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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

~このサイトのご紹介~ 魔性の淫楽への招待状

2020年03月22日(Sun) 21:12:01

はじめにお読みください。
一話読み切りのお話がほとんどですが。
吸血鬼ストーリーといっても。
「他では目にすることはまずないでしょう」
そう断言できるほど?変わった世界のお話なので・・・。

カテゴリの解説

2019年08月14日(Wed) 19:11:24

ひと言で吸血鬼ものの短編といっても、それこそいろんなお話が混在していますので。
カテゴリをちょっと、整理しました。
お話に共通のおおまかな設定については冒頭↑の「招待状」に書かれてありますが。
ちょっとだけ、付け加えておきます。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 7 目の当たりにした情事

2018年10月21日(Sun) 08:36:40

ふたりが言葉を交わしていると思い込んで踏み入れた茶の間には、だれもいなかった。
その代わり、寝室に接しているふすまが半開きになっていて、夫婦の寝間のなかが見通せた。
ねずみ色のストッキングに染まったふくらはぎがうつ伏せになって、畳の上にゆったりと伸べられていた。
侵入者は妻の片方の足首をつかまえて、ふくらはぎのうえに赤黒く膨れあがった唇を、ぴったりと這わせていた。
ねずみ色のストッキングのなかで、か細いふくらはぎの筋肉が、キュッと引きつり隆起するのが透けてみえた。
不健康に赤黒く爛れた分厚い唇は、ねずみ色のストッキングのうえからねっちりと這わされてゆく。
なよなよとか弱い感じのする薄手のナイロン生地を、男はネチネチと意地汚くねぶりまわしていた。
ヒルのようにいやらしくねぶりつけられた唇から分泌されるあぶく混じりの唾液が、肌目こまやかなナイロン生地にからみついて、チロチロと光っていた。

ピチャ・・・ピチャ・・・
くちゅ・・・くちゅ・・・

都会妻の礼装に唾液のはぜるいやらしい音が、うわべの静謐に支配された部屋のなかを淫らに塗り替えるように、深く、静かに沁み込んでいった。

「えぇ色した靴下じゃね」
長いことふくらはぎを舐めた挙げ句、男は顔をあげてそういった。
足許を濡らす唾液の薄気味悪いなま温かさに辟易しているらしい節子が押し黙っていると、応えを要求するように、男はなおもくり返した。
「えぇ色した靴下じゃね」
「お気に召したのですか」
女は取り澄まして、他人行儀な口のききかたをした。
「舌触りもえぇ。うんめぇわ」
女は男の下品な言いぐさに不快そうに眉をひそめ、再び畳に目を落とした。
こんなことをされるために脚に通したのではない、と言いたげな顔つきに、男はいった。
「わしのためにえぇ服着こんで待ちかねとっただろうが?じゃから、お前ぇの服は、わしへの馳走に違いなかろうが」
女は黙っていた。
「穿きかえあんのか?おなじやつ」
「これしかありませんよ」
女はいった。
「じゃ、噛んじまうわけにいがねぇな」
「かまいませんよ。あなたのために穿いたんだから。思い切りよく破いちゃって頂戴」
女は初めて自堕落な言葉つきをして、ストッキングの脚を自棄になったように投げ出した。
「えへへ・・・そう出られちまうとな」
男はニタニタと相好を崩して、女の足許に這い寄った。
獣じみた呼気が間近に迫るのを、女はストッキングごしに感じた。
息づかいの熱さが皮膚の奥深くに脈打つ静脈に伝わって、こらえようもないほどずきずきと疼きはじめた。
さっきからふすまの向こうに身を潜ませた人影がこちらに視線を注いでくるのに、女は気づいていた。
その視線は、情夫のそれと負けず劣らず、彼女の身体にしつように絡みついてきた。
視線の主がこっそり帰宅してきた夫であることを、女はすでに察していた。
他人行儀な言葉づかいをやめたのは、そのせいだった。
ジリジリとこの身を灼くような嫉妬の視線が、女の感情に火をつけた。
「夕べみたいに、めちゃくちゃに咬み破って、お願い」
随喜のあまりだらしなく弛んだ唇が強引に圧し当てられて、露骨な舌舐めずりが薄いナイロン生地をよだれでしたたかに濡らし、いびつによじれさせてゆくのを、女は悦んだ。
じぶんでもびっくりするくらいに、あからさまな喜色を滲ませて。
ふたりの痴態をいじましくも物陰から覗き込む夫をまえに、よそ行きの礼装がぱりぱりと音をたてて裂け、脚ぜんたいを覆っていたゆるやかな束縛がほぐれてゆくのが、むしょうに小気味よかった。

チリチリに裂けたストッキングの裂け目から露出したふくらはぎを、空々しい外気がひんやりと打った。
裂け目は面白いように拡がって、ひざ小僧までまる出しになった。
男がくまなく脚を吸えるように、わざと脚をくねらせて、いろいろ向きをかえてやって、くまなく吸わせていった。
素肌を覆っていたナイロンの被膜はもはや面ではいられなくなって、引きつれねじれた糸のかたまりに堕ちていった。


物陰でひたすら、月田は息をひそめていた。
「えへへ・・・そう出られちまうとな」
妻の言いぐさに相好を崩した男の声色が、彼の鼓膜をぐさりと刺した。
あれほどぶきっちょで、卑屈でさえあった男が。
そのうえつい今しがたまで、若やいだ彼の妻のまえで気後れをして、会話の主導権を取られっ放しだったしわがれ男が。
いまや都会育ちの妻を洗練された装いもろとも辱しめようと、舌舐めずりしてのしかかっていく。
不覚にも月田は、その場で尻もちを突いた姿勢のまま、失禁していた。
スラックスの股間を濡らす居心地のわるい温もりは、どろどろとした粘ばり気を帯びていた。
恥ずべきことだ、と、彼は思いながら、そういう自分をどうすることもできなかった。
自ら禁じたにも拘わらず、嬌声をあげてはしゃぐ妻がみすみす相手の男に組伏せられていって、作業衣を着たままの肩幅の広い背中にためらいながらも腕を巻いていく有り様から、目が離せなくなっていた。
自分よりずっと頑丈そうな背中をまさぐる妻の薬指には、結婚指輪が鈍く輝いていた。
月田は、妻がいつも結婚指輪をしていたかどうか、意識していなかった。もしかすると、ふだんはつけていなかったのかもしれない。
だとしたら、これも男のための馳走なのか?
貴男が犯しているのは人妻なのよ、というアピールのために、夫婦の誓いを果たした証しの品を、わざわざつけているのか?
その結婚指輪をはめた指が、自分ではない男の背中をまさぐり、背中に廻した両の腕を重ね合わせて、男をしっかりと抱きしめる。
妻としての自覚を忘れた女の指にはめられた結婚指輪の鈍いきらめきが、月田を悩ましく苦しめた。

破けたストッキングをまだ脚にまとったまま、妻は白のミニスカートの内股深く、情夫の逞しい腰を迎え入れていた。
スカートの脇の切れ込み(夫はスリットという語彙をもたなかった)からは、ねずみ色をしたストッキングのゴムが太ももを横切っているのが、チラチラと覗いた。
太ももの内側についた肉づきは意外に豊かで、彼女自身を刺し貫いた逸物が引き抜かれ夫の視界をよぎるたびに、悦びにはずむのが見てとれた。
ピンと伸びたつま先も、靴下の裂け目から露出してまる見えになったひざ小僧も、花びらみたいに裂き散らされたブラウスから覗くおっぱいも、半開きに弛んだ唇から覗く前歯、あの晩以来解かれたままの波打つ黒髪・・・どれもがいままで目にしたことのない女のものだった。
足首まで降ろされたショーツを自分の手で引き裂いて部屋の隅に投げた女。
薄い唇からこぼれる前歯の淫蕩な輝き。
瞳の色まで変わったかと思うほど表情豊かなウットリとした上目遣い。
妻であって妻ではない、妻とは別人の女がそこにいた。
ここは彼の家ではなくて、彼の家はべつにあって、そこには彼の本当の妻がいつものくたびれたトックリセーターを着て色褪せた頬をすぼめてなにかぶつぶつ文句を呟きながらアイロンをかけている―――そんな妄想がひどく現実味をもって彼の脳裡をよぎるのだった。
けれども、控えめな造りをした乳房はたしかに見覚えある妻のものだったし、淡いピンクの口紅を刷いた薄い唇もまごうことなく妻のものだった。
貧しい隆起は節くれだった手指に揉みくちゃにされ、黒々とした乳首は強欲な分厚い唇に我が物顔に呑み込まれ、控えめな造りをした唇が
「もっと・・・深くぅ・・・」
などと、卑猥きわまることを口走っていたとしても。
夫の見ている前での行為ということも、彼女ははっきりと自覚していた。月田のほうも、妻が気づいているのを自覚していた。
仰向けの姿勢で天井を見上げる蒼白い目が、時おりこちらを気にするように、半開きになったふすまの縁をかすめ、ふすまの向こうの月田を見据えているような気がした。
そればかりではなく、月田をぞくりと昂ぶらせるようなことを、妻はあからさまに口にし始めさえしていた。
弛んだ口許からはいちどならず、
「あなた・・・あなたァ・・・ごめんなさい。視ないで。視ちゃダメ」
そんな言葉さえ、よどみなく洩らされてくるのだった。
自ら招いた結果とはいえ・・・
萎えかけた頬を紅潮させて淫らな舞踏に息はずませる妻―――まさに白昼の悪夢だった。
けれども、その悪夢に歓びを見出してしまった男は、ひたすら失禁をくり返すばかりだった。



「献血ご苦労さん」
彼がそういって自身の妻に表だって声をかけたのは、情事のあとの身繕いや後始末が済んだあとだった。
さっきまで妻を犯していた男は、ふてぶてしくも居座って、何食わぬ顔をして自分の情婦となった人妻の身づくろいを見守っていた。
「2日続きですものね、さすがに疲れたわ」
萎えかけた頬を穏やかに和めた表情にはついさっきまでの娼婦のように奔放なセックスの名残は微塵もなく、
経口的な供血行為という、少しばかり猟奇的な地元の風習に好意的に協力した、都会育ちで健康体の四十代主婦がいるばかりだった。
「すっかり御厄介になりまして」
いまや妻の情夫となった男は、膝を丸めるように正座して、彫りの深く兇暴な顔立ちにはおよそちぐはぐな、昨日と変わらない卑屈なまでの慇懃さで、ぺこぺことぶきっちょなお辞儀をくり返していた。
彼もまた、悪鬼のように妻に挑みかかって白いミニスカートを精液でどろどろにしたことなど、おくびにも出さないふうだった。
「きょうはそんなに頂いてねえです。夕べの今日ですて」
男はどこまでもかしこまって、夫を立てる態度をとった。
「まゆみが学校に行ったあとなら、こちらから伺ってもいいんじゃないか?」
彼のほうもそういって、相手の意を迎えてやらざるを得なかった。
「奥さんが体力的に大丈夫なら、うちに来てもらってもエエです。こっちなら着替えがあるから奥さんの都合がエエかな、というだけで」
男はつい、語るに落ちるようなことをいったが、月田夫妻は気にとめることなくあえて聞き流した。
「じゃあこんどはいちど、伺わさせていただきなさい」
月田は妻を促し、妻は「そうですね。こんどぜひいちど」と、謝罪するように頭をさげた。
浮気に出向くことをすすめる夫に、それに応じて出かけようとする妻――これがわたしたちのこれからのありかたなのか。
月田は淡々とそう思った。
そして、怒りも屈辱も居心地の悪さも感じない自分に、すこしだけ驚いていた。


着替えたあとの妻は、モスグリーンのカーディガンに黒のトックリセーター、紺のひざ丈スカートに肌色のストッキングを穿いている。
朝とちがう服装をしていることをあえて夫は咎めなかったし、
妻のほうでもまた、脱衣場に脱いであったスラックスのシミが取りにくいことを話題にしようとしなかった。
男は玄関に向かうとき、洗濯機の傍らに置かれた風呂敷包みをさりげなく手に取った。
もう片方の手には、大きな紙製の手提げをぶら提げていた。
手籠めにした女の身に付けていた着衣を夫のまえから公然と持ち去るのを、月田はわざと見過ごしにした。
「クリーニングに出しときますで」
慇懃な語調は、どこまで本当なのだろう。
もっとも今朝彼が目にしたショッキングピンクのカーディガンやボーダー柄のブラウスや白のミニスカートは、その後も時おり見かけたから、男が手許においたのは初めてのときのものだけだったのかもしれない。
帰りぎわ、男を門の外まで見送った夫の耳許に、彼はぼそぼそと囁いた。まるで毒液のような囁きだった。

「奥さんが穿いてる肌色のストッキング・・・ぜんぶ咬み破っちまうけど、おおめに見てくださいよ」

うかつにも頷いてしまった自分に内心舌打ちをした彼は、それでも差し出された掌に自分の手を差し伸べて、グッと力を籠めた握手まで交わしていた。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 6 後朝(きぬぎぬ)~妻の変貌

2018年10月21日(Sun) 08:28:47

出勤時刻が迫っているというのに、身体のうごきが鈍かった。
すっかり寝不足だった。
夕べ、二階の部屋の灯りが消えて娘が寝静まると、スリップ一枚の妻がものもいわずに挑みかかってきたのだ。
男の吸血鬼から解放されて戻ってきたとき妻は、いつも頭の後ろで結わえてひっ詰めていた髪をほどかれいて、それをくろぐろと、両肩に波打たせていた。
夕食のときも、娘はそうした母親の変化に目ざとく気づいて「母さんいつもより女っぽいね」などと言っていたけれど、
昨晩、いつものように家に戻るまでは常識まみれの四十女に過ぎなかった妻は、髪型を崩してからどことなく雰囲気を変えていた。
夫婦の寝床のうえ、彼の上に跨がってきた妻は、そんな体位で夫婦の営みに臨むなど初めてなのに、まるでさかりのついた牝馬のように息せききって、身をはずませて、自らくわえ込んだ一物から一滴のこらず絞り取るように腰を激しく上下させた。
娘の成長とともに途絶えかけた営みはいつも正常位で消極的な受け身といういつもの妻とはうって変わって、獣じみた狂おしさをあらわにしていた。
とつぜんの椿事で体験した夫以外の男とのまぐわいが、まだ妻の身体のすみずみに余韻を秘めているのを、彼はありありと感じた。
異常な記憶が甦ってくると、彼のほうもまた、若いころでさえなかったほどの怒張をおぼえた。

外が薄明かるくなるのをおぼろげに覚えているのだから、ほぼひと晩じゅうつづいたのだろう。
血を吸う父娘を相手に夕べこうむった、したたかな失血のあとでもあった。
「あなた、無理しないほうが」
さすがに妻が気にしたくらい、彼の顔色はわるかった。
けれども強いて家を出たのは、目が覚めたときに目にした妻の服装のせいだった。
まゆみはもう出ましたよ・・・そういう妻は夜中の、そしてそれ以前の、しつように重ねられた情事の名残は気振りにもみせていなかったが、身に付けた装いは、いつもとうって変わってこぎれいなものだった。
いつもの野暮ったい着古しのトックリセーターに毛玉の浮いたパンツなどではなくて、
ショッキングピンクのカーディガンに、白地に黒のボーダー柄(もっとも彼にはそんな気のきいた語彙はなくて、「縞模様」と表現するしかなかったが)のブラウス、両脇が深いスリットで大胆に切れあがったひざ上丈の純白のタイトスカート。
いまどき珍しいねずみ色のストッキングはご愛嬌だったが、しいてよそ行きということでわざわざ箪笥の奥から引っ張り出して選んだのだろう。
カーディガンやブラウスにはかろうじて記憶があったが、あんな大胆な切れ込みのあるミニスカートなんか、持っていたのだろうか?
「似合わない・・・かしら」
夫の感想もいちおうは気になるらしく、妻は小首を傾げ、ほどいて肩に流したままの黒髪を揺らした。
「まぁ・・・まんざら捨てたもんじゃないな」
似合うよ、きれいだ。とか、見違えるね。とか、気のきいたことでも言えればよかったのだが、
ひと回りは若返った感じの妻はそれ以上ぶつぶつ文句をいうこともなく、機嫌よくその場をはなれた。

まさかとは思った。まだ、きのうのきょうなのだから。
いちどモノにした獲物ははやいうちに再び征服して、得た果実は手堅く手中に収めてしまおうというのだろうか。
「かなりご執心のようなんだな」
とだけ、夫はいった。お前たちがなにをしようと邪魔するつもりはない、といったつもりだった。

昨日渡したつもりだった彼の勤務割りが、ちゃぶ台の上にあった。
いちど四つ折りにされて、改めて開いた状態だった。
その勤務割りの、きょうのます目に深々と爪痕が残っていた。
真夜中に別人のように乱れた妻の胸の谷間に残されていた爪痕と、おなじ形をしていた。
ふたりはこんなふうにして、きょうの逢い引きを示しあわせていたのか。
あのみすぼらしく貧相な作業衣の男は、二十年連れ添った夫婦の日常に、しっかりと割り込んでいた。
淡い嫉妬がジリジリと、彼の胸の奥をとろ火で炙りたてた。
彼は素知らぬ顔で自分の勤務割りをちゃぶ台に戻すと、いつものように薄い靴下に透けた足首を革靴のなかに突っ掛けた。


出勤はしたものの、彼は事務所の席に鞄を置く間もなく、ほとんどまわれ右をするように家路につく羽目になった。
なにもかも心得ているらしい事務所長が、謹直なしかめ面をいつになく和らげて、
「きみ、顔色よくないね。きょうのとこれは仕事はいいから、いつ帰っても構わんよ」
「うちに帰ればいいことがあるんじゃないかな。ぐずぐずしていると見逃してしまうよ」
「だれもが経験していることだから・・・まぁ良かったじゃないか」
仲間が増えたことを露骨に悦んでいる様子だった。
彼の夫人は着任そうそう因習に染まり、いまは村の長老のひとりの公然の愛人になっていた。
こちらにきて三年になる年若な部下を振り返ると、これもまたなにもかもわきまえた顔をして、「所長がああいってくれてるんだから、大丈夫ですよ」と、こたえを返してきた。
これまた露骨なまでに、(許しをもらえてラッキーですね!)と、顔にかいてあった。
もはや、苦笑を浮かべたまま席を起つことしか、彼にはすることが残されていなかった。


自分の家に帰るのに、どうしてこんなにもこっそり振る舞わなければならないのか?
そう自問しながらも、月田は足音を忍ばせて庭先にまわり、いつも施錠されてないことを知っている勝手口から身を屈めて上がり込んだ。
庭先を横切るとき、背の高い生垣ごしに、すこししゃがれた男の声がした。夕べの男の声だった。
勝手口の木戸を開くと、声はいちだんと身近になった。
浴室の前まできたときには、なにを話しているのかまで、筒抜けだった。
話の内容は、ほとんどどうでもいいような天気の話しとか、いつ越してきたのかとか、ありきたりのことばかりだった。
たまたま自分の話題が出たときだけはビクッとしたが、それもだんなは何時に出かけたの?とかそのていどの当たり障りのないものばかりだった。
きのうと変わらない調子の訥々とした、ちょっと卑屈な声色がぶきっちょに途切れがちになると、沈黙を怖れるように彼の妻が穏やかに言葉をついだ。
さほど社交上手というわけではない妻も、田舎育ちの男に比べればよほどうわ手で、齢は年若な妻のほうがまるで姉のような物腰だった。
夕べ唐突に招いた客に妻がゆき届いた応対をしていることに、彼は不可解な満足感を覚えていた。
どうやらつきあい下手らしいあの男が、無器用に言葉を途切れさすたびに妻が救いの合いの手を入れるたびに、彼自身が救われたような気分がした。

ふと身じろぎをすると、手の甲に洗濯機のへりが当たった。暗い槽のなかに、吊り紐の切れたブラジャーがみえた。
洗濯機の傍らには風呂敷包みがあった。中身は衣類で、えび茶色の生地がはみ出て見えた。
ぴんとくるものを感じて風呂敷包みをほどくと、きのう妻が身に付けていた着衣がひと揃いたたんで重ねてあった。
黄色のカーディガンとねずみ色のブラウスにはところどころ乾いた血糊がこびり着いていて、釦もひとつふたつ飛んで失われていた。
いずれも、夕べの狼藉のあとを、あからさまにとどめていた。
えび茶色のスカートのすそをめくると、裏地に白っぱくれたシミが濃淡不規則なムラをつくってべっとりと付着していた。
震える指でそっと触れると、まだかすかな湿り気を帯びていた。
なにかを叫びそうになって、思わず数歩足を踏み出した。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 5 嵐のあと、なにも知らない娘のまゆみ

2018年10月21日(Sun) 08:24:25

月田夫妻から血を吸い取った父娘が月田家を辞去したのは、娘のまゆみが帰宅するのとほぼ入れ違いだった。
制服姿で帰宅したまゆみは、自宅から出てきた見なれない父娘にちょっと怪訝そうに目をやったが、親を訪ねてきた客人らしいと察すると、それ以上の関心を払わずに、軽く会釈をして家の門をくぐった。
男はすれ違いざま、月田家の娘の発育のよいふくらはぎが白のハイソックスに覆われて、紺のプリーツスカートのすそからにょっきりと伸びているのに目をとめると、その瞳の奥に一瞬もの欲しげな輝きをぎらつかせて、彼女の姿が玄関のなかに消えるまで立ち止まって見送っていた。
「父ちゃん欲深ね」
少女は吸血鬼の父親の脇腹を小突いた。
「生意気言うでねぇ」
男は図星を指されながらも、娘に対して減らず口を叩いた。
「あたし誘い出してこようか」
少女はこともなげにそういったが、男は口のなかでぶつぶつと、学校さ行けばええとか、その前ぇに顔役にかけあいに行くとか、生娘を犯すとあとがうるさいからなとか、あいまいに呟いただけだった。

「小母さんと仲良くなれて、よかったね。パンストもらったでしょ」
娘は父親をからかった。ついでにポケットからはみ出していた節子のストッキングのつま先を、わざとのように引っ張った。ストッキングはポケットからすっぽりと抜け落ちて、少女の指先につままれたままひらひらと風に舞った。
「洗濯して取っとくね。いつもみたいに袋作って。あ、箱もいる?」
男は、もうなにも応えずに、娘の言いぐさを横っ面で受け流していた。


「ねぇ、どうして今夜はお赤飯なの?さっきのお客さんだれ?」
なにも知らないまゆみは、久しぶりの赤飯をもりもりと口に頬張りながらいった。
その赤飯が、母親を犯す見返りにさっきのみすぼらしい中年男が持参した手土産だとはつゆ知らず。
母親は娘の問いにはこたえずに、いつになく黙りこくって単調に箸をあやつりつづけた。
「お前はなんでもよく訊くなぁ。」
父親も苦笑交じりに、娘をたしなめるようにそういっただけで、やはり単調に箸でつまんだ赤飯を口にもっていくだけだった。
ふたりとも、鼓膜にキンキンと響く娘の声に、顔色をよけいにくすませていた。
「つまんないの」
張り合いのない両親の反応にまゆみはちょっとふくれ面を作ると、ごちそうさま、と箸を投げ出すようにして、ちゃぶ台から起ちあがった。
ジーンズ生地のスカートがはち切れそうなくらいにおっきなお尻を親たちに向けて、まゆみはふすまをぴしゃりと閉めた。
学校帰りのままの白のハイソックスを履いたふくらはぎに帯びた、たっぷりとした肉づきが、父親の目に眩しく灼きついた。
血液の喪われた血管が、むやみともの欲しげに疼くのを感じた。
娘の血を欲しがるなんて、あさましい――しいてそう言い聞かせることで、月田は自分のなかに沸き起こるどす黒い感情を、躍起になって打ち消した。
「自分のお茶碗くらい片付けなさい」
といつも口うるさく追い打ちをかけてくるのを見越したように、
「お風呂入るからー」
と昇りはじめた階段からはずんだ声が響いてきたが、それにも母親は無反応だった。
浴室からシャワーの音が気持ちよさそうに洩れてくると、はじめて母親はわれに返ったように表情を動かし、夫にいうともなしに呟いた。
「あの子もそろそろね」

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 4 月田夫人の堕落

2018年10月21日(Sun) 08:19:53

四十路を半ばすぎた月田節子は、色褪せた頬に珍しく頬紅を薄っすらと刷いて、
ややくたびれた黄色いカーディガンに地味なねずみ色のブラウスを着て、
それでも彼女には珍しくいちおうスカートを着けていた。
えび茶のスカートの下には肌色のストッキングを穿いていたが、それは先週娘の学校のPTAの会合で脚に通して以来のものだった。

「なんだ、よそ行きのいいかっこしておけって連絡したのに」
帰宅した夫はすこし不満そうに顔をしかめたが、妻は
「急にそんなこと言われたって・・・」
とぶつぶついった。それでも見慣れない新来の客人たちには丁寧に
「ようこそ初めまして、むさ苦しいところでなんのお構いもできませんが」
と、敷居の板の間にひざを突いて神妙な顔をして改まった声色をした。

夫からは改まった説明はなに一つなかったけれど、彼女はなにもかも察しているようだった。
すべては暗黙の諒解のうちに、夫婦は見ず知らず同然の父娘に、家の敷居をまたぐことを許していた。
吸血鬼にいちど家の敷居を跨がせてしまうと、彼らはいつでも自由に出入りすることができるようになって、その家の家人の血を獲ることができる――
人事担当者から聞かされたはずだったが、それと知りながら、夫婦はその父娘に、まんまと家につけ入る隙を与えてしまったのである。
彼らの訪問はどんなに突拍子のない刻限でも許されたし、かりに家主が彼らを拒んで堅く施錠をしたとしても可能だった。
懐柔した家人を操って手引きをさせることもできたし、ひとの助けを借りないでも「いつの間にか入り込んでいた」ということもふつうにあった。
夫が父娘を自宅に招いて、妻がふたりを何気なく奥に通したことで、村に棲む吸血鬼に対しての唯一の結界は容易に破られていた。

人間の夫婦と吸血鬼の父娘は、人間の家のお茶の間で立ったまま向かい合った。
緊迫しかけた空気を気づかうように、節子が夫に訊いた。
「あなたはどちら」
夫婦のどちらが、父娘のどちらを相手にするのか、という露骨な問いを、未経験ながら発してしまったのを、節子は意識していなかった。
月田は、わたしは娘さんに吸われているから・・・と応えると、妻に背中を見せてのそのそと沓下を履き替えにかかった。
夫の勤務先に顔を出したことのない彼女は、事務所の掲示板をみたことはなかったが、業務連絡用の月間予定表に唯一書かれてある内容だけは心得ていた。

   供血希望者はストッキング地の膝下丈のハイソックス(紳士用可)
または婦人用ストッキングを着用の上勤務すること。

夫が出勤のときに穿いて出かけるあのストッキングみたいに薄い沓下は、帰宅のときには大きな穴をあけているか違うものに穿き替えられていた。
きょう夫が脱ぎ捨てた靴下にひきつれひとつないことに、彼女はわるい予感を持った。
「薄い靴下がお好きなんですよね?」
彼の妻は呟くようにそういうと、肌色のストッキングを穿いた自分の脚を改めて見おろした。
「さいしょは首すじだから」
夫は赤黒い痣の滲んだ自分の首すじを指差して、穏やかにほほ笑みながらいった。
共犯者のほほ笑みだった。
部活や補習に明け暮れる娘のまゆみがいつも下校してくる刻限には、まだ相当の間があった。

まだ顔なじみすらろくにいないこの村で。
いつかちかいうち、にわかな客人の来訪を受けて吸血されることを、彼女は夫のようすで実感していた。
まだ都会にいるときに、赴任の条件を夫の会社の人事担当者から告げられたときからそれは納得ずくのことだったが、
夫の何気ないしぐさのひとつひとつにまがまがしい背景が生じたのを感じて、それはひどくうそ寒い予感を、彼女の胸の奥に植えつけていた。

夫を見捨ててひとり都会に戻ることもできないわけではなかったのに、彼女はそうする意思をまったく持たなかった。
周囲のだれもが受け入れている習慣を、いずれはこの村のだれかを相手に許さなければならないのだ・・・と、無気力な彼女は、なかば諦めているようだった。
せめて娘を守る配慮は女親としてしなければならなかったはずなのに、そうした配慮さえ放棄しているふうだった。
「あなたは寝室を使って下さい。私はお茶の間で」
さすがにおなじ場所は避けたいところだったが、ひと部屋しかない階上の部屋は娘の勉強部屋になっていて、そのほかに部屋らしい部屋といえば、隣り合わせになっている寝室と茶の間のふた部屋しか、この家にはなかったのだ。
夫人が茶の間を選んだのには、わけがあった。
玄関に近いほうの茶の間に彼女がおれば、娘がいつもより早い刻限に急に戻ってきたとしても、なんとか取り繕うことができると思ったのだ。

ふすま一枚隔てた向こうとこちらで、夫婦はお互いの振る舞いを意識しあいながら、行為に及んだ。
夫は勤め帰りのネクタイをとり、スラックスまで脱ぎ捨てて部屋の隅に押しやると、濃紺のストッキング地の長沓下一枚の脚をうつ伏せに投げ出した。
自分の血をいつも吸っている少女が、四つん這いになってうつ伏せになった彼の足許ににじり寄り、幼いが獣じみた呼気を薄いナイロン生地ごしにふくらはぎに当ててくるのに、いつにない昂りを覚えていた。
「おじちゃん、おっきくなってるね」
少女は笑った。
気がつくと、ブリーフごしに、小さな掌が両方とも、彼の股間をまさぐっていた。
妻にも聞こえている・・・そう感じて彼はぎくりとしたが、少女はかまわずにつづけた。
「いいんだよ。そのほうがあとあと、楽になれるから」

いままでなん組みの夫婦を、こうやって堕としてきたのか。
少女はあくまであっけらかんとしていて、ひどくもの慣れているようだった。
彼女はもう一度彼の股間に、こんどはブリーフのなかにまで掌をすべらすと、
「ガマンしなくていいからね」
と、彼だけに聞こえる声で囁いた。
彼はふすまの向こうの気配に耳を澄ませたが、なにも伝わってこなかった。


夫の月田とふすま一枚隔ててしまうと、節子はすくなからぬ気詰まりを覚えた。
初めて差し向かいになってみると、相手の男は年配こそ夫と似たり寄ったりではあるものの、
塗料や脂で薄汚れた草色の作業衣といい、ボサボサの白髪交じりの頭といい、陽灼けで赤茶けたシワだらけの頬といい、
どれもがスーツ姿にネクタイの夫を見なれた都会妻の目には、予想よりも見劣りするものばかりだった。

隣家に住む夫の上司夫婦のところに夜這いをかけてくるのは、みすぼらしい鼻垂れの不良少年だったし、
いつも2、3人連れだって現れてはお向かいの若奥さんを近くの納屋に連れ出して輪姦どうぜんのあしらいをくり返していくのが、
節子の父親以上の年恰好の野良着姿だったり―――

そういうところを見てきた彼女のまえに、若くて気分のいい男性が訪れるとは、さすがに期待してはいなかったけれど。
もう少しなんとかなったひとはいなかったのかしら?と自分の相手をみつくろってくれた夫に不満がよぎった―――と思う間もなく、汗臭い作業衣がいきなりのしかかってきた。

相手が長いこと節子に手を触れずにしげしげと眺めているばかりだったのは、たんに自分の獲物としてあてがわれた女の品定めに時間をかけていただけだったらしい。
ひきつった節子の喉もとに黄ばんだ前歯が性急に突き立ち、つけられた擦り傷のあとに紅いものが滲んだ。
ひりひりとした疼痛が、抗う人妻を苛立たせた。
組んずほぐれつ、互いに無言のまま、熱っぽい息づかいの応酬がつづいた。
ふすまの向こうの夫を刺激すまいと悲鳴をこらえたままの節子を、男はたたみの上に押し倒した。
そして意地汚く舌をふるって、擦り傷に滲んだ血をピチャピチャと舐め取っていった。

茶の間の雰囲気の急変に月田が気づいたのは、少女の巧みなまさぐりに負けて、ブリーフをしたたかに濡らしてしまった直後だった。
なま温かいいやな感触が、股間に気味悪く広がった。
どろりとした粘液を畳にこすりつけまいとして、あわてて自分の腰を畳からへだてようとすると、少女が上からのしかかってきた。
畳に貼りついた粘液の塊を、上から抑えつけられた彼の下腹部や腰骨が踏みしだき、念入りに畳に擦り込んでいった。
う、ふ、ふ、ふ・・・
少女は白い歯をみせてイタズラっぽく笑いながら、「わざとそうしてるのよ」と言いたげに、彼の鼓膜に自分の熱した呼気だけを注ぎ込んだ。
娘よりもずっと幼い少女相手になんという不覚・・・そんな想いが胸を噛んだ矢先、ふすまの向こうからなにかを耐えかねたような女のうめき声があがった。

あううううっ!

もう何年も、夫との営みさえ忘れかけた主婦は、強引に唇を奪われることで,自分のなかの女を否応なく呼び覚まされていた。
生臭い口臭にむせ返りながら、女は強引に重ねあわされた唇を、はずすことができなかった。
それどころか、粗暴に圧しつけられてくる分厚い唇に、つい自分のほうから応えてしまった。
胸許に擦り傷をつけられたすぐあとに、したたかに咬まれた首すじからは。
なま暖かい血がタラタラとしたたり落ちて、くたびれかかった黄色のカーディガンや地味なねずみ色のブラウスのえり首をべっとりと赤紫色に濡らしはじめていた。
けれども節子は、それをあまり苦には感じなくなっている。

男は節子のブラウスを引きちぎるようにはだけ、ブラジャーを剥ぎ取った。
ブラジャーの吊り紐がバチッ!と音をたててはじけ、むき出しの肩を鞭のように打った。
女の胸のふくらみはあまり豊かではなく、むしろ貧しげだった。
羞じらう乳房を男は掌をひろげて、たしかな手触りを確かめるようにくまなくまさぐり、支配していった。
あらわになった乳首は性急な唇に含まれて、クチュクチュと露骨な音をたてて、いまだかつて経験したことがないほど、下品に責められた。
「そこは咬まないで」
月田夫人はそういって相手を制しながらも、かりにそんなことをされてしまってもかまわないような気がしていた。
不思議に、痛みはほとんど感じなかった。
柔肌のうえから咬み入れられてくる牙の痛痒いような感触が、むしろ小気味よかった。
それは彼女の脳裏の奥深いところをジリジリと焦がれさせ、彼女の持っている常識や理性を突き崩していった。
さして美しいわけでもない中年女に過ぎない自分に、この貧相な作業衣の男は魅了されたように息荒くのしかってきて、欲情もあらわに迫ってくる。
夫さえ見捨てたかも知れないこの身体に。
女冥利―――ふだん使ったこともないそんな言葉が思い浮かんだのは、なにかのメロドラマの影響だろうか?
自身のそんな心の変化に戸惑いながら、節子はたたみの上に、展翅板の上の蝶の標本のように抑えつけられて、なん度もなん度も咬まれていった。
咬まれるたびに、古ぼけた畳には、この家の主婦の血潮が飛び散り、しずくを拡げていった。

えび茶のスカートから覗く脚にも、容赦はなかった。
肉づきのいちばん豊かなあたりに、男は目の色を変えて、力任せにかぶりついてきた。
「あぁ・・・」
かなりつよく咬んだのに、女の反応は鈍かった。
どこか鼻にかかったような、甘い媚びを含んでいた。
肌色のストッキングには、あぶく混じりのよだれが滲み、食いついた牙の下で他愛なくほぐれていって、ジリジリと裂け目を拡げていった。
節子は男が彼女の穿いているストッキングを愉しみながら咬み剥いでいるのを感じた。
夫の電話を受けてストッキングを脚に通したとき、ふと都会女に戻った実感が彼女の胸をよぎったが。
いまは、その都会女のシンボルのようなストッキングをよだれまみれの唇に汚され無残に破かれてゆくことに、不思議な快感をおぼえていた。
この男が愉しいというのなら、破かせてしまってもいい――そんな気分になっていた。


いつの間にか、ふすまは開け放たれていた。
お茶の間にいた節子の側の大立ちまわりのおかげで、しぜんと開いたのかもしれなかった。
着衣を着崩れさせながらねじ伏せられた月田夫人が、むざむざとストッキングを咬み破られていくのを目の当たりに、夫はなん度めかの射精をした。
みじめだという気は、不思議としなかった。
「ごめんなさい、あなた。我慢できなくなっちゃった。階上に行きますね」
妻が俯いて彼の視線を避けながらそういったときも、ああやっぱりあいつも女なんだな・・・と、そんなことをぼんやりと思っただけだった。

たたみの上に精液を散らした夫の様子になど全く関心を払わないで、節子は夫と少女のいる寝間を横切って、箪笥の抽斗からショーツの穿き替えを取り出すと、すぐにまわれ右をして情夫にひきたてられていった。
着ていたカーディガンやブラウスは、袖を片方脱がされて背中の後ろにだらしなくぶら下がり、ぶらぶらと揺れる片袖ごしに、半ばあらわになった貧相な背中が見え隠れしていた。
妻の白いふくらはぎの上で裂けた肌色のストッキングが、夫の目にはなせまかむしょうに艶かしかった。

彼の視界の届かないところでふたりがなにをするのかは、だれにでもわかることだった。
新婚以来二十年ちかくのあいだ、妻に浮いた噂などなかった。
長年連れ添った妻の婦徳が汚される。
夫人を強姦どうぜんに辱しめられることで、彼自身の名誉や体裁も損なわれる・・・そうした自覚はたしかにあったはずなのに、彼は自分の妻を凌辱の猿臂のなかから救いだそうとは、思わなかった。
階上は娘の勉強部屋のはずだった。
娘が戻ってくる前に、臭いや粘液などの後始末はつくのだろうか?どうせなら庭でやればいいのに・・・と、むしろ見当ちがいなことばかりが、彼の気になっていた。

頭の上で、古びた木目の天井がギシギシと軋んでいた。
天井の軋みは間断なくつづき、そのあいだじゅうずっと、彼の妻がひとりの女として振る舞っていることを伝えてきた。
彼にとって、決して名誉なことではないはずだった。
けれども彼にすれば、その軋みが長続きすればするほど、むしろ誇らしい気分になるのを自分に禁じることができなくなっていた。
だって、軋みが長ければ長いほど、今夜の客人が自分の妻のもつ魅力に満足しているということなのだから。
どうせ凌辱を遂げられてしまうのなら、自分の妻を魅力的な女として扱ってくれるるほうが、よほど歓ぶべきことではないか?

少女はそのあいだも、月田の身体のあちこちに取りついて、首すじや肩先、わき腹、お尻、太ももやふくらはぎ、それに足首にまで咬みついて、身体じゅうから血を抜き取っていった。
そのたびに、つねられるような疼痛が、彼の理性を挑発するように、皮膚の奥にまで沁み込んだ。
実の娘よりも幼い少女に支配されながら、情けないとは感じていなかった。
「良い子だね。おじちゃんの血でよかったら、もっとおあがり」
彼は優しい声で少女に呟き、少女は遠慮会釈なく与えられた権利を行使した。
二階では妻が犯されている。
そういう異常な情況におかれた彼が本来感じなければならないはずの救いようもない屈辱を、少女は嘲ることもなく、むしろ理解さえ示していて、彼女の幼い牙が、それを抑えがたい妖しい歓びにたくみにすり替えていくのがわかったから。

まだ天井ごしの物音が途切れないうちに彼が始めたのは、階下の部屋の後始末だった。
寝間に散らばった彼自身の血や体液は、少女がすでに丹念に拭い取って、きれいに隠滅してしまっていた。
父娘連れだってのこうした悪事に慣れているのだろう。手慣れたものだった。
身を起こすと軽い目眩がした。
「小父ちゃん、いつもよりがんばったもんね」
少女は屈託なげに笑った。
失血の眩暈に身体が痺れるのを感じながら、這うようにして隣の茶の間に向かうと、すべてが乱雑にひっくり返されていた。
ちゃぶ台は隅に押しやられて斜めになっていたし、差し向かいに置かれていたはずの二枚の座布団もてんでんばらばらに散らかって、二つ折れになった一枚にもう一枚が折り重なっていた。
少女が、雑巾を手渡してくれた。
雑巾は多少の汚れならそれ一枚で拭き取れてしまいそうな大きさで、きつめに絞ってあった。
畳には、まだ乾き切っていない血糊が不規則に幾すじとなく延びていた。
どちらかの身体がその上に乗っかったらしく、所々擦りつぶされていた。
おぞましいことに、白く濁った男の体液らしきものが、茶の間のそこかしこに付着していた。
それは、妻の身になにが起きたのかを、いやがうえにも想像させてくれた。
いや、この場ではまだ、妻の名誉は決定的な汚辱を受けていなかったはずだ・・・彼はそんなことを呟きつつ、しつように覆いかぶかさってくる妄念とたたかいながら、ちゃぶ台の脚にはね畳のへりに沁み込んだ体液を、不器用な手つきで拭っていった。
妻が生き血を吸われ弄ばれた現場に遺された血糊を拭き取るという卑屈な作業に、いつかマゾヒスティックな歓びを感じはじめていた。
いま雑巾にしみ込んでゆく赤黒い液体は、ついさっきまで妻の体内に脈打っていたはずだった。
妻はいったいどんな気持ちで、この深紅の血液を抜き去られていったのだろう?
少女は彼が妻を弄ばれた痕跡を隠滅する作業を手助けしながらも、時々ニタニタと薄笑いを浮かべては彼のことをちらちら盗み見ていた。
そして、飛び散った血潮のしずくに指先を染めては、チュッと行儀のわるい音をたてて舐め取っていた。
ふたりは無言のまま、畳やちゃぶ台や家具、ふすまや壁から血糊や体液を拭き取る作業に熱中した。
たまに交わされるのは「そこは?」「こっちも」「あぁ、こんなとこまで」と、拭い残しがないか確かめ合うための手短かに端折った言葉だけだった。
その間もずっと、顔を俯けて雑巾でこすり続けるふたりの頭上では、古びた木目の天井が重苦しい音をたてて軋みつづけていた。


階下の後始末がほぼすんだ頃、ふた色の足音が階段を降りてくるのが聞こえた。
降りてくるふたりの間に、そこはかとなしに通いあうものがあるのを、階下のふたりは感じた。
少女のほうはしてやったりという得意そうな色を一瞬あらわにしたが、すぐにあわててそれを押し隠した。
月田のほうは月田のほうで、ああやっぱりという諦めに似た想いと、なにかがうまく成就したあとの不思議な安堵と充足感とを同時に覚えていた。

さきに部屋に入ってきたのは、男のほうだった。
作業衣のズボンのベルトを、歩きながら締めなおしていた。
草色をした薄手のジャケットは、もともと塗料や脂で薄汚れていたが、情事のさなかに散らされた女の血が、それとわかるほどに上塗りされて、乾き切らないままにこびりついていた。
あとから男の背中に隠れるようにして現れた彼の妻は、さすがに後ろめたそうに目を伏せていた。
ざっと身づくろいをしてきたのだろう。夫人の着衣は、夫が懸念したほどには乱れていなかった。
階上にあがっていくときに片袖だけ脱がされていたカーディガンもブラウスも、いちおうはもとの通り着込んでいたし、失血のせいでさすがに顔色はよくないものの、蒼白く萎えた素肌の色は、いつもより濃いめに刷き直された化粧に紛れていた。
足許だけは、破れ落ちたストッキングがそのままになっていて、乱暴狼藉の痕をはっきりととどめていたのだけれど。

嵐が通り抜けたあとの夫婦は、互いにどう言葉を交わして良いのか口を開きかねて、しばらく気まずそうに視線をそらし合っていた。
吸血の習慣をもつこの父娘は、こうした夫婦ものをあしらうのに慣れていて、互いに困惑し合う夫婦の気分もほぼ正確に察しをつけていた。
旦那は女房に意気地無しと思われたくないだろうし、女房は女房でふしだらな淫乱妻と見なされて離婚でもされたら・・・などと余計な心配をすることなども。
どうやらこの夫婦はとくに、そんな感じがした。
生真面目で小心者どうしだったから、自分の恥ずかしい立場を誤魔化すために互いに相手を責めて修羅場を演じるほどの度胸も厚かましさもないのだ。
そして―――そうした小心者の善良さこそが、彼らにとっては何よりも好都合だった。

男はここの敷居をまたいだ直後の、あの冴えないウッソリとした様子に戻って、ぶきっちょに口ごもりながらいった。
「すいません。つい長居しちまって・・・世話んなりました」
平身低頭された夫のほうは、妻を犯した男がごく下手に出てきたことに軽い狼狽さえ滲ませながら、
「ああ、いえいえ・・・こちらこそ何のお構いもできませんで」
と、こちらもまたへどもどとした間抜けな返事を返していた。
かなり見当ちがいな挨拶ではあったけれど、状況を穏便に済まそうとする夫の事なかれな態度に、妻が少なからず安堵を覚えたのは間違いなかった。
あれだけ明白な事態になったのに、夫は献血行為以上のことはなにもなかったことにしてくれようとしている。
お互いを責めるよりも、いま崩されかけている日常の体裁をなんとか取り繕うことのほうが、この夫婦にとってはずっと重要なのだった。

なによりも、部活動帰りの娘の帰宅時間が迫っていることが、夫婦にとっての最優先の懸念事項になっていた。
ちゃぶ台まで蹴転がすようにして立ち去った茶の間がとにもかくにも片付けられているのに初めて気がつくと、
「後片付けまで・・・すみません」
節子はそういって伏し目がちに夫のすぐ脇をすり抜けて、そそくさと台所に立ち、ボールに浸された雑巾を手に取ると、それをギュッ、ギュッ、と手際よく絞った。
作業を始めると気分がすこし落ち着いたらしく、おなじものをふたつ用意すると、
「ごめんなさい。ここと、ここと、あとこっちにも」
と、階下に残った夫と少女が見落とした、当事者にしかわからないような場所に残されたシミや汚れを、くまなく拭き取っていった。
夫婦が身を寄せ合うようにうずくまって共同作業に熱中し始めるのを、吸血鬼の父娘は、虚ろな目をして見つめていた。

拭き掃除が終わると男は節子を手招きして彼女のまえに蹲り、両手で自分の肩につかまらせると、
節子の脚にまとわりついていた肌色のストッキングを片足ずつ丹念に脱がせていった。
彼女の夫は、その様子を、黙って見ていた。
妻を強姦した男が、妻の装身具を戦利品としてせしめていくところを。
節子が脚を代わる代わる上下させる拍子に、太ももやスカートの裏側が見え隠れした。
えび茶色のスカートには、裏地にべっとりと男の体液がこすりつけられていた。
もちろんそれは夫の目にとまったはずだし、節子もスカートの裏側に夫の視線が這うのを自覚したが、
男が否応なく動作を強いたので、立ち止まることはできなかった。
節子は夫のまえ、凌辱を受けた明らかな痕跡をさらけ出しながら、身繕いをすませていった。

節子の穿いていたストッキングを脱がせてしまうと、男はそれを押しいただくようにして口づけすると、
くしゃくしゃに丸めたまま作業衣の上着のポケットにねじ込んだ。
都会育ちの婦人の装いには不似合いな無造作なあしらいに、夫はズキリと胸を衝かれた。
塗料や脂の染み込んだ作業衣のポケットから、ねじ込まれた妻のストッキングのつま先がはみ出してひらひらと漂っていたが、男は気がつかなかった。

「おじちゃんはこの日なら会社にいるんだよ」
月田は、勤務先から持ち出した勤務割りを、少女に手渡した。
夜勤もあるし、せっかく来てくれても無駄足になったら可哀想だからねと夫がいうと、妻のほうもまた優しい小母さんの顔になって、
「お嬢ちゃん、よかったわね。小母さんもよかったらお相手してあげるから、よかったらうちにも遊びにいらっしゃいね」
などと、猫なで声を出した。
「あなたの参考にもなりますかね」
彼が男に遠慮がちに声をかけると、男はむしろ卑屈そうに身を屈め、すまんこって、あとでゆっくり見させてもらいます、というと、
その受け答えとは裏腹に、娘の手から取りあげた勤務割りに視線を落とした。
最初だから3、4日休むとして・・・男は小声で呟きながら、考え深げに目を細めた。
「日中お越しになれるんでしたら、私も娘もおりませんよ」
「ハハァ、たしかにそうですな」
「夜勤明けには家におりますから・・・その日だけはかんべんしてもらえたら」
月田はそう言いかけたが、男がちょっと不快そうな顔色になるのを見越すとすぐに、
「いや、どうしてもというのなら、無理には願いませんけれど」
と、言い直した。月田の協力的な態度に、男はあきらかに、心証をよくしたらしい。
「なに、いまさっきとほとんど変わりはしませんよ・・・せっかく仲良くなったんだ、奥さんに逢いたくなったら、いつでも来ますで」
とぼけた口ぶりで、夫の言いぐさに応じた。
男ふたりは声をあわせて低く笑った。
節子は茶の間に背を向けて台所に立ち、男ふたりの笑い声を背中で聞きながら、自分たち夫婦の血のついた雑巾を洗っていた。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 3 月田氏、吸血娘の餌食になる。

2018年10月21日(Sun) 08:03:29

「あー、お嬢ちゃん、もぅ少し手加減してくれないかな?おじちゃん貧血になっちゃうよ。」
月田はきょうも、濃紺の薄手の沓下を履いていた。
彼はさっきから足許にうずくまっている少女に、まるで近所の顔見知りの女の子に対するように親しげに話しかけたが、
そのじつ彼女の素性については、村に棲む血を吸う習性をもった女の子という知識しかないのだった。
何しろ顔を合わせるのは、きょうみたいに血を吸い取られるときだけだったから。

少女は案外もの分かりよく顔をあげて、吸い取った血に染まった口許から白い歯をみせ、ニッと笑った。
「ああそうね。おじちゃんトシだもんね。いいよ、きょうはこれくらいで勘弁してあげる」
彼女は、男の履いている沓下の破れ目にもう一度口をつよく吸いつけて血をもうひと啜りだけすると、
たくし上げていたスラックスをあきらめ良く降ろして口を拭った。
「お嬢ちゃん、聞き分けがいいね。いつも私なんかのまずい血を吸ってもらって、すまないね」
しんそこそう思っているらしく、彼の言葉つきは、少女の小さな背中を撫でるようないたわりに満ちていた。
少女は、今年中学二年になる彼の娘よりも、まだずっと小さかった。

少女がこの事務所にくるようになって、1週間くらいになるだろうか。
それともすでに、10日ほどにもなるのだろうか。
記憶のほうもさだかではない。
執務中首のつけ根のあたりにチクリとかすかな痛みが走ったのが始まりだった。
噛まれた首すじを抑えて振り返ると、いつの間にそんなことをしたのだろうか、彼の席のすぐ後ろにわざわざ椅子をひとつ持ってきて、その上によじのぼって背伸びをして、少女は彼の首すじを吸いはじめていたのだった。
気がついたときにはもう、咎めることさえできない状態になっていた。
彼女はがんじがらめにした獲物の首すじに取りついて幼い歯で皮膚を咬み破ると、おもむろに血を吸いつづけたのだった。
くいっ・・・くいっ・・・と、猛禽類が獲物を漁るときのような、獰猛な音を立てて。
それが、月田の供血体験のはじまりだった。

少女が事務所に現れるようになって数日後のことだった。
吸い取られる血の量はさほどでもなかったけれど、毎日ともなるとさすがに、疲労が累積する。
きょうは退勤まで来なかったなと内心ほっとしながら、それでも半分は拍子抜けして通勤鞄を手にすると、スラックスのすそを引っ張られた。
事務所のまえには彼女の父親らしい、自分とほぼ同年輩のごま塩頭の男が、草色の作業衣姿で佇んでいた。
「おとうさん」少女はひと言そういって、あとは目で訴えている。
どうやら父親の目当ては彼の血ではないらしい。
ああそうか。彼はすぐに気がつくと、自分の察しのわるさを恥じるように頭を掻いて、「どうも」と相手の男に会釈した。
男もぎごちなく挨拶を返すと、これも一言だけ「よろしく」と低い声でいった。
不器用なもの同士の共感がお互いのあいだに流れ、ちょっとだけ打ち解けた雰囲気が漂った。

それでじゅうぶんだった。

月田は、この男なら妻を襲わせてもよいという気になった。
この村に越してからもいまだに都会妻としてのプライドを捨てず、いつもこぎれいに装っている妻と、
薄汚れた作業委姿の貧相な男とが、なぜかとても似合いなように感じられた。

「行こう、ね?」
ナギは得意げに、ニッと笑った。
三つの人影は都会から越してきたばかりの彼の宿舎――なにも知らないその妻が待つ――を、まっすぐ目指した。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 2 黒沓下の男の身の上

2018年10月21日(Sun) 07:57:02

黒沓下の男の妻が長老の愛人の一人に加えられたのは、着任そうそうのことだった。
老人の家の法事の手伝いという名目で寺に集められた婦人たちの中に含められた彼女は、そこが初めての供血の機会になることを薄々予感していた。
むろん彼女も、夫が彼女を伴って赴任するという土地の風習を、あらかじめ聞かされていたのだった。
そうまでしてまでいままでの日常を捨てざるを得なかった理由は、ひととおりでないものがあるはずだったが、彼女は決してそれを語ろうとはしなかった。
寺に集められた婦人たちは、黒の礼服の着用を義務づけられていた。
彼女もまた他の婦人たちと同じように、薄黒の沓下に足許を染めて、よく磨かれた本堂の床につま先をすべらせた。
そこには仕事らしいものはなにも用意されてなく、広間に居並んだ彼女たちは一人一人、それぞれ別々の男女に手を引かれ、小部屋へと引き入れられていった。彼女はそこで初めて血を吸われた。
首すじを咬まれ痛痒く疼きはじめた傷口を抑えた彼女は、どうして黒の礼服なのか覚ることになった。
たたみの上に彼女の脚を抑えつけた吸血鬼は、黒のストッキングのうえから存分に舌をふるって欲情もあらわに辱しめをくわえ、挙げ句にブチブチと咬み破っていったのだ。
彼女は、弔いのための装いがそのまま、彼らのふらちな欲情を満たすための馳走になることを知った。

礼服を着崩れさせながら、当然のように犯された彼女は、
齢不相応に旺盛な老人の性欲に戸惑い、辟易し、そしてさいごに、積極的に応えてしまっていた。
別れ際投げられた、夫に黙って呼び出しに応じるように・・・という誘いに、目を瞑ったまま頷いていた。

老人には六、七人ほどの専属の愛人がいた。
それ以外に、不特定の吸血鬼の相手をする一般の住人たちからも、時々血の提供を受けていた。
ひとりの人間から採れる血の量には限度があり、善意の供血者の健康を損ねないために、老人は愛人たちのあいだを順繰りに往き来しているのだった。
老人は、みずからの干からびた血管を、この都会育ちの人妻の血潮で浸すことに満足を覚えた。

妻が密会をしているという事実を黒沓下の夫が知ったのは、長老本人からだった。
寺での密会の直後、事務所にあらわれた長老は、着任そうそうというだけの理由で、中年でさして血の美味そうなわけでもない彼を指名した。
大物のご指名ということで周囲から驚きと称賛のどよめきを勝ち得た彼は、他の同僚がそうしているように、会議テーブルに移ってスラックスのすそを引き上げ、まだ履きなれない薄い沓下の脛をあらわにした。
沓下の色は、老人が指定した。
さっきこの男の妻の脚から咬み剥いだストッキングと、同じ色だった。
夫婦で同じ色の靴下を履かせてそのふくらはぎに咬みつくことに、老人は異常な歓びを覚えた。
夫はまだその時点では知らないことではあったが、妻が経験したのとおなじ初めての疼痛を、足許に染み込まされていった。
相手の男がさっき妻を犯してきた男とはつゆ知らない夫の体内から獲た働き盛りの血液は、老人の体内で妻から吸い取った熟れた血液と交じり合った。
夫婦の血からもたらされる温もりに、老人は目を細めた。

「いい人に見込まれましたね」
同僚たちは、真顔で彼を祝ってくれた。
初めて供血をしたその日は、事務所内でビールが振る舞われ、ふくらはぎに疼痛の余韻をじんじんさせながら、本人だけは特別にと、祝い酒の盃まで用意された。
帰宅した夫の沓下が破れていたことに、妻はなにもいわなかった。
もちろん彼女は、何もかも弁えたうえで黙っていたのだが、
自分の身になにが起きたのか言葉を交わすことなく事情を伝えることができたことを、彼は好都合だと感じた。

早くも翌日には二度目の御成りがあった。地位の高い吸血鬼の来訪は、とくにそう呼ばれていた。
さっそくスラックスをひきあげた片脚に咬みついて、ストッキング地の沓下をはでに破いてしまうと、
もう片方の脚にも取りついて、薄い沓下の生地をクチャクチャと露骨に舌を鳴らしてしわ寄せながら、彼のことをにんまりと見上げていうのだった。
「奥さんの沓下とはまた違った、エエ舌触りじゃ」
え?と怪訝そうに首を傾げた彼は、すぐにすべてを理解した。
男が黙って差し出した紙片には、こう書かれていた。

貴方のご令室には何月何日に当家の法事にご列席賜り、
その席上で格別のご厚意を頂戴した。
当村の仕来たり上、吸血の際は夫婦同然の縁をとり結ぶことになっているが、
ご令室には忝なくもご快諾いただき、その場でことの成就に及んだ次第。
夫君におかれては本来、事前のご承知おき賜るべきところであるが、
時宜やむを得ず次第が前後した。
まげてご承引ありたい。

なお、貴兄の好むと好まざるとにかかわらず、
今後、貴兄のご令室がその身に宿す血液を日常的に摂取することを申し添える。

                   (署名)

貴殿の有難いお申し出とご配慮に感謝し、
ここに改めて、貴殿と妻との交際を認め、
最愛の妻の貞操を貴殿に無償で進呈することを誓約します。


よく見ると紙は、視たこともないほど上質のものだった。
注がれる鋭い視線に辟易しながらも、夫は持たされた筆で、さいごにかかれた三行のすぐあとに、自分の氏名を書き込んでしまった。
書き込む瞬間、男に咬まれた傷口が狂ったように疼き、異様な歓びに胸の奥が打ち震えるのを、はっきりと感じながら・・・

黒靴下の男がほろ苦い笑みを含んで見せた誓約書の内容に、新来の同年配の赴任者である月田は、濃紺に染まった足首を震わせて、自分たち家族のまがまがしい行く末を、はっきりと予感したのだった。

≪長編≫ 吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 1 勤め人たちの献血

2018年10月21日(Sun) 07:45:57

はじめに。
今回は珍しく、長編です。
しばらくまえに病気をしたときに書きためたものを、すこし直してあっぷしてみました。

じつは、まだ完結していません(ほぼ完結状態なのですが)。
そのおつもりで、お愉しみください。^^


「お互い、情けないことになりましたな」
「いや、まったくそうですな…」
向かい合わせに腰かけて、背中を丸めて愚痴りあっているのは、ほぼ同年輩の五十に手が届こうかという分別ざかり。
しかし交わされる言葉の内容のわりには、彼らの語調には卑屈さも悲壮感もなく、職場の片隅でひっそり語られる世間話のような穏やかさに終始していた。
二人ともスラックスを片方ずつ、ひざのあたりまでたくしあげていて、淡い毛ずねの浮いた脛は、ひとりは黒、ひとりは濃紺の、ストッキング地の長沓下に包まれている。
傍らの壁に掲示されている月間予定表の罫線の引かれた業務連絡用の黒板はすべて空欄になっていて、注意事項が一箇条だけ黄色のチョークでおおきく書かれていた。

   供血希望者はストッキング地の膝下丈のハイソックス(紳士用可)
または婦人用のストッキングを着用の上勤務すること。

濃紺の沓下の男の足許には小学生くらいの女の子が、もうひとりの黒沓下の男のほうには野良着姿の老人がむしゃぶりついて、薄黒いナイロン生地にしわを寄せている。
この村に棲む吸血鬼たちは、ストッキングを穿いた女の脚に好んで咬みつく習性をもっていた。
すね毛の浮いた中年男の脚などに咬みついて頂くには、“みば”だけでも良くするのがエチケットとされていたのだ。

吸血鬼たちは、働き盛りの男性の持つ活力のある生き血を求めてこの事務所に出入りしては、馴染みになった職員をつかまえて、日常のご馳走にあずかっている。
事務所内に立ち入ってきた吸血鬼にひっそりと手招きされると、職員たちは執務中でもペンをおいて席を起ち、この打ち合わせスペースにしつらえられた会議用机の席に移ってきて、自分の血を目あてに現れた顔色のわるい老若男女のために、スラックスのすそをむぞうさに捲りあげるのだった。
濃紺の靴下の主も、黒靴下を履いた男も、いつもと同じ相手に手招きされると、片手間のような不熱心さで取り組んでいた事務仕事を放りだして、こちらの席に移ってきた。
ふたりとも、咬まれるまえのすこしの間、小首を傾げしかめ面をつくった。
ストッキング地の薄手のナイロン生地ごしに、なま温かいべろがねっとりとしつこくなすりつけられて、ぬるっとしたよだれをジュクジュクと沁み込ませてくるのを感じたからだ。
自分の父親ほどの齢と思われる男が、同性である自分に欲情している――そう思わざるを得ない状況に、黒沓下の男はゾクリと胸をわななかせた。
足許に這いつくばったみすぼらしい老爺は、都会帰りの息子の嫁をモノにしたと自慢していたが、同じ年恰好をした自分の妻もモノにされてしまっていることを改めて思い出す。
彼らは寝取った人妻の夫までも、愛する性癖をもっていた。

表情を消した中年男たちは、向かい合わせに座ったまま、
互いの視線をさけるようにして、足許からチュウチュウとかすかにあがる吸血の音に、薄ぼんやりと耳を傾けていた。



濃紺の長沓下の男は月田といって、この春当地に転任してきたばかりだった。
それまではずっと、都会の事務所を転々としてきた。
妻も娘も、都会生まれの都会育ち。この村とはなんの縁故もなかった。
しいていえば―――この会社のオーナーが、この村の出身だった。
入社してすでになん十年ともなると、任地についてのぜいたくは禁句というのが常識だった。
まだしも、彼の場合は恵まれているというべきだった。
かなり込み入った性格試験や何回にもわたる面談のすえ、秘密厳守という誓約書にサインまでさせられた上ここのポストを打診されたのだから。

不思議な部署だった。
仕事らしい仕事はとくに与えられず、そのくせ彼のキャリアや年齢からすると、びっくりするほどの高給。
ただし家族を帯同することが義務づけられていた。
この部署の人間にしいて仕事があるとすれば、それは地域との交流・親睦活動だった。
この村には、外部には固く秘された風習があった。
一部の村人の間に吸血の習慣があり、それは直接皮膚を咬んで経口的に行われるという。
この村の赴任者が要求されたのは。
村に棲みつく吸血鬼たちに血液を提供することであり、家族を帯同するのもまさにそのためであった。
山あいの小さな村に棲む住民たちの限られた血液提供者だけでは、吸われるべき血液の量が不足がちになることを憂慮した会社のオーナーが、
過疎化で慢性的になりつつあった血液不足を解消するために、自社の社員や家族で埋め合わせをはかろうとしていたのだ。
家族全員が血液提供者の輪にくわわると、その社員はぶじ職責をはたしたものと見なされるのだった。

田舎の歪んだ風習に染まって、自分ばかりか家族までもが土地の者たち相手に生き血を吸われる―――
なんとも異常でおぞましいはずの部署だったが、会社の打診に応じて赴任してくるものも、細々とではあるものの、あとがたえないのも事実だった。

月田の場合、身内の金銭トラブルで巨額の借金を抱えていた。
娘は引きこもりになりかかっていた。
生命の保証付きときいて、なにかに追われるような日常に疲れきった彼の妻も、気抜けのした顔で賛同した。
娘さんにはあとからの説明でじゅうぶんでしょう、という人事担当者のいうことを鵜呑みにして、めんどうなことは後で考えることにした。
というよりも、いまの出口のない状況を考えると、ほかにもっとましな選択肢は、ないように思われた。
しかしその見込みがやや甘かったことを、彼は薄々ながらさとることになる。
ほかならぬ目の前に向かい合わせに座って、せっせと地域交流に励んでいる男の送る日常が、彼とその家族の未来を憶測させてくれたのだ。

いま彼の向かいに座っていて、老人の農夫に黒靴下を噛み破らせてやっている男は、妻を帯同していた。
息子はすでに成年に達していて同居もしていなかったので、帯同の義務は生じていなかった。
月田よりも半年ほど前に着任した彼の妻には、すでに公然の愛人ができていた。
妻の情夫は村の長老のひとりで、現にいま、夫である彼自身の黒沓下の脚に噛みついている男だった。
そう、いま彼は、自分の妻を日常的に犯している男のために、血液まで提供している・・・

妻と母親の血を吸った男たちに、「エエ女にありついた。」と言われた場合。

2018年09月18日(Tue) 05:59:21

吸い取ったばかりの血を、口許からまだしたたり落しながら。
そのごま塩頭の男は、露骨に嬉しげな声をあげた。
「久しぶりに若い女の血にありついた。
 やっぱり若いひとはエエの!
 なんといっても、活きがエエ。匂いがエエ。
 それになによりも――あんたの嫁はエエ身体をしておるの」

吸血鬼の棲む田舎町だった。
それと知りながらも、都会暮らしのできなくなったわたしたち夫婦はその村に移り住んで、
予定通りと言われても仕方のないくらいすんなりと、
妻を襲われ生き血を吸い取られてしまっていた。

襲った女性は、決して死なせないという。
その代わり、女性がセックスを識る身体の持ち主の場合は、例外なく犯されるという。
そのうわさがほんとうだということは、
先に襲われて昏倒したわたし自身が、尻もちをついたまま見届ける羽目になっていた。

「ご主人、悪く思わんでくれ。
 わしらはこういうたしなみのないモンぢゃから、
 モノにしたおなごのことは、なんでもかんでも欲しがってしまうのぢゃから」
男の言いぐさは、もちろんなんの慰めにもなっていなかったけれど。
いちど股間に受け容れてしまった逸物の名残りを忘れかねた妻は、
わたしのかたわらで恥ずかしそうに寄り添いながらも、
まんざらでもない顔つきになっていた。
そしてその翌日から、
吸血鬼の誘いを受けた妻が断りかねて、小ぎれいに着替えていそいそと出かけてゆくのを、
車で送り迎えするようになっていた。

両親が村までわたしたちの様子を見に来たのは、それからひと月後のことだった。
こういう村だから来ないほうが良い・・・と、たしかに言ったはずなのだが、
ふたりともわたしの忠告を聞き流してしまったのだろうか。
果たして――かつて評判の美人だった母は、吸血鬼の目に留まってしまう。
五十代半ばになりながらも、母の容色はまだ衰えていなかった。
相手の吸血鬼は、妻の愛人となった男の兄だった。

母がどんな経緯でモノにされて、父がどんな経緯で納得させられてしまったのか、
その場に居合わせなくてもおおよその察しはついた。
夕方出かけていったふたりは深夜まで戻らず、
足音を忍ばせてわたしたちの家に戻って来ると、夕食も取らずに階上の寝室へと向かっていった。
階段を昇る母の後ろ姿だけは目に入ったが、
真っ白なロングスカートのお尻には泥が撥ねていて、
肌色のストッキングは見る影もなく破けていた。
視てはいけないものを視てしまったわたしは、
妻に手を引かれるままに足音を消してその場を立ち去り、
「視なかったことにするのよ、私のときみたいに」
と囁く妻に、意味もなく頷き返していた。

永年連れ添った妻をモノにした男は、父に言ったそうだ。
「エエ女ぢゃ、久しぶりにエエ女の生き血にありついた。
 落ち着いた味わいの、熟れた血ぢゃ。
 それに、あんたの嫁は身体もエエの・・・」

それからは。
嫁姑と連れだって、小ぎれいに装って出かけて行った。
男ふたりは家に残って、
村はずれの納屋に連れ込まれて、いけないことをされている刻限に、
黙々とコーヒーを飲んだり将棋を打ったりしていたけれど、
そのうちにどちらから言い出すともなく、妻たちのあとを追って家を出て、
お互い別々のところから、自分の妻がどのような目に遭わされているのかを、気づかうようになっていた。

都会妻が納屋で辱められるシーンを視るのは、
屈辱でも拷問でもなくて、むしろ特権なのだとわかり始めるのに、さして時間はかからなかった。

近親婚の多い村では、ほかの血は貴重だという。
他所の女が来るとてんでに手を出してはらませて、生れた子供は村の子供としてたいせつに育てるという。
その年のうちに、ふたりの都会妻は妊娠して、
父には恥掻きっ子と初孫が、
わたしには齢の離れたきょうだいと初めての子供ができたのだった。


あとがき
自分の妻や母親を襲った男に、「エエ女にありついた♪」と言われたときには、
いったいどんな顔をして応対するのが正しい礼儀なのでしょうか?
とくに配偶者や母親がまんざらではないという顔つきをしていて、
今後も関係が継続していくと見込まれるときには、慎重に配慮する必要がありそうですね。^^

ねん挫。

2018年09月18日(Tue) 05:32:02

広い校庭のなか。
ふたつの人影が、全速力で走っている。
さきを走るのは、制服姿の少女。
あとから追いかけるのは、黒衣の吸血鬼。
(このブログのなかでは、見慣れた光景である)

吸血鬼は少女の血を吸おうとし、
少女はそうはさせまいと懸命に走っているのだ。

そのうち少女のほうがあっ!と声をあげ、
その場にまろび伏した。
足を痛めたらしく、足首を抑えて痛がっている。
吸血鬼はそのまま少女に駆け寄ると、ひと言「大丈夫か」と声をかけ、
少女の足許にかがみ込むと、やおら黒タイツを穿いた脚に咬みついた。

キャッ!
少女はさらに声をあげ、抗おうとしたが、ねん挫をしてしまった激痛に耐えかねて、抵抗の力を喪った。
卑怯だわっ!卑怯だわっ!
少女は血を吸い取られながらも、切れ切れな悲鳴交じりの叫び声で、相手を非難しつづけていた。

ひねった足首を丁寧にほぐし、入念にようすをみると、吸血鬼は言った。
「とりあえず応急処置はしたけれど、だいぶひどくひねっているから、医者に診てもらうしかない」
咬んだ傷口から少女の血液に織り交ざった毒液は、痛み止めの役目を果たしていた。
それでも少女は恨みがましく吸血鬼をにらみつけていたけれど、
自分に背中を向ける吸血鬼に大人しく負ぶさって、素直に背負われていった。
「自分の血を吸ったやつにおんぶするなんて!」と、奇妙な怒りかたをしながら。

そのあいだ。
校庭を見おろす位置にある職員室からは、だれも出てはこなかった。
無責任な学校!といいたいところだが、
この学校は吸血鬼に開放されており、生徒はもちろん女性教師の血まで吸い放題となっていたのだ。

翌日。
放課後の行程を、おなじ少女が軽くびっこを引きながら、重たい鞄を下げて歩いていた。
クラブ活動を終えて、家路につくところだった。
目のまえを黒衣の男が遮ると、少女は恨めしそうな目で相手をにらんだ。
「大丈夫か」
気づかう相手に、「どうにか歩ける」とぶっきらぼうに少女が応えると、
差し伸べられた手に重たい鞄を預けていった。

すこし距離を置いてとぼとぼと歩くふたつの人影が、
少女の家の間近にある公園のまえで立ち止まり、
どちらからともなく、中へと入っていった。
「少し休む」
少女はベンチに腰掛け、男はそのベンチに鞄を置いて、さりげなく距離を取った。

きのう黒タイツを破かれた少女は、真っ白なハイソックスを履いていた。
その足許をじっと見下ろしながら、少女は吸血鬼のほうは振り向かずに言った。
「きのうのお礼なんか、言わないからね」
それはそうだ。
そもそも吸血鬼に追いかけられなかったら、しないで済んだねん挫だもの。
「足、軽く済んで良かったな」
ハイソックスに隠れた足首に巻かれた包帯の薄さに目配りしながら、吸血鬼はいった。
「ウン、軽く済んだ」
少女は足許を見おろしながら、いった。
それからもうひと言、ためらいながらつけ加えた。
吸血鬼のほうには、目もくれないで。
「脚、咬んでもいいよ」

吸血私娼窟~息子たち~

2018年09月08日(Sat) 06:22:26

ぼくのママを抱いたんだろう?
ツヨシの眼差しはまっすぐだった。
洋司は無言で肯いた。
どうだった?
よかったよ
つい正直に応えてしまってから、しまったと思った。
ああやっぱり・・・と、ツヨシはかなり無念そうな顔をしたから。

きみは自分のママのことを抱かないの?
ツヨシは訊いた。
ボク、視ているだけでじゅうぶんだよ。
ふーん、そんなものなのかな。
感じ方は、人それぞれじゃない?
それはそうだよね。
これからも、ぼくのママを抱くつもりなの?
ツヨシの目つきは、せつじつだった。
どう応えたものかと、洋司はちょっぴり迷った。
迷ったあげく、訊いてしまった。
ツヨシのパパにも迷惑だよね。
洋司の問いは、ちょっとした反撃になった。
ツヨシは洋司から目をそらして、口ごもりながら、いった。
あの人は、ママのことを吸血鬼に譲った人だから。。
そういう言い方は良くないよ。
そうだね、ところで、ぼくがきみのママを抱いたって言ったら、怒られる?
こんどはツヨシの言葉が、洋司への反撃になっていた。
お互い、対抗意識を自覚しないまま、やり取りを深めていた。
ウウン、そんなことないよ。で、どうだったの?
洋司はつとめて事務的に応えた。
ウン、よかった。
ツヨシの答えは、実感がこもっていた。
なら、よかった。
洋司の相づちにも、共感が込められていた。
あっさりしてるんだね。
たいせつな母さんを犯されたんだ。せめて悦んでもらわなくっちゃ。
ツヨシはちょっと考え込んでから、いった。
そういう考え方もあるんだね。勉強になったよ。
勉強って・・・
洋司は笑いかけたが、ツヨシのしんけんな目線に打たれて、それ以上の笑いを引っ込めた。
そしてただ、「視ているだけっていうのも、案外いいよ」とだけ、いった。
そういうものなんだね。
ツヨシは案外、素直だった。
こんど、ぼくもやってみるよ。ガマンできるかどうかわからないけど・・・
そうだね、おススメだから。
そうなんだ。おススメなんだ。
ふたりは初めて、笑いあった。

こんど、うちへおいでよ。うちに来て、ぼくの前でママのことを誘惑してみてよ。
ママが堕ちたら、抱いてもいいから――遠慮しなくていいからさ。
こんどは、視ているだけにするから――

ツヨシの顔を見て、洋司は無邪気に笑い返した。
ウン、ぜひ、行くね。
そして、忘れずにつけ加えた。

ガマンしなくても、いいからね。


9月3日構想 8日脱稿

あとがき
妄想が複数からまり合うと、お互い邪魔し合うわけではないのですが、どれもこれもモノにならなくなって困ります。
ひとつひとつの妄想は、お話にするほどのパワーがないのかもしれません。
ただ、ほんのささいな表現とか言葉とかしぐさとかが、わたしのことを魅了してやまないから、そこから動けなくなるのです。
いまがちょうど、そういうときなのかも。

悩み。

2018年09月06日(Thu) 08:00:53

ぼくには吸血鬼の幼馴染がいます。
中学生のころから、血を吸わるようになって、
社会人になったいまでも時々家まで訪ねていっては血を分けてあげている間柄です。

お互い適齢期になりましたが、彼にはお嫁さんになってくれる女性がいません。
彼は処女の生き血を吸いたがっているのですが、
血を吸わせてくれる若い女性がなかなか見つからないのです。
一方で、ぼくには彼女ができて、来年の春には結婚の予定です。
それで、処女の生き血を欲しがっている彼のために、自分の彼女を紹介してあげることにしました。

彼女の名前はキヨミさん、22歳のOLです。
ぼくはキヨミさんに事情を話して、親友の彼に処女の生き血を吸わせてあげたいと頼みました。
彼女はこころよく引き受けてくれて、3人で会うことになりました。
未来の妻になる彼女を連れて、親友の家に遊びに行ったのです。

彼はぼくの彼女の首すじを咬むのを遠慮たので、脚から血を吸うことになりました。
ストッキングが破れてしまうことを気にする彼女に、それが彼の好みだと告げると、
それなら仕方ないわね、と納得してくれました。
彼がキヨミさんの足許に唇を吸いつけて、キヨミさんの履いているストッキングを破りながら吸血する光景を、
ぼくはなぜかゾクゾク昂奮を感じながら見守ってしまいました。

キヨミさんは、時々なら彼と逢っても良いと言ってくれました。
ストッキングを破かれた以外は、とても紳士的だったとも言いました。
ただしぼくが必ず同席するという条件付きでした。
彼はもちろん、ぼくもキヨミさんの好意に感謝しました。

けれどもぼくは、キヨミさんにたいせつなことをひとつ、告げていません。
彼はセックス経験のあるご婦人から吸血するときには、必ず性的関係を結ぶ習性をもっているのです。
ぼくとキヨミさんとの結婚を、彼は心から祝ってくれています。
けれども、これからも彼をキヨミさんと逢わせると、いったいどういうことになってしまうのでしょうか。

キヨミさんは、ぼくの同席が絶対条件だといっています。
ぼくは彼とキヨミさんがどんなふうになってしまうのか、さいごまで見届けなければならない義務を負ことになりそうです・・・

夫婦の生き血と地酒

2018年09月05日(Wed) 07:30:12

あー、地酒が旨いや。
引っ越してきたばかりの田舎町の夜、そんなのん気なことをほざいていたら。
せっかくだから、嫁さんも呼んだら?
と誘いをかけてきたのは、馴染みになったばかりの白髪頭の村の衆。
さっそく妻を呼び寄せた。
妻も呑ん兵衛だったから。

一時間後。
あー、あんたらの血は旨いや。
ぶっ倒れた俺たち夫婦を見おろしながら、そんなのん気なことをほざいていた。
この村が吸血鬼の棲む村だと初めて知ったときには、もう遅かった。
男が俺の首すじに埋めていた牙を引き抜くと、
吸い取ったばかりの血がたらたらと垂れた。
それからやはり首すじから血を流している妻のほうへと這い寄って、
淡いグリーンのスカートから覗いたふくらはぎに、ぬるりと舌を這わせていった。
肌色のストッキングを波立てながら、ぱりぱりと音を立てて咬み破って、
キウキウと音を立てて、妻の生き血を吸い取った。

 すまんのう。しきたりでの。
 初めてモノにした人妻さんとは、仲良くなることになっとるんじゃ。
 あんたの前じゃ気の毒じゃから、向こうに連れてってからするでの。
男は申し訳なさそうにそういいながら、
傍らで大の字にぶっ倒れている妻の腕を引っ張って、
半開きのふすまの向こうへと、さも重たそうに、引きずっていった。
全身から血を抜かれた俺は、身じろぎひとつできないままに、
処刑場に引かれてゆく妻の足許を見送っていた。

ようやく血の気が戻って這い寄った、ふすまの向こう。
妻はとっくによみがえって、素肌をピンク色に染めて、男とまぐわい続けていた。
はあっ、はあっ、はあっ・・・
せぃ、せぃ、せぃ・・・
髪を揺らし、腰を振り、目もとを蒼白く輝かせながら。
さいしょは強いられていたはずのセックスを、恥を忘れて歓びはじめていた。

朝になって、ふすまの向こうから男に伴われて現れた妻は、
はだけたブラウスを気にかけながらも、男のほうをふり返り、
ぱしぃん!と一発、平手打ちをくれた。
 帰りましょ、あなた。
女はそういって俺を引き立てるようにして起こして、そそくさとパンプスにつま先を突っ込んでいった。

それ以来。
週末には男の家に夫婦で招ばれて、酒を酌み交わす日常が始まった。
酔いつぶれたぶっ倒れた俺の目のまえをはばかって、
妻はふすまの向こうへと引きずられていって、
俺はそろそろと這い寄って、妻が地元の男と仲良くなるのを、見物して愉しんでいた。
別れぎわにはいつも、妻は男の頬ぺたに平手打ちを食わせて、
 帰りましょ、あなた。
といって、俺の手を引いて家路をたどるのだった。

妻は絶対、怒っていない。
その証拠に、男の招きを受けると必ず、小ぎれいな服に着替えて、
肌色、黒、ねずみ色と、色とりどりのパンストを脚に通しすのだった。
――男の舌を愉しませるために。

あんたら夫婦の血は、やっぱり旨い。
男は今夜もほくそ笑んで、俺に囁く。
あんたの血はマゾの味がするな。そこを見込んで誘ったのじゃよ――と。

吸血私娼窟~幼馴染の母親~その後

2018年09月03日(Mon) 05:23:00

洋司が噛んだのとおなじチューイングガムは、苦かった。
身づくろいをしている母親、美代子の傍らで。
ツヨシはかたくなな顔つきで、ひたすらガムを噛んでいた。
「洋司のママも、きょうだったよね」
息子の言いぐさに「さあどうだったかしら」と美代子は受け流したけれど、
顔にはありありと「そのとおり」と、書かれてあった。
「あなたも、ここに来る権利あるんだからね」
ニッと笑った母親から目を背けて、ツヨシは黙って母の部屋から出ていった。
「お次のかた――」
息子に聞こえるようにあげた声には、事務的な響きがあった。

きょうは、知ってるひとばかり来るんだから。
夫の腕のなか、美代子は軽く拗ねてみせる。
診療を終えてまっすぐここに来たのだろう。
4時半という時計の針が、美代子にそれを教えてくれている。
「4時終了なんて怠け過ぎじゃない?」
そうたしなめる若い妻に「親父の代からの方針なんだ」と答えたのは、もう十年以上も前のことだった。
「ほかにだれが来たの?」
そう訊く夫に憶えきれないほど来たわよといって、美代子は元同僚の医師の名前をひとりだけ告げた。
「あいつか・・・」
夫は苦い顔をしてすこしのあいだ黙りこくったが、
「でもあいつも、奈穂さんをだれかに奪られたってことだよな?」と、妻に同意を求めた。
「なによそんなこと」
お互い様だっていうことで自分を納得させようとする夫を笑い飛ばしながら、
今日はもう一人予約が入っているの、と、彼をドキリとさせるのも忘れなかった。

それはだれ?
問いを重ねる夫を「業務上のヒ・ミ・ツ♪」と受け流した美代子は、
「次の方~♪」
と、夫を無視して声をあげた。
入って来たのは、美代子を初めて犯した吸血鬼だった。
「美代子は元気なようだね」
部屋の隅に夫がいるのを認めた吸血鬼は、すぐに声をかけてきた。
「そのせつは、どうも・・・」
へどもどとわけのわからないあいさつを返す夫に慇懃なお辞儀を返しながら、吸血鬼はいった。
「初めての日にご主人が客として来てくれるというのは、美代子が愛されている証拠だね」
そういうものなのか?と自問する夫を見抜いて、
「だって気になるだろう?」
「エエもちろん」
「でもあなた、もうお時間よ。これがさいごのお客様――今夜は帰らないから、ツヨシと一緒に晩ごはんを済ませてね」
さいごに投げられた所帯じみたひと言が、かえって夫の胸にどす黒くしみた。

夜道を帰りながら夫は思う。
きっとこれからも、妻のこうした振る舞いを許しつづけてしまうのだろうと。
そして、妻と息子との関係も、このまま許しつづけてしまうのだろうと。
今夜は妻を犯した息子と、家で食事を摂る。
きっとお互いに、美代子の帰宅が遅いことさえ話題にもせずに・・・

さっきはさりげなくそうしたけれど。
あとの客に譲った行為――それは妻をほかの男に公然と譲る行為だったのだと初めて気づくと、
夫は独り苦笑して、自分が来た道をもう一度、ふり返った。
闇に包まれた道の彼方、艶めかしい夜が更けてゆくのを見届けるように。

吸血私娼窟~幼馴染の母親~

2018年09月03日(Mon) 05:02:53

アラ、洋司くんじゃないの。ひとり?
声をかけられて振り向くと、通りかかった大きな屋敷の玄関のまえで、美代子がニコニコしてたたずんでいた。
美代子は洋司の親友、ツヨシのお母さんだった。
病院の院長先生の奥さんで、ふくよかな色白の美人。
いつもこぎれいな格好をしていて、洋司はこの親友の母親にひそかに憧れを抱いていた。
もちろんそんなこと、ツヨシにはおくびにも出さなかったけれど。

でも、どうしてこんなところにいるんだろう?
ツヨシの家はここからはだいぶ、離れているはずだ。
変な顔をしている洋司に気がつくと、美代子はいった。
「小母さんね、ここに遊びに来ているの。洋司くんも寄っていかない?」
そういわれて、洋司はとっさにしり込みをした。
見あげると、色付きのガラス窓が周囲の住宅街とは不釣り合いにお洒落で、建物のたたずまいも不自然に洗練されていた。
得体の知れない妖しい雰囲気を、洋司は直感的に感じていた。
「ああ、ここね・・・」
ツヨシのお母さんはちょっと苦笑いをした。
大人の秘密を覗いてしまったような・・・どこかただれた匂いが、彼女の笑みから感じ取られた。
いつも優雅ですこし世間ばなれした美代子小母さんがこんな表情をするのを、洋司は初めて見た。

「知ってるわよね?ここ、私娼窟って呼ばれているのよ。
 あなたはまだ、知らなくても良いか。
 大人の男の人と女の人とが、いけないことをする場所なの。
 でも洋司くんだったらいいわ。
 あなたも、咬まれちゃったんでしょう?」
耳もとに口を寄せて囁く美代子のひそひそ声が、柔らかな呼気となって洋司の耳たぶをくすぐった。
洋司は思わず美代子を見あげた。
美代子の首すじには赤い斑点がふたつ、綺麗に並んでいる。
それは、つい数日前、洋司がつけられたのとおなじものだった。
学校帰りが遅くなった夜8時ころ、洋司は一陣の黒いつむじ風のようなものに巻かれた。
目まいを覚えてその場に尻もちを突くと、つむじ風は人影となって、洋司の首すじを咬んでいた。
うなじに突き刺さる尖った異物が柔らかな皮膚を破り、どろりとほとび出た血潮を吸い取るのを感じたときにはもう、身体じゅうが痺れていた。
30分後。
洋司はふらふらと起ちあがり、家に戻った。
出迎えた洋司の母親は、息子が連れてきた黒い影をけげんそうに見つめた。
一時間後、洋司の家族は全員、生き血を吸い取られていた。

美代子にも、そんなひと刻が訪れたというのだろうか?
くったくなげに笑う白い顔を見つめる洋司の視線に、熱がこもった。
――できれば美代子小母さんのことは、ぼくが咬みたかった。
自分の胸の裡にわいた感情に、逆らうことはできなかった。
目のまえの美代子は、いつものようにこ洒落た洋服姿だった。
清楚な白いカーディガンに淡いピンクのブラウス、ひざ丈のスカートは濃紺で、真っ赤なバラがあしらわれていた。
その花柄のスカートのすそから覗く太ももは、肌の透きとおる黒のストッキングになまめかしく映えていた。
洋司は思わず、ゾクッとした。
美代子はそんな洋司の心中を見抜いたかのように、いった。
「いいのよ、ツヨシには内緒にしてね」
洋司を幼いころから知っている美代子は、子供をあやすように洋司の頭を撫でると、私娼窟の洋館へと彼を誘い入れていた。

良い匂いが部屋じゅうに満ちていた。
不自然なくらい強い芳香に、さいしょはとまどったけれど、すぐに慣れた。
「喉渇いて来たんじゃなくて?」
上目づかいの大きな瞳に、大きく頷いて応えていた。
「たまに母さんが吸わせてくれるけど・・・」
「お腹いっぱいは、無理よね」
長いまつ毛の目許に翳りを帯びて、美代子は同情に満ちた視線を注いでくる。
彼女の白い指がブラウスの胸の釦をひとつ、ふたつと、外していって、
自分から押し拡げた胸元には、ドキッとするような黒いブラジャーの一部が覗く。
洋司の目のまえをどす黒い翳が覆って、彼は美代子を引きずり倒していた。

唇を吸いつけた皮膚のしっとり湿った感覚と、
喉を鳴らして呑み込んだ血液のどろりとした艶めかしさが、
すすけだっていた少年の心を充たした。
喉の渇きが収まるだけで、どれほど人は救われるのだろう?
そう思ったときにはもう、洋司のむき出しの脚に、美代子の黒ストッキングの脚が巻きついていた。
薄地のナイロン生地のさらさらとした感触が、洋司を夢中にさせた――
相手が親友の母親であることも忘れて、洋司は美代子とディープ・キッスを交し合った。

――ここはね、大人の男のひとと女のひととが、いけないことをする場所なの。
美代子は確かに、そういった。
これはいけないことなのか?
女のひとのパンツを脱がせたのも初めてだったし、
こんなに息せき切った口許と唇を合わせたのも初めてだった。
まして、いつも股間の奥にわだかまる感じだったあのどろどろとしたものを、女のひとの股ぐらに注ぎ込むなど、想像さえしていなかった。
美代子は幼な児をあやすように、洋司の頭を撫でつづけていた。

「ここに名前を書いたからね、あなたはもう私の馴染み。
月、水、金の3時から5時まではここにいるから、いつでも来て頂戴ね。
あと、家では習いごとをしていることになっているから、そういうことにしといてね。
それから、くれぐれもツヨシには内緒だからね」
別れぎわ美代子さんは、洋司の頭を撫でながら、チューイングガムをくれた。
洋司はぶっきら棒に黙って美代子に背中を向けたが、
それが照れ隠しなのは美代子にまる見えなのだということは、洋司自身にもよくわかっていた。
「もうこんなところへは来ない」
顔でそう答えたつもりだったけれど、きっと明後日にはここに来てしまうのだ。
ツヨシの顔、明日からまともに見れないな。きょうのことはどうやって押し隠そうか・・・
少年らしいずる賢さに満ちてきた胸の裡こそ恥ずべきなのだと思い直して、
まずは自分に正直になることから始めようと、洋司は改めて思い直した。
洋司の母すらが、この私娼窟に三日にいちどは訪れているのを、
家族のだれよりも先に気づいていた。


洋司を送り出すと美代子は、別人のようなしらっとした顔になって、
自室に使った寝室の奥の扉に向かって声を投げた。
「もういいわよ、出ていらっしゃい。洋司くん帰ったから」
狭いクローゼットの扉がおずおずと開かれて、そこから窮屈そうに抜け出してきたのは、
美代子の息子だった。

――ばかね、ママがほかの男のひとに抱かれているところを視たいだなんて。
そんなもの、視るものじゃないのよ、と、美代子は息子を優しく咎めながらも、
――だれに抱かれれば気が済むの?
と、夫にはとても聞かせられない質問を、ツヨシに向かって投げていた。
そして息子がとてもいいにくそうにしながら洋司の名前を告げるのをきくと、
美代子はふふっと笑っていった。
――そうね、パパのお友だちに抱かれちゃうよりは、ツヨシとしてはそのほうがいいのかな。
洋司くんいい大人になりそうだし・・・と言いかけた母親に、
「そんなこと言わないでいいから」
と口を尖らせながら、これが嫉妬というものなのだと、ツヨシは実感していた。
ママが自宅で吸血鬼に襲われて咬まれるのを目にしたとき、
さきに血を吸われてじゅうたんのうえに転がされていたツヨシは、手も足も出なかった。
いつものようにこぎれいに装ったママが、白髪頭の吸血鬼に抱きすくめられて、
細い眉を逆立てながら血を吸われ、おなじじゅうたんのうえに姿勢を崩してゆく光景が忘れられない。
美代子がたおれこんだのは、ツヨシの手の届かないところだった。
そのまま衣装を着崩れさせながら犯されていったママを見て、
ツヨシは半ズボンの奥が窮屈なくらい逆立つのを感じた。
それは親がつけてくれた名前を裏切る感情だと自覚しながらも、
止め処なく湧きあがる歓びを止めることはできなかった。

辱められる母親を視てそんなふうに感じてしまったことを恥じるツヨシを、
「ママが好きな証拠だから、いけないことではない」
とパパはなだめてくれたけれど、
それはパパ自身の自己弁護だということも、わかってしまっていた。
だってパパはだれよりも真っ先に咬まれていて、
ほかならぬその吸血鬼を家に連れてきた人なのだから。
そう、ママやボクの血を吸わせるために――

もっとも、だからといってツヨシはパパのことが嫌いになったわけではもちろんない。
おなじ性癖をもった男として、毎日のようにやって来る吸血鬼がママと密会を遂げるところをのぞき見して愉しんでしまったのはよくないことだとわかっていたけれど、
パパが優しい夫として、だれよりも美しいママのことを紹介したがった気持ちには、深い共感を感じていたから。
ママを堕落させた吸血鬼は移り気な男で、すぐにちがう獲物を見つけるとこんどはそちらのほうに入りびたりになってしまって、
ママは勧められるままに、街はずれの私娼窟に身をうずめた。

そこでいろんな男のひとに抱かれて女を磨くのだとパパは教えてくれたけれど、
最初の客になるのが見ず知らずのいけ好かない親父などであってはならない、と、ツヨシは強く感じていた。
「だれならいいのかな?」
ツヨシの頑是ない態度に、親たちはどこまでも親身に接してくれた。
夫には聞かせることのできないはずの質問をママはしてくれたし、
妻の口から聞きたくない言葉をパパは穏やかに聞き流してくれた。
かなりながいこと考えて、心の奥のもやもやとしたその向こう側に洋司のことを見出して、
ツヨシは初めてときめきを覚えた。
「洋司だったらいい」
小さな声だったが、その声の響きの強さに、親たちは頷き返してくれていた――

「どうだった?洋司くんとママ、もしかしたらつきあっちゃうかもよ」
美代子は息子からちょっと離れたところで、彼の反応を面白そうに窺っている。
ツヨシのなかにいままで以上のどす黒い感情が、ムラムラと湧きあがった。
「あ!なにするのよッ!」
母親が声をあげたときにはもう、ツヨシは美代子をベッドのうえに抑えつけていた。
片脚脱いだ黒のストッキングの脚をばたつかせながら、
美代子は2人目の客を受け容れる覚悟を決めた。
それが息子であってよかったと、不思議な感情で受け止めていた。


あとがき
たまたまひょんなことから、「私娼窟」という言葉に接し、すぐにこの話のおおすじが湧いたのが、土曜日のことでした。
すぐに描けるな・・・と思いながら、描く時間がとれたのがいまごろです。^^;
思った通りに描けた感じがします。

したたかな女子高生

2018年08月29日(Wed) 07:59:44

洋太の血を吸うようになってひと月後、俺は洋太の彼女、美緒の首すじの咬み応えを知った。

「俺は美緒の履いているタイツの舌触りを知っている」
「俺は美緒の着けているショーツのブランドを知っている」
「俺は美緒の唇の柔らかさを知っている」

事後報告をするたびに、洋太は頬を赤らめ、ドキドキと昂ぶりながら頷いてくれた。
半月が経ち、俺は思い切って洋太に告げた。
「俺は美緒のあそこの締まり具合を知りたい」
洋太はちょっとだけ考えて、彼女がいいなら・・・と、応えてくれた。

「美緒はOK。いつもの公園でやるから、観に来ない?」
俺は美緒のいろいろなことを知ったけれど、
洋太はなによりもいちばん大事な、美緒の気持ちを知っている。
美緒は人間のお嫁さんになって、吸血鬼を彼氏に持ちたいのだと――

祖母への夜這い。

2018年08月27日(Mon) 22:29:44

14歳の孫が56歳の祖母に夜這いをかけた。
祖母は孫の成長をよろこんで、そのまま孫の欲望を受け入れた。
祖父は目を覚ましていたが、終始眠ったふりをしていた。

翌朝祖母は娘に訊いた。
「あの子にはあなたが教えたの?」
エエ私が教えましたと答える妻に、夫は内心仰天したけれど、娘婿の顔色を察した祖母は、
「よくやったわね、秀一さん(婿の名)にも感謝しなさいよ」
と娘にいって、彼の反発に機先を制していった。
クラスに気になる子がいるので練習したかったという孫のため、
祖母と母とは代わる代わる、彼の練習に手ほどきをして、
夫たちは賢明にも、終始見てみぬふりを決め込むのだった。

ひと夏が過ぎて、都会に戻った孫は、秋には気になるあの子を誘い出し、
首尾よく本懐を遂げたという。

駐在の妻の務め

2018年08月26日(Sun) 10:04:04

この村には、淫らな風習が存在した。
歴代の駐在はだれもが例外なく、この風習にまみれることになった。
そのほうが、村の治安を守るには好都合だったから。
彼らは長老たちに面会して自分の妻を差し出すと約束をして、妻の説得にかかった。
駐在の妻たちはだれもが最初は拒みながらも、職務に忠実でいたいという夫の願いをかなえないわけにはいかなかった。
そして、ひと月以外には、どの駐在の妻も、長老たちに抱かれ、愛人のひとりに加えられていくのだった。

わたしがこの村に赴任して半月。
喪服を着て長老の元に出かけていった妻は、夜遅くに戻って来た。
「操を亡くするわけだから、喪服を着ていきます」
その日の妻の装いは、せめてもの抗議のつもりだったらしい。
けれどもわたしは知っていた。
彼らは正装した婦人を汚すのが好みだったのを。
妻の礼装は、これから自分たちの奴隷になると決意した婦人の心づくしだと勘違いをされる羽目になったのだ。
長老たちの心証が良くなるのであればそれでもかまわない、と、わたしはあえて妻の意思を変えさせようとはしなかった。
予想以上の歓待に困り果てながらも、さいごには雌になって奉仕に耽ってしまった・・・とは、妻の帰宅前に電話を寄越した長老の弁。
「奥さん、ええ身体しとるのお」
長老は飾り気のない言葉で妻を賞賛し、わたしは「恐縮です」とだけ答えるのが精いっぱいだった。

翌朝。
長老が駐在所を訪ねてきた。
お目当ては妻だという。
夕べの奉仕の熱心さが忘れられず、顔を見に来た、というのだ。
「顔を見に来た」というのはつまり、「貸しなさい」ということなのだと、教えられずにも察することができた。
「行ってきなさい」というわたしに、
「では、そうさせていただきますね」と、悪びれなくなった妻。

ふたり連れだって駐在所から遠ざかる後ろ姿が、それまでとは距離感が違っていた。
露骨に手をつなぐわけでもなければ、肩に腕を回しているわけでもない。
すこし離れて並んで歩いているだけなのに、この距離感の親密さはなんなのだろう?
わたしが初めて居心地の良い嫉妬に充たされたのは、ふたりの後ろ姿を目にしてからだった。


あとがき
しっくりとくる後ろ姿。ふたりでいるときのたたずまい。
案外そういうふつうの風景のほうが、ふたりの関係を雄弁に語るのかも知れないです。

女装する夫たち ~隣家のご主人編~

2018年08月26日(Sun) 09:52:01

引っ越してきたばかりのお宅から出てきたご主人は、わたしよりも若かった。
おまけに、ミニのワンピースが良く似合う、スレンダーな体格の持ち主だった。
「どう見ても出来損ないのバーのマダムだね」
自分で化粧をしておきながら妻は、わたしの女装をそんなふうに評した。
けれども、初めて脚に通した網タイツのきわどさがツボにはまってしまったので、
わたしは妻の酷評も鼻を鳴らして軽い不満の意を表しただけだった。

ヒョウ柄のワンピースに、黒の網タイツ。
たしかにこの格好では、夜歩きするしか手はなかった。
こういうものの似合う女性が、ちょっとうらやましくなった。

隣家のご主人は、女装が初めてだと言った。
奥さんの服を借りてきたのだと言っていたが、センスの良い服だと思った。
肩幅がちょっときつい・・・というご主人のため、
わたしは胸の釦をはだけるようにとすすめた。
ちょっとためらうご主人の手を払いのけて、
胸もとのブラが露出するまで、ぐいいっとはだける。
スレンダーな体格は、そんな辱めにも耐えて、色っぽくみえた。
「このほうが、血が撥ねても服に着かないからいいですよ」と、わたしがいうと、
「そんなものでしょうか」と、少しカルチャーショックを受けているようだった。
もの慣れない感じがいっそう、初々しさをかもし出していた。

今夜の公園で待ち受けているのは、女房の浮気相手だった。
知らないうちに寝取られていたのだ。
抗議を申し込もうにも、もともとわたしの女装癖を知り抜いている相手だった。
2人の交際を認めると妻に告げると、妻はそうこなくっちゃ、と言わんばかりに、
公園であのひとが待ってるの、と、いった。
「和解のしるしに、女になって犯されてきてくれない?」
女房の言いぐさは突飛だったが、そうするのがいちばん適切なような気がした。
わたしは手慣れたメイクを施した。
服は自分のものではなく、女房のよそ行きのワンピースをねだった。
この間新調したばかりのものだったから、最初は「いやよ」と言っていたが、
夫婦にとっての重要な儀式なんだから・・・というと、渋々だったが貸してくれた。
背中のファスナーをきっちり引き上げると、少しだけサイズの小さい妻のワンピースはまるで拘束具のように、
わたしの身体を心地よく締めつけた。

闇の支配する公園のなか。
連れの女性――隣家のご主人――の声が洩れた。
わたしもほぼ同時に、声を洩らしていた。
働き盛りの血液をたっぷりと抜かれ、へろへろになってしまったわたしは、その場に倒れ込んで、
たくし上げられたワンピースの股間の奥、女房を狂わせた一物をぶち込まれてしまっていた。

ちく生。
これでは女房のやつがマイッてしまうのも、無理はない――

潔く負けを認めたわたしは、闇夜をいいことに、妻になり切って男の愛撫を受け容れていった。

女装する夫たち

2018年08月26日(Sun) 09:38:10

上半身を締めつけるブラジャーにスリップ。
身の丈に少し寸足らずなワンピース。
頬をかすめ肩先に流れるふさふさとしたウィッグ。
足許を引き締め、なまめかしく映えるストッキング。
妻が入念に刷いた化粧に要した時間は、あきあきするほど長かった。
さいごに唇に朱を刷かれたときだけ、不覚にもちょっとうっとりした。
妻に促されて鏡を覗いたとき。
男であるわたしはきれいさっぱり掻き消えていて、女の顔をした見知らぬ別人がそこにいた。

玄関を出るときは、さすがにためらったけれど。
「いってらっしゃい」
妻は感情を殺した声でそういって、玄関に敷かれたじゅうたんのうえに腰をかがめ、床に指をついて送り出してくれた。
こんなこと。
結婚して20年以上にもなるのに、初めてのことだった。

外は静かな闇に包まれていた。
それでも街灯の明るさがいつになく眩しかった。
きっと後ろめたい格好をしているから、なおさらそう感じるのだろう。
穿きなれないパンプスに戸惑いながら、脚をもつれさせるようにして、近所の公園に向けて歩き出した。

「お隣の柴川さんですね?」
隣家から出てきたワンピース姿の女性が、わたしに声をかけてきた。
だれだろう?と目を凝らすが、心当たりがない。
たしかお隣は、わたしと同年代のご夫婦の二人暮らしのはず。
美人な奥さんの妹だろうか?
それが女装したご主人だとわかるのに、ちょっと時間がかかった。
念入りに刷いた化粧と、もの慣れた感じの立ち居振る舞いが、女の雰囲気を漂わせていた。

「お宅も今夜はお出かけですか」
「エエ、そちらもお出かけなんですね」
「公園まで、ごいっしょしましょうか」
昼間であれば、すぐにそれとわかるレベルの女装のはず。
連れができたのは心強かった。
わたしたちが目指す公園は、吸血鬼の出没するスポット。
そう。わたしも隣家のご主人も、そのなかのだれかに呼び出しを受けたのだ。
わたしは棲みついていくらも経たないこの土地の風習に従って、吸血を受けるため。
隣家のご主人もきっと、そういうことなのだろう。

「うちはすこし、事情が違うんですよ」
ご主人は意外なことをいった。

長らくね。
女房が吸われているのに気づかなかったんです。
それが、ふとしたきっかけでわかってしまって・・・
こんなこと、知らずに済ませればよかったのですが。
でもわかってしまった以上、どうしようもありません。
女房を吸い殺されたくなかったら、夫婦ながら吸われつづけるしかないのですよ、ここでは。

「奥さんとその方との仲を、認めに行かれるんですね」
「まあ・・・そういうことですね。無条件降伏というやつです」
ご主人はあくまで、淡々としていた。
「あなたのお相手は誰ですか、もし差し支えなかったら」
そういうご主人に、わたしは彼も知っているであろう近所の男性の名前をあげた。
父と同じくらいの世代の人で、地域の長老格だと聞いている。
ご主人は表情を和らげた。
「ああ、あの方だったら・・・」
聞けば、若いころに夫婦ながら吸血鬼に血を吸われて、半吸血鬼になった人だという。
「ご自分の奥さまを寝取られていらっしゃるから、自分が寝取る人妻の旦那の気持ちも、ちゃんとわかる人ですよ」
風変わりなほめ方だったが、おそらくきっと正しい見解なのだろう。

そんな話をしているうちに、公園に着いた。

女装のワンピース姿のまえに黒い影がふたつ、ゆらっと漂うように揺れて、立ちはだかった。
わたしたちは立ちすくんだまま、それぞれの相手に抱きすくめられてゆく。
「お名前は?」
相手の男が訊いて来たのに答えて、わたしは妻の名前を名乗った。「浩子です」
「浩子は夫を裏切って、私のものになると誓えますか」
「ハイ、誓います。主人に貴男と私の関係を認めてもらいます。主人もきっと・・・よろこんでくれるでしょう」
「それはなによりだ」
では・・・と男は囁いて、口許から尖った歯をむき出した。
傍らでも、同じような儀式が終わったらしい。
「ひっ!」
と叫んだのは、ほぼ同時だった。
ふたりの吸血鬼は、各々の獲物の首すじに食らいつき、力ずくでむしり取るようにして、血を啜った。
働き盛りの血潮が身体から抜けて、吸血鬼の喉を鳴らしてゆくのを、わたしは声を呑んでいつまでも聞き入っていた。

「血を吸った人妻は、犯すことになっています」
仰向けに倒れたわたしにのしかかっていた男が、宣告するようにそういった。
「お願いします」
わたしが身体をくつろげると、男はわたしの穿いているストッキングをむしり取るように引き破った。
そして、黒々と逆立った一物を、わたしの股間へと埋めてきた。

これを・・・妻も埋め込まれてしまうというのか。
肉薄してくる怒張の強烈さに声を洩らすまいとしながらも、
わたしは妻の相手となる男の身体の佳さを体感せずにはいられなかった。

「寝取る男と寝取られる夫・・・仲の良い方がよくはないですか」という男に、
「まったく同感です」と応えるわたし。
「ではいましばらく、愉しませていただきますよ」
「お願いします」

ワンピースを下草だらけにしながら転げまわった夜。
わたしは妻を愛人にしようとする男の希望を、歓んで容れたのだった。

披露宴のホテルにて

2018年08月26日(Sun) 09:12:01

披露宴の時間が迫っていた。
ここはホテルの一室。
姪の結婚式に一家で招待されて、遠方から来たこともあってあてがわれた部屋だった。
礼服に着替えて隣室の息子の部屋のドアを開けると、
そこでは妻の弘美がベッドの上で、息子の康太とセックスの真っ最中だった。
「オイ、そろそろ好い加減にしないと、遅れるぞ」
私の声に弘美は振り向きもせずに肯きかえしてきて、
「わかってる・・・もうちょっとで、お、わ、る、か、らっ・・・」
と、返してきた。
息子のほうは返事をする間も惜しんで、妻との行為に熱中している。

はぁ・・・はぁ・・・
せぃ・・・せぃ・・・

せめぎ合う声にならないあえぎ声がふた色、部屋に満ちた。


30分後。
弘美と康太はおなじ部屋から、それぞれ着かえを済ませて姿を見せた。
「ちょっと・・・」
ジャケットの襟を直してやるその姿は、母親そのものの仕草だったが、
すべてを知っているわたしの目には、愛人に対する気づかいのように映る。
康太はさっきから、すこし前を歩く弘美の足許に、視線を集中させていた。
「きれいだね、母さんの脚」
康太は母親に聞こえないよう声をひそめて、わたしに囁いた。
てかてか光る肌色のストッキングに彩られたむっちりとしたふくらはぎが、
ホテルの廊下を颯爽と歩みを進めてゆく。
康太は披露宴の済むのを待ちかねているに違いない。
新郎新婦が新床を共にするのと同じ刻限、彼はわたしの妻を礼服姿のまま犯しているに違いないのだから。


弘美と康太の関係を知ったのは、長期の出張から戻ってすぐのことだった。
弘美は康太のことを「あなた」と呼び、康太は弘美のことを呼び捨てにしていた。
「おい、母さんを呼び捨てにするなんて」
わたしがそう咎めると、彼は羞ずかしそうにしながらも、
「でももう、そういう関係なので」
といった。

大学から戻ったときにムラムラとしていて、居合わせた妻に挑みかかったのがきっかけだった。
「母さんとはどうなんだ」
わたしが訊くと、
「いい身体しているよ、あと優しいし」
と、てらいもなく言ってのけた。
弘美は聞こえないふりをして、台所で洗い物をしていた。
「さいしょからさっきみたいに、仲良くなっちゃったのか?」
多少の嫉妬と悔しさを込めて、わたしは訊いた。
風呂あがりのあと、夫婦の寝室で乱れ合っている2人の痴態をふとのぞき見してしまったのを、それとなく告げたのだ。
「ううん、さいしょのときはすごく暴れた」
「終わったあとは、ぼくにわからないようにちょっと泣いたみたい」
「そのつぎに母さんを抱いたのはいつ?」
「その夜すぐに」
「母さんどうだった」
「”どうしても我慢出来ないの”って訊かれた」
「我慢できないって答えたんだな」
「ウン、そしたら、絶対内緒にするんだよ、外では人に迷惑かけないようにって」
母親らしい訓戒を垂れたあと、弘美は目を瞑り、すべてを息子にゆだねたのだった。

それまでは身なりにあまり気を使わなかった弘美が、
出張から戻って来てからはいつも、こぎれいに装うようになっていた。
たまたま康太が帰宅したとき、弘美も法事から戻ってきたところだった。
黒一色の礼服にひざ小僧の透ける黒のストッキング姿。
息子が欲情するのも無理はなかった。
それ以来。
弘美は康太の奴隷に堕ちていった――

披露宴が滞りなく済むと、康太は弘美の手を引くようにして、そそくさと会場をあとにした。
「若い人同士の二次会があるみたいだけど」
わたしがそう言っても、康太の耳には入らなかった。
「母さんのほうが良い」
そう告げると、今夜の弘美はぼくが独り占めにするからね、と、わたしに宣言した。
「好きにしなさい、わたしはちょっと出てくるから」
久しぶりの都会だった。顔を出したい店のいくつかを頭に描きながら、
わたしは妻と息子の二人きりの時間をつくってやろうとしていた。

どうしてこんなに、妻と息子の情事に協力的なのか?
応えることは難しい。
けれども息子は言っていた。
「(さいしょのときは)すごく暴れた。ぼくにわからないよう、ちょっと泣いた」
それでじゅうぶんだった。
弘美はわたしの妻として操を守ろうとして、果たせなかった後はちょっと泣いてすべてを入れ替えた。
涙の乾いたあと、弘美はわたしの妻から康太の愛人に変わったのだ。

長く絶えていた夫婦の営みが復活し、以前よりも熱っぽくなったのも、それ以来だった。
夫婦としての義理を果たしながら、息子との愛の時間もそれ以上に頻繁につくった。
「母さんはもう、貴男の持ち物なんですからね、しっかり愉しませてちょうだいね」
母親に背中を押されて、寝室に入っていく息子の後ろ姿。
ちょっとだけ愉しむつもりだった覗きが、いちぶしじゅうを見届ける結果になった。
これで良いのだ、と、思う。
息子は結婚するまで、母親を相手に性欲を満たし、
わたしはそんな息子の成長を慶びながら、妻の痴態を覗くという隠微な歓びにもめざめていった。

虎口に出戻る。

2018年08月21日(Tue) 07:44:18

命からがら都会の家まで逃げ延びることに成功したのは、わたしと妻だけでした。
その村に出かけていったもの全員が、囚われの身になってしまったのです。
囚われの身というのは、不正確かもしれません。
「囚われた」夫婦3組のなかの1組だった両親からは、手紙と電話で、
自分たちの意思でこの村に転居すると連絡がありました。
おそらく本音でOKしたのだ。ふたりとも、洗脳されてしまったのだ――と、
父の語気からすぐにわかりました。
電話をかけてきた父は、むしろ落ち着いた声で、母さんの浮気を認めてやることにした、と告げたのです。
従妹の嫁いだその村は、吸血鬼の棲む淫らな風習に彩られた土地でした。

都会で挙げられた従妹の披露宴には、新郎側からはほとんど出席者がありませんでした。
田舎のものなのでかえって恥を掻くから遠慮したい・・・という彼らのために、二度目の披露宴が村で挙げられたときのこと。
招かれたのは新婦の両親である伯父夫婦、わたしの両親、そして兄夫婦とわたしたち夫婦の8人でした。
あとから聞いた話では、当初兄夫婦までは招かれる顔ぶれに入っていなかったのですが、
都会の披露宴で兄嫁を見初めた新郎の兄が、とくに加えるようにと希望したというのです。
なにも知らない4組の夫婦は村に招かれ、お座敷での婚礼の席上吸血鬼と化していた村人たちに襲われたのでした。
年輩の男に組み敷かれた妻を救い出すのが、精いっぱいでした。
男は後じさりする妻の足首をつかまえて、ふくらはぎにヌメヌメと唇を這わせようとするところでした。
一瞬唇が吸いついて、すぐにわたしが引き離しました。
男はわたしを押しのけて妻に迫り、なおも首すじを吸おうとしましたが、わたしに蹴られてたじろぐところを危うく救い出したのです。
わたしはともなく、パンプスだった妻がよくあそこまで走れたものだと思います。
ほかの三組の夫婦と違い車で来ていたのが幸いしました。
宿に戻るとすぐにわたしたちは車に乗り込み、都会の自宅をめざしたのです。
男はしつようにあとを追いかけてきて、どうしても奥さんと話をしたい、といいました。
耳も貸さずにアクセルを踏んだのは、いうまでもありません。
都会も間近になったとあるドライブインで休憩をしたとき。
妻の穿いているストッキングに、あの男の粘り気のある唾液が沁みついているのを発見して、
むやみに嫉妬したのを憶えています。

3組の夫婦の転居届は、すべてわたしが手続きを済ませました。
彼らからの要望だったのです。
兄の手紙は、理解に苦しむものでした。
あの都会の披露宴の席で自分の妻が吸血鬼の目に留まり、村での婚礼の席で首尾よく征服されてしまったことを、
むしろ嬉し気に書いて寄越したからです。
父もまたかの地で、複数の男性を交えて痴情に耽る母のことを、むしろほほ笑ましく見守っているという文面でした。
父の手紙には、「私たちに義理立てして、わざわざ再訪する事は無い」と、再三書かれてありました。

ところがどうしたわけか、それからひと月と経たないうちに、
わたしの脳裏にべつの感情が芽生えてきたのです――
やはりほかの親類たちと同じように、あの村に行った方が良いのではないか?と――
父の手紙には、あのとき妻を逸した吸血鬼が、いまだに不遇をかこっていると、ごくひかえめにしたためてありました。

「やっぱりぼくだけ、行ってくるよ」
そう言い出したわたしを、妻は強いて止めようとはしませんでした。
両親が貧血になって身体を壊さないか気になるから・・・という口実に、手向かえる反論を持ち合わせていなかったからかもしれません。
さいしょは一回だけのつもりでした。
わたしは妻を狙った吸血鬼と面会し、身代わりに血液の提供を申し出ました。
男は意外に紳士的でした。
あのようなやり方で突然迫られたら、どんなご婦人でも身の危険を感じて逃げるでしょう、あさはかでした、といい、
わたしの好意を素直に感謝し、くつろげたワイシャツの襟首に尖った歯をあてがって、そっと吸血していったのです。
意外なくらい、ひっそりとした吸血でした。
父は「もうあまり来ないほうがよいのではないか」とわたしをたしなめ、
母は真逆に「こんどは佳代子さんも連れてらっしゃいよ」と、積極的なことをいいました。
連れてきたら犯されてしまうんでしょう?というわたしの問いに、
母はあっさりと「ええそうよ」といい、
でも芳子伯母さんは吸血鬼にモテモテになって若返っちゃってるし、伯父さんもそんな芳子伯母さんに満足しているし、
真菜子さん(兄嫁)はご執心の吸血鬼と夫婦どうぜんに暮らしているけれど、
お兄さんとも一緒に暮らしていて、男どうしもうまくやっているみたいだし・・・と、
やはりわけのわからないことを口走るのでした。

一回だけのつもり、と、書きました。
そうなんです。そのはずがいつの間にか回を重ねて、わずかふた月のあいだに、6回も通い詰めてしまったのです。
妻が思い詰めたように、言いました。
「こんど行くなら、私もいっしょに連れて行って」

あのとき私に迫った方は、不自由しているそうね。
もうちょっとで私に咬みつけたのに、貴方に邪魔されて、果たせなかった。
なのに貴方とはすっかり仲良くなって、打ち解けて下さっているそうね。
それなら私も――もういちど、よそ行きのストッキングを穿いて、あの方の唾液に濡らされてみたいの。

一週間後。
わたしは妻を伴って、あの村に来ていました。
都会の女たちをことごとく呑み込んでゆく、忌まわしい村に。
そのくせ妻を奪われる夫たちを惑乱させて、むしろ奪わせてしまうという、忌まわしい村に。

その晩。
あの婚礼の夜の情景が、再現されました。結論だけは真逆になって。
男にすっかり血を抜かれて手も足も出なくなったわたしのまえで、
妻はあのときと同じ薄茶色のスーツを着て、足許をてかてか光るよそ行きのストッキングに包んでいました。
男の唇は、今度こそあやまたず妻のふくらはぎに吸いついて、這いまわって・・・
なまめかしいストッキングがチリチリになるまで、いたぶり抜いていったのです。
都会の装いもろとも辱められてゆくことに、さいしょのうちこそ悔し気に身をすくめていましたけれども。
妻の態度が打ち解けて、甘くほぐれてゆくのに、時間はかかりませんでした。

いちど逃れたはずの虎口はわたしを捕えつづけて、
結局妻の手を引いて、舞い戻る羽目になってしまったのです。
けれども、後悔はありません。
都会の装いに身を包み、セイジさん、セイジさん・・・と、わざとわたしの名前を呼びながら犯されてゆく妻。
すべてを喪うのと引き換えに得たいまの歓びを、たいせつにしていきたいと願っているのです。


あとがき
妻を襲われかけて危うく難を逃れたのに、なぜか違う結論を観たくなった夫。
都会の装いを着乱れさせ、ストッキングを男の劣情に満ちた唾液で濡らされながら、堕ちてゆく妻。
そこを描きたかっただけなんですけどね。 つい長くなってしまいました。

嫁の浮気帰り

2018年08月21日(Tue) 06:59:48

「お早う。瑤子さんまだ帰ってないの?」
リビングに降りてきたぼくを気づかわしそうに見あげる母は、なぜか紋付を着ていました。
「ウン、まだだよ」
ぼくはつとめて平静に、こたえました。
「かかっているのかねぇ・・・」
思わず露骨なことを口にする母を、「静枝」と父がたしなめます。
「だってねぇ・・・落ち着かないじゃないの」
母の気づかいは、却って気づまりでした。
そう。
妻の瑤子は夕べ、ぼくの親友の良太のアプローチを受けて、浮気に出かけたのです。
「瑤子が良いといったら」といって、ぼくが与えたアプローチのチャンスを、
女たらしで有名だった良太は、逃さずモノにしたのです。
ホテルに出かけていった瑤子は、夕べひと晩家には戻りませんでした。

やがて家の玄関がガタガタと音を立てて、瑤子が帰ってきたのがわかりました。
きっかり6時。
良太と約束した通りの時間でした。
ぼくが妻を貸すと約束した刻限ぎりぎりまで、良太は瑤子のことを弄んだのです。

リビングに顔を出した妻は、ぼくと両親の三人が三人とも起きていることに意外そうに目を見開いて、
それから後ろめたそうに視線をそらします。
「やあ、お帰り。お疲れだったね」
父がフォローのつもりでかけた声にも、瑤子はますます身を固くします。
「さあさあ、シャワー浴びてくると良いですよ」
母の言葉ももちろん、逆効果。
「あの・・・疲れていますので・・・寝(やす)ませていただきますね」
しいて浮かべようとした笑みは中途半端に引きつって、すぐに廊下へと取って返していきました。
きっと、シャワーを浴びてそのまままっすぐ寝室に向かうのでしょう。
「疲れているんですって」
小声で耳打ちしてくる母を父は目でたしなめました。
「ちょっと・・・わたしたちは出かけてくるから」
場を取り繕うようにそういうと、父は母を連れてそそくさと、さっき瑤子が帰って来たばかりの玄関を出ていきました。

遠くからシャワーの音が聞こえました。
シャワーの音が終わると、脱衣所で身づくろいをする気配がして、やがて階段をあがっていきました。
リビングから覗く廊下に一瞬映った瑤子の姿――驚いたことに瑤子は、夕べでかけて行ったときのスーツを着けていました。
うっかり着替えの用意を忘れてシャワーを浴びてしまった・・・と後で聞きましたが、それくらいうろたえていたのでしょう。
わたしは黙って、瑤子のあとを追って夫婦の寝室に入りました。
鍵を閉めるスキを与えずに。

わたしと向き合った瑤子は、洗い髪を波打たせ、白い顔をしていましたが、
わたしが近寄りキスをすると、恐る恐る応じてきました。
いままでの積極的な瑤子にはみられない振る舞いでした。
良太と2人きりの部屋でも、こんなふうにキスに応じたのか――
その場の空気を想像すると、ぼくは欲情を感じて、瑤子をスーツ姿のまま押し倒していったのです。
「良太さんも・・・こうだった」
瑤子の囁きは、良太がキリッとしたスーツ姿のまま弄んだことを告げていました。
ぼくは、その囁きを封じるように瑤子の唇をキスでふさぎ、
夫婦の刻は、いままでになく熱っぽく、過ぎていきました。

お昼近くになって、リビングに降りてゆくと、ちょうど両親が帰ってきました。
わたしたちに気を使う最善の方法は家からいなくなることだ――と決めていて、夫婦で出かけたはよいものの、
行き先に困ってしまい、けっきょくホテルの喫茶室でお茶をして帰って来たというのです。
「夕べのことは忘れさせてやりましたから、もうだいじょうぶ」
ぼくはわざと明るい声で、両親にそう告げました。
「忘れさせたといってもねえ・・・」
母がにこやかにぼくと瑤子とを等分に見比べて言いました。
「瑤子さん、すぐにまた思い出しちゃうわよ」
ホホホ・・・と笑い声を残して台所に向かう母を追って、
「お昼私が作りますから」
と、いつもの主婦の顔に戻った瑤子も台所に向かいます。

残された男2人は、苦笑を交し合うしかありませんでした。
「思い出しちゃうだろうね」
父が気の毒そうにぼくの顔を観ました。
「きっと、そうでしょうね」
ぼくも正直に応えました。
良太のいままでの所行を知っている以上、公平に見てそう観念するしかありませんでした。
妹のときも、兄嫁のときも、良太が飽きるまで二人の関係は続いたからです。
捨てる権利はもっぱら、良太のほうだけにあったのです。
「でも、気持ちよく送り出してやりますよ」
ぼくは胸を張ってこたえました。
良太が手を出すのはいい女ばかり・・・その好みのうちに瑤子が含まれていたことが、
瑤子を弄ばれたのとは別に、なぜかくすぐったいほど嬉しかったのです。

父は穏やかにほほ笑みながら、いいました。
「女はいちど覚えた男の味は、忘れないものだよ――母さんだって、そうだったんだから」


あとがき
幼なじみの悪友に妻を抱かれたあくる朝。
家族仲良く不器用に気づかい合いながら、嫁の朝帰りを出迎える――
あり得ない風景ですが、ちょっと描いてみたくなりました。^^

歳月。

2018年08月20日(Mon) 07:18:35

子供のころ。
真っ白なハイソックスを履いて公園にいたら、吸血鬼に襲われた。
ハイソックスを真っ赤に濡らしながらチュウチュウと吸血されていくうちに、ゾクッときて。
仲良くなった吸血鬼に、毎晩のように逢うようになっていた。

ぼくがハイソックスを脱いで家に帰るのを見とがめた母さんが、夜中にぼくのあとを尾(つ)けてきて、
あっさりと吸血鬼の餌食になった。
あちこち咬み破られてずり落ちたねずみ色のハイソックスをずり上げながら、
肌色のストッキングをびりびりと破かれながら血を吸い取られて、ウットリとなってゆく母さんのことを、
薄ぼんやりと眺めていた。

母さんは、毎晩逢うのはお止しなさい、身体に悪いから。
ふた晩にひと晩は、私が身代わりになるから――と言ってくれた。
母親らしく気遣ってくれたのだけれども。
吸血鬼の恋人にされてしまった後の乱れ髪や、はだけたブラウスから覗く吊り紐の切れたブラジャーについ目が行って、
目のやり場に困っていた。

それ以来。
母さんが貧血を起こしているときは身代わりにぼくが、
母さんの洋服を着て、ねずみ色のストッキングを脚に通して、吸血鬼に逢うようになっていた。

そのころの父さんは、ストッキングみたいに薄いスケスケの紺のハイソックスを穿いて勤めに出ていた。
ぼくは母さんの服を着ないときには、父さんのハイソックスを穿いて吸血鬼に逢っていた。
浮気がばれるのを恐れた母さんは、父さんの帰宅時間を吸血鬼に教えた。
勤め帰りの父さんは、スケスケのハイソックスをびりびりと破かれながら吸血されて、吸血鬼と意気投合してしまった。
うちの家内を紹介してあげると、彼を家にあげてやって、
母さんは父さんとは別のベッドで、ひと晩吸血鬼にかしずく羽目に遭っていた。
おかげで――母さんの浮気は、いまにいたるまでばれていない。

妹が中学にあがって、黒のストッキングを穿くようになったとき。
ぼくは母さんの言いつけで、妹の制服を着て吸血鬼に逢いに行った。
こうしてぼくは、夜だけは人妻になったり女学生になったりして、愉しむようになっていた。
妹が下校途中に襲われたのは、入学してから三か月後、冬服から夏服に切り替わる直前のことだった。
やつにしては、よくガマンしたほうだと思う。
吸い取られた生き血で冬服を濡らしながら、妹はべそを掻きながら、チュウチュウと吸血されて、
うら若い血液を奪われていった。
母さんの血が気に入ったんだもの。妹の血が好みに合わないわけはなかった。

それ以来。
ぼくたち兄妹は、おそろいのセーラー服を着て、連れだって公園に通うようになっていた。

齢の離れた兄さんが、義姉さんを連れてこの街に戻って来たのは、それから数年後のことだった。
ぼくはさっそく、義姉さんの服を着て、吸血鬼に逢った。
義姉さんは、てかてか光るストッキングを好んで穿いていた。
ぼくの脚に通された義姉さんのストッキングは、吸血鬼をいたく魅了した。
いつも以上にびりびりと破かれてしまう光景を、義姉さんが襲われる想像と重ね合わせて、
ぼくはいつも以上に昂ってしまっていた。

家への出入りが自由になっていた吸血鬼は、
父さんの親友という触れ込みで(父さんもそう認めていた)一家の団欒の席に現れて、
兄さんを強い酒でたぶらかすと、その目の前で義姉さんを襲った。
義姉さんが血を吸い取られ、犯されてゆくのを、
兄さんは男の目になって、昂ぶりながら愉しんでいた。
ぼくも男のめになって、昂ぶりながら愉しんでいた。

それ以来。
兄さんは義姉さんが誘いを受けるとこころよく送り出して、
代わりにぼくに義姉さんんの服を着せ、ベッドに引きずり込むようになっていた。

吸血鬼に純潔を汚された妹は、責任を取ってほしいとぼくに迫って、
ぼくと妹は、うちうちに結婚式を挙げていた。

男になったり、女になったり、とてもめまぐるしい日常だけど。
そんな日常を、ぼくはすっかり愉しんでしまっている。

兄さんの娘の由佳が中学にあがるころ、
ぼくは兄さんに、由佳ちゃんの服を着たいと言った。
兄さんよりも義姉さんのほうが、積極的だった。
結婚してから吸血鬼に逢うようになった義姉さんはかねてから、
処女のまま吸血鬼に抱かれる経験をできなかったのを残念がっていた。
処女のうちに血を吸われた妹のことを、羨ましいと言っていた。
兄さんのまえで、「このひとに出会う前に抱かれたかった」なんていうので、
兄さんも微妙にくすぐったそうな顔をして、義姉さんの告白に耳を傾けていた。

由佳ちゃんが吸血鬼に襲われて、高校の卒業祝いのときには女として愛し抜かれてしまったあと。
義姉さんはまな娘におめでとうと言って、由佳ちゃんも照れくさそうに、頷いていた。

それ以来。
ぼくは義姉さんの服を着るのと同じくらいの感覚で、
由佳ちゃんの服を着て、兄さんに逢うようになっていた。

乳色の肌に、網タイツ。

2018年08月17日(Fri) 04:00:31

乳色の肌、栗色の巻き毛、太い眉に大きな瞳。
まるでハーフのような彼女は、体格も良い。
ぼくの若妻、23歳のメイは、デパートに勤めている。

勤め帰りにどこかのレストランで食事をして帰ろうと待ち合わせ、合流したまさにそのとき。
ふら~っと現れた、いびつな黒い翳。
あーっ、なんてことだ・・・
目のまえでにやにやとほくそ笑んでいるのは、ぼくの馴染みの吸血鬼。

ひと月前に初めて襲われて、貧血で家に戻ったぼくを、
メイは心配そうに介抱してくれた。
吸血鬼と共存するこの街では、決して珍しくはないアクシデント。
傷口の血を拭き取りながら、メイはいった。
「だいじょうぶ?でも、これからもきっと襲われるよ。きつかったら、あたしもいっしょに吸われてあげるから」
冗談じゃない。
ぼくは強くかぶりを振った。
人妻を襲うとき、やつらは必ず犯すのだから。

「Hai、セイタ。この子はユゥのワイフかね?可愛いナイスバディだね」
ああ、なんてよけいなことを・・・
目を合わせずにしいて無視しようとしたぼくの意図をまるきり無視して、
やつはしゃあしゃあと、ぼくたち夫婦の間に割り込んできた。
How do you do?
How do you do?
好色なしわがれ声と若い女の張りのある声が、折り重なるように同じ言葉を発する。
やつはほんとうに、英語圏の人間なのか。
ドラキュラというのはてっきり、ドイツ語だとばかり思い込んでいた。(これまた間違い)
なんて素晴らしい、輝くような肌をしているね。いちどユゥのことを噛んでみたいね
――と、やつは得意満面。
セイタの血だけじゃ足りないときなら、私相手するわ
――と、メイはちょっぴり気づかわしげ。
そんなに眉を寄せて、シンコクそうな顔をしないで。
やつは女の子の困った顔つきが、大好物なんだから!

やつがぼくにすり寄って来るときは、100%間違いなく喉が渇いているときだった。
所かまわず人の首すじに食らいつくのがつねなのに、やつはいつになく遠慮をした。
「どこか近場の公園に行こう。ユゥのワイフに恥を掻かせたくないからね」
そして、オレンジ色のミニスカートから覗く、網タイツを穿いたメイのむっちりとした太ももに、もの欲しげな視線をからみつけていった。

十分後。
貧血を起こしたぼくは、公園のベンチに持たれて、ぐったりとなってぶっ倒れていた。
視界の彼方では、首すじを咬まれたメイが、
ちょっと切なげに口を半開きにして、やつのしつような吸血に耐えている。
のしかかってくる男を前にぺたんと尻もちを突き、傾きかけた上半身をかろうじて両腕で支えていたが、
やがてくたりと力を抜いて、芝生のうえに倒れ込んだ。
地面に投げ出された脚を包んだ網タイツは、ところどころ破れて、吸い残された血を滲ませている。

冒されてゆく乳色の肌に、ぼくは不覚にも欲情していた。
最愛の妻をこれから犯されてしまうというのに、ズボンのなかに隠した股間を熱くしていた。
「それでいい、自然な感情だ」
やつはぼくの恥ずべき衝動を肯定すると、ズボンの上に掌を置いて、ギュッと握りしめる。
それからふたたび、夢見心地になってしまったメイに取りついて、豊かな胸もとに咬みつくと、
夫婦のベッドのうえで洩らすあの悩ましい吐息を勝ち取っていた。
結び合わされる唇と唇。
せめぎ合う吐息と吐息。
突っ張る腕。立膝をする網タイツの脚。
むき出しの二の腕にも、網タイツのふくらはぎにも、身体のこわばりを映してしなやかな筋肉が盛りあがる。
やつはメイの発育のよい身体を、思う存分、愉しんでいった――

2人で公園を出るとき。
メイはさすがにべそを掻いていた。
すがって来る身体がひたすらいとおしくて、ギュッと力を込めて、横抱きに抱きしめていた。
豊かな肉づきが確かな手ごたえで、応えてきた。
「家に戻ったら、やり直そうね」
メイの言葉に、ぼくは無言で肯きかえす。
守ってやれなかった後ろめたさと、密かに愉しんでしまった後ろめたさ。
守ることのできなかった申し訳なさと、密かに愉しんでしまった申し訳なさ。
お互いの葛藤は、沈黙のうちに処理することにした。

きっとこのあと、いつもより濃密な夫婦の交わりで、ぼくたちはすべてを忘れようとする。
きっとこのあとも、メイは襲われつづけ、ぼくは愉しみつづけてしまうだろうけど。
日本人の両親を持つメイは、ルックスのとおりの混血だった。
実の父親は吸血鬼だったという。
血が血を呼んだのね、Sorry,Seita.
照れ隠しに発した英語の発音は、やけに正確だった。


あとがき
今夜のヒロインは、ちょっと異色な容貌の持ち主ですね。^^
彼女の日本人離れした容姿と立派な体格とは、なぜかありありと想像することができました。^^

義母のスカート

2018年08月16日(Thu) 08:07:11

妻が言った。
「母のスカート、穿いてみたら良い感じだったので、借りてきちゃった♪」
その時の妻の顔――なぜか白い歯しか思い出すことができないのは、なぜだろう?
女の姿になると、男モードで過ごすときの記憶が、あいまいになるのかもしれない。
妻のいない夜。
”彼”は女の姿となって、”彼女”となる。
結衣は女装子。

結衣の妻は、薄々感づいているようだ。
けれども決してそんなことは、口にしない。
なにかのときに、「人に迷惑かけなければ、たいがいのことは許されるよね?」と、真顔で言った。
あれはもしかすると、そういう意味だったのかもしれない。
そのあと妻は、私は貴方に迷惑かけるけど♪と笑って、はぐらかしてしまったけれど。

結衣には彼氏がいる。
けれどもそういう表現をするのは、妻に悪いと思っている。
でも厳密には、彼氏ではないのかもしれない。
彼は結衣の血を吸うだけで、まだ犯されたことはないのだから。

その男と初めて出逢ったのは、女の姿になって歩いた真夜中の公園だった。
女の生き血を求めてさまよっていた彼は、怯える結衣を追い詰めた。
「見逃してください!」と懇願する結衣に、
「救ってほしい」と彼は呟いた。
聞けば、夜明けまでにだれかの血を吸わないと、灰になってしまうというのだ。
重い事実を聞かされて逡巡したすきに、男は結衣の間近に近寄って、うなじを吸おうとしていた。
結衣は思わず願った。
「お洋服だけは汚さないで!」
男はみじかく「わかった」と応えると、「もう少し首すじをくつろげて」と、結衣に注文した。
結衣が目を瞑っておとがいを仰のけると、男は結衣の首すじを咬んで、血を吸い始めた――
魔法にかけられたみたい。
そう思ったときには男は、結衣の血を吸い終えていた。
「もういいの?」
しぜんと女声になって訊ねる結衣に、男は「ありがとう」とだけ、いった。
それ以来。
結衣は深夜の女装外出のときに男と密会を重ね、
請われるままに、ストッキングを穿いた脚を咬ませることまで許してしまっている。

義母のスカートは、ロング丈の花柄だった。
古風だけれども、よく見るとモダンな柄だと結衣は思った。
いまとむかしは、そんなにへだたっていないのかも知れない・・・結衣はなんとなく、そう思った。
今夜、妻は出張で家にはいない。
そして、義母からもらってきたというスカートがなぜか、妻の出かけた後のリビングの背もたれに、そっと掛けてあった。
自分の留守中に、だれかが身に着けるのを予期しているかのように。

考えすぎに違いない――結衣は自分の胸の奥に沸いたそんな想いを打ち消すように、
伸ばしかけた指先をなん度も引っ込めた。
けれども、義母のスカートをまというという背徳感の誘惑に、打ち勝つことはできなかった。
婦人用の衣装のなまめかしさの前には、結衣はか弱い女に過ぎなかった。
気がつくと、結衣の指先はスカートのウェスト部分をつまみ上げ、
ストッキングをまとった両脚を、スカートのなかへと入れていた。

自前の城のブラウスと合わせて、姿見の前に立つ。
似合っていると、結衣は思った。
もはや、羞ずかしいことをしているという意識は、きれいに消し飛んでいた。
姿見の前、玄関までの廊下。
身に着けたロングスカートをさわさわと波打たせながら、できるだけゆったりと足どりで、歩みを運ぶ。
それだけのことなのに。
結衣の胸は高鳴り、抑えきれないときめきが渦巻いた。

「似合っている」
傍らで声がした。
自分自身の呟きかと思って振り向いたら、男が佇んでいた。
「どうして??」
家に招いたつもりはなかった。
「つい、迷い込んでしまった。許せ」
結衣は顔をあげ、男をまっすぐ見あげて、いった。
「歓迎します――」

いつものように、結衣を仰向けにすると、男は結衣の首すじを咬んだ。
いつもは公園の芝生のうえなのに、今夜は自宅のじゅうたんの上――
お洋服が汚れるのを怖がらないで済むことが、むしろ結衣の気分をくつろげている。

コクコクと音を立てて血を吸い取られてゆきながら、
結衣は吸血鬼に襲われた娘になり切って、陶然として自宅の天井を見あげていた。
吸血鬼が自分の血を愉しんでいるという事実が、抱きしめたいくらい嬉しく感じた。
貧血をものともせずに、結衣は男のためにけなげに応えつづけた。
男は結衣の身に着けた義母のスカートをまさぐり、結衣のお尻をなぞった。
じわっと拡がる淫らなときめきを圧し殺しながら、結衣は耐えた。

ここで横たわって、侵入してきた吸血鬼に淫らな振る舞いを許しているのは、結衣?お義母さま?
それとも妻?
妖しい幻想に怯えながら、結衣は応えつづけてしまっていた。
男は結衣の足許に取りついて、いつものようにふくらははぎを咬み、
クリーム色のストッキングを無造作に咬み剥いでゆく。
彼自身の嗜虐心を満足させるように。
結衣は彼の嗜好を好意的に受け容れて、
表向きは嫌がりながらも、足許の装いに加えられる凌辱を、知らず知らず愉しみはじめてしまっていた。

男が呟いた。
「このスカートは、なにかを知っている・・・」
考え深げなまなざしで、スカートの花柄を見つめる男。
男のまなざしの向こうに、妻や義母がいるのを、結衣は直感した。
「家族には手を出さないで」
結衣の願いを男は容れてくれて、本来なら求められたに違いない要求を、完全に封じ込めることに成功していた。
男は男なりに、結衣を尊重し愛してくれているのだった。
男はもういちど、呟いた。
「このスカートは、なにかを知っている」

その「なにか」を聞いてしまうのは怖い、と、結衣は思った。
そしてなんの脈絡もなく、義母のスカートを夫にゆだねた妻は、いまごろどうしているのだろうか?と思った。
ほかの男に逢っているのかも――という妄想は、さすがにかき消していたけれど。
そうであるほうがむしろフェアなのかも・・・と思い直したりしていた。
愛し合夫婦が違う屋根の下、別々の相手と夜を更かしてゆく。
そんな夜が現実にあったほうが良いのか、良くないのか。
それはまだ、結衣の意識の向こう側の世界に過ぎなかった。

男はふたたび結衣を抱きしめて、こくこくと喉を鳴らして、
結衣の血を美味しそうに飲み耽っていった。

夜明けの路上で獣に出遭ったら

2018年08月14日(Tue) 06:46:15

その吸血鬼は、かなり兇暴なやつだった。
道行く女性を見境なく襲っては生き血を吸い、路上で犯すのがつねだった。
街が吸血鬼に汚染され始めたころのこと、
ようやく吸血鬼どもの判別が、人間のなかでできつつあった。
情のある吸血鬼や、咬まれて半吸血鬼になった者のなかには、
いちどは犠牲者として咬まれながら心を通い合わせるようになった者や、
家族のために忍んで献血を習慣に取り入れる者も出始めていたけれど。
この兇暴な吸血鬼の相手を好んで買って出るものは、さすがにいなかった。

夜明けの路上で、本庄佐恵子(42)はその吸血鬼に追い詰められていた。
若作りの花柄のワンピースに、てかてか光るエナメルのパンプス。
兇暴な吸血鬼の嗜虐心をあおるには、じゅうぶん過ぎるいでたちだった。

袋小路に追い詰められた女は言った。
「こんなおばさんの血なんか吸ったって、美味しくないわよ!!」
投げつけるような罵声だった。
これから凌辱されようとしているのだから、彼女の言動は当然だった。
男はそれでも目の色を変えて、女に取りつこうとした。

手首を取られ、振り放し、
肩をつかまれ、振り放し、
抱きすくめられて、もがいた。

咬もうとして押しつけた唇をかろうじてうなじから引き離そうとしたとき、
のしかかってきた体重を受け止めかねて、
脚がもつれて路上に倒れた。
男は女を抑えつけて、こんどこそ首すじを咬もうとした。
女はとっさに叫んだ。
「けだものの餌食になりたくないっ!!」
男の動きが熄(や)んだ。

男は抑えつけた獲物をまじまじと見つめ、
女は必死のまなざしで睨み返す。
やがて男は抑えつけた腕から力を抜いて、
這いずったまま後ずさりしようとする女を、もうそれ以上追い詰めなかった。

助けを求めて声をあげ走り去る女をしり目に、
男は重い顔をして起ちあがり、去ってゆく。


佐恵子が男とふたたび出遭ったのは、その翌日のことだった。
兇暴な吸血鬼はふたたび女のまえに立ちふさがったが、
瞳の色が暗いのを女は敏感に見て取った。
「どうしたのよ?よほど切羽詰まっているんでしょう?」
女は訝しげに男を視た。
「すこしだけ、解消した」
「どういうことよ」
男は言った――
吸血鬼と共存することを決めた街が、飢えた同族のために作った施設がある。
金に困った女が自分の血を売るための施設。
そこではどんなにがつがつと啖(くら)っても、文句をいうものはいないのだと。
「その人たちだって、怖いはずよ」
男を咎める目線の強さを変えずに、女は言った。
「そうだと思う」
男は言った。
でもそれがわかるのは、われに返ったあとのことなのだ、と。
満たされているときには、人並み程度には行き届く思いやりというものも、
飢えてしまえば見境がなくなる。
吸い取った血潮をあごからしたたり落すとき、時々虚しくなってくるのだ、と。
「あなた、この街に来て間もないの?」
女の問いに、男は素直に肯いていた。

じゃあ、今朝は私が襲われてあげる。
だって、あなたみたいな乱暴な人と通り合わせたほかの女の人がかわいそうだもの。
どうせあなた、私をやり過ごしたところで、きっとまただれかを襲うんでしょう?
それにその施設――知ってるわ。募集かけてもまだあまり人が集まらないって。
うちの主人、市役所なの。
さいごの告白は、小声になっていた。

俺の流儀は心得ているんだな?
好きになさいよ。
声色を陰湿に翳らせる男にむかって、女はうそぶいた。
あんた、やけになったりしてないよな?
余計な心配しないで。
女は薄い唇を噛みしめて男を見あげると、自分から路上に腰を落とし、姿勢を崩していった。

きのうの夜明けと、おなじ体位だった。
でも、きのうは袋小路だったのに、きょうはそこそこ広い道だった。
住宅街の真っただ中。
女は咬まれ、犯された。

まだ薄暗い町並みに人の行き来は少なかったが、まったく途絶えているわけではなかった。
通りかかった新聞配達や早朝勤務のサラリーマン、ごみ捨てに出てきた近所の主婦など、
時折姿を見せるそうした人々は、凌辱される佐恵子を目にしては意図的に視線をそらし、
けれども男どものいくたりかは、歩調を変えずに立ち去るまで、
ふたりの様子から目を離せないでいるものもいた。

男は好んで女の脚からストッキングをむしり取る癖があったが、
息荒く迫って来る男を満足させるため、
女は身に着けているワンピースまで、気前よく引き裂かせていった。

「気が済んだ?」
栗色の髪を振り乱した女が蒼ざめた顔をあげ、男に薄笑いを向けたときにはもう、通学時間帯にかかり始めていて、
路上でくり広げられる痴態に、かなり遠くを歩いていた男子高校生が、目のやり場に困っていた。
市役所勤めだというこの女の亭主もきっと、そろそろ出勤する刻限だろう。
「いいの。あたし浮気してきた帰りだから。悪い奥さんは、罰として兇暴な追い剥ぎに遭ったの」
そういうことにして、と女は言い捨てると、路上から起ちあがった。
裂けたワンピースを繕おうとしたが、無理に押し拡げられた襟首から覗く下着を押し隠しかねていた。
「送る」
男はぶっきら棒にそういうと、女を抱きかかえ、お姫さま抱っこしたまま家の道順を訊いていた。

「ここまでで良いわ。これ以上恥かかさないで」
家の近くまで来ると女は、自分の足で歩くといった。
顔見知りだらけのご近所で、主婦が他の男にお姫さま抱っこでご帰館あそばすわけにはいかなかったから。
男は女をおろすと、女はあとも振り返らずに家の門をくぐった。
ちょうどはち合わせるように、夫らしい中年の男がスーツを着て、玄関のドアを開いた。
派手に裂けたワンピースをまとった妻の凄まじい帰宅姿を、
夫はびっくりりしたような顔をして迎え入れたが、
女がちょっと囁くとこちらを見て、律儀すぎる会釈を送って来た。
「危ないところを助けてもらって、ここまで送ってもらったの」
きっとそんなふうに言い繕ったに違いない。
夫はそれから30分も遅れて出勤していき、
妻は入れ違いに、まだ外にいた男に目配せをして、家のなかへと誘い込んだ。
出勤姿の夫は、すべてを聞かされていたのだろうか?
曲がり角のところで立ち止まり、妻が自宅に吸血鬼を引き入れるところを見届けると、
もういちど、男に対して律儀すぎる会釈を送っていった。


佐恵子が勤めに出るようになったのは、それからすぐのことだった。
勤務先は、夫が担当する吸血鬼保護施設。
血を吸わせてくれる人間にめぐり会えなかった吸血鬼の救済施設であるここには、
数少ない女性が待機していて、来客があるとあてがわれた部屋に客人を案内し、
そこで自分を好きなようにさせるのだった。

だれもが、ガツガツとした客だった。
ふつうの主婦という属性は、ここでは意外なくらい受けが良かった。
待機している女性たちは、夫に内緒で来ているものもいたが、だれもがふつうの主婦だった。
けれども市役所の職員を夫に持った佐恵子は、
「堅い職業のお宅の奥さん」という名目をさらに人気が高く、ご指名が絶えなかった。
「おばさんの血なんか美味しくないでしょう?」
と、さいしょのころからの言いぐさを絶えず口にしていたけれど、
だれもが彼女の熟れた血潮に癒されて、
ついでによそ行きの小ぎれいなスカートの奥のもてなしに満たされて、
良い気分になって施設から出ていくのだった。

あの男も、時折施設に現れた。
「なんだあなた、まだなじみができないの?」
女は男をからかったが、無言で挑みかかって来る男に唇を重ねて応えてやって、
ストッキングを破かれ、ブラウスをはぎ取られていった。
ときには男の気分を引き立てるため、わざわざ路上に出ていって、
衆目のまえ裸身をさらしていった。


女は知っていた。
男は以前のように切羽詰まって来ているわけではなく、自分に逢いに来てくれているのだと。

道行く女性たちが不意打ちに遭うのを予防するために、夫が作った施設。
そこで働く道を択んだのは、おなじ女性の名誉を少しでも守りたかったから。

こんな施設を作った夫への面当てもあったけれど、
夫は快く許してくれて、それまでまるで意に介していなかった妻の健康管理に心を砕くようになっていた。
勤務の最中に差し入れを持ってきたときには折あしく男と真っ最中で、
妻を初めて犯した相手の男っぷりのよさをしたたかに見せつけられる羽目に遭っていたけれど。
特に苦情を言うでもなく、たったひと言「妻をよろしく」と言って立ち去っていった。
そんな夫の態度に、女は伝法にも、ちッと舌打ちをしたけれど。
男は夫の後ろ姿に手を合わせ、拝むように頭を垂れた。

施設が健全にまわり始めると、男は女を身請けするようにして、棲み処のアパートに引き取った。
かねて夫と打ち合わせていたように、女を自分専用の通い妻にするために。
女は、浮気相手と手を切っていた。
詳細はここでは略するが、浮気相手も自分の妻ともども、男に隷属する立場に堕ちていた。
浮気相手の妻は単なる性欲のはけ口としてあしらわれたが、
女は男の本命として長く愛された。
かつて、なん人もの女たちを路上に転がし辱め抜いていった男は、
こうして市役所職員の妻を堕落させたが、
彼女から獲た血潮の暖かさは、逆に男を清めたのかも知れなかった。


あとがき
このお話に登場する施設・登場人物は、すべて架空のものです。

女装子お見合い倶楽部

2018年08月10日(Fri) 07:29:55

どうしても結婚したいと思った。
相手は、男でも良いとさえ思った。
せめて、女の格好をしているのなら。
そんな不純な想いを抱いて訪れた場所――
それは、
「女装子お見合い倶楽部」
という場所だった。

なんの変哲もない雑居ビルの二階に、それはあった。
得体のしれない世界に踏み込むことをためらう気持ちよりも、
嫁さんが欲しいという欲望のほうがまさって、
気がついたらノックをして、部屋の中に入っていた。

応対してくれたのは、穏やかそうな初老の男の人だった。
案外ノーマルな人だな、と、思った。
「いらっしゃい。こちらは初めてですね?どんな方がご希望ですか?」
名前も連絡先も訊かれなかったことに、すこし安堵した。
男の人は、そんなぼくの想いを見透かすように、
「お名前、ご住所、ご職業とかは、ご本人に入って下さればそれでよろしいです」
押しつけがましくない口調だった。
そして、お差支えあるかもしれませんからね、と、当然のようにつけ加えた。

年齢40歳くらいまで。(ぼくの年齢もそれくらい)
女性として日常を送っている人。
学歴、職業は不問。
容姿、スタイルは特に問わないが、古風な感じの人が好み。
独りで生きていける人。

自分で書いていて、かなり偏った手前勝手な条件だなと思った。
「かしこまりました。ご希望に合いそうな方とのアポイントを取らせていただきます」
初老の男性に言われるままに、携帯の番号とメールアドレスだけを教えて、その日は終わった。
アポイントが取れたのは、数日後だった。
仕事中に携帯が鳴ったらどうしようと内心どきどきしていたのを見透かすように、
それは無表情なメールでやって来た。
「お見合い相手のかたをご紹介します。ご都合のよろしい日時は・・・」

名前:ゆう子(仮名)
年齢:39歳
婚歴:未婚
職業:パートタイマー(某企業にて、女子事務員として勤務)
家族:両親と兄夫婦とは別居、日常的な行き来はあり。家族は本人の女装癖を認知している。
性別:男(男性器あり)

住所や電話番号、勤務先、年収・・・そういったものは書かれていなかった。
こちらが明かさなかったのだから、当然と言えば当然だった。
年収くらい情報交換しても良かったかな?という考えは、浮かんだ途端に消えていた。
ほんとうによい人なら、自分が養えばよい、と思った。

初対面の日は、あっという間に来た。
「初めまして・・・」
あらわれたそのひとは、白っぽいワンピースを着ていた。
肩まで伸びた黒髪に、良く似合っていた。
顔や顔の輪郭が少しだけかっちりとしていたけれど、
それは彼女の容姿を損なうものではなかった。
でも、女性のなだらかさとは少しだけ、異質なものがあると感じた。

女のかっこうをした男と、いまお見合いをしている。
その事実に今さらながらがく然となり、それが態度に現れた。
ゆう子さんはそれでも、不快そうな態度を表に出さなかった。
無理なら遠慮しないで、そう仰ってくださいね。
低くて落ち着いた響きのある声だった。
男が女のまねをするような、不自然な猫なで声などではない。
長い時間に身についたものだった。
ぼくは不覚にも、うろたえた。
自分の覚悟のなさが、恥ずかしかった。
気がつくと、いっさいがっさいを、白状していた。

女性にはまるきりもてなくて、結婚願望ばかり高かったこと。
それでもどうしても結婚したくて、女の格好をしていれば男でも良いと思ったこと。
女装の人と面と向かって話すのは初めてで、慣れない状況に戸惑ってしまっていること。

ここまでで、ご遠慮しましょうか――?
ゆう子さんはちょっと寂しげだったが、淡々とした語調で断りやすい雰囲気を作ってくれた。
そのとき自分自身をかなぐり捨てることができた幸運に、いまでも心から感謝している。

ごめんなさい。そうじゃないんです。
でも、初めてなので戸惑ってしまって。
少し、時間を下さい。
できればもう少し、あなたと一緒にいさせてほしいんです。

できればもう少しで良いから、あなたのまとうその落ち着いた空気といっしょにいたい――そんな失礼なことまで、口にしていた。
いつも浮ついていて自分勝手な自分にとって、彼女のまとう空気感が、とても新鮮だったから。
「人助けだと思って」とまで懇願したぼくに、「だいじょうぶですよ」と、ゆう子さんは笑って応えてくれた。

それからなにを話したのか、じつはあまりよく憶えていない。
ゆう子さんの行きつけの喫茶店に行って、おなじ紅茶を飲んで、言葉少なにお互いのことを話したような気がする。
なぜかお互いに聞き役になっていて、そのために会話がしばしば途切れたけれど、
なんとか言葉をつなぎたいという焦りはみじんも感じなかった。
聞いてはいけないようなことまで、聞いてしまっていた。
夜の営みはどうすればよいのですか?とか。
ゆう子さんは静かに笑って、応えてくれた。
初対面の女性に、そんなこと訊いてはいけませんよ、と、優しくたしなめながら。

どんなことをすれば良いかなんて、考えることないと思うんです。
お互い、愛したいように愛すれば良いと思うんです。
でも、私の考えだけをいうのであれば――
もしもあなたを好きになったら、女として愛します。

女として愛します。

そういったときのゆう子さんの目に帯びたものが、ぼくたちのすべてを塗り替えていた。

「男のお嫁さんをもらうから」
思い切って打ち明けたぼくの話に、両親はもちろん驚いたけど。
「陽(ぼくのこと)が良ければ、それでいいんじゃない」と、あっさりと結婚を許可してくれた。
孫の顔だけは見せられない――とわびるぼくに、「孫はあんたとちがって優秀な兄さんや姉さんができの良い孫を作っているから良いよ」と、いつもながらのひどい言葉で、ぼくのことを安心させてくれた。

ゆう子さんは貞操堅固なひとで、いままで異性とも同性とも未経験だといった。
新婚初夜のベッドのうえ。
はからずも40にもなって、ぼくは処女の花嫁を得たのだった。
愛したいように愛すれば良い。
彼女のことばは、いまではぼくの日常になっている。
夜遅く勤めから戻るぼくをねぎらうために、
ゆう子さんは小ぎれいな服を身に着けてぼくを迎え入れて、
夜遅くまで。
朝早くから。
全身に愛をこめて、互いに互いを愛し合っている。


あとがき
珍しく純愛もの?になってしまいました。
(^^)

ハイソックスの記憶

2018年08月07日(Tue) 08:02:44

いけ好かない・・・
まだ少年だったころ、
半ズボンの下に履いたひし形もようのハイソックスの脚を咬まれながら、
ぼくはそう思って歯がみをした。

くそったれ。
バスケ部の部活のあと、体育館で襲われて、
ライン入りのハイソックスの脚を咬まれながら、
ぼくはそう呟いて歯がみをした。

悔しい、ちく生。
新婚初夜のベッドのまえ、
肌の透ける紳士用の長靴下の脚を咬まれながら、
ぼくはそううめいて歯がみをした。

つぎは、部屋の隅で怯えている新婦の番だった。
彼女は、もっともっと誘惑的な、白のストッキングの脚をテカらせていた。


あとがき
成長とともにハイソックスの種類を変えながら、ずっと吸血鬼の相手をしつづける少年。
行き着く先は花嫁の寝取られだった――ということも、案外ちゃんとわかっていたのかも。^^
いつもと同じように口を尖らせながら、純潔を汚される新婦のあで姿から、目が離せなくなるのでしょうか。