身を伏せて、打ち震えた。
男がのしかかり、首すじを噛んだ。
紅いタンクトップに、バラ色のしずくが撥ねるのが見えた。

月は西へと降りかかっている。
あれから1時間も愛されただろうか。愛し抜かれただろうか。
華菜は黒のストッキングを片脚だけ穿いたまま、セミロングの黒髪をユサユサと揺らしながら、
あお向けになった男の身体のうえで、躍動していた。
時には四つん這いになって、後ろからのえげつない挿入を受け留めさせられて、
口に咥えさせられて、なかに噴き出されて、嬉しそうにむせ返っていた。

不思議に、怒りも悲しみも湧いてこなかった。
妻の肉体を雄々しく支配した牡が、妻のことをしんそこ気に入って、
その夜が明けるのもまたずに二人で落ち合っていた。
最愛の妻の貞操は、昨夜激しく散らされた。
それは、若い夫婦にとってとても大きな、かつ深刻でもある影響をもたらしたはずだ。
けれども――
苦痛と犠牲を強いられた上に奪われた果実を、相手の牡はしんそこたんのうし、深く愛し始めている。
華菜を女として、高く評価していることは間違いなかった。
俺にとっては忌むべき一夜も、彼らにとっては、記念すべき「初夜」だったのかもしれないのだ。
もしもあれが「初夜」だとしたら、喪服は花嫁衣裳だったということか。
夫婦という良心の呵責を打ち破って生まれた、激しい恋。
もしもあれを「初夜」と呼ぶのなら――外野の人間は祝うしかないんだろうな。たとえ亭主である俺も含めて。

俺は割って入ることも、ふたりの行為を制止することもせずに、
自らの敗北を静かに反芻しながらふたりがし遂げるところを見届けると、
あとはしずかに、足音を消して立ち去ったのだ。
最愛の華菜を、四十男の欲望に独り占めにさせてやるために――


週末は、静かな曇り空だった。
「行こうか」
俺がふり返ると、
「行こう」
華菜ははずんだ声で応じた。
行先はもちろん、色町の邸。
華菜はよそ行きのグレーのジャケットに、同じ色のフレアスカート。
「清楚な服のほうが、興奮するらしいの」
華菜は得意げにそういった。
あの夜からいままでも、幾夜となく俺のことを裏切った女の言い草だった。
俺はそれでも、華菜の言葉をくすぐったく受け流した。
純白のタイつきブラウスは、バラ色しずくを今度も鮮やかに散らされてしまうのだろうか。
脚に通した肌色のパンストも、おろしたばかりのものだった。
「穿き古しじゃ恥かいちゃうから」
照れ隠しにつぶやく華菜に、
「礼儀作法というものだね」
と、俺も応じる。
ひと足歩みを進めるたびに、露骨なくらい派手やかな光沢が、その足取りを艶やかに彩ってゆく。

華菜の素肌をみすみす食い破らせてしまうことが。
よそ行きの衣装もろとも、ムザムザと辱められてしまうことが。
夫の立場からすれば最愛の妻に対する凌辱が、
じつは道ならぬロマンスの成就なのだと、いまは納得できてしまう。
自慢の妻を、きょうも見せびらかしてやろう。
ピチピチと若い華菜の肢体に、目の色を変えてむしゃぶりついてくるご主人の顔色を想像するだけで、
俺は恥ずかしい欲情に股間が熱くなってゆくのを、ガマンすることができなくなっていた。

ふたりの首すじには、おそろいのように、初めて噛まれた痕が赤黒く二つ、綺麗に並んでいた。

街に棲みついた夫婦の記憶。

2023年04月11日(Tue) 15:14:29

工藤健斗さんは人懐こい男性だった。
奥さんのカオリさんも、似たような人柄にみえた。
カオリさんは程よく陽灼けした丸顔に満面の笑みを湛えて、
シンプルなデザインの白のブラウスにからし色のロングスカートを穿いていた。
「太いから隠してるんです」と笑いながら、こげ茶色のストッキングに包んだ太目の脚を、ごく控えめに覗かせている。

「この街ではね、女のひとは脚太いほうが良いんですよ」と健斗さんは笑う。
「なにしろ、嚙みごたえの良さって連中は重視しますからね」
どういうことなのか、吸血鬼と共存しているこの街にいちどでも棲んだことのある人なら、すぐに察しをつけるだろう。

この夫婦は、去年の秋にこの街に移り住んだ。
それ以前のことは、「ほかに行くところがなかったから」と、言葉少なにしか語ろうとはしなかったが、
この街を安住の地としてすっかり居ついていることは、夫婦のやり取りからも感じられた。

やがて待ち合わせの時刻に少し遅れて、五十年配の顔色の悪い男性が現れた。
旱川(ひでりかわ)タカトさんは、吸血鬼である。
生粋の吸血鬼ではなく、若いころ奥さんともども血を吸われて吸血鬼になり、
以来30年近く、街の人たちに血を分けてもらって生活している。
離婚した奥さんは、それ以来自分の血を吸った吸血鬼と同居生活をしているという。
結婚したばかりの妻を吸血鬼に奪われた形だが――
「前の妻とはいまでも交流があります。血を吸わせてもらうこともあるし、
 先方の吸血鬼とも仲良くしてもらっています。
 何しろ、わしのことを吸血鬼にした男ですから、困ったときの相談相手にちょうど良いんです」
タカトさんは淡々と語り、素朴に笑う。
そして、傍らに居たカオリさんに近寄ると、肩を抱き寄せてむぞうさに首すじを噛んでゆく。
吸いついた唇からカオリさんの血が洩れて、着ているブラウスを濡らしたが、カオリさんはニコニコと笑っていた。
ご主人の健斗さんも和やかな顔つきを崩さずに、タカトさんが自分の妻の生き血を旨そうに啜る音に聞き入っている。
「きょうはいちだんと、美味しそうですね」と、健斗さん。
「カオリの血は、いつだって旨いやね」タカトさんも目を細めてこたえてゆく。
奥さんのことを呼び捨てにされても、健斗さんの笑みは消えない。
奪い尽くされてもなお夫婦関係を維持している彼の、夫としての自信を表しているようにもみえた。

貧血でちょっとだけ足許をふらつかせたカオリさんだったが、
気丈にも踏みこたえて、長い髪をぞんざいに掻きあげながら照れ笑いを浮かべた。
「こんなのいつものことだもんね」
カオリさんは健斗さんに声をかけた。
「家内は彼の気に入りなんです。さいしょはさすがに、焦ったけどね」
健斗さんは屈託なく笑っていた――


【カオリさんの回想】

この街にいれば安全だけど、この街そのものがアブナイところだっていうんです。
でもほかに行くところがないし――仕方なくこの街に住むことにしたんです。
主人はすぐに仕事が見つかって・・・そのときの取引先が、タカトさんだったんです。
街に入る前にあらかじめ吸血される決められていて、その人に血を吸われることになるんですって――
「まるで配分されるみたいで、ちょっと嫌だったな」
主人も時々、そのときのことを思い出すみたいです。
でも、あたしが襲われるときには、主人は助けてくれません。
助けちゃいけないことになっているんです。
あたしも、身を守ろうとしたり、逃げたりしてはいけないそうで――
血を吸い尽くされちゃったらどうしようって、まじで焦りましたね。。。

街に引っ越してきてすぐに、土地の信金に口座作ったんです。
びっくりしたのは・・・窓口の女の人が着ている制服のブラウスに、赤い血が撥ねていたんです。
それなのに、何事もなかったように「いらっしゃいませ」ってにこやかにお辞儀をしてきて・・・
「あの・・・だいじょうぶですか??」って思わず訊いちゃったんですけど、
「このへんでは普通ですから」って、こともなげに返されちゃいました。
いまでは個人的に仲良くしているんですけど――当時はいまのご主人と付き合っていて、
でも勤務中に迫られて血を吸われちゃった相手にも迫られていて、恋人関係だったんですって。
そのひともうちといっしょで、ご主人と吸血鬼は仲が良くて。
お相手の吸血鬼が制服フェチな方なので、結婚してからも奥さんは信金で今でも働いているんです。
金融機関と言っても――このあたりは暇ですからね。。
勤務時間中に襲われる子が、なん人もいるらしいんです。

信金のお姉さんの態度を見て、これは大変なところに来てしまった――と、改めて思いました。
そこでね、女の浅知恵なんですけど・・・色仕掛けしちゃおうって思ったんです。
襲われて血を吸われるときにセックスしちゃえば、女として気に入ってもらえれば命だけは取られないかなって。
ダンナも助けてくれないし、身を守るにはそれしかないって。

襲われるさいしょの日、主人はあたしを連れて旱川さんのお宅にお邪魔したんです。
えーと、あのときの服装は、黄色とオレンジのない交ぜになったワンピース着てました。
いまでもたまに着てます。初めて咬まれたときに撥ねた血がついて、落ちないんですけど――
カラフルになっていいじゃないって、いうんですよ。男たちは、無責任ですよね。
ストッキングも着用義務づけでして・・・礼を尽くすということなのかなって思って穿いて行ったら、それが全く違って。
脚を噛むときにストッキングも一緒に咬み破って楽しむんですよね。とてもエッチなんですよ。

主人はあたしを連れてくると、玄関近くの部屋で待たされました。
奥の部屋には、あたしひとりが呼ばれたんです。
タカトさんは、父より少し若いかなってくらいの齢にみえました。
実際には、10歳くらいしか違わないのに、血を吸い取られて顔色が悪かったから、老けて見えたんですね。。
血で汚れてもいいように、作業着姿でした。
あたしの服はどうしてくれるのよ?って、あとで思っちゃいました。(笑)

お部屋ではふつうに初めましてのごあいさつをして、どこから来たの?とか、ご主人はなにをしていたの?とか、
ありきたりの会話をしました。
そこでちょっとだけ、気持ちが落ち着いたかな。
でも、あたしの首すじや足許を、値踏みするみたいな目つきでじーっと視ていたので、やっぱり怖かったです。
「あの・・・あの・・・お願いがあるんです」
核心事項は、あたしのほうから切り出しました。
血を吸われるのはわかってます。美味しいかどうかわからないですけど、一生けんめい差し上げます。
でも死にたくないんです。吸い尽くしたりしないでくださいねってお願いしました。
それから――もしあたしでよかったら、犯しても良いです。その代わり殺さないで。
主人来てますけど、問題ありません。愛人になります。気持ちよくしますからって。そこまで言っちゃいました。
あとで主人に渋い顔されたけど――でも主人あたしが血を吸われるのを助けてくれなかったんですからね・・・

そうしたら、この人言うんです。
「ミセスの人の血を吸ったら、抱くのがふつうだけど」ですって。
そんなこと聞いてなかったですから・・・えー?どのみち抱かれちゃう運命なんですか?って、軽く絶望しましたね。
もう生命を守る手段がない・・・あのときはほんとうに、困りました。
でも、彼・・・言ってくれました。
きみは真面目そうだし、誠実に尽くしてくれそうだし、とにかく死なせたりしないからって。
えっ?えっ?って、あたしもう戸惑っちゃいまして・・・夢見る花嫁でしたね。
彼はおもむろにあたしの肩を抱き寄せて、さっき咬んだときみたいに、ごくさりげなくあたしのことを抱き寄せて、
そっと首すじを噛んだんです。

生温かい息遣いが迫って来たなって思ったら、もう嚙まれてました。
血がじゅわッてにじみ出て、それをピチャピチャ舌を鳴らして舐めるんです。
つけられたのはかすり傷でした。さいしょはそれで済ませてくれるつもりだったみたいです。
でもそれだけじゃご満足いかないらしくて――やっぱりそのあとすぐに、強く嚙まれちゃったんです。

ワンピースに血が撥ねました。でもそれどころじゃなかったです。
痛たぁーーいっ!って叫んじゃいました。
主人にも聞こえたみたいで――気が気じゃなかったって後で言われましたけど・・・
でも、痛いのは最初だけでした。
この人、毒素を持っていて、痛みを麻痺させちゃうんです。
だからあたしはその毒素を植えつけられちゃって・・・
気がついたら、立ちすくんだまま、強く抱きすくめられた腕の中でした。
牙は根元まで突き刺さっていて、素肌に唇を這わされていました。
それが始終うごめくんです。ヒルみたいに。
イヤラシイって思ったけど、もちろんそんなこと間違っても言えやしない。
満足して、とにかく早く満足してあたしを放してって思ったけど。
犯すところまでいくっていうから、「早くして」って意味が違うことになってしまう・・・(笑)
とにかくもう、どうすることもできないまま、ひたすら血を吸い取られていったんですよ。
ドラキュラ映画のヒロインみたいで、きみはとても素敵だったって言ってくれるけど。
絶対、オロオロしてたと思うんです。

ひとしきり血を吸い上げられちゃうと、もう貧血起こしちゃって・・・
すぐにそれと察して、ソファに寝かせてくれました。
居心地の良いソファにゆったりと横たえられて、姿勢が楽になったと思ったのはつかの間で・・・
このひと、あたしの足許ににじり寄っていったんです。
エエ、お目当てはあたしの穿いているこげ茶のストッキングでした。

「ストッキングはけちらないで、新しくて高いやつ奮発して穿いて行きなさいよ。
 もしも持ち合わせがなかったら、あたしが貸してあげてもいい。
 当日着ていく服ともども、花嫁衣裳みたいなものなんだからね」
――って、お隣の奥さんが教えてくれました。
花嫁衣裳か。たしかに、あのあとすぐに「花嫁」にされちゃいましたからね・・・
なので、持っていた未使用のストッキングで、いちばん値の張るやつを、がんばって穿いて行ったんです。エエ、それこそ「奮発」して。

タカトさんたら、あたしのストッキングのうえから唇をジワッと吸いつけてきて、
たんねんに、たんねんに、糸の一本一本まで舐め分けてるのかとおもうくらいしつっこく、
あたしの脚を舐め抜いたんです。
薄地のナイロン生地のすき間から、タカトさんのよだれが素肌の奥深くまでしみ込んでくるような感じがして――
あー、またなにかを植えつけられちゃうなって感じました。
でももう、どうしようもないじゃないですか。
けだものの獲物になって血肉を貪り尽くされちゃう餌食なんですから・・・
ふだんだったら、男のひとにストッキングをいたぶられるなんて侮辱以外のものではないはずなのに、
ウットリしながらびしょ濡れになるまで舐めさせてあげちゃってました。

そのあとね、こんどは牙をググっと圧しつけてきて・・・
あーと思っているあいだに、ストッキング咬み破られながら再度の吸血です。
しつこかったですね。本当に・・・
片脚が済んだら、もう片方も――ええ、首すじのときよりもたっぷり吸い取られたんじゃなかったかしら。
でもあたし、このころになるともう、なんだかこの人に血を味わわれるのが嬉しくなっちゃってて・・・
子どものころ、健康優良児だったんです。体力にも自信ありました。
だから、あたしが楽しませてあげることのできる血の量をありったけ、彼に捧げちゃおうって思うようになっていたの。
ゴクゴクと喉を鳴らしてワイルドにむさぼられていたのに、ちっとも怖くなんかないんですよ。エエ、強がりとかじゃなくって。
貧血になって徐々に血の気が引いていくのがありありとわかるんだけど、
若くて健康なあたしの血で、身体を暖めて。いっぱい飲んで、味も楽しんじゃって・・・って、心の中で言いつづけていました。

気がつくと、彼の顔がすぐ目の前にあって――
その眼がとろんとして、あたしの顔を見入っているんです。
ああ、わかった。わかったわ――あたしが欲しいのね?あたしに愛してもらいたいのね?ってわかったから。
もうそのころには穿いていたパンストは破れ堕ちて、ひざ小僧の下までずり降ろされちゃってたんだけど、
自分からショーツを脱いで、どうぞ・・・って、囁いちゃっていました。

強かったですね。強烈でした。主人の何倍も――
ええ、股間から身体の奥まで突き刺されるような衝撃でした。
ジワッと滲んだ暖かい感触――あれ精液だったんですね。それがジワジワと身体のなかに拡がっていって――
あとからあとから、ドクドクとそそぎ込まれてきたんです。
受け留めなきゃ、それがあたしの務めなんだからって思って、
タカトさんの背中に腕を回して、身体をひとつにくっつき合わせて、
ついていくのが大変だったけど・・・激しい腰の動きに合わせて、腰を振ってお応えしました。

夢中だったのですぐにはわからなかったけど、主人ったら、あたしが腰を使ってるの視ていたんですよ。
気になってしょうがなくって、ドアを開けたら施錠されていたはずなのにいつの間にか開いていて・・・って言っていました。
あとで聞いたら、タカトさんも、さいしょに犯すところは主人に見せたかったらしいんです。
この女はわしのモノだって、宣言したかったんじゃないかしら。
あたしも・・・主人の視線がくすぐったくって。
ふだんのセックスよりもずっとずっと、舞い上がっちゃっていましたね。ああ恥ずかしい――


取材を受けている間、健斗さんはカオリさんのことを眩し気に見つめるばかりだった。
その様子は、心ならずも吸血鬼に肌身を許した自分の妻が悦びに目ざめてしまったことに、むしろ満足さえ感じているかのようだった。
カオリさんの談話を耳にしながらタカトさんが、さっき咬みついた痕をなん度も舐めまわして行くのも、咎めようとはしなかった。
「あの日あの時からですね、ボクもタカトさんにシンパシーみたいなものを感じるようになったんです。
 カオリのことを気に入ってくれているようでしたから、それがむしょうに嬉しくて――
 せっかく最愛の奥さんを抱かせちゃったんです。やっぱり気に入ってもらえたほうが良いじゃないですか。
 数えていたんだけど、カオリは七回も愛されたんですよ。
 生身の人間であそこまで深くなん度も女のひとを愛することはできないってくらいにです。
 彼女、目いっぱい犯され抜いて、その後白目を剥いてぶっ倒れちゃったんです。
 気絶したカオリのことを抱き支えながら、彼いうんです。今夜はカオリのことを独り占めさせてほしい・・・って。
 もちろん妻がもうぼくのところに戻ってこないのでは?という心配はありました。
 でも、奪うことはしないって約束してくれたのを信じることにしたんです。
 約束通り、タカトさんはカオリを解放してくれました。
 翌朝いちばんに彼女が玄関先に現れたのを見て、うれし泣きしてしまいましたね。
 その後はお昼までぶっ通しです。彼女はあんなに疲れた日はなかったって言っていますが、
 はっきり言ってボクとまる一日過ごすよりも、彼のところでひと晩過ごす方がずっと、重労働ですよ。(笑)
 それからはボクも彼との約束を守って、妻を彼の恋人として捧げたんです。
 最愛の妻の貞操を汚奪ってくれたのが彼で、良かったと思っています。汚されがいがありましたね。
 今では完全に家内は彼の奴隷ですけれど・・・後悔はないです。
 いまでは周囲には、ボクのほうからお願いして、家内を襲ってもらったと話してあります・・・」

彼の言葉はまだ終わらなかったが、インタビューを終えたタカトさんは再び、カオリさんににじり寄っていた。
夫の健斗さんはすっかり心得ていて、「ああまたですね」と言いながら、カオリさんのロングスカートのすそをたくし上げてやっている。
あらわになった健康そうな脚にタカトさんがしゃぶりつき、
それこそ「糸の一本一本まで味わい抜くほどに」彼女の気に入りのこげ茶色のストッキングを辱めてゆく。
強く圧しつけられた唇の下でストッキングが裂け、吸血の音が重なるにつれてその裂け目を拡げ、他愛なく剥がれ落ちていった。

最後にはタカトさんが、手近な草むらにカオリさんを引きずり込んで、道行く人の目も憚らずにブラウスを剝ぎ取って、
吊り紐を断ち切られたブラジャーからこぼれ出た真珠色の乳房をまさぐり抜いてゆくのを、
健斗さんはいつまでも満足げな笑みを絶やさずに見つめているのだった。

彼氏にバラした、処女喪失。

2023年02月19日(Sun) 01:33:10

浩美には、彼氏がいる。
同じクラスのけんじは、自他ともに認める関係だった。
お互い初体験がまだなのが、不思議なくらいだった。
原因はどちらかというと、けんじの側にある。
浩美がなん度も大胆になるたびごとに、彼は尻込みしてしまうのだ。
まだそこまでの責任は取れないし。
それが彼の言い草だった。
身体の奥深くの疼きを覚えはじめた若い肉体をもて多少あましながらも、それでほ浩美は満足だった。
けんじが浩美のことを大切に考えている証しだと思ったからだ。

周りの女子たちは、経験者がちらほらしていた。
それ以上に、街に横行し始めた吸血鬼の毒牙にかかるものが増えてきた。
身体を許した彼氏の影響力もさることながら、
吸血鬼の支配力は、それを軽く上回った。
浩美の親友の環(たまき)は、彼氏がいるのに、吸血鬼を相手に処女を捨てていた。
おかげで、彼氏とヤルときには大胆に振る舞うことができたと、あとから聞かされた。
相手が吸血鬼じゃ、どうしようもないな。
恋人の初めての男になり損ねた彼氏は、かなり残念がっていたけれど。
環の身体を自由にできる特権を与えられたことに、より夢中になっていて。
彼女のしたことを裏切り行為とは受け取っていないようすだった。
でもねぇ、と!環は声をひそめる。
あいつに、ヘンなこと、頼まれちゃっと。
なに?
気乗りしない口調で相槌のように返すと、環は聞いて頂戴よ度言わんばかりに、なおも声をひそめてくる。

お前の処女をもらえないのなら、せめてお前がなくすところを視たかった。
今度、再現してくれよ。

ええ〜!?
冷めた性格の浩美もさすがに声をあげてしまい、
シッ!と親友にたしなめられる始末だった。
それで、、、まさかリクエストに応じたの??
環は少しのあいだ口ごもっていたが、ためらいながらも頷き返してくる。
えー!あり得ない!!
あのときは、あわてて口を抑えたものだが。。

その浩美が、公然の彼氏を差し置いて、貴之とヤッてしまった――

血を吸われていたという特殊な状況――とは言いながら。
あのとき浩美は冷静だったし、相手のことを叱ったり詰ったりさえしていた。
そのいっぽうで、相手の好みに合わせて、脛までのハイソックスをキッチリと引き伸ばして、くまなく舐め尽くさせさえしてしまっていた。
いちど咬まれた首すじにキスも許したし、自分の血の着いた唇と唇を重ね合わせて、血の香りを嗅ぎながらのディープ・キッスにまで応じてしまった。
ショーツを脱いで意思表示をしたのも、自分のほうからだった。
たかがハイソックスの丈に目をつけてきただけの男にそこまでさせて、
さいごにはキッチリと、火照りを帯びて逆立った一物を、自分でも届かない秘奥まで刺し込まれてしまったのだ。

けんじがいうように、「責任」の問題をうんぬんするのなら、
彼女は越えてはいけない一線を、あっさり飛び越えてしまったことになる。
もしもけんじのお嫁さんになるとしたら――これはやばいわよね、、、?

ちょっと付き合って。
放課後貴之をつかまえて、浩美はぶっきら棒にいった。
けじめ、つけてくれるわよね?
貴之は、頷くしかなかった。
けんじは彼にとっても、仲の良いクラスメートだったから。

貴之を伴ってきた恋人にふしんそうな目を向けるいとまもなく――
あたし、この人に血を吸われてるから。
貴之に対してぶっきら棒な彼女は、どうやら恋人に向かってもそうらしい。
「う・・・!?」
なんと返事をして良いのか見当がつかなかったらしく、けんじは喉にものでも詰まらせたようななま返事をした。
「だれかに噛まれたのは、わかるって」
睨むように迫ってくる浩美にたじたじとなったのか、窮したように彼はいった。
たしかに、お気に入りのハイソックスは丈足らずで、咬まれた痕のふたつの赤黒い斑点は、まる見えになっていた。
それを浩美は臆面もなく、だれの目にも明らかに、くっきりと外気に曝していた。
まるで見なさいよと誇示するばかりに――

「でも、相手が貴之とはな・・・」
男ふたりは困ったように顔を見合わせる。
「なん度も咬まれてるのは見て分かったし、気の強い浩美のことだから自分の意思でそうさせてるのは察しがついたけどさ。。」
浩美はなおも、挑発するように告りつづける。
「咬まれたさいしょの晩にさ、もう犯されちゃった。
 抵抗しても逃れられないはずだけど。
 この人ったら意気地なしだから、本気で嫌がったらきっと、逃げ出せたと思う。
 でも、あたしのほうからパンツ脱いだの。
 なぜだかわかる?
 あんなミステリアスな迫りかたをされて、そのまま何もなしに終わるなんて、つまらないと思ったの。
 生き血をたっぷりと啜り取られて、あたしの本音や心の底のことまで、見通されたような気分になって。
 生命の欠片を口に含まれるって、とても濃いつながりだって思えちゃって。
 けんじには、悪いことしたと思ってる。
 でもね、したことはあんまり、後悔してないかな・・・」
浩美の一方的な告白に、けんじは彫像のように立ち尽くしていた。
「あの・・・その・・・」
ヘドモドしている彼を引き立てるように、浩美はいった。
「訊きたいことわかってるんだ。
 感じちゃったのか?イカサレちゃったのか?っていうんだよね??」
「あ・・・うん」
けんじはみっともなく頭を垂れながら、肯定している。
「さいしょは血も出たし、痛かっただけ。
 ヤれて満足としか、思えなかった。
 でもね、なん度も咬まれて、なんどもヤられているあいだに、キモチよくなった。
 イッちゃうようになった」
自慢たっぷりの自分の彼女から目を離すと、けんじは貴之を見た。 
「最近オレと目を合わせないのは、そのせいか?」
「そのせいだ」
棒読み口調で、貴之はこたえる。
「さすがに悪りぃなと思ってさ――でもやめられないんだ」
「お前も、浩美が好いってことだな?」
「浩美の身体に惚れちまった」
貴之はいった。
どちらもボソボソと、暗くて低い声色だった。浩美が噴き出してしまうくらいに。
気勢をそがれたふたりは、起こった事実を確かめ合うばかり。
「で・・・?」
「で・・・」
果ては重たい沈黙で、会話さえ途切れてしまった。
「これじゃ喧嘩にならないわね」
がっかりしたように、まず浩美が重たい沈黙を破った。
「喧嘩させる気だったのかよ??」
男ふたりは、口を揃えて声をあげた。
「たしかに――もしも浩美をオレから奪うつもりなら、相手になるけど。。」
けんじが初めて、しっかりとした顔つきになった。
「いや、そんなつもりはない」
「つもりはないって――」
「浩美が嫁に行くのは、俺のところじゃなくてお前のところだろ?」
「それはそうだけど――それでいいのか?」
「俺はそれが良いと思ってる」
「オレの女に手を出すなって言うべきなんだろうな、ここは一応」
いかにも気乗りのしない口調でけんじが口を開くと、
「俺がいさぎよく手を引くよって、言うべきなんだろうけどな、ここはやっぱり」
貴之も気の抜けたようなあいさつを返すばかり。
「手を出しても構わないって言ってくれないか」
「それはさすがに、言えないな」
「でも俺はたぶん、ガマンできないぜ?」
「できる限り、ガマンしてくれないか?」
「できる限りはもちろん、ガマンするつもりだけどな」
「できない場合もあると・・・?」
「それはお互い、聞きっこなし・・・」
あ、駄目!と、浩美が割って入った。
「あたしがだれとどう付き合うかは、あたしが決めるから」
ふたりは、げっそりとした顔つきになった。

「けんじのための純潔――奪(と)られちゃったときのこと再現してあげようか?」
「あ、ウン」
思わず答えてしまったあとで、いくら両手で口をふさいでも、もう遅い。
あっという間に貴之に、がんじがらめに縛られてしまった。
くしくもそこは、彼女が初体験を遂げた教室だった。
そう――二人は自分のクラスの教室で結ばれたのだ。
「こうだったよね?」
「こんなふうだったな」
浩美が不意打ちに教室の壁に抑えつけられるところ。
目も止まらぬ速さで首すじを咥えられ、咬まれてしまったところ。
ブラウスにほとばしった血が、バラの花が咲くように拡がるところまで、けんじの前で忠実に再現される。
腕を突っ張って抵抗したけれども、失血でだんだんと力が抜けて、とうとうもう一度うなじを咬まれ、ゴクゴクとやられてしまったところ。
ハイソックスの口ゴムの少し上あたりを、すはだに唇を直接あてて咬みついて、
静かに喉を鳴らして啜り取ってゆくところ。
ふたりが折り重なって、勁(つよ)く逆立ったぺ〇スが制服のスカートの奥に忍び込んでいって、
迫ってくる逞しい胸をわが身から隔てようと、彼女は腕を突っ張り、唾を吐きかけてまで抗いつづけて、
そしてさいごに、
ずぶり――と突き刺されてしまって、声も出ないほど感じていって――。

こんなふうだったんだ・・・
こんなふうだったのよ・・・
にんまりと笑んだ浩美の唇を、貴之のそれがふたたび塞いだ。
狎れあったディープ・キッスに熱中するふたりを、けんじはいつまでも見守りつづけて、
そしてその夜ひと晩、彼の未来の花嫁がよがり声をあげつづけるのを、聞き通していた。


披露宴の最上段に。
しゃちこばったけんじと取り澄ました浩美とが、肩を並べている。
「ほんとうは。未練があったんじゃないの?」
背後からヒカルが、毒を含んだ囁きを注いできた。
「いや、これで良かったんだ」
貴之は、振り返りもせずにこたえた。
あの純白のウェディングドレスの裏側を、自分の淫らな粘液でなん度も染めたことも、
いまでは楽しい、一コマの夢――。
「落ち着いたらまた、連絡するわね」
とりあえずは彼女の、そんなささやきをアテにしてみよう。
そんなときにはたぶん、けんじはわざと出張に出てしまうのだろう。
それとも案外、あの夜みたいに、どこかの物陰から、二人が熱い吐息を交わし合うところを、のぞき見してしまうのだろうか・・・?


あとがき

いちおう前作とともに、連作ものです。
発想のきっかけは・・・
たまたま行きずりに、3人連れの女子高生を見かけましてね。
うち2人はタイツ、でも真ん中の子がこの季節に、ブラウス1枚、ミニの紺のスカートの下、黒のオーバーニーソックスを履いていたんです。
インパクトありましたね・・・

餌食になった、3人の女子生徒。

2023年02月19日(Sun) 00:54:24

紺のスカートに白のブラウスの制服を着た女子生徒が3人、うつ伏せになって気絶している。
それぞれの足許には1人ずつ、吸血鬼の男がとりついていて、彼女たちのふくらはぎに咬みつき血を吸っていた。
まん中の男が真っ先に頭を上げて、隣の男を見下ろしている。
「ホントに、オーバーニーソックスが好きなんだなお前」
声をかけたのは、抑えつけた脚の主たちとさほど変わらない年ごろの青年だった。
吸い取ったばかりの血を、まだ口許にあやしている。
揶揄を受けた男もまた、顔をあげた。
「うるせェな、放っといてくれよ」
言葉は尖っていたが、口調はそれに不似合いなくらい照れくさそうだ。
言い返すその口許も、女子生徒の血で染まっている。
ふたりとも旺盛な食欲を発揮したのだろうか、彼らの相手を強いられた少女は、とっくに白目を剝いている。
言い返した男の餌食になった女子生徒は、太ももを大胆にむき出したミニ丈の濃紺のプリーツスカートの下、
恰好の良い脚を黒のオーバーニーソックスで覆っている。
だらりと伸びた脚には、ひざのあたりまでずり落ちかけた黒のオーバーニーソックスが、ふしだらに弛んで皺くちゃになっていた。
ふくらはぎには咬み痕がふたつ、赤黒い血のりに濡れていた。
「香織のときも、そうだった。黒のオーバーニーソックスを履いていた」
さいしょに声をかけた青年は、そういって口をとがらせる。
「お前の妹だとわかりながら・・・ついムラムラ来ちまったんだ」
許せと言うように下げた相方の目線に軽く応えながら、青年は続けた。
「ま――俺も似たようなものだからな」
緩めた口許からしたたたる血が、持ち主の履いている紺のハイソックスを濡らした。
彼女のハイソックスは少し寸足らずで、脛の途中までの丈だった。
口ゴムの少し上のあたり、たっぷりとしたふくらはぎが覗いていて、そのまん中にはやはり咬み痕がふたつ、綺麗に付けられている。
「ご立派なキスマークじゃん」
オーバーニーソックスを咬み破った青年が、こんどは香織の兄を冷やかす番だった。
「お目当ての浩美ちゃんをモノにできて、よござんしたね。貴之くん」
貴之と呼ばれた青年は、照れくさそうに笑い返した。

それよりさ、と、彼は続けた。
「オイ、親父!まだやってんのかよ。ちっとは手かげんしろよな!?」
3人のなかでいちばん右側で黙りこくっていた男は、やり合う若者二人を横っ面で受け流したまま、自分の獲物のふくらはぎを吸い続けていた。
相手を強いられていた少女はもちろん、とうに白目を剝いている。
息子くらいの青年にぞんざいな言葉を投げつけられて、
さっきからしつように餌食を漁っていた男もようやく、白髪交じりの頭をあげた。
「すまねェこってす、ちいっと吸い過ぎた――」
男のおとがいの下、ひざ下までピッチリと引き伸ばされていた紺のハイソックスはわずかにずり落ち、咬み破られた一角がかすかに血のりを光らせている。
「ひとの妹つかまえて、よくやるよまったく!」
オーバーニーソックス好きな彼はどうやら、この男のために気前よく、自分の妹を襲わせたらしい。
「ヒカルお坊ちゃん、輝美子お嬢様を喰わせていただけるなんて、一生恩に着ますぜ」
そう言いながら、郷助と名乗るその年配の吸血鬼は、輝美子お嬢様から吸い取った血を拳で無造作に拭い取った。
「お前が妹に目をつけていたのは、だいぶ前から分かってた。
 うまいことたらし込んじゃえよ?
 あいつの気が向いたら、また高嶺の花の輝美子お嬢様の処女の生き血にありつけるかもね」
ヒカルは初めて、白い歯をみせた。
女子生徒を襲って生き血を漁り摂るという惨劇のあととは、思えないくらい、爽やかな笑みだった。

「血を吸う日常も、悪くないだろ?」
ヒカルは貴之に言った。
「そうだな、こういう身体にしてくれて、感謝するよ」
貴之は、素直にこたえた。
「最初はびっくりしたし、暴れたけどな」
しょうがないさ、と、ヒカルはいった。
「俺も、血を一滴残らず吸い取られたときは、死ぬほど暴れた」
ヒカルの血を吸った張本人は、どうやら彼の目線の向こうにいる年配男らしい。
「俺の血を旨かったって言うから、許してやったんだ」
ヒカルお坊ちゃまの独白を耳にして、郷助はくすぐったそうに微笑んだ。

ヒカルの父は、開業医だった。
郷助はヒカルの家の使用人で、ふとしたことから吸血鬼になって、主人の息子を襲ったらしい。
おあいこさ、と、ヒカルは苦笑いした。
その前に彼は、悪友の貴之と語らって郷助の妻を襲い、それぞれ童貞を卒業していたのだ。
それはエエです、と、郷助はいった。
「女房の仇討ちなんて殊勝なことを考えた訳じゃありません。
 むしろ女房がお二人に女の手ほどきをさせていただけたのを、ありがたく思ってるくらいですから――」
そう、、郷助は自分の妻が襲われていると知りながら、家の鍵を中から施錠して、彼らのやりやすいように手助けをしていた。
そして、自分の妻がパンストを片方だけ脱がされた脚をばたつかせ、半泣きになりながらスカートをたくしあげられてたくし上げられてゆくのを、舌なめずりをして覗き続けたのだ。
彼が吸血鬼に咬まれたのは、そのすぐ後のことだった。
「あのあと女房は吸血鬼にもやられちまったけど――お坊ちゃんがたお二人のおかげで、覚悟がついたような気がしたもんです」

郷助が身体じゅうの血を抜かれた翌日のこと。
ヒカルが学校から戻ってきたとき、家に誰もいなかったのが「ご縁」の始まりだった。
首すじを咬まれて血を吸われると、
「うちで真っ先に吸血鬼になるのが、郷助とはね」
と言いながら、気の済むまで吸血に応じていったのだ。
吸血鬼のはびこり始めたこの街で、いつまでも逃げおおせることができるとは、ヒカルにはとても思えずにいた。
むしろ、自分の血を親しいものに吸われることに、安堵さえ覚えていた。

失血でぼうっとなりその場に倒れると、半ズボンの下肢に抱きつかれ、紺のハイソックスを咬み破られながら、さらに血を吸われた。
ハイソックスが好きなのかい?と問うと、郷助は正直に頷いた。
それなら、好きなようにさせてやるよ――彼は郷助が楽しめるようにと、ずり落ちかけていたハイソックスをひざ小僧の下までギュッと引き伸ばしてやった。
飢えていた郷助がヒカルの血を吸い終えたとき、彼の体内には人間として生き続けるために必要な量の血液は喪われていた。
こうしてヒカルは、半吸血鬼になった。
二人は、縄張りを線引することで争いを避け、周囲の男女の血を手分けして啜った。
主家の一家にほのかな憧れを抱いていた郷助は、ヒカルの両親を。
ヒカルは郷助の妻に初めて自分の牙を試して、この使用人の善良な妻を首尾よくその奴隷とした。
郷助はその見返りに、院長夫人をその夫の目の前で制圧して、主家の夫婦をその支配下に置いた。

院長夫人のブラウスには、吸い取られた血潮が撥ねて華やかなコサアジュを形作り、
はしたなくも夫の前で、理性を喪失した。
着衣を引き裂かれ剥ぎ取られてしまうと、見栄もプライドもかなぐり捨てて、
日ごろ嗜んでいるガーター・ストッキングの脚をくねらせながら、使用人の強引な欲望に応えていった。
郷助は片方だけ脱がせたストッキングを指でいやらしく弄びながら、
院長夫人の身体の奥に、その夫の目の前で、劣情に滾る白濁した粘液を吐き散らしていった――

ヒカルがつぎに狙ったのが、貴之の妹の香織だった。
香織は泣きじゃくりながら彼のお目当てのオーバーニーソックスを咬まれていったが、
いまでは兄のこの悪友の誘いを受けるときには、ひざ上最低でも15cmのミニスカートに黒や紺、果ては柄物のオーバーニーソックスを見せびらかすように脚にまとい、穿き替えまで用意をしてデートに出かける有様だった。
悪友に妹を寝取られた貴之は心平かではなかったが、
その実ヒカルの牙で、香織よりも先に首すじに咬み痕を付けられてしまい、吸血される悦びにも目ざめてしまっていた。
だから、悪友が妹を弄ぶことを、正面切って咎めることはなかった。
いまではヒカルのために、貴之の母親までもが、年甲斐もなくオーバーニーソックスを脚に通して、
娘の貧血を補うために、淫らなデートに日常的に応じる有様だった。
もともとヒカルが貴之の妹を襲ったのは、たまたま履いていたオーバーニーソックスに刺激を受けただけのことなので、
早晩彼が妹を棄てるのは、目に見えていた。
けれどもきっと妹は、教え込まれた経験を身に秘めながら、
そ知らぬ顔をして婿探しをするに違いない――と、貴之は見抜いてしまっている。


そんな3人が寄り集まれば、よからぬことが起きるのは自明のこと。
教師たちは自分たちの責任逃れに躍起となっていた。
生徒を襲うならせめて、自分たちが退校した後にしてほしいとばかりに、
夜も出入りをするのに必要な鍵を、わざと「紛失」してくれたのだった。
鍵を「紛失」をした教諭も、それをそそのかしたはげ頭の教頭も、
受け持ちのクラスや顧問をしている部に所属する教え娘に手を出して、
彼らに率先して、冒すべからざるはずの教室を、淫らな濡れ場にすり替えてしまうのだった。

冒頭の、3人の乙女が犠牲となった場面は、まさにそんな日常の出来事だった。

ヒカルはオーバーニーソックスの少女を連れて、教室から出ていった。
血の気の戻った少女はすっかり洗脳されて、何ごともヒカルの言うままだった。
もちろんヒカルは、この娘を恋人にするつもりなど、さらさらない。
茶髪のロングヘアをなびかせて少女が向かうべつの教室には、悪事の片棒を担いだ教頭が待ち構えている。
この女子生徒の処女は、夜の教室を自由に使用する便宜をはかってもらった御礼にする約束になっているはずだ。
そんなことはいまの彼女の知る由もないだろう。
美男のヒカルに夢中になるはずが、似ても似つかないはげ頭の教頭の、脂ぎった卑猥な唇をあてがわれるとは、まだ夢にも思っていないはずだ。

郷助が餌食にしたのは、ヒカルの妹の輝美子だった。
彼女は羞恥に頬を染めて、弛み落ちたハイソックスをおずおずとした手つきで引き伸ばしていった。
よだれまみれにされて咬み破られると知りながら、父親ほどの年配男に当たった不運を嘆くでもなく、相手を満足させようとけなげに振る舞っているのだ。
さすがに貴之たちと同じ教室でことに及ぶのは羞ずかしいらしく、これも教室から消えていった。
吸血初体験の今夜、処女までも喪うと――きっとヒカルも想像していたに違いない。


「ひどいよね、まったく・・・」
貴之と二人きりになると、彼の相手をした女子生徒はいった。
「夜遊びしようって言うから、何かと思った。
 制服にハイソックスで来いって言うから、変態なんだと思った。
 首すじを咬まれて、初めて分かった。
 怖い世界に踏み込んじゃったって。
 あたしの血、美味しかった・・・?」
貴之はいった。
「前から思っていたんだ。
 ハイソのすぐ上のあたりをかんでみたいって。
 きみのハイソの丈がちょうど目を惹いたのさ」
女子生徒は不平そうに、口を尖らせる。
「ハイソの丈で、あたしを選んだの?」
「そういうことだね」
「ひどい・・・変態!」
少女は罵ったが、声に力はなかった。
「貧血だよ、もう。。」
くりごとのように少女は呟いた。
「それくらい旨かったってことさ、きみの血は」
貴之はいった。
少女から吸い取ったうら若い血の芳香は、まだ喉の奥に澱んでいる。
そしてその活き活きとめぐる血液は、いま貴之の血管を妖しく浸し、皮膚を潤しはじめている。
「美味しいんだったら、まあいぃか。許しちゃおう」
少女はまた呟いた。そして貴之に向って、
「こっちの脚も、噛んでいいよ。
 どうせヤだって言っても咬みつくつもりなんだろうけど」
そういって、まだ噛まれてないほうの脚も、差し向けてきた。
丈足らずのハイソックスを、キッチリと引き伸ばして。
男は制服姿の女子生徒の足許に、かがみ込んだ。
教室の窓から差し込む薄明かりに浮びあがった影法師が、ひとつになった。
もつれ合った影法師は姿勢を崩し、平らになり、激しくうごめき、ぎごちなくもじもじとした身じろぎをくり返した。

「彼氏いるんだよ、あたし」
少女は弛み落ちたハイソックスを、また引きあげた。
太ももを伝い落ちる初めての紅いしずくが、口ゴムを浸すのもためらわずに。
「生き血も旨かった。あそこも、美味しかった」
「もう!」
男の言い草に、女は本気でその背中をどやしつけた。