淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
善良な、クリーム色のストッキング
2022年02月12日(Sat) 03:09:58
しなやかなサポートタイプのストッキングがぴっちりと脚を包む感触に、われ知らずうっとりとなっていた。
外気に触れた薄々のナイロン生地を通して、そよ風がさらりと足許を優しく撫でてゆく。
きょうは、クリーム色のストッキング。
めったに穿かない色だった。
でも、白と黒の千鳥格子のスカートに、薄茶のパンプスには、むしろ色の薄いストッキングのほうが似合うと思った。
妻と張り合っているのかもしれない――と、ふと思った。
女の姿で吸血鬼に接し、女として扱われている夫をみて、
妻の真紗湖が敵愾心に似た嫉妬を募らせているのは、容易に察しがついていた。
けれどもそれは、わたしにしても同じことだった。
わたしがその日、クリーム色のストッキングを穿いたのは、
真紗湖が吸血鬼に迫られて、クリーム色のパンストを咬み剥がれてゆくのを目の当たりにしたためだった。
妻に成り代わってみたい。
妻に影を寄り添わせてみたい。
うり二つの装いをして、妻を浸蝕している者に、非礼な仕打ちを受けてみたい。
妻があしらわれるのと同じ手口で辱められて、歓びに咽(むせ)んでみたい。
夫を裏切って家名に泥を塗る妻とうり二つに、女として辱め抜かれてみたい。
邸のまえに佇むと、ひとりでのように鉄製のゲートが開いた。
そしてわたしは、吸い込まれるように、女の装いに包んだ身を、閉ざされていたドアの向こう側へと、
娼婦のようにすべり込ませていた。
迎え入れてくれた獣は、まだ口許に紅いしずくを滴らせていた。
妻の身体から吸い取った血液に違いない。
趣味の良い薄茶のスーツ、白のブラウスに包んだその身に巡っていた、うら若い血液。
まだお嬢さんっぽさの残る二十代の若妻の色香の名残りが、妖しく立ち騒ぐ。
「さっき、真紗湖を襲ってきた」
獣は、臆面もなくそういった。
「家内の生き血、お気に召したようね」
「あんたの血は、さらに佳い」
獣は、あくまでもこちらを立ててくれようとする。
佳い、という字はこう書くのだ・・・と、掌のうえをくすぐるように、なぞって描いてくれたことがある。
わたしはその形容句が、とても気に入った。
「初めて襲われたときから、ふたりは似合いだと思っていた。
家内を気に入ってくれて、嬉しいですよ」
わたしはこたえた。
言葉に嘘はなかった。
獣はさっきから、クリーム色のストッキングに包まれたわたしの脚に見入っていた。
「すまないが、愉しませていただくぞ」
彼はわたしの足首を掴まえて、おもむろに舌を這わせてきた。
薄地のナイロン生地のうえから、なまの唇があてがわれて、
生温かい唾液がしみ込んでくるのを感じた。
妻の穿いていたストッキングも、こんなふうにあしらわれたのか。
善良なクリーム色のストッキングが、いやらしくヌメる舌に、唇に、辱められてゆく。
脛やふくらはぎの輪郭をすべるように這いまわる舌が、唇が。
貴婦人の装いを娼婦のそれに変えて、
ナイロン繊維のざらついた感触を淫らに増幅させて、
わたしの理性を、いびつに歪めてゆく。
妻も、同じようにされたのか。されたのだ。
そして、善良なクリーム色のストッキングを淫らに堕とされて、娼婦になり下がっていったのだ。
わたしは、わたしなのか。それとも、妻なのか――
わからなくなってゆく。
妻にも、息子にも、そして自分にも・・・彼氏が。
2022年01月19日(Wed) 19:17:19
祥一郎が目をさましたのは、薄暗い小部屋だった。
自宅でもっとも狭い、物置どうぜんになおざりにしていた部屋である。
頭をあげると、倦怠感に襲われた。
血液を多量に抜かれたあとの、頼りない気だるさだ。
勤務先から帰宅した直後、背後から羽交い締めにされ、首のつけ根に鈍痛をもぐり込まされたところまでは覚えている。
そのあと、つけられた傷口から旨そうに血液を啜り出される感覚も、かすかに記憶に澱んでいた。
もう、慣れっこになっていた。
そして、いま覚えている気だるさも、決していやなものではない。
足腰立たなくなるまで吸われたということは、それだけ相手が自分の血に満足したということだ。
俺の血は旨いらしい。
それは密かな誇りにさえ、なり始めている。
間近に、夫婦の寝室がある。
自分がそこに寝ていないということは、
代わりにだれかが妻と寝ていることになる。
祥一郎を襲った吸血鬼はそのあとに、妻の早苗までも餌食にしたことになる。
彼らは人を、殺めない。
その代わり、日常的に襲い続けて、生き血を愉しむのだ。
処女の生き血はなによりも貴重視されたが、セックスの経験のある女たちは、より淫らな応接を強いられた。
人間の女とのセックスに憧れる彼らの願望を満足させるために、多くの既婚女性が貞操を喪失した。
早苗も、例外ではあり得なかった。
夫よりも十歳も年上の吸血鬼に見初められ、無理やり情婦にされたのだ。
狙いをつけた人妻を落とすため、
まず夫である祥一郎を襲って足腰立たなくなるまで生き血を吸い取ると、
目の前の惨劇に度を失った早苗を抑えつけて、夫のまえで犯したのだ。
半死半生になりながらも、むごいことに祥一郎は意識を保っていた。
そして自分の妻が夫と同じように生き血をむしり取られ、
着ていたワンピースを引き裂かれながら凌辱されてしまうのを、目の当たりにする羽目になったのだ。
さいしょはいやいやをくり返していた妻が、
やがて上にのしかかる男の背中に、ためらいながら腕をまわしてゆくのを、どうすることもできなかった。
男の腰さばきはじつに巧みで、同性の祥一郎さえもが心密かに感嘆を覚えてしまうほど、女の愛し方がたくみだった。
いまのこの街の風潮では、呪いの言葉を毒づくよりも、理解ある夫を装って、おめでとうと伝える雅量が求められていた。
その男はいまごろ、夫婦の寝室で、早苗を我が物顔に抱きすくめ、玩んでいるはずだ。
なかなか嫉妬深い男で、他の仲間には自分の女を触れさせなかったことから、
早苗は輪姦の憂き目をみたり娼婦のように夜ごと男を代えさせられたりすることからは免れることができた。
早苗は、いまでは情夫の保護を感謝しているし、
祥一郎もまた、妻に対する相手の男の一途な態度に理解を覚え、
まだうら若さを宿す妻の肢体を吸血鬼の欲望にゆだねることを渋々にせよ――許してしまっている。
この街が吸血鬼に乗っ取られて、まだ一年と経っていない。
市は吸血奉仕条例なるものを発して、一般市民に吸血鬼との共存を目指すことを宣言した。
外部には厳秘の条例に、難を避けたいものは街を去り、そうでないものが取り残された。
それ以来、自身や家族の血液を自発的に提供することが奨励され、献血に応じた家庭には褒賞金が支給された。
祥一郎の勤務先は会社ぐるみで彼らに血液を供給することを決め、一家族に一人~二人の割合で吸血鬼を割り当てられた。
年ごろの娘のいる家や、新婚家庭などは人気が高く、生娘や新妻めあてに群がる彼らのために、より多くの血液を供給させられた。
この街の新妻たちはすべて、夫黙認の不倫に歓びの声をあげる仕儀となった。
祥一郎の家には中学生の息子がいたが、早晩親たちと同じ運命をたどるのは明白だった。
濃紺の半ズボンに、同じ色のハイソックス。
男子の制服がそんなスタイルに変更されたのは、吸血鬼側からの要望によるものだった。
吸血鬼のなかには、男性を女のように愛する性癖の持ち主が一定数いて、
そうした彼らの要望に応えることを、この少年たちは期待されたのだ。
一人の老吸血鬼が、そうした少年たちに囲まれているのを、祥一郎は遠目に見ていた。
半ズボンの下、しなやかな下肢をさらけ出した少年たちは、
同年代の女子生徒たちと同じように濃紺のハイソックスのふくらはぎを、競い合うようにツヤツヤと輝かせている。
その少年たちの輪のなかに息子の寛祥(ひろなが)がいることに、祥一郎は不吉な予感を募らせた。
「佳いじゃないの」
傍らに歩み寄ってきた早苗がいった。
「あの方、あのひとのお父様ですものね。同じ血を欲しがって当然よ」
どうせなら、うちの息子を真っ先に襲ってほしいわ・・・
そのような、以前の早苗なら身の毛もよだたせるようなことを、女は平然と口にするようになっていた。
「あの子に、女子の制服を買ってやれ」
物置部屋の薄暗がりのなか、老吸血鬼は祥一郎にいった。
祥一郎は、声もなく頷きかえしていた。
引き剥がれたスリップや玩ばれたストッキングは、愛し抜かれた四肢に、まだ絡みついていた。
とっさに借用した妻の衣裳が相手の男をより夢中にさせたことを、祥一郎は嬉しく思った。
その気持ちを、女の感情のようだと彼は思った。
身にまとった妻のブラウスやスカートが、そして股間にしたたかに注ぎ込まれた大量の精液とが、祥一郎を"女"にしていた。
重ねられてくる唇に、かつて妻が自分にしてくれたように、受け口をして応え続けていった。
妻の仇敵は、祥一郎の血には通りいっぺんの関心しか示さなかった。
夫たちの生き血は彼にとって、その妻を玩ぶ前に必要なエネルギー源にすぎなかった。
彼の欲求は、もっぱら婦人たちに向けられていたのである。
同性愛者である自分の父親が祥一郎親子に惹かれたと知ると彼は、さっそく「親孝行」に励むことにした。
祥一郎は妻の情夫に望まれるまま、その父親の相手を強いられたのである。
同性を相手にする抵抗は、すでになかった。
男の唇が祥一郎の身体に這うのは、いまさら珍しいことではなくなっていたのだから。
勤務先から戻った彼は、息子の勉強部屋から洩れる物音に誘われて、二階にあがると、
半開きになったドア越しに、見てはならないものを視てしまった。
それは、妻が他の男と恥を忘れて戯れあう光景と同じくらい、まがまがしいはずの絵図だった。
寛祥は制服姿のまま、老吸血鬼の前伸びやかな脚を差し伸べて、
制服の一部である濃紺のハイソックスを惜しげもなく、淫らな唾液にまみれさせていた・・・
妻ばかりか息子までも吸血鬼に寝取られた男は、
うら若い肢体に舌舐めずりをくり返す老吸血鬼が息子の血を吸い終わるまで、
物音を立てて恋人たちの戯れを妨げまいと、昂る想いをこらえながら沈黙を守り続けていた。
祥一郎の気遣いを気配で察した老吸血鬼は、寛祥が眠り込んでしまうまで血を吸い取ると、祥一郎に手招きをして物置部屋に招き入れた。
股間の奥深く、猛り勃った男の逸物が弾むように躍動していた。
早苗は身も心も揺らぐ想いで、不倫の営みに身を委ねきっている。
かつて従順な妻であった彼女からは、想像できないほどの大胆さだった。
男の意図が愛情によるのか、ただの性欲処理なのか、もうどうでもいいことだった。
長年夫に捧げ抜いてきた節操を、他愛もなく蕩けさせられ汚されてしまうことが、むしろ小気味良かったのだ。
早苗を奪われることを、夫さえもが悦んでいる。
恥知らずなその態度さえ、いまの早苗には許せるような気がした。
なによりも。
生き血を吸い取られるときのドキドキ感や、
折り目正しい装いを血しぶきや精液で濡らされる小気味良さ、
それに夫のまえでさえすべてをさらけ出し乱れ抜いてしまうこのときめきを、失ってはならないと感じていた。
行為の最中、足音を忍ばせて入ってきた夫が、早苗の洋服箪笥の引出しを開け、いくばくかの衣類を盗み取るのを、面白そうに盗み見た。
夫は私の服を着て、男に犯される。
早晩息子のことを女のように愛することになる老吸血鬼の、慰みものになるために・・・
息子さんの"処女"は、美味だった。
老吸血鬼はそういって、息子を女として犯したことを祥一郎に告げた。
ありがとうございます。
祥一郎は神妙に頭をさげる。
肩まで伸びた黒髪のうねりに合わせて、首の周りのネックレスが揺れた。
完全に、女の扮装だった。
いまでは勤務先にも、女性社員として在籍している。
ここは、市内のラブホテル。
同性のカップルも受け入れてくれる、貴重なデートの場だった。
勤務先は女性社員が勤務時間中にラブホテルで春をひさぐことを奨励するらしく、
部屋に着くまでにもう3組、結婚を控えたOLが別の男と肩を並べる姿に出くわした。
昨日、授業中に寛祥を呼び出して保健室のベッドを占拠すると、
ハイソックス以外の衣類一切を、少年の身体から取り去った。
ワイシャツも、半ズボンも、ひとつひとつベッドの下へと脱ぎ落とされて、
恥ずかしがる少年を組み敷くと、
単刀直入にズブリとひと息に股間を冒したという。
家に帰れないと訴える寛祥をひと晩じゅう保健室のベッドであやすように玩び、
引き抜いては挿し入れ、引き抜いては突き込んで、
かたくなだった通り道を、しっくりと通りがよくなるまでに愛し抜いてきたという。
初めての汗がたっぷりと沁み込んだハイソックスを脚から引き抜いて戦利品としてせしめると、
一糸まとわぬ姿で夜明けの街を付き添って家まで歩き通した・・・と、彼は自慢げに恋の成就を語り尽くした。
そういえば、妻の早苗が初めて情夫のねぐらにお泊まりをしたときも、彼に付き添われて朝帰りをしたっけ。
早苗は小憎らしくも、祥一郎が結婚記念日にプレゼントしたよそ行きのワンピースをわざわざ身にまとって、操を捨てに出かけていった。
吸血鬼は夫の見立てたワンピースをいたく気に入り、身に着けさせたまま狼藉に及ぶ。
出迎えた彼女の夫は、引き裂かれたワンピースのすそから、ストッキングをひざまでずり降ろされたなりをした妻を、目の当たりにすることになったのだ。
親子ですることは、似るのだろうか。
息子のほうは半裸に剥いた情婦を夫に出迎えさせて、
親父のほうはモノにした男の子を、生まれたままの姿で歩かせた。
ハデにやられたね。
淫姦の痕跡あらわな妻をそういって迎えたように、
妻も息子を迎えたのだろうか。
大胆じゃない・・・と、笑いながら。
同性不倫。
2022年01月19日(Wed) 18:53:26
出張先のホテルが、そのまま逢い引きの場となった。
相手は男性だった。
妻がいながら同性の相手と不倫をすることに、不思議と罪悪感は覚えなかった。
こっそりと盗み出した妻のブラウスやスカートは、スーツケースのいちばん奥に隠されている。
妻の服を身に着けて、同性の恋人にすべてをゆだねる。
股間の奥の切なる痛みは、いつか無上の歓びに塗り替えられていた。
初めて家から持ち出した妻の服を着て、息荒く迫られたとき、
妻もろとも犯されるような錯覚に落ちた。
それでも構わないと思い、重ねられてくる唇にすすんで唇を重ね合わせてしまっていた。
爽やかなライトイエローのスカートのすそをベッドの上いっぱいに拡げて、
まるで展翅板の上の蝶のように無抵抗になって、四肢をくつろげていった。
スカートの奥にほとび散る熱情のしたたりが、かすかな光沢を帯びたしなやかな裏地を濡らすのを、小気味良くさえ感じていた。
持ち出した妻の洋服は、”妻”そのものだった。
その”妻”を汚されることが、ノーマルであるべきものをいびつに歪める快感を、もたらしていた。
身をすり合わせ息を弾ませあうその営みに、
かすかに脳裡をかすめる罪悪感がうっすらと折り重なって、
むしろその後ろめたさに心を震わせていた。
彼がどんな気持ちで身体を重ねてきたのか、それはわからない。
けれどもそれが単なる性欲の処理だとしても、構わないと思った。
長い黒髪のウィッグを揺らし、流れ落ちるそのひと房を口許に咥えながら、
ほんとうの女のように身もだえをして、怒張に猛る一物を、なん度もなん度も迎え入れた。
女の名前で呼ばれながら、耳許をくすぐるその熱っぽい囁きに、酔い痴れていた。
たとえ性欲処理であっても構わない。
心の底から満足してもらえればと、求められるままに身体を開き、
猛り勃つ一物を恥ずかしげもなく口に含み、先端から根元まで、そして股間の隅々までも舌を擦りつけ舐め抜いていた。
女の姿で甲斐甲斐しくかしずくときは、どこまでもけなげな男妻でいられた。
時には彼に、妻の名で呼ばれることがあった。
そのたびになせが、ドキドキがいっそう高まった。
奥さんの後ろ姿によく似ているといわれたときは、また一歩女になれたと思えた。
不覚にもスカートのなかで自分の一物を逆立ててしまったことは、隠しごとのすくない彼に対してさえも、恥ずかしい秘めごとにしている。
そう、彼のまえではどこまでも、"女"でいたかったから・・・
長い黒髪のウィッグに指をからめて可愛いねと囁かれ、小娘のように舞いあがる。
時には嫁入り前の初々しい処女のように、
時には夫を裏切る妖艶な人妻のように、
あるときは初々しい羞じらいをうかべ、
あるときは毒々しい媚態をよぎらせて、
ひと刻ですら惜しんで、限りある刻をむさぼりあった。
きみの妻を欲しいとねだられたとき、
決して嫌な気持ちにはならなかった。
妻のことは愛していた。
けれど、愛しているからこそ彼に捧げたいと、ごくしぜんに思えていた。
奥さんをきみの妻のまま犯したい。
そんなふうに迫られたとき、
まるで不倫を冒す人妻のように、もの狂おしく乱れ抜いてしまっていた。
その夜の営みの激しさを承諾と受け止めてくれた彼は、妻へのアプローチを、あの一途な熱情を込めてくり返すようになった。
妻を誘惑する権利を認めてしまったことは、決して後悔していない。
ふたりでベッドをととにするとき、彼は額に額を重ね合わせて、かき口説くように囁いた。
きみが好きになった女性を、俺も好きにしたいのだと。
妻の服を身に着けて彼と逢い続けてきたほんとうの意味を、初めて理解した。
好きになりたい ではなくて、好きにしたい と言われたことにも、不快感はなかった。
彼の荒々しい性欲処理のために、妻を踏みしだかれても構わない。
むしろ夫婦でかしずきたいと、心から思った。
とうとう頂くことができたよ、と。
ベッドのうえで告げられたときも、
イタダカレちゃったのね?
奪われちゃったのね?
と、ウキウキしながら問い返し、
じぶんでもびっくりするほど素直な気持ちで、おめでとうとさえ応えていた。
彼との想いをこういうかたちで妻とも共有している――そんな実感が、心の奥底を、乙女のように震わせた。
彼が妻へのアプローチを開始してから経過した日数の長さにも、満足を覚えた。
それはイメージしたよりも、長すぎず短すぎなかった。
妻が堕ちるまで短すぎなかかったことは、
彼女が夫を裏切るまいと潔癖な抵抗を続けたことを意味したし、
妻が彼が満悦させることを過度に長く躊躇わなかったことは、
彼の手管が妻に対しても、遺憾なく容赦なく発揮されたことを告げていた。
旅行に出かけましょ。
妻はいつものサバサバとした口調で誘いかけてきた。
一人で浮気するのはズルイわ。
これからはあたしにも愉しませてくださいね。
自分の服を夫が持ち出すのを見てみぬふりを続けた賢明なひとは、
夫と愛人とを歓ばせるために、スカートのすそを淫らな不貞の粘液に濡らすことを、自ら選び取っていた。
今夜、夫婦で旅に出る。
おそろいの黒のストッキングを通した脚を連れ立たせ、
想い想いに択んだ色とりどりのスカートをそよがせながら。
同じ男性にかしずいて、競いあうように愛し抜かれる日常に、
夫婦そろって、躊躇いもなく、踏み出してゆく。
法事のあと。
2021年07月13日(Tue) 06:48:37
華恵の一周忌は、存外盛大だった。
ふつうなら親戚くらいしか集まらないものが、職場の者まで大勢参列したのは、華恵の人気によるものだろう。
同時に、白藤がいまの華恵のポジションで、うまくやっていることの証しでもあった。
男性社員がОLになって、妻のポジションで働く。
そんなことを可能にするのに、どれほどの実行力が要ったものか、
俺は白藤の成功に満足しながらも、やつの手腕を改めて見直す思いだった。
華恵と白藤の会社は俺の取引先で、かねていろんな”腐れ縁”があった。
参列した社員のなかにも、過去に引っかけた人妻の夫がなん人もいた。
わけても部長夫人などは、いまでも旦那公認の付き合いがあった。
そんな彼女たちが、細い脚太い脚に、濃い薄い黒のストッキングをまとって大勢現れたのは、なかなかの眺めだった。
白藤は女の喪服姿で、甲斐甲斐しく立ち居振る舞いをしていた。
レディススーツを着こなした白藤を見慣れていた勤め先の人たちと違って、
親戚の人々はいささか困惑気味だった。
けれども、心無い言葉を吐くものがだれもいなかったのは、家柄なのか白藤の人柄だったのか。
わけても白藤の齢の離れた妹は、俺の目を惹いた。
「妹は結婚を控えているんです。それでよければ、今度紹介しますね」
忙しい立ち居振る舞いの間に、白藤はそんなことまで耳打ちしてきた。
結婚を控えたおぼこ娘を導いてやるのも悪くない、と、ふと思い、ほくそ笑んでしまった。
弔問客が去ると、寺には静寂が残った。
白藤ゆかりのこの寺は、小ぢんまりとしていて、かつ静かだった。
ふだんでも、来て良いと思うほどだった。
「こんどゆっくり、お邪魔しましょうね」
まるで妻のように傍らに寄り添う白藤の手首を、俺は思わず握っていた。
「ここでは・・・ちょっと・・・」
困惑する白藤の首すじに唇を当てながら、畳のうえに押し倒していって、
妻を弔うために脚に通した薄墨色のストッキングを、ゆっくりと、脱がせていった。
妬きもちを焼かれたくなかったので、ことを遂げたのは、華恵の位牌の置いてある隣の部屋だった。
「ぼくが先に逝っていたら・・・って、結婚してすぐのころから思っていました」
白藤が言った。
「そうしたら華恵のやつ、一周忌まで待たなかっただろうな」
「そうですね、きっとお通夜の夜に、ヤっちゃっていたでしょうね」
俺と白藤は、声をあげて笑った。
「でもそのときにはね、ぼくならぼくの前でして欲しいと思ってました。
仲間外れは、寂しいですから――
華恵さんとの違いは、しいて言えばそこかも知れないですね」
白藤の見せる白い歯をふさぐように、俺はもういちど彼に口づけをする。
まるで新婚妻のように口づけを返しながら、白藤はいった。
「お掃除しなくちゃいけませんね」
そういって甲斐甲斐しく、俺が噴きこぼしたまだ生温かい粘液を、手近な布巾で拭ってゆく。
「家でもよく、していたんですよ。
華恵さんはお転婆でしたから、わたしの留守中よく貴男のことを家にあげましたよね」
「ばれたか」
「そのあとの後始末は、わたしがしていたんです。華恵さんお掃除苦手だったから」
妻の情事のあとを、お転婆のひと言で片づけて、あと始末をする亭主。
そのマゾヒスティックな歓びが、なんとなくわかるような気がする。
俺なら絶対にゴメンだが。
そんな甲斐甲斐しい白藤の漆黒のスカートの裏側に、俺の粘液が粘りついていることを、
俺はやっぱり自慢に思ってしまうのだった。
女として愛される夫
2021年07月10日(Sat) 07:57:22
首のつけ根につけられた傷口は、
痛痒いような、くすぐったいような、そんな疼きをジンジンと滲ませている。
男はあお向けにしたわたしの上におおいかぶさって、
傷口に吸いつけた唇をいやらしく蠢かせ、
さっきからチュウチュウと音を立てて、
わたしの身体から血を吸い取っていた。
働き盛りの血液が、干からびた彼の血管を潤してゆく。
そのことが、むしょうに快感だった。
夕べ抱いた妻から吸い取った血液も、まだ彼の体内には宿っている筈。
夫婦の血が織り交ざって、彼の喉を慰め、血管を潤してゆくのだ。
わたしたち夫婦は、彼のなかでひとつになっている――
身に着けたワンピースは、妻のもの。
なん度めかの結婚記念日にプレゼントした品だった。
鮮やかなブルーが涼しげな幾何学模様のワンピースを着けた妻を連れ歩くのが、
かつてわたしの悦びだった。
おなじワンピースを着けた妻が、
彼と連れだってホテルに迷い込んでいくのを見届けるのが、
いまのわたしの密かな歓びと化している。
その呪われたワンピースを身に着けて、女として彼に抱かれる。
まだ回を重ねていないその異常な体験に、わたしは胸を躍らせていた。
妻の股間を抉り彼女の理性を狂わせた彼の逸物が、
いまわたしの股間をも抉って、敏感になった粘膜に淫らな疼きをなすりつけてくる。
わたしのなかにびゅうびゅうと注ぎ込まれる熱い粘液に、
不覚にも陶然となってしまっていた。
おなじ粘液を妻の肉体に注ぎ込まれることを、咎めるべき立場のはずなのに――
せめぎ合い、交し合う吐息、呼気。
わたしたちは身体の動きをひとつにして、愛を形にする共同作業に没頭した。
けだるさの支配する身体は、きょうも出勤には耐えられないだろう。
会社には休みの電話を入れておいたから。
勝手なことをしておいて、彼はにやりと笑う。
生き血を吸い取られ、股間を狂わされて虚脱した身体は、わたしの理性を縛りつける。
きっときょうも、そんなわたしの目の前で、
男は妻を支配してみせるに違いない。
良識ある夫としては、見るに堪えないはずの光景――
着飾った妻がほかの男に掻き抱かれて、欲情の限りを注ぎ込まれ、
いつか自らも狂ってゆく。
そんなありさまを、きょうも見せつけられてしまうのだ。
妻はわたしに、感謝していた。
夫の眼の前で果てる歓びに、めざめてしまっていたから。
きょうも会社を休んだわたしを悦ばせるため、
きょうも彼女は、淫らな舞に熱中するはず。
気分はどうかね――?
顔色の悪さを気遣う彼に、わたしは精いっぱい微笑んで見せる。
だいじょうぶ、悪くないよ。
きみに妻を愛されるのも、
わたし自身を愛されるのも、
とても嬉しいことなのだから。
女の姿で、妻の情夫と真夜中のデート。
2021年06月19日(Sat) 09:27:10
さいしょに襲われたあの晩の記憶が、ひどく怪しいものになっている。
あの晩芙美夫は勤め帰りに立ちふさがった吸血鬼に一方的に血を吸われ、
自宅に招ぶことを強要されて、
上がり込まれた自宅で、妻の静江は濡れ場を演じる羽目になったはず。
それが、じつはそうではなくて、
血に飢えて苦しんでいた吸血鬼に、芙美夫のほうから声をかけて血を吸わせてやり、
家内のことも紹介するよと自宅に誘い、
初対面の静江は吸血鬼にひと目惚れしてしまい、
夫のい合わせるその場で、気前よく生き血を振る舞ったばかりか、
芙美夫の妻であることを忘れ、女として抱かれることを択んだ――というのだ。
嘘の記憶に決まっている、と、わかっていながら。
その嘘の記憶こそが真実なのだと、信じたがっている自分がいるのを感じていた。
妻に話して聞かせると、
あなたの言っているほうが、きっと事実よ、と、夫の妄想のほうに、賛意を表した。
わたくしは、貴方のご希望にそって、身体を許しただけですものといいつつも、
夫公認のデート以外にも、しばしば夫に内緒で情婦と逢瀬を遂げてもいる静江だった。
いま芙美夫は、真夜中のファミレスで、
妻の用意した女もののワンピース姿で、妻の情夫と逢っている。
いつもなら、家から抜け出した静江がここで情夫と落ち合い、近場の公園で想いを遂げられて帰宅するところなのだが。
静江が血を吸われ過ぎたときにはいつも、夫である芙美夫が代役を務めているのだった。
女装願望は、遠い昔から抱いていた。
妻にそれがばれたのは、いつのことだろう?
おおっぴらになったのは、妻が初めて吸血鬼に抱かれた、あの晩のことだったはず。
夫婦ながら抱かれてしまったその翌日。
情夫が朝日にも耐えられることがわかると、彼は妻の用意した服を着て、
夫婦のベッドでいまいちど、女として抱かれたのだった。
それ以来、芙美夫は「芙美江」となって、女の姿で妻の情夫と逢うようになっていた。
妻はこんな時分に誘い出されて、
こんなふうに手を引かれ、店を出て、真夜中の公園に、忍び入るようにして入っていって、
街灯がこうこうと照らす芝生の上、背の高い生垣に守られながら、
こんなふうに衣裳をはだけられ、
こんなふうに素肌に唇を這わされて、
髪振り乱して、狂わされていくのだ――と。
芙美夫は自分の身体で、覚え込まされていったのだ。
擦り寄せられてくる素肌を通して、吸血鬼が妻ばかりではなく、自分にまで、執着的な情愛を注いでいるのを自覚した。
その情愛が伝染するように、芙美夫自身にものり移って。
ストッキングを脱がされた下肢を支配されながら、
ワンピースのなかにほとび散らされる粘液の熱さを悦びながら、
腰を振って応えていった。
ちょうど妻が夫を裏切るときと、同じくらい熱心に――
レトロな喫茶店の女・続
2021年03月29日(Mon) 08:05:35
薄い薄い黒のストッキングのつま先を、
おっかなびっくりたぐり寄せて、
自分のつま先に合わせると、
慎重にゆっくりと、上へ上へと引き伸ばしてゆく。
ストッキングの片脚を太ももの高さまでひきあげると、
もう片方の脚にも、同じように通してゆく。
襟足だけが白い黒一色のブラウスに、
真っ白なエプロン付きのミニスカート姿。
仕上げに紅をすこし濃いめに刷いて鏡に向かい、
すこしだけ出し惜しみに微笑んで見せる。
なん度か表情を変えてみてから、やっと得心がいったらしく、
よし!と心のなかで気合を籠めて、店に通じるドアを開いた。
「よっ、待ってました」
二、三人いるお客はそれぞれ、すでに淹れられたコーヒーを片手に、
ウェイトレスのご入来を待ちかねていたらしい。
こちらにいっせいに視線を向けると、ちいさく拍手せんばかりにして、
ミニスカートの下の美脚に、視線を集中させた。
「捨てがたいねぇ、ミスター・華子」
とっさの揶揄にウェイトレス姿が固まると、べつの客が助け舟を出した。
「よせやい、華子姐ぇの留守中に、一生けんめいやってくれているんだから」
そう、きょうのウェイトレスは、マスター自らが、勤めていた。
「ミスター・華子でいいですよ、良い呼び名だと思います」
穏やかでクールなマスターは、ウェイトレスの身なりのままカウンターの中に立ち、
追加のコーヒーを淹れはじめる。
慣れた作業をしていると、身なりのことは忘れるらしい。
黒のストッキングに包まれた、男にしてはきれいな脚を、
惜しげもなくお客たちの眼の前にさらけ出していた。
店の出入り口のドアが開き、華子が戻ってきた。
「いらっしゃいませ~」
お客たちに通りいっぺんの挨拶を投げると、華子はつかつかとマスターのほうに歩み寄って、
「代わろうか?」
といった。
マスターは、
「いや、このままでいいよ」
とむぞうさに言って、淹れたてのコーヒーを
「皆さんにサービス」
と、妻に引き継いだ。
「あ、クリーニング店の善八郎ですが」
かかってきた電話をとると、受話器の向こうから聞き慣れた声がした。
「さっきは奥さんを、どうも」
「いえいえ、こちらこそ」
マスターはよどみなく応える。
じつは内心は、ドキドキである。
何しろ相手は、さっきまで妻を犯していた男なのだから。
けれどもマスターは、生来の血なのだろう、どこまでもクールで穏やかだった。
むしろ善八郎氏のほうが決まり悪げにもじもじしているので、
マスターのほうが、落ち着きを取り戻して、にんまりとしてしまった。
どちらが妻を犯されているのか、わかったものではない。
喫茶店”昭和”は、午後六時が閉店である。
マスターの妻兼ウェイトレスの華子は、きょうも「準備中」の札を玄関に出した。
「もうじき来るわね」
「そうだね」
「血を吸われるの、怖くない?」
「きみと同じ経験がしたいんだ」
亭主の応えに満足した華子は、ウフフ、と、笑った。
閉店後の店内に現れたのは、善八郎氏と、その妻の情夫だった。
吸血鬼は自分の正体を隠して、なん度かこの店の客になっている。
客の顔を覚えることに長けていた華子は、吸血鬼の顔を見ると「あら」といった。
電話をかけてきた善八郎氏の言い草は、こうだった。
――お宅のお店の風情が気に入った。それで、その、なんというか、
失礼でなければ、お店のなかで奥さんを頂戴したいんですが・・・
おかしいわね、クリーニングのだんなはうちに来たことないんじゃない?
情交帰りの妻に指摘され、マスターもそれはそうだと思った。
小さな謎は、吸血鬼の来訪とともに、すぐに解けた。
喫茶店の風情を気に入ったのは、吸血鬼のほうだったのだ。
はぁ、はぁ・・・
ふぅ、ふぅ・・・
テーブルが取り払われた向かい合わせのソファに一人ずつ、
二人のウェイトレスは、ミニのスカートをたくし上げられた格好で、
招かざる客たちに、押し倒されていた。
マスターの穿いているミニスカートから伸びた黒ストッキングの脚に目を留めた吸血鬼が、
「わしはこちらのご婦人がよい」
と告げた。
「ご婦人」といわれて、マスターも悪い気はしなかった。
この吸血鬼が、善八郎氏とぐるになって、妻を代わる代わる犯していると知りながら、
すべてを許す気になってしまっていた。
「すべてを許す」証しが、そのあとの情交だった。
吸血鬼の剛(かた)い一物を股間に突き込まれながら、
マスターは、妻が堕ちたのは無理もない、と思い、
傍らの妻が夫婦の営み以上に萌えている姿を横目にしながら、
自らもまた、昂奮のるつぼに堕ちていった。
――お話に登場する人物、店舗は、実在のものとは関係ありません。念のため――
身代わりの”生徒”たち
2019年12月23日(Mon) 07:46:20
教室の床から起きあがった少女は、やっとの思いで傍らの椅子に腰かけた。
足許を見おろすと、濃いねずみ色のハイソックスが弛んで、脛の途中までずり落ちていた。
ハイソックスには微かな破れが見て取れて、その周囲には赤黒い血の痕が滲み、いびつなまだら模様を作っている。
教室(ここ)に入るまでは、お行儀よくひざ小僧の下までぴっちりと引き伸ばされていたハイソックスは、太めのリブがいびつにねじ曲がって、なんだか自分が堕落した少女になってしまったような気がする。
少女は足許に手をやって、ハイソックスを直した。
血の痕がより、目だつようになったような気がする。
ふらふらと椅子を起って周りを見回すと、
おなじ制服の少女がまだ数名、床にうつ伏せになっていた。
そのひとりひとりの上には黒い影が覆いかぶさっていて、
その黒い影に、ある少女は首すじを、ある少女はふくらはぎを咬まれていた。
咬みついた口許からは鋭利で太い牙が覗いていて、それが若い皮膚を破り深々と刺し込まれている。
影たちは、美味そうに喉を鳴らしながら、少女たちの生き血を啜っていた。
廊下の向こうから、足音が近づいてくる。
足音の主は、複数だった。
おそろいのプリーツスカートのすその下は、
すらりとした脚にも、肉づきの良い太い脚にも、濃いねずみ色のハイソックス。
背丈も脚の太さも不揃いな一団だった。
サイズが同じものを履いているからかか、人によって微妙に丈が上下している脚たちが、
受難の教室目がけてしずしずと歩みを進めていく。
制服の一団は教室の扉の前に立ち止まると、ひと呼吸おいた。
お互いがお互いの顔を見合わせると、先頭の制服姿が教室の扉を、控えめにコンコンと軽くノックした。
教室のなかのざわざわとした雰囲気が収まると、だれかの声が改まった口調で、「どうぞ」とあがった。
扉が開かれて、廊下の一団が流れ込むように、教室に入り込む。
開かれた吸血鬼の口に少女の血液が流れ込むような、あっという間の早さだった。
まだ咬まれていないハイソックスの脚たちが、飢えを満たしきれていないものたちの好色な視線に曝される。
「どうぞ」
震えを抑えた声色に反応して、影たちはうつ伏せの少女たちのうえから起き上がる。
影たちに支配されていた少女たちは、解放されたのを直感して、キュッと閉じていた瞼を恐る恐る開いてゆく。
彼女たちの目線のかなた、新来の制服姿が自分の身代わりとなって、好色な猿臂に巻かれ、一人また一人と、教室の床に引き倒されてゆく。
振り仰いだ首すじに、投げ出された足許に、恥知らずな唇が吸いつけられていった。
「ありがとうございます、来てくれて」
椅子から起ちあがったばかりの少女が長い黒髪を揺らして、廊下から入ってきた一団にしおらしく頭を垂れる。
色白の頬に、黒くて濃い眉。長いまつ毛に、きらきらとした瞳。
見かけがよいだけではなく優等生であることを、行儀の良い物腰と胸もとの学級委員の徽章とが物語っていた。
いちどずり降ろされたハイソックスを気丈にもふたたび引き上げた足許に、
吸い取られた血潮が点々と散っていた。
しつように咬まれいたぶられながらも毅然として応じたけなげさの名残りと映る。
「だいじょうぶですよ、お疲れになったでしょう?このまままっすぐおうちへ帰ってくださいね」
新来の一団のひとりが、少女をねぎらった。
声色は十代の少女にしては太く、しっかりとした響きを帯びている。
にっこりと安どの笑いをむけた少女に笑い返す頬もやや強い輪郭をもっていて、
「彼女」たちが現役の女子中高生ではないのがひと目でわかった。
「あのひとたち、学校に来てくれて良かったね」
「ん」
安堵とともに戻ってきたほほ笑みを交し合いながら、少女たちはハンカチを取り出して、
咬み痕に滲んだ血を拭い合った。
「礼を言います」
背後から投げられた干からびた声に礼儀正しくお辞儀を返すと、お互いを庇い合いながら教室を出てゆく、。
入れ違いに入ってきた制服姿は、同じ制服を身にまとった女装者の群れ。
生徒の父兄を中心に学校が募集した、供血用の「女子生徒」たちだった。
自身の血液と引き替えに女子生徒としての存在をかち得た”彼女”たちは、誇らしげに頤を仰のけ、スカートのすそを乱しながら、吸血鬼の牙を受け容れてゆく。
あとがき
10月末ころ構想しました。
読み返すとかなり少し重複があったので、リメイクものにしては比較的直しが多かったかも。
吸血鬼に狙われた法事
2019年12月22日(Sun) 08:18:04
「ママまで咬まれた・・・!」
間藤奈々は、半泣きになっていた。
奈々の母である七瀬は洋装のブラックフォーマル姿のまま、寺の本堂の板の間に突っ伏して、白目を剥いている。
漆黒のブラウスとアップにした黒髪の間から覗く白い首すじには、赤黒い痣がふたつ綺麗に並んでいて、
吸い残された血潮がテラテラと光っていた。
放恣に開かれた両脚は、見る影もなく咬み破られた黒のストッキングが剥がれ堕ちて、脛の白さをきわだたせている。
なによりも、少女の奈々にとって衝撃的だったのは、
めくれあがった重たいスカートのすき間から覗く太ももに、生々しい白濁した粘液が淫らにヌメっている光景だった。
「視るんじゃない」
従兄の智樹は奈々に寄り添うようにして、怯える華奢な身体を抱きすくめた。
そのささやかな法事で顔を合わせたのは、奈々とその両親、智樹とその母の5人だった。
智樹の父は、本堂にしつらえられた経机の上の写真立てに収まっている。
数年前、勤め帰りの道すがら、首すじから血を流して、謎の死を遂げていた。
智樹の父は土地の風習に従って土葬に付され、いまはこの寺の墓地の一角に眠っている。
以来、毎年の祥月命日の日に、この二つの家族は寺で顔を合わせるようになっている。
異変が起きたのは、この寺についてすぐのときだった。
最初に咬まれたのは、智樹の母、華絵だった。
寺に着いたばかりの奈々の一家の前、ひと足先に着いていた智樹が控えの間から飛び出してきたのだ。
「母さんが咬まれた・・・!」
と、血相を変えて。
智樹が小用を足している間の、ほんのつかの間の出来事だったという。
戻ってみると、母の華絵が白目を剥いて倒れていた。
洋装のブラックフォーマルに包まれた身を、畳の上にしつらえられたテーブルにもたれかけるようにして絶息している。
きょうの日に備えてきちんとセットされていた栗色の髪はひどくほつれていて、
吸血の最中抑えつけられながら、しつようにまさぐられた形跡を残していた。
脚に通された黒のストッキングは、先刻奈々の母親がそうされたように、見る影もなく咬み破られ、片脚だけ脱がされている。
どういう意図でそうされたのか、お尻がまる見えになるほどまくり上げられたスカートに散った白い粘液が、あからさまに物語っていた。
「義姉さん!」
奈々の父親の精次郎が顔色をかえて母に取りすがるのを、智樹は冷ややかに視ていた。
智樹の父なきあと、精次郎が兄嫁に言い寄って堕落させ、始終逢引きを遂げているのを、智樹はよく知っている。
そんな智樹の横顔を、奈々は見逃していなかった。
智樹の母と自分の父との間に、どんなことが起きているのかを、薄々察していたからである。
精次郎が同じように首すじから血を流してトイレの前の廊下で倒れているのを発見されたのは、その十数分後のことだった。
「早く、誰かに来てもらいましょうよ・・・!」
そういって怯えた奈々の母親の七瀬が襲われたのは、そのわずか数分後のことだった。
「智樹兄さん・・・だったのね・・・!?」
顔色をかえて立ちすくむ奈々は、早くも本堂の壁を背に追い詰められている。
半ズボンに紺のハイソックスという、十代後半の青年には不釣り合いな立ち姿が、黒のワンピース姿の奈々に、ゆっくりと迫っていった。
智樹の履いているハイソックスが片方、わずかにずり落ちて、その間に赤黒いシミがふたつ、綺麗に並んでいる。
「そう、ぼくも吸血鬼になっちゃったんだ」
ちらりと笑んだ唇のすき間から覗く白い歯に、奈々の両親から吸い取った血潮がバラ色に輝いていた。
「きみたち家族三人の血が、ぼくの中で仲良く交わる・・・想像するとゾクゾクこない?」
く、来るわけないわッ・・・
叫びかえそうとした奈々の声はかすれて、声にならなかった。
母さんとは相談づくさ。
きのう問い詰めたら、なんなくしゃべったよ。
きみの父さんとのいただけない関係。
もちろん、さいしょから、なにからなにまでわかっちゃっていたけどね。
だから、血を吸ってやったんだ。
ぼくたちはね、セックス経験のある女のひとを襲うときは、犯してしまうんだ。
母さんも、例外じゃなかった。
意外にイイ女だったな。
精次郎叔父さんがとり憑かれたのも、無理ないと思ったよ。
それできょうの法事には、約束よりも早い時間に着いて、さきに母さんを襲ったんだ。
動転したきみの父さんも、トイレに立って一人になったところを襲った。
いちころだったね。
それで、きみの目を盗んで、七瀬叔母さんのことも戴いた。
七瀬叔母さんも、いい女だね。
精次郎叔父さんは、七瀬叔母さんひとりに満足していれば良かったんだよ。
もっとも――叔父さんがまじめに生きたとしても、ぼくに襲われちゃう結果は同じだったはずだから、
うちの母さんといい思いをできただけ、ラッキーだったかな。(笑)
だいじょうぶ。
きみも含めて、だれも死なせないよ。
その代わり、順ぐりにぼくに咬まれて、血を愉しませてくれないとね。
こういうのを、愉血って呼ぶんだ。
輸血じゃなくてさ。
うふふ。
震えているの・・・?
わかるよ。怖いよね。
でも、すぐに済むから。
ちょっとだけ痛いけど、目をつぶってこらえてね。
ははは。いいじゃん。
処女を襲うときには、すぐに犯さないんだよ。
きみだって、例外じゃないのさ。
襲われることも例外ではない。
そんなふうにしか、聞こえなかった。
壁ぎわで抑えつけられた手首と肩が、痛いほどの重圧の下であえいだ。
そして首すじには、父と母の首すじに食い込んだ鋭利な牙が、ググっ・・・と食い込んできた。
ああああッ・・・
はしたないと思いながらも、悲痛な悲鳴をこらえることができなかった。
柔らかい首すじだと、智樹はおもった。
あふれ出る血潮の初々しさも、乙女の血そのものだとおもった。
腕の中の奈々は怯え切っていたけれど。
智樹は容赦なく、生え初めたばかりの牙を、根元まで埋め込んだ。
奈々の血潮がジュッ!とかすかな音をたてて、黒いワンピースの肩先に撥ねるのを、小気味よく感じた。
「美味い。まぎれもない乙女の血の味だ。きみはぼくの恋人になるんだ。いいね?」
牙を引き抜くと、怯える奈々にしたたる血潮を見せつけながら、智樹はいった。
従兄の口から発した「乙女」という言葉に、奈々ははっとすると、おずおずと、けれどもはっきりと頷いた。
そして、
「乙女・・・なんだね」
と確かめるようにいった。
智樹が頷くと、フッ・・・と嬉しげにほほ笑んで、白い歯をみせる。
「もっと・・・吸って」
さっきまで怯えていた少女は、自ら進んで吸血鬼の抱擁にわが身をゆだね、もう片方の首すじも、嬉々として咬ませていった。
脚を咬むのが好きなんだね。
じゃあ、あたしの脚も咬んで。
真っ白なハイソックスが真っ赤になるくらい、血を吸い取って頂戴。
周りの人にも、さいしょから真っ赤なハイソックスなんだって思わせたら、
帰り道も恥ずかしくないから・・・
智樹兄さんが愉しんでくれるなら、咬み破られても惜しくはないよ。
奈々の脚、そんなに咬み応えが良いの?
うれしいわあ。もっと咬んで。
うふふ・・・ふふふ・・・
住職のいないひっそりとした本堂のなか、
少女のあげるくすぐったそうな笑い声が、間断なくつづいた。
「きょうはご来訪ありがとうございました」
智樹の母の華絵が、鄭重に頭を下げる。
「イイエ、また近々お会いしましょうね」
奈々の母の七瀬が、鶴のような首を、これまた鄭重に傾けてそれに応じた。
「じゃあ。義姉さん、また」
奈々の父の精次郎も、愛人同士の目線をだれにはばかることなく交わして、華絵もそれに応えていた。
だれの首すじにも赤黒い咬み痕に血のりをあやしていたけれど。
それらはだれの目にも入らないかのように、だれもそのことに気を使っていない。
「智樹くん、寂しくなったら奈々に逢いに来てね。叔母さんも待っているから」
おとなしい七瀬のかけた言葉の裏にある意味を、居合わせた全員が察したけれど。
七瀬の夫である精次郎を含めて、だれもがそれをとがめようとはしない。
「奈々ちゃんがすっかり娘さんらしくなっていて、びっくりしました」
智樹がにこやかに、白い歯をみせる。
その歯にはまだ、吸い取られた血があやされていたが、だれもがそのことを話題にはしない。
「乙女の血って言われて、よかったね、奈々」
七瀬は娘の顔を覗き込んで、同性としての柔らかな目線をそそいだ。
「それがいちばん、嬉しかった」
笑みを輝かせる奈々は、去年までは男の子だった。
――どうしても、女子として学校に通いたい。
思いつめた表情をまえに、最初はうろたえていた両親だったが、さいごには子供の意思が通った。
吸血鬼になった従兄が自分のことをさいしょからさいごまで少女として接してくれたことに、奈々の感謝は消えない。
従兄(にい)さんには、いつか奈々の処女をあげるわね。
もし奈々が男に戻って結婚するとしたら、結婚相手の子の処女もあげるわね。
謡うように約束を交わした奈々の柔らかな声色が、後ろ姿を眩し気に見送る智樹の耳朶に、ずうっと残りつづけていた。
密会を妨げるつもりが・・・
2019年12月11日(Wed) 07:45:51
妻が吸血鬼と密会していた。
現場を押さえて懲らしめてやろうと思った俺は、妻の服を着て夫婦の寝室で男を待ち受けた。
部屋に侵入してきた男は、俺を妻と勘違いして、首すじを咬もうとした。
必死で抗ったけれど、とうとう咬まれてしまった。
やつは、俺の血をとても美味そうに飲み味わった。
そして俺は、妻の服を着たまま、女として愛されてしまった。
途中でやつは、俺の正体に気づいたけれど、
女として愛することをやめようとはしなかった。
俺は女として愛し抜かれ、そして女になり切って、愛し返していた。
妻に接するのと同じ熱意をもって、やつは女装した俺を愛し抜いた。
やつがどれほど妻に恋しているか、俺は身をもって思い知った。
そして、ふたりの仲を許してやるしかないと実感した。
夫としての俺の利害や体面よりも。
彼に想いを遂げさせてやるほうが重要だと感じた。
なによりも。
利害を超えた好意には、好意でこたえるのが良いと感じた。
妻は俺が仲間に入ることを歓迎した。
むしろ、おおっぴらに不倫を愉しむことができることを悦んでいた。
これからは競争相手ね、と、妻はイタズラっぽく笑った。
秘密の不倫からぎごちなさが生じ始めていた夫婦の関係は、すっかり修復された。
終末の夜になると。
妻も俺も、思い思いの服で装って、吸血鬼のご入来を待ち受ける。
夫婦でストッキングの脚を並べるって、面白いよね。妻はそういって白い歯をみせた。
さきに俺が征服されて、放心状態の傍らで、今度は妻を愉しまれてしまう。
妻の随喜に、堪えていたほとびが、俺の股間を生温かく濡らす。
半脱ぎにされたストッキングの居心地の悪さを感じ合いながら、
夫婦でやつの劣情を、思うままに注ぎ込まれてゆく。
妻の悦びは、俺の歓び。
2019.12.9構想 本日脱稿
妻も母も。
2019年09月28日(Sat) 08:36:50
ある人妻が吸血鬼に襲われて、たらし込まれてしまった。
その人妻の夫は、吸血鬼を妻から引き離そうとあらゆる努力を試みたが、すべて失敗に終わった。
人妻はうら若い血潮を吸い取られて、徐々に素肌が色あせていった。
男は心底焦ってしまい、たまりかねて吸血鬼に哀訴した。
大切な妻なので死なせないで欲しいと。
吸血鬼は夫に同情したが、目下のところ生き血を吸い取らせてくれるのは彼女だけなので手放すことができないといった。
夫は父親の許しを得て、まだ女盛りだった自分の母親を、吸血鬼に紹介した。
吸血鬼は五十女の熟れた生き血に悦びながらも、もう少しだけ血があれば誰もが助かるのにとうそぶいた。
男は仕方なく、妻の服を借りて女装をして、こうするくらいしか方法がないと吸血鬼に哀訴した。
夫の女ぶりを悦んだ吸血鬼はさかんに夫の生き血を吸い、心からの満足を覚えた。
女ふたりは夫に許された不貞を愉しみ、夫もまた女として襲われる歓びを堪能した。
夫の父親さえもが、長年連れ添った愛妻のあで姿を覗いて堪能することで、満足を得た。
誰もが無上の歓びに浸りながら、その後の人生を愉しく送った。
あとがき
9月27日 4:37脱稿
色気を求める吸血鬼
2019年09月28日(Sat) 08:33:35
吸血鬼が独身の男を襲った。
男は彼の言うなりになって、血を吸われた。
男ひとりでは色気がないなと吸血鬼が言った。
男は自分の母親を紹介した。
母親は五十過ぎだが、女盛りだった。
吸血鬼は、男の母親に満足しながらも言った。
もう少し色気が欲しいなと。
男は吸血鬼に若い女の血を吸わせるために結婚した。
吸血鬼は、男のフィアンセをたらし込み、処女の生き血を愉しんで、そのうえで若妻の貞操まで玩んだ。
吸血鬼は男の妻の貞操に満足しながらも言った。
もう少し色気が欲しいなと。
男は吸血鬼の気持ちをそそるため妻や母親の洋服を借りて女装した。
吸血鬼ははじめて満足した。
男の妻は私の貞操が無駄に汚されたと苦情を言い、
母親もお父さんに顔向けできないじゃないのと苦情を言った。
父親は寛大な男で、わたしは家内の浮気をそれなりに愉しんでるよと笑い、
男も新妻の浮気を面白がっていた。
結局女たちは、男の女装ぶりの良さをしぶしぶ認めて、自分たちも浮気を愉しむようになった。
あとがき
9月27日 4:37脱稿
妻が、女らしくなった理由(わけ)。
2019年09月26日(Thu) 07:12:28
永年連れ添った妻が、女らしさを取り戻したのは。
不倫相手のために、美しくありたいと思うようになったから。
不倫相手が吸血鬼で、吸わせる生き血にうら若さを秘めたいと、強く感じたから。
女装にそまったわたしよりも、女らしくありたいと、不思議な競争心を燃やすようになったから。
喪服女装の通夜
2019年09月24日(Tue) 06:13:58
「私が死んだら、昭太さんは婦人もののブラックフォーマルを着て、お葬式に来て頂戴」
義母の佐奈子さんの訃報は、そんな風変わりな遺言とともに訪れた。
悲しみもそこそこに妻の美由紀は、猜疑の視線をわたしに投げる。
わたしの女装癖を、美由紀は良く思っておらず、佐奈子さんは擁護してくれていた。
けれども、遺言は遺言である。そこは美由紀もわかっていた。
「ちゃんと用意するから。あなたの喪服。試着にもついていくから」
強い口調でそう告げた美由紀は、慌ただしいなか時間を作って、デパートのブラックフォーマルの売り場にわたしを伴った。
「この人の着るものです」
婦人もののブラックフォーマルを一着求めたいという美由紀が、夫であるわたしを指さしたとき、
デパートの若い女性の店員はちょっとびっくりしたような顔をしたが、
交代で現れた年配の店員はごく物慣れていて、
「ご主人の体形だと、こちらか、こちらになりますね。こちらですと、袖が透けていて夏でも涼しく着れますよ」
幸いほかに客がいなかったことから、逃げるようjに試着ルームに入室して、
震える手つきでブラウスのボタンをはめ、スカートを腰に巻き、ジャケットの袖を通していった。
美由紀のおかんむりな様子を、カーテンごしにありありと感じながらも、新しい生地のむっとする匂いに包まれながら、しばし至福の刻を味わっていた。
けっきょく、店員のすすめる袖の透けているものを択んだ。
寸法が合っていたから・・・とわたしは弁解したが、美由紀の冷ややかな目線に変化はみられなかった。
そうこうするうちに、訃報の届いた翌晩である通夜の晩が迫ってきた。
義母はひなびた村に棲んでいた。
それは美由紀の生地とも程遠く、義母のそのまた父親、つまり美由紀の祖父が住んでいたという土地だった。
村は小ぢんまりとしていたが、その分仲良く暮らしているらしく、葬儀の段取りはとうに出来上がっていて、
わたしは名ばかりの喪主として、婦人もののブラックフォーマルに包んだ身を、喪主の席へと移していった。
夫婦で訪れたのに、そろって婦人もののブラックフォーマル。
そんな風変わりな夫婦連れに、村の人はだれ一人、奇異の視線を向けなかった。
義母からよく聞かされていたのだろう。
透明な風が重たい漆黒のスカートをかすかにそよがせ、ウィッグの髪もさやさやと揺れて、
黒のストッキングを通して秋の入り口の涼しい風が爽やかに流れていった。
夜になると、周囲の雰囲気は一変した。
ひととおりの度胸や焼香が終わると、本堂がそのまま、あろうことか乱交の場となったのだ。
兄が妹に襲い掛かり、母親と息子がまぐわい合う。
そして我々も、例外ではなかった。
美由紀にはなん人もの男――それもほとんどが自分の父親くらいの年齢のごま塩頭の親父ども――が群がり、
わたしさえもが黒のブラウスをくしゃくしゃにされて、剥ぎ取られてゆく。
すぐ手の届きそうなところで、美由紀が脚をじたばたとさせて暴れている。
けれどもほうぼうから伸びた逞しい節くれだった掌たちが、てんでに豊かな肢体を抑えつけてゆく。
美由紀の穿いている黒のストッキングに、よだれをたっぷりと帯びた唇が吸いつけられ、なまなましい舌が這いまわる。
わたしにさえも。
胸を揉まれ、股間を押し開かれて、ストッキングをびりびりと破かれ、ショーツを脱がされて、
初老の男の臭い息を吐きかけられながら、股間にその男の一物が突き入れられるのを、どうすることもできなかった。
傍らで、妻が犯されている。
それどころか、わたし自身までもが、男の一物を、幾人となく受け容れさせられている。
しだいしだいに、彼らの強引な身体の躍動が、わたしの血管に淫らなものを脈打たせ始めた。
気がついたらもう、女になり切って、せめぎあう一物たちを、あるいは咥え、あるいは舐めしごき、あるいは股間に受け容れて、
夢中になって抱き返していた。
なかには、美由紀を犯したばかりの一物も、含まれていたに違いない。
けれどももう、美由紀が身を持ち崩しても無理はないと思うほど、彼らの一物は胸の奥に響くほどの衝撃を、わたしにもたらしつづけていた。
嵐が過ぎたとき、わたしははっと気がついた。
目のまえに、死んだはずの義母がいた。
義母は和装の喪服を身に着けていて、首すじには赤黒い痣が二つ並んでいた。
よくみると、痣には血が滲んでいた。
「あなたたちも咬まれてるわよ」
義母に促されてみた姿見jには、犯され抜いた喪服の女が写っていた。
「昭太さん、見事な女ぶりでしてよ」
義母が本音でほめているのがわかった。
わたしの首すじにも、いつの間にか、綺麗に並んだ痣がふたつ、滲んでいる。
ふり返ると、美由紀と目が合った。
その美由紀の首すじにも、同じ痣が浮いている。
「吸血鬼の村なの。ここ。美由紀もここで育っていたら、処女のままお嫁入することはなかったわね。
昭太さん、運が良かったわよ、この子、男を識らないでお嫁に行ったでしょ?
そのまま終わるのはかわいそうだと思っていたの。
どうかしら。美由紀を最初に犯したあの方と、いちばんしつこくつきまとったあちらの方。
美由紀にお似合いだと思いません?」
まさに悪魔の囁きだった。
囁いた魔女は、この村に棲みつくうちに血を吸われ、娘と娘婿までも生け贄に差し出す気になったのだ。
けれどもわたしもまた、すでに堕ちた人間となっていた。
すでに衣装で女に堕ち、
喪服を破られることで娼婦に堕ち、
犯された妻の顔に歓びの色を見出すことで、寝取られ亭主に堕ちていた。
あくる朝。
「また来ようね」と笑う妻に、
「ここに棲んでもいいかな」と応えるわたし。
ふたりとも、ここを訪れたままの喪服姿。
黒のストッキングは破れてひざ小僧までがまる見えになり、
パンプスのかかとは片方ずつなくなっていて、
ブラウスの胸ははだけて、ブラの吊り紐が衆目にあらわになっている。
「この格好で帰るの?」
という義母は、わたしたちに帰りの服を用意してくれていた。
わたしのそれは、地味だが造りのしっかりとした、海老茶色の婦人もののスーツ。
美由紀のそれは、すけすけの黒のブラウスに真っ赤なミニのタイトスカート。
お互い黒のストッキングを穿くと、淑女と娼婦ほどの違いがあった。
「美由紀の服はね、あなたに執心の殿方からのプレゼント。今度からは昭太さんではなくて、そのかたの好みに合わせて装ってね」
「ぼくは、美由紀さんを奪(と)られちゃうんですか」
と訊くわたしに、
「だあいじょうぶ。寝取りに来るだけだから。みなさん、美由紀のことは、あなたの奥さんのまま犯したがってるの」
義母はイタズラっぽく、笑った。
周囲もあっけらかんと、笑った。
わたしは照れ隠しに笑い、美由紀も仕方なさそうに笑った。
夕べの通夜の席で、妻を目の前で犯した男たちと談笑しながら握手を交わし、
家内が欲しくなったらいつでもいらしてください、わたしも見て愉しみますから、なんて口にしてしまっている。
そんなわたしを視る美由紀の視線は、いつか和やかなものになっていた。
女装癖を咎めるときの、あのとがったものはもう、どこにもない。
夫に不貞の現場を見せつけたがっているという自身の変態性に目覚めてしまった彼女はもう、夫を咎めつづけることはないのだろう。
「近々、こちらに引っ越してきます。そのときはまた、家内と仲良くしてやってください。
わたしのことも、女として抱いてください」
わたしのあいさつに、満座から拍手が沸き起こった。
女装して訪問。
2019年05月23日(Thu) 07:16:40
「ヨウくん、ありがとうね。あのひとによろしく」
蒼白い顔をした母は申し訳なさそうに、ぼくにやさしく微笑んだ。
少し悲しげに見えたけど、反面うらやましそうでもあった。
「うん、だいじょうぶ」
そう答える声色がいつもより柔らかくなったのは。
きっと身に着けている母のよそ行きスーツのおかげだろう。
ふわりとしたブラウスの胸リボン。
キリっとしたジャケットのスーツにタイトスカート。
太ももや腰回り、足許に、ゆるりとまとわりつくパンティストッキング。
そう、ぼくは母の洋服を着て、母の代わりに吸血鬼に逢いに行く。
父がいなくなってから。
母が蒼白い顔をして勤務先から戻るようになって、
やがて仕事を辞めて、どこかに入り浸るように出かけて行って、
やがて妹を、いっしょに連れ出すようになった。
母親同様蒼白い顔で帰宅するようになった妹も、
まんざらイヤそうではなく母に連れられて出かけて行って、
やがて一人でも、ひっそりと訪問をつづけるようになった。
制服に合わせて履いていた白のハイソックスに、赤黒いシミをつけて家に戻るようになったのは。
母がパンストを伝線させたまま帰宅するようになったのと同じ経緯だった。
ああ、我が家の血は気に入られているんだな――薄ぼんやりとそう思っていた時に、
ぼくにもお招(よ)びがかかってきた。
母子三人、連れ立って歩くとき。
首すじにつけられた等間隔の咬み痕に、お互いさりげなく目線を交し合う。
それは、咬まれたものにしか目に入らない、魔性の刻印・・・
訪問先のお屋敷は、とても広い敷地の奥にうずくまっていて、
ぼくたち母子を飲み込むように、引き入れていく。
なん度か逢瀬を重ねたあと、いつもひとりの、同じ年ごろの女子と同じ待ち合わせ場所に居合わせるようになった。
呼び入れられる順番は、それぞれで、
お互い目線を交わし、黙礼しあって部屋に入っていく。
そして、ドア越しにかすかに漏れてくる吸血の音に、つぎはわが身と胸を震わせる。
着ている制服から、ぼくの学校の生徒だとはわかっていたけれど。
初めて校内で声を掛けられたのは、顔を合わせるようになってからひと月ほども経った頃のことだった。
「ヨウくん、ですよね・・・?」
声をかけてきた彼女の首すじには、鮮やかな咬み痕。
くっきり浮いた赤黒い痕に、日常のストレスが頭から離れた。
それ以来。ぼくたちは付き合うようになった。
お互い連れだってお屋敷に足を向け、
お互いドア越しに、もうひとりが吸血される気配に心を震わせて。
お互い吸血の名残につけられた首筋の咬み痕や、ハイソックスのシミに目を向けあって。
お互い、やがて恋しあうようになっていた。
ぼくたちはわかっている。
処女の生き血の吸い収めになるときに、吸血鬼は自分の犠牲者の純潔を手ずから散らすということを。
そして、セックス経験のあるご婦人を相手にするときには、男女の契りを交し合うことを礼儀だと思い込んでいることを。
ぼくたちはきっと、彼の意思に従いつづける。
そして、
結婚を控えた花嫁は、未来の花婿のまえで痴態をさらけ出し、
結婚を控えた花婿は、未来の花嫁の痴態に心震わせる。
妻の喪服を着るとき。
2019年05月19日(Sun) 06:28:08
妻の不倫相手は、喪服フェチ。
さいしょのなれ初めも法事の席で、薄手の黒のストッキングに透けたむっちりとしたふくらはぎに魅かれたそうだ。
なんて不謹慎なやつ・・・と思いつつ、ふたりの関係をずるずるとみて見ぬふりをつづけてしまっているわたし――
いまは半ばおおっぴらに彼に逢いに行く妻のことを、素知らぬ顔で送り出すまでになっている。
時には派手なスーツを身に着けて、不倫に出かけていく妻の留守中に。
思い切って妻の喪服を取り出して、自分で身に着けてみた。
硬質なかんじのする厚手のスカートの下、薄黒いストッキングに包まれてにょっきりと覗く自分の脚が、
自分の脚ではないように、なまめかしく映えた。
太ももにじんわりとしみ込むナイロン生地の肌触りが、わたしの血液を淫らに染めた。
妻の不倫相手は、吸血鬼――
密会のあと帰宅した妻は、いつも蒼白い顔で息を苦しげにはずませている。
それでも密会をやめないのは、彼とのセックスがよほど良いからなのか?
ふと疑問に思ったわたしは、彼からの誘いの電話を受けたとき、
貧血を起こしていた妻の身代わりに、わたしが喪服を着て伺うとこたえていた。
喪服を着てくるのなら――とこたえた彼に、わたしは同好のものとしての共感を覚えていた。
妻の不倫現場となっている、吸血鬼の邸の一室で。
黒のパンストをくしゃくしゃにずり下ろされながら咬み破られる快感に目覚めたわたしは、
ぜひまたお逢いしたいと願っていた。
それ以来。
わたしたち夫婦はかわるがわる呼び出され、吸血を受けるようになった。
夫婦ながら服属していることが、新たな快感を呼び起こしていた。
あとがき
前作の「が」を、「の」に変えてみました。
たった一文字の変化で、意味ががらりと変わります。
それも、かなり妖しい方向に・・・。^^
装う。
2019年03月29日(Fri) 07:07:50
サラサラとした肌触りのスリップを身にまとい、
なよなよとしたストッキングを脚に通して、
ゆったりとしたブラウスの袖を通し、
楚々とそよぐスカートを腰に巻いて、
肩までかかるウィッグをかぶり、
きめ細やかでほのかに薫るメイクを吐いて、
かすかな潤いを帯びた口紅を差すと、
女性の装いのゆるやかな束縛感が、わたしを幸福感で充たしてくれる。
相手が吸血鬼だったとしても、分け隔てすることなく接することができるし、
彼の欲望に応えてあげる優しさが、全身からにじみ出てくる。
自分の欲望を遂げたいよりも、
相手の欲望を遂げさせることに倖せを感じて、
ただひたすらに、奉仕し尽してしまいたいと一途に想う。
寛大な妻と娘。
2019年03月21日(Thu) 20:55:01
女装趣味に目覚めてしまったわたしに、妻も娘も寛大だった。
娘は自分の制服を持ち出して、
ママに新しいのを買ってもらったから、いままでのはパパにあげると言ってくれた。
ねぇ、着てみてみてとせがむ娘の前、彼女の制服を身につけると、娘はよく似合うねといった。
ねぇ、女子高生の制服を着ると、ドキドキする?と訊かれて思わず頷いてしまったわたし。
もっとドキドキさせてあげるとわたしの顔を覗き込むと、娘はいった。
先週この制服で、初めて彼氏に抱かれたの。処女喪失しちゃったの。
ママにはナイショね、とウィンクする娘に、ふたたび頷き返してしまっていた。
妻も自分の礼装を持ち出して、あなた着てみてと囁きかけた。
ためらいながら身につけると、似合うじゃないとイタズラっぽく笑った。
自分で着たい服をあたし用に買ったのね。
妻はふたたびイタズラッぽく笑うと、ねぇ、女の服を着るとときめくの?と訊いた。
思わず頷いてしまったわたしに、
もっとときめいてみませんか♪と、妻はわたしの顔を覗き込んだ。
先週この服を着て、初めて彼氏に抱かれたの。貞操喪失しちゃったの。
彼に新しいの服を買ってもらったから、この服は好きなときにいつでも着てね。
貴方の秘密を知ったけど、あたしも秘密を抱えちゃった。話してスッキリした。
初めての浮気を告げた妻は、むしろ清々しいほどサバサバしていた。
ごめんねと囁く妻を抱き寄せて、これからもこうしていいかいと囁くと、
決まってるじゃない、あたしたち夫婦よと応えてくれた。
ことが果てたあと。
女どうしでしてるみたい。
妻は肩をすくめて、イタズラッぽく笑った。
父や夫に寛大な母娘は、ほかの男にも寛大だった。
かつて品行方正だった良家の令嬢、令夫人は、服装もろとも淫らに塗り替えられて、
淫行の証拠品をわたしに着せては、彼氏の自慢話を語るのだった。
女装する夫たち ~隣家のご主人編~
2018年08月26日(Sun) 09:52:01
引っ越してきたばかりのお宅から出てきたご主人は、わたしよりも若かった。
おまけに、ミニのワンピースが良く似合う、スレンダーな体格の持ち主だった。
「どう見ても出来損ないのバーのマダムだね」
自分で化粧をしておきながら妻は、わたしの女装をそんなふうに評した。
けれども、初めて脚に通した網タイツのきわどさがツボにはまってしまったので、
わたしは妻の酷評も鼻を鳴らして軽い不満の意を表しただけだった。
ヒョウ柄のワンピースに、黒の網タイツ。
たしかにこの格好では、夜歩きするしか手はなかった。
こういうものの似合う女性が、ちょっとうらやましくなった。
隣家のご主人は、女装が初めてだと言った。
奥さんの服を借りてきたのだと言っていたが、センスの良い服だと思った。
肩幅がちょっときつい・・・というご主人のため、
わたしは胸の釦をはだけるようにとすすめた。
ちょっとためらうご主人の手を払いのけて、
胸もとのブラが露出するまで、ぐいいっとはだける。
スレンダーな体格は、そんな辱めにも耐えて、色っぽくみえた。
「このほうが、血が撥ねても服に着かないからいいですよ」と、わたしがいうと、
「そんなものでしょうか」と、少しカルチャーショックを受けているようだった。
もの慣れない感じがいっそう、初々しさをかもし出していた。
今夜の公園で待ち受けているのは、女房の浮気相手だった。
知らないうちに寝取られていたのだ。
抗議を申し込もうにも、もともとわたしの女装癖を知り抜いている相手だった。
2人の交際を認めると妻に告げると、妻はそうこなくっちゃ、と言わんばかりに、
公園であのひとが待ってるの、と、いった。
「和解のしるしに、女になって犯されてきてくれない?」
女房の言いぐさは突飛だったが、そうするのがいちばん適切なような気がした。
わたしは手慣れたメイクを施した。
服は自分のものではなく、女房のよそ行きのワンピースをねだった。
この間新調したばかりのものだったから、最初は「いやよ」と言っていたが、
夫婦にとっての重要な儀式なんだから・・・というと、渋々だったが貸してくれた。
背中のファスナーをきっちり引き上げると、少しだけサイズの小さい妻のワンピースはまるで拘束具のように、
わたしの身体を心地よく締めつけた。
闇の支配する公園のなか。
連れの女性――隣家のご主人――の声が洩れた。
わたしもほぼ同時に、声を洩らしていた。
働き盛りの血液をたっぷりと抜かれ、へろへろになってしまったわたしは、その場に倒れ込んで、
たくし上げられたワンピースの股間の奥、女房を狂わせた一物をぶち込まれてしまっていた。
ちく生。
これでは女房のやつがマイッてしまうのも、無理はない――
潔く負けを認めたわたしは、闇夜をいいことに、妻になり切って男の愛撫を受け容れていった。
女装する夫たち
2018年08月26日(Sun) 09:38:10
上半身を締めつけるブラジャーにスリップ。
身の丈に少し寸足らずなワンピース。
頬をかすめ肩先に流れるふさふさとしたウィッグ。
足許を引き締め、なまめかしく映えるストッキング。
妻が入念に刷いた化粧に要した時間は、あきあきするほど長かった。
さいごに唇に朱を刷かれたときだけ、不覚にもちょっとうっとりした。
妻に促されて鏡を覗いたとき。
男であるわたしはきれいさっぱり掻き消えていて、女の顔をした見知らぬ別人がそこにいた。
玄関を出るときは、さすがにためらったけれど。
「いってらっしゃい」
妻は感情を殺した声でそういって、玄関に敷かれたじゅうたんのうえに腰をかがめ、床に指をついて送り出してくれた。
こんなこと。
結婚して20年以上にもなるのに、初めてのことだった。
外は静かな闇に包まれていた。
それでも街灯の明るさがいつになく眩しかった。
きっと後ろめたい格好をしているから、なおさらそう感じるのだろう。
穿きなれないパンプスに戸惑いながら、脚をもつれさせるようにして、近所の公園に向けて歩き出した。
「お隣の柴川さんですね?」
隣家から出てきたワンピース姿の女性が、わたしに声をかけてきた。
だれだろう?と目を凝らすが、心当たりがない。
たしかお隣は、わたしと同年代のご夫婦の二人暮らしのはず。
美人な奥さんの妹だろうか?
それが女装したご主人だとわかるのに、ちょっと時間がかかった。
念入りに刷いた化粧と、もの慣れた感じの立ち居振る舞いが、女の雰囲気を漂わせていた。
「お宅も今夜はお出かけですか」
「エエ、そちらもお出かけなんですね」
「公園まで、ごいっしょしましょうか」
昼間であれば、すぐにそれとわかるレベルの女装のはず。
連れができたのは心強かった。
わたしたちが目指す公園は、吸血鬼の出没するスポット。
そう。わたしも隣家のご主人も、そのなかのだれかに呼び出しを受けたのだ。
わたしは棲みついていくらも経たないこの土地の風習に従って、吸血を受けるため。
隣家のご主人もきっと、そういうことなのだろう。
「うちはすこし、事情が違うんですよ」
ご主人は意外なことをいった。
長らくね。
女房が吸われているのに気づかなかったんです。
それが、ふとしたきっかけでわかってしまって・・・
こんなこと、知らずに済ませればよかったのですが。
でもわかってしまった以上、どうしようもありません。
女房を吸い殺されたくなかったら、夫婦ながら吸われつづけるしかないのですよ、ここでは。
「奥さんとその方との仲を、認めに行かれるんですね」
「まあ・・・そういうことですね。無条件降伏というやつです」
ご主人はあくまで、淡々としていた。
「あなたのお相手は誰ですか、もし差し支えなかったら」
そういうご主人に、わたしは彼も知っているであろう近所の男性の名前をあげた。
父と同じくらいの世代の人で、地域の長老格だと聞いている。
ご主人は表情を和らげた。
「ああ、あの方だったら・・・」
聞けば、若いころに夫婦ながら吸血鬼に血を吸われて、半吸血鬼になった人だという。
「ご自分の奥さまを寝取られていらっしゃるから、自分が寝取る人妻の旦那の気持ちも、ちゃんとわかる人ですよ」
風変わりなほめ方だったが、おそらくきっと正しい見解なのだろう。
そんな話をしているうちに、公園に着いた。
女装のワンピース姿のまえに黒い影がふたつ、ゆらっと漂うように揺れて、立ちはだかった。
わたしたちは立ちすくんだまま、それぞれの相手に抱きすくめられてゆく。
「お名前は?」
相手の男が訊いて来たのに答えて、わたしは妻の名前を名乗った。「浩子です」
「浩子は夫を裏切って、私のものになると誓えますか」
「ハイ、誓います。主人に貴男と私の関係を認めてもらいます。主人もきっと・・・よろこんでくれるでしょう」
「それはなによりだ」
では・・・と男は囁いて、口許から尖った歯をむき出した。
傍らでも、同じような儀式が終わったらしい。
「ひっ!」
と叫んだのは、ほぼ同時だった。
ふたりの吸血鬼は、各々の獲物の首すじに食らいつき、力ずくでむしり取るようにして、血を啜った。
働き盛りの血潮が身体から抜けて、吸血鬼の喉を鳴らしてゆくのを、わたしは声を呑んでいつまでも聞き入っていた。
「血を吸った人妻は、犯すことになっています」
仰向けに倒れたわたしにのしかかっていた男が、宣告するようにそういった。
「お願いします」
わたしが身体をくつろげると、男はわたしの穿いているストッキングをむしり取るように引き破った。
そして、黒々と逆立った一物を、わたしの股間へと埋めてきた。
これを・・・妻も埋め込まれてしまうというのか。
肉薄してくる怒張の強烈さに声を洩らすまいとしながらも、
わたしは妻の相手となる男の身体の佳さを体感せずにはいられなかった。
「寝取る男と寝取られる夫・・・仲の良い方がよくはないですか」という男に、
「まったく同感です」と応えるわたし。
「ではいましばらく、愉しませていただきますよ」
「お願いします」
ワンピースを下草だらけにしながら転げまわった夜。
わたしは妻を愛人にしようとする男の希望を、歓んで容れたのだった。
歳月。
2018年08月20日(Mon) 07:18:35
子供のころ。
真っ白なハイソックスを履いて公園にいたら、吸血鬼に襲われた。
ハイソックスを真っ赤に濡らしながらチュウチュウと吸血されていくうちに、ゾクッときて。
仲良くなった吸血鬼に、毎晩のように逢うようになっていた。
ぼくがハイソックスを脱いで家に帰るのを見とがめた母さんが、夜中にぼくのあとを尾(つ)けてきて、
あっさりと吸血鬼の餌食になった。
あちこち咬み破られてずり落ちたねずみ色のハイソックスをずり上げながら、
肌色のストッキングをびりびりと破かれながら血を吸い取られて、ウットリとなってゆく母さんのことを、
薄ぼんやりと眺めていた。
母さんは、毎晩逢うのはお止しなさい、身体に悪いから。
ふた晩にひと晩は、私が身代わりになるから――と言ってくれた。
母親らしく気遣ってくれたのだけれども。
吸血鬼の恋人にされてしまった後の乱れ髪や、はだけたブラウスから覗く吊り紐の切れたブラジャーについ目が行って、
目のやり場に困っていた。
それ以来。
母さんが貧血を起こしているときは身代わりにぼくが、
母さんの洋服を着て、ねずみ色のストッキングを脚に通して、吸血鬼に逢うようになっていた。
そのころの父さんは、ストッキングみたいに薄いスケスケの紺のハイソックスを穿いて勤めに出ていた。
ぼくは母さんの服を着ないときには、父さんのハイソックスを穿いて吸血鬼に逢っていた。
浮気がばれるのを恐れた母さんは、父さんの帰宅時間を吸血鬼に教えた。
勤め帰りの父さんは、スケスケのハイソックスをびりびりと破かれながら吸血されて、吸血鬼と意気投合してしまった。
うちの家内を紹介してあげると、彼を家にあげてやって、
母さんは父さんとは別のベッドで、ひと晩吸血鬼にかしずく羽目に遭っていた。
おかげで――母さんの浮気は、いまにいたるまでばれていない。
妹が中学にあがって、黒のストッキングを穿くようになったとき。
ぼくは母さんの言いつけで、妹の制服を着て吸血鬼に逢いに行った。
こうしてぼくは、夜だけは人妻になったり女学生になったりして、愉しむようになっていた。
妹が下校途中に襲われたのは、入学してから三か月後、冬服から夏服に切り替わる直前のことだった。
やつにしては、よくガマンしたほうだと思う。
吸い取られた生き血で冬服を濡らしながら、妹はべそを掻きながら、チュウチュウと吸血されて、
うら若い血液を奪われていった。
母さんの血が気に入ったんだもの。妹の血が好みに合わないわけはなかった。
それ以来。
ぼくたち兄妹は、おそろいのセーラー服を着て、連れだって公園に通うようになっていた。
齢の離れた兄さんが、義姉さんを連れてこの街に戻って来たのは、それから数年後のことだった。
ぼくはさっそく、義姉さんの服を着て、吸血鬼に逢った。
義姉さんは、てかてか光るストッキングを好んで穿いていた。
ぼくの脚に通された義姉さんのストッキングは、吸血鬼をいたく魅了した。
いつも以上にびりびりと破かれてしまう光景を、義姉さんが襲われる想像と重ね合わせて、
ぼくはいつも以上に昂ってしまっていた。
家への出入りが自由になっていた吸血鬼は、
父さんの親友という触れ込みで(父さんもそう認めていた)一家の団欒の席に現れて、
兄さんを強い酒でたぶらかすと、その目の前で義姉さんを襲った。
義姉さんが血を吸い取られ、犯されてゆくのを、
兄さんは男の目になって、昂ぶりながら愉しんでいた。
ぼくも男のめになって、昂ぶりながら愉しんでいた。
それ以来。
兄さんは義姉さんが誘いを受けるとこころよく送り出して、
代わりにぼくに義姉さんんの服を着せ、ベッドに引きずり込むようになっていた。
吸血鬼に純潔を汚された妹は、責任を取ってほしいとぼくに迫って、
ぼくと妹は、うちうちに結婚式を挙げていた。
男になったり、女になったり、とてもめまぐるしい日常だけど。
そんな日常を、ぼくはすっかり愉しんでしまっている。
兄さんの娘の由佳が中学にあがるころ、
ぼくは兄さんに、由佳ちゃんの服を着たいと言った。
兄さんよりも義姉さんのほうが、積極的だった。
結婚してから吸血鬼に逢うようになった義姉さんはかねてから、
処女のまま吸血鬼に抱かれる経験をできなかったのを残念がっていた。
処女のうちに血を吸われた妹のことを、羨ましいと言っていた。
兄さんのまえで、「このひとに出会う前に抱かれたかった」なんていうので、
兄さんも微妙にくすぐったそうな顔をして、義姉さんの告白に耳を傾けていた。
由佳ちゃんが吸血鬼に襲われて、高校の卒業祝いのときには女として愛し抜かれてしまったあと。
義姉さんはまな娘におめでとうと言って、由佳ちゃんも照れくさそうに、頷いていた。
それ以来。
ぼくは義姉さんの服を着るのと同じくらいの感覚で、
由佳ちゃんの服を着て、兄さんに逢うようになっていた。
義母のスカート
2018年08月16日(Thu) 08:07:11
妻が言った。
「母のスカート、穿いてみたら良い感じだったので、借りてきちゃった♪」
その時の妻の顔――なぜか白い歯しか思い出すことができないのは、なぜだろう?
女の姿になると、男モードで過ごすときの記憶が、あいまいになるのかもしれない。
妻のいない夜。
”彼”は女の姿となって、”彼女”となる。
結衣は女装子。
結衣の妻は、薄々感づいているようだ。
けれども決してそんなことは、口にしない。
なにかのときに、「人に迷惑かけなければ、たいがいのことは許されるよね?」と、真顔で言った。
あれはもしかすると、そういう意味だったのかもしれない。
そのあと妻は、私は貴方に迷惑かけるけど♪と笑って、はぐらかしてしまったけれど。
結衣には彼氏がいる。
けれどもそういう表現をするのは、妻に悪いと思っている。
でも厳密には、彼氏ではないのかもしれない。
彼は結衣の血を吸うだけで、まだ犯されたことはないのだから。
その男と初めて出逢ったのは、女の姿になって歩いた真夜中の公園だった。
女の生き血を求めてさまよっていた彼は、怯える結衣を追い詰めた。
「見逃してください!」と懇願する結衣に、
「救ってほしい」と彼は呟いた。
聞けば、夜明けまでにだれかの血を吸わないと、灰になってしまうというのだ。
重い事実を聞かされて逡巡したすきに、男は結衣の間近に近寄って、うなじを吸おうとしていた。
結衣は思わず願った。
「お洋服だけは汚さないで!」
男はみじかく「わかった」と応えると、「もう少し首すじをくつろげて」と、結衣に注文した。
結衣が目を瞑っておとがいを仰のけると、男は結衣の首すじを咬んで、血を吸い始めた――
魔法にかけられたみたい。
そう思ったときには男は、結衣の血を吸い終えていた。
「もういいの?」
しぜんと女声になって訊ねる結衣に、男は「ありがとう」とだけ、いった。
それ以来。
結衣は深夜の女装外出のときに男と密会を重ね、
請われるままに、ストッキングを穿いた脚を咬ませることまで許してしまっている。
義母のスカートは、ロング丈の花柄だった。
古風だけれども、よく見るとモダンな柄だと結衣は思った。
いまとむかしは、そんなにへだたっていないのかも知れない・・・結衣はなんとなく、そう思った。
今夜、妻は出張で家にはいない。
そして、義母からもらってきたというスカートがなぜか、妻の出かけた後のリビングの背もたれに、そっと掛けてあった。
自分の留守中に、だれかが身に着けるのを予期しているかのように。
考えすぎに違いない――結衣は自分の胸の奥に沸いたそんな想いを打ち消すように、
伸ばしかけた指先をなん度も引っ込めた。
けれども、義母のスカートをまというという背徳感の誘惑に、打ち勝つことはできなかった。
婦人用の衣装のなまめかしさの前には、結衣はか弱い女に過ぎなかった。
気がつくと、結衣の指先はスカートのウェスト部分をつまみ上げ、
ストッキングをまとった両脚を、スカートのなかへと入れていた。
自前の城のブラウスと合わせて、姿見の前に立つ。
似合っていると、結衣は思った。
もはや、羞ずかしいことをしているという意識は、きれいに消し飛んでいた。
姿見の前、玄関までの廊下。
身に着けたロングスカートをさわさわと波打たせながら、できるだけゆったりと足どりで、歩みを運ぶ。
それだけのことなのに。
結衣の胸は高鳴り、抑えきれないときめきが渦巻いた。
「似合っている」
傍らで声がした。
自分自身の呟きかと思って振り向いたら、男が佇んでいた。
「どうして??」
家に招いたつもりはなかった。
「つい、迷い込んでしまった。許せ」
結衣は顔をあげ、男をまっすぐ見あげて、いった。
「歓迎します――」
いつものように、結衣を仰向けにすると、男は結衣の首すじを咬んだ。
いつもは公園の芝生のうえなのに、今夜は自宅のじゅうたんの上――
お洋服が汚れるのを怖がらないで済むことが、むしろ結衣の気分をくつろげている。
コクコクと音を立てて血を吸い取られてゆきながら、
結衣は吸血鬼に襲われた娘になり切って、陶然として自宅の天井を見あげていた。
吸血鬼が自分の血を愉しんでいるという事実が、抱きしめたいくらい嬉しく感じた。
貧血をものともせずに、結衣は男のためにけなげに応えつづけた。
男は結衣の身に着けた義母のスカートをまさぐり、結衣のお尻をなぞった。
じわっと拡がる淫らなときめきを圧し殺しながら、結衣は耐えた。
ここで横たわって、侵入してきた吸血鬼に淫らな振る舞いを許しているのは、結衣?お義母さま?
それとも妻?
妖しい幻想に怯えながら、結衣は応えつづけてしまっていた。
男は結衣の足許に取りついて、いつものようにふくらははぎを咬み、
クリーム色のストッキングを無造作に咬み剥いでゆく。
彼自身の嗜虐心を満足させるように。
結衣は彼の嗜好を好意的に受け容れて、
表向きは嫌がりながらも、足許の装いに加えられる凌辱を、知らず知らず愉しみはじめてしまっていた。
男が呟いた。
「このスカートは、なにかを知っている・・・」
考え深げなまなざしで、スカートの花柄を見つめる男。
男のまなざしの向こうに、妻や義母がいるのを、結衣は直感した。
「家族には手を出さないで」
結衣の願いを男は容れてくれて、本来なら求められたに違いない要求を、完全に封じ込めることに成功していた。
男は男なりに、結衣を尊重し愛してくれているのだった。
男はもういちど、呟いた。
「このスカートは、なにかを知っている」
その「なにか」を聞いてしまうのは怖い、と、結衣は思った。
そしてなんの脈絡もなく、義母のスカートを夫にゆだねた妻は、いまごろどうしているのだろうか?と思った。
ほかの男に逢っているのかも――という妄想は、さすがにかき消していたけれど。
そうであるほうがむしろフェアなのかも・・・と思い直したりしていた。
愛し合夫婦が違う屋根の下、別々の相手と夜を更かしてゆく。
そんな夜が現実にあったほうが良いのか、良くないのか。
それはまだ、結衣の意識の向こう側の世界に過ぎなかった。
男はふたたび結衣を抱きしめて、こくこくと喉を鳴らして、
結衣の血を美味しそうに飲み耽っていった。
女装子お見合い倶楽部
2018年08月10日(Fri) 07:29:55
どうしても結婚したいと思った。
相手は、男でも良いとさえ思った。
せめて、女の格好をしているのなら。
そんな不純な想いを抱いて訪れた場所――
それは、
「女装子お見合い倶楽部」
という場所だった。
なんの変哲もない雑居ビルの二階に、それはあった。
得体のしれない世界に踏み込むことをためらう気持ちよりも、
嫁さんが欲しいという欲望のほうがまさって、
気がついたらノックをして、部屋の中に入っていた。
応対してくれたのは、穏やかそうな初老の男の人だった。
案外ノーマルな人だな、と、思った。
「いらっしゃい。こちらは初めてですね?どんな方がご希望ですか?」
名前も連絡先も訊かれなかったことに、すこし安堵した。
男の人は、そんなぼくの想いを見透かすように、
「お名前、ご住所、ご職業とかは、ご本人に入って下さればそれでよろしいです」
押しつけがましくない口調だった。
そして、お差支えあるかもしれませんからね、と、当然のようにつけ加えた。
年齢40歳くらいまで。(ぼくの年齢もそれくらい)
女性として日常を送っている人。
学歴、職業は不問。
容姿、スタイルは特に問わないが、古風な感じの人が好み。
独りで生きていける人。
自分で書いていて、かなり偏った手前勝手な条件だなと思った。
「かしこまりました。ご希望に合いそうな方とのアポイントを取らせていただきます」
初老の男性に言われるままに、携帯の番号とメールアドレスだけを教えて、その日は終わった。
アポイントが取れたのは、数日後だった。
仕事中に携帯が鳴ったらどうしようと内心どきどきしていたのを見透かすように、
それは無表情なメールでやって来た。
「お見合い相手のかたをご紹介します。ご都合のよろしい日時は・・・」
名前:ゆう子(仮名)
年齢:39歳
婚歴:未婚
職業:パートタイマー(某企業にて、女子事務員として勤務)
家族:両親と兄夫婦とは別居、日常的な行き来はあり。家族は本人の女装癖を認知している。
性別:男(男性器あり)
住所や電話番号、勤務先、年収・・・そういったものは書かれていなかった。
こちらが明かさなかったのだから、当然と言えば当然だった。
年収くらい情報交換しても良かったかな?という考えは、浮かんだ途端に消えていた。
ほんとうによい人なら、自分が養えばよい、と思った。
初対面の日は、あっという間に来た。
「初めまして・・・」
あらわれたそのひとは、白っぽいワンピースを着ていた。
肩まで伸びた黒髪に、良く似合っていた。
顔や顔の輪郭が少しだけかっちりとしていたけれど、
それは彼女の容姿を損なうものではなかった。
でも、女性のなだらかさとは少しだけ、異質なものがあると感じた。
女のかっこうをした男と、いまお見合いをしている。
その事実に今さらながらがく然となり、それが態度に現れた。
ゆう子さんはそれでも、不快そうな態度を表に出さなかった。
無理なら遠慮しないで、そう仰ってくださいね。
低くて落ち着いた響きのある声だった。
男が女のまねをするような、不自然な猫なで声などではない。
長い時間に身についたものだった。
ぼくは不覚にも、うろたえた。
自分の覚悟のなさが、恥ずかしかった。
気がつくと、いっさいがっさいを、白状していた。
女性にはまるきりもてなくて、結婚願望ばかり高かったこと。
それでもどうしても結婚したくて、女の格好をしていれば男でも良いと思ったこと。
女装の人と面と向かって話すのは初めてで、慣れない状況に戸惑ってしまっていること。
ここまでで、ご遠慮しましょうか――?
ゆう子さんはちょっと寂しげだったが、淡々とした語調で断りやすい雰囲気を作ってくれた。
そのとき自分自身をかなぐり捨てることができた幸運に、いまでも心から感謝している。
ごめんなさい。そうじゃないんです。
でも、初めてなので戸惑ってしまって。
少し、時間を下さい。
できればもう少し、あなたと一緒にいさせてほしいんです。
できればもう少しで良いから、あなたのまとうその落ち着いた空気といっしょにいたい――そんな失礼なことまで、口にしていた。
いつも浮ついていて自分勝手な自分にとって、彼女のまとう空気感が、とても新鮮だったから。
「人助けだと思って」とまで懇願したぼくに、「だいじょうぶですよ」と、ゆう子さんは笑って応えてくれた。
それからなにを話したのか、じつはあまりよく憶えていない。
ゆう子さんの行きつけの喫茶店に行って、おなじ紅茶を飲んで、言葉少なにお互いのことを話したような気がする。
なぜかお互いに聞き役になっていて、そのために会話がしばしば途切れたけれど、
なんとか言葉をつなぎたいという焦りはみじんも感じなかった。
聞いてはいけないようなことまで、聞いてしまっていた。
夜の営みはどうすればよいのですか?とか。
ゆう子さんは静かに笑って、応えてくれた。
初対面の女性に、そんなこと訊いてはいけませんよ、と、優しくたしなめながら。
どんなことをすれば良いかなんて、考えることないと思うんです。
お互い、愛したいように愛すれば良いと思うんです。
でも、私の考えだけをいうのであれば――
もしもあなたを好きになったら、女として愛します。
女として愛します。
そういったときのゆう子さんの目に帯びたものが、ぼくたちのすべてを塗り替えていた。
「男のお嫁さんをもらうから」
思い切って打ち明けたぼくの話に、両親はもちろん驚いたけど。
「陽(ぼくのこと)が良ければ、それでいいんじゃない」と、あっさりと結婚を許可してくれた。
孫の顔だけは見せられない――とわびるぼくに、「孫はあんたとちがって優秀な兄さんや姉さんができの良い孫を作っているから良いよ」と、いつもながらのひどい言葉で、ぼくのことを安心させてくれた。
ゆう子さんは貞操堅固なひとで、いままで異性とも同性とも未経験だといった。
新婚初夜のベッドのうえ。
はからずも40にもなって、ぼくは処女の花嫁を得たのだった。
愛したいように愛すれば良い。
彼女のことばは、いまではぼくの日常になっている。
夜遅く勤めから戻るぼくをねぎらうために、
ゆう子さんは小ぎれいな服を身に着けてぼくを迎え入れて、
夜遅くまで。
朝早くから。
全身に愛をこめて、互いに互いを愛し合っている。
あとがき
珍しく純愛もの?になってしまいました。
(^^)
女学生?看護婦?それとも・・・
2018年07月25日(Wed) 05:29:55
その女子生徒は彼のまえで、恐怖に顔を引きつらせ、
両手で口許を抑えて、立ちすくんでいた。
下校途中だったらしい彼女の服装は、紺のベストとグレーのプリーツスカート。
足腰の動揺に合わせて揺らめくスカートのすそからは、
緑のラインが3本入った白のハイソックスに包まれた脚が、革靴に包まれてこわばっている。
彼はかまわずその女子生徒の肩を掴まえ、手前にグイと引き寄せた。
そうはさせじと踏ん張る脚はすぐにくじけて、
あっという間に彼女の身体は彼の猿臂に抱え込まれてしまっていた。
目のまえに迫る健康そうな首すじは心持ち日焼けしていて、
ツヤツヤとした健康そうな皮膚に覆われている。
真っ白なブラウスを汚してしまうだろうな――と思ったときにはもう、
口からむき出した牙で、首すじに喰いついていた。
「ぎゃっ!」と叫んだのか。「わっ!」と叫んだのか。あまりよく憶えていない。
気がついたときには吸い上げる血液のなま温かさを心の底から抱きしめながら、
抵抗を忘れた女子生徒の身体から、生き血を喉を鳴らして飲み耽っていた。
血のない身体は引きつったように苦しく、全身を縛る干からびた血管に締め上げられるようだったが、
少女の身体からもたらされた潤いに打ち解けて、ぐっと柔らかな心地になっていた。
尻もちを突いたかっこうの女子生徒と目が合うと、良く輝く黒い瞳が怯えた。
彼はにんまりと笑い返しながら、心のなかで思った。
――そう、あんたは俺専属の看護婦なのだよ。
白衣の代わりに学校の制服を身に着け、白のストッキングの代わりにライン入りのハイソックスを脚に通した“看護婦”に、彼はなおも無慈悲な牙をひらめかせる。
ハイソックスのふくらはぎに唇を吸いつけてゆくと、女子生徒はあらかじめ予期していたかのように脚を差し伸べて、これから加えられる恥辱を目にするまいと、キュッと目を瞑った。
赤黒く爛れた唇のすき間からよだれをギラギラと滾らせた舌がヌルリと這い出て、ハイソックスの生地になすりつけられる。
しなやかなナイロン生地のしっかりとした舌触りを愉しむようにして、
舌はなん度もしつようになすりつけられ、ヌメヌメと這いまわった。
脚の線に合わせてゆるやかに流れるリブ編みが、いびつによじれた。
そうやって左右の脚を代わる代わるいたぶると、彼は靴下の上から牙を突き立てて、
少女の自尊心にとどめを刺すように、ずぶりと牙を埋めた。
「ああっ・・・」
女子生徒はなん度めか、悲しげなうめきを洩らし、突っ伏して、
いたぶられてゆく自分の足許から目を背けた。
真っ白なナイロン生地にじわじわとバラ色の飛沫を拡げながら、
彼は女子生徒の生き血を美味そうに、なおもチュウチュウと音を立てて吸い取っていった。
ふと気がつくと、腕のなかにいたはずの女子生徒の姿がなかった。
引きかえに与えられた喉の潤みと身体のほぐれとを振り捨てるように彼は起ちあがり、あわてて周囲を見回した。
グレーのプリーツスカートをひるがえして逃げ去る少女の後ろ姿を追い求めたが、それはどこからも得ることができなかった。
彼は半狂乱になって、とある民家の庭先に乱入した。
どうしてその家にしたのかは、記憶にない。
民家の縁側に面したガラス戸は開け放たれていて、なかは真っ暗闇のなか、ひっそりと静まりかえっている。
死の静けさを、彼は直感した。
たたみの部屋の中央にしつらえられた籐椅子から、だれかが起きあがる。
まるで死者が蘇生したかのようだった。
相手は初老の男性だった。
老人はだまって彼に、部屋の奥を指さした。
彼は老人に指さされるまま、部屋の奥を窺った。
薄暗闇のなか、一枚の大きな水彩画が、額縁におさまっている。
その絵の主の少女をみて、彼はあっと声をあげた。
白のブラウスに濃紺のベスト、グレーのスカート。
学校の制服を身に着けた絵のなかの少女は、こちらに目を向けて、悲しげにほほ笑んでいた。
少女の履いている白のハイソックスには、ふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたり、ちょうど3本走った緑のラインの上あたりに、赤黒いシミが毒々しくまとわりついている。
「どういうことだ!?」
狼狽してふり返る彼に、老人は言った。
「その子にお逢いなすったね?」
もう、どれくらい前のことになるのやら。
あの子がいなくなってから、わたしの時間は止まってしまった。
学校帰りに吸血鬼に襲われて、家にたどり着くことができなかったのだ。
優しい子だった。
その時分にはもう、校内には吸血鬼がだいぶいたというのに、あの子は分け隔てなく接して、仲良くしようとした。
どうしても喉が渇いたというものには、靴下を脱いで足を咬ませて、血を吸うことを許しさえした。
靴下のうえから噛みたがるものがあると、仕方なさそうにほほ笑みながら、なん足も用意していた気に入りのハイソックスに血を滲ませながら、応えてやっていた。
だが、心無いものがあの子の血を独り占めにしたがって、あの子は家に帰ることができなくなった。
だから時々、出るのだよ。
あんたのように喉をカラカラにして、通りがかりの女の子を見境なく襲うものが街をうろつくと、
あの子は幻になって、ほかの子の身代わりになって咬まれてやるのだ。
どういうわけか、吸い取った血は本物らしく、
あの子を襲ったものはいちように、ひどく満ち足りた顔つきをして、静かに立ち去るのだ。
ちょっぴり後悔の色を浮かべて、もうこんなことをくり返してはいけないのだと自分に言い聞かせてな――ちょうどいまのあんたのように。
彼は少女の絵のまえで、がっくりとうなだれて、たたみに満ちるほどの涙を流していた。
吸い取った血潮の滴りを、その涙で償うように。
「償うつもりはできたのかの?」
そう問いかける老人に、彼は言った。
「どんな魔法をかけたのだ」
「どういうわけだか、わしにもわからんが」
老人はいった。
「あの子を無体に襲った吸血鬼は、真人間に戻ってしまうのだよ」
自前の血液が脈々とめぐる居心地の良さを体感しながら、彼は老人のいうことが正しいと認めざるを得なかった。
「どうしろっていうんだ・・・?」
こんどはあんたが、血を吸われる側にまわるのだ。
あんたが道行く少女や人妻から生き血を吸い取ったように、
通りを徘徊する吸血鬼のまえに立って、こんどはあんたが自分の血を与えるのだ。
そうだな、さしあたりきょうからは、女になって過ごすことだな。
あの子の着ていた制服を着て、明日から学校に通うがよい。
齢?どうでもよいではないか、そんなことは。
服だけではない。部屋もあの子の部屋を使い、あの子になり切って暮らせばよい。
戸籍もそのまま残っているし、学校にも連絡しておこう、あの子が再び登校できると。
食事はばあやが作ってくれるし、クラスにもちゃんと女子生徒としてとけ込めるはずだから。
翌日、彼は老人のいったことが本当だと感じた。
かつらをかぶり、女子の制服を着て、おそるおそる玄関をくぐると、
友だちらしい女子が2、3人、彼を待ち受けていた。
「さと子ちゃん、行こ」
頭だった女の子は、彼のことを「さと子ちゃん」と呼んだ。
たぶん、あの子の名前なのだろう。
それ以来、彼は「さと子ちゃん」になった。
「さと子ちゃんは、おかまちゃんね?」
白い歯をみせて笑う少女の口ぶりに、邪気はなかった。
「いいのよ、うちの学校、そういう子たちが多いから。うちのクラスにも、さと子ちゃん以外に3人いるわ。見分けがつかないと思うけど」
少女の履いている白のハイソックスが、朝陽を照り返して眩しく映った。
白のハイソックスに包まれた脚たちが通学路をたどるのを、
そのなかに自分の脚さえもが含まれているのを、彼は眩しく感じた。
授業を終えて帰ろうとすると、初めて彼を「さと子ちゃん」と呼んだ少女が、気づかわしげな顔つきをして、こちらへやって来た。
「私――きょう初めて吸血鬼さんに血を吸われるの。さと子ちゃんも来てくれない・・・?」
どうしてあたしを?
いつの間にか覚え始めた女言葉で、彼が訊くと、少女はいった。
――この街に越してきてから、一か月になる。吸血鬼のいる学校と聞かされて、怖がってそんな学校に通いたくないと親に言ったけれど、許してもらえなかった。いろいろな事情でふつうの街に棲めなくなったから、この街に来たのだと。その引きかえに、父さんも母さんもお前ももちろん、献血をしなければならないのだと。怖がる私にまわりは優しくて、吸血鬼の相手をすることを無理強いされることはなかったけれど、一か月経った今、父さんも母さんも吸血鬼に血を吸われてしまい、母さんの血を吸っている吸血鬼に血が欲しいとねだられている。でも一人で行くのが怖いの。
じゃあ、あたしが手引きしてあげる。
彼は少女の手を取って、引っ張るようにして連れ出した。
自分のなかでなにかが目覚めたのを彼は感じた。
怯える少女たちを地獄送りにした日々の記憶が、ちょっぴりだけれどもよみがえったのだ。
自分が吸うわけではない。けれども、吸血されるというのはこんなことだと、俺はこの子に教え込んでやることがまだできる――
着いたのは、古びた邸だった。
その邸の門のまえ、少女は怯えたように、白のハイソックスの足許をすくませる。
「大丈夫よ、あたしがついてる」
彼はそういって、少女のまえに立って、訪いも入れずに門の中に入っていった。
「あんたか・・・」
うずくまっていた黒い影は振り向きざま、目あての少女をかばうように立ちはだかる女子生徒をまじまじと見て、信じられないという顔つきでそういった。
お互いに吸血鬼仲間だったから、やつのことはよく知っている。
ふたりで同じ獲物を分け取りしたこともあったし、
二人連れの女学生を襲って、獲物を取り替え合って愉しんだこともある。
悪い記憶を共有する仲間なのだ。
「あたし、さと子です。よろしくね」
一瞬で事態を把握したらしいかつての相棒は、しどろもどろに、
「ああ・・・こちらこそよろしく」
というのが精いっぱいだった。
「この子に介添えをしてほしいって言われたの」
さと子がそういうと、相棒はすぐに納得したようだった。
「さきにあたしのことを咬んで。お手本を見せるの」
「うう・・・わかった」
吸血鬼が吸血鬼の血を吸うのか?と言いたげな相棒の顔を一蹴するように、
「もう吸血鬼じゃないんだから。中学二年の女の子なんだから」
さと子はそう言い張って、履いていた白のハイソックスをひざ小僧の下まで引っ張り上げた。
相棒が、ハイソックスの脚に好んで咬みつくのをよく知っていたから。
「じゃあ、お言葉に甘えるよ」
相棒は少女を襲う吸血鬼の顔に戻ると、さと子の足許に唇を近寄せた。
「きょうの本命」の少女が、ふたりのようすをおどおどと見つめる視線を感じながら、
さと子は足許に尖った異物が刺し込まれ、ハイソックスになま温かなシミが拡がるのを感じた。
「ほんとうに女の子の血だ・・・あんたの血、美味いぜ」
相棒が手の甲で口許を拭うと、さと子は「でしょ?」と得意そうにいった。
「つぎはこの子の番。お手柔らかにね」
さと子は素早い身のこなしで少女の背後にまわり、両肩を抑えつける。
ビクッとすくむ方の怯えが、掌に伝わるのを感じた。
「平気よ。すぐ済むわ。あなたのお母さんだって生きてるでしょ?献血だって思ってあげて」
もじもじさせる足首を相棒がつかまえるのを見おろしながら、さと子は親友を落ち着かせようとして囁きつづけた。
いいこと?
困ったひとにあたし達の若さを恵んであげるの。
あなた、看護婦さんになりたいんでしょう?
看護婦さんは白衣に白のストッキングだけど、
いまのあたし達は学生だから、制服に白のハイソックスなの。
あのひとたちは淋しく飢えているから、
あたし達の着ているお洋服で慰めることもできるのよ。
大人の女のひとが穿いているストッキングとか、
あたし達くらいの年ごろの女の子が履いているハイソックスを、
破いたり汚したりしながら血を吸うのが好きなの。
イヤラシイわよね?ヘンタイだよね?
でも、気にしないで相手してあげるの。
恥かしいのは吸血鬼たちのほうよ。
あたし達は、彼の好みに合わせてあげてるだけだから、ちっとも恥ずかしくないの。
そのうちに、慣れてくるわ。
女子生徒らしい装いを辱めるのと引き換えに、彼ったらキモチよくしてくれるのよ。
あなたのお母さんもきっと、キモチよくしてもらっちゃったから、
娘のあなたにもそんなふうになってもらいたいって思ってらっしゃるの。
だから、毎日学校に着ていく制服姿を辱めさせてあげましょうよ。
これは悪魔の囁きなんかじゃないわ。親友の忠告――
あ~あ。気を失っちゃった。
あとはもう、やりたい放題じゃないの。よかったね。
真っ白なハイソックスに濁った精液がしたたり落ちるくらい、ぶち込んじゃいなさいよ。
あんたの精液、いつも濃くって臭いもきついのよね。
え?先にあたしを・・・ですって?
やらしいなぁ・・・もぅ。
でもあんたに純潔を汚されるのも、それはそれで道理なのかも。
いいよ、じゃあこの子の前で手本見せるから。
夢中になるまで、やめちゃダメだからねっ。
こうしてなん人もの少女がまた、地獄に堕ちた。
さいしょの朝に迎えに来た少女たちは、毎日代わる代わるにあの古屋敷に呼び出されて、処女を奪われた。
それは、皮切りに過ぎなかった。
さと子の手引きで、まだ未経験だったクラスの女子のほぼ全員が、男を識った身体にされてしまったのだ。
初体験を迎えて本能的に怯える少女たちを、さと子はつぎつぎと大人の女にしていった。
経験するまでは、地獄。経験してからは、天国。
ほとんどの少女が、そう感じたに違いない。
大勢の若い血液が供給されたおかげで、通りがかりの女性がいきなり襲われることはほとんどなくなり、生命を落とす例は絶えて聞かれなくなった。
さと子が家に帰ると、見知らぬ少女がじっとこちらを見ていた。
「ずいぶんおおぜいの子たちを、恥知らずにしちゃったんだね」
少女はちょっと、怒っているようだった。
「あなた、やっぱり吸血鬼のほうが向いているわ。償いをさせるために真人間にしたのだけれど、やはり私が人間に戻るわ」
制服は返してね・・・と振り返ったときにはもう、もとの優しい顔になっていた。
男の姿に戻った彼は、再び相棒の棲む古屋敷の前にいた。
傍らに、同年代の若い女性を伴って。
「いいかい?入るよ。きょうは、俺の婚約者を紹介してやろうと思ってね・・・」
※7月21日 9:38構想。
やや唐突なおわり方が気になりますが、ここまでのお話のようです。^^;
寄り添う幻 ほほ笑む面影
2018年07月16日(Mon) 16:22:49
ストッキングを穿くだけで 貴婦人になったような気がする
スリップを着けるだけで 淑女になったような気がする
ぼくは男 でも鏡のなかでは女
きょうもレディの幻影が、ぼくに寄り添いそっと囁く
ハイソックスを履くだけで 女学生になったような気がする
リボンをギュッと締めただけで 優等生になったような気がする
ぼくは男 でも鏡のなかでは少女
きょうも女子校生の面影が ぼくに寄り添いそっとほほ笑む
夕方6時以降の”少女”たち
2018年06月26日(Tue) 05:51:07
「まいちゃん、いる?」
「まいちゃ~んっ」
少女たちのひっそりとした誘い声が、夕澄真衣の家の玄関に響いた。
ギイ・・・と扉が開いて、玄関先に立つ少女たちと同じ制服を着た真衣が、怯えるように顔だけ見せた。
「来て来てっ!怖くないから!」
香坂カオルが手を振って、ひそめた声を励ますように投げてくる。
やがて玄関の扉の影から、白ブラウスの肩が、紺のハイソックスの片脚が、赤とグレーのチェック柄のプリーツスカートに包まれたお尻が見えて、少女の全貌があきらかになる。
ウィッグの黒髪はつややかだったが、その黒髪に囲われた面差しは、少女にしては強い輪郭を持っている。
「わぁ、似合ってる♪」
坂川エリカが両手を握り合わせて小躍りした。
夕澄真衣という名前は、女子の制服を身にまとったこの少年が自分に着けた、女の子の名前。
でもここではあえて、夕澄真衣という少女の名前だけを明かしておく。
玄関のポーチから小走りに折りてきた真衣は、声を潜めてはしゃぐ二人の少女と連れだって、肩を並べて歩き出した。
それまでの怯えはもはやかけらもなく、暑すぎず肌寒くもない初夏の夕暮れの街なみを、風を切るようにして歩みを進めていった。
夕澄真衣は、都会から越してきた男の子。
昔から女の子の服にあこがれを持っていて、親に隠れて女装している。
そういう少年たちの手近にある少女の服といえば、女きょうだいのそれだったりするのだが、真衣には女きょうだいはいなかった。
けれども真衣は、裕福な親からもらう潤沢なおこづかいをやりくりして、少女の服を一着、手に入れていた。
父親は会社の経営者、母親もこの街に来てからは勤めに出ていたので、学校から帰ってから夕食までの間、親の目のない時間を彼女は日常的に持っていた。
来たばかりの見知らぬ街の公園で、少女の服を着て夕涼みをしていると、
いつも人けがないと見定めて入ったはずのこの公園のなか、気配も立てずに少女が二人、
同時にベンチの両側に腰かけてきた。
「女装してるの?似合うね。あなた、3組に入った〇〇〇〇くんでしょ?」
少女の一人、香坂カオルは好奇心たっぷりの目をくりくりさせながら、真衣に訊いた。
「だいじょうぶ。あたしたち味方だから♪」
左側から囁きかけてきた坂川エリカの声は生温かい吐息となって、真衣の耳朶をほてらせた。
「この学校、女の子の服着てる男子って、多いんだよ。3組の女川さんて、じつは男子なの」
「浜口くんや鳥居くんも、よく女装して登校してくるよね」
そんなことをさもふつうのように、おおっぴらに声に出して笑いさざめく女子たちに、真衣は圧倒されたけれど、気がついたときにはもう、三人の少女の会話に興じきっていた。
「あたしの制服貸してあげる。サイズ同じくらいでしょ?予備に一着、お母さんが買ってくれてるのがあるから。学校に持っていくから、それ着て家で待ってて。あたしたち迎えに行くから」
カオルは一方的にそういうと、小指を突き出して真衣の指にからめ、強引に指切りげんまんをした。
翌日、休み時間に手提げバッグの中に入った制服のずっしりとした重みにドキドキしながら真衣は下校してきて、だれもいない部屋のなか、カオルの制服に着かえた。
女の子の、それも同級生の制服を着るという初体験の出来事に指が震えて、ブラウスのボタンをはめるのに、ひどく手間取ってしまった。
着かえが終わって、鏡を見たら、そこにはまごうことなく、少女になった自分がいた。
真衣は感動に震えた。
それから彼女たちが家に訪ねてくるまでのあいだ、どうしていたのかをよく思い出せない。
万が一、受け取らなければならない小包を携えた郵便配達がピンポンを押したりはしないか、
万が一、親たちがなにかのつごうで家に早く戻ってきたりはしないかと、
ドキドキしながら彼女たちが玄関の外から声をかけてくるのを待ち受けていた。
ドアノブをまわし、扉を開くと、そらぞらしい外気が真衣を包んだ。
解放された真衣を祝福するような、さわやかな空気感を感じながら、
真衣は踊るようにして玄関のポーチを降りる。
すぐ目の前には、おなじ制服を着た少女が二人――晴れて自分も、その仲間入りを果たしたのだ。
「行こ」「行こ」
手に手を取り合って、公園をめざす。
その公園が「お嫁に行けなくなる公園」と呼ばれつづけてきたことなど、真衣は知らなかった。
「いいこと?ベンチにはひとりひとり別々に腰かけるの。そうするとね、自分のことをいちばんだと思っている彼が、隣に座るから――あとは、そうね・・・その彼とおしゃべりしたり、とにかく絶対いいことがあるから、彼の言うとおりにするんだよ」
制服を貸してくれたカオルはまるで先生みたいな指図口調で真衣にそういったが、
真衣は自分でもびっくりするほど素直に肯きかえして、指さされたベンチへと足を運んだ。
カオルから借りた制服のブラウスが素肌にしみ込むような心地よい呪縛を伝えてくる。
まるでその呪縛に痺れてしまったように、真衣はこれから起こることをワクワクしながら待ち受けた。
気がつくと、カオルの隣にも、エリカの傍らにも、すっと音もなく、気配も立てず、男性の影が寄り添っていた。
思ったより全然年上――そう思った真衣の隣にも、父親よりももしかすると年上かもしれない男が座っていた。
男はひっそりと、それでもたしかな存在感をもって、真衣を圧倒する。
開かれた口許からは鋭利な牙がひらめき、獣臭い息をはずませながら迫って来る。
真衣は自分でもびっくりするほどもの静かに、柔らかな目線を相手にそそぐだけ。
両肩をつかまれて、ベンチの上に押し倒されて、ひらめく牙は首すじに近寄せられてくる。
じゅるっ。
隣のベンチから、異様な音が洩れた。
ふと見るとエリカがひと足早く咬まれて、首すじから血を流していた。
それからすぐにカオルの首すじからも、咬みつく音がかすかに、ズブッと洩れた。
ビュビュッと撥ねる血が、カオルのブラウスの襟首を染めた。
「やだ――またひとの制服汚すのね」
カオルはひっそりと笑い、相手の行為をこともなげに受け容れていく。
ぼう然と見つめる真衣もまた、首のつけ根に鈍痛が走るのを感じた。
ちゅう・・・ちゅう・・・ちゅう・・・
首すじに吸いつけられた唇が、さっきからもの欲しげにうごめきながら、真衣の血を吸い取ってゆく。
それでも真衣は、身じろぎひとつせずに、男の相手をつづけていた。
真衣のもの慣れないしぐさに、むしろ男は行為を感じたようだ。
吸い取ったばかりの血に濡れた唇を麻衣の唇に重ね合わせて、ファースト・キスを奪うと、
真衣の制服姿をいとおしげにギュッと抱きしめた。
相手の男が自分のことを女の子として扱って、ギュッと抱きしめてくれるのが嬉しくて、
真衣は積極的に相手のキスに応えた。
錆びたような血の匂いが鼻腔を刺したが、怖いとは感じなかった。
むしろ、冷えた男の身体がすがりついてくるのがいとおしくて、自分のぬくもりを分け与えてあげたいとさえ、本気で思っていた。
「すまないね」
「いいえ」
会話はそれだけで十分だった。
男はなん度も真衣にキスをねだり、真衣はそのたびに応えつづけた。
ふたりの少女はブラウスをはだけられていて、はぎ取られたブラジャーの下から、豊かな乳房を思い切りよくさらしている。
カオルのおっぱいはピチピチと引き締まって硬く、
エリカのそれはふんわりと白く輝き、柔らかそうだった。
真衣は彼女たちのおっぱいをきれいだと思った。
彼女たちが本物の少女であることを、羨ましく感じた。
息荒く迫って来る男のまえでおっぱいをさらすことがなにを意味しているかなど、どうでも良いことだった。
可愛いピンク色の乳首たちはもの欲しげな舌先に舐められ、火照った唇に呑み込まれる。
大またに開かれたハイソックスの脚は、たくし上げられたスカートから太ももまであらわにされて、男どもの浅黒く隆起した腰を、股間の奥へと受け容れはじめている。
少女たちが初めてではないことを、真衣は直感した。
そして少女たちの運命を自分も共有していると気づいたときにはもう、平たい胸からぽっちりと隆起している乳首を、しつように舐められてしまっていた。
真衣がその後起きあがったのは、行為のまえの一度きりだった。
「パンツ、脱ぐね」
そういって勢いよく起き上がると、真衣は潔くショーツをひと息に足首まで引き降ろし、男の手にゆだねると、再びベンチのうえに仰向けになった。
嫁入り前まで男のまえにさらしてはいけない部位をあらわにすると、なぜか度胸がついた。
自分でも経験したことがないほど烈しく逆立った一物が股間を冒しにかかったときも、これからどうなるんだろう?という好奇心しか感じなかった。
夕食まえに、それも公園のような野外で、息子が女としていたぶられているなんて知ったら母さん悲しむだろうな――と、チラと思ったけれど。
行為を中止するきっかけにはならなかった。
力まかせに突き入れられた一物が真衣の股間を抉り、抉られた股間は血を流す。
スカートの裏地に血が沁み込むのを感じたときにはさすがにあせって、
「カオル、ゴメンねっ」って、呟いていた。
自分の純潔が喪われるよりも、カオルから借りたスカートが血に濡れることのほうが重要だった。
傍らの少女ふたりはベンチのうえで、スカートのすそから太ももをあらわにして、営みに息をはずませつづけている。
ふたりの黒髪が、腰の上下動に合わせてユサユサと揺れるのをみて、「青春だなあ」とつくづく思った。
ハイソックスの脚を噛みたいとねだられたのに応えてやったり、
お〇ん〇んをしゃぶってみたいとねだられたのに応えて咥えさせてやったり、
これがきみを女にした、ぼくの宝物だよ――といわれて差し出されたものを口に含んで、根もとまで咥えてしまったり、
吐き出された精液を呑み込んでしまったとき、真衣は女になった歓びを感じていた。
これからも、自分は男として暮らしていくはず。家族の手前もあるから。
けれどもあたしはきっと、今夜の出来事を忘れない。
そして、母さんにばれてもきっと、くり返してしまう。
もしかすると母さんまで巻き込んででも、くり返しつづけてしまう。
真衣はふと、傍らで自分といっしょに犯されている少女のどちらかと、将来結婚するのだと直感した。
あとがき
このお話は一週間くらい前、途中まで描いてタイムリミットになり、今朝ほど仕上げたものです。
どこから描き継いだかはナイショですが、当初思い描いていたのより大胆に描けたような気がしています。
亡き妻になりきった夫
2018年05月04日(Fri) 06:17:47
「私が死んだら、女になれば?」
妻はそう言って、せせら笑った。
結婚後すぐにわたしの女装癖を知った彼女は、わたしのことを冷ややかに嗤った。
それ以外は、ごく円満な夫婦だった。
見栄っ張りな彼女はだれから見ても幸福な夫婦を演じ切ろうとしていた。
賢明でもある彼女は、わたしに対する内心の軽蔑を抑え込んで、
少なくとも家庭という共同経営者としては強調し合える、理想的なパートナーだった。
彼女が穏やかでさえいてくれる限りでは、わたしにとって彼女はどこまでも、最愛の妻だった。
しかし、わたしたち夫婦の間に、子どもを授かる日はついに訪れなかった。
四十手前という若すぎる死期を覚ったとき。
病床を訪れた裕福そうな老紳士をわたしに引き合わせて、
「この人よ。20年前、私が処女を捧げたのは」
妻はそう言って、またせせら笑った。
貴方とお見合いをしているときも、しょっちゅう逢ってたの。
結婚も、彼に相談して決めたわ。
それから――結婚してからも、よく逢ってたの。
怒った?
優しいのね?
こんな悪い奥さんでも、怒らないでいてくれるのね?
じゃあ私から、ご褒美をあげる。
あなた、私がいなくなったら、女になればいいわ。
女になって、この男(ひと)に抱かれるといいわ。
もしそうしてくれるなら、私の服をぜんぶ、貴方にあげる。
私がいなくなったら、どうせそうするつもりだったんだろうけど――
貴方が気に入っていた青紫のスーツも、濃い緑のベーズリ柄のワンピースも、
これからは好きに着られるのよ。
ちょうどサイズも、あつらえたようにぴったりだし。
どお?
女になって、貴方の奥さんを犯しつづけた男に抱かれるなんて。
あなたそういうの、好きそうじゃないの――
妻がいなくなってから、男はしばしばわたしたちの家を訪れて、
わたしとはひと言も言葉を交わさずに、静かにお線香をあげていった。
そんなことが三度続いたあと、
わたしは意を決して、線香をあげに訪れた彼のことを、妻の服を着て出迎えた。
彼はちょっとびっくりしたようにわたしを見つめ、ただひと言、
「加代子さんにそっくりですね」
とだけ、いった。
わたしにとっては十分すぎる、褒め言葉だった。
さいしょに選んだ服は、洋装のブラックフォーマル。
わたしは妻を弔うためにその服を着て、初めて男性の抱擁を受け容れた。
息荒く迫る男のまえ、乙女のように心震わせて目を瞑り、
お仏壇の前で彼に抱かれて、いっしょに妻のことを弔った。
喪服のスカートの裏地と黒のストッキングとを、彼の精液で濡らしながら、
不覚にも、昂ぶりの絶頂を迎えてしまっていた。
抱きすくめる猿臂の主を、逞しい背中に廻した腕でギュッと抱き返しながら、
妻のことを日常的に犯したという一物を、未経験の股間に迎え入れた。
「加代子が狂ったの・・・わかります」と呟いて、
無条件の奉仕を誓ってしまっていた。
男はわたしの頭を抱いて、「あなたは加代子だ」といい、
わたしは彼の耳もとで、「はい、わたくしは加代子です」と囁き返していた。
せめぎ合う息遣いを思いきり昂らせて、
わたしたちはなん度も果て、愛し合った。
同じ女性を愛した男性同士――わたしは最愛の加代子になり切って、
これからもあなたの最愛の加代子でいつづけると、男に誓っていた。
つぎはおめかしをして、都会に出かけよう。
こんどは喪服ではなくて、あの花柄のワンピースにしないか。
きみはご主人が結婚記念日にプレゼントしたというあの服を着て、
いっしょに映画を見て、お食事をして、ホテルにまで行ったのだよ。
あの日が戻ってくることを、わしは心から望んでいる――
妻の愛人はわたしの耳もとでそう囁いて、
わたしはただ、「加代子になって貴男に逢います」と、囁き返していた。
わたしは妻になり替わって彼の愛人になり、加代子という名前でこれからを暮らす――
あとがき
言ってるそばから、”魔”が降りてきました・・・。
^^;
惑い。
2018年02月22日(Thu) 06:42:22
夫が、セーラー服姿で帰宅した。
女装趣味をもつ夫は、このところ帰りが遅い。
夫の正体を知ったのはごく最近のことだったが、
内心戸惑いを覚えつつも、賢明な彼女は夫の感情を逆なですることはなく、
「周りに迷惑はかけないで」とだけ告げて、ほぼ黙認状態で表向きは平穏な日常を過ごしている
夫の帰宅を気配で感じた彼女は、ちょっとだけため息をついて、
そしていつものように黙って夫を迎えるために、座を起った。
彼女は、夫が帰宅するまでの間いつも、よそ行きのスーツを身に着けていた。
木内夫人は玄関まで夫を出迎えて、その背後にひかえる黒い影をも同時に見た。
それが、木内夫人と吸血鬼との初めての出逢いだった。
黒影の持ち主は、夫よりもずっと年上の初老の男だった。
表情の少ない彼の顔だちからは、初めて木内の妻を目にしたことによる感情の動きを、全く読み取ることができなかったし、
女装の夫と2人連れだった真夜中の散歩がどんな雰囲気だったのかすら、みじんも感じられなかったけれど。
どちらかというと陰性な夫の表情はいつになく晴れやかで、長時間の散歩が睦まじい会話で充たされていたことは容易に読み取ることができた。
木内夫人はそんな夫の顔を見て、かすかな嫉妬を覚えた。
男は木内の妻を見て、無表情に目礼しただけだったけれど。
目が合った瞬間、木内夫人は、着ていたよそ行きのスーツを突き刺すように、胸の奥にずきりとするものを覚えた。
男は木内の妻を、獲物としては見ていなかった。
夫の友人としての控えめな好意だけを表に出して、「ああこの人は・・・」と夫が彼を紹介するのさえ拒むように、夫妻の視線に背を向けて、つと立ち去ろうとしたのだった。
「あの・・・」
木内夫人は、思い切ってその背中に声を投げた。
歩み去ろうとした黒い影は夫人の声に足をとめたが、振り向きはしなかった。
「今夜は、主人がお世話になりました」
夫人は瞳を伏せて、折り目正しく頭を下げた。
吸血鬼は木内の妻をふり返ると、いんぎんな黙礼だけを与えて、去っていった。
相手が異形のものと知りながら、夫の友人として遇してくれた感謝がそこにあったように、木内夫人は感じた。
「着替え?それから、お風呂?」
男が去ると、彼女は夫に必要最小限な言葉を投げて、
木内はそんな妻にちょっとはにかんだ微笑で応えて、素直にその指図に従った。
夫の女装姿は、いまだに木内夫人の目になじみ切ってはいない。
男にしてはなで肩の夫だったが、それでもセーラー服には不似合いな肩幅だったし、
ウィッグの下にあるまぎれもない夫の顔も、女子生徒の初々しさとは異質なものを持っていた。
けれどもふだんの姿の夫にはない華やぎのようなものが、身にまとう女の服と違和感なくとけ込んでいることもまた、認めないわけにはいかなかった。
浴室からシャワーの流れる音が洩れてくる。
その音を聞きながらも、木内夫人はまだ、胸のドキドキを抑えることができなかった。
夫の女装姿に、いまさらうろたえたわけでは、むろんない。
生れて初めて目にする吸血鬼の姿に、恐怖を覚えたのか?
木内夫人は自分の異常な昂ぶりに戸惑いながらも、その理由を反芻する。
わからない。
男の投げたまなざしに、獲物を見るものの獰猛さはかけらもなく、彼女に恐怖を与えるなにものも帯びてはいなかった。
夫を送ってくれた妻からの感謝の言葉にこたえ、ただたんに、礼儀正しく黙礼して、去っていっただけ――
夫の友人としてのごく控えめな好意を滲ませたほんの一瞬の行動からは、
彼女に対するどんな思惑も、感じ取ることはできなかった。
少なくとも、相手は彼女を、獲物とはみなしていない。それは女の直感でそうとわかった。
しいて言えば、夫の散歩相手が吸血鬼であることに彼女が露骨な恐怖をみせないという賢明な態度に対する敬意を、ほんの少しだけ滲ませただけだった。
――やだ。どうしてこんなにドキドキしているの。
夫がシャワーを浴びている間、木内の妻は、答えのない反芻をくり返しつづけた。
きっと今夜は夫を優しく責めながら、自分が主導でベッドのうえでの営みを遂げてしまうはず。
それもおそらくは、いつになく熱っぽく――
得体のしれない胸の昂ぶりをなかばいぶかしみ、半ば怯えながらも、木内夫人はそんなことを思い描き、つい顔を赤らめた。
木内夫人は、心の奥底でわかっている。
胸が昂り血が騒いだのは、
今夜迎えた男が、いずれ彼女の血潮を啜り取ることを予感したから。
カサカサに干からびた年配男の唇が、彼女の誇るみずみずしい柔肌をナメクジのように這いまわり、
豊かに熟れた女ざかりの熱い血潮で唇の渇きをうるおしながら、喉を鳴らして酔い痴れるだろうことを。
彼女はそれを女の本能で直感し、啜り取られる運命を察した血液を人知れずたぎらせてしまったのだと。
「きみも良かったら」
貧血に悩む夫がそれを妻に打ち明けて、彼が自分の親友に愛妻の血液を提供することを望んでいると告げたとき、
木内夫人はためらいのない同意を与えたのだった。
――あのひとと2人きりで逢うのは心細いから、そこにはあなたもいて。
自分の願いに二つ返事の承諾を受け取りながら、木内夫人は自分の受け答えに慄きを感じる。
夫が意図した結末を、じかに夫の目のまえにさらしたい。
そんな悪魔的な意図を、わざと心細げな声色で伝えた自分のささやかな復讐心を、初めて自覚することで。
あとがき
女の心裡は、ときにエロいです。
でも同時に、ちょっぴり怖いかも・・・です。^^;

※挿絵は手持ちのものを、ちょっと加工しました。^^
≪りんく≫
★前作
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3570.html★イラストPart1
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3575.html★イラストPart2
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3578.html
【ビジュアル版】交わりが拡がってゆく。 by霧夜様
2018年02月12日(Mon) 13:22:50
弊ブログを愛読してくださっている”霧夜”さまから、嬉しいプレゼントを頂戴しました。
先日こちらにあっぷした小説「交わりが拡がってゆく」の冒頭部分を、なんとビジュアル化してくれたのです。
せっかくなのでなにかひとひねりを・・・と考えはしてみたものの、そんなことよりも早く皆様にお見せしたいという衝動のほうが上回りましたので公開しちゃます!
(もちろん、ご本人の承諾つきです)
”霧夜”さまは数年前、柏木がたまに投稿しているpixivで知り合いました。
テイスト的に相通ずるものを感じてお声をかけてみたところ、なんと私のブログを時々見てくれていると知りまして・・・
以来、よきおつきあいを願っております。
しかし、自分の描いた妄想話をこうやって人さまにビジュアル化してもらえるのって、すごく嬉しいものですね。
”霧夜”さま、ありがとうございました☆




★原作はコチラ↓
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3570.html★画像集Part2をあっぷ↓
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3578.html
交わりが拡がってゆく。
2018年02月07日(Wed) 08:00:52
木内には、女装趣味があった。
そして、長年の親友に吸血鬼がいた。
初めての出逢いは、真夜中の散歩のときだった。
吸血鬼は木内のことを女性として接し、生き血を求めた。
木内は自分を女装者と知りながら自分に分け隔てなのない態度で接してくる吸血鬼に好意を感じて、
求められるまま首筋を咬ませた。
その時木内が着ていたのは、セーラー服だった。
彼は血を吸い取られることよりも、大事にしていたセーラー服かを汚されないかを気にかけていた。
そして、それと察した吸血鬼が襟首を汚さずに吸ってくれたことに、さらに好意を覚えた。
木内には妻がいた。
彼女は夫の嗜好に、常識的な婦人としてはまことに当然な嫌悪感を抱いていた。
血液を吸い取る代償に、女装をしての深夜の散歩のエスコートをするというふたりの関係にも、
女性としての直感から、胡散臭さを感じていた。
けれども彼女は人並みに夫を愛していたし、
ふだんは紳士的な物腰である夫の親友にたいして、会釈を交わす程度の間柄にはなっていた。
賢明な彼女は、相手が吸血鬼だというだけでむやみと相手に垣根を作ろうとはせずに、
実害の及ばない範囲では夫の親友に対する礼儀を忘れなかったのだ。
3人の間にあった均衡が破れたのは、木内が妻に、
「きみも良かったら」と、自分の親友のための血液の提供をもちかけたときだった。
木内夫人はいずれ自分の番がまわってくる予感をかねてから抱いていたので、
自分でも意外なくらいあっさりと、夫の提案を承知した。
夫と親友との親しすぎる関係が、やや過度すぎる献血を夫に課するようになっていて、
彼女は妻として、夫の健康に気遣いを感じるようになっていたからだ。
あるいは、ふたりの男性の関係に、ある種の嫉妬を感じ始めていたのかも知れない。
夫人は夫の親友と二人きりで逢うのは心細いと訴え、そのような折りには夫にも同席してほしいと懇願した。
木内は親友の意向を訊いたが、もとより無理をお願いしたのは私であるから、奥方のもっともなご意向に沿いたいと応えた。
木内はある種の予感を胸に、罪悪感とえもいわれぬ歓びとにゾクゾクしながら、当日に臨んだ。
彼はまず夫人に手本を見せるため、女性の姿で夫人の前にたち、自らの首筋を咬ませた。
木内は洋装の喪服姿だった。
やがてそれが、夫人の貞操を弔う衣裳となることを、彼はすでに十分予感していたのだ。
貧血を起こして昏倒した木内の傍らで、吸血鬼は木内夫人の首すじに噛みつき、血を吸った。
彼にとっては念願の、熟れた人妻の生き血だった。
吸血鬼の親友が最愛の妻を相手に嬉しそうに血を啜るのを、木内もまた嬉しげに見守った。
夫人は気丈にも、恐怖の念を押し隠して夫の親友の相手をつとめ、
白い素肌に夫ならぬ身の唇を這わされながら、40代の人妻の血潮をふんだんにあてがったのである。
木内夫妻の心尽くしを悦んだ吸血鬼は、その場で木内夫人を犯した。
夫人は唐突な求愛に戸惑いながらも、夫の目の前での行為を受け入れた。
夫がそうすることを望んでいると、直感したからである。
初めての交わりは夜明けまで続き、男ふたりはひとりの女を代わる代わる愛し抜いた。
一見すると輪姦でしかなかったかもしれないその行為を受け容れながら、夫人は、
いま自分の身に行われていることが、ひとりの女を二人の男が共有するための儀式なのだと直感した。
そして、その直感は正しかった。
木内夫人もまた、日ごろの賢夫人としての振る舞いを取り戻して、
予期していなかった関係をためらいなく受け入れていた。
賢明な彼女は、今後は夫の親友のために、自らの生き血を過不足なく提供することを約束し、
寛大な夫はその際必然的に生じる男女の関係を許容すると誓った。
親友が望んでいるのは、彼の妻を木内夫人のまま犯し続けることだと、熟知していたからである。
ひとつの関係はさらに別の関係の糸口となり、それはさらに新たな関係の契機となる。
吸血鬼と木内夫妻との関係が、まさにそれであった。
木内夫人は子をもつ母親としてのたしなみと遠慮を持っていた。
夫に対してもそうであった。
木内は妻の身代わりの献血行為を率先することで妻の身を庇おうとし、
夫人は夫の親友に接するときには、自分が希望しているのはあくまでも夫への貞節を守ることであり、
いまは心ならずも彼の欲望に従っているという態度を取り続けた。
それでも内心まで偽ることのできなかった彼女は、自分でも不思議に感じるある願望を抱くようになった。
時を遡って処女の頃に吸血鬼と出逢って、自らの純潔さえ捧げたかったと熱望するようになったのだ。
その願いは夫である木内の知るところにさえなったが、
親友である吸血鬼に進んで最愛の妻を与えた彼は、妻が吸血鬼に抱いた気持ちをむしろ尊重さえしているのだった。
実現不可能にみえた夫妻の願望を、別の意味でかなえたのは、彼らの一人娘だった。
夫妻は自分たちの大人同志としての関係を子供たちと分かち合うことを避けていた。
人並みな親として、息子や娘の将来に、人並みの幸福を期待していたのだ。
均衡が破れたのは、ある冬の日のことだった。
○学校の卒業を控えた娘が帰宅したとき、幸か不幸か親たちは家を留守にしていた。
待ち受けていたのは、喉をからからにしていた父親の親友だった。
彼女は彼の正体を親から聞かされていて、あまり近寄らないようにと注意さえ受けていた。
しかし彼女は苦しんでいる年上の親しいおじ様の苦境に同情して、自分のことを咬んでも良いと告げた。
少女は吸血鬼のもてなしかたを、かねてから垣間見ていた母親の振る舞いから、よく心得ていたのだ。
透き通るストッキングを穿いて脚を差し伸べる母親に倣って、その場にうつ伏せになると、
よそ行きのときだけに履く真っ白なハイソックスのふくらはぎに、唇を吸いつけられていった。
少女は自分の生き血をおいしそうに吸い上げられるチュウチュウという音にうっとりと聞き惚れながら、
真新しいハイソックスの生地になま暖かい血潮をしみ込まされてしまうのを、ドキドキしながら感じ取っていた。
親たちが帰宅したときにはもう、すべてが終わっていた。
少女はパパのお友だちでママのナイショの恋人でもある小父さまに、処女の生き血をプレゼントすることを、
指切りげんまんをしてお約束してしまっていた。
木内夫妻の長男は都会の大学を出て、就職先も都会の会社だった。
重役の娘に見初められて、結婚間近だった。
血は争えないもので、彼もまた父親と同じく婦人の装いを嗜んでいた。
そして、そのことを未来の花嫁に知られることを、ひそかに恐れていた。
彼は両親の口から意外な近況を聞かされると、その週の週末には恋人を伴って、実家に姿をみせた。
将来を誓いあった男性の実家に招かれて、重役令嬢はなんの疑いもなく、婚約者に帯同されてこのひなびた街へと脚を踏み入れた。
透き通った白のストッキングに包まれた初々しいふくらはぎが、垣間見る者を魅了したなどとはつゆ知らず。
その日、都会育ちの善良なお嬢様は、桜色のスカートスーツのすそを深紅に染めて、
自らの体内に宿した、うら若く健康な血潮を、気前よく振る舞う羽目になった。
荒っぽい歓迎ぶりに、さすがに顔色をなくした彼女だったが、
しつように吸いつけられる卑猥な唇に素肌を馴染ませてしまうのに、さほどの時間はかからなかった。
吸血の因習を避けて都会暮らしを選んだはずの長男だったが、
いったんあきらめをつけてしまうと、すでに母と妹を堕落させてしまった吸血鬼と互いに打ち解けあって、
いまは婚約者に告げずに逢瀬をくりかえすようになった未来の花嫁のあられもないありさまを、
ワクワクしながら覗き見するようになっていた。
重役令嬢は、恋人の貧血を補うために身代わりになるという婚約者のために、彼が彼女の服をねだることを許した。
日ごろの悩みを解消することができた青年は、妖しい儀式の待ち受けるお邸に、
理解ある婚約者と2人肩を並べて出入りするようになった。
幼かった妹にも、彼氏ができた。
まだ年端もいかぬ少年でしかないはずの彼は、自分の恋人と吸血鬼の関係を受け入れることに同意して、
その証しに未亡人である母親を吸血鬼に紹介した。
吸血鬼が母親の首すじに唇を迫らせて、喪服を脱がしてゆくありさまのいちぶしじゅうを見届けてるはめになった彼は、
自慢の母親が堕ちるのを目の当たりに、未来の姑が嫁の不倫の頼もしい共犯者になると確信したのだった。
このようにして、ひとつの好意はいくつもの好意を呼び寄せた。
世間なみの幸福を子どもたちに望んだ親たちは、自分と同じ道に堕ちた彼らといままで以上に交わりを深め、
そうした交わりは妖しい歓びをともにできる者たちの間だけで拡がりつづけた。
おおぜいの人間から血液の提供を受けるようになった幸運な吸血鬼は、仲間に自慢したという。
俺は夫と妻、その息子と娘、その婚約者や恋人とその母親たち――合わせて8人もの女をモノにしているのだ、と。
【付記】
冒頭部分を、弊ブログの読者である”霧夜”さまがビジュアル化されています。
詳細はコチラ↓
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3575.html【付記2】
木内の妻が夫に伴われて吸血の場に臨むまでのシーンが、”霧夜”さまによってビジュアル化されています。
詳細はコチラ↓
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3578.html