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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ありついた処女の生き血

2009年01月19日(Mon) 19:42:48

あの・・・
え・・・?
ちょっとのあいだ、ガマンして。
互いにそう、言い交わし合って。
白のタイトスカートから伸びた足許に。
闇から迫る唇が、忍び寄る。
力いっぱい、抑えつけたボクの掌の下。
お行儀よく揃えられた、流れるような脚線美。
その上をなぞるようにして、吸いつけられた唇は。
つややかな光沢をてかてかとよぎらせる肌色のストッキングを、
見るも無慙に、噛み破って。
ちゅうちゅう。ちゅうちゅう。
不気味に機械的な、規則正しい音を洩らしながら。
ボクの婚約者の生き血を、吸い取っていった。

きゃああああっ。
きっと彼女は、そんなふうに。
華やかな悲鳴を、闇に散らしていったはず。
それなのに。
ボクの耳にただ、残っているのは。
ひざ小僧を抑えつけたボクの手を痛がった、ひそやかな囁きだけ。
痛い。
え・・・?
あなたの、手。
ひっそりと、眉をひそめて。
うつむき加減に、身を寄せてきて。
由貴子さんはそんなふうに、小声で囁いたのだった。

慕うように。
もてあそぶように。
黒マントを羽織ったけだものは。
由貴子さんのスーツ姿に襲いかかる。
首筋を噛まれ、
おくれ毛をあやした胸元を噛まれ、
長袖のブラウスごしに、二の腕を噛まれていって。
それでも慕い寄せられてくる唇を、よけることもできないで。
ポニーテールの黒髪を、振り乱して。
かきのけられた白ブラウスの襟首から、
余裕たっぷりの牙を、もういちど忍び込まされてゆく。
ぺたんと尻もちをついて。
脚をくの字に、折り曲げて。
折り曲げた脚を、ストッキングのうえから、なぶり抜かれて。
どこか遠くから聞こえる、きゃあきゃあという叫び声。
必死の悲鳴はなぜか、くすぐったげにはしゃぎきっているようにしか、耳に響かない。

身体の随所から吸い取られてゆく血の味に。
ひどく魅せられてしまったように。
吸血鬼はなおも、彼女の素肌を恋い慕う。
処女の生き血だ。久しぶりに、ありついた。
柏木家の嫁として、ふさわしいお嬢さんだ・・・
まるでうわ言のように、賞讃のことばを呟きながら。
わたしの許婚をさいなんでゆく、魔性の手。指。爪の先・・・

ブラウス越しのまさぐりに。
由貴子さんは柳眉をピリピリと逆立てて。
拒みながら。悶えながら・・・
男の欲求に屈して、ためらいながらも応えはじめてゆく。
彼女の手が、彼の手を取って。
はだけたブラウスの襟首の奥に導いたとき。
彼女の脚が、からみついてくる唇に、吸いやすいように角度を変えたとき。
電流のように走ったあの衝動は、いったいなんだったのだろう?


あとがき
婚約者の由貴子さんが初めて襲われるシーンは、初期作品に登場します。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-82.html

村からのレポート ~いんたびゅう 婚約者を捧げた男~

2008年03月26日(Wed) 07:25:09

                          ~プロローグ~
村を訪れてから数ヶ月後。
私はある男性と親しくなり、彼の過去を聞きだすことに成功した。
吸血鬼が棲む・・・といわれるこの村で、おもてむき隠蔽されたその存在のかすかな痕跡が、そこに残されていた。
彼がぽつりぽつりと語ったのは、婚約者の女性を自らともなって、吸血鬼の家に伴ったときのこと。
旧知の仲である彼に未来の花嫁を引き合わせ、その場で生き血を提供した・・・というのである。
衝撃的な内容の思い出話をむしろ淡々と語る彼の横顔に、ひそかな戦慄を覚えたひと刻であった。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-1190.html

                       ~二回目のインタビュー~

前回のインタビューを終えたあと、私は自分の犯した初歩的な手落ちに気がつき、しばし愕然としていた。
というのも、せっかくK氏という無二のクライアントを見出しながら、肝心のことを、それも数多く聞き落としてしまっていたからなのだ。
村の住民たちへの取材をするときしばしば思い知らされたのは、当地におけるよそ者に対する異常なまでの警戒心であった。
そう、彼らは都会からの興味本位な侵入者と見なされた私に対して、
  問われぬことは、答えない。
・・・という、きわめて隠微でかつ目に見えない防衛線を、強固に張り巡らしていたのである。
比較的友好的に接してくれたK氏ですらその例外ではないという事実に、私はしばし埋め切れないギャップの大きさに呆然としたのであった。
K氏との再度の対談をもうける機会は、意外に早く訪れた。
私は彼との初会談の数日後、再び彼の自宅を訪ねる許しを得たのである。
以下はそのときのもよう・・・

問  
先日はいろいろと・・・


いえ、いえ。お役に立てませんで。
貴方のご質問のおかげで、いままで忘れかけてきた懐かしいことどもを、いろいろと思い出しました。
つづけてもよろしいですか?


ぜひ、お願いします。


まだ母や妹のことについて語るほど、心の用意が出来ていませんので・・・
そちらのほうは、必要最小限のお話にとどめさせてもらいます。

こうして私たちの対談は、彼の意向に反する問いには答えないでよいという同意のもとに再開された。


破れたストッキングを穿いたままの未来の奥様を連れて、お邸を辞去されたのでしたね?


ええ。未来のK夫人が足許にストッキングの伝線を滲ませたまま、私に伴われてお邸から出てきた・・・といううわさは、たった一日で街じゅうに広まってしまいました。
覚悟していた・・・とはいえ、くすぐったかったですね。


あからさまに、誰かに言われた?


ええ。
都会育ちの婚約者を連れ帰ったということで、親類の者たちがお祝いに来てくれたのですが。
私が彼女を連れてお邸から出るときに、彼女が裂けたストッキングに血をしたたらせていたということを知らないものは、だれ一人いませんでした。
みんな口々に、おめでとうって、それは意味ありげに言うのです。
たんに結婚する・・・というだけではなくて、
別世界からきた彼女が私たちとおなじ秘密を共有することに同意を与えた・・・ということが、身内のなかでは深い意味を持ったのです。
彼女は、首筋にくっきりと、あのときの痕を残していました。
けれどもみんな、まるでそんなものは目に入らないかのように、ごく自然に彼女に接してくれるのです。
それでも、
  マア、柔ラカソウナ肌ヲシテイラッシャルノネ。
とか、
  コノ街、変ワッテイルトオ思イデショウ?
とか、わかるものにはわかる・・・ような口ぶりで。
こちらは気恥ずかしさを募らせるばかりでしたね。


奥様はどんな応対を?


ええ、びっくりするほど、よどみなく。
お互いに、あのときのことには触れようともしないのですが。
  マダキレイナウチニコチラニ伺エテ、ヨカッタデス。
とか、
  イイエ・・・変ワッテイルダナンテ。トテモ住ミ心地ノヨサソウナ処デスネ
とか、
やっぱりわかるものにだけわかるような答えを返してゆくのですよ。


未来の花嫁の処女の生き血を吸われてしまう・・・というのは、どんな気分のするものですか?


けっして悪いものではないのですよ。
彼女を共有することで、彼との近い関係を実感しました。
共犯者みたいな、奇妙な一体感を覚えましたね。
彼女の血を通して、彼と特別なつながりができたみたいな・・・


当時、貴方はもう、半吸血鬼だったのですよね?彼女の血を吸ったりしなかったのですか?


それは彼から禁じられていました。
ほんのしばらくのことであっても、彼女のことを独り占めにしたかったのでしょう。
そうなんです。未来の花嫁を捧げるときは・・・いっとき独り占めにされてしまうことになっているのですよ。
花嫁を共有することで、彼と家との交わりを深めるために。
まあ・・・かなり妬けましたが。(苦笑)


彼女の血をはじめて吸ったのは?


それでも・・・内緒でこっそり、吸わせてくれたのですよ。
ええもちろん。彼女のほうから・・・
彼の支配を受けるようになってから、ひと月ちかく経ったときのことでした。
支配をされても、貴方を嫌いになったわけではない・・・という、意思表示のようで。
生理的な渇きが癒えた・・・というよりも、変わらずに受け入れられているということに安堵を覚えました。

もっとも、あとから知ったことですが、彼にそうするようにと指示を受けていたらしいのです。
すこし、吸わせてやるように・・・って。
許可するまで、彼女の血を口にする権利はきみにはない・・・と言われまして。
いつか、適当と認められたときに必ず許可してやるからって。
でもそれが、彼女を経由したものになるとは思っていませんでした。
すべてが彼の手のひらのうえの出来事だったのですね。


どれくらいの頻度で、婚約者の血を要求されたのですか?


週に2、3日という約束でした。
けれども、彼女はほぼ毎日、お邸通いをつづけていました。
ときおり蒼い顔していましたが。それでもぴんぴんしていましたよ。
若かったんですね。(笑)
吸われる量はごくわずかだったのですが、どちらかというと彼女の服を汚すことに、彼は興味を覚えたようでした。
お邸を出てくる彼女を迎えるのは私の役目だったのですが、よくブラウスを血でべったりと濡らしたりしていて・・・
改めて、支配されちゃっているんだなあと実感しました。


やっぱり、ストッキングに裂け目を滲ませて?


そうそう。(笑)
わたしとのデートで手を振って別れると、彼女は私が視界から消えたあたりでまわれ右をして、お邸に足を向けたんです。
わたしはそのあとをついていきまして。(笑)
出入りは自由に許可されていましたので、あがりこんで、隣室から未来の花嫁が吸血鬼の餌食になるところをかいま見たんです。


嫉妬はしなかった?


そりゃあ、もう。(笑)
股間が痛いほどずきずきして、まともに立っていられないくらいでした。
彼女、自分の愛用のストッキングをわたしに貸してくれていたんですが。
ズボンの下にそれを穿いて、伺うんです。
それが、太ももを縛りつけるみたいに、ぴっちりと張り詰めて、
皮膚にじわーっと、妖しい疼きがしみ込んでくる感じがしました。
いけない光景を覗き見している彼女が、わたしを咎め苛めているような錯覚を覚えました。
薄手のナイロンが、私の理性を縛りつけていたのでしょうか。


処女の生き血を吸われつづけた?


ええ、もう、もったいないくらい・・・


もったいない?


さいしょはね、たいせつな彼女の血が喪われてしまうことへのもったいなさだったのですが。
そのうちニュアンスが、変わってきたのですよ。
考えてみれば、人の生き血を数百年間も吸いつづけてきた彼のことですから、
「もったいないくらいにありがたい」というやつです。
むしろ、彼にとって彼女の血はいままででなん番めの味なのかな?とか。
妙な想像をして、悦に入ったりしていました。(笑)


別れ話とかは起きなかった?


だいじょうぶでしたよ。
むしろ・・・村で挙げることになった祝言の席に招く彼女のお母さんやお友だちを、村の人たちにどんなふうに紹介しようかとか。
いけない相談に熱中していました。(笑)


では、彼女は処女のまま、めでたくお嫁入りしたわけですか?


処女でしたよ。挙式直前まではね。(苦笑)
ある晩、私は母に呼ばれまして。
今夜吸血鬼さんが由貴子さんに夜這いをかけるから、あなたは黙ってみていなさいって、言われたんです。
わたしがすんなりとうなずくまで、怖い顔をしていました。
彼は夜中にやって来て。
母も彼女も、昼間みたいに着飾っていて。
母はオードブルだといいながら、自分の血を彼に提供していました。
珍しくてかてか光る肌色のストッキングを脚に通していて、「貴方たちへのはなむけです」って、
目のまえで噛み破らせて。
お手本ですよ、って、彼女に向けた視線が「もう逃げられないわよ」って言っているように窺えました。
女はいざとなると、怖いですよね・・・
けっきょく由貴子さんは、彼に連れられて用意された別室に連れ込まれていきました。
彼が後ろ手にしてドアを閉める間際。
肩に流れた彼女の黒髪がゆさっと揺れたのと、
彼女の細い腰を彼の腕がグッと引き寄せたのとが、いまでも目に灼きついています。
ひと晩じゅう、ドア越しに声だけ聞かされました。
母はお茶を淹れてくれましたが、もちろんお茶どころじゃありません。(笑)
もう・・・悶々としていましたね。^^;
ドアひとつ向こうで、未来の花嫁が犯されているわけですから。
処女でしたからねぇ・・・どんなふうにされちゃうんだろうって。もう気が気じゃなくって。
そんな私を見透かすように、母はドアに耳をつけて、
「まー、あんなに取り乱しちゃって。かわいいわね」なんて、やっているわけです。
こうしてわたしの未来の花嫁は、めでたく彼のところにお嫁入りしたんです。


そのときも・・・別れるようなことはお考えにならなかったわけですね?


村のしきたりですから、通過儀礼みたいなものですね。
ですからもちろん、別れるなんて発想はそもそもないのですよ。
それにしても・・・刺激的すぎる経験ですから。
あまり若いうちに、結婚なんて考えるものではありませんねぇ。(笑)

―――こうして彼は、時おり笑みさえ交えながら、婚約者の処女喪失のようすを語っていました。
むしろ、自慢げに、誇らしげに。


翌朝は?


母はさっさと寝んでしまいましたが、私はもちろんまんじりともしませんで。
ずっとドアごしに張り付いていましたっけ。(^^ゞ
呻き声は断続的に、夜明けごろまでつづきましたから。
声が絶えたのは、もう明るくなり始めたころでした。
しばしソファでまどろんで、台所のほうから朝の支度をしている物音で目が覚めて。
彼女はなにごともなかったように、母と二人で朝ご飯の用意をしていました。


どんなふうに、声かけたんですか?


さすがにまともには、彼女の顔を見れなかったですね。
彼女はこぎれいなワンピース姿で、いつもきちっと束ねている髪の毛をほどいたまま、肩まで流していたんですが。
肩のあたりでユサユサ揺れる髪の毛を見ても、
こぎれいなワンピースの襟首からちらっと覗いた胸元を覗いても。
もー!夕べはなにがあったんだ!?って状態で・・・
お茶碗を並べに行き来するたびに、ワンピースのすそがふわふわするのが気になって気になって。
太ももの奥を汚されちゃったのを、知っているわけですからね。
そのうち母が、彼女に声かけたんです。
「由貴子さんおめでとう。よくがんばったわね」って。


彼女はなんて応えていましたか?


(忍び笑い・・・)
さすがにちょっと、口ごもっていまして。
私のほうを、ちらっと盗み見て、
イタズラっぽくほほ笑みながら、
「衝撃的・・・でしたっ」ですって。


ゾクゾクした?


ええ・・・もうとっても。

いんたびゅう ~婚約者を紹介した男~

2007年10月10日(Wed) 08:02:38

土俗学の研究のためにこの村に移り住んで、はや数年。
さいしょは心を閉ざしてなにも教えてくれなかった村人たちも、だんだんと打ち解けてきた。
なによりも。
現地に溶け込まなければ、私の作業ははかばかしい成果をうまないのだ。
この村に息づく、妖しい習俗。
そのひとつに、花嫁の処女譲り・・・と呼ばれる行事が存在すると確信できるようになったのは。
この数ヶ月のことだった。
そして今回やっと・・・村に棲む吸血鬼に、自らの花嫁をゆだねた男性から話を聴取することができた。
このレポートを、私はまとめきることができるのだろうか?
むしろフィクションとして・・・お茶を濁してしまいたい思いもあるのだが。
以下はその男性~仮にKさんとしておこう~へのインタビューである。


花嫁を迎えたのは、どこからか。どういう経緯で結ばれたのか


本人を特定されてしまうのでお答えしにくい質問なのですが。
さしさわりのない範囲で申し上げると、都会から迎えました。
都会のお嬢さんを当地の嫁に迎えるのは・・・地元の場合よりも大変なのですよ。(笑)


大変・・・というと?


当地で育った男女は、村のならわしをよく心得ています。
娘たちは母親にいい含められて、女学生のうちから吸血鬼に首筋をゆだねるようになっていますし、
男の子たちも、彼女や許婚がそうすることに嫉妬はしても、決してじゃまをするような無粋なまねはしないよう躾けられていますから。
でも・・・外部の子女となると、話は別です。
なにごとも一から・・・ですからね。


貴方のばあいは・・・


さいしょによくいい含めておくべきだったのですが・・・
やはりその勇気はありませんでした。
ですので、事情を打ち明けることなく、彼女をお邸に伴ったのです。


吸血鬼のお邸・・・ですね?


はい。


ご両親には、話したのですか


両親はもちろん、承知でした。
むしろそうすることが、我が家にとっての名誉になるとされていたので・・・


名誉と言うと・・・?


処女のうちに差し出すのと、人妻になってから・・・というのとでは違うのです。
もちろんどちらも尊い行為には違いないのですが・・・
一般にこの村では、良い家ほど子女や嫁に迎える女性を、処女のうちに吸血鬼に差し出します。
処女の生き血を彼らが好んでいることは、よく御存知ですよね?
ですから、家族の血で、彼らの想いを満たしてやるのですよ。


婚約者には、お邸のことをどう説明したのですか


代々お世話になっている、有力者の家系とだけ説明しました。


ご結婚前の挨拶伺い・・・というていにしたのですね。


そうです。


どんなふうに引き合わせたのですか


ごくふつうに、礼儀正しい挨拶を交わしましたよ。(笑)
そのうえで、二階の奥まった部屋に彼女を伴ったのです。
彼女と私は、隣り合わせにベンチに腰を下ろしました。
これが慣れると、向かい合わせになるのです。
そのほうが、吸われるところをよく見届けることができますから・・・
でも、初めてだったので、彼女に寄り添うようにしたのです。


彼女が怯えるから・・・?


それもありますし・・・
もうひとつには、介添えをしなくちゃならないので・・・


介添え・・・というと・・・?


吸血鬼の手助けです。
彼女はなにも知らないので、抵抗するとうまく吸血を成就できないかもしれません。
事情を知っている村人たちのあいだでも、娘を捧げる時には母親が介添えするんですよ。
さきに血を吸われて、娘にお手本を示すんです。


貴方のばあいは・・・?


男の血は、いまいちらしいのですが。(笑)
彼は私の血を、子どもの時分から吸いつけていましてね。
それでまず、用足しにかこつけて彼女を残して座をはずしたんです。


彼女を襲わせるために?


いえ、彼ももてなしの用意をする・・・といって席をはずして、
隣室で私は彼のまえ、ズボンをたくし上げて、脚を咬ませたんです。
血を吸われて正気を喪った・・・というていをとりつくろうのと、もうひとつお目当てがあったんです。
村に来た日に彼女がストッキングを見て、彼が興味を持ちまして。
ぜひ彼女のストッキングを悪戯してみたい・・・と言い出したのです。


さりげなくプロポーズ・・・というわけですね?


よくお分かりですね。(笑)
外部のかたなのに・・・
そのとおりです。
答えは・・・決まっていますね?(含み笑う)
あらかじめ彼女に内緒で、彼女のストッキングを一足失敬しまして。
それをズボンの下に履いて行ったんです。


彼女のストッキングを履いて、脚を咬ませた・・・?


ええ。味見をさせてやろうと思って。(笑)


いやらしいですね。(笑)


ええ。(笑)


それからいよいよお目当ての・・・ですね?


ええ。(笑)
私は彼より先に彼女のもとに戻りまして。
はずまない会話をしているうちに、彼はイスの下にもぐり込んで、後ろから彼女の脚に抱きついたんです。
こんなふうに・・・
(足首とひざ小僧を抑えつけ、ふくらはぎに口を近寄せるまねをする)


彼女の反応は・・・?


思ったよりも、小さな声でした。
アッ・・・って叫んで、戸惑ったように足許を見おろして。
咎めるように私を見上げたときには、もう目がうるんでいました。


泣いていた?


いえ、酔っていたんですね。


そんなに毒のまわりが速いのですか?


ええ・・・
足許からちゅ~っ・・・って、音が洩れて、それが耳に届いたときにはもうかかっています。
ばらされちゃった・・・とも言うんですが。
それこそ、理性をばらされちゃう。


Kさんはそのとき、どうしていましたか?


黙ってスカートの上に手を置いて、彼女のひざ小僧を抑えつけていました。(笑)


おやおや。(笑)
それが、介添えというわけですね?


ええ・・・


彼女は無抵抗で、血を吸われちゃったんですね?


そうですね。
もともと良家のお嬢さんで、人前で取り乱すのを潔しとしない躾を受けていましたので。
ひとしきり彼が血を吸ったあと、さすがに睨まれましたが。(苦笑)


なにか、仰っていましたか?


痛い・・・と。


咬まれたわけですからね。


いえ、ひざ小僧を抑えた私の手が。(苦笑)


おやおや。(笑)


思わず、力を込めちゃいまして・・・(照れ笑い)
でもそれくらい、冷静だったんですよ。彼女。(少し得意げ)
彼女が落ち着くと、私は黙ってズボンをたくし上げて、さっき咬まれた足許を見せてやりました。
咬まれたところでストッキングが破けて、血が滲んでいて・・・
それを彼女、吸い込まれるような目つきで、うっとりと見入っているんです。
かかったな。かかってしまったな・・・って、思いました。


もうあと戻りはできない、と。


そうですね。私のようにふつうの人間と同じに生活している半吸血鬼は、やっぱり半分は人間なんです。
吸血鬼に若い女の血をあてがうために結婚相手を紹介する・・・などというおぞましい行為には、やっぱり躊躇を感じますし、
最愛の女性の素肌にほかの男の唇を許す・・・ということにも、こだわりを感じます。
逆に、そうした躊躇とか羞恥心とかがあるから、貴重なもてなしになるということなのです。


あえなく?吸血鬼の術中に堕ちてしまったわけですが。
どんなご気分でしたか?


敗北感、無力感・・・そういったものも、むろんありました。
けれども私自身、血を吸われて酔わされてしまっていましたので。
シビアに感じることはありませんでした。
むしろ、心地よい倦怠・・・というのでしょうか?
理性を惑わせた彼女が、とてもかわいくて・・・
酔った女性が素敵に見えるのと、違うのかどうか。
でも彼のほうには、そう見えたはずです。
酔わせて堕とす・・・というのが、その日の目的なのですから・・・


酔わされてしまった?


ええ・・・
彼女もしっかりした女性なので、あられもなくなることはありませんでしたが、あるていどは。
私が傷口を見せるためにたくし上げたズボンを引き降ろし、もういっぽうのすそをめくると、黙って肩をすくめました。
悪戯っぽく、こんなふうに・・・
私は目交ぜで彼女に応えると、もういっぽうのズボンのすそをたくし上げました。
まるでお手本を見せるように、もういちどヤツに咬ませたのです。彼女のまえで。
痛くないの?
って、訊かれました。
慣れればキモチいいんだよ、って答えてやると。
そうかもね。
そんな返事がかえってきて・・・さすがにすこし、ぎくりとしました。
わたしのやつを、取ったのね?とも言われました。
私が履いたのは黒のストッキングだったので、ズボンの下に履いている限りは気づかれなかったのですが、
わざと咬ませた・・・って、察しをつけたようです。
けれどももうそれ以上、彼女はわたしを咎めようとしませんでした。
私がふくらはぎを両方とも咬ませてしまうと、彼女も私にならって、もう片方のふくらはぎを、そっと差し出して行ったのです。


ご自分のほうから、脚を差し出されたのですね?


ええ。


どんなお気持ちでしたか?


そりゃ、妬けましたよ~。(苦笑)
目のまえで彼女のストッキング破かれちゃうんですから・・・
お邸まで歩く道々、盗み見ていたのですが。
彼女の穿いていた肌色のストッキングは、陽の光を照り返しててかてか輝いていました。
若々しいふくらはぎにぴったりと、貼りついたように密着した薄手のナイロン・・・つい、目が行ってしまいまして。
みすみす、この脚を咬ませちゃうのか。なんてもったいない・・・なんて妄想渦巻かせていたのですから・・・
恥ずかしいことなのですが・・・
ヒルみたいに吸いついた唇の下で、彼女のストッキングがチリチリに裂け目を広げてゆくのを見つめているうちに、
もう、耐えられないほどゾクゾクするような昂ぶりを覚えました。
ひとしきり彼女の血を吸い取ると、ヤツは顔をあげて私を見上げて言ったのです。
  間違いなく、処女の生き血だ。
  きみのフィアンセの純潔に、乾杯・・・
と。


婚約者が処女だと言われて、どんなお気持ちでしたか?


素直に嬉しかったです。(笑)
自分の妻になる女性が、清い身体だったと証明されたわけですから・・・
でも同時に思ってしまったのは。
彼に処女の生き血を提供できたという、半吸血鬼としての満足感だったのです。
彼が彼女にとりついて、ちゅうちゅうと美味そうに音を立てながら血を啜るのを見て、えもいわれぬ歓びを感じたのは・・・偽らざる事実です。
まぁ、美酒に耽るのは、彼だけでしたが・・・


”お相伴”には、あずからなかったの?


たしかに・・・慣れている男女ですと、彼女の血を吸わせた後で彼氏がお相伴に預りまして、
三人ではしゃぎながら愉しみに耽る・・・ということも大いにあるんですがね。
私のときは・・・それこそなんとなく、躊躇してしまって。
それくらい、神秘的な雰囲気に満たされていました。
彼女は眉をひそめながらも黙って脚を差し出して、
彼は黙々と唇を吸いつけて、ストッキングを破ってゆく。
ツヤツヤした光沢のある柔らかそうな薄手のナイロンは、頼りなげにねじれて、ゆがんで、ずり落ちて・・・
悔しいやら、うらやましいやら、ゾクゾクするやら・・・
恥ずかしいのですが、ただの男として、淑女に対する辱めから目を離せなくなってしまったのです。

まつ毛がかすかに、ピリピリと震えていましたから。
高貴な礼装に辱めを受けるのは、やはり彼女の本意ではなかったのでしょう。
けれども客人を悦ばせるため、あえて彼女は脚を引こうとしませんでした。
キゼンとしていたね・・・って、あとから彼にからかわれましたが。
目のまえでそれを聞いていた彼女は、もうとっくに彼と仲良くなったあとだったのですが、
  輸血のつもりだったのですよ。
薄っすら笑いながら、洩らしていましたっけ。
彼女、看護婦の経験がありましたからね。(笑)


首筋は、咬まれなかったの?


いえいえ、もちろんさいごの仕上げは・・・ご指摘のとおり、首筋です。
軽い貧血になったのでしょう。
彼女が額に軽く手をやると、それで察しをつけた彼のほうから、
  もうすこしで、終わりにするからね。
って、いたわるように、囁きまして。
姿勢を崩しかけた彼女のスーツ姿に、力を込めていって。
そのままじゅうたんに、押し倒したのです。
私は彼女の耳もとに、かがみ込んで。
これから首筋を吸うから・・・って囁きましたら、かすかに頷いていました。
むしろ彼の吸い良いように、おとがいを仰のけて、ほっそりとした白い首筋を伸べたのです。
素肌の白さが、紅いじゅうたんによく映えていましたっけ。
あの紅さ・・・過去に流された乙女たちの血潮の色なのですよ。
彼は彼女を仰のけさせてしまうと、いままで以上に強く、がぶり!と食いついてしまったのですが。
彼女は「ァ・・・」と、ちいさく声を洩らしただけで。
あとは唯々諾々、ちゅうちゅう、ちゅうちゅう、血を吸い取られてしまったのです。


吸血はどれくらい、つづいたのですか?


ええ、もう、それは・・・
彼女が征服されてゆくあいだ、私はずっとそのようすを見届けさせられていたのですが。
それは長く、感じましたね。
彼女、だんだん蒼ざめてしまったのですが。
でも、不健康な鉛色ではなくて、肌が透き通ってゆくような蒼さでした。
ああ・・・ふたりは私の思いの及ばぬ刻を共有してしまったのです。
そうですね・・・時間にしたら、一時間弱でしょうか?
お昼すぎに、お邪魔して。
暗くなる前には辞去しましたから・・・


彼女にあとで、叱られませんでした?


たぶらかされちゃったあとですからね。(苦笑)
わりと、サバサバしていました。
破けたストッキング、脱いじゃって。
彼にあげても、かまわない?って、振り返られて。
ああ、いいとも・・・って、言ったんですが。
ほんとうは、履いていたストッキングを手渡すのって、深い意味があるのですよ。
それでも、ほとんど躊躇なく、お渡ししてしまって・・・
ノーストッキングでいるのは失礼だからって、
バッグから履き替えを取り出して、(ええ、破かれたのとおなじブランドの、肌色のやつでした)、
私たちの目の前で、脚に通していって。
そのうえもういちど、脚を伸べて、咬ませちゃって。
ストッキングを咬み破られたまま、お宅を失礼したのです。
見せびらかして、歩きたいわ・・・って、囁かれて。
ぎょっとして振り返ったら、薄っすらと笑み返されて。
でも、門を出るとき、ひどいわねって軽く睨まれましたよ。
でもあれは・・・
  コンナオ愉シミガアルノナラ、ドウシテ教エテクダサラナカッタノ?
という非難なのですよ。
彼女、チャーミングに口を尖らせて。
このまま帰るから・・・って、もういちど、ストッキングの破けた脚を、見せつけられて。
ふたり、何事もなかったように・・・腕を組んで帰り道を急いだのでした。


ドキドキされて、冷静さを失いかねないご経験だったと思いますが・・・
よく落ち着いて、お相手をされたのですね。


ええ・・・まえも申し上げましたように、うちは代々吸血鬼とは親しい家柄ですから。
若い女の血を欲しがる彼にはじめて引き合わせたのは、母でした。
妹のことも、中学にあがったときに、彼の邸に連れて行ったのは私です。
父はそういうことが、苦手だったようなので・・・
母と妹。ふたりながら、彼の情婦にされてしまっていたので。
花嫁の情夫に迎えるべき男性は、彼しかいなかったと思います。
彼女は母の介添えで、彼の性欲に奉仕するために処女を捧げましたが、
惜しい・・・とはふしぎに、思いませんでした。
くすぐったいような嫉妬のほかに、むしろ誇らしい気分が交じっていました。
あれは・・・母を初めて襲わせたとき。
ワンピース姿の母を捕まえた彼が母のうなじを吸いながら、旨そうに血を啜るのを見たときに覚えたのと、まったくおなじ感情だったと思います。


長い時間、貴重な体験をありがとうございます


いえいえ・・・
つたないお話をきいていだき、こちらこそお礼申し上げます。

ーインタビュー終わりー

奥様は最初からさいごまで、物陰でお聞きになっていたようだった。
そして玄関先で失礼する私に、イタズラっぽい笑み交じりに語ってくれた。

そう。あのときはびっくり、いたしましたわ。
だっていきなり、咬まれちゃうんですもの。
ストッキングは裂けるし、彼の手は痛いし・・・困りました。
でも、傷口から血が抜けてゆくのが、くすぐったくって。
気がついたら、ころころ笑いこけてしまっていたんです。
いい若い娘が、お行儀のわるい・・・
自分でもそう、思いましたけど。
いまは堕としていただけて、感謝しているんです。
だって、魅力があったから、襲ってくださったんですし。
愛していたから、わたしのあわてるところ、見たがったんですから。
えっ?処女を喪ったとき?
ええ・・・主人は壁一枚へだてたお隣で、まんじりともしなで夜明かししたのですよ。
いまごろどんなにやきもきしているかと思うと、初めての痛さも・・・ゾクゾクするくらいのキモチよさに、すりかわっちゃったんですから。


あとがき
えらく長くなっちゃいました。
ここまで読んだ人がいたとしたら、とっくにお気づきと思いますが。
これは由貴子さんの初体験物語・・・なのですね。^^

善意の献血

2007年05月30日(Wed) 08:13:59

善意の献血、ですよね?
お相手は、貴方のお身内のかた・・・なのですよね?
婚約者の由貴子さんは。
いつもの翳りのない笑みを、透きとおった白い頬にたたえながら。
たたみかけるように、こちらの顔を、覗き込んでくる。
初めてお伺いしたときに、破られてしまいましたわね?
白のストッキング。
直接素肌を触れまいという、あのかたの礼儀正しいご配慮だったのですね?
それでも・・・お気に召していただいたのかしら?
ほかの方のものよりも、お粗末じゃなかったかしら?
慎み深い恥じらいをよぎらせながら。
きょうもきみは、お邸へと足を向ける。
その脚にまとわれているのは。
薄っすらと透きとおる、なまめかしい黒のストッキング。
呼び寄せられるたび。
脚に通してゆくストッキングがいっそう薄く、なまめかしくなっていくように見えるのは。
きっと、錯覚ではないはず。
だって。
息の触れ合うまでに抱き寄せられたきみは。
つとめて肌を近寄せまい・・・と振舞っているはずの彼に、うなじまで吸わせてしまっているじゃないか。
長い黒髪に秘めた咬み痕。
ボクは気づいているんだよ。
秘められた逢瀬のあいだに交わされる、唇と唇。
熱い口づけのあと、絡み合うエロチックな目線と目線。
そんなあとはきまって、彼から報せが届くのだ。
今夜もきみのフィアンセから、生き血をいただいた。ありがとう。
今宵も失敬、してしまったよ。ごちそうさま。
どこまで、許しているのだ?
なにを、されて戻ってくるのだ?
懊悩するボクの横顔を。どこまでも透きとおった笑みをたたえながら。
愉しげに、にこやかに見つめつづけるきみ・・・

堕とされてゆく礼節

2007年05月09日(Wed) 08:05:39

わたしの由貴子さんは、白一色のスーツに身を包んでいて。
薄暗がりの支配する部屋のなか、立ったまま抱きすくめられている。
スポットライトのように射し込む光のなか。
やつの腕のなか、由貴子さんはウットリと、薄目をあけて。
まつ毛をナーバスに、ピリピリとふるわせながら。
処女の生き血を、捧げてゆく。
濡れた唇をなかば開いて。
うつろな目線を、闇の彼方に惑わせて。
ひっそりと吸血に耽る黒影に、わが身を惜しげもなく浸している。
ちぅちぅ・・・ちぅちぅ・・・
きゅうっ・・・きゅうっ・・・ごくり。
人をくったような、生々しい吸血の音を響かせながら。
穢れを知らなかった純潔な血潮は、飢えた唇に含まれて、渇いた喉に散らされてゆく。
濃艶な液体に秘められた真情と熱情は。
どこまでやつに、伝わっているのだろう?
やつは夜ごと、わたしの婚約者を狙って、
あるときは帰り道を待ち伏せ、
あるときは公然と迎えを寄越しさえして。
ひたすら、都会育ちのお嬢さんの血潮で、ひからびかけた血管をうるおそうとする。

アラ、いけませんわ。
べつの悪戯が、始まったらしい。
やつはいつの間にか、由貴子さんの足許にかがみ込んでいる。
お目当ては、彼女の穿いているストッキング。
薄明かりに浮かび上がる、スカートの下は。
薄墨色のナイロンに染められた白い脛が、なまめかしく透きとおっている。
やつはそのうえから、唇を寄せて。
ぴったりと這わせて、よじれさせてゆく。
いけませんわ。お行儀のわるい・・・
秘めやかな声で。ひっそりとたしなめる由貴子さんも。
もはや、彼の悪戯の共犯者。
見せびらかすように、脚をぶらぶらさせながら。
きゃっ。だめ・・・
だなんて。
甘い声を、薄い闇にはしたなく響かせて。
避けるそぶり。拒むふり。
ことさら厭わしげに、眉をひそめ、まつ毛をふるわせながら。
涙の痕に似た伝線を、つつっとあざやかに、滲ませてゆく・・・

アラ。なんにもされて、いませんわ・・・

2007年05月09日(Wed) 07:26:42

問い詰めるたび、由貴子さんは。
歯並びのよい前歯を、薄い唇から薄っすらと滲ませながら。
アラ。なんにもされて、いませんわ。
って。
透きとおるような白い頬を、謎めいた輝きに染めている。
私はいつも、
そうだね。きみの身持ちのよさを信じているよ、って。
そう応えてあげるのだけれど。
そのじつちゃんと、聞いてしまっているのだ。
ほかならぬ、さっききみが逢ってきたお相手から。

きょうは、スカートのなかに射精してしまうよ。
きみの由貴子の、スカートの裏地を濡らしてみたくてね。
意地悪くほほ笑むあいつは、わたしのツボをちゃんと心得ていて。
私の肩から二の腕を、なぞるように撫でつけながら。
深く落ち着いた、痺れるような声色で。
けれども、決して拒絶を許さない、冷ややかに澄み通った語調をもって。
未来の花嫁に不埒を加える許可を、しっかりねだり取ってしまっている。
いつも、そんなふうにして。
あの夏の日の午後、彼女を初めて引き合わせたときに。
純白のブラウスに、持ち主の血をしたたらせる悪戯も。
べつの機会に、黒のストッキングを、蜘蛛の巣みたいになるまで噛み破ってしまう愉しみも。
嬉々としながら、チャンスを与え、許しつづけてしまっている。

知っているんだ。
見透かせるんだ。
軽やかな純白のそのスカートの、裏を見せて御覧。
指先でつまみあげることもできないほどに。
濡らされてきたんだろう?
ストッキングに、ひきつれひとつないのも。
お邸で、新しいのに穿き替えてきたからだろう?
だって。
きみがお邸に穿いていったやつは。
私がいま。ポケットの奥深く、握り締めているのだから。
蜘蛛の巣のように破けたふくらはぎを。
濁った粘液を妖しくぬらつかされた太もものあたりを。
あいつはひどく得意げに、私にみせびらかしていったのだから・・・


あとがき
まだ、処女のころの由貴子さんの挿話ですね。
あの、自宅での衝撃的な夜に。
彼女が嫁入り前の肌を、しんそこ穢されてしまうまでは。
純潔がだれに帰属するのか、定められてしまったあととはいえ、
ドキドキするほどの危うさを秘めていますから。

捧げられた処女たち

2007年05月06日(Sun) 07:39:16

父さんが母さんと結婚したのは、都会だったから。
あのかたに、母さんの処女を差し上げることができなかったのだよ。
男として、お前のことが羨ましい気がするね。
お前は、由貴子さんの処女を捧げたのだから。
父は母のいないとき。口癖のように、そんなささやきをもらしてゆく。
みすみす婚約者の処女を奪われてしまったわたしにたいするフォローなのか。
それとも、しんそこ羨ましく感じているのだろうか。
公園で知り合った吸血鬼に、母を引き合わせて、血を吸わせてしまったというのに。
父はそんなわたしを咎めるどころか、
よくやったね、と、ほめてくれていた。

妻や母親が吸血鬼に襲われて、
血を吸われたり、犯されてしまったりすることは。
村では名誉なこととされていて。
我が家も当然のように、特定の吸血鬼の出入りを受け容れていた。
処女のうちから恋人の血を吸わせたり、
花嫁の純潔を譲り渡したりすることは。
より特権的な意味合いを含んでいて。
由貴子さんが処女を散らしたあくる朝。
父はわたしを、おめでとうと祝福してくれた。
わざわざ出勤途中に立ち寄ってくれた父には、気恥ずかしくて。
ろくな応対はできなかったのだけれど。
母が初めて犯された晩に、わたしが手引きしたことを。
かれはしんそこ快く受け止めてくれているようだった。
祖母がどうしたかは、聞かされていなかったけれど。
女学生の時分、通学途中で黒のストッキングの脚を噛ませていたというから。
いかほどか、浅からぬえにしは結んでいたのだろう。
いまでも吸血鬼が彼女に深い感謝の念を捧げていることは。
初めて血を吸われたときから、感じていた。

にこやかに笑んでいる妹の傍らには、ひとりの青年。
義兄さんとおなじように、しちゃいましたよ。(^^ゞ
まるで少女のように紅い頬を、無邪気にほほ笑ませて。
彼は未来の妻をかえりみている。
制服姿の妹の足許は、ひざ下までぴっちり覆っているはずの白のハイソックスがちょっぴりずり落ちていて、
かすかに撥ねた泥と、上からしたたってきたらしい紅いものをひっそりと滲ませている。
もうそれ以上、なにも問うことはないのだろう。
彼と彼女は喜んで与え、
きっとあいつも、それをほくそ笑みながら、受け取ったのだろうから。

家柄向上術

2007年04月04日(Wed) 08:16:54

婚約、おめでとう。
由貴子さんは、素敵なお嬢さんのようだね。
きっと、好夫を幸せにしてくれるだろう。
きみも、この街に住みつづけるつもりなら。
わかっているだろうね?
うちは代々、あのかたに。妻を捧げる家柄なのだよ。

きみは、憶えているだろう?
母さんが初めて、あのひとに抱かれた夜を。
だってきみはあの晩に。
父さんががいないのを見計らって。
あのひとと母さんとのキューピッド役を買って出たくらいだから。
いや、いや。咎めているわけでは、ないのだよ。
きみがそうしてくれたこと。
ひとりの夫として、とても感謝しているのだから。
この家に生まれたものとして。
いつかは最愛の母さんを、だれかにゆだねなくちゃならないってわかっていたのだから。
きみはあのひとを、父さんの留守宅に引き入れて。
まだ若かった母さんの血を、もてなしてやったのだったね。
そしてそのあと、勢いづくで。
あのひとは、母さんを犯していかれたんだ。
きみは母さんに、子どもは早く寝るように、ってうながされて。
かんじんのところは、目にしていないようだけど。
あのあとあのひとは、夜勤をしていたわたしのところへやって来て。
母さんの脚から剥ぎ取ったストッキングを見せつけていったんだ。
もちろん、お礼申し上げたよ。心から。
これからも、家内をよろしくお願いしますって、頭を下げたんだ。

それからは、きみも良く知っているとおり。
あのひとを、母さんの愛人として、家庭に迎え入れて。
お気の向くまま、お気の済むまで。
母さんのことを、いつくしんでいただいたのだよ。
おかげで母さんは、いまでも齢を感じさせないくらい、若くて、魅力的で。
いまでも父さんは、昂ぶってしまうのだよ。
母さんが襲われて、首筋を吸われたり。
黒のストッキングを引き裂かれて、ずり降ろされてしまったり。
きゃあきゃあはしゃぎながら、スカートの奥を汚されていったり。
そのたびごとに・・・察しはつくよね?
いまきみが、由貴子さんがお誘いを受けるたびに流す白く濁った涙で、独り寝の褥を濡らしたものだよ。

さあ、こんどはいよいよ、きみの番。
そそうのないように、やりたまえ。
わたしは都会で結婚をしたから、
あのかたに母さんの処女を愉しんでいただくことができなかった。
でもきみは、まだ若いし・・・
由貴子さんは、処女だというし。
よかったね。ひとりの男として、祝福するよ。
いまのきみの境遇を。
処女を得るには、自分で犯すのがふつうなのだけど。
人に獲させて、見届ける。
そういう得かたも、あるのだって。
気がついたのは、自分の妻が貞節を汚されたあとだった。

街にはあのひとのファンがおおぜいいるけれど。
みんながみんな、愛する妻をあのひとに捧げているけれど。
ほんとうに、重んじてもらえるのは。
婚約中から、処女の生き血をあてがって。
さいごに、純潔さえも譲り渡してしまうご家庭なのだよ。
我が家もようやく・・・仲間入りできそうだね。


あとがき
おとーさんの、お勧めです
婚約祝いとともに、許婚の処女を吸血鬼に与えなさいって。
すごい家訓ですね・・・

お嫁入りまえだというのに・・・

2007年03月12日(Mon) 06:54:16

「お嫁入りまえだというのに・・・みだらなことを、覚えてしまいました」
はにかむように、ほほ笑みながら。
そんな大それたことを、さらりとこともなげに口にする。
婚約者の由貴子さんは、きょうも白いワンピースに身を包み、
小首をかしげながら、いつになく。
ちらちらとお行儀のわるく、わたしのことを盗み見るようにしている。

挙式を間近にひかえたあの晩以来。
ふた晩に一度は、お邸に招かれて。
なにをされて帰ってくるのか、問いただすまでもない。
雪のように白いうなじに、くっきりと。
赤黒い痕をふたつ、綺麗に滲ませて。
涼やかな笑みは、おどろおどろしい情交を、みごとなまでに押し隠している。
そんヴェールを、むぞうさに取りのけるようにして。
犯されているんです。あのかたに・・・
笑みさえたたえながら。そんな怖ろしいことを、口にしている。

困りましたね。
わたしはしんから困ったように。それでもほほ笑みをかえしながら、由貴子さんを見つめている。
目線を合わせる瞳は、夢見るような、うっとりとした光彩を帯びていて。
純潔の輝きを喪ったはずの肌は、いっそう艶を増したかのように輝いている。
おやめになることは、できそうにありませんね?
つとめて穏やかな問いかけに。
恋しいフィアンセは、謝罪するように。
意味ありげな、深い笑みをかえしてくる。

はまってしまいましたわ。
清楚な洋装を、襲われて。
薄く透き通るストッキングの脚を、はしたなくいたぶり尽くされて。
うら若い血潮を、むざんなほどに、餌食にされて。
かすかに濡らす飛沫に、ブラウスを妖しい輝きで彩って。
妖艶なヒロインという役柄に、いつか染まってしまった彼女。
初めてのとき。貴方におひざを抑えられて。逃げられなくなってしまって。
あのとき破られてしまったストッキング。あのかた、まだたいせつにお持ちになっていらっしゃるのよ。
ひめやかな語りが、いつか誇らしげな色を帯びていた。

似合わないでしょう?
そっと差し出される脚は、白いワンピースのすそから、見せびらかすようにひざ小僧をのぞかせて。
そっと差し出された脚は、濃紺のストッキングに脛の白さを滲ませている。
彼女に言われるまでもなく。
白のワンピースには、およそ不似合いな色づかいだった。
存じませんでしたわ。吸血鬼の女にされてしまうと、青のストッキングを履くのですって?
そんなしきたり。おかあさまに、教えていただきました。
”吸血鬼の、女”
耳にじぃんと響く、妖しくも魅惑的な響きをもった言葉が、
にわかにわたしの理性を痺れさせてゆく。
  似合うか似合わないかは・・・今夜のきみしだいだね。
思わず口をついてでた言葉を、まるで待ちかまえていたかのようにして。
由紀子さんは小娘みたいに、くすっ、とイタズラっぽい笑いで包んでゆく。
ご覧になる?
愉悦を含んだ上目遣いに。なぜかこくりと、うなずきをかえしていた。

恥ずかしいわ。やっぱり恥ずかしいわ。
出かけるまぎわ。
由貴子さんはおぼこ娘のように恥らったけれど。
罰ゲームだよ。きっちり、辱めていただこうね。
わたしは彼女の手をとり、引き立てるようにして。
凌辱の館へと。いざなっていった。
見られるの?見られてしまうの?いけないところを・・・
けれどもそれは。きみとベッドをともにするのとおなじくらい。
ズキズキと昂ぶることなのだよ。
言い含められるままに、うなずいて。
すこし涙を含みながら。
嫌いにならないでくださいね。
由貴子、はしたなく振舞ってしまいますわ。きっと。
かりに万一。涙が計算づくのものだったとしても。
貴女のたくらみになら、きっといつでもワナに落ちてしまいそうだね。

あっ・・・うう・・・んっ。
初めて目にする、情事の現場は。
眩暈のするほどに、強烈だった。
透き通るほどに気高い素肌に、いやらしい唇を滲まされて。
知性と高貴さを秘めたうら若い血潮を、思う存分、啜られて。
白の正装は、じょじょに理性を喪って、狂わされてゆく。
ふかふかと待ち受けるベッドめがけて傾いてゆく姿勢を、
立て直すこともできないままに。
由貴子さんは、清楚な衣裳もろともに。
褥の罠に、堕ちてゆく。
いつもきちんと着こなされたワンピースを。
あんなにもむぞうさに、はねあげられて。
素肌を妖しく染める青のストッキングの脚を、太ももまであらわにされて。
じわり、と滲む。淫らな彩り。
彩りのなかで、しなやかに起伏する脚線美。
絡みつき、せめぎ合う、脚と脚。
深く密やかなまぐわいに。
未来の夫であるわたしさえ、踏み込むことのできないでいる。
そう。痺れたように、動けぬままに。
花嫁の凌辱シーンに、いつか理性を忘れ、酔い痴れて。
ただの男になって、目線をぎらつかせてしまっている。

はしたない愉しみに、目ざめてしまいました。
あすの朝、そんなふうに謝罪を口にするのは。
きっと、わたしのほうなのだろう。

また、破かれてしまいました・・・

2006年12月27日(Wed) 23:13:51

また、破かれてしまいました・・・
婚約者の由貴子さんはちょっぴり迷惑そうに、ほほ笑んで。
つま先をさし伸ばす
グレーのストッキングの足許は、よほど熱っぽくあしらわれたのだろう。
皮膚を覆おう薄っすらとした艶に、かすかな裂け目を滲ませている。
いただくときはおもうさま・・・それが淑女に対する礼儀なのだよ。
もっともらしく囁く彼。
どんな顔つきで、わたしの由貴子さんに迫っていったのだろう。
ジン、と湧いた感情を察したものか。
まるで、逆撫でするように。
愉しいひとときでしたわ。あなたのいないところで・・・
ほんのり秘めた薄笑い。
憐れみでもなく、まして嘲りではなく。
白い頬に輝いているのは。あきらかな媚態。
いつされてしまうのかしら・・・
気遣わしげな横顔には、いままでになかった艶を滲ませていた。

許婚を抱かれるとき

2006年12月19日(Tue) 07:19:02

由貴子さんがまだ、婚約者だったころ。
処女の血を吸いたい。
幼馴染みの吸血鬼に、せがまれるまま。
なにも知らない恋人を、かれの邸に引き入れて。
ボクの彼女を穢そうとして、足許に忍び寄る唇のために。
純白のスカートのひざ小僧を、抑えつづけていた。
透きとおるストッキングに装われた、都会育ちのお嬢さんの脚。
不似合いないたぶりに、剥がれ堕ちてゆくありさまを。
さいごには含み笑いさえ浮かべながら、面白そうに眺めていた。

さらりと描いてしまいましたが。
どす黒い眩暈のなかでの出来事でした。
あの瞬間こそが。
若いカップルの運命を、根元から変えてしまったのですから。
それ以来。
由貴子さんは彼に誘われるまま、お邸についてゆくようになりました。
はじめのうちこそ、わたしに同伴されて、
  嫌なんですけど・・・貴方がよろしいとおっしゃるのなら。
表向き、気の進まないそぶりを見せながら、都会ふうに装った脚を吸われていったのですが。
  行ってまいりますわね。
ちらりと笑みさえ浮かべて、出かけてゆくようになったのです。
わたしを交えることなく素肌をさらして、血を吸い取られてゆく由貴子さん。
なにをされているのだろう。どんなふうに、されてしまっているのだろう。
あらぬ妄想が、まだ初心だったわたしを甘くさいなみます。
けれども由貴子さんは、いつもさらりとしていて。
  アラ。だいじょうぶですよ。そんなにご心配なさらないで。
あくまで、清純なきらめきをたたえているのです。
本当に何事も起こらなかったかのように。
すべてを白面の裡に隠しながら。
それでもエッチな吸血は日々、彼女を襲いつづけたのでした。

ふたりがどこまで進行しているのかと。
ひどく気になってしまったのは。
わたしじしんの未熟さもあったのですが。
やはり。
結婚前という状況も、おおきな要因だったのだと思います。
まだ完全にわたしのものになっていない、由貴子さん。
別れてしまう・・・とは露ほども思いませんでしたが。
淫らな毒液をたっぷり秘めた牙に魅せられて、
  あのかたに、かしずきたいのです。
そんなふうに囁きはしないかと・・・そればかりが気になっていました。

はっきりとした刻印を捺されてしまったのは。
挙式を間近に控えたころのことでした。
  由貴子さんのこと・・・しきたりどおり、なさるんでしょう?
イタズラっぽくこちらをふり向いた母は。
  母さんに、まかせておきなさい。うまくはからってあげますから。
どう言い含めたのでしょうか。
わたしのために守り抜いてきたはずの純潔を、惜しげもなく散らせてしまう。
そんな約束を・・・わたしの許婚は、母と交わしてしまったのでした。
もう、あの晩のことは・・・まえにお話したことと思います。
けれども一夜があけると、由貴子さんは一点のくもりも残さずに。
朝の支度をしている母を手伝って、キリッとした面持ちで立ち働いていたのです。
お仕事には不向きなはずの、水玉模様のワンピースをひるがえして。
彼女がそっとわたしの傍らに寄り添ってきたのは、お食事のあとのこと。
  さしあげてしまいました。
ニッと笑った口許から、くもりのない白い歯を滲ませて。
なんのてらいもなく、処女の喪失を告げた、未来の花嫁。
  痛かったですか?
そんな、ぶしつけな問いにも。
  ごめんなさい。・・・愉しんでしまいました。
昨日までのなにひとつ変わらない、少女のような横顔に。
ほんの少し、淫らな翳を滲ませながら
  イカガ?変エラレテシマイマシタワ。ワタクシ。
ちらとよぎった挑発に、ぎりりと胸を締めつけられたのですが。
翳はすぐにかき消えて。
あとに残るのは、しんけんなまなざしでした。
  コノママ、貴方ノオ嫁サンニナッテモ、カマワナイデスカ?
由貴子さんにとって、自分の存在意義をほんの少し疑ってかかった、せつじつな瞬間だったのでしょう。
そくざに、口をついていたのは・・・
  おめでとう。時々、可愛がっていただけるといいですね。
  もちろん、わたしの許婚として。
握りしめた彼女の掌が冷たかったのは、ただ失血のせいでした。
透きとおる頬に、みるみるバラ色を滲ませて。
彼女はそっと、身を寄り添わせてきたのです。
それでも・・・わたしが彼女の花園に立ち入ることを許されたのは。
祝言の夜、ほんとうの初夜までおあずけだったのですが。
そのあいだ、わたしの未来の花嫁は。
夜ごと、彼のベッドのうえで。「花嫁修業」に励んでいたのでした。
嫉妬がそのまま破鏡につながらなかったのは。
もうそのころから・・・由貴子さんとは、身体だけのつながりではなかったのでしょうか。

由貴子さんが姓をかえると。
婚約者を、どこまで侵されてしまうのか。
そういう危なさを秘めたドキドキ感はなくなりましたが。
彼はそれからあとも。
あの手この手で、わたしたち若夫婦をたぶらかしていったのでした。

お時間・・・ですわ。

2006年10月24日(Tue) 19:43:11

お時間・・・ですわ。
デートの途中、ふと腕時計に目をやった由貴子さんはそういうと、
きらきらとした笑みをきらめかせながら、ひたと私を見つめてくる。
あぁ、そうだったね。
何気なく席を立とうとするけれど。
しぜん、ぎこちなくなっている私は、不覚にも向こう脛をテーブルにぶつけていた。
くすっ。
長く垂らした黒髪を揺らして、片手で口をふさいでいる。
はしたなく笑ってしまったことを恥じらうように。
笑みをあふれさせた白く初々しい頬に、いっそう艶をにじませながら。

きょうで三人目・・・ですのよ。
さっきからの世間話に穂を接ぐように。
さりげなく洩らされた、きょうの予定。
喫茶店の柱時計が午後六時を打つと。
いやおうなく、その刻がやってくる。
安心して。今夜は、血を差し上げるだけですから。
けれども口許に漂う謎めいたほほ笑みは、微妙な妖しさを秘めていて。
それが嘘だということを、あからさまに告げていた。
言葉を裏切る態度を、わざと滲ませて。
由貴子さんは、しらっと取り澄ましながら。ちらちらとこちらを窺いながら。
さっきまでよりいっそう愉しそうに、脇の下に腕をすべり込ませてくる。

お嫁入りまえのお嬢さんって、とても魅力的だって仰るの。
そんなあのかたがたのお気持ち、あなたもわかっていただけて?
ふだんは高く澄んだ声色が、そのときだけは低く深く、胸の奥にまで食い入ってくるのだが。
そうと知ってか知らずか、薄手のブラウスの二の腕は、心もとなげに寄り添ってくる。
着衣を通して伝わってくる体温。
間もなく・・・血潮とともに奪い去らてゆくであろうぬくもり―――。
いま傍らで初々しい息遣いをはずませる白い頬は、そのときどれほど妖しく輝くのだろう?

心配だろう?気になるだろう?
私の心の奥底を、見透かすように囁かれて。
吸血鬼どもにそそのかされるまま、覗いてしまったあの時、この刻―――。
そして今夜も・・・密かにかいま見ようと目論んでいる私。
息を詰めて見つめる目のまえで。
始めは淑やかに恥じらいながら。拒みながら。
それでもじょじょに傾いてゆく、気品漂う礼装。
―――仕方ありませんわ。血を差し上げると、眩暈がしますもの。
白い歯を滲ませて、ゆったりと言い訳をするのだが。
はたしてどこまでが、本当のことなのか。
いったんしどけなく乱され引き剥がれると。
裂けたブラウスやストッキングに白い肌を滲ませながら。
控えめに拒む所作はやがて、人目もはばからず取り乱し、大胆な昂ぶりに取って代わられる。
そう。見ている私がかえって気恥ずかしくなるほどに・・・
いまいとしげに腕を巻きつけてきているこの華奢な身体つきのなかには、いったいどういう魔物が潜んでいるのだろう?

初めての夜は、自宅の寝室で迎えた。
当家の嫁のしきたりを伝えた母の言葉に従って。
腰を抱かれるままにして、ドアの向こうに姿を消した。
―――振り返る勇気が、もてなかったんです。
彼女に言わせると、そういうことだったのだが。
隣室で待つ私はひと晩眠れずに、洩れてくるかすかな物音に聞き入っていた。
ふたりめのときは、いつのことだったであろうか?
思い出したいような、忘れ去ってしまいたいような。濃い霧に包まれた記憶。
初夜さえも許されていないはずの身に、さらに別の男性の影を重ねようとするときに。
花嫁よりも昂ぶってしまっている自分を見出して。
気恥ずかしさに戸惑っていると、やつはしんそこ嬉しげに、耳打ちしかけてきたものだ。
  何よりだ。愉しんでいただけて・・・
いや、そんなつもりは・・・
応えを待つ遑もあたえずに、つねるような痛みとともに刺し込まれてきた牙に身を浸して。
引き抜かれた余韻を愉しむころには・・・
未来の花嫁は、蒼白い吐息をはずませて。衣装をしどけなく乱しはじめていた。
そして今宵は、三人目。

まだ異性の肌に触れたことのない私。
すでに三人目を褥に迎えようとしている彼女。
へだたりが大きく思えたとき。
そんなに見つめないでくださいね。
ほんのりと染めた頬に籠められた含羞が、ふたりのあいだの空気をどぎまぎと揺らした。
見られることが・・・愉しいだなんて。とても人様には・・・
いいや・・・ぼくのほうこそ。
はじめての衝動が、とつぜんに訪れた。
しっかりと抱きすくめた両肩のあいだ。
はじめてのくちづけを熱っぽく、交わしている。
見ることを・・・愉しんでいるだなんて。言えたものじゃないからね。
冷静を装って、私を挑発しもてあそんできた彼女だが。
初めて戸惑ったように、長い黒髪を揺らした。
こんどは彼女が、昂ぶる番らしい。

行き交う人もない、真夜中の帰り道。
なにごともなかったようにとりつくろった服の下。
肌のほてりは、まだ熱い余韻を宿している。
きみは男を三人も知っているというのに。
ぼくはなにも知ってはいけないというのかい?
笑みまじりに問いかけると。
そうよ。あなたは、だーめ。
おどけて突き出したおとがいは、艶めかしい闇のなか、
ぬるりと妖しく輝いていた。


あとがき
前作と少し、似ています。というか、ほとんど同一のプロットです。
まだ婚約中なのに。花婿ならぬ男性につぎつぎと身を任せることを強いられながら。
女学生さんは納屋のなか、場違いな制服姿を乱しながら・・・えっちな初々しさをまき散らして。
由貴子さんは寄り添ったり冷やかしたりして、未来の夫を挑発しています。
いったいこの人たちの新婚生活はどうなってしまうのだろう?
と思うのですが。^^;
どういうわけかほぼ例外なく、円満夫婦になるのです。^^
婚約者の純潔をほかの男に奪わせる・・・という。
そもそもがあり得ないシチュエーションなのですが。
どういうわけか、魅かれます・・・

ただいま。

2006年09月18日(Mon) 07:39:43

「ただいま」
家に戻ると、いつものように。
張りのある高い声を、凛と響かせて。
愛妻の由貴子さんは、帰りを告げる。
「はいっ。これ」
迎え出た私の鼻先にぶら下げられたのは。
裂けた肌色のストッキング。
由貴子さんはイタズラっぽく、鼻に小じわを浮かべつつ。
「お土産、ですよ♪」
重さのない薄衣を、サッと手に握らせてゆく。
手に残されたナイロンの切れ端は、ツヤツヤとした光沢を滲ませて。
かつての持ち主が貴婦人だったことを告げている。
お昼ごろ出かけてゆくときに、いそいそと脚に通していったものだろう。
裂け目は縦におおきく、それとは別に、あちこちに。
赤黒い斑点を滲ませた破れを浮かべている。
ああやって、そうなって。こんなふうにされて・・・
妄想ばかりがめまぐるしく、かけめぐる。
早くも手洗いを済ませてきた由貴子さんは、
そんな私の有様を、とても愉しそうに見守っている。
「愉しかったわ♪いっぱい、犯されてしまいました」
淑やかな口調で、とんでもないことを・・・
お行儀、よくないですね。
いつもそのていどに、軽くたしなめたりもするのだが。
由貴子さんは神妙に目を瞑り、顔うつむけて。
スカートのまえ、両手をきれいに重ね合わせて。
「あなた様のご理解のおかげです。由貴子、スッキリいたしました」
くすっ、と笑いかけてくる。
柏木家の令夫人の貞操は、きょうもこのように他愛なく・・・不名誉な愉しみの中投げ込まれてしまっている。

伝書鳩

2006年09月06日(Wed) 07:19:33

奥さんへの手紙、ことづけてもよろしいかな?
彼はにんまり笑んでそういうと、封をしていない手紙を私に手渡す。
さっきまで酔わされていた余韻がまだくすぶっている、狂った脳裡。
私はよろこんでお受けしましょう、そういって、妻への恋文をうけとった。
なかを改めなくってもよろしいのかね?御主人としてはさぞや、きがかりでしょうから。
たたみかけるような彼の声色に。
つい震える指を封筒のなかに差し入れてしまっている。

妻から彼へ。
彼から妻へ。
行きつ戻りつする、秘密の手紙。
運ぶのは私。その目のまえで文面に目を走らせて、
興じ入る、それぞれの受取人。
目にすることはいっさい、許されない。
密書であり艶書であることは、三人とも承知のうえのことだった。
手紙のなかみはあからさま。
人の行き来はひそやかに。
目に触れることの許されない共有された世界が豊かに深くなってゆくのが、
彼や彼女の顔色や声色で、いやというほど察しがつく。
そんな地獄をとても甘苦しく愉しんでしまっている、とても恥ずかしい私。

あなた。彼にお手紙書いたの。持って行ってくださるわよね?
今夜も妻はそういって、ふたりだけだったころにはけっして見せたことのない艶然とした笑みをたたえている。


あとがき
「幻想」から「妖艶」に移行する過渡期に描いたお話が、いくつかあっぷされないまま、残っていました。
おのお話は、そのひとつ。

リセエンヌ

2006年05月20日(Sat) 06:38:56

好夫さん、いるかしら?
階下に、由貴子さんの声。
時ならぬご入来にどぎまぎとしながらおりてゆくと、
見慣れぬセーラー服の後ろ姿。
妹を連れてきたのだろうか?と思っていると。
あら。
ふり向いたのは、まぎれもない由貴子さん本人だった。

濃紺のセーラーカラーに、白のラインが三本鮮やかに走っている。
胸元を引き締めるのは、ゆったりとした白のネッカチーフ。
軽くウェーブのかかった眺めの黒髪をさらりと肩に流している風情は、ドキドキするほど清純。
楚々たる女学生姿が、なんの違和感もなくマッチしていた。
私の反応に、
くすっ。
と、含み笑いすると。
おかしいかしら?もう似合わないわよね?
小首をかしげて、応えを待っている。
―――そんなことありません。びっくりしました。あんまりお似合いなので。
そう?わたし、綺麗かしら?
―――ええ、眩しいくらいですよ。
由貴子さんは私の応えに満足したように、
ウットリとした目を向けてきて。
おとがいを心もち、前に差し出すようにして。
白い歯をのぞかせて、囁いた。
  コレカラネ。アノ方ノ処ヘ、血ヲ吸ワレニ参リマスノ。
  ゴ一緒シテクダサイマスワヨネ?
えっ。
心のなかで叫びながら。
イヤ、とは言い切れないでいた。

私のためには一度だって、こんな恰好をしてくれなかったのに。
なん年ぶりかで装う女学生姿を、彼に捧げるというのだね?
そんな想いを振り切るように。
  サァ、オ支度ヲ整エテクダサイナ。急イデ急イデ。
もう、こぼれんばかりの笑みをたたえて、背中を押されて。
  あの。
口ごもる横顔に、まだ、なにか・・・?そう問いかけると。
  これ、身に着けていただけませんこと?
差し出されたのは、まだ封の切られていない女もののストッキング。
  黒でしたら、男のかたでもお似合いだと思いますの。

吸いつくようにぴったりと密着してくる薄手のナイロンの感触が、
私のなかからさいごの理性を取り除いてしまっていた。
由貴子さんはなおもイタズラっぽく、容赦なく。
  ハーフパンツにしてくださいね。脚がよく見えるように。
そんな要求さえしてくるのだが。
もはや逆らうことはできなかった。

ほほう。よくお似合いだね、ふたりとも。
吸血鬼はそういって目を細めると。
まず私の足許にひざまずくようにして。
ぬるりとした唇を、這わせてくると。
かりり・・・
ぴちっとした裂け目を容赦なく、黒のストッキングに走らせてゆく。
では、頂戴しようかな。
眩暈をおこしてその場に崩れた私を置き去りに、
由貴子さんの肩に腕をまわしてゆく。
  ア・・・
悩ましげに瞼を閉じて。まつ毛をピリピリと震わせて。
荒々しい腕に巻かれてゆく、フィアンセの女学生姿。
襟首から覗く白い肌を、私の血をあやしたままの牙に侵されて。
きゅうっ・・・
聞きなれているはずの音が、いっそうリアルに鼓膜を刺し貫いていた。
あっ、咬まれちまった。あんなに痛そうに・・・
ノーブルな目鼻だちをゆがめながら、抗いをやめない由貴子さん。
しかしそれはあくまで、表向き。
もう、すっかり愉しみはじめちゃっているのを、悔しそうに見つめているしかない。

きゅうっ・・・きゅうっ・・・きゅうっ・・・
規則正しい吸血の音とともに崩れてゆく女学生姿。
やがて黒ストッキングのひざ小僧を、がくりとじゅうたんに突いてしまう。
ククク・・・
あいつはたちの悪い含み笑いを浮かべながら。
じゅうたんの上、すんなり伸ばされた足許にかがみ込んでゆく。
薄墨色のストッキングを通して透ける白い肌が、いっそうなまめかしく、美味しそうに映る。
ちく生、みすみす目のまえで・・・
心のなかで歯噛みする私のまえで、これ見よがしに舌なめずりをすると。
ちゅるり。
と、いやらしく。
黒ストッキングのふくらはぎに、唇をねばりつけてゆく。
  ぅ・・・
かすかな呻き。顰める眉。しくっとこわばる脚の筋肉。
それらを愉しむように、いとおしむように。
そしてなによりも、かち獲た餌食を誇るように。
やつはにゅるにゅると執拗に、由貴子さんの足許をいたぶりつづけている。


あとがき
なんのオチもないお話です。(笑)
女学校を卒業して、OLさえも卒業してしまっても。
なおかつ中学・高校のころに身につけていた濃紺の制服が似合う人って、いますよね。

その昔、ある雑誌が女優さんにセーラー服を着てもらう、という企画を打ったことがあります。
お名前は忘れましたが、名だたる女優さんたちだったと記憶しています。
もう20代か30前後にもなろうかというかたたちでしたが。
清楚な初々しさにオトナの魅惑が重なって。
とりどりに、えもいわれぬ風情を漂わせていました。

フローリングの上で

2006年04月03日(Mon) 07:50:04

がたん・・・
遠くで、もの音がする。
聞き逃してしまいそうな、かすかな音。
なにかが倒れたような音だった。
ピンときたボクはすぐ席を立って、音のしたほうへと向かった。
天井裏の小部屋。
ちいさなベッドがしつらえられてあり、
その手前にふたつの人影が倒れている。
仰向けになって相手を振り仰いでいるのは、婚約者の由貴子さん。
そして、彼女上には、今しもおおいかぶさろうとしている黒い影の男。
「よろしくて・・・よ」
ボクの花嫁になるひとは、ごく落ち着いたひくい声で。
目のまえにむき出された鋭利な牙の持ち主にそんなふうに呟くと、
薄いまぶたに吸い込まれるように瞳を鎖(とざ)してゆく。

あっ、見ちゃいけない・・・
心のなかでそんなふうに叫びながら。
つい、目線は牙のゆく手に釘づけだった。
ぐぐっ。ぎゅうっ。
むたいに力任せに圧しつけられた牙の下。
うなじの肉はまたひとつ、むごい傷を刻まれでゆく。
じゅるっ・・・じゅるっ・・・
これ見よがしに音をたてて。
飲み味わわれてしまう、純潔な血潮。
生々しい吸血の音に塗りこめられた彼女は軽く身もだえして、
それでも眠るようにまぶたを鎖したまま、
背筋をきゅっとしならせていた。
フローリングのうえ、乱れてとぐろを巻いた長い黒髪が、
音もなくゆさゆさと揺れている。

男は味わい、女は味わわれ。
そのあいだに漂う、一対のやり取り。
ぴちぴちとはずむような彼女の若さを、あふれるような快活さを、
血潮の香りのなかに感じ取り、賞賛する男。
そんな男のあらわな欲情をしっかりと受け止めて、
ひたすら若い血を供してゆく、初々しい応対。
渦巻き模様のロングスカートを巻き上げられてあらわになった、
典雅に透きとおる薄墨色のストッキングに包まれたふくらはぎ。
彼はそのうえから我がもの顔に唇を這わせて、
なおもしつように血をねだってゆく。
お願いだから。
ボクのお嫁さんになるひとを、そんなふうにあしらわないで。
哀願に似たボクの希いは、どこまでふたりに通じたものか。

狭い階段のうえ、いつかボクの背後にも人が忍び寄って、
ズボンをたくし上げて、つま先だったボクのふくらはぎを舐めはじめている。
ストッキング地の濃紺のハイソックスのうえからなすりつけられてくる、
しわくちゃにただれた老婆の唇。
ヒルのようにぬめる感触が、婚約者の彼女がいま受けている辱めをより生々しく伝えてくる。
あぁ・・・
目が、とろんとしてきた。
由貴子さんも、いっしょなのか。
迫ってくる彼に、あんなにうっとりとなっちゃって。
ストッキングに走る伝線がひろがって、つま先まですりむけてゆくありさまを。
面白そうに見つめているのだ。

ちゅうちゅう・・・
きゅうきゅう・・・
ふたりの足許からひそやかに洩れる、吸血の音。
満ち足りたようにゆるやかな調べに理性を迷わされて、
しどけなくたくし上げられてゆく、ロングスカートの渦巻き模様を
飽きることなく見守ってゆく。

お芝居

2006年03月11日(Sat) 08:36:14

えっ?血を吸われちゃうんですか?
婚約者の由貴子さんは彼のまえ、
怯えたように、身をすくませる。
ひそめた眉にゾクゾクするほどそそられているのは、ボクだけではない。
お互いそれと知りながら、婚約期間中は・・・とつづけている巧みなお芝居。
婚約者を襲われて、処女の生き血を吸い取られる。
まがまがしい筋書きのお芝居に、いつか彼も、彼女も、ボクさえも興じ切っていた。

あっ!イヤッ!近寄らないでっ。
肩先に流した長い黒髪を振り乱しながら、
由貴子さんはワンピースのすそを揺らしながら、逃げ惑う。
狭い部屋の中。外にまで逃れようとはしない華奢な身体は、とうとう猿臂を巻かれてしまう。
飢えた唇がうなじに押し当てられてゆく瞬間を、ボクは隣室からゾクゾクしながら見つめている。
ひいっ・・・
ひと声叫ぶと、あとは声を失ったまま腕のなか。
由貴子さんは純潔な血潮を、キュウキュウと音を洩らしながらむさぼられてゆく。

夢見ごこちな視線をさ迷わせ。
まだ執拗な吸血に耽る彼のため。
両腕をだらりと伸ばした姿勢のまま、ソファに横たわる由貴子さん。
どん欲な吸血行為に、彼女の華奢な身体はいっそう頼りなく、心もとない。
おいおい、手加減してくれよな。
そういいたくってウズウズしているボクの視線に気づいてか、
これ見よがしにストッキングのふくらはぎに唇を這わせていった。


あとがき
あまり、内容はなかったですね・・・^^;
反省。

共犯者

2006年02月02日(Thu) 07:46:45

婚約者の由貴子さんはいつも快活に振る舞っている。
そう、初めて吸血鬼に抱かれたあの夜からも。
爽やかな感じのワンピースに身を包んだ由貴子さんは、
ドレスをまとったお姫様のような気品にあふれている。
そんな彼女がにこやかに、ボクの耳もとに口を近寄せてきて、
「ね。ちょっとあちらにかくれんぼしていてくださらない?」
と、お部屋の隅っこのクローゼットを指さした。

狭くるしいクローゼットは、ふしぎな空間。
かすかに漂う防虫剤の芳香のなか。
見覚えのある由貴子さんの服がボクの身体に触れるたび、
ゆらゆらと踊るように揺れている。
わずかなすき間から見える由貴子さんは、
くすくすとイタズラっぽい笑みを浮かべながら、吸血鬼を迎え入れていた。
さっき私に見せたのと同じくらいにこやかに微笑みながら。

仰のけたうなじに埋め込まれる、冷たくきらめく鋭利な牙。
あ・・・ああ・・・っ。
しっかりと抱きすくめられた腕のなか。
悩ましげに眉を寄せて身をよじる由貴子さん。
あ・・・あああ・・・
ボクもまた同じように声を忍びながら。
目のまえでくり広げられる密会の顛末を、喉ひきつらせて見守っている。
しどけなく姿勢を崩した由貴子さん。
とうとうこらえ切れなくなって、じゅうたんにひざを突いてしまう。
ワンピースのすそからのぞく、ツヤツヤとした肌色のストッキング。
彼女の足許に目をとめた吸血鬼は、はたしてそそられたように目を輝かせ、唇をなすりつけてゆく。
遠慮会釈なく加えられる凌辱を、
まるで自分でしているように愉しみはじめてしまっているボク。
まるで共犯者になったような気分で、
まだまだ遠慮のあるボクにはとてもかなわない痴態を、
清楚な装いのうえからヘイキでくり返してゆく彼。
ワンピースの胸をくしゃくしゃにして。
つややかな黒髪をむしるように荒々しく撫でつけて。
咎めるような目線をくすぐったそうに受け流しながら、
ストッキングの脚を思うさま辱めて。
そう。それはまさにボクがやってみたかったこと。
そしてまだとても彼女に対して挑みかかる気分になれなかったこと。
彼は舌と唇で。ボクは目で。
清純で快活な由貴子さんを犯しつづけてゆく。

「嫌・・・嫌・・・っ」
言葉と裏腹に甘い呻きで吸血鬼を誘う由貴子さん。
引きむしられたストッキングをまとわりつかせた太ももを淫靡にくねらせて、
ヤツの逞しい腰の上下動を思い切り、受け止めてしまっている。
共犯者は、男ふたりだけではなかったようだ。

初夜のあと

2005年10月27日(Thu) 08:20:06

夕べ、婚約者の由貴子さんは吸血鬼に抱きかかえられるようにして。
じぶんの寝室につれてゆかれた。
花嫁さんのために。
母がそういってしつらえた、実家の一室。
ドアがバタンと閉まるとき。
由貴子さんの細い腰にまわされた吸血鬼の腕にぐいっと力がこめられたのが、さいごの光景。

あああっ。ううん・・・っ
あきらかにそれとわかる、破瓜の痛み。
お隣は、茶の間。
母はちゃぶ台のまえ、正座してお茶をすすりながら。
うん。かわいいものね。
壁いちまいへだてた向こうから伝わってくる嫁の振る舞いを、涼しい顔してそんなふうに評している。
ボクはもう、ぞくぞく、ぞくぞくとしてしまって。
もうとても、母の相手なんかしていられない。
いまごろ、由貴子さんは何されちゃっているんだろう?どんな顔してるんだろう?
服をはぎ取られているんだろうか?ヤツのモノをつきつけられてしまっているのだろうか?
あらぬ想像が恥ずかしいくらいに。
ぐるぐる、ぐるぐると、めまぐるしくかけ回っている。
もう寝るどころじゃない、寒気に似たズキズキするものにひと晩じゅう、さいなまれて。
震えつづけて迎える静かな明け方。
母はもう、とっくにボクのことなどほうり捨てて、
自室でのどかな寝息を立てている。

ようやくまどろんだ朝。
チチチ・・・
という鳥のさえずりに、テーブルにうつぶした重たい頭をあげると。
由貴子さんはもう起きていて、
白っぽい清楚なワンピース姿がぼんやりとした視界の彼方、いつものように軽やかに行き交っている。
嫁らしく、朝食の手伝いをしているのだろう。
生き生きと弾む声が、母の命令口調と重なった。

食器の音をかちゃかちゃのどかに立てながら。
目の前に並べられるパンやサラダ。
「おはよう」
何気ないそぶりをつくって、ほどいたままの長い黒髪をさらりと肩の向こうに追いやっている。
キュッと束ねたふだんのときよりも。
由貴子さんの髪の毛は生き物のようになまめかしくとぐろを巻いていた。
艶やかな光沢をもったあの黒髪は、夕べどれほどかき揺れたのか。
ワンピースの胸もとからのぞく白い肌のうえを、獣のような唇はどんなふうに這わされたのか。
すでにほかの男のものになってしまった、彼女の身体―――。
そんな妄想が、ぐるぐるぐるぐると渦巻いて。
もう、朝の献立なんかにはかまっていられなくなっている。

遅れてゆったりと席についた母。
きらきらとした笑顔と、まるで卒業祝いのように改まった口調で。
「由貴子さん、おめでとう。よくがんばったわね」
息子の嫁になる人の不貞な営みを、おなじ女としてはっきりと祝福していた。
「えぇー、もう・・・」
さすがに由貴子さんは照れたようにうつむいて。
ボクの顔色にちらと視線を投げて口ごもる。
それでもすぐに。ささやくように。
「衝撃的・・・でしたっ。」
語尾がちょっとだけ、悪戯っぽくはずんでいた。
きのうまでとなにひとつ変わらない、きちんと化粧を刷いた控えめでノーブルな目鼻立ち。
けれども薄いまぶただけは、いつもよりちょっとはれぼったかった。
ワンピースのなかでかすかに揺れる、しなやかな女の肉づきに、
夕べはっきりと身につけてしまったらしいしたたかなものを、ちょっとだけ垣間見る。
「・・・でしょう?」
「・・・でしたわ」
「よかったの?」
「うふふ」
股間をしっくりと昂ぶらせ、げんきんなまでに立ち直っているボク。
朝食のあとのコーヒーは、いつもよりちょっぴりよけいにほろ苦かった。

じかに

2005年09月21日(Wed) 22:26:17

1.
婚約者の由貴子さんを初めて彼の邸に連れていったとき。
彼はふくらはぎへの濃密な接吻だけで、彼女を放してくれた。
都会育ちのお嬢さんに、いちどにすべてを教えるのは酷であろうから・・・と。
表向きのそういう親切心とは裏腹に。
その実・・・
じょじょに教え込み、彼女の理性を侵蝕させてゆくことのほうが、彼自身にとってより快楽であるというに過ぎないのだが。

あのことがあった次の日に。
私を訪ねてきた彼女はおずおずと切り出した。
とても、気遣わしげな面差しで。
「あの・・・私の血がお役にたつのでしょうか・・・?」
穢れを知らないその白い肌が、どれほどか彼の色に染められていることを、いやがうえにも実感する。
臓腑をじりじりととろ火で灼かれるような想い―――
しかし淡い嫉妬はそれ以上険悪な尖りをみせることなく、むしろ、
その白い肌に秘められた血潮を彼のために獲させたい・・・そんな渇望に似た衝動へと繋がってゆく。

つぎの訪問は、夕刻だった。
―――遅い時間のほうが、好都合なではありません?あのかたにとって。
そういう彼女のひと言で、夕べの宴・・・がもうけられた。
ささやかに。ひそやかに。
彼は初心な彼女の気持ちを察するように、ことさら穏やかで紳士的な態度で接していく。
紳士の面貌と。獣の内面と。
どちらが、彼の正体なのだろう。
しかし、すすんで獲物になろうとするものには、ひたむきな思いやりをさえ見せる彼。
姿を見せた彼女を迎えいれるとき。
まるで母に甘えるかのようなほどにまで、依存的で人恋しげな色を隠そうともしない。

生れて初めて。
生き血を吸われる意思を抱いて、私の許婚はこの邸に訪れた。
さらりとしたモノトーンのワンピースという、清楚に軽やかな装いで。
「脚から、ですか・・・?」
由貴子さんはちょっと意外そうな顔をして。
グレーのストッキングに包まれた自分の脚に、そろそろと目線を落としてゆく。
ストッキングを脱がないと。
目がそう、語っていた。
しかし、殿方のまえで、そのようなはしたないことをするような教育を、彼女は受けて育っていない。
とまどう彼女の足首を、吸血鬼はおもむろにつかまえている。
「どうか、そのままに・・・」
「?」
訝しげに首をかしげる彼女。
しかし吸血鬼がふくらはぎに両腕をからめてくると、
ちょっと肩をおとして。
軽く、ため息をついて。
思い切って、ワンピースをたくし上げる。
むぞうさにずり上げられたすそからあらわになったのは、
太ももの周りをよぎる鮮やかなゴム。
由貴子さんの履いていたのは、パンティ部のないゴム付きストッキング。
殿方のまえでストッキングをおろすという無作法にためらいながら。
由貴子さんは、ストッキングのゴムに手をあてがってゆく。
血に飢えた牙のまえ、輝く素肌をあらわにするために、ストッキングを引き下げようとする彼女。
そうした彼女の手の甲に、彼の掌が覆うようにかぶさった。
ハッと見おろしてくる瞳に、かすかにかぶりを振って彼女を軽く制すると、
ゆっくり頷いて、諦めたように微笑む彼女。
太ももをおおう手をひいて、あとは、彼にゆだねていった。

かすかに濡れた彼の唇。
白い太ももをつややかに彩る薄手のナイロン越しにあてがわれる。
くちゅっ。
かすかに、唾液のはじける音。
それが満足を示していることを知り抜いてしまっている私。
にゅるり・・・にゅるり・・・
恥知らずな唇がそんな音を忍ばせて、由貴子さんの肌を薄手のナイロン越しに辱めてゆく。
しつように吸いつけられた唇にキュッと力がこめられると。
チチッ・・・とかすかな音をたてて、ストッキングは他愛なく、裂け目を走らせてしまっている。
ア・・・
開かれる朱の唇から、並びの良い白い歯をのぞかせて。
貴女はおもわず脚に手をあてた。
身じろぎする自分を制するように。

まるで涙の伝う痕のように。
つ、つう―――っとひとすじ。
糸のほぐれは脚の線に沿って微妙なカーブを描きつつ、じりじりとつま先まで伸びてゆく。
そうしているあいだすら、赤黒い唇はヒルのように、彼女の太ももを這いまわる。
しずかに、執拗に。そして、熱っぽく。
抱き締めるようにしっかりと、ふくらはぎをつかまえながら。
熟した果実から甘い汁を吸い上げるようにして。
処女の生き血に酔い痴れてゆく彼―――。

彼女は潤んだ瞳で、わたしのことをかえりみる。
―――男のかたにストッキングを破られるなんて、初めてなんですよ。
おっとりとそう告げながら。
彼女は引き締めていた薄い唇をなかばゆるめて、
みるかげもなく裂き散らされてゆくストッキングの綻びを、
なかば愉しげに見つめていた。
与えられる恥辱こそが、示された愛情なのだと。
その恥辱を許すことが、それに応える好意の証しなのだと。
賢明にもそうと察した彼女は、今は静かに笑みさえたたえながら
すこし淫らなこの戯れに、すすんで手を貸してゆく。
愛らしい唇に、軽い愉悦をさえ滲ませながら。

―――じかに、お吸いにならないのですね。
ストッキングを履き替えて。
彼女は彼にそう訊いた。
今宵彼が口をつけたのは、ストッキングに包まれた彼女の脚だけだった。

―――惜しいわけではないけれど。男のかたにはそのほうが嬉しいのではないのですか?
ひたと見据える静かなまなざしを受け止めながら。
彼はまだ、彼女の脚から抜き取った、破れはてたナイロンをもてあそんでいる。
たった今までそれを身につけていたひとの、目のまえで。
―――お嬢さん、たしかにご明察ですが・・・
―――お召し物への戯れも、男にとっては時として、こたえられない愉しみだったりするのですよ。
さらりとそう言ってのけると、こんどはすこし悪戯な顔をして。
―――じかに吸わせていただくときは、貴女からもっと大事なものを頂戴するときかもしれませんよ・・・
曖昧に頷いた彼女はそのときに、私のほうをふり返り、チラと謎めいた微笑を送ってよこした。
つやつやとした光を帯びた黒髪に覆われた頭のなかで、いったい彼女はなにを思い描いたのだろう?


2.
―――少ぅし、貧血ですわ・・・
そういいながらも、たび重なる招待をにこやかにうけるきみ。
予定されていた親戚への挨拶まわりすらキャンセルして。
そういうことに、私の側の親類は、たいそうものわかりがいい。
「都会のお嬢さんにしては、ご熱心ね」
そういって、感心しこそすれ。
スケジュール変更の非礼を咎めるものはいない。
そうしてきょうも歩むお邸への道。
降り注ぐ陽射しのなか、ストッキングの光沢もつややかにきみは軽やかに足どりをすすめる。

「ストッキング、お好きなんですね・・・」
お行儀よくひざの上できちんと手を重ね、
小首をかしげ、言葉をはずませている。
血に飢えたかれのまえ。
それでもきみはあくまでにこやかで礼儀正しい。

「こんなふうになるとは思っていませんでしたので、あまり持ってまいりませんでしたのよ」
優しく咎めるような口振りで、
けれどもそろそろと忍び寄る彼の手を、
きみは決して拒もうとしない。
善意の献血という名目を、まだいくばくか心のなかで信じ込んでいるきみは、
吸血鬼の要求に、あくまでまじめに接してゆく。
求められるままに、身に着けているパンティストッキングをむぞうさにひざまでおろして、
夫になるボクのまえで、
健康さのみなぎる太ももをほかの男の目にさらすきみ。
いまどきにしては珍しく、大人びた古風なところのあるきみも、
人あたりも身のこなしもまだまだ未熟な、年端のゆかぬなりたてレディ。
こともなげに肌をむき出しにするというたくまぬはしたなさに、
初々しさを帯びた健康なエロスを発散させて、
みずから求めたはずの吸血鬼も一瞬目のやり場に戸惑っている。

かれはきみのすべすべとした太ももにじかに触れてゆき、
掌をぴったりとあてがっていく。
執拗に、すがりつくような切実さで指を食い込ませてくる彼に
―――アラ、あまり痛くなさらないでね・・・
ちょっぴり顔をしかめて咎めるけれど、
素肌を通してきみの若さを吸引しようとするような掌を、そのまま受け容れてしまっている。
肌に食い入るように這い込んだ、 男にしてはほっそりとした指の一本一本に
淫猥な情念が宿ると知ってか知らずか。
いまは露骨なまでに身をすり寄せてくるかれのなすがままにされてゆく。
ゴム付きストッキングを引きおろすために太ももに手をかけることさえためらったきみは、
きょうはスカートの奥まで手を差し入れて、彼の欲求に応えようとしている。
その変化は未来の花婿としては忌むべきものであるはずなのに。
どうしてボクはそんなきみをにこやかに見守っているのだろうか?

蒼白い静脈の浮いた細いうなじに、さし寄せられる唇を這わされて。
きみはとろんとした目つきをして、なすがままにされてゆく。
素肌にじかに吸いつけられた唇が、キュウッ・・・と生々しい音をたてるとき。
乳色をしたむき出しの肌に、赤黒い血潮がかすかにはじける。
「あ・・・ん・・・」
悩ましげに眉をひそめて、となりにぴったりと寄り添うかれに、身をゆだねていく。
ボクは嫉妬と惑溺の入り混じった、
わけのわからない衝動にぐらぐらとしながら、
なかば陶酔を浮かべながら血を吸われる婚約者の悩ましげなまなざしを追っている。

あとがき
以前はふたつになっていたお話を、ひとつにまとめてみました。
さいしょに由貴子さんが穿いていたのは太ももまでのゴム付きストッキング。
さりげなくワンピースのすそを引き上げて、脱ごうとする手をおしとどめられてストッキングのまま太ももを咬まれた彼女。
そこまで許してしまった彼女がつぎに身につけていたのは、パンティストッキング。
ためらいは一歩一歩影をひそめてゆき、にこやかな恥らいをうかべながらも。
婚約者のまえ、悪びれもしないで、ちょっとはしたない恰好で素肌を触れさせてしまっています。
危なっかしい光景にドキドキしてしまう私。
けれでも私の胸のうちよりも、まだうら若く稚くもあった彼女がたくまず発散するエロスのほうについ筆がすすんでしまいました。

堕ちた婚約者

2005年09月13日(Tue) 07:26:00

婚約者の由貴子さんは、わたしとの挙式をまえにして、しきたり通り処女を喪った。
相手はもちろん、我が家に取り憑いている吸血鬼。
母を犯し、叔母を手ごめにし、妹のうなじを吸った男。
結婚後に襲われた母は別として、我が家の女たちは皆、花婿よりもさきに彼に処女を捧げている。
だからそれはとうぜんのなりゆきで、我が家のしきたりでもあったから、
私としてはとやかくいうすじではないのであるが。
性の愉しみに目覚めた由貴子さんはそれまでの淑やかさをかなぐりすてて、
しばしば積極的に、彼の求めに応じていくようになった。
あろうことか、複数の男性を相手にするようにまでなっていると。
教えてくれたのはほかならぬ、私の婚約者から処女を頂戴した吸血鬼。
ひとの婚約者を穢しておいて・・・ヌケヌケと。
そう思わないでもなかったけれど。
彼が覗いた、という由貴子さんの所行に、つい興味津々に耳を傾けてしまう私。
覗いた、というのは何処まで本当なものか。
きっと彼も加わっているに違いないのだが。
・・・あえて咎めまい。

きょうも由貴子さんは何食わぬ顔をして、家にやってくる。
もちろん、いつものように地味だが品のあるワンピースを身にまとって。
清楚なかんじのするストッキングを脚に通して。
礼儀正しく私の親どもに挨拶をし、いつものように賞賛を勝ち得ながら。
おぞましいほどの輪姦にゆだねている素肌を、ぴちぴちと初々しく輝かせながら。
きっといつものようににこやかに、おしとやかに、人なつこく談笑するにちがいない。
帰り道に吸血鬼のお邸に立ち寄って、お行儀よく着こなしている衣裳を淫らな遊戯にゆだねるなんて、おくびにも出さないで。

上品で礼儀正しい、まじめで非の打ち所のない都会のお嬢さん。
それが両親が彼女に与えた評価。

密会の痕

2005年07月11日(Mon) 07:12:36

婚約中の由貴子さんはよく私のところに遊びに来る。
「由貴子さん、お見えになったよ」
母にそういわれて、玄関まで迎えに出る私。
時計を見ると、朝の五時。
白っぽいスーツを着た由貴子さんは、門の向こうでにこやかに笑い、礼儀正しくあいさつを返してくる。
しっかりしていて育ちのよい、都会のお嬢さん。
そんな両親の評価がぴったりの彼女。


カラン、と音を立てて錠をあける。
由貴子さんは私の脇をすり抜けるようにして白のパンプスを履いた脚を玄関に踏み入れた。
ちょっと濃い目の香水が鼻先をよぎる。
洗練された都会の香りに、大人の女性を感じる一瞬。
「朝早くに、ごめんなさい」
彼女は白い歯を見せて、私につぶやく。
「いいんですよ・・・」
つぎにでかかった言葉を思わず呑み込む私。
それを言わせずに、彼女は囁くような小声で、
「また、咬まれちゃった・・・」
イタズラをみつかった子供みたいにはにかみながら、私にそう告げた。
彼女の朝帰りは、夜勤のときばかりではない。
濃い目の香水を漂わせるときは、目だたぬほどに衣服に散らされた血の芳香をまぎらわせるとき。


「安心してくださいね。それ以上ヘンな関係にはなっていないですから・・・」
言い訳がましく口を濁す彼女。
よくわかっていますよ・・・
そう。
いまはまだ、彼女の宿す処女の生き血を愉しむ段階。
しかし20代初めの初々しさは、どこか危険な匂いをはらんでいる。
「貴方には、なにがあったのかすべてお話しするつもりでいますから」
純潔を信じてほしい・・・
そんな想いがこめられているのか。
上ずった声色と、いちずに見つめる上目遣い。
私が頷くと、謝罪するようなまなざしが目許をゆるめ、ノーブルな薄い唇がおもむろに開かれる。
「アノネ、夕ベハオ邸ニオ呼バレシテネ・・・」
なぜかきらきらと目を輝かせて、とり憑かれたように語りはじめる彼女。
鮮やかな口紅を刷いた唇のすき間からのぞく並びのよい白い歯が、なぜか酷薄な輝きを見せたように思えた。
アナタニハ、聞ク義務ガアルノヨ・・・
どこかで、そういわれているような。

いまは、本気で恨んでいるわけではない彼女。
それでも私の表情に走る嫉妬の色を愉快そうに窺いながら、わざとたきつけるようなリアルさで話を進める。
優しい復讐。
お行儀の良い口調が、却っていやらしさをきわだたせる。
コンナフウニ、コウ、四ツ這イニサセラレテネ・・・
思ハズ、うぅーんッ!、ッテ、ウナッテシマイマシタノヨ
ストッキングノ脚モネチネチト吸ワレテ。気持チ悪カッタワ・・・アノ方、トテモシツコインデスノ
非難めいた口ぶり。愉しそうな声色。どちらが彼女の本音なのだろう?
ソレハソレハ、シツコク、しつぅこく、咬マレテシマイマシタノ・・・ほら・・・ねっ?
むぞうさに引き上げられた真っ白なタイトスカートからのぞく太ももに、綺麗にふたつ並んだ傷口。
毒々しい臭気を放つ唾液と、吸い残した血潮とを、まだてらてらと光らせている。
欲情を滾らせて彼女の肌を吸った痕跡。どんなふうに迫って、咬みついたのか、それをこと細かに訴える由貴子さん。
そんなふうに語らないで。
見るかげもなく破け堕とされたストッキングが、貴女がどれほどいやらしくあしらわれたのかをいやというほど見せつけてくれているのだから。

輸血

2005年06月02日(Thu) 01:41:18

彼女の職業は、看護婦だった。
輸血は日常業務として手馴れていたはずである。
しかし、必要とされる血液をいやおうなく自分の身体から補う羽目になったのは、むろん初めてのことだろう。
ひからびかけた吸血鬼の体内を潤おすために、うら若い血液をたっぷりと吸い取られてゆく由貴子さん。
体内にほとんど血液を残していない私と、同じ経験に我が身を重ねてゆく未来の妻。
えもいわれぬ帰属感が、胸に満ちてくる。
これで彼女も、私と同じ種類の人間になってゆく…
そんな思いが奇妙な安堵を呼び、抑えつける手にいっそう力がこもった。
目の前の彼女は、もはや行為を拒んではいない。
生き血を奪われるという体験に、むしろ悦びを見出し始めている。
執拗な吸血行為に、彼女は気高く耐えた。
自身の純潔を身をもって証明するために。
処女の生き血を愛でられていることを、はっきり自覚していた。

たおやかな柔肌の下に脈打っていた清冽な血潮は、そのままそっくり吸血鬼の渇いた血管に流れ込む。
もう取り乱すことなく吸血鬼の相手をつとめ、気前よく血液を振舞いはじめている、私のフィアンセ。
爽やかに装った洋装をさえ、惜しげもなく愉しみに饗し、ついには凌辱にゆだねてゆく。
こうして彼女は、柏木家の嫁として相応しい女となった。


あとがき
あっぷしていたつもりで落としていたお話を見つけました。
これも初期のものです。
由貴子さんの職業を看護婦に設定したお話は、これ一つきりでした。

初めての刻

2005年06月02日(Thu) 01:09:10

なん年前のことになるだろうか。
挙式を控えた夏の日。
未来の花嫁を伴って、お邸を訪問する。
親しい親類へのご挨拶。そう彼女には告げてあった。
真の目的は、とうとう告げることができなかった。
喉をからからにした吸血鬼に若い女の血をあてがうため・・・
婚礼をひかえた村の男たちに課せられた、おぞましい通過儀礼。
そんなこととはつゆ知らず、純白のスーツに身を包み、ハイヒールの靴音も高らかに古びた舗道を闊歩する彼女の脚。
ふくらはぎを包む透明なストッキングが、照りつける陽光を反射して、てかてかと輝いていた。
歩みに合わせて波打つ、ゆるやかなウェーブのかかった長い黒髪。
すべてが生気をたたえ、ぴちぴちとはずんでいる。
もったいないなぁ・・・
我ながら差し出すのが惜しくなるくらい、彼女は目映い。

え?
と、彼女はふしぎそうにあたりを見回す。
昼とは思えないくらい、薄暗い室内。
ひんやりとした空気に支配された、木目模様のフローリングが広がる洋室。
私たちを招き入れた老年の執事はいつのまにか、音もなく姿を消していた。
与えられたハイチェアに腰かける彼女のひざ上を軽く抑えるように手を当てて、さりげなく力をこめる。
「・・・?」
訝しげに見上げてくる目線を避けるように、
「ちょっとのあいだ、ガマンして」
乾いた口調で、彼女に求める。
音もなく背後から迫る唇がおもむろに、彼女の柔らかそうなふくらはぎに吸いつけられる。
「・・・え?」
にゅるにゅるとねばりつく、魔性の唇。
ぬらりと光る唾液が、ひきつれひとつない真新しいストッキングの表面をしたたかに濡らしていた。
その陰から鋭い牙が注射針のようにあてがわれ、ストッキングの上からひときわつよく吸いついて、ふくらはぎを侵す。
「・・・っ!!」
声にならない悲鳴。
知らず知らず、彼女のひざ小僧を抑える手に、力がこもる。
ちゅっ、ちゅう~っ・・・
ひとをくったような、吸血の音。
「あの・・・」
もの問いたげな彼女の目線がふらりと揺れた。
うろたえた目線がほんのしばらく足許のあたりをさまよい、それもうっすらとした白目になってゆく。
「痛い・・・」
低い呻きが、しっとり濡れた唇から洩れた。
引き抜かれた牙に血をあやした口許が、傍らでにんまりとほくそ笑んでいる。
「だいじょうぶ?」
覗き込んだ白い顔に、困惑したような笑みが浮かぶ。
「貴方の・・・手」
力任せに抑えつづけていたほっそりとした手の甲に、私の指の痕がくっきりと浮き上がっている。

彼女の職業は、看護婦だった。
輸血は日常業務として手馴れていたはずである。
しかし、必要とされる血液をいやおうなく自分の身体から補う羽目になったのは、むろん初めてのことだろう。
ひからびかけた吸血鬼の体内を潤おすために、うら若い血液をたっぷりと吸い取られてゆく由貴子さん。
体内にほとんど血液を残していない私と、同じ経験に我が身を重ねてゆく未来の妻。
えもいわれぬ帰属感が、胸に満ちてくる。
これで彼女も、私と同じ種類の人間になってゆく…
そんな思いが奇妙な安堵を呼び、抑えつける手にいっそう力がこもった。
目の前の彼女は、もはや行為を拒んではいない。
生き血を奪われるという体験に、むしろ悦びを見出し始めている。
執拗な吸血行為に、彼女は気高く耐えた。
自身の純潔を身をもって証明するために。
処女の生き血を愛でられていることを、はっきり自覚していた。

たおやかな柔肌の下に脈打っていた清冽な血潮は、そのままそっくり吸血鬼の渇いた血管に流れ込む。
もう取り乱すことなく吸血鬼の相手をつとめ、気前よく血液を振舞いはじめている、私のフィアンセ。
爽やかに装った洋装をさえ、惜しげもなく愉しみに饗し、ついには凌辱にゆだねてゆく。
こうして彼女は、柏木家の嫁として相応しい女となった。