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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

忘年会。

2009年12月31日(Thu) 17:22:52

おやっ?今夜は忘年会だって言っていなかったっけ?
ええ。そうですわ。今夜は忘年会。
妻の由貴子はおっとりと、笑っている。
けれども出かけてゆく気配はない。
けれどもばっちりと、おめかしには隙がない。
待てよ?待てよ待てよ待てよ・・・
予感は悪いほう悪いほうへと、流れていって。
ご名答・・・ですわ。
妻はあくまでも、穏やかな笑みを絶やさない。

そう。
吸血鬼さんたちの忘年会なんですの。
ぜひうちでやりたいって。
お仲間もおおぜい、お呼びになりたいって。
だからわたくしも、お友だちをなん人かお招きしてますの。
K美やW男、それいY江さんにも、加わっていただきますわ。
名前が出たのは娘に息子、それに息子の彼女まで。
おそらくはわたしの母や妹、それに姪。はては義母までも招待客のなかに含まれているのだろう。
振る舞うことのできる血という血を集める、一夜。
吸血鬼どもは群がるようにして、我が家をめざす。

構いませんわよね?あ・な・た♪
さいごのひと言は、とどめを刺すような重みがあった。

うーん、けしからん。じつにけしからんですな・・・
一見憤懣やるかたなげな、息子の彼女の父親は。
夫人が巻き込まれた淪落の渦から、その実目を放せないでいる。
わたしですら、首すじに痕をつけられてしまったくらいだから。
だれもかれもが、巻き込まれてゆく。
まるでシャワーでも浴びるように、愉しげに。

年にいちどの、この夕べは。
今年の締めくくり。そして来年の忠誠度を占う場。
呪わしいはずのやつらの随喜の呻き声が。
なぜか小気味よく、鼓膜をくすぐる。
あの呻き声の下。
わたしと同じ味の血が啜られていると、知りながら。


あとがき
忘年会には、ちょっと遅いタイミングでしたね。(^^ゞ

妻へ

2009年07月06日(Mon) 06:31:22

どんなに血を吸われ抜いても。
どんなに辱められ尽くしても。
たとえおおぜいに、まわされてしまっても。
必ずわたしのもとに帰ってくる、いとしい妻。
きみは、ちっとも汚れていないからね。

一生のあいだにできるエッチの数

2009年04月17日(Fri) 05:42:19

夫 一生のあいだにできるエッチの数ってさ、きっと適性量があるんだよ。ボクははるかに足りないな・・・
妻 あら、そうかしら?わたくしは適性量までいってしまいましたよ。
夫 この数字のズレは、なんなんだ・・・。(-_-;)
妻 あなたを交えて8人の殿方のお相手をしたことも、ありましたよね?
夫 う~~~ん、あのときは・・・なりゆきというもので・・・。(^^ゞ
妻 あなたを交えないで16人・・・なんて愉しい夜も♪
夫 おっ・・・おいおいっ。∑(-□ー)
妻 みんなあなたを慕って近づいてきて、わたくしを犯して帰っていくんですよ。
夫 で・・・今夜はするの?しないの?
妻 あなたの留守中愉しんだら、くたびれちゃった♪
夫 がーん。
妻 おやすみなさーい。

気ままの構図

2009年01月30日(Fri) 19:39:11

さいきんあの女、不満を抱えていないか?
ひっそりと、告げ口でもするように。
あの黒い影はわたしに寄り添って、囁いてくる。
このごろすっかり、ご無沙汰だったのに。
急に切々たる恋文・・・だ。
投げてよこした何枚もの便箋には、見慣れた筆跡。
「あの女」。
ぞんざいに投げられた言葉がさすものは、ほかならぬわたしの妻のことだった。

どうやらサイクルが、あるみたいだな。あんたの女房は。
三か月も、ほうっておくと。
かならずこんなふうにして、届くのだよ。
それまで見向きもしなかったことなんか、忘れきったようにして・・・な。
浮気相手の気ままさを、愚痴られたとて。
寝取られている側からして、なにを返せば良いのだろう?

女は、勝手な生き物だからな。
じぶんのほうで必要なときにだけ、すり寄ってくるのだよ。
向こうが必要としていないときに、こちら側から近づいていくと。
猛烈な肘鉄砲を、喰らうことになるからな。
え?どうすればいいんだ・・・って?
ゆうゆうと、待っておればいいのだよ。
待てば海路の・・・というではないか。

さも得意げに、よどみなく得々と語る黒影の頬を、
ちょっとねじってやりたくなった。

え?オレ様のほうが、待てるのか・・・?だと?
いい質問だな。
たしかにオレ様も、飢えているからな。
そうそう気長に、待ってはいられない。
だからこそ。
あてにできる餌を複数、いつも用意しているのさ。
おまえの従兄の奥さんも。幼馴染みのフィアンセも・・・
はっははは・・・
みぃんなあんたの女房の、つなぎに過ぎないのさ。
・・・と、まぁ。そういうことにしておいてくれないかな?

よそでもおなじ嘘、吐いているんだろう?
わたしの指摘を図星・・・と言いたげに。
男はくすぐったそうに、ウィンクを寄越してくる。

夕刻。
なにも言わずに、いそいそと。
着飾った妻は、行き先も告げずに出かけてゆく。
果たして今夜、やつのベッドに侍る身は。
本命なのか、たんなる性欲のはけ口なのか・・・
それはだれにも、わかりはしない。
ただ・・・どちらにしても。
やつがせつじつに求めている獲物である・・・という事実だけは、崩れることがないのだが・・・

ママのお仕置き

2008年07月14日(Mon) 10:37:59

あらー。
珍しくいい子で、お勉強していらっしゃるのね?
女の子のカッコウも、していらっしゃらないし。
でも・・・
(息子の服をいぢりまわしながら)
ズボンの下に、薄い靴下履いてらしたりとか。
Tシャツの下に、女の子のスリップ着てらしたりとか。
ほんとうに、していないのかしら?
おやおや、感心。
ほんとうに、なんにもしていらっしゃらないのね。
えっ?今週は試験ですって?
まるで予防線を張られちゃったみたいね。
ママのリクエストを断る口実になさっていらっしゃるわけでは、ないわよね?
じゃあ、いらっしゃい。
ふたりで、お姉ちゃんのお部屋に行きましょ。
お姉ちゃん、ちょうど出かけているの。夕方まで戻ってこないわ。
今ならナイショで、お洋服いじり放題なんですよ。
え?四日後に試験だからダメ!ですって?
うそおっしゃい。三日後でしょう?
きょうはなん曜日だったかしら。
直前のカン違いは、命取りになりますよ。
ええ。もちろんお勉強はしっかりなさってね。
そして必ず、いい成績をとって頂戴。
でないとお父様に、お叱りを受けてしまうわ。
でも・・・ママも。若い子の血を吸いたいモードなのよ。
あなたに女の子になってもらって、襲っちゃうの♪
わかってくださるわよね?(怖い顔になる)

さぁ、好きにしていいのよ。
ママが許可してあげる。
お姉ちゃんの箪笥の抽斗、今なら開け放題よ~。
まずは下着を、選びましょうね♪
パンティは、青がいいかしら。
それと、スリップはやっぱり白?
あの子最近は、オトナっぽい黒なんかも、試しているみたいよ。
ほら、こんなにセクシーなやつも♪
どうしてあなた、知っているのよ!?
ダメじゃないの。ママのいないところで、おイタをしたらっ。
じゃあ罰として、きょうは黒ね♪
ブラウスはどれにする?
え・・・こっちのTシャツでいい・・・ですって?
遠慮しないの♪
男女共用のやつじゃないの。これ。
ちっとも色っぽくないわ。
はい。じゃー、これ。
付き合っている男の子と美術館に行くとき着てった、白のブラウス。
ふわふわのフリルが、ついているわ。
少女マンガの主人公になった気分でしょ?
下はとうぜん、スカートよね?
それ以外の選択は、ママの前であり得ないわよね?
どう思う~?
このタイトスカート。
こんなに深いスリットが入っているのよ。
ああ・・・あなたにスリットなんていっても、わからないわよね。
切れ目のことよ。
あら。ご存知だった?
・・・どうしてそんなことに、お詳しいのかしら?(ふたたび怖い眼)
真っ赤なタイトスカート。履いてみたいわよ・・・ね?(もっと怖い眼)
ストッキングは、なに色にする?
えっ、気が進まない?この期に及んで遠慮したって、だれも同情しないわよ。
さあ、選んだ選んだ。(^^)/
黒がいい?それとも、肌色?
あらー。あの子ったら。
ゴールドラメの黒なんか、いつの間に買ったのかしら。
じゃああなた、きょうはこれになさい。
えっ、ハデですって?恥ずかしい、ですって?
うるさいわね。ちゃんとママの命令を聞くのよ。
ほ~ら、そうそう。つま先をきちんと合わせて。ぐーんと引き伸ばして。
むらの出ないように穿くのよ。
・・・慣れていらっしゃるのね。(軽く睨む)
今週はママに隠れて、なん足穿いたのかしら。
そうよね。
お勉強でイライラすると、いろんなことをしたくなっちゃうのよね。
あの抽斗のなかだけは、いつでも自由にしてもらってかまいませんからね。
うーん・・・
(ゴールドラメのストッキングの脚をなぞりながら)
どう?感じる・・・?バカね。
(微妙に笑う)

うふふふふっ。で・き・あ・が・り♪
お似合いお似合い♪
ママ、血を吸いたくなってきちゃった♪
(長い黒髪を背中の後ろにすべらせて、息子の肩を抱き寄せる)
えっ、だめ!ですって?いまさらなにを・・・
(陶然となって、押し倒してゆく)
ちゅう~。ちゅう~。ちゅう~・・・っ
・・・・・・。
・・・・・・。

ほほほほほっ。
ご馳走様♪(息子の額を軽く小突く)
やっぱり若い子の生き血は、いいわね。
かわいい顔して、寝ちゃった♪
このままお姉ちゃんのお部屋で、寝かせておこうかしら?
お気に入りのブラウスに、血をつけちゃって。
お姉ちゃん、怒るわよ~♪
さて・・・と。気分も落ち着いたことだし。
早く晩ご飯の支度、しなくちゃね。
目がさめるまで、ゆっくり寝ているといいわ。
どうせ今夜は夜遅くまで、追い込みの試験勉強でしょ。
がんばるのよ。
じゃね♪


あとがき
「ママのお仕置き」で検索すると、すでに三つリストアップされてまいります。^^
でもこれくらいでは、まだまだ独立のカテゴリにならないんですよ。
記事数が1000以上になってしまった柏木ワールドでは・・・。

妻 由貴子のささやき

2008年06月13日(Fri) 01:16:48

控えめな目鼻だちに、薄っすらと。意地悪い微笑みを、たたえながら。
妻の由貴子は、迫るように。
今夜もわたしに、囁きかけてくる。

いやらしいわ。あなた。とっても、いやらしいわ。
わたくしを抱くよりも。
わたくしが抱かれているところを見たい、だなんて。
いやらしすぎて、恥ずかしいくらいだわ。

そうなの?わたくしが、ほかのひとに犯されると。
あなた、昂奮する?あなた、嫉妬する?
いいわよ。今夜も、あなたの望みをかなえてあげる。
由貴子は、ほんとうは、貞淑な女なのよ。
夫以外のひとと、キスをしたり。服を脱がされたり。
ストッキングを、破かれたり。ブラウスを、はぎ取られたり。
そのうえさらに、スカートの裏側を濡らしながら。
もっと、エッチなことをされちゃったり。
そんなの、ほんとうは気が進まないのよ。
あなたのたっての願いだから・・・
心ならずも、迫られるままにされてしまうのだわ。
もの好きな亭主をもったばかりに、
そのままずるずると、婦徳を汚されてしまうのだわ。

ねぇ、今夜もあなたを裏切ってもいい?
わたくしに裏切られたら、あなた、ドキドキしちゃう?思わず覗いちゃう?
そうまでしてまで・・・
由貴子がいちばんきれいなところ、御覧になりたいの?
ガマンしないで・・・ いいわけ、なさらないで。
由貴子は今夜も、あなたを裏切ってあげるから。

ママのお仕置き

2008年04月18日(Fri) 08:19:37

やだっ!やだっ!やだってば!明日試験なんだよ~っ!血を吸われちゃったら、試験受けれなくなっちゃうよっ!
試験は受けなきゃ、だ~め!がんばってね♪
(たくみに組み伏せ、うなじに唇を近寄せる)
(真顔になって)悪い成績を取ったら、許さない。
え”っ!
がんばるのよ。ママがキスしてあげるから・・・(陶然と目を瞑る)
(必死にかぶりを振って)やだっ!やだっ!やだったらっ・・・!
さあ、おっしゃい。貴方が生まれて初めてキスしたのは、だぁれ?
(黒髪を振り分けて、愛らしくほほ笑む)
え・・・いや、その・・・
(応えには耳を貸さずに、おもむろに唇を突き出して、息子の唇を噛むように揉みしだく)
あ・・・あ・・・ううっ。
いかが?恥ずかしがった罰ですよ。
(妖艶にほほ笑む)
(はっとわれに返って)いや・・・(抱きすくめられた腕のなかからのがれようとするが)
(しっかりと引きとめて)いただきまぁす♪
ちゅう・・・・っ。
―――
ふーっ。おいしかった♪
ひどい、ひどいよ~。明日テストなのにー。
美佐子さんの服着た貴方を襲うのは、愉しいわ♪
あっ。。。(ー_ー;)
(空色のブラウスにモノトーンのチェック柄のスカート、白のハイソックス姿。決まり悪げに目をそらす)
ハイソックス、お似合いね。透けるやつは、男の服には合わないですものね。
(よーくわかっているのよ♪というオーラを放ちながら)
じゃあもうすこし、愉しませてね・・・
あっ、ダメ・・・!
(ハイソックスの脚をじたばたさせるが、つかまえられてしまう)
ちゅーっ。
ああ~っ!(><)
―――
破けちゃったじゃないか~。
(裂けたハイソックスの脚を、決まり悪そうにもじもじさせている)
だって、おいしそうだったんですもの♪
それにもともとこの服は、わたくしが美佐子さんからお預かりしていたんですよ。(がらりと態度をあらためて)それをどうして貴方が着ているの?
えっ!あっ・・・あの・・・それは。(((^^;
言い訳はいらないわ。わたくしだって、後ろめたいことのひとつやふたつはございますもの。
(息子を引き寄せうっとり見つめながら)美佐子さんの血を、あのかたといっしょに頂戴したんですよ。
ええっ!!?
あなたの未来の花嫁ですもの♪あのかたに召し上がっていただくのは、当然ですからね。美佐子さん、うっとりとしていらっしゃって。かわいかったわ♪
そ、そんなぁ~!ボクの人生、台無しになっちゃうよっ!(><)
あら、あのかたがそんなにお嫌?(怖い顔になる)
え・・・そんなことないけど。(((^^;
だいじょうぶ♪まだ彼女は処女よ。だってあのかた、処女の生き血がお好きなんですもの。
服が血で汚れたから、家に着て帰れない・・・って仰るから、わたくしがお預かりしていたのですよ。
かわりにわたくしの服を着て、ご家族お留守のお家にお帰りになったんだわ。
でも・・・着たければ着てもよろしいのよ。その代わり、口止め料はいただきますわね。
あっ、ダメッ・・・
ちゅう~っ。
―――
さあ、お約束なさい。美佐子さんの血をこれからも吸わせてくださるって。
えっ?あの・・・あの・・・
貴方が拒んでも、きっとあの方は美佐子さんを自由に操っておしまいになることよ。
ご自分から潔くお捧げになったほうが、まだしもかっこうがつくのですよ。
えっ・・・?だって・・・
想像なさっていますよね?美佐子さんをあの方に抱かれているところ。
だ、誰がそんなっ!ふしだらなことを・・・
ほ~ら、勃ってるし♪
(昂ぶる股間を、するりと撫でる)
さあ・・・ここから先は、お父様にもナイショよ。
(じいっと顔近寄せて、唇を重ねてゆく)
え・・・あ・・・ア・・・ッ・・・
(放恣に伸びきったハイソックスの脚に、しなやかな筋肉がキュッと隆起する)
あ・・・オ・・・オオオッ・・・
(吐息を洩らす由貴子。振り乱した黒髪を息子の胸に流しながら、ブラウスを剥ぎ取って乳首を吸いはじめる)
だ・・・だめ、だめだって・・・
ねぇ。
なぁに?
美佐子さん、呼んじゃった♪
えっ!?
りぃん。ろぉん。(インターホンの音)
ほら、もう玄関まで来ているわよ。もう間に合わないわね。^^
ごめんくださ~い♪
はーい♪そのままあがって頂戴ね♪
(声だけは明るく、けれども息子のことはしっかりと、腰で抑えつけている)
きゃー。(><)

ママのお仕置き♪ 2

2008年03月31日(Mon) 15:18:39

こないだの試験のお点は、どうしておしえてくださらないのかしら?
えっ?そうだったっけ?(^^ゞ
そうよ。ごまかしても、だめですよ。
わたくしいつも、あなたの成績はちゃんと控えているんですからね。
さあ、答案用紙をここに出しなさい。
や・・・ちょっと待って・・・
いいんですよ。(薄っすらと優しげにほほ笑んで、)あまりいいお点では、なかったのですね?
え、ええ。^^;
じゃあ、うかがいましょうか?お点のよくなかった弁解とか言いのがれとか。
言いのがれって・・・だって、試験の前の日、ボクの血いっぱい吸ったじゃないか。
そうだったかしら・・・?(ほんとに憶えていないらしい)
ひどい!ひどいよっ。ひとの血をあんなに吸っておきながら・・・
ボクあのあとぼーっとなっちゃって、学校行くのがやっとだったんだから・・・
そうかしらー。
そんなにおいしい想い、わたくししたかしら?
いいことがあったあとって、わたくし健忘症になっちゃうのね。
それに、いつまでも引きずるのは、女々しいことだわ。(言葉を尖らせて)
だいいちほんとうに、憶えていないんだし。
だってー。ほら、ボクのことを責めて、覗いたとか覗かなかったとか。
あ~♪あのときのこと?(一瞬愉しそうに笑って)・・・たしか覗いたんでしたよね?(急に怖い顔になる)
あっ!(しまったという顔をして)と、とにかく体調悪かったんだよ。
血をおいしく飲まれるのは、嬉しいでしょう?
え・・・そんなことないよ・・・
だってー。昂奮して、ママに抱きついてきたじゃないの~(しっかり憶えている)
あっ・・・(><)あっ・・・(><)
ほほほ。
お互いに愉しんだのですから、ママのせいにするのはよくないわ。男らしく、自分の非を認めなさい。
あ、はい・・・ごめんなさい。
えらい。いい子ね♪じゃ~、ママになにをしてくれるのかな。
えっ?それとこれとは。
それとこれとは、いっしょなのよ♪さあ首筋を出して。
えっ?血を吸うの?
ママ。喉渇いているのよー。癒してよう。
えー、だってそんな。さっきだってあんなに愉しんで・・・(ハッと口を抑える)
御覧になったの?(ふたたび怖い顔)
い、いや・・・
やっぱりあなたには、口封じが必要みたいね。パパに余計なことを言いそうで怖いわ。
い、言わない!言わないよっ!
(言ったってパパもお見通しなんじゃないかって言いかけて口をつぐむ)
きれいな首筋。やっぱりあなた、年頃なのね♪(うっとりとなって、唇を近寄せる)
まっ、待って!待ってっ!明日は英語の試験なんだよ。
そうね。英語の勉強はしっかりなさい。現代人の教養ですから、身に着けておかないと大人になってから困るわ。(あくまでひとごと)
だ・・・か・・・らぁ・・・! あっ・・・あっ・・・あっ・・・(声が震えて、小さくなる)
(さっそく吸い取った血を口許に光らせながら、)語学はね。どのみち一夜漬けがきかないのよ。
だからいまさら焦っても、経験にはかなわないのよ~♪
(経験豊かな証拠に、さっさと息子をたたみのうえに転がして、ズボンのすそをたくし上げる)
薄い靴下、穿いていらっしゃるのね・・・(まじまじと見つめる)
あっ・・・・・・(><)
(唇を吸いつけて)、わたくしのだったら、許してさしあげたんだけど・・・女きょうだいの服をイタズラしちゃ、ダメよ♪
どうしてそんなことまで・・・
ワインのテイスティングといっしょでね。なにもかも分かってしまうのよ。
じゃ~♪これからあなたの血のテイスティングを愉しませていただくわね。
あなた、口止め料も払わなきゃいけないわ。
覚悟しなさいね・・・


あとがき
お仕置きの理由ですか?
前作「無作為抽出」の流れではございませんで、
もっと前の「ママのお仕置き♪」の続編なんです。(^^ゞ
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-541.html
前回は試験前だというのにママに迫られてしまって・・・
結末が、ずっと気になっていたものですから。(笑)

無作為抽出の結果

2008年03月31日(Mon) 14:47:52

その手紙がポストに投げ込まれたのは、ある春の昼下がりのこと。
妻の由貴子・・・だけではなく、夫のわたしの名前も、妻の下に書かれていた。
つまり、夫婦双方に宛てたものだった。
差出人の名前は、ふるっている。下手な字で、
「人妻輪姦計画委員会」
と、書かれていたのだ。

おめでとうございます!
人妻とヤりたい男三人組が、ヤらせてくれる人妻を探しています。
無作為抽出の結果、輪姦の対象に奥様が選ばれました。
ぜひご協力ください。
あしたの夕方五時、村はずれの公園で待ってます。
木に縛って、立ったまま犯します。
撮影もするので、もしもビデオやデジカメ持ってきたら、いっしょに撮ってあげてもいいですよ。

あらー、面白そう♪
由貴子はウキウキと、はしゃいでいる。
ばか!どういうことかわかっているのか!?隣近所に顔向けできないことになるんだぞ?
わたしがなんと言っても、妻の耳には入らないらしい。
ね、ね、どんな服着ていこうかしら?
かわいい顔して水向けられたときには、もう閉口してしまうしかなかったのである。

わかっているのよ。
わたくしを目当てにするなんて、正久のお友だちなんだわ。きっと。
由貴子は人のいない息子の部屋に無遠慮に入り込むと、なかでごそごそと物音を立てて、
数分後、一冊の手帳を持ち出してきた。
あなたはマネしちゃ、ダメよ。あの子だって怒るわ。
自分は怒らせない自信がよほどあるのか、涼しい顔をしてやおら携帯を取り出した。
ピ、ピ、ピ・・・
無表情な機械音が、そっけなく響く。
妻はディスプレーを覗かせてくれない。
いくつかのメールを送った数分後。勝ち誇った妻の声が、部屋にこだました。
ほ、ほ、ほ・・・
見て見て・・・
差し出された携帯に描かれた文字。
「えっ、まじっすか?どうしてわかったの?」
ばーかね♪先刻お見通しなのに。
由貴子は薄い唇から白い前歯を愉しげに滲ませながら、
返信を打っている。
こんどは送信する前に、見せてくれた。
「喜んで、伺います。主人もいっしょです。お約束は守ってね」
なにを約束したの?
さあ・・・?
妻は空とぼけて、なにも応えない。

一日の経つのは、あっという間だった。
夕方五時になるのも、同じくらいあっという間だった。
わたしはブスブス不平を鳴らしながら、それでも妻といっしょに村はずれの公園にいる。
向こうから現れた少年たちは、髪型の乱れたにきび面をしていて、
およそ妻には似つかわしくない品性むき出しに、
真っ白なスーツ姿の由貴子をじろじろ無遠慮に見回して笑った。
おじさんごめんね。縛るね。
男の子の一人が近寄ると、有無を言わせず力づくで、わたしを手近な木に縛りつけた。
よほど慣れているのか、後ろに回っていた一人との連携は、大人顔負けのみごとさだった。
薄汚い身なりの少年たちが、妻の白スーツ姿を取り囲む。
こうして、由貴子の運命は、さだまった。

やだー、わたしも縛られるのー?
由貴子は小娘みたいにはしゃぎながら、
太い樹の根元に追い詰められてゆく。
腕をとられ、木の幹にまわされて。
あんまり痛くしないでね・・・って言いながら、
背後にまわった少年に、後ろ手にした両手首をゆだねた。
ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ・・・
子どもっぽいむぞうさな手つきに、時おり由貴子は顔をしかめていたけれど。
もう一本の長い縄がジャケットにしわを寄せたとき、もういちどいやな顔をして。
けれども気丈に、少年たちを見返すと。
だれが先・・・?って訊いた。
ぬけぬけと真っ先にすすみ出たにきび面は、ちょっとだけ気後れしたように躊躇したが、
母親に甘えるみたいなしぐさで由貴子に抱きつくと、ぶきっちょに唇を重ねていった。
あ・・・うぅん。
力づくで圧しつけられてきた唇を、由貴子は器用に受け止めると。
どちらが吸っているのか、しばらくねちっこく応酬し合うように、吸いあった。
はぁ・・・はぁ・・・
汗臭い息をぞんぶんに吹き込まれて、由貴子はちょっと上気したように頬を紅潮させている。
そのすきに、つけ込むようにして。
いちばん大柄なやつが、由貴子の足許にかがみ込むと。
奥さん、いいつけどおりにしてやるぜ。って、いいながら。
てかてか光る肌色のストッキングの太ももに触れてゆく。
白のタイトスカートは、深めのスリットから豊かな太ももを覗かせていて。
それでも不当な侵入を拒むかのように、タイトなすそが太ももの周りに巻きついている。
え、へ、へえっ・・・
男はからかうような声を上ずらせながら、由貴子の太ももに手をすべらせて、
無理やり、スカートをたくし上げた。
なんども引っ掻くように撫でおろすと、ストッキングが音を立てて破けた。
ブチッ!・・・ブチッ! パチパチパチ・・・ッ!
引きずりおろすように剥かれたストッキングは、むざんに引き裂かれていって。
みるかげのなくなった蜘蛛の巣みたいな残骸を、白のエナメルのハイヒールにまとわりつかせた。

さっき妻の唇を吸ったにきび面が、脂ぎった頬をてらてらさせて。
自慢げに、自分の携帯をふりかざす。
ディスプレーには、由貴子が送ったメール。
「愉しい手紙をくださって、ありがとう。
  種類は問いませんが、目印にわたくし好みのかっこうしてきてください。それが条件です。
  皆さんハーフパンツに、ハイソックスを履いてきてください。種類や色は問いません。
  わたくしは、白のスーツ着て伺います。
  主人はストッキングが大好きなので、ストッキング穿いて行きますね。
  わたくしを木に縛りつけたら、主人の目のまえで破いて欲しいんです。
  あのひときっと、昂奮するから・・・
  きれいに破いてくれたら、キスしてあげる♪」
わたしが文面を読み通すのを、その子はニヤニヤと嬉しそうに見守っている。

う。。。う。。。う。。。
思わず洩らしたうめき声に。
少年はさすがにもじもじとして。
ごめんね。奥さんきれいだからね。みんなで仲良くなってあげるから。
たしかに少年がジャージのようなハーフパンツの下に履いているのは、サッカー用のストッキング。
真っ白な地に、鮮やかな太めのリブ。
むぞうさに履かれたストッキングは、折り返しがちょっとななめにめくれていて、
三本走っている青い色のボーダーが、ぐんねりとひん曲がっている。
おじさん、ハイソックスも好きなんだって?
奥さんヤらせてくれたら、引き換えにあげる約束になっているから。愉しみにね。^^
男の子は捨て台詞のようにそういうと、背中を向けて、
足許の下草をザザザと踏みしだいて、妻のほうへと寄っていく。

三人目が、かしらだったやつらしい。
さぁさ、お待ちかね。ヤらしてもらうよ。
こちらからは陰になってよく見えないが、
紺色の半ズボンの前を早くも拡げて、おっ立てた中身を見せびらかしているらしい。
縛られた妻は、誇示された男の持ち物に、さすがに目をそむけていたけれど。
いつの間にか、ブラウスをはだけられていて、
ずらされたブラジャーのすき間からは、きれいなピンク色の乳首がこぼれている。
巻かれた荒縄と、上品なスーツと。
まさぐられた下着と、静脈の浮いた乳房。
不似合いなコントラストは、男の子たちが覚えこんだ劣情を、忌まわしくもかき立てる。

はっはっは!
濃紺の半ズボンの男の子は高笑いをすると、妻にむしゃぶりついていった。
あっ。
妻はストッキングの下、なにも身に着けていない。
くしゃくしゃにたくし上げられたタイトスカートごし、
せり上げられた魔羅が太ももの間に侵入してゆくのが、ちらりと見えた。
あっ。う・・・っ。・・・
その瞬間、妻はまぶたをキュッと閉じて、身を仰け反らせた。
あううっ・・・だめ・・・っ!
自由にならない両手ももどかしく、左に右に顔を背けるけれど。
そいつはよほど、馴れているらしい。
たくみにあごを使って、かぶりを振る由貴子の頬を追ってゆき、
とらえた唇に、噛みつくようにして、唇を合わせていった。
ひたすら吶喊をくり返す少年の太ももは、筋肉をキュッと浮き彫りにして。
ひざから下を覆っている紺色のハイソックスはストッキング地で、
しなやかな筋肉の緊張を、濃淡織り交ぜて浮き彫りにしてゆく。

あう、あう、あううん・・・
さいしょに唇を奪ったやつの、サッカーのストッキングの脚が。
肌色のパンストをびりびり引き裂いたやつの、紺のハイソックスの脚が。
そしてもういちど、妻に一番乗りしたやつが・・・
ストッキング地の靴下に、筋肉を透きとおらせていった。
ううん、こたえられねぇ。
かしらが手の甲でよだれを拭うと、
スッキリしたー!
にきび面のサッカー少年が、血の気のなくなりかけた頬を透きとおらせて、
へ、へ、へ、悪く思わないでね。
案外わたしとおなじ好みらしい紺ハイソの少年は、裂き取ったストッキングを、まだ意地汚くいじくりまわしている。
あたりは濃い影が、忍び寄っていた。
解散、する・・・?
え・・・?もっと愉しもうよ。
正久呼ぼ。
でもあいつ塾だろ?
こういうお勉強も、だいじなのさ。
そいつはいいや。呼ぼ呼ぼ。
少年たちは大人の都合もかえりみず、息子に携帯メールを飛ばしている。
ところが。
忍び寄っていたのは、夜の闇だけではなかった。
もうひとつの、もっと濃い闇が。
女の子みたいに装われた少年たちの足許に、忍び寄っていた。

アッ!
ひとりが悲鳴をあげた。
どうしたんだよ?
にきび面がいぶかしそうにそいつのほうを振り返ると。
ギャッ!と、叫んだ。
ちょっと身動きできなくなって、立ちすくんで。
丈の高い草陰から、力まかせに脚を引き抜いた。
飛びのいた白のサッカーストッキングが、赤いほとびを散らしている。
な、な、なんだよっ!?
男の子たちが口々に叫びをあげると。
ホ、ホ、ホ・・・
くぐもったしわがれ声が、どこからともなくたちの悪そうな含み笑いを忍ばせてきた。
あうっ!
さいごに声をあげたのは、かしらだった少年。
首筋を押さえて、必死にもがきながら。
塗りつけられたものを、ようやく引きはがすと。
ひっ!
初めて怯えた声を、洩らしていた。
彼がつかみ取ったのは、異様に大きなヒル。
そいつはアゲハチョウの幼虫みたいに緑色の軟体を、ぬるぬるとうごめかしている。
遅い、遅い。もうお前たちの身体には、毒がまわっておるぞい。
サッカー少年の足許からおもむろに起き上がったのは。
みすぼらしい着物姿の老婆。
土気色をしたひからびた頬に、乱れた白髪の後れ毛がほつれかかっていて。
さっき口にしたばかりの少年の血を、長い舌でぬるりと舐め取った。
あ、あ、あ・・・
三人は、しびれたみたいに身動きができなくなっていて。
さいしょに樹の幹に押しつけられたのは、にきび面の少年。
うなじにおもいきり、かぶりつかれて。
うわあっ・・・あっ・・・!!
声を限りの叫び声が力をなくすのに、一分とかからなかった。
樹の根を背にしたままずるずると姿勢を崩してしまうと、
老婆は舌なめずりをして、少年の足許にべろを這わせていって、
意地汚くねぶりはじめると、整然と浮き上がった太めのリブをねじ曲げてゆく。

さあ・・・お出で。
老婆の手招きに、紺色ハイソの少年が手繰り寄せられるようにふらふらと脚をむけていって。
老婆の望むまま、脚を噛まれてゆく。
少し丈の短いハイソックスが、ずるずるとずり落ちてゆくと。
少年はたまらず、草地にひざを突いていた。
妹ごのを、黙って借りたのじゃろう?
老婆が少年をあやすように、頭を撫でながら囁くと。
少年はこくりと頷いている。
別人のように、すなおな態度だった。
ではわらわには・・・ご本人を貸してたまわらぬかえ?
意地悪い申し出に、いちどはかぶりを振った少年も。
がぶり!とうなじに食いつかれて。
じゅるじゅると音をたてて、生き血を啜られてしまうと。
連れてきます連れてきます。僕といっしょに噛んでください・・・って。
自分のほうから、お願いをくり返していた。

あ・・・あ・・・あ・・・
仲間たちのだらしのない反応に、かしらだった少年はいらだちを浮かべたけれど。
さすがの彼も、老婆にはかなわなかった。
じっと目を合わせただけで、地べたのうえにへたり込んでしまって。
尻もちついた少年を、老婆は情け容赦なく、泥まみれにまろばせていた。
薄い靴下、お召しじゃの?
・・・・・・。
強情に、口を結んでいると。
返事をしやれ!
老婆がヒステリックに叫ぶやいなや、
ばく!
少年の背中に、地響きするほどの音が叩きつけられた。
老婆が激しく、少年の背中を打ったのだ。
枯れ木のような手足にこめられた、不似合いなほどの膂力に、少年はぐうの音も出なくなった。
父ごの靴下を、借りてきたのじゃろう?
打って変わって、猫なで声になった老婆は。
若々しい頬を、舐めるように覗き込んで。
若いおなごを十三人。おまえたちはたぶらかしたの?
おかげでわらわが食ろうてやるはずの生娘が、その分減った。
わらわの取り分を減らしたお仕置きに・・・
若くて活きのええ血潮を、たっぷりあさり摂ってくれようぞ。
さあて。わかったら、首筋を出しやれ・・・
チュッと貼りつけられた唇に、少年はもう身動きを止めていた。
ホホホ。
口許からしたたる血を、わざと少年のワイシャツに散らしていくと。
そもじの靴下、見覚えがあるぞえ。
愉しませてくれ。よもや不服はあるまいの?
少年は応えのかわりに、四つんばいになって身を起こすと。
ふくらはぎに滲ませたナイロン地の光沢が、老婆によく見えるよう。
すんなりと脚を、伸ばしてゆく。
う、ふ、ふ、ふ・・・
老婆はうっとりと、ほくそ笑んで。
こんどはうつ伏せに寝そべらせて、ストッキング地のハイソックスのふくらはぎに、唇を這わせていった。
ちゅう・・・っ。
少年はもうすっかり大人しくなって、不気味な吸血の音にわが身をゆだねきっている。

早くほどいてくださいな。
気がつくと。わが身のいましめは、いつの間にかはらりと足許に落ちていた。
わたしは妻に駆け寄ると、もどかしい手で縄を解いて。
少年のひとりがとり落としたナイフで、手首の縄を切りほどく。
あの子が来るわ。
由貴子は母親の顔にもどって、手早く身づくろいをすませてゆく。
足許にだらしなく横たわっているのは、妹のハイソックスを履いた足許から血を抜き取られた少年。
妻のストッキングを破ったやつだった。
はい、あげる。
由貴子は、気絶しかけた少年の頬に、ぶら下げていたストッキングをふわりと投げかけた。

そもじも、履いてみるかや?
ストッキング好きらしい少年の、うつろな目をした鼻先に。
老婆が垂らしたのは。
かしらの少年の脚から引き抜いた、ストッキング地のハイソックス。
催眠術にかかったように、ゆっくりと頷くと。
伸ばされた指先から、老婆は自分の戦利品をひったくるようにして。
う・ふ・ふ。父ごの箪笥のなかを、あさってみやれ。
額を指先で突いて、少年を草むらに突き倒した。
これでモノにできるおなごが、増えたわい。
人妻が三人と、娘ごが一人。
兄に似ずに、勉強家の娘だそうな。
兄の手がついていないなら、きっと、生娘じゃぞい。
闇に溶けた老婆の後ろ姿と入れ違いに、戸惑ったような息子の影がこちらに近寄ってきた。


あとがき
由貴子さんと、息子の悪友たち。
どういう関係に、なっちゃうんでしょうね?^^;
息子はたぶん、「無作為抽出」の作業に加わっていないと思うんですが。
悪友たちにママを凌辱させる・・・だなんて。
ここのお話としては、ちょっとえろすぎますからねぇ・・・(かな? ^^;)

由貴子さんは、車の運転が上手である。

2008年03月31日(Mon) 10:03:16

由貴子さんは、運転が上手である。
時おり、車庫から車を出そうとして、勢いあまって生け垣に突っ込んだり、
たまには、エンジンかけ忘れたまま発進しようとしたり、
ごくごくまれには、道路を通らずにお隣にお邪魔してしまったりとか。
ときたまそんなことをしでかして、顔に似合わぬお茶目っぷりをみせるのだが。
それでも大事故・・・と呼べるほどのものは、まだ起こしたことがない。

あら?あなた。二日酔いなんですか?いけないですねー。
きょうは家族でドライブのお約束のはずですよ。
でもそんなご様子では、あぶないですから。
きょうは、わたくしが代わりに運転しますね♪
夫の柏木氏は妻の好意をそのまま受け取るのを躊躇して。
なんとかハンドルを握ろうとしたのだったが。
その試みは、徒労に終わって。
鼻唄交じりにハンドル握る由貴子さんの助手席に、恐る恐る座ったのだった。
それは決して、タダの好意は高くつくとか、そういうけちくさい駆け引きではなくて。
真に身の安全を考えてのことだったのだが。
由貴子さんだけは、そんなこと夢にも思っていない。
出発~♪

あら。みんなどうしちゃったのかしら。
正久さん?美鈴さん?あなた?
あらー。みんな寝ちゃったのね。
わたくしの運転、そんなに居心地良かったかしら?
車もへんな草むらに不時着しちゃったし。
ひと休み・・・しましょうか?
あー、喉渇いた。
運転すると、やっぱりだめね。
せっかくだから、こっそりいただいちゃおうかしら?
みんなすやすや、眠っているし。(^-^)
人の生き血が、喉の渇きにはいちばんいいのよね。
ではまず、あなたから・・・いただきますね♪
ちゅーっ。
正久さんも、かわいい顔しちゃって。もう♪
ちゅーっ。
ああ・・・若い子の血は、おいしいわ。
じゃあつぎは、美鈴さんの番ねっ?
ちゅーっ。
あら。あら。
夕べ帰りが遅いと思ったら・・・この娘ったら。ウフフ・・・。
口止め料に、もうひと口ね?(^^)

由貴子さんは手の甲で口許を拭ったけれども。
まだ、喉が渇いているらしい。
お行儀よく、長く束ねた髪の毛をかき寄せると。
もういちど、三人順ぐりに、かがみ込んでいって。
ちゅーっ。ちゅーっ。ちゅーっ。
ふふ・・・ふふふ・・・。
のどかな春の野辺。
車内からはくすぐったそうな含み笑いが、いつまでも洩れてくる。
もういちど、書き留めておく。
由貴子さんは、車の運転がとても上手である。


あとがき
たんに失神していただけだと思うんですが・・・。(^^;)

着信・・・返信・・・着信。また返信。

2008年03月09日(Sun) 15:43:10

ピッ。
妻の携帯が、みじかい着信音を鳴らした。
ここは、夫婦の寝室。
妻は薄ら笑いを浮かべながら、
あら。
とだけ、呟いて。
白いほっそりとした腕を伸ばして、携帯を手に取って。
御覧になる?
って、こちらにさし寄せる。
見たくない・・・とはいえない雰囲気で。
わたしは恐る恐る、携帯のディスプレイに目を落とした。

真昼間から、愉しかった。
また、明日。
亭主に内緒で出かけるように。

ほほほ・・・
唇に手をあてて、ひっそりと忍び笑いながら。
ごめんなさい。お逢いしてしまったの。
妻は悪びれるふうもなく、灰皿を手に取った。
灰皿。
妻もわたしも、煙草を嗜むことはない。
そういえば、出張から戻ってきたときに。
ほんのりと薫っていたのは、あの匂いだったのだろう。

なんてご返事、しようかしら。
妻はほんのりと笑みながら。
寝酒のブランデーを、口に当てて。
こっくん。
喉を鳴らして、嚥みくだした。
頬がぽっと赤らんだのは。
ブランデーの効きにしては、ちょっと早すぎる。

えぇと。
目のまえで、携帯をもてあそびながら。
妻は返信を、打っている。

よろこんで、お伺いします。
主人にはうまく、話しておきますね。

細い指が踊るように携帯のうえを撫でてゆき、
ひとつの文を、形づくる。
ぴっ。
自分で発信音を、呟いて。
目のまえで、裏切りのメールが羽ばたいていった。

シャワー、浴びてきますね。
嫉妬に昂ぶるわたしが、今夜ベッドのうえであらわにする熱情を予測して。
肌を磨きに、浴室にむかったあと。
ピッ。
妻の携帯が、また着信音を鳴らした。
呟くようなその音は、ちょっと油断していると聞き逃しそうになるほどに小さい。
開かれたままのディスプレイには。

明日までガマンできなくなった。
今夜、いますぐに。
いや、亭主が寝入ってからでもいい。
うちにきなさい。
かわいがってあげるから。

ウフフ。
思わず洩らした、マゾヒステリックな笑い。
わたしは妻の携帯をあやつって、妻になりかわって返信する。

だいじょうぶ。
夫は寝たわ。出張でくたびれちゃったみたい。
熟れた肌。熱い血でのぼせてしまいそう・・・
いますぐに、うかがいます。

洗い髪もなまめかしく、ふたたび妻が現れたとき。
携帯の履歴をほんのちょっと、いじくりまわして。
やったわね・・・?
軽く睨んだまなざしは。
はにかむようにイタズラっぽく、揺れている。
時間はまだあるわね。
でも今夜はまず、貴方から・・・
裏切るまえに、服従してあげる。
出張、お疲れ様♪

御主人様と主人

2008年02月03日(Sun) 14:54:08

御主人様と、主人とは。
わたくしの場合、ちがう人です。
妻のこうした言い草に。
誰もが息を呑むのだが。
息を呑まれたことさえ、誇らしげに。
妻はわたしと、黒衣の男と、ふたりながらに、ほほ笑みかける。

目の前に伸べられた手の甲に、熱いキスを重ねると。
青白く透きとおった静脈をめぐる血潮が。
吸い取られることをみずから望むように、妖しくはぜる気配がした。
黒のストッキングのなか、むっちりとしたふくらはぎは。
ジューシィなピンク色に染まっていて、
若々しいイキのよさを、ことさらふたりに見せつけてくる。

これから獲るものと、これから奪われるものと。
片方は、にんまり笑んで。もういっぽうは、苦笑いをして。
妻の手を引いて拉し去ろうとする片方を、もういっぽうはむしろうながして。
お似合いだよ・・・と、囁きながら。
新婦の新床を、祝福する。

きりりと装ったスーツのうえ。
ぐるぐる巻かれた、およそ不似合いな荒縄に。
妻は満足げにくすっと笑うと。
お願い、責めて。
わたくしは貴男の、奴隷になりたい。
夫のまえ、ハッキリと澄んだ声で。
異形の影に、こいねがう。

閉ざされたふすまを、細めにひらいて。
被虐の刻を覗いてみると。
これ見よがしにのけぞる妻と。
我が物顔に迫る男と。
好一対の、イキの合ったからみ合い。
夜は更ける。しずかに、耽る。
ときには、御主人様と主人とが、どう違うのかを知りたがるものたちと。
細めに開いたふすまの縁が、息遣いに曇るほど。
息を凝らして、見つめつづける。

☆お疲れ様~☆

2008年02月03日(Sun) 10:56:05

ぎし、ぎし、ぎし、ぎし・・・
隣室から聞える、ベッドのきしみ。
明け方から、なん回すれば気が済むのだろう?
それも、ひとの女房を相手に。

夫婦のベッドのうえ。
妻の由貴子のうえにのしかかっているのは、吸血鬼。
子供の頃からの、仲良しで。
白髪の数が昔とさほど変わらないのは。
私が提供した血液のおかげだと感謝されている。
さいしょにご馳走したのは、グレーのハイソックスを履いた自分の脚。
それから、肌色のパンストを履いた、ママの脚。
中学に上がったばかりの妹の黒ストッキングの脚も、見逃してはもらえなかったっけ。
そのころから、だれよりも親しく打ち解けた彼とは。
いまでは、妻を通してつながっている。

ベッドのうえでも、黒衣を脱ぐことはまれらしい。
ちらと覗いた、ドアのすき間。
おおいかぶさった黒マントから、むき出しになりからみあった二対の脚だけが覗いていた。
毛むくじゃらで逞しい、丸太ん棒みたいな脚に、虐げられるように。
妻の白い脚は、あまりにもか細く映る。
けれどもか弱く映るものほど、とてもしなやかで。強靭で。
なめらかな白い皮膚におおわれた筋肉が、時おりキュッと引き締まり、また弛緩する。
放恣に開かれた股間に沈み込む侵入者の臀部と、一体のうごき。
黒衣の向こう側に見え隠れするもう片方の脚は。
ずり落ちかけたガーター・ストッキングを、まだ脛の辺りに残している。
こうこうと照りつける灯りの下。
ふやけたようにたるんだ透明なナイロンのが、不規則な艶を放っている。
気品と堕落。
その両方を、きわだたせるようにして。

朝。
ひんやりとした廊下に出ると。
出会いがしらだった。
ドアが勢いよく開くと、
寝坊、寝坊・・・
妻があわただしく、飛び出してきた。
黒のスリップの肩紐を、片方ずり落としたまま。
そよいだすき間から覗いた乳房のあたりには、まだあのふしだらなぬくもりが残っている。
おはよう。朝ごはん食べるでしょ?
妻は答えも待たず言い捨てて、ばたばたと階段を降りてゆく。
階段の下。
妻とはち合わせた娘は、セーラー服の背中をこちらに向けたまま、なにやらぶーたれている。
間に合わないよ。だいじょうぶだって。
押し問答のあげく、解凍していない冷凍おにぎりをそのまま娘に渡そうとした。
あっ!と叫ぶ母親を尻目に、娘はスリッパの足音をぺたぺたと玄関に進めてゆく。

背後の寝床から、もそもそと起き上がる黒い影
寝乱れた髪を、調えもせずに。
疲れた~。
やつはげっそりとして、部屋から抜け出してくる。
お疲れ様~。
私は愉快そうに声をかけて、
やつの顔を濡れタオルで、力まかせにこすってやった。

階段の下。向かい合うのは。
人生に疲れた男と、場末の水商売の女。
そんな想像は、すぐさま裏切られる。
男は妻のうなじにディープなキスを重ねると。
その場に崩れた妻を尻目に、娘のあとを追っかけた。
開いた玄関のドアの向こうから。
きゃあっ。
にぎやかな叫びがあがるとき。
娘は白いハイソックスを、たぶん真っ赤に染めている。

淫乱妻と 夫に言われないために

2007年07月29日(Sun) 00:42:20


誰とでも寝る・・・というわけでは、ありませんのよ。
そんなふうに軽々しく肌をお許しする女だと、軽く見られてしまいますもの。
いくつになっても、お値打ちものの女でいたいんですの。
自分の貞操のお値打ちを下げないためにはね。
だれもいないときには、夫に尽くすことにしておりますの。
夫ひとすじに、守り抜こうとする操こそ。
殿方にとっては、よけい望みたくなるものでしょうから。

由貴子は白い頬に、フッと微笑を滲ませて。
相手の男の顔を、値踏みするように窺っている。


すみません。ほんとうに。
これから言うことのご無礼を、どうか許していただきたいのです。
奥様と、由貴子さんと、おつきあいさせていただきたいのです。
え?どういう意味か?ですって?
文字どおり・・・恋人のようなおつきあいをしたいのです。
ベッドのうえで、由貴子さんを思う存分辱めて。
いっぱい、愉しませてあげたいのです。

柏木は、面食らっていた。
怒るよりもなによりも、相手の応対が尋常ではなかったからだ。
目のまえで小さくなっているのは、自分よりも十歳以上も年下の男。
初村と名乗るその男のことは、柏木もまんざら知らないわけではなかった。
娘のクラスを受け持つ担任として。
学校で顔をあわせたこともある間柄だったのだ。
私立の学校で教員をしている初村にとって。
人妻と、それも教え子の母親と通じる・・・ということは。
ごくひかえめにいったとしても、相当な罪悪感を伴うものだったに違いない。
それなのに。
わざわざ亭主に面と向かって、こんなことを告白するものなのだろうか?

いいでしょう。とは・・・ふつう申し上げかねると思うのですが。
柏木はわざと、冷静な応対をこころみる。
相手はますます蒼くなって。
そうですよね。それはもちろん、そのとおりだと思います。
大柄な身体を、ますます小さく丸めるばかり。
柏木は、ちょっと相手が気の毒になった。
わざわざ私のところに、このようなお申し越しがあるとは・・・ふつうのことには思われないのですが。
初村は、「そうですよね?」小声で相槌を打ちながら。
じつは、奥様にそうしろ、って言われたのです。
口ごもりながら彼が語ったのは。
冒頭の由貴子の答えだった。
それくらい、由貴子さんのことが、恋しいのです。
抜け目なくそう付け加えることも、忘れなかった。

夫としては、しょうしょう悔しいのですが。
家内は・・・貴男のことをにくからず思っているようですな。
柏木は、認めざるを得なかった。
堂々と、夫に申し込んでください。わたしを犯したいのだと。
夫がなんといいますか・・・
たしなみのある人妻としては、それ以上のことは申し上げかねますわ。
心のなかで由貴子が、人のわるい薄ら笑いをしているのを思い浮かべながら。
男ふたり。完全に手玉に取られているのだよ。
そういって、初村の肩を叩いてやりたい気分になっている。

妻を寝取られる、ということはね。
もちろん、いろいろな状況があるのだけれど。
少なくとも、誰もが誰もを尊重する気持ちがあるのなら。
まれに、憎しみを伴わないで進行することがあるのですよ。
だって。おなじひとりの女性を好きになっただけのことだもの。
むしろ。ほかの男性に恋われるほどの魅力を妻が持っている・・・といううことは。
夫にとって、誇りにもなり得るのですから。

一歩退けば。
相手もそれにつられるようにして。
一歩退がることがあるらしい。
ここで図に乗って、さらに一歩よけいに踏み込んでくるほどのあつかましい男なら。
柏木といえども、おもて向き笑みをたたえた唇の裏に隠された牙に、ものをいわせることもあっただろうが。
男はそうするには、あまりにも善良すぎたようだった。
もじもじと。言いにくそうに。さらに言葉を継ぐのだった。
もちろん無償で・・・というわけには、いかないでしょう。
代わりに・・・と申し上げてはなんですが。
私の妻を、抱いてくださってけっこうです。

初村の妻のことも、柏木は知っている。
芳紀二十四歳。まだ結婚して二年と経たない若妻だった。
まだ娘っぽさが抜けない初々しさを、由貴子さえもが気に入っている。
ほほー。それはそれは。
中年男独特の脂ぎったものを、とっさに押し隠しながら。
「妻を・・・」と口にしたときの、相手の口調の微妙な震えに、彼は敏感にも気がついている。
気の毒に・・・私と同じ血をもつ男なのだな。

すこし、異論をとなえたいのですが。
柏木はあくまでも、紳士的に口を切った。
それでは、奥様の意思をないがしろにするようなものにはなりませんか?
奥様にも、選ぶ権利があるはず。
貴男が人妻に手を出したからといって、ご自分の身を好んで汚すお人柄かどうか。
それにそもそも、私などを相手に選ぶお人かどうか。
こうしましょう。
どうしても貴男の気がすまない・・・と仰せなら。
奥様を誘惑する機会だけを、私にお与えください。
もしも奥様がその気になられたら。遠慮なく頂戴いたしましょう。
貴男にしても・・・
ウデがあったから、由貴子を堕とせたのですからね。


弱りました。
初村はまたもや、柏木家の応接間で頭を抱えている。
家内に柏木さんのお話をしたのです。
そうしたら、大変な剣幕で怒り出しまして。
夫婦交換とおなじじゃないの。そんなに私が嫌いなの?といって。
家を出る・・・というのです。

おや、おや。
そいつは困りましたね。
色恋というものは、相手をいつくしむためにあるものなのにね。
こういうふうになってしまうのは、なんとしても興ざめで、残念な話ですね。
いっそ、わたしのほうの申し出は、反故ということにいたしましょうか?
一方的に由貴子を犯されるだけの関係でも、よろしいのですよ。
柏木の寛大な申し出にも、初村は首を振るばかり。
今すぐにでも・・・って。もう出支度をはじめているんです。
困ったものですね・・・
よろしい、一肌脱ぎましょう。
柏木は内心しぶしぶ・・・というように、座をたった。


当面奥様は、お気持ちが静まるまで。
わたしの別宅でお預かりすることにいたしましょう。
あなたは、わたしにお構いなく、由貴子のところに通うがいいでしょう。
けれども必ず、夜明け前には家に戻って、
奥さんのいないご自宅で過ごすのを忘れずに。
夕飯もなく、掃除もされず、洗濯物も自分で始末しなければならない生活を余儀なくされるでしょうが。
そのていどの罰ゲームでは、軽すぎるくらいでしょうからね。
いずれ・・・奥様は。
ご機嫌が戻った時に、お返しします。
ご帰宅のまえには、私から一報入れますが。
ご主人はいっさい咎めだてをなさらずに、奥様をお迎えになるように。
よろしいですな?
初村は柏木の芳情に、ひたすら感謝するのだった。


ずるいわね。
由貴子は白い頬にからかうような色を込めて、夫を軽く睨んでいる。
初村さんの奥様のこと。
とっくに、堕としてしまわれていたくせに。
あまり図に乗って、恩着せがましくなさったら。
ぜんぶばれちゃってから、初村さんに恨まれるかな?って、心配していたんだけど。

あれ・・・?(^^ゞ
分かっていたの?
きみもまぁ・・・なかなかすみにおけないね。
けれどもすべて、丸く収まったじゃないか。
初村くんは、数あるきみの愛人の一人になれたわけだし。
今では、若い奥さんをボクに捧げることにも、歓びを見出していらっしゃるようだし。
このあいだ、言われちゃったよ。
なぁんだ。さいしょからできあがっていたんですか。ひどいなぁ。
これからはどうか、安心して遊びに来てくださいね。
初村家の最高の客人として、歓迎しますから。ってね。

すみにおけないね、といわれた由貴子が。平然と。
貴方の妻ですもの・・・と、いつもの淑やかさを失わないで。
ものを投げたり、もちろんダンナをひっぱたいたりもしないのは。
なにも知らない初村が、じぶんのほうからしかけてきた・・・というところだけはほんとうだったからなのか。
初村さん。わたくしよりもずっと、お若いのに。
お目が高いのですね。
年配の貞淑妻のお味が、おわかりになるなんて。
あぁ。まったくだね。
おふたりのお熱さかげんには、ボクもずいぶん妬けたものだよ。
あなたこそ・・・若妻のお味はいかがでした?
う・ふ・ふ。
きみほどじゃなかった・・・と、申し上げておこうかな?


あとがき
浮気妻と淫乱妻とは、微妙に違うと思うのです。
これぞ・・・と想う殿方にだけ許すのが、浮気妻。
相手かまわず、肉体的悦楽に酔っちゃうのが、淫乱妻。
由貴子はどうやら、前者といいたいようです。
ステディな相手がいないときには。夫ひとすじ・・・
そうすることで、周囲の男が勝ち獲ようとする彼女の貞操の値打ちも高まると。
殊勝なことを、申しております。

それにしても。
夫がつまみ食いをした若妻の夫に言い寄られて。
それなりに彼女も、愉しんだのでしょうけれど。
案外と。
夫が相手のご主人の目を気にせずに若妻を愉しむことができるよう。
周到に計らった結果なのかもしれません。
夫想いの由貴子さん。
なかなか知能犯だったりするようです。

隣室 から

2007年06月25日(Mon) 07:13:37

ちぅちぅ・・・
ちぅちぅ・・・
隣室から洩れてくるのは。
新妻となった由貴子さんの生き血が、吸いだされてゆく音。
うふふふ・・・ふふ・・・
かすかな含み笑いが、重なり合い、交錯してゆく。
真っ白なブラウスに、バラ色の飛沫をほとばせて。
由貴子さんは白い歯をみせて、くすぐったそうに笑いこけている。
うら若い血潮を、惜しげもなく捧げながら・・・
吸血鬼の片手は、ブラウスのうえから肩を抑えつけて。
もういっぽうの手は、さりげなく胸元をまさぐっている。
ブラウスを通して受けるゆるやかなまさぐりがくすぐったいのか。
傷口に触れてくる唇が心地よいのか。
わたしの目線をじゅうぶんに意識しながら。
由貴子さんは白い頬に愉悦を滲ませる。
夢見心地に、浸りながら。
謡うような、声色で。
「母の血を・・・吸っていただきたいのです」
そんな怖ろしい言葉を、さりげなく。
口許から洩らしている。
まるで暗誦するように、抑揚のない口調だった。
ほほぅ。
吸血鬼は、感心したように。
由貴子さんの肩に、さらに深いまさぐりを滲ませる。
いかが?
薄っすらと、ほほ笑んだのは。
母を襲って・・・という提案にたいしてなのか。
自ら捧げた血潮の味を問いたかったのか。
そのどちらにも、応えるように。
やつは、うふふ、と、笑みくずれて。
いまいちど、由貴子さんのうなじに、唇を這わせてゆく。
きゃっ。
ふたたび撥ねたバラ色のしずくに。
小娘みたいに、身をすくめながら。
わたしのときみたいに。きれいに襲ってあげてくださいね。
薄っすらとした目線。謡うような声色。
揺れるまなざしのかげに、妖しい情景を思い描きながら。
あのひとが、見ています。
犯してくださいな。
声はやはり、謡うようだった。


あとがき
再あっぷ分に触発されてしまいました。^^;
「妻の悪戯」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-1069.html
「侵される喪服」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-10.html
「喪を破る」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-1070.html
「朝食」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-1071.html

慈善事業 3

2007年04月30日(Mon) 08:08:51

脚ぜんたいを、ぬるりとおおっていたガーターストッキングを、
ハイソックスみたいに、ひざ小僧の下までたるませて。
四角く折り目正しかった襟首を、いびつにゆがめた胸元には。
泥と汗と、かすかな血。
由貴子さんは、はれぼったい目をして。
わざと乱された衣裳のまま、帰宅する。
きょうは、連れもいるようだ。
つづいて入ってきたのは、母。
凌辱されたブラックフォーマルが、ふしだらと裏腹な気品を滲ませているのは。
「年の功かしら?」
振り返った新来の女は、由貴子さんのお母さん。
申し合わせたようにおそろいのブラックフォーマルのすそに、かすかな泥を滲ませて。
破かれた黒ストッキングの脚を、互いに見せ合って。
男のひとって、喪服が好きねぇ。
ウフフ・・・って、笑み合っている。
しょうがないわねぇ、と悪戯っ子にあきれるように。
さいごに入ってきたのは、律子さん。
純白のセーラー服を、やっぱり泥だらけにされて。
母や祖母たちとおそろいの黒ストッキングは、
紙のように他愛なく、破かれている。
まだ、処女なんですよ。
だってあのかたたち・・・処女の血をたいそう好まれますものね。
妻は透きとおった笑みをたたえながら。
律子さんの身づくろいを、息子に手伝わせている。
着替えを持ってきた息子は、母親たちの目を盗んで、
恥らう律子さんの足許から、破けた黒のストッキングをチャッ、チャ・・と剥ぎ取っていった。

御覧になっていたわね?
薄っすらほほ笑む妻に。
息子も私も。おそらくは、この場にいない父さえも。
苦笑をもって、むくいるばかり。
慈善事業。けっきょくは、だれのためなのかしら?
涼やかな声のうそぶきを、聞えなかったように受け流していた。

慈善事業 2

2007年04月30日(Mon) 07:57:12

おや、お宅もですか・・・
エェ。そちらもなんですね。
お隣同士。夫同士。
ひそかな呟きに込められた、濃厚な共感に。
しばし、互いの立場を思いやる。
夜更けて、さ迷い出るように。
ひっそりと出かけてゆく、妻たち。
それを送り出す、夫たち。
妻たちは、まるで申し合わせたように。
ぴかぴかのハイヒールに、黒のストッキング。
夜の闇にコツコツと響く硬質な足音が遠ざかると。
夫ふたりは、互いの目を見て、笑んでいる。
いかがです?どうせ、お寝みにはなれないでしょう?
そうですね・・・あとをつけてみますか。
お互い、悪戯ざかりの少年のように。
おなじことを考えついていた。

村はずれの納屋は、女たちの解放区。
息を忍ばせるようにして、夜道をたどってきた女たちは。
待ち受けていた男どもに、護られるように取り巻かれ。
逞しい猿臂に巻かれながら、スーツやワンピースに着飾った身を淪(しす)ませてゆく。
脱がされるブラウス。
中身ごと、もみくちゃにされるブラジャー。
たくし上げられた紺のスカートから覗く太ももは。
ついぞ見慣れない、ガーターストッキングに区切られている。
妻たちは、背中合わせに立ったまま。
くすくすと笑み合いながら。
あらまぁって、恥じらいながら。
縛めをうけているわけでもないのに、唯々諾々と意のままに随ってゆく。

なかなかやりますね。あいつらも。
お隣のご主人は、妻の情人たちを賛美している。
どうやら負け惜しみだけでは、ないようだ。
ほら、あんなに上手に、家内のおっぱい揉みくちゃにしちまって。
あんなに感じているところ・・・めったに見ることができないのですよ。
うちの妻も・・・感じ始めているらしい。
頬にさしたバラ色をした高潮が。
いつになく生々しく、はずみがついている。

脱がされたハイヒールが、藁の上に転がった。
ストッキングの薄いつま先を、なかば泥にまみれさせて。
女たちは、きゃあきゃあとはしゃぎながら。
戯れかかってくる男どもを、あしらいかねてゆく。
くすぐったそうに身を揉みながら、服を脱がされてゆく奥さんに。
あいつ、あんなに太もも、開いちゃって。
うぅん。なんて、いやらしい・・・
ご主人、いやらしいのは。僕たちのほうかもしれませんよ。
けれどもわたしも、ひとのことなど言えやしない。
由貴子さん、わたしとの夜よりも・・・昂ぶっておいでですよね?

あっ。あいつぅ・・・
お隣のご主人が歯噛みをしたのは。
真っ先に奥さんに挑みかかったのが、大の仲良しだったから?
あっ。妻のほうもいつの間にか、組み敷かれている!
黒光りしているガーターストッキングを穿いたまま。
しなやかな脚をヘビのようにくねらせてゆく、藁のうえ。
はっ、はっ、はあっ・・・
迫るほどの息遣いに、息遣いを重ねてゆく、獣になった男たち。
わたしの妻と、知りながら・・・
彼の奥さんと、知っていながら・・・
ただ本能のまま、おおいかぶさって。
ふざけるように。じゃれ合いながら。
藁の褥を、乱してゆく。
あっ、あっ、あんなに乱れちまって。あんなに奥まで、入れさせちゃって。
ご主人、声が大きいですよ。

妻たちに群がる男どもは。
職場の後輩だったり。
息子の学校の先生だったり。
とにかく誰もが、仲のよい身内や友人。
翌朝になったなら。
おや、いいお天気ですね。
だなんて。
当たり障りのないあいさつを、しかけてくるのだろうか。
お宅の奥さん、おいしかったですよ。ごちそうさま♪
なんて、想いながら・・・

慈善事業

2007年04月30日(Mon) 07:36:00

出かけてくるわ。
夕暮れ刻に妻がそんなふうに囁くときは。
かなり、あやしい。
白い頬に、謎めいたほほ笑みを薄っすらと浮かべて。
嘲るように、気遣うように。
かすかな声を、ホホ・・・と洩らしながら。
何処へ・・・?
と問うわたしに、待ち構えたように返される応えは。
慈善事業。
まだ少女のように初々しく透きとおる頬に、ポッとさしたバラ色が。
すべてを、物語っている。

結婚できない中年の独身者。
遊ぶほどのお金を持たない少年たち。
吸血鬼のもとに血を吸われに出向く妻たちを留められなかった、わたしの同類項。
そうした、夜のパートナーに不自由している男性たちを、慰めるため。
三々五々、家を忍び出て、夜の闇にまぎれ込んでゆく、人妻たち。
そんな人群れのなかに、ほかならぬ妻の影も交じってゆく、妖しい夜。

今夜はお義母さまも、ごいっしょなのですよ。
まるで華やかな夜会にでも出向くように、ウキウキと告げる妻。
あぁそれと。律子さんもお連れするんですよ。
律子さんは、息子の敦夫の婚約者。
女学生って、需要が高いの。ちょっぴり妬けるわ。
そういえば。
ご近所の独身中年氏が、制服姿の息子をつかまえて。
やっぱり若いお嬢さんは、いいねって。
囁かれた敦夫のやつも、くすぐったそうに笑っていたっけ。
姑ともども。息子の未来の花嫁ともども。
顔を並べ、隣り合わせに犯されてゆくというのだろうか・・・

そんなわたしの思惑も、知らぬげに。
白のタイトスカートの下、薄黒いパンストをむぞうさに脚に通していって。
ぐーんと伸びる薄手のナイロンが、白い脛を今夜も妖しく染めてゆく。
娼婦のように手馴れた身づくろいを、
いままで幾晩、見守ってきたことだろう。
バッチリとキメた、かっちりしたデザインの白いスーツ。
妖艶な気品をたたえた、黒のストッキング。
長い黒髪をきりりと結い上げてあらわにした白い首筋を。
まるで鶴のように気高くふりたてて。
薄い唇を真一文字に引き結んで。
ひっそりと出かけてゆく妻。
闇の向こうには、どんな男たちが待ち構えていて。
清楚に装ったスカートの奥、滾りたつ毒液をほとばせてゆくというのだろうか。
あくる朝、何事もなかったように清楚な笑みでわたしを勤めに送り出す妻。
それとなく家のまえを通りかかる、妻を犯した男たち。
ひと晩妻を共有したものたちの、露骨なまでの感謝のまなざしが・・・痛痒い。

若妻のころ

2007年04月25日(Wed) 07:27:47

由貴子さんが若妻だったころの一情景です。

その晩帰りが遅くなって。
帰宅した玄関を照らす門灯の輝きの、わずかな変化にそれと察して。
インターホンを鳴らさずに、門をあけて、
足音忍ばせてもぐりこんだ、庭先の闇のなか。
覗き込んだガラス窓の向こうには、案のじょう。
若妻となった由貴子さんのほかに、もうひとつの影。
恋人同士、もしくはごく親しい身内どうしの雰囲気漂う、寄り添った姿。

由貴子さんは、結婚前好んで装った、白一色のワンピースに。
カラフルな花柄のエプロンを着けて。
すっかり主婦になったね。
そんな囁きに、夢見心地にうなずいている。
アッ。ダメだ。乗ったらいけない。悪魔のささやきに。
そんな私の心の叫びは、
長い黒髪のポニーテールを愉しげに揺らす耳もとには届かない。

ヤツは、なれなれしく由貴子さんの肩を、抱き寄せて。
我がもの顔に、接吻を奪う。
ねっとりと、密着する唇と唇が。
せめぎ合うように。
なにかを交し合うように。
かたくかたく、結びついている。
もはや・・柔らかな鎖に結びつけられてしまった、ふたつの影。
唇を離し、向かい合い笑み合う由貴子さんの透きとおった頬は。
夫に隠れて身も心も許している軽い罪悪感という、甘美な毒に輝いていた。

でも・・・
ためらいうつむく由貴子さんは。
体内をめぐる血に織り交ぜられた毒が。
まだ、まわりきっていないのだろうか。
いざ寝室へ・・・と誘う手を軽くこばんで。
台所のまえ、ちょっとのあいだ、立ちすくんでいた。
貞操を守りぬこうとする彼女の努力は、どこまで続くのだろう?
すねを薄っすらと彩るのは。
ひざ小僧まで覗かせた、寸足らずのワンピース。
すらりと伸びる足許をうっすらと彩るのは。
白のワンピースにはやや不似合いな、薄墨色のストッキング。

主人だけに許した肌身を、おのぞみですか?
そんなふしだらなこと・・・主人に叱られてしまいます・・・
夫ひとりに捧げた貞操を、貴方にもお捧げしなければならないのですか?
秘めやかに流れるような、由貴子さんの抗弁に。
余裕たっぷり、いちいちうなずきを与える、黒い影。
由貴子さんはなぜか、白い頬に薄っすらとした笑みを浮かべながら。
エエ、わかりました。
主人にナイショにしていただけるのなら・・
ひと様に、みだりに破かせてはいけないと主人にさとされているのですが。
わたくしの履いているストッキング・・・
破っていただきたくって、さっきからうずうずしておりましたの。

まるで、これ見よがしなように。
由貴子さんは、細い腕を吸血鬼に腕にからみつけるようにして。
ちょっとのあいだ、首筋をゆだねて。
白い肌を、舐めさせている。
青白い静脈の透ける、薄い皮膚のうえ。
チロチロと這い回る、毒蛇の舌。
あっ、いけない・・・ダメだ。そんなことを許してしまっては。
素肌にしみ込まされる毒が。
きみの理性をさいごの一線まで、つき崩してしまうのだから。
けれども、わたしの訴えは届かない。
由貴子さんは足許をさらりと撫でつけて。
薄っすらと、謎めいたほほ笑みをたたえながら。
足許に迫る唇を、挑発するように見おろしている。
黒のストッキングに縁どられた、ふくらはぎの輪郭に。
じょじょに近寄せられてゆく、まがまがしい熱気を帯びた唇に。
足許への誘惑を、ウキウキと見つめる由貴子さんに。
わたしは本気で、嫉妬する。
いけない、ダメだ!わたしの由貴子に、なにをする!?
吸血鬼の横顔が、冷やかすように笑んだのは。
気のせいだったのだろか。

ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・くちゅうっ。
あからさまに波立てられて、くしゃくしゃによじれてゆく黒のストッキング。
淑女の品格を、乱されて。
乱されることに快楽をおぼえる由貴子さんも。
いまは、柏木夫人を辱めている共犯者。
足許の凌辱を愉しむふたりは、申し合わせたように、目線を合わせて、ほほ笑んで。
いかが?若妻の味・・・
ウフフ。美味だね。柏木くんには、すまないが。
わたしの性欲処理女に、なっていただけるというのだね?
アラ、そんな・・・恥ずかしい・・・
我がもの顔に抱き寄せられた、細い肩。
隣室にととのえられた夫婦の褥は、なぜかさいしょから。
こうこうとした灯りの下に、さらされていた。


あとがき
由貴子さんの態度がにわかに積極的になったのは。
きっと・・・覗かれているということに気づいたあたりからだったのでしょう。
あるていど、さいしょから合意のうえでの訪問だったようですが。

寵遇か?恥辱か?

2007年02月07日(Wed) 07:40:52

男女がまぐわうという、おなじ行為が。
あるときは寵遇と羨まれ、あるときは恥辱と忌まれる。

身内の女たちは、ひとつ部屋に集まって。
だれもがいちように、唇を引き結んで。
女の集まりにはつきものの 和やかなざわめきは。
いつになく、シンとかげをひそめている。
わたしはそのなかに、入っていって。
  由貴子、きみの番だよ、と。
妻の名前を、告げている。
きゃっ。
妻は思わず両手をあわせて。
はずんだ声を、忍ばせて。
周囲を気遣うように、ごくひかえめに。
歓喜を頬に輝かせる。

さ、こちらへおいで。
羨望の視線を一身に受けて。
わたしに肩を抱かれながら、部屋をあとにする。
しゃなりしゃなりと、スーツのすそをたなびかせて。

今宵のいちばんのお呼びは、だれにあたるのか。
それで、あしたの運気さえ占う女たち。
妻の招かれるさきは、吸血鬼の待つ褥。
夫婦の部屋にしつらえられたベッドのうえで、
妻はひととき、夢の刻に酔いしれる。

ほんのすこし、血を吸うだけさ。
見え透いた嘘を、わざと真に受けて。
しかたのないお人だね。
秘められた密事は、言葉の裡に塗り込められていた。

男女のまぐわいという、おなじ行為が。
あるときは、寵遇。あるときは、恥辱。
妻を犯される。
その行為に、恥辱を覚えるのは。
意に添わぬことを強いられるがゆえのこと。
たいせつなものを、踏みにじろうとするのか。嘉しようとするのか。
ひとつの行ないの価値を決定づけるのは。
抱くもの 抱かれるもの 抱かせるものの心映えなのか。
ともに愛し抜こうというのなら。
どうしてそれを拒むことがあるだろう?
薄闇の彼方、くり広げられる恥辱の宴。
わたしは恥を忘れて、闇の彼方を見通そうとしている。

当直の夜

2007年02月01日(Thu) 07:48:03

ひとり淹れたコーヒーの湯気が漂う、当直の夜。
静まり返った深夜のオフィスは、昼間とはまったく違う面貌をみせる。
しつらえられた机や椅子も。
雑然と置かれた書類も。
なにひとつ、昼間と変わっていないはずなのに。

チリリリリン。
にわかに響く、電話の呼び出し音。
なにかあったのか?
はっと飛びついた受話器の向こうから聞えてきたのは。
もしもし、あなた?
ゆったりと響く、妻の声。
気分がスッと、入れ替わってしまう。
なんだ、お前か。どうしたんだ?
由貴子は、くすくすと笑いながら。
なんだ、はないでしょう?
トーンを抑えてしのばせた声色が、いつになく深く低く響いてくる。
かわいい妻が、こうして電話をかけてきた、というのに。
ねぇ。
受話器の向こうの声は、傍らのだれかに相槌をもとめている。
だれかいるのか?
われ知らず、ちょっと迫らせた声に。
あらぁ、気になる?
それ、食いついた・・・といわんばかりに。
すこし高くなった声色に、挑発的なものを滲ませていた。
いらしてしまったのよ。わたくしを襲いに。・・・ムラムラなさるんですって。
若い女の血が欲しくって。喉がカラカラに渇いちゃって。
看護婦が患者の病状を医師に逐一つたえるように。
たたみかけるように、つぶさに状況を告げてくる。
わたくし、血を吸われてしまうのよ。
そのあときっと、たぶん犯されてしまうわ。
困惑しているような。辱めに耐え切れない、というような。
それでいて。
明らかに、状況を愉しんでいた。
いいわよね?
念を押すことも、忘れない。
だしぬけに、
あっ!やだ・・・。
数十秒の沈黙。
なにをしているんだ?なにをされているんだ?
妄想がめまぐるしく駆けめぐる、刻一刻。
どくどくと昂ぶる血が、全身をめぐりめぐって。
いつかわたしの血潮まで、妖しい色艶を帯びてゆく。
もぅ。
すねて、口を尖らせている妻の声。
今度お目にかかったら、よく言ってくださいませ。
ストッキングを穿いた脚、めろめろになさるんですのよ?
こんな夜更けに、ストッキングなんか穿いているのか?
咎めるように、訊きかえすと。
おねだりされてしまったのよ。
だから、ちょっぴりおめかししているんです。
聞いて・・・といわんばかりに。
こないだ買っていただいた紫のワンピースにね、白のストッキング。
どう?お姫さまみたいでしょ?囚われのお姫さま♪
下にはね、貴方の好きなレースもようの黒のスリップ着ているの。
たぶんきっと。視られちゃうわね。スリップの色・・・あっ、ダメ!
ダメダメダメ・・・っ
言葉と裏腹に、イタズラッぽく誘っている妻。
布団に圧しつけられてしまったらしいくぐもった音。
受話器を取り落としたのか。
せめぎ合う音がやや遠のいたぶん。
妄想がよけい、増幅される。
やめろ、やめてくれ。仕事中なんだぞ・・・
空しい声は、たぶんきっと、届かない。

チン。
受話器を置いた由貴子は、フフ・・・っ、とほほ笑んで。
静まり返った周囲に目線をめぐらせた。
だれ一人いない室内に。
夫に告げたとおりの紫のワンピース姿だけが、ぽつんと佇んでいる。
子どもたちも、もう寝静まっていた。
あのひとったら。
ここにはだぁれも・・・いないのに。
予想以上の旦那の狼狽に満足しながら。
さて・・・夜のサービスはこれまでね。
もう、遅い時間。あのひとが戻ってくる夜明けを、きりりと迎えなくちゃ。
ワンピースの後ろのファスナーに手をやったとき。
かたり・・・
ドアの向こうに、かすかな音。
え・・・?
戸惑う由貴子の目の前に、黒い影が霧のように流れ込んでくる。
えっ?えっ?
影はたちまち、人のかたちになり、丁寧な会釈をしかけてきた。
いい月夜だね。
人のわるい笑みを滲ませた唇が、震えるほどの飢えを帯びている。
いつもながら、素敵なおめかしだね。由貴子。
月夜の夜。令夫人は奴隷に堕ちる。
・・・分かっているね?


あとがき
戯れにしかけたテレホンセックスは、あやしの影まで起き上がらせてしまったようです。^^;

目のまえの褥

2007年01月27日(Sat) 07:38:03

「来なさい」
昂ぶってくると、外人のようにたどたどしく言葉をつづる彼。
妻は戸惑いを装って、わたしのほうをちらちらと窺いながら。
それでも手を引かれるまま、腰掛けていたソファから立ちあがる。

由貴子・・・ユキコ・・・
離さない。死なせない・・・
母親に甘える幼な子のように、頑是なく。
男は断固とした口調で、支離滅裂な言葉を迷わせる。
夫婦のベッドのうえ。
はだけられたブラウスから、すこしずつあらわにされてゆく、白い肌。
首筋にしっかりと這わされた唇は、
さっきからどれほどの血液を抜き取ったことだろうか。
妻は蒼ざめた頬に、かすかな笑みを含ませながら、
主人が見てます。
熱っぽい求愛をあらわにする吸血鬼に、理性を取り戻させようとするのだが。
いいや!違う!
きみの主人は、彼ではない。私だ。
彼は、ただの夫なのだろう?きみは私の奴隷なのだろう?
聞き分けもなく言い募る男に、妻は苦笑いをうかべて。
困ったひと。
ぽつりと呟くと、心を決めたように、口ぶりをあらためて。
そう。あのひとはただの夫。ご主人さまは、あなた様おひとかた。つい、言い間違えてしまいましたわ。
吸血鬼の娼婦に、なりきっていた。
結婚の誓いを忘れて、淫らに腰をあわせても・・・かまわないというのだね?
ええ。
はっきりと、うなずく妻。
胸をぐさりと突き刺されたように。
わたしはかすかな呻きを洩らす。
あぁ、きみはわたしのことなど忘れてしまうというのかい?
心の問いが、とどいたものか。
いいえ。夫を忘れることは、できませんわ。
目線はまっすぐに、彼のほうへと向けながら。
声色は明らかに、わたしに向けられている。
忘れることはできないから・・・こうやって・・・見せつけてしまうのよ。
いけない妻ね。
自らすり寄せていった肌が、かすかな血の気を帯びている。
彼の首筋に這う細い指が。
まぐわおうとして沈み込んでくる臀部に応えてゆく腰つきが。
これ見よがしに、愉悦を滲ませている。
さあ、わたくしは、あなたの所有物(もの)。
犯し抜いて。辱め抜いて。恥を・・・忘れさせて。
ぎしぎしときしむベッドのうえで。
今夜も令夫人の操は、むさぼり尽くされてゆく。
吸血鬼は女を酔わせ、己も酔い、盗み見る夫さえも、酔い痴れさせて。
ひたすら、精をそそぎ込んでゆく。

夢かうつつか ~遠来の客人 続編~

2007年01月16日(Tue) 06:44:09

また目の下に、くまを作ったね?
浮気がばれたとき。
夫はいつもそういって苦笑いを浮かべ、
由貴子さんは、くすぐったそうに微笑み返している。


こんどばかりは、ほんとうに。
眩暈がした。
海の向こうからわざわざ自分の血を吸いに来たという、ふたりの女吸血鬼。
夫や娘、息子たちまで交えて・・・とはいいながら。
その直前、彼女たちになりすましたべつの吸血鬼に襲われて。
甘美な夢をともにした、すぐあとのことだったから。
かりそめにも抱かれた、男の老吸血鬼。
あのときうなじに這わされた口づけの、熱っぽさに。
たぶんいつわりはなかったのだろうと、感じていた。

女どうしなのに・・・体を求められてしまいました。
いかにも申し訳なさそうに、傍らの夫に流し目を送りながら。
それでもいとも愉しげに、由貴子さんは遠くに目線を迷わせている。
密室のなか。
目覚めたときには、傍らのひとは、失血に惑っていた。
お目覚めね?
容赦のない女吸血鬼は、悪戯っぽく小首を傾げて。すり寄ってくる。
吸い取ったばかりのだれかの血をあやした唇を。
べったりと、這わされながら。
すぐにまた、夢のかなたへと堕ちてゆく。
目覚めたものが尽くされるころには、べつのだれかが意識を取り戻し、
そしてまた、夢に迷わされてゆく。
都内のホテルの一隅で、夢とうつつの境界をさまよった、三日三晩。
戯れかかってくる金髪と、褐色の肌と。
半ば困惑し、半ば悩乱し、ほとんど理性を迷わせながら。
魔性の痴態の渦に巻かれてゆく。
体のすみずみまで、血を漁り採られてしまったか。
そう思えるほどだったが。
実際に喪われた血は、いがいに多くはなかったらしい。
頭数なら、夫も入れてこちらは四人。血を吸うのはふたり。
むしろたんのうされたのは、性別をこえた念入りな愛撫のほうだったかもしれなかった。

ふたりを村に伴うと。
一瞬の恐慌がかけめぐり、そしてすぐに、うそのような静謐が訪れる。
今夜は、どこの家の娘や人妻を押し倒しているのだろうか。
女吸血鬼どもは、若くて色っぽい女から血をすするのが好みらしい。


独り歩く夜道には、ひんやりとした冷気が冴えわたり、
澄んだ月影だけが、くろぐろとつづく一本道をわずかに照らしている。
さっきまでベッドをともにしていたのは、黒衣の情夫。
じゅうたんのうえ、夫の目線もはばからず。
あらぬ痴態を、飽きるほど尽くしてしまっていた。
夫にしてからが。
村の女たちを狩りにゆく異国の吸血鬼どもから、
オードブルを漁りとられて、もぅとっくに正気をなくしていたのだが。
情事を済ませると、シャワーを浴びて。お着替えをして。
お色直しはばっちりと、すきもなく。
そうしていまは、家路をたどっている。
めずらしく、だんな様が朝帰りだわ。
心地よい疲労が、体の隅々に疼いていた。


闇のかなたに、いちだんと濃い闇を見出したのは。
都会の夜以来、神経が鋭くなっていたせいだろうか。
左右は、背のたかい草むら。
といっても、季節が季節だから、そよいでいるのは枯れ草ばかり。
からからと、乾いた葉ずれをたてている。
草むらのまん中を、どこまでもつづく一本道は、わずかに月明かりに浮かび上がっていて、
かろうじて夜道を急ぐものの道しるべとなっているのだが。
視界の果てとおぼしきあたり、なにかがたしかに、黒々とうずくまっている。
男女が夜道に夢をむさぼり合うのは、例の公園と決まっている。
乱倫・・・といっても。
むりむたいに、襲うわけではなく。
永いあいだのしきたりが、依然として村には厳存しているのだった。
まして吸血鬼の愛婦である由貴子さんに、危害をくわえようとするものなど、いるはずもない。

だれ?
由貴子さんは、いぶかしげに、小首をかしげ、
闇の奥を見通そうとしている。
慄っ、としたのは。
あいての正体を、ほぼ一瞬にして察してしまったからだった。
空港の屋上で、殺害を意図として彼女の血を吸った男。
しつような目線がじりじりと、清楚な立ち姿に注がれてくる。


逃げられない。決して、逃げられない。
油断のない身のこなしは、天性のものだろう。
由貴子さんは硬直したように立ちすくんでしまっていて。
その隙に、音もなく。
二十歩ほどもあったはずのふたりのへだたりは、あっという間に詰められていた。
手を伸ばせばすぐに、抱きすくめることのできるほどの間近さに。
ヘビに魅入られた、小動物のように。
由貴子さんはただ、怯えるばかり。

月明かりに浮かび上がる、冷えた手が。
すーっと。
一直線に、差し伸べられてくる。
つかんではいけない。つかまれてもいけない。
直感的に危機を覚っていたけれど。
由貴子さんの手は、それに応えるように、うつろに伸びていって。
ほっそりとした白い指を、とうとう冷えた掌につかまれてしまっている。

握られた手首に伝わってくるのは、厭わしいほどの情念を帯びた痛み。
痛いわ。
思わず、つぶやいていた。
いったんこめられた力が、手首からスッと引いてゆく。
女の手首の、思いのほかの頼りなさに、たじろぎを覚えたらしい。
こんどは、そうっ、と身を寄せてきて。
かすかな声で、耳元に囁きかけてきた。
息をしていない。
ゾクッとしたのは、つかの間のこと。
ふっ、と息をはずませて。
由貴子さんは邂逅した紳士にたいして、頬に薄っすらとほほ笑みかけている。
みずからだけは口許に、白い息を漂わせながら。

いい月夜ですわね。
なにごともなかったように。
念のこもった目線を受け流して。
由貴子さんはのどかな声で、澄んだ月をみあげている。
これ見よがしに。
白い首筋を月明かりにあてながら。
抱きすくめてくるかと思ったが。
熱いものを押し当てられたのは、手の甲だった。
男の手にゆだねられたままの華奢な手に、恭しい接吻が重ねられる。
すみませんでした。マダム。
男の発した声は、物柔らかだった。
だましつづけて、空港の屋上にいざなったときとおなじくらい。
けれどもあのときとちがう真情がこめられているのを、
由貴子さんは聞き逃さなかった。
わたしの邪悪な接吻を・・・貴女は決して、拒まなかった。
偽り吸い取った貴女の血に。
汚れた魂さえ、浄化されてしまったのですよ。
この世はむろん、あの世にすら居場所のなくなったものに。
いますこし、お情けをたれ給え。
男はそう囁くと、少年のように震える唇を、はじめて女のうなじに這わせていった。
ア・・・
厭わしげにひそめた眉は、ただ体面をとりつくろっただけ。
襲うほうも。襲われるほうも。暗黙の裡に、察しあっている。
ちゅ、ちゅー・・・・・・
夜の闇の中。
しつような吸血のひびきがひとすじ、いつまでもつづいてゆく。


だいじょうぶなのか?
シッ!
さいしょの声の主は、柏木だった。
それを制したのは、由貴子さんの情夫のほう。
過度の失血は、意識を宙に迷わせた柏木から、寒ささえも忘れさせている。
妻の体におおいかぶさる、しつような吸血の音に。
いつか夫までも、われを失ってしまっていた。

男の腕のなか、華奢な体が平衡を失いかける。
草の褥など・・・マダム。貴女には似合うまいが。
まるで壊れものを扱うような用心深さで、男は由貴子を傍らの草むらに横たえる。
お許しを。
主に拝礼するように、鄭重な声色だった。
かつての倣岸さは影をひそめ、いまは老いさらばえた震えが、怯えにさえ似た畏れをたたえている。
由貴子さんの下肢をおおうのは、真っ白なタイトミニ。
このような薄い服を。さぞや、寒かろうに。
男の声は、どこまでも思いやりに満ちている。
スカートのすそを、そうっとたくし上げてゆく。
草陰からドキドキとした目線が注がれていることには、まったく気づいていないようだった。
ストッキングに包まれた白い脛が、月明かりに滲み出た。
うふふ・・・うるわしい。
獲物を賞玩するように。
男は気を失いかけている由貴子さんの太ももを、ゆるゆると撫でまわしている。

圧しつけた唇の下。
透明なストッキングに、かすかなしわが波打つ。
薄い生地の向こう側で、うら若い血潮を秘めた柔肌が、ぴちぴちとはずんでいた。
お許しあれ。
男のつぶやきに、女はかすかに頷いている。
きゅうっ。
押し殺すような吸血の音が、ふたたびあがった。
あぁ・・・
陶然となった妙なる声に、男はくすぐったそうに笑んで、
薄い皮膚に突きたてた牙を、いっそう深く沈めてゆく。


ぜんぶ、差し上げなければならないのでしょうか?
抱きすくめた腕のなか、女はうっとりと囁きかけてくる。
皆さん、欲しがっていらっしゃるのですよ。由貴子の血を。
困ったわ。
そういいたげに、薄っすらと笑みかけてくる白い頬を。
男はむしょうにいとおしそうに撫でさする。
訴えるような目線に、獣じみた飢えが、癒されるように引いてゆく。
そもそも、飢えを満たして支えるべき魂そのものが、すでに失せていた。
魂魄すらない、幻影。
いまはただ、かつての劣情と怨念の残滓だけが、幻のように、男の影をかたどって、闇のなかをさ迷うばかり。
どうぞ、召し上がれ。由貴子は怖くありませんから。
夢見心地に囁きかけてくる声色は、空港で襲ったときそのままだったのだが。
そう、あのときも。
ただの体温ばかりではないぬくもりに、男はただ夢中にすがりつくように寄り添っていって。
一瞬、魂を女にあずけたものだった。
しっとりとした、いたわりに満ちた笑み。
奥ゆかしい・・・
日本の婦人というのは、かつてもいまも。こんなふうに男を癒すものなのか。
男は黒髪に覆われた小さな頭を抱きかかえ、
まるで娘をいとおしむように、ゆっくりと頬ずりを繰り返す。
「精をつければ・・・いますこしは耐えられような?」
震えを帯びた声色に。
えっちですね。
由貴子はくすり、と笑い返している。


ゆさ、ゆさ。ゆさ、ゆさ。
背の高い枯れ草の穂先が、不自然に揺れている。
あたりの微風にさからうように、草陰に秘めた熱情を伝えて、
がさがさと耳障りな音をたてていた。
時おり茂みのむこうから。
ぬるりとした艶をおびた太ももが、にょっきりとのぞいた。
のぞいては隠れ、隠れてはあらわになる。
そのたびに、まとわれていたストッキングはすこしずつずり落ちていて、
女の淑女ぶりを、あらわに見せつけるようだった。
はぁ、はぁ。せぃ、せぃ。
届くはずもない息遣いが、間近に響くような錯覚に。
柏木はいくたび昂ぶってしまったことか。
立ち上がりかけては、引き止められ。
引き止められては、かぶりを振って。
草陰のかなたをうろうろと窺っている。


出ていらして。
もう行ってしまわれましたわ。
澄んだ闇のなか。
落ち着き払った由貴子さんの声が、虚ろを帯びて響き渡った。
耐えかねたように、がさがさっと枯れ草を踏みしだく音が、白い華奢な立ち姿へと向かってゆく。
いつものように、軽く小首をかしげて。
由貴子さんはゆったりと、少女のような笑みをたたえている。
ごめんあそばせ。たっぷりと。注がれてしまいました。
薄っすらとした笑みの裡に。
もう永遠に訪れないであろうものへの悼みが秘められている。
よくがんばったね。
いいえ。
ねぎらう夫。いたわる妻。
どうやら危機はほんとうに、去ったらしい。
怨念を消した魂が、村を囲む木立ちの奥深く、さまようことがあったとしても。
もはや邪悪な危害とは遠くへだったった、透明な焔としてのみ、くゆらぎつづけることだろう。
失血に頬を心持ち蒼ざめさせてはいるものの。
由貴子さんは、いつもの挑発する妻にたち戻っている。
黒のストッキングのほうが、よろしかったかしら。ねぇ。
ひざ下まで破れ落ちた透明なストッキングをもてあそびながら。
じいっと注がれてくる上目遣いが、夫の頬に心地よかった。


あとがき
完全に魂を澄みとおらせるまでに。
いまいちどの逢瀬を重ねることが、必要だったようです。
冬の夜道の寒さをだれもが忘れるほどの、熱っぽい邂逅でした。

遠来の客人 ~国際空港にて~

2007年01月14日(Sun) 14:02:13

きみたちの生き血を、遠来の客人に振舞いたい。
吸血鬼はいつものように、紳士的なもの柔らかな声色で。
ただし、拒絶を許さないハッキリとした口調で、目のまえの男女に告げている。
いちようにうなずいているのは、柏木家の人々。
あるじの好夫を筆頭に、その妻由貴子、それに息子や娘たち。
だれもが皆、いちように。
彼の冷ややかな笑みに、まるで催眠術に酔わされたようにうっとり聞きほれながら。
われこそはいちばんに牙を享けたいと・・・口々につぶやいている。

遠来の客人とはね。
わたしの遠縁にあたるものたちなのだよ。
わざわざ東ヨーロッパから、ご入来あそばされる。
写真をあげるから、空港まで迎えに行ってくれるかね?
都内のホテルをふた晩、オーダーしてあるから。
ぞんぶんに、振舞ってもらいたいのだ。
「本場の牙を、たっぷりと愉しめるわけですね・・・?」
由貴子さんは、うっとりとした口調で、吸血鬼を見あげる。
かつて、みずからの処女を与えたひと。
そしていまなお、夫も認める不倫の仲。
子供たちすら、揶揄しながらも。母親の火遊びを、面白そうに観察している。
性教育なのよ。
そんな奥さんの言い草に、柏木はいつも騙されたふりをしているのだが。
夫婦のあいだに漂う密着するほどの情愛が、三者の危うい関係をみごとに整合させていた。

差し出された写真には、ふたりの美女が並んで写されている。
ひとりは黒髪に褐色の肌。もうひとりは金髪。
それほど対照的な特徴なのに、血はつながっているのだろうか。
ふたりの顔は日本人離れして彫りが深く、面差しが似通っている。
いずれ劣らぬ美貌をに、競うような笑みをたたえていた。
肌の色は違うがね。姉妹なのだよ。家族ぐるみで、仲良くするといい。
吸血鬼はイキのよさそうな獲物を見つめるときの眩しそうな目になって、かわるがわる写真をのぞき込む四人を見つめている。
「金髪美人♪あなた好きそうね?」
じいっと見つめる由貴子さんの怖い目線を、柏木は困ったように受け止めて。
わざと目線をそらし、そわそわとしてみた。
もう・・・っ!
妻の振り上げたショルダーバックが背中を軽く叩くのが、奇妙に心地よい。


空港の混雑と喧騒は、空気の澄んだ村からすると耐えられないほどのものだったが。
なれるのは、すぐだった。
由貴子さんはピンクのジャケットに白のタイトミニ、ご自慢の黒髪はふさふさとしたウェーブのまま、軽く束ねただけで背中に流している。
足許は、ぴかぴかに磨かれた黒のエナメルのハイヒール。
あらわになったひざから下は、肌色のストッキングがつややかな光沢を放っている。
遠目にもそれとわかるほどの、どきどきするほどの光沢に、息子の目線は釘づけになっていたけれど。
さすがにもの慣れた夫の目線までは、ひきつけきれずにいるようだ。
「あ・な・た。どこ見ていらっしゃるの?」
訊かずとも、夫の目線の行く先は知れている。
空港といえば、行き交うキャビン・アテンダント。それにグランドホステスたち。
黒や濃紺、色とりどりのストッキングに彩られた脚は、
太さ長さもおもしろいほどさまざまに、
明るいフロアに、張りのある足音をリズミカルに響かせている。
「よそ見しちゃ、だーめ。貴方のお目当ては、金髪美人のはずでしょう?」
あ。はいはい。^^;
柏木はいつも、妻には頭が上がらないらしい。
子供たちの手前、もっともらしい態度を取りつくろって、妻のあとにくっついてゆく。

「どうにもならないわねぇ」
指定された便は、とっくに到着している。
けれども姉妹はいっこうに、姿をみせないのだ。
「別れて捜そう」夫の提案に、「そうね」妻はすぐさま賛同して、
「あなたたち、いいわね?写真持って探すのよ。集合場所は此処」
てきぱきと子供たちに指図をしている。
写真はかねて人数分、妻の手でスキャンされて、あらかじめめいめいに配られていた。


真っ暗な密室に立ち込める、煙草の煙。
旧式の八ミリカメラがじりじりと音を立てながら、不鮮明な映像をスクリーンに映し出している。
ばらばらの機会に撮られたらしい。
あるものは庭先で、あるものは街を歩いているところを。
被写体たちは、撮られているとも気づいていないらしく、態度も目線もごく自然で、却って人物の特徴がよく表現されていた。
棒読みのような無表情な解説に、ふたつの影が聞き入っていた。
「夫  柏木好夫、四十×歳。身長180cm、痩せ型。血液型はO型。知性は高いが好人物で、騙されやすい。
自ら家族を紹介して、その血を吸血鬼に与えている。気前のよい亭主ほど、好都合なものはないな」
聞き役のふたつの影は、くすくすと笑いを洩らした。
「妻  柏木由貴子、年齢不詳。三十後半から四十くらいか。歳を訊かれるのを嫌がる年代だな。
いつもこぎれいにしているのは、夫のためというよりはじぶんの血を吸いに来る愛人のためらしい。
ま、細君というものは、長年連れ添った亭主にこれ見よがしな愛情は振りまかないものらしいが。
これほど不倫を重ねながら亭主を騙しつづけているところをみると、顔に似合わずそうとうな悪女かも知れんて」
聞き役のふたりは、女性らしい。
必ずしも声の主の推測に賛意を表していないようだったが、活き活きと輝く白い肌に、食い入るように見入っている。
「娘  柏木百合枝。高校二年。母親似で、肌の色が白い。
ふたりの娘だから、弟ともどもとっくに血を吸われるようになっている。痛みへの耐性もじゅうぶんらしい。
初めて血を吸われたのは中学にあがったころだが。
やつの牙にかかりながら、いまだに処女でいるとは。やつにしては賢明な処置だな。すくなくともわれわれにとっては。
・・・愉しめるぞ」
「息子  柏木正久。中学二年。父親同様のお人よしだ。恋人を吸血鬼に逢わせているらしい。
当然、求められればすぐに首筋を差し出すことだろう。なんの疑念もなく、ね。
紳士的な態度が身についているのは、母親の影響だろう。
礼儀正しい母子をいたぶるのは、愉しかろう?」
影どもは顔を見合わせ、ほくそえんだ。
たちのよくない笑みかただった。
声の主が、ぱらりと一葉の写真をふたりのあいだに舞わせる。
ひとりは黒髪に褐色の肌。
もうひとりは、金髪に白い肌。
写真の主と、写真を見つめるものと。
髪型はたしかに写真と瓜ふたつに似せてあるものの。
顔立ちは、似ても似つかない。
なによりも険悪な形相が、邪悪な意図をあらわにさせている。
声の主は、打って変わって、それまでの理性的な声色をやぶって、感情をあらわにした。
「あいつらに、仕返しをしてやるのだ。さきに村にいたわたしを追い出して、好き勝手をしおって」
さっきまでの無表情をかなぐり捨てて、怒りに肩を震わせている。
日本に戻るのは、数十年ぶりのことだった。
褐色の女が、怒りに震えるボスのまえに、すっと手を突き出した。
「ボス」
声の主をそう呼んでおきながら。声色にも態度にも、あまり敬意はかんじられない。
手には細長い紐のようなものが三本、握られている。
ボスと呼んだ男に、合図するようにあごをしゃくった。
「くじ引き、か」
ボスは人のわるい笑みを含みながら、一本引いた。
女たちも、どちらからともなく残る二本を分け合っている。
「マサヒサ」「ユリエ」
女どもが、くすっと含み笑いをはじけさせると。
「ユ・キ・コ」
男がさいごに、ほくそ笑んだ。
「人妻か。役得だな。存分に、狂わせてやろう」
「少年も・・・」「娘さんも・・・」「亭主は、分け取りだな」
ククク・・・
邪悪な響きがいつまでも、もはや映像を写さなくなったスクリーンにしみ込んでゆく。


「あのう・・・」
柏木ジュニアが声をかけたのは、黒髪の女性だった。
呼び止められた女は、褐色の頬ににこやかな笑みをうかべて、
「HAI!」
小手をかざして、少年の無言の問いに答えている。
女は、グレーのジャケットに、おなじ色のパンツルック。
ジャケットのなかに着込んでいるエンジ色のセーターは、暖かそうなタートルネックだった。
「カルパチアのかたがたでも、東京はやっぱり寒いんですね?」
少年の言葉に女はちょっとびっくりしたように肩をそびやかし、
「寒がりなのよ」
とだけ、答えた。
きれいな日本語だった。
相手が日本語を話すことは吸血鬼からきいていたが、英語も覚束ない少年はひどく安堵を覚えた。
女はじぶんよりも背丈のひくい少年にスッと近寄って、両肩を抱きしめるように手を回し、ニッ、と微笑んだ。
「あなたの血で、暖めてもらわないと♪」
音楽的に響く軽い口調に、少年は酔ったように頷いてしまっている。

後ろからぽん、と肩を叩かれた。
「ユリエさんね?」
日本人そのままといえるほど、クリアな日本語だったけれど。
背後で微笑んでいるのは、黒のサングラスをした白人の女性。
肩先に流れるさらさらとした金髪が、うっとりするほどの輝きを放っている。
「あっ、失礼しました。お捜ししていたんですのよ」
ふだんの無邪気なさえずりを押し隠して、柏木百合枝はちょっぴり顔を赤らめる。
取り去られたサングラスの下から現れた碧眼は、それほどまでに深い輝きを秘めていたから。
「ねぇ、こっちへいらっしゃい。ご両親をびっくりさせてあげましょうよ」
音楽的な声色と、どことなくミステリアスななまめかしさが、目に見えない霧のように彼女の周囲に立ち込めている。
思慮深いふだんの彼女なら絶対ついてゆかないはずの誘い文句に、ついふらふらとのってしまっていた。

「どこまで行くんですか?」
少年は手をぐいぐいと引っ張られながら、すこし戸惑った声をしていた。
女は応えずに、足は送迎ロビーからどんどんと遠ざかってゆく。
どうするつもりだろう?抜け駆けで、ここで血を吸うつもりなのだろうか?
けれども少年は、抗おうとも拒もうともしていない。
初対面とは思われないその強引さに、とても惹かれるものをおぼえていたから。
たどり着いたのは、屋上にある送迎デッキだった。
雲ひとつなく晴れ上がってはいるものの、吹きさらしのデッキは寒々としていて、きょうは人影もほとんど見られなかった。
「here・・・」
女はことばを切って、
「give me your blood...すこし、いただくわ。いいでしょう?」
軽く、息をはずませて。
ぴたりと照準を合わせるようなつよい目線と、ほのかに濡れた唇が、ひどくセクシーだった。
なによりも思いつめたようなブルーの瞳が、少年に拒絶を忘れさせている。
ふたつの影が、ひとつに重なる。
ちゅーっ・・・
妖しい吸血の音がひとすじ、淫らな音色をたてた。

「あのぅ・・・」
送迎ロビーからどんどん離れてゆく足取りを、さすがに娘は気になっていた。
「両親を呼びますね」
娘が手にした携帯電話を取り上げて、女は自分のポケットにねじ込むと、
「隠れんぼ、っていうのでしょ?日本では。すこし愉しみましょうよ」
ロングブーツの性急な足音は、いつか人けのほとんどない野天の送迎デッキに向かっていた。
寒い・・・
木枯らしのなか。
ふたりの女は、いつか身を寄せるように歩みをすすめ、フェンスのきわで立ち止まる。
「きれいな肌、しているのね・・・あなた。ここでいただくわ」
ほほにかかる金髪を払いのけようともせずに、ひたと見つめてくる女。
瞳の魔力に十代の小娘を酔わせるくらい、かんたんなことだった。
百合枝はほんのりと焦点を喪った目線のまま、頷いてしまった。
ちゅーっ・・・
妖しい吸血の音に、女も少女も、理性を迷わせてしまっている。


ぜんぶ、吸っちゃうの?
少年は、すでに肩で息をしている。
思いのほか、失血がひどい。
つい夢中で吸われているうちに、かなりの刻が経っているような気がする。
だいじょうぶよ、だいじょうぶ。
背中に回してくるお姉さんの腕が居心地よくて、どう考えてもおかしい失血のほどをかんたんに忘れさせてしまっている。
まさか彼女が偽者の魔女とは、思いも寄らないことだった。
おいしい、おいしいわ。あなたの血。
ひくい囁きに陶然となって、うっとりと頷きさえしてしまっているのだ。
見て。
指さすさきには、ふたつの人影。
フェンスぎわに押しつけられるようにして覆いかぶさっているのは、金髪の女。
スカートを履いた少女はゆるやかにかぶりを振りながら、うなじを捕まえられたまま、
彼とおなじように、女に唇を許している。
蒼ざめた頬に、うっとり夢みるような笑みを滲ませて。
少女はひたすら、血を吸われつづけている。
姉さんだ。
気がつくまでに、かなりの時間がかかった。
あぁ。吸われているんだね・・・
狂ってしまった理性は、なかなかもとに戻らない。
それから、あそこにも。
囁きは、誇らしげに震えている。
あっ、ママ・・・
由貴子におおいかぶさっているのがふたりの女のボスで、じぶんたちのことを密かにビデオに撮りためをしていたなどと、彼らは夢にもしらないのだが。
由貴子は娘や息子ともども、小娘みたいにうっとりとなって、白のブラウスにかすかに血をしたたらせている。

「なんとか、赦していただけませんか?」
懇願する夫のまえ、飲血魔はなおも由貴子さんを放そうとしない。
ただ、むざんな食欲のまえに、若々しい血潮を吸い取りつづけている。
あなたがたがお客人と違うことは、わかっていました。
どういうかたがたなのか、おおよその察しもついています。
すこしでも、お気持ちが癒えるのなら・・・血を差し上げるのもよろしいのです。
でも、生命だけは助けていただきたい。
無力な夫。
そんな侮蔑をかえすほど、ボスも一筋縄ではなかった。
あくまで紳士的に振舞って、声で彼を酔わそうとしている。
「あなたがミスター・柏木ですな?ご挨拶があとさきになり申し訳ない。わたしどもの怨みを、ご存知だと?それならばなおのこと。いま少し尽くさせていただこう。ご家族が血を吸われるのをご覧になるのは、そうお嫌いではないそうな」
そうしてなおも、夢見心地な由貴子のうえへと、おおいかぶさってゆく。
もうそろそろ限界だ・・・
柏木は、体の芯が異様に震えるのを覚えていた。
マゾヒズムの戦慄とは別物の、闘争的な血がかけめぐり、白熱を強める。

強い腕が、ボスの胸倉をつかもうとしたとき。
柏木の両脇を、凄まじい烈風が吹きすぎた。
ボスが顔をあげたときには、
“Hold up!”
前後を挟んだ金髪と黒髪が、拳銃を構えていた。
柏木が振り向くと、娘も息子も、黒い塊に成り果てたそれぞれのパートナーの残骸にぼう然としている。
両手を挙げておずおず立ち上がるボスに、女たちは容赦なく拳銃を発射した。
銀の弾丸が二発。男の断末魔をジェット機の着陸音がかき消した。
姿はやがて霧のようにかすんでゆき、ほんの数秒ですべてが幻のように消え去っていた。
三人の存在を示す痕跡は、もはやどこにも残されていない。
「良い手向けになったわね。あなたたち。血を吸わせてやってくれてありがとう」
褐色の頬が、ニッとほほ笑んだ。
「怨念だけで生きながらえてきたヤツだからね。あれだけ血を吸ったら・・・気持ちも癒えたはず。もうじゅうぶん満足して、復活することもないでしょう」

昔ね。あなたがたの村にいた連中なの。
見境なく村人を襲って、血を吸い尽くして。
共存しようという考えがなかったから、放逐されたの。
もとの故郷のカルパチアに戻っていたのだけれど。
あちらでももちろん、鼻つまみだったみたい。
舞い戻って、あのひとに仕返ししようとしたのね。
気がついたのは、ここへくる途中。
すぐに、手を打てたのだけど。
同属だから、気の毒だと思ったから。
さいしょはすこしだけ、まんまとしてやられたふりをしていたの。
あなたたちなら、成仏させて上げることができると思って・・・ね。

女たちの説明は淡々としていたが。
同属を滅ぼさなければならなかったためだろうか。
どことなく沈みがちだった。
「ユキコ。ブラウスを汚してしまいましたね?」
「すみません。不注意ですわ」
「いいえ。彼らのためにそこまでしてくれて。同属として、礼を言います」
たとえ彼らの霊魂がいましばらく漂うとしても。
きっと、貴女には悪さをはたらかないでしょう。それくらいの恩は心得ているはずですから。
イントネーションが微妙に異なる日本語が音楽的に響くのを。
由貴子さんはうっとりと聞きほれていた。
ユキコ。また、うっとりなさっていますね・・・?
今宵はもっと、うっとりしていただかなければなりませんよ?
「あの・・・手加減なしですか?」
間抜けなことを訊く夫に
「ばかねぇ」
由貴子さんはいつもの薄っすらとした笑みを浮かべて、ショルダーバックで小突いている。
「さぁ、今夜の貴方たちは、わたくしたちの囚われ人。愉しい夜を過ごしましょうね♪」
息子も娘も、いなやはないようだった。


あとがき
かなり異色なお話ですね。成功しているかどうかは別として。A^^;
さすぺんす・たっちといえるかどうか。自信はまったく、ございません。はい。(笑)

姫はじめは、お振袖♪

2007年01月07日(Sun) 07:50:26


鶴か、白百合か。
己の妻をそこまでたとえるのは、さすがに気恥ずかしいのだが。
振袖に着替えた由貴子さんは、楚々とした風情に華やぎを添えて。
ノーブルな口許に、薄っすらと笑みをたたえている。
笑みに秘められたのは、いくばくかの恥じらい、翳り。
「行ってまいりますわね」
小首をかしげて、わたしの顔色を窺って。
耳もとに口を寄せ、そっと囁きかける。
「ま・わ・さ・れ・に♪」
あとからあなたも、いらっしゃるのよ。必ず・・・
ひとの耳の奥まで毒液をそそぎ込んだあと。
毒殺者は愁いを秘めた笑みにすべてを押し隠す。
結婚して、もう何年になるのだろう。
それだというのに、楚々たる気品はいっそう冴えわたり、
裡に秘めた淫ら心を、ちらとも漂わせることがない。
ゆらゆらと揺れる髪飾りが。
過去の記憶をまるで昨日のように、よみがえらせる。


秋にはあげるはずだった祝言は、年越しに繰り延べられていた。
もちろんそのあいだ、婚約者の由貴子さんは処女の血を吸われ、
酔わされるままに吸い尽され、
汚れを知らぬ透きとおった素肌には、淫らなものさえ含まされていた。
それでいながら。
由貴子さんは初々しい笑みに白い面差しをいっそう透きとおらせていて。
まるで生娘みたいに、振袖に包んだ肢体からぴちぴちとしたオーラをはじけさせている。
注ぎ込まれた毒液を、若い素肌を装ううわぐすりに変えて。
「さぁ、おうかがいしましょ」
小首をかしげて。誘うように。それでいて、はっきりと。
淫らな宴へと、わたしをいざなってゆく。

しんしんと雪の降る大晦日だった。
「大晦日くらい、ご実家に帰らなくてよかったの?」
急須でお茶を注ぎながら、母はにこやかに由貴子さんをかえりみる。
まだ、四十代の人妻だった母。
若さをじゅうぶんに帯びたうなじには、くろぐろとした痕をくっきりと浮かべている。
由貴子さんは、あら・・・と呟いて、さりげなく肩まで流した髪をかきのけた。
首筋にはやはり、母とおなじ赤黒い痕を浮かべていた。
うふふ・・・ふふ・・・
意味深な含み笑いにすべてを隠して、女たちはなにごともなかったように日常にかえってゆく。
一日おいて。
「いっしょにいらしてくださいますね?」
あでやかな振袖の由貴子さんは、小首をかしげて、わたしにいなやを言わせない。

渦を巻く花鳥模様の振袖を着崩れさせて。
畳に広がるのは、淫らな絵巻物。
素肌をほんのりとほてらせて。
整えた黒髪を、わずかにほつれさせて。
割られた裾から、秘めていたものを見え隠れさせながら。
密やかな吐息は、熱く濃く、あらわにされた乳房を深々と上下させている。
ひとつになった腰のうごきは。
まだ、初々しい戸惑いをみせていたけれど。
リズミカルな律動に、理性のすべてをうち砕かれて。
清楚な目許を、病めるが如く、淫らな色で縁どりながら。
長い睫毛を、ぴりぴりとナーバスに、震わせながら。
いやですのよ・・・お嫁入りまえなのですよ・・・あぁ、それなのに。このようなはしたない・・・
はっきりと肩肘張っていた言葉づかいが。
深まるまぐわいとともに、すこしずつみじかく途切れていって。
あっ・・・ううっ・・・視ないで。ご、ら、ん、に、な、ら、ない・・・で・・・っ
やがて、間歇的なうめき声に、すべてが飲み込まれてゆく。


「どうしても、姫はじめには・・・由貴子が要りようだね」
受話器の奥から響く、くぐもった声。
わざとつくったものではなく。ほんとうに飢えているのだと。
彼は声色で告げている。
いまはもう、「さん」づけですらない。
妻はそれほどまでに彼に愛され、なくてはならないものとなっている。
飢えた幽鬼を癒す、救いの女神。
彼はそう呼んで、妻を惜しみなく讃え、
讃えの証しに、色濃いものを透きとおる素肌にしみ込ませてゆく。
わたしはしきたりどおり、いつものように物分かりよい亭主を演じていた。
「ああ、いいでしょう。・・・今回もまた、お振袖かな?」
「う・ふ・ふ。お宅のお姫様を、思う存分汚してあげるよ」
じわりと渦巻く血潮の妖しい疼きを皮膚の下におぼえながら。
わたしはしずかに受話器をおいた。
装った寛大さは、どこまで装いのままなのだろう・・・?
そんな訝りを振り払うようにして。
「由貴子さん、今年もお呼びがかかったよ」
あら・・・
忙しく立ち働く台所から、困惑の声
困ったわ。迷惑ね・・・といいたげに。
妻は咎めるような目線を、わたしのほうへと注いでくる。
あなた、断ってくださらなかったの?
と、いいたげに。
ただし・・・
けっして、額面どおりに受け取ってはいけないのだ。
彼女の非難には、いつも甘い毒が秘められているのだから。

もう、いい齢ですのにね。
そんなふうに、恥じらいながら。
しゃりしゃり・・・っ、と。
密やかな衣擦れの音に、細腕を包んでゆく。
嫁入りまえの娘が身にまとうはずの、あでやかな花鳥模様は。
楚々とした大人の色香と、しっくりと重なり合っていた。

姫はじめが済むまでは。
夫婦の交わりさえ、禁じられている。
淫らを知った熟れた血潮は。
清楚な肌に、うわぐすりのような翳を滲ませている。
生娘のころには見られなかった潤いが。
花鳥模様に包まれて、清かな艶麗を帯びていた。
「では・・・まいりますわね」
迎えの馬車に、手を取られ乗り込んでゆくお姫様は、
窓越しにもういちど、艶然とした笑みで小首をかしげてくる。
ふたたびお邸で顔をあわせるとき。
妻としての仮面を捨てて。
彼の愛人になりきって。
娼婦のわざを尽くしているのだろう。

さて。わたしも出かける用意をしなければ。
真冬には寒すぎる薄い靴下が、起き抜けのよどんだ脛をひんやり、しっとりと包んでゆく。

ご機嫌斜め

2006年12月20日(Wed) 07:20:38

妻の由貴子の機嫌が悪い。
家に戻るといきなり、けんつくを食わされた。
今夜はどちらでおいしい血を召し上がってきたのかしら?
遅くなるのでご飯はいらない。そう言っただけなのに。
だいいちこの時期・・・そんなおいしい話なんか、あるわけがないじゃないか。
みんな忙しいし。「妖艶」の更新すら、なかなかできないし(してるか。^^;)
きつーい視線から目を逸らして窓の外を眺めると。
闇の彼方には、きらびやかなイルミネーション。ウキウキとした調べ。
あぁ、これだ。
女と男の意識の溝をつくっているのは。
そういえばこの季節。子供のころは、毎日が輝いていたっけ。

おい。なんとかならないのか。
妻が出て行ったあと。
傍らにうずくまる影に、わたしはぞんざいに話しかけている。
女をたぶらかすのは、あんたの十八番(おはこ)じゃなかったの?
影はいつになく、そっけない。
夫婦喧嘩じゃ、犬も食わないねぇ。
だと。
喧嘩じゃなくって・・・一方的に突っつかれているだけなんだけど。(-_-;)
ニヒルに薄ら笑いしている場合じゃ、ないと思うんだがな。
きみだって、今夜は愉快にやりたいんだろう?
いんや、今夜の場合。100%あんたが悪い。
今夜はヤツまで、口が悪い。
風向きのわるいときは・・・なにもかもが将棋倒しになるみたいだ。

あら。そうお?まぁまぁ・・・
隣室から洩れるのは、別人のように上機嫌な妻。
お友だちからの電話らしい。
外っ面だけは、いいんだから・・・
おいしい血だと?心当たりがまるでない。
そりゃ、たしかに血を吸うことはあるけれど。
半吸血鬼の得る血など、たかのしれたご愛嬌。
それにそもそも、このごろは。とんとご無沙汰だったのだ。
景気良さそうねぇ・・・
忙しく立ち働いているわたしを見て、妻がいつになくつまんなそうに呟いたのは。
なん日まえのことだっただろう?
妙に、嬉しそうね。忙しいときって・・・
よけいなお世話だ。
怒りがわたしにまで伝染してきそう。
わたしの様子を窺っていたヤツは、じろりと横目で、
わからないようだな。女が怒ったらね・・・すべて男が悪いのだよ。
きいたふうなことを、抜かしている。

バタンとドアが開いた。
妻がにこやかに、立っている。
まるでさっきまでとは別人のような、無邪気な笑みをたたえて。
女というやつは。どうしてこうもがらりと機嫌を変えるのだろうか?
妻はわたしのことを完全に無視して。
ヤツのほうへと手を差し伸べて。
貴婦人よろしく、手の甲に接吻を受けて。
はじめて、わたしのほうを振り返ると。
・・・よろしいですわね?
あるのは、いつものような、あでやかな笑み。
ああ・・・好きにするさ。
妻の変化に戸惑いながら、あいまいに応えるわたしに。
貴方には、はい。夜のお伴を差し上げますわ。
(わたしの代わりに、いつくしんでくださいね)
そう、顔に書いてある。
妻が手にしているのは、黒くなよなよとした、長い衣類。
先週、こちらとお逢いしたときのものですわ。
きれいに洗ってあるはずだけど。
あなたはきっと・・・お気づきになるわ・・・ね。
あらぬ想像に取りつかれたわたしを取り残して。
ドアがばたん、と閉ざされた。


あとがき
女の怒りには、罪がない。
怒りを罪に変えるのは、いつも男。
・・・でしょうか?^^;

妻を抱かれるとき

2006年12月19日(Tue) 06:53:25

いつだって、あなたおひとりのものですよ。
吸血鬼の招待を受けて、出かけるとき。
妻はいつものはっきりとした口調で、そう告げるのです。
薄っすらとほほ笑みながら・・・
お嬢さんのような気品漂う微笑のなかには、軽い冷やかしと悪戯心。
それに奥深い謎が秘められている・・・と感じるのは。
愚かな嫉妬のみせる幻影でしょうか?
むろん、社交辞令などではありません。
普通の夫婦に比べても、はるかに深く愛し合い、気遣いあっていると思います。
けれども、本当にわたしひとりのもの・・・なのかどうか。
彼だけとの刻を愉しむ妻も、いつわりのない妻じしんなのですから。

いまごろどんなふうに・・・と、妄想するときも。
座をわざと外して、覗き見するときも。
もちろん・・・ふたりの熱いところを、これ見よがしに見せつけられてしまうときも。
下腹部にじわり、と疼く熱いものは。
チリチリと焙るようにわたしをさいなみ、道ならぬ愉悦へと引き込みます。

妻がしんそこ愉しんでしまっているのは、間違いないでしょう。
  ただいま。遅くなりました。
きちんと折り目正しいお辞儀をするときなどは。
  何モ、ゴザイマセンデシタノヨ。
しれっとした白面に、すべてを包んでしまっているのですが。
ほぼ、例外なく。
どこかに必ず、これ見よがしな痕跡を残しているのです。
ブラウスの襟首に紅いものを撥ねかせているくらいは、とうぜんのこととして。
ストッキングに、細い裂け目が入っていたり。(それも複数)
スカートの裏地を、ぬるぬるとした粘液でべっとりと濡らしていたり。
端々に、お行儀の悪さをさりげなく隠しています。
  あのひとに、見せつけてやりましょうよ。
彼のベッドのうえ。きっとあれこれと、目論んだのでしょう。
悪い相談に興じているときの妻は、
ノーブルな薄い唇に、ひとのわるい笑みを滲ませていたにちがいありません。
こういうときの妻は・・・わたしの反応さえ、愉しんでいるのです。

許された婚外恋愛を、目の当たりにしてしまうときは・・・
まちがいなく、陶酔のかなた・・・です。
あの身もだえは。切ない吐息は・・・ほんとうに感じてしまっているなによりの証し。
わたしのまえ、恥じらいながら。
  差し上げるのは、たいせつなものなのよ。
  喪うことを渾身で拒みたいくらい。
  でも。
  たいせつなものだからこそ・・・彼に捧げ尽くしてしまいたい。
そう、主張するようにして。
いつもの淑やかさをかなぐり捨てて。
夫の目のまえですべてをさらし、捧げ抜いてしまう妻。
セックスの相性は、きっとわたしよりも彼とのほうが、遥かにしっくりと合っているのでしょう。
  きみの奥さんだと、わかっていながら。
  きみが見ているのだと、感じていながら。
  つい、辱め抜いてしまうのだよ。
決まり悪げにしながらも・・・ついあからさまに、妻への慕情をつのらせる彼。
  ご主人からの贈り物は、くまなく味わい尽くすのが礼儀なのだよ。
夫のまえ、その妻を凌辱するとき。
狂わせてしまった奥方のうえで、決まって呟く彼ですが。
わたしの妻に接するときの熱情は、その刻かぎりのものではありません。
逢瀬を遂げているときはもちろんのこと。
わたしのプライドへの、すきのない気遣いから。
近所の目を気にする妻を迎え取る段取りから。
(このごろはご近所にもしっかり認知されていて、人目を忍ぶ必要はなくなりましたが)
すべてが、配慮に溢れているのです。
息遣いを、熱っぽく重ねてゆくときも。
  愛された証しを夫に見せつけたいの。
妻のそんなおねだりを、しっかりとかなえるため、吸い取った血を着衣にしたたらせているときも。
芸術家が絵筆をとり、鑿を手にするときに似たしんけんさをたたえているのです。
妻に対して本気になっているのは、事実でしょう。

挙式のまえ、未来の花嫁の純潔をねだり取られてしまったとき以来。
彼は「しんけんに」妻を犯し、
妻は「誠実に」夫を裏切ってきました。
見つめるわたしも、それこそ夢中になって・・・「心から」ふたりのときめきに祝福を与えつづけているのです。
不思議に思われる関係・・・なのでしょうが。
共有する歓び・・・のまえには。
妻ははたして彼のものなのか、わたしのものなのか。
そんな疑問自体が、意味を失うようです。

感じてなんか

2006年12月18日(Mon) 08:33:05

夕べから入りびたりの、吸血鬼氏。
妻の由貴子は、淑やかさをことさらにふりたてて。
身体を固くして、淫らな挑発に耐えていたけれど。
耐えている・・・と。どこまで言い切れるのだろう?
「ガマンしていますわ。わたくし、こんな辱めごとき・・・」
妻はムキになって、己の貞淑さを力説する。
わかっている。わかっているよ・・・
なだめるように彼女の頭を撫でながら。
肩から二の腕を、撫しながら。
着衣を通してありありと伝わってくるのは、淫らにはぜる血潮の疼き。
「イヤよ。こっちを御覧になっては。わたくし・・・わたくし・・・感じてなんかいませんから」
語尾に漂う気品が、却っていやらしさを増幅させるのは。
・・・わたしの気のせいにちがいない。
「感じてなんか・・・感じてなんか・・・おりません、からっ・・・」
仰のけられ、圧し臥せられた華奢な身体。
吸い取ったばかりの血を牙にしたたらせたまま。
やつはブラウスのうえから乳房を揉み、まくりあげたスカートの奥を抉り抜いている。
紳士も獣に・・・なるようだね。
冷やかしたつもりが・・・不覚にも、声を上ずらせてしまっている。
「ああっ・・・あうっ・・・わたくし・・・感じてなんか・・・っ」
もういい。無理するなよ。
わたしだって・・・もだえるきみに、感じてしまっているのだから。


あとがき
ああぁ。またいけないお話を・・・^^;

あとは、ヒ・ミ・ツ

2006年12月18日(Mon) 08:24:58

「・・・辱められてしまうのですね?」
妻はじっとにらむようにして。
お相手の吸血鬼と向かい合う。
しばしのあいだ、目線をからみ合わせていると。
・・・妻の目つきが、にわかにとろん、となった。
ユリの花のような白い顔が、こちらを振り返って。
気品のある笑みを、たたえてくる。
なにをいいたいのか・・・すぐに分かった。

しばらくのあいだ、お借りするよ。
やつはイタズラっぽくウィンクをすると。
妻の腰に手を添えて、寝室へと導いてゆく。

あとは、ナイショ。ヒ・ミ・ツ。
あくる朝。
夫婦ふたりで啜るコーヒーの香りに、すべてをまぎらせて。
妻の横顔は、変わらぬユリの花の香気を放っている。


あとがき
もの足らなかったでしょ?
ソフトですね。ソフトすぎますよね・・・。

吸血の音洩れる夜

2006年12月10日(Sun) 05:56:25

かすかな物音に、ふと目を覚ました。
枕元の時計を取り上げると、午前五時。
きょうは日曜日だから・・・まだどこの家も、真っ暗のはず。
わたしの寝む部屋に、妻の姿はない。

夜更けだというのにこぎれいに着飾っていた妻は。
少女のように透きとおった笑みをたたえながら。
  お伺いして、まわされてしまうのと。
  お招きして、ひとりのかたのお相手をするのと。
  どちらがわたくしにお似合いだと思いますか?
さりげなく、そんな恐ろしいことを口にする。
遠慮はいらないから・・・ぜひお招びなさい。
優しく取り繕ったわたしの声・・・なぜか妖しい震えを帯びていた。

妻の寝床をまさぐると、冷たい。
血の気の失せた肌の冷たさを想像すると。
思わず布団を、はねのけていた。
息子がトイレに、起きたようだ。
足音がさりげなくリビングを避けて通るのが、
妻の居場所を示している。
ことさら忍ばせた足音と、入れ違いに。
思わずたたずんだ、リビングの前。

手に取ろうと思えば、ドアノブは目のまえ。
覗き見しようと思えば、そのドアも細めに開きかかっている。
息子も、ちょっと覗いて行ったのだろうか?
床の一部が、ちょうど足を置く面積だけ・・・かすかな温もりを持っている。
けれども・・・今さら覗き見などしなくても。
なかでくり広げられている”惨劇”は・・・
すべて想像のなかにある。
ちゅ・・・ちゅう・・・っ
押し殺すような、吸血の音を忍ばせて。
妻はまだ、身に着けた衣裳に不似合いな・・・奴隷の身に堕ちているようだ。

ちゅうっ・・・きゅうううッ・・・
あるときは、緩やかに。
おもむろに、つよく。
すすり泣くように響く吸血の音は、
そのまま妻の素肌を吸われる想像にたどり着いてゆく。
いかにもの慣れた、わが家の饗応とはいえど・・・
夜ごと妻の生き血を啜り取られるなど、決して気味の良いものではない。
生命の源泉をありったけ引き抜かれ、吸い上げられてしまうのだから。

吸い取られてゆく熱い血潮とともに、素肌の奥から抜き去られるものは・・・
妻の意思、心のたけ。理性、そして貞潔―――。
あぁ。
ときおり、ため息に似た呻きを洩らしながら。
夢見るような陶酔の際をさ迷っている。
揺れる意識のかなたに拉し去られた理性を、裸に剥かれて。
ただひたすら・・・捧げることに至福をかんじつづけている。

深紅のブラウスを、血潮に染めて。
黒のタイトスカートを、惜しげもなくたくし上げて。
つつっ・・・と伸びた細い裂け目を、ふしだらに弛んだストッキングに滲ませて。
その裂け目の彼方。
護るべき貞潔を・・・焔のような熱情に貫かれたまま。
夜明けるまで・・・至福の想いを抱きつづける妻・・・