淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
大病院陥落す
2022年12月22日(Thu) 13:06:35
根取市の職員が、病院にやってきた。
少しだけ、緊張した面持ちだった。
彼は院長に面会を求め、一通の書簡を手渡した。
院長はちょっとだけ顔色を変えたが、何事もないかのようにその書簡を受け取ると、事務長の岡間を呼んでいった。
「入院患者を全員、すぐに第二病棟に移すように。第一病棟の今夜の夜勤には、看護婦全員を配置してほしい。
ぜんぶでたしか――12人だったな」
「肥沼婦長を入れると、13人です。院長」
「わかった。もちろん婦長もだ」
事務長があわただしく院長室を出ていくと、入れ違いに肥沼婦長が入ってきた。
古風な白衣のすそからは、いい陽気の季節には不似合いな、もっさりとした白タイツの脚が、にょっきりと伸びている。
50にはまだ届かないはずだが・・・感情の消えた鈍い顔つきからは、婦長のぶあいそな人柄がありありと見て取れる。
「全員――って、どういうことですの」
耳障りな声で、婦長が訊いた。
「全員は全員だよ」
言いにくそうに院長がいった。
「――当院に、吸血鬼が大勢来るんだ」
婦長は初めて、顔色を変えた。
市役所からの書簡には、簡単にこう書かれてあった。
「患者収容要請 16名 うち吸血鬼3名 半吸血鬼13名
対応依頼内容 看護婦等病院職員の血液を提供可能な全量供出すること」
「看護婦が足りません」
婦長がいった。
院長が言葉を挟もうとするのを遮って、「私を入れて13名ですよね」といった。
自分も血液提供の対象者になっていることを、冷静に受け止めているようだった。
「――家内と娘たちで、頭数を合わせよう」
院長も、感情を消した顔つきで視線を窓の外にそむけた。
先陣を切って送り込まれたのは、純血種の吸血鬼3名だった。
いずれも数百歳はいっているかというほどの、干からびた冷酷な顔だちをしていた。
彼らを乗せた車は、病院ではなく、その隣に面した院長の邸の前に停車した。
出迎えた院長が白衣を翻して玄関の中に消え、3つの影たちも、そのあとを追って吸い込まれるように扉の向こうへと姿を消した。
院長夫人の静枝は、明らかに度を失っていた。
けれども、おびえる娘たちの手前、気丈に背すじを伸ばし、自分たちの血を求めて上がり込んできた吸血鬼に丁寧に会釈をした。
「すまないが――看護婦さんも全員、今夜はご奉仕するんだ。お前たちも頼むぞ」
院長はそう言い捨てると、逃げるように自宅のリビングに背を向けた。
白衣の背中ごし、朱色のスーツに身を包んだ院長夫人が真っ先に、首すじを咬まれていった。
「痛くないから・・・だいじょうぶだから・・・」
娘たちの不安を少しでも和らげようとして、夫人はつとめて穏やかな口調であったが、
制服姿の娘たちの耳には入らなかったらしい。
おそろいの濃紺のセーラー服の少女たちは、三つ編みに結わえた黒髪を揺らしながら、次々とうなじを咬まれてゆく。
ちゅうちゅう・・・
キュウキュウ・・・
生々しい吸血の音が、部屋に充ちた。
さいしょにじゅうたんの上に座り込んだのが、院長夫人だった。
立て膝をした脚が朱色のスカートのすそからあらわになった。
男は無言のまま、冷ややかな視線を彼女の足許に落とした。
濃いめの肌色のストッキングが、院長夫人のつま先を包んでいる。
男は嬉しげに口許を弛めると、夫人のふくらはぎに、ストッキングの上から唇を這わせてゆく。
パチパチとストッキングがはじける音がした。
かすかな音とともに、薄っすらとした裂け目が、上下に拡がってゆく。
強く抑えつけた掌の下で、母親の穿いているストッキングが皺くちゃにされるのを、長女の真奈美は見た。
真奈美は、通学用の黒のストッキングを穿いていた。
母親にならって、よそ行きの装いを選んだのだ。
吸血鬼を悦ばせるために――
院長夫人は、お客さまをもてなすのがきょうのお勤めですよといって、長女にストッキングの着用をすすめていた。
うつ伏せにされた院長夫人が、ふくらはぎに押し当てられた唇と舌に、肌色のストッキングを大きくよじれさせてゆく傍らで、
やはりうつ伏せになった真奈美の足許から、薄墨色のストッキングが妖しくうねり、咬み剥がれていった。
次女のはるかは、母と姉とがうなじを咬まれ、足許を辱められてゆくのを、恐怖のあまり両手で口許を抑えながら見守っていた。
はるかを獲物に狙った男は、しばらくの間彼女のツヤツヤとした黒い髪を撫でるばかりで、すぐに毒牙を剥きだそうとはしなかったのだ。
背後にまわった吸血鬼をふり返るようにして、はるかはおびえた上目づかいで、哀願するような涙目で吸血鬼を見つめた。
吸血鬼はそろそろとはるかの足許にかがみ込むと、白のハイソックスに包まれたふくらはぎに、おもむろに食いついた。
「ひっ・・・」
あげかけた悲鳴をこらえながら、はるかは足許に拡がる真紅のシミに、身をすくませていた。
病院の正門に乗りつけられたマイクロバスから、無表情な男たちがぞろぞろと降りてきた。
だれもが、この街の住人で、この病院を利用した者も中にはいた。
その中の1人、中瀬次平(56)はつい先日咬まれて、半吸血鬼になっていた。
一人息子の俊作(33)も、夫婦もろとも咬まれていた。
夫婦で散策していた夕刻にひとりの吸血鬼が俊作の妻・絵美(28)に目をつけて牙をむきだして迫った。
俊作はもちろん妻を守って立ち向かったが、すぐに圧倒されてしまい、首すじを咬まれて大量の血液を喪失してしまった。
その場で倒れた夫に取りすがる絵美の首すじを、無慈悲な牙が冒していた。
若い夫婦は、したたかに血を吸い取られた。
絵美はスカートを穿いていた。
吸血鬼を伴い帰宅した夫婦は、どちらから言うともなく、代わる代わる自身の血液を吸血鬼の干からびた口にに含ませていった。
彼らは、この街に巣食う吸血鬼が、長い靴下を履いた脚に好んで咬みつく習性を知っていた。
俊作は、たしなんでいた球技のユニフォームであるストッキングをひざ下まで引き伸ばして咬ませてやり、
太目のリブが流れるふくらはぎに、点々と血潮を散らしていった。
絵美も夫にならって、薄手のストッキングを取り出して脚に通した。
そして、夫の前でいやらしくいたぶられ咬み剥がれながら、血を吸い取られていった。
若い血のほとんどを吸い取られた俊作は絶息して、妻が凌辱されてゆくのを薄まる意識のなかで見せつけられる羽目になった。
体内の血液のほとんどを喪った俊作は、半吸血鬼となった。
半吸血鬼となって嗜血癖を植えつけられると、血に飢えた者の気持ちがわかるようになっていた。
彼は自分たちの血を吸った吸血鬼を改めて歓迎した。
「絵美に惚れてくれるなんて、あんたも目が高いな」
などと、夫婦ながら血を吸い取った男を相手に軽口をたたいた。
自分の妻がまだ若く、二十代のうちに血をあてがうことができてラッキーだったとも言った。
絵美もまた、自分を犯した吸血鬼に夢中になっていた。
夫が在宅なのもかえりみず、気に入りの服でめかし込むと、グレーのストッキングの脚をくねらせて吸血鬼を挑発した。
俊作も、最愛の妻を吸血鬼がひと晩じゅう愛し抜くのを、昂りながら見守りつづけた。
俊作の母の涙子(るいこ、52)が嫁の不義に気づいたのは、それからすぐのことだった。
息子の家を不意に訪れたとき、絵美が愛人を相手に組んづほぐれつの情事に耽っているのを目にしたのが、彼女の運命を変えた。
涙子は、夫しか識らない身体だった。
いちどは毅然と、嫁の愛人の振舞いを咎めた涙子だったが、すぐに悲鳴をあげて逃げ回ることになった。
そして、絵美に羽交い絞めにされながら、首すじに牙を埋め込まれていった。
澱んだ赤黒い血が、涙子の緋色のブラウスにほとび散った。
妻の帰りが遅いのを心配した次平が息子の家に着いたときにはもう、妻は妻ではなくなっていた。
スカート一枚だけを腰に巻いて、破けたストッキングを片脚だけ穿いたまま、
リビングのフローリングの床に粘液をなすりつけながら、涙子は七転八倒していた。
次平は逆上したが、息子同様吸血鬼にはかなわなかった。
中瀬家の血は、吸血鬼の口に合ったらしく、彼も息子と同じように、血液のほとんどを気前よく飲み摂らせる結果になっていた。
中瀬家の女ふたりを支配下においた吸血鬼は、日本婦人の奥ゆかしい貞操を勝ち得た返礼に、夫たちを半吸血鬼に変えたのだ。
父親と息子は、吸血鬼の忠実な協力者になっていた。
バスを降りると中瀬次平は、息子の俊作をかえりみて、いった。
「真知子さんはお前がやるんだぞ」
真知子さん――この病院に勤める看護婦で、隣家の村瀬家の一人娘だった。
「じゃあ父さんは、佐奈子さんをお願いするね」
佐奈子さん――俊作の妻・絵美の妹で、この春に看護婦になったばかりの新人である。
看護婦たちは、ナースステーションに集められていた。
13人全員は入りきれないので、半数くらいの看護婦はロビーに立ち尽くしていた。
いずれ劣らぬ、肉づきたっぷりな健康そうな脚が、白衣のすそから伸びていた。
どの脚も、力仕事に耐える強さを帯びた脚だった。
血色のよい十二対のふくらはぎが、純白のストッキングに、淡いピンク色に透けている。
向こうからばたばたと、ざわついた足音が聞こえてくると、看護婦たちの間に無言の緊張が走った。
どんなときにも冷静な彼女たちだったが、
自分たちの血を経口的に摂取されるなどという経験はもちろん初めてだった。
真っ先に現れたのが俊作だった。
俊作は看護婦たちの中から村瀬真知子の姿をみとめると、まっすぐに歩み寄り、会釈抜きで肩を抱くと、首すじに咬みついた。
「きゃあッ!」
真知子の叫び声が、看護婦たちの恐怖を倍加させた。
続いて歩みを進めてきた次平が、友近佐奈子を引き寄せると、
「お、おじ様・・・っ!?」
と声を震わせる佐奈子を羽交い絞めにして、やはり首すじに食いついた。
節くれだったその掌は早くも、白衣のうえから胸をまさぐりはじめている。
「絵美の代わりに、わしの相手をせえ」
という呟きを、俊作は耳にした。
ほんとうは父は、絵美のことを犯したかったのだと気がついた。
家に帰ったら、絵美を襲わせてやろう――不吉な想いを脳裏にゆらめかせながら、俊作は俊作で真知子の白衣のわき腹に、グイッと牙を食い込ませていった。
落花狼藉だった。
ほかの半吸血鬼たちも、てんでに看護婦たちに迫り、抱きすくめてゆく。
抵抗は禁じられていたので、彼女たちは少しの間逃げ惑っただけで、一人残らずが飢えた掌を白衣に食い込まされてしまっている。
1人、また1人と、失血のあまり尻もちを突くものが続出した。
白亜の壁や床に鮮血が飛び散り、血だまりが澱んだ。
吸血された看護婦たちは、既婚未婚を問わず、犯される運命だった。
俊作が餌食にした村瀬真知子は、来月結婚を控えていた。
真っ白なパンストを引き破り、片方だけ脱がして、ショーツを足首から抜き取ってほうり投げ、
逆立つぺ〇スを白衣の奥へと強引に忍ばせて、太ももの奥の生硬な秘所を突き刺していった。
俊作は、真知子が処女だと気がついた。
次平は息子の嫁の妹を相手に、ぞんぶんに腰を上下させている。
「あんたぁ、生娘じゃなかったんだのお」
無神経な声がロビーに響き渡り、佐奈子は羞恥に顔を覆った。
「処女じゃなかったのなら・・・せめてけんめいにご奉仕するのよ」
傍らから佐奈子をたしなめたのは、肥沼婦長だった。
彼女は気丈にも、怯える若い看護婦たちをかばうように先頭に立って、真っ先に首すじを咬まれていた。
ほかの看護婦がそうされたように、彼女もタイツを片方だけ脱がされていた。
もっさりとした白タイツに血を滲ませながら、彼女はぶきっちょに、腰を上下させていた。
婦長は、夫を呼んでいた。
自分が犯されるところを見せるためである。
中瀬親子もそうだったが、彼らは好んで夫婦者を襲った。
まず夫の血を飲み尽くして、半死半生の傍らでその妻を犯して見せつけるのである。
けしからぬ嗜好だったが、血を抜き取られた男たちはむしろ嬉々として、自分の妻が凌辱される光景を見届けていった。
配偶者のいる看護婦たちは、できる限り夫を呼び寄せるようにと言われていたが、
ほとんどの看護婦は、自分が犯されるところを見られることをきらい、指示に従っていなかった。
婦長は、院長の指示に忠実に従っていた。
肥沼氏は勤務先から駆けつけて、妻が首すじに食いつかれるのを間近に見た。
彼は妻を狙う吸血鬼の前に割って入って、妻を庇おうとしたが、返り討ちに遭ってごく短時間に血液のほぼ全量を飲み尽くされてしまった。
不愛想な顔つきの肥沼婦長だったが、夫のためには良い妻だったらしい。
気絶寸前の夫は、辱めを享ける妻の掌を握り締め、妻も時おり気丈にその手を握り返していた。
半吸血鬼は、つい先日までふつうの市民だった。
看護婦と個人的に顔見知りの者もいたし、入院して世話になった者もいた。
入院した時に一番親身になってくれた看護婦を相手に選んだ者もいたし、
親友の婚約者を息荒く組み敷いていった者もいた。
看護婦たちは、今は一人残らず血の海に淪(しず)み、
ひたすらうら若い血液を啖(くら)われ、純白のストッキングを蜘蛛の巣のように引き破られ、白衣のすそを割られていった。
死屍累々・・・という感じだった。
死にきれない看護婦たちのうめき声が、ロビーに充ちていた。
もちろん、半吸血鬼たちは、彼女たちの生命を奪うことなない。
彼らはいずれも妻や母親、娘を吸血鬼に食われていて、その見返りにきょうの恩典に預かったのだ。
事務長の岡間が姿を現したのは、飽食が終わりかけたころだった。
彼は院長から、看護婦たちの介抱を命じられていた。
夫を呼んだ看護婦は、自分の夫に介抱されていたが、そうではないものが多かった。
岡間は事務員たちを指揮して、一人が肩を抱え、もう一人が脚を持ち上げて、看護婦たちを病室に運び込んでいった。
彼の風体は異様だった。
看護婦の制服を着用していたのだ。
腰にはスカートを着け、むき出しの脚には白のストッキングを通している。
まだ血を吸い足りないものがいたときのために、看護婦に扮して血を与えるためである。
幸い、13人の半吸血鬼たちは、きょうの獲物に満足したらしい。
それぞれが満足すると、てんでに引き揚げていった。
なかには、放心状態の看護婦の手を引いて、そのまま病室にしけ込むものもいたし、
それどころか顔見知りの看護婦を犯した者は、自宅や彼女たち本人の家に連れ去ろうとするものもいた。
だれも、制止する者はいなかった。
ナースステーションやホールに居合わせて病室に運び込まれたり半吸血鬼に連れ去られた看護婦は、12人だった。
1人足りなかった。
岡間は白のストッキングの脚を行きつ戻りつさせながら、ドアが半開きになった病室をひとつひとつ見て回った。
最後の1人を見つけたのは、そういう病室のひとつだった。
個室のベッドのうえで、看護婦が一人、年配の半吸血鬼に組み敷かれて犯されていた。
ストッキングを剥ぎ取られて剥き出しになった片脚はベッドのうえで立て膝をしていて、
もう片方の脚は、ひざ下までずり降ろされたストッキングを皺くちゃに弛ませながら、床に突いていた。
年配男は無同情に女を抑えつけ、荒々しく性欲を満たしてゆく。
中年のその看護婦は、紅を穿いていない薄い唇から、くいしばった白い歯を覗かせながら、恥辱に耐えていた。
「だいじょうぶか」
岡間は看護婦に声をかけた。
「だい、じょう、ぶ・・・」
女はかろうじて、こたえた。
看護婦の上にまたがっていた男は、やがて得心がいったらしい。
あらわにした股間から一物を引き抜くと、満足そうにひと息ついて、事務長をふり返って、いった。
「奥さん、ええ身体しとるのお。うらやましいワ」
「恥ずかしい」
岡間看護婦は、毒づくようにそういって、半裸に剝かれた身体を裂けた白衣で覆った。
「また楽しもうぜ、こんどは旦那抜きで」
男はヌケヌケと、岡間看護婦をからかいつづける。
「うちのやつは淫乱看護婦ですから、時々メイク・ラブをお願いしますよ」
夫の岡間まで、そんなことをいう。
さっき目の前で展開された熱烈セックスが、妻の本心だと、彼はよく心得ていた。
気の合った者を見つけて、ふたりで示し合わせて、早めに個室にもぐり込んだのだろう。
男が行ってしまうと、岡間看護婦は夫にいった。
「ほかの人たちは?」
「なんとか片づいた」
あくまで事務的なこたえだった。
ベッドの片付けられた広い病室に、
白衣を血で濡らした看護婦たちが横たえられている。
だれもが放心状態、失血状態。
立て膝をしているもの。
大の字になって伸びているもの。
裂けた白衣からこぼれ出た胸もとを、恥ずかしそうに押し隠すもの。
そんな同僚たちの間をまたいで通る岡間看護婦の足許には、
ハイソックスくらいの丈に破られた白のストッキングが、ふしだらな弛みを帯びていた。
3日後。
院長室に、肥沼婦長がいつもの仏頂面で現れた。
「看護婦は全員、復帰しました」
淡々と告げて立ち去ろうとした婦長の足許に、院長が目を光らせる。
いつもの厚ぼったい白タイツではなく、白いふくらはぎが薄地のストッキングに透けていた。
婦長のストッキングは光沢を帯びていて、毒々しいギラつきさえよぎらせている。
「驚いたね」
院長は、顔見知りの患者のほうをふり返った。
患者は婦長の夫の肥沼だった。
彼の首すじには、赤黒い咬み痕がふたつ、痣のように浮いている。
「どうやら先日の騒動で出逢った男と、すっかりウマが合ったようなんです」
情夫はもっさりとした白タイツより、つややかな薄地のナイロンを愛でたがっていた。
それに好意的に応えた妻は、退勤の途中寄り道をして、飢えた吸血鬼のために光沢入りのストッキングを破らせてやっているという。
市で一番の大病院は、こうして吸血鬼の手に堕ちた。
看護婦の不足分を立派に補った院長夫人も、娘たちも。
今ごろは立派なお屋敷の奥で、パンストやハイソックスに卑猥なよだれを塗りつけられて、
スーツや制服のスカートを、毒々しい精液で濡らされているころだろうか。
人妻看護婦の不倫。
2019年11月05日(Tue) 08:01:04
家で初めて吸血鬼に襲われたとき。
行儀のよい妻は、肌色のストッキングを穿いていた。
好んで脚に咬みつく習性を持った彼は、先に血を抜かれて大の字になっていたわたしのまえで、
ふくらはぎを包む肌色のストッキングを、いやらしく咬み剥いでいった。
夫の前で想いまで遂げられて、家庭が崩壊したとおもったわたし。
けれども彼はわたしを尊重してくれて、
いまでは平和な三角関係が成り立っている。
でも、ほんとうに堕落したなって思ったのは、別の時なの。
妻はそう告白する。
彼にせがまれて、勤め先の病院に穿いていく白のストッキングを咬み破らせちゃったとき。
私、お仕事まで汚してしまった・・・って思ったの。
わたしのすべてを捧げた瞬間は、むしろあのときだったかも。
亭主は二の次か。
そうむくれることはない、と思っている。
いまでは病院そのものが吸血鬼に支配され、
妻は毎日のように、ナースキャップを着けたまま、空き病室のベッドのうえに抑えつけられている。
ナースストッキングのコレクション
2019年03月03日(Sun) 09:49:14
これは前澤看護婦の、これが信太看護婦の、これは・・・
院長先生の目のまえで、つぎからつぎへと取り出したのは、純白のナースストッキング。
どれも破けて、かすかに血潮を散らしているという、まことにナマナマしいありさま。
だって、ナースコールで呼び出して、その場で気絶するまで血を吸って、そのうえふくらはぎを咬むときに穿いていたやつだから。
襲って、生き血を吸い取って、犯す。
一連の行為のあとのさいごの”儀式”が、そう、「パンスト脱がし」。
モノにした看護婦の脚から抜き取ったストッキングは、たいせつなコレクションだ。
そいつを院長先生に見せびらかすのは、悪趣味といえば悪趣味だが。
さいごのほうに取り出した白のストッキング。
これ、婦長のやつですよ。いつも、光沢入りの、高そうなやつ穿いているんですね。
「鮫村婦長まで姦ってしまったのか!?」
絶句する院長先生にはもう一足、とっておきのお土産がある。
なん足もの白のナースストッキングに紛れて一足だけ持ち込んだ、肌色のストッキング。
これまた光沢が毒々しくギラつく、見るからに高価そうな一品だった。
「院長夫人のおみ脚から、つつしんで抜き取らせていただきました」
わざわざ説明するまでもなく、院長夫人が身に着けていたストッキングには、白く濁った粘液までもが乾いてこびりついて付着している。
院長先生、さすがに沈黙、天を仰いでしまった。カワイソ!
「奥さまのことは、とりわけ大切にします」
少し気を持ち直した院長先生に、お気の毒だがつい、追い打ちをかけてしまう。
「でも奥様は、輪姦パーティーもお好きなようで。仲間を呼んだときにはいつも、ナースステーションにお見えになって、
ほかの看護婦たちといっしょに、乱れまくるんですよ。^^
すでに仲間のうち3人が、奥さまのストッキング、せしめちゃっていますから」
翌朝。
きのうはすっかり打ちしおれていた院長先生は、少しだけ元気を取り戻していた。
「家内には、恥をかかないよう高いものを身に着けるように言っておいた」
小声の囁きには、いつにない昂ぶりが籠められていた。
俺はついほんとうのことを、囁いてしまっている。
「院長夫人は、院長先生を心から愛していますよ。
いつだって犯されているときには、”あなた・・・あなた・・・ごめんなさい・・・”って、口走っていますから。^^
なんなら今度、検証して御覧なさい」
院長先生の威厳の鎧にかすかなほころびが生じたのに気づいたのは、きっと俺だけにちがいなかった。
ナースステーション 侵蝕。
2019年03月03日(Sun) 09:25:42
深夜のナースステーションには、数名の看護婦が常時、勤務している。
そのなかで、ひと晩で襲うのは一人と、決めている。ほかの患者の迷惑になるから。
どの看護婦を襲うかは、身辺に付き添われたときの仕事ぶりで決める。
生真面目過ぎても、夫を愛しすぎてもいけない。適度に練れた看護婦。そうなると、おのずと対象はしぼられてくる。
個室の病室にナースコールを入れて、お目当ての看護婦を呼び出すと、
スキを見て首すじに咬みつく。
口から洩れる悲鳴を両手で抑えつけ、グイグイと強引に吸い取ってしまう。
貧血を起こしてその場に倒れると。
白のナースストッキングに染まったふくらはぎに、唇を近寄せる。
ブチブチと咬み破りながらの吸血は、まったくもって、こたえられない。
つぎに顔を合わせたとき、女は自ら進んで白衣の襟首をくつろげて、豊かな胸もとや首すじに、淫らな唇を受け入れてゆくだろう。
中堅どころの看護婦数名を落とすと、さいごはいよいよ婦長の番だ。
婦長ともなると、なにしろ肝が据わっている。
いちどは目を回してしまったとしても、次回からは動じることなく毅然と俺の欲望を受け止めてくれる。
主人にはナイショですよ――
そう言いながら、度重なる吶喊に、歯を食いしばって呻きをこらえる。
職業意識の強い彼女にとって、職場の雰囲気を守ることは、とてもたいせつなことだから。
婦長を征服してしまえば、話は早い。
彼女は最も適した看護婦を人選して、俺のもとに送り届けてくれる。
本人の性格、男遍歴、血液型、当日の体調・・・すべてがインプットされているのだから。
どうしてこんなことが可能なのかって?
院長と院長夫人が、俺の目論見に最初から、賛同してくれているのだから。
占領された病院長の告白
2018年06月28日(Thu) 03:30:47
ウチの病院の看護婦は全員、網タイツですよ。
軽いイ〇ポなら、口で治せます。
患者さんの御要望に応じて、ふつうのパンストやテカテカ光るやつなどのオプションも用意してます。
え?ふつうのやつもなかなか・・・ですって?
患者さん、イヤラシイですね・・・。^^
案外コアなひとほど、そういう普通ものを好まれるのですよ。
エエもちろん、指名も可能です。
本人の勤務日の問題もありますが、場合によっては強制的に出勤させる場合もあります。
個室の患者様には、1時間単位で看護婦を一名、無料で提供させていただいています。
もちろん、なにをなさってもOKです。
すべて、治療行為の範囲と見なされますから――
家内だけは黒の網タイツです。院長夫人の特権で。
家内をご指名なさるときは、網タイツの色で御認識いただけますよ。
でもどうぞ、お手柔らかに・・・
わたし以外の男を識って、まだ間もない身体ですから。
ナースステーションの宴
2017年11月14日(Tue) 06:53:46
真夜中のナースステーションは、吸血鬼の楽園。
この夜のために選ばれた若い看護婦も。
ややとうはたったけれどまだまだイケるベテラン看護婦も。
しっかり者で知られた四十代の婦長も。
夜中なのによそ行きのスーツでバッチリとキメた、院長夫人までも。
きゃあきゃあと悲鳴をあげながら、首すじを咬まれていって。
ひとり、またひとりと姿勢を崩し、ストッキングに包まれたひざを床に突いてゆく。
首すじから血を流した女たちは、
うつ伏せに伸びたふくらはぎにまで、もの欲しげな唇を吸いつけられる。
若い看護婦は、透きとおる白のストッキングを。
ベテラン看護婦は、本来禁止が不文律の光沢入りの白ストッキングを。
婦長は、もっさりとした白タイツを。
院長夫人は、光沢のよぎる高価な肌色のガーターストッキングを。
ヌルヌルとしたよだれに濡らされ、
飢えた牙にメリメリと裂かれてしまう。
悔し気に歪む整った目鼻立ちは、辱めを受ける足許に目線をクギづけにして、
さらに悔しそうに、キュッと歯がみをしてみせる。
吸血鬼を患者として受け容れるこの病院では、
患者への輸血行為が、深夜の看護婦たちの業務のひとつ。
だから選ばれた女たちは深夜のナースステーションに集められ、
わが身をめぐる血潮で、患者の渇きを満たしてゆく。
長患いに鬱積した気分を、己れの身につけたストッキングを食い破らせてやることで、まぎらわせてゆく。
けれども彼女たちのお勤めは、これだけでは終わらない。
ああ・・・
悲しげなうめきをあげて、ベテラン看護婦がのけぞった。
身につけた白衣はびりびりと引き剥がれ、はぎ取られたブラジャーの下からは、豊かな乳房を惜しげもなくさらけ出してしまっている。
吸血鬼の長い舌がもの慣れたやり口で、三十路女の乳首をいたぶった。
そしてストッキングを剥ぎ堕とされてむき出しにされた太ももを抱くようにして、
ユサユサと女の身体を揺らしながら、淫らな吶喊をくり返した。
このひと、ご主人いるのよ。
訴えるようにそう囁いた婦長のうえに、男は劣情もあらわにのしかかる。
つぎはお前の番だといいたげに。
生真面目な婦長は四十にもなって、吸血鬼相手に初めてのものを散らしていた。
いや・・・いや・・・いやぁん・・・
齢がいもない、あられもない声を洩らしながら。
純な気持ちに齢は関係ないのよといいたげに、
肉づき豊かな腰つきを、男の強引な動きにけんめいになじませようと努めている。
いまはすっかり狎れ合ってしまった、肉と肉――
婦長が満足するまで、男はなん度も犯しつづけた。
私、もうじき結婚するんです・・・
そう哀願した若い看護婦も例外なく、劣情の餌食となった。
すでになん度も犯されてしまっている嫁入り前の女は、
男のテクにすっかりイカされて、不覚にもはしたない声をあげてはじめている。
純白のウェディングドレスの下に身につけるはずの白のストッキングは、
彼女の足許を清楚に引き締めていたけれど、
襲う男には、ただ劣情しか催さなかったらしい。
業務ですよ、あくまで業務・・・
うつろな目になった婦長が、幼子に言い聞かせるような口調で囁きつづけるのに肯きながら、
女は禁じられた淫らな舞いを、吸血鬼相手に披露しつづけた。
さいごは院長夫人だった。
このなかではいちばん年配の彼女を最後の獲物に選んだのは。
いちばんおいしい獲物をさいごまで取っておくという、
彼なりの礼儀作法なのだという。
陽のあたる場所では威厳たっぷりの街の有力者も、
吸血鬼のまえでは、一介の素人女――
心見だされ、淫らに舞ってしまうのは、ほかの女たちといっしょだった。
人手の足りないナースステーションに彼女を送り込んだのは、他ならぬ夫の院長だった。
今夜血液を提供する看護婦の頭数が足りない――そんな婦長の申し出に応じて、
躊躇なく、自分の妻に吸血鬼の夜伽(よとぎ)を命じたのだ。
お手本は、いちばん頭だったものが見せるもの――
夫の言葉に妻は肯いてみせて、夫を裏切る行為に、いまは耽り抜くようになってしまっている。
深夜のナースステーション。
そこは歪んだ宴の場。
今夜も救いと癒しを求める吸血鬼どもが、前の廊下を徘徊し、
待ち受ける女たちは、強いられた淫らな業務に息を詰め、心震わせながら、従事してゆく――
「うちの病院は、看護婦不足でしてね・・・」
2012年11月26日(Mon) 08:10:43
「うちの病院は、看護婦不足でしてね・・・」
陰気な感じのする病院の院長は、そんなに齢ではないはずなのに、
顔いちめんを覆う翳のためにか、ひどく陰気な感じがした。
「えぇと、加瀬さんね。じゃあ明日から、事務員として採用しますのでいらしてください。始業は朝9時からね」
眼鏡の奥からそっけない視線を投げた白衣姿は、呟くような低い声で彼の採用を告げると、
加瀬ナオキ、と彼のフル・ネームを万年筆でさらさらと書いた。
看護婦不足?
加瀬は耳を疑った。
院内に足を踏み入れてからこの事務室までは、ほんの数十歩と歩いていないというのに。
いったいなん人の看護婦とすれ違ったことだろう。
十人?二十人?それとも数十人?
だれもが影絵のような無表情で彼を見ると、軽く会釈をして通り過ぎたのだ。
奇妙にも、彼に背中を向けている看護婦は皆無に近く、だれもが廊下の向こうから現れて、背後へと消えていった。
だれもが古風なワンピースタイプの白衣をまとっていたが、
足許だけはちょっと、不思議な感じだった。
ほとんどの看護婦は、これまた昔ふうに白のストッキングや、ひざ下までのショート丈のストッキングだったけれど、
おなじショート丈の白ストッキングでも柄ものを穿いていたり、黒いやつだったり、なかにはカラータイツを穿いているものまでいたからだ。
風紀が乱れているのかな?
そう思うと加瀬はちょっぴり顔をしかめて、彼のことを玄関まで送ろうとする院長を振り返った。
「ここの看護婦さんは、ずいぶん皆さん、おしゃれなんですね」
冗談ごかしの口調を作る加瀬に合わせるように、院長は「アハハ」と軽く笑っただけだった。
こちらに向かって歩いてきた丸顔の若い看護婦は、意味ありげな視線を加瀬に投げると、澄ました顔で通り過ぎてゆく。
背すじをピンと張りつめて、それは格好よく歩くので、上背のあるしなやかな身体つきがいっそう、しなやかに映えた。
アップにした黒髪から広いおでこをツヤツヤと覗かせて、くりっとした瞳がいかにも理知的に輝いている。
なにかを告げたい・・・というような、いかにもいわくありげな顔つきが、加瀬の目を惹いた。
「いやいや、とにかく看護婦不足なもんですから」
玄関で別れぎわ、院長は思い出したようにそういった。
加瀬が声を投げてからだいぶ経ってからの応えは、ひどくタイミングの悪い間の抜けたものだったが、思わず加瀬は食いついていた。
「だって、あんなに大勢いらっしゃるじゃないですか」
いま目にしただけでも、延べにして数十人はいるだろう。
比較的大きな病院だったけれど、その数は不釣り合いなほど多い。
「いや、あれでも足りんのですよ。いろいろと事情がありましてね・・・奥さんももし職をお探しでしたら、いかがですか?資格を持っていなくても、補助的なことをしてくださるだけでも、助かるんですがね・・・」
院長の言葉つきは終始ぼそぼそと冴えなかったが、誘蛾灯のように人を惹き込む引力を秘めていた。
「考えたほうがいいですよ」
勤務初日の午後、ここの仕事がだいたい見えた時分になって、妻の就職のことを切り出した加瀬に、事務長はふたつ返事のようにそういった。
「就職難のみぎりですからね。じつはうちも家内がこちらで世話になっているんです。でも決しておすすめするものじゃありません」
そういえばむやみと多い看護婦たちは、ほとんどが無表情で、声ひとつ発しないのではと思われるほど無口なものが目だっていた。
無邪気そうな若い看護婦に限って蒼い顔をしていたりして、明るい院内ぜんたいを支配しているのは、奇妙に穏やかなけだるさと空疎感だった。
患者たちの姿をみることも、きょう一日ではとうとうなかった。
入院患者は病室に缶詰めになっているというし、この病院ではほとんど外来は受け付けていない。
たまに現れる外来患者は、なぜか裏口から院内に入るよう指示されているという。
なんのための受付なのだろう?
事務所と一体になっている受付では、いまも数人の白衣姿の事務員がひどく所在無げにしていて、
人の現れないエントランスホールでつけっ放しになっているテレビの画面に見入っている。
「ちょっとご一緒しますか」
事務長の声は問いかけのようだったが、加瀬が当然ついてくるという前提があるように、有無を言わさず起ちあがった。
ああ・・・っ。あああああぁ・・・っ
鉄扉の向こうから洩れてくる声は、間違いなく女のもの。それもひどく悩ましい声だった。
上ずったかすれ声のもたらす切迫感が、扉の向こう側で起きているのがただごとではないことを告げるようだった。
「なんだかわかりますか」
「さぁ・・・?」
そうでしょうね、と、事務長は、知っているものが知らないものに見せる独特な優越感をあらわにしながら、肩をそびやかした。
ごらんなさい、というように指差した頭上には、鉄扉に閉ざされた治療室のプレート。
加瀬は目を疑っていた。
「吸血治療室」
そう書かれていたのだった。
この病院の患者は、吸血鬼である。
たまに現れる見舞客は患者に血液を提供しようとする、患者の家族だったり善意の奉仕者だったりする。
看護婦たちももちろん、吸血に応じる。
それがもっとも有効な“治療”であり、求められている職務の重要な一部なのだから。
「吸血鬼のほとんどは、男性です。男性相手の吸血行為には、しばしばセックスがつきまといます。
看護婦の全員が・・・というわけではありませんが、そういう状況に対応できるものが殆んどです。
いい思いをしている・・・と思われるでしょうが、この世界はお互いさまなのですよ。
患者の男性も、もとはふつうの人間だった人たちですが、既婚男性の場合留守宅を守る奥さんが、べつの吸血鬼に血を吸われていることもありますからね。」
淡々と解説をする事務長のそっけない口調が、彼の言を加瀬に信じさせていた。
すべてがつじつまが合うからだ。
「まあ、強姦とか、そういう犯罪めいたものには、うちは無縁でありたいと願っています。ですからセックスにまで応じる看護婦は全員、本人の同意のもとでそうした治療に従事しています。
事情を知らない新入りさんは、いずれセックスに応じるか、事情を知らないまま短期間でお引き取り願うことになっているんですね」
解説口調だった彼は、ちょっと得意そうに言った。
「院長夫人も、ここの看護婦をしているんですよ。彼女が夜勤のときには、院長も泊りがけになるそうです」
ふふふ・・・と人のわるそうな嗤いを泛べた事務長は、ちょっと声を落としてこうもいった。
「ちなみにさっき鉄扉の向こうにいたのは、うちの家内です」
「うちの病院は、看護婦不足でね・・・」
眼鏡の奥で光っていたいわくありげな昏い瞳を、加瀬はありありと思い出していた。
「べつにどうということは、ないんじゃないの?」
加瀬からおおまかな説明を聞き終えると、妻の瑞枝は、白い顔で夫をみた。
「安全が保障されているのなら、ただの献血だと割り切ればいいんだし・・・そんな高いお給料、みすみす素通りできるほど、うちは景気よくないのよ。
家のローンだってあるんだし、子供たちの教育費だって・・・」
夫の再就職を祝うのもそこそこに、彼女は夫が口にした仕事の口に、意欲満々のようだった。
なまめかしい色つやを帯びた黒髪に、白い膚。
ノーブルな細い眉とつり合った、控えめな瞳。
ふっくらとした頬。小ぶりだがピンと突き立った鼻梁。
かつて恋人だったころの面影を残しながらも、そこにあるのはしたたかな主婦の顔だった。
肩までゆるやかに流れていた黒髪は、いまはきちんとセットされて頭のうえにまとめられていたし、目映い初々しさを漂わせていた頬は、いまは巧みな化粧に塗り込められている。
「具合が悪くなったところで、そこは病院なんですものねえ」
ぬけぬけとそういう妻に、加瀬はたしなめる夫の顔になっていた。
「もうひとつ、話していないことがあるんだ・・・」
「なぁに?」
どんなことでも受けて立つわ、という瑞枝の顔つきに泥を塗りたくりたいような衝動に駆られた彼は、思わず口走っていた。
「ふつうの主婦が、耐えられるのか?患者のセックスの面倒も、見るんだぜ!?」
おうむ返しにかえってきた女の応えは、加瀬の胸の奥をずきん!と衝いた。
「そういうほうがあなた、愉しめるんじゃなくて?」
夫の急所をよく弁えている妻だった。
瑞枝の勤務は、夫の再就職の翌週からだった。
未成年の子供を抱えている事情もあって、夜勤は当面ないということが、加瀬をちょっと安心させた。
「真っ昼間から・・・ってことだって、ここではしょっちゅうなんですよ」
懸念を消さない事務長がいう通り、彼の妻が患者に犯されていたのは、たしかに昼日中のことだった。
「そうね。自分の勤務先で奥さんに、真っ昼間から浮気されたんじゃ、あなたも合わないわよね」
まるで事務長と結託しているかのように、瑞枝の言いぐさは、事務長の言と呼び合うほどの近さを持っている。
妻がいつかは・・・そんな予感に危機感を深めなければならない立場のはずの彼は、胸の奥底になにかを期待するようなゾクゾクとした昂ぶりを、抑えきれなくなっている。
俺はマゾなのか・・・
暗澹とする思いだったが、そうした忌むべき性癖が、じつは周囲のだれもが期待しているものだということも、認めないわけにはいかなかった。
「制服が支給されます。きょうからはこの制服に着替えて勤務してください」
事務長は院長と負けず劣らずの無表情だった。
この病院のなかで男性は、院長と数人の医師、それ以外には事務長と加瀬だけだった。
事務長も白衣だったが、いっぷう変わった服装だった。
白の開襟シャツに、おなじく白のハーフパンツ。ひざ下まで覆う長い白のストッキングは、看護婦のそれと同じくらい、肌が透けるほど薄かった。
「まるで探検隊みたいですね」
加瀬の表現は、そう的外れではなかったらしい。
「わたしもそう思ったんですよ。ささ、着替えは更衣室でどうぞ」
薄いストッキングの脚を衆目にさらすことには、羞恥心と裏腹の昂奮に似た感情を覚えた。
それは、吸血鬼の看護に妻が当たるというときと同じ種類の感情だった。
毛深くない脛にぴったりと吸いつくように密着する薄いナイロン生地は、さして違和感なく加瀬の足許を彩った。
じつは女装願望のある加瀬は、震える指先でストッキングのつま先を探り、脛のうえをぐーんと伸ばしていった。
「加瀬さん、ちょっと・・・」
事務長はいつもながらの渋面をつくったまま、彼を手招きした。
「こちらへどうぞ」
連れて行かれたのは、あの「吸血治療室」。
なにが起きているのか?なにを見せられようとしているのか?
自分のなかのマゾヒズムに目覚めてしまった加瀬は、すでに心臓の激しい鼓動を自覚していた。
無表情な鉄扉が、彼の前に立ちはだかる。
あ・・・う・・・ッ。ひい・・・っ!
切れ切れに洩れてくる悲鳴は、まごうことなく妻のもの。
「奥様の初仕事です」
事務長のいつもながらの無表情には、ちらと同情の色がよぎったが、
「そのままどうぞ」
言い捨てるようにして、靴跡だけを残して立ち去ってゆく。
こういう場に慣れている彼らしい、正確で冷静な足取りだった。
あっ、あっ、あっ、あっ・・・!
鉄扉の向こうの妻の声が、切迫してきた。
いまごろ妻は白衣をはぐりあげられて・・・
そんなまがまがしい想像に矢も楯もたまらなくなって、彼はドアノブに手をかけて、グイと引いた。
扉に、鍵はかかっていなかった。
がらんどうの治療室のいちばん奥深く、扉と向かい合うようにベッドが横に長く置かれていた。
そのうえから、とっさに身を起こそうとしたふたつの身体。
下にいるのは、妻の瑞枝。
その瑞枝を組み敷いているのは・・・ほかならぬ院長だった。
「お邪魔をしないのなら、どうぞ・・・」
眼鏡をはずした院長の瞳は、いつもの静謐さとはべつな、獣のような荒々しさを湛えている。
ひと言言い捨てた彼は、瑞枝の胸元に顔を埋めた。
瑞枝もまた、首すじを狙われていると知りながら、おとがいを仰のけて、応じてゆく。
ちゅう・・・っ。
生々しい潤いを帯びた吸血の音―――
瑞枝は細い眉をキュッと顰めながらも、さいしょは痛そうに白い歯をむき出して、
けれどもやがて、引き締めた口許にかすかな笑みが交じり、拡がりはじめた陶酔に目じりをゆるめてゆく。
「奥さまの血の味は、なかなかよろしいですね」
瑞枝の胸元から顔をあげると、冷静に診断を下す医師のように院長は告げ、ふたたび顔を獲物の胸のはざまへと、埋めてゆく。
ああ・・・っ。
夫のことなど眼中にないらしい妻のあげるうめき声には、深い随喜の響きがあった。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
妻の身体から生き血を吸い取られてゆくいまわしいはずの音が、加瀬の鼓膜に妖しい囁きとなって、しみ込んでいった。
院長によって妻に加えられる接吻には、明らかに敬意と称賛が籠められている。
それは加瀬に対するものでもあった。
院長の声が、胸の裡に響いてくる。
『これほど魅力的な奥さまをこの世界に引き込んでくれるとは。貴男の篤志には頭が下がりますよ』
『いえいえ、院長のまねをしているだけですよ』
『ハハハ…これは耳が痛い』
短い時間だったが、濃いやり取りだった。
「御覧になりたければ、どうぞ」
もういちど顔をあげた院長は、いつもと変わらぬ低い声色だった。
口許には、吸い取ったばかりの瑞枝の血を、チラチラと光らせていた。
「あんまりしつこく見ちゃイヤよ」
瑞枝までもがウキウキと、院長の気分に合わせている。
「主人のまえでだなんて、昂奮しちゃう♪」
娼婦のように濃密な媚びを満面に浮かべた妻の白い腕が、院長の意外に逞しい背中に、ヘビのようにからみつく。
そして、夫がふたりの行為を妨げようとしないのを確認すると・・・自分からショーツをつま先へと降ろしていった。
「主人のまえだなんて・・・主人のまえで犯されるなんて」
ことさらに夫を刺激するような言葉を口にしながら、瑞枝は太ももをあらわにした。
いままでパンストしか目にしなかった瑞枝の太ももを、白のガーターが鮮やかに横切っていた。
むき出しにした太ももを、そらぞらしい外気がくすぐるように撫でつけて、
ひざ小僧のすぐ下を緩く締めつける純白のストッキングのゴムの感覚が、じわりといやらしく皮膚にしみ込んでくる。
加瀬は意気地なくも失禁を覚え、足許を伝い落ちるなま温かい体液が自分のストッキングを濡らしてゆくのを感じた。
妻の足許を彩っている純白のガーターストッキングが、くしゃくしゃになってずり落ちてゆくありさまを、目の当たりに見つめながら。
「奥さまの貞操喪失、おめでとうございます」
冷ややかで事務的な口調だった。
制服の下だけを変えた加瀬のまえに現れたのは、あの丸顔の若い看護婦。
今夜は夜勤なんですよね?
わたくしがお相手することになってますから、ご遠慮なくどうぞ。
女は額の広い理知的な顔だちに、無感情で儀礼的な笑みを湛えながら、加瀬にそういった。
「もうどなたにも、遠慮は要りませんものね」
背中を向けてから投げた言葉に、果たして甘んじてよいのだろうか?
けれども加瀬を支配しているのは、すでに不道徳な衝動だけだった。
「夜まで待てない・・・と言ったら?」
駆け寄って背後から抱きすくめた白衣姿は、意外なくらい肉感的だった。
「廊下でなさるの?」
女はくすっと笑い、すこしでも背中を痛くしたくないらしく、廊下の真ん中に敷かれた赤いじゅうたんの上にナースサンダルを脱いだ脚を踏みしめた。
白衣の下には、むき出しの裸体があった。
あらかじめ、男との情交を予定していたようだった。
相手の思惑に乗ったという不快感は、もはやない。
女は自分に襲われるのを予期して、それを受け入れるつもりでいたのだ。
男の狂った手指が、純白のパンティストッキングの腰周りを裂き散らし、
女の計算し尽くされた手つきが、自分自身の穿いているピンクのショーツを引き裂いていた。
レイプされる本人と共同作業をしているような錯覚に陥りながら、加瀬は女を押し倒した。
病院の廊下の床は冷たかったが、熱くほてった二人の身体には、むしろ心地よかった。
日ごろの冷静さをかなぐり捨ててひぃひぃ喘ぐ女から白衣をはぎ取ると、
加瀬は四つん這いになった裸体に、逆立った自分自身をぶち込むような手荒さで、何度も突き入れていった。
しなやかでタフな牝豹はそのたびに、あたりをはばからない声をあげ、狂おしいよがり声で男を狂わせていくのだった。
妻はなにごともなかったような顔つきで彼よりもあとに帰宅して、
いつもどおりに晩ご飯を作り、
いつもどおりに子供たちを寝かしつけ、
いつもどおりに夫婦のセックスに励んで、
そしていつもどおりに、出勤していった。
病院で顔を合わせたのは、二回だけ。
ちょうど患者らしいごま塩頭の年配の男に、吸血治療室に連れ込まれてゆくところだった。
その約二時間後、治療室の近くを素足でふらふらと歩いていた妻は、破けた白のパンティストッキングを、指先にひらひらとぶら提げていた。
「お土産に持って帰るわね♪」
この頃妻は、見せつけるような笑いが得意になっていた。
「罰ゲームですよ」
事務長の人のわるそうな薄ら嗤いは、むしろ嬉しげだった。
「なにしろ院長の女に、手を出したんですからね。重罪ですよ」
院長だって俺の妻を抱いたじゃないか・・・そんな抗議をするつもりは、いまの加瀬にはさらさらなかった。
「きょうの貴男の着る制服は、こちらです」
加瀬の目を射たのは、女もののナース服だった。
えっ?と事務長を窺う眼を、事務長はしずかに見返してきた。
―――貴男の願望をかなえてあげているだけですよ?
そう言いたげな目から目をそらして、加瀬は低い声色で訊いていた。
「女ものじゃ、サイズ合わないでしょう」
「だいじょうぶ、ぴったりなはずです。貴男を診察するとき、しっかり採寸してありますから」
「家内と行き会うときにも、この制服でしょうか?」
「はい、もちろんですよ。きょうは奥さまと隣のベッドでの奉仕も、予定されています」
「男の血なんか、面白くないでしょう」
「女装した男の血を好んで喫(す)う患者さんも、いるんですよ」
問いと答えが交わされる中、加瀬の手足はひとりでに動き、着替えをはじめている。
本人の意思と裏腹・・・というべきなのか。
本人の意思に素直になって・・・というべきなのか。
「よくお似合いですよ。白のストッキングの脚、きれいですね」
制服を支給されてからすね毛の手入れを入念にするようになった脚は、いまは白のパンティストッキングに包まれて、さながら女の脚そのものだった。
眩しげな事務長の視線を、むしょうに嬉しく受け止めている自分を、加瀬はどうすることもできなかった。
「毎日この格好で、出勤するのですか」
「エエ、ぜひそうしてください」
事務長はフフフ・・・と嗤って、こうもいった。
「奥さんと足許の艶比べなんて、いいご夫婦だと思いますよ」
妻のまえで看護婦の格好で生き血を吸われて、それを手本に妻もまた、同じ吸血鬼に襲われる・・・
狂った日常、忌まわしいはずの運命なのに。
彼は自分を呪うことは、できなかった。
きっとこれからは、妻と連れ立って、
看護婦の白衣の裾の下、白のストッキングの脚をさらして街を歩いて、
乗り合いバスに、夫婦でストッキングの脚を揃えて乗り込んで、
病院のベッドのうえ、夫婦並んで横たわって、血に飢えた患者に奉仕するために、淫らな治療行為に応じてゆく・・・
狂った想像が彼の理性のさいごのひとかけらを突き崩し、
妻の貞操と引き替えに手にした淫らな歓びが、彼の心の奥までも極彩色に彩っていった。
あとがき
ひさびさの新作です。
描くのに二時間かかりました。(^^ゞ
薄っすらと構想したのが夕べのこと。
ここ最近にしては、すんなりとお話になってくれました。
ほんとうはさいごの看護婦女装シーンだけを考えていたのですが、どうも寝取られの要素のほうがまさってしまいましたね。。 苦笑
若い看護婦と婦長
2012年10月10日(Wed) 05:54:31
ふ・・・婦長っ!?この患者さん達、みなさん血を欲しがっていらっしゃいますっ!
若い看護婦の坂口梨絵は、白衣姿を縮みあがらせる。
けれども婦長は薄っすらと笑いをうかべて、梨絵の手首を掴まえていた。
そうなんですよ。坂口さん。わたくしたちは患者さんの要望にお応えして、愛の献血に励まなければなりません。
どうか観念なさいな。
五十そこそこにはなる年配の婦長は、若いころの美貌をまだじゅうぶんに残していて。
ハッキリとした輪郭の瞳を怜悧にきらめかせ、身を揉んでうろたえる若い看護婦を逃がすまいと、手首に力を込めた。
婦長?婦長!?あぁ~っ・・・
血に飢えた患者たちに取り囲まれて、四方八方から牙を刺し込まれた若い看護婦は、
白衣のあちこちに血を滲ませて絶句した。
ちぅちぅ・・・きぅきぅ・・・
ひとをこばかにしたような吸血の音が重なると。
坂口看護婦は表情をこわばらせ、頬を蒼ざめさせて。
立ったまま、献血に励みはじめている。
立派よ、坂口さん。初心者にしては、上出来ですわ。
婦長はふたたび薄っすらと微笑むと、患者全員が若い看護婦に向かったことに嫉妬するでもなく、
くるりと背を向けてナースステーションをあとにした。
コツコツ・・・
数歩歩いて自分以外の足音に気がつくと、婦長は振り返った。
そこには自分と同年代の患者の安原の、蒼白な顔があった。
あちらじゃなくって、いいの?
年輩の婦長はむしろ怪訝そうな顔つきで、患者を見つめる。
あんたがいいんだ。
不思議なひとね。
婦長は仕方なさそうに手近な小部屋のドアを開くと、男と二人きりになった。
たまにこういう患者がいるのだった。
天の邪鬼なのだろうか。若いだけの魅力に飽き足らないのだろうか。
あんたのほうが、気分が落ち着く。
訊かれる前から男はそういって、婦長の身体を抱き寄せようとする。
ダメよ。身体だけはわたくし、お父ちゃんのものなんだから。
婦長の左手の薬指には、結婚指輪が光っている。
わかっていますって・・・
男の声はもう、かすれていた。
飢えた唇が純白のストッキングのふくらはぎに擦りつけられる。
カサカサに干からびた赤黒い唇がヒルのように吸いつけられると、
血色の好い婦長の足許を淡く染めた薄手のナイロン生地は、じりじりとよじれ、皺を深めてゆく。
婦長の脚に欲情した唇は唾液をあやして、ヌラヌラと光りはじめて。
純白のストッキングに、じわり・・・じわり・・・と、よだれをしみ込ませてゆく。
やだ・・・
けだるそうに呻く婦長は、にわかに姿勢を崩して床に横たわった。
きゃーっ!
若い看護婦の断末魔に似た悲鳴が、彼方から聞こえてきた。
どうやら隣室の宴は、最高潮に達したらしい。
おぞましい輪姦に身をゆだねる若い肢体が愉悦に染まるのも、時間の問題なのだろう。
事実、ものの数分もすると、「ひっ・・・あう・・・っ」と、猥雑さを含んだ声色が、自覚した淫らさを隠しきれなくなっていく。
たったひとりの患者に迫られた婦長の場合も、さして例外とはいえないようだった。
あっ・・・あっ・・・あっ・・・
吸い出されてゆく血潮を惜しむように、顔を蔽ったまま吸血に応じていった彼女。
「お父ちゃんだけ」というのは果たして、いつも口にしている社交辞令のようなものらしい。
はだけた白衣のあちこちから覗く、むき出しの肩。豊かな胸。そして、ストッキングを噛み剥がれたふくらはぎ―――
献血の夜は、どちらの看護婦の身にとっても、長くなるようだ。
婦長の白タイツ
2011年06月06日(Mon) 06:54:34
吸血鬼の棲む街には、吸血鬼を診る病院もあって。
真夜中のその病院は、ひそかに吸血鬼銀座 だなんて、呼ばれていて。
ナースステーションも、二箇所にあって。
ひとつはふつうの入院患者を診る部署で。
もうひとつは、訳知りの看護婦だけが勤務する、べつの意図のステーションで。
そこに詰める看護婦は。
学校出たての若い看護婦も。ベテランの人妻婦長も。
ひとしく吸血鬼の訪問を受け容れて
素肌をじかに吸われる形での、輸血治療を。
強制的に、させられるのだという。
その病院に、婦長として赴任したわたしの妻も。
いつか、その行為に慣れるようになっていて。
以前から履いていた、もっさりした白タイツは
いつの間にか、ツヤツヤ光沢を帯びた、肌の透けるタイプのストッキングに、とって代わられていて。
たまに もっさりしたのを履くときは。
いちばんのお得意の患者さんが、初めて妻をモノにしたときを。
再現するための小道具として。
いやあっ。あなた・・・ッ。助けてぇ・・・
身を縮こまらせて、そう叫ぶ妻は。
ナースステーションの堅い床のうえ、白タイツの脚をじたばたさせながら。
密かに覗き込むわたしの目を、じゅうぶんに意識していて。
獲物の夫がそこにいる、ということを やはり興がっているあの男は。
きょうも妻のふくらはぎに、それは旨そうにかぶりついて。
堅実で良識ある婦人だった妻を、はじめて堕としたときのように。
厚手の白タイツを、ぶりぶり、ぶりぶり、音をたてて裂いてゆく。
永い夜は、愉しい夕べ。
きょうも婦長の絶叫が、無人のナースステーションにこだまする。
薬局の彼女
2010年12月16日(Thu) 08:16:35
きみはもう、退院だね。
院長が怖い顔をして、ベッドのうえから俺をにらみつけた。
そういえば。
院長の奥さんをなん回、この病室で抱いただろう?
もと婦長だった奥さんは、時おりナースステーションに姿を見せて。
夜の当直さえ、勤めるのだが。
初めて襲った夜、ツヤツヤとした白のストッキングに、俺はいっぺんに参ってしまっていた。
ひたすら牙に、毒を滲ませて。
俺の言うことを聞け。毎晩此処に詰めろ。
そう命令して。
さすがに身がもたないわ。そういう彼女に、ふたりの娘を交代で詰めさせた。
白衣に扮した母親似の娘たちの生き血は、とても新鮮で旨かったけれど。
夜のおつとめの濃厚さは、まだまだ母親には及ばないものがあった。
ナースステーションのことは不問に付すからね。
院長はそそくさと、一方的に、俺の退院の手続きを取ってくれた。
退院、おめでとうございます♪
ようやく顔見知りになった、薬局の彼女。
チェック柄のベストに、紫のタイトスカートの制服は。
ふたたびもどる浮世を、思いださせてくれた。
ねぇ、ちょっと・・・
いけない衝動にかられた俺は、ずかずかと薬局に入り込んでいって。
人目の少ない廊下を気にしぃしぃ、ためらう彼女の首すじを噛んでいた。
十分後。
じゅうぶんに酔わされた彼女は、床にまろび伏していて。
ツヤツヤと輝く肌色のストッキングのふくらはぎを、俺にしゃぶりつくされていた。
破けたストッキングを、脚から抜き取って。
返してやるから、今夜俺のところに遊びにお出で。
とろんとした目つきになった彼女のまえ、わざとぶら下げてみせている。
まぁまぁ・・・この娘ったら。
ベテランの薬局係のおばさまが、すぐに業務を代わってくれた。
あんたのねずみ色のストッキングも、捨てがたいな。
あと三十分で勤務終了だって?
じゃ、廊下で待っているから。
通院になったとしても、やっぱり病院づきあいは愉しめる。
ナースステーションの妻
2010年12月16日(Thu) 08:08:55
夫婦でおなじ病院に勤めていても。
廊下をすれ違ったときには、他人行儀な会釈だけ。
それは院内の規律を守るためのことだったけれど。
ある種の患者たちには、わたしたちのことはことさら、伝えられている。
供血行為そのもので癒されるその患者たちは、夜にならないと病室から出歩くことができないでいた。
週にひと晩、夫婦で夜勤のことがある。
医師のわたしは、当直室に。
婦長の妻は、ナースステーションに。
午前二時。巡回の時間だった。
わたしはぶらぶらと、人のいない廊下をめぐって形ばかりの巡回をすませると。
急ぎ足になって、ナースステーションに足を向ける。
きゃーっ。あれえ~っ。
時ならぬ悲鳴が、病室からすこし離れたナースステーションから洩れてきた。
駆け寄って覗き込んだ窓ごしに。
いちばん若い石村看護婦がうつ伏せになって。
白のストッキングのふくらはぎに、赤黒い唇を這わされていた。
403号室の患者は、”その種”の患者。
かさかさに干からびた唇が、血を吸いあげるたびに。
人肌に圧しつけられたヒルのように、みるみるふくれあがっていって。
血色さえも、塗り変わってゆく。
壁ぎわに追い詰められた妻は。
おずおずと差し出したふくらはぎに、やっぱり不埒な唇を圧しつけられていた。
タイツのように厚手の白ストッキングになすりつけられた唇が。
いったん離れ、また吸いつけられて。
そのたびに、よだれが糸を引いていた。
妻の脚に、患者が欲情していると知りながら。
制止することは、禁じられていた。
わたしの役割は、患者たちが自らを治療するようすを観察し、院長に報告することだったから。
報告書
○月×日 午前二時
患者 403号室 (対応・石村看護婦)
患者 509号室 (対応・水崎婦長)
患者二名は同時刻にナースステーションに侵入、
対応の看護婦から血液数百cc(推定)を摂取。
その後約二時間にわたり、看護婦との性交渉を反復、
途中パートナーを入れ替えながら、交接十数回に及んだ。
石村看護婦は途中すすり泣きを洩らしたが、婦長の注意を受け冷静さを取り戻し、引きつづき業務を継続。
ナース服二着は病院専属のクリーニング部門に提出、
破れたストッキング二足は、各々の患者が持ち帰ったもよう。
無表情を取り繕う医師たちのなかで。
坂原医師だけが、じりじりと落ち着かなかったのは。
じぶんの彼女の勤務態度が、きっと気になったからだろう。
今週の木曜日。
週にいちどのお勤めが、また近づいてきた。
翌日は、夫婦そろって休み。
娘たちが学校に行っているあいだ、ひたすら睦みつづける約束になっている。
患者さん、検温です・・・
2010年12月16日(Thu) 07:55:51
患者さ~ん、検温でーす。
個室の病室に入ってきた看護婦の百合子は、はっとして両手で口を押さえた。
起きあがった患者の口許から、鋭い牙が覗いていたから。
幸い、この病院に勤務して三年になる彼女は、こういう状況に慣れていた。
ナース服の襟もとをくつろげると。
・・・治療のお時間でしたよね?
抱きついてくる患者が首すじに噛みついてくるのを、立ったまま受けとめた。
白のサンダルの足許に血のしずくがしたたって、ストッキングの足首に撥ねた。
病室を出るときには、心持蒼ざめた顔をしながらも。
平熱よりも少し、高いですね。過度の刺激は禁物ですから。
そういうと、逃げるように。
検温カードの束を抱きかかえて、病室をあとにした。
患者さ~ん、検温で~す♪
百合子がつぎに、おなじ病室を訪れたとき。
丈のみじかいナース服から覗いた太ももを、恥ずかしそうにすくめていた。
足許を彩るストッキングは、いつものよりもグッと薄くて。
淡い光沢さえ、つややかによぎっている。
うふふふふふっ。そうこなくちゃね。
飢えた患者は手招きをして、看護婦をベッドに引き入れて。
差し伸べられたふくらはぎに、熱い熱いキスをする。
白のストッキングがよじれるほどに。
病室にて。
2010年11月25日(Thu) 07:05:01
あんたの病院。看護婦はなん人いるんだ?
ぞんざいな問いを投げてくる、年老いた患者をまえに。
わたしは五人、とかろうじて応える。
噛まれたばかりの首すじを抑えながら。
さいしょに、婦長をよこすことだな。
その方がお互い、やりやすかろう。
男はすでに、わたしを共犯者と決めつけていたけれど。
どうやら・・・逆らうことは不可能なようだった。
数日後。
二人部屋の病室の、あいたほうのベッドの手すりには。
幾対もの白のストッキングが、ぶら下げられている。
濃淡もサイズもとりどりな長さのストッキングの持ち主たちは。
きょうもなに食わぬ顔をして、勤務に励んでいる。
お前んとこの婦長は、いやらしいな。
いちばん右側につるされたストッキングは、毒々しいほどの光沢をテカテカと光らせている。
若い看護婦はさすがに、イキがええ。
しつように噛まれた痕を残したストッキングはひときわ長く、かつあちこちに伝線を走らせていた。
そよそよと揺らぐストッキングは、日々くり返されてきた男の食事の、生き証人なのか?
お前、看護婦は五人・・・といったが。
わしはもうふたりくらいおらんと、看護婦がいなくなるぞっていったが。
六人めが、いたのだな。
あれはあんたの、娘だろう?
そう。
きのうはじめて、看護婦に扮した娘を病室に行かせたわたし―――
娘は長い髪の毛で、妻からもわたしからも、首すじの痕を隠し通していた。
時おり娘さんにも、看護婦の役をやらせるといい。
あともうひとりは―――もったいなくも奥方・・・ということだね?
男はイタズラッぽく、ウィンクを投げてきた。
たまには気分を変えて、肌色のストッキングもいいだろう?
口辺に滲ませたわたしの笑みは、すっかり共犯者のものとなり果てている。
週明け。
男はきっと、口にするのだろう。
赤黒いシミをつけた、肌色のストッキングを指差しながら。
奥さんは、健康体だね。
週に二回は、イケるだろう。
ついでにあちらのほうも、おいしく頂戴したよ。
だいじょうぶ。
嫁入りまえのあんたのお嬢さんと、いちばん若い看護婦には、まだ手を出していないから。
処女の生き血は、貴重だからな・・・
採血のお時間ですよ。
2010年05月31日(Mon) 07:44:13
患者さーん。採血の時間でーす!
薄い唇を目いっぱい大きく開いて。
看護婦の橘智香子は、トレイのうえに注射器をカチャカチャいわせながら、病室に現れる。
個室病棟の患者は、注射に怯えるようにして。
頭からすっぽりと、布団をかぶっていた。
はい!患者さん。採血ですよ~?
看護婦はつとめて明るい声をつくって、患者にもういちど、呼びかけた。
おずおずと布団から顔を出した男は、痩せこけた蒼白い頬を迷惑そうに歪めながら、
抛りだすようにして、パジャマの腕を出す。
ギュギュッと二の腕を、縛られて。
ツンとするアルコール液を、脱脂綿で塗りつけられて。
すーすーするのが、たまらないのだ・・・
患者は心のなかで、舌打ちをする。
あらー?血管がわからない・・・
いつまで経っても浮き上がってこない静脈に、
看護婦が目を細めながら、顔を近寄せたとき。
うおぉ・・・
患者はいきなり起き上がり、看護婦の首筋にかぶりつく。
きゃあ・・・っ。
ぴったり閉ざされたドアの向こうに洩れた悲鳴に、気づいたものはだれもいない。
う、ふ、ふ、ふ・・・
採血の時間だよ。
吸血鬼は本性もあらわに、黒のマント姿。
怯えきった看護婦は、ベッドに横たえられて。
さっきまで看護婦が立っていた枕元と、場所を入れ替わった吸血鬼は、
血の滴った首筋をもういちど、侵しにかかる。
ひいいぃぃ・・・っ。
ちゅーっと吸いあげられる血に、目をまわした看護婦に。
血が怖くって、病院勤めがつとまるのかね?
吸血鬼は嬉しげに、女の足許ににじり寄り、
サンダルを脱がされて心細げに足指を曲げた、白のストッキングのつま先を。
ぺろりと長い舌で、なぞっていった。
ギュギュッと身体を、縛りつけて。
いやな匂いのする唾液を、そこかしこに塗りたくられて。
ストッキングにまとわりついたよだれが、ひどく淫らに思えてきて。
看護婦は心のなかで、舌打ちをする。
いやらしい・・・いやらしいわ・・・
んー、いい舐め心地じゃの。今少し、愉しませてもらおうか。
なまの唇とべろに、いたぶられて。
女は足許を、いっそう堅くこわばらせていた。
ぶちっ。ぱりぱり・・・っ。
ふくらはぎに吸いつけられた唇に。
白の薄々のストッキングは、他愛なく裂け目を広げて。
脛の周りから、みるかげもなく、剥ぎ堕とされてゆく。
厭っ。厭っ。
ゆるくかぶりを振る看護婦は、頬を白く透きとおらせて。
ジューシィなピンク色に輝いていた白ストッキングのふくらはぎも。
今や蒼みがかった土気色に変色しようとしていた。
さぁ、血を吸い尽くされたくなかったら。
お前の仲間を、連れてこい。
二人か、そう・・・三人もいればよいな。
きょうじゅうに三人、べつべつの時間に、採血にこさせるのだ。
婦長には、とっくに話をつけてある。
あの女、今朝はてかてかのストッキング履いていただろう?
あれはわしに、忠節を誓った証しなのじゃ。
昼過ぎにはの、あのてかてか光る白ストッキングを、デザート代わりにしゃぶらせてくれるという約束なのだ。
嘘だと思うなら…覗いてみるがよい。^^
若い看護婦は吸血鬼の云うままに、婦長と患者の情事を見届けて。
ベッドから抜け出した婦長のストッキングの伝線を、同僚が気づくまえに。
その日勤務していた若い看護婦を三人とも、たったひとりの入院患者のもとに、採血に送り出していた。
―――採血する側とされる側が、入れ替わりになるあの病室へ。
あーれー。
病室のドア越しに響く悲鳴は、院長夫人のものだった。
たまには色違いのストッキングも、愉しいの。
部屋の隅に追い詰められて尻もちをついた、ピンクのスーツから覗くのは。
肉づきたっぷりの、ジューシィな太もも。
男は荒々しく、スカートをまさぐりあげると。
値の張りそうな薄々の肌色ストッキングの、なめらかな舌触りを、なぞるようにして愉しんでから。
がっちりとした肉のついた太ももの一角に、嬉しそうに牙を埋める。
きゃー。
う・ふ・ふ♪いい噛み応えだ。
牙を撫でる指先を、女はぐいとつかまえて。
自分の口許へと、持っていく。
あー、おいしいのね。わたしの血。どうぞいま少し、召しあがれ。
理性をなくした女は、がぶりとやられた首筋の下。
たらたら流れる熟れた血潮が、自慢のネックレスを浸すのを。
むしろ嬉しげに、かぶりを振って。―――笑いこけていた。
深夜のナース・ステーション。
今夜の当直は、理解のあるスタッフと交代しました。
表情を消した婦長と、院長夫人はそういって。
白くどろどろとした粘液の乾き切らない白衣とスーツのすそを、ひるがえしていった。
採血・・・ですね?
ナースステーションの入り口で、おずおずと尋ねるのは。
あの日はじめて餌食にした、若い看護婦。
そうじゃ、採血の時間じゃよ。
理解のあるスタッフは皆、キリリと結いあげていた黒髪をほどいていて、
そろってお嬢さんのみたいに肩に流している。
う、ふ、ふ、ふ。
お前たちの若い血は、白衣によく映えることじゃろう・・・
今夜も、長い夜になりそうだった。
他校のハイソックス
2009年10月29日(Thu) 13:44:31
このお部屋のなかの、あちこちに・・・
招いた俺の部屋のなか。
目のまえの少女は、あちらの箪笥こちらの机とちらちら視線を投げたあと。
さいごに顔をあげ、上目づかいの視線をまっすぐに向けてきて。
隠してあるでしょ?女の子用のハイソックス。
どきりとするようなセリフを、吐いておいて。
その実なにもかもを許したような面ざしで。
いいんだよ。羞ずかしがらなくったって。
こっそりと、囁いてくる。
重たい濃紺のプリーツスカートの下。
純白のハイソックスの真新しいリブを、きらきらさせながら。
あたしが履いて、噛ませてあげようか?
イタズラっぽい笑いにつり込まれるようにして。
俺は箪笥の抽斗のいちばん奥のほうから、
取り出したのはいちばん気に入りの朱色のハイソックス。
きっとお前に似合うだろうと。
よその学校の子をたらしこんだとき、よけいにわけてもらったもの。
脱ぎ棄てられた白のハイソックスは、持ち主の紅いしたたりを滲ませていて。
深紅のじゅううたんに、よく映えていた。
少女はそんなものにはもう目もくれないで。
手渡された朱色のハイソックスに、とりかかっている。
むぞうさに、くしゃくしゃに丈をつづめていって。
たいぎそうに、つま先を差し入れて。
わざとけだるそうに、引っ張り上げる。
さぁ、どうぞ。
うつ伏せになったじゅうたんのシミのいくらかは、自分自身の血潮だということなど。
まるで意に介さないように。
少女はいとも心地よげに、寝そべったものだった。
窓辺から洩れる陽を、
すんなり伸びたふくらはぎに、居心地よさそうに浴びながら。
そう・・・っとにじり寄って。
おそるおそるのように、手をさし伸ばして。
はじめてふれるように、たんねんに。
ふくらはぎの輪郭に、触れてゆく。
その手のあとを、追うように。
よだれをたっぷり含ませた唇を、ぬらりとなすりつけてゆくと。
少女ははじめて、ぴくりと脚を震わせた。
少女の羞恥心を、くすぐるように。
なんどもなんども、舌を這わせて。
ぬらぬら光るよだれを、すり込んでいって。
もぅ・・・
ふくれ面になった横顔に、軽いキッスを重ねると。
俺は本性まる出しに、初めて牙を剥きだした。
がぶり・・・
初々しくはずんだふくらはぎは、じつにしっくりとした噛み応えがした。
うーん。
やっぱり処女の生き血は、こたえられない。
この子の父親の院長も。母親である院長夫人も。
夫婦そろって、俺の餌食になって。
病院に勤務する熟・若とり交ぜた看護婦たちもろとも、俺の支配下に入っているというのに。
当然のように引き合わされた一人娘だけは、
どこまでほんとうに俺の支配下に入っているものか、その実見当がつかないでいる。
ねぇ。
少女のふくらはぎの上うつ伏した頭上に降ってきた囁き声は、意外なくらいに冷めていた。
わたし以外の女の子。なん人襲ったの?
紹介してあげたお友だち以外に。
もちろんわたし一人だけで、貴男の欲しがる処女の生き血を賄うわけにはいかないけれど。
う~ん。なんていうか。
知らないうちに、いろいろしてるんだね?
最初に見せた、「すべて赦す」という顔つきを、つくりつづけたまま。
容赦のない揶揄を、浴びせかけてくる。
なんの罰ゲームだ?などと、問う資格はないのだろう。
さすがに恥知らずな俺でも、それくらいの見当はつくのだが。
べつの学校の制服、着てみたくなっちゃった♪
所在なげにソファに腰を沈めた俺のひざのうえ、
ちょこんと体重を、乗せてくる少女の頭を撫でながら。
俺は人知れず、迷っている。
どこまでが、嫉妬?
そしてどこまでが、戯れ・・・?
夜の婦長
2009年03月27日(Fri) 07:34:55
吸血鬼の病院に勤める妻は。
夜勤専門の看護婦。
暗くなると、地味なスーツに着かえをして。
ひっそり送り出す夫を背に、白のストッキングで装った脚を、勤務先に向ける。
背筋をぴんと、張り詰めて。
大またでゆったりとした、足どりで。
夜のナースステーションは、血に飢えた患者たちのたまり場。
そこで襲われる看護婦たちは。
昼間の同僚とは趣を変えた、毒々しい光沢入りの白のストッキングを装っていて。
丈の短いナース服のすそから、太ももまで、さらけ出して。
妖しく輝く薄いナイロンに包んだ脚を、侵されてゆく。
あんたも、見るかね?
患者のひとりは、わたしを誘い出して。
真夜中のナースステーションを、見学させてくれた。
襲われている妻を、旦那に見せつけるという。
趣味の悪い嗜好に、なぜかドキドキと反応してしまったわたしに。
男は嬉しげな笑みを、投げてきて。
わたしは照れくさそうな笑みを、返していた。
木偶(でく)のように累々と横たわる、白衣の天使たちは。
闇の虚空に、視線を迷わせていて。
なにかをつかもうとするように、白い掌を中空に迷わせていて。
職業柄には濃すぎるルージュに縁取った唇を、迷うようにあえがせていて。
そのなかに、妻の姿も交じっていた。
男は、もつれあう男女のなかに紛れ込んでいって、
真っ先に、妻の肩をつかまえると。
ナースキャップを、もぎ取って。
長い黒髪をばさりと、背中に流していった。
大またに開かれた脚。
太ももまでのストッキングは、毒々しい光沢で、足許を彩っていて。
激しい上下動にあわせてゆく腰つきが、
上品な装いを、みごとに裏切っていた。
目のまえにぶら下げられて、見せびらかされた純白のストッキングは。
見るかげもないほど、チリチリにされていて。
男の濁り汁を、まだぬらぬらと光らせていた。
ごちそうさま。
男はくすぐったそうに、笑みくずれていて。
ハデにやったね。
応えるわたしも、照れくさい笑みを隠さそうとしなかった。
傍らに横たわるナース姿は。
首筋にまだ、吸い取られた痕をてらてらと輝かせていて。
わたしは思わず、唇を近寄せて。
男のつけた傷口を、吸っていた。
どんよりとした澱みをもった血が。
ひどく心地よく、喉になじんでいった。
うふふ。
あんたも同類に、堕ちたのだね?
黙って肯きかえしたわたしと、視線をからませて。
男は、愉しげで親しげな笑みを、投げてきた。
そう。
たしかに、親しい間柄。
妻を共有するほどの。
今夜も妻は、夜勤に出かけてゆく。
夜の婦長の責任感を、一身に背負いこんで。
きょうもまた、見ず知らずの吸血鬼に、襲われて。
わが身をめぐる血潮で、患者に癒しを与えるために。
婦長との想い出 白のラメ入りストッキング
2008年02月14日(Thu) 07:37:40
さいごに堕とした看護婦が。
白のラメ入りのストッキングを、履いてきたとき。
仲間の看護婦達は、口々に。おめでとうって声かけている。
女は新婦のように、顔赤らめて。
それでもすぐに、忙しい日常に埋もれていった。
思い出しちゃうわー。
わたしが初めて、ラメ入りストッキング履かされたとき。
太っちょの婦長が、オレの隣でひとりごちる。
そうだった。
院長の紹介で、個室の病室におびき寄せて。
肉づきたっぷりの身体つきを白衣ごしに愉しみながら。
しっかりとしたうなじに牙を、突き立てて。
健康な血を、たっぷりめぐんでもらったんだっけ。
二、三の看護婦が、ラメ入りのストッキングを履いてきたとき。
婦長はむやみと、目くじらたてていたけれど。
つぎの日にラメ入りストッキングを履いてきた婦長は、
恥ずかしそうに、抜き足差し足しながらナースステーションに入ってきた。
わけ知りの看護婦たちだけは。
婦長の履いている派手なストッキングの意味を察して。
オレと婦長とに、等分に。おめでとうの目配せを投げてきた。
オレに血を吸われた看護婦は、
仲良くなったしるしに、翌日はラメ入りの白ストッキングを履いてくることになっている。
そういうルールになじんだ婦長は、頼れる婦長ぶりを発揮して。
一週間後、無人の病室に呼び出したオレのまえ。
若い看護婦を三人、ロープで縛って連れてきて。
患者さんの輸血とストレス解消に従事するよう指示していった。
ああもちろん。
さいしょにじぶんで手本をみせたものだから。
若い子たちも、ノッちまって。
それは愉しい夜になったものだった。
翌朝、ラメ入りの脚が、三つ増えて。
ふつうの地味めなストッキングの脚たちに立ち交わっているのを。
オレはほくそ笑みながら、眺めていた。
今夜は夜勤なんですよ。
イタズラっぽく笑いかける婦長の足許が、どぎつい光沢に包まれている。
今でもね。こういうの履いて出かけると。
主人がいうんですよ。
ええっ?病院にそんなハデなの、履いていくの?って。
うちはそれが規則ですからって、教えたら。
時々ようすを、見に来ているみたいなんです。
なにをどこまで見ているのかまで、知りませんけど。
病院では、忙しくしていますからね。(笑)
婦長はどっきりとするようなことを告げたあと。
そっと身を寄せてきて、囁いた。
襲ってね。
気丈な顔をしながらそう告げられると。
オレはつい、くらくらしてしまうのだよ。
さいごの一人! ~院長、ご来客です~
2008年02月14日(Thu) 07:19:53
やったぁ!
さいごまで堕ちなかった看護婦を、とうとうモノにしたとき。
オレは思わず、ひくくうめいたものだった。
相手は四十なかばの、人妻看護婦。
追い詰められた無人の病室。
もう逃げられないとわかって。かんねんして。
じぶんから、ベッドに仰向けになっていった。
勤務中の看護婦から摂取する血液は100cc未満にしてくれと、院長から頼み込まれていたのだが。
まあいいや。さいごの一人陥落記念に。たっぷり吸っちまえ。
追いかけっこのお相手は、親しみ深い抱擁のなか。
ひと声、うっ・・・とうめいて、気絶した。
われにかえった女は、血の着いたシーツを、羞ずかしそうに取り除けると。
すぐに洗いますから。
乱れ髪を手早く整えて、そそくさと出て行った。
あーあ。裂けたパンストのまま、歩いて行っちまった。
まあいいか。しばらくのあいだ、わざと教えずに。
ここでこうやって、いい眺めを愉しむとしよう。
帰りぎわ。
オレは女を引き寄せて。
血のにじんだ傷口を、もういちどつよく吸ってやって。
安心しなさい。ダンナにはあらかじめ、申し渡してある。
あしたは正式に、私の女になるのだ。
承諾のしるしに、出勤のときには黒のスカートに黒のストッキングを履いて来い。
その姿のまま、私の枕の塵を払うのだ。
なに?それはご勘弁?
ならぬ、ならぬ。お前はもはや、ダンナから私に譲り渡された身。
証拠を見せよう。
お前がいくらめかしこんでも、ダンナは文句をいわず送り出してくれるはずだから。
女は翌朝、言われたとおり、黒ずくめの礼服を着て病院に現れた。
えんぎでもないカッコウをさせるな・・・って、院長にいわれて。
さっそく人けのない病室に、女を引き込んだ。
おいしそうな脚は、薄黒いストッキングにくるまれて。
いつもとはちがう彩を放っている。
うふふふふっ。
恥知らずに昂ぶった唇を、なぞるようにおしつけてやったとき。
女はしんそこ情けなさそうな顔をして、オレをにらんだ。
そう、そう・・・
思うさま血を奪われて従順になった女のたいどに、満悦しながら。
オレは女を部屋の隅っこに引きずっていって。
天井からじゃらり・・・と鎖を垂らす。
治療道具なんかじゃない。これは責め道具。
こいつでお前を、ぐるぐる巻きに縛り上げて。
上から吊るしてやる。
オレの言い草に震え上がった看護婦は。
それでも目をつぶって、オレの意のままになってゆく。
黒の礼服に、鎖を食い込ませて。
べつに垂らしたフックに、スカートのすそをわざとひっかけて。
脚が床に着くくらい、軽ーく吊るしてやったとき。
女は情けなさそうな顔をして。つま先立ちになって。
戸惑ったように、脚をすくませた。
眺めのいいカッコウは、かねて用意の姿見に映って。
もっと恥ずかしそうにそらす視線を、わざと姿見に向けるよう命じてやった。
うふふふふっ。
素人くさい立ち方は、いっそうそそられるものなのだよ。
さあてと。
さっそくオレの女になってもらおうか。
女を縛しめから解き放つと。
なにもかもが虚脱したようになって、シーツの上に手をつく女にのしかかっていく。
うふふふ・・・ふふふ・・・
スカートまくりあげて、お尻を撫でながら。
ガーターストッキングとは、めかし込んだな。
穿いたまま犯されたいのだな。
よろしい。望みをかなえてつかわそう。
言いたい放題を呟きながら。
女の腰に腕を回して。
そおれ・・・
脚をおおまたに、開かせて。
そのまん中に、もうひとつの牙を、ずぶずぶともぐらせてしまっていた。
病室を出るときには、女はほんとう愛人みたいに、オレに寄り添っていた。
そんな態度にますます満悦しながら、廊下に出て。
さあ、オレとべたべたしながら、歩くんだ。
みんなにお前がオレに服従したことを、教えてやるためにもな。
大威張りで、そうつげたとき。
このお!
吠えるような声とともに、鉄拳が炸裂。
オレはみごとに、吹っ飛んで。
廊下の隅まで、吹っ飛ばされた。
こん畜生!
ひとの女房と、やたらいちゃいちゃしやがって。
男はオレのことをもう二、三発ポカリポカリとなぐりつけると。
ああ、これで胸がスッとした。
ガマンして最後まで、だまって覗いているだけにしようと思ったけれど。
あんまりなれなれしくしやがるから、ちょっと頭に来たんだ。
これでおあいこだぜ。吸血鬼殿。
あとは、好きにするがいい。
オレが単身赴任のあいだは、女房のことを支配させてやるからな。
ウム・・・
思わずぐうの音も出なくなったオレを尻目にして。
亭主はゆうゆうと、病院をあとにした。
牙の効き目が、足りなかったか?
首かしげていたオレに、女がとりなすように、しゃがみこできた。
頬についた擦り傷に、ガーゼをあてがって。軟膏を塗ってくれて。
さすがですね。主人にもちゃんと、意地を張らせてくれたんですね。
盗み取られるのは、性分に合わないんですよあの人。
でも、気前はいいほうなので・・・
だれかを襲いたくなったら、いつでも訪ねて来てくださいね。
さいごまで堕ちなかった女を征服するのは、楽しいかしら。
あなたが来たときに主人がいても。
あのひと、もうきっと文句は言わないでしょうから。
仲の良い精神科医
2007年09月04日(Tue) 07:24:02
その先生は、いつもすこし眼が寄っていて。
悪い顔色に、渋面を浮かべている。
齢のころは、四十をいくらか出たくらいのはずなのに。
もっとずっと老けてみえるのは。
重々しく鈍重な話しかたと、なによりもウッソリとした暗い雰囲気。
そんな人が、案外精神科の先生だったりする。
M島という苗字のその先生は。
珍しくオレを招き入れると、いつものクセで俯きながら頭をかき上げて。
きれいに分けていた髪型を、惜しげもなくくしゃくしゃに乱してしまっている。
どれほどたくさんの本を、読みこなしているのか。
この先生は、ゾッとするほどの物識りだ。
ふだんはほとんど人と口を利かないくせに、
ごくごくまれに、オレを招き入れると。
飽きもせずになん時間も、語りつづけるのだ。
ま。古今東西で悪事を働いてきたオレだもの。
たいていの話題には、ついていけたりもするのだが。
きみは、被虐性嗜好をどうお感じになりますか?
唐突な質問に。
そう・・・少なくとも、笑いものにすべき種類のものではないかな。
オレは、きいたふうなこたえを返している。
そうですか。
先生は、ホッとしたように、肩で息をすると。
そういう患者にもっとも適切に接するには、本人の気分になってみることが大切だとおもうのですが、いかが?
ああたしかに、それに越したことはなかろうな。
うっかり口をすべらせたオレを。先生は食い入るように見入ってきて。
ちょっぴり引きたくなったオレに、毒液のような言葉を吹き込んできた。
コンヤ、自宅ニオ招キシマス。
ソコデアナタハ、私ノ妻ヲ襲ウノデス・・・
先生の家は、街はずれの一軒屋。
遅い帰りを出迎えた奥さんは、心躍るほど、美人だった。
こんな冴えない男に、どうしてこんなあでやかな蝶が・・・
そう思うのはこのさい、恩人に対して失礼であろう。
オレは奥さんに誘われるまま。
先生を独り置き去りに、夫婦の寝室に入り込む。
薄いストッキングが、お好みなのですよね?
どっきりするほどの脚線美に通された墨色のナイロンは。
じつにぴったり、密着している。
ドアの向こうから注がれる、悩み深い視線。
この奥さん、初めてじゃないな。
唇の下に秘められた密かな脈動に、オレは直感する。
けれども旦那のまえは、さすがに始めてらしい。
これ見よがしにくねらせた脚の、かすかな震え。
つくりつけたポーズのすき間に、かすかな本音をかいま見るとき。
オレは・・・語る言葉を忘れている。
ぎしぎしぎしぎし・・・
乱れるシーツのうえ、思い切り乱れてはみたものの。
先生、ドア越しでなにやら、こと細かなメモをとっている。
落ち着かねーな。
そんな感想は、このさいとってもフラチなのだろう。
研究対象にされるのは、決して気分のよいものではないけれど。
オレの下にまろび伏せるこの肌のほてりは・・・
研究が今晩かぎりで終了にならないことを、オレに切望させている。
歩きまわって。
2007年09月04日(Tue) 07:07:15
深夜のナースステーションは、オレの重要な栄養供給源。
院長にひと声、耳打ちすると。
その夜の詰所の人数は、定員の倍になったりする。
いつもは3~4人たむろするばかりの、ささやかなスペースに。
今夜はかなりの人影が。
目印は、薄手の白ストッキング。
襲われたい看護婦は、白衣の足許にてかてかとした光沢をよぎらせていたりする。
ウチはもとより、志願制だから。
強制はないのだ・・・といいつつも。
かねて目をつけていたコが、薄手のストッキングを履いていたりすると。
内心ラッキ~♪、と舞い上がってしまっていたりする。
通常の夜番の看護婦たちが、出払ってしまうと。
きゃっ。きゃあ。あううっ・・・
なやましい声。のけぞる気配が。
しずかな灯りの下、浮き彫りになる。
興が乗ると、手近な空き病室に連れ込んで。
ベッドに転がしてみたりすることもある。
というか、つねに転がしていたりもする。^^;
ちょっとびっくりしたのは。
来月皮膚科のH先生と結婚を控えたM看護婦が。
ツヤツヤ透きとおる、白のストッキングを履いていたこと。
もちろん別室に、連れ込んで。
純白の上衣を、そろそろと脱がせていって。
皮膚科の検診に及んだのは、いうまでもない。
そういえば。
施錠していないドアの隙間から。
嫉妬深い目線がチラチラとなやましく、
オレの腕のなかでもだえる女に注がれていたような気もするが。
ここでの仕上げはもちろん、院長夫人。
こういう晩は、夫が病院からひき上げると入れ違いに。
ばっちりとおめかしして、あらわれて。
モノトーンな病院の白い壁には場ちがいな、色鮮やかなワンピース姿をひらひらさせる。
待ち合わせ場所は、病棟の片隅の空きベッド。
いちおうは、抵抗するんですよ。
女は優しくほほ笑んで、一発オレに平手打ちをかませる。
では、つつしんで・・・
じんじんとする頬の疼きをかかえながら。
オレは奥さんに迫っていって。
色鮮やかなワンピースを、彼女の身体の周り、くしゃくしゃに乱してゆく。
ひき上げた・・・と、思わせながら。
ドア越しにかいま見てくる、嫉妬深い視線。
オレが立ち去るのと入れ違いに。
視線の主は、情事の余韻さめやらぬワンピース姿を、
いまいちど、乱れたシーツのうえに押し倒していったりする。
背後で気配を、感じながら。
オレはさいごに待ち受ける女の影を、思い描いている。
病院のすぐ隣。院長の邸の子ども部屋。
晩ご飯のおわったあと、ふたたびセーラー服に着替えた彼女は。
ベッドのうえ、ちょこんと腰かけていて。
オレの来訪を、手持ち無沙汰にまっているはず。
所在なげに、ぶらぶらさせている脚を包むのは。
ひざ上までのハイソックス?
それとも黒のストッキング?
証言 ~ナースステーションに迫る影~
2007年07月03日(Tue) 07:56:33
1.吸血鬼の立場から。
ちょっぴり顔を、蒼ざめさせて。
寄り添うようにして退出していくのは、のっぽのフジノ看護婦と、おでこのハラカワ看護婦。
失礼します。
ああ、ご苦労♪
なに食わぬ顔をして。片手を振って、送り出す。
歩みをそろえる二対の脚は、白のストッキングに包まれていたけれど。
ツツッと滲んだあからさまな伝線が。オレの視線を満足させる。
夕べのオレのご馳走は。
あの女どもの肌の奥。身体のなかからたっぷりと頂戴した。
ほどよくブレンドされたふた色の血が、干からびた血管のなか心地よくぐるぐるとめぐっていて。
オレはすっかり、いい気分になっている。
廊下の向こうから。
二人連れだって歩みを進めてくる、白衣姿。
今夜のおかずが、歩いてきた。
ムトウ看護婦と、シマオカ看護婦だ。
ふたりとも、去年から勤めはじめた、同期の新米看護婦。
遠目にもピチピチとした身のこなしが、朝の斜光線のなかで初々しい。
透きとおる白のストッキングごし、滲むのは。
健康そうな、ピンク色の肌。
さっそくとりついて、壁ぎわに抑えつけて。
ああぁ・・・ともだえる肩に、グイッと力を込めて。
うなじに牙を、圧しつけてしまおうか。
さいしょに襲うのは、しっかり者のムトウのほうだな。
気の小さいシマオカは。
友だちの受難を、立ちすくんだまま。
悲鳴の洩れかかった口を両手をふさいで、見守るだけだろう。
う・・・う・・・ん♪
夜がとっても、愉しみだ。
2.覗き見する立場から。
今夜の当番は、ムトウくんとシマオカくんだったな。
うそぶく相手は、吸血鬼先生。
そんなひわいなしたり顔で・・・
ナースステーションをうろつかないでくださいよ、センセイ。
ムダと知りながら、ボクは先生のことをたしなめた。
だって。
夜勤の看護婦の片方は。ボクの婚約者なんだから
吸血鬼先生は、もちろん察しをつけている。
だからわざわざ、診療をおえたボクのところに、ひと言あいさつに来たのだろう。
手加減してくださいよぉ。
ダメ、ダメ。たっぷり愉しんじゃうからね♪
言外に、そんな気分を含ませながら。
ふたり、ウキウキとした目線をそれとなく交し合って。
なにごともないように、廊下をすれ違ってゆく。
照明を落とした病院の廊下。
深夜のナースステーションは、不夜城のごとくこうこうとした照明を放っている。
その照明に浮かび上がる、にわかな黒い影。
吸血鬼先生は、ウッソリと影を滲ませて。
婚約者の控える部屋に、歩みを迫らせてゆく。
物陰から見守るボクは、少年のようにドキドキと胸をはずませて。
先生のイタズラのいちぶしじゅうを見届けようとしている。
きゃっ。
ああ・・・っ。
つぎつぎにあがる、ふた色の悲鳴。
どちらが彼女のものなのか。
判別のつかないままに、切れ切れな声たちが。
花びらを散らすように、夜のしじまに響いてくる。
恐る恐る覗き込んだ、部屋のなか。
気丈なムトウ看護婦は、足許に迫る黒影を睨みつけながら。
それでも白のストッキングをチリチリにされていって。
思わずその場にひざを突いてしまっている。
立ちすくんだままの、愛しいひとは。
両手で口をおさえたまま。
親友の血を口許にしたたらせたまま、迫ってくる影に、
ジリジリと壁ぎわに、追い詰められてゆく。
白衣の胸元に散った、かすかなバラ色の飛沫が。
もう、咬まれてしまったのだ・・・と、告げていた。
白いうなじにつけられた、引っ掻いたような痕。
ちいさな傷口からどれほどの血を抜かれて、きみは征服されてしまったのか。
思わせぶりな身のこなしは、悲劇のヒロインそのものだった。
きみは怯える乙女の役柄を、たくみに演じきってしまっている。
きゃっ。
つかまえらえた太ももを、唇で吸われるきみは。
ひどく嬉しそうに、声を洩らして。
嫉妬に満ちたボクの視線に、とっくに気づいているらしい。
ユタカさん。ユタカさん。
わざとボクの名前を口にしながら。
ごめんなさい。ごめんなさい。
羞じらうように、うつむいたまま。
白のストッキングを、破られてゆく。
ぴりっ・・・ぴりっ・・・
先生はイヤらしく口許を弛めながら。
ボクの婚約者をつかまえて。
よだれを光らせた唇を、薄手のナイロンのうえからなすりつけて。
じゅうぶんボクの視線を、計算に入れながら。
清楚な装いに、いたぶりをくわえてゆく。
どうかね?
今夜もマゾの血が、昂ぶるのだろう?
ストレートに伝わってくる、無言の声に。
ボクがこくんと、頷いてしまうと。
先生は、にんまりと笑んだまま。
白衣を乱した彼女を、ベッドのうえ、組み敷いてゆく・・・
3.襲われる立場から
あっ、あっ、あっ・・・
ユタカさんが、見ている。
ユタカさんが、覗いている。
ユタカさんが、昂ぶっている。
わたしはベッドのうえ、あらぬうめき声を洩らしながら。
思わず立てひざになって。
破かれた白のストッキングを、だらしなくずるずるさせたまま。
脚を開いて、身をのけぞらせていた。
ぎしぎしきしむ、ベッドのうえ。
わたしのうえにおおいかぶさっているのは、血に飢えた吸血鬼。
生命の危険を心配しないでいいことは。
初めて襲われた晩、先輩看護婦から教わっていた。
こういう献血もアリなのっ?って。
気がついたときには。
くすぐったくって、くすぐったくって。
きゃあきゃあはしゃぎながら、白衣にバラ色のしずくを散らしていた。
おもて向きの淑やかさを、強引に解き放たれて。
求婚してきた同じ病院の彼にも。
血を吸われているの。これからも、吸われつづけたいの。
あらぬことを、口走っていた。
覗いてもいいかい・・・?って言われたとき。
わたしは彼を、夫として受け入れる気になっていた。
今夜もわたし、乱れてしまう。
親友のムトウちゃんのまえだったら。
婚約してくれたユタカさんが見ているのだったら。
ほんとうのわたしをさらけ出すことができる。
見て。見て。あなた・・・見て。
しっかり見とどけて、嫉妬して。
夜が明けたら、わたしを家まで送って。
嫉妬の炎で、わたしを燃やし尽くして。
父も母も。
うなじに痕を持つ家だから。
きっと・・・ふたりの営みに、気づかないふりをしてくれるだろうから。
院長の独り言 ~白のストッキングの祭典~
2007年07月03日(Tue) 07:45:34
朝っぱらから、鼻唄交じりにあらわられたヤツは。
ひどく気分が、よさそうだ。
夕べせしめた夫婦ものの血が。
ヤツをウキウキさせているのだろう。
こういうときには、きまって悪さを思いつく。
わたしはとっても、やな予感がしていた。
そもそも吸血鬼のくせに、朝っぱらから鼻唄を鳴らすとは。
もう、そろそろ・・・自慢の舶来ものの棺おけのなかでお寝みタイムにしようじゃないか?
そう言いたげなわたしの気分を、見透かすように。
オイ、きょうはなんの日かわかっているんだろうな?
だと。
知らん顔をして、患者のカルテに目を通していると。
仕事どころじゃないぜ?お祭りの日なんだぜ?
うるさいなあ・・・って追っ払おうとしたけれど。
そうだった。
きょうは・・・休診日だったんだっけ。
ワーカホリックの疑いがあるね。
ちょっと、息抜きがいるんじゃないかね?
若くてピチピチとした女を、はべらせて。
すべすべのお肌に、唇をクチュクチュさせて。
イキのいいバラ色の血を舐めたら。
憂さなんか、たちどころに吹っ飛ぶんだぜ?
なにをいいたいのか、分かっているよ・・・
うっとうしそうに手を振るわたしに、
ヤツはこちのほうこそわかっているよ、といわんばかりのしたり顔で。
手ごろな看護婦を、集めておいた。
休日手当てを、はずんでやるんだな。
ふん。なんだ。お祭りだなんて、恩着せがましく言っておいて。
そのじつ、わたしの自前じゃないか。
なんでもかんでも、こちらの懐をアテにしやがって・・・
集合場所は、奥まった診療室。
集められた看護婦は、予防接種の順番を待つ子どもたちのように、
行儀よく、二列に並んでいる。
ん・・・っ?
白衣の下は、薄っすらとした白のストッキングに包まれた、脚、脚、脚・・・
すらりと伸びた、若い看護婦の脚。
誇示するほどの肉づきをむっちりさせた、婦長の脚。
濃さ薄さ、透けぐあいもまちまちな、薄手のナイロンは。
脚の主の趣味だろうか、
人によってはツヤツヤとした光沢さえ、滲ませて。
太さ長さもとりどりな脚たちを、なまめかしい色つやのなかに薄っすらと包み込んでいる。
壮観・・・だろ?
得意げに鼻を鳴らすヤツさえ、いなければ・・・
思わず睨み返す目線を、さりげなく受け流されて。
じゃあ、順番に、愉しませていただくぞ。
我がもの顔にかける号令に、看護婦たちはピシッと身を引き締めて、整列する。
ふたり並んで、床のうえにかがみ込んで。
順ぐりに差し伸べられる脚に、しゃぶりついて。
白のストッキングを噛み破り、血を啜ってゆく。
ちゅうっ・・・キュキュキュウッ・・・
いやらしく洩れる吸血の音に。
看護婦たちは、表情ひとつ変えないで。
自分の番が済むと、そそくさと立ち去ってゆく。
ナースステーションのくずかごを、あさったら。
使用済みの破けたストッキングを、いっぱいせしめることができるぜ、と。
ささやいたやつは、誰だろう?
私服に着替えた彼女たちの出かける先は、彼氏の待つホテルか。家族といっしょのレストランか。
おっと。公園のひとり歩きだけは、よしといたほうがいいぜ?
こちらの列は、さいごのひとり。
いがいにも、しんがりをつとめるのは。
いつもむっつり顔で相手をしてくれる婦長ではなくて。
ゆたかな茶髪をウェーブさせた、接待用美人看護婦。
おい、おい、いいのかい?
いちばんおいしいところを、わたしの列に入れちゃって。
けれども相棒のほうをかえりみるゆとりもなくて。
しどけなくくつろげられた白衣のすき間から。
ブラジャーをしていない豊かなバストを、はげしくまさぐって。
白い肌に浮いた静脈をめぐる血潮に、淫らなさざ波をたててやる。
イヤですわ。恥ずかしい・・・
思わせぶりなセリフを口にしながら。
さりげなく開いた股からのぞく太ももには、ひときわ白いガーター部分。
ヘビのようにくねる脚を染める、つややかなストッキングは。
いまや白衣には不釣合いなほど、毒々しい光沢をよぎらせている。
ズボンをおろされて。
ネクタイをゆるめられて。
慣れた手つきと、軽くはずんだ息遣いを交えながら。
女はまるでオペのときみたいに手際よく、互いの衣裳をくつろげてゆく。
ぬるりと這い込んだ、股間の奥は。
恥ずかしいほど硬く逆立った棒状の筋肉を。
熟したように、熱っぽく。ヒクヒクしながら迎え入れてくる。
ァ・・・
声を洩らしたのは。頭上の女ばかりではない。
ふとかたわらを見ると。
ヤツの相手をしていた白いストッキングの女は、
白衣のすき間から、フェミニンな薄紫のブラウスに、真っ白なフレアスカートをチラチラ覗かせて。
悩ましげに、姿勢を崩してゆく。
あっ・・・。オイ、お前・・・!
犯されてゆくヒロインの横顔に、妻の面差しをみとめて。
わたしは焦って身じろいだ。
女の股間に一物を埋めたまま・・・
アテにしている懐は、わたしのサイフだけではなくて。
妻の懐の奥さえも、まさぐりに込まれてしまっている!
妾(わたし)だって、愉しむ権利はありますわ。
いつものゆったりとした口調は
お紅茶が入ったわよ。
お盆のうえをカチャカチャ響かせてくるときと、寸分たがわなかった。
ユサ・・・ユサ・・・。
ギシ・・・ギシ・・・。
きしむベッドのうえ、辱められてゆく院長夫人の貞操に。
まるで人質のように白衣の下にくわえ込まれたわたしのモノは。
恥ずかしいほど、いきり立っている。
接待用美人看護婦は。
なにもかも、わかっているくせに。
わたしの一物をくわえ込みながら。
顔を手で覆い隠して、
あぁ・・・あぁ・・・
とうめき声を洩らして。
ゆさゆさ、ゆさゆさ、扇情的な輿の上下動を深めてくる。
いやらしいわね。ママも。パパも。
それぞれの褥で耽る、わたしたちを。
冷やかすように見比べる、娘の目線。
にわか仕立ての看護婦は、やはり申し合わせたように履いた白のストッキングに、
あざやかな裂け目をカーブさせている。
あっ。あっ。あっ・・・
つけた裂け目の鮮やかさに、見覚えがあった。
口にした処女の生き血に悦んだ口許を、恨めしくなぞってみる。
お嬢さんの血は、お口に合って?
接待用美人看護婦がイタズラっぽく、わたしの耳もとに毒液をそそぎこんできた。
血液検査
2007年07月02日(Mon) 07:14:16
ちくりと刺さる、注射針。
軽くつねられたほどのかすかな痛みに、顔をしかめていると。
細長いガラスの容器のなか。
赤黒いしずくが散って、ゆらゆらと揺らいで、かさを増してくる。
院長は無表情に、ガラス容器を差し替え差し替えして。
では、すこしのあいだお待ちください。
事務的な口調で、わたしに告げた。
院長の背後、白い衝立(ついたて)の向こう側がかすかに揺れたような気がしたが。
わたしは気にも留めずに、診察室をあとにした。
入れ違いに衝立のかげからあらわれた男が、容器のひとつをじかに含んで。
マゾの味がするな・・・などと、呟いていたなんて。
わたしは夢にも、思わなかった。
やがて招ばれた診察室で。
院長はさっきまでと寸分たがわぬ無表情をつくろって。
脚を拝見しますよ、と。
ズボンをたくし上げるように、要求された。
ちょっとためらいながらたくし上げた脛は、
ひざまであるストッキング地の長靴下におおわれていて。
場ちがいななまめかしさをひと目にさらすことに、なぜか胸をドキドキとはずませてしまっている。
院長はやおら、わたしの足許にかがみ込んで。
おもむろに、唇を吸いつけてゆく。
あっ。
脚を引っ込めるいとまもあらばこそ。
ちゅうううっ。
音をたてて吸われた唇の下、皮膚を薄っすらと滲ませた靴下が、
メリメリと裂け目を広げてゆく。
あの・・・
おろおろと足許を見おろすわたしのことを。
口を離した男は、じいっと見あげてくる。
院長ではなかった。
見知らぬ男は、ゆらりとした笑みを浮かべていた。
吸い取ったばかりのわたしの血で、口許をてらてらと光らせたまま。
舌触りのよろしい靴下ですね。
男は院長どうよう、事務的な口調のまま。
もう片方のふくらはぎにまで、唇を這わせてくる。
やめさせよう・・・とは思わなかった。思えなかった。
薄手のナイロンごしに、ヒルのようににゅるにゅるとヌメリつけられてくる唇が。
わたしを麻痺させてしまっていた。
ぶちち・・・っ。
薄手のナイロンがはじけてゆく、かすかな音に。
なぜか狂おしい歓びを覚えながら。
再検査です。
こんどは、奥さんのストッキングを履いてきてください。
そんな診断に、愉しげに頷き返してしまっていた。
スラックスをひき上げて、ふたたびさらけ出した脚は。
ひざ小僧の上まで、薄いナイロンに覆われている。
黒なら・・・男でも穿けますね。
声震わせているわたしに、男はにんまりと笑みをかえしてきて。
奥様のお名前は・・・?
声だけは、あくまでも冷静そのものだった。
恵理子・・・と申します。
恵理子さん。
おうむ返しに、頷くと。
良いお名前ですね。
声は、よどみなくつづけられる。
なぜか。
名前を口にすることで。
妻じしんを譲り渡してしまったような。
そんな気分に囚われていると。
あたかもわたしの内心を、見透かすように。
大昔、女の名前を問う・・・ということは。
求愛の意味がこめられていたようですよ。
男は無表情のまま、妻のストッキングの上、舌を這わせてゆく。
ふしだらに広がる裂け目とともに、
足許を引き締めるしなやかな束縛がほぐれてゆくのが。
なぜかひどく、小気味よかった。
まだ、ご入用なのではありませんか?家内のストッキング。
よく、おわかりですね。
男は事務的な声を、響かせて。
毎日一足ずつ、お持ちになってください。
声色だけは、まるで薬を処方するときのように冷静だった。
くる日もくる日も。
診察室を訪れて。
人けのない待合室で、待たされるあいだ。
箪笥の抽斗から盗み出してきた妻のストッキングを、じいっと見つめていた。
入れ替わりに手渡される紙袋を。
人影のない待合室のなか、震える手ももどかしく、封を切ってゆく。
中身は、昨日渡したばかりの妻のストッキング。
みるかげもなく、チリチリに裂かれていて、
半透明の液体をすら、ぬらぬらと光らせていた。
淫らな意図に使われると知りながら。
妻のストッキングを盗み出すあのゾクゾクとした愉しみに、わたしは目ざめはじめていた。
なるべく真新しいものを。光沢のつややかなやつを。
妻のいないとき、抽斗のなかをさぐる目とまさぐる手は。
彩りのよいストッキングを品定めしていた。
淫らな意図をもった男に、妻のストッキングを手渡すため。
週末には、奥様もお連れください。
検査結果を、申し上げますので。
リンと響く、事務的な声が。
じわりと淫らな毒液を、鼓膜の奥へとそそぎ込んだ。
けげんそうな妻を、伴って。
診察室を、ノックする。
中で待ち受けていたのは、男と、珍しく院長じしん。
ようこそ。
男は妻と、院長はわたしと向かい合わせになって。
重々しく口を開いたのは、院長のほうだった。
ご主人の血液検査の結果を申し上げます。
深刻なマゾヒズムに、染まっております。
血を清めるのには・・・奥様の血が必要です。
え・・・?
けげんそうに、小首をかしげる妻。
院長のほうに向き直ろうとしたそのときに。
男の影が、ヘビのようにしなやかに。
妻の足許を狙っていた。
ぁ・・・
ちいさな叫びを、抑えつけるようにして。
わたしは思わず、妻の両肩に手を置いていた。
力をこめた掌の下。
ブラウス越しに感じる肩の筋肉が、一瞬こわばり、そしてゆるんでゆく。
圧しつけられた唇の下。
ストッキングの伝線が、チリチリと広がった。
ちょうどわたしが、されたときのように・・・。
妻はちょっぴり、怯えたみたいに身をすくめていたけれど。
やがて、酔ったみたいに首をうつろに傾げはじめて。
ふらり・・・と、わたしの両腕のなかに倒れこんできた。
彼女に言わせれば。
とっさに身体を固くしたのは。
必要以上に血を抜き取られまい・・・と思ったからよ。
いまではそんなふうに、うそぶいているのだが。
血を吸われることじたいには、異存はなかったのか。
ちゅうちゅうと啜られてゆく血潮の音を。
心地よげに聞きながら。
妻は相変わらず、けげんそうに小首をかしげたまま。
男に血を与えつづけていった。
スカートの中にまで這い込んだ伝線を気にしつづける妻がいとおしく、
華奢な身体を抱きかかえるようにして、家路をたどってゆく。
招き入れた客間のなか、妻は小首をかしげて、ほほ笑んで。
院長先生は、血を吸わないのですか?
ワインカラーのブラウスに、真っ白なタイトスカート。
ふくらはぎの白さを滲ませた薄墨色のストッキングの脚を、さらりと流して、
惜しげもなく、人目にさらしてゆく。
恵理子・・・と、呼び捨てにしてもよろしいですよ。ねぇ、あなた?
くすぐったい、妻の言葉。
誰にもお許しするわけでは、ないのですよ。
だからこそ、貴いのだよ。
男の頷きに、わたしも頷き返していた。
貴方にだけは・・・家内のストッキングを破ることをお許しします。
ほぅ?
言い足りなかっただろうか?
わたしはもっと、声を上ずらせていた。
いえ・・・どうか家内のストッキングを、貴方の手で引き裂いてください。
口にしたとたん。
びりびりと電気のような閃きが、全身を貫いていた。
よろしい。よく見届けるがよい。
男は臆面もなく、戸惑う妻の肩をつかまえて。
じゅうたんのうえ、押し倒してゆく。
姿勢を崩した妻は、さいごまで折り目正しさを喪わないだろう。
なにもかも、喪うことになったとしても・・・
いつもより丈の短いタイトスカートのすそがめくれあがって。
太ももを横切るガーターが、あらわになった。
貴方も・・・愉しんでくださいますね?
マゾの血を清めるのに、わたくしの血が役に立つのですね?
少女のように羞じらい惑いながら。
徐々にせり上がってくる夫ならぬ身の逞しい腰に、怯えながら。
華奢な腰つきで、沈み込んでくる逞しい臀部を、
包み込むように、受け入れてゆく。
犯されてゆく妻のまえ。
院長が照れくさそうに、囁いてくる。
わたしの妻も。こんなふうにされているのですよ。
わたしはウフフ・・・と笑み返して。
ときどき、血液検査を受診させますよ。もちろんわたしも、同伴で・・・
たちのよくない含み笑いの傍らで。
妻の貞操が、散らされてゆく。
愛しい母娘 ~連作:院長、ご来客です
2006年12月29日(Fri) 09:22:10
1
白のハイソックス、好きなんでしょ?
あなたのために、履いてきたのよ。
そんなふうに、囁かれたら。
もう、抱きついてしまう以外、どうすれば良いというのだろう?
制服の濃紺のプリーツスカートの下。
ひざ下ぴっちりの、まっ白なハイソックス。
細いリブが整然と、少女の脛のふくらみを映して。
微妙なカーブを、描いている。
ほんとうにかわゆい、という衝動が胸を焦がすときには。
足許にかがみ込む・・・などという余裕はなかったりする。
いきなり首筋に抱きついて。
まわした腕に、若い生命の充実を感じながら。
なによりもまず。肌の温もりを確かめたくて。
牙を突きたてようともせずに。
ただひたすらに・・・少女の肌に、唇で触れてゆく。
鼻先をよぎるのは。
ほのかに甘いぬくもりを帯びた、髪の毛の香り。
少女を横抱きにする腕に、ぎゅうっと力がこもる。
痛いっ。もう・・・
少女は口を尖らせたけれど。
そのまま、オレの言うなりになってゆく。
パパ・・・見ているよ。
そう。
診療室の扉が、患者もいないのに、半開きになっている。
廊下の待合室の、硬いベンチのうえ。
オレは少女を抱き伏せて。
うなじに吸いつけた唇から、キュウキュウと激しい音をたてて。
いつか、初々しい血を吸いはじめていた。
聞こえよがしに。あいつの耳に届くように・・・
パパ、不思議なひとだね。
好きな女のひとが血を吸われているのを見ていると。
どきどきしちゃうんだって。
ヘンだよ~っって、言ったんだけど。
そういうのが、好みみたい。
わかってあげようね。
でもあたし・・・のけぞっちゃうから♪
おじさま、キモチよくしてくれるんだもん。
少女はイタズラっぽい笑みを口許に含みながら。
きょうも惜しげもなく、処女の生き血を振る舞ってくれる。
真新しいハイソックスは、ひざ下からちょっぴりずり落ちて、
脛の周り、整然と流れていたリブが、
ふしだらに、ぐねり・・・とねじれている。
おまけにふくらはぎの、肉づきたっぷりなあたりには。
赤黒いものを、べっとりと滲ませていて。
具合悪くなっちゃった。せんせいに診察してもらうわね。
くくっ、と含み笑いを滲ませて。
とんとん、とんとん。せんせい、お留守?
パパの隠れている診察室のドアを、こちらが決まり悪くなるくらい、
芝居っけたっぷりにノックしている。
2
少女の両親が。娘をほっぽらかして海外旅行に旅立ってから。
オレの日常を支配した女。
シジマ看護婦、と名乗りながら。じつは女の名医で。
院長がむりむたいにオレにおしつけていった病院経営を切り盛りしてくれたとはいえ。
こればっかりは、かりそめにも。がまんならない事実。
オレに血を与える看護婦のローテーションをきちんと組んで、
気になるあの看護婦の熟した血や、学校出たての新米看護婦の初々しい血まであてがってくれたのは、感謝するとして。
それはそれとして・・・やっぱり許せん。
襲ってやる。
たしか、言ったはずだ。
看護婦のローテーションにじぶんを繰り入れないことを、
残念ながら・・・って。
コツコツとヒールの音を足早に響かせて。
女は逃れるようにして、病院をあとにしようとする。
そうは行くものか。
オレは黒マントをひるがえして。
背の低い植え込みの陰を、もぐるようにして。
矢のような速さで、病院の門へと先回りをする。
好都合だ。あたりに人は、だれもいない。
病院の建物をちょっと振り返ってから門を出ようとした女のまえに。
オレはおもむろに、立ちふさがる。
あっ。
あげそうになった声を呑み込んだときの、あの女の面差しは。
いままで毒牙にかけてきた無防備な女どもと、なんら変わるところがない。
さんざん侮辱しおって。このまま立ち去れるとでも、思っていたのか?
さぁ、こちらの植え込みに身を沈めるのだ。
わかっているだろうな?
襲ってやる・・・という意図を。いつも手短に、相手に告げるのだが。
こんかいだけは・・・ちょっと饒舌になっているようだ。
女は無念そうに身をすくめて、歯噛みをして。
厭。いやなんです。
身を揉んで、上目遣いに、訴えるように目線をそそぐ。
いぃや、ダメだ。聞えないよ。
さぁ、おそれおおくもオレ様のご招待だ。
大人しい淑女になるんだな。
女は病院の壁を背にして、悔しそうに、しんそこ、悔しそうに、目をそむけている。
そむけた顔の下。キュッと浮き出た首筋は、なめらかな皮膚に覆われていて。
思いのほかの白さが、オレを誘惑する。
ククク・・・ダメだ。もうそれまでだ。
ずりっとにじり寄ったとき。
だれかがぐい・・・と、手を引いた。
いつの間にか、背後に忍びよっていて。信じられない力だった。
思わずよろけて、ふり向きざまに睨みつけると。
せつじつな目線で睨みあげてくるのは・・・
意外にも、あの少女だった。
うん?
すごく気詰まりな、なま返事。
やめようよ。
少女が切なる声を洩らすまえに。
オレは顔をしかめて、苛立たしくかぶりを振って。
行け。
あごをしゃくって、女を促している。
3
ご面会ですぅ。
のんびりとした声をかけてきたのは、いつもの接待用美人看護婦。
たっぷりとしたお胸を、たゆんたゆんと揺らしながら、
ついたてで仕切られた応接スペースから、逃れるように立ち去った。
だれだ?
と、覗き込むと。
黒一色のワンピースに身を包んだ来客は、顔がみえないほどに頭を垂れて。
シジマでございます。
うって変わった淑やかさで、ひくい声を響かせた。
なにをしに来た?
別れ際の気まずい記憶から、つい切り口上になったのを。
あの・・・ふつつかですが。わが身をめぐる血を・・・
囁くように洩らした言葉に、オレはのけぞりかかっている。
奥様から、黒がお好きだとうかがったので。
それとも・・・いつもの白のほうが、よかったかしら?
ちょっと疲れたような白い微笑に、われを忘れて。
有無を言わさず手首をつかんで。
引きずるようにして、手近な診察室に連れ込んでいた。
どういう心境の変化だ?
ベッドのうえに、まろばせて。
うなじに牙をおろそうとするとき。
オレは思わず、訊いていた。
謝罪・・・かしら。貴方に血を吸われた看護婦たちへの。それに・・・
いいさした女は、顔をそむけて。
でも、なにもわからなかったことにしていただきたいわ。
謎のような呟きを口にすると。
それっきり、押し黙って。
血を啜り取られるのを、いっしんに受け止めている。
抱きかかえた腕の下。
思いのほか熱く豊かな肢体は、はずむように上下して。
迫った息遣いを伝えてくる。
すすり泣くような。震えを帯びた息遣い。
そんなにオレが、怖いのか?
言いかけたオレは・・・ふとわが舌を、疑った。
なぜ・・・・・・・・・・・・?
わからなかったことに、してくださいな。
女は薄っすらと目を開き、柔らかな声音を洩らした。
瞳をよぎるうるおいが、切実な光をたたえて訴えてくる。
う・・・う・・・。わかった。
どうしてこういうことになったのだ?
問いに対する答えはないだろう、と。オレは話しかける口を閉ざして。
やおら、女の肌に吸いつけた。
蹂躙しか思わなかったそれまでとは、裏腹に。
慕うように。いとおしむように。
ばれちゃったのね?
少女ははにかむように、ドアの向こうから顔を出して、
咎めるけしきがないとみると、オレの隣にちょこっと腰かけている。
ママはね。ほんとのママじゃないの。
わたしのお母さんは、あのシジマさん。
だからわたしがあなたに血をあげているとき。
ずっと控えて、見守っていたの。
シジマさん、独身よ。きれいなのに。あの齢で。
ずっと昔。
吸血鬼に、ごうかんされちゃったんだって。
それが、はじめての経験だったんだって。
だから、セックスも、男のひとも、すっかり厭になっちゃって。
でも、生まれてくる命を、断つことはできないで。
それで、わたしが生まれてきたの。
だからね。おじさま・・・みんなを大切にするんだよ。
死なさないていどに血を吸って、ガマンしているおじさまだから・・・きっと飲み込んでいらっしゃると思うけど。
うん、うん・・・
叱られた少年のように、うなだれて。
オレは少女の幼い声に、聞き入っている。
昔、オレにさいごの血と、なによりも心のよりどころを与えてくれた少年。
頬をよぎる輝きはおなじなのだ・・・と。
オレはむしょうに、いとおしくなって。
いつまでも、いつまでも。
少女の頬を撫でつづけている。
あとがき
過去ログを読んでいて、
そういえば桜草さんは女子校生のみぎり、白のハイソックスだったんだなあと思い出しまして。^^;
それがこのお話の発端・・・かな?^^
乱れる女 視る女
2006年09月13日(Wed) 23:03:17
このひとは、ただのカゼ。こちらの患者は、高血圧。
瀉血がすむと、シジマ先生を呼んで。
すぐに処置をと、依頼する。
看護婦に似せた装いはよく見ると、
白衣に白のストッキングだけ。
中身は完璧な、女医である。
長い黒髪を根元から束ねて、細い首筋をきりりとあらわにしたところなどは。
ちょっと見ごたえある風情なのだが。
なにしろこちとらは・・・首根っこをつかまれている。(><)
こんちはぁ。
学校が終わるころ。
病院を訪れるのは、院長の娘・里江子。
結婚記念の海外旅行を両親にプレゼントして、かわりに病院を手伝いにきている。
どんな手伝いを・・・って?
もちろん、院長のアシスタント。
軽く手のひらをそよがせて、おいでおいでをして差し招くと、
スリッパの音をぺたぺたとさせて、素直にこちらにやって来る。
シジマ先生が、感心していたのだぞ。
なにしろ病名をすぐ、当ててしまうんだからな。
オレは彼女のまえ、がきっぽい自慢をする。
それでも彼女はすぐさまへらず口でやり返してくるから、油断ならない。
だってその分、血を吸えるわけでしょ?役得ね。院長先生♪
ばかをいえ。
病人の血は、まずいのだ。
なにしろどんな病原菌をかかえているか、わからないのだからな。
正直なところほとんどは、人に見られないように、吐き捨ててしまうくらいなのだ。
エ・・・?そうなの・・・?
女が顔を曇らせたのは。
オレのことを案じて・・・ではむろんなく。
その汚い血のついたままの牙を埋められる・・・と思ったからなのだろう。
安心しろ。消毒ずみだ。
ちょっぴりムッとしながら、そう応えると。
それなら・・・
うって変わって安堵したようにのべられる首筋に。
スッと牙を忍ばせてゆく。
少女を引き寄せようとする背後から、だしぬけに。
かちゃり。
失礼します。
静かな声とともに現れたのは、シジマ医師。
お嬢様がお相手をするときは。ごいっしょさせていただくように申し付かっておりますので。
ふぅ・・・
興ざめだ。
だが、追っ払おうとして素直に座をはずすようなタマではない。
少女をみると、第三者の存在などは眼中にないという風情。
かまわないわよ。早くすませて。
こちらもスッと感情を消した顔をして。
それでも身を投げかけてくるとき、息遣いを微妙に弾ませている。
注射針のような静けさで、少女の生硬な肌に牙を埋める。
ちゅっ。ちゅちゅう・・・っ
少女の血を吸い上げる音が、空き部屋に満ちるあいだ。
女は終始、能面のように凍りついた面持ちで。
身動きもせず、気配さえも消して。
ベッドの傍らの椅子に腰かけて、痴態の一部始終をみとどけてゆく。
犯すわけでは、決してない。
院長が戻るまで、処女のままでいさせる。
そんな暗黙の了解が、カレとのあいだには交わされていた。
けれども、していることはあきらかに、痴態。
きちっと装った濃紺の制服を乱れさせて、
制服の下に秘めたスリップや、好みに合わせて脚にとおしたストッキングの太ももをあらわにして。
なまの唇をおしつけられて、たんのうされているのだから。
おい。頼むからはずしてくれ。ちょっとのあいだで、かまわないから。
気が散ってかなわない。いくらそう訴えても。
女は無言の拒絶を強く秘め、能面の表情を崩そうとしない。
里江子はいつも。女のほうには目もくれないで、むしろ顔をそむけて吸血に応じている。
ブラのうえからまさぐる指も、ハイソックスをいたぶる掌も拒もうとせずに、
むしろ触れやすいように、いじりやすいように、体の向きを変えてくるのだから。
シジマ看護婦の目を決して厭うていないのは、明らかだ。
むしろ安心した面持ちで、積極的に身を投げかけてくるような気さえする。
じっと見ている女。目線を気にせず呼気を乱す少女。
声もなく耽る熱っぽいまぐわいは、美酒に酔うほどに甘美であるのに。
動と静。対極にありながら。
どこか示し合わせているようにさえ思える、女ふたり。
院長、ご来客です 4 天下を取ったつもりだが。(^_^;)
2006年09月12日(Tue) 06:34:29
病院の廊下を行き交う、白ストッキングに透けた脚。
すらりと細かったり。ムッチリと太かったり。
ウフフ。^^
きょうから、よりどりみどりだな。
なにしろ、院長はオレさまなのだから。^^
口許引き締めて、真面目な顔して通りかかる看護婦を。
出会いがしらに抱きすくめて。
手近な空き部屋に連れ込んで。
白衣をめくると、白のストッキングに透ける三角形のパンティが。
オレの股間を刺激する。
さぁ、診察だ。診察だ。
雇われ院長さまの、診察でござい。
女たちはみないちように、諦めきった顔をして。
表向き、ちょっとだけ抗って、
あとは期待に弾んだ胸もとを、ゆっくりあらわにしてくれる。
ベッドのうえ、立て膝をした脚をなかば開いて。
ひざ下まで引き剥かれたストッキングをひらひらさせている。
ふとももにはべっとりと・・・征服の証しが。
きょうで何人、征服したかな?
済ましたかおでアチラを歩いているあのおばさん看護婦も、
さっきは信じられないくらいねちっこく、もだえてくれたっけな。^^
シジマ看護婦がいらっしゃいました。
取り次いでくれたのは、いつもの接待用美人看護婦。
あのひとは苦手なのだと、顔にありありと書いてある。
聞きなれない名前だな。そんな看護婦、いたっけな?
気配を消してオレの目をくらませるなぞ、なかなかのもの。
どれ、わざわざこちらに飛び込んでくるのなら。
そのお手並みをとくと拝見してやろう。
白衣の裾をめくりながら・・・^^
ぽん。
院長席の机のうえに。
女が手投げ弾のように放り出したのは。
辞表。
えっ。(・0・)
だめだめっ。
部屋の隅から接待用美人看護婦が、小さく鋭く、かぶりをふって合図してくる。
えっ。どうしてよ。
たしかに美人だ。もったいない。それもオレ好みな、清楚な美人。
そんな問題じゃないんです。
えっ、だからどうしてよ。
たっぷり血をいただいたこの女とは。
テレパシーみたいに目線だけで通じ合う。
院長のお留守中・・・ここの治療はぜんぶ、シジマ看護婦が任されているんです。
えっ?ええっ?聞いとらんぞ。そんな話。
そもそも院長はこのオレ・・・といいかけたら。
テキは攻撃に打って出た。
「処置を頼んだ看護婦は戻ってこない。処方をするはずの薬剤師はふらふらといなくなる。受付の女の子はうわの空・・・こんな病院、聞いたことがありません。とてもじゃないですが病院の運営はできかねますので、きょうかぎりで辞めさせていただくんです」
おいおい、大きく出るじゃないか。お前一人くらいいなくたって、こっちは困らないんだぞー!
・・・と。思い切り言ってやろうと思ったら。
おずおずと進み出たのは、接待用美人看護婦。
「あの。。。こちらの診療、先生の瀉血で治りきらない患者さんは・・・みんなシジマさんが診てくださっていたんです」
へ?
「瀉血では治らない患者さんが、ほとんどなんです・・・」
申し訳なさそうに俯いているはずの顔が、にやにや笑いを隠しきれなくなっている。
陰の女王様は、勝ち誇ったような面持ちで。
「こんなカッコウしていても。医師免許もっていますのよ」
ツンと上向いた高い鼻が、小憎らしいほどひきたっている。
お、おーーーいっ・・・
「院長の命令ですから。看護婦を襲うなとまではいいません。襲われたがっているコも、中にはいるようですし」
ちらっ目線を投げられた接待用美人看護婦は、てへへ・・・と照れ笑い。
「でも、襲うのは一日三人まで。当番表作りましたから・・・ローテーション上この順序にしてくださらないと」
ははぁ。
突きつけられた当番表をながめると。
あの看護婦も、この看護婦も。
まだ襲ってないなかでも、気になる看護婦はすべて、網羅されてある。
一見地味で目だたない、そのくせむしょうに好みに合って、すごーく気になるアノ看護婦まで含まれているのには、正直恐れ入った。
「全員、私のほうからいい含めてあります。すべて承諾済みですから、そのなかで遠慮なく」
そのなかで・・・なるほどね・・・
気の毒そうに目線を投げかけてくる接待用美人看護婦と、仕方なさそうに目配せし合う。
なんだか白亜の病棟が、おおきな監獄のように思えてきたのだが。
「パラダイスでしょ?」
追い打ちをかけるように、声が降ってくる。
こいつはどうして、いちいちオレの先回りをできるんだろう?
「残念ですが・・・そのなかに、わたくしは入っておりませんの。わたくしが倒れたら、病院運営ができなくなりますものね」
はい・・・はい。(-_-;)
院長、ご来客です 3
2006年09月08日(Fri) 07:38:43
おや、虫歯のようだね。
う~ん、やっぱり今のうちに、抜いちゃったほうがいいんじゃないの?
歯を抜けと、自分のほうから決していわない医者。
こちらから「抜きます」といわせれば、責任逃れができるつもりでいるのだろうか?
だいいち、オレは吸血鬼。
野郎、こともあろうにオレの犬歯が虫歯だとぬかしやがった。
やつとは長い間柄なのだが。
診察を受けるときにはこれでも、患者として神妙にしているつもり。
けれども、もー!ガマンならねぇ。
ここはひとつ、がらりと態度を変えてやろう。
おいおい。冗談はたいがいにしてくれよな。
オレの犬歯が虫歯だと?ふざけるのもたいがいにするんだな。
いっそお前の女房で、歯を研いでみせようか?
やつはにまっっ・・・とほほ笑んで。
失礼、誤診だったようだね。
歯茎の炎症・・・ということにしておこうかね。
本当は艶笑・・・のほうがお好みなんだろうがね。
気分を害されたおわびに・・・といってはなんだけど。
娘を紹介するよ。
まだ襲ったことは、ないだろう?
目を白黒させているオレの前。
胸元のリボンをきちんと結わえた、セーラー服姿の少女が、
夏服の眩しい白さも鮮やかに。
濃紺のプリーツスカートを、静かに奥ゆかしくさばきながら。
いまどきめずらしい、楚々とした歩みを進めてくる。
脚にはお約束どおり、黒のストッキング。
半袖からむき出しの、ぴちぴちとした二の腕とは別人のような、
大人びた艶を滲ませている。
娘の里江子。よろしくな。
・・・齢はじぶんで言うのだよ。それで、承諾したことになるのだから。
医師は娘の肩を軽く、いとおしむように撫でると。
じゃあ私は失礼するよ。回診があるのでね。
そういい置いて、診察室から消えた。
扉の外で、かちゃりという音がして。
きっと「午後休診」の札でもぶら下げたのだろう。
いつも接待用の看護婦をおれにつけてくれるときにするように。
診察用の椅子に腰をおろして。
すらりとした脚を、軽く斜めに流して。
長い長いおさげ髪をツヤツヤと光らせて。
少女は黒い瞳で、じいいっと見つめてくる。
父親にも母親にも、あまり似ていない、シンプルで真っすぐな目鼻だち。
おじさん、吸血鬼なんですって?
初めて口にする科白も、やけにストレートだった。
処女の血が、お好きなんでしょう?だったらあまり、やらしいことはしないですよね?
単刀直入。
わかった、わかった・・・
ストレートに気を詰めてくる女は、どうにも疲れる。
早いとこ料理して、おもりをして、寝かしつけちまおう。
なんて思っていると。
パパ、制服一着、よけいに買ってくれちゃった。
少女はやおら立ちあがり、オレのまえにすたすたと寄ってきて。
ちょっと振り仰いだ姿勢になって、そのまま目を閉じた。
父さんに教わったのかい?
ううん。母に・・・
声はさすがに、震えを帯びていた。
どきどきとした息遣いを伝えてかすかに上下している、少女の皮膚。
なめらかで、男の子みたいに生硬な肌に・・・
オレは珍しく、ためらいながら唇を這わせる。
きゃっ。
少女のガマンも、そこまでだった。
相手が取り乱すとつい、昂ぶってしまう。
いけない性格ね・・・
いつだったかともにしたベッドのなか、少女の母はそう囁いたが。
もうなにもかも、どうでもよくなって。
少女の肌に、欲情していた。
ちゅ、ちゅう・・・っ。
いつの間にかむさぼり始めていたバラ色の体液。
少女は軽く息を弾ませながら、
それでも気丈なことに、まだ立ったまま。
姿勢を崩すまいとしている。
それでもその身をピンと支えた気力もじょじょに張りを喪って・・・
追い詰めたベッドの傍ら、尻もちをついてしまった。
わさっ・・・とそよぐ、重たげなプリーツスカート。
たくし上げようとするのを止める手が、力なくだらりと垂れ下がる。
もう、オレの術中だ。
息を乱し、手をわななかせながら。
少女のスカートをまくり上げ、禁じられた領域に手を忍ばせる。
ストッキングに包まれた太ももは、思いのほか温かだった。
里江子。といったっけな?
ちょっと気丈で、強そうな感じがする。
なんにしても。
両親がいつくしんでつけたであろう名前のはず。
さすがのオレも、そうした情愛のまえには神妙にならざるを得ない。
かつて・・・ここの患者だった薄命の少年と。
つかの間、和やかな刻をともにしたとき。
かれの真心は今でも、オレのなかの獣の心を、不思議な呪縛で封じている。
眠ってしまうと、無邪気なものだ。
まだ中学生くらいだろうか?
大人びた色香を滲ませながら、それでも童顔を残した少女。
すまないね。
柄にもなくひと言、わびを囁くと。
おれは少女の足許に、不埒な唇を這わせてゆく。
いまごろ父と母は、飛行機のなかよ。
オレの腕に抱きすくめられたまま。
少女は不思議なことを、呟いた。
え・・・・・・?
母がお目あてだったのかな?
でもね。結婚二十年なんだって。
それで、海外旅行、プレゼントしたの。
もう一ヶ月、戻らないわ。
病院?それはあなたがなんとかしてくれるだろう・・・って。
父が言っていたわ。よほど信頼されているのね。
わたし、お手伝いしますから。
看護婦さんの履いている白のストッキング。
まだわたしには、似合わないかな?
イタズラっぽく、くすりと笑う少女の息が、耳たぶにかかる。
たまには二人きりにしてあげようね。
年、いいそびれちゃった。あたし13よ。
やっぱり緊張、していたんだね。
そういいながら、潤んだ瞳でオレを見あげて。
キスだけなら、してもいいよ。初めてだけど・・・
どうやらオレの完敗らしい。
あとがき
結末を考えないでキー叩いていたのですが。^^;
不思議なお話になってしまいました。^^;
どっかあらがあっても、目をつぶっててくださいね。^^;;;
院長、ご来客です・・・ 2 懐手
2006年08月10日(Thu) 01:21:40
院長室の壁の木目模様を背にすると。
ヤツの黒マントがいっそう、陰翳を増すようだ。
いつものように、蒼白な頬に嫌な含み笑いを浮かべて。
音もなくスッ・・・と、近づいてくる。
まずは私の首筋をえぐって、酔わせてしまおうというのか?
私が我を喪ったそのあとに。客人の相手をするのは。
夜勤の看護婦たち、そして妻・・・
ところがヤツはちょっと俯いて。
己の懐に手を忍ばせる。
そこの壁にかけてある西洋の英雄の肖像画そのままに。
懐手したまま、キッとこちらを見すえてくる。
握られているのは、拳銃一丁。
ぴかぴか黒光りするそいつを、私のほうへと向けてきて。
どきゅん。
その瞬間、視界は深紅に閉ざされた。
あとは幻のように・・・
妻や看護婦どもが、テロリストから解放された人質みたいにウットリとした目線でヤツを仰ぐ情景が広がるばかり。
ハッとして、起き上がる。
傍らのベッドで、妻はすやすやと安らかな寝息を立てている。
首筋にはくっきりと、ふたつの痕・・・
今宵もヤツは、訪れたのか。
「院長、来客です」
あのいまいましい不慣れな若い看護婦が、ふたたびヤツの来訪を告げる。
いまさらもう咎めだてすることもないのだろう。
髪をアップした彼女のうなじは、夕べの妻とおなじ痕を持っている。
「ようこそ。歓迎はしないがね」
ヤツを迎え入れながら。きのうの夢がありありと蘇える。
強く首を振って打ち消そうとしていると。
「なにをしている?」
軽い揶揄を含んだ声が、部屋に響いた。
ちぇっ。
我が物顔に、私の妻を従えてのご入来だ。
「喉が渇いている。これから奥方を拝借するよ」
「夕べも来ていたようだな」
「ご明察・・・」
決して悪びれない言葉のウラにたくまず滲む、悪戯心と親愛の情。
ヤツの手が、すっ・・・と黒衣の脇に差し入れられた。
どこかで見たことのあるポーズだった。
目のまえの挙措が、夢の記憶とつながったときには。
ヤツはキッとして。殺意に瞳を輝かせる。
えっ?
たじろぐ隙に。
懐から出した中身は、一輪の薔薇の花。
私を尻目に、妻のまえ。
お姫様に捧げ物をするナイトのように膝をかがめる。
「まぁ」
芝居気たっぷりな態度でも。
意外なプレゼントには決して嫌な顔をしないものらしい。
「ずうっとそこに、隠していたんですね?どうやってしおれないように持ってきたのかしら」
薔薇の花を受け取り、るんるんとはしゃぐ妻を見て。
私はツカツカとヤツのほうへと歩み寄っている。
自分でも予期しないほど、出し抜けに。
どかん!
ヤツのことを、ぶん殴っていた。
虚を突いた攻撃に、ヤツは恰好悪くすっ飛んで。
仰向けにぶっ倒れて、両足を天井に向けていた。
さすがにヤツも、あっけに取られている。
男どうしのあいだでは。
突発した暴力は応酬されがちなものなのに。
ヤツは応戦の手を引っ込めて。
頬に散ったかすかな鼻血を手の甲でゆっくり拭い取ると。
サッと私のほうへと近づいて。
それを私の頬へと塗りつけた。
一瞬で、ぼう・・・っとなってしまった。
「失礼。ちょっとなれなれし過ぎたようだね」
あくまで紳士然に振る舞うと。
金縛りにあった私のまえ。
「さて奥様。いまのご褒美のお返しに・・・たっぷりお相手願いましょうか?お気が進まないだろうけど」
冷たい囁きを口にすると。
サッと妻のほうへとおおいかぶさっていった。
きゃあっ、やめてぇ・・・
あなた、あなたぁ・・・
痛いっ、何なさるの・・・っ!?
嫌ッ!嫌、嫌、嫌あぁ・・・
妻は私のまえ、初めて襲われたときそのままに。思いっきり抗って。
うなじを咬まれ。血を吸い取られて。押し倒されて。
それでもまだ、思いっきり脚をばたつかせて。
必死で貞操を守ろうと、抗いつづける。
厭らしいです。お許しくださぁい・・・
いかにも芝居がかったしぐさだけれど。
こういうほうがまだ、許せるというのだろう?
犯す直前振り返ったヤツの笑みには、ありありとそう書いてあった。
正直に愉悦を滲ませた、激しい腰の動きにも。
不満はとうに、妖しい快楽に封じ込まれてしまっている。
院長、ご来客です・・・
2006年08月08日(Tue) 03:50:41
「院長、ご来客です」
新米の若い看護婦は、私が会うと言わないうちに。
うかつにもその訪客を、院長室に通していた。
ああ。知らないのだから、無理もない。
夏だというのに、いちめんの黒衣。
衣裳がかもし出すかすかな違和感をのぞいては。
いかにも教養ありげな物腰に、紳士然とした口ぶり。
ふつうなら、通してしまう。
こいつがなにを意図して来たかも知らないで。
「いい看護婦だな。新入りかね?」
「そんなことに応える必要はない」
そっぽを向く私に、
「珍しく素直じゃないね。景気がよくないのかね?」
それどころか。
今年は妙に、夏カゼが流行っていて、てんてこまいの忙しさだった。
「患者が途切れたようだからね。ちょっと顔出ししてみたのさ」
あたかも自分が歓迎されているかのような口ぶりが、ちょっと滑稽ですらある。
「なにがおかしい?」
「いや・・・失礼」
笑いを押し隠しながらも。
失礼なのはお前だろ?
と、心のなかでうそぶいている。
看護婦たちや、ときには妻を。
襲って、血を吸って、凌辱を繰り返す男。
怒りが湧いてこないのは。
麻痺した理性と、あとに残された女たちの濃い媚態のせいなのか。
「喉が渇いた」
「輸血用の血液ならあるぞ。ただし商売用だが」
あくまでそっけなく応対する私。
本音は、若い看護婦の血が目当てなのだろう。
けれどもいまは、ひとりでも引き抜かれると困るのだ。
「患者は途切れている」
男は誇示するような口調で、強調した。
「ナースステーションは、三階だったな?」
あいさつもそこそこに立ちかけるのを、私はあわてて引きとめにかかった。
「待ってくれ。お前を知らないものも勤務している」
ああ。四階の詰所にいるのは、わけ知りな看護婦だけだったな。
言いかけた言葉をとっさにつぐむと
「じゃあ、呼んでもらおうか」
ヤツは憎らしいほど余裕たっぷりに。
どっかりとソファに腰をおろす。
四階かね?守部看護婦と長原看護婦を呼んでくれ。
あくまで事務的に受話器に話しかけると、
ヤツはげんなりしたようにそっぽを向いた。
ふたりの看護婦が白衣に包んだ巨体をゆするようにして現れる。
年はたしかに若い。
堂々たる体格に、おっぱいを誇らしげにぷりんぷりんとさせている。
ただし。
美人だなどという表現はもちろん、薬にもならない。
彼のために雇い入れた、体力採用の献血用看護婦である。
「お呼びですか?」
言うなり振り返って客人をみとめ、
あぁ・・・
ちょっぴり顔を、しかめている。
彼女たちにしたって、こういう患者は迷惑だろう。
ヤツの態度は、なかなか立派だった。
一瞬見せた軽い失望など塵ほどもとどめずに。
あたかも名流婦人に会釈するような慇懃さで。
いつもぞうさをかけますな。
心からの感謝を滲ませて。
どんな美女に対してもそうするように。
順ぐりに。
手の甲に接吻し、身を寄り添わせ。
そうして、うなじを噛んでゆく。
ぁ・・・
こういうときに洩れる呻きは、妙なる声・・・と表現しても。
たしかに差し支えなさそうだった。
ふたりが夢見心地になって出てゆくと。
ヤツはなにかをアテにするように。
まだ院長室に居座りつづけている。
ドアの向こうから、がやがやと。
一団の話し声が近づいてくる。
あ・・・っ
悔しい呻き声を押し隠すのが、やっとだった。
入ってきたのは病院で一、二を争う美人看護婦が二人。
そしてその二人を従えて真っ先に入ってきたのは。
ほかでもない、妻だった。
看護婦たちの白ストッキングの脚と。
つやつやと光沢をよぎらせる肌色のストッキングの脚と。
吸血鬼は愉快そうに、三対の脚たちを見比べている。
院長室の扉に耳を当てれば、聞えるだろう。
きゃっ。あぁ・・・っ。
絶望の悲鳴に似て、そうではない。
きょうはなん時間、見せつけられるのだろう?
あとがき
以前あっぷした「絵を描く少年」の舞台になった病院です。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-128.html
絵を描く少年
2005年11月23日(Wed) 13:13:53
1
何てこった。
ベッドに横たわりながら、吸血鬼は心の中で舌打ちをしている。
ここは病院のなか。
それも、相部屋である。
具合が悪くなった、と思ったときにはもう意識を失っていて、
気がついたら病院にいた。
吸血鬼が病におちるか・・・
それも、見知らぬ土地で。
つくづく、やきがまわったものだ。
不幸中の幸いに、院長は知人だった。
あり難いことに、奥さんを頂戴したこともある。
もっとも勤務医の彼は、ここには妻を伴っていないようだが。
さいしょ個室病棟に入れられた彼は、
検温や点滴にくる看護婦を手当たり次第に襲って血を吸い、犯していた。
それは困るよ、と院長は渋面をつくって、
彼のことを四人部屋に移してしまった。
さすがの彼も、これでは手も足も出なかった。
なにしろ、ひとりではベッドを五歩と離れることのできない重症だったから。
さすがにそれだけでは「治療」に差し支えるだろうといって、
一日三回、彼のベッドはついたてで仕切られた。
事情を言い含められたベテランの看護婦が数名、交代で彼に血を与える。
そろいもそろってごつごつとした無骨な脚に、もっさりとした白タイツというもてなしに閉口しながら、
もっと若い子は都合がつかないのかと院長に直訴したのだったが・・・
2
相部屋の三人のうち、一人は重症と診断されて、もっと大きな病院に転院した。
もう一人は、あるとき突然運び出されて、数時間後布団がきれいに片づけられていた。
退院したのか、死んでしまったのか。
誰も口を開いてくれなかった。
ひとり残ったのは、となりのベッドの十代なかばくらいの少年だった。
少年は口数もすくなく、しじゅう蒼い顔をして、終日横になっていた。
気分がよい時には、スケッチブックを抱くようにして、いつもなにかを描いていた。
「なにを描いているのだ?」
退屈まぎれにふと声をかけてみると少年は、顔色には不似合いなくらいに人懐こい微笑をかえしてくる。
人からいつも忌まれる彼にとって、すがりたくなるほど美しい微笑だった。
少年はちょっとの間ためらっていたが、やがて黙ってスケッチブックを差し出した。
ベッドに横たわって顔をしかめる男が描かれていた。
走り書きにちかいデッサンだったけれども、秀逸な筆づかいだった。
「なかなかのものだな」
数百年前、ひところ仲良くしていたレンブラントという男のことを、吸血鬼はフッと思い出していた。
「ありがとう」
少年の声がぱっと無邪気にはじけた。
世間の濁りとは無縁な声色だった。
そして、兇悪なかれへの警戒心さえも、みじんも含まれていない。
時折ふたりを隔てるとばりのなかで、どんな「治療」がなされているのか、こいつは気がついていないのだろうか。
「これ、おじさんを描いたんだよ」
えっ?
吸血鬼は虚をつかれたように、きょとんとしている。
あっはっは。
ごめんね。描くものがどうしても思い浮かばなくて。
たしかに。
ベッドのうえで思い浮かぶ画題など、知れたものだろう。
そんなことさえ察することができなくなったくらいに鈍磨した己の神経を咎める以前に、彼は絵のなかの彼自身をじいっと見つめた。
疲れた顔をしていやがる。
ちょっと、みじめになった。
しかし、大雑把なようで精細なタッチの中には、まごうことなく彼への同情が込められている。
ふん、この子は体がよくなっても襲えんな・・・
そんなブッソウなことを考えながらスケッチブックをめくっていくと、
いろいろな絵が出てきた。
病院の建物、窓辺に訪れるらしい鳥や蝶、田舎の風景、
躍動するバレーボールの情景は、学校のスポーツ大会なのだろうか。
ふと手を止めたページには、若い女性の肖像が描かれていた。
穏やかな目鼻立ちに、気品のある控えめな微笑があった。
「姉さんなんだ」
少年はいった。
両親は亡くなり、母代わりになってくれているという。
そういえば、少年に面会者が訪れるときには、用心深く帳がおろされていた。
相手が女であるのは、とばりのすき間からのぞく足許がパンプスを履いていることから知れている。
帳のあるなしはこのさいどうでもよかったのだが、
この少年のたったひとりの家族となると。
これも襲えんな・・・
ブッソウな妄想は、このさい頭から追っ払うしかないようだった。
「おじさん、吸血鬼なんでしょ?」
こっちの気分を見透かすように、少年は悪戯っぽく笑っている。
「姉さんのこと襲っちゃ、ダメだよ。証拠にボク、血を吸っているところを描いちゃうからね」
ふたりは、声を合わせて笑った。
3
「きれいな夕陽だね」
少年の声にまどろみからさめた吸血鬼は、いわれるままに窓辺に目を移していた。
夕陽が、灼けつくようなさいごの一片を雲に映して、いままさに姿を消そうとしているところだった。
「ほんとうはボク、油絵をやりたいんだ」
少年はいった。
「でも、ここには絵の具、ないからね。せめてデッサンだけでも書きためて・・・」
「退院したら、気にいったやつから油絵にするのだな」
吸血鬼は珍しく能弁に相槌をうっている。
少年の姉という、あの肖像も油絵になるのだろうか。
想像のなかで、デッサンに鮮やかな色彩が重なる。
この子のことだ。きっと色づかいもさばけているにちがいない。
少年はまだ、夕陽を見ていた。
そして、謡うような口調でつぶやいていた。
「消えるときには、こんなふうに。
みんなが息をのむように輝いて、そうして消えていきたいな」
まるで老人みたいなことを言うやつだ。
吸血鬼がなにかいおうとすると、少年はこういった。
「ボク、退院することができないんだよ」
4
病室を移れといわれた吸血鬼は、しぶしぶ頷くしかなかった。
足腰立つようになるまでは、院長のいうなりになるしかない体なのだ。
ちくしょう、憶えていろよ。お前の妻をまた自由にもてあそんでやるのだからな。
やはりブッソウなことを思い描きながら、彼はまた個室に移されていった。
隣のベッドの少年は、診察だとかいって居所を空にしている。
お別れをいえなかったのが少しばかり、心残りだった。
個室での待遇は、まずまずであった。
応対に訪れたのは珍しく若い看護婦。
白のストッキングもツヤツヤとした光沢に彩られていた。
「当院きっての、接待用の看護婦だよ。せいぜい楽しんでくれたまえ」
どこか嘲る口調をのこして院長が出てゆくと、
吸血鬼は久しぶりに胸を躍らせて、
白衣の胸をくつろげさせてぷよぷよとした乳房をもてあそんだり、
流れるようなふくらはぎを白のストッキングのうえから唇をすうっと這わせたり、
素肌を通して彼の唾液に含まれた毒が血管に沁み込んでゆくまで彼女をあやしつづけていって、
フッと迷わせた目線に毒液の効き目をみとめると、おもむろに抱きすくめ、うなじを咬んでいった。
5
うふふぅ・・・
砂地に恵みの雨が降ったような刻を過ごして人心地がつくと、
吸血鬼はまたあの少年のことを思いだした。
きのうの朝早く診察のためにベッドを出た少年は、いつもより顔色が悪そうだった。
診察の結果はどうだったのだろうか。
退院できない。
そんな言葉も気になった。
いつか、弟を気遣うような気分になっていた。
こういう気分は、最近にはないことだった。
手土産ひとつないのを気にしながら、彼は少年の病室を訪れた。
少年のベッドはきれいに片づけられていて、
シーツを取り去られた無機質なマットが三つ折りにされていた。
「やっぱりここかね」
やってきた院長は、少年が死んだと彼に告げた。
6
個室の天井が、涙に滲んでいる。
いままでも。
血を吸っているうちに、心を通わせあったものもいた。
そういうものたちと別れるときに、いく度となく流してきたのとおなじ種類の涙だった。
一滴の血も、吸ったわけではなかったのに。
少年は日々、自分の死を見つめつつ、デッサンの筆をとっていた。
油絵をやりたいといいながら。
そんなささやかな望みのかなう日が永久に訪れることのないのも知りながら。
せめてこの世に生きていた証しを残そうと、想いのすべてを一本の筆にたくしたのだろう。
あの日の夕陽のように、息をのむように輝いて消えていきたい。
そう希いながら、少年の魂は音もたてずにこの世から飛び去った。
この世には、醜いものだけが居残るのだろうか。
そう、オレはまだまだ、ずっと独りで生き続けなければならないのだ。
「ちょっと、こたえたようだね」
いつの間にか、院長がベッドの傍らにいる。
「彼、あんたが吸血鬼だって気づいていたんだな」
―――想像したよりずっと人間ぽくて、優しい人だね。
あるとき彼は院長に、そう言ったという。
「お前が優しい人種にはとうてい思えないが」
揶揄するはずの口調が、いつもより湿りを帯びている。
「本当に優しい人は、冷酷な人間も心優しくするのだろうよ」
やっとの想いで、吸血鬼はいい返す。
ほほぅ。
院長は珍しく、感心したようだった。
「彼の遺志なんだが」
いつの間にか、看護婦が点滴の用意をしている。
「輸血をするよ。あんたに血をやって欲しい・・・そう頼まれたのでね」
主を失った少年の血が、透明なパックに赤黒く澱んでいる。
腕に貼りつけられたチューブを通して、まだ冷え切っていない熱情が彼の肌に伝わってくる。
この血を享ける資格が、オレにはあるのか?
知らず知らず、腕を引っ込めたくなってくる。
お前が死んでゆくときに不埒な愉しみに耽っていたこのオレに・・・
オレはこの世の害毒なんだぞ。
重苦しい眩暈の彼方で、少年の幻が浮び、そんな彼に静かにかぶりを振っていた。
少年の血は、病のせいでいつもよりもすぐに冷えてしまう彼の血管を暖かく満たしてゆく。
まどろみかけた意識の彼方で、少年がなにかを言っていた。
人の生命を取らないでね。みんな懸命に生きているんだからね。
無慙なオレが、どうしてこうも涙を流して頷いてしまっているんだろう?
体の芯に、にわかにパッと火がともるような感覚が訪れる。
吸血鬼は病が去るのを直感した。
7
「あの子のデッサンを、油絵にしていただけませんか?」
目のまえには、あのスケッチブックが置かれている。
語らいのきっかけになった絵たちが、あの日のままに紙の上にあった。
少年の描いた彼の隣に、彼が描いた少年の顔が笑んでいる。
「貸してみろ」
そういって戯れに描いたタッチに、少年は「すごい」と目を輝かせていた。
悪事のために覚えた技術。
タッチは、少年の筆づかいと瓜ふたつに似せてあった。
依頼主は、少年の姉だった。
「あの子を、元気な顔にしてくださって・・・」
少年の若者らしくない蒼白い面差しが気に食わなくて、
絵のなかだけでも、ちょっと気力をみなぎらせてやった。
「こういう、活発な子だったんです」
学校を出て働いているという少年の姉は、看病疲れのやつれも見せずに若々しい。
独りで生きていかなければならない彼女にとって、涙のための休息も許されないようだ。
「こう申し上げてはなんですが・・・」
姉はちょっとのあいだ言いよどんだが、
「私の血を絵の具代わりにしていただいてもけっこうです。・・・こう見えても丈夫なたちなので・・・」
8
―――こうなることまで見通していたのか。
腕のなかに、少年の姉がいた。
脱ぎ捨てられたブラウスは、血が撥ねないようにと遠くにきちんとたたまれていた。
ブラウスの主は白いスリップに血潮をあやして、夢見ごこちに目線を惑わせている。
できるだけ苦痛を感じさせないようにと、あの若い看護婦のときのように、咬みつくまえに念入りにあやしていた。
撫でるように肌を吸い、唾液にまぎれた毒液を、素肌と、素肌の奥に脈打つ血管に沁みこませ、理性を適度に喪わせてゆく。
肌を吸おうとする彼のために、少年の姉は、地味なものばかりの持ち合わせから、なるべく肌の透けるストッキングを選んで脚に通してくれた。
安物のストッキングだな。
足許に唇を這わせながら、つい値踏みをしてしまったが。
あらゆる痛みに敏感になっている胸に、彼女の心遣いがよけいに沁み入ってくる。
差し出される若い肉体に欲情のほむらをかきたてているはずが、
きゃしゃな体いっぱいに秘められた寂しさをかき消してやるのに懸命になっている自分がいた。
―――オレは吸血鬼なんですよ?
そういう彼に、
―――でも、あの子のお友だちですから。
そうこたえて微笑む彼女。
ふつうの人間と分け隔てをしようとしない目線は、弟とおなじだった。
狭いアパートの一室。
散らばる絵の具や絵筆のむこうに、描きあげたばかりの油絵がふたつ、並んでいる。
ひとつは少年の最高傑作だった、姉の肖像。
もうひとつは、彼が描いた少年自身の顔。
ふたつの絵は心持ち、まぐわうふたりとは別のほうに向けられている。
独りで生きていきます。
あの子もそうだったに違いないと思いますから。
誰かをあっと言わせて消えてゆくような才能は、私にはありません。
名もない女として、この世を終りとうございます。
さいごに語りかけてきたそんな言葉をかみ締めて、
彼は街を離れた。
妻を呼んでやろうか?
院長は悪戯っぽくそう申し出てくれたけれど、そんな気分にはとてもなれなかった。
アパートの部屋のまえで彼女と別れて。
彼女はいつものようにショルダーバックを引っかけて、勤めにでかけていく。
見送る後ろ姿に、悲しみや屈託は、みじんもなかった。
もともと明るい姉弟だったのだ。
誰にも覚られない胸の奥で、彼女は弟との対話をずっと続けてゆくにしても。
それは明るい明日を生きるための糧として。
少年の魂も案外、あの暗く仕切った部屋にもどってきて、
姉が愛されるさまをひそかにデッサンしていったかもしれなかった。