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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

女装の友

2010年11月15日(Mon) 08:11:08

セーラー服の肩先に、そっと手を置いたのは。
いつの間にか後ろから迫ってきた、妖しい影―――
そのまま抱きすくめられて、うなじを吸われてしまっていた。
  だいじょうぶ。汚したりしないから。
男はあくまでも、わたしの制服にまで、気を使っていた。

美味しいね。きみ、制服がとても似合うんだね。
わたしが男の子だと、さいしょから察していたらしい。
妹の服を無断で拝借して、夜な夜なたどる散歩道。
いつから彼に、視られていたのだろう?
いつから彼に、狙われていたのだろう?

血を吸われることへの恐怖よりも。
女装がばれてしまう。
その気恥ずかしさのほうが、先に立つことを。
男は黙っていても、察してくれていた。
  だいじょうぶ。そのまま女装をつづけるといい。
  きみの趣味を辱めるものは、いなくなるのだから―――
男はにんまりとして、わたしを見る。
もの欲しげに這わされる、足許への視線。
わたしは黒のストッキングのふくらはぎを、求められるままに差し伸べていた。
取引成立の証しのように・・・

引き剥いだストッキングを、だいじぞうに持ち帰った彼は。
別れぎわ、耳もとにそっと、ささやいていった。
こんどは母さんの、ワンピースを着ておいで。
いつもきみの母さんが穿いている、紺のストッキングが似合うやつを。
約束どおり、週末の夜。
母の気に入りの水玉もようのワンピースを着て佇んだわたし。
咬み剥がれてゆくストッキングが、みるみるたるんでずり落ちていって。
もの欲しげな唇の下、くしゃくしゃに辱められてゆくのを。
小気味よく見守っていたわたし。

台所のほうから洩れて来る、呻き声―――
日ごろしっかりものと評された母のものとは、思えなかった。
黒の礼服を着崩れさせて、白い素肌をちらちらさせて。
ひざ下までずり降ろされたストッキングには、男の吐き散らした熱情を、ぬらぬらとしみ込まされていた。
勉強部屋にこもった妹は。
うなじにつけられた痕を、かわいい指でまさぐりながら。
白のハイソックスに撥ねた赤黒いシミを、しきりに気にかけているようだった。

母は父を、どうたぶらかしたものか。
それからしばしば、真夜中のお出かけを愉しむようになった。
父はどういうわけか、そんな母を。むしろ愉しげに、送り出していた。
やぁだ、お兄ちゃんたら。あたしの制服着ないでよっ。
わたしの肩を、どやしつけながら。
それでも着替えを、手伝ってくれるようになっていた。
気をつけて行きなさいよ。
兄妹、おそろいのセーラー服で真夜中の登校に出かけるわたしたちを。
父はむしろ面白そうに、目を細めて見送ってくれる。

それからなん年、経ったことだろう?
そろそろきみも、男らしくならなきゃね。
若い女の子に、どんどんアピールしていって、ちゃんとお嫁さんをもらわなくちゃな。
けれども男が、わたしの女装をとがめたことは、いちどもない。
周囲の女たちに咎められることも、たえてない。
半開きにされたドアの向こう側、
夫婦のベッドのうえから洩れて来る、呻き声に。
わたしは胸焦がしながら―――
妻の気に入りの、濃い紫のスーツをまとう歓びを隠しきれない。

いつごろ聞き知ったものかは、はや記憶のかなた。
この街に棲む吸血鬼が。
目あての女を堕とすまえ。
その男家族を狙って、身代りに獲物の女の服を着させる趣味があるということを。

闇夜に舞う服

2007年07月25日(Wed) 06:39:59

ぶるるるるるるるるるぅん・・・
真夜中の大通りは、行き交う車もまばらなぶん。
とてもハイスピードで、飛ばしている。
テールランプがゆらめく光芒となって、闇の彼方に消えてゆくと。
あたりに残るのは、街燈に照らし出された静寂。
昼間とは違う種類の輝きが支配する空間は。
日常とは裏返しの異界が、意外に近く存在することを告げているかのようである。

紺とグレーのチェック柄のスカートをたなびかせて。
ひざから下は、闇夜には眩しすぎる、真っ白なハイソックス。
あるはずもない視線を意識しながら。
そらぞらしい冷気のなか、スカートを思い切りよくさばきながら、歩みを進めてゆく。
歩むたび太ももを撫でる夜の空気が、むき出しの肌に心地よい。
見あげたマンションの窓辺は、どの部屋も真っ暗なのに。
その部屋だけは、いまもこうこうと灯りが点されていた。

がたん。
重たく殺風景な鉄の扉をひらくと。
オレンジ色の照明を放つスタンドの下。
輝くほどに色の浅い茶髪の下、黒一色のワンピースが、ゆるやかにそよいでいる。
  あら。お帰り。早かったじゃない。
黒のワンピースの主は、こちらを振り返って、共犯者の笑みを投げてくる。
  コーヒー、淹れたわよ。よかったら、召し上がれ。
差し出されたマグカップの中身はどす黒く澱んでいて。
香気とともに立ちのぼる湯気のくゆらぎが、鼻先をくすぐった。
午前三時。
  とてもコーヒーを飲む時間じゃないよな。
  あら、いらないの?
  うぅん。いただく・・・
ずるっ。
お行儀悪く啜りあげる音。
青とグレーのチェック柄が、大胆な切り込みのあるシフォンのワンピースと重なり合う。

濃い口紅を刷いた唇に。かわるがわるコーヒーカップをあてがいながら。
  まだ、睡っているの?
  ええ、ぐっすり。
ふふ・・・と笑み合う唇を濡らす紅色が。
口紅だけのものではないことなど。
ちょっと見には、だれも気づかないだろが。
照明の落ちた隣室で、口を半開きにしたまま転がっているのは。
ふたりの身につける衣裳の持ち主たち。
うなじに深々とつけられた痕からは。
吸い残された血潮が、ぬらぬらと洩れつづけていた。

ふたつの影は、くすぐったそうに含み笑いしながら。
  おいしかったね。
  えぇ、おいしかったわね。
口々にほめているのは。もちろんコーヒーのことではない。
隣の畳部屋に横たわる母親と娘も。
奥の部屋に寝そべるご主人も。
ひとしく濃い口紅を刷いた唇に。
己の血潮を散らしたあとだった。

ふたりとも。
おのおのが、母と娘になりすまして。
それぞれべつべつの、夜道をたどって。
さきに”帰宅”したワンピースの女が、コーヒーを淹れて相棒を待っていた。
  交差点で、車のライトに、照らされちゃった。
  あら。あたしなんか。後ろからゆっくりと、車に尾行(つ)けられて。
  声かけられちゃった。
  あはは。それで、どうしたの?
  あわてて車の入れない路地に、逃げ込んじゃったのよ。
  ウフフ。臆病ねぇ・・・
濃く刷かれた化粧の下。
ほほ笑む目鼻立ちは、整っているとはいえ。
起伏のとがった、男のものだった。
チェック柄のスカートも。
黒のワンピースも。
真っ白なハイソックスも。
ダイヤ柄のストッキングも。
きりりと引き締まった筋肉を帯びた肢体に。
まるで女そのもののように、マッチしていたけれど。

夜の団らんの席に、忍び込んで。
まず、風呂上りのご主人を、たぶらかして。
それから。
横縞もようのカーディガンを羽織った奥さんの、モスグリーンのスカートの下に、かじりついて。
肌色のストッキングごしに、柔らかな皮膚を牙で刺して。
甘えるように、抱きついて。血潮をたっぷりと、啜り取って。
女の指さすまま、箪笥の抽斗(ひきだし)をあけて、
黒のワンピースをせしめていった。
もうひとりは、勉強部屋に引きあげていた娘を、手なずけて。
空色のブラウスが、紫色になるくらい。
うら若い血潮を、たっぷりと口に含んでいって。
首尾よく制服のプリーツスカートをせしめてきた。
  母娘ごっこが、楽しめるね。
女装の吸血鬼は、ふたり寄り添うように、影を重ねて。
互いに互いの衣裳を、愛でていた。

奥の部屋。
母娘に扮したふたりは、ご主人のうえかがみ込んで。
薄っすらと眼をあけたご主人は。
さいしょは妻と娘だと思い込んでいて。
  だいじょうぶか?お前たち・・・?
だいじょうぶじゃないわ、と呟いた黒のワンピースが。
寝そべったままのご主人のうえ、身を投げかけていって。
夫婦のキスにも似た、強烈な接吻を。
首筋につけた傷口のうえ、容赦なく重ねてゆく。
あ・・・あ・・・ぁ・・・
じゅうたんの上、力なくけだるげに首を振るご主人の顔を、
苦しむ顔を見たくって。ふたりかわるがわる、覗きこんで。
  けっこう、いい男じゃない。
  そうね。女の服が似合いそう。
ふたつの影は、たちの悪い笑みを交し合って。
  お嬢さんの服、着てみない?
腑抜けのように理性をなくしたご主人を。
娘の勉強部屋に、引き入れてゆく。
自室に入ってゆく三つの影を。
少女は、意識のぼんやりとなった意識の向こうに見つめていた。

どお?あなたの制服。お父様に似合うでしょう?
決まり悪げにしているご主人は。
ゆったりと結ばれた紺色のリボンに、白のブラウス。
紺のブレザーに、青とグレーのチェック柄のプリーツスカート。
  女子校生の制服って・・・男のひとでも着れるのよ♪
  ウフフ。これで化粧をすれば、できあがり♪
黒のワンピースが、まるで母親みたいに寄り添って。
ご主人のノーブルな面貌を、化粧の下に塗り込めてゆく。
理性を喪った少女は、やわらかにほほ笑みながら。
  似合う。お父さん。とってもよく似合うよ・・・
まだあどけない声色を、うつろに揺らせている。

血を抜かれたご主人は、陶然となって。
妖しの影に、問われるままに。
うつろな頷きを、くり返している。
  女装の愉しみ、もっと味わいたいでしょう?
  わたしたちの仲間に、なっていただけるわね?
ふたつの影は、邪悪な意図を化粧に隠しながら。
父娘ふたりに、にじり寄ってゆく。
黒のワンピースが、少女のほうを。
娘とおそろいの制服姿が、ご主人を。
からめ取るように、抱きすくめて。
うなじに唇を、あててゆく。
  お嬢さんのほうは、尽くしちゃダメよ。
  処女の生き血は、貴重品なんだから♪


つぎの夜。
女ふたりは、まだ薄ぼんやりと。
畳のうえに、へたり込むように、座りつづけていて。
その隣の部屋では。
鉛色の肌をしたご主人が。
うつろに天井を見あげていた。
昨晩から。なにひとつ変わっていない部屋を見て。
ふたつの影は、予期していたように。
目交ぜを交し合って、近づいてゆく。
  お出かけよ。早く用意をするのよ。
うつろな眼をした母娘は。
すこしだけ、血色の戻った首筋から、まだ血をしたたらせたまま。
娘は中学のときのセーラー服を。
母親は、授業参観のときに着ていく濃い紫のスーツを。
夫は、毒々しいほど色鮮やかな、ブラックフォーマル。
女の身なりになった三人の男性は。
母娘を取り巻くようにして。
暗くなりかけた街へと、さ迷い出ていった。

ぎゅうん。ぎゅううぅんん・・・
渦巻くような車の騒音のなか。
行き交う人々の目を、それとなく避けるようにして。
なぜか誰にも気づかれることもなく。
たどり着いたのは、街はずれの古びた邸。
黒衣に身を包んだ白髪の主は、女装のふたりを見ると。
  おや。雅子さんにミサエさん・・・
口にした名は、罪もない母娘のそれだった。
衣裳をまとうと、持ち主じしんに見えるのだろうか。
黒衣の主は、かわるがわる。
女装のふたりを抱き寄せて。
うなじに熱烈な、キスを重ねた。

奥さんも娘も。そしてご主人も。
血を吸われる女装のふたりを、声もなく見守って。
やがて、吸い寄せられるようにして。
まず、奥さんが。
それから、娘までもが。
黒衣の主に、抱かれてゆく。
ご主人は、妻や娘の後ろから、影のように寄り添って。
優しく手を伸べて、妻の、娘の、おとがいを、仰のけて。
男が妻や娘の血を吸いやすいように、手を添えてゆく。
黒衣の主が、妻と娘のうなじを、さも噛み心地よさそうに噛んでゆくのを。
くすぐったそうに、見つめながら。

黒衣の主は、ご主人をふり返り。
おまえはきょうから、わたしの執事。
もはや浮世のなりわいから、解放された身。
このまま、家には戻らずに。この邸に、住まうがよい。
命じられるままに、ご主人が頷くと。
  奥さんと娘さんの血を吸わせてくれたね。美味しかった。
ウフフフ・・・
黒衣の主も。女装の二人も。ご主人までも。
くぐもった笑いを、重ね合わせている。
  ご褒美だ。
  時おり自宅にも、通うがよい。
  妻も娘も、お前の牙に、喜んで貫かれることじゃろう。
  じゃが、そのまえに・・・
  わかっているね?^^
  きみが身に帯びている喪服に恥じないように。
  奥方の貞操の喪を、ともに祝おうではないか。
ふとかえりみると。
妻と娘は、薄目になって。
女装のふたりに、身をゆだねて。
黒衣の主にキスをされたうなじの傷を。
いちだんと深く、抉らせてしまっている。
かわるがわる。
獲物を取り替えあうふたつの影に。
黒衣の主は、目を細めて。
あのふたりも、いっとき男性に戻してやろうな。
ご主人は、諾、と応えるかわり。
無心になって。
己の脚をなまめかしく彩る黒のストッキングごし、掌を密着させて。
なぞるように、まさぐるように。
己の脚を愛で、その掌を、ふたりの脚にもあてがって。
薄墨色をしたストッキングを、ゆるやかにまさぐりながら、波立てていった。


あとがき
少女やその母親の血を吸って、衣裳を奪って。
奪った衣裳を身につけると、本人になりすますことができるようです。
少女や人妻になりすまして。
黒衣の主に抱かれていって。
そうすることで。
衣裳の持ち主たちをも、おなじ運命に導こうとする者たち。
深夜の街は、しばしば異形の影を宿すのでしょうか?

着たい 2

2007年06月15日(Fri) 18:16:18

さいしょにねだられたのは、妻の服だった。
あいては、親しい友人。
ただし、吸血癖という、特殊な嗜好を秘めている。
ねだられるままに。吸血の宴に妻を差し出した選択は。
果たして、ただしかったのだろうか?
父兄会に着てゆく堅いかんじのスーツ姿を乱しながら。
足許をぴっちりと引き締めた、上品なストッキングをふしだらに破かれていきながら。
異端の嗜好は妻の素肌の奥深く、しみ込まされていった。

着たい。
ふたたび彼が、口にしたのは。
結婚式にお呼ばれしたときの、娘のワンピース姿だった。
妻やわたしが、身代わりになって。
幾晩となく、娘の服を身にまとって。
彼の欲情をまぎらせようと、試みたものの。
却って彼の欲情を、体のすみずみにまで思い知らされただけだった。

いちばん気に入りの服、あげたのよ。
娘はくすっ・・・と、ほほ笑んで。
ポニーテールを心地よさげに、揺らしながら。
まるで鏡を見るみたいに、じぶんの服を身につけた彼を、
からかうように、目で挑発して。
制服のスカートをちょっぴり、たくし上げて。
白のハイソックスの脛を、差し出してゆく。

どちらが、娘?
どちらが、魔人?
娘の服を着た、ふたつの影は。
くんず、ほぐれつ、乱れあって。
やがて妻もたどったひとつの頂点を。
うつむきあえぎながら、ともにしてゆくのだった。

男の服は、萌えないね。
冷然と呟く彼のまえ。
ノリのよい息子が私の箪笥から失敬していったのは。
妻から譲られた、ブラックフォーマル。
おじさん、黒のストッキング、好きなんだって?
ぴちぴちとした健康なふくらはぎは。
まるで女の子のように、しなやかで。
吸血鬼の飢えた目線をそそるには、かっこうのものだった。

明け方、照れくさそうにうなじを掻きながら戻ってきた息子は。
こんど行くときは、彼女の服を着て来いってさ。
面白そうだね?
父親似の面差しに浮かんでいたのは。
きっと・・・あの晩妻を差し出すことにした私と、おなじ翳だったにちがいない。

善意の献血・・・ですからね。
妻は、子どもたちにも言い含めるように。
装いをきちんと、整えてゆく。
きりりと結った黒髪を、さらになで上げて。
脛をおおうストッキングに、ひきつれがないか入念に点検して。
おなじように、
娘のスカートの下も。
わたしや息子の半ズボンの下も。
手でなぞりながら、確認してゆく。

では。参りましょうか・・・
夕暮れ刻を、合図にして。
きょうもぞろぞろと、無言の人群れが、お邸をめざす。
今宵妻や娘の血を。わたしや息子の血を。喉に散らせるのは誰・・・?

着たい

2007年06月15日(Fri) 17:56:17


薄暗い深夜の室内で。
たたみに横たわる女学生姿におおいかぶさっているのは、黒のワンピース。
蒼白い頬をときおり不気味にひくつかせながら。
ちぅちぅ・・・
ちぅちぅ・・・
うなじにぴったりと這わせた唇から洩れる音が、ひどく猥雑な震えを帯びていた。

いい子だ。
女学生姿から身を離すと。
黒衣はそう、呟いた。
さぁ、行っておいで。おまえが喪った生き血を求めて。
黒衣の囁きに、頷くと。
女学生は紺のスカートを翻して、ふらふらと表へとよろめいてゆく。

ふふっ。
ふらつきながら立ち去ってゆく人影を、
黒衣は、血をあやしたままの口許に冷笑をたたえて見送ると。
さぁ、出ておいで。
お待ちかね。きみの番だよ。
こちらのほうへと、異様に優しげな目線を送ってくる。
お嬢さん座りをしていた畳から、立ち上がるとき。
そわり・・・
胸元のスカーフが、音もなくなびいた。

素敵なハイソックスをお召しだね。
通学用なんです。
そぅ。あとでゆっくり、愉しませてね。
月明かりが差し込むだけの小部屋のなか。
黒一色のワンピースに、蒼白い肌がいっそうなまめかしく浮き上がる。
横におなり。
命じられるままに。
仰向けに寝そべって、おとがいをわずかにあおのけて。眼を瞑る。
そろり・・・と、のしかかってくる気配がした。
ひんやりとした息吹のうちに、さっきの娘から吸い取ったものが。
かすかに熱いものを、交じらせている。
かりり・・・
牙が、突き立った。
本能的に、身をすくめて。
ウッ・・・と、のけぞっていた。
あとは、さっきの犠牲者とおなじ経緯だった。
ちうっ。
血を吸い上げる音が、かすかに鼓膜を焦がした。

どれほど、吸われてしまったのだろうか?
さぁ、顔をおあげ。
黒衣の命じるままに、眼を開くと。
吸い取ったばかりの血潮に濡れた唇が、目のまえで笑んでいる。
いつも、ひと月にいちどしか、来てくれないのだね?
声色はあきらかに、男。
そして、さっき出て行った少女も。わたし自身も。男。
そう。
だれもが、女の衣裳に身を装いながらも。
影絵のようなお芝居を演じていたなかに、女の影はなかった。

だって。
女言葉を、強制されていた。
ナイショにしているんですもの。
昂ぶりにかすれた声が、かろうじて女ぽかった。
ふふふ。
黒衣はあざ笑うように、含み笑いで応えると。
毎晩遊びに来たら。あの子みたいに。
半吸血鬼になっちゃうものね。
組み敷かれた、上と下。
イタズラっぽく交わされた共犯者の笑みが、緊迫した空気をかすかに和らげた。

ハイソックスごしにもぐり込んでくる、鋭い牙が。
疼くような痛みとともに、ぐぐ・・・っと、深く刺し入れられる。
持ち主の血潮がじょじょにしみ込んでゆくのを、
ぬるぬるとしたぬくもりの広がりで、感じながら。
淡い陶酔が、胸いっぱいになってゆく。
障害は奥さん・・・なんだね?
黒衣の問いに、深く頷きかえしてしまっていた。


妻には身内のパーティーだと、言い含めていた。
子どもたちを置いて、夫婦ふたりで外出するのは。
ほんとうに、なん年ぶりのことだろう?
妻は着ていく服に迷っていたが。
けっきょく、いつも学校の父兄会に着ていくモスグリーンのスーツで装っていた。
地味めな装いに、ちらりとある予感を覚えたが。
わたしはなにも言わずに、妻を伴って、邸へと向かう。
帰宅する時には。
妻は、ふつうの状態ではないかもしれない。

招かれたのは、わたしたちだけではない。
ぜんぶで十人ほどの男女が、狭いリビングに入り乱れるように腰かけていた。
択び抜かれた人選と、たくみに化粧をしているせいとで。
だれもが男・・・だなどと。
妻はまったく、気づいていないようすだった。
せめて会話があれば、わかってしまうのだろうけれども。
すべてがほとんど無言の裡に、進行していったのだ。

どういう式次第なのか。
わたしには、よくわかっている。
おなじ趣旨のつどいに、べつのご夫婦を招待したことが。
過去になんどとなく、あったからだ。

さっきから。
黒衣が無言で、差し招いている。
用のあるのは・・・わたしに対してだけらしい。
妻にチラと耳打ちをして、傍らを離れた。

招かれた別室には、カメラがしつらえられていて、
妻を含む宴のメンバーが、いろんな角度から、あますところなく映し出されている。
黒衣はむぞうさに、あごをしゃくっていたが。
わたしに、たったひと言。囁いてきた。

着たい。

え?

きみの奥さんの服・・・

なにを言うことが、あるだろう?
知らず知らず、口許が浮ついていた。
似合うと思いますよ。
そう。
あなたとなら、だれでも、どういう形でも、お似合いでしょう。
妻の服も。
服の持ち主の、セックス・パートナーとしても。


宴は他愛ないほど、うまくすすんだといえる。
女装した吸血鬼たちに、両側を挟まれた妻は。
しばらく怪訝そうにしていたけれど。
目のまえの男女が、互いに相手を取り替えあって、血を啜り合いはじめると、
ひっ!
喉の奥を引きつらせていた。
優しく導いたのは、もちろん黒衣の彼。
奥さん。御覧なさい。ご主人も・・・愉しんでおいででしょう?

妻の目線のとどきにくい部屋のすみで。
わたしはべつの吸血鬼に、うなじを咬まれていた。
完全に征服された夫をみて、
妻もまた、ぐいぐいと力ずくで迫ってくる牙の下。
モスグリーンのスーツ姿から力を抜いていった。

咬みつかれたとき。
ストッキングに包まれた太ももの筋肉を。
かすかに、しくっ・・・と。
引きつらせていた。

わたしはいつか、彼と逢うときの女学生の制服に着替えさせられて。
夫婦並べられて、かわるがわるの毒牙に身をゆだねていった。


よく、見えられました。
女の客人を礼儀正しく迎えるのは、黒衣の彼。
彼のまえには、着飾った妻。
まだ、真っ昼間。
子どもたちが、学校からもどるまえ。
そして、夫が勤めのあいだ。
白昼も活動できるということは。
彼にとって、どんなにおいしいことか。
口許からはみ出した牙を眼にしても。
もはや妻は取り乱すようすはない。

お似合い・・・ですわ。
妻の言葉に。彼は満足そうに頷いた。
いま彼が身に着けているのは。
あの晩妻からせしめた、モスグリーンのスーツ一式。
履いていた黒のストッキングは、彼の牙にちりちりに裂かれて。
いまはなれ初めの記念品として、どこかに蔵されているにちがいない。
私、似合わないでしょう?
珍しく羞じらう妻の装いは。
若い頃、結婚式にお呼ばれした時に着ていた紫のスーツ。

処女の生き血じゃなくても、よろしいんですの?
えぇ。熟した血潮・・・愉しませていただきますよ。
ストッキングのおみ脚も・・・よろしいですね?
また、破いてしまうんですね?いやらしい。
甘美にからみ合うやり取りに、生垣ごしにはらはら聞き入っているわたし。

吸血が、はじまったようだ。
会話のとだえた窓ガラスの向こう側は、沈黙に沈んでいる。
ちぅちぅ・・・ちぅちぅ・・・
いつもわたしを包んでいた音が、妻におおいかぶさっていて。
わたしの肌を侵していた牙が、妻の柔肌をなぶり抜いている。

お洋服、汚さないで。ばれてしまうわ。
もだえながら、許してしまったのは。
白いブラウスのわき腹と、
紫のスカートの裏地。
撥ねた血の目だたないところ。
けれども彼の好みに合わせて履いていった真新しい黒ストッキングだけは。
容赦なく、咬み破られてゆく。
むっちりと白い太ももから、オブラアトが剥がされるように。
ふしだらに破れ堕ちてゆく、薄いナイロンの礼装・・・。

時おりご主人にも。
あなたの服を、着て来ていただきましょう。
えぇ。喜んで・・・
  アナタノ女装姿、コレカラモ見タイワ。
あの晩連れだって帰る道々、妻ははしゃいだ声で囁きかけてきた。


善意の献血・・・なんですよね?
妻は何度も、念を押してくる。
もちろん、そうさ。
わたしもよどみなく、応えている。
交わされたやり取りを、夫婦どちらもが信じていない。
子どもたちが寝静まってから、
夫婦連れだっての、お邸通い。
ふたり、スカートのすそをゆらめかせて。
妻は、よそ行きのスーツ姿。
わたしもまた、妻から借りた礼服やワンピース。
まるで姉妹のように、並んで横たえられて。
複数の牙に、素肌を侵されてゆく。
陶然となった、夢見心地のなか。
半裸に剥かれた妻が、熱い血潮をよぎらせた素肌をわななかせる。
あのひとの、お嫁になりたいの。
妻にせがまれて、結婚式を挙げさせたのは。
それからひと月とたたないころだった。


我が家の血が、お気に召したようね。
もっと、ご馳走しなくちゃね。
わたしたちだけじゃ、身体が持たないですから。
子どもたちにも、事情を言い含めておきましょう。
善意の献血・・・なのですから。
吸血鬼の情夫を持って。
ときには娼婦のように、春をひさぎながら。
善意の献血・・・と口にする妻。
けれども彼女は、間違っていないのかも。
採られる血液のなかには。
捧げられるべき熱情や情愛も秘められているはずだから。

さいしょは、息子。
それから、娘。
すうっとあけておいた雨戸のすき間から。
影どもはひそかに忍び込み、朝日とともに去ってゆく。
音ひとつ、痕跡ひとつ、残さずに。
ひと月経ったころには。
息子も、娘も。
照れくさそうに、うなじのあたりを引っ掻きながら。
部活だとか、お呼ばれだとか、口実をつけながら。
お邸で、ハイソックスを濡らしてくるようになっていた。


その晩。
自宅のリビングは、時ならぬ人いきれに包まれていた。
今夜はべつのご夫婦が。
わたしたち夫婦とおなじ運命を与えられる日。
妻は、小娘みたいにウキウキとして、
他所の家の奥さんを毒牙にかけるくわだての片棒をかついでいた。
招かれたのは、人のよさそうなご主人と、しっかり者らしい奥さん。
ご主人の女装癖を、奥さんが気に入っていないらしい。
気に入らせてあげないと、気の毒じゃないか。
黒衣の彼の言葉に、深々と頷いたのは妻のほうだった。
敷居をまたいだご主人の、スラックスのわずかなすき間から。
ねぇねぇ。見た?薄い靴下、履いているわ。
妻は耳打ちといっしょに、わたしのわき腹を小突いてくる。
あちらの御宅。年頃のお嬢さんが三人も、いらっしゃるんですって。
ねらい目・・・ね。
そういう妻の口許からは。
いつか、尖りを深めた犬歯が覗くようになっている。

吸血されるカップル

2007年05月16日(Wed) 00:10:24

その青年は、女の子のように控えめな目鼻と、ごく目だたない性格の持ち主だった。
しいてその子を特徴づけるなら。
女の子の服が気に入りだ、ということ。
母親や、姉たちの身につけるフェミニンな衣裳に魅せられて。
どうにもならなくなって、気がついたら人知れず、
箪笥の抽斗を、こっそりと開けていた。

似合うよ。すこしもヘンじゃない。
唯一、己の嗜好を明かした親友は、顔色ひとつ、変えないで。
真顔で彼の好みを肯定してくれた。
ありがとう。
深い声色に、親友も満足したらしい。
いちど、気に入りの服を着て、遊びにきてくれないか?
そんな求めにすら、なんらの疑いもさしはさまずに。
青年は真夜中、ストライプ柄のワンピースに身を包み、
しゃなりしゃなりと夜道をたどってやって来た。

きれいだね。きみ・・・
親友は、まるで恋人に接するように、うっとりとした目つきをして。
しなだれかかるように、迫ってきた。
同性愛の嗜好はなかったけれど。
甘やかに妖しい雰囲気に、呑まれるようにして。
青年はなされるがまま、身をゆだねてしまっていた。
フェミニンなワンピースの上から、身体をまさぐられながら、なかば夢見心地になって。
相手の青年がすり寄せてくる唇の裏側に、飢えた鋭利な牙が秘められているなど、夢想だにせずに。

かりり・・・くちゅうっ。
かすかな痛みと奇妙な音に、われにかえったときには。
もう、身動きできないまでに、がんじがらめに抱きすくめられていて。
その内側で、身につけている女ものの衣裳までもが、
彼を呪縛にかけるがごとく、しつように巻きついていた。
唯々諾々と。嬉々として。
彼は、求められるまま、うなじをえぐられて。
若い生き血を、ちゅうちゅうと。果てなく吸い出されてゆくのだった。

彼女がいるんだよね?
紹介してくれるよね?
きみの女装趣味に、まだ気づいていないんだって?
将来、結婚するつもりなんだろう?
だいじょうぶ。うまく取り計らってあげられるから。
そんな妖しい囁きに。
青年はうっとりと、自らのすべてをゆだねきってしまっている。

連れてきた彼女は、
友だちの結婚式の帰りだといっていたけれど。
鮮やかな若草色のワンピースに、少し濃いめの化粧をしていて。
足許を彩る肌色のストッキングも、いつもよりツヤツヤとした輪郭に縁どられていた。
おいしそうだね。
そんな言葉を、のみ込んで。
親友は若いカップルを、闇におおわれた館へと、招待する。

父さん?父さん?いるかい?
少年のころの声にかえって。
親友は闇の彼方に呼びかけた。
ズボンの下に秘めているのは、女もののストッキング。
青年から密かに手渡した、恋人の持ち物だった。
濃いめの黒は、紳士用の薄手の靴下だと弁解しても。
きっと彼女には、見抜くことができなかっただろう。
もっとも。
女装の彼に、愛用のストッキングを脚に通されるのは。
案外彼女にとっても、不愉快なことではなかったかもしれないが。

闇から追われるようにして現れた初老の紳士は。
青年と、うら若い女性のことを、
かわるがわる、まぶしそうに見比べていたけれど。
友だちと、彼女なんです。
息子が折り目正しく挨拶すると。
かわるがわる差し伸べられた手の甲に、紳士らしい接吻を重ねてゆく。
古風な挨拶を面白そうに受け入れた男女は、くすぐったそうに笑んでいた。
皮膚を通して巡る血潮を感じながら。
相手がひそかに、胸震わせているとも知らないで。

ほんのつかの間のことだった。
さいしょに、青年が。
つぎに、恋人が。
青年は、親友に。
恋人は、その父親に。
抱きすくめられて、うなじを吸われて。
ワンピースの胸に、ワイシャツの胸に。
若い血潮を、撥ねかせてしまっている。
やがてそれは、得がたいほどの愉悦になり代わって。
ふたりとも、唯々諾々と。嬉々として。
目のさめるほど鮮やかな衣裳を、己の生命の色に染め抜くことを愉しんでいた。

たくし上げられた青年のズボンの下。
目を見張る恋人のまえで、親友は脛に唇を当ててゆく。
親友の唇と、迎え入れる皮膚のあいだに介在するのは。
薄手の黒のストッキング。
よく見ると、相手の青年の脚もとも、おなじ色合いに映えていた。
お嬢さん。彼氏を見習うといい。
貴女のお召しになっているストッキングよりも。
彼のもののほうが、いい色合いをしているだろう?
きみの未来の花婿は、いいたしなみをもっているようだね。
彼の愛用のストッキングは。舌触りさえ、なめらかなのだよ。
初老の吸血鬼のささやきに。
女は応えなかったけれど。
うっとりとなって、恋人に囁いている。
こんど、あたしの服を貸してあげる。
明日の晩、ふたりでここに来ようね・・・と。

女装する吸血鬼

2007年05月16日(Wed) 00:09:30

ちっとも、いやらしい感じがしない。
もちろん、下卑た雰囲気からは、ほど遠い。
詩人のような豊かな感性と、貴公子のような気高い気品さえ感じさせる。
いつも女の服を嗜んでいる彼だというのに。

彫りの深い顔立ちは、エキゾチックな翳を秘めていて。
切れ長な目と、薄く高貴な唇が。
女と見まごうほどの色香を漂わせてはいるものの。
あきらかに、男性。
それでいて、シンプルなスカートにハイヒールという、
フェミニンな輪郭を持ちながらもキリッと装われた直線的な装いが、なんらの違和感もなく、
スマートな肢体にぴったりとマッチしている。

口数が少なく、翳さえ秘める彼なのに。
時おり発せられる声は、音楽的な響きで女たちを酔わせ、のぼせ上がらせる。
ねぇ。そのスカート、いい柄だね。
ちょっと、ボクに貸してくれないか?
いい色をしているね。きみのストッキング。
こんど、履いてみたいんだけど。
こともなげに吐かれるそんな不埒な言葉にさえ、
女たちは唯々諾々として、嬉々として。
己の衣裳を貸し与えてしまっている。

あの子の穿いていたやつだよ。
青年はフフフ・・・と笑みながら。
訪れる夜の闇の彼方。
すり寄せられてくる唇を、避けようともせずに。
黒の柄もののストッキングに覆われた己の脚を、大胆にさらけ出してゆく。
ヒルのように膨れ上がった赤黒い唇が、這うようにネチネチと淡いストッキングの翳りをいたぶってゆくのを。
薄っすらと笑んだ、切れ長の目が、いとも愉しげに、小気味よげに。
ストッキングに加えられる凌辱を、その持ち主の面影へと重ね合わせてゆく。

こんど、逢わせてあげるよ。
ふふふ・・・
ククク・・・
笑み合うふたりは、親子。
父親は処女の生き血に魅せられ、
息子は生き血を吸われる美少女に魅せられている。

息子のフィアンセ

2007年05月16日(Wed) 00:08:34

追い詰められた壁ぎわで。肩をすくめて、ほほ笑むのは。
楚々とした女学生姿。
頭のうしろでむぞうさに、ぎゅっと縛っただけの黒髪が。
健康そうに輝く素肌とよく似合っていて。
ツヤツヤとした若さを放散していたけれど。
今夜の彼女のお相手は、血に飢えた吸血鬼。
活き活きとした若さを、ピチピチとはずむ生気を。
むざんに、むしり取られてしまうのだろうか?
それでも少女が、いつものようにほほ笑んでいるのは。
それが婚約者の父親だったから。

迫り来る影の主は、婚約者の父親の仮面の下。
飢えた淫らな唇に、義理の娘になるものへの礼節さえ忘れかけた好色を秘めていたけれど。
少女は唯々諾々と。嬉々として。
傍らのイスに、縛りつけられてゆく。
そんな不埒から、婚約者の素肌を遮るべきものは。
とうに恋人とおなじように。
イスのうえ、荒縄でぐるぐる巻きにされてしまっている。
見交わしあう視線と視線は。なぜかイタズラっぽい笑みを含んでいて。
少女は足許にかがみ込んでくる恋人の父親に、微笑を含んで見守っていた。
すらりとしたふくらはぎを覆う真っ白なハイソックスに、少女はドキドキ胸はずませながら、
いやらしいよだれをうわぐすりのようにぬめらせた唇を、吸いつけられてゆく。
学校名のイニシャルを飾り文字にあしらった、通学用のハイソックスは。
女学生らしい品位を、ツヤツヤとした真新しさにして輝かせていたけれど。
整然と流れるような太めのリブが、ぐねぐねとねじれてゆくのを。
にわかに力を込めて吸われた唇の下、バラ色のシミが広がるのを。
少女は面白そうに、くすぐったそうに。
イタズラっぽい含み笑いを絶やさずに、見つめつづけている。

おいしいですか?わたしの血。
舌足らずな甘さを秘めた声色に。
血を吸うものも。恋人をゆだねるものも。
うっとりと、聞きほれながら。
切れ切れに鼓膜を刺してくる、忌むべき妖しい吸血の音もろとも、聞き漏らすまいとしている。

処女を・・・盗られてしまうのね?
口をついて出た少女のことばに、少年はぎくりと身体をこわばらせたけれど。
父親は、そんな息子を揶揄するように。
うふふふふっ。
と、笑みながら。
いますこし、処女の生き血を愉しませていただくよ。お嬢さん。
そのたびに、スカートや靴下を、悪戯して。
素肌をねっちりと舐めさせていただくが。
そんな不埒を、許していただけるだろうね?
きっとそのほうが、息子もドキドキするようだから・・・

処女を連れ出す少年

2007年05月15日(Tue) 04:08:25

父さん?父さん・・・?
ドアの向こう側に深々と広がる闇を、はばかるように。
少年は声を忍ばせながら、父のことを呼んでいる。
あぁ。
くぐもった声が、だいぶ奥のほうからかえってくるまでに、だいぶな時間がかかったのだが。
少年は声がもどってくるのを確信していたらしい。
ちょっと帰りたそうにしている少女の手をギュッと握ったまま、かなりのあいだ沈黙だけの闇と向かい合っていた。

ユウカを連れて来たよ。パパに逢いたがっていたんだよ。
少年の声は、得意そうにはずんでいる。
すまないね。
しわがれた声の主は、闇の奥からその身を引きずるようにして。
もの憂げに、けだるげに、頭をかすかに振っている。
眩暈がするの?父さん?
あぁ・・・だいぶ、渇いているのでね。
だいじょうぶ。
少年はいっしんになって、父と声を合わせてゆく。
ボクだっているし。ユウカもそのために、連れてきたんだから。

少年は妹の手を離すと、
見ておいで。相手は父さんなんだから。ちっとも怖くなんか、ないんだよ。
そういうと。
両手を後ろ手に組みあわせ、おとがいを軽く仰のけて。
しっかりと、眼を瞑っている。
父と呼ばれた黒影は、闇に表情を消したまま。
そうっ・・・と、息子のほうへと忍び寄って。
両肩に手を置いて。
すっきりと伸ばされたうなじへと、影を重ねてゆく。
ちゅうっ・・・
かすかに洩らされたのは、吸血の音。
あらかじめ言い含めれていたらしい少女は、父と兄の所作を、大きな瞳でじいっと見つめつづけている。

さぁ、つぎはユウカの番だよ。
吸われた痕に、軽く手をやると。
少年はさっきまでと同じように、ひそめた声をはずませて。
セーラー服姿の少女を、父のほうへと押しやっていた。
ゆらっと揺れたリボンが、薄闇のなかでも初々しい。
すまないね。
父親は、まな娘の足許にかがみ込み、
ひざ下のあたりにそうっと唇を這わせてゆく。
肌の透けて見える、薄めの黒のストッキングが。少女の脛を大人びた彩りに染めていた。
少女はちょっと眉をひそめたけれど。
そのままじっと突っ立ったまま。
なされるがまま、唇を受け入れていた。

破るのは・・・なしにしようね?
少年の訴えるような目線に、われにかえると。
男は愛情を込めて少女を掻き抱いて、
兄にならってわずかに仰のけたおとがいをくぐるように、
うなじに影を重ねていった。

母さんには、ナイショだからね。
父と妹、どちらに言うともなく、少年の声はまだ上ずっていた。

ほんとうは、ユウカのことを犯したいんだろ?
息を詰めて、少年が訊いたのは。
そんな風変わりな逢瀬を数回、繰り返したあとのこと。
ストッキングを履いたまま、ふくらはぎを咬んで。
そのままびりびりと、衣裳を切り裂いていって。
女にしてしまうんだよね?
声変わりをした少年の声は、ひくく淫靡に震えていた・・・

男が静かにうなずくと。
少年はちょっとだけ、身を固くして。
けれども、いままでと変わらない、上ずった声色で。
いいよ。連れて来てあげるから。
その代わり・・・ボクも見ていてかまわないかな?
さいごの言葉は、さすがにちょっと震えを帯びていた。
父はちょっとだけ、息子の顔を見上げたけれど。
好きにするがいい、という意思だけが、声もなく伝わってきた。
念のため、縛らせてもらうよ。
声にならない声に。
少年はくすっ、と、笑みかえしていた。

制服を振り乱して。
少女はかすかに、あえいでいた。
整然としたプリーツの流れる濃紺のスカートの奥深く。
肉薄するように迫らされた、むき出しの腰周り。
遠慮会釈のない侵入に、さすがの少女もわれをわすれて。
ちょっとだけ、抗って。
ちょっとだけ、涙ぐんで。
けれども今は・・・
嫁入り前に受け入れることの禁じられた男の肉を。
耽るように、愉しんでしまっている。

イスに縛りつけられた少年は。
半ズボンの下、妹の愛用のハイソックスをひざ下までぴっちりと引き伸ばして履いていて。
密着してくるハイソックスのしなやかさと。
ドクドクと脈打つ妖しい拍動に。
すっかり敏感になってしまった皮膚を、わななかせてしまっていた。

処女が欲しいんだろう?
ユウカだけじゃ、足りないんだろう?
来週の金曜日には。
ボクの彼女、連れてくるから。
しばらくは、血だけだよ。
処女の生き血なんて、そうそう手に入らないんだから。
彼女を犯しちゃったら。
そうだな・・・幼馴染のフサオくんを連れて来るよ。
先月、ユウカの友だちと、婚約したばかりなんだ。
もちろん彼女も、いっしょに・・・ね。


あとがき
縛られたまえで、少女が生き血を吸われ、着衣を辱められ、犯される。
そんないけない遊戯に、はまってしまったのでしょうか?