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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

「りくつ子」。

2017年03月08日(Wed) 07:16:29

りく子という名前を「りくつ子」と陰口たたかれるほど、その子は理屈っぽい子だった。
万年学級委員の優等生。
どこのクラスにも、必ず一人はいる女子生徒。
グレーのブレザーの制服が、ほかの子の着ている制服とはべつの生地でできているのかと思うくらい、
そのたたずまいはいつもモッサリとしていて、齢不相応な分別くささを漂わせていた。
黒ぶちメガネの奥の瞳は深い輝きを秘めていて、
左右にくっきりとわけたおさげの黒髪は、年ごろの少女らしいつややかな輝きを帯びていたけれど、
そんなことすら、周囲のものの目には留まらなかった。

学校が吸血鬼に占領されて、クラスの女子が1人ずつ、咬まれていったときも。
りく子の番は、なかなか回ってこなかった。
そのりく子に目を留めたのは、吸血鬼のなかでも頭だった、50年配の男。
りく子の両親よりも年上だった。
担任の女教師はもちろん、校長夫人さえモノにしたとうわさされた彼は、
放課後そそくさと下校しようとした彼女を、あえて教室に引き留めていた。
授業の終わったあとの教室は毎日、血を吸い取られる女子生徒のうめき声に満たされていて、
さながら吸血鬼のためのハーレムと化していた。
そんな光景を、堅物のりく子が目にしたがらないのも、当然といえば当然のなり行きだったが、
男はそんなりく子のわがままを、決して許そうとはしなかった。

クラスメイトたちが教室の床に組み敷かれて、
制服のスカートのすそを乱しながら首すじを咬まれてゆく光景に、
決して視線を向けまいとかたくなに目を背けながら、
彼女もまた、白い首すじを咬まれていった。

りく子が「りくつ子」なのは、じつは照れ隠しだったのだと、クラスのみんなが知ったのは、その日以後のことだった。

休みの日に出かける時さえ制服を着ているという彼女は、
週末になると咬まれる以前と同じように制服姿で外出をして――行き先はいつもの図書館や美術館ではなくて、男の邸だった。
男が制服姿の少女を好むと知って、やはり外出は制服で通した彼女。
分別くさいしかめ面をかたくなに崩そうとはせずに、
「あたしのは慈善事業だから」
そういってはばからなかったという。

しかめ面のまま、男の邸を訪れ、
吸血行為が終わると礼儀正しく一礼して、来た時のまんまのしかめ面で黙々と辞去していく彼女。
そんなかたくなな態度を咎めもせずに、男は三日にいちどはりく子を呼び寄せたし、
りく子も唯々諾々と、呼び出しに応じていった。

結婚前に男に肌身を許すなど、想像さえしたことのなかった彼女が、
なぜかクラスでの処女喪失第一号の栄誉に輝いたとき、みんながびっくりしたけれど。
自分の秘密がクラスじゅうに知れ渡ったと気配で察した彼女はやはり、言い放っていた。
「だって、慈善事業だから」

同じ種類の体験?

2017年02月27日(Mon) 08:03:55

お願いだから・・・お願いだから、痛くしないでね。
そう呟きながら。
キュッと目を瞑って、眉をピリピリと逆立てながら、彼女は吸血鬼に咬まれていった。
おんなじように、いまばぼくの腕のなか。
キュッと目を瞑って、眉をピリピリと逆立てながら、彼女は初めての刻を迎えようとしている。
お前のしようとしていることと、わしがいましていることと、どれほど違うというのかね?
ヤツはたしかに、そういった。
ぼくは今、ヤツの欲望を否定できない。
ヤツもきっと、彼女を征服することが、たまらなかったにちがいない。
ぼくの目の前で・・・・という、付加価値までついていたのだから。
ぼくは今、同じ本質の体験を彼女と遂げて、やっと彼に同意できるようになった。
きっと彼女は、目ざめてしまったもうひとつの歓びを求めて、彼と逢いたいとぼくにせがむのだろう。
気になるのなら、覗きに来てもかまわないから・・・と。
ぼくはたぶん、その濃い誘惑を、拒否できない。

真冬のデート

2017年02月12日(Sun) 06:24:17

やっぱり、いやらしいよぅ。
セーラー服の少女は天を仰ぎながら、ため息交じりにそう言った。
けれども、足許にかがみ込んできた吸血鬼が、黒のストッキングのうえから唇を吸いつけてくるのを、それ以上咎めようとはしなかった。
色白の頬に、ルージュを刷いていないのにまっかな唇が、齢不相応になまめかしい。
細い眉毛を、ちょっとだけ悔しそうに逆立てて。
よだれに濡れた唇が、クチュッと音をたてて薄地のナイロン越しに圧しつけられてくるのを、
ベンチの座席の端をギュッと握りしめて、目をつぶってこらえた。

あー・・・
眩暈をこらえながら。
少女は上半身を頼りなさそうにぐらぐらと揺らつかせていた。
黒のストッキングは両脚とも、派手な裂け目を走らせてしまっている。
男はよほど、少女の履いているストッキングに執着しているらしい。
それでもまだ、好色な舌を擦りつけるのをやめようとせずに、薄地のナイロン生地をふしだらに皺寄せてゆく。
いよいよ少女の身体がバランスを喪った瞬間――
おっと。
目にもとまらぬ素早さで男は身を起こし、少女の傍らに座り込んでその身を受け止めた。
分厚い掌にがさつな手つきで髪を撫でられながら。
少女は口を尖らせて、「ばか」と言った。

連れだってたどる家路。
少女の足許はふたたび、真新しいストッキングで、隙なく染められている。
貧血が収まるまでベンチで横になっている間。
舐めるのはいいよ。でも、破かないで。
ちょっと切なげな顔をした少女の願いを容れて、男はチロチロと舌を這わせつづけていた。
はた目にはわからないけれど。
知的な墨色をした薄地のナイロン生地には、男の好色なよだれがたっぷりと、しみ込まされている。

家の玄関のまえで、男はコートの襟を立てたまま、言った。
じゃあね。
うん。
少女は濡れた瞳で、男を見あげる。
男はそんな少女のか細い肩を、優しく優しく抱きしめる。
黒マントの吸血鬼が、獲物を包み込んでしまうように、身体と身体を寄り添わせて。
少女はこの時を待っていたかのように、幸せそうにほほ笑んで、男に身をゆだねた。
木枯らしが控えめに吹き抜けるなか、ふたりはじっと佇んで、しばらくのあいだ、そうしていた。娘の帰りを待っている家族の立ち居振る舞いが、気配となって外に伝わってくる。
それはは、外でのふたりのようすを知りながら、わざと知らぬふりをしているかのようだった。

おいしかった。
男がぬけぬけと言うと、
女は白い目で男を睨みあげ、もういちど「ばか」と、言った。
けれども、玄関のドアを開けるときもういちどだけ振り向いた少女の目は、「またね」と本音を呟いている。

顔見知りの少女。

2017年02月09日(Thu) 06:25:57

女の子のハイソックスをイタズラしたいなんて・・・あなた相当、ヘンタイね。
優奈は白い目で、俺を見つめた。
血に飢えた喉がはぜるように、目の前の少女の生き血を求めていた。
いいわよ。咬ませてあげる。あたしのでよかったら――あんたみたいなヘンタイ、相手にする女の子なんていないだろうから。
ぞんざいに投げ出された、紺ハイソの脚に。
俺は無我夢中で、むしゃぶりついていた。
大人を軽蔑したい少女の仕掛けた、稚拙な罠にわざとはまって。

濃紺のハイソックスのうえから、舌をロコツに這わせると。
しなやかなナイロン生地の向こう側、しっかりと発育したふくらはぎの生硬さが伝わってくる。
強気な少女のふくらはぎは、意固地な剛(つよ)さを秘めていた。

どお?楽しい?
優奈の声が値踏みをするように、頭のうえから降りそそいでくる。
愉しいし、ありがたい。それから、小気味よい。
続けざまに、思い浮かんだ言葉をつなげると。少女はいった。
小気味よい、だけ、賛成。
大人をばかにし切った声――
あと、嬉しい。
不意に口をついて出たつづきに、少女は不意打ちを食ったように、すこし黙って。それから、いった。
ヘンタイ・・・

濃紺のハイソックスを履いた脚はそれでも引っ込められることはなく、
ピチャピチャと音をたててねぶりつく俺のワイルドな欲情に曝されるまま、よだれまみれになってゆく。

こんどはいつ逢うの?
くるぶしまでずり落ちたハイソックスをもう一度ひざ小僧のすぐ下まで引っ張り上げながら、優奈は訊いた。
また、逢ってくれるの?
もちろんよ。あなた、モテないだろうから。
こちらをふり返る頬が、失血に蒼ざめ透きとおっている。
少女から獲た血の量は、上気した頬でじゅうぶん、実感できていた。
さっきまで。あれほどカサカサに干からびていたのに――
けっこうなダメージだったはず。
じっさい少女は、自分のダメージを素直にあらわにするように、腰かけた椅子からずり落ちて、すとんと尻もちをついた。
すこしは遠慮しなさいよ。
悪りぃ。きょうのところは、無理だった。
謝る俺に、
モテないもんね。
女は念を押すようにそういって、フフッと笑う。
大人びたその冷笑に、なぜか報いてやりたくて。
俺は少女の肩を引き寄せ――唇を吸っていた。
強烈なビンタが、お返しで飛んできた。
これで、おあいこにしてあげる。じゃあまた、金曜ね。
自分のつごうを一方的に押しつけると。
少女は起ちあがり、こちらに背を向けて歩み去る。
いちども、ふり返らずに――

こんなことをほざいたら、たちまちぶっ飛ばされるだろうけど。
貧血を起こしたよろけ気味の足どりだけが、ちょっとだけ痛々しかった。

ケーキ屋の娘 (女吸血鬼)

2017年01月24日(Tue) 06:01:48

平日の午後のケーキ店の店頭は、いつものように客がまばらだった。
水川貴代美(50、仮名)はきょうも、閉店の時間を気にしながら、
「きょうの売上はいまいちね」と、心のなかで呟いていた。
娘の千代(14、仮名)は、学校帰り。
制服のうえにエプロンをつけて、いつものようにかいがいしく母親の手伝いをしていた。
三角頭巾といっしょにかすかに揺れる黒髪が、子供ばなれしたつややかさに輝いていた。
「人手がふたりも、いらなかったわね」
貴代美は心のなかで、もういちど呟いた。
定期試験は、再来週のはず。
これなら試験勉強でもさせてやればよかった・・・などと思っていると。
不意の来客は黒い影をおおいかぶせるようにして、ショーウィンドー越しに母娘を見つめていた。
もの欲しげな舌なめずりは、母親の視界に入らなかったけれど。
殺気を帯びた雰囲気は、ガラス窓を通してひしひしと伝わってきて、
貴代美は思わず店外に目を向けた。

客人は自分の母親よりもよほど齢のいった老婆だった。
身に帯びたみすぼらしい着物には、ところどころ、赤黒いシミが点々と散っている。
そのシミの正体を貴代美は、ひと目で察していた。
この街は、吸血鬼と同居しているのだった。

「いらっしゃい。ケーキをお求めですか?」
貴代美は通りいっぺんの笑顔を見せて、客人に近づいた。
娘と客人とをへだてるように、わざわざ大まわりをするようにして。
「甘いものは好きだから、ケーキもいいのだけれど」
老婆は思ったよりも上品な声色で母親にこたえ、目はいっしんに、娘のほうへと注がれている。
娘の千代は出来たてのケーキをショーケースに移している最中で、作業に夢中になってこちらを振り向かなかった。
老婆は「イチゴのショートケーキを」と頼むのと同じ気軽な口調で、いった。
「あのお嬢さんの生き血が欲しいわ」

あの・・・あの・・・
貴代美は立ち尽くし、口ごもる。
14年間精魂尽して育ててきた娘だった。
もちろん、彼らが思ったよりも友好的なことは、知っている。
自分の身体で、知っている。
けれども、娘だけはなんとか、そういう体験をさせずに済ませて、いずれは都会の大学にでも進学させようと考えていた。
「お気の毒だけれど」
老婆は貴代美の未練な態度にとどめを刺すように強い口調でいった。
「この街からは逃げれないわ」
思ってよりも意地悪な目つきではないのが、かろうじて救いだった。
けれども老婆の瞳はギラギラと異様に光り、若い女の生き血にしんそこ飢えているのがありありと伝わってくる。
こんな獣じみた欲望のまえに、初心な娘をさらせるものか――貴代美は屹(きっ)と、老婆を睨んだ。
老婆の視線が、ふと和らいだ。
「ごめんなさいね」
間合いをはずされた貴代美が絶句するあいだ、老婆は謡うようによどみなく、呟きをつづけてゆく。

男のひとに吸われるよりも、よくはなくって?
皆さん、処女の生き血は貴重だから、むやみと辱めたりしないけれど。
その点は、しつけが行き届いていますからね。
でもそうはいっても、年頃の娘に男の身体がのしかかるんですよ。
お母さんだって、気が気じゃないでしょう?
その点私ならだいじょうぶ。
あなたの血の味だって、いかほどのものか、知っているし。
だからこうして、訪ねてきているんだし。
あんまり怖くしないから。
千代ちゃん怖がらせたら、可愛そうだものね?
小さいころから、優しい子だったものね?
だから私が本性見せたら、怖がって気絶しちゃうものね?
安心して。
私だって若い子の生き血を口に含んだら、どんな気分になるかわからないけど。
これだけは、約束してあげる。
あの子の生き血を、たんねんに美味しく、味わってあげるから――

老婆の囁きは微妙な周波を伴って、貴代美の鼓膜を圧してゆく。
いけない、術中にはまってしまう・・・そう感じたときにはもう、手遅れだった。
囁きの声は痺れ薬のように鼓膜にしみ込んで脳幹に伝わり、
貴代美の理性のありったけを、麻痺させてしまった。

母親は残された意識を振り絞って、訴える。
「せめて、私が身代わりに――」
「ありがとう」
老婆は貴代美を引き寄せて、首すじを咬んだ。
かすかな疼痛と淡い眩暈が、貴代美を襲った。
お店の床を踏みしめる足許が、ぐらぐらと揺れる。
「でもね」
老婆は貴代美の変化を愉しむように顔を覗き込みながら、いった。
「きょうは、若いお嬢さんじゃないとだめなの」
わかってくれる?老婆の顔には、懇願の色があった。
その場にうずくまった貴代美は、かすかに肯くと、眩暈を振り払うように勢いよく起ちあがった。

「千代ちゃん、こっちに来てぇ」
母親は声を張りあげて、娘を喚(よ)んだ。
「はぁい」
控えめで穏やかないつもの声で、千代は母親の声に振り向いた。
張りのある若やいだ声色に、みずみずしい黒髪。
それに、活きの良い血潮をたっぷりと含んだ、白くて細い首すじ――
貴代美はふと、自分自身も渇きを覚えた。

「こちらのお婆さまがね、喉がからからでいらっしゃるの。
 あなたの生き血を吸いにいらしたの。
 きょうはお店のほうはいいから、ちょっとの間家に戻って、あなたお相手してあげて」
さっきまでの必死の抵抗はどこへやら、貴代美は嬉々として娘にそう言いつけた。
千代の顔色はサッと蒼ざめ、老婆を見た。
みすぼらしく薄汚れた浅黄色の着物は、襟足に点々と赤黒いシミを散らしている。
そのシミの正体をひと目で察した処女は、怯えて立ちすくむ。
「だいじょうぶ。怖くはないの。あなたもしっかり、体験するのよ」
母親の見当はずれな励ましに、娘は健気に肯くと、エプロンをはずして二人の女に背を向ける。
通用口の向こうは、住居になっていた。
そこへ戻って応接する、ということなのだろう。

「こんにちはぁ、ハイ、ショートケーキを4つですね?」
働き盛りのはずんだ声が、店頭から伝わってきた。
いつもの和やかな声に、これからまな娘が血を吸われるという悲壮感は、欠片も感じられない。
「あなた、処女?」
老婆の問いに、大きな瞳がまっすぐに応えた。
「ホホホ。頼もしいわね」
手の甲を軽くあてた口許には、バラ色のしずくが散っている。
さっき吸い取られた母親の血が、老婆の頬を濡らしているのだ。
「お母さんもね、よく識ってるの。だから安心してね」
それで若い娘が安心して首すじを吸わせるのかと疑問に思うようなことを口にしつつ、
老婆はもの欲しげな表情もあらわに、千代に迫ってきた。
「あ・・・あのっ・・・」
切羽詰まった声は、おおいかぶさってくる老婆に圧倒されて、消え入るように震えた。
カサカサに乾き色褪せた唇が、真っ白なハイソックスを履いた千代のふくらはぎに、ねっとりと這わされた。

飢えた牙が素肌を食い破り、深々と埋め込まれるのを感じ、千代は眩暈を起こしてその場に崩れた。
カサカサな唇を濡らす自分の血が、ハイソックスの生地に生温かく、じんわりとしみ込んでゆく。
足元を抑えつけて喉を鳴らす老婆が、ひと口ひと口、丁寧に血を啜り取り、
千代の生き血をそれは美味しそうに味わっているのを、彼女は感じた。

30分後――
カナカナカナ・・・と、秋の虫が虚ろな鳴き声を響かせている。
真っ白なハイソックスを赤黒いシミでしたたかに濡らしたまま、
千代は自分の勉強部屋で大の字になって、白目を剥いて口を半開きにしていた。
意識はかろうじて保っていたが、理性は宙に浮いている。
首すじにも深々と、二本の牙を埋められた痕がくっきりとつけられ、
周りには吸い残された血のりが、チラチラと輝いている。
脚は両方とも、ご丁寧にあちこちと咬まれていたし、
そのあと押し倒されて、首すじを咬まれたのも、おぼろげに憶えている。
ゴクリゴクリと、それは美味しそうに、老婆は彼女の生き血を飲み耽っていった。
なんだか素敵――
思わず頬をほてらせて、相手をしてしまっていた。
その頬のほてりがじょじょに冷めていき、身体の芯が冷たくなってきても、
少女は自分の身に秘めた若い血液を啜り取らせる行為を、やめられなくなっていた。

もっと・・・とせがむ少女をなだめすかして、
「また今度ね」
老婆はそういって、立ち去っていった。
襟足に撥ねた血を、ヌラヌラと光らせたまま。
お婆さまのお着物を、汚してしまってごめんなさい。
いつものように控えめな声で詫びる少女の髪を撫で、老婆はいった。
「そうね。あなたのしたこと、とても無作法だわ。こんどお仕置きをしてあげなくちゃね」
「は・・・ハイ。いつでもお仕置きしてください」
「じゃあ、また今度ね。指切り」
老婆の差し出した枯れ木のような小指に、少女はみずみずしい指をからめてゆく。

指切り げんまん うそついたら 針千本 飲~ます♪

お婆さまが飲むのは、針なんかじゃないわ。
あたしの血を美味しく飲んでくれて、ありがとう――
翳りゆく視界のなか、吸血鬼の影がぼやけてゆく。
少女の理性は、昏く堕ちていった。


あとがき
女吸血鬼のリクエストを受けたせいか、女吸血鬼が描けてしまいました。 (^^ゞ
もっと短くまとめるつもりだったのですが、
最近になく情景の細部までもが脳裏に浮かんできまして、収拾がつかなくなったのでした。(笑)

柏木のところに出没する女吸血鬼は、多くの場合みすぼらしい老婆なんですよ。
このお話では比較的上品ですが、ふだんは下品で卑猥で、アブないやつなのです。 ^^;

村に帰る。

2017年01月10日(Tue) 05:32:34

パパのふるさとだというその村に初めて行ったのは、中学2年の夏だった。
都会の家に帰るとき、あたしは貧血でめまいを起こしていた。
だって、その村には吸血鬼がいたから・・・

村の人たちは、吸血鬼と仲良く住んでいて、お互い助け合っている感じだった。
同じクラスでもいがみ合っている都会とは、ぜんぜん違う雰囲気だった。
なにがどこにあるのかもいちいち人に聞かないとわからない、勝手の違うところだったけど。
終始あたしは、気分良く過ごすことができた。最近こんなに気分がよかったのは、いつだっただろう?って思うくらいに。

ただ、その人と会うときだけは、災難だった。
首すじを咬まれるのを怖がったあたしに、パパの幼なじみだというその小父さんは、優しかった。
たたみの上にうつ伏せになってごらん。悪いけど、ハイソックスをイタズラするのだけは、目をつぶってくれるかな?
小父さんはあたしをなだめて寝かしつけてしまうと、ハイソックスを履いたふくらはぎに、にゅるりと舌を這わせてきた。
夏なのにどうしてハイソックスなの?ってママに訊いても、笑って答えてくれなかったけれど。
その日あたしがハイソックスを履いたのは小父さんのリクエストをママが好意的にかなえたのだと、そのとき知った。

チュウチュウと血を吸いあげられる音を聞いているうちに、眠たくなってきて。
あたしはついウトウトと、してしまった。
吸血鬼といっしょにいるときにウトウトしちゃいけないんだって、そのときには知らなかった。
気がついたときには、制服のスカートは履いていたけれど、パンツはしっかり脱がされていて、
おっぱいをまる出しにしたまま、あたしは小父さんとひとつになっていた。
経験したことのない痛みを、太ももの奥にジンジンと感じながら。
あんまり乱暴にしないでって、あたしは心から懇願していた。

都会に戻って新学期が始まって、あたしはますます学校がいやになった。
そんなとき。
ママがひっそりと、囁いてきた。

パパのふるさとにいたあの小父さまが、もういちどまーちゃんに逢いたがってるの。

あたしは瞬間的に、こっくりとうなずいていた。
ママはたたみかけるように、あたしに訊いた。

ずっと行きっきりになっちゃっても、まゆみは耐えられる?

だいじょうぶ。今よりはいい。
あたしはそう、答えていた。なんのためらいもなく。
あの村に棲んだらあたし、いつでも小父さまに血を吸わせてあげられるんだよね?
小父さま、あたしの血を気に入ってくれたんだよね?
だれかに肯定されたい――そんな思いがこみ上げてきた。
ママはそんなあたしを優しく抱きしめて、言った。
あのひとね。まあちゃんのすべてが好きなんだって。きっとそうなんだよ。だから本性を、すぐにさらけ出したんだよ。
村には、ママが仲良くしている男の人がなん人かいるらしい。
昼間っからキスしてるの、視ちゃったもの。
パパも薄々知っているみたいだけど、それでもお引越しに反対しないのは、
男の人たちがママのことを、真面目に好いているからなんだって。
小父さまもきっと、真面目につき合ってくれるに違いない。

葉っぱが色づいてきたころ、パパは村役場に転職して、あたしたち一家は村に引っ越した。

ひさびさに逢った小父さまは、あたしを見ると嬉しそうに目を細め、
人目もはばからずにいつも逢っていた裏の納屋へと、あたしのことを連れ出した。
貧血になるのはヤだよ。
あたしはわざとむくれてみせて、
貧血になるくらい、かわいがってあげるよ。
小父さまはからかうように、そう応じた。
貧血のときは、学校行かなくてもいいんだって?
ここなら友だちも、すぐできるさ。まあちゃんみたいないい子だったら特にね。
小父さまはどこまでも、親切だった。
さあ、あたしも小父さまが望んでいることを、してあげなくちゃいけない。
これだけは好きだった都会の学校の制服を身に着けた身体に、
あたしは小父さまの逞しい腕を、巻きつけられるままになっていった。

丸ぽちゃの少女の初体験

2016年11月30日(Wed) 07:38:23

「2年D組、近藤美幸さん。近藤美幸さん、旧校舎8番教室まで来てください・・・」
校内放送にいわれるまま、近藤美幸は人けのない旧校舎へと足を向けた。
後ろでむぞうさに縛っただけの黒髪に、白い丸顔がよく映えていたが、
それが本人のなかでは唯一の自慢。
丸っこすぎる目も、小さいだけの唇も、もちろんぽっちゃりした体形も、本人はとても気にしている。
この学校で生徒が突然旧校舎に呼ばれる理由は、ただ一つ。
吸血鬼と共存しているこの街の中学校は、彼らの来訪を受け容れていて、
生徒も教職員も、吸血の対象とされていた。
でも・・・
あたしなんかじゃ。
そう、あたしなんかに白羽の矢が立つわけがない。
そんなふうに卑下してしまうのが、美幸のわるい癖だった。

「ア、小父さん・・・」
教室のドアを開いた美幸の視線の向こうには、よく見知った顔。
父の遠縁の関係にあたるその人は、両親よりもずっと年上で。
よく家に出入りしては、母の血を吸っている人だった。
「美幸ちゃんの血が、どうしても欲しくって」
「・・・どうしてあたしなんですか・・・」
クラスにはもっとかわいい子がおおぜいいるのに。
だれとだれが吸われたのか、ちゃんとわかっているわけではなかったけれど。
中二の女子の吸血体験の割合はまだそんなに高くなくって、
5人に1人か2人くらいらしい。
もちろん、かわいい子のほうがずっと、体験率は高かった。
「どうしても、あんたじゃなくちゃいけないんだ」
小父さんは子供のように言い張った。
「母も知っているんですか」
「じつは、お母さんから頼まれた」
「やっぱり・・・」
すこしがっかりしたらしい美幸をみて、小父さんはちょっとため息をついた。
「あ~あ。そんなだから母さん美幸ちゃんのこと心配するんだ。もっと自分に自信をもって」
「言われなくったって、わかってるんだけど・・・」
あくまで暗い美幸の背後に、しかし小父さんは抜け目なく、
退路を断つようにして、しっかり後ろにまわり込んでいる。
チカリ、とひらめく牙の気配に、さすがに美幸はぞっとなる。
けれども小父さんは素早く、美幸の肩を抱いたまま、首のつけ根に牙の切っ先を埋め込んでしまっていた。

ちゅうっ・・・

忘我のひと刻――
数分後。
少女は目つきも顔つきも、見違えるほど大人びていた。
「あとで鏡を見て御覧」
そういう小父さんにむかって、
「ブラウスに血がついてるの?」
と、見当違いな返事をした美幸は、すこし気持ちの余裕が出てきたらしい。
「もっと吸ってもいいわよ」
と、こんどは自分のほうから、脚を差し伸べている。
いつもこのひとが、ストッキングを穿いた母さんの脚に、好んで咬みついているのを知っているのだ。
美幸の足許は、真っ白なハイソックスに覆われている。
濃紺のスカートの丈はひざ小僧の下まであって、ちょっと見にはハイソックスかタイツかわからないくらいだった。
「おいしそうだね」
と、舌なめずりをする小父さんに、
「いけすかない」
と、少女は口を尖らせた。
けれどもいちど狙われた足許を、引っ込めようとはしなかった。
真っ白なハイソックスのふくらはぎに、小父さんの赤黒い唇がもの欲しげになすりつけられてくるのを、
美幸は唇をキュッと引きつらせ息をつめて見おろしていた。

ちゅうっ・・・

ふたたびあがる、吸血の音。
美幸はこんどこそ、貧血を起こして、その場にぶっ倒れていた。
吸血の音はそれでも長いこと、廊下の外までキュウキュウと、断続的に洩れつづけていた。

「ただいま」
「おかえりなさい。アラ、顔色悪いわね」
なにもかも知っているはずの母さんは、下校してきた美幸のことをなに食わぬ顔をして出迎える。
「吸血されたー。ばっちり貧血ー」
美幸にしてはめずらしく、うじうじせずに、ストレートにそういうと。
「しばらく寝るから」といって、母の顔を見ようともせずに二階に続く階段をあがっていく。
母さんは、娘の後ろ姿を、苦笑いして見送りながら小声でつぶやく。
「あらあら、あの子ったら・・・」
真っ白なハイソックスのふくらはぎには、血のりがべっとりと沁みついている。
「今度から、履き替え持ってくように、言わなきゃね」
母さんの呟きはトーンをかえて、娘に呼び掛けていた。
「今夜はお赤飯にするあからね」
「はーい」
意外なくらい、明るい声が、返ってきたのを聞き届けると。
「小父さんに、あとでお礼を言っておかなくちゃね」
と、また呟いていた。

少女が大人への道を一歩踏み出すとき。
母親はお赤飯を、炊くものらしい。


あとがき
登場人物の氏名は架空のものであり、実在の人物とは関係ありません。念のため。

合唱コンクールの朝

2016年11月29日(Tue) 07:11:48

見慣れない制服に黒のストッキングを履いた女学生がおおぜい、後者の外に列を作っている。
そんな情報を聞きつけて、黒い影が群がるように、学校に集まってきた。
ふだんなら。
こういう情報はいち早く、教職員を通じて流されるはず。
はて、いったいどうしてかほどの良い話を黙っていたのか?
教職員どもはあてにならぬ・・・影たちは職員室は素通りをして、
開錠された玄関から空き教室に入っていく見知らぬ乙女たちを求め、あとを追った。

きゃーっ。
教室に悲鳴が花を開いた。
影たちは濃紺のセーラー服の制服姿をつかまえると、いっせいに首すじを吸おうとしたのだから、無理はない。
真っ先につかまえられた、頭だった少女は、けんめいに抗いながら、
「やめてください!待ってください!」
と、身を揉んで叫んだ。
「待て」
影たちの頭の声が響くと、彼らは一滴も吸うことなしに、狼藉をやめる。
すでになん人かは首すじを咬まれ血を吸われ始めていたが、
そんな忘我の境地にあるはずのものたちも皆、獲物と定めた女生徒たちから手を引いた。
得体が知れないけれど規律は正しい一団であることは、少女たちにも伝わったらしい。
見慣れぬ制服の女生徒たちも、それ以上取り乱すことなくいっせいに沈黙する。
「あれを見ろ」
頭が指さした黒板には、几帳面な字でこう書かれていた。

「歓迎 八坂東高校合唱部さま 親善合唱コンクールへようこそ」

そういえば。
きょうはこの学校では、合唱コンクールが開かれる予定だった。
合唱コンクールはこの学校でも力を入れた行事で、どのクラスも数日前から懸命な練習期間に入る。
吸血鬼の側も、女生徒たちがとくに希望しない限り、直前の3日間は彼女たちを襲うのを遠慮していたのだ。
だからこそ――このところよけいに、「女学生欲求」が高まっていたのだろう。
八坂東高校といえば、全国でも有数の合唱で知られた名門校。
どうやら、コンクールの審査中に一曲披露するため、姉妹校として招かれたらしい。
「しまったですな」
影たちのナンバー・2が、間抜けな声をあげた。
危なく、両校の親善に水を差すところだった。
「なしにしてもらいましょうよぉ」
ナンバー・3にいたっては、泣きべそを掻いている。
どうやら、この学校の合唱部の子に、好きな子がいるらしい。
頭は、怯えから立ち直ろうとしている少女たちに、いった。
「悪く思わないでほしい。当校の生徒たちと我々は、仲良しなのだ」
「この学校・・・吸血鬼と仲が好いのですか?」
ちょっとだけ血を吸われかけた少女が、首すじにつけられた咬み痕を掌で隠しながら、疑わしそうに訊いた。
セーラー服の胸元に輝く校章の下には、「副部長」と書かれたバッヂがさげられている。
「この学校の名誉のためにいうが、我々が生き延びているのは、ひとえに生徒さんがたの好意によるものだ。
 だからわしらも、学校の不利益になることは絶対しないことにしている。
 コンクール前の3日間断食をしていたので、見慣れない制服を着たあなた方のお姿を見て、ついてきてしまったというわけだ」
「ここの学校の子たちは、怖がっていないの?」
丸顔の部員は、まだ咬まれていなかったが、この学校の生徒たちとは親しくしているらしい。
他校の友人への気遣いが、まなざしにあふれている。
「死なせない、邪魔をしない、本人の許しなく辱めない。そういう約束になっている」
「わたしたちに害意はないって証明してくださるって仰いましたね?」
これは、部長からの質問。
「たしかに、そう申し上げた」
「では、どうやって証明を?」
その問いにこたえるように頭が一同に目配せすると、
彼らは少女たちの間から身を離し、素直にぞろぞろと教室から出ていった。
「あなたがたのリハーサルを悲鳴に塗り替えるわけにはいかない。皆さんの安全は保証します。ではまた後ほど」
時ならぬ拍手が、少女たちの側から沸いた。
あまりにも潔く引き上げたので、ちょっと拍子抜けした顔つきの子もいる。
「でも・・・後ほど・・・って・・・?」
慎重な性格らしい副部長が、部長を見返す。
部長は生徒たち全員を見返ると、「いいわよ・・・ね?」と囁いた。
全員がしんけんな顔をして、頷きかえす。
みんなの反応に満足したらしい部長は白い歯をみせると、出ていこうとする影たちを呼び止めた。
「あの・・・ちょっと」
振り返る頭に、部長がいった。
「“後ほど”、またいらっしゃる・・・ということですか?それだと、緊張して歌えない子が出てしまいます」
ははは・・・
頭は明るく笑った。手厳しいな、とひとりごちたが、「どうしてもお嫌なら、無理強いはしない」

2時間後。
招待された合唱部員たちは全員、もとの教室に控えている。
控えめな音をたてて開かれた扉の向こうから、影たちがちょっとびっくりしたように、少女たちを覗き込んでくる。
「どうぞ」
部長がおさげ髪を揺らして、彼らをいざなった。
「合唱部の子たちから、くわしい話を聞きました。こちらの部長さんから伝わったと思いますけど、わたしたちも献血のお手伝いをさせていただきます」
リンとした潔い声に、影たちは、ホウ・・・と感嘆の声を洩らす。
「しっかり首すじ咬まれちゃった子もいるのに、だれも制服汚れてないのよね」
副部長が、周りの子たちと笑みを交し合う。「咬まれちゃった子」たちもはにかみ笑いをしながら、部長の笑みに応えていく。
どうやら、部員たちは仲が好いらしい。
「ふだんはうちの学校、ストッキング履かないんですよ。こういう特別な時だけは、申し合わせて履いてくるんです」
「でもまさか、それが吸血鬼の気を引いちゃうなんてね」
「人間の男子だったら、よかったんだけど」
「こら、こら」
無邪気に交し合わされる声色は、だれもがそろってまだ浄い身体の持ち主であることを証明していた。
「みんな黒のストッキング履いてますけど、咬み破ってもいいんですよ。ちゃんと全員のOK取りましたから」
ゆったりと笑う部長は、みんなにお手本を示すように、影たちの頭のまえ、自らの脚を差し伸べた。
では・・・と頭は呟くと、少女の足許に跪き、姫君に忠誠を誓う騎士のように、足許に接吻した。
さいしょは礼儀正しく、そのつぎはややねっとりと、そしてさいごは、しつように。
部長のふくらはぎへの執着が、本性を現しかけたころにはもう、
合唱部員たちと同数の影たちは、それぞれに相手を選んで、身体を寄り添わせてゆく。
さっきは警戒心あらわだった副部長もまた、先刻自分を咬んだ男を相手に、親しみのこもったまなざしを向ける。
「さっきの続き・・・ですよね?」
そして、首すじにつけられた咬み痕を男が容赦なく牙で抉るのを、くすぐったそうに受け止めてゆく。
自分たちを襲おうとした吸血鬼に臆せず質問をした丸顔の部員も、黒のストッキングの足許に舌を這わせてくる吸血鬼の相手をし始めて、
黒のストッキングがパリパリと咬み破られて裂け目を拡げてゆく有様に、目を見張りつづけていた。
隣の子も。またその隣の子も。
ふくらはぎに唇を吸いつけられて、おそろいの黒のストッキングを、他愛なく破かれてしまってゆく。
きゃっ。・・・きゃっ。・・・
少女たちの控えめな悲鳴が、まるではしゃぐように軽やかに、教室前の廊下に洩れた。

約1時間後。
教室に両校の合唱部員が全員顔をそろえると、人いきれで息苦しいくらいだった。
どの生徒も、濃紺のプリーツスカートの下、ストッキングに伝線を走らせてしまっている。
でも彼女たちはそんなことは意に介さず、振る舞われたジュースやお菓子を手に、懇親を深めていた。
さっきまで彼女たちを襲った嵐のことなど、そもそも存在しなかったかのように。
「女子たちは、たくましいですな」
影のナンバー・2が頭にいった。
「惚れちまったりしなかったのか」
「あくまでこの場限りって、約束ですからね」
「あとから戻ってくるような子は、おらんかな」
「たぶん全員、もうここには来ないでしょう」
しっかりした理性を持った子たちばかりでしたからな。
頭も、ナンバー・2と同じ感想を持ったらしい。
「それは奥ゆかしいな」
遠い地に棲む他校の少女たちをたたえながらも、頭はちょっとだけ惜しそうな顔をする。
ほかの影たちも同感らしかった。

都会に戻っていった彼女たちは、姉妹校に棲み着く吸血鬼たちのことを、決して口外しなかった。
そしてだれ一人、吸血されることを目的にこの地に足を踏み入れる生徒は、いなかった。
いちどは獲物を諦めて退場した影たちの潔さに、
彼女たちも彼女たちなりの潔さで応えていった。
自分たちの出番が済むと吸血に応じ、黒のストッキングを破かせるという潔さで。
そして思い切りよく、その場限りの関係を守り通した。
「一人くらいは、戻ってきてほしかったな」
息をつめて見守る仲間たちのまえ。
黒のストッキングの脚を、お手本を示すように真っ先に差し伸べてくれた部長の面影を、頭はまだ忘れていない。


あとがき
引率の先生がいるはずなのに、生徒だけで来たの?とか、
口外されちゃったらすべてがおじゃんになるのに、口止めしなかったの?とか、
そもそもどうして、理性を奪って奴隷にしなかったの?とか、
いろんなツッコミどころがあるのですが。
こういうその場限りの関係というのも、奥ゆかしいなあ、と、おもうのです。

あと、学校名は架空です。
仮に似たような名前の学校が存在したとしても、このお話とは一切無関係です。

気丈。

2016年10月22日(Sat) 07:28:41

公園の朝もやのかなたから、濃紺の制服姿がのろのろと、こちらに向かって歩みを進めてくる。
足許を引き締めるのは、真っ白なハイソックス。
グレーのひだスカートとぴかぴかの黒の革靴にしっくりと似合う、絶妙のアンサンブル。

少女の歩みが遅いのは、ほとんど俺のせい。
夕べも吸った。その前の日も吸った。たぶん、そのまた前の日も――
なのに彼女は、俺の求めに応じて、今朝もこうして通学路をはるかにはずれ、来てくれる。
牙の毒でたぶらかしたわけじゃない。
そんなことだけでここまでいうことを聞いてくれるような、自分のない子じゃない。
いや、ほんのすこしはたぶらかしたか・・・
けれども強い意志を秘めた瞳は、まだあんなに遠くにいるというのに、
しっかりとまっすぐに、俺を目ざして近づいてくる。

遅れてごめんなさい。
きょうは、どうしても学校に行かなければならないの。
言いにくそうな謝罪の言葉。
そして、自分の事情を説明するには、あまりにも言葉足らずな言い訳。
ほんらいは、人に頭を下げることなど大嫌いな、高慢で気の強い少女。
それがいまは、俺の隣に腰をおろして、「どこから噛んでもいいわよ」って顔をしている。
すまないね。
俺はひと言囁くと、そろそろと彼女の足許にかがみ込む。
真新しいハイソックスに浮いた細めのリブが、ゆるやかなカーブを帯びて、たっぷりとした脚線に沿っている。
整然としたリブの流れは、「これから学校に行くのよ」という少女の凛とした気合を伝えるように。
まっすぐとしたカーブを描いていた。
俺はどうにもならなくなって、爛れた欲情でいびつに膨らんだ唇を、ブチュッと圧しつけていた。
恥知らずな唇を吸いつけて、しなやかなナイロン生地の感触をたしかめるように、ふくらはぎをなぞってゆく。
お行儀よくきちんと履かれたハイソックスを微妙によじらせて、
じょじょにずらしていった唇のあとを、よだれの痕が拡がってゆく。
そのあいだ。
彼女はじいっと何かをこらえるように、地面の一点を睨みつけて。
そして、俺のほうへは目も向けようとしない。
目の前の屈辱が、そもそも最初からありはしないのだと言わんばかりに。

いつもなら、そのままガブリといくところだったが。
きょうはなぜか気が引けて、彼女のハイソックスによだれの痕だけを残して起き上がる。
横抱きにして引き寄せると、彼女はなんの抵抗もなく、俺の腕のなかに落ちた。
咥えたうなじのなめらかな皮膚は、かさかさに干からびた俺の唇に、初々しい体温を心地よく伝えてくる。
俺はとうとう我慢できずに、ググッ・・・と牙を沈めていった。
じわじわとにじみ出るうら若い血潮を、じゅるじゅると汚らしい音をたてて、吸い取っていった。
そのあいだもずっと、彼女の目線は、おぞましい吸血行為を全く無視するかのように、地上の一点を睨みつづけていた。

今朝は少なくて、ゴメンね。
俺が手かげんしたのを、この子はとっくに見通していた。
かまわない。ちゃんと学校行けよ。
俺も瘦せ我慢をして、そう応えてやる。
明日は学校お休みだから、帰りにまた寄るね。
無理するんじゃないぞ。
無理なんか、してない。あなたこそ、無理しないで。
生意気な少女は、どこまでも減らず口をやめなかった。
ふと気がつくと。
彼女のことをしっかりと、抱きしめていた。

制服越しに伝わる体温が、彼女の心意気をありありと、伝えてくる。
だいじょうぶ。きょうもこの子は、がんばれる。きっとこの子だから、がんばれる。
帰りを愉しみにしているぞ。
虚勢を張った負け惜しみを、彼女はすぐに見抜いたはず。
けれどもそんなことは色にも出さず、しつようだった抱擁からスッと身を離すと、
期待しててね。
そっけなく言い捨てて、歩みを進めていく。
今朝はまだらもように彩られることのなかった白のハイソックスの歩みが、
整然と、ゆったりと、朝もやの彼方に消えていった。

見あげれば、天井が一段高くなったような青空――
気がつけば、周りは秋一色に彩られていた。

娘の純潔 ~べつの視点から~

2016年10月01日(Sat) 16:10:25

この街の風習で、年頃になった女子は純潔を、親たちの知人相手に捧げることになっている。
だから、クラスの女子の大半は、一人また一人と、処女を卒業していった。
この街では、婚約を結ぶ年齢はとても若い。
ボクが同級生の城崎ミホと婚約したのは、もう半年も前のことだった。
同年代の男子と婚約して後で処女を卒業する。
それも、婚約者とは別の、親と同じくらいの齢の男を相手に。
そういうことになるのも、決して珍しいことではなかった。
そしてボクも――婚約者のミホを目のまえで、寝取られることになっていた。

わし、ミホちゃんを抱くことになったからな。
そう囁いて来たのは、父さんの親友の尾崎だった。
尾崎は父さんの悪友だったが、同時に母さんの浮気相手でもあった。
中学に上がる前から、ボクは母さんが尾崎を相手に、夫婦のベッドでくんずほぐれつしているのをのぞき見しながら、育っていった。
母親の浮気相手と息子とは、奇妙な共犯関係にある。
父親にばらさない代わり、母親のエッチをのぞき見する特権を得られるのだから。
そういういけない子の一人に、ボクはいつの間にか育っていた。
そして今――婚約者の純潔まで、同じ男に獲られようとしているのだった。

尾崎の小父さんの言いぐさに、しぶしぶめかしてOKしてしまったのは。
彼のいけない囁きに背中を押されてしまったから。
小父さんは囁いたのだ。
相手がわしでOKだったらその代わり、ミホを抱くところ見せてやっから。

ミホが自宅のリビングで、ほかの女子と一緒に組み敷かれていったとき。
小父さんはボクやミホの父さんが見つめるまえで。
ぬけぬけといったものだった。
「おおー!あんたが城崎の娘かあ?すっかりおっきくなったなー」
尾崎は制服姿のミホの、おっきなおっぱいばかりをじろじろと見て。
「ミホちゃんがわしの相手してくれるンか。ほんとに娘らしくなったなー。
 わし、女子高生抱くのが夢だったんじゃ。その夢をミホちゃんが、かなえてくれるんかー」
尾崎の小父さんは手放しで、ひとの婚約者ににじり寄り、物陰から見つめるボクの視線を受け流しながら、ミホを抱きすくめていった。

女子校生抱くのが夢――それはボクだって、同じこと。
でも尾崎の小父さんは、そんなボクの正当な権利を無視して、ミホのスカートをたくし上げていった。
ミホは紺のハイソックスの脚をばたばたさせながら。
それでもきゃあきゃあとはしゃぎ切っていて。
慣れた手つきでスカートの奥に入り込んだまさぐりを、まともに受け止めてしまっている。

痛い!痛い!痛あいいっ!!
ボクが聞いているとも知らないで。
あたりかまわずわめき散らしながら、ミホは純潔を汚されていった。
ゾクゾク。ゾクゾク。恥ずかしくていけない昂ぶりに目ざめてしまったボクは。
小父さんが何度も何度もミホのお尻に大きなおCHINCHINを突っ込むのを、
ただぼう然として、眺めつづけてしまっていた。

建前では、その場限りで終わる関係。
でもミホは相変わらずボクと親しみながら、ボクにはナイショで小父さんと逢いつづけていて。
ボクも相変わらず小父さんとうらでつながりながら、ミホとナイショの逢瀬を遂げる現場に招待されて。
制服姿で抱かれる婚約者の痴態を、のぞき見しつづけている。
このごろは、ミホも薄々気づいているらしい。
「やだあっ!やだあっ!小父さんやらしいッ!」と叫んでいた少女は、
「ユウくん!ユウくん!ゴメンねッ!ゴメンねッ!」って、ボクをそそる声をあげ続けるようになっていた。


あとがき
おっさんたちが、女子高生の純潔をゲットできるということは。
その少女の未来の夫は、花嫁の処女喪失を強いられるワケですな。
たいがいは、そんな過去を知らずに結婚するのでしょうが、
どうしてもそのあたりの機微や心理が気になってしまう私。。。
^^;

娘の純潔。

2016年09月29日(Thu) 08:15:07

この街の風習で、娘たちは純潔を、親たちの知人相手に捧げることになっている。
みんなでやれば怖くない――
我が家で行われた儀式には、娘の友だち数名も、親たちと同年代の小父さま相手に純潔を喪っていった。
うちの娘に当たったのは、悪友の尾崎だった。
尾崎はてかてか光る禿げ頭もあらわに、娘に挑みかかってゆく。
「おおー!あんた城崎の娘かあ?すっかりおっきくなったなー」
とか、言いながら。
「ミホちゃんがわしの相手してくれるンか。ほんとに娘らしくなったなー。
 わし、女子高生抱くのが夢だったんじゃ。その夢をミホちゃんがかなえてくれるんかー」
やつは手放しで、ひとの娘ににじり寄り、親の目もかえりみず抱きすくめていった。
制服姿の娘は、紺のハイソックスの脚をばたばたさせながら、
それでもきゃあきゃあとはしゃぎながら、スカートの奥をまさぐられていった。

まったくもって、ヘンな気分だ。
妻の純潔を提供した男が、いままた娘の純潔まで、汚し抜いていくのだから・・・

発表会の帰り道

2016年09月29日(Thu) 08:08:33

「お願い!今夜は襲わないで!あたし、明日が発表会なの!」
いつものように路上の壁ぎわに追い詰められながら、優佳子は手を合わせて懇願する。
半年に一度の発表会なのだという。

優佳子の血が目当てで、週三回のレッスンのすべてを待ち伏せているその吸血鬼は。
いまはすっかり彼女の生き血に魅せられていて、
いっぽう優佳子のほうもまた、彼のことを憎からず思っているものか、
せっかくのよそ行きの服をくしゃくしゃになるほど弄ばれながらの吸血を、
うつむいて目をつむり、従順に受け容れているのだった。

懇願する少女をまえに、男はかろうじて自制して、獣じみた息遣いを、無理に抑えつけていた。
「ありがとう。ごめんなさい。お礼はきっとするから・・・」
こういうときの感謝の言葉が、往々にしてただの言い逃れになることを知りながら、
男は少女の夢を壊すことを、かろうじて控えるのだった。

逃げ去った少女と入れ違いに、視界の彼方から近寄ってくるのは、少女より少し年上の娘だった。
着ているセーラー服は、近在の高校の制服だった。
男は見境なく少女のまえに立ちはだかり、つぎの瞬間強引に抱きすくめていた。
首すじに牙を埋められた少女の叫び声が、あたりにこだました。

翌日のこと。
ご自慢のピンクのワンピースを着た優佳子は、両親に連れられて誇らしげに、教室の門を出た。
どうやら発表会は、上々の出来だったらしい。
お邸を出てすぐ、物陰に隠れている男を、優佳子は目ざとく見つけると、
両親になにごとか囁いて、跳ねるような足どりで男のほうへと歩み寄る。
「きのうはありがと。おかげで演奏うまくいったわ」
「そいつはよかった」
「お礼するわね。おニューのハイソックス、小父さんのために履いてきたのよ」
優佳子はイタズラっぽく、小父さまにウィンクをする。

向こうでは、父親の手を母親が引いて、向こうへと促していた。
「先に帰りましょ。あのひともガマンしてくれたみたいだから、きょうは二人っきりにしてあげたいの」
小父さまと手をつないで、スキップをしながら離れていく娘を見やりながら。
「大人になったわね、あの子」
母親は薄っすらと、ほほ笑んでいる。

薄闇の彼方に消えてゆく、真っ白なハイソックスに包まれた軽やかな足どりは。
一時間もしたら、小父さまに抱き支えられながら、ふらふらと後戻りしてくるのだろう。
真っ白なハイソックスの足許を、赤黒いまだら模様に彩りながら。
しつように愛された痕跡に、夫は今夜も昂るのだろうか。

まな娘を送り出す親たちの立場

2016年09月29日(Thu) 07:55:58

吸血鬼の待ち伏せする夜道と知りながら、まな娘を音楽教室に送り出していく親たちは。
たいがいが、その教室の卒業生。
女先生は、当時から今と変わらない年恰好で。
音楽だけではなく、行儀作法や教養まで、教えてくれて。
そして、上品にほほ笑みながら、送り出してくれる。
「帰り道を気をつけてね」と、いいながら。
そのあとどんなことが起きるのか。わが身にしみて知っているくせに。
なぜか――結婚をして娘ができると、やはり自分の時と同じように、娘を送り出してしまうのだった。

自分の帰り道を襲ったあの吸血鬼に、娘の成長ぶりを確かめてもらいたい。
そう公言する親もいるという。
娘たちは、かつてその母親たちがそうだったように、こぎれいに装って、教室に通う。
初めて襲われたときには泣きべそをかいていても
不思議と、「教室に行くのはイヤ」という子は、ひとりもいないという。

親たちは競わせるように、わが子にかわいい服をあてがっていく。
夜道の吸血鬼を愉しませ、もてなしてやるために。

親たちの過去

2016年09月29日(Thu) 07:48:01

「優佳子をどうしても行かせるのか?あの教室に」
父親の真純は、母親の沙織にそう問いかける。
「だってもう、あの子も年ごろじゃありませんか。
 ご近所のお嬢さんで目ぼしい子たちはみんな、あのお教室に通っているわ」
沙織は何気なく、夫の問いに応える。
音楽教室に通わせるという、ただそれだけのことが。
夫婦の会話で、深い意味を持っていた。

その昔、男の子もハイソックスを履いていた時代。
真純はその教室に通っていたから、教え子たちが帰宅の途中でなにをされるのかをよく知っていた。
気に入りのひし形もようのハイソックスを無造作に噛み剥がれていったとき。
なんともいえない小気味よさが、悪寒のように襲ってきて。
もう片方の脚も、自分から噛ませてしまっていた。
それからというものは、自分を襲いに来る吸血鬼にハイソックスの脚を愉しませるのが面白くて、教室通いをつづけていた。
沙織と出会ったのも、その教室でのことだった。
二人して、複数の吸血鬼のために献血行為をくり返して。
代わる代わる覆いかぶさってくる獣たちを相手に、うら若い血を惜しげもなく、振る舞いつづけていた。

「だからあの子も――そうさせてあげましょうよ」
妻は妖しく、フフッと笑った。
夫は仕方なさそうに、目線を宙に泳がせた。

あんなふうに悩んだ振りをして。
明日は勤めを早引けして、優佳子の帰り道を見に行くくせに――
そううそぶく沙織でさえ、まな娘の帰り道を保護者として見守ろうと、心づもりをしているのだった。

「おかえりなさい。よくがんばったわね」
お教室のレッスンで先生に褒められたあとのように、
母親はかいがいしく、帰宅した娘の身づくろいをしつづける。
真っ白なハイソックスには赤黒いシミがべっとりと貼りつき、
薄いピンクのカーディガンにも、おなじ色のしずくがあちこちに、撥ねかっていた。
べそを掻いた痕がくっきり残る目じりを隠そうとせずに、
優佳子はきっぱりと、母親に告げる。
あたし、あの教室に通うから――その代わり、きれいなお洋服をいっぱい、買って頂戴ね。

音楽教室の帰り道

2016年09月29日(Thu) 07:34:11

その音楽教室からは、約30~40分間隔で。
ひとり、またひとりと、少女が姿を現し、消えてゆく。

そうした情景を、物陰からかいま見て。
今か今かと待ちつづけている黒い影。
彼らの目当ては少女たちの白い首すじ。
ロングのスカートをたくし上げると初めておがめる、柔らかな太もも。
ハイソックスにくるまれた、肉づきたっぷりのふくらはぎ。

帰宅の途(みち)についた彼女たちの行方は、
曲がり角を曲がってすぐのところで、さえぎられて。
アッとひと声叫ぶと、少女の姿は、こんどは闇のかなたへと消えてゆく。

「エエ、そうですね。お嬢さんは7時までに帰宅させますから」
邸の女主人はそういって、受話器を置く。
置いた受話器を見おろしながら、フフッと笑う。
なにも知らない少女は、おさげ髪を揺らしながらピアノに向かいながら、
先生のほうに生真面目なまなざしを向けていた。
見あげると、時計の針はまだ5時前。
お邸と少女の自宅との間は、徒歩10分の距離だった。

「ありがとうございました。失礼します」
玄関で革靴をきちんと穿くと、少女は礼儀正しく先生にあいさつをしてから、辞去していった。
「エエ、エエ、帰り道気をつけてね」
先生はにこやかにそう応えると、少女をいたわりながら送り出す。
それから、閉ざされたドアを間近に見据え、フフッと笑う。
おニューのハイソックス、履いてきたのね。あの子・・・

窓越しに、先生の耳にだけ響く、キャーッというかすかな悲鳴。
そうよ、いまみたいに気を入れれば、楽器もいい音を出してくれるのに。
犠牲になった少女が立った今まで腰かけていたピアノの椅子に、
次の番の子が神妙に腰をおろして、先生のほうへとまなざしを注いでくる。
足許をオトナっぽく引き締める濃紺のハイソックスは、これから受ける辱めを、まったく予期していない。

よく来たわね。優佳子ちゃん。
それでは、レッスンを始めますよ・・・

学校を占拠する。

2016年09月20日(Tue) 04:55:24

20年ちかく前の夏のこと。
ぼくたちの学校は、吸血鬼の集団に占拠された。
その日はまだ夏休みの最後の週で、
監禁されたのはたまたま登校日だったぼくたちのクラスだけだった。

彼らは全部で7人。ぼくたちは先生を入れて41人。
人数でいえばずっと多かったけれど、かなうはずはなかった。
だしぬけに教室に入り込んできた彼らはまず男子を襲い、
男子全員が吸血された。
なにが起きたのかを自覚したときには、
ぼくもその場に尻もちをついて、貧血に頭を抱えていた。
ぼくの血を吸ったやつは、へらへらと笑いながら、
もう次のやつを羽交い絞めにすると、首すじに咬みついていた。

ひととおり男子が咬まれてうずくまってしまうと、次は女子の番だった。
真っ先に咬まれたのは、担任の宮浦礼子先生だった。
先生は左右から吸血鬼に挟まれるように抱きすくめられて、
空色のブラウスに血を撥ねかしながら、血を吸い取られていった。
女子たちはいっせいに悲鳴をあげたが、吸血鬼どもが威嚇するとすぐに静まった。
まるで見せしめのようにして、
先生はチュウチュウ、チュウチュウ、音をたてて生き血を吸われ、
さいごには教壇のうえに突っ伏してしまった。
それから先のことは――とても描くに耐えない情景だった。
そう、先生は7人もの吸血鬼全員に、凌辱を受けたのだった。

女子は全員顔を両手で覆って自らの視界を遮っていた。
けれどもぼくを含む男子のなん人か――あとで聞いたらほとんど全員だった――は、
貧血でへたり込んで身じろぎひとつ大儀になりながらも、
ブラウスを引き裂かれブラジャーをはぎ取られてゆく先生のようすから、目を離せなくなっていた。
いつもきりっとしていて、良くも悪くも女っぽくない先生だったが、
ブラジャーをはぎ取られて露出した胸はすごくでかかったし、
おへそを舐められてのけ反りかえるようすは、震えあがるほど厳しい先生とは裏腹の行動だった。
夏なのにきちんと穿いていた肌色のパンストをブチブチと引き裂かれるのに見入ったやつは、
その後すっかりパンストフェチになっていたし、
足の爪先から抜き取られたショッキングピンクのショーツを目に灼きつけたやつは、
その後先生の家に足しげく通って、物干しに干されている先生の下着をかっぱらおうと試みていた。
着衣を裂かれ半裸に剥かれた先生のうえに代わる代わるまたがって、
やつらが激しく腰を上下動させるのに、先生のむっちりとした腰も、少しずつ動きを合わせていった。

そのつぎは、女子の番だった。
「出席番号順に血を吸うから、名前を呼ばれた子は前に出なさい」
頭だった吸血鬼が出席簿を手にして、着席したまま怯えて動けなくなっている女子たちにおごそかに告げると、
女子たちはいっせいに悲鳴をあげた。
彼女たちの声色に、拒絶とためらいが含まれているのを見て取った吸血鬼が先生を見ると、
目いっぱい吸血された先生はふらふらになりながらも教え娘たちのほうを見て、
「生命を助けてもらうために、言われたとおりにしましょう」
まるで棒読みのような抑揚のない声で、そういった。
――私、そんなこと言ったかしら・・・?
あとでそう呟いた先生は、女子全員の信望を失いかけたが、すぐに以前よりも絶大な指導力を得ることになった。

出席番号一番の赤枝みずきは、吸血鬼二人に腕を取られ、泣きじゃくりながら隣室に消えた。
赤枝の悲鳴が切れ切れに隣の教室から洩れるのを、女子たちも、ぼくたちも、息をつめて聞いていた。
30分後、左右から抱きかかえられた赤枝が、セーラー服を破かれた胸を抑えながら教室に戻ると、
「男子は見ちゃダメッ!」
女子は口々にそういって、ぼくたちのうちの約半数は、言われたとおりに目をそむけた。
赤枝は席に戻ると突っ伏して泣き、入れ替わりに出席番号二番の伊藤竹子が立たされた。
気の強い伊藤は吸血鬼をにらみ返すと、「行くわよ」と言って、肩にかけられた手をじゃけんに振り払った。
伊藤の番が済むまえに、べつの吸血鬼二人組が女子の席に入り込んで、
怯えて口もきけなくなっている出席番号三番の卯野川奈代子を引きたててゆく。
やつらは女子の血を吸い、犯していきながらも、その態度は卑猥でも嘲るようすもなく、むしろ厳粛な雰囲気に包まれていた。
彼らにとって重要な儀式を、粛々と執り行っていく、というていだった。
そして出席番号四番の海野美奈江のまえに、つぎの吸血鬼が立ちはだかった。
海野美奈江は――ぼくの彼女だった。
女子全員の視線が、ぼくに注がれた。

彼女たちの視線は同情に満ちていたが、
ぼくがどういう態度をとるのかという好奇心も、少なからず含まれていた。
ぼくはふらりと、起ちあがった。
ほかの男子全員がまだ、失血のショックから抜けきれないで尻もちをついていたのに、
どうしてぼくだけが起てたのか、いまでも不思議なくらいだった。
吸血鬼たちの視線が、いっせいにぼくに注がれる。
ぼくはおもむろに口を開いて、自分でも予期しないことを口走っていた。

「ぼくも連れて行ってくれないか?その子はぼくの彼女なんだ。
 彼女の身代わりにぼくがもういちど血を吸われるから。それでも足りなかったら彼女のことを吸ってくれ。
 ――彼女がどうなるのか、ちゃんと見届けたいから・・・」
吸血鬼どもは、意外にふわっと、ぼくの言い分に同意する空気が流れた。
そして、ぼくの願いは受け入れられた。
「行こ」
差し出したぼくの手にすがるように、美奈江はぼくの手を取った。冷たい手だった。
彼女の手を暖めるようにして、その手をぎゅっと握りかえすと、それ以上彼女には手を触れさせずに、ぼくたちは教室を出た。

開け放たれた教室のなかでは、出席番号三番の卯野川奈代子がまだ犯されていた。
奈代子はぼくの親友の彼女だったけれど、
どうやらすでにセックスを経験していたらしい奈代子は、すでにやつらと動きをひとつにしていた。
四つん這いになって制服のスカートを履いたままお尻を犯されながら、
もう一人のやつのペ〇スを咥えてしゃぶっている。
武士の情け――それ以上は目を背けてやった。

美奈江とぼくとは、卯野川奈代子から離れたところに連れていかれて、
まずぼくが首すじを咬まれて尻もちを突かされた。
ひどいめまいがぼくを襲った。
ぼくの血を吸い取ったやつは、ぼくの顔色を覗き込んでニッと笑った。
「坊主、よくがんばったな」
やつのねぎらいは、たぶん本音だった。
ふたりは、出席番号一番の赤枝みずきを犯した連中だった。
二人ひと組みで女子を襲い、不公平にならないよう純潔を奪う役目は交互に果たすのだという。
美奈江は、赤枝みずきと仲良しだった。
身じろぎひとつできなくなったぼくの前、美奈江は自分を噛もうとする吸血鬼を恨みたっぷりに見あげながら、いった。
「みずきちゃんのことも、こんなふうに辱めたのね?」
悔し気に歯がみをする白い歯を覗かせた唇が、うなじを咬まれた瞬間引きつった。
つぎの瞬間、吸血鬼は美奈江の首すじに牙を突き立てて、根もとまで埋め込んでいった。
唇がせわしく動いて、美奈江の血を吸いあげる。
ちゅう~・・・・・・・・・・・・っ
ぼくの血で頬を濡らしたその吸血鬼は、美奈江の血を、美味そうに、それは美味そうに、吸い取っていった。
美奈江は僕の目のまえで、まつ毛を震わせながら恥辱に耐えた。
介添え役のもうひとりは、さっき赤枝みずきの処女を奪って満足したのか、あくまでわき役に徹している。
けれどもやはり嗜血癖は昂るのか、抑えつけて自由を奪った美奈江の腕に咬みついて、
ちびちびと意地汚く、血を啜りはじめていた。

それから先のことはもう、描くに耐えない。
屈辱というよりか、覚え込んでしまった昂ぶりのせいで・・・
ほかにもなん人か、同級生の彼女と教室に同行した男子がいたが、
口をそろえて言っていた。
――視てよかった。昂奮した。自分でヤるよりもよかったかも。
――言っちゃいけないことなのかもしれないけれど、彼女とセックスするよりも昂奮した・・・と。
すでに経験済みだった男子は二人いたが、幸いにも?女きょうだいがいた。
吸血鬼と彼女を通じてつながることになった彼らは二人とも、
仲良くなった吸血鬼たちに処女を経験させるために、姉や妹を呼び出していた。
もっとも――その後ひと月くらいまでのあいだに、ぼくたち全員が、相手になった吸血鬼と親交を深めていて、
姉妹や母親、なかには婚約者までも、手当たり次第に彼らに紹介して、抱かせまくっていたのだけれど。

襲撃事件は、厳重に秘密に付された。
もっとも狭い街でのことだったから、つぎの日にはうわさは街じゅうに流れてしまったけれど。
でも、だれもそのことを公然と口にするものはいなかった。
美奈江とぼくとは、襲撃事件を経験した直後に婚約した。
街に棲みついた彼らのために、ぼくは美奈江を連れて彼らの住処を訪れた。
そこでは、襲撃事件の再現ごっこを愉しむ同級生たちが、入れ代われい立ち代わり出入りしていた。
親友が赤枝みずきを伴って出てくるのにはち合わせたときは、ちょっぴり気まずかったけれど。
二人が上手くいっているのは、彼氏のまえで犯されたみずきの手を、彼がぎゅっと握りしめているのでよくわかった。

あの事件で、自分の彼女が純潔を奪われるのを視た男子は全員、そのままゴールインを果たした。
たまたま視てしまった男子もまた、純潔を汚されるのを目の当たりにしたクラスメイトと結婚したし、
街に棲みついた吸血鬼との親交も深めていった。
結局だれもが仲良くなってしまったので、学校襲撃は事件性のないものとして扱われた。
そのころにはもう、街の人間のほとんどは咬まれてしまっていて、
血を吸われる歓びに目ざめてしまっていたのだけれど。

いまでも美奈江は、時折ひとりでめかし込んで、行き先も告げずにいそいそと出かけてゆく。
年頃になった息子は、わたしが見て見ぬふりをしているのを確かめると、足音を忍ばせてそのあとを尾(つ)けてゆく。
お前も目覚めてしまったのか――そう思ったときにはもう、つき合っている彼女を連れて、住処を訪れてしまった後だった。
20年ぶりのクラス会が、間近に控えている。
会場は学校を借り切ることにした。
七人の吸血鬼は全員が招待されて、女子は全員、セーラー服を着てくることになっていた。
そう、あの日の記憶を、忠実に再現するために――


あとがき
2~3日まえから取りつかれた妄想を、文章化してみました。
展開はいつもよりややバイオレンスですが、
さいごに仲良くなってしまう結論だけはいっしょです。
荒々しく犯される彼女を見て、いままでの愛情に嫉妬というスパイスを交えてしまう。
そして事件後も、犯人たちとの平和裏な交渉・共存関係がつづいていく。
そんな様子を描いてみたかったのですが、
いつものことながら、長文化するとうまく決まらないようですね。。
(^^ゞ

木曜の夜の公園で。

2016年07月16日(Sat) 08:41:42

家に戻って。シャワーを浴びて。
それからもういちど、セーラー服を身にまとう。
いつもの白のソックスの代わりに、今夜は黒のストッキングを脚に通す。
まだ封を切っていないパッケージの、透明なセロテープに爪を立てて、
息をつめながら、擦りむいていって。
帯みたいに長い、なよなよとしたナイロン生地の、つま先をさぐっていって、
つま先の縫い目を、爪にあてがうようにして、
足首を包み、グンと引っ張り上げて、
肌の透ける薄地のストッキングは、ゆいの足許をみるみるうちに、大人びた色へと染めてゆく。

丈長のスカートの下、脚の輪郭をぴっちりと引き締めるナイロンの感触が。
ゆいをどこぞのお嬢さまに、変えてゆく。

「・・・行ってくる」
玄関までついてきたママ向かって、いつになく目を伏せてしまったのに、
目ざとく気づきながらも、なにも気づかないふりをして。
「気をつけてね」
ママはそう言って、ほほ笑んでくれた。
木曜の夜――それは、ゆいの家の近所に、吸血鬼が出没する夜だった。

ゆいは、吸血鬼の正体を知っている。
それは、同じクラスのテルキくん。
吸血鬼と人間の共存を目ざすこの街でも、彼の存在はやっぱり特異で、
図抜けた頭脳と体力の持ち主なのに――いや、それゆえかもしれないけれど――だれもが距離をおいていた。
木曜に吸血鬼が出没するという情報の出どころは、
部活で帰りが遅くなる、運動部の子たちだった。

やらしいんだよ、脚を咬むんだよ。
あたし、ストッキング破かれた。
あたしも。あたしも。
あれって、侮辱だよね・・・

口々にそういう彼女たちは示し合わせて、木曜の部活は休みにすると決めていた。
いつも翳のある顔をして、いつも遠慮がちに生きているテルキくん――
木曜の夜しか出没しないのは、人に迷惑のかかる吸血は週一と決めていたから。
そんな心優しいテルキくんのために、今夜の獲物になる子はもういない。

心をズキズキ、響かせながら。
おぼつかない足取りを、まれに行き交う通りすがりの人に悟られまいとして。
やっとたどり着いた、公園のまえ。
奥行きのある木立ちとか植え込みとか、身を隠す場所はいくらもあるのに。
テルキくんは独り、広場の真ん中に佇んでいて、
無防備な姿を、さらしていた。
そんな無防備なテルキくんのまえ――ゆいは無防備なセーラー服姿で、ひっそりと立つ。

テルキくんはちょっとびっくりしたように目を見開いて、「田沼さんか」とひと言呟く。
「木曜の夜だよ」って、警告するように、もういちど呟く。

わかっているの。
だから来たの。

低い囁きは、自分でもびっくりするくらいに、震えもよどみもなかった。

こっちへ。
テルキくんが公園の片隅の、木立ちの奥の、こんなところにベンチなんかあったんだ・・・と思うほど奥にゆいをいざなったのは。
ゆいに恥をかかせるのを避けるためだと、あとで気づいた。
ゆいをベンチに座らせると、
黒のストッキングを履いたゆいの足許に、テルキくんはひっそりとかがみ込んでくる。
薄地のナイロン生地ごしに吹きつける、かすかな息遣いの生ぐささに、
ゆいは思わず、ひざ小僧を閉じていた。
ぴちゃ・・・
男のひとのなまの唇を。
ストッキングをじわっと濡らす唾液の生温かさで、つぶさに感じ取ってしまっていた・・・

なよなよとした薄地のナイロンが、いびつによじれ、引きつれていって、
でも、
ゆいのひざ小僧を抑えつける強い掌が。
くり返しなすりつけられてくる、熱い唇が。
逃げられないようにと、プリーツスカートの腰まわりに巻きついた、もういっぽうの腕が。
謝罪と感謝とを、くり返してくる。

だれかが言った。
ストッキングを咬み破くなんて、侮辱だわ。
果たしてそうだったのだろうか?
熱い唇のすき間から、尖った牙がチロチロと滲んできて。
とうとう我慢を耐えかねたように、牙という名の硬い異物が、ゆいのふくらはぎに埋め込まれる。
薄いストッキングが、パチパチと音をたてて、はじけていった。
ほんとうにこれは、侮辱なのだろうか?
通学用のストッキングをよだれまみれにされて、ひざ小僧が覗くまで咬み破られてしまうのは
たしかに羞ずかしかったけど・・・でも侮辱は感じなかった。
テルキくんは謝罪と愛情をこめて、ゆいの履いているストッキングを、みるかげもなく裂き散らしていった。

ひ・ん・け・つ。。。
身体を支えることができなくなったゆいは、「ゴメン」といって、ベンチのうえで姿勢を崩す。
身体を入れ替えるようにして。
ゆいの足許にずっとかがみ込んでいたテルキくんが、ゆいの上におおいかぶさってくる。
街灯に照らされたテルキくんの頬には、ゆいから吸い取った血潮が、べっとりと貼りついていた。
「ホラーだね」
思わず呟いたゆいに、
「そっか・・・?」
返って来た相槌は、いつものままのテルキくんだった。
「ゆいの血、美味しい?」
「・・・」
自分をうまく表現できないテルキくん。
いまは、黙って頷く力の強さに、満足を感じておこう。

ゆいは息をつめ、それから囁いた。
「首すじ、咬んでもいいよ」

貧血なんだろう?
だいじょうぶ。
顔色蒼いぜ?
だいじょうぶ。
家のひと、心配してないか?
だいじょうぶ。

まるで、テルキくんのお姉さんでもなったみたい。
しばらくためらっていたテルキくんは、やはり渇いていたのか・・・自分の本能に身をゆだねていった。
首のつけ根にチクリと走る、かすかな痛み――
セーラー服のえり首が汚れないよう、テルキくんはゆいの首すじに唇を密着させて、
チュウチュウと音をたてながら、ゆいの血を大事に大事に、啜り取っていった。

木曜の部活は、もうないの。
でも代わりにゆいが、公園に来てあげる。
あなたの好きな、黒のストッキングを履いて――あなたの欲望のおもむくままに、裂き散らさせてあげる。
潔癖で気の小さいお嬢さまは、あなたの渇きを処女の生き血で癒してあげる。
あお向けになったまま見あげる今夜の月は、ひどく蒼白く澄み渡っていた。


あとがき
前作に寄せられたコメントに触発されて、サクッと描いてしまいました。(^^)

クラス委員のストッキング

2016年07月12日(Tue) 07:49:42

あなたが吸血鬼だということは、みんな知っています。
でもだからといって、クラスの女子を見境なく襲うのは、よして下さい。
まして、ストッキングを破くなんて侮辱だわ。

放課後の、だれもいない教室で。
瀬藤敏恵は白い頬を引きつらせ、テルヤとまともに向き合っていた。
セーラー服の胸に誇らし気に輝くクラス委員の徽章が、彼女にそう言わせているかのようだった。
相談を受けたのは、きのうのこと。
親友の遥香がこっそりとやってきて、声を忍ばせて囁いたのだ。

知ってる?黒森くんって吸血鬼なんだよね?
クラスの女の子、出席番号順に襲っているんだよ。
きのうは私、学校帰りに待ち伏せされて、公園で咬まれちゃった・・・

有無を言わさず連れ込んで、力づくでベンチに座らせると、
足許にかがみ込んできて、黒のストッキングをぶちぶちと咬み破りながら、血を吸った――というのだ。

それだけではない。
今朝クラスメイトたちに聞いてみると、あの子も咬まれていたし、この子も襲われていた。
たしかに――瀬藤敏恵よりも若い出席番号の子は、全員が咬まれていた。
自分よりも後の子たちは、まだなにも気づかずにいるらしい。
はやく何とかしないと。
クラス委員としての責任感が、彼女を起ちあがらせた。

真っ先に相談した担任の谷森先生の反応は、とても冷ややかだった。
ほかの先生方も・・・だれもかれもが、頼りにならなかった。
だったら私が――そう思い詰めた敏恵は、「黒森くん、放課後ちょっといい?」
真向いで対峙する決心をしたのだった。

テルヤは言った。
彼女みたいに澄んだ声色も、責任感と矜持に満ちた語気も、彼には備わっていなかった。
後ろめたい立場をかろうじて許されて生き延びている。
そんな卑屈な孤独感が、全身を取り巻いていた。

たしかに悪いとは思っているよ。
でも快楽でやっているわけじゃない。
1日ひとりは襲わないと、僕ダメなんだ。
家族が相手してくれるけど、もうギリギリなんだ。
育ち盛りで、飲みたい血の量も増えちゃったしね。

敏恵はぐっと詰まった。
テルヤはなおも淡々と語った。

ストッキングを破くのも、よくないことだと思っているよ。
でも、口で謝っても女の子って、なかなか許してはくれないよね?
一応、理由がないわけじゃないんだ。
ふつうは首すじを咬むんだけど、
相手が血を吸われることに慣れてないと、血が撥ねて制服汚すだろ?
そのほうが、高くつくんじゃないのか?
だから、スカートを汚さないふくらはぎを咬んでいるんだ。
ストッキングを脱がせるわけには、いかないだろ?
流れた血は、靴を汚す前に舐め取るから、被害は最小限で済む。そう思ったんだ。
それに、たしなみのある女の子はみんな、ストッキングの履き替え持ち歩いているみたいだしな。

いちおう、一理はあるかな・・・
言いあぐねてしまった敏恵に、テルヤは一歩進んでいた。そう、いつものように――

ところで瀬藤さん。瀬藤さんも黒のストッキング、似合うんだね。
さっきから俺、じりじりしてるんだけど・・・

自分の足許が狙われている。吸血鬼の視線をクギづけにされている。
ここはだれもいない、放課後の教室――
敏恵は、いまさらながら、自分の置かれている立場に気がついた。

調子に乗って襲いかかってくるのかと思ったら。

頼むから。

そういってテルヤは、手を合わせて懇願していた。
しまり屋で潔癖なクラス委員は、頬をふくらませ、口を尖らせながらも、こたえた。

じゃあ、どうぞ。

机をいくつかつなげたうえに、腹這いになって、足許をくつろげてやる。
さっきまでクラスメイト達が教科書やノートを広げていたスチールの机は、無表情にぴかぴかとしていて、
寝心地の悪さをセーラー服ごしに、ごつごつと伝えてくる。
薄地のナイロン生地ごしに、テルヤの呼気を振りかけられて、
それまでの矜持もどこへやら、怯えを感じた敏恵はビクッと身じろぎをする。

掴まれる足首。
スカートのうえから抑えつけられる太もも。
吸いつけられた唇は、まっすぐに咬み入れようとはせずに、
ストッキングのうえから、敏恵の脚周りを、なぞるように這いまわる。
まるで敏恵の履いているストッキングの舌触りを、念入りに愉しむようにして。

イヤだ!イヤだっ!快楽じゃないのっ!!
敏恵は抗議したけれど、もう遅い。
返事の代わりに少年は、よだれをたっぷりとなすりつけてきた。
汚される・・・
悔しさに歯がみをしながら、敏恵はテルヤの牙を受け容れた。
ストッキングを咬み破られながら、ジュルジュルと汚い音をたてて血を啜られる。
屈辱を伴う献血行為に、敏恵は、侮辱だわ、侮辱だわ・・・と呟きながら、身をゆだねていった・・・


瀬藤さん、放課後ちょっといいかな。
テルヤのさりげない誘いに、敏恵は頬をふくらませ、口を尖らせながら、ぶっきら棒にこたえる。
わかった。
すこし離れたところで談笑している敏恵の親友たちがこっちをチラチラと窺い、意味ありげにうなづき合うのを、
敏恵は見てみぬふりを決め込んだ。
みんな知っていたんだ。
いずれ敏恵が狙われるのを。
生真面目でプライドの高い、潔癖なクラス委員。
そんな彼女が、ちょっぴりイヤラしい初体験を、すこしでも穏やかに迎えることができるように。
みんなは口々に、「迷惑なのよ。迷惑なのよ」と、彼女をあおって”場”をつくり上げた。
ふたりの”出逢い”がうまくいったと伝わったとき。
クラス全体に、安どの空気が流れたという。
いまでは、一、二を争う献血量を誇る敏恵。
「だって、かわいそうじゃない」
そういって自己弁護する敏恵に、だれもが逆らわなかった。

みんなの前で咬むのはやめなさいよ。
恥掻きたくないから・・・

敏恵の精いっぱいの突っ張りを、テルヤはしなやかに受け流す。
だいじょぶだろ、あんたいつもストッキングの穿き替え用意しているんだからな。

初体験談

2016年06月14日(Tue) 05:24:46

初めて血を吸われたのは、学校でした。
その日の放課後、担任のN先生に保健室に呼び出されたのです。
たまたまいっしょにいた晴代さんにその話を聞かれて、「それきっと、吸血鬼の呼び出しだよ」と言われゾクッとしました。
「貧血で具合が悪くなったりする子もいるから、最初は保健室なんだって」
そう教えてくれた晴代さんはすぐに、「よかったね、おめでとう」と、言ってくれました。
他の子はほとんど咬まれてしまっているなかで、私はまだだったからです。
保健室にはいっしょに行ってあげる、あたしも約束してるから・・・と言ってくれた晴代さんは、きっと親切のつもりでそうしてくれたのだと思いますが、私が感じたのは、「逃げれなくなっちゃったなあ」という気持ちのほうが強かったです。
保健室にはN先生はいなくて、晴代さんは廊下で待ち合わせていた吸血鬼の小父さまと落ち合うと早々に、「じゃね」と言って、そそくさと行ってしまいました。
晴代さんが特定の人に血をあげているのは知っていましたが、相手の小父さまを見たのは初めてでした。
背広を着ていて、父と同年代くらいの、ふつうの男の人でした。
「友美ちゃんのお相手も、このひとくらいだよ」
晴代さんは別れぎわ、そう教えてくれました。
保健室には養護の先生がいましたが、いつになくそっけない態度で、「あちらですよ」と、白い衝立の向こう側を指さしました。
私は恐る恐る、衝立の向こうにお邪魔しました。
待っていたのは、やはり背広を着た、白髪頭の痩せ身の男性でした。
顔色が悪く、父よりも年上にみえました。
「よろしく」
男の人は、大きな目で私を見あげて、そう仰いました。
私も恐る恐る、「よろしくお願いします」と、答えました。
「原友美さんだね?話はお母さんから聞いているから」
どうして母のことが出るのか?私にはよくわかりませんでしたが、母の名前が出たことで、ちょっとだけ安堵を感じたのを憶えています。
男の人は腰かけていたベッドから起ちあがると、「寝なさい」といって、場所を譲ってくれました。
私は指さされたベッドにどうにか腰を落ち着けましたが、思い切って寝そべることがどうしてもできません。
男の人のまえで横になることが、ふしだらな感じがしたからです。
その人――小父さまとお呼びします――は、腰かけたままの私のすぐ隣にふたたび腰をおろすと、やおら腕を伸ばして背中に回し、私の肩を抱き寄せました。
めんどうな気遣いはいっさい省略するというのでしょうか。
思わず抵抗すると、小父さまは仰いました。「逃げられないから」。
その言葉が、私の行動を大きく制約したような気がします。
私はただただ、べそを掻きながら、「血を吸うのはやめて」と言いました。
「私はあなたの血をあてにしてここに来た」
セーラー服のままギュッと抱きすくめられた私は、もうどうすることもできなくなっていました。
どうやって彼に咬まれたのか、よく覚えていません。
私を身動きできないようにして、小父さまは牙をむき出すと、情け容赦なく、力づくで食い入らせてきたのです。

ごくっ・・・ごくっ・・・
私の血が露骨な音を立てながら飲み味わわれていくのがわかりました。
欲しがってる。欲しがってる・・・
ただそれだけがありありと、肉薄してくる厚い胸板や抱きすくめてくる力強い腕の力から、伝わってきました。
あと、首すじに吸いつけられた唇の強さからも。
ベッドに抑えつけられた私は、ただただ圧倒されながら、血を吸い取られていったのです。

私がぐったりとなってしまうと、小父さまはスリッパを脱がせて私をベッドに投げ込むと、うつ伏せに転がしました。
なにをするのかは、お友だちから聞いて知っていました。
脚を咬むんですよね。ハイソックスのうえから。
さっきのようにいきなり咬みついたりしない代わりに、小父さまは舌を這わせて私の履いているハイソックスをいたぶりました。
とても屈辱的な感じがしましたが、どうすることもできませんでした。
「すまないね。あんたには感謝するよ」
小父さまはまじめな口調でそう仰ると、やおら牙を突き立てて、ハイソックスを咬み破りながらふくらはぎを咬みました。
両脚とも代わる代わる、何度も何度も咬まれて、ハイソックスにじんわりと生温かい血がしみ込んでいくのを感じました。
とてもとても、屈辱的な感じがしました。
けれどももう、どうすることもできないで、半ば痺れた頭のなかを霧のようなものが渦巻くのを感じながら、「血を吸われちゃう・・・血を吸われちゃう・・・」と、呪文のように呟きつづけていました。

ひとしきり血を吸うと、小父さまは手を取って、私の身体を起こしてくれました。
「だいじょうぶかね?」
顔を覗き込んでくるのが、気を使ってくれているのがわかるのですが、でも顔をまともに視られるのがひどく羞ずかしくて、私はずっと下を向いていました。
養護の先生はもう、いらっしゃいませんでした。
私たちは灯りのついたままの保健室を出て、小父さまはジャケットを脱いで冷えた私の身体から外気を遮ってくれました。
このままいつまでも甘えるわけにはいかない――そう思いまして、「だいじょうぶです、一人で帰れますから・・・といって、まだ顔をそむけつづけていました。
「お友だち、待っててくれたみたいだね」
小父さまの声に顔をあげると、美智子さんや晴代さんの姿が、下駄箱のほうに見えました。
待っていてくれたらしいお友だちの影を見て初めて、涙が滲んできました。
「悪いが、退散するよ。きょうはありがとう」
「あ・・・いえ・・・」
へどもどとしたご返事しかできなかったのだけは、いまでも悔やまれます。

家に戻ると母が迎えてくれました。
血の付いたハイソックスに気がつくと、母は「見せて御覧」と言い、「派手にやられたね」と言いながら、髪をなでてくれました。
また涙が出そうになりましたが、かろうじてこらえると、「シャワー浴びてくる」と言って母の脇をすり抜けました。

翌朝――
気分は意外なくらい、普段通りの私に戻っていました。
いつものように朝ご飯をいただき、いつものように制服の袖を通して、ハイソックスだけは真新しいのをおろして、家を出ました。
きょうも小父さまが来る――なんとなく、虫が報せたのです。
いまなら思います。
私の身体じゅうの血が、小父さまに飲まれたがって――ざわざわと騒いだのです。
一時間目は家庭科でした。Y先生は私のことを呼ぶと、「旧校舎の3階のB教室に行ってらっしゃい」と、小声で指示を下さいました。
どういうことだかすぐにわかった私は、みんなのほうにさりげなく一礼をして教室を出ました。
みんなも私のごあいさつがどういうものなのか、察してくれたようです。さりげなく軽い挨拶だけを返して、すぐに実習に熱中し始めてくれました。

指定された教室に入っていくと、小父さまはこちらに背中を向けて、空き教室のなかでひとり、窓の外を御覧になっていらっしゃいました。
私の足音を聞きつけてこちらを振り向くと、私はお辞儀をして中に入り、すぐに小父さまのほうへと歩み寄ります。
「きみのハイソックスをまた、イタズラしてみたくなってね」
小父さまは朗らかに笑いました。
言っていることはひどいけど、いじましい感じはしませんでした。
私も不思議なくらい明朗な気分になって、言いかえしました。
「いけない小父さまですね。母に言いつけようと思います」
「口止め料に――きのうよりもたっぷりと、吸ってあげよう」
血を余計に吸い取られることが、どうして私に対する口止め料になるのか。
それは、教室の床に押し倒された私は、すぐに知ることになりました。
したたかに血を吸われた私は、貧血に蒼ざめた頬を横に振りながら、小父さまに言いつづけていたのです。
「だめ・・・だめ・・・もっと・・・吸って・・・」と。

眩しい夏服。

2016年05月26日(Thu) 04:43:50

目のまえにスッと、白い天使が降りたったようだった。
コンビニエンスストアの店内に、天使が降りたつわけがない。
目を凝らすとそれは、セーラー服の少女だった。
純白の夏服。
それが天使のような眩さで、濁った俺の網膜を彩った。

視線を感じた少女はこちらを振り向くと、恐怖におびえた。
ひと目で俺の正体を察したに違いない。
サッと眉を曇らせ、身を引こうとして、
けれどもそうすることが罪悪だったと自覚でもするかのように身体を固くし、
恐る恐るの上目遣いで俺を見る。
俺はひと言、呟けばいい。「来なさい」と。

お店の人たちが心配そうに見送る視線を背中に痛く覚えながら、
俺は少女を外に連れ出した。
まだひんやりとしたものをさりげなく含む初夏の風が、街の通りを吹き抜けていた。

少女を連れ込んだのは、コンビニエンスストアの斜め向かいの公園。
俺は少女にベンチに座るように促して、少女はやはり恐る恐るの上目づかいで俺を窺いながらも、言われたとおりにした。
少女のすぐ隣に腰をおろすと、俺は囁いた。
低い声色で、少女の耳朶をくすぐってやる。
「安心しなさい。制服を汚したりはしないから」――少女がいちばん恐れていたことを、俺はしないと約束してやった。

おろしたばかりの夏服だもんな。

俯く少女を引き寄せて、肩までかかる黒髪をサッと掻きのけて、
凛々しくみずみずしい素肌に、渇きにわななく唇を、ギュッと圧しつける。
抱え込んだ向こう側の細い肩が、ひしとこわばるのが伝わってくるのを感じながら――
吸いつけた唇に伝わってくるしっとりとしたぬくもりをいとおしむように、牙を埋めた。

ちゅう・・・っ。

どれほど吸い取ったことだろう。
酒に酔ったときみたいな頬の上気を抑えかねながら。
気絶した少女の上半身をゆっくりと、ベンチに沈める。
約束どおり。
少女の制服には、一点のシミもない。
アイロンの効いたプリーツスカートの下、健康な色白の皮膚をしたひざ小僧がチラチラと覗く。
濃紺のハイソックスに包まれた、たっぷりとしたふくらはぎに。
俺はしつような唇をふたたび、吸いつけてゆく。
「これだけは許せ」と、呟きながら。

ひざの上に載せた黒髪に包まれた頭の重みを、心地よく感じながら。
その黒髪の輝きをまさぐるように、俺は少女をあやしながら。
まだ冷気をかすかに含む風をやり過ごす。
ゆっくりお休み。
水曜日はたしか、塾はお休みだったよね?


あとがき
昨日立ち寄ったコンビニで、久々に目にした夏服の女学生。
目に灼きつきましたね。^^
そのときのみずみずしい記憶が、いけないお話に化けてしまいました。
(^^ゞ

吸血鬼の小父さまとあたし。

2016年04月06日(Wed) 07:36:38

お部屋のなかに、招(よ)んだのは。
美紀とは大の仲良しの、吸血鬼の小父さま。
どうしても、美紀のお部屋を覗きたいって、せがまれて。
せがまれるまま、ママのいない時に、あがり込ませてしまっていた。

美紀は、ハイソックスが大好きな女子高生。
小父さまは、そんな美紀のハイソックスが好き。
美紀はハイソックスを履いて、おしゃれをしたいのに。
小父さまは、美紀の足許を、唇で吸って、舌で舐めて、愉しむのが好き。
でもそんな小父さまにせがまれると、知らず知らず脚を差し伸べてしまう――あたし。

ねぇ、ちょっとだけよ。
女の子の履いているハイソックスをイタズラするなんて、
小父さまイヤラシイわ。いけない趣味だわ。
美紀だって、ハイソックスをイタズラされるなんて、嫌なのよ。
きょうは小父さまのために、おニューを履いてきてあげたんだもの。
だからきょうだけは、見るだけにして。見ていたって、楽しいでしょ?
えっ?えっ?蛇の生殺しみたい・・・ですって?
そんなこと言わないで・・・ガマンよ。ガ、マ、ンっ。

どうやら美紀の説得は、効き目がないみたい。
小父さまはあたしのことをお部屋の隅っこに追い詰めて、
足首を掴んで抑えつける。
あーっ。あーっ。舐められちゃう。咬まれちゃう。
おニューのハイソックス、破かれちゃうっ。

でも・・・そんなとき、美紀は恥ずかしがりながら、小父さまにハイソックスを破らせてしまう。
美紀ちゃん、気前いいね・・・って、からかいながら。
小父さまはハイソックスの生地の舐め心地をくまなく愉しんで、
よだれでぐしょぐしょにしちゃって。
さいごに牙を埋めてきて、メリメリッ・・・って、咬み破っていく。
いつかこんなふうに、お嫁に行く時まで破ってはいけないものまでも、破らせちゃうのかも。
イケナイ思いを胸に、深々と食い入ってくる牙に、美紀は意識をさ迷わせる。
小父さまの牙の食い入る力・・・力強くって、す・・・て・・・き・・・っ

チュウチュウ生き血を吸われていくうちに。
夢中になって、相手をしているうちに。
美紀は失神して、勉強部屋ぼまん中で、あお向けになってしまう。
薄っすらとなった意識のなかで、小父さまの手がブラウスのボタンをはずし、スカートのホックをはずしていくのを、どうすることもできないままに・・・

家庭訪問 出席番号一番 青柳紀子

2016年03月27日(Sun) 09:27:17

出席番号一番の、青柳紀子の家を訪ねたのは、今回が初めてだった。
貧しいおうちだから、視られるのがやなんです。
そういって血を吸われに来る彼女は、いつも自分から、俺の屋敷を訪れる。
制服代が痛い。
そんな言葉を親から聞いてしまっては、
気苦労の多い生真面目な出席番号一番としては、ちょっとやりきれない想いも抱えたのだろう。
俺は少女の願いを聞き届けて、その代わり俺の頼みも聞いてもらった。
たまにでいいからさ。着てもらいたい服を、買ってあげるから。
その服を着て、襲われに来て。
少女は生真面目な顔を崩さずに、いいわ、と、いってくれた。

自前の服も、趣味は悪くなかった。
けれどもかけがえのない服たちを血で濡らしてしまうと、少女は時折べそを掻いた。
そのたびに、俺は一着余計に服を買ってやる。
自分で買いたい服を買っても、いいのだから――と。

そんなしまり屋の青柳紀子が、俺を家に招んでくれた。
俺のほうから一方的に願ったのを、彼女がようやく容れてくれたというわけだ。
きみのお部屋できみを抱きたい。
そんな言葉の意味、きみはどこまで理解しているのかな。

ピンポンを鳴らすといきなり、親が出てきた。
それも、男親のほうだった。
卒業式の時すれ違ったから、顔に見覚えがあった。
ちょっとやせぎすで見るからに貧相な男――この少女の父親とは思えない。
青柳紀子の血を初めて吸ったあと。
招き入れた空き教室に倒れた少女たちを、親に引き取らせたときのことだった。
母親のほうは、ほかの親たちと同じように、心配そうに教室を覗き込んでいたのに、
この男だけは、不景気そうな顔つきで、表情一つ変えずに突っ立っていた。

あんた、あんときのあんただね?
男は不快そうに首を振り、そういった。
そのせつは。
俺もぶっきら棒に、そう応える。
娘の血を吸いに来たんだね?
そうです。
歯に衣着せぬ言いぐさに、俺もわざと悪びれずに、応えてやる。
じゃ、あがんなさい。
意外にもの分かりのよい対応に面くらいながら、俺は青柳家の敷居をまたいだ。
まがりなりにも、一軒家だった。
けれどもどことなく古ぼけていて、かび臭い。
年頃の少女が家に招びたくない気持ちも、わからないではなかった。

お母さんはお留守ですか。
俺が訊くと、
べつの吸血鬼のところに行っている。
応えの内容のわりに乾いた声は、救いなのか投げやりなのか。
わしも出かけるから――べつの吸血鬼のところに。
ズボンのすそから覗く足首は、肌の透ける薄い靴下に覆われていた。
この男も、吸血鬼の協力者なのか。
ちょっとだけ、親近感がわいた。
男はそんなこっちの気持ちなど頓着なしに、いった。
あまりむごく扱わんでくださいよ。まだ育ち盛りの子なんだから。無理させないで。
初めて親らしい言葉を口にすると、男は返事も聞かずに俺に背中を向けた。
やっと出ていった・・・と思ったら、引き返してきて、いった。
それと、娘に服買ってやってるようだが、要らん気遣いせんでくれ。
うちはうちで、ちゃんと養ってるんだから。
そういう気負いも、まだ残っていたのか。
自分の着てもらいたい服、着てもらってるだけですから。
そんなんならいい。
男はもういちど、ぶあいそな顔つきとは裏腹なもの分かりの良さを見せ、こんどはほんとうに、家から出ていった。

ふり返ると、青柳紀子がそこにいた。
紺地に白の横じまもようのブラウスに、デニムのスカート。
真っ白なハイソックスの足許が、眩しかった。
さっきから二人のやり取りを聞いていたらしい。クスクス笑っていた。
父はああいう人だから、会わせたくなかったんだけど。
素敵なお父上じゃない。
俺はそういうと、少女の肩をなれなれしく抱いた。

あたしだけ、首すじ咬んでもらえなかったね。
卒業式の数日後。たまたま出くわした道すがら。
生真面目なこの子らしい鋭い声の詰問を俺に浴びせると。
ちょっと、太すぎるのかな・・・
少女らしい気遣いをみせたのが可愛くて。
制服のブラウスを汚すまいと気遣ったと知ると、
きょうのブラウスなら汚してもいいから、と。
その足で、俺の邸に足を踏み入れたのだった。
生真面目な出席番号一番は、俺のねぐらにも、一番乗りを果たしたのだった。

紀子の部屋は四畳半と狭かったけれど、
いたるところに女の子の風景があり、匂いがあった。
古びた学習机に、洋服ダンス。
画鋲の穴だけが開いた壁には、男性アイドルのポスターを貼っていたらしい。
わざわざはずしたのは、俺に対する気遣いからか。
憧れのアイドルに、血を吸われているところを見せたくなかったからか。

「こんどの学校も、出席番号一番みたいなの」
少女は困ったように、そういった。
また気苦労がはじまるね。俺がそう言ってねぎらうと。
「いいの。慣れてるから」
少女はすねたように、でもなにかを悟り切ったように、そう応える。
「俺の牙にも、慣れたかな」
ぬけぬけという俺に。
「それは~。いつまで経っても慣れたりなんかしないから~」
言葉と裏腹な甘ったるい視線を振りあげて、少女は愛嬌のある上目づかいになっていた。

女の子の匂いがぷんぷんする部屋で。
俺は紀子と、向かい合わせになる。
咬んで。
卒業式のときには、言えなかった囁き。
中学のころ、ファースト・キスを果たしたときみたいにドキドキしながら、
俺は肉づきの豊かな首すじに唇を這わせ、牙を埋めてゆく――


あとがき
登場人物の名前は、すべて架空であり、実在する人物とは全く関係ありません。悪しからず。

卒業式の季節ですね。

2016年03月27日(Sun) 08:45:21

毎年この季節がやって来ると、身体がムズムズとくすぐったくなってくる。
そう。親黙認で、年頃の女の子たちの血を吸い始めることのできる時期――卒業式シーズンだった。
謝恩会の日程はあらかじめ、ベテランの女教師である京子先生が教えてくれる。
この先生のお世話になって、もうなん年になるだろうか?
京子先生は知り合ったころとまったく変わらない、表情を消した白い顔をして俺のところにやってきて、今年はいついつです、と、必要最小限のことだけ呟き去ってゆく。
俺はただ、その日に学校に行けばいいだけ。
入るのはいつも、裏口からだった。
表門はもちろん、きょうの佳き日のために着飾った女の子と、そのお母さんたち。
この学校に出入りする吸血鬼にはいろんなやつがいて、もっぱらお母さん目当ての人もいるくらいなのだが、俺はもっぱら少女狙い。
少女専科といわれているらしい。なんかいやらしいな。いや、やっぱり、いやらしいのか・・・
それはさておき、首尾よく”裏口入学”を果たすと、いつもまっすぐに体育館を目指ししていく。
会場の設営で忙しく立ち働いていた京子先生は、ねずみ色の地味なスーツに、きょうだけは真っ赤なコサアジュを胸元につけ、そこだけが華やかだ。
俺の姿をみとめると、薄化粧を刷いた頬をちょっとだけ引き締めて、細い指を伸べて空虚なパイプいすたちの並びの、最後列を指定した。
本音をいえば、厳粛な卒業式は退屈なだけなのだが――いちおう血を吸わせてくれる子たちに敬意を表し、俺は教職員席の末席に座る。

うちのクラスの生徒たちですからね。
京子先生はこっそりと、俺に呟く。
すでに俺の同類項たちがかなりの人数入り込んでいることが、気配でわかる。
顔見知りのやつなどとは、周囲に気づかれないよう会釈を交わしたりする。
獲物がだぶらない配慮は、学校側としてはお手のもの。
もっとも俺たちも、同類項同士で獲物を奪い合ったりはしない。
そこだけは、真人間だったころよりも、ずっとまともになっている、数少ない部分ではある。

卒業証書の授与が、粛々と進む。
チェック柄のスカートや半ズボンの下、ハイソックスやタイツの脚たちがお行儀よく、列をつくり、順ぐりに舞台につづく階段を上り下りしていくのを、俺はうっとりと眺めていた。
京子先生のクラスの番が来た。
 あおやぎのりこ
 あきもとかなえ
 いざわたかこ
 うのまさよ
うぅん。京子先生が軽く咳払いをする。
そこまでということなのだろう。
今年は四人。上出来だ。
一瞬目線の合った俺は、精いっぱいの感謝と満足とを瞳にあらわしたが、
そこはベテラン教師らしく、京子先生は気づかなかったふりをしてさりげなく視線をはずしてゆく。
出席番号5番以降は、べつの吸血鬼に捧げられるのだろう。
女の子の相手は、特定の吸血鬼とは限らない。
「よりどりみどり」と呼ばれる会合は、謝恩会の流れでそのまま居残った卒業生とお母さんたちが、やはり居残った吸血鬼たちに追いかけまわされて、だれかれ言わず食いつかれていくという。
ちょっと乱交パーティーみたいな雰囲気で、面白いからどう?と仲間に誘われたこともあったが、どうも落ち着かない席のようだから、俺はなかに入ったことはない。
あるとき京子先生にそういうと、いかにももっとも、という顔で応じてきて、
「あなたには私がちゃんとした子を世話してあげますから」とだけ、いった。
職業意識にあふれた、落ち着いた自信に支えられた物腰。
いったいこのひとはどうしてこうも、俺によくしてくれるのだろう。

俺の獲物になる女の子たちが、ひとりひとり壇上に呼ばれ、しずしずと歩みを進めてゆく。
どの子も少女ばなれした、落ち着いた物腰で、卒業証書を受け取ると、校長先生に礼儀正しく一礼して、さがってゆく。
壇上に登っていく後ろ姿で、服装や身体つき、それに髪型を。
壇から降りてくるときに顔だちや胸のふくらみ具合、どんなたちの子なのかを。
ドキドキ、ワクワクしながら、盗み見てゆく。
あおやぎのりこは、真新しい濃紺一色の中学の制服。
あきもとかなえは、薄いピンクのカーディガンに、赤と白のチェック柄のスカート。
いざわたかこは、ワインカラーのとっくりセーターに、こげ茶のスカート。
うのまさよは、紺のブレザーに青系のチェック柄のスカート。
どの子もきっと、めいっぱいのおめかしなのだろう。
今年は全員、タイツだった。
去年の子たちは、タイツの子が一人。あとは白、黒、淡いブルーと色とりどりのハイソックス。
あの不揃い感もたまらなかったが、そろいもそろっての黒タイツというのもなかなかそそられる。
親たちは、帰り道を襲われる――と知りつつ、娘のおめかしを手伝っているはず。
すまないね。手塩にかけたお嬢さんたちを毒牙にかけてしまうなんて。
いつものようにジワジワと疼いて来た牙を、唇ごしにそっと撫ぜる。

謝恩会がたけなわを過ぎ、ざわついた人の群れから一人また一人と立ち去るものたちが出はじめると、宴は急速に終わりに向かった。
残った子たちの大半は、俺のような指定されたお相手がいない。
さりげなく残っている同類項たちは目を光らせて、どの子が良いか・・・と品定めをしているところだろう。
京子先生は相変わらず表情を消した、この佳き日にはふさわしからぬほどの愛想のない顔つきで、(たんにいつもと変わらないだけなのだが)、教え子四人を引率して、俺の前にやってきた。
この子たちね。
京子先生は俺に軽く会釈をすると、女の子たちに向かっても、この人ですよ、といって、受け持ちのクラスの女子たちをぐるっと一瞥した。
おだやかなようで、笑っていない。
こういう先生のまなざしの威力は、子供たちにもストレートに伝わるのだろう。
四人の女の子たちはゴクリと唾をのみ込んで先生を見、それから俺を見つめた。
これから自分の血を吸おうとしている男に、どういうあいさつをしていいのかわからないまま、おずおずとお辞儀をしかけてくる女の子たちに、俺はゆったりと礼を返してゆく。

京子先生は俺と四人の教え子を、旧校舎の片隅にある空き教室に”引率”した。
火の気のない、寒々とした教室だった。
照明もついていなかったが、先生は「灯りはつけないでくださいね」とクギを刺すようにいうと、配送を終えた郵便配達のように淡々と、教室から出ていった。
まだまだあとなん組か、”配送”をしなければならないのだろう。
俺ははじめて、少女たちとさしで向かい合う。
女の子という種族は、意外に剄(つよ)い生き物だ。
さっきからずっと、俺のことを観察し尽していたらしい。
どうやらあまりひどい目には遭わずに済みそうだという心証が得られたらしく、
期待と不安の入り混じった空気は、むしろ柔らかだった。
「よろしくお願いします」
先頭の子がそういうと、ほかの子たちもそれにならって口々に、不揃いな「お願いします」のあいさつをしかけてきた。
先頭の子は、出席番号一番のあおやぎのりこチャン。
活発そうな赤い頬に、精いっぱいの気負いが感じられる。
あおやぎのりこチャンは、仕切り屋らしい。
出席番号一番というのは、意外に重責だ。
「前へならえ」とか、「気をつけ、休め」とか、真っ先にやらされる機会が多いのだろう。
「こちらこそ、よろしく」
俺が初めて口をきると、なにが「よろしく」なのかが女の子たちにもいきわたったのだろう。一瞬の緊張が、四人のあいだをよぎる。
硬くなりかけた空気に負けまいとするように、口を開いたのは、出席番号二番、あきもとかなえチャン。
「タイツの脚が好きなんですか?」
質問の中に含まれたいやらしい部分を、まだ自覚していない口調だった。
その真っ白な部分を、いますぐ俺の色に染めてあげるからね――それこそイヤラシイことを胸に秘めながら、俺はこたえる。
「先生に教わったの」
「ハイ」
これは、全員からの答え。
必ずしもそうではないのを、京子先生は熟知しているはず。でもまあいいや、そういうつもりでタイツを指定したのだろうから。それとも、だれかと間違えているのか――
あの手落ちのない京子先生がねえ・・・俺はもっともらしく押し黙るあの白面の表情を思い出して、思わずフフフ・・・と口許をゆるめる。
俺の顔つきの変化を敏感に読み取ったのか、「ゴキゲンさんなんですね」と、出席番号三番のいざわたかこがほほ笑む。
四人のなかで一番内気そうな少女だったが、打ち解けたら愛嬌のありそうな可愛い子。
さっきからずっと黙っている出席番号四番のうのまさよは、いかにもしっかり者という雰囲気だった。

結局、出席番号順に、黒タイツの脚を咬ませてもらうことにした。
「予防接種みたいだね」
女の子どうし、そんなことを口々に言い交わすと、四人はさりげなく行列を作ろうとした。
俺は、まあそんなに堅苦しくするのはやめようよ、といい、イスを四つ並べて、彼女たちを座らせた。
端から順にいただくからね、と、いうと、女の子たちはシンとなって、神妙に頷き返してきた。

折り目正しい濃紺のプリーツスカートは新品で、すそから覗くふくらはぎを包んだ黒タイツも、おろしたてのものらしい。
息をつめて見おろしてくる少女の足許にかがみ込むと、少女のほうは見ずに、「制服は汚さないようにするからね」とだけ、いった。
少女はそれで、ちょっと安心したらしい。
あとできいたら、親たちはそんなに裕福ではなく、制服代も痛いといっているのを小耳にはさんでしまったらしい。
いくら出席番号一番でも、そこまで苦労性にならなくていいのにな。
いまでも、いつも気張って真新しい黒タイツを履いてきてくれるこの子の脚を咬むときには、いつもそう思う。
彼女の履いている黒タイツは、しっくりと唇になじんで、俺はもうたまらなくなって、思わう行儀悪く舌をなすりつけてしまっている。
ピチャピチャと音を立てて、よだれをじゅくじゅくと泡立てているのに、彼女はぴくりとも動かない。
ほかの子たちに与える影響を思いやっているのだろう。
タイツの下の皮膚は、きっと鳥肌だっているはずだった。
かわいそうになったので。
口許から牙をむき出すと、いちばん肉づきのよいあたりに、がぶりと食いついた。
「・・・ぁ!」
喉の奥からしぼり出したうめきに頓着なく、じわじわとあふれ出てくる生温かい血潮を、夢中になって含みつづけた。
しまり屋のあおやぎのりこチャンは、仕切り屋としての務めも立派に果たした。
「だいじょうぶだよ、だいじょうぶ」
さすがに蒼ざめて見つめてくるクラスメイトたちにそう言いつづけながら、
彼女はイスの背もたれにゆだねた背中を、ずるずると滑り落としていった。
床に尻もちをついてしまった彼女をそっと抱きしめ、「ありがとう」というと、蒼ざめた彼女のことをそっと床に寝かしつける。
スカートをちょっとめくって、まっ白なスリップのすそで唇を拭うと、
俺はさっそく、次の子にとりかかる。

あきもとかなえチャンは、薄いピンクのカーディガンに、赤と白のチェック柄のスカート。
このお洋服だと、白のハイソックスもに合いそうだね・・・と俺がいうと、
おしゃれな子らしく、「わかる?」と言いたげに微笑み返してきた。
さすがにクラスメイトがひとり、貧血を起こして倒れたばかりだったから。
彼女の頬もすこし、蒼ざめてはいたけれど。
黒タイツを履いたやせ身の脚を、気丈にも伸ばして誘いかけてくる。
そういう誘いには、めっぽう弱い――俺はかなえチャンの足首を掴んで床に抑えつけると、さっきみたいににゅる・・・っと唇を這わせて、
さっき以上にしつっこく、女の子の脚をねぶり抜いてゆく。

かなえチャンは寝顔も可愛かったから、首すじにもキスをしてやった。
つづいて出席番号三番、いざわたかこチャン。
ワインカラーのとっくりセーターに、こげ茶のスカート。
どちらかというと卒業式にはカジュアルな感じがしたけれど、そういう子はけっこうおおぜいいたのだった。
セーターもスカートもじつはブランドものだということを、俺はとっくに見抜いている。
「きみ、首すじから咬んでもいい?」俺がいうと、
「そうしたいんですか?」と問い返してきた。
意外に自己主張の強そうな子だ。
「ドラキュラ映画のヒロインみたいじゃん」俺がいうと、
「それなら・・・してもいいです」
大人しそうに見えながら、気負いすぎるほど前向きな意思表示を、はっきりと伝えてくる。
この子はきっと、発展家になるだろう。
差し伸べられた首すじはすんなりと伸びやかで、皮膚にはかすかな潤いとぬくもり。
唇が触れると、ゾクッと身をこわばらせたが、有無を言わせず咬みついていた。
半ば本気をこめた抱擁のなか、血を啜り取られながら、少女はうっとりとなって身体の力を抜いていった。
手鏡をかざして、お気に入りらしいとっくりセーターのえり首に血がついてないのを確かめさせると、
少女は感謝の微笑みを泛べて、黒タイツの脚を自分から差し伸べてきた。
さいごに独り残ったうのまさよチャンに、「怖くはないし、むず痒いだけだからね」と声をかける余裕をみせた。

「さいごになっちゃったね」
俺がそう声をかけると、「いちばんおいしくないかもしれないわよ」と、少女は控えめなことをいった。
うのまさよチャンは、無口なしまり屋。
紺のブレザーに青系のチェック柄のスカート。その下に履いているタイツは、どうやら高価なものらしい。
ひと目でそんなことまでわかってしまう俺も俺なのだが。
裕福な家で育ったらしいまさよチャンの服は、だれよりも洗練されていて、見映えがする。
京子先生がこの子で切ったのも、たぶん頭数以外の意味があったに違いない。
「じゃあ、ためしてみるかね?」
自分の血がいちばんまずそう・・・そんな可愛いことを言われてしまっては、弁護したくなるのも当然ではないか。
まさよチャンはちょっと根暗で憂鬱そうな横顔をちょっと曇らせて・・・でもはっきりと頷き返してきた。
「きみも、最初に首すじを咬んでみたい子のようだね」
「どうしてそういう区別をするんですか」
「なんとなくだよ、なんとなく・・・」
「そうなんですか」
口数の少ない子が、あえて会話を続けたがっている。
きっとそうやって、恐怖を忘れようとしているのだろう。
俺はこの子に、早く恐怖を忘れさせてあげなければならない。
抱きすくめた肩はか細く、量は採ってはいけない気がしたけれど。
かじりついた首すじの皮膚のなめらかさは、そんなことを一瞬で吹き飛ばしてくれた。
ごくごく・・・ごくごく・・・
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
せきを切ったような劣情にわれながらあきれ果てながら、
なにもかも諦めきったらしい無抵抗な身体から、初々しい血潮をひたすらに、啜り取っていった。
すっかり俺のモノになり果てた少女は、いった。
「タイツ、愉しんでくださいね。せっかく履いてきたんだし」
破くまえにしっかり舐めろ。
そんなことを言う子なのだ。末恐ろしい。
でもいまは、俺に手なずけられて、天使は奴隷に堕ちようとしている。
スカートの奥に手を突っ込んで、太ももをまさぐりながら。
真新しい青のチェック柄のプリーツが、不自然に波打つほど露骨に、撫でつけながら。
俺は少女のタイツをいたぶり抜いて、しなやかな生地の舌触りをくまなく愉しんで。
少女がかすかに頷いてくれると、咬みついていった。

質素な家に育って、仕切り屋でしっかり者の制服姿。
おしゃれで可愛い、ピンクのカーディガンに赤と白の派手なチェック柄のスカート姿。
一見地味めな発展家の、ワインカラーのとっくりセーターにこげ茶のスカート姿。
無口なしまり屋で、奉仕精神いっぱいの紺のブレザーに青のチェック柄スカート姿。
どの子も顔を蒼ざめさせて、教室の床のうえに転がっている。
出席番号一番、青柳紀子。
出席番号二番、秋元香苗。
出席番号三番、井沢孝子。
出席番号四番、宇野昌代。
この子たちの秘めた血潮の香りを反芻しながら、俺はゆっくりと身を起こす。
教室のドアをちょっとだけ明けて、
ひっそりと佇む人影に、ひっそりと声をかける。
「親御さんたちを、呼んでください。ごちそうさまでした」
「あなたが一番、長かったわよ」
京子先生の咎める視線が、いつになく優しい。
「卒業、おめでとうございます」
風変わりなあいさつもあったものだと自分で思いながらも、俺は先生のまえ、深々と頭を垂れた。


あとがき
長かったんで、一時間ちょっとかかってしまいました。
(^^ゞ

意地悪な継母 紳士な吸血鬼

2016年02月15日(Mon) 06:58:39


昔の女学生みたいに、黒のストッキングを履いて。
町はずれのお邸に、週に一度お邪魔することになった。
処女の生き血を、吸われるために――



私は、もらわれっ子。
両親が急にいなくなって、叔母夫婦に引き取られた。
そこには一歳年下の女の子がいて――ことあるごとに、差別をされた。露骨なくらいに。
たまたま通っているのが同じ学校で・・・だから、今までと同じ学校に通わせてもらえたけれど。
街が吸血鬼の支配を受け容れて、血液の提供を義務づけられてしまうと。
叔母は躊躇なく、私一人を指名した――

毎週行くのよ。そこで血を吸われておいで。
麻由を行かせるわけにはいかないから、あなた一人で行くのよ。よくって?
よくって?もなにも・・・断れるはずはなかった。
すべては、この人たちに握られてしまっているのだから。

その日だけは、みんなが登校する朝に、私だけが行先を違えていた。
紺のハイソックスを通した脚が向かうのは、街はずれの古びたお屋敷。
吸血鬼は、そこに棲んでいるという。

お入り。
訪いを入れた私を、それは冷ややかに。
その老人は昏(くら)い瞳で、じいっと見つめてきた。
恥ずかしくなるほどまっすぐに、見つめてきた。
これが私の血を吸う相手――忌まわしい想いを抱えながら、私は相手の視線を見返していた。
男の無表情からは、冷ややかな欲望しか伝わってこなかった。
こんなひとに・・・父さんと母さんから受け継いだ血を、啜られるのか――
いまさらながら、無念さがこみ上げてきたけれど。
私は悔しさを押し隠して、おじゃまします、とだけ、いった。

“儀式”は、すぐに済んだ。
紅茶でも飲ませてやろうかと思ったけれど。
わしがいくらもてなしてやったところで、あんたのほうで落ち着かんぢゃろう。
だから、さっさと済ませようか・・・
男はそういうと、私を狭いお部屋に連れ込んで。
じゅうたんの上に、腹ばいにさせた。
いきなり首すじは、怖いぢゃろうからな。
下手に動かれて仕損じると、制服が台無しになるでのう。
男の言いぐさはひどくリアルで、制服を汚してしまう――という身近な恐怖に、私は素直になるしかなかった。
代わりの制服を買ってほしいという私に、叔母がどんな顔をして対するのか。
そんな想像のほうが、血を吸われる恐怖よりも身近に思えた。
男の口調が少しでもからかい言葉だったら、私は耐えられなかっただろう。
けれども男は淡々と、呟くだけだった。

男が狙ったのは、ふくらはぎだった。
男の呼気が、足許をよぎった瞬間――さすがに恐怖に震えた。
けれどもつぎの瞬間、太ももと足首とを静かに抑えつけられて――
男は、ハイソックスを履いたままのふくらはぎに、唇を吸いつけてきた。
聞かされておらなんだか。許せ。わしの愉しみぢゃ・・・
男はそう言うと、さも愉し気に、私のハイソックスをよだれで濡らしはじめていた――
校名のイニシャルを飾り文字にあしらった、制服のハイソックスを・・・
いいようにもてあそばれて――
いままでの学校生活までも、けがされるような気がして。
恐怖と屈辱に身を固くして、私は男の不埒なあしらいに耐えていた。
やがて。
圧しつけられた唇の両端から覗いた二本の牙が、ハイソックスのうえからあてがわれて。
ふくらはぎのあたりを、チクチクと刺して、うずめ込まれていった――

チュウチュウと音を立てて吸いあげられる、私の血――
父さんと母さんからもらった血を、こんなふうに辱められるなんて。
私は人知れず涙にくれながら、脚を咬まれつづけていった。
決して相手のまえでは、涙を見せまい。そう誓いながら。

ひとしきり、私の身体から血を吸い取ると。
男は身を起こし、私の身体をじゅうたんの上にころがして、やおら首すじに咬みついて来た。
もう、どうにでもされてしまえ――
自棄になった私は、血を吸い取られてゆくあいだじゅう、目を見開いて天井を視つづけていた。
牙を引き抜くとき。男は意外なことばを、口走った。
すまないね。ありがとう――と。
節くれだった大きな掌で、頭を撫でてくれさえした。

起ちあがろうとしたが、手足に力が入らない。
その場にすとんと、ぶざまに尻もちをついた私のことを、男は手を引いて、助け起こしてくれた。
すこし、ゆっくりしていきなさい。いきなり動いてはいけない。
お紅茶を淹れてあげよう。もう、むたいなことは、しないから。
血を吸っているとき以外、男はむしろ親切だった。
少なくとも、叔母よりは。
叔母は私の受けている危難など気にも留めずに、いまごろはきっと、洗濯物やアイロンかけに熱中しているはずだ。

来週も、水曜に来なさい。こんどはあんたの、妹さんの番だね?
叔母が予期した通りのことを、男は私に訊き、私は叔母に言い含められた通りのことを、答えていた。
イイエ、来週も私です。
そうすると、妹さんはいつ来るのだね?
毎週、私がお相手します。
妹をかばっているいいお姉さんに、見えただろうか?
ちょっとだけ、不安に感じた。



わしに逢いに来るときには、黒のストッキングを履いて来なさい。
脛の透ける、薄いやつをね。
きっとお母さんが、用意してくれるはずだから。
わしがあんたの脚を、どんなふうに愉しむか――もうじゅうぶんに、わかったろう?

男のおぞましい頼みごとを、断るすべなどなかった。
叔母でさえもが、私の背中を押して。
早く行きなさい。あちらがお待ちかねなんでしょう?
ストッキングなら、何足でも用意してあげるわよ。
そういって登校を急かす叔母の白い顔には、皮肉な笑みが秘められていた。

――アナタ、ソンナ嫌ソウナ顔シチャッテ。
――本当ハモウ、アイツノ毒気ニ当テラレテ、愉シンジャッテイルンジャナイノ?
――親タチニ似テ、イヤラシイ子ネェ・・・

薄いストッキングの脚で、街を歩くとき。
通りかかる人たちの視線が、気になっていた。
薄いナイロン生地ごしに、スースーとそらぞらしくよぎる冷気が、その想いを増幅させた。
黒のストッキングの女学生なんて、今どきほとんどいないはず。
紺のハイソックスの同級生たちと肩を並べながらも、彼女たちがいちように、私の足許を見ないようにしているのを、私は気配でありありと感じてしまっていた。
麻衣ちゃんが、黒のストッキング履いてる。
それがどういうことを意味するのかを、みんなわかってしまっていたから――

週に一度訪れる私に、男はむしろ優しかった。
処女の生き血を啜られるという、おぞましいばかりのはずの想いをしに来た私を気遣って。
暖かい部屋に招き入れ、
ゆったりとしたソファに、くつろがせてくれて。
香りのよいお紅茶を、淹れてくれた。
叔母と私との関係は、もうすっかりわかっちゃっているみたいだった。
なにも言っていないのに。すべてを察してしまっていた。

家には早く帰りたくないのだろう?だったら夕方まで、此処にいるといい。
あんたの昼食は用意する。なんなら、勉強も教えてやろうか?
男は怖ろしく博学で、おまけに教え上手だった。
私はお屋敷に来るのが怖くなくなり、むしろ楽しみにするようになった。
さいしょのうちこそ、血を吸われたりしなければ、もっと良いのに・・・と思っていたけれど。
男がせつじつに血を求めてくるのをむげにする気にはなれなくなって。
脚に通した黒のストッキングを、みるかげもなくなるまでチリチリに咬み剥がれてしまうのだった。
そのうちに。
彼が好む黒のストッキングを、ウキウキとして脚に通して、
素肌を咬まれるのはもちろんのこと、大人びた装いをしわくちゃになるまで舐めつづける行為すら、さほどいとわしいものに感じられなくなっていた。

あなた、変わったわねえ。
黒のストッキングを履いて出かけてゆく私をみて、叔母は怪しむようにこちらを窺う。
そんなことないです。行ってきます。
交わされる会話はいつも、チクリチクリとした嫌味で終わる。
そんなやり取りは、早く切り上げたかった。
若い身体から血を吸い取って、私を蝕んでいるはずの男のほうが、ずっと私に対して親身に接してくれた。
顔色のよくないときには、自分の欲求を我慢して、まったく血を吸わないときさえあった。
そういうときには私のほうから、指定外の日に連絡を取って、埋め合わせをした。
ふだん着のスカートの下に、黒のストッキングを履いて。
その時分には、もう――黒のストッキングで街なかを行き交う女子は、前ほど目だたなくなっていた。
クラスの子たちのなかのなん人かは、私と同じ黒のストッキングを履いて、
それぞれべつのお相手の棲む家を、訪問するようになっていた。

ここの家に住みたい。いつかせつじつに、そう願っていた。
理不尽な差別とかえこひいきとか、そんなもののない世界に。
このひとはたしかに、血を吸うけれど。
ストッキングやハイソックスの脚が大好きな、変態さんだけど。
ずっと私のことを気遣ってくれ、大事にしてくれる。
血を吸っちゃうくせに、身体の調子の心配まで、してくれる――
わずかな身の回りの品だけ持って、いつかこのお屋敷に“亡命”したい。
私はひそかに、そう願い始めていた。



あたし、ついていったらダメ?
ひとつ年下の従妹が、そういって私の横顔を窺ったのは。
叔母の留守のときのこと。
自分の母親が見せつける、露骨なえこひいきを、彼女は決して快く思っていないのは。
申し訳なさそうな顔色でいつも察していたし、
叔母のいないところでは、2人は意外に仲が好かった。

いつもお姉ちゃんだけで悪いと思ってるし・・・それにこのごろお姉ちゃん、楽しそうだし。
あたし、ひとりで置いてかれちゃってるみたいで。
家のなかではもっぱら主役の従妹だったけれど。
学校では、引っ込み思案な性格である彼女のための活躍の場は、ほぼなかった。
しっかり者の万年学級委員である私のことを知っているクラスメイト達はだれもが、
「ほんとうに姉妹なの?あっそうか・・・」
と、勝手に納得するしまつだった。
そのなかのなん人かは、私と同じように血を吸われるようになっていたし、
なかには2人ほど、曜日を変えて同じお屋敷に通い詰めている子もいた。

あたしも連れてって・・・そうせがむ従妹に、
そんなこと言ったら、お母さんに叱られちゃうよ――
従妹に向かってのときだけは、叔母のことを「お母さん」と呼んでいた。

「進展」は、意外にすぐに訪れた。
来ちゃった。
さきに学校に行ったはずの従妹が、目の前にいる。
私と同じ黒のストッキングを履いて、男の棲むお屋敷の門の前で。
公園のおトイレで、履き替えてきたの。
そういう従妹に、
さいしょのときは、ハイソックスでもよかったのよ。
私の苦笑に合わせるように、従妹はイタズラっぽく白い歯をみせた。



行ってきます。
黒のストッキングを履いて出かけていく私に、叔母は横っ面でこたえた。
行ってらっしゃい、なんて、もちろん言ってくれない。
聞こえた・・・といわんばかりに、うるさそうに顎をちょっとだけ上向けて応えるだけ。
そんな態度にも、もう慣れた。
行ってきま~す。
私より一歩おくれて、従妹がリビングを覗き込んだ。
叔母は別人のようににこやかな顔になり、「気をつけてね」と、従妹のほうだけを向いて――ぎょっとして目をむいた。
あなた・・・その脚・・・
従妹の脚は、姉の目にもなまめかしい、薄黒のストッキングに透けていた。

いったい、どういうことなのよっ!!
問い詰められたのは、私だった。
答えは即座に、叔母の背後から返ってきた。
いっ・・・いつの間に??
仰天した叔母のまえ、男がうっそりと、立ちはだかっている。

あんたのお嬢さんは大人しいようで、なかなかの発展家だな。
学校に履いて行くハイソックスも咬んでみたいとねだったら、夕べお招きを受けたというわけさ。
なあに、心配しなさんな。ほんの少し、軽い貧血ていどにしか、吸っていないから。
でもね、いちど招かれた家には、こちらは気が向けばいつでも、入り込めるのでね。
だからこうやって、お邪魔をした。
お嬢さんが、「お姉ちゃんとおそろいのストッキングで家を出たい」って宣言したから、きっとひと悶着すると思ってね。
お母さん、あまり世話をやかせなさんな。
こちらがその気になったなら。あんたの首すじを咬むのは造作のないこと。
それに、処女には遠慮をするが、ミセスの女性の場合、べつの愉しみもできるのがわし達だからね。
もっとも・・・あんたがそちらをお望みでも、わしとしては願い下げだがね。
姉娘のほうは、いただいていく。
あんたに養育する資格はないからな。
ただし、学費は全額、払ってやりなさい。
どうせ、この子の親からせしめた財産が、おつりがくるほどあるのだろう?

二の句も告げずにいる叔母に
とどめを刺したのは、従妹だった。
あたしも、お姉ちゃんといっしょに暮らしたい。

その後私たち姉妹がどうなったか?
それは、ここまで読んでくれた皆様の想像のままに。
でも今私は、とても幸せです。
愛する人と、ひとつ屋根の下で暮らしていて。
私はそのひとのすべてを許し、受け入れていて。
そのひとは私の献身を、心から感謝してくれているから。

姉妹のハイソックス

2016年02月15日(Mon) 06:33:11

ハイソックスを履くと、気分がひきたつ。
そういって姉さんは、その日も出かけていった。
女子生徒が出歩くような刻限では決してない、真夜中に――
翌朝姉さんは、蒼ざめた顔を仰向けにして、公園で倒れているところを発見された。
真っ白なハイソックスを、赤黒い血のシミでべっとりと濡らしたまま・・・

気分がハイになるから、ハイソックスっていうのかな。
そんなことを薄ぼんやりと考えていた私。
その日も真っ白なハイソックスを脚に通して、家路をたどっていた。
姉さんが倒れていたの、ここだっけ。
もう、一週間になるけれど。想いはだんだんと鮮やかになるばかり。
気がつくと、公園の門の前で足を止めていた。
だれかが手招きしている。
そんな気配を感じて踏み入れた公園の土は、妙にしっとりとしていた。

ククク。カンの良い娘ごぢゃ・・・
男はそういって、うつ伏せになった私の足許でほくそ笑んで、
笑み崩れた口許を、ふくらはぎに近寄せてくる。
気がついたら、そう――公園のベンチのうえに、腹這いの姿勢にされていた。
わしの手招きに、すぐ応じるとはな。おぉ、あんたのことは見かけたことがあるぞ。
三日まえに血をめぐんでくれた娘ごの、妹ごぢゃろう?
そうです。そうなんです。姉を失ったかわいそうな妹なんです。だから、見逃してください。
あなたがほんとうにカンの良いひとだったなら。そんな私の心の叫びを聞いたはず。
けれども男はそんな想いを軽々と受け流し、
あの娘の妹なら、血の味も良いぢゃろう。馳走になるぞ。
そういって、ひざの裏と足首とを抑えつける掌に、ぎゅっと力を込めてくる。
ハイソックスのふくらはぎに、化け猫みたいに生臭い息がかかった。
くちゅっ。
男はハイソックスのうえから、私の脚を舐めはじめた。

にゅるっ・・・にゅるっ・・・にゅるっ・・・
ナメクジかヒルみたいに、ハイソックスのうえを這いまわる唇と舌が。
明らかに、真新しいナイロン生地のしなやかさを、愉しんでいる。
私は声をあげることもできないで。身じろぎすることすら、できないで。
ただ歯がみをしながら、男の仕打ちを、じいっとガマンしていた。
ククク。
三日まえの娘ごも、あんたみたいにカチカチになって、わしに愉しませてくれたのさ。
エエ子ぢゃったのぅ・・・
いい子だったら。いい子だったら。どうして姉さんのこと、助けてくれなかったの!?
心でそんなふうに叫びながらも――
むき出されたいやらしい欲情のまえ、私はハイソックスの脚を伸べることをやめなかった。
というか、強いられつづけていった。

やがてむき出された牙が、ふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたりにあてがわれ、
ずぶっ・・・、と。
食いついてきた!
尖った異物がハイソックスの生地ごしにめり込んで、皮膚を破った。
ぬるっ・・・と滲み出てくる血を、男は素早く啜り取った。
あてがわれる分厚い唇を、なま温かいと感じた。
その唇に力が込められて――
私の体内を流れる血液は、チュウチュウといういやらしい音といっしょに、吸い取られてゆく。
脳天が痺れるのを感じて、私は焦った。
あっ、あっ、あっ・・・
声にならない声をあげながら。
私はただひたすらに、血を吸い取られていった。
たぶん、姉さんのときと同じように――

傍らの横顔は、懐かしい面差し。
ほんの3日間しか顔を合わせなかったのに、なんという懐かしさだろう。
そのひとは、可愛い小ぶりな唇を私の首すじに近寄せてきて、
男がつけた咬み痕をなぞるように、生えかけたばかりの牙を埋めてきた。
ほら、あんたもお飲み。
男に親し気に肩を抱かれ、耳元でそんなふうに、促されると。
童女のような素直さでこくんと頷いて。
その冷たくなった唇を、容赦なく私の首すじを咬んできた。
つねられるような痛み。
両方の二の腕を、ブラウスのうえからぎゅっとつかまれる感触。
その両方に抱かれるようにして、私は素直になってゆく。
傷口に当てたちいさな唇をチュッと鳴らして・・・姉さんは私の血を吸い始めていた。

チュッ、チュッ、チュッ、
チュッ、チュッ、チュッ。
規則正しい音をたてて、姉さんは几帳面にたんねんに、
私の首すじ、胸元、手首と。
いろんなところに唇を当てて、私の血を吸った。
スカートをまくられ、パンツを脱がされて、お尻まで咬まれたときは、さすがに恥ずかしかったけど。
それでも私は素直に、姉さんの欲望に従っていった。
空っぽになった姉さんの血管を、私の血が代わりにめぐる――
そんな空想が、妙にうれしくって。
抱き起こされた私は、たえちゃんのハイソックスも、破かせてね――そういう姉さんの命令に、コクンと素直に、うなずいていた。

ハイソックスの脚、咬ませてあげるとき。
小父さまったらすごく嬉しそうになさるから。
あたしも一度、やってみたかったの。
いま、どんな気分・・・?
恐る恐る訊く私に、姉さんは尖った犬歯もあらわに、ニッと笑った。
愉しいよ。
そうなんだ。
私も素直に、そう応じた。
真っ白なハイソックスを、血のりでべっとりと濡らしながら。

おうちに、帰れないのかな。
父さんと母さん、私たちが二人ともいなくなったら、さびしがるだろうな。
でも、いいよ。気が済むまで吸って。
姉さんに吸われるなら、本望だから。
そういう私に、姉さんは、いやいや・・・とかぶりを振って、男のほうをふり返る。
姉さんのことは、おうちに帰してあげるよ。
あなたから、血をもらえたからね・・・
姉さんはそういって、嬉しそうに笑った。
私の血で、口許をヌラヌラと光らせたまま。

戻ってきた姉さんに、父さんも母さんも、おお悦びをした。
小さな街だったから。
周りの人たちはだれもが、姉さんのことを「なし」に、してくれた。
ふたりともそれから美しく成長して――いまはお互いに、大きな子供を抱えている。
あの日々は夢だったのか?いや、そんなはずはない。
姉さんの首すじには、私だけに見える咬み痕がある。
私の首すじにも、姉さんだけに見える咬み痕がある。
お互いにそちらのほうからは視線を避けながら、
私たちは日々の暮らし向きや子供の学校のことなんかを話題に、洗濯物を畳んだりなんかして暮らしている。
ふと、姉さんが呟いた――
うちのまゆみがこのごろ、帰りが遅いのよ。
そう。
私も言った。
うちの絵美も、遅いのよ。
もしかして。
私たちは顔を見合わせ、お互いの顔にイタズラっぽい笑みを見つける。
ハイソックスの脚、咬まれてちゃったりしていない・・・?


あとがき
過去に吸血された記憶というのは、結婚前の初体験の記憶の暗喩なのかもしれません・・・
妹だけが姉の、姉だけが妹の、過去を知っている――
でも、姉妹のハイソックスの味比べをできた吸血鬼が、妙にうらやましい気がします。^^

女学院だより~彼氏がいても、吸血鬼の応接に励む日常~

2016年02月05日(Fri) 07:55:46

「つきあっている彼氏がいるんです。だから、吸血鬼さんに応接するときに首すじを咬ませちゃうとき、いつも彼のことを考えちゃいます」と恥じらうのは、S女学院高等部1年の野中郁代さん(仮名)。同じクラスの彼氏には、野中さんがいつ応接しているのかまで、筒抜けになっているという。同校は、女子校でありながら少数の男子生徒の入学を受け容れる、ユニークな存在だ。校内での男女交際には寛容な校風だが、お互いに卒業までは身を清く保ちあうというモラルの高さも評判だ。男子は概して「おとなしい印象で、優しい性格の子が多い」といわれている。野中さんの彼氏である高島晴希君(仮名)もそうした一人だ。「来校者の人に彼女が指名されたとわかると、やっぱりふつうの気分ではいられません。彼女が呼び出された空き教室の窓を校庭から見あげながらつい、“今ごろなにをされているんだろう?”って、つい考えちゃいますよね」いっしょに取材に応じてくれた彼は、率直な“想い”を語ってくれた。「でもね、彼女が頻繁に指名を受けると、誇らしい気になるのもうそではありません。魅力がなかったら、あまり指名されないですからね」
吸血鬼との共存を方針とする同校では、おもに女子生徒が当番で献血に応じている。同校独自の、「接遇」という教科では、クラスの女子全員が血を吸われるという。また、不意の来校者に対しては、クラス順・出席番号順に生徒たちが応接に当たっている。もっとも、野中さんの場合は少し例外に属している。
「さいしょはほかの子たちと同じように、授業や当番で応接していたんです。でも、来校者の中にどうしても私・・・という方が出てきて・・・彼と相談して、受け入れることにしました」そういう相手が現在、3人いるという。「どの方も、父より年上なんですよ」野中さんは肩をすくめて笑った。
「いやらしいことも、されちゃいます。胸を触られたりするのはいつものことですし、パンツの中に手を入れられることも、よくあるんです。そういうときには、テストのこととか必死に考えています。うっかりほだされちゃうと、どこまでもつけ入られちゃう子もいますからね」彼氏が席を外したとき、野中さんはこっそりと教えてくれた。
卒業までは、「身を清く保つ」よう指導されているが、「処女のまま卒業できる子は少ない」と、野中さんは断言する。多くの場合、応接経験の深い吸血鬼に犯されてしまうという。
純潔を捧げるのを彼氏にするか、馴染みの吸血鬼3人のうちのだれかにするのか――を、野中さんはまだ、決めていない。「彼が言うんです。“僕の見ているまえでしてくれるのなら、いっしょに初体験をしたことになるのかも”って。それも一理あるかな、と」真面目な性格でも知られる彼女はそれでも、「だれが相手でも、たぶん泣いちゃうと思うし、もしかすると感じちゃうかもしれない」――少女たちにとって思春期は、恋の季節でもある。

女学院だより~捧げるのは、父と母から受け継いだ大切な血~

2016年02月05日(Fri) 07:53:57

「父と母から受け継いだ大切な血を、下品な音を立てて吸い取られることにはまだ抵抗があります。でも、彼らにも生きる権利はあると思う」そう語るのは、S女学院高等部二年の笠島紀子さん(仮名)。笠島さんの通うS女学院は、街に出没する吸血鬼との共存を望み、来校する吸血鬼のために生徒の血液を提供する方針を表明したことで知られる。「最初は泣いてしまう子もいました。でもいまでは全員、彼らに対する応接に慣れています」笠島さんはにっこり笑う。えくぼの浮かぶ頬がまだ初々しい、チャーミングな女学生だ。「新入生の子たちは担任の女性教師や上級生が介添えをして、彼らへの応接が決して怖くないことを教えます。初めて咬まれるときにはやっぱり怖かった話などをすると、気分の落ち着く子が多いんですよ」中等部に入学した生徒はほぼ全員が、夏休みまでに初体験を済ませるという。
中等部の1年生を対象にした学校側のアンケート調査によると、初めて咬まれたときには「怖かった」と回答した生徒が40%強いたのに対し、アンケート調査時の9月の時点では、「恐怖を感じない」生徒が60%、「快感を覚える」生徒が30%強と、ほぼ全員の生徒が吸血されることに対して嫌悪の情を抱いていない。快感を覚える生徒の比率は学年を追うにしたがって高まり、笠島さんのクラスのほぼ全員が「快感を覚える」と回答している。吸血鬼への応接を拒否しないことが入学の条件となっていることもあって、保護者の理解もすすんでいるという。
吸血鬼との交流を深める生徒の多くは、複数の吸血鬼に対して応接を経験している。来校者向けの献血が「接遇」という同校独自の教科のなかで行われ、突然来校した吸血鬼への奉仕もクラス順・出席番号順に実施されるためだ。
「かわいい子だけに集中したら、かわいそうですよね?襲われる子も、襲われない子も。だから機会は平等なんです。そのうちに、自分のことをかわいくないって思っている子も、しぜんとかわいくなってくるんです」こんな言葉も、女子生徒ならではの実感が伝わってくる。「実はあたしも、容姿には自信が持てなかったんです」笠島さんははにかんだように笑った。
「礼儀正しいしっかりした子で、来校者のかたがたの評判も良い生徒」と評価するのは、担任の田島紀子教諭。同じ「紀子」という名前だったので、入学後すぐになじんだ笠島さんを、初体験から指導してきた。「潔いがきっぱりしている」というのが来校者たちの共通した印象だという。「だれよりも素直に首すじを差し出すし、初めて黒のストッキングをびりびり破かれながら脚を咬まれたときも、泣かないんです。でも、いやらしいことをしかけられると、きっぱりと断るんです。潔癖な子なんですね。それなのに、“共存するにはお互いに理解と努力が必要”だといって、ストッキングを破りたがる吸血鬼には、だまって脚をさし伸ばしてあげるんです」。「制服のうえから胸を触られるのはしょっちゅう」と、笠島さんも肩をすくめる。「でも、中等部の2年くらいのころからは、あるていどのことは仕方がないと、割り切れるようになりました」母親のアドバイスもあり、急な応接に備えて真新しいストッキングの履き替えを手放したことがない。
「将来は看護婦になって、吸血鬼向けの病院に勤務したい」という笠島さん。いまは「学生時代により多くの吸血鬼に応接し、両親から受け継いだ血を愉しませ、奉仕する」ことを目標にしている。

奴隷化の媚薬

2016年01月30日(Sat) 11:57:55

小父さんも優しくなったねえ。齢とってずいぶん丸くなったんじゃないの?
青年は冷ややかそうにそう言い捨てると、気の毒そうにぼくたちを見た。
言い捨てられた親父は、還暦はとうに過ぎていたけれど。
農家の古強者らしく、陽灼けした逞しい筋肉に、節くれだった掌の持ち主。
さっきまでその掌が、ぼくの彼女の乳房をつかみ、股間を撫ぜていた。
それもわざわざ、縛り上げたぼくの目のまえで――

迷い込んだこの村で、さいしょは親切に食事までもてなしくてれた小父さんは。
食事のなかに忍び込ませたしびれ薬が効いて来ると、態度をにわかにひょう変させた。
この村にはね、俺みたいな吸血鬼が、なん人も棲んでるんだ。
お前ぇも、お前ぇの彼女も、わしの餌食じゃ。悪く思うな。
そう言い捨てると、いきなりぼくの首すじにかじりついて、血を吸いあげた。
彼女は恐怖の悲鳴をあげて飛びのいたけれど、もう遅かった。
しびれ薬の効いた身体はいうことをきかず、真っ白なスカートのお尻をつかまえられ、畳のうえに抑えつけられると。
白くて細い首すじに、分厚い唇を荒々しく這わされていった。
親父の唇には、いやらしく光るよだれが、
彼女はうら若い血をむざむざと吸い取られて――たくし上げられた真っ白なスカートは、禁断の木の実を味わわれてしまうまで、直されることはなかった。

ふたりながら血を吸われ、そのうえ彼女を犯されて。
この青年はそんないちぶしじゅうをよく知っているはずなのに、どうして「丸くなった」なんて、言えるのだろう?
ぼくの疑問はすぐに、彼に伝わったようだ。

彼女を犯されちゃって、気の毒だったね。
でもボクのときは、もっとひどかったんだ。
ボク、この親父の甥っこなんだけどね。
結婚の決まった彼女を連れて、一泊しに来たわけ。母さんにそうしろって言われてさ。
それで、きみと同じように血を吸われて・・・彼女はまだ、処女だったんだ。
きみの彼女と同じようにね。
でも、それだけじゃすまなかった。
僕たちの食べた食事に入れられたしびれ薬には、もっといやらしい効き目もあったんだ。
そう、この親父にずうっと、彼女もろとも奴隷になりたいって思いこんじゃって。
望みどおり、奴隷にされちゃったんだ。
ボクは彼女とめでたく結婚したけれど――そのころにはもう、親父の仕込んだ種が、おなかのなかで大っきくなってた。
子供はもう三人いるけれど、二人目の娘以外は、親父の子なんだぜ?
きみはまだ、嫌な顔をしているね?
親父に飲まされた薬のなかに、奴隷になりたくなる成分は、含まれていなかったようだね。
こんな村にいちゃいけない。
はやく立ち去るべきだし、もう二度と来てはいけないよ。
青年は親父に有無を言わさず、彼女に服を着せ、ぼくたちを納屋から連れ出してくれた。
遠い日の自分の彼女と自分自身をいたわるように。

別れぎわ。青年はいった。
でもボクは、後悔していない。夫婦ながら親父さんに仕えることで、満足してる。
しんそこ毒にやられちゃったんだね。
しんそこ毒にやられちゃうほうが、むしろ幸せなのかもしれないね・・・
最後のひと言は自嘲交じりだったけれど。
愉し気に、足取りも軽く、戻っていった。
こげ茶の半ズボンの下、真っ白なハイソックスが眩しく輝いていた。

ねえ。
彼女は足を止めて、ひたむきな瞳をしてぼくを見あげる。
言いたいことは、すぐに通じた。
もういちど、あの親父の奴隷になりたい。あなたの前で――
そんな恥知らずなこと――女の子のほうから、言わせちゃいけない。
さすがのぼくも、そう感じた。
言葉はびっくるするほどすらすらと出てきた。
ぼくたちも、あの親父さんの奴隷にしてもらおう。
こんどはぼくから、きみを親父さんにプレゼントしたいんだ。
いいわね、それ。あたし、プレゼントされちゃうんだ♪ ――彼女の言葉つきもまた、軽やかだった。

わざわざ逃がしてあげたのに。きみたちも物好きだね。
青年は軽く嘲るように笑って見せたけど。内心は歓迎しているのがよくわかった。
きみと同じハイソックス、履いてみたいんだ――そう願ったぼくの希望を、彼は好意的にかなえてくれた。
この村では、若いひとの血は少ないんでしょう?あたしたち、少しでも協力できないかなって、彼と話し合ったの。
もっともらしい彼女の言いぐさに、うんうんと頷きながら。
親父は彼女を横抱きにして、ブラウスのえり首から逞しい腕を突っ込んで、なかをまさぐっている。
早く抱かれたい。辱められたい・・・って、はだけたブラウスのすき間から覗く谷間が、訴えかけているようだった。

きゃあ~っ、セイジさん、助けてえっ。
狭い納屋のなか。
わざとじたばたと逃げ回り、逞しい猿臂で羽交い絞めにされて。
ブラウスを荒々しく引き裂かれて、おっぱいをわしづかみされて。
彼女はなおも、ああーッ!やめてーッ!って、叫んでいる。
さっきからぼくは、失禁のしっ放し。
佳奈美ちゃんっ!佳奈美ちゃんっ!だめだッ!ぼくの佳奈美ちゃんに、何するんだッ!?
ぼくもわざとらしく、親父さんのやり口を批難しながら・・・彼女がふたたび、スカートの奥まで支配されてしまうのを、いちぶしじゅう見守っていた。

親父さんも丸くなったけど。
いまどきの子たちも、優しくなったんだね。
いつの間にかあのお兄さんが、隣に来ていた。
白のハイソックスを履いた脚をお互いに並べ合ったまま。
ふたりでいつまでも、初々しい花びらが散らされていく光景に見入りつづけていた。

ストッキングを履く女子校。

2016年01月28日(Thu) 08:09:11

良家の出身で、品行方正な少女ばかりが通う、女子校が。
吸血鬼たちの欲望の標的となった。
ひとり、またひとりと血を吸われ・・・
そのうちに教職員さえもが洗脳されて、
生徒たちはやがて、出席番号順に献血を強制された。

通学用に指定された、生地の薄い黒のストッキングは。
少女たちの知性や品性の高さをひきたてていたはずだったが。
しまいには一人残らずストッキングを破かれ脱がされて、犯されていった――

いまでも彼女たちは、黒のストッキングを履いて学校に向かう。
清楚な装いだったはずの黒のストッキングは、いまは少女たちの足許を淫靡に彩って。
男たちの卑猥な唇に、弄ばれる。
けれども少女たちは、校則を変えることを望まなかった。
すこしでも、愉しんでいただけるのなら――
だれもが口々にそう呟いて、きょうも薄黒いナイロンに足許を染める。

吸血鬼たちは、結局なにも変えることができなかった。
処女の生き血を吸い取られても。
嫁入り前まで清くあるつもりだった純潔を奪われてさえも。
相手への奉仕を忘れない彼女たちは、優等生であることをやめなかった。心優しい少女であることを捨てなかった。
彼女たちはきょうも、優し気な笑みをたたえ、笑いさざめきながら。
きょうも小父さまを悦ばせようと、清楚な装いに脚を通して、歩みを進めてゆく――

帰り道でのお願い。

2016年01月13日(Wed) 07:44:47

きっ・・・吸血鬼!
道行く女の子はだれでも、彼を視るとそういって立ちすくみ、
まるで申し合せたようにだれもが、両掌で口許をおおった。
そしてだれもが、やはり申し合せたように、口許をおおった掌を合わせて懇願した。
お願いします!きょうだけは見逃してくださいっ!あしたまで、中間テストなんですっ。
男は、またか、と言いたげに口をへの字に曲げ、それでも女の子に道を譲って、帰り道を急がせてやった。
なん人めかの少女だけは、反応が少し違っていた。
白目を光らせて男をキッと見返すと、いった。
通してください。困るんです。
お宅の学校、テストらしいね?
男は冷ややかに、そういった。
はい。
少女は気の強い性格らしい。必要以上に口を開こうとはしなかった。
それでも少女は、約束してくれた。
喉が渇いて困っているんですよね?明日になっても解決しなかったら、声掛けてください。対応しますから。
まだ制服姿のくせに、社会人のようなこましゃくれたことを言う。
男は内心そう思ったが、それでもやはり、ほかの女の子たちと同じように、その少女も通してやった。

一日後。
木枯らしが通り抜ける路を、男は凍えた顔つきでうろついていた。
やはり案の定。
女の子たちはだれもが帰り道を変えたらしく、いつもいくたりとなく見かける制服姿は、まったくみられない。
お人好しもたいがいにしろよな。
自分で自分を嘲って見せるのだが、その嘲りはただ、自分にはね返ってくるだけだった。
コートの襟を立てて、男はきびすを返す。
たぶん今夜こそ、寿命が訪れるだろう。
いいじゃないか。ひとに害毒しか流すことのできない立場だ。
そうなるほうが却って、世のためになるのじゃないか。
世のためになる。
およそ自分にふさわしくない形容を、男はせめてもの虚勢で、鼻で笑ってみる。
そろそろ女学生など、通らなくなる時分だ。
そして、人のそう多くは住まないこの街で、このとおりを勤め帰りのOLが通らないことも、男はよく知っている。

あの。
冷たい闇の向こう側から、声がした。
年若い女の声だった。
その声が自分に向かってかけられるのに、しばらく時間がかかった。
少女は三度、「あの」と口にした。
決して温かみのある声ではない。むしろつっけんどんで、尖った声だった。
三度めは、「気がつかないなんて、ばかじゃないの」と言いたげな響きさえ、帯びていた。
振り向くと――少女の白い顔には、見覚えがあった。
夕べ、ひとりだけほかの子たちとはまったく違う応対を示した少女。
「通してください」とだけ言った、あの気の強そうな少女だった。

きょうは、だれも通らないのね。みんなにすっぽかされちゃったのかしら。
少女はからかうように、男の前を思わせぶりに横切って見せた。
白くて柔らかそうな首すじを、肩まで流れる黒髪のすき間からちらちら覗かせて。
伸びやかで血色のよさそうなふくらはぎを、黒のストッキングにほんのりと透きとおらせて。
きのうはすっぴんだったはずだが――唇には淡く紅さえ刷いているらしかった。
どうやら、そうらしいな。
男は少女の挑発を無視して、意地悪な問いに対する答えだけを口にした。
かわいそうですね。今夜だれかの血を吸わないと、死んじゃうわけ?
朱を刷いた唇から、歯並びのよい真っ白な前歯が、ちらりと覗く。
そうかも知れないな。
男はなおも、乾いた声。
・・・焦っちゃう?
いや・・・それでもいいと思っている。
男はだんだん、投げやりな気分になっていった。
ずいぶん自棄(やけ)なのね。
少女は男の心の奥を見透かすようなことをいう。
世のため人のため・・・ってこともあるだろうからな。
さすがにそこまでは、心にもないことだった。
少女はぴしゃりと言った。
いい加減にしなさい。
男ははじめて、少女の視線をまともに受けた。
それでも、生きなくちゃいけないの。
人を死なせたことないんでしょ?少女はそう、言い添えた。

弟が、助けてもらった。
悪いやからに取り囲まれて、カツアゲされそうになったとき。
助けてくれたのは明らかに、吸血鬼だった。
数日前に襲われて、血を吸い取られたとき、顔を視てしまったから、それとわかった。
あのときの礼だ。
男はそう言い捨てて、弟を自宅の近くまで送ると、踵を返して立ち去ったという。
だからこんどは、あたしがお礼する番。
少女はキビキビとそう告げると、近くの公園へと男を招いた。
自分の冷たい手を握って引っ張る少女の掌が、柔らかく暖かだった。

首すじはやめて。
少女は男を、軽くにらんだ。
髪の毛切ったばかりだから。痕が目だっちゃう。
脚だったら、咬ませてあげてもいい。ストッキング破るの、好きなんでしょ?
少女はからかい口調に戻って、黒のストッキングの脚を半歩前に出して、男に見せびらかした。

ベンチのうえに寝そべろうとする少女の下に、男はマントを脱いで、敷いてやる。
意外に親切なのね。
少女は「意外に」に、力点を置いた。わざとのように。
すんなりと伸べられた足許ににじり寄った男は――その瞬間獣にかえった。

発育の良いふくらはぎの周りに整然と張りつめた薄地のナイロン生地が、いやらしいよだれにまみれた。
うひっ・・・うひっ・・・
男はいやらしいうめき声を発しながら、欲情にまみれた唇を通学用のストッキングの脚になすりつけ、
ピチャピチャ、クチャクチャと、音を立ててなぶり抜いた。
少女はさすがに顔をしかめて、べそを掻きそうになるのを必死にこらえていた。
なん度めか、しゃぶりつけた唇を、強く吸いつけて。
口の両端からむき出した牙を、柔らかなふくらはぎに、おもむろに埋めてゆく。
ブチブチ・・・ッ。
薄手のストッキングが、ちいさな音をたててはじけた。
唇の下で、薄手のナイロン生地に走った裂け目は縦に伸びて、つま先からスカートの奥にまで広がった。
くちゅ・・・くちゅ・・・
唇をなん度も擦りつけながら血を啜るたび、裂け目は太くなり、白い脛を露出させてゆく。
もう片方の脚にも、容赦なく凌辱を加えた。
吸い取った血潮と引き換えに、淫らな毒液をたっぷりと、少女の血管に流し込むと。
男は初めて、少女の身体から顔をあげた。
みじめに打ちひしがれた少女の横顔に、ほんのりと淫蕩な色が浮かぶ。
ククク・・・吸血鬼をばかにすると、こうなるのだ。
吸い取った血を牙から滴らせながら、男はそう思った。
いっぽうで。
わずかながら残った理性が、あとで抱くはずの後悔を警告したが――いまはそんなことは、もうどうでもいい。
血を抜かれ、ぐったりとなった身体を、少女が緩慢に起こそうとするのを、男は手助けしてやった。
気分はどうかね?

すぐれないわ。とても、すぐれない。
失血に蒼ざめた顔を見せまいとするように、少女は男から視線を遠ざけつづけた。
辱められた足許に、薄黒いストッキングがむざんな伝線を幾すじも走らせている。
ひどいのね。
無言の批難を、男は静かな気持ちで受け止めた。
さっきのどす黒い衝動と、見さげ果てた征服欲とは、去りかけている。
家まで送る。
男はぶっきら棒にそういって、少女の手を取った。
握りしめた少女の掌は、公園に入るときとは裏腹に、自分のそれよりも冷え切っている。
気が済んだ?
見あげてくる少女の視線は、夕べと同質の鋭さをたたえていた。

不当に吸い取ったうら若い血液が、男の身体をめぐりはじめていた。
それは干からびていた体内をゆるやかに解きほぐし、いやがうえにも心の奥までも解きほぐしていく。
男が得た体温は、少女の掌にも伝わった。
ぎゅっと握りしめた掌に、呼び返すように、少女の掌もまた、握りかえしてきた。
じゃあここで。
男が立ち去ろうとするとき、少女は思った。
弟もきっと、こうだったに違いない――
「考えてみれば、きょうだいそろって血を吸われちゃったんだね」
軽い毒を含んだ声色。
知性を秘めた冷ややかな響きが、男の耳に心地よかった。

あんたには、俺の毒は効かないらしいな。
半分は敬意。半分は悔しさを隠して、男はいった。
そうでもなかったよ。
少女はふたたび、白い歯をみせた。
こんど、お友だち連れてきてあげる。でも、ひどいことしたら許さないからね。
わかった。感謝する。
それ以上いっしょにいると、なにかよけいなものがこみ上げてきそうだった。
男はきびすを返して、立ち去りかけて。
もういちど、少女のほうを振り向くと――両腕で固く固く、抱きしめていた。
助けてもらった。救ってもらった。感謝するよ――
顔を視ないと素直になれるものだ。
男は自分の卑怯さを、自分で笑った。


この街、吸血鬼に征服されかけてる。
遅かれ早かれきっと、みんな血を吸われちゃうに違いない。
そういえば。
街はずれの通学路に、お人好しの吸血鬼が出没するってきいた。
お願いって手を合わせてお願いすると、見逃してくれるんだって。
それをいいことに、ほとんどみんな逃げちゃってるけど。
どうせ咬まれるなら、そういうひとのほうが、いいんじゃない――?
そんな囁きを、どこかで耳にしたような気がする。
あるいは明日、教室のどこかで。
自分もまた、同じことを。
級友たちに囁いているのかも。
少女はくすっと笑い、唇の端に覗いた、早くも生え初めた牙を、指先でなぶってみた。


あとがき
中途半場に悪堕ちなお話になりました。 ^^;
理性と知性をとどめながらも、そそぎ込まれた毒液にほんのりと支配された少女。
でもやはり、吸血鬼はきっと彼女には頭が上がらないでいつづけるような気がしますね。 ^^;