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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

連れ込み宿

2008年04月14日(Mon) 07:39:02

古びた天井の木目だけが、ことのなりゆきのすべてを見おろしていた。
学校帰りの革製の鞄が、すぐ傍らに転がっている。
さっきまで。
おなじ畳のうえ、愉悦の声をあげていた少女は、もう帰った後だった。
帰りに、フルーツパーラーで待ち合わせて。
甘いものを存分にほおばったあと、彼女は無邪気に笑って、ひと言囁いただけだった。
行こ。
ニッと笑んだ口許に、えくぼを浮かべながら。
彼のことを、隣室に待たせて。
真っ赤なTシャツの胸を、おし広げるようにして。
黒い影の主のまえ、身体を開いていったのだ。
婚約者が、じぶんを裏切る愉悦に身をゆだねているのを。
ゾクゾク胸昂ぶらせながら、いちぶしじゅうを覗き見して。
薄暗い電灯の下。
ストッキングがずり落ちてむき出しになったひざ小僧が、ひどく眩しく輝いていた。

身づくろいがすんだあと、部屋に招び入れられて。
彼女はなにごともなかったような顔をして。
肩に流した長い髪を、上品に揺らしながら。
お待たせ。
とだけ、告げたのだった。
部屋のすみに脱ぎ捨てられた、太ももまでのストッキングを。
彼女はむぞうさに、つまみ上げて。
あげる。
これ見よがしに、彼のまえにぶら下げた。

きりっとした折り目のついたプリーツスカートをひるがえして、彼女が去ると。
彼は男とふたり、取り残されるように部屋に残っていた。
あとはしぜんの、摂理だった。
女ものの靴下を穿いて。
ぴっちりと締めつける、薄手のナイロンに、皮膚を疼かせて。
少年は恋人の代役を、演じ始める。
畳のうえ、身をよじらせるたび。
しなやかなナイロンの呪縛が、少年の血をなまめかしく染める。
これで、あの娘を狂わせたのだ。
きみの口で、きれいにしなくちゃいけないね?
小父さんは気さくに声をかけて。
ズボンのジッパーを、再びおろしはじめた。
ボクのおチ○ん○んを、舐めて。
衝動的に、口走って。そう懇願したのは、いつのことだっただろう?
いつか立場は、逆になっていた。
赤黒く怒張したそいつは、目のまえに迫ってきて。
頭を上から、抑えつけられて。
逃げ道はもう、なくなっていた。
けれども少年は、眼を瞑ってそれを咥えこんでいく。

くちゅ。くちゅ。
にゅる。にゅる。
薄暗い部屋。はぜる唾液の音だけが、洩れてくる密室。
き、み、の・・・母さんを犯したい。
くぐもった昂ぶりに震えを帯びた男の声が、頭上から降ってきた。
こ、れ、で・・・このペ○スで。辱め抜いてやりたいのだ。
昂ぶりに、少年も声震わせながら。
お願い。母さんを犯して・・・ボク、手伝うから。
幾度も繰り返されてきた忠誠の誓いを、その夜も立てつづけていた。

息子さんの写真です。
差し出された写真を手にしたのは。
少年とよく似た面差しの、中年の紳士。
咥えておられるのは、わたしの持ち物ですよ。
男はさりげなく、自分の太もものつけ根に手を置いて。
これで・・・息子さんの花嫁を支配して。
息子さんご自身をも、支配させていただきました。
逆の立場の写真も、ございます。
息子さんのほうから、舐めてほしいと言われましたので。
若いひとの精は、やはり勢いが違いますな。
まるで、ワインの香りを品評するように。
言葉遣いだけは、丁寧でも。
いけしゃあしゃあと、告げられた言葉は。
父親としては、聞き捨てならないほど、忌まわしいものであったはず。
けれども突きつけられたほうの男は、こともなげに相方の笑みを受け流して。
だいぶ・・・お世話になっているようですな。
乾いた声で、受け答えしている。
こう・・・出られてしまうと。なにか、脅迫されているようですが。
貴男は、紳士的なかたのようですから・・・要求はなんでも、呑まなければならなさそうですね。
もの分かりのよいお方のようですな。
そうであればこそ、仲良く共存できるというもの。
男は声をひそめて、父親に囁きかけた。
奥様と、仲良くなりたい。貴男と、兄弟の契りを交わしたい。
耳朶に触れる呼気に、父親はくすぐったそうな翳をよぎらせたけれど。
貴男とおなじ愉しみは、わたしには難しいようだが。
隣から覗くのは、愉しめるかもしれませんね。
婉曲に、帰順の意を表したのだった。

エスコートは、息子さんでしょうな。
そうですね。私がお連れするのは、つぎの機会にしましょうか。
打ち合わせは、かんたんにまとまっていた。
わたしの実家では・・・
娘の祝言の夜に、花嫁の母親は祝い客のまえで身体を開くしきたりがあるのですよ。
愉しみは、なかなかあとまで取り置くことができないものですね。
ふふ。あはは。
男たちは、たちの悪い笑みを交し合いながら。
夫は妻を譲り渡し、男はまた、奴隷をひとり増やしていった。

紹介します。ボクの母です。
ようこそ。はじめまして。
初めてですの。こういうところ・・・
なにが起こるのか。なにをされるのか。
まえの晩、夫にしずかに告げられて。
妻は静かに、御意に従いましょう、と、頭を垂れた。
その夜の愛撫が、まだ身体のそこかしこに残っているけれど。
きっと・・・さらに深い服従を、いまから強いられるのだろう。
女は薄黒く装ったストッキングの脚を、さりげなくたたみのうえに伸べていって。
あなたは少し、はずしてちょうだい。
息子に投げた声色は、ほんのすこし反り返っていた。

ある日は。
ひとつ畳のうえ。
嫁と姑を、並べてまろばして。
色とりどりのスカートやストッキングに装われた下肢に、いたぶりをくわえて。
細目に開いたふすまのかげから洩れてくる、嫉妬に満ちた視線を、くすぐったく受け流しながら。
ひとり、またひとり・・・と、愛し抜いてゆく。
またある夜は。
二階の寝室。階下の寝室。
ふた部屋を、ふたまたかけて。
そのたびに、部屋の男あるじに、場所を譲らせて。
パジャマ一枚で震えている夫たちが、昂ぶりの震えを覚えるほどに。
その妻たちを、娼婦に変えてゆく。
覗いていらしたの?いやらしいわね。
あなた、しっかりしないと、お嫁さんを盗られてしまうわよ。
しゃあしゃあと口にする姑に。
お義母さま、毎晩長すぎますわ。
若妻もまた、横目で夫を挑発している。
すべてはあの一夜のあやまちから始まったこと。
素肌に這わされた一片の唇が、夫婦を、家族を、変えてしまった。

連れ込み宿 七 ~責める女~

2008年03月05日(Wed) 07:40:27

彼氏がいるんです。もうじき結婚するんです。
それなのにあなたは、わたしを犯してしまった・・・
目のまえで涙を浮かべんばかりにして、必死に言い募る女。
けれどもいったい、オレにどうしろというのだろう?
ここは、おとといこの女を呼び出した部屋。
そのとき女はなにも知らなかったけれど、いまではこの部屋の意味を熟知しているはず。
盛り場のはずれ、ただの古びた民家のようにひっそりとたたずむこの家は。
連れ込み宿。昔から、そう呼ばれていた。

初めてだったんですわ。なにも知らなかったんですわ。
だのに言葉巧みに、騙されて。こんなところに連れてこられて。
だいじなものを、なにもかも奪い尽くされて・・・
うつむきながら。声震わせながら。
女の語尾は、昂ぶりに震えている。
オレはためらうことなく、女の肩に手をかけた。
抗いは、すぐにやんだ。
初めてだったというおとといの場合より、ずっと早くに。
重ね合わせた唇から洩れてくるのは、ただひたすらに切ないあえぎ。

女は結婚後も、オレとここで逢うようになった。
人妻なんです。夫にはだまって、ここに来ているんです。
あなたは、ひどい人です。いつもこうやって、わたしを騙すんです。
いつもひたすら、オレのことを責めつづけて。
けれどもひとしきり、暴言がすむと。
肩に手をかけるオレの、なすがまま。
ブラウスの釦を飛ばされ、スカートのすそを乱してゆく。

女はタダで、春をひさぐ。
オレ専属の、娼婦として。
いちど堕ちた女は、けれども昼間は絵に描いたような良妻賢母。
それなのに、白髪の混じるこの齢になってさえ。
この密室のなか。
処女を喪ったあのころとおなじ口調で、
オレを責めつづけている。
逃げられないように堅く抱きすくめられた腕のなかで。

連れ込み宿 六 ユウヤのママ

2008年02月25日(Mon) 07:08:17

まだママのことを、差し出していないんだね?
マコトは支配者ぶった声色で。
仲良しのユウヤを責めていた。
三人、寝そべった畳のうえで脚を伸ばして。
半ズボンの下に履いてきた、おそろいの紺のハイソックスのふくらはぎを、小父さんに差し出しながら。
あっ、あっ、う・・・うぅん。
どうしてこんなに、昂ぶってしまうのだろう?
すべすべとしたナイロンごしに、舌を這わされるだけで。
おなじ昂ぶりを、ともにしながら。
ボクたち三人は、それぞれの密会の共犯者。
古びたシミの浮いた天井の下。
黄ばんだたたみの上に転がされたボクたちは。
若いアユのようにピチピチとした膚をさらして。
小父さんの奇妙な欲望を、充たしていく。
ひそかな昂ぶりを抑えた吐息を、洩らしながら・・・

マコトのハイソックスは、いつもよりグッと薄くて。
まるでストッキングみたいに、脛を蒼白く透かしていた。
どお?パパがお勤めのときに履いていくやつなんだけど。
足裏の補強だけが、ちょっとツヤけし。
でも、紳士用とは思えないほどのツヤツヤ光る光沢が、すべてを圧倒していた。
すごい・・・
ユウヤもこういうの、穿きたいだろう?
マコトの声も、じつは昂ぶりに寸詰まっていた。

さあ、さあ。
ふたりして。
ウブなユウヤを、悪の道に引きずり込もう。
ボクたちは、ためらうユウヤの肩を両方から抱きかかえるようにして。
お宿からまっすぐ、ユウヤの家をめざしていた。
ママ、あしたの午後ってあいている?
お友だちに逢ってもらいたいんだけど・・・
いがいに落ち着いているユウヤの態度に。
ボクたちは意外そうに、顔を見合わせていた。

ほんとうは、ユウヤはママを逢わせてしまっている。
それを知らないのは、マコトだけ。
けれども。
善良な少年を悪の道に堕とす。
そんなマコトのシナリオが、捨てがたくて。
ボクはユウヤと彼のママと、三人で語らって。
堕とされる善良な母子の役を演じてもらう。

やられキャラ・・・って、愉しいね。
いよいよママを連れ出そうというとき。
ユウヤはこっそりと、囁いてきたものだった。
ボクたちは始めて、大人の前で半ズボンの脚をさらして。
おそろいの紺のハイソックスで、肌色のストッキングを穿いたユウヤのママの脚を取り囲むようにして、道を急いだ。

ああっ・・・うっ・・・あっあっ・・・
ふすまの奥から洩れる声に。
ボクたち三人は、失禁しそうなくらい、昂ぶって。
たがいにたがいのズボンのうえから、股間に手をあてがって。
パンツを濡らしあってしまっていた。
ユウヤだけは、ママを救い出すチャンスを、あきらめさせるため、
ボクたちの手で、ぐるぐる巻きに縛られていたけれど。
稚拙な結びかたをした縄は、すぐにほどけてしまっていて。
けれどもユウヤは家庭崩壊を救うチャンスを、わざと無にして。
ふすまの向こうで家庭が崩壊するのを、嬉しそうに覗き込んでいる。

堕ちちゃったね。三人とも。
羞ずかしそうな、照れ笑いを。
お互いの頬に、認め合って。
こんどは誰を、引き込もうか?
どこまでもワルなボクたちは。つぎの獲物を物色する。
気をつけてね・・・ボクたちみたいな男の子が、油断なく目配せしあうとき。
狙われているのは、キミなのかもしれないのだから。


あとがき
愉しい密会の場に、薄いハイソックスを履いてきたマコトくん。
もしかすると、パパに相談して、親子で示し合わせてママを堕としたのかも。
その事実を、見せつけたくって。
さりげなくパパの靴下を黙って借りてきたのかも。
主人公のボクは、もうなんども経験している道のようですが。^^

連れ込み宿  ~妹を誘い出す~

2008年02月24日(Sun) 07:51:09

都会のかたすみに、ひっそりとたたずむ古い邸。
上品なようで。わいざつなようで。
とにかく目だたない古い木の塀の向こう側には。
子どもの知らない秘密の世界が広がっている。
連れ込み宿。
そういう名前がついているなんて。
初めてママのあとを尾けていったころには、まだ知りもしなかった。
あの門をくぐった日から。
ボクは胸の奥までも、いままでにない色に染められていった。
単身赴任していたパパが戻ってきても。
家の雰囲気は元どおりには戻らないで。
なにかのはずみで、家のすみっこに隠れていたものがさらけ出されたりしたら。
秘められつづけてきた妖しいものが、取り返しのつかない形で。
いっぺんに、表に出てきそうな危うさを。
ボクはいつも、意識していた。
だれもがすべてを、知りながら。
なに不自由ない都会の家庭の、一見平穏な日常に。
歪んだ浸蝕は、ひたひたと忍び込んできて。
もう帰り道のないままに、音もなく進行をつづけていた。

週2か週3の割合で。
ママは昼日中から、ひっそりと出かけて行って。
あの古びた薄暗いお宿の門をくぐり抜けて。
別人に生まれ変わって。
小父さんと、情交を遂げてゆく。
ボクは時おり、いっしょに呼び出されて。
ママに気づかれないように、こっそりあとを尾けていって。
とざされたふすまの向こう側、秘密の穴ぼこを覗き込んで。
ママがパパをどんなふうに裏切っているのか、いちぶしじゅうを見届けていく。
おなじ覗き穴から。
パパもこんなふうに・・・ママが犯されているのを覗いているのだろうか?
シミのついた漆喰の壁に、中年男の饐えた息遣いが漂ったような気がして、
時おりはっとして、あたりを見回す。
パパとボクとは、かち合わないように。
ママとボクたちも、顔を合わせないように。
男はいつも、抜かりなく気を配っていて。
だから・・・ボクはいつも、言われたとおりに行動していた。
それが・・・支配されていることだと気づくのに、たいして時間はかからなかったけど。
服従していることが、なぜかむしょうに愉しくて。
きょうの午後、キミのママを呼び出すから。キミはいつもの部屋に先回りしているように。
小父さんにそんなふうに命令されてしまうと、
よろこんで、お言葉どおりにさせていただきます。だなんて。
なれない丁寧語で返したりしている。
そういうとき。
おじさんはひどくくすぐったそうな顔をして。
満足そうに頷き返してくるのだった。

家族どうしで、顔をあわせなくても。
ふすまの向こうにいるのが、ママで。
主婦の仮面をかなぐり捨てたママで。
着飾った衣裳を、惜しげもなく裂き散らされてゆくありさまは。
じゅうぶんすぎるほど、刺激的だった。
いちばん恥ずかしいのが、ほかのお客と同席するとき。
どうみても未成年のボクなのに。
そういうお客を見慣れているのか、
すれからしに違いないここの客人たちは、軽く会釈をするだけで、
あとは申し合わせたように、押し黙って。
覗き窓の向こう側の演劇に熱中する。
見ず知らずの男たちに、ママの痴態を観られている。
決して観られてはいけない秘めごとを。
おおぜいの男たちに、観られている。
男たちはみないちように、ママの白い肢体に、好奇の視線を這わせていって。
部屋の中でママを辱め抜いているあのひとと同じくらい、
鋭利な視線という責め道具で、ママのことをなぶり抜いている。
こんな恥ずかしい体験に。
ゾクゾクしてしまうのは・・・なぜ?

そんな日常がつづくなか。
パパが珍しく、勉強部屋に現れた。
ミカは今夜も、泊まりだね。
そう。
ママが出かけてゆく夜は。
勉強に集中する・・・そういう名目で。
妹のミカは、独り身の叔母の家に預けられる。
家でなにも知らずにいるのは、まだほんの少女である妹だけ・・・
大人の世界に一歩踏み込んでしまったボクは。
暗黙の諒解のなか進行してゆくママの不貞行為を、オトナの男として愉しみはじめていた。

そのうちにね。
ミカも泊まらなくて、すむようになるさ。
パパのひと言には、ときおり、どきりとさせられる。
今夜の場合も、そうだった。
わたしもこれから出かけるけれど・・・お前は家に残りなさい。
なにもすることがない?
いや、いや。きみにはまだ、大人になるための勉強があるはずだ。
オトナになるためのね・・・

謎めいたひと言を残して、パパが出かけてしまった後。
がらんどうになった夜更けの家のなか。
ボクはなぜか、昂ぶりを覚えている。

このあいだのことだった。
ことが済んで、身づくろいを済ませたあと。
ママは男にしなだれかかって、なぞをかけるように囁いていた。
生娘をひとり、お世話させていただきますね。
ほお?
いまどきでも、いや、いまどきだからこそ。
生娘を抱くことは、至難のこと。
世間の狭い専業主婦に用立てできる生娘など・・・そう、ひとりしかいないはず。
そのときは、なんのやり取りだか、うかつにも聞き逃してしまったけれど。
ママは、情夫の歓心を得るために、まな娘をエモノにしようとたくらんでいる!
独り取り残された家のなか、ボクはぞくり・・・と胸騒がせる。

彼女のキョウコと、フルーツパーラーで待ち合わせて。
軽く30分ほど、お茶をして。
そろそろ時間だね。
予備校の始まる時間を気にするみたいに、ボクたちは時計を見合わせると。
そそくさと割り勘で、お勘定を済ませていた。
ほんとうは、予備校の授業のある日だったけど。
ボクたちが足を向けたのは、あの古びたお宿。
先に立って歩くキョウコは、上はラフなTシャツなのに、スカートは制服の紺のスカート。
ゆらゆらと重たげに揺れるプリーツスカートの下には、いつも学校に履いて行く黒のストッキング。
薄黒いナイロンの向こう側から蒼白く透けて見える彼女の脛は、ひどくなまめかしい雰囲気を漂わせている。
そう、あの男にご馳走するために。
ボクに見せつけるようにして、オトナっぽい黒のストッキングを履いてきたのだ。
ストッキングフェチだと、彼女にばれてしまったいま。
彼女は男の腕のなか、くすぐったそうに笑いながら。
制服の一部を裂き取らせていた。
覗き穴から覗くボクの目のまえで、これ見よがしに。
ママの不貞行為の共犯者に、未来の花嫁の純潔をプレゼントしてから。
どれだけ日が経っただろう?
始めは羞じらっていたキョウコも、いまではすっかり状況になれて、
きょうもボクにお供をさせて、彼のエッチな欲望に貞操を汚されにゆく。

お部屋のまえで、振り向いて。
じゃあ、あとでね。
キョウコはボクの頬にキスをして。
ボクは彼女のおでこにキスを返してやる。
お互い唇を重ねあったことさえ、まだないというのに。
彼女は男女の体験を、どれほど重ねてきただろう?
ママのことまで狂わせてしまった、あの老巧な男の手にかかって・・・

学校帰りかね?
ええ。
彼氏には、ナイショかね?
エエ・・・
しらじらとうそをつく少女を、男は我が物顔に抱き寄せて。
Tシャツの下から、手を入れて。
しつこいまさぐりに、青いTシャツに描かれたLOVEという横文字が揺らいだ。
LOVE。そう、たしかに、LOVE
make love という言い回しを使わないように。
予備校の先生はそういって、皆を笑わしたけれど。
いまボクの目のまえで始まっているのは、正真正銘のmake love。
愛はたしかに、創られるものなのだと、
ママやキョウコを通して識ってしまったボク。

ワイシャツのあいだからはだけた逞しい胸が、彼女の胸に迫ってゆくと。
彼女はちょっとだけ、抗って。
そうすることが、ボクをよけい昂奮させるって知っているかのように、抗って。
それでも胸をまさぐられつづけていくうちに、牝の本能を目覚めさせてしまって。
はぁん・・・
教室では絶対に聴くことの出来ない、彼女のよがり声。
重たいプリーツスカートを、いともむぞうさにはぐりあげられて。
薄黒いストッキングごしに浮かんだ、蒼白い太ももに。
ストッキングもろとも侵されるように唇を這わされて。
ボクとは頬っぺとおでこのキスだけなのに。
大人そのものの、濃厚なキスを交し合ってゆく。
ああ・・・ボクの観ているまえで。
見せつけてやろうよ。
小父さんにそそのかされて、キョウコは素直に頷いている。
ツヤツヤとした黒髪が、肩の辺りで乱れ始めていた。
チャッ・・・チャッ・・・
彼女のストッキングが、足許から剥ぎ取られてゆく。
学校の制服と合わせると。とても知的に映る黒のストッキングが。
娼婦の装いとかわらぬままに、あしらわれて。
さいごは唾液と精液にまみれて、しわくちゃにされて引きずり下ろされる。
あ・・・あ・・・あ・・・
彼女を犯される。未来の花嫁を寝取られる。
古びた薄暗い密室のなか、天井の陳腐な木目模様だけが、彼女の背徳を見おろしていた。

はずんだ息を、どうにか抑え込んで。
男と別れたあと、「ご苦労様」。
彼女はそういって、他人行儀にお辞儀をした。
これからも・・・こんな夜がつづくのだろう。
ママが夜更けに、帰宅するときも。こんな口調でただいまを告げるのだった。
ご苦労様。
お供をして。恋人が遂げる不貞を覗き見て。
そうした行為に対するねぎらいなのか?
起こったような顔をしていたのだろうか?
ちょっとだけ、彼女は怯えた表情をよぎらせる。
ほんとうは・・・虐げられる悦びに、喉をからからに引きつらせていたたけなのに。

ミカちゃん、まだ済ましてないんだ。
彼女は乾いた口調で、そう受け答えした。
夫の妹になる女性など・・・所詮は他人のようなものなのだろう。
そうね。お母さんが娘を引き寄せるのって・・・カンタンだよね。
長いまつ毛が、かすかに震える。
自分自身が、母親を堕とそうとしているなどと・・・そのころのボクには察しが着かなかったけれど。
あのときキョウコは、そういう想いに胸昂ぶらせていたのだった。
だれが連れて行くの?
キョウコの問いだけが、うつろに響いた。
訊いているのよ?だれが連れて行くの?
ウン・・・
煮え切らない、なま返事。
このまま、流れのとおりに。ママにさせてしまっていいのだろうか?
実の妹が、中年男に犯される。
それも、じぶんの母親の愛人に。
吸いつくされてしまったはずの理性のかけらが、ボクの胸の奥をジリジリとさいなんでいる。
ばかねぇ。
くすり・・・
目のまえの女は、たしかに笑った。
少女ばなれした笑みだった。
お父さんが連れて行くのは、さすがにムリがあるけれど。
彼女はそのとき、自分自身の家族のことを反芻していたのだけれど。
それはボクには、わからないことだった。

いいのかね?
パパはいつも、冷静だった。
このごろ、ボクはパパに傾倒している。
おなじことを許してしまった男どうしという間柄だったから。
ママの不貞をパパに報せずにいることで。
ボクは小父さんの共犯。
自分の配偶者を犯されていることで、パパとも共犯。
その共犯者同士が、いまは娘を、妹を襲わせる共謀者になろうとしていた。

いいのよ。気にしないで。
学校から戻った時。
場違いな声が洩れるのを耳にして。
しばらく庭先で時間をつぶしていたら。
縁側のガラス戸ががらりと出し抜けに開かれて。
ママの声が、頭上から降ってきた。
ノーブルな顔の輪郭に、小娘みたいに無邪気な笑みを浮かべていた。
おっぱいをぷりんとさらけ出した、あられもない姿で。
あがんなさい。あのひとは帰ったあとだから。
ああ、お客さん帰ったんだね。
どちらからともなく交わしたのは、ごくありきたりな会話。
ママに会いに来たお客さんが帰るまで、時間をつぶしていたら、やっと声がかかった。なんて。
それこそどこにでもある、ありふれた日常。
けれども実際には、ママはお客様をもてなすために、スカートの奥まで見せびらかしていて。
ちょっとめくれあがったスカートの裏地に白い粘液がねばりつくのを、ボクは目ざとく気づいていて。
母さん、ほら。って、注意して。
ママはさりげなく、スカートのすそを直している。
いいじゃないの・・・
ああ、かまわないさ。
脈絡をもたない、言葉と言葉。
こんどの週末。ミカを連れていくわ。
あなたもどう?そう訊いているのだろうか?
もちろん、行くさ。
目で応えると。
応えの代わりに、ママは顔を近寄せてきて。
ラメ入りの口紅を刷いた薄い唇が、迫ってきた。
はじめて重ね合わせる、唇と唇。
せめぎあうように、女の唇はなかにしみ込もうとして。
ボクはあらがいもならず、口の奥にまで舌を入れられてしまっていた。
舐めくりまわされて。
ズボンのうえを、まさぐられて。
ママはいつも小父さんがそうするようなやり方で、
勃ってしまったボク自身を、なだめてくれた。
赤黒く怒張したものが、薄っすらと笑んだ唇のすき間にぬめり込んでゆく。
そのありさまに。
びゅっ。
いつかとおなじように、粗相をしてしまったけれど。
ママは口からあふれたものを、消し去るように。
床に垂れたしずくさえも、拭うようにして。
舌で舐め取っていった。
浅ましい所業。そう片づけるのは、かんたんだ。
けれどもボクは、ボクの洩らした精液をママがくまなく舐め取ってゆくあいだ。
ずっと、ママの髪の毛を撫でつづけていた。

ミカちゃん?こんどの日曜日、あいてる?
ママとごいっしょしてもらいたいの。
いい人に、逢わせてあげる。
薄っすらと笑みをたたえる、薄い唇は。
あの刻とおなじ、ミステリアスに濃いものを漂わせていて。
なにも知らないミカは、素直にママの言いつけに従っている。
ボクは勉強部屋に引き上げた妹を、追いかけて行って。
金曜日の放課後、あけといて。
ぶっきら棒に、そういった。
ママが階段の下で聞き耳をたてているのを、ワクワクとして察しながら。

おみごと・・・ね。
もう、一人前だね。
親たちは口々にそういって。
物陰からじいっと、ボクのことを窺っている。
おまえの誘いも、なかなかだったよ。
おまえがミカに誘いかけていたときの、あいつの顔ったら、なかったものな。
小夜さんにも、迷惑だっただろうし。
今週中には、けりをつけようと思っていたの。
すべては、親たちの目論見どおり。
ボクよりも何枚もうわてなふたりは。
跡継ぎ息子をそそのかして。
まな娘を堕とす下手人に仕立てたのだった。

連れ込み宿 六 ~三人おそろいで・・・~

2008年02月24日(Sun) 06:36:16

お宿にママを連れ出して犯しつづけている小父さんは。
時おり気が向くと、ボクのことまで誘い出す。
誘いを受けた僕は、ママの箪笥の抽斗から、黒や濃紺のストッキングを抜き取って。
ズボンの下、隠すように脚に通していって。
小父さんに脱がされるままになって、ママのストッキングをせしめられてゆく。
見返りに・・・というわけではないけれど。
勃ってしまったモノを、なんとかしてほしいっておねだりをして。
いつもおチ○ン○ンを、吸ってもらっている。

キモチ、いいんだぜ?
うっ・そー♪
たいていの子は、そういうけれど。なかにはからかうやつも、いたけれど。
心のどこかで、否定はしていない。
え・・・だって・・・
ちょっと突っ込むと、おずおずと戸惑い口調になっている。
なによりも。
夜のとばりに隠された大人の世界をのぞき見るという禁断の誘惑に。
ボクたちはいちばん弱い年頃だった。

面白いよな。そういうの、まえから関心、あったんだ。
ボクの告白に、積極的に共感して支持してくれたのは。
マコトにユウヤの二人組み。
いつも三人ひと組になって、たまに学校をさぼって、街にくり出していたりした。
ちょうど数百メートルばかり寄り道すれば、
あのひっそりとしたお宿のまえを、通りかかることになる。
都会の街なかは、雑然としているくせに。
妙なところで、辻褄が合っていたりする。
あそこなんだぜ?
へぇ・・・
あのなかで。
ママが犯されている。
さすがにそこまでは、言いかねたけど。
ボクじしんが体験したことは、いくらしゃべってもかまわなかった。
そういう人と、どうやって仲良くなったの?って、マコトに突っ込まれた時には。
さすがにあいまいに、語尾を濁してしまったけれど。
ボクたちの仲間うちで、重要だったのは。
それがうそ話なんかじゃないっていう、その一点だけだった。

その日は、ママが誘われることのない土曜の昼間。
そう。あのひとは、ママとパパとが二人きりになれる時間を大事にしてくれる。
あるとき小父さんと過ごしたあの部屋で。
共有する、ということは、譲り合うことなんだね?
うっとりとなったボクが、そんなことを口にすると。
よくわかるね。そのとおりだ。
小父さんはそういってほめてくれたけれど。
愛し合っている夫婦を堕とすのが、むしょうに愉しいのさ。
そんなおっかないことも口にして。
パパやママには、ナイショだぜ?って。
ボクだけに、打ち明けてくれていた。

どうして土曜がいいの?
マコトはなにかと、突っ込んでくる。
それは・・・だって。
小父さんのつごうがいいからさ。
つごうがいい。
たんに、予定があいている・・・という意味ではない言葉。
けれども二人とも、ボクの思惑になんか気がついていない。
公園のトイレで、半ズボンにハイソックスのスタイルに着替えたのは。
ボクたちくらいの年代で、そんなカッコウをしている子があまりいなかったから。
申し合わせたように、濃紺のハーフパンツにおなじ色のハイソックス。
こういうスタイルに、萌えるのかな?
大人しいユウヤは、女の子みたいにむき出しにしたひざ小僧の下を、ひどく寒そうにしていた。
そう。
ちょっと見には、男の子にも女の子にも見えるスタイル。
通りすがりの男の子に目をやる小父さんに。
こんど、あういうカッコウしてやろうか?って言ったら。
図星・・・と言わんばかりに、肩を叩かれて。
きみは優秀だね、って、からかい口調のなかに本音をすべりこませていた。

あらあら。
迎えに出た老女は、古びたお宿に不似合いなボクたちの若さと、土曜の昼下がりという刻限とにもかかわらず。
いつもとかわらずにこやかに迎え入れた。
お代はきょうも、けっこうですよ。
老女の格別の好意に、三人ばらばらにお辞儀をかえして。
どたどたと上がりこむ音が、静謐な廊下に耳ざわりに響き渡った。

先に着いていた小父さんにも、けたたましい足音は聞えたらしい。
きっと・・・
威勢の良い足音の向こう側にある、吸い取るべき若々しい精気を。
おじさんはひしひしと感じて悦に入っていたはず。
>満足だろう?
>ああ・・・まぁな。
ふたりだけに分かる、目配せのやり取り。
ボクたちはさっそく、脚を並べて。
たたみの上にうつぶせになった。
ちゅっ・・・
足許に吸いつく唇の音がしたのは、お隣だった。
ボクの左側に寝そべっていたユウヤは、しょの瞬間ウッとうめいて、身をすくませた。
だいじょうぶ。だいじょうぶだって・・・
畳のうえで震えるユウヤの手の甲を、ボクは包むように握り締めた。
小父さんはあとでこう言ったっけ。
お前が手伝って、あいつの手を抑えつけてくれていたんだよな?
そんなつもり、毛頭なかったんだけど・・・
小父さんは、聞こえよがしにちゅるちゅると、ユウヤのふくらはぎをハイソックスのうえから撫でてゆく。
そう、舌で・・・
はぁあ。
ユウヤのため息が、ほてりを帯びはじめると。
男は品定めをするように、ボクたちのハイソックスの脚を見比べて。
こんどはマコトの足許に、おおいかぶさった。
ちゅるうっ。
いつも怜悧なマコトなのに。
きょうは、人が変わったように小さく縮こまっちゃって。
長く伸びた爪で、畳をカリカリと引っ掻いていた。
はぜる唾液の音が、部屋の空気を濡らしてゆく・・・

はぁ、はぁ、はぁ・・・
順番に脱がされた半ズボンの下。
逆立ちするばかりに勃ってしまったモノを、小父さんはひとつひとつ、咥え込んでいって。
ちゅるり、ちゅるり、ちゅるり・・・
あの、いつもとおなじもの慣れたあしらいで。
ボクたちの理性を、こともなげに吹っ飛ばしてしまった。
仰向けになった姿勢のままで。
寒々とした冷気のなか、腰周りを思い切りよくさらけ出して。
太ももやお腹のあたりを、ぬらぬらする粘液がねばついているのを。
ひどく落ち着かい気分で、意識しつづけている。
放り出された通学用の鞄が思い出させる日常が。
日常ばなれした現場を、よけいにいやらしいものにした。

ウフフ。どの子の靴下も、美味だね・・・
ひどくヘンタイな科白なのに。
小父さんが言うと、みんな納得してしまっていて。
ユウヤはまた履いてきてあげるねって言い出すし。
いつもクールなマコトまでもが、こんどはいつ?って、せがみ口調で訊いている。
そうだね。
今度来るときは・・・
ふだんの長ズボンでかまわないから。
キミたちのママのストッキングを履いてきてもらおうか?
ズボンの下なら、目だたないから・・・
ほぅら、来た、来た。
これからなん人、堕ちるのだろう?ボクの周りで。

数ヵ月後。
キミのママを見ちゃったよ。あのお宿で・・・
放課後ボクをつかまえたマコトが、ひっそりと囁いてきた。
お宿に行ったの?
独りでは、怖いからって。
行くときは、三人そろって行こうねって約束していたので。
ボクはそれとなく、咎めると。
だって・・・ママのことを連れて行ったんだもの。
キミのママのあと、ちゃんとしてもらったよ。
さいごまで見ていた。昂奮した。
ユウヤも、悪の道に引きずり込もうぜ?
さいごだけは、いつものマコトに戻っていたけれど。
ボクはなにもかも、知っている。
ユウヤはもう、すませてしまっているのだ。

どうしても、ママのストッキングに手を出せないって相談されて。
ストッキングの持ち主に、じぶんで履いてもらって。
ふたりして、あのお宿に案内して。
ふたりきりにさせたふすまの向こう側。仲良くひざを並べて、なかの様子に聞き入っていた。
ガードの固いユウヤのママも、やっぱりいちころだった。
帰りぎわ。
案ずるより生むが易しなんだね。ほんとうは、簡単なことなんだね・・・って、
思わずユウヤが口走ったとき。
ユウヤのママは、ちょっとだけ怖い顔になったけれど。
そのあと彼がどんなお仕置きを受けたのかは、もう訊かなくてもわかっている。
けれども、ナイショにしておこう。
意外に演技派なユウヤと示し合わせて。
まじめな男の子を悪の世界に迷い込ませる。
そういうシナリオを、なにも知らないマコトを交えて愉しむのも、とても面白そうだから。

連れ込み宿 六ーは ~捧げられた処女~

2008年02月23日(Sat) 17:00:58

男のひとのまえで、はじめて制服脱いだとき?
あぁ私、この人のものになるんだな。女にされちゃうんだなって、思って。
けっこう落ち着いていたのよ、私。

中学のころから付き合っているキョウコは、彼女といっていい間柄だった。
「だった」ではなくて、もちろんいまでも彼女だけれど。
去年までと、今年では。
なにかが大きく、違っている。
そう。
彼女は処女を、喪って。一人前の女になっていた。
処女を捧げたあいては、ほんとうなら将来を約束したボクのはずなのに。
ボクはなぜか、震える声で。
あの男に彼女の純潔を譲り渡してしまっていた。
あの男・・・
そう。
ママの情夫で、ボクのことすら愛撫を加えていった男。

彼女がいるんだ。まだ、処女なんだ。
ほんとうなら、自分でヤりたいって、想いつづけていたんだけど。
いまはね。ほんとうは、小父さんに犯してもらいたいんだ。
あらぬ呟きを、洩らしてしまったのは。
都会の片隅にある、古びた密会場所。
道ならぬ恋を結ぶという、あの忌まわしい儀式が、毎日のように遂げられてゆく処。
ママは相変わらず、まるで淑女が操を立てるように。
濃紺のストッキングに脚を通そうとはしないでいて。
人知れず、ボクが身代わりに。
箪笥の抽斗からこっそりと抜き取った濃紺のストッキングを、ズボンの下にまとっていって。
男ふたりの、畳のうえ。
ズボンを脱がされて、ママのストッキングを抜き取られてゆく。
昂ぶり勃ってしまったモノを、男はいつもちゅるりと旨そうに、根元まで飲み込んでいって。
きれいな肌をしているね、って。
まるで女に向かっていうように、褒めながら。
ボクの乳首をかわるがわる、つよく吸っていくのだった。
小父さん、ほんとうはボクの家を支配しているんだろう?
ほんとうは・・・パパも、ママとの仲を知っていて。
許してもらっているんだろう?
畳のうえ、惑いながら。
あらぬことを・・・うわ言のように繰り返してゆく。

パパが、単身赴任を終えて帰ってきた。
けれども家のなかの空気は、拍子抜けするほど、ほとんどなにも変わらなかった。
もともとパパは、しずかな人だったから。
人が一人増えたという実感もないほどに。
増えたはずの人は、朝ひっそりと新聞を読んで出勤していき、
たまにいっしょになる夕食も、ひっそりと新聞を読みながら、しずかに終えて。
週末珍しくおなじ部屋にいても。
やはりひっそりと、新聞を読んでいる。
けだるそうに、けれども満ち足りたような落ち着きを漂わせながら。

パパとはきっと、おなじ立場なのだろう。
かたほうは、自分の母親を犯され、もういっぽうは、妻を侵されているのだから。
もちろんそんな怖ろしい会話など、子どものボクにはとても切り出せたものではなかったけれど。
小父さんとは、週1か2くらいの頻度で逢っていた。
男のひとのまえでズボンを脱ぐときの羞ずかしさだけは、なかなか消えなかったけど。
咥えてもらうときの快感には、すっかり慣れっこになってしまっていて。
それなしには、日常を過ごせないほどになっている。
テルヤの精液を飲みたい。
そういわれることに、ドキドキと昂ぶってしまう日常。

きみは、ママとおなじ膚を持っているね。
小父さんはいつもそう囁きながら。巧みに唇を這わせ舌をさばいて。
皮膚の奥深く、逃れようもない快感をしみ込ませてくる。
口止めのために、ボクを自由にしたのだろうか?
とてもそうとは、思えなかった。
だって。
わざわざそんなことをしなくても。
ボクはたぶんパパのためには動かなかっただろうから。
ママの不貞をやめさせようとも、パパに教えようともしなかっただろうから。
ママの浮気を好んで覗いて。パパにはナイショでだまっている。
そういういけない子なんだから。
むしろパパよりは、ボクは小父さん寄りの立場に立っていた。
狙いを定めたママと、おなじ膚と血を宿したもの。
小父さんが求めているのは、どこまでもママの幻影だったのだ。

ママのときも、そうしているんだね?
幾度、そう呟いたことだろう?
ああ・・・そうとも。きみも見ていて知っているだろう?
男は決まって、そう応えてきた。
このごろは。
ママの服を、公然と持ち出して。
あの古びた宿の一隅で、女になって。
男は笑いながら、化粧するのを手伝ってくれた。
なかなか美人だな。女ぶりをあげたじゃないか。
男のからかい口調が、なぜか心地よく鼓膜を刺した。
ストッキングが好きだという、ママの情夫に。
ママのストッキングを履いた脚を差し出したあの日から。
彼はボクのことを、かけがえのない悪友として、齢を離れた親しみを寄せかけてくるようになったのだ。

彼女には・・・話してあるの?
いいや・・・
そうか。そうだよね・・・話しにくいことだよね。でも、いつか・・・
うん・・・
この世界から抜け出して、まっとうな世界に戻るつもり?なんなら、応援するけど。
ううん。
意外なくらいに強く、ボクはかぶりを振っている。
じゃあ・・・どこかで打ち明けないとね。
うまい方法、あるの?
うまくやってあげるよ。あのときとおなじように、溶け込むように・・・

溶け込むように。
あのときもほんとうに、そうだった。
男が禁じた日、秘密のお宿に遊びに行って。
そのとき、隣の覗き部屋に、パパの姿を見たときに。
あやうく声をあげそうになったボクを。
ほかのお客に気取られまいと、パパはとっさに「しいっ」と制して。
そのままじぶんの妻が犯されてゆくありさまを。
いちぶしじゅう、もらさずに。
じいっとさいごまで、見守りつづけていたのだった。
痛いほど握り締められたボクの手に伝わってきたのは。
普通ではない想い。
たぶん・・・小父さんの期待とは裏腹に。
ボクは、パパとおなじ血を秘めているのだろう。

お前も、マゾの血に目覚めたようだね。
お宿を出るとき。
ほかの客が散ったのを見計らって。
パパはそっと、囁いたものだった。
マゾ。
ボクたちの年代では、変態以外のなにものでもない言葉。
けれどもその言葉の裏に秘められたおどろおどろしいものに惹かれるようになって。
仲間たちといるときには表向き、揶揄の表現としてしか使わない言葉を。
日常を離れたあの密室では。
身に沿うほどに、身近な言葉として受け入れてしまっていた。
なにも口にしないように。
ママも、わたしも。すべてを承知のうえでしていることなのだから。
パパの言いつけは、いまでもきちんと守られている。
なにも言わないように。
そう囁いたとき、パパはひと言つけ加えたものだった。
きみがいままで、ママの浮気をわたしに黙っていて、彼と共犯になっていたのとおなじように。
これからもずっと、彼の共犯になって。
ママを寝取るのに、手を貸してやるように。
囁きながら、パパの浮かべた不思議な翳りは。
いまは生き写しに、ボクの顔の輪郭をなぞっている。
ふたりのあいだに横たわる秘密が溶けた瞬間。
ボクはパパの共犯者になっていた。
すべてをそう仕向けたのは・・・
パパのために用意された夜に、ボクが来ることをわざと禁じた小父さんだった。

キョウコさんのことを、どうするつもりだね?
朝、妹が登校していったあと。
やはり鞄を持って、玄関に向かう時、呼び止められて。
もちろん・・・結婚するつもりだけど。
なんのてらいもなく言えるほど、周囲に認められた仲だった。
ウン。ぜひそうするがいい。
いまならまだ・・・わたしを上回ることを彼にしてあげることができるようだね。
キョウコさん、まじめなひとだから。まだ、処女なのだろう?
ぼそりと呟いた父の声は。
ずぅん・・・って。ボクの胸を刺し貫いていた。
みなまで、パパは言わなかったけれど。
ママを催眠術にかけたように。キョウコさんのことも、うまく面倒みてくれるだろうから。
穏やかな笑み顔には、ありありと。そう書いてあるようだった。

彼女がいるんだ。まだ、処女なんだ。
ほんとうなら、自分でヤりたいって、想いつづけていたんだけど。
いまはね。ほんとうは、小父さんに犯してもらいたいんだ。
口走った言葉を、そのまま文字に書かされて。
目のまえで、朗読までさせられた。
想いはそれでも、変わらないのだね?
念を押すようにたたみかけてくる男の瞳は。
してやったり・・・とばかりの輝きを秘めていたけれど。
ああ、狙い通りだろう?うれしいだろう?思いどおりに・・・させてあげるよ。
かけがえのないひとだから。
心ゆくまで辱めて・・・愉しんじゃってね。
にやりと返すボクは、どこまでも小父さんの悪友。
さっき目にした紙片は、ボクがいま書いた手紙とおなじくらい、挑発的だった。
  妻を誘惑してください。
  もしも妻を堕とすことができたなら。
  単身赴任期間中は、最愛の妻を貴方のために捧げます。
  もしも戻ってきてからも、妻が貴方との交際を望むなら。
  私はただ、見守ることだけを愉しもうと思います。
あれはまぎれもない、パパの書いた字・・・
あんなに上手には、書けないけれど。
ボクはパパが捧げることがかなわなかったものを、彼にプレゼントしてあげることができる。
じゃあ、約束・・・
重ねあわされてくる唇は、男のものとは思えないほど柔らかだった。

キョウコ・・・キョウコ・・・
古風な名前だね。
制服姿で抱かれたい・・・だなんて。
名前のとおり、古風な子なんだね。
古いだなんて・・・
キョウコは口を、尖らしたけれど。
セーラー服の襟首に這い込んでくる手を、取り除けようともしないで。
制服の中身を、まさぐりにゆだねてしまっている。
折り目正しく着こなしたセーラー服は、荒々しい掌の動きに合わせて、波打って。
濃紺の襟元に鮮やかに走る整然とした三本のラインは、みるみる曲がり、ゆがめられてゆく。
洗脳されきったような横顔は、いつになく大人びた蒼白さを帯びていて。
抑揚をおさえた声色で。
彼氏がいるのに・・・こんなこと。
眉をひそめて、呟いている。
女になりかけた少女は、知り抜いている。
軽い咎めがどれほどの効果を持つのかを。
目のまえに迫る男にも。
ふすまの向こうで聞き入っている恋人に対しても・・・

姑になるひとを、日常的に支配しているその男に。
思いのまま、素肌をいたぶらせて。
蒼白かった頬を、じわじわとピンク色に染めていって。
姑がスカートのすそを浸したのとおなじ濁り液に。
制服のプリーツスカートを、惜しげもなく浸してゆく。
血潮を散らした新床のうえ。
女は瞳に蒼い光をよぎらせながら。
熱っぽく、囁きかけていた。
こんどは母のことも、犯してくださいね。
お義母さまとおなじくらいの年頃なんですの。
父はまじめな人なので・・・ばれないように。
もしもばれても、平気なように。
お義父さまやあのひとみたいにしてくださるのなら。それでもよろしいのですけれど・・・

連れ込み宿 六ーろ ~ママの情事~

2008年02月23日(Sat) 15:28:30

パパと口を利かなくなったのは。声変わりしたころからだろうか?
ちょうどそのころ。パパは田舎に単身赴任していって。
ますます距離が、遠くなった。
学校も、忙しかったから。
パパの任地までわざわざ遊びに行くこともなかったし、
たまに家に帰ってくるときも、ボクは勉強部屋にろう城してしまっていた。

そんなころだった。ママが眩しく見えるようになったのは。
年頃になると。女のひとがやたらきれいにみえるようになる・・・って。
学習雑誌にも、書いてあったけど。
どうやらそういうボク自身の変化だけじゃなくって。
ママも変わったのかも・・・って、気づいたのは。
なにかの拍子に、古いアルバムを開いたときだった。
こんな地味な服を着ていたっけ?
ひっつめた髪。やたら無地ばかりが目だつ服。
写真のなかのママは、いまのママに比べて、ひどくやぼったく見えたのだった。
その日もママが着ていたのは。
濃い紫色のスーツだった。
パパがなにかのお祝いに買ったんだって、夫婦ではしゃいでいたのは、いったいいつのことだったろう?
ママの服なんか、それまで気に留めたこともなかったのに。
シャワー浴びるとき。
着ていた服を洗濯機に放り込むとき、つい目に入ってしまったのは。
机のなかにこっそり隠しているいけない雑誌に出てくるような、
レースのついたガーターだった。
興味本位はだめだって、大人はいけないことのように言うけれど。
スーツだとか、ガーターベルトだとか。ボンテージだとか。
ボクが女の服の種類を覚えたのは、こういう雑誌だけが、情報源だった。
思わずボクは、どきりとした。
ボクの知っているママは、どちらかというと潔癖症で、引っ込み思案で。
色気も飾り気もなくて、やたら細かいことにばかり目くじらたてている、
そう、どこにでもいる、専業主婦というやつ。
だのに・・・
地味なブラウスやスカートの裏側に。
いやらしい雑誌に出てくるような、あんな挑発的な下着を着けているなんて。

そういえば。
パパのいたころと比べて、出かけることも多くなったみたい。
あるときは、妹の学校。
べつのときは、妹の同級生の親たちとの会合。
またべつのときには、なにかわからない大人のサークルの打ち合わせ。
学校に行っている間、ママがなにをしているかだなんて。
男の子はふつう、気にも留めないものなのに。
どことなくわざとらしい、弁解がましい態度が・・・どこかヘンだった。

あるときのことだった。
学校から戻ったら、ママの姿はどこにもなくて。
いつも裁縫をしている部屋を覗いたら(やたらと覗くなって、叱られてことがある・・・)
そこにもママはいなくって。
がらんどうの部屋のなか。古びたじゅうたんの上。
なにか薄くて黒い、細長い生地が、長々と伸びていた。
拾い上げるまで、それがママの穿いていたストッキングだなんて、思いもかけなかった。
すくった手のひらから、ぶらりと垂れ下がったストッキングは。
ボクの腕に、ヘビのようにからみついてくる。
淡い光沢を帯びた薄手のナイロンは。羽衣のように軽くて。
サヤサヤとした感触が、日常ばなれしていて、ひどくなまめかしい。
ママのなかに感じたことのない”女”の香りが、そのときボクに伝染した。
思わず唇をつけようとしたとき。
鼻先を、ツンとした異臭がよぎる。
なんだろう?なんの匂いだろう?
わかるのに、たいした時間はかからなかった。
朝起きた時、ボクはいつもそいつの始末に困って、
そ知らぬ顔をして夜具を片づけるママの傍らで、気まずい思いをしていたのだから。
パパがさいごに、家に戻ってきてから。
ゆうに半月は、経っていた。

たぐる手も、もどかしく。
てかてか光る薄手のストッキングのつま先をさぐってゆく。
ママとはどうしても重なり合ってこないくらい、なまめかしい薄絹は。
ボクをそこまでも、魅了していた。
それはきっと、一瞬よぎったあの異臭のせいだったろうか。
ママを汚したかもしれない、いやきっと汚したであろう異臭。
想像の延長線は、どうやっても。
マガマガしい結論しか、導き出せない。
なんどやっても合わない計算問題を解くように。
なんどもなんども、反芻したけれど。
こたえはやっぱり、ひとつだった。
家族に秘めた、犯罪の移り香。
それは、不快きわまりないもののはずなのに。
ボクはなぜか、胸わくわくさせていて。
まだ見ぬ異臭の持ち主に。親近感さえも、覚えていて。
なよやかなストッキングにまつわりついた異臭に、ボクの汗を重ね合わせてみたくなって。
見よう見まねで、つま先を合わせていって。
思い切って、ぐ・・・っと。脛からひざ小僧へと、引き伸ばしてゆく。

太ももまでのストッキングは。
背丈の伸びたボクには、すこし寸足らずだったけど。
きゅうくつな束縛感が、かえってたまらない密着感を増幅させて。
古びたじゅうたんが冷たく伸べられた無人の密室のなか。
ほんものの女の脚のようになった自分の脚に、ついうっとりと目を取られて。
ボクは人知れず、昂ぶっていた。
びゅうっ。
しまった。
我に返ったときには。
肌理細やかなナイロンのうえ、白く濁った粘液が貼りついている。
パンツにも。じゅうたんにも。
ほんのちょっぴりだったけど、消しようもない痕を、残していた。
真っ青になったボクは、あわててストッキングを脱ぎ捨てて。
ありあわせのティッシュで、犯罪のあとを、ありったけ拭い取って。
部屋に入ってきた時、これはどんなふうに展べられていたのか?
あるはずもない記憶を、必死に振り絞っていた。
その日。遅くに帰ってきたママは。
きっとボクの不始末に、気がついたはずなのに。
とうとうなにも、切り出してこなかった。

ママの行動が、気になる。どうしても、気になる。
まるで自分の彼女に浮気されているような、地に足が着かないようなたよりない感覚にさいなまれて。
ある日思い切って、というよりも、ついふらふらと、学校をさぼってしまった。
朝家を出ると、そのまま庭先にまわり込んで。
パパがいないあいだ、伸び放題になっている草むらに隠れていると。
青臭い香りに、ひどく悩まされた。
だれかが訪ねてくる気配は、いつまでたってもやって来ない。
けれども部屋の中で、ママが身支度をしているらしいのが。
すりガラスを通してなんとなく、伝わってくる。
がたがた・・・ぴしゃん。
二階の窓を、閉める音。
いつもきちんとしていて、開けっ放しがキライなママも。
このごろは陽気がよくなったからって、二階の窓だけは開けるようにしていた。

玄関の物音に、つられるように。
ボクはもうこれ以上なにも起こりそうにない庭先から、表にまわった。
ひと足ちがいで、ちょうどママが出かけていくところだった。
黒の地味なジャケットの下。
いままで目にしたことのない、ショッキングピンクのワンピースを着て。
PTAとかで学校にくるときには、絶対履いてこないハイヒールは。
ぴかぴかと黒光りしていて。
ハイヒールのなか、きちんと収まった足の甲は。
なよなよと薄い黒のストッキングに、薄く透きとおっていた。
生唾を、飲み込んで。
知らず知らず、あとを尾(つ)けていた。

どきどきと、胸とどろかせながら。
時おり別のボクが、咎めるように、ボク自身を問い詰めている。
いったいどうするつもりなんだよ?ママを尾けたりなんかして。
男と寝ている現場を押さえて、パパに言いつけるつもりなの?
否、否。決してそんなつもりはない。
たぶんママがなにかをしていても。
ボクはきっと、口にチャックをしているだろう。
だのに、なぜ・・・?
こたえのないままに。
ママは電車に乗って、降りて。
ボクも人ごみにまぎれて、ママのすぐ後ろにくっついて、改札口を出ていた。
ハイヒールの足どりはひどく速くって。
時おり、見失いそうになったけれど。
古びた木の塀に囲われた、ごく目だたない邸の門に。
まるで忍び込むようにして、身を沈ませていった。

どうする?あとに入るの?
もしも、ただの知り合いの家だったら、どう言い訳する?
学校さぼって、来ているんだぜ?
めまぐるしく応酬する、自問自答。
けれどもそうしているあいだにも、ママの身になにか決定的なことがふりかかりそうな予感がして。
いても立ってもいられずに、とうとう門をくぐり抜けてしまった。
門をくぐるとき。
ちらりと視界に入った表札には、「○×旅館」と、目だたない字で書かれていた。
ボクはなにかを確信し、数分前ママが締め切った引き戸をぐいと押し開けた。

古びた家の玄関は、昼でも薄暗くて。
内部がどうなっているのか、ちょっと間合いがつきかねたけれど。
そう広くない土間の真正面、きちんと正座した老女と、いきなり目が合っていた。
さっきまでの思惑は、どこへやら。
ボクはすっかり、怖じ気づいてしまって。
どう切り出したものか、へどもどと。
言葉にならない言葉を、飲み込んでいた。
とつぜんの闖入者に、老女は驚くふうもなく。
血色のよい童顔に、ほほ笑みさえ浮かべながら。
ちょっとだけふしんそうに、小首をかしげて促してくる。
あの・・・あの・・・ええっっと。
お客様ですか?
老女はどこまでも、丁寧だった。
え、ええ・・・
そうですか。ご休憩ですか?
あ、はい・・・
ふつうこちらは、未成年のかたはお断りなんですよ。
老女は意味深な笑いを浮かべていたけれど。
とても、まともに応対するゆとりなんかなかった。
あ。ちょっと気分が悪くって。
まあ、それはいけませんねぇ。
老女はボクのウソをどこまで真に受けたものか、それでもうわべは親身そうに、こちらの顔色を窺っていたけれど。
お布団を敷きましょう。ちょっとゆっくりしてらしたら、案外すぐに具合がよくなるかもしれないからね。
まるで孫をあやすおばあちゃんみたいな優しい顔で、ボクを中へと促した。
箒できれいに掃かれた土間は、ちりひとつ落ちてないように見えたけど。
ボクの革靴を下足箱に入れるとき。
見てしまった。
ママの穿いていたハイヒールが、家を出かけたときのまま。
ぴかぴかと黒光りして、うずくまっているのを。

頭の上にお盆を載せても落ちないかと思うほど。
こざっぱりとした和装の老女は、背すじをしゃんと伸ばしていて。
まるで御殿の奥女中かなにかのように、落ち着き払って。
ボクの先に立って、廊下をしずしずと歩いてゆく。
お連れのかたは、見えるのかしら?
だしぬけな質問に、ボクはまたもへどもどとなったけれど。
(たいがいここにいらした殿方は、女のひとをつれてくるものですよ)
折り目正しい和装の背中に書いてあるようなその言葉を、老女はとうとう口にしなかった。
さ。どうぞ。こちらへ。
通された部屋は、やっぱり古びていたけれど。
きちんと掃除が行き届いていて、居心地よさそうな畳部屋だった。
四畳半の部屋のまん中に敷かれた布団は、古いものだったけれど。
シーツだけは真新しくて。かえって部屋になじんでいない感じがした。
ご気分が悪くなったら、そこの呼び鈴を鳴らしてくださいましね。
では、ごゆっくり。
老女はそつのない事務口調で、そういうと。
大人の男性にするように、折り目正しく三つ指ついて。
まるで閉じ込めるように、ふすまをススッと引いて。
互いを互いの視界から消していった。
いきなりな扱いに、途方にくれたボクは。
一人前に扱われたことで、かえって頼りない気分を覚えていた。

伸べられた布団をまえに。
ちっとも具合の悪くなかったボクは、ちょっとのあいだ途方にくれていたけれど。
ほんらいの使命を思い出すのに、そんなに時間はかからなかった。
ママは・・・どこにいるのだろう?
見あげた天井には、ところどころ古いしみが浮いていて。
踊るような木目とないまぜになって、迷路のような模様を描いている。
おなじ天井の下。
ママはいま、どうしているのだろう?
ふと、気がつくと。
隣室から聞える、妙なきしみ。
ふすま一枚隔てているだけの隣室からは、女のものらしいかすかな呻き声さえ洩れてくる。
思わずふすまにとりついて、開けようとした手を、すぐ引っ込めて。
そう・・・っと細めに開ければ、と思ったものの。
なかにだれがいるのかもわからないまま、そうする勇気もわいてこない。
ふすまの脇には、数十センチほどの引き戸があって。
古風な金具が、まるで謎かけでもするように。
ゆらゆらと音もなく、揺れていた。

恐る恐る、伸ばした手が。
別人の手のように、慣れた手つきで。
引き戸をそうっと、開いてゆく。
びっくりした。丸見えだった。
隣の部屋は、大きな部屋で。
時代劇に出てくる殿様の寝所みたいに、畳の縁も、床の間の置物も、とても豪華だった。
それよりも、びっくりしたのは。
生まれて初めてみる光景。
男のほうは、逞しい背中をこちらに向けて。
組み敷いた女体を、腰でもてあそんでいる。
女のほうは、脱げかかった服のすき間から、白い肌を覗かせて。
雑誌で目にする全裸の女よりも、ずっといやらしい雰囲気を漂わせている。
ショッキングピンクのワンピースは、身体の線にしなやかに密着していて。
ウェストはあんなに、くびれていたのか。
おっぱいは、あんなに、大きかったのか。
見知らぬ家のなか、ふすま一枚へだてた隣の部屋で。
ママは白目をむいてあえぎながら。ただの女になっていた。

お客さん、いないのかしら。
いや、ひとりだけ、いるようだ。
そんなやり取りが、かすかに聞えて。
じゃあ・・・もう少しだけ。亭主は帰らないんだろ?もっとゆっくりしていけばいいじゃないか。
男は引き寄せたママの耳もとで。そんな誘い文句を、まるで毒液のように流し込んでいく。
目のまえの女は、もの分かりよく。男に従順にしたがって。
ショッキングピンクのワンピースの胸に触れながら。
着てようかしら。それとも、脱いじゃおうか?
脱がせてやるよ。
まぁ。いやらしい・・・
無言の応酬が、鼓膜をつんざくほどに、伝わってきた。
女は男に脱がされるままに、ワンピースを剥ぎ取られてゆく。
こちらを向いて、目はうつむけて。
だから、いちぶしじゅうが済んでしまうまで。
目を合わせずにすんだのだった。
ワンピースから抜け出した、白く輝く裸身は。
まるで見覚えのない女のもの。
磨きぬかれた裸身に、ただ一枚だけ身に着けた、薄っすらとした黒のストッキングは。
下肢の白さを、娼婦の翳りをくわえていた。
ちょっとたるんだ肉づきを、ふしだらにぷるんと揺らして。
牝の獣は、じぶんから。
褥のなかに、するりと忍び込んでゆく。

こと果てたとき。
息を潜めた別室のシーツも濡れていたことを。
たぶん二人は、気づいていない。
男はパパよりも年配の、ごま塩頭。
鼻筋の通った顔だち。悧巧そうに輝く瞳。年配とは思えない鍛えられた筋肉。
どう見たって、家でも小さくなって新聞を読んでいるパパは、かないっこなかった。
情事のさいちゅうまで、ずっと脚に通していたガーターストッキングは、
畳のうえ、黒い帯のように展べられていた。
男はママの目のまえに、見せびらかすようにそれをぶら下げて。
もらっていくぜ?
囁いていた。
ママはちょっと羞ずかしそうに、目を伏せていたけれど。
男に逆らうつもりは、ないらしい。
男はもうそれ以上あいさつもなしに、ママのストッキングを片脚だけ、むぞうさにポケットに詰め込んだ。
自分のストッキングが背広のポケットに飲み込まれてゆくのを、ママは無感動に見つめていた。
もう片方は、お客に与えるか。
わざとこちらに、聞えるように。
男はさりげなく、ストッキングの本来の持ち主が、せめて片方だけでも持ち帰ろうとするのをさえぎっていた。

いつも、黒なんだな。
男が口にしたのは、ストッキングの色のことらしい。
貴方がお好きだと仰るから・・・
女はごもごもと、言い訳がましく応えたけれど。
特別なときには、濃紺がいいね。
こんどはぜひ、頼むよ。
男のリクエストに、女はめずらしく、不承不承な反応をみせていた。

表に出ると、まだしらじらとした陽が、視線の高さにとどまっていた。
表通りに出る、ひとつまえの四つ角で。
男と女は背を向け合って、互いに別方向を目指してゆく。
ボクが選んだのは・・・男のほうだった。
ことを終えた男は、どこにでもいる初老の男に舞い戻っていて。
不景気そうに、背広の肩をすくめて歩いていた。
あと五十歩も歩けば、表通り。
そこから先で、声かける勇気はなかった。
ボクは後ろから駆け寄って。
あのう・・・
恐る恐るかけた声は、かすれていた。

ふしんそうに振り向いた男は、なにかね?と尋ねたけれど。
咎めるようすは、みじんもなくて。
もの柔らかな視線が、ほんの少しだけ、ゆとりを与えてくれた。
なんでも、聞いてあげるよ。いいやすいように、仕向けてやるから。
男の瞳は、そんなふうに輝いていたけれど。
一歩踏み出してしまったボクは、抑揚のない声をつくって。
忘れ物。
差し出したのは、情事の現場に投げ出されたままになっていた、女もののストッキング。
おや。隣にいたのかね?
男は高い背丈をボクとおなじ高さにかがめてきて、ちょっと愉しそうに笑いを浮かべた。
共犯者みたいな笑いにつり込まれて、ボクもすこし笑った。
女もののストッキング、好きなんですか?
ああ・・・ちょっと恥ずかしい趣味だけどね。
はにかんだようすが、そう齢の離れていないお兄さんみたいに見えた。
こんど、逢って。ママのでよかったら、持ってきてあげるから。濃紺のがいいんだよね?

約束したのは、日曜日。
あとからわかったことだけど。
なぜかその曜日だけは、男はママを誘わなかった。
どうして知っているかって?
だって・・・それからなんども、ボクは男と示し合わせて、老女に隣室を借りるようになっていたから。
のっけから、あのひとの息子だとは、さすがに名乗らなかったけれど。
男は察しているようでもあり、察していないようでもあった。
通されたのは、いつもとは違う、奥まった小部屋。
男どうしだなんて・・・お珍しいですね。
冗談めかして笑いかけた老女の口許からは、真っ黒な鉄漿(おはぐろ)が覗いていた。
ボクがもじもじして、なにも差し出そうとしないのを、男はちょっとふしんそうにしていたけれど。
かすれた声で、囁いていた。
ズボンの下に、履いてきたんだ。
どうしても欲しかったら、脱がして持っていってよ。

男にズボンを脱がされるだなんて・・・
いったいボクは、なにをしているのだろう?
いまごろは。
クラブ活動に行っていると、ママは思い込んでいるというのに。
男はわれを忘れて、息せき切っていて。
はぁはぁという息遣いが、淡いナイロンを帯びた太ももにまで熱っぽく吹きつける。
器用な指が、腰周りのゴムにかかって。
たんねんに、薄皮を剥がすようにして。
ママのストッキングが、ずり落ちてゆく。
それはふしだらに、ずるずると・・・
くしゃくしゃになってゆくナイロンのうえから、時おりあてがわれる唇は。
まるで情婦の肌を賞玩するように、たんねんに唾液をすり込んできた。
汚される。汚される。どこまでも・・・
けれども、汚されることが、なぜか心地よかった。
男にストッキングを脱がされるとき。
ママは夢見るような無表情で、男の指先を受け入れているけれど。
どんな気分でいるのかが、ひたひた、ひたひたと、伝わってくる。
勃起しているね?
お医者様が診察するときのように冷ややかな声が、却って刺激を呼んで。
ボクは男に、なんとかして、って。お願いしていた。

ちゅるる・・・ちゅるる・・・ちゅるる・・・
音まで、聞かせているんだ。
男の態度は、余裕たっぷりだった。
逆立ちするほど昂ぶってしまったボクの茎を、根元まで咥え込んで。
まるで吸血鬼が生き血を吸うみたいに、味わうように。
ボクのなかからあふれ出る精液を、一滴あまさず飲み込んでゆく。
坊や、かわいいね。わたしは二刀流だから。淋しくなったら、いつでも連絡してこいよ。
男はそういいながら。
いつもママにそうしているみたいに、乳首をかわるがわる、唇に含んでゆく。
そのたびに。
じわん。じわん・・・と。えもいわれぬ刺激が、皮膚の奥深くにまで、しみ込まされてゆくのを感じた。

約束どおり。ママのストッキング、ありがたく頂戴していくよ。
男は濃紺のパンティストッキングを手に取ると、背広のポケットにねじ込んでいた。
あしたも、ママに逢うの・・・?
思わず発した声に。男はすこしぎくりとしたようだったけれど。
ああ、逢うよ。だからきみも、いつものように見に来るんだよ。
軽い含み笑いには、予期したような侮蔑はなくて。
むしろ悪友とのやり取りを愉しむような含みが感じられた。
対等の、大人の男どうしとして。彼はボクを遇してくれて。
まえに老女にそうされたときとは、裏腹に。
もっと分け入ってやろう。愉しんでやろう。
そんな気分が焔のように、燃え立たせていた。
ママへの憎しみなのか。パパへの軽蔑なのか。
いや、きっと。
そのどちらでも、ないだろう。
だってボクは、ママを今までよりもずっと好きになったし、パパのことも嫌いではなくなっていたから。

連れ込み宿 六ーい

2008年02月23日(Sat) 05:52:17

夕暮れ刻が近づくと、いつになくそわそわと落ち着かなくなる妻。
なににかこつけようか。どんなふうに、切り出そうか。
逡巡している空気の揺れが、横っ面にくすぐったい。
あの・・・
生唾を飲み込む音がしたのは、気のせいだろうか?
さんざん考え、練り直したはずの科白は、いとも短かった。
ちょっと・・・出かけてまいりますわ。
わたしは何食わぬ顔をして、新聞紙に貼りつけていた視線を妻に向ける。
濡れるように光る口紅が。
心なしか、妖しく輝いたようにみえたのは。
きっと、気のせい・・・
窓から射す夕陽が、きみの唇を照らしただけのことなのだろう。

いちど、切り出してしまうと。
あとは・・・もう、すべるようによどみがなかった。
帰り・・・遅くなりますわ。夕食のしたくはできていますから。
テルヤやミカといっしょに、召し上がっていてくださいね。
ああ、わかったよ。気をつけていってらっしゃい。
あまり遅いようなら、さきに寝んでいるから。
どちらもよどみがない、一連のお芝居。
互いに秘めた黙契に、薄っすらとした笑みを交し合う。
あの子たちには・・・そうね。クラス会だって、言っておいてくださいな。
いや・・・
わたしはちょっとだけ、ためらったけれど。
私も出かけるから。
ふたりで出たことにしておこうじゃないか。

なにも知らない子どもたちに、見送られて。
肩を並べて、家を出て。
商店街に出るさいしょの交差点で、ふたり目を見交わして。
からみ合う、視線と視線。
妻はふと、なにか言いかけて。
そのしぐさに、わたしはなぜか、狼狽をおぼえて。
あでやかに紅を刷いた唇は、けっきょく開かれずじまいだった。
居ずまいをただし、よそよそしく会釈する妻。
これからほかの男のものになってまいります。
淑やかなお辞儀の裏で、きみはわたしにそう告げている。

では・・・
どちらから言うともなく、声を交わして。
それぞれ、正反対の方角に、脚を向ける。
ちょっとだけ振り返った、妻の後ろ姿。
楚々とした黒ずくめのフォーマルウェアのすそから覗く足首が。
薄手の黒のストッキングに、なまめかしく透きとおっている。
貴婦人の足どりは、何処で娼婦のそれに変わるのだろう?
遠目に見送った巷の灯りのなか。
華奢な身体つきはすぐさま埋没して、見えなくなっていた。

単身赴任を終えて、家に戻ってきたとき。
妻はわたしの識っている淑女から、見違えるほどの牝犬になりかわっていた。
表向きは、どこまでも。
所帯持ちのよい主婦。絵に描いたような、良妻賢母。
けれども地味な濃紺のタイトスカートからはみ出したひざ小僧は。
秘めつづけてきた淫蕩な日常を、しらじらとにじませていた。
淑やかに装われた薄手のナイロンに、妖しい色に染めあげられて。

戻ってきてから。
夫婦仲は、以前よりもむつまじくなった。
年頃になった息子や娘をはばかりながらの夜の営みも、いっそう濃いものになっていた。
妻は浅ましいほどに乱れ惑って、わたしの一物をおねだりして。
みずからすすんで、大人しやかな唇に咥えこんでゆく。
そんな振る舞いは・・・以前の彼女にはなかったことだった。
正直なものだった。
夫婦のあいだの、濃いまぐわいは。
そのまま、夫婦仲のこまやかさに直結した。
週末には、なにがしかのおみやげを持ち帰るようになって。
妻はにこやかに受け取ると、その夜の夕餉に腕をふるうのだった。

けれども、土曜日の夕方と夜は。
最愛の妻は。子どもたちの母親は。
わたしとは別の男の支配下に入る。
いや、たぶん。そう・・・きっと。
平日の真っ昼間も、おなじように。
その男の影響下に置かれているはず。
その男こそ。
単身赴任がきまったとき。わたしが黙契を交わした男。
妻を誘惑する権利え得、
やがて堕とした妻の支配権までかち獲ることになった男。
彼とわたしの予定がかち合うときは。
いつもわたしが彼に、優先権を譲り渡すのがつねだった。
行ってまいりますわ。
薄っすらと笑んだ、あの気品漂う唇の裏に。
どれほどのものが、隠れ棲んでいるのか。
夜出かけるとき。
妻が決まって引く、真っ赤なラメ入りの口紅は。
きっと、あの男の好みなのだろう。
鮮やかに刷いた唇を、受け口に差し出して。
そう。なぞるように、愛でられて。
古びた密室のなか、妻は夜の蝶に生まれ変わる。

狭い空間は、暗闇に仕切られていた。
古びた壁の醸し出す、ぷーんと黴臭い木の香りが。
この空間を通り過ぎた永い年月を、物語っている。
いつもきまって、五、六人。
どこからともなく、ひっそりと現れて。
お互い、言葉も交わさずに。
けれども申し合わせたように、似たり寄ったりの姿勢をとって。
並んでしつらえられた、覗き穴から。
ひとつの情景に、見入っている。
壁の向こう側は、殿様部屋と呼ばれる豪奢な日本間。
そのうえに敷かれた金襴の褥のうえ。
今夜も濃密な演劇が、繰り広げられるのだ。
覗き穴の向こう側。熱っぽく演じられるのは。
女と男がせめぎ合う、ひとつの営み。
連れ込み宿と呼ばれる、その家は。
ひっそりと古びながらも、木目のひとすじひとすじにさえ、
長い年月営まれてきた熱情がしみ込んで、艶めいたものをたたえている。

はぁ・・・はぁ・・・
あ・・・。うっ!
声はひそめられるほど、ゾクゾクと鼓膜に響くものだろうか?
間歇的に洩れる、呻き声。
ピクッと仰け反る、あらわな肢体。
脱げかかった衣裳が、全裸よりもかえって淫猥な趣を漂わせ、
人妻であることをうかがわせる、落ち着いた服装の、
ふしだらに乱れたそのそこかしこからこぼれる、白い肌は。
こちら側の住人たちの視線を、息詰まるほど釘付けにする。
柔肌にくるまれたしなやかな筋肉は、あるときはキュッと引き締まり、そして弛緩する。
緩急自在の舞いは、女のうら若さと熟した老練さを同時に見せつけてくる。
女が着ている衣裳は。そう。いっしょに家を出た妻が着ていたのとおなじもの。
けれども褥のうえ、大胆に振舞っているのは、わたしの妻とは別人になった女。

はじめはたしかに・・・羞恥の色があった。
夫のある身体です。どうか、お許しを・・・
殿方のお相手など、どうか、どうか・・・
嫌!嫌!見られながらするなんて・・・っ。
けれどもつかの間の抵抗は、あっさりと封じられていって。
目のまえで、わたしのため守ろうとした貞操は、いともあっけなく陥落する。
あなた・・・ごめんなさいっ。
共演者の巧みなまさぐりに感じてしまっていることを、とっくの昔に白状している素肌は。
目の覚めるほどあざやかなピンク色に染まっていた。

どうして。どうして。
妻の情事の現場を目にしながら昂ぶるのか。
人妻の痴態に見入る、無責任な目ばかりが、周囲を取り囲む。
まるでハゲタカのように、妻の柔肌に、視線を食い入らせていく。
劣情と、好奇心だけの視線に包まれて。
情事のヒロインは、いっそう濃く、牝の演技に耽ってゆく。
犯している男。観ている男たち。
それらすべてが妻の肢体に注いでゆく強烈な情念に。
わたしは自らの昂ぶりを、輻輳させてゆく。
無言の夜。
いつ果てるともしれない、宴。
見世物になり果てた妻は、それをみずからの分と心得るかのようにして。
許して、あなた。
あっ、感じてしまう・・・
演技なのか。本気なのか。
ひたすら、濡れた呻きを洩らしつづける。

明け方が近づく頃。
ふと気がつくと。周囲の人影はすでに散っている。
妻はけだるげに、男と身体を絡み合わせて。
うつらうつらとしながらも。
男が思い出したように、我が物顔に抱きすくめてきて。
絶倫な精力を浴びるたび、女もまたわれにかえって。
それは熱っぽい返しで、応じてゆく。
夫の視線を、じゅうぶんに意識しながら。
まるで、ひけらかすように。自慢するように。
痴情のうわぐすりにしとどに濡れた身体をくねらせて。
自らの肢体をあらわにさらけ出し、牝犬に成り果ててゆく。

おはよう。
おはようございます。
家族の声が、行きかうわが家。
朝起きたら、きちんとあいさつすること。
几帳面な妻の決めた日常は、つねに忠実に守られている。
朝食をすますと、そうそうに出かけてしまう子どもたちを見送ると。
あの・・・
妻は口ごもったように、切り出してきた。
出かけるんだね?
ええ・・・夕方には戻りますから。
ああ、行って来なさい。気をつけて・・・
彼によろしく。思わずそう口走りそうになって。
はっとわれにかえって、語尾を濁していた。
なにもかも見通しているような白い頬は、イタズラっぽくほほ笑んで、
わたしの失態から、わざと目をそらしてゆく。

男は節度を心得ていて。
朝帰りになるときは、近くまで車で送ってくれるという。
そしてまた。
日曜日には、家族の夕食を優先させるため。
必ず午後三時には、妻を解放するという。
たしかにいちどなりとも、そのルールが破られたことはない。
妻とわたしの黙契。
彼と妻との黙契。
そして、妻を通しての彼との黙契。
それらいずれもが、なんのへんてつもない日常に埋もれながらも。
夜も昼も・・・わたしを侵蝕しつづけている。


あとがき
「連れ込み宿 五ーい」の続編です。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-1201.html

連れ込み宿 五―い

2007年10月22日(Mon) 23:48:32

場末の盛り場の、そのまた果てに。
闇夜にひっそりとうずくまるその宿は。
破れ障子に、傾いた軒。
古びたままに、人から忘れ去られたようにして。
それでも夜更けになると、「営業中」の灯りが、ひっそりと点される。
門前を行き交う男や女たちは。
寄り添うでもなく、よそよそしく隔たるでもなく。
人目を避けて。互いの視線までも、交えずに。
いかにもわけありげに、不自然なさりげなさを装って。
言葉も交わさずに、門をくぐる。
すべては古びた雨戸のなかに秘められてゆく、一夜。
人はそこを、「連れ込み宿」と、呼んでいた。

主人が留守のうちだけよ。
そういう約束だったはず。
それなのに・・・今でも、逢いつづけている。
夫が三年の単身赴任を終えて戻って、もう三ヶ月になるというのに。

田舎に転勤していった夫。
都会の家に残ったのは、年頃になった娘と息子と、わたしだけ。
そんな気の張る留守宅に、いつの間にか溶け込むようにして。
男はわたしの隣に立っていた。
あるとき突然、つかまえられて。
畳の部屋に、連れていかれて。
ねじ伏せられ、身動きもままならぬまま、すべてを奪い尽くされていた。
貞操ばかりか、理性と罪悪感までも・・・
畳に抑えつけられた背中が、ひりひりするのを感じながら。
見慣れた古い箪笥が、薄っすら洩れた涙の向こう側に滲んでいた。
ふたたび起き上がって、身づくろいするころには。
清楚なワンピースの持ち主には不似合いな、大胆な娼婦になっていた。
こんどは、いつ逢ってくださるの?
知らず知らず、上目遣いに滲ませた媚態に。
男はくすぐったそうに、そっぽを向いた。

逢うのはいつも、昼間だった。
昼間の盛り場は、毒々しい夜のすさんだ名残りを、そこかしこにのこしたまま。
まだ、白茶けた空気をよどませている。
そのなかを、人目を避けるように、場末まで歩いていって。
ひっそりと佇む民家のような隠れ家に。
導かれるまま、入っていった。
あのときと、同じようにして。
畳のうえに、組み伏せられて。
古びた畳の、日焼けしたような匂いにむせ返りながら。
夫を裏切る行為のまがまがしさ、息詰まるようなときめきに。
われ知らず胸を、はずませていた。
目の端に映った古びた箪笥は、こんどははっきり瞼に灼きついていた。
濃い闇のなか。
せめぎ合う、息遣い。
もつれては放れ、放れてはもつれる、腕と腕。
ドクドクとめぐる、狂おしい血。
破れたストッキングが頼りなくずり落ちてゆくふしだらな感触を、脛に心地よく覚えながら。
スカートの奥で暴れまわる剛(つよ)い筋肉の塊に、ずずずんと小気味よく、貫かれてゆく。
あられもなく、うめきながら。
口の端には、よだれまで浅ましく、垂らしながら。
日ごろ装った良妻賢母とは別人の、ひとりの牝に、かえってゆく。

そんなひと刻と、離れがたくて。
子供たちが学校に行っているとき。
刻を盗むようにして、男と逢った。
自宅の夫婦の寝室で、あられもなく乱れ果てているときに。
玄関先で、帰ってきた子供がもの音を立てたときには。
さすがに、縮み上がってしまって。
それからは、あの隠れ家で逢うことがもっぱらになっていた。
限られた家計から、宿賃を工面するのが骨になるほどに。

スカートの裏側の淫らな汚れを隠すようにして、いつものようにお代を支払うと。
いつも表情を消している宿の女将が、そのときにかぎって、ふと目を留めてなにか言いたげにした。
その老女は、みごとなまでの白髪を、きれいに頭の後ろにキリリと結いあげて。
枯れ木のように痩せこけた和装の上背を、いつもしゃんとさせていて。
それでも細面の顔には時おり、まだ枯れ切ったとは思えない艶を滲ませている。
おつり銭を数えるほっそりとした指を止めて。
あの・・・
呟くような声色に、
なにか・・・?
思わず、尖った声を返していた。
女将はそれでも、臆する風もなく。
お得意様だけに、ご紹介しているのですが・・・特別料金のお部屋があるのですよ。
手短かに、さりげない言葉をついでゆく。
お得意様。
わたしはそういう、立場なのか・・・
犯してきた悪事の累積に、ハイヒールの下踏みしめた土間が、ぐらぐらとした。
けれども老女の見あげる視線は、どこまでも自然で。
変わった女、罪深い女を視る目ではなかった。
みごとなまでの白髪の裡に、どれほどの密事を見てきたのだろう?
身分の高い奥女中のように、しずしずと廊下をわたる物腰に。
おなじ女・・・というよりも。
気おされるほどの風格をさえ、漂わせている。

こちらのお部屋でございます。
案内された部屋は、大名の奥御殿のように広く、豪奢な造りをしていた。
こんな古びたこの宿に。こんな部屋があったのか。
男もわたしも、しばし言葉も交わさずに。
それでも整えられた金襴の褥のうえ、痴態をかわす互いの姿を思い浮かべてしまっている。
こちらに・・・
老女は目で促して。部屋の裏手へとまわってゆく。
そこにはべつに、息が苦しくなるほど狭苦しい玄関がしつらえられていて。
ひとりかふたり分しかない土間の沓脱ぎ石には、打ち水がされていた。
壁に大きく貼られた紙には、墨くろぐろと、描かれている。
「覗き部屋 お一人様三十分 参千円也」
堂々と貼り出されたあからさまな言葉に、ふたりがしばし口を噤んでいると。
どのお客様も、そうなのですよ・・・
老女はそんなふうに、言いたげに。それでも言葉を呑み込んで。
ごく事務的に、あとをつづけた。
プライバシイは厳守の、お部屋なのですよ。
もちろん撮影などは、お断り。
顔も見えない工夫がございます。
どこのだれとも知れない殿方に。
どこのだれとも知れない男女が、むつまじくまぐわって見せる。
お互い、行きずりのもの同士・・・
お愉しみがすんで、宿を出たら、もう赤の他人様でございます。
そこをご承知いただけるなら・・・お代はいただくことがございません。
格安料金で・・・ございましょう?

部屋に案内されたとき。
さすがに、息が詰まっていた。
もうお客様は、お見えでございますよ。
女将の声に、むやみやたらと緊張してしまって。
帰ろうかしら。
思わず口走ったとき。
女将はなにかを、握らせてくれた。
よいお薬でございますよ。なにもかも、お忘れなさいませ。
いまさら・・・恥ずかしいもなにも、ありゃしないじゃないですか。
気品のある物腰とは裏腹な、伝法な口ぶりに。
わたしははっとなって、女将を見つめると。
ふふふ・・・
人の悪そうな含み笑い。
眼は決して、笑っていなかった。
整った目鼻立ちが、なにもかも見透かすように、こちらを見すえてくるばかり。
毒に当てられたようになったわたしは、言われるままに薬を嚥(の)んでしまっていた。
男に手を引かれるまま、ふらふらとよろめくように歩みを進めた狭い廊下。
まるで楽屋から舞台に出るような張り詰めたものは、いつかほどけていた。
お客様は、お待ちかねでございます。
さっきとおなじことを言われたはずなのに。
もう・・・余裕たっぷり。出番のきた本職の女優のように、頷きかえしてしまっていた。
お客様。
それは、覗きに来る人たちのこと。
ひっそりと、裏の木戸を押し開いて。
狭いあの空間に、すし詰めになって。
互いに口ひとつ開かずに、いちぶしじゅうを見つめてゆく。
その人たちのまえ、わたしは服を乱され、身体を開いてゆく。
覗かれる。覗かれる。
犯されるところを。もだえているところを。
覗かれる。覗かれる・・・

部屋のなかは、こうこうと明るかった。
灯りを・・・消して。
わたしは男に願ったけれど。
男は耳を貸そうとせずに、わたしの背中をなぞるように、後ろから撫でおろしていった。
薄いワンピース越し、男の指が。秘めた欲情を滲ませて、食い込んでくる。
ぁ・・・
声にならないうめき。
わたしはすっかり、男の指に感じてしまって。
向こう側からひそめられているであろう視線のことなど、すっかり忘れてしまっている。
男はなおも、いたぶるように。
わたしの首筋を。二の腕を。腰を。
服のうえから、なぞってゆく。
むやみに撫でつけられた首筋に、わたしは血潮を沸きたたせてしまう。
しゃらり。
かすかな音を、響かせて。
夫の贈り物のネックレスが、畳に落ちた。
ああ、そういえばこの服も。
結婚記念日に買ってもらったんだっけ。
鮮やかに走るストライプ柄が、身体の曲線に沿ったカーブを描いていたけれど。
それが不自然にくしゃくしゃに折れ曲がるのは・・・たぶんわたしのせいではない。

思わず立ちすくみ、そしてしゃがみ込んで。
ストッキングの上から、ひざ小僧をなでられて。
あまりのいやらしさに、男を突き飛ばそうとすると。
あべこべに張られた平手打ちに、頬を痺れさせてしまっている。
いつもより、ねちっこく責められながら。
清楚に装った衣装の内側を、狂おしいほど熱っぽくほてらせてしまっていた。
畳のうえ・・・?
こんなところでも。
傍らに延べられた金襴の褥を、恨めしそうに見やりながら。
それでも男をはねのける力は、残っていなかった。
このまま、凌辱されてしまう・・・
今まで意識しなかった隣室からの視線が、まるで囲み込んでくるように息苦しく、ひたひたと身体を突き刺した。
声を出せ。
男のささやきが、鼓膜を刺した。
ダンナの名前を言え。ごめんなさい。許してくださいと言うんだぞ。
命じられるままに。
わたしは夫の名を口にする。
セイジさん、ごめんなさい。許してください。
あとはひとりでに・・・それはよどみなく、続いていった。

わたし、ほかの男に抱かれてるんです。
とっても、キモチいいんです。
単身赴任のあいだだけ・・・って思ったんだけど。
忘れられなくなっちゃった。
離れられなくなっちゃった。
あなた・・・あなた・・・ごめんなさい。
あなたの奥さんは、とてもいやらしい女になっています。
ほかの男と、エッチするなんて。
結婚したてのころには、想像もできなかったのに。
でも・・・キモチいいんです。
とっても、キモチよく、されちゃっているんです。
この人になら。
貴方のプレゼントのネックレスを、取り去っても。
貴方と交わした結婚指輪を、隠しちゃっても。
貴方に買ってもらったワンピースを、ナマナマしい体液で汚されても。
貴方のために装っていたストッキングを、むぞうさに破られてしまっても。
わたし、惜しくはないんです。
こんなわたしを・・・許してくださるかしら?

みしみしと、廊下のきしむ音がする。
二人だろうか。三人・・・だろうか。それとも、もっと・・・?
壁一枚隔てた向こう側。
殿方たちの視線は、わたしたちの痴態に釘づけになっているはず。
不自然に、身体をこわばらせて。
初めてのときみたいに、強引にねじ伏せられて、奪われてしまった。
凌辱・・・
そんなことばがひらめいたのは。
男の荒々しさに、感じてしまったからだろうか。
淑徳を奪い去られたあの瞬間から、忘れかけていた言葉だった。
思わず身体を折ってしまって。
感じている・・・って、態度で告白してしまっていた。

お客様は、満足してくれたかしら?
まさかそんな恥ずかしいことを、だれに質すことができるわけもない。
わたしはただ、男の横顔を、さぐるように。
もの問いたげに、見あげるばかり。
けれどもあのひとは、黙っているだけで。
戸惑うわたしを、横目で愉しんでいるようだった。
自分までもが見世物になった・・・などという羞恥心とは無縁なひとは。
己の情事を見世物にした人妻を、愉しんでいたのだろうか?
こんどはいつに、なさいます?
わたしはとうとう、いつもと同じ問いを、男に向かって投げていた。

秋の深い青空は、どこかそらぞらしくて。
いけないことをしに出かける身には、気恥ずかしいほどあからさまだった。
わたしはいつものように、お気に入りの黒のハンドバッグを手に、
冬ものの紫のスーツに袖を通していた。
足許だけは、あのひとの好みどおり、肌の透ける薄々のストッキングで装わなければならない。
フェミニンなスリップやインナーも、手抜きすることは許されない。
だから・・・よけい厚手のものを、選んでしまったようだった。
濃い紫のスーツは、しっとりと落ち着いていたけれど。
それを着ると、きみもセクシーに見えるね。
このスーツで初めて装った三年前、冷やかすように囁いたのは、単身赴任がはじまったばかりの夫だった。
あのときはまだ、浄い身体だった。
やぁね。って。子供の手前、口を尖らせてみたけれど。
セクシーに見える
そんなふうに言われることが、わたしのなかの“女”に、人知れず火がついたみたいだった。
ほてった肌を。熱した血を。
だれかに癒してもらいたい。
たとえそれが、夫でなくとも・・・
そんな妖しい想いが、闇のなかの焔のように、ぽっと灯ったのは。
たぶん、そう。きっと・・・あの晩のことだった。
あの男と、はじめてひとつになった昼下がり。
脳裏をかけめぐったのは。いいようもない充足感。

男は約束の時間よりも、早く来ていたようだった。
木枯らしの通り過ぎるなか、すこし寒そうに、コートの襟を立てていた。
夜には盛り場になるその界隈は、昼下がりでもよどんだ空気をしている。
人どおりも、まばらなのに。
夕べのけだるさだけは、まだ人の気配の名残となって、そのまま残りつづけているようだった。
男は、吸いさしの煙草を、むぞうさに投げ捨てて。
人目もはばからずに、キスを重ねてきた。
夫は煙草を吸わない人だ。
ほろ苦い煙草の匂いが、違和感となって鼻について、わたしは男をへだてようとしたけれど。
男はこれ見よがしにとばかり、強引に。わたしの唇を奪っていった。
まばらに行き交う人々は、見てみぬふりをして、通り過ぎてゆく。
彼にとっては、ほんのささやかな羞恥プレイ。
頬をほてらすわたしを、かわすようにして。
さて・・・と。行こうか。
これからひと仕事だな・・・とでも言うように。帽子を目深に、かぶり直して。
からかうような視線で、舐めるようにわたしを見る。
濃い紫の、エレガントなスーツのすそと、黒のパンプスの間。
濃紺のストッキングが脛を透き通らせているのを目にすると、にやり・・・と得心がいったように笑んでいた。
憎たらしい、下品な笑い。
もう逃れようのない、嘲り笑い。
憎くても、焦がれるほどいとおしく。
逃れられなくても、逃れようとさえ思わなかった。

ダンナとは、うまくやっているかね?
声を忍ばせた問いの裏を読むように、わたしは男の横顔を見つめていた。
夫婦仲はうまくいっているのかね?
セックスのほうは、だいじょうぶ?
ばれずにうまく、あしらっているんだろうな?
いろんな問いに、いっぺんに応えることができるのだろうか?
さいきんは、後ろめたささえも忘れ果てて、ただ男との時間を盗むことばかり考えているわたし・・・
毎晩主人に、求められるんですよ。
ほぅ。そうかね。
男は他人ごとみたいに、うそぶいていた。
わたしがほかの男に抱かれても、貴方は平気なんですか?
その問いは・・・夫にこそするべきものなのだろう。
夫ではない男とセックスに耽り、なに食わぬ顔をして、帰宅して。
もっともらしい母親の顔に戻って、子供たちを迎え入れて。
なにもなかったころと、まったく変わらない態度で、夫婦のやり取りをつづけている。
こんなことができるだなんて。
かつては、想像することさえなかった。
毎晩求められる、ってことは・・・
男の声が、わたしを現実に引き戻した。
それだけあんたが、魅力的だということだろうね。
やっぱり他人ごとのように返してきながら。
だれのおかげで、その魅力を取り戻すことができたのかな。
きっとそんなふうに、思っているはず。
憎たらしい。
けれども、憎みきる資格は、いまのわたしにはもうない。

宿の女将はいつものように、痩せた枯れ切った身体を和装に包んで。
鶴のように、上背をしゃんと伸ばして。
つくねんと帳台に、腰かけていた。
いらっしゃい。いつものお部屋ですね?
いつものように、そつのない物腰だった。
さいしょに男に伴われて、此処に引き入れられたとき。
思わず足許をすくませてしまったときも。
この、さりげない物腰が、その場を救ってくれていた。
わたしは男に手を預け、ハンドバッグを手渡して。
まるで女王様のように、薄手のストッキングのつま先を、よく磨かれた廊下にすべらせてゆく。

よく見ると、古びてはいるものの、手入のゆき届いた床も柱も、ぴかぴかに磨かれていて。
まるで御殿のような、上質ななまめかしさを漂わせている。
奥女中のように楚々とした物腰で。燭台片手にわたしたちの前に立つ老女。
きりりと結い上げた白髪に、しゃんと伸ばした背筋。
わたしもいつか、知らず知らず・・・口許をきりりと、引き結んでしまっている。
招じ入れられた部屋は、あれ以来定宿になってしまった「殿様部屋」。
すこし下世話な響きが気になったけれど。
男の命名が的はずれではないくらい、そこは仰々しく飾り立てられていて、
すべてがこそばゆいほどに、あからさまだった。

灯りを・・・消して。
わたしはいつものように、演技に入る。
脱がされたジャケットが、畳に落ちる。
あとを追うように、髪にさした櫛が。胸元のコサアジュが。腕時計が・・・
夫から贈られた、ネックレス。結婚指輪。
まるで花びらを散らすように、ぱらぱらと。
わたしが夫の所有物であることを裏づける装身具が、取り払われてゆく。
ひとつひとつ、念入りに。
大名の姫君が、初夜のとき。
打掛を。櫛を。懐剣を・・・
こんなふうにして、畳の上にまき散らされるのだろうか?
ひょっとして、あの老女も若いころ・・・?
ふと流れた意識を、よび覚ますように。
男はブラウスの上から、荒々しくわたしの乳房を揉んだ。
夫ですら・・・ここまで我がもの顔には振舞わなかったものを。
純白のブラウスが、くしゃくしゃになるほどに。
男は無理無体な凌辱を、わたしの胸にまさぐり入れた。
華やかに結んだボウタイを、ほどかれて。
けだものが獲物を虐げるように、抑えつけられて。
ブラウスを花びらのように裂き散らされてゆくのが、むしょうに小気味よかった。

あなた。あなた。
あなたの奥さんは、こんなふうにして。
よその男の食い物にされているんだわ・・・
口をついて出てくる台詞は、かすかに震えを帯びながら。
われながら、よどみなくつづいていった。
ああ・・ああ・・ああ・・
悩ましくかぶりを振るわたしの上にまたがって。
こうこうと照りわたる灯りの下。
男はわたしの肌を、掌を這わせるようにして賞玩しつづける。
ときには唇や、舌さえもまじえながら・・・
まるで肉食動物が獲物に群がるような貪婪さで、わたしを食い尽くしてゆく。

ぎし・・・
雨戸の向こうの人の気配。
覗かれる情事には、もうすっかりなれてしまっていて、むしろ男たちの視線が絡みつくのが快感にさえ思えていた。
きょうは一人・・・なのだろうか?
けれどもはぜるような熱情の焔は、壁一枚へだてたこちら側にまで伝わってきて、
わたしはあらぬ想いに惑いながら、いつも以上にもだえていた。
視線が、気になるかい?
秘められた囁きに、かぶりを振って。
ううん。愉しいわ。
雨戸の向こうにまで聞こえる声で、応えてしまっていた。
濃い紫のスカートを、腰周りに着けたまま。
秘められた太もものすき間に、びゅびゅっ・・・とほとばされる淫らな熱い粘液が。
わたしの肌をいっそう濃く熱く、染めていった。
白く濁った濃密なほとびの名残りが、スカートの裏地をぬらぬらさせるているのさえ、好ましくて。
わざとおねだりして、よけいにすりつけ、巻きつけて。揉みしごいて・・・
じっとりと・・・しみ込ませてもらっていた。

シンと静まった、夜のとばり。
あしたの朝の冷え込みは、いっそうきついものになりそうだった。
遅かったね。
子供たちはもう、寝んでいるよ。
風呂あがりらしい夫は、暖房のきいた部屋のなか。身軽ななりでくつろいでいた。
わたしの帰りが遅かったのも、咎めずに。
いつものように、優しく迎え入れてくれた。
宿を出たときには、もうあたりは暗くなっていた。
驚いて脚をすくませるわたしを、彼は珍しく優しく包んでくれて。
だいじょうぶ。きみさえしらばくれていれば、誰にだってわかりっこないのだから。
励ますように、肩を抱いてくれたのだった。
根拠のない言い繕いを真に受けて、それでも彼の予期は裏切られることがないと、なぜか確信していた。
根拠のないままに・・・
けれどもそれは、正しかったのかも知れなかった。
さきに寝むよ。
そういい置いて、夫がわたしを置き去りにすると。
わたしはリビングを、片付けはじめた。
読みさしの新聞は、広げられたままになっていて、
三つ並んだ夫や子供たちのコーヒーカップも、台所にさげられないままこげ茶色になって乾いていた。
ふだんは几帳面なわたしにとって、我慢のならない光景だったが。
文句も言わずに片付けるようになったのは、夫が戻ってきてからのことだった。
テーブルのうえ、さいごに置かれた一片の紙きれ。
読んでもいいと言わんばかりに、わざとむぞうさに置かれているように見えたけれど。
ひとのものを盗み見る習慣は、厳格な親をもったわたしにはなかった。
あんなことを、繰り返していてさえも。
ふだんのわたしは、まだまだ潔癖だったのだ。
だれのものかもわからないまま、捨ててしまおうか、テーブルに載せたままにしておこうか、ちょっとだけ迷った。
軽く丁寧に折りたたまれた便箋大の紙は、部屋のなかのかすかな風に吹かれて、わたしの指の間からこぼれ落ちて、床に落ちたはずみにはらりと開いた。
なよなよと細い夫の字が数行、書き連ねられていた。

妻を誘惑してください。
もしも妻を堕とすことができたなら。
単身赴任期間中は、最愛の妻を貴方のために捧げます。
もしも戻ってきてからも、妻が貴方との交際を望むなら。
私はただ、見守ることだけを愉しもうと思います。

誘われるままにみずから堕ちて、夫を裏切っていたつもりだったのに。
すべては仕組まれていたシナリオだったのか。
けれども、「売られた」という想いはわいてこなかった。
なよなよとした字体のなかで「最愛の」と書かれたところだけ。
やけに力がこもっていることに。
わたしはチラ、とほろ苦く笑みながら。
置きっぱなしになっているあのひとの営業鞄のなかに、紙片をそっと差し込んだ。

お客様が、お待ちかねですよ。
女将はいつものように、そっけなく告げていた。
けれどもその瞳は少女のようにイタズラッぽく、輝いていて。
壁越しの情事に昂ぶる客人の素性に、とっくに気づいているようだった。
あら・・・そうですか。
わたしがよそよそしい戸惑いを装うと。
彼はわたしの肩を抱いて、ぽんぽんと励ますように、背中を叩いてくる。
じゃあ気を入れてがんばるかな。ウデの見せどころだね。
もぅ・・・
わたしは口を尖らせて、彼を優しく睨んでいる。
ウデだなんて・・・うちのひとはとっくに、見せつけられちゃっているんですから。
見せつけるほど、乱れちゃいますよ。
小声の囁きは、羞恥と昂ぶりに震えている。

連れ込み宿

2007年10月04日(Thu) 00:25:34

いとも優しげな面立ちをして。
いとも貞淑げに装いながら。
それでも齢が幾らも違わない前妻の娘が憎いのか。
いかに憎かろうとも。
すこし、狡猾すぎはするまいか。
こうして偽って、招び寄せて。
人の生き血をたしなむ私に、引き逢わせるとは。

場違いに待ち受けた褥のうえ。
なさぬ仲の仇敵と、その愛人のもくろみどおり。
少女は悔しげに、眉をひそめて。
忍びなく声色を、不器用に押し隠して。
そうしてさいごに、耐え切れないといわんばかりにして。
清楚に装った制服姿を、乱していった。

いいのかね?
ほんとうに、いいのかね?
だから、言わないことじゃない。
だってお前は。
無抵抗なあの娘を、禁断の蟻地獄により深く、
抜け出すことができないほどに、かかわらせてしまったのだから。
いままでは。
ひとりの男をめぐる、継母と娘。
それがいまは。
ふたりの男をあいだに挟んだ、女という名の仇敵同士。

みすぼらしくうらぶれた連れ込み宿の夜は更けて。
いまは少女も、涙を忘れて耽っている。
古びた布団に処女の生き血をしたたらせながら。
幾たびも吸ったであろう処女の証しを。
黄ばんだ敷布団の陳腐な柄が、今夜も激しい彩りを秘めてゆく。

秘するが花  ~連れ込み宿 3~

2007年01月16日(Tue) 06:50:32

あら、あら。
ご熱心ですねぇ。この寒いのに。
八十を越えた女将は、背筋をしゃんとさせて。
にこやかに、夜の客人を迎え入れる。
ここは、都会の一隅。
平屋のつづく古くさい街並みの面影を色濃く残した裏町。
過ぎ去り忘れ去られた時とともに積もり積もった、人々が裡に秘める心の滓(おり)が澱む処。
一見古びた民家に似たその宿を、人は「連れ込み宿」と呼ぶ―――。

男は、泊り客ではなかった。
挨拶もそこそこに、女将のうながすまま。
狭い裏庭へとまわってゆく。
雨戸を閉め切った庭先は、ほとんど真っ暗で、
宿の所在をわずかに示す行灯が、生い茂った常緑樹の葉裏を通して射し込んでくるだけ。
男はコートの襟をかき合わせ、ここと見定めた一角の縁側に腰を下ろす。
なかに憩うものたちの耳をそばだてぬよう、音を忍ばせて。

雨戸を通して、なかの熱気が伝わってくる。ありありと。
トーンをひそめながらも。
馴れ馴れしい語調がつづく、秘密のやり取り。
女は男に甘え、拗ねてみせ、ちょっとだけ、諍(いさか)って。
やがて、いつもの落ち着きどころを得たらしい。
しゃらり、しゃらり、と。衣装を解く音。
あの女が家を出るとき。
身につけていたのは、ボウタイつきのブラウス。
いまの音は、ひらひら、しっとりした純白のタイをほどいた音だろうか。
そう。
声の主は、じぶんの妻と、その密夫。
秘されたみそかごとに勘付いた夫は、けれども妻を驚かそうとはしないでいた。

やだわ、もぅ。
甘えた声色が、洩れてくる。
勤めに出るときと。帰宅するときと。
時おり、ストッキングの色が変わっている。
相手の男は、女の脚が好みらしい。
戯れにねぶりつけられた唇に。
熟れたふくらはぎをなまめかしく彩る薄手のナイロンは、
しわを波立て、妖しくよじれているのだろうか。
妻のストッキングを悪戯されて。
どうして昂ぶりを覚えてしまうのだろう。

はあっ、うぅん・・・っ。
愛するものは、裏切りさえもが美しい。
女の行為は裏切りでありながら。
夫じしんの存在を否定するほうへは、向かっていない。
体だけの浮気。
熟れた肉体をもてあましたあの女には、空気とおなじくらい要りようなものだった。
気づかぬうちに。
夜は更けている。
女将ももう、寝静まったらしい。
くろぐろとうずくまる宿の一角だけが。
いまだ眠りにつかず、熱っぽく息づいている。
夫のためにだけ、秘められたはずの処を。
妻は気前よく、情夫の欲情に供していた。
コートを通して。並ではない冷気が突き刺さってくる。

あら。お熱?だいじょうぶ?会社、お休みになったら?
妻はしんそこ気遣わしげに、腋から引き抜いた体温計に顔をしかめる。
そうだね。きょうは無理しないでおこうか。
こちらは、寝巻き。出勤前の妻は、地味なえび茶のスーツ。
いまの彼氏は、落ち着いた色が好みらしい。
えび茶色のスカートは丈がみじかく、
黒のストッキングに透けたひざ小僧を、なまめかしく露出させていた。
じゃね。行ってくるわね。今夜もすこし、遅くなりそう。
お夜食作っておいたけど・・・もしも具合が悪くなったら、連絡してね。
妻らしい気遣いも怠りなく、けれどもばたんと閉めたドアの音に、どこかそわそわとしたものがよぎっていた。

電車はとうに、なくなっている。
行き先の見当は、容易についていた。
いちど選んだ宿を、妻はあまり変えたがらない。
知らないところって・・・気分が落ち着かなくなるの。
そんなつぶやきさえ、聞えてきそうな気がする。
昼には下がったとみえた熱が、またすこしぶり返したらしい。
けれども、それ以上に。
雨戸の向こう側から伝わってくる懊悩が、男の体内を狂おしくかけめぐっていた。

ふと気づいたとき。
見上げる天井の木目は、鉄筋コンクリートの自宅にはない古びたしみが広がっている。
どこか懐かしさを帯びた、木造モルタルの部屋。
遠くから聞えるテレビの音声もどこか古くさく、
男はタイム・スリップでもしたような錯覚にとらわれた。
だいじょうぶ、ですか?
いそいそとお盆に載せた白湯をもって現れたのは、宿の老女将。
奥様のことが気になるのは、ごもっともですけど。体はだいじにしなくちゃねぇ。
女将にかかっては、どんな男も女も、きっと子供にうつるのだろう。
傍らには、男のかばんから引き出された常備薬。
奥さんは、もうお発ちになりました。お仕事があるんですってね。
きょうは一日、ここで体を休めて・・・明日から週末ですわね。
目だたない柄の着物に身を包んで。
女将は白皙の頬を微笑ませる。
きりっとした襟足に、かつての色気をちらと漂わせて。

妻にはどこまで、感づかれたのだろうか。
女将はなにも、いわなかった。
秘するが花と、申しますでしょ。
顔にはありありと、そう書かれていた。
来週は、木曜にお見えになるようですねぇ。
ほんとうなら洩らすはずのない客の秘密を、さりげなく口にするのは。
きっと、なにもかも事情を心得てのことなのだろう。
お代は結構です。奥様からいただいておりますので。
女将は背筋をしゃんと伸ばして、謝礼をきっぱりと断わった。
毎晩こちらにお見えになるときにも。
いつもあのかた・・・きまった料金に上乗せして置いていかれますのよ。
お支払いは、相手のかたと交代で。
縁側のきしむ音に、よけいそそられてしまうのですって。
殿方も皆様、いけない趣味をお持ちなのですねぇ。

木曜日まで。あとなん日あるだろう。
きっとそれまでに、風邪は治っている。
その晩だけは、
今夜は残業だろう?夕食はいらないからね。
いつもの週とかわりなく。
妻にはさりげなく、告げておこう。

あとがき
だんな様。お風邪をお召しにならないで。
そんなお話に、なってしまいましたね。^^;

連れ込み宿 1-ろ

2006年11月05日(Sun) 13:33:35

広げられたのは、住宅地図。
美薗家の欄が、太い赤枠で囲われ、塗りつぶされた。
散らされた薔薇の花びらのように。
赤が、地図のあちこちを埋めている。
花びらの一片一片は・・・
そう。
奥さんが、吸血鬼に貞操を捧げた家。

出かけてまいります。
いつもの、もの静かな声色に。
ほんのわずか、愁いと震えを秘めながら。
妻は今日も、三つ指を突く。
あぁ、行って来なさい。
わたしがつとめて温顔をつくろうと。
救われたように、瑞々しい笑みを滲ませてゆく。
外出は、決まって夕刻。
夫が吸血鬼に囚われて失踪して。
妻の衣裳は、黒に包まれていた。
やがて私が無事帰宅をしたあとも。
妻は喪服を脱ぐことがない。
黒の衣装を脱がされ、はぎ取られるのは。
吸血鬼とともにする、不義の床のうえでのこと。
未亡人の貞操は、同属の共有財産。
そんなうそぶきを口にするものたちのために。
妻は夜だけ、未亡人に舞い戻って。
わたしは装いを改めた妻を、夜ごとおだやかに送り出す。

毒々しく輝くネオン街。
その果ての、闇にうずくまるのは、秘めた営みを遂げるためのねぐら。
ほっそりとした身を包む黒のワンピースは、
今夜も巷の灯りを避けるように、足音を速めてゆく。
逢瀬の場となるのは、決まってその一隅の、古びた連れ込み宿。
我がもの顔に腰に回された腕をそのままに。
折り目正しく装った楚々たる黒の礼服姿は、
耳ざわりに開け立てされる硝子戸の向こうに消えてゆく。

あっ、・・・うう。オオ・・・ッ・
ときには獣のおらびのように。
ときには押し殺したすすり泣きを交えながら。
雨戸に鎖された向こう側。
妻は交淫を遂げてゆく。
強いられた行為に身をゆだねながら。
じつは奥底に秘めた想いを募らせてゆく。
あい矛盾した感情を、ひとすじの血潮に秘めながら。
女は首筋を獣にゆだね、
真珠色の素肌を思うさま踏みしだかれて。
血を啜られぐったりとなったその身を、すみずみまで蹂躙され尽くしてゆく。
雨戸一枚隔てた熱狂は、わが身を苛むと見せながら、
異様な昂ぶりは魔の手を広げて、私の胸をわしづかみにする。

お寒いでしょう?
庭先に佇むのは、宿の女将。
枯れ切った老いを滲ませていたはずの頬は、艶やかな翳を月の光に漂わせる。
暖まりなさいませ。
女は和装の下前をそよがせると、私の掌をなかへと導いてゆく。
ぴったりと合わされた太ももは、思いのほか温かく・・・そして若々しい。
奥様のこうしたあで姿を。あなたは愉しむことができるのですね。
精を注がれるお姿は・・・そう。見ているだけでも、若返るものですわ。
とうのたった人肌を、じかに触れさせまいとして。
薄手のストッキングにまとわれた太ももは。
じかの素肌よりも艶めかしくて。
心の奥に、妖しいともし火をかきたててくる。
シンと静まり返った庭先。
雨戸に封じ込まれた闇は、まだあえかなうごめきを止めようとはしない。

夕刻に出かけてゆく妻の帰りは、決まって朝。
ごとり、ごとりという玄関先の物音に目を覚まして、
迎え入れてやる。夕べ送り出したときとおなじように、おだやかに。
ただいま戻りました。
出てゆくときと同じように、三つ指を突く妻。
きちんと束ねて出かけたはずの黒髪が、目にとまらないほどの乱れを残していた。
おかえり。
つとめて優しい声で迎え入れて、
疲れただろう?体を清めて、ゆっくりとおやすみ。
それとも今朝は私の手で・・・ゆっくりとすみずみまで、清めてあげようか?
妻ははっと顔を上げて、羞じらいにありありと顔を染めて。
後ろに回りこんだ私の手を払いのけることもできないままに。
襟首のなかを、まさぐらせてしまっている。
ほかの男の、自由になった肌。
どれほど賞翫されたのかを、雨戸越しにありありと知っている。
くずした膝のうえに滲んだストッキングの伝線も。
断たれたストラップの切れ端も。
すべては、情事の名残り。
掻き抱いてまさぐる皮膚の下。
吸いつくされて凍りかけた血管に。
息を吹き返した血潮が、生き生きとしたバラ色によみがえって。
夜にもまして、いっそうの熱を帯びて。またゆるゆるとめぐりはじめる。
ほのかなぬくもりを取り戻した人肌は。
冷え切っていたわたしの指先を暖めてゆく。


あとがき
連れ込み宿 1-い の続編です。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-552.html

連れ込み宿 2ーと

2006年10月27日(Fri) 05:03:01

い・か・が?
耳もとをすうっと通りぬける、甘えた息遣い。
生温かい呼気に、ぴくりと胸を震わせて。
けれども振り返る目線の先にあるのは、決して若々しい美貌ではない。
年老いた老婆は、その枯れ切った面立ちに、なまめいた翳をよぎらせて。
なかば開いたふすまの向こう、狭い部屋いっぱいに延べられたせんべい布団のほうを指さして。
フフ・・・
と、笑みを洩らしつづける。
古びた柱や、しみのついた壁に仕切られた褥のうえにいるのは、
私とおなじ苗字となったあの女。そして、得体の知れぬ、黒い影。
影は女に欲情し、ピンクのスーツ姿のまま、羽交い絞めにしている。
乱されたスーツのすそからのぞいたふくらはぎは、グレーのストッキングの中、わずかにバラ色を滲ませて。
わずかに残された理性をよすがに、かすかな抗いをつづけているのだが。
魔性の猿臂に取り込まれたわたしの妻は、いまは甘い吐息を洩らしながら・・・夢見心地の媚びを含んだ上目遣いで、男に応えはじめている。

歴史は繰り返す・・・というのかね?
老婆はいつものように、背すじをしゃんとふりたてて。
オトナの愉しみ・・・というものですよ。
柔らかい声色に、人のわるそうな含み笑いを浮かべている。
マア、罪作リナ殿方デスコト。
コノ齢ニナッテ。人ヲコンナニ、ナマメイタ気分ニサセルナンテ。
女は軽い非難を含んだ眼で、優しく睨むような流し目を向けてくる。
ほろ苦い胸の疼きのなかに、ゾクゾクとそそけ立ってくる妖しい想い。
礼装もろとも妻を蹂躙されているというのに。
父もきっと。
かいま見ることの悦びに我を忘れて。
お宿通いをつづけていたのだろうか。

また、おいでになられますよね。
エエ、喜んで。
女将の記憶のなかだけに存在する宿帳に、いまは妻と私の名前も書き込まれている。
きっと、通いつづけるのだろう。
生き血を吸われ、犯される妻を愉しむために。
昼は堅実なサラリーマンに、所帯持ちのよい主婦。
そして、夜は・・・
いまは穏やかな老いを養っているあのふたりも、同じような日常を送ってきたのだろうか。


あとがき
ふと想を得て・・・
あとは気の赴くまま、
masterblueさまのいわゆる、自動筆記のごとく、延々と描き進んでしまいました。

父と母がそれぞれに、おなじ宿で別の相手と逢瀬を重ねていた。
その事実を知った男は、許婚を連れてその宿を訪れます。
古いことは、存じません・・・
そう告げながらも、なにもかも呑み込んでいるらしい女将。
けれども意外な一夜は、意外な真相を彼らのまえに明かしてゆく。
そんなようなお話に、仕上がりました。A^^;

長いわりに中身がありませんでしたか?
どこかで、どえらい破綻をきたしてやしませんでしたか?
ちょっと気がかりでしたが・・・
即興芸ということで、お目こぼしを願いたく。(笑)

連れ込み宿 2ーへ

2006年10月27日(Fri) 04:50:41

懊悩の、夜だった。
気が遠くなるほどに、遠い昔。
父と母が。
それぞれに相手を代えて。
背徳の夜を過ごしたかもしれない宿。
そこで今・・・
おなじ褥に息づく女は、たしかに最愛の人なのだけれども。
女は、恐ろしいことを口にした。
もしかして。お父さんの相手の女性・・・母のことかもしれない。などと。

そんなことはない。あるわけが、あるものか。
激情とともにほとばしる、否定の意思。
女は私の腕のなか、ぐったりとして身をゆだねつづけていたのだが。
そこにはいつもの、積極的な振る舞いは、影をひそめている。
これほどに、息の合うまぐわいは。
同じ血が呼び合ってこそ、得られたものだったのだろうか?

ふと。
なんともいえぬ胸騒ぎを覚えて。
枕辺の明かりを灯してみた。
女はこちらに背を向けて。それでもまだ、目ざめているようだった。
肩先に漂う風情に、軽い違和感を覚える。
おい・・・
声をかけたが、返事はない。
ほつれた黒髪のまといつく、汗の滲んだ首筋に欲情を覚えて、女をこちらに向き直らせると。
慄とした。
女は、ちがう顔になっている。
っ・・・!?
お前は・・・誰だ・・・?
声にならない問いに、女は微笑を浮かべ、ゆっくりとかぶりを振った。
笑みを含んだ口許に、赤黒いものが散っていることなど。
動転している私には、もうどうでもいいことだった。
めくるめく眩暈に心を奪われて。
意識は深く、谷底へと落ちてゆく。

一夜明けて。
隣室はもう、片づけが始まっているらしい。
脳髄まで灰になったかと思うほどの、倦怠感。
あれはきっと、夢だったのだろう。
傍らに横たわっていた女はまごうことなく、私の連れ合いになるはずの恋人だった。
激しい情事の名残り。
女もまた、きっちりと刷いた化粧の下、目の隈を秘めている。

隣室の片づけが、早くも始まったらしい。
この古びた宿に、私たちとは別の夢を結んだカップルがいたらしい。
来たときには先客のいるようすはなかったのだが。
終電を逃したものが、ころがりこんできたのだろうか。
恋人同士なのか。不倫の関係なのか。
詮索することは、野暮に違いはなかったが。
この宿には、私たちのような若い取り合わせは、どうにも不似合いのように思えてくる。
女将が現れた。
それとなく、辞去の刻を告げに来たらしい。
丁寧にお辞儀をし、玄関へと差し招くとき。
ふと、豊かな頬が、異様な彩りをよぎらせた。

何ヲ、オ案ジニナッテイマスノ・・・
老婆の瞳が、一瞬眩く輝いたようにみえた。
背すじを相変わらず、しゃんと伸ばして。
女将は人知れぬ呟きを、口にする。
私に聞かせようとしているのか。無意識に流れ出たものなのか。
それは誰にも、わからない。

そう。
あの夜のお客人は、まごうことなく貴方のお父様とお母様。
それぞれべつのお相手とごいっしょに、訪いを入れてこられたのですよ。
お母様のお相手は、人の血を吸う癖をお持ちでしてね。
でもお母様はこころよく、応じておいででしたわ。
賢明なパートナーと、お見受けしました。
お父様のほうは・・・そうですね。
物堅い勤め人で、とても浮気性なようには見えなかったのですよ。
それでもああいうひとを、お連れになるとは。
気づいておいでだったのでしょうか・・・
あの女の瞳・・・お母様のお相手と、おなじ色に輝いておりましたのよ。
明け方になると、お顔の色がうっそりとしていて。
きっとお若かったからこそ、平気だったのでしょうね・・・
あれはたしか、三十×年前の、秋口の出来事でしたね。
そう。貴方の生まれ月から数えて・・・ちょうどそのころのことでしょうか。
けれども・・・ご安心なさいませ。
あなたは、大丈夫。間違いなく、お父様とお母様の間のお子さんですよ。
そして、そちらのお嬢さんも。
彼のお父上が、お母様のお相手だったのですね。
でも貴女もまた・・・爛れた夜の生まれではございませんことよ。
だって・・・血の味で、わかりますもの・・・
艶然とほほ笑んだその顔は。
まさしく夜更けの枕辺に立った、見知らぬ女のそれだった。

連れ込み宿 2ーほ

2006年10月27日(Fri) 04:28:54

朝がきた。
あのときの朝とおなじように、鳥たちはさえずりを朝の景色に投げている。
ごみごみとした家並みも、この刻限ばかりは冴えた静寂のなかにあった。
見送りの刻限は、微妙にずらされている。
ごとごとと部屋を立ち去る気配を先にみせたのは、隣人のほうだった。
出ちゃダメ。
女は柔らかいかいなに私を抱え込むようにして。
立ちかけた私をしっかりと制している。
いや・・・
女は、誤解している。
夕べのあの昂ぶりは・・・
たしかに女の肌に吸い寄せられた熱情のせいでもあったのだが。
より深くは・・・
絶えて乱れをみせなくなった妻の、信じがたいほどに濃い媚態のゆえだった。
ふすま一枚へだてた向こうとこちら。
夫婦はべつの相手と肌を合わせて、痴態に身を焦がしつづけていた。

音も無く、ふすまが開かれる。
女将は気配を消しながら。
それとなく、出立の刻を告げてきた。
いつもなら、客のいなくなった部屋の片づけに入るのだろうが。
ふすまの向こう、乱れたままの褥は・・・まだ伸べられたままになっている。
思わずふすまに触れて・・・開け放っていた。
ア・・・。
傍らの女がちいさく叫ぶのもかまわずに。
黒い衣裳がひとすじ、乱雑になった掛け布団のうねりにゆだねられている。
ただれた情事の果てに置き忘れられた、証拠物件。
黒のストッキングが片方、あざやかに裂け目を滲ませていた。
静まり返った空気のなか、かすかにそよぎながら。
宿された軽い湿り気に、秘められた営みの名残りがあった。
どくどく、ずきずきと・・・なにかが心の奥で、うごめいている。
女の前も、はばからず。
思わず唇を、おしつけていた。

連れ込み宿 2ーに

2006年10月27日(Fri) 04:17:00

あっ、はあっ・・・は・・・あっ・・・
密やかに昂ぶる、女の息吹き。
妻の口許から発せられたものとは、にわかに信じがたいほどに。
それはひどくなまめいて、どろどろとした色香を含んでいた。
相手はむろん、私ではない。
今夜は、お通夜なので・・・
夜は向こうで、泊めていただきます。
そう言い置いて、出かけていった妻。
黒の衣裳を、そして衣裳の下に着込んだ黒のスリップまではだけられて。
その下に秘めた白い肌は、いっそうきわだって輝くように見える。
ほかの男のものになればこそ、彩りをよけいに添えるのだろうか。
浅ましい考えを振り払おうとしながらも。
あまりにもあからさまな光景に、妄念があとからあとから、押寄せるようにおおいかぶさってくる。

私の傍らにいる女もまた。
ふたりの行為をじいっ、と見つめつづけている。
私が気を取られていることを、咎めようともしないで。
ふと開いた女の口許から洩らされた声が、はかなさを帯びて震えている。
血を、吸っているわ・・・
女はたしかに、そう呟いていた。
ぎょっとしてもういちど、組み敷かれている妻に視線を転じると。
しつように吸いつけられた唇にも。
黒一色の礼装にも。
赤黒いものがしたたって、静かな輝きをたたえていた。

立ち上がろうとする膝を、白くて細い女の掌にとめられていた。
スッと置かれただけの、力のこもらない掌だったが。
私を我に帰らすにはじゅうぶんだった。
だいじょうぶ。きっと、幾晩も・・・
皆までいわずに、女は声をひそめている。
そう。
きっと、そうなのだろう。
此処で夜を迎えることは・・・妻にとっても初めてではないのだから。

連れ込み宿 2ーは

2006年10月27日(Fri) 04:02:59

女と別れると。
私はすぐに宿の近くへと取って返して。
電信柱の陰に身をひそめていた。
チチチ・・・チチチ・・・
頭の上を、鳥たちのさえずりが駆け抜けてゆく。
まるで私の愚行をあざけるように。
七時が過ぎ、八時が回った。
九時ともなると。
さすがに周囲の家でも、いつもより遅い朝の営みが雑多な喧騒となって伝わってくる。
けれども私たちを送り出した玄関は。
いっかな、開かれることがなかった。

昼近くになって。
我慢もならず開いた扉のまえ。
土間はきれいに掃除が行き届いていて。
出かけるとき、たしかにもうひとつがい残されていた靴たちは、名残りさえもとどめていない。
なにか、お忘れ物でも・・・?
怪訝そうに出てきた初老の女将は、白い頬にゆったりと・・・謎めいた笑みを含んでいる。
ここには裏口があるのかね?
思わず口をついて出た問いは、我ながらいかにもまずかった。
女将は私の抱いた苦味さえも受け止めるように、おおらかにほほ笑んで。
もちろん、ございますわよ。
・・・お客さまどうしが、気まずくならないようにね。
でもここに。たしかにここに・・・
言い募ろうとしても、言葉が出ない。
そんな様子を、女はあらわに察していたはずなのに。
ひっそりとした笑みには、聞かぬが花・・・と言いたげな風情を含んでいた。

連れ込み宿 2ーろ

2006年10月27日(Fri) 03:55:15

おなじ舞台と情景でありながら。
時代はかなり、さかのぼる・・・・・・。

隣室は、女将の居室だったようだ。
白黒テレビが今朝もまた、朝のニュースをせわしなく報せてくる。
外ではもう、小鳥のさえずりが始まっていた。
こういう処で迎える週末の朝は。
一日のはじまりの清々しさよりはむしろ・・・
昨日の昂ぶりが、まだ息の詰まるような澱となって残るばかり。
連れの女はとっくに起き出していて。
寸分隙のない化粧で、素顔を覆い尽くしていた。
「出ましょう」
身にまとうワンピースは、夕べのものとはべつのもの。
目ざわりなほど大きなバックルは、今どきの流行りなのだろうか。

立ち去る気配が伝わったものか。
ひと言も告げないうちに、女将が見送りに出てくる。
つややかな黒髪に、白いものの混ざる頭をゆっくりとさげて。
行ってらっしゃいませ。
その場にいるものにしか聞き取れないような低い声だった。

土間には靴が、用意されている。
あら。
女が意外そうに声をあげたのは。
靴が二対、よけいに用意されていたからだ。
きっと私たち以外にも。
此処で人目を忍ぶ夜を迎えたものたちがいるらしい。
自分の靴に足をつっかけながら。
え?
狼狽は、思わず声に、なっていた。
足を通されなかったほうの女の靴。
なまめかしいほどてかてかとした、真っ赤なハイヒール。
妻に買い与えたものと、寸分違わなかったのだ。

連れ込み宿 2ーい

2006年10月27日(Fri) 03:47:00

あら、いらっしゃい。
にこやかに客を迎えた女将は、小柄で色白。
和装に襷がけがよく似合う、もう八十にはなろうかという老女である。
老女というよりは。
少女にさえ似た無邪気さを、この齢になるまで失っていない。
あるいは、この齢になればこそ、はぐくんできたものだろうか。

永い年月。
どれほどの男女を迎え入れ、見守り、送り出してきたことか。
それらの恋路の彼方には。
稀には豊かな実りを迎えたものもあるだろうけれど。
多くのそれは・・・
あるいは色あせ、あるいは草が生い茂り、あるいはすでに朽ち果てていて。
跡さえさだかに辿れぬ路が、ほとんどなのであろう。

下駄箱の上には、咲き初めた月下美人。
まだ人声のしない刻限である。
なん十年かまえ。
この敷居にそよいだワンピースは、
いまではとうてい目にすることのできない、時代おくれの衣裳であったはず。
写真のなかにいる若かりし母は。
初々しい素肌を誇示するかのようにして。
若さこそ魅力、といわんばかりの生気を振りまいていた。

あぁ、そう・・・そうなんですか。
この方ねぇ・・・
手渡された写真に、女将はしばし目を細めていたけれど。
さぁ・・・なにぶん古いことですからねぇ。
白髪の中に埋もれた記憶は、洗いざらしたようにきれいさっぱりとなっているのだろうか。
それにね。あなた。
言いかけて、呑み込まれた言葉。
きっと、こういいたかったのだろう。
野暮ですよ・・・。こういうところで、客の素性を訊ねるなんて。
たとえなにかわだかまるものがあったとして。
彼女が口を割るなどということは・・・そう、決してありえない。

宿帳・・・?ですか?
そんなもの・・・古いものは、とっくに処分してしまいましたよ。
しゃんと伸びた背すじを一瞬崩して、女将は笑いこけている。
だいいち、こんなところで。ほんとうのお名前を書くお人がどれほどいらっしゃることか。
あぁ、それはそうですね・・・
参りました。
私は軽く、手を挙げる。
ホールド・アップ。
齢のへだたりからしてすでに。
この女将とでは、そもそも勝負にならないはずだった。
それよりも。
今夜は、お泊りですか。ご休憩ですか。
あぁ、そうですね・・・
不覚だった。私たちはまだ、靴も脱いでいなかった。
私は連れの女を振り返る。
女はゆっくりと、かぶりを振った。
そうして、自分のほうから。
お泊りで。
そう、告げた。
ちょっとお話が・・・長くなりそうなので。
一瞬。水を打った静寂。
おかみはさっきよりもいっそう背すじをしゃんとさせて。
あでやかな笑みは若かりしころのように、あでやかな芍薬とさえ錯覚させられた。

連れ込み宿 1ーい

2006年10月25日(Wed) 00:43:13

古びた柱に浮んだ木目は、凛とした格調を滲ませて。
きょうも、夜の訪客を迎え入れる。
ここが都会のまん中なのか。
そう思えるほどに、静まりかえった巷の一隅。
背の低い建物が、さながら時代に置き忘れられたように密集しながら。
都会の喧騒とは一線を隠した結界のなか、独自の立場を占め続ける。

整然としつらえられた、調度。
チクタクと鳴る、振り子時計。
狭いながらも一定の存在感を誇示しているかような、床の間。
それらすべてが、整えられた静謐のなかにあるのだが。
奇妙に違和感のあるべつの雰囲気が、あきらかに漂っている。
永年見つづけてきた秘密の営みを。
時とともに蓄積された澱のように、木目に滲ませて。
そうして沁み込んだものが、知覚できないほどの微薫を伴って、
どこかけばけばしく猥雑な、ふしだらな空気を漂わせている。

静謐のなかの猥雑。
それはほんの少し乱された、シーツの上に凝縮されていた。
あっ・・・、ああ・・・っ、ううっ・・・
密やかなうめきを洩らす唇は。
濃い乳色の頬にぞくっとするほどの朱を刷いていて。
黒一色の女の装いは、たれかを弔うためのものだという、
そうした通念を、みごとなまでに裏切っている。

もうかれこれ、どれほど経ちましたかな?ご主人が、いなくなられてから・・・
けだるげにうごめく、さして饒舌でもない口が。
見かけと裏腹な老獪さを伴って。
どうにかして女を口説き落とそうと、
逃げ惑う女のあの手この手の口実を、たたみかけるようにして封じてゆく。
しつような接吻を、女の素肌に沁み込ませてゆきながら。
イヤですわ。そういう仲ではありませんもの・・・
女は顔をそむけて、あくまでも抗いの姿勢を解こうとはしていないけれど。
部屋に入るなり履き替えたストッキングは。
静淑な黒から、猥褻な濃紺に色を変えている。

いっしんに迫ってゆく影が、女を呑み込むようにして。
ふたつの影は、ひとつになって。
・・・倒されてゆく。
だめ・・・ダメ。
女はまだうわ言のように、呟きつづけていたけれど。
パンティを履いていないお尻を白く滲ませた臀部を、漆黒のスカートからあらわにされてしまっていた。

だめ・・・ダメ。いけませんわ・・・
禁忌を告げる震える声が、かえって男を昂ぶらせるのを。
女は果たして、計算していたのか。
それともたくまぬ手管というべきだったのか。
びゅ・・・っ。
黒の衣裳のうえ激しく散らされた、濁った粘りを帯びた放物線。
気品と劣情。
衣裳のうえに表現された、きわどいコントラスト。
清楚な衣裳を侵されることの厭わしさが。
シーツのうえに抑えつける腕にどれほどの力をみなぎらせるのか。
それも女の仕向けたことなのか。
意識か無意識か。
女の手足は計算しつくされたように抗い、もだえ、受け容れてゆく。

ブラウスの襟首を押し広げられて。
ストッキングをぴりぴりと引き裂かれていって。
女の呻きはいつか、甘い苦しみに満ちてゆく。
破かれたストッキングは脛のうえを伝って。
少しずつ、少しずつ。
ずり落ちていって。
ついさっきまで女が貴婦人だったことを証拠だてるように
淑やかな気品を、いまだに宿していたけれど。
情事を見守る電燈が淡く滲ませた光沢は、
さながら娼婦のように、ふしだらな翳を色濃く滲ませてゆく。

堕ちたようだね。
残念ながら・・・おめでとう。
音もたてずに放恣にばたつく脚が、影法師になって映る障子の向こう側。
ほろ苦い握手を交わしている、ふたりの男。
ひとりは、影の相方らしい。
そしていまひとりは・・・夫の亡霊。
妻を獲るために、生き血をすべて、吸い取られて。
あの世に行くこともままならない身のうえにされて。
いまこうして人知れず、喪われてゆく貞操を見守っている。
目だたぬように装いをこらして、此処に来た。
もう、それだけで。
最愛の妻の貞操は、彼らの手に堕ちたも同然だったのだが。
こうも見せつけられてしまうと・・・
なにかがむくむくとどす黒く、男のなかで鎌首をもたげる。
たれにも見せるわけでは、ないのだよ。
きみなら、わかっていただけると思ってね。
いかがかね?・・・格別、だろう?
笑みを含んだ問いかけに。
強く、強く頷いてしまっていた。

表向きは、失踪になっているようだから。
いますぐ、家に戻れば・・・またおなじように奥さんと暮らせるのだよ。
もの柔らかな相手の態度に、訝しげに応じながら。
すぐに、それと察しがついた。
あぁ。そういうことなのですね・・・
さりげない言葉つきが。
女を、自分の妻のまま。
引きつづき、生き血を吸われ・・・犯し抜かれる。
そんな運命を告げていた。

奥さんは、貞淑な心をこれからも抱きつづけることだろう。
そうして。
今夜みたいに。
イヤよ・・・イヤよ・・・と、抗って。
とうとう逆らいがたくなってしまって。
甘く、崩れてしまうのだよ。
・・・赦して、あげることができるかね?
どうやら、貴方がたのことも・・・ね。
色あせた唇に微苦笑を滲ませて。
夫はしずかに障子をすべらせた。
つぎは・・・貴方の番ですよ。
開け放たれた障子の向こう側。
今宵のヒロインは、さながら夢を見るような目線をさ迷わせて、
淫靡な舞踏に興じきっていた。
浅ましくはだけた衣裳をゆるゆるとさせながら・・・

黒一色の衣裳からのぞく白い肌が、いまは夫の目さえも眩ませている。


あとがき
清楚な礼服・・・と見せかけて。
招きに応じた場は、連れ込み宿。
脚を彩るのは、淫らな輝きを放つストッキング。
ゆがめた面貌には、入念な化粧が刷かれていて・・・となると。
女はさいしょから、男の要求に屈していたのですね。
血を吸い尽くされた夫のほうも。
彼らに操られるまま・・・妻の情事に目を眩ませていたのでしょうか。