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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

吸血私娼窟~幼馴染の母親~その後

2018年09月03日(Mon) 05:23:00

洋司が噛んだのとおなじチューイングガムは、苦かった。
身づくろいをしている母親、美代子の傍らで。
ツヨシはかたくなな顔つきで、ひたすらガムを噛んでいた。
「洋司のママも、きょうだったよね」
息子の言いぐさに「さあどうだったかしら」と美代子は受け流したけれど、
顔にはありありと「そのとおり」と、書かれてあった。
「あなたも、ここに来る権利あるんだからね」
ニッと笑った母親から目を背けて、ツヨシは黙って母の部屋から出ていった。
「お次のかた――」
息子に聞こえるようにあげた声には、事務的な響きがあった。

きょうは、知ってるひとばかり来るんだから。
夫の腕のなか、美代子は軽く拗ねてみせる。
診療を終えてまっすぐここに来たのだろう。
4時半という時計の針が、美代子にそれを教えてくれている。
「4時終了なんて怠け過ぎじゃない?」
そうたしなめる若い妻に「親父の代からの方針なんだ」と答えたのは、もう十年以上も前のことだった。
「ほかにだれが来たの?」
そう訊く夫に憶えきれないほど来たわよといって、美代子は元同僚の医師の名前をひとりだけ告げた。
「あいつか・・・」
夫は苦い顔をしてすこしのあいだ黙りこくったが、
「でもあいつも、奈穂さんをだれかに奪られたってことだよな?」と、妻に同意を求めた。
「なによそんなこと」
お互い様だっていうことで自分を納得させようとする夫を笑い飛ばしながら、
今日はもう一人予約が入っているの、と、彼をドキリとさせるのも忘れなかった。

それはだれ?
問いを重ねる夫を「業務上のヒ・ミ・ツ♪」と受け流した美代子は、
「次の方~♪」
と、夫を無視して声をあげた。
入って来たのは、美代子を初めて犯した吸血鬼だった。
「美代子は元気なようだね」
部屋の隅に夫がいるのを認めた吸血鬼は、すぐに声をかけてきた。
「そのせつは、どうも・・・」
へどもどとわけのわからないあいさつを返す夫に慇懃なお辞儀を返しながら、吸血鬼はいった。
「初めての日にご主人が客として来てくれるというのは、美代子が愛されている証拠だね」
そういうものなのか?と自問する夫を見抜いて、
「だって気になるだろう?」
「エエもちろん」
「でもあなた、もうお時間よ。これがさいごのお客様――今夜は帰らないから、ツヨシと一緒に晩ごはんを済ませてね」
さいごに投げられた所帯じみたひと言が、かえって夫の胸にどす黒くしみた。

夜道を帰りながら夫は思う。
きっとこれからも、妻のこうした振る舞いを許しつづけてしまうのだろうと。
そして、妻と息子との関係も、このまま許しつづけてしまうのだろうと。
今夜は妻を犯した息子と、家で食事を摂る。
きっとお互いに、美代子の帰宅が遅いことさえ話題にもせずに・・・

さっきはさりげなくそうしたけれど。
あとの客に譲った行為――それは妻をほかの男に公然と譲る行為だったのだと初めて気づくと、
夫は独り苦笑して、自分が来た道をもう一度、ふり返った。
闇に包まれた道の彼方、艶めかしい夜が更けてゆくのを見届けるように。

吸血私娼窟~幼馴染の母親~

2018年09月03日(Mon) 05:02:53

アラ、洋司くんじゃないの。ひとり?
声をかけられて振り向くと、通りかかった大きな屋敷の玄関のまえで、美代子がニコニコしてたたずんでいた。
美代子は洋司の親友、ツヨシのお母さんだった。
病院の院長先生の奥さんで、ふくよかな色白の美人。
いつもこぎれいな格好をしていて、洋司はこの親友の母親にひそかに憧れを抱いていた。
もちろんそんなこと、ツヨシにはおくびにも出さなかったけれど。

でも、どうしてこんなところにいるんだろう?
ツヨシの家はここからはだいぶ、離れているはずだ。
変な顔をしている洋司に気がつくと、美代子はいった。
「小母さんね、ここに遊びに来ているの。洋司くんも寄っていかない?」
そういわれて、洋司はとっさにしり込みをした。
見あげると、色付きのガラス窓が周囲の住宅街とは不釣り合いにお洒落で、建物のたたずまいも不自然に洗練されていた。
得体の知れない妖しい雰囲気を、洋司は直感的に感じていた。
「ああ、ここね・・・」
ツヨシのお母さんはちょっと苦笑いをした。
大人の秘密を覗いてしまったような・・・どこかただれた匂いが、彼女の笑みから感じ取られた。
いつも優雅ですこし世間ばなれした美代子小母さんがこんな表情をするのを、洋司は初めて見た。

「知ってるわよね?ここ、私娼窟って呼ばれているのよ。
 あなたはまだ、知らなくても良いか。
 大人の男の人と女の人とが、いけないことをする場所なの。
 でも洋司くんだったらいいわ。
 あなたも、咬まれちゃったんでしょう?」
耳もとに口を寄せて囁く美代子のひそひそ声が、柔らかな呼気となって洋司の耳たぶをくすぐった。
洋司は思わず美代子を見あげた。
美代子の首すじには赤い斑点がふたつ、綺麗に並んでいる。
それは、つい数日前、洋司がつけられたのとおなじものだった。
学校帰りが遅くなった夜8時ころ、洋司は一陣の黒いつむじ風のようなものに巻かれた。
目まいを覚えてその場に尻もちを突くと、つむじ風は人影となって、洋司の首すじを咬んでいた。
うなじに突き刺さる尖った異物が柔らかな皮膚を破り、どろりとほとび出た血潮を吸い取るのを感じたときにはもう、身体じゅうが痺れていた。
30分後。
洋司はふらふらと起ちあがり、家に戻った。
出迎えた洋司の母親は、息子が連れてきた黒い影をけげんそうに見つめた。
一時間後、洋司の家族は全員、生き血を吸い取られていた。

美代子にも、そんなひと刻が訪れたというのだろうか?
くったくなげに笑う白い顔を見つめる洋司の視線に、熱がこもった。
――できれば美代子小母さんのことは、ぼくが咬みたかった。
自分の胸の裡にわいた感情に、逆らうことはできなかった。
目のまえの美代子は、いつものようにこ洒落た洋服姿だった。
清楚な白いカーディガンに淡いピンクのブラウス、ひざ丈のスカートは濃紺で、真っ赤なバラがあしらわれていた。
その花柄のスカートのすそから覗く太ももは、肌の透きとおる黒のストッキングになまめかしく映えていた。
洋司は思わず、ゾクッとした。
美代子はそんな洋司の心中を見抜いたかのように、いった。
「いいのよ、ツヨシには内緒にしてね」
洋司を幼いころから知っている美代子は、子供をあやすように洋司の頭を撫でると、私娼窟の洋館へと彼を誘い入れていた。

良い匂いが部屋じゅうに満ちていた。
不自然なくらい強い芳香に、さいしょはとまどったけれど、すぐに慣れた。
「喉渇いて来たんじゃなくて?」
上目づかいの大きな瞳に、大きく頷いて応えていた。
「たまに母さんが吸わせてくれるけど・・・」
「お腹いっぱいは、無理よね」
長いまつ毛の目許に翳りを帯びて、美代子は同情に満ちた視線を注いでくる。
彼女の白い指がブラウスの胸の釦をひとつ、ふたつと、外していって、
自分から押し拡げた胸元には、ドキッとするような黒いブラジャーの一部が覗く。
洋司の目のまえをどす黒い翳が覆って、彼は美代子を引きずり倒していた。

唇を吸いつけた皮膚のしっとり湿った感覚と、
喉を鳴らして呑み込んだ血液のどろりとした艶めかしさが、
すすけだっていた少年の心を充たした。
喉の渇きが収まるだけで、どれほど人は救われるのだろう?
そう思ったときにはもう、洋司のむき出しの脚に、美代子の黒ストッキングの脚が巻きついていた。
薄地のナイロン生地のさらさらとした感触が、洋司を夢中にさせた――
相手が親友の母親であることも忘れて、洋司は美代子とディープ・キッスを交し合った。

――ここはね、大人の男のひとと女のひととが、いけないことをする場所なの。
美代子は確かに、そういった。
これはいけないことなのか?
女のひとのパンツを脱がせたのも初めてだったし、
こんなに息せき切った口許と唇を合わせたのも初めてだった。
まして、いつも股間の奥にわだかまる感じだったあのどろどろとしたものを、女のひとの股ぐらに注ぎ込むなど、想像さえしていなかった。
美代子は幼な児をあやすように、洋司の頭を撫でつづけていた。

「ここに名前を書いたからね、あなたはもう私の馴染み。
月、水、金の3時から5時まではここにいるから、いつでも来て頂戴ね。
あと、家では習いごとをしていることになっているから、そういうことにしといてね。
それから、くれぐれもツヨシには内緒だからね」
別れぎわ美代子さんは、洋司の頭を撫でながら、チューイングガムをくれた。
洋司はぶっきら棒に黙って美代子に背中を向けたが、
それが照れ隠しなのは美代子にまる見えなのだということは、洋司自身にもよくわかっていた。
「もうこんなところへは来ない」
顔でそう答えたつもりだったけれど、きっと明後日にはここに来てしまうのだ。
ツヨシの顔、明日からまともに見れないな。きょうのことはどうやって押し隠そうか・・・
少年らしいずる賢さに満ちてきた胸の裡こそ恥ずべきなのだと思い直して、
まずは自分に正直になることから始めようと、洋司は改めて思い直した。
洋司の母すらが、この私娼窟に三日にいちどは訪れているのを、
家族のだれよりも先に気づいていた。


洋司を送り出すと美代子は、別人のようなしらっとした顔になって、
自室に使った寝室の奥の扉に向かって声を投げた。
「もういいわよ、出ていらっしゃい。洋司くん帰ったから」
狭いクローゼットの扉がおずおずと開かれて、そこから窮屈そうに抜け出してきたのは、
美代子の息子だった。

――ばかね、ママがほかの男のひとに抱かれているところを視たいだなんて。
そんなもの、視るものじゃないのよ、と、美代子は息子を優しく咎めながらも、
――だれに抱かれれば気が済むの?
と、夫にはとても聞かせられない質問を、ツヨシに向かって投げていた。
そして息子がとてもいいにくそうにしながら洋司の名前を告げるのをきくと、
美代子はふふっと笑っていった。
――そうね、パパのお友だちに抱かれちゃうよりは、ツヨシとしてはそのほうがいいのかな。
洋司くんいい大人になりそうだし・・・と言いかけた母親に、
「そんなこと言わないでいいから」
と口を尖らせながら、これが嫉妬というものなのだと、ツヨシは実感していた。
ママが自宅で吸血鬼に襲われて咬まれるのを目にしたとき、
さきに血を吸われてじゅうたんのうえに転がされていたツヨシは、手も足も出なかった。
いつものようにこぎれいに装ったママが、白髪頭の吸血鬼に抱きすくめられて、
細い眉を逆立てながら血を吸われ、おなじじゅうたんのうえに姿勢を崩してゆく光景が忘れられない。
美代子がたおれこんだのは、ツヨシの手の届かないところだった。
そのまま衣装を着崩れさせながら犯されていったママを見て、
ツヨシは半ズボンの奥が窮屈なくらい逆立つのを感じた。
それは親がつけてくれた名前を裏切る感情だと自覚しながらも、
止め処なく湧きあがる歓びを止めることはできなかった。

辱められる母親を視てそんなふうに感じてしまったことを恥じるツヨシを、
「ママが好きな証拠だから、いけないことではない」
とパパはなだめてくれたけれど、
それはパパ自身の自己弁護だということも、わかってしまっていた。
だってパパはだれよりも真っ先に咬まれていて、
ほかならぬその吸血鬼を家に連れてきた人なのだから。
そう、ママやボクの血を吸わせるために――

もっとも、だからといってツヨシはパパのことが嫌いになったわけではもちろんない。
おなじ性癖をもった男として、毎日のようにやって来る吸血鬼がママと密会を遂げるところをのぞき見して愉しんでしまったのはよくないことだとわかっていたけれど、
パパが優しい夫として、だれよりも美しいママのことを紹介したがった気持ちには、深い共感を感じていたから。
ママを堕落させた吸血鬼は移り気な男で、すぐにちがう獲物を見つけるとこんどはそちらのほうに入りびたりになってしまって、
ママは勧められるままに、街はずれの私娼窟に身をうずめた。

そこでいろんな男のひとに抱かれて女を磨くのだとパパは教えてくれたけれど、
最初の客になるのが見ず知らずのいけ好かない親父などであってはならない、と、ツヨシは強く感じていた。
「だれならいいのかな?」
ツヨシの頑是ない態度に、親たちはどこまでも親身に接してくれた。
夫には聞かせることのできないはずの質問をママはしてくれたし、
妻の口から聞きたくない言葉をパパは穏やかに聞き流してくれた。
かなりながいこと考えて、心の奥のもやもやとしたその向こう側に洋司のことを見出して、
ツヨシは初めてときめきを覚えた。
「洋司だったらいい」
小さな声だったが、その声の響きの強さに、親たちは頷き返してくれていた――

「どうだった?洋司くんとママ、もしかしたらつきあっちゃうかもよ」
美代子は息子からちょっと離れたところで、彼の反応を面白そうに窺っている。
ツヨシのなかにいままで以上のどす黒い感情が、ムラムラと湧きあがった。
「あ!なにするのよッ!」
母親が声をあげたときにはもう、ツヨシは美代子をベッドのうえに抑えつけていた。
片脚脱いだ黒のストッキングの脚をばたつかせながら、
美代子は2人目の客を受け容れる覚悟を決めた。
それが息子であってよかったと、不思議な感情で受け止めていた。


あとがき
たまたまひょんなことから、「私娼窟」という言葉に接し、すぐにこの話のおおすじが湧いたのが、土曜日のことでした。
すぐに描けるな・・・と思いながら、描く時間がとれたのがいまごろです。^^;
思った通りに描けた感じがします。

嫁の浮気帰り

2018年08月21日(Tue) 06:59:48

「お早う。瑤子さんまだ帰ってないの?」
リビングに降りてきたぼくを気づかわしそうに見あげる母は、なぜか紋付を着ていました。
「ウン、まだだよ」
ぼくはつとめて平静に、こたえました。
「かかっているのかねぇ・・・」
思わず露骨なことを口にする母を、「静枝」と父がたしなめます。
「だってねぇ・・・落ち着かないじゃないの」
母の気づかいは、却って気づまりでした。
そう。
妻の瑤子は夕べ、ぼくの親友の良太のアプローチを受けて、浮気に出かけたのです。
「瑤子が良いといったら」といって、ぼくが与えたアプローチのチャンスを、
女たらしで有名だった良太は、逃さずモノにしたのです。
ホテルに出かけていった瑤子は、夕べひと晩家には戻りませんでした。

やがて家の玄関がガタガタと音を立てて、瑤子が帰ってきたのがわかりました。
きっかり6時。
良太と約束した通りの時間でした。
ぼくが妻を貸すと約束した刻限ぎりぎりまで、良太は瑤子のことを弄んだのです。

リビングに顔を出した妻は、ぼくと両親の三人が三人とも起きていることに意外そうに目を見開いて、
それから後ろめたそうに視線をそらします。
「やあ、お帰り。お疲れだったね」
父がフォローのつもりでかけた声にも、瑤子はますます身を固くします。
「さあさあ、シャワー浴びてくると良いですよ」
母の言葉ももちろん、逆効果。
「あの・・・疲れていますので・・・寝(やす)ませていただきますね」
しいて浮かべようとした笑みは中途半端に引きつって、すぐに廊下へと取って返していきました。
きっと、シャワーを浴びてそのまままっすぐ寝室に向かうのでしょう。
「疲れているんですって」
小声で耳打ちしてくる母を父は目でたしなめました。
「ちょっと・・・わたしたちは出かけてくるから」
場を取り繕うようにそういうと、父は母を連れてそそくさと、さっき瑤子が帰って来たばかりの玄関を出ていきました。

遠くからシャワーの音が聞こえました。
シャワーの音が終わると、脱衣所で身づくろいをする気配がして、やがて階段をあがっていきました。
リビングから覗く廊下に一瞬映った瑤子の姿――驚いたことに瑤子は、夕べでかけて行ったときのスーツを着けていました。
うっかり着替えの用意を忘れてシャワーを浴びてしまった・・・と後で聞きましたが、それくらいうろたえていたのでしょう。
わたしは黙って、瑤子のあとを追って夫婦の寝室に入りました。
鍵を閉めるスキを与えずに。

わたしと向き合った瑤子は、洗い髪を波打たせ、白い顔をしていましたが、
わたしが近寄りキスをすると、恐る恐る応じてきました。
いままでの積極的な瑤子にはみられない振る舞いでした。
良太と2人きりの部屋でも、こんなふうにキスに応じたのか――
その場の空気を想像すると、ぼくは欲情を感じて、瑤子をスーツ姿のまま押し倒していったのです。
「良太さんも・・・こうだった」
瑤子の囁きは、良太がキリッとしたスーツ姿のまま弄んだことを告げていました。
ぼくは、その囁きを封じるように瑤子の唇をキスでふさぎ、
夫婦の刻は、いままでになく熱っぽく、過ぎていきました。

お昼近くになって、リビングに降りてゆくと、ちょうど両親が帰ってきました。
わたしたちに気を使う最善の方法は家からいなくなることだ――と決めていて、夫婦で出かけたはよいものの、
行き先に困ってしまい、けっきょくホテルの喫茶室でお茶をして帰って来たというのです。
「夕べのことは忘れさせてやりましたから、もうだいじょうぶ」
ぼくはわざと明るい声で、両親にそう告げました。
「忘れさせたといってもねえ・・・」
母がにこやかにぼくと瑤子とを等分に見比べて言いました。
「瑤子さん、すぐにまた思い出しちゃうわよ」
ホホホ・・・と笑い声を残して台所に向かう母を追って、
「お昼私が作りますから」
と、いつもの主婦の顔に戻った瑤子も台所に向かいます。

残された男2人は、苦笑を交し合うしかありませんでした。
「思い出しちゃうだろうね」
父が気の毒そうにぼくの顔を観ました。
「きっと、そうでしょうね」
ぼくも正直に応えました。
良太のいままでの所行を知っている以上、公平に見てそう観念するしかありませんでした。
妹のときも、兄嫁のときも、良太が飽きるまで二人の関係は続いたからです。
捨てる権利はもっぱら、良太のほうだけにあったのです。
「でも、気持ちよく送り出してやりますよ」
ぼくは胸を張ってこたえました。
良太が手を出すのはいい女ばかり・・・その好みのうちに瑤子が含まれていたことが、
瑤子を弄ばれたのとは別に、なぜかくすぐったいほど嬉しかったのです。

父は穏やかにほほ笑みながら、いいました。
「女はいちど覚えた男の味は、忘れないものだよ――母さんだって、そうだったんだから」


あとがき
幼なじみの悪友に妻を抱かれたあくる朝。
家族仲良く不器用に気づかい合いながら、嫁の朝帰りを出迎える――
あり得ない風景ですが、ちょっと描いてみたくなりました。^^

乳色の肌に、網タイツ。

2018年08月17日(Fri) 04:00:31

乳色の肌、栗色の巻き毛、太い眉に大きな瞳。
まるでハーフのような彼女は、体格も良い。
ぼくの若妻、23歳のメイは、デパートに勤めている。

勤め帰りにどこかのレストランで食事をして帰ろうと待ち合わせ、合流したまさにそのとき。
ふら~っと現れた、いびつな黒い翳。
あーっ、なんてことだ・・・
目のまえでにやにやとほくそ笑んでいるのは、ぼくの馴染みの吸血鬼。

ひと月前に初めて襲われて、貧血で家に戻ったぼくを、
メイは心配そうに介抱してくれた。
吸血鬼と共存するこの街では、決して珍しくはないアクシデント。
傷口の血を拭き取りながら、メイはいった。
「だいじょうぶ?でも、これからもきっと襲われるよ。きつかったら、あたしもいっしょに吸われてあげるから」
冗談じゃない。
ぼくは強くかぶりを振った。
人妻を襲うとき、やつらは必ず犯すのだから。

「Hai、セイタ。この子はユゥのワイフかね?可愛いナイスバディだね」
ああ、なんてよけいなことを・・・
目を合わせずにしいて無視しようとしたぼくの意図をまるきり無視して、
やつはしゃあしゃあと、ぼくたち夫婦の間に割り込んできた。
How do you do?
How do you do?
好色なしわがれ声と若い女の張りのある声が、折り重なるように同じ言葉を発する。
やつはほんとうに、英語圏の人間なのか。
ドラキュラというのはてっきり、ドイツ語だとばかり思い込んでいた。(これまた間違い)
なんて素晴らしい、輝くような肌をしているね。いちどユゥのことを噛んでみたいね
――と、やつは得意満面。
セイタの血だけじゃ足りないときなら、私相手するわ
――と、メイはちょっぴり気づかわしげ。
そんなに眉を寄せて、シンコクそうな顔をしないで。
やつは女の子の困った顔つきが、大好物なんだから!

やつがぼくにすり寄って来るときは、100%間違いなく喉が渇いているときだった。
所かまわず人の首すじに食らいつくのがつねなのに、やつはいつになく遠慮をした。
「どこか近場の公園に行こう。ユゥのワイフに恥を掻かせたくないからね」
そして、オレンジ色のミニスカートから覗く、網タイツを穿いたメイのむっちりとした太ももに、もの欲しげな視線をからみつけていった。

十分後。
貧血を起こしたぼくは、公園のベンチに持たれて、ぐったりとなってぶっ倒れていた。
視界の彼方では、首すじを咬まれたメイが、
ちょっと切なげに口を半開きにして、やつのしつような吸血に耐えている。
のしかかってくる男を前にぺたんと尻もちを突き、傾きかけた上半身をかろうじて両腕で支えていたが、
やがてくたりと力を抜いて、芝生のうえに倒れ込んだ。
地面に投げ出された脚を包んだ網タイツは、ところどころ破れて、吸い残された血を滲ませている。

冒されてゆく乳色の肌に、ぼくは不覚にも欲情していた。
最愛の妻をこれから犯されてしまうというのに、ズボンのなかに隠した股間を熱くしていた。
「それでいい、自然な感情だ」
やつはぼくの恥ずべき衝動を肯定すると、ズボンの上に掌を置いて、ギュッと握りしめる。
それからふたたび、夢見心地になってしまったメイに取りついて、豊かな胸もとに咬みつくと、
夫婦のベッドのうえで洩らすあの悩ましい吐息を勝ち取っていた。
結び合わされる唇と唇。
せめぎ合う吐息と吐息。
突っ張る腕。立膝をする網タイツの脚。
むき出しの二の腕にも、網タイツのふくらはぎにも、身体のこわばりを映してしなやかな筋肉が盛りあがる。
やつはメイの発育のよい身体を、思う存分、愉しんでいった――

2人で公園を出るとき。
メイはさすがにべそを掻いていた。
すがって来る身体がひたすらいとおしくて、ギュッと力を込めて、横抱きに抱きしめていた。
豊かな肉づきが確かな手ごたえで、応えてきた。
「家に戻ったら、やり直そうね」
メイの言葉に、ぼくは無言で肯きかえす。
守ってやれなかった後ろめたさと、密かに愉しんでしまった後ろめたさ。
守ることのできなかった申し訳なさと、密かに愉しんでしまった申し訳なさ。
お互いの葛藤は、沈黙のうちに処理することにした。

きっとこのあと、いつもより濃密な夫婦の交わりで、ぼくたちはすべてを忘れようとする。
きっとこのあとも、メイは襲われつづけ、ぼくは愉しみつづけてしまうだろうけど。
日本人の両親を持つメイは、ルックスのとおりの混血だった。
実の父親は吸血鬼だったという。
血が血を呼んだのね、Sorry,Seita.
照れ隠しに発した英語の発音は、やけに正確だった。


あとがき
今夜のヒロインは、ちょっと異色な容貌の持ち主ですね。^^
彼女の日本人離れした容姿と立派な体格とは、なぜかありありと想像することができました。^^

夜明けの路上で獣に出遭ったら

2018年08月14日(Tue) 06:46:15

その吸血鬼は、かなり兇暴なやつだった。
道行く女性を見境なく襲っては生き血を吸い、路上で犯すのがつねだった。
街が吸血鬼に汚染され始めたころのこと、
ようやく吸血鬼どもの判別が、人間のなかでできつつあった。
情のある吸血鬼や、咬まれて半吸血鬼になった者のなかには、
いちどは犠牲者として咬まれながら心を通い合わせるようになった者や、
家族のために忍んで献血を習慣に取り入れる者も出始めていたけれど。
この兇暴な吸血鬼の相手を好んで買って出るものは、さすがにいなかった。

夜明けの路上で、本庄佐恵子(42)はその吸血鬼に追い詰められていた。
若作りの花柄のワンピースに、てかてか光るエナメルのパンプス。
兇暴な吸血鬼の嗜虐心をあおるには、じゅうぶん過ぎるいでたちだった。

袋小路に追い詰められた女は言った。
「こんなおばさんの血なんか吸ったって、美味しくないわよ!!」
投げつけるような罵声だった。
これから凌辱されようとしているのだから、彼女の言動は当然だった。
男はそれでも目の色を変えて、女に取りつこうとした。

手首を取られ、振り放し、
肩をつかまれ、振り放し、
抱きすくめられて、もがいた。

咬もうとして押しつけた唇をかろうじてうなじから引き離そうとしたとき、
のしかかってきた体重を受け止めかねて、
脚がもつれて路上に倒れた。
男は女を抑えつけて、こんどこそ首すじを咬もうとした。
女はとっさに叫んだ。
「けだものの餌食になりたくないっ!!」
男の動きが熄(や)んだ。

男は抑えつけた獲物をまじまじと見つめ、
女は必死のまなざしで睨み返す。
やがて男は抑えつけた腕から力を抜いて、
這いずったまま後ずさりしようとする女を、もうそれ以上追い詰めなかった。

助けを求めて声をあげ走り去る女をしり目に、
男は重い顔をして起ちあがり、去ってゆく。


佐恵子が男とふたたび出遭ったのは、その翌日のことだった。
兇暴な吸血鬼はふたたび女のまえに立ちふさがったが、
瞳の色が暗いのを女は敏感に見て取った。
「どうしたのよ?よほど切羽詰まっているんでしょう?」
女は訝しげに男を視た。
「すこしだけ、解消した」
「どういうことよ」
男は言った――
吸血鬼と共存することを決めた街が、飢えた同族のために作った施設がある。
金に困った女が自分の血を売るための施設。
そこではどんなにがつがつと啖(くら)っても、文句をいうものはいないのだと。
「その人たちだって、怖いはずよ」
男を咎める目線の強さを変えずに、女は言った。
「そうだと思う」
男は言った。
でもそれがわかるのは、われに返ったあとのことなのだ、と。
満たされているときには、人並み程度には行き届く思いやりというものも、
飢えてしまえば見境がなくなる。
吸い取った血潮をあごからしたたり落すとき、時々虚しくなってくるのだ、と。
「あなた、この街に来て間もないの?」
女の問いに、男は素直に肯いていた。

じゃあ、今朝は私が襲われてあげる。
だって、あなたみたいな乱暴な人と通り合わせたほかの女の人がかわいそうだもの。
どうせあなた、私をやり過ごしたところで、きっとまただれかを襲うんでしょう?
それにその施設――知ってるわ。募集かけてもまだあまり人が集まらないって。
うちの主人、市役所なの。
さいごの告白は、小声になっていた。

俺の流儀は心得ているんだな?
好きになさいよ。
声色を陰湿に翳らせる男にむかって、女はうそぶいた。
あんた、やけになったりしてないよな?
余計な心配しないで。
女は薄い唇を噛みしめて男を見あげると、自分から路上に腰を落とし、姿勢を崩していった。

きのうの夜明けと、おなじ体位だった。
でも、きのうは袋小路だったのに、きょうはそこそこ広い道だった。
住宅街の真っただ中。
女は咬まれ、犯された。

まだ薄暗い町並みに人の行き来は少なかったが、まったく途絶えているわけではなかった。
通りかかった新聞配達や早朝勤務のサラリーマン、ごみ捨てに出てきた近所の主婦など、
時折姿を見せるそうした人々は、凌辱される佐恵子を目にしては意図的に視線をそらし、
けれども男どものいくたりかは、歩調を変えずに立ち去るまで、
ふたりの様子から目を離せないでいるものもいた。

男は好んで女の脚からストッキングをむしり取る癖があったが、
息荒く迫って来る男を満足させるため、
女は身に着けているワンピースまで、気前よく引き裂かせていった。

「気が済んだ?」
栗色の髪を振り乱した女が蒼ざめた顔をあげ、男に薄笑いを向けたときにはもう、通学時間帯にかかり始めていて、
路上でくり広げられる痴態に、かなり遠くを歩いていた男子高校生が、目のやり場に困っていた。
市役所勤めだというこの女の亭主もきっと、そろそろ出勤する刻限だろう。
「いいの。あたし浮気してきた帰りだから。悪い奥さんは、罰として兇暴な追い剥ぎに遭ったの」
そういうことにして、と女は言い捨てると、路上から起ちあがった。
裂けたワンピースを繕おうとしたが、無理に押し拡げられた襟首から覗く下着を押し隠しかねていた。
「送る」
男はぶっきら棒にそういうと、女を抱きかかえ、お姫さま抱っこしたまま家の道順を訊いていた。

「ここまでで良いわ。これ以上恥かかさないで」
家の近くまで来ると女は、自分の足で歩くといった。
顔見知りだらけのご近所で、主婦が他の男にお姫さま抱っこでご帰館あそばすわけにはいかなかったから。
男は女をおろすと、女はあとも振り返らずに家の門をくぐった。
ちょうどはち合わせるように、夫らしい中年の男がスーツを着て、玄関のドアを開いた。
派手に裂けたワンピースをまとった妻の凄まじい帰宅姿を、
夫はびっくりりしたような顔をして迎え入れたが、
女がちょっと囁くとこちらを見て、律儀すぎる会釈を送って来た。
「危ないところを助けてもらって、ここまで送ってもらったの」
きっとそんなふうに言い繕ったに違いない。
夫はそれから30分も遅れて出勤していき、
妻は入れ違いに、まだ外にいた男に目配せをして、家のなかへと誘い込んだ。
出勤姿の夫は、すべてを聞かされていたのだろうか?
曲がり角のところで立ち止まり、妻が自宅に吸血鬼を引き入れるところを見届けると、
もういちど、男に対して律儀すぎる会釈を送っていった。


佐恵子が勤めに出るようになったのは、それからすぐのことだった。
勤務先は、夫が担当する吸血鬼保護施設。
血を吸わせてくれる人間にめぐり会えなかった吸血鬼の救済施設であるここには、
数少ない女性が待機していて、来客があるとあてがわれた部屋に客人を案内し、
そこで自分を好きなようにさせるのだった。

だれもが、ガツガツとした客だった。
ふつうの主婦という属性は、ここでは意外なくらい受けが良かった。
待機している女性たちは、夫に内緒で来ているものもいたが、だれもがふつうの主婦だった。
けれども市役所の職員を夫に持った佐恵子は、
「堅い職業のお宅の奥さん」という名目をさらに人気が高く、ご指名が絶えなかった。
「おばさんの血なんか美味しくないでしょう?」
と、さいしょのころからの言いぐさを絶えず口にしていたけれど、
だれもが彼女の熟れた血潮に癒されて、
ついでによそ行きの小ぎれいなスカートの奥のもてなしに満たされて、
良い気分になって施設から出ていくのだった。

あの男も、時折施設に現れた。
「なんだあなた、まだなじみができないの?」
女は男をからかったが、無言で挑みかかって来る男に唇を重ねて応えてやって、
ストッキングを破かれ、ブラウスをはぎ取られていった。
ときには男の気分を引き立てるため、わざわざ路上に出ていって、
衆目のまえ裸身をさらしていった。


女は知っていた。
男は以前のように切羽詰まって来ているわけではなく、自分に逢いに来てくれているのだと。

道行く女性たちが不意打ちに遭うのを予防するために、夫が作った施設。
そこで働く道を択んだのは、おなじ女性の名誉を少しでも守りたかったから。

こんな施設を作った夫への面当てもあったけれど、
夫は快く許してくれて、それまでまるで意に介していなかった妻の健康管理に心を砕くようになっていた。
勤務の最中に差し入れを持ってきたときには折あしく男と真っ最中で、
妻を初めて犯した相手の男っぷりのよさをしたたかに見せつけられる羽目に遭っていたけれど。
特に苦情を言うでもなく、たったひと言「妻をよろしく」と言って立ち去っていった。
そんな夫の態度に、女は伝法にも、ちッと舌打ちをしたけれど。
男は夫の後ろ姿に手を合わせ、拝むように頭を垂れた。

施設が健全にまわり始めると、男は女を身請けするようにして、棲み処のアパートに引き取った。
かねて夫と打ち合わせていたように、女を自分専用の通い妻にするために。
女は、浮気相手と手を切っていた。
詳細はここでは略するが、浮気相手も自分の妻ともども、男に隷属する立場に堕ちていた。
浮気相手の妻は単なる性欲のはけ口としてあしらわれたが、
女は男の本命として長く愛された。
かつて、なん人もの女たちを路上に転がし辱め抜いていった男は、
こうして市役所職員の妻を堕落させたが、
彼女から獲た血潮の暖かさは、逆に男を清めたのかも知れなかった。


あとがき
このお話に登場する施設・登場人物は、すべて架空のものです。

親友の愛妻をゲットした幸運な男のひとり言。

2018年08月06日(Mon) 07:49:55

親友の奥さんに、恋をした。
かわいいというよりは、美人。
上品で落ち着いた物腰に、思わずグッと来た。
母と似ている、と、思った。
そうだ――俺はもしかしたら、母を犯したかったのかもしれない。

旦那である親友とは、もうながいつきあいだった。
書斎の人である親友と、アウトドア派の俺とでは、住んでいる世界が違ったけれど、
それでも仲の良いことに、なんの差し障りもなかった。
むしろ、違うからこそ良かったのかもしれないし、いまでも良いと思っている。

なにも知らない善良な男の妻を寝取るのは、少しばかり心苦しかった。
なん度も想い切ろうと思ったけれど、奥さんを見るたびに想いは募り、もうどうにもならなかった。
俺は本来、女に対して臆病なほうではなかった。(そのへんは親友は正反対だった)
彼が結婚したのに俺がまだ独り身でいるのは、たんにいろんな女を愉しみたかったから。
俺がアウトドア派を自称していることを彼は良く知っているけれど、
どんなふうにアウトドア派なのかまでは、まったく知っていなかった。
それで俺は、この夫婦をドライブへと連れ出した。

奥さんは、空色のブラウスに緑のスカート。
爽やかないでたちだったが、アウトドアにはそぐわない服装だった。
この服を着た彼女を、およそ似つかわしくない草むらの中で泥まみれにする想像で。
俺はちょっとだけ、胸を痛めた。
奥さんを愛しているらしい親友に対しても、胸を痛めた。
それでいながら、奥さんをひと目見たとき後戻りできないと考えた。
ほんとうは、後戻り「できない」ではなく、「しない」に過ぎなかったのだけれども。

惨劇?は、ごく短時間で済んだ。
「俺は奥さんに恋をした。悪いがちょっとだけこらえてくれ」
俺は親友をふり返ると手短かにそういって、みぞおちに一発ぶち込んだ。
ついでに唇が切れる程度のパンチを一発お見舞いして、彼を草むらのなかに沈めた。
つぎに草むらに沈むのは、奥さんの番だった。
あっと叫んだ奥さんは、立派なことに、殴り倒された夫のほうへと駆け寄ろうとした。
けれども俺の魂はそのときにはもう、獣の魂と入れ替わってしまっていた。
手足をばたつかせて暴れる奥さんを抑えつけて、想いを遂げてしまったとき。
親友は恨めしそうに俺を睨んでいたけれど、
不覚にも射精をしてしまった痕が股間にしみ込んでしまっているのを、俺はしっかりと見届けていた。
脅かして黙らせる手は、いくらもあった。
けれども俺は、いちばん口走りそうにない言葉を、親友に向かって口走っていた。
――すまないが、もう少しだけ、目をつぶっていてくれ。
俺は奥さんをもう一度犯し、そのいちぶしじゅうを彼は、手出しもせずに見つめつづけていた。

俺が奥さんを放すと、奥さんは目を伏せて、旦那の後ろに隠れた。
もっともな振る舞いだった。
まだセックスに狎れていない新妻の反応はぎこちなかったけれど、
じゅうぶんに相性が良いらしいことを、お互いの身体で確かめ合ってしまっていた。
でも、それとこれとは別だった。
俺は彼女を、じゅうぶん過ぎるほど、怯えさせてしまったのだから。
――きょうはこれくらいで・・・
妻よりもひと足早く我を取り戻した親友は、俺たちふたりの間に立って、そういった。
お互いを取りなすような穏やかな口調だった。
きっと、そうでも言うしかなかったのだろうけれど。
俺は救われたような気になった。
いつもの趣味で、服を破ってしまった奥さんが、まだ恨めしそうな目で俺を見る。
俺はとっさに、できるだけ彼女をこれ以上傷つけないよう言葉を選んで、ふたりを家の玄関まで送ると約束をした。

だまって車から降りていったふたりの後ろ姿を胸にハンドルを握る俺は、
身体の満足を忘れてしまうほどのかなりの後悔を覚えた。
いままでいろんな女とセックスをした。
そのなかには人妻も、結婚を控えた女もいたけれど、きょうのような後悔はなかった。
訴えられても仕方がないと思った。
けれども最悪のことは回避できるだろうとなんとなく思えたのは、
親友の人となりをよく心得ていたからなのか、
それともたんに俺がしたたか者である証しに過ぎなかったのか。
親友は穏やかだが、決して意気地なしではなかった。
意気地なしではなかったけれど、穏やかに事を収めるすべをよく心得ていた。

親友と奥さんが連れだって、ふたたび俺の前に姿をみせたのは、翌週末のことだった。
来てくれる・・・ということは、月曜の夜の電話で親友から聞かされた。
どちらかというと、受話器の背後に気遣いをするような固い声色に、
車を降りた後の夫婦がどういう修羅場を演じたのだろうか?と悪い想像だけが先に立った。
約束どおり二人が家に来たときには、小躍りするほど嬉しかった。
なにしろ、惚れた女が目のまえにいるのだから。
奥さんはいった。
わたしは主人だけのために生きます。だから、貴男とは結婚できません。

いったいどこまで夫婦で話し合ったのだろうか?
たった一度犯されただけの間柄の男のために、夫と離婚する女はそうはいない。
妻としての務めが果たせなかった・・・とか、そんな想いを抱きそうなくらいに真面目なのだろう。
奥さんの真面目さと、かりそめにも結婚まで考えてくれたこととが、素直に嬉しかった。
俺は真面目な女が好きなのだ。
その真面目な女(ひと)に、俺はこうも言わせてしまった。
――主人も愉しめるように抱いてくれるのなら・・・貴男に抱かれてもいい。
本来は、夫の前でほかの男にそんな科白を吐ける女ではなかったはず。
俺がこの女(ひと)のなにかを、塗り替えてしまったのか。
せめてもの礼儀を示そうと、俺は彼女の手を取って、王子が王女にするように、
手の甲に接吻をした。
彼女は意外なくらい優雅にそれを受けてくれて、小声で「ありがとう」と言ってくれた。

それでもこの女(ひと)が、自分らしさを失くしていないことを、俺は数分以内に思い知る。
「いけません!なにをなさるんです!?」
「あなたは・・・あなたは、無作法ですっ!」
「し・・・失礼なっ!」
奥さんはあくまでも気丈に頑張り、あくまでも女の操を守り抜こうとした。
突っ張る腕をへし折って、
抗ううなじを引き寄せて、
こぎれいなワンピースを引き裂いて、
ストッキングをふしだらにずり降ろして、
俺は親友の目のまえで、その愛妻を犯していった。

激しい身じろぎに衣擦れを身体のあちこちに作りながら、
きちんとセットした髪を振り乱しながら、
歯茎を舌で拭われながら、
たくし上げられたワンピースの奥深くを、辱め抜かれていった――

夫を愉しませるため。
そんなふうに割り切った女は、
「主人に抱かれるつもりで貴男に抱かれる」という思い込みを満面に泛べていたが、
やがて互いの身体の相性の良さを否応なく思い出さされて、
夫の前で自分のほうから、腰を激しく振り始めていた。
――すべてあなたのせいなのよ。
声で言わずとも、迎え入れた膣がそう呻いていた。
――わかっているとも。
俺は激しい射精で、女の非難を塗り消していった。

親友の目が、俺に訴えた。
――わたしの妻も、ほかの女と同じようにあしらうのか?
俺の息遣いが、彼に応えた。
――違うね、本気で惚れたんだ。
親友の目が、また注がれた。
――彼女と結婚したいのか?
俺の息遣いが、また応えた。
――違うね、彼女の意思を尊重して、きみの妻のまま犯しつづけるんだ。
親友の目が、なお追ってきた。
――ぼくたちは、共存できるというのか?
俺の息遣いが、さらに応えた。
――それがきみの望みでもあるんだろう?
親友の目に、歓びの色がよぎった。
――そういうことなら・・・妻を愛し抜いてくれ。夫としてお願いする。
俺の息遣いが、なお荒くなる。
――よろこんで、そうさせてもらうとも。
深く深く沈み込んだ一物を受け止めかねて、俺の下で組み敷かれた女(ひと)が、切なげなうめき声を洩らしていた。


結婚は、しなくちゃダメですよ。私が信用できる娘さんを紹介するから。
あなたみたいな立派なモノをお持ちの殿方が独身でいらしたら、周りの人たちが困りますから。
おすすめの子がいるの。逢ってみない?
そういって奥さんが紹介してくれたのは――奥さんの妹だった。

あたしといっしょで、堅物なの。
だから、さいしょはきちんとお付き合いしてみて。
いきなりドライブに誘って犯したりしたら、ダメよ。
そういうと彼女は、イタズラっぽくフフッと笑う。
結婚しても私のことが忘れられなかったら、いつでもいらしてね。
主人といっしょに、待っていますから――

言葉と振る舞い。

2018年08月06日(Mon) 06:53:22

親友に、妻同伴でドライブに誘われて、
だれもいない草むらのなかで妻の貞操をプレゼントする羽目になったあと。
わたしたちは意外にも、円満な交際をつづけている。

毎週週末になると、わたしたち夫婦は連れだって、彼の許へと訪れる。
その日の彼の気分によって、ドライブになったり屋内でのプレイになったりするけれども、
どちらの場合でも必ず、彼はわたしのまえで妻を襲って、服をびりびりに引き裂いてゆく。
妻は彼のことを罵り、目いっぱい抗い、わたしに助けを求めながらも、
さいごは力づくで抱きすくめられ、犯されてゆく。
「ひどい!なんてことなさるの!?」
「だめ、ダメ、ダメッ!・・・」
「あなた、あなたあっ。助けてぇ・・・っ」

最後のひと言は、ぼくのリクエスト。
「そう言われると昂奮する?」って訊かれ、思わず強く頷いてしまった。
「正直でよろしい」
妻はいつものように、フフッと笑った。

いちどモノにされてしまうと。
妻の態度が少しだけ変わる。
それまではわたしだけの貞淑な妻として振る舞って。
女の操をひたすら守り抜こうと努めるのだが。
股間の一物を突きさされてしまうと、「アアーッ!」とひと声叫んで、そこから先は娼婦になる。
娼婦になりながらも、男を罵ることはやめようとしない。
「なんて無作法な!主人の前なのにッ!」
「貴方、視ないで、視ちゃダメッ!」
「く・・・悔しい・・・悔しいッ!」
悶え、呻き、歯がみをしながらも。
妻の股間は相手を受け容れ、応えはじめている。
強引な上下動に支配されながら、
そのうち自らも積極的に腰を振って。
スカートの奥にくり返し突き入れられる一物を、みずから咥え込んでゆく。
息遣いも荒く、大汗を掻きながら、妻は目の前の夫を裏切って、快楽のるつぼへと引きずり込まれてゆくのだった。

言葉で罵りながら、身体で応える。
妻はふたりの男に、同時に礼儀を尽くそうとしている。

来週の予定。

2018年08月06日(Mon) 06:43:01

さいしょのドライブの後、帰宅そうそう妻はいった。
「来週、行くつもりなんでしょ?」
え・・・?問い返そうとするわたしの機先を制するように、妻はいった。
「貴方も、しっかり愉しんでいたみたいだし」
ズボンのなかで昂り過ぎてしまった痕跡に妻はチラと目をやると、なにも気づかなかった顔をして、
「そういうの、恥ずかしがることないから。あのひと、貴方の親友なんでしょ」
そう言い捨てると、妻はさっと髪をひるがえして、そそくさと浴室に向かった。

男まさりな気性の妻だった。
もしも浴室で1人になってそこで泣いたとしても、涙をシャワーできれいさっぱり洗い流すはず。
そのあとは、なにごとも起こらなかった顔をして、いつものように台所に立つのだろう。


いつもどおりにお互い振る舞った夕食のあと、台所を片づけ終わってリビングに戻って来た妻はいった。
「よけいなことは言いっこなし。彼はきちんとした人だとか、守れなくて済まなかったとか、聞きたくない」
尖った口調と怒り顔とをおさめると、彼女はわたしをまっすぐに見て、またいった。
「来週行くの、気が進まない?気が進む?」
「気が進む」のほうに黙って頷くわたしに、妻はなおもいった。
「男らしくないなー。負けを認めなさい負けを。自分の考えをちゃんと口に出して言ってみて」
わたしはこたえた。

来週末――きみが彼に襲われるところを、もういちど見たい。

妻は一瞬目を丸くし、肩をこわばらせたけれど。
すべてをのみ込むように頷くと、いった。
「それでいいわ。あたしも愉しむから」
お茶淹れるわね・・・そういって妻が、髪を揺らして起ちあがるのといっしょに、わたしもトイレに起った。
股間の昂ぶりが収まらなくて。
重症ね・・・心のなかで妻が、フフッと薄笑いする。
このひと、女の操をなんだと思っているのかしら。
いたってノーマルな妻のことだから、きっとそうも言うだろう。
けれどももっと間違いなく、言われそうな囁きがある。

貴方のそういうところ、結婚するころからなんとなくわかっていたの。

気に入ったところ。

2018年08月06日(Mon) 06:20:41

私が彼を気に入った理由(わけ)・・・?
そんなことが気になるの?
妻は意外そうにわたしを見て、「そうねぇ・・・」と頬づえを突きながらちょっとのあいだ考えた。

まずね、さいしょのとき。
貴方が「きょうはこれくらいで」って言ったとき、素直に収めたでしょ?
止め処がなくなる人だったら良くないなあって思ったの。

それからね、二度目のとき。
私が貴方のためだけに生きるって言ったとき、手の甲にキスしてくれたでしょ?
この人、私のことをレディとして扱う気なんだなって思ったわ。

それとね、いまだから言うけれど・・・
さいしょに力づくでされちゃったとき、セックスそのものは貴方よりも上手だったから。

妻はわたしの反応を愉しむように意地わるそうな目をして、フフッと笑った。
どこまでが挑発?どこまでが本音?

そういえば、妻が煙草をくゆらすようになったのは、彼から吸わされてからのことだった。

だれのため?

2018年08月06日(Mon) 05:58:20

アウトドア派を自認する親友に誘われて、妻を伴ってドライブを楽しんだ。
見返りに、妻の肉体を愉しまれてしまうなどとは、つゆ知らず。

犯された後の妻は、目を伏せて、服の裂け目を気にかけながら、わたしの後ろに隠れるようにまわり込んだ。
嫌われちゃったかな?
親友は、ちょっと気づかわし気にわたしと妻とを等分に見比べた。
きょうは、このあたりで・・・
わたしがそういうと、親友は意外に素直に応じてくれた。
帰りは玄関まで、ぼくの車で送ります。
服の裂け目をしきりに気にかけている様子の妻を見ながら、彼はいった。
でも、きょうみたいなチャンス、良かったらまた作ってくれないかな?
彼の目線は、わたしのことを通り越して、まっすぐ妻へと向けられていた。
妻は彼の目線を避けるようにうつむいたまま、かたくなな声でこたえた。
主人と話してから決めます。
小さいけれど、きっぱりとした口調だった。「私の夫はあくまでこのひとですから」と言いたげな目つきをしていた。

翌週の週末。
わたしたち夫婦は、彼の家を訪れた。
開口一番、妻はいった。
私は、このひとのために生きますから。だから――貴男とは結婚できません。
でも、このひとったら・・・変態なのよね?
意地悪そうにわたしをふり返る妻の目は、笑っていた。
このひとも愉しめるように抱いてくれるなら――貴男に抱かれてもいい。
男に注がれる上目遣いの目線に、かすかな媚びを含んでいるのを、わたしは見逃さなかった。


きょうはインドアだったわね。
彼の車の助手席に腰かけた妻は、わたしのほうをかえりみて、イタズラっぽく笑った。
身に着けた花柄のワンピースはみごとなまでに引き裂かれ、豊かなおっぱいがまる見えになっている。
車で玄関まで送ってくれるという彼の言を信じて、思うさま破らせたのだ。
屋外レ〇プに長けた彼にとって、襲ったご婦人の服を引き裂くのは、むしろ礼儀の一部になっているらしい。
まったくもってけしからぬ礼儀作法ではあったけれど。

インドアでも、愉しんでもらえたかしら?
傍らの男を上目づかいで見る妻の薄い唇が、媚びるように笑った。
来週はドライブにしましょう。そういう彼に、
明日でもいいわよ?と、応える妻。
そういえば先週は、わたしと並んで後部座席に座っていたっけな。
わたしは1人の後部座席でそんなことを薄ぼんやりと思っていた。


抱かれる前に、妻は男にいった。
それと、先週のストッキング、返してください!
妻は口をとがらせて男に主張した。
こと果てたのち、放心状態になっていた妻の脚からストッキングを引き抜いて、ポケットにねじ込んだのだ。
彼は、ストッキングフェチだった。
きっとコレクションに加えるんだろうな・・・わたしは淡々と思っていたが、
妻は引き裂かれ汚されたストッキングが他の男の手許にあるのが我慢ならなかったのだ。
男はいった。
あれは戦利品です。
妻は不平そうに鼻を鳴らしたが、もうそれ以上なにも言わなかった。

助手席の妻は、ノーストッキングだった。
だって、男のために、またもやせしめられてしまったから。

あなた~、大変よ~。奥さんのお洋服代とストッキング代、がんばっていっぱい稼いでね~。
妻が内助の功にいっそう精を出しはじめたのは、それからのことだった。

【小話】アウトドア派

2018年08月06日(Mon) 04:13:19

その親友は昔から、口ぐせのように言っていた。
俺、アウトドア派だから。
インドア派のわたしは彼と外で行動することはなかったが、
お互いそんなことでも、仲の良さは変わらなかった。

わたしが結婚してすぐのころ。
俺、アウトドア派だから。こんど、奥さん連れてドライブに行かないか?
明るい性格の彼だったから、見合い結婚の妻は乗り気だった。
わたしもたまには外もいいかなと思った。
ふたりはよろこんで、彼の誘いに応じた。

親友がアウトドア派だということを、つくづく思い知った。
彼はもっぱら外で、女性を襲うのが好みだった。

それ以来。
わたしも妻もアウトドア派に転向して、
週末の彼とのドライブを、楽しみにするようになっていた。

女房を吸血鬼に寝取られた後の、賢明な夫の行動。

2018年06月11日(Mon) 22:06:07

家に帰ったら、女房と娘の様子が変だった。
顔見知りに帰り道をつかまって、一杯気分で戻って来た俺にも、いつもとちがう様子がありありと見て取れた。
女房のやつはすまなさそうに、後ろめたそうに、
なにも言いたくなさそうに、でも言わなければいけなさそうにしていたし、
娘のほうはいつも大人しいやつなのに、それがいっそうふさぎ込んだみたいにしていて、
いつものようになにも言わないくせに、晩ご飯のあいだじゅう、俺と女房のことをチラチラと見比べていた。

娘が勉強部屋に引き取ると、女房が思い切ったように俺に話しかけてきた。
「あなた、ちょっとお話が・・・」
居間のすぐそばには、勉強部屋に通じる階段があった。
女房は娘の勉強部屋から一歩でも遠いところで話をしたかったらしくって、
夫婦の部屋へと俺のことを促した。

女房はいつも家では、スカートを穿いている。
太っちょの女房はすでに遠い昔から、ウェストのくびれとは無縁になってしまったけれど、
それでも身ぎれいにしていたいと思うからか、若いころのスカートをサイズを直して穿いていた。
改めて齢相応のものを買うよりは・・・という主婦らしいけちくささも見え隠れしていたけれど。
女房がふだんどんなかっこうをしているのか・・・などということには、
世の亭主のたいがいと同じように、俺も気にしなくなっていた。
それなのに、きょうにかぎって、
すそも腰周りもおなじにみえるほどずん胴に着こなした黄色のスカートが、
スカートの裾から覗く、ストッキングに包まれたひざ小僧が、
どことなく眩しく映った。

「ごめんなさい。ほかの男の人に抱かれてしまいました」
ふたりきりになると女房は、やおら三つ指突いて、俺のまえで深々と頭を下げた。
「どういうこと?」
思わず訊いた俺に、女房は包み隠さずすべてを話してくれた。
娘ののり子が学校帰りに吸血鬼に襲われたこと。
貧血になるまで血を吸われた後、血を吸った相手の吸血鬼に介抱されながら家に帰ってきたこと、
いつも学校に履いて行っているライン入りの靴下が血に濡れて、かわいそうだったこと、
貧血になったのり子が部屋でぶっ倒れてしまうと、吸血鬼はやおら女房につかみかかってきたこと、
「真っ赤なスカートなんか穿いていたのがいけなかったんです」
若いころの女房は派手好きで、今さら外に穿いて行けないようなスカートを後生大事に抱えていて、
家の中で穿き古していた。
そういえば、いま穿いている黄色いやつも、記憶をたどり切れないほど昔から、見覚えのあるやつだった。
ごめんなさい、ごめんなさいとひたすら頭を下げつづける女房を前に、
やつが女房を犯したのは、スカートのせいなどではないと、俺は心の中でくり返していた。


俺の帰り道を待ち伏せるようにして酒に誘ったのは、顔見知りの年配の男だった。
いつも陰気くさい顔つきをしたその男は、顔色さえもが蒼ざめていて、
周りから「大丈夫か」と声をかけられるほど弱り果てているときもあった。
それがきょうにかぎって珍しく顔色がよく、気分もよさげに俺のほうへと近づいてきて、
一杯どうですか?と誘いを投げたのだ。
二、三杯酌み交わして、ほろ酔い気分になってきたころ、年配男は思いきったように切り出した。

わしが吸血鬼なのを、だんなはご承知ですよね?
じつはわし、だんなに済まないことをしちまったんだ。
だから今夜の酒は、おごらせてくれ。
その代わり、黙って怒らないで、さいごまでわしの話を聞いてくれ。
年ごろの娘さんがいたよね?のり子ちゃんって言ったっけ。
ちょうど学校帰りに出くわして、わし、喉が渇いていたもんだから、のり子ちゃんにすがっちまったんだ。
のり子ちゃん、さいしょは怯えていたけれど、さいごは唇噛んでべそかきながら、「痛くしないでね」ってお願いされた。
なるべく痛くないように咬んだつもりだったけれど、ブラウスと靴下、汚しちまった。
それでも貧血になるまで、若い血をご馳走してくれて、
のり子ちゃん、見かけはぱっとしないけど、あ、ごめん、でも、生き血はすんごく美味かったな。
華やかで色っぽい味がした。やっぱり若い子の血はいいな。
で、貧血起こして立つのがやっとのあんばいだったから、家まで送ってやったんだ。
家ではおかみさんが、びっくりして娘を出迎えて、
のり子ちゃんも気が抜けちまったのか、制服のままぐったりとなって、
子ども部屋で尻もちついたがさいご、動けなくなって。
で、わしはおかみさんに詫びたんだ、ちっとだけ吸い過ぎたみたいだって。
そんでも、まだまだ吸い足りなかったから、ついうっかり、おかみさんの首すじまで咬んじまったんだ。
だんなは知ってるだろ?
わしらがセックスしたことのある女を咬んだ時は、することをしちまうんだって。
悪いけど、おかみさんとはそんな仲になっちまった。
家に帰ったら、おかみさんが話すようなら、聞いてやってくれ。
話さないようなら、知らんぷりをしてやってくれ。
あとね、三発までなら、わしのことなぐってくれて構わんからな。


「あの子、瘦せっぽちだから、血が足りなかったんだねきっと」
女房はふと、そんなふうに洩らした。
そう、きっとそんなところだろう。
娘から採った血だけでは足りなくて、足りない分を母親の身体から補ったのだろう。
「でもあたし、招(よ)ばれてるんだ。あのひとに。行ったらだめ?だめだよね?」
だめって言ってもらいたいのか、言ってもらいたくないのか、半々の感情を交えながら訊かれても、
亭主たるものどう応えればよいというのだろう?
どのみち結論はきまっているのだ。
女房は、俺のいないあいだに、娘と自分を襲った吸血鬼の邸に、出かけてゆく。
酒場で聞いたやつの言いぐさではないが、女房と娘の日常の変化に、俺は知らんぷりを決め込むことにした。


ウエストのくびれなどとっくになくなった腰周りに、くねずみ色のタイトスカートを穿いて、
白のブラウス、持ちつけない黒革のハンドバックに黒革のパンプス。
まるでPTAに行く時みたいな恰好をして、女房はいそいそと出かけていった。
勤めをわざと早めに切り上げた俺は、そんな女房のあとを尾(つ)けてゆく。
吸血鬼と人間とが仲良く共存しているこの街では、会社さえもこういうことには寛大だった。
「家内の素行調査で」といっただけで、上司はなにもかもわかった、という顔をして、早退届に印をついてくれたのだ。
ずん胴のスカート姿は後ろから視ても、ぱっとしない印象で、いったいこんな女をなぜ?と思いたかった。
むっちりと太いふくらはぎが、もしかしたら目あてかも知れなかった。
たしかに量だけは、血をたっぷり採れそうだったから。
けれども見慣れたはずの肌色のストッキングの脚は――なぜかいつもよりも、なまめかしく目に灼(や)きついた。
玄関に立つ女房の横顔を盗み見てはっとした。
わが妻ながら平凡な目鼻立ちが、いつもより濃い化粧におおわれている。
真っ赤に刷いた口紅をみて、女房は勝負するつもりだ、と、直感した。

閉ざされた玄関から、施錠される音は洩れなかった。
俺はふた呼吸ほど置いて、息を詰めてドアノブをまわす。ドアはしぜんに開いた。
まっすぐ伸びた廊下の向こう、鍵の手に折れた部屋から灯りが洩れている。
邸のあるじも女房も、きっとそこにいるはずだった。

恐る恐る覗き込んだリビングの真ん中に、ねずみ色のスカートの後ろ姿が立ちすくんでいた。
すでに女房を抱きすくめた吸血鬼が、ちょうど首すじを咬むところだった。
ドラキュラ映画だったら間一髪、ヒロインを救う場面だったが、
女房は金髪美人のヒロインではなかったし、
俺はただの間の抜けた寝取られ亭主に過ぎなかった。
男はむき出した牙を女房の太いうなじに突き立てて、カリリと咬んだ。
じわじわっと血が噴き出して、白いブラウスに撥ねたけれど、女房は身じろぎもしなかった。
そのまま男は力まかせに、ググっと牙を埋め込んで、女房の首すじを冒しつづけた。

ちゅ、ちゅう~っ。
あの野郎、美味そうな音を立てて、女房の血を吸いやがって。
嫉妬がむらむらと沸き起こったとき、ふと吸血鬼と目が合った。
ビクッと身体を硬直させる俺に、やつはイタズラっぽく笑いかけて、ウィンクまでして寄越す。
こんにゃろう、と、思いながらも、俺は顔をしかめてかぶりを振るばかり。
やつは許しを請うような目線を送りつつ、貧血に上体をユサッと揺らす女房のことを、手近なソファへと押し倒していった。

ねずみ色のスカートをたくし上げ、あらわになった太ももは、
もうすっかりご無沙汰になっている俺も、久々に目にしたのだけれど、
ちょっとだけよけいに肉がつき過ぎていて、ほんの少しだけだらしなくたるんでいた。

肌色のストッキングになまめかしく包まれた太ももは、血に飢えたものの目線を引き寄せて、
やつは俺の目線もいとわずに、吸い取ったばかりの血がついた唇を、チュウッと音をたてて吸いつけてゆく。

女房のやつは、わざわざ真新しいのをおろして穿いたらしい。
薄手のナイロン生地のしなやかさを愉しむように、やつはなん度も撫でつけるように太ももを吸い、ふくらはぎを吸った。
やつの唇を圧しつけられるたび、女房の脚のまわりでストッキングはふしだらによじれ、淫らな皺を波打たせてゆく。
俺はただ、魔法にかけられたように立ち尽くし、足許を辱められてゆく女房のことを見守るばかり。
やつはこれ見よがしに女房の腰を抱きかかえて、
ストッキングをしわくちゃにしながら、まるでまさぐるように唇を這わせつづけていった。

やつがとうとう牙をむき出して、おなじことをくり返し始めると、
思い思いに喰いつかれるまま、
女房の素肌をガードしていたたよりない薄手のナイロン生地は、脚の周りでブチブチとはじけていって、
ふしだらに拡がる伝線から、むき出しの素肌があらわになる。

うひひ、うひひ・・・やつは嬉しそうにほくそ笑みながら、女房のブラウスをはぎ取って、
尖った爪でブラジャーの吊り紐を断ち切ると、たわわに熟したおっぱいに唇を吸いつけ、さも美味しそうにむしゃぶりつけた。
乳首をチュルチュルと舐め味わいながら、わき腹や腰を撫でさすり、
首すじから二の腕をなぞるように撫で上げて、深々としたディープ・キッスを交わすと、
やおら下半身をあらわにして、ねずみ色のタイトスカートの奥へとさぐり入れてゆく。
女房のやつは無我夢中で、男の唇をよけようとしながらすぐにつかまえられて、
せめぎ合わされる唇に、知らず知らず唇で応えはじめてしまっていて、
ねずみ色のスカートが皺くちゃになりながらせり上げられてゆくのにも気づかない様子――
やがて、男の股間に生えた毒蛇は、女房の太ももの奥へと侵入して・・・
「ああっ~!!」
絶句する女房のうえにのしかかって、やつは我が物顔に腰をふるいながら、強引に上下動をくり返す。
「アッ、アッ、アッ、アッ・・・」
女房のやつ、焦りながらも身体の動きは正直に、無理強いな上下動に、自分の腰をぎこちなく、合わせていった。


その夜からしばらく経ったある晩のこと、俺は初めて告白を受けた酒場で、やつを前に盃を傾けていた。
あの晩、俺は先にその場を離れた。
女房を犯した後のやつと言葉を交わしてみたい気もしたけれど、
熱々なお2人さんをそのままにさせておいたほうが無粋じゃないという気がしたのだ。
目のまえで女房を犯されながら、やつに独り占めさせてしまった俺は、
もうとっくに女房の不倫の共犯者になり下がっている。
「なり下がる、なんて言いなさんな」
男はゆうゆうと酒を酌みながら俺にいった。

娘が気に入ったら、その母親がどんなものか、気になるもんだ。
のり子ちゃんは見かけはぱっとしないけど、(ひとの娘をつかまえてまだそれを言うか)
生き血の味はじつに佳い。
いつもうっとりしながら、愉しませてもらっている。
ライン入りの靴下、もう1ダースくらい破っちまったかな。
おかみさんも太っちょだけど、(ひとの女房をつかまえてそれを言うか)
生き血も美味いし、身体もいい。
あんた、おかみさんとは週になん回やってんの?
なんだ、ごぶさたなのか。もったいねぇ。
家ん中でもスカートにパンストって、いい趣味だな。
おかみさんのパンストも、もう1ダースはとっくに破ったな。
え?14足だって?あんた全部視ていたのか?

浮気の現場を残さず視ていたと告げる俺に、やつはくすぐったそうに、少し誇らしそうにして笑った。
すがすがしい笑いだと、なぜか思った。
俺も笑った。
男ふたりは、声を合わせて、笑いこけた。
笑い終えた後、気分がスッキリするくらい、腹の底から笑い合った。

あんた、本気でうちの女房に惚れたみたいだね。
いつもしんけんに女房と接してくれて、女房を夢中にさせてくれているね。
ご無沙汰にしていただんなとしては、感謝しなくちゃいけないのかもな。
俺は俺で、そこそこ遊んでいるから――あいつにはちょっと、済まない気でいたんだ。
さっきご無沙汰だと言ったけど。
さいしょに覗いたあの晩のあと、家に戻って来た女房のことを有無を言わさず押し倒してね。
物音が聞こえていたはずなのに、二階の勉強部屋は、やけにひっそりしていたっけな。
あんたがうちに来るときも、娘はいつもああしているのかい?

浮気帰りの女房を押し倒したその夜から、週になん度かはやっているんだ。
「夫婦のセックスも、たまにはいいよね」とか言いながらさ。
でもあいつ、あんたとの関係は断とうとしないんだよな。

迷惑かな?
やつは訊いた。
迷惑だね。
俺は応えた。
でも、歓迎する。
あとをつづけた俺に、やつはにんまりと笑った。
あんたのご一家を征服できて、嬉しく思う。
あんたに家族で征服されて、嬉しく思う。
やつの口真似で返してやると、「きょうはおごろうか」いつもと同じセリフを、口にした。
「けっこうだ」
俺はいつものように、やつの好意を謝絶した。
それはそれ、これはこれ。
俺の女房の貞操を、酒代なんかでごまかそうとするなよ。
あんた、本気で女房に恋をしてくれているんだから。


あとがき
前作のスピンアウトです。
どうも話が熟女のほうにエスカレートすると、ついつい熱がこもります。
このお話、今朝ほどあっぷしたつもりでいたら、あっぷできていませんでした。
改めて読み直して、再あっぷいたします。
2018.6.11 AM8:14頃脱稿

白人男性に愛された妻

2018年06月04日(Mon) 07:28:19

海外旅行で泊まったホテルで、妻の美香は外人男性のトムに見初められて、
招かれた3人きりのパーティーの席、酔いつぶされたぼくの目のまえで、
トムに迫られた美香は犯されていった。
それが、ぼくたち3人のなれ初めだった。

服をはだけられながら、
スカートをたくし上げられながら、
ストッキングを引き裂かれながら、
落ち着いた色合いをしたルージュを刷いた唇を吸われながら、
きちんとセットした栗色の髪を振り乱しながら。

ぼくだけのものだったはずの乳房を、揉みくちゃにまさぐられつづけて、
唇と唇との淫靡なせめぎ合いに自分のほうから応えつづけて、
白く輝く皮膚を持った獣の臀部が沈み込んでくるのを、大胆に開いた股間の奥に迎え入れつづけて、
逞しい腰の強引な上下動に、さいしょは無理強いに、やがて積極的に、動きを合わせつづけて、
逞しい獣にのしかかられた美香は、華奢でちいさな身体の獣になって、渾身のテクニックで応えてゆく。
ぼくたちだけの秘密だったはずの、あのテクニックが、白人男性にも通用するのだと知って、
なぜかむしょうに、嬉しかった。妻を犯されている真っ最中なのに。
こうして、ぼくだけのものだったはずの美香は、めくるめく陶酔のなかに、堕ちていった――

日本人のミセスはこんなふうに、夫以外の男とも寝るのか?
トムの問いは、まじめだった。
すべての日本女性の名誉にかけて、ぼくはノーと答えた。
美香もまた、そんなことないわ、と、応えた。
そして一言、つけ加えた。
貴男のことが、好きになってしまったからよ――と。

でも、タカシのことも失いたくないの。
私にとっては優しい夫なの。
だから犯された私が応えてしまっても、許してくれるの。
さいごのところだけは少し違う――そう言いかけたけれど、うまく言葉にできなかった。
もしかすると美香のいうことは少しも違ってなくて、図星を指されたのかも知れなかった。

旅先にいる間だけの恋人関係を、ぼくが認める。
和解はそれだけで、成立した。
あなた、ゴメンね。
美香は深い瞳でぼくを見つめた。
Thank you,Taka.
彼は屈託のない目で、ぼくに感謝をしてくれた。
そして無償で捧げられた東洋人の人妻の肉体を心から愛する行為に熱中をした。
夫の目のまえであることもはばからずに。
それが、夫の好意に応える最善のやり方だといわんばかりに。

MIKAをボクの部屋で独り占めにしたい。今夜だけでもかまわないから――
彼の切実な願いを、ぼくは好意的にかなえてやった。
彼の部屋に送り出した美香は、返してくれると約束された午前2時きっかりに、ぼくの部屋に戻って来たけれど。
なにか言いたそうにもじもじするのを、ぼくはすぐに感づいていた。
もう少し、逢っていたかったんだろう?
図星を指された美香は、恥じらうように下を向いてしまった。
けれども声は、彼女が取り繕おうとした慎みを、みごとに裏切っていた。
「・・・・・・だめ?」
別れを強く惜しみながらも美香を時間どおりに帰してくれたファインプレーに、
約束の時間を朝まで延長するというファインプレーでぼくは応えた。
Thank you,Taka.
彼の心のこもった感謝は、ぼくの胸を居心地よくくすぐった。

朝を迎えると。
美香はすっかり、心のなかを入れ替えていた。
彼とぼくとが、どちらも居心地よく過ごせるように。
ぼくだけに向けてきた無邪気な視線を、美香はトムにも向けるようになって、
ぼくの尖った視線もはばからず、小娘のようにはしゃぎながら、彼の抱擁を受け容れた。
外人のまえで日本人が洋装でキメる――というだけでも、時には十分媚びにつながることを、いやでも思い知らされた。
けれどもそんな状況に、だれよりもぼく自身が、胸をズキズキと昂らせてしまっていた。
二人は笑いさざめきながら言葉を交わして、
気が向くとぼくのほうを、同意を求めるようにふり返って、
ぼくが無言のまま頷くと、手を取り合って隣の寝室のドアを開いて、
半開きのままのドアの向こう側、睦まじくまぐあい合った。
そんなふたりを、開け放たれたドアの向こう側から、ぼくはドキドキしながらのぞき見するばかりだった。
すっかり呼吸を合わせ合ったふたりは、夫の目にも似合いのカップル。
均整の取れた逞しい身体に組み敷かれたぼくの美香は、
華奢な身体に精いっぱいの熱をこめて、彼の欲情に応えてゆく。

そんなふうに、あのおとなしい美香が、夫であるぼくを平然と裏切ることが、
裏切っておいて「ゴメンね」って、嬉しそうな上目づかいでほほ笑むことが、
いつも以上にかわいくみえた。
そして逞しい肢体の持ち主の白人男性が、ぼくの愛妻を獲物に選んだことが、
一日じゅう飽きずに妻の身体を獣のように力強くむさぼり、溺れてくれることが、
ぼくにはなぜか、誇りに思えた。

まるで彼の好みに合わせるように洋装でキメて、
彼の前に出てウットリとほほ笑む美香は、
大柄な白人男性にたわむれかかられて、
華奢な身体つきにまとったブラウスをはぎ取られて、
きゃあきゃあとはしゃぎながら押し倒されてゆく。

足許にしゃぶりつけられる貪欲な唇に、
きちんと装われたストッキングを蹂躙していくことが、
逞しい手にブラウスをはぎ取られて、奴隷にされていくことが、
どうしてこんなにも、胸をズキズキさせるのだろう?

ホテルのプールサイドでは、
恋人のように寄り添う彼と美香とが佇む風景が、毎日のようにみられた。
美香はとっておきの水着を身に着けて、彼専用のファッションショーをくり広げて、
色とりどりのビキニを着けた華奢な肢体に、彼は欲情もあらわに乱れかかった。
だれもいない真夜中のプールは、
逞しい白人男性と華奢な東洋人の人妻の、痴態の場と化した。
人妻が旅先で恋に落ちて、国境や肌の色を越えたアヴァンチュールを愉しむことは、思っよりもありふれていたらしくって。
夫連れで来た女性客と単独の男性客とがプールサイドを並んで歩き、
人目がなくなったのを見はからって、目だたないようにひっそりとキスを交わすのも、
だれもいない隙に熱情もあらわに抱き合うのも、
ホテルの従業員たちは、見て見ぬふりをしてくれた。
ふたりとつかず離れずの距離を保っている夫が、彼と自分の妻との熱々な様子に不平を慣らさないのを、不思議そうに盗み見ながらも。

どこにも観光に出ないうちに、一週間が過ぎた。
けれどもぼくたち夫婦にとっては、それで十分だった。
美香は外人男性のベッドの上での優しさを。
ぼくは愛する妻をほかの男に愛し抜かれる歓びを。
しっかりお土産に持ち帰るのだから。
こんどは観光に来ると良い。
別れぎわトムはそういって、再来を期待した。
ぼくはぼくで、彼女一人でも行かせると約束をした。
出来れば二人で来てほしいな。
きみにも見せつけたいからね――と、トムはイタズラっぽくウィンクをした。
そうね、見せつけちゃいましょう――小鳥のようにさえずる妻が、心からいとおしかった。

不倫の似合う女

2018年06月03日(Sun) 09:32:18

目のまえのじゅうたんのうえ、ここまで提げてきた黒い鞄が転がっている。
あたしはベッドのうえで、なん度めかの寝返りを打った。
あたしのうえには黒衣に身を包んだ男が、しがみつくようにしておおいかぶさっている。
息苦しいほどの距離感に、もうあたしは慣れ切っていた。

通学途中でこの邸に引き込まれ、初めて血を吸われた。
相手が吸血鬼だとわかったときにはもう、夢中になってしまっていた。
吸血鬼の邸に入り浸る娘を咎めに来た親たちは、娘を連れて邸を辞去するときにはもう、別人になっていた。
娘の生き血を喰らう忌まわしいはずの男と、母親はにこやかに言葉を交わし、
父親はついでにこいつもどうぞと、自分の妻を吸血鬼にすすめていた。
母親はまんざらでもなさそうな顔をしながら吸血鬼のベッドに引き入れられて、めでたく”結婚”までしてしまった。

それ以来。
家族のだれにも咎められずに、吸血鬼との逢瀬を愉しんで・・・いや、献血の奉仕に励んでいた。
彼は好んで、女の脚に咬みつく習性をもっていた。
さいしょに狙われたときには、白のハイソックスだった。
母親が吸われたときには、肌色のストッキングのふくらはぎにしつように唇を吸いつける吸血鬼を見て、
以来彼を愉しませるために、黒のストッキングを穿いて通学するようになった。

彼が落ち着いたら、家に電話しなくちゃ。
「娘は身体の具合が悪いので、きょうは学校を休ませます」
ママはきっと、そういって担任の先生をだましてくれるだろう。
あたしはお昼過ぎくらいまで、ずっと彼のお相手をする。
穿き替えてあげた二足目のストッキングにも、もう派手な裂け目がいくすじも、鮮やかに走っていた。

いまごろはホームルームか。
先生も、クラスメイトのみんなも、彼氏の嶋中くんもきっと、あたしがこんなことにうつつを抜かしているなんて、知らない――

「ずっと彼氏に黙ってるつもりか?」
吸血鬼が耳もとで、囁いて来た。
あたしは、ウン、と、応えてしまっている。
あたしがいまだに処女でいられるのは、彼が処女の生き血を好んでいるから。
あたしはきっと、彼より先に、この男に犯されるに違いない――それでもいいと、なんとなく思ってしまっている自分が怖い。
吸血鬼がふたたび、耳元に囁いて来た。
「あんたはきっと、不倫が似合いな女になることだろう。」
余計なお世話――そのひと言は、かろうじて飲み込んだ。
このひとに生意気を言うと、物凄く貧血になるまで血を吸われて、お仕置きをされるから。
そのうえで、「こんなに味わってもらえてうれしいです」なんて、心にもないことを言わされるから。


十年後。
あたしはやはり吸血鬼のお邸のベッドのうえにいた。
彼氏だった嶋中くんの苗字を名乗ることになったあたしは、専業主婦になって、
出勤していく嶋中くんをにこやかに見送ると、すぐにおめかしをして、このお邸にもぐり込む。
家に出入りするときには地味な服。そこであたしはよそ行きの派手なワンピースに着かえて、彼の寝室に入る。
そう、新婚の若妻の生き血は、一滴残らずこのひとのもの。
「やっぱりあんたは、不倫が似合いな女になったな」
耳もとで囁きほくそ笑む憎たらしい男にそっぽを向くと、
その姿勢のまま抱きすくめられて、首すじを咬まれた。
「ほどほどにしなさいよね、主人もそこにキスするんだから」
「安心しろ。家を出る時までには傷口はふさがっている」
そう、この人の咬み痕は、信じられないほど短時間で、あっという間に消えてしまう。
「あなたも、不倫が似合いの男じゃないの」
あたしがそう毒づくと、男はいった。
「だんなのまえで、お前を抱いて、思うさま愛し抜いてやりたい」と。
「それはだめ」
あたしはそういいながらも、のしかかって来る男の前、ガーターストッキングを穿いた脚を、早くも開きはじめていた。


まさかこんなに早くいなくなってしまうとはな。
嶋中くんの写真のまえ、吸血鬼は形どおり手を合わせると、寂しそうに言った。
「このひとのまえで、あたしを犯す夢がかなわなかったからでしょう?」
あたしが毒づくと、男はいった。
「でももうあんたは、自由な女だな」
男はにんまりと、嗤っていた。
「いやなやつ」
なおも毒づくあたしにあいつは迫って来て、行きもできないくらい強く、抱きすくめられた。
同時に唇も奪われていた。
身に着けた洋装のブラックフォーマルが、くしゃくしゃになった。
男の手がスカートの奥に這い込んで、ストッキングごしに太ももをいやらしく撫でまわしてくる。
ふと見ると、夫の写真が目のまえだった。
「あッ・・・このッ・・・」
男の意図をやっと察して抗うあたしを、男はなんなく抑えつけて、
夫の写真のまえで、あたしのことを犯しにかかる。
「あなた・・・あなた・・・許してえっ」
本気で許しを乞うほど、あたしは殊勝な女じゃない。
ただ、男をそそるために、わざと夫の名前を口にしながら――男の意のままに辱め抜かれていった。

だれにもほんとうのことを言わないあたし――
そんなあたしは、夫に秘密を隠し通す不倫に向いていたのかも。
「嶋中の母親を紹介してくれ」
耳もとで囁くあいつに、あたしは素直に肯いてしまっていた。

前作の、多少誤解を交えた要約 ~一期一会~

2018年05月29日(Tue) 07:55:31

人間と吸血鬼が共存する街に、一人の学校教諭がいた。
教諭の教え子の一人は吸血鬼で、教諭の夫人に恋をしていた。
想いが高じて病になった彼のため、教諭は夫人を見舞いにやらせたが、
それは結果的には、最愛の妻に対する教え子の道ならぬ恋を成就させることになった。
有夫の婦人を吸血の対象とするとき、彼らはほとんど例外なく、肉体関係まで結んでしまうからである。
教諭夫人は、夫の身体しか識らなかった。
そして、夫に命じられるままにその教え子のために献血に応じ、その流れで凌辱を受けてしまう。

教諭夫人は、自分のことをものにした教え子に付き添われて帰宅したが、夫にすべてを告げた。
夫人は涙ながらに、
「操を奪われて悔しゅうございますが、若い男の身体を識ってしまった身です、どうぞ離縁してくださいまし」
と願ったが、教諭の容れるところにはならなかった。
教え子が彼からその妻を奪う意思を持っていないこと、恩師の名誉を守ろうとしていることを確かめると、
教諭は二人の仲を許容して、むしろ逢瀬を重ねることをすすめたのだった。
教え子の性癖を薄々知りながら、みすみす夫人を見舞いにやらせてしまった以上、
ふたりを結び付けたのはむしろ自分自身なのだと自覚していたからである。

夫人にも、いなやはなかった。
さいしょに挑まれたときには、うろたえながらも夫の教え子の衝動を食い止めようとした彼女だったが、
破れた洋服を気にかけて夜の闇を待つあいだ、すっかり打ち解けたセックスを交し合ってしまっていたのである。
教え子でもある吸血鬼は、恩師が離婚することを望んでいなかった。
同時に、彼女のことを、恩師の妻のまま辱めつづけることを願っていた。
教諭は、いびつな愛に目ざめた二人の願望を、好意的にかなえたのだった。

教諭が二人の逢瀬を三日に一度に限ったのは、過度の失血が夫人の健康を損ねることを気づかったためである。
そして彼の教え子は、許された権利を遠慮なく、限度いっぱいまで行使した。
事前に来訪が告げられているときには、教諭は妻と教え子とを二人きりにさせてやるためにわざと外出することが多かったが、
吸血鬼が衝動のままに息せき切って前ぶれなく現れたときには、そうはいかなかった。

教諭夫人は夫の目のまえで息荒く抱きすくめられ、装った清楚な衣装もろとも辱められていった。
吸血鬼に接するときに彼女が身なりを整え清楚な服装で装ったのは、決して相手の気を引くためではなく、
自らの品格を守ろうとするためだったが、むしろ逆効果だった。
初めての来訪のときスーツ姿で訪れた夫人の、ひざ下丈のスカートから控えめに覗くストッキングに包まれた脚に吸血鬼は欲情し、見境なく襲いかかったのだ。
さいしょの逢瀬以来夫人は、「品格を守るため」と言いながら、若い愛人の気を引くために装いはじめている自分に、気がついてゆく。

やがて夫人の衣装は少しずつ入れ替わって、
真っ赤なスリップや黒のストッキング、
ときには濃紺のストッキングで娼婦のように毒々しく染めた足許を、
ほんのすこしだけためらいながらも、夫の教え子のまえにさらすようになってゆく。

お茶を嗜む教諭夫人は、情事の現場と化した離れの茶室で、情夫にお茶を振る舞った。
そして、求められるままに着物をはだけて、わが身をめぐる生き血も、同じくらい熱意をこめて振る舞っていった。
一期一会。
ふたりは時には教諭を交えて愛し合い、今しかないひと刻をせつじつに過ごしたのだった。

やがて教諭の教え子たちが成長すると、交代で母校に勤めるようになった。
彼らは教諭夫妻が二人きりでいられる時間を作るため、
身代わりに自分の妻たちをかつての幼馴染に引き合わせることになる。
吸血鬼はクラスメイトたちの若妻の生き血に酔い痴れて、
一人また一人と、こぎれいな装いを持ち主の血潮で染めていった。
若妻たちは、いちど首すじにかぶりつかれてしまうと、唯々諾々と彼の意のままになって、
家事や育児の合間を縫って、彼専用の娼婦へと堕落していった。

それでも教諭夫人との交際は絶えることがなく、
彼女が奥ゆかしい老婦人となってのちも、
夫の目を憚り、ときにはあべこべに見せつけながら、
奥深い情を交し合いつづけたのである。


あとがき
要約というには長すぎますね。^^;
前作では、夫は不慮の災難の用に妻を襲われていますが、
本作では、ある程度見越したうえで愛妻を吸血鬼にゆだねる感じになっております。

一期一会

2018年05月29日(Tue) 06:24:44

ある若い吸血鬼が、人妻を愛するようになった。
相手は、自分の恩師の奥さんだった。
この街では人間と吸血鬼とが共存していたので、
その吸血鬼も、人間の学校で人間の先生から教えを受けていたのだ。

吸血鬼はわきまえのある青年だったので、自分の想いを押し隠すことにした。
けれども先生は、教え子の自分の妻に対する想いに感づいていた。
奥さんもまた、彼の想いに気がついていた。
やがて病を得た青年のもとに、先生は奥さんをお見舞いに行かせることにした。
「ユウトくんの見舞いに行って来てほしい」
夫にそう告げられた奥さんは、自分の身に何が起きるのかを薄々知りながら承知した。
彼女は夫を愛していたし、夫の判断を信用していた。
きっとそうすることが、いまの自分たちにとってベストなのだろうと。
「一期一会だよ」
夫はいった。
まるで謎をかけるように。
訪問先にはどんな一期一会が待っているのかと思いながら、
奥さんは行儀よく脚に通したストッキングのつま先を、地味な革製のパンプスに収めていった。


奥さんは身なりを整えて、夫の教え子のもとに出向いた。
吸血鬼の家は広い棲み処で、彼はその家で独りで暮らしていた。
奥さんが身なりをきちんとしたのは、恩師の夫人としての体面を整えるためだった。
決して、若い吸血鬼の気をそそるためではなかった。
夫もまた、そうすると良いとすすめてくれた。
身なりのきちんとした女性のほうが、そうでない女性よりも、乗じられることが少ないだろうからと。
しかし結果は逆だった。
奥さんのきちんと装われたスーツ姿に、
ひざ下丈のスカートから控えめに覗いた、ストッキングに包まれたふくらはぎに、
吸血鬼は欲情してしまった。
彼は奥さんの首すじにかじりつき、思うさま血を吸い取ると、
奥さんの穿いていた肌色のストッキングを牙でびりびりと咬み破り、
相手が恩師の夫人であるというわきまえを忘れて、彼女を犯してしまった。

「あれ!何をなさいますの!?いけません、お止しになって・・・」
奥さんはうろたえながらも夫の教え子を落ち着かせようとしたけれど、
失血で弱った手足は思うようにいうことをきかず、
たちまちねじ伏せられて、力ずくで凌辱されてしまった。
永年連れ添った夫しか識らない身体だった。
彼女は泣きながら犯されたが、
しかし識ってしまった若い男の身体に、四十代の熟れた肢体は敏感に反応してしまった。
さいごは不覚にも、別れぎわぎりぎりまで、肌を合わせてむさぼり合ってしまっていた。
これが一期一会というものなのか。
ひくひくと喘ぎつづける身体の芯の火照りにとまどいつつも、
これでいいのだろうか、こんなことでよかったのだろうかと懊悩しながら、
身に降りかかる嵐のまえ、どうすることもできなくなっていった。


長い時間が過ぎた。
教え子は恩師の奥さんに恥をかかせるつもりはなかったので、
彼女の洋服が破れて素肌をあらわにしてしまっているのが闇に紛れる刻限になってから、彼女を家まで送っていった。
ただし暗くなるまでにはまだ決して短くはない時間が必要で、
そうなるまでの間ふたりは、お互い恥を忘れてまぐわい合っていたし、
彼はもとより、彼の考えを聞かされた奥さんも、いつか相手の男と気持ちをひとつにして、
知らず知らず、これ幸いと脚を開いて刻を過ごしてしまったのである。

家に着くと奥さんは我に返り、自分のしでかしてしまったことを取り返しのつかないことだと感じた。
ふたりの男のまえ、奥さんはすべてを打ち明けて、
私は当家の名誉を汚してしまった、
もうあなたの姓を名乗りつづけるわけにはいかない、
どうか自分のことを離縁してほしいと夫に願った。
教え子の吸血鬼は、ただ頭を垂れるばかりだった。
先生は奥さんを愛していたし、教え子にも悪気がまったくないことを知っていた。
なによりも、彼らが人妻の血を吸うときは、ほとんど例外なく肉体関係を結ぶことも、薄々は聞き知っていた。
けれども真面目な教え子であった彼に限って、自分の妻に非礼をはたらいたりはしないだろうと思って、妻を見舞いに行かせたのだった。
先生は奥さんに言った。
いちばんに責められるのは、彼の習性をそうと知りながらきみを行かせたわたしにある。
きみがもし彼を愛してしまったというのなら、ぼくに止める力はないけれど、
そうではないというのなら、このまま家にいなさい、と。
また、教え子の吸血鬼にも訊いた。
きみは家内のことを愛してしまったのか、それともたんに、生き血と女の身体をむさぼりたいという本能のままにし遂げてしまったことなのか、と。
教え子はいった。
奥さまに罪はない、すべては自分の忌むべき本能のせいなのだ、と。
それからこうも言った。
自分は劣情の塊である、だから奥さまを襲ったのも、犯したのも、その忌むべき本能にしたがったまでなのだ、自分はたんに女の生き血と肉体が欲しくて、奥さまに挑みかかったのだと。
妻と教え子と、どちらも愛している恩師は告げた。
きみたちの関係が、割り切れるものだというのなら・・・
(妻を指して)きみはここに留まりなさい。
(彼を指して)きみはここに通ってきなさい。


それ以来。
教え子は卒業してからも、恩師の家に通い詰めた。
奥さんひとりで彼の必要とする血液すべてをまかなうことはできなかったが、
彼にはほかにも獲物がいたので、彼女の健康は保たれた。
けれども彼は三日にあげず恩師の家にやってきて、その妻の身体を欲しがった。
恩師は教え子の求めにこころよく応じて、
やって来た彼に家のなかで一番良い部屋をあてがった。
そして、彼の待つ部屋に行くよう妻に促していた。
奥さんもまた小ぎれいに装って、夫の教え子の待つ部屋へと足を運んだ。
彼女が身なりを整えて、きちんとした服装で教え子の前に出たのは、
教諭夫人としての品格を保とうとしたからであって、夫の教え子の気を引くためでは決してなかった。
永年習っているお茶の作法とどうように、彼女は夫の教え子をもてなそうとしていた。
どんな服装を身に着け、どの部位を彼の植えた唇にあてがい、
どんなふうに教諭夫人としての品格を辱められまいとして、
どんなふうに衣裳を剥がれて辱められてしまうのか。
いつも茶室で振る舞うお濃茶の代わりに、われとわが身をめぐる血潮を振る舞うことで、
彼女は彼女なりに、しんけんに刻を過ごそうとした。
それが、(半ば許されていることとはいえ、)夫を裏切る刻であったとしても。

それでも、せっかくやって来た彼のことを少しでも愉しませてやろうという心遣いから、
身に着ける下着はいままでの地味なものからセクシィなものへと換えられていって、
脚に通すストッキングは、より薄っすらとなまめかしいものへと変えられていった。
それまでと変わりなく装われた清楚で気品に満ちた服装もまた、
清楚なものを汚したいという、品格というものを貶めたいという
そんなけしからぬ訪客の願望をかなえてやうために、袖を通されるようになっていった。

地味で清楚な服装のなかに、それを辱める愉しみを見出しながら、
彼は彼で、奥さんの服装の変化に敏感になっていた。
三度に一度はまとわれるようになった真紅のスリップや、
週に一度を限度に脚に通される黒のストッキングや、
それこそ月に一度あるかないか、
しつようなおねだりにほだされて羞じらいながら脚に通される濃紺のストッキングや、
そうした彼女にまとわれた衣装をまえに、
彼は恥知らずなよだれを口に含み、吸い取った血潮を見境なくまき散らしながら、
教諭夫人が浄いものとしたがった一期一会を、淫らで荒々しいものへと、塗り替えていった。


奥さんが自宅に夫の教え子を迎え、献血に応じるようになってひと月ほど経ったころ、
彼女は夫にいった。
あのひととのお付き合いが、あくまで身体だけが目的のものだとしたら、何と虚しいことでしょう?
もちろん、四十代の女の熟れた血液を彼が望んでいることは、
今の妾(わたし)にはとても嬉しいことだし、
これからも応えつづけてあげたいけれど。
やはり男女の関係というものは、愛情という裏打ちがあるべきだと思うのです。
このような心は、貴方に対する裏切りになるでしょうか?
やはり、妾は貴方にふさわしい妻ではいられないのかもしれません、と。
夫はいった。
きみのいうことはもっともだ。
でも、いまのきみたちの関係が、たんに獣のような劣情だけで成り立っているとは、ぼくは思っていない。
きみたちはきちんと、愛し合っている。
少なくともきみは彼を迎えるときに、ほかの誰に対するよりも心を込めて接しているし、
彼もまた、ここに来るのを心待ちにしているのだから。
彼のきみに対する気遣いは、ふつうの我々人間たちの気遣いとは違っていて、
礼を尽くして装われたきみの服を念入りに辱めたり、
ぼくの目のまえできみを抱いてなん度も果たしてしまったり、
そういうことで、自分は今貴方から頂戴した獲物を愉しんでいると、ぼくに精いっぱい伝えようとしているのだろう。
それになによりも、きみのことをあれほど辱めて愉しんでおきながら、
毎日ここに現れないのは、きみの健康を損ねないために気を使っているのだから。

たしかに彼は、恩師の夫人との逢瀬を日々、心待ちにしていた。
三日に一度以上の吸血は控えていたし、どうしてもこらえきれないときには先生の家にやって来て、愛し合う行為だけを遂げていった。
そういうときは、先生は気を利かせて外に用事を作ったりするものだったが、
前ぶれのない来訪の時にはそういうわけにもいかず、
彼は恩師の目のまえで奥さんを押し倒して、
奥さんもまた、彼の激しすぎる好意に、ぎごちなく身体を合わせて応えていった。

彼は恩師とその妻にいった。
私は奥さんのことを愛している、さいしょからずっとその気持ちに変わりはなかった。
でも先生から奥さんを奪ってしまうことは、ぼくにはできない、
だからぼくは、奥さんのことを、先生の奥さんのまま愛し抜きたいと。
彼が望んでいるのが独占ではなく共存だと知って、心優しい夫妻は安堵しかつよろこんだ。
夫は、いつでも君が来ることを望んでいるし、妻を抱くためだけに来てもらってもかまわない、それはぼくにとって不名誉なことではなくて、むしろ悦ばしいことなのだからといい、
妻もまた、貴男がいらしてくださるのなら、妾(わたし)、いつでも夫を裏切りますわといって、控えめな目鼻立ちを和めて笑った。
言葉の露骨さとは裏腹の、穏やかなほほ笑みだった。
そして彼女は、その言葉と態度どおりに、夫に対しても客人に対しても礼節を忘れることなく接し、いよいよのときだけは恥を忘れて乱れ果てた。

身体ばかりか心まで通じ合ったふたりは、
恩師の目のまえで、
夫の目のまえで、
見せつけるようにして愛し合い、
永年連れ添った妻が肉体を征服されるところを目の当たりにする羽目になった恩師は、
教え子が逞しく成長したことを、いやというほど思い知らされるのだった。


やがて時が流れて、先生の奥さんと教え子の吸血鬼の関係は、だれもが知るようになった。
奥さんが教え子と深く結ばれて愛し合うことに、先生は満足していたけれど、
時には奥さんと二人きりで過ごしたいという、夫として当然すぎる気持ちも持つようになっていた。
道ならぬ愛を許されたふたりもまた、先生のそうした意を汲んで、少しずつ逢瀬を控えるようになった。
一定量の血液を必要とした吸血鬼が、最愛の人妻を夫のもとに帰すことができたのは、
かつてのクラスメイト達のおかげだった。
先生の教え子たちは全国に散らばっていたが、何人かは戻ってきて、先生の“窮状”を知った。
彼らはかつての同級生だった吸血鬼と個別に会い、恩師夫妻のふたりだけの時間を作るため、奥さんの身代わりに自分たちの妻を差し出すと申し出た。
ありがたい申し出に、吸血鬼にもいなやはなかった。
彼は同級生の娶ったうら若い新妻たちの首すじに、つぎつぎとかじりついていって、
養分と活力豊かな20代30代の血液にありついた。
もちろん、親友の妻といえどもそこには見境はなくて、
若妻たちは一人、また一人と犯され、吸血鬼の奴隷に堕ちていった。

先生の弟子たちは身内の秘密を守りながら連絡を取り合って、
恩師の妻の身代わりに自分の妻をあてがっても差支えのない者たちが、
まるで当番のように交代で母校に赴任して、
かつての幼馴染に、自分たちの妻の若い血液と肉体を提供しつづけた。
自分の妻の容姿に自身のない者は、
「俺の女房なんか、頭数だけだよね?」
と、吸血鬼に問いかけたが、案外そうした妻たちにこそ、彼は執着していった。
地味で清楚な婦人に魅かれる彼の習癖に、代わりがなかったからである。
なん人もの若妻たちが、夫以外の男の身体を覚え込まされ、
家事や子育ての合間を縫って、彼専用の娼婦として奉仕を続けた。

吸血鬼は母校の教諭夫人たちを、かつて恩師の奥さんにそうしたように押し倒し、血を吸い取り、犯していった。
そんな彼の習癖をただの病気と割り切って、かつての幼なじみたちは、
自分の妻たちが身に着ける清楚な衣装が、持ち主の名誉もろとも汚されるのを、
貞淑だったはずの自分たちの妻が、不倫の恋に酔い痴れるのを、
見て見ぬふりをし続ける。


齢を重ね、還暦近くなろうというのに、
それでも吸血鬼の恩師宅通いはつづけられた。
楚々とした着物に身を包み、永年習った作法でお茶を振る舞ったあと、
狭い茶室のなか、われとわが身をめぐる血潮を、お濃茶以上にたっぷりと振る舞って、
着物の下前をめくりあげられ、襦袢をたくし上げられて、
昼日中からまた、あられもない声をあげてしまう。
夫がそれを傍で聞いて、愉しんでいることまで知り尽くしながら。

青田君の奥さんと、うまくやっているのね?
エエ、二人は愛し合っているんです。
笹岡くんがもらったばかりの、新婚の奥さんまでものにしちゃったんですって?
エエ、あのひととも愛し合っているんです。
そのうえ、妾(わたし)とも?
ハイ、二人は愛し合っているんです。
「ふたり」と告げたときの情夫の微妙な口吻に気づいた彼女は、ふと笑いかける。
そこには夫も入っているのだ と。
「ふたりって、どのふたりのこと?」
わざと聞かれた問いに男は答えずに、いった。
一期一会 ですよね?
私は目のまえの獲物に専念するし、いま抱いている女(ひと)を愛し抜くことしか考えません。
青田くんの家では、青田夫人とその娘さん、
(うっかり口走った秘密に、あらあら・・・とクスクス笑いが続いた)
笹沼くんの家では、彼の奥さんやお母さん、
(まあまあ・・・と、教諭夫人はふたたび笑いこける)
この家では、貴女――
さあもういちど、と口づけをねだられて。
奥さんは「主人が視ててよ」と、いちどは拒んだが、
強引に押しつけられる唇に、唇で応えていって、
物陰から覗く夫の困ったような視線にもおかまいなく、またなん度めかの“一期一会”を重ねていった。

2018年05月28日(Mon) 22:29:50

さいしょのうちは、どうしてこんなにしつっこく、ひとの身体のあちこちに喰いつくんだろう?と思っていた。
やつと逢っているときは、首すじだけではなく、
肩、胸、二の腕、わき腹、太もも、ふくらはぎと、それこそありとあらゆる部位に喰いついてくるのだ。
わざと苦痛を与えるためか?
そう思ったときもあった。
けれども、どうやらそうではないらしいことが、最近分かってきたような気がしている。
やつらはただ、「噛みたい」のだ――と。

やつらは牙をとても大切にしている。
なぜって、それが人の心をも支配できる最強の武器だからだ。
いつも入念な手入れを欠かさない。
そして、ひとの女房を誘惑するときには、
――美女の素肌を噛む前に、手入れは欠かせないのだよ。
などと、もっともらしいご託まで並べ立てる。

仲間同士では、自分の牙が今月、幾人の美女の素肌に埋め込まれたのかを自慢し合っていた。
「わしは青沼の女房をモノにした。ついでにやかましいことをいう姑まで、奴隷にしてやった」
「わしなんか、隣家の嫁入り前の姉妹を3人ながら、ちょうだいした」
「くそ!俺が貧血にしてやったのは、勤め帰りのOL1人だけだ」
「ははは、そいつは残念だったな」
指折り数えて、競争相手よりも少なかった日にはたいそう悔しがって、
喉が渇いているわけでもないのに人間の女たちに襲いかかる。
そんなのの巻き添えにあったのでは、まったく迷惑極まりないのだが・・・
けれども、彼らの自己満足を満たすため、頭数かせぎに集められた女たちのなかに、
わたしの母や姉、そして妻までもが含まれていた。

自分の血でびしょ濡れになったワイシャツとスラックスにしみ込んだ、薄気味の悪い温もりを感じながら。
目のまえで妻が、わたしのときと同じように、色鮮やかな紫のワンピースを血塗られながら、噛み続けられていった。
あたかも、ひとの服を持ち主の血で彩るのが愉しくてしようがない――はた目にも、そんなふうに映った。
事実そうなのだ・・・と、妻を噛んだ男はいった。

撥ね散らかされる血。
洩れる悲鳴。
振り乱される髪。
血塗られてゆく衣裳。
裂け目を拡げるストッキング。
こたえられない噛み心地――
それらすべてが一体になって、彼らにサディスティックな悦びを与えるのだと。

きみたちは、サディストなのか?
わたしは訊いた。
たぶんそうだね。
男は応えた。
でも、噛まれる側に立っているあいだは、マゾヒストだったな――と。
そう。
彼もまた、吸血鬼になるまでは、わたしと同じふつうの市民だったのだ。

女房が噛まれたときにはひどく悔しかったけれども、
嗜血癖が芽生えてきてしまうともう、頭の中身がすっかり入れ替わってしまって、
噛まれている女房を視ているだけで自分が噛んでいるような気になって、
そのときにはもう、意識は吸血鬼の側に飛んでいたっけな――
さいごのころには、女房を噛んでもらいたくって、しぶるあいつを促して、夫婦でお邸に通ったものだよ。
マゾヒストはある意味、最良のサディストになり得るのさ。

たしかに。
相手のツボを知っているものほど、よく相手を支配できるのだろう。
妻を噛んでいる憎いやつは、吸血の本能を植えつけられたとき、すすんで女房を仇敵の欲望にゆだねて愉しんだという。
彼のいびつな歓びを、果たしていまのわたしは笑い飛ばすことができるだろうか・・・?

きょうも妻は、家のなかを悲鳴をあげながら逃げ惑い、部屋の隅っこに追い詰められて、
身じろぎできないほどに強く強く抱きすくめられた腕のなか、きゃあきゃあと声をあげ、噛まれてゆく。
貧血を起こしてひっくり返ったわたしは、目を血走らせ、股間を逆立てて、ふたりのようすから目を離せなくなっている。

どうやらマゾの境地を極めたようだな。
犯されて放心状態になった妻の上におおいかぶさって、
乱れたワンピースの裾から覗く太ももの奥に、どす黒くたぎった熱情の限りをそそぎ込んでしまったあと。
やつはわたしの胸の奥を見抜いたようにいった。
ここからは、あんたもサディストになる番だな。
どうやらそういうことらしいね。
気がつくと、身体じゅうの血のほとんどは、やつの牙に啜り取られたあとだった。
虚ろになった身体に淫らな夜風が吹きつけるのが、ひどく心地よい。
自分の身体が人の生き血を欲し始めた――わたしはありありと、そう感じた。

兄夫婦と姪を狙おうと思う。
わたしはやつに、宣言した。
口にしただけで、兄の一家の運命を握ったような気分になった。
さいしょから独りで狩るのは大変だぞ。おれが手伝ってやる。
もっともらしく囁く男の本音を見抜くのは、かんたんだった。
目あては娘のほうか?女房か?
どっちもだ。
男は嗤った。
わたしも嗤った。
お前の妻に手引きをさせろ。だんなはお前の妻に気があるんだ。
知ってる。
せっかくだ。武士の情けでいちどくらいは、抱かせてやるか。
やつとおなじ語調になったわたしに、男はいった。
3人とも、さいしょは俺が噛んで大人しくさせる。そのあとは、好きにやるとよい。
兄嫁は、あんたに先にやらせてやるよ。
ずうっと前から、執心だったんだろう・・・?

わたしは嗤った。
やつも嗤った。
嗤った口許から同じように尖った牙が閃くのを、互いに確かめ合いながら。

間男の奥方

2017年12月27日(Wed) 08:17:13

アラ柏木様、きょうはお帰り?
そういいながら靴ベラを差し出す奥方は、齢相応の奥ゆかしさを滲ませた、素敵なご婦人。
こんな奥様をお持ちなのに、この家のあるじはどうして、女にあれほど手が速いのだろう?
わたしの妻の由貴子は、結婚前からすでに、彼の手中に堕ちていた――

娘が年頃になったいまでさえ、週に2、3度はお召しがある。
わたしが知らないでいるあいだに、ふたりきりで逢う夜もあるらしい。
けれどもそういうときには、見て見ぬふりをするのが、夫の務め――
なぜって?
それはやっぱり男と女だから、
独り占めにしたい刻もあるのだろう。
そういうときはきょうのように、夫であるわたしはさりげなく座をはずすことを求められて、
吸血鬼はわたしの愛妻とふたりきりの刻を過ごす。

夫としての義務を放棄したわけでは、むろんない。
そう――間男を家庭に受け容れる決断をしたと同時に発生する同席の義務。
それをわたしは嬉々として受け容れて、
目のまえで羞じらいながら征服されてゆく妻のあで姿を、昂ぶりながら見届けてゆく。
でもきょうはどうやら、由貴子のことを独り占めにしたいらしい。
だからわたしは、座をはずす。

もっとも――
きっと数時間も経ったら、ふたたびお呼びがかかるはず。
「由貴子の服を濡らしちまった。悪いが、着替えを持ってきてくれないか?」
人の善すぎる間抜けな夫は、妻の濡れ場の後始末をするために、いそいそと着替えを届けに情夫の邸に参上する。
そしておそらくはもういちど・・・
巻き込まれた気の毒な夫の目のまえで、妻は思うさま征服されるはず。
そして気の毒ははずの夫もまた、目の前で恥を忘れ果てた妻を目の当たりに、
みずからもきっと、恥を忘れる――

「このままお帰りになるの?もっとゆっくりしていらしてもいいのよ」
奥方は意味深な上目遣いをわたしに与えるが、
わたしはその手には乗らずに、丁寧な会釈だけを置き土産に家路をたどる。
そう。
魅力的な奥方との交換条件で妻を差し出したのではない。
彼と最愛の妻との交際をあえて認めたのは、無償の好意ゆえなのだから。


あとがき
ちょっと体調を崩して、遠ざかっていましたが。
復活してみようと思った直後、あっという間に描き上げちゃいました。 (^^ゞ

受話器 2

2017年11月27日(Mon) 06:26:29

夜が明ける。
真っ暗にしたはずのこの部屋にも、閉め切ったカーテンの向こうから、明け方の気配が洩れてきていた。
男は顔をあげ、あたりの様子を窺った。
女はとうに、気絶している。
気絶した女の傍らに、黒い受話器が転がっている。
男は吸血鬼。
魅入らせてたらし込んだ人妻を呼び寄せて、ひと晩かけて欲望を満たしつづけていた。
血を吸うだけではない。
ちゃんと女として、愛し抜いた。
夫は単身赴任のサラリーマン。
そんな手薄な身辺に近寄るのは、たやすいことだった。
やすやすと堕とした女の肢体に、夜な夜な酔い痴れる。
もちろん吸い取る血液の量は、手かげんしている。
軽い貧血が却って陶酔をそそるのか、
女は心地よげに男に身をあずけ、守り抜いてきたはずの貞操を、惜しげもなく差し出してくる。

転がった受話器を、男は手に取って、耳にあてがう。
もしもし――?
とうに切れていたと思っていた受話器の向こう側は、まだ回線がつながっていた。
ツーツーという無機質な発信音の代わり、耳元に聞こえてくるのは、男性の昂った息遣い。
切迫し切った息遣いは、女の夫のものだった。
あんた、きょうは仕事だろ?
・・・休むよ。
息遣いの主の声色は、長時間続いた緊張の果てにある疲労と愉悦に満ちていた。
家内、ぼく相手のときには、そんな声立てないんですよ・・・
満足できた?
ええ、とっても・・・

手ごめにした人妻の夫は、男にとって幸いなことに、マゾヒストだった。
そして夫自身にとっても、己の性癖は幸いしていた。
ことの真相を知った夫は協定に応じ、潔く吸血鬼の軍門に降ると、
留守宅を守る妻の肢体をよろこんで提供すると約束してくれた。
そのご褒美に。
今夜は逢瀬を遂げるというその晩に、夫のところに電話をかけて、
ことのなりゆきを面白がって笑いこけるその妻のまえ、電話をつないだままの受話器を転がしてみせた。
――今夜はあんたの愛妻の、悩ましい喘ぎ声をプレゼントしてあげる。
吸血鬼の言いぐさに、受話器の向こうでおっとりと頷く夫。
転がした受話器の揺れが止まる前に、吸血鬼は女に襲いかかっていた――

ひと晩寝ずに、奥さんの声を聞きつづけていたのか?
眠れる夜じゃ、ないからね・・・
きみは良いご主人だ。
あんたも、良い間男だ。
うふふふふふっ――男は、くすぐったそうに笑う。
軽はずみな女だが・・・これからも家内のことをよろしくな。
ああ、任せておけ。
震えを帯びた昂ぶりの声の主は、やっと自分のほうから電話を切った。
あとに残るのは、ツーツーという無機質な発信音。
男は受話器を置いて、傍らに転がる女の肢体を見おろした。
女は口許にかすかな唾液を滴らせ、整った目鼻立ちに淫らな陶酔の痕跡をありありと残している。
クククククッ・・・
男はくぐもった昏い笑いを洩らすと、われにかえって身じろぎを始めた女のうえにのしかかり、
アッと声をあげかけた唇を、自分の唇でふさぎながら。
もういちど女の背中に腕を回して、ギュッと抱きすくめていった。


あとがき
前作に触発されて、受話器をテーマにもう一話描いてみました。
昨日から、前作に触発されて次のを描き、さらにそのまた次のお話・・・と、つむいでしまいました。
たまにはこううことも、ありますよね?^^

逢う瀬のあとに

2017年11月21日(Tue) 07:06:16

幼なじみの“彼”が妻といっしょに、夫婦の寝室に入ってから約一時間。
妻の声に呼ばれて部屋に入るとすでに“彼”は立ち去ったあと。
ベッドのうえには首すじから血をしたたらせ、よそ行きのワンピースを着崩した妻がひとり、じっとこちらを視ていた。
「妬きもちやかないの?」と、わたしの気分を逆なでしようとする妻。
「相手が“彼”ではね」と、受け流すわたし。
わたしは知っている。
昔からこの街に棲んでいる人間で吸血鬼になったものは皆、自分だけではなく妻も娘も吸われているのだと。
「だから、お互い様だと思えるんだよ」
「あなたも吸血鬼になっちゃえばいいのに♪」と、挑発する妻。
「ほかの女を襲いたいとは思わないから」
不思議なくらい、こたえがさらりと出てきた。
そのさらりと出た答えに妻は納得したのか、もう何も言わなかった。
わたしはベッドのうえの妻に近寄り、ふたりはしっかりと抱き合っていた。
犯されるきみが理性を狂わせてゆくのをのぞき見するほうが、他の女よりもよほどそそられるから――
かみ殺したはずのそんな想いは、いつもよりも激しい衝動となって、きっと妻にも伝わったはず。
妻はなにもかも心得ているかのようにわたしに応じつづけて、
まるで新婚のころのような熱情あふれた交歓を、くり返してゆく。

もつれ込んだベッドのうえで過ごした時間は、たぶん“彼”の襲撃よりも長かったはず。
「男のひとって、単純ね」と、妻は挑発をつづけようとする。
――「長い」とか。「おっきい」とか。ばっかみたい。
つまらない男の見栄をあっさりと笑い飛ばすと、わたしの腕をすり抜けるようにして、台所へと立ってゆく。
あわてて目線で追った後ろ姿はもう、エプロンを締めかけていた。
女というやつは、おそろしい。たとえ女房であっても。
女は非日常の痴情から、こともなげに日常に戻っていく。
きっと妻は・・・
きょうのような公然とした訪問以外の誘惑を、その何倍も受け止めているのだろう。

「こんどはいつ来るのかしら」
テーブルのうえに料理を運びながら、独り言を呟く妻。
エプロンの長いすそから覗いた脛の上を、ストッキングの伝線の太いすじが、あざやかに走っていた。
わたしはふと言いかけて、あわてて押し黙る。
そんなことを指摘したらまた、彼女は不倫妻のモードに戻ってしまうだろうから。
そういえば。
勤めから戻ったわたしを迎える妻はよく、ストッキングを伝線させている。
じわりと肚の底にこみ上げた衝動をかろうじて押し隠し、わたしは食卓につく。
今夜も覚悟をしているのか、小ぎれいに身づくろいをした妻は、なにかを待ち受けるようにわたしのことを盗み見た。

お墓参りに来た、独身の姪

2017年09月02日(Sat) 08:45:10

私たちが死んだら、お墓参りに来てね。
きっとそこには、あなたに逢いたがっている墓守がいる。
その人はあなたの血を欲しがるだろうから、
そのときには私がそうしてあげたみたいに、あなたの血を吸わせてあげて。

裕福な伯母は、伯父が亡くなった翌日に逝った。
身体じゅうの血液が一滴も残されていない不思議な死に方だったが、
この街の人はだれもがなんの疑念も抱かなかったらしく、葬儀は兄夫婦の手で、鄭重に執り行われた。
その一週間後。
舞阪香苗26歳は、伯母が生前に言い残した不思議な囁きに従って、伯母夫婦の墓を訪れた。
伯母に言われるまま、黒一色のスーツに、脛の透ける薄手のストッキングという礼装に身を包んで。

そこで香苗を待ち伏せしつづけていたらしい墓守は、白髪頭の初老の男。
香苗は自分がこれからなにをされるのかを予期しながらも、礼儀正しくお辞儀をする。
男のほうも礼儀正しく挨拶を返すと、夫婦の墓に額づいて、持っていた花束を鄭重に差し出した。
二人の死を悼んでいるのは、キッと偽りのない想いなのだろうと、香苗は感じた。
周囲からは人通りが去って、香苗は男と二人きりになったのを自覚した。
墓石のまえで組み敷かれ、男はむき出した牙を香苗の首すじに、じりじりと近寄せてくる。
迫る危険に怯えるよりも。
組み敷かれた背中に当たる硬い石畳のごつごつとした感触だけが、気になりつづけていた。
荒い呼気が頬に当たり、ブラウスの襟足に忍び込む。
香苗は首のつけ根に鈍痛を帯びた刻印をつけられて、理性を妖しく漂流させた。
黒のストッキングの脚に男が卑猥な舌を這わせてくるのも、
くまなく舐め抜かれたあげく、ふくらはぎを咬まれて血を吸われるのも、
止めさせる気力はもう、残っていなかった。

もともと無気力な女だった。
高校生のころから学校に行かなくなって、伯母のつてでえた就職先も休みがちだった。
幸か不幸か強力なつてだったので、どんなに引き籠っていても会社の席はなくならなかったし、生活に困ることもなかった。
そんな安穏さがますます、香苗を引き籠らせていった。
唯一の話し相手だった伯母が、さいごに残した言葉――
それだけが、香苗を導いていたのだ。

私が死んだら、お墓参りに来てね。
そこには墓守がいて、あなたのことを待っているから。
彼は夫のつぎに大切なひと。
だから、私はあの人に、あなたのことをプレゼントするの。
服装は、自分をプレゼントするときのラッピングみたいなものよ。
そそくさとはぎ取られてしまうかも知れないけれど、
もしかしたら記念に大事に取っておいてもらえるかも。
私たちのお墓の前で、あの人と仲良くして頂戴ね。
そうすれば。
私はあなたのことを彼に、プレゼントとして差し出すけれど。
あなたにも彼という一生のお友だちを、プレゼントできたことになるわけだから。

すべては伯母の、いうとおりだった。
きっと伯母さんも、こんなふうにされたのね?
ブラウスをはぎ取られ、ストッキングをずり降ろされながら。
降りしきるキスに怯えつつも、少しずつ応えるすべを覚え込まされながら。
それが風変わりな出逢いであったとしても、
初めてのラブ・シーンを伯母のまえで遂げることに香苗は納得を覚えて、
目線を合わせてくる男にかすかに頷きかえすと、
ストッキングを片方だけ脱がされた脚を、ゆっくりと開いていった。

あなたには、生きる権利がある。

2017年09月02日(Sat) 08:18:06

あなたには、生きる権利がある。
追い詰められた女は、ひたむきな目で相手を見つめながら、そういった。
鉛色の頬に意外そうな表情を浮かべた吸血鬼は、立ち止まって女を凝視した。
冷たい目線に負けまいと、女はなおも自らのまなざしに力を込めた。
でも、私にも生きる権利を認めて。わかる・・・?

数分後。
抱きすくめられた腕のなか、女はぼう然としていた。
片方の頬には、食いつかれた瞬間撥ねた血潮で、べっとりと濡れていた。
男はひたすらクチャクチャと汚い音を立てながら、女の生き血を啜りつづける。
まだじゅうぶんに若さを秘めた中年女性の血潮に、明らかに劣情を催しているのを、
女は感じないわけにはいかなかった。
男は女をベンチに座らせると、今度はふくらはぎに咬みついた。
肌色のストッキングが破けて、縦に裂け目が拡がった。
失血で抗拒不能になった女は、屈辱的だと思いながらも、もはやどうすることもできなかった。
もう片方の脚も咬まれて、穿いていたストッキングをみすみす破らせてしまっていた。

さらに十数分後。
女はベンチの上で仰向けの姿勢で、犯されていた。
生き血をぞんぶんに愉しまれた女は、夫しか識らなかった身体に、汚れた精液を熱っぽく注ぎ込まれていった。
女はひたすら夫のことだけを想い、なにも感じまいと頑なに歯を食いしばり、
脱げて地面に転がったハイヒールを、ただひたすらに見つめつづけていた。

京野龍子(46)は、こうして貞操を喪った。


想いを遂げたあと。
吸血鬼は龍子にそのまま寄り添って、
正体不明の人影がしきりに暗躍する物騒な公園の空気から、自分の女を遮りつづけた。
そして、龍子が貧血から少し立ち直りかけると、家の近くまで送るといった。
女は黙って頷いて、男が自分の傍らを歩くのを、認めるともなく受け入れた。
はた目には、デート帰りの男女に見えなくもない・・・龍子はぼんやりとそう思ったが、
男の好意をはねつけるだけの気力は、もう残されていなかった。

玄関で出迎えた夫に、吸血鬼は手短に来意を告げた。
奥さんの血を吸わせてもらった。貧血になったので、ここまで付き添わせてもらった。と。
龍子はあとをひきとって、ありのままのことを夫に打ち明けた。
お互い、生きる権利を認め合ったの。
でも、そのあとのことは考えに入れてなかった。
この街の吸血鬼がセックス経験のある女を襲うときには、恋人同士になろうとするんだね。
それだけが、あなたに対して申し訳なくて。
でもこの人は、来週も私に逢いたがってるの。
だれかの血を吸わなければ、生きていけない人だから。
私は、吸わせてあげようと思っている。
いけない人だけど、死んでしまうのはあまりにもかわいそう。
ほかの人が襲われて同じ目に遭うのも、それはやっぱりどうかと思う。
被害が拡がるだけだものね。
あなたにだけは申し訳ないと思っているから、なにかの形で埋め合わせさせて。
この人も、あなたの名誉まで台無しにするつもりはないみたいだから。

龍子の夫は、永年連れ添った妻が短い時間のあいだに、すっかり染め変えられてしまったと感じた。
けれども、それでも妻が気丈にも理性を持ちこたえて、事態を何とか円満解決しようと心を砕いているのを、好もしく思った。
彼はじゅうぶんに妻を愛していたし、妻もまた身体を汚された後も、自分を愛しつづけているのを実感した。
あとはただ、理解ある寛容な夫となるという選択肢しか、残されていないと感じていた。
数分後。
リビングのじゅうたんのうえにあお向けになった夫は、妻と同じ経緯で男に首すじを咬ませ、献血に応じていった。
自分を襲っている男の体内で、自身の身体から吸い取られた血液が、妻の血液と交わり合うのを感じながら。
別れぎわ。
夫は打ち解けた気分で、風変わりな訪問者に話しかけた。
妻の体調がよくないときは、わたしが身代わりに妻の服を着てお相手してあげようかな。
男は白い歯をみせて、それも楽しみです、とだけ、いった。
男二人は、一人の女を介して共存することを受け容れあった。

妻の服で女装して、女になり切って献血をする。
夫は熱心に奉仕を果たしつづけた。
妻を抱かせたくない。
そんな想いが龍子の夫を公園に赴かせていたけれど。
身にまとう女の衣装が帯びる妖しい魔性が、彼を居心地よく包んだのも確かだった。
逢瀬を遂げた後、男は性欲を持て余していると夫に告げて、
つぎは妻を来させるからと、夫は約束させられた。
妻が出かけていく時、彼はひっそりと家で待ちつづけた。
さいしょの夜と同じように、スーツに泥をつけて帰宅した妻をいたわりながら、
今夜は少しだけ、ウットリしちゃったかも。
そんなふうに悪戯っぽく笑う妻を抱きしめて、そのまま夫婦の寝室へと引き込んでいった。
それ以来。
妻が逢瀬を遂げるときには、物陰から見つめる夫のしつような視線を、
吸血鬼とその情婦とは、感じないわけにはいかなかった。
吸血鬼のセックスは、性欲処理のように強引なときもあったし、
熱情をこめて寄り添いつづける甘美なときもあった。
どちらのときにも龍子は気丈に振る舞い、男の劣情を真正面から受け止めていった。
それでもときには、ほだされてしまうときもあるらしくて、
夫のまえだと知りながらも、身体を二つに折って感じていることを覚らせてしまったり、
声をあげて夫の名を呼び、二人の男を二人ながら必要以上に昂奮させてしまっていた。

十数年後、龍子の夫は病を得て亡くなった。
龍子はかねてから、吸血鬼に申し入れていた。
もしもあのひとに先立たれたら、いちどだけ未亡人の身体を抱かせてあげる。
でもそのあとは、私の血を一滴残らず吸い取って。
あのひとはやきもち妬きで、寂しがり屋。
だから早く彼のいるのところに行って、永遠に寄り添ってあげたいから。
男は言われるままに約束を果たし、
夫を弔うための黒一色のスーツを纏ったまま無言になった女を、いつまでも抱きすくめていた。
女は去りぎわに、悪戯っぽく笑っていった。
私たちには子供はいないけど、独身の姪と、既婚者の甥がいるの。
ふたりには、お墓参りに来てねって誘ってあるの。
甥っ子のほうはきっと、お嫁さんを紹介してくれると思うわ。
だから、だいじにしてあげて。

味見の後の感想。

2017年08月01日(Tue) 05:50:48

はじめに
吸血鬼に理解のあるご主人の仲介で奥さんと逢うことのできた吸血鬼の、事後報告です。
なぜか起き抜けに、さら~っと描けてしまいました。10分くらいで。 (^^ゞ


いましがた、奥さんと逢ってきた。いい女だった。チャンスをくれて、ありがとう。
献血のことは、あらかじめ話しておいてくれたんだな。
だから、話が早かった。
でもね、なかなか咬ませてもらえなかった。
何しろさ、恥じらう、恥じらう。
ストッキングを穿いた脚を咬もうとしたらスカート抑えちゃうし、
首すじを咬もうとしたら、部屋の隅っこまで逃げちゃうし。
それで、なんとかなだめすかして、寝台の上にあお向けになってもらって。
それで首のつけ根をそっと咬ませてもらった。
いちど咬んじまったら・・・あとはもう意のまま、だけどね。
そこで、たっぷりと吸い取らせてもらった。
佳い血だった。
うら若くって、適度に熟していて。
また吸わせてくれってお願いをして、そこはすんなりと同意していただけた。
肝心なのは、そのあとだよね・・・?
スカートのなかに手を入れたらさ、びっくりしちゃって。
そこはあんた、話していなかったんだな。
でも何せしたたかに吸血された後だろう?貧血がひどくって。
けだるそうに、でも懸命に抵抗してきたな。操を守ろうとして。
でもまあ、なんなくねじ伏せて、果たしてしまった。
なん時間、いっしょになっていたかな?
とにかく、奥さんの考えが変わるまで、くり返したんだ。
5回や6回じゃ、済まなかったな。
ええ、身体の隅々まで、愛し抜かせてもらったよ。
だからもう・・・あの身体は、きみだけのものじゃない。
最初は嫌々だったけれど・・・まぁ、良識ある専業主婦としては、とうぜんだろうな。
でもいまは、違っているはずだ。
その証拠に、こんど逢う約束をしてくれたからな。
気になるかい? 木曜の午後だ。
あんたのいないときが良いって言うから、それで良いって答えておいた。
日中はあまり、出歩きたくないんだがね。奥さんのたっての願いだからね。
どうしても気になるのなら、勤め先を抜け出して、視に来るがいい。
きみのことだから、邪魔だてするような野暮なまねはしないだろうから、あらかじめ教えておくし、視る権利も認めるからね。

奥さんを離婚したくなったら、いつでも相談してくれ。
代わりにわしが、面倒見るから。
奥さんをわしの妾のひとりとして囲いものにして、欲しくなったら訪ねていくから。
都会育ちの奥さんを囲いものにできるなんて、仲間うちでは自慢の種になるだろうね。
もっともわしの仲間はそうした奥さんの2、3人は、愛人にしているやつらばかりだがね。
よく考えておいてくれたまえ。


【後日談】
奥さんの生き血を吸い取られ、不倫までされてしまったご主人ですが。
その後もご夫婦は別れずに暮らしているようです。
表むきは円満そのもののご夫婦ですが――時折奥さんは、一人の時間を持ちたがるようです。
そういうときはほんとうに一人なのではなく、
傍に影のように寄り添う男性が、いるとかいないとか。

”お見合い”の後日談――

2017年06月06日(Tue) 06:21:18

いえ、いえ。
もとから、そういう意味で申し上げたんですよ。
これからもどうぞよろしく・・・というのは、
目のまえのソファのうえ、永年連れ添った妻が、吸血鬼に犯されていた。

荒い息の下。
あ、な、た・・・ご、め、ん、な、さ、い・・・っ。
と、妻は謝罪をくり返し、
荒い息の下。
あんたの奥さんは好い女だ。
と、吸血鬼は称賛をくり返し、
ひそめた吐息を交えつつ、
あなたに初めてお目にかかった瞬間から、こうなってほしいと心から望んでいたのです。
と、記憶をすり替えられた夫は、うわごとのようにくり返す。

三人が初めて顔を合わせたのは、夫婦の間の一人息子のお見合いの席。
新婦の母親から依頼された仲人と称して現れたその男は、彼らの親よりも年配の、みすぼらしい男だった。
あとで知ったところによると、
仲人と称するその男は、実は新婦の母親の情夫であって、
ふたりの仲はその夫である新婦の父さえ認めていて、
当の令嬢さえ、すでにその男によって凌辱されていたという。

息子とは、ただならぬ因縁でもあったのだろうか、
初対面のその男を、即座にそれと察しながらも、
与えられた状況をすすんで受け入れて、令嬢との婚約を許したのだった。

なにも知らない夫婦は、息子の縁を取り持ってくれた仲人に、
これからも、どうぞよろしく。
と、挨拶を交わしたけれど。
まさかその挨拶が呪縛のように巻きついてきて、
夫婦ながら生き血を吸い取られ、そのうえ妻を情婦にされてしまうなどとは、夢にも思っていなかった。
それでも夫婦はそうした忌むべき日常を、いまは悦んで受け容れていて。
淫らな意図を抱えて自宅に出入りをくり返す男を迎え入れるたび、
どうぞよろしく。
と、会釈を投げるのであった。

男は我が物顔に、夫人の肩に腕を回しながら、夫に向かって宣言する。
こんどの週末もまた、きみの妻を借りてゆくぞ。
しかるべき人間の女を連れてゆくと、どこの婚礼でも歓迎されるのでな。

実の夫婦を装って、婚礼の席にまぎれ込んで、きれいな女を物色する。
そんな動機のために、つき合わされる妻だったが、

そのときにはあなた、芳名帳には彼の姓でサインするんですよ。

いまではそんなふうに、悪戯っぽく夫に嗤いかけている。
堅物だったはずの妻も、いまではすっかり蕩けてしまって、
情夫の言うなりに、好みに合わせる女になり替わってしまっていた。
そんな日常が、むしょうに愉しい。

この淫らな吸血鬼を家庭にひき込んだのは、息子の嫁になった女。
控えめなお嬢さんとばかり思っていたその女は、若くして淫婦になり下がっていた。
息子はそうと知りつつも彼女との婚姻を望み、
その忌むべき婚礼の引き出物として、
花婿の父親は長年連れ添った妻の貞操を汚され抜く羽目になった。

けれどもいまは、後悔をしていない。
嫁いだこの家以外の姓で、他所さまの婚礼の芳名帳に記帳する女。
妻が他の男の情婦となることに、
いまはいびつな歓びにむせ返る思いしか感じられない。


あとがき
またも、話が拡がってしまいましたね。。。
悪い癖です。 (^^ゞ

ご感想は・・・?

2017年06月06日(Tue) 03:47:09

ご感想は・・・?
自分を犯した男を、まっすぐに見あげながら。
組み敷かれたまま、妻は訊いた――どすの利いた、低い声色で。
まぁまぁだな。
男はいけしゃあしゃあと、にこりともせずにそういった。
たったいま。
自分の股間を満足させただけの女に向けて。
それでももういちど、欲情し直したように鼻を鳴らして、
妻の上へとおおいかぶさって。
自分のペ〇スをねじ込むようにして、セックスをした。
妻は腰を振って、相手の劣情に応えていた。

ひどいじゃないの。
もういちど身を起こした男を相手に、妻はいった。
貞淑女房だったのよ~。
主人しか、識らなかったの~。
それなのに、まあまあだなんて。
涙声になった女に、男はちょっとびっくりしたような顔をして。
すまねぇな。心無いことを言った。
わかった、わかった。
お前は最高の女だ。
実をいうとな。
俺はいまの瞬間またがっている女以外のことは、みんな忘れちまうんだ。
もう少しだけ。
あんたの生き血を、吸わせてくれ。

わかった。
妻は静かな声色で、いった。
憑きものの落ちたような、声だった。
じゃあ私も、主人のこと忘れてあげる。
もういちど、私のことを好きにして――
妻は今度は自分から、脚を開いていった。
引き裂かれたストッキングをひざ小僧の下までずり降ろされた脛が、それはみずみずしく、
この女が娼婦に堕ちたのだといわんばかりに輝いていた。

咬まれた首すじから血を流しながら、やつの情婦に堕ちた女は、喘ぎながら応えつづけた。
あなた・・・ゴメンね・・・でももう少しだけ、ガマンして・・・
妻を犯される屈辱をガマンしろというのだろうか?
それとも――ズボンのなかで逆立っている欲情をガマンしろと、なにもかも見通したうえで言っているのだろうか?
わたしの無言の問いには答えずに、妻は明け方になるまで、男の切実な欲求に、息をはずませて応えつづける――

隣人にスポーツを習う。

2017年05月27日(Sat) 11:18:53

夫の趣味は、長距離走。
妻の趣味は、ゴルフ。
そんな活発な若夫婦は、隣家でひっそりと暮らす独身の初老男のことを、なんとなしに気にかけていた。
「あのひと、いつもひっそりと憂鬱そうに暮らしているわ。もっと明るく暮らすために、あたしたちが外での遊び方を教えてあげましょうよ」
妻の加代子の意見に、夫の雅哉もすぐ賛成した。
けれども男はかたくなに、夫婦の誘いに乗ってこなかった。
穏やかな陰性の男ではあったけれど、決して人あたりは悪くない。
先日も夫婦で外国旅行に出かけたときには、ペットの小鳥をそれは大切に扱ってくれたくらいだったから。
それで若夫婦は気をもんで、きっと彼にあったであろう暗い過去を忘れさせてやろうと、躍起になった。

以前からこの街に棲んでいる同僚が、妙な助言をしてくれた。
ハイソックスとかストッキングとか、長い靴下を履いて誘うと、不思議と乗って来るらしい と。
若夫婦は不思議な顔をしながらも、自分たちよりも初老男とつき合いの長いらしい同僚の助言を容れることにした。

さいしょに応じたのが、夫に対してだった。
初老男は、昏くなってからにしないかと誘い、夫もこころよく相手の希望を容れた。
暗がりのなかでのマラソンは、興味深い結果をもたらした。
そのうっそりとした外見に似合わず、初老男は見かけによらず敏捷な動きをみせて、
10km先のゴールには、初老男のほうがはるかに速く到達したのだ。
「すごい・・・ですね・・・」
息せき切ってゴールインした夫は、それからあとも息せき切る羽目になった。
夫が短パンの下に履いている黒のハイソックスに、初老男が欲情の色をみせ、唇を吸いつけてきたのだから。
気がついたときにはもう、身体じゅうの生き血を舐め尽されて、
若い夫は初老男の欲するまま、ハイソックスが穴だらけになるまで、咬み破らせてしまっていた。
初老男は、まるでとどめを刺すようにして、若い夫の短パンを脱がせ、交尾した。
あらゆる不道徳を身に着けた彼は、男色家でもあったから。

つぎの日の朝は、妻のゴルフのお伴だった。
夜遅くなって戻った夫はそのままベッドに入って眠りこけてしまい、妻に警告を与えることができなかった。
伸び伸びとプレーを楽しむ妻の後を、初老男は多少まごつきながらもついて回り、
18ホール終わったときには、あなたは素質がありますねというありがたいお言葉まで頂戴していた。
クラブハウスに戻って着替える前。
妻がショートパンツの下に履いていたグレーのハイソックスに、初老男が欲情の色を見せ、卑猥な唇を吸いつけてきた。
まるで無警戒だった妻は、小麦色に陽灼けした太ももを咬まれ、ハイソックスのうえからふくらはぎも咬まれていった。
グレーのハイソックスが真っ赤に染まるまでいたぶりを受けた女は、グリーンの片隅の木陰に倒れ伏して、
あとは男の思うままになっていた。
初老男は、まるでとどめを刺すようにして、妻のショートパンツを脱がせ、白日の下、その場で交尾した。
あらゆる不道徳を身に着けた彼は、ひどく女を好んでいたから。

スポーツを楽しむ夫婦は、夫婦ながら初老男を連れ出して、
昼間は彼らがスポーツを教え、
夜は男がふたりを奴隷にした。
それでも夫は、妻が犯されるのをのぞき見するのを悦んだし、
妻はそうした夫に自分の媚態を見せつけるのを愉しんでいた。

人間と吸血鬼。
相容れないもの同士のはずが、親しい交際を結ぶようになった。
お互いが得合う関係 というよりは。
吸血鬼が一方的に、彼らから獲るばかりであったけれど。
夫も妻も、彼との交際から何かを得たらしく、
むしろ新しい関係を悦んで受け容れていったという。

奥さんを紹介してくれないか。

2017年05月22日(Mon) 07:54:55

奥さんを紹介してくれないか。

わたしの血をなん度も吸った吸血鬼に、そうねだられて。
断り切れなくなりかけていた。

ちょっと待ってくれ。
ひと晩だけでも、待ってくれ。
妻を説得してみせるから。

出来ないに決まっている約束をくり返すわたしに彼は、「無理はするなよ」と言ってくれた。
けれどもそのうちに、妻のほうでわたしの顔色を見て察してしまっていた。

あなた、吸血鬼に逢っているでしょ。
私のこと、紹介するの?
覚悟はできているわよ。だからあなた、無理しないでね。

この街に吸血鬼が出没することも。
都会で暮らせなくなったわたしたちがこの街に棲むことを受け容れてもらえたのは、
いずれこうなることを夫婦ながら同意したのと引き替えであることも。
妻もわたしも、忘れてはいなかった。

吸血鬼に妻を紹介する。
ということは、
吸血鬼が妻を襲うことを承知する。
というのと、同意義である。
そんなことはもちろん、わかっている。
わたしの知らないところで襲ってくれればいいのに。
ふとそう考えたこともある。
けれどもそういう考えは卑怯なのだと、心のどこかでそんな声も聞こえてくる。
自分の関係ないところで、物事が自分に都合のよいようにまわってくれる。
もしもそんな状況が訪れるとしたならば、それはだれかによほど感謝しなければならないレベルなのだから。

吸血鬼は、「紹介してほしい」と願っている。
妻もまた、「紹介を受ける覚悟はできている」と言っている。
吸血鬼は、「きみの妻を襲わせろ」と希望している。
妻もまた、「襲われてしまっても仕方がないと観念している。
ふたつの意思に、3つ目の意思が後追いをして、おなじ道をたどるのは、もう時間の問題だった。

いつもの公園で首すじを咬んでもらった後、
わたしは彼を伴って、帰宅する。
あらかじめ言い含められていた妻は、よそ行きのいい服を着て訪問客を待ち受けて、
ありあわせのお酒で、初対面のお祝いをして。
酔っ払ったから夜風に当たって来ると言い訳しながら玄関のドアを開ける背中越し、
吸血鬼が妻を押し倒すのを、気配で感じていた。

ちょっと出てくるとは、ポーズだけの話。
ゾクゾク昂る気持ちを抑えかね、わたしは自宅の庭先にまわり込んで、いちぶしじゅうを見届ける。
観念して首すじを咬まれた妻は、
ストッキングを穿いた足許にも唇を吸いつけられて、
相手の男がストッキングを咬み破るのを、顔をしかめて見守って。
もういちど、息荒くのしかかってくるのを防ぎかねて、
唇で唇をふさがれる直前、「あなたぁ!」とちいさく叫んで、
股を割られ、強引な腰の動きに支配されて、
歯を食いしばって耐えていたはずが、いつの間にか悩ましい吐息を洩らしはじめていた。

素知らぬ顔をして帰宅したとき。
ふたりはしれっとした顔つきで、お酒のつづきをやっていた。
「時々お誘いを受けるからね」
まんざらでもなさそうな妻の横顔を軽く睨んで、
今夜こいつが帰ったら、どうやって押し倒してやろうか?と、
久しぶりにそんなことを想い浮かべているわたしがいた。

間もない同士

2017年05月18日(Thu) 07:53:26

2人が初めて出会ったのは、夜の公園。
女は人妻で、夫の転職をきっかけにこの街に来たばかりだった。
男は吸血鬼で、自分たちに寛容と伝え聞いたこの街に、やはり来たばかりだった。
2人は出会った瞬間、狩りをするオオカミと狩られるウサギの関係になった。

ハイヒールの足ではほとんど逃げ切ることなど不可能で、
女はすぐに追い詰められて、
けんめいにいやいやをくり返しながら、
首すじをガブリとやられてしまった。

ちゅう~っと音をたてて生き血を吸いあげられたすぐあとに。
牙を引き抜いた男と合わせた視線と視線。
2人はすぐに恋に落ちた・・・となるはずもなく、
女は怯えに怯えきっていた。
それでも女はけんめいに言葉を放ちつづけていた。
相手と会話をすることが、自分の命綱でもあるかのように。
――全部吸い尽したりしないんですよね?死んじゃったりしないんですよね?
――献血だと思うことにしますから。ですから手かげんしてくださいね。
――あの・・・あの・・・それ以上は見逃して。主人を裏切るのは気が進まないの。

この街では、吸血鬼に出遭った女は無条件に首すじを許すことになっていて、
相手がセックス経験のある女なら、ほぼ例外なく犯すことになっていた。
けれども2人はこの街に来て間がなくて、その習慣に慣れ切ってはいなかった。
男は貧血になるまで女の生き血を吸いつづけ、
それでも女の願いを容れて、犯すことなく見逃してやった。

ベンチの上で貧血にあえぐ女のため、女が歩けるようになるまで付き添って、
立ち去らないでいる彼に恐怖の視線をおずおずと向けてくる女に、
自分の意図さえ伝えていた。
女を家まで送って行くと、家にいた夫はびっくりしたように2人を見、
自分の妻がなにをされたか、なにをされなかったかを、すぐにさとっていた。
夫もまた、この街に来て間もなかったので、この街の習慣に慣れ切ってはいなかった。
「どうぞ、すぐにお引き取り下さい」
そういって男を家にあげずに追い出すのが、精いっぱいだった。

夫婦だけになると妻は、この街がどういう街だかすぐに思い出していた。
もともと――ふつうの街ではやっていけない立場になって、
逃げるようにしてここに流れてきた夫婦だった。
「あの言い方はないわよね」と、妻は夫をたしなめた。
「どうすればよかったんだ」と惑う夫に、「私に任せて」と妻は言い、
「この街でよかったのよね?」ともういちど、夫に訊いた。
夫の応えしだいでは、窮死するまでいっしょでいるほどの気持ちを秘めて。

三日後の晩。
女は初めて襲われた公園の隅に独り佇んで、
案の定、血に飢えた吸血鬼が再び、目の前に佇んでいた。

二度目の逢瀬は、最初のときほど荒れ狂ったものにはならなかった。
2人とも大人だったから、言葉と態度で境界線を引いていて、
一定の節度を保った逢瀬になった。
けれども――素肌に擦りつけられてくる唇のただならぬ熱っぽさに、
女はなにかを感じずにはいられなかった。

「ストッキングを変えましたね」
ベンチに腰かけた女の足許から顔をあげると、男はいった。
もう、なん度めの逢瀬になるだろうか?
男が決まって、ストッキングを穿いた女の脚を好んでいたぶることに気がついて。
女はいつも男に逢う時には、真新しいストッキングを脚に通して出かけていった。
破れたストッキングの足許を見せまいと、夫の帰宅時間より早く家に戻るため、
まだ暗がりが拡がり切らないころから、男を待って公園に佇むようになっていた。
いつも穿いていた安物のストッキングでは申し訳なくなって、
たまには高級品をと奮発したら、敏感な反応がかえってきた。
「奥さんの心遣いには、いつも感謝しています。無理のないようになさってください。
 いままでのやつも、とても気に入っているのですよ」
所帯持ちの良い主婦でもある女にとって、いろいろな意味で優しい言葉だった。
「どうぞお好きなように」
差し伸べられた脚に加えられる凌辱を、女はいつもより居心地よく、耐え忍んだ。

「ご主人にあいさつをしたい。許してもらえるだろうか?」
そんな問いを持ち帰り、おずおずと夫に問いかけたとき。
「礼儀正しい方のようだね。向こうが会いたいというのなら、来てもらってもかまわない」
夫は意外にも饒舌だった。
いまの職場では、ほとんどの社員が妻を吸血鬼に襲われていて、
だれもが2人の関係を黙認したり、
妻の相手をすすんで家庭内に迎え入れたりしているのだという。
「この街に来ちゃった以上、わたしも寛大にならないとね」
これからは、逢うときには夕食を外で済ませてきても良い――そこまで言ってくれていた。
貧血を我慢しながら夕食の用意をする妻のことを、少しは見かねてくれていたらしい。
たまには外食できるくらいにはなったから――好転した経済状態が夫をそう仕向けてくれたのか。
この種の話題を意識的に避けていた夫婦のあいだに、黙契が生まれ始めていた。

お酒の入った男性2人の会話は、女の入っていけないところがかなりあった。
しかしそれだけ夫が相手に打ち解けてくれているのだと、女はそんなふうに思うことにした。
この街に棲み着いた吸血鬼は、すでに女以外にもなん人もの人妻を襲っているらしい。
吸血鬼同士の仲間内で紹介された、だれにでも献血する心優しい人妻もいれば、
女と同じように見ず知らず同士でいきなり出会った関係のものもいるという。
そのすべてとセックスをして愉しんでいる・・・そう訊いたとき、夫はいった。
――あんた、もしかしてうちの妻のことを本気で好きになったんじゃないのか?
男はまだ、女に懇願されるままに、女を辱める体験を持っていないと告げていた。
三人三様に、押し黙ってしまっていた。

やがて夫は立ち上がり、「ちょっと夜風に当たって来る」といった。
吸血鬼もそれに続いて立ち上がり、「今夜は寒いですよ」といった。
夫の後ろ姿に吸血鬼の影が重なって、女が受け入れたのと同じ牙が、夫の首すじに突き刺さった。
夫は薄ぼんやりとした目をさ迷わせながら、自分の意思で招いた客人が妻を相手に初夜を遂げるのを、見守りつづけていた――

「今夜も残業?」
「きみのストッキング代くらいにはなるだろう」
毎朝のように交わされる、夫婦の会話。
夕刻から真夜中まで、相手の望む刻限は。
自分の妻が吸血鬼夫人になることを許容してから、夫はなぜか、明るくなった。
ひところ途絶えがちだった夫婦の交情も、新婚のころのように復活していた。
喪われたもの――いや、許し与えたもの――の見返りに、
いちどすべてを失った男は、以前持っていたものよりも多くを、得たらしい。


あとがき
既存のルールにまだ慣れていない女と男が、
お互いに対する好意を織り交ぜながら、ひとつになっていく。
そんな風景を描いてみました。

気丈な姑 10  ~偽装される日常 解放される週末~

2017年05月11日(Thu) 08:27:04

帰宅した悠子は、ほとんど始終むっつりとしていて、無言を貫き通していた。
出迎えた夫は、顔色のよくないのを心配してくれたけれど、
「彼、私の血も気に入ったみたい」
と告げただけだった。
嫁をかばって身代わりに血を吸われた。
そんな意味を言外に含めたつもりだったが、果たして夫にどこまで通じたものか。

こちらの機嫌のよくないときには、努めて距離をおこうとする夫。
そんな夫婦の習慣が、じつにきまりのわるい苦境から、悠子を救っていた。

一刻も早くわれに返るために、悠子は家事のルーテンに戻っていった。
リビングでいつものように黙然と新聞を読んでいる夫をよそに、
晩ご飯の下ごしらえをし、お風呂の支度をし、洗濯機を回す。
あの咬み破かれたストッキングも、他の洗濯物のなかにまぎれ込ませるのを忘れずに――


一週間が過ぎた。
あの日したたかに味わわれることで喪われた血液は、とっくに回復していた。
土曜日曜がめぐってくるのが、久しぶりのような気がした。
昼下がりの息子からの電話が、夫婦の静穏な日常を破るまで。

「母さん?じつはあのひとが今、うちに来ているんだ。
 夫婦の寝室で、美那子とふたりきりになってる。
 様子、見に来るかい?」
話の内容の深刻さとはうらはらな、あっけらかんとしたのどかな口調に、悠子はあきれた。

ま あ っ !
なんてこと!
あなた!もっとしっかりなさいっ!
いま母さんも、そっち行くから!!
母親の顔に戻った悠子は、夢中になって受話器の向こうにありったけの言葉を流し込むと。
夫のほうに向きなおって、いった。
「あのひと、また美那子さんと逢っているらしいの。私説教してくるわ」
夫の眼を見返すいとまさえ惜しんでそそくさとそう言い捨てると、
悠子は部屋に戻って着替えを始めた。

よそ行きのキリッとしたスーツに、真新しいナチュラルカラーのストッキング。
サッとなでつけただけの髪を、こんどは鏡に向かって念入りに梳く。
気づいてみたら、口紅もいつもより濃いめに刷いていた。
そんな様子を、夫は遠くから注意深く眺めていたけれど。
ひとの顔色を読むのは夫の癖――と、割り切った。


息子の家までは、ごくわずかの距離だった。
気色ばんでピンポンを押し、出てきたのが美那子ではなく息子自身であることに、昔気質な悠子は憤然とする。
来客の応対をするのは、妻の役割ではなかったか。
主婦の役割をおざなりにして、あろうことか家に男を引き入れて情事に耽るとは何事か。
「ちょっと!美那子さんどこ!?」

気色ばんだ突進は、そこまでだった。
リビングに出てきたふたりを前に、悠子の威勢の良さは、みごとにぴたりと止まっていた。
美那子はともかく、ひとの魂まで引き入れてしまいそうな吸血鬼の瞳の奥深い輝きが、悠子をとらえた。
母親の変化に気づいてか気づかずにか、貴志は場の雰囲気を変えようとして、
「お茶淹れようか?」
とのたまわった。
気を利かせたつもりが、逆効果だ。お茶を淹れるのは、古風な近田家のしきたりでは、本来主人のやることではない。
それは嫁の役目!と、ふたたび悠子が怒りを盛り返すことを予期してか、
「それ、私やるから」と、美那子がなだらかに引き取ってゆく。
台所に立ってゆく美那子の後ろ姿は、どこか着崩れしていたし、露骨な乱れ髪ですらあったのだが、
貴志はそれについてなにも言わなかったし、悠子もあえて口にしなかった。
「お義母さん、こちらへ」
吸血鬼は悠子の目線を巧みにとらえると、さっきまで嫁と2人でいた夫婦の寝室とは別の奥の部屋へと、彼女を促した。

ドアを閉める時。
こちらを気づかわし気に見送っているらしい息子に、彼は抜け目なく声を投げる。
「貴志さん、入らないでね。美那子にもそう言っておいて」
うちの嫁をなれなれしく呼び捨てにして――そこだけが、悠子の気に食わなかったが。
背後から両肩に手を置かれ、その手が形相を変えて悠子を羽交い絞めにしたときに。
悠子の態度は、はっきりと変わっていた。
あ――
気がついたら姿勢を真向いに向きかえられて、唇で唇を、ふさがれていた。
「こうして息子さんに連絡させれば、きっと来てくれると思ってね」
男はにんまりと笑いかけ、悠子はそれにぎこちなく、こたえていった。

二度、三度とディープ・キッスを重ねたあと。
悠子は男から身を離して、足許に落ちたハンドバックを拾った。
そして男との約束どおり、丁寧に折りたたんだ薄地のナイロン製の衣類を、無言で手渡してゆく。
約束を守る律義さは、血を吸い取られて堕とされたあとも変わらない。
吸血鬼の眼に、この年配の主婦の横顔が、ひどく好ましく映った。
気丈で落ち着いたたたずまいに、落ち着きを知らない自分の魂を支えてくれるなにかを感じた。

「あちらは気にすることはない。私が用を済ませたあとは、ご夫婦で愉しむことにしているようだから」
男の言いぐさに、悠子はまたちょっとだけ腹を立てたが、なにもいわなかった。
そして、ふたたび重ねられてくる唇を、さっきよりは少しだけ優雅に受け容れる。
「よろしい。よくできました」
したり顔の男に、「何よ」と言いながら、女はネックレスをはずそうとした。
「いや、そのままに」
男は女が服を脱ぐのを制すると、耳元で囁いた。
「お姿のまま、愉しませてもらうから」
そういえば。
あの日も着衣のまま血を吸い取られ、抱かれたのだった。
「いけない趣味ですね」
わざと他人行儀に作った受け答えは、男の唇でまたもやふさがれる。
「正気じゃなくなりたい」
女はあえてそっぽを向いて、そうすることで首すじをあらわにする。
血を吸われて恍惚となってしまうことが、強いられた情事の免罪符になる。
女のずるい計算がそこにあった。
熱く湿った唇が、ヒルのように密着するのを感じ、女は柳眉をふるわせた。

スカートを大胆に腰までたくし上げられていきながら、
悠子はずっと、真っ赤なブラウスに撥ねた血を気にかけつづけた。
そうすることで、これから行われる悪事から、少しでもそっぽを向きたくて。
でも、そっぽを向こうと努めながら、ついふり返ってしまいそうな自分も、あきらかにいた。

男の唇が、スカートの下に這い込んだ。
さっきから。
しつように、それはしつように、這わされる舌は薄地のナイロン生地を、よだれでたっぷりと濡らしてゆく。
ストッキングの舌触りを愉しんでいるのだと、ありありとわかった。
けれども、やめさせることはもう、できなかった。
穿いてきたストッキングがおろしたてであることに、悠子は安堵を覚えた。
真新しいナイロン生地は、ふるいつけられてくる恥知らずな舌に愉しまれ、みるみるうちにいたぶり尽されていった。
気に入ってもらえて、うれしいわ――
悠子のささやきに吸血鬼は頷くと、鋭い牙を突き立てて、ブチブチと音をたてながら、女の装いを咬み破いてゆく。

無重力状態におちながらも。
ストッキングを片方だけ穿いた状態を、ひどくふしだらなものに感じたのは、きっと正しい感覚なのだろう。
けれども、冒された局部にびゅうびゅうと吐き散らされる熱い粘液の感覚は、悠子の理性をすでに大きく狂わせていた。
というよりも、気づいたらすでに娼婦になっていた というのが、正直なところだろう。
迫ってくる男の背中に腕を回し、夫のそれよりも逞しい胸板に、乳房を蹂躙し尽されていた。
はぁはぁというワイルドな息遣いは、さいしょ男だけのものだったはずなのに、
いまでは負けず劣らずのもの欲しげな呻きを、恥を忘れて重ね合わせてしまっている。
ふすまの向こうに息子の気配をありありと感じたのに、大胆な痴態に耽る女体を、もうどうすることもできなくなっていた。
「あなた・・・あなたぁ・・・」
と、夫に赦しを請う呟きは、
「もっと・・・もっとぉ・・・」
と、さらなる汚辱に焦がれる声になっていた。
もう、息子に聞かれたってかまわない。
そう、夫に聞かせてあげても、良いのかもしれない。
声をあからさまにあげることが、こんなにも快感だなんて。
どうやら息子夫婦が自分たちの寝室に引き上げたらしい気配まで敏感に感じ取りながら、
悠子はもっと汚して・・・と、はしたないおねだりをくり返していた。

まだ赤黒く猛り立っている一物がヌラヌラと光らせている精液を、スカートの裏地で拭き取る行為も。
ブラジャーをせしめられ乳首のかすかに透けた真っ赤なブラウスを、吸い取った血で濡らされる行為も。
破れ残ったストッキングに唇を当てられ、さらに凌辱し尽されてしまう行為も。
男の悦ぶことならなんでも応えてあげようという、女らしい寛大さで許しつづけていったのだ。


かえり道。
男に送られてたどる家路は、このあいだのそれよりも悠々と愉しむことができた。
さりげなく送られてくる好奇に満ちた盗み見の視線を、小気味よく受け流しながら。
穿き替えた真新しいストッキングに唾液をたっぷりとしみ込まされたのが、外気に触れてすーすーするのも、
ドキドキしながら、愉しんでしまっていた。

なにも知らない夫は、きょうもリビングで独り、新聞に読みふけっているのだろうか。
首すじにあからさまにつけられた咬み痕は、どうやらまだ咬まれていない人には見えないらしい。
いつか夫にも、見せつけてあげたい。
悠子は胸の奥に、密かに危険な焔(ほむら)をかきたてていた。

気丈な姑 9  ~堕落の刻 続~

2017年05月10日(Wed) 08:19:48

どれほどの時間。
男相手の淫靡な舞踏をつづけたことだろう?
度重なる情交に、ふと倦怠感と疲労感を覚えた悠子は、見つめ合った目にわれ知らず目くばせをしていた。
男はそれでも許してくれず、「もういちど」とねだり、
ねだれれた悠子は「はい」と小さな声でこたえると、
ふたたび身体を開いていった。

自分から。
男を受け容れてしまっている。
そんな自覚におののきながら。
悠子は交し合う情交がもたらす昂ぶりを、いつか抑えきれなくなっていた。
「いちど」の約束が、なん度にもなった。
けれども悠子はもう、相手を咎めようとはしなかった。
むしろすすんで身体を重ね、脚をからめていった。
脚に通したストッキングがみるかげもなく咬み破かれて、外気がじかに触れてすーすーするのを感じながら。

ひとしきり、愛の交歓が終わると。男はいった。
「身づくろいなさると良い。送ってあげる」
すばやい囁きを残してサッと身を離すと、男はもう隣室へと消えていた。
はだけたブラウス。
腰までたくし上げられたスカート。
みるかげもなく咬み破られたストッキング。
それらの衣装に身を包んだ自分だけが、その場に残された。
その情けないありさまをまじまじと見つめようとしなかったのは、「武士の情け」とでも、いうべきなのだろうか。

女は立ち直りが速いもの。
鏡に向かって紅をひき直しながら、悠子は自分の思い切りの良さを、浅ましく感じた。
浅ましく感じながらも、このあとどういう顔で夫と顔を合わせ、どんな言葉を交わしたものか・・・と、
このあとの展開を、したたかに計算しはじめていた。
ハンドバックから取り出した真新しいストッキングを脚に通して、破かれたほうのはくずかごに捨てた。
けれどもすぐに思い返して、それをくずかごから取り出すと、ハンドバックの中に収めた。
男の戦利品としてせしめられるのが、忍びなかったのだ。


悠子がリビングに出ていくと、吸血鬼は嫁を相手にお愉しみの真っ最中だった。
もはや咎めることさえできずにそのようすから目を背けていると、
ほどよいところで吸血鬼は美那子の身体を離し、「きょうはこれでおひらき」と、告げた。
「嫁姑の味比べ?趣味が悪いわね」
美那子がそういって毒づいたが、声色は言葉の意味を裏切って、ひどく嬉しげだった。
「下品なことを言いなさんな。お義母さんがお気の毒だ」
吸血鬼はあくまでも、ニューフェイスの姑をたてた。
美那子はそれ以上、逆らおうとしなかった。

嫁に弱みを握られて、どれほどつけあがられてもおかしくはなく、
実際美那子も露骨なくらい、そう振る舞おうとしていたのに、
男はたったひと言で、諍いが起こりそうな雰囲気を封じ込めてしまった。
美那子が男に対して従順なのは、それだけ支配されてしまっていることを意味していたけれど、
悠子はむしろ、美那子に示した影響力を頼もしいと感じた。
そんなこと、感じちゃいけないのに。
だって私、このひとの手で、夫に対して顔向けのできない身体にされちゃったんだから。
しきりに自戒を重ねながらも、知らず知らず悠子は、男のそばに寄り添っている。

「俺はお義母さんを送って行く。あんた独りで帰れるな?」
吸血鬼が美那子に投げたまなざしは、まさしく情婦に向けられた支配者の目。
吸血鬼が嫁を見返る視線をそんなふうに受け取った悠子は、ちょっとだけ眉をしかめ、すぐにその顔つきを平静に戻した。
ほかのふたりは悠子の表情の変化に気づいていたが、なにもいわなかった。
「お義母さまを送って行くの?」
美那子はちょっと咎めるような口調になったが、すぐに思い返したように妙な作り笑いを泛べると、それ以上抗議をしようとはしなかった。
「わかっているんだろうな?」
男は美那子に念を押した。
「わかっているわよ、だれにも言いやしないんだから」
「それならばよい」
男女二人の交わされる言葉が、たぶん自分に対する保険なのだろうと、悠子は漠然と感じた。
「じゃあ、お義母さま、またね♪」
美那子はわざとくだけた口調のあいさつを、さっきまで謹厳だった義母に投げると、
すぐに人が変わったように神妙な顔を作り、
「長々、お邪魔いたしました」
と、どちらへともなく深々と一礼した。

2人きりになると男はいった。
「おねだりがあるんだ」
「なあに?」
「破けたストッキング、記念に頂戴できないかな?」
無言でかぶりを振る悠子に、男はなおも囁いた。
「家に持ち帰って洗ったら、今度お土産に持ってきていただく」
有無を言わせない口調だった。
そんな羞ずかしいこと、できるわけがない。
心のなかでそう呟く一方で。
夫の目を盗んで破けたストッキングを洗濯機のなかに投げ入れている自分の姿を想像していた。


家路をたどる道々、男はなにも言わなかった。
通りすがりの人たちのなかは、悠子の顔見知りもいた。
彼らはいちように好奇の視線を一瞬投げるものの、男の目をはばかるようにして、すぐに視線を外してゆく。
そのまま家に着くと、彼は玄関のまえに悠子を置き去りにした。
「わしがいないほうが、良いだろう?」
悠子は無言でいたが、無言のうちに肯定をしていた。
「ダンナの顔を見たら、不機嫌そうに黙りこくっていることだ」
それが賢明な妻のする振る舞い・・・といわんばかりだったが、悠子もそれはもっともだ、と、思った。
いずれにしても。
ここから先は、妻としての自分が問われるところ。
一人きりの勝負になるのだ、と、悠子は改めて自覚した。
まだなにも知らない夫が憩うているはずのドアの向こうを、悠子は睨むように凝視する。


その時の悠子は、まだ知らなかった。
吸血鬼に見送られて家路をたどるということは、吸血鬼の女になったことを、周囲の人に伝えてしまう行為なのだと。
なにも知らない悠子は、自身が女の操を喪ったという事実を、じつにおおっぴらに触れ回ってしまったのだ。


あとがき
昨日時間切れであっぷできなかった後編です。
読み直して、よかった♪