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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

味見の後の感想。

2017年08月01日(Tue) 05:50:48

はじめに
吸血鬼に理解のあるご主人の仲介で奥さんと逢うことのできた吸血鬼の、事後報告です。
なぜか起き抜けに、さら~っと描けてしまいました。10分くらいで。 (^^ゞ


いましがた、奥さんと逢ってきた。いい女だった。チャンスをくれて、ありがとう。
献血のことは、あらかじめ話しておいてくれたんだな。
だから、話が早かった。
でもね、なかなか咬ませてもらえなかった。
何しろさ、恥じらう、恥じらう。
ストッキングを穿いた脚を咬もうとしたらスカート抑えちゃうし、
首すじを咬もうとしたら、部屋の隅っこまで逃げちゃうし。
それで、なんとかなだめすかして、寝台の上にあお向けになってもらって。
それで首のつけ根をそっと咬ませてもらった。
いちど咬んじまったら・・・あとはもう意のまま、だけどね。
そこで、たっぷりと吸い取らせてもらった。
佳い血だった。
うら若くって、適度に熟していて。
また吸わせてくれってお願いをして、そこはすんなりと同意していただけた。
肝心なのは、そのあとだよね・・・?
スカートのなかに手を入れたらさ、びっくりしちゃって。
そこはあんた、話していなかったんだな。
でも何せしたたかに吸血された後だろう?貧血がひどくって。
けだるそうに、でも懸命に抵抗してきたな。操を守ろうとして。
でもまあ、なんなくねじ伏せて、果たしてしまった。
なん時間、いっしょになっていたかな?
とにかく、奥さんの考えが変わるまで、くり返したんだ。
5回や6回じゃ、済まなかったな。
ええ、身体の隅々まで、愛し抜かせてもらったよ。
だからもう・・・あの身体は、きみだけのものじゃない。
最初は嫌々だったけれど・・・まぁ、良識ある専業主婦としては、とうぜんだろうな。
でもいまは、違っているはずだ。
その証拠に、こんど逢う約束をしてくれたからな。
気になるかい? 木曜の午後だ。
あんたのいないときが良いって言うから、それで良いって答えておいた。
日中はあまり、出歩きたくないんだがね。奥さんのたっての願いだからね。
どうしても気になるのなら、勤め先を抜け出して、視に来るがいい。
きみのことだから、邪魔だてするような野暮なまねはしないだろうから、あらかじめ教えておくし、視る権利も認めるからね。

奥さんを離婚したくなったら、いつでも相談してくれ。
代わりにわしが、面倒見るから。
奥さんをわしの妾のひとりとして囲いものにして、欲しくなったら訪ねていくから。
都会育ちの奥さんを囲いものにできるなんて、仲間うちでは自慢の種になるだろうね。
もっともわしの仲間はそうした奥さんの2、3人は、愛人にしているやつらばかりだがね。
よく考えておいてくれたまえ。


【後日談】
奥さんの生き血を吸い取られ、不倫までされてしまったご主人ですが。
その後もご夫婦は別れずに暮らしているようです。
表むきは円満そのもののご夫婦ですが――時折奥さんは、一人の時間を持ちたがるようです。
そういうときはほんとうに一人なのではなく、
傍に影のように寄り添う男性が、いるとかいないとか。

”お見合い”の後日談――

2017年06月06日(Tue) 06:21:18

いえ、いえ。
もとから、そういう意味で申し上げたんですよ。
これからもどうぞよろしく・・・というのは、
目のまえのソファのうえ、永年連れ添った妻が、吸血鬼に犯されていた。

荒い息の下。
あ、な、た・・・ご、め、ん、な、さ、い・・・っ。
と、妻は謝罪をくり返し、
荒い息の下。
あんたの奥さんは好い女だ。
と、吸血鬼は称賛をくり返し、
ひそめた吐息を交えつつ、
あなたに初めてお目にかかった瞬間から、こうなってほしいと心から望んでいたのです。
と、記憶をすり替えられた夫は、うわごとのようにくり返す。

三人が初めて顔を合わせたのは、夫婦の間の一人息子のお見合いの席。
新婦の母親から依頼された仲人と称して現れたその男は、彼らの親よりも年配の、みすぼらしい男だった。
あとで知ったところによると、
仲人と称するその男は、実は新婦の母親の情夫であって、
ふたりの仲はその夫である新婦の父さえ認めていて、
当の令嬢さえ、すでにその男によって凌辱されていたという。

息子とは、ただならぬ因縁でもあったのだろうか、
初対面のその男を、即座にそれと察しながらも、
与えられた状況をすすんで受け入れて、令嬢との婚約を許したのだった。

なにも知らない夫婦は、息子の縁を取り持ってくれた仲人に、
これからも、どうぞよろしく。
と、挨拶を交わしたけれど。
まさかその挨拶が呪縛のように巻きついてきて、
夫婦ながら生き血を吸い取られ、そのうえ妻を情婦にされてしまうなどとは、夢にも思っていなかった。
それでも夫婦はそうした忌むべき日常を、いまは悦んで受け容れていて。
淫らな意図を抱えて自宅に出入りをくり返す男を迎え入れるたび、
どうぞよろしく。
と、会釈を投げるのであった。

男は我が物顔に、夫人の肩に腕を回しながら、夫に向かって宣言する。
こんどの週末もまた、きみの妻を借りてゆくぞ。
しかるべき人間の女を連れてゆくと、どこの婚礼でも歓迎されるのでな。

実の夫婦を装って、婚礼の席にまぎれ込んで、きれいな女を物色する。
そんな動機のために、つき合わされる妻だったが、

そのときにはあなた、芳名帳には彼の姓でサインするんですよ。

いまではそんなふうに、悪戯っぽく夫に嗤いかけている。
堅物だったはずの妻も、いまではすっかり蕩けてしまって、
情夫の言うなりに、好みに合わせる女になり替わってしまっていた。
そんな日常が、むしょうに愉しい。

この淫らな吸血鬼を家庭にひき込んだのは、息子の嫁になった女。
控えめなお嬢さんとばかり思っていたその女は、若くして淫婦になり下がっていた。
息子はそうと知りつつも彼女との婚姻を望み、
その忌むべき婚礼の引き出物として、
花婿の父親は長年連れ添った妻の貞操を汚され抜く羽目になった。

けれどもいまは、後悔をしていない。
嫁いだこの家以外の姓で、他所さまの婚礼の芳名帳に記帳する女。
妻が他の男の情婦となることに、
いまはいびつな歓びにむせ返る思いしか感じられない。


あとがき
またも、話が拡がってしまいましたね。。。
悪い癖です。 (^^ゞ

ご感想は・・・?

2017年06月06日(Tue) 03:47:09

ご感想は・・・?
自分を犯した男を、まっすぐに見あげながら。
組み敷かれたまま、妻は訊いた――どすの利いた、低い声色で。
まぁまぁだな。
男はいけしゃあしゃあと、にこりともせずにそういった。
たったいま。
自分の股間を満足させただけの女に向けて。
それでももういちど、欲情し直したように鼻を鳴らして、
妻の上へとおおいかぶさって。
自分のペ〇スをねじ込むようにして、セックスをした。
妻は腰を振って、相手の劣情に応えていた。

ひどいじゃないの。
もういちど身を起こした男を相手に、妻はいった。
貞淑女房だったのよ~。
主人しか、識らなかったの~。
それなのに、まあまあだなんて。
涙声になった女に、男はちょっとびっくりしたような顔をして。
すまねぇな。心無いことを言った。
わかった、わかった。
お前は最高の女だ。
実をいうとな。
俺はいまの瞬間またがっている女以外のことは、みんな忘れちまうんだ。
もう少しだけ。
あんたの生き血を、吸わせてくれ。

わかった。
妻は静かな声色で、いった。
憑きものの落ちたような、声だった。
じゃあ私も、主人のこと忘れてあげる。
もういちど、私のことを好きにして――
妻は今度は自分から、脚を開いていった。
引き裂かれたストッキングをひざ小僧の下までずり降ろされた脛が、それはみずみずしく、
この女が娼婦に堕ちたのだといわんばかりに輝いていた。

咬まれた首すじから血を流しながら、やつの情婦に堕ちた女は、喘ぎながら応えつづけた。
あなた・・・ゴメンね・・・でももう少しだけ、ガマンして・・・
妻を犯される屈辱をガマンしろというのだろうか?
それとも――ズボンのなかで逆立っている欲情をガマンしろと、なにもかも見通したうえで言っているのだろうか?
わたしの無言の問いには答えずに、妻は明け方になるまで、男の切実な欲求に、息をはずませて応えつづける――

隣人にスポーツを習う。

2017年05月27日(Sat) 11:18:53

夫の趣味は、長距離走。
妻の趣味は、ゴルフ。
そんな活発な若夫婦は、隣家でひっそりと暮らす独身の初老男のことを、なんとなしに気にかけていた。
「あのひと、いつもひっそりと憂鬱そうに暮らしているわ。もっと明るく暮らすために、あたしたちが外での遊び方を教えてあげましょうよ」
妻の加代子の意見に、夫の雅哉もすぐ賛成した。
けれども男はかたくなに、夫婦の誘いに乗ってこなかった。
穏やかな陰性の男ではあったけれど、決して人あたりは悪くない。
先日も夫婦で外国旅行に出かけたときには、ペットの小鳥をそれは大切に扱ってくれたくらいだったから。
それで若夫婦は気をもんで、きっと彼にあったであろう暗い過去を忘れさせてやろうと、躍起になった。

以前からこの街に棲んでいる同僚が、妙な助言をしてくれた。
ハイソックスとかストッキングとか、長い靴下を履いて誘うと、不思議と乗って来るらしい と。
若夫婦は不思議な顔をしながらも、自分たちよりも初老男とつき合いの長いらしい同僚の助言を容れることにした。

さいしょに応じたのが、夫に対してだった。
初老男は、昏くなってからにしないかと誘い、夫もこころよく相手の希望を容れた。
暗がりのなかでのマラソンは、興味深い結果をもたらした。
そのうっそりとした外見に似合わず、初老男は見かけによらず敏捷な動きをみせて、
10km先のゴールには、初老男のほうがはるかに速く到達したのだ。
「すごい・・・ですね・・・」
息せき切ってゴールインした夫は、それからあとも息せき切る羽目になった。
夫が短パンの下に履いている黒のハイソックスに、初老男が欲情の色をみせ、唇を吸いつけてきたのだから。
気がついたときにはもう、身体じゅうの生き血を舐め尽されて、
若い夫は初老男の欲するまま、ハイソックスが穴だらけになるまで、咬み破らせてしまっていた。
初老男は、まるでとどめを刺すようにして、若い夫の短パンを脱がせ、交尾した。
あらゆる不道徳を身に着けた彼は、男色家でもあったから。

つぎの日の朝は、妻のゴルフのお伴だった。
夜遅くなって戻った夫はそのままベッドに入って眠りこけてしまい、妻に警告を与えることができなかった。
伸び伸びとプレーを楽しむ妻の後を、初老男は多少まごつきながらもついて回り、
18ホール終わったときには、あなたは素質がありますねというありがたいお言葉まで頂戴していた。
クラブハウスに戻って着替える前。
妻がショートパンツの下に履いていたグレーのハイソックスに、初老男が欲情の色を見せ、卑猥な唇を吸いつけてきた。
まるで無警戒だった妻は、小麦色に陽灼けした太ももを咬まれ、ハイソックスのうえからふくらはぎも咬まれていった。
グレーのハイソックスが真っ赤に染まるまでいたぶりを受けた女は、グリーンの片隅の木陰に倒れ伏して、
あとは男の思うままになっていた。
初老男は、まるでとどめを刺すようにして、妻のショートパンツを脱がせ、白日の下、その場で交尾した。
あらゆる不道徳を身に着けた彼は、ひどく女を好んでいたから。

スポーツを楽しむ夫婦は、夫婦ながら初老男を連れ出して、
昼間は彼らがスポーツを教え、
夜は男がふたりを奴隷にした。
それでも夫は、妻が犯されるのをのぞき見するのを悦んだし、
妻はそうした夫に自分の媚態を見せつけるのを愉しんでいた。

人間と吸血鬼。
相容れないもの同士のはずが、親しい交際を結ぶようになった。
お互いが得合う関係 というよりは。
吸血鬼が一方的に、彼らから獲るばかりであったけれど。
夫も妻も、彼との交際から何かを得たらしく、
むしろ新しい関係を悦んで受け容れていったという。

奥さんを紹介してくれないか。

2017年05月22日(Mon) 07:54:55

奥さんを紹介してくれないか。

わたしの血をなん度も吸った吸血鬼に、そうねだられて。
断り切れなくなりかけていた。

ちょっと待ってくれ。
ひと晩だけでも、待ってくれ。
妻を説得してみせるから。

出来ないに決まっている約束をくり返すわたしに彼は、「無理はするなよ」と言ってくれた。
けれどもそのうちに、妻のほうでわたしの顔色を見て察してしまっていた。

あなた、吸血鬼に逢っているでしょ。
私のこと、紹介するの?
覚悟はできているわよ。だからあなた、無理しないでね。

この街に吸血鬼が出没することも。
都会で暮らせなくなったわたしたちがこの街に棲むことを受け容れてもらえたのは、
いずれこうなることを夫婦ながら同意したのと引き替えであることも。
妻もわたしも、忘れてはいなかった。

吸血鬼に妻を紹介する。
ということは、
吸血鬼が妻を襲うことを承知する。
というのと、同意義である。
そんなことはもちろん、わかっている。
わたしの知らないところで襲ってくれればいいのに。
ふとそう考えたこともある。
けれどもそういう考えは卑怯なのだと、心のどこかでそんな声も聞こえてくる。
自分の関係ないところで、物事が自分に都合のよいようにまわってくれる。
もしもそんな状況が訪れるとしたならば、それはだれかによほど感謝しなければならないレベルなのだから。

吸血鬼は、「紹介してほしい」と願っている。
妻もまた、「紹介を受ける覚悟はできている」と言っている。
吸血鬼は、「きみの妻を襲わせろ」と希望している。
妻もまた、「襲われてしまっても仕方がないと観念している。
ふたつの意思に、3つ目の意思が後追いをして、おなじ道をたどるのは、もう時間の問題だった。

いつもの公園で首すじを咬んでもらった後、
わたしは彼を伴って、帰宅する。
あらかじめ言い含められていた妻は、よそ行きのいい服を着て訪問客を待ち受けて、
ありあわせのお酒で、初対面のお祝いをして。
酔っ払ったから夜風に当たって来ると言い訳しながら玄関のドアを開ける背中越し、
吸血鬼が妻を押し倒すのを、気配で感じていた。

ちょっと出てくるとは、ポーズだけの話。
ゾクゾク昂る気持ちを抑えかね、わたしは自宅の庭先にまわり込んで、いちぶしじゅうを見届ける。
観念して首すじを咬まれた妻は、
ストッキングを穿いた足許にも唇を吸いつけられて、
相手の男がストッキングを咬み破るのを、顔をしかめて見守って。
もういちど、息荒くのしかかってくるのを防ぎかねて、
唇で唇をふさがれる直前、「あなたぁ!」とちいさく叫んで、
股を割られ、強引な腰の動きに支配されて、
歯を食いしばって耐えていたはずが、いつの間にか悩ましい吐息を洩らしはじめていた。

素知らぬ顔をして帰宅したとき。
ふたりはしれっとした顔つきで、お酒のつづきをやっていた。
「時々お誘いを受けるからね」
まんざらでもなさそうな妻の横顔を軽く睨んで、
今夜こいつが帰ったら、どうやって押し倒してやろうか?と、
久しぶりにそんなことを想い浮かべているわたしがいた。

間もない同士

2017年05月18日(Thu) 07:53:26

2人が初めて出会ったのは、夜の公園。
女は人妻で、夫の転職をきっかけにこの街に来たばかりだった。
男は吸血鬼で、自分たちに寛容と伝え聞いたこの街に、やはり来たばかりだった。
2人は出会った瞬間、狩りをするオオカミと狩られるウサギの関係になった。

ハイヒールの足ではほとんど逃げ切ることなど不可能で、
女はすぐに追い詰められて、
けんめいにいやいやをくり返しながら、
首すじをガブリとやられてしまった。

ちゅう~っと音をたてて生き血を吸いあげられたすぐあとに。
牙を引き抜いた男と合わせた視線と視線。
2人はすぐに恋に落ちた・・・となるはずもなく、
女は怯えに怯えきっていた。
それでも女はけんめいに言葉を放ちつづけていた。
相手と会話をすることが、自分の命綱でもあるかのように。
――全部吸い尽したりしないんですよね?死んじゃったりしないんですよね?
――献血だと思うことにしますから。ですから手かげんしてくださいね。
――あの・・・あの・・・それ以上は見逃して。主人を裏切るのは気が進まないの。

この街では、吸血鬼に出遭った女は無条件に首すじを許すことになっていて、
相手がセックス経験のある女なら、ほぼ例外なく犯すことになっていた。
けれども2人はこの街に来て間がなくて、その習慣に慣れ切ってはいなかった。
男は貧血になるまで女の生き血を吸いつづけ、
それでも女の願いを容れて、犯すことなく見逃してやった。

ベンチの上で貧血にあえぐ女のため、女が歩けるようになるまで付き添って、
立ち去らないでいる彼に恐怖の視線をおずおずと向けてくる女に、
自分の意図さえ伝えていた。
女を家まで送って行くと、家にいた夫はびっくりしたように2人を見、
自分の妻がなにをされたか、なにをされなかったかを、すぐにさとっていた。
夫もまた、この街に来て間もなかったので、この街の習慣に慣れ切ってはいなかった。
「どうぞ、すぐにお引き取り下さい」
そういって男を家にあげずに追い出すのが、精いっぱいだった。

夫婦だけになると妻は、この街がどういう街だかすぐに思い出していた。
もともと――ふつうの街ではやっていけない立場になって、
逃げるようにしてここに流れてきた夫婦だった。
「あの言い方はないわよね」と、妻は夫をたしなめた。
「どうすればよかったんだ」と惑う夫に、「私に任せて」と妻は言い、
「この街でよかったのよね?」ともういちど、夫に訊いた。
夫の応えしだいでは、窮死するまでいっしょでいるほどの気持ちを秘めて。

三日後の晩。
女は初めて襲われた公園の隅に独り佇んで、
案の定、血に飢えた吸血鬼が再び、目の前に佇んでいた。

二度目の逢瀬は、最初のときほど荒れ狂ったものにはならなかった。
2人とも大人だったから、言葉と態度で境界線を引いていて、
一定の節度を保った逢瀬になった。
けれども――素肌に擦りつけられてくる唇のただならぬ熱っぽさに、
女はなにかを感じずにはいられなかった。

「ストッキングを変えましたね」
ベンチに腰かけた女の足許から顔をあげると、男はいった。
もう、なん度めの逢瀬になるだろうか?
男が決まって、ストッキングを穿いた女の脚を好んでいたぶることに気がついて。
女はいつも男に逢う時には、真新しいストッキングを脚に通して出かけていった。
破れたストッキングの足許を見せまいと、夫の帰宅時間より早く家に戻るため、
まだ暗がりが拡がり切らないころから、男を待って公園に佇むようになっていた。
いつも穿いていた安物のストッキングでは申し訳なくなって、
たまには高級品をと奮発したら、敏感な反応がかえってきた。
「奥さんの心遣いには、いつも感謝しています。無理のないようになさってください。
 いままでのやつも、とても気に入っているのですよ」
所帯持ちの良い主婦でもある女にとって、いろいろな意味で優しい言葉だった。
「どうぞお好きなように」
差し伸べられた脚に加えられる凌辱を、女はいつもより居心地よく、耐え忍んだ。

「ご主人にあいさつをしたい。許してもらえるだろうか?」
そんな問いを持ち帰り、おずおずと夫に問いかけたとき。
「礼儀正しい方のようだね。向こうが会いたいというのなら、来てもらってもかまわない」
夫は意外にも饒舌だった。
いまの職場では、ほとんどの社員が妻を吸血鬼に襲われていて、
だれもが2人の関係を黙認したり、
妻の相手をすすんで家庭内に迎え入れたりしているのだという。
「この街に来ちゃった以上、わたしも寛大にならないとね」
これからは、逢うときには夕食を外で済ませてきても良い――そこまで言ってくれていた。
貧血を我慢しながら夕食の用意をする妻のことを、少しは見かねてくれていたらしい。
たまには外食できるくらいにはなったから――好転した経済状態が夫をそう仕向けてくれたのか。
この種の話題を意識的に避けていた夫婦のあいだに、黙契が生まれ始めていた。

お酒の入った男性2人の会話は、女の入っていけないところがかなりあった。
しかしそれだけ夫が相手に打ち解けてくれているのだと、女はそんなふうに思うことにした。
この街に棲み着いた吸血鬼は、すでに女以外にもなん人もの人妻を襲っているらしい。
吸血鬼同士の仲間内で紹介された、だれにでも献血する心優しい人妻もいれば、
女と同じように見ず知らず同士でいきなり出会った関係のものもいるという。
そのすべてとセックスをして愉しんでいる・・・そう訊いたとき、夫はいった。
――あんた、もしかしてうちの妻のことを本気で好きになったんじゃないのか?
男はまだ、女に懇願されるままに、女を辱める体験を持っていないと告げていた。
三人三様に、押し黙ってしまっていた。

やがて夫は立ち上がり、「ちょっと夜風に当たって来る」といった。
吸血鬼もそれに続いて立ち上がり、「今夜は寒いですよ」といった。
夫の後ろ姿に吸血鬼の影が重なって、女が受け入れたのと同じ牙が、夫の首すじに突き刺さった。
夫は薄ぼんやりとした目をさ迷わせながら、自分の意思で招いた客人が妻を相手に初夜を遂げるのを、見守りつづけていた――

「今夜も残業?」
「きみのストッキング代くらいにはなるだろう」
毎朝のように交わされる、夫婦の会話。
夕刻から真夜中まで、相手の望む刻限は。
自分の妻が吸血鬼夫人になることを許容してから、夫はなぜか、明るくなった。
ひところ途絶えがちだった夫婦の交情も、新婚のころのように復活していた。
喪われたもの――いや、許し与えたもの――の見返りに、
いちどすべてを失った男は、以前持っていたものよりも多くを、得たらしい。


あとがき
既存のルールにまだ慣れていない女と男が、
お互いに対する好意を織り交ぜながら、ひとつになっていく。
そんな風景を描いてみました。

気丈な姑 10  ~偽装される日常 解放される週末~

2017年05月11日(Thu) 08:27:04

帰宅した悠子は、ほとんど始終むっつりとしていて、無言を貫き通していた。
出迎えた夫は、顔色のよくないのを心配してくれたけれど、
「彼、私の血も気に入ったみたい」
と告げただけだった。
嫁をかばって身代わりに血を吸われた。
そんな意味を言外に含めたつもりだったが、果たして夫にどこまで通じたものか。

こちらの機嫌のよくないときには、努めて距離をおこうとする夫。
そんな夫婦の習慣が、じつにきまりのわるい苦境から、悠子を救っていた。

一刻も早くわれに返るために、悠子は家事のルーテンに戻っていった。
リビングでいつものように黙然と新聞を読んでいる夫をよそに、
晩ご飯の下ごしらえをし、お風呂の支度をし、洗濯機を回す。
あの咬み破かれたストッキングも、他の洗濯物のなかにまぎれ込ませるのを忘れずに――


一週間が過ぎた。
あの日したたかに味わわれることで喪われた血液は、とっくに回復していた。
土曜日曜がめぐってくるのが、久しぶりのような気がした。
昼下がりの息子からの電話が、夫婦の静穏な日常を破るまで。

「母さん?じつはあのひとが今、うちに来ているんだ。
 夫婦の寝室で、美那子とふたりきりになってる。
 様子、見に来るかい?」
話の内容の深刻さとはうらはらな、あっけらかんとしたのどかな口調に、悠子はあきれた。

ま あ っ !
なんてこと!
あなた!もっとしっかりなさいっ!
いま母さんも、そっち行くから!!
母親の顔に戻った悠子は、夢中になって受話器の向こうにありったけの言葉を流し込むと。
夫のほうに向きなおって、いった。
「あのひと、また美那子さんと逢っているらしいの。私説教してくるわ」
夫の眼を見返すいとまさえ惜しんでそそくさとそう言い捨てると、
悠子は部屋に戻って着替えを始めた。

よそ行きのキリッとしたスーツに、真新しいナチュラルカラーのストッキング。
サッとなでつけただけの髪を、こんどは鏡に向かって念入りに梳く。
気づいてみたら、口紅もいつもより濃いめに刷いていた。
そんな様子を、夫は遠くから注意深く眺めていたけれど。
ひとの顔色を読むのは夫の癖――と、割り切った。


息子の家までは、ごくわずかの距離だった。
気色ばんでピンポンを押し、出てきたのが美那子ではなく息子自身であることに、昔気質な悠子は憤然とする。
来客の応対をするのは、妻の役割ではなかったか。
主婦の役割をおざなりにして、あろうことか家に男を引き入れて情事に耽るとは何事か。
「ちょっと!美那子さんどこ!?」

気色ばんだ突進は、そこまでだった。
リビングに出てきたふたりを前に、悠子の威勢の良さは、みごとにぴたりと止まっていた。
美那子はともかく、ひとの魂まで引き入れてしまいそうな吸血鬼の瞳の奥深い輝きが、悠子をとらえた。
母親の変化に気づいてか気づかずにか、貴志は場の雰囲気を変えようとして、
「お茶淹れようか?」
とのたまわった。
気を利かせたつもりが、逆効果だ。お茶を淹れるのは、古風な近田家のしきたりでは、本来主人のやることではない。
それは嫁の役目!と、ふたたび悠子が怒りを盛り返すことを予期してか、
「それ、私やるから」と、美那子がなだらかに引き取ってゆく。
台所に立ってゆく美那子の後ろ姿は、どこか着崩れしていたし、露骨な乱れ髪ですらあったのだが、
貴志はそれについてなにも言わなかったし、悠子もあえて口にしなかった。
「お義母さん、こちらへ」
吸血鬼は悠子の目線を巧みにとらえると、さっきまで嫁と2人でいた夫婦の寝室とは別の奥の部屋へと、彼女を促した。

ドアを閉める時。
こちらを気づかわし気に見送っているらしい息子に、彼は抜け目なく声を投げる。
「貴志さん、入らないでね。美那子にもそう言っておいて」
うちの嫁をなれなれしく呼び捨てにして――そこだけが、悠子の気に食わなかったが。
背後から両肩に手を置かれ、その手が形相を変えて悠子を羽交い絞めにしたときに。
悠子の態度は、はっきりと変わっていた。
あ――
気がついたら姿勢を真向いに向きかえられて、唇で唇を、ふさがれていた。
「こうして息子さんに連絡させれば、きっと来てくれると思ってね」
男はにんまりと笑いかけ、悠子はそれにぎこちなく、こたえていった。

二度、三度とディープ・キッスを重ねたあと。
悠子は男から身を離して、足許に落ちたハンドバックを拾った。
そして男との約束どおり、丁寧に折りたたんだ薄地のナイロン製の衣類を、無言で手渡してゆく。
約束を守る律義さは、血を吸い取られて堕とされたあとも変わらない。
吸血鬼の眼に、この年配の主婦の横顔が、ひどく好ましく映った。
気丈で落ち着いたたたずまいに、落ち着きを知らない自分の魂を支えてくれるなにかを感じた。

「あちらは気にすることはない。私が用を済ませたあとは、ご夫婦で愉しむことにしているようだから」
男の言いぐさに、悠子はまたちょっとだけ腹を立てたが、なにもいわなかった。
そして、ふたたび重ねられてくる唇を、さっきよりは少しだけ優雅に受け容れる。
「よろしい。よくできました」
したり顔の男に、「何よ」と言いながら、女はネックレスをはずそうとした。
「いや、そのままに」
男は女が服を脱ぐのを制すると、耳元で囁いた。
「お姿のまま、愉しませてもらうから」
そういえば。
あの日も着衣のまま血を吸い取られ、抱かれたのだった。
「いけない趣味ですね」
わざと他人行儀に作った受け答えは、男の唇でまたもやふさがれる。
「正気じゃなくなりたい」
女はあえてそっぽを向いて、そうすることで首すじをあらわにする。
血を吸われて恍惚となってしまうことが、強いられた情事の免罪符になる。
女のずるい計算がそこにあった。
熱く湿った唇が、ヒルのように密着するのを感じ、女は柳眉をふるわせた。

スカートを大胆に腰までたくし上げられていきながら、
悠子はずっと、真っ赤なブラウスに撥ねた血を気にかけつづけた。
そうすることで、これから行われる悪事から、少しでもそっぽを向きたくて。
でも、そっぽを向こうと努めながら、ついふり返ってしまいそうな自分も、あきらかにいた。

男の唇が、スカートの下に這い込んだ。
さっきから。
しつように、それはしつように、這わされる舌は薄地のナイロン生地を、よだれでたっぷりと濡らしてゆく。
ストッキングの舌触りを愉しんでいるのだと、ありありとわかった。
けれども、やめさせることはもう、できなかった。
穿いてきたストッキングがおろしたてであることに、悠子は安堵を覚えた。
真新しいナイロン生地は、ふるいつけられてくる恥知らずな舌に愉しまれ、みるみるうちにいたぶり尽されていった。
気に入ってもらえて、うれしいわ――
悠子のささやきに吸血鬼は頷くと、鋭い牙を突き立てて、ブチブチと音をたてながら、女の装いを咬み破いてゆく。

無重力状態におちながらも。
ストッキングを片方だけ穿いた状態を、ひどくふしだらなものに感じたのは、きっと正しい感覚なのだろう。
けれども、冒された局部にびゅうびゅうと吐き散らされる熱い粘液の感覚は、悠子の理性をすでに大きく狂わせていた。
というよりも、気づいたらすでに娼婦になっていた というのが、正直なところだろう。
迫ってくる男の背中に腕を回し、夫のそれよりも逞しい胸板に、乳房を蹂躙し尽されていた。
はぁはぁというワイルドな息遣いは、さいしょ男だけのものだったはずなのに、
いまでは負けず劣らずのもの欲しげな呻きを、恥を忘れて重ね合わせてしまっている。
ふすまの向こうに息子の気配をありありと感じたのに、大胆な痴態に耽る女体を、もうどうすることもできなくなっていた。
「あなた・・・あなたぁ・・・」
と、夫に赦しを請う呟きは、
「もっと・・・もっとぉ・・・」
と、さらなる汚辱に焦がれる声になっていた。
もう、息子に聞かれたってかまわない。
そう、夫に聞かせてあげても、良いのかもしれない。
声をあからさまにあげることが、こんなにも快感だなんて。
どうやら息子夫婦が自分たちの寝室に引き上げたらしい気配まで敏感に感じ取りながら、
悠子はもっと汚して・・・と、はしたないおねだりをくり返していた。

まだ赤黒く猛り立っている一物がヌラヌラと光らせている精液を、スカートの裏地で拭き取る行為も。
ブラジャーをせしめられ乳首のかすかに透けた真っ赤なブラウスを、吸い取った血で濡らされる行為も。
破れ残ったストッキングに唇を当てられ、さらに凌辱し尽されてしまう行為も。
男の悦ぶことならなんでも応えてあげようという、女らしい寛大さで許しつづけていったのだ。


かえり道。
男に送られてたどる家路は、このあいだのそれよりも悠々と愉しむことができた。
さりげなく送られてくる好奇に満ちた盗み見の視線を、小気味よく受け流しながら。
穿き替えた真新しいストッキングに唾液をたっぷりとしみ込まされたのが、外気に触れてすーすーするのも、
ドキドキしながら、愉しんでしまっていた。

なにも知らない夫は、きょうもリビングで独り、新聞に読みふけっているのだろうか。
首すじにあからさまにつけられた咬み痕は、どうやらまだ咬まれていない人には見えないらしい。
いつか夫にも、見せつけてあげたい。
悠子は胸の奥に、密かに危険な焔(ほむら)をかきたてていた。

気丈な姑 9  ~堕落の刻 続~

2017年05月10日(Wed) 08:19:48

どれほどの時間。
男相手の淫靡な舞踏をつづけたことだろう?
度重なる情交に、ふと倦怠感と疲労感を覚えた悠子は、見つめ合った目にわれ知らず目くばせをしていた。
男はそれでも許してくれず、「もういちど」とねだり、
ねだれれた悠子は「はい」と小さな声でこたえると、
ふたたび身体を開いていった。

自分から。
男を受け容れてしまっている。
そんな自覚におののきながら。
悠子は交し合う情交がもたらす昂ぶりを、いつか抑えきれなくなっていた。
「いちど」の約束が、なん度にもなった。
けれども悠子はもう、相手を咎めようとはしなかった。
むしろすすんで身体を重ね、脚をからめていった。
脚に通したストッキングがみるかげもなく咬み破かれて、外気がじかに触れてすーすーするのを感じながら。

ひとしきり、愛の交歓が終わると。男はいった。
「身づくろいなさると良い。送ってあげる」
すばやい囁きを残してサッと身を離すと、男はもう隣室へと消えていた。
はだけたブラウス。
腰までたくし上げられたスカート。
みるかげもなく咬み破られたストッキング。
それらの衣装に身を包んだ自分だけが、その場に残された。
その情けないありさまをまじまじと見つめようとしなかったのは、「武士の情け」とでも、いうべきなのだろうか。

女は立ち直りが速いもの。
鏡に向かって紅をひき直しながら、悠子は自分の思い切りの良さを、浅ましく感じた。
浅ましく感じながらも、このあとどういう顔で夫と顔を合わせ、どんな言葉を交わしたものか・・・と、
このあとの展開を、したたかに計算しはじめていた。
ハンドバックから取り出した真新しいストッキングを脚に通して、破かれたほうのはくずかごに捨てた。
けれどもすぐに思い返して、それをくずかごから取り出すと、ハンドバックの中に収めた。
男の戦利品としてせしめられるのが、忍びなかったのだ。


悠子がリビングに出ていくと、吸血鬼は嫁を相手にお愉しみの真っ最中だった。
もはや咎めることさえできずにそのようすから目を背けていると、
ほどよいところで吸血鬼は美那子の身体を離し、「きょうはこれでおひらき」と、告げた。
「嫁姑の味比べ?趣味が悪いわね」
美那子がそういって毒づいたが、声色は言葉の意味を裏切って、ひどく嬉しげだった。
「下品なことを言いなさんな。お義母さんがお気の毒だ」
吸血鬼はあくまでも、ニューフェイスの姑をたてた。
美那子はそれ以上、逆らおうとしなかった。

嫁に弱みを握られて、どれほどつけあがられてもおかしくはなく、
実際美那子も露骨なくらい、そう振る舞おうとしていたのに、
男はたったひと言で、諍いが起こりそうな雰囲気を封じ込めてしまった。
美那子が男に対して従順なのは、それだけ支配されてしまっていることを意味していたけれど、
悠子はむしろ、美那子に示した影響力を頼もしいと感じた。
そんなこと、感じちゃいけないのに。
だって私、このひとの手で、夫に対して顔向けのできない身体にされちゃったんだから。
しきりに自戒を重ねながらも、知らず知らず悠子は、男のそばに寄り添っている。

「俺はお義母さんを送って行く。あんた独りで帰れるな?」
吸血鬼が美那子に投げたまなざしは、まさしく情婦に向けられた支配者の目。
吸血鬼が嫁を見返る視線をそんなふうに受け取った悠子は、ちょっとだけ眉をしかめ、すぐにその顔つきを平静に戻した。
ほかのふたりは悠子の表情の変化に気づいていたが、なにもいわなかった。
「お義母さまを送って行くの?」
美那子はちょっと咎めるような口調になったが、すぐに思い返したように妙な作り笑いを泛べると、それ以上抗議をしようとはしなかった。
「わかっているんだろうな?」
男は美那子に念を押した。
「わかっているわよ、だれにも言いやしないんだから」
「それならばよい」
男女二人の交わされる言葉が、たぶん自分に対する保険なのだろうと、悠子は漠然と感じた。
「じゃあ、お義母さま、またね♪」
美那子はわざとくだけた口調のあいさつを、さっきまで謹厳だった義母に投げると、
すぐに人が変わったように神妙な顔を作り、
「長々、お邪魔いたしました」
と、どちらへともなく深々と一礼した。

2人きりになると男はいった。
「おねだりがあるんだ」
「なあに?」
「破けたストッキング、記念に頂戴できないかな?」
無言でかぶりを振る悠子に、男はなおも囁いた。
「家に持ち帰って洗ったら、今度お土産に持ってきていただく」
有無を言わせない口調だった。
そんな羞ずかしいこと、できるわけがない。
心のなかでそう呟く一方で。
夫の目を盗んで破けたストッキングを洗濯機のなかに投げ入れている自分の姿を想像していた。


家路をたどる道々、男はなにも言わなかった。
通りすがりの人たちのなかは、悠子の顔見知りもいた。
彼らはいちように好奇の視線を一瞬投げるものの、男の目をはばかるようにして、すぐに視線を外してゆく。
そのまま家に着くと、彼は玄関のまえに悠子を置き去りにした。
「わしがいないほうが、良いだろう?」
悠子は無言でいたが、無言のうちに肯定をしていた。
「ダンナの顔を見たら、不機嫌そうに黙りこくっていることだ」
それが賢明な妻のする振る舞い・・・といわんばかりだったが、悠子もそれはもっともだ、と、思った。
いずれにしても。
ここから先は、妻としての自分が問われるところ。
一人きりの勝負になるのだ、と、悠子は改めて自覚した。
まだなにも知らない夫が憩うているはずのドアの向こうを、悠子は睨むように凝視する。


その時の悠子は、まだ知らなかった。
吸血鬼に見送られて家路をたどるということは、吸血鬼の女になったことを、周囲の人に伝えてしまう行為なのだと。
なにも知らない悠子は、自身が女の操を喪ったという事実を、じつにおおっぴらに触れ回ってしまったのだ。


あとがき
昨日時間切れであっぷできなかった後編です。
読み直して、よかった♪

気丈な姑 8  ~堕落の刻~

2017年05月10日(Wed) 07:33:53

「なっ、何をなさるんです・・・っ」
悠子が声をあげてうろたえたときにはもう、遅かった。
男は拡げた猿臂のなかに悠子を抱え込み、その首すじに唇を吸いつけていた。
チクリとかすかな痛みを感じて、悠子はうめいた。
刺し込まれた鋭い牙の切っ先が皮膚を破り、生温かい血がほとび散るのを感じた。
チュウッ・・・
血を吸いあげられる感触に、悠子の顔から血の気が引いた。
ほんのひとしきり悠子の血を吸うと、男は牙を引き抜いて、悠子を視た。
自分の血が刺し込まれた牙の切っ先を濡らし床にしたたるのを、悠子はぼう然と見つめている。
いま起こっていることをよく理解できないままに。
目を白黒させているうちに、悠子はふたたび唇をその素肌に這わされて、生き血を吸い取られていった。

そんな姑のようすを、美那子は薄っすらと笑いながら見つめている。
さっきまで包まれていた熱い抱擁から抜け出したあとの虚脱感が、彼女の心地よく五体を満たしていた。
  そうよ、お義母さま。このひとの魅力をたっぷりと味わうがいいわ。
  そうしたら、あたしが堕落した理由をきっと、わかってくださるもの。
若いだけに、意地悪な笑みはいっそう、凄みを増した。

気丈に踏ん張った脚からスッと力が抜けて、がくりとひざを突いた。
フローリングのうえにすんなりと伸びたふくらはぎに、吸血鬼の好色な唇がふたたび、吸いつけられてゆく。
押しつけられた唇の下、姑の穿いている肌色のストッキングに裂け目が走るのを、嫁の美那子は小気味よげに見守った。
  堕ちてしまった後でも、かっこいいこと言えるのかしら。
という目をしながら。

吸血鬼は顔をあげ、美那子にいった。
  すまないが、2人きりにしてくれないか。
美那子はにんまりと笑んで、同意した。
逢瀬を邪魔された怒りよりも、品行方正な姑を堕落させる愉しみのほうがまさったのだ。
「お義母さま、ごゆっくり~♪」
若い嫁は自らの愉しみの機会を、気前よく姑に譲り渡す。

もがけばもがくほど、抱擁の束縛はきつさを増した。
悠子はもはやこれまでだ・・・と、観念せざるを得なかった。
「お義母さま、ごゆっくり~♪」
まだ薄っすらと残る意識の彼方、嫁の愉し気な声が耳に響く。
とうとう2人きりにされてしまった。
もう逃げられない。
嫁はわたしの名誉を救う意思は持ち合わせていないようだし、
相手は獲物を逃がすまいと、悠子の二の腕を痛いほど抑えつけている。

絶体絶命だった。

男はいった。
「奥さん、観念して往生するんだな。あんまり暴れると、かえって恥を掻くよ」
隣の部屋に聞こえよがしにそういうと、こんどは悠子の耳もとに唇を近寄せ、彼女だけに聞こえるように囁いた。
「血をくれて感謝する。できるだけ恥をかかせないようにするから、少しの間目をつぶっていただけないか。
 あんたの気持ちはわかるから」
どうやら相手には、吸い取った血潮でこちらの気分を読み取るすべを心得ているらしい。悠子はそう直感した。
せめて辱めを受けるところまで嫁に視られまいと思った気持ちを、男は無にしまいというのだ。
「お手柔らかに・・・」
恥かしいのをこらえて、悠子はいった。

「では、失礼」
男のあしらいはじつに手慣れていた。
破けたストッキングをまとったままの脚を左右に開くと、そのすき間にためらいもなく分け入って来て、
逆立った肉塊を割り込ませ、あっという間に悠子の股間を冒したのだ。

あ・・・な・・・た・・・!

悠子は思わず声をあげ、あげた声が嫁を満足させるのを感じ取らずにはいられなかった。
自分の貞操があっけなく喪われたことを自覚しながら、
男の股間からほとび出る熱い粘液が自分の体内を満たすのを感じた。

染められる。染められてゆく・・・
夫しか識らなかった清い身体を、この齢になって汚す羽目になるとは。
さっきのさっきまで、想像すらしていなかった。
股間からそそぎ込まれた男の粘液が。
食い入った牙からしみ込まされた吸血鬼の毒液が。
自身の血管をめぐり、脳天に達し、皮膚の色さえ塗り替えてゆくのを。
悠子はもう、どうすることもできなかった。

悠子の理性を奪い尽した男は、女にディープ・キッスを迫ると、
応じてきた唇の奥に、男の匂いを充満させた。
そして、ドアを細目に開けてこちらのようすを覗いている嫁に見えるよう、激しく腰を上下動させた。
はじめはぎこちなく、やがて息をぴったり合わせて、貞淑だった細腰がこちらに動きを合わせてきた。
ふたたび女からディープ・キッスを奪うと、奪った唇さえもが激しく応えてきた。
飼い慣らすことに成功したとわかると、男の動きはさらに大胆になり、女の動きもそれに合わせて淫らになった。

堕ちた近田夫人の上にまたがって、吸血鬼は思うさま、想いを遂げてゆくのだった。

スカートマニア  ~「それ、結婚記念日に買ったものなんだけど・・・」~

2017年05月08日(Mon) 07:12:37

妻の彼氏は、スカートマニア。
もともとわたしの親友で、ふとした行きがかりから、わたしの妻まで仲良くなった。
必要以上の仲の良さでも、なぜかとやかく言う気にならなかった。
妻との男女の仲がお盛んになったあとも。
男同士の関係が壊れることはなかったのだ。
人はそれを、「ヘンな関係」というけれど――

スカートマニア歴の長い彼。
けっきょくスカートと結婚しているようなもので、現実の結婚はまだしていない。
「俺は一人の女の枠にははまらない」というのは虚勢にしても、
どこをどうやってこんなに人妻を口説けるのか・・・というくらい、
わたしの周囲は彼の「被害者」で、満ちあふれている。

ふつう、友だちの妻には手を出さないよな?
わたしたちのそんな咎めもどこ吹く風で。
仲間うちの奥さん連中は、そのほとんどが、彼の支配を受け容れてしまっている。
その秘訣を妻に問いただしてみたら、「なに訊いてるのよ」と怪訝な顔をしながらも、
「エッチが上手で、親切ね。あと、いろいろわきまえてくれてるし」
と、簡潔なこたえが、かえってきた。
たしかにわたしには、真似できそうにない・・・
相手の都合のわるいときに無理強いをしないというけれど、それはスペアをたくさん抱えているからだろう
――といっても、それは負け犬の遠吠えにしかならない。

もっとも、わきまえているときにはわきまえているけれど、
わきまえていないときには、それはどうかということも、してくれちゃっている。
親類の法事のかえり道。
わたしたち夫婦をわざわざ待ち伏せて、妻だけをお持ち帰りされてしまったことも、あったっけ。
喪服のスカートの下に映える黒のストッキングがたまらなかったのだと、罰当たりな言い訳をあとからされたものだけど。
抜け目のない妻は、ハンドバックの中に履き替えをちゃんと用意していて、
お誘いを受けた何時間かあと、何事もなかったかのように、しれっとご帰還あそばしたのだった。

さて、前置きが長くなった。
「どうぞどうぞ」と家のなかに通されたのは、いつ以来のことだろう?
「たまには遊びに来いよ」といわれて、そういえば家にお邪魔するのは、いつ以来だろう?と思ったくらい?
妻のほうがよっぽどまめに、ここにはお邪魔しているはずだった。
「これ視て御覧」
来た来た・・・やっぱり、コレクション自慢か。

開け放たれたクローゼットのなかには、吊られたスカートたちが所狭しと居並んでいる。
「たまに取り出して、一着一着眺めるんだ。持ち主をモノにしたときのこととか思い出してね」
勝手なことを抜かしながら、一着一着手に取って、丁寧に折りたたんではたんすの引き出しに収めていって、
入れ代わりにたんすの引き出しの中から取り出した別のやつを、クローゼットの中に吊るしていく。
「時々選手交代するのさ」
と言いながら、彼は、クローゼットの中から取り出したスカートのうちのひとつを、これ見よがしに見せびらかした。
どうも見覚えのあるような・・・と、思ったら。
それは、妻のスカートだった。
わたしはちょっぴり気まずそうに、彼に打ち明けた。
「それ、結婚記念日に買ったものなんだけど・・・」

さすがにちょっとびっくりしたように、彼はスカートと自分との距離をとって、もういちど自分のコレクションを眺めた。
「お目が高いねー、ひと目惚れだったんだ。これ」
同好者に対するような称賛に、わたしのほうが気恥ずかしくなる。
齢に似ずに、真っ赤なスカート。妻は恥ずかしがっていたけれど、
「似合うから」といって、レストランのお食事の時には履いてもらったものだった。
「悪いけど、ゲットしたからね。奥さんのこと怒るなよ」
怒らないよ・・・というよりも、むしろあきれた二人の関係。
まあ、相手がお前だから、信用しているけどな。
そう。
ずっと仲良くしてきて、何もかもわかり過ぎている関係だったから。
得体のしれない悪い虫がつくよりは・・・と、二人の関係を認めてしまっているのだった。
「奥さんの名誉は俺が守る」と、彼はたいそうなことを言うけれど。
大丈夫――それ以前にきみは、わたしの名誉を汚している。

クローゼットとたんすの引き出しとの選手交代をしながらのご披露会のはずなのに。
妻のスカートだけは、クローゼットに逆戻り。
それだけではない。
よく見ると。
クローゼットのなかには見覚えのあるスカートが、いくつもぶら提げられているではないか。
「逢うたんびに、もらってきちゃうんだ」
悪びれもせずにいう彼に、いまさらとがめだてする気にもならないで。
「これじゃあ、いくら稼いでも追いつかないよ」
とこぼすわたし。
「でも、きみの奥さんからゲットしたのは、どれも一軍なんだぜ」
どうやらクローゼットの顔ぶれは、「一軍」という扱いらしかった。
「俺好みのスカートが多いんだよね」
そう。彼のコレクションにされたスカートたちは、そのほとんどがわたしが見立てたものだった。

「こんどから、妻にプレゼントするときには、きみの意見も聞こうかな」
冗談ごかしにそういうと、彼はそれを真に受けて、「いつでも乗るから」と身を乗り出した。
あんたが乗るのは、ひとの女房の身体のうえだろう?と下品な返しをかろうじて呑み込んだ。

一週間たったある日のこと。
「出かけてくるわね~」
よそ行きの服に着替えた妻が、ウキウキとした声をわたしに投げた。
「ああ、行ってらっしゃい――あいつによろしく」
妻の服装を見れば、行き先はどこだかよくわかるようになってから、もうどれくらい経つのだろう?
ふと見ると。
妻があの、真っ赤なスカートを穿いていた。
「やっぱ派手かなあ」
という妻に。
「そんなことない。よく似合うよ」
と相槌を打って。そのあと言い出さずにはいられなかった。
「そのスカート、あいつにやったんじゃなかったのか?」
「アラ、よくご存じね」
と、こともなげに問いを交わした妻はそれでも、
「返してくれたの。俺と逢うとき穿いてほしいって言われて」
と、教えてくれた。

あのひと、あなたのセンスに感心してたわ。
あたしのスカート、けっこう選んでくれてるものね。
それがことごとく、彼のツボにはまるらしいの。
あなたたち本当は、ウマが合うのね?
ねえ、きょうはあなたも来ない?
きょうのあたしは、ゴキゲンだから。
気に入りのスカートをめくられるところ、覗かせてあげてもいいわよ。


あとがき
奥さんが浮気の時に穿いて行くスカートを、夫が情夫といっしょに選ぶ――――なんて。
不道徳すぎますよね?^^

気丈な姑 7

2017年05月08日(Mon) 05:47:47

妻の献血相手の吸血鬼は、もとは息子の嫁の愛人だった。
首尾よく息子をたぶらかし、まだ婚約中に嫁の新床までゲットしてしまった男。
それでも息子は彼のことを憎んでいるようすは、さほどない。
むしろ、大切なものをプレゼントするほどの、大切な関係なのだと割り切っていて、
吸血鬼が嫁に手を出したことさえも、「うちの美那子がお目にかなって嬉しい」とまで、受け取っているようだった。

なにも知らずに二人の間を咎めに行った妻は、それまでの貞淑なレディとして帰宅することはできなかった。
ストッキングを穿いたご婦人の脚に好んで咬みつくというこの吸血鬼は、
嫁の浮気を咎めに来た姑の穿いているストッキングにまで、見境なく目の色を変えたのだった。
妻は四十代ぎりぎりの熟れた血潮をたっぷりと吸い取られ、
その見返りに、スカートの奥を濡れ濡れにするほどに、愛情のこもった淫らな粘液をたっぷりと、そそぎ込まれて戻ってきた。
「私の血まで、気に入ったみたい」
妻はきまり悪げに、そう言ったものだった。

気丈な妻はそれでもくじけることなく、新婚の息子のために、嫁と吸血鬼とを別れさせようとした。
けれどもそれは、空しい努力に終わってしまった。
そう、さいしょのときにもう、勝負はついていたのだから。
「きょうも叱ってやりますわ」
そういいながらウキウキとおめかしをして出かけていっては、吸血されて抱かれてしまう日常が、くり返されただけだった。
怒ったり嫉妬したりするいとまもなかったのは、夫のわたしまでもが、早い段階で仲間に引き入れられてしまったから。
滋養分補給のために私までもが献血を強いられて、
もーろーとなって居間の隅っこで横倒しになったまま、
息子が未来の花嫁の純潔をプレゼントしてしまったときと同じように、
妻が生き血を吸い取られ、あげくの果てに犯されてしまうのを、
そしてその行為が単なる凌辱行為にとどまらず、熱っぽい愛の劇場と化してしまうのを、
さいしょはばかみたいにぼう然としながら、
さいごのほうでは、不覚にも。
妻がヒロインのエロシーンを、ただの男として堪能し尽してしまっていた。

きょうも「あのひとを叱ってやるの」と言い残して、妻はウキウキと出かけていった。
「口にするのも恥ずかしいことだけど。彼、ストッキングフェチなのよ。
 美那子さんも、もう何足も破かれているんですって」
口では憤然としながらも、自身も真新しいストッキングを脚に通して、出かけていった。
さいしょにお逢いしたときは、穿き古しだったの。そういう恥は搔きたくないの。
あなたもヤでしょう?奥さんが恥掻くの。
そういいながら、すでに彼女が破らせたストッキングは、もう1ダースにもなっただろうか?

「美那子さんよりも罪は軽いわ。だって、私もう子供を産む齢ではないんだもの」
そういって、ご近所の評判になっても恥ずかしくないと公言していて。
いや、こっちのほうがよほど、恥ずかしいんだけど・・・
さいしょのうちこそそう言いたくてたまらなかったわたしさえ、いまでは彼女のペースに呑み込まれてしまっている。
世間では、わたしのようなのを、だらしのない夫と後ろ指を指すのだろうけれど。
むしろわたしは、わたしの倍くらいは齢をとっているらしい彼のため、
妻への老いらくの恋を好意的にかなえてやるほうに、心を傾けはじめていた。
近田家の名誉に多少の傷がついたとしても、
妻が若返ることのほうが、ずっと貴重な気がしてきたから。

「私は身代わりなのよ。貴志には早く、後継ぎをつくってもらわないとね」
女は自分を正当化する天才だ。
息子のために嫁の貞操を守るため、身をもって犠牲になろうというわけだ。
そんな姑の気遣いとは無関係に、浮気な嫁は姑のいない隙を狙って情夫と逢っているのをわたしまで知っているし、
息子さえもが、「彼の子だったら育てるよ」などと、のん気なことを口にする。
それに今では、妻のほうが。
彼のお召しの回数がじつは多いのだと、嫁はこっそり教えてくれた。

嫁がわたしにそんなことを囁いたのは、女ならではの悪意からかもしれないけれど。
「どうせなら、深く愛してもらったほうが良いじゃないですか」
と答えたわたしに、口をぽかんと開けて、あっけに取られているようだった。
「返り討ちにしたのね。あなた、やるじゃない」
帰宅してきた妻にそのやり取りを利かせると、ティーカップ片手に小気味よさそうに彼女は笑った。
ひざがまる見えになるほど伝線しているストッキングと、ぬらぬらした粘液を光らせたスカートのほうが、
わたしにはよほど、気になっていたのだけれど。

姑の気遣いも空しく、嫁の行動はエスカレートしていった。
吸血鬼の愛人の座を降りた彼女は、法事の手伝いと称して、お寺通いを始めていた。
そのお寺に集まるのは、街に出没する吸血鬼たちに妻を寝取られた、数多くの夫たち。
彼らの気をまぎらわせるために、吸血鬼が用意した気晴らしの場。
彼が希望者を募ったとき、嫁は真っ先に手を挙げたという。
「新婚妻は貴重だって言われたの」
息子の貴志にそう告げたときにはもう、なん人もの男に抱かれた後帰宅してからのことだった。
妻が嫁の身代わりにと潔(きよ)かった貞操を捧げつづけているあいだ、
嫁は大勢の男性にかしずかれる愉しみに耽ることで、その好意を浪費したのだった。

妻はきょうも、お誘いを受けて出かけてゆく。
わたしはそれを、「彼によろしくね」といいながら、送り出してゆく。
「私――美那子さんから、彼を奪っちゃったのかしら?」
そんなことを口にしながらも、嫁のことも夫のことも、さして気には留めていないようだった。
妻は、新婚の息子のために嫁のことを身をもってかばおうとした、淑女のかがみ。
わたしは、吸血鬼が人妻に寄せた老いらくの恋を好意的にかなえてやった、夫のかがみ。
このごろはどうやら、そういうことになっているらしい。

吸血鬼の呼び出しに応じる日でも。
それが平日ならば、勤めに出かけるわたしを送り出してから、出かけることにしているようだ。
けれどもこちらは、エプロンの下に着ている服がきちんとしていれば、彼女の意図が容易にわかる。
今朝のエプロンの下は、結婚記念日のプレゼントにしたワンピース。
わたしの稼ぎで買った衣装に包まれて、その衣装もろとも愉しまれてくる妻を送り出すわたしは、
きょうも彼女のストッキング代を稼ぐため、何食わぬ顔で出勤してゆく。
「あなた、行ってらっしゃい」
「あとをよろしくね」
どこの夫婦も交し合うような、そんな言葉を口にしながら。


あとがき

ちょっと前にあっぷをした、「気丈な姑」シリーズです。
息子の嫁の身代わりにと貞操を差し出した悠子さん。
そんな悠子さんのちょっと片意地でひたむきな恋に理解を示すご主人。
前々作では、吸血鬼と連れ立って歩くところを目撃された知人の女性の嫌味を軽く受け流した悠子さん。
「でももう、何も怖くない。私は平気」
と開き直っています。
(「気丈な姑 5」 http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3439.html
かたや嫁の情夫との奇妙な恋を穏やかに受け容れている夫さん。
できてしまった事後ではあるけれど、
「末永い交際を」と、吸血鬼と奥さんとの仲を自ら取り持とうとしています。
(「気丈な姑 2」 http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3435.html
「私よりもよほど逢っている」と告げ口をしたお嫁さんに対しても、「深く愛されたほうが良いと思う」なんて、お応えになっています。
夫唱婦随(婦唱夫随?)というべきか。「どっちもどっち」というべきか。
なんにせよ。
仲の良いのは、なによりであります。

回帰。

2017年05月06日(Sat) 09:32:29

今朝の夜明けも、迎えたのは他人の家。
おなじ寝床にいるのは、他人の妻だった。
スーツ姿のまま転がった女は、俺に弄ばれるままに衣装を乱して、
上品なタイつきブラウスのえり首のすき間から、おっぱいをだらしなくまる見えにさせている。
夜明けのことだから、旦那はとっくに帰宅しているはず。
それでも気配さえみせないのは、すべてを察して別室で寝(やす)んでいるからなのだろう。
あるいは案外、俺たちがまぐわう様子を、隣の部屋からのぞき見して愉しんでいたのか。
そういえば。
ふすまが細めに開いているのは、女が大雑把なためではないのかもしれない。
大雑把な女はあそこの締まりも悪く、その旦那は寝取られマゾ。
いや、彼らを責める資格など、俺にはない。
俺も夫婦にとりついた吸血鬼の欲望のまま、妻を諦めざるを得なかったのだから。

夫婦ながら血を吸われた俺は、妻に真剣に惚れたという相手の言いぐさを話半分に聞きながらも、
妻が俺の側ではなく愛人の傍らに恋人然として腰をおろした現実に、ちょっとだけショックを受けていた。
これからは、妻を邸に迎え入れ、住み込みのメイドとして雇い入れるという。
だから今、妻は家にはいない。
出勤の支度のために戻る家は、がらんどうの空間。
その見返りに俺は、おおぜいの女をあてがわれた。
よりどりみどりだぞ。
吸血鬼は好色な男という、俺と同じ高さの目線を俺に注いできた。
人から妻を奪いながらも、ヤツは妻のことを賞賛し尽して、そんな妻を勝ち得たきみを尊敬する、とまでいった。
そして、妻以外の女を相手にするのは妻が貧血を起こさないためだと弁解した。
尊敬も弁解も話半分に聞き流したが、ヤツに悪気がないのだけは、認めてやってもいいような気がした。
いいじゃないか。人妻熟女、よりどりみどり。それ、ちょっと面白そう。
あんたが飽きたら女房をうちに帰してやる。
捨て台詞のように用意された逃げ道に知らん顔をしながらも納得をして、俺は新しい環境を受け容れた。

訪ねていった家では、つねに歓待された。
なかには、亭主まで歓待する側に回っていた。
ある家では亭主自ら自慢の手料理でもてなしてくれて、
自分は自分で用意した上質のワインで酔っ払ってぐーすか寝てしまい、
その間にこちらが奥さんを押し倒す・・・という段取りまで用意してくれたりするのだった。
今朝目ざめたこの家の旦那は、堅い勤め先のサラリーマンのせいか、さほど人好きはしなかったけれど。
自分の妻が他の男と寝るときには、決して邪魔だてしない節度を持ち合わせていた。

だれもいない自宅をそそくさと後にして、勤務先に向かう。
いつもどおりのおざなりな会議、ミーティング。そのあとは得意先への訪問。
きょうの行き先は、地元の名門校だった。

この学校は吸血鬼の受け入れを表明していて、校内には生徒の生き血を求めてなん人もの吸血鬼が出没するという。
そう聞くとひどくブッソウなところのように聞こえるけれど、なんのことはない、一見した限りはふつうの学校で、
いやむしろ、ふつうの学校よりも清潔感があふれていた。校舎にも、生徒たちにも。
窓口をつとめる数学の先生も、妻と年頃の娘とを、吸血鬼に奉公させているという。
いや、そればかりか、先生の奥さんとはなん度か、寝たことがある。
銀ぶちメガネの似合うカッチリとした顔だちのこの先生と、どうやって知り合ったものか、
奥さんはお目目ぱっちりの色白女で、むっちりとしたおっぱいや太ももがたまらない、セクシー人妻。
この顔で40かよ?という雰囲気で、俺はいっぺんに魅了された。
当然希望者も多く、ひと晩に2~3人相手をすることもあるという。
「本命の吸血鬼さんがモテてモテて、なかなか相手してくれないの。
 だからあたしも、いろんな男にかしずかれるの」
輪姦もOKよ、と、あっけらかんと語る能天気な笑顔が、
目の前でこまごまとした商談をつめているその夫の几帳面な顔に、二重写しになった。
いかん、いかん。もっと仕事に集中しよう。

先生は俺と奥さんの関係を知っている。
だって毎晩、妻の痴態を覗いているんだから。
でもお互いにそんなことは、もちろんおくびにも出さない。とくに仕事中は。
それでも俺は帰り際、意外に酒好きな先生の好みの銘柄を確かめるのを忘れなかった。
せいぜい、贈り物くらいは奮発しないとな。

その晩の奥さんは、真向いに住んでいるご一家の主婦。
吸血鬼に魅入られる前から、きれいな奥さんだな、とは思っていた。
いや、妻に気取られ冷やかされる程度の関心を持っていた。
隣家の奥さんと浮気するというのは、男のロマン・・・と、勝手な理屈をつけてあがり込んだのは、
うちに続いて向かいのお宅も吸血鬼を受け容れたと知ったから。
もちろん、妻を預けっぱなしにしている吸血鬼に仁義を切ったうえでの話だが。
隣家は便利だ。
夜明けを迎えたらすぐ、出勤の支度に戻れるのだから。
奥さんのきれいな家は来たがる人も多いから、そうそう入りびたりになるわけにはいかないけれど。

「ゴメンね。外でできないかな」
まだぎりぎり20代の奥さんは、ちょっと恥ずかしそうにそういった。
折よく、隣家のそのまた隣は、空き地になっていた。
放置された空き地は恥ずかしくなるほどオープンで、周りの家からもまる見えになるはず。
ちょっとスリルがあって、良いかも。
俺は即座に承知をすると、スーツからふだん着に着替える手ももどかしく、
自宅の玄関前に佇んで俺を待つ奥さんの手をひいて、裏の空き地にまわった。

もうちょっと暗くなるまで、待とうよ・・・
まだ夕闇がじゅうぶん濃くなっていないのを気にした奥さんが、うろたえたような顔をして、周りをきょろきょろと見回している。
自分から言い出したことなのに、なにをいまさら小娘みたいにためらっているのか。
せめて、エプロン取らせてください。
精いっぱいのそんな時間稼ぎすら、俺にとってはもどかしい。
だって股間はもうギンギンに逆立ちをしているのだから。
いいじゃないか。俺もいちど、エプロン妻を犯してみたかったんだ。
こんなの、旦那が見たらはらはらするだろうな・・・と思いつつ、
しきりにご近所の視線を気にかける奥さんの手や肩をつかまえて、強いてその場に寝転がさせた。
やだ・・・みんな視てる・・・
もう、あんたの言いぐさなんか、俺をそそる効果しかないんだよ。
重ね合わせた唇は、本人のためらいとは無関係に、熱くほてっていた。
俺は余裕しゃくしゃく、パンツを脱ぐと、女の穿いているパンストを脱がせにかかった。

「そろそろいいかな?」
俺の下で女が囁いたころには、あたりは真っ暗になっていた。
1時間、いや、2時間くらいいっしょにいただろうか?
周囲の家々からの視線も、もう感じられない。
さいしょのうちは好奇の視線を送っていても、夕刻はどの家も忙しい時間帯。
そんなことばかりにかまけてはいられないのだ。
人のことなどに構っている暇もない日常が、どの家庭にも待ち受けている。
案外その日常とやらも、そのうちの何軒かでは、吸血鬼を交えた日常かも知れないけれど。

女のくぐもった声が、もういちど俺の欲情に火をつけた。
「もう一回だけ、いいかな?」
女は俺に、逆らわなかった。
むしろ進んで受け入れて、熱っぽいほとびを俺が吐き尽してしまうまで、積極的に腰を振って応えてきた。
だんなともいつもこんなふうにしているのかな。
俺のたわごとには答えずに、女は言った。

そろそろいいかな?じつは主人、熱を出して寝ているの。


それから長いこと、俺はひとり残った空き地で大の字になって、星空を見あげていた。
女はとっくに家に戻って、いまごろ主婦の日常に戻って夫の看護をしているらしい。
家から洩れてくる細々とした灯が、そんな想像を容易にさせた。
さいごにあんなに腰を振ったのも、決して男好きな人妻だからではない。
手っ取り早く俺にフィニッシュさせて、旦那のつききりの看護に一刻も早く戻りたかったからなのだと、
いくらぼんくらな俺にもすぐにわかった。
なんだか、ただたんに女の身体と身体を重ね合わせているだけの日々が、むなしくなってきた。
さてと、帰るか。
だれもいなくて灯もついていない、自分の家に。


家のなかは真っ暗で、いつものようにがらんどうな感じがした。
妻が置いていった読み止しの女性雑誌が、そのときのままにマガジンラックに突き刺してあった。
家を出ていく時、羽織っていた緑のカーディガンを脱ぎ捨てて、
ソファに畳んで置いていったのが、まだそのまんま置きっぱなしになっている。
テレビの台には観ないまま行ってしまったDVDが積み重ねられ、
キッチンには俺のためにまとわれることのなくなったエプロンが、抜け殻のようにぶら提げられている。
きょうにかぎってどういうわけか、妻のものばかりが、目につくのは、どうしてだろう。

リビングの隣の和室に並べてあるのも、妻ゆかりのコレクション。
初めて襲われたときに着ていた、襟首に血のついたままのブラウス。
その時に妻の脚から抜き取っのだと自慢をしながら、ヤツが俺に手渡してくれたストッキング。
俺に隠れて逢いに行っていたとき、好んで身につけて行ったよそ行きのスーツたち。
結婚記念日に買ったスーツも例外ではなかったし、喪服なんかも着ていきやがったんだ。
玄関には、きちんとそろえられた黒のパンプス。
外出先から戻ると決まって置く癖になっていたイスには、気に入りのハンドバッグ。
台所仕事をする前には、いつも身に着けている結婚指輪を必ず外して、テレビの上の小皿に、こんなふうに入れていた。
―――?
ふとわれに返って、傍らを観ると。
真っ暗な部屋でひとり、出ていったはずの女が無言で佇んでいた。
「さっき戻ったのよ。ただいま」
妻はリビングの灯りをつけて、いった。
「遅くなったけど、晩御飯作るわね」
そして、ソファに置かれた緑のカーディガンをいつものように羽織って、台所に向かおうとした。

どういうことなんだ?
愚問と知りながら、訊かないわけにはいかなかった。
帰ってきてあげたのよ。しょうがないから。
強がりの時にはいつもそんなふうに言いっ放す、投げやりな調子。
ああ、そういうことか。
飽きられたんだよな?
面と向かって投げつけた言葉に、妻は口をへの字に曲げて、フンとふて腐れた顔をして、
それでもいつものように口ごたえしないで台所に向かってゆく。

蛇口からひねった水が勢いよく流れる音をたてながら、妻はいった。

捨てられたんじゃ、なくってよ。
そろそろ帰ってやれって、言われたのよ。あのひとああ見えて、案外気を回すのよね。
こんどから、通いで来いって。
でも、気が向いたらまた戻るかもしれないわあ。
メイドさんって言ってもたいしてやることなくて、うちのほうがよっぽど忙しいんだもの。
それに、旦那に追い出されたらまた戻って来いって言われているの。
私・・・悪い奥さんだし・・・追い出されちゃうよね・・・?

いや、いてもいい。
俺はとっさにそう返した後、すぐに言い直す。

いてくれ・・・・・・いて下さい。

気がつくと、俺の腕のなかに妻がいた。
どうして抱きしめてなど、しまったのだろう?
ちょっと不安げな面差しが、ちょっぴりいつもらしくなかったから?
いやきっかけというのはしょせん、引き金でしかないのだろう。
抱きしめると抱き返してくるその女は、まだ愛し合っていたころの妻そのものだった。
やっと戻って来てくれるまで。
やっと戻ってくるまで。
この夫婦は、入り組んだ迷路を遠回りしなければならなかったのだろう。

かん違いしないで。
私、あのひとの愛人なんだから。
気が向いたらお誘いに乗るし、抱かれてくるわ。
それでもあなた、私のこと愛してくれる―――?

言葉の代わりに重ね合わせた熱い接吻は、さっき空き地でしたそれとは、まったくちがうのものだった。
妻は「ずるい」と言いながらも、いちど離れた唇をもういちど、重ね合わせてきた。


あとがき
思わず長くなっちゃいました。 (^^ゞ
描いている最中に、「杜子春」みたいなお話だなあと思いましたが、いかがなものか。 (⁻_⁻)
今朝のお話はすべて、入力画面にじか打ちで描きました。
こういうスタイルで描いているときは、ノッているときなんですね。

ひとりを耐える。

2017年05月06日(Sat) 08:03:04

妻が、吸血鬼に犯された。
相手は、わたしのことをなん度も咬んだ男だった。
顔色を悪くしているわたしを気遣って、あとを尾(つ)けてきて、巻き添えのように難に遭ったのだ。
貧血でくらくらしてしまっていたわたしは、卑猥な猿臂から妻を救い出すことができなかった。
血を吸い取られてぐったりとなった妻がスカートをたくし上げられ、ストッキングをずり降ろされてゆくのを、
なすすべもなく、見せつけられてしまっていた。

つぎの日の夜から、妻は真夜中になるのを見はからって、わたしに黙ってひっそりと出かけていった。
スカートを着けるのは、裏地に淫らな粘液で濡らされるため。
ストッキングを脚に通すのは、卑猥な唇で舐め心地を愉しませるため。
そうと知りつつも、よそ行きの装いに身を整えて、しっかりとメイクまでして出かけていった。
あとを尾(つ)けたわたしは、ふたりの逢瀬を遠くから見守るだけだった。
血を吸う相手に過ぎなかったわたしの身体を気遣っていた吸血鬼は、妻にも親切だったから。
妻の身を気遣って血を吸う量を手かげんする愛人を、妻はさらに気遣って、「もっと吸って」と懇願していた。

吸血鬼が妻を誘うのは、週一の頻度だった。わたしのときで、懲りたのだろう。
毎日呼び出されていたわたしの機会はめっきり減って、妻と同じ週一に「格下げ」されていた。
健康を取り戻したころ、勘定が合わない理由にやっと気づく。
ご近所の主婦たちがなん人も、妻と同じ目に遭っているとわかったから。

彼はほかの女を大勢、相手にしている。
お前は彼だけでもいいの?
はしたないと思いながら、妻に訊いた。
隣の奥さんは、それが嫌だといって、ご主人の了解を取り付けたうえで、なん人もの男性を交際相手に選んでいた。
彼の話題になると、いつも目を伏せながら本音を語る妻。
そのときも羞じらいながら、口ごもりながら、直截な問いにたどたどしい答えを返してきた。

私はひとりで、いいんです。
だって、真剣交際のつもりなんですもの。

そのいじらしさを相手に伝えたわたしは、思い切ってつけ加える。

妻が自分の意思で始めた交際だから、わたしは咎めようとは思わない。
けれども、どうか妻を粗略に扱わないでもらいたい。
わたしにとっても、たった一人の妻なのだから。

それ以来。
妻の命がけの恋の逢瀬は、週一から週二に、格上げになった。
週に三度の逢瀬は貧血をもたらすもの。
時にはそれが三度訪れることに、いまでは夫婦ともに満足を感じてしまっている。


あとがき
前作との関連作です。
吸血鬼との交際を、晴れて夫に認めてもらった妻たちの身の処しかたを描いてみました。
相手は人の生き血を欲する身。
ひとりの女を守ろうとすれば、必然的に相手を吸い尽さなければならないことになるという宿命。
だから吸血鬼は、毎晩女を取り替えます。
けれどもひとりひとりの女には、女それぞれに意思を持っています。
命がけでもある交際をつづけるほどの真剣さを、相手にわかってほしいと願い、
あるものは大勢の男にかしずかれることを選び、
あるものはそれでも耐えて男の招待を待ち続けます。

本作では、そうした妻のいじらしさを、夫みずからが妻の愛人に伝えています。
妻が吸血鬼の目に留まって召されるということは、妻の生命を危険にさらすことでもあります。
同時に、本作のように吸血行為に愛の好意が伴う場合、夫が妻の願いをかなえようとするということは、
妻をほかの男にみすみす抱かせるという意味にすらなってしまいます。
そういう意味で本作の夫の行動は、あり得ない設定かもしれません。
でもそのいっぽうで、「妻のしんけんさを相手に伝えたい」という部分は、夫としてはまっとうな部分のような気がしないでもありません。

「夫ですらかなえてやりたくなるほどの、妻の真剣交際」
やっぱり、あり得ない設定ですね。 (^^ゞ


「一体多数の関係。」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3443.html

「はしたないですよ。」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3452.html

はしたないですよ。

2017年05月06日(Sat) 07:34:37

はしたないですよ。
貧血をこらえながら、わたしはやっとの思いでそういった。
愛人を作ったらしい妻。
真夜中になってからおめかしをして出かける妻の後をそっと尾(つ)けていって、
相手の男の邸を突き止めて。
施錠されていないのをよいことになかにあがりこんで、二人のいる現場を抑えてみたら。
相手は、吸血鬼だった。
その場で血を吸われたわたしは、尻もちをついたまま。
くり広げられるふたりの愛の劇場を、否応なく見せつけられるハメになった。
夫のまえでヒィヒィ喘ぎながら、お尻を突き出す妻を見て。
わたしがそうたしなめたのは、むしろとうぜんのことだろう。

はしたないですよ。
吸血鬼の愛人は移り気で、始終ほかの女の尻を追いかける。
待ちぼうけを食わされた妻は不満そうだったが、
とことんつき合いつづけたら吸い尽されてしまうという現実だけは、よく理解していた。
相手もそれを慮って、相手を多数確保しているのだ。
「私一人を見てほしい。それが無理なら、せめて私も大勢にかしずかれたい」
思わず本音を口走った妻に、わたしはまたも同じ言葉をくり返すだけだった。
きっとまた・・・上の空で受け流されてしまうだろうことを、承知のうえで。

はしたないですよ。
望みどおり、なん人もの男をあてがわれた妻は、きょうも夫以外の男を夫婦のベッドに引き入れている。
自宅の玄関の前、夜這いの男がひっそりと佇むと。
妻は男を家にあげて、男にわたしを縛り上げさせて。
わたしは間男の欲求を遂げさせてやるために、夫婦のベッドを否応なく明け渡させられる。
そんな境遇にガマンできたのは。相手の境遇を知ってしまったから。
彼らもまた、吸血鬼に妻を寝取られたもの同士だったから。
たしなめたのは、妻のほう。
たしなめられたのは、わたしのほう。
奥さんを目のまえで犯されているのに、あなた勃っちゃっているのね。
ことさら眉を顰めて非難を向けるそのまなざしは、むしろ楽しげだった。

はしたなくは、ないかもね・・・
大勢の男が自分の身体を通り過ぎて。
妻はひとつのことを学んだらしい。
女に群がって来る男の大半は、たんに身体目あてなのだと。
いまでも、吸血鬼の犠牲となった人妻の夫たちのため、妻は週一でお勤めに励んではいるけれど。
昼間をいっしょにすごすのは、さいしょに作った愛人と、そして夫であるわたしだけ。
真剣交際なんだね。
吸血鬼との仲を冷やかすと、妻は「そういう言い方は、はしたない」と、言葉を切って断言したけれど。
「あなたと同じくらいにね」と、向こうを向いて呟いた。
「はしたないって、言うんでしょう?」
恐る恐る問いかけをした妻に、わたしは呟きかえしていた。

はしたなくは、ないかもね・・・


あとがき
ちょっと前に描いた「一体多数の関係。」の関連作です。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3443.html

一対多数の関係。

2017年04月17日(Mon) 08:10:51

吸血鬼に献血を始めるようになったのは。
妻が作った愛人が、たまたま吸血鬼だったからです。
ふたりの関係を終わらせようとして訪れた相手の男の家でわたしも咬まれ、血を吸い取られて理性をなくし、
その場でくり広げられた愛の劇場を、さいごまで見物させられる羽目になっていました。

妻の相手は手練れの男で、愛人は妻だけではありませんでした。
さいしょのうち、妻はそのことが不満だったようですが、
彼の旺盛な食欲を考えると、ひとりで相手をするのは無理だとわかったのでしょう。
そこはあきらめることにしたようでした。
でも、妻はわたしに訴えました。
一人対多数なんて、なんか嫌。私も多数の中に入りたい――と。
そう、彼女自身も、多数の愛人と関係を持つことを望んだのです。
首すじに妻と同じ咬み痕をつけられてしまったわたしは、唯々諾々、妻の希望をかなえてやるしかありませんでした。

相手と言っても、吸血鬼というわけにはいきません。
しかし吸血鬼は、かっこうの相手を、妻のために用意してくれました。
そう――それは、自分が寝取った人妻の夫たちだったのです。
以来妻は、法事の手伝いに行くと称して、黒ずくめの礼服姿で、街はずれの荒れ寺に出入りするようになっています。
そこで、自身の貞操の喪を弔う行為に熱中しているのです。
わたし自身も――さいしょのうちこそためらいはあったものの――妻に帯同してお寺詣りをし、いっしょに妻の貞操を弔うことにしています。
そこに集う男たちは、妻を汚す忌まわしい存在であると同時に、わたし自身の裏返しのような存在でもあるのですから。
その場所は、多数の男を相手にする人妻が集う場所でもあると同時に、
妻を吸血鬼に寝取られた夫たちが、愛人自慢をする場でもあったのです。

いちずな妻

2017年04月17日(Mon) 08:03:21

「ねえ、どうしてもあたし一人というわけにいかないの?」
妻の真悠子はいちずな顔つきになって、相手の男に話しかけていた。
男は真悠子から吸い取った血を、まだ口許にしたたらせていて、それを指先でもてあそんでいた。

夫婦ながらこの男に襲われたのが、ひと月ほど前のこと。
さいしょに咬まれた俺は、意識をもうろうとさせながら、いちぶしじゅうを見届ける羽目になっていた。
妻は俺の時と同じように首すじを咬まれ、キャッと叫び声をあげ、クラッと目まいを起こしてその場にひざを突いていた。
じゅうたんに伸びた脚を包んでいた肌色のストッキングが、男の好色な唇にくまなく舐め尽されたうえ、みるかげもなく咬み破かれてゆくのを、俺は歯噛みをしながら見つめるばかり。
妻は身体じゅうの血を舐め尽されたうえ、俺の目の前で犯されていった。

それ以来。
のぼせあがってしまった妻は、すっかり吸血鬼の虜になっていた。
呼び出されるままに夜中に出かけていって、公園の片隅で抱きすくめられ、
よそ行きのスーツを草切れだらけにさせ、ブラウスを惜しげもなく血浸しにして、
ことのついでにスカートの奥は、半透明の粘液で、これまた惜しげもなく浸していったのだ。
帰宅した妻に息荒く迫って、愛人相手のセックスにまだ火照った身体を抱いてしまったとき、
俺は無言でふたりの関係を認めたことになってしまっていた。

妻は嫉妬深い女。
俺がなんどかしかけた浮気は、いずれも血みどろの修羅場で幕切れになった。
そんな妻のことだから、吸血鬼が夜ごとに相手を変えて夜の街をさまようことに、我慢がならなかった。
けれども、吸血鬼に毎晩抱かれてしまったりしたら、そこに待つのは死――
そう、ひとりの身体にめぐる血液の量では、彼らを救うことはできないのだ。
奥さんに逢うのは三日にいちどにする。
そんなヌケヌケとした宣告だけは、俺自身も納得して受け止めていた。
しかし、理屈では納得した妻は、やはり納得し切ってはいなかったのだ。

ひとつだけ、方法がある。あんたが吸血鬼になることだ。
男は怖ろしいことを提案した。
周りの人間どもの血を吸って、その血で自らの身体を満たすがよい。
わしはお前を毎晩抱いて、お前の身体だけから血を啜り取る。
「いいわ、それ、すごく、いい」
妻は声をはずませて俺のほうをふり返ると、伸びた犬歯をガーッとむき出しにした。
・・・・・・。
・・・・・・。
俺の体内の血液は、最愛の妻によって一滴残らず吸い尽された。

「よかったじゃない。あなたもよりどりみどりで」
自分が吸血鬼になることで、吸血鬼を独占することに成功した妻は、今夜もニッと笑って白い犬歯をむき出しにする。
妻が自宅に引き入れるのは、男。
そしてその数日後、なにも知らないその男の妻が、憤然として玄関に立ちはだかる。
そちらの面倒を見るのが、俺の仕事。
夫の浮気相手の女に面会を求める人妻は、そろいもそろってこぎれいなスーツでばっちりとキメていた。
どこか釈然としないものを感じながらも、
うつ伏せに倒れたスーツ姿のふくらはぎに這い寄って、ストッキングに包まれた脚に唇を吸いつけるときには、すべてを納得してしまっている。
人の女房を寝取った亭主はその見返りに、目のまえでの夫婦交換を強要されて、自身も妻の牙で、理性を喪ってゆく――
「こんな生活も悪くはないわね」
妻はそううそぶきながら、次の獲物の物色を始めていた。

期限付きの吸血鬼

2017年04月17日(Mon) 07:38:34

俺は薄ぼんやりとした頭を抱えながら、目のまえで妻の佳菜美が吸血鬼に血を吸い取られてゆくのを、ただぼう然と眺めていた。
スーツ姿の妻は、自宅の畳のうえにあお向け、大の字になって、すでに意識をもうろうとさせている。
胸元をはだけられたブラウスのえり首にはバラ色のしずくを散らし、唇はただ切なげにあえぎつづけて、
精液に濡れた花柄のロングスカートはまくりあげられて、
肌色のストッキングに包まれたむっちりとした肉づきの脚を、太ももまで惜しげもなくさらけ出していた。

気前よく、自分からすすんで血を吸い取らせている――そんな錯覚に襲われたのは、なぜだろう?
近い記憶では、ついさっきまで自分自身が、そうしていた。
ある程度まで血を吸い取られてしまうと、血を吸われること自体がひどく快感になってしまって、やめられなくなるのだった。
きっと佳菜美も、そうにちがいなかった。
やつは佳菜美の血を、俺のときよりも美味そうに味わっている。
そして俺のときと同じように、佳菜美の血も吸い尽してしまうに違いなかった。
予想通り、佳菜美の体内をめぐる血液を、一滴余さず吸い取ってしまうと、
やつは初めて佳菜美の胸元から顔をあげ、
こっちをみてにまっと笑った。
とても満足そうな笑みだった。
俺も思わず、にまっと笑い返していた。

30分後。
佳菜美はけだるげに体を起こし、身づくろいをしていた。
乱れた髪を手ぐしで整え、頬に着いた血をタオルで乱暴に拭って、
吊り紐の切れたブラジャーを自堕落な手つきではずすと、くずかごのなかに放り込み、
くまなく唇を当てられて咬み破られてしまったパンストを脱ぎ捨てると、これもくずかごのなかに放り込んだ。
血がないのに身体が動いている――ということは、俺たちはその場で吸血鬼になってしまったのか?
「お察しのとおり」
俺と同年輩の吸血鬼は、またもにまっと笑った。
悪戯をしかけた悪童が、自分のしかけた悪戯がばれて舌を出すときみたいな、そんな笑いだった。
お前の女房は寝取ってしまったからな――そう言いたげな得意そうな笑みに、俺はむかっ腹を立てた。
「あんたがたは、他人の血がないと生きていけない。
 生き延びたかったら――そうだな――知り合いや親せきを一人ずつ家に招んで、血を吸うんだな。
 まず手始めは、息子と娘から血をもらうことだな」
「冗談じゃないわ!よりにもよって自分の子供からだなんて!」
妻は猛反発したし、俺も相手を罵った。
「そんなことないよ」
ふすまの向こうからの声に、俺たちはビクッとしてふり返った。
「僕たちの血でよかったら、吸いなよ」
半ば怯えた顔つきが、それでもはっきりとした意志を言葉にしてつむいでいた。
「小父さん、父さんと母さんを死なせないでくれて礼を言うよ。どういうつもりか知らないけどさ」
吸血鬼は、ふふんと笑った。
「親に似ずにいい子たちだな。せいぜい助けてもらえ」
やつはそう言い捨てて、スッと姿を消した。
妻の佳菜美のほうをかえりみると、もう顔つきが変わっていた。
もの欲しげな表情に、「若い子の血が欲しい」って、書いてあった。
「あなた、正美の血をもらうといいわ。あたし、勝哉のをもらうから」
妻に仕切られるまま、初めての吸血行為が、ぎこちない近親相姦のように始められた。
息子の勝哉は佳菜美の腕のなかで、
観念したように目を瞑った娘の正美は俺の腕に抱かれたまま、
うら若い血液で干からびた親たちの血管を浸してくれていった。
「あたし、父さんのために友だち家に招ぶからね」
腕のなかの正美のささやきに、俺は浅ましくも、「頼むね」と、言いつづけていた。

「あの子たちがまじめで、よかったわね」
「まったくだ。さすがに実の娘とセックスするわけにはいかないからな」
ホホホ・・・佳菜美がいやな笑いかたをした。
「あなた、怒るかもしれないけれど――あたしが家に招ぶ第一号は、浮気相手にするわ。奥さんがあたしに会いたがってるの」
浮気相手の妻が面会を要求する。
妻の言いぐさはさりげなかったが、それは修羅場じゃないかと、俺は思った。
「修羅場じゃなくしてしまいましょうよ」
自分のしたことを棚にあげて、妻はしゃあしゃあと俺を誘惑した。
あのひとの奥さんって、美人なのよ・・・と付け加えることを忘れずに。

翌日はたしかに、修羅場だった。それも一方的に、向こう夫婦にとって。
こういうときのつねとして、相手の奥さんはこぎれいなスーツでキメてきていた。
「たしかに美人だな」
俺は浮気妻をふり返って、にんまりとした。
「気に入って良かったね」
佳菜美は自分の亭主が浮気相手の妻に舌なめずりするのを、他人事みたいに笑って受け流した。
十数分後。
妻はいつもの浮気セックスに励んでいたし、
俺は俺で、ダンナのまえで人妻を抱くという素晴らしい経験を、満喫してしまっていた。
パンストを破られた脚をばたつかせて泣きじゃくりながら犯されていった女は、俺が首すじからそそぎ込んだ毒液にほだされて、
ものの数分もすると、もっと・・・もっとお!って、よがり狂っていた。

娘の同級生を襲ったのは、つぎの日のことだった。
「制服汚しちゃダメよ」
娘はそういって友だちに催眠薬入りのジュースを飲ませて眠らせると、
彼女の履いている紺のハイソックスをずり降ろして、ふくらはぎをあらわにした。
「ここなら目だたないから。一回血を吸ったら、いうこと聞くんでしょ?」
そういえば。
あのあと吸血鬼にも血を吸われてしまった娘は、毎晩のように制服に着替えると、どこかへと出かけてゆくようになった。
「処女の血って、人気あるみたい」
うつろな声色の呟きをうっかり聞き流しにして、俺はむき出しのふくらはぎに唇を吸いつけていた。
ピチピチとした生気を帯びた生硬な素肌が、俺の牙を妖しく疼かせた。

俺の父や兄は、妻の佳菜美が。
母や兄嫁は、俺自身が。
佳菜美の父と義弟は、妻の佳菜美が。
義母と佳奈美の妹とは、俺自身が。
そう、男は女の、女は男の血を欲しがるものなのだ。
そんなふうに俺たちは、周囲の男女を次々と、毒牙にかけた。
自分自身が灼けつくような渇きから、逃れるために。
そしてあっという間に、ひと月が経った。

「だいぶおおぜい、餌食にしたようだな」
吸血鬼はにんまりと笑った。
抑えつけた佳菜美から吸い取った血を、口許からしたたり落しながら。
「よくやった。褒美にお前たちを、もとの人間に戻してやるよ」
そういうとやつは佳菜美の首すじを咬み、俺の首すじにも咬みついた。
咬まれた牙から注入されたおびただしい液体が、俺にもとの生気を取り戻させた。
「どういうことなんだ」
「あとは俺と仲間とが、引き継ぐことにする。
 なにしろ、人間どもは警戒心が強いからな。
 見ず知らずの人間や、行きずりの人間を襲って血を吸うのは、結構難儀なのだよ。
 だから、お前たちを利用した。
 お前たちだったら、気を許して一人で家に来るやつがいるからな。
 これで、お前たちの周囲の人間は、全員俺たちの奴隷となるのだ」
そういうことだったのか――かすかな後悔が胸をかすめる。
そんな俺の胸中を察したのか、妻が言葉を添えた。
「あなた、毒を喰らわば皿までも よ」

こんどは血を吸われる愉しみが経験できるのよ。
あたし、たっぷり抱いてもらうの。あなたも好きなひとを選ぶといいわ。
あたしたちも、愉しんじゃいましょ。
そういえば、あたしの浮気相手の奥さま、言ってたわ。
貴男に血を吸ってもらえるのなら、亭主のしていることに目をつぶってもいいっていってくれてるの。

あんた、糖尿だね?

2017年04月09日(Sun) 09:53:23

「あんた、糖尿だね?」
貧血を起こしてぶっ倒れたわたしの顔をのぞき込んで、やつは言った。

自宅に侵入した吸血鬼に手もなく首を咬まれたわたしは、ものの数分間でギブアップして、
リビングのじゅうたんの上に、寝そべってしまったのだ。
「血を吸わせてもらったお礼に、ちょっと毒素を抜いておいた。
 あしたの人間ドックの結果、ちっとはよくなっているかもな」

自分の血を吸った相手に、わざわざお礼を言うのも変だな・・・と思っていると、
物音を聞きつけて、妻が入ってきた。
「どうしたんですか?えっ!?どなたですか!?」
あわてる妻もまた、わたしとまったく同じようにしてやつの猿臂に巻かれ、首すじを咬まれてしまった。

四十路女の熟れた血潮を、たっぷりとたんのうさせていただいた――あとで聞かされた、やつの言いぐさ。
たしかにやつは、妻の生き血を見るからに美味そうに、呑み耽っていった。

妻の場合は、それだけではすまなかった。
生き血を恵んでくれたご婦人とは、やたらと仲良くなりたがる・・・
巷のうわさをわたしは、直接見る羽目になっていた。
なにしろ、ひどい貧血で、身じろぎひとつできないでいたのだから。
そのあいだ妻はずうっと恥じらいつづけ、「あなた視ないで」と、苛立たしそうに言いつづけていた。
ワンピースのすそを腰までたくし上げられたまま、妻はなん度もイカされていった。
やつは欲望を果たしてしまうと、はだけたワンピースから覗いた胸の谷間から顔をあげて、
「ご主人すまないね」とわたしに向かってわびながらも、もういちど妻の首すじに唇を吸いつけて、咬みついていった。

妻はまだ、意識があった。
咬まれてゆくふくらはぎを見おろしながら、
穿いていたストッキングを舌でいたぶられ、チリチリに咬み破かれてしまうのを、妻は悔しそうに見守っていたが、
股間に荒々しく手を入れられて、破けたストッキングをつま先までずり降ろされて、ポケットのなかへとせしめられてしまうを、
もう無抵抗で受け容れてしまっている。

「ありがとう。時々吸わせてくだされや」
リビングであお向けになったままのわたしたちに、吸血鬼はねぎらうような声色で言い捨てて、忽然と姿を消した。


今夜も妻は、きちんとした服装に着替えると、やつの棲み処へと出かけてゆく。
「いいの。自分の役割わかっているから」
一本気で勝気な妻は、きょうもわたしの制止を振り切って、面と向かった化粧台から振り向こうとはしなかった。
しょせん私たちは、栄養源。それでもいいの。
家庭を壊したくはないし、彼もそれは望んでいない。あくまでご主人の顔を立てたいっていうの。
私もちょっとの貧血なら耐えられるし、なによりも――血をあげればその見返りに、愛してくれるから。

慰みものにされて咬み破かれてしまうと知りながら、ストッキングはいつも真新しいものを脚に通して。
「履き古しなんかだったら、恥かくから」
さいしょに襲われたとき、たまたま履き古したストッキングだったことを、彼女はまだ悔やんでいるらしい。
初めて咬み破いたストッキングは宝物なのだといって、恥じて回収したがる妻の求めに、やつは応じてくれないのだという。
そんなたわけた話まで聞かされながら、わたしもまた首すじの咬み痕を日々新たにし続ける日常。
しょせんわたしのほうは、栄養源なんだろう?ほんとうの目当ては、家内だろう?
問い詰めるわたしをまえにやつは、夫婦ながら血を吸うのが趣味なのだとしゃあしゃあと応えたものだ。
そういえば。
人間ドックの数値は、年々改善のきざしをみせて、担当医がいぶかるほどになっている。

考えてみれば。
すっかりご無沙汰だった夫婦の営みは、
やつの来訪を機に復活し、特に妻がやつの棲み処から戻ったあとは、迷惑がられるほどに強くなってしまっていた。

夫の心得。

2017年02月28日(Tue) 06:33:38

この街に棲み着く吸血鬼たちは、寛大な心の持ち主です。
狙った相手の生命を奪うことは、まずありません。

血を吸うために襲った後は、物騒な夜道を、家までエスコートしてくれます。
飲む血の量も、かなり手かげんしているはずです。
もしも奥さんがお勤め帰りの夜道を襲われて、襲った相手に伴われて戻って来たら。
奥さんの着ているブラウスがはだけたり、スカートのすそが乱れたりしているのは見て見ないふりをして。
奥さんの体調が戻ったら、今度は貴男が奥さんを連れて、彼の許に送り迎えをしてあげましょう。

狙った本人をいきなり襲うとは、かぎりません。
吸血鬼が人妻を狙うとき、まず夫のほうにアプローチしてくることもあります。
もしも奥さんに求愛されたなら、
気前よく、誘惑するチャンスを与えてやりましょう。
そして奥さんが相手の魔手に屈したなら、
いさぎよく、二人の仲を認めてやりましょう。
「わたしが家にいないときだけにしなさい」とか、
「わたしが家にいるときは、行き先をいちいち告げずにお出かけなさい」とか、
それだけ伝えれば、じゅうぶんです。

寛大なご主人には、特典が与えられます。
ふたりが仲良くしているところをのぞき見することが許されるのです。
かりにも奥さんが、吸血鬼に生き血を吸い取られるのです。
夫として、気にならないはずはありませんよね?
血を吸われてしまった後、ふたりが自然の摂理に身を任せることに、寛大になりましょう。
見返りに、奥さんがヒロインの淫らな劇場に、ただひとり招待されることが許可されます。
浮気に励む奥さんを覗くのが楽しい――なんて、いちいち言わなくてもだいじょうぶです。
貴男に覗かれているのを感じた奥さんは、いっそう貴男をそそるために、
ふたりの熱い仲を見せつけてくるでしょうから。

奥さんが自分の浮気相手に吸血鬼を選んだときは。
ご家族全員で、献血しましょう。
まだお若いお母さま。
お嫁入り前の妹さん。
年ごろになったお嬢さん。
活きの良い血液を提供できる人たちは、すぐ身近にいるではありませんか。

妻の愛人に、夫である貴男の血を求められたら、気前よく差し出してやりましょう。
その分奥さんの負担が減るし、彼が奥さんを愛する時間も、長続きするのだから。
あなたの奥さんの浮気相手が、男の血には低い関心しか示さないなら、
女の服を着て、応接しましょう。
そうすることで。
襲われる快楽に目ざめてしまった奥さんの気持ちが、いっそう伝わってくるはずだから。

いや、気の毒とも限らない。

2017年02月28日(Tue) 06:17:23

どうしても尾(つ)いていってしまう、妻の密会現場。
わたしの血をしたたかに吸って、ダウンさせたことのあるその吸血鬼は、
夫も黙認する妻の不倫相手。
今夜も喉が渇いたのか、妻のことを呼び寄せて、
ひとしきり血を吸い取ると、逆立てた股間もあらわに、妻を襲う。
二重の意味で襲われる妻は、物陰からのぞき見る夫を意識して、
わざとのように声をあげる。
「あなた・・・あなたぁ・・・ケンイチさんっ・・・許してえ」
自分の名を呼ばれることで最大の昂奮を呼び起こさせると知った妻。
その妻の演技にまんまと引っかかる、愚かな夫。

「ヘンなダンナだと思ってるでしょ?」
上目づかいで愛人を見あげる妻に、吸血鬼はいった。

そうでもないさ。
遠い昔、わしが血を吸われる番だったとき。
目のまえで妻を襲われるのを、やっぱりあんたのご亭主どののように、昂ぶりながら見遂げちまったくらいだからな。

――やつにも、いまのわたしとおなじ番だったことがあるのか。そして、相手を許したのか。
やつの身体に残っているわずかな血は、きっとわたしの血と同じ色をしているのだろう。
ふとそう思ったとき。
首すじに着けられた咬み痕がじわじわと疼き、わたしはある体験をせつじつに求めはじめる。
わたしの血は、やつの体内に吸収されたがっている。
そしてやつもまた――
妻の首すじにもういちど咬みついて、したたかに血を吸い取って気絶させると、
こちらのほうへと性急に、身を近づけてきた。

気の毒なことをした。

2017年02月28日(Tue) 06:07:26

かなりたっぷりと、血を吸ってしまった。
ご主人明日も、仕事なんだろう?
気の毒なことをした。

そういって、主人のことをしきりに気にかけるこの吸血鬼。
あたしを強引に愛人にしてしまってから、三か月後のことだった。

どうしてそんなになるまで吸ったのよ?美味しかったの?
そうじゃないけど、彼が抵抗をやめなかったんだ。ぶん殴られるのが怖くって、ついやりすぎたんだ。
ばかねぇ・・・
どちらの男に対してもそう呟いているあたしは、きっと悪い女。絶対、悪い妻。

彼は薬瓶をひと瓶、夫のために飲ませるようにと置いて行った。
翌朝、あたしに言われるままに薬を飲んだ夫は、けっこう元気を取り戻して、出勤していった。

うちの家の名前に泥を塗るやつを許すことは、とうていできないけれど。
喉が渇き過ぎたら、悪いことをするんだろう?
お前が献血して慰めてやらないと、そういうことになるんだろう?
だったらわたしが留守の時に家に招(よ)ぶか、わたしがいるときには出かけていって、献血すればいいじゃないか。
でもいちいち、わたしに断らなくていいから。
そんなこと――夫として許可するわけにいかないだろう?

まわりくどい寛大さをぶきっちょに示す夫に、あたしは妻としての最大の感謝を示す。
あとからついてきて、のぞき見する夫のまえ、ポルノ女優みたいによがってみせて、
ふたりの熱い関係を見せつけてあげることで。

お互いを気遣い合う、男ふたり。
きっとふたりは、同じような血の持ち主なのだろう。

通い合う村

2017年02月28日(Tue) 05:53:31

ある村では、家長だけが人妻に通う資格を持つという。
そして、その家の長が人妻のもとに通う夜、ほかの者がその家に住む人妻に通うことができるという。

「お宅のお父ちゃん、夕べはうちに来たんだぜ」
幼なじみの健吉にそういわれて、富美也はちょっと照れくさかった。
一家の長が夜だれかのお宅にお邪魔するというのがどういう意味なのか、もちろんよく知っているから。
そして夕べは、一家の長のいない家として、自分の妻がよその男に抱かれた夜だから。
「そっか。うちには伯父貴が遊びに来た」
富美也もさりげなく、健吉にそういった。
「そうか。お互い様みたいだな」
健吉は人ごとのようにそういうと、ひと呼吸おいてから呟いた。
「ああいうのって、つい視ちゃうよな」
「お前も?」
驚いて振り向く富美也の反応は、健吉にとって予想外だったらしい。
けれども見つめる目と目がお互いに対する共感を認め合うと、
ちょっとだけ照れくさそうに、健吉は笑った。
「うちでよかったらいつでもどうぞって、お父ちゃんに伝えといて」
どうやら富美也の父にとって、健吉の若妻はお得意先になっているらしい。
「ウン、わかった」
つとめて明るく返すと、健吉はなおも言った。
「でもさ」
「なに?」
「お前のお父ちゃんのほんとの狙いって、じつは貴和子さんなんじゃない?」
貴和子は、富美也の妻である。

そうかもしれない、と、富美也は思う。
戯れに若い嫁のお尻を触るくらい、ごくふつうの日常のように思っていたけれど。
父の貴和子に対する戯れは、執拗なところがあった。
スカートの奥に手を入れられたことも、二度や三度ではない。
それも、富美也の見ているまえでのことだった。

「今夜、貴和子が健吉のとこに泊まることになったから」
勤めから戻った富美也は、父の聞こえるところで母にそういった。
「おやまあ、急な話だねえ」
母親はなんの疑念も持たない声で、返してくる。
「あちらの冬子さんとは、昔から仲良しだもんねえ」
疑念のない声色は、それでもじゅうぶんに、耳をそばだてる夫の気配を意識していた。
そう――富美也が「開花」したのは、母がまだ若いころ夜這いを受け容れているところを目にしてしまったのがきっかけだった。
時代はくり返すんだな、と、富美也は思った。

案の定お父ちゃんは、夜になるとどこかへと、いそいそと出かけていった。
母は母で、だれかのところに電話をかけている。
久しぶりに、若い衆を呼び込むつもりらしい。
富美也は居場所のなさを感じたが、さりとて父が妻に通う図を見たいとは、さすがに思わない。
健吉はたぶん、夫婦の営みを交わすのだろう。
義父と嫁とが密通する部屋とは、部屋を隔てて。
一見なんでもないはずのひと晩が、富美也にとっては、とてもとても長かった。
あくる朝、晴れ晴れとした顔で、時間差を置いて帰宅した父と妻とを、富美也は腫れぼったい顔で出迎えていた。

以来折々、妻の貴和子は夜健吉の家に出かけるようになった。
そのあとを追うようにして、父もまた、そわそわと家を空けるようになった。
母は母で、昔なじみの若い衆を、家に引き入れるようになっていた。
「あんたも、覗きに行けばいいじゃないか」
母はあっけらかんと、息子に笑いかけてくる。
のどかな土地だ、と、改めて富美也は思う。

そのうちに。案の定。
健吉の家では、男どうしが獲物を取り替え合っていると、聞こえてきた。
もともと父は、健吉の若妻と好い仲だった。
富美也の妻の貴和子が健吉の家にしばしば泊りに行っていることは、もう近所では評判になっていたから、
貴和子と健吉の仲が取りざたされるのも、ごくしぜんな成り行きだった。
健吉はいまでは、手持無沙汰な夜を過ごすことはない。
幼なじみと新妻とが乱れ合う夜は、うぶだった健吉にとって刺激の強すぎる眺めだったが、
父と母から受け継いだ血が、それを歓びに塗り替えていくのに、そう時間はかからなかった。

健吉の父もまだ健在だったから、人妻に通う権利をもたなかった。
けれども、
夫が承知している場合は、自由に人妻と逢って構わない。
そんな便利な不文律も、この村には伝わっているのだった。

義父を迎えるため、貴和子が初めて外泊をした夜。
表むきは、健吉と貴和子が通じ合うのを、貴和子の夫が承知した――そういうことになっていたから。

ひとつ夜。
父は息子の幼なじみの若妻と、息子自身の新妻を代わる代わる抱く。
その家の若い夫は自分の妻が抱かれるのを目の当たりにしながら、自分は幼なじみの新妻に息荒く挑みかかる。
まだなんの権利も得ていないもう一人の若い夫は、けれどももっとも貴重な権利を手にしたかも知れなかった。
妻が時間差でまわされるところを、夜通したんのうする羽目になっていたから。

主婦の日常

2017年02月25日(Sat) 07:48:18

もう、女引退かと思っていたころなのに。
そんな私のことを”女”として遇してくれたのは、主人のお友だちの吸血鬼だった。
とっくに咬まれていた主人にいわれるまま、”進呈”されてしまった私――
セックス経験のあるご婦人を襲うとき、抱かれちゃうということまでは、主人もその時初めて知ったみたい。
んん~~・・・むむっ。
貧血で尻もちをついたままのかっこうで。
心臓の発作でも起こしたのかしら?って心配になるくらい青筋立てて、
それでもスカートの奥をまさぐられてしまっている私のことから目を離せなくなって、
とうとうしまいまで、まんまと見せつけられちゃっていた。

それ以来。
うう~ん。むむっ。
でも相手があいつだったら、まぁ仕方がないか・・・って。
浮気つきの献血訪問は、夫婦のあいだでのお約束になってしまっている。

こんなんで、良いかしら?
玄関に入ってすぐ、よそ行きに装った足許を、靴も脱がずに見せてあげる。
ああ、嬉しいね。あがんなさい。
そういわれて初めて、敷居をまたぐことを許される。
たまに・・・靴の感じが良いからと、庭先に連れていかれて咬まれたことがあるから。
あのときは。
新調したスーツのジャケットの、背中じゅうに枯れ葉がくっついて。
帰りの身づくろいが、たいへんだった。

きょうみたいに、すんなりと家にあげてもらうと。
すぐには咬みついたりせずに、お紅茶タイム。
私が紅茶好きだということは、主人に逆に教えてあげたみたい。
好みの銘柄までちゃんと抑えてくれていて、
私はしばらくのあいだ、素敵な老紳士と知的な会話のティー・タイムを愉しむ特権を与えられる。

ではそろそろ・・・と言い出すタイミングも、このごろはなんとなくだけど、わかってきた。
私はソファから起ちあがり、楚々とした足取りで、隣の日本間に向かう。
最近はいつも、彼の好みに合わせて、ストッキングは黒を穿くようになった。
肌の透けるような、なまめかしい薄い黒――
いやらしいですよね?って、念を押してあげたら。
くすぐったそうにクスッと笑い返してきたっけ。悪いひと。

いちど、法事の帰りに喪服のまま立ち寄ってみたら、すごいことになってしまった。
そのまま夜通しになっちゃって。さすがに心配した主人が迎えに来てくれて。
主人まで血を吸われて、目を回して寝そべってしまった隣で、獣のようにむさぼられてしまった。
かわいそうに、主人はかた無し――でも、自業自得よ。あのひとに私のことを襲わせて、血を吸わせちゃったのはあなただから。

日本間にうつ伏せになろうとしたら。
後ろからとつぜん、羽交い絞めにされていた。
いつの間にそんなものを用意したのか?手にしているのは荒縄だった。
慣れた手つきでするすると、私の身体に回していくと。
小鳥を罠にかけるように、ギュウウッ・・・とつよく、縛り上げられてしまった。
やだ・・・こんな趣味持ってるの?
思わず蓮っ葉な言葉遣いになって、お里が知れてしまった私のことを。
舌なめずりをしながら、眺めまわして。
ウヒヒヒヒッ・・・と、下卑た笑いを口許に含ませて、彼もまたお里の知れる行為に耽りはじめる。

薄い墨色のストッキングを通して。
ぬるぬる・・・ぬるぬると。ねばりつけられる唇と、舌。
私はひたすら、「やめて・・・よして・・・」と、くり返す。
やめてくれるわけなど、むろんない。
私自身、そんなことなど期待してない。
嫌がる女を征服したがる私の愛人のための、リップ・サービスに過ぎないのだ。
いちど主人が同席しているときに、私が「やめて、イヤよ」をくり返したとき。
「妻がいやがっている」と、間に入ってくれたけど。
あれはほんとうに、見当違い。
彼は主人に遠慮して、私を放してくれたけど――
そのあとおわびにこっそりと、主人に黙って彼を家に引き入れて。
ぐるぐる巻きにされた主人のまえ、たっぷり留飲を下げさせてあげたこともあったっけ。
「空気読めなかった罰ですからね」
そう宣告する私を前に、主人は小さくなって、
「降参、降参ですよ・・・」と、情けない声を洩らしながら、
やっぱりさいごまで、目を放さずに。
永年連れ添った妻の情事を、見届けてしまっていた。

ふくらはぎにチクリ、と、牙を突き立てられるとき。
私はえもいわれない解放感を味わう。
ブチブチとかすかな音をたてて、縦に裂け目が走るとき。
足許の薄地のナイロン生地の束縛感がほぐれてゆくのが、むしょうに小気味よかったりするから。
女って、どうしてストッキングなんか穿かなければならないのだろう?
まだ若いころ。
それが、知的な職業婦人のシンボルだったころでさえ、
反骨精神豊かな(単にお転婆なだけだった?)私は、そんなふうに抗議していた。
吸血鬼の奴隷に、すすんで堕ちたいまでは、そんなにまで忌避したストッキングを好んで穿いて、
憎ったらしい愛人のため、見せびらかして愉しませている。
主人も案外、私がストッキング姿を辱められる光景を、愉しんじゃっているみたい。

脚と首すじとに咬みついて。
五十女の生き血をしたたかに吸い取ったこの男は。
いつも目の色をかえて、私に迫る。
「主人が・・・」
「いけません・・・ッ」
たしなめたり叱りつけたりする私のことを、腕づくで抑えつけ、果たしてしまうのが。
彼はとっても、好みらしい。
その昔。
吸血鬼になってすぐのころ、さいしょに血を吸ったのが、しつけに厳しかったお母様だったのが。
このひとの好みを決めたに、違いない。
だから私は、本音も交えて、叱ってやる。罵ってやる。
ちゃんとしたレディを、面白半分に辱めるものじゃないわ!って。

2~3時間は、楽に過ぎる。
主人が家で待ちわびていても。
私は主人に気を使って早く帰ろうとは思わない。
どうしても私のことが心配になったら、そのうちに。
主人のほうから、やって来て。
あの、法事帰りの夜帰れなくなった時みたいに、
見せつけられる愉しみに、目ざめていくに違いないから。
迎えに来た主人が、付き添ってくれるか。
彼が車で送ってくれるか。
どちらにしても、私がひとりで家路をたどることはない。
夫か間男か。
かならず、どちらかのエスコートつき。
車に乗らない主人が迎えに来てくれるときは、
私は裂けたストッキングをはき替えないで、夫と歩く。
この男の女房は吸血鬼に寝取られたのよ・・・って、すれ違うひとに言いふらすため。

人を好きになると、むしょうにものをあげたくなるらしい。
主人が私をあのひとにプレゼントしたみたいに。
私は結婚前の娘と、息子の嫁までプレゼントした。
処女の生き血をあげられるのは、娘だけだったし、
息子にはちょっと、気の毒だったけど、
新婚妻の生き血は、あのひとも十二分に、たんのうしたみたい。
いまでは嫁姑仲良く連れだって、犯される順番をくじ引きして、
後釜になるほうは、先客の済むのを別室で待ち遠しく待って。
先客になるほうは、後釜の済むのを別室であくびをこらえながら待って。
お義母さま、長いんですね。
京子さんも、しつこかったようね。
お互いあけすけな悪口を言い合って、
それぞれの夫の迎えを待って、スッキリした気分で、家に帰る。

大企業に勤めてストレスたっぷりの日常を過ごす息子は、
妻と妹、それに母親までも吸血鬼に寝取られているという、情けない立場のはずなのに。
なぜかそういう立場にいることを、内心悦んでいるようだ。
父子ともども、ヘンタイだ。
親子二代だねって苦笑するヘンな父子は、それでも自分の妻に寛大で。
その寛大な夫を持ったために、私たちは堕ちて、そして愉しんでいる。

喪服フェチ

2017年02月15日(Wed) 08:11:18

わたしの血を吸った男は、喪服フェチだった。
彼は、妻に喪服を着せたいというそれだけのため、その場でわたしの血を吸い尽す。
男の血にはフェチを感じないらしく、ごくごく事務的な、吸いかただった。
ギャーと叫んで倒れたわたしの意識は、その後も継続を強いられた。
お通夜の晩、だれもいなくなったその席で、男は妻に迫って、喪服姿を掻き抱く。
アアーッ!と叫んで倒れ伏した妻は、黒のストッキングをブチブチ咬み破られながら、ふくらはぎまで侵されていった。

その場で犯された妻は、そのまま吸血鬼の愛人に。
墓場送りになったわたしは、吸血鬼に血を吸い尽されたもののつねとして、吸血鬼として生き返る。
吸血鬼になった夫と、夫の血を吸った男の情婦になった妻。
男はわたしに妻を抱かせ、自分もわたしの目の前で、妻を相手に欲望を果たす。

しまったな。よけいなことをした。仲間を増やすのは、どうにも損だ。
男はそう愚痴りながら、わたしの同僚の妻をさらってきた。
同僚の妻は、わたしの法事のためにと、喪服姿でお寺に来ていて・・・それが運の尽きだったのだ。
なにも亭主が死ななくても、喪服を着るのは勝手だろう?
男は同僚の妻の首すじを噛んで、足許にも咬みついた。
苦痛と屈辱に震える女を目のまえに、
「抱いてもいいぞ。本当は、この女のことが気になっていたんだろう?」
男は文字通り、悪魔のささやきを口にする。
「いいのよ、あなた。想いを遂げても――」
吸血鬼の情婦になり切ってしまった妻まで、わたしのことをそそのかす。

思いを遂げたわたしのかたわらで。
ロープをぐるぐる巻きにされた同僚は、見せつけられた凌辱を目の当たりに、恥知らずな射精をくり返してしまっている。
どうやら、わたしも同僚も、隠れた喪服フェチだったらしい。
同好の男三人は、ふたりの人妻を交えて、その後も仲良くつき合いつづけた。

寸止め。

2017年02月12日(Sun) 06:35:35

いいな?寸止め・・・だぞ。
わかってる。もちろん、寸止め、だ。
男ふたりはまるで合言葉のように、寸止めと念を押し合って、
ひとりは部屋を出て、ひとりは部屋に残って、人待ち顔にソファに背中をもたれさせる。
入れ違いのように入って来たのは、この家の主婦。そして、さっき部屋を出ていった男の妻だった。

いけすかない。
男の妻は口を尖らせて男を睨み、
けれども伸びてくる猿臂を避けようともせずに、そのまま抱きすくめられてゆく。
親友の妻の首すじに牙を突き立てたとき。
男は初めて、本性をあらわにした。

あぁ~っ・・・
血を吸い取られてゆく女のか細い声に満足するかのように、
男は女をギュッと、抱きしめる。
この街に出没する吸血鬼は、血を吸った相手は必ず犯すという。
男もその例外では、なかったはず。
吸血鬼になってしまった親友に、「お前の奥さんの血が欲しい」と告白された男は、善意の持ち主だった。
「でも妻は、ほかの男には抱かれたくないと思う」
そんなふうに妻の身を案じる男に、親友は言った。
「約束する。必ず寸止めにするから」
スカートのなかにペ〇スを突っ込むまでは、赦してくれ。
そのまま吐き散らかして、太ももを濡らすまでなら、ガマンしてもらえるだろうか?と。
妻には言い含めておく、と、善意の夫は言った。

目のまえでくり広げられているのは、明らかに愛し合う男女の痴態。
善意の夫は隣室から息をつめて、情事に耽る妻と親友とを見つめつづける。

一時間後。
寸止め、だったよな?
ああもちろん、寸止めだ。
男ふたりは念を押し合うように言葉を交わし、
夫は気絶した妻をお姫様抱っこして、夫婦の寝室に連れ戻る。
我に返った妻は、今夜も強調するのだろう。
エエもちろん、寸止めだったわよ・・・と。

見返り。

2017年01月11日(Wed) 08:06:45

吸血鬼に、妻の血を吸わせることを余儀なくされたとき。
家を訪ねてきた妻の吸血相手は、手土産に現ナマを、携えてきた。
わたしは言った。
「妻に売春をさせる気はない。なにも受け取らないよ」
彼女と同等の見返りなんて、わたしにとってこの世にあるはずがないのだから・・・って。
男は感に堪えたようにわたしを見ると、
「せめて、寝酒だけは受け取ってほしい。苦痛に感じるのなら、少しは気分がまぎれるだろうから」

毒を含んだ甘美な酒は、妻とわたしの頭のなかを、ほんの少しだけすり替えてくれた。
「なによりの見返りだったよ」
妻が初めて襲われて2、3日経って、ふたたび喉をカラカラにして彼がやって来ると、
わたしはそういって彼を快く迎え入れていた。

究極のエロビデオ

2017年01月04日(Wed) 08:04:18

「またこんなの隠し持って!!!」
夫のコレクションのエッチなビデオを手に、佐代子は潔癖に叫ぶ。
傍らでそれを見ていた男は、そっと佐代子に囁いた。
「どんなに気に入らないものでも、ご主人のものを勝手に捨てたりしたらいけませんよ。
私に好い考えがあります」
「アラ・・・どんな?」
夫と同じ男である来訪者の言にあまり期待しない口調で佐代子は言い捨てると、
「お紅茶淹れますね」
といって、席を起った。
ウェーブのかかったセミロングの栗色の髪が、軽くハミングをしながら遠ざかってゆく。
誘われるように、男も席を起った。
ポケットに手を入れてカメラを自分の映る方角に置き、足を速めて若い人妻との距離を縮める。
伸びた両手が背後から、佐代子の両肩を掴まえた。

「エッチなビデオ、全部捨てましたよ」
佐代子の夫は目を充血させて、男からの贈り物のDVDの光芒が支配する画面に見入っている。
「あんたがくれたこちらのほうが、グッと刺激的なので・・・ほかのものでは昂奮できなくなってしまいましたから」
「お気に召して、なによりでした」
「いえいえ、うちのほうこそ」
夫は初めて画面から目を離し、男に真正面からお辞儀をしてみせる。
「妻の生き血がお気に召して、なによりでした」
画面に映っているのは、押し倒されたじゅうたんのうえ、首すじを咬まれながら喘ぐ佐代子の姿。
「あ、ちょっと待って――いいところなんで」
夫はふたたび、DVDの画面に目をくぎ付けにする。
画面のなかの佐代子は、着ていた花柄のワンピースのすそに手を突っ込まれ、しわくちゃにされてたくし上げられていく。
「女の血を吸うときって、いつもこんな感じなんですか」
画面に目を離さず、虚ろな声で夫が呟く。
「エエ。もちろんそうですよ――礼儀としてね」
「そうですよね。あくまで礼儀上・・・ですよね・・・?」
「エエ、あくまで礼儀です」
「じゃあどうぞ。妻が貴男のことを待ってますから」

画面のなかで悶える妻に、夫は昂奮して視線を食い入らせる。
妻は夫のいやらしい趣味に、終止符を打たせることに成功する。
吸血鬼は悩める人妻を征服に成功し、平和裏に欲望を成就させる。
三人が三人とも、おいしい想いをする。
それを、三方一両得と呼んだとか呼ばなかったとか。

襲われる喪服妻

2016年12月06日(Tue) 08:01:53

吸血鬼に血を吸われて、死んでしまったはずなのに。
意識はなぜか、ハッキリと残っている。
それこそが吸血鬼のしわざなのだと気づくのに、長い刻は要らなかった。

お通夜の席で。
わたしを襲った吸血鬼に、妻までもが襲われた。
きっとやつの狙いはさいしょから、妻だったのだ。
夫の仇敵に迫られた妻は、嫌悪に顔を引きつらせ、必死になって身を護ろうと抗ったけれど。
わたしさえ敵わなかった相手を前に、みるみるうちに羽交い絞めにされ、首すじを咬まれてしまう。

アアアーッ!
ほとばしる叫びは弔問客の立ち去った我が家に空しく響き、
彼女はひたすら、夫のかたきの喉の渇きを飽かしめてゆく。
力なくくずおれる喪服姿にのしかかられて、
畳のうえに伸びるなまめかしい黒のストッキングのふくらはぎに舌を這わされて、
悔し気に歯を食いしばりながら、ストッキングを咬み破られ、ふくらはぎを牙で侵されてゆく――

見せつけるつもりなのだ。
意識の残ったわたしのまえで、妻はむざむざと食い散らされて、凌辱を受け容れていった。

三日後。
妻は自分を襲った吸血鬼の家を、喪服姿で訪れて、深々と頭を垂れる。
もはや征服されきってしまった女は、奴隷になり下がるため、やって来たのだ。
わたしのまえと知りながら。
妻は喪服をくしゃくしゃに着崩れさせながら生き血を吸われ、素肌を愉しまれ、そして堕ちてゆく――
主人のよりも、おっきいわあ・・・
そんなあからさまな言葉さえ口にしながら、堕ちてゆく――

すべてを奪い尽されたあと、わたしは生き返らされ、ふたたび一家の主人として我が家に戻る。
妻はわたしの生還に驚喜して、以前にもまして尽くしてくれる。
そんな妻が、妻ではなくなるとき。
わたしが生き返ったあとだというのに喪服を身に着けて、たったひと言、
「行ってまいりますね」
と、三つ指を突く。
週に一度、妻を奴隷として差し出すことで。
わたしは平穏な日常を取り戻していた。

インモラル・バー ~馴染み客の妻たち~

2016年12月04日(Sun) 07:51:00

カウンターで飲んでいるわたしの後ろを、着物姿の女将がススッと通り抜けていく。
なんでもないすれ違い。
けれどもそこには、背中合わせの意味深なやり取りがある。
女将が向かったのは、地下にある奥座敷。
そこで女将は帯をほどき、襟足をくつろげて。
上客たちのまえ、素肌をさらしてみせるのだ。

上客のメンバーのひとりは、会社重役。
そんないかがわしい会合が、夫の行きつけのバーで交わされている。
ある人からそんなことを知らされた重役夫人は、果敢にもその場に乗り込んでいった。
それが重役夫人にとって向こう見ずな行動だったと本人が知ったときにはもう、手遅れだった。
苦笑いを泛べる重役のまえ。
彼の悪友たちはこぞって鼻息荒く夫人に迫っていって、
彼女が永年守り通してきた品行方正な貞操を、むぞうさに分け取りしてしまったのだから。
それがほんとうは、彼女にとって正しい選択だと本人が知ったのは、だいぶあとになってからだった。
以後重役は、夫人同伴でバーを訪れるようになり、
そういう日に限って、バーは繁盛するのだった。

バーテンは気の良い年配男。
女将が地下の奥座敷に消えるのを見送ると、
お客さんは、よろしいのですか?
と、こちらに誘いをかけてくる。
ああ、もうちょっとしてからね。
わたしがあいまいに応えると、バーテンは黙って、卓上の高級酒のお代わりを注いでくれた。

背後の格子戸が、がらりと開いた。
着飾った女が3人、表情を消して、わたしの背後を通り過ぎてゆく。
格子戸を閉めるとき。
あとを尾(つ)けるものがいないかと後ろを振り返ったのは、見知らぬ人妻。
それ以外の二人は、あとも振り返らずに、取り澄ました顔つきで、
バーテンとわたしが向かい合わせになったカウンターのまえを、通り過ぎていく。

ご紹介がまだでしたね。
バーテンは誇らしげな照れ笑いをしながら、わたしに話しかけた。
ひとりめの女は、うちの女房なんです。
ラメの入ったストッキングの脚が、地下に通じる階段に隠れていった。
自分の妻が店の上客たちを相手に、どういう接待をするのか知っているはずなのに。
彼は穏やかな面差しに感情を隠して、淡々と業務をこなしていく。
そう。
わたしは注がれた高級酒を口に含み、それからいった。
ふたりめの女は、俺の家内だ。

バーテンはにっこり笑い、そしていった。
今夜はもう、看板にしましょう。
お客さんもよかったら、地下へ。

彼は馴染みの客の妻を抱き、
わたしはどこのだれとも知れない人妻を抱き、
妻はわたしの悪友たちの誘惑を受ける。
そんな夜もたまには、いいじゃないか・・・?

最低限の愛情

2016年11月23日(Wed) 22:24:52

妻が吸血鬼に襲われた。
生き血をがつがつと飲まれ、荒々しく強姦までされた。
「ひどいことをする」
白目を剥いて横たわる妻をまえに抗議をするわたしに、吸血鬼はいった。
「だが、わしが本気で奥さんに惚れて、奪われるよりはましだろう」
「それはそうだが・・・せめて敬意をもって接してもらうわけにはいくまいか」
「わかった。こんど襲うときには、最低限の愛情をもって接しよう」
食欲と性欲処理と割り切って妻を襲った吸血鬼は、次からは対応を変えていた。
さりげなく妻の通りかかるのを待ち伏せて、礼儀正しく公園に誘った。
妻も目を伏せながらも、従順にお辞儀をし、彼の誘いに従った。
草の褥のうえ、礼装に身を包んだ妻は、
ブラウスをはだけられ、ブラジャーをはぎ取られ、
スカートをたくし上げられ、ストッキングを引き破られて、
髪振り乱しながら、犯されていった。
脱がす手間を惜しんで交接を遂げるため、ひざ小僧の下までずり降ろされた黒のストッキングが、妻が堕落してしまったことを告げていた。

愛情は終生、あなたのもの。
でも熱情は、時々彼のものになるかも。
そんな私を許して――

目を背けながら囁く妻。
きみを護り切れなかったわたしなのに、彼女は切々と、謝罪をくり返す。
彼女を支配する後ろめたさが、彼と遂げる逢瀬でもたらされた悦楽なのだと気づくのに、時間はかからなかった。

11月15日構想。