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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ピロー・トーク

2019年07月05日(Fri) 04:55:04

俺が劣情をあからさまにしても、いつも従順に応えてくれる昭代さんが、珍しく苦情を口にした。
遅い時間に戻ってきた昭代さんを、勤め帰りのスーツ姿のまま背後から襲って、羽交い絞めにしたときのこと。
夕暮れどきをすぎると、喉がからからになってくる。
そうすると俺は、学校帰りの加代子さんを真っ先に襲い、制服姿のまま押し倒して。
白や淡い空色のブラウスのえり首を血浸しにしながら、十代の処女の生き血に酔いしれる。
さんざん吸血を遂げて、彼女がウットリしてしまった時分に、こんどは昭代さんが帰宅してくる。
もちろん同じ経緯で、征服だ。
母娘で扱いが違うのはそれからあとのことで、昭代さんとはとうぜんのように、熱烈な情交が始まる。
苦情をいわれたのは、そのときのことだった。

「あなたはロリコンなの?」

唐突な言葉に俺は面食らい、思わず咬んでいた首すじから牙を引き抜くと、ちょっとだけ身を起こして昭代さんの顔を見た。
昭代さんも俺のことを、目線もそらさず見返してくる。
「どうして・・・?」
おろおろと俺が問うと、昭代さんはいった。
「だって、ひとの娘のことをあんなふうにしつっこく吸血するなんて・・・」
どうやら昭代さんは、加代子さんの女学生姿に夢中になってしゃぶりつく俺のことを、
ひっそりと帰宅した後しばらくのあいだ、見つめつづけていたらしい。
俺の好みに合わせて履いてくれた白のハイソックスに、両脚ともバラ色の飛沫を撥ねかしながら、
たっぷりと舌触りを愉しみ、ずり降ろしてゆくところを、
彼女は息をつめてのぞき見していたに違いない。

俺は応えた。「かも知れないな」
「あっさり白状するのね」
昭代さんは珍しく、チラと嫌悪感を表に出してこたえた。
けれども俺にはまだ先をつづける意思がある。やり取りの主導権を握りなおすために。
「けど、俺がロリコンなだけのやつだと、思うのかい?」
え・・・?
怪訝そうな顔をした昭代さんのふくらはぎに、俺はしつっこく唇を這わせた。
薄手のストッキングは、俺の好みに合わせて装ったもの。
サラサラとした触感は、退勤のとき彼女が新しいものの封を切ってわざわざ穿き替えたことを告げている。
俺は昭代さんに顔を見られまいと、ひたすら彼女の脚に熱中しながら、つぶやくようにいった。
――マザコンなのさ。

え・・・?
彼女はまたも、怪訝そうな囁きを洩らす。
けれども俺の言い草を肯定するでもなく否定するでもなく、
それでいて、足許を装う礼装に無作法なあしらいをくり返す俺のために、
ふるいつけた卑猥な唇の下に、無防備な下肢を曝しつづけていてくれた。

ひとしきり、俺が愉しむと。
「マザコン・・・だったんだ」
彼女はもういちど、つぶやいた。
その先を聞きたがっているようだった。
俺はいった。

俺がまだ真人間で、吸血鬼に日常的に血を吸わせていたころ。
家族全員が彼の支配を受け入れて、代わる代わる吸血に応じていて。
真っ先に襲われて犯されたお袋は、やがて親父のまえでもキャッキャとはしゃぎながら誘惑に応じていくようになって。
それを親父も俺も、別々のふすまのすき間から、熱っぽい目で覗きつづけていた。

俺があんたを襲うとき。
その時のことをよく、思い出すんだ。
あいつはお袋に、いまの俺がしているのと同じことをしていたんだ。
俺があんたの素肌に唇をふるいつけるとき。
ちょっぴり抗いながらも組み敷かれていくあんたを、ギュッと抱き返しながら胸や腰つきの肉づきを全身で受け止めていくとき。
俺はあんたのご主人の視線を、まるで俺がかつてお袋に注いだ視線と同じくらい、近しく感じるのだ。
あのときあいつは、こんなふうにお袋の血を愉しんでいたんだ。お袋の身体にのめり込んでいたんだ。
美味かっただろうな。愉しかっただろうな。って、思うんだ。
そしてあのときお袋を黙って差し出した親父の気持ちも、ありありとわかるようになるんだ。
親父は親友に、一番たいせつなものを与えることで、友情に報いていたのだと。
お袋はお袋で、自分がうっかり声をあげて快感を白状してしまうことを、親父が許すだけではなく愉しんでしまっていることを、
咎めながらも許し、許しながら悦んでしまっていたのだと。
だから俺は、だれも責めない。
そしてあんたのご主人も、あんたのことを責めていないし、俺のことも憎んでいない。
遠い昔と役割を入れ替わることで、俺はあんたのご主人や娘さんと、気分を同化させながら、こんな悪さをつづけているんだ。

「いったい何をしゃべっているの?」
昭代さんは呟いた。
「いいわよ、もっと吸って・・・あたし、娘の若さにちょっぴり、嫉妬していたのかも」
後半の白状は、声が決まり悪げに細くなっていた。
「嫉妬なんか、しないで良いのに」
俺は昭代さんの股間をまさぐりながら、囁いた。
彼女の秘所は、まだショーツとパンストにぴったりとガードされていた。
俺がパンストのうえから太ももを撫でまわし、それからブチブチと音を立てて引き裂くと、
今度は昭代さんが、自分のショーツを引き裂いた。
熱っぽい吶喊が、長時間つづいた――

昭代さんのご主人の霊魂が、まぐわう俺たちに熱っぽい視線を送りつづけているのを、背中にありありと感じる。
すまないね、ご主人。あんたの奥さんをもう少し、愉しませてもらうからね。
ふたりで悦びあっているところを視て、あんたも歓んでくれるのが、いまの俺には幸せだし、あんたの気持ちもよくわかっているのだから――


あとがき
ベッドのうえでの男女のやり取りのことを、”ピロー・トーク”というそうです。
そして、そのなかのいくばくかは、えてして相手への怨み言になるようです。
そうしたやり取りを交し合うのはきっと、仲が良く心が通い合っている証拠です。
柏木ワールドの世界の吸血鬼たちは、自分が襲って欲望を遂げる相手のことをただの獲物として扱うのではなく、
家族として恋人として受け止めているようです。

息子の呟き

2019年07月01日(Mon) 07:41:58

妹が高校にあがったとき。
母さんはひと周り大きい制服を、取り寄せていた。
ぼくに着せるためだった。

それは、ふたりの身代わりに吸血されるときの衣装として、用意された。
ぼくにとっては、ある意味ご褒美だったかもしれない。
幼いころから、女の子の着る洋服に、憧れていた。
恐る恐る脚に通した、母さんのストッキング。妹のハイソックス。
ドキドキしながら腰に巻いた、母さんのスカート、妹のスリップ。
でももう、そんなふうにこそこそしなくたって、かまわない。
いまはおおっぴらに、女の子の服を着て、妻の華恵を伴って実家に帰る。
妻もまた、ぼくの女装を認めてくれている。
ぼくが彼との交際を認めた見返りに――

おそろいの制服を着た妹は、さっきからぼくの足許を舐めまわしている。
ひざ小僧の下までぴっちりと引き伸ばしたハイソックスが、ひと舐めごとにずり落ちてゆくのを、
ぼくは落ち着かない思いで眺めていたけれど。
妹が楽しそうにくり返すままに、好きにいたぶらせてしまっている。
「兄さんどう思う?母さんの背徳・・・」
妹の口から「背徳」なんて言葉を聞こうとは、つい最近まで夢にも思わなかった。
「父さんは”交際”って言っているみたいだね」
「そうか、”交際”なのか・・・」
父さんは、吸血鬼と母さんとの関係を、そう呼んでいる。
たしかにふたりはいやらしい関係を結んでいて、時折ぼくも覗いて愉しんでしまっているのだけれど――
ふたりの間に流れるものに、まじめな感情が交錯しているのを、認めないわけにはいかなかった。
だからぼくは、中立を守って「お付き合い」と呼んでいた。
優しい父さんにも、義理立てしたかったから。
けれども、純潔な血をまだその身にめぐらせている加代子には、まだ早すぎるのかもしれない。

そのくせ、「背徳」という言葉に、どきりとしてしまう自分もいる。
「お義姉さまも背徳。母さんも背徳・・・」
妹が生真面目な顔をして、指折り数える背徳の数。
「ぼくの背徳。加代子の背徳」
ぼくは加代子の指をとって、もう二本、丁寧に折ってゆく。
「加代子が”背徳”って呼びたいのなら、ぼくも加代子と話すときはそう呼ぶね」
加代子はウフフと笑って、自分の表情をごまかすためにもういちどぼくの足許にかがみ込んで、脚を咬んだ。
ハイソックスのしなやかな生地に、生暖かい血潮がしみこんでゆくのが、むしょうに心地よい。
「こんど、同じクラスの子、引き入れちゃおうかな」
口許にぼくの血をあやしながら、妹は素直な顔つきで微笑んだ。
ぼくも妹と目線を合わせて微笑んで、唇と唇とを、重ね合わせていった。

血液交換会 ~獲物を取り換え合う母娘~

2019年07月01日(Mon) 07:27:39

嗜血癖にめざめた妻と娘は、息子夫婦にのしかかってゆく。
しまいには獲物を取り換え合って、
妻は息子に、
娘は嫁に、
とりついてゆく。

妻と嫁は、A型。息子と娘は、O型。そしてわたしも、O型。
嫁は娘に吸われるのに、しり込みをしていた。
「加代子ちゃんO型でしょう?良くないわ、それに、あなたまで、淫乱になっちゃうわ」
そういって抗う義姉を組み敷きながら、「少しなら大丈夫」といって、
加代子は面白そうに顔を覗き込んで、毒づいた。
「いやらしいお姉さま。あたしがあなたの血を吸うのは、兄さんを裏切った罰よ、思い知るがいいわ」
言葉は尖っていたが、口調は甘え切っていた。
そして、ワンピースの襟あしを掻きのけるようにして、がりりと噛みついていった。
「あぁああ!」
おおげさに悲鳴をあげる華恵。
聞こえよがしに音を立てて、義姉の血をすする加代子。
「あたしが結婚しても、お婿さんには手を出さないでね」
義姉の思惑をすっかり読み取った加代子は、口許を義姉から吸い取った血で濡らしながら、そういった。
そして、うっとりと見上げる義姉と、唇と唇を合わせて、交歓していった。

帰宅した母娘 ~血液交換会~

2019年07月01日(Mon) 06:25:59

ただいまぁ。
玄関口に響くのは、娘の加代子の声だった。
真っ暗だった部屋に灯りが点けられ、ほんの少しだけ疲れを滲ませた制服姿が浮かび上がる。
白のベストに淡いブルーのプリーツスカート。
ハイソックスは中学のころの真っ白から、濃いグレーに変わっている。
「母さん、まだかぁ・・・」
独りごちる加代子の背後に、黒い影がひっそりと立った。
親としては、教えてやりたい。
親友としては、黙っていたい。
そんなジレンマに陥るひと刻。
けれどもそもそも、霊魂だけになってしまったわたしには、なんの手出しもすることはできないのだが。

だしぬけに背後から羽交い絞めにされた加代子が、キャッと短い悲鳴をあげる。
羽交い絞めにした腕はツタのように伸びて、学校帰りの制服姿をあっという間に緊縛してゆく。
白い首すじに吸いつけられた唇に力がこもり、娘はもういちど、悲鳴をあげた。
――近所迷惑にならないていどに。
ちゅうっ・・・
ヒルのように這いまわる唇から、バラ色のしずくがかすかにこぼれて肩先にしたたり、
くつろげられたブラウスの襟首にシミを拡げる。
「あッ、ヒドい」
加代子はひと言呟くと、白目を剥いて脚をふらつかせた。
男は娘を抱き支えながらも、なおも容赦なく、血液を摂取しつづけた。

ただいまぁ。
玄関先に、妻の昭代の声が響く。
部屋の灯りで娘の先着を感じた声は、明らかに娘に向けられていた。
「あら、加代子はシャワー?」
応えのないのをかすかにいぶかる声とともに、妻は白の半袖のブラウスを着けた上半身を現した。
濃い紫のロングスカートを微かに揺らしながら、淡いグレーのストッキングを穿いたつま先を、
たった今惨劇の起きたリビングの床にすべらせてゆく。
立ち込めるほのかな血の香りに、母親は敏感に反応した。
「あのひとに、血をあげてるの?」
なんともおぞましい科白だが、女たちが日常的に吸血を受けるわが家では、ごくありふれた出来事になりつつある。

「あッ!」
昭代が呻いたのは、
制服姿のまま半死半生であえいでいる娘を目の当たりにしたのと、
巻きつけられた猿臂の力強さと、どちらのせいだったのだろう?
娘と同じ経緯で、母親もまた首すじを咬まれ、容赦なく生き血をむしり取られていった。
いつになく飢えていた彼は、獲物として狩った母娘を相手に、捕食行為のような吸血に耽ってゆく。

じゅうたんの上に伸べられた、二対の脚。
娘は制服のチェック柄のプリーツスカートの下に、通学用の濃いグレーのハイソックス。
母親は濃い紫のロングスカートの下に、淡いグレーのストッキング。
母娘から獲た血液で、わずかに顔色を取り戻した男は、愉しむゆとりを取り戻している。
今度はふたりが脚に通した靴下をいたぶりながら、愉しむつもりなのだ。

やつはこれ見よがしに舌なめずりをくり返したあと、
まず娘のふくらはぎにとりついた。
発育の良いふくらはぎに、ハイソックスのうえから舌を這わせ、唇を吸いつけ、牙をずぶずぶと埋め込んでゆく。
わたしの視線を十分に意識した仕打ちだった。
濃いグレーのハイソックスには、みるみる赤黒いシミが拡がった。
男はそれでも、かすかにうごめく脚を抑えつづけて、掌の下でよじれてゆくハイソックスをしわ寄せながら、吸血をつづけた。

昭代はかすかに意識を残していた。
男がもういちど、娘の首すじに唇を吸いつけて、しつような吸血に耽るのを、恨めしそうに睨んでいる。
「安心しろ、お前の血ももう少し、吸ってやるから」
あまりにも見当違いな言い草に抗弁しようとする妻もまた、グレーのストッキングの足許に、卑猥な唇の刻印を捺されてゆく――
ぴちゃ、ぴちゃ・・・
くちゃ、くちゃ・・・
几帳面な昭代は、装いを辱められることに人一倍敏感だった。
淡く透き通るストッキングによだれをしみ込まされ、
弄りまわされてしわくちゃにされ、
牙で咬み剥がれて蹂躙されてゆくのを、
悔し気に見おろしつづけていた。

「娘さんのハイソックスは、なかなか美味い。
  高校にあがって、ハイソックスの色も変わったけれど。
  ちょっと色っぽくなったんじゃないかな」
男の言い草は明らかに、妻のプライドを逆なでしていた。
「あんたのストッキングは、娘さんのより破きやすい。
  そこがまた、なんとも言えず良い」
男が口にしているのは、母娘の足許を彩るナイロン生地の強度の問題だけではない。
「あんたの下腹は緩いな」
そう言いたいのに違いない。
夫として抗議したかったが、その前に男がいった。
「わかっている。奥さんは貞操堅固だ。
  エッチな身体が敏感過ぎるだけなのだ。
  だから今夜も、あんたの前で昭代を抱く」

長い夜は、始まったばかりだった。
わたしは冒される妻の艶姿から、視線を外すことができずに立ち尽くし、
貧血から立ち直りかけた娘までもが、薄眼を開けて成り行きを見守る。
「明日もお勤めなのよ・・・」
昭代が弱々しい声色で抗議すると、
「じゃ、息子夫婦を呼べばいい」
男はぞんざいに、指図を下した。


華やいだローズブラックのワンピースの華恵の後ろには、娘と同じ制服姿。
女装姿が板についてきた息子は、学校帰りの少女に見まごうようになった。
親として悦んで良いことなのかどうか――
けれども息子は、娘に成り代わって吸血を享けることを、むしろ悦びはじめていた。

「華恵さん、ごめんなさい」
「兄さん、ゴメン」
昭代は嫁の華恵に。
加代子は兄に。
むしゃぶりついてゆく。
華恵はきゃあきゃあとはしゃぎながら、新調したワンピースを惜しげもなく血浸しにしていったし、
息子は、妹とおそろいのハイソックスの脚に妹が咬みつくのを、理解ある同級生のように見つめつづけていた。

親族同士の血液の交換会。
慢性的な貧血と引き替えに得た吸血能力を得た母娘は、身内の血液にうっとりとなって、ひたすら啜りつづけてゆく――

夫の呟き。~若い日の記憶~

2019年06月23日(Sun) 09:53:09

まだ息子が中学生くらいのころのことでした。
わたしが昭代の浮気旅行に気がついたのは。

その週末、昭代は病院の慰安旅行があるからと、荷物をまとめていそいそと出かけていきました。
気丈な人柄で、若くして婦長となったほど有能な看護婦ではあったけれど。
真っ正直な女だったから、うそをつく器用さには恵まれていませんでした。
荷造りをしているとき、足りないものを買いに昭代が家をあけたとき。
わたしは昭代の荷物を開いて、なにか気になるものはないかと物色をしたのです。
まだ荷造りは始まったばかりで、入れていないものもいろいろあるに違いないとは思ったのですが。
妻がいない自宅という特殊な空気は、わたしにそんな恥を忘れた行為に駆り立ててしまったのです。

ボストンバックのなかからは、勤務の時に穿いている白のストッキングが3足、出てきました。
こんなものを仕事でもないのに、どうして持っていくのだろう?と思い、その理由にすぐはっとしました。
家内がいそいそと浮気に出ていくときには必ず、ストッキングを脚に通していったのです。
相手はストッキング・フェチなのだ。
もしかすると勤務中の昭代のストッキング姿を目にして、見染めたのかもしれない。
そう思うとむしろ、わたしは相手の純情さにほだされる思いがしました。
玄関で物音がするのを耳にしたわたしは、白のストッキングを1足だけ抜き取ると、素早く書斎の机の引き出しにしまい込んでいました。

昭代の旅行中。
幼かった娘は昭代の実家に預けられ、中学生の息子はスポーツに興じて家にはほとんどいませんでした。
たまの休みの真昼間に訪れた、妻のいない時間。
わたしは机の引き出しに忍ばせた白のストッキングを取り出すと、
自分の脚に通していったのです。
淡い脛毛の浮いた脚を、しなやかに包み込むナイロン生地の感触と、
すっかり女の脚のように見違えた足許にわれを忘れながら。
じかに穿いたパンティストッキングの股間に手を当てて、
我慢することのできなかった熱いほとびで、思う存分濡らしていったのです。
きっと同じことを、今夜昭代の情夫は冒すはずだ――そんな妄想に昂りながら。

週明けの月曜日。
体調がすぐれず欠勤したわたしを気遣いながらも、彼女は旅行の後始末に追われていました。
彼女がクリーニング店に携えていった衣類のなかに、勤務中にまとっている白衣が覗いているのを目にしたわたしは、
旅行先でなにが行われていたのかを、容易に想像することができました。
そう、お相手は妻にナース服を着せて、看護婦を犯す遊戯に耽ったに違いありません。
十数年連れ添った夫婦のあいだでは、ついぞ行われなかった戯れを許したところに、昭代の本気度を視る思いでした。

もっともいま思えば、彼女がいくら相手にほだされていたとしても、わたしと別れてその男といっしょになるという考えは、さらさらなかったようです。
家庭は家庭。遊びは遊び・・・そんなふうにはっきりと、割り切っていたのでしょう。
だからこそ。
日常をいっしょにすごすわたしとは決してしないような、「看護婦ごっこ」のような無軌道なことを、
恋人には許してしまうものなのかもしれません。

つぎの週。
「ちょっと・・・泊りで出かけなければならないのですが・・・」
昭代は言いにくそうに、わたしに言いました。
「今週も、慰安旅行かね?」
わたしは努めて明るい声で言いましたが、昭代は言葉の裏に毒をかぎ取ってしまったようです。
まるでおぼこ娘みたいに、ますます小さくなっていました。
そういう昭代をむしろいとしいと、わたしは自然に想えたのです。
「いいよ、行っておいで。きっとたいせつな御用なのだろう?」
わたしはむしろ優しく彼女を促して、浮気旅行へと背中を押していたのです。
股間に歪んだ昂りを、目いっぱい覚えながら・・・

家内がいない週末の真昼間。
ふと書斎の机の引き出しを開くと、そこには家内が脚に通していったのと同じ、肌色のストッキングが2足、
ひっそりと入れられていたのです。
きっと、お礼のつもりだったのでしょうね・・・


あとがき
・・・とまあ、あっという間に元の世界に戻ってしまいました。
A^^;

息子の嫁・華恵のその後 2

2019年06月22日(Sat) 12:07:52

吸血鬼を相手に献血をしている家族のなかで、華恵の役割は大きかった。
熟女である母さんや処女である加代子にも増して華恵が呼び出される割合が増えたのは、
彼女が自由の身である専業主婦であることと、
若々しい肢体に豊かな血液をめぐらせていることが、気安く誘う種になっていた。
ああもちろん、ぼくが寛大すぎる夫であることも、忘れてしまってはならないのだが。

そのために、華恵といままでの不倫相手との交際が、少しおろそかになったのは否めなかった。
しかし彼らは華恵から遠ざかるどころか、ますます華恵に執心したのだ。
特に彼女の元上司である花沢という50男は、
ぼくが自分と妻との交際に見て見ぬふりを決め込んでいるのを嗅ぎ当てると、
しきりにぼくに接近してきた。
ぼくはしばしば彼に誘い出されて高級な料亭でもてなしを受け、
今度のプロジェクトで奥さんを借りるのでよろしくと言われたのだ。
もちろんぼくに、いなやはなかった。
どうぞ妻をよろしくと、別の意味を込めて返したとき。
マゾの血が波打って、ズボンの股間をかすかに逆立てるのを必死にこらえていた。

その彼は、ぼくの許可を得て、昼間にぼくの家で華恵との”打ち合わせ”をくり返すようになった。
その”打ち合わせ”とやらが夫婦のベッドのうえで行われたのは、いうまでもない。
仕事を終えて家に戻って、ベッドに身を沈めるとき。
きれいに洗濯されたシーツはきっと、華恵の爛れた情事に擦り合わされたのだろうと想像して、独り布団のなかで昂っていた。
そういう夜ほど濃密な夜になることを、華恵はひっそりと笑いながら受け入れていった。

やがて花沢の奥さんが、夫の浮気に感づいた。
「弱ったな・・・家内がわしときみの奥さんとの仲を、疑っているのだよ」
呼び出された高級料亭の密室で、彼はそう言って困り顔を作った。
そして、きみからもただのプロジェクトの打ち合わせなのだと、家内に話してもらってはくれまいか?と、
ひどくムシの良い依頼さえ託されたのだった。

妻の華恵を日常的に抱いている男を弁護するため、ぼくは花沢の奥さんに連絡を取った。
手にしたメモは、花沢の筆跡。
奥さんを寝取ってほしいと頼まれたご主人に託されたような錯覚をおぼえながら、
豊かな声色をした五十代のご婦人を、そのご主人とぼくの妻との不倫現場へといざなう連絡をしたのだった。
もちろん、花沢の思惑とは、裏腹に。

組んずほぐれつの濡れ場の最中に、わが家の夫婦の寝室のドアが、だしぬけに開け放たれた。
ドアの向こうには、憤怒に満ちた花沢夫人――
花沢が仰天したのは、いうまでもない。
けれどもそのつぎの瞬間、今度は花沢夫人が驚きうろたえる番だった。
背後からだしぬけに羽交い絞めにされた彼女は、華恵のもう一人の情夫に、首すじに食いつかれていったのだ。
「な、奈々恵・・・っ!?」
よそ行きのスーツの襟に赤黒い液体を滴らせる妻の姿に、花沢は顔色を変えて起き上がろうとしたが、
それを引き留める華恵の腕は意外に強く、彼はベッドから起き上がることができなかった。
不覚にもまぐわいを再開してしまった夫の手の届かないところで、
長年連れ添った夫人は、よそ行きのスーツに血を撥ねかせながら、熟れた生き血を餌食にされていった。

いままでものにしたご婦人のなかでは、最年長だね。
ぼくが声をかけると、彼はうれし気にウィンクを返してきて、口許に撥ねた血を手の甲で拭った。
ご主人も首すじに同じ咬み痕をつけられたまま、ぼう然として座り込んでいた。
「わかっていると思うが、これからは奥さんを餌食の一人に加えさせていただくよ。
 その代り、華恵の肉体はいままでどおり愉しむがいい。
 ご主人も寛大なひとだから、あんたを妻の愛人の一人として歓迎すると言っている」
ぼくの気持ちまで勝手に代弁した彼は、
まだ腕の中にいる花沢夫人の胸元をブラウスの上からまさぐりながら、
なおも首すじから血をすすった。
花沢夫人がそのまま、ストッキングをみるかげもなく咬み剥がれたうえ、
薄茶のタイトスカートを腰までたくし上げられながら犯されていったのは、いうまでもなかった。
ぼくは父さんよりも年上の花沢を妻の愛人として歓迎する約束をさせられて、
それでも花沢とまぐわう華恵から、目を離せなくなってしまっていた。
花沢はぼくと、あいまいな笑みを浮かべながら握手を交わして、去っていった。
自分のしでかしている不倫を、不倫相手の夫と自分の妻とが認めてくれる見返りとして、
長年連れ添った妻が吸血鬼の奴隷に堕ちてしまったことは、果たして彼にとって有利な取引だったのか、高くついた火遊びだったのか。


華恵のもう一人の不倫相手は澤松といって、華恵の取引先の重役だった。
華恵は彼のことを花沢よりは信用していて、自分が吸血鬼の愛人になったと告げていた。
相手の吸血鬼とは愛し合っていて、夫も関係を認めてくれていて、良好な関係を築いていること、
夫は貴男との関係も薄々勘づきながらも黙認してくれていること、
だから澤松と吸血鬼とは、いわば同じ女性を好きになった同好の士という関係だと思っていることを伝えたのだ。

澤松は実のある男だったので、まず華恵の健康状態を心配してくれた。
当座、失血死の危険がないことを聞かされると、それでも献血の頻度が多いことを気にして、
採血のためだけなら、ぼくの家内にも頼んでみると申し出たのだ。
澤松夫人は控えめな女性で、夫のことを愛していていた。
夫が外に愛人をこさえてくることにも、苦情を申し立てることはなかった。
けれども澤松はそのことをひどく苦にしていて、「せめてあいつも浮気のひとつくらいしてくれていれば、まだ気が休まるのだが」と、
ムシの良い感想を漏らすのだった。
華恵の情夫のための献血相手を澤松夫人に依頼する話は、澤松と、華恵と、わたしとのあいだでとんとん拍子に進んだ。

いちぶしじゅうを言い含められたうえで、よそ行きのスーツ姿の澤松夫人を家に迎えたのは、早くもその二週間後だった。
澤松夫人は折り目正しくぼくにお辞儀をした。
そして、主人が大変ご迷惑をかけていると伺いました。妻として申し訳なく思っております、といった。
澤松夫妻はぼくの両親と同じ年恰好だったけれど、ぼくは夫人に対する思慕をほんの少しだけ覚えていた。

献血の儀式は、家の一番奥の日本間で遂げられた。
そこには床がのべられていて、ジャケットを脱いでブラウス姿になった夫人は、あお向けに横たわることになっていた。
けれども夫人が寝そべってお相手をするのはふしだらであるからと固辞したために、
その部屋で立ったまま、吸血を受けることになった。
わたしたちは部屋から引き取り、隣のリビングに移ることにした。
そして、二つの部屋を隔てるふすまを開け放っておいて、
「気になるようなら、様子を窺うこともできますよ」と、澤松氏に告げた。
澤松氏は丁寧に感謝の言葉を返しながらも、半開きになったふすまに背を向けてソファに腰かけた。
わたしたち夫妻と澤松氏とが華恵の淹れたお紅茶をたしなんでいるあいだ、
彼は澤松夫人を相手に、熟れた血潮に酔いしれていった。

その日澤松夫人は、夫以外の男から女の歓びを初めて識った。

こと果てたのちも、澤松夫人はなにごとも怒らかかったかのように、穏やかな笑みを浮かべるだけだった。
栗色の髪の生え際に、首すじの咬み痕が赤黒くにじんでさえいなければ、なにも起きなかったのかといぶかるほど、
彼女はさりげなく佇んでいた。
澤松夫人はご主人に、おだやかに微笑みかけながら、いった。
「これは献血というよりも、恋愛ね」
「そうかもしれない。
 きみがほかの男の味を識ってしまったことは夫として悔しいけれど、
 きみにもぼくと同じように、自由に生きてもらいたい。
 子供たちも大きくなったのだから、限りある人生を愉しむように」
「子供達には手を出さないでね」
賢妻である澤松夫人は吸血鬼に、さりげなく区切りをつけた。
「そうさせてもらいます」
吸血鬼は夫人の手を取って、手の甲に恭しく接吻を重ねた。
「このひとは、熟年女性殺しなんですよ。母もやられました」
ぼくがいうと、「まぁ、そう」と、澤松夫人は柔らかく微笑んだ。
「お母さまを、どうぞおたおせつに」
夫に庇われながら丁寧に会釈を返しながら帰宅していく澤松夫人は、どこまでも奥ゆかしかった。


あとがき
華恵というよりも、華恵の浮気相手の奥さんのお話でした。。 ^^;
ひさびさに入力画面じか打ちで描いたので、変なところがあったらごめんなさい。
m(__)m

息子の嫁・華恵のその後

2019年06月22日(Sat) 11:26:17

妻の華恵に吸血鬼の恋人を迎え入れてから、半月になる。
もともと母の情夫だったその男に妻の肉体を譲り渡したとき。
彼は華恵よりも先にぼくのことを襲って、血を吸った。
そして、失血でもうろうとなっているぼくのまえで、華恵を堂々と?奪っていった。
黒一色の喪服をしどけなく乱し、裂かれたブラウスのすき間から白い肌を露出させながら,堕ちていった華恵――
いままでも、結婚前から交渉のあった男性たちとの逢瀬を半ば公然とつづけていた彼女だったが、
実際に抱かれてしまうのを夫として目にするのは、もちろん初めてのことだった。
なん度もまぐわううちに、ふたりの息が合ってきて。
やがて華恵のほうから求め始めるようになったとき、
ぼくは彼女との夫婦生活の終焉を覚悟した。
けれどもそのすぐあとに、男の直感というものはどれほど見当違いなのだろうと反省することになった。

華恵は確かに、新しい恋人に夢中になった。
それからは毎日のように出かけていって、
毎日あくせくと仕事をしているぼくをしり目に、ぼくの実家の畳やじゅうたんを、ふしだらな汗や体液で、濡らしていった。
けれどもだからといって、ぼくとの結婚生活を解消しようなどとは、彼女はさらさら思わなかったのだ。
彼女は平凡で心優しい夫を必要としていた。
大胆な火遊びを絶やさないのと同じくらい、彼女には安定した家庭の存在がもたらす安心感を、必要としていたのだ。
ふつうの夫たちにとっては、たしかに「いい面の皮」かもしれないけれど。
ぼくには魅力的な妻がそばにいてくれることが欠かせなかったし、
目の前の妻がぼくに優しくさえあれば、ぼくの見えないところでぼくを裏切っていたところで、そこは目を瞑ってしまおう、いけない昂りの種にしてしまおうと割り切ることにしていた。

彼にしてもそうだった。
いやむしろ、彼のほうこそ”信頼”できた。
なぜなら彼は、人妻を独り占めにすることよりも、
彼女の夫の目の前で抱いて、見せつけることに関心を寄せていたからだ。
女性との関係は華恵とが初めてで、そもそもがうぶだったぼくは、彼にとってかっこうの”餌食”だった。
ぼくの血液は彼の華恵に対する性欲を高めるために消費されて、
そのうえさらに、目の前で妻を犯される夫を演じることで、彼を愉しませた。
彼にとってぼくは、二重に好都合な獲物だったのだ。

彼は必要以上に、ぼくをあざけることをしなかった。
「息子をあまりみじめな立場にしないでくださいな」
きっと母さんはそんなふうに、彼に頼んでくれたはず。
けれども彼は母さんに頼まれるまでもなく、
ぼくのことを最愛の女性の一人息子として遇してくれた。
そして、華恵を間にはさんだ遊び相手としても、ぼくのことを明らかに重宝していた。
華恵の不倫に見て見ぬふりを決め込んで、想像のなかだけで昂りをくり返していたぼくは、
彼によって「視る歓び」を、植えつけられていったのだ。
だから、「夫の前で妻を犯して見せつける」ことを彼がしたくなったときにはいつでも、ぼくは華恵を伴って実家に顔を出すのだった。
彼とぼくとのあいだでは、意識して紳士的なやり取りが交わされて、
それでいながらぼくは、彼に対して絶対的な帰属感を寄せるようになっていた。
しばらく後には、ぼくは彼のことを時折「義父(とう)さん」と呼ぶことに、抵抗を覚えなくなっていた。

彼が「義父さん」であるとしたら、ぼくはかなりの親孝行をしていることになる。
華恵を「義父さん」の血液摂取欲や性欲を満足させるために差し出すことは、もちろん「義父さん」の悦ぶところだったし、
華恵が「義父さん」の相手をしている間、母さんは父さんと過ごすことのできる時間を作ることができるのだから。

華恵が浮気に出かけるときは、ふだんよりもぐっとひきたつ服を着ていくことが多い。
だから、複数の男性と不倫の夜を重ねるときは、
「今夜は遅くなるから、先に寝ていて」
などといわれるまでもなく、ぼくはほぼはっきりと、それと察することができていた。
反面、彼との逢瀬を遂げに母さんの住む実家に向かうときには、華恵は必ず喪服を着ていた。
「亡くなったほうのお義父さまのお参りをしに行く」というのが、表向きの言い訳だったからだ。
もちろんほんとうは、黒のストッキングを通した脚に欲情する彼の欲求を満たしてやるために過ぎなかったのであるが。
しかしそのうちに、もうひとつの理由があることを、母さんから教えられた。
ぼくの実家に喪服を着て出かけていく華恵とは裏腹に、母さんは若やいだ服装を好むようになっていた。
「母さんはこのごろ、喪服を着ないんだね」
実家にもどったときにぼくが何気なしにそういうと、母さんはいった。
「ばかねぇ、華恵さんが引き立て役になってくれているのよ」
と。
華恵が地味な喪服姿で彼に抱かれる一方で、母さんは華やかな若作りの衣装を身に着けて、彼に接するというのだ。
「もちろんたまには、私も喪服を着るけれど」
そういって笑う母さんの口許には、いままでに目にしたことのない艶が漂っている。
華恵は、彼が母さんの情夫であることを気にかけていて、自分は引き立て役に徹しようとしているのだった。


「結婚するのなら、私が男友達と逢うのをとやかく言わないでね」
ぼくのプロポーズに応えるときに、華恵が繰り返し告げた条件を、ぼくは寛大すぎる夫になって、飲み込んできた。
――この子のお人好しにつけ込んで、驕慢な嫁にならなければ良いけれど。
父さんがなくなるのと前後してとり行われた華燭の典の席上で。
さいしょのうち華恵にあまり良い感情を抱かなかった母さんは、品行方正な姑の顔つきでそんなふうにうそぶいていた。
けれども現実は、逆だった。
敏腕のキャリアレディで、仕事の出来でも足許にも及ばないはずのぼくのことを、華恵はとことん立ててくれた。
家のことを完璧にこなすのはもちろんとして、ぼくの身の回りだのスケジュールだの、こまごまとした手続きだのをすべて受け持って、最良のマネージャーを演じてくれたのだ。
華恵と語らって何かの段取りを決めているときのぼくは、まるで一流のビジネスマンになったような錯覚さえ抱くようになっていた。
彼女はどこまでも、賢妻として振る舞ったのだ。

その賢妻ぶりは、母さんも一目おくほどになっていて。
――さいしょはどうなることかと思ったけど。
と言わしめるほどになったのだけれども。
彼女が賢妻としての才能を開花させた最大の原因は、ほかでもない複数の男性との結婚前からの不倫のおかげだった。
男なしではいられない体質の妻は、自分の”持病”に理解を示すぼくに、どうやら心からの感謝をしてくれていたらしい。
彼女の賢妻ぶりには、感謝と贖罪が込められていた。

三人目の不倫相手を、夫から紹介された後もまた、彼女のぼくへの配慮はいっそう濃やかなものになっていった。
もっとも、彼女の配慮が濃やかであるほど、時に嫉妬に打ち震えることにもなったのだけれど。
ぼくの嫉妬が兇暴なものになるのでは?という華恵の心配は、杞憂におわった。
ぼくは嫉妬しつつも彼と華恵との濡れ場をのぞき見して昂ってしまうような、いけない大人に育ってしまっていたから。

「そんな子に育てた覚えはないけれど」
母さんはため息しながらも、自分の不倫に寛大になっている息子に安堵を覚えていたし、
「まさか寝取られ好きだとは知らなかったけど――利害が一致しているから良しとしましょう」
華恵もまた、夫の理解しがたい歪んだ性癖に驚き苦笑しながらも、
実情に適切に対応し、自らも新しい不倫をしたたかに愉しむようになっていた。

なにしろ相手は身内である。もっとも信頼できる相手といえた。
姑がまじめに交際している愛人で、事実上夫の義父になりかかっている男なのだ。
ぼくも――時には嫉妬にかられてどうにもならない昂りに目覚めてしまううらみはあるけれど――彼を華恵のためにもっともつり合いのとれた情夫であると、認めないわけにはいかなかった。


あとがき
なぜかNTR話ばかりがすらすら描けてしまう、きょうこのごろ。^^;
カテゴリは、昭代さんがヒロインだった当初から「成人女子」としていましたが、
どちらかというといつものノリの「家族で献血」に近くなっていますが、
とりあえずこのままいきます。

夫の呟き。

2019年06月18日(Tue) 05:12:34

はじめに

最近ずっと続いている「看護婦・昭代」シリーズの続きです。
今回はちょっと長いので、てきとうに読み流してください。 (笑)


昭代の夫です。
わたしの死後、家内が行きずりの吸血鬼に生き血を望まれて、
律儀にも勤め帰りに待ち合わせて、無償で血液を提供して、
それも一度ならず継続的に、女の生き血を供給するために家庭に迎え入れて、
母娘ながら日常的に毒牙にかかる道を選ぶのを、まるで生きているときさながらにつぶさに見聞する羽目になろうとは――
もっともいまのわたしは、家内の善行を歓びこそすれ、忌むべきこと、呪わしいことだとは、決して感じてはおりません。
いままで語られてきたことと重複するところもあるのでしょうが、
わたしはわたしなりに、自身が視たこと聞いたことを、皆さまにお伝えしてみたいと思うのです。


死後も意識があって、
自分の身体がこの世から消えてしまったとしても、
心だけは残るものだと知ったのは、もちろんわが身がそうなった後のことでした。

自分がいなくなった家庭が冬枯れのように寂しい空気に包まれるのを、やるせない気持ちのままに看つづけていました。
家庭内でそんなに重んじられていた覚えも、ございません。
年ごろの娘との会話もさほどなく、看護婦という多忙な職業を持っている妻とも会話は途切れがちだったはずでした。
それでも3人いた家族が2人になるということが、これほど空疎な空気感をかもし出すことになるとは、思ってもいませんでした。
結婚したばかりの息子が時折新妻を伴って訪れたときにだけ、家の中はほんの少し華やぐのですが、
彼らが引き上げてしまうとまた、元どおりの静寂が訪れてしまうのでした。

わたしのいないわが家に変化が訪れたのは、1年ちかく経ったころのことでした。
実をいうと、妻とあの男とのなれ初めの場も、わたしは見ていたのです。
それを黙っていたのは、二六時中わたしに視られているなどと知った家族が、決して良い気分にはならないだろうと思ったからでした。

あの日、出勤途中に見ず知らずの男に呼び止められた妻は、怪訝そうな顔をして。
やがてなにかを囁かれて、びっくりしたように男のことを見返していました。
そして、仕事をしているときと同じ、冷静で真剣な目線を男に返すと、
二言三言なにかを囁き返して、あとをも振り返らずに、元どおりのあ歩みをふたたびつづけたのです。
いままでよりはかなり急な、そそくさとその場を離れたいような足どりでした。
相手の男が吸血鬼で、行きずりの妻に生き血をねだったことを、彼女の心の動きから読み取ることができました。


さいしょのうちは、そのような突飛な話を信じまいとする気持ちが、妻のなかでは強いようでした。
しかし病院の患者さんたちと向き合う仕事に入ると、彼女の心から雑念が消えました。
それどころではない目まぐるしい日常業務に、忙殺されたのです。
つぎに妻の彼に対する意識が戻ったのは、勤務を終え病院を出るときでした。
その時には妻の考えは、出勤してきたときとは真逆のものになっていました。
――私が約束通りに公園に行かなければ、
きっとあのひとは、見境なくほかのだれかを襲うだろう。
それは、こういう職業に携わっている自分のような者がとるべき道ではない。
家内は家内なりに厳しい職業倫理を持っていて、
その職業倫理が、
生き血をすすり取られるというおぞましいはずの体験に対する本能的な恐怖を越えて、
彼女の歩みを公園へと向けさせていたのです。
あとは、あの男が語ったとおりの経緯で、四十代の職業婦人の血液は、飢えた吸血鬼の喉の奥へと、吸い取られていったのです。

ベンチに腰かけて背すじを伸ばし、目を瞑った家内の首すじに、
男の唇がいよいよ近寄せられてゆくのを、
わたしは数歩離れた距離から、どうすることもできずにただ見守っておりました。
もちろん、吸血行為が行われているあいだ、家内のそばから離れることは可能でした。
けれども、そうすることはなぜか、潔いことではないように感じて、
わたしは棒立ちになったまま、ふたりのそばを離れようとはしませんでした。
仮に男が家内との約束を破って、
家内がそのまま生き血を吸い尽くされてしまったとしても、
指一本触れることはできないはずなのに・・・

咬まれて生き血を吸い取られているあいだ、
平静を取りつくろって目を瞑る家内の面差しはつとめて穏やかで、
けれども神経質に震えるまつ毛だけが、彼女の想いを伝えているようでした。

四十代の職業婦人の活力を、男は不当にもむさぼりつづていったのですが、
そのあいだじゅう、
わたしはえも言われぬ昂りを胸に秘めながら、
ただひたすらに佇んで、家内が吸われてゆくのをただぼう然と見守っておりました。

男に家内を吸い殺す考えがないと確信したのは、
吸い過ぎたと悟った彼が吸うのをやめたときでした。
思惑以上に性急な欲望をぶつけられた家内が、眉を寄せて額を指で抑えたとき。
彼はいいようもないほどうろたえてしまっていて。
自分のふるまいが相手の男をうろたえさせたと知った家内は、
むしろ余裕の笑みさえ含んで小休止を告げていました。
吸血される側が、吸血する側をリードするなど、どんな吸血鬼ものの映画でも、目にしたことはありません。
けれども被害者であるはずの家内は、それをこともなげにやってのけていたのです。

しばらくの間、ふたりでおだやかに会話を交わしたあと、
家内は明日は非番だと告げると、彼の欲求を満たすためにもう少しだけ、自身の血液をゆだねる意思を伝えました。
ふたりが息が合っていることを、わたしは認めざるを得ませんでした。
けれども、家内に対する吸血行為が、ただのがつがつとした捕食行為ではなくて、
おだやかなに流れる刻のうちに終始したことに、どこかで安堵を禁じえませんでした。
自らの欲望を抑えてまで紳士的に振る舞おうとした、お相手の吸血鬼氏にも、
その異常な欲望を容れて、課せられた役目を立派に果たそうとした妻にも、
拍手を送りたい気分でした。

首すじから血を吸い取らせた後、
男がそろそろと足許ににじり寄り、ストッキングを穿いた足許に唇を近寄せるのを、
表現は婉曲ながら、家内はさすがに色をなして咎めました。
「ストッキング、脱ぎましょうか?」
穏やかな声色ではあったけれど、
相手の無作法を咎める尖った気分が、ありありと伝わってきました。
きちんとした装いをした婦人のだれもが感じるように、
彼女もまた、自身の装いを辱められることをきらったのです。

既婚の夫人が夫以外の男性のまえでストッキングを脱ぐ――そんな行為自体が、じつは禁忌に触れるものではあったのだけれど。
穿いたまま破かれるよりはまし――そんな彼女の気分が、わたしにもありありと伝わってきました。

それでも男は、家内が脚に通しているストッキングを破きながらの吸血行為を臆面もなく望み、
家内はやむなく・・・という態度で、足許に這わされる唇に、なおも尖ったままの目線を注ぎ続けました。
きちんと穿きこなされた肌色のストッキングに好色なよだれを滲ませながら、家内はふたたびの吸血に応じていったのです。

それからのひと刻は、
家内の身に強いられている行為が、
吸血行為という枠を越えた猥褻なものであることを、家内もわたしも感じていました。
もちろん彼自身も、自覚していたことでしょう。
けれども、おぞましい凌辱になりかねないその行為は、
だれにもさまたげられることなく、
さっきまでと同じ色合いの、静かにで穏やかな雰囲気のうちにつづけられていきました。

堅実で常識的な婦人であるはずの家内が、ストッキングを破られながらの吸血を受け入れていったとき、
わたしは家内に対する男の想いと、
それを受け入れようとしている妻の想いとを自覚して、
かすかな嫉妬が胸を刺すのを感じました。

目を背けたい思いと、
見届けたい思いとを交錯させながら、
わたしはふたりの行為からとうとう、目を離すことができませんでした。
男は家内の前に跪くようにしてその足許に唇を這わせ、
家内はそうした男のしぐさを庇うように、男の肩や背中に手をまわし、
穏やかに撫でつづけていたのでした。


その日家内は帰宅すると、
いつものようにわたしの仏壇に行儀よく手を合わせ、
心を込めて線香をあげてくれました。
そのとき妻が帯びていたウキウキとしたようすは、
後ろめたいことをしてきた人にはみえませんでした。

娘もまた、いつになく上機嫌な母親の様子をいぶかっておりましたが、
その理由を妻が口にすることは、ついになかったのです。
「お父さんに線香をあげたとき、後ろめたい気分が全くなかった」
あとで家内は、彼とわたしの前でそう告げたものでしたが、
お線香をあげてくれた時の彼女の想いが彼との交際をつづけるきっかけのひとつになったのは、間違いありません。
お仏壇に向かうという行為で彼女は自分を取り戻して、自分の想いをもういちど反芻し、結論を手にしたのです。

それでも、彼の存在をわたしまでもが受け入れているいま――
通りがかりの家内に彼が声をかけてきたこと、
真面目な家内が勤務時間に遅れまいとして、勤め帰りに逢うといった約束をきちんと守ったこと、
彼が家内の言い草を容れて、律儀に待ちつづけたこと、
喉をからからにしていたはずの彼が、初めての吸血に欲望をあからさまにしながらも、
マナーを忘れずに家内に接してくれたこと。
家内も初めて体験する吸血行為をおぞましいことだと見なすことなく、寛容に振る舞いつづけたこと、
そのことをきっかけに、ふたりの交際が円満にスタートしたこと、
それらすべてに、わたしは深く感謝しているのです。心から――




あとからの彼と家内との仲睦まじい関係を考えたなら。
彼が家内に求愛したのが、かりにわたしの生前のことだったとしても。
わたしは彼を家内の交際相手として、受け容れてしまったかもしれません。
恥ずかしい告白をするようですが、
わたしは本来、そうした男だったのです。

わたしは生前から、
家内がわたしの取引先の複数の男性と関係を結んだのを、
見て見ぬふりをしていました。

――いうことを聞いてくだされば、ご主人の仕事がうまく運ぶんですよ・・・
かれらはいちようにそういって家内に迫り、
家内はわたしのためと思いつつ、心ならずも抱かれていって、
けれどもしまいにはその行為じたいに惑溺して、
それからはむしろ積極的に、関係をつづけていったのです。

それでもわたしは、わたしを想いながらわたしを裏切りつづける家内を咎めようとはしませんでした。
むしろ彼女がいやおうなく突きつけられた不当なはずの関係に、むしろきちんと向かい合って、
前向きな気持ちで不倫を愉しみはじめたことに、
歓びさえ感じるようになっていったのです。

妻に浮気されたことを汚名を被ったととらえたり、
取引先の男たちに内心ほくそ笑みながら付き合われたり、
そうしたことで対面を損なわれたなどと、誇り高い夫としての見栄を張ることよりも。
妻が後ろめたい思いを抱きながら暮らすことなく、
むしろ若やぎを取り戻しながら前を向いて生きていくことのほうが、
ずっとずっと良いことのように感じたのです。

いま家内は、かつて浮気を重ねたときのように、
こんどは生身の人間ではない異形のものに身をゆだねようとしていました。
けれどもそのことで、妻の身体をめぐる血液が活かされることを、悦ばしいことだと思いました。
そして――わたし自身がその献血行為にもはや加わることができないことを、むしろ残念にさえ感じていたのです。



家内が初めて彼を家に招んだとき。
そうすると決めるまでには、かなりの時間がかかりました。
血に飢えた彼のことをひとたび家庭内に受け入れてしまえば、
家内ばかりか娘までも生き血をねだり取られて、母娘ながら餌食になってしまうのです。
娘の危機を、彼女なりに考慮しないわけにはいかなかったのです。
いまはわたし自身さえもが、彼を家庭内に迎え入れた家内が、
娘ともども競うようにして血液を与えるようになった日常を、歓迎してさえいるのですが――

初めてわが家の敷居をまたいだ彼は、
”これからあなたの奥さんをいただきますよ”
とわたしに告げるべく、丁寧な手つきでお線香をあげてくれました。
お線香をあげてもらうとね、気持ちがよくなるものなのですよ。
生死の世界に通じていた彼は、そうと知りながら、きちんとお線香をあげてくれたのです。

ふつう、人妻を狙う男というものは、亭主のことなどまるっきり無視して、ふらちな欲望のままに獲るべきものを手にするはずです。
ところが彼は、わたしに敬意を払って、お焼香までしてくれました。
妻のことをそれだけたいせつに想っている――そういう想いが伝わってきて。
その段階ではもう、家内のためには彼ほどふさわしい相手はいないだろうと思わざるを得ませんでした。
わが身のことは、さておいて。

家内の抱えている寂しさをだれかが紛らわしてくれるというのなら、
たとえ彼女の身体だけが目当てだという男であっても、
もしかしたら歓迎してしまったかもしれないけれど。
彼は家内の身体だけではなく、心も満たす存在になるのだと、夫の直感として感じたのでした。

勘の良い乙女が、初めて男と逢ったとき、
その男が自分の処女を奪うであろうことを予感するといいますが、
さほど勘の良いわけではないわたしでも、
初めての吸血のときから、彼が家内の貞操を勝ち得るだろうことを、ありありと予感していたのです。

”奥さんを頂戴します”と掌を合わせる彼にわたしは、
”どうぞお手柔らかに”と、思わずにはいられませんでした。
身体においてわたしよりもはるかに秀でている彼が、
生理的な意味で家内のことを容易に満足させてしまうだろうことを、
そしてそのことが、家内がわたしをまるきり忘れる契機になりかねないということを、
同じ男として、妻を奪われる夫として、ありありとわかってしまったから。

それでも彼は、勝利者の余裕からだろうけれど、わたしへの礼儀を捨てようとはしませんでした。
”俺にとって最愛の昭代さんの、そのまた最愛のひとなのですから、俺が貴方に礼を尽くすのは当たり前のことです”
と、彼は言いました。
意外に古風なやつなのだな、と、わたしは彼に対して、すこしだけ好感を持つことができました。
そのあと彼は、よけいなことをつけ加えます。
”俺は、ご主人のまえで奥さんを征服して見せつけるのが好きなんですよ”と。
ぬけぬけとした彼の言い草に、わたしはちょっとだけむかっ腹を立てながらも、
あまりにもあっけらかんとした正直すぎる告白を、受け入れないわけにはいかないと思いました。
同じ男として、彼のしたいことが、よく理解できたのです。

これから妻を犯そうという男に対して、
ふつうの夫なら、仇敵だという感想しか持ちえないはずなのに。
けれどもわたしは彼に対して、不思議にそういう感情を抱くことがありませんでした。
その仇敵になりかねなかったはずの男に、むしろ好感を覚えることができたことを、
いまでは幸せに感じています。


いちばんの気がかりは、すでに彼に心を移してしまった家内ではなく、娘のことでした。
娘の加代子は、制服姿で彼を迎えました。
わざわざよそ行きの服を選んだことは、礼儀を尽くすということよりもむしろ、
”私は貴男を警戒している”と告げるためのものでした。
近い将来自分の純潔を勝ち得ることになる男が来たのだと、
娘はどこまで直感していたのでしょうか?
白のハイソックスの足許にしげしげと這わされる視線に、わたしは不吉なものを感じるばかりでした。
ふたりは部屋を隔ててよそよそしい挨拶を交わし、それ以上どちらからも、近づこうとはしませんでした。
娘の敷いた決壊を踏み越えなかったことは、彼にとって賢明でした。
娘はこちらに背中を向けてわたしにお線香をあげるふたりのことを、じいっと見つめつづけていました。

彼の行った降霊術は、娘の警戒心を解くのに大きな役割を持ちました。
彼と家内とわたしとは、胸襟を開いて本音を交し合い、娘はそれを離れたところからつぶさに聞き取っていたのです。
彼と家内とのなれ初めや、いまでもキスさえ交わしていないという交際の実態から、
家内の旧悪である不倫の事実や、そのことをわたしが知りながら許していたことまで、
娘はあらいざらい、知ることになったのです。
「あの時はドキドキしちゃったけど、でもなにもかも知られてむしろスッとしたわ」
家内はあとでわたしにそう告げたものですが、隠していたことを離してしまうことは、信頼しあっている夫婦のあいだではたいせつなのだと、死後になってからわかったのでした。
「あなたには申し訳ないと思っていたし、後ろめたかった。
 でもまさか、愉しんでいたなんて。 笑
 でも、それでよかったのかも。
 今度は私、彼と同じことをして愉しむわ。
 貴方も貴方なりに、愉しんでくださいね」
家内は嬉しそうに、なんのわだかまりもなく”不倫宣言”をしたのでした。
わたしもまた、胸のわだかまり――妻の浮気を知りながらそのことを黙っていて、むしろ愉しんでしまっていたことからくる後ろめたさ――が消えていました。
「きみの浮気を愉しみたい」
などと、面と向かって口にすることができるとは、生前は思ってもいませんでしたから。



いまは家内も娘も、わたしと入れ替わりに同居するようになった彼に、かわるがわる生き血を提供して暮らしています。
それぞれにひとつ部屋に彼を迎え入れて――娘は自身の勉強部屋に、家内は夫婦の寝室に――恋人のように抱きすくめられ、首すじを吸われ、脚を吸われ、胸の周りまで吸われていくのです。
かつて家内は勤め帰りのストッキングを舌で愉しまれ咬み破かれることを厭いましたが、
いまでは嬉々として惜しげもなく、ストッキングを脚に通しては辱めにゆだねるようになっていますし、
娘も母親を見習って、好んで女学生を襲ってきた彼の不埒な愉しみのために、通学用のハイソックスをなん足も血浸しにしてしまっています。
やがて娘はストッキングを穿く年代になって、母親と同じようにされてしまうのでしょう。
そう、めでたく貞操を喪失した家内につづいて、つぎに狙われるのは娘に違いないのです。
しばしのあいだは処女の生き血を提供することで見逃してもらえるのでしょうが、それも時間の問題でしょうから――


あとがき
このシリーズ、意外に長続きしています。
大概のお話は、衝動的にその場で描き切ってしまうので、長編を描くことはめったにないのですが、
続くところまでは続けてみたいと思います。

お話のテーマはいろいろあるのでしょうけれど、
看護婦としての職業意識から、自身の血液を経口的に輸血することに同意した昭代さんや、
母親ゆずりの気の強さで、ハイソックスの脚を咬まれながらもつとめて平静さを取りつくろおうとする加代子さん、
それに死後に妻の実質的な”再婚”を見せつけられる夫の、悲喜こもごもな複雑な感情を描いてみたいと思います。

タイミング ~娘・加代子のつぶやき~

2019年06月06日(Thu) 07:04:35

どういうわけか、タイミングが良いのよね――
母さんはあのひとのことをそういうと、
そうなのよ、どういうわけか断りにくいときに来るんだから――
私もあのひとのことをそういった。
夜勤で疲れて帰ってきた母さんのことは、決して襲わない。
つぎの日が非番だというときには、したたかに吸いまくるし、犯しまくってしまう。
(あらいやだ、嫁入り前の娘のいうことではないですね・・・)
私のときも、中間テストの前だからと、気を使ってくれた。
そのくせ、部活の練習試合で勝ってハイになって戻ってきたときには、
制服姿のまま組み敷かれて、首すじを吸われ、ハイソックスを血浸しにされた。
もう・・・ってふくれ面をしながらも、もう一足・・・ってねだられたリクエストにお応えして、履き替えてしまった私も私なのだけど。

彼が断わりにくい時を選んでいるということは。
きっと、衝動をこらえてガマンするときも多いということだ。
自分だけの都合で動かないところに、人間の男どもに見習ってほしいくらいのマナーの良さを感じていた。
こんどはこちらが気を遣う番だとふと思って、
そんなことを思ってしまった自分を、ばかみたい、と思った。
けれどもやっぱり、母さんも私も、気を使ってしまう。
珍しく白衣を着ることをねだられた母さんは、ナースキャップまで着けて完全武装で彼に抱きすくめられていったし、
私は私で、母の夜勤中、試験勉強中に禁欲してくれたあのひとの部屋に出向いて行って、
ストレス解消したいのといって、制服姿を襲わせていた。

きっと――
彼は私が断わらないタイミングで、私の純潔を獲ようとするのだろう。
そして私もきっと、もしかするとそういうタイミングのときではなかったとしても、
望みのものをすすんで、彼に与えようとしてしまうのだろう。

母さんのコスプレ ~娘・加代子の手記~

2019年06月06日(Thu) 07:00:55

きょうから喪服を脱ごうかな。
母さんが言った。
いいんじゃない、明るい服のほうがひきたつよ。
あたしはこたえた。
喪服を脱ぐってことはね、
父さんの未亡人として生きるのをやめて、
あのひとの恋人として生きるっていうことなのよ。
母さんは言った。
いいんじゃない?
でも母さんは未亡人なんだから、たまには喪服を着たほうがいいんじゃない?
そう、父さんを弔うためよりも――
むしろあのひとのために、着てあげたら。
母さんは、うふっと笑った。
あなたも言うわね、大人をからかうもんじゃないわ・・・と言いながら、
まんざらでもないのがよくわかった。
母娘ふたりであのひとに血を吸われるようになってから、母さんはわかりやすい存在になっていた。
私が大人になったのか。
母さんがわかりやすくなったのか。
それはいまでも、よくわからない。

母さんが、あたしの学校の制服を買ってきた。
自分用に着るのだという。
それはなにより・・・と私はいって、初めて着るのを手伝ってあげた。
姿見のなかの母さんは、まるでいつもの母さんとはちがっていて、
女学生の昔に戻ったみたいにみえた。
勤めに出るときにいつもキリキリと頭の上に巻いてしまう髪の毛を、
お嬢さんみたいに肩に流していたのが、よけいにパンチ力を発揮したのだ。
こんど、おそろいの制服で、ふたりで吸われてみようね、と囁かれて。
それ、面白そう・・・!って、思ってしまった。
一瞬、母さんのことが同級生のように思えてしまった。
そして数日後、
私たちは父さんのお仏壇のまえで、おそろいのスカートのすそを血で浸しながら、
齢の順に生き血を吸い取られていった。
そうされているあいだ、ふたりはあお向けに横たわりながら、
本当の同級生のように、手と手をつなぎあっていた。

母さんは、白のストッキングも、好んで穿いた。
それは、勤務先で脚に通しているのと同じものだった。
堅物の母さんは夏でも厚手のタイツを履いていることが多かったけれど。
あのひとを満足させるために喪服のスカートから覗くストッキングが肌の透けるものになってからは、
勤務先でも脛が透けるストッキングを穿くようになっていた。
そもそも、どういう風の吹き回しだったのだろう?
あのひとと出逢ったあの日にかぎって、母はスカートの下に肌色の透けるストッキングを穿いていたのだ。
タイツだったとしても、目に留めたよ――あのひとはきっと、そういうに違いないけれど。
母さんはいまや、あのひとを悦ばせるためにだけ装う。
白のタイツは全部、あのひとのために咬み破らせてしまっていて、もう冬場までお目にかかることはないだろう。
いまではもっぱら、勤務先に穿いていくのは薄地のストッキング。
勤務中に脚に通しているストッキングを破りたがるあのひとのため、思うままに破らせてしまっている。
けれども白衣はあまり、着たがらない。
手術のときのことを思い出してしまうから。
だからあのひとも、彼女に白衣姿を強要したりはしない。
けれども白のストッキングは好物で、
きみの天職を辱めているわけではない――とか囁きながらも、
ふらちなイタズラをネチネチとつづけ、白く濁ったよだれをぬらぬらとしみ込ませてゆく。

母さんに、好きな人ができた ~娘・加代子の手記~

2019年06月06日(Thu) 06:53:12

母さんに、好きな人ができた。
父さんがいなくなってからずっと、独りで看護婦していて、
家族の会話も人が少なくなった以上に、めっきり減った。
母はもちろん優しかったし、しっかり者で通っていたから、生活にはなんの不安も感じなかったけれど。
それでも話し声や笑い声がぐっと減ってしまったのは、私なりにかなりこたえていた。
うちはこのまま、先細りになってしまうのかも・・・ふとそんな予感がかすめて、ぞっとしたこともあった。
留守がちになった家のなかは冷え冷えとしていて、たまに顔を合わせても気まずい沈黙が漂うことが、少なくなかった。
そんなある日、母さんは珍しく、ウキウキとした顔をして病院から戻ってきた。
父がいなくなって以来、絶えてみないほどの明るさに、私までもがいままでのことを忘れたように快活になっていた。
その日は母さんは、自分がご機嫌な理由は決して口にしなかったけれど。
私はこの明るさがいつまでも続いてくれると良いなと思っていた。
男の人と逢っている――
なんとなくそう感じるようになったのは、それから数日後のことだった。
その日帰った母さんは、ハミングしながら晩御飯の支度をした。
こんなことも、絶えてなかったことだった。
数日前ご機嫌で家に帰ってきて以来、しばらくトーンダウンしていた母さんの明るさが、また華やぎを取り戻していた。
母さんに好きな人ができた――
私はちょっとだけ、複雑な気分だった。
父さんのことを忘れちゃったのだろうか?という想いもあった。
けれどももうひとつの想いは――口にするのも恥ずかしいけれど――母さんが私以外のひとに注目し始めたことが、娘として複雑な気分だったのだ。
家に二人きりでいたせいもあるかもしれないけれど・・・
それは私がまだまだ子供だ――ということを、自覚してしまったような気分だった。

そんな日々が続いてしばらく経ってから――
とうとう母さんから、決定的なことを聞いてしまった。
口火を切ったのは、母さんのほうだった。
「母さんに恋人ができたといったら、あなたどう思う?」
恋人――私がまだいちども口にしていない言葉を口にしたとき、母さんはちょっぴり照れくさそうにしていて、そんな母さんのことが可愛く思えた。
私は、えー?良いんじゃない?どんなひと?と訊いた。
母さんの恋人というひとの話を聞こうとしたとき、
私自身が同じ女性の目線になっていることに気がついた。
私も母さんと同じくらい、ウキウキとした気分になっていた。
けれども母さんが語り始めた「恋人」のイメージは、ちょっと変わっているなと思った。
たしかに――母さんは父さんのことを愛していたと思うから、ふつうの人に心を移すわけはないとは思っていた。
だから、相手の男のひとが、勤め先の病院のお医者様とか、患者さんとか、趣味のサークルの連れ合いをなくした退職者のおじいさんとか、そういうありきたりな人ではなかったことに、不思議な嬉しさを覚えていた。
吸血鬼だときいても、怖いという気がしなかった。
むしろ、母さんがその男のひとと、どこまで進んでいるの?とか、そんなほうに関心が移ってしまって、たいせつなことを切り出したはずの母さんを閉口させてしまっていた。
母さんがそのひとを家に招ばないのは、そのひとが吸血鬼で、
いちど家にあげてしまうと、あとはいつでも自由に我が家に出入りできるようになってしまって、
そのうち私の血まで狙うようになりかねないと、警戒してのことだった。
かりに母さんのことがどんなに好きでも、人の生き血を求める習性はどうにもならなくて、どうしてもそういうことになってしまう・・・と、母さんは私に説明した。
そのひとを家に招ばないのは、恋人の娘であっても見境なく襲われてしまうということに母親としての危機感を持ってのことだったと知って、私はむしろ嬉しい気がした。
そのひとを私から隠したくて招ばないわけでは、決してなかったからだ。
けれども母さんのなかでは、じょじょに考えが変わっていったようだった。
むしろ、「たいせつなカコちゃん(私のこと)の血だから、吸わせてあげたい」と思うようになったそうだ。
母親が吸血鬼の情婦となり、浮気相手の求めるままに娘の血を吸わせてしまう――
場合によってはそんなふうな、身の毛もよだつシチュエーションだったのかもしれないけれど。
私はむしろ母さんの気持ちを、納得づくで受け入れ始めていた。
だって、母さんは私ひとりの母さんだし、その母さんが自分の血を吸わせている相手に、たいせつなまな娘の血を与えたがっているのは、むしろ自然な気持ちだと感じるようになっていたからだ。

連れてきたその人は、思ったよりも若く、ほっそりとしていてハンサムだった。
あとでそのひとともっと親しくなったときそう言ったら、「ハンサムだといわれたことはいちどもない」と言っていたけれど――
吸血鬼が我が家の敷居をまたぐ――いよいよそのひとが家に来たときは、さすがの私も身構えてしまった。
そんな私の雰囲気を察したのか、母さんもそのひとも無理に近づこうとはしなかった。
意図的に距離を置こうと、隣の部屋からドア越しにあいさつを交わす失礼を、
むしろとうぜんのように受け入れてくれた。
初対面になるそのひととあたしとは、ぎごちない挨拶を交し合った。

ちりん、ちりぃーん・・・
お仏壇にあげられた線香の香りが廊下にまで漏れてきていた。
どうやらそのひとは、母さんとことに及ぶまえに、父さんのお仏壇にお線香をあげているらしかった。
細目に開いたふすまごしに窺うふたりはこちらに背中を見せていて、
身内の人がなき人の写真に向き合うときとまったく同じように、心を込めて額づいている。
良いひとなのだ――と、素直に思えた。
そうでもないわよ、と、あとで母さんはいった。
「要するにね、”これからあなたの奥さんをいただきますよ”っていう、けしからぬご挨拶だったのよ、きっと」
そういって、私が示したあのひとへの敬意に冷や水をあびせながらも、母さんは楽しそうに笑っていた。
お線香をあげたあと、母さんはそのひとに求められるままに首すじをゆだね、思う存分血を吸わせたのだった。
母さんの身に降りかかる吸血シーンを初めて目の当たりにした私は、つい目を離せなくなっていた。
そのひとは母さんの首すじを咬んで生き血を吸い上げ、
母さんがうっとりとしてその場に横たわってしまうと、こんどはスカートをたくし上げて太ももを吸った。
母さんの穿いていた肌色のストッキングを破りながら――
そのひとはもしかすると、母さんのストッキングも愉しんでいたのかもしれない。
脚に咬みつくまえに、まるで脚の輪郭をなぞるようにネチネチと、ストッキングをしわくちゃにしながら舐めまわしていたから。
日頃は厳しくて潔癖で、身なりもきちんとしていた母さんが、そのひとの前では従順で、身に着けた衣装に対するふしだらな仕打ちを唯々諾々と受け容れている――
好きになるということは、受け入れがたいことさえ許してしまうことなのだ――と、母さんの態度をみてそうおもった。
その日ふたりがしたのは別れ間際のキスだけで、そのものずばり・・・は、とうとうなかった。
キスにしても、そのときのキスが初体験だったと、あとで聞かされた。
けれども、お仏壇を前の献血行為は、あきらかにラブ・シーンと呼ぶべきものだと私は直感した。
ふたりとも、父さんのことを辱める意図は、まったくなかったと思う。
けじめを重んじる母さんは母さんなりに、新しい恋人ができたことを父さんに報告したかったのだろう。
もはやあなたの妻ではない――という意思表示をすることで、母さんなりにけじめをつけようとしたのかもしれなかった。
それは少し寂しいことだったけれど、仕方ないのかもしれないと思った。

そのつぎにそのひとが現れたとき、そのひとは父さんの霊を招き寄せた。
なにかのトリックだなどとは、まったく思わなかった。
うっすらと輪郭が透けて見えるその姿は、間違いなく懐かしい姿だった。
家のなかで家族三人がふたたび揃う――そんな奇跡をくれたそのひとに、むしろ感謝したい気持ちだった。
父さんは母さんに恋人ができたことを「おめでとう」とよろこんでいた。
優しい父さんらしいなと思った。
もともと優しくて控えめだった父さんは、母さんが連れてきたそのひとにも穏やかに接した。
そして、そのひとのことを「よろこんで家庭に迎えたい」と告げて、「最愛の妻の貞操を差し上げます」とまで言ったのだ。
三人の合意はすぐにできた。だって、三人とも、同じようなことを考えていたのだから。
母さんは、父さんのことを決して忘れないと約束した。
だからだれとも再婚はしない、このひとともずっと、あなたの未亡人のままお付き合いをすると告げていた。
そして父さんも、母さんが自分の未亡人のままそのひとの恋人になることに同意した。
父さんも寂しくはなく、母さんは恋人を得、そのひとは人妻とのいけないラブ・ロマンスを愉しむ――という三者三様の幸せ。
私ももちろん、いなやはなかった。
母さんが父さんと決別してけじめをつけるのではなくて、ふたりの男性の間でうまく折り合いをつけようとしたこと、
父さんも母さんと同じように、吸血鬼だからといって分け隔てをしようとしなかったこと、
そしてお互いがお互いの立場を思いやり、それぞれの居場所を見出したことが、私をびっくりさせていた。
急転直下――といいたいくらい、話がすぐにまとまったからだ。
それからは注目の・・・いや、そこから先は、娘としては語るべきではないのだろう。
母さんは父さんのお仏壇のまえで、初めてそのひとに抱かれたのだから。
いや、正確には、さすがに父の前での情事にしり込みをした母さんは自室にそのひとを引き入れて結ばれて、
交し合った情熱の残り火にひかれるようにしてお仏壇の前に戻ってきて、ふたりが幸せに結ばれたことを、着崩れした喪服姿からあらわになった素肌を吸われながら報告したのだ。

私も、その日のうちに忘れられない体験をした。
母さんを抱いた直後、そのひとは二人で過ごした居間から出てきて、
母さんが失血で気を失ったすきに私を抱いたのだ。
処女の生き血が好きだというそのひとが、私のことを初手から犯したりはしないだろうと思ったし、事実私が処女を卒業したのは、もっとあとのことだった。
彼に抱きすくめられた私は、自分のなかですぐに決意がまとまったのを自覚した。
猿臂にまかれることを本能的に抗おうとした身体は、いつの間にか自律的にしゃんとしていて、自分でもびっくりするくらいはっきりと、お相手をさせていただきますと告げていた。

ふたりの情事を覗いていた後ろめたさもあって、私は罰ゲームを受け入れるいたずらっ子のような気分で、彼の行為を受け入れた。
やはり、結婚前の娘が、母親の情事をのぞき見するというのは、よくないことだと思っていた。
もっともあのひとに言わせれば、きみは貴重な体験をした、ということになるのだが。
いよいよ吸血されると自覚したら、ちょっとだけ脚がすくんだ。
怖かったので、テレビをつけてもいいかと訊いたら、もちろんかまわないと言ってくれた。
震える手でテレビのスイッチを入れた。
なにを放送していたのか、全く頭に入ってこなかった。
彼はそろそろと私の足許ににじり寄った。
事前に、母が脱がされたストッキングを見せられていたので、彼が私の履いているハイソックスが目当てなのだとすぐにわかった。
制服を汚すのを避けて、私は私服を着ていた。
血浸しになってしまうことを考えたら、もちろん着古した服を着たほうが賢明だったのだろうけれど、
私はそうする気にはならなかった。
たいせつな初体験の記憶は、きちんとした服と一緒にとどめておきたかったから。
咬み破られてしまうと知りながらも、ハイソックスも真新しいのをおろしていた。
へんに節約を考えて、履き古しを脚に通してお相手することで、恥を掻いてしまいそうな気がした。
私の予感は正しかった。
彼は舌なめずりをくり返しながら、ハイソックス越しに舌をふるいつけてきて、
しなやかなナイロン生地の感触を愉しむように、しばらくのあいだ真新しいハイソックスに唾液をすり込むことに熱中したのだから。
私の履いている白のハイソックスを咬み破りながら、そのひとは初めて私の血を吸い上げた。

十代の若い血液が彼を愉しませたことには、多少自信があった。
母さんが情事のあとに覚えていた貧血よりもずっと思い貧血が、その確信を裏づけた。
うっかり吸い過ぎたことを悔いて、あのひとは終始私の背中をさすりながら、親身に介抱してくれた。
初体験を愉しんだばかりの母さんのあと、私まで交えてしまったことを、ちょっとだけ後ろめたく思ったけれど、
やがて起き出してきた母さんは、むしろあのひとと私とのことを祝ってくれた。
このひとの干からびていた血管のなかを、母さんの血とあなたの血とが、仲良く織り交ざってめぐっているのよ――
母さんはそういって、満足そうに目を細めた。
そして、あなたも大きくなったわね、と、優しく笑った。
まるで、初潮を迎えたときみたいに――

余韻

2019年06月01日(Sat) 16:19:55

夕陽のなかのラブ・シーンは、ふたたび生々しいまぐわいへと変わっていた。
長い長い口づけを終えると彼女は、
お仏間で報告しなくちゃね。
そういうと俺の手を引くようにお仏壇の前へと俺をいざない、
すすんでブラウスのボタンを二つ三つはずした。

このひとの未亡人として、貴男に抱かれるわ。
そのほうがこのひとも寂しくないだろうし、
貴男も娘に平気で手を出すことができる。
あたしと貴男との関係が、義母と娘婿になってもかまわない。
でもほんのしばらくは、あたしだけのあなたでいて。
どうしても若い子を抱きたくなったら、
あたし、あの子の制服を借りて、あの子の身代わりになって抱かれてあげる――

あんたの足許には、ストッキングのほうがお似合いだ。
勤務中の白いやつも。
旦那を弔う気分のときの、黒いのも――

俺はそういいながら彼女をご主人の写真のまえで抱きすくめ、
唇を吸い、うなじを吸い、胸元をまさぐって、股間に臆面もなく手をすべらせた。
彼女も俺の求めに応えるように、
夫の写真のまえで身体を開き、あえぎ声もあらわに、乱れていった。

あなた、視て、視て。御覧になって――と、くり返しながら。

昭代さんの願い

2019年06月01日(Sat) 16:16:06

熟妻の熟れた血潮。
女学生の清冽な血潮。

母娘ながら同時に咬まれていった女たちの身体からもたらされたふた色の血液が、
俺の喉と胃の腑と心とを、暖かく染めていた。

ふたりの身体から吸い取った血は、母娘らしく仲良く織り交ざって、
他では得られない歓びと力とを、与えてくれた。

おれはもういちど、ご主人のお仏壇に向かって、感謝の手を合わせた。
――まったく、あなたというひとは。
ご主人の霊が再び舞い戻ってきて、俺の合掌に苦笑で報いた。
――うちに上がり込んできた段階でもう、家内も娘も支配されてしまうものと観念しておりましたが・・・
というご主人に俺は、
「あなたの最愛のあのふたりを、俺は俺なりにたいせつに扱いますよ」
と、ぬけぬけとこたえた。
――娘だけは見逃してもらえるかと、かすかに期待しておりましたが・・・
  まぁ、あきらめがつきました。
ご主人の霊はただ、苦笑するばかりだった。
――わたしに視られながらするのは、落ち着かないものではないですか?
そんな気遣いまでみせてくれるご主人に、俺はいった。
「俺はけしからぬ趣味の持ち主で、旦那に見せつけながら奥さんを玩ぶのが好きなんですよ。
 むしろ愉しめました。お礼を言いたいくらいですな。
 でも案外、ご主人も愉しんでいるようですね」
そこまでいうとご主人は、フッと照れくさそうに笑ったような気配をみせ、
そして静かにその気配を消していった。

「あら、あら、まぁ・・・まぁ・・・」
ため息交じりの静かな呟きが、いかにもあきれたという声色を作って、
俺の耳もとに歩み寄った。
ため息交じりではあったが、そのため息はどこか、いたわりに満ちたたしなめになっていた。
彼女がたしなめのほこ先は俺のほうではなく、むしろ娘に対するものだった。
「こんなときでも、がんばり屋さんなんだから」
昭代さんは片方の掌で娘のおとがいに手を添え、もう片方の掌で黒髪を優しく撫でた。
おとがいに添えられた片方の掌は、そのまま肩先に滑り降りて、
肩や二の腕の輪郭をなぞるように、いたわりをこめた愛撫をくり返す。

「弱みを見せまいとして意地になって平気そうな顔をするから、
 このひと真に受けてまだだいじょうぶって思っちゃったじゃないの」
たしかに、ハイソックスを咬み破りながら吸い上げた血潮を通して、加代子さんは訴え続けていた。

”あたしは平気。まだまだ平気・・・あなたなんか、怖くないもの!”

俺も大人げもなく、少女の見栄をねじ伏せようと、やっきになった。

≪ほんとうに怖くないんだな?まだまだ平気なんだな?≫

つけっぱなしになったテレビに見入っているふりをした少女の目線が虚ろになっているのを知りながら、
俺はこの子の怯えるところを見たくなって、くいくい、くいくいと、わざと喉を鳴らしながら、加代子さんの生き血を吸い取っていったのだった。
加代子さんが吸血されているあいだ、昭代さんはずっと気絶していたはずなのに。
まな娘が生き血を吸い取られてゆくそんな光景を、正確に見抜いていた。

しょうしょうばつが悪くなった俺は、母娘のほうには振り向きもせず、
加代子さんからせしめたハンカチで、加代子さんの血に濡れた口許を拭った。
やりすぎた悪戯を隠そうとする、悪童のような気持になって。
そんなところもきっと、昭代さんは見通していたのだろう。
「お口を拭うには、こちらのほうがよろしいのではなくて?」
お母さんはイタズラっぽく俺に笑いかけ、娘のスカートを控えめにめくりあげた。
レエスのついた真っ白なスリップが眩しく、スカートのすそから覗いた。
俺はものも言わずにお母さんの手許から加代子さんのスリップのすそをひったくるようにつまみあげ、
頬にべったりと付いた加代子さんの血を拭いた。
静かになった娘の足許に突っ伏した格好で吸い取った血潮を頬から拭っている俺のことを、
昭代さんは静かに見おろしつづけていた。
すでに昭代さんのスカートはなん着も、こんなふうに吸血後のハンカチ代わりにされていた。

「残念ながら、娘の生き血も、お口に合ってしまったようですね」
すっかり身づくろいを済ませた昭代さんは、まだ蒼白い顔をしていた。
けれども彼女の表情は落ち着いていて、透き通る肌は気品をたたえ、すこし乱れた栗色の髪さえも、ふしだらなものを感じさせなかった。
「女を抱くと喉が渇く」
照れ隠しに吐いた勝手きわまる俺の言い草をさらりと受け流して、昭代さんはいった。
「せめて、お口に合ったと仰ってくださいな。痛い思いをした娘が浮かばれませんから」
後ろ半分の声色にほんの少しにじみ出た昭代さんの気持ちが、荒れた気分をしっとりと包んだ。
「娘さんの血は美味かった。つい夢中になって、やり過ぎちまった」
すこしだけ神妙な声色になった俺は、とうとう本音を吐いた。
自分の弱みを見せてしまったような気分になったけれど、
むしろそのことが、昭代さんには受け入れられたようだった。
「よくできました。素直でよろしい」
折り目正しい女教師のような口調で、婦長さんは俺の行為を受け入れてくれた。

「年頃の女の子ですから、あまり乱暴になさらないでくださいね」
彼女は暗に、これからも娘を襲ってかまわない、と俺に告げた。
「けれども――」
昭代さんは娘の血が撥ねたじゅうたんを見おろしながら、すこしだけ口ごもり、それからいった。
「娘の純潔だけは、まだきれいなままにしておいてくださいね」
それは――まったく異存がなかった。
好物の処女の生き血を、まだまだ愉しみたかったから。
「せめてあたしの気のすむまでは、まってくれないかな」
顔にはっきり書かれてあるような俺の本音を正確に読み取りながら、彼女はいった。
「気のすむって、どれくらい?」
俺の問いに彼女は苦笑して横を向く。
「そうね――そんなに待たせるつもりはないわ」
母親としての願いと言いたいけれど・・・といいつつ、昭代さんは口ごもる。
そしてしずかに、あとをつづけた。

だってあたし・・・あなたの女になったばかりなんだもの。
主人を裏切って操を汚してまで貴男に抱かれたのだから。
すこしのあいだで良いから、あたしだけのあなたでいてほしい。
これは、女としてのお願い――

加代子さんの傍らにうずくまる俺と、同じ高さの目線に彼女はいた。
その目は気のせいか、すこしだけ潤んで見えた。
俺は静かに彼女を抱き寄せ、
こわれものでも扱うようにそっと抱きすくめて、
唇に唇を重ねていった。

娘のことも、咬んでしまう。

2019年05月30日(Thu) 07:40:15

部屋に敷かれた布団のうえで、昭代さんは顔色を土気色に変えて、横たわっていた。
自分の部屋に戻った、というよりは、俺に担ぎ込まれた、といったほうが正しかった。
つい度を過ごしてしまった俺は、吸い取った血液のいくばくかを昭代さんの体内に戻してやり、
とうの昔に閉じられた瞼とおでこにキッスをしてから放してやった。
それでも俺は抜かりなく、彼女の身体からスリップと剥ぎ取り、ストッキングを脚から抜き取ってせしめることだけは、忘れなかった。

ふすまの向こうに気配を感じてふり返ると、あわてた様子の忍び足がリビングに向かって退却するのが伝わってきた。
昭代さんを寝かしつけた俺は、もういちどだけ昭代さんの頭をなぜると、立ち去ろうとする足音を追いかけた。

リビングのドアを開けると、ソファに腰かけた加代子さんの白いカーディガン姿が、こちらに背中を向けていた。
テレビを観ているようなそぶりをしていたけれど、テレビはついていなかった。
開かれたドアの音にびくっとしてふり返る加代子さんが目にしたのは、俺の口許だったに違いない。
唇の周りといいあごといい、そこには自分の母親の身体から吸い取られた血液が、まだぬらぬらと光っていた。
彼女の鋭い目線で、そのことに初めて気づいた俺は、せしめた昭代さんのハンカチで、口許をゆっくりと拭った。
わずかにうろたえた加代子さんは、「あの、母は・・・」と、そこは娘らしく母親を気遣う姿勢をみせた。
「だいじょうぶ、よくお寝(やす)みだ」
たっぷり血を吸い取ったあとに俺がみせた昭代さんに対する鄭重な態度で、「この人はこの人なりに、母さんのことを大切にしている」と感じた――と加代子さんが言ってくれたのは、すこし後のことだった。

「まだ血が付いています」
加代子さんはハンカチを取り出して、俺のあごの輪郭をなぞるようにして、丁寧に拭いた。
散らされた母親の血をいとおしむように、たんねんにたんねんに、拭きとっていった。
俺は彼女のするがままに任せて、じっとしていた。
母親を襲った吸血鬼のあごに付いた血のりを拭うという行為で、彼女が俺の行為を受け入れようとしていることを感じたからだ。
俺は加代子さんに礼を言うと、昭代さんの血の付いた加代子さんのハンカチを受け取って、滲んだ紅いシミに深々とキスをした。
「本当に、母のことが好きなんですね」
加代子さんはいった。
「母を死なせないでくださいね」
「もちろんですよ」
「一途なひとですから、心配なんです」
娘は母親の気性を、よく心得ていた。
「ですから、母の具合がよくなくてまだ血が欲しいときには、私お相手します」
最後のひと言に力を込めたのは、怯える自分自身をふるいたたせようとしたからだ。
「まだ喉が渇いていると、俺が言ったら・・・?」
俺はあくまでも、たちの悪い男だった。

囁きと同時にギュッと抱きすくめた腕に、かすかな抗いを感じ取りながら、
俺はさらに力を込めて、若い身体に猿臂を巻いてゆく。
少女のなかで、身体の芯がしゃんとふるいたつのを、はっきりと感じた。
「もちろん、お相手します」
びっくりするほど、はっきりとした口調だった。
彼女の楷書体な発声に、俺は好感を持った。
きっと学校でも、とびきりに元気がよくて、学級委員とかをしているような活発な優等生なのだと思った。
「きみを初めて咬むのは日を改めてからにしようかと思っていたが――やはりきょう、いただこう」
「母を自分の女にした、記念すべき日だから・・・?」
加代子さんは挑戦的に輝く瞳を、俺に向けた。
「そうだね」
俺がみじかくこたえると、彼女は意外なくらい素直に、うなずき返してくる。
冷静で毅然とし過ぎる彼女をちょっとうろたえさせてやりたくなった。

「俺は脚を咬むのが好きでね」
「知っています」
彼女は言葉で、はね返してくる。
「いつもそうなさっているみたいですね、先日も、きょうも――」
俺は黙って、昭代さんの足許から抜き取ったばかりの黒のストッキングをポケットから取り出し、彼女のまえにぶら下げた。
「きゃっ」
ちいさく声をあげて口許を両手で覆う彼女に、やり過ぎたか?と思ったが。
彼女はあちこち破れ血濡れた母親のストッキングをまじまじと見つめ、手に取って、咬み痕の破れ目を確かめるように丹念に拡げていった。
「きみが今履いているハイソックスも、こんなふうにしてみたい」
両腕を後ろからつかまえて、ムードたっぷりにひっそりと囁く――
獲物のお嬢さんに対して、いちどはしてみたい行為だった。
彼女はおずおずと、頷き返してきた・・・



差し伸べられたふくらはぎはすんなりとした肉づきをしていて、
少したっぷりすぎると本人が羞じらう足許は、血を獲たいと願う俺にはむしろ、ひどく魅力的に映った。
俺はそろそろと彼女の足許にかがみ込み、彼女はちょっとだけ怯えを見せて脚をすくめた。
「あの――」
少し震えた声を頭上に受け止めると、俺はふり返り、彼女の顔を見上げた。
怯えていることを悟られまいとして、母親譲りの薄い唇を強く引き結んだ顔が、すぐ間近にあった。
「テレビつけてもいいですか?」
「もちろん、どうぞ」
俺はこたえた。

彼女がしたかったのは時間稼ぎではなくて、気分を紛らすためなのだと、すぐにわかった。
雑駁なコマーシャルの声が、空虚な部屋に満ちた。
彼女はテレビから離れると元通りソファに腰を下ろして、「どうぞ」とだけ、いった。
俺はもういちど、彼女の足許にそろそろと唇を近寄せた。
自室で気絶しているはずの昭代さんも、気配を消したはずのご主人の魂も、いまのたいせつな瞬間を息をつめて見守っているのを、俺はかんじた。
擦りつけた唇の下、加代子さんの履いている白のハイソックスに、泡交じりの唾液がじょじょにしみこんでゆく。
厚手のナイロン生地のしっかりとした舌触りを愉しみながら、
俺は牙の疼きをこらえ切れなくなって、
加代子さんのふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたりに、ずぶりと牙を埋めていった――


あとがき
未亡人の看護婦と制服姿の娘は、同じ日に犯され初咬みを受けてしまいます。
おとーさんの霊、哀れ。
いや、案外愉しんでいるのかも。^^

喪服の人妻、初めて堕ちる。

2019年05月30日(Thu) 07:34:38

人妻との行為はかなり経験があるはずなのに、
昂りすぎて何をどうしたのやら、細かいことが思い出せない。
ブラウスのボタンをひとつふたつ外したのは、彼女のほうからだったはず。
喪服のボタンはいわゆる「くるみボタン」といって、慣れていないと外しにくいのだ。
俺が手こずっていると、彼女のほうからうなずき返してきて、ひとつひとつ器用に外していった。
姦通の手助けを自分からするのははしたないと思っていたようだが、ボタンを飛ばされたくなかったという現実的な事情もあったらしい。
俺は昭代さんの首すじにキスをくり返しながら、着衣越しに彼女の腰周りに手をかけて、むっちりとしたくびれをなぞりつづけていた。
うなじを咬み、胸元を牙で侵して、
スカート越しにお尻を責めて、
もちろんふくらはぎも、黒のストッキングをブチブチと咬み破りながら愉しんだ。
ストッキングを片方脱がせると、ショーツは昭代さん自身が引き裂いていた。
そこからはもう、昭代さんも息を弾ませ始めて、いつもの昭代さんではなくなっていった。
物静かな奥ゆかしさと入れ替わりに、大胆な娼婦のように、はだけた胸を見せびらかすようにして身体を擦りつけてくる。
羞じらいながらも欲求もあらわにしてくる昭代さんがひたすらいとおしく、
俺はなん度もなん度も彼女の背中をさすり、お尻に掌をすべらせて、
熱い口づけを交わしつづけた。
いよいよ昭代さんの股間に突き入れる――というときに俺の昂奮は絶頂を迎えた。
彼女は俺を昂らせようと、「あなた・・・あなた・・・」とご主人の名を呼びつづけた。
初歩的なそそのかしにまんまとひっかかって、気がつくと俺は彼女のなかで射精していて、
彼女の身体の裏側を、しとどに濡れそぼらせていた。

こと果てると昭代さんはちょっとだけわれにかえって、
傍らのテーブルに置かれた夫の写真に初めて気づいたようにうろたえて、
きまり悪そうに目をそらしつづけていたけれど。
「ここにも主人はいるのね、だったら同じことか」
と呟くと、俺をお仏壇の前に誘っていった。
「どうせなら、主人にも視せてあげようよ」
と、大胆なことを口走って、お仏壇のまえにためらいもなく、
着崩れさせた喪服のまま大胆に下肢を広げた。
ふしだらにずりおちた黒のストッキングをひざ下にたるませた太ももが、俺をいっそう熱く誘っていた。

娘は座をはずし、俺たちは部屋を変えた。

2019年05月30日(Thu) 07:31:41

――ところで、あなたは加代子の血も狙っていますね?
≪エエ、大好物の処女の生き血ですからね≫
ご主人がこの問いに対する答えをじつは恐れているのを知りながら、俺は臆面もなくそう言い放った。
傍らで加代子さんが息をのむのを、気配で感じながら。
――そうですか、やっぱり。
声色に、父親としての寂しさがありありと響いている。
すこし萎えかけた俺の気分に、ご主人は却って気を使い、とりなすようにつけ加えた。
――家内が貴男を家に連れてきた時点で、娘の運命も定まったのです。
家内も承知のうえでそうしたことですし、わたしは家内の考えに反対をしません。
貴男は遠慮なく、貴男の獲物をお取りなさい。
≪ご不満でしょうね?奥さんだけで満足せずに、娘にまで手を伸ばすなど≫
――いえ、必ずしもそうではありません。
ご主人は、不思議なことを口にした。
――むしろ、家内を満足させた同じ身体が娘を大人の女に変えることは、
そんなに悪いことではないと思っている。いつかは娘も大人の女になるのです。
≪物わかりのよいご主人ですね≫
――さぁ、はたしてどうでしょうか。
けれどもやはり、娘の行く末は心配なのです。
できればふつうに結婚して、子供を作り、齢を重ねて行ってもらいたい。
俺は昭代さんと顔を見合わせた。
「それはあたしもそう思う」
昭代さんは、まじめな母親の顔に戻っていた。
俺も、娘を想う彼らの前では、神妙にならざるを得なかった。
――加代子がだれを初体験の相手に選ぶかは、本人が決めることだけれども、
どうか選択の自由は与えてやってもらいたい。
お婿さんができるまで処女を守り通すのか、それ以外のだれかと契るのか。
それともあなたにたぶらかされるまま、女になってゆくのか・・・
「きっと、たぶらかされちゃうわよ。このひと、初めからそのつもりなんだから」
”お母さんたら!”
加代子さんは初めて、顔を赤くした。
――あまり顔を赤らめていると、血を吸い取られてしまうよ。
ご主人は、父親らしい気づかいをみせた。



――そろそろ加代子は、はずしなさい。嫁入り前の娘が目にするものではない。
”ハイ、そうします!”
加代子さんは、ご両親のまえでは礼儀正しい娘で通しているようだった。
けれどもその横顔にありありと、言葉とは裏腹な意思がよぎっているのを、三人の大人たちはだれひとり、見逃してはいなかった。
きっと彼女は、これから母親がすることをお手本にするつもりなのだろう。
――加代子は加代子。好きにすれば良い。
ご主人が、わたしだけに聞こえる声で告げた。

加代子さんが部屋を出、ご主人の気配が消えると、昭代さんはもういちど、お仏壇に手を合わせた。
わたしも昭代さんにならって、ならんでご主人のお仏壇に向かって、手を合わせた。
ひとしきり神妙に頭を垂れた後、「いただきます」といったら、昭代さんにひっぱたかれた。
「ここではさすがにちょっと」としり込みする昭代さん。
もっともだと思い、彼女の居室に移動した。

昭代さんは喪服を着ていた。
夫を弔うための装いだった。
夫を弔うための装いのまま自分の情夫を愉しませることが、なにを意味しているのか知っている様子だった。
彼女は夫に忠実な未亡人の表向きのまま、俺の奴隷に堕ちる気なのだ。
ふとためらいの色を泛べた横顔に、俺はどす黒い衝動を覚えた。
漆黒のスカートのうえに行儀よく重ねられた掌を押し包むようにひっつかまえて、
横抱きに抱きすくめ仰のけられたおとがいに引き込まれるようにして、
俺は唇に唇を、重ねていった。
横目で見たご主人の遺影は、イタズラっぽく笑っているように見えた。

心まで許してしまったのは、いつ?

2019年05月27日(Mon) 07:49:51

――ところで、彼に心を許したのは、いつのことだったのかね?
「そんなこと訊いて、どうなさるの?」
――少しは嫉妬してみたくなったのでね。
「変わったひと」と笑いながらも、昭代さんは夫の求めに応じていった。
それは俺にとっても、彼女の心中を知ることのできる、得難い話だった。

「さいしょのときからです。出勤の途中でヘンなこと言われて、とても気になって。
 でもだんだん心配になってきちゃって。
 看護婦の職業柄ですね。そこまでは、私も正常だったんですよ。
 でもこの人の待っている公園に脚を向けたときには、もう、少しはおかしくなっていたのかもしれない。
 首すじを咬まれて血を吸われて、そこまでは気持ちを強く持っていました。
 死んでしまうかもしれないと思っていたし。
 でもしばらく吸われつづけているうちに、このひとのしていることは愛情のこもった行為なのだと気がついて。
 それからは、夢中になって吸わせていたの。
 セックスもしたがっているって、わかっていたけれど。
 そこまで許す気はなかったんです。
 まだ明るいうちから、路上に等しい場所でなんて、あまりに非常識でしょう?
 でも、ストッキングを破らせてしまった時にはもう、もうだめだと思いましたわ。
――だいぶ、恥ずかしがりながら破らせていたね。
「視ていらしたの?助けてくださればよいのに」
――ぼくはぼくなりに、きみが出逢った男がきみにふさわしいパートナーかどうか、気にしていたのだ。
そう、たしかに昭代さんを襲っているときは、だれかに視られているという感覚が、常に付きまとっていた。
「もちろん、さいしょは厭々でしたよ。勤め帰りの装いを辱められるわけですから。
 このひとは私を侮辱するのが楽しいのか?って思いました。
 でもどういうわけか、応じてしまった。
 厭々応じることがこのひとを愉しませるというのなら、
 お相手すると決めた以上は愉しませてあげるのが務めだと思ってしまいましたの。
 だから、つぎに逢うときからは、ストッキングの穿き替えを携えるようにしました。
 伝線したストッキングのまま街を歩くのは、公衆の面前で恥を掻くようなものでしょう?
 もっとも――穿き替えは一足では足りなくて、2~3足用意しておくべきだとわかりました。
 このひと、助平ですから」
――ははは・・・
愛人のことをはにかみながら助平だと口にしたとき、ご主人は愉快そうに笑った。

――貴男のおかげで、わたしにも出番ができて、想いの丈を家内につたえることができた。
感謝します。
お礼に貴男には、最愛の家内の貞操をプレゼントしましょう。
貴男がご自分の力で獲たものを、わたしから差し上げる――というのは僭越でしょうか?
≪イイエ、そんなことはありません。ありがたく頂戴します≫
俺は神妙な顔つきになって、ご主人に頭を下げた。
「あなた、ありがとう。背中を押してくださって、妻として感謝します♪」
――未亡人には、引導を渡してやらないとね。
すでにこの世のものではないご主人にそういわれて、俺たちは声をあげて笑った。
傍らで聞き入っていた加代子さんまで、笑っていた。

降霊術

2019年05月27日(Mon) 07:47:10

お仏壇での逢瀬のとき、さいごにしたのが初めて唇を交し合うことだった。
まるで初体験を迎える女学生のように、彼女は目をつむって唇を軽く突き出し、待ちの姿勢を形作った。
俺は引き入れられるように、彼女の唇に唇を重ね、ゆっくりと抱きすくめながら唇を吸った。
女の匂いが、俺の鼻腔の奥までも、生暖かく浸していった。
軽度の昂奮が彼女の息をはずませて、
吸い始めた生き血が俺の体内に満ちるときと同じように、
俺のなかを女の匂いで満たしていった。
これがまぐわうということなのか。
俺たち男にとっては、挿入行為こそが女をモノにすることであるのに。
その前段階であるはずの接吻を受け入れることで、女はすでに心を移してきているのだ。
お仏壇の主は、すでにそのことに気づいているのだろうか?

降霊術、してみないか?
俺は彼女に問いかけた。
お父さんを呼び出すっていうこと?
振り向いた彼女は、真顔になっていた。
夫のことをわざと「お父さん」と、かつて家庭で与えていた役割で呼びながらも、
内心では「夫」であることをありありと意識していた。
そう。
お仏壇のまえでさっき彼女がしたことは、取りようによっては明らかに――
夫を裏切る行為、辱める行為だった。

「そう」と応える俺に、「ちょっとだけ怖いな」と呟きながら。
「でもそれはしとかなくちゃね」と、すぐに納得してくれた。
そんなことができるのか?という顔を彼女はしなかったし、
俺も彼女をだましたりごまかしたりするつもりなど毛頭なかった。
ある一定の範囲内で、俺にはそうしたことが可能なのだ。
その霊が比較的近くにいて、心を通わすことができる場合に限られるのだが――彼女の夫とは、そうしたことが可能だった。
彼は俺の周りを、ある種の親近感を抱きながら、付きまとっているような気がしたし、
俺自身、彼の存在は邪魔でも不快でもなく、むしろ相談相手、見せつける相手として尊重していた。
見せつけるのに尊重するのかって?
そういう愉しみを愉しみあうことのできる夫がいることを、俺は数多くの経験のなかから知っている。

「ああ、いるわね」
お仏間で始めたすぐの段階で、彼女は夫の存在を察知したようだった。
ずっと目を瞑っていること――といった俺の言に従って、彼女は正座して目を瞑り、お仏壇のほうへと掌を合わせて心から手向けつづけていた。
「あたし、好きなひとができたの。変わったひとだけど、いいひとなの。
 吸血鬼との恋って、命がけの恋なの。
 逢うたびに、血を吸われるのよ。
 最初のうちは、目を白黒させながらお相手していたけれど、
 いまではもう、慣れちゃった。
 彼があたしの血をむさぼってくれるのが、むしょうに嬉しいの。
 彼、あたしの血を気に入ってくれているのよ。
 あなたがいなくなってから、毎日の生活が白黒写真になっちゃったけど、
 彼のおかげでまた色が戻ってきたの。いまはあなたがいたときと変わらないわ。
 だから――もう独りを守らなくって、良いわよね?」
彼女が俺にも聞かせようとしているのは、明白だった。

彼女の声にこたえるように、部屋の隅から、ひっそりとした声が返ってきた。
その声はたしかに、
――おめでとう、昭代
と、彼女の名を呼んだ。
――仲良く愛し合っているのなら、吸血鬼も人間も変わらないのではないかね?
「ウフフ、視られちゃった?」
――いやでも見えるさ。きみはぼくに見せたくて、あえてそうしたんだろう?
「そうね、見せたくはないつもりでいたけれど、見せたかったのかも。
 そうすることで、あなたの妻でいることを、卒業しようとしたわけではなくて、
 あなたに視られても恥ずかしくないって思えるくらい、
 彼とのお付き合いがまじめなものだということを、確かめてみたかったの。」

なるほど、そういうことだったのか。
俺ははたと納得した。
女というのは、とてもしっかりしていると、改めておもった。
なよなよと頼りなく、俺の魔術にたぶらかされているようにみえて、
彼女は彼女なりに自分の心を推し量り、
たぶんまだ身辺にとどまっているであろう夫の存在を認識しながら、
夫とのけじめをつけないと前に進めないということを自覚していたのだろう。

――ずっと、わたしの妻でいつづけてくれるということか?彼といっしょになっても。
「そうね、あなたの妻でいてあげる。この世に一人くらい、あなたのことを覚えているひとがいないと、あなた寂しがるでしょう?」
――しかし、いまの彼氏さんがそれではご不快ではないかね?
「そうかもしれない。そうではないかもしれない。でもあなたがそう思うなら、彼と話してみてくださる?」
≪不愉快などではないですよ。≫
問われるまえに俺はいった。
≪人妻とのセックスを、旦那に見せつけながら愉しむのが、俺のいけない好みなので。
 むしろあなたがそばにいるほうが、燃えると思います。≫
「いけないひとね」彼女はいった。「こういうやつなのよ」
俺の頬を手ひどくつねりながらも、彼女の頬は少しだけ、笑み崩れていた。
≪俺は貴方のことを、昭代のご主人として尊重します。
 奥さんをモノにしているところを見せつけながら尊重されても迷惑だろうけど、
 俺は俺なりに貴方を尊重するし、尊敬もしつづけるでしょう。
 貴方の奥さんは、俺の女です。天国で、せいぜい悔しがってください≫
ふふっ・・・と俺が笑うと、相手は間違いなく笑い返してきていた。
「このふたり、どうやら気が合いそうね」傍らで彼女がいった。
「私のことを呼び捨てにされても、悔しくないの?」
――それくらい、親しまれているということだろう?
お前はそこできまり悪そうに照れていれば、それで良い。
「ウフフ、遠慮なくそうするわ」
そういう彼女は、ほんとうに照れくさそうな顔になった。
彼は俺にも語りかけてきた。
――良いでしょう。わたしは貴男のことを、わたしの家庭に歓迎します。
幸い貴男も、わたしのことを昭代の夫として認め続けてくれるようだから、
わたしも貴男に礼を尽くすことにしましょう。
最愛の家内の貞操を、貴男にプレゼントします。
どうぞわたしの前で、家内を愛し抜いていただきたい。
どうやら生前から、わたしにはそういうところがあったらしい。
こんなふうになってから、願望が叶うとは、恐れ入ったことですね。


――ふたりのなれそめは、家内から聞きました。
なんでも、駅前の広場でいきなり血を吸いたいとねだられて、
勤め帰りならといわれたのを真に受けて本当に公園で待っていらしたとか。
多分その律義さが、家内に受けたのでしょう。
そうでなければ、会ってすぐの殿方に、ストッキングを破らせるような無作法を、
許すような女ではないのです。
≪性格きついですよね?^^;≫
俺がそういうと、ご主人も応じた。
――ええ、かなりきついほうですよ、覚悟してくださいね。
ご主人も応じた。
――でも、かわいいやつです。いちど結ばれたら、心で裏切ることはまずないでしょう。
身体では、じつはだいぶ裏切られていたようですが。
こんどは昭代が、あわてる番だった。
むしろ諭したのは、ご主人のほうだった。
――生前からわかっていたよ、〇〇さんや△△さん。どちらもわたしの仕事関係の方だったね?
「〇〇さんは主人の勤め先の同僚のかた、△△さんは、取引先のかただったのです」
思わず羞ずかしそうに目を伏せる昭代さんに、ご主人はどこまでも優しかった。
――わたしの仕事がうまくいくようにと、迫られたときに拒まなかったのです。
もっともおふたりとも、セックスの相性はかなりよくて、
家内のほうもだいぶ楽しんだようですが。
さいしょは心ならずものはずが、何年もつづいたのは、そのせいだよね?
「なにもかも見通して、ひどいんだから、もう」
さすがの昭代さんも、娘をまえに情事を暴露されて、口をとがらせるしかなかった。
――わたしもむしろ、昭代の不倫を愉しんでいたのです。ですから同罪ですよ。
ヘンな両親で、すまないね加代子。
賢明な加代子さんは、何も言わないでただかぶりを振るばかりだった。

見せたあと。

2019年05月27日(Mon) 05:11:46

「ドキドキしちゃった」
娘がいった。
「のぞき見したの?しょうがない子ね」
母親がたしなめた。
「だって・・・気になるもの」
「手当をしてくれる気だったのね」
ちゃぶ台のすみに控えめに置かれた包帯やばんそうこうを、彼女は淡々と見やっていた。
「こういうときには、タオルも余計に用意しておくものよ」
冷静な言葉の響きに、彼女の娘――加代子さんは確かに、圧倒されていた。
彼女のほうが一枚も二枚も、役者が上なのだと、娘である加代子さんはすぐに、納得したに違いない。
「でもありがとう、気にしてくれて」
彼女は頬を和らげて娘をねぎらうと、それでも続けていった。
「だいじょうぶよ、あのひと、私を死なせるつもりなんてないから」
ゆったりとした声色は、謡うようになおもつづいた。
「私のことを死なせずに、私の血をずうっと、愉しみ続けたいのだから」
加代子さんはまじまじと、母親を視た。
人に恋するというのは、こういうことなのか――
見開かれた瞳に、そう書かれているかのようだった。
加代子さんは母親の後ろに回り込み、甘えるように両肩を抱きしめて身を持たれかけると、いった。
「母さんおめでと。父さんもきっと、よろこんでいるよね」
加代子さんは自分の母親に、女の先輩を見ているのだろう。
それは賢明で正しい見方だった。

「でもきっと、あの人、あなたの血も吸うわよ」
母親の言葉は、娘の胸に射込まれるように、静かで鋭かった。
「そう・・・」
娘は薄ぼんやりとこたえた。
「あたしそれでも、かまわない」
「そうなの?」
「うん、かまわない。母さんの貧血の埋め合わせになるのなら――」
きっと加代子さんには想う男性はまだいないのだろう。
彼女はまだどこまでも娘であって、女ではなかった。
娘は母親の身体を気遣い、自身の身に及ぶ純潔の危機には気が回っていないようだった。
「お気をつけなさい、男のひとは怖いから」
女の先輩は、娘を訓える姿勢を、どこまでも崩そうとはしなかった。


つい数刻ほど前のこと――
仏間に引きこもった彼女と俺とは、吸血鬼のやり方で睦みあっていた。

凛とした彼女の首すじを、せわしなく這いまわる唇を。
上品に装われたストッキングにふるいつけられ、卑猥なよだれで濡れそぼらせる舌を。
切なげに肩を揺らしながらの息遣いを。
乱されたブラウスの襟首から覗くスリップのレエス飾りを。
乱れあうふつうの男女と変わらない、悩ましく絡み合う手足を。
もっと、もっと・・・とうわごとのようにくり返す囁きを。
ふすまのすき間から、彼女の娘はどんな想いで見つめつづけていたのだろう?

それでも彼女は、俺が自分の母親に加える行為に、邪魔だてをしなかった。
吸血される母親を目の当たりに怯える娘としてではなく、
愛情の込められた腕のなかに安住する彼女のことを、同じ女として肯定したのだろう。
背後から注がれるまなざしに敵意も嫌悪も込められていなかったことを背中で感じながら、
逆立つほどに勃っていた股間を露骨に押し付けることをかろうじて回避した自分の理性に、俺は心からの安堵を覚えていた。

母親は娘に、わざと見せたに違いない。
お仏壇の前で乱れることも。
けれどもそのまえに、いまの恋人が、お仏壇に敬意を示すことも。
そして亡夫のために守り通してきた女の操を、遠からず俺に捧げようと思っていることまでも。

娘を紹介される。

2019年05月27日(Mon) 05:08:26

母「母さんに恋人ができたといったら、あなたどう思う?」
娘「えー、良いんじゃない?どんな人?」
母「・・・人の血を吸うのよ。」
娘「どういうこと?」
母「言ったとおりの意味よりその人、母さんの血を吸うの。」
娘「・・・母さんそんな人が相手で、平気なの??」
母「大丈夫よ、その人、母さんのこと愛してるから。」
娘「母さんが良ければ、あたしはいいよ。で、もうエッチしたの?(興味津々)」
母「ばかねぇ、そんなこと親に訊くもんじゃないわよ。」
娘「えっ、でも気になるよ。キスはしたでしょ?」
母「キスもまだよ、そういうことしたら、離れられなくなっちゃうでしょ?
  身体の関係というのは、慎重にするものなのよ。」
  あの人、まだ母さんの手も握らないのよ。――あっ、でも抑えつけられたことはあるわね。」
娘「やだっ(真っ赤)その人、家に招ばないの?」
母「あなたが良ければ・・・ね。」
娘「ねぇ、招んで招んで♪」
母「家にあげたらね、あなたも血を吸われちゃうかもしれないでしょ?だから招ばないのよ。」
娘「母さんがダメって言っても?」
母「招んだらダメとは言わないわ。だって、私のたいせつなカコちゃんの血を、吸ってもらいたいと思うもの。この家にあの人を招んだら、私カコちゃんのこと紹介しちゃうわよ。だからあの人、加代子ちゃんの血も吸うわ、きっと。」

母娘のあいだできっと、そんなやり取りがあったに違いない。
看護婦であるその人は、娘が貧血を起こしたくらいでは動じないし、賢明な人だからすぐ適切な処置を施すだろう。
俺を家に招ぶということがどういうことなのか、きちんとわきまえているのだから。
きっとあの人のなかで、娘を売る――みたいな感覚はまったくないはずだ。
自分と同じことを体験させようとするのなら、そこには親としての前向きな意思しか存在しないはず。
そしてなによりも彼女は、一人娘をだれよりも愛していた。
もちろん、俺なんかよりも。

いつもよりほんのすこしだけ他人行儀に俺を迎え入れたそのひとは、
隣の部屋から開いたドア越しにこちらを窺う娘に、
「お母さんの好きな人」
とだけ、目で促しながら俺のことを引き合わせた。
俺とはじゅうぶんすぎるほどの距離をとって、恐る恐るお辞儀をした少女に、
俺もぎこちないあいさつを返すのを、
彼女は面白そうに眺め、俺と娘とを見比べた。
制服のスカートの下から覗く白のハイソックスのふくらはぎが、ひどく眩しく俺の目を射た。
彼女は俺の視線の意図を正確に察したに違いなかったが、あえてなにと言おうとはしなかった。
獲物でも、ちゃんと礼儀は忘れないのね?
彼女はそう言って、イタズラっぽく笑った。
あんたのお嬢さんじゃないか。
気がつけば、相手をたしなめているのは、俺のほうだった。

いつものようにして構わないのよ。
芝生の上だと、芝だらけ。
お砂場だと、砂だらけ。
腕白少年じゃないのだから、そんなに毎回、お洋服を汚すわけにはいかないわ。
彼女はゆったりとほほ笑んで、いつもよりかなり余裕たっぷりに、俺を受け入れた。
チン、ちぃーん・・・
お仏壇にお線香をあげ、鉦を鳴らし、背すじを伸ばして掌を合わせる彼女の後ろで、
俺も神妙に掌を合わせた。
あら、お参りしてくださるの、うれしいわね。主人もたぶん、よろこぶわ――
果たしてご主人はほんとうに、よろこぶのだろうか?
自分の妻を犯そうとする男を、妻自身が自宅に引き入れてしまったことを?
よろこぶわよ。
彼女がいった。
だってあのひと、変態だったんだもの。
近くに娘がいないことを見計らったうえで矢のように射込んだ囁きが、俺の鼓膜をじんわりと貫いた。


あとがき
前作がまだ続きそうなので、ちょっとだけ続けてみます。

礼節と露骨

2019年05月23日(Thu) 07:59:42

なん度となく、公園でのアポイントメントを重ねていくうちに。
彼女が迷っているのを俺は感じた。
吸い取った血液は、彼女の思惑を余すところなく、伝えてくる。
彼女は思ったよりずっと年上で、娘がひとりいた。
夫はかなり以前にいなくなっていて、以後は彼女の看護婦としての収入が、母娘の日常を支えていた。
通りがかりの吸血鬼に献血をするという破格の好意を、彼女がどうして示してくれたのかまではわからなかったが、
彼女は自分の選択を悔いてはおらず、俺のふるまいにも満足していた。
ストッキングを破かれながら脚から吸血されるのは、
さすがにさいしょは厭々だったけれど。
そうすることが俺の満足度を深めると知ると、
同じく血液を喪うのなら、相手の満足のいくようにして、少しでも有効度を高めようと、
職業意識を奮い立たせて、応じてくれた。
俺が性交渉をした衝動をこらえているのも、察してくれていた。
いますぐ許すつもりはないにしても、俺のふるまいに彼女は、つねづね敬服してくれているようだった。
そうとわかるとなおさら、彼女を抱く猿臂に、いやらしさを込めるわけにはいかなくなった。
それくらい、彼女の好意と信頼とは、俺のなかで貴重なものになっていた。

うちにいらっしゃい。
そう誘いかけるのを、彼女はずっと、ためらっていた。
家に吸血鬼を招くことで、娘に岐南が及ぶことを、じゅうぶんに察していたからだ。
彼女が俺を招待すると決めるまでに、ストッキングを1ダースも破らせる羽目になっていた。
そんな生真面目な人の勤め帰りをつかまえて、ストッキングを破りながら吸血する。
一定のルールを守りながらも、俺は不埒な遊戯をやめられなくなっていて、
いつも脚に通している地味目なストッキングに、きょうもいやらしいよだれを塗りこめていった。

ナースストッキング、穿いてきてあげたわよ。興味あるんでしょう?
彼女は冷やかすようにニッと笑って、白ストッキングに透けた脚を見せびらかした。
そして、俺が目の色を変えてむしゃぶりつくのを、
勤務先で立ち働くときの装いをふしだらに乱されてゆくのを、
しまいに見る影もなくチリチリにされて、ひざ小僧がむき出しになっていくのを、
面白そうに見おろしていた。

礼節をもって。
けれども露骨に。
俺は彼女に迫り、彼女も毅然と胸をそらして、それを受け入れた。

物腰の落ち着いたご婦人だった。

2019年05月23日(Thu) 07:48:49

20代にしては、しっかりしていると思った。
たぶん結婚しているだろうとは、もちろん思った。
そういう物腰と落ち着き、貫録を漂わせたひとだった。

彼女は朝すれ違った時と同じ、白の半そでのブラウスに紫のスカート姿。
裾の長い紫のスカートを、ゆっくりとした大またでさわさわとさばきながら、歩み寄ってきた。
ほんとにいらしたのですね。
彼女はいった。
ほんとに来てくださったのですね。
俺はこたえた。
患者さんの症状を診るのが仕事ですからね。
まともに目線を合わせてくる彼女は、ちょっと得意そうだった。
脱帽です。
俺はほんとうの患者になったみたいな気分になって、頭を垂れた。
これではだめなのですか?と、彼女が差し出したのは、輸血パックだった。
残念ながら・・・と、俺はこたえた。
女のひとの素肌を咬んで、人肌の血液を摂らなければ、干からびた血管が満ちることはないのだと。
面倒なひとですね。
女は顔をしかめた。
ご迷惑ですみません・・・といいながら、我ながらムシの良い願いごとなのだと実感した。

では、どうぞ。
女のひとはベンチに腰かけて、目をつむる。
俺は定番通り、彼女の腰かけたベンチの後ろに回り込んで、両肩を抱いて、唇を首筋に近寄せた。
つかんだ両肩は意外に肉づきがしっかりとしていて、相手が鍛えられた人なのだと改めて実感した。
恐る恐る這わせた唇は、自分の意図を裏切って反応が早く、あっという間に食いついていた。
じゅわっ・・・とあふれ出る血を、一滴余さず口に含んでいく。
いつもの馴れた行為――それなのになぜか、初めて血を吸うようになったころと同じように、胸震わせながら、含んでいった。

あっ・・・
女のひとが声をあげ、額を指で抑えた。
しまった。少し吸いすぎた。
俺は慌てて首筋から唇を離し、それでもこぼれ落ちたさいごの一滴を、余さず舌で舐め取ってゆく。
彼女はしばらくのあいだ、ベンチの上でうずくまるようにしていたが、
やがて気を取り直すとハンドバッグから手鏡を取り出して、自分の顔色をみた。
そして、看護婦が患者を診るような目で手鏡を念入りに覗き込み、
取り乱してごめんなさいと、俺にいった。
俺はどうこたえて良いかわからなくて、ただだまってもじもじしていた。
恐縮する気持ちはあるのね・・・言葉には出さないけれど、彼女はそう言いたげに、白い歯をみせて笑った。
ちょっとだけ、小休止。
彼女の宣言に俺は素直に従って、同じベンチにちょっとだけ離れて腰かけた。

ご不自由なお身体ですね。
他人行儀に声をかけてきたそのひとは、まだきっと、俺とは距離を置きながらコミュニケーションをとりたいようだった。
なによりも、彼女の体から吸い取った血液が、そうした彼女の慎重さと潔癖さとを俺に伝えてくれていた。
そうですね、不自由なものです。
俺は正直に、そういった。
どれくらいの血液が必要なの?
彼女の口調は、親身な女医さんのようだった。
人がふたりいれば、なんとかなるくらいの血の量です。
大雑把な俺のこたえに、彼女はちょっと考え深い顔つきをした。
それからしばらく、俺たちは当たり障りのない会話を交わした。
自分の血を吸い取った相手がどんなやつなのか、彼女が知りたがっているのだと感じて、
俺は正直に、問われるままにこたえていった。

吸血鬼になったのは、十年近くまえのことだと。
家族全員が咬まれて、俺だけが吸血鬼になって、
両親と妹は、一人の吸血鬼への献血にかかりきりで、たまに母や妹が、空いた身体を預けてくれて。
でもいつまでも、頼り切るわけにはいかなくて、
相手を求めるともなく求めて、街をさまよっていたのだと。

会話が尽きると、彼女はいった。
もう少しなら、お相手してもよさそうです。明日は非番ですから――と。
好意を辞退する余裕は、そのときの俺にはなかった――
ふたたび吸いつけた唇は、彼女の足許を狙っていた。
本能のままに、ふくらはぎを吸いはじめていた。
あの・・・彼女は控えめな声色で、いった。
ストッキング脱ぎましょうか?
よだれで濡らしたり、咬み破るのが好きなんです。下品でごめんなさい。
そう。
彼女はちょっとばかり不平そうに鼻を鳴らして、
それでもよだれの浮いた唇を足許に擦りつけられてくるのを、止めさせようとはしなかった。
俺は彼女の穿いている肌色のストッキングを下品にいたぶり抜いて、
いびつによじれさせ、よだれをしみこませた挙句、ブチブチと咬み破りながら、吸血を始めた。

結婚している女のひとを襲うとき、犯すのが礼儀なのだと教わっていた。
けれどもそのときはどういうわけか、この場で彼女を犯してはいけないと思った。
彼女もまた、自分が犯される危機に立っていることを直感したようだった。
そして、俺がどうにか自制するのまで、見通したようだった。
さいごまで紳士的に振る舞おうとしたたことを、彼女がどうやら評価しようとしてくれている様子なのを感じて、
俺は心から良かったと思った。
彼女は翌々日の勤め帰りにここを通ると、次のアポイントをくれた。

看護婦ですから。

2019年05月23日(Thu) 07:24:06

気の強そうな色白の丸顔の頬に、肩までかかる女らしい栗色の髪をなびかせて。
その女のひとは、横断歩道を渡ってきた。
ふと目が合ったそのときに、そのひとはいぶかしそうに俺を見返し、俺は恋に落ちていた。
あの・・・
思わず声をかけた俺は、自分のしたことにびっくりしていた。
相手もやはり、びっくりしていた。
あの、何か。
足を止めて向き合った視線は強く、警戒心に満ちていた。
じつは俺、吸血鬼なんです。貴女の血が欲しいんです。
あらいざらい白状するということは心が軽くなることだと、初めて思い知った。
女の反応は、とうぜんとがったものだった。
え?どういうことですか!?
言ったとおりの意味です。
ちょっと・・・
女の顔色はかすかに怒りの色を帯びてきて、なにをばかげたことを・・・と言いたげになったが、
すぐにその色を収めると、いった。
差し迫っているのですか?
はい、差し迫っています。
どのくらい?
きょうじゅうにだれかの血を吸わないと、やばいです。
そう。
女のひとは、意外なくらい冷静な目で、俺を見た。
たしかに顔色よくないわね。
彼女は独りそう呟くと、いった。
これから仕事なんです。
ですから今すぐ応じるわけにはいきません。ごめんなさい。
どうしてもというなら、あそこの公園で待っててください。夕刻6時に通りますから。

彼女の言い草にびっくりして、口をぽかんと開けていると、彼女はいった。
わたし、看護婦ですから。

婚前交渉(前作「結婚するのは、緋佐志とだから。」続編)

2018年06月04日(Mon) 05:52:06

「イヤ!服が皺になるじゃない!」
抑えつけられたベッドのうえ、京香は眉を顰めながらも、早くも男に首すじを吸わせてしまっている。
婚前交渉をするのに彼氏といっしょにホテルに行くのは、若い女の子のなかでは常識だった。
京香ももちろん、例外ではない。
ただし、相手が恋人ではなく彼女の生き血を欲しがる吸血鬼だということは除いて・・・の話だけれど。

緋佐志はきょうも、送り迎えをしてくれた。
ホテルの前で緋佐志の車を降りると、自分の背中に注がれる視線を痛いほど感じながら、
発育のよいふくらはぎをまっすぐに、ホテルのロビーに向けてゆく。
結納を済ませた後、なにも知らない京香の母親は娘にいった。
「お父さんは何ておっしゃるかわからないけど、結婚するんだからあとは京香の好きにしても良いと思うわ」と。
そう、たしかに「結婚するから」「好きにしている」。
ただし、「違う相手と」。
ホテルでの一夜で吸血レイプされたあと(まだ処女だけど)も、緋佐志はそれまでと変わらず優しかった。
ホテルで待っている彼と逢うと言ったときに、送り迎えをしてくれると言われたときには、耳を疑ったけれど、
卑屈な態度ではまるでなく、しつような吸血のあげく貧血にさいなまれる自分の恋人を気づかってのことだとすぐにわかった。
いま京香は、緋佐志に介抱されながら、血に濡れたブラウスの襟元を気にせずに、独り暮らしのマンションに、帰ることができるのだ。
いまあたしがしていることは、きっと不倫なんだろう。京香は思った。
そして隣でハンドルを握る恋人さえもまた、彼女の不倫の共犯者だった。


そうよ、不倫よ。ふ・り・ん♪
あの男の牙にかかって、あたしめろめろに酔わされちゃうの。
あなたを車で待たせて、密室のベッドのうえであいつに抱かれて、酔わされちゃうの。
あたしが処女でいられるのは、たんにあいつが処女の生き血が好きだから。
あいつの女になったあたしは、まだ犯されていなくて、処女のままだけど。
非処女の女よりもずうっと淫らに、ベッドのうえで乱れるの。
いまのあたしは、あいつの奴隷。
スポーツで鍛えた血液を愛でられるのが嬉しくて、つい余計に捧げてしまうの。
ひどい貧血は当然の報い。
でもあたしは眩暈と幸福感とで、くらくらしちゃうの。
あなたはあたしのことが気になって、あとを尾(つ)けて部屋のまえまでやって来て、
すぐにあいつに見つけられて、返り討ちに血を吸われちゃって、お部屋の前の廊下で寝るの。
わざと半開きにしたドアの向こう、
ベッドの上であたしたちがこれ見よがしに乱れるのを、したたかに見せつけられながら、

きみたちふたりはお似合いだって、あなたは言うの。
ぼくの京香を君に褒められて嬉しいって、あなたは言うの。
京香の若い血がきみを夢中にさせるのがぼくの希望だって、あなたは言うの。
結婚してからも京香を犯しつづけてほしいって、あなたは言うの。

京香はふふんと鼻で笑い、だいぶ離れてしまった車のほうをふり返り、これ見よがしに手を振った。
車の中からも、控えめに応えるのが見て取れた。


まっすぐホテルのロビーに向かってゆく恋人の足どりを、
緋佐志はズキズキ胸をはずませながら見送ってゆく。
突き刺されるような嫉妬に震えながら。
緋佐志に背を向けた彼女のキビキビとした足取りは、確かな意思をもって、不倫相手の待つベッドへと歩みを進めてゆく。
ひざ上丈のミニスカートから覗く健康そうな太ももを包むナイロンストッキングが、照りつける陽射しを照り返してテカテカと光り、リズミカルな足どりに合わせてよぎっていった。
あの太ももを活き活きとめぐる若い血液を、きみはたっぷりと吸い取られてしまうのか。
這わされてくる唇に、あのむっちりとした太ももを惜しげもなく吸わせて、ストッキングをブチブチ破かれながら吸血されてしまうのか。
緋佐志の心はざわざわと騒いだ。
でもそんなきみを、ぼくは止められない。
きみがぼくのことを裏切って、嬉しそうに笑いながら若い血液を吸い取られ、
ほかの男とベッドのうえで乱れるのを、ぼくは恥ずかしい昂奮を噛みしめながら、思い浮かべてしまうから・・・


部屋に入るとクリスはもろ手を挙げて迫って来て、京香をギュッと抱きすくめた。
「喉渇いているんでしょ」
京香が図星を指すと、「わかっているなら話は早い」といって、京香を勢いよくベッドのうえに投げ込んだ。
「あ!ちょっと!」
あわてる京香のうえに、クリスの逞しい胸がのしかかってきた。
うっ・・・
唇を奪われて嗅がされた、獣のような男の匂い。
「う、ちょっと・・・外に緋佐志がいるのよ」
婚約者の名前をわざと出すと、クリスはまんまと京香の手にのって、さらに責めを激しくさせた。

あれからクリスにもことわって、緋佐志ともキスを交わしたけれど、
クリスのときみたいな荒々しさはなかった。
幸福感と安心感はあったけれど、ドキドキさせるようなときめきはない。
――いいの。夫に求めるものと情夫(おとこ)に求めるものとは違う。
京香は車の中で息を詰めているであろう緋佐志を想いながら、クリスとの激しい口づけに柔らかな唇を痺れさせていった。


気がついたときには、部屋の前までたどり着いていた。
気がついたときには、京香の情夫に羽交い絞めにされて、首すじを咬まれていた。
気がついたときには、貧血の眩暈にあえぎながら、
ベッドのうえで乱れ合うふたりを前に、きみたちは似合いのカップルだと言いつづけていた。

さいしょの夜に。
「わかった、いいよ。あなたの女になる」
生き血をたっぷりと引き抜かれ、心の中身をそっくり入れ替えてしまった京香はそういって、吸血鬼の求愛を受け容れてしまった。
いつものハッキリとした口調だけが、以前の彼女と変わりなかった。
そのピチピチとした太ももを噛みたいとねだられると、ツヤツヤとした光沢を帯びたストッキングに縁どられた脚線美を、惜しげもなくさらしていって、
薄いナイロン生地を相手のよだれまみれにされながら、くしゃくしゃに皺寄せて、ずり降ろされていった。

京香は予定通り、緋佐志の花嫁になる。
京香が自分の恋人で、予定通り結婚をするといったのは。
吸血鬼の愛人として隠れ蓑が必要だったから。

吸血鬼のやつも案外お人好しで、
自分の地位を脅かしかねないはずの緋佐志を強いて排除しようとはせずに、
自分に会いに来る京香の送り迎えを、むしろ歓迎してくれていた。
やはり彼のほうも、隠れ蓑が必要だったから。


緋佐志は熱に浮かされたように、誰にともなく呟きはじめた。
君の牙には、京香の生き血がお似合いだ。
その牙を埋められて、ぼくの京香は君の腕のなかで、あんなに切ないうめき声をあげちゃっている。
ああ、ドキドキするな。ズキズキするな。
慎みなんかかなぐり捨てて、小娘みたいにはしゃいでいる京香。かわいいな。素敵だな。
君は処女の生き血が好きだっていうけれど、ほんとうは京香の生き血が好きなんだろう?
きっとぼくたちが結婚してからも、京香のことを襲うつもりだね?
ぼくはきみのことを、歓迎するよ。
ぼくの新妻を、ぜひ襲ってほしい。襲いつづけてほしい。
同じ女性を好きになったもの同士、ぼくたちは仲良くやれるはず。
不倫に耽る京香のために、ぼくは寛大な夫でい続けてあげるから・・・


あとがき
描いてみたかったこと。
結婚間近の女が吸血鬼を相手に、ボディコンスタイルに身を包んだムチムチと健康的な身体から、うら若い血を嬉々として引き抜かれてゆく様子。
恋人に送り迎えをさせながら、吸血鬼と熱い唇を交えてしまう女の、恥知らずな痴態。
キビキビとした足取りで情夫の待つ部屋へと足を向ける彼女の後ろ姿を、嫉妬にズキズキ胸をはずませながら見守る彼氏。
・・・まとめるのがたいへんでした。(笑)

結婚するのは、緋佐志とだから。

2018年06月04日(Mon) 00:19:48

ディスコのなかは、広々とした密室。
きらめく光芒の下、今夜も京香は踊り狂っている。

ムチのようにしなる腕。
激しいステップをくり出す、恰好の良い脚。
汗ばむ胸もと。火照る素肌。
ゆるいウェーブのかかった栗色のロングヘアが揺れる肩。

彼氏の緋佐志はそんな京香を遠くから、うっとり見つめる。
「遠くから見ているだけでも良いのかね?」
出し抜けに囁かれた言葉の主が、自分と同じ女をうっとり見つめるのを知っても、
緋佐志は自分でも訝しいほど、腹を立てなかった。

「彼女の京香です。この人、いま知り合ったばかり」
名前を言いかねて聞き直そうとする緋佐志をちらと見て、男はクリスと名乗った。
どう見ても日本人だけど・・・と訝る京香を「いいじゃない」と受け流し、
「そろそろ出るか?」と、いつの間にか三人の間を仕切っていた。
氷のように冷静なところを取り繕っていたけれど。
クリスは内心、昂ぶりを抑えかねていた。
ひざ上丈のタイトスカートから覗く京香の健康な太ももはピチピチと輝いていて、
ストッキングごしに桜色に透けた素肌が、悩ましかった。

クリスは言わずと知れた、深夜の女を狙うハンター。
しかしふつうのハンターとは違っていた。
生身の男と違って、冷えた身体を持ったこの男が欲したのは、
年ごろの女のうら若い血液を、干からびた自分の血管にめぐらせることだった。

2人で泊る予定のホテルに、「廊下に寝るさ」とうそぶくクリスと3人でチェックインしたが、
フロントはクリスのことを不思議がりもせずに、緋佐志にキーを渡してくれた。
通されたツインルームでちょっとのあいだ3人で飲んで、
あとはお2人さんを邪魔することなく廊下で寝る――そういう約束だった。
けれども男が約束を守る気がないことを、京香はとっくに見抜いている。
「緋佐志、だいじょうぶ?私のこと、ほかのやつに奪(と)られちゃうよ?」
なん度か言いかけたその言葉を引っ込めたのは。
案外京香も、この道の男にえも言われぬ期待を抱いてしまっていたから。

トイレに出た緋佐志が、なかなか戻ってこない。
いっしょについていったクリスが一人先に戻ってきたが、
2人きりの気まずい時間を過ごすのを嫌った京香は、ドアを開けて部屋を出た。
白のパンプスの足どりはすぐに止まり、その場に立ちすくむ。
首すじから血を流した緋佐志が、そこに倒れていた。
振り返ると、クリスの口許にバラ色のしずくが光っている。
緋佐志の胸もとに散った液体と同じ色だと見て取ると、
京香は男の正体を瞬時で察し、ダッシュでエレベーターホールに走った。
間一髪だった。
開放されていたエレベーターの扉は京香の目のまえで閉ざされ、
つぎの瞬間京香のスーツ姿は羽交い絞めになっていた。
「――ッ!」
息苦しいほど抱きすくめられた京香は、
首のつけ根のあたりに生温かい唇がヒルのように吸いつくのと、
その唇の両端から覗く尖った異物が皮膚を切り裂き、首のつけ根に疼痛を滲ませるのを感じた。
意識がスッと遠のいた。

気がつくと。
ベッドのうえにいた。
ホテルの部屋に引きずり戻されていたのだ。
気絶していたのは、数分間でしかなかっただろう。
傍らを見ると、緋佐志がベッドの傍らに尻もちをついて、放心したようにこちらに目を向けている。
京香のうえには、クリスがいて、薄笑いを泛べた唇を、ふたたび京香のうなじに這わせようとしている。
「うー、うー・・・」
京香はなん度もうなり声をあげて、首すじに迫るクリスの唇を避けようとした。
「だめ・・・だめ・・・だめえっ。あたし、緋佐志のお嫁さんになるんだからっ・・・」
痛切に叫ぶ京香を抑えつけて、男はなおも京香の身体から若い生き血を引き抜く行為を、力を弛めず続けてゆく。
「こ、殺さないで・・・」
ベッドの下から洩れる声に、男がかすかに頷くのを、京香も緋佐志も見逃さなかった。
男は少しだけ獰猛さを消して、京香の額を優しく撫でると、
「若い女の血が欲しい」とだけ、いった。
さすがに「どうぞ」とも言いかねて京香が黙っていると、
男は京香の両肩を抑えつけて自由を奪うと、再び京香の首すじを吸った。
抑えつけられ自由を奪われながら、京香は再び咬まれていった。
ズブッ・・・と食い込む牙が、今夜初めて受け容れるはずだった緋佐志の男性自身のように、京香の胸の奥を抉った。

セックスと吸血。
形は違うけれど、いま自分が体験しているのは間違いなく初体験なのだと、京香は感じた。
緋佐志の見守る目線をそれぞれに気づかいながら、ふたりはベッドのうえでせめぎ合い、
男は淫らな吸血行為をやめようとはせず、
女は忌むべき凌辱から逃れようとしてしくじりつづけていた。
緋佐志は自分の彼女が、吸血鬼相手にうら若い血液を提供しつづけて、
吸血鬼が彼女の血潮に魅了されてゆくのを、ただ息をのんで見つめつづけていた。
せめぎ合いを演じる若い女の肢体はじょじょに力を喪って、
やがて抵抗は屈従に変化してゆく。

クリスがやっと牙を引き抜いたとき、女と男は目を見開き合って、互いを見つめた。
女は上目づかいで。
男はまっすぐに見おろして。
京香は男のような口調で、いった。
「わかった、いいよ。あなたの女になる」
そして緋佐志のほうをふり返ると、
「でも結婚するのは、緋佐志とだからね」
というのを忘れなかった。

OLたちと吸血鬼  ~妹とその親友~

2018年02月12日(Mon) 13:18:30

勤め帰りのOLを狙う凶悪事件が、続発していた。
そのほとんどは闇に葬られたが、数人のOLが被害を届け出たことから発覚し、
オフィス街ではOLの残業を禁止する企業まで出るほどだった。
襲われたOLは深夜、ビルの警備員に発見された。
帰宅途中現れた男にいきなり首を咬まれ、そのあとのことは憶えていないという。
気絶して間もなかったらしく、幸い着衣の乱れはなかったものの、
咬まれたのは首すじだけではなく、両脚も咬まれていた。
被害は貧血とストッキングが破けただけで、本人の希望もあって大事には至らなかった。
そのような事件がすでに、知られているだけでも三度、発生していた――


夜10時。
銀行員の中平直子は勤め帰りの道を急いでいた。グレーのスーツ姿が、明るい街灯の下に照らし出される。
ひざ丈のスカートのすそから覗くふくらはぎはうっとりするほど絶妙な曲線を誇っていて、
本人の意思とはかかわりなく、なにかを引き寄せてしまいそうだった。
事実――
「ひっ」
直子はひと声悲鳴を呑み込んで、前に立ちはだかった黒い影を凝視する。
「あなた・・・だれ・・・?」
「怖がらないでください」
「私、怖がらないわ」
勝気な直子はそう答えた。
だが、そのあとのことはもう、まったく憶えていない。
気がついたら首を咬まれ、倒れたところをベンチのうえに抱きあげられて、こんどは脚を咬まれていた。
ストッキングのうえをすべる舌がもの欲しげに這いまわり、唾液で濡らされるのをわずかに自覚した。
こいつ、いやらしい。
直子は直感的に相手の卑猥な意図を察知し、脚をばたつかせようとしたが、強い力で抑えつけられてびくともしなかった。
彼女は悔しげに歯噛みをしたが、失血で頭が痺れ、身体に思うように力が入らない。
そうこうするうちに、抵抗できないままにストッキングを咬み破られて血を吸われた。
男はご丁寧にも両方の脚にかわるがわるそのけしからぬ悪戯をくり返すと、やっと直子を放した。
身体から力の抜けてしまった直子は、男の思うままに吸血行為を許してしまった。


「それがね、そいつったら私のこと、タクシーに乗せて家の近くまで送ってくれたの。ずっとこうやって手を握ってね、すまなかった、ありがとう、助かったよって、しつこいくらい何度もくり返すのよ。私、もう、うるさくなっちゃって、“少し黙って。運転手さんに聞こえるわ”って言っちゃった。そしたらさ、そいつおっかしいくらいにぴたりと黙るの。私は貧血でふらふらだったけど、そうじゃなかったら笑ってたと思う。家まで突き止められるのはマズイと思ったから、近くでおろしてくれって言ったら、大人しく言うことを聞いてくれたわ。案外義理堅くて親切なやつだった。事件が表ざたにならないのは、そのせいかもね」
親友で同期の本条沙代里が出勤してくると、直子は待ってましたとばかり沙代里を給湯室まで引っ張っていって、吸血鬼に襲われてから解放されるまでのてんまつを、一気にまくしたてた。
「え~、怖くなかったの?」
賢明で慎重な性格の沙代里は、嫌悪と恐怖に口許に手を当てながら直子の話を聞き、夕べは貧血だったという親友を気づかった。
「で、銀行には届けたの?」
「まさかぁ、そんなのやだよ。首すじを吸われただの、ストッキング穿いた脚をイタズラされただの、そんなこと男の上司に言える?ましてあたしが言うとしたらあのドスケベ中松だからね!」
「そっか」
沙代里はそういって、直子の言い分に半分賛成した。


沙代里は勤め帰りのスーツ姿のまま、いっしょに暮している兄の氷唆志(ひさし)を待っていた。
田舎から出てきた兄妹は、同じアパートに住んでいる。
氷唆志にも沙代里にも恋人はいなかったので、どうやら成り立っている共同生活だった。
いずれはどちらかが先に結婚してここから出ていくとしても、沙代里には兄との生活が楽しかったので、いまの生活が一日でも長く続くと良いと考えていた。
このごろ兄は帰りが遅い。
勤めを終えて帰宅した沙代里が作ったせっかくの心づくしの夕食も、手をつけずじまいの日が何日か続いていた。
ちょうどオフィス街で吸血事件が相次ぎ始めたころだったので、帰宅の遅い兄のことを沙代里は本気で心配し始めていた。
玄関先でドアを開ける音がした。
さよりはちゃぶ台の前から起って、兄を迎えた。
氷唆志の顔色は、真っ蒼だった。
「どうしたの?お兄ちゃん」
気づかう沙代里の声も耳に入らないように、氷唆志はその場にうずくまると、「ちょっと離れていてくれ」とだけ、いった。
そうはいわれても・・・心配じゃないの。
沙代里は苦しむ兄のそばを立ち去りかねて、ちょっとのあいだ逡巡した。
それがいけなかった。
ふと顔をあげようとした氷唆志の目のまえに、ストッキングを穿いた沙代里の脚が佇んでいた。
気分の悪い兄を気づかう妹の、頼りなげな足許――
しかし、氷唆志の目はすでに、鬼の様相を帯びていた。
肌色のストッキングに包まれたふくらはぎは、若々しい生気に満ちていて、飢えた男の目にはジューシーな血色を感じさせた。
氷唆志は素早く妹の足許ににじり寄ると、足首を抑えつけ、ふくらはぎに唇を吸いつけてしまった。
本人の意思を越えたなにかが氷唆志を動かしているような、ひどく敏捷な動きだった。
「エッ?お兄ちゃんッ!?」
沙代里は目を丸くして立ちすくみ、不覚にも兄の望むままにふくらはぎを吸わせてしまっていた。
両方の脚を代わる代わる、いとおしむようにその唇で撫でさするように舐められて、
「ちょっと・・・お兄ちゃん、なにイタズラしてるの?やらしいよ」
沙代里は兄がふざけているのだと思って、兄の大人げない行為をたしなめた。
まるで子供のころに戻ったみたい――遠い昔兄妹で吸血鬼ごっこに興じたことを沙代里は思い出した。

――じゃ、お兄ちゃんが吸血鬼になるから、沙代里は逃げるんだよ。でも最後にはつかまえられて、お兄ちゃんに血を吸われちゃうんだ。

足許に唇を這わせてくる兄の行為をさえぎろうとして、沙代里は身をかがめる。
肩までかかる黒髪がユサッと揺れて、二の腕に流れた。
遠い記憶をたぐる沙代里の想いとは裏腹に、スーツ姿のまま黒髪を揺らすOLは、なまめかしい大人の体臭を滲ませてゆく。
「ちょっと・・・ちょっと・・・やめなさいよ・・・」
兄の悪戯を制止しようとした沙代里の声が、とぎれた。
氷唆志の唇から覗いた牙が、ストッキングを破り沙代里のふくらはぎに深々と刺し込まれたのだ。

ちゅ~っ・・・
ちゅ~っ・・・

素肌から抜き取られてゆく血液が、兄の唇に経口的に含まれてゆくのを目の当たりに、
沙代里は正気を失い白目になって、身体のバランスを崩した。
アパートのほの暗い照明の下、不気味な吸血の音が、間歇的につづいた。


「ねえ聞いて。総務のサトコなんだけど、ご執心なんだって」
「・・・え?」
耳よりの話を持ちかけてきた直子に、沙代里は眠そうな声でこたえた。
「あらー、寝不足?沙代里にしては珍しいわね。夕べ彼氏とデートだったとか?」
「そ、そんなんじゃないよ」
「あつ、そうか。沙代里はお兄さんとラブラブなんだもんねー」
直子はもちろん、沙代里が兄と暮らしていることを知っていたし、どうやら沙代里に彼氏ができないのは、お兄ちゃんのことが好きだかららしいことも、おおよそ察しをつけている。
「で、サトコがどうしたのよ」
沙代里は直子の挑発をやり過ごして、話の先を促した。
「例の吸血鬼事件、サトコも被害者だったのよ。でもサトコったら銀行にも届け出ないで、それ以来定期的に相手の吸血鬼と逢っているらしいの。こないだ私、まだ残業になっちゃって、通りかかった公園でサトコがあいつに咬まれているの見ちゃったんだ」
「えー、そうなの?」
“じゃあどうしてそのとき教えてくれなかったのよ“という沙代里の表情を察して、ナオコが続けた。
「そのときはサトコが彼氏と抱き合ってるのかなって思ったんだけど、ちょっと気になったからそのへんでちょっと時間をつぶして待っていたの。そうしたらサトコのやつひとりで公園のほうからやってきて、あたし声かけたのに無視してすーっと地下鉄のほうに行っちゃったの。聞こえないわけないと思ったんだけどな。で、そのときね・・・」
直子はちょっとだけ声を潜めて、いった。
「サトコのストッキングが、破けてたの。それも両脚」
「それだけじゃ吸血鬼かどうか、わからないじゃない」
「ストッキングが破けて、血が滲んでいたんだよ。あと、ブラウスの襟首もちょっと、汚れていたな」
「あなたも観察魔ねぇ」
「それからね、あの子ったら毎日、光沢入りのストッキング穿いてくるようになったの。こないだ帰りの更衣室で一緒になって、別々に着替えていたんだけど、ロッカーの向こう側でストッキング穿き替えてるのがなんとなくわかって、私知らん顔していたんだけど、出ていく後ろ姿だけ見たら、ほら、このごろよくあるじゃない、テカテカに光る光沢タイプのストッキング。あれ穿いてるのよ――きのうは違ったけど――彼氏がいるって話も聞かないし、もしかして・・・あいつに愉しませるために穿き替えたの~?って」
直子は整った目鼻をひん曲げて、小意地が悪そうにもうクスクス笑っている。
「もう・・・吸血鬼なんてばかばかしい」
沙代里はそういって話を打ち切った。
直子に言われるまでもなく、吸血鬼に襲われながら銀行に届けを出さなかったOLが数人いることは、うわさで聞いている。
彼女たちは相性がよかったのかもしれない。
だから自分が襲われたことは表ざたにしないで、その後も“彼”と逢いつづけて、血液を与え、ストッキングを破らせているのだろう。

そんなOLが、このオフィス街に何人いるのだろう?

「そういえば夕べはノー残業デーだったからね、被害を受けた女の子もいなかったんじゃないかな」
立ち去りぎわ直子はそういってバイバイ・・・と沙代里に小手をかざして、自分の課のミーティングルームへと向かっていった。
閉店の業務が一段落した後は、4時からまた気の重いミーティングだ。
そろそろボーナス商戦が始まるから、話題はきっとそれだろう。
今夜は帰りが遅くなるかも――沙代里はふと、氷唆志のことを想った。


「な、なによいきなり急にっ」
背後にひっそりと佇んだ沙代里に気がついて、直子はびっくりして飛び上がった。
「また吸血鬼が出たかと思ったじゃない!」
「あ・・・ゴメン」
うっかり気配を消してしまっていたことに気がついて、沙代里は素直にわびた。
「いいんだけどさあ、きょうはあなた、ちょっと元気ないんじゃない?早く帰ったほうが良いわよ」
元気のないときに吸血鬼に狙われたら、貧血じゃすまなくなるじゃない・・・と続けたときにはもう、ジョークのきついふだんの直子に戻っていた。
「それでさ、よかったら明日、うちに来ない?兄を紹介してあげる」
「エッ!?ほんと?それはラッキー」
直子が快活な笑いをはじけさせた。
「明日はノー残業デーだから、直子も早く終わるよね」
沙代里は念押しをした。
賢明で慎重な同期の親友の、いつになく蒼ざめた目鼻立ちに、冷ややかな笑みがよぎるのを、いつも目ざといはずの直子はうっかり見逃していた。


翌日の夜――
ちゃぶ台には沙代里の作った手料理が、乗り切らないほどに並べられていた。
でもまだだれもそれらの食事には見向きもせず、もちろん手もつけられていない。
その料理の山を横目に見ながら、直子は氷唆志の寝室でうつ伏せに横たわり、氷唆志に脚を吸われていた。
ふつうの若い娘らしく、ちょっとだけ改まってしおらしい感じで「お邪魔します」と玄関をあがると、顔色がいちだんとわるくなった沙代里が「兄を紹介するわ」と、奥の部屋に案内をした。
だれもいない部屋の半ばまで入った時、直子の後を追うようにして入って来た男を視て、直子は絶句した。
「やっぱり知っていたのね、兄さんのこと」
沙代里は顔にわずかに嫉妬の色を泛べて、動揺の走る直子の横顔を冷ややかに見た。
回りくどい逢わせ方をしたのは退路を断つためだったのだということを、直子はすぐに自覚した。
男は無言で立ちすくむ直子に迫り、ブラウスの襟首から覗く白い首すじに牙を突き立てていった。
「ゴメン直子、あまり大声立てないで。近所迷惑だから」
直子はなぜか沙代里の言いぐさに義理堅く応じて、貧血になってひざを崩してしまうまで、ひと声も立てずに血を吸い取られていった。
あとから直子は思ったのだ。
たぶん、あのぶきっちょで誠実な男になら、もう一度血をあげてもいい――心のなかでそう思っていたに違いなかったと。

姿勢を崩して畳のうえに倒れたとき、直子はストッキングを穿いた脚を狙われると自覚した。
血を喪う恐怖よりも、真新しいストッキングをおろしてきてよかった――などと思うことができたのは、沙代里の兄が自分のことを死なさずに血を愉しむつもりにちがいないと踏んだからだ。
果たして氷唆志は、その冷え切った唇を直子のふくらはぎにあてがって、初めてのときにそうしたように、念入りになぶり始めた。
氷唆志の口許から洩れてくる唾液は足許のナイロン生地をいやらしく濡らしたが、いやらしくぬめりつけられる舌に、かすかな好意が込められているのを直子は感じた。
その好意にすがるような気持ちで直子は男の卑猥ないたぶりを許し、彼がご丁寧に両脚とも唇を吸いつけて、ストッキングを破ってしまうのを、唯々諾々と許してしまった。
趣味のスポーツで鍛えた若い血が、ヒルのようにぬめりつく男の唇に吸い上げられてゆく。
直子はうっとりとした目つきになって、自分の血が吸い取られてゆくチュウチュウという音に、聞き入っていた。

「ありがとう。失礼なことをしてしまって、すまなかった」
貧血を起こして畳のうえに転がった直子のまえで、氷唆志は正座をして頭を垂れた。
卑屈そうな様子に、自分のしていることへの後ろめたさがにじみ出ていた。
「これからも兄に逢ってくれる?」
いつになく真剣な表情でひたと見すえてくる沙代里の目が、ちょっとだけ怖いなと思ったけれど――
直子は起き上がるとすぐに、いった。
「やだお兄さん!そんなにしゃちこばらなくたっていいじゃないですか!」
ほっとした兄妹が顔を見合わせるのをみて、直子はやっぱり兄妹って顔だちが似ているんだと思った。
「新しいストッキング穿いてきてよかったー、お兄さんの前で恥をかくとこだったわよ」
直子は沙代里にそういった。
お出かけ先のおしゃれに気を使い合う同性同士の口調だった。
「さっ、御飯にしよ。せっかくのお料理冷めちゃう」
直子は貧血をこらえて起ちあがると、率先してちゃぶ台についた。


兄はね、べつの吸血鬼に襲われて吸血鬼になったの。
その吸血鬼は私たち兄妹と同じ村の出身で、都会に出てきて吸う血にこと欠いて、兄を襲ったの。
今でも都会のあちこちを徘徊しているんだけど、あのオフィス街は兄のものって認めたらしいわ。
自分の血を全部与えることで、その権利を獲得したの。
兄は私がほかの吸血鬼に襲われて死んでしまうことを心配したらしいの。
でも、いまの生活を安穏に送るにはもうひとつ条件があって――今度その吸血鬼が戻ってきたときに、処女を二人捧げなければならないの。
それが、私とあなた――そう指さされても、直子は動じなかった。
「最愛の女性ふたりをモノにしてしまって、お兄さんを完全に支配してしまおうというわけね」
頭の良い直子は、呑み込みも早かった。
「お兄さんはそれでもいいの?妹と恋人が吸血鬼に抱かれてしまっても」
女ふたりは同時に氷唆志を見た。
「奪られてしまうのは嫌だけど・・・直子さんや沙代里が血を吸われるのを見たらちょっとゾクゾクしちゃいそうだな」
「その感覚、わかんない~」
女ふたりは声を合わせて、氷唆志に反論した。


「あなたが・・・兄を襲った吸血鬼・・・?」
勤め帰りの沙代里は息を詰めて、相手の男を見あげる。
その視線は催眠術にかけられたかのように虚ろで、本人の意思も吸い取られてしまったかのようだ。
「安心しなさい。死なせはしない。あんたはわしの親愛なる氷唆志の最愛の妹ごぢゃ。ほんの少ぅし、辱めを体験していただくことになるがな」
「わかりました。辱め、OKです」
沙代里は従順に目を瞑る。
真っ白なブラウスの襟首に、飢えた吸血鬼の牙が迫った。
妹に迫る危難を、氷唆志はただぼう然と見守っている。
氷唆志首すじからは血が流れ、さっきまで咬まれていた痕はジンジンと痺れるような疼きを帯びていた。
その疼きが、氷唆志の動きを封じてしまっていた。

吸血鬼はスーツ姿の沙代里の首すじを咬んで、沙代里は立ったまま相手への吸血に応じつづける。
ブラウスの胸元を結ぶ百合のようにふんわりとしたタイにぼたぼたと血潮がしたたって、
そのまま姿勢を崩して尻もちをついてしまった足許に、飢えた唇をなすりつけられて、
自宅のアパートで初めてそうしたときと同じように、勤め帰りのストッキングをチリチリになるまで咬み破られて・・・
沙代里が堕ちてゆくのを目の当たりに、氷唆志はそれでも、彼女の受難から視線をそらすことができなくなっている。
自分がしたときよりも、上手に破くんだな・・・やっぱり慣れてるヤツは、違うよな・・・
理性を失った氷唆志は、薄ぼんやりとそう感じた。
沙代里はブラウスをはだけられ、ブラジャーをはぎ取られ、あらわになった乳首を貪欲な唇に含まれむさぼられていった。
そして、兄の前で羞ずかしいことにスカートをたくし上げられてゆく。
肌色のストッキングの腰の部分の切り替えまでは、氷唆志も目にしたことがなかった。
もう1ダース以上も、妹のストッキングを咬み破って来たというのに。
いちど吸血鬼の腰を股間にうずめられてしまうと、沙代里は従順に相手の欲望に従いはじめてゆく。
戸惑いながら、ためらいながらも、身体を合わせ、ひとつになってゆくのだった。
そんなまぐわいが何度も何度もくり返されたが、男の振る舞いはどこか愛情に満ちていて、沙代里の身体をいつくしむようにして撫でつけ、まさぐり、舐めまわしてゆく。
氷唆志は激しい嫉妬とともに、沙代里の肉体を自らが属する吸血鬼に捧げたことや、愛する妹の肉体に吸血鬼が満足を覚えているようすであることに、えもいわれない充足感を感じていた。

すべてが果たされてしまった後、吸血鬼はいった。
明日はもういちど、お前の妹を凌辱する。そしてその翌日は、お前の恋人を抱かせるのだ――と。
氷唆志は口許をわなわなとさせながら、呟きで応じた。
「ハイ、あさって、直子を連れてきます。どうぞ直子の貞操も、心ゆくまでご賞味ください。未来の花嫁を、貴男と共有したいのです・・・」
痺れた唇がひとりでに動いているようだった。


直子は目を見開いて、吸血鬼と向かい合った。
黒い瞳もそうだが、白目も清らかに見える――氷唆志はそう思った。
その瞳はまるで催眠術にかかったように、意思が感じられなかった。
いつものあの勝気さも、饒舌さまでも失って、いま虚ろな目をしてわれとわが身をめぐる血潮を、吸血鬼の餌食にされようとしている。
未来の花嫁は、今や吸血鬼の腕のなか――けれども後悔はない。
自分の持っているすべてをあの人に捧げるのだ。そう氷唆志は思った。
「お兄ちゃんはそれでいいの?」
妹の沙代里はいった。
傍らの女二人は、自分の味方。いまもこれからも、無私の愛情を期待できる存在。
その二人を、吸血鬼の毒牙にかける。
それも、かつて自分の血を吸い尽した者の欲望のために。
氷唆志は身体じゅうの血管が震えるほどの昂奮を覚えていた。

「氷唆志さん、許してっ。許してねッ・・・」
いよいよ組み敷かれるとき、直子はそう叫んでこちらを見た。
だいじょうぶだから――という想いを込めて、氷唆志もその声に応じた。
ずぶり――
吸血鬼の牙が、直子の首すじを襲った。
あふれる血――うら若い熱情を秘めた血潮が直子のブラウスを浸し、男の唇を悦ばせる。
それがどんなに美味であるのか、体験し尽してしまった氷唆志だからこそ、相手の満足感も肌を接するほどに伝わってくる。
沙代里のとき以上の激しい歓びに、氷唆志は昂りにむせんだ。

貧血を起こした直子はその場に倒れ臥し、男は直子のふくらはぎにも、唇を吸いつける。
穿いていた肌色のストッキングが、パチパチとかすかな音を立ててはじけた。
やっぱり上手だ――氷唆志は胸を震わせて、恋人に加えられる凌辱を見守った。
妹のストッキングを咬み散らした牙が、いまは直子のストッキングまでもむざんに咬み剥いでゆく。
くたり、と首を垂れた直子が、四つん這いになり、やがてその姿勢を支えることもままらならず、うつ伏せになってゆく。
吸血鬼は直子のふくらはぎにもういちど取りつくと、チュウチュウと得意げな音を立てて、直子の血を吸いあげた。

じょじょにブラウスを脱がされてゆく直子の胸が、薄闇のなかであらわになった。
一昨夜の妹と、まったく同じ経緯だった。
吸血鬼は息荒く直子に迫り、まるでレイプのような荒々しさで、勤め帰りの直子のタイトスカートをめくりあげる。
直子が穿いていたのは、ガーターストッキングだった。
「あの晩のために、奮発したんだから」
あとで直子は沙代里に、妙な自慢をしたものだった。
ショーツをむしり取られた直子は、謝罪するように氷唆志を見、氷唆志はそれを受け容れるように、ゆっくりと肯きかえす。
むき出しになった浅黒い臀部が、開かれた白い太もものはざまに、ずず・・・っと、沈み込んだ。
ああ・・・
直子の顔が苦痛に歪み、口紅を鮮やかに刷いた小ぶりな唇から、白い歯が覗いた。
歯並びのよい歯だと、氷唆志は思った。
健全に育ってきた善意の若い女性が、いまやむざんに辱めを受けてゆく。
そんなありさまを、将来を誓いながらも許し、ただの男として愉しんでしまっている、もっと恥ずかしい自分――
けれども恥ずかしい歓びに目ざめてしまった氷唆志も、未来の夫のまえであられもない痴態をさらけ出してしまっている直子にも、後悔はなかった。

瞬間、吸血鬼は「え?」という顔で、直子のことをまともに見た。
「ウン、私――処女じゃない」
直子もまた、ぱっちりと目を見開いて、吸血鬼をまともに見た。
「貴様――」
吸血鬼の怒りは氷唆志に向いたが、本気で怒っているわけではなさそうだった。
「無理もないな、許す」
と、あっさり二人の関係を許していた。
「それでも、わしに花嫁を抱かれるのは、さぞやつらかっただろうな」
「とても悔しかったけれど・・・貴男はわたしよりも上手だし――でも、ちょっとだけ愉しんじゃいました」
エヘヘと笑う氷唆志は、沙代里の好きないままでの快活さを取り戻している。
「もう、エッチ!」
そういって恋人の背中をどやしつける直子もまた、自分を取り戻していた。

「時々なら、妹を抱きに来てくれていいんですよ。彼女はたぶん、結婚しませんから」
「それに、今度お目にかかるときには直子はぼくの妻となっていますが、好きな時に誘惑に来てくださいね。直子もきっと、ドキドキしながら貴男に抱かれるでしょうから」
「でもそういう夜にはきっと、沙代里がぼくのところに忍んできます。だからぼくは、寂しくはない」

「ひとつだけ果たされていない約束があるな――処女は2人」
吸血鬼はなおも貪欲だった。
「しつこいわね」
直子は白い歯をみせて、笑った。
「じゃ、私の妹を紹介してあげる。あの子独身主義なんだ。でも女が独りで生きていくのは、やっぱり大変だと思う。だからあなた、守ってあげて」
直子はどこまでも明るく、身勝手だった。


【付記】
このお話は5日の朝に、ほとんど完成していましたが、ちょっと直したかったのですぐにはあっぷしないでいました。
きょう、ようやく少し時間が取れたので見直しをして、あっぷしました。
細部は多少いじりましたが、おおすじはほとんど変わっていません。
モチーフとしては、バブル期のOLさんをイメージして描いてみました。
あのころのOLさんは、テカテカのパンストをよく穿いていましたっけ。
ビジネスな女性たちとオフィスな女性たちとが、装いひとつでは区別がつかなくなったのも、このころだったと思います。
「結婚するまで純潔を守る」という倫理観がおおっぴらにすたれてしまい、
女性たちが躊躇なく処女を捨てるようになったのも、このころだったかもしれません。

季節はずれの花火

2017年11月13日(Mon) 07:45:38

ひどい眩暈がぐるぐると、俺の頭のなかを渦巻いている。
闇夜でいきなり羽交い絞めにされて、首すじに尖った異物を刺し込まれて・・・
それが吸血鬼の牙だとわかったときにはもう、抵抗もできないほどに、血を抜かれてしまっていた。
その場でへたり込んだ俺のまえで。
連れだって歩いていた真由美までもが、襲われた。
「やだー!助けてー!」
悲鳴をあげて逃げ惑う真由美もすぐつかまえられて、俺と同じように首すじを咬まれてしまった。
ゴクゴクと露骨に喉を鳴らして、男は真由美の血をもの欲しげに啜りつづけた。
黒のワンピースを血しぶきに濡らしながら、じょじょに姿勢を崩してゆく真由美の姿が、薄らいだ意識の向こうへと埋没していった――
うつ伏せに倒れたまゆみの脚に、吸血鬼の老いさらばえた唇がもの欲しげに吸いついて、
ストッキングをパリパリと破りながら血を吸い上げる光景が、俺の記憶を狂おしく染めた。

気がつくと、傍らで真由美がべそをかきながら、俺の顔を覗き込んでいる。
どうやら俺のほうが、重症だったらしい。
あたりはまだ暗く、でも俺たちを襲った忌まわしい翳は、とうにその気配をかき消していた。
「血・・・吸われちゃった・・・へへ・・・」
真由美が下手な照れ笑いを作りながら、目じりの涙を拭っている。
片方だけ脚を通したストッキングは見る影もなく裂け、それだけではなく、
ワンピースのすそはめくれあがって、白い太ももが眩しく俺の目を射た。
どうやら血を吸われただけでは、すまなかったらしい。
けれども真由美は吸血鬼に犯されたことをあからさまに口にはしなかったし、
俺もそんなことを訊くことはできなかった。
話題を択ぼうとして目線をさ迷わせた真由美が、ふと自分の胸元に目を止めた。
気に入りの黒のワンピースに撥ねた血潮が折からの月の光を浴びて、チロチロと毒々しい輝きを放っている。
「花火みたい・・・だね――季節はずれだけど・・・」
放射状に伸びた血潮の痕を目でたどりながら、真由美は独りごとのように呟いた。
こんなに可愛い恋人を守り切れなかったのか――そんな無力感と敗北感にさいなまれそうになった。
そのうち沈んだ空気を追い払うように、真由美がいった。
「ねえ、もういちど、してもらお」
びっくりするほどハッキリとした、いつもの真由美らしいあっけらかんとした声色だった。

え・・・なにを・・・?
戸惑う俺に、真由美はいった。
「あの人言ってたの。週1でだれかの血を吸わないと、灰になっちゃうんだって。だから、感謝するって言ってたよ。また夜道であっても絶対死なせたりしないから、仲良くしよう、また吸わせてほしいって」
そんなバカな・・・言いかけた俺を、真由美は押しとどめた。
「ウフフ。あたしが吸われてるのを見ていて、洩らしちゃったくせにぃ~」
俺の股間に手を差し伸べて、ズボンのうえからイタズラっぽく撫で撫でをする細い指が、半透明の粘液に濡れていた――


「うわ・・・わッ!何するんだッ!?」
いきなりの襲撃にうろたえた声をあげる俺。
でもその声は、すぐに突き入れられた強烈な食いつきに、断ち切れてしまう。
「あんたの首は咬み応えがエエ」
男はそういいながら、なおも深々と、俺の首すじを抉ってゆく。
「くそ・・・く・・・そっ・・・」
歯ぎしりしながら相手を罵りつづける声は声にならず、ただ相手を愉しませるばかり。
俺の生き血がみすみす相手の栄養源になって、その力を得て真由美を犯す気だ――
そんな魂胆を知りながら、もうどうすることもできなかった。
そのうち、くらあっ・・・・とした眩暈が俺を襲い、俺はだらしなくその場に尻もちをついてしまう。
「きゃーっ!ユウくん、ユウくんっ、助けてえッ!」
真由美のあげる悲鳴はどことなく芝居じみていて、わざとらしくて。
逃げ足も遅く、ただバタバタと大げさに、かっこうの良い脚をうろうろさせている。
いくらヒールの高いパンプスを穿いていたとしても、もう少し早く逃げられそうなものだ。
これじゃあ俺の視界にいるうちに、咬まれちまうだろうが。
そんなことを薄ぼんやりと考えながら尻もちを突いたままの俺のまえ、
吸血鬼は真由美のことをつかまえて、不必要に弄ぶように振り回し、
俺によく見えるように真由美の首を締めあげて、白い首すじにガブリ!と食いついた。
「きゃあーッ!」
かん高い絶叫が、夜空にこだました。
愛しい恋人がムザムザと生き血を吸い取られるありさまを、
俺ははじめからおわりまで、たんのう――いや、見せつけられる羽目になったのだ。

「ううん・・・ううん・・・だめ・・・だめえッ・・・」
真由美の拒絶は甘えがちな声色になって、
迫って来る男をはねつけようとしているのか、そそりたてようとしているのか、わからないくらいだった。
卑猥な唇を足許に近寄せてくる吸血鬼のまえ、黒のストッキングになまめかしく染めた脚をくねらせながら、真由美はひたすらお慈悲を乞うている。
もちろんそんなものが認められるはずもなく、
吸血鬼は真由美の脚にストッキングのうえから舌を這わせ唇をふるいつけて、
むざんな裂け目をメリメリと拡げてゆく。
「ああーッ、いやぁ~ッ!ユウくーんッ!」
真由美がまたも、俺の名を呼んだ。

わざとなのだ。
すべてわざとなのだ。
襲われ始めたところから、すべては俺たちのお芝居。
吸血鬼に襲われるカップルを熱演したご褒美に、俺たちは若い血をたっぷりと吸い取られて、
あげくの果てに真由美はストッキングを剥ぎおろされて、
股間に深々と、もうひとつの牙を埋め込まれていき、
俺は俺で、恋人が吸血鬼に姦られるハードなベッドシーンを、心行くまでたんのうさせられる。
真由美はわざと、ユウくん、ユウくんと俺の名を呼びつづけて、俺のなかで覚醒してしまったマゾヒズムを、強引なまでに掻き立ててゆく。
いつもベッドのうえで、俺を無理やりその気にさせるときと、同じようにして――

「花火・・・」
貧血を起こして助け起こされた真由美が、吸血鬼の腕に抱かれたまま、
今夜のために着てきた純白のブラウスの胸に視線を落とす。
撥ねた血潮が放射状に散って、たしかに花火のように見えなくもなかった。
それ以上に真由美の脳裏には、もうひとつの花火が散っている。
恋人のまえで犯されて、ありのままの本能をさらけ出して悶え狂ってしまう――そんな衝動が昏(くら)い閃光となって、真由美の脳裏を狂おしく染めていた。
そして俺も――
植えつけられたマゾヒズムが妖しい触手を拡げ、心の奥を侵蝕し、塗り替えてゆく。
支配され飼い慣らされてゆく恋人を目の当たりにする悦びに、
今夜も不覚にも、激しい射精をくり返してしまっている。

花火は夏だけとは、かぎらない。
恋人の足どりが薄黒いストッキングに妖しく映える秋。
欲情に満ちた吸血鬼の目が次にとらえるのは、貴男の恋人の足許かも知れない――

迫られて 仲良くなって。

2017年08月28日(Mon) 05:28:58

子どものころ、吸血鬼に誘拐されたことがある。
彼は父さんよりも年上の老人で、ぼくの首すじに食いついて、貧血になるほど血を吸った。
そして、ぼくから家の電話番号を聞き出すと、すぐに母さんに電話をかけた。
隣室からの話し声は切れ切れだったけど、こんなことを言っていた。
「息子さんを預かっている。お母さんが迎えに来るまで、血をたっぷりいただくことにする。
 あんたの息子さんの血は美味いな。
 久しぶりに、いい獲物にありついたよ。
 子育て、ほんとうにご苦労さん。
 わしが吸い尽さないうちに、間に合うと好いね。
 ・・・それでもやっぱり来るのが・・・母親の務めというものではないかね?」

母さんはすぐに、迎えに来てくれた。
よそ行きのスーツをぱりっと着こなして、ぼくの目にも眩しく映ったけれど、
吸血鬼の目にはもっと、眩しく映ったようだった。
吸血鬼は母さんになにかを囁き、母さんはちょっとためらったものの、目を瞑って応じていった。
さっきまでぼくの血を強欲にむしり取った唇が、母さんの首すじにジリジリと、近寄せられていく。
「あッ!ダメだッ!いけない・・・ったら・・・っ・・・!」
ぼくの絶叫にもかかわらず、ふたりはそんなものはまるで聞こえないかのように振る舞った。
飢えた唇が母さんの白い首すじに這って、鋭い牙に侵された素肌からは、バラ色の血が飛び散る。
「あああ・・・」
悲しげなため息をひと声洩らして、母さんは姿勢を崩し、その場に横たわっていった。
ウフフ・・・吸血鬼は逆に、嬉しげだった。
吸い取ったばかりの母さんの血でヌラヌラと光る唇に、にんまりと笑みを浮かべると、ぼくのほうをふり返って、
「さすがはきみのお母さんだ。佳い血をお持ちだね。
 これからわしのすることを、じっくり見届けるがいい」
そんなふうに言い捨てると、倒れている母さんの足許に、かがみ込んでゆく。
肌色のストッキングに包まれたふくらはぎに、忌むべき唇がヒルのように吸いつけられる。
そのままひと思いに咬もうとはしないで、男は母さんの穿いているストッキングの舌触りを愉しむように、その脚のラインを唇でしつように、なぞっていった。
男の劣情に屈服するように、上品なストッキングが、皺くちゃに波打ちはじめた。
「ウヒヒ・・・いい舌触りだ・・・」
男の洩らした随喜のつぶやきは、母さんの耳にも届いたらしい。
かすかに眉を寄せ、嫌そうなしかめ面になりながらも、
失血で身体が動かないのは、ぼくと同じらしくって、
ただそのまま、男の狼藉を受け容れてしまうしかなかったのだ。
カリリ。
男の牙が、母さんのふくらはぎに埋め込まれた。
ウッとうめいてかすかに身じろぎしただけで、
そのまま生き血を吸い取られてゆくのを、もうどうすることもできなくなっていた。
ぼくもまた、同じくらい失血にあえいでいて、
吸血鬼を前にむざむざと大人しくなってゆく母さんのことを、救い出すことはできなかった。
男は毒液の効果を試すように、左右両方のふくらはぎに、代わる代わる牙を埋めて、
そのたびに母さんが「ウッ・・・」とかすかなうめき声をあげる。
伝線だらけになったストッキングをむしり取るようにして足首までおろしてしまうと、
男は母さんの身体にのしかかって、ブラウスの胸元を強引に押し拡げていった。
母さんはなにかを覚悟したように、すべてを甘受するかのように、さいごまで身体を動かそうとはしなかった。
スカートを腰までたくし上げられた母さんは、太ももを割られた格好のまま、
太ももの間に腰を割り込ませて、強引に上下動させてくるのを、ただゆらゆらと受け止めてゆくばかり。
けれどもやがて、白い歯をみせ、接吻の要求にすすんで応じ、
受ける一方だった腰の上下動に、自分から動きを合わせていった。
キスの意味だけはかろうじてわかる程度の年頃だったぼくにも、
男がしつような愛情を強要し続けて、母さんがそれを受け容れてしまったことを、わからずにはいられなかった。

別れぎわ、男はぼくの頭を撫でて、「良い子だ」といってぼくをほめた。
母さんを虐げられるのを目の当たりにしながら、歯向かわなかったから「良い子」だったのか。
美味しい血を素直に吸い取らせてしまったから「良い子」だったおか。
母さんが犯された後も男の渇きを満足させられたとき、つい気持ちよくなってしまって、頬をゆるめて白い歯を見せたから「良い子」だったのか。
とうとうわからなかった。
母さんにはむしろ事務的な口調で、「つづきはまた」と、言っただけだった。
母さんもかすかに肯いて、こたえただけだった。

帰る道すがら、母さんがぼくに言った。
「きょうのことは、父さんには内緒にしとこうね」
ぼくは黙って、頷いていた。
「母さんね・・・」
ちょっとだけ言いよどんだ母さんは、たぶんさいしょに話そうとすることと別のことをぼくにいった。
「女のひとってね、最初は嫌だと思っていても、その場で迫られると、仲良くできてしまうものなのよ。ユウくんも気をつけなきゃね」
注がれるまなざしは、母親のそれではなくて、たしかに大人の女性のそれだったのだと・・・ぼくはなんとなく、記憶している。

それ以来。
男はときどき、通りすがったぼくの前に立ちはだかって、「きみと仲良くしたい」といった。
ぼくは抵抗もしないで男の後について行って、
男の屋敷や、道ばたの納屋に引き込まれて、ハイソックスを履いた脚を舐め尽させていた。
ハイソックスを履いたままふくらはぎを咬まれるたびに、
母さんがストッキングを穿いたまま脚を咬まれつづけたあのときのことを、
胸をドキドキはずませながら思い出していた。
ぼくの血をたっぷり吸うと、男はふたたび首すじに唇を近寄せてきて、
「きみの母さんとも、仲良くしたい」といった。
ぼくは男にせがまれるまま家に電話をかけて、母さんに来てほしいと頼んでいたし、
母さんはいつもおめかしをして、迎えに来てくれた。
無事に帰宅できるのと引き換えに、
穿いているストッキングを咬み破られ、ブラウスをはぎ取られて、
おっぱいをまる出しにしながら、ぼくのまえで犯されていった。
そんな母さんのありさまを、ぼくはただ固唾をのんで、見守るだけだった。

女のひとはね。
迫られると仲良くできてしまうものなのよ。

母さんの囁きは、いまでもぼくのことを、縛りつけている。
傍らに控える若い女は、よそ行きのスーツ姿。
ショルダーバッグを手に、恐る恐る屋敷のなかを窺って、
「いらしたわ」と、ぼくに囁く。
「行ってお出で」そういうぼくに。
「ここで見ていてね。独りじゃ怖いから」
そう言い残して女は冷たい床に、ストッキングに包まれたつま先をすべらせる。
女は、ぼくの婚約者。
初めてぼくに連れてこさせて首すじを吸ったあと。
「良い子のようだね」と、彼女の身持ちをほめて、挙式のまえの晩まで犯さないと約束してくれた。
きょうも、彼女の乳首とあそこを舐めるまでで、寸止めにしてくれた。

ぼくのこと、意気地なしだと思ってない?
そんなことないよ。ユウくんにはむしろ、感謝してる。
あたしの面倒、ずっと見てくれるんでしょ?
うっとりするような黒い瞳をぼくにむけて、ナオコさんはそういった。
ぼくは、訊かずにはいられなかった。

迫られると、仲良くなれちゃうものなの?

だって、もう仲良くなっちゃってるもん。

女は、ごくあっさりと応えただけだった。

素足よりも、伝染したストッキングのほうが劣情をそそる。
そんなぼくの心理を見抜いた彼女は、ぼくの前を大またで歩いて、
吸血鬼に受けた凌辱を、意識的に見せつけつづけていった。

インテリ女性の通い道

2017年08月01日(Tue) 08:02:19

公園で襲って血を吸ったその女性は、ただのOLではなさそうだった。
そこそこの年配。
身なりも挙措動作も落ち着いた、貫禄たっぷりの女だった。
女社長なのか、議員なのか、それとも教授なのか。
そういうインテリめいた雰囲気の女だった。

初めて襲ったときは、白一色のスーツ。
撥ねた血がジャケットにもタイトスカートにもきらきら映えて、
凌辱を逃れようと懸命に抗う細腕を折るようにして掻き抱くと、
口ぎたない抗議の嵐を浴びせかけてきた。
そのつぎのときは、黒のジャケットに、やはり純白のブラウスがよく映えていた。
公園の地べたに組み敷いて、吸い取った血潮を口許からわざとしたたり落してやると、
身じろぎひとつできない身を呪うように、歯がみをして悔しがりながら、
赤いしずくのしたたりを、値の張りそうなブラウスで受け止めつづけていった。
三度目のときは、ぴかぴかとしたエナメルの白のハイヒールが、夜道によくめだっていた。
ストッキングを穿いた脚に、好んで咬みつく習性を忌み嫌って、脚をじたばたさせて抵抗した。
気品ある装いにきりりと引き締まった足許に、いつものように恥知らずなあしらいを受けたあと。
タイトスカートのすそから覗いた脚まわりの、ストッキングの裂け目もあらわにしながらも、
ハイヒールに着いた血を、女はしつっこいほど丹念に、ハンカチで拭い取っていた。

女の穿いているストッキングはいつも、かかとのついた高価なものだった。
もの欲しげに吸いつけられてくる唇を近寄せまいと、脚をじたばたさせたけれど。
気高く装ったストッキングを、思うさまよだれで汚され、舌で舐めくりまわされて。
上質なナイロン生地の舌触りを、くまなく確かめられる屈辱におののきながら。
ブチブチとみじめな音をたてて、咬み破かれていった。

いつも綺麗なストッキングを穿いていなさるね。
いちど、そんなふうにからかったとき。
女は真顔になって俺を見据えて、いった。

あなたに破かれるために、穿いているわけじゃない。
自分をきちんとした人間に見せるために、穿いているの。
だから帰り道で襲われるとわかっていても、手を抜かないのよ私。
だってそんなことしたら、あなたに負けたことになっちゃうでしょ?

そういえば。
着飾った女の装いは軍服のように見えたし、
淡いストッキングに包まれた脚も、武装しているような張りつめた雰囲気をもっていた。

あんたは俺に、負けてなんかいない。
出会ってからこのかた、俺がひとりで勝手に負け続けているんだ。
俺は心の中で、そう呟いていた。


その夜はまだ、早い時間だった。
女はいつものように、カツンカツンとヒールの音を鳴らして、公園の真ん中を通り抜けようとしていた。
立ちはだかる俺の姿に、一瞬わが身をすくめてみせて。
珍しく逃げようとはせず、自分の威厳を誇示するように、小柄な身体を目いっぱい反らして、
「どいて」
と言った。
「これから、講演があるの。お願いだから、恥掻かせないでちょうだい」
どこかいつもと違う雰囲気に、俺は気おされるように道を譲る。
女は俺をふり返って、ニッと笑うと。
「舐めるだけならいいわよ」といった。
キリッと立ちすくむ足許にかがみ込む。
ちょっとだけためらうと、女はむしろ促すように、「どうぞ」といった。

まるで奴隷が女主人の身づくろいを手伝うようなしぐさで、
女の足許に舌を這わせる。
街灯に浮かびあがるふくらはぎに、淫らな唾液がじわっと浮いた。
じわじわ。じわじわ。
女の足許に唾液をたっぷりと含ませていって。
でも女は動じることなく、ハイヒールの足を踏ん張って、立ちつづけていた。
女は「見逃してくれてありがと」とひと声言い捨てると、
何事もなかったようにそのまま、歩みを続けていった。
カツンカツンと遠ざかるヒールの音に、ちょっぴり敗北感を噛みしめる。
不思議に爽やかな敗北感だった。
俺にストッキングを咬み破かれたところで、ハンドバックのなかに穿き替えの一足や二足は隠し持っているはず。
女がほんとうに侵されたくなかったのは、人前での本番を控えた気組みのほうだったのだろう。

それから何時間経っただろうか。
だいぶ遅い時間になって、女は来た道を戻るように、公園の真ん中を通り抜けていった。
「先生、お勤めご苦労様」
俺のおどけた言いぶりを、女はまともに受け止めて、
「私、あなたに先生なんて呼ばれる覚えはない」とだけ、いった。
「喉、渇いてるんだ。恵んでくれよな」
ぞんざいな誘い文句に、いつものように嫌悪感をあらわにしながらも。
迫ってくる俺の胸を隔てようとつっかえ棒した腕にこもる力は、いつになくかたくなさをひかえているようだった。
女の首すじに咬みついて、純白のブラウスのえり首に、ジュワッと血潮を撥ねかしてやる。
「ひどい」
恨めしそうに見あげる女の視線を受け流して、今度は足許にかがみ込む。
「恥掻かせないで頂戴」
逃げようとする足首をつかまえて、ふくらはぎにヌメヌメと唇と舌を、這わせていって。
薄地のナイロン生地にたっぷりと、淫らなよだれを塗りつけていった。
「ああ~っ、もうっ!」
女はひと声、じれったそうに叫ぶと、歯がみをして悔しがりながら、
いつものように薄地のストッキングを咬み破かれていった。


女はいまでも、毎晩のように公園を闊歩する。
脚に通したストッキングは相変わらず高価で、
ほかの女たちの穿いているものとはひと味もふた味も違う、なめらかは舌触りをしていた。
高価なストッキングを通した脚を誇らしげにくねらせて、
女は俺を誘ってくる。
「誘ってなんかいない。私は迷惑なだけ」
女はそう口にするし、たぶんそれが正しいのだろうけれど。
講演の夜の一件以来、すこしだけかたくなさを解いた女を、
今夜はどんなふうに辱めてやろうかとワクワクしながら、待ち伏せをする。

気の強い女

2017年05月22日(Mon) 06:58:15

侮辱しないで。好き好んでストッキングを破ってもらってるわけじゃないのよ。
女は言葉で、抗った。
では、毎回真新しいのを穿いてきてくれるのは、どうして?
吸血鬼は舌なめずりをしながら、訊いた。
恥を掻きたくないからよ。
女はけんめいに抗いながら、答えた。
心意気はあっぱれだけど。俺はやっぱり愉しませてもらう。
男の言いぐさに、女は無言で目を瞑る。観念した――ということなのだろう。
好色な舌なめずりが足許の装いをいびつに皺寄せてしまうのを、
女は歯を食いしばって耐えていた。
許してほしい。
男は女の髪を撫で、それからおもむろに、ふくらはぎを咬んでいった。
すすり泣きの下、女の足許をしつような唇が這いまわり、ストッキングを剥ぎ破っていった。

抱きしめた女をちょっと放して、目と目を合わせると。
女は涙目で、「ばか」といった。
「たしかにばかです」
男は神妙な目で、女を見返した。
「まじめな顔しないで」
女はそういうと、目を背ける。
そむけられた首すじに魅入られるように、男の唇が女のうなじを這った。
至福のひと刻――
女は目を見開いたまま、男が自分の血を飲み耽るのに耐えていた。

一回だけぶっていい?
女の問いに男が頷くと。
女はばしぃん!と男に手ひどい平手打ちを食らわせて。
頬を抑える男に「これでおあいこね」と言い捨てて、きびすを返してゆく。
行きかけた女はふと立ち止まり、
「また来るから」
「明日」
「手かげんしてくれたしね」
思いつくたび切れ切れに追加される言葉は、言葉の主が意外にぶきっちょなのだと告げていた。
貧血がほどほどで済んだ証しに、女の頬はいつも以上にほてっている。