淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
嫁、妹、そして姑
2022年09月10日(Sat) 01:54:26
若い女の生き血を求めて、吸血鬼が訪ねてきた。
妻の華絵がお目当てだった。
呼び出された華絵は、含羞を帯びた表情で、自分の情夫を迎え入れる。
結婚間近のころに、二人ながら襲われて。
先に血を抜かれたわたしの前で、華絵は全身の血を舐め尽くされた挙句、処女を散らしていった。
初めて識った男には、女は特別な感情を抱くという。
華絵と彼との関係が、まさにそうだった。
婚約者を守り切ることのできなかったわたしは、自分の未来の花嫁が吸血鬼に求愛されるのを受け容れて、
ふたりの関係を認めさせられ、そして悦んで認めてしまっていた。
新居に通ってくるこの不埒な年配男のために、新妻の貞操を汚される日常に、わたしは満足を覚え始めてしまっている――
黒衣の肩をそびやかす彼の背後に隠れるようにしているのは、伴われてきた妹の佳代だった。
華絵は佳代と目線を合わせると、ふたりはちょっとだけ顔つきに妍を浮かべた。
嫁入り前の身体を捧げたという点で、ふたりは同じ体験を共有していたけれど、
そのことはふたりを、意図せず競争相手にしてしまっていた。
きょうは母のことを欲しがっているの。私たちは添え物よ。
佳代の言葉に、華絵はちょっとだけ失望の色を泛べた。
「すまないね。奥さんと妹さんを借りるよ」という吸血鬼に、わたしはどういうことなのですかと訊いた。
「奥さんと妹さんには、女ひでりの男たちを慰めてもらおうと思っているよ」
彼は臆面もなくこたえた。
この街に吸血鬼が侵入してきて、すでに3年が経過していた。
人妻たちのほとんどは血を吸われ、彼らの奴隷にされていた。
そうした人妻の夫たちは、妻の情夫を家庭に受け容れることを条件に、好きな女を抱くことができる――
「奥さんにはそうした旦那衆が、3人。妹さんには5人」
ほくそ笑む吸血鬼に、妻は不満げにいった。
「アラ、わたくしのほうが少ないのですか?」
「その分、ひどくご執心でね――」と、彼が告げたのは、わたしの同僚たちの名前だった。
「彼らだったら仕方がない。満足させてやってくれないか」
同僚との不貞行為をあっさりと許したわたしに、妻もまたサバサバと返してくる。
「今夜は戻りませんからね」
情婦ふたりを「供出」してしまった吸血鬼の今夜の目当ては――母の規美香だった。
華絵が新居で情夫と乱れあっているところを偶然目撃してしまった母は、その場で吸血され、犯された。
30年近く連れ添った父以外の男を識らない身体を、手ごめにされてしまったのだ。
まだ若さを秘めた血液に、牙に含まれた毒液を混入されて、
無防備な股間に淫らな粘液を注ぎ込まれてしまうと、
賢夫人とうたわれた母が娼婦に化してしまうのに、半日とかからなかった。
着乱れた服のすき間から素肌を露わにした華絵は、そのいちぶしじゅうを見届けていた。
代わる代わる犯された嫁と姑は、その日のうちに共犯者同士になっていた。
「父がかわいそうだ」と主張するわたしの言を容れた吸血鬼は、その日のうちに父を訪ねて、母との交際を認めさせてしまっていた。
情夫とともに帰宅した妻を晴れやかな顔つきで迎えた父の首すじには、赤黒い咬み痕がふたつ、綺麗に刻印されていた。
「そういうことを望んだのではない」と主張するわたしのことを、吸血鬼は楽しそうな顔つきで見返してくる。
そう――わたしもまた、首すじに咬み痕をふたつ綺麗につけられて、
婚約者の純潔を嬉々として献上してしまっていたのだから。。
女ふたりが、若い女に飢えた男どもを満たすために立ち去ると、
わたしは吸血鬼を連れて実家に向かう。
出迎えた父は、年来の親友を迎えるように目を細めて吸血鬼に会釈をした。
「華絵さんは良いのかね?」
むしろ嫁の嫉妬を気遣う父に、「華絵はほうぼうでモテモテですから」とこたえていた。
父の引き取った書斎の隣室で。
母は奥ゆかしく着こなした和服の襟首を寛(くつろ)げられて、胸もとを露わに引き剝かれていった。
首のつけ根の一角に、赤黒く欲情した唇を這わされて。
きちんと結い上げられた黒髪の生え際を撫でつけられながら、じょじょに姿勢を崩してゆく――
父が隣室で聞き耳を立てていると知りながら、あなた、あなた許して頂戴――と声をあげて、
母は着物の下前を割られていった。
父は知っている。
乱れ抜いた母はやがて、息子であるわたしのことさえ受け容れて、
輪姦の坩堝(るつぼ)に巻き込まれ、ひときわ声をあげてしまうのを――
派手な嫁と地味な母 ~羞じらいと戸惑いと~
2020年08月19日(Wed) 20:56:54
海に行って水着になるのにパンツを脱ぐのと同じくらい無造作に、
少女たちの純潔は本人の軽い意思のもと、惜しげもなく捨てられていった。
バブルという時代は、そういう時代だった。
独身時代の妻は――いまでもそうだが――服装に十分すぎるほど投資していた。
かっちりとした肩パッドの入ったジャケットに、
腰のラインがぴっちりとしたタイトスカート。
いわゆる、ボディコンシャスというやつである。
母のたしなんでいたスーツとは、ジャケットにスカート、ブラウスという組合せは同じでも、
似ているようでまるきり似ていなかった。
脚に通しているストッキングも、妻のそれはどこか下品でいぎたない雰囲気が漂っていた。
肌の透ける、まったく同じような薄衣に過ぎないのに、
どうしてあれほどの風情の差が生まれてしまうのだろう。
仕事のできるキャリアウーマンが身に着ける、ばりっとしたスーツ。
そう呼んでも差し支えないのだが、
少なくともわたしの周りにいた女たちの大半は、
勉強も仕事もせずに、スタイルだけはファッショナブルで、
要は楽をしていい給料をもらうことしか、念頭になかったようにしか思えなかった。
ちょうど、米兵のキャンプの周囲に出没する、ある種の女たちと似たような雰囲気だった。
下品で、知性など薬にもしたくなくて、ただ無目的に、毎晩のように遊び歩いていた。
妻を含めた当時の女性全般に対してまともな貞操観念を要求することを断念していたわたしは、
妻に対しては、せめて自分の血の入った子を産んでくれればそれで良いと思うことにしていた。
かりに婚外恋愛をど派手に繰り広げてくれたとしても、
表ざたになって家の評判に傷がつかなければ、それでよしとするつもりだった。
三十までに結婚をと両親からせかされていたわたしにとって、
当時の女性一般に期待できる貞操観念に沿うとしたら、
そこまで譲歩することがどうしても必要だった。
親たちは自分のころの世界観しかもっていなかったので、
そのあたりはまるで夢物語みたいに都合の良いことしか考えていないようだったが――
もはやわたしにとって、彼らが何を考えていようが、それはもうどうでもよいことだったのだ。
とはいえ、吸血鬼との夜に付きあわされている母の姿は、どこか痛々しかった。
いまどき流行らない、肩パッドなしの、
若いころから着倒している、スタイルも色も地味なスーツをきょうも身にまとって、
かつて米兵がパンパンと呼ばれたある種の女性を連れ歩いていたように、
わがもの顔に腰や肩に腕をまわしてくるのを拒みもせずに、出かけていった。
父にはカラオケといっていたが、実際に訪れるのはきっと、ベッドのある「カラオケ」だったに違いない。
そして歌うのは――いや、自分の親についてそれ以上の想像力を働かせるのは、さすがにやめておこう。
もっとも、吸血鬼である母の彼氏は古風な男で、
もちろん母の生き血や身体めあての付き合いには違いないのだが、
母の地味なスーツ姿も、飾り気のない髪型も、きちんとした挙措動作も、大いに気に入ってくれていた。
相手がどういう意図で近づいてきているにせよ、それを拒むことができないものであるのなら、
そういう彼が母に対して一片のリスペクトを抱いていることを嬉しく感じていた。
母も極力、彼とのアヴァンチュールに自分の予定を合わせるようにしていた。
そして、父に謝罪の視線を投げながらも、淫らな破倫の床の待つアヴァンチュールへと、地味なストッキングに包まれた脚を差し向けてゆくのだった。
周りの吸血鬼仲間が、わたしの妻のような女たちを得意げに連れ歩いているなか、
かの吸血鬼氏は奇特にも、地味で時代遅れなスーツの母を誇らしげに連れ歩いていて、
その行き先は、獣じみた声の咆哮するカラオケバーや、下品なインテリアをてんこ盛りにしたあからさまなラブホテルなどではなくて、
むしろ会話を楽しむための音楽喫茶や、母の知性を垣間見るための美術館だったりすることが多かったらしい。
もちろん、干からびた血管の欲する本能や、若い男としては当然すぎる欲求から、
母にふしだらなことを強いる機会は、デートの数だけあった。
そういうときに母が必ず父の名前を口にして謝罪の言葉を呟く習慣を持つことが、
彼にはかえって魅力であったらしかった。
「お父さん、ちょっとカラオケ行ってきますね」
きょうも夕方になると、母はいそいそと着替えをして、
少しでも良い服を、そして良い服の下には少しでも男をそそりそうなスリップを身に着けて、
きっと男に破かれてしまうと知りながら、真新しいストッキングを脚に通してゆく。
父が母のことを気遣った。
「母さんは不当に扱われていないだろうか。
虐められたり、侮辱されたりして、心が傷ついてはいないだろうか。
それならばまだしも、愉しんでくれているほうが気が休まるのだが」
父は寛大な夫だった。
拒み切れずに過ちを犯してしまいましたと三つ指ついて謝る妻に、
「きみに悪いところはなに一つない、女としてこらえ切れないのは当然だ、
だから今度のことは、わたしのほうから彼に話をしよう――
きみに対する彼の恋に男として同情して、きみを誘惑する許可を与えたことにするから」
とまで言った人だった。
彼は自分の妻のことを吸血鬼に訊きさえしたものだ。
きみは彼女に満足してくれているのか、そして、彼女は傷ついたりしていないだろうか と。
彼はこたえたものだった。
「エエ、私は佳世子さんと交際を結べてとても嬉しいです。
少し古風な、羞じらいを知るくらいの奥ゆかしいご婦人が好みなので――
彼女のほうですか?さて、女心はなかなか測りがたいものがありますからねえ。
でもね、私が迫ると必ず、貴方の名前を口にして、助けを求めるのです。
”あなた、あなたあっ、助けてえっ”
と、脚をじたばたさせて、激しくかぶりを振って。
そしてさいごは
”ごめんなさい、きょうもわたくし、守れなかった”
と、涙ぐまれるのです。
エエもちろん、行為の最中は戸惑われながらも抵抗は控えめにして、
しまいにはご自身から腰を振って、”もっと、もっとォ・・・”なんて、仰られます。
奥さまに非礼をはたらく機会をお与えくださり、男として感謝に耐えません」
ウ、ウーム・・・
父はひと声うなって、黙ってしまった。
その想い、推して察すべし。
その後父が、母と吸血鬼の逢瀬を覗きに、たびたびかの邸を訪問し、
吸血鬼もそれを許したといううわさを、風のたよりに耳にした。
派手な嫁と地味な母
2020年08月18日(Tue) 06:50:27
日経平均株価が大きく値下がりをしてそれまでの半値になってしまったころ。
世間はそれでもいい気になって、バブルの余韻に浸っていた。
光沢入りのストッキングを穿いた脚がそこらじゅうを闊歩していた、最後のころだった。
背中を向けたソファーの向こうから、
ツヤツヤとした光沢をよぎらせたストッキングの脚だけが、
ふしだらにこちらにぶら下がっている。
「あ、あ~ん・・・んんっ・・・」
南都かひそめようと抑えつけた声だけが、夫であるわたしの想像力を増幅させた。
そう、妻の美智留は他の男と、自宅のソファのうえで戯れているのだ。
薄手のナイロンのつま先のなかで、美智留の足指が反り返り、反対に丸まったりする。
本人も意識していないしぐさのひとつひとつが、
彼女の身体をめぐる若い血潮が淫らに燃え上がり、血管という血管を灼きつかせているのだと伝えてくる。
押し入ってきた男は吸血鬼。
この街ではだれかれとなく、人妻を抱くことを許された人々。
彼らにもある程度の礼儀作法があるらしく、
自分がものにした人妻の秘密やその夫の名誉は守るべきものとされているらしい。
すでに夫婦ながら首すじに咬み痕を付けられてしまっているわたしたちに、
もはや抵抗の余地は残されていないのだ。
それでも果敢に彼らに抵抗しようとしたものがいた。母だった。
「何をなさっているのです!?美智留さん、これ一体どういうこと!?
だしぬけにリビングに入ってきた母の永江(ながえ)は、目を三角にしてふしだらな嫁を叱り飛ばした。
ソファのうえからしぶしぶ起きあがった美智留は、ろくに口もきけない状態らしい。
乱れた髪をけだるげに手で梳(す)いて、
「のぞき見とか、やめていただけません?」
と、あくまでもふてぶてしく居直った。
本人は内心、母にみつかったことでビクビクものなのだが、
それでも恐れ入ったふうを見せると女同士の争いでは負けになるということらしい。
「まあっ、なんて言い草――貴男も貴男です。ここはこの人の夫の家です。なさることに気をつけてくださいまし」
どうやら陰部をあらわにしているらしい吸血鬼のほうには視線を据えないでそういうと、
「早く!」と嫁を急かしておいてリビングの扉を閉めた。
きっと仏間にこもって、念仏でも唱えるつもりなのだろう。
その母が、一夜にして変わった。
「お義母さん、なんとかしなくっちゃ」
そう耳打ちしてくる悪い嫁に乗っかって、かねて母にご執心だという吸血鬼――彼女の恋人の兄さんなのだが――を家にあげたのだった。
初めて咬まれたのは、仏間だった――らしい。
わたしの留守中あがりこんだ彼は、絶望的な叫びをあげる母の首すじに咬みついて、存分に血を吸った。
セックス経験のある女性をものにしたときは、ほぼ例外なく犯していくという。
母も例外では、あり得なかった。
まして、ストッキングを穿いた脚を好んで咬むというけしからぬ習性をもつ彼らのまえに、
母はいつもスカートスーツの姿をさらしていた。
そして、地味な――もちろん光沢もテカリもない――ストッキングを穿いた自分の脚にまで、
欲情に満ちた視線が注がれているなど、夢にも思っていなかった。
貧血を起こして母が倒れると、侵入者はうつ伏せになったふくらはぎを抑えつけ、ストッキングの舌触りを確かめた。
地味なストッキングの好きな男だったから、すぐにお好みにあったのだろう。
母の履いているストッキングはたちまち不埒な舌によって舐め尽くされて、よだれまみれにされていった。
自分に対してなされる淫らな振る舞いを声もなく受け容れつづけた母は、
妻が光沢入りのストッキングを、夫に内緒の客人に愉しませるときと同じように、
自身の品格を損なわないための装いを、足許から咬み剥がれていったのだ。
わたしが帰宅してくると、妻は口許に一本指をあてがって、「しーっ」といった。
おどけた調子だった。
ずっと締め切りになっている部屋でなにが行われているのか、察しないわけにはいかなかった。
仏間で咬まれ、父の写真のまえで犯された母は、いまは夫婦の寝室で女が男にする奉仕に耽り抜いていた。
「彼、お義父様と同じ立場に格上げにしてもらえたみたい」
妻はイタズラっぽく片目をつぶり、ウフフと笑った。
永いことずっと父のために守り抜かれた貞操は、夫をウィンクひとつで黙らせる嫁のはからいで、あっけなく奪われていったのだ。
「カラオケ、行ってくるわね。今夜は帰らないかも」
母はのんびりとした声で、嫁にいった。
「は~い、ごゆっくりしてきてくださいね」
妻の声も、ウキウキと明るい。
いまはすっかり嫁姑の仲もよくなって、家の空気ははるかによくなっていた。
妻の声が明るすぎる時は、要警戒である。
この家の主婦が姑の留守をねらって淫乱ぶりを発揮して、当惑する夫の前で、これ見よがしと娼婦のように喘ぐ夜が訪れるから。
母はいつものえび茶の地味なスーツに、やはり地味な無地の肌色のストッキングを脚に通して、夜の街へと出かけていった。
「きょうはね、真面目な主婦のかっこが好いって言われていつものスーツなんだけど」
妻は言い出した。
「このごろ、黒や紺のストッキングの愉しみも、覚え込まされちゃったみたい」
毒液のような囁き声が、わたしの鼓膜をじんわりとした淫らなもので浸した。
「でも、ちょっと無理があるかしら。お義母さま真面目だから――
彼が付きあえと言ったら付き合うし、抱かせろと言ったら黙って目を瞑って仰向けにおなりになるけれど、
そのあといっつも仏間にこもって念仏唱えて、お詫びしてるのよ。根が真面目なひとだから」
いっそ、結婚しちまったらどうなのかなあ・・・
私の言い草に妻ははっとして、すぐに頷いた。「それ、良いかも」
「永江さん、貞操喪失おめでとう!僕も狙っていたんだけど、先を越されました 義弟より」
「永江さん、まだまだ若いんだし、がんばってね!(何を? 笑) 義妹より」
「お母さん、吸血鬼とのお付き合いは、真心が肝心ですよ。お父さんもきっと、慶んでいるはず 娘より」
仏間のお仏壇は、そのままにしておくことになった。
夫の写真のまえで未亡人を崩したがる吸血鬼の愉しみのために、とはわかっていたが。
彼は律儀にも、朝晩かならず線香をあげて、覚えたての念仏を唱えるのだった。
「あのひとと上手く言った理由、わかったわ」
「そうだね」
律儀な吸血鬼は今朝も、黒のストッキングに装われた母の足許にチラチラと目線を落として、
食い破りたそうに舌なめずりをしているのだった。
意外。。。
2020年06月27日(Sat) 09:26:52
この街に住むようになったなら。
自分はもちろんのこと、家族全員が吸血されると聞かされていた。
母は48。妻は24。
当然妻の身辺に、神経をとがらせていた。
けれども意外や、さいしょに狙われたのは母だった。
それも相手は、わたしと同年代の吸血鬼。
勤務先の、取引相手の社長の息子だった。
「いえいえ、お取引とはまた別問題ですから」
むしろそのことは、気にしなくて良いとまで言われた。
「気にしなくてッて言われても、ねぇ・・・」
父と2人で、顔を見合わせた。
定年を前に楽隠居を決め込んだ父は一日じゅう在宅しているから、
長年連れ添った妻が息子と変わらない齢の男に抱きすくめられるのを、始終見せつけられる羽目になっていた。
わたしはわたしで、
「母親を征服した男」
と、毎日顔を合わせる羽目になっていた。
この街の吸血鬼は、既婚女性を襲うと男女の関係まで交えるという。
けれどもしり込みする母を、彼は無理強いしようとはしなかったという。
償うつもりになったのか、せめてものことと、母は彼の気に入るように、よそ行きのスーツ姿で彼と逢うことにしているという。
ストッキングを穿いた脚に好んで咬みつく習性を持つ吸血鬼のために、
真新しいストッキングを毎日のように、脚に通すようになっていた。
「認めてやることにしたよ」
一カ月経って、彼と母との交際を許すと宣言した父は、むしろ晴れ晴れとした顔をしていた。
彼好みの若作りをするようになって、母はみるみる若返っていった。
彼の父親が妻に目を付けたのは、それからすぐあとのことだった。
じつは、最初の顔合わせの時以来ご執心だったという。
けれども慎重な彼は、自分の息子がうちの母にアタックして成功するまで、満を持していたという。
嫁の浮気について夫のつぎにうるさいはずの姑は、浮気相手の息子のために、とっくに”陥落”してしまっている。
ここまで腰を据えられて、敵うわけがあるだろうか?
そもそも、彼らへの献血を承知することを条件に、この街に逃れてきたのだから。
息子が母親を狙い、父親が息子の嫁を狙う。
「ああ、なんといやらしい」
父とわたしは苦笑いを交わしながら、
それぞれの情夫に伴われて夫婦の寝室に引き取る女たちの背中を見送っている。
入ってもだいじょうぶ?
2019年12月02日(Mon) 08:09:35
りぃん・・・ろぉん・・・
インターホンが鳴った。
怜子はハッとわれに返って顔をあげ、「いけない」と呟いた。
そして、自分の上にいる男の頬を両掌で抑えるようにして、
「主人が帰ってきた」
といった。
「そのようだね」
男はヌケヌケと囁きかえすと、自分を追いのけるようにする怜子のうえから起き上がって、
居直るようにしてベッドに腰かけた。
着乱れたブラウスの襟首を直し、めくれあがったスカートのすそを乱暴に直したけれど。
丈の短いスカートから覗く太ももには、引き剥がれたストッキングが、ふしだらな裂け目を露骨に走らせていた。
なかの事情を怜子の夫はよく心得ているらしい。
「入ってもだいじょうぶ?」
玄関からそんな声が伝わってくる。
「エエ、もちろん。おかえりなさい」
怜子は妻らしい言葉遣いに戻って、夫の鞄をかいがいしく受け取って、スーツのジャケットまで脱がせているらしい。
妻が異様に面倒見が良いときは、情事のすぐあとか、ことによると真っ最中か――
怜子の夫はそんなところまで、よく心得ていた。
「寝室、入る・・・?」
ためらいながら訊いてくる妻に、「着替えるからね」と夫は明るくこたえた。
情事のいちぶしじゅうをそのままにしたベッドが、彼の視界に入ったとき。
素早く後ろに回り込んだ情夫は、夫の首すじを咬んでいた。
アアーッ
悲鳴をあげる夫がみるみる血の気を失くしてその場に倒れるのを、怜子は息をのんで見守っている。
ハハハ・・・
オホホ・・・
ククク・・・
フフフ・・・
寝室からはひっきりなしに、自分の妻と妻の情婦との交歓の囁きが洩れてくる。
怜子の夫がわれに返ったとき、自分が寝室ではなくリビングのソファに横たえられていることに気がついた。
「夫婦の寝室では、邪魔者扱いか~」
洩らしたため息には、悲壮感も暗さもない。
怜子が初めて吸血鬼に襲われ犯されたときも、
「ものの見事に姦られちゃったみたいですね」
と、さいごにはノリノリで相手をしてしまった若い妻を咎めもせずに口にしたものだ。
まるで、球技のライバルに見事なゴールをキメられたときのような、場違いなくらい清々しい笑顔をしていた。
吸血鬼は、モノにした女の夫のことを、好ましい男だと思った。
ふたりの間には、憎しみの代わりに、同じ女を愛するもの同士の友情が生まれた。
怜子の夫は、ふと視線を奥の間に転じていた。
そこには人の気配があった。
起きあがって覗いてみると。
そこには自分の母が、あお向けになって倒れていた。
そりの合わない嫁のふしだらを咎めに来たのだろうか?
ワンピース姿の母はぼう然と白目を剥いて気絶していて、
ストッキングを片方、脱がされていた。
おそるおそるの掌が、ワンピースのすそをたくし上げていた。
いま妻の身体の奥に注ぎ込まれているのと同じ粘液が、まだぬらぬらと生々しく光っていた。
「嫁さんを姦られるよりも――母さんを姦られたほうが致命傷だったかな」
妻のみならず母親までも犯された男は、瞳に妖しい翳りを泛べ、
そして気絶している母親のうえに、息荒くのしかかっていった。
気絶していたはずの母親の肢体が身じろぎをして、脚を開き息子の背中に腕をまわすのを、
息子はなんの違和感もなく受け止めてゆく――
「キミのお義母さん、イカスなぁ」
2019年11月25日(Mon) 06:12:59
「キミのお義母さん、イイなぁ。イカスなぁ」
そういってやまなかったのは、幼なじみのK。
男色と年増女に目のない変態だ。
もっとも本人はいたって知的な紳士で、女相手だけではなくたれに対しても思いやりが深い。
表向きの顔で蟻地獄に引き込むタイプだ。
(ただし本人は、「これももうひとつの俺の真実」といってやまないのだが・・・)
Kが妻の母を褒めたのは、場所もあろうに披露宴の席上のこと。
なん度もビールを注ぎに来ながら、「あまり飲み過ぎるなよ」といって、
人目に立たないようになみなみと注がれたコップの中身を足許のバケツに捨てさせてくれた。
うら若い新婦にはあまり関心がないものか、ちらと目をくれて黙礼を交わすだけ。
その視線はとにかく、親族席の筆頭に座る義母に注がれている。
もっともそのころは義父もまだ元気だったから、「やめとけ、やめとけ、場所柄をわきまえろ」
と、新婦が中座したときには小声でたしなめたりしたものだ。
その義母が、身も世もないほど嘆いてすっかりふさぎ込んだのは。
オシドリ夫婦で知られた義父が、寝たきりになってしまったときのこと。
やつれ果てた彼女の方が、夫よりもさきに逝ってしまいそうなありさまに。
妻も俺もたいそう気をもんだのだけれど。
しょせん外野というものは、なにもできない仕組みになっているらしかった。
そんな時だった。Kが俺のまえに現れたのは。
Kが吸血鬼だということは、妻も俺の口からきいて知っていた。
年増好きのKが、俺の叔母や、人もあろうに母の血さえ吸って、
ついでに男女の関係さえでかしていることすら、もうばればれになっていた。
俺でさえ。
中学のころからKに色目を使われて。
母の服を持ち出して身代わりになって、やつの一物を味わわされていた。
先に体験したのが男だったから、しばらく俺はそちらのほうから抜けられなくなって。
結婚してやっと、ノーマルな方向に回帰しかけたというわけだ。
「Kにお義母さんを逢わせてみないか」
俺の提案に、妻はちょっとだけ渋い顔をしたけれど。
母の身の上を案じる気持ちの方が優ったのだろう。
気乗りのしない顔をしながらも、「あなたの好きにして」と言ってくれた。
「逢わせる」とは、誘惑させること。
Kが気が優しくて根っから紳士的なことも妻にはわかっていたから、「無茶はするまい」と思ったのだろう。
事実そうだった。
「義母を誘惑して良い」と俺からのお墨付きをもらったKは、いそいそと妻の実家に通い始めた。
気の利いたお土産を持って行ったり、いっしょに義父の看病をしたり、
時には通いでやって来るケアの人に義父を任せて、義母を映画や展覧会、催事などに連れ出していた。
正体が吸血鬼だということも打ち明けて、
じつは貴女の血を目当てにこうして通ってきているのだと、ぬけぬけと本人に告れるまでになっていた。
「ねえ和夫さん、どう思う」
ある程度の信頼を勝ち得ていた義母か「Kさんから迫られている」と打ち明けられたとき。
「献血だと思って相手してやってくださいよ」
と、俺は内心湧きかけていた嫉妬の情を押し隠しながら、義母にこたえた。
「ストッキングを穿いた脚を咬みたいって仰るのよ。いやらしいわよねえ?」
淑やかな義母の口からこんな言葉が洩らされることに衝撃を覚えながら、俺はいった。
「ストッキング破らせちゃったら、一直線かも知れないですよ」
義母が堕ちたのは、それからすぐのことだった。
その日新調したばかりのスーツをばっちりとキメた義母は、
Kを家に招び寄せると、夫が寝入ったのを見計らって、「ちょっとだけなら献血、応じられる」といい、
スカートをちょっとだけ、たくし上げて、
ストッキングのうえから吸いつけられる唇を、息をつめて見守った。
ァ・・・
小さな悲鳴が洩れる下で、義母のストッキングは、鋭くひとすじ走った裂け目を、みるみるうちに拡げていったという――
不思議なもので。
寝たきりだったご主人は見違えるほど恢復して、以前と変わらないようになっていて。
義母は三日にいちどはおめかしをして、夫に快く送り出されてKと逢いに行き、
教師の妻としては不似合いな場末のホテルや、Kのねぐらに引き込まれて、長年尽くした夫を裏切るようになっていた。
義父も義母の回春を、薄々知っていたようだけれども。
根っからの愛妻家の彼は、妻の不貞を咎めようともせずに、
今までどおり妻を愛しつづけ、たまに現れるKのことさえ歓待した。
やつがどうして義母に執心したのか、いまになってわかるような気がする。
年増女が好きで同性愛嗜好な彼が、
ほんとうに欲しかったのは俺だったのだ。
だから俺の母や叔母を堕とし、俺を女として犯し、俺の義母まで狙ったのだ。
妻が乗り気ではなさそうな理由も、わかっていた。
自分の恋人を、実の母に取られてしまうと思ったからだ。
そう――
俺が初めて女に目ざめたのは、妻のおかげだった。
新婚初夜を処女妻として明かした妻のところに、「そんな事だろうと思って」といいながら姿を現したKは。
俺のまえで妻を犯し、新郎以外の男と夢中で交わり始めた妻を目の当たりにして、初めて男としての本能に目ざめていったのだ。
はからずも処女を捧げた相手に対し、妻はどこまでも純情で。
逢瀬を遂げるのを見て見ぬふりをする夫の寛大さを悦んで、しぜんと夫に尽くす妻となっていった。
それが罪滅ぼしに由来するものだとは知りながら。
濃やかな心遣いを示す妻に、俺は寛大さで報いていった。
二人の息子と二人の娘に恵まれたけれど。
長女と次男は、Kの種だと、両親ともに自覚している。
義父が復活したのもきっと、Kのおかげなのだろう。
「若い彼のことを視ていると、発奮するね」
あるとき義父は、俺にそう語った。
妻の貞操と引き替えに、健康を取り戻した――
決して小さな大証ではなかったはずなのに。
ワンマンだった亭主が寛大な夫に生まれ変わることで、
若作りに着飾った妻を情夫に抱かせ、自分でも愉しむようになった日常を、決して呪いはしていないらしい。
きみは奥さんと仲良く暮らしている。
お義母さんも元気になったご主人と夫婦円満。
ボクはボクで、嫁も姑も手に入れた。
八方丸く収まった・・・よね・・・?
妻から借りた服で女の姿になって、ベッドのうえで囁かれて。
俺は強く肯き返してしまっていた。
あとがき
一人の男性の妻と母とを二人ながら犯すお話は、いくつとなく描いていますが、
一人の男性の妻と義母とを二人ながら抱かれてしまうお話は、意外に描いた記憶がありません。
カテゴリは「嫁と姑」にしていますが、すこし本質は違うのかもしれません。
「年増好き」というのは「俺」に投げたKの陽動に過ぎなくて、
そのじつさいしょに狙ったのはKの奥さんだったのでしょう。
新婚初夜に、まず新婦が抱かれていますから。
そして、その愛情込めて抱いた新婦の母親にも、興味を抱いて、どんな女性なのか識りたくなった。
初対面から「これは」と思いつつ、さいしょはご主人に遠慮したのかもしれません。
義母にホコ先を向けたのは、ご主人が倒れた後――というのも、Kの律義さを感じます。
お義母さんが貞操堅固で、ご主人が元気なうちは手を出すことができなかったのかもしれませんが。。
偽装された宴 ~母も。~
2019年11月19日(Tue) 08:17:37
うら若いご婦人の脚に好んで咬みつく吸血鬼に、妻を咬まれてしまったぼく。
妻のストッキング代は、ぼくが稼ぎますから――と。そんな安請け合いをしてしまったけれど。
妻はそんなぼくのためにも、良い妻でい続けてくれて。
そして、あんな吸血鬼のためにも、忠実な愛人として、ぼくを裏切りつづけている。
そんな日々を重ねるうちに。
ぼくは妻のストッキング代だけではなくて、母のストッキング代まで稼がなければならなくなった。
若夫婦の妖しい宴に巻き込まれて、
黒のストッキング目当ての吸血鬼に、法事帰りの喪服姿を愉しまれてしまったのだ。
母でさえ。
老いさらばえた彼らにしたら、「うら若いご婦人」だったのだ。
母は確かに若返って、若作りのスーツ姿でやって来ては、我が家のリビングを濡れ場にした。
「お洋服代くらい、自前で持つわ。お金には不自由してないから」という母に。
せめてこれくらい罪滅ぼしさせてよと、ストッキング代だけは持たせてもらった。
母は「ストッキング代って、なんかいやらしいわね」といいながら、ぼくの罪滅ぼしを受け容れてくれた。
けれどもやがて、それは父の知るところとなって、
怒りに触れた母は実家を出てぼくたち夫婦と同居。
白昼のわが家では、妻も辟易するほどの濃艶な濡れ場が、公然とくり広げられた。
けっきょく父が折れて、母は再び実家に戻り、母は自宅から吸血鬼のもとに通うようになっていた。
これからは、母さんのストッキング代も、衣装代も、父さんが稼ぐから。
父は仕方なげに、苦笑する。
けれどもその実、父もまた出かけ支度をしているのを、ぼくは気づかないふりをした。
服フェチな吸血鬼のため、きょうも着飾っていそいそと出かけてゆく母。
長年連れ添った妻が不倫に耽るのを、寛大にも許す父。
ぼくたち親子は、いったいどこまで似たのだろう?
母親をモノにされてしまうのは、花嫁をモノにされてしまう以上に致命的であること。
2019年11月11日(Mon) 08:09:11
きみの京子さんを、親父とふたりで輪姦(まわ)したい――
悪友のリョウタにそうせがまれて、婚約者の京子さんを連れて、彼の家に伴ったのは、結婚を翌月に控えた頃のことでした。
京子さんにはあらかじめ、言い含めてありました。
この街でひそかに伝わる風習だからと。
京子さんは潔癖そうな白い頬をちょっとだけゆがめると、意外にもクスッと笑って、面白そう、と言ってくれました。
リョウタの家でぐるぐる巻きにしばられたぼくの目のまえで。
ぼくは未来の花嫁の純潔を、悪友の親子に惜しげもなく、プレゼントしてしまいました。
さいしょはリョウタのお父さん。
それからリョウタ。
未来の夫であるぼくの目のまえでの辱めに、ひとしきり涙にくれた京子さんも、
やがて快感に目覚めてしまったものか、しきりに腰を振って二人を満足させたのでした。
ぼくもすっかり、満足してしまいました。
花嫁の肉体をプレゼントするという行為そのものに――
けれどもこのドラマには、第二幕がありました。
未来の嫁の乱行を知った母が加わったのです。
けれどもそれは、リョウタの意図するところでした。
潔癖な怒りに震える母は、
じゅうたんの上にストッキングのつま先をすべらせて、現場に踏み込んできました。
そしてそのまま、そのストッキングを脱がされて、永年守りつづけてきた貞操を、親子にご披露する羽目になったのです。
息子のぼくでさえ興奮を覚えるひと幕でした。
嫁と姑、ふたりながら脚を並べて、脚の片方ずつには半脱ぎになった肌色のストッキング。
その脚をときにばたつかせ、ときに切なげに足摺りしながら、ふたりは獲物を取り替え合う親子の生け贄にされていったのです。
花嫁をモノにされることも、ぼくにとってはもちろん衝撃だったけれど。
母親をモノにされてしまうのは、さらに致命的な出来事でした。
一連の嵐が過ぎ去ると。
母は「お父さんには内緒だからね」といって、ぼくを笑いながらにらみました。
つくづく、「女は怖い」と思った次第です。
結婚してからも、時おり夫婦でリョウタの家を訪問してます。
人妻の貞操を、デリバリーするために。
その後の母も、父に黙ってリョウタの家を訪れているそうです。
リョウタのお父さんにあらかじめ呼び出された父が、見せつけられる歓びに耽っていることもしらないで。
妻の不倫のあと始末。
2019年11月05日(Tue) 07:55:13
妻からラインが届いた。
いわく、「これから吸血鬼さんのところへ、献血に行ってきますね♪あなたは早く寝ててw」
やれやれ、今夜も朝帰りのつもりらしい。
「うちに招べばいいのに」
と言ってやったら、
「だってあなた、明日お勤めあるのに眠れなくなっちゃうじゃない」
と返してよこした。
部屋のあと始末をしなければならないのも、ネックになってるらしい。
なにしろ彼を招ぶと、じゅうたんに血はしたたる、シーツには大量の精液・・・と、
拭き取る手間ひまがかかること、おびただしい。
「それは俺が引き受けるから」
と、あるときお人好しにも、妻の情事のあと始末をしたわたし――
柱に撥ねた血。
床にくゆらいでいる血だまり。
精液がべっとりと着いたまま脱ぎ捨てられた、スカート、スリップ、ショーツ・・・
そうしたものをひとつひとつ拭い取ったり、片づけたり。
妻の秘密を隠匿する手伝いをするということは、
妻の不倫の共犯になるということ。
ひとつひとつの作業にマゾヒスティックな歓びが重なって、熱がこもってゆく。
「でもあなた、雑だからw」
妻はわたしを揶揄してやまない。
そう、半年ほど前のことだった。
拭い忘れた精液まじりの血潮をふすまの隅に発見したのは、たまたまわが家を訪れた母だった。
妻の整理整頓のできなさとかをやんわりと指摘しに来る母を、妻は苦手としていたが、
「和彦さん、これは何!?」
と口にする母に、妻もわたしも凍りついた。
解決してくれたのは、”彼”だった。
「電話するのを忘れた」という母からの連絡は、到着のわずか5分前。
わたしを目の前にして、妻は”彼”との行為の真っ最中。
たいがいのことは苦も無くやってのけるはずの吸血鬼でも、脱出は不可能なタイミングだった。
精液を裏地に塗りたくられたスカートを着けて妻は母を出迎えて、
わたしは”彼”を、奥深いクローゼットに押し隠す。
「あなたたち、いったいなにをしていたの!?」
詰問する声が怯えた悲鳴にとって代わるのに、数分とかからなかった。
息子のまえですっかりイカされて――
いまや母までも、吸血鬼にとってなくてはならないセックス・パートナーのひとりになっている。
妻からのラインが、もう一度鳴った。
「お母さまがお見えになってるw あのひとに抱かれてひーひー言わされちゃってるw あなたも来る?楽しいよww」
明日の仕事も忘れて腰を浮かせかけたわたしに、さらに追い打ちがきた。
「あのひとの家だけど、あと始末はあなたにしてもらうわね♪」
あり合わせのタオルをカバンに詰める手から、ぶるぶると震えが消えない。
身代わりになった姑
2019年10月21日(Mon) 06:50:03
あなたももう、気が済んだでしょう?
息子をたぶらかして、息子の彼女に手を出して。
お前の恋人の身持ちを確かめてやる、とかいって、処女の生き血をたっぷりと愉しんで。
お式の直前に美香さんの処女まで奪ってしまったのは、どうかと思うわ。
息子はあなたに、処女の生き血を一滴でも多く吸わせてあげようとして、ガマンしていたんですもの・・・
あなたもあなたよ?
美香さんが犯されるの、指をくわえて視ていたんですって?
自分の識らない処で奪われるよりも、いっしょにいながら見届けたから、まだ満足だなんて。
あなたやっぱり、おかしいわ。
でも夫婦のことですから、そこまで口は出しません。
でもね、ひとつだけお願いがあるの。
一人で良いから、あなたたち夫婦の子どもを作って頂戴。
その代わり――そのあいだはわたくしが、この方のお相手をしますから。
そんなに自信はないのよ。
だって母さん、お父さんのことしか識らないんですもの。
ただ、こちらのかたは身持ちの堅いご婦人の血を好まれるとか。
それなら母さん、好みに添えると思うわ。
お父さんには母さんから話しておきます。
嫁の身代わりということだったら、長年連れ添った妻を犯されても、我慢できると思うから――
このご年配の礼儀正しいご婦人ならば、いちいち頼まずとも脚に通してきてくれると思っていたよ。
吸血鬼は満足そうに、まだ若さを宿した姑の顔を覗き込んだ。
今夜の”新婦”はちょっと羞ずかしそうに、目を背ける。
ひざ下丈のスーツのすそから控えめに覗いたふくらはぎは、真新しい肌色のナイロンストッキングに、優雅に包まれていた。
婦人のたしなみとして姑が脚に通してきたストッキングは、ふるいつけられた舌にいたぶり抜かれ、唾液にまみれた。
そして、20年以上守り抜かれた貞操は、恥知らずな性欲に蹂躙されて、汚辱にまみれた。
身持ちの堅い人妻だった女は、新床のうえ、思ってもみなかった歓びを覚え込まされていた。
十数年後。
若妻は三十半ばの、熟れた女になっていた。
母さん、もう二人の仲を邪魔したりしないわ。
お好きなようにお付き合いすると良いわ。
ケンイチだって、それを望んでいるのだから。
せいぜい火遊びを楽しんでくださいね。
そして、この●●家の名誉を泥まみれにして頂戴ね。
でも母さんも、引き続きこの方のお相手することにしたわ。
父さんが言ってくれたの。
少しでも若いうちに、血を愉しんでもらうといいだろうって。
これからは若い嫁の身代わりではなくて、恋人の一人として愛してもらえることを、ぼくの望んでいるからって。
あのひとも。
私が抱かれているのをのぞき見して、すこし若返ったみたいだから・・・
姑の決断
2019年09月28日(Sat) 10:19:20
吸血鬼が若妻に横恋慕した。
彼は若妻を襲って血を吸い、犯してしまった。
若妻の夫は、最愛の妻の貞操が喪われたことを悲しんだ。
けれども妻が情夫に夢中になり、吸血鬼も妻のことを気に入っているのをみて、ふたりの関係を許すことにした。
吸血鬼は家庭を壊すことは望まず、彼女が人妻のまま犯すことを希望したからである。
妻も夫を愛していたので、夫婦はその後も仲の良い家庭を営んだ。
優しすぎる夫は、愛妻の新しい恋を祝福し、貞操の喪を弔った。
彼の母親が、息子の嫁の不倫に気がついた。
そして、息子までもが若い嫁の性交を認めてしまっていることを憂えて、関係を断たせようとした。
けれども、説得に出向いた母親は息子の家で吸血鬼に出くわして、あべこべに犯されてしまった。
いちど喪われた操は、元に戻らない。
けれども操を喪っても、夫婦愛まで壊れるとは限らない。
嫁の態度からそれと察した母親は、夫にすべてを打ち明けて、自分が嫁の身代わりに吸血鬼の愛人になりたいと告げた。
息子の血をうけた子どもの祖母になることを望んだためである。
父親は長年連れ添った妻を愛していたが、妻の決意が固いのを知り、自家の名誉が汚されるのを忍ぶことにした。
母親はまだ、四十代の女盛りだった。
それから8年の間、彼女は吸血鬼の愛人を引き受けて、その間に夫婦は愛し合って二人の子どもをもうけた。
やがて子どもたちご学校に通うようになると、吸血鬼と若妻の交際は自然に復活した。
夫や姑も、子孫を設けるというたいせつな役目を果たした彼女の恋を、もはや妨げようとはしなかった。
子どもたちは優しい息子と美しい娘に育った。
息子の花嫁と娘とは、二人ながら吸血鬼に処女を捧げ、特に娘のほうは吸血鬼の妻として結ばれた。
彼らの祖母が自らの貞操を汚すことで息子の血すじをつなぎ、なおかつ吸血鬼の花嫁をもたらすことになった。
9月27日7:58 脱稿
黒の日 赤の日 ピンクの日。
2019年09月08日(Sun) 07:01:46
「きょうは黒の日だな」
年配の吸血鬼は、志郎の母親・奈津希の首すじを咬みながら、ひとりごちた。
「たしかに黒の日ですね」
吸血鬼よりもやや若めなその片棒担ぎは、志郎の妻・美禰子のふくらはぎを咬みながら、それに応じた。
吸いつけられた唇の下、薄地の黒のストッキングが破けて、白い素肌を滲ませる。
奈津希も美禰子も、黒一色の喪服姿。
二人の夫たちも同様に、重たい喪服を着込んだまま、さっきから首すじにつけられた咬み痕を抑えながら、呻きつづけていた。
二組の夫婦は、それぞれ同じ間隔の咬み痕をふたつずつ、首すじに綺麗に並べていた。
先に夫を咬んで黙らせてしまってから、それぞれの妻を襲ったのだった。
法事と偽って呼び出されたこのあれ寺には住職はおらず、吸血鬼の巣窟と化していた。
二人の夫は、自分の妻たちを吸血の犠牲に供するために連れてきたようなものだった。
「大奥様の足許も、辱めさせていただくぞ」
吸血鬼は、奈津希が嫌そうに眉をしかめるのを無視して喪服のスカートをたくし上げると、
黒のストッキングに包まれた太ももに咬みついた。
むざんな伝線が拡がり、奈津希の太ももの白さが眩いほどにあらわになる。
奈津希は気丈にも相手を白い目で睨みつけたが、
吸血鬼はその視線をくすぐったそうに受け流しながら、さらにもう片方の脚にもかぶりついていった。
「おみ脚も美味ですな」
吸血鬼は貴婦人をからかった。
「きみたちは一体、どうしてこんなひどいことをするのか!?」
志郎の父は押し殺すような苦しげな声で、苦情をいった。
けれども男ふたりの脳裏にはすでに、吸血されたときにしみ込まされた毒がまわり、理性を喪いかけている。
女たちもまた、柔肌にたっぷりとしみ込まされた毒にやられて、気高いプライドを蕩けさせられかけていた。
彼女たちの顔色の悪さは、失血だけが理由ではなかったのである。
「ご主人、もう少しの辛抱です」
吸血鬼の返事を待つまでもなく、志郎の父はウウッと呻いて床に転がり、毒液の浸透具合を身体で告げてしまっている。
だれもが、わが身と家族の身にどんな変化が起きているのかを自覚していた。
吸血鬼たちはふたたび女たちのうえに覆いかぶさって、血を啜りはじめた。
夫たちはそのありさまを視ても、さっきほどの不平は鳴らさず、ただいっしんに妻たちの受難を見守りつづけている。
ストッキングを片方だけ脱がされて、女たちは夫たちのまえで、犯されていった――
「きょうは黒の日?どういうことだ?」
志郎の父が思い出したように呟いた。
「9月6日なのでね、それで”黒の日”」
若いほうの吸血鬼がこたえた。
「奥さんたちの貞操喪失記念日だ、よく憶えておかれるとよろしい」
年配の吸血鬼がつけ加えた。
「ああ・・・そうさせてもらうよ。志郎も忘れないように。美禰子さんの記念日だから」
「ああ、はい・・・そうします」
志郎も頭を抱えながら、いった。
女たちも、”目覚めて”しまったようだった。
自分を咬んだ吸血鬼と夫との間に穏やかな空気が流れ始めたのを感じ取ると、
再び身体を重ね合わせてきた侵入者たちに対して、自分から身体を開いて、
濃い媚態をあらわにしながら、おおいかぶさってくる逞しい背中に腕をまわしていった。
女ふたりの喪服のブラウスは引き裂かれ、剥ぎ取られていった。
きちんとセットした黒髪はほどかれて床に広がり、
吊り紐のちぎれたブラジャーは胸元から取り去られて、部屋の隅へと放り捨てられた。
腰周りから脱がされたショーツも同じように、ブラジャーの近くに放り捨てられた。
片脚だけ脱がされた黒のストッキングは、もう片方の脚のひざ下までずり降ろされて、皺くちゃにされていた。
彼らは、婦人たちの礼装を好んで辱めようとする習慣を持っていた。
理性を喪った妻たちの痴態は、同じく理性を喪った夫たちをそそりたてていた。
犯される妻を見て、ふたりの夫は明らかに欲情していた。
はしたないと思いながらも目を離せなくなっていた。
長年連れ添ったしっかり者の奈津希も、
たおやかな名流夫人と謳われた美禰子も、
吸血鬼の一時の性欲を満足させるために、娼婦のように振る舞いつづけたのだ。
ひとしきり嵐が過ぎると、志郎の夫はいった。
「黒の日ではない。赤の日だ」
妻の首すじから滴る血潮が、夫の網膜を妖しく彩っていた。
「黒の日でもよろしいではないですか」
年配者の奈津希は、さすがにもとの淑やかな口調を取り戻していたけれど、
ほつれた髪と乱れた着衣とが、その努力を裏切っている。
「女のたしなみを辱めるのはおやめになって」
破れたストッキングを片方だけ脚に通したまま、気丈にもそういって吸血鬼どもをたしなめた彼女は、
ハンドバックに忍ばせていた穿き替えを脚に通すと、自分の情夫に真新しいストッキングの舌触りを愉しませてしまっていた。
嫁の美禰子も義母の振舞いにならって、穿き替えを脚に通して自分の情夫に愉しませてしまっていた。
「女のたしなみとは、ストッキングの穿き替えをハンドバックに入れることかね?」
吸血鬼は女たちをからかったが、途中で真顔になると、「むしろ感謝している」と呟いて、
モノにしたばかりの情婦たちを愛情込めて抱き返していた。
「そうか、やっぱり黒の日かな。喪服を餌食にされたのだからな」
志郎の父は謹直な性格だったので、日ごろ使いなれない言葉を口にする舌がもつれていたけれど。
そんなささいな不首尾を聞きとがめるものはいなかった。
「ぼくにとっては、ピンクの日かもしれません」
志郎はいった。
「美禰子さんのことを、以前から見染めていたのです」
若いほうの吸血鬼は、志郎の勤め先の同僚だった。
つい先日、今しがた奈津希を犯したほうの吸血鬼に夫婦ながら血を吸われ、妻を愛人の一人として加えられてしまっていた。
妻を差し出した返礼に半吸血鬼にされて、若い女性を襲い放題の身分を得ていたのだ。
「奥さまを彼の愛人にしてもらうことは、この街では名誉なことですよ」
志郎の父にそういうと、「ぼくの場合はそうでもないけど」と、申し訳なさそうに同僚を振り返った。
「ぼくはご夫婦の関係を尊重します。ぼくのときも、そうしてもらっているから」
志郎の同僚は日頃から、夫婦仲が良いことで評判だった。
「わたしはそろそろおいとまするよ。母さんもそろそろ限界だからね」
志郎の父は志郎にいった。
たしかに、提供可能な血液をほとんど吸い尽くされてしまった奈津希は、痛々しいほど顔色をどす黒くさせていた。
「途中までお送りしよう」
吸血鬼はマントを取り、奈津希の身体から剥ぎ取った下着を、マントの隠しにねじ込んだ。
きょうの記念に持ち帰るつもりらしい。
若いほうの半吸血鬼も同じように、美禰子の下着をポケットにしまい込んだけれど、志郎はそれを制止しようとはしなかった。
「父さん、ぼくはもう少しここに残ります――美禰子もいいよね?」
すんなりと頷いてしまったことに恥じる美禰子のことを、だれもが気づかないふりをした。
「きみたち夫婦にとっては、たしかにピンクの日かもしれんな」
志郎の父は息子夫婦にいたずらっぽく笑いかけると、奈津希を庇って裂け目だらけの衣装の上から自分の上着を羽織らせた。
そして、自分の妻を襲った吸血鬼と何か言葉を交わしながら、息子夫婦に背中を向けた。
「なにを話し合っているのかしら」
「たぶん、奥さまを逢わせる頻度ですよ。いくら好きでも身体の負担になる逢瀬は彼のほうで遠慮するのです」
「きみもそうなのか?」
「それが人妻をモノにした男の務めかと――」
志郎は美禰子のほうを振り向いた。
アップにしていた美禰子の黒髪は乱されて、肩に長く流れていた。
犯されたばかりの自分の妻がそこにいた。
「もう少しお邪魔して、愉しんでいこう」
「そうね」
美禰子はためらいもなく、夫の目の前で重ね合わされてくる情夫の熱い唇を受け容れていった。
「黒の日じゃなくて、ピンクの日にしようね」
息荒く組み敷かれながら、美禰子は夫に目を向けて、イタズラっぽくウィンクをした。
あとがき
「黒の日」第二作ということで。^^
人妻が喪服姿を襲われるから、「黒の日」。
吸い取られた生き血に赤く矣泥られてしまったから、「赤の日」。
でもさいごには、夫まで巻き込んで愉しんでしまったから、「ピンクの日」。
おあとがよろしいようで。^^
嫁も姑も、堕ちてゆく。
2019年09月08日(Sun) 05:49:15
組んづほぐれつの痴態だった。
男は口走った。
子供が学校にあがるのを、待ち焦がれていたんだと。
これであんたもおおっぴらに、ストレス解消できるんだと。
女もこたえた。
そ、そうね、待っててもらって良かったわ。
貴男と逢うためなら、主人を裏切るのなんて、何でもないわ。
主人を裏切るのが愉しいの、スッとするの。
あなた、許して。あたし淫乱な女なの。
と、男に股間を突かれながら、口走っていた。
すべてが夫の目のまえの出来事だった。
妻の情夫に血を吸い取られた若い夫は、力の抜けた身体に苛立ちながらも、どうすることも出来なかった。
けれどもそのいっぽうで、どうすることも出来ない状況に置かれたことに、不思議な安堵を覚えていた。
抗拒不能な状況だからこそ、妻の痴態を目で愉しんでしまっても許されたから。
妻は夫の目のまえで、主人を裏切るのが愉しいのと口走り、
夫は娼婦と化した妻の痴態を激しい嫉妬にかられながらも、
視ることで愉しんでしまっていた。
嵐が過ぎ去ると、吸血鬼は夫を介抱し、夫は妻を犯した男のために、コーヒーを淹れた。
存分に血液を摂取してしまうと、彼は人と同じ飲み食いを愉しむことができたのだ。
あんたの淹れるコーヒーは旨いな、と吸血鬼はいった。
お気に召して何よりだと夫も応えた。
情事を遂げたすぐあとには、
あんたの奥さんはいい身体をしているなと吸血鬼がいい、
お気に召して何よりだと夫が応えていた。
さっきそんな会話を交わしたばかりだった。
男ふたりのあいだには、奇妙な友情が育ちはじめていた。
夫が訊ねた。
あんたは妻のことが好きなのか?
低い声色に恐る恐るの気持ちがこめられているのを、吸血鬼は敏感に感じ取った。
自分の家から妻のことを連れ去られてしまう日が来るのを、恐れている声色だった。
違うね、と、吸血鬼はまっすぐに応えた。
たんなる身体目当てだ。
三十前後の人妻の熟れた生き血と、締まりの良いあそこが欲しいだけだと。
侮辱するようで済まないが、と、吸血鬼はつけ加えた。
夫がいちばん恐れているのが、自分の家庭から妻がいなくなることだと、わかり尽くした目をしていた。
わざと露骨な応えかたをした吸血鬼の本意は、夫に素直に伝わっていた。
夫もまた、吸血鬼の気遣いを素直に感謝しているようだった。
少しだけほっとしている、と、夫は呟くように応じた。
あんたは強いし、テクニックも最高だ。
あんたに抱かれた妻がぼくとの時以上に昂奮しているのも、はたから視ていてよくわかっている。
きっと、相性も良いのだろう。
悪い相手に出逢ってしまったと、さいしょは思った。
でもあんたは多分、ぼくに解いてやることのできない妻のストレスを、きっとなんとかしてくれているんだろう。
ぼくはあなたを認めている。
悔しいけれど認めざるを得ないという気分はあるけれど、
それでもすすんで認めようと思っている。
唯一の気がかりは、きみに妻を奪われてしまうことだった。
でも、きみにその気がないことを、夫として安堵している。
身体目当て、歓迎ですよ。
この状況は、吸血鬼に魅入られるくらい魅力的な妻を持っているからなのだと、あきらめることにしています。
ぼくは、家内がぼくを裏切り続けることを希望している と。
治子がいままでどおり、ぼくの苗字を名乗りつづけてくれるのなら――
夫の告白をすぐその傍らで、
妻は大の字に仰向けになった姿勢のまま、
失血で空っぽになった頭で、夫の告白をそれでも満足げに聞き入っていた。
真っ昼間から臆面もなくたずねてくる吸血鬼を、治子の姑、絵美の夫はきょうもおだやかに迎え入れた。
絵美はいつものように、よそ行きのスーツをきちんと着こなして、情夫の訪れを待ち焦がれていた。
田舎住まいの吸血鬼が、都会育ちの婦人のたしなみである洗練された装いを辱しめたがっていると知りながら、
きょう彼女が袖を通したのは、夫が結婚記念日にプレゼントしてくれた濃い紫のスーツだった。
夫のために永年守りと通してきたはずの貞操を喪失して、はや1年が過ぎていた。
その貞操喪失記念日に、彼女は夫が結婚記念日にプレゼントしてくれた服を着て臨んだのだ。
夫ももちろん、自分が妻のために買ったその服を、妻がことさら選んだことに気がついていた。
けれども彼は気を悪くすることはなく、むしろ妻の選択を悦んでいるようだった。
長年連れ添った妻の貞操を、親しい友人のために無償でプレゼントしたと思うことにしていたから。
たまたまその日の絵美は、身体の調子がすぐれなかった。
けれどもせっかくの記念日を空しくするつもりはなかった。
彼女は顔色のわるさをいつもより濃い化粧で補った。
そこまでの配慮には気が回らなかった夫は、色っぽいねと妻をからかった。
絵美は夫の鈍さを咎めるつもりはなかったので、イタズラッぽくほほ笑み返し、肩をすくめてみせただけだった。
自分のために着飾って出迎えた絵美をひと目みて、吸血鬼はすぐに絵美の体調を見抜いた。
そして、きょうじゃなくても良いんだよ、と気遣った。
夫は頭に手をあてて、きみたちがうまく行く理由がよくわかったよと言い、自分の鈍感さを認めた。
そして、私は早々に退散しよう、せめて夫としての体面を守りたいからね、と、妻を情夫と二人きりにしてやろうと気を利かせた。
お気遣いはありがたいが、きょうにかぎってはご主人には出かけてもらいたくないと、吸血鬼はいった。
怪訝そうに情夫の横顔を窺う妻に、吸血鬼はいった。
きょうはきみのことを征服した記念すべき日なのだから、ぜひご主人にも祝っていただこう。
え?いやですわ、そんな。
絵美は戸惑い、恥じらった。
夫のまえではいつも淑やかで奥ゆかしい婦人でいなければならないだと思っていたからだ。
うろたえる絵美を横顔で受け流して、吸血鬼は夫にいった。
きょうはご主人のまえできみの血を愉しみたい。
趣味のよくない趣向であるのはじゅうじゅう承知しているが、きょうはぜひにもご主人にお付きあいいただきたい。
いかがですかな?
仕方ありませんな、と、夫はいった。
家内が迷惑に感じないのであれば、甘んじてこの罰ゲームをお受けしましょうと。
いちおう選択の余地は認めてくれてはいるものの、こたえはひと通りしか許されていないと、察しきった声色だった。
きみの身体の具合を思いやらなかったから、罰ゲームだね。
夫はそういって、絵美に笑いかけた。
絵美も困ったようにだが、笑い返していた。
妻の貞操喪失記念日を祝うのに、これほど適切なイベントはないと、夫は思った。
そして、せめて妻の羞恥心を和らげてやるために、わざと罰ゲームといったのだった。
彼は彼なりに、自分の目の前で妻と戯れたがるというけしからぬ嗜好に、好意的に応じようとしていた。
絵美も吸血鬼も夫の配慮に感謝していた。
吸血鬼は、ではさっそくご好意に与ろうといい、
絵美もまた、貴方がそう仰るのならと、夫を前にした吸血に応じることにした。
差し伸べられた妻の首すじに、情夫の赤黒く爛れた唇が、ヒルのようにねっとりと吸いつけられてゆくのを、夫は胸をズキズキさせながら見入ってしまった。
男は絵美の血を少しだけ吸い、吸い取った血潮をわざと少しだけ、ブラウスに滴らせた。
純白のブラウスにたらたらと滴らされた薔薇色の雫の色の深さが、夫の眼を狂おしく染めた。
絵美、大丈夫か?
夫は妻を気遣った。
絵美はゆるやかにかぶりを振って、せめてもう少しだけ、お愉しみいただきたいわと応えた。
ひと口啜っただけで彼女の体調を察することのできる情夫が遠慮してしまうのを怖れているかのようだった。
彼女はひざ下丈のスカートを、ほんのすこしだけたくしあげた。
下品にならない程度にひざ小僧をあらわにして、黒のストッキングに染めた太ももを覗かせた。
都会妻のたしなみを、夫のまえで辱しめられてしまうのですね・・・?
こたえの代わりに、痴情にまみれた唇が、熱く熱く圧しつけられた。
妻の足許になん度もなん度もくり返される接吻に、夫は吸血鬼の妻に対する執着のつよさを、感じないわけにはいかなかった。
ストッキングのしなやかな舌触りを愉しみながら圧しつけられて、都会妻のたしなみとされた装いは、くまなく辱しめられていった。
一時間後。
長い長い痴態だった。
かばうような緩やかなまさぐりを全身に染み込まされて、
妻が日ごろの淑やかさをかなぐり捨てて、めろめろに堕ちてゆくいちぶしじゅうを、
夫は嫉妬に溺れながらも見せつけられつづけた。
妻と情夫とのアツアツの刻を見せつけられるのが、きょうのつとめだとわかっていたので。
体調のわるさを押して、なん度もくり返される突貫を、さいしょは控えめにやがてだんだんと熱っぽく受け入れてゆく。
妻と他の男性との愛情豊かなセックスを見せつけられることに、さいしょは辟易し、少しばかり嫉妬に苛立ち、さいごは夢中になってしまっていた。
情夫の腕のなかで夢中になっている妻と、いまの自分の夢中さかげんとは、もしかしたらいい勝負かもしれないと思うほどだった。
絵美は情夫の腕のなかで昂りつづけ、
絵美の夫は絵美を視ることで昂りつづけた。
夫婦のベッドのうえ、夫ならぬ身にすべてを許し抜いてしまったあと。
放心しきって仰向けになった絵美の傍らで、吸血鬼は夫に告げた。
わしは絵美を愛している。
けれどもおふたりが離婚することまでは望まないと。
夫もいった。
家内を愛していただき、夫として感謝している。
貴方が身体目当てでなく家内に接してくれているのは、さいしょから感じていた。
だから貴方のための献血で、家内が健康をそこねることはないのだとわかってからは、ふたりの仲を妨げようとは思わなくなった。
これからも家内のことを頼みます。
当家の名誉を汚すことを気遣うことなく、家内との逢瀬をお愉しみになってください。
これが夫としての偽らざる希望です。
嫁も姑も犯されてしまう。
けれども女たちはうろたえながらも状況に順応して、吸血鬼の娼婦と化してゆく。
嫁も姑も寝取られてしまう。
けれども夫たちは不平を鳴らすことなく状況に順応して、視て愉しむ歓びにめざめてゆく。
6月17日ころ構想
義理堅い吸血鬼。
2019年03月03日(Sun) 07:03:05
やめてください・・・止してください・・・あぁ悔しい。
沼尻の婚約者である美奈子は、三日まえと同じ言葉を口にしながら、
ストッキングを穿いた足許にすりつけられてくる吸血鬼の唇を、受け容れ続けていた。
三日前、初めて襲われたときには、
身じろぎひとつできなくなるくらい血を吸い取られた後で、ストッキングを穿いた脚に唇を吸いつけられて、
ひどく悔しげに歯がみをしながら、相手を罵りつづけていたというのに。
その夜の美奈子は、言葉だけは三日まえとおなじでも、
語調はほとんどうわ言のように虚ろで、
差し伸べてしまった脚を引っ込めようともせずに、素のまま吸わせてしまっている。
脛にまとわりついた薄地のナイロンは、意地汚く這わされる唇のひと舐めごとに、
皺くちゃに歪められ、引きつれを拡げて、太ももやひざ小僧を露出させていった。
やめて・・・止して・・・あの人が視てるの、あぁイヤラシイ・・・っ。
そのつぎに美奈子が吸血鬼と逢ったとき。
虚ろな口調は昂った上ずり声に変化して、
吸いつけられてくる唇を拒もうともせずに、むしろ相手が吸いやすいようにと、脚の角度を折々変えてやってさえしていた。
初めて二人ながら襲われて血を吸い取られた後。
吸血鬼は美奈子に覚られないよう、沼尻に耳打ちをした。
今夜限りで、灰になるところだった。きみたちの血のおかげで、命拾いをした。礼を言う。
どうやらこの街から出ていくことのできない身の上のようだな。
同情するが、きみの彼女を誘惑することを、やめることはできない。
でもその代わり、そうするときには必ず、事前にきみに伝えよう。
彼女の身が心配ならば、様子を見に来るがよい。
だが約束する。きみが来ようが来るまいが、彼女の生命は保証するから。
ふたりを襲った吸血鬼は、意外なくらい義理堅かった。
美奈子の生命が危うくなるほど量をむさぼることはなかったし、
惑う美奈子をあやしたり軽く弄んだりしながらも、太ももから上には、手を触れようともしなかったのだ。
――処女は奪わない。わしにとって、処女の生き血は貴重だから。
――これがセックス経験のあるご婦人だったら、
――きみは自分の結婚相手が、わしを相手に淫らな愉しみに耽るのを視る羽目になっただろう・・・
ほんとうならば、毎晩でも誘いたかったはずなのに。
美奈子の身体を気づかって、三夜に一夜しか、呼び出そうとはしなかった。
それと察した美奈子は、彼から誘いを受けた夜には、なにを置いても逢いにいくようになっていった。
沼尻もまた、吸血鬼が自分の婚約者と”交際”するのを、黙認の形で受け容れていた。
吸血鬼の誘いを受けて真夜中の公演を二人並んで歩む様子を見守りながら、
美奈子が媚びを含んだ上目づかいで吸血鬼を見つめるようになったことにも気づいていたし、
婚約者の脚に通されたストッキングが、エッチな意図で破かれてゆくのを、歯がみをこらえながら見つめつづけた。
密かな逢瀬を見て見ぬふりをつづける沼尻に、美奈子は多大な感謝を寄せた。
少しでも多く処女の生き血を愉しませるために、2人は相談のうえ、結婚を半年遅らせることにした。
ふたりは知っていた。
セックス経験のあるご婦人とは、必ず身体の関係を結ぶという、彼の流儀を。
どちらから言い出すともなく、2人は婚期を遅らせることを、ためらいなく選んだのだった。
いよいよ明日が婚礼という夜。
吸血鬼は美那子を、誘い出した。
処女の生き血を提供する最後の機会――
美奈子はいつもより多量の血を、彼のために与えた。
月の光に照らし出された横顔が蒼ざめているのを、沼尻ははらはらとしながら見守っていた。
ベンチの隣に腰かけた吸血鬼にもたれかかるようにして、美奈子は息を整えようとしていたが、
吸血鬼の掌がやおら、美奈子のブラウスの胸をとらえた。
そしてもう片方の掌が、スカートの奥へとすべり込まされた。
いままでにない行為だった。
美奈子はハッとして、大きく目を見開いて、相手を見あげた。
吸血鬼は初めての唇を美奈子から奪うと、「お前を犯したい」と、告げた。
沼尻は、観念した。
結婚を控えた同年代の友人のほとんどが、彼らによって婚約者の純潔を譲り渡してしまったことを知っていた。
けれども今夜のケースは、この街のルールからすると例外の部類へとすすんだ。
美奈子は迫って来る相手の胸に掌をあてがって、吸血鬼の意図を柔らかく拒んだ。
「貴男から見たら非力な人に見えるかもしれないけれど、私にとっては最愛の人なんです。
どうかそれだけは、見逃して・・・」
吸血鬼は意外なくらいにあっさりと、美奈子の請いを容れた。
それでも残り惜し気に、彼女の頭を優しく抱きとめて、長い黒髪をいつまでも撫でさすっていた。
新婚旅行は海外だった。
勤め先の事務所もその地にあったので、そのまま逃げてしまうことも可能だった。
ようやく自分のものになった美奈子のしなやかな肢体を、ほかの者に譲り渡さずに済むはずだ。
げんに、婚約者を手籠めにされて”目ざめなかった”ある者は、そのままこの地に赴任して、街を捨てていた。
吸血鬼の棲む街は、創業者の生まれ故郷で、街に作られた事務所は、血液提供のために立ち上げられたと評判だった。
それでも、適性に欠け街を離れていくものを、無理に引き留めようとはしなかったのだ。
義理堅い吸血鬼のため、沼尻は、彼自身も義理堅く約束を守った。
新婚旅行を終えて帰国すると、お土産を携えて彼の棲み処を夫婦で訪れ、
夫の視ているまえ、美奈子は吸血鬼に抱かれた――
沼尻夫人としての守操義務を夫の前で放棄することで、吸血鬼は虚栄心を満たした。
それからはしばしば、夫婦ながら吸血された後、新妻が夫の目のまえで淫らな歓びに浸る夜が続いた。
吸血鬼は美奈子を愛し、美奈子は夫を愛していた。そして、そんな美奈子に沼尻は満足を覚えていた。
三人三様の想いを秘めて、新妻が夫と吸血鬼とに共有される関係は、円満裡につづけられた。
転機が来たのは、沼尻の母豊子が夫を亡くして、街に移り住んできたときだった。
同居した嫁と姑とは、お互いに少しずつ気まずい思いをしながら暮らしていたが、
勘の良い豊子はすぐに、嫁の日常に不倫の匂いを嗅ぎつけていた。
夫のいない夜に出かけて行って、ホテルで密会を遂げた後、
ホテルのロビーで待ちかねていた豊子が、ふたりをとがめた。
ここではなんですから――慇懃に申し出た吸血鬼に公園に誘い出された豊子は、その場で吸血され犯された。
まさか嫁の不倫相手が吸血鬼だなどとは、堅実な主婦を廿年以上続けてきた豊子には、思いもよらないことだった。
美奈子に介抱されて帰宅した豊子は、まんじりともせずに夜を明かした。
ひと晩じゅう、夫の写真をまえに、なにかを詫びている様子だった。
夜勤から戻った沼尻に、豊子はたいせつな話がありますといって、
夫を迎えるために早起きしていた美奈子とともに、自室に入れた。
そして、夕べの顛末を、つとめて淡々と、語って聞かせた。
美奈子さんのようすがおかしいと思って気になっていたが、
夕べ行き先も告げずに出かけたので、申し訳ないと思いつつあとを追ってしまいました。
美奈子さんは男のかたとホテルで待ち合わせて、そのまま部屋に入り、3時間ほどそこで過ごしました。
ふたりがどういう関係なのか、大人の殿方だったら、察しがつきますよね?ええ、私も察しをつけました。
それは、俊一(沼尻の名)の嫁としてはあってはならないことだと私は思ったので、
ロビーに出てきたお二人に声をかけさせていただきました。
でも、美奈子さんのお相手の方が吸血鬼だったとは、夢にも思いませんでした。
美奈子さんによると、俊一も美奈子さんとその方との関係を認めているというのです。
それは本当のことなのですか?
お相手がお相手ですから、きっと特殊な事情があるのでしょう。
お二人に声をかけたあと、私がどういう目に遭ったのかは、お話ししないでもわかると思いますし、
息子の貴方に聞かせることではありません。
(お義母さまはずっと気高くいらっしゃったから、あなた安心して――と、ここで美奈子が言葉を添えた)
美奈子さんの夫として、私の息子として、貴方の考えはどうなのですか。
それを伺いたくて、夜勤明けでお疲れのところ、お呼び立てしました・・・
鶴のように気位高く構えた母に、沼尻はいった。
美奈子が彼に愛されていることを誇りに思っている、
わたしたちが婚期を遅らせたのは、処女の生き血を少しでも多く分けてあげたかったからです――と。
あなたたちがそれで良いというのなら、私は何も申しません。
古風な考え方の持ち主である豊子は、意外にも素直に息子の言を受け入れた。
もしかすると、夕べの凌辱の残滓が、彼女のなかで心地よい疼きとなって残っていたのかもしれない。
しかし豊子はそのうえで、ひとつだけつけ加えた。
それでもひとつだけ、お願いがあります。
それというのは、美奈子さんには間違いなく、俊一の子を産んでいただきたいのです。
沼尻の家の血すじを、絶やしたくないからです。
わかっていただけますか?
どうしてもお会いになるというのなら、それも良いでしょう。
けれども、美奈子さんと俊一との関係も、たいせつにしていただきたいのです。
だからといって今さら、あのかたから美奈子さんを取り上げてしまうわけにもいかないようですね?
それならば、提案があります。
私が美奈子さんの身代わりを務めます。
もう、お父さんもいらっしゃいませんから、どこにも迷惑のかかる話ではありません。
夕べのことがなければ、私もここまでの勇気は湧かなかったかもしれないけれど、
お父さんには、家に戻ってからずっと、おわびをしました。
どうやら私でも、愛される資格はあるようですから、あなたたちさえよろしければ、私からあのかたに話してみます。
私があのかたのお相手をしている間に、できれば子供を二人、産んでください。
そうしたら、あのかたを美奈子さんにお返しします。
もっとも――年輩の私では、吸血鬼さんもお気が進まないかもしれませんから、
ご相談はしなくてはねぇ・・・
さいごのくだりで母親が見せたほのかな女の情の揺らぎを、息子も嫁も、見逃さなかった。
豊子の希望は沼尻から吸血鬼に伝えられ、吸血鬼は早速その日の夜には沼尻の家へと現れていた。
「お早いのですね」
敏感すぎる相手の行動に、ちょっと鼻白みながら、豊子はいった。
「善は急げと申しますから」
物腰柔らかに吸血鬼が応えると、
「学がおありのようですね」
と、豊子は感心してみせた。
いつの間にか、息子も、嫁も、座をはずしていた。
ふすま越しに聞こえる切羽詰まった息遣いをそれとなく察すると、
豊子はそわそわと、おくれ毛を撫でつけながら、いった。
「きょうを、私の命日にしたいと思います」
吸血鬼はいった。
「生まれ変わるという意味なら、それもよろしいかもしれない」
我々には、縁づいたご婦人と、記念日をもつことにしている。
そう、初めて契った夜のことです。
ちなみに美奈子さんは、〇月×日――ご成婚の前日です。
貴女の場合は――きょうを祝いの日としたい。
初めて犯したのは昨夜のうちであるが、貴女にとっては本意ではなかったはず。
美奈子さんを沼尻夫人のまま愛し抜いたように、今夜、貴女を未亡人のまま恋人の一人に加えたい・・・
未亡人だった豊子は、齢五十にして恋に落ちた。
夫のときよりも激しい恋だった。
モノにした女をその夫の目のまえで抱くことを無上の悦びとする・・・という彼のけしからぬ趣味を、豊子未亡人は好意的に受け容れた。
喪服姿に身を包んだ豊子未亡人は、夫の写真をまえに吸血鬼を迎えて、
美奈子のストッキングを好んで辱めていた吸血鬼のため、夫を弔うために脚に通した黒のストッキングを、びりびりと破かせていった。
しつけに厳しかったはずの母親が、
破けた薄地のナイロン生地から、ひざ小僧をまる見えにさせながら、
へらへらと笑いこけながら吸血鬼に犯されてゆく光景に、沼尻は昂ぶりを抑えきれなかった。
沼尻夫妻は、結婚以来もっとも濃密なひと刻を、豊子の支えで持ち続けた。
吸血鬼はその後も美奈子を夫の前で抱いたが、「体の中に精を注ぎ込まない」という条件つきだった。
義理堅い彼は、美奈子が豊子の求め通り子供を二人産むまで、約束を守りつづけた。
沼尻の長女は、中学の入学祝に初めて咬まれ、高校の卒業祝いに、彼氏の目のまえで処女を捧げた。
母さんもしないことを、私経験しちゃった――はずんだ囁きに、賢明な母親はくすぐったそうに笑み返した。
その弟は、高校に入ってできた彼女を吸血鬼に咬ませ、婚礼の前夜に花嫁の純潔をプレゼントした。
父さんがしなかったことをぼくがした――奇妙な自慢に、両親はくすぐったそうに苦笑し合った。
豊子は、齢七十になるまで”現役”だった。
現役を卒業してもなお、脚に通した黒のストッキングを目あてにかがみ込んでくる愛人を、愛想よくもてなしつづけている。
義理堅い吸血鬼に、義理堅い人間の一家。
この吸血鬼物語に、”被害者”は存在しないようだ。
賢明な母。
2019年02月26日(Tue) 08:16:10
わるい男たちの毒牙にかかって、嫁をまわされてしまった。
生真面目な質の嫁は意外にも淫乱で、ノリノリになって、応じてしまった。
悔しかったけれど、世間体もあったから、わたしは事を荒立てることをしなかった。
そんな嫁の乱行に母が気づいたときに、転機が訪れた。
おおぜいの男どもを相手に自宅で輪姦パーティーをくり広げる嫁を咎めた母は、
その場で輪姦の渦に巻き込まれてしまった。
厳格だと思い込んでいた母は意外にも淫乱で、ノリノリになって、応じてしまった。
「どうせならあの子も仲間に入れて、楽しくやろう」
母の提案に、男たちは一も二もなく従った。
それ以来。
自宅での輪姦パーティーには、わたしまでもが加えられた。
わたしは妻や母の服を身に着けて女役をつとめたり、逆に男として母を抱いたりした。
幸いにも、母はすでに未亡人だった。
父の法事帰りの喪服姿に目の色を変えた男どもが群がって来た時は、さすがに母も顔色を変えたけれど、
とうとう、永年連れ添った夫を弔うために身に着けた装いを、
淫らな遊戯のコスチュームへと、惜しげもなく堕としてしまっていった。
「まるで初めて浮気したみたい」
母は少女のように、頬を上気させていた。
悔しい思いでいたわたしも、いつか彼らとともに愉しんでしまっていた。
母までもが犯されることで、わたしはすっかり従順に飼い慣らされて、
愉しみを愉しみとして、歓びを歓びとして、受け容れてしまっていた。
苦痛に満ちていたはずの寝取られた日常は、
刺激に満ちた愉悦の日々に変化した。
わたしまでも巻き込んで輪姦パーティーに興じた母。
母はどこまでも、賢明だった。
あとがき
妻を犯されるよりも、母親を犯される方が、ある意味致命的です。
そして母親が状況を受け容れたことで、大切な女性を二人ながら汚された男もまた、素直な気分になって仕舞ったようです。
めでたしめでたし?
輪廻 ~ある家族の年代記~
2017年05月30日(Tue) 07:34:11
吸血鬼に初めて抱かれたとき、そのひとはまだ二十代。
都会から転居してきたばかりの人妻だった。
先に血を吸った夫の理性を、まず狂わせて。
伴ってきた彼の若妻の貞操をゲットする権利をまんまとせしめた直後のこと。
身体をカチカチにこわばらせて、整った目鼻立ちを終始引きつらせていた。
ストッキングを片方脱がされて、スカートの奥を侵された瞬間、
キュッと眉を引きつらせ、涙ぐんでいた。
そしてすすり泣きをくり返しながら、奪われつづけていった。
「いらっしゃい。喉渇いていらっしゃるの?」
十年後。
女はミセスの余裕たっぷりに微笑んで見せ、主人は今夜戻らないのよと教えてくれた。
それは先刻彼女の夫から聞かされていたことだったけれど、
そんなそぶりは見せないで、わざとにんまり微笑みかえしてやる。
「エッチ」
女は吸血鬼の頬を思い切りつねると、自分の感情を押し隠して、
「息子はもう寝(やす)んでいます」
とだけ、いった。
早くもくつろげかけたブラウスのえり首からは、肉づき豊かな胸が熟した血色をたたえている。
「視ちゃったのか。しょうがないやつだな」
照れ笑いする青年のまえ。
吸血鬼は彼の母親から吸い取ったばかりの血潮を、まだ口許にあやしたままだった。
ここは二階の勉強部屋。
彼の母さんはまだ、リビングの真ん中で大の字になって、へろへろになってしまっている。
訪問着のスカートの裏地を、人妻が決して受け入れてはならないはずのあの生温かい粘液でびっしょり濡らしたままだった。
「じゃあ、おいしくいただこうかな」
吸血鬼が威圧的に、牙を光らせた。
青年はウキウキとした目で、さっきまで母親を冒していたその牙に見入っていた。
「おいしくいただいてくださいね」
目を瞑った青年の足許ににじり寄り、足首を抑えつけると、
吸血鬼は青年のふくらはぎを、ハイソックスのうえから強く吸った。
自分の身体をめぐる血潮を吸い取られるチュウチュウという音にウットリと聞きほれながら、
青年はゆっくりと、姿勢を崩していった。
気がつくと、半ズボンを脱がされていて。
鎌首をもたげた男の股間が、自分の秘部に迫っていた。
ギュッと歯を食いしばって、こらえる痛み――
その苦痛は一瞬で、あとは言い知れない快楽が、じわじわと身体じゅうにしみ込んでくる。
初めて血を吸われたときといっしょだ、と、青年は思った。
男は青年の思惑などつゆ知らず、というていで、なん度もなん度も青年の股間を抉っていった。
母さんが堕ちるのも、無理ないや。
青年は心からそう思い、母と吸血鬼との仲を取り持った父に、ひそかな称賛を送る。
「中條家の長女の貴代さん、知っているな?」
夫婦のベッドで、夫人をたっぷり可愛がったあと。
ゆっくりと身を起こしながら、吸血鬼はいった。
「京太のクラスの子でしょう?」
美奈代はけだるげな表情のまま、さぐるような視線を吸血鬼に投げた。
「そのお嬢さんを、先月堕とした」
「処女を奪ったの?」
「まあ、そんなところだ」
「まあ、珍しい」
「ほかにあてができたのでね」
フッフッと吸血鬼が笑う。
「アラ、捨てられちゃうなんてかわいそうね」
「そのかわいそうなお嬢さんを、拾って欲しい」
「どういうこと」
「あんたの息子の嫁にどうか?と訊いているのだ」
「あなたにお嫁入りした子を、うちの嫁として引き取れ・・・と?」
かなり屈辱的な条件の縁談なのに、母親は面白そうに目を輝かせる。
「私だって、主人がさいしょの男だったのよ」
暗に吸血鬼の目論見を軽く非難してみせたあと、
女は血を吸い尽された後のうつろな目を、天井にさ迷わせる。
「あー、でも・・・」
男は女が言葉を継ぐのを待っている。
「私、さいしょに抱かれるのも貴男だったらよかったなぁ。私の一番いいところ、全部あなたに差し上げたかった」
女は自分の言いぐさのなかにある答えに、初めて気づいたように顔をあげた。
「私の願望を、うちの嫁で実現するというのね?」
悪びれもせず頷く吸血鬼に、女は「エッチ」といって、情夫の頬を強くつねった。
この邸に彼女を連れてくるようになって、もう何回目になるだろう?
京太は血の抜けた身体をけだるげに横たえて、
貴代を伴って吸血鬼が消えた別室のほうを見やっていた。
この街では、まだ学生のころに、婚約を済ませるという。
親たちのすすめでお見合いをさせられたのは、まだセーラー服姿の同級生。
ずっと三年間を過ごした顔なじみのその少女は、特に仲が良くも悪くもなく、気心だけは知れていた。
親の決めた縁談に、否やはなかった。
彼はその縁談を、受け容れた。
すでに吸血鬼から直接すべてを聞かされたのに、巧みに言い含められてしまっていた。
吸血鬼が純潔を散らした少女を、未来の花嫁として受け容れる。
そんな立場に、マゾヒスティックな歓びさえ、感じていたから。
京太といっしょに邸を訪問するときは。
貴代は夏ものの制服の下、いつも黒のストッキングを履いていた。
それが嫁入り前に得た情夫を愉しませる装いなのだと、容易に察しがついたけれど。
京太は「似合うね」とだけ、言ってやった。
そう――きみと小父様は、似合いの不倫カップルだよね。
「気が向けば、覗いても良い」
仲良しの小父さんは、そんなことまで教えてくれた。
いままでは、覗く勇気がなかったけれど――
今初めて芽ばえた、どす黒い衝動が。
青年のなかでむくむくと、鎌首をもたげていった。
手の震えを抑えながら、ふすまの取っ手に手をかけて。
恐る恐る細目に開いたふすまの向こう――
黒のストッキングを片方だけ脱いだ少女は、
はだけた制服からピンク色の乳首を覗かせて、
ひそめた眉に甘い媚びをたたえながら、
未来の夫を裏切りつづけている。
新妻よりも母?
2016年12月06日(Tue) 08:09:55
吸血鬼の愛人を持ち、昼間から情事に耽るわたしの新妻に。
母はいつも顔をしかめていたけれど。
そのうち、吸血鬼自身を相手に、顔をしかめるようになっていた。
そう。
妻にそそのかされて、母を吸血鬼に引き合わせてしまったから。
お義母さま、まだお若いのにもったいないわ。
きっとお義母様の生き血は、あの方のお口に合うはずよ。
あなた、しっかりなさって。
お義母様を、お幸せにして差し上げましょうよ。
私、お義母様が一日でもお若いうちに、お義母さまの生き血をあの方に愉しませてさしあげたいの。
ね、あなたもそう思うでしょう?
吸血鬼に迫られて、首すじを咬まれ「ああーッ!」と叫ぶ母の姿に。
妻とおなじくらい、いやそれ以上に股間を熱くしてしまうのは、なぜだろう?
お義父さまはお気の毒だわ。だから私が、慰めて差し上げるの。
そういって父といっしょに妻が寝室に消えたあとも。
わたしは母の受難の場から、立ち去ることができずにいる。
パンストを片脚だけ穿いたあられもないすがたで、犯され抜いていく母は。
今夜もその姿で、息子のわたしを昂らせてしまう――
こういうことは、愉しんじゃったほうがいい。
2015年03月26日(Thu) 07:00:12
すっかり姦られちゃいましたねぇ。おふたりに。
母さんは自分を犯した吸血鬼に、そういった。
いつもと変わらない、声色だった。
まあ、まあ、しかたないでしょう。このあたりの風習だそうですね。
郷に入りては・・・って、申しますものね。
自分に言い聞かせるように、そういうと。
母さんは真紀子をふり返って、こういった。
こういうことは、愉しんだほうがいいの。
真紀子はべつの男に血を吸われ、姦られているさいちゅうに。
ずうっと悲鳴を、あげつづけていた。
けれども――
涙目の顔だちに浮かんだ表情は、いままでとは別の感情を、滲ませている。
一瞬白い歯をみせた真紀子に、母さんは「それでいいのよ」と言った。
姑を犯したばかりの男が目の前に立ちはだかるのを、真紀子はぼう然と見あげていた。
戸惑う真紀子に、母さんを犯した男が迫っていって。
母さんは、嫁を犯した男に、自ら唇を与えていった。
相手を取り替えあって情事に耽る嫁姑に。
おや、おや。あいつもなかなか、やるじゃないか。
白髪頭を掻きながら。
父さんはのんきにも、そんなことを呟いている。
永年連れ添った妻が、自分以外の男を、同時に2人も受け入れてしまっているというのに。
もっともぼくも、同じ立場・・・
2人めの男を相手に腰を振りはじめる真紀子を見つめ、
目線がクギづけになって、離せなくなっている。
真紀子のあしらいは、さいきんご無沙汰がちの夫婦の営みよりも、熱っぽかった。
それでいいんだ。
こういうことは、愉しんじゃったほうがいい。
母さんと似たような言い草だった。
やっぱり似たもの夫婦なのだろうか?
唇をせわしなくうごめかせ。
ふたりの女たちから生き血を啜り取ってゆく男たち――
旨そうだね。
ぼくが呟くと。
気に入ってもらえる方が、まだしもだな。
父さんも応えてくる。
ふたりの顔色がすっかり蒼くなったころ。
宴は終わった。
まだ吸い足りなさそうな男どもに、
母さんはまたいらっしゃいよなんて言っているし。
真紀子は最初の男とメールアドレスの交換を始めていた。
ここで男どもが出ていったら、間抜けだよな。
あけすけに挨拶でも、したいのだろうか?
これからも家内をよろしく・・・なんてふうに。
でもそんな衝動、わからなくもなかった。
こちらの気分を見透かすように。
母さんは真紀子に囁いている。
だいじょうぶ。
男のひとたちもきっと、今頃覗いて愉しんでいるから。
洋館の誘惑
2013年03月04日(Mon) 06:51:43
都会の郊外にあるその洋館の奥深くにある寝室は、ルイ王朝風の豪奢な造りだった。
学生時代にヨーロッパ旅行をして以来、税所江津子がこんな室内を目にするのは、たぶんはじめてのことだった。
その彼女はいま、ベッドのうえにいる。
訪れたときのスーツ姿のまま襲われた彼女は、ブラウスやスカートをまだ身に着けたまま、犯されているのだった。
すぐ傍らにある古風な椅子の背もたれには、江津子の着てきた黒のジャケットが、きちんと掛けられている。
綺麗な洋館に伺う。
そう誘われた彼女は目いっぱいおめかしをして、此処に来たのだ。
新品のガーター・ストッキングは彼女の脛を淫靡な輝きで包んでいたが、
ストッキングのうえからするりと抜かれたショーツはベッドの傍らに落ちていて、深紅の絨毯のうえにショッキングピンクの彩りを添えていた。
初めての痛みに打ち震えながら涙を浮かべた江津子は、歯を食いしばってかぶりを振っていた・・・はずだった。
「痛い」
江津子がそういうと、
「じきに慣れる」
そんな応えがかえってきた。
たしかにそうだった。
二度三度・・・とくり返すうち、痛いだけだったはずの衝撃は、じょじょにきわどい疼きのようなものを濃くしていって、さいごに苦痛が快感にすり替えられていった。
「相性がいいようだ」
いい気な言いぐさに女は、
「そうね・・・」
仕方なくそう、応えていた。
相手の男は、日本人ではない。
銀色の髪の下の広い額、そして彫りの深い目鼻立ちがそう語っていた。
かといって純粋なアーリア人種でないことは、逞しい筋肉を蔽う褐色の肌が示していた。
齢のころは、三十くらいだろうか。いや、もっと上だろうか?案外江津子の父と、同年齢くらいかもしれない。
逞しさとしなやかさによろわれた老練な手管が、彼の年齢をわからなくさせている。
しだいに意気投合し始めた江津子はしかし、(これでいいはずはない)と、思っていた。
結婚するまでは肌を許さない・・・いまどきではないかもしれない保守的な感覚がそうさせていたこともあったのだが、
それ以上の理由として、もうひとつのっぴきならない事情が、隣室でくり広げられていたから。
廊下をへだてた真向かいの部屋。
この部屋とまったくおなじ造りらしい其処には、木藤喜美恵がべつの男とふたりきりでいた。
喜美恵は江津子の兄の婚約者で、挙式を来週に控えているのだった。
誘いをかけてきたのは、喜美恵のほうからだった。
―――お兄様と婚約している身なのに、これでは不倫ではないか。
―――許せない。あたしをこういう立場に追い込んで、自分の不倫を通そうなんて。
そんな想いが江津子の胸の奥に、澱のような不純物となってむくむくと湧き上がっていた。
「兄嫁のことを考えているな」
男はすべて、見通しているようだった。
「不純だわ」
「ははは。いいじゃないか。あんたはあんたで、愉しめば良い」
「そんな・・・そんな・・・」
露骨な言いぐさに腹を立てて、江津子は暴れた。
けれども彼女の四肢は、展翅板に拡げられたチョウのように自由を失っていた。
力いっぱいの抵抗は、わずかな身じろぎに抑え込まれて、シーツの皺を深くしただけだった。
男の唇が、江津子の首すじを這った。
唇の下には、一対の咬み痕が疼いていた。
なにも知らない江津子をこの部屋に招き入れた男は、彼女をベッドの傍らに立たせて背後から忍び寄り、さいしょに首すじを咬んでいた。
尖った二本の犬歯に皮膚を冒された江津子は、激しい眩暈を覚えて、そのままベッドに倒れ伏したのだった。
ちゅう・・・っ。
江津子の血を吸い上げる音が、静かな昂ぶりのこもった室内に洩れた。
ひいっ・・・
体内をめぐる血潮が傷口を抜ける感覚のおぞましさに、江津子は声を洩らして縮みあがった。
「じきに慣れる」
男はさっきとおなじ言葉をくり返した。
「そんな・・・」
江津子は悶えたが、男は放さなかった。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
静かになった女の身体に覆いかぶさった黒い影は、女の二の腕をしつようなくらい撫でていた。
ブラウスに散ったなま温かい飛沫が、サテンの生地にじょじょにしみ込んでいって、その下に着けたブラジャーを濡らし、さらにその下に秘めた乳房を浸す。
着衣のうえからのまさぐりは、すでに十分に、その豊かなふくらみに熱を与えていた。
江津子は無念そうにキュッと目を瞑り、それからゆっくりと、ガーターストッキングを穿いたままの脚を、披いていった。
「お嬢さん、なかなかタフだね」
男はクスッと笑い、女は「ばか」といって、顔をそむけた。
なん度めかの吶喊が、江津子の局部を冒した。
部屋を出たときちょうど、向かいの部屋のドアも開いた。
江津子の真向かいには、来週から兄嫁になるはずの女が、蒼い顔をして佇んでいた。
振り乱された長い黒髪。
血色を喪いやつれを帯びた頬。
肩ひもが片方二の腕に落ちた、ふしだらに着崩されたブルーのワンピース。
青みがかったグレーという珍しい色のストッキングはむざんに引き剥かれて、ひざのあたりまで破れ落ちていた。
江津子は自分自身を鏡で見ているような気分がした。
「ブラウスに血が撥ねているわ」
義姉になる女の指摘に、
「真っ赤なブラウスだから目だたない」
江津子は意地を張るように、ぶっきら棒にこたえた。
え・・・?
わが目を疑う思いだった。
江津子の傍らにいた男が、義姉を抱きかかえるようにして、隣の部屋に入った。
喜美恵の隣にいた男は、入れ替わるようにして、江津子を抱えてもとの部屋に後戻りさせた。
両方のドアが、ほぼ同時に閉じられた。
向こうの部屋のドアが閉まる寸前、ベッドに投げ入れられた義姉の陶然とした表情が白い顔に浮かぶのが見えた。
「愉しみましょう、マドモアゼル」
洋風の顔をした男が口にすると、ちっとも気障に聞こえなかった。
そのうえ男は、真顔だった。
さっきの男よりやや老けているものの、うり二つの顔だち。
一見して兄弟とわかる関係だった。
有無を言わせず追い詰められたベッドのきわで、江津子はあくまで拒絶のことばを口にし続けたけれど。
抵抗する意思を失った身体はそのままシーツに沈められていって、二人めの男を体験させられていた。
白百合のような。
そう表現したくなるほど、広間にひかえていた二人の婦人は、色が白かった。
アーリア系の肌の白さに、江津子は目のくらむ想いがした。
ふたりは薄紫とピンクの、色違いのロングドレスに身を包み、
アップにした金髪の下にむき出しになった首すじには、今夜の女の賓客ふたりとおなじ、赤黒い咬み痕を滲ませていた。
「姉妹なんです、妾たち」
年かっこうから見て姉らしい、薄紫のドレスの女がそういった。
「あたしたち、どうなるんですか?」
性急すぎる問いに、ピンクのドレスの女がこたえた。
「くり返し、いらしていただくことになるでしょう」
「そんな・・・」
江津子は身を揉んだ。
ちょうど真上の部屋では、喜美恵が男ふたりを相手に、宴のつづきを演じていた。
「どうすれば抜けられるの?」
「さあ・・・それがわかっていれば、妾たちも抜け出していることでしょう」
江津子の目のまえが真っ暗になったのは、貧血による眩暈ばかりではなかった。
「ここでお別れしましょうね。ひとりで帰れる?」
兄嫁らしい気遣いは、この洋館の玄関をくぐる直前と変わりなかった。
江津子は24歳。
喜美恵は27歳。
一本気な江津子を、喜美恵は洗練された優雅さと計算し尽くされた話術とで、かんたんに籠絡していた。
「じゃあね。お兄さんによろしく」
まったく悪びれずに別れのあいさつを口にする喜美恵を遮るように、
「わたしが送る」
さいしょに江津子の相手をした弟のほうが、冷然とした語調でいった。
「夜は危ないからな」
あなたほど危ない男はいないのに。
自分より頭ひとつ背丈のすぐれた男を、江津子は上目づかいでにらんだ。
江津子自身は気がついていなかったが、まるで恋人を見あげるまなざしになっていた。
「いつまでお寝み?」
透きとおったきれいな声が愉しげに響いて、目覚めたばかりの江津子を弄りものにした。
はっとして起き上がったのは、自室のベッドだった。
あれは悪夢だったのか?
断りもなく部屋に入り込んできた喜美恵を咎めることも忘れて、江津子は頭を抱えた。
目もくらむような貧血に、夕べの出来事が事実なのだと思い知らされた。
喜美恵はゆったりとほほ笑んで、上品な紫のスーツがよく似合うすらりとした肢体をくつろげている。
「もう夕方よ。初めてだったから、しかたないでしょうけれど」
喜美恵のおとがいのすぐ下には、ふたつ綺麗に並んだ痕が滲んでいる。
白い皮膚の底だけがむざんに抉られて、赤黒い痣になっていた。
そのコントラストは、醜さよりもむしろ、もっと蠱惑的なものがただよっていて、江津子はついうっとりと、見とれてしまった。
「あなたにだけ、いいこと教えてあげる」
喜美恵は愉しげな微笑を絶やさずに、ウフフ・・・と白い歯をみせて肩をすくめた。
いちど帰宅した喜美恵は、肩先に血のにじんだ青のワンピースを脱ぎ捨てると、
ベッドにつくこともなくシャワーを浴び、紫のスーツに着替え、
かねて約束していた婚約者の輝夫とその両親との待ち合わせ場所に急いでいた。
朝の10時。
待ち合わせ場所は、あの洋館のすぐ前だった。
「晩御飯ですよ」
母の声が、階段の下からした。
いつになく、疲れたような声だった。
江津子は喜美恵の脇をすり抜けるようにして、部屋を出た。
喜美恵は相変わらず含み笑いを絶やさずに、江津子のあとにつづいた。
「きょうは皆さん、早く寝ましょう」
母はまだ、和服姿だった。
いつもお茶会やお招ばれのときに見慣れた、濃い紫の和服だった。
蘇芳色の帯も、きちんと締めたままだった。
けれどもどこかに、違和感があった。
和服の時にはいつもきりりと結い上げているはずの黒髪が、妙に乱れていた。
ほつれた後れ毛がいくばくか、頭の輪郭からはみ出している。
面やつれもひどく、頬がこけているように見えた。
なによりも、和服の感じが変だった。
着くずれした襟元が微妙に曲がっていて、見慣れない赤い斑点が付着していた。
なによりもその首すじにふたつ綺麗に並んだ痕に―――江津子は危うく声をあげそうになった。
黙々と箸を動かす父や兄の首すじにも、おなじものがついていた。
ふたつの傷口の間隔は、母のそれに比べてひと周り狭かった。
「吸血鬼なの。あのひとたちも」
身を寄せ合うように怯えた顔をしていた薄紫とピンクのドレス姿が、記憶の彼方でかすんでいた。
週明けの出勤のあわただしさは、江津子の気分を入れ替えてくれた。
けれどもどうしても、みんなのまえに出るのに気後れがあった。
父も兄も、送り出す母も、だれひとり気にかけていないようだったけれど。
だれもが首すじに帯びている、あのふたつの痕―――
問いただされたら、なんと応えればいいのだろう?
始業まえトイレでいっしょになった同期の江藤沙希に、「ちょっとちょっと」と、江津子は手招きをしていた。
「ここ、変じゃない?」
自分の首すじを指さして、思い切って、訊いてみた。
「え・・・?」
沙希からは、薄ぼんやりとした反応しか、かえってこなかった。
「なんともなってないけど」
え・・・?
鏡を見直す江津子の目には、咬まれた痕がありありと滲んで見えるのだった。
白のタキシードも凛々しい兄。
そのあとを楚々とつき随う、青のカクテルドレス。
俯きがちな面差しにかすかな羞じらいさえ浮かべて、喜美恵は初々しい花嫁を完璧なまでに演じていた。
江津子は終始、落ち着かなかった。
彼女を含む家族全員がまだ首すじに滲ませているはずの咬み痕は、だれの目にも触れないらしい。
それは一週間の勤務を経て、じゅうぶん自覚はしていたけれど。
鏡を見るたびに目に入るくっきりとした痕は、あの狂おしい一夜の記憶と結びついて、江津子をひどく苦しめた。
そのうえ、きょうの会場の新婦側の席には、あの兄弟がひっそりと腰かけていた。
ふたりはそれぞれ、あの姉妹を傍らに随えていた。
どういう関係なのかいまだに判然としないけれど、はた目には二組の夫婦にみえた。
彼らは部屋の片隅で気配を消すようにひっそりとしていたが、会場のすべてを見渡していた。
そうして、足音も立てずに狙いを定めた夫婦の傍らに佇むと、夫の側にお酒を注ぎ、
連れ立った女のほうが、夫人の側にお酒を注いだ。
ほんの数秒歓談したかと思うと、女は夫のほうを、男は夫人のほうを伴って広間を出、しばらくのあいだ戻ってこなかった。
用を足しに席を立ったとき、ふと気になって辺りを伺うと、宴席のちょうど隣室に小部屋があるのに気がついた。
ちょっとのあいだためらったけれど、好奇心が理性にまさっていた。
見てはならない光景に、江津子は息を呑んで、そして見とれてしまっていた。
金髪の女は、ソファに横たえた夫君の首すじに、吸い取った血を滴らせて、
褐色の男は、絨毯に組み敷いた夫人のスカートの奥に、ひたすら吶喊を試みていた。
披露宴の会場を後にすると、江津子は両親と別れ、まっすぐ洋館を目ざした。
出迎えたのは、金髪の婦人の姉のほうだった。
あの晩とおなじ、薄紫のドレスを着ていた。
披露宴の会場では、どんな服装だったのか・・・どうしても思い出せなかった。
たぶん、こんな時代がかったドレスなどでは、なかったはずなのに。
女は「やっぱりいらしたのね」という表情をありありと泛べながら、江津子をなかに招じ入れた。
「きょうはおひとりなのですね」
「はい」
「二人同時に、相手をする羽目になりかねませんのよ」
からかうような女の口調に、江津子はことさら感情を消して、
「はい」
と応えていた。
女に招き入れられた寝室で、待ち時間はほとんどなかった。
うり二つの兄弟が肩を並べて、江津子のまえに立ちはだかった。
はぁ。はぁ。はぁ・・・
江津子の髪は黒々として、豊かだった。
汗を含んだその髪が、ひどく重たくユサユサと揺れるのを感じた。
ひとりは首すじに、ひとりはふくらはぎに唇を吸いつけていた。
あるいは二の腕に、あるいは手首に。
着衣のまま、かぶりついてきた。
披露宴会場で、あれほど多くの人を毒牙にかけていたのに。
このひとたちは、まだ渇いているというのか・・・
ブラウスの袖が裂け、二の腕がむき出しになっていた。
力を込められた筋肉がキュッとしなやかに浮き立ち、すぐに弛んだ。
咬まれるたび、抵抗は徐々に和らいでいった。
着衣越しに密着させられてくる逞しい胸についドキドキと胸を高鳴らせ、背中に腕を巻いてしまっていた。
ガーターストッキングごしにすり合わされてくるごつごつとした太ももに欲情を覚えて、脚までからめ合わせてしまっていた。
血の抜けた身体が、ひどくけだるい。
意識を取り戻した江津子の傍らには、だれもいなかった。
頭が重たい。視界が霞んでいた。
帰らなければ―――
江津子はこのまえの晩とおなじように椅子の背もたれに掛けられたジャケットを手にすると、
裂けたブラウスを覆い隠すように袖を通した。
なぶり抜かれた足許には、ストッキングの裂け目が縦横に滲んでいた。
すでに外は暗くなっていた。
肌色のストッキングの裂け目は、夜目には見えないだろうか?
江津子はフフッと口許に笑みを泛べた。
ああ・・・ん・・・っ。
向かいの部屋の閉ざされたドア越しに、女のうめき声がした。
喜美恵が招ばれていたのか?江津子はどきりとした。
けれども悩ましいその声色は、喜美恵のものではなかった。
もっと年かさの女性のものだった。
はっとして、江津子はドアノブをまわしていた。ドアは音もなく開いた。
細目に開いたすき間の向こうには、さっきまでの江津子自身がいるようだった。
母の孝枝が、男ふたりの相手をしていたのだ。
披露宴では黒留袖だった母は、黒一色の洋装に着替えていた。
正装の礼服は、ルイ王朝の寝所のなか、黒光りしているようにみえた。
ひざ丈のスカートは腰までたくし上げられていて、黒のパンティストッキングは引き破られて、やはり引き裂かれた真っ赤なショーツを露出させていた。
漆黒のブラウスの裂け目からは、娘の江津子さえ目を背けたくなるほど、乳房が露出していて、
黒ずんだ乳首はふたりの男の唇にしつようにとらえられ、唾液を光らせていた。
母は悶え、喘ぎ、汗みずくになって・・・むしろ積極的に腰を上下させていた。
「どうして着替えてきた?きょうならではの装いではなかったのか?」
男の問いに母は臆面もなく答えていた。
「だってあなた、このあいだは和服だったから、こんどはお洋服がいいって、仰っていたじゃないの」
むっちりと肉のついたふくらはぎは、薄黒いナイロンに淫靡に染まっていた。
ひとりが母を犯しているあいだ、もうひとりは黒ストッキングの脛をねぶり抜いていた。
評判の賢妻のすがたは、もうそこにはなかった。
いつの間にか、部屋のなかに入り込んでいた江津子を、男のひとりがふり返った。
「視て・・・いたね?」
江津子はだまって、うなずいていた。
「愉しい・・・だろう?」
江津子はやはりだまって、うなずいていた。
「仲間に加わろうね」
江津子はもういちど頷くと、しっかりとした足取りで、ベッドに近寄った。
母娘はじゅうたんの上に並べられて、相手を取り替え合っていた。
ギシ・・・
ドアの向こうの廊下がかすかにきしむのを、江津子は耳にした。
あの姉妹のどちらかが来たのか?と思った。
気がつくと、だれかが江津子の手の甲を抑えていた。
体温の冷えかかった、母親の掌だった。
「視ちゃダメ」
母が囁いた。
「え・・・?」
「お父さん、家に帰ったわけじゃないのよ」
それ以上は母も、なにも応えずに。
のしかかってきて吶喊を試みる男にうごきを合わせて、スカートの裾を自分からたくし上げていた。
一年後。
江津子は、真っ赤なカクテルドレスに身を包んでいた。
兄のときとおなじ披露宴会場で。
いっしょに腕を組んでキャンドルサービスをする彼女の新郎は、あくまでにこやかだった。
彼女にしか見えない、幅の小さな咬み痕を、首すじに滲ませながら。
ふたりを拍手で迎える新婦の両親はやはり、おなじ痕を滲ませていた。
やはり拍手をし続ける新郎の両親も同じく、咬まれた痕を滲ませていた。
お義母様は、きれいな方。
ほかに兄夫婦と、高校生の妹がふたり。
妹さんは、仲良く分け合ってね。
彼のお母様と兄嫁は、どちらがどちらの相手をするの?
あたしのときみたいにまた、くじ引きで決めるのね?
先週、彼氏と新しい両親を洋館に招く前の晩。
江津子は白い歯をみせて、笑みを絶やさずに過ごした。
義父は一瞬顔をしかめ、すぐに穏健な微笑を取り戻して。
羞じらう妻が堕ちてゆくのを、薄紫のドレスに身を埋めながら横目で見守りつづけていた。
ほどかれてゆく黒留袖は、男が念願していたものだった。
深紅の絨毯に拡がる長い黒髪がとぐろを巻くのを、女の江津子までが見とれてしまっていた。
義兄は顔を真っ赤にして、これでは強姦だ、侮辱行為だ・・・と、口では罵りながら。
覆いかぶさってくるピンクのドレスを避けようもなく受け止めていた。
手だれの女吸血鬼の身体と引き換えに。
真っ赤なスーツを着込んだ夫人が、首を咬まれて大人しくなって。
ピンと張ったふくらはぎが、グレーのストッキングをぴっちりと密着させたまま、ゆっくり開かれてゆくのを、
固唾をのんで視つづけていた。
一児の母はきっと今夜、子種を授かって帰宅するのだろう。
ふたりの妹たちも、セーラー服の胸元を引き締める純白のタイを取り去られて。
それぞれべつべつの部屋で、犯されていった。
黒のストッキングに走った伝線をチリチリ拡げながら足摺りをくり返していた姉も。
真っ白なハイソックスを太ももを伝い落ちる血に浸してしまった妹も。
パートナーを取り替え合ったときにはもう、夢見心地になっていた。
供血の連鎖は、どこまで続くのか。
江津子はただ陶然となって、夫の家族が破滅してゆくのを見守っていた。
寝室の姿見に映る、ゆったりとした含み笑い。
そこに映っていたのはもしかすると、あの晩の兄嫁そのものだったのかもしれない。
コレクションのおすそ分け
2012年03月01日(Thu) 07:57:16
おすそ分けだよ。^^
こっちがきみの奥さんの。
こちらはきみのお母さんの。
テーブルのうえいちめんに、ところ狭しと広げられた、色とりどりのショーツたち。
やつはヌケヌケと、自慢する。
どちらもセンスが、よろしいね。^^
ベッドのうえで脱がせるのがまた、たまらないのだよ。
いっぱい集まったから、きみにもおすそ分けしておこう。
あとは自分で愉しむなり・・・本人に返すなり・・・お好きなように。^^
・・・・・・。
わたしはこれらを、どうしたものか?
女三景。
2012年02月29日(Wed) 05:13:42
妹は、胸のおおきくあいたパーティドレスの肩に滲ませた血を、
顔をしかめながら、じわじわと吸い取られてゆく。
床まであるスカートの中に隠した白のストッキングには、
いくすじもの裂け目を走らせたまま。
その傍らで身を横たえた母は、父に介抱されながら。
白目をむいて、肩でぜぇぜぇと喘ぎをくり返している。
ワンピースの肩先を濡らした血は、あらかじめ脱いだジャケットで隠れるからと父に慰められて。
でもこれは、隠しようがないわね・・・と。
薄墨色のストッキングに鮮やかに走った伝線を、しきりに気にかけていた。
ゆう子さん素敵ね。処女の生き血を召しあがれるのは、ゆう子さんの身体だけなんですもの。
妻は嬉しげに、妹をほめながら。
ひざ小僧の下までずり落ちた肌色のストッキングを、けだるげに引き上げてゆく。
ストッキングのあちこちに撥ねた精液の、濁った輝きをふしだらにてからせたまま。
話す姑 話さない嫁
2011年12月28日(Wed) 08:00:49
はじめてあのひとに、咬まれたのは。
嫁が”献血活動”に励みはじめてすぐのころ。
夫ともども、咬まれてしまった。
嫁の若い肉体を目当てに家に出入りするようになったあのひとは。
わたしの熟れた血も、あてにするようになっていた。
咬まれていくうちに、ジンジンとした疼きがとまらなくなって。
気がついたら夫に、きょうは献血活動に行くから・・・そういって。
嫁と連れだって、お出かけするようになっていた。
もちろん、おめかしをして。
エッチな要求があることは、察してもいたし、覚悟もしていた。
主人のまえで血を吸われているときも。
あのひとはブラウスごしに、それはいやらしいまさぐりを忍ばせてきたから。
そして、さいしょのお出かけで、なんなく操を奪われてしまっていた。
主婦相手に、遊び慣れたひとだった。
わたしは夫に話をして、それから出かけていく。
きょうも、あのひとの好みの、薄い黒のストッキングを脚に通して。
帰宅した時、足許に妖しく流れるストッキングの伝線を、
夫は見るともなしに、視るのだろう。
嫁は息子に、なにも話していません、という。
羞ずかしいらしいのだ。
そういうものなのか。
わたしが齢をとったからなのか。
嫁のほうが純なのか。
わたしが夫に正直すぎるのか。
嫁は裏表のある人間なのか。
なにも知らない息子は、きょうも愛する妻に手を振って出勤していく。
そして、息子の足音が遠ざかったのを合図に、女ふたりは着かえをはじめる・・・
姑の見立て。
2011年06月21日(Tue) 08:21:52
お向かいの柴造さんに、美奈子を姦らせちゃった。
息子はいとも潔く、あっけらかんと。
羞じらう嫁を、かたわらに。
わたしたち夫婦に、そう宣言する。
移り住んだばかりのこの土地は、吸血鬼の棲む村だった。
ええーっ!?だいじょうぶなのっ?
身を揉むようにして案じた妻も、打って変わって。
ウン、あのひとなら、だいじょうぶ。
どうしてだい?って訊くのは、愚問に属するのだろう。
あれ以来。
嫁のことだといいながら、柴造さんと面会をくり返す妻。
どうやら、嫁と姑。ふたりのスカートは。
おなじ色の精液で、染め上げられているらしい。
母さん、これからホテル?
2011年06月20日(Mon) 04:10:22
キキキッと、タイヤのきしむ音がして。
一台の車が、聡太のまえで停車した。
びぃーんとかすかな音がして、窓が開く。
なかから顔を出したのは、母の和代だった。
あら、ソウちゃん?おかえりなさい。
家は車の来た方角にあって、数十メートル先にかすかに軒先がみえる。
運転席の男に聡太はちらっと目をやりながら。
これからお買いもの?と言わんばかりにさりげなく、行く先を聞いている。
母さん、これからホテル?
よう。
運転席の男が、わざとらしいなれなれしさで、聡太に小手をかざして応えてくる。
よう。
聡太もイタズラっぽく笑いながら、男に応えていた。
これからホテル?
うん、そうだよ。
男はてらいもなく、情夫の息子にそう答える。
年輩だが精力家らしい彼の、ロマンスグレーの髪が、ひどくツヤツヤと輝いていた。
やるねぇ。
聡太が冷やかすように、男に応える。
ふつうに、同性の目線だった。
パパはきょうから、出張だよね?
そおね。お勉強して、待っていてね。
お母さんはわざとらしく「お勉強」に力を込めてそういうと、運転手を促している。
がんばれよー。
走り去る車に、聡太はご近所にきこえるような大きな声で手を振ると。
ちょっぴり自棄になったような顔をして、半ズボンの下のハイソックスを、勢いよく引っ張り上げた。
キキキッ。
タイヤの音がきしむ音がして、聡太の目のまえに停まっている。
三十すぎになった聡太は、背広姿の身をかがめて、わざとらしく助手席を覗き込む。
窓のひらいていたい助手席に座るのは、まだ二十代の妻である孝枝だった。
運転席にはあの男が、ふさふさとした真っ白な髪の下、血色のよいおでこをてかてかさせている。
よう。
男が小手をかざしてあいさつをすると、
よう。
聡太もまた、小手をかざしてこたえている。
これからホテル?
妻にではなく、男への問いに。
ええ、そうよ。
聞えよがしに、応える妻。
お母さん、じゅうたんのうえに、転がってる。
男はイタズラっぽく、ウィンクを投げてきた。
姑を凌辱して気絶させ、若い嫁を拉致して犯そうとしているんだね?
聡太の咎め口調は、どこか愉しげだった。
スカートの裏、ぬらぬらよ。お義母さま。
助手席の孝枝は、隣席からなれなれしく伸びてきた腕に、心地よげに抱かれながら、婉然と咲(わら)う。
またがっちゃおうかな。
あたしが留守の間だけよ。
てらいもなく受け答えする妻が、我が家の性風俗にすっかりなじんでいるようすを見届けると。
うふふふふふっ。
男ふたりは、共犯者の笑みを浮かべている。
走り去る車のけたてる砂煙に、聡太はうるさそうに目を細めると。
年甲斐もなくイカされちゃった母の介抱をしに、自宅へと足を向けた。
案外と。
父が先回りして、介抱を始めているかもしれなかった。
けれどもきっと、彼女をベッドに送り届けるのは、息子の役目。
十数年前、流儀を教えてくれた父はきっと、そしらぬ顔をしながら、部屋の外からようすをうかがうにちがいない。
父さんね、先にホテルに着いていたのよ。
あのときの母の、誇らしげな横顔が。
いまの孝枝に、二重写しになっていった。
あとがき
母と妻を、嫁姑ながら。
年配の男性にモノにされてしまう。
寝取られのひとつの理想像 でしょうか?^^
あんたのお袋さんに、惚れちまったよ・・・
2011年02月20日(Sun) 09:23:47
新婚初夜のベッドの上。
花嫁の純潔を奪った褥から、降りもしないうちに。
あいつはぬけぬけと、言ったものだ。
あんたのお袋さんに、惚れちまったよ・・・
あの留袖姿。たまんねぇな。
許せない言葉のはずなのに、つい受けとめてしまったのは。
あいつがしんそこ、母にぼう然となってしまったらしかったから。
それから、
母が汚される。
そのことに、いま汚され抜いて愉しみはじめてしまったゆう子の姿が、二重写しになったことに。
ひどく昂奮を覚えてしまったから。
親父がなかなか、許してくれないと思うよ。
話しあって、仲良くやってくれよ。
ともかくさ。
今夜はゆう子に、専念してくれよ。
ゆう子がちょっと、不快げだったのは。
夫を裏切る行為を強要させられた、ということよりも。
自分の相手をしながら、ほかの女のことを言いだす男が、許せなかったからだろう。
その晩ゆう子は、狂わされて、花婿よりもひと足先に、獣になっていた。
ひと月後。
俺のいないウィークデーの真っ昼間に、毎日足しげく新居に通ってくる彼は。
どこでどう時間をつごうするのか、親父とすっかり意気投合しちゃっていて。
ふた月後。
お袋とベッド・インしたそのホテルに、親父に着替えを持ってこさせる関係になっていた。
週末は、あんたら夫婦のために取っておくんだ。
恩着せがましくそう抜かしたあいつは。
こんどはゆう子の両親にまで、すり寄っていって。
お嬢さん、お母さん似なんですね。とかなんとか、言いながら。
義父のまえ、義母のスカートを体液でぬらぬらにしていった。
苦笑いする男三人に、横っ面で会釈をしながら。
女ひでりと称する逞しい肉体で、三人の人妻を辱めてゆく男――――
セックスそのものよりも愉しめるかもしれない快楽が、
平穏な三つの家庭を、毒液のように浸していった。
嫁を淪落に堕とすとき。
2011年01月25日(Tue) 08:15:31
ひとりで着付けができるのは。自慢のうちに、なるらしい。
帯をきっちりと、締め直しながら。
妾(わたし)は障子ごしに、隣室の気配をうかがった。
たったいま。
妾(わたし)の婦徳を、小気味よいほどに汚し抜いた男が。
息子の若い嫁の肉体を、愉しんでいる。
障子一枚隔てた、向こう側。
切なげな吐息が、露骨なほどに。昏(くら)い歓びを滲ませていた。
おぼこ娘のように、おずおずとしていた若い嫁は。
長襦袢を着乱したままの妾(わたし)の介添えに、素直に従って。
洋装の礼服を、一枚一枚、脱がされていった。
取り去られたジャケット、スカーフ、ブラウスと。
部屋の隅に、順々に投げ出されていって。
徐々にあらわにされてゆく、やわ肌の輝きに。
羞じらいを隠せずに、両手で顔を覆いながら。
さいごにスカートを取り去るときには、
さりげなく自分から、脚を引き抜いていった。
黒のストッキングに映えた、嫁の白い脚が。
そのときほど淫靡に映ったことはない。
当家のしきたりですからね。嫁である以上、貴女にもしたがっていただきます。
冷たく言い放ってやるつもりの、その台詞が。
なぜか昂りに、震えるようになっていた。
それでは―――
男は冷徹な処刑人のように。
むき出しになった嫁の両肩に、手をかけて。
器用に畳のうえに、まろばせていった。
あれほど大人しやかだった嫁が。
絶頂に昂って、別人のようにはしたなく身体を開いていくのを見届けて。
足音をひそめるように、廊下を歩いていくと。
母さん―――?
背中から、息子が声を投げてきた。
離れでなにが起きているのか、知らぬ息子ではないはずだった。
あちらには、お近づきになりませんように。
しっとりとした声が、意外なくらい落ち着きを取り戻していた。
ふり返ると、古びた離れはなにも起きていないようにひっそりと、庭の隅にうずくまっていた。
その昔。
まだ若妻だった妾(わたし)の理性を呑み込んでいった、あの妖怪のような古宿は。
さりげない静けさを、とりつくろいながら―――
いま、新たな獲物に満足しきっているのだろう。
あとがき
代々伝わるいけないしきたりに、若い嫁を引きずり込んだお姑さんのお話です。^^
前作のあとがき描いているうちに、「描けそうだ」と感じたので、一作を。
女房の浮気癖
2011年01月25日(Tue) 08:02:45
妻の浮気章には、ほとほと困っていましてね。
その若い旦那と知り合ったのは、とある地下街の酒場だった。
旧家の出の御曹司の、お忍びの夜遊び―――
俺はひと晩、男につきあってやった。
もちろん、俺流のやり方で。
男の血など、めったにたしなまないのだが。
この街に流れてきたばかりの俺に、選択の権利はまだなかった。
旧家の血というやつは、多かれ少なかれ、饐(す)えている。
けれども、男の首すじから唇を放したとき。
俺はすでに、はっとするものを覚えていた。
たぶん、母親の血だろう。
豊かに優れたものが、男の体内にしっかりと息づいていた。
で・・・俺にどうしろと?女房の浮気癖を治せとでも?
きみならできるよ。
育ちのよいぼんぼんらしい無責任さを、男は並びの好い白い歯にきらきらさせていた。
できるんだろう?
覗き込んでくる目つきに思わず、
図星だよ。
俺はうっかり、応えてしまっている。
若妻の浮気癖は、ぴたりとおさまった。
なにしろ女房殿は、出逢ったばかりの俺にぞっこんになって。
一も二もなく、俺のオンリーになってしまったのだから。
だんなを立てろ。そうすればたいがいのもめ事は収まるのだ。
美しいけれども思慮のなさげなその若妻は、素直さだけは持ち合わせていた。
だんなの留守宅に俺をあげて、ワインを注いで。
ことのついでに自分の体内に流れている甘い美酒まで、振る舞いながら。
女は言ったものだった。
こないだ家をあけたとき、あのひと一睡もしないで待っていたんですって。
男の心の裡に、ある種の歪んだ昂奮のあることを。
俺はとっくに、見抜いてしまっていたけれど。
この女の言い草もきっと、いくばくかの真実を含んでいるのだろう。
女はしゃあしゃあと、語りつづける。
それいらい、浮気しちゃうのかわいそうかな・・・って、思えるようになったの。
だからこれからは、あなたひとすじでイクからねっ。
あんたに座布団一枚。
そういう思いを込めて、俺は女をソファから払い落し、じゅうたんのうえに組み敷いた。
男の母親は、まだ五十そこそこだった。
女学校の時に、見合いして。十九の春に息子を産んでいた。
横暴な旦那は、すでにこの世とおさらばしていたけれど。
ひととおりでなかったはずの苦労を、顔の小じわにして刻み込むことがなかったのは。
天性の賢明さのせいなのだろう。
息子に引き合わされた俺をひと目見て。
いけないかたのようですけど・・・息子を幸せにして下さっているのでしょうね。
俺のいけない正体を、さりげなく上品な言葉でくるんでいきながら、
挨拶の接吻をするそぶりを見せた俺のため、
ほっそりとした手の甲を、差し出してくれた。
俺が久しぶりの恋に落ちたのは、その瞬間だった―――
なん回もなん回も、夫の写真にわびていた。
きっと、幸せの「し」の字も与えてくれなかったであろう夫のため。
守りとおしてきた女の操を、それはいとおしみながら。
夫婦の寝室から身勝手にも俺を締め出した若妻の、身代りにと。
いつも身に着けている黒のドレスを、妖艶に映えさせてくれたのだ。
猿臂を背中にまわした、そのときに。
吸血以外の目的で、卑猥に昂る唇を、彼女の首すじにあてたときに。
(すでに彼女は俺に献血をしてくれるようになっていた)
そして、スカートの奥に、ただれた肉剄を衝き入れた、その瞬間に。
女は不意にしゃくりあげ、身を震わせて涙ぐんだ。
その楚々とした、奥ゆかしさに。
けしからぬほど夢中になってしまった俺は、ひと晩じゅう―――
夫を弔うための清楚な装いを、汚れた粘液に浸しつづけてしまっていった。
美南子に、子供ができたらしいよ。
若旦那は嬉しげに、俺にウィンクを投げてきた。
すっかり女遊びの身についたこの男は、身重の妻を残して夜遊びに出かけていく。
たいがいにしなさいよ、お坊ちゃん。
からかうように、そういうと。
どちらの子なんだか。
そういいながら、月の計算だけはおこたりなくしたふたりとも。
子供が夫の種であることを、知っている。
ほんとうは。
この家の血を、きちんと残すには―――
俺がきみ母さんをはらませるほうが、適切だったのかもしれないな。
鼻歌交じりに遊びに出かける若旦那の背中を横目に、俺は首から提げるようになったロケットを、開いてゆく。
淑やかに透きとおるほほ笑みの主は、齢を感じさせない若々しさを、写真のなかでも誇っていた。
あとがき
そっちかい・・・な展開のお話だったかも。(^^ゞ
たいがい若い嫁のほうが淫乱で、引き止め役の姑は貞淑で。
戸惑いながら、欲情にまみれるようになっていく。そういうパターンが多いのですが。
時にはもの慣れた姑に、初々しいおぼこ娘のような新妻が巻かれてゆく みたいなお話も、愉しいかもしれませんね。
・・・と、いけないひとりごとを、ひとくさり。 笑
真っ赤なドレスと黒の礼服
2011年01月18日(Tue) 07:14:40
ゆう子さん、いけないわ。
血を吸うかたのまえで、真っ赤なドレスなんて。
口を尖らせる姑は、夫を弔うための黒の礼服。
けれどもふたりは、知っている。
真っ赤なドレスの下、てかてかと輝く肌色のストッキングも。
漆黒のスーツの下、清楚に透きとおる黒のストッキングも。
血に飢えたものの目には、ひとしく淫靡に映える ということを。
ゆう子さん、だめじゃないのっ。そんなにいやらしい声立てちゃ・・・っ。
お義母さまこそ、そんなにふしだらに脚をじたばたさせちゃって・・・っ。
思い思いに群がってくる、複数の吸血鬼を前に。
嫁と姑とは、お互い口を尖らせながら。
夜の訪問客の欲望に、自ら正装を乱してゆく。
出ていきにくいね。
たしかにそうですね。
首すじに痕を残した、父と子は。
お互いの妻が乱れ堕ちるさまに、昂りの目を添わせてゆく。
分け前をくれるって、ほんとうですか?
さあ・・・話半分のほうが、賢明だろうね。
訝る息子に、肩をそびやかす父。
部屋から出てきた獣たちは、指先についた血を、
ふたりの唇に、しみ込ませてやった。
ま・・・たんのうしましたよ。
苦笑交じりの父子に、ひと言「すまないね」と言い捨てて。
来な。これから隣のお宅で二次会だ。
其処ではきっと、ほんとうに分け前にあずかれるだろう。
姑に兄嫁に弟の許嫁に女学生の娘。
吸われるべき血液は、たっぷりと用意されているのだから―――
若いひとは・・・
2010年08月04日(Wed) 08:03:45
若いひとは・・・思い切りもいいものですね・・・
ストッキングをずり降ろされた脚をばたつかせ、妻が乱れるのを目の当たりに。
母は迫って来る男どもに、ちょっとのあいだ、ためらいを見せていたけれど。
やがて苦笑いする父を前に、羞ずかしそうにブラウスのタイをほどかれていった。
他愛ないものだね。
グラスを片手に、妻の痴態を見守る父。
嫁につづいて、姑までが。
思い切りよくなるのに、そんなに時間はかからなかった。
裸足になったつま先。
脱ぎ捨てられた二足のストッキングは、部屋の隅っこでとぐろを巻いている。
あとがき
状況をあまり考えずに、描いてみました。
たぶん父と息子は、男どもの共犯です。
より仲良くなるために、自分たちの妻を分かち合う気分になったのでしょうか?
靴下三色
2010年08月04日(Wed) 07:51:06
妻が脱ぎ捨てたパンストは、サポートタイプ。
母の脚から抜き取られたのは、昔ながらのなよなよパンスト。
わたしのひざ下を覆っているのは、紳士用のナイロンハイソ。
紳士用だって?ずいぶん派手な光沢だね。
ベッドから抜け出してきたばかりのあいつは、そんなふうにわたしのことを冷やかした。
おまえの靴下が、いちばんエロいな・・・って、いいながら。
妻のみならず母まで狂わせた一物を。
わたしの足許に、なすりつけてくる。
薄いナイロンごし。
逆だった剄(つよ)さに、ゾクッとした。
きれいにしてもらおうか。
妻と母を辱めた、魔性の肉を。
唇でたんねんに、ぬぐってみる。
饐えたような芳香―――
いつか屈辱は、鳥肌立つほどの愉悦になってゆく。
最愛の女たちに注がれる、熱い粘液を。
口で味わう愉しみに耽る。
羞恥心を忘れるのに、そう時間はかからなかった。
こんどはいつ、来てくれる?
そう願うわたしの恥ずかしい仕草を。
物陰から窺う、裸体に剥かれた牝たちの視線が、ひどくくすぐったい。