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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

むかし話~鬼と新妻

2017年02月09日(Thu) 07:23:38

昔々、ある村に、凄腕の吸血鬼が棲んでいた。
かつては村人たちを吸い殺し、屍体を寺の山門の梁にぶら提げてさらしものにしたというが、真偽のほどは定かではない。
いまでも人妻や娘をかどわかしては血を吸い、生娘はそのまま家に帰したが、
人妻やすでに男を識っている女は、夜もすがら愛し抜かれて骨抜きにされ、夢見心地で家路をたどったそうな。
生娘が無傷で返されるのは、鬼が生娘の生き血を好むからだと言われていて、
その証拠にいちど吸われた娘はなん度でも、鬼に誘い出されて、村はずれにある鬼の棲み処に自分から出向いていくようになるのだった。

作治は去年、隣村から嫁をもらったばかりだった。
嫁の齢は19、鬼がこれに目をつけぬはずはない。
鬼は作治の新妻をなん度か狙ったものの、
それが白昼だったためか、女にのぼせあがって手元が狂ったものか、まだ想いを遂げ切れないでいた。
けれども鬼が嫁を汚してしまうのは時間の問題と、だれもが観念していた。
どうやら鬼は、いつにもまして真剣なようだったから。
嫁の不行儀をしつけるのは姑の役割であったけれど、
その姑にしてからが鬼にモノにされていて、もう長いご縁もあるものだから、
下手をすると姑が嫁を村のしきたりになじませるために、作治の嫁を連れ出しかねないふうだった。

作治は身体の弱い男だった。
鬼を退治して嫁を守るなど、思いもよらず(作治に限らず、そんなことのできる男はいなかった)、
とうとう思いかねて鬼の棲み処を訪ねていった。
作治は鬼に頭を下げて、自分の嫁を襲わないでくれと願ったが、
鬼はあべこべに言ったものだった。
お前の嫁に惚れてしもうた。いちどで良いから想いを遂げさせてくれまいか。
旧家の跡取りだった作治は自尊心の強い男だったので、憤然としてそれを断り、家に一歩も近寄るなと言ったものだった。
その翌日、鬼は作治の嫁をつかまえて、ひと晩かけてたっぷりと、愛し抜いたものだった。

数日後。
病弱な作治の財産を狙っていた近場の悪党どもが、こぞって何者かにひねりつぶされたと、村の者たちは噂した。

さらに数日後。
作治がふたたび、鬼の棲み処を訪ねてきた。
お前のおかげでわしの嫁は、めろめろになってしもうた。
夜な夜なお前を恋しがって、夜の営みもままならぬ。
勝手に通え。
そのかわり、わしがおらぬ昼間の間だけぢゃぞ。

そして一年後。
鬼に惑った作治の嫁は、作治と鬼とに代わる代わる愛されて、
それでも立派に作治の跡取りをもうけていた。
鬼は種なしだったので、女を犯してもその家の血すじを乱すことはしなかったのだ。
作治の家は裕福だったので、嫁は子供を下女に任せて自由に昼間は出歩いて、鬼の棲み処を訪ねていった。
「勝手に通え」と突き放したはずの作治は、嫁の後をひっそりと尾(つ)けていって。
行先を確かめるだけでは済まさずに、鬼が嫁を愛し抜いて行く様を、やはりひっそりと、見届けていくという。
見栄っ張りな作治の、さいきんの言いぐさは
「うちの嫁は身持ちが固くて、鬼に迫られても三月は操を守った」とか、
「鬼のやつ、たいがいの家の嫁はすぐに手なずけてしまうのに、
うちの嫁に限ってはそうはいかず、のぼせあがったあまりに、想いを遂げるまでになん度も仕損じたそうな」
とか抜かしてをるそうな。
きっと。
作治の跡取りが成人して嫁を迎えたあかつきには。
姑だけではなくて義父までも、鬼が跡取りの嫁の密(みそ)か夫(お)となるよう、そそのかしていくのだろう。

タウン情報 町営のスポーツ施設、服装規定を大幅に改訂。

2017年01月24日(Tue) 06:29:37

町営ゴルフ場の「地水カントリークラブ」は、創立以来初めて服装規定を改訂すると発表した。
内容は、男女ともにハイソックスもしくはストッキングを着用するというもの。
先日来吸血鬼に解放された同ゴルフ場には、プレー中にも多数の吸血鬼が出没するようになり、
被害を受けるプレー客が続出するようになった。
若い人が好んで襲われる傾向が高いほか、同ゴルフ場では被害者の服装に共通点があることを発見。
ハイソックスを着用したプレーヤーがほぼ全員襲われるという結果が出た。
失血でプレー中に調子を崩すケースが相次いだことを理由に、スコアの公平性の観点から、
プレーをするものは全員、ハイソックスの着用が義務づけられた。
「これで健全で公平なプレーが期待できます」と、同ゴルフ場の支配人(50)はほほ笑む。
最近は、男性客のあいだでもストッキングを着用してプレーする客が増えたという。
女性が好んで襲われることを警戒した夫たちが女装をして妻を守ろうとしたというのがきっかけというが、
「ひそかな願望の成就」として利用されるケースも少なくないらしく、
「そういうお客様はことのほかご機嫌でお帰りになります」(同)と、
町内では一風変わった風景が目になじみつつあるようだ。

去る18日、町立体育館で行なわれた中学校対抗のバレーボール大会では、
同じ理由から選手は全員オーバーニーソックスの着用が義務づけられた。
当日は会場側の制止が功を奏し、全試合とも貧血を起こす選手もなく、滞りなく実施されたが、
試合後選手は全員、吸血行為に応じたという。
「あくまで生徒さんの自発的な献血行為と聞いています」(体育館関係者)というのが公式見解で、
父兄を含め被害届はいっさい、出されていないという。
「実はうちの息子も参加していましてね。つきあっている彼女とおそろいのオーバーニーソックスを着用して献血したんですよ」
上記の体育館関係者は、そう明かす。
試合後の献血行為は、きわめて友好裡な雰囲気で行われているようだ。

「このごろ、白のソックスが目だって売れなくなりました」
体育館併設の売店では、黒地のオーバーニーソックスの販売が倍増し、白地のものは半減したという。
もっとも、咬まれた後の履き替え用に買われるケースも多く、
「血のシミをみせびらかしたい」というコアな需要も生まれてきたことから、ニーズは一様ではないらしい。
今後の成り行きが注目される。

ひとりごと。

2016年09月21日(Wed) 07:24:28

ふと思うときがある。
自分のなかでもっとも不純で不潔だと思っているところが、
じつはいちばん純粋な部分なのかもしれない と――

それぞれの時代。

2015年12月10日(Thu) 06:15:34

ハイソックスが流行っていなかった、私の学生時代。
丈長の靴下を、目いっぱい引き伸ばして。
ふくらはぎを咬みたがるあいつに、サービスしていた。
真新しいしなやかな生地にしみ込む、生温かい血潮の感覚に。
ひとり、胸震わせていた。

社会に出たころには、サポートパンストなるものが、流行り始めていた。
強度が強く、いままでよりも発色が鮮やかなストッキングを穿いた脚に、
あいつは夢中になって、しゃぶりついてきた。
光沢よぎるふくらはぎに、よだれをたっぷりとなすりつけられて。
それでもあたしは、ボディコンといわれた流行りの服を着たまま、
脚をばたばたさせて、はしゃぎ切っていた。

ルーズソックスが流行ったころは、三十代の主婦。
ラブホテルの部屋のなか。セーラー服に着替えてやって、
長すぎる分厚い靴下を、くるぶしの当たりでぐにゅっとたるませて。
やっぱりお前イカスよという、ウソだらけの囁きを、
あえて真に受けて、うなずいていた。

おばさんタイツに身を包む日々も、
たまにはと張り切って、今夜も薄々のストッキングを穿いて。
淹れたてのお茶を、部屋へと運び込む。
あなた、よろしかったら今夜もいかが?
刺激的だった毒のある誘惑は、いまでは情けないほど穏やかな、優しい声。
永年連れ添った吸血鬼の夫は、
いつになく優しく、ふくらはぎを咬んできた。

12月9日 7:35脱稿

夜盗。

2015年08月17日(Mon) 07:56:56

その昔、村の近くには夜盗が一人棲みついていて。
追い剥ぎをしたり、女をかどわかしたり、悪さのし放題をしていた。

ある旅の商人は身ぐるみ剥がれたうえに、いっしょにいた女房を目の前で犯されたし、
村いちばんの裕福な商家はなん度も押し入られて、そのたびに女房も娘も手ごめにされて、色とりどりの高価な着物のすそを、太ももが丸みえになるほどに割られていったし、
お代官の奥方までもがかどわかされて、身代金をせしめるまで弄ばれたりしたのだった。

金も奪ったし、女も犯した。
けれども男は絶対に、人を殺めることだけはしなかった。
それがためにお目こぼしにあずかっていたのだと、村のものたちは噂し合った。
お代官の奥方をかどわかして辱めをみたことだけは、
夜盗は決してひとに吹聴することはなかったので、
世間体をつぶされずに済んだ代官が、なんとなしの引け目を感じていることなどは、
村の者たちもさすがに、知らないでいた。

ある晩村はずれの百姓家に押し入った夜盗は、その家の女房をさらっていって、
なん日ものあいだ、自分のねぐらで慰みものにした。
女房は涙ながらに、旦那のところに帰してくれと訴えた。
いまさら汚れた体では戻れまい――夜盗は女房を嘲ると、すっかりなじんだ素肌を求めて、またも体を重ねてゆくのだった。
刈り入れはひとりじゃできねえだ。かんにんしてくだされよお・・・
女房は亭主のことを想って、ひたすら泣き濡れた。

百姓家に押し入ってから十日も経って。
夜盗は夜中に、その女房を連れて百姓家の扉をたたいた。
その晩のまんじりともできずにいた亭主は、そこにいる女房をみて、しっかりと抱き留めていた。
どうしても帰りたがるんでな。帰してやる。
夜盗の言い草は横柄だったが、どことなくきまり悪げだった。
まだ秋だというのに、外は凍りついたような底冷えだった。
百姓は夜盗にいった。
外は寒かろ。ひと晩だけ、泊まってけ。

ひと晩だけじゃぞ――そのはずが、幾晩にもなった。
夜盗は持ち前の腕っ節の強さで、百姓夫婦の手で刈り入れられた稲の束を引っ担ぎ、
おかげで刈り入れははかどって、百姓は女房ともども豊作を祝うことができた。
夜百姓が寝入ってしまうと女房は、夜盗が独り寝している納屋に忍んできて。
だまって肌身をさらして、体をあずけていった。
から寝入りしていた百姓は薄々そんなことにも気づいていたが、
他国に売り飛ばされていたかもしれない女房を、黙って返してくれた夜盗に口うるさいことを言いたくなかったのか、なにも言わずに見過ごしていた。
時には二人が睦んでいるところをこっそりと覗きにくるのを、
女房も夜盗も気づいていたけれど。
亭主のひそかな愉しみにけちをつけるでもなく、お互いに息をはずませ合っていた。

夜盗はすっかり、村に居つくようになっていた。
腕っ節は強かったので、どこの百姓家でも手伝いに重宝された。
盗品を売り飛ばす商才があったから、不景気で困窮した商人たちに、独自に見つけた逃げ道を算段してやった。
剣術はお手の物だったから、代官のお坊ちゃんの剣術の指南まで引き受けていた。

夜盗はやがて、押し入り強盗のお得意先だったあの商家の婿に収まった。
生娘のまま汚されたはずの商家の娘は、あの晩お嫁入りをしたことになっていた。
時には義母になった商家の女房にまで、手を伸ばすこともあったけれど。
強盗に遭うよりは・・・と観念をした主人は、小言ひとつ言うでもなく、
納屋に引きずり込まれた女房が、高価な着物を草切れだらけにして戻ってくるのも、見て見ぬふりをするのだった。

坊ちゃんの読み書きから剣術まで教える夜盗に、お代官は「ご苦労である」と、格式ばって声をかけたが、
たまに奥方がかんざしを買いに商家を訪れて、夜盗と不義密通を重ねるのを、やはり見て見ぬふりをするのだった。
坊ちゃんが年ごろになると、母上を迎えに行くと称して屋敷を出、日ごろ厳しい訓育を受けている母上の、あられもない有様に息をのんで夢中になっていたという。

旅の商人だけは、見て見ぬふりをするということでは済まさなかった。
行きずりに襲われて女房を強姦されていた男は、着物を剥がれて犯されてゆく女房が、歯を食いしばって抗って、さいごにいかされてしまうあで姿に惚れ直してしまって――
金品は奪らなくなった夜盗のために、わざと帰り道をおしえてやるのだった。
案の定あらわれた夜盗に、女房はから騒ぎをして手足をばたつかせ、男ふたりを悦ばしていた。
夜盗の商才にあずかった商人は、商家とも取引を許されるようになって、小さなお店(たな)をひとつ持って、村に落ち着くことになった。
それでも時に夫婦で外商に出向くのは――途中の山道で夜盗に待ち伏せされて、女房を目の前で強姦される――あのころの再現をするためだった。
犯される女房の姿に昂ぶった亭主は、夜盗が済ませた後の女房にまたがっていって・・・陽射しに包まれる女房の肌を、男ふたりで愉しむのがつねになっていた。

腕っ節と商才と、剣術の腕前と。
すっかり村のものになり切った夜盗は、己の才をはたらかせて、村を豊かにしていた。
女ぐせの悪さだけは終生おさまらず、
上は代官所から下は水呑み百姓まで。
あらゆる家で歓迎されながら、
うえは代官所から下は水呑み百姓まで。
あらゆる女房たちの着物のすそをまくり上げ、
あちらこちらに子種を落としていったという。

男の血を受け継いだ子供たちは、あるものは腕っ節が強く、あるものは算術にたけていて、ますます村を、富ましていった。
けれども同じくらい濃く流れる好色な血もまた、受け継がれていって。
いちど日が暮れてしまうと――村では和気あいあいの夜這いの風習が、蔓延していったと伝えられている。

母娘丼と、嫁しゅうとめの味比べ。

2014年09月24日(Wed) 06:33:43

熟女好きの先輩が、ぼくの母親に目をつけた。
「きみの母さん、きれいだね。紹介してよ」
って、頼まれたけど。
なにもわかっていなかったぼくは、
「あんな五十のおばさん、どこがいいんスか?」
って、相手にならなかった。
ご執心だったのか。先輩がたくましかったのか。
二か月後。
とうとう独力で、モノにしてしまった。
父さんが海外赴任して、三年目のことだった。

いつもは厳しい母さんが。
その男のまえに出るときだけは、小娘みたいにおずおずする。
しょーもない命令されてるのに、律義に守ってしまう。
こないだなんか、スケスケのシャツにノーブラで。
乳首が薄っすら、透けて見えた。
先輩に、お袋さんのいま着ている服は?ってメールで訊かれて返事を出したら、こうだった。あとで、「お前に見せつけたかったんだ」っていわれて。
なぜかひどく、ドキドキした・・・

思い切って、切り出してみた。
母娘丼って、興味あります?
姉は母親似の美人で、母親似の勝ち気な性格。
母さんのときには、してあげられなかったから。
姉さんのときには、ちょっぴりだけ、きっかけを作ってあげた。

ふたりの留守中、なん度も家に上がり込んで。
ぼくは先輩を、姉さんの部屋に入れてやった。
きみん家(ち)は、隅から隅まで知り尽くしていたつもりなんだけどね。
さすがに先輩は嬉しそうに、ぼくに照れ笑いしてみせた。
そうだね。
先輩は母さんのあそこの隅々まで、知り尽くしている男(ひと)なんだもの。

姉さんの部屋に入り込んだ先輩は。
定番どおり、姉さんの下着に悪戯をして。
ヤバくなったやつは、無断で拝借していって。
持ち帰っておなねたにされているのを想像したぼくは、不思議なほど昂奮していた。
いちどなんか、姉さんのスーツのスカートの裏に、シミまで付けていったりして。
薄々気づいていたはずの姉さんは、とうとうなにも言ってこなかった。
母さんに似て勝ち気で美人な姉さんは。
父さんに似て、言い出せない人だった。
夢の母娘丼が実現したのは・・・それから一週間と経たないある日のことだった。

「知ってたんでしょ?」
なにもかも知ってしまった姉さんは、口をひん曲げてぼくをにらんだけれど。
いつもの威力は、そこにはなかった。
女にされたばかりの姉さんは、しきりにひざ小僧をすぼめていた。
初めて経験した痛みに、太ももの奥が疼いて疼いて、しょうがなかったらしかった。
母さんの浮気は、口外無用。
姉さんの処女喪失は、部外厳秘。
わかってますって。
ぼくはひと言、こういった。
「男は黙って・・・だよ」
あと、
「おめでとう」
って。
最初にひと言に、「まるで禅問答みたい」って笑いかけた姉さんが、ぴたりと黙って。
小娘みたいにかわいらしく、恥ずかしがっていた。

父さんが帰国してきた。
そのあいだの一年間は、あっという間のことだった。
「まだ婿にもなってないのに、留守を守ってくれてありがとう」
にこやかに声をかけられた先輩は、すぐ隣にぴったりと姉さんを引き寄せていて。
母さんと並んだ父さんのまえ、今まで見たこともないような殊勝な顔つきを作っていた。
まえの晩。
「重大会議」そういって部屋に連れ込んだぼくに、姉さんは言った。
ふたりきりの部屋のなか。
この部屋で先輩とふたり過ごしたあんなときやこんなことのことを思い出して。
ちょっぴりだけ、ドキドキした。

父さんは、なにもかも察していたはずなのに。
「仰っていただいても、いいんですよ。すべてご破算になっちゃうけど・・・」
母さんは口ごもりながら、父さんにそう言ったと姉さんから聞かされたけど。
おずおずと気づかわしげに夫を窺う母さんに、気づかないふりをして。
なにもかも察していたはずの父さんは、「留守を守ってくれてありがとう」
そう言っただけだった。
言い出せない人だった。
非難と譴責の場になりかねないその席で。
父さんは母さんに、お茶を出すように命じて・・・いつの間にか、もてなしてしまっていた。
我が家の未来の娘婿として。

ほんのちょっとだけ、相手のプライドに配慮をするだけで。
温厚な老紳士は、妻の浮気相手を家族の一員として、やすやすと受け容れていた。

「留守を守ってくれてありがとう」か。
帰る道々、送っていったぼくに、先輩がうそぶいた。
さすがにきょうの成功は、素直に嬉しかったらしい。
「家内を犯してくれてありがとう」だよね?
ぼくがそういって、茶化したら。
「うまいこと言うじゃん」って、にんまりしていたけれど・・・
父さんのいる夜に、母さんが外泊をしたのは、その次の週のこと。
姉さんが外泊をした、つぎの夜のことだった。
妻と娘とを、とっかえひっかえで抱かれた男(ひと)は、なにを思ったことだろう?
母と姉とを、とっかえひっかえで抱かれたぼくは、夜通し昂奮で、寝られなかった。

「婚約おめでとう」
義兄さんはそういってぼくを祝福すると。
姉さんが座をはずしたのを見計らって、「で?」といった。
相手は姉さんの友達だったから。
姉さんはわざと台所で、聞こえないふりをしている。
「息子としては、父親のいいところは見習わなくっちゃね」
淡々とこたえたつもりの語尾は、恥ずかしい昂奮に震えていた・・・

母娘丼って、興味あります?
って、訊いたぼくは。
嫁姑の味比べって、面白そうですよね?
って、好色そうににやけるぼくの先輩のことを、そそのかしていた。

母娘丼は、男の夢だという。
嫁姑の味比べも、男の夢だよって、言ってもらえた。
でもね、先輩。
花嫁をウェディングドレスのまま姦(や)られちゃうのって、ぼく夢だったんですよ―――

初めてきみを、咬んだのは・・・ 別題:優しい街

2014年09月16日(Tue) 07:13:12

初めてきみを、咬んだのは。
デニムのミニスカートからむき出しになった太ももが、あまりに眩しかったから。
素肌の咬みごたえときゃあきゃあ叫ぶきみの悲鳴とを、いまでも愉しく思い出す。

初めてきみを、咬んだのは。
スーツの襟首から覗く首すじが、あまりになまめかしかったから。
生き血を吸われることよりも、高価なスーツが汚れるのを気にかけたひと。
こだわり抜いて咬ませてもらった紺のストッキングも、ブランドものだった。

初めてきみを、咬んだのは。
招ばれた法事で、喪服の立ち姿がだれよりもひきたっていたから。
気がついたときには、もうきみを。本堂の片隅でねじ伏せてしまっていて。
黒のストッキングの足首に・・・ジュクジュクよだれを、しみ込ませてしまっていた。

ああ、でもきみたちがだれだったのかを。
思い出すことはもう、難しい。
それほどに・・・悪行を重ねてしまったから。
それほどに・・・身体の部位しか思い出が残らなかったから。



初めてきみを、咬んだのは。
学校帰りの紺のハイソックスに包まれたふくらはぎが、大人の生気に満ちていたから。
おうちに帰り着くまえに、あのハイソックスを咬み破ると・・・きみの彼氏に宣言していた。
吸血鬼さんだって、生きていたいんだよね。
自分の生命まで奪られるわけではないと納得したきみは、俺の身の上にまで同情してくれていた。

初めてきみを、咬んだのは。
彼女が咬まれることを恐れたきみが、おずおずといいにくそうに言い出したから。
男の血なんて、興味ないよね?ハイソックスならボクも履いているけれど・・・
差し伸べられた、ライン入りのハイソックスのふくらはぎ。
スポーツに鍛えた血潮は、思いのほかのど越しが心地よかった。
わるいね、きみ―――
俺のひと言に、マゾッ気のあるきみは、こくりと素直に、頷いていた。

初めて貴女を、咬んだのは。
咬まれた娘を迎え入れた、玄関先。
あなたがついていらっしゃりながら・・・そういって恨みがましく彼氏を睨み、
彼氏は玄関の隅っこで、小さくなって立ちすくむ
優しい彼氏を弁護したくて、俺はきみのことを、咬んでいった―――
深緑のべーズリー柄のスカートの下、肌色のパンストを、思い切りよく引き裂きながら。
毎日お食事、どうしているの・・・?
ブラウスを惜しげもなく赤いシミに彩ってしまったきみは、いつか主婦らしい気遣いをしてくれていた。
もういい加減、貧血でしょう?
気遣う俺は、穿き替えてくれた三足めのパンストをきみの脚から抜き取ってぶら提げながら。
気遣われているんだか、ねだられているんだか。
きみは蒼い顔をしながら、かぶりを振っていた。
娘にお手本、見せなくちゃ。あなた悪いひとじゃないんだもの。
襲った俺が、かえって庇われていた。
ブラウス、クリーニングに出さなきゃね。
またも主婦らしいことを口にしたきみに、俺がお使いに行ってやるからと、せいぜい憎まれ口をたたいていた。

初めて貴男を、咬んだのは。
貧血でぶっ倒れたまま、夫の早すぎる帰宅を迎えた妻を、もの静かに抱き起して。
あんたも生きるのに、大変なのだろうけれど。
やはり最愛のひとを、いきなりこんなふうにされたくはないものだね。
一回だけ、撲らせてくれ。
無抵抗に垂れた頭を、貴男はただ、撫でてくれただけだった。
妻も娘も、明日は朝早いのだよ。これ以上貧血にさせるわけにはいかないからね。
仲直りのしるしにと、貴男は箪笥の抽斗を自分で探って、紳士用のハイソックスに履き替えてくれた。
どうやらお好きなようだから――――
あのときわざわざ、パンストみたいに薄地のやつを択んでくれたのは・・・せめて少しでも、俺の趣味に合わせようとしたからに違いなかった。
奥さんの穿いているパンストが、しつように破かれているのを目にして、賢明にも察しをつけていた、寛大な人。
屈辱による苦痛の裏に、じつは快感が秘められていることを―――そのあと貴男は、初めて知った。

初めてきみを、咬んだのは。
お兄ちゃんや、お義姉さんになるひとのかたきだと、一方的に詰め寄られたときのこと。
じゃあきみもいちど、咬まれて御覧。
性懲りもなくぬけぬけという俺を、きみは挑戦的に睨みつけてきた。
じゃあいいわよ。あたし咬まれたって、夢中になんかならないから。
差し伸べられた白のハイソックスのふくらはぎは、思い切り咬むにはまだ、か細かった。
夢中になんか・・・ならないんだから・・・っ・・・
思わず姿勢を崩して、声をかすれさせたきみのことを。俺はしがみつくようにして抱き留めていて。
あんたの勝ちだ。きみは強い子なんだねえ。
じつは両親や兄たちを気遣って、自分の血も献血にまわそうとしたきみを―――俺はずっと抱き留めていた。

この街で、生きてゆく。
俺を分け隔てしない人たちが暮らす、この街で・・・



あとがき
わざわざ別題を附したのは単にどちらがいいか決められなかったからです。
(^^ゞ

おみやげ

2014年04月30日(Wed) 05:53:28

待ち合わせた公園に。
ぼくは約束どおりの時間に着いて。
咬まれたばかりの姉さんは、5分遅れでやって来た。
1時間もまえから待ちぼうけていた吸血鬼の小父さんは。
「はい、おみやげ。」そう言って。
袋を開けてみたら、まん丸のぼた餅がふっくらと顔をのぞかせた。

ちゅーっ。
ちゅーっ。
ぼた餅にぱくついているぼく達に。
小父さんは、さいしょはぼく、それから姉さんの首すじに咬みついて。
このあいだつけられたばかりの傷口を、さらに拡げにかかってゆく。

ふくらはぎにまで咬みついてくる小父さんを、姉さんはくすぐったそうに見おろして。
真っ白なハイソックスに赤い点々が撥ねるのを、困ったように見つめていた。
きょうは脱いで帰るけどー・・・履いてくやつがなくなったら、ママにばれちゃうよー。
小父さんはにんまり笑って、こう答えた。
「こんどはママに、おみやげを持っていこうかな」
「いいね!いいね!それ、名案!」
ぼく達は口をそろえて、そういった。

つぎの日小父さんは、約束どおりうちに来た。
「はい、おみやげ。」そう言って。
破った袋からのぞいたぼた餅は、ブラウスをはだけた女のひとのおっぱいみたいに輝いていた。

きゃーっ。
ちゅう~っ。
ふすまの向こうからあがる声を聞きながら、ぼた餅にぱくついて。
ふと思った―――
「どうしていつも、ぼた餅なんだろう?」
国語が得意な姉さんが、とっさに言った。
「棚からぼた餅・・・って、言うじゃない」
なあるほど・・・

夕暮れ刻になっても、ママも、小父さんも、部屋から出てこなかった。
「どうしたんだろ?ママ、生き血を吸い尽されちゃったのかな~」
のんきにそんなことを言っているうちに・・・まずい!パパが帰ってきた。
「はい、おみやげ。」
この言葉。いつかどこかで聞いたことがあったっけ?
そう思いながら破った袋のなかから出てきたのは、ぼた餅だった。
「だぶっちゃったね」
ぼくと姉さんは、そう言いながら。
晩ご飯がまだでお腹がすいていたものだから、すぐにそのぼた餅を、ぱくついていた。
「でも、血を吸う人だけじゃなくって、血を吸われる人も買ってくるんだね。おみやげ。」
姉さんは他人事みたいに、そういった。

ぎゃーっ。
ちゅーっ。
「ママのときより、音がそっけない。」
姉さんの観察力は、鋭い。
ぼくにはちっとも、聞き分けられなかった。
どうやら今夜の晩ご飯・・・ぼた餅だけですませることになりそうだ。

「持ってく?おみやげ」
あくる朝、ぼくがそう言うと。
「ばっかじゃない?」
姉さんはぼくの言い草を、一蹴した。
「だって、血を吸われる人も買ってきたじゃん、おみやげ。」
ぼくがなおも、そう言うと。
「・・・ぼた餅にする?」
姉さんは笑って、お気に入りのピンクのハイソックスを、わざとらしく引っ張りあげる。
「なんか、違うんだよね・・・」
考え込むぼくに、姉さんはだしぬけに、大きな声を出した。
「そうだ!チョコレート!」
姉さんが声をあげるのと同時に、スッと差し出された板チョコ2枚。
なにごともなかったかのようにエプロンをしたママは、
夕べの晩ご飯がなかったことに、なに一つ言い訳もしないで。
いつもどおりに、朝ごはんの支度をつづけてゆく。
父さんはとっくに・・・出勤したみたい。

さて・・・と。
そろそろ学校、行こうかな。
姉さんと待ち合わせた帰り道を、楽しみにして・・・
きょうのぼた餅は、いったいどんな味がするのだろう?


あとがき
起き抜けにふと、浮かんだお話です。
^^;

ご城下狼藉異聞

2014年01月12日(Sun) 09:35:33



雨の降りしきる作事場であった。
夜だというのに無数の人夫が、うずくまるように背中を丸め、黙々と地を掘っている。
あちらのものは、四人がかりで大石を担ぎ出し、
向こうのものは、小石を拾い集めて塚を積み上げている。
老若男女、身分の差もまちまちで、人の衣服も粗末なもの、一見して名のあるものとおぼしきもの、とりどりであったが。
だれもが人間業とは思えぬほどの素早さで、目の前の仕事を片づけてゆく。
そのあいだ雨はひと刻も止まず、人々を打ちつづけていたが。
だれひとりとしてそれが身にこたえると感じるものもないらしく、ものともせずに作事にいそしんでいた。

「あれ、幻真(げんしん)さま、お久しゅうごぜえやす」
幻真がふり返ると、野良着姿の年配の男が、目を細め眩しげにこちらをみている。
「よう、治五郎どんか。まことに久しいの。いつ以来であったかな」
「慶長のころでごぜぇますだ。あれから何度かお呼びを賜っておりやすが、なかなかお声がかけられんで」
治五郎と名乗る野良着の男は、申し訳なさそうに目じりを垂れたが、
幻真はそのようなことは気にならないらしく、手を振って男の陳謝を打ち消していた。
「それよりも、娘ごとは逢えたか」
「へえ、ここにおりやす」
傍らでうずくまっていた娘が、だしぬけに起ちあがる。
これもまた、貧しげな野良着姿。
けれども活気に満ちた笑みは、すべての顔色を鉛色に消している夜の闇を射とおすようだった。
「何より何より」
幻真は笑っている。
「そもじたちとは・・・どれほどになるかのう」
「はあ、かれこれ百五十年ほどになりますような。わしらの子孫はいまごろ・・・どこにおりますことやら」
「ここに住むもの皆が子孫であると思えばよい」
はたから聞いていると奇妙な会話であったが、だれもがそれを不思議とも思わないらしく、
ふり返るものはおろか、手を休めるものさえいなかった。




高桜藩五万石。
実高はおよそ十万石といわれ、ひなびたこの国の諸藩のなかではきわだって豊かであったのは。
藩侯の善政宜しきを得て、城下は殷賑をきわめていた。
困難を極めると予想された治水工事も、予定の半分の費えと日数で見事に仕上がりをみせたことは、
その実高をあげるのにおおいに貢献があったと言われるが、
あれほどの作事がどうしてそのようにとんとん拍子になったのかを知る者は、あまりなかった。
まして、あばれ河をみごとにせき止めているあの大きな堤防が、たった一夜にしてできあがり、
いまでも一夜堤といわれる所以など、庶民の知るところではなかったのである。




高桜のご城下は、このかいわいでも一二を争う宿場町でもあった。
痩せ身に骨張った頬をもつ、五十年輩とみえるお武家がこの宿にあらわれ、長逗留を決めこんだのはそのころのこと。
一見して旅人とわかるその風体にも似ず、男は軒を連ねる旅籠には見向きもせずに、一見の大店(おおだな)めざして歩を進めていった。
男が目指した高力屋は、このご城下でもとりわけ店構えの立派な、呉服問屋であった。

人の足しげく行き交う正面から堂々と入ってゆくと、古参の女中がひとり、目を丸めて男を視た。
どんぐりまなこに分厚い唇、置物のように恰幅のよい身体つきをした女中は、珍しい訪客に口をあんぐりとさせている。
「あんれ、まあ。お武家さま・・・もしや幻真さまではございませぬか」
「いかにも幻真である。あるじはおられるか」
「へえ、へえ」
女中が奥へと引き取ると、ほとんど入れちがいのように高力屋があらわれた。
五代目の主人である高力屋庄次郎は、四十年輩の小男で、つるりとした人好きのする面貌と如才無げな物腰の持ち主だった。
四代前のとき、長男が非道な行いを重ねていたのを斥けて、働きものの次男坊があとを継いでから、この家は代々庄次郎を名乗っているのだが、
遠祖の兄庄一郎を回心させ僧侶として生き続けさせたのが幻真と名乗るお武家だということは、代々のあるじだけが口伝えに伝える当家の秘伝となっていた。

ひとしきり久闊を叙し合うと、庄次郎は、
「おときさん、おときさん」
みずから手を叩いて、お内儀を呼びつけた。
現れたお内儀は、お勝手で御飯支度の最中であったらしい。
締めていたたすきをほどきながら現れると、身を二つに折るようにして幻真にお辞儀をした。
「おときさん、ここはもういいですから、今夜は幻真さまのお世話を頼みます」
庄次郎は手短かに告げると、そそくさと商いに戻ってゆく。
ひと言お内儀に耳打ちするのを忘れずに―――

朝まで、表には出なくてよろしいですからね。


「ご城下には、どんな御用で?」
幻真とはすでに気安い間柄であったお内儀のおときは、気さくでサバサバとした口調であった。
あるじの古いなじみであると夫から聞かされている幻真に、
遠慮もせず、狎れすぎもせず、つかず離れずの距離を保っているようだった。
それは幻真にとっても、好ましい関係だった。

「ウン、数日か半月ほど、やっかいになる。じつは女に懸想をした」
男もまた、軽々とした語調だった。内容の濃さとは裏腹に。
まるで焼き芋でも買いに来たような口ぶりがおかしかったらしく、妻女はほほほ・・・と、忍び笑いをする。
「幻真さまでしたら、どんなおなごでもすぐに、着物のすそを割りましょうほどに」
「ははは。はしたないことを言うでない。相手は武家の妻女なのじゃ」
女は目を見開いて、息をのむ。

数日か半月というのは、目当ての女を堕とすのに所要の日数なのだろう。
なんとお手の早い・・・
女が思ったことを、幻真はほぼ見通していたようだった。
「武家の作法というのは、面倒なことよ。そなたなら、宿をとればすぐさま、気安うしてくれるというのにな」
あてがわれた部屋で二人きりになったのを良いことに、臆面もなく肩を掻き抱こうとしてきた猿臂が伸びてきた。
「あらあら、おたわむれを」
お内儀はたくみに、伸びてきた猿臂を避けようとする。
「まだ昼日中でございましょうに」
けれども女のあらがいも、ほんのひとときのことに過ぎなかった。
畳のうえに圧し臥せられたお内儀は、「ああ・・・」とひと声うめいて、男の口づけに、けんめいに応えてゆく。
幻真の喉の奥に、脂の乗り切った人妻の艶めかしい呼気が、濃厚に充ちた。

しつようなくらい熱っぽく唇を重ねると。
「よろしいな?」
男は謎めいた笑みを浮かべ、念を押すようにお内儀を見つめた。
「はい、つつしんで」
お内儀もまた、男に劣らぬ謎笑いを泛べて、言葉を返してゆく。
男の唇が、結わえるように濃く重ね合わせていた女の唇からそれていき、おとがいからうなじへと、流れていった。
女は息をはずませて、その身をかすかにわななかせている。
なん度回を重ねても、このときばかりは気が張るものらしい。
男の唇は、しばらくのあいだ女のうなじを撫でるように這いまわっていたが。
一点をここと決めると、ググッ・・・と力を籠めてきた。
男の口許から覗いた犬歯は鋭利な尖りをみせ、お内儀の首すじに深々と埋められてゆく。
「ああ・・・」
お内儀は悲しげに声をたてたが、男はゆるさなかった。
見るからに値の張りそうな着物の衿足に、赤黒い血潮がぼとぼととほとび散る。
「ああ・・・ああ・・・ああ・・・」
生き血を吸われていることを実感しながら、お内儀は男の腕の中で、もはや抗おうとする気色を見せなかった。
着物の汚れを苦にするふうもなく、ひたすら小さくなって、男の欲求に応えつづけてゆく。
くちゅ・・・くちゅ・・・
生き血を啜る音が、人を遠ざけられた密室の畳を、深く静かに浸していった。


もろ肌を脱いだ着物は、帯で縛りつけられたようにして、まだ女の身体に残っている。
すその前は割られ、足袋を穿いたままの肉置きのよい脚が、太ももまで露わになっている。
男は女の豊かな乳房をまさぐりながら、乳首を吸い、唇を吸い、うなじにつけた噛み痕を吸った。
「幻真さま、お強い」
すでに男女の交わりを果たした後の女の満悦が、お内儀の総身にみなぎっている。
夫の庄次郎は、まだせわしなく商いの渦中に身を置いている時分だろう。
しかし、城下一の甲斐性とうたわれた夫の働きぶりも、迫ってきた夕暮れも、女には関心のないことだった。
いまはひたすら、夫よりも十は年上にみえるお武家の逞しい身体が迫ってくるのに身を任せ、痴情をあらわにひたすら、乱れるばかり。
夫は稼ぎ、妻は不義をはたらく。
いいじゃないの。あたしは商家の女。お武家さまとはわけがちがう。
いまはただ、ひたすらに。酔っていたい。莫迦になっていたい。
女はなおも求め、男はなん度も身を重ねた。

男の掌が、まだおときの乳房にあった。
片手間のようにまさぐる手つきが、痴情の余韻をまだやどしていて、
時おり想いを深めて素肌に迫ってくる。
こんな有様をこの大店の使用人が目にしたら、ひっくり返ってしまうだろうか。
それともそ知らぬ顔をして、通り過ぎてゆくだろうか。
あるじのお仕込みのよろしいこの店のことだ。きっと素通りしてゆくに違いない。
男はおもむろに、女に訊いた。

「おみよは幾つになった」
「ハイ、今年で十六に」
おみよはおときが嫁いですぐにもうけた娘で、男の児に恵まれなかったこの家の惣領娘だった。
あるじは働き者ではあったが、子種にめぐまれないらしかった。
なかには口さがないものがいて、あの娘もお内儀が嫁ぐまえに、実家の使用人相手にできた子だと陰口をたたくものがあったのだが、それは違うと幻真は思っていた。
つるりとした娘の面貌は、おときよりもむしろ、庄次郎に似ていたのだから。

「あの小娘も、わしと初めて契ってから、はやみとせになるか」
幻真が露骨なことをいうと、おとせもさすがに母親の顔に戻っていた。
「困りますよ、あまり軽々しく仰ると。評判になります。嫁にいけなくなります。婿も取れなくなります」
「そなたとの仲も、ご城下で知らぬ者はおらぬまい」
「妾(わたくし)と嫁入り前の娘とでは、違いましょう」
「ははは。そう申すな。あの娘には近々、婿を取って、跡取りを決めねばなるまい」
幻真はまるで、この大店のあるじのようなことを言う。
「幻真さまのお種が、いただきたかった」
女もまた、こわいことを口にした。
「わしの種ではの・・・そんなものができたら、寺に入れて坊主にするしかない」
あるじだけが知っているという、この家の長男坊の仕儀を、このお内儀は聞いているのだろうか?
「わしの部屋には、おみよも寄越せよ」
「妾しだいでございますとも」
「ということは、母娘で毎晩通うということだな」
「おたわむれが過ぎます」
「構わぬ、そなたも時には亭主と寝るがよい。娘に代わりを務めさせれば済む話」
「まあ」

今夜はつきっきりですよ、というお内儀に、幻真は悪戯心を沸かせていた。
「あるじとも一献、まいりたいの。今夜はおとき、夫婦の寝間に戻るがよい」
「え・・・?」
抱いてはくださいませぬの?と言いたげなおときのおとがいを掴まえると、男は囁いた。
「あるじの前で乱れるのも、また一興であろうが」

ははは・・・ふふふ・・・
性悪な男女の忍び笑いが、昏くなった窓辺を染めた。
あるじは幻真の、たちのよくない性癖をじゅうぶん心得ているのだろう。
今ごろ早手回しに、お銚子の支度をしているはずであった。





「ご下命を受けてきた」
河原太郎左衛門は、おごそかな顔をして、妻女の芙美に告げた。
「であるからによって、そなたも左様心得るがよい」
「は・・・はい」
瞬時でもうろたえたことを恥ずるように、芙美は茶室の畳に三つ指を突いて頭を垂れた。

仲睦まじい夫婦のあいだで、茶事は日課のようなものであった。
「ご逗留のあいだ、わしはこの茶室には足踏みをしない。人も立ち入らせない。よいな」
「心得ました」
神妙に頭を垂れる芙美は、夫の言を反芻するように、須臾の間目線を畳の上にさ迷わせた。
「名誉のことであるぞ」
「もとよりのことでございます」
芙美は初めて夫の目を見返した。
当家に嫁入って、はや二十年が経とうとしていた。
すでに嫡子の勇之進は一家をたて、夫婦とは別棟を構えている。
大身の家柄にして、初めてできることではあった。
「かえってそのほうが、好都合であろうの」
夫の言いぐさに、妻もまた肯いていた。

夫婦の間で交わされた謎めいたやり取りに、耳をそばだてるものはいなかった。
太郎左衛門は語り終えると、なにごともなかったような顔つきで、妻女にいった。
「さて、もう一服いただこうか」




幻真と名乗るその五十年輩の男は、藩では古くから、ひどく重んじられ畏れられているという。
彼の事績がもっとも古く残るのは、あの治水工事のときのことだった。
出どころ不明の人々を差配した幻真は、一夜にして堤を築きあげ、あばれ河の氾濫を防いだのである。
それがかれこれ、百五十年も前のことだった。

そのおなじ人間が、まだこの世にあって、しばしば城下に現れるという。

さいごに現れたのは、二十年ほど前だった。

藩政を壟断していた家老が驕慢のあまり家中を乱したさい、ご公儀にも知られずにことを裁くことができたのは、ひとえに幻真のおかげであったという。
秘密裏に永の暇を賜った悪家老の家の末路も、だれ知らぬものはなかった。
はばかりの多いことだったので、記録に残されることはなかったから、見聞きした者たちがいなくなったあかつきには、すべてが忘却のうちに葬られることだろうが・・・

当時四十を過ぎたばかりであった家老には、嫡子夫婦と己の妻、それに還暦を過ぎたばかりの母儀をもっていた。
永蟄居を命じられた当主が引き籠る離れからは、母屋で行われていることすべてを、気配で察することができたであろう。

嫡子は寺に入り、お家は断絶。

夫に去られた若妻は、たちまち幻真の餌食にされて、邸の広間で幻真に組み伏せられ、生き血を吸われた。
白昼の狼藉に泣き叫ぶ声が、邸じゅうに響き渡ったといわれている。

家老の妻女もまた、自らの節操を泥濘にまみれさせる仕儀と相成った。
それは離れにほど近い庭先で行われたという。
驕慢に満ちた態度もとともに謳われた城下一の美貌を悔しげに歪めながら、
豪奢な打掛姿で幻真に対し、脂の乗り切った膚をあらわに庭先で乱れたという。

年老いた家老の母儀さえも、おなじ災厄を免れることはなかった。

家老の広壮な邸は売り払われ、跡地には女郎宿がたった。
幻真がどこぞから連れてきた手練れの女将が差配する宿で、
気位と精気を抜き取られた妻女たちは、武家の身なりのままに客をとって、春をひさぎつづけたという。




「なんとか儂だけで、ご勘弁願えぬものですかな」
河原太郎左衛門は、なにごともなかったような温顔で、相手を視た。
男が唇を吸いつけたあとには、かすかにではあったが、まだ赤い血潮が撥ねている。
傷口に帯びた痺れるような疼きは、尋常のものではない。
修練を積んだ武家ですら、取り乱しかねないほどの、濃い誘惑に満ちている。
じんじんと疼く傷口に顔をしかめながら、太郎左衛門はなおも、淡々と告げていた。
「芙美にこのような目をみさせて、あれの節操を試すようなことをするのは、不憫ですでな」

幻真と名乗るこの男の、苗字すらも訊かされていない。
はたしてそれが本名なのかどうかすら、分明ではないという。
そのような素性妖しきものに、わが妻女を―――
ひとりの男として、そう思わないわけにはいかなかった。
まして、藩の権柄づくで妻女の節操を地に塗れさせるなどという恥辱を受けるいわれは、どこにもなかった。
いっそのこと・・・若者のように暴発しかけた太郎左衛門のことを制したのは、三十年来の上役だった。
「儂にも所存がある。こたびのことは、忍んで享けよ。まずは幻真どのに逢うてから所存を決めてもよろしかろう」
短慮はならぬぞ、といったその上役もまた、妻女を密通されていたと知ったのは、だいぶあとのことだった。

「貴殿を辱めるつもりは、毛頭ない。御当家の名誉を穢すつもりも、もちろんない。家老殿のことがどうやら、悪く伝わっているようですな」
幻真の言葉に、太郎左衛門は、もしやご下命の内容は僻事ではないかと思ったほど、彼の態度は慇懃を極めていた。
けれどもその見通しは、すぐにくずれた。
―――ご妻女に、懸想をしておる。見染めたのは、昨年の秋。晩龍寺に参詣されておられたであろう。
男の言い方は、直截的だった。
晩龍寺は、例の家老の嫡子が隠棲している寺であった。
遠縁でもある河原家は、しばしばこの寺に詣でて、かつての家老の嫡子とも親交があったのである。
そのときの妻女の立居振舞も、帯びていた着物の柄も、なにもかもが、芙美のそれと符合していた。
―――ご妻女をお見かけしてから、儂は狂ってしもうた。この鬱念晴らすには、ひと夜ふた夜では、とうていすまぬ。
掻き口説く口ぶりはまるで狂人のようであったが、同時に男がただ者ではないことも、太郎左衛門は知るのだった。
お城に出仕して数十年。そのあいだに見聞きしたこと、交わしてきた言葉のすべてが、この男が瞠目に足る人物であることを告げていた。
小半時も言葉を交わしていたであろうか。
さいごに力なく呟いたのは、太郎左衛門のほうであった。
「この齢で、妻女の不義を見届けることになるとは、思いも寄りませなんだよ」
「不義ではござらぬ」
幻真は言下にいった。
「ご厚誼と承りたい」





茶釜のお湯が沸き立つシュウシュウという音を耳にしながら、芙美は淡々と茶事に集中した。
傍らに居住まいを正しているのは、夫ではない。
そもそも夫以外の男を一人でこの茶室にあげたことは、初めてだった。
男女でひざを交え、差し向かいになるということが、思わぬ恥辱をもたらす・・・武家の婦女として当然わきまえてきたはずのことであった。

客間で引き合わされた幻真は、思いのほか涼やかな面貌をもっていた。
頬の輪郭が濃く彫りの深い顔立ちに永年の労苦が滲んでいるのを、炯眼なこの婦人は、ひと目で見ぬいていたのだった。
百年以上もまえに一夜堤を築かれた・・・というのも、僻事ではないような。
そう思わせる風儀が、この男には漂っていた。
それと同時に―――
この男は極端なくらいの脆さをも、兼ね備えている。
それに気づかないわけには、いかなかった。
深手を負って、息も絶え絶えな男。
それだのに、己に無理強いして、ほほ笑みしか見せていない。

永年連れ添った自慢の妻女を、いよいよひきあわせる というときに。
太郎左衛門は幾度も逡巡し、己の逡巡を恥じ、己を叱りつけて強いてこの座に自らを引き据えた。
余所着に使っている緋色の単衣に身を包んだ芙美が姿を現して、客人の視線に注視されると。
思わず、生贄を捧げるもののやり切れなさが男を一瞬浸したけれど。
太郎左衛門もまた、人の目利きでは妻女に劣るはずもなかった。

十年に一度。
節操高き武家の女を数名、懐抱せねばならない性を、河原家として受け容れる覚悟が、一瞬にしてできあがっていた。
「当家自慢の妻女でございます。ふつつかではございますが、どうぞご存分に果たされますように」
太郎左衛門は、これから芙美を穢そうとする男に、深々と頭を垂れた。
「貴殿の欲するところは、当家の名誉とするところにて候」

しずしずと去ってゆく妻女の衣擦れの音が遠ざかってゆくのを、太郎左衛門は目を細めて聞き入っていた。


育ちの良い、楚々とした立ち姿。
武家の妻女らしい、無駄のないきびきびとした立居振舞。
ふとした口吻から窺える、深いたしなみと高い教養。
そのいずれもが、幻真を惹きつけてやまなかった。
あの晩龍寺での、参詣の折そのままであった。

晩龍寺の住職は、十年前に失脚した家老の嫡子であった。
芙美との面談に応じた彼は、男子としては繊弱な細面に笑みさえ浮かべて、当時のことを語ったのだった。

わたしこそが、罰を享けねばならなかったのです。妻女にそれを追わせてしまったのは、拙僧生涯の不覚でありました。
身を淪(しず)めて身体をこわした妻女を身請けして、尼寺に入れて下さったのも幻真さまでございまする。
いまは恨みも消え果て、ただ感謝と誇りだけが、不思議と胸中を去りませぬ。
妻女の身から若妻の生き血を召されたこと、昼日中からうら若き身で幻真どのの煩悩を去らしめたこと。
妻女のしたことを、拙僧いまは誇りに感じておりまする。

はたして妾(わたくし)は、誇りを感じることなどできるだろうか。
これからなされてしまうことに対して・・・

芙美がもの想いに耽った一瞬の隙を、幻真は見逃さなかった。
気がつくともう、彼女自身の身体が男の猿臂に巻かれているのを知って、芙美はうろたえた。
「なりませぬ」
かまわず、男の唇が芙美の襟足を這い、うなじに近寄せられる。
「なりませぬ」
掻き抱いた両掌が、着物のうえから芙美の肢体をまさぐり、節くれだった指先が、えり首に忍び込む。
「なりませぬ!」
女は身を揉んで抗ったが、婦女を凌辱することに狎れた男のやり口を遮ることはできなかった。
無体な狼藉など、この身に及ぶとは、夢想だにしなかった数十年の生涯の果て―――このような恥辱を享けねばならないのか?
芙美は悔しげに唇を噛み、忍び泣きに泣いた。

男はそれでも容赦なく、手を緩めることなく芙美を責めつづけた。
解かれた帯は茶室の隅にとぐろを巻いていた。
結わえをほどかれた黒髪は背に波打って、ユサユサと揺れつづけた。
はだけられた襟足から覗く乳房の輝きに、女は恥じ入って目を逸らしたが、
下前を割られていたことには、不覚にも気づいていなかった。

ヒルのようにヌメヌメと這う唇に、グッと力が込められる。
ああ・・・
生き血を吸われてしまったら。もうおしまいだ。
女の想いとは裏腹に、尖った異物が素肌を冒した。
圧しつけられた犬歯が皮膚を破り、ずぶずぶと埋め込まれる。
首すじに撥ねた血潮のなま温かさが、濃い敗北感となって女の胸に黒い影を落とした。
夫が何日もかけて、己の血だけで満足してもらおうとしていたのは、このためだったのか。
じりじりと痺れるような、咬み痕の疼き。
そのままじゅるじゅると啜られるたびに、頭のなかが真っ白になり、魂まで吸い取られるような気がする。
それが悦びに変化するのに・・・さして時間はかからなかった。

男の掌が、あらわになった乳房をわがもの顔にまさぐりつづける。
ああ・・・
いちど受け容れてしまったら、どうして耐えることができようか。
膚を許す殿方は、夫ひとり―――つい数日前まで、そのつもりであった。
永年心を温め続けてきた想いが、いまや覆されようとしている。
その事実が、こともなげに、目のまえにあった。

しみ込んでくる指先の感触が。
あてがわれてくる唇の熱さが。
命がけで節操を守ろうとする女の手足を、痺れさせる。
「なりませぬ。な・・・なりませぬッ!」
芙美は歯を食いしばり、河原家の妻女としての務めを全うしようとした。
手足をばたつかせ、男の意図をさえぎることで。
下腹に衝きあげてくるものが、すべてを塗り替えたのは、そのときだった。
ずぶ・・・
女にも、切腹ということはあるのかもしれない。
芙美はあとから、そう思ったという。
衝きあげてくるものは硬く猛くいきりたっていて、女の秘所に乱入してきた。
熱いものを吐き散らされるのを感じ、自分の節操が好みから喪われたと知ると、
女の身体から、すべての力が去った。

なり・・・ませぬ。いけ・・・ませぬ。人がまいります・・・
女はなよなよとした声色で、甘く囁きつづけていた。
芙美は歯を食いしばり、河原家の妻女としての務めを果たそうとしている。
足袋を穿いたままの脚を大またに開いて、男の劣情を我が身に受け止めて。
河原家の妻女の貞操を蹂躙されることを、自らの歓びに変えていったのだ。

ご主人・・・さまよりも・・・いえ、太郎左衛門よりも・・・幻真さまが・・・好き。

障子一枚隔てた外では、折からの寒気に震えながら。
妻の裏切りを言葉で洩れ聞いた男は、べつの昂ぶりから、もういちど身震いをする。
つぎは、勇之進の妻女の番じゃな。
十七で嫁いできたばかりの、まだ童顔の稚な妻。
幻真どののお口に、合うだろうか―――
魂の入れ替わった男は、驚きながらも不承不承に肯いた跡取り息子が目じりに泛べた好色の翳りを、見逃してはいなかった。
救国のひとを、煩悩から救ったことで。
汚された節操は、じゅうぶんに報いを受けたのだろうか。


あとがき
珍しく、二時間くらいかかりました。A^^;
ひさびさの時代ものの登場です。
前作は、「武家女房破倫絵巻」。
このたいとるで、けんさくしてみてくだされ。^^

支配された西洋館

2013年01月03日(Thu) 11:33:59

魅力的な夫人。寛大そうな夫君。利発そうな令息に、大人しそうな令嬢。

夫人の手作りの料理に、さいごは紅茶まで振る舞われて。
辞去するとすぐ、男は言った。
「今夜もういちど、お邪魔する。お前も手伝え」
あれほどにこやかに接し合っていた人たちを、早くも今夜襲おうというのか?
ネックレスの清楚な輝きに縁どられた夫人の首すじに、やつが獣のように食いついて血を啜る場面を、わたしはすぐに想像した。
それは彼がわたしの妻にしたのとおなじ所業として、二重写しになったのだった。
「大(で)ぇ丈夫だ。やつらも薄々、気づいているって。この街に棲みついて二週間もたてば、吸血鬼様の訪問を受けるってことをな」
そう。それはそのまま、わたしたち夫婦のたどった運命でもあった。

もちろんのことだったが、昼間のときとは裏腹に、ジョーンズの邸は暗がりに支配されていた。
「夫婦は一階。子供たちは二階だ。俺はだんなと女房をやる。お前ぇには子供をやらしてやるよ」
活きの良い血に、たっぷりとありつけるぜ・・・
やつの言いぐさはしかし、すでにわたしの心の奥深く根ざすようになった第二の本能を、的確にくすぐったのだった。
人の寝静まった真夜中にはふさわしくない騒々しいもの音がにわかにあがる階下を背にして、わたしは二階に通じる長い階段を、ひと息に昇りつめた。

開いたドアの向こう、窓際のベッドには、少年の影。
「来たんだね」
トニーと呼ばれる少年は、白い頬でこちらを向いた。
―――やつらも薄々、気づいているって。
やつの言いぐさを裏打ちするように、少年は昼間の服を着込んでいた。
白のブラウス、濃紺の半ズボンに、おなじ濃紺のハイソックス。
半ズボンとハイソックスのすき間から覗く太ももは、月の光に照らされて、白い膚をいっそうツヤツヤと光らせていた。
階段ごし、悲鳴がふた色、つぎつぎにあがるのと、そのどちらもがすぐになりをひそめてしまうのを。
少年は無表情に、じいっと聞き入っていて。
「パパやママもやられちゃったんなら、ボクだけ逃げても意味がないよ」
ぽつりとそう呟くと、
「どこから吸うの?」
自分のほうから、ブラウスの襟首をくつろげていた。
「ひとつ、頼みがあるんだ。ミーナだけは、怖がらせたりしないでね」
「それは、きみ次第だね」
わたしの言っている意味を、利発な少年はすぐに察したらしい。
「ウン、わかったよ」
そういって、なんの抵抗も示さずに、首すじをこちらに振り向けていた。

ふさふさとした金髪の頭を押し頂くようにして、すんなり伸びた首すじに唇を近寄せる。
もう、喉が、胃袋が、たとえようもないほどに昂ぶったどす黒い衝動にわなないていて、
性急にかぶりつくことの愚かさを知りながらも、こらえることはできなかった。
むき出した牙を首すじに突き立てると、そのままずぶずぶと、もぐり込ませていった。
十代の少年の柔らかな皮膚は、それは心地よい噛み応えだった。
「あ・・・」
トニーはさすがにかすかに声をあげ、とっさにわたしの身体を引き離そうともがいたけれど。
それはわたしが帯びた嗜虐心を逆なでして、即座にねじ伏せられてしまうことで忌むべき征服慾を満足させただけだった。

ズズッ・・・じゅるうっ。

むざんなくらいナマナマしい音を立てて、わたしは少年の血を啖った。
若い生命力を秘めた芳香にただ惑溺して、陶然となった数分、数十分。
ふたたび起きあがったとき、少年もつられるようにして身を起こしたけれど。
「貧血・・・」
額に手をやって、「ちょっと勘弁」と言いたげに、拒絶の掌を拡げていた。

わたしは少年の恢復を待ったが、それは意外なくらいすぐのことだった。
「だいじょうぶ。ちょっとのぼせただけみたい」
トニーは女の子みたいに華奢な造りの口許をせわしなく動かして、「ボクはだいじょうぶ」と、なんども強調した。
欲望に負けてついかがみ込んだ足許に、少年は視線を落としたけれど。
紺のハイソックスのふくらはぎに再び近寄せられてくる唇を避けようとするでもなく、
ハイソックスを履いたまま唇を這わされ、突き立てられた牙がしなやかなナイロン生地の向こう側へと通り抜けるのを、顔をしかめて見つめるだけだった。
「ミーナの脚にも、そうするつもり?」
「・・・避けられないんだ」
自分でも意外なくらいに、申し訳なさそうな口調だった。
まだわたしのどこかにも、寸分くらいの理性は残っていたらしい。
「小父さん、ついこないだまで普通の人だったんだろ?」
少年はむしろ気遣うようにわたしを見つめると、「絶対死なせちゃだめだからね」と念押しするように言うと、ベッドに腰を下ろしたまま顔を抱えて俯いたわたしの側をすり抜けるようにして、隣室に走っていった。

トニーが妹のミーナを連れて再び現れるのに、数分かかった。
ためらう妹をなだめすかして連れてきたのだろう。
それまでのあいだ、時折切れ切れにあがる階下からのうめき声がひとつの効果を持ったのは、ほぼ間違いなかった。
そのうめき声は、回を重ねるたびに、苦痛よりも随喜を色濃く滲ませていたのだが、果たして幼すぎる彼らがどこまでそれを察したのか、いまでもわからない。
「階下にいるのは、ほんとうに怖い小父さんだから。いまのうちに、ボクを噛んだのと同じ優しい小父さんに噛まれちゃったほうが、楽だよ」
少年はそういって、妹を促したのだという。

恐る恐る引き上げられた、ピンクのスカート。
殿方でスカートのすそをあげるなどという教育は、節度をきちんと弁えた賢明な主婦らしいあの母親からは、きっと受けていないはずだった。
妹がかろうじてその姿勢を取り得るまでに、少年は自分でお手本を示すために、
ずり落ちかけていた紺のハイソックスを引き伸ばして、わざとわたしに噛ませてみせた。
「ほら、なんでもないだろ?ちょっぴりくすぐったいんだぜ?」
努めて明るく、そんなふうに言っていた。
少年の血の味からすると、その妹の血もきっと、健全な知性と生命力を秘めた味がするのだろう。
ストラップシューズの足首を床に軽く抑えつけ、少女の目線からは牙が見えないようにしてかがみ込むと。
白のタイツにおおわれたか細いふくらはぎに、わたしはゆっくりと、牙を降ろしていった。
脚をすくませたまま受け容れた牙を、容赦なくグイッと埋め込みながら。
白タイツのしなやかな舌触りに、タイツの向こう側の柔らかな肉づきに、ほとび出る血潮の生気を帯びた味わいに、わたしは獣の本能を満足させてしまっている。

床に尻もちをついた姿勢のまま、兄のベッドに頭をもたれかけさせて、少女はうつらうつらするように、半ば気を喪いかけている。
生命がけの献血が、よほどこたえたらしい。
「やっぱり女の子の血が目当てだったんだね?吸い過ぎだよ、小父さん」
少年はわたしのことを咎めながらも、なおも自分の首すじに唇を吸いつけようとするわたしを、拒もうとしなかった。
少年の身体から吸い取った血液が、しなやかに喉を通り抜け、胃の腑に居心地良く澱んでいた。
明るく、心優しいたちの生まれつき。清潔な日常。質素だが行き届いた生活水準。
そうしたもののすべてを、彼の血はわたしの本能にじかに伝えてきた。
わたしの胃の腑のなかで兄の血潮と仲良く織り交ざったその妹の血も、わたしをうっとりさせるのにじゅうぶんだった。
「大きくなったらまちがいなく、別嬪になるね」
思わず呟いたわたしを、
「そんな下品なこと言わないでよ」
少年はまるでわたしよりも年上の兄のように、笑って咎めている。

階上からこちらへ上ってくる足音に、少年はちょっぴり眉をひそめた。
「彼・・・母さんになにをしたの?」
「だいじょうぶ。死なせてはいないはずだから」
「それはそうだけど」
言いさしたそばから姿を現したのは、噂の主だった。
「うまくやったようだな」
「ああ、なんとかね」
「お嬢ちゃんは貧血かね?」
「年齢制限ぎりぎりだからな」
度を越して吸い過ぎたわけではない・・・と、とっさに言い抜けするのを見抜いた彼は、にんまりと嗤った。
その嗤いかたが、気に入らなかったのか。
少年は起って彼の正面に立つと、いきなり横っ面をはり倒した。
目にもとまらぬ勢いだった。
張られた彼も、目の当たりにしたわたしも、手をあげた本人までもがぼう然としていた。
少年はすぐに気を取り直すと、
「母さんになにをした?」
切羽詰まった口調だった。
「まだこの子は若い」
わたしはトニーのために、弁護した。
「ああ・・・そうだな」
張られた頬をさすりながら、彼は少年のことを怒りもせず、もういちど張り手を食うまいと距離を置きながら、弁解するような声色でこたえた。
「母さんはどこまでも、レディだったぜ。父さんに訊いて御覧」
「そう信じていいんだね?」
少年の目は、なおも険しかった。
「ミーナはきみのことを、嫌がっている」
少年の主張を、彼はすんなりと受け容れた。
「きみの意向を尊重しよう」

邸を辞去するのは、ぎりぎり夜明け前だった。
身づくろいをしているらしい母親は顔を見せなかったが、子供たちが無事なのを確かめた父親は安堵したようにふたりを抱き寄せた。
「あんたのとこも、こういうことだったのかね?」
彼はわたしを見てそういった。
「おおむね、どこも違いはないと思いますよ」
「奥さんとはいまでも・・・いっしょに暮しているの?」
「夫たるもの、寛大でなければなりませんからね」
「なるほど」
彼は苦笑して、わたしに握手を求めてきた。
「こちらとは打ち解けるのに時間がかかりそうだが・・・あんたは子供たちの好い遊び相手になってくれそうですな」

理性もろとも前身の血を吸い取られてでくの坊のようになった夫は、夫婦のベッドで自分以外の男を相手にしている妻を目の当たりに、ただ苦笑いをしているよりなかったのだろう。
覚え始めた血の味を確かめるため、首のつけ根に滴る血潮を、時折指先で舐め取りながら。
昼間はお紅茶を淹れた客人のために、もっと濃い赤い液体を気前よくご馳走する妻の裸体を、ただの男としてたんのうしてしまったはず。
けれども賢明な夫なら、おそらく彼女となんらかの折り合いをつけて、それ以上子供たちを泣かせるような行動はとらないはずだった。

帰り際。
トニーは脱いだハイソックスを片方だけぶら提げて、「記念に」といって、わたしの掌に押しつけた。
「穴のあいたやつだけど。もう片方は、ボクなくさずに持っているから」
ミーナも兄に倣って、白のタイツを片方、わたしのまえにぶら提げた。
ふくらはぎのあたりに赤黒いシミがついているのを、父親も、遅れて顔を出した母親も、見て見ぬふりを決め込んでいる。
「子供たちの遊び相手になってくれるらしいよ」
さっきと同じことを、夫は妻を顧みて言い、妻もまた「よろしく」と、短いながらも気持ちのこもった会釈を投げてきた。

「けっきょくあんたの、独り勝ちか」
さっきまでの尊大な態度をかなぐり捨てて、やつはげんなりとした顔をしてそういった。
「わざとそうしてくれたんだろう?」
やつはくすぐったそうに、笑っただけだった。

奪(と)られた妻 ~ひとしの場合~  3 住宅街の公園で

2012年10月29日(Mon) 08:01:43

ブルルルルルルル・・・
愛車のエンジンが轟きを停めると。
あたりはまだ明るいうちとは思われない静寂に包まれました。
ここは自宅からほど近い場所にある、広い公園。
都会の郊外にありがちな、真四角な住宅のすき間に無理やりしつらえられたような一角。
申し訳ばかりに木立ちが佇む、その公園に、
わたしは妻の智美を伴い、降り立ったのでした。

デンさんは、真正面のベンチに腰かけています。
日向ぼっこをしていた老爺が、そろそろ日が落ちたので帰ろうか・・・としているふうにしか、みえませんでした。
もっともその老爺のなりは、街の景色にはおよそ不似合いな、泥まみれの野良着姿でしたが。
都会のどこかに根城を持ったらしい彼は、時おりこうやって、わたしたち夫婦を、あらぬところに呼び寄せるのです。

ベンチにどっかりと腰をおろしたデンさんのまえ。
わたしは妻の細い両肩を抱いて、囁きかけます。

しっかりね。ぼくへの気遣いはいいから、ゆっくり愉しんでお出で。

田舎に同伴して狂わされた智美の身体には、すでに狂疾の血がめぐり始めています。
そう、吸血鬼であるこの老爺は、妻の生き血をぞんぶんに吸い、それと引き換えに淫らな毒液を、四十二歳の一般家庭の主婦の体内に、そそぎ込んでいったのです。

夫の理解のもと、不倫の痴情に耽る都会の人妻―――
それがわたしたち男ふたりが思い描いていた、妻に対する願望でした。
ふたりながら、おなじ女を好きになった。
吸血鬼とはいっても、彼は女を食い物にするだけの男ではありませんでした。
妻への真摯な感情を察したわたしは、妻との間を懸命に取り持つことに腐心して、
彼は彼で、吸血鬼に対して共感を示した私たち夫婦のそうした気遣いに、一定の配慮をする。
そんな関係が、形作られはじめていたのでした。
そういうひとだから・・・
きっと、最愛の妻を、それも夫しか識らなかったはずの妻を、還暦を過ぎようという年配男の劣情に、
すすんで随わせようという意思を、わたしが抱いたのだと思います。
ええもちろん・・・彼に吸血される官能が、わたしを支配したという面も、もちろん否定することはできないのですが。

あなたを裏切ることになってよ?

妻は気遣いに満ちた上目遣いを、わたしに注いでくるのです。

いいとも、きみになら、よろこんで裏切られるさ。

わたしは余裕の笑みで、妻をもういちど抱きしめます。
花柄のワンピースのすそが、揺れ、夕風になびきました。

ロマンチックなのは、其処まででした。

じゃ、車で待っているから。

立ち去ろうとしたわたしのことを、

イイエ。

智美は握ったわたしの手を、放そうとはしませんでした。

あなたも、ごいっしょして。
わたし、あなたの前で、デンさんと愉しみたい気分なの・・・

え?

わたしは驚いたように妻を見ます。
真正面から見返してくる智美の瞳は、蒼白い焔を帯びていました。

ぜひ、そうしてちょうだい。
あなた、自分の奥さんが弄ばれるのを、この目で見届けるのよ。
そのほうがあなたも・・・愉しめるでしょう・・・?

抗すべくもないままに、
ふたりがかりで、縛られて。
芝生のうえに、転がされて。
妻は自分で、ワンピースを引き裂くと。
セクシィなブラジャーをあらわにした胸を見せつけて。
そのブラジャーすら、目の前で剥ぎ取らせて。

がぶり。
食いつかれた首すじから、バラ色の血潮をほとばせると。
わたしの血・・・花柄のワンピースに、似合うかしら。
呟くように、そういいました。
似合うとも、あんたの白い素肌にもな。
デンさんはそういうと、あとはもう息の合ったカップルでした。

それから小一時間というもの・・・
わたしは見せつけられ続けたのです。
びゅうびゅうと吐き散らしてしまった粘液に、スラックスの股間をびしょびしょに濡らしながら・・・


・・・・・・。
・・・・・・。


わたしたち夫婦のうえを、異形の刻が通り過ぎたあと。
ずり降ろされたストッキングを直しながら。
妻は低い声で、囁くのです。
愉しいでしょう?
奥さんが娼婦に化(な)ってくれて、あなた愉しいでしょう?

ああ、、愉しいとも・・・
きみは、素敵な妻だ。いつまでも、愛している。ずっと・・・

でもあたしは、あのひとのことも愛しちゃってるわ。
あなたそれでも、よかったの?

すべてを知り抜いた手指が、濡れたスラックスの股間にまとわりつきました。
しっかりと握りしめてくる掌のなか。
わたしの一物はまたもや、恥ずかしいほどの昂ぶりに、鎌首をもたげ始めていったのです。

奪(と)られた妻 ~ひとしの場合~ 2 都会のマンションで

2012年10月29日(Mon) 07:41:48

1.

その夜わたしは、デンさんと逢っていました。
デンさんは、わたしの生命の恩人。
出張先のとある村里で出逢った彼は、吸血鬼でした。
ほんらいならば一滴残らず吸い取られてしまうはずのわたしの血を。
生き続けるのにじゅうぶんなだけ、体内に残してくれて。
お礼にわたしは、彼の棲む村に、最愛の妻を呼び寄せて。
まだうら若さを宿した、四十二歳の人妻の熟れた生き血を与えたのです。
そして、都会妻の肢体に魅了された彼の劣情の赴くままに、
夫しか識らなかった貞潔をすら、淫らに散らされてしまったのです。

ここは、都会のマンションの一室。
ストッキングを穿いたおなごの脚を吸いたい。
露骨にそんな連絡を寄越したデンさんでしたが、さすがに都会でそのようなあてがそうそうあるわけではありません。
さっそくわたしのところに、連絡を寄越したのです。
折悪しく妻の智美は、不在でした。
わたしは妻の身代わりに、彼の待つマンションへと、ひっそりと出かけていったのでした。
ともかくも、あのどうしようもない渇きを、癒してやる必要をおぼえたので。

とっさに脚に通したのは、紳士用のハイソックスでした。
いまではめったに見かけることのなくなった、ストッキング地のものでした。
紳士用とはいえ、なまめかしいほどの光沢を帯びた薄手のナイロンに、スラックスの足首が透けるのを。
わたしはまるで娼婦のように見せつけて。
彼はものもいわずに、足許にむしゃぶりついてきたのでした。

うつ伏せに押し倒されたじゅうたんの上。
よだれに濡れた唇を、ヒルのようにしつように、這わされながら。
ふくらはぎを締めつけていた薄手のナイロン生地の緩やかな束縛感が、じょじょにほぐれてゆくのを。
真っ赤なじゅうたんに手指の爪を、カリカリと突き立てながら、
妖しい快感に、ひたすら耐えていたのでした。

智美は遅いの。
すでに妻のことは、もう呼び捨てでした。
なぜなら、名義上はわたしの妻でありながら。
智美はもう、彼専用の娼婦に堕とされてしまっていたのですから・・・

都会に戻ってどうにか理性を取り戻した智美は、あの屈辱の宴のことは決して、口にしようとはしませんでした。
けれどもあの熟れた肢体を蔽う柔らかな皮膚は、
突き入れられた牙によって沁み込まされた淫らな衝撃を忘れることがあるでしょうか?
脂の乗り切った肉づきは、夫の前で巻きつけられた猿臂の熱っぽい呪縛から、逃れることができるでしょうか?
いったん汚辱を識ってしまった貞潔を、ふたたび辱められまいとする意志を、守りつづけることができるのでしょうか?

わたしは彼女の厳しい倫理観をまぎらわせるために、彼にせがまれるままに、携帯を取ったのでした。
―――取引先のお通夜に招ばれているんだ。急いで支度をして、出てきてくれないか?
幸か不幸か、娘のひとみは、塾で帰りが遅くなるということでした。


2.

あっ!あなた・・・っ!?
事態を一瞬で察した妻は、両手で口許を抑え、立ちすくみました。
玄関先の板の間に、淡い黒のストッキングのつま先が、寒々と映えていました。
それこそが、この不埒な田舎出の老爺が、しんそこ求めていたものでした。

きみの代役を・・・おおせつかっちゃってね。
すこしのあいだ、愉しませてあげてくれないか・・・?
わたしはやっとのことで、そう言いました。
それは、いまから繰り広げられる儀式の、屈辱に満ちた予感のせいばかりではありませんでした。
失血のため、ほとんど口がきけなくなっていたのです。
血管という血管から血潮を抜き取られてしまったわたしは、いつかデンさんの心中に共感を覚えていたのです。
かれの体内には、うら若い血潮が一滴でも多く、取り込まれなければならない・・・
かれの劣情を成就させることで、血潮の涸れ切ったわたし自身も満ち足りるような・・・そんな錯覚に陥っていたのでした。

伸びてくる猿臂に、妻はとっさに飛びのきました。
虚空を引っ掻いたデンさんの、熊手のような掌を、かわしつづけることはできませんでした。
彼は身体ごと、黒一色の喪服姿の智美に、飛びかかっていって。
妻に対する自らの好意と劣情のつよさとを、全身で露わにしていったのです。

目のまえで繰り広げられるドラキュラ映画のヒロインに妻が選ばれたことに、
わたしは言い知れぬ満足を覚えていました。
胸元に輝く真珠のネックレスを引きちぎられた智美は、
ほどかれた長い黒髪を振り乱しながら逃げ惑い、
「厭ですッ!勘弁してくださいッ!」
とか、
「いけない、主人のまえでなんてッ!」
とか、
「恥知らずッ!」
とか、
かなわぬ抵抗に夢中になり、切れ切れに叫びながらも、
手首を握られ、
肩を抱きすくめられ、
無理やりに唇を奪われ、
音をたてて押し倒され、
ねじ伏せられ、
抑えつけられて。

しまいには、
「あああッ・・・!」
ひと声呻いて、そしてすべてを、思い出してしまったのです。
そう。あの屈辱の儀式で初めて味わった、抗いがたい快感を。
夫の前ですべてをさらけ出し、ありのままの牝にかえってしまう、あの歓びを―――

「あなたっ。あなたっ!あなたあっ・・・ごめんなさい・・・っ」
絞り出すような呻き声が、わたしのまえで見せた妻の最後の理性になりました。
苦悩する整った白い横顔が一瞬覗いて、すぐに伏せてくるデンさんの背中に隠れました。
立て膝をした薄黒のストッキングの脚が、ただじたばたと虚しい抗いをつづける向こう側。
しっかりと結び合わされた唇と唇を、わたしは鮮烈なまでにナマナマしく、想像してしまっていたのでした。

わたしはといえば。
ぐるぐる巻きに縛られて、じゅうたんの上に居心地良く転がされていて。
ただ、妻に対するおぞましい凌辱を、視て愉しむ権利しか、許されておりませんでした。
こういうときほど、ほんの取るに足らない些細なことが、気になるものです。
スラックスを脱がされていたことに、わたしは安堵の念を憶えていました。
むき出しにされた男自身は、恥ずかしいほどに怒張を窮めて、
しまいには真っ赤なじゅうたんのうえ、どろりとした粘液をびゅうびゅうと、吐き散らかしてしまったのですから・・・

おなじ色をした粘液が。
妻の股間の奥をじわじわと染めるのを。
わたしはみすみす、目にする羽目になりました。
彼は妻を荒々しく引きずり回すと。
わざと姿勢を変えて、わたしのために獲物にした女のようすがよく見えるようにしてくれたからです。

無念そうに顔をしかめ、眉を逆立てている智美の首すじに、赤黒く膨れた唇をヌメヌメと這わせたあと。
その唇のすき間から、どきりとするほど真っ赤な舌を、チロチロと覗かせて。
黒の喪服に眩しく映える白い皮膚を、ぬるぬる、ピチャピチャと、
わざとお行儀悪く、ねぶり抜いていくのです。

エエのお。エエのお。あんたの女房の素肌は。なまっ白くて、すべっこくって。
えぇ?あんたも嬉しそうに、〇んぽこおっ立てて・・・女房を乳繰られるのが、そんなに嬉しいかや?

デンさんの辱めは、わたしにも向けられるのです。

これ、なんとか云うたらどうぢゃ?愉しんどるんぢゃろ?え?

畳み掛けるように問いかけるデンさんの声色に、わたしはつい、口車に乗ってしまいました。

はい・・・愉しいです。嬉しいです。
家内の肉体を貴男が気に入ってくれるのが、視ていて無性に惹かれるんです。。

わたしの言葉に思わず顔をそむけた智美の、首根っこをつかまえて。
わざとのように、グイッとわたしのほうへと振り向けさせて。
まんまと術中に堕ちた夫を指さしながら、デンさんはもう得意満面です。

ほれ見ろ。お前ぇの亭主は、変態だ。
お前ぇが犯されるってのに、あんなに悦んでいやがるんだ。
ええ亭主と添うたものぢゃのお。え・・・?え・・・?

あとはお前ぇの身体に訊いてやる・・・そう言わんばかりに、
漆黒のブラウスからはみ出た乳房を、デンさんはじわり、じわりと、責めたててゆきます。
百合の花びらのように気品を添えていた胸元のリボンはむしり取られ、
素肌をかすかに透けさせていた上品な薄手のブラウスの生地は、むざんにむしり取られて、
黒のレエスつきのブラジャーを剥ぎ取られた無防備な乳房は、
その豊かな輝きを喪服の黒い生地越しに、あらわに放っていたのです。

おぉ、旨そうぢゃ。
デンさんは唇をわざといやらしくすぼめて、妻の乳房を口に含みました。
え?あんたの女房、生意気を言う割には淫乱じゃのお。ほれ、乳首が勃っとるわい。
言われるまでもなく、干しブドウのように熟れた智美の乳首は、格好のよい乳房の頂上で、ピンと張りつめていたのでした。
ああ・・・っ。
絶望の呻きをあげて、智美が顔を蔽います。
顔を蔽う両手はすぐに、男の手で荒々しく払いのけられてしまいます。
余計なことするでねぇ!
ビシ!ビシ!
分厚い掌の平手打ちが、智美の頬をなんども過ぎりました。

ああっ!乱暴はよしにしてくださいっ。
思わずわたしが叫ぶと、デンさんは優しい声になって。
でぇじょうぶだ。手加減しとる。わしはおなごには優しいのぢゃ。
ああ、そうでしたね・・・
わたしが思わず声色を和めたほどに、そのときのデンさんはほのぼのとした表情を過ぎらせたのでした。

智美、デンさんの言うことをきいて、お相手をしてあげなさい。
声を低めたわたしに、妻は童女のように素直に、「はい・・・」と応えると。
股ぐらを引き剥かれた黒のパンストを穿いたままの脚を、ゆっくりと、披(ひら)いていったのでした。

ああああああ・・・っ!
すすり泣くような声を、洩らしながら。
視ないでっ!視ないでッ!
わたしへの懇願を、くり返しながら。
男ふたりは、行為のなかでも、見入っていました。

獲物の人妻が振り乱す黒髪の、淫らさを。
食いしばった歯のすき間から洩らされる声の、はしたなさを。
口許からヌラリと垂らしたよだれの、生々しさを。

四十二歳の主婦の足許を淑やかに染めていた薄手の黒ストッキングは、
ずるずると脱げ落ちてゆくにつれて、ふしだらな皺を寄せてくしゃくしゃになってゆき、
腰回りまでまくりあげられたスカートは、ピンク色に染まった筋肉がムチムチと輝くのをあらわにして、
そのうえで、吐き散らかされた男の淫らな粘液を、目いっぱいなすりつけられていったのでした。

あお向けになった妻は、もう恥ずかしげもなく横顔を見せて。
瞳には蒼白い焔がチロチロとよぎり、
細いかいなは夫の前で臆面もなく、のしかかってくる逞しい背中に巻きつけられていったのでした。
まして腰のあからさまな上下動は、わたしとの夫婦のセックスの時にはついぞ経験したことのないほどに、
痙攣に似た激しさと、すき間もなく密着した熱っぽさを見せつけて。
夫であるわたしを嫉妬に焦がれさせ、完膚なきまでの敗北感を与えてくれたのでした。


3.

指切り、げんまん。

ぐるぐる巻きに縛られて転がされた夫の前。
一糸まとわぬ肢体を惜しげもなくさらしながら。
智美はデンさんと、指切りをしていました。
甘えた声色、媚びるような上目遣いは、わたしにではなく、デンさんに向けられたものでした。

しょうもない亭主を縛りあげて、また愉しんじゃおうね♪
つい一週間まえには、夢にも思いつくことのできなかったことを。
智美はわたしに見せつけるように、ごま塩頭の助平爺ぃを相手に、いともやすやすと約束してしまったのでした。

ねっ?あなたいいでしょ?たまにはあなたを裏切っちゃっても。
そうすることであなた、昂奮するんだよね?
智美の浮気を、愉しむことができちゃうんだよね?
言ってみて。智美がほかの男とお〇んこするのが嬉しい・・・って。

媚びるような声色は変わりませんでしたが。
きつく責める目線に、かすかな憐憫とイタズラっぽい意地悪さを湛えて。
時おり乳首を狙う情夫の手をゆるやかに払いのけながら、智美はわたしへの罪のない意地悪を、くり返すのでした。

さあ、言ってみて。

妻の命令どおりに、わたしはくり返すのでした。

ああ、そうだよ。ぼくの妻であるきみが、デンさんに犯されるのがぼくは嬉しいんだ。
見ていて無性に、ドキドキしちゃうんだ。
ぼくはやっぱり、マゾだったんだな。
きみがデンさんとお〇んこするの、もっともっと視てみたい。
デンさんといっしょのときには、結婚していることを忘れて、愉しんでくれないか?

目いっぱいの屈辱の歓びに目をくらませながら言いつのるわたしに、智美はさらに残酷な嗤いを泛べました。

イイエ。
あなたの妻であることは、忘れないわ。
だって、智美は、N嶋夫人として、デンさまに辱め抜かれるんですもの。
N嶋家の恥を、おおっぴらに上塗りさせていただきますからね♪

妻の言いぐさに抗弁もならず、わたしはただ、肯定しつづけざるを得なかったのです。
うん・・・うん・・・そうだね。きみがそう言ってくれるのが、ぼくはむしょうに嬉しいんだよ・・・
胸の内を、限りない歓びで満たされながら―――



あとがき
うーん、マゾですね。。。 (^^)
やっぱりマゾは、イイですね♪

依頼主殿、もしまだこちらを御覧でしたら、ナイショのコメでメアドを教えて下され。
訊きたいことがでてきそうなので。^^

制服少女に捧げる吸血

2012年10月02日(Tue) 21:58:56

濃紺のプリーツスカートのうえ。
ぎゅっと握りしめたふたつのこぶしを撫でながら。
その老紳士は少女の背後に寄り添うようにして、もう片方の腕でブレザーの肩を拘束している。
少女のうなじに沿わされた唇は、白い皮膚のうえ、ヒルのようにじかに吸いついていて。
さっきから。
チュウチュウ・・・きぅきぅ・・・
耳ざわりで異様なもの音をたてながら、少女の生き血を吸い取っていた。

きちんと着こなしたブラウスの、真っ赤な胸リボンだけが、故意にずらされていて。
第一ボタンを外された胸元が、かすかに覗いている。
柔らかい体温を湛えた髪の生え際を間近に、老紳士はうっとりと目を細めていて。
ただひたすらに、少女の身体を拘束し、握ったこぶしを撫でつづけていた。

いい子だね、よくがんばったね。もういいよ。
解き放たれた華奢な身体は、起ちあがると、ふらふらと二、三歩、歩みを進めたが。
自分の血を吸った男から一刻も早く離れようとする、けんめいの努力を裏切って、
黒タイツのひざ小僧からは、力ががくりと抜けていた。

思うツボ・・・
薄っすらとほほ笑んだ、老いた頬。
老紳士はうつ伏せに倒れた少女に、もう一度近づいて。
まだ恵んでくださる、というのだね?
念押しするように、耳もとに囁きかけて。
悔しげに唇をキュッと引きつらせる少女のうなじに、ふたたび牙を埋めてゆく。
じゃあ遠慮なく、いただくよ・・・
それは嬉しげに、囁いてから。

さて、愉しませてあげたご褒美は、黒タイツのおみ脚・・・というわけだね?
おしゃれだね。お似合いだね。オトナッぽいね。。。
老紳士は少女を褒めながら、黒タイツのふくらはぎに頬ずりをして。
厚手のナイロン生地になすりつけた舌の痕を、粘りつく唾液でじっくりと光らせてゆくと。
ふたたび、飢えた牙をきらめかせて。
黒タイツの脚に、埋めてゆく。

ブチブチブチ・・・ッ
かすかな音を立てて裂けてゆくタイツの生地から。
肢の白さがほんのりと、露出してゆく―――
その肌の白さを、いとおしむように。
老紳士はタイツを引き破り、なおも肢をあらわにしていった。

悔しげに引き結ばれていたはずの、少女の唇が。
吸血魔の目を盗むかのように、愉悦の花を開かせる。
白い前歯を、滲ませて。
ふふ・・・うふふ・・・ふふふ・・・
くすぐったそうに笑みを洩らしつづける少女の声色は、辺りの薄闇を蠱惑的に浸していった。


あとがき
時おりお邪魔させていただいているサイトさま「着たいものを着るよ」の、こちら ↓ の記事に目を惹かれ、描いてみました。
http://manndokusai.blog77.fc2.com/blog-entry-982.html
上から4番目の画像のイメージです。
http://farm9.staticflickr.com/8029/7976360736_349836dd62_b.jpg
一番下の画像も、じつは気になっているんです。^^;

奪(と)られた妻 ~ひとしの場合~

2012年09月16日(Sun) 07:13:10

1.

妻を売る。
そんな感覚は、微塵もありませんでした。
わたしは妻を愛しておりますし、それは結婚して十五年経った今でも、なんのためらいもなく言い切れることでした。
けれどもわたしには、果たさなければならない”約束”がありました。
相手はいちおう、生命の恩人と言えるでしょう。
わたしを狩った男とはいえ、ともかくもわたしを、生かして家に帰してくれたのだから。

それは、社命で短期出張をした、とある山里でのことだでした。
村に着くなり真っ昼間からの宴席に引き入れられたわたしは、
男ばかり二十人はいようかという見ず知らずの連中のなかの真ん中に座らせられて、
名刺の交換すら抜きにして、いきなり地酒の献酬となったのでした。
酔いが回った時には、すでに遅かったのです。
そして「遅かった」と気がついた時にはもう、脱出する糸口は、もうどこにもなかったのでした。

わしらはの、皆吸血鬼なのぢゃよ。^^

さいしょの一杯からずうっとわたしに酒を注ぎ続けたその頭だった年配男は、
好色そうな皺を満面に滲ませて、はじめてわたしに正体を告げました。
え・・・?
伝治と呼ばれるその男は、「デンさんでええ」と言いながらわたしに、身の上ばなしをさせて、
自分が42歳のサラリーマン、妻の智美はひとつ下の専業主婦、娘のひとみは14歳の中学二年生・・・と、家族のことまでぺらぺらと喋らされていたのでした。
妻と娘の年齢を訊かれたとき、相手がグッと身を乗り出してきたことに、どうしてわたしはもっと敏感ではなかったのでしょうか?
いつの間にか周囲から人はいなくなり、吸血鬼だと名乗るデンさんとわたしを遮るものは、だれ一人いませんでした。
思わず飛び退いて逃れようとしたわたしは、デンさんに後ろから羽交い締めにされ、首すじを噛まれてしまっていました。

「逃げようたぁ、エエ根性しとるな、あんた。ここには仕事で、来たんぢゃろ?」
耳もとで叱声を発したデンさんに、ワイシャツの肩先を自分の血で濡らしたわたしは、とっさに肯いてしまいました。
「す、すみません・・・でも、びっくりするじゃないですか!」
「びっくりか。びっくりはよかった・・・」
お人よしにもほどがある・・・って、お叱りを受けそうです。
自分の血を吸おうという人間に、謝ってしまったのですから。
けれどもいちど血を吸われてしまったわたしには、どうしてもそういう態度が自然なのだと、思わずにはいられなかったのです。
こんなに欲しがっている血を早く吸わせてあげようとしなかったことを、「すまないな」と思ってしまったわたしは、すでに吸血鬼の毒に脳を侵されていたのかもしれません。

デンさんはなおも傷口に唇を吸いつけて、その唇にキュウッ・・・と力を込めていきます。
傷口に痛痒い疼きを滲ませながら吸い取られてゆくわたしの血液は、この還暦すぎの男の喉を、ゴクリゴクリと露骨に鳴らしながら、いとも旨そうに飲み込まれていったのです。
「あんた、なかなか正直なところがあるな。さすがにあの会社が寄越した人間だ。逃げようとしたのはまあ、許してやるよ」
「すみません。。」
何が済まないのか自分でもよくわからないままに、わたしは謝罪の言葉に不自然な熱がこもるのを感じていました。
いまにしてみるとあれが、吸血鬼の毒がわたしの理性を侵蝕したさいしょだったのでしょう。
けっきょくその場で打ち解けた関係になったわたしは、若い女の血を欲しがるデンさんのために、最愛の妻とまな娘をこの村に連れてくることを約束してしまったのです。

「旅行ということで、どうでしょう?」
とっさにそう言ったわたしに、デンさんははっきりとかぶりを振りました。
「ここにはじめて来るおなごは、きちんとした服さ着けてなくちゃなんねぇ」
デンさんの言いぐさは、もっともでした。
「人と人でないものが仲良うなるための、大事な儀式じゃからのお」

見慣れたベージュのスーツに血を撥ねかせながら生き血を吸い取られてゆく妻―――
そんなまがまがしいはずの情景を思い浮かべて、わたしは失禁するほどの興奮を覚えてしまっていたのです。
「それじゃ、こうしましょう。ゴルフの接待のあとのパーティーに、ふたりを呼ぶ・・・というのはいかがでしょう?」
「なるほど。ゴルフかの。都会もんらしい考えぢゃ。ま、旦那の仕事先の人間と会うのなら、ええ服着てくるぢゃろうのう」
話はすぐに、まとまりました。
わたしは自分の親ほどの年かっこうの老吸血鬼に、妻と娘のうら若い血潮をプレゼントする約束をしてしまったのです。


2.

村でたった一軒のホテルは、意外にモダンな造りでした。
建てられてまだ数年という洋風のビルは、周囲のひなびた家並みのなかでは明らかに不ぞろいでしたが、
なかに入るとそこはもう、都会の世界さながらでした。
先日訪れたときに顔なじみになった農家の主婦たちも、バブルのころか?と思うほど鮮やかな色づかいのスーツやワンピースに身を固めていて、
なまりの強い言葉さえ聞きとがめられなければ、いいとこの奥さまにさえ見えたものでした。
わたしを初めて襲った時には粗末な野良着だったデンさんもまた、黒の礼服に身を固めて、慇懃な老紳士を演じていたのです。
彼が、これから血を吸おうとする妻に近寄り、物腰の柔らかい初対面の挨拶をすると、
それとは知らぬ妻の智美(41歳)は、にこやかに応対しています。
「主人が大けがをしたときに、助けていただいたそうで・・・そのせつはありがとうございました」
・・・そういうことになっていたのです。
わたしは思わず、だれにも気づかれないていどに、肩をすくめました。
「いえいえ」
老人は大仰に手を左右に振って妻の謝辞を制すると。
「なぁに、とうぜんのことをしたまでです。どうかそんなことはもう、ご放念ください」
そういってすぐに、立ち去ってしまったのでした。

妻のことが気に入らなかったのだろうか?
わたしはにわかに不安を覚えて、デンさんを廊下に探しました。
老化の片隅のガラス窓越しに、ワイングラスを手にしたデンさんは、外を眺めています。
「どうでしょう?妻はお気に召しませんでしたか?」
恐る恐るわたしが訪ねると、彼は裏腹なことを言ってきたのです。

ええおなごぢゃ。^^

その言葉にいいようもない安堵を覚えたわたしの体内には、すでにもうマゾの色に染まった血が流れていたに違いありませんでした。
「村のおなご衆に、だいぶチラチラよそ見をしておったようぢゃの。
 きょうの返礼に、いずれ、あん中のひとりやふたり、手籠めにしてもええよう、話つけてやるからの。」
イイエ。
わたしははっきりと、かぶりを振りました。
妻を襲わせる行為で、見返りを求めるつもりはなかったのです。
払う代償の大きさを考えれば、見返りなどいくらにもならない。デンさんへの好意と服従のしるしは、無償で捧げるべきものだ―――そんなふうに考えていたからです。

娘は部活の合宿で、今回は出てこれません。
そのことを詫びるとかれは、むしろそのほうが好都合だった、と言いました。
今回は、あんたの女房ひとりに集中して、うつつを抜かしたいでの・・・
好色そうな目じりの皺を、いっそうくしゃくしゃにしながら、彼は口許から牙を覗かせました。
わたしの血をそれはおいしそうに吸い取り、理性を狂わせてしまった牙を・・・
「うつつを抜かす」
老人のそんな言いぐさに、わたしはまたもいけない欲情を覚えて、
彼が妻を狩るために必要な精力を、すすんで与えていったのでした。


3.

本題に入るのは、いかにも唐突でした。
デンさんはわたしを広い立食パーティーの宴席とは別にしつらえられた、控えの小部屋に導いたのです。
わたしはラフなゴルフウェア姿。
ひし形もようのベストにベージュのハーフパンツ、ひざ小僧まである濃紺のソックスを履いていました。
好んで脚に咬みつくこの老吸血鬼は、わたしをぐるぐる巻きにして縛り上げてしまうと、
床に乱暴に転がして、濃紺のハイソックスを履いたふくらはぎを咬んだのです。

じわり・・・

なま温かい血潮が、厚手のナイロン生地に沁み込みます。
ちゅう・・・っと啜り取られた血潮に、わたしは思いを込めていました。
こうしてわたしは、このひとと一体になる。
わたしから獲た精を妻にぶつける以上、彼の劣情の半分は、わたし自身のもの。
そう、思い込もうとしたのです。
彼のほうでもそれを、歓迎している様子でした。
なんどもしつように、ふくらはぎを噛まれているうちに。
わたしはふと、妻が襲われるありさまを想像しました。
ベージュのスーツのすそから覗く、黒のストッキングに包まれた、妻のむっちりしたふくらはぎを。
デンさんはきっと、いまわたしに示しているのとおなじやり口で、
肌の透けて見える薄手のストッキングを、びりびりと噛み破っていくに違いなかったのです。

智美は、村人のひとりによって、小部屋に送り込まれてきました。
「あなた・・・っ!?」
部屋に入るなり声を上げた智美が、大きな声を尖らせるほど、わたしの取らされていた姿勢は異常だったのです。
縛られて床のうえに転がされたわたしは、ハーフパンツを脱がされていました。
しつように噛み破られたソックスは、露出した脛をあちこちに滲ませながら、片方は弛んでずり落ち、もう片方は太めのリブをねじ曲げられて、丈足らずに履かれていました。
首すじにもざっくりとした咬み痕をつけられて、ひし形もようのベストの肩先には、赤黒いシミが点々とついています。

くくくくくく・・・っ
老吸血鬼は下品な嗤いを洩らすと、妻とドアの間に立ちはだかりました。
これで、妻の退路は断たれてしまったのです。

「あっ、なにをなさるんですっ!?」
さっきまでの慇懃さはどこへやら、もの欲しげな劣情もあらわにのしかかってくる男の猿臂をかいくぐろうとして、
妻は男と揉み合いました。
老吸血鬼の前に曝された、むっちりとした肉づきの肢体、それに色白な頬に映えた黒髪が、夫のわたしの目にもひどく美味しそうに映りました。
「うへへへへへっ。わしゃ吸血鬼ぢゃ。奥方の血をいただくぞい」
「た、助けてっ!あなたあっ!だれか・・だれかいらしてくださいッ」
妻は声をあげ、外に向かって援けを求めましたが、もとよりだれも部屋に入ってはきませんでした。
たちまち抱きすくめられてしまった妻は、わたしのときとまったくおなじように・・・
後ろから羽交い締めにされたかっこうのまま、首すじをがぶり!と噛まれてしまったのです。
「あっ!う、うぅ~~~っ・・・」
念入りに化粧をした整った目鼻立ちに、苦悶の色が浮かびます。
柳眉を逆立てて・・・というのでしょう。
濃く刷いた眉をピリピリと震わせて、喰いしばった歯を薄い唇のあいだから滲ませながら。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
ひとをこばかにしたようなあのおぞましい吸血の音が、妻の素肌に吸いつけられた唇のすき間から、洩れてきたのです。

ああ・・・妻が・・・妻が・・・最愛の智美が・・・
とうとう、爺さんの毒牙にかけられてしまった・・・
なにもできなかった。
そんな悔恨の念が、理性の戻りかかったわたしの胸を、毒々しく浸していきます。
俺は妻を売ったのだ。
そうとまで思った時。
―――そうではない。
心の中に、べつの声が聞こえてきたのです。
まぎれもなく、いま目のまえで智美の血を愉しんでいるデンさんのものでした。
―――お前ぇは、だいじなものをわしにくれたのだ。めいっぱいの好意のしるしにな。
―――わしは、好みの獲物を目いっぱい愉しむ、それがお前ぇさまに対する、礼儀というものぢゃろう?
―――お前ぇの愛するおなごは、わしの目にもかのうた。好みがおなじなのぢゃな。色白の肌。うめぇのお・・・
さいごはもう、親しげなからかい口調でした。
目のまえで妻に絡みつきながら、わたしの心の奥にまで想いを伝えてくる。
吸血鬼という生き物には、なんと器用なことができるのでしょう?

そうなんだ。
わたしは妻を裏切ったのではない。
仲良くなったご老体に、妻の魅力を自慢したくて。ご披露に及んでいるだけなのですから。
智美には、わたしの悪友を相手に妻として供応する義務があるはず。
唐突に求められたおぞましいもてなしに、さすがに少しは戸惑いをみせたものの。
智美はその役目を見事に果たし始めているし、仲良しのデンさんも幸い、妻のうら若い生き血を気に入ってくれているようでした。
夫として、これほど至福の刻があるでしょうか・・・?

27でわたしと結婚した時、智美はまだ処女でした。
良家の箱入り娘として育った、身持ちの堅い女だったのです。
新婚初夜のホテルの一室で、痛がりながら流血をした智美―――
いま、そのときと寸分たがわぬ顔つきで、色白の頬をちょっぴり引きつらせながら、智美は初めて体験するしつような吸血に応じていったのです・・・

あの豊かな黒髪は、我が物顔にまさぐりを受けて。
あの鮮やかに刷いた唇は、もの欲しげな唇を重ねられて、揉みくちゃにされて。
あのむっちりとした太ももには、節くれだった手指とだらしなく這わされた舌に蹂躙されて・・・
わたし一人だけのものだった妻は、男のたくみなまさぐりの侵入を受けて、共有され始めていったのでした。


欲情に満ちた吸血行為の行きつく先は、やはり察していた通りでした。
―――そこは察しがよかったようぢゃな。
後刻、妻をモノにしてしまったあと、老人は冷やかすようにわたしたち夫婦を見比べてそういいました。
「わしは、どちらでもよかったのぢゃ。
  そもじが奥方を辱めてもらいたいとせがむゆえ、望みを遂げてやったまでぢゃ。
  あとは淫乱になろうが孕んでしまおうが、わしのせいではなかろう?」
「はい、もちろんあなたのせいではありません。わたしは望んで妻を堕落させていただくのですし、
  妻もきっと、あなたに感謝すると思います。
  わたしは、わたし一人のものだった妻を、貴男と共有したいのです」
そう言い切っていた、わたしでした。

キュウキュウ・・・ちぅちぅ・・・
取り乱す妻を焦らしながら、男は吸血がてらのまさぐりをやめませんでした。
むしろそれは、見慣れたベージュのスーツの奥深くに進入していって。
剥ぎ取られたブラウスからあらわになった胸もとは、ブラジャー一枚しかさえぎるものがないまでにされて。
そのブラジャーすらもが、吊り紐をかたほう、ブチリと噛み断たれてしまったのです。
執拗ないたぶりを受けて剥ぎ堕とされた黒のストッキングは、智美のひざ小僧のすぐ下までずり降ろされて。
花柄の刺繍のしてある白いショーツもまた、足首まで引きずりおろされてしまっていました。
もはや妻にも、この場でどういう応対を強いられなければならないのか、察しはついていました。

「イヤです私!主人以外の男性は、識らないのですっ」
髪を振り乱して、涙を散らしながら哀訴する妻に。
「うひひひひひっ」
男は野卑な嗤いで応えると。
「そういって誘われちゃ、断れねぇな」
貞淑であることがよけいに男をそそる・・・という初歩的なことを、妻は知りもせず、そのように曲解されたことにいっそうまなじりをあげて、妻は言いつのるのです。
「いけません!夫ひとりにしか、お許ししたくないのッ!」
けれどももう、男を止める手立ては、夫婦どちらにも残されていませんでした。
智美は床に抑えつけられて、もう何度目かの牙を、うなじに埋め込まれていったのです。
「あなた。あなたあっ・・・助けてえっ」
哀切な声色に、夫としての理性を再び目覚めさせられるかと思えば。
「主人しか・・・主人しか…識らない身体なのですよっ」
という制止の言葉が微妙にニュアンスを変えて、
「主人以外の男は、初めてなのッ!」
と、トーンを変えたことにいけない昂ぶりを覚えていたり。
わたしのなかでも、夫としての誇りと男としての劣情とが、入れ代わり立ち代わり、昂ぶりを帯びて行ったのです。

蹂躙はあっけなく、成就されました。
男は荒々しく妻のベージュのスカートをたくし上げると、逞しい腰をあの豊かな白い臀部に重ね合わせていって・・・
妻を狂わせたのです。
両手で頭を抑えられ、肉薄してくる逞しい腰に両ひざを割られて。
もはや逃げようもない姿勢のまま、智美は犯されていったのです。
その瞬間、智美は喉の底から絞り出すような呻き声を発して。
白目を剥いて、歯を食いしばりました。
「う・・・う・・・んん・・・っ・・・」
隠しても隠してもあらわになってくる愉悦を、それでも必死に押し隠そうとして。
それが虚しい努力に終わると、「ひー」とひと声あげて。
黒のストッキングが半ばはぎ取られた脚を、ただいたずらにじたばたと、摺り足していたのでした。

初めての挿入を受け入れたあと。
さすがの妻も、すこし泣いて。
けれども肩を震わせてのすすり泣きが、随喜の呻き声にかわるのに、そう長くはかかりませんでした。
「あっ、あっ、あっ、あっ・・・」
間歇的に洩れてくるみじかい叫びは、確実に愉悦を滲ませていったのです。
ああ・・・
妻との挿入行為を、わたしはありありと思い描いていました。
こすり合わせた性器が熱を帯びて擦過する、あのときの昂ぶりを。
いま、おなじ処(ところ)を、別の男のぺ〇スが通過している。我が物顔に、居座っている。
けれども男は、妻の頭を抱えながら、ユサユサ揺すった女体にしがみつき、その上にまたがりながら。
ひどく満足げなおらびを、あからさまにあげていたのです。
「うう、智美!ええおなごじゃ。ええおなごじゃあ・・・」

わたし一人だけのものだった、従順な智美・・・
それがいまでは、野良着姿の野獣のような老人をまえに、屈従を強いられている。
そしてわたしはといえば、恥ずべき歓びに打ち震えて、妻に加えられる凌辱を、ただの男として愉しみはじめてしまっている。
かれがわたしのハーフパンツを脱がしたのは、いたずらに羞恥心をあおる姿勢を強要するだけのものではなかったのです。
危うく、パンツを一着だめにするところでした。
最愛の妻が演じるポルノビデオさながらの淫らな吸血行為をまのあたりに、
歪んだ嫉妬といびつな歓びに目覚めてしまったわたしは、
熱い精液をびゅうびゅうと、股間に散らしてしまっていたのでした。

最愛の妻中嶋智美41歳は、こうしてめでたくわが悪友の手で手際よく堕とされて、吸血鬼の情婦となったのでした。

「つぎは、娘ごの番じゃな?」
好色そうに相好を崩した老人のまえ、妻もわたしも、真顔になって。
「お願い致します」
神妙に頭を下げている。
「これでひとみも、一人前になるわね?」
傍らの妻は共犯者の顔つきで、白い歯を覗かせます。
淫蕩な輝きをおびた綺麗な前歯に、引き入れられるように。
「きみはそれで、満足なのか?」
「娘にわたしがされたのとおなじ、キモチいいことをさせてあげたいのよ♪」
デンさんはさっきから相好を崩して、智美のお尻をベージュのスカートのうえから撫でさすりながら、
「娘ごは、父親似のようじゃな。血液型もおなじA型か・・・これは愉しみぢゃのう」
そういってまたも、わたしのうなじに食いついてきました。
ちゅう・・・っ
男同士・・・という趣味は、わたしにはないはずなのですが。
妻に視られながらの吸血に、なぜか強い昂ぶりを覚えてしまったのでした。

さほど長くはなかった、村での滞在中。
夫婦の身体に、代わる代わるのしかかり、吸い取った血潮をしたたらせながら。
「つぎは、娘ごの番じゃ。どうやって苛めてやろうか?いまから愉しみじゃ・・・」
老人は、くり言のようにそう、呟きつづけていたのでした。

9月15日起草 16日7;12校了。

詩織里の献血。

2012年06月14日(Thu) 05:30:08

~はじめに~
stibleさまの「着たいものを着るよ」というサイトさまをご存知ですか?
http://manndokusai.blog77.fc2.com/
柏木お気に入りのサイトさまです。
ときにはフェミニンに。ときにはユニセックスに。
ときには男女取り混ぜた装いなのに・・・違和感はまったくなく、妖しい魅力漂う世界。
その魅力はもう、言葉ではたとえようがありません。

時おりお邪魔している柏木は、こちらのサイトさまから享けたインスピレーションで、お話をいくつか描いております。
リンクを貼らせていただいたこともございます。(むろんご本人にはお話したうえで)
最近アップされたある記事に目が行き、そして。。。いままで以上に目を離せなくなりました。
いつも30分~1時間くらいでお話を仕上げてしまう柏木にしては珍しく、数日かかりまして、一編のお話を創りまして。
描いたお話を添えておそるおそる・・・stibleさまご本人に、画像使用の許可をお願いしたのです。
ふつうの神経では、できるお願いではないはず・・・なのですが。

そうしたらなんと!そっこーで、OKの返事が来ました。
つつしんで、記事の画像を使用させていただきます。
ご快諾をいただきましたstibleさまに、この場で厚く御礼申し上げます。

本記事にアップした画像の著作権は、stibleさまご本人にあります。
このブログにあるほかの画像と同様、複製・無断転載等は固くお断りいたします。
なにか問題がありましたら、画像は削除いたします。あらかじめご了承ください。

なお、stibleさまは決して吸血フェチではございません。
撮影された画像の意図も、柏木の作り話とはなんらかかわりはございません。
お話の内容は柏木の一方的な好みによるものですので、念のため・・・

それではお話の、はじまり、はじまり・・・


―――詩織里の献血―――


ちょっぴり、気の毒だと思うけど。
あの小父さまはもう長いこと、パパの大の仲良しなんだ。
いちどでいいから、逢ってあげてくれないか?

そういうパパの、首すじにも。

初めてだとちょっぴり羞ずかしいし、痛いかもしれないけど。
慣れちゃえば案外、愉しめちゃったりもするのよ。
明日はそんなに心配しないで、学校行きましょうね。

そういうママの、首すじにも。

ふたつ綺麗に並んだ噛み痕が、どす黒い痣のようにしみ込んでいる。
そのすぐ真上の、おとがいに。
しいて屈託のない笑みを泛べてくれていたとしても…どうしたって作り笑いに見えてしまう。

詩織里は華奢な肩を心細げにすくめて俯きながら、両親の説得を横顔で聞いている。
男の子なのに、女子としての教育を受けている彼女―――
通っている女学校の制服姿が、色白で華奢な身体つきを、女よりも女らしく、惹きたてていた。


①

彼女の通う学校は、良家の子女にしか門戸を開放していない、名門中の名門校。
けれどもその伝統の裏側には、昏(くら)い習わしが秘められていた。

創立者の一族と懇意にしている吸血鬼の一族が、入れ代わり立ち代わり女学校に現れて。
彼らの渇きを飽かしめるため、女学生たちの多くは、不公平のないよう、出席番号順に呼び出されていた。
詩織里の在籍するクラスは、最上学級と呼ばれていて、そうした無差別な吸血行為からは免れていたけれど。
特別な賓客が来校したときには、妖しく時として淫らな選択の視線に、真っ先にさらされることになっていた。
そうした日常に、ようやく気づき始めたころ―――
この女学校で無償であてがわれる若い生き血を目当てにした彼らのひとりが、詩織里を見初めて・・・とうとう白羽の矢を立てられたのだ。


―――パパの大の仲良しなんだ・・・
嘘ではないのだろう。
だって、初めて家に招いた彼のことを、気に入って。
その場で意気投合して、妻や娘のストッキングを履いた脚を咬ませるまえに・・・って。
彼の好みに少しでも応えようと、紳士用のストッキング地のハイソックスをわざわざ履いて。
ママのまえでお手本に・・・って、わざとふくらはぎを咬ませていったのだから。

―――初めてだとちょっぴり羞ずかしいし、痛いと思うけど・・・
嘘ではないはずだ。
だって、血を吸い取られてわれを喪ったパパの、焦点の合わない目線をまえに、夫とおなじように血を吸われるのをあれほど嫌がって。
脚をばたつかせて、抵抗したのに。
いちど咬まれてしまうと、そのおなじ脚を。
こんどは小娘みたいにはしゃぎながらばたつかせて、ストッキングがちりちりになるまで、咬み破らせていったのだから。

おなじことを・・・詩織里にもしろというの?
厭わしい・・・おぞましい・・・
両腕で胸を掻き抱いた詩織里は、若い血潮が全身をめぐる感覚を、初めてのように実感した。
この身をめぐる、うら若い血を―――
喉をからからにした小父さまの、飲み物に提供しろというの・・・?

安心をし。そう・・・っと優しく、引き抜いてくれるわ。
詩織里の耳もとに、唇を近寄せて。
ママはそういって、娘を安心させようとした。



②

翌日の一時限めが、はじまるまえのことだった。
詩織里さん、詩織里さん。
赤い縁のメガネをかけたハイミスの担任が、彼女のことを呼んだのは。

いつもは苗字で呼ぶ詩織里のことを、きょうにかぎって名前で呼んだ。
クラスメイトたちは、いちように顔を見合わせて。
お行儀よく結ったおさげ髪を、かすかに揺らし合って。
こちらをチラチラと窺いながら、ひそひそと囁いている。

先生がお名前で呼ぶときって・・・アレの時よね?
そうよ。詩織里ちゃんかわいそうに・・・とうとう血を吸われてしまうんだわ。
だってあの子、男の子なんでしょう?
ご指名があったんですって。なにもかも承知のうえで・・・
へぇ~、いいなあ・・・

さいごに羨望の声を洩らしたのはきっと、経験者の子なのだろう。
クラスのだれもが、彼女の正体を知っていて。
それでもうわべは、女の子として接してくれて。
けれども時折注がれるのは、女の子ならではの意地悪な視線―――
こちらを窺うひっそりとした目線たちが、制服の背中に痛かった。


踏みしめた廊下の木の板が、ミシミシとかすかな音をたてる。
学園のいちばん奥まったところに佇む、古い木造校舎。
真新しい鉄筋コンクリートの本棟とのつなぎ目を境に、そこは別世界になっていた。
毎週クラスメイトのなん人かは、いつも見慣れた白のハイソックスの代わりに、
肌の透ける薄手のストッキングで、脛をお姉さんみたいになまめかしい墨色に染めて、
呼び出されるとその日のうちは、ずうっと帰ってこなかった。
そんなふうにクラスメイト達をのみ込んでいった廊下に、
詩織里は独り、墨色に染めた脚で踏み入れてゆく。


女の子の制服で初登校した、あの入学式の日。
陽の光に目映く照らされた白タイツの足許を、誇らしげにおおっぴらにさらしながら。
微妙な顔つきをした両親の視線をよそに、おおまたに歩みを進めていった。
どういうわけか、そのときの記憶が脳裏をよぎる。
みじめな気持は、不思議としなかった。
―――慣れちゃえば案外、愉しめたりもするのよ。
昨夜のママの囁きが、胸の奥によみがえってきた。


④


がらり・・・
空き教室のドアを開けると。
そこにはいちめんの、深紅のじゅうたん。
このじゅうたんの上、なん人の同級生がまろばされ、そして血を吸い取られていったのだろう?
このじゅうたんの色・・・もしかして、みんなの血がしみ込んだ色?
詩織里はじいっと、足許の深紅を見つめた。

よく来たね。
何度となく、パパといっしょに家に遊びにきた小父さまが。
いつものように朗らかな低い声で、詩織里を迎えた。
ああ・・・この小父さまに、あたし血を吸われるんだ。血を吸われちゃうんだ・・・
すでに厭わしい気分は、ほとんど消えていた。
上履きに黒のストッキングという、ちょっと不自然な取り合わせは。
少女の決意の表れだった。
パパやママからいただいた、たいせつな血を差し上げるのだから。
プレゼントは、きれいな包みでくるまなくちゃね。
わが身をめぐる、暖かい血潮の気配―――
詩織里の胸をひたひたと浸し始めたのは、渇きをけんめいにこらえて、しいて笑みを作っている優しい表情。
血を吸われるのは、厭だけど・・・愉しませてあげちゃおう。あたしの血。

横たえた脚を、詩織里はいとおしそうに、なでさする。
すりすり・・・サリサリ・・・
薄手のナイロン生地が擦れる、かすかな音。
しなやかな手触りの向こう側にある、たしかな温もり―――
少女はよどみなく、呟いている。

似合うかしら?
小父さまのために、履いてきたのよ。
街を歩くとき目だって、とても羞ずかしかったけど。
だから小父さまの好きなように、愉しんで。
せっかくだから・・・破く前にたっぷり、辱しめて頂戴・・・

③


~ご注意およびご案内~
やや画質を落としてあります。
本物をご覧になりたいかたは、↓どうぞこちらにお越しくださいませ。
「着たいものを着るよ」  制服スカートに薄地黒タイツ
http://manndokusai.blog77.fc2.com/blog-entry-960.html
なお冒頭に申し上げましたように、stibleさまのワールドと柏木ワールドは、必ずしも一致いたしません。
念のため再度、申し添えておきます。

おりく

2012年05月22日(Tue) 07:00:16

はじめに!
珍しく、時代モノです。


1.
おりくは、書見をしている夫の部屋のまえ、三つ指をついて、
障子ごし、ひっそりと声をかける。
若妻だったころとおなじように、おずおずとした声色で。

お見えになりました。
庭先を、お借りいたします。

障子ごしに、肯定ととれる身じろぎを感じ取ると、
初老の妻女は白髪交じりの髪を撫でつけて、それをむぞうさに、ほどいていった。
蛇がとぐろを巻くように、するすると乱れ落ちる髪―――
女はひっそりと笑んで、夫の居間をあとにする。



2.
他国から嫁いできたおりく殿に、当家の作法を教え込むのはいかがかと思いましたが。
五十を過ぎたというのにまだうら若さを帯びた姑は、ホホ・・・と笑んだ口許を手で軽く抑えていた。
妾(わたくし)は参りますよ。ご家老様のお召しですからね。
楚々とした立ち姿をそのまま、脂ぎった家老の猿臂にゆだねてしまうのか。
おりくは白い目で、姑の後ろ姿を見送った。
間もなくおりくの相手も、この屋敷に現れるのだろう。
相手は夫の下僚である、若侍だった。

貞操を女の誉れと教え込まれてきたおりくにとって。
乱倫を極めたこの城下町の気風は、衝撃以外のなにものでもなかった。
自害をせぬかと案じて、みなで寝ずの番をしたのですよ。
おっとりと嗤う姑は、あの忌まわしい夜。
必死でもがき泣き叫ぶおりくの両腕を抑えつけて。
己の情夫であるご家老が、息子の嫁の着物をはだけていくお手伝いに、余念がないふうだった。

それ以来。
お手伝いにうかがいます。
義父にそう告げる姑に従って、ご家老の屋敷に往来する日常が待っていた。
ふすま越しの姑の、あられもないうめき声を、かしこまったまま耳にし続けて。
いいかげん、気がおかしくなりそうになったころ、
しどけない格好で寝所を出てきた姑に、抱きかかえられるようになかに入れられて。
息荒くのしかかってくる夫の上司の言うなりに、身体を開いていった。
姑は悩乱をする嫁のようすを、逐一窺いながら。
真っ赤な腰巻をふたたび、ご家老を狂わせた細い腰に、巻きつけていった。

姑が真っ赤な腰巻を着ける日は。
忌まわしい歓びが待つ日だった。
やがて。
婚礼を控えた夫の妹が、玉の操を散らした後、嫁いでいって。
そのあとを追うようにご家老は居所を移して。
姑もまた、まな娘の不行儀に、せっせと加担するようになっていた。
取り残されたおりくは、出入りの魚屋と契りを結び、
それをきっかけに出入りの町人たちをつぎつぎと敷居をまたがせて、
緋の腰巻をほどいていった。


3.
いい魚が入りましたよ。だんな様にいかがです?負けときますぜ。
威勢のいい魚屋の言いぐさに、おりくは小銭をすこしよけいにはずんでやって。
夫もまた、「精が出るな」と、魚屋をねぎらっている。
どこのお武家でもありそうな光景。
けれども夫は、すべてを心得ているようだった。
逞しい猿臂に酔った自分の妻女が、しとやかな武家装束のすき間から、白い脚をあられもなくむき出して、
組み敷いた男の言うなりに、精を吐き出されている日常を。
そういう晩には必ず、夫は激しく求めてくるのであった。


お子が生まれたあとは、ぞんぶんになさいませ。
姑は厳粛な顔つきで嫁の不行儀を赦すと。
おりく殿はしもじものものが、お好きだそうな。
たいがいに、慎まれませ。
去り際、ウフフと笑んだ横顔が、言葉を裏切っていた。


らっせい。らっせい。
きょうもシジミ売りが、威勢の良い声をあげて武家屋敷を過ぎてゆく。
シジミ売りは自分の声に耳を向けさせようとして、
時折商売となんの関係もない、他愛のない冗談をおり交ぜてゆく。

お奉行の妻女のおりくさまが、きょうも魚屋と逢い引だよ~

塀ごしに呼ばわる声におりくは頬を赤く染め、あわててシジミ売りを家にあげて、お代はいくらと問うのであった。
夫はそういうときも、知らん顔をして書見を続けていた。


4.
庭先を、お借りいたします。
そう夫に言い置いて、おりくは白足袋の足を、沓脱ぎ石におろしていった。
あれからなん年、経ったことだろう?
女の操を汚されるという、あるまじきことを。己の歓びと変えてから。
やはり同じように年老いた魚屋は、そんなおりくのしぐさを、固唾をのんで見守っていた。

庭先にひざまずいている魚屋と、おなじ高さの目線に降りると。
ふつつかですが。
おりくは雨上がりの庭先の地べたに、ひざを突いて。
着物を泥に浸しながら、女は身分ちがいの男に、頭を垂れる。
どうぞお情けを、くださいませ。
泥に堕ちよう―――
そう心得た女は、あえて夫の在宅のときを選んでは。
魚屋を相手に、衣装を泥に浸してゆく。
身分ちがいの男を、そうそう屋敷にあげることは、かなわなかったから。

はぁはぁ・・・ぜいぜい・・・
荒い吐息は、お隣のお邸まで届いているだろうか。
はだけた着物からあらわになった両肩に、かわるがわるあてがわれる唇に酔い痴れながら。
女は姑のことを、思い出していた。
いま着ているこのお召し物も、姑のものだった。
母が侵されているような気がするな。
ふと言いかけた夫が、言いかけた言葉を決まり悪げに飲み込んだことがあった。
姑も、この魚屋の相手をしたことが、あるのだろうか?
そういえば、うす紫のこの着物に袖を通すとき。
あの魚屋は昂ぶりようを変えているような気がする。

さ。ぞんぶんになさいませ。
おりくはいつか、姑の声色になって。
喉を引きつらせて首すじにかぶりつく魚屋に、われとわが身をゆだねていった。


あとがき
意味不明なお話・・・?
描きたいことが、いろいろとあり過ぎたのですよ。^^

村に関する報告文~「御紹介状」という古文書について~

2012年04月22日(Sun) 23:24:37

一、「御紹介状」と当村旧家本澤家

同村の古寺には、「御紹介状」と称する大量の書状が残されている。その一例を示すと、概ね次のようなものである。


当村御居住 しやるろ 殿

本澤氏当主三郎 謹んで記す

当家内儀たよ女儀 参拾弐歳
右の者相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候

某年某月某日(筆者により伏せ字)


ここにみる「本澤氏当主三郎」とは、本澤家の当主ではなく「本澤三郎」なる人物でもないことが明らかである。なぜなら某年当時の本澤家の当主は「三郎」という名前ではなく、同家にも「三郎」と呼ばれる人物は存在しないからである。
本澤家で当時「たよ女(たよめ)」という名前の婦人を娶っていたのは××という男子であり、彼は本澤家の三男であった。たよ女がこの年三十二歳だったことは、同村の戸籍謄本により明らかである。

この書状は、「しやるろ」なる人物に宛てて書かれているが、これが同村に居住した「シャルロー」と呼ばれる異国生まれの吸血鬼であることも明らかにされている。
すなわちこの書状は、本澤家の三男である××が、自らの妻たよ女を同村に居住する吸血鬼のもとに遣わして、吸血させるという内容のものなのである。
妻に対する吸血行為を「きけつ」という一見するかぎり意味不明瞭な言葉に置き換えていることから、書状の意図を秘する意図がみえることは、内容のまがまがしさからも十分納得がいく。
一方たよ女に関する生命の安全の保障も求められており、それがこの人妻から血液の提供を受けた吸血鬼によって忠実に遵守されたことが、以下の記録で確認される。

本澤家当主三郎内儀たよ女儀、目出度相媾事祝着至極と存候、向後五ヶ日に一度この儀を相遂ぐべきの由本夫より重ね重ね懇望あり
(ほんざわけとうしゅ さぶろうないぎ たよめ ぎ、 めでたく あいあうこと しゅうちゃくしごくと ぞんじ そうろう こうご ごかにちに いちど このぎを あい とぐべきのよし ほんぷより かさねがさね こんもう あり)

ここに「媾」とあるのは文字通り、性的関係を意味するのであろう。すなわちたよ女の本夫本澤××は、妻が血液の提供相手と情交することを寛大にも容認してしまっているのである。

吸血鬼とその血液提供者との間の性的関係が本夫によって容認され、そうすることが本夫にとって理想的対応であると見做されたのは、このように、じつに人間・吸血鬼両者が平和裡に共存するようになったごく初期から知られているのである。


たよ女とシャルローとの関係が成就された某年の直後、古寺の記録には次のような記録がある。

本澤家当主内儀 還暦法要成就の儀、弥栄(いやさか)
執行沙老

この「当主内儀」とあるのは、たよ女の本夫××の実母にあたる婦人であろう。
同村戸籍謄本によると、彼女はこの年数えで六十歳となっている。
ここに「法要」とは字義通りにとらえるべきではなく、もっと特殊な解釈を要するようである。同寺の記録で同じ時期に「法要」とある例は多数散見されるがたとえば次のようなものがある。

柳沼御一家相集い法要、御母堂ナラビニ令室きけつの衆に応接すること懇ろなり、令嬢また羞じらひつつも初めてきけつセラル、

「きけつ」が吸血行為を、「懇ろ」な「応接」が性的関係を結ぶことをさすのは、容易に察することができよう。この家は姑・嫁・娘が三人ながら複数の吸血鬼による吸血をうけ、ないしは情交を遂げたのである。


話題を戻すと××の母堂が体験した「法要」とは、吸血行為ないし貞操の喪失、おそらくはその双方だったものと想像される。
「執行沙老」とあるのは、シャルローの当て字であろう。彼女の相手が三男の嫁の情夫であることを示している。
すなわち、嫁と姑は、同じ吸血鬼の毒牙にかかったのである。

還暦にも達するこの本澤家当主の夫人ともあろうものがかような災厄を余儀なくされた理由は、何に求められるべきだろうか?それを推測するための有力な手掛かりは、やはり冒頭の「御紹介状」のなかに求めることができる。すなわち母堂が堕落を余儀なくされた日付より一週間後のものである。


本澤氏当主正嫡 謹んで記す
当家内儀テルノ儀 参拾九歳
身を慎むこと厳にして、当家に嫁してより未だ二夫にまみえず、
相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候
某年某月某日(筆者により伏せ字)

冒頭の「御紹介状」とほぼ同文である。
察するに、本澤家の母堂は自ら身を汚すことによって、長男の嫁にほんらいの義務を果たすよう促したのであろう。まことにこの「当主内儀」は、賢夫人の誉れ高い婦人であった。

その約一ヶ月後、別の機会におこなわれた「法要」における貞操喪失者のなかに「当家二郎内儀」の名前を見出だすことができる。
三男・長男につづいて次男の嫁までもが、乱交に近い状況のなかで吸血鬼との情交を結んだのである。

「当主正嫡内儀」や「当家二郎内儀」がこのような仕儀に至った背景は、別に求めることができる。
本澤家の男子五人のうちこの年までに成人したものは四人、妻帯するものは三人であった。
すなわちこれらのことが起こった翌年、四男の??が同村の医師沢内善吾郎長女なみ十七歳と婚姻しているのである。

「当家二郎内儀」の「御紹介状」には、以下のとおりである。


当家二郎内儀ヤエノ儀 参拾七歳
かねて懇望を蒙ること度々ながら、当家にては適当な女子を供するあたはず、徒らに日を重ねること無面目の至りこの度漸く一女を供するものなり
相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候
某年某月某日(筆者により伏せ字)


恐らく「当家二郎内儀」のヤエノは、近く婚姻するうらわかい花嫁の身代わりに、人身御供とされたもののようである。

この婦人の表記が「当主二郎内儀」ではなく「当家二郎内儀」とあるのは、この次男がまだ実家に居住していたものを意味するようである。
どのような事情から三男が兄より先に独立し、その嫁が真っ先に「きけつ」されたのか知るすべはないが、本澤家の婦人たちは異国生まれの単独の吸血鬼によって、三男の嫁→当主の嫁→長男の嫁→次男の嫁の順番に吸血され、相前後して貞操喪失に至ったことが一連の記録から判明する。


二、「きけつ」される婦人の夫たち

この種の書状が数多く存在することはかなり以前から知られていたが、なんらかの強迫ないし洗脳行為を伴うものであろうとされてきた。
しかし目覚ましい進展をみた最近の研究では、この見解はほぼ否定されていると言ってよい。
それは、侵される嫁たちの夫の応対によって裏付けられている。

ごく内々に閲覧することを許された当家の長男の日記によれば、姑の指嗾によって姑や義妹の情夫に献血する習慣を持たされた彼の嫁本澤テルノは、以後毎週最低二回は血液提供の勤めを果たしている。
(註:指嗾=しそう=そそのかすこと。)
こうした機会は多くの場合夜間に持たれ、子息らを寝かしつけた妻は「そそくさと手早く身繕いをし、通夜にでも赴くが如くヒッソリと(同日記)」自宅を後にし、そうした妻を夫もまた「無言で目を合わせずに(同)」送り出したのだった。
消極的態度ながら夫によって許容された吸血行為は深夜に及び、しばしば翌朝に至ることがあった。ある晩の日記には「当夜御奉仕の為妻テルノ出立、着替え持参」とあり、翌日の日記には「早暁妻帰宅」と、こともなげに記されている。
生命の保障をされている以上、ひとりの婦人から獲られる血液の量には、おのずから限度がある。それにも拘わらず応接が終夜に及びなおかつ彼女がそのたびに生還を果たしているということは、どうしたことだろう?場合によっては帰宅直後に姑に従って朝餉の用意やその他の家事を果たし、主婦としての多忙な日常を過ごしているのである。
夫によって「着替え持参」と手短かに書き込まれた一文は、まことに示唆に富んでいるといえよう。

本澤家の長男は、時期をほぼ同じくして妻を望まれた次男の相談を受けている。
「最愛の妻を売り渡す心地」に悩む弟を諭して、「最愛の者を分かち合うは遠来の客人に応えるに最良なる礼遇」であり「己が婦の吸血され痴情に惑ふを目の当たりにするは一見恥辱と思はるるも、さはがら妖しく酩酊するに似たる想ひあるを告白せざるべからず」と、妻を征服される妖しい歓びをさえ告白し、弟にその妻を吸血に委ねることを奨めている。
事実長男の夫人が貞操喪失に至ったのは、この相談に応じた二日後のことであった。
さらにその一週間後、「当家二郎内儀ヤエノ」が某所で行われた「法要」で吸血され、貞操を喪失している。


三、禁断の古文書群

上記の文書群は、もとより非公開のものとされている。
古寺に伝わる「御紹介状」は、旧家の夫たちが自分の妻を吸血させるため、親しい関係にある吸血鬼にあてて書いた書状。
各旧家に伝わる「日記」は、血を吸い取られ征服されていく妻たちの動向を記した、符牒交じりの秘記。
そのいずれもの閲覧を許されるには、おなじ体験を経なければならない。
読者の賢察にゆだねることとなるが、いま一通、ごく最近に書かれた「御紹介状」を披露して、この稿をとじたい。


当村御居住 本澤甚六 様
当家内儀喜美恵儀 参拾壱歳
身を慎むこと厳にして、当家に嫁してより未だ二夫にまみえず、
相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候
某年某月某日(筆者により伏せ字)

註:此処に喜美恵とあるは、筆者の令夫人の名の如し。都会風の名前が同書簡内に交じりたること、恂に以て悦ばしきことと覚え候。

血液の用途。

2012年02月17日(Fri) 07:28:31

血の用途によって、彼はご指名の相手を選ぶらしい。

喉が思い切り渇いて、量をむさぼりたいときには、わたしや息子を。
処女の生き血を愉しみたいときには、娘を。
そして、セックスつきの吸血に耽りたいときには、妻を。

きょうは夫婦で、招待を受けている。
そういうときにはきっと・・・わたしの目の前で見せつけたいのだろう。

三十分後。

2012年02月17日(Fri) 05:55:01

飲み屋で意気投合した吸血鬼に。
家族の生き血を吸わせてやると、約束をして。
連れて帰った、真夜中の家。
おしゃれしておきなさいと妻に電話をかけたのは。
綺麗な服を汚したいって、仲良くなった彼にせがまれたから。

「ようこそ」
にこやかに出迎えた、スーツ姿の妻は。
三十分後。
妻はわたしと同じ咬み痕を首すじにつけられていて。
ストッキングを破るなんて、失礼ですよね?って、言いながら。
ツヤツヤ光る肌色のストッキングを穿いた、もう片方の脚も、自分から差し出していた。

「息子です」
週末の朝、夫婦の寝室から三人で出てくると。
息子は白い歯を見せて、爽やかな笑顔ではじめまして、とお辞儀をした。
デニムの半ズボンの下。
白地にグリーンのラインが二本入ったハイソックスの脚に、彼はまじまじと見入っていた。
三十分後。
ソファからすべり落ちてその場にへたり込んだ息子は、
赤黒いシミを撥ねかせたハイソックスを、けだるそうに引っ張り上げて。
せっかくだからもっと愉しんでよ・・・っていいながら。
もう片方のハイソックスに、じわじわよだれをしみ込まされていった。

「娘です」
ほら、はじめましてって仰い。
妻に促された娘は、はにかみながらお辞儀をして。
三十分後。
きゃ~。血を吸われちゃうっ。
はしゃぎながら、いやいやを繰り返しながら。
お気に入りの黒のオーバーニーソックスのふくらはぎに、
飢えた唇を、なすりつけられていった。

スラックスの下、ストッキング地の長靴下の脚を隠して。

2011年11月09日(Wed) 07:40:35

スラックスの下、ストッキング地の長靴下の脚を隠して。
真夜中に家を出る。吸血男に逢うために。
通された古びた畳部屋のなか、なにかを探し求めるように、見まわすわたしに。
すべてを見抜いている吸血男は、呟きかけてきた。
さっきまで奥さんの血を吸っていたんだよ。
なんと応えたものか、とっさに言葉を詰まらせたわたしは、あいまいに笑って。
美味かったかね?
そう訊くと。
応えのかわりに目のまえにぶら下げられたのは、肌色のストッキング。
妻の足形を残して、ふやけたようになって。室内の微風を受けてそよいでいた。
ふくらはぎのあたりには、大きな裂け目。そして、赤黒い血のりがかすかに、けれども毒々しく、こびりついている。

しつこく噛んだね?
咎め口調になるわたしに、
ウフフ・・・と照れ笑いする吸血男。
よほど、ご執心なんだね?
問わずにいられないわたしに、
こんど、プロポーズしようと思っている。
ヌケヌケとそんなことまで、口にしている。
応援しちゃおうかな?
冗談ごかしに、そう応えると。
夜だけ、るす中だけ、おいしい所だけいただくよ。
夫婦関係を壊すことなく遂げられる、よこしまな劣情に。
わたしはチン、とグラスを鳴らす。
こちらのグラスには、なみなみとワインが。
けれどもかれのグラスの中身は―――どうやら今宵の獲物から絞り取った血のようだった。

まだ吸い足りないのか?
息荒くわたしの肩を掴まえて、むき出した牙を首すじに近寄せられたとき。
わたしはあきれる想いで、そういった。
犯した女の亭主の血は、格別なんでね。
情交を遂げたのだと聞かされて、血が燃えた。

こぼれた血が、ワイシャツを濡らしている。
帰り道は暗いから、見とがめられることもないだろう?
彼の言い草に、しずかに頷くわたしだった。
もっと愉しむだろう?
わたしのぶきっちょな誘いかけにさえ、まんまと乗って。
吸血男の目線は、薄い沓下に透ける足の甲に注がれていた。

家内のストッキングほどには、愉しくないだろうけど。
スラックスを引きあげて、薄い沓下に透けた脛を見せてやると。
そんなことはないさ・・・
男はスラックスをさらにたくし上げて、ふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたりに、唇を吸いつけた。
言葉はまんざら、嘘でもなさそうだ…
そう感じたのは、薄いナイロン生地ごしに這わされた唇が、それはしつような熱っぽさを帯びているのを感じたから。
彼のため履いてきたストッキング地のハイソックスは、噛み破られるまえに、
にゅるにゅると舌まで這わされ、よだれをたっぷりとしみ込まされて、
履き口から脛周り、くるぶしやつま先までと、すみずみまで愉しまれてしまっている。

妻の膚を侵した牙が、わたしのふくらはぎにも食い込んでくる。
チクッとした刺すようなこの痺れを、妻も味わったのだろうか?
器用ななつだ。家内があんたに夢中になったの、判るような気がするな。
あんた、優しいんだな。奥さんがあんたを慕うのが、わかるような気がするね。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅぱっ。
わざとらしい音まで立てて、愉しまれてゆくのが。
なぜか自慢に思えるようになっていた。

わたしの血もたいそう気に入られてしまったらしい。
もう・・・かなり貧血になっているというのに。
男はなかなか、吸いやめようとしなかった。
わたしも、つよく抱きすくめられた猿臂を、ふりほどこうとはしなかった。

通された別室で見合わせる、血の気が抜けて蒼ざめた顔と顔。
ごくろうさま。
いいえ、あなたこそ。
しぜんとのは、ねぎらいのことば。
血を吸われるものどうしの連帯感が、夫婦のきずなにべつの色を添えていた。
長かったわね。
なかなか放してもらえなくてね。
奇妙な嫉妬が、やはり夫婦のあいだに別のフィルタで蔽っていった。

スラックスを脱いだまま。
欲情に満ちた猿臂のなかであえぐ妻の横顔に。
さかんな射精が、裂け目を滲ませた長靴下を濡らし、むき出しの太ももに散った。


あとがき
きのうの朝ほぼ描きあげたものに、ちょっと加筆したお話です。

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女吸血鬼の唇

2011年10月26日(Wed) 08:09:25

白いうなじに吸いつけられた、赤黒くただれた唇は。
ひと晩じゅう、ヒルのようにうごめきつづけて。
彼女の生き血を、吸い尽くしていった―――

一週間後の夜。
恋人同士として愛し合ったあの肢体が、
ふたたびわたしの身体に、ツタのように絡みついてきて。
あのうっとりとする唇が、わたしの血を吸いはじめた。
彼女の干からびた血管を、自分の血で潤すことに、
わたしは夢中になっていた。

俺の血なんか、似合わないだろう・・・?
そういってふり返ると。
ジュースのストローを咥えた彼女は、夢見るような視線をさ迷わせて、こういった。
ピンクの口紅を刷いた唇で、謡うような声色で。

う~ん、ずうっと宿していたいな。
こんどはあなたの身体に、女のひとの血をめぐらす番ね。
妹さん、お呼びなさいよ。
手伝って・・・あげるから・・・

都落ち貴族のひとりごと。

2011年09月20日(Tue) 06:12:18

予は、戦乱の都を逃れてきた、みかどの血すじにつながるもんお。
領主であるはずのその土地は、当地に棲む狐狸妖怪に支配されていて。
わが身さえもが、その支配を受ける身に。
人の生き血を啖らう老婆と昵懇になり、妃の血を吸わせる談合を。
妃に老婆の夜伽を申し渡すと、
―――貴顕の出である妾(わらわ)が、若い身空でなにとてそのような無体の仕打ちを
と、身をよじって厭がるものの。
現れた吸血妖女に、またたく間にたぶらかされて。
もっと・・・もっと妾(わらわ)の生き血を愉しみなされ と。
夜な夜な忍んで来る妖女と、淫らな逢瀬。
血の気をひそめ、頬蒼ざめさせながら尽くすほどに。
妾の具合がよろしうない折は、姫を・・・とのたもうて。
今年で十三になる姫を、惜しげもなしに生贄に。
緋色の単衣もあでやかな姫は、哀れ老婆の毒牙にかかり、
生母と同じく、たったひと夜でたぶらかされて。
いずれはどこぞの尼寺へと望んだ前途を裏切って、
老婆の隠し持ちたる魔羅に狂わされて。
家門の栄えを地に堕とされながら。
夜な夜な、そのありさまをかいま見んとする、わが身のあさましさ。

貴殿、まろを頼って当地にまかり越されたは、まことに僥倖というもの。
娶られてより、いっそうあでやかなる奥方も。
花ならつぼみの姫君も。
お連れになられた若君の許嫁も。
うば桜とはいえ、美女の誉れ高かりし母御前も。
ひとしくそのたおやかな柔肌をめぐる生き血もて、当地の狐狸妖怪を慰められるがよろしいぞ。
では。。。あとの話は貴殿から・・・ご披露なさるがよい。
たんと愉しまれたうえで・・・の。
さらば。さらば。


あとがき
チャットルブルというオープンチャットがありましてね。
本格的に見に行ったのは、きのうが初めてだったのですが。
これがけっこう、想像を刺激するメッセが立ち並んでいるんですな。
そのなかのひとつ、
古来和風世界淫猥絵巻
という、一年ほど放置されていたところに、上記のような落書きをしてみました。^^
表現は多少、なおしてありますが、ほぼ原形どおりです。
あとにつづくかたは・・・いないでしょうなぁ。(^^ゞ

Fuck my wife!  愉しかるべき交流の夕べ

2011年05月31日(Tue) 05:26:13

それはがっしりとした、白人の男だった。
吸血鬼だからといって、黒のマントをまとっているわけではない。
そんな当たり前のような認識を、はじめてもったときには。
すべてが結び合わされようとしていた。
小柄な四肢を白っぽいスカートスーツに身を包んだわたしの妻は、
石臼のように逞しい彼のまえで、いっそう華奢に映った。

ユウ・アー・ウェルカム
独身のころには、英会話学校に通っていたという妻。
付け焼き刃みたいな、稚拙な発音だった。
男はあけっぴろげに明るく両腕を広げて、
金髪の体毛に包まれた厚い胸に、妻の肢体を迎え入れる。
ぎゅっと抱きすくめられた彼女は、一瞬絶息したように、
ごほっ、と、咳き込んでいた。

You're afraid?(きみ、怖い?)
あの茶目っ気たっぷりな笑み顔で、のぞき込まれたら。
妻ならずとも、きっとかぶりを振ることだろう。
げんに妻はそうしたし、笑った瞳にイタズラッぽい目つきで応えていった。
鋭利な牙が二本、彼女のうなじに突き刺さる。
まるで予防接種のように事務的に、妻は目を瞑ったまま受け容れた。
バラ色のしずくのしたたりが、我が家のじゅうたんを濡らしていった。

あぁ・・・
けだるげに額を抑える妻を励ましながら、あやすように肩を撫で、
それでも彼は、手を緩めることなく、幾度も彼女に噛みついた。
Ouch!ouch!
さいしょは英語で意思を伝えるほどのゆとりをみせていた妻も、
度重なるにつれて顔色を蒼ざめさせて。
痛いっ!痛(つ)・・・っ!あぁ―――っ!
日本語で絶叫を、くり返す。
肌色のストッキングを履いたか細いふくらはぎに食いついた彼は、
ぱりぱりと他愛なく、彼女のストッキングを裂いた。

洋服はあちらのほうが、本場だったな。
ふと思ったわたしは彼に、ほんとうはキモノのほうがよかったかね?
精一杯のジョークを飛ばす。
Kimonoはきみのマザーでたんのうしたよ。
こともなく彼は、応えを投げてきた。
帯が多くて、かなわんな。
彼女のハズバンドのまえでファックするまでとうとう、帯を解くことができなかったよ。
着物の母を、父のまえで犯したのだと、ぬけぬけと語る彼。
でもしっかり、感じてくれたからね。ダンナのまえで♪
彼女は、きみのワイフとおなじくらい、いい女だった。
わが家の女たちの佳さを目を輝かせて語る彼のかたわらで、
虚ろな目をした妻が、足首まで弛み堕ちたストッキングを、けだるそうな手つきで引っ張り上げている。

家族の女たちを相手に、飽食する彼。
まだ小学生の娘が襲われるようになるのもきっと、時間の問題なのだろうけれど。
あっけらかんと打ち解けながら凌辱をくり返す彼に、悪気はかけらもない。
家族の血を吸われ、貞操を汚してもらうことが、懇親を深めることになるのだ。
無邪気にそう信じているらしい彼のまえ、
楚々とした装いの淑女たちは、今夜も嬉々として、身体を開いてゆく。


あとがき
自分の妻を襲わせるときも。
他人の妻を襲うときも。
外人らしくひとしくあけっぴろげな、おじさん吸血鬼。^^

白人の夫婦

2011年05月31日(Tue) 05:11:03

風の強い海辺だった。
あまり砂っぽくもなく、人々の装いが都会ふうなのは、
おそらくそこが、リゾートホテルかなにかだったからだろう。

白人のその男性は、そこそこの年配で。
けれどもがっしりとした体躯の持ち主だった。
だからこそきっと、そうしてくれたのだろう。
しばらく人の生き血を喫っていない私を、抱き寄せるようにして。
逞しいふくらはぎを、あてがってくれたのだった。


はだけたシャツの襟首からは、金髪の体毛に覆われた厚い胸。
ショートパンツの下は、すこしよれかかったライン入りのハイソックス。
緑のお日が三本走る、ふくらはぎのいちばん肉づきのしっかりしたあたりに、
私は牙を、突き立てた。
牙が折れるかと思うくらい、硬い筋肉だった。
Oh!
彼は感嘆したように、声をあげ、
声に応じて見上げる私に、笑いかけてみせる。
ライン入りのハイソックスには、バラ色の血が点々と散っていたが。
男はユーモラスに笑いながら、傍らの妻に見せびらかしている。

彼の妻は長い長い金髪をさらりと流し、
日本人には見られない高い鼻梁を挟んだ瞳が、打ち解けた色をたたえている。
明らかに外人の外貌をもちながら、どこか日本女性のような楚々とした雰囲気をたたえていた。
わたしのWifeを噛むかね?という意味の英語を、イタズラッぽく漏らすと。
彼は自分の席を、譲ってくれた。
淡い色のプリントワンピースのすそのした。
グレーのストッキングが、彼女の格好のよい脚を、なまめかしく彩っている。

Wow!
彼女の足許にかがみ込んだ私の頭上に、奇矯な声をあげて、
けれども彼女の叫び声は間違いなく明るく、
ワンピースをたくし上げ太ももに唇を吸いつけた私を、決して拒んではいなかった。
薄手のストッキングのなめらかな舌触りを、唇に感じながら、
私は彼女のストッキングを、いともむぞうさに咬み破る。

Hi!
ふたたび彼のほうを、振り向くと。
鼻先にぶら下げられたのは、さっきまで彼が履いていた、血のついたハイソックス。
どうやらそれを脚に通せと言っているらしい。
サイズが大きすぎるのか、ゴムが伸びてしまったのか。
あまり密着感のないハイソックスを、ゆるゆると引き上げると、
彼はなおも、イタズラッぽい笑をたたえている。
短パンの下の彼のがっしりとしたふくらはぎは、いまは黒の薄々のストッキングに包まれている。

Wifeのやつなんだ。彼女のまで、いたぶってくれよ。
なんのてらいもなく、笑う彼。
子供っぽいほどに無邪気な夫の応対を、微笑みながら見つめるその妻。
喉をからからにした吸血鬼に自分の脚を噛ませ、
それから妻まで襲わせて、
いまは、妻愛用のストッキングで半ば女装に手を染めながら、私を招く彼。
あっけらかんとした明るさは、ちっとも陰湿なものを感じさせない。
どっちのストッキングがNiceだったかね?
男の問いに、私はこたえる。
アイ・ラヴ・エブリバデイ と。


あとがき
明け方にわいた妄想です。
あれは、夢だったのか・・・

侵蝕される家庭 〜古屋家の場合〜

2011年05月22日(Sun) 22:14:40

まだ未完成の、試作です。
はたして完成まで、たどりつけますかどうか・・・。 ^^;



カンテラの人影


どんなふうにしてその夜路をたどったのか、洋祐には記憶がない。
昼間は蒸し暑いほどだった周囲の空気は、闇のなかに冷え冷えと沈み込んでいた。
たぶん・・・
いっしょにキャンプに来た両親の姿が傍らの寝袋から消えていて、不安にかられて歩き回っていたのだろう。
なにものかに導かれるかのように迷い込んだ、雑木林のかなた。
すがるように求めたあのふたつの影は、意外な重なり合い方をしていた。

足許に置かれたカンテラが、離れている洋祐の瞳を、眩しく射た。
何もかもが闇に溶けているのに、そこだけが。
樹々の根元を下草まで、まるで昼間のように照らしていて。
カンテラを足許にした父が、母と呼ぶべきはずの女体を、力強く組み敷いていた。

いつもは穏やか過ぎるほど穏やかで、母の尻に敷かれているような父に、
洋祐は時折り、もの足りないものを感じていたが。
その晩の父は、まるで別人だった。
薄いピンクのブラウスの襟首を、かすかに震わせながら。
涙声で、なにかを囁いている母。
返事の代りに蔽いかぶさる唇が、いわゆるキスというものなのだと。
テレビドラマ以外では、生まれて初めて目にするそのシーンに、驚きさえも忘れていた。
中学二年の、夏のことだった。


つづきはこちら↓
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-2504.html

むかし話。  ~村が堕ちた日~

2010年12月05日(Sun) 07:33:38

座敷牢というものを、ご存知ですか?
昔はそこかしこに、そういうものがあったのですよ。
家名に泥を塗るようなことをしたもの。
家の外聞を損ねかねないような病にかかったもの。
そうしたものが入るところなのです。
邸の一角に、ひとをとじこめて。
三度三度の食事は与えるけれども、家人さえもちかづけず、
決して、牢の外には出してもらえないのです。
悪くするとそのまま、一生を終える者もありました。
私も若いころ、そうしたところに入っていたのですよ。

―――――――――――――――

母さま、早く早く。
マチ子は小声で、母のチセをせかしていた。
おかっぱに切りそろえた黒髪が、このごろひどくツヤツヤとして、なまめかしい光を放っている。
頭の上に結っていた日本髪をやめて洋髪にしたチセは、髪型に合わせて洋装だった。
和服を好んだ夫のいるときには、たえて装わない服である。
夕暮れまえには、お父さまが戻ってくるのよ。
それまでに、お昼も終わらせておかないと。
黒のストッキングの脚が立ち止まったのは、兄の部屋の前だった。
廊下と兄のいる座敷のあいだを、重々しい格子がさえぎっていた。
マチ子はわざとのように錠前をガチャガチャいわせながら、セーラー服の胸ポケットに挿した鍵を、錠前のカギ穴に差し込んだ。
中からビクッと起きあがる、人の気配が伝わってきた。
兄さま、起きてる?
かあさまを連れて、会いに来たのよ。夕暮れまえまでなら、だいじょうぶだから。
矢継ぎ早にくり出される妹の囁きに、兄の勇輝ははじめて、打ち解けた空気を発していた。

座敷牢のなかは、狭いながらふた間に仕切られていた。
そのどちらをも、座敷牢の主は使えることになっているが。
食事のときだけは、手前のひと間が、食事を持ってきた使用人が控える間とされている。
マチ子はその、控えの間のほうに、正座をした。
正座が苦手らしく、すこししかめ面になっていた。
重たげな濃紺のプリーツスカートの下、黒のストッキングを履いた脚をぶきっちょにしまい込む。
さ、遠慮なくなさいね。
チセは息子のいる次の間にまで、入っていって。
正座して控える息子のまえ、そろそろと身をうつ伏せに横たえた。
えび茶のスカートすそから覗いたふくらはぎが、きちんと装われた肌色のストッキングに包まれている。

ちょっとのあいだ、ためらったけれど。
どうしても本能には、勝てなかった。
兄さま、早く・・・
促す妹の声が、あと押しをしていた。
はじめのうちこそ、ためらいながら。
かさかさに乾いた唇が、おずおずとチセのふくらはぎに吸いついてゆく。
マチ子は正座の姿勢をつづけたまま、大きな瞳を見開いて。
お手本を演じる母と、ためらいながら応じてゆく兄の所作をじいっと、見つめていた。

ちゅうっ。
なんどかためらいがちに押しつけられた唇が。
いつか、肌色のストッキングのあちこちに、唾液を滲ませている。
よろしいのよ。遠慮はぬきにして・・・
母親の声に、促されるようにして。
何度目かに押しつけられた唇の両端から、尖った犬歯がむき出された。
肌色のストッキングを破ってふくらはぎに食い込む牙に、さすがにマチ子は目をそむけた。
ちゅうっ・・・
大好きな兄が・・・母のストッキングを噛み破って、生き血を吸っている。
おぞましいはずの光景に、いつかそむけられた視線はまともに見つめ、うっとりとした輝きさえ帯び始めていった。

ひざ上を締めつけるゴムに、手をかけて。
チセはそろそろと、ストッキングを脱いでゆく。
見られたら羞ずかしい・・・そう訴える娘のために、わざと視線をそらしていた。
娘がさっきの自分とおなじ姿勢を取って、制服のスカートのすそをゆだねるのを、気配で察しながら。
脱ぎかけたストッキングに走る伝線を、指でしずかになぞっていった。
黒のストッキングのうえから吸いついた唇に力がこめられて、
ブチチッ・・・とナイロン生地がはじめる音がした。
ストッキングが裂けて、女学生のふくらはぎの初々しい白さが、じょじょにあらわになってゆく。
やはりお口に合うようね。
ぽつりと漏らされた言葉は、おなじ血を宿した兄妹だから、という意味なのだろう。

厳父がまな娘と、その母とを書斎に招んだのは。
その日の夜のことだった。
よほど立ち入った話が、あるらしい。
人払いをした部屋に、女ふたりはおずおずと入っていった。
座敷牢通いが露顕したのか?
そういう懸念を、押し隠すことができなかった。
それくらいに、夜書斎に招ばれるということには、重大な意味があったから。
開かれた言葉つきは、むしろおだやかだった。
勇輝とおなじ病にかかったもの、じっさいにはかなり多いらしい。
厳父が口にしたなかには、近所の跡取り息子や遠縁の一人娘の名もあった。
このごろ、姿をみかけなくなったものたちばかりだった。

夜な夜な、吸血鬼が現われるらしい。
そいつは、いちど招かれないと邸のなかには入れないが。
いちど招き入れてしまったがさいご、家人を一人残らず吸い尽くすまで、訪問をやめないという。
だれが吸血鬼なのかは、ついにわからない。
日ごろふつうに接しているもののなかにも、いるらしい。
だとすれば、狭い村のなか、だれもが出入り可能であるのだろう。
もしかするときょう、じつは吸血鬼であるところの顔見知りと同席しているかもしれないし、
邸に招いたなん人かのなかの一人にさえ、そうしたものがいたのかもしれなかった。
血を吸われたもののいくたりかは。
半ばは人、半ばは吸血鬼になって。
日常生活は人と変わらないのに、時おり狂おしいほどの飢餓状態に襲われて、人の生き血を欲するという。
勇輝が発した病状も、まさにそのとおりのものだった。

村から出られるものは、出てしまっていたが。
外部に縁類をもたないものがほとんどのこの村で。
そういうものは、ごく限られていた。
此処で生きつづけるか、死に絶えるか。
ふたつにひとつの選択を、迫られて。
村はなん人いるかわからない吸血鬼どもと和解をすることになったという。
和解に応じた彼らは、今後はひとの生命を取らないような吸い方をするという。
あまり仲間が増えすぎて、村が死に絶えると、またべつの村を探さねばならぬからだろう。
厳父はため息交じりに、すこし弱気な呟きを洩らした。
見返りに要求されたのは。
村に住まう十三歳から六十歳までの婦女は例外なく、吸血鬼の需(もと)めに応じること。
そのために、村の上層部の子女が真っ先に、村はずれの荒れ寺に集められ、吸血に応じることになったという。
封印された半吸血鬼も、解放されて。
荒れ寺の山門をくぐる女たちとは反対側の、墓地の側から。
寺のなかに入ることを許される。

兄が解放されるよろこびと。
どこのだれかわからない吸血鬼の欲望を満たすというおぞましさと。
女たちはそのどちらをも、深いところで受け容れた。
その日厳父はひっそりと、出かけてゆく妻子を見送りもせず、書斎部屋にこもったままだった。
訪れた女たちを、襲うのは。
吸血行為だけでは、ないはずだった。
相手の吸血鬼が男の場合。
媾合(こうごう)さえも、のぞまれて。
女の操を捨てることを、余儀なくされるはず。
貞操観念の高かったこの時代。
多くの夫たちは、それを妻に告げる勇気をもたなかったことだろう。

妹さんが、ぜひにと望まれてね。
勇輝の目のまえにいるのは、死んだはずの叔父だった。
母の弟で、独身のまま逝った人―――
それが甥のまえに姿を現したのは、墓参りの帰り道だった。
ほかの男は、知りたくないそうだ。
ぜひにもきみに、というのだよ。
きみは男らしく、受けるがいい。
近すぎる交わりは、われわれの世界では、決して禁じられてはいないことなのだから。
女の数が、足らないのでね。半吸血鬼には、ひとりしかあてがうことができないのだよ。
きみの母さんのお相手は、この私がつとめることになった。
義兄(あに)からそのように、頼まれたのでな。
ほかのひとにされるよりは、近しいひとの相手をするほうがまだ良い と。
きみの妹さんも、同じことを仰っていたよ。

八畳ほどもある日本間のなか、
兄と妹とは、息を詰めて対峙していた・・・はずであった。
いつの間にか、真っ白な夏用の制服姿が、自分の下に押し倒されている。
はじめて交わし合った口づけは、ひどく甘酸っぱかった。
して頂戴―――
はらをくくったらしい妹は、太ももまでのストッキングの脚を、ゆっくりと開いていった。

婚約の早いこの村では。
妹の相手は、既に決まっていた。
お嫁に行ったら、兄さんに血を吸わせてあげられなくなる。
母にはあからさまにそういって、結納を拒みつづけていたという。
マチ子の相手は、勇輝の幼馴染だった。
どうせなら、マチ子ちゃんの相手はきみがいい。
だれもがおなじことを、言うのだな。
この荒れ寺のなかで、彼を待ちかまえていた幼馴染は、やっとのことで、そういった。
幼馴染の囁きを反芻しながら、剛くそそりたつものを、妹の柔らかい秘奥に突き立てていった。

―――――――――――――――

和解というのはね。
仲良くなることなの。
だから、村人たちと吸血鬼とは、それからは仲良く共存することになった。
わたしのような、半端ものは。
どちらのがわのことも、分かり切っていましてね。
仲良くなった吸血鬼に、生き血のおいしそうな家族を紹介したり。
友だちの家にあがりこんで、妹さんやお母さんまでご馳走になったり。
そんなことを、くり返しているのですよ。
だれが吸血鬼で、だれが半吸血鬼か?ですって・・・?
野暮なことは、お言いになりなさんな。
ときに、あなたのお連れになった妹さんや未来の花嫁さん。
このあたりでは見かけないほど、別嬪ですな。
法事のあいだは、おそろいで黒のストッキングをお召しのようですが。
わたしにもちょっとだけ、おすそ分け願えませんかな?
一足ずつでも、よろしいですから・・・

クラブ・チームの人びと

2010年10月25日(Mon) 20:07:16

ちわーっす!
お邪魔しまーす!
威勢の良い野太い声が、狭い玄関にこだまする。
若い男ばかり五、六人がどやどやとあがりこんでくると、
そう広くはないマンションの我が家は、人いきれで息苦しくなるほどだ。
上から下まで、ユニフォームでかためているもの。
ラフなTシャツにハーフパンツ姿のもの。
ただでさえ汗臭いかんじのする男たちは、思い思いの格好だったが。
例外なく、スポーツ用のストッキングを脚に通していた。
練習帰りというわけでもないのは、ユニフォーム姿で完全武装のふたりのシャツが、泥だらけになっていないことでそれと知れた。
クラブ・チームのせいなのか。
ほかにわけでもあるのか、
ストッキングは統一していないらしい。
縦のラインの入っているもの。
大胆な色合いの、横縞もようのもの。
昔ながらの、ふくらはぎにラインのはいっているもの。
色も黒から真っ白まで、不統一で。
毛むくじゃらの逞しい太ももの、すぐ下だけが、スポーツ用ストッキングの真新しいリブで妙にツヤツヤ輝いていていた。
鎧のような筋肉の脚に、ぬらりとしたリブの流れるストッキング。
アンバランスな美しさが、電灯の下に照らされていた。

ぼさぼさの長髪のやつ。五分刈りのやつ。
いつもは傍若無人に振る舞っているらしい連中なのに、敷居をまたぐ時だけは以前よりもだいぶ、神妙になっている。
六人で頭数、足りるよな?平日なのにこれだけ集めるの、たいへんだったんだぜ?
十歳くらい若いキャプテンは、いつものようにわたしに対してもため口だった。
ああ、上等だ。
初めてのひとも、いるようだが…そこんとこ大丈夫?
平気だよ。
キャプテンはちょっと肩をすくめて、だれだってオレのいうことは聞くものな、と言いたげに。
背後につき従ってきた連中をひとわたり、見回した。
おい、笠村。おまえきょうなにしに来たのか、わかってるよな?
テストをするような尋問に、笠村と呼ばれた青年はちょっと口ごもりながらも、
献血…ですよね?
言外に含めた意味まで、全員にいきわたっていた。
キャプテンは満足げに、OKのゼスチュアをした。

こちら側の客人たちが、のっそりと部屋に入り込んできたとき。
さしもの猛者たちが、ちょっとたじろいだようだった。
若くて逞しいクラブ・チームの面々とは対照的に。
だれもがみないちように、蒼ざめた頬をしていて。
やつれ果てたような痩せ方は、人目にたつほどだった。
相手、よく選べよ。
今夜お前らのかあちゃんや彼女を、かわいがろうって人たちなんだからなっ。
ひときわ威勢のいいことを口にしたキャプテンは。
そういえば、まだ新婚ほやほやだった。

おーい、ここいいかな?
オレ、こっちね♪
いいッスか?
クラブ・チームの面々は、すぐにいつものノリに戻っている。
だれもがめいめいに、相手を選んで。
相手の前に、腰をおろして。
スポーツ用ストッキングに包まれた脚を、投げ出すようにして。
よろしくっ。
潔いほど素直に、蒼ざめた連中に会釈を投げてゆく。
会釈の返しは、吸血だった。
鎧のような太ももの筋肉に。
リブのつやつやしたストッキングのふくらはぎに。
むき出された飢えた牙が、食い入ってゆく。
ばら色のしずくがひとすじ、ふたすじ・・・
畳にたらたらと、したたっていった。

うへーっ、貧血だよぉ。
丸太ん棒のような脚を、投げ出して。
ひとりが顔に手を当てて、のけぞった。
根性ねーなー。
べつのやつのからかい文句に、受け応えもないままに。
そいつはうなじに近寄せられる唇に、まんまと吸血を許していった。
仲間をからかったやつも、ひとのことを言えた筋合いではなかった。
さっきからしつように、ストッキングごしの吸血に耽る相手のため、
真っ白な生地を赤黒く染めながら。
しばらくは”根性”をみせて、ずり落ちかけたストッキングをなんども引き伸ばして、
しっかりした生地の舌触りを愉しませてやっていたけれど。
そのうちだんだんと、動きを緩慢にして行って。
うちに案内する体力くらいは、残しといてくれよな・・・
妹やお袋も、紹介してやっからさ。
そういいながら、しずかに首筋を噛まれていった。
鮮やかなイエローのユニフォームの肩先が、赤黒いほとびに染まった。
これほど気に入られているのなら。
きっとご家族の血も、口に合うことだろう。

みんな、いいノリ感じだね。
わたしの言い草に、キャプテンは苦笑いをかえしてきて。
あんたも、早く始めろよ。かまわねーから。
精いっぱいの強がりを言って、空色のストッキングの脚を投げ出してきた。
ふしぎなやつだなぁ。男の血がいいなんて。
冷やかすような声が、頭上に降って来たけれど。
唇でまさぐるナイロン生地のしなやかさが、すっかりわたしを夢中にさせていた。
あーっ、またやっちまった・・・
空色のストッキングに、赤紫のシミが広がった。
おニューだろ?
わたしの言い草に、男は負けを認めるように、うんと頷いた。
あんたに見せる気遣いなんて、ないからな・・・
いつもそう言いたげだったのに。
根は律義なやつらしく、いつもわたし好みのライン入りのストッキングを、真新しいものに替えていた。



数週間まえのことだった。
おなじ電灯の下。
我が家は凌辱の場と化していた。
縛られたわたしの目のまえで。
妻はワンピースのまま、押し倒されて。
左右から抑えつけられ、放恣に開かれた脚は。
てかてかとした肌色のナイロンを、妖しく輝かせていて。
それだけで、貞淑だった彼女の身持ちを彼らが疑うのにはじゅうぶんすぎるほどだった。
仰のけられた薄手のナイロンの太もものすき間に。
代わる代わる、男どもは臀部を沈み込ませていく。
色とりどりのスポーツ用ストッキングを履いた脚が、逞しく盛り上がった筋肉に、力を込めて。
妻の貞操を、踏みにじっていったのだ。

チームワークは、抜群だった。
学校の後輩のひとりが、仲間の連中を引き込んできて。
さいしょから妻のことが、目当てだったのだ。
先輩の嫁さんに、タックルしちゃおうぜ。
ろくでなしな合い言葉のまえに、知性も寛容も、もちろん良識までもが無力だった。
タックルされ抜かれた妻は、なんどもゴールを許していって。
ずり落ちかけた薄々のストッキングは、やはりたるんでずり落ちた厚手の長靴下たちに、
もみくちゃにされ、ゆがめられ、堕とされていったのだ。



吸血鬼の情婦に、そういうことをするとどうなるか―――
たっぷり分からせてやるからな。
てかてかのストッキングから判断されるのは、いささか無責任だったにせよ。
たしかに妻の身持ちは、妖しい色に染め変えられていた。
それが幸いだったのか、不幸だったのか。
その晩わたしと妻を共有した男たちは、己の妻や恋人を、彼やわたしのまえ、嬉々として差し出す羽目になっていた。
これで、おあいこだね。
自宅に招いた吸血鬼どもが、新妻を輪姦して、イカせてしまったとき。
真っ先にわたしの妻を汚したキャプテンは、白い歯を見せて苦笑した。
ライバルにゴールを奪られた直後のように。


もっと、吸うかい?
キャプテンは、わたしを気遣うように。
耳たぶの真下を、指差した。
じゃあ、ご厚意に甘えて―――
まったくだ。
声にならないうそぶきが、密着しきった身体越しに伝わって来る。
どろしとした甘美な血液が充たしながら、わたしは男をギュッと抱きすくめて。
もうひと口、味わっていった。
そうなんだ。
運動で鍛えた血は、精力がついて。
きみの奥さんをきみのまえで犯すときも―――
ひと晩じゅう、盛り上がれるんだもの。

キャプテンの脱ぎ棄てたストッキングは、ごわごわとした履き心地がした。
かすかに付着した、彼の血が。ワンポイントのようになっている。
お似合いだね、スポーツなんかやらないくせに。
履き心地、よくねぇだろ?
うちのかあちゃんのパンストのほうが、あんたにはよくお似合いだものな。
なかなか、くすぐったいことを言ってくれた。
やつのスポーツ用ストッキングを履きながら、やつの新妻を凌辱する。
あの慣れ染めの夜のお返しに―――
わたしたちはいつか、そんなプレイにはまり込んでいったのだ。

週末には必ずといっていいほど、我が家にあがりこんできて。
妻のスーツやワンピースを、力づくで剥ぎ取っていって。
ブラジャーのストラップを引きちぎり、ストッキングを粘液まみれにしていく男。
けれどもいまでは、すっかり慣れてしまって。
妻も、わたしも、彼の訪問を心待ちにしている。
けれども彼の新妻も、いまでは献血タイムを、愉しみに待ちうけているらしい。
ゴールを奪って、奪われて。
タックルを仕掛けて、仕掛けられて。
苦笑い・愉しみ笑いを、交わし合う。
不健全なオトナたちのスポーツは、今夜もこうやって、幕を開ける―――

墓場の同居人 ~童顔の妻と、ハイソックスの娘~

2010年10月25日(Mon) 18:46:36

色白の丸顔に、少女のようなつぶらな瞳。
齢よりも十以上は若くみえる喜美恵は、一女の母。
そしてわたしの、妻―――
そう、ついこのあいだまでは、わたしだけの女だった。

よく来たね。喜美恵・・・
妻を呼び捨てにして、わたしよりも先に近づくのは。
墓場の同居人。
わたしの血を吸って墓場に引き込み己の仲間に組み入れた、張本人。
男を狙う時には、その妻子がほんとうの狙いだと聞いたのは。
おなじ墓場の冷たい夜風に、互いに身をさらすようになってから。
寒いだろ。喉渇いているだろ。
こんどの新盆には、あんたの家族は間違いなく、此処に来る。
男は嬉しげに、うそぶいていて。
わたしはその日が来るのを、怖れながらも待ち望んでいた。
人の生き血にありつくには、まず真っ先に。
己の家族の血を分かち合うことが、此処での掟になっていたから。

さいしょに訪れたのは、母だった。
楚々とした黒の礼服に、誘われるように。
黒い影がいくつも、のしかかっていった。
うなじにがぶりと食いついたやつは。
白髪交じりのショートカットに、赤黒い血潮を散らしていった。
腰周りに、ブラウスのうえから噛んだやつは。
女ひでりだったんだとうそぶきながら。
血の滴ったスカートのお尻を、嬉しげに撫でまわしていた。
どちらもわたしの同居人に血を吸われて、
妻子や姉妹、母親までも譲り渡してきた男たち―――
だんなさん、悪りぃな。さきにいただくぜ。
そういいながら、枯れ枝のように細い身体を組み敷いて。
気絶しかけた女を、苛みつづけていった。

絶息しかけた息の下。
母はぜぃぜぃと喘ぎながら、言ったのだった。
あの子にひとしずくでも、吸わせてやりたい と。
男どもがシンとなったのは、そのときだった。
きょうは帰んな。それから来週、またお出で。
こんどはこのひとの、奥さんと娘を連れてきな。
女が嫁を伴なって、再び墓参りに訪れたのは。
人通りの絶えた宵の口のことだった。

芝生のうえ、組み敷かれた喪服姿がふたつ。
ちゅーちゅー音をたてて、淫魔どもは女たちの生き血に飲み耽る。
母の血にありついたのは、何番目だっただろうか―――
妻もまた、酔い酔いになりながら。
ほろ苦い笑みを洩らしながら、足許ににじり寄る同居人に応対して。
黒のストッキングをチリチリに噛み剥がれていくありさまを、
はしたないと恥いるように、盗み見ていた。
若い女は、人気があるからな。
奥さんの血は、つぎの愉しみにしておきな。
同居人がそう入れ知恵するほどに。
妻の生き血は、此処の住人たちの人気を集めたものだった。
悔しいけれど、どこか誇らしい―――
そう感じるようになったのは。
きっとわたしの理性が、いい加減歪みかけてきたからなのだろう。
わたしは妻に、こんどは娘も連れてくるようにと望んでいた。

うら若い頬に、つぶらな瞳―――
童顔の妻は、一女の母。
いまはまな娘を連れてふたり、夕暮れ刻の墓場に佇んでいる。
わたしの同居人に、おどおどと会釈を返して。
それから諦めきったようなまなざしを、わたしのほうへとちらりと向けて。
それから娘の背後に跪くと。
両の掌で、少女の頬を挟むように、そうっと押し戴くように、仰のける。
怪訝そうな少女の顔が、一瞬ひきつったのは。
男がおもむろに、首筋に唇を吸いつけたとき。
きゃあっ・・・
ひと声の悲鳴に、背後から娘を抱きすくめた妻は、目をそむけながら。
それでも娘を羽交い絞めにした腕を、ゆるめることはしなかった。

ふふふ。
子供の血は、格別だね。
同居人は、そろそろと。
少女の足許に、にじり寄る。
きょうは、だれにも邪魔されず。母娘を独り占めにする夜。
黒革のストラップシューズにくるまれた少女の足首は。
純白のハイソックスに覆われている。
しなやかなナイロン生地は、ひざから下をたっぷりと包んでいて。
そのうえからあてがわれる、飢えた唇を。
娘はじいっと、見つめている。
肩頬を、吸い残された血でべっとりと濡らしたまま―――

白目を剥いて、おとがいを仰のけて。
少女は正体もなく、へらへらと笑い転げていた。
いともくすぐったそうに、笑い転げながら。
ハイソックスの足許にからみついてくる、いけない小父さまを。
だめ、だめ、だめぇ・・・って、表向きだけは拒みながら。
ずり落ちたハイソックスを、その小父さまのために引きあげてやって。
厚手のナイロン生地の舐め心地を、愉しませていった。
妻が襲われたのは、娘が提供可能な血を吸い尽くされて、ぐったりと倒れ臥したときだった。

いちばんのお目当ては、奥さんのストッキングなのだよ。
妻に言うともなく。私にうそぶくともなく。
同居人は嬉しげに、喪服の足許に唇を這わせていった。
このあいだ来たときよりも、薄手のものになっていた。
秋は肌寒いほどに、深まってきたというのに。
ぴちゃ、ぴちゃ。くちゅっ。
清楚な装いに加えられる凌辱を、唇を噛んで見つめながら。
妻は許しを請うように、こちらを盗み見る。
いいだろう・・・
わたしのひと言が、妻の運命を決めていた。

正気に戻りかけた娘は、赤黒いシミをべったりつけたハイソックスを、まだ愉快そうに引っ張り上げている。
傍らの草むらが、がさがさと。
母を凌辱する音に、騒がしく揺れているというのに。
こんどはパパにも、吸わせてあげるね♪
無邪気な少女にもどった彼女は、遊びに行く約束をするように。
わたしと指きりげんまんをしたのだった。

どうぞ―――
秋も暮れかけた、たそがれ刻の墓場のなか。
千鳥格子のスーツを着た喜美恵が、おどおどと。
男どものまえ、黒のストッキングの脚をさらすとき。
羞じらう少女は、母の背後に身を半ば隠しながら。
こっそりとわたしのほうへと、視線を送って来る。
真新しいセーラー服の下。
初めて脚に通した、黒のストッキング。
推薦入学が、決まりましたの。
名門校ですのよ。
娘を披露する妻は、そのときだけは、教育ママの顔に戻っていた。
さ、ご馳走なさい。
この娘(こ)の純潔は、どなたが召し上がって下さるのかしら・・・?

娘か 妻か・・・?

2010年10月06日(Wed) 05:54:30

早く吸いなよ。かまわないから・・・
真緒の声色にかすかな諦めににたものが漂うのを。
母親の美緒は、聞き逃さなかった。

夫が奇病にかかってから、すでに一か月が経っている。
”吸血病”という、現代の医学では封印された病。
どこの病院でも、名医さえも。
白衣の先生がたは、暗い顔をして、ゆっくりとかぶりを振るばかりだった。

―――ご家族で、なんとかされるしかありませんな。
・・・周囲のかたがたに知られないようにするために。
夫の病を治せなかったとある”名医”は、悪魔のように囁いていた。
外聞のたたぬよう、身内だけで。
人の生き血を吸いたいという夫の願望をかなえてやるしかない。
夫婦連れだって病院から戻ってきたその夜に。
美緒はだまって、じぶんの首筋を差し伸べていた。

人の生き血を欲する人間のために。
その欲求を、ひとりの人間の血液でまかなうことは。
体力的な限界が、つきまとう。
美緒はみるみる、痩せおとろえた。
秘密を知ってしまった娘の真緒が、母の身代りに父親の書斎のドアを叩いたのは。
日に日に蒼ざめてゆく母の身を気遣ってのものだった。

制服姿の娘をまえに、父親は欲求を必死に耐えた。
けれどもそれは、むなしい努力だった。
ものの五分と経たないうちに。
男はまな娘の細いうなじに、自らの猿臂を巻きつけていた。
―――これで、いいんだよ。
必死に涙を見せまいとして、強いてつくった笑顔の下。
したたる血潮を、娘はハンカチで拭き取っていった。
べつべつの部屋で、べつべつの苦痛を歯噛みしてこらえる父と母のあいだに。
―――もうやめて。
勇気のある少女は悲鳴に似たちいさな囁きで、均衡を破って割り込んでいった。

幾晩経ったことだろう。
今夜も腕のなかにいるのは、娘の真緒だった。
紺色のカーディガンに、青系のチェック柄のプリーツスカート。
ひざ小僧のうえまで引き伸ばされた、黒のオーバーニーソックスには、
父親に噛まれたところどころに、穴が開いていた。
いいんだよ。ダイエット中だから。
娘は強いて、今夜も笑顔をつくっていた。

娘の立ち去ったドアの向こうには、暗闇が広がっている。
もう、午前二時をまわっていた。
血不足、寝不足―――
娘はあしたは試験だといっていた。
いなくなっちまったほうが、いいんだろうな。俺―――
ぽつりと呟く声を、聞きつけたのだろう。
そんなことない。
ドアの向こうから、若い声がかえってきた。

キッと睨むように見据えてくる、まなざしは。
いつも温和な娘とは、別人のようだった。
白い丸顔が、長く長く伸ばした黒髪に、いっそう映えている。
こうごうしいほどに、少女は美しかった。
汚してしまった制服を、着かえてきたのだろうか?
肩先にちょっぴり、したたらせてしまったしずくのことを。
父親はひどく、気にかけていた。
どこのお店にもっていこうかな・・・
わざとのからかい口調で、取り繕いながら。
妻は血を滲ませた衣装のかずかずを、それぞれべつべつのクリーニング店に持ち込んでいるらしい。
娘もきっと、そうしているのだろう。

娘は彼のことを、まっすぐ見据えたまなざしをはずそうとしないまま。
ゆっくりと歩みを、進めてくる。
真っ白なハイソックスのふくらはぎが、ひどく眩しい。
ね。血を吸って。あたし、だいじょうぶだから。怖くないから。
吸血鬼と化した父親のまえ。
初めて身をさらすときに、娘が口にしたことばそのままだった。
目を・・・つぶっているんだよ。
男はあのときとおなじ言葉を、囁いて。
自分のまえ椅子に腰かけた娘の足許に、そうっ・・・と、身をかがめていった。

真っ白なハイソックスを、ゆっくりと引きおろして。
ためらうように吸いつけた、唇の下。
少女の柔らかなふくらはぎが、ぴちぴちとした生気を伝えてくる。
―――?
訝しそうに見あげる男に、少女はゆっくりとかぶりを振って。
早く。
白い歯のこぼれる初々しい唇が、むしろ愉しげに促していた。

お前・・・誰なんだ?
思わず、周囲に聞こえるほどの大きさの声になっていた。
娘とうり二つだが、決して娘ではない少女のまえで。
忘れたの?わたし、美緒よ。
み・お。
イタズラっぽい語調は、遠い昔恋人だったときの、妻そのものだった。

身代りに来たの。
ずっと遠くの世界から。
あなた、ガマンして、手加減をして血を吸っていたでしょう?
でも、ひとりじゃ無理なんだ。
真緒ちゃんが加わっても、それでも無理。
だからわたし、遠くの世界から来たんだよ。
真緒ちゃんと、あなたの奥さんになったあたし自身を、応援するために。
だから、遠慮はいらないの。
もっと襲って頂戴。
あなた・・・制服好きだったよね。昔から・・・
いまのあたしが、くたびれちゃったら。
もっと若いあたしになって、身代りになってあげる。
中学校では、セーラー服だったんだよ。あなた見たことないでしょう?
それより若いと・・・犯罪だぞ?
面白そうに頬を突いてくる指が、ツンツンと痛かった。

紺のプリーツスカートのひざ小僧に、顔を埋めて。
男はおいおいと、泣きむせんでいる。
だいじょうぶ。だいじょうぶ。
かつて恋人同士だったとき。
気弱な青年だった彼を慰めた、あのときの語調そのままに。
少女は父親ほどの齢になった恋人を、力づけようとしている。

じゃあね。
朝になったらあなたの奥さん、きっと元気になっているから。
透きとおる笑みで、手首をちいさく振ってバイバイをする少女に。
男もおなじ手つきで、応えていった。
不治の奇病とおもわれた病から、男が解放されたのは。
それから一週間経ったころだった。


あとがき
タイムスリップした男が、若いころの母親に出逢って、惹かれる話を。
そういえばだいぶ以前に、描きました。(どこだったっけ?)
ちょっとだけ、似ているような。似ていないような。 笑

真夜中の灯り ~墓場の同居人~

2010年10月04日(Mon) 10:53:27

闇夜のなかで、呟きが聞こえる。
喉、渇ぇた。
わしも。
わしもじゃ。
徳次だけが、相槌をうたなかった。
闇夜のなか。
飢えたまなこがただ一点、凝視しているのは。
村はずれに佇む、一軒家。
それはほかでもない、徳次の家だったのだから。

家には灯りが、点っている。
もう、真夜中に近いはずなのに。
妻も娘も、まだ起きているのだろうか。
徳次が人間としてこの世に在ったじぶんには。
早寝早起きが身上の家のはずだった。

安心しろ、もう手なづけてある。
お前ぇの正体わかっても、血ィさ恵んでくれるじゃろ。
一座のなかでは頭だった良作の声色は、ひどく卑猥なものを含んでいる。
徳次は忌々しげに、そっぽを向いた。
そもそも徳次を、こうした身分に堕としめたのは、良作の仕業だった。
夜な夜な人の生き血を求めてさまよう、生ける屍―――
いまは徳次も、その仲間の一人になり下がってしまっているのだ。

このあいだ襲ったお前ぇの娘、ええ味だったの。
言わしといたる。お前ぇの女房だって。
どうやら仲間うちではほんとうに、家族を取り替えあって、生き血を啜り合っているらしい。
いずれもかつては、狭い村里のなか、顔見知りどうしの間柄だった。
今夜はわしの家の番か―――
徳次は、その忌まわしいめぐり合わせを呪うべきなのであったが。
こういう身体でよみがえったさいしょの夜は。
かつて自宅であった家に忍び込んで、
己の家族の生き血を振る舞い、己もまた女房や娘の血で、初めて唇を浸すことになっているのだった。

さ、そろそろ往くぞ。
良作のひと言に、男どもは黙ってあとにつづいた。
先頭に立った良作の拳が、かたく閉ざされた雨戸をほとほとと叩くのを。
徳次たちはじいっと、見つめていた。
開けるな、開けるでねぇ。
良作の話だと、今夜は徳次がくることを、妻も娘も知っているという。
だからきっと、雨戸さ開けるだよ。
そう語って聞かせてくれた良作の得意げな顔つきが卑猥に歪むのを、いまでもありありと憶えている。
けれども。
喉さ渇いた―――
だれかがあげる声のほうにも、同調を禁じ得ることのできなくなった徳次だった。

雨戸を通して、ほとほとと。
今夜も叩く拳がある。
エプロンをつけたままの真知子は、なん杯めかの飲みさしの茶碗を台所に下げるため。
腰をおろしていたちゃぶ台のまえから、すっと立ち上がった。
母さん、今夜は人数多いよ。
娘のさよが、さすがに怯えた顔いろで、母親のエプロンのすそをつかまえる。
母の動きにつられるように、娘もまた腰を浮かしていた。
ピンクのブラウスに、グレーのタイトスカート。
あすの晩は、ええかっこして待ってるだぞ。だんなを連れて来てやっから。
自分を腕に巻いたあの男は、たしかにそう囁いていた。
雨戸をひっそりと叩く掌が、いくつもになっている。
あのなかに、夫のそれも交っているのか。
いや、きっと。
あの大人しい徳次のことだ。
庭の隅で独り、仲間にそっぽを向いて、新月の夜空を仰いでいるのかもしれない。
そんな夫のようすを思い浮かべると、
忌まわしいと同時に、憐れささえ感じてしまう。

はい、はい。。。
雨戸の音に応じようとする真知子に、さよもつき従っていく。
独りになるのを、恐れるように。
さよは、濃紺のセーラー服姿。
今夜のために、特に母親が新調してくれたのだった。
汚したら、学校さ行けなくなるから―――
真新しい制服を見せつけられたさよは、母親のしんけんなまなざしに、ごくりと生唾を呑み込んで応えていた。

擦り切れかかった畳のうえ。
女ふたりの足許が、こうこうと明るい電燈に照らされている。
ふたりの脛を染めるのは、申し合わせたように黒のストッキング―――
村の卑猥な男どもが、そういう身なりを望んでいるのは。
すでに幾晩もくり返された凌辱の場で、身をもって思い知らされている。

さいしょの夜は、はやくも弔いのあったその晩のことだった。
有無を言わさずあがりこんできたのは、去年死んだはずの良作だった。
良作はまず荒々しく真知子を腕に巻くと、うなじをがぶりと噛んでいた。
まだ喪服を着けたままの真知子は、漆黒のブラウスを赤黒く濡らしながら、
飢えた吸血魔の欲求を、否応なく満たしてやる羽目になる。
大人しくつきあっておれば、死んだ亭主に逢わせてやる。
都会育ちの真知子がそんな言い草をすんなりと信じたのは。
やはり、異常な状況からだっただろう。
娘には手を出さないで。
とっさに投げた願いに男が応じると。
薄墨色のストッキングに包まれた太ももに牙を迫らせてくる男をまえに、抵抗を放棄して。
あらわに剥きだされた情欲に、目をつむったまま応じていった。

男がいともかんたんに約束を破るのを。
女はひっそりとした苦笑いで、見守るばかりだった。
自分の血をあやした牙は、女をたぶらかす毒液を含んでいるらしい。
母親はにこやかに笑いながら。
さよちゃん、母さんがお手本を見せてあげる―――
そういいながら、毎日身に着けるようになった黒のワンピースのすそをたくし上げて。
黒のストッキングのうえから、卑猥な唇を這わされてゆく。
母親に諭され促された娘は、制服の下を黒く彩るストッキングごし、べつの男の唇が吸いつくのを。
さいしょのうちこそ、戸惑いはしたものの。
やがて、なにかに目ざめたように。
へらへらと笑いながら、男どもの相手をくり返すようになっていた。

徳次どん、すまんのう。ありがてぇのう。
男どもは、屋敷のあるじの名前を口にしながら、てんでに女たちに襲いかかった。
あたりはもう、真っ暗だった。
だれかが灯りを、消したらしい。
きゃっ。
厭ぁ・・・
母娘はひと声ずつ、声を洩らしたものの。
言葉と裏腹の従順さで男どもを迎え入れて、
すすんでわが身を、畳の上に横たえていった。
えへへ・・・うひひひっ・・・えへへへえっ・・・
男どもが随喜の声を洩らしながら、黒のストッキングの足許を吸い始めるのを。
母も娘も、目を瞑って耐えているらしい。

さぁ、遠慮すな。お前ぇの番だ。家族じゃろう。
拭いきれなかった紅いしずくが、まだ良作の頬に残っている。
自分よりもずっと年上のこの男の頬を、今染めているのは。
真知子の血だろうか?それとも、さよの・・・?
そんな想像に、なぜか昂りを覚えながら。
徳次はようやくさいごに、座敷にあがりこんできた。
すでに静かになった女体がふたつ、畳のうえにしずくをまき散らしている。

齢の順だな。
良作の投げた声に、随うように。
さいしょに這わせた唇は、真知子の首筋のうえにあった。
まだ息がある。それも力強い。
血を啖らうものの本能が、そう教えてくれた。
良作に組み敷かれる間際、妻が口走った言葉が鼓膜の奥に残っている。
―――主人にあげるぶんだけは、残しておいてくださいね。
生えかけた牙を初めて埋めたうなじは、しっかりとした歯ごたえがあった。

どれほどの刻をかけて、吸い取ったことだろうか?
先刻良作が妻の身体のうえでしたように、徳次はゆうゆうと己の口許を拭っていた。
すでに、吸血鬼の本能が、彼を支配しているのだった。
妻は彼の下でぐったりとなっていたが、なおもせぃせぃと、息をはずませている。
己を襲ったのが夫だということも、とっくに感づいているらしい。
けれども女は、決して抗おうとはしなかった。
むしろ嬉々として、幾度も幾度も噛ませていったのは。
夫の死後すぐに、ほかの男どもの意に随わざるを得なくなった己を、苛めてみたかったからにちがいない。
さりげなく手を這わせた太ももは、むき出しになっていて。
だれのものとも知れぬ粘液が、べっとりと徳次の掌を濡らしたのだった。
引き裂かれたストッキングは、とうの昔にずり落ちていて、
わずかに脛と足首にのこって、ふやけたようにたるみきっている。

娘のほうを、ふり返ると。
太もも丈の黒のストッキングは、まだ彼女の脚に残っていた。
脱がさずにできるでの―――
良作がそんなことを、ほざいていたっけ。
太ももまでまる見え、ということは―――
重たげな制服のスカートは、脱がされていた。
几帳面に部屋の隅に畳んだのは、母親の手だろうか、それとも本人だろうか。
落花狼藉の場のなかに、女たちの振る舞いに慣れや落ち着きがあった。

そろそろと、娘の身体ににじり寄ると。
なにかのはずみで、胸に手が触れた。
リボンもほどかれず、きちんと着こなされたセーラー服。
制服姿のまま、男どもにもてあそばれるほうが。
素っ裸に剥かれるよりも、ある意味羞恥を伴なったはず。
乱れた黒髪をひとすじひとすじ、掻き分けて、整えてやって。
けれどもつぎの瞬間、こらえ切れなくなった本能が、
まな娘のうなじに牙を食い込待させていった。
きっ・・・
奇妙な呻きをひと声あげて、娘はすぐに大人しくなった。
コクコク・・・コクコク・・・
静かな吸血の音が、狂おしい欲情を秘めている。

娘の太ももも、やはり男の粘液にまみれていた。
ストッキングを履いたまま、犯されていったのだろう。
太ももを横切る口ゴムは、渇きかけた精液でごわごわしていた。
うっ―――
徳次を妖しい本能が襲ったのは、そのときだった。
父親のただならぬ気配を感じて、娘はとっさにあらがおうとした。
けれども開ききった無防備な身体は、獣を受け容れてしまうよりほか、なかったのである。
「ひい・・・」
ひと声洩らした声色は、しんそこ痛そうに語尾を震わせていた。

初めて・・・だったのか?
股間に差し入れた掌が、処女の証しに紅く濡れていた。
ははは・・・
娘の最初は、お前ぇにくれてやろうと思ったのよ。
すぐ傍らに、良作の囁きがあった。
その代わり・・・女房は愉しませてもらったが、のぉ。
犯されたふうを装うため、娘の太ももに精液を塗りたくったのは、きっとこの男にちがいない。
だが、素肌を初めて犯したのは、お前ぇだな?
問うまでもなかろう。
良作のほうも、応えるつもりもないようだった。
娘のすぐ隣に、母親の身体を引きずってきて。
これ見よがしに凌辱に耽りはじめる。
徳次はものも言わずに息を荒げ・・・そして娘の身体から離れなかった。
傍らで、おずおずとだが・・・妻が良作に応えはじめた気配に。
徳次はいっそう、情欲をかきたてられていた。

ごく限られた身内だけで、弔いを済ませたわけが。
いま、徳次にもわかっていた。
朝陽を見たからって、死にはせんよ。
すっかり陽が昇ってしまったことに気づいた徳次をからかうように、良作は告げた。
お前ぇはこのまま、この家に棲め。
なにしろ、お前ぇの家なんだからな。
そうしてときどき、女房と娘をわしらに貸してくれ。
もちろん見返りに、あいつらやわしの家に遊びに行ってくれてもええ。
もっとも、ひとの家に遊びにいくよりも。
此処で覗いて愉しむという手もあろうがな。
娘にとって二人目の男になった良作は。
妻を介抱しながら娘の痴態をチラチラと盗み見ていた徳次の心境の変化を知ったのだろう。
娘も、妻も。
装いを自身の血で浸しながら、終始くすぐったそうにへらへらと笑いこけていた。
この日常を受け容れるには、状況を愉しむしかないのだろう―――

こんど、あんたの弔いをもっとおおっぴらにやろうかね。
都会のご親戚も、お招きして。
黒のストッキング、なん足愉しむことができるかい?
良作の戯れを真に受けて、義母に、義兄の嫁に、中学にあがった姪に・・・と、
指折り数えはじめた己に、妻も愉しげに応じていた。


あとがき
珍しく一時間かかりました、^^;
大した話でもないのに。(^^ゞ
闇夜の灯りは、我が家の灯り。
それを見つめるものは、己を含めて飢えた吸血鬼。
そういう設定で、ひとつ描いてみたかったのですが。^^
深夜のナースステーションと、少し似てなくもないですな。
オモムキだけは。