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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

初めは処女のごとく。おわりは・・・

2010年02月20日(Sat) 09:58:15

和朗と向かい合わせにティーカップをもてあそぶのは。
黒衣に身を包んだ、白髪の老人。
ただの老人でないことは。
振りみだされた長い白髪が、銀色の輝きを帯びていることでわかるのだけれど。
さすがに亭主のカンロクからか。
はたまた人がいいだけなのか。
和朗は動じるようすもなく、吸血鬼と知れた男と対座している。

なんだ。女房が小説描いているのも知らぬのか。
ぼそりと呟く吸血鬼は、むしろ感心したような語調を漂わせる。
―――じゃあもちろん、奥方が吸血鬼相手に春をひさいでいることも?
言いかけてさすがに呑み込んだひと言に、男はにまにまとほくそ笑む。
相手の笑いがなんのためなのか、和朗にはちっとも見当がつかなかったけれど。
ここは素直に・・・と思ったのか、まともな応えをかえしてゆく。
エエいつも、筆が乗らないってぼやくんですよ。って。

なかなか描き進めることができないのは。
思い切りが悪いせい?
生来引っ込み思案なのを、まだ引きずっている?
う~ん、女房のことって、意外にわからないものですね。。。
けれどもいつも、ぼやくんです。
第一章のまえに、プロローグがあるって。
へたをするとそのまた前に、序文があって。あいさつがあって。
場合によったら、べつのお話がそのお話のまえにあったりして。
きりがないじゃんって私言ったら、さすがにぷんぷんしていましたよ。

和朗の声色はどこまでものん気だったが。
やはりなにかあると察したらしい。
終始気遣わしげで、言葉の先でなにかを手探りしつづけている。
ウン、それでよい。
心のなかを見透かした言葉に。
へ?
真意を見抜けぬ素直すぎる男は、けげんそうに相手の表情を窺った。

なに。さっきの話じゃよ。
たとえとしては、これほど適切な表現もないものだな。
お国の古いことわざでは・・・ほれ、なんと申したか。
そうそう。「初めは処女の如く、おわりは脱兎のごとく」だったかの?
いやそれは、中国の古い昔話で。・・・って言いかけた言葉を、和朗は呑み込むはめになる。
さいしょはだれしも、ためらうものだから。

第一章のまえに、プロローグがあるのじゃろう?
そのひとつまえに、序文やあいさつがあるのじゃろう?
へたをするとさらにそのまえに、べつの話があるというのだな?
わしの前には、柏木がおる。
やつとはやつが子供のころからの、つき合いで。
母親も花嫁も・・・そう、美味じゃった。
奥さんが柏木と”あいさつ”をして。
そのまえにメールという名の”序文”があって。
あれはたいそう、長々としたものだったな。
そのひとつまえの話は・・・そう、やつの女房をわしがモノにしたなどというような、粗忽な話ではないはず。
奥さんが描いている小説。まさか吸血鬼ものの話ではあるまいな?

どうやら妻の描くものをいちども目にしたことのないらしい男は、
それでもお人よしな想像力の限りを尽くして。
彼のまえに、柏木という男がいて、その前に吸血鬼話があって・・・
指折り数えるように、想像を突き進めていって。
逆に観ていけば、吸血鬼小説があって、メールのやり取りがあって、出逢いがあって。
それから。それから・・・
どうやら理恵は、輪姦されるらしい。
推理のすえにたどり着いた結論に、そんな危険を察知する。
さすがに一瞬凍りついたようにみえた頬が、
やれやれ・・・と言いたげにふたたびゆとりを取り戻したのは。
隣の部屋の気配から。

ああっ・・・うんうんっ。
声の主の妻が、隣室でなにをされているのかは、さすがに成人男子とあれば察しがつこうもの。
浮足立ったご亭主殿を後ろから支えたのは、白髪鬼の意外に力のつよい掌。
観るものではない。
なに、奥方が脚に通されているストッキングに、ちょいと執着しているだけさ。
黒の薄々が、好みらしいて・・・
ストッキングを破らせてやるくらい、そもじの立場なら痛くもかゆくもなかろうて。
寛大に、振る舞われよ。あくまで寛大に・・・の?

いやぁ、なかなか・・・
和朗は照れくさそうに頭を掻いて。言ったものだ。
だって、第一章のまえの話は詳しくしてくれたけど。
第二章やクライマックスがあるのを、あなたわざと話していませんね?
いったん筆が乗りはじめると。
理恵はとめどがなくなるんです。
めくるめく展開だって、柏木氏も言っておりましたよ。
ほんとうにスリリングで、刺激的で、うならせるような展開だって。
ほんとうに・・・ほんとうに・・・そうなんですか?

見せつける、ということは。
観て愉しむことができる・・・って、われらが見込んだゆえのこと。
そう、ご納得していただけまいか?
寛大に振舞うことに決めた夫は、さっそく寛大なフルマイをみせ始めてゆく。
嗅がせた媚薬は、あとの記憶を奪うはず。
けれどもその刻に灼きつけられたコアだけは、
脳裏の奥深く無意識に植えつけられてしまうだろう。
そう、吸血鬼がほんらい、犠牲者の首すじに残すはずの淫らな”痕”を。
われらは記憶にならない記憶として、置き土産にしていくのだから。

さてそろそろ、わしの出番じゃな?
お前はそのままここで、紅茶を啜っておるがよい。
わしは入れ代わりに、所帯持ちのよろしいこの家の主婦の生き血を、啜ろうほどに。
気になるのなら、覗いてもよいのだぞ。
そのほうがいっそ、激しくそそられそうじゃから。
けれども絶対に、なにも知らないふりをし通すのじゃぞ。
それが奥方に対する、礼儀というものじゃからの。
なに。そもじへの礼儀・・・?
そうそう、それは今もっとも重んじられなければならんのぅ。
奥方をすみからすみまで味わい辱め尽くすこと。
それが、われらが貴殿に捧げる礼儀というものであろうから。
ご納得いただけたなら、さ、さ、素知らぬふりで、お席について。

白髪鬼はまず柏木の血をちゅーっと吸い取って、かたわらに転がすと。
こんどは理恵の首筋に、牙を迫らせる。
うぅううぅぅぅん・・・っ!
のけぞったのは、理恵ばかりではないらしい。
主人が気絶しているあいだ、着かえるわ。
貴男に、ご馳走するために。
エエ、お洋服も、ご馳走の一部ですからね。
自由に汚してもらって、構わないのですよ。
でも何を着るのかは、貴男決めてくださる?
若いころ着ていた、黄色のスーツと。
いまでも歌舞伎や結婚式のときに着ていく、濃い紫のやつと。
どちらのほうが、映えるかしら?あたしの血。
自分で服選ぶと、時間かかりますからね。
はやく決めないと、和朗起きてしまいますからね。。。


あとがき

さいしょはおずおず、でもノッてきたらどこまでも大胆にっていうのが、主婦の奥ゆかしさですよね?^^

真夜中の独り芝居

2008年04月07日(Mon) 07:31:50

おかえりなさ~い♪
いつもわたしより帰りの早い妻は、こちらが疲れているのを見越しているように。
きょうも明るい声で、迎え入れてくれる。
あー、参った、参った。
きょうも早く寝るの?
うーん、そだな・・・
ふと女房どのの足許を見ると。
おや?あんなにてかてか光るストッキングなんか、いつも穿いていたっけな?
そもそもあいつ、ストッキングなんか穿くんだっけな?
そう、妻の理恵の足許は、いつになく薄々の靴下に、足指までも透きとおらせていた。
よく見ると。
夜だっていうのに、ばっちりおめかしまでしている。
ご自慢の花柄のブラウスに、黒いスカート。
髪型もアップにして、うなじをすっきりとさらけ出していて。
雰囲気までもが、どこかウキウキと華やいでいた。
まるでこれから、どこかに出かけるみたいに。

じゃ~あ~♪ お布団敷きますね♪
理恵は鼻唄交じりにわたしのまえを横切って、
夫婦の寝室にわたしの分だけ、布団を敷きはじめる。
うつむきながらシーツを整える、妻の後ろ姿。
なにげないしぐさなのに・・・
白い肌によぎるかすかな翳りに、いつになくぞくりとしてしまう。
え?早く寝ちゃってもいいわけ?
子どものいない若夫婦の過ごす夜は、もっと熱く濃いものだったりするはずなのに。
理恵は鼻唄交じりにわたしの分だけの布団を敷いてゆき、
わたしはわたしで、おめおめと先に寝ちゃったりしている。

・・・。・・・っ!○×○○っ。
ふすま越し、人の声にふと目覚めて。
辺りを見回すと、部屋は真っ暗。
かすかな灯りは、妻の起きている隣室からのものだった。
見てはいけない。覗いちゃいけない。
なぜかそんな警鐘が、まるで本能的なまでに性急に、わたしの胸を早鐘のように鳴り響く。
けれどもわたしは誘惑に抗しきれずに、
すうっ・・・と、ふすまを細めにあける。
ぜんぶ開ききってしまう勇気は、いまのわたしにはないけれど。
おぼろげにかいま見る情景は、見慣れた日常とはかけ離れていた。

すぐ手の届く目の前に、伸べられているのは妻の脚。
あのてかてか光る、黒のストッキングを穿いたまま。
ヘビのようにくねるたび、ぎらつく光沢がぐねぐねと、毒々しい輝きをよぎらせてゆく。
い、いけませんわ・・・主人いるのに・・・だめっ。
かすかな囁きを解読したとき。
わたしは耳から毒液をそそぎ込まれる思いがした。
あっ、あっ、あ・・・っ。血を吸われちゃうっ。
血を吸われる?
そんなことが、あるわけがない。
ふと現実に立ち戻った理性が、昂ぶった本能をクールダウンさせようとする。
そうだ、血を吸われるだなんて。おとぎ話の世界に決まっている・・・
けれども・・・
畳のうえ、崩したひざ小僧。
ひざ頭をてかてかと彩る、ストッキングの光沢。
家のなかなのに、なぜか黒の革靴を穿いた脚が。
大仰にばたつき、キュッと立て膝になり、くねりまわり、横倒しになって。
しまいにぐったりと、魂を抜かれたように、動きをとめた。
あ・・・はぁ。。んっ・・・んんん。
口許から洩れる理恵の声色は、まちがいなくアノ時に洩らす呻き声。
相手もなしに、あんな声を出せるなんて。
わたしは思わずふすまに手をかけて・・・それでも開ききる勇気はなかった。
目のまえを妻の脚だけが、なまめかしい光沢に濡れながら、くねりつづけてゆく。
ひいっ・・・
ひと声、消え入るような声を洩らすと。
妻はぐったりと、身体の力を抜いた。
ちぅちぅちぅちぅ・・・
肌を吸うような音が洩れてくるように思えたのは。
たぶん、きっと・・・耳の錯覚に違いない。
朝になると、妻はなにかぶつくさ文句を垂れながら。
いつもみたいに朝餉の支度に精を出しているはずなのだから。

ただいまぁ。
お帰り。早かったね。
今夜はくたびれた♪早く寝るよ。
あら♪じゃ~お布団敷きますね。
どこの家庭でもある、ごくありふれた会話。
そのなかに夫婦それぞれの思惑が交叉するのは・・・
やはりどこの家も、おなじなのだろうか・・・?

ストッキング鑑定

2007年12月17日(Mon) 07:15:43

1.
えっ?あてちゃうの?すごいっ。
妙子が、声をはずませたのは。
夫の連れてきた客人の特技が、思いも寄らないものだったから。
脚に触れただけで、穿いているストッキングのブランドまで当ててしまうというのだ。
ばっかだな・・・
そんな妙子のことを、夫は冷ややかな目で見つめている。
目を、キラキラさせちゃって。
両手を合わせて、拝むみたいなポーズまでして。
他人ごとなら、そんなふうにするくせに。
オレとエッチをするときは。
ストッキング穿いたままヤるなんて、邪道。とか、抜かして。
おかげでオレは、このごろ抜けないんだ~!
心の中でそんなふうに叫んでいるこのご主人も、かなりの変人にはちがいない。

じゃ~、さっそくためしてみて♪
妙子はためらいもなく、黒ストッキングの脚を差し出した。
では・・・ちょっぴり失礼。
ええ。やってみて。・・・あなた、いいでしょ?
ルンルンとはしゃいでいる妻に、夫はうんと言わざるを得なかった。
舌と唇で触れますので・・・しょうしょうのごしんぼうを。
男はいいざま、有無を言わさずに妙子の足首を抑えつけた。
きゃっ。
頭上から聞こえてきたのは、くすぐったそうなはしゃぎ声。
さいしょのひと舐めにさらされたふくらはぎは、ナイロンの薄い生地に、じわりとした唾液を滲ませている。
どお?わかった?
頭上の声は、まだはしゃいでいる。
ええ。。いますこし。

夫はあくまで冷ややかに、小娘みたいにはしゃぐ妻のようすを、遠くから窺っている。
遠くから見物するに限るわい。
心のなかで、ため息をつくと。
そっと自分の首筋に触れてみる。
夕べ咬まれた痕が、まだじんじんと痺れるような疼きを含んでいた。

あっ!ゃだ・・・っ
妻の声が初めて、切迫を帯びた。
男は妙子の脚をつかまえて、はなさない。
はなさないどころか。
そのままちゅうちゅうと音を立てて、黒ストッキングのふくらはぎを舐めつづけているのだ。
ぬらぬら光る唾液が、ここからもよく見える。
男がひときわつよく唇を這わせると。
あぁぁぁぁぁ・・・
妙子は白目をむいて、ソファーのうえに横倒しになった。
しつように吸いつけられた唇の下。
ストッキングの伝線がちりちりと広がって、脚の線に沿って鮮やかなカーヴを描いていた。

ふふふ。
いい奥さんだ。
ブランドは国産の・・・・・・だな?
男はよく売れているブランド名を口にすると、むぞうさにスカートをめくりあげて。
ゴムの部分についたブランド名をみとめて、自分の見解の正しさを確認する。
どうやら、当ててしまったようだね。
ブランデーグラスを片手に部屋にあらわれたダンナと、含み笑いを交し合う。
口許についた血を拭って、血の着いた指先をさらにねぶって。
ワインの味見でもするように、細い目になって。
ウン。さすがは若奥様。美味だね。
なんて、訳知り顔でつぶやいている。
しちまうのか?
ああ。かまわないかね?
かまわなくはないが・・・遠くから見物させてもらうかな。
おふたりに、乾杯♪
夫は祝杯をあげるようにグラスを軽く差し上げると、そのままサッと背中を向けた。
いただきまぁ~す♪
吸血鬼が浮ついた声をもらして、女房のうなじに食いつくのを、背中ごしくすぐったく感じながら。

ブラウスをはだけられた女房は、夕方になるまで目覚めないだろう。
目覚めるころには、そう。べつの種類の女になっているはず。
”娼婦”という名の、べつの種類の女。
身体じゅうの血を、舐め尽されちゃって。
肌をすみずみまで、くまなく吸われちゃって。
熟れた三十代の手管は、吸血鬼の性欲まで満足させるはず。
夕方、女房が目を覚ましたら。
いい月夜だね。今夜はふたりでお寝みって、言ってやろう。
ぬらぬら光る粘液がスカートの裏地を濡らしているのを、見て見ぬふりをしてやったら。
蒼白い顔に、いつものようなイタズラっぽい笑みを浮かべるだろうか?



あー。貧血♪
妙子は軽く額に手を添えて、
めまいをこらえるそぶりをした。
理恵はあわてて、傾いた妙子の身体を抱き取った。
細身の女は意外なくらいずっしりとした重さを秘めていて、
間近に漂う香水と体臭のほのかな芳香が、むせかえるほどの女を感じさせる。
きれいな肌。
同性愛の嗜好はないけれど。
女のきれいな肌をみると、すりすりしてしまいたくなるのが理恵の性分だった。

吸血鬼さんに、襲わせてみたくなるわ。
趣味で描いている吸血鬼もののネット小説が、さいきんリアルな臨場感を帯びはじめているのは。
知り合いの吸血鬼に自分の血を吸わせて、小説を実演してしまっているから・・・
そんなこと、夫はむろん夢にも思っていないはず。
自分の血を吸わせるだけじゃ、足りなくって。
田舎から出てきたばかりの友達とか。
夢にも思っていない夫の母親とか、
もうなん人も、周囲の女性を”彼”に引き逢わせて、血を吸わせてしまっている。
「みんなキモチよさそうだね」って、夫になにげなく言われたときは、さすがにどきりとしたのは。
ちょっと状況的に、気が気じゃなかったせいもある。
なにしろ。
夫の帰宅時間を忘れた吸血鬼が帰りそびれて、真っ暗にした隣室にひそんでいて。
エモノにしちゃった理恵の友だちの首筋を、まだ未練がましく舐め舐めしていたのだから。
夫はそんなつぶやきをすぐに忘れたような顔をして、日常の話題にもどっていった。
いったいどこまで、察しをつけているのだろうか。
たまに酔っ払ったみたいに、ヘンなこと口走るところがかわいいんだけどな。
理恵は人知れず、にやにや笑いを含ませている。

妙子は、新顔のパートさん。
年代も近いせいか、おなじパート社員の理恵とは、すぐに息が合って。
すぐお隣で、仕事をしている。
このごろ妙に顔色が悪いのは。
月のものかな?って、思っていたけれど。
お~や、おや♪
このひと、どこで知り合ったんだろう?
蒼い顔の正体をすぐに察した理恵は、眠りこける横顔にうっとり見入ってしまっている。
白いうなじの一角。
長く伸ばした髪の毛の生え際に、ほんの目だたぬくらいぽっちりとついた痕。
それが蚊に刺されたあとなんかじゃないことは、理恵だからこそわかるというものだった。

あ。目が覚めた?もうみんな帰っちゃったわよ。
周りを見回すと、こうこうと灯ったオフィスの照明の下、残っているのは理恵とふたりきり。
仕事が片付いていようといまいと、パート社員はいつも定時に帰されるのだが。
今夜にかぎって、どういうわけか。
みんな申し合わせたように、定時で退社してしまっている。
あたし、ようすをみているようにってみんなに言われたの。
理恵はハキハキとそういうと、妙子の身体にかけていた毛布やら額にあてていたタオルやらを手早く片づけて。
だいじょーぶぅ?
理恵はことさら気遣わしげに、妙子の顔を覗き込む。
うーん、うちにヘンなお客さん来るんだよね~。
妙子はさりげなく、ウワついた声をすべらせた。
ヘンなお客さん?
そうなの。ヘンなんだよ~。女の人の穿いているスッキングのこと詳しくて、ちょっと触っただけでブランド当てちゃうの。
(口やべろで触っているのは、ナイショ)
妙子は理恵に気づかれないように、ちらりと人のわるい笑みを浮かべた。
えー。コアだねぇ。なんだかやらしい。
ううん。ううん。やらしくなんか、ないよ。ただ、熟練しているんだって。
熟練、ねぇ・・・
理恵は心のなかで、ほくそ笑む。
手近な女をひっかけて、エモノにさせちゃおうっていうわけね?
おなじことを考えたり実行に移したりしてきた経験が、妙子のさりげない言葉のウラを、敏感に嗅ぎ取っていた。
いいや。ひっかかっちゃえ。
理恵は大胆にも、一歩足を踏み出してみる。
ナイロンハイソックスじゃ、だめ?いま穿いているやつ、試してもらっちゃおうかな?
理恵の穿いているのは、ストッキング地のハイソックス。
ひざ小僧のすぐ下をぴっちりと締めつけている太めのゴムが、むき出しの白い皮膚と薄っすらとなまめかしく染まった脛をと鮮やかにきりわけている。
見せびらかすようにくねらせたふくらはぎを、てかてか光る濃厚な光沢がぎらりとよぎった。

そういうわけで、お連れしました。こちら理恵さん。会社の同僚のOLさんです。
あ 既婚者ですから、ヘンな誘惑しちゃ、ダメですよ。
妙子の解説は、とても愉しい。
既婚者にヘンな誘惑するのが趣味のくせに。
引き合わされた男は、むろん初対面だった。
そこまでだぶらないわよねぇ。
オフィスを出るとき、念のために”彼”に送った携帯メール。
お友だちが吸血鬼さん紹介してくれるんの。味わってもらってきますね♪
って。
すこし挑発的に、描いてみた。
嫌われなきゃいいけど。
あいつも、夫も、おとなしそうな顔をしているくせに。
きっと、きっと、独占欲が強いのだ。

ほほー。珍しい光沢ですね。
足許を舐めるように見回されて。
なぜか手の内がばればれになるような気恥ずかしさを覚えていた。
ちょっと失礼。
男が足首を、抑えると。
いつの間にか後ろにまわった妙子が、そっとさりげなく肩を抑える。
ちょっとの辛抱ですよ。ちくっとします・・・
まるで予防注射みたいだわ。
薄手のナイロンごしにぬるぬるとねぶりつけられるべろの感触に、素肌に軽い疼きを覚えながら。
理恵はなされるがまま、ハイソックスの足許をいたぶらせてしまっている。

くねーっとよじれたナイロンは、そこかしこに唾液を沁み込まされていた。
珍しいブランドですね。
お分かりになりますの?
ええ。これ、紳士用でしょう?
アラ、そうなの?
妙子までが意外そうに、愛人と声を合わせていた。
うん。男物。
びっくり♪
でしょー?薄いし、こんなにてかるんだもん。
見せびらかすように、両脚をピンと伸ばして。
光沢を穿いているように、じわりとてかるハイソックスを見せつけていた。
男ものかー。でもなんだかよけいに、いやらしいなぁ。
ダンナのやつを、借りてきたの?
ううん。自分用に買ったのよ。教えてくれる人がいて。
そうなんだー。ぜんぜんわからなかったよ。
吸血鬼は、詳細な解説を加えることを忘れない。
伸びない生地ですね。
婦人ものでこういう生地を使用しているものはあまり多くありません。
張りつめたナイロンの舌触りが、大変に美味ですぞ。
まぁ、いやらしい・・・ 理恵がそんなふうに洩らすのにも気を止めずに。
ご主人公認で、穿いておいでなのですか?
いーえー。亭主にもナイショで買ったんですから。
そうですか。ご主人が穿かせているとしたら、ちょっと愉しかったんですがね・・・
吸血鬼は意味ありげにつぶやくと、
まだ、ブランドを申し上げておりませんでしたな。
いま少し、お調べさせてください・・・
いいわよ。
理恵がもういちど、脚をさし伸ばして。
魔性の唇があわや触れようというときに。
ぼん・にゅい♪
だしぬけに、イタズラっぽい声が隣室から洩れた。
ぎょっとした男女が目にしたのは、ふたりが見知っていなくて、理恵が見知っている吸血鬼。
おととしの夏、犯されちゃってから。
夫の目を盗んで、血をあげたりスカートの奥までまさぐらせちゃったりしている、陰のパートナー。
ど、どなたぁ?
この家の主婦らしく、非難をこめたまなざしを、理恵は横目で制すると。
おぉ。
男のほうは、さすがに相手の正体に気づいたらしい。
敵ではない。
たがいのまなざしが、そう告げあっていた。
エモノを取替え合おうかね?
新来の吸血鬼のいうがままに。
男はじぶんの愛人であるこの家の主婦を押しやるようにして。
妙子の首筋に彼が咬みついて、ひと声「きゃー♪」とはしゃいだ声をあげさせると。
では・・・ご存分に。
度胸の据わった理恵のまえ、ハイソックスの脚をもういちど吸いはじめている。
薄手のナイロン越し、素肌をちゅうちゅうと吸われながら。
たまにはべつの牙も、愉しそうね・・・
こんどはあたしが、牙のブランド当てちゃおうかしら。
スカートを剥ぎ取られた隣の女が、ストッキングのガーターをさらけ出すのを、
まるで姿見でも見るように感じながら。
理恵もまた、幾何学模様の緑のスカートを、剥ぎ取らせちゃっている。

みんな、愉しそうだね・・・
どこまで知っているのかわからない夫の声が、忘我の昂ぶりのなかリフレインしていた。


あとがき
紳士用のナイロンハイソックスを、ご婦人に穿かせてみました。
ダンナが穿かせているとしたら、ちょっと愉しい。
吸血鬼が想像したのは、どんな状況だったでしょうか。
ちょっと思いついたのは。
妻の生き血を吸わせた夫が、ストッキングの持ち合わせがないという妻のために、自分用の靴下を履かせた・・・みたいな感じですが。
もう少し、ひねくれて。
濃い想像をたくましくしてみたいところです。^^

ストッキングショップ・柊亭

2007年10月28日(Sun) 07:59:46

舟橋理恵が事務所に入ってゆくと、その男はデスクに向かい、うずくまるように背中を丸めて、分厚い書物に読みふけっていた。
あのぅ・・・表の看板見てきたんですが。
おそるおそる、声をかけると。男ははじめて、目を通していた分厚い書物から顔をあげた。
そうして、珍しくもない、というふうを冷淡な視線に滲ませながら、
事務所に入ってきて自分の読書の静寂を破った女を、頭のてっぺんから脚のつま先までじろじろ無遠慮に眺めまわした。

表の看板にはたしかに、かかれてあった。
「従業員募集 30~50歳くらい迄 時給千二百円 交通費等優遇」と。
ふつうのストッキング・ショップ、なんですよね?
理恵の質問の裏側には。
いかがわしいお店じゃないですよね?
そんな意味がこめられていたのだが。
妖しいわけは、ありませんよ。
店主と名乗るその男は、こともなげにそういったものだった。
うちで変わっているのは・・・そう、制服規定くらいかな。
男が差し出した紙切れには、従業員の制服規定が事細かに書かれていた。

月曜日 
髪の毛は後ろで縛り、首筋が見えるようにする。
服装はプリントワンピース 色鮮やかなもの
ストッキングの色は任意。ただし肌の透けるタイプのもの。

火曜日
髪の毛は肩まで垂らし、ナチュラルにまとめる。
服装は紺もしくはグレーのスーツ。地味でかっちりとしたデザインのもの。
ストッキングの色は任意だが、グレーが望ましい。肌の透けるタイプのもの。

水曜日
髪の毛は肩まで。火曜日と同じ。
服装はプリントワンピース モノトーンなもの
ストッキングの色は黒または濃紺。肌の透けるタイプのもの。

木曜日
髪型、服装とも任意。
ただしスカート及びストッキングの着用は必須。
ストッキングは肌の透けるタイプのもの。

金曜日
髪型は首筋が見えるよう、頭の後ろでしっとりとまとめる。
服装は黒のスーツ。ブラックフォーマルが望ましい。
ストッキングは黒。肌の透けるタイプのもの。

土・日曜日
特別出勤日。
服装はフェミニンなワンピースもしくはカラーフォーマル。
比較的派手なもの。
ストッキングの色は任意。ただし肌の透けるタイプのもの。
ラメ入りか光沢入りがのぞましい。

※靴はハイヒールかパンプス。かかとの高めのものが望ましい。

ずいぶん細かいんですねぇ。
理恵があきれた口調でそういうと、
なにしろ、時給千二百円ですからね。
おうむ返しに、こたえがかえってきた。
ご希望でしたら、ストッキングはうちの売り物を支給しますよ。
いえ、ぜひそうしていただきたいのです。
うちの商品の宣伝にもなりますからね。

奇妙なアルバイトが、はじまった。
理恵はふだんは着慣れないワンピースをひらひらさせながら、
もの珍しげに見送る夫の視線を背に、しゃなりしゃなりと出勤してゆく。
始業は朝の八時。そんな時間にストッキングを買い求めるお客はほとんどいない。
たまに通勤途中でストッキングを伝線させてしまったらしいOL風の若い女性があわただしく駆け込んでくるくらい。
いちばん安いやつを片手にトイレに入ってゆくのを見送りながら、店主の柊はチッと舌打ちしたりしている。
「まったく。ストッキングのよさをわからないのだな」
たまのお客が安物しかかって行かなくて、売り上げがあがらなかった・・・というよりも。
女のセンスそのものを軽蔑しているらしい。
ふーん。そんなものなの・・・
理恵には意外なことだった。
げんにこうして、ワンピースやスーツ姿でしゃなりしゃなりと歩いているだけで、ひどく足許が疲れるのだ。
男のひとは、どこまでこの苦痛を知っているのだろう?
女が装うのは、ただの目の保養にすぎないのだろうか?
そんなことのために、スカートにストッキング、それにハイヒールだなんて。
あまりにも、高くつきすぎる・・・と思うのだ。
結婚してしまってからは、なおさらのことだった。
かかとの高い靴は、すこしあわてて小走りになるとすぐにつんのめるし、
薄いストッキングは破れやすくて履きにくい。
どうしてこんなめんどうな、実用性のないカッコウを、男たちはさせたがるのだろう?

あるときのことだった。
黒衣ずくめの男性客が、音も立てずに入店してきた。
男はなれたようすで店内を見回すと、最後に見慣れないものでも見るように、理恵をじろじろ見つめるのだった。
いらっしゃい。
店主がそっけなく声をかけると、男は得心いったような顔つきをして、ことさら足音を消して売り場のあちこちを徘徊する。
商品を選んでいるのか、時折投げる視線は妙に鋭く、抜け目がない。
男のひとなのに・・・ストッキング買うの?
理恵の内心の思いを察したように、店主がひそひそとささやいてきた。
うちは男のお客も多いから・・・そそうのないようにな。

レジのカウンターまでやってきた男がむぞうさに置いたのは。
ボーダー柄のストッキングに、バックシーム入りのガーターストッキング。
いかにも凝ったものを・・理恵は内心思いながら、ありがとうございます、何千何百円ですと応対して、お店の紙袋を取ろうとして後ろを向いた。
きゃっ!
脚をすくめて縮みあがったのは。
足許にぬるり・・・と、這うような感触を覚えたから。
見下ろすと、いつの間に忍び入ったのか、黒衣の男は理恵の足許にかがみ込み、
両手で足の甲を抑えつけているのだった。
あっ。
口紅を刷いたように鮮やかな唇から、毒蛇のようにまがまがしい舌がチロチロと洩れて、
ぬるり・・・
黒のストッキングの上を、撫でつける。
あまりのおぞましい感触に、理恵はとっさにハイヒールで蹴飛ばそうとした。
両肩に置かれた手が、やんわりと、そしてしっかりと、理恵のうごきを拘束する。
そのまま吸わせておやりなさい。お客様に乱暴は、いけないですよ。
なにしろ・・・あなたは時給千二百円なんだから。
え?え?え?
ちょ、ちょっと待ってよ・・・
なにを言って、どうしようかと思い惑ううちにも、男はストッキングの脚をべろでいたぶりつづけ、店主はギュッと肩を抑えつづけている。
舶来ものの、ストッキングだね?細くてしなやかな糸をしているね・・・
男が口にしたのは、たしかに理恵の履いているストッキングのブランド名だった。
理恵の足許に、ねっとり唇を這わせながら。
まるでヴィンテージもののワインを口にするように、
男はたんねんに、舌をあてがってきた。
ぬるぬる・・・にゅるにゅる・・・かりり。
さいごの鋭い感触が、理恵にすべてを忘れさせた。

つぎの日。
やってきたのは、男の子だった。
万引きかな?理恵はそれとなく警戒したけれど。
その心配は無用なようだった。
かわりに、べつの心配が要りようだったと、後悔した。
男の子はすすっと無遠慮にすり寄ってきて、理恵の両膝に抱きつくと、
もう臆面もなく、肌色のストッキングのうえからふくらはぎを吸いはじめたのだ。
きゃっ!なにするのっ!?
脚をすくめて、抗ったけれど。
こういうとき、店主の柊は助けてくれないのは、先刻ご承知のとおり。
たちまち脚を抱きすくめられて、むぞうさに唇をすりつけられていた。
性急に圧しつけられてくる唇の下、ストッキングがパチパチと伝線して、みるみる裂け目を広げてゆく。
店頭の騒ぎに、柊はぬっと顔だけ出して。
こら。大人に悪戯するんじゃないぞ。
まるで、自分の息子をしかるような口調だった。
ご婦人には、礼儀ただしくやるんだ。
しかられた男の子は、しょげたようにうつむいてしまって。
理恵はちょっぴり、気の毒になった。
このひとは優しいから、ちゃんと謝れば許してくれるよ。
店主がおだやかな声にかえってゆくと、
男の子は神妙に頭を下げて、
お姉さん、ごめんね。
そういった。
「お姉さん」というひと言に気をよくしたのだけは、間違いだった。
許してもらえた・・・そう思ったらしい彼は、ふたたび理恵のストッキングを、はげしくいたぶりはじめたのだ。
男の子の早とちりをわからせようと、なんと言ったものかと思いあぐねていると。
この子はね。悪戯坊主って呼ばれているんだ。しょうしょうのことは、大目に見てやるんだよ。
なにしろきみは、時給千二百円なのだから。

ストッキングは、お店の商品から選びほうだいだった。
破けたものも、そのままお店の負担になっていた。
けれども店主はそのたびに。
ストッキング代だよ。
そういって。
時給とはべつに、一万円札をくるんでくれるのだった。
血液代かも・・・しれないね。
理恵は薄っすらとほほ笑んで、ボーナスの入った封筒を受け取っている。
じぶんの頬が、ほんのちょっぴり蒼ざめたのに、気づきもしないで。

特別出勤日には、セーラー服でも着てこようかしら。
髪型はポニー・テール。
服装は、セーラー服。
ストッキングは黒。肌の透けてみえるもの。
靴だけは特別に、黒のローファーかストラップシューズ。
きみならとても、似合うはずだよ。
店主は自信たっぷりに、かえしている。

お勤めの帰り道 ~濃い紫のハイソックスを履いて~

2007年10月14日(Sun) 16:38:16

おやおや。
いつもこのごろはパンツルックで、私を寄せつけようとしない貴女が。
今宵は珍しく、黒のスカートを履いているのだね。
それでも薄々のストッキングは、わざとお召しにならないで。
かえって私を、挑発しているのだね。
え?なになに?そんなことはないのよ。ですって?
聞こえない聞こえない。^^
だって、なによりも。
その濃い紫のハイソックスが、脂ののり切ったおみ脚を、
流れるようなリブで、くるんでいるではないか・・・
おいしいわよって、言いたげに。
まさかみすみす見逃せなどと・・・仰るわけはあるまいね?
さあさ、あそこに都合よく。
人けのない公園が、いい暗闇を作っている。
隅っこに広がる木立のなかのベンチなら。
誰にも見られることはあるまいて。
もう・・・やぶ蚊も羽虫も、貴女を驚かせる季節ではないのだから。

さ、さ、早う、腰をおろして。
ゆったり脚をくつろげなされ。
ほほー、思った以上に伸びやかな。^^
ぐーんと伸びたひざ下丈のハイソックスが、夜目にはいっそう艶やかなこと。
真新しいやつは、いいねぇ。
ツヤツヤの光沢、なぞりたくなってくるね。
いやもちろん。
唇で、さんざ愉しんだあとは・・・
下の牙でも、なぞってみようぞ。
なに、なに?
行儀わるいのは、イヤですよ・・・って?
聞こえない聞こえない。
まぁ・・・いちおう言っておきたい気持ちは、わからんでもないがな。
さ、もそっとこちらへ・・・差し出して御覧。
そうして、じいっと身をすくませて。
あがった満月でも、仰いでいるがいい。
すこしくらいくすぐったくても、ガマンするんだね。

ぬるり・・・ぬるり・・・
うふっ。くすぐったいかね?
そう脚をくねらせちゃ。
よけい、そそられちゃうじゃないか。
ほら、ほら、ほ~ら。
リブがねじれてゆく。
お行儀よく整然と、ゆるやかなカーブを描いていたのに。
みるみるねじれて、ゆがんでゆくね。
おおかたきみの気分も、そんなふうに。
きっと乱れはじめているのだね。
えっ?なに?
いやらしいのは、イヤですよ。だって?
聞こえない聞こえない。
透けない靴下ごしに牙を入れて、熟れた血がたっぷりしている血管を食い破るには。
ちょいと工夫が、いりようなんさ。
そう。きみがそうやって。
のけぞるくらい、昂ぶると。
ほら、血潮の騒ぎが、ナイロン越しに。
じわじわじわっ・・・と、響いてくるのさ。

あーあ。
ハデに、破いてしまったね。
おうちへ帰るのが、恥ずかしいって?
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
ご主人はきっと、とがめたりはしないだろうから・・・
もう少しだけ、舐めさせて。
それからもう片方の脚も、もちろん噛ませてくれるだろうね?
お礼にさっきと同じくらい、じわ~りじわ~りと、愉しんであげるから。
おやおや、何を言うのかな?
昂ぶってるのが、ばれちゃうって?主人に叱られちゃうって?
聞こえない、聞こえない。
きみにはまだナイショなのだが。
ほら、ああやって。
さっきからああやって、木陰から覗いているご主人も。
私のいたぶりを眺めて愉しんでいるのだから。

田舎からの訪問客

2007年08月25日(Sat) 11:34:23

1.プロローグ 和朗の独白
田舎から、あいつが出てくるという。
年齢不詳。はたちの若者にみえるときもあれば、とうに定年をすぎた爺さんのように老け込んでいるときもある。
けれどもどういうわけか、我が家で一泊していくと。
昨晩どんなに年寄りじみてみえたとしても、見違えるほど活き活き、ピチピチとして、嬉しそうに帰っていきやがるんだ。
え?どういう関係かって・・・?
それがとんと、想い出せない。
自分の係累はもとより、女房の知り合いのことも、けっこうこと細かに知っていることが、オレの自慢なのだが・・・
いったいどっちの関係で、あいつを泊めるようになったんだっけ・・・?

2.到着 男のメモ帳から
20:00 やっと目的地に到着。
喉をうるおしたいのをぐっとこらえて、ネオン街に背を向ける。
あまり遅くなると、彼も彼女も待ちくたびれるだろうから。
郊外まで電車でかなり入り込んで、私のことなどだれ一人知らない街は、ほっとする。
いや、いや。ほんとうは、あのふたりだけは。知っているはずなのだが。
あすの朝、ここを発つまでには。
ダンナの記憶は、消しておいてあげなくちゃね。

3.歓迎 和朗の独白
やぁ、しばらく。
だと。
なにをなれなれしく・・・って言いたいのを、グッとこらえて。
  いつまでも滞在かね?
つとめて優しく、訊いてみる。
  今回はちょっと、時間が取れなくて。
いかにも申し訳なさそうな口調だが。こっちにすりゃ、おおいに好都合だ。
  あすの朝、さっそく帰らなくちゃならないんですよ。
小首をかしげた顔つきが、かなり残念そうだが。
オレは同情なんかしてやらない。
  そんなに忙しいんなら、そもそも来なくたってよかったのに。
しまった。
思わずホンネを吐いてしまった。
けれどもやつは、正反対の解釈をしたらしい。
  すみません。それは怒られちゃいますよね。
  もっと時間をとれれば、ほんとうによかったんだけど。
おいおい・・・
  こんどは前々から、予定をたっぷり取って、一週間くらいお邪魔できるようにしますよ。
だと。
だ・か・ら! きみは招かざる客なんだって・・・
オレのつくった渋面に、気づかぬわけはないはずなのに。
やつは、かんたんにうけ流して。
こともなげに、ほざいたものだ。
素足だと、落ち着きませんね。奥さんのストッキング、貸してもらえないですか?

4.男のメモから
首尾よくダンナから、理恵のストッキングをゲットした。
ちょっと履き古したものらしい。
ひっかけた跡が、横ひと筋のひきつれになって残っていて。
それがいく筋か、つつっと走っている。
理恵といっしょに、いるみたいだ。
悪いね、ご主人。けれどもあんたの奥さんの履き物を、こうしてなかからいたぶるのが。
私のいけない好みなのだよ。^^

5.饗応 和朗の独白
お食事、できましたよお。
女房の理恵が、やけにのどやかな声をして、客人のいる部屋に声を投げた。
おいおい、あんなやつに親切にするこた、ねぇんだ。
つい伝法に、いってしまいたくなるのは。
女房がなんとなく、やつに気がありそうだからか。
あ、いけねぇ。そういう想像すると、腹が痛くなってくる・・・
かかぁの浮気なんて、考えただけで虫唾がはしるからな。
虫唾が走る・・・といえば。
オレにねだった女房のストッキングを、やつは自分で履いていやがった。
寒い季節でもあるまいに。
それになにを好んで女もののストッキングなんか、履きやがるんだ?
オレへのあてつけ?
いやいや・・・も少しようすを、見てやろう。

食卓につくと、料理を置いてあるのは、二食分。
え?
  ほらあなた。早く食べないと、さめちゃうわよ。
・・・ってことは、ひとつはオレの分。
で、理恵のやつが遠慮して夕食を食べない・・・ってことは、ありえない。
じゃ~、あいつの分は・・・?
  あら。あのひとのお食事?
理恵はオレの心中を見通したように、誇らしげに肩をそびやかして。
とんでもないことを口走りやがった。
  あたしから、いただくのよ。
えっ?どういうことだ?それ・・・
あーん、って口あけさせて、スプーンを運んでやるとでもいうのだろうか?
ふと後ろを振り返ると。ぎくりとした。
やつがいつの間にか、音も立てないで背後に控えていたのだから。
  わたしの夕食は、ご心配なく。
  今夜は奥さんから直接、生き血をいただきますから。
えっ?えっ?えっ?
理恵の身体から、生き血をとる・・・って?
目を白黒させているオレの反応を、やつはもてあそぶみたいに、楽しげに。
ことさら意外そうにして。
  えっ?だって・・・今夜のお目当ては、奥さんの生き血なんですから。
こいつ、吸血鬼・・・?
すがるように、女房のほうを振り向くと。
  あらぁ。あたしの血をお望みなのぉ?
女房のやつ。ことさらに、しなを作りやがって。
まんざらでもない、ようすなのだ。
  よろしいですわよ。じゃ、少~しだけ ね♪
  あなた、いいでしょ?ちょっとくらい肌を吸わせたからって。
  ヘンな嫉妬なんか、感じないわよね?
  あ ちょっとくらい えっちなこと されちゃうかも。
  でも、でも。平気ですよ。
  ・・・若いコなんかに、負けないんですからね。
女房はやつと腕を組んで、やつの寝室へと背を向けてゆく。
ひざ下までぴっちり引き伸ばしたハイソックスが、これ見よがしに、
女房の足許でいつにない光沢をきらつかせていた。
は、はぁ~っ。
オレは自分が血を抜かれたような気分になって、その場にくたくたと崩れてしまった。

6.エピローグ 記憶の彼方
あくる朝、和朗が目ざめたのは、いつものベッドだった。
だいぶ寝過ごしてしまったらしい。
妻の理恵はベランダで鼻唄交じりに、洗濯物を干している。
頭が軽く、痛いのは。夕べ酒を飲んだせいらしい。
あんまり記憶がないのは、二日酔いの証拠だった。
  あれ?夕べだれか来なかったっけ?
  えー?ふたりで晩ご飯、食べたじゃない。
台所を見ると、洗いあげたいつもの食器が、ちょうどふた組。
だれか来ていたような気がするんだがなぁ・・・
和朗はいつもの週末のように、頭を掻き掻き、けだるい足取りを洗面台に向けた。
彼はなにも、気づいていない。
裸足でベランダで立ち働く妻のふくらはぎに、かすかな赤い痕がふたつならんでいるのも。
そもそも裸足になったのは、履いていたストッキングを脱がされたためだということも。
何足めか、履き替えたストッキングを、やっぱり噛み破られて。
動かぬ証拠を残すまいとした吸血鬼は、かれの女房の脚から抜き取って、せしめていったのだ。
さいしょに履いていたななめ模様のハイソックスを、半ズボンの下自慢げに自分の脚に通しながら。

第三の影

2007年03月22日(Thu) 07:27:49

―――だいじょうぶ。平日はね。ウチのだんな、早寝早起きなの。
―――いちど寝ちゃったら。もう、それこそ白河夜船。
―――揺すったって、起きやしないんだから。

だからといって。
ダンナが寝ている刻限に、深夜女友だちを連れて来て。
お茶しようよ。だなんて。
夜遊びのなごりを愉しむこともあるまいに。
テーブルの下からのぞく二対の脚を、隣室から窺いながら。
ふすま一枚へだてた闇のなか。
血に飢えたものたちは、うそぶく言葉とは裏腹に。
目のまえの獲物にごくりと生唾を呑み込んでいる。
いつ、襲おうか?どんなふうに、ねじ伏せようか?
ワクワクと想像に胸わななかせる、深夜二時。

あらっ?
異形の存在に気がついて、半身を引こうとする麗子。
まぁ・・・
表向き身をすくめながら、麗子の背後をそれとなく遮っている理恵。
悪友の意図をすばやく察して、
もぅ。
麗子は軽く、理恵のおっぱいにひじ鉄砲をあてて。
わかっているのよ。
イタズラっぽく、口を尖らせた。
脚好きな吸血鬼さんたちね?
襲う側もなぜか。心きいた女ふたりを前にして。にやにやと笑みを洩らしている。

どちらを、選ぶ?
顔見合わせて、目配せ交し合って。
吸血鬼は、すらりとカッコウのいい麗子の足許に。
柏木は、むっちりと輝く理恵のひざ下に。
そうっ・・・と、唇を吸いつけてゆく。
ぬるり・・・
吸血鬼が麗子のまとう黒ストッキングによだれを光らせると。
くちゅっ。
柏木も、理恵の穿いている濃紺のナイロンに、軽いしわをよぎらせてゆく。

きゃっ。やらしい・・・
うふふ・・・
静かに輝く照明の下。
密やかに交わされる、女たちのくすぐったそうな声。
エモノにされたふたつの影をおおう、妖しの影法師は。
いつか、もっと数を増していた。
あっ、私もされたいなぁ・・・
ダ・メ・よ。ココから先は、ほんとにアブナイんだから。
意識を薄らがせてゆく女友達に、理恵は得意そうに含み笑いを返すと。
淫らに巻きつけられた、なん人めかの影に。
スカートのすそを乱しながら、抑えつけられてゆく。

どうかね?いい眺めだろう?
ふすま一枚隔てたこちら側は、相変わらずの静かな闇。
吸血鬼は傍らの影に、イタズラっぽく囁きかける。
さっきまでいた客間は、淪落の渦と化していた。
声こそ、忍ばせているものの。
気絶した麗子の胸許や足許には、吸血鬼がふたり、まだ余韻を味わっていて。
けらけら笑いこけている理恵には、三人もの影が入れ替わり立ち替わり、上に這い登っていって。
夫婦の営みどうぜんの所行に及んでいる。

いい眺めですね・・・
生唾を呑み込んで応えたのは、柏木のほう。
村から連れて来た仲間たちは、初めて抱く都会の人妻に、目の色変えて挑みつづけていた。
若い連中は、元気でいいことだな。
いつも柏木夫人を好んで犯している吸血鬼も。
奥さんをモノにした同類を、愉しげにかえりみている。

第三の影が、ようやくのように、おずおずと。
ええ・・・そうですね。
初めて声を、洩らしていた。
柏木は三つめの影に、親しげに寄り添っていって。
あの連中ったらね。
ボクの妻のことも、あんなふうに輪姦しちゃうんですよ。
まるで世間話でもするように、妻の受難を語っている。
ストッキングが好きな連中でしてね。
ほら、今夜もあんなふうに、チリチリにしちゃっていますけど。
好みがおなじ弱みでしょうか。妻と相性がよ過ぎるせいでしょうか。
つい・・・おおめに見てやったりしてしまうのですよ。
ね?なかなか・・・でしょう?
めったに、観れるものじゃないですからね。・・・奥さんを抱かれるのって。
第三の影の主が、血走った眼を、細目に開かれたすき間に押し当てた。
照明に浮かび上がった顔は、この家の主のもの。
耳たぶのすぐ下あたりにつけられた痕には、かすかに赤いものが滲んでいる。

まるで子どもがじゃれ合うように、転げながら戯れているのは・・・ほかならぬじぶんの妻。
薄々なにかの気配を覚えていたにしても。
これほど間近に。これほど露骨に。
妻の痴態を眺めたことがあるだろうか。
まるで、妻に隠れてポルノビデオを観ている気分だった。
それくらい、闊達に。
電灯の照らす、あからさまな明るみのなか。
乱された着衣から、惜しげもなくさらけ出された白い肌は、熟れた潤いを帯びていて。
ぬめるような輝きをたたえながら、淫靡な舞を自在にしている。

自分の両側に控える男たちが、口許に散らしているのは。
たった今まで妻の体内を流れていたもの。
吸い取ったばかりの妻の血を光らせながら笑みかけてくる唇に。
いつか代わる代わる、首筋を吸われていった。
妻の血と。オレの血と。
こいつらのなかで、等分に交わるのか・・・
あんたも奥さんを、犯されているのか?
家のあるじは、柏木のほうをかえりみる。
妻を悪の道にいざなったものを、親しげに。
よどみない応えが、かえってきた。
ええ。そういうことを、愉しめるたちなので。
静かな応えに。
オレも、真似ができたら楽になれるのかな。
つい、口走ってしまっていた。
めくるめく光景の、あまりの様相に誘われて。
お楽では、ありませんか?
う・・・ぅ・・・うむ。
和郎はなま返事をくり返しながら。
目線は知らず知らず、痴態を繰り返す妻を追っている。
楽、というよりも。ズキズキするでしょ?
うん・・・
あいつらが来るときは。私いつも寝たふりを決め込むんですよ。
若いですからね。亭主が起きていると、さすがにやりにくいようです。
私たち年配者ともなると。
ダンナまでナカマに巻き込んで・・・愉しんじゃったりするのですがね。
ちょうどこんなふうに・・・かな?
ええ。薄い靴下。お気に召しませんか?
さっきまで寒そうにすくめていたつま先を、くつろげて。
和郎は見せびらかすように、ストッキングのように薄いハイソックスを、ひざ下まで引き上げている。

早寝を決め込んだ和郎の体内に、ひそかに淫らな液体を微量だけ注入して。
目ざめた彼を、親しげに引き込んで。
帰宅してきた妻と、妻の友人と。
ふすまの影から、覗き込んで。
亭主のまえ。
どちらを、襲う?どんなふうに、やる?
なんて。
品定めや、段取りまで、相談して。
理性を痺れさせられた夫は、夢うつつのまま。
男どもの所行を、ただ観つづけている。
さながらポルノビデオの登場人物になったように。
さながら妻に隠れて、それを観、耽っていくように。
朝起き出すときには、きっと・・・
なにもかも、記憶から抜け出てしまっているのだろう。

おぉい、理恵。

2006年12月05日(Tue) 07:41:48

ただいまぁ。
おや?部屋が真っ暗だ。
おぉい、理恵。
まだ戻ってないのかな?今夜はぜったい、オレのほうが遅いはずなんだけどな。
飲み会だったから・・・
あいつ、酒のほうはさっぱりだから。
こういう夜更かしは、しないもんな。

あれ?もの音がする。
・・・ってことは、いるのかな?
具合でも、悪くしているのかな?(にわかにおろおろし始める)
理恵?どした?
具合、わるいのか?

う~ん、ちょっと・・・(^_^;)
悪いってか・・・すこし寝てた。
うぅん、だいじょうぶ。もう平気よ。
灯り、つけるわね。(ぱちり)
お帰りなさい。
お風呂?え?疲れたからすぐ寝る?
布団もなにも、敷いてないわよ?
すぐ用意するわね。

おっかしいなぁ。
寝入りっぱなを起こされたら、いつも機嫌わるいのにな。
今夜はやけに、素直だな。
おやぁ?スカートにへんなシミがついてるぜ?
そのままのカッコウで、会社行ってたの?
シミは帰ってからついた?
あっ、そう・・・
まだ、濡れているもんね。やけにねばねばしたシミだね。
・・・って。おや。お客さん、来ていたのかい?

ハジメマシテ。
わっ、びっくりした。びっくりした。
ア。スミマセンネェ。サッキマデ奥サンノコトオカリシテイタノデスヨ。
あ・・・そですか。理恵がですか。
いえいえ、そそっかしい女房ですが。いつもお世話になっています。
ハ~イ、オ世話シテマスネ。今夜モヒドク、骨ヲ折リマシタワ。
おやおや、そいつはどうも。ご厄介をかけまして。
イヤイヤ、ドウゾ。オ気遣イナク。
(イイゴ主人ダナ。事情ヲ飲ミ込ンデイナクテモ、チャント調子ヲ合ワセテ挨拶スルノダナ。
 分カッテイルノダロウカ?
 「奥サンノコトオ借リシテ」ト「オ狩リシテ」ノ違イ。^^)
お疲れですか?もうすこし、休んでいかれますか?
マァ、ソレハゴ親切ニ。(アンタモ血ヲ吸ワセテクレルノカネ?)
男ノ血ハアマリ好ミデハ・・・イヤイヤ。(^^ゞ
え?血ですか?
エェ・・・ワタシ。血ノ研究家ナノデ。^^;
ほほー、お医者様なんですね。なにかの時には助けてもらおうかな。
そういえばあいつ、首のあたりに血がついていたな。
またあわてて、どこかにぶつけて、ケガをしたんですね。
それを治してくれたんですね?
それとも、研究用の採血ですか?
ドキリ。^^;
どうです?お医者様の目でみても、あいつ、肥満ではないですよね?
すこしむっちりしていていますが。
抱き心地がなかなかよろしくて・・・いや、失礼。ーー;)
(ソレハ、ヨク存ジテオリマスヨ・・・イヤイヤ失礼。^^)
さいきんすこし、顔色が蒼いんですが。なにか、悪い病気でもしているんじゃないですかね?
スカートの裏に、ねばねばした汗をかいていたり。
あと、よくストッキングが破けていたりもするんです。
どうも最近やけにストッキングを買うなぁ・・・と思ったのですが。
次から次へとなくなるんですが。
まるで、誰かに食べさせているみたいですね。
おいしいようなら、何よりですが。
おや、あいつ、なにをにやにやしているんだろう?
いつもの部屋に布団を敷かないんだな。
こちらとの御用がまだ、済んでいないんだね?
じゃ~、先に寝るから・・・
お客さん、すいませんねぇ。お先に、寝ませてもらいますね。
お邪魔をしても、いけませんから。
理恵のやつを、どうぞよろしく。

あとがき
寝取られていることを分かっているんだか、分かっていないんだか。
とぼけているとしたら、なかなか長けたご主人ですね。^^

危機・・・!(脱力ねたです)

2006年05月07日(Sun) 10:38:22

壁ぎわに、追い詰められた。
ヤツは目のまえに立ちふさがって。
逃げ場を封じながら、迫ってくる。
口辺ににたにたと、人を嬲るような笑みをたたえながら。
どうしよう。どうしよう。
脚はがくがくと震えて、硬直したように立ちすくむだけ。
が・・・っ。
両肩を拘束する、冷えた両掌。
そのうち片方が肩先をすべり、うなじを這う。
氷のように冷たい指先で撫でながら。
嫌悪にひきつる目線をくすぐったそうに受け流す。
「もう逃げられないよ。観念しな」
ただひと言、そっけなく引導を渡すと、
ゆるめた口許からこれ見よがしに鋭利な牙をむき出しにした。

ぐい、とひねるようにうなじを仰のけられて。
ひんやりと這う冷気に、ゾクゾクと鳥肌をたてて。
ぎゅうっ。
無理やり圧しつけられる、鋭い異物。
ヴュッ・・・・・・!
低く鈍い音をたてて、飛び散る鮮血が闇を切り裂いた。
ブラウスの胸許を重たいほとびに濡らしながら、
理恵は渦巻く眩暈に我を喪った・・・

じゅー。じゅうぅぅ。ちゅう、ちゅううぅぅ・・・っ。ちゅー。

「はい。ご苦労さん」
え?
目のまえには、じいっと見つめる吸血鬼の顔。
相変わらず人の悪そうなにやにや笑いを滲ませながら。
「お駄賃だ。とっとけ」
差し出されたのものは箱詰めの「そば饅頭」。
もぅ。
理恵は口を尖らせて。
さいごまで、しっかり酔わせなさいよね。
吸血鬼の頬ぺたを軽くつねっている。
べっとりと血を滲ませたブラウスを見せつけながら、
クリーニング代だって、高いんですからね。
ぶすぶすぶすぶす、文句を並べていた。
わかったわかった。(ーー;)
脱ぎはじめるのを手伝いながら、
では、話のつづきと参ろうか。
理恵はさりげなく胸の丸みに向けられた手を払いのけて。
「おまんじゅうが先ですよ♪」
さっそくひとつほおばりって。
「甘みが足りないわね。こんどはもっといいのを持ってくるのよ」
はいはい・・・(-_-;)


あとがき
気分転換に?ちょっぴりムードをぶっ壊してみました。^^
しりあすな展開を期待した方、ごめんなさい。m(__)m

不思議な派遣社員

2005年12月12日(Mon) 00:07:00

ねぇねぇ。来てみる・・・?
悪戯っぽい微笑もなぜかミステリアスで。
とても意外。
このひとがこんな笑いかたをするなんて。
そう思いながら、恵子は引きこまれるように、ウン、と頷いてしまっていた。
相手は、理恵という派遣社員。
いつのころ採用されたのか、そんな記憶すらあやしくなるほど存在感の薄い人。
吸血鬼の小説、書いているの。
そんなふうに打ち明けてくれたのは、つい数日前。
大人の童話みたいなものよ。
そういってはにかみながらその場で読ませてくれた数々のお話のなか、
ちょっと意外だったのは、登場する吸血鬼が咬みつくのがストッキングを穿いた脚だったりするところ。
ちゃんとモデルがいるのよ。
そういう彼女に誘われて。
言われるままについて行ってしまった恵子には、いつの間にか呪縛がまとわりついていたものか。
オフィスを出るとき脚に通していた黒のストッキングは、帰宅したときにはベージュに変わっていた。
もちろんそんなささいなことは、家族の誰も気がつかなかった。

あれ?○○くんは?
理恵の上司がふと気づいたようにあたりを見回す。
―――え?彼女先月辞めたんだろう?
同僚にそう言われて。
そうだったっけ。
とにかく、印象のない人だったなあ。
そういえば、水沼くんも最近見かけないな。
―――え?彼女もいっしょに辞めたんじゃなかったっけ?
またも同僚にそう言われて。
え、そうだったっけ・・・
ほかにも辞めた女子社員が数名、いたのだが。
もとより視界にはいるもの以外、凡庸な上司氏の意識の外である。

目ぼしい女をあるていどモノにすると。
理恵はそうっ、と派遣先に辞表を提出する。
一見恭しく頭を下げて、目のまえの上司がもっともらしく頷いたとき。
理恵は心のなかで笑っていたりする。
だって、このひと、こないだ家にまで招んでくれて。
そのときいっしょに連れて行った吸血鬼に奥さんを紹介したの、もう忘れちゃったのかしら・・・って。

あとがき
自分の印象をわざと薄くして、周囲の警戒をかいくぐって。
いちばん美味しいところだけを引き抜くと、音もなくすうっ、と去ってゆく。とても有能なアシスタントです。

スパイス

2005年10月17日(Mon) 23:49:00

「オイ、きょうのチャーハン、なんか味おかしくない?」
和朗は口をもぐもぐさせながら、妻の理恵にそういった。
いったあと、しまった、と思った。
料理そんなに上手でもないくせに、こっちがケチをつけると妙にとんがるのだ。
「何なのよー!いつも会社でそんなにいいもの食べてるわけー!?そんなにいうならたまには自分で作りなさいよー!」
ご機嫌が悪いとこんなふうに、ちょっとヒスまで加わる。
(うわぁ、まじーな。疲れてかえってきたのに)
残業で帰りが10時をすぎたのに待っていてくれたのだから、もうちょっと気の利いたことをいうべきだった・・・と反撃に身構えてしまう弱い夫。
ところが理恵は
「そぅお?そんなわけないけどなあ」
・・・めずらしく、おとなしい反応だった。
「実家からもらってきたスパイスのせいかしら・・・?」

その晩の夢は、ヘンだった。
ドアの向こうにいる理恵は、いつもよりずっと若作り。
いつもは色気なく頭のうえでぎゅうっと束ねている髪の毛をお嬢さんみたいに肩まで垂らして。
白のブラウスに、ペンシルストライプの濃紺のスカートというイデタチに、いつもはあまり見かけないストッキングまで穿いている。
それはいいとして。
誰か知らない背の高い男と向き合って、なんかウットリした目つきで相手のことを見上げているのだ。
じぶんにはついぞ見せたことのない、媚びるような上目遣い。
―――おいおい、抜き差しならないぞ。
夢のなかと知りながら、さすがにあわてる和朗。
そんな夫に見せつけるように、妻は相手の男の黒っぽいスーツの背中にじぶんのほうから腕をまわしてゆく。
男の口許からチラとのぞいた犬歯は、とても尖っている。
それを男はむぞうさに、妻のうなじに押しつけていた。
―――あっ。
じぶんが咬まれたように、和朗は神経をぴりりと震わせた。

夢にはありがちなことだったが、
つぎのシーンはもっと飛躍している。
ただし、先刻から妻にまとわりついている不埒な男は視界から去っていない。
去っていないどころか、さらにフラチにも、理恵にすり寄るようにして、我が物顔に肩に腕をまわしているのだ。
それだけではない。
もはや理恵は全裸に剥かれてしまっていて、その裸体を自分のほうからからみつけてしまっているではないか。
口許から洩れる熱い喘ぎが、二個の裸体の結合をあらわにしている。
ところが。
妻が、妻が犯されている・・・というのに・・・
その風景は和朗自身に意外な反応をもたらしていた。
思い切り昂ぶっているのだ。
どうして・・・?
いぶかしい和朗。
しかし目のまえではずむ妻の裸体は、彼の本能をいやが上にも逆なでするように、いっそう激しい上下動に熱中していった。
引き裂かれた下着やストッキングをまだまとわりつけているのが、とてもエロチックに映る。
和朗はえもいわれぬ快楽に引きずり込まれてゆく自分をどうすることもできないで、ぼう然と妻の痴態に見入ってしまっていた。

「けさのチャーハン、やけにうまいじゃん」
「え~!?夕べの残りものだよ」
「そっかあ?なんか変わったスパイスかけてなかったっけ?」
「実家の姉がくれたのよ~。あなたったらすぐケチつけるようなこというんだから。姉に報告しておくわね」
理恵以上に手ごわい姉の気の強そうな顔を想像して、和朗は朝からげっそりとする。遠方に住んでいて、年に何回も顔をあわせずにいられてラッキーなくらいだった。
「夕べけなしたの、忘れてないんだからねー。きょうはおわびに○○デパートの地下で豆大福、買ってきて頂戴ね」
夕べのカタキまでしっかりとられて、なんのために理恵の料理をほめたのかわからなくなってしまっている和朗。
しかしひと晩たって、妙なスパイスの入ったチャーハンはじつにおいしくなっている。


あとがき
ひと晩たったら風味がかわる料理ってありますよね。
でもこのスパイス、香りたぶんかわっていないはず。
変わったのは・・・そう。ご主人。あなたのほうなんですよ・・・^^

ちょっと淫らなオフ会 5

2005年10月04日(Tue) 20:33:00

↓の、続きです。
うんと長くなっちゃいました。
てきとーに、読み飛ばしてください。^^;



「たいした盛況だな」
吸血鬼が眺めているのは、通りのはすむかいに歩みを進める女たちの足許だった。
「あれが全員、今夜招かれている・・・というのなら、悪くない話だね」
そううそぶく彼の視線が、じつは最も熱く理恵ひとりに注がれているのを、柏木は見逃していない。
「今夜の訪問は歓迎されるとみて、間違いないようだな」
そう決めつける目線の彼方に、遠目にも鮮やかな、夏場には不似合いな黒のストッキングに包まれた彼女の足許があった。
ヤツがそうして、喉の奥に消えた血潮の味わいを反芻するように陶然としているのは、そうそういつもいつものことではないのを彼は知っている。
まず十人に一人、だろうか。
そのなかにはむろん、彼の妻である由貴子や、母も含まれている。
そういえばさいきんモノにしたという、まりあという女と褥をともにした朝も、おなじ顔つきをするようになった。
看護婦だとか、教師をしているとか、正体をはぐらかして決して真実をつげない吸血鬼に対するときと同じ感情―――とてもじりじりとした、焦りに似たもの―――が、いまもまたよみがえってきた。
自分のなかに渦巻きはじめた嫉妬が、理恵を好いている男としてのものなのか、自分に乗り移った母や妻のそれであるのか、よくわからなくなってきている。


インターホンの音に
「はぁい・・・」
と、理恵は重たい腰をあげた。
―――やっぱり夕べはキツかったなぁ~。
と、さすがに思う理恵。
よくまあ身体のなかに血がのこっていたなと思うほど、ふたりがかりで強欲に漁りとられてしまっていた。
そのうえ、昼の外出である。
―――だって、どうしても見たかったんだもん。初之丞の演じる梢。
AかBか、ではなくて、いつもAもBも、と欲張る理恵。
若さにまかせてきょうもまた、いつものように欲張ってしまっていた。
けれどもここは自宅。
こんどは向こうが、欲張る番。
多少欲張られちゃったとしても、ぶっ倒れるまで相手をしても、だいじょうぶ。
それ以上に、すんでのことで夕べ帰りそこねるところだった理恵を吸血鬼が自宅まで送ってくれたことが、無上の安心感を彼女に与えていた。

帰宅してから、本当は昼間の歌舞伎見物に着ていくつもりだった服に着替えている。
お出かけの時には必ずといっていいほど着ていく服に迷って、あきらめた服を出しっぱなしにしたままあわただしく出かけてしまうことがある。
家に戻ってすぐに着替えたときも、じつはそういう状況だった。
もちろんそんなことは吸血鬼にも内緒であるが・・・
インターホンの音にこたえるように。
着替えたばかりの濃い紫のスカートをひるがえして、彼女は玄関に向かう。
脚には、黒のストッキング。
先週銀座にくり出したときに買った、よそ行き用のやつだった。
ブラウスは夕べに引き続いて、純白のボウタイつきのもの。
バラ色をした血が映えるように・・・しぜんとそういう服を択んでしまっている。

「あら、柏木さんは?」
「遅れてくるようだよ」
吸血鬼はそういうと、挨拶抜きにあがりこんだ。
鍵をかけようとする手を制してにぎりしめ、唇をあててゆく。
そのまま腕にまきこんだ理恵の華奢なブラウス姿を奥の部屋へと引きずり込むよな強引さでいざなった。
鍵をかけ忘れたことをあくまで気にする舟橋家の主婦が
「無用心ですわ」
と主張するのを、
「わしがいるところに忍び込む愚か者がいようか?」
たったひと言で納得させてしまう。

リビングはすっかり片付いていて、きれいにみがかれたフローリングの床がてかてかとしている。
ソファにもつれ込むようにして。
吸血鬼はさっそく、人妻の首すじを狙う。
「柏木さんが、来てからよ・・・」
軽くかぶりを振ってこばむ理恵を抑えつけ、
「昨日も、ヤツがさいしょだったはずだぜ」
そういって彼女に迫り、うなじに唇を這わせてゆく。
力ずくで這わされた熱い唇がヒルのようにむずむずと素肌の上をうごめきだすと、
理恵はもうガマンならなくなって、つい
「あぁ・・・」
と唇から声を洩らしてしまっている。
吸血鬼は理恵のあごを捉まえてちょっと強引に顔を仰のかせると、冷たい頬をちらりとゆるめて、
「えっちな奥様、だね」
そういいながらふたたびかがみこむと、早くもずぶりとうなじをえぐってしまっていた。
きゅうううっ・・・
三十代の人妻のなまめかしい血潮がおびただしく、瞬間移動を始める。
百年以上というもの。
幾多の女性におおいかぶさり、理性を奪い取っていった吸血の音。
昼下がり、罪のない都会の一主婦の身の上にも、それは例外なく訪れる。
ア・・・あ・・・ぁ・・・あぁ~っ・・・
むっちりとした肌に牙を突き立てられたまま生き血を吸い取られてゆく理恵は、いつか陶然となって身をくねらせてゆく。

「おぉーい!またバンカーかよ」
微妙に狂ったスイングから放たれた白い球は青空に鈍い放物線を描いてあらぬ方角へとすっ飛んでゆき、
芝生におおわれたなだらかな丘の彼方にかすかな砂煙をあげて見えなくなった。
また手許が狂ったじゃん・・・
和郎はチッとイマイマしそうに舌打ちをした。
これじゃー、120は確実にオーバーだ。
不本意以下のできである。
「どーしたんだよ。名人」
いっしょに回っている同僚の豊野が、ニヤついている。
どうしたはずみか、和郎とどっこいどっこいのヤツが、このぶんだと90は切るかもしれないというペースでまわっている。
というよりは、なんのことはない、いつもと同じペースでまわっているだけだと、あまりにも調子を崩した和郎は気づかないでいる。
「奥さんまた病気じゃないの?」
豊野はどこまでも意地が悪い。
まえに大叩きしたときは、家にもどったら理恵は季節外れのカゼをひいて寝込んでいた。
そんな話をしたら、かえって「ご馳走様」だと。
まったく、どうにもなんねぇな・・・
渋い顔の和郎はお気に入りのアイアンを握りなおす。


吸い取ったばかりの血に、牙をバラ色に染めながら。
吸血鬼はにんまりと笑んでいる。
「もぅ・・・」
痛いくらいにきつい抱擁のなか。
甘ったるい声で口を尖らせる理恵。
もういちど、こんどはじぶんのほうから彼の背中に腕をまわして、吸血鬼の抱擁を受け容れていく。
ブラウスのうえから加えられるまさぐりがいっそうしつっこくくり返されるうちに。
下腹部にじりじりとした潤いを覚えながら、理恵はなおもいやいやをくり返す。
「プレゼントは柏木さんがお先、のはずよ・・・ね?」
子供に言い聞かせるような口調。つい甘ったるくなってしまう上目遣い。
それでも言葉はあくまで柏木に忠実だ。
「私の知ってしまった過去を語られたくなかったら・・・なんて田舎文句は吐きたくないものですね・・・」
そんなよこしまな囁きを、口先に手をあてがって封じる理恵。
しなやかな鋼のような強い意志。
一見嫋々とした女の柔肌に秘められた剛いものを見せつけられて。
「うふふ。貞操堅固な奥様だね」
口では理恵をもてあそびながら、ちょっと残念そうにかれは身を引いていた。

さっきから。
ドアの向こう側から注がれる、熱い視線を感じている。
「ううん・・・」
我ながら悩ましい声に驚きながら。
執拗に絡みついてくる視線がくすぐったくて。
抱擁のなかの身もだえに、ついつい熱が帯びてくる。
もしかして・・・
やっぱり。
「遠慮なく、入りたまえ」
理恵の気配にそそれと察した吸血鬼がふりかえった。
彼に応えるように開かれたドアの向こうにいたのは、やはり柏木だった。
柏木さんの目が心なしか、充血している。
のぞいていたの?
卑怯、ということばは、さばけた理恵が口にする言葉ではなかった。
―――まぁ、お独りで愉しんでらしたのね。人がわるい。
にんまりと浮かべる笑みを、共犯者どうし交わし合っている。
さっきのきわどい会話をどこまで聞かれたのかしら?
そんな懸念を媚びを含んだ笑いの下に押し隠しながら、
「愉しんでいただけました?ドラキュラ映画の吸血シーン」
「ドキドキしちまいましたよ。まるで、自分の女房抱かれているみたいに」
そういう柏木も、耳にしたやり取りのことなどおくびにも出さないでいる。
その実自分のいないところでさえも、理恵が自分に忠実に振舞おうとしてくれたことにかなり喜んでいたのだが。

「二人で歌舞伎見物、してきたんだぜ。せっかく東京まで出てきたのでネ」
「うそぉ。女の人見物、なんでしょ?」
図星に苦笑いして、吸血鬼は抱擁を解いていた。
―――黄緑のスーツ着ていた女の脚がたっぷりしていて、咬みごたえがありそうだ。
―――Aさんのことだわ。さすが。お目が高い。
打ち解けた雰囲気。きわどい会話。すべてが昨日の繰り返しだった。

「貞操堅固な奥方だよ。」
ちょっと残り惜しそうにしていたのは、理恵に一番乗りする野心を捨てていなかったのだろう。
まったく、油断もスキもない・・・
タメイキする柏木だったが、もとより彼への悪意はない。
いままでになん人、彼とのあいだに女性を交えてきたことだろう。
洗練された物腰とも、世なれた振る舞いとも無縁な柏木のことを大目に見るように、
彼はそれでも自分が酔わせたかなりの女を柏木に譲ってくれている。

「吸いなよ。じつに旨い血だ」
上質のワインを同好者にすすめるときのような口調で、吸血鬼は柏木を促す。
「淫乱女の、ね」
そうつけ加えてにやりとする吸血鬼に
「もうっ!」
といいながら、早くも柏木に襲いかかられている理恵だった。


ちょ、ちょ、ちょっと待ってぇ・・・
うなじにつけられた傷からにじみ出ている血を舐め取られながら、理恵は少なからず悩乱している。
「う、う、うぅ~ん・・・っ」
ソファに押しつけられて、黒ストッキングの脚をばたつかせ、お行儀悪く立て膝しながら相手に応えてゆく理恵。
うなじのべつのところに咬みつかれながら。
ちゅ、ちゅうう~っ・・・
血を吸いだされる細い音に鼓膜をくすぐられ、とうとう笑いこけてしまっていた。
ひとしきり発作がやむと。
理恵は気前よく、柏木のまえでスカートをはねあげていた。
濃い紫の、アールヌーボー調の柄に隠された太ももが、エレガントな黒のストッキングのてかてかとした光沢に包まれている。
あけっぴろげなお人柄とはうって変わった風情にごくんと生唾を飲み込んだ柏木に、
「奮発して、高いストッキング買っちゃった。^^」
別室から覗いていたときから。
理恵の脚を彩る淫猥な黒ストッキングのなかでキュッと浮き出るしなやかな筋肉に目が釘づけだった。
「柏木さんのために履いてきたの。せっかくだから、いっぱい愉しんでね。まだ吸血鬼さんにも触らせていないのよ~」
どういうところが相手のツボなのかをしっかり心得ている理恵の手管にまんまとひっかかって。
自分のなかでもそんなじぶんを自覚しながら。
柏木はつい理恵の足許に跪くようにして。
ひざ小僧をつかまえて。
ちゅるり
と、べろを這わせてしまっている。
「やだ!エッチ・・・」
30代主婦の抗議には耳もかさないで。
ちゅう、ちゅう、ちゅう・・・っ
ひざ小僧から。ふくらはぎから。足首から。
くまなく唇をねぶりつけて。
高価なストッキングの上からぬるぬるとしたよだれをなすりつけてしまっていた。
しなやかなナイロンの舌触りを、その向こう側で素肌がきゅっとひきつる感触を、ともどもに愉しみながら。
抱きついたふくらはぎを撫でさする指の間に卑猥な情念をたっぷりとみなぎらせて。

淑やかに装った脚に卑猥なまさぐりを受けながら。
理恵も柏木の頭を抱いて。幼な児をあやすようなこまやかな手つきで愛撫を繰り返し始めていた。
「ウフフ。たまらんね・・・」
感にたえたように呟くと、吸血鬼は人妻のうしろからにじりよって、
もういちど、うなじのあたりをぐいいっ、とえぐっていた。


「破くまえに、いっぱい愉しんでちょうだいね」
昂ぶりに息をはずませながら。
理恵はスカートをはねのけて、なまめかしい太ももを二人のまえにさらけ出した。
いちどは脱ごうとしたスカートを、そのまま身に着けるようにととめられた。
淑女を、犯したいので・・・
という言い草に、
こだわるなぁ。
と思いつつ。
そういう遊戯に案外とノッてしまっている理恵だった。
まえにこのスカート履いていたときは。
たしかまだ梅雨のころ、AさんやSさんたちと美術館見物に行ったときだった。
つぎの機会が、まさかこんなことのために・・・なんて。
まるっきり、想像もしていないでいたのに。
いま理恵の目線の下で、ご自慢のスカートはくしゃくしゃに乱されて、いつも淑やかに隠している脚を男たちの好奇の視線のまえにさらしてしまっているのである。
まぁ、私としたことが・・・
消えかかった理性がまだ時折彼女の軽はずみを咎めつづけているのだが。
淫らな血潮が彼女自身の身を躍らせてゆくのを、今さらもう止めることなどできよう筈もない。
巧みな人形遣いに踊らされるマリオネットのように。
理恵は自分でもこんなこと・・・と内心いぶかるくらいにまで、エッチに身をくねらせつづけ、男たちを煽りつづけている。
「ねー、こんどは吸血鬼さんの番よ♪」
とかいいながら、柏木のまえでこれ見よがしに吸血鬼に脚を差し出して。
お色気たっぷりにくねらせて。
薄手のナイロンの上から、ちゅうっ・・・と吸わせちゃったりしている。

幾度目だろうか。
なすりつけられてきた唇からにじみ出るように。
柏木さんの牙がふくらはぎにもぐり込んでいた。
「あ、あ・・・ッ」
ほろ苦い痛みの周りから。
ストッキングの繊細な網目模様がちりちりと裂け目を走らせて。
白い素肌を白日にさらけ出しながら、つま先までつ、つっと伸びてゆく。
むっちり脚をほどよく包みこんだ心地よい束縛がじょじょにほぐれてゆくのを覚えながら、
―――もっとやってぇ。
心のなかで叫ぶ理恵。
もう後戻りできない・・・
衣裳を破られると、女はそう実感するのだろうか?


あぁ・・・
破られた皮膚からにじみ出る血潮を、くいっ・・・くいっ・・・と喉の奥へと流し込んでゆく柏木。
長い猿臂に抱きすくめられた中、卵の黄身でも吸い出されるようにして。
まるで恋人どうしのようにウットリと、我が身をゆだねきってしまっている。
自宅のリビングの見慣れた景色。
そのなかに身を置いて。
夫のいない空間にめくるめく誘惑の渦に自ら巻き込まれていって。
当然いだくべき罪悪感がすっぽり抜け落ちている自分が、ひどく自然に思える刻一刻。
―――ちょ、ちょっとぉ・・・
川の流れの深みに引きずり込まれてしまいそうな間隔に、気づいたらばしばしと柏木の背中を叩いている。
―――いっぺんに、吸いすぎよっ。もっと優しくしてくんなきゃ、身が持たないわぁ。
リラックスしたせいだろうか。持ち前のわがままを発揮し始めている理恵だった。
「これは、お許しを」
柏木はそういいながら、こんどは足許へとかがみ込んでくる。
もう・・・
どこまで好色なのだろう?
じぶんのことをたなにあげて、理恵は柏木を、そして吸血鬼を軽くなぶるようにののしっている。

ああぁ・・・
ふたりはかわるがわる、理恵にのしかかってくる。
どれがだれの唇だか、もうわかんない。
うなじに。胸元に。
ブラウスのタイはいつの間にかほどかれて、ブラジャーのストラップは断ち切られている。
ぷにゅぷにゅとしたおっぱいをじかにまさぐられて。
それに応えるようにのぼせ上がってくるバラ色の血潮が肌をじんわり染めるのをありありと感じながら。
それでいて足許にもいやらしくなすりつけられる唇を同時に愉しんでしまっている。
ちりちりに咬み破られてしまったストッキングは、もうひざ下までずり落ちていた。
もう貴婦人でも淑女でもなくなってしまった自分。
それを意識しながら、もうやめられないキケンな遊戯。

あああぁ・・・
吸血鬼さんはやっぱり、首すじがお好きならしい。
いまはもっぱら理恵のうなじにとりついて、
ずぶり。くちゅくちゅっ。
鋭い牙の切れ味をひけらかすように食いついて、
くすぐるようにして血を吸いあげる。
抜き去られてゆく血潮が傷口を通り抜けるときのズキズキとした疼きが素肌にしみ込んで。
いっそう淫らな気分に堕ちてゆく。
―――こうして奥さん、堕とされたのね。柏木さん・・・
たるんだストッキングのうえからなおもしつように唇をなすりつけてくる柏木。
スレンダーな脚じゃないのに・・・
そう思いながらも。
まるで凌辱されるような唇に応えるように。
びんびんに快感疼かせながら、はしたないくらいに昂ぶりにはずむ素肌。
欲情に満ちた唇と、誘惑に崩れてゆく素肌のあいだで、堕とされたストッキングがいびつに歪められて。
その柏木が、まろばされた上体にするするとせり上がってくる。
初めて脚を吸ってもらったときのぎこちなさと裏腹に。
紳士の仮面をかなぐり捨てると、男は動きさえも別人になるのだろうか。
踏みにじられるように、おっぱいをもみくちゃにされて。
ケモノじみた呼気をうなじに当てられて。
ショーツを裂き取られて護るものもなくなった秘所がすぅすぅするなぁ・・・
らちもないことを思ううちに、
ぐぐぐっ。
猛り昂ぶった硬い肉が、止めようもない勢いで、
夫にだけに許されるはずの処に食い込んできた。
ほとんどあっけないくらいにずぶずぶっと、食い荒らされてしまっていた。

―――!―――!
硬いフローリングがごつごつと、背中に痛い。
己じしんをえぐり抜かれて。
奥の奥までむさぼられて。
吶喊につぐ吶喊。
白く濁ったどろどろとした汚い液を、思う存分ほとばされて。
いちどでは、もちろんすまされなかった。
はぁっ。
と柏木が息つくいとまもなく。
彼を押しのけるようにして、吸血鬼がふたりのあいだに割って入ってくる。
あううううっ・・・
あまりの刺激に目が眩んで。
いともたやすく、おなじ行為を許してしまう。
このひとのもの。うんと硬い。
―――なんてえっちなこと考えているのよ。
理恵のなかのしたたかな理恵が苛立たしげに呟くのを覚えながら、
ううぅんっ!
こんどこそ、おもいきりえっちに、身をしならせてしまう。
傍らであたしを見ている柏木さん。
別人みたいな痴態に、昂ぶっちゃったみたい。
そうよ。これがあたしの正体よ。吸血鬼とどっちが化け物かしら。
じゅぷっ・・・
牙より硬くなく、けれども牙よりもしつようなものを引き抜かれて。
はー。はー。
肩を弾ませる理恵に、もういちど彼が・・・
あ、あっ・・・
びゅうっ。
まだかろうじて身につけていたスカートを。
先走った濁り汁でしとどに濡らされてしまっていた。
吸血鬼は化け物かもしれないが。
柏木さんは、人なのだ・・・
そうした意識が罪悪感を、ちょっとだけ濃いものにして。
その濃厚さにすら愉悦を覚える悪い妻。

あっ、あん・・・
甘えるような低い呻きを洩らしつつ。
かわるがわるにところを替え役を入れ替わる男たちの蹂躙に、理恵は陶然としながら我が身をゆだねきっていた。
目線の彼方に剥ぎ取られたブラウスが、あちこちに赤黒い飛沫に濡らされたまま、まるで散らされた花びらのようにフローリングの上に投げ出されている。
そのうえに照りつける夕陽が、じょじょに濃い。
もうじき、陽が暮れてゆく。
しかし、それがなんだというのだろう?
近所に、手ごろな空き地があったっけ。
日が暮れてしまったら。
きっとふたりはつづきを愉しもうよと囁いて、あたしをそこに引きずり出すんだろう。
否応なく下腹部を締めつける愉悦に身をゆだねきりながら、理恵はうふふん・・・と、うれしそうに唇をゆるませる。
三つどもえに絡まりあった好色な焔は激しく揺らぎあい、室内に覆いかぶさってくる薄闇のなかでさいげんなく熱い火花を散らしあってゆく・・・



「えぇと、『あずさ』のホームはどちらでしたかな?」
新宿駅の雑踏のなか。
吸血鬼は道行く人を呼び止める。
ばかに若々しいじゃないか。
柏木はさっきから、苦笑いをこらえきれない。
若々しい黒髪を肩にたなびかせ、褐色の肌を高潮させて。
季節はずれのはずのまっ黒なスーツ姿が似合いすぎていて、
はた目にも違和感を覚えない。
昨晩散々に吸い取った30代主婦の血が、吸血鬼をかくもよみがえらせている。
ズボンの下に女の衣裳をまとわりつかせているなんて、周りからはどう見たってわからないだろう。
そういう柏木も。
じんわりとした感触を帯びながら足許を引き締めるストッキングの肌触りをズボンの下で愉しんでいるのだが。
「けんかしないようにね~♪」
情事が終わってシャワーを浴びると、頭にタオルを巻いたままのカッコウで、理恵は一足ずつ、愛用のストッキングを持たせてくれている。
まるで旅館のおかみさんが、翌日の弁当を持たせるように。
目が眩むほどのお色気モードはどこへやら、まるでかぐや姫みたいに豹変して、いつもの主婦の顔つきにもどっている。
たしかに女は化け物だ・・・
家には妻が、待っている。

若々しい風貌に似ずに古風な物腰と言葉遣いで自分に駅のホームを尋ねた男のことを、舟橋和郎はすぐに忘れた。
きのうのゴルフは、最悪だったな・・・
相手の男が自分の顔をみてフッと笑んだことなどは、もとより彼の意識にはない。
あいつ、ほんとに病気してないだろうなぁ・・・
そんなことを取りとめもなく思い浮かべながら、意識はもう明日から始まる仕事のほうへと飛んでいる。

あとがき
珍しくだらだら時間をかけて長々と、書いてしまいました。
長編、苦手なんですけど・・・^^;
はっきりいって不自信作です。^^;;
ちょっとは、お楽しみいただけましたでしょうか?

ちょっと淫らなオフ会 4

2005年10月04日(Tue) 18:09:00

かなり間があいてしまいましたが・・・
二泊三日で東京を訪れた吸血鬼&柏木が、一人の人妻と夜を明かすお話です。
ひと晩めは、首尾よく血を吸い取ったものの、いよいよ・・・というところで、ご主人からの電話が・・・
完結に向けて走ります。^^


チチチ・・・
小鳥が囀る朝を迎えながら。
隣室からは淫らな声がふた色、交わっている。
理恵を帰してしまったあと、吸血鬼は己れの褥に柏木の義母を引きずりこんでいた。
夕べあれだけ迫りながら。
場違いな夫からの電話のおかげで、とうとう淫靡の頂点をきわめるまでに至らなかった。
東京くんだりまで出てきていったい何を・・・
誇り高き吸血鬼にとって、稀な失敗は充分屈辱に価した。
だれのせいでもないのだが。
柏木の義母はうまいタイミングで理恵を引き留めて、そのうえ深夜になるまで独り寂しい時間つぶしをしのんでくれた。
いつも妻を寝取ってやっている柏木も、いつものぶきっちょのわりにはうまく立ち回った。
肝心の理恵はすっかりその気になっていた。
ああ、それなのに・・・
鬱積したエネルギーを発散する対象が必要だった。

それにしても、たいしたウッセキ具合だな・・・
柏木は半ばあきれながら、ふすまの間からふたりの痴態をのぞいている。
かれは義母の髪の毛をつかんで、控えめに口紅を刷いた薄い唇をぱっくりと開かせて、そそりたつ己れの一物を根元まで押し込んでしまっている。
おもちゃのようにあしらわれてしまっている義母。
もはや楚々とした淑女の面影は、かけらもない。
娘である柏木夫人の生き血をたっぷり啜り取ってきた彼のために自らも肌身をさらし、ひたすら従順に彼の欲求に応えてゆく。
そんなようすをわざわざ娘婿の柏木に見せつけて、悦に入っている吸血鬼。
まるでほしいおもちゃが手に入らない駄々っ子みたいなウサ晴らしに、柏木はただ苦笑するばかり。


半裸に剥いた義母を放り出すようにして乱れた褥に残したまま。
吸血鬼は欲情を吐き出したあとのさばさばとした顔つきでダイニングに姿を見せる。
昨晩はいいところまでいきながら、つまらない邪魔が入ったものだ。
ダンナとの会話を端折るようにして切り上げた理恵だったが。
さすがにハッと我に返ったように、
―――アラ、私としたことが。ごめんなさい。ちょっとはしたなかったわ。
そういって、お行儀わるくまくれあがったタイトスカートからむき出しになった太ももを素早く押し隠してしまった。
用意のいい彼女はそのあとも、ハンドバックに忍ばせていたストッキングに履き替えて、かわるがわる二人の相手をしてくれたものの。
とうとうブラウスをはぎ取らせてくれるまでのノリは見せてくれなかった。
そちらのほうは、あとの愉しみ・・・ということで。
三人のなかにそうした同意が無言の裡に流れるなか。
惜しげもなく差し伸べられるふくらはぎに代わる代わる唇をあてがって。
ストッキングに包まれたふくらはぎを凌辱するのに熱中してしまう。
さすがに彼女はよく心得ていて。
切られて脱げ落ちたストッキングやショーツを「最愛の柏木さんに」と握らせて、彼のなかにわだかまりかけた吸血鬼に対する嫉妬を拭い去るのも忘れない。
「柏木さん、たしか黒がいいのよね~♪」
能天気にエッチな戯れを愉しみはじめた理恵。
ちりちりになったストッキングを脱ぎ捨てると、こんどは薄手の黒のストッキングを脚に通して、娼婦のようになまめかしくふくらはぎを染めあげた。
それから夜が明けるまで。
「こんなにモテたの、しばらくよ」
と、頬を上気させながら、襟首のなかをまさぐるまでは許してくれたのだった。


「夫のカン、というやつかな」
自分も吸血鬼に妻を寝取られている柏木は、理恵の夫に少なからず感心している。
「しつっこいダンナだな。せっかくいいところだったのに」
あべこべに、吸血鬼のほうはいまだに未練たらたらだ。
女のまえではどこまでも紳士なくせに、心を許しているせいだろうか、柏木のまえではこっけいなくらいに子供じみたところをみせることがある。
それでも衣裳を濡らしてしまった彼女の帰り道を気遣って、夜空を翔んで自宅に送り届けた彼。
「いつでも忍び込めるようにしたんだろ?」
まめ男を装うウラに隠れたけしからぬ意図を、柏木は正確に見抜いてしまっている。
いちど招き入れられた家には、いつでも忍び込める力を彼はもっていた。
「約束が違うところだったぜ」
たちのよくない悪友に、その点をぬかりなく指摘するのを忘れない。
「流れだよ・・・理恵を最初に食べるのはあんただったな」
「まったく、油断もすきもないのだな」
あはは・・・
屈託のない笑いがかえってくる。
「自宅訪問のチャンスをつくったんだ。それに免じて許していただこうか?」


暑さはまだ、厳しかった。
歌舞伎座前の通りは白々と乾ききって、照り返す太陽の光が陽炎のような熱気を足許に漂わせている。
狭い道の向こう側から見上げると、首が痛くなるほど巨大で、
見ようによっては少なからずグロテスクな、和風造りの白亜の建物。
その中身はしかし、あるときは宝石箱のように、またあるときには玩具箱のように、理恵には愉しい。
きょうの演目は「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」。
梶原平三景時は義経を陥れた男として知られ、昔から評判のよくないほうでは屈指の人物。
別名「げじげじ」とまで呼ばれ、悪役と相場がきまっている梶原平三だが、このお芝居では珍しく人情味豊かな善人となって登場する。
いわゆる、「もどり」というやつである。
悪役の善玉返りというのに、理恵は一種独特の好感を覚えている。
テレビドラマの世界でも、悪役でならした俳優が一転していい役を演じ、一躍人気を取ることがあるではないか。
―――吸血鬼もたいがい悪役だけど。
そう思いながらも、理恵は自分の小説のなかで吸血鬼を決して邪悪な存在として扱っていない。

夕べの名残りであるうなじの傷を、肩まで伸ばした髪の毛の陰でまだずきずきさせながら、何食わぬ顔をして連れの女性たちと会話を交わしている自分が、なぜかとても可笑しかった。
いずれも同年輩の女たちであるが、こういう場にふさわしく、皆小ぎれいに着飾っている。
理恵はそうした彼女たちの、色とりどりのスカートやワンピースのすそからのぞいているストッキングのふくらはぎについつい男のような目線を走らせてしまっている。
まぁ、はしたない。
そう思いながらも、
Aさんのふくらはぎ、美味しそう・・・彼らだったらどうするかしら・・・
そんなけしからぬ想像をつい、してしまっている。
知らず知らず、知人達の足許を、いつか吸血鬼の目で観察しているのだった。

彼女のお気に入りである女形の中村初之丞は、きょうも艶麗な演技をみせてくれた。
現代社会だと女装者は異端の烙印を押されてしまうのだが。
ひとつちがう世界では悪役が善玉になり、忌まれる嗜好も芸術ともてはやされる。
いいではないか。
わたしはゆうべ、ひとつの異界をかいま見た。
自分の血管にいくばくか邪悪な毒液が流れているのをひしひしと自覚しながら、夫のいない今夜の情景にドキドキと胸をときめかせていた。

今夜、彼らは来るだろうか―――
来ずにはおれまい。
来て欲しい―――


あとがき
と、ここまではえろがぜんぜんありませんです。
つまんなかったらごめんなさい。^^;

ちょっと淫らなオフ会 3

2005年09月20日(Tue) 00:08:00

いよいよ吸血鬼氏の登場です。
理江さんに、貞操の危機迫る?^^
お楽しみを。


思ったよりも、切れ長な・・・
柏木が引き合わせてくれた吸血鬼。
頬骨がやや浮き出た細面。ぴいんと張りつめた薄い眉。
鼻筋のとおった、どことなく日本人離れしている彫りの深い顔だちに、ノーブルなものと冷酷なものとが漂っている。
眉が濃くて見るからに黄色人種な柏木とも、対照的な顔だちである。
(想像とはかなり、違うかなあ)
理江の描いた吸血鬼は、ヨーロッパ生れの美男であり、美女だった。
たしかに目のまえの吸血鬼も整った顔だちをしているが、どこか線が細く、大名か公家の御曹子のような趣をもっている。
彼は日本人だろうか?
血の気を失った蒼白い肌が、白色人種のそれかどうか、にわかに判断がつかない。
冷たい無表情は表を取り繕っただけらしい。本当のところはどこかうかがい知れない深い情念をたたえている。
さすがに理江は冷静に、彼の心の裡をあるていど、見抜いていた。
かれは理江に近づくと手を取って、手の甲に接吻をした。
ナイトが貴婦人に接するような古風な態度に好感が持てた。
「お近づきのしるしに、少し寄附していただけますね・・・?」
丁寧だが、決して拒絶を許さない口調に、理江はすすんで頷いてしまっていた。
自分の意思で頷いている・・・
吸血鬼もまた、理江に好意を覚えた。
生命の危険をまったく覚えずに、理江は昂然と胸をそらして、吸血鬼と対峙している。


「わたしはにわか吸血鬼ですが、こちらは筋金入りの本物ですからね」
傍らから柏木が口を添える。
穏やかにとりなすような口調に、理江は落ち着きを取り戻していた。
「どうやら、そのようね」
自分に一身に強い視線を注いでくる吸血鬼から目をそらさずに、理江はこたえた。
「どうぞ、お手柔らかに・・・」
ほほ笑んだつもりが、すこしだけこわばっている。
そう、固くならないで・・・
彼は理江をふたたびイスに座らせると、慇懃に腰をかがめて彼女の足許にかがみ込む。
片方のストッキングは、柏木によってみるかげもなく破られている。
そちらのほうへは見向きもせずに、吸血鬼は無傷なほうのふくらはぎを択んだ。
器用に唇を吸いつけると、こともなげにストッキングを咬み破る。
くちゅうっ・・・
喉を鳴らして血を啜る彼に、理江はふたたび息を詰めた。
うつむきがちな彼女だが、柏木のときとはちがって決して目をそむけずに血を吸われる肌を見守っている。ヒルのよにうごめく唇の下でストッキングがみるみる破れを広げてゆくようすを、理江はちっとも騒がずにじいっと見つめている。
ちょっと賞賛してやりたいような落ち着きぶりだった。
初対面とは思えぬくらい息の合った二人の所作に、柏木はすこし嫉妬を感じはじめている。



「うなじも、ちょうだいしますよ」
首すじに唇を這わされて、理江はちょっとだけ狼狽した。
計算しつくされたように太い血管を探り当てられるのを感じて。
鋭利な牙がゆっくりと、チクチクと滲むように刺し込まれてくる。
あ、あなたぁ・・・
何も知らないでいまごろゴルフに興じている夫。
すすんで危ない橋を選んだのを棚にあげて、能天気な夫がなんだかうらめしくなってくる。
この吸血鬼は血潮に秘められた理江の過去まで知り尽くしてしまうであろう。
ああ、すべてを知られてしまう・・・
心のなかで、理江はちいさく悲鳴をあげる。
ちゅうううっ・・・
吸いだされる血潮の生温かさを素肌に覚えながら、理江は悩乱していた。


たしかに。
このひとは私のすべてをかいま見た・・・
はっきりとそういう実感を感じる理江の耳もとを口でおおうようにして、吸血鬼は囁いた。
「・・・ふたりの秘密にしておきましょうね」
もはやウットリと頷くしかない理江。
安堵からか、状況への順応からか、理江はすこし大胆になっていた。
ふたたび牙を迫らせてくる吸血鬼に応じるように、自分のほうからうなじを仰のけて素肌をさらしてゆく。
吸血鬼はにんまりと笑みを浮かべて、理江のうなじを咥えた。
ずぶり・・・
と、もういちど熱っぽくうなじに咬みつく。
ぎゅうっ、とひと口血を吸い取って。
吸い取った血潮を、香りのよいワインを賞翫するよにひとしきり舌にころがして。
さいごに勢いよく牙を引き抜いた。
ぴゅっ。
はずみに飛び散った血潮が、純白のブラウスにもののみごとに撥ねかった。
「もぅ・・・」
新調したばかりのブラウスにバラ色の水玉模様をつけられて、理江は甘えるように口を尖らせる。
口ではそういってみたものの。
官能を交えてくり返し肌を侵しつづける鋭利な牙の、小気味良いまでの切れ味のよさに、酔うような快感を抑えきれなくなっていた。
帰れなくなっちゃうじゃないの・・・
そういいかけて。
でも、それがなんだというのだろう?
今夜、夫は帰ってこない・・・
もうひとつのキケンな想像に、理江は不意に秘められた部位の疼きを覚えた。


鮮やかな黄色のタイトスカート。
その裏側に、彼の手がすべり込んでくる。
ひざ小僧を。太ももを。そして腰周りを。
せりあがるようにして撫で回されていく。
薄手のナイロンが太ももの周りでよじれる感触がじんわりと素肌にしみ込んで、濃密な愛撫の快感をいちだんと増幅させる。
彼の指は器用にもパンストのゴムの隙間から腰骨を経由して、とうとうショーツの内側へと爪を滑らせていた。
鋭利な爪が、Tバックのショーツを断ち切る。
犯される・・・
いま、じぶんの上にのしかかっている吸血鬼に。
そして恐らくは、柏木さんにも。
傍らで大人しくひかえながらも、柏木のじりじりとした目線が絡みつくのを感じながら、彼女はゆるやかに身をよじり、もうあらゆる抵抗を放棄している。
投げ出された貞操は、蹂躙の刻を待っていた。


チリリリリ・・・
聞きなれた携帯の音に、理江は反射的に手を伸ばしていた。
幸か不幸か、すぐ届くところに落ちていた彼女の携帯。
「もしもし」
とっさにひそめた声に応えて、夫の声がした。
「よぅ、まだ起きていたの?」



「どうしたの?」
ちょっと不機嫌そうに、理江は応じる。
吸血鬼はさすがに手を止めて、物音を忍ばせていた。
「家に電話しても出なかったからさー。やっぱ出かけたんだねえ」
「えぇ、そうよ。お友達と、まだいっしょなの」
「だれ?」
「いいじゃないの。誰だって。あなたの知らないひと。残念ながら女よ。電話、かわろうか?」
どうみても男顔のふたりを見比べて、理江はちょっと意地悪い視線をめぐらせる。
顔を見合わせ、肩をすくめる二人には目もくれず、彼女はいつものペースでまくしたてた。
「お酒飲んでたら、終電乗り過ごしちゃったのよ。タクシーで帰るから・・・ホテル代とどっちが高いかしら。でもどうせあなたが気にするし。そうしたほうがいいんでしょう?」
受話器の向こう側は、閉口したような声色になっていた。
「わかったわかった。・・・てっきり本当に吸血鬼と浮気しているのかと思ったよ」
むこうはなんだか、がやがやしている。
徹マンでマージャンでもしているのだろうか?
「もぅ、酔っ払っているのね?ヘンな電話かけてこないでよ。それから、あんまり負けて借金こさえないようにしてね。あなた、勝負事弱いでしょ?」


あ~あ。よけいな邪魔が入ってしまいましたね・・・^^;
この話、まだまだ続く予定です。^^

ちょっと淫らなオフ会 2

2005年09月19日(Mon) 02:46:00

つづきです。
理江と柏木の心境をかわるがわる、描いてみました。^^


どうしてそういう話題になったのだろう。
二人きりとはいいながらそれとなく気になっていたお義母さまの存在が消えたためだろうか。
それとも・・・
言い出した本人にも、いまだにわからない。
「ねぇねぇ、柏木さんって人の血を吸えるの?」
とうとつな質問に、さすがに柏木氏も驚いたのか、あっけに取られたように口をぽかんとあける。
もちろんこういう話題、テキものぞむところであったに違いない。すぐにノッてきた。
「吸わせて、いただけるんですか?^^」
すかさず話題を合わせてくる彼に、
「こんなかっこうしていたら、襲われちゃいますよね~?^^;」
と、こざっぱりとしたスカート姿をみせびらかすようにした。
座の雰囲気が、ちょっと妖しくなってくる。
「きれいな光沢のストッキングですね」
そんなふうにさらりと言われると、あまりいやらしさを感じない。
男だって、ネクタイをほめたりするではないか。
(いやいや。本当のところはもう、じゅうぶんにいやらしかったりするのだが。)
「あら、そお?」
こんどはこれ見よがしに、脚をくねらせる。
「あ、いいな。もう一回やってみて」
「やらしい」
そういいながらちょっとだけ、タイトスカートをたくし上げてみた。
「なにやってるんだろ、私ったら」
「いえいえ^^ もうちょっと引き上げていただけるとなおよろしいですね」
「いやらしい」
さすがに理江も、人妻としての節度を忘れていない。それ以上、太ももをあらわにしようとはしなかった。
「ストッキング、お好きなんですよね」
「・・・」
「吸ってみて」
え?と問い返す柏木氏に、
「貴方のお話に出てくる吸血鬼みたいに。そのかわり、カッコよくやらないとダメよ」
あくまでプレッシャーかけるなあ・・・という顔つきで、それでも柏木氏はそろそろと理江の足許にかがみ込んだ。
そんな彼のようすを、理江は息を詰めて見守っている。
もっとスマートに差し出すんだった・・・
おずおずしてしまったのが、なんだかむしょうにくやまれる。



足首を握りしめた手に、思わず力がこもっていた。
握りしめた掌の下で、なよなよとした薄手のストッキングが微妙にずれて、足首の周りにしわを浮かべる。
とっさに引こうとする脚をぐいと引き寄せながら。
ぎこちない彼女のうごきに、さすがにおっかなびっくりなんだな、と察すると、親しみをこめて足の甲に唇を当てた。
ちょっとだけ身を引く気配。しかし彼はそれを許さずに、もう片方の手で拘束をのがれようとする彼女のふくらはぎをしっかりとつかまえる。
つややかな光沢を帯びた繊細な網目模様が間近にあった。
つい、熱っぽく、唇を迫らせてしまう。
彼のために装われたストッキングは、紙のように薄かった。
ストッキングごしに、しなやかな筋肉がキュッと引きつるのを唇で感じる。
ふだんは隠れている牙がにわかに疼きはじめて、唇の裏側でググッとそそり立ってきた。



柏木さんたら、緊張してる・・・
彼女の脚をぶきっちょに押し戴いたところは、お世辞にもかっこいいとはいえなかった。
理江はおかしいような、ホッとするような気分になった。
おずおずとかっこう悪く脚をさし伸ばしたあたしもあたし。かすかに手を震わせている彼も彼。
まるでファースト・キスみたい。
それでもじっとりと這わされる唇に、さすがにハッとして思わず脚をひきそうになった。
旦那は女物のストッキングなどにはとんと無頓着だったので、殿方にこんなことを許すのは初めてである。
薄手のストッキングのうえからあてがわれるなまの唇に、小娘みたいにドキドキしてしまっていた。
欲情してるぅ・・・
夫にお前は鈍感だ、とよくいわれるけれど。
熱っぽく執拗にくり返されるキスにこめられた熱情に気づかぬ女はいないだろう。
困ったなぁ、と思いながらも、しっかりと掴まれてしまった脚をいまさら引き抜くこともできない。
そうしているあいだにも。
もう、身動きもままならないうちに、それはそれはしつっこく、べろをなすりつけられていた。
ぬるりとした生温かい唾液がおニューのストッキングにじわじわとしみ込んでくる。
唇のすき間から洩れてくる舌が素肌をくすぐるようにチロチロとなすりつけられるのを、
やだなぁ、くすぐったい・・・
とうとうこらえきれなくなって、理江はくすくすと笑い出した。
「あ・・・すみません。すっかり失礼しちゃって」
足許から口を離して柏木が謝る。けれども、つかまえた脚は放そうとしていない。
こうなるともう、上目遣いに見あげてくる視線までもがくすぐったかった。
「いいわよ、気に入ってくだすってるみたいだし」
余裕たっぷりに、理江はこたえる。
力関係は完全に、彼女のほうに傾いていた。
年上であろう男性に。
まるで姉のように接しながら、無作法な戯れを寛大に許しはじめていく。
よだれを帯びたべろが再び、今度はもっとおおっぴらにあてがわれる。
クスクス笑いの下で、上品なストッキングが少しずつよじれて、網目模様をゆがめていった。
まじめで常識的な主婦の理性が少しずつ崩れはじめた証しのように。
舐める男と、舐めさせる女。
イタズラの共犯に似た奇妙な連帯感に、周囲の空気が揺らいでいる。



もう、ガマンできない・・・
こみあげる衝動に後押しされるようにして、柏木はとうとう、疼きつづける牙をむき出しにした。
ちょっとふしだらに口許を弛めている理江は、まだそれに気づいていない。
鋭利な牙はスカートの陰に隠れて、死角になっているのだ。
柏木は迫る息を引き詰めて、彼女のふくらはぎの、いちばん肉づきのいいあたりに唇を吸いつける。
ストッキングの上から牙をたてて、
ぐいっ
と、理江のふくらはぎを咬んでいた。
「キャッ!」
ちいさな悲鳴が、頭上にほとばしる。
牙をもぐり込ませたとき、理江のふくらはぎを柔らかいと感じた。



「きゃっ」
圧しつけられた唇の隙間から硬い異物が滲むように突き出てきて、注射針のように皮膚を破るのを感じて、理江は思わず声をあげた。
それは強引なまでにぐいぐいと肌の奥へと埋め込まれて、
素肌に圧しつけられた唇が異様な音をたてる。
じゅるっ。
はじめて耳にする吸血の音。
思ったよりも汚らしい音だ、と思った瞬間、
ぐいっ・・・
と生き血を吸い上げられて、くらくらと眩暈を覚えた。
ちゅうっ、ちゅうっ、・・・ちゅうううっ・・・
わっ。血を吸ってる。血を吸ってるぅ。
なんだかくらくらしてきた。
けれども、不思議に恐怖は感じない。
さっきまで紳士的だった柏木がにわかにみせたあからさまな欲情にちょっとだけ辟易しながらも、
どこかでホラーな体験を愉しんでいる自分がいた。
血を吸い上げられるたびに傷口が疼いて、血潮が唇の奥へと飲み込まれるのをありありと感じる。
なんだかちょっと、キモチいい・・・
私はヘンだろうか?自問する理江。



柏木も、既婚者である。
ご主人に悪いな、とか、失礼にすると嫌われるだろうな、とか、
最初はそんな思いに囚われていた。
しかし、熟れた素肌になまの唇をあてがってしまうと、そうした思いは消えていた。
目のまえに差し出された女体を愛し抜いてしまいたい・・・
そんな自然の衝動にすっかり身をゆだねきってしまっている。
―――どお?若いでしょう?いい香りでしょう?あたし、まだまだ若いのよ・・・
流れ込んでくる血潮からそんなことばがじかに伝わってくるような、
闊達で活き活きとした脈動に胸を震わせている。
血液型は、B型だな・・・
どこかでそんな冷静な分析さえ始めている自分も感じながら、
脂ののり切った素肌がむしょうにいとおしく、強く強く唇を圧しつけて、吸い、また吸いつづけた。



ちょっと貧血・・・
すこしぼうっとなりながらも、気分はそう悪くない。
もうあともどりできないという軽い罪悪感と。
イケナイことをしてしまったあとの心地よい虚脱感と。
ズキズキ胸の奥にまで響いてくるようなきわどいスリルと。
処女をなくしたときの昂ぶりにちょっと似ている、と理江は思った。
柏木氏はさっきから、傷口からぬるぬると滲んでくる血潮を舐め取っている。
いくすじも伝線を走らせて破れ落ちたストッキングをもてあそびながら。
ちょっとだけぴりぴりする傷口にあてがわれる舌が心地よい、不思議なひととき。
血を吸われているというのに、意外なくらいに切迫感がない。
足許を吸いつづけている吸血鬼が、じゃれついてくる愛玩動物のようにさえ思えてきて、
「もぅ・・・」
軽く咎めながらも、相手を責める気持ちはわいてこない。
「破けちゃったじゃないの」
わざと口を尖らせてみるが、もはや落ち着き払ってしまった柏木氏はしゃあしゃあと、
「いい感じのストッキングですね。もっとマニアなやつなら、ブランド名まで当てるようですが」
「そこまでは、わからない?」
「ふふ。修行が足りなくって」
ちなみに何です?と聞いてくる彼を、
「忘れちゃったあ」
と、はぐらかしてやる。
「やれやれ。思った以上に冷静なんですね」
どうやっても、歯が立たない部分がある・・・
顔にそう書いてあるみたい。そんな柏木をちょっと意地悪な目線で窺う理江。



―――私の血、おいしかった?
―――びっくりしたー。思わず、縮みあがっちゃったわよ。
囁きかけてくる秘めやかな声色が鼓膜を心地よくふるわせる。
(やっぱり屈託のないB型だ・・・)
理江から吸い取った活き活きとした血潮が渇きかけていた血管を心地よくうるおしてゆくのを覚えながら、柏木の神経は背後に集中していた。
じっとりと陰にこもった視線は、おれの出番はまだか、とさっきから訴えつづけている。
「もうひとり、ご紹介したいのですが・・・」
一瞬紳士の顔にもどった柏木は、理江に同意を求める。
正気を喪いかけた彼女に、もとより異存のあろうはずはない。
しつけを教えられたばかりの世間知らずの少女のように、彼女はこくりと頷いてしまっている。


いかがでしたでしょうか?
ストッキングの脚をいたぶるシーン、ちょっとくどかったかな?
このシチュエーション、好きなので、どうしてもこってしまいます。^^;
RIEさん、貴女のストッキング、たっぷり濡らしてしまってごめんなさい。

ちょっと淫らなオフ会

2005年09月18日(Sun) 07:49:00

えーと、期間限定です。珍しく。
こちらによくお見えいただいているあるかたをモデルに、書いてみました。
もちろん見ず知らずのかたなので、設定とかははっきり言ってめちゃくちゃです。
ご本人の名誉のために・・・^^;
ちょっと長くなりますが、ガマンしてお読み下さい。^^;;
RIEさん、ご承諾くださいまして、ありがとうございます。


夜更けの書斎。
私、柏木は今夜も遅くまでPCとにらめっこしている。
隣室からは、妻の悩ましげな呻き声。
おなじみの吸血鬼あいてに一戦交えている真っ最中だった。
これでは、眠れるわけがない。
いつもながらのイライラとした昂ぶりを覚えながら気に入りのページを行き来するうちに、ふと気がついてメールボックスを開く。
RIEさんからのメールだった。
「今夜は私が血をいただきにあがりました・・・」
こちらから送ったメールでは、
「貴女の血をいただきにあがりました・・」
と書いたはずである。
RIEさんは女性ライター。
自分のサイトをもっていて、吸血鬼ものの小説を手がけている。
さらりと流れるように小気味良いテンポの文体は、落ち着いたオトナの女性らしい知性となまめかしさをもっていた。
彼女のサイトに載った小説の感想を掲示板に書くうちに、メールをやり取りする仲になっている。
今夜のメールのやり取りをみても、どうやら洒落の通じるあいてらしい。

フッと耳もとを生臭い吐息がかすめる。
振り向くとにんまりと笑む夜の訪客。
青白い頬をかすかに上気させているのは、妻から吸い取った血がほどよくまわったせいだろう。
鋭い牙からはお行儀悪く、バラ色のしずくをしたたらせている。
「あんまりばらまかないでくれよ。うちだって人並みにお客さんを呼ぶんだし。あとの掃除がたいへんだからな」
私信の出ているPCのディスプレーを無遠慮に覗き込む彼に、あからさまに不快の意を表すると、
「ほほぅ。なかなかよさげなお相手だね」
ヌケヌケとそんなことを言い出すありさま。
「吸血鬼に理解のあるご婦人か・・・逢うことはないのかね?」
「見ず知らずの女性だよ」
わざとそっけなくそういって、画面を切り替える。
奇妙なほどに、不倫願望はあまりない。
わずかながらでもこの身に巣食う嗜血癖がそうさせるのであろうか。
人の欲望というものは一定の限度があって、全方位にはいかないものらしい。
そういう私をそそのかすように、かれは耳もとにもっと口を近寄せる。
「思うところ人妻のようだが・・・久しぶりに新鮮な血を欲しくはないかね・・・?」


RIEさんは東京の人らしい。
都内には縁類のものはいくたりもいるので、妻の実家の関係に宿をとることにした。
この夏、娘さんを連れて村祭りにいたしたお宅である。
初めて血を吸われた娘さんがその後どうなったのか気になっていたが、一家はたまたま旅行中で、義母~妻の母~が独り逗留していた。
義母は彼の正体をよく心得ている。新婚そうそうの娘に誘われて毒牙にかかり、以来酔わされ続けている関係だ。
数日間は血なしでもたえられる、そう吸血鬼は告げた。
どうやら相当、飲みだめしてきたらしい。つるつるに血色のよい肌には、妻の血液がかなりの割合でめぐっているはずだ。
「当面、血が足りないようならこのひとで済ませてくれ」
そういって義母を指さすと、痩せ身の彼女は期待と困惑とを等分に整った美貌に滲ませた。


「まだまだ暑いなぁ~」
ようやく暮れかけた夕空を見あげながら、誰にいうともなく舟橋理江はつぶやいた。
仕事帰り、この季節だと足許が明るいのでつい自転車になる。
疲れ果てたという顔つきで家路に向かう週末のサラリーマンの行列をすり抜けて、彼女もまた家に向かっていた。
「あら」
結構美人なくせに、時折素っ頓狂な声をあげる癖がある。
根が明るい証拠だよ、と知人にいわれるが、本当にそうだろうか?
もともと引っ込み思案な小心者で、子供のころから外遊びよりはずっと家にいるほうだった。
そのことが却って本と親しむきっかけになり、女学生の時分には眼鏡をかけた文学少女。
それがこうじていまは吸血鬼ものの小説をテーマに自分のサイトを持っている。
彼女の視線の向こうにいる夫は、まだだいぶ向こうにいたけれど、あんまり声が大きかったのでこちらに気づき苦笑いを浮かべている。
「みんな、聞いてるぜぇ」
あわてて自転車をこいできた妻に、和郎はにやにやしている。
「仕事のときは厳しいんだぜ」といいながら、じつはそうではないのか、それとも妻には頭が上がらないということなのか、たいていのことがあっても妻には穏やかで優しい。
「早いのね」
「連休前だしな。上の連中もとっととずらかりたかったんじゃないの」
そういいながらちょっと決まり悪げに、
「仕事仲間にさそわれちゃってさあ・・・」
泊まりでゴルフに行くことになった、という。
「いいじゃないの」
休みの直前急に自分の予定を入れてくるのはいつものことだった。
なにか心積もりのあるときは当然口を尖らせる理江だったが、
今回はやけに物分りがよい。
「あたしも、予定あるから」
「あっ、そお」
てっきり怒り出すと思った妻の意外な反応にアテがはずれたような声をするのにちょっと笑いをこらえながら、
「吸血鬼に逢ってくるわ」
ちょっとドキドキしたせいか声がわずかに上ずった。けれども夫はそんなことなどまるで気づかずに、
「いいんじゃないの?憧れの君だろう?」
留守ちゅうに、奥さんが血を吸われちゃうかもしれないのよ~!といっても、小説のねたにできるよねえ、と適当にはぐらかされて、もうそれ以上取り合ってくれなかった。


「これじゃひからびちゃうかも」
たしかに外は、からからに干上がりそうな晴天だった。
残暑が厳しい一日になりそうだ。
夫は同僚の車に迎えられて、午前四時には慌しく出かけていった。
もちろん理江が心配しているのはそっちではない。
こういう暑い休日は、いつもだったらTシャツにジーンズ、それに素足なのだが。
女友達と出かけるときなどは多少服に気を使ったりもするのだが、「もうおばさんなんだから」と思いつつも生足をやめることができない。都会の夏は暑いのだ。
けれどもきょうは珍しく、ちょっとだけおめかししてみる気になっていた。
どうやら柏木さんは女性らしいワンピースやスーツ姿の女性が好きらしい。
いつになくウキウキとしながら、レエスのついたさらさらとしたスリップを身に着けて、白のブラウスに腕を通していく。
スカート選びはちょっと迷った。
デニムのロングスカートにしようかと、散々悩んだ。
柏木さんのサイトに出てくる吸血鬼は好んで女性の脚を狙う。
何もないとはわかっているのに。
傷口を隠す工夫をしなければ・・・なんて、つい想像は妙なほうへと流れていく。
そんな想像が我ながらちょっと愉快だった。
「ちょっと派手かしら」とかいいながら、若いころよく履いていた黄色いタイトスカートを取り出す。
ウェストのサイズがぴったり合ったのが嬉しくて、思わず「ウフフフフン」と得意気に鼻を鳴らした。
ブラウスの胸元を引き締めたリボンタイをふんわりと蝶結びにすると、白の夏もののジャケットを上に羽織る。
これなら、32歳の主婦にはみえないかも。
体調がいいせいか、ご自慢の白い肌はいつもよりしっとりと潤いを帯びている。
ストッキングも、いちおう履いていくことにした。
「やっぱ黒は目立つなあ」
それでも極力彼の趣味に合わせようと、なるべく光沢のてかるやつを脚にとおしていく。


苦心?のおめかしは決してムダではなかった。
初対面の柏木氏はとてもにこやかだったが、その何分の一かは彼女にしては珍しいスカート姿が寄与していると確信した。
チラチラと盗み見る視線を足許にくすぐったく感じながら。
柏木氏は、一見年齢不詳である。吸血鬼のせいかな?と思ったが、まじめな物腰のサラリーマンからはどうもそれらしい感じは漂ってこない。
なぁんだ、ふつうの人間か・・・とちょっと内心失望したが、考えてみればヘンな期待にはちがいない。
和郎があっさりと受け流すわけだった。
「こちらがお住まいなんですの?」
指定されたお邸はそう広くはなかったが、瀟洒なたたずまいで、この辺の住宅には珍しく豊かな木陰に覆われている。
「いやぁ、親戚の家でしてね。私はブログに書いているとおり田舎に住んでいるんです。東京へはたまに出てくるのですが・・・」
義母がいるせいもあろうか、ひとつ部屋に男女が差し向かいになっているのがヘンに気詰まりにならないのがありがたかった。
その義母も、出迎えのおりに冷たい紅茶を、しばらくたって熱い緑茶を急須つきでもってきてからはすっかり姿をみせなくなった。
思ったよりもおばさんでしょう?イイエ、とてもおきれいでいらっしゃいますよ、とか、でもこんなにお転婆だとは想定外でしょう?、それはたしかに、とか、私も老けてみえますからね、うそぉ、とか、ありがちなやり取りに、いつの間にか時が流れていた。



30代の主婦にふさわしい落ち着きを感じさせながら、それとはうらはらに30代の主婦とは思えないくらいに無邪気な女性。
目のまえで笑いさざめく理江に少なからぬ好意を持ちながら、柏木はちょっとだけ困惑している。
ヤツは邸のどこかにかならず潜んでいる。
もちろん、田舎から連れてきた吸血鬼である。
しょうしょうの日照りでもこたえない彼も、さすがにこの残暑には閉口したらしい。
どこに姿を隠すのか、昼間はさっぱりと姿を見せない。
それでいて、彼の思惑はびんびんと、伝わってくる。
理江さんとこうしてニコヤカに談笑しているさいちゅうであっても。
―――それとなく話を引き伸ばして、長居させたほうがいいな。
―――どうして?
―――わしの意識がたしかになる。こんな明るい真っ昼間では、とても女をモノにできぬ。
―――無理してモノにしなくてもいいんだぜ?きょうのところは無事に帰してやろうよ。
―――さては、情が移ったな?痩せ我慢しおって。ソンするぞ~。そういう性格・・・
―――大きなお世話だ。
そういいながらも、知らず知らず、彼女との会話を長引かせてしまっている。
やけつくような陽も、やがて西に傾いてきた。
「あの、ちょっと・・・」
家の奥でシンとなりをひそめていた義母が、遠慮がちに顔を出す。
「ちょっとお買い物に、出てきますね」
「アラ、もうこんな時間・・・」
理江も時計を気にし始めた。そろそろおいとまを・・・と立ちかける。
いえいえ、と義母はあくまでももの静かに、
「もうすこし、いらしてくださいな。外暑いですから、陰ってからのほうが良いですよ」
どういう力を秘めたものか、そう説得力のあると思えない義母の言葉に、理江は素直に席に戻ってきた。

えーと、ここまでは全然えろくありません。最後まで読まれた方、あしからず。
次号にご期待を。^^