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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

結納を迎える。

2019年05月15日(Wed) 07:43:24

ふつう、結納まえにいちばんもめるのは、花嫁の父親のほうだという。
でも、わたしたちの結婚の場合には、逆だった――

彼女は少女のころから吸血鬼に血を吸われていた。
処女の生き血をたっぷり吸い取られた身体は、彼の牙に反応するようになっていて、
たとえ結婚した後でも、別離ということはあり得なかった。
「あのひとに血液を供給する手だてを、減らすわけにはいかないのです」
彼女のお父さんも、そういった。
そして彼自身も、自分の妻――彼女の母親――を、同じ吸血鬼に”進呈”していた。
彼女を家庭に迎えることは、わたしの実家を含め、吸血鬼の”ファミリー”となることを意味していた。
「そういうことなら、理解のある貴方を歓迎します」
お父さんは、そういった。

花婿としての権利は、侵害されないという。
その代わり、新婚初夜にはわたしの母が花嫁の身代わりになって血を吸われ、ひと晩愛され続けるという。
そして、ひと月の猶予期間を”蜜月”として許されたあとは、
わたしの新妻もまた、吸血鬼の情婦に加えられることになる。
わたしも、父も、自分の妻の貞操を彼に捧げなければならなかった。

わたしにいなやはなかったけれど、父が渋るのはとうぜんだった。
母は思い切ったことに、自分のほうから彼を訪ねて、咬まれてしまった。
吸血鬼に襲われた既婚の女性はほぼ例外なく、その場で貞操を奪われることになるはずが、
「お父さんと相談してからにしてくださいね」のひと言で、彼女はスカートの中を視られることなく帰宅した。
それからあとは、夫婦の会話――
「あの子の幸せのために、私は淫乱女房になりますから」と、さいごにそういわれたそうだ・・・

結納の席には、彼女とご両親は、一時間もまえに現れていた。
ふた組の家族は数時間歓談し、そのあいだ二人の母親は交代で、奥の間に呼び込まれていった。
ふすまの向こうでどういうことが行われているか、だれもが察していたけれど。
着物の襟を掻き合わせ、ほつれた髪を繕いながら戻ってくるお内儀たちを目で迎え入れると、
そのまま何事もなかったかのように、歓談をつづけるのだった。

婚約者の情事・後日譚

2019年04月17日(Wed) 07:43:25

S夫人とわたしとの交際は、結婚後もつづいた。
勤め帰りに立ち寄る趣味のサークルがひけるのは夜遅くであったし、
わたしは頼もしいエスコート役として、S夫人の夫である義父にも重宝がられた。
彼は体が弱く、家から出ることはめったになかった。
夫人との深夜の「お茶」が、いつか「お酒」を交えるようになっていたのは、
すでにわたしが夫人の娘むことなっていたから、その種の警戒心から夫人が自由になったためだろう。
むろんだからどうということもなく、わたしは夫人を自宅まで送り届けると、
義父に礼儀正しく挨拶をして、家路をたどるのだった。

怜子はそういう夜は、彼と過ごすことにしていたから、夫婦の間にもなんの問題も起こらなかった。
時には新居に彼氏を招ぶこともあったから、むしろ気を利かせて帰宅を遅らせているという部分も、わたしのなかにはあった。
いちどだけ、彼氏とはち合わせてし合ったことがあった。
男同士、お互いきまり悪そうに会釈をし合って、そのようすを怜子は腕組みをして、ふたりを面白そうに見比べていた。
わたしがシャワーを浴びている間、ふたりが夫婦のベッドを使うのを許してしまった。
ふたりのための時間を少しでも長くしてやろうとして、シャワーが風呂になり、湯気にあがってしまい、
気がつくと彼氏に介抱されていた。
あがるのが遅いと心配して風呂場をのぞき込んだのは、彼氏のほうだった。

体格も風采も、彼氏のほうが上だった。
けれども怜子はわたしのことも夫として十分尊重していたし、彼氏もふつうに親しい同性としてわたしを遇したから、
わたしの劣等感が無用に刺激されることはなかった。
ときにはふたりのセックスのことを、夫として問いただすこともあった。
「この間の出張で留守をしたときには、ひと晩じゅうだったの?」
「そうね、明け方までずっといたわね」怜子が悪びれずにそうこたえると、
「こいつ、けっこう上手になりましたね、もしかして優志さんのしつけかな?」
彼氏も笑いながら応じた。
そんなはずはないとわたしがいうと、
「じゃあ、別に男ができたのか?」
彼氏はおどけて怜子を問い詰める。
「じつはちょっとだけ付き合い始めた人がいて・・・」
と決まり悪げに怜子が告白するのを、夫と情夫は顔を並べて、面白そうに聞き入っていた。

S夫人が、まな娘の”乱行”を知ったのは結婚して半年ほど経ったころのことだった。
「ヒロシから聞いたわ、あの子浮気しつづけているんですって?」
いつもの「お茶」が「お酒」に変わってしばらくして、いきなり切り出した彼女の言葉を、かわすいとまはなかった。
「エエ・・・はい・・・」
「ご迷惑な縁談だったかしら」と、S夫人は自分の娘よりもわたしのほうを気づかった。
「イイエ、そんなことはありません」
わたしはふたりのために弁護をした。
夫として、新妻とその浮気相手とを弁護するなどあってはならない・・・はずだった。
けれどもわたしは憑かれたように、三人の奇妙な関係を、夫人に告白しないわけにはいかなかった。
結納帰りにふたりの情事を視てしまったこと。
それは、ヒロシとの関係を続けたがっていた怜子さんが、わたしの気持ちを確かめるために仕組んだものだったこと。
わたしは2人の関係を受け容れ、むしろ昂ったり愉しんだりしてしまっていること。
「男として、夫として恥ずべきことですが」
そうつけ加えたわたしに、S夫人はどこまでも同情的だった。
「自分を責めることはないですよ、貴方は優しい男性です。
 怜子のことを愛して下すっているからこそ、あの子の過ちも受け止めて下すっているのでしょう。
 妻が他の男に抱かれることで昂奮を覚える夫がいることは、知っています。
 女の私にはよく理解できないけれど、どなたも無類の愛妻家のようですね」
とまで、いってくれた。
怜子と彼氏とは従兄妹どうしだったから、S夫人にとって彼氏は甥にあたる。
ヒロシがS夫人と仲が良かったことが、怜子とヒロシとの関係を長引かせてしまったのかも――
そう呟いて悔やんだS夫人は、いつになく酔っていた。
今夜はもう帰りましょうというわたしに、S夫人は素直にしたがった。

玄関先で別れようとすると、夫人はいった。
「あの子は今、ヒロシと逢っているんでしょう?」
「エエ、たぶんそうだと思います」
「ご自宅で?」
「さあ、今夜はどうでしょう、映画を見て帰ると言っていましたから、ホテルかもしれません」
「まあ、どっちでもいいわ」
夫人は少し蓮っ葉な口調でひとりごちると、いった。
「あがっていきなさい、お宅のお母さまにも私、申し訳ないから」
唐突に母の名が出たためか、わたしは素直に夫人の言に随った。

S家のリビングは、いつもながら落ち着いた雰囲気だった。
深夜に訪れたのは初めてだが、広い窓から陽の光がふんだんに注がれる日中とは違って、
暖色の照明だけが支配する空間だった。
「化粧直してくるわね」
夫人はそう言い残して、座を起った。
向かい合わせのソファに、長々と衣類がひとつ、掛けられていた。
よく見ると、黒のスリップだった。
夫人が日ごろ身に着けているものだろうか。
長々と伸びる優雅なレエス入りのスリップが夫人のしなやかな肢体を包むところを想像して、
わたしはちょっとのあいだかすかな陶酔をおぼえた。
夫人の化粧直しは、やけに時間がかかっていた。
十数分も待たされただろうか、ふたたび姿を現した夫人を見て、わたしは息をのんだ。
夫人は、いつもの黒のワンピースから濃い紫のスーツに着替えていた。
ひざ丈のスカートから覗く格好の良い脚は、薄地の黒のストッキングに艶めかしく縁どられていて、齢を忘れさせた。
「娘のおわびに、ひと晩私が貴方専属の娼婦をつとめます。お義父さんのことは気になさらないで」
間近に顔を近寄せた彼女の口許からは、刷きなおしたルージュの芳香が、ほのかに漂っていた。

どうやって振る舞ったものか、よく憶えていない。
けれども、わたしの意思に反して、わたしの掌は、
義母の着ていた漆黒のブラウスの胸を揉みしだき、
ストッキングに包まれたひざ小僧を撫でさすり、
豊かな太ももの肉感をたっぷりと感じながら、その掌をスカートの奥へとすべらせていった。
脂粉の芳香に包まれた濃密な接吻はすべてを忘れさせ、
目のまえにいる女性が夫人なのか怜子なのかさえ、定かではなくなっていった。
ふたりの身体はソファからすべり落ち、わたしはじゅうたんのうえにS夫人を組み敷いた。

あらわにしてしまった熱情に、夫人はよく応えてくれた。
「主人のことは気になさらないで」
くり返し言われるたびに、同じ屋根の下にいるはずの義父の存在を思い出したが、
却ってそのことが刺激を生み、わたしの股間を昂らせた。
「怜子も今ごろ、愉しんでるわね。あなたも愉しむ権利がある。それに私も・・・」
夫人はうわ言のように口走った。
「今夜は母娘で娼婦に堕ちるわ」とも、口走った。
なん度めかの吶喊を受け入れた後、夫人がふと口にした言葉に、わたしはぎくりとした。
「じつは主人も、愉しんでるの」
え?と身を起こしかけたわたしを夫人は制すると、
「いいの、あなたはあなたの役目を果たして」
夫人は巧みに腰をくねらせてわたしを誘い、さらなる吶喊を快感たっぷりに受け容れた。

血は繋がっていないけど、主人と貴方は似てるわ・・・
貴方と夜の帰りが遅くなると、よく言われたの――ホテルに寄ってくればよかったのにって。
怜子とヒロシができちゃったとき、私は母親として二人の関係を止めようとした。
でも二人きりでヒロシと会ったのがよくなかった。
その場で私はヒロシに犯されて、主人に隠れて関係を続けたの。
あの子とヒロシが離れることになるならと思ってしたことだけど、そうはならなかった。
ヒロシは母娘とも、自分の奴隷にしたのよ。
でも主人は、私を怒らなかった。別れなかった。
それで知ったの。妻をそんなふうに愛する男性がいることを。
あなたも主人と同類ね。あの子のためにも、ヒロシのためにもよかったわ。
お願いだから、これからもふたりが逢うのを許してあげてね。
そして、身の置き所がなくなったときには、私のところに来て頂戴ね。

以来、しげしげと義母のもとを訪れるようになったわたしを、怜子は怪しんだが、
ある時点からは納得したらしく、わたしが怜子の実家を訪れるのを歓迎するようになった。
義父もまた、わたしのことを歓迎するようになった。

婚約者の情事

2019年04月17日(Wed) 07:04:32

趣味のサークルで知り合ったS夫人が、自分の娘をお見合い相手にと紹介してくれた。
わたしはS夫人が好きで、時には夜遅くお茶をする間柄になっていた。
「お酒」とならなかったのは、一見派手な美人である夫人が、その実堅実な主婦で、夫を愛していたからである。
一緒に歩いていると、不倫カップルに見えませんか?
冗談ごかしに気づかうわたしに、夫人は面白そうに笑っただけだった。

夫人の一人娘は、彫りの深いエキゾチックな目鼻立ちが特徴の、母親譲りの美人だった。
夫人を溺愛していた夫は、「きみが選んだ人なら」と、さいしょからこの縁談に乗り気だった。
「世間知らずの娘です。ものの役に立ちますかどうか」
と謙遜してみせたが、娘のことを夫人と同じくらい溺愛しているのが、容易に見て取れた。
当の本人はというと、風采のあがらないわたしのことなど鼻もひっかけないかと思っていたが、
意外にも真面目に応接してくれた。
「わたくし、外見の良い男性のことを、あまり信用していませんの」
良家に育った彼女は、言葉遣いも礼節に満ちていて、わたしをうっとりとさせた。
小さい頃からちやほやされてきたことが、むしろ彼女を賢明にしていた。
ハンサムでやたらとかっこいい男が、その実下衆なやからであることが多いということも、知り尽くしているようだった。
「男の友だちはいたけれども、本気でつき合ったひとはいない」と、彼女はいった。
おそらくそれは、真実なのだと、わたしは感じた。

話はとんとん拍子に進み、やがてわたしは夫人の令嬢である怜子さんと結納を交わした。
視てはならなものを視てしまったのは、そのかえり道でのことだった。
両親と別れて買物をするために街に残ったわたしは、通りすがりに怜子さんを見かけた。
淡いピンクのスーツに黒のストッキングのいでたちは、遠目にも惹きたっていてとても目だっていた。
わたしに気がつけばきっと、「あら」と言って足をとめて、
「先ほどはふつつかでした」と、礼儀正しいお辞儀が帰って来るのを、わたしは予期した。
声をかけようかと歩みを急がせて彼女との距離を狭めたとき、わたしははっとした。
彼女はとつぜん足を止め、傍らの路地から姿を見せた人影と、ふた言三言ことばを交わすと、
申し合せたように路地の奥へと姿を消したのだ。
わたしは思わず足を速め、ふたりのあとを追った。

曲がりくねった路地を、どこまで進んだことだろう。
ふたりはわたしの追跡に全く気づかず、あとをふり返ろうともせずに一目散に歩みを進めて、
一軒のビルの入り口に吸い込まれるように身を沈めた。
雑居ビルのようなうらぶれたビルだった。
いつも小ぎれいで高雅な雰囲気の怜子さんには、まるで似つかわしくない建物だった。
そのビルの入口に佇んだ時、わたしはがく然とした。
ドアの上のけばけばしい色彩の看板には、こう書かれてあった。
「ご宿泊・ご休憩 ホテル ロマンス」

そのホテルにどうやって押し入ったのか、さだかな記憶がない。
フロントには、さっき入って来た二人組のカップルを追いかけている、隣の部屋を貸してほしい、といったような気がする。
フロントの年配の女性は無表情に応対して、即座に隣の部屋のキーを渡してくれた。
一時間3000円といわれた法外な料金に、1万円札を渡して釣りは要らないというと、機嫌よくわらって、
「いいこと教えますね、テレビをずらすと覗き穴があります」
と囁いた。
その言葉を頼りに、まるで押し入るようにして、怜子さんが男と消えた部屋の隣室へと入っていった。

フロントの女性がいう覗き穴は、すぐにみつかった。
わたしはくいいるようにして、隣室のようすをうかがった。
怜子さんはピンクのスーツをまだ着ていて、男と差し向いになっていた。
「・・・そうよ、緊張してくたびれちゃった、だって結納だよ?」
怜子さんの男に対する話しかけ方は、わたしに対する礼儀正しいそれとは違って、打ち解けたものだった。
「シャワー浴びるわね、そ・の・あ・と・で♪」
と彼女がいったとき、わたしは疑念が確信に変わるのを感じて、衝撃を受けた。
あの高雅な怜子さんが、こんな男とつるんでいたなんて!!
男は怜子さんの手を取り、いますぐに、と、小声でいった。
「だぁめよ、それはシャワーのあとまでオアズケよ」
怜子さんは男の不埒をとりあえず拒んだが、男の迫りかたはしつようだった。
「あ・・・ん・・・だめ、ダメだったら!お洋服がしわになるじゃないの」
男のふしだらな行為と等分に、自分の装いへの気遣いを忘れない――こういうときでも怜子さんは、良家の令嬢ぶりをさりげなく発揮していた。
ゆるやかに拒みつづける怜子さんに、男はなおも肉薄した。
彼は怜子さんを後ろから羽交い絞めにすると、ゆるやかにウェーブした栗色の長い髪をかきのけて、首すじを吸った。
吸い吸われるどうしのしぐさが、ふたりの親密さを示すようで、わたしは胸が締め付けられた。
少なくとも、隣室に押し入って男の狼藉を咎める権利は、自分にはないような気さえしてきた。
もしかすると、この時点で、わたしは婚約者の貞操を放棄してしまっていたのかもしれない。

「いけない、いけないったら・・・ッ!結納帰りのお洋服なのよっ」
蓮っ葉な声で拒みつづける怜子さんの声が、やけに扇情的に響いた。
ブラウスのうえから胸をまさぐられ、スカートの奥に手を突っ込まれ、どちらのまさぐりも拒もうとはしないくせに、
怜子さんは口では婚約者への貞節を守ろうとしている。
けれどもわたしは、身じろぎひとつできなかった。
いくら鈍いわたしでも、怜子さんは本気で男を拒んでいるわけではないことを察していた。
そうでなければこんな密室で、ふたりきりになることはないだろうから。
男女のせめぎ合いは、半ば戯れを帯び、半ば本気を交え、長々とつづけられた。
男女の交わりを目にするのは、生れて初めてだった。
それがどうして自分の婚約者と別の男の情事である必要があるのか・・・息も詰まるような嫌悪感にむせびながらも、わたしは怜子さんの痴態から、目を離すことができずにいた。

男と揉み合いながら、怜子さんが思わず口走った。
「優志さんに悪いわ、私、もう結婚相手がいるのよ」
わたしの名前を怜子さんがとつぜん口にしたことに、わたしはずきり!と、胸をわななかせた。
どうしてこんな場違いなところで、わたしの名前が出てくるのか?
自分の名前が怜子さんの口で汚されたような気分がした。
それは嫌悪感であり、屈辱感であり、それ以外のなにかであった。
いったいなんなんだろう?この感情は!?
つきつめたわたしは、さらにがく然とした。
「私、もう優志さんと結婚するの、だからあなたにこんなところでお逢いするのはもう止さないと!」
怜子さんはさっきから、しきりとわたしの名前を口にするようになっていた。
彼女はわたしの援けを本気で求めはじめたのか?腰を浮かしかけたわたしを、彼女のひと言が制した。
「優志さんにばれちゃったら、ぜんぶおしまいなんだわ!」
そうだ、いま出て行ったら、すべてはおしまいになりかねない。
良家の令嬢との夢のような婚約も、高雅なほほ笑みに包まれた交際の日々も、瞬時に終わってしまうのだ――

圧しつけられた強引な唇に、怜子さんの唇が応えはじめたとき、わたしはわたしをわななかせているものの正体を知った。
それは、嫌悪感、屈辱感、敗北感、無力感に裏打ちされた、「歓び」だった――

「優志さん、ごめんなさい、ごめんなさい」
ベッドのうえに抑えつけられ、ブラウスをはだけられながら、怜子さんは目に涙を浮かべながらも男を拒みつづけた。
それがうわべだけの拒絶だったとしても、婚約者たるわたしは満足しなければいけないと思った。
怜子さんがわたしの名前を口にするのは、痴情の相手をそそるために過ぎないのだと、今や確信していたけれど、
その言葉にほんの少しの真情が存在することもまた、認めないわけにはいかなかった。
「私、淫らな女になっちゃう・・・」
涙声の怜子さんは、それでも男の侵入を拒みながらも許しつづける。
度重なる接吻を積極的に受け止め、
あらわになった乳房を吸われると身を仰け反らせて反応し、
ふくらはぎへのしつような口づけが黒のストッキングをくしゃくしゃにしてゆくのを、面白そうに見つめつづけた。
結納帰りの装いもろとも凌辱される婚約者を、わたしはただ息を詰めて見つめつづけた。
不覚にも、股間の昂ぶりを抑えることができなかった。

長いこと睦み合ったものの、狎れ合ったセックスだったに違いない。
けれどもわたしの目には、婚約者が純潔を散らしてゆく光景としか映らなかった。
それくらい、ふたりのまぐわいは色濃くわたしの網膜に灼(や)きついていったのだ。
狎れあったカップルのはずなのに。
怜子さんは終始、ぎこちない応対を続け、
身体を合わせてくる男を、うわべだけにせよ拒みつづけた。
まるで、わたしの視られているのを意識しているかのようだった。
わたしへの礼節を守ろうとしていたのか、
わたしを引き合いにして情夫をそそらせつづけるためだけだったのか、
いまでもよくわからない。



数日後、独りで盛り場を歩いていた時だった。
酒でも飲まないと、やっていられなかった。
周りの連中は、わたしの幸運な婚約をやっかみ半分にからかって、途中までは相手になってくれた。
けれども、もう一軒、もう一軒と帰宅を遅らせるわたしにあきれたように、周りからは誰もいなくなっていった。
「やあ」
親し気に声をかけてきた男に、わたしはぎくりとして立ちすくんだ。
あのときのホテルの男だった。
「視ちゃったよね?」
あけ広げな笑みに、わたしは隠すことを断念した。
「一杯飲もう、おごるよ」
男は気前よく、そういった。

怜子は俺の従妹でね、中学のころから俺とああいう関係になっていた。
けれども血の濃くなる結婚に、どちらの親も反対だった。
だが、怜子が結婚するまでの間、怜子が俺と付き合うのを、どちらの親も黙認してくれた。
血が濃い分、相性が近かったんだろうな。無理に引き離すのは良くないと思ったんだろう。
でもまさか、ここまで続くなんて、どちらの親も、俺たちさえも思っていなかった。
そこで景子夫人――怜子の母親――は、身近でみつけたあんたを花婿候補に選んだ。
怜子はあんたのことも、かなり好きだよ。そこは保証していい。
だからあんたは、予定通り怜子と結婚すればいい。
ところで相談なんだが――結婚した後も時々、怜子と逢わせてくれないか?
あんたもあの部屋でけっこうノッっていたみたいだし、
よかったら、逢うときを予告してもいい。
あんたはあとから隣の部屋に入って、気の済むまで見物していったら良いだろう。
それからね、怜子はあんたに視られていたのを知ってるから。
ふだんはもっと大胆なのに、さすがにあんたに視られていると意識していたからか、いつになくよそよそしかったな。
付き合い始めたころを思い出しちゃった。
あのころ怜子はまだ女学生だった。
紺色のセーラー服を押し倒して、黒のストッキングをずり降ろしてね・・・たまらなかったな、あのころは。
妻の浮気を視るのは恥ずべきことかもしれないけれど、そのときは俺に脅されたと思えばいい。
あんたの奥さんの過去をばらすといわれたら、たいがいのご亭主はいうことを聞くもんな。


男の言いぐさは勝手だと思ったけれど。
わたしは予定通り、怜子さんと挙式をあげた。
周囲に羨まれながらも、わたしは時折落ち着かない気分を味わう羽目になる。
彼は約束どおり、「その時」を予告してきた。
新妻となった怜子さんはそのたびに「ちょっと出てきます」と、言いにくそうに告げて、
礼装に着飾ってひっそりと新居をあとにする。
わたしは息も詰まる想いで、時をおいて彼女を追いかけ、
路地裏のあのうらぶれたラブホテルの隣室へとしけ込んでいく。
「優志さん、ごめんなさい、ごめんなさい」
うわべだけでも、怜子は男を拒みつづけて、わたしの名前を口にして謝罪をつづける。
それが怜子さんの貞節の証しなのだと、男はいった。
たぶんきっと、そうなのだろう。
それまでのふたりのあいだには、夫であるわたしという別の男性は存在しなかったのだから。

盛り場でいっしょに飲んだ時、わたしは男に告げた。
今夜はあなたの気前良さに敬意を表するけれど、口で言ったとおり、わたしの名誉にも敬意を表してほしい。
そうするならば、わたしは貴男の脅迫を受け入れて、怜子さんを差し出しましょう。
その代わり――
怜子さんの純潔は、新妻の貞節は、わたしから貴男へのプレゼントということにしてもらえまいか?
そして貴男はその返礼として、あの下品なラブホテルのベッドのうえで、わたしの名誉をいくらでも辱めていただけまいか?

男はにんまりと笑ってわたしの提案を容れ、
寝取る情夫と寝取られる夫とは、恥ずべき握手を密かに交し合った。

洗脳。

2019年02月26日(Tue) 07:56:31

空色のブラウスを赤黒い血に浸しながら、彼女はぼくの目のまえ、吸血鬼に咬まれつづけた。
それがたんなる養分の摂取から、愛情表現に変わるのに、さして時間はかからなかった。
ぼくは歯噛みをしながら、自分の恋人が吸血鬼の奴隷にされてしまうのを見守るばかり――
先に咬まれたぼくはすっかり血を抜き取られ、やめさせる力は残されていなかった。
短パンの下に履いていたライン入りのハイソックスが血に浸された足許を彼女は盗み見ると、
自分の履いている紺のハイソックスも、惜しげもなく咬ませていった。
たんなる養分の摂取が、愛情表現に塗り替わったのに気がついた彼女は、
ぼくだけに許したはずの口づけを重ねて、
ぼくにさえ許していないはずのスカートの奥にまで、逞しくむき出された腰を、受け容れてゆく――
初めての痛みに歪む口許からこぼれる歯の白さを、ぼくはきっと忘れない。

吸血鬼は、ぼくと彼女の仲を尊重してくれたので、
ぼくたちは交際を重ねて、結婚をした。
いまはもう、ぼくたちの頭のなかは、すり替えられてしまっている。
彼女はぼくのまえで彼に奪われたのを誇りに思い、
ふたりの男に愛されることを歓びとした。
ぼくは彼女の前で手本を見せるため、先に咬まれた。
大切な親友である彼に、
うら若い乙女の生き血を得させるために。
ぼくの未来の花嫁の、純潔を得させるために。


あとがき
養分の摂取から愛情表現へ。
強奪から、納得づくのプレゼントへ。
吸血鬼は人への認識を改めて、彼らを末永いパートナーに選ぶ。
そして、選ばれた人の記憶は、3人の心の平安のために、都合よく塗り替えられてゆく。

悩み。

2018年09月06日(Thu) 08:00:53

ぼくには吸血鬼の幼馴染がいます。
中学生のころから、血を吸わるようになって、
社会人になったいまでも時々家まで訪ねていっては血を分けてあげている間柄です。

お互い適齢期になりましたが、彼にはお嫁さんになってくれる女性がいません。
彼は処女の生き血を吸いたがっているのですが、
血を吸わせてくれる若い女性がなかなか見つからないのです。
一方で、ぼくには彼女ができて、来年の春には結婚の予定です。
それで、処女の生き血を欲しがっている彼のために、自分の彼女を紹介してあげることにしました。

彼女の名前はキヨミさん、22歳のOLです。
ぼくはキヨミさんに事情を話して、親友の彼に処女の生き血を吸わせてあげたいと頼みました。
彼女はこころよく引き受けてくれて、3人で会うことになりました。
未来の妻になる彼女を連れて、親友の家に遊びに行ったのです。

彼はぼくの彼女の首すじを咬むのを遠慮たので、脚から血を吸うことになりました。
ストッキングが破れてしまうことを気にする彼女に、それが彼の好みだと告げると、
それなら仕方ないわね、と納得してくれました。
彼がキヨミさんの足許に唇を吸いつけて、キヨミさんの履いているストッキングを破りながら吸血する光景を、
ぼくはなぜかゾクゾク昂奮を感じながら見守ってしまいました。

キヨミさんは、時々なら彼と逢っても良いと言ってくれました。
ストッキングを破かれた以外は、とても紳士的だったとも言いました。
ただしぼくが必ず同席するという条件付きでした。
彼はもちろん、ぼくもキヨミさんの好意に感謝しました。

けれどもぼくは、キヨミさんにたいせつなことをひとつ、告げていません。
彼はセックス経験のあるご婦人から吸血するときには、必ず性的関係を結ぶ習性をもっているのです。
ぼくとキヨミさんとの結婚を、彼は心から祝ってくれています。
けれども、これからも彼をキヨミさんと逢わせると、いったいどういうことになってしまうのでしょうか。

キヨミさんは、ぼくの同席が絶対条件だといっています。
ぼくは彼とキヨミさんがどんなふうになってしまうのか、さいごまで見届けなければならない義務を負ことになりそうです・・・

思い出。

2017年09月15日(Fri) 07:06:01

まぁ・・・いい想い出だったかも。
修学旅行先で迷子になって、吸血鬼の棲む村にアベックで迷い込んで、
いっしょに咬まれてしまったたか子ちゃんは、そんなふうにうそぶいた。
不敵な横顔が、妙に頼もしかった。
制服のスカートの下、血に濡れた真っ白なハイソックスが、妙に眩しかった。

いい思い出ってことにしとこうよ。
新婚旅行先はどうしてもあの村だと言い張った、たか子さん。
案の定、新婚初夜は彼らにも祝われてしまった。
処女の生き血を吸い取られ、ぼくの視ている前で、初めて女にされて。
それでもたか子さんは満足そうで、
これ見よがしに、わざと悩ましい声を、ぶきっちょにあげていた。
なかばはぎ取られたよそ行きのスーツのすそから覗く太ももをよぎるストッキングの伝線が、妙にエロチックだった。

ゴメン、思い出だけじゃ、すまなかったみたい。
結婚一年で発覚した、たか子の“お里帰り”。
いちど吸血鬼に咬まれた女性は、その場所をじぶんの故郷なのだと植えつけられて、
遠く離れた街にいても、彼らの誘いを拒めなくなるという。
意思の強い彼女でさえ、例外ではなかった。
ぼくは思い切って、口にする。
夫婦で此処に住もう。きみのことを思い出にしたくないから と。
犯されるきみのあで姿を、ぼくの思い出にしても構わないから と。
ぼくにとってもエロチックで、愉しい思い出になりそうだから と。

気がつけば、周囲には、降り注ぐ拍手。
こうしてぼくは、新妻の夜這いをゆるす寛大な夫の役にハマり込んでいった。

いまはまだ、それで良いのですが・・・

2017年08月27日(Sun) 07:38:55

子どものころから慣れ親しんでいる、吸血鬼の小父さんがいます。
いつのころか咬まれるようになって、いまでは週2,3回は会って、血を吸わせてあげています。
ぼくと小父さんの関係は、両親も認める仲です。
特に母は、父に勧められるまま小父さんと週2~3回は会っています。
セックス経験のある女の人が血を吸われると、性行為まで迫られる・・・というルールを知ったのは、年ごろになってからのことでした。
でも母は小父さんと交際していることを誇りに思っていますし、父もそんな二人をを暖かく見守っているようです。

この間、ぼくには彼女ができました。
相手は、幼なじみのヨシ子さんです。
彼女とは、たぶん結婚すると思っています。
お互いの両親も、ぼくたちの仲を認めてくれています。
子どものころ、ぼくは小父さんに約束をしました。
「ぼくに彼女ができたなら、父がそうしているみたいに、彼女のことを小父さんに紹介してあげる」って。
そのことが気になって、ぼくはヨシ子さんに相談しました。
「ぼくには子供のころから仲良くしている吸血鬼がいて、いつも血を吸わせてあげている。ヨシ子さんの血も、吸ってもらいたいと思っている」って。
ヨシ子さんはこころよくぼくの希望をかなえてくれました。
二人で小父さんに会いに行って、さいしょにぼくがお手本で咬まれて、
そのあとヨシ子さんもぼくと同じようにして、首すじや脚を咬まれたのでした。
セーラー服姿のヨシ子さんが小父さんに抱きすくめられて首すじを咬まれたり、
真っ白なハイソックスを履いたふくらはぎを咬まれたりしているのを視ているうちに、
なんだかゾクゾクとした、落ち着かない気分になってしまいました。
ヨシ子さんの白いハイソックスにバラ色のシミが拡がってゆくのが、なんともいえず毒々しくて・・・
それ以来、ぼくはいつも彼女を連れて、二人ながら血を吸わせてあげるようになったのです。

でもさいきん、あたりまえのことに気づいて、ハタと当惑しています。
いまはそれで良いのですが・・・
小父さんがセックス経験のある女性を相手にするときには、性行為まで迫るはず。
そしてきっと、それがぼくのお嫁さんであっても、例外ではなくそうするはずですから。
ぼくが当惑しているのは、それだけではありません。
そうなることと知りながら、ぼくは結婚後のヨシ子さんが小父さんに会って犯されてしまう光景を想像して、ゾクゾク昂ってしまうことなのです。
白いハイソックスの脚を咬まれながら、ヨシ子さんが恥じらっているのを視てさえ昂奮するぼくです。
新妻のスーツ姿を抱きすくめられて、なまめかしいストッキングで装ったふくらはぎを冒されるのを見たら、もっとドキドキしてしまうことでしょう。
夫として、妻の身を守らないでどうするのだ?という気持ちも、むろんあります。
でもきっと、やはりぼくは、子どものころから慣れ親しんだ小父さんが悦んでくれるように奉仕することを選んでしまうことでしょう。
ヨシ子さんは、そういう遠くない未来に起こるいびつな関係を、とっくに意識しているみたいです。
「タカトくんのお嫁さんになっても、襲われちゃうんですよね?」
「いやだ~、夫ある身で生き血を吸い取られちゃなんて♪」
などと冗談ごかしに口にするのも、
小父さんばかりではなくぼくのことまでそそる意図で言っているに違いありません。
そして、二人して若い生き血をたっぷりと吸い取られた後、家路をたどる道すがら、
ヨシ子さんはぼくをふり返って、爽やかに笑いながら言うのです。
「あたしがまちがえちゃっても、タカトくんは責任取ってくれるわよね?」
って。

「いいとこをみんな持っていかれる」と、ひとは言うけれど・・・

2017年08月23日(Wed) 07:33:36

会社の同期、島原郁代は、ぼくの婚約者――
彼女が社長室に呼ばれた・・・と聞いたみんながヒソヒソ声で、それでいてぼくに聞こえよがしに囁いている。

「聞いたかよ?島原が社長室に呼ばれたって」
「ウチの社長、女子社員が結婚すると初夜権を行使するんだろ?」
「初夜権・・・って、何?」
「知らねーの?花婿より先に、花嫁を姦っちゃう権利のことだよ」
「うそー。今でもそんなのあるの?」
「ウチの会社、体質が古いからな」
「あぁ~、郁代ちゃん姦られちゃうんだ!花町のやつ、それ知ってんの?」
「あらかじめ聞かされてんじゃない?因果を含められて、社長に婚約者の処女を進呈・・・」
「それ、なんだかいいね・・・ウフフ・・・」

社長に申し渡されたのは、きのうのこと。
「結婚おめでとう。
 わかっていると思うが、 わが社の社則で社員同士の結婚の際は
 女子社員に社長から特別の贈り物がある――わしの精液だ。
 きみは終始、知らん顔しているんだぞ。
 みんなもそうするのが、社内のルールになっているんだからな」

「花町さん、社長がお呼びです」
秘書室の桜貝姫子がぼくのところにきてそういうと、みんながいっせいに、ぼくのほうを見た。
背中越しに、ヒソヒソ声がした。
「いよいよクライマックスか・・・あいつ、社長と花嫁が姦ってるところ、見せつけられるんだぞ~」
「結婚後も社長の気が向いたら呼び出して、新妻を餌食にするんだってさ」
「給料を稼ぐために働く旦那の隣室で、嫁は婚外セックス・・・すげぇ」
「かわいそ~。いいとこ全部持ってかれるんじゃん」

さいごのひと言が、ぼくの胸を刺した。「いいとこ全部持っていかれる」

でも・・・
じつはいいとこを味わうのは、社長だけではないのだ。
社長との愛人契約にサインさせられた郁代は、いまごろ社長室で迫られてる真っ最中のはず。
そして僕は、同僚たちの予測(期待?)どおり、社長室に入ると秘書の桜貝にぐるぐる巻きに縛られて、
郁代が処女を奪われるところを見せつけられる――
でもそれは・・・
ぼくが心の奥底で切望していた光景なのだから。

花嫁の処女を勝ち得るのが花婿の権利のはずだけれど。
花嫁が処女を奪われるのを目の当たりにするのは、ぼくみたいなマゾ男の願望。
社長はいま、ぼくの願いをかなえてくれようとしている・・・

婚前交渉

2017年05月18日(Thu) 07:49:54

婚約者の血を吸われるのって、ドキドキするよな。
デートの帰りに2人ながら襲われたのが、さいしょなんだ。
意識がもーろーとなったボクのまえで彼女が生き血を吸い取られて、
さいしょは痛そうに顔をしかめているのが、みるみるうちにウットリしてきて。

まだ処女のようだから犯さないって言いながら。
ストッキングを穿いた脚を咬むときの唇の這わせ方が、すごくいやらしかったんだ。

犯さない代わりに、時々処女の生き血を吸わせてほしいって、せがまれて。
思わず彼女と目を見合わせて。
彼女がなぜか、ウンと肯いて。
ボクもそれにつられて、ウンと肯いちゃっていた。

それからは。
デート帰りに、初めて襲われたのと同じ場所で。
ボクたちは代わる代わる、ヤツに咬まれるようになっていた。
意識がもーろーとなって尻もちをついたボクの前。
ウットリしながら血を吸い取られてゆく彼女の横顔に、なぜかドキドキと胸を震わせていた。

今ではたまに、ボクには内緒で2人きりで逢っているらしい。
でも、2人の間に芽ばえたそんな妖しい習慣を、ボクは咎めることもできないで。
あとを尾(つ)けていっては独りのぞき見をしながら、ウットリし合っている2人の横顔に、なぜかドキドキと胸を震わせているんだから。


あとがき
婚約者の純潔を吸血鬼に譲り渡してしまった彼にとっては、これが形を変えた婚前交渉なのかもしれません。

ホテルに消えてゆく、婚約者の後ろ姿。

2017年02月23日(Thu) 06:59:42

来月結婚するはずだった瑠美子さんが、ぼく以外の男といっしょに、ホテルのなかへと消えてゆく。
セミロングの黒髪をかすかに揺らし、淑やかな雰囲気のロングスカートを風にたなびかせて、
肌色のストッキングと白のパンプスで装った足取りは、意外なくらいまっすぐに、
ホテルのなかへと消えてゆく。
相手の男は、ぼくが幼いころから慣れ親しんだ、吸血鬼の小父さん。
「すまない、瑠美子さんの血を吸ってしまった」
絶句するぼくの前。
羞ずかしそうにうつむく瑠美子さんの前。
小父さんもちょっぴりだけすまなさそうに、表情を翳らせた。
「私は別れたくないけど・・・いまでもあなたのこと愛してるけど・・・タカシさんが厭だったら私と別れて」
そんなこと。結納も済んだ後に言われて、どう振る舞えばよいのだろう?

瑠美子さんがぼくと一生添い遂げる覚悟をしていることに変わりがないのを確かめたうえで、
ぼくは式の日取りを三か月だけ、引き伸ばすことにした。
――小父さんに少しでも長く、瑠美子さんが処女のまま血を吸わせてあげるために。

人目を忍ぶ逢瀬とはいえ、意味はふつうの男女のそれと違っている。
真っ昼間の公園で、若い娘が吸血鬼に首すじを咬まれて血を流していたら、
だれでもびっくりしてしまうだろう。
それに――小父さんは処女の生き血を最も、好んでいた。
もっとも、既婚の女性の生き血を吸うことも、ぼくははっきりと知っている――母の記憶を通して・・・

2時間後。
瑠美子さんは小父さんに伴われて、ホテルのロビーから姿を現す。
悪びれることなく、いつも淑やかな彼女らしくない、おおらかな笑いを泛べて、
活き活きとした足取りで、ぼくのほうへと歩み寄って来る。
「お待たせ。行こ」
セミロングの黒髪をふさふさと揺らし、白い歯までみせて、
瑠美子さんは何事もなかったように、ぼくに朗らかな声を向ける。
ぼくは小父さんに見せびらかすように彼女と腕を組み、
小父さんとはひと言も言葉を交わさずに、きびすを返してゆく。
朗らかに笑う瑠美子さんの横顔は、いつもと変わらないみずみずしさをたたえていたけれど。
首すじにつけられた咬み痕に浮いたかすかな血潮と、
ふくらはぎの上、ストッキングにひと筋太く走る裂け目とが、
交々に、ぼくの網膜を悩ませた。

式を挙げてしまったあと。
「きみたちには小さな子が要りようだから」
そう言い残して、小父さんはぼく達新婚夫婦のまえから姿を消した。
それから十数年、当たり障りのない日々を経て――
目許にすこしだけ小じわが浮いた瑠美子さんは、昔と変わらない黒い瞳を輝かせて、
整った目鼻だち、淑やかな振る舞いも若い日のままに、
若作りかも知れないけれどよく似合うピンクのブラウスにロングスカート。
足許を染める、グレーのストッキング。
「じゃあね」
と、いつもの無邪気な声色を残して、
初々しい装いのまま、小父さんに伴われて、ホテルのロビーへと消えてゆく。

密室のなかでくり広げられるのは、
週に2~3回はくり返される、当家と彼との間の懇親の儀式。
良妻賢母のかがみのような、一家の主婦が。
そのときだけは、娼婦に変わる。

ホテルのなかで起きたことが、夫婦の間で話題になることは、決してない。
彼について瑠美子さんが声を開くのは、
年ごろになった娘を、いつ小父さまに逢わせるか――
「真奈美の初体験は、あのひとにあげたいな。私の代わりに」
そんなことをさりげなく口にして、
どきりとして固まったぼくから、さりげなく目線をはずしてゆく。

純白のドレスの追憶

2017年01月24日(Tue) 07:35:52

もう、大昔のことだけれど。
あたしが青春時代を過ごしたのは、ヨーロッパの某国の宮廷社会。
そこではね、処女の子は純白のドレスを着て、社交界デビューするの。
あたしもそうしたなかの、ひとりだった。
子爵令嬢だったのよ。
母はとても美人で、宮廷でも浮き名を流したひとだったから。
あたしが深窓でそだれられているうちから、まだあたしのことを見もしない殿方がわれもわれもと、求婚を殺到させたの。
それで、17でデビューすることになったのよ。
父はきれいに着飾ったあたしのことを、遠くから心配そうに見つめていたわ。
きっと、娘に悪い虫がつきやしないかと、気になったのね。
でも、結果はもっと、悪い虫がついてしまったの。

そう。
初めて人前で、細い肩をまる見えにさせて、
そらぞらしい外気と、騒々しい喧騒と、昂るようなシャンデリアの眩きの下、
あたしは夢中になってた。
いつの間にか黒い影が傍らから寄り添って、周囲の視界からあたしのことを遮っていったのも、うかつにも気づかずにいた。
それは、処女がもっとも忌むべき相手だったわ。吸血鬼だったの。
たしかに、そう――伯爵と名乗っていらしたわ。
そのかたはあたしを、廊下に呼び出して。廊下の隅の小部屋に引き入れて。
ドキドキするような冷たい瞳を輝かせて、
お互いの瞳を吸い取るように見つめ合って、
顔と顔とを、近寄せあっていた。
その瞬間まで、若い殿方と思っていたその人が、じつは老いさらばえた老人だとわかったときには、
唇と唇とが、触れ合いそうなほど顔を近寄せあっていた。
唇で受け止めようとした唇は、あたしの肩先に這わされて、
チクリ――と、冷たい感触を、あたしの薄い皮膚に滲ませてきた。
ググッと突き入れられる疼痛と、それに応じるようにあふれ出る鮮血のぬくもり――
あたしはそのまま陶然となって、生き血を吸い取らせてしまっていたの。

きっと、気前の良い子だと思ったことでしょう。
その夜その小部屋から出ることのできぬまま、
あたしは身体じゅうの血を、一滴あまさず、そのかたに差し上げてしまったの。
冷たく横たわるあたしを目にして嘆いた両親は、その翌晩にはもう、
あたしと、あたしの血を吸ったあの方との毒牙にかかって、こちらの世界に移り住んでくれていた。
ね?わかるでしょ。
この病はね、伝染するの。
あなたもあたしを視てしまったということは――もう伝染(うつ)っちゃっているわね。

え?ヨーロッパの宮廷に憧れるんですって?
純白のドレスにも憧れるんですって?
もっとそのころのことを教えてほしい。勉強したい、ですって?
そうね。あなたもいま、純白のドレスを着ているものね。
かわいいわ。あなた。ドレスもとっても、よく似合っている。
でも、ダメよ。見逃してあげることはできないわ。気の毒だけど。
あなた、ここであたしに血を吸われて、肌を透きとおらせてしまなければいけないのだから。
そうよ。一滴余さず、味わってあげる。

若いひとの生き血にありつけるのって、なん十年ぶりかしら。
そう、あなたのお父様・お母様のお若いころ以来だわ。
そのころはまだ、ストッキングを穿いた若いお嬢さんが、ふつうにいらしたけれど。
いまの若いひとって、ストッキング穿かないのね。つまらない。
でも、正装するときにはさすがに、脚に通すことになっているようね。
あとであなたが気を喪ったら。
純白のドレスのすそを、腰まで引きずりあげて、
ピンク色に透きとおる脚から、純白のストッキングを咬み破いてあげる。
びりびり、ブチブチ・・・ッて、思い切り見苦しく。はしたなく。ふしだらに!
ウフフ。
そんな仕打ちを受けてもあなた、気づかないのよ。もう、気づけないのよ。
だって。
そのときにはもう、あたしの奴隷になって、白目を剥いて気絶しちゃっているんだもの。
でも・・・そこは選ばせてあげてもいいかな。あなた、かわいいから♪
正気のまま生き血を吸い取られ、花嫁衣裳を辱めてもらいたい?
そんなふうにして、生きながら血を吸い取られて、あたしの奴隷に堕ちていきたい?
それも、楽しそうね。そうね、きっと楽しいわ。
結婚を控えているから、やめてください、ですって?
甘いわ、あなた。
だから、妬ましいの。だから、憎らしいの。
あたしだって。あたしだって。17で吸われたのよ。
恋の楽しみも、キスの快楽も知らないで。
だからあなたにも、そうしてあげる。
ね?あなたの若さで、あたしのことを慰めて。
たったひと晩で、かまわないから。
つぎの日の夜は、あなたのお通夜になるわ。
みんな黒のストッキングを穿いて、若くして亡くなったあなたのことを悼むの。
どう?嬉しい想像でしょ?いまから、ゾクゾクするでしょ?あたしに血を吸い取られたくって、たまらなくなって。
じゃあ、そろそろいただくわ。
美味しく、美味しく、いただくわ。
怨むなら、百年以上まえにあたしのことを襲ったあのひとのことを怨んで。
あたしは、あなたに恋しただけ。
だから、あなたの若い血を、身体じゅうに宿してあげる。
人生初めてのキスを、女のあたしから・・・・・・。

ちゅうっ。

――目が覚めたとき、枕元に置かれた手鏡に映した私の首のつけ根に、赤黒い歯型がありありとついていた。
きょうは、お見合いの日。
ああ、血が欲しい。うら若い女の血が欲しい。
きょうのお見合いの相手には、きれいなお母様と年頃の妹さんがいるという。
どこにお連れすればいいの?
命令してください。お姉さま・・・

情夫つきの婚約者

2017年01月11日(Wed) 07:59:22

お見合いの席で、彼女は言った。
「私、もう処女じゃないんです。
ちゃんと男がいるんです。
結婚してもたぶん、その人とのお付き合いを続けると思います。
そんな女と、結婚したいとは思いませんよね?
この縁談。できれば貴男のほうから、お断りになってください」
お見合い写真に添えられた佐知子という彼女の名前は、
清楚な面差しをたたえる顔写真と良くマッチしていたけれど。
彼女の告げた穏やかならざる告白もまた、容貌との落差とは裏腹に、
その繊細な目鼻立ちと不思議にしっくりと重なっていた。
僕は言った。
「もしかして、お相手の男性は吸血鬼ではないですか?」
彼女は驚きに、目を見開いた。
ふつうの人には見えないといわれる首すじの咬み痕が、僕にははっきりと見えたのだから。

「友だちに、吸血鬼がいるんです。
子供のころから面白半分に血を吸わせてやっていて、
“お前が結婚するときには、お嫁さん紹介してくれ。できれば処女の生き血を吸いたいな”
なんて、言われているんです。
友だちの嫁さんのほとんどは、あいつの餌食になっているんですよ。
だから僕もたぶん、あいつにやられちゃうんだろうなあと思っていて、
それでつい、結婚が遅れてしまっているんです。
ああ、でも、もしも僕たちが結婚したら、貴女の彼氏と、僕の友だちと、吸血鬼同士で競争になっちゃいますね」
「だいじょうぶだと思います。あの人たち、仲間どうしでけんかはしないことになっているみたいだから」
よどみなくそう応える彼女に、僕は同じ種類のマイノリティ同士が感じるような共感を覚えた。
お相手の吸血鬼氏に、逢わせてもらえませんか・・・?という僕の問いに、彼女はちょっと嬉しそうに頷き返した。

想像した通り、彼女のお相手は、彼女のお父さんよりも年上の、老紳士だった。
初対面のときの彼女がみせた穏やかな雰囲気が、彼女を支配している男の気配をそれとなく、にじませていたのだ。
老紳士を前に、僕は自分でも思いがけないことを口にした。
「SМが本当に好きという人は、パートナーに縄をかけるときも丁寧に縛るそうですね」
思わず口を突いて出たそんなぶしつけな言葉を、紳士は穏やかに受け止めてくれた。
「あなたは適切な表現をよくご存知ですね」
私どもはSМはやりませんが、吸血行為というのは、それに近いものなのかもしれません。
もちろん、栄養の摂取という切実な部分もあるけれど。
私たちはしばしば、純粋な愉しみとして、パートナーの血を吸いますからね。
紳士はそうつけ加えた。
たしかにそうだろう。彼らはSで、僕らはMだ。
そして、SとMとは、またとない取り合わせで、ウマが合う。
僕はつづけて言った。
「彼女が一生独身でいることを、貴男は望んでいらっしゃるのですか」
「そんなことはない。彼女には、ぜひ幸せな結婚をしてほしいと望んでいる。
 けれども彼女のほうが、頑として拒んでいるんだ。
 私との関係が知れてしまって、それで平気でいる夫はいないだろうと。
 彼女のお母さんは、離婚歴があるんだ。
 お母さんもわしに血を恵んでくれていて、それが最初のご夫君にばれてしまったのでね。
 いまのご主人は、わしらにも理解のあるお人だから、ご主人もわしと仲良くしてくださるのだよ」
母親にできることが、娘さんにも可能だと良いのだが・・・
吸血鬼という陰にこもった役柄とは裏腹に、少なくとも表向きだけは地震を肯定的に生きているようにみえたその老人は、
初めて悩ましい表情を泛べた。
まるで、まな娘の行く末を案じる年老いた父親のように、僕の目には映った。
相手は吸血鬼で、僕自身もその身に血を宿した人間。
なのに相手は獣にはならずに、こうして会話が成立している。
このひとは、僕の友だちと同じ種類の存在だ。僕ははっきりと、そう感じた。
「ほかの吸血鬼と対象が被った場合、どうしているのですか」
紳士はにっこり笑って言った。
「わしらは仲間うちでは争わない。代わりばんこにやるよ」

彼女とは、輪姦の場で知り合ったらしい。
詳しくは話してくれなかったが、用心深い良家の娘がふと見せた隙に巧みにつけ入って、
初心だったころの佐知子さんのことを、仲間数人で分かち合ったらしい。
それでもそのなかでは、彼がまっさきに彼女のスカートの中に手を入れたのだ、と、誇らしげに語り、
彼女は紳士の隣で、そんな子供じみた自慢話を、くすぐったそうな含み笑いを泛べて聞いている。
初体験の記憶から、悪しき感情はすべて消し去ることができているのだろう。
図に乗った彼は、さいしょに娘をいただいて、それから母親を狙ったのだという。
「だって、娘の血が旨ければ、当然母親にも興味を持つものだろう?」
紳士の大真面目な言いぐさに、僕は思わず吹き出してしまったが、そんな非礼を紳士は笑って受け流してくれる。
「でも、ご主人はそんな関係を許してくれなかったんですね?」
「そうだったね。本当に残念だった。相手の女を離婚させてしまうのは、吸血鬼としては失格なのだ」
そんな理屈、初めて聞いた。
けれども彼がその離婚を心から悔いているのは、態度を見てわかった。
「ま、いまのご主人にめぐり会えて彼女は幸せになったのだから、それはそれでよいとしているし・・・」
紳士はちょっと含み笑いをして、それから言った。
「もっと嬉しかったのは、前のご主人が前非を悔いて、わしのところにやって来て、再婚相手を紹介してくれたことかな」
前妻を幸せにしてくれたお礼と、わしと後悔をさせたおわびをしたいから、喉が渇いたときにはうちに来てくれと誘われたというのだ。
「もちろん、ありがたく頂戴した。ご主人のまえでね」
佐知子さんがさすがに、「かわいそうだわ、お父さん」と言うと(そう、彼女の実の父親のことなのだから)
「そんなことはない。わしが新しい奥方がはしたない声をあげるまで放さなかったら、
ファインプレーだとほめて下さったんだぞ」
老吸血鬼は、娘より若い佐知子さんに向かって、まるで子供が意地を張るような態度で言い張ったけれど。
さりげなく使われた敬語にも、妻を二人までも寝取った相手に対する敬意と親しみが滲んでいた。
それにしても、「前非」なのだな、と、僕は思った。
「あのときは逆らってしまって、悪かったね」
佐知子さんのお父さんは、そんなふうに言って、前妻を征服した彼の旧悪を、自分の前非にすり替えていったのだろうか。
彼の老吸血鬼に対する態度が、僕の未来と重なったような気がした。
僕は覚悟を決めて、口を開いた。
もっともそんな構えをする以前に、言葉のほうがなにかに引き寄せられるように、するすると出た。

「彼女との結婚を望んでいます。
彼女は貴男との交際を続けることを希望していますが、僕はかなえてあげようと思います。
貴男が信用できる男性だと感じたからです。
僕の新妻を支配する権利を、貴男に差し上げます。
未来の坂上夫人の純潔を勝ち得た男性に対して、敬意を払いたいのです」
感に堪えたような佐知子さんの視線を頬に感じながら、僕はつづけた。
「でも、お願いがあるんです。僕には子供のころから血を吸わせている親しい友だちがいます。
 たぶん彼も、僕の妻となる女性の血を欲しがると思います。
 佐知子さんに彼を近づけることを、許してください。
 貴女にも――僕の幼なじみのことを、好きになってもらいたい」
「きみは友だち思いなんだね」
老紳士は目を細めた。
「きみのお友だちの身になれば、いまのきみの言葉がどれほど嬉しいことか・・・同じ吸血鬼として、きみの態度に感謝する」
彼は自分自身の独占欲よりも、同族の幸せを優先する男らしい。
吸血鬼になる前には、彼自身自分の血を吸った相手に、妻を差し出したのではないか?ふとそんな想像が、頭をよぎる。
「わしより若いとなると、食欲も旺盛だぞ。だいじょうぶかな?」
老紳士はまな娘をからかう老父のような目をして、彼女にいった。
「セックスもタフかも知れない・・・」
そう言いかけてあわてて口をふさいだ彼女を前に、男ふたりは声を合わせて笑った。
「どうやらきみとは、仲良くやっていけそうだ」
紳士は僕の肩に手を置いた。
「私もそう感じます・・・それともうひとつだけ」
「なんなりと、言ってごらん」
「彼女のことを、まだ処女だと思いたいのです。
僕の婚約者の佐知子さんを、改めて貴男に紹介します。
彼女の夫として、僕は佐知子さんが坂上家に入る資格があるかどうか、知りたいと思っている。
だから、血を吸うことで彼女の身持ちを確かめて欲しいのです。
佐知子さんが処女だと言ってくださったら、私は貴男に処女の生き血を差し上げたことになります。
そして――僕の未来の花嫁の純潔を、改めて貴男に差し上げたいのです。
吸血鬼の理解者として、最良の贈り物を差し上げたいので。
それから、同じことを僕の友だちにもしてあげるつもりでいるんです」
「きみはなかなか、友だち思いなんだな」
紳士は目をしばたいた。
「その友だちのなかに、どうやらわしも入れてもらっているみたいだね」
もちろんですよ、と、僕はいった。


紳士の棲む街で挙げられた僕たちの婚儀は、盛大なものになった。
もちろん、淫らな意味で。
新婦は新郎のまえ、おおぜいの吸血鬼のために純白のウェディングドレスを精液に浸す羽目になったし、
もの慣れた新婦の母親はもちろんのこと、
もの慣れない新郎の母親までもが、永年守ってきたはずの貞操を、婚礼の引き出物がわりに蹂躙されてしまった。
もっともの慣れないはずの僕の父が意外に泰然としていて、
「よく見ておきなさい。
しっかり者のお母さんのお行儀の悪いところなんて、なかなか見れないんだから」
なんて、僕に耳打ちすると、母が新しい恋人に夢中になれるように、自身は悠然と座を起っていったのだ。
花嫁を寝取られるというある意味最悪の災難を悦びに変換出来る能力は、父の遺伝かも知れないと、初めて思った。
じつは前の晩、あらかじめ呼び寄せられた僕の両親は、次々と紳士の毒牙にかかって献血を強いられていた。
彼の持つ毒液の魔力も相まって、彼と意気投合することのできた父は、その最愛の妻の貞操を、こころよく譲り渡していた。
“免疫”を喪失した母もまた、きゃあきゃあと小娘にたいにはしゃぎながら、しっとりと装った黒留袖を、露骨にたくし上げられてゆく。

父の勤め先の人たちも、なかなかだった。
妻以外の女性に手を出す特権を持てるのは、自分の妻を差し出した男性だけ・・・というルールがすぐに行きわたると、
彼らのうちなん人かは、同伴の夫人が晴れ着姿を着崩れさせて祝いの舞を乱れ舞うことに即座に同意してしまった。
夫たちの同意をいいことに、身持ちの正しい奥方も、そうでない奥方も、いちように手荒にあしらわれ、
首すじを咬まれたあげく、犯されていった。
三人も立て続けに経験してしまうと、たいがいの人妻たちはひと声悩ましいうめきを洩らし、悲鳴を喜悦の嬌声に変えていった。

父の上司と同僚は、かねて母に目をつけていたらしい。
自分の妻の貞操と引き替えに、父が見ている目のまえで、黒留袖を着た母を羽交い絞めにして、襟足から卑猥な掌を差し入れてゆく。
父は、「ごゆっくりどうぞ」と声をかけて、妻の受難を許容する雅量をみせていた。
その場限りというのは怖いもの。
参列者に伴われた良家の夫人の実に半数以上が貞操を喪失し、
その見返りを受けた夫たちは意中の女性の晴れ着をはぎ取り、淫らな祝い酒に酔い痴れていったのだった。

佐知子さんの実父さんも、参列していた。
彼はいまの奥さんのことも紳士に譲り渡していたので、淫らな宴への参列資格はじゅうぶんにあったのだが、あえてそうした輪からは遠ざかっていた。
見返りを求めない態度に、むしろ潔さが漂っている。
「奥さんを二人も、あのひとに差し出したそうですね」
僕が称賛のまなざしを向けると、彼からも同じ種類の視線が返されてきた。
「きみだって、自分のお嫁さんの純潔を、なん度も捧げているそうじゃないか。
こんど、うちの春代もそんなふうにして、彼らにもてなすことにしてみるよ」
彼の足許では、黄色の着物を着込んだいまの奥さんがみんなに転がされていて、
着物の下をはね上げられて豊かな太ももをあらわにしている真っ最中だった。


あとがき
きのうの朝おもいついたお話を、読み直してあっぷしました。
さいしょはタイトル通り佐知子さんがヒロインなのですが、
後半になると花婿のお母さんや佐知子さんのお父さんが大活躍?してしまいました。
(^^ゞ
とくに佐知子さんのお父さんは、べつにお話を創ってみたい気がしています。
期待せずにお待ちください。^^

うちは、献血しているんですよ。

2016年12月06日(Tue) 07:23:56

うちは、献血してるんですよ。
お見合い相手が未来の夫となるまえに口にしたのは、そんな家族の秘密だった。
さりげなくにこやかに言われたので、ふつうの人なら気がつかなかったのかもしれない。
でも、この街で「献血をしている」というほんとうの意味が、

家族ぐるみで、吸血鬼に血を吸われている。

そんな意味なのだとわかるのは、真由がこの街に長く住んでいるからだった。
「私と結婚すると、貴女も血を吸われてしまいますよ」
京太さんはそんなふうにさりげなく、彼女に警告してくれたのだ。
「献血するのは、私だけでもいいんでしょうか?」
思わず訊いた彼女に、京太はいった。
「いま、母が貴女のお母様に、同じような話をしている頃だと思いますよ。

母娘とも、今度のお見合いの首尾不首尾の結論が一致したことをお互いに知ったとき。
母娘のあいだには、共犯の関係が生まれていた。

結納を交わしたその足で、真由は京太に誘われて、
いつも自分の血を吸わせているという吸血鬼の棲む家に連れていかれた。
出迎えた吸血鬼は、総白髪の老紳士だった。
脂ぎったものの抜けきったようすに、真由はなぜか警戒心を忘れていた。
「じゃあ、あとはふたりでごゆっくり」
お見合いの開始のときに親たちがいったのとそっくりな言葉を残して京太が席を立つと、
彼の背中がドアの向こうに隠れるのももどかしそうに、男は真由にすり寄ってきた。
アッ!と思ったときにはもう、抱きすくめられて身動きできなくなっていた。

さっきまでの礼儀正しい紳士の擬態をかなぐり捨てて息荒く迫って来た男は、
真由の首すじを咬むと、
ゴクゴクと音をたてて彼女の生き血を吸いはじめたのだ。
生温かい血潮がブラウスにじっとりとしみ込んでくるのを感じながら。
真由はどこかでこの荒々しい無作法を悦んで受け容れている自分自身に気がついていた。

もしかすると・・・私が処女を捧げる相手は、このひとなのかもしれない。

そんな危険な予感が、真由の心の奥を妖しくよぎる。
彼女のうえにおおいかぶさっている男は、真由の想いを敏感に感じ取ったようだが、
その日は真由にそれ以上の無作法をはたらくことはなかった。
ふたりが身を離したとき、京太がふたたび部屋に戻ってきたが。
老紳士はなにごともなかったかのように振る舞い、
真由もまたなにごともなかったかのように、さっきまでの礼儀正しく初々しい婚約者になり切って、京太に応対していた。

それからは。
三日にいちどは、老紳士の邸を訪れていた。
さいしょは、京太と連れだって。
しかしその後は、京太に黙って訪れる日々がつづいた。
玄関のポーチにスーツ姿で佇む真由は、いつも礼儀正しく頭を垂れて、
そんな彼女を迎え入れる吸血鬼は、真由の手の甲に接吻をして、彼女を部屋に引き入れてゆく。
アップにしたヘアスタイルは、真由の首すじのラインをきわだたせていたけれど、
吸血鬼の寝室に招ばれた彼女は長い髪を解き放って肩に流して、彼の相手をつとめるようになった。
まさに、生き血を吸われる美女の風情だった。

やがてあるとき、婚約者の京太に伴われて邸を訪れた真由は、決定的な刻を受け容れる――
「真由さんの第二の夫に、貴男を択びます」
そう言い残して立ち去ろうとする京太の背中を見送りながら、真由は幾度めかの抱擁を、自分から受け入れていく。
「予感のままにしていいんだよ」
未来の夫が囁き残したそんな言葉に安堵した真由は、
浮気相手まで定められた新婚生活を思い浮かべながら、
ストッキングを引き剥がれた太ももを開き、股間にすべり込む淫らなまさぐりを受け容れてゆく――

ウェディングドレス姿の母

2016年11月24日(Thu) 06:44:04

挙式の2日前のことだった。
婚約者の理佐子を連れて実家にあいさつに行くと、両親は奥の開かずの部屋で、ぼく達を迎えてくれた。
20年以上住み慣れた家なのに、その部屋にぼくは、まだ入ったことがない。
開かずの間の中は、家具のほとんどないだだっ広い洋間で、いちばん奥にベッドがひとつ、しつらえてある。
ぼくが驚いたのは、そのときの両親の服装だった。
まるで自分たちが結婚するみたいに、父はタキシード。母は純白のウェディングドレス。
「ごめんなさいね、理佐子さん。あさっては貴女が着るはずなのに」
そういって恥じらう母は、かつてアルバムで見た両親の挙式のセピア色をした写真と違和感がないくらい、若やいで見える。
ぼくがそれ以上にびっくりしたのは、その後の母の言葉。
「よく見ておいてね。タカシさん。お母さんあなたたちの前で、吸血鬼に抱かれてみせるから」

一家の秘事を未来の息子の嫁の前で軽々と告げた母は、父に一礼すると、
父は窓を開いて、庭先に佇んでいた黒衣の男を招き入れる。
招き入れられた男は、ぼくもよく知っている、父よりもずっと年老いた紳士。
黒衣の男は白一色の衣装の母に迫って、抱きすくめて首すじを咬んだ。
じつはなん度ものぞき見していた、母の秘め事。
理佐子はぼくの隣で、やはりぼう然として、事の成り行きを見守るばかり。
滴る血潮が、母のウェディングドレスにひと筋伝い落た。
それはまるで、母の涙のように見えた。
けれども母は、そんなぼくの想像とは裏腹に、口許に笑みさえ泛べ、男の貪欲な吸血に応えつづけていった。
やがて貧血を起こしてぐったりとなった母を、吸血鬼はベッドのなかに投げ込んで、
ドレスのすそを無造作に引き上げていった。
ぼく達の隣で固唾をのんで見守っていた父は、二人きりにしてやろう、とだけいって、真っ先にきびすを返してゆく。


部屋を出たとき、理佐子が父を呼び止めた。

お義母様、すごいですね。ご立派だと思います。

父はこちらに背中を向けたまま立ち尽くし、つぎのひと言を待っている。
理佐子は父の期待に応えるように、口を開いた。

お義母様、私にお手本を見せてくれたんですね。
私の時もお願いします・・・って、お義母さまにお伝えください。

ぼくのほうを振り向いた彼女は、柔らかな目線をぼくに送ってきた。

タカシくん、ゴメンね。でもタカシくんの家では、これがふつうなんだよね?
だから私、タカシくんの前で、あのひとに抱かれる。
見ててくれるわよね?
お義父さまやお義母さまみたいないい夫婦に、なろうね?

父は理佐子に柔らかに笑いかけ、理佐子もそれにこたえてゆく。
私も妻の新床を、あのひとにプレゼントしたんですよ・・・と、いいながら。

うちの実家、こういうこととはまだ、ご縁がないんです。
でもできたら、母にも経験させてあげたいです。
そのときはみんな、協力してくださいね?

どうやら理佐子は、この家の良き嫁になるようだ。
そして理佐子の父にとっては、悪い娘になるのかも。
お父さん、かわいそうだね――思わずそう口にしてしまったぼくに、理佐子はいう。

たぶん父も、感謝してくれるんじゃないかな?

理佐子の首すじに、紅い咬み痕がふたつ浮いているのに、ぼくは初めて気がついた。
そのときだった。
どす黒い嫉妬と歓びが見事に溶け合って、ぼくの胸の奥を満たしたのは――

嫁としての務め。

2016年11月16日(Wed) 08:13:18

夫の目の前で吸血鬼の支配を受けることで、嫁の務めを果たしている――
そんな自覚がありながらも。
白昼堂々と新居に上がり込んできて身体を求めてくる吸血鬼に、紗栄子はきょうも身を固くしていた。
結婚したら止すって、言ったじゃない!
そんな紗栄子の抗議は、もちろん無視されて。
恥かしい・・・恥ずかしいです・・・っ
そんな紗栄子の訴えに、もちろん耳を貸さないで。
男は紗栄子の服を一枚、一枚、はぎ取ってゆく。
紗栄子が自分との逢瀬のために着こんだ正装だと自覚している態度だった。
そう、新妻なのに、本人の自覚とは、裏腹に。
自分の衣装を、無意識にもてなしてしまっている。
紗栄子はきちんとした服装で吸血鬼との逢瀬に臨み、都会ふうの衣装を惜しげもなく破らせてしまっているのだった。

そんな紗栄子に、出勤したと偽って家に居続けていた達樹は、熱い視線を注いでいる。
紗栄子が嫁の務めを果たしてくれていることに。
嫁の務めを果たすつもりで、吸血鬼の劣情を満足させてしまっていることに。
達樹の嫁でありながら、吸血鬼とのエッチを悦んでしまっていることに。
達樹は、夫としての歓びを自覚しはじめてしまっている。
ボクたち夫婦、どんな夫婦になってしまうのだろう?
一瞬そんな想いも兆したけれど。
父さんだってうまくやっているんだ。
いまごろ父のいない夫婦の寝室で、昔なじみの吸血鬼に抱かれている母のいる母屋を見つめながら、達樹はそう思う。
夫婦ながら奴隷になることと引き替えに、奴隷の歓びを得てしまった。
代々そんなことをくり返しているヘンな家だけど。
ボクはこの、ヘンな家のことが、好きだ――

処女の生き血。人妻の生き血。

2016年11月16日(Wed) 07:53:09

だいじょうぶ。きみが処女のうちだけだよ――
婚約者の達樹は、たしかにそういった。
吸血鬼が好むのは、もっぱら処女の生き血。
それは、紗栄子も決して嫌いではないドラキュラ映画でも、「お約束」になっていた。
だからこそ、達樹にいわれるままに、彼が幼い頃から懐いていたという年上の男に、血を吸わせてしまっていた。

献血だと思って、ガマンして。うちの家系の習慣なんだ。
そうよ、習慣なの。習慣。いまから彼の家の家風に、慣れておくの。
そんなふうに自分に言い聞かせて、彼の見守る前息をつめて、吸血鬼に抱かれていった。

さいしょのうちこそ、戸惑ってしまったけれど。
やがて、夢中になっていた。恥を忘れてしまうくらい。
彼の目の前で脚を吸われて、穿いているストッキングをびりびりと破かれながら吸血されることに、
紗栄子はいつか、ショーツを濡らしてしまうほどの昂ぶりを感じるようになっていた。

誘われるままに、吸血鬼とふたり、ホテルにお泊りをして。
その晩のうちに、処女を捧げてしまっていた。
隣室から、達樹が覗いていると知りながら。
婚約者の目の前でストッキングを咬み破らせることで自覚した快感は、ついにそこまで育ってしまっていた。

吸血鬼に抱かれるようになって、ふと思う。
このひと、処女じゃなくなっても、血を吸うわけ?
そういえば、達樹の母親も、達樹の父親に紹介された吸血鬼に血を吸われている――確かそんな話聞いたっけ。
そうね、きっと、そう。達樹のお嫁さんだからこそ、あのひとよけいに発情するのよ。
でも、もう手遅れね。
達樹はあたしが抱かれてしまうことを納得しているし、
あたしは達樹のまえで見せつけてしまうことに、快感を感じはじめている。

あたしたち夫婦、どんなふうになっちゃうのかしら?
吸血鬼の腕のなか、ふとそう思いながら。
さきのことは考えてもしょうがない――紗栄子はそう思い直すと、
「もっと!もっとォ!」
と、叫んでいた。
未来の花婿の視線を、小気味よく意識しながら・・・

お泊りにはまだ、早いかも?

2016年11月16日(Wed) 07:42:39

吸血鬼にホテルに誘われた紗栄子は、とっさにそう思った。
初めて襲われてひと月経っていたし、
そのあいだになん度吸血されたか、本人にも記憶が定かではない。
そんな関係になってしまったけれど、いまだに純潔は守り通していた。
紗栄子はふつうの会社のOLで、ちゃんと婚約者だっている。
吸血鬼を紗栄子に引き合わせたのも、じつはその婚約者、坂上達樹だったのだ。
うち、そういう習慣になっているから――
クールな目もとに翳を漂わせながら、ごくしぜんな態度でそういった彼。
身内同然のひとだから、献血してあげてほしい――そう言われるままに、彼の家に出かけていって、その場で吸血された。
さいしょに彼が、「お手本」を見せてくれた。
意外にしなやかな彼の首に絡みつくのを目のまえに、とっさに感じた。
このふたり、できている。
それが、世間でいう同性愛の関係なのか、もっと違うなにかなのかまではわからなかったけれど。
ふたりのあいだには他者が入り込めない関係があるのをかいま見てしまうと、
紗栄子は大胆になってしまっていた。
初めての子にあんなにからむのは、ボクも初めて見た。
そういう達樹の横顔が、いつになく赤みを帯びているのを、紗栄子は見逃さなかった。

二人きりで、ホテルに泊まらないか。
吸血鬼がそう囁いたのは、達樹のまえだった。
達樹に聞かれないよう声を低めたのを、紗栄子は敏感に感じ取る。
え・・・?でも・・・
金曜の夜、ホテル〇〇で待っている。男は一方的にそう囁いて、立ち去っていった。

いま、紗栄子は男とふたりだけで、ホテルの一室にいる。
犯されてしまってもおかしくない状況に自分から飛び込んでしまった自分の大胆さが、どことなく心地よい。
男はすぐにのしかかってきて、紗栄子の首すじを咬んだ。
あ――
脳天が痺れるような快感に、紗栄子は自分の置かれた立場の危うさを忘れた。
そのままごくごくと、生き血をむさぼらせてしまっていた。
いつになくしつように、大量に吸い取られる血液の量に、紗栄子は自身が吸血鬼になったような快感を覚えた。
ふと気がつくと。
閉ざされた隣室から、熱い視線が注がれていた。
だれだか、わかる。きっと、そう。
視線の主が達樹なのだと、紗栄子は直感した。

お前に内緒で呼び出したら、彼女来るかな。
どうかな。それはボクにも、わからない。でも、身持ちの堅い子だよ。
もちろん、そうとわかっているから誘惑するんだ。
誘惑するのは自由だけど・・・ボクにもみる権利があると思う。
権利というか、義務だね。
そうか。義務か。・・・じゃあ、行かなくっちゃならないね。
ああ、賭けに成功したら、たっぷりと見せつけてやるよ。
じゃあ、覚悟して出かけよう。
覚えておいて。きみの婚約者だから、誘惑して愉しめるんだ。俺が賭けに勝ったら、責任取ってちゃんと結婚するんだぜ?
達樹はくすぐったそうに、ウフフ・・・と、笑った。

はぁはぁという荒い息遣いが、うつ伏せになった足許に、無遠慮に吹きかけられてくる。
親友の未来の妻に対しては、あってはならないあしらいだった。
けれども紗栄子は、足許を気高く透きとおらせたストッキングを纏ったまま、劣情に満ちた唇を、吸いつかせてしまう。
達樹の熱い視線が見守るなか、勤め帰りのストッキングはみるかげもなく、咬み破られていった。

素敵――
吸血鬼の猿臂に囚われながら、紗栄子は声をあげていた。
達樹さん、達樹さん、ごめんなさい・・・あたし、ひと足先に大人になるわね・・・
自分の呟きに達樹がどれほど昂っているのか、ドアを通してありありと伝わってくる。
紗栄子は一瞬目を瞑り、情夫と婚約者とを、もういちど心の天秤にかけてゆく。
そして、かすかにうなずくと。
ハイソックスみたいにひざ下までストッキングをずり降ろされた脚を、自分からゆっくりと開いていった――

バブル時代の婚約。

2016年06月30日(Thu) 07:27:57

彼女は、親が決めた結婚相手だった。
そういうの、バブルのころにはもう、流行らなくって。
でもボクの未来の花嫁も、やっぱり流行らないタイプの女の子で。
ついでにいうと、あんまり可愛いルックスの子でもなかったけれど。
やっぱり生涯の伴侶という重みは大きくて、
ボクのなかではじゅうぶん、大きな存在になっていた。

子供のころからボクが懐いていた吸血鬼の小父さんは。
案の定、ボクの彼女に横恋慕をして、
ロコツなくらいもの欲しげな顔をして、彼女のことを欲しがった。
NTRなんて言葉がなかった時代――
でも明らかに、そんな時代でも。
そういう願望は・・・多くの男の子が持っていた。

いいよ。キミさえ理解してくれるなら。俺は勝手に襲うから。
小父さんはそんなふうに、協力を渋るボクにはそういったけれど。
わざわざ襲う場所と刻限を予告してきたのは――ボクにも来いと言っているようなものだった。
ワクワクする気分を抑えかねたボクの足どりは、フワフワと浮ついて、
まるで地面に足がついているような気がしなかった。

勤め帰りの夜道を襲われた彼女は、
さいしょのうちこそ両手で口許を抑え、逃げ回り、追い詰められて、
激しくかぶりを振って、哀願をして。
さいごに首すじを、がぶりとやられてしまっていた。
うら若いバラ色のしずくを純白のブラウスに撥ねかせながら、
生き血をチューチュー吸い取られてゆく彼女を目のまえに、
ボクはドキドキ、ズキズキと胸わななかせ、
さいごに半ズボンを濡らして失禁していた。

その場にあお向けに抑えつけられたまま、
首すじから景気よく血を吸いあげられてしまった彼女は、
ふたたび起きあがったときにはもう、別人になっていた。
もの欲しげな唇を足許に吸いつけてくる小父さんのことを、もう拒もうともしないで。
ボディコンのスーツからにょきり覗く、エナメルのハイヒールに縁どられた恰好の良い脚を、気前よく投げ出すと。
あのころの女の子ならだれでも穿いていた、あのテカテカ光る肌色のストッキングを、
惜しげもなくブチブチと、咬み破らせてやっていた。

あのころの女の子は、処女を捨てるのをなんとも思わなかった。
新婚初夜の床で、ボクに差し出されるはずだった純潔は、
その場で小父さんの手で、他愛もなく汚されていった――

あのときの昂奮は、いまでも胸の奥に、とぐろを巻いている。
行ってくるわね。
きょうも勤めに出かけてゆく妻は、一見地味なスーツ姿。
それは小父さんがもっとも好む装いだった。
脚に通したストッキングは、あのころみたいなツヤツヤとした光沢は帯びていないけれど。
透明なナイロンは、四十女の足許を、妖しく彩っている。
ボクは視て視ぬふりをして、妻を「勤め」に送り出す。
献血という慈善事業といわれる「勤め」へと、彼女はいそいそと出かけてゆく。
結婚前に、ボク以外の男に処女を惜しげもなく与えた妻は。
其処でおおぜいの男たちを相手に、貞操を惜しげもなく、汚し抜かれて帰ってくる。

女学院だより 吸血鬼に捧げた純潔 ~婚約者よりも吸血鬼を選んだ、あるお嬢様の選択~

2016年02月06日(Sat) 12:57:15

S女学院高等部3年の島村加奈さん(17、仮名)は、開業医を父に持つ女学生。色白の小顔にショートカットの似合う、華やかな感じの少女である。卒業後は両親の決めた婚約者である、町立病院でインターンとして勤務する男性・Aさん(28)との結婚を予定している。
「私たち、齢の離れたカップルなんです」と恥じらう美少女も、すでに処女ではない。未来の夫となる男性への欲望に純潔を捧げた――というのが親族の間での評判だったが、真相はそうではないらしい。「初めてのお相手は、いつも学校に私の血を吸いに来る吸血鬼さんだったんです」と、彼女はイタズラっぽく肩をすくめた。
加奈さんの純潔を勝ち得たその吸血鬼・Bさんは、50代の独り暮らし。加奈さんの父親(48)よりも年上である。吸血鬼という立場を深刻に自覚するあまり、人づきあいから遠ざかり孤独に暮らしてきたという。たまたま加奈さんの婚約者であるAさんの勤務する町立病院に患者として入院したのが、Bさんの人生を変えるおおきなきっかけとなった。町が吸血鬼との共存化の方針を打ち出し、吸血鬼への医療サービスに門戸が開かれた際、悪化した持病を抱えるBさんは初めて町立病院への入院を許可されたのだ。
BさんはS女学院の血液提供サービスも受けており、加奈さんの応接を受けた経験があった。Aさんの親身な診療態度に打ち解けたBさんは、雑談の中でAさんが加奈さんと婚約中であることを知った。後ろめたさを感じたBさんは、入院前に加奈さんの血を日常的に吸っていたことを告白。そんなBさんの治療に、Aさんが献身的な治療を続けたことから、Bさんとカップルとの距離感は一気に縮まった。「持病を持つ吸血鬼の患者の治療には、若い女性の生き血が最も有効な滋養分といわれています。Bさんの治癒を早めるためには、相性の良い彼女の血液を投与するのが全治につながる近道だと感じました」というAさんは、加奈さんを病院に呼んで献血治療も行ったという。
男女交際には寛容ながらも、「卒業までは身を清く保つ」というのが、同校の教育方針。そうした中、処女の生き血を好む吸血鬼たちに門戸を開いた同校は、「絶好の狩り場(同校顧問を務める吸血鬼)」とさえ、いわれている。Aさんの追認のもと、加奈さんはBさんとの逢瀬を積極的に重ねるようになった。直接素肌を吸わせる行為を伴う献血は、やがてエスカレートしていった。「男女の関係になるのは、目に見えていました。でも、未来の花嫁の純潔をみすみす食い物にされてゆくというのに、どういうわけか昂奮を抑えきれなかったんです」Aさんはそう、述懐する。加奈さんの母親も、「(だれに純潔を捧げるかは)あなた自身が決めること」と、娘の背中をそっと押した。「Aさんの騎士道精神には、私も感心したんです」と、加奈さんの母親・瑞枝さん(仮名)は語る。「Aさんが加奈のことを気に入り、愛してくださっていることはよくわかっていました。だから、彼がそういう選択――婚約者のセックス相手としてBさんを受け容れるという――をしたことには、よけい価値があると思うんです」自身も開業医である夫君の承諾のもと、Bさんとの性的関係を持っているという瑞枝さんは、「同じ女性として娘のことを誇りに思うし、娘婿の理解ある態度も素晴らしいと思っています」と語る。
青春の場である学校を不倫ドラマの前舞台に変えてしまった加奈さんは、今秋Bさんとの結婚式を控えている。

家の外は、寒いはず。

2015年12月26日(Sat) 03:50:35

えっ?寒くないの? ですって?
そりゃ、寒いですよ。ここ、外ですもの。
エエ、自分の家ですよ。この家は。
でも、中に入っちゃ、いけないんです。いまは。
どうしてなの? ですって?
うちの中でね、いま、彼女が犯されてるんです・・・

エエ、もう長いつき合いですから。
彼は親戚の叔父さんでしてね。結婚していないんです。
母の弟なんですが、女の身体は実の姉が初めてだったそうなんです。
そうとは知らず、子供のころからボクは叔父さんに懐いていて・・・
約束してたんです。
将来結婚するときには、ボクのお嫁さんとキスさせてあげる って。
それが、今夜成就するんです。

きみが叔父さんに抱かれるところ、視てみたい・・・って。
そう言ったら彼女、もちろんびっくりしてました。
エエ、面識はすでに、あったんです。
結婚が決まった時に真っ先に、叔父さんに紹介しましたから。
叔父さんね、吸血鬼なんです。処女の生き血が大好きで・・・
彼女ができたら、血を吸わせてくれよって、頼まれてたんです。
生き血を吸ったら、きみの彼女の身持ちがわかるからって。
ですからボク、自分からお願いしたんです。
彼女を襲って、血を吸って。
処女かどうか、判定して・・・って。

ボクわざと、席をちょっとだけ、はずしたんです。
そのすきに、しっかり襲われていました。
スーツ姿のまま気絶した彼女のうえに、またがって。
首すじからチューチュー、血を吸ってました。
それ視ているうちに、なんだかドキドキしてきちゃって・・・
止められなくなっちゃったんです。
叔父さんは、彼女の足許にもすり寄って。
あの格好の良いふくらはぎにも、咬みついていきました。
ストッキングをブチブチと咬み破りながら・・・
もう、たまらなくなっちゃったんです。

気がついた彼女――――すっかり虜になっていて・・・
もともとサバサバとした子でしたから、
約束しちゃったんです。
そんなに美味しいんなら、時々吸わせてあげてもいいよって。
それ以来。
彼女の血をあげるときには、送り迎えをするようになって・・・
でもそのうちに、三回に一回は、彼女、ボクに内緒で叔父さんに逢っていたみたいなんです。
それを叔父さんから告げられた時、恥ずかしいんですが、やっぱりドキドキしてきちゃって。
結婚式を来月に控えているきのう、思い切って彼女に行ったんです。
きみが叔父さんに抱かれるところを視てみたい。
嫁入り前の身体を汚されるところを、視てみたい・・・って。

彼女、びっくりしていましたけど・・・すぐにね。
肩まで伸びた黒い髪を揺らして、ウン、って、頷いてくれたんです・・・

ほら、壁に大きな節穴があるでしょ?
ここから覗けるんです。
彼女がブラウスをはぎ取られて、ブラジャーの吊り紐をあらわにしながら抱かれてゆくのが。
パンストをしわくちゃにされてずり降ろされて、まだ片脚に穿いているのが。
脱がされたブラウスからおっぱいをチラチラ覗かせながら、乳首を吸われているのが。
権利を不当に侵害されるのが嬉しいなんて・・・自分でもヘンな性癖だと思うけど。
相手が叔父さんだと思うと、とてもドキドキしちゃうんです。
叔父さんも、ボクの彼女だからよけいに燃える・・・って、言ってくれるんです。
ボク、叔父さんのことは、こんなことになった今でも大好きだけど。
叔父さんもきっと、ボクのことが好きなんだと思います。

ほら、ほら。あんなに腰を使われて。
じっくりしつけられて。
たっぷりそそぎ込まれて。
結婚前にこんなことになっちゃって、これから彼女どうなるんでしょう?
きっと、結婚してからも時々、新居に叔父さんのことをあげちゃうんだろうな。
ボクが勤めに出ている隙に。
そんな彼女のことを、ボクはきっと、止めることができないんだろうな。
夜遅い時には、自分から叔父さんに、連絡しちゃうんだろうな。
ボクの新居を襲ってください。 って・・・

エエ、寒いですよ。冬ですから。家の外ですから。
でもね。
さっきから。
身体が火照って、たまらないんです・・・

婚約者のゆう子さん

2015年12月10日(Thu) 06:18:15

婚約者のゆう子さんは、大きな瞳を見開いて、
わたし以外の男を視てる。
男はゆう子さんに、生き血を吸わせろと要求し、
ゆう子さんは素直にこくりと頷いて、男の欲求に屈してゆく。

若い血を吸い尽されてしまったわたしは、生ける屍。
その身代わりに、ゆう子さんは、わたしに伴われるまま吸血鬼への訪問をくり返して、
うら若い血潮を、吸い取られてゆく。

わたしのときには、ひと思いだったのに。
ゆう子さんの生き血は、ちびりちびりと、愉しまれながら、吸われてゆく。

そんな情景を目の当たりにしながら。
わたしは、自分自身の喉の渇きが癒されるような気分になって。
ただうっとりと、ふたりが身体を重ねてゆくのを、見守っている。

彼女が犯されないのは、男が処女の生き血を好んでいるから。
けれども挙式の日取りが近づくにつれ、男の態度は露骨になった。
血を吸い取られるときにまさぐられる胸の疼きを、
首すじを吸ったついでにと重ね合わされる、自分の血を帯びた唇の生臭さを、
ゆう子さんはただ恍惚と、受け入れてゆく。

つぎは妹を・・・と、望まれている。
口にする処女の生き血を絶やさないため。
そして、ゆう子さんがわたしの妻となる直前まで、処女の生き血をたっぷりと、愉しむため。
おそらく挙式の前の晩――彼女はわたしのまえで、犯される。
けれどもそんな、忌まわしいはずの想像さえもが
わたしのことを―――狂わせる。

12月9日 8:13脱稿。

初夜。

2015年12月10日(Thu) 06:14:11

20代の若い血を吸い取られたわたしは、婚約者のゆう子さんを伴って
あの男の待ち受ける密室を、訪ねてゆく。
わたしの血を吸い取ったあの男に、処女の生き血を与えるために。

悪堕ちとか、寝取られとか、人はいうけれど。
これはあくまでも、崇高な使命。
師と仰ぐひとに、最愛の人を引き合わせて。
そのひとの秘めた生命力と若さと熱情を、
底知れぬ渇きを癒しつつ、愛でていただくという・・・

なにも知らない、わたしの未来の妻は。
もうひとりの夫に初めて仕えるために、呪われた扉を押し開く。
処女にとっては最も忌むべき、好色な唇を
その白い首すじに吸いつけられるために。
キリリと張り詰めた若いOLにとっては最も厭うべき、淫らな腕に
純白のブラウスの襟首を、押し拡げられるために。
礼儀正しい婦人としては最も嫌悪すべき、不潔な舌に
足許に透きとおるパンティストッキングを、
破けた蜘蛛の巣のように、チリチリに咬み剥がれてしまうために――

12月9日 7:32脱稿

「お見合い」。

2015年11月17日(Tue) 04:00:45

不思議な風習だった。
役場に勤める前川明夫はある日、親に連れられて「お見合い」をした。
あくまで形式だから・・・親たちはそう、明夫に説明した。
しつけに厳しかった親たちにしては、なぜか弁解がましい口調だった。

お前はきょう、お見合いをする。
相手は、地元の女学校の若い教師である。
お前はその彼女を連れて、叔父さんの家へ行きなさい。
叔父さんが吸血鬼なのは、お前よくわかっているね?
お前は叔父さんにそのひとの血を吸わせて、帰り道はエスコートしなさい。
なに、お見合いというのは形のうえでの話で、
お前は要するに、叔父さんに若い女性を取り持ってあげればいいんだ。

京蔵叔父さんは、齢があまり離れていない、いまでも独身の叔父だった。
子供のころはなついて、よく遊んでもらった記憶がある。
親たちに隠れて、こっそり血を吸わせてあげたことも――
しかし、都会の大学に行って、試験に受かり、いまの役場に勤めるようになってから、
この風変わりな叔父とはしばらく、顔を合わせていなかったのだ。

引き合わされた女性は、初々しい化粧を刷いた、ピチピチとした感じのひとだった。
思った以上に若く、そして清楚な雰囲気を持つ美人だった。
なるほど、京蔵叔父が見初めるだけのことはある。
快活な彼女は、これから引き合わされる吸血鬼のことなどみじんも話題に乗せないで、
他愛のない雑談に、ひたすら興じていた。
さてそろそろ・・・と、両方の親たちから促されるままに、
明夫は彼女を伴って、叔父の家へと足を向けた。

何年も逢っていない叔父は、別人のように痩せこけ、老け込んでいたけれど。
甥が連れてきた若い女性をみとめると、それまでのうっそりとした雰囲気をかなぐり捨てて陽気になって。
振る舞われた酒に適度な酔いを感じた明夫は、彼女を叔父に託し、
叔父は甥をリビングに待たせたまま、女性を隣室へと連れ込んでいった。

アアーッ!
ちいさな叫びをひと声あげて、女性は首すじを咬まれていった。

毎週週末には、女性の行きつけという喫茶店で落ち合って。
明夫は女性――美奈子といった――を連れて叔父の家へと足を向け、
美奈子は従順に、いやむしろすすんで、白い首すじを叔父にゆだねていった。
独身で浮いた噂ひとつなかった叔父は、ある日明夫を隣室に待たせておいて・・・
いつものようにスーツ姿の美奈子を押し倒すと首すじを咬んで、
それからピンク色のタイトスカートをたくし上げて、犯していった。
隣室でなにが行われているのかを気配で察しながらも、
明夫は昂ぶりを抑えつつ、叔父の欲望の成就を心の中で見守っていった。

「教師のすることではありませんね」
ほつれた黒髪と伝線したストッキングを気にしながら、
部屋から出てきた美奈子は照れくさそうに、ちょっぴり悲し気にほほ笑んだ。
「わたしも、役人のすることではないことをしていますから」
さりげなく視線を外していった明夫の心遣いに、
美奈子は初めて、目じりに涙を滲ませた。

そんな風変わりな逢瀬を重ねていって・・・
半年後、美奈子は明夫を婚約者に選んでいた。

もともと、こういうことだったのか・・・?
披露宴の宴席の花婿の席で、ほろ酔いに浸りながら、明夫は自問した。
叔父はひっそりと、婚礼の場の末席を占めていて。
昔なじみたちと楽しげに、盃を酌み交わしている。
新婦となった美奈子は、純白のウェディングドレスの白いヴェールに恥じらい顔を包んで、
明夫の隣に淑やかにかしこまっていた。
純潔であるはずの腰周りのすみずみにまで、淫らな遊戯を教え込まれてなどとは――とても思えないほどの慎ましさで。

明夫はそれとは知らずに、未来の花嫁を吸血鬼に手引きをして襲わせ、
挙句の果てに純潔までも、むしり取らせてしまっていた。
その経緯を思い出すたびに湧き上がるのは、
怒りや悔恨ではなく――不思議な歓びや昂ぶりだった。

新婚初夜の床を、叔父は今夜も襲いに来るはず。
明夫はかつてのように若い血を叔父に与え、その場にへたり込んで。
花嫁の淫らな舞いを見せつけられることになる――
ふと臨席の美奈子を顧みると、ぐうぜんに視線が合った。
同じ想像に心を浸していたらしい新妻は、目じりを染めてあわてて視線をそらし、
お酒を注ぎに来た親類の年配夫婦に、にこやかな笑みを交えていった――

親友の婚約者

2015年10月05日(Mon) 07:59:44

広永は、ふたりの様子を面白そうに見比べていた。
ひとりは、長い腐れ縁の吸血鬼。
もうひとりは、自分の婚約者。
「吸血鬼って、ほんとにいるんですねえ」なんて。
婚約者の美樹は、相手をまともに見つめてただ感心している。
知的な輝きを帯びた大きな瞳でまっすぐ見つめられながら、吸血鬼はその視線をまともに見返していた。

これが、お見合いというやつだったのかーー
広永は知っていた。
慣れない都会に出てきて、生き血を獲るあてもなく、もうすでに数日経っていることを。
それでも親友の婚約者をまえに、吸血行為をがまんしていることを。
飢えた目線の目の前に突き付けられた獲物は、24歳の才媛のうら若さを、あざやかすぎるほどに見せつけていた。
あとはただ、ちょっと座をはずすだけでよかった。

どたん!ばたん!
ドアの向こうから漏れる音に耳をふさぐようにして、広永はホテルの廊下を一歩でも遠くとばかり遠ざかっていった。

だいじょうぶ。それ以上のことはしないから。
あんたは大事な親友の婚約者なんだから。
男の言いぐさは、どうやらほんとうのようだった。
美樹はじたばたともがきながら、首すじに突き立てられた牙をどうする牙をどうすることもできなかった。
ズブッ!とめり込んできた尖った異物が、柔肌の奥深くに埋め込まれてーーその刹那感じためくるめく快感はなんだったのか。
親友の婚約者が相手でも、錯覚に理性をしびれさせるようなまねだけはするというの?
男は美樹をソファのうえに押し倒し、むさぼり、またむさぼった。

ひとしきり、嵐が過ぎ去るとーー
男は美樹を助け起こして・・・それでも一度さらけ出してしまった本性は押し隠せなかったらしく、
「これだけは目をつぶってくれ」といって、
美樹の足許にかがみこんだ。
薄手のストッキングに透きとおるふくらはぎに唇を吸いつけられ、ふたたび牙が刺し込まれた。

ちゅう~っ。
脳天がしびれてゆく快感が、ふたたび美樹を支配した。
ストッキングが鮮やかなカーブを描いて裂け目を広げてゆくのを、ただ面白そうに見下ろしている自分がいた。

わしが都会にいるあいだ、また逢ってもらえますか・・・?
男の問いに対する返答がわりに、美樹はストッキングの破けていないほうの脚を、そっと差し伸べていた。
彼に黙って逢ってあげてもいいわよ、と、囁きながら。



いつもは無難な色を選んで穿いているストッキングを、きょうは妖しい墨色に穿き替えていた。
付き添ってくれるのは、未来の夫の広永。
あのあといっぱい、毒づいたものだった。
「いくらなんでも、そういう事情があるのなら、前もって話してほしい」
彼はなんでも、話してくれた。
その結果ーー
披露宴前夜の、今夜になった。
彼女の純潔を勝ち得るのは、花婿の悪友になったのだと。
きみとの初夜は、3人で愉しみたいーーそれが広永の願望なのだと・・・美樹はうっとりとしながら、受け入れていた。

初めて咬まれた日。
彼が毒液を注ぎ込んでくれたのは、いまにしておもえば、とても賢明な行為だった。


あとがき
未来の夫への配慮から、初めて襲ったその時に凌辱までしなかったことが、彼女の気持ちを射止めてしまった。
そんなお話のようです。^^

通りかかった船。

2015年04月20日(Mon) 08:24:26

街なかといっても、朝の空気は気持ちが良い。
土手のうえのウォーキングロードを独り歩いていると・・・

カサ・・・

たしかに道ばたから、もの音がした。
なだらかな下り坂の斜面になっている土手は、背の低い草に覆われている。
その一隅の、草むらの穂先のすき間から、ひざ小僧だけがのぞいていた。
白のスカートのすそが、少しだけめくれあがっている。

あわてて駆けつけると。
白のスーツを着た若い女性が、あお向けになっている。
どうやら出勤途中らしい、スーツ姿。
その足許に、黒衣の男がひとりかがみ込んでいて。
ふくらはぎに唇を吸いつけて、血を吸っていた。
クリーム色のストッキングが裂けて、むき出しの脛が朝の陽の光を柔らかく照り返していた。

ちゅーっ・・・ちゅーっ・・・
吸血の音は低く静かに、男の息遣いに合せて断続的に続いた。
女性は気を失っているのか、表情を消してひっそりとしていた。

この街に棲む吸血鬼は、人を襲っても血を吸い尽さないのがお約束になっている。
だからこんな光景は、夜昼問わず、街のあちこちで見かけていたし、
だれもが無関心を装って、そのまま通り過ぎていくのだった。

うっかり妙な場にかかわっちゃったな。
そんなことを思っていると。
男は顔をあげてこちらを見、それからおもむろに、にじり寄ってきた。
ショートパンツとウォーキングシューズのあいだは、黒のウォーキングタイツで覆われている。
男は臆面もなく、俺の太ももに唇を吸いつけてきた。
ぴちゃっ。
なま温かい唾液が、タイツごしにしみ込んでくる。

おいおい!男もののタイツなんかに、欲情してる場合じゃないんじゃないの?

さすがに俺が抗議をすると。
男はちょっとだけ顔をあげ、「それどころじゃないんだ」といって、ふたたび唇を俺の太ももに這わせてきた。

痛っ!何すんだよっ!

しんぼう・・・しんぼう・・・
男は俺の両ひざをグッと抱きすくめて動けなくすると、お尻に手を回してあやすように撫でつづけた。

ちゅーっ・・・ちゅーっ・・・

さっき若い女を相手にしきりに発していた吸血の音が、俺の血を吸い上げてゆく。
脳天がくらっと来かけたとき、男はやっと俺のことを放した。
頬に着いた血を手の甲で拭うと、こんどはふたたび女のほうへと這い寄ってゆく。

悪いが、通りかかった船だ。ちょっとのあいだ、番してくんな。

通りかかった船?そんな日本語があるのか?それ言うなら「乗りかかった船」じゃないのか?
言いかえそうとしたけれど、無駄なことだった。
男の魂胆は、見えすいていた。
吸血の相手をした女を、犯すつもりなんだろう。
セックス経験のある女は、ほとんど例外なく、吸血された後に犯されてしまうのだった。
お人好しもいいとこだと、我ながら思いながら。
ガサガサと葉擦れを起こす草むらを背に、俺は通行人が来ないかと気を配ってやっていた。

おい、人が来るぜ?

ふとそう言いかけてふり返ると。
たくし上げられたスカートからむき出しになった太もももあらわに、腰を振っているところをまともに見る羽目になった。
通りかかったのは、散歩途中の老人だった。

俺のまえにちょっとだけ立ち止まり、なにが起きているのかを察すると。

お盛んですなあ。 と。まるで時候の挨拶をするような穏やかな声色でそういった。
そのすぐあとに、 あのひと、きみの彼女さん? とまで、言われた。
いえいえ、そんな・・・といいかける俺に、みなまで言わせずに。
老人はお盛んですなあ・・・ともう一度呟いて、いままでとおなじ足取りで遠ざかっていった。

だいじょうぶですか?
吸血鬼が去った後。
俺は女を抱き起こし、スーツに着いた泥や草の葉を、いっしょになって払ってやっていた。
いい気なもので、あと始末までひとに押しつけて。
やつは意気揚々と、引き揚げていったというわけだ。

だいじょうぶです、エエ、もちろんだいじょうぶです・・・

女のひとは失血で顔を蒼ざめさせながらも、俺のまえでいたって気丈に振舞った。
むしろなにもしないで立ち去るべきだったのか?とも思ったが。
やはり彼女も、支えを必要としているらしかった。

すみません。送っていただけますか?家、すぐそこですので。
エエ、きょうはもう、勤めは休みます。私いなくても、会社はだいじょうぶなはずですから。

さいごのひと言は、ちょっとあきらめ口調になっていた。
俺は女のバッグを肩に提げて、もう片方の肩をよろけそうな歩みのために貸してやった。
生真面目な勤めぶりが、意外にずしっとくるバッグの重さに滲んでいた。

女はいいわけがましく、道々俺に語りつづけた。
じつはセックスは初めてだったのだと。
ちょうど処女の生き血を欲しがっていたあいつと行き会ったのが、運の尽きだったと。
ふつう処女は犯さないものなのにね・・・女は口を尖らせて、そういった。

それ以来。
女と俺とは時おり顔を合わせるようになって。
交際一年を経て、とうとう結婚した。

考えてみれば。
俺は未来の花嫁が襲われて血を吸われる現場に遭遇して。
彼女を犯そうとする吸血鬼に血を与えてやって。
みすみす彼女が純潔を散らしてゆくのを背にしながら、男の手助けさえしてやったのだった。
なんとも間抜けな話・・・そう思い浮かべたとき。
彼女も同じことを、想っていたようだった。

私が犯されたの知ってるくせに。そのときのこと聞くたびに、あなた昂奮してたわね?
いいこと、これからも昂奮できるわ。たっぷりと―――
新婚初夜の床のうえ。
お風呂あがりだというのに真っ白なスーツをきちんと着こなした彼女は、
黙ってカーテンを開くと、窓の外に佇む影を招き入れた。

すまないね。花嫁の純潔をいただくよ。
にんまりとほくそ笑むあいつに、俺はふたたびくり返してゆく。
男もののタイツに、欲情している場合じゃないだろう?

破けたタイツを履いたまま、大の字に伸びてしまった姿勢のまま。
ぼやけかかった視界の彼方。
彼女は嬉々として純白のスーツを凌辱されて、ストッキングを引き裂かれてゆく。

ちゅーっ・・・ちゅーっ・・・

少なくとも。
俺たちが若いうちは、やつの栄養補給の勤めを、果たす羽目になりそうだった。

挙式の延期

2014年01月17日(Fri) 07:47:57

挙式の日取りを、三回も延期したのは。
わたしの生き血を狙う、吸血鬼のため。
やつはわたしの血を吸い、母をも襲い、そして・・・いちばん襲われてはならない、婚約者の初美まで、襲ってしまった。
処女にはむやみと手を出さないというその吸血鬼は。
母を襲った時にはその場を去らせず、自分の女に変えてしまった。
父もまた、母のことを止め立てすることができなくなっていて。
鄭重に迎えに現れる吸血鬼に、苦笑で応えるばかりだった。
そんな両親のありさまを視てしまっているわたしにとって。
新妻を侵されまいとして実行できたのはただ、挙式の日取りを延期することだけだった。

最初はふしぎそうにしていた、彼女の両親が、真相を知ってしまったのは。
不幸にして、彼女の密会の現場が、自宅にふり変わったころのことだった。
夫婦ながら襲われた彼女の両親は、もの分かりよく相手を務めるようになってしまっていて。
むしろわたしに挙式を早めるようにと、せきたてるのだった。

三度延期した、披露宴―――
初美は名前のとおり初々しく、そしてあでやかだった。
新婚初夜のその晩は、気を利かせて現れなかった・・・と思っていたら。
ホテルに宿泊した初美の友人代表の子と、わたしの叔母と、初美の妹とを。
一夜にして三人も、自分の奴隷に変えてしまっていた。

そして今夜は、ああ・・・
やつの足音が、近づいてくる。
初美は心持頬を紅潮させて。近づく足音に、聞き入っている。
披露宴のあととおなじ、純白のスーツに身を包んで・・・

婚礼前の儀式

2013年11月26日(Tue) 06:44:32

握りしめた掌のなか。
マナーモードにしたケータイが、かすかな振動と共に、着信をつたえてきた。
明日婚礼を挙げることになるはずの、雅恵からのものだった。

開通ぅ~! \(^o^)/
儀式は無事に、終わりました。
すこし痛かったけど・・・(涙)
でも愛しているのは貴夫だから、安心してね♪

婚約者からの、処女喪失を告げるメールは、どこまでもあっけらかんとした文面だった。
つづいてあとを追うように、もう一通のメールが。

雅恵さんは処女でした。
ご馳走さまでした・・・


こちらも一見神妙そうにみえて、ひどくあっさりとした文面だった。
行間に含まれた淫らな毒が、貴夫の胸の奥をちょっぴり浸したとしても・・・
婚礼当日に花嫁に対してなされることは、あくまでも”儀式”ということになっていた。
だから行われる性通も、一回かぎりとされていた。
けれどもそこは男女の間のこと、相性が良かった場合には、”儀式”が二度三度と繰り返されることも、少なくはなかった。
そして携帯画面をいちばん下までもどかしく手繰る指が、凍りついていた。
さいごの行には、こんな一文が。

追伸 これから二回戦に、突入しますw

末尾の”w”は、いかにもフキンシンだった。
花嫁の貞節を汚す行為を、わざと茶化している。
ああやっぱり・・・と思いながらも、貴夫は寝床のうえで独り、悶々とするのだった。


この街では、花嫁は婚礼前に、年上の男性相手に処女を喪うしきたりとなっていた。
相手の男性は、花婿の側で選ぶことになっていた。
雅恵の相手をつとめる相手は、貴夫が幼いころから兄のように懐いていた基司だった。
両親と連れだって基司の家を訪れたとき。
紋付を着込んだ母は自分が花嫁になったかのように三つ指をついて、「末永くお願いします」と挨拶するのを、ひどく違和感なしに受け止めてしまっていた。
自分が得る最良のものを、大好きな基司兄さんにもおすそ分けをする。
なぜかすんなりと、そういう気分になれていたのだった。

もどかしい手に、ふたたび動きを与えた貴夫は、まず雅恵のほうに、返信をした。


お疲れさまでした!立派にお役目を果たせたみたいですね。
挙式は5時間後ですので、待ってます。
あとは気づかいなく、基司兄さんに優しくしてもらってください。
妬きもちは、やかないことにしますから。 (笑)


返事はすぐには、来なかった。
もどかしい手は、ふたたびケータイをまさぐりはじめる。
基司のほうにも、返信をした。


華村家の花嫁の純潔を基司兄さんに愉しんでもらえて、ちょっと誇らしい気分です。
雅恵の相手が基司兄さんで、心から良かったと思います。
ほんとうを言うと、ちょっぴり悔しいけれど。 苦笑
でも、基司兄さんが雅恵と仲良くなってくれたのが、むしょうに嬉しいのも事実です。
最愛の妻・雅恵のことを、どうぞ末永くお願いします。


こちらも返事は、すぐには来なかった。
双方から返事が来たのは、30分ちかく経ってからのことだった。
さいしょは雅恵のほうからだった。


ごめん~! (>_<)
ちょっと夢中になってしまいました・・・ (^^;)
基司さんいわく、
わたしって、Hの才能があるらしいです。
これからも華村家の嫁としておつきあいさせていただきますとお約束しましたので、
謹んでご報告申し上げます。
m(__)m
身支度する前に必ず行きますから、待っててね♡


つぎに後を追うように、基司から。

あれから三発やりました。(^^)v
雅恵はいい女です。
赤ちゃんができちゃったら、ゴメンです。(^人^;)
華村の嫁になっても、きみの留守中に時どき借りるからねっ。^^



白のスーツに身を包んだ雅恵が貴夫の部屋に現れたのは、それから三時間ほど後のことだった。
「ごめんなさい、遅くなっちゃった。すぐ・・・できそう?」
箱入り娘のはずの雅恵の直截な言い方に、貴夫は何と言ったものかと口ごもったが。
「失礼―――」
雅恵は素早く貴夫のまえにかがみ込んで、貴夫のスラックスを降ろしにかかった。

え?え?え?

ためらう間もなかった。
ブリーフからこぼれ出た一物を、雅恵はためらいもなく、口に含んでゆく。
不覚にも、恥ずかしいことに、ぬめる唇に呑み込まれた一物は、あっという間に逆立ち始めていった。

「さっ、早く・・・」
雅恵の言葉が間歇的に引きつってきた。
純白のタイトスカートのすそを振り乱して、貴夫を傍らのベッドへと、押し倒してゆく。
なにかを拭い取るようなしつようさで、雅恵は重ね合わせた唇を、なん度もなん度も重ねつづけてきた―――

・・・・・・。
・・・・・・。

よかった・・・。
安どのため息とともにひと言そう洩らすと。
雅恵は俯いたまま、乱れたスカートのすそから、粘りついた貴夫の体液をハンカチでぬぐい取っていく。

これから、支度してきますから。

結納の場でそうしたような他人行儀な口調に戻ると、雅恵はそそくさと、貴夫の部屋から出ていった。

この街のしきたりでは、挙式のあとが、本物の披露宴になる。
そこでは花嫁は”披露”される立場だった。
主賓に招いた町長が、さいしょに雅恵を抱くはずだった。
そのあとは、花婿の友人たちが何人も・・・
「おれにも抱かせろ~!」目の色を変えてそうせがんだ連中のなかから5人も選ぶのは、けっこう骨が折れた。
そのうち3人はすでに既婚者で、貴夫も彼らに許すのと同じ恩恵を受けた同士だった。
婚礼の前後に経験する男のうち七人までが、花嫁の純潔を獲たと自慢できる資格を持っている。
そのあとはもう・・・乱交状態になるはずだった。
新婦である雅恵の母の黒留袖を解くのは、さっき花嫁の股間をバラ色のしずくで彩った基司の役目。
新郎である貴夫の母の洋装に挑みかかるのは、花嫁の父親に決まっていた。
本来の役目を基司に譲った貴夫の父は、雅恵の姉の新妻ぶりを、夫のまえで愉しむ権利を頂戴している。
だれもがそれぞれに、得をする夜になるはずだった。
貴夫自身の役柄は・・・おおぜいの男たちを相手に親密な交際を強いられる花嫁にひと晩じゅう付き添うという、とても名誉な役柄。
さいごにふたりが結合をみて、婚礼は幕となる―――

花嫁の純潔を獲た男性は、時として新妻の浮気相手として関係を続けることになるというのだが・・・
おそらく基司はそうするだろうし、雅恵はきっと、貞淑妻を装いながらも情夫と共謀するだろう。
そして貴夫自身もまた・・・妻を寝取られる歓びに目覚めてしまった彼は、ふたりの密会を時おり覗くことを、愉しみとすることになるのだろう。


白無垢に身を包んで現れた雅恵は、まるで別人のようだった。
花嫁人形のように塗り込められた厚化粧の下。
可愛い唇がほんのりと、囁いてきた。
あれからまたお逢いして・・・ぎりぎりまで放してもらえなかったのよ。

そうか。この分厚い純白のヴェールに包まれている雅恵の下肢には、いまでも基司の体液がまとわりついているのか・・・
肚の底からこみあげてくる灼けるような衝動に耐えながら、貴夫は婚礼のあとの披露宴のありさまを、熱く想像してしまうのだった。
愉しい初夜は、もうそこまで迫っていた。

お見合い後の”儀礼”

2013年10月07日(Mon) 07:38:51

1.
わたし、処女なんです。

お見合いの席で二人きりになると、奈津枝さんは唐突に切り出した。

はぁ・・・

なんとも、間の抜けた返事になってしまった。
けれどもわたしの声色にかすかな昂ぶりが秘められているのを彼女は聞き逃さなかったし、
わたしのほうでも彼女が聞き逃さなかった気振りを見せたのを、見逃さなかった。
それくらいに、「処女」ということにある種の反応をしてしまうのは、いまどき古いとわかっていても。
彼女のほうでもまた、「処女」ということにきっと、こわだりを持っていてくれたのだろう。
ところが、つぎに彼女が口にした話は、わたしの理解を越えていた。

でもわたし、処女のままお嫁に行くわけには、いかないんです。

え・・・っ?

こんどははっきりと、わたしは不審と驚きの色をあらわにした。
もう、見逃してもらう必要など、なさそうだった。
彼女はわたしのなかのなにかを見定めて、勝負をかけようとしてきている―――
そんなこと、いままで生きてきた三十年近い人生の中で、まったく初めてのことだった。



わたくしの田舎では、村を出て嫁いでいく娘は、処女のまま嫁ぐことはできないことになっているんです。
もしわたくしが貴男と結婚するとしたら、そのまえに村のだれかに処女を捧げなければならないのです。
すでに、相手も決まっています―――伯父です。

さっきまでここに座っていたひとのこと・・・?

わたしが指さした椅子に座っていた初老の男は、いかにも田舎じみた素朴さを、あっけらかんと滲ませていた。

はい。

うつむいた横顔が、含羞に赤らんでいる。
これ以上いったい、どういう会話を交わせと言うのだろう・・・?


2.
祝言は、11月と決められていた。
あれから話は、とんとん拍子に進んでいったのだ。
わたしたち二人は、あたかも運命づけられたかのように話が弾み、好みも合い、生き方も似ているようだった。
お見合いをしたあのホテルで二人きりで会った時。
奈津枝さんがひっそりと、囁きかけてきた。

あなた、御覧になる・・・?

え?なにを・・・?

わたくしが・・・初めて抱かれるところ。

えっ。

度肝を抜かれたわたしは身体を硬くして、しかし不覚にも、股間の一物まで、硬くしてしまっていた。
どうしてこんなときに、勃つのだろう?
われながら不思議だったけれど、はっきりしているのは―――彼女にそれを、見透かされてしまった・・・ということだった。

御覧になっていただきたいの。せめて・・・

奈津枝さんはそれ以上口にせず、頬を赤らめたあのときとそのままに、含羞を漂わせた。
初めての痛みを覚えるとき、彼女の細い眉はどんなふうにひそめられるのだろう?
このノーブルに整った目鼻だちを、どんなふうにしかめるのだろう?
あらぬ想像がむらむらと沸き起こって、わたしは不覚にもまた、股間を逆立ててしまっていた。



3.
招き入れられたのは、彼女の伯父の家だった。
古びた日本間には、黴臭さに似た古木の香りが充ちていた。
伯父の妻は、もう50は越しているはずなのに、美しいひとだった。
けなげにも身代わりを申し出てくれたのだが、わたしは遠慮をしていた。
都会人としての常識がそうさせたからではない。
彼女が破瓜を遂げるその瞬間を、目にしたかったから。
その彼女はいま、わたしの傍らに、わたしの婚約者として、真っ白なスーツ姿で、楚々とした羞じらいを漂わせてうつむいている。

ささ、こっち来なされ。

伯父が奈津枝さんの手を引いた。
ほっそりとした、白い手だった。
わたしは思い切って、畳に額をこすりつけていた。

どうぞ・・・うちの奈津枝をよろしくお願いします。

奈津枝さんは、びっくりしたようだった。
けれどもわたしの反応は、彼女を不審がらせるよりはむしろ、安堵に導いたようだった。
彼女はおっとりとほほ笑んで、わたしに会釈を返してくる。
伯父は彼女の手を握り締めたまま、

あ・・・いや・・・

と、こっけいなほどうろたえて、けれどもすぐにちゃっかりと、なん度もぺこぺことお辞儀を返してきた。

まったく、うちの人ったら。

改まった着物姿の伯父の妻も、口に手を当てて笑みをこぼした。
来月わたしの花嫁になる女(ひと)は、挙式当日のように緊張した面持ちをして。
口許をきりりと引き締め、眉をあげて。
純白のストッキングのつま先を、次の間にすべらせてゆく―――



4.
熱っぽい交歓が、まだ網膜のすみずみにまで、灼きつけられている。
白のスーツを着くずれさせた奈津枝さんは、振り乱した豊かな黒髪を乳房に絡みつけながら、犯されていった。
その瞬間、伯父の唇にみずからの首すじを愉しまれながら、不精ひげの頬に圧しつぶされそうになった口許を、ハッと開いて。
「ああああ・・・ッ。トシキさん。ごめんなさい・・・っ」
わたしの名前を呼んだのだった。
かりに二人きりの秘め事になったとしても、その瞬間花婿になる人の名前を呼ぶことになっていたという。
彼女はわたしのまなざしをありありと感じながら、それこそしんけんに、わたしの名前を口走っていた。

それからあとのことは・・・とても描けやしない。
いちど侵入を受け容れてしまった奈津枝さんは、しんそこ感じてしまったのだ。
何度も何度もせがんで、わたしの見ている目のまえで、
戸惑いながらもお尻を突き出し、ぶきっちょに腰を使い、
はぁはぁと迫った息遣いに肩をはずませながら、伯父の精液をたっぷりと、そそぎ込まれていったのだった。

ズボンが乾くまでの間、お相手しますからね。

伯父の妻は、落ち着いたものだった。
昂ぶりのあまり不覚にもズボンを汚してしまったのを見て取ると、わたしにズボンを脱ぐように促して、

しばらく、二人きりにしてあげましょうよ。

謎めいた笑みに、大人の媚態を滲ませていた。
手の甲に添えられた彼女の掌は、ひどく柔らかだった。



5.
里帰りのたびに・・・逢うんじゃないかな?

うっつらとした調子でわたしが呟いたのは、都会で行われた結婚披露宴の真っ最中だった。

もう、あなたったら。
両隣りにいる仲人であるわたしの上司に気取られないように、奈津枝はわたしを小突いていた。

そうね。里帰りのたびに・・・そうかもしれないな。
向こうで、機嫌よさそうにコップのビールを干した奈津枝の伯父に、わたしの母がお酌をしている。

あのふたり、お似合いじゃないかしら?伯父は気に入ったみたいよ。

奈津枝は怖ろしいことを、ひっそりと口にする。
そして、わたしの股間にさりげなく手を置いて、そこに昂ぶりがあるのを確かめると。

だいじょうぶ。お義父さまを通すって言っているから。

親父が納得するかな。

貴男だって、納得したじゃないの。

そうだね。じゃあ、さいしょの里帰りの時に、両親も連れて行こうか。

それがいいわ。正月早々、めでたい席になるわよ。

わたしはすぐ傍らにいる奈津枝の腰を引き寄せた。
純白のウェディングドレスの分厚い生地ごしに、豊かな太ももがありありと感じられる。
両脇の仲人はなにかを感じ取ったようだったが、
「お盛んだね」「視ないようにしてあげましょうよ」
そんな配慮が、感じられた。

お義母さまのあとは、上司夫人も捨てがたいかも。
おいおい、、あっはっは・・・
わたしはたまたまビールを注ぎに来た友人と声を合わせるふりをして、妻のアイディアに賛成しかかっている。

オトナの入り口♪

2012年09月14日(Fri) 06:47:26

黒のストッキングは、オトナの入り口なのよ♪

そう言って照れながら。
制服のスカートから覗く黒ストッキングの脚をみんなに見せびらかしていた少女。
その子に目をつけた悪友にそそのかされて、夜の公園に呼び出してみた。

ふたりで待っているから・・・黒のストッキング履いてきな。

さすがに、制服ではなかったけれど。
言われたとおり、少女は黒のストッキングを履いてきた。
真っ赤なチェック柄のプリーツスカートに、薄黒のナイロンに染まった脚がよく映えていた。

手だれの悪友の毒牙にかかって。
お気に入りのストッキングを、びりびりと破かれていった少女は・・・

パパやママが起きてるうちは、おうちに帰れない。

べそを掻きながら、そういって。
街灯に照らされた、じゅうたんみたいな芝生のうえ。
ぺたんと尻もちをついていた。

夜中に時間をもて余した男と女がやることは、ひとつしかなかった。

夜が白々と、明けそめるころ。
男ふたりからもらったハンカチやタオルで、紅く濡れた太ももを拭ったあと。
オトナになってしまった少女は別れ際、約束してくれた。

黒のストッキング破りたくなったら、あたしを呼んで。
帰り道が恥ずかしくないように、こんどは履き替え、持ってくるから・・・

その少女―――いまはわたしの妻になっている。
あの晩わたしは、未来の花嫁の純潔を、悪友に譲り渡したことになるのだろうか?

l婚礼前の儀式

2012年09月11日(Tue) 08:07:53

村で祝言を挙げる娘たちには、嫁入り前にいちどは経験しておかなければならない儀式があるという。
それは、夜這いを受けること。
相手の男は、花婿ではなくて。
自分か嫁ぎ先の縁者の男。
すでにセックスの経験豊富な男に、女として仕込んでもらうのが。
花嫁修業の、仕上げだという。

むごいことと言われるかもしれないが。
その場には、未来の花婿も、同席する。
不謹慎な声を、彼の耳に届けないため。
娘たちは必死になって声をこらえ、
相手の男はなんとかしてよがらせてやろうと、精魂を尽くす。

ひぃ・・・ひぃ・・・はぁ・・・はぁ・・・
ふすま一枚へだてた向こう側で、荒い息をはずませる許婚を、
花婿は嫉妬に狂いながら、赦すのだという。


都会から独り、赴任してきたわたし。
秋に結婚を控えている。
せっかくだからこの村で・・・とは、勤務先のものたちの一致した意見。
なにも知らない親たちは、勤め先がそれほど仰るなら・・・と、意を傾けかけている。
先方のご両親も。田舎での結婚式に乗り気だという。
その親たちが、各週ごとに。この村を訪れる―――

口止めはまず、親ごさんからたちからじゃの。
任せておきなや。悪いようにはせんて。
双方の母親の顔写真に目の色をかえた男どもは。
すでに荒い息を、抑えかねていた・・・