fc2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

吸血怪人を家庭に受け容れた男

2023年09月12日(Tue) 22:10:30

ぁ・・・う・・・
吸血怪人に背後から抱きすくめられて、篠浦恵子は顔をしかめてうめいた。
厚ぼったい唇が歪んで、白い歯をかすかに覗かせている。
引きつったおとがいのすぐ下に、男の唇がヒルのように吸いついていて、
唇に覆い隠された鋭利な牙が彼女の素肌を抉るのを視界から遮っている。

咬みついた瞬間飛び散った血が、恵子の着ている空色のブラウスのえり首を濡らした。
唇のすき間から洩れた一条の血が、そのブラウスのえり首から胸もとへとしたたり落ちて、彼女のブラジャーを濡らした。
透けない生地のブラウスに遮られて外からは見えなかったが、恵子は黒のレエスのブラジャーを着けていた。
毎晩のように彼女との交わりを遂げようとする夫を悦ばせるためではなく、
今夜訪れると予告してきた怪人のために着けたブラウスでありブラジャーだった。

唇が、素肌のうえをせわしなく、蠢いている。
ぴったりと密着した唇が大きくうねるたびに、
恵子の血がひと掬(すく)いずつ、飢えた怪人の喉の奥へと送り込まれるのだ。
襲われはじめたさいしょのうちこそ、身の毛もよだつ想いだった。
いまでも、生命の危険と背中合わせのこの「遊戯」に恵子の胸は不吉に騒ぐのだが、
いまでは、彼女の生命の源泉をひたむきに需(もと)めてくるこの唇を、いとおしくと感じるようになっている。

彼女は腕をだらりと垂れて、とうに抵抗をあきらめていた。
手向かいに対応する必要のなくなった男の腕は、彼女の豊かな身体を、想いを込めてしっかりと抱きすくめている。
切実に慕う恋人を抱くときの力の籠めかたが、恵子の胸を強引に過ぎず緩すぎもせずに、ほど良く締めつけていた。
貧血を覚えた恵子は、ひざから力が抜けるのを感じた。
恵子は姿勢を崩して、赤いじゅうたんに膝を突いた。
肌色のストッキングに包まれた膝だった。
そのストッキングさえ、愛人を悦ばせるために脚に通しているのが、いまの恵子だった。

そのまま身を横たえてしまうと、
彼の関心がそのまま自分の下肢に向けられるのを恵子は感じた。
生温かい唇がストッキングのうえから太ももに圧しつけられるのがわかった。
薄手のナイロン生地ごしに、なまの唇が露骨に蠢き、唾液をヌルヌルと粘りつけてくるのを、ありありと感じた。
もの欲しげで、好色な唇だった。
その唇がまだ、30代半ばを過ぎたこの女の、熟れた血潮を欲している。
「破かないで・・・」
恵子はうめいたが、願っておきながら男が彼女の言を容れないことを知っていた。
ストッキングを穿いた婦人の脚に好んで咬みつくのが、彼の習性だったから。
そしてそうする前に、いやというほどいたぶりを加えるのも、彼の習性だったから。
男の牙が恵子の皮膚を突き通し、生温かい血潮がストッキングを浸すまで、かなりの時間が経った。
刻が過ぎる長さは、自分の情夫が彼女の装いに満足し、愉しみ抜いた証であることを、すでに彼女は知っている。
足許をゆるやかに締めつけていたナイロン生地が緊張を失い、裂け目を拡げるにつれて頼りなくほどけてゆくのを、
彼女は小気味よげな含み笑いで受け流すことができるようになっていた。

貧血が理性をより深く惑わせるのを、恵子は感じた。
見えるのは天井と、視界の隅に滲んだ近すぎる頭髪――
パンストを片脚だけ脱がされて。
スカートは腰までたくし上げられていた。
ショーツは自分で、引き裂いていた。
「欲しい・・・あなたが、欲しい・・・」
はしたないお願いを声をあげて発してしまったことに、かすかな羞恥をおぼえた。
けれども、それが本心であることを、言葉を発することでより強く自覚してしまったのも確かだった。
声を発したことが、却って恵子の激情に火をつけた。
「ああっ、お願い!犯して・・・私を犯して!うんと苛め抜いてちょうだい!」
想いの赴くままに、声はしぜんと彼女の口を突いて出た。
あなたがいけないのよ・・・
さんざ淫らな言葉を口にしてしまいながら、恵子はおもった。
恵子が声をあげることは、夫の希望だったのだ。


「怪人と逢っているのだろう?」
夫の唐突な問いに、恵子は言葉を失った。
「彼」とは、誘拐されて以来始まった関係だった。
あのときは、いっしょに囚われた息子の機転で首尾よく彼女は救出されたが、
一夜を共にする間、身を揉んで嫌がる身体を開かされて、怪人の一物を受け容れてしまっていた。
いちどならず、なん度もくり返される吶喊に、しだいしだいに身体が反応し始めるのを、どうすることもできなかった。
厳重な包囲のなかにあって、突入をためらう当局や夫たちをよそに、彼女の操は破られ、汚され、淫らに変えられていった。

正義のヒーローに撃破された怪人は、悪の組織からも破門されたと聞いた。
どうやって生きていくのか。どうやって血を得るのだろうか?と、ふと思った。
もちろんその時点では、自分に辱めを与えた暴漢に対する同情などなかった。
けれども人の生き血を欲しがる輩が街を徘徊するのはどういうものだろうと、懸念を感じただけだった。

年月が過ぎて、その怪人が再び目の前に現れたとき、
怪人を出し抜いて自分の救出に貢献した息子が、先に咬まれていた。
白のハイソックスを血に浸して帰ってきた息子から事情を聴くと、彼女は当然のように憤慨しかつ恐れたが、
息子は母親を見あげていった。
「苛めちゃダメ。いまはかなりかわいそうな状況だから」
整った眼差しは冷静で、同情に満ちていた。
息子のはからいで路地裏にうずくまっていた怪人は、かつての面影がなかった。
彼なりに、反省し悔悛したのかも知れないと、恵子は思った。
どうしてそこまでする気になったのか、いまの恵子にもわからないけれど、
気がつくと自分からスカートをたくし上げて、自分の太ももを咬ませ、息子につづいて血を啜り獲らせてやってしまっていた。
でも――と、恵子は思う。
家事に追われて身なりに頓着しないでいた彼女は、路地裏に出る前にスカートに穿き替え、
ふだん脚に通すこともなくなったパンストまで、わざわざ新しいものをおろして穿いていたのだ。
怪人がストッキングやハイソックスを履いた脚を好んで咬む習性を憶えていたからだった。
もうその時点では、咬まれる覚悟を決めていたのだろう。
きっとそれは、彼女を訪ねてやってきたときから、もうそのつもりになっていたのだろう――
何しろそのあと彼女はまな娘にまでも言い含めて、まだ稚なさの残る首すじを咬ませてやってしまっていたのだから。
子どもたちの血まで吸わせたのはきっと、彼女なりの同情だったのだろう。
まだその時点では、男女の感情はなかった。
きっとそのあとだ。
そうだ、いちど咬まれた女は淫らな想いに理性を侵蝕されて、怪人の思うままにされてしまう――
私は彼の術に、まんまと嵌(はま)ってしまったのだ。

術に嵌められたことを、自分は必ずしも悔いていなかったと思う。
夫に黙っているという選択肢は、正直すぎる性分の彼女には、耐えがたいものだった。
彼女は怪人をそのまま家にとどまらせ――家のなかでさんざ犯されてしまうという代償付きだったが――ともかくも一緒に謝ってもらった。
肩を並べて頭を下げるふたりに、夫がなにを思ったのかはわからない。
もとより、帰宅直後の夫を怪人が急襲して、首すじを咬んだ「御利益」に他ならなかったに違いないのだが・・・
夫の言い草こそ、ふるっていた。
「うちにも近所の評判ってものがある、こんど来るときは、ちゃんと家にあげてお相手しなさい」――
はたしてそれは、どこまで夫の本心だったのだろう?

それ以来なん度となく訪れる彼の誘いには、最優先で応えてしまっていたし、
「怪人さん遊びに来てるの?いっしょに遊ぼうよ」と無邪気に言い募る子供たちを交えて、
ゲームをしたり勉強を見てもらったりしたことで、怪人は子供たちにも愛着を感じ始めていたに違いない。

さて、目の前の夫のことである。
2人そろって謝罪をして叱り飛ばされた痕、彼と逢いつづけていることは特段夫には告げていない。
けれども、なんとなくそれを悟っているような夫のそぶりは、おりおり感じていた。
ひと頃途絶えていた夫婦の営みは、あの夜を境に復活した。
けれどもそれは、恵子を下品に虐げるような、荒々しく一方的にむさぼるようなセックスだった。
お前の夫は、俺だ。お前は俺に服従しなければならない。それがこの家に嫁いだ、お前の務めなのだ――
身体でそう言いつづけているようなセックスに思えた。
夫権というものは、セックスだけで片づけられてしまうような、単純なものなのだろうか?ふとそんな疑問が、彼女の胸の奥をかすめていた。
恵子はまっすぐに夫を見て、いった。
「お逢いしています。翔一ややよいとも遊んでくれていますし、私も――」
それ以上言うな、というように、夫は手を振って恵子を遮った。
「いちど、視てみたいんだ。きみがどんなふうにあいつと接しているのかを――」
夫はあのとき、怪人のことを「あいつ」と呼んだ。
まだ認めているわけではない。きっと、憎くて仕方ないのだろう。
「乱暴はしないで」
という恵子に、「そこまで野暮じゃない」と言い切ってくれはしたけれど・・・


何十年ものローンを組んでやっと手に入れた自宅が、不倫の濡れ場となって汚されるとは――
篠浦俊造は、あらぬ声を洩らして愛人と乱れあう妻を覗き見て、どす黒い想いを滲ませる。
少し前まで。
自宅に情夫を引き入れながらも、
「ねえ、やっぱりよそうよ。ここで今するのは良くないわよ」
と言い募っていた妻。
それが彼女に残っていた最後の倫理観と理性だった。
少なくともそこまでは、恵子は彼の妻らしく振舞っていた。
けれども、ちょっと背を向けた隙を突かれて怪人に後ろから抱きすくめられてしまうと、事情はあっさりと変わった。
「あ!ダメ!」
と叫びながらも妻は、男の抱擁を受け容れてしまっていた。
本人がそれを自覚していなかったとしても・・・
心ならずも抱かれたのか、そうでないかは、はた目にもわかった。
もしも前者であったなら、嫌悪に身震いしながら身を揉んで、あるいは相手の男を振り放していたかもしれないのだから。
逡巡する妻の首すじに男の唇が這ったのが、とどめだった。
たまたまこちらに向けられた妻の顔。そして男の唇――
男はしんけんに、妻を需(もと)めていた。
白い肌にヌメるようにあてがわれた、赤黒く爛れて膨らんだ血の気の無い唇が、
相手が常人ではないことを告げている。
そう――妻を襲っているのは、吸血怪人だったのだ。
すでにいちどは退治済みの怪人だった。
正義のヒーローにあっけなくのされてしまい、刑務所で服役までしたという。
だが、模範囚として出獄した彼に、反省の色は果たしてあるのだろうか?
男は本能のままに妻の首すじに喰いついて、血を啜りはじめていた。
赤い血のすじがブラウスの胸もとに這い込んで、
それがひとすじのしずくであったのが一条の帯になってゆくのを、いやというほど見せつけられた。

ひざ小僧を突いてしまった妻が堕ちるのに、さほどの刻は必要なかった。
男はなおも容赦なく恵子の血を啜り、恵子は首すじを、そして脚を差し伸べて、男の欲求に応えつづけた。
恵子の胸から空色のブラウスを剥ぎ取ると、男は自分の唇を恵子の唇に熱烈に圧しつけてゆく。
自分の血をいやというほど吸い取った唇に、妻の唇は応えていった。
好きよ・・・好きよ・・・といわんばかりに。
そして妻の想いは、とうとう声になってあらわにされた。
「欲しい・・・あなたが、欲しい・・・」
うわ言のような声が、だんだんと大きくなって、しまいにははしたないほどの大声になっていた。
「私を犯して!うんと抱いて!」
「もっと、もっと苛め抜いてええっ!」
「ストッキング破くの、だめぇ・・・」
ふだんの思慮深く大人しい妻からは窺いようもない、あられもない淫らな言葉――
恵子は娼婦に堕ちた。そう思うしかなかった。
もとより、2人の関係はすでに知っていた。
妻は正座までして、相手の男と肩を並べて謝罪をくり返した。
けれども、「もうしません」とは、決して言おうとしなかった。
男のほうも、「奥さんのことは諦めます」とは、絶対口にしようとしなかった。
つまり、2人の意志は固い・・・ということなのだと、勤務先では「賢明課長」とあだ名された彼にも良く理解できた。

さいしょは家に入れるつもりがなかったという妻は、
男がさいしょに訪ねて来たとき、わざわざ家の外の路地裏で顔を合わせたという。
いちどは自分を拉致してアジトに連れ込んで、吸血行為にとどまらない暴行をはたらいた男である。
当然の警戒心だった。
けれども、いま男が置かれている状況に同情した妻は彼に自分の生き血を与え、
さいごにはほだされて家にあげてしまった――というのである。
なん度も逢瀬を重ねて一線を越えたという奥ゆかしさは感じられない。
衝動の赴くままにずるずると関係を発展させて、しまいに子供の目に触れかねない状況で濡れ場に及んだというのである。
いったい妻は、いつからそんなふしだらな女になってしまったのか。

かつて怪人の手で拉致されたとき。
いっしょに連れ去られた息子の機転のおかげで、正義のヒーローは彼のことを撃ち倒した。
けれども妻は、その憎むべき怪人と、一夜を共にしてしまっている。
あのとき拉致された妻は、吸血怪人と一夜を共にしている。
関係者は口を閉ざし、妻本人もなにも告げようとはしなかったけれど、ことが吸血行為だけに収まったとはとうてい、思えない。
そのときに身体を開かれた記憶が、それほどまでに好かったのか?
あのとき。
解放された妻は、嫌悪の情もあらわに身をうち震わせて、夫に身を寄り添わせた。
とっさの行動だったとはいえ、二児の母となってから疎遠になりがちだった妻の愛情を久しぶりに感じたものだ。
あのときの妻の振舞いは、嘘だったのか?衆目を取り繕うためのボーズに過ぎなかったのか?

いま妻は、やはり身をうち震わせて――
「夫」ならぬ「情夫」の逞しい腕のなか、恥ずかしげもなく裸身をさらけ出している。
太ももまでずり落ちた肌色のストッキングだけが、着衣を引き剝かれるまえの妻の品格の名残りとなっていた。
それですら――男の舌でネチネチといたぶり抜かれ、たっぷりと唾液をしみ込まされてしまった、情事の痕をありありと留めているのだ。
ああ、またしても突っ込まれた。これでなん度めだろう?
さいしょは押し倒されてすぐ、スカートをたくし上げられて犯された。
そのときも妻は、信じられないことに、
男の恥知らずな舌から頼りなくも貞操をガードしていたショーツを、自分の手で引き裂いていた。
それからじゅうたんのうえで身体をひっくり返され、バックから需(もと)められた。
額に汗をしたたらせ、四つん這いになりながら喘いでいる妻の姿は、屈従的で、
なにもかもを夫以外の男の手で教え込まれてゆく女奴隷のそれだった。
セックスの頻度さえもが、凄い。絶倫だ。
いや、それ以上に・・・
妻への執着の強さを感じさせる。いやというほど、感じさせる。

俺の妻が。
俺だけの妻が・・・
ほかの男の餌食になり、しつけられ、覚え込まされ、支配されてゆく。
俺の権利はどうなるのだ?
妻に対する俺の権利は、完全に取り払われてしまうのか?
このままでは、かけがえのない家庭が崩壊してしまうではないか!?
俊造は焦れに焦れた。
一刻も早く妻を救い出さなければ、妻は完全に男のために汚し抜かれ、骨の髄まであいつのものになってしまう。
そんな焦りがズキズキ高鳴る心臓を、とろ火で焙りたてた。
腰の上下が一回あるごとに、相手の精液が飛び散り妻の膣を濡らし、さらにその奥へとそそぎ込まれてゆくのを、ありありと思い浮かべてしまう。
やめろ、やめてくれ。話が違う!
しかし、懊悩する俊造の想いとは裏腹に、
彼のペニスが鎌首をもたげ、怒張をエスカレートさせて、先端がほころびて淫らな粘液を徐々に洩らしてしまうのを、彼はどうすることもできなかった。

妻が犯されているのに。
俺の名誉が踏みにじられているというのに。
どうしてこんな?勃起?そんな場合じゃないだろ!?
自問自答しながら、俊造は焦れた。焦れつづけた。答えは出なかった。
ズボンをしたたかに濡らした彼は、脱衣所に走り、脱ぐ手ももどかしくズボンを脱いで洗濯機に放り込んだ。
そして、片時を惜しむようにふたたび、不倫の現場に取って返した。

「あれぇ~、許して・・・」
妻は相変わらず、声をあげている。
もはやその表情に、苦悩や自責の翳りはない。
そんなものはとうに捨て去ってしまっていて、いまあるのは女の身としての歓びを全身に沁みとおらせた、愉悦に弾む熟れた肉体だけだった。
はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・
全身に愉悦を滲ませて。
女は黒い髪をユサユサと揺らしながら、うわぐすりを塗ったように滑らかな肌を、バラ色に上気させている。
これが妻か?本当に妻なのか?
いつもの所帯持ちの良い、しっかり者のお前はどこに行った?
「あぁん、もっとォ・・・」
なにを言っているんだ?それじゃあ場末のキャバレーの淫売女と変わりないではないか?
「ひいぃ・・・ひいぃ・・・あなた、すごぉい・・・っ」
やめろ、やめてくれ。お前はほんとうに、俺の妻なのか?「篠浦」恵子なのか?
男を抱き寄せる妻の指先にキラリと、なにかが光った。
結婚指輪だった。
指輪をしたまま俺を裏切っているんだ・・・
俊造は、完全な敗北を感じた。
妻は、頭のてっぺんから脚のつま先まで塗り替えられてしまったのだ。
夫ならぬ男の支配を受け容れて、ふしだらに腰を揺らしてヒイヒイ喘ぐ女になってしまったのだ・・・

さっきから。
男はなん度も、妻にキスをくり返している。
こんなに熱烈なキスを交わしたことは、果たして俺たちの間にあっただろうか?俊造はおもった。
新婚のころはいざ知らず、出産、引越し、人並みの出世を賭けたせわしない日々――
それらのなかで、そうしたことはすべておざなりにされてきてしまった。
今さらながら、それに気づいた。遅い。遅すぎる・・・
男はほんとうに、妻のことが気に入っているらしい。
片時も手放さず、身体を密着させて、それだけではない、そこはかとない妻に対する気遣いが、そこかしこに見え隠れする。
たぶん自分の性欲の発露だけではなく、相手の女が感じているのか、苦しいだけなのか、相手の身になって見極めようとする視線がそこにあった。
俺はそんなこと、考えもしなかった――
相手の男は、妻を得て嬉しいのだろう。幸せでたまらんのだろう。
妻の熟れた身体を楽しんでいるだけではなく、本能のままに生き血をむさぼる行為に溺れているだけではなく、
妻を気遣うことすら、この男にとっては歓びなのだろう。
そして、男を満足させることが妻の歓びになっている・・・

俊造はたまりかねて、とうとうドアを押し開いていた。

ちょうどふたりは、一戦を終えてお互いの息遣いを確かめ合っているところだった。
入ってきた俊造に対して、2人はゆっくりと顔を向けた。
男の顔にはなんともいえぬ親しみがよぎり、
女は謝罪するように首を傾げ、はにかむような照れ笑いを浮かべていた。
傾げた首すじには、咬まれた痕がくっきりと刻印されていて、傷口にはかすかな血潮がまだあやされていた。
「美味シカッタ・・・」
男が妻の髪を、血に濡れないよう掻きのけた。
怪人らしい機械的な声色だったが、妻に惚れている男の声だと俊造は感じた。

「素敵ナ時間ヲクレテ、ワタシハ感謝シテイマス」
男の言葉にてらいはなかった。
「あなた、ごめんなさい。でも嬉しいです」
女の言葉にも、真情があふれていた。
「ずいぶんと仲良くなったんだね・・・・・・おめでとう」
さいごのひと言に自分で驚きながらも、声にしてしまうとむしろ、いまの気持ちに正直になれた。
「さいしょは家内をモノにされたと聞いて、気が狂うくらいに腹立たしかったんだ。でも――」
俊造は言葉を切った。
怪人が、しんそこ申し訳なさそうなまなざしを、自分に向けている。
「子供たちもきみに懐いている。俺の居場所はここにあるのか?」
「ほら、ごらんなさい」
妻が、情婦をたしなめている。
「うちの人ったら、まじめなのよ。だから絶対、そう思われちゃうって言ったじゃない」
「真面目デ責任感ノアル、ゴ主人――自分ノ奥サンヲ辱メラレテ、イイ気ガスル訳ハナイ」
怪人は妻の言に相槌を打つように、あとをつづけた。
「必死ニ守ッテキタゴ家族。一生懸命働イテ、家ヲ建テテ妻子ヲ住マワセテ、ソレナノニ裏切ラレテシマウ。
 気ノ毒、カワイソウ」
うめくようなうわ言のように続けた後、彼はいった。
「ダカラ、ココハ貴方ノ居場所。居場所ガナイノハ、ワタシノホウ」
「でも、出て行きたくはない。そうだね・・・?」
怪人は、素直な少年のように頷いた。
「私の主人は、あなたしかいません」
そう告げる恵子の目線は、まっすぐ夫に向けられていた。きっぱりとした口調だった。
「俺の妻でいてくれるんだね?」
念を押すように訊く俊造に、
「コノ人ハ元カラ、アナタノ奥サン。ワタシハ、タダノ”オ邪魔虫”」
俊造は思わず噴き出した、
「怪人のきみでも、お邪魔虫なんて言葉を知っているんだね」
聞いて頂戴・・・というように、恵子が夫に向けて目で訴える。
「この人ったら、人妻を犯すのが好きだって言うの。いけないひとだと思いませんか」
「で――きみがこの街の人妻の代表として狙われてしまったということなのだね?」
拉致されてアジトまで攫われてしまった女性は、そういえば自分だけだった――恵子はいまさらながらのように思い出す。
「ほかの家の奥さんはその場で襲われただけで帰されたのに、きみだけは戻ってこなかった。とても心配だった」
「アノ時ノワタシハ、本当ニ悪カッタ。
 子供タチニモ心配サセタ。アナタノ気持チモ考エナカッタ。謝ル。改メテ謝ルーー」
男の頬は慙愧の想いに翳っていた。
「人妻代表さん」
俊造に、いつもの快活さが戻って来ていた。恵子のことをおどけたようにそう呼ぶと、
「長年尽くしてくれたご褒美にきみに愛人をプレゼントするよ。
 ぼくが決心して、きみに愛人を持たせることにした。せめて、そういうことにしてくれないか?
 きみのことが気に入ったこの男(ひと)を、ぼくは自分の家庭に受け容れる。
 子供たちもきっと、よろこぶだろう――」
恵子の目から涙があふれた。
「あなた、ありがとう・・・ありがとうございます。
 代わりに精いっぱいお尽くししますから、どうぞ恵子のふしだらをお許しください」
だれに教わったわけでもなく、三つ指ついて平身低頭していた。
俊造は、怪人に手を差し伸べた。
「貞淑な家内をここまで堕とされるとは、男として不覚でした。貴男の熱意が優ったのでしょう。
 家内を誘拐されたときには心配したけれど、きみのお目が高かったということだね。
 家内を択んでくれて、家内を狙ってくれて、夫として礼を言います。
 もういちど言わせてもらう。おめでとう」
物堅い夫が自分の妻を犯した男に握手を求め、お互いの掌を固く握り合わせるのを、恵子は感無量の眼差しで見つめていた。
「お祝いに、今夜は明け方まで、家内のことを明け渡すよ。ふたりで楽しんでくれたまえ。
 それから――きみが来たい時はいつでも言ってくれたまえ。家内のこと、独り占めさせてあげるから」

男と女は嬉し気に、しかし少しだけイタズラっぽく、ウフフと笑み合った。
「じゃあお願い」
恵子がいった。
「服を1着選んでくださらない?
 このひとのために装いたいの。
 貴方が択んでくれた服に着替えて、それを私のお嫁入り衣装にするわ」
え――?
俊造はゾクッとした。
心を読まれた想いだった。
着飾った恵子が目の前で征服される――
誘拐事件以後、彼の脳裏に灼きついた想いがこみ上げてきた。
吸血怪人とおぞましい一夜を過ごした妻。娼婦のように淫らになったかもしれない妻。
そんな恵子を想って、かつてなん度となく思い描いてきた淫らな光景が、いま目の前で現実のものになるのだ――
「じゃあ・・・
 怪人さんに誘拐されたときの服はどうだろう?
 いまでもきみが結婚式の時に着ている、薄いピンクのスーツ、それにネックレス。
 ちょうどぼくが買ってあげたイヤラシイ下着があっただろう?あれも一緒に着けたらどうかね?」
恵子はウットリとした目で、夫をみた。
「この人のこういうところが好きなの」
真面目なくせに、けっこうエッチなのよ――
それは愛人に対する、明らかな夫自慢だった。

10数分後、着替えて出てきた恵子は、目を見張るほど艶やかだった。
ひざ丈のスカートを少し短めに穿いて、太ももが微かに見え隠れしていた。
スカートのすそから伸びた豊かなふくらはぎは、純白のストッキングにピンク色に透けている。
犯される女の品性を示すように、ストッキングには微かな光沢がつややかによぎり、高貴さと淫靡さとを際立たせていた。

怪人は、ものも言わずに恵子夫人の胸を、背後から腕に巻いた。
「あれえっ」
芝居がかった夫人の声に、俊造はまたも激しく怒張をみなぎらせた。
「ボクノ後ニ、奥サンノ肉体、タップリ楽シムト良イーー」
怪人はそう言いざま、恵子を荒々しくじゅうたんの上に引き倒した。
きゃあっ・・・恵子はまた叫んだ。
子供たちが起き出して、ドアのすき間からそうっと中を窺っているのを俊造は背後に感じたが、
もはやそれでも良いと思った。
安心しなさい。お母さんは怪人さんと仲良くなるためにちょっとおイタをしているところだから――
彼は背中で、子供たちにそう伝えた。

真珠のネックレスが光る首すじにふたたび艶めかしい血をあやし、
逞しい猿臂に巻かれ、スカートごしに逞しい怒張を感じつつ、
引き裂かれたストッキングのたよりない感触を噛みしめながら、恵子は怪人と熱い熱いキスを交わす。
夫がプレゼントしてくれた真っ赤なブラジャーは男の手で、同じ色のショーツは恵子の手で引き裂かれた。
自分のプレゼントを引き裂きながら興じる二人を前に、夫が手で軽く拍手をするのが、視界に入った。
「あなた、私幸せ――」
そう心の中で叫んだ時、
夫の数倍は勁(つよ)い黒ずんだ肉塊が、自分の膣にもぐり込み力強く抉るのを感じて、
恵子は思わず、身を仰け反らせていった。

それから数時間。夜が明けるまで。
息せき切ってかわし合わされる呼気が絶えることはなく、
感謝と幸福感に打ち震える愛人の腕の中、恵子は恥を忘れて夫を裏切りつづけ、
俊造は物堅い課長夫人であったはずの妻がはしたなく堕落して、
篠浦家の主婦の操をほかの男の精液に濡らしてゆく有様に、惚れこんだように見入りつづけていた。


あとがき
これまた、一気に描いてしまいました。。
いうまでもなく、前作の続きです。
さいしょはヒロインをどの女性にしようかとあまり考えずに描いていたのですが、
そのわりにブレはほぼないと思っています。
じつは前作を描くときに、いちばん最初に思い浮かんだのがこちらの家庭なんですね。
昭和の家屋に住む、堅実なご家庭。
生真面目な夫に、控えめでしっかり者の妻。
無邪気でわけへだてのない視線を持っている子供たち。
どこにでもありそうなそんな家庭を襲った、小さな(小さくない?)嵐のてんまつです。
すみずみの表現も、いままでにない感じのをちりばめたつもりです。
どうぞお楽しみください。・・・って、あとがきだったんですよね、これ。(笑)

母の献血。

2023年09月11日(Mon) 16:25:40

欲しいな。
とうとつに口にする彼に、ぼくはとっさに自分の首すじ寄せていた。
1週間前、彼はぼくの血を初めて吸った。
とうとつに襲われたぼくは、彼の腕の中でもがきながら首すじを咬まれ、
ドロドロと流れる血を、ゴクゴクと威勢よく喉を鳴らしてむさぼり飲まれ、
貧血にくらくらした頭を抱えながらズボンのすそをたくし上げられ、
靴下のうえからふくらはぎまで咬まれていった。

首を咬まれている時点では必死に腕を突っ張って、
彼をこれ以上寄せつけまいとしていたけれど、
脚を咬まれた段階では、あまりにもキツい貧血で、頭を抱えてへたり込んでしまって、
足首を舐められているときには余裕で靴下の舌触りまで愉しまれてしまっているのに、
もうそれ以上姿勢を崩さずに、座りこむのがやっとのことだった。

けれどもぼくは、彼に血をあげたことを後悔していない。
それくらい、彼の咬みかたはキモチ良かったのだ。
首すじに食い入った一対の牙は、ぼくの理性をきれいに塗り替えてしまっていた。

欲しいな・・・
そういわれるたびにぼくはドキドキして、首すじの咬み痕をさらしたり、スラックスのすそを引き上げたりするようになっていた。
でも、きょうの「欲しいな」は違っていた。
彼はぼくにいったのだ。
まるで初恋の告白をするみたいに!
「こんどは、お前の母さんの血が欲しい」って――


家に帰るとぼくは、母に正直に彼の希望を伝えた。
「あいつ、母さんの生き血を欲しがってる」
ごくシンプルに、そういった。
母さんはびっくりしたように目を見開いて、でも意外に冷静だった。
あとで聞いたら、ぼくが初めて噛まれたときに、こういうことになるような気がしていた――って教えてくれた。

事前に伝えたのだから、母が本当に彼に咬まれるのが厭だったら、対策の立てようはあったはずだ。
父に相談しても良いし、街から一時的に逃げてしまうことだって、できたはずなのだ。
けれども母は、そのどちらもしなかった。
飢えているんでしょ?かわいそうじゃない――
どうするの?って訊いたぼくに、母はそうこたえてくれた。
優しい母らしいな・・・と、ぼくはおもった。
声は虚ろだったけど・・・そこはぼくが心配することじゃない。
母はあの瞬間、自分の息子の悪友の”女”になることを自ら択んだのだ。


学校で会った彼は、「きょう、お前ん家(ち)行くから」と、ぼくにひっそりと耳打ちした。
いつも家(うち)に遊びに来るときと同じ言い草だった。
ただ、いつもと違って、「お前はちょっとだけ遅れて来い」と、つけ加えた。


家に帰ると、リビングの空気が明らかにおかしかった。
思わず股間を疼かせながら、ぼくはリビングの扉を開いた。

あお向けに倒れた母に彼が馬乗りになって、雄々しく逞しく、抑えつけていた。
飢えた唇を母の足許に吸いつけて、
吸い取った血潮を頬ぺたに勢いよくしぶかせて、
肌色のストッキングを咬み破りながら血を吸い取っていた。
母は観念したように目を瞑り、なりゆきに任せているようだった。
キュウキュウ・・・チュウチュウ・・・というリズミカルな吸血の音が、
静かになった母のうえに覆いかぶさっていた。

父が気の毒だと、とっさに思った。
けれどもその思いは、彼の欲求を遂げさせまいと僕に決心させるには至らなかった。
ぼくに一度ならず突き刺さった彼の牙の記憶が、ぼくから理性を奪っていた。
吸血鬼を受け容れたこの街では、彼らに人の生き血をあてがうことが善良な市民の務めなのだと、
ぼくの新しい理性がぼくに囁きかけていた。

新しい理性によれば、いま母が許していることは崇高な行いであり、
彼女が数十年かけて熟成した最良の美酒で客人をもてなす行為だった。
母は自らの血を誇りながら、彼に飲ませていった。
彼も母の血にじゅうぶんな敬意を払いながら、飲み耽っていった。
そこには呼吸のぴったりと合ったふたりの心の動きがあって、
母はせわしない息遣いで肩を弾ませながらも、
みずからの熟れた血潮を楽しませる行為に熱中しつづけていた。

彼が母の首すじに牙を突き立て熱烈に咬み入れると、
母もそれに応えるように、ニッと笑った。
もぐり込んだ牙の切っ先から、微かにジュッとしぶいた血潮が、着ていたブラウスの襟首を濡らした。
艶やかな色だ――と、ぼくは感じた。
白い歯が、みずみずしい輝きを帯びていた。

数日前、彼女の娘――妹の柔肌をザクザクと切り裂いた牙が、
いま母の静脈に迫っている。
ぼくの血を、妹の血をもたっぷり味わった舌が、
鮮やかに切り裂いた傷口の周りをうねっている。

母が初めて血を吸われるところを目にすることができてラッキーだと思った。
妹がいっしょにいないのが、残念ですらあった。(彼女はまだ学校に残って部活に熱中しているはず・・・)
父もいまの母のもてなしぶりを見ておくべきだと感じた。(父はまだ会社にいて勤務に専念しているはず・・・)
家族全員の祝福とともに、母の生き血はズルズルと啜り取られるべきなのだ。

ジュルジュル・・・ごくん。
母の血潮で彼の喉がワイルドに鳴った。
いつまでも喉を鳴らしながら、彼は母の生き血をむさぼった。
それは素晴らしい眺めだった。
母は白のブラウスの胸に血を撥ねかせて、
はだけた胸もとから覗くブラジャーを血浸しにしながら、
彼の喉鳴りを聞くともなしに聞いていた。
胸に意図的に伸べられた掌が卑猥にまさぐるのを、かすかに頷きながら許していた。

ぼくはたまりかねて、母のうえに覆いかぶさる彼の腰に取りついて少し浮かせると、
ズボンをずるずると引きずり降ろしてしまった。
パンツを脱がすのは、少し難儀だった。
なにしろ彼の逞しい腰周りを覆う薄いパンツは、
ペニスの兇暴な膨らみで、テントのように張りつめていたからだ。
力まかせにパンツをずり降ろすと、入れ替わりに彼の一物がピンと突き立った。
赤黒くそそり立ったペニスは、蛇の鎌首のように、母のスカートの奥に狙いを定めていた――

スカートの奥に迫った彼のもうひとつの”牙”が、母の陰部にズブリと突き立った。
衣類に隠れて見えない行為が、母が歯ぐきを見せて顔をゆがめたことで、それと伝わった。
ユサ、ユサ、ギシ、ギシ・・・
フローリングの床をかすかに軋ませながら、
彼は母を相手に、しつような上下動をくり返した。
なん度となく息を接ぎながら、それは粛々と続けられた。
父だけもののであった操は、あっけなく汚辱にまみれ、
獣じみた息遣いとともに、他愛なく突き崩されていった。


振り向くと、そこには父がいた。
父は目のやり場に困りながら、微苦笑を浮かべていた。
ドアの向こうからは、妹が半身を乗り出して、こちらを窺っている。
いま母の身に加えられている”儀式”がどんなものなのか、
彼女も身をもって識り尽くしている。
真っ白なハイソックスを帯びたふくらはぎに流れる血が微かに淫らに染まっているのを、ぼくは知っている。
一家にとって重要なこの儀式に、みんなが間に合ったことが嬉しかった。
母も嬉しいらしく、頬に決まり悪げな、けれどもじつに小気味よげな微苦笑を泛べ、
豊かな腰をうねらせながら、自らの堕落ぶり、淫女ぶりを、衆目にさらしていった――


あとがき
吸血鬼の幼馴染に母親を征服されるお話ですが、
母親が彼の求愛から逃げずに受け止めるところとか、
息子が彼のズボンを脱がせて、自分の母を犯す手助けをするところとか、
さいごに家族全員が間に合って、一家の主婦の堕落を祝うところとか、
随所に新機軸を入れてみました。^^

由香里の「予定」 ――母親同士の味比べ。 スピンオフ――

2023年08月14日(Mon) 19:22:18

明日の夜の約束。
それが由香里と情人との逢瀬のことだと、良哉は最近になって知った。
その情人は50近い独身男で、由香里に恋するあまり独身を続けてしまったそうだ。
名前を豹治という。
思い余って彼が相談に言った相手は、人もあろうに由香里の夫、好夫の父親だった。

好夫の父は、役所勤めをしている。
上級官庁からの片道切符とはいえ、地元では立派に名士であり上流階級といえた。
その妻であれば、栄耀栄華とまではいわなくとも、なに不自由ない豊かな暮らしを保証されているといえる。
わざわざ夫を裏切って愛人を作る必要などこれっぽっちもなく、
かつまたそんな危険をあえて冒す必要など、彼女の側にはないはずなのだ。

豹治は役所の下の下の組織で長年、下働きをしていた。
経済的にも恵まれず、不満をもってもおかしくない不遇な立場だった。
好夫の父は、自分の妻に対する彼の好意に気づいていた。
不平不満なく日常を過ごす彼の強さが、じつは妻に対する好意の裏返しであることを知っていた。
その豹治が思いあまってやって来たとき、好夫の父はすべてを察していた。
「家内のことですね」
目下のものにもきちんとした敬語を使う彼に、豹治は小さくなっていた。

すでに三十代のころ、由香里は吸血鬼に襲われて血を吸われ、犯されていた。
鋭い牙で由香里の首すじを切り裂いて、彼女のワンピースをまだら模様に染めあげたその吸血鬼に対して、
彼は潔く負けを認め、彼女の夫として、愛妻の貞操を彼のためにいつでも楽しませることを請け合っていた。
そのことが却って、好夫の父の想い切りをよくしたのだろう。
「うちの家内が、好きなのですね」
好夫の父は豹治の意思を確かめると、妻とふたりきりになる時間を彼のために作ってやった。
「家内が嫌がったら、どうか虐めないでくださいね」
ほほ笑みながら好意を向けてくれた上司に報いるために――豹治はなんとしても、彼の妻を射止めようと誓った。
豹治は、好夫の父の好意を裏切った。
彼の腕の中で由香里は、「虐めないで・・・お願い、虐めないで・・・」と呟きながら、
怒張するペニスを突き刺されるたびに体液をほとび散らしていた。
それ以来。
由香里はほとんど毎日のように、夫を裏切りつづけた。

良哉はそんな由香里のために、夜に淫らに燃やす血潮を、じゅうぶんなだけ体内に残してくれた。
「さいきん、息子さんの友だちに抱かれてるんだって?」
情人のからかいに、
「それも主婦の務めですのよ」
とほほ笑み返して、好色な唾液にまみれた年配の情人の唇を、優雅に受け止めてゆく。
「嬉しいわ、逢いに来てくれて」
「おれもあんたとお〇んこするのを楽しみに、一週間働いてきただ」
男は女の華奢な身体をへし折るほどに強く抱きすくめ、頬ずりをくり返し、キスを奪いつづけた。
情人は彼女のブラウスをはだけると、奥にまで手を入れて、
ブチブチと音を立てて、ブラジャーのストラップを彼女の肩からむしり取った。
「アラ、ひどい!」
そう言いながらも由香里は、もう片方のストラップも好きなように引きちぎらせてしまっている。
良哉が彼女の黒のストッキングを好むように、豹治は由香里のブラジャーを剥ぎ取る行為に熱中するのだ。

――男ってみんな、勝手♡
押し倒されるままにあお向けになり、自ら脚を開いて男を受け容れながら、由香里は思う。
――あなたも、勝手♡
心のなかでそう思いながら、彼女はチラと、隣室の闇の向こうを見やった。
そこに彼女の愛する夫が、息を詰めて、いちぶしじゅうを見逃すまいとしていることを知るように。

悔い改めた鬼畜。

2023年02月04日(Sat) 20:39:09

つ、鶴枝、、、っ!
樋沼謙司は悲痛な声をあげて、男ふたりの手ごめにされた妻を見た。
鶴枝の後ろから髪を掴まえて、
向かい合わせに立ちはだかるもうひとりに女の顔がよく見えるように、
力まかせにグイと頭を仰のけた。
ご婦人の髪をつかむものではない。
鶴枝の正面に立った未知の男は、仲間を冷静にたしなめた。
しかし、続けたひと言は、樋沼を戦慄させた。
礼儀を尽くせばきっとこの女(ひと)も、機嫌よくお前の恋人になってくれるだろう。

そういうつもりだったのか!?
樋沼は鶴枝を背後から羽交い絞めにしている男を見た。
彼は追川志乃生(しのぶ)といって、大学時代からの友人だった。
結婚式にも招んだから、鶴枝とも面識があった。
もともと鶴枝目当てに、ぼくたちを此処に招んだのか?
ぼくは・・・鶴枝をこんな目に遭わされるために、鶴枝を伴ってこの遠い街を訪問した というのだろうか??

追川が言われるままに鶴枝の髪から手を離すと、
未知の男はあとを引き取るように女の顎を捕まえて、おとがいをつよく仰のけた。
そして、女の首のつけ根を咥えると、がぶりと食いついた。
アアッ!
鶴枝が悲鳴をあげた。
男は女を抱き支えたまま、あふれ出る血潮をゴクゴクと飲みはじめた。
クリーム色のブラウスに、ボトボトと血潮が撥ね、むざんな斑点を不規則に散らした。
薄い唇から前歯をむき出しにして、鶴枝は苦痛に顔を歪めた。
しっかりと食いしばる前歯の白さが、樋沼の目に灼きついた。
ごくり・・・ごくり・・・
男が喉を鳴らすたびに、鶴枝は頬をヒクつかせ、眉を顰め顔色を翳らせてゆく。
鶴枝・・・鶴枝・・・
夫の呼ぶ声に応えるように、鶴枝は細っそりした掌に力を込めて、迫ってくる男の逞しい胸を弱々しく拒もうと試みたが、むだだった。
ふたりの男に挟まれながら、彼女は姿勢を屈め膝を崩し、なよなよとその場に尻もちを突いた。
支えろ。
吸血鬼に命じられるままに、追川が女の肩を支えた。
失血がこたえたのか、鶴枝は肩で息をしている。
吸血鬼は鶴枝のうす茶のスカートをひざまでたくし上げると、ふくらはぎに唇を吸いつけた。
肌色のストッキングがかすかに波打ちながら、恥知らずな唾液に塗りつぶされてゆく。
や、やめろ、、、
鶴枝の夫は、力なく呟いた。
うろたえ、悲嘆にくれる夫にはお構いなく、吸血鬼は再び牙をむき出して、鶴枝の脚に咬みついた。
パチパチと音をたてて、ストッキングが破れた。
鶴枝の下肢を彩る淡い色のストッキングは、卑猥な舌に舐め味わわれ、本来の用途にはない辱めを受けながら、破れ堕ちてゆく。
ストッキングを器用に剥ぎ降ろしてゆく吸血鬼の唇に卑猥な意図が籠められているのを夫は感じたが、もはやどうすることもできなかった。
鶴枝を手ごめにするまえに血をしたたかに吸い取られてしまった樋沼は、身じろぎひとつできなくなっていたのだ。

鶴枝の脚からストッキングを引きむしってしまうと、吸血鬼は彼女のうえに馬乗りになった。
追川は我が意を得たりとばかり吸血鬼の手助けをして、鶴枝の両肩を抑えつけた。
吸血鬼は鶴枝のブラウスを引き破り、スカートを腰までたくし上げた。
お願いだ、やめてくれぇ、、
哀れな夫のすすり泣き交じりの訴えも虚しく、吸血鬼はにんまりと満足そうな笑みを洩らすと、
逞しい筋肉に鎧われた臀部をスカートの奥の細腰に沈み込ませた。
片方だけストッキングに包んだ脚を切なげに足摺りさせながら、鶴枝は犯された。

下腹部にめり込まされた一物がしつように突き入れ引き抜かれ、彼女の奥底をくまなく汚した。
忘れられないセックスを体験させてやる。
吸血鬼のそんな意図が、
強く力を込めた猿臂やスリップ越しに突きつけられる筋骨隆々とした胸板、
それに重ね合わされた唇から容赦なく嗅がされる生々しくも熱い息遣いを通して、
鶴枝を圧倒した。

気がつけば、男の背中に腕をまわして、しがみついてしまっていた。
荒々しい吶喊に耐えかねてのこととはいえ、夫の目の前でほかの男に抱きついてしまったはしたなさに慄えながら、
男が無理強いに強いてくる激しい上下動に腰の動きを合せていった。
妻のふしだらを咎めるような夫の視線が、呪わしかった。
貴方が守ってくださらないからこんなことになったのよ、と言いたくなった。
しかし、屈強な男が二人、それも一人は吸血鬼という異常な状況で、夫になにができただろう?
彼にできたのは、妻に先だって瀕死になるほど吸血されて、仇敵に自分の妻を征服するための精力を与えたことだけだった。

お次は俺の番――
今度は追川が、鶴枝に迫った。
吸血鬼による凌辱に半死半生となった鶴枝のうえに、容赦のない追い打ちが加えられた。
同じく強姦であっても、相手が顔見知りであるほうが、罪の意識の生々しさは倍加する。
「こんどは人間どうし、仲良くしようぜ」
男はむごいことを言って、悔し気に歯噛みをする夫のまえで、その妻に迫った。
女はもうスカートしか身に着けていなかったが、豊かな胸を震わせながら、抱きつかれてゆく。
――貴男は主人のお友だちですよね?
ノーブルな細面に精いっぱいの批難を込めた眼差しを投げながらも、
もはや彼女の身体は彼女のものであって彼女のものではなかった。

お前たちは悪魔だ・・・
近寄ってきた吸血鬼に、樋沼は毒づいた。
ああ、確かにな。
吸血鬼はあっさりと、夫の悪罵を認めた。
よく視ておくんだ。
自分の女房がヤられるところなんて、めったに観られるもんじゃないぜ?
吸血鬼は夫の視線をその妻のほうへと促した。
呪うべき宴の坩堝にあって、鶴枝は理性を奪い尽くされて、夢中になっていた。
二人めの男と組んづほぐれつしながらも、突っ込まれた一物の齎す疼痛に耐えかねて、
柳眉を逆立て細っそりとした腰を激しい上下動にゆだね切ってしまっている。
交わし合う口づけは熱を帯び、ほどかれた黒髪を蛇のように上背に絡みつけながら、
本能のもまの吶喊を許すたび、その髪をユサユサと揺らしていた。
「あなた視ないで」という叫び声はいつしか、「あなた、視て視て!」に変わっていた。
大人しい彼女としては信じられないことに、大きいッ!と声をあげ、自分から暴漢に抱き着いてゆく。
慎ましく淑やかだった若妻は、夫の旧友を相手の交接に、耽り抜いてしまっていた。


どうだ、少しは気が晴れたか?
女を夫のまえに置き去りにすると、吸血鬼は男に訊いた。
ああ、かなりスッとした。
男は言下にそうこたえたが、すこし経ってから呟くように続けた。
あのだんなさんには、ちょっと悪いことしちまったな――

樋沼夫妻は、吸血鬼の主催する婚礼にそれとは知らずに招かれていた。
招いたのはほかならぬ追川で、彼自身もついふた月ほど前に、当地に住み着いたばかりだった。
移り住んでひと月と経たないうちに、男はこの土地の流儀を思い知る羽目になった。
夫婦ながら吸血された挙句、目の前で妻を犯されモノにされてしまったのだ。
さっき自分たちが犯したのと、まったく同じ経緯だった。
強気な追川は、自分一人がこのような目に遭うことに納得がいかなかった。
当地では妻を吸血鬼に差し出した男はべつの人妻を襲う権利を与えられたので、彼はさっそくその権利を行使することにした。
手ごろな知人夫婦を選んでこの街に呼び寄せて、コトに及ぶことを目論んだのだ。
自分の欲望を遂げるためには、経験者の協力が必要だった。
彼は自分の妻を愛人にしてしまった吸血鬼に、力添えを依頼した。
それが、さっきの一件だったのだ。

もともとあんたが悪いんだぞ。
追川は吸血鬼に、責任転嫁した。
もちろんだ。
吸血鬼はこたえた。
「あんたの奥さんは魅力的だからな、俺はひと目で、ヤるしかない、と思ったんだ。
 だがこれだけは、言わせてくれ。
 女を憎んだり侮辱するためのセックスは止めることだ。
 お前はあのひとを欲しくて、此処に招んだんだろう?
 あのひとが恋しいなら、友だちにそう言えば良い。
 ただ踏みにじるだけのために招んだのなら、さっさと家に帰してやれ。
 ついでに自首することを薦めるね」
そんな勝手な・・・
追川はそう言おうとして、止めた。
相手の言い草に一理を認めたのだ。
確かに妻は犯されて、やつのものになってしまった。
手段は邪悪だったが、妻に熱烈に恋したことは間違いない。
そして、今でも愛している妻は、彼のもとを去ることはなく、ともに暮らしている。
吸血鬼は追川夫人を犯しながらも、夫婦別れをしないよう配慮を重ねてくれていたのだ。
時折遂げられてしまう不倫を除けば、なに不平を交えることのできないほど、妻は自分に尽くしてくれていた・・・

「それに俺は、女を選ぶのと同じように、だんなのことも見極めたうえで手を出している」
吸血鬼はいった。
「自慢するな――」
追川は口を尖らせたが、徐々に落ち着きを取り戻していた。
どういうことだよ?
声を潜めて問う追川に、吸血鬼はこたえた。
「妻を襲われて興奮してしまいそうな、寛大なご主人をもつご婦人だけを狙っているのさ」
追川は、一言もなかった。
「あんたにも権利はあるから、いちどは付きあった。
 だが、身体目当てに女をいたぶるだけのセックスしか考えないのなら、俺は手を切るぜ」
吸血鬼は真顔だった。
「わ、わかった・・・」
追川は観念したように、いった。
「俺は自首する。
 樋沼夫人は独身時代の俺にとって、理想の女(ひと)だった。
 でももう、取り返しがつかないよな。。」
追川はむしろ、サバサバとした表情になっていた。
「和美のことはよろしく頼む。
 いまだから言うけど――女房を気に入ってくれたのがあんたで、ほんとうは良かったと思っていたんだ」

追川が起ちあがると、控えめにノックする音がした。
誰だ?とドアを開けると、そこには樋沼夫妻が佇んでいた。
追川は、きまり悪そうな顔つきになった。
樋沼も、さらにきまり悪そうな顔をしていた。
鶴枝はその樋沼に隠れるようにひっそりと立っていて、夫の肩越しに追川を見つめている。
「さっきは――」
追川が言いかけると、樋沼がそれを遮るように、いった。
「追川くん、迷惑でなければ、その・・・うちの家内の恋人になってくれないか?」
え?
追川はあ然とした。

「申し訳ありません、お二人の話を立ち聞きしてしまいました。はしたないことです」
鶴枝は小さな声で頭を下げた。
「あのあと、主人と話し合ったんです。
 わたくし、主人以外の男性は、初めてでした。
 あまりのことに気を呑まれて、つい夢中になってしまいましたが――
 たぶん、夜のお相手の相性は、追川さんととてもよろしいと思ってしまったんです。
 主人は、わたくしと別れたくないと言ってくれました。
 ですので――恋人ということでいかがでしょう?
 ひとりの人妻として、恥ずかしい申し出だとは重々承知しております。
 でも――貴男の身体が忘れられなくなってしまったの。
 吸血鬼様も、よろしかったら・・・毎日のお相手はいたしかねますけれど、お尽くししたいと存じます」
樋沼が妻に代わった。
「情けない話だけど、きみには完敗だ。
 昔はぼくのほうがモテたつもりだけど――本丸を攻め取られちゃったね。
 生真面目な鶴枝をあそこまでたらし込んじゃうなんて、お見事だった。
 これからはきみのことを、男として尊敬するよ」
目を白黒させている追川に、吸血鬼はいった。
「だから言ったはずだ。俺は狙いをつけた女の亭主まで観察すると」

「鶴枝って、呼び捨てにしてもかまわない?」
鶴枝はにこやかに答えた。「ハイ、追川さま」

追川はきょうにそなえて、入念なリハーサルをしたのだと打ち明けた。
妻の和美を鶴枝に見たてて、二人の間に挟んでどんなふうに料理するかの手順を決めていたのだ。
「どうりで手早いわけだ」
樋沼はあきれた。
「奥さんの髪を掴んだりして、申し訳なかった」
追川は謝罪した。「人妻を恋人にするなら、もっと相手を気遣って」と、妻に忠告されたともいった。
「きみ自身、このひとに奥さんを犯されていたんだね」
「同病相憐れむということさ」
追川はこたえた。
樋沼は鶴枝に促されて、口ごもりながらいった。
「きょう鶴枝を連れてきたのは――
 さっきの”儀式”をもう一度やって見せて欲しかったんだ」
視るのがくせになりそうだ――樋沼はそういって笑った。
鶴枝は真新しいスーツを着ていた。
「このお洋服も、堕とすの楽しんでくださいね」
そして、真新しいストッキングを通した脚を、上目遣いの媚びを含みながら、差し伸べてきた。
「わたし、わたくしね――」
鶴枝は羞ずかしそうに、いった。
「髪を掴まれるの、嫌じゃないの。
 わたくしを主人の前で、さっきみたいに荒々しく引きずり回してくださいませんこと?」

吸血鬼に狙われた夫婦の、寛容な対応

2023年02月04日(Sat) 19:54:38

あなた、この方はいったい、、、
妻はそこまで言いかけて、絶句した。
素早く背後にまわった吸血鬼に、首すじを咬まれたのだ。
さっきまでわたしの身体から、働きざかりの血をたっぷりと吸い取った彼は、
わたしの妻の生き血も、喉を鳴らして美味そうに漁(あさ)り獲ってゆく。
おびただしい血を喪ったわたしは、吸血鬼の性(さが)を植えつけられてしまっていた。
長年連れ添った妻の安否を気遣うよりもむしろ、
三十代の人妻の活き活きとした血に酔い痴れる彼の満足感に、同感を覚えていた。

血を吸いあげるゴクゴクという音が、リズミカルにわたしの鼓膜を浸した。
妻が生命を落とす危険はなかった。
大人しく血液を提供しさえすれば必要以上の危害は加えられないことも、彼との交際を重ねるうえで熟知していた。
むしろ彼の友人の一人として、かち獲た獲物に彼が満足していることが、むしょうに嬉しかった。
たとえそれが、最愛の妻だったとしても――

わたしたち夫婦の血液が、干からびた彼の喉をおだやかに潤してゆく。
2人で力を合わせて、彼の喉の渇きを飽かしめているのだ。
夫婦ながら抜き取られた血液が、干からびた彼の血管を緩やかにめぐり、荒涼殺伐とした彼の心象を宥めてゆくのを感じて、
えもいわれない歓びが、わたしの胸をひたひたと浸していた。

仰向けに倒れた姿勢のままぼう然と天井を見あげる妻は、その身をめぐる血潮を好き勝手にむさぼらせてしまっている。
気絶した人間の血は、自由に漁り獲ってよい。
それが彼らのおきてだった。
もしも妻が、自分の血を彼らに与えることを希望していたとすれば、いまの彼女の振舞いは、吸血鬼のためのもっとも適切な応接だった。

ひとしきり妻の身体から血液を吸い取ってしまうと、彼は顔をあげてわたしのほうに視線を投げた。
口許にも、頬にも、ばら色のしずくをテラテラと光らせている。
さすがはあんたの奥さんだ。わしに対するもてなし方をよぅわきまえておいでぢゃな。
そんなはずはない、、、
彼女はただ、彼の腕のなかでうろたえ抜いて、好き放題に血液を摂取されてしまっただけなのだ。

紹介があとさきになってしまいましたね。
わたしの家内です。
富美子といいます。
今年で38になります。
貴男にとっては、食べごろだったのではないでしょうか?

わたしがいうと、彼も語った。

富美子さんの血液型はO型だ。ご主人といっしょだね。
処女のままあんたに嫁いで、浮気歴はない。
身持ちの良い奥さんだ。
几帳面で、規則正しい日常を送っていて、身体のケアもきちんとしている。
だから、血の味も良い。
齢より若々しい、熟れて麗しい血液をお持ちでいらっしゃる。
わしにご紹介くださるのは本意ではなかろうが、
わしはあんたの奥さんに惚れてしまった――

困ります。迷惑です。
うわべは拒みながらも、わたしは恋を告白された少女のように、胸をドキドキとはずませていた。
妻のことをたんに血液を摂取する対象としてしかあしられないよりも、
一人の女として興味をそそったことが、誇らしくもあり嬉しくも感じたのだ。

いつの間にか目ざめた妻が口をはさんだ。
「このかた、吸血鬼・・・?」
「ああそうだ。親しくしている友人なんだ。
 引き合わせるのがあと先になってしまったね」
わたしはこたえた。
お友だちなのね、と、妻はいった。
「だから時々、彼にはぼくの血を吸わせてあげているんだ。
 ぼくの血は、彼の好みに合っているそうだ。
 どうせ痛い想いをして吸い取られるなら、美味しく飲んでもらったほうが嬉しいと思っている――」
「だから、貴方の血を・・・?」
「そう。いつものようにあげていたら、とつぜんきみが入ってきた」
「わたくし、びっくりしてしまって――」
自分が血を吸われてしまったことよりも、
わたしの友人のまえで粗相がなかったかと、妻はそちらのほうを気にかけていた。
所帯持ちの良い彼女らしい反応に、彼とわたしとは安堵の目配せを交わしあう。

「貧血を起こしたね?だいじょうぶかい?」
わたしが気遣うと、妻はゆるやかにかぶりを振った。
「イイエ、だいじょうぶ。わたくし、体は強いのよ」
妻は気丈にこたえた。
初めて遭った吸血鬼に対して、幸い妻は嫌悪も恐怖も感じないようだった。
夫の親友として紹介されたこともさることながら、
吸い取られた血液と引き替えに体内に注入されてしまった毒液が、彼女をそうさせたのだろう。
妻は吸血鬼に優しく会釈を投げると、いった。
「いかがでしょうか?わたくしの血は、お口に合ったのでしょうか?」
妻はさぐるような目で、吸血鬼を見た。
自分の奥底まで識られてしまったかのような羞恥ににた感情が、妻の横顔を微かに翳らせていた。
「今年出逢ったどんな人妻よりも、美味でしたぞ」
吸血鬼な満面に笑みをたたえて、妻に言った。
「いやな方!」
妻はおどけて、彼の背中をどやしつけた。
彼が言外に含めたエッチな意図を、半分くらいは理解している様子だった。

――厚かましいお願いだが、
と、彼は前置きして、
「奥さんの血をもう少しだけ、恵んではいただけまいか?」
そういって、妻とわたしとを、等分に見つめた。
妻の生き血については、わたしにも夫としての発言権があると言いたげな様子だった。
妻はわたしを見て、良いかしら?と小声で訊いた。
彼女に応えるかわり、わたしはいった。
「よろこんで進呈しましょう。わたしに遠慮は無用です」
彼よりもむしろ妻のほうが、嬉しげにわたしを見返した。
では――というように、妻はおとがいを仰けて、吸血鬼に向き合った。
無防備にさらされたうなじに、鋭利な牙がゆっくりと刺し込まれてゆく。
痛みよりもむしろ心地よい疼きが伝わっているのが、彼女の顔色でわかった。
静かに音を立てて妻の血が啜り取られてゆくのを、
わたしはズキズキと胸をはずませて見入っていた。
ネッチリと食いついてくる牙に酷たらしい傷をつけられながら、
妻もまた自分の血を飲み耽る喉鳴りに聞き惚れるように、ウットリと目を瞑り吸血されていった。

男はわたしの妻を抱きすくめて、30代の人妻の熟れた血に酔い痴れてゆく。
吸血鬼に迫られた女はふたたびベッドに倒れ込みながらも、心尽くしのもてなしを続けて、血を捧げ抜いた。

男の抱擁から開放されると妻は、ふらつく頭を抑えながらも気丈に起きあがった。
気遣うわたしの目に「だいじょうぶ」と応えると、
姿見の前に身をさらし、首すじにつけられた咬み痕を、うっとりと眺めた。
首のつけ根のあたりに2つ、赤黒い痣がくっきりと刻印されている。
自分が吸血鬼の所有物になった証しを目にして、彼女は嬉しげに白い歯をみせた。
歯並びの良い前歯だった。
「わたくしのブラウス、汚さないでくださったのね?」
姿見に映された傷口に見惚れながらも彼女は、身に着けた衣裳を彼が毀損していないことを確かめると、
妻は自分の血を吸った男に、称賛のまなざしを投げた。
「ほんとうは・・・きみの服を汚したがっていたのだよ」
わたしは彼女に教えてやった。
餌食にしたご婦人は装いもろとも辱め抜くのが、彼の好みなのだと。
じゃあ汚して。
妻は驚くほどあっさりと、身に着けた衣裳を血濡らされてしまうことに同意した。
「代わりのお洋服、おねだりしても良いかしら・・・?」
こういうときの甘えた上目遣いは、妻のもつ魅力のひとつだった。
「もちろん――」
わたしも、気前の良い夫の顔になっていた。
では、もっと噛んで。
妻はにこやかに、男にいった。

絨毯のうえに抑えつけられて。
妻は唯々諾々と、三たび咬まれてゆき、
引き抜かれた牙からしたたり落ちるちしおで、真っ白なブラウスをしたたかに濡らされてゆく。
飢えた吸血鬼に襲われて、その素肌を魔性の牙の犠牲にされてゆく貴婦人を姿見のなかに認めながら、
妻は満足そうにまた、白い歯をみせた。

脚をイタズラしても良いかね?
吸血鬼が妻にそう囁くと、彼女はけだるげにベッドににじり寄って腰を下ろした。
ストッキングを脱ごうとした妻の掌を軽く抑えると、
彼女の足許を薄っすらと彩るナイロン製の生地のうえに、好色な唇を這わせてゆく。
「まあ、いやらしい・・・」
潔癖な婦人としては当然な批難を口にしながらも、
唾液をヌメらせながらストッキングをいたぶる卑猥なやり口を、妻は拒もうとはしなかった。
ためらいもせずに自分から脚を差し伸べて、
気品をたたえた足許の装いを男の愉しみに供してゆく。
自分の穿いているストッキングが、よだれをたっぷりとしみ込まされて、ふしだらによじれ、皺くちゃにされてゆくのを、
妻は面白そうに見おろしていた。
そして、求められるままに、ストッキングを惜しげもなく咬み破らせていったのだ。

吸血鬼はもはや、人妻を襲う獣と化していた。
男の荒々しい息遣いに切なげな吐息で応えながら、
夫婦の褥のうえに抑えつけられて、
迫られた唇に唇を合わせてゆく。
首すじに熱っぽく吸い着く唇が、べつの意図をもっていることに気づきながらも、
彼女はイタズラっぽい笑みをチラチラとわたしのほうに投げながら、
少しずつブラウスをはだけられ、
スカートの奥に手を入れられて、
破れたストッキングをずり降ろされてゆく。
失血のあまり身体の自由を奪われていたわたしは、
悪友の好色な腕のなかから最愛の妻を救い出すことができずにいた。
それを良いことに、彼はわたしだけのものだった妻の貞操を、モノにしてしまおうとしている――

わたしだけの妻が、ほかの男に奪われようとしている。
夫としての人並みな危機感に苛まれながらも、
そうした苦痛や羞恥すらも。わたしは愉しみはじめてしまっていた。
恥ずべき愉しみだった。忌むべき歓びだった。
けれども、血液もろとも人並みな理性を吸い取られたわたしはもはや、どうすることもできなかった。
妻を吸血鬼の意のままにさせてしまうこと。
それは夫としては恥ずべき行いだと承知していながらもなお――
わたしは妻の貞操の危機に、いい知れぬ悦びを感じはじめてしまっていた。
レイプに似た荒々しいあしらいに、妻もまた抗いながらも応えてゆく。
夫の親友である吸血鬼に理解を示して気前よく吸血に応じた妻は、
熟れた人妻の生き血を餌食にされてゆくことに歓びを植えつけられてしまっていたが、
こんどは女として獲物になることさえも、受け容れようとしている。

うす茶のスカートが、じょじょにせり上げられてゆく。
ストッキングを片方脱がされた脚が、白蛇のように淫らにのたうち、くねってゆく。
裂き堕とされた肌色のパンティストッキングがずり落ちて、ハイソックスほどの丈になって、ふやけたように妻の足許にまとわりついている。
健全なるべきわたしの令夫人の貞操は、このようにして汚された。
手練手管に長けた吸血鬼を相手に、ユサユサと身体がしなるほどにあしらわれて。
妻は完全に手玉に取られ堕ちていった。
荒っぽいロマンスに酔い痴れてしまっていた。


決めごと、しませんか?
嵐が過ぎ去ると、妻がいった。

わたしは再び彼の牙を首すじに埋め込まれて、ふたりが熱烈なロマンスにうち興じるための原資として、したたかに血を吸い取られてしまい、絨毯のうえに転がされていた。
思う存分血を抜き取られたあとの、奇妙にスッキリした気分に、わたしは浸されていた。
妻の細腰にくどいほどペニスを突きたてていった吸血鬼に対しても、
悪友の不埒な挑発に大胆に腰を振って応えてしまった妻にたいしても、
怒りの感情は湧いてこなかった。
ふたりのセックスはピッタリと息が合っていて、ヒロインがわたしの妻だという以外、申し分のないカップルに見えた。
妻は不倫の恋人を得たことを、わたしは妻が恋人を得たことを、悦んでいた。

妻はスーツのジャケットを、ブラウスをはぎ取られてむき出しになった肩に羽織り、片方だけ引きちぎられたスリップの肩ひもをもてあそんでいた。
めくれ落ちたスリップからは、豊かな胸を片方だけ、無造作にさらけ出している。
頭の後ろにアップにしてまとめあげていた黒髪はほどかれてジャケットの肩に乱れかかっていた。
お嬢さんのように、と言いたかったが、ふしだらに波打つようすはむしろ、娼婦のそれを連想させた。

「ごめんなさい、楽しんじゃった。」
ふだんにない稚なげな調子で、妻が呟いた。
「俺もだ。奥さんなかなかやるね。」
吸血鬼は、イタズラっぽく嗤った。
「悪かったな、ご馳走さん。」
わたしに向かって告げられたのは、あっけらかんとした謝罪だった。
「恥ずべきことに、どうやらぼくもそうらしい。」
わたしも告白した。
妻が犯されているあいだじゅう、わたしのペニスも逆立ちせんばかりに、昂りつづけてしまっていた。
それを吸血鬼も妻も目にしていたが、どちらの目にも軽蔑や批難の色はなかった。

「決めごとって、どんな?」
妻の申し出に、だいぶ間をあけてわたしは訊いた。
「貴方はこれからも、このかたに血を差し上げるおつもりね?」
妻がいった。
もちろんだ、と、わたしはこたえた。
「だとすると、わたくしのロマンスも受け容れてくださるおつもり?」
妻の瞳に、いくらかのためらいと不安とが浮かぶのを見てとると、わたしほいった。
「きみは、ぼくの妻を愛してくれますか」
向けられた問いに、彼は言下にこたえてくれた。
「もちろんだ」
「ありがとうございます。妻を奪われた甲斐があります」
「でも、奥さんをきみの手から奪い取ろうとは思わない。
 あくまでも、きみの令夫人のまま犯しつづけ奪い尽くしたいのだ」
「嬉しいです――貴男に妻を奪われて、満足です。
 貴男を家内の恋人として、ぼくたちの家庭に迎えたい・・・」
言いながらわたしは、胸が激しく掻きむしられるのを感じた。
それは無念さや屈辱からではなく、危険な関係を自ら受け入れることへの、ときめきによるものだった。


いまでは、三人のなかでは、ふたりのロマンスはこのように理解されている。

彼は人妻の生き血が好物だった。
ぼくはさいしょから、最愛の妻を彼の獲物として捧げたい感じていた。
人妻の生き血に飢えていた彼は妻を襲って生き血を美味しくむさぼり尽くしてくれた。
そればかりか彼は、妻に対して女としての関心を抱いてくれた。
妻は彼の吸血癖に理解を示し、彼の欲求にキチンと応えるべく、親友の妻として自身の血で渇きを飽かしめることに同意した。
そして、迫られるままに肌身を許し、夫であるぼくの前でロマンスを実らせた。

ぼくの前で結ばれた愛の儀式は、ぼくに対する裏切り行為だとは思っていない。
親友がぼくと同じ女性を好きになってくれたことを嬉しく思い、ふたりのロマンスを心から祝福している――

兄嫁を同伴して、乱交の宴に参加する。

2023年01月30日(Mon) 07:49:56

先生となれ初めてだいぶ経った頃。
兄が結婚しました。
お相手は、大学で知り合った都会育ちのお嬢さんです。
兄は24,義姉になる菜々恵さんも同い年でした。
僕の家では、「宴」に参加するのはもっぱら、僕の役目になっていました。
父にも兄にも、参加資格はありません。
特に父は、母の愛人が自宅に入り浸っているのに、母を寝取ったその男性と機嫌よく、酒を酌み交わしたりする人でした。
兄も、そうしたこの地域から離れたくて、いちどは家を出た人でした。
けれどもこの不景気のご時世ですから――父のあとを継ぐことになって、実家に戻ってきたのです。
もうこうなると、せっかくもらったお嫁さんは、ぼくの好餌 と言うことになります。
兄もそれを承知で、家に戻ってきたのです。

思春期のころから、母は父公認の愛人を家に囲っていました。
でもその母も、さいしょは気丈に抵抗したそうなのです。
そのありさまを密かに垣間見てしまったのが、兄だったのです。
着物をはだけながら、ふだんチラとも見せない肌身を露わにして犯されていった情景が、兄の脳裏に灼きついたのも、無理はありません。
それは兄にとって、大きなトラウマになってしまったのです。
自分の愛する女性がほかの男に蹂躙され、歓びを感じて屈従していってしまう――いつかそんな光景を自分のこととして再現しないか――兄はそんな夢想に取りつかれてしまったようでした。

「宴」の時期がめぐってきました。
結婚を控えていながら僕に処女を捧げた広野先生は、当時お婿さんと生活を始めたばかりでした。
そんなとき、兄は、「菜々恵を連れて行ってくれ」と、僕に頼み込んできたのです。
すべて言い含められていららしく、菜々恵さんは兄の後ろに黙って控えていて、羞じらうように俯いていました。
ふたりの間にまだ子供はいませんでした。
「跡継ぎの嫁をこういうことに出すのはねぇ」と、さすがの母も逡巡している様子でした。
兄は僕に言いました。
「菜々恵のことはお前に任せる。できればお前の手で、菜々恵をこの土地の女にしてやって欲しい。
 でもどうか、俺から菜々恵を奪わないで欲しい。身勝手なお願いだとは思うが、菜々恵がお前に愛されても、俺の妻のままでいて欲しいのだ」
兄の気持ちは、よくわかりました。
それに、菜々恵さんを兄嫁のまま抱き続けるという兄の提案に、そそられるものを感じました。
僕自身、菜々恵さんに惹かれていたのです。
菜々恵さんは都会のお嬢さんらしい派手さはなく、むしろ楚々としていて控えめな若妻でした。
僕の手で、兄嫁である菜々恵さんを開花させる。
なんとありがたい申し出でしょうか。
生まれてこのかた、これほど兄に感謝したことはありません。
ぼくはただ一つだけ、条件を出しました。
「菜々恵姉さんのことだけど――これからは”菜々恵”って呼び捨てにしての構わないかな」
二人は一瞬顔を見合わせ、まず菜々恵さんがちょっとだけ頷いて、それを追認するように、兄も頷き返しました。
こうして、菜々恵さん――いや菜々恵は、僕の奴隷となることが決まったのです。

「宴」の場では、相手があらかじめ決まっています。
自分が連れてきた相手をそのまま「宴」の相手にするというのは、異例でしたが。
今回はぜひそうさせてほしい――と、自分の意見を通したのです。
僕は菜々恵を、自分のものにしたかったのです。

めくるめく乱交の渦のなか。
兄からプレゼントされたスーツに身を固めた菜々恵は、僕の腕の中にいました。
ひざ丈のフレアスカートはむざんに跳ね上がり、太ももを露出させていて。
きちんと脚に通していた白のパンティストッキングは、片脚だけがかろうじて、ひざ下に弛んだまま残っていました。
白のパンストは、僕が兄のまえで、菜々恵に望んだいで立ちでした。
きょうから菜々恵は、僕の花嫁だ。
兄さんがなんと言おうと、彼女はきょう、二度目の結婚式を挙げる。
菜々恵にも、僕の気持ちは伝わっているようでした。
「家に帰ったら、兄さんのまえできみを犯すからね」
そんないけないささやきに、菜々恵は目を瞑ったまま、小さく、しかししっかりと、肯き返してくれたのでした。

妻のセカンド・ブライダル♡

2023年01月30日(Mon) 02:30:28

「好物なんだ、許せ」
男はそういって、妻の首すじに咬みついた。
そして、三十代の熟女の生き血を、妻の身体からしたたかに抜き取った。
妻は白目を剥いて悶えたが、四肢をガッチリと抑えつけられていて、ただ一方的に、血液を摂取されていった。

この街は危ないぜ――婚礼に招んでくれた親友の忠告を、無視したわけではない。
けれども妻も、「吸血鬼のいる街ですって?面白そう♪」と、自らすすんで、この危険な婚礼に帯同することを申し出たのだ。
山懐に抱かれたように蹲るこの街は、都会からはかけ離れたところにあって、
わたしたちは最低でも、二泊しなければならなかった。
そのさいしょの夜の出来事だった。

風呂あがりのわたしが、ホテルの部屋で真っ先に咬まれ、その場に昏倒すると、
脱衣所にいた妻が物音を聞きつけて、飛んできた。
夫婦ながら血を吸われるために、戻ってきたようなものだった。

都会の洋装を好むという彼らにとって、妻のスーツ姿は絶好の餌食だった。
ブラウスのうえから胸をまさぐられ、首すじを咬まれて、妻もまたほとんどわたしと同じ経緯で、その場に昏倒してしまった。
そして、彼女が再びわれに返った時にはもう、
肌色のストッキングを穿いた脚をたっぷりと、舐められ抜いてしまっていた。
新しくおろしたばかりのストッキングは、欲情を滾らせた唾液にまみれて、
みるみるうちに、淫らに濡れそぼっていった。
きっと――妻は犯されてしまうに違いない。
この街で花嫁を迎える親友は、たしかに言った――
セックス経験のある婦人を吸血の対象とするとき、彼らは生き血を餌食にした後で、性的関係まで遂げてしまうのだと・・・

さきに血を抜かれたわたしのなかに、嗜血癖が芽生えかけていた。
だから、彼が若い女の生き血に飢えていることに、同情も理解も感じ始めていた。
だからといって、その欲求の標的が妻であって、嬉しいはずはない。
けれども、鋭い牙を埋め込んで、ヒルのように這わせた唇で踏みにじるようにして妻の素肌を蹂躙されながら、
わたしはまったく、怒りというものを覚えなかった。
むしろ――活きの良い血にありつくことのできた同族を羨む気分さえ、感じ始めていた。

白い素肌にしつように吸いつけていた唇を引き離すと、
妻の身体から吸い取った血液が、口の端から微かに滴った。
わざと滴らせているのだと、はた目にもわかった。
乱れた純白のブラウスは、ボトボトとこぼれ落ちる真紅のしずくに濡れた。

妻は、かすかに意識が残っていた。
ブラウスを汚されたことに気がついたのだろう、かすかに眉をひそめて、
男と、そしてわたしの視線をも避けるようにして、目をそむけた。
それが、彼女にできる、精いっぱいの抵抗だった。

男はふたたび妻の足許にかがみ込んで、ストッキングを穿いた足許を凌辱することに熱中した。
室内の照明を照り返して淡い光沢を帯びたストッキングは、むたいに舌を這わされて、そのしなやかな舌触りを愉しまれていった。
妻は無念そうに、自分の足許を見降ろし、助けを求めるようにわたしを視た。
わたしはかすかに、かぶりを振った。
夫に引導を渡されたとさとった妻は、後ろめたそうに目を伏せると、
男が吸いやすいようにと、飢えた唇の動きに合わせて、脚の角度を変えていった。
深夜の宿を襲った吸血鬼は、こうして妻のストッキングを剥ぎ取る悦びを味わう権利をかち獲ていった。

むざんに咬み剥がれたパンストが、ハイソックスと同じ丈になって破れ堕ち、ずり降ろされてゆく。
失血のあまり身じろぎひとつできなかったのが、指先だけでもうごかせるようになったのは――
辱められてゆく妻の有様を目の当たりにして、妖しい昂ぶりと、
そして――認めたくはなかったけれど――忌むべき歓びとをおぼえ始めたからにちがいなかった。
妻は、真っ赤なショーツを穿いていた。
それは、わたしとの夫婦の夜を悦びに満たすためではなく、夫以外の男を誘うためでもむろんなく、
たんに彼女のおしゃれ心を反映したにすぎなかったのだが、男はそうはとらなかった。
「だんなさん、奥さんすっかりやる気まんまんのようだね」
冷やかすような口調はなぜか親しみが込められていて、侮辱されたような気分にはならなかった。
男の舌は、妻の真っ赤なショーツの上から圧しつけられ、しつように這わされた。
ショーツはみるみる、淫らな唾液にまみれていって、じっとりと濡れそぼり、秘められた陰毛までもが微かに透けて見え始めた。

「御覧にならないで・・・」
妻はやっとの思いで、いった。
「やす子、やす子」
わたしは思い切って、妻の名を呼んだ。
「非常事態だ。今夜にかぎり、きみはぼくの妻であることを忘れてくれたまえ」
好きに振舞ってもらって構わない――言外の意味を彼女はすぐに覚り、
そして・・・ショーツを自分の手で、引き裂いた。
ピーッと鋭い音が、部屋に響いた。

「だんなさん、すまねぇな・・・」
男はそういうと、そのむき出しの裸体を、妻の上へと重ねていった。
彼の逞しい腰が、妻の細腰に沈み込むのを、目を背けることなく見届けてしまった。
わたしよりもはるかに強靭な筋力に恵まれた腰は、ただのひと突きで、妻の狂わせた。

懊悩の夜更けだった。
朱を刷いた薄くノーブルな唇からは、絶え間なくうめき声が洩れつづけた。
さいしょのうちこそ耐え抜いた妻は、身に迫る凌辱をまえに身体を開かれていって、
ペニスのひと突きごとに反応を深め、ひと声切なげな吐息を洩らしてしまうともう、とまらなくなっていった。
吐息、吐息、吐息・・・
妻の貞操が永遠に喪われたことを、自覚せずにはいられなかった。
知らず知らず、わたしはその場で射精していた。
白く濁った粘液が客室のじゅうたんを濡らすのを、男も妻もみとめた。
どちらも、わたしを嘲ることはしなかった。
むしろ、互いに手足を絡め、身体を結びつける行為に、熱中してしまっていた。
馬乗りにのしかかられて前から犯され、
四つん這いになって後ろから奪われ、
それでも収まらない怒張を帯びた一物を、妻ははしたなくも唇に受け容れてゆく。
根元まですっぽりと咥え込んだ一物が、中で噴出したのだろう。
初めてのことにうろたえて、口許を抑えてむせ込んだ。
だいじょうぶか?と、男は妻の背中を撫でた。
妻は無言でうなずき返し、なおもペニスをねだった――わたしの前で。
足許にまとわりついたパンストはふしだらに弛みずり落ちて、
身に着けていたときには淑女だったはずの女は、もはや娼婦に堕ちてしまっていた。

わたしよりもはるかに剛(つよ)い怒張がくり返し妻の股間を冒すのを、わたしはただぼう然と見つめていた。
怒張は、妻の身体の奥から引き抜かれた後も、猛りに猛り抜いていた。
ヌラヌラとした体液でうわぐすりのように濡れそぼった一物は、
抜身の短刀が獲物を刺し貫くようなどう猛さで、なん度も妻の股間を冒しつづけた。
妻はそのあいだ、乱れた黒髪の端を口に咥えて、歯並びのよい白い歯を覗かせていた。

視ないで・・・視ないで・・・あなた視ないで・・・
妻はたしかに、そう繰り返していたはずだ。
それがいつの間にか、そうではなくなっていた。
あなた、視て、視て、視てえ・・・
腰を激しく振りながら、自分の身体を激しく求める逞しい腰の上下動にリズムを合わせながら、
彼女は頭を抑え、唇に手を当てて、随喜のうめきをこらえようとした。
こらえかねて、なん度も声を洩らした。
いい・・・いい・・・とってもイイッ!
激しくかぶりを振りながら、暴漢の男ぶりを褒め称える妻――
わたしにとって仇敵であるはずの男は、まんまと妻を手玉に取り、なんなく自分の支配下に置いてしまった。
男はなん度も妻に挑みかかり、夫だけに許されたはずの権利を不当に行使しつづけて、
妻もまたうめき声をこらえ、そしてこらえかねながら、男のあくなき欲求に、細身をしならせて応じつづけていった。


けだるい夜明けが訪れた。
わたしはぼう然として、ロビーで妻を待っていた。
男は妻を自室に略奪すると宣言し、わたしはぜひ伺いなさいと妻に促してしまっていた。
妻は乱れた髪を揺らして、わたしの許しにかすかな感謝と含羞を交えて、
男の促すままに従った。
朝6時に、ロビーで待ち合わせることになったのだ。

一睡もできずに昂ぶり疲れた身体をソファに持たれかけさせていると、
淡いピンク色のスーツをきちんと着こなした妻が、ロビーにハイヒールの足音を響かせて歩み寄ってきた。
「お待たせしました」
微かに揺れる栗色の髪は、夕べの乱れをほとんど感じさせなかった。
きこなしもいつも通り上品で、夕べあれほど淫らに舞った娼婦の気配を見事に消していた。
後ろから、男が影のように寄り添って、ついて来た。
「約束通り、奥さんをお返しするよ」
彼はそういったが、名残惜しそうにしているのが目に見えて見て取れた。
ピンクのタイトスカートの下から覗く妻の脚は、濃いめのグレーのストッキングに覆われている。
しなやかな筋肉の起伏がナイロン生地の濃淡になって反映し、いつになく艶めかしくうつった。
「式は午後1時からです。それまではお互い、暇ですな――」
男がなにを言いたいのか、すぐに察しがついた。
「家内のパンストをもう一度、破りたいんじゃないですか」
わたしは言った。
「図星――」
男はにやりと笑い、妻は損な男の尻を軽く打った。
ごく打ち解けた男女の間のしぐさだった。
「妻をすっかり、モノにされちゃったようですね・・・」
さすがにわたしは、悲し気に声のトーンを落としていた。
「ごめんなさいね、あなた。でも仰るとおり、すっかり奴隷にされてしまったわ」
「離婚は厳禁ですよ、おふたりとも」
男がたしなめた。
樋村夫人のまま妻を犯しつづけたい――そういう意味らしかった。
「午後1時まで、好きにしたまえ。旅路のロマンスだと思うことにするよ。夕べのことも、これから後のことも――」
口をついて出た言葉に、わたし自身が驚き、妻もあっけにとられた顔をした。
けれども妻は、救われたような顔になって、ここ最近みたこともないような丁寧にお辞儀をすると、
「もうしばらく、恋を愉しませてくださいね」
と、わたしに告げた。

わたしはてっきり、ふたりが男の部屋に戻るものだと思い込んでいた。
ところが、一人で寝もうとしたわたしのあとに、二人ともついて来たのには驚いた。
「わしがモノにした節子のオンナぶりを、貴方に見せつけたいのです」
男はいった。
どこまでもヌケヌケと・・・と思った。
けれどもわたしは、だれか違うものの意志に支配されたかのように、なんなく肯き返してしまっていた。
「家内はわたししか、識らない身体だったんですよ。でも今は、きみの恋の成就におめでとうというべきなのだろうな」
「負けをきれいに認める。清々しい行いですね」
彼はいった。
まんざら社交辞令ではないようだった。
「では力水をちょうだいしますよ」
彼はそういうと、わたしのスラックスのすそを引き上げた。
なにをするのだろうと思ったら、靴下の上から足首に咬みついてきた。
「靴下を破りながら吸血するのが好きでしてね・・・男女問わず」
彼はそういうと、わたしの履いていた丈が長めの靴下を咬み破り、静かな音を立てながら血を啜り始めた。
紺地に白のストライプの入った靴下はむざんに破け、啜り残された血に濡れてゆく。
「こっちも楽しむかね」
わたしが促すと、彼はもう片方の脚にも咬みついてきた。
「昨夜咬み破った家内のパンストほど、面白くはないだろう?」
「イイヤ、奥方を寝取ったご夫君の靴下を破くのは、けっこう乙な楽しみなんですよ」
「ひどい人だ」
わたしは男を軽く罵りながら、さっきから自分の神経をうっとりと痺れさせ始めていた吸血の感覚に、身をゆだね始めている。
「完全に気絶はさせませんよ。わたしは見せつけたいし、貴方も愉しみたいでしょうから――」

「きみに、わたしたち夫婦の体内に宿る血液と、妻の貞操を、改めてプレゼントしよう。
 貞操堅固な家内を見事に堕落させた腕前を認めて、きみを家内の愛人として、わたしの家庭に迎え入れたい。
 どうぞこれからも、家内を辱め、わたしの名誉を泥まみれにしてください」
わたしはそういって、笑った。
「素敵な浮気相手を見つけることができて、この旅行はとても有意義だったわ。まるでわたくしも、結婚式を挙げるみたい。
 貴方のご厚意に甘えて、遠慮なく貴方を裏切り、不倫の恋を愉しませていただくわ。
 負けを潔く認めることができる貴方に、惚れなおしましたわ」
妻も清々しそうに、笑った。
「ご結婚おめでとう」
わたしがいうと妻も、
「ありがとうございます」
と、細い首を垂れた。その首のつけ根には、彼に着けられた愛の証しがどす黒い痣となって、鮮やかに刻印されている。
「奥さんをわたしの恋人の一人に、よろこんで加えさせていただく。
 貴方の奥方を辱めるチャンスに恵まれたことは、今年で最も幸せな体験だったと告白しましょう。
 心づくしのプレゼント、嬉しくお受けいたしますよ」
彼もそういって、笑った。
三人三様、お互いをたたえ合い、愛を誓いあっていた。

薄れゆく記憶の彼方で、男は妻の唇に、唇を近寄せてゆく。
妻はうっとりとした上目遣いで、受け口をして、夫婦の血に濡れた唇を重ね合わせられてゆく。
二対の唇はお互いに強く吸い合って、結びついたように離れなかった。
ピンクのタイトスカートは腰までたくし上げられて。
グレーのストッキングはくまなく舐め抜かれ、咬み破られ、剥ぎ降ろされて。
白のブラウスはボウタイに血を撥ねかしながら、むしり取られていって。
荒い息と、昨晩よりもあからさまなうめき声。
主人よりもずっといいわ・・・という称賛と。
あなた、しっかり御覧になって・・・というふしだらな言い草と。
逞しい腰に絡め合わせた細い腰を、精いっぱいに振りながら、
妻はひたすら、堕ちてゆく。
お似合いのカップルの誕生を、わたしは自分の歓びとするしかなかった。
犯され、汚され、辱め抜かれてゆく妻の媚態を目の当たりに、わたしは恥ずかしい昂ぶりに身を委ねて、
親友よりもひと足さきに、自身の妻の「セカンド・ブライダル」を祝うことになったのだ。
新調したばかりのスーツを、花嫁衣裳の代わりにして――

先生の妻。

2022年10月22日(Sat) 10:56:22

カズユキくんのお母さんとの一件で味を占めたボクが次に狙ったのは――
担任の奥原先生の奥さんだった。
奥原先生はボクの所属する「読書クラブ」の顧問の先生で、
男子生徒5人で作ったそのクラブは、しばしば先生の家で読書会を開いていた。
先生の奥さんはおしゃれな人で、紅茶を淹れたお盆を持ってきてくれる時にちょっとだけ顔を出すだけだったけれど、
ボクたちはいちように、奥さんの大人の色気に生唾を吞み込んでいたものだった。
とくに奥さんがいつものように穿いている、濃紺のストッキングは――
白い脛をそれは艶めかしく妖しく染めあげていて、
ボクの狂った網膜には、まるで――娼婦のようにさえ映るのだった。

あのパンストを脱がしてやりたい。
夫である先生の前で、引き裂いてやりたい。
そんなけしからぬ欲求に、毎日股間が疼くようになったのは、ごくしぜんななりゆきだった。

妹の紗代とは、もう半年前から関係ができていた。
学校帰りのセーラー服姿にむらむらッと来て――
「お兄ちゃんやめて」と言われながら、前開きのセーラー服をはだけて乳首を吸い、
ひざ下までもある丈の重たいプリーツスカートをユサユサと掻きあげて、
まだ童くさい唇に、むしろ強く劣情しながら、
ショーツを脱がした太ももの奥へと、たけり狂った一物を圧しつけていったのだった。
足摺りをくり返すうち。
履いていた真っ白なハイソックスが初めての血に浸るのを、
さいごのほうでは、「しょうがないなー」と照れ笑いしながら、
「もっと・・・」とおねだりしてくるまでになったのは。
きっと母さんの淫乱な血を、受け継いだからに違いない。

紗代のことは、兄さんとも共有していた。
ボクがさいしょに犯し、母さんには黙っていてくれるのと交換条件で、
家の外に連れ出して、草むらに埋もれながら、代わる代わるやりまくってしまったのだ。
だから、奥原教師夫人攻略作戦を実行するにあたっては、まず兄さんの許可を取った。
許可はあっさり下りた。
それよりも、「紗代の気持ちを大事にしろよ」――と、そのときはさすがに兄さんだと思ったものだ。

「いいわよ~♪」
紗代は意外にあっさりと、承諾した。
「まだ大人の人としてないもんね」
淑徳を示すとされたセーラー服の白のリボンをもてあそびながら、
紗代は悪びれもせず、学校の先生とヤるなんて痛快!と、むしろ乗り気なところをみせた。
ボクたちの自分勝手なセックスにうんざりしていたのか、それともたんに新しい刺激が欲しかったのか。
きっとその両方だったんだろう。


「やあ、いらっしゃい」
先生はいつもの謹厳な態度で、ボクたち兄妹を迎え入れた。
背後には珍しく奥さんの昌枝さんまでも顔を出して、にこやかに会釈を投げてくれた。
奥さんは白のタイつきブラウスに、濃い紫のロングスカート。
半ばしか見えない脛は、例の濃紺のストッキングに妖しく染めあげられていた。
きょうの濃紺のストッキングは、ボクのために穿いてくれている――
そんな妄想が黒雲のように、むくむくと沸き上がった。
表向きは礼儀正しい笑みをうかべて応対していたけれど。
ズボンのなかで窮屈そうに、ボクの一物が鎌首をもたげるのを、必死にこらえていた。

紗代が、(このひとね?)と言わんばかりに、ボクを見かえる。
ボクは素知らぬ顔をして、奥さんにも礼儀正しくご挨拶をして、さっそく先生の書斎にお邪魔した。

先生の書斎は、畳部屋で、ボクたち「読書クラブ」の部員5人が詰めても平気なくらい、広かった。
先生には前もって、話をつけていた。
 ボクの妹を犯したいと思いませんか?
 いつも妹の黒のストッキングの脚を、じとーっと見つめていますよね?ボク知ってるんです。
 なんなら、ボクがチャンス作りますよ。
 先生になら、妹を犯されても許せるって思うんです。
 妹にはよく、言い含めておきます。家にもナイショにするように言います。
 それはそうですよ――ボクの家だって、健全な家族ですからね・・・
 目印は――先生の好きな妹の黒ストにしましょう。
 学校の制服で黒のストッキングなら、彼女もOK、とご理解くださいね――
そう。
先生の家にお邪魔するとき紗代は、通学用の黒のストッキングを脚に通していた。
奥さんの濃紺のストッキングと好一対。とても良い眺めだった。

書斎に入ったとたん、先生はボクの顔を見、「いいんだね?」と念を押すと、
ボクが頷くのも待てないように、紗代の手を強引に引っ張った。
肩を鷲づかみにされた、白のラインが三本走る濃紺のセーラー服の襟が、いびつに歪んだ。
紗代がなにか言おうとすると、その唇を強引なキッスがふさいだ。
紗代は声もあげずに、ふらふらと姿勢を崩していった。
ボクにはヤラセだと分かっていたけれど、初々しい戸惑いに満ちた導入だった。
紗代の示したかすかな抵抗にそそられたのか、
先生はいっそう鼻息荒く、紗代の着ている前開きのセーラー服をくつろげてゆく。
レエスのついた白のスリップが、濃紺の制服の合い間から、鮮やかに眩く覗いた。
いつも謹厳にみえた先生にして・・・教え子の目の前で、その妹を犯そうと目の色を変えるのだから。
先生というのは、油断がならない。ボクはそう思った。
なぜか――先日犯したばかりの路子先生のことを、ふと思い出した。
路子先生のほうがずっと、生真面目でいちずだと・・・思いたかった。

奥原先生のごつごつと節くれだった掌が、紗代のスカートの中にもぐり込んだ。
スカートのひだが、掌の盛り上がりを写して、その盛り上がりがずんずんと腰回りまでたどり着いて、
黒のパンストをずるずると引きずり降ろしにかかってゆく。
それは足許にまで反映されて、足許にぴったりと張りつめていた薄地のナイロン生地が皺くちゃになって、
ふくらはぎ周りから、ふしだらに浮きあがった。

兄とつるんで2対1ですることもあったから、いつも見慣れている光景のはずだったけれど。
相手が先生だと、どういうわけかひどく興奮してしまっているボクがいた。
そこへ――
奥さんがいつものように、お紅茶を淹れて部屋をノックした。
「お盆だけ受け取って・・・」
先生は、身勝手なことをいう。
ボクはもちろんそうするつもりはなかったから、ドアを大っぴらに、開け放ってしまっていた――
ドアの向こうには、お盆を抱えたまま絶句している昌枝さんがいた。

「どうしたのですか??」
声色は平静を取り繕ってはいるものの。
蒼ざめた顔色は、隠しようもない。
明らかに、狼狽していた。
そしてボクは、明らかに状況を愉しみ始めていた。

「見てください、先生、ボクの妹を襲っているんです。犯しているんです。わかりますよね?」
「エエ・・・エエ・・・わかります・・・」
奥さんは気の毒なほど、おろおろしていた。
「初めてなんですよ、まじめな子ですから。嫁入り前なんですよ。なのにこんなことされちゃって――」
手許がくるってお盆のうえの紅茶をこぼしそうになった奥さんからお盆を引き取ると、
ボクはそれを本棚のうえに落ち着けた。
「あ・・・ありがとうございます」
昌枝さんはかろうじて、そういった。
明らかに、おろおろしていた。
けれども先生は、紗代のうえにのしかかった勢いをどうすることもできなくなって、
なんと妻のまえで教え子の妹の股間に向けて、濁った精液をびゅうびゅうと放射してしまっていた。

紗代は唇を嚙んで、甘んじて凌辱を受け止めた。
折り目正しい制服のスカートは、プリーツをつづら折りに乱れて、
その丈長なすそからは、脛まで引きずり降ろされた黒のパンストが片方だけ、覗いている。
「あなた、あなた、若い娘さんにそんな――」
夫の乱行を制止しようとした昌枝さんの声が、途切れた。
背後にまわったボクが彼女を羽交い絞めにして、後ろ手にまわした掌が、ブラウスのうえから胸を激しく揉み始めたからだ。
「あ・・・な、なにをなさるんです!?」
昌枝さんの尖った声色が、ボクの嗜虐心をいっそうそそった。
ぼくは体重を思い切り昌枝さんの身体に乗せて、紗代のすぐ傍らに、華奢な身体を転がしていた。
先生ははっとなって身を起そうとしたが、紗代はしっかりと先生の背中に腕を巻きつけて、ぴったりと離れない。
そのすぐ傍らで、ボクは昌枝さんの――いや、昌枝のブラウスを引き剥いでいった。
昌枝の胸もとを気高く引き締めていた純白のボウタイを、花びらを散らすようにむぞうさにほどき、
白のブラジャーの胸をはだけると、羞恥して胸もとを覆おうとした両手を容赦なく払いのけ、
ついでに頬に平手打ちを一発お見舞いする。
思わず抵抗の手を止めた昌枝の首すじに強いキスを這わせながら、ブラジャーの吊り紐を両方とも、引きむしるようにして断ち切っていた。

「き、きみっ、昌枝になにをするというのだ!?」
先生の狼狽した声が耳をくすぐる。
そのくせ先生が、紗代の下肢との結合を止めようともせずに、
制服のスカートに包まれたお尻を鷲づかみにし続けているのを、
妹を犯された兄として、見とがめないわけにはいかなかった。
「一緒に愉しもうよ」と、紗代。
「そうですよ昌枝さん、一緒に楽しみましょうよ」と、ボク。
けんめいにいやいやをする昌枝さんの唇を、先生の目の前で奪うと、
こじ開けた唇のすき間から覗くしっかりと食いしばった歯を、舌を入れてなぞっていった。

ビチッ・・・ブチブチッ!
鋭い音を立てて、濃紺のストッキングを裂き取っていくと。
うろたえて涙ぐむ昌枝の顔をじっと見つめる。
先生は、自分の妻が虐げられる有様に欲情してしまったらしく、
いまは熱っぽく、妹との情事に耽り込んでしまっている。
たけり立った肉棒を、無防備になった股間に圧しつけて、あっという間にもぐり込ませると。
キュッと閉ざされた昌枝の瞼から、涙がしたたり落ちた。
けれども、ボクは知っている。
何度もこすり合わせ、突き込んでいくにつれ。
昌枝は下肢を弾ませて、応えはじめてしなったことを――


「妹さん、処女じゃなかったじゃないか」
先生は口を尖らせた。
「わかっちゃいましたか?」
ボクは照れ笑いで誤魔化した。
「家内を襲わせる約束をした覚えはないぞ」
先生はなおもボクのことを、咎めつづける。
「お互い様じゃないですか」
ボクは楽しそうに打って返した。
「昌枝はほかの男など識らなかったんだ」
憤懣やるかたない先生に、ボクはいった。
「昌枝をモノにできて嬉しいです。誘ったらきっと、逢ってくれると思います。
 そうしたらお礼に、いつも穿いている濃紺なストッキングを、
 舐めつけながらずり降ろして、ブチブチ引き裂いて楽しむことにしますね」
先生がグッと昂るのをつぶさに見て取ると、
「授業が始まりますよ」と、余裕たっぷりに促していた。


「こんどだけですよ?」
昌枝はおびえた上目遣いでボクを見る。
「さあ、それはどうかな」
ボクは昌枝の肩に腕を回して、わが物顔に横抱きに抱きすくめる。
「OKだったら穿いてきてくださいね」とおねだりをした濃紺のストッキングが、
きょうも昌枝の下肢を妖しく染めている。
「奥さんは、ボク専用の娼婦にしてあげるからね」
唇で唇をこじ開けると、昌枝は歯を食いしばって拒もうとして、そのかたくなな歯を、テロテロと舌で、舐め抜いてゆく。
ドアのすき間から注ぎ込まれる、嫉妬に満ちた視線がくすぐったい。
そう。
昌枝には密会をねだりながら、密会場所と時刻とは、先生に報告してあげているのだ。
絶対手を出さないと約束してくれるなら、昌枝を楽しむところを見せてあげますよ。
ボクの言い草に、先生は無抵抗に頷くばかりだった。
ボクに言われたとおりに着飾った昌枝が、ボクの家に現れたのを覗き見て、ドアの向こうの人が絶句するのを感じると。
華奢な身体を引き寄せて、強引に唇を奪っていた。
卑猥に迫るボクからわが身を隔てようと腕を突っ張るのを、平手打ちで黙らせると。
あとはかんたんだった。
嫉妬に狂う視線を自覚しながら、
無抵抗な首すじを舐め、
胸もとを護るこげ茶色のブラウスを、釦を飛ばしながら剥ぎ取って、
漆黒のブラジャーをよだれで濡らし抜いたあげく、釣り紐を断ち切ってゆく。
そうされるのを知りながら、この女は装ってきたのか。
きょうの清楚でセクシーな装いは、ボクを楽しませるためのもの。
決して、教諭夫人としての品位を保つためのものなんかじゃない――
お目当ての濃紺のストッキングのうえからふくらはぎに唇を這わせて、
薄々なナイロン生地の舌触りを愉しみ抜いて、舐め抜いて、
辱めを尽くして、くしゃくしゃにしながらずり降ろしてゆくと、
ドアの向こうから熱いため息が漏れた。
先生、興奮しすぎだよ――
自分の奥さんが情事に耽るのを視て興奮するなんて、好すぎる趣味だと思いますよ――


「住み込みのお手伝いで、置いていただけませんか?」
昌枝が三つ指ついて、ボクのまえで頭を垂れている。
日常的にボクとの情事が重ねる妻に憤慨した先生に、追い出されちゃったのだ。
実家に帰るという選択肢もあったのに、不始末があらわになることを恐れた昌枝は、
なにをおいてもまっすぐに、濃紺のストッキングに包んだ脚を、ボクの家へと向けたのだった。
「うん、それはいいネ。母さんに頼んでみるよ」
ボクは担任の妻を支配する日常を妄想して、うきうきとしながらこたえていた。

楽しい日常だった。
学校で先生の授業を受けると、ボクはまっすぐ家に帰って、昌枝を犯した。
昌枝はボクのために、いつも着飾って待ってくれていた。
母さんも兄さんも、昌枝をボクの囲い者として接してくれて、
日中は家事の手伝い、そして夜はボクの性欲のはけ口となるために、あきらめきった身体を投げ出していった。

読書クラブのほかのメンバーを家に招んで、
淑やかに装わせた昌枝を、よってたかって犯したこともあった。
「青春だ・・・」
「まさか先生の奥さんとやれるなんて・・・」
みんなとても悦んでくれたし、感動して涙を流すやつまでいた。
ボクたちの精液まみれになる日常を、昌枝は唯々諾々と受け容れた。
唇をこじ開けるたび、這い込まされる舌を拒もうとしてかたくなに閉ざしていた前歯は、もう何の妨げにもならなかった。
むしろ――這い込ませた舌に自分の舌を絡み合わせて、じゃれ合うようにもつれ合わせる。
そういう女になっていった。


「やっぱり――家内を返してくれないか」
先生はもじもじと、ボクに頼み込んできた。
「ずいぶん勝手なんですね」
ボクは焦らす愉しみに、くすぐったそうに片目を瞑る。
「妹さんを犯したのは一回こっきりで、きみは家内を奪っていった。不公平じゃないか」
先生はまたも、身勝手なことをいう。
「あとが続くかどうかは、男としての腕だと思うよ」
ボクはぬけぬけと、そうこたえた。
「昌枝はボクに逢いつづけた。ボクも昌枝を招びつづけた。
 ふたりの気持ちがひとつになったんだ。
 教え子の男としての成長を、むしろ歓んでほしいかな」
二人きりの時はもう、ため口になっていた。
「ほかの部員も、悦んでいるよ。
 教師の妻を抱けるなんて、こたえられないって。
 ボクは気前のよい男だから、昌枝を独り占めしようなんて思わない。
 もう――先生の奥さんじゃなくて、ボクの女なんだから、好きにやらせてもらうよ」
「ま・・・ま・・・待ってくれ!」
先生は見苦しくうろたえた。
「わかった、わかったから――昌枝を返してくれ。頼むから返してくれ。
 教え子のお手伝いをしているなんて人聞きが悪いし、
 それも犯されているなどとしれたら、ほんとうに困るから・・・」
どこまでも世間体ばかりを気にする先生に、さすがにあきれながらも、ボクはいった。
「じゃあ約束してよ。
 昌枝を先生の家に戻してあげる。
 だからその代わり、ボクが昌枝を楽しむ手引きをしてほしいんだ。
 ほかの部員もいっしょだぜ。
 先生の奥さんに戻るからって、昌枝がボクの女であることに変わりはないんだ。
 遠慮なく、権利を行使させてもらうからね。
 でもその代わり――
 ボクが昌枝を弄んでいるところ、先生には視る権利を認めてあげよう」
先生は泣き笑いで、応えてくれた。

制御しがたい性欲に苦しむボクたちのために、先生は自分の奥さんを紹介してくれて、
奥さんの貞操を、ボクたちの性欲のはけ口のために提供してくれた。
自分の愛妻に、教え子たちの恋の手ほどきをさせたのだ。
妻の不倫を叱ったふりをして、教え子の家のお手伝いとして住み込ませたのも、先生の配慮。
ボクやほかの部員たちへの応接の仕方をわきまえさせるための、先生の好意的な措置だった――
校内では今や、そういう解釈で通ってしまっている。
身勝手にも教え子の妹の純潔を汚そうとした先生は、生徒たちの情操教育のために妻を提供して、
独特な教育技法を身に着けた教諭として、不思議な高評価を得るようになっていた。


読書クラブの教材は、先生が選んできていたけれど。
いまのボクたちは、それでは飽き足らなくなっていた。
先週の教材は、昌枝に書かせた手記だった。
「悪い妻です。
 主人に隠れて、教え子たちと逢っているんです。
 オトナっぽい服装が良いという彼らのために、夫に買ってもらったスーツやワンピースを精液まみれにされて、
 黒や濃紺のストッキングを片脚だけ脱がされて、
 主人の名誉に泥を塗りながら、わたくし自身も楽しんじゃっているんです・・・」
真面目くさって朗読する部員たちに、先生は苦虫をかみつぶした顔をしながらも、
「この人妻の心理を考えてみようね」と、
夫の教え子たちの手に堕ちた蝶の心理を、「妖しく満ち足りた心境」なのだと解釈してくれた。
きょうの教材は、先生自身の手記だった。
「妻を教え子たちに支配されて、数か月が経ちました。
 中学にあがったばかりの娘さえ、入学祝いに犯されてしまったけれど。
 家族が教え子との懇親を深めることに熱心なのは、夫としては妖しい嬉しさを覚えます。
 教育者としてのわたしは、間違っているのでしょうか――」

夫婦で。。

2022年09月10日(Sat) 02:54:37

妻が吸血鬼に犯された。
公園の片隅に連れ込まれ、勤め帰りのパンストを脱がされて、ひーひー言わされてしまっていた。
29歳のうら若い血潮は、吸血鬼の牙を満足させたけれど――量が足りなかった。
足りない量を満足させるため、彼女はわたしの血を吸うようそそのかした。
勤め帰りの靴下を咬み破かれながら、わたしは全身の血を漁り取られていった。
その次の夜から――わたしは妻の服を着て、吸血鬼の相手をするようになった。
それ以来。
わたしたちは夫婦で、吸血鬼の寵を競っている。

妻を喪服にするために。

2022年09月10日(Sat) 00:27:46

はじめに
だらだらと長く、煮詰まってしまいました。。
そのまま捨ててしまうのももったいないので、あっぷしてみます。
おひまなときにどうぞ。^^


夜風が虚しく、ひゅうひゅうと、吹いていた。
寒々とした気分を抱えて、空っぽもまっぽに待った身体を抱えて、わたしは夜道を歩いていた。
総身をめぐる血液を引き抜かれたあとの、虚しいような、小気味良いような記憶が、ひたひたと残っていた。
すこし前まで真人間だった記憶は、しっかり残っているけれど、。
そんなことをされては困る・・・と、たしかに訴えたつもりだったけれど。
首すじを咬まれ、暖かい血液を吸い出されてゆくうちに、気分がグッと昂ってきて。
さいごのさいごには、もっと吸ってくれ・・・全部吸い取ってくれ・・・と、懇願していた記憶も、ありありと残っている。

きょうがどういう日かも、今夜がどういう夜かも、しっかりと認識していた。
そう――今夜は自分の、お通夜だった。
勤め帰りの夜道に、吸血鬼に出くわして。
生き血を一滴余さず吸い取られたあとの、あと始末だった。

妻は今ごろ涙にくれて、自分の棺に寄り添ってくれているだろう。
けれどもその棺の中はじつは空っぽで、
わたしはこうして、渇いた喉を抱えながら、夜道を徘徊している・・・
今となっては、自分の生き血を残らず吸い取ったさえない年配男の気持ちが、わかるまでになっている。
きっとあの男は――わたしの生き血をそれは美味しく、吸い取っていったはずだから。

生き返ったようだな。
傍らで、話しかける声がした。
姿はみえなかったが、声の主がだれなのかは、すぐにわかった。
わたしの生き血を一滴余さず吸い取った、この街に徘徊する吸血鬼。
血のない身体と化したわたしは、数時間前の真人間の間隔よりも、よりいっそう彼の感覚に近いものをもっていた。
三十代の、まだ若さの宿った生き血を、たんねんに美味しそうに吸い取ってくれたことを、
今では感謝の気持ちすら抱き始めていた。
生き返ったようですね・・・
わたしは他人ごとのように、男の言い草をくり返していた。

どうだね?気分は。
男はいった。
悪くはないです。いや、普通かな・・・
わたしはこたえた。
そんなものなのだよ。
男は囁いた。
何故かその言葉に、ひどく納得してしまっていた。
そう。
普通なのだ。
生き血を一滴余さず吸い取られてしまったのに。
抜け殻どうぜんになったはずのこの身を抱えて、ふつうに夜道を歩いている。
わたしの生き血を吸い取った彼にしたって、数年前にはわたしと同じように、
その身に宿した生き血を、だれかに吸い取られていったのだろう。

むしろ――わたしの血液が、男を悦ばせたことを。
わたしは嬉しく感じ、誇りに思い始めていた。
なぜならわたしは、吸血鬼になりかけていて。
そのために、その身にじゅうぶんな血液を通わせていたころとはかけ離れて、
「彼ら」のほうへと、よりシンパシーを感じるようになってしまっていたから。

旨かったからね、全部いただいてしまったのだよ。
ヌケヌケと語る彼を相手に、
お口に合って何よりでした。
美味しく味わってもらえたなら、全部飲まれてしまっても、納得できますよ――
などと。
躊躇なく応えてしまっていた。

もう少しだけ、咬ませてくれないか。
もう・・・血は残ってないのですよね?
いや、そんなことはない。いつでも吸えるよう、少しだけ残しておいた。
それは・・・どうも・・・
吸われる歓びを感じる権利を、まだ有していることに。
ほのかに密やかな満足を感じていた。

立ち止まるわたしの両肩を、男は支えるように抱きすくめて、
あのときと同じように、もう一度わたしの首すじを咬んだ。
痛痒いような。くすぐったいような。
傷口を通して血液を抜かれる、あの無重力状態が。
ふたたびわたしの身によみがえった。

あのときのように。
すぅっ・・・と気が遠くなって、ふらふらとその場にくず折れると。
男はわたしのスラックスをたくし上げ、丈長な靴下をほんの少し引き伸ばして、
わざわざ靴下のうえから、咬みついてきた。
靴下を咬み破られる――
それはなんとも、屈辱的な仕打ちだったけれど。
わたしはむしろ嬉々として、わたしの生命を奪ったその男に、通勤用の靴下を咬み破らせていった。

ほんとはね。
わしの狙いは、あんたじゃなくて――奥さんのほうだったんだ。
わたしの血など取るに足らない――と本音を言われたような気がしたけれど。
それでもわが身をめぐる血潮をすべて捧げたことへの満足感は、損なわれなかった。

今夜――
妻は黒一色の、洋装のブラックフォーマルを装って、
スカートのすそからは、薄墨色の靴下に染まった脚を、弔問客のまえにさらけ出している。
ふしぎなものだね。
男はいった。
あれほどそそる眺めなのに、だれもあんたの奥さんにそそられたり、襲ったりしようとはしないのだから――
わしはあんたの奥さんに、黒のストッキングを穿かせて、
泣き叫ぶ喪服姿を抑えつけて、喪服のすき間から、あの白い素肌に咬みついて。
その身にめぐる麗しい生き血を、一滴余さず、吸い取ってやるつもりなんだ。
あんたはあんたの奥さんに対してそんな不埒なことをもくろんでいるわしに、力を与えるために。
かけがえのない生き血を、一滴余さず吸い取られたというわけだ。
邪まな想いにすぎないことは、じゅうじゅう承知している。
けれども、ここまでしてまでわしは、
奥さんに黒のストッキングを穿いてもらって、咬み破り辱めながら生き血を啜りたいという欲求を、こらえ切れなかったのだ。
あんたはわしに、わしがあんたの奥さんの血を吸い取ることに――同意してくれるだろうね?

どうしてわたしはその時に、
エエよろこんで・・・
などと言い添えて、
ためらいもなく頷いたりなどしてしまったのだろう?

けれどもわたしは、なんの抵抗もなく、不審感もなく、
ずいぶんと念の入ったことですね・・・などと、苦笑しつつも。
わたしの血液を飲み尽くしてしまったその男の恥知らずな喉を、なおも満足させるため。
最愛の妻の生き血を無償で提供することを、よろこんで約束してしまっていたのだった。

家内の生き血――わたしのとき以上に、美味しく味わっていただけるのですね?
わたしの問いに、彼がくすぐったそうな笑いで応えるのを。
すっかり吸血鬼の感覚になじんでしまったわたしは、ひどく好もしく感じてしまっている。


もはや真夜中近く。
弔問客はすべて、引き払ってしまっていた。
ふつうなら、夜通しの蠟燭を守るために、ひとりやふたり、代わりがいてもおかしくないのに。
だれもかれもが、引き払っていた。
その夜に訪問客がいて、
妻は、彼女の夫の生命を吸い取った男を相手に、
その喉の渇きを飽かしめるために、
われとわが身をめぐる血潮を捧げ抜いてしまうのだと――だれもがわかっていたのだから。
きっとあの男のために、みんな気をきかせたのだろう。
あの方のお愉しみを、じゃましてはいけない――
だれもがそう言い交わして、喪家をあとにしたのだった。
そう。
男の弔問客の半数は、自分の妻や娘の生き血を、彼のために提供してしまっていたのだし。
女の弔問客の全員は、自身の血液を吸い取られ、彼のための娼婦になり下がっていたのだから。

夫婦で赴任したこの街は、
古風なたたずまいの裏側に、ひどく変わった風習を押し隠している。
喉をからからに渇かせた吸血鬼のために、
この街の人たちは、自分自身や家族の血液を、無償で提供している。
ふつうは、生命まで断たれるほどには吸い取られないはずが。
わたしが一滴余さず血液を吸い取られてしまったのは、いったいどうしたことなのだろう?
その問いに、男はすぐにこたえてくれた。
旨かったのさ。
男のこたえは、単純明快だった。
わたしはなぜか、素直に納得してしまっていて。
――それは嬉しいですね。
とっさにそう、こたえてしまっていた。

そういえば。
路上に抑えつけられてガブリと咬まれたそのときに。
ワイシャツに血を撥ねかせてしまいながらわたしは、男の貪欲さに辟易としていた。
チュウチュウ、キュウキュウと、あからさまな音をあげながら。
男はわたしの血を、さも旨そうに、啖(くら)い取っていった。
生命の危険をひしひしと感じながら。
男がわたしの首すじに咬みつき、スラックスを引き上げて靴下の上からふくらはぎに咬みついてくるのを、
拒みもせずに、むしろすすんで、靴下を咬み破らせてしまって、
三十代の働き盛りの血液で、やつの喉を潤すことに熱中しきってしまっていた。


喪家となったわたしの家は、
棺の置かれた部屋だけに灯りが点されていて、
妻は身体の線がぴったりと透ける漆黒のワンピースに身を包んでいて、
わたしの死を悲しんでいた。

妻の総身をめぐる血潮は――
彼に吸い取られるために、脈打っていた。

ごめんくださいね。
男はぞんざいに、妻に声をかけると、
妻はわたしの姿が目に入らないのか――そこでわたしは、自分が幽霊なのだと自覚した――、
目を見張って、自分の夫の仇敵を見つめていた。
相手の素性も、自分の夫の体内の血液を一滴余さず楽しんだことも、よくわかっている顔つきだった。

あの・・・あの・・・
妻は口ごもりながらも、夜更けの弔問客に応対しようとした。
けれども男の意図した応対は、彼女の予想よりもずっと、淫靡で露骨なものだった。
わかっていると思うが――
男はいった。
わしの身体のなかにだんなの生き血がめぐっているうちに、あんたの生き血も搾り取ろうというわけさ。
妻は立ちすくみ、蒼白になった。

そんな・・・なんてことを仰るんですか・・・
妻は怒りと恐怖で蒼白になって、立ちすくんでいた。
殺すつもりなどないよ。
男はいった。
ただ、あんたの熟れた総身にめぐる血潮を、舐め尽くしてしまいたいだけなのさ・・・
露骨な舌なめずりは、淑やかに装われた黒のストッキングの足許へと、向けられていた――

きゃあっ。
妻はわたしの棺のまえ、棒立ちに立ちすくんで、
早くも首すじを、咬まれていた。
わたしのときと、まったく同じ経緯だった。
漆黒の喪服のブラウスに、赤い血潮を撥ねかせながら。
ゴクゴクと喉を鳴らせて飲み味わわれていった――

夫の生命をいともむぞうさに断った男に、
有無を言わさず、つかまえられて。
夫の首すじを咬んだ牙に、潤いを帯びた熟れた素肌を食い破られて、
わたしの時と同じように、
チュウチュウ、キュウキュウとあからさまな音を立てながら、
妻の生き血は、貪られていった――

倒れてしまうと取り返しのつかないことになる。
それを察していたのだろう。
黒のストッキングの脚を、精いっぱい踏ん張りながら。
妻は無作法な吸血に、耐えつづける――
薄地のナイロンに艶めかしく透けるピンク色の血色が、余さず舐め尽くされてしまう危機に瀕していた。


飢えているんだね?
わたしはいった。心と心で、妻の耳には届かない会話が成り立っていた。
ああ、飢えている。
男はこたえた。
そう――きっと。
あの淫らな喉の渇きを潤すのには、わたしの血だけでは、足りなかったのだろう。
家内の生き血は、美味しいのかね?
わたしはいった。
旨い・・・しんそこ旨い・・・
男はこたえた。
それは良かった――
わたしは思わず、呟いていた。
どうせ飲み味わわれてしまうのなら、美味しい――そういってもらったほうが、はるかに嬉しい気がしていた。


はぁ、はぁ・・・
ふぅ、ふぅ・・・

失血のあまり、妻は肩で息をしていた。
華奢な身体を包む喪服を、めいっぱい仰け反らせて。
自分の夫の仇敵を相手に、
喉をカラカラにした吸血鬼を相手に、
それはけんめいに、かいがいしく。
好むと好まざるとにかかわらず。
妻は我とわが血潮を、無償で提供しつづけていった。
それがわたしの目にはなぜか、妻に対する同情を忘れさせて、
むしろ――自分の血を吸い取った男のために、
旨そうだな。
よかったな。
人妻の生き血にありつけて、ほんとうに良かった。
家内の血が口に合って、ほんとうに良かった。
忌むべきはずのそんな想いを、ごくしぜんに、ふくらませていた。

ひたすら眉を寄せ、迷惑そうに顔をしかめながら、
自らの血液を、無償で提供しつづける妻のことを、
がんばれ。がんばれ。
応援してしまっている自分がいた。
妻はけなげに振舞って。
夫の生命を奪った男の喉の渇きを飽かしめるために、
三十代の人妻の血潮を、くまなく舐め尽くされていった。

男は、妻の首すじだけでは、満足しなかった。
スカートのすそから覗く、黒のストッキングに染まったふくらはぎに、もの欲しげな視線を這わせたとき。
妻は男の欲求をすぐに察して、ひどく戸惑い、うろたえながら。
いけません、よしてください。恥ずかしいです。お願いですからと、懇願した。
もとより――男が妻を放すはずはない。
あわてふためく妻を、畳のうえに抑えつけて。
薄墨色に染まったふくらはぎに、欲情に滾る唇を吸いつけて。
ヌメヌメ、ネチネチと、いたぶっていった。

わたしを弔うために装った、黒のストッキングを、
ふしだらに波打たせ、皺くちゃにされながら。
妻は顔をしかめて、男の非礼を咎めつづけた。
むろん、男は妻の叱声に、いっそうそそられたかのように。
清楚な黒のストッキングの足許に欲情しながら、
よだれを帯びた唇と、劣情をみなぎらせた舌をなすりつけて、
わたしの靴下を濡らした時よりも、はるかにしつように、
ぬらぬら、ネトネトと、だらしのないよだれで、薄地のナイロン生地を、濡らしていった。

やがて、こらえかねたように――
ずぶり・・・。
男の牙は、妻のふくらはぎの、いちばん肉づきのよいあたりに突き立って。
黒のストッキングを咬み破りながら、
渇いた喉を、不埒な欲求を満たすために、
キュウキュウ、チュウチュウと、あからさまな音を洩らして、
妻の生き血を、貪婪な食欲もあらわに、啜り取っていった――

夜明けが近くなったころ。
失血のあまり肩を弾ませていた妻は、
あぁ・・・と、絶望のうめきを洩らす。
そう。
有夫の婦人が吸血鬼に襲われると。
ほぼ例外なく、凌辱を受けてしまうということを。
妻は身をもって、思い知らされてしまうのだ。

男がわたしの生命を奪ったのは、
妻に喪服を着せて、黒のストッキングを穿かせるため――
喪服姿の三十代の未亡人を、辱め抜いて征服するため――
たったそれだけのために、わたしは体内の血液を一滴余さず吸い取られてしまった。

わたしが襲われた夜。
総身をめぐる血潮を、ほとんど舐め尽くされかけたとき。
わたしは彼の、妻に対するけしからぬ意図を告白されて、
それでももはや、自分の生命を手中にされてしまったわたしは、
きみの奥さんを凌辱したい。
わたしの血潮で牙を染めながらそう言い募る男をまえに、
わたしは一も二もなく、賛同してしまっていた。
わたしの血がお気に召したようなら、嬉しいので全部吸い取ってくださいと、
懇願の言葉さえ、口走ってしまっていた。
お前は自分の妻を、わしに犯されたいのだな?
念を押すような囁きを、毒液のように鼓膜に吹き込まれながら、
わたしは強く、頷き返してしまっていた――
はい、家内のことを、あなたに辱めていただきたいと、本気でおもっています・・・


三十代の人妻の生き血で、
引き抜かれた牙を染めながら。
妻はいつしか、吸血される行為に、惑乱していた。

わたくしを欲しくって、主人を殺めたとおっしゃるのですね。
とても嬉しいわ。主人を殺してくれて。
そこまでして、わたくしを欲しがるなんて。
女冥利に尽きることですわ。
死ぬほど辱められたいわ。
わたくし、貴男の奴隷になるわ。
主人の遺影のまえで、主人のことを裏切り抜いてしまいたいの・・・


喪服のスカートの奥を、イヤらしくまさぐられながら。
妻はもう、淫らな昂ぶりを隠そうとはしていない。
咬み破られたパンストを、唯々諾々とずり降ろされて。
薄いショーツ一枚で隔てながらも、淫らな舌に股間を舐め尽くされて。
しまいにはそのショーツさえ、自分の手で引き裂いて。
妻はゆっくりと、脚を開いてゆく――
わたしのことを弔う気がまだあるかのように、
片脚だけ通した黒のストッキングは、ふしだらな皴を波打たせながら、
ひざ小僧から脛へ、脛から踝へと、じょじょに剥ぎ降ろされてゆく。
赤黒く逆立った一物が、
漆黒のスカートの奥に、もの欲しげに侵入していって。
咬まれたときと同じくらい、淫らに眉を翳らせながら。
荒々しい上下動に、腰の動きを合わせていった。
わたし以外の精液を、初めてその身に受け容れて。
淑やかな喪服姿を、好色な腕に撫でつけられて、堕とされてゆく。

慎ましやかで、淑やかだった妻。
そんな彼女は、もういない。
いまは、わたしの前と自覚しながら、身をおののかせつつ、辱めを悦ぶ女。
守り抜いてきた貞操を、惜しげもなく泥に塗(まみ)れさせ、
わたしの名誉を、ためらいもなく貶めてゆく。
それを見守るわたし自身も。
貞淑な妻が、娼婦に変えられてゆく有様を。
嬉々として、見守りつづけている――


あら、あなたいらしたの?
妻はふと我にかえって、わたしを見やる。
好色な腕の中に、囲われるように抱きすくめられた格好のまま。
わたしを裏切る行為に、腰の動きをひとつにしながら、
淫らな吐息に、息弾ませながら、
うわべだだとお互いにわかり抜いている、見え透いた謝罪を、くり返す。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
裏切っちゃって、ごめんなさい。
よりにもよって、あなたを弔うお通夜の席で、喪服を着崩れさせてしまって。
あなたの生命を奪った男の、わたくし愛人にしてもらえるなんて。
思いもよらなかったけれど――
いまはもう、この人の名字で呼ばれてみたい気分なの。

わたしはわれ知らず、唇をわななかせながら。
忌むべき祝福を、口にしてしまっている。
きみがぼくの親友に心を許してくれて、嬉しく思っている。
彼には、若い女の生き血にありつくことができたのが、自分のことのように嬉しいんだ。
最愛の妻の生き血が口に合うということが、半吸血鬼となったいまのわたしにとって、どれほど嬉しく誇らしいか、とても表現しきれない。
きみを奪(と)られてしまうのは、もちろん悔しいことだけれど――
当家の名誉を泥まみれにしてしまうことも、もちろん残念には違いないのだけれど――
それでもきみが彼に愛され抜いてしまうことが、ぼくにはとても、誇らしいんだ――


数か月が経った。
わたしは奇跡的に蘇生したとして、周囲によろこばれながら、自宅に復帰した。
夫婦の生き血を餌食にしたあの男は、わたしを生きながらコキュにして弄びたくて。
辱め抜かれる愉しみに目ざめたわたしも、
夫を侮辱する歓びに目ざめた妻も、
彼の恥知らずな意図に、賛同していた。
彼女はわたしの苗字を帯びたまま、不貞を悦ぶ妻として知られるようになっていた。

最愛の妻の貞操を無償でプレゼントした代償に、わたしは総身の血を抜かれて、今度こそ吸血鬼になって――
母や、妹や、兄嫁たちを手当たり次第に襲っては、その夫たちの好奇の視線を浴びながら、弄ぶ歓びに目ざめていた。

人妻宅配俱楽部 ――母・弘美の場合――

2022年08月28日(Sun) 22:32:23

第五話 凄絶たる相聞歌



母は知っているのか・・・?
つぎに自分を犯す男が、実の息子だということを・・・
思わず発した真剣な問いに、頭は苦笑しながらかぶりを振った。

だから美味しいんじゃねぇか。

頭の囁きは、俺の鼓膜を毒液に浸した。


相手になる女とは前もって、希望を伝えあうんだ。
どんなセックスを望むのか。
どんな服装で来て欲しいのか。
場所はどこにするのか――いっさいを、あらかじめ決めておくんだ。
やり方はいろいろあるんだが、あんたは若いから、ネット使うよな。だったら、チャットが良いかな。
弘美にも、ネットの使い方は覚えさせた。ちゃんと対応できるはずだ。時間はきょうの午後3時。
勤めは早引けせにゃならんが、そこはだいじょうぶ。支局長から許可を取っておいてやったぞ。

頭は得意げに、わらった。
俺の公私を、大手搦め手両方から抑えている――そう言わんばかりの態度だったが、
いつものように、不快な翳が胸を刺すことはまったくなかった。


早めの帰宅が怖ろしい情景を目の当たりにさせる――そんな記憶がよぎったが、
2時半に帰宅すると、家にはだれもいなかった。
志乃は宅配倶楽部のお勤めにでも、出ているのだろうか?
情事の待ち受ける外出のため、志乃が人目を忍ぶようにして家を出る情景を目にすることができなかったのが、ちょっぴり残念だった。
俺は俺で、志乃の不倫を夫の側から愉しみはじめるようになってしまっていた。

パソコンを立ち上げると、メールが届いていた。
指定されたURLにアクセスすると、そこがチャットルームだった。
なんのことはない、だれもがふつうに使用している、有名なサイトだった。
先に部屋を作っておくようにと、頭に指示されていた。名前もメッセも、もちろん指定されていた。

「隆 業務のことで □沢〇美様」

というのが、指定された名前とメッセージだった。
女性が先に部屋を作ると、邪魔者が入ってくる危険があった。
なので、先に部屋を作るのは、男の役目だった。

□沢〇美――伏字にするとずいぶんな名前だった。
じっさいには冒頭の□はフェイクで、俺の苗字は沢といった。
母は本名ではなく、奈緒美という名前で入室してくることになっている。

しばらく刻が流れた。

3時02分。

奈緒美(56)さんがチャットルームに入りました。

なんの前触れもなく、そんなメッセが流れた。

母だ。

このPCの向こう側、母の弘美が、薄紅色のマニキュアを刷いた指を、キーボードのうえをなめらかに滑らせている――
ぞくり、と、なにか黒いものが、俺の胸の奥でかま首をもたげた。


隆    こんにちは、初めまして
奈緒美 こんにちは
奈緒美 よろしくお願いします。

母の弘美らしい感じはあまり窺えないが、そのぶんだれか別の女と会話をしているような錯覚が、俺を大胆にさせた。

隆   俺があなたになにをして欲しがってるか、きいていますね?
奈緒美 はい・・・
隆   では、俺があなたになにをしたがっているか当ててみてください。
奈緒美 セックス ですよね?
隆   そうです。
奈緒美 ・・・。

まだ母はチャットに慣れていないのか。あるいは、宅配倶楽部の活動そのものの経験が浅いのだろうか。
俺は想像力をフル回転させて、チャットをつづけた。

隆   あなたは男に抱かれたいんだよね?
奈緒美 はい・・・
隆   だんなに隠れてそんなことをして、恥ずかしくないの?
奈緒美 恥ずかしいです・・・
隆   それでも、男に犯されたいんだよな?恥を忘れて。
奈緒美 はい・・・
隆   じゃあ、自分から言ってみろ。あんたは俺に、どうしてほしいのか?
奈緒美 抱いてください。
隆   もっと露骨に言えないの?犯して欲しいんだよな?
奈緒美 はい・・・犯してください・・・
隆   だんなを裏切っても、恥ずかしくないのか?
奈緒美 恥ずかしく・・・ないです。
隆   淫乱なんだな。
奈緒美 はい、淫乱なんです。
奈緒美 淫乱な女に、させられてしまいました・・・
隆   させられたって、どういうこと?

さいしょは俺がにぎっていた会話の主導権が、じょじょに奈緒美の側に移りはじめていた

奈緒美 甥の結婚式の日のことでした。
隆   うん
奈緒美 わたくしは、黒留袖(結婚式で着る着物のことです)を着てお式に出たのですが、てっきりホテルの人だと思ったんです。
隆   うん
奈緒美 ご親族の方はこちらにどうぞ・・・と言われて、客室に連れ込まれたんです。
隆   相手はなん人?
奈緒美  3人でした・・・

3人。またしても、あの3人なのか・・・?
志乃に覆いかぶさったあの逞しい年配男の肉体が、母の弘美の黒留袖姿までもねじ伏せていったのか・・・
俺は股間が堅くなるのを感じはじめていた。

奈緒美  声を立てたら殺すといわれて、わたくしすっかりすくんでしまって・・・
隆    ベッドに抑えつけられたんだな
奈緒美  はい
隆    どんな気分だった?
奈緒美  怖かったです。主人以外の方とそうしたことをしたことが無かったので・・・



ここで俺は、母の潔白な過去を初めて知った。
知ったところで今さら、空手形のようなものではあったけれど、
それでもやはり、幼い俺を育てた母には、誇り高い婦人でいてほしかった。
その想いから顔をそむけるようにして、俺はつづけた。

隆    ほんとうは、男にモテたくてたまらなかったんじゃないのか?
奈緒美  そんなことないです。でも・・・
隆    でも?
奈緒美  黒留袖の帯を解かれて、下着を脱がされてしまうと、ああもういけないと思いました。
隆    男に抱かれる気になったんだな?
奈緒美  そんな・・・
隆    感じたんだろ?ダンナ以外の持ち物に。
奈緒美  感じてしまったのは、3人の方にそれぞれ1回ずつ犯されてしまってから・・・
隆    やっと白状したな
奈緒美  もうどうなってもいいと思って、ベッドのうえで女になってしまったんです。
隆    ダンナのことも、家の名誉も恥も、ぜんぶ忘れてたんだな
奈緒美  恥を忘れたのは、主人のほうからなんです
隆    というと・・・?
奈緒美  主人は悪魔です。息子のお見合い相手を次々と犯して、娘までも狙ったんです。

え?

俺はびっくりした。
妹の華奈美が、親父に抱かれただと?
華奈美は俺より四歳年下の妹で、この春に志乃の同僚の教師と結婚したばかりだった。
野々村というその若い教師は、俺の新居に遊びに来た新郎新婦の若い友人たちの一人で、
やはり新居にやって来た妹と意気投合して、話がトントン拍子に進んだ・・・はずだった。

隆   娘さんは、ダンナに抱かれたの?実の父娘で?
奈緒美 はい、結婚前に関係を持って、いまでも続いているんです・・・
隆   息子の見合い相手も姦られたんだな?
奈緒美 ハイ、お見合い相手のなかで気に入ったお嬢さんを、わたくしが知っているだけで4人・・・
隆   息子との縁談はどうなった
奈緒美 主人がお嬢さんに言って、断らせていました。
隆   とすると、ダンナは息子の嫁の処女を奪うつもりはなかったということだな?
奈緒美 はい、でも・・・
隆   まだ何かあるのか?
奈緒美 主人は息子の嫁も狙っています・・・

最低だな。言いかけてやめた。
さいしょは俺が、一方的に妻の志乃を奴隷に堕とされて、被害者だった。
ところがそのあと、志乃を寝取った男たちと和解して、彼らの運営する若妻宅配倶楽部に妻を差し出し、俺自身も対価を得るようになろうとしている――
だから、だれもかれもが、同じ穴のむじななのだ。


第六話 邂逅

奈緒美、いや弘美とは、金曜の午後2時に逢う約束をした。
場所は駅前のホテルだった。
大胆すぎやしないか――とおもったが、頭がオファーしたのはそこで、どうやら絶対命令のようだった。
何食わぬ顔で勤めに出てゆく俺に、志乃はいった。
今夜は遅くなりますの。あなた、どこかでご飯食べていらして――
『若妻宅配倶楽部』のお勤めをするときの、決まり文句だった。
妻に裏切られ、家の名誉を汚すことが、もはや日常になっていた。
俺はわかったとだけこたえて、志乃に背を向けた。
志乃の足許は、真新しい薄茶のストッキングに染まっていた。

ロビーに入ると、フロントの係の者が俺をみとめ、黙ってキーを差し出した。
べっ甲製のバーに銀色の鎖に結わえられたキーが、静かな輝きを帯びていた。
白い字で、206号室と書かれてあった。
階段のありかがわからなかったので、エレベーターで2階に着いた。
部屋の前に、頭が待っていた。
「女は来ている」とだけ、小声でいった。
あとはうまくやれ――そう言いたげに、片目をつぶって笑った。
俺はぶあいそにあごで会釈すると、おもむろにキーを取り出して、206号室のドアを開いた。
目を見開いて凍りついた女が、そこにいた。

かつては俺が母と敬い、諭され叱られた女(ひと)――
けれども今は、志乃同様、ただの淫売婦になり下がった女(おんな)――

「まさか・・・まさか・・・」
母は、いや弘美は、肩をわななかせてうろたえた。
「隆さん、隆さん・・って、まさか薫のことだったの?」
「そうだよ、母さん・・・いや弘美さん、ずいぶんと得手勝手なことを覚え込んでしまったんですね」
俺は母を責めることに、小気味よさを覚えていた。

甥の婚礼のさ中、黒留袖姿をいたぶられながら、3人の男に征服されたこと。
息子の見合い相手が次々と、父の毒牙にかかっていったこと。
なによりも、娘の華奈美が父の性欲に屈して、結婚後もそのおぞましい関係を続けていること。
目の前の男に、何もかもしゃべってしまった――
もはや取り返しがつかないことを、弘美は自覚しきっているようだった。

「でも、あなたとは交わることができません」
弘美はキュッと唇を引き締めて、いった。
「いくら何でも、母親と息子で、そんなこと――」
反射的に、俺の平手打ちが弘美の頬をとらえた。
黒髪を乱して、濃い化粧を刷いた顔が、激しく振れた。
「い、いや・・・っ」
弘美は浮足立ち、何とかこの場を逃れようとした。が、むだだった。
俺はなんなく弘美の腕を捩じりあげると、華奢なその身体をベッドの上へと放り上げてしまった。

弘美は、地味なクリーム色のスーツを着ていた。家にいたころから見覚えのある服だった。
この女は、息子である俺の知っている服を着て、情事に耽ろうとしたのか。
見当はずれな憤りが、どす黒く俺を貫いた。
あわてふためくスーツ姿を、タックルでもかけるように腰周りに抱き着いた。
56歳の女の肢体は、30そこそこの息子の膂力にねじ伏せられて、ベッドのうえで膝を折った。
目の前に、弘美の脚が伸べられていた。
ひきつれひとつない肌色のストッキングが、ふくよかな脚を柔らかく包んでいた。
俺は思わず、弘美の脚を吸っていた。
上品に穿きこなされた薄地のストッキングを、淫らに染まった俺の唾液が濡らした。

懐かしい感触だった。
その昔俺は、母の下着で悪戯をしたことがある。
年ごろの男の子なら、だれでもやることだ。
母が脚に通していたストッキングは、いま風の強靭なサポートタイプではなく、昔ながらのウーリータイプというやつだった。
それくらいは、俺でも知っている。

くちゅっ。くちゅっ・・・くちゅっ・・・

俺は舌を蠢かせて、ストッキングの上から弘美の脚を吸いつづけた。
実母の礼装を汚すことで、侮辱してやろうと思ったのだ。

いつの間にか、弘美の抵抗が熄(や)んでいた。
弘美は、俺にされるがままに、脚を吸われつづけていた。
「いいわよ・・・汚してちょうだい・・・」
乾いた声色だった。
俺は顔をあげると、母親だった女と真向かいに顔を合わせて、いきなり距離をつめた。
初めて味わう母の――弘美の唇は、柔らかく暖かだった。

いったいいままでに、なん人の男に抱かれたのか。
もちろん、黒留袖を餌食にされたときだけではないはずだ。
そうでなければこんなにもの慣れた感じで、ホテルで男を待つことなど、ありえないはずだ。
けれども弘美は、俺がいかに責めても、いままで交わった男の数を、決して口にしようとはしなかった。

ショーツのうえから唇を這わせると、母の貞操が薄い生地一枚隔てたすぐのところにあるのだと実感した。
ごわごわとした剛毛を唇で感じながら、俺は弘美の股間を唾液で濡らしつづけた。
パンストを片方脱がされ、ショーツまで足首に滑らせてしまうと、弘美は抵抗をやめた。
俺は、いままでになくどす黒くそそり立つ股間の牙を、女の臀部に埋めていった。

はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・

ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・

一度果てると俺は再び弘美を抱きすくめ、強引に唇を奪うと、舌を入れた。
弘美は前歯を食いしばって俺の舌を拒んだが、そんな抵抗もすぐにおわった。

ねとねと、ネチネチと。
俺たちは昼下がりのベッドのうえ寝そべりながら、行為をくり返した。
いちど許してしまったことは、もう後戻りはできなかった。
なん度もなん度も、交接をくり返した。愛し合った。
頭を撫でてくれるのが、無性に嬉しかった。
そそり立つ俺のチ〇ポを咥えてくれるのは、さらに嬉しかった。
俺は母の口腔に、粘り気の強い精液を、遠慮会釈なく、ぶちまけていった。
勃った乳首を舌先で舐めてやると、若い女のような嬌声をあげた。
実母の乳房を女のものとしてあしらうことに、えもいわれない歓びをかんじた。

俺が性懲りもなく、片方だけ穿かれたストッキングをネチネチといたぶっていると、
弘美は自分の装う礼装を下品ないたぶりに惜しげもなくゆだねながら、いった。
「あなたがわたしのストッキングを悪戯していたの、私知ってる」
そう――俺はわざとそっけなく答えた。

すると弘美は、意外なことをいった。
「あなた、わたしのストッキングを穿いて、粗相したでしょ?」
そうだったかな・・・記憶はもう遠い彼方だった。
「それを見つけたわたしが、どうしたか知ってる?」
さあ・・・
俺がうそぶくと、弘美はいった。
「わたし、そのストッキングをもう一度穿いてね、あなたの精液で濡れているところを、自分のあそこにすり込んだのよ」
え・・・
俺は思わず、目を細めた。
挿入行為ではないかもしれない。でもね、わたしが貞潔を汚したとしたら、きっとそのときからだと思ってる――

別れ際母は身づくろいをするときに、脱げかかったストッキングを太ももまでぞんざいにずり上げた。
娼婦のような、いぎたないしぐさだった。
教授夫人のすることとは、とても思えなかったけれど――
「今度うちでやろう」という俺に、
「だぁめ、それは――」と言いかける弘美をまたも押し倒して、
まるで若い恋人同士がそうするように、俺たちはなん度めかの吶喊をくり返すのだった。


第七話 交歓の宴

志乃が相手をしている学校教師の同僚が、妹婿の野々村だと知ったのは、それからすぐのことだった。
花嫁の純潔を実家で汚されたという過去に、俺は少なからず同情を感じていたから、
頭にそう聞かされても、怒りをおぼえることはなかった。

俺はその日、野々村と華奈美の家にいた。
客間に敷かれた布団のうえ、華奈美がしどけない格好で、俺といっしょにいた。
ブラウスはかろうじて身に着けていたものの、釦はほとんど外されていて、下半身は生まれたままの格好だった。

俺に挑まれたときにはびっくりして、「お兄ちゃんやめて」と訴えた華奈美だったが、
スカートを脱がせ、パンストを片方だけ脱がせてしまうと、観念したように身を固くして目を瞑った。
女は征服されるとき、みんなそういう仕草をするのか。そうではあるまい。
母のときは、さいしょは毅然として俺を拒もうとして、足許を唾液で濡らされながら堕ちていった。
さいしょの夜に実父を受け容れた女は、兄のまえでもかんたんに身体を開くようになっている。

「お義父さんからききました。これからも華奈美に逢わせてほしいとねだられました。
 華奈美さんもぜひそうしたいというので――ぼくはふたりの関係を受け容れたんです」
生真面目そうな白い顔を神経質そうに引きつらせながらも、野々村は感心なことを口にする。
俺との間のことも、とがめだてはしないつもりらしい。
お茶の間からは、つけっ放しのテレビの音が無機質に、流れ込んでくる。
野々村はきっと、テレビではなく、この部屋の様子を窺っていたに違いない――
そういう趣味のある男だった。

父が弘美と華奈美を母娘ながら若妻宅配倶楽部に差し出した「功績」で、野々村もまた、「特別会員」となっていた。
花嫁の純潔を父娘相姦で喪ったという経歴は、むしろ仲間うちでは歓迎されていた。
生真面目な野々村が「特別会員」となって真っ先に望んだ女が、ほかでもない志乃だった。

俺は、父親よりも屑な人間となり果てている。
親父はたしかに、実の娘と交わったが、
俺は実母と実の妹双方と交わっている。
それだけではない。
あの高雅な支局長夫人も、
母が黒留袖を餌食にされた婚礼の主である従弟の嫁も、
力ずくでねじ伏せ、恥知らずな性欲の餌食にしていた。

『若妻宅配倶楽部』は、いつか変貌を遂げようとしていた。
倶楽部の客――という関係ではなく、真剣交際の不倫関係に発展していったのだ。
「いいんじゃねぇのか?」
志乃をさいしょに犯した頭はいった。
「ビジネスで抱き合うよりも、心から抱き合うほうが、良いに決まってるわナ」
もともと、金銭の授受を伴わない「ビジネス」だった。
素人の人妻を手練手管で堕落させ支配下に入ること。
そうして意のままになるようになった女たちを、自分の妻が娼婦となることを許した寛大な夫たちの性欲解消のために手配すること。
それが彼らの、すべてだったのだ。

志乃は支局長と正式に交際を始めた。
けれどもそのいっぽうで、野々村との浮気も愉しむようになっていた。
時には自分を堕落させたあの3人と、まるでクラス会のように”宴”を開いているらしいし、
俺も無理やり招(よ)ばれては、年上の年配男3人の情欲にまみれてゆく妻の肢体を見せつけられるのを、面白がるようにさえなっていた。

華奈美は俺と付き合うといって、聞かなかった。
夫である野々村には面と向かって、
「貴方の稼いだお金で買った服を、お兄ちゃんのために汚させてあげたいの」
といっては、野々村を閉口させていた。
野々村はたしかに閉口していたけれど、
「もともと変わったご一家だから」と、兄妹相姦を日常に取り入れることに同意してくれた。

弘美とは、週に2度は逢う関係になっていた。
親父は俺と弘美の関係に気づいていたようだったが、面と向かってはなにも言わなかった。
実の娘を犯したことを後悔するような、殊勝な男には見えなかったので、ちょっと不思議には思っていた。

その日も、俺は弘美と逢っていた。
場所は実家だった。
志乃には何食わぬ顔をして家から出てきたし、志乃もまた、着飾ってどこかへ出かけていく様子だった。
お互いに不倫を愉しむ関係――
けれどもふだんの志乃は、こうなる以前よりもずっと、献身的に仕えてくれるようになっていた。
家庭の平安をお互いの淫事を許し合うことであがなっていることに満足して、暮らしていくべきなのだろう――俺は思った。

親父は出かけているようだった。
「お父さんたら、わたしが家にいるのにおめかしなんかしているから、不思議がっていらしたわ――」
息子を相手の情事のために装った、新調したばかりの紫のスーツを見せびらかしながら、弘美は笑った。
「その服も、精液でヌラヌラにされたいんだろう?」
俺が強がると、
「はい、はい。その通りですよ。お母さん、あなたの精液で濡れ濡れになりたい♪」
と、聞き分けの良いことをいった。

導入は、あっという間だった。
ブラウスのうえから乳房を揉みしだきながら、俺は弘美を押し倒してゆく。
「あっ、ダメ――」
弘美はこの期に及んでも、「息子と母親でなんて、ダメですよぉ・・・」と、わざと俺のことをはぐらかそうとする。
減らず口を黙らせるため、俺は弘美の唇を強引に吸った。
短いあいだにいろんな女と交わったが、唇は弘美のそれが、いちばん佳(よ)かった。
俺たちはしばらくのあいだ、十代の若者同士のように、キスをくり返し、相手の口腔の匂いを嗅ぎ合った。

茶の間の向こうは、父の書斎だった。
そこにはしばらくの間入ったことはなかったが、
本棚や机の占めるスぺ―スよりも、むき出しの畳の広さのほうが目立つような部屋だった。
弘美が、手にしたリモコンを操作した。
「なに・・・?」
俺が訊いても、弘美は笑うだけでなにも応えない。
リモコンは、茶の間と書斎の間を仕切る引き戸を開けるためのものだった。
引き戸は音もなく開いた。

あっ・・・!と思った。

志乃が、親父の腕のなかにいる。

なんてことだ。

見慣れたえび茶のスーツ姿で、学校教師としての装いのまま、早くもタイトスカートのすそに、精液を光らせてしまっている。

え?え?え?

仰天する俺をしり目に、志乃はまつ毛を震わせながら、細くて白い腰を、親父の逞しい腰の動きとひとつにしていた。
もう、俺のことも、母の視線も、志乃の意識にはないようだった。
白いブラウスは大きくはだけて、その隙間からは、黒のブラジャーの吊り紐が、白い胸をキュッと縛るのが目に入った。
タイトスカートは惜しげもなく裂けて、肌色のパンストをてかてかと輝かせる太ももを露出させている。
志乃が脚に通したストッキングは、光沢のよぎるサポートタイプだった。
ストッキングをよぎる光沢が、白い蛇のようにくねる脚の周りで淫らにギラついた。
慎み深かった志乃は、とっくに娼婦に堕ちていた。親父の奴隷に堕ちていた。

俺は、親父が自分の妻に手を出す俺に不平を鳴らさなかった理由を知った。
そして、親父に見せつけるように、弘美の唇を吸い、また吸った。
この女は、俺の女だ――
あたかもそう宣言するかのように、なん度もなん度も、弘美の唇を吸いつづけた。
弘美もまた、俺の接吻に、積極的に応じてくる。

俺たち親子は、恥に堕ちた――
絶望的な歓びに目を眩ませながら、
俺はなん度めかの吶喊を、実母の体内に吐き散らしていった・・・


あとがき
後半はちょっと、息切れしたかもしれませんね。^^;
そういえば相姦ものを描くのも、久しぶりのことでした。A^^;

人妻宅配倶楽部 ――妻・志乃の場合――

2022年08月28日(Sun) 22:18:38

はじめに

このお話は、チャットで知り合ったある方と話し込んでいるうちに構想がまとまったものです。
その方から伺った「若妻宅配倶楽部」という言葉に触発されて、こんなものを描いてみました。
なので、「宅配倶楽部」のプライオリティは、小生に属するものではないことを、お断りしておきます。

追記:いささかねたばれ。
お話の展開から、必ずしも「若妻」ではなくなったため、タイトルは「人妻宅配倶楽部」とさせていただきました。


第一話 扉の向こうの悪夢

悪夢の光景だった。
ずるをして出張先から直接家に戻った代償が、こんなに高くつくとは思わなかった。
自分の行いを、心から反省した。

インターホンを鳴らしてもだれも出なかったので、留守かと思って自宅のドアを開けた。
それが地獄に通じる扉とは、つゆ知らないで。
夫婦の寝室からうめき声のようなものが洩れてきて、何気なく足音を忍ばせ覗いてみたら――
妻の志乃がよそ行きの服装のまま、ベッドのうえにいた。
俺以外の男と。
それも、3人もの男と。

えび茶のタイトスカートに見覚えがあった。教師として中学校の教壇に立つときに、いつも着けているものだった。
ボウタイ付きの白のブラウスは確か、結婚記念日にプレゼントしたもののはずだ。
だから、ベッドのうえにいる女は、志乃に違いない。
几帳面なだけが取り柄のような女だった志乃は、いつもきちんとした服を、行儀よく着こなしていた。
ところがどうだ。
いまベッドのうえにいる女は、
黒髪を振り乱し、息せき切って、腰を大胆に振りながら、
のしかかってくる男の欲求に、自分のほうから応えつづけているではないか。

ブラウスは胸もとまではだけ、
引きちぎられたブラの吊り紐が二の腕に垂れ下がり、
あらなになった乳首は、男のうちの一人の、貪婪に吸いつけられた唇のなかにすっぽりとおさまっている。
片方だけ脚に通した肌色のパンストはふしだらに弛み、脛の半ばまでずり降ろされて、
悩まし気な足ずりをくり返しては、シーツをいびつに波打たせていた。

思わず息をのんだ時。
気配を察して四人の人間がいっせいに、こちらを振り向いた。
志乃は気の毒なくらい、狼狽した。
「ご、ごめんなさいっ・・・!でも仕方がなかったの!」
志乃の言葉に、こんどは俺が狼狽する番だった。

男どもは、こうなることを察していたかのように、強い目線でこちらのほうを見返してくる。
これは手ごわい――と、俺は思った。
「ど、どういうことなんだッ!?」
そう叫ぶ権利はあると思った。
驚きと怒りとをあらわにする俺に、男どもはいかにもそれは当然・・・という顔つきをして、
「昼間からお騒がせして、申し訳ない」
とだけ、いった。

必要なわびは入れるが、てこでも動かない――そんな態度だった。

「ここは俺の家だ。妻と話がしたい。あんたがたはひとまず、出ていってくれ」
声が震えているのをみじめだと思った。
けれども精いっぱいの虚勢に男どもは意外に素直に頷き返してきて、
「すべて我々がよろしくない。ご主人の憤慨はごもっともだ。つぐないに、精いっぱいのことはさせてもらう」
と、静かな声色でこたえた。
殺気のこもった声だ、と、俺はおもった。
志乃を組み敷いて欲望の限りを尽くしたうえに、夫には素直に振る舞う。
どういうことだ――と思う矢先、男のひとりがいった。
「こちらの弱みを白状しよう。じつは女ひでりで、困っている。
 厚かましいのは百も承知だが、もう少しだけ辛抱してもらえまいか。
 ここはご主人のお宅だから、もちろん家のなかにおられても差し支えない」

???

この男は、なにを言っているのだ?
もう一人の男が、いった。いかにもおだやかで、磊落そうな男だった。
こんなことには不向きな男にさえ見えた。
「気になりますよね?なんなら、覗いてもオッケーですよ。ご主人――そういうの楽しめるほうかな?」
俺は蒼白になって立ち尽くし、男どもは行為を再開していった。
声もなく立ちすくんだ俺をまえに、3人は場違いなほど恭しく俺に頭をさげたけれど、
その礼儀正しさとは裏腹に、志乃に向けられたあしらいは、がつがつと荒々しいものだった。

なぜ、あの時怒鳴り出してでも、とめなかったのか――
あとから何度もそう思ったが、
たとえやめさせたところでもう、事態はあまり変わらなかっただろうとも、その都度おもった。
ともあれ俺はその場を立ち去り、
志乃にのしかかっている男どもの気が済んで、志乃を解放するまでは、
闖入した暴漢たちに、妻を好きなようにさせてしまっていたのだった。

かすかに残る記憶では。
志乃がはだけたブラウスから乳房もあらわに悶える様子とか。
脚に通した肌色のパンストを引きむしられて、すすり泣くところとか。
気品漂うえび茶色のタイトスカートの前から後ろから、怒張した肉棒を突き入れられては、
落ち着いた色合いのスカートのすそを、淫らな粘液まみれにされてしまうところとか、
しまいにはスカードだけを着けることを許された志乃が、俺ですらしたことのない騎乗位を自ら受け容れて、
乱れた黒髪をユサユサと揺らしながら喘いでしまう有様まで、
逐一たどることができるのは――きっと覗いてしまったことの証しなのだろう。
俺は、彼らの一人のいうように、「楽しめてしまう夫」らしかった・・・


2時間後。
男どもは身なりを整えて、俺のまえに鎮座していた。
3人が3人とも、50がらみの男で――
つまりようやく30代に突入したばかりの俺よりも、ずっと年上だった。
だれもが、俺よりも逞しい身体つきで、そのうちどの一人とやり合っても俺が負ける――と容易に想像できるほどだった。
「ご主人悪りぃな、奥さんすっかり借りちまって」覗いても好い――といった、あの磊落な男がいった。
「暖かいご配慮、恩に着ますよ。ご主人いい人ですね」べつのひとりも、そういった。
ふたりとも、場違いなくらいむき出しな好意と賞讃を、俺に向けてあらわにしていた。
「ばか、失礼なことを言うなぃ」
頭だった痩せぎすな男が、配慮のなさ過ぎる仲間を鋭い声でたしなめた。
「悪りぃ悪りぃ」
さいしょのふたりは閉口したようにかぶりを振ったが、しんそこ悔いている様子ではない。
ただそこには、満ち足り切った三体の男の肉体が、みずみずしいほどの輝きを帯びていた。

とはいえ男どもは、必要以上に俺を嬲りものにするつもりはないらしく、
まるで商談でも切り出すように、来訪の趣旨を告げてきた。

「若妻宅配倶楽部 というのを知っている?
 配偶者のいない男や夫婦のSEXで満たされない男に、若妻を提供するビジネスなんだ。
 我々はこの事業に理解ある人妻を探し、女性スタッフとしてスカウトする業務を行っている――」
男の話は、俺の理解力、想像力を越えていた。

男はつづけた。
「奥さんとは、ふとしたことで知り合った。
 私の(と、頭だった男はいった)家が、ご近所なんだ。
 礼儀正しく、楚々としたたたずまいが以前から気になっていて、思い切って声をかけたのが先月のこと――」
その時からもう…下心ありありだったよな。磊落な男がちゃちゃを入れた。
根は生真面目らしい頭は、こんどは仲間をたしなめようとはしなかった。おそらく3人共通の本音だったのだろう。
「奥さんは身持ちが堅く、用心深かった。
 でもふjとした折にわれわれのことを気安くお宅にあげたのが、奥さまの唯一の失敗だった。
 奥さんのこと、咎めなさんなよ。
もうひとりが、あとをついだ。
「勿論その場で、犯しましたよ。
 奥さまいいお味ですね。
 我々はすっかり、奥さまの虜になりました。
 奥さまもすっかり、我々の虜になりました。
 いうなれば、相思相愛というやつです。
 どうかこの甘美な果実を、われわれから取り上げないでもらいたい――」
なんという勝手な言い草だろう?と思いつつも、俺が先を促してしまったのは。
きっとあまりにも常識からかけ離れた話を聞かされて、怒りの感情が麻痺してしまったためだろう。
頭があとを、ひきついだ。
「でも、我々は奥さまにとって、たんなる一里塚に過ぎないのです。
 これから奥さまには、背徳的な行脚をしていただくことになるからです。
 それが、わが『若妻宅配倶楽部』の趣旨なのですから――」

「奥さまの名誉のために申し添えますが、我々と出遭うまで奥さまは、ご主人以外の身体を識らないお身体でした。
 でもきっと、我々とは相性がよろしかったのでしょう。
 ご主人お一方のために守り抜いてきた貞操を、
 3人の男相手に惜しげもなく振る舞われた奥さまには、心から感謝しております。
 我々の奥さまへの恋情をご理解いただき、楽しむひと時をお与えくださったご主人もきっと、
 我々とは相性がよろしいに違いない。
 このまま真相が外に漏れて、無責任な非難や誹謗中傷に奥さまをゆだねるようなことはなさらないでしょうから、
 どうぞ奥さまを、当社の事業にご提供いただきたい――」
これ以上はない厚かましさを帯びた提案をすると、男たちは話を締めくくった。


お願い別れてくださいと、志乃はなん度も俺にいった。
それはお止しになった方が好いと、彼らはいった。
どうして離婚したのかといらぬ詮索をする人はどこにでもいるし、
結局はなにもかもが明るみに出て、お二人が恥を掻くだけではありませんかと。
それに何よりも――ご主人とお別れしたら、「人妻」ではなくなってしまいますからね。
貴女の商品価値が、下がってしまうのです・・・と。

男達のやんわりとした脅迫は、俺にもじゅうぶん通じた。
志乃にもそれは、わかったようだった。
少し時間をください、妻と二人で話してみますとだけ、俺がこたえると、
男どもは案外素直に、それがよろしいでしょう、とこたえてくれた。


男どもが家から出ていくと、俺は志乃にいった。
もう、すべてが手遅れなんだなと。
志乃は泣いていた。
けれども俺の問いかけには、無言だがはっきりと頷き返してきた。
志乃のブラウスは、まだ釦がふたつほど、外されたままだった。
ブラジャーを剥ぎ取られた胸もとがほんのちょっとだけ、衣類のすき間から覗いていた。
俺は無言で志乃につかみかかり、
弱々しい抵抗を苦も無く払いのけると、志乃を犯した。
何度も何度も犯した。
それが俺にできる、唯一の鬱憤晴らしだった。


第二話 娼婦と暮らす俺

翌日は土曜日だった。
俺は志乃を連れて、志乃から教わった頭の家を訪問した。
餌食にした夫婦の来訪を待ち受けていたかのように、3人とも顔をそろえていて、俺を鄭重に出迎えてくれた。
「夫婦で話し合いました。妻を、あなた方の仰る『若妻宅配倶楽部』に提供します」とだけ、俺はいった。
賢明なご判断です、と、頭がこたえた。
「ご協力ありがとう。ご主人の理解ある配慮に、心から感謝する」
志乃はよそ行きのワンピースを着飾っていた。
いつもより化粧が濃いと、俺はおもった。
「俺がうちに飼っていた売春婦を、あんたにお預けします。月曜の朝食は要るので、それまでには家に帰してください」
俺の言葉に志乃はびっくりしたようにふり返ったが、
そのときにはもう、花柄のワンピース姿は三対の逞しい猿臂の支配に落ちてしまっていた。
志乃の着ているワンピースは、まだつき合っていたころ、俺が誕生日に飼ってやったものだった。
夫婦になる前のいちばん幸せな記憶が、淫らに堕ちる――
俺はそうおもって、きょう着て行く服を選んだ志乃のチョイスを呪った。

「妻をここまで堕とすとは、たいした腕前ですjね」
もっと皮肉っぽくいうつもりが、なぜか素直に賞讃し得てしまっているのを感じた。
「せいぜいたっぷりと、かわいがってもらうと良い」
俺はそう言い捨てて、5年間連れ添った妻に背を向けた。
背後で女が押し倒される音とちいさな悲鳴、
ブラウスが引き裂かれストッキングが破ける音がした。
身体中の血液が逆流するような昂りを感じたまま、見送るものもいないその家を辞去した。


志乃が家に戻ってきたのは、月曜の明け方だった。
「たっぷりかわいがってもらえたようだな」
俺はいった。
「エエ。この身のすみずみまで、愛されてしまいました」
志乃はよどみなく、こたえた。
俺は思わずゾクリとするのを、こらえきれなかった。
大人しいだけが取り柄の、そして貞淑だっというこの女が、たった一夜で淫らな娼婦へと変貌している。
いや、そうではあるまい。
初めて落ちたというある日の白昼から、すでに妻の堕落は始まっていて、
たまたま夕べ、結実をみたにすぎないのだ。
けれども俺は、やつらに妻を売り渡して、最後のとどめを刺させてしまった。
不思議に悔いはなかった。
むしろ、正体不明のドロドロとした熱いものが、肚の奥底を焦がすのを感じていた。
それはじわじわと、俺の想いをとろ火で焙(あぶ)り、純度の高い透き通るような劣情に変わっていった。

ひととき、惨めな思いも抱えたが、
――俺は娼婦と暮らしている。
そんな感覚が、どこかいびつに心に迫った。
白い素肌に秘めた血潮を淫らに染めた女の夫は、自らの血潮も妖しく湧き立ててしまっている。


呼び出しは、頻繁に訪れた。
週に数回は、妻は着飾って支度をあとにした。
俺が居合わせているときでもお構いなしだった。
彼らはつねに鄭重だった。
俺にはじゅうぶんな敬意を払い、むしろ同好の士と見做しているような物腰だった。
志乃が「人妻」であることを重くみているらしく、志乃の主権はあくまでも俺にあると告げてくれた。
夫婦の交わりは自由だし、志乃は貴方にいままで以上によくかしづくはずだ、とも告げた。

たしかに志乃は、いっそうしおらしくなった。
もともと大人しいのが取り柄の女で、これでよく教師が勤まると思うほどだったけれど。
まるで昭和初期の貞淑妻のそれのように、楚々とした立ち居振る舞いにいっそう磨きがかかり、
俺が疲れて勤めから戻ったときのケアなどは、しんそこ心が癒される思うだった。

そのいっぽうで、夜の営みではべつな面もかいま見せた。
正常位のみで、まぐろのように寝そべって、感じているのかどうか定かでないほどの感度のにぶさが物足りなかったのに、
昼間の淑やかさとは裏腹に、声をあげ、時には叫び、大きく身をくねらせて、
感じているのを身体ぜんたいであらわにするようなあしらいに、
志乃の身に訪れる数々の淫ら振る舞いを想像する俺は、志乃の熱を伝染(うつ)されたかのように、夜ごとたけり狂うのだった。

呼び出しに応じるときの志乃は、ただひと言、「行ってまいりますね」とだけ、俺に告げて、
黙々と化粧を刷き、ストッキングに脚を通して、ハイヒールの足音をコツコツと響かせて情事に向かう。
まとう衣裳も、立ち居振る舞いも淑やかで。
けれどもいちど夜の闇にまみれると、牝の獣と化してしまう――
それが妻の日常だった。
遠ざかってゆくハイヒールの足音を耳にしては股間を抑え、脱ぎ捨てられた妻の洋服に射精をくり返す。
それが俺の日常になっていた。


第三話 特別会員の紳士

「夕べ、きみの奥さんを買った」
残業が果ててふたりきりになったオフィスのなかで。
支局長はそっと、俺にそう告げた。
「若妻宅配倶楽部 というんだそうだね?ぼく、実はそこの特別会員なのだよ」
プライベートの不祥事が職場に伝わることの悪夢感に、俺は総身に慄(ふる)えを疾(はし)らせた。
そんな俺の心中を見透かしたように、支局長はいった。
「安心しなさい。お互いさまなんだから」
低く落ち着いた穏やかな声色が、俺を本心からの安堵に導くのを感じて、
俺は妻を抱いたという上司に、ほのかに感謝の念をよぎらせている。

たしかにそうだろう。
いまは表向きだけが、よそ行きのしかめ面でまかり通る世の中だ。
社会的立場があればあるほど、部下の細君を買春した などということが、致命傷にならないわけはない。
俺は少しだけ、あの蟻地獄のような奇妙なシンジケートの仲間入りをさせられた上役に、むしろ同情の念を感じた。

あの、家内とは、どこで・・・?
訊いてはならないことを、それでも訊かずにはいられなかった。
結婚当時にも俺の上司だった支局長は、志乃とは結婚前から面識がある。
そんな見知ったどうしでの買春(ビジネス)に、俺はふと気をそそられたのだ。

お見合い写真のようにね、一人一冊ずつのカタログを持っているんだよ。
ぼくはそのなかから、なん人でも選ぶことができる。
ディープな会員ほど、大勢の女性を紹介してもらえるんだ。
ぼくはその中では――けっこう多いほうじゃないかな。
その日も彼らのうちのひとりが、私のところに「お見合い写真」を持ってきた。
もちろん、奥さんのもその中に含まれていたんだ。
ぼくはすぐに決めたよ。きみの奥さんに。志乃さんに――

相手の女性の服装を、お見合い写真のなかから択ぶことができるんだ。
ぼくが択んだのはね――ちょっと特殊な趣味なので友るしてもらいたいのだが――喪服なのだよ。洋装のブラックフォーマル。
清楚に透きとおる黒のストッキングが好みでね。
それに、喪服というもののもつ禁忌感が、たまらないんだ。
人を弔うための装いを淫らに愉しむ――そんな不謹慎な欲望の、ぼくは虜になっているんだよ・・・

そういえば。
志乃はきのう、法事に出るといって家を出た。
たしかに漆黒の衣裳に身を包んだ志乃の、丈長のスカートのすそから覗く薄墨色に染まった足許に、危うさを覚えないではなかったけれど。
さすがにそれは不謹慎だろうと、あらぬ思いを立ち入って出勤したのだ。
俺が勤めに出ているあいだ、志乃は喪服を着崩れさせながら、俺の上役と乱れあっていた。
あの薄黒いストッキングを唾液まみれにいたぶらせ、惜しげもなく引き破らせていた・・・
ズボンを通してさえあらわになる股間の昂りは、塩局長も気づいたらしい。
けれども彼は思慮深く目をそらしてくれて、そしていった。
視てみたいかね?志乃のお見合い写真・・・
そのときたしかに、支局長は俺の妻を呼び捨てにしていた――

それはたしかに、ページのすくないアルバムのような、ついぞいちども手にすることkのなかった、いわゆる「お見合い写真」の体裁をしていた。
開けてはならない扉を恐る恐る解き放つように。
俺は震える手で、ページをめくった。

アッ・・・と、息をのんでいた。
さいしょの頁があまりにも、くろぐととした意趣に満ちあふれたものだったから。
キャビネ版と呼ばれる大写しの写真のなかで。
志乃はベッドにあお向けになって、あらぬ方に目をやっている。
それはあきらかに、自宅にある夫婦のベッド。いつの間に、こんなものを撮ったのだろう。
相応の機材を持ち込まなければ、とてもこんな写りにはなるまいと、少しばかりカメラをかじった俺にも、それはわかった。
身に着けているのは、喪服。
たしかに見覚えのある黒一色の地味なスーツが、着崩れさせるとこうも妖しく乱れるのかと、俺はおもった。
そればかりか――。
はだけた喪服のすき間から、こぼれるように覗く白い肌は、真っ赤なロープの縛(いまし)めを受けて、キュッときつくすくんでいる。
漆黒のブラウスをはだけられ、その上から、身体の線があらわになるほどきつく縛られて、
太ももを横切る帯のように太いガーターは、肌の白さをいっそう際立たせ、
珠のように輝く肌には、ところどころ、灼(や)け爛れた蠟燭の痛々しい斑点が、不規則に紅く散らされていた。
目線が惑乱していると、ありありと自覚しているのに、焦げるほど強く、俺は見入ってしまっていた。

俺の変化を悦ぶように観察していた支局長は、頃合いを見計らうように、こう告げた。
「志乃を気に入った。ぼくはまた、志乃をオーダーしてしまった。きみの奥さんだと知りながら――
 つぎの逢瀬は、明後日の木曜の夜。場所はきみの家をお願いした。
 ぼくはきみに、明日から一週間の出張を命ずる。
 いけない上司を、許して欲しい。」
許すなどとそんな・・・と、俺は言いかけた。
俺の妻を、夫である俺の前で呼び捨てにして、
そのうえこれからも妻を犯すと宣言した、仇敵のはずのその男に。
けれども俺は、自分でもびっくりするほどよどみなく、応えてしまっている。
「『若妻宅配倶楽部』に、連絡を取ります。
 わたしは出張先で、彼らに誘拐されます。
 そして妻を縛ったロープで身体を結わえられたまま、自宅の寝室の押し入れに、転がされてしまうのです」
どうぞ俺のことは気にしないで、妻の肉体を愉しんでください。
なぜって――だんなの前でその妻を犯す愉悦を、支局長にお届けしたいのです・・・」

支局長は、いつもの穏やかな目鼻立ちを、いっそ和ませて、俺をみた。
そして、ちょっためらうふうを見せながらも、口を開いた――
「わかっているのかな?お互いさまの意味」
え?と問う俺に、支局長はいった。
「ここに赴任してすぐのことだった。
 ぼくの家内もね、『若妻宅配倶楽部』の餌食になっていたのだよ。
 若妻には程遠い・・と、ぼくは遠慮したのだが。もちろんそんな遠慮は無用だと言われてしまったよ。
 思い知ったよ。上には上がいるんだ。
 ぼくのような始終男には、志乃のような二十代の若妻が要るように、
 ぼくの家内を欲しがる年配男も、けっこうおおぜいいるんだということを」



第四話 「お見合い写真」のなかの悪夢

支局長と妻との交際を認めた俺は、何の見返りも欲しなかった。
妻に売春をさせるわけにはいかないから――というせめてもの意地が、俺のなかにもまだ残っていたというわけだ。
けれどもそのいっぽうで、報酬はすでにじゅうぶん享けている――そんな想いも、禁じ得なかった。
喪服マニアの支局長の手で、志乃の喪服は再三汚され、引き裂かれた。
そのつど洋服代を持ちたいという支局長の厚意を、俺は辞退しつづけていた。
自分の稼ぎから、他の男に玩弄されるための妻の衣装代が差し引かれてゆく。
その事実に、俺はマゾヒスティックな歓びをさえ、感じはじめていたのだった。

志乃はたいそう済まながっていた。
引き合わされる直前まで、その日の相手が夫の上司だとは、知らされていなかったのだ。
「相変わらず悪趣味だよな、あいつら」
おれはせいぜい憎まれ口をたたいたが、もとよりさほどの悪意も含まれていないことを、志乃は良く心得ていた。
「今度のボーナスで、喪服買えよ」という俺に、
「喪服のまとめ買いって、割安になるのかしら」と、志乃はいかにも主婦らしい気の廻し方をした。
まとめて買うほどに、志乃は支局長のために喪服を汚したがっている。
俺の発想は淫らに歪み、その晩妻が着けていた花柄のロングスカートは淫らな粘液にまみれて、
翌朝にはクリーニング屋行きの憂き目を見る羽目になっていた。

志乃とは、見合い結婚だった。
もともと感情をあらわにしようとしない、よく言えばたしなみ深く、悪くいえば物足りない女だっただけに、
志乃のみせたあらわな変化は、俺の日常をどぎつい極彩色の彩りをで染めた。



頭が俺のところにやって来たのは、志乃が出かけた後のことだった。
きょうのお相手は、支局長ではなかった。
彼は妻との結婚20周年を祝うため、旅行に出ていた。
見ず知らずの男と妻が、淫らなセックスに耽る。
相手の顔が見えないだけに、そうした日の妄想も、違った意味でどす黒かった。
出かけて至った志乃のいでたちは、学校に着て行く薄茶のスーツだった。
ストッキングも、地味な薄茶だった。
情事に出向くとき、志乃はいつも真新しいストッキングを脚に通していく。
獲った客への、せめてものたしなみのつもりだと、志乃は生真面目に言い訳をした。
「学校の先生だと思うぜ」
若妻宅配倶楽部のメンバーで、さいしょに志乃を犯したその男は、俺にそっと」囁いた。;
学校が聖域ではなく、教師もまた聖職などではないことを、知り抜いた声色だった。
同僚とセックスするときに、いつも学校で見慣れた服装を要求する。
何と歪んだ欲求だろう。
それに応える志乃も志乃だったが――もはやそれは、いつもの日常になり果ててしまっていた。

あんた、知ってるだろ?
男はいった。
自分の女房を宅配倶楽部のスタッフにすると、ご褒美をもらえるの。
「ご褒美」とは、支局長が部下の妻をモノにするような類のことだと、容易に察しがついた。
俺は無関心を装って、「知っている」とだけ、みじかくこたえた。
無造作に投げ出されたものに俺が息をのみ、震える掌で扉を開こうとするのに、数秒とかからなかった。

アッ・・・と、俺は絶句し、我を忘れ、息をのんでいた。
さいしょの頁があまりにも、極彩色の悪意に満ちあふれたものだったから。
キャビネ版と呼ばれる大写しの写真のなかで。
豪奢な黒留袖の襟首をおし拡げられ、もろ肌をあらわにしているのは、ほかならぬ――母の弘美だったのだ。

結婚式帰りを襲った。
ちょうど、あんたの従弟の結婚式があっただろう?
さすがはあんたの親だ。
お父上、何年もまえから、うちの会員でね。
自分の娘くらいの女に血道をあげて、ケツを追いかけること追いかけること・・・
大枚はたいて加入したから、だれも文句は言わなかったけれど。
あのどん欲さには、あきれたものさ。
ほれ、あんた六、七年前に、何度か見合いしたことあるだろう?
あの時の娘どものほとんどは、親父に抱かれた女だったのさ。
危なかったな。
すんでのこと、あんたは自分の親父に処女を捧げた女を、嫁にする羽目になりかけたんだからな。v
だからその息子であるあんたの奥さんを堕落させたときにも、あまり同情は感じなかったのさ。
いまでも、好いことをしたと思っているよ。別bの意味でな。
もうすっかり、あんたは俺たちの仲間だからね――
なのでご褒美に、その女を紹介するよ。
そのうちあんたの親父、志乃に毒牙を突き立てかねないからな。
・・・さきに姦ったもん勝ちだぜ・・・?


あとがき
前編はこれで終わります。
後編をつぎにあっぷします。

夫婦の夜。

2022年07月11日(Mon) 01:54:43

目のまえで。
妻のかおりが、吸血鬼に抱きすくめられている。
見なれたベーズリー柄のワンピースが皺くちゃになるほど強く力を込めて、
男はかおりのことを放すまいぞといわんばかりに、
ゆるいカーブを帯びたかおりの上半身を、ヒシと掻き抱いている。
彼の腕は枯れ木のように細く、かおりの肩先に喰い込ませた指も、ごつごつと節くれだっていたが、
強い執着がありありと、滲んでいた。

月の光を浴びたふたつの影が寄り添う様子は、あたかも熱愛する恋人同士のようであったけれど、
やつの目当ては、かおりの生き血――
ふつうの恋人同士ではない証しに、
かおrの着ているワンピースの襟首には、持ち主の身体からほとび出た血のりが滲んでいた。
夜目にも白い首すじに牙を突き立てて、
やつはかおりの身に秘められた、24歳の若い血潮に酔い痴れているのだ。

ごく、ごく・・・ぐびっ。
かおりの血を飲み耽る生々しい喉鳴りが、わたしの鼓膜を苛んだ。
まるでレイプでもしているような、荒々しい飲みっぷりだった。
かおりを死なせることはしない。血を吸い尽くしてしまうことは絶対にない。
そうした確信がなければ、わたしは恐怖のどん底に落ちてしまっていただろう。
彼はかおりを、愛してしまっている。
わたしもそれを、認めてしまっている・・・


初めて夫婦ながら襲われたとき。
わたしはかおりを庇って、わたしの血を吸い尽くして良いから、妻には手を出さないでくれと願っていた。
けれども彼は、すでにかおりへの恋情に目がくらんでいて、
わたしの血を吸い尽くすと、飲み終えた空瓶のように放り出し、
それから言葉を失い立ちすくむかおりに、迫っていった。
かおりは立ちすくんだまま、夫の仇敵に求められるままに、うら若い血潮を提供しつづけていった・・・
やつのかおりに情熱はほんものだったのだと、いやというほど思い知らされていた。

恐怖に身もだえするうら若い肢体から、若い血液をしたたかに抜き取ってしまうと、
かおりももはや、わたし一人のかおりではいられなくなっていた。
生き血を吸った人妻は必ず犯す――それが彼らの習性だった。
その日から、かおりはやつの”女”になった。

やつの”女”となりながらも、かおりはわたしの生命を救うことを忘れなかった。
かおりの必死の願いを、やつはあっさりと聞き届けた。
わたしのことを憐れんで――ではなかったと思う。
たんに夫のいる人妻を、征服したかったからに違いなかった。
わたしがやつの性悪なたくらみを許したのは・・・
お前の前でかおりを犯す愉しみを尽くしてみたい。お前にも、妻を犯される歓びを植えつけてやりたい という、
正直に願われて、断り切れなくなってしまったからだ。
わたしの体内に戻されて、ふたたび脈打つようになった、28歳の健全なるべき血潮は、
やつから伝染(うつ)された毒に、穢され抜かれてしまっていた・・・

今夜もまた、やつはさいしょの夜と同じように、かおりを抱いて血を啖(くら)っている。
汚らしい音を立てて、がつがつと。
かおりもまた、彼の腕のなか・・・うら若い肢体に秘めた血潮を、求められるままふんだんに、口に含ませてしまっている。


あとがき
なんとなく、内容のない叙景詩になってしまったような・・・ (^^ゞ

わしの家内は、身持ちがよろしい。

2022年02月12日(Sat) 03:21:51

自慢じゃないが・・・
わしの通夜に来た女どもは皆、いちどはわしにスカートをめくられ、パンストを引きずり降ろされておる。
なかにはガーターストッキングを穿いていた女もおった。あんな地味な女が、と思うようなのが、むしろそうじゃった。
だれがそうだか、ちょっと見にはわからないところが、女というものの面白いところだ。

さいしょにパンストを引きずり降ろしたのは、他でもない妹だ。
学校帰りのセーラー服姿にムラムラッときて、のしかかってしまったのだ。
妹は歯を食いしばり、泣きべそを掻きながら俺の一物を挿(い)れられていった。
処女破りとはきゅうくつなものだと思ったが、あれはわしも初めてだったのだから、仕方がない。
その後、処女はなん人いただいたか、わからない。
けれども、息子の嫁をモノにしたときの愉快な思い出は、とうぶん忘れないじゃろう。

そんなわしに、家内はよく仕えてくれたものだ。
おぼこのままで嫁に来て、身持ちもそれなりによかったはずだが、
妹が結婚してからも関係が途絶えなかったのが妹婿にばれたとき、
やつはわしにではなく、家内に言い寄って来おった。
「どうしてくれるんですか?お義姉さん・・・わかってますよね?お義姉さん・・・」
そう、やつはわしの家内に気があったのだ。
あのとき、押し寄せる罪悪感に目がくらんだようになった家内は、
震える瞼を瞑ったまま、紫のワンピースを着た細身の躯(身体)を押し倒されていったのだ。
わしはそれを物陰から見ていたが、留め立てはせなんだのだ。
妹の件はわしが悪いのじゃし、妹婿の恋路も、なぜか遂げさせてやりたくなってしまったのだよ。
初めて操を破られる時。
なにかに怯えるようにしながら悶え始める家内が、ひどく可愛く思えたものだ。

妹婿と家内との関係は、かなり長く続いた。
なにしろ、下の息子と娘とは、妹婿の種なのだ。
わしが妹を愛し抜いたのと同じくらい、妹婿は家内のことを愛し抜いていた。
お互いにお互いの妻を、心の底から愛していたのだ。

やがて息子が色気づくと、家内に目の色を変えるようになった。
ある日の法事の帰りだった。
わしだけが遅れて家に戻ると、奥の部屋からうめき声がする。
妹婿か?と思ったら、そうではなかった。
家内の穿いている、薄黒いストッキングに欲情しやがった息子は、
初体験のぶきっちょな熱情をはじけ散らして、
家内が腰に巻いている、あの重たい真っ黒なスカートを、精液でべっとりと濡らしちまっていた。
そのときもわしは、物陰から、息子が男としての刀の切れ味を母親に試してゆくのを、じいっと見届けていたものだ。
そのときも家内は、なにかに怯えたような顔をして、
躯(からだ)をガチガチにこわばらせて、震えつづけておったものじゃった。

息子の嫁は、都会育ちの娘だった。
妙に男あしらいに長けているところがあったから、てっきり処女ではあるまいと踏んでいた。
なので、当家の嫁になる娘の身持ちを確かめてやろうと、わしは息子に言い含めたのじゃ。
お前の嫁の処女を愉しませろ。親孝行じゃ。

なかなか大胆な娘じゃった。
きっと、いつぞやのわしのように物陰に隠れた息子の目線を、ちゃんと意識しておったのじゃろう。
びっくりするほど大胆に身体を開くと、
ピンクのスーツに秘めて隠し抱いていた、ダイナマイトみたいなふたつの乳房を思い切りよくさらけ出して、
白い肌に血の気をありありとよぎらせて、磨き抜かれたようなその肌を、惜しげもなくさらして来おったのじゃ。
娘の気風の良さにほだされて、たんまりと気を入れて、ピンクのタイトスカートが台無しになるほど濡らしてやった。
あのときあの女の脚から抜き取った、ねずみ色のガーターストッキングを、
わしゃ今でもたいせつに隠し持っておるし、
うちに遊びに来るときあの娘は、
スカートのすそから白いシミが消えやらぬ、あのときのピンクのスーツをこれ見よがしに身にまとっては、
わしに思わせぶりな目配せをするのじゃった。

下の息子とその娘との婚礼は、ここ最近にないほどの盛会じゃった。
引出物は、花嫁と、新郎新婦の母親じゃった。
三人の女たちは、大広間のあちこちにばらばらに転がされて、
この佳き日のためにきちんとセットした髪を振り乱し、
あるいは黒留袖のすそを、あるいは黒のスーツのスカートを、あるいは純白のタイトスカートを、
パンストとショーツにくるまれたお尻が見えるほどたくし上げられて、
列席した殿方全員を相手に、けんめいに腰を振りつづけたのだ。
良家のお内儀が娼婦のように殿方をもてなす――
それが当家の縁組でなされる、外には絶対秘密の通過儀礼なのじゃった。

わしの家内は、身持ちのよい女じゃった。
妹婿に迫られて、
実の息子に迫られて、
婚礼の席では娼婦のように悶え抜いて。
それでも身持ちのよい女じゃった。

いまはこうして、わしの棺のまえ、黒一色のスーツに身を固め、しゃちこばったように正座して控えておる。
わしは気が確かで、棺の中とはいえ、周囲の様子もあまさず見通せることを、家内はよく心得とる。
じゃから、しゃちこばっているのじゃ。
この街に流れてきた吸血鬼は、地元の実力者の家を片端から征服していった。
わしの家も、真っ先に狙われた。
まず息子が血を吸い取られ、それからわしが餌食になった。
こんな年配の男の血などが目当てのはずはない。
とうにわしは、気づいておった。
やつらは、女どもが狙いなのじゃ。
わが家に巣食う、淫らな血潮を総身にたっぷりと脈打たせた女どもが。
そのためにまず、女どもを支配している男どもを征服しようとしているのじゃ。

息子は、女のなりをして夜歩きしているところに吸血鬼と出くわして、
女のようにのぼせ上がりながら、血を吸い取られていった。
息子の血を吸ったその男は、わしの前に堂々と姿を現した。

あんたの家を狙っている。
あんたの奥さんも、息子の嫁も、あんたの情婦(いろ)である妹も、狙っている。
都会に出ている長男一家も、里帰りするのが楽しみだ――
もちろん、見返りは用意している。
あんたは人間のままでも、われらと変わらぬ働きをしているようだが・・・

やつらの狙いはすぐに分かった。
わしを仲間に引き入れたいのだ。
わしは気前よく、うんと頷いてやった。
そして気前よく、身体じゅうの血液を、振る舞い尽くしてやった。

今夜家内は、忍んで来る吸血鬼の餌食になる。
それがやつの、狙いだったから。
その身をめぐる熟れた血潮を啜り取られてしまうと知りながら、
黒一色の礼服に、清楚に身を固め、
ふくらはぎを染める薄墨色の靴下に、言いようもないほど不埒なあしらいを受けると知りながら、
わざわざ真新しく、舌触りのよさげな一足を脚に通して、正座をしてしゃちこばっておる。

残念無念だが、すでに多くの男と分かち合った家内の身体――やつらにも家内の女ぶりを、自慢してやろう。
華代よ、華代・・・
お前は亭主の仇敵に組み敷かれて、亭主と同じように、生き血をしたたかに、吸い取られるのじゃ。
淫らに熟れたお前の血潮の味を、今こそ誇るがよい。
そして、いいようにあしらわれ、夫の棺の前で、辱め抜かれてしまうがよい。
わしはそれを、視て愉しんでやる。
お前もわしに視られていると知りながら、悶え抜いて見せるがよい――

濡れ堕ちる喪服たち。~交わり合う淫らな影絵~

2022年02月01日(Tue) 00:15:44

視られてしまった。

泊まっていくと雅恵がいったとき、いやな予感がした。
夫が娘を寝かしつけているとき、彼女は風呂上がりの身体にわざと喪服をまとって、わたしのまえに現れた。
湯上りに火照った首すじは淫らなピンク色に輝き、黒のストッキングに透けた脛も、活き活きと輝いていた。

あたし、若返ったかもしれない。
雅恵がしずかに呟く。
たしかに、そうかもしれない。
だとするとそれは、吸血鬼に咬まれたあとのことだった。
主人にもこのごろ、よく需(もと)められるの。
夫婦生活まであけすけに語るほど、彼女との仲は近まっていた。
ひっそりやりましょ。
わたしの首に腕をまわしてそう囁く彼女の瞳が、ひたと見すえてくる。
牝豹のような輝きだと、わたしはおもった。

同じ屋根の下。
妻の真紗湖はきっといまごろ、吸血鬼に抱かれているはずだ。
昼間からそのつもりだったのだろう。
漆黒の重たげなスカートの下、地味に透けるはずのストッキングは、妖しい光沢をよぎらせていた。
わたしたちも・・・ね?
稚な児(ご)に言い聞かせるように顔を覗き込んで、彼女は唇を重ね合わせてきた。
熱い唇だった。
地獄の底まで引きずり込む力を持った唇だった。
潤いを帯びた肉厚の唇に見せられたように吸い返し、ヒルのように吸いつづけた。

そのときだった。
ふすまがしずかに、開かれたのは。
「やっぱり・・・」
妻に似て穏やかで静かな声が、降ってきた。
見返さなくてもわかった。
声の主は、雅恵の夫だった。

ふたりとも、洋装のブラックフォーマル。
わたしだけはスカートを取り、彼女はスカートを着けたままだった。
そして、わたしの体液は生温かく、雅恵のスカートを濡らしていた。

ふつうなら。
息を止め、動きをも止めるところだろう。
なにしろ、不倫の現場を夫に抑えられたのだから。
けれどもわたしたちは、どちらとも、行為を止めようとはしなかった。
もう少し待って欲しい。
そんなせつじつな願いさえ、はじけさせていた。
ちょうどわたしのペ〇スが、スカートの奥に秘められた茂みに触れたところだった。
ため息をする彼女の夫の前、わたしはためらいもなく、雅恵のなかに精液をはじけさせていた。

息せき切った上下動が、しばらくつづいた。
ものを投げられても、鈍器を振り下ろされても、除けようのない態勢だった。
なのに、雅恵の夫は、そうする資格を持ちながら、わたしを攻撃しようとはしなかった。
ひとしきり嵐が過ぎてからやっと、彼女の夫は妻に声をかけた。
「気が済んだの?」

「奥さんを借りてます」
わたしは臆面もなく、いった。
「わかっています」
彼女の夫は、冷静にこたえた。
「別れることはできそうにありませんか」
あくまでも紳士的な問いに、あくまでも礼儀正しくこたえた。
「たぶん、難しいと思います」
「ひと言、妻とは別れるとさえ言ってくれれば・・・」
「偽りのお約束をすることで、あなたを余計に侮辱することになるのを恐れます」
「そうですか」
男はあきらめたように、いった。
「私を侮辱したくてそういう関係を結ばれたとは、おもっていません」
「わたしも、あなたを侮辱したくて雅恵を抱いたつもりはありません」
むしろあなたを、雅恵のご主人として尊重したい気持ちです、と、わたしはいった。
雅恵の夫を尊重することと、雅恵を抱くこととは、矛盾しないと感じていた。
理屈に反しているはずのわたしの感情を、どうやら雅恵の夫は理解したらしい。
それならば、わたしも雅恵と貴男との交際を、尊重することにいたしましょうと、彼は言ってくれた。

「良い心がけですな」
別の方角から、声がきこえた。
三人がふり返ると、そこには吸血鬼がいた。
「きみの奥さんを借りていた」
わたしが雅恵の夫に言ったのとおなじことを、吸血鬼はわたしに向かって口にする。
あっけに取られる雅恵の夫に、手短に説明した。
ある法事の帰り道がご縁になって、このひとは妻の恋人になってくれたのだ――と。
自分の妻に恋人ができることを、あなたは忌まわしいと思わないのですか、と、雅恵の夫はいった。
思ったほど、忌まわしくはないのではないのですか?と、わたしは逆に彼に訊いた。
まだそこまでは、思い切れていません――と、彼は正直にわたしに告げた。
彼の嘆きは、もっともだった。

「お察しします。わたしはあなたに、たいそうなご迷惑をおかけしていますね」
わたしは慰めるように、いった。
どうやら彼に、兇暴な意図はないようだった。
だから彼に対するわたしの態度も、余裕を取り戻したものになりつつあった。
「あなたはいつからそのように、女性の服装を嗜むようになられたのですか」
彼の疑問は、もっともだった。
女学生だったころの雅恵の服を身に着けて、淫らに戯れているところを抑えられ、
彼女の服を着たまま帰宅したのがきっかけかな・・・と告げたとき。
なんとなくジグソーパズルのピースが、居心地よくはまったような気がした。

なん着か、彼女の服をもらって自ら慰むときに身に着けたのだ。
でも彼女は、わたしと結婚するとは言ってくれなかった。
彼女の母は、わたしの父と契って彼女を生んだのだから――
「だから・・・雅恵は貴男に、純潔を捧げたのですね?」
どうしてそれを・・・?
雅恵の夫は微苦笑して、着けていたスラックスのすそを、引き上げた。
薄地の沓下のふくらはぎに、ふたつの咬み痕がくっきりと、つけられていた。
「そのひとに、咬まれたんですよ。奥さんを咬んだ後、あなたのことが気になって仕方なかった・・・とか言われましてね・・・」
彼が自分の妻の不倫に寛大だった理由が、よくわかった。

わたしは雅恵が純潔を捧げた相手が貴男で、よかったと思っている。
謝罪をしてくれれば貴男と雅恵の関係を受け容れて、あとは視て視ぬふりをしてあげようと思ったのですが――
貴男も強情なかたですね。
そういって、雅恵の夫はしずかに笑った。
夫婦で、笑うとき語るときの風情まで、似るものか。
ふたりは穏やかにほほ笑み、怜悧に己の身を淫らな渦巻きに浸した。

「ひとつだけ、いっておこう」
吸血鬼はいった。
「雅恵とあんたは、血は繋がっていない」
え?と訊き返すわたしに、雅恵はそういうことか、と、納得したような顔つきになった。
雅恵の顔色を読むように、吸血鬼は自分の情婦のことを、良い勘だね、と、ほめた。

わたしの父と雅恵の母は、兄妹の関係でありながら契りを交わし、雅恵を生んだ。
自分の妻が相姦を遂げていたことに冷静さを失った雅恵の父は、わたしの母に挑んで、意趣返しを果たした。
意趣返しのつもりが、ふたりは本気で愛し合い――そして生まれたのが、わたしだった。

雅恵が貴男に純潔を捧げて良かった――といったのは、わたしの傾いた考えからではありません。
ほんとうは、ふたりは結ばれても良かった関係だったのです。
わたしは彼女の夫という座を、あなたから奪ったのかもしれない。
ですが――

雅恵の夫の言葉を、わたしは手を挙げて制した。
自信を持ってください。
あなたは、雅恵とのあいだに娘までなした、立派な夫、父親です。
わたしはあなたを尊重しつつ、雅恵を犯す。
あなたの妻を、自分の妻どうぜんにあしらわせていただく。
でもそれは、あなたにたいする侮辱ではない。
雅恵という女性を妻としているあなたへの敬意をこめて、これからも雅恵を愛し抜くつもりです。

ぜひそうしてください――
雅恵の夫は、言い終えるまでもなく、吸血鬼に組み敷かれ、首すじを咬まれた。
ジュッ!と、あたりに熱い血潮がしぶいた。
畳を濡らした彼の血潮を、わたしは舌を這わせて舐め取った。

女どうしの関係ですぞ。あくまでも――
女の姿で乱れあうわたしと雅恵を見つつ、吸血鬼は雅恵の夫に囁いた。
そうですね・・・そういうことで理解しましょう・・・
白目を剥いて絶息した雅恵の夫の血を、吸血鬼はなおも啜りつづけた。

自分の妻を生贄に捧げた夫は、自らも妻の仇敵の餌食とされて、半吸血鬼となる。
彼もまた、わたしと同じ道を歩み始めようとしている。


あとがき

なにやら、どす黒い衝動が押し寄せてきて、わたわたと何作も書き綴ってしまいました。
かなり冗長に流れてしまいましたが、ここまで読んでくださった方がいらしたら、心から感謝します。
雅恵の夫の寛容さを描いていたら、きりが無くなりましたね。(^^ゞ

つづきの構想もなくはないのですが、結実するかどうかは、今後のお楽しみ・・・ということで。

怜悧な喪服。~「相姦」の罪。~

2022年01月31日(Mon) 22:25:42

妻の貞操を惜しげもなく与えてしまったあのお通夜の席で。
わたしは、隣町に嫁いでいった従姉の雅恵に出会っていた。
お久しぶりのひと言を、彼女の唇から省略させるくらい、
わたしのいでたちに、彼女の目線は吸いつけられていた。
幼なじみに従弟が、婦人もののブラックフォーマルに装った姿で現れるとは、思いもよらなかったのだろう。

びっくりしたわ。
そんな言いぐさには不似合いなほど、雅恵の口調は穏やかで、落ち着いていた。
もともとそういう女だった。
虫も殺さないような顔をしたああいう娘(こ)がね、男を刺すのよ。
母はそういって、忌まわしいものでも見るように、姪を睨んでいた。
どういうわけか昔から、母は雅恵を毛嫌いしていた。
でもわたしは、姉のように気品のある落ち着きをまとった従姉に、密かな憧れを抱いていた。

まさか、あなたにそんな本能があるとはね。
趣味、とはいわずに、本能、といったあたりに、彼女がわたしの女装に対する感情をこめているような気がした。
良い感じよ。似合ってるじゃない。
雅恵はどこまでも穏やかな顔つきと眼差しで、洋装のブラックフォーマルに装ったわたしを見た。
憧れの女性と肩を並べ、黒のストッキングに染まった脚を並べて和やかに語らう日が訪れるとは。
わたしを初めて咬んだ吸血鬼は、わたしをどこまでも、”女”として扱ってくれた。
なので、生き血を吸い取られたいまでも、彼のことを怨みには思っていない。
妻を襲われ、生き血を吸われ、犯されたことさえも。
最愛の妻を気に入ってくれたこと、彼女の生き血に酔い痴れてくれたことを、誇りにさえ感じていた。

雅恵が隣町に嫁いでいく直前。
彼女はわたしを呼び出して、告げた。
ほんとうは、貴男に初めて犯されたかった。結婚したかった。
けれどもね――それは現世ではかなわないことなの。
だって。
あたし、貴男のお父さまと母との間に生まれた子供なんだもの。
いっしょになれば、姉弟婚になる――なにかを怨むような目で、雅恵はわたしにそう告げていた。

彼女の母は、父の妹だった。
兄妹の契りで生まれたことを、雅恵はもうひとりの自分を見つめるような冷やかな言葉つきで、ひっそりと語った。
そのうえで、わたしを夫としたら・・・どれほどの相姦の罪を犯すのだろう。
そのころはまだ若く、汚れを識らない年頃だった・・・はずだ。
けれどもわたしはむしろ、雅恵との距離が近まったという、奇妙な錯覚にとらわれていた。

わたしはこたえた。
結婚できなくても――犯すことならできるさ。
渾身の力を籠めて押し倒されたピンクのスーツ姿は、抵抗を忘れたように、草むらの褥に淪(しず)んでいった・・・

ひとしきり嵐が過ぎ去ると。
わたしの下に組み敷かれた女は、他人ごとのように囁きかけてきた。
「姦(や)っちゃったわね」
結婚前の身を汚つ罪を犯した自分の罪ではなく、相姦の罪を犯したわたしのことをいっているのだと、すぐにわかった。
見あげてくる怜悧な目線が、わたしの心の焔を、いっそう掻き立てていた。
「遅くなるわ」
怜悧な女が再びつぶやいたときにはもう、夜中近くになっていた。
あのとき姉が脚に通していた白のストッキングを、
ぼくの精液と彼女の初めての血しおとで彩ったことは、いまでも後悔していない。

喪服の宴。~痴態の刻。~

2022年01月31日(Mon) 21:35:42

捧げ尽くしたがゆえの貧血に惑ってはいるものの。
ドアの向こうに躍り出ようとして、出られないことはなかった。
やめてくれと叫んで留め立てをしたら、男は半分興ざめし、半分わたしを憐れんで、行為を中断したに違いなかった。
けれどもわたしは、そうしようとは思わなかった。

妻がわたしの家の体面を、くまなく汚し抜いてしまうまで。
男の精液が、妻の秘奥をこれ以上はないというまで、濡らし果ててしまうまで。
妻の生き血が、男の干からびた血管を、わたしのそれと織り交ぜられて染め抜いてしまうまで。
男の舌が、唇が、妻の素肌の舌触りを、くまなく味わい尽くしてしまうまで。
あなただけよと叫ぶ妻のよがり声が、わたしの鼓膜を浸し抜いてしまうまで。
さすがはあいつの女房だ、生き血も身体も実に美味い・・・と、やつが惜しみない賞讃で、妻を浴びせ倒してしまうまで。

ふたりが満ち足りて、飽くまで焦がれ果たすのを待ちながら、
わたし自身も、嫉妬と惑いと、えもいわれない誇らしさとに、焦がれ抜いてしまっていた。

ドアを静かに開いた時。
妻のあわてようったら、見ものだった。
目を大きく見開いて、大胆にさらけ出したおっぱいをもろ手で押し隠しつつ、
「視ていたの?」
淫らな吐息も収まりきらず、肩を弾ませながらわたしに訊いた。
「いちぶしじゅう、視ていたよ」
わたしは妻の期待に、こたえてやった。
「なのにあなたは、止めなかったのね!?」
わたしを問い詰めるその声色に、喜色がよぎるのを、男もわたしも、聞き逃さなかった。

親友の愉しみを邪魔するのは、無粋だと思ってね。
そう告げるわたしに、妻は抱きついてきて、いった。
「さすがあなただわ」
結婚を直前にひかえたあのとき、花嫁の純潔をほかの男にむさぼらせてしまったときの、
あの罪深くも毒々しい喜悦が、わたしの胸を稲妻のように切り裂いた。

「観てて頂戴。あなたは観る義務があるのよ」
ひるがえした黒髪は、毒蛇のうねりのように禍々しい輝きをよぎらせて、男ふたりの目線を釘付けにした。
引き裂かれたブラウスが、腰周りまで垂れ堕ちるのも。
片脚だけ脚に通したストッキングが、ふしだらに弛み堕ちるのも。
精液に濡れた重たげなスカートが、塗りつけられた精液をボタボタと滴り堕とすのも。
意に介さないというように、妻は自分から男に挑みかかった。
男はあお向けになると、妻のスカートを剥ぎ取って、
剥きだされた腰を抱くようにして、自分のうえへとまたがらせた。
はだけた両肩を惜しげもなくさらけ出し、その上に重たい黒髪をユサユサと揺らして、
妻は蒼白い吐息を洩らしながら、男のうえに馬乗りになると、
腰と腰とを憎たらしいほど密着させて、ずんずんと身を弾ませる。

ユサユサと揺れる黒髪。
はぁはぁと生々しい悶え。うめき。
サワサワと衣擦れをする、漆黒のスカート。
秀でた眉の下、大きな瞳を見開いて、
蕩けた目線を恍惚と宙にさまよわせながら、
女は悩ましく、吐息をはずませる。
吐息・・・吐息・・・また吐息・・・

ひたすらに、ただひたすらに――
男との交わりに熱中し、溺れこんで。
夫の前だとか、不倫の交わりだとか、そんなことはいっさい、おかまいなしに。
姿勢を入れ替え、上になり、下になり、組んづほぐれつ、
弛んだ口許からは、だらしなくよだれを垂らし、
夫のまえもはばからないディープ・キッスにうつつを抜かし、
ひたすら、ひたすら、乱れ狂ってゆく。

男もいつか、夢中になっていた。
わたしももちろん、夢中になっていた。
妻の痴態に。不倫の恋に。
恥知らずな賞讃と祝福とを、送りつづけていた。

喪服の悪妻。

2022年01月19日(Wed) 20:24:32

喪服の下に、ガーターストッキング。
主人の喪が明けて、今夜は黒一色の装いをまとわなければならないさいごの夜。
あたしはハンドバッグに必殺の武器を仕込んだ女スパイよろしく、重たい漆黒のスカートの裏側を、そんなふうに武装した。
忍んできたのは、主人をあの世に追いやった、吸血鬼。
デキてしまったあたしたちのことを、あまりとやかく言うからこんなことになるの。
すべて、貴方がいけないのよ・・・

夫婦のベッドで半裸になって彼とくつろいでいるとき。
主人は出し抜けに現れて、不倫の現場を抑えたとばかり、はしたなくわめきたてた。
そして、あのひとの餌食になった。
刻一刻と血色を奪われてゆく主人の顔を、あたしは余裕綽々、腕組みをして見守ってあげた。
「顔色がよくないわよ、あ・な・た♡」
冷やかすあたしに返す言葉もなく、主人は自分の奥さんの貞操を奪った男に、生き血を啜り獲らせてしまっていた。
主人にとっては仇敵であるはずの彼のほうがまだ、思いやりがあった。
「ご主人の血はなかなか旨い。なろうことなら生かしてあげても良い」
とまで、言ってくれたんだもの。
それでも彼は、喉の渇きに耐えかねたのか、ついに主人の血を吸い尽くしてしまったのだけど。

地元ではそこそこ大きな商売をしていた主人の家は、後継ぎの現職専務の急死に騒然となり、
その騒ぎは毎日遊び歩いているだけの主人の弟が、渋々後継を引き受けるまで続いた。
どちらもだめな兄弟で、この愚鈍で無能な義弟は、葬儀の席もわきまえず、薄い墨色のストッキングを穿いたあたしの脚に発情した視線を巻きつけて来、もらったばかりの嫁を嘆かせていた。

主人の家は旧家だったから、さすがに葬儀は盛大で、はげ頭の義父も業突く張りな姑も、
息子の不審死の真相究明なんかより、お葬儀に粗相がないかのほうに、よほど気を使っていた。

あたしの愛人は、目だたぬようにひっそりと、それでも間近にいてくれた。
あたしを庇うためじゃないのは先刻承知だったけれど、まあ心強いには違いなかった。
彼の真の目的?
それ訊くの?訊いちゃうの?
決まってるでしょ。
人妻に目のないやつのことだもの。

お通夜の晩には、姑が襲われた。
和服の喪装にクラッときたとか抜かしていたけど、
わざわざあたしのまえで御披露に及んでくれたのは、あたしとしては溜飲がさがったかな。
土葬の帰り道では、バカな義弟の嫁が咬まれた。
いつも居るのか居ないのかわからない、存在感のかけ離れて無い女だったから、
黒のストッキングを脱がされ喪服のスカートにベットリ精液を塗りたくられても、旦那を始めだれも気付かずじまいだったのには笑えた。
でもそれ以来、義弟の嫁は毎晩のように、あいつの呼び出しに応じているという。
不景気な顔してるくせに、案外あなどれないのかも。

初七日までのあいだ、あたしは禁欲を通した。
あの口うるさい婆ぁは、あいつに犯されてからすっかり大人しくなっちゃったから、
姑の目を盗んで主人の仇敵とエッチするくらい朝飯前だったけど、あいつが望むのだから、まあ仕方ない。
そのあいだ。
あいつはあいつで、弔問に訪れた人妻たちを、片端から食い散らしていたのだから世話はない。

主人が土葬に付されたのは、お寺の裏手にある墓地だった。
あたしはその本堂であいつと示し合わせて、顔をあわせた。
本堂には、主人の位牌と遺影とが、まるでお寺の主であるかのように威厳たっぷりにしつらえられていた。
その前で、ヤろうというのだ。
まことに、神をも恐れぬ所業だった。

「この度は、どうもご愁傷さまで」
あいつは滑稽なくらい型通りの挨拶であたしを笑わせると、
あたしはわざとらしくしおらしく、
「主人がいなくなって、寂しゅうございます~♪」
とか言って、やおら喪服のスカートをたくしあげたのだ。
それが冒頭の光景なのです。

あいつったら、主人の位牌と遺影のまえで、あたしを本堂の板の間に抑えつけて犯そうとした。
あたしは懸命に脚をばたつかせて、暴れてやった。
これだけ抵抗したら、だんなかもきっと、成仏するだろう・・・ってくらい、思いきり思いきり、暴れてやった。
主人を咬んだあいつの牙が、あたしの首すじをかすめた。
切れ味の良い切っ先が引っ掻いた痕を、なま暖かい血がかすかに滲む。
あいつはすかさず、舌を這わせてきた。
さいごに喪主である奥さんを成仏させるのが、楽しくってね・・・
あいつはあたしの耳許でくすぐったく囁き、
あたしはあいつを変態変態と罵りながら、なおも脚をばたつかせていた。

広々とした本堂は陰にこもって薄暗く、這いずり回った床は冷え冷えとしていたけれど。
火照りを帯びたあたしの身体には、ちょうど良かった。

とうとうあいつは、あたしを仰のけに抑えつけて、喪服のブラウスを引き裂いた。
スリップの吊り紐を引きちぎり、ブラジャーまで剥ぎ取って、主人の血を吸ったあのなま暖かい唇で、あたしの乳首を含んでいった。
男の舌に玩ばれて、乳首がそそり立つのをおぼえたとき・・・
組んつほぐれつするあたしの腕を、あいつじゃないだれかが抑えつけた。
その掌には強い意思が籠められていて、あたしを絶対に放すまいとしていた。
あたしが身動きできずにいるあいだ、
あいつは薄い墨色のストッキングを穿いたあたしの脚をくまなく舐めて、
夫を弔おうとすりあたしの形式的な意図までも、蹂躙し抜いてしまっていた。
内股にまで舌を這わされて、くすぐったさにへらへら笑った。
あたしのへらへら笑いに合わせるように、虚ろな嗤いが頭の上から降ってきた。
嗤いの主を見あげると、あたしは思わずゾッとした。
・・・死んだはずの主人だった。

鉛色の掌が、あたしの両肩を抑えつけ、
そのあいだじゅうあいつは、あたしの喪服姿を辱しめるのに余念がなかった。
あたしのはたらいた不倫の営みを呪わしげに睨みつけ、
妻の仇敵に自分の生き血を気前よく振る舞うはめになったあの横暴でばかな主人が、
あたしを辱しめて愉しむ間男のために、手助けをしている。

意味がわからない‼

思わず叫んだ声が、本堂に虚ろに響いた。
あいつは主人に抑えつけられているあたしに馬乗りになって、物凄くぶっとくなった一物を、あたしの股間に埋めてきた。
あー、うー、くうぅぅ・・・っ。
あとは、いつものくり返し。
ただいつもとちがうのは、主人があいつのお楽しみを手伝っていること。
あいつ、あたし、それに主人――。
三人が三人とも、勝手な想いを込めて、未亡人スタイルのあたしを凌辱することに熱中していた。

午前2時。
さんざんな交尾の果てに力の抜けた身体を大の字にしたまま、あたしはかつての夫をみた。
あんた、幽霊なの?
まあ、そんなとこだな。
主人らしき男は、フフッと笑った。
いままで見たことのない、ニヒルな嗤いかただった。
戸籍はお前に消されちまったし、あんなに盛大な葬式しちまえば、そんな手前生きてますとは言いにくいよな。
俺は叔父貴のいた、隣町に行く。
あそこはここよりも吸血鬼が多くいて、叔父貴の家もあらかた血を吸い尽くされちまったみたいだが。
叔父貴は叔母や従妹や、家族の血を気前よく振る舞ったから、やつらに感謝されて、一家全員死なずに済んでいるらしい。
俺は半分、吸血鬼になっちまった。
だれかさんのお陰でな。
いや、そのだれかさんのお陰で息を吹き返したわけだから、もう悪口は言えないな。
だからあの街に行って、だれかの血を分けてもらうんだ。
お前とはここでお別れだ。
俺の血を景気よくむしり獲ったあいつと、仲良く暮らすことだな。
おい。あんた。この女をよろしくな。
言い忘れたが、あんたの牙はこの女によく似合う。
結ばれておめでとう。

憎たらしいけど、敗けを素直に認めた男らしい態度だった。

あたしはだれに促されるともなく、言い返していた。
いっしょについていくわよ。
べつにあんたなんかに、惚れ直した訳じゃない。
ただ、見せつけてやりたいだけよ。
あんたの奥さん、淫乱なんだから。
朝も昼間も鼻を鳴らして、ビッチのように男を欲しがるんだ。
あんたはそれを、指でもくわえて視てりゃいい。
なにせ、もうこの世にいないひとなんだからね。
分をきちんとわきまえるのよ。
そうしたら・・・
今度実家から、妹を連れてきてあげる。
あたしと見合いしたときから、あの娘に色目使ってたよね。
あたし――それが許せなかったんだ。

結婚指輪

2021年10月16日(Sat) 23:57:25

結婚指輪というものは、人妻のシンボルです。
ふつうなら、自分は結婚している身だから、アタックしないでね という意思表示になるはずですが、
この街では逆に、「狙って♪」という意味になってしまうようです。

妻にはいま、ふたりの彼氏がいます。
そのどちらもが、既婚の男性で、自分たちの奥さんもだれかと関係を結んでいる――そんな土地柄なのです。
移り住んできてさいしょのうちこそ戸惑いましたが、
いまでは夫婦ながら、この土地のこうした習俗を、結構愉しんでしまっています。
ふたりの彼氏は、わたしにも相応の敬意を払ってくれますし、
わたしも妻を勝ち得た彼ら

彼氏のひとりと浮気に出かけるとき、妻は結婚指輪を外していきます。
そしてもうひとりと逢瀬を遂げる時は、あえて結婚指輪をつけていきます。

結婚指輪を外していくときは、妻という束縛から解放されて、ひとりの女性として振る舞う気分になる。
結婚指輪をつけていくときは、貴男の獲た女は人妻なのよ、とそそのかすような気分になる。

妻はそう言って、二人の彼氏それぞれの願望にあわせた付き合い方をしています。

夫たるわたしとしては・・・
結婚指輪は外していかれても、つけていかれても、どちらも複雑な心境になってしまいます。
けれども彼女は、そんなわたしの気分を玩ぶかのように、
指輪をつけている(していない)薬指をさりげなく見せつけて、出かけていくのです。

きょうの相手は、ええ、どちらの男性なのかわかっています。
これ、このとおり。
妻は指輪を、わたしに預けて出かけていくものですから――

碧の貞操。

2021年07月15日(Thu) 06:52:21

ベッドのうえでの碧(みどり)は、ぼくのときと同じように、おきゃんだった。
跳ねたり、仰け反ったり、脚をじたばたさせたりで、
いっこうに落ち着きなく、挑発的なセックスだった。
相手がぼくではなかったとしても。

家内を誘惑してほしい。
碧の面前で、親友の良太にそういったとき、
ぼくはいままでにないくらい、昂りを覚えていた。
ほんとにいいの?
大きな瞳に深い翳をたたえた碧は上目遣いでぼくのことを窺い、
おれはいいけど、だいじょうぶ?
良太はそういって、ぼくを気遣った。
案外、イケると思う。
ぼくがそうこたえると、じゃあ遠慮なく・・・と、良太はいった。
やつが好みの女をゲットしたときだけに見せる、得意そうなほほ笑みが、
良太の秀麗な目鼻立ちをよぎった。

ふたりは似合いだと思う。
ぼくはいった。
ごくふつうの、どこにでもいるような容貌のぼく。
二重まぶたに憂いを秘めた大きな瞳の碧。
日本人離れした彫りの深さをたたえた、良太の目鼻立ち。
ぼくが夫で良太がそうでないことが、ふしぎなくらいだった。
そして良太は、四十代になるいまでも、独身だった。

ひとりの女だと満足できないてのは、寂しいなあ。
いつだか良太は自分のことを、そんなふうに自虐したけど。
あれは案外と、本当に寂しい本音なのかもしれない。
その寂しすぎるすき間を、碧の貞操で補ってみたい。
どうしてそんな不利益な取引に夢中になったのか、
ぼくはいまでも、うまく説明できないでいる。

奥さん借りるよ。気になったら視においで。
おなじマンションに暮らす良太はそういって、
碧を従えてぼくたちの家をあとにした。
頭ひとつ小柄な碧が半歩後ろに寄り添っただけで、
ますます似合いのふたりに、見えてしまった。

ふたりだけの時間なのだ。
碧を独り占めにするという、男と男の約束なのだ。
幾度も自分にそう言い聞かせてみたけれど。
やはり気が気ではない自分を、どうすることもできなかった。
碧を犯して良い――などと言ってのけたはずのぼくは、
そそくさと席を起って、出かける用意もそこそこに、ぼくたちの家をあとにした。

もはや真っ最中――と思ったら、
意外にも、まだふたりとも、服を着ていた。
それどころか、リビングでのんびりと、紅茶を飲んでいたのだ。
来ると思っていたよ。
良太はさっきとは違った得意そうな笑みを泛べて、
ぼくのことを快く迎え入れてくれた。
やっぱり ね。
碧も、まるで長年連れ添った夫婦のような顔をして、傍らの良太を見返した。
すでにその瞬間――碧は良太の側の女だと実感して、
刺すような刺激と、微かな虚しい喪失感と、それからずきりとくる歓びを覚えていた。

けれども、そのあとの良太は、容赦がなかった。
さっ、始めようか。
だしぬけに立ち上がると、緑の手を引いて、自分の寝室へといざなったのだ。

碧が手を引かれるままに、良太の寝室に行きかけると、
良太はその手を放して、おっと待った、といった。
まずはだんなさんを、縛らなくちゃね♪
にんまりと笑んだ良太が手にしたのは、女物のストッキングだった。

行儀よくそろえた手首にぐるぐる巻かれた薄手のナイロンが、
しなやかにぎゅうっと、締めつける。
女のパンストには、こんな使い方もあるんだよ。
良太は耳元で、囁いた。
奥さんの穿いているやつは、もっと別な楽しみ方をするけれど。
いろいろとエッチなことを想像させるひと言をぼくの耳の奥に吹き込むと、
まるで二十歳の若者に戻ったように瞳を輝かせ、碧のほうへと駆け寄っていった。

手首を結わえられたストッキングは、ダイニングテーブルに巻きつけられていた。
その大きなダイニングテーブルは、開け放たれた寝室の正面に置かれていた。
「さあ、碧ちゃん、いただきぃ~♪」
能天気なくらい明るい声をあげて、良太は碧に取りかかった。
碧はきゃあっとちいさく叫ぶと、形ばかり身構えたけれど、
まともな抵抗をすることもなく、そのままベッドに組み伏せられた。
碧がいつも穿いている薄茶色のロングスカートを、良太は慣れた手つきでまくり上げると、
透明なストッキングに包まれた碧の脚に、下品にしゃぶりついていた。
「ダメッ!いけないわ!」
碧の抵抗が、ぼくをよけいにそそった。
「ほら、だんなさん悦んでいるぜ」
良太は不良ぽくフフっと笑うと、抵抗する碧の手首をシーツのうえにねじ伏せた。
首すじを両わきとも吸われてしまうと、さすがの碧も観念したのか、身体の力を抜いた。
「服破らないで下さいね」
そこだけは心配そうに小声で頼む碧に、「わかった」といいながら、
良太は碧の穿いている肌色のストッキングを、ブチブチと引き裂いていった。
「ひどい、ひどい!」と言いながら、碧は身を揉んで悔しがったけれど、
その身のこなしに、いつものマゾな碧が見え隠れする。
夫の目だから、それがわかる。

「さあ、きょうはだんなさんに、たっぷり見せつけちゃおうね~♪」
良太はあくまでも、猫なで声だ。
いつもこんなふうにして、女を征服してきたわけで、
それは相手が親友の妻でも変わることはない――
たまたま相手が碧だというだけのこと――と、いやがうえにも思い知らされる。
ぼくの妻の碧はもはや、猛獣の前に投げ出された獲物にすぎなかった。

食いしばった白い歯を覆い隠すようにして、
良太の唇は碧の唇に重ね合わされ、
碧は激しくかぶりを振ろうとしながらも、
はだけたブラウスからブラジャーを覗かせながら、
腰までたくし上げられたロングスカートの奥、
男の狂った粘液を、ドクドクと際限なく、注ぎ込まれていった。

ベッドのうえの戯れは、長いことつづいた。
「だんなさん以外の男性、初めて?結婚してからは?浮気してないの?」
「やだぁ~っ、訊かないでっ」
服を脱がされてしまうともう、完全に良太のペースだった。
碧は両手で顔を隠して羞じらって、
良太はその顔を覗き込みながら、恥ずかしい質問をたたみかけてゆく。
「したこと、ある」
と、碧が言ってしまうまで。
「だんなさん、だんなさん、奥さん浮気したことあるんだって♪」
良太の能天気な高い声が、事の深刻さを大胆に軽減した。
「いいね~。碧ちゃん、いいね~。
 じつは久人だけのものじゃなくって、淫乱妻だったんだ~」
いじめっ子が気に入りの女の子を冷やかすみたいに、
良太は顔を隠そうとする碧のことを、意地悪く覗き込む。
「わかった、もぅわかったから、しよっ」
碧は潔く、良太のシーツのうえに、こんどは自分のほうから大の字になった。

良太はしめしめ・・・という顔つきで碧にのしかかって、
それから長いこと長いこと、碧を自分のものにしつづけていった。

容赦ない男の本性を垣間見ながら、縛られたぼくはどうすることもできなくて、
ただふたりのまぐわいが、じょじょに打ち解けたものになってゆくのを、
黙って視続けてしまっていた。
目を逸らすことだって、できたのに。
ぼくは碧の一挙手一投足を、良太の手慣れたテクニックを、
余すところなく見届けてしまったのだ。
そう――股間をギンギンに、滾らせて。
こらえ切れなくなってこぼれ出た粘液で、ずぼんをびっしょりと浸してしまうまで。
ぼくを縛めつづけたストッキングは、その最中もぼくの手首を絞めつけていて、
家に帰ったあと確かめてみたら、ありありとした痕を残していた。

ストッキングの縛めを良太に解いてもらうまで、
ふたりは8回も、エッチを重ねた。
解き放たれた獣は、獲物に群がってむさぼり尽くしたのだ。
「楽しかった~」
ひとの女房を征服したあとの良太は、相変わらず能天気だった。
そして、「時々やらない?」と、ぼくに水を向けてきた。
「いいけど・・・」
あいまいに言葉を濁すぼくに、
「このひとに騙されちゃいけないわよ」
と、碧が警告した。
「でも、騙されるなら良ちゃんがいい」
とぼくが言うと、
「それなら~」
と碧は、甘い顔をして良太の横顔を見つめた。
初対面のときにぼくをうっとりとさせた、あの表情だった。

碧はまだ片脚だけ、ストッキングを穿いていた。
それが、ひどくふしだらに映った。
とはいえ、決していやな眺めではなかった。
吊り紐の切れたブラジャーは恥ずかしそうにバッグにしまい込まれて、
ぷるんとしたおっぱいを、はだけたブラウスのすき間から、
惜しげもなくさらけ出していた。
「碧ちゃんのおっぱい、きれいだよね」
良太が素直にいった。
ぼくはなんとなく、誇らしかった。
「いままで抱いた女のなかで、どれくらい良かった?」
と、ぼくがぶしつけなことを訊くと、
「良かったよ~、コクが深くて、キレがあった。ノリも良かった」
と、良太はコアな返答を、返してよこした。
コク、キレ、ノリ。
女の魅力はそこなのか・・・と、ぼくは危うく真に受けそうになった。
あえて順位を告げなかったところに、むしろ良太のオトナらしさを感じた。
阿ることも、貶めることもしなかったのだ。

碧が、片脚だけ穿いていたストッキングを、むぞうさに太ももまで引っ張り上げて、
もう片方のつま先も、脚に通そうとした。
すると良太はそれを制止して、
「よかったらそのストッキング、俺にくれない?」
と、ねだった。
どうする?と言わんばかりに、碧はぼくを見つめた。
「あげたら?きょうの記念に」
ぼくの返答がぞんざいではないことに満足したのか、
碧はストッキングを脚から引き抜くと、男に与えた。
なんとなくそれが、碧と良太を深く結びつけるような気がしたけれど、ぼくは黙っていた。
「ん~、だいじにする」
良太が碧のストッキングを鼻に押し当てて嗅ぐふりをすると、
碧は怒って良太からストッキングを取り上げて、いった。
「やっぱり洗ってからにする」

あの日碧の穿いていたストッキングが良太の手に渡ったかどうか、ぼくは知らない。
でもたぶん、碧はつぎのときに、良太に手渡したに違いない。

週にいちどは、良太は家に招んでくれた。
もちろん、碧もいっしょだった。
ぼくはストッキングで手首を縛られ、
目の前で碧のことを良太のものにされていった。
良太と碧は、楽しそうだった。
ぼくも、碧が悦ぶのをみて、嫌ではなかった。

ときにはぼくが勤めから帰宅したときには、良太が家に来ていて、
ふたりしてぼくの夕食を用意して、
風呂上がりのぼくが夕食を食べている間、
夫婦の寝室に引きこもって、聞こえよがしなエッチを愉しむこともあった。
「食べさせて、食べられてる」
寝室からは、碧のそんな囁きがした。
食べさせて、食べられる。
ぼくのために夕食を作ってくれた碧自身がそうだったし、
専業主婦の碧を食べさせてるぼくにしても、きっと通じることだった。

でもどちらかというと、碧が招ばれることのほうが、ずっと多かった。
ぼく抜きで招ばれることも、かなりあったみたいだけど。
それは気づいていても、問わないことにしている。
碧もそこは控えめにしていたし、
良太はぼくの顔色を見ぃ見ぃ、時には正直に打ち明けてくれていた。
密会している。
そんなことさえ、ぼくは昂奮で来てしまう夫になっていた。

たまに招かれた良太の寝室には、女物のストッキングがたくさん、ぶら下がっていた。
すべてが、碧の脚から引き抜かれたものだと聞かされて、
ぼくは絶句した。
夫婦で訪問したときに、ぼくを縛るストッキングは、碧の穿いていたものだった。
たいがい、その前に逢ったときのものが使用されるらしかった。
でも、おかしいぞ?さいしょのときのストッキングはだれのもの?
ぼくがふと訊いた時。
ふたりは微妙な顔をして、顔を見合わせて。
やがて良太が思い切ったように、こういった。

悪かったけど。
碧とは、若いころからの仲なんだ。
ベッドのうえで、言ったろ。
浮気もしてるって。
浮気相手は、俺なんだ。
お前が連れてきた碧を初めて見たとき、絶対モノにしてやろうと思って、
俺が狙った獲物は逃さないの、お前知ってるだろ?
だから、碧の処女をゲットしたのも俺だし、
――あれはたしか、結納のあとだったよね?――
久人と結婚してからも、週2は逢っていた。
俺は、ひとりの女じゃ満足できない男だし、
碧も、ひとりの男じゃ満足できない女になっていた。
強いて残念だったのは、子どもが欲しかった碧が気にして、子供を作らなかったことかな・・・
さいごのひと言だけは、打って変わってしみじみと、寂しげだった。

ひとりの女じゃ満足できない男は、意外に寂しい。
碧を初めてぼくのまえで姦ったとき、良太はそんなふうにうそぶいていた。
あれはやっぱり、本音だったのだ。。

「離婚されても、しょうがないよね?」
碧が気づかわし気にいう。
離婚はしたくない。碧は痛切に思っている――
十なん年も連れ添ってきたぼくにも、それはありありと伝わってきた。
「これから、どうするつもり?」
「お前さえよければ、だけど」
良太はいつもに似ず、遠慮がちにいった。
「これからも碧と仲良くさせて欲しい」
「いいよ、わかった」
びっくりするほど即答で、ぼくはそうこたえていた。
「ほんとに、いいの?」
碧はまだ、気づかわしげだった。
「裏切られつづけていたのはショックだったけど、良太は碧を大切にしてくれていたと思う。夫として感謝している。
 ぼくは碧の夫。碧は良太のことも好き。良太は碧を愛してる。それでいいじゃない」
ぼくもいっぱい、おいしい想いしているからね。と、ぼくは恥ずかし気につけくわえた。
初めてぼくの前で交わりを遂げた日、家に帰ったあと、ぼくがズボンを濡らしたことを、碧はいっさい口にしないでいてくれた。

ぼくはふたりに、告げていた。

それから、子どものことだけど――
まだ遅くはないから、がんばってみない?
どっちの子でも、ぼくたち夫婦で可愛がって育てるからさ・・・


あとがき
昨日の朝描いて、少しだけ加筆してあっぷしました。
長年夫が裏切られ続けていたのは、こちらのお話の中ではやや異色ですが、
ともあれおだやかにおさまったので、ドンマイ ということで♪

華恵。

2021年07月13日(Tue) 06:03:28

陰野華恵は、二十年来の愛人だった。
長年の腐れ縁だったのに結婚しなかったのは、俺に形ばかりでも妻子がいたためだった。

その華恵が、結婚するという。

じつは深い結婚願望を秘めていたのだと、うかつにもそれまで、気づかずにいた。
相手は会社の同僚で、華絵と同年代の白藤という男だった。
「いい人なのよ、優しくて」
「そいつはごちそうさん」
さしで飲む機会ももうないのかなと思うと、少し寂しかった。
ところが女の話の方向は、俺の予期していたのとは真逆だった。
「どうして決めたか分かる?」
「いんにゃ」
これ以上ののろけ話はたくさんだと俺が横っ面で応えると、女はいった。
「あのひとね、結婚してからも貴方と逢っていいって言ったからよ」

俺と華恵とのセックスの相性は、抜群だった。
おもに俺の浮気で何度も別れかけたのに、その都度よりが戻ったのは、お互いに相手の身体が忘れられなかったからだった。
身体だけの相性でも、ばかにはならないのだ。
「どういうことだ」
俺は言った。
「言ったとおりの意味よ」
華恵は得意げに、俺の問いを横っ面で受け流す。

どうしても結婚してほしいっていうから、貴男との関係を、しゃべったの。
奥さんいるから結婚できないけど、実は身体の相性がバツグンな男がいるの。
結婚してもきっと、彼との付き合いは断てないわ。
それでもいいの・・・?って訊いたら、
彼ったら、言ったわ。
きみが好きだというものを断てるほど、ぼくの存在は大きくないよね。
週一くらいだったら、逢ってもかまわないよ。
ぼくが週一を許したら、きっときみのことだから、その彼とは月に二度も三度も逢うんだろうけど。
週に二度も三度もだったら、きみがだれの奥さんだかわからなくなるけど、
ぼくよりもセックスの回数が少ないのなら、許すから――ですって。

数ヶ月後。
華恵はめでたく白藤と華燭の典を挙げた。

それからも、俺と華恵との関係に、変わりはなかった。
俺たちはいつものホテルで待ち合わせて、ふたりだけの刻を過ごした。
少し変わっていたのは、ダンナになった白藤の態度だった。
華恵が結婚後、初めてホテルのロビーに姿を現したとき。
そこには白藤の姿もあった。
「このひとったら、どうしてもわたしのこと送り迎えするんだって、聞かないの」
いつも以上におめかしをした華恵は、そういって口を尖らせた。
白藤は、善意に満ちたまなざしで俺を見て、「思ったとおりの感じのかたですね」といった。
うらぶれた五十男が、四十そこそこの白藤からどう見えたのか、俺はちょっとだけ、みじめな気分になった。
けれども白藤は、俺の気を惹き立てるように笑顔で応じると、
「どうぞ家内をよろしくお願いします」
といって、サッと身をひるがえし、ロビーから煙のように消えた。
「待ってるんですって。でも、気にしないでいいからね」
あきれたわ、と言いたげに、華絵は新婚の夫の後ろ姿を目で追いながら笑った。
それからいつものように、俺たちはチェックインを済ませ、ルームキーを受け取って、俺たちだけの部屋のドアを閉めた。

息せき切って、女のブラウスのリボンをほどくと、熱い吐息交じりの接吻が返ってきた。
がつがつと太ももに手を当てて、ストッキングをむしり取ると、そんなの厭・・・と、形ばかりの抗いで応じてきた。
すべてがいつもと変わらない、熱っぽい情事の始まりと終わりが、そこにあった。
旦那がまっているというのに、気にならないわけがない――とか何とか言いながら。
俺はいつもより長く、三時間もの刻を、華恵と過ごした。
「終わったわ、帰る」
口紅を直しながら携帯で夫を呼び出すと、華恵はいった。
まるで従僕に命令する王女様のように尊大だった。
「あの人ね、寝取られフェチなの」
でも軽蔑しないけどね・・・あたしにはちょうどいい旦那だしと、うそぶくことも忘れずに。

再び戻ったホテルのロビー。
ノーストッキングの足取りを、何事もなかったように物静かに進める先で、ご亭主殿はうやうやしく王女様を出迎えて、
こちらのほうは気づきもしないというそぶりで、華恵を自分の車に乗せた。

「監視している訳じゃないんですって。少しでも長く私と一緒にいたいんですって」
さすがに亭主殿送り迎えの情事ばかりは気が引けたので、華恵の勤め帰りに密かに招き寄せると、
「きっと今夜のことも、知ってるわ~。のけ者にしてかわいそうだけど、たまにはいいよね」
と、華恵は自分を言い聞かせるように、人のいない隅っこのテーブルを見た。
そこに座っているご亭主殿に、まるで許しを請うように。
「あたしね、治らない病気持ってるの」
自分の生命が近々終止符を打つことを、女はまるで他人ごとのように語った。

月に一度は、白藤は妻の情事の送り迎えをした。
公式にふたりの関係を認めるのは、月一だという約束を、ひとりで律儀に守っていた。
新婚のはずの白藤夫人は俺とのセックスに耽り抜くと、「終わったわ、帰る」と、旦那を尊大な声で呼び出して、帰っていった。
それ以外の逢瀬は、いままでどおりだった。
白藤が苦情を言いたてているという話は、ついに華恵の口からは聞かれなかった。
「うちでもがんばっているからね♡」
華恵は結婚したばかりの夫との仲睦まじさも、自慢らしい。
家では影さえ寄り添うほどに、頻繁に身体を重ね合っていると、あっけらかんと俺に告げた。

白藤とはその後も付き合いを重ね、連れ立って酒を飲むほどの仲になっていた。
ご亭主殿と間男とは、本来仇敵同士の関係のはず。
けれども白藤は、おなじ女性を好きになったわけですから――と俺に遠慮をさせないで、
その代わり、しっかり割り勘ですよ、と、よけいな気遣いさえもさせなかった。
「嫁を征服された旦那と飲んだご経験、貴男ならありますよね?やっぱり優越感って感じますか?」
そんなことまで、爽やかに言ってのけてしまう男だった。
そうだな、やっぱり肚ん中では、俺はお前の嫁の御主人様なんだって、思っているかもな――俺がそう応じると、
仮にそうでもかまいませんよ、と、白藤は返した。
ぼくね、結婚前からおかしな話なんですけど、もしも自分の妻が浮気をしたら――って考えていたんですよ。
でもそのときには、相手の男とはケンカをしないで、仲良くなりたい そんなこと、考えていたんです。
華恵さんの彼氏が、貴男のような人で良かった――とまで、白藤はいった。
俺の前では、妻の名を呼び捨てにしない気遣いさえ、見せてくれていた。

華恵が入院してしばらくたったとき、俺は白藤の呼び出しを受けた。
少し遅れてロビーに現れた白藤を見て、俺は絶句した。
地味めなグレーのスーツに、白のリボン付きのブラウス。肌色のストッキング。
白藤は、華恵の服を身にまとっていた。

男を相手にするなんて、だれから訊いたんだ?
その問いは、愚問というものだろう。
華恵は俺がしばしば、寝取った人妻の夫を女として愛することを知っていた。

その晩は、それまで過ごしてきた夜のなかでも、屈指のひとときだった。
華恵のスーツを身にまとった白藤は、徹頭徹尾、華恵になり替わっていた。
そう、セックスの癖までも――
俺はやつの脚から華恵のストッキングをずり降ろして、黒のレエスのショーツを剥ぎ取ると、
まるで華恵にそうするように、白藤に対して果てていた。
いつもより長く、相手の身体の中に身体を埋めて、
いつもより余計に、交わした熱情の残滓を、たっぷりと注ぎ込んでしまっていた。
華恵を愛した一物を口に含みたいと願ったときだけ、白藤は夫らしい顔つきになった。
過去に数えきれないほど華恵を愛したそれを、わたしに手入れさせてくださいと、やつは心から願ったのだ。

あくる朝。
しずかに一礼して立ち去る姿は、その楚々とした歩きぶりまで、華恵とうり二つだった。
俺の手には、華恵から――いや白藤の脚から抜き取ったストッキングが、まだ体温を帯びてぶら提げられていた。
華恵の脚から抜き取ってきた数多くのストッキングと同じくらい貴重なものに、思えていた。

華恵がこの世からいなくなったのは、それからしばらく経ってのことだった。

「お待ちになりましたか」
「いんにゃ、いま来たとこだが」
かつて華恵と交し合ったやり取りを、俺はいま白藤とくり返すようになっている。
やつは会社でも、かつて華恵のいたポジションで、OLとなって働いていた。
少しでも過去の華恵と近づきたいと、自分から願い出たという。
華恵は、きりっとしたスーツ姿を好んでいた。
きょうは臙脂のスーツでキメた華恵・・・いや白藤は、俺と腕組みをすると、さっそうとした足取りで部屋へと向かう。
ホテルのロビーにカッカッと響きわたるヒールの音さえ、華恵とうり二つだった。
足許を覆うストッキングは、俺にいたぶられるのを予期して、きょうも真新しい高価なもののはず。
さて、きょうはどんなふうに責めてやろうか?
俺は女の肩に手をまわし、ギュッと横抱きにして、部屋へと引きずり込んでいく。


あとがき
白藤が新妻と頻繁に床を重ねたのは、華恵になり切るためだったのかもしれません。
結婚当初から、華恵なきあと「俺」を慰める役割まで意識していたのでしょうか。。
それにしても、独身のころから嫁が寝取られたときの心の用意をしているとは。
華恵と「俺」とは腐れ縁だったかもしれませんが、「俺」と白藤とも、よほどのご縁だったようです。

互いの目線

2021年07月12日(Mon) 17:27:05

彼が好む、ストッキング地の長靴下を脚に通して、
勤め帰りのスラックスのすそを、引き上げて、
吸いつけられてくる唇を、さりげなく避けようとしながらも、
強くは拒まず、受け容れてしまう。
じっくりと辱めるように、なすりつけられる唇に、
苦笑を洩らしながら、応えていって、

舌触り、愉しめますか?
ぼくの血は、美味しいですか?

そんなことばかり訊いてしまう。
相手は妻の情夫。
妻を抱いた帰りに、まださめやらぬ性欲の切っ先を、夫に対して向けてくる。
引きずり込まれた草むらの中、
お互い肩で息をするほど乱れあい、
スラックスを浸した粘液の名残をきにかけながら、つい訊ねてしまう。

家内の肉体は、愉しめましたか?
ぼくの身体は、どうでしたか?

彼はこちらを見ようともせずに、捨て台詞のように呟いた。
――奥さんは自分のことばかりなのに、あんたは俺のことを気にするんだな。

怨みごと

2021年07月12日(Mon) 17:15:59

同じ男の見立てた服を着て。
同じブランドのストッキングを脚に通して。
その男のところに、夫婦で訪れて。
肩を並べ、息はずませ合いながら。
代わる代わる犯される。

先に差し出されたペ〇スにしゃぶりつき、
これから妻を犯そうと逆立つ一物を、根元まで口に含んで、
きれいにくまなく舐めて、
その見返りに、妻を汚す粘液を、、口の中にぶちまけられる。
鋭い芳香にむせぶその傍らで、妻は着飾った服もろとも組み敷かれ、
わたしの妻ではない、べつの女へと堕ちてゆく。

夫婦で肩を並べて髪振り乱し、
ブラウスをはだけられ、
ブラジャーの吊り紐を断ち切られ、
スカートを腰までたくし上げられて、
ストッキングを半脱ぎにされて、
同じペ〇スで、股間を冒される。

ひとしきり、嵐が過ぎ去ると。
妻は静かにわたしをかえり見て、怨むのだ。
――あなたとのときのほうが、燃えてるみたい。

煙草の吸いさし

2021年07月12日(Mon) 09:10:18

勤めから帰宅すると、ダイニングテーブルのうえに置かれた灰皿に、
口紅の着いた吸いさしの煙草が一本、ななめに置かれていた。
情夫の癖で覚えた煙草――妻のものだった。
彼に寝取られるまで、妻が煙草を口にすることはなかったはず。
癖の変化すらもが、妻がほかの男のものになったのだと、さりげなく、毒々しく、伝えてくる。

情事に出かけることを無言の裡に伝えるとき。
妻はいつもこうやって、吸いさしの煙草を残してゆく。
たまらなくなったわたしは、きっとふたりがいるであろうあの土手を目ざして、
ソファに腰を降ろすこともなくきびすを返していった。

夕暮れ刻の薄闇のなか。
煙草の焔が点になって、灯っているのが遠目に映る。
わたしは用心深く物陰を伝っていって、ふたりの腰かけているベンチのすぐそばまでたどり着いた。

煙草を吸っているのは、男。
その男の肩にもたれかかっているのは、妻。
妻は夢見心地になって、さっきまで交し合っていた愛を反すうしている様子。
男はやがて、妻をふり返り、
吸いさしの煙草を、妻に差し出した。
それを自分の唇に含んだ妻は、
うっとりとした表情を消さないままに、煙草を味わった。

もつれ合いながら立ち昇る烟を、だれ追うこともなく、
夕映えにひと群れの影を投げると、
それもつかの間、消えてゆく。

男は妻から煙草を受け取ると、もういちど自分の唇にそれを含んだ。
ふたりの気持ちが通じ合っているのだと、いやでもわかる雰囲気だった。
わたしは足音を忍ばせて、そっとその場を立ち去る。
もう一時間、いや二時間か――
妻をあの男にゆだねておこう。
かりにわたしだけの場所であった処を、
彼が思いのままにしてしまうとしたとしても・・・

隷属の証し。

2021年07月12日(Mon) 06:12:13

奥さんのストッキング穿いているんですか?
スラックスから覗く足首が透ける靴下の薄さに、つい訊ねてしまった。
いいえ・・・
同僚はにこやかにほほ笑んで、スラックスのすそをそっとたくし上げる。
濃紺の薄地のナイロンはグーンと伸びてひざ小僧の下まで覆っていて、
ひざ下を鮮やかに横切る口ゴムの太さは、同僚の履いている靴下が紳士用だと告げていた。

毎日 ですか?
毎日 ですよ。
そう、同僚の足許を染める靴下の薄さは、毎日のものだった。
毎日・・・破られているんです。
同僚は、困ったような顔つきでそうつづけた。
どういう意味ですか?
家内を犯している吸血鬼に、ですよ。
さすがにそこは、小声だった。
奥さんの血を吸っている吸血鬼は、毎日のように同僚をも襲い、足首を咬んで薄い靴下を咬み剥いでいく というわけだ。

奥さんのストッキングを、吸血鬼の弄びものにしても良い――
そんな意思を抱いた夫が、脚に通したのが初めてだという。
自分も同じように、薄い靴下を破かれて、弄びの対象となってゆく。
そうすることで、襲われた妻と同化するのだと。
同僚はそう、教えてくれた。

わざわざ教わらないでも、わかっていたことなのかも。
そういうわたしも、同僚とお揃いの靴下を毎日履いて出勤している。
妻を明け渡した吸血鬼から、「支給」されたもの。
わたしは毎日それを履いて出勤するよう、命じられている。
毎日微量づつの血を吸い取られて、
靴下だけはくまなく舐められ、派手に咬み剥がれていった。

妻の情夫を満足させるための装い。
薄い靴下を脚に通すことが、隷属の証しとなっていた。

妻の愛人にと、いまの情夫を紹介してくれた上司も、
おなじ靴下を履いている。
そういえば――彼がわたしに紹介したのは、自分の奥さんの情夫だった。
上司だけではない。
見渡せば、ほとんどの男性社員が、同じ薄い靴下を履いている。
好みによって、濃紺か、黒か。
色の違いはあるけれど、男の踝には不似合いな薄さ、なまめかしさが、スラックスのすそから覗いている。
まるで社の制服のように、だれもが申し合わせたように、踝を薄っすらと染めている。

素肌にしんなりとなじみ、吸いつくように足許を覆う。
それはしなやかな隷属の証し、
吸血鬼に嵌められた足かせなのだ。

強いられて 染められて ~吸血鬼の愛人となった妻~

2021年07月03日(Sat) 11:11:32

「清川くん、ちょっと」
上司に呼ばれて別室に招かれたわたしは、とうとうきたな、と思った。
当地に転勤してきて、一週間たっていた。
オーナー社長の出身地であるこの街は、吸血鬼に支配されていて、
過疎化の進む故郷に棲む彼らに若い血液を提供するために、
社員とその家族たちが、次々とこの任地に送り込まれていた。

席に着くと上司は言った。
「きみの奥さんを見て、気に入ったという人がいるんだが」
否やはなかった。
妻の貴美恵は36歳、まだ子どものいない夫婦だった。

言いにくそうにしている上司の言わんとしていることは、すぐにわかった。
わたしの役目は、貴美恵をその人に引き合わせ、献血させること。
そして、既婚女性を相手に行われる献血には、ほとんど例外なく性行為を交えるのだ。

お相手のお邸は、何丁目のはずれの大きな洋館、きみの家からはちょっと離れているね。
きみ、車を持ってきているね。送り迎えをしてあげるといい。
わたしが上司から仰せつかったのは、強制的に不倫させられる妻の、送り迎えだった。

上司はさらに言いにくそうに、つけ加える。
「お相手の男性は、うちに勤務する社員の奥さんや娘さんを、なん人もモノにしている。
 私の家内も――彼の愛人のひとりに加えられていてね。
 きみの奥さんのことを家内に話したら、
 “若いひとがライバルになるのは、おだやかじゃないわ”と、笑っていたよ」

部屋から出ると、事務所の面々のそれとない視線を感じる。
だれもが、部屋の中でなにが話し合われたのかを、感づいているのだろう。
そしてだれもが例外なく、妻や娘をこの街の吸血鬼の餌食に供している。
わたしも彼らの、仲間になるのだ――


帰宅するとわたしは、明日の夜車で出かけることを、事務的な口調で妻に伝えた。
いつもよりおめかしをして、ストッキングを穿いていくように――
さりげない言葉を口にするときに、ふと声が震えた。
ストッキングを穿いた脚に咬みつくのが、彼らの好みだった。

「わかりました。そのひとのところに行って、献血して来れば良いんですね」
妻は、感情を消した顔をして、必要なことだけをこたえた。
献血だけではすまないことをお互いに知りながら、ついにその話題は口にされなかった。
「あーあ、もう三十半ばだし、おいしくないって言われたら悲しいわね」
妻はわざと人ごとのように、のんびりと呟いた。
おいしいかどうか――もちろん、血液の味だけの意味ではないのを、
わたしは聞き逃さなかった。


夜。
勤務を終えたわたしは早めに帰宅して、妻を車に乗せて街はずれの邸へと向かった。
勤め帰りを迎えた妻は、よそ行きのスーツ姿。
いつもより濃いめの化粧が、彼女の決意を感じさせた。
薄茶色のストッキングは、きっと真新しいものなのだろう。
ツヤツヤと微かに輝いて、妻の足許を艶めかしく染めていた。
門の前に車を停めると、妻は助手席から降りてわたしに一礼した。
これから夫を裏切ることを、謝罪するようにみえた。

細い指がインターホンを押すと、その音に応じて邸の主が姿をみせた。
上司よりも年配の、冴えない感じの男だった。
妻の相手がわたしたちよりもはるかに年上であることと、
風采のあがらない男であることに、なぜか少しだけ安堵した。

彼は妻の傍らに寄り添うと、慇懃にお辞儀をしてきた。
わたしもお辞儀を返していた。
吸血鬼に促されるままにドアの向こうに姿を消す直前、
妻はこちらをふり返り、もう一度わたしに向かってお辞儀をした。
深々としたお辞儀はどことなくよそよそしくて、
悪い予感を振り払うのに、かなりの苦労を伴った。

いまごろ妻は、リビングに招き入れられているのか。
いまごろ妻は、名前を名乗りよろしくお願いしますとでも受け答えしているのか。
いまごろ妻は、相手に背中を見せて、目を瞑っているのか。
いまごろ妻は、化粧を刷いた顔をしかめながら、首すじを咬まれているのか。
いまごろ妻は・・・
想像するのはよそうと想いながらも、
わたしは家に車を向けることもできず、
邸の正面の空き地に車を停めたまま、車外に出る勇気さえ持てずにいた。
あたりはすっかり、暗くなっていた。
結婚記念日に買ったあのまっ白なブラウスは、
抱きすくめられた猿臂のなかで、持ち主の血しおに染まってしまっただろうか。
妻が脚に通していた、あの薄茶色のストッキングは、
じゅうたんの上に転(まろ)ばされたふくらはぎから、咬み破られてしまっただろうか。

30分ほど車を停めていると、携帯が鳴った。
声の主は妻だった。
「献血、無事にすんだわ。あのかた、あなたに帰るように言ってる。
 私、ひと晩泊っていくことにしたから」
つとめて平静さをつくろった声色だった。
「だいじょうぶなのか?」
思わず投げた言葉に、「私は大丈夫」と妻は応えると、「早く帰って」とくり返した。
「ひと晩泊っていくことにした」という表現に、妻の意思を感じた。
その場で蹂躙され、夫とともに帰宅するのではなく、
もっと長い刻を相手と過ごすことを、妻は“女”として選んだのだ。
遠ざかるエンジン音を聞きながら、
きっと妻は、スカートをたくし上げられていくのだろう。
無人のわが家に戻ったとき。
ちょうどいまごろ、妻の貞操が蕩かされているのだと直感した。

想像のなかの妻は、歯を食いしばって男にしがみつき、夢中で腰を振っていた。
歯がみをしているのは屈辱のためではなくて随喜をこらえているのだ――
そう感じても、なぜかこみ上げてきたのは、怒りや虚しさではなかった。
不思議なことに。
わたしは想像のなかで、ひたすらがんばれと、妻を励ましつづけていた。

妻の生還を祈る気持ちでそうなったのか。
きっとそれもあるだろう。
生存に必要な血液まで引き抜かれてしまわないように、
わたしのいないところでも、なんとか身を守ってほしいと願っていたはず。
けれどもそのいっぽうで、妻が気にしていたように、
「若くないし、おいしくないって言われたら悲しい」
という想いも、心の片隅に泛んでいた。
そのためには、妻の血は吸血鬼を愉しませ、たっぷりと吸い取られなければならなかった。
つかの間の栄養摂取で終わってしまうのは、夫としても悲しいと思った。
男には、妻の血で悦んでもらいたかった。

妻が犯されることは、夫としては耐え難いはずなのに。
そのいっぽうで――
せっかく捧げた妻の貞操を、男が重宝してくれないのは無念だとも思った。
むぞうさな性欲処理で終わってしまうのは、夫としても悲しいと思った。
妻の女ぶりに魅了されてほしいと、心のどこかで願っていた。


長い長い夜だった。
こんな夜でも、独りで寝ていても、まどろむことができたのか。
わたしは車のエンジン音で目ざめた。
玄関に出ると、ちょうど妻が車の助手席から降りてくるところだった。
妻は、少し蒼ざめていたけれど、ふだん通りの妻だった。
向こうで化粧を直したのか、夕べのように濃いめの化粧を刷いていた。
そして、ストッキングを穿いていなかった。

運転席には、あの男がいた。
わたしにはわざとのように声もかけずに、妻がわたしの傍らに立つのを見届けると、
ふたたびエンジン音を轟かせて、走り去っていった。


「あの、これを・・・」
勤めに出るまぎわ、妻がわたしを呼び止めて、
細い指でつまむようにして、小さな紙包みを突きつけた。
「これを、あのかたにお渡しして」
きまり悪そうに視線を下げて、押しつけるように紙包みを差し出してくる。
脱がされたストッキングを相手の男性に与える行為は、
求愛を受け容れるという無言の証し。
上司からきいたとおりの作法を妻が見せたことに、わたしは息をのんでいた。
わたしはちょっとためらったけれど、妻からその紙包みを受け取った。
妻から託されたものを受け取る行為は、
妻の不倫を許し情婦として差し出すという、無言の意思表示。
「すみません」
と、頭をさげる妻に、
「いいんだよ」
と、こたえるわたし。
この街に入ると決めたときに、こうなることはわかっていた。
わたしにできる唯一のことは、この街の住人として、誠実に振る舞うことだけだった。


出社したわたしは、タイムカードを押すと社を出た。
夕べの邸を訪れると、邸の主はわたしを家にあげてくれた。
思ったよりも広く、こぎれいなリビングだった。
この部屋で、“儀式”は執り行われたはず。
まっ赤なじゅうたんは、妻の血を吸ったのだろうか。
じゅうたんに点々と散った白い斑点は、妻を汚した精液のなごりだろうか。
わたしは男に無言で、妻から託された紙包みを手渡し、
男も生真面目な顔つきをして、それを受け取った。
そしてむぞうさに包みを破ると、中身を取り出した。
細長い薄絹が、蛇のようにおどろおどろしく、姿を見せた。
男はそれに軽く頬ずりをして、大きく裂けたあたりに口づけをした。
まるで妻自身にそうするように、熱烈に。
「家内の血はお気に召しましたか」
「おおいに気に入りました」
男はいった。
「まんまとやられてしまったようですね」
「あなたのおかげでもあります」
「え」
「車で、連れてきてくださったではありませんか」
そう、妻に強制的に不倫をさせることに、わたしはたしかに片棒を担いでいた。
「今夜は、ご自身の脚で歩いて見えられますよ」
「え」
「私がお招きしたのです」
男はひどく、手回しが良かった。

インターホンが鳴り、男が席を起って、それに応じた。
ドアを開けて、伴ない招き入れたのは、まぎれもなく妻だった。
濃いめに化粧を刷いた妻が、ちょっと驚いた顔をした。
はち合わせになるとは、思っていなかったのだろう。
わたしの勤務中に、妻は不倫を遂げにここに来たのか。
妻は夕べと同じように、真新しいストッキングを脚に通していた。

わたしは、物分かりの良い夫になるしかなかった。
「今夜も家内を泊めてもらえますか」
とわたしが問うと、
「ご主人さえご迷惑でなければ、ぜひそうしたい」
と、男。
「ぜひ泊めていただきなさい」
とわたしが促すと、
「そうさせていただきますわ」
と、妻。
「おめでとう」
と言い残して立ち去ろうとしたわたしは、ふたりに呼び止められた。
そして、強制不倫が婚外恋愛にすり替わったことを、ひと晩かけて見せつけられた。
夫婦で吸血鬼の邸に泊った夜。
妻は美々しく装った盛装を惜しげもなく剥ぎ取らせ、
二足目のストッキングを、わたしの前で脱がされていった。


あとがき
自分の妻を狙う吸血鬼が、先に上司の奥さんを陥落させちゃったり。
妻の血を吸わせ抱かせるために、送り迎えをさせられちゃったり。
それでも妻が気に入られるように、願っちゃったり。
初めて抱かれたときに穿いていたストッキングを託されちゃったり。
それを妻を抱いた男に、届けちゃったり。
夫のほうが、主人公になっていますね。いつものことながら。(笑)

レトロな喫茶店の女

2021年03月29日(Mon) 07:26:33

喫茶店”昭和”は、午後六時が閉店である。
マスターが淹れるコーヒーを目当ての客は、
だいたいそれくらいまでには退散して、
心は晩ご飯に移るからである。

マスターの妻兼ウェイトレスの華子は、きょうも「準備中」の札を玄関に出して、
恰好の良い脚を投げ出すようにして亭主のいるカウンターまで戻ってきた。
齢には若作り過ぎるエプロンつきの黒のミニスカートからは、
黒のストッキングに包まれた脚をひざ上10センチまで、
惜しげもなく人目にさらしている。
常連客の半分はマスターの淹れるコーヒーを、
残り半分は華子の脚を目当てに店に来ているというほどだ。

「クリーニング行ってくるわね~」
華子は先日出しそびれたウェイトレスのユニフォームを袋に詰めながら、
くわえ煙草の亭主にそういった。
「ん」
亭主は返事をを返すともなく返し、妻のほうは片手間で、道具の手入れに余念がない。

ジーンズに着替えてから行こうかと思ったが、
きょうのクリーニング店の閉店時間が押せているのに気がついた。
きょうは常連客のひとりがなかなか帰らなかったので、閉店が少し遅くなったのだ。
「じゃ、行ってくる」
華子は亭主に背を向けて、ウェイトレスのユニフォームのミニスカートをひるがえして、店のドアを開けた。

クリーニング店の親父である善八郎氏は、亭主と似た肌合いの律儀な職人だった。
行きつけのクリーニング店だったので、始終顔を合わせていたけれど、
喫茶店に行く習慣を持たなかった善八郎氏は、
いつも洗濯ものを持ち込む華子のユニフォーム姿を見たことが無かった。

「きゃあ~」
クリーニング店の店先で、女の叫び声があがった。
初めて見る華子のウェイトレス姿に、親父が熱をあげたのだ。
周囲の家々は事情をよく心得ていたので、「またか」と思ったらしく、
だれもが店に近づこうとはしなかった。

ミニスカートのエプロンに血を滴らせたままのホラーななりで、
華子は店に戻ってきた。
ちょうど道具の手入れを終えた亭主は、びっくりして妻をみた。
「姦られちゃった~」
華子は投げやりにそういうと、店のボックス席に脚を放り出すようにして腰かけた。
亭主は穏やかな男だった。
華子が常連客相手に浮気するのを、なんども見てみぬふりをしてきたので、
これまた「またか」という想いもあったのだろう。
それでも、首すじから血を滴らせて戻ってきた妻の様子を気遣って、
「だいじょうぶか」
と、近寄ってきた。
見ると、黒のストッキングには幾筋もの伝線が、ブチブチと走っている。
咬まれた痕は楕円の裂け目になって、そこを起点に上下に伝線が走っているのだ。
「なんだかセクシーだぞ、おい」
「いつもはそうじゃないみたいじゃない」
華子はからむように言った。
「いつもセクシーだけどさ」
そういいながら亭主もまた、情事を済ませたほやほやの状態の妻が放つ毒気に鼻白んでしまっていた。

「こっちのクリーニング代は、ただにしてくれるって。そりゃそうよね。
 で、店開けて待っててくれるっていうから、出直すね」
華子は今度こそジーンズに着替えて、もういちど出かけていった。
「行かせていいの?」
店を出ぎわにふり返った妻に、亭主は「気をつけてな」とだけ、いった。
態度はちょっと見には冷淡だったけれど、瞳の奥に渦巻くものを察して、華子は納得したような顔をすると、
「じゃ」
とそっけなくひと言発して、ドアを閉めた。

華子が店に戻るのに、三時間かかった。


――お話に登場する人物、店舗は、実在のものとは関係ありません。念のため――

クリーニング店の女。

2021年03月27日(Sat) 09:14:04

善八郎氏は、腕のよいクリーニング店主である。
得意はシミ抜き。たいがいのシミは取ってのけるという。

その善八郎氏が腕を磨いたのは、おかみさんの服のおかげである。
三年前、息子が吸血鬼に襲われて血を吸われた。
吸血鬼と、餌食となった少年とのあいだには、しばしばホモセクシュアルな関係が生まれる。
善八郎氏の令息の場合も、例外ではなかった。
それ以来令息は、血を吸われる歓びに目ざめてしまい、
みずみずしい首すじや、ハイソックスの脚をなん度も咬ませ、服を汚されていった。
もちろん、母親にはすぐにばれた。
吸血鬼は、その母親をも襲った。

善八郎氏の夫人は、ふつうのクリーニング店のおかみさんである。
けれども、おかみさんにだって亭主に操を立てるつもりもあれば、意地もある。
徹底的に抗った。
けれどもその態度は、吸血鬼のおかみさんに対する尊敬を増しただけのことだった。
尊敬したご婦人とは必ず関係を結ぶ――それが吸血鬼氏のモットーだったので、
結局のところおかみさんは、吸血鬼に血を吸われ、モノにされてしまった。
なん度もの熱情あふれる吶喊を無防備な股間で受け止めながら、
さすがに気丈なおかみさんもじょじょにほだされてゆき、
さいごにはご主人の眼の前でもっと!もっとォ!と、せがんでしまっていた。

いつもカウンターの陰で見えないけれど、
おかみさんはいつも派手な柄のスカートを穿いていて、
てかてか光るストッキングを脚に通していた。
そのテのストッキングが、彼女を襲った吸血鬼の好みだったから。

居合わせた善八郎氏も夫婦ながら血を吸われ、こちらは洗脳されてしまった。
気がつくと、吸血鬼のまえで手を合わせて、
わしがいるときでもかまわないから、女房を襲ってほしいと懇願していた。
吸血鬼が喉をカラカラにしてクリーニング店に来た時には、令息かおかみさんが相手をすること。
血に濡れたふたりの服で、善八郎氏は職人としての腕をみがくこと。
善八郎氏はそう書かれた証文に、律儀に判を押したのだった。

以来善八郎氏は、情事の痕跡にまみれた女房の服で、染み抜きが得意なクリーニング店主になっていった。


その日はたまたま、おかみさんの血を目当てに、吸血鬼がクリーニング店にあがりこんでいた。
そういうとき、善八郎氏は奥から出てきて、おかみさんの代わりにカウンターに立つことにしていた。
カウンターに立っている間は、女房が吸血鬼に抱きすくめられ、犯されている刻。
自分の背後でなにが行われているのか想像しただけで、
善八郎氏は妖しい昂りを抑えきれなくなるのだった。

木島夫人がクリーニング店に立ち寄ったのは、ちょうどそんなときだった。
「はい、こちら。お願いします」
上品なワンピース姿が、
楚々とした立ち居振る舞いが、
髪を掻き上げてすっきりと露出した首すじが、
善八郎氏の犬歯を疼かせた。
気がついた時にはカウンターを乗り越えて、悲鳴をあげる木島夫人を店先で抑えつけていた。
幸か不幸か、人は誰も来なかった。

どんなふうにかぶりついたのか、よく憶えていない。
なにしろ、初めてのことだったから。
けれども、バラ色のしずくに頬を濡らした木島夫人は善八郎氏の腕のなかで絶息し、
引きずり込まれた居間で脚を大きく開いて、
微かに残った意識をたぐりながら、いけません、いけませんと、囁きつづけていた。
嵐が過ぎ去った後、ワンピース姿は落花狼藉の痕跡にまみれ、
荒々しくずり降ろされたストッキングには、善八郎氏の欲情の残滓が白く濁ってへばりつけられていた。
夫人の着ていた花柄のワンピースの肩先は、血に濡れていた。
首すじには、みごとな咬み痕が、吸い残された血潮をあやしてテラテラと光らせていた。

「これは、とんだことをしたね」
情事を終えて出てきた吸血鬼をみて、善八郎氏はむしろ救いの手を見出した気分だった。
「だいじょうぶ、なんとでもなる」
吸血鬼はそういうと、奥さんに気付け薬を嗅がせ、正気づけてやった。
それから、クリーニングするために持ってきた服に着替えさせて、いま着ていた服を逆にクリーニングするよう善八郎氏に指示した。
「この服をクリーニングしてもらいたかったら、ワンピースを受け取りに来たときに着てくることだな」
吸血鬼は奥さんをやんわりと脅迫した。

その晩、木島夫人は夫に伴われて、クリーニング店を訪れた。
吸血鬼はそんなこともあるだろうと、家に居座り続けていた。
もちろんそのあいだは、素っ裸にされたおかみさんが、吸血鬼に始終付き添っていた。

木島氏は、ものわかりのよいご主人だった。
「家内のことはどうぞご内聞に。その代り今夜はこちらに泊まらせてやってください。
 明日の朝、着替えを持参して迎えに参りますので」
クリーニング代をただにするという申し出を丁重に断って、ご主人は一人で帰っていった。
「家内の操はクリーニング代ほど安くはありませんよ」と、笑いながら。


「木島さん、お見えですよ~」
木島夫人が洗濯物を携えてクリーニング店を訪れると、おかみさんの声をいつになく弾みを帯びる。
きちんとした身なりのいいとこの奥さんが、禿げ頭でゆでダコのような頭をした自分のダンナにもてあそばれるのが、いっそ小気味よかったのだ。
ダンナが浮気をする――といっても、自分のことを考えればおあいこではないか。

木島家のクリーニング店の来店頻度は、見る間にあがっていた。
この日も木島夫人は、紅をいつもより濃いめに刷いて、夫婦のまえであでやかに笑う。
健康そうな白い歯が、笑うおとがいのみずみずしさが、自分たちにはもうない若さを感じさせた。
夫人の着てきたスーツは、紺のよそ行きのものだった。
「この格好のまま、クリーニングお願いしますね」
奥の部屋であおむけになると、夫人はそう言って、目を瞑る。
首のつけ根に突き立てられた牙が皮膚の奥深く刺し込まれ、ジュッと撥ねた血がジャケットの肩先を濡らすのを、むしろ小気味よく受け止めた。


吸血鬼が自分の女房に目を留めたことを、いまでは善八郎氏は誇りに思っている。
だから、それまでは冴えない身なりをしていたおかみさんが、
カウンターに隠れて派手なスカートやてかてか光るストッキングを穿くのを、
むしろ好ましいことだと思っている。
無造作に奪われた操だったが、善八郎氏にとっては、最愛の妻のものだった。
仮に料理の前菜や間食のお芋代わりに過ぎなかったとしても、
その瞬間だけは吸血鬼を夢中にさせていることを、好ましくさえ感じている。

ピンクのスーツの女。

2021年03月26日(Fri) 07:09:33

深い昼寝の後の寝起きのような、すっきりとした気分だった。
眠りから覚めた志摩子は起きあがると、娘の佳菜恵をさがした。
自分が吸血鬼に犯されたとき、娘は二階にいたはずだ。
軽い貧血を覚えながら階段を伝いのぼると、
佳菜恵は二階の和室に、来た時のピンクのスーツを身に着けたまま、うつ伏せに倒れていた。
ふくらはぎに赤黒い咬み痕が二つ、吸い残した血をあやしてくっきりと付けられ、
半ばずり降ろされたグレーのストッキングが、咬み痕をから縦縞模様のように鮮やかな伝線を描いていた。
首すじにも咬み痕がついていたが、ジャケットもブラウスも汚れていなかった。
噛むときにも必要以上に着衣を汚さない手際の良さを自慢する情夫の笑みが、心のなかで交錯した。

志摩子の穿いている黒のストッキングも、形を成さないほどに裂け目を拡げている。
一婦人としては侮辱であっても、それが深い寵愛のしるしだというのなら受け入れよう――と、志摩子はおもっていた。
着衣に汚れはないといっても、スカートの裏地までは保証のかぎりではなかった。
白くべっとりと濁った粘液が股間の奥まで浸しているのは、さすがに母親であっても確かめかねた。
自分自身がスカートの裏地を濡らされていたので、娘がどうされたのかを確かめる必要はなかったのだ。


「いらっしゃい」
クリーニング屋のおかみさんは、いつも通りの不景気な声と顔つきで、客を迎えた。
客は若い奥さんだった。
「これ、お願いします」
奥さんはよどみない声で、大きな手提げ付きの紙袋に入れた洗濯物を取り出した。
若向けのピンク色のスーツだった。
おかみさんはいつものように、慣れた手つきで服を点検した。
「この汚れは――」
思わず口にした後、そうしたことを少し後悔したけれど。
若い奥さんのほうが、一枚上手だった。
「ああこれ」と彼女は呟くとすぐに、
「男の人の・・・アレですワ」
と、ぞんざいに言った。
最近の若いひとは・・・と内心思いながらもおかみさんはスーツを拡げ、ほかのところも点検すると、
染み抜き300円追加になりますがと、いつものようにそういった。
若い客の立ち去り際におかみさんは、男の人というのはご主人ではないのではないかしらんとおもった。
その若い奥さんの首すじには、彼女が首すじにつけられたのと同じ痕が、やはりくっきりと泛んでいたから。

日帰りで実家に戻った妻が、違う服を着て戻ってきたのを見て、夫のタカシは軽い昂りを覚えた。
ピンクのスーツは水玉もようのワンピースに、グレーのストッキングは肌色に化けていた。
「お義母さん、元気だった?」
「元気よ~、頼もしくなるくらい」
タカシは佳菜恵がなにを形容しているのかを、正確に悟った。
ふたりの母娘が同じ吸血鬼を相手に、若々しい血潮を気前よくあてがい、そのあと犯されたことを。
「あッ!やだ!何するの!?」
後ろから巻きつけられた夫の腕に、佳菜恵は形だけの抗いを見せた。
「あいつには許すのに、オレはだめなのか?」
切羽詰まった夫の声に、「自信持ちなさいよお」と、妻はのんびりとこたえた。
夫はしかし、妻を台所に生かせようとはしないで、その場に押し倒した。
「あっ、もう!」
畳で膝を擦ったはずみにストッキングが破れた。
恨めしそうな上目遣いが、さらに夫をそそった。
夫は両手で、妻の穿いている肌色のストッキングを引き裂いた。
すったもんだが、始まった。

「今子供出来たら、どっちの子どもか分からなくなっちゃうよ」
白い歯を見せて無邪気に笑う佳菜恵に、
「どっちでも大事に育てる」
タカシはそう誓いながら、自分の言葉に興奮をして、
もう一度、佳菜恵のワンピースのすそを生温かく濡らしていった。

喪服の女。

2021年03月21日(Sun) 08:57:19

雨の日だった。
クリーニング店の軒先をくぐると、おかみさんがいつものように不景気な顔つきで、カウンターの前所在無げに佇んでいた。
志摩子の姿に気づくと「あら、いらっしゃい」と、急に愛想笑いを浮かべ「クリーニングですね」と、言わずもがなの問いを発した。
おずおずと差し出された風呂包みを丁寧にほどくと、きちんと折りたたまれた喪服が一式、行儀よくうずくまっている。
洗濯もののかごに放り込む前に、喪服にシミや汚れがないかを申し訳のように点検すると、
スカートの裏地に薄ら白いシミが拡がっているのが見て取れた。
おかみさんは、志摩子の顔をふと盗み見た。
志摩子はそれに敏感に気がついて、さりげなく目を逸らす。
おかみさんは何もみなかったような顔をして、染み抜き300円追加になりますが、とだけ、言った。

代わりに受け取った洗濯物も、喪服だった。
こちらは、夫を弔うときに着ていたものだった。
クリーニングに出した方は、そのあとに新調したもの――いまつき合っている男の趣味だった。

貞操堅固な未亡人でいるつもりだった。
けれども、状況がそれを許さなかった。
娘夫婦に吸血鬼がとりついたのだ。
不覚にも娘はあっという間に血を吸い取られ、あまつさえ吸血鬼の愛人にされてしまっていた。
まだ、子供のできる前の身体だった。
志摩子未亡人は、身代わりを申し出た。
それでは婿があまりにもかわいそうだからと。
吸血鬼は、意外にも情のある男だった。
血液さえ確保できれば、相手は若妻でなくても良い、と考えていた。
私は未亡人ですから、どこにも迷惑は掛からない――志摩子はそういって、娘の身代わりを引き受けた。
間もなく、娘の夫は転勤になって、この土地を離れた。
どちらにしてもよかったのだ――と、志摩子はおもった。

いつも情事を行うのは、床の間のある部屋だった。
男は、仏間での交接を望んだ。
人妻をものにするとき、夫に見せつけたがるという、よろしくない趣味をもっていたのだ。
もっとも夫の苦痛を軽減するために、まず夫の血を吸ってたぶらかしてしまうことも忘れなかったのだが。
志摩子は未亡人だったから、そんな気遣いさえも、無用だった。

その夜の床の間には、盆栽がしつらえられていた。
夫が生前、丹精していたものだった。
その前は、蔵書だった。
そのまたまえは――やはり夫が自分自身とおなじくらい大事にしていたものだったはずである。

自分は人妻なのだと片時も忘れたくなかったのだ。
つい夢中になってしまいそうな自分が、怖かった。

その夜も、吸血鬼はひっそりと、忍んできた。
未亡人は、黒一色の喪服姿に身を包んでいた。
男が喪服を好んでいたとは、襲われた後に知ったことだった。
自分自身の喪に服する気持ちで、初めての逢瀬で喪服を身につけて行ったのは、誤算だったのだ。
今は、そうと知りながら、かれの好みに合わせて喪服を装っている。
男は、薄黒いストッキングに包まれたつま先を、チロチロと舐めた。
情事の始まる合図だった。

その晩、未亡人はいつにない昂奮を覚えた。
もうがまんできないと、はっきりと悟った。
そして、吸血鬼に告げていた。
わたくしを、貴男の愛人のひとりにお加え下さいと。
吸血鬼はいった。
とっくに加えておる――と。
二人は初めて、心からの接吻を交し合った。

息子夫婦が、再び転勤になって、街に戻ってくるという。
子どもを作るのはもう少し待つから、お義母さんにこれ以上負担をかけたくないというのだ。
新妻がどういうあしらいを受けているのかを薄々察しているくせに、寛容な婿だと思った。
母娘で愛人になりましょう――志摩子はそう返事を書き送っていた。