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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

あいさつ

2017年08月01日(Tue) 06:39:16

まだ、引越しのあいさつがないね。いちど奥さん連れて、うちに来なさい。
あんたにも、いい地酒を飲ませてあげる。

隣に住むそのごま塩頭の男は、そういってわたしたち夫婦を誘った。
田舎の人間が「あいさつがない」と言い出すと、
どこか頑なで横柄なものをイメージするかもしれないけれど、
彼の場合はごくおだやかで、
「ここのしきたりを、まだよくはわかっていないのだね。教えといてあげるよ」
と言いたげな親切心さえ感じられた。
男に言われたことを、帰ってすぐに妻に告げると、
「アラ、そうでしたわねぇ。でも、何も持っていくものがないわ」といった。
男はそうした妻の困惑にさえ気持ちが行き届いていて、
「そんなものは要らんから、身ひとつでお越しになってください」とまで、いってくれていたのだった。

翌日の晩、わたしたち夫婦は、彼の屋敷を訪ねた。
隣家といったが、彼の家は大きな古屋敷だった。
実際、周りの人間のあいだでも、彼の家は「古屋敷」という呼び名で通っていた。
男はその家に、独りで棲んでいるようだった。
古びてどす黒く汚れた床に、淡い色のストッキングを穿いた妻の脚が、寒々と映えた。

男は「さ、さ、奥へどうぞ」といって、わたしたちをいざない、
迷路みたいに曲がりくねった廊下を通り抜けて、中庭に面した和室へと案内してくれた。
なにもない座敷だったが、真ん中のちゃぶ台のうえには、待ってましたとばかりに一升瓶が置かれていた。
酒を嗜まない妻のためには、冷えたジュースが用意されていた。

どこから来なさった?
不景気で離職、借金・・・それは大変だったねえ。
それであの会社の社長さんと知り合って、ここに赴任した。そうかね、そうかね。
わたしたちはもっぱら、この田舎に流れてくるまでの過去について話し、
男はもっぱら聞き役になって、わたしたちの話しに同情に満ちた相づちを打って来る。
わたしたち・・・といっても、妻は時折言葉をはさむ程度だったが、
その控えめな態度に、男は明らかに好意を持ったようだった。
すすんでお酌をしたのも、男の心証をよくしたのかもしれない。
妻は地味な性格で落ち着いていたが、そういうところはしっかりしていた。

酒がまわってきた。それも出し抜けといえるほど、急激に――
そしてわたしは身体をふたつに折るようにしてその場に突っ伏し、
同時に男は、傍らに控える妻の細い肩へと手を伸ばした。
「あっ、何をなさるんです!?」
妻の叫び声がした。
どたばたと抗う物音もした。
けれどももう、わたしの身体は痺れたように動かなくなっていて・・・
男のいった「あいさつ」の本当の意味を、理解するはめになっていた。
田舎のみすぼらしい家屋には不似合いなくらい、妻の身なりは洗練されていた。
そんな都会育ちの衣装を揉みしだかれて、はだけたブラウスから覗く乳首を口に含まれて、
千鳥格子のタイトスカートを、腰までたくし上げられて、
ツヤツヤとした光沢を帯びた肌色のストッキングを、むざんに剥ぎおろされて、
身動きできないわたしのまえで、妻は恥知らずな凌辱に素肌をさらしていった――


「今夜も、ごあいさつに伺いましょうよ」
「明日も、お勤め帰りにごあいさつに伺いましょうよ」
「あたし・・・きょうは一人でごあいさつに伺ったの」
妻は罪のない大きな瞳を輝かせて、きょうも「ごあいさつ」を口にする。
「アラ、あなたお隣で振る舞われたお酒、お口に合うって仰ったじゃないの」
けげんそうに言いかえしてくる妻の言うとおり、たしかにあの家の酒は美味だった。
美味な地酒と妻の貞操を交換することに、いつか嫌悪感を忘れかけてしまっていた。
男はわたしたちの頻繁な訪問を悦んで、いつも慇懃に奥の間に通してくれて。
そこでわたしは貴重な古酒を振る舞われ、
足腰立たなくなってしまってから、男は妻に襲いかかる。
妻は男から受ける凌辱を予期しながらも、いつも都会ふうに着飾って、男の家を訪れる。
古くさくみすぼらしい屋敷のたたずまいに不似合いなくらい洗練された衣装は、
男の節くれだった指にむしり取られ、裂き散らされてゆく。
乱れ果てた衣装のすき間から覗く、白い裸体――
そんな情景にわたしは不覚にも昂奮を覚え、
男はそんなわたしの恥ずべき嗜好をあらかじめ知っていたかのように、
都会育ちの人妻然として着飾った妻に、我が物顔でのしかかってゆく。

古屋敷にごあいさつに伺う。
それは、周囲でも公然となっている、地元の風習。
わたしたち夫婦だけではなく、
古くから男を識っているものも。
つい数年まえに転入してきた都会の夫婦も。
定期異動で不運(幸運?)にも当地に赴任してきた教諭夫妻も。
必ず夫婦連れだって、ごあいさつに来るという。
当地に赴任して一年が過ぎた頃、都会の本社から、赴任を継続するかどうかの意向伺いがきた。
妻は大きな瞳でわたしを見つめ、わたしが黙って肯くと、
自分でペンを取って、「可」の欄に大きくマルを書き加えていった。

「うちの父さんが、沙耶ちゃんの血を吸いたがってる」

2017年07月18日(Tue) 06:29:38

「うちの父さんが、沙耶ちゃんの血を吸いたがってる」
同級生のハルオくんがぼくにそう持ちかけてきたのは、
ぼくが彼に吸血されるようになってから半月くらい経ってからのことでした。
なんでも、下校途中の沙耶を見かけてすっかりご執心になったとか。
そういうときって、いちいち親族に断って紹介させるものなのかい?
って、ぼくはハルオくんに訊きました。
ぼくのときは、体育の時間にふと気づいたら二人きりになっていて、
ライン入りのハイソックスを履いたふくらはぎを咬まれてチューチューやられたのがきっかけだったから。
ハルオはそのときのことを訊かれているのだとわかったのか、ちょっときまり悪そうにしながら、
「うちの父さんはシャイだから」
と、いいわけにもなりそうにないいいわけを、してきたのでした。

沙耶ひとりでは怖がるだろうからと、さいしょは本人の前でぼくが、ハルオくんを相手に吸血されるところを、お手本に見せることになりました。
夕方沙耶を連れ出すとき、母さんはぼくの意図を薄々察していたようですが、止めようとはしませんでした。
いずれ自分の番が回って来る・・・と、わかっていたからです。

この街は、父さんの勤める会社の創立者の出身地で、吸血鬼と人間とが平和に共存しています。
都会からこの街に越してきたぼくたちは、父さんの勤め先の人事担当者から、そうしたことを聞かされていましたし、
ぼくたちがこの街に送り込まれる理由も、血液を提供するためだと言われていました。
いろいろな事情で都会に住めなくなったぼくたちは、献血の協力と引き替えに、安住の地を得ることになっていたのです。

なにも知らない沙耶は、暗闇迫る公園で、兄妹で二人きりになって、
彼方から二人が姿を現したときにはじめて、なにが起こるのか気づきました。
「やだ、お兄ちゃん怖い」
怯える沙耶をなだめすかして、ぼくのまえにかがみ込んでくるハルオ君を相手に、
いつものように足許をくつろげて、ハイソックスを履いたふくらはぎを咬ませていきました。

「痛くないの?平気なの?」
なん度もくどいほど訊いてくる沙耶の背後に、ハルオくんのお父さんがまわり込んで、
後ろから抱きすくめると、否応なしに首すじを吸って、牙でガブリとやってしまったのです。
「あぁあーっ!」
沙耶はかわいい悲鳴を上げて、ベンチの隣に座るぼくとおなじように、チューチューと血を吸いあげられていったのです。
兄妹の身体から、競い合うように吸いあげられる血の音を、ぼくたちのことを気にかけて様子を見に来た母さんは、息を殺して聞き入っていた――あとでそんなことを打ち明けられて、家族3人でにっこり笑い合ったのは、もっとずっとあとのことでした。

ハルオくんも、沙耶の血を吸いました。
お父さんから分け前をもらえたのです。
ハルオくんはお父さんと入れ替わりに、沙耶の後ろにまわり込むと、
ベンチの背もたれに身体をもたれかけさせた沙耶の首すじを咬んで、
さっきお父さんがやっていたみたいに、沙耶の血をチューチュー吸いはじめたのです。
咬んだのは、お父さんが咬んだのとは逆側でした。
お父さんは「生意気だ」と苦笑いしながらも沙耶の足許にかがみ込んで、
沙耶の履いているハイソックスを咬み破りながら血を吸いはじめます。
真っ白なハイソックスには、みるみる赤黒いシミが拡がりました。
ぼくの履いているライン入りのハイソックスは、ハルオくんに咬み破られて、
やはり赤黒いシミをべったりとつけて、たるんでずり落ちかけていました。
沙耶のハイソックスも同じように弄ばれて、くしゃくしゃにずりおろされてしまうのを、
ぼくはなぜか胸をドキドキとさせながら見つめつづけてしまいました。

それ以来。
ぼくたち兄妹は、学校帰りにハルオくんの家にお邪魔して、
兄妹ながらハルオくん親子に血を吸われるようになったのです。
ほとんどの場合ハルオくんがぼくの、お父さんが沙耶の血を吸ったのですが、
たまに獲物を取り替え合うことがありました。
一人の人間を襲って生き血の味が気に入ると、家族の血も気になるのだそうです。
血のつながった家族の血は、味も似ているらしいから・・・
お父さんがぼくたちの母さんを襲ったのは、きっとそういうことだったのでしょう。
その前にお父さんは、ぼくたちの父さんを勤め先まで訪ねていって、咬んだそうですから。
貧血になるほど血を吸われ、病院経由で父さんが帰宅したときは、
こんどは母さんが血を吸われている真っ最中で、
父さんはハルオくんのお父さんに遠慮して、母さんが吸血されているリビングには入らずに、
隣の部屋からいちぶしじゅうを見守っていた――と、ハルオくんから後で聞きました。
母さんが襲われているあいだ、「視ないほうがいいよ」といわれたぼく達兄妹は、
妹の勉強部屋で3人でいて、交代でハルオくんに首すじや脚を咬ませてあげていたのでした。


その夜の出来事がきっかけとなって、
母さんはハルオくんのお父さんと、父さんとは内緒でおつきあいをするようになりました。
「子どもは知らないほうが良い」とハルオくんは言いましたが、
ぼく達だってそこまで言われたら、母さんがハルオくんのお父さんに何をされているのかは、おおよそ察しがついてしまいます。
ですからぼく達は、知らないふりをしつづけることにしました。
母さんがいつものようにキビキビと立ち働いて、ぼく達を早く学校に行かせようとするのを、沙耶とふたりこっそり目くばせし合っては、クスクス笑いをこらえていました。
なにしろ、ぼく達と入れ替わりに、大人のお愉しみが始まるのですから――

母さんがハルオくんのお父さんの餌食になってしばらく経って、ハルオくんがぼくに自慢しました。
「俺、大人の女の味を識ってしまった――雄太の母さんで」
予期してたことではあったけど、ちょっぴりショックでした。
そう、ハルオくんは、ぼくの母さんを相手に、いわゆる「筆卸し」、つまり初体験を済ませたのです。
ショックでしたが、なぜかドキドキしてしまいました。
ハルオくんはそんなぼくのようすをなにも言わないで見ていましたが、
それ以来、ぼくは母さんか沙耶のどちらかに付き添うことをお願いされました。

ハルオくんのお父さんが沙耶を呼び出したときには、
よそ行きの服に着替えた沙耶をハルオくんの家に送り届けて、
先にお父さんに血を吸われて、元気になったお父さんが沙耶のうえにのしかかります。
さやがおめかしをしてきたのは、お父さんに襲われるためだったのです。
だからお父さんの節くれだった掌が、
沙耶の着ているブラウスを荒々しくくしゃくしゃに着崩れさせたり、
折り目正しいプリーツスカートを、パンツが見えるまでたくしあげられたりするのを、
沙耶はくすぐったそうな笑い声をあげながら、受け容れていったのでした。

ハルオくんが母さんを訪ねて家にやって来るときは、
よそ行きの服に着替えた母さんはウキウキと台所に立ってお紅茶の用意をし、
ふたりでいる勉強部屋に、お紅茶を3杯淹れていそいそと現れます。
ハルオくんは色気づいた気分になると、父さんがいる日でも構わず家に来るので、
そういうときには3人で、ぼくの部屋にこもり切りになるのです。
ぼくはハルオくんの分のお紅茶も余分に飲みながら、勉強に熱中するふりをして、
ハルオくんがお紅茶の代わりに母さんの首すじやストッキングを穿いた脚を咬んで生き血を啜るのを、チラチラ盗み見ていたのです。
一定量の血を吸って渇きが満たされると、ハルオくんは母さんにのしかかって――ぼくのまえでセックスまでしていったのです。
さいしょはぼくのまえではかっこをつけようとしていた母さんも、
ハルオくんの来るのが度重なると、もうガマン出来なくなって、
聞こえよがしに声をあげるようになってしまいました。
ぼくはそれでも勉強に熱中した振りをしながら、
半ズボンをぬらぬらとした粘液で濡らしてしまうのでした。
母さんの不倫体験――まさかこんなふうに目にすることがあるなんて、思ってもいませんでした。

沙耶のほうも、大きな変化が起こりました。
ぼくが沙耶をハルオくんの家に連れていったある日のこと、
ブラウスのうえからおっぱいをまさぐったり、
パンツのなかに手を入れたりしていたハルオくんのお父さんは、
とうとうガマン出来なくなって、沙耶のことを犯してしまったのです。
居合わせたぼくは貧血でぶっ倒れていたので、あわてる沙耶を助けることもできずに、
たださいしょから終わりまでを、しっかり見届けさせられてしまったのです。
妹の初体験――まさかこんな形で目にするなんて、思ってもいませんでした。


いまお話したのは、10年ほどまえの出来事です。
ぼくたち家族はこの街で、元気に暮らしています。
父さんは同じ勤め先で働いていますし、
母さんは浮気に励んでいます。
沙耶はハルオくんのところにお嫁に行って、ハルオくんとお父さんの面倒を見る毎日です。
ハルオくんのお嫁さんになっても、初体験の相手はハルオくんのお父さんですから、
そうした関係も、ハルオくん公認で続けているみたいです。
「身体の隅まで識られてしまうとね、亭主の親が齢取っても、きちんと面倒をみるものなのだよ」
ハルオくんのお父さんはもっともらしい顔をして、そんな自慢をぼくにします。
たしかに――沙耶はいい嫁になっているのかもしれません。
ハルオくんのお母さんはべつの吸血鬼の恋人なので、
姑の身代わりの役も、それは熱心に果たしているらしいです。

花嫁を父親に寝取らせているハルオくんにも、今年良い話がありました。
ぼくが結婚することになったからです。
結婚相手は、父さんの勤務先の同僚の娘さんで、都会育ちのなにも知らないお嬢さんです。
結婚を控えた彼女を連れてハルオくん親子の家にあいさつに行ったのはつい先週のこと。
そして昨日――ハルオくんはぼくの婚約者に迫って、とうとう処女をゲットしてしまったのです。
「初めての女の人は初めて」と悦ぶ、ハルオくん。
未来の花嫁の初体験を目の当たりに、妖しい歓びに目ざめてしまった、ぼく。
彼女がぼくを裏切って、べつの男性に処女を捧げるシーンはとても悩ましく、
母さんや沙耶が襲われるところを目にして植えつけられてしまったマゾヒズムを、大きく開花させてしまったのでした。

これからはきっと、ぼくもこの街の良き住人として、花嫁の治子さんともども仲良く暮らしていくのでしょう。
築いた明るい家庭では、優しい心を持った息子や娘が育ち、
娘は年配の吸血鬼――たぶんいい齢になったハルオくん――を相手に純潔を捧げ、
息子は妹を初めて犯した同じ吸血鬼に、自分の未来の花嫁をゆだねるのでしょう。

あなたも、この街で暮らしませんか?
ご家族と一緒に。


あとがき
友だちの妹に目をつけた父親のため、吸血鬼の少年が吸血相手の友だちに妹を連れ出させる――
父親が妹を犯すところまで見届けるながらも、さいごは彼女を妻にすることに。
結果的に、自分の結婚相手を父親に襲わせ処女まで与えてしまう というのを描きたかったのですが。
友だち目線にした結果、
「妹の吸血初体験を協力させられて、妹の血を気に入った相手に母親まで襲われて、
妖しい歓びに目ざめてしまったあげく、結婚相手の処女まで奪わせてしまった」
という、別の形の寝取られ話になってしまいました。
^^;

延命された貞操

2017年07月10日(Mon) 06:37:09

貞淑な主婦が犯されそうになったとき、必死で抗って。
相手が自分の心を読んで、暴力で彼女を犯そうとする意図を諦めて、見逃してくれたとしたら。
彼女はどれくらい、感謝するでしょうか――?


吸血鬼と共存しているというこの街に赴任して、一か月ほど経ったときのことでした。
妻の生き血を、特定の吸血鬼にプレゼントする羽目に陥ったのは。

その日は、わたしの所属する地元のクラブ・チームの試合の日でした。
都会出身の職場の同僚に同好の人がいて、メンバーに加えてもらったのです。
対戦相手は、吸血鬼のチームでした。
締まっていこうぜ。負けると試合のあと、血を吸われちまうからな。
同僚の囁きにもかかわらず、結果は惨敗でした。
吸血鬼チームのメンバーは、けた違いの馬力を発揮して、吸血する権利を手にしたのでした。
彼らは思い思いにわたしたちのチームの選手を一人ずつ選んで、血を吸ったのです。

奥さんが応援に来ているチームメイトも、おおぜいいました。
彼らは促されるまま奥さんともどもグラウンドの向こうの草むらに脚を向けて・・・
立ち去りぎわに振り返ると、彼らは顔が土気色になるまで血を吸い取られて草むらの中に転がっていて、
そのすぐ傍らで、こんどは奥さんまでもが襲われていたのです。

――――――

エッ、奥さん姦られなかったの?
職場のみんながいっせいにこちらを振り向いたのは、週明けのことでした。
その前の日には、職場対抗のスポーツ大会があって、
わたしの所属するチームは吸血鬼のチームに惨敗してしまったのです。
吸血鬼のチームに負けると、選手は全員血を吸われてしまうことになっていました。
丈の長い靴下が好みだという吸血鬼たちにとって、わたしたちの身に着けたユニフォームは美味しいご馳走だったようです。
短パンの下は、白のラインが三本走ったブルーのストッキング。
試合後選手は全員、相手チームの吸血鬼に呼び集められて、
短パンの下に履いているストッキングのうえから、ふくらはぎを咬まれて血を吸い取られたのです。
奥さんが応援に来ていたチームメイトは、奥さんまで血を吸われ、おまけに犯されてしまっていました。
まるで、自分の奥さんの血を吸わせるために招んだようなものでした。
(いま考えると、事実そうだったのかもしれませんが・・・)

負けるとそういうことになるときいていたので、わたしはわざと1人で参加したのですが、
それは無駄な努力に終わりました。
わたしのことを獲物に選んだ男は、にんまりと笑って言ったのです――きみの血は、きみの家で愉しませてもらうから。
彼の目あてがなんなのかは、訊かなくてもわかります。
でも、断り切れなかったわたしは仕方なく、彼を自宅へと伴ったのです。
そう。この街で吸血鬼に魅入られたら、逃れるすべはない。
それと知りながら赴任を承諾したのは、私たちがもう、都会にいられない事情を持った人間だったからでした。
――この土地は、どんなに負い目のある人間でも、分け隔てなく仲良くしてもらえる土地柄なのだよ。
わたしに転任を薦めた上司はそう言って、自身もかつて数年間、その街にいたのだと告白してくれました。
(彼も既婚者でした)

ほかのチームメイトは全員奥さんを招んでいたので、グラウンドに残っていました。
試合のあとのグラウンドで、チームメイトの奥さんたちは、
よそ行きのブラウスやワンピースを泥だらけにしながら、
生き血を吸われ、犯されていったのです。
きゃあきゃあとはしゃぎながら、それは愉し気に。


家に着くと、妻がびっくりしたように、わたしを出迎えます。
相手チームの吸血鬼を連れ帰るとは、もちろん聞かされていません。
それでも――どういう意図で家まで来たのかは、薄々察しがついたようすでした。
妻もまた、自分の置かれた立場を、よく心得ていたのです。
試合のあとに人を――それも相手チームの吸血鬼を――家に招ぶ予定はなかったし、
途中から妻に連絡するようなこともしなかったので、おもてなしの用意などなにもありません。
でも、そんなことは初めから必要ないのです。
妻は相手の望むままに、妻自身の生き血を振る舞えば、それで済むのですから。

この街で、吸血鬼が既婚の女性を襲うとき、例外なく相手の女性を犯すと聞いていました。
自宅を舞台にした落花狼藉――それはもう、避けては通れないものになっていたのです。
けれども彼は、意外にも紳士的でした。
彼の言によれば、彼が妻のことを見初めたのは、
わたしたち夫婦が赴任のあいさつで初めて出社したときだったそうです。
彼はわたしの同僚たちに、宣言したそうです。
――あの奥さんの脚を咬んで、ストッキングを破りながら血を吸いたい――と。
その望みが、きょうかなえられるのです。
わたしは仕方なく、「おめでとう」と、言ってやりました。
それを真に受けて、素直にありがとうを返されて。
わたしは初めて、まず自分の血を提供するために、ライン入りのストッキングのうえから、牙で冒されていったのです。
太めのリブのツヤツヤした真新しいナイロン生地ごしに、唾液にまみれた唇の熱さが、じかに伝わってきました。

チクリ、と突き刺す、かすかな鈍痛。
じわっと滲む、生温かい血。
チュウチュウと小気味よく吸い取られる、働き盛りの血。
貧血で頭がくらくらするまで、吸いつづけさせてしまっていました。
この唇が。この牙が。
これから妻の素肌を侵すのだ――そう思うといても立ってもいられない気持ちになるのですが。
そのいっぽうで。
こんな唇に誘惑されて、
こんな牙に咬まれてしまったら。
妻だって、ふつうの気持ちでいられるわけはない・・・などと。
感じはじめた罪深い陶酔に、わたしはいつの間にか、夢中になってしまっていました。
なんとか妻の素肌を咬ませたい。
男の相手を初めてわずか数分後には、すっかりそんな想念にとりつかれてしまっていたのでした。

妻が真新しいストッキングに穿き替えて、彼の前に現れたとき。
わたしはもう、貧血のあまり頭を抱えて、じゅうたんの上に転がっていました。
ちょうど――グラウンドを去り際に、同僚の一人が土気色の顔をして草むらのなかに横たわり、
その傍らにねじ伏せられた奥さんが、羽交い絞めにされながら犯されていったときのように。

妻はソファに腰かけて、息をつめて男を見あげます。
男は妻の手を取り、手の甲に接吻すると、ひと言「落ち着いて」と囁き、
それからおもむろに妻の足許にかがみ込んで、
わたしの血を吸い取ったばかりの唇を、ストッキングを穿いたふくらはぎに吸いつけていったのです。
わたしの履いていたスポーツ用のストッキングも、その唇に冒されたばかりです。
まして妻の穿いているパンティストッキングはひどくなよなよと頼りなくて、
ちょっといたぶったらすぐにでもほつれてしまいそうな代物でした。

くちゃっ。
圧しつけられた唇の下。
真新しいナイロン生地にかすかな唾液が散って、
唇のしつようないたぶりにつれて、いびつによじれていきます。
なん度もなん度も、男はその行為をくり返しました。
そしてなん度めかの接吻を、ただの接吻で終わらせずに、そのまま牙を埋め込んでいったのです。
妻の整った横顔がキュッと引きつるのを見て、「咬まれてしまったな」と、実感しました。

チュウチュウ・・・
キュウキュウ・・・
ひとをこばかにしたような音をたてて、妻は生き血を吸い取られていきました。
緊張に包まれた妻の表情がやがてほぐれて、目の焦点が合わなくなって。
口許にはへらへらとした薄笑いさえ泛べて、
やがて姿勢を崩して、ソファからじゅうたんのうえにすべり落ちる――
しかし、男は意外にも、その場で妻を犯そうとしませんでした。
貧血で顔を蒼ざめさせた妻を引きたてるようにすると、もう一度首すじに唇を這わせ、ひとしきり血を吸って、優しく抱きしめると、そのまま解放してくれたのです。

意外な展開に、妻は首すじにつけられた咬み痕に手を添えながら、じっと男を視ています。
男も妻のことを、じっと視かえしていました。
まだ決心がつかないようだね。
男のひと言に、妻はほっとしたように表情を和らげます。
そう、潔癖症な妻はどうしても、この場で、夫の目の前で犯されるという現実に、耐えることがまだできずにいたのです。
男は血を吸いながらも冷静にそんな妻のようすを見極めて、
妻が立ち直れないほど打ちのめされてしまうのを避け、あえて状況を寸止めにしたのでした。

わしらがあんたがたを犯すのは、恥を掻かせてやろうとしてそうしているわけじゃない。
生命と同じ値打ちのあるものを飲み物にさせてくれたお礼に、敬意を表したいだけなのだ。
だがそんなことを言われても、いきなり信じられるものじゃない。
ふつうの奥さんなら、強引に迫って落としてしまったほうが、踏ん切りがつくこともあるのだが。
だいぶ、潔癖なひとのようだから。
奥さんを人間なみのやり方で抱くのは、つぎの楽しみに取っておくよ。

男は朗々とした声色で、そう告げたのでした。
破いたストッキングを弁償したいとまで、男はいって、わたしに一万円札を差し出しましたが、それは断りました。
妻のことでお金をもらうわけにはいかないから――そう言って、そこは鄭重に辞退をしたのです。
「受け取っておけばよかったのに」
妻は後で、あっけらかんと言ったのですが。
もしかすると受け取ってしまったほうが、妻がわたしにたいして感じる罪悪感を、目減りさせることになったのかもしれません。

男は代わりに無心したのは、妻の穿いているストッキングでした。
見るかげもなく破けて血の滲んだストッキングに、どんな値打ちがあるというのでしょう。
でも彼が「ぜひに」と欲しがるのを、拒むすべはありませんでした。
わたしは妻に目配せをし、妻も黙って肯きます。
破れ落ちたストッキングは、男の手で妻の脚から抜き取られて、彼のポケットのなかにせしめられていきました。
辱めを免れた妻にとって、それくらいはお安い御用だったみたいです。
裂けたストッキングを戦利品にされたのを恥じらいながら、妻は上目づかいで好意的な照れ笑いをしてみせました。
きっとあの瞬間――男は妻の心をつかんだのでした。

えっ、姦られなかったの?
職場の人たちがいちように驚いたのは、じつにもっともなことでした。
彼らのだれもが、初対面の段階で妻を襲われ、血を吸われたばかりか犯されてしまっていたからです。
いや、うちも危なかったんですよ――わたしはそう弁解しながらも。
――この街では、吸血鬼に襲われた女が犯されないのは、魅力がないと思われてしまう。
そんな事実を実感せざるを得ませんでした。
彼のいうように、血を吸った女を犯す行為が敬愛の情の表れだとしたら、
それを受けることのできなかった女は一段低く見られたことになり、
女の身体に称賛を与えなかった男のほうも、非難の対象となる――きっとそういうことなのだろうと。

けれども、妻の貞操が生き延びることができたのは、そこまででした。
なぜなら、彼は三日にあげず自宅にやって来て、妻の血を吸いつづけたからです。
首すじに、ふくらはぎや太ももに、なまの唇をじかに這わされて。
スリップを真っ赤に濡らし、ストッキングを咬み破かれながら、
妻はその素肌にくまなく、もの欲しげな舌なめずりを這わされつづけ、
あげく、パンティストッキングをひざまでずり降ろされたうえ、
ショーツの奥にまで舌を這わされてしまっていたのでした。
度重なる訪問に耐えかねて。
妻は少しずつ、肌身を許しはじめていったのです。

もはやわたしも、潔い夫として振る舞うしかありませんでした。
わたしはつぎの週末、男を自宅に招いて、妻のことをたいせつにすると約束をさせたうえで、二人の交際を認めるといってやりました。
先週はスポーツ大会で惨敗したわたしは、今度は妻をめぐる競争でも惨敗したことになるのでしょうか。
「勝ち負けではないですよ」
男はわたしに、言いました。
貴男の最愛の奥さんをまんまと手に入れた私も、勝ち。
最愛の奥さんを潔くほかの男と共有することに決めた貴男も、勝ち。
旦那よりもずっとストロングな男を情夫に持つことになる奥さんも、勝ち。
どうですか――?
多少わたしの分が悪いような気もしないではありませんでしたが、
もっともらしく肯きかえす妻を傍らに、わたしもただ無言で肯きかえすばかりでした。

返礼は派手なものでした。
わたしはその場で提供可能なかぎりの血液を吸い尽されて、
意識が朦朧となって、ぶっ倒れてしまって。
男はそんなわたしの目の前で、妻を羽交い絞めにし、じゅうたんのうえに組み敷いていったのです。
こぎれいなワンピースに装った妻の華奢な肢体は、逞しい彼の下敷きになって、見るからにか弱げだったのを、いまでもよく憶えています。
そのワンピースは、このあいだの結婚記念日にわたしがプレゼントしたものでした。
貞操を喪失するという記念すべき刻に彼女が選んだ装いは、夫から贈られた服。
彼女も非常な決意で、きょうのこの場に臨んだのでしょう。

男は顔を妻の顔に近寄せると、飢えた唇をいつものように首すじに吸いつけようとはしないで、そのまま妻の唇に重ねていったのです。
永遠の愛を誓うキス――
私はそれを見せつけられながらも、ただ「おめでとう」と妻を相手に想いを遂げる男を祝ってやることしか、できませんでした。

見慣れた花柄のワンピースのすそがじゅうたんのうえいっぱいに拡げられて。
それまで脚を通したことのないガーターストッキングの留め具を覗かせるほど、太もももあらわなポーズを取って、
良家の子女だった妻は、いままでとは別の世界へと足を踏み入れていきました。
ええもちろん、わたし自身も――
目のまえで妻を寝取られてしまうことに、もう心臓を高鳴らせながら。
妖しい昂ぶりの虜になって、その場の状況を見守るばかり。
母がこの場に居合わせたなら、「なんというばかなことを」と、たしなめたに違いありませんけれど。
わたしはそのときの選択を、いまでも間違っているとは思いませんし、むしろ誇りにすら感じています。

恥を忘れて娼婦になり果てた妻――
わたしのまえですらさらしたことのないほどのはしたない喘ぎと媚態とをあらわにして、
彼の欲求に心から応えていったのです。
添田家の主婦が堕ちた、記念すべき瞬間を、わたしは非常な満足とともに見届けたのでした。


あとがき
だらだらと長くなっちゃいましたね。^^;
心の中では犯されたくないと願う人妻の心を汲んで、いちどは見逃してやって。
その意気に感じた夫婦が、夫は夫としての自尊心を忘れ、妻は妻としての貞操観念を自ら泥まみれに濡らしてゆく。
そんな心理を描いてみたかったのですが・・・

この街に棲むようになった夫たちのための手引き。

2017年05月27日(Sat) 10:57:01

相手がほんとうに兇悪なやつで、きみの妻や恋人、娘や母親に危害を加えようとするのなら、
断固として戦うか、それが難しければ逃げるべきだ。
けれどもこの街に出没する吸血鬼は、決してそういう存在ではない。

まず彼はひっそりときみの日常に、居心地よく入り込んできて、
さりげなくきみの背後に佇んで、そっと首すじを吸うだろう。
気づいたときにはもう、彼の奴隷。
けれども彼は、そうして獲た正当な権利を、決して強引に行使しようとはしない。

礼節を尽くしてきみに接し、きみの健康を害しない範囲で、
自分の生命をつなぐのための最小限の血液を、きみの身体から欲するだろう。
その願いをかなえてやるだけの寛容さを、彼の牙がもたらした毒液は、きみに確実に植えつける。
それでもいずれ、きみの血液の量だけでは、彼の食欲をまかない切ることができないと気づくだろう。
彼はきみにそれを気づかせるために、ふだん彼のために血液を供給してくれる人たちとの交わりを断って、きみだけにかかり切りになるだろうから。

きみは初めて、焦りを感じる。
しかしそれは、身に危険が迫ったための単なる本能的な恐怖心からくるものではなくて、
むしろ彼に与える血液にこと欠いている状況が気になるだけだ。
きみは彼の渇きを癒すため、自分の妻を紹介することを、ごくしぜんに思いつく。

彼とは事前に、よく話をつけておくとよい。
彼がきみの妻に対して、どの程度の、そしてどんな種類の想いを抱いているのかを。

もし彼が、きみの妻に対して、刹那的な性欲を満足させるためだけの欲求を感じているのなら。
ためらうことなく、妻を紹介すると良い。
きみの妻がどれほど貞淑であろうとも、きっといちころでイカされてしまうだろうから。

もし彼が、きみの妻に対して、継続的なセックスフレンドとして遇するつもりがあるのなら。
ためらうことなく、妻を紹介すると良い。
ふたりはきみに迷惑のかからないやり方で、意気投合した交際を続けるだろうから。

もし彼が、きみの妻に対して、夫に近い愛情を感じはじめているのなら。
ためらうことなく、妻を紹介すると良い。
こと果てて骨の髄まで侵されてしまいさえすれば、きみの妻はきみに対して、感謝の念しか抱かないだろうから。

もし彼が、きみに対して、永遠の仲間に加えたいという意思を抱いているのなら。
ためらうことなく、自身の血を吸い尽させて、そのうえで妻を紹介すると良い。
彼はきみの家庭に入り込み、妻も娘も支配してしまうだろうけれど。
その見返りにきみは、この街で気になった女性を、未婚既婚問わずにモノにする権利を得られるだろうから。

奥さん、よくもつな。

2017年05月22日(Mon) 07:38:09

「奥さん、よくもつな」
同僚にふと声をかけられて。
そんなものかと思ってしまう。

妻がこの街に棲む吸血鬼に襲われて、はやひと月になる。
この街に転居してきたのがひと月半ほどまえのことだから、
たったの2週間で襲われたことになる。
もう――真人間として暮らすより、長い時間を過ごしてしまったことになる。

セックス経験のある女性を相手にするとき、吸血鬼はきまって肉体関係まで迫ってくるという。
「お願い。それだけはしないで」
妻の懇願を容れてくれたというのは、当地ではかなり珍しいことらしい。
「うちのやつなんか、ぼくのいる目の前でヤられちゃったんですよ」
若い社員のひとりはそんなことを、いともあっけらかんと口にする。
そう。
吸血鬼に妻を姦(や)られるという事態がふつうに存在するこの街では。
妻や娘を吸血鬼に犯されることは、必ずしも不名誉なことと見なされていない。

さいごまで気丈に振る舞った妻。
献血には理解を示し、相手の渇きを見定めると、過不足なく自分の血を与えるようになっていた。
「たまには、あなたに言わないで出かけることもあるけど、心配しないで」
吸血鬼と2人きりで逢っても吸い殺されることはない。
それはお互いが暗黙の裡に交わした、信頼感の賜物なのか。

相手の男は妻を襲った翌日、わびを入れにわが家を訪れ、
自分から首すじを与えて、妻の味わった貧血をわたしも味わってしまうと、
妻がこの男に狂わされた理由をすぐに察して、
貧血がさほどでもないことを良いことに、ほんの少しの間だけ、家を空けてやったのだった。
帰宅したとき、妻のスカートは透明な粘液に彩られ、裏地まで浸されていたけれど。
「そこから奥には入り込んでいないから」という説明を、わたしは全面的に信用することにした。

「奥さん、よくもつな」
そんなことがあってからひと月たって、言われた言葉。
そう――妻はいまだに、吸血鬼に身体を許していない。
貞淑ぶりを発揮した妻は、いまでは羨望と畏敬の念で、わたしの職場で語られる。

つい先週、2人きりで逢ったとき。
奮発して、インポートもののストッキングを穿いて出かけた妻。
ひざ小僧までまる見えになるほど咬み剥がれたストッキングもそのままに帰宅した妻は、
「いつものやつでも十分嬉しいって言われた」と、
ちょっと嬉しそうにそういった。
「ストッキング代くらい、わたしが稼いであげるから」
わたしがそう耳もとで囁くのを、まるで恋人同士だったころのように、ウットリと頷き返す妻。
嫉妬は昂ぶりを生むものなのか。
そのあと二人の身体がバランスを崩していったのは、理の当然というものだろう。

「ストッキングを破る行為は、セックスの代わりらしいね」
村の長老の老いらくの恋を好意的にかなえてやったという上役は、
おだやかな声色でそういった。
「だから奥さん、奮発して高いストッキング穿いて行ったんじゃないかな」
そうかもしれませんね、と相槌を打つわたし。
いまでは、妻の貞操をなんとしても守り抜こうとは、必ずしも思っていない。
なりゆき次第で、妻を犯されてしまっても。
彼はわたしのもとから妻を奪い去ろうとまではしないことも、
妻が彼に従って家を去ったりもしないことも、
十分に伝わってくるから。

必要とする血の量が、かせとなって。
ひとりの女だけを追い求めることのできない身。
それは男としても悲しいことだと彼はいう。
でも――そうした宿命だから、あんたから奥さんを奪えずにいて、
あんたの幸せをすべて壊してしまうことがないんだろうな。
いつだか彼は、そういっていた。

ある晩わたしは、出かけてゆく妻の耳もとで、そっと囁く。

好きにしていいんだよ。

妻ははっとしてわたしを見返ると、しんけんなまなざしをこめて、いった。
じゃああなた、今夜私についていらして。
初めて犯されるところ――夫として見届ける義務があるわ。

ジャケットを通すのにひどくまごついているわたしを見て、
「うろたえないで」と、たしなめるきみ。
そう、きみは今夜、最愛の夫の見守るまえで、二度目の恋を成就させる。


あとがき
コチラのお話と、ちょっとだぶっているかも。
「間もない同士」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3467.html
ストッキングを奮発するくだりが、どうも頭に残っていて。
このお話を描いてすぐ、こんなメモをとっていました。
「奥さん、よくもつな」
「奮発して、高いストッキングを穿いて行った」
「セックスの代わりになっている?」

たった3行のメモから作ったお話です。

気丈な姑 6  吸血鬼の遠い記憶

2017年04月13日(Thu) 08:00:19

「イヤです!血を吸われるなんて・・・お義父さま、お義母さま、どうか堪忍してくださいッ!」
うら若い白い頬に血の気をのぼせ度を失って訴える少女に、大人たちは諭すように告げた。
「なあ初枝さん、堪忍していただくのはこちらのほうですぞい。
 あのお方を慰めることができるのは、もはやあんたのうら若い血しかないのですからの」
朴訥な父はとどめを刺すようにそう告げたし、
「初枝さん、世の中きれいごとでは済まないことがあるのですよ。
 当家の人になってくださるのなら、ここをこらえていただかないと」
そういう母は、いつの間にか初枝の背後にまわり込んで退路を断っている。
母の頬は鉛色で生気がなく、首すじには赤黒い痣がふたつ、くっきりと浮かんでいる。
「もう遅いのじゃ。お招きしておるのでな。初枝さんの血を吸うのを、愉しみにしておられたのじゃ。
 当家の嫁として、粗相のないようにしてくだされや」
父の顔色も蒼く、首すじには母のそれと同じ間隔を置いて、ふたつの痣。
そしてそのまがまがしい記憶をいまだに消せずにいる俺も、同じ痣をふたつ、首のつけ根に疼かせていた。

つぎの記憶は、自分の嫁になる少女が、黒衣の男に立ったまま抱きすくめられているところ。
「ああっ!」
涙声の悲鳴を呑み込んで、唇をキュッと噛みしめるのと。
抱きすくめた初老の男の口許から覗いた牙が、彼女の首すじに突き立つのとが、同時だった。
黄ばんだ犬歯が、その尖った切っ先を白い素肌に埋め込まれてゆく光景は、いつ思い出してもどきりとする。
「諦介さん、たすけてえっ」
自分を呼ぶ叫び声に、思わず耳をふさいだあの日。
けれどもつぎの記憶はさらに鮮明に、俺の脳裏に灼きついている。

黒のストッキングの足許に、俺と両親の血を吸ったその男は舌を這わせて、
薄黒く上品に透けたふくらはぎを、舐めくりまわす。
その有様を無念そうに見おろす少女の目線は、すでに理性を喪いかけて宙を迷っていた。
白い首すじにしたたるバラ色のしずくが、ピンク色のブラウスのえり首を浸そうとしているのに、
もはや彼女はそんなことなど意に介していないのだ。
男の卑猥な唇は、薄手のストッキングがくしゃくしゃになるまでいたぶり抜いて、
しまいに牙を突き立てて咬み破っていった。
少女はふらふらと身を崩し、その場にあお向けになって、
あお向けになった少女のうえに、彼女の未来の夫からすべてを譲り渡された幸運な男がのしかかり、
ねだり取った花婿の権利を、無垢な肢体に行使してゆく。
太ももまでめくれ上がったスカートの奥に、逞しくそそり立つどす黒い魔羅が忍び込んでゆくのを、
鋭利な牙が初枝の首すじに埋め込まれるのを見たときと同じくらいドキドキしながら、
とうとう視線を外すことができずに、さいごまで見届けてしまっていた。
そそぎ込まれた精液は、彼女のスカートの裏側を濡らしただけで、身体の秘奥を侵すことがなかったのは。
たんに、処女の生き血をもっと吸い取りたいだけだったのだと、容易に想像することができた。

三か月後に決まっていた祝言の日取りを俺はもう三か月伸ばして、
やつが初枝の身体からむさぼり取る処女の生き血の量を増やしてやることにした。
いぶかる初枝の両親がすべてを納得するのに、時間はかからなかった。
一人でも多く支配して、享受する血の量を確保したかったあの男の手で、
初枝の両親もまた、うちの両親と同じ運命に堕ちてしまったのだから。

それからどれほどの年月が流れたことか。
「黒のストッキングがお好きなの?いつものことながら、いやらしいわね」
軽い非難をこめた目で、女は俺を上目づかいで睨みつける。
その目線にかすかな媚びがあるのを、俺も、彼女の亭主も、見逃してはいなかった。
「いいわ。穿いてきてあげる。今度のあなたのお宅の法事、お手伝いに伺うわ」
女は亭主のまえ、気前よく咬み破らせてくれた肌色のストッキングを穿いたまま、
これ見よがしに亭主に見せつける。
「ね、黒のほうが、目だつわよね?」
不承不承に頷く亭主は、チラッと俺のほうを窺い目線を交えると、
「わたしも心配なので、伺うよ」
と、言ってくれた。
きっと、失神した女房をかばって自宅に連れ帰る役目を、引き受けてくれるつもりなのだろう。

この夫婦は、このあいだモノにした若夫婦の、婿さんの側のご両親。
嫁の不倫を咎めようとして俺の邸に上がり込み、返り討ちに遭ってしまった、おっちょこちょいな女だった。
その実、悪賢い嫁が口うるさい自分の姑を堕落させるために仕組んだ罠だったということに、いまだに気づいていないけれど。
俺の褥で弄ばれて、汚され尽したあとなのに、
いまだに元教師らしい凛とした潔癖さを失くしていない。
「そこが好ましい。そこに惚れた」
よりにもよって亭主にいうことではなかったけれど、いわずにはいられなかった。
あんたの女房は良い女だ と。
亭主をまえにぬけぬけと、女はいった。
「ねえ、今度から悠子って呼んで。ほかにそう呼ぶのは、ダンナだけなの」

五十に近い齢を感じさせないうら若さを秘めたこの女は、いま俺を癒すだけではなく、救おうとさえしている。

気丈な姑 5

2017年04月12日(Wed) 08:15:56

「お待ちになったかな」
「ううん、そうでもないわ。私もいま来たところ」
ほんとうは、30分待った。
きっと、前の訪問先で、お相手とほんの少しばかりよけいに名残を惜しんできたのだろう。
その証拠をさりげなく、私は指摘してやる。
「お口」
真新しいハンカチで拭った彼の口許は、だれかから吸い取った血でまだ濡れていた。

ショルダーバッグをひるがえして、すすんで腕を差し出して、
若い恋人同士みたいに、腕を組んで歩く。
あとから尾(つ)けてきているにちがいない主人はきっと、
嫉妬のほむらを燃やし、そのぶん目はうつろになって、私たちの後ろ姿を追っているに違いない。
ああ、いじましい。(笑)

すれ違う街の人たちの目も、もう怖くはない。
「アラ悠子さん、お出かけ?」
わざわざ見え透いたにこやかさで話しかけてくる、女の知人。
そう、あなたがなにを言いたいのかは、わかっている。
「また浮気?見かけによらず、あなたふしだらなのね」
そう仰りたいんでしょ。
でももう、なにも怖くない。私は平気。

さいしょは自由奔放に振る舞って私の一人息子をキリキリ舞いさせている嫁への、対抗心もあった。
嫁の浮気を叱り飛ばしたのは、恥を掻かせてやりたかったからだけど、その裏側には嫉妬もあった。
あなたは若いうちから勝手なことをしているのね。
私は学校の先生だったから、みんなの模範にならなければならなかったし、
浮気はもちろん、好きなことも我慢しなければならなかった――
でもそんな私の目論見は、嫁の浮気相手が吸血鬼だという未知の事実のおかげで、すっかり狂った。
嫁に恥を掻かせるはずが、恥を掻いたのは私だった。
私は嫁の目の前で犯され、夫以外の男の身体を初めて識った。
むぞうさに遂げられた禁断の行いは、それまでの私のかたくなな倫理観を、いともあっさりと突き崩したのだ。

美那子さんが貧血のときは、私がデートの相手をする。
吸血鬼にとって、四十女の私はきっと、第二志望。いや、すべり止め?
それでも私は、いい加減で日和見な主人にこれ見よがしに、彼とのデートに応じていった。
――美那子さんより罪は軽いわ。もう子供を産む齢ではないんだし。
でもそれは、「もう若くない」ということの裏返し。
きっと美那子さんも気づいているし、一番傷つくのは私自身。

吸血鬼とのデートは、案外危険も少なく、いやらしくもない。
いえもちろん、さいごは彼の家でファックされてしまうのだけれど。
そうなる前は、映画館通いに、美術館めぐり。
彼は高い教養と良い趣味の持ち主で、いざなわれる映画はどれも古典的な名作だったし、
美術館での彼の博識ぶりは、もと教師の私も知らない奥深い世界をかいま見させてくれた。
だから、私たちのデートをつけ回す主人は、行き先が意外なくらいまっとうなのに、ちょっと拍子抜けするのだという。
「若い人にはわかってもらえない話を、貴女は理解し楽しんでくれる」
そういう彼の横顔も、どこか誇らしげで楽しげだ。
そしてそんなふうにして――さりげなく触れられたくもない私のコンプレックスを、あのひとはさりげなく、覆い隠してくれる。

2人ともに気づかれているのも、主人のほうでも気づきながら。
主人は妻の浮気現場を抑えようと、ばか律儀な尾行をつづける。
それが妻へのIの証しだと、いわんばかりに。

夫の尾行を黙認する私たち。
そして、私の浮気を黙認する夫――
不思議な黙契は十数歩の距離を置きながら、つかず離れずの関係を保っている。

さいごはもちろん、ファック、ファック、ファック。
こんな下品な言葉、自分で口にするなんて、思いもよらなかった。
息子さえ結婚している齢になった私が、唯一堕落したと認めざるを得ないこと。
夫以外とのセックスこそ、最大の堕落 ですって?
必ずしも、そういうものではないでしょう。
私が身をもって彼に尽くしている証しだし、
彼が私を支配するのと裏腹に、私は自身の血液と柔肌で、彼のことを守っている。

時には道ばたの草むらのなかでさえ乱れてしまう私たちを、
主人は邪魔だてもせず、遠くからじいっと見守っている。
最愛の女性が他の男に肌を許すのを。
自分がプレゼントしたスーツで装った妻が、それが礼装フェチの愛人のための装いで、
夫の好みの服を愛人に辱めさせてしまうのを、じっと遠くから視て・・・そして昂っている。
二等辺三角形の一辺だけが異様に近いこの距離感で。
私たち3人は3人ながら、それぞれの歓びに目ざめてゆく。

夫が恋し手に入れた女は、
夫が買い求めた服もろともに弄ばれて、
買い求めた服と、その服を着た妻とが、同時によその男を満足させる姿を見せつけられる。

「ただいま」
素知らぬ顔をして、帰宅する私。
「おかえり」
素知らぬ顔をして、出迎える主人。
「楽しかった?」
おずおずと訊いてくる主人に、私はいけしゃあしゃあと、応えてゆく。
「エエ、とっても。あなたもきょうは、楽しい一日だったかな?」

気丈な姑 4

2017年04月11日(Tue) 08:19:25

息子・貴志の独白。

男にとって、致命的な経験を、ぼくは二回も遂げてしまった。

ひとつ目は、自分の妻となる女性が他の男の誘惑を受けて、目のまえで処女を捧げてしまったこと。

相手は吸血鬼で、いっしょに血を吸われたぼくは、婚約者の美那子ともども、すぐに彼と仲良くなってしまった。
彼に処女の生き血を吸わせてやりたい一心で、ふたりは結婚前を生真面目な交際で通し、
ぼくは美那子を彼の邸に連れ入ていって、彼女が処女の生き血を吸い取られウットリとなってゆく有様を、息をつめて見守っていた。
ふたりはやがて、ぼくに黙って逢うようになったけれど、
むしろそうした事実を知ることで禁断の昂ぶりに目ざめてしまったぼくは、ふたりの関係を黙認しつづけたのだった。

挙式前夜にお祝いをしてくれるといって招ばれた彼の邸で、美那子は初めて彼に女として抱かれた。
デートの時によく着て来たピンクのスーツ姿のまま猿臂に巻かれ、
ストッキングを破かれ、ショーツをむしり取られ、
吊り紐の切れたブラジャーもそのままに、はだけたブラウスのすき間から覗くピンク色の乳首を舐められながら、
彼女はぼく以外の男と接し、両脚をゆっくりと、開いていった――


ふたつ目の致命的な体験は、母の悠子のことだった。
しつけに厳しい毅然とした母は、嫁の浮気について優柔不断なぼくよりも、ずっと峻厳な態度を取った。
そして堂々と彼の邸を訪れて、浮気の現場を抑えると、ふたりに対してしてはならない叱責を浴びせてしまったのだ。
結果はもちろん、淫らなものにすり替えられていた。
母はその場で、嫁の血を吸い取ったその唇を素肌にあてられ、苦悶しながら血を吸い取られ、奴隷に堕とされた。
吸血鬼はセックス経験のある婦人を相手に選ぶとき、例外なく性的関係を結ぶという。
ぼくの母だからということで、斟酌はなかった。
嫁の見ている前で母は、時折洩れてしまうはしたない声を悔しがりながら、婦徳を穢されていったのだ。

知ってる?あなた・・・
寝物語に聞いた、妻の情夫と母との不倫。
その不倫を、あろうことか父までもが、真面目な交際として認めているという。
ぼくは思わず、ほっとしていた、
これでもう、母さんに叱れずに済む。

けれども、自分を生んだ女が、父親以外の男のものになるということは、
人知れずぼくの心の奥に、居心地のよい闇を作った。
それは、自分の妻を犯され次代を奪われる脅威に直面するのと同じくらいの深さを持った闇だった。

もしかしたら母は、嫁に負けないくらいの体験をぼくに突きつけることで。
いまでも嫁と、張り合っているのかもしれない。

気丈な姑 3

2017年04月11日(Tue) 08:05:34

知ってる?あなた。お義母さま、長いのよ。
ベッドのなか、傍らで寝ていた妻の美那子が、ちょっと意地悪そうな笑みをたたえて、ぼくに囁いた。
え?どういうこと?
お義父さまも、ふたりの仲を認めていらっしゃるんですって。お洒落なご夫婦ね。
ますます話がみえなかったぼくに、美那子は一連の話を語って聞かせてくれた。

きょうのヒロインは、貴志くんのお母さんの悠子さんです。
悠子さんは長年連れ添った近田さんと、おしどり夫婦で知られていました。
息子の貴志くんは結婚前に知り合った吸血鬼の小父様と仲良くなって、
未来の花嫁である美那子さんの生き血を吸わせてやるようになりました。
結婚してからも、小父様が美那子さんを愛人のひとりに加えることに賛成をして、
ふたりの逢瀬に協力的になるくらい、理解のある夫です。
吸血鬼が人妻の生き血を狙うとき、ふつうは夫が最大の障害になるのですが、
貴志くんは立派な紳士だったので、むしろ最大の協力者になっていたのです。
でも母親の悠子さんは、そんな息子にがまんがなりませんでした。
そうです。吸血鬼が人妻の生き血を獲るのに、姑が最大の障害になったのです。
悠子さんは身持ちの正しい姑として、吸血鬼を𠮟りにいらっしゃいました。
でも、吸血鬼は惚れっぽいので、五十手前の悠子さんにまで、ときめいてしまったのです。
そして吸血鬼のお邸を訪問した悠子さんは、貞淑なご婦人のままそのお邸を辞去することはできなくなったのでした。
めでたく結ばれた二人は逢瀬を重ねましたが、
悠子さんのご主人は息子の貴志くんと同じくらい穏やかな紳士だったので、
永年連れ添った妻と情事を重ねる吸血鬼を許してあげたのです。
血を吸い尽さない代わり、貞淑だった四十路妻を吸血鬼の愛人の一人として捧げることに同意したお義父さまは、
最愛の妻が吸血鬼に生き血を愉しまれ、犯されてゆくいちぶしじゅうを見届けたのでした。
着ているよそ行きのお洋服をくしゃくしゃに着崩れさせながら、はしたない喘ぎ声をあげる奥様をまのあたりに、
いつかお義父さまも、覚えてはならない歓びに目ざめてしまったのでした。

どお?このおとぎ話、ウケるでしょ?

妻の笑みには毒気がなかった。
だいじょうぶよ。私たちはみんなお仲間。
わたくしの母の生き血も、少しでも若いうちにあのひとに愉しませてあげたかったから、
父には内緒で連れ出して犯していただいたのだし、
父もそんな母と娘を、内心好もしく思っているんですって。

それに――あの小父様ご自身もお若くてまだ真人間でいらしたころに、奥様ともども血を吸われて、
自分の血を吸った相手に、奥様を愛人として差し出して、末永く三角関係を愉しんでいらっしゃるんですってよ。

わたくしたち・・・まだ序の口ですわね。
妻はそううそぶくと、再び眠りに入ろうとする。
「やだ!眠いのにっ」
目ざめてしまったぼくは、ギュッと目を瞑る妻を抱きすくめ、股間を熱く逆立てていった。

気丈な姑 2

2017年04月11日(Tue) 07:50:13

息子さんの挙式のときからね、貴女にひと目惚れしていたんですよ。
貴女がお嫁さんの浮気の件で私を叱りに見えたとき、
あのときとおなじスーツを着てきたのに気づいて、夢かと思ったくらいです。
気がついたら貴女に迫って、咬んでいました――。
そんな口説き文句を、いけしゃあしゃあと囁く彼は、わたしよりも年上の吸血鬼。

「いいじゃないの、少しくらい。
 美那子さんがするよりも、罪は軽いわ。もう子供を産む心配は、ないんですから」
浮気は夫に対する裏切り行為なのだと、日ごろから嫁を非難するときには必ずついてまわったあのふた言目は、すっかり忘却の彼方らしい。

「いつでも吸わせてあげる」
と、妻は男を家に誘い、わたしのまえで抱かれていったし、
「切羽詰まってるらしいの、あなたもいらして」
と、わたしの血まで栄養補給に提供させられた。

「喉が渇いているんだって。行ってあげなきゃ」
と、夜中もいとわず彼の邸を訪問するときは、必ずこぎれいなよそ行きの服に着替えていった。
「きれいなブラウスを、持ち主から吸い取った血で濡らすのがお好きなんですって」
そんなフラチな嗜好までこころよくわきまえて、よそ行きのブラウスを気前よく汚させる女。
「ストッキングを穿いた脚を咬むのがお好きなの。破いて愉しむんだって。いやらしいわよねぇ」
のろけ話をするような嬉々とした口調でそんなことまで夫に語り、
やはり気前よく真新しいストッキングを脚に通して出かけていって、ためらいなく咬み破かせる女。
そんな女に、いつの間になってしまったのだろう?

とどめのひと言は、家にあげた情夫と組んづほぐれつしたあとに、彼の腕のなかで呟いた言葉。
「もっと若いうちに、お逢いしたかった。
 そうすればもっと美味しい血を差し上げられたし、もっと若い身体で抱いてもらえたのに」
わたしは夫として、引退したほうがよいのか。それとも、かなわぬと知りながら妻を堕とした相手と闘うべきなのか?
思い詰めかけたわたしの気分をほぐしてくれたのは、意外にも彼のほうだった。
「あんたにはつねづね、感謝している。佳い奥様をおもちで、羨ましいですよ」
同性としての賛嘆の念が、瞳の奥の深い輝きにこめられていた――

妻もまた、わたしには少し、気を使っているらしかった。
遣っている最中は、つい言葉のやり取りも過激になるというもの。
「俺だけのものになってくれ」という彼に、
「とっくになっているじゃないの。あたしは一生あなたのもの」
夫のわたしが聞いていると知りながら、そんなことを口走りつつも、
「でもあのひとに、感謝してね。あのひとあってのあたしだし、あたしあのひとのこと心から尊敬しているの」
夫とは絶対別れない・・・愛人の切なる願いを無にしてまで、そう宣言していた。

種明かししてあげようか。
あるとき妻は、意地悪い笑みをたたえながら(それが、わたしに戯れかかるときの、昔からの彼女の癖なのだ)、こちらへとやって来て、囁いた。

ほんとうはね。最初からあなたと別れる気はないの。
彼にもその気はないの。
だって彼、なん人もの血を吸わないと生きていけないでしょ。一夫一婦ってわけには、いかないのよ。
だから、人の妻を餌食にするのがお得意なわけ。
あのひと、言ってたわ。
悠子を近田夫人のまま犯しつづけたいって。
あたし、あのひとの趣味に合わせることにしたの。
身を近寄せる妻の息遣いが、いつになく色っぽい。
いつのまに、彼女はこんな面を持ち合わせるようになったのか。
わたしは彼女をその場に押し倒し、ふたりは久しぶりに夫婦らしい交歓をともにする。

いままで黙認してたけど。こんどはっきり彼に言おう。
永年連れ添った愛妻の悠子を紹介します。
末永い交際を、どうぞよろしくお願いします――と。

気丈な姑 1

2017年04月11日(Tue) 07:30:22

息子の嫁の浮気相手に、妻は文句を言いにでかけていった。
それが、真人間だった妻を視た最後になった。
嫁の情夫は、吸血鬼だったから。

不幸中の幸い、相手の吸血鬼は人情味のあるやつだった。
いきなり奥さんが無言で帰宅したりしたらこたえるだろうからと、
ちょっとした貧血程度になるまでで我慢してくれた。

帰宅してきた妻は、ちょっときまり悪そうで、
その日一日は黙りこくっていたし、
妻のご機嫌がうるわしくないと感じ取ったわたしも、彼女との接触をなるべく避けていたのだった。
きまり悪かった理由は、あとでわかった。
セックス経験のあるご婦人を相手に選ぶとき、吸血鬼は例外なく性的関係を結んでいくという。

それ以来。
妻はなん度も、出かけていった。
「また美那子さんと逢っているらしいの。私説教してくるわ」
そういうときの妻はいつになくウキウキとしていて、
よそ行きの服で若作りをして、それどころか前日にはふだん行かない理容室で髪をセットまでして、出かけてゆくのだった。

「父さんは行かないの?僕は美那子のときにはいつも、お邪魔しているんだよ」
嫁の浮気の現場をのぞき見する愉しみを、くったくなく語る息子。
そういう息子の首すじには、嫁がつけられたのと同じ咬み痕が、どす黒い痣になって、くっきりと浮いていた。
そしてわたしの首すじにも、いつか同じサイズの咬み痕が、どす黒い痣になって、くっきりと浮いているのだった。

たしか数日前――「あなたも叱ってあげてくださいな」。そういって妻が連れてきた、嫁の浮気相手。
彼と酌み交わした酒はいつか意識を迷わせて、いつの間にか正体を告白されていて、
わたしは彼の正体を理解をもって接し、献血にも応じてやって、
妻がすっかり慣れっこになっていた献血をわたしのまえでするのさえ、咎めもせずに見守っていて、
吸血鬼がセックス経験のあるご婦人に対していかに振る舞うものなのかまで、いちぶしじゅうを見せつけられてしまっていた。

「きょうも叱ってあげてくださいな」
先日と同じように、妻が連れてきた吸血鬼。
わたしの血を先に吸って酔い酔いにしてしまうと、
おもむろに妻に迫って、首すじを咬んでゆく。
日ごろ几帳面だった妻なのに。
花柄のロングスカートをしどけなくたくし上げられ、太ももを咬まれ、穿いていたストッキングまで破かれてしまうのを。
「いやだわ、やらしいわ」とか言いながら、
自分よりも年上の男の痴戯を、面白そうに見おろしつづけていた。
彼の帰り際、「また来てね」と、妻は小手をかざしてバイバイをした。

「また来てね」「またいらしてね」「また咬んでね」
「また、主人のまえで抱いて頂戴ね」――
妻の要求はエスカレートしていったが、彼は妻の要望に、律儀に応えつづけていった。
そしてわたしも、とがめだてひとつせず、嫁の不倫相手に犯されてゆく妻の痴態を、ただの男として愉しみはじめてしまっていた。

互いに互いを  ~地方赴任者たちの、お愉しみパーティー~

2017年02月12日(Sun) 07:19:02

きょうは、新規に転入してきた社員夫婦を招いての、ホームパーティー。
つきあいの良い事務所長宅は地元の旧家を改造した広大なお邸で、
こういう集まりにはうってつけだ。
招かれた夫婦は、わたしよりも10歳くらい後輩の、三十代後半。
娘が一人いて、いまは転入したばかりの私立中学で、授業を受けている時分だろう。

集まったのは総勢、十数人もいるだろうか。
一同親し気に笑いさざめいてはいるものの――
なかなかどうして、この宴には裏がある。
そもそもこんなパーティーを企画するようになったのは、いつのころからか。
じつは転入者のだれもがくぐり抜ける通過儀礼なのだとわかるのは、すべてが終わったあとのこと。
げんに半年前の、わたしのときがそうだった。

この街の人たちね、吸血鬼と共存しているんですよ。
ここに来る以前から顔見知りだった同僚が、ふとそう囁くと。
一同は一瞬押し黙り、突然部屋の明かりが薄暗くなった。
首のつけ根に鈍痛を感じ、眩暈を起こして。
振り返ると隣にいた見慣れない地元の老人が、吸い取ったばかりのわたしの血を、口許にしたたらせていた。
次は妻の番だった。
失血に眩暈を起こしたわたしは、その場に尻もちを突いて、動けなくなっていた。
老人は猿(ましら)のようなすばしこさで、向かいに座っていた妻に襲いかかった。
キャッと叫んで飛びのこうとした妻は、
あろうことか左右にいたわたしの同僚二人に抑えつけられて、
わたしと同じ経緯で老人に頭を掴まれ、首すじをがぶりとやられてしまっていた。
半死半生になったわたしは、ただ抜け殻同然となってソファに横たわり、
脚を吸われた妻がストッキングを咬み破かれながら、むざむざと血を吸い取られてゆくのを、見守っているよりなかった。
そのあとは――落花狼藉である。
わたしたち夫婦を堕落させることに協力した同僚たちは、てんでに妻の上に群がって、欲望を成就させていったのだった。
相手がわたしの同僚と知った妻はけんめいに抗ったが、だれもが隙だらけの装いのなかに指を差し入れていって、かわるがわる、想いを遂げていった。
「けっこう手こずったね」
みんなは顔を見合わせて笑った。
お互いの健闘をたたえ合うような、妻の頑強さを賞賛するような、たぶん両方の意味でのくったくのない笑い。
「そう悔しがるなって。つぎに転入者が来たときには、あんたもいい想いできるんだから」
同僚の慰めは、共犯者の誘惑だった。
さいごはわたし自身が妻に覆いかぶさって、妖しく昂った熱情を、いままでになく激しく突き入れていた。
そうすることで目のまえの落花狼藉を認めてしまったわたしは、
留守宅に交代で妻を訪ねてくる同僚たちをそれ以上咎めることもなく、
夢中になってしまったことを全身で告白してしまった妻は、
わたしの態度をいいことに、それまでの貞淑妻の仮面をかなぐりすてて、日がな情痴に耽るのだった。

笑いさざめく口、口、口――
それらの口はどれもが、妻の素肌を這った口。
彼らの妻たちも数人、顔を並べていたが、それはきょうのヒロインが凌辱されている間手持無沙汰な順番待ちの解消要員。
そのなかにはむろん、妻の姿も含まれている。
一座の男たち全員の奴隷に堕ちた妻がいる。
同僚の妻たちも皆、同席している男性すべてを識っていた。わたしのことも、よく識っていた。

この街がまだ山間の寒村だったころ、夜這いの風習があったという。
だから、吸血鬼がなじみやすかったのさ。
だれかがそんなことを言っていたが、きっとそうなのだろう。
彼ら地元の者たちは彼ら同士で、互いの妻と親睦を深め合っているという。
わたしたちが同じ風習を平和裏に真似て、何が悪いというのだろう?

きょうの主賓は、地元の長老格のひとりだった。
彼は、ストッキングを穿いた都会育ちの女たちの脚を好んで辱めようとする。
その場に居合わせる都会妻たちの、ひとりを除く全員が、彼にストッキングを咬み破かれていた。
一座の男性の、やはりひとりを除く大半は、妻を最初の餌食に献上する羽目になっていたし、
あの日わたしの隣に腰かけたのも、この男だった。
彼の唇はいままでになん度、わたしたち夫婦の血をあやしたのだろう?
いまとなっては、そんな勘定は意味をなさないくらい、彼の唇はわたしたち一家の血潮をなじませてしまっている。――娘を含めて。
あの晩の出来事は、わたしたち夫婦のなかでも塗り替えられて、
わたしのほうからあの男に、妻の貞操を奪って欲しいと懇願したことになっていた。

なにも知らない初顔の奥さんは、亭主に言われるままによそ行きのスーツをきっちりと着込んできていて。
ライトイエローのタイトスカートの下からは、白のストッキングに透けたふくらはぎを、
それとは意識することなく、ジューシーに見せびらかしている。
部屋の照明を照り返してじんわりと光沢を滲ませているストッキングが、
あと数刻でむざんに咬み破られるなど、
きっと、夢にも思っていないはず。

笑いさざめく口、口、口――
それらの口がほんの一瞬、いっせいに閉ざさるとき。
あの老人は亭主にひと言囁いて・・・
そして部屋の灯りが突然、薄暗くなった。


追記
ひと月ほど前に創作、今朝改稿。

法事の手伝い

2017年01月10日(Tue) 06:16:42

「いっしょに行きましょ。法事のお手伝い」
お隣の敏子さんは、そういってひっそりと笑う。
「そうね。ごいっしょしましょ」
声がウキウキと昂るのを抑えることができないのは、ちょっとはしたないかな?と、自分で思う。
洋装のブラックフォーマルのスカートのすそをひるがえして、夫のところに舞い戻ると、私は言った。
「法事のお手伝いに行ってきますね」
「ああ、気をつけて。皆さんによろしくね」
夫はいつものように、優しく穏やかに送り出してくれた。

法事の手伝い――それはこの村では、卑猥な意味が隠されている。
そこに集まるのは、村に棲み着いている吸血鬼たち。
手伝いと称して呼び集められる私たちの役目は、彼らの餌食になることだったから。

「黒のパンスト、お好きみたいね」
二度目の手伝いのとき、連れだって歩いた敏子さんは、そう呟いた。
敏子さんに言われるまでもなく、肌の透ける黒のストッキングに染まったお互いの脚を、私たちはどちらからそうするともなく、見比べ合っていた。
敏子さんの脚は、すらりとしてきれいだった。
「ただ太い。とにかく太い」
そういって卑下する私を、敏子さんはむしろ羨ましがった。
「だけど、いっぱい吸ってもらえるじゃないの」

夫同士が、同じ勤め先。
同じ時期に転勤で、この村に来た。
そして同じ日に、法事の手伝いにかり出されて、
同じ部屋で男たちに取り囲まれて、めいめい違う相手に、首すじを咬まれていった。
その場で姿勢を崩し、ひざ小僧を突いてしまうと、負け。
狭い畳部屋にふたり並べられて、代わる代わるのしかかってくる相手に、犯されてしまった。
お互い、片脚だけ脱がされた黒のストッキングを、ひざ小僧の下までずり降ろされたまま、
脚をばたつかせながら、決して侵入を許してはいけない男の体の一部に、股間をえぐられていった。

「きょうのことは、内証にしておいてやるよ」
男たちは恩着せがましくそういうと、それでも裂けたブラウスや脱ぎ捨てられたストッキングを拾い集めてくれた。
着せてくれるのかと思ったら、めいめい嬉しそうにせしめて、持ち帰られてしまった。
敏子さんにも、私にも、一人ずつ男性がついて、家まで送ってくれた。
乱れ髪に、ジャケットを羽織っただけの、おっぱいまでもがまる見えの上半身。
スカートの下は、みじめなくらいに白く映えた、むき出しのふくらはぎ。
黒革のパンプスに、ノーストッキングのつま先がごつごつと居心地悪く収まっていた。
夫は私の様子を見ると、すべてを察した顔になって。
自分の妻を犯した相手にお礼を言って、私のことを引き取ってくれた。
夫はなにも言わないままに、今度法事の手伝いをいわれてどうしても厭だったら断りなさい、と、言ってくれた。

家族ぐるみで村にとけ込むのが仕事の一環――そう聞かされてきた私にとって、頼まれごとを断るという選択肢は、あり得なかった。
三日後に再び法事の手伝いがあったとき、私は夫には告げずに、出向いていった。
新調した洋装のブラックフォーマルのお金は、私を家まで送ってくれた彼が、持ってくれた。
初めて私に迫り、私を犯した人だった。
私に夫以外の身体を体験する歓びを、教え込んでしまった男だった。

敏子さんとは幸い、ウマが合った。
そのせいか、法事の手伝いのときには、いっしょに組まされることが多かった。
私たちはいつも、同じ部屋に呼びこまれ、男たちに迫られて、血を吸われ、犯されていった。
破られると知っていながら、私たちは真新しい黒のストッキングを脚に通して、出かけていった。
男たちのために馳走するつもりで穿いて行ったのだろう?って、仮に夫に責められても、私はきっと頷き返してしまっただろう。
それくらい・・・男たちの息遣いの渦に巻かれることに、なじんでしまっていた。

乱交の渦の中でも、相性というものはやはりあるらしい。
いつか、敏子さんにも私にも、現れる確率の高い男性がなん人か、できるようになっていた。
そのなかに、私を初めて犯したあの人が含まれていることを、なんとなく居心地よく感じてしまっていて。
そう感じてしまっている自分に気づいて、どきりとすることがよくあった。

ここは夫の生まれ故郷だった。
故郷をきらって都会に出た夫は、不景気のあおりを受けて、結局故郷に頼ることになった。
それで、いまの勤め先に落ち着いたのだ。
だから、私と交わる男たちのなかで、夫と昔から顔なじみだという人は、なん人もいた。
「マサルのとこのお嫁さんだろ?うわさにはきいていたけど、別嬪さんだな。あそこの具合もいいんだって?」
彼らは親しみを込めた口調でさりげなく、それでもしっかりと露骨なことを口にして、
私に一物を咥えさせたり、はしたないことを言わせたりするのだった。
主人のよりも大きいわあ。もっとヤッてえ・・・イカされたいのっ。とか。
みんな顔なじみだから、気安く交わることができる。そんな雰囲気がここにはあった。
まったくのよそ者だった敏子さんさえ、私と同じように仲良くなっていた。
ふたりはお互いに、礼服のスカートの裏地に、複数の男たちからほとばされた粘液を光らせながら、家路についた。

ガマンできなかったのは、息子が私の痴態を見たがることだった。
さいしょのときから、私とは別に寺に呼び出されていて。
敏子さんと並べられて犯されるのを目にした息子は、どうやら病みつきになってしまったらしい。
それ以来、母さんのことが心配だといっては寺に来、私が血を吸われたり侵されたりするのを、半ズボンの股間を抑えながら見守っているという。
夫と同じように、この子もまた、村の人の血が脈打っているのだ。

お寺の本堂の薄暗がりで、折り重なってくる男たちのなかに、義父の姿もあった。
義父は好んで私と逢いたがる男たちのかなに、含まれていた。
さいしょの時も、なん人めかの相手が義父だった。
「うちの嫁だから、順番は遠慮したのだ」
あるとき問い詰めると、義父は悪びれもせず、そう応えたものだった。
けれどもそのじつ、私にご執心だというのは、たぶん私のうぬぼれではないはず。
夫のいない夜、義父は私にお酒の相手をさせて、ついでにベッドの上でのお相手も、強いてくる。
義母は若いころから村の長老に気に入られていて、家を空ける夜が多かった。
だからお前は、わしを親だと思って、孝行しなければならない――そんなしかつめらしい言いぐさを言い訳にしなければならないほど、義父は不器用な男だった。
その不器用さにほだされて、私は親孝行に応じることにした。
どういうわけかそういう晩に限って、夫は夜勤だと言って、家を空けていたから、私たちの逢瀬は気軽に遂げられることが可能だった。
村のしきたりを離れた家のなかという狭い空間で、
義父と私は身体の関係を重ねていった。
義父は必ず、私の中に子種をそそぎ込んでゆく。
もしかするとあいつ(夫)は、俺の子じゃないかもしれないからな――
そんなことはない。あなたたちはそっくりよ。
義父の胸の中での私のつぶやきを、たぶん義父は知らないでいる。

この村では、だれの子をはらむかわからない。
けれども、いちど宿したお子は、大切に育てなければならない。
この村は、子供を愛する土地柄だった。
義父の子ならいい。そう私は思う。
この家の子であることに、変わりはないのだから・・・と。

市庁舎職員の応接 ~都会めかした女~

2016年11月23日(Wed) 22:20:29

こんな狭くて古い街からは、とっととおさらばしたかった。
その直感は、正しかった。
こんな街にとどまったばかりに、俺は正常な結婚をしそびれてしまった。
親のコネで安定した収入を得られるという誘惑に屈して、自ら街から脱出する希望を捨ててから、すでに数年経っていた。
街に吸血鬼が侵入してきて、都会でも味わうことのできない愉しみを体験する羽目になるとは、
つい先週まで思いもよらなかった。

その部署に突然配属された俺は、部屋に入って来た黒ずくめの男に目を見張ると、
――ああ、あんたはまだだったんだな。
その男はそう呟くと、俺と真向かいに近づいてきて、首すじにどす黒い衝撃をぶつけてきた。
気がついたらその場に尻もちをついていて、眩暈のむこうにそいつがいた。
俺はそいつに血を吸われながら、もっと吸ってくれと頼み込んでしまっていた――

吸血鬼と知れた黒影どもは、市役所庁舎でももっぱら、この隔離された空間だけにやって来る。
どうやら俺たちは、吸血鬼から市民を護るための防波堤にされたらしい
――そう感じたときにはもう、その理不尽な方針を、むしろ進んで受け入れていた。
それくらい。やつらの牙に含まれた毒は、俺たち職員の理性を一瞬にして奪ってしまっていたのだ。

隣の席になった関野真美子は、採用年次がひとつ下。
俺が大卒で向こうが短卒だから・・・齢はいくつ若くなるのだろう?
都会に出たら、うようよいそうな。
そして、この街には珍しく。
けばけばしい美貌と、斜に構えたすさんだ雰囲気とを持っていた。
「おいでなすったわね。じゃあ私、お勤めしてくるから」
真美子は蓮っ葉なちょうしでそういうと、
洗練されたスーツ姿をひるがえして、自分のほうへと迫ってくる黒影に、真正面から歩み寄る。
がっちりと抱きすくめられ、うなじを吸われ・・・それらいちぶしじゅうがすべて、俺のすぐ目の前での出来事。
影は、真美子の血を美味そうに吸い取ると、荒縄を巻くように羽交い絞めにした猿臂をほどき、
女の細い肩に手を置いて、隣室へと促してゆく。
そこでなにが行われるか――大人の男なら、だれだってわかろうというものだった。

鎖されたドアのほうへと、恐る恐る足を忍ばせて。
真向いになったドアの向こうの、極彩色の情景を思い描きながら、鍵穴に目をやると。
後ろからそうっ・・・と背中に手を置かれ、ぎょっとする。
「まったくぅ。油断も隙もないわね」
しらっとした冷めた目つきは、都会の女の瞳――部屋の中に消えたはずの真美子が、なぜか俺の後ろにいる。
「夢見てるんじゃないわよ」
薄ぼんやりとした視界の手前で、パーに開いた掌をひらひらさせて、
目のまえでドアのカギを、カチャリとかける。
かけたカギはとたんにはずされ、再び開かれたドアの向こう、真美子はもういちど、しらっとした目を俺に注いだ。
「視たけりゃ、視たっていいんだからね。あほらしいから、開けとくわ」
部屋の奥にしつらえられたソファのうえ、吸血鬼はふんぞり返って、俺のことを面白そうに窺っている。

「きゃ~、愉しんじゃおうよ~♪」
真美子は吸血鬼のひざの上に乗っかると、
千鳥格子の派手な柄のジャケットの襟首をくつろげて、
男の手を自分から胸の奥へと導いていって。
もう片方の手で、同じ柄のタイトミニのスカートのすそを、お尻が見えそうになるまでたくし上げてゆくk。
目の毒だ・・・目の毒だ・・・
俺の理性は、ドアを閉ざしてこのまがまがしい光景から視界を隔てようとしているけれど。
俺の両手は、痺れたように動きを止めて、
俺の両目は、男の見栄やおざなりな理性など軽く裏切って、
きりっとしたスーツ姿を身分から着崩れさせてゆく真美子の応接の、いちぶしじゅう見届けてしまっていった。

「あの人たちさあ、処女は犯さないんだって。
でもあたし、高校の時にもう姦っちゃってたから、職員の女の子たちの前で、真っ先に抱かれたわ」
参っちゃったなァ・・・
かなりすごい体験をしたはずなのに、
それさえも、悪戯を見つかった悪ガキみたいにきまり悪そうに頭を掻き掻き、あっけらかんと笑い飛してしまう彼女は、
来る日も来る日も訪れる吸血鬼のため、他の女子職員たちに交じりながら、
ときには同時に複数の吸血鬼を相手にして、
だれよりも積極的に相手を誘って、
他の女子職員のお手本みたいに、真っ先によがり声をかしましくたてるのだった。

「ねぇ、あたしと結婚しない?」
出し抜けな問いかけにぶっ飛びそうになった俺に、
「本気なんだけどさあ」
都会の女めかした瞳には、話題をそらさせない真剣味がこめられていた。
どうして俺なんだよ・・・?
言いかける俺に、女はどこまでも素直じゃなかった。
「ひとに知られたくない秘密を、あんたがいちばんよく知ってくれちゃっているからさ」

結婚しても、あのひとたちは来るからね。
新居に遊びに来るからね。
そしたら悪いけど、あたしあのひとたちの相手するから。
お義母さんが咎めたって、ダメ。
むしろ、ごいっしょしたいわ。
だってそのほうが、話がはやいもの。
ほんとはね。
お義母さんを手籠めにしたがってる吸血鬼がいるの。
お義父さんには、あたしが話をつけるから。任しといて。
ぜったい、ぜったい、家内安全、夫婦円満、間違いなしよ。

そんなはずが、あるはずがない。
なん人もの吸血鬼に新妻の血を吸われ、ことのついでにモノにされてしまう日常――
けれども俺は、彼女の問いに頷いてしまっていた。
この街では、都会にはない世界がたしかにある。
間違いなく、存在する・・・


あとがき
9月3日製作、本日翻案脱稿。

煙草

2016年11月18日(Fri) 07:36:23

血ィ、吸われなすったね?
独り煙草を吹かしていると、初老の男が通りすがって、そんなふうに声をかけてきた。
エエ、まあ・・・
わたしがあいまいに返事をすると。
まぁ、この街のモンはたいがいそうだから・・・
と、さりげなくマフラーをずらしてみせる。
赤黒い咬み痕が、綺麗にふたつ並んでいるのを認めると。
見ず知らずだったその男に、不思議な親近感がわいてきた。
あんた、もともとこの街のモンじゃなかとね?
男がわたしの顔を覗き込む。
去年越してきたばかりです。
ああ・・・やっぱりね。
男はそういう顔をすると、「都会の会社さんにお勤めされとるね」とだけ、いった。
どうやらわが社は、この街では有名な存在らしかった。
そうすると、ご家族で来られとるんじゃね?
たたみかけるよう男はいう。
エエ、女房と息子がいるもんで・・・
じゃ、奥さんももう、咬まれておりなさるね?
図星を突かれたわたしは、ごくたんたんと、開き直っていた。
だからここで、煙草を吹かしているんですよ。
そう。妻の生き血を目あてに情夫が上がり込んできたときは、
私は気を利かせて座をはずし、いつもこの公園で煙草を吹かすのだ。
吸い切った煙草を放り捨てて踏みにじると、
それじゃあもう一本。
男はさりげなく自分のポケットから煙草を出して、わたしにすすめた。
まるで、「座布団一枚」と、言われた気分だった。
ちょっとだけ躊躇して、結局煙草を受け取ってしまっていた。
男はわたしの隣に腰かけて、自分も一本取り出して、火をつけた。
よくまあ、物好きに、この街に来なさったね。
都会にいられなくなったからですよ。すべて承知のうえで、こっちに来たんです。
清水の舞台から飛び降りる思いで・・・とは、よくいったもの。
舞い降りてきたこの街は、はたして地獄なのか天国なのか。
この街に棲む不特定の吸血鬼に、夫婦ながら血を吸われ、
妻は日常的に浮気をして、それを認めさせられている。
そんな日常の裏側を抜きにすれば、この街での暮らしは決して悪くはなかった。
勢いよく吸い込んだ紫煙の香りが、すがすがしいほど焦げ臭く、肺腑に満ちる。
ふと気がつくと。
男はわたしの手を握りしめ、自分の掌に握りしめたものを、わたしの掌へと移動させる。
一万円札だった。
うちに来たいなら、これはいらない。
わたしは男にお札を返すと、男はばつの悪そうな顔をした。
でも、そうまでしてくれるあんたの顔をつぶすつもりはないから。
わたしがそういうと、男は納得した顔になった。
ウチ妻、どこかでお目に留まったんですか?
わたしがいうと、
すでに友達が三人、奥さんのお世話になっている。
だったらなおさら、わたしがこんなことで小遣い稼ぎなどしないたちだとわかってくれてもよさそうなのに。
ねだられるままに煙草を一本おすそ分けすると、男はいった。
煙草代は受け取ってくれるよね?
――わたしは自分の女房を、たったの百円で売り渡していた。

自分が知り合った男を、妻に引き合わせ、襲わせる。
そんな行為に面白味を覚え始めたのは、ごく最近だった。
さいしょに妻を抱いた男が、わたしに無断で妻のことをまた貸しし始めたとき。
さすがに抗議をしたわたしに、彼は言ったものだった。
あんたもそうして構わないんだから。
無茶苦茶な理屈に、なぜか納得してしまったわたしは、その晩行きずりの男に声をかけ、妻を抱かせてしまっていた。
妻はわたしがひき込んだ男なら、どんな老爺でも、どんな醜男でも受け入れて、
素直に服を、脱がされていった。
わたしが視たいというとさすがに恥ずかしがったけれど、拒否することはしなかった。
あしたもきっと、わたしはこの公園に煙草を吸いに来る。
そして、わたしの評判を聞きつけている誰かが、わたしの妻を目あてに、わたしの隣で煙草をすすめてくるのだろう。

寝取らせ話。 ~村はずれの納屋は、「処刑小屋」。妻を”処刑”してもらった男の話~

2016年11月07日(Mon) 06:53:32

うちは複数派なんですよ。
さいしょがね、もう輪姦だったんです。
懇親の酒盛りの場が、妻に対する懇親の場に早変わりしたのです。
村の男衆が、よってたかって、わたしのことをふん縛ると。
まるで見せしめの処刑みたいに、妻に群がっていって、
ブラウスを引き裂き、ブラジャーをはぎ取って、スカートをまくり上げると、
けだものが獲物を分け合うみたいに荒々しく、踏みにじっていったのです。
でも夫婦双方とも、昂奮しちゃいましてね。
妻はそれまで、エッチは嫌いなほうだったんですが。
わたしのまえで、もの凄く乱れちゃって。
嵐が過ぎた後、夫婦で相談して、もういちどこちらから、納屋に出向いて行ったのです。
そこは、「処刑小屋」って呼ばれているのだと、あとから知りました。
先に赴任してきた人は、わたしたち夫婦が納屋での懇親会に招かれたってきいただけで、あとどうなるかを知っていたんですね。
知っていながら、黙っている――でもきっと、わたしもあとから来た人に対しては、同じ態度をとるでしょうね。

妻が初めて“処刑”された納屋では毎晩のように、お互いの奥さんを取り替え合って、仲良く?姦り合っているというんです。
そのなかにわたしたちはおずおずと顔を出して、
ときどきでいいから、女ひでりのときとかでも、してもらえませんか・・・?
って、恐る恐るお願いしたら。
暖かく迎え入れてくださいました。(笑)
その夜の納屋には、女はいませんでした。
わたしたちがきっとやって来ると見込んで、待ち受けてくれていたそうなのです。
すっかり、読まれてしまっていましたね。(苦笑)

妻はそのときも着衣だったのですが、
きちんとした服を着ていくのが礼儀だって、よそ行きのスーツを着ていました。
都会妻のスーツ姿に、彼らもぞっこんになっちゃって。
もう、亭主の前だろうが、おかまいなしなんですよね。 (汗)
やはりあの晩と、同じように。ケダモノが獲物を平等に分け合うみたいに。
みんなで代わる代わる妻の肉体をむさぼりまして。
わたしはそれをずうっと見届けるんですよね。
妻を一方的に侵されているという、男としてはかなり恥ずかしい立場だったはずなのですが。
きみは村に貢献しているのだって言われて、そんなものなのかな?って、思っちゃって。
妻も同意見でした。わたしたちは夫婦で村に貢献しているんだって。
彼らもね、もっと愉しみたいらしくって。
自分の男っぷりを、だんなに褒められるのが嬉しいっていうのですよ。
だからね、ひとりひとり、感想を言わされたりなんかして・・・
さいしょはさすがに照れましたが、そのうちふつうにいえるようになりました。
さすがですね!ぼくのなんかより、ずっと大きいですね。
とか、
妻がこんなに乱れるの、初めてですよ。恥ずかしい女房を持って、幸せですよ。
とかね。
しまいに、あんたも恥ずかしがってないで、すればいい。自分の奥さんなんだからって、すすめられて。
とうとう、輪姦の輪の中に加わってしまいました。
みんなして、共同で妻を犯し合いながら、共犯同士の関係というか、一体感というか、
そんな共感みたいなものを感じ合うようになってしまって・・・
妻の肌を共有し、おなじ穴に一物を埋めた関係というか、うまくいえないんですけどね。
そんなわけで彼らとは、うまくやっています。
いまでは妻のことを「処刑」してもらう行為は、夫婦の営みのなかでも大事な一部分なんですよ。

寝取らせ話。 ~地元の男衆たちは、抱かせてくれるというのですが・・・妻のことが気になって仕方のない夫~

2016年11月07日(Mon) 06:45:28

さいしょはもちろん、抵抗ありましたよ。
お互いの妻に通い合う風習があるなんて、赴任前には聞かされていませんでしたからね。
でも、いちど潔く?差し出しちゃうとね。
不思議と癖になっちゃいましたね。うちの場合。
もしかすると、そういうわたしの性癖を熟知したうえで、赴任させられたのかもしれません。
わたしの勤め先の男性社員は全員、妻や恋人を地元の男衆に寝取られてしまっているのですが。
そうしたことに対する苦情が出たことは、いちどもありませんからね。

自分の奥さんを差し出した場合、おれたちの女房を抱いても構わないんだぜ?
ひととおり、妻の貞操を男衆たちと分かち合った後、そうは誘われたんですが・・・
やっぱり家内のほうに、気が行ってしまうんです。
それも相手の奥さんに、失礼な話じゃないですか。
通過儀礼のようなもので、ひととおりはご厚意に甘えた――彼らの奥さんを、ひと通りセックスを済ませた――のですが。
やっぱり家内のようすが、気になっちゃいましてね。
まだ彼らが自宅から立ち去らないうちに、家に戻るのです。
もちろん二人には声をかけずに・・・物陰から、熱く息をはずませ合うふたりのようすを、こっそり覗いているんです。
初めて差し出したときには、息が詰まって目を回してしまったはずの光景なのに。
いまでは、妻がヒロインを演じるポルノ映画でも鑑賞するように。
わたしの目を意識しながらも、肉体の快感に克てずに息をはずませてしまう家内のことを、
夫であるにもかかわらず、昂ぶりながら・・・いちぶしじゅうを見届けてしまっているのです。
いまでは、一方的に犯してもらっています。そのほうがわたしも、妻も、ときめくことができるので。

同僚

2016年10月11日(Tue) 07:41:59

某地方都市に転勤になったとき。
前々任地でいっしょだった同僚・葉裏になん年ぶりかで再会した。

忘れもしないあの土地は、創業者の出身地。
都会にいられなくなった者たちのなかでも、家族状況を勘案の上、
極秘の性格テストに合格したものだけが赴任を許されるあの土地で。
其処は、吸血鬼と人間とが、密かに共存を許された土地。

たいした仕事を割り当てられずにぶらぶらと過ごすことを許されたわたしたちは、
自分自身と家族の血液を提供して、のんびとした日常を送っていた。
自分の妻を吸血鬼に抱かせた者は、あとから赴任してきたものの妻や娘を抱く特権を手に入れる。

そんな輪廻にも似た連鎖のなかで。
この街に来て初めてわたし以外の男を識った妻に、もっとも執心だったのが葉裏だった。
街の有力者に初めて抱かれ、身も心も解放されてしまった妻は。
そのあと、なん人もの吸血鬼を相手に、性の処理まで引き受けて。
それから、わたしの同僚たちを相手に、順ぐりに不倫をくり返した。
そのなかで、いちばん深く妻に執心し、いちばん多く妻を抱いたのが葉裏だった。
この街に棲みつく都会妻は、だれしもが街の吸血鬼たちの愛人にされるというのに、
妻は異例にも、都会育ちの葉裏とカップリングすることを許された。

葉裏はあの街に棲みついて、家族ぐるみで服従していた。
街の長老に母親を紹介し、長老は父親の理解を勝ち得てその妻を囲い者にしていたし、
子供たちは母親の愛人に懐いていて、
娘たちは齢の順に、村の男衆に処女を捧げていた。
息子は地元でできた彼女を、自分の母親を愛人に紹介し、女の歓びを教え込んでもらっているという。

そんな葉裏が、街に家族を置いて単身赴任してきた。
葉裏の妻が、愛人との同棲を望んだので、願いを叶えてやるために単身赴任を選んだという。
もちろんこんな会話は――ふつうの社員の知るところではない。
なにも知らない同僚たちの視線をかいくぐるようにして、
わたしたちは共犯者同士の目配せを、交し合うのだった。

葉裏が転勤してきた。
わたしが妻にそう告げると、妻は驚いて、嬉しげな顔色をあわてて隠した。
こんど連れてくるから――そういうわたしに、不安そうに頷いていたのは。
なにも知らないこの土地の同僚や奥さん仲間にばれてしまうと困るから――そんな気分だったのかもしれない。

常識的な日常が支配するこの土地で。
わたしはふたたび、妻を葉裏に抱かせていた。
葉裏はわたしの夜勤や残業の時を狙って留守宅に忍び込むと、
着飾って待ち受けている妻に襲いかかって、夫への貞節を守ろうとする妻を、力ずくでねじ伏せる。
首すじを熱く吸われながら、妻はすぐさま偽りの抵抗をあきらめていた。
そんな妻の堕落のありさまを、夜勤で帰りが遅れるはずのわたしは、隣室で息をつめて、見守っていた。
敷かれた布団のうえ、あお向けに転がされた妻は、こちら側に脚を向けて、
わたしの目線には気づきもせずに、喘ぎと媚びとをあらわにする。
向けられた脚を彩るなまめかしいストッキングが、照明を照り返してツヤツヤと輝いて、
組み敷かれた婦人のリッチな日常と、その陰に隠れたふしだらさとを物語って。
しわくちゃになってずり降ろされ、みるかげもなく引き破かれていく薄手のナイロン生地が、
いびつで不規則に波打って、妖しく乱れ果ててゆく。
遠目にも。
葉裏が気を入れて、ありったけの精液を熱く熱くそそぎ込むようすが、
生々しい筋肉の隆起とくり返される激しい上下動とともに、わたしの網膜を狂わせた。

解放された街で許された情事が、いま常識まみれのこの街で再演される。
あのときは強いられて行った淫姦を、いまはすすんで取り結んでいた。
禁忌に触れる。そんな想いが、むしろ歓びと昂ぶりとを、掻きたてていった。

妻子を飢えた吸血鬼の棲む街に住まわせてきた男は、代わりにわたしの妻を、現地妻として勝ち得ていて。
あのときでさえ愛人を持とうとしなかったわたしは、妻を一方的に侵されることで、淫らな歓びを勝ち得ていた。

在任数か月で、葉裏はこの街を去り、前任地へと戻っていった。
それと前後して妻がわたしの前々任地に転居していったのを、不審に思うものはいなかった。
葉裏がこの街を去る、さいごの夜に。
わたしたち夫婦は彼を家に招いて、夜の宴をともにした。
わたしは結婚指輪をはずして彼に餞別として与えようとし、
彼はそれを遠慮して、これからもはめつづけるようにと願っていた。
妻は、わたしと同じ結婚指輪をはめた手を彼にあずけることを希望して、わたしはそれを承知した。
わたしたちは、彼女がわたしの妻の立場でありながら、葉裏の想いのままにされる――そんな日常を選んだのだ。

いま、わたしの妻は葉裏と暮らしている。
けれどもその家の表札には、わたしの苗字が書き入れられていて、
葉裏は自分の妻が吸血鬼の訪問を受けているときだけ、わたしの家に入り浸っている。
もっとも――吸われるべき若い血がふんだんに得られる葉裏家が、吸血鬼の訪問を受けない日のほうが珍しいのだが。
わたしがその家に「戻る」とき。
葉裏は夜這いをしかけてくる。
夜這いのすんだ夜明けになると。
わたしは初めて妻を熱く抱き、この街をいったん離れてから過ごすことのまれになっていた熱い夫婦の営みを、再開する。


あとがき
村に棲みついた都会の夫婦が、常識の支配する別の任地に赴いて、
そこで再び、村で奥さんを好んで「相伴」した同僚と一緒になって。
あのときの記憶が、再現される――

吸血鬼に妻を譲り渡した都会の夫たちが手にした特権を、あとから赴任した同僚の妻を相手に行使して。
それがエスカレートして、任期が終わっても愛人関係を継続する・・・そんな世界が、あるようです。

妻のいない家

2016年10月03日(Mon) 05:05:32

はじめに
同性色の強いお話です。お嫌いな人はスルーしてね。^^


よぅ。
玄関先に立った多々野は、ちょっと当惑気にわたしを見る。
やぁ。
ドアを開けた向こう側にいた多々野をみて、わたしもちょっと当惑気に彼を見る。

多々野は会社の同僚で、去年までとある山村の事務所で、いっしょに仕事をしていた関係。
でも、わざわざ都会の家にまで訪ねてくるほどの仲ではない。
あの山村に赴任して、別れ別れになったどうしで、こうやって都会で再び顔を合わせる機会は、ありそうで意外になかった。
彼の当惑気な顔つきを見て、わたしはすぐにピンと来た。
こいつが逢いたかったのは、わたしではなかったのだ――と。


妖気あふれる山村だった。
一見して風貌明媚なこの村には、まがまがしい因習が生きていた。
妻を交換し合い、母子は父娘、兄妹ですら交わり合う世界。
そんななか、なにも知らないで赴任してくる都会妻は、村の男衆のいい餌食だった。
勤め先の会社の創立者は、この村の出身だという。
彼は社員の妻たちを地元に渦巻く性欲の渦に巻き込むことで、「故郷に錦を」飾ろうとしたのだという。

妻の肉体を提供した夫たちは、村の女と交わることを許された。
そんな「村の女たち」のなかに、自分たちの同僚も含まれる――それは都会育ちのわれわれにとってさえ、抗えない誘惑。
赴任した順に堕ちていった男たちは、なにも知らずに妻を伴い都会からやって来る後任者たちを、よだれもたらさんばかりに待ち受けていた。
そんななか、都会にいられなくなったわたしは、妻を伴って赴任していったのだ。
任地に夫人を帯同することは、絶対条件だった。
帯同した妻は、ひなびた山村には不似合いな都会の正装を、常に着用すること。自宅にいるときでも着飾ること。
そんな厳密?な社内規則に半ばあきれていたのは、さいしょの半月のことだった。
以来――妻もわたしも、破倫の渦に巻き込まれていった。
多々野はそのときから妻に執心で、なん度も挑みかかるのを見せつけられたし、盗み見ていた。
この村の風習になじんでしまった男たちが目覚めた、特異な昂ぶりと歓びに、胸とどろかせながら。
多々野とは、そういう関係だった。


女房に逢いに来たの?今週はあっちだよ。
ああそうなんだ。「あっち」なんだ。
多々野は悪びれもせず、頭を掻いて照れ笑いした。
いや、うちのやつもね、いまごろ「あっち」なもんだから・・・ちょっと寂しくなっちゃってね。
そんな多々野を前に、わたしのなかに悪戯心が湧いてきた。
俺で良かったら、女房の服着てやろうか?

逞しいスポーツマンの多々野をまえにすると、わたしの華奢な身体つきはふた周りほども小柄に見える。
あの村にいる時分。
幸か不幸か、妻と同じサイズの服を着れるわたしは、なん度となく妻の服を着て、男衆たちの相手を務めた「実績」があった。
うふふ。
多々野が微妙な含み笑いをする。
面白いかも――


長い夜だった。
多々野のために着てやったのは、洋装の喪服。
畳のうえに正座をして、きちんと三つ指突いてお辞儀をすると、
あいさつ抜きに、息荒くのしかかってきて。
太もも丈の黒ストッキングの奥では、むき出しの肉徑が、逆立ってしまっていた。

なん度もなん度も、突き込まれながら。
あぁ、こんなことだからあいつは、多々野に夢中だったんだ。
自分の身体で、そう自覚してしまっていた。
わたしはいつしか女になりきって、自分のなかの”女“もあらわに、あえかなうめき声をあげ、セイセイと切なく喘ぎつづけた。
半ば女になり切りながら、妻を演じつづけるわたしに、多々野は熱い接吻を身体じゅうに浴びせつづけた。
多々野をまえにわたしを裏切りつづける妻になり切って、
「主人よりいいわ、おっきいわっ」って、囁いて。
のしかかる男の身体をその気にさせつづけ、その気になった男のビンビンにそそり立つその勁(つよ)さに歓びを感じつづけた。

翌朝、玄関から出ていく時に。
わたしは新婚ほやほやの新妻のような気分で、多々野のキスに応えていた。
多々野は別れぎわ、照れ笑いを隠した後ろ姿で、ぼそっと呟く。
――こんどは、奥さんのいないときに来ようかな。
きっと妻ならこういったであろう応えが、わたしの口を突いて出た。
いつでもいらしてね。待ってますから――と。

墓場で妻を襲われて。 ~拒絶する夫の場合~

2016年10月02日(Sun) 09:24:39

すまないが、協力することはできない。
相手の口から出たおぞましい申し出に、わたしはとっさにかぶりを振った。
ここは、夜風の冷たい墓地。
どうしてこんなところにいるのかは、すぐに察しがついていた。
最後に意識があったのは
赴任したばかりのこの街の事務所の一角で、取引客と称する地元の男に、血を吸われているときだった。
わたしよりもずっと年配のその男は、ひと月のあいだになん度となく顔を合わせていたが。
ある日スッとわたしの傍らに寄り添うと。
――ずっと、あんたの血を狙っていた。
そんな風に囁くなり、だしぬけにわたしの首すじを咬んでいた。

ドロッと流れ落ちた血がワイシャツを濡らすのを、かすかに意識して――それが残った意識のさいごだった。
初七日だよ。おめでとう。
男は、わたしが亡くなって初七日の夜が今夜だと告げる。
「おめでとう」という祝い言葉が、はたしてどこまで適切なのか――逡巡するわたしに、男は囁いたのだった。
――今夜、あんたの奥さんが墓詣りに来る。さいしょに襲わせてもらいたいから、手引きをしてくれないか。
とうてい、受け入れがたい提案だった。


仕方ない。じゃあ、ほかのもんとやるから。
視たくないのなら、あんたはここで待ってな。
男はそういうと、背後に連れ添う数個の人影とともに、その場を立ち去った。
取り残されたわたしは、地に根が生えたように、身じろぎもできない。
男に従って闇に消えた者たちのなかに、顔見知りのものたちがいたような気がするが、
頭の中がまだはっきりしないいまでは、それさえ定かではなかった。

一時間後。
男は影たちをひき従えて、戻ってきた。
背後の影たちは、言葉を交し合っていたが、なにを話しているのかは聞き取れなかった。
「あんたの奥さんを襲ってきた。ご馳走になった」
先頭を切って歩み寄ってきた男がそういうと、背後の影たちはしゃべり止んだ。
むしょうに、涙が出てきた――妻も殺してしまったのか。
男はわたしの心を読むように、適切な言葉をかけてくる。
「安心しな。相手が女の場合、一回の吸血で死なせることはしない。
 というよりも、死んで吸血鬼になるほうが、例外なのだとわかってほしい」
この街では吸血鬼と人間が仲良く暮らしているから、人間は進んで生き血を吸わせてくれるし、吸血鬼も相手を死なせるようなへまはやらないというのだ。
相手が気のりをしない時には遠慮するくらいの気持ちは、持ち合わせているんだぜ?
男のいうことは、たぶんほんとうなのだと、わたしは悟った。
気になったのは、「相手が女の場合、一回では死なせない」という言葉――どういう意味だ?

男はやはり、そこでわたしの心を読んだらしい。すぐに応えてくれた――わたしの最も聞きたくないようなこたえを。
「血を吸った後、セックスするのさ。こいつらも(と、影たちのほうをふり返って)手伝ってくれたから、あとからお相伴だ。
 奥さんは、夕べまでは男はあんたしか識らなかったようだが――今夜だけでもう五人、男を識ってしまった。
 これからもまだまだ、識るだろう」
なんてことをっ!!
わたしは男に詰め寄り、殴りつけている。
男はわたしに殴られるままになっていたが、やがて口許からわずかに血を噴いた。
口許に飛び散った、鮮紅色のしずく――妻の身体から吸い取られた血だ、と、直感した。
わたしはとっさに、よろける男を抱きとめていた。
「ああ・・・いいんだよ。あんたの気持ちはもっともだ。
 だが、ほんとうはあんたに手伝ってもらいたかった。
あんたがあの場にいてくれたなら、奥さんもあんなには逃げ回らなかったし、
怖がる必要もなかったのだから。
初めて血を吸われるときには、身内の者が居合わせたほうが、女も心強いものだからな」
そんな理屈があるのか?立ちすくむわたしに、影たちが声をかけてくる。

すまないな。みんな、奥さんの血吸って、そのあと抱いてしまった。
お礼に、俺たちの女房の番がきたら、あんたも襲ってもらってかまわないんだからな。
よく見ると、影たちのほとんどが、勤め先の同僚だった。

「この中で、吸血鬼にまでなったものはおらん。
だれもが自分の女房を、わしらにただ食いされるのを黙って目こぼししてくれておる。
じゃからお礼に、こういう場に招待してやるんじゃよ。悪く思うな」
男は黙って、大きな杯に注いだ液体を、わたしのまえに突きつける。
「飲め」といわれた盃の中身は、真っ赤な液体――それがだれのものかは、言われなくても察しがついた。
渇きという本能が初めて芽ばえた。
眩暈を覚えたわたしは、盃を受け取ると、みなまで飲み干してしまっていた。

それ以来。
影たちは夜な夜な、それぞれの妻を伴い墓場にやって来た。
彼女たちは皆、こうした応接に慣れているようだった。
夫たちは自分の妻を後ろから抱きとめると、おとがいを仰のけてくれ、
わたしは吸血鬼から教わったやり口で、彼女たちのうなじに、唇を吸いつけゆく。
生温かくほろ苦い血潮が、渇いた喉をたっぷりと潤すまで、彼らは儀式をつづけてくれた。

四十九日の夜のこと。
男はわたしに「おめでとう」をいい、わたしは素直に「ありがとうございます」と、応えている。
男がわたしのために携えて来たのは、ちっぽけな盃などではなかった。
そう、影たちが連れてきたのは、わたしの妻。
わたしの留守中、彼らの訪問を頻繁に受け容れたらしくって。
しばらく見ないうちに、すっかりけばけばしい女になっていた。
化粧は濃くなり、髪を染め、けれども厚化粧の下の清楚な目鼻立ちは、かわっていなかった。
なるほど夫を弔うための喪服は身に着けていたけれど、
スカート丈はひざ上で、黒無地だったはずのストッキングは、毒々しい網タイツに変貌している。

ごめんなさい。喪服を破られちゃったの。黒のストッキングも、全部咬み破らせてあげちゃったの。
言葉ではしおらしく謝罪を繰り返す彼女だったが、悪びれるふうはない。
でもわたしは、そんな彼女を抱きしめている。

留守をよく守ってくれたね。
もうじき、家に帰るから。
そうしたら二人して、客人をもてなそう。
妻はわたしの腕のなか、こくりと頷いていた。

真奈美の血は、吸わせていないの。
あの子ったら、最初にお父さんに吸わせてあげたいって言っているの。
家に帰ったら、襲ってあげてね。
股間の昂ぶりをスカート越しに感じたのか、妻はわたしを見あげると、
しょうがないわね。と、笑った。
わたしも妻を見つめると、
みんなの相手をしてあげて、と、笑って言った。

ウフフ。
妻は娼婦の本性をあらわにして、身をくねらせて男を誘う。
今夜はおおっぴらの宴――
夜明けまでつづく儀式を、わたしはほかの妻たちにそうしたように、ただの男として愉しみ抜いてゆく――

墓場で妻を襲われて。

2016年10月02日(Sun) 08:51:16

血を吸われつづけて、意識が遠のいていくなかで。
錯覚だったのだろうか?
囁く声を俺は聞いていた。

あんたは死んで、吸血鬼になる。
そうなったらあんたも、わしらの仲間。
血の吸いかたを、教えてやろう。
この村ではな、吸血鬼と人間とが、仲良う暮らしておる。
じゃから、相手を死なせるわけにはいかんのじゃ。
人の血を吸うには、作法を知らねばならん。
それを教えてつかわそう――あんたの女房を襲ってな。
それとも・・・あんたの留守中に、女房を好きなようにされたいか?

さいごの問いに激しくかぶりを振ると、男は言った。
じゃあ、あんたが吸血鬼になるまで、待ってやる。
女房の生き血は、あんたと分け取り。約束じゃぞ。

そして、約束は守られた。

冷たい風の吹きしきる、真夜中の墓場のなかで。
キャーッという悲鳴を聞いたのは。
遠のいた意識が戻ってきた直後だった。
はっと目が覚めたようになって、辺りを見回して。
自分が吸血鬼になったこと、ここが自分が弔われた墓場であること、
そして――さっきの悲鳴の主が、妻であることを瞬時に察した。
俺は、悲鳴の音源を求めて小走りに駈けた。
“探索”は、すぐにおわった。
墓場の隅っこの草むらから、女の脚が一対、大の字になって伸びていた。
黒のストッキングを穿いた、肉づきたっぷりのふくらはぎ――
妻のものだと知りながら、ついもの欲しげに眺めてしまったとき。
俺は自分のなかの吸血鬼を、改めて自覚した。

よう。
俺の血を吸ったやつが、草むらのなかから顔を出す。
頬をべっとり濡らす血は。
妻の身体から吸い取った血――
俺ははらわたの煮えるのを感じ、その焦燥が生理的な渇きにとって代わるのを感じた。

無理するなよ。喉、渇いているんだろ?
男の語調に、揶揄の響きがないのが救いだった。
目のまえが昏(くら)くなって、気がついたら妻のうえにのしかかっていた。
ここを咬むんだ。
男は妻のおとがいをあおのけて、咬み痕の浮いた首すじを見せつける。
いきなり食い破るんじゃねえぞ。そう言われながら。
俺はやつの唾液の浮いた傷口を避けて、咬まれてない側の首すじに食いついていた。
ぬるいぬくもりを帯びた柔らかい液体がビュッ!とほとばしり、頬を生温かく濡らすのを感じた。
あっ、やっちまった!
男は俺を力任せに押しのけると、妻の首すじから噴水のようにあがった鮮血を喰いとめにかかる。
強く咥えられたうなじから噴き出る血の勢いが収まるのに、しばしの刻がかかった。
そのあいだ。
俺は妻のようすを気づかわしく見守っていたけれど。
妻は意識を取り戻す様子はなく、吸血鬼の腕のなかでぐったりその身をゆだねていた。
アブねえだろうが。
男は静かな声で俺を咎めると、それ以上咎めつづけようとはしないで、俺に吸いかたの手本を見せてくれた。
妻が男の腕のなか、夢見心地のまま吸われるのを見ながら、俺は人の血を吸う作法を目で覚え込んでいた。

奥さんを正気づかせるぞ。
男はそういうと、もういちど妻の首すじに咬みついて、吸い取った血をほんの少しだけ、戻してやる。
妻は薄っすらと目を開いて俺を見つめ、
びっくりしたようにその目を見開いて、
それからわが身を抱きすくめる男を上目遣いで見あげる。
見あげた瞳に媚びが泛ぶのを、俺は見逃さなかった。

ホントに・・・吸血鬼になっちゃったの?
ひそめた声は低く震え、生身の女の気配がじかに伝わってくる。
植えつけられてしまった本能が、またもや鎌首をもたげる。
ほら、咬んでみな。
男は俺の背中を、押していた。
俺は妻の首すじに食いついたが、妻は無抵抗にそれを受け容れる。
ほろ苦い血潮の香りが鼻腔に満ちて、俺は芽ばえかけた本能を覚え込んでいく。
いままで識らなかった快感が、どす黒い意識の泥沼の中、鮮やかな蓮のように花開く。

身を離したとき、目線を合わせた妻は、なぜか後ろめたそうに目をそらす。
後ろめたい想いなど、なぜ芽ばえるのか。
俺が妻にした以上に後ろめたいことでも、したというのか。
でもそれは、泥道の上に伸びた黒ストッキングの脚を見たときから、察しがついていた。
吸血鬼はセックス経験のある女を襲うとき、血を飽食したあと肉も愉しむものなのだ  と。

かまわない。この男は俺の兄弟だ。
俺の出まかせは、少しは妻の気持ちを救ったらしい。
そうなの?
理解し切れていないゲームのルールを反芻するように遠い目になった妻を、
男は俺の腕から横抱きにして奪い取り、再び首すじを咬んでゆく。
片方の手は裂けたブラウス越しに胸を揉みしだき、
もう片方の手は、たくし上げられた喪服のスカートの奥深くをまさぐってゆく。
ふたりの痴態を俺はただぼう然と見つめつづけ、
その間にすっかり飼いならされてしまった妻は、さいしょはためらいがちに、
やがて――これ見よがしに振る舞いはじめる。

男は妻を犯しながら、昂ぶりをこらえかねている俺を横目で見ると、
代われ。
ひと言告げると、瞬時に身体をすり替えてゆく。
気がつくと、腕のなかの妻は、いままでにないほどの喘ぎを、まるで娼婦のように発散していた。

儀式は、夜明けまでつづいた。
妻は自分を奴隷にした男に、丁寧に頭を垂れると、俺のほうにウィンクをして、
「またね」と、小手をかざすようにして手を振った。
ヒールの折れたパンプスを片手にぶら提げ、破れ果てたストッキングを穿いたままの脚で、のろのろと歩み始める。
頬は青ざめ、目はうつろ。
髪はボサボサになって夜風に流れ、裂けたブラウスからは胸元もあらわに、まるで酔っ払いのようによたよたと歩み去ってゆく。
安心しな。
あんな恰好で街なかを歩いたら、うわさはいっぺんに広まるだろう。
だからといって、あんたの奥さんの不名誉にはならない。
ここは、そういう街だから。
吸血鬼の女になった後家に言い寄る男は、この街にはいない。
あんたの女房は、わしらの大切な共有財産じゃ。
もちろんわしらは、奥さんの血も吸うし抱きもする。
けれども、おろそかに扱うことは決してない。
あんたは好きなときに家に戻って、また奥さんと暮らせばいい。
じゃが、奥さん目当てにわしらがかける夜這いを、あんたは拒むわけにはいかない。
仲良くやろうぜ・・・

男の言いぐさに、さいごまで揶揄や嘲りはなかった。
ただ、そこにあるのは共犯者としての想いだけ。
俺はやつのいうことすべてに、頷きつづけながら。
墓場の入り口から出てゆく妻が、なんの躊躇もなく半裸の姿を街なかにさらすのを、見届けていた。

今度は妻の番・・・

2016年09月20日(Tue) 08:04:54

ひとつだけ、思惑ちがいがあった。
きょうは、妻を吸血鬼に襲わせる初めての夜――
長い夜になるはずだから、娘は祖父母のところに、預かってもらっていた。
PTAの会合に遅れまいとして、妻は早めに家を出た。
よそ行きの緑のワンピースが、永井夫人としての死に装束になるとも知らないで。
わたしはおもむろに携帯を手に取って、青山さんにメールを入れる。

「家内の典子はいま、家を出ました。緑のワンピースに肌色のストッキングです。
 後はよろしく頼みます」
「わかりました。ご主人も早くお出かけになってください。希望者は予想以上に集まりましたが、驚かないでくださいね。」
すっかりベテランのやり取りだった。
自分の妻が襲われる前、「たっぷり学習したおかげ」と、青山さんはいう。
きっと、そういうものなのだろう。
幸か不幸か、わたしは青山さんのときしか、経験がなかった。
それでもつい、指は携帯のキーをまさぐっている。
「ストッキングの色は、奥さんの時と一緒ですね。よろしくお願いします」
家内を売るという後ろめたさを、家内がヒロインのお祭りに参加する好奇心が塗り消していた。
いちどは咬まれるのを承知で訪れた街。
それが今夜だというだけ。それが不意打ちだというだけ。

思惑違いといったのは、今回は会合の「帰り」ではなくて「行き」だということ。
まだ明るいではないですか。
幸いその日は曇っていて、普段でも人通りの少ない街は、さらに人けが感じられなかった。
わたしが妻のあとをだいぶ離れて尾(つ)けていくと、
あちらから2,3人。こちらの路地から2,3人と、「お仲間」がさりげなく尾行の列に加わって、
獲物に群がる獣のように、妻のあとを尾けてゆく。
だれもが狙いは、妻ひとり。
この状況、なぜかちょっとわくわくするな。

大勢の人の輪に囲まれて。
妻は慌てふためき、なん度も輪から抜け出そうとしてそのたびにはじき返されて。
とうとう黒衣の男に後ろから羽交い絞めにされると、首すじをがぶりとやられてしまっていた。
青山夫人のときと、まったく同じ経緯だった。
妻が路上に倒れてしまうと、わたしの存在を意識した人たちは、それとなく間をあけて、視界を確保してくれている。
かなり遠くからだったけど、いちぶしじゅうを視てしまった。
妻が、緑のワンピースをくしゃくしゃにたくし上げられながら、太い肉棒を股間に突き込まれてしまうのを。
肉棒をなん度も出入りさせてしまっていくうちに、その味をしたたかに味わわされて、
とうとう自分から、腰を振りはじめてしまうのを。

夢中になった輪の中に、いつかわたし自身も交じっていた。
妻もそれと知りながら、わたし相手に金切り声をあげていた。
こんなに交付したセックスは、何年ぶりだろう?
娘が生まれてからは、こんなにおおっぴらなセックスは、なかったと思う。
自分の頭のなかのもやもやがスッと晴れたとき。
ほかのメンバーもきっと、おなじ爽快感を覚えているとわたしにもわかった。

地元のおっさんたちが代わる代わる、妻を犯してしまうと。
「お疲れさまでした」の立ち去りぎわ、そのうちひとりが妻ににじり寄って、おねだりをした。
「ストッキング、もらって行ってもいいかね?」
脱げ落ちて片方だけを脚にまとっていた妻は、ちょっとびっくりしたように、
「ああ・・・・エエ。どうぞ」
そういってあいまいに返事をすると。
ひざ小僧の下までずり落ちた肌色のストッキングを、男は手早く抜き取っていく。
慣れた手つきだった。
「だいじにしますよ。うひひ」
妻からせしめたストッキングを手にぶら提げて起ちあがると、それをむぞうさにポケットにねじ込んだ。
「じゃあわしは、スリップを」
「わし、ブラがええな」
いったん立ち去りかけた男どもは、われもわれもと妻の下着を奪ってゆく。
下着だけではなく、ワンピースまで奪われて、さすがに妻は半泣きになった。
「これを羽織って帰れ」
吸血鬼は親切にも、身にまとった黒い衣装を渡してくれた。
「こういうときのために、羽織っているのさ」
妻の貞操を奪う特権を遠慮会釈なく行使した男に、わたしは鄭重に頭を下げる。

そのあとは、もはや恒例化した「お披露目」だった。
輪姦の輪のなかに加わらなかった勤め先の同僚たちが。
妻を校庭に引きずり込んで、われもわれもと折り重なってゆく。
地面のうえで素足をばたつかせながら、それでも妻は腰の動きをひとつにしていった。
「ふつつかですが、どうぞよろしくお願いします」
妻と並んで地べたに正座をして、わたしが率先して皆に頭を下げると。
妻もわたしと並んで全裸のまま正座をして、「お願いします」と声を合わせた。

別れぎわ、なん人かが妻に、「またね」と囁いていく。
それを、「いつでもどうぞ」と見送るわたし――
わたしたち夫婦の歴史が、その夜を境に塗り替わった。
妻は今夜もいそいそと、身ぎれいにして出かけてゆく。
ハンドバックのなかに、穿き替えのパンストはなん足仕舞われているのだろう?

奥さんを襲うので、ご協力を。^^

2016年09月20日(Tue) 07:38:40

青山さんの奥さんを襲って血を吸う。協力してくれ。
そんな囁きを耳にして、わたしが素直に肯いてしまったのは。
もう、なん回も、彼に血を吸われてしまっていたから。

青山さんは、勤め先の同僚で、奥さんはしっかり者で有名だった。
この街は、吸血鬼と共存が許された場所。
そんな街の事務所に転勤してくるのは、だれもが事情を抱えた者たちだった。もちろん、わたしを含めて。
青山さんがどういう事情で此処に流れてきたのか。それはわたしも知らない。

夜まで長引いたPTAの会合の帰り道を襲う。
そんな手はずにドキドキしながら、現場に向かう。
待ち合わせ場所は、人通りの少ない路上。
学校の校舎の真裏と廃屋に挟まれた、狭い道での出来事だった。

無言で立っているだけで良い。奥さんの周りを取り囲んで、抜け出せないようにするだけだ。
奥さんのこと、知っているんだろう?それ以上の手出しはしにくいだろうからな。
ほかになん人か、協力者を頼んである。あんたの顔見知りもいると思うな――吸血鬼は、そういった。
たしかに・・・それとなく周囲に佇むのは、男ばかり。そのうち約半数が勤め先の同僚だった。
あとの半分は・・・きっと地元の人なのだろう。彼らはほとんどが、わたしよりも十も二十も上にみえる年配者だった。

来た、来た。
だれからともなく、そんな低いつぶやきが洩れる。
青山夫人は濃い紫のスーツ姿で、現場に現れた。
肌色のストッキングに包まれたふくよかな脚が、
白いエナメルのパンプスをテカテカとさせて、街灯に照らされる。

ひくっ。
奥さんは声にならないうめきをあげて、立ちすくむ。
正面には、黒づくめの衣装の吸血鬼。
改まったときにはいつも、やつはこういう恰好をする。
後ずさりしようとする退路を、数名の男たちが遮った。
――わしが何者か、きいているね?
奥さんは蛇に魅入られたカエルのよう。ただひたすらに、頷くばかり。
――わしがあんたに、なにをしたがっているか、わかってくれるね?
奥さんはまたも・・・頷いてしまった。
つぎの瞬間。
ひくぅ・・・
うたたびうめいた奥さんは、もう吸血鬼の腕のなかにいた。
黒のブラウスのえり首から覗く首すじを、たちまちガブリとやられてしまっていた。

ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
圧し殺すような吸血の音を、その場に居合わせただれもが、固唾をのんで聞き入っていた。
めいっぱい、自分の血をご馳走してしまうと。
奥さんは力なく、路上にひざを突いてしまった。
男は奥さんを抱き支えるようにして転倒の衝撃から守り、
その代わりさいごに、荒々しく路上に転がしていた。
スーツのすそから覗くふくらはぎに、男は卑猥な唇を、吸いつけてゆく。
上品に透ける肌色のストッキングが、奥さんのふくらはぎの周りで、くしゃっと引きつれを走らせていた。

あぁあぁぁぁ・・・
悲嘆にくれる奥さんをしり目に、男は足許からの吸血を重ねてゆく。
男の唇の下、ストッキングに浮いた伝線は、スカートの奥までじりじりとせりあがってゆく。
ほかの男たちは、立ちすくんだまま無言。
儀式のような厳粛な空気が、現場に流れた。
むらむらとした得体のしれない熱気だけが、あたりを支配する。

あとは、お決まりの流れだった。
奥さんは観念したように頷くと、濃い紫のジャケットを脱ぎ捨てた。
それが合図だった。
男は奥さんの肩を後ろから羽交い絞めにすると、漆黒のブラウスに手をかけて――
ベリッ・・・と、音をたてて引き裂いた。
黒のスリップもむざんに引き破られて・・・白い素肌が街灯の下にさらけ出される。
奥さんは両手で顔を覆い、あらわになった豊かな乳房を、まさぐりに委ねている。
周囲の空気に帯びた熱気が、にわかに熱度をあげていった。

男はスカートの奥に手を突っ込んで、ショーツをメリメリとむしり取ると、
奥さんの脚の爪先から抜き取って、皆に見せびらかすようにぱあっと放り投げた。
それから彼女を路上に引き倒し、がつがつと貪った。
女ひでりの浮浪者が、通りかかった貴婦人を草むらに引きずり込むときのような、荒々しさで――

片方脱げたパンプス。
ひざ小僧の下までずり落ちたストッキング。
腰に着けたままお尻が見えるほどたくし上げられた、濃い紫のタイトスカート。
首に巻いたままのネックレス。
振り乱された栗色の髪。
それらすべてが、むき出しの性欲のまえに、踏みにじられてゆく。

ふと傍らをふり返ると。
そこにいたのは、青山さんだった。
目のまえで奥さんを凌辱されてさすがに蒼ざめてはいるものの。
彼もまた、熱気を共有する一人だった。
目はギラギラと輝いていて、いちぶしじゅうを見つめていた。
永年連れ添った妻が、ひとり、またひとりと相手を変えてまぐわいつづけ、
甲斐甲斐しく守り抜いてきた貞操を、不特定多数のおおぜいに気前よく振る舞ってしまうのを。
青山家の名誉を泥まみれにさせてしまうのを。
じっとじっと、見つめていた。
昂ぶりのこもった視線は、明らかに周囲の男たちとおなじ、共犯者のものだった。

奥さんがご主人に支えられて起ちあがると。
じわりとした陰湿な空気は一変して、打って変わって和やかなものになっている。
じゃあ今夜はこれで、解散です。皆さん、お疲れさまでした。
町内会長が明朗な声色でそう告げると、
一同声を合わせて、「お疲れさまでした」と、お辞儀を交し合った。
被害者の青山夫妻ですら、皆と同じように、「お疲れさまでした」と、深々と頭を下げていた。

パンプスが片方脱げたままの奥さんは、あらわになった二の腕や脛に擦り傷をあちこち作っていたが、
気丈にもちゃんと自力で立っていた。
片方だけ残ったストッキングがひざ小僧の下までずり落ちているようすに、いやでも目が泳いでしまう。
もう片方の脚はむき出しの白さを、街灯に照らし出されていて、むざんなくらいに眩しかった。

誰もが互いにあいさつを交わしながら、散っていく。
青山夫妻に「おめでとうございます」と、鄭重に頭を下げてゆく地元の人もいた。
地元の人は全員、青山夫人を犯していた。
わたしたち勤め先同僚組も、吸血鬼に奥さんとの交接を勧められたが、
だれもがさすがに、「それはちょっと・・・」と、遠慮していた。
同僚である夫がいる前だということも、意識していた。
残ったのは、社内の同僚だけだった。

ふと見ると、校庭に通じる通用門が開けっ放しになっている。
「よかったらこのあと、どうですか?」
そう言い出したのは、なんと青山さんご本人だった。
まるで二次会に誘導するような自然さに、一同は黙って学校の敷地に入り、歩みを進める。

一同が選んだのは、校庭の隅の雑木林だった。
「ここらでいいね?」
青山さんは、奥さんをふり返る。
「いいんですか?」
奥さんは許しを請うような上目づかいをご主人に送るが、
「せっかくなんだから」
青山さんはそういって妻を諭した。
なにが「せっかく」なのだろう?けれどもたしかに、「堰を切ってしまう」としたら、いまこの時しかないのだろう。
「きみも愉しんじゃって、構わないからね」
そういう青山さんに、
「あなたも愉しそうね」
そういって、奥さんは拗ねてみせた。
だれかがだしぬけに、奥さんを後ろから抱きすくめる。
キャッ!とちいさな叫び声をあげた奥さんは、べつのだれかに両足をすくい取られた。
そのまま雑木林の奥へとかつぎ込まれた奥さんは――
居合わせた夫の同僚全員をあいてに、懇親を深めていった。

PTAの会合が終わったのは8時だったが、ことが果てたのは午前2時をまわっていた。
「マサオはだいじょうぶ?」
母親の顔に戻った奥さんは息子のことを案じたが、
「おばあちゃんが寝かしつけてくれるって」
そういうご主人に「だったらいいけど」と、言っていた。

青山夫人がその後、地元の禿げ親父さん2~3人と交際を開始したと、風のうわさにきいたのは、それからすぐのことだった。
同時に勤め先の同僚もひとりふたり、青山家に出入りするようになったという。
「こういうことは、相性だからね」
青山さんは、のんびりという。
彼自身も、同じように堕とされた同僚の妻や地元のおかみさんのところに、通うこともあるという。
「ねぐらがないときもあるからね」
青山さんはやっぱり、のんびりという。
同じのんびりとした口調で、青山さんはさらにつづけた。

今度さ、きみの奥さんを襲って血を吸うことになったから。協力してくれるよね?

こういう行事を、地元では「お祭り」と呼んでいるという。
次は、奥さんの番だから・・・きみ、もちろん協力するだろう?
なに、今度のPTAの会合のとき、奥さんが家を出たら携帯で連絡をください。
「家内が今家を出ました」というだけで、OKだから。
あとはうちの家内のときみたいに、あなたも潔く出てくるんだよ。
時間に遅れないようにね。

青山夫人を襲う誘いを受けたときにそうしたように、
わたしはまたも、素直に肯いてしまっていた・・・

だから実家に戻りたくなかったのに。

2016年09月03日(Sat) 12:12:20

だから実家になんか、戻ってきたくなかったのに。
そういって、妻は嘆いた。
妻の実家のある村は、夜這いの風習が残っていて。
新婚妻はもちろん、村の男衆にとっては格好の餌食。
もともと見知った顔が、都会ふうのスーツなんか着込んで戻ってきたものだから、
村の衆の騒ぐまいことか・・・

なにも聞かされていなかったわたしはその晩、男衆に酒を飲まされ酔いつぶされて、
気がついたときには荒縄でぐるぐる巻きにふん縛られて、
部屋の隅っこで小さくなっているハメに陥った。
妻はもう、都会ふうのスーツを半裸に剥かれ、スカートを穿いたままお尻にモノを突き入れられて、
もう五人めの男衆を相手にしながら、ウンウンうめき声をあげていた。


だから実家になんか、戻ってきたくなかったのに。
妻は嘆いた。
いつしか妻の痴態に反応してしまったわたし――
妻におおいかぶさっていく男衆の手助けをして、ひたすら妻の脚を抑えつけていた。
あらぬ昂奮に支配されて、輪姦の渦のなかに加わって。
嵐が通り過ぎるとこんどは、も少しご縁を深め合おうと、
妻がもっとも反応していた男の家を聞き出すと、ふたり連れだって訪れていた。
もっと愉しんでもらえませんか?
わたしの申し出を、嫁入り前から妻となじんでいたらしいその男は、
顔をくしゃくしゃにして笑いながら、打ち解けてくれた。

だから実家になんか、戻ってきたくなかったのに。
妻は嘆いた。
男の下には、妻が。
わたしの下には、男の妻が。
服をはだけながら、はぁはぁと淫らな喘ぎ声を洩らしていた。
互いの妻に精を注ぎ合うことで、
兄弟のような仲間意識を深めながら、
わたしは来年もまた来ると男に約束し、
男はそんなに待てないから秋祭りにまたおいでと、誘ってくれた。

だから実家になんか、戻ってきたくなかったのに。
妻は嘆いた。
嘆いてはみせるくせに、秋祭りにはふたりで里帰りしたし、年始のあいさつでも里帰りしたし、
泊まりの出張や単身赴任、そんなとき・・・わたしの知らないところでも、時々里帰りしているらしい。

だから実家になんか、戻ってきたくなかったのに。
妻は嘆いた。
嘆きつづけて、十数年が経過した。
年頃になった娘には、まだなにも聞かせていない。
いきなりサプライズしてびっくりさせたいという、あの男のいけない誘いを好意的にかなえることにした。
なにも知らない娘は、都会の学校の制服のミニスカートのすそから、
発育の佳い太ももをむっちりとさらけ出して、
紺のハイソックスの脚を、退屈そうにぶらぶらさせている。
だいじょうぶ。この村では、退屈なんかしないはず。
ちょっと寝不足になるかもしれないけれど・・・

街に棲む吸血鬼のための教本

2016年06月21日(Tue) 05:52:56

吸血鬼と人間とが共存するこの街に、新たに棲みつくようになった者のために編まれた教本の一部が、このほど入手された。
内容は断片化されているが、その一部をここに掲載する。


血が欲しくなったのに提供相手が手近にいないときには、それが午後9時以降であれば街に出て、道行く婦人を襲っても良い。
その時間帯に外出する婦人たちは、途中で吸血鬼に遭遇する可能性を正しく認識している。

彼女たちは、自らの体面を守るため一応の抵抗を試みるはずだが、優しくねじ伏せて飲血に耽るがいい。
個人差はあるが、三口半で相手の婦人は理性を喪失するという。
抵抗が止んだら、それは自分の体内をめぐる血液を気のすむまで摂取されても差し支えないという意思表示と見なしてよい。

ただし、どれほどひどい渇きを覚えていても、一人の婦人から摂取する血液は致死量を超えてはならない。
この街の住人たちは、我々の存在に対して寛容であり、共存しようとしている。その好意を無にしてはならないし、
好意的な血液供給者を失うことは我々にとっても不利益となる。

血液を提供した婦人に対して性欲を覚えた場合、彼女がセックス経験者であれば、その場で犯してもよい。
この街の夫たちは、自分の妻が吸血鬼を浮気相手に選び自分を裏切ることを承知している。
人間と吸血鬼両者が友好裡に共存するために、こうした関係を結ぶのはむしろ適切な行動とみなされよう。
妻を凌辱されたくない夫なら、みすみす彼女に夜道を歩かせたりはしないだろうから。

吸血行為に応じた婦人たちが着用しているストッキングやソックスは、欲望のおもむくままに自由に噛み剥いでしまって差し支えない。相手が厭がっても、手をゆるめることなく、容赦のないあしらいをするべきである。
貴殿の支配に屈したあとは、むしろ貴殿の熱烈なる求愛の行為に、むしろ感謝するはずである。

彼女たちが着用していたストッキングを脱がせて持ち帰る行為は、貴殿がその婦人と継続的に交際することを欲していると受け取られる。
また、彼女を襲った場所に放置せずに自宅まで送り届けた場合、妻を迎え入れた夫に感謝を表明されることがある。
夫のなかには、妻を襲った吸血鬼との末長い交際を望むものもいる。
特定の吸血鬼と交際する婦人は、ほかの吸血鬼からの凌辱を免れるという、我々のルールを知っているからである。
夫たちの希望をかなえた場合、彼は貴殿が自分の妻を相手に欲望を成就させることに理解と協力を惜しまないであろう。

20年ぶりの帰郷。

2016年06月07日(Tue) 07:42:49

暗がりの支配する小部屋のなか。
13歳の瀬藤怜奈は、老婆に抱きすくめられて、
すんなりと伸びた首すじを、いまは惜しげもなく飢えた唇にあてがってしまっている。
キュウキュウ・・・キュウキュウ・・・
うら若い血潮を刻一刻と吸い出されてゆくというのに、
少女の白い頬は怜悧な輝きを秘めていて、
自分の体内から血液を吸い出されてゆく音を、耳で愉しんでいるかのようにさえみえた。

老婆が唇を少女の首すじから放すと、
少女はちょっぴり残り惜し気に眉を顰めて、老婆のことをじっと見つめた。
「あたしの血、美味しい・・・?」
頷く老婆の唇には、吸い取った血がチラチラと光っている。
怜奈は魅入られたように、老婆の唇を自分の指でなぞり、自分の血の付いた指をそのまま、唇で吸った。
錆びた香りが、少女のピンク色の鼻腔に満ちた。
「ククク。まだそなたには、きつい味わいぢゃろうえ」
老婆はしんそこ嬉し気に、薄闇に輝く少女の黒髪を撫でた。
少女には、自分の血の味が苦かったらしい。
「わからない~」
といって、顔をしかめて老婆を見返った。
「いま少し、エエかの?」
老婆のもの欲しげな目線がハイソックスを履いた足許に注がれるのを感じると、
「好きにして」
少女は頬ぺたをふくらませ口を尖らせながらも、素直にその場にうつ伏せになって老婆の目のまえにハイソックスのふくらはぎをさらした。
ククク・・・
老婆の含み笑いはいっそう卑猥さを帯びた。
そのまま白のハイソックスのふくらはぎに唇を吸いつけると、
クチュ・・・クチュ・・・と、いやらしい音を立てて、少女の脚を舐めはじめた。
しなやかなふくらはぎに帯びられたナイロン生地の舌触りを愉しむように、
くまなく少女の足許に唾液をよぎらせると。
こんどは牙をむき出して、そのままグッと咬み入れた。
真っ白なハイソックスに、バラ色のほとびが不規則に散った――


怜奈はこれでよかったのでしょうか?
妻の淑恵(としえ)の囁きにまだ母親の情愛のぬくもりがよぎるのを、袴田は後ろめたそうに目を背けた。
だからこの村には、連れて来たくなかったのだ。
生まれ育った村は、捨てたつもりだった。
親兄弟も結婚式には招ばず、以来いちども足踏みをしようとしなかった村――
よんどころなく訪れることになったのは、娘の怜奈にくり返しせがまれたからだった。
「あたし、お父さんの生まれ故郷を見てみたい。できればずっと、棲んでみたい」
小娘の無邪気なさえずりと聞き過ごしていたのに、それが度重なるにつれ、妻からも同じ言葉が漏れてきた。
妻のそれは、世間体に対する申し訳なさからくるものだった。
「いちどもお邪魔していないんですよ。私気が咎めてしょうがないの」
挙式の相談をして以来、夫婦の間での唯一のわだかまりが、袴田の実家についてのことだったのだ。
けれども、怜奈の願望はそうした大人の計算とは無縁の、というか、次元のちがうものだった。
ふたりに責めたてられるように帰郷を迫られた袴田は、とうとう実家への電話をかけるため受話器をとった。
受話器をとったのが妻と娘の留守中だったことに、ふたりはなんの不審感も抱かなかったようだが――そこで交わされたやり取りは、ただならないものだった。

「こんどそちらに帰るから」
「そう?ずいぶんだし抜けなんだね」
「迷惑かな?」
「そんなことあるわけないだろう。村をあげて歓迎さ。淑恵さんいくつになった?怜奈ちゃんは?」
袴田は、悪魔に魂を売り渡すような気分で、妻と娘の年齢を告げる。
「淑恵は三十六で、怜奈は十三だ」
「十三歳かね。縁起のいい数字だね。婆さん悦ぶよ」
いちばん聞きたくない科白だった。
けれども、怜奈があれほど言いつのるのだ。もう逃れようはない――袴田は観念した。
自分から受け継いだ血を秘めた少女は、やはりもとのさやに収まろうとするのだと。
狂った本能に違いはなかったが、きっとそれは正しいのだと、袴田は観念した。
妻は・・・そう、なにも知らない妻はどうなのだ?
娘がそれとは知らず本能で覚っていることさえ、都会育ちの妻は夢にも思わぬこと。
けれどもあの村にひと晩でも宿をとれば・・・都会人の理性など一夜の夢のように虚しく消えうせてしまうことも袴田はわかり抜いていた。
村に着いた怜奈は、かつて袴田自身の血を吸った老婆を目にすると、「お婆ちゃん♪」と親しく懐いた。
ところどころ赤黒いシミの浮いたみすぼらしい着物をまとう老婆は、
よそ行きのスーツに身を包んだ都会の少女とひどく不つり合いにみえたのに。
そんなことなど意にも介さずに、少女は老婆の手を引かんばかりにして、母親の隣からいなくなった。
母親が止めるのも聞かないで。
広い実家の片隅の小部屋に連れ込まれた少女が、どんな目に遭うのか。
けれども彼女は、それをとうぜんのことのように迎え入れ、きっと許すのだろう。
世間並みのあいさつを嬉々として交し合う、なにも知らない妻を横目に、
袴田は独り、じりじりとしながら刻の移るのを耐えた。


つぎはお前の番だよ。
さすがに淑恵の頬は、引きつっていた。
ふすまひとつへだてた向こう側にいるのは、まな娘の血を吸った老婆。
それが、いまは自分の生き血を目あてに息をひそめているという。
身にまとう薄汚れた着物を、娘を咬んだときに浴びた血しぶきに濡らしたまま――
もう、どうすることもできないのですね・・・?
助けを求めるような妻の瞳をまともに見返して、袴田は囁き返す。
こうするよりないのだよ。
怜奈はまだ、老婆といっしょにいる。
とうに気を喪って、その身をめぐるうら若い血液を、がつがつと喰らわれながら。
娘を救うには、自身が身代わりになるしかない。
さっきは、兄嫁が身代わりになってくれた。
けれども彼女もまた、怜奈を連れ出すことはできず、真っ蒼な顔をして部屋からさ迷い出てきたのだった。
義兄や義父母の厳しい視線から無責任に逃れるには、淑恵は世間体に縛られすぎた女だった。
怜奈は自分の血が教えてここに来た。
だがこの女もまた、世間体という化け物にそそのかされて、この村に引きずり込まれたのだ。
袴田は妻を愛していた。けれどもこのときばかりは、無同情に妻の背中を押していた。
「行きなさい」
袴田自身も久しぶりにつけられた首すじの痕に、えも言われない衝動を疼かせていた。
老婆の干からびた血管を満たすために、妻を行かせたい――そんな異常な熱望が、袴田を支配していたのだった。
そうすることで、妻もたぶんすんなりと、自分たちの同類になり果ててくれる・・・

おっ、お許しを・・・ッ!
部屋の隅に追い詰められた淑恵は、とっさにブラウスのえり首を掻きよせた。
そのしぐさが、さらに老婆の劣情をそそっていた。
くひひひひひひひっ。早ぅ、血をよこせぇ・・・
そううめいて化け猫のようにとびかかる老婆のまえ、都会育ちの人妻はひたすらに無力だった。
がぶっ。
ふすま越し、妻が咬まれる音が聞こえたような気がした。
袴田はふすまを細目に開けた。
抱きすくめられた妻のまとっている空色のブラウスが、首すじから噴き出る血潮に、みるみる赤黒く染まってゆく――――
異形の光景に、袴田は老婆の行いを妨げようとする手を凍りつかせた。
かつて――老婆が母親の首すじにかぶりついた光景を目の当たりにした記憶が、ありありとよみがえっていた。

ああーッ!
ぎゅうぎゅうと強引に血を吸いあげられて、絶望的な叫びをあげる妻。
20年まえ、母もまた、首っ玉にしがみついてくる老婆を拒み切ることができずに、おなじ色の悲鳴をあげていた。

めくれあがった濃紺のスカートのすそから覗く、肌色のストッキングに包まれたひざ小僧。
老婆の皺くちゃの手の甲が、ギュッと閉ざされたひざ小僧を割って、さらに奥へと忍び込む。
母のときもそうだった。あのとき母は、スリップを着けていた。いまの妻には、それがない。
すそにレエスもようのついたスリップをたくし上げながら、老婆は母を犯しにかかるように、卑猥なまさぐりを股間に擦り込んでいった。

はうっ。
太ももに食いつかれ、ストッキングをびりびりと咬み破かれながら、妻は歯噛みをしながら吸血に耐えている。
はやく、いまのうちに、怜奈を連れ出して・・・!
妻の想いはそこにあるはずなのだが。
当の怜奈は首すじにつけられた咬み痕を指先でもてあそびながら、母親の受難をじいっと見つめている。
怜悧な視線。しかしその冷たい観察の奥に、小気味よげな満足感がわだかまっているのを、袴田は見逃さない。
それは、目のまえで自分の母親が吸われたときに自分が感じたものと、同じだったから。
自分の体内をめぐる血潮とおなじ血が。
お婆ちゃんを、愉しませている。気に入ってくれている。
やっぱり引き合わせてよかった。母さんの血は、お婆ちゃんに吸わせてあげるために、母さんの身体のなかをめぐっているのだ――おなじ思いをきっと、怜奈は共有しているに違いない。女らしい、もっと冷血な想いを秘めて。

ママったら、とても楽しそう・・・
そうよ、血を吸われるのって、愉しいわ。
身体じゅうが、むず痒くなっちゃうの。
だからママも、ガマンできなくなっちゃったのね。
あたしには厳しいしつけをするくせに、自分はこんなにはしゃいじゃったりするのね?
そうよ、もっとはしゃいで、はしゃぎ過ぎて血を全部、抜き取られちゃうといいわ。
それから、あたしも知らないようなやりかたで、うんと辱められるの。
パパがかわいそうな気もするけれど・・・でもパパもきっと、愉しんじゃってるに違いないから。
恥知らずなのよ、あのひとだって・・・

いつの間にか、部屋には男どもの呼気が満ちていた。
父に兄、そして子供のころ袴田を弟ぶんにしていた、年上のあんちゃんたち。
それらがいっせいに、服をはぎ取られ太ももや乳房までもあらわにして乱れ狂う妻の肢体に、いっしんに目線を注いでいる。
老婆がその場を譲るように女を放すと、入れ替わりに男たちが半裸の淑恵に群がった。
ひとりが淑恵の頬に平手打ちをくれ、べつのひとりが肩を抑えつけ、さらにひとりが脚を抑えつけ、ついでにストッキングのふくらはぎに唇をねぶりつける。
いちばん最初に妻が相手をしたのは、父だった。
そうだね。母さんが襲われるのを手伝ったのは僕だったから。
父さんがいちばんさいしょに淑恵のうえに馬乗りになるのは、理に適っているよね・・・

妻が犯される――なのに勃ってしまっている。
恥ずかしいはずの欲情が、かえってすべてを忘れさせた。
鎌首をもたげる茎の剛(つよ)さに満足を覚えながら。
それ以上に怒張をあらわにした父の一物が、妻のまとうスカートの奥に侵入するのを、袴田はドキドキしながら見入っていた。
身体じゅうから抜き取れたはずの血が戻ってきて、心臓の鼓動をドクンドクンと痛いほど伝えてくる。
あうううう・・・っ。
股間に受け入れた吶喊の激しさに。
恥知らずな粘液を目いっぱい嫁の奥深く吐き散らす魔羅の硬さに。
断末魔のようなうめきをあげつづける妻。
食いしばった歯のすき間から洩れる吐息に、淫らなものが混じるのを、袴田はみた。
歯並びの良い白い歯も、嫁を飼いならそうと躍起になった父の舌になぞられて、淫らな輝きを帯びていた。

入れ代わり。立ち代わり。
だれもかれもが、淑恵のうえにまたがった。
袴田が提供した都会育ちの人妻の肢体は、すみずみまであますところなく、たんのうされた。
ふと見ると、かたわらに怜奈がいた。
秀でた眉を寄せて、強いられた乱交に本能で応えはじめる母親の肢体を、冷たく輝く瞳で見つめつづけている。
ママ、楽しそうだね。
そうだね。
パパも、愉しんでいるのね?
そうだね・・・
やっぱ、里帰りにはお土産がいるよね。
だね。
怜奈もママも、いいお土産なんだね。

わたしと淑恵の娘は、もの分かりのよい子に育っていた。
その母親も、男たちの腕のなか、もの分かりのよい人妻になり下がっていった。
帰郷した初めての夜。
わたしは家族の一員として再び迎えられ、
彼らを家族の一員として、新たに受け容れることになる・・・

公開処刑。

2016年06月07日(Tue) 06:32:33

ひい―――ッ!
妻の金切り声が、あたりに響き渡った。
ここは街の中心街に位置する広場。
頭の上は雲ひとつない空。真昼間だった。
広場に拡がる石畳の上には六畳ほどの畳が敷かれ、
妻はその狭い空間のなかで、立ちすくんでいる。
怯える目線の真向かいにいるのは、薄汚れた老婆。
みすぼらしい着物は、もとの色すらよくわからないほどに垢じみていて、
そのうえあちこちに、かつては血しぶきだった赤黒いシミを点々と散らしている。
そう、この老婆は、吸血老婆。街を支配する長老のひとり。
それがいま、意地悪げな目つきに底知れない欲情をあらわにたたえ、
ヨタ、ヨタ・・・とおぼつかない足取りで、一歩一歩、妻を追い詰めてゆく。
先に血を抜かれたわたしは、解放されきったその六畳間からすこし離れた場所で、
きつい縛(いまし)めの荒縄にぐるぐる巻きにされて、転がされていた。
択ぶほうを間違えた――夫婦ながら後悔した現実を、目の当たりにしていた。

「面白―いっ!」
「奥さん、美味しそ~」
「ダンナも哀れでいいねぇ」
周囲には、群れ集う見物人。吸血鬼の支配に狎れた、この街の住人たち。
それらが皆、吸血老婆の味方になって。
無責任な好奇心をむき出しに、これから妻の身に降りかかる受難を予想して視線を集中させる。
それらのなかには、着任したばかりの事務所に勤める上司や同僚の姿も交じっていた。
もしかするときょう、妻を輪姦する権利を手にしたかもしれない、男たち。
そう。
わたしたちは、この街の住人として認めてもらうための、二者択一を迫られたのだ。
吸血鬼に支配されて半吸血鬼に堕ちた男たちに弄ばれながら血を吸われるか。
それとも、街を支配する長老の誰かに身をゆだねるか。
吸血鬼が人妻の血を吸うとき、相手をした女は必ず、抱かれてしまうという――
せめて、もうひとつの恥辱は避けたい。
そんな想いから、夫婦一致で老婆を選んだのだった。
相手が女だったら、もういっぽうの恥辱だけは回避できるのだろうと。
その結果が、きょうの“公開処刑”だった。
六畳ぶん置かれた畳の傍らには、見世物小屋のような下品なたたずまいの立て看板。
そこには、雑な字ででかでかと、こうあった。

清楚な人妻、公開処刑! 街のみんなで見守ろう。


一週間前。
都会のビル街の一角にある、勤務先の本社。
わたしたち夫婦は、表情が見えないほど分厚いメガネをかけた人事担当者のまえ、恐縮し切っていた。
「で・・・借金がかさんで、日常生活が困難になったと?」
「あ・・・はい・・・わたしのギャンブル癖と、家内の浪費癖が重なりまして・・・」
「それで、なんとか会社の力で借金を棒引きにできないか?というわけですね」
「・・・」
「ずいぶんと、ムシの良いご希望ですね」
表情を消した人事担当者の口調が淡々としているぶん、
自分たちの身勝手さが、よけいにありありとあぶり出されるようで。
それでも「会社が何とかしてくれそう」という想いだけで、わたしたちはうわべの恐縮を取り繕っていた。
「性格検査は、ご夫婦ともに適格と判断されました」
1000問にも及ぶ問診と、血液検査。あれが性格検査だったのか。
「あとは、柳原さんと奥さん、ご本人の意思だけです」
「ええ、それはもう・・・」
「追い詰められているだけで、苦し紛れの選択をしないほうがいいですよ」
メガネの向こうの目が、初めて同情をたたえてわたしたちを覗き込んだ。
「いえ、それはもう、会社には迷惑をかけるわけですので、どんなことでも」
会社が迷惑をすべてひっかぶってくれる。こちらはなんの犠牲も払わずに。
そんなムシの良いことを夫婦ともに肚にわだかまらせながら、
わたしたちは酔ったように理性の抜けた耳で、相手が淡々と言い連ねる条件に聞き入っていた。

これから、遠方の街に赴任してもらいます。
あなたがたは行方不明になって、連絡が取れない――周囲のかたがたには、そういう連絡をします。
ですからいちど赴任されたら、街を出ることは禁じられます。
失踪宣告がされれば、戸籍も消えるでしょう。そのあたりの手続きは、会社に一任してください。
赴任先では家も与えられ、給与も支払われます。
通常の給与体系からはずれますので、今までの五割増です。
業務はとくにこれといって、ありません。出社して、事務所で一日過ごして居ればそれでよろしい。
事務所の抱える得意先のところで暇をつぶしても良いし、その気があれば帰宅も自由です。
「じゃあさいしょから、勤務しなければいいじゃないか」――ふとそう思ったわたしの気持ちを見透かすように、人事担当者は言った。

その場の成り行きで、貴男も身の処しかたがわかるはずです。

どういうことですか――?
わたしは訊いた。
男は冷ややかに横を向いて、口にした。

業務はないと言いましたが、厳密にはひとつあります。
でも、なにもしないで良いのです。
献血を要求されたときに応じていただく。これだけです。
貴方が赴任される街には、吸血鬼が棲んでいるんです。

吸血鬼などという文句は、追い詰められたわたしたちには、絵空事にしか聞こえなかった。
まさかそれが、公開処刑につながるなどと――


かん高い歓声と嬌声。
そのなかに、わたしたち夫婦は、離れ離れに置かれていた。
わたしは、血を抜かれて冷え切った身体を、靴下一枚以外一糸まとわぬなりにされて。
妻は、清楚に装うその身を、老婆の卑猥な視線にさらされつづけて。
純白のブラウスに真っ赤なフレアスカート。
見覚えのあるその衣装は、ユリともバラとも独身時代に讃えられたその魅力に、ピッタリと寄り添っている。
けれども、妻の品格を引きたてているはずの衣装は、老婆の劣情をそそるだけだった。

ウォ――ッ!!
獣じみたうなり声をあげて、老婆は妻にとびかかる。
とっさに飛びのこうとした脚は恐怖にひきつって、畳のうえに吸いついたままだった。
老婆は妻を羽交い絞めにすると、容赦なく首すじに牙を突き立てて、
突き立てた牙をガブリ!と喰い入れたのだ。

ジュッ!
鈍くて重たい音が血しぶきとともにあがり、
撥ねた血しぶきは純白のブラウスをみるもむざんに点々と染めた。
ああああッ!
恐怖のうめき声さえ引きつらせ、妻は羽交い絞めにされたまま、生き血をぎゅうぎゅうとむしり取られてゆく。
じゅるっ・・・じゅるっ・・・
クチャ・・・クチャ・・・
汚らしい音とともに啜り取られる、妻の血潮――
グレーのストッキングに包まれた脚を踏ん張り、畳のうえでわが身を支えるだけで精いっぱいの妻――
時折随喜のうめきをあげながら、三十六歳の人妻の生き血に酔い痴れる、醜い老婆。
なんという光景だろう!
それらを目の当たりに・・・わたしはいつか絶頂を自覚した。
そう、夫婦のベッドのなかでしか覚えたことのないあの歓びを、
不覚にも妻を目のまえで虐げられることで、あらわにしてしまったのだった。

「あッ、ご主人、勃ってる!勃ってるッ!」
無責任な群衆がわたしの不始末に気づいて、それを容赦なく暴露する。
「おおっ、ほんとだ、昂奮しちゃってるよ。ばかだねー」
「でも俺、ダンナの気分わかるわー」
「なに抜かすんだ、このド変態!」
無責任な声はさらに無責任な声を呼んで、理性と誇りを壊されたものを渦に巻き込む。

わたしに浴びせられる嘲罵すら、妻の耳には届かない。
グフッ・・・グフッ・・・
血にまみれた白ブラウスごし、老婆は妻の胸を揉みしだきながら、
大の字に倒れてしまった妻のうえにおおいかぶさり、
まるで淫したように、妻の生き血を飲み耽る。
首すじだけではない。
胸元にも、二の腕にも、わき腹にも。
着衣のうえからいたるところに、老婆の牙はあてがわれた。
男が女を弄ぶように、くまなくしつように、
飢えた唇がヒルのように妻の五体を弄ぶ。

白のブラウスはユリの花が踏み躙られるようにして引き裂かれて、
ブラジャーの吊り紐は引きちぎられて、
あらわになった乳首をしゃぶられて。

あーれー・・・

大昔の映画のヒロインのような叫びをあげて、
妻は自分の血で血浸しになりながら、畳のうえを転げまわる。
しっかりとした肉づきのふくらはぎが、目のまえでグレーのストッキングになまめかしく染まっている。
疲れ切ったわたしの目にさえ一瞬欲情をよぎらせた足許が、老婆の目に触れないわけはなかった。
ククククククッ。
ふくらはぎに吸いつけられた唇が、けしからぬ意図を帯びているのを、妻は本能的に悟ったらしい。
アッ、やめてください・・・ッ!そんな・・・ッ!
必死の懇願を無視して、老婆は唇に力を籠めた。
ストッキングがパチパチと音を立てて裂け目を拡げ、
擦りつけられた唇が、チュウッと圧し殺したような音をあげる。
「ああああああっ・・・」
妻は両手で顔を覆い、失血と恥辱に耐えつづけた。
わたしは目が眩み、その場で仰向けに倒れ伏した。
横目にかすかに視界に入った妻も、大の字になって。
ただひたすらに、老婆の食欲を満たしつづけていた。

血を抜かれて干からびた血管が、身体の奥で唸り声を洩らしていた。
血が・・・欲しい。身体を潤す血が・・・欲しい。
目のまえで老婆は、生きた餌にありついている。
豊かな肢体から、むしり取られてゆく血潮。
清楚な衣装のうえに、ふんだんに撥ね散らかされてゆく血潮。
なんという絶景。至福の光景・・・
そう、わたしはいつの間にか、老婆と気持ちをひとつにしていた。
もっと飲んでほしい。
妻の若々しい血潮を、想いぞんぶん賞玩してもらいたい。
心の奥底からあふれ出てくる衝動を、わたしはもう、どうすることもできなくなった。
昏い衝動が、わたしの理性を闇に堕とした―――


もう、よろしいでしょうか・・・?
柳原瑞恵は、自分のうえにのしかかる老婆に、上目づかいで問いかけた。
可愛い目をするのう。
老婆は組み敷いた生き餌と目を合わせ、ほくそ笑んで応えた。
まだまだじゃあ。
老婆の言いぐさに、瑞枝は「あらぁ・・・」と照れた。
ヒッヒッヒッ。久しぶりにありつく、都会育ちの人妻ぢゃ。
たっぷり可愛がってやるぞぃ。
老婆の言いぐさに、瑞枝はくすぐったそうに身体を揺らす。
あい。
瑞枝はうっとりと老婆を見あげ、裂けのこったブラウスをさらに揉みくちゃにされるのを、小気味よげに受け入れた。


周囲の男たちは見境なく、手近な女に襲いかかっていた。
吸血鬼もいれば、そうでないものもいる。

髪を振り乱し随喜の声をあげながら生き血を吸い取られる妻のかたわらで、
妻を襲っているのが勤め先の同僚だと知りながら、
夫は自分が組み敷いた女学生の、セーラー服の襟首から覗く白い肌に夢中になっている。

べつの青年は、親友と婚約者が戯れ合うすぐ傍らで、
かねて目をつけていた妹を犯していた。

自他ともに認める愛妻家といわれた柳原の同僚は、
自分の妻に息荒く迫る男たちのため、妻の肩を抑えつけてその劣情に応えさせ、
自らも妻に加えられる輪姦の渦のなかに交わっていた。


皆さん、すごいんですのね・・・
瑞枝は相変わらずうっとりと、老婆を見つめる。
老婆は瑞枝を広場の隅に引きずっていって壁に背中をもたれかけさせ、
さっきからしきりに瑞枝の脚に唇を這わせ、
グレーのストッキングを咬み破るのに熱中している。
瑞枝は自分の穿いているストッキングにふしだらな伝線が走り無造作に拡げられるのを、
面白そうに見つめながら、老婆の吸いやすいように脚の角度を変えてやっている。
主人、正気を喪っちゃいましたね~。
自らも理性を喪失していることに気づかないでいるくせに、
遠くから自分を見つめる夫の視線に宿る黒い歓びを見抜いてしまっている。
あたし・・・どうなるのかしら・・・?
もちろん、男どもの餌食ぢゃわい。
老婆は遠慮ないことをいう。
いずれもいずれ、お前の亭主の勤務先のやつらぢゃ。
仲良う相手するがええ。
なに?さいしょの約束?
そたらもん、いまの状態の旦那が、覚えておるはずはなかろうが。
愉しんじまえ。よがってしまえ。

老婆にそそのかされるまま。
つい先日、他人行儀なあいさつを交わしたばかりの夫の同僚たちが目の色を変えてのしかかってくるのを、
瑞枝は平然と受け止めていた。
裂けたストッキングを穿いた脚をこじ開けられて。
せり上げられるスカートの奥、恥知らずな性欲が鎌首もたげて迫ってくる。
主人以外のひと、初めてなんですよ・・・
そんな瑞枝のつぶやきに耳も貸さずに、最初の男はたけり狂った自分の一物を、瑞枝の奥深く埋め込んでいた。


妻が・・・妻が、堕ちてゆく。
わたしの目のまえで、瑞枝がわたしの同僚たちを相手に許しはじめてゆくのを、
わたしはどうすることもできずに、見守るばかりだった。
大の字にされて、奪い尽されて、
それから四つん這いにされて、飼い慣らされて。
しまいに泥まみれにされて、隷属させられてゆく――
そんな一連の儀式を、この街では「懇親の交わり」と呼んでいる。
そう。この場は男と女が慣れ親しみ睦みあう場。
妻の生き血を提供し、おおぜいの男に睦まれてしまった夫は、ほかの人妻を襲う資格を勝ち得るという。
妻のうえに群がっている男たちもきっと、自分の妻や娘を提供させられ狂わされた、わたしの同類――
狂った光景を灼きつけられたわたしの狂った瞳は、ただいっしんに、
わたしの同類たちが妻とひとつになってゆくのを、ただひたすらに熱っぽく、
劣情にまみれたただの男として、たんのうし切ってしまっていた。

つぎにこの街に現れる夫婦は、どこのだれなのか。
その人妻の貞操を共有する権利は、わたしにももたらされている。
けれどもいまは・・・ただひたすらに、妻への受難を愉しみたい。悦びたい。
空しい抵抗をくり返していた妻の手足が、いまは悦楽を帯びて、
自分に恥辱を与える男どもの背中を恥知らずに抱きとめてゆくのを、
夫婦関係が崩壊したことさえ小気味よく感じてしまっている私は、網膜に鮮やかに刻みつけてゆく――

強制デート  ~妻と吸血鬼との交際録~

2016年05月06日(Fri) 08:02:12

めまいとまどろみが去って、開けた視界の向こうにはあの男がいた。
さっきまでわたしの首すじから啜り取っていた血が、男の頬をまだ濡らしている。
服従することが安堵を生むことを、この男に血を吸われることによって初めて知った。
「気分はどうかね」
男はいった。
「最高ですよ」
わたしはこたえた。

この街では、吸血鬼と人間とが共存していた。
遠くの都会から越してきたわたしたちも例外ではなく、
この街の住人として受け入れられるためには、彼らのために血液を提供しなければならなかった。
わたしはそれを受け容れ、事前に相談した妻も、反対しようとはしなかった。
血を吸われた人妻は、例外なく犯される。
そんなルールさえ、知りながら。
もう――わたしたちを受け容れてくれる場所は、ほかのどこにもなかったから。

「あんたの奥さん、手ごわいな。3回めのデートで、やっとキスした」
男はぬけぬけと、そんなことを口にする。
「うちの仲間うちでも、評判になってきたよ。あんたの奥さんの身持ちの堅さ。亭主としては、自慢してもいいんじゃないかな」
男の目には、思うようにならない苛立ちではなく、むしろ称賛の色が込められている。
さいしょにわたしが襲われて、理性をなくしたわたしは妻も襲わせるため、男を自宅に招いていた。
その場で――妻は犯される・・・はずだった。
彼らの流儀では、モノにした人妻は必ずその場で犯すことになっていたから。
「待って!それはやめて!」
生真面目な妻は、頑なな性格をそのまま顔に出して抗い、ついに男を振り切った。
というか、男のほうからあっさりと、手を引いた。
「嫌なら無理にとはいわないがね」
男は妻から吸い取った血が口許に散ったのを手の甲で拭いながら、いった。
「でも、血は時々めぐんでもらうよ。さしあたってはあさって、俺の家に来てもらう」
救いを求めるようにわたしを見つめる妻に、わたしは言った。
「行ってお出で。ぼくは我慢するから。なにが起きても、許してあげるから」
妻は押し黙ったまま――それでもしっかりと、頷き返してきた。

それが最初の、妻と男とのデートだった。
訪問先の男の家で、妻がむざんに犯されるのを予期して・・・わたしは昂奮を感じていた。
抑えても抑えても、勃ってくる股間を、どうすることもできなくなっていた。
なんでだろう?
どうして昂奮なんか、するんだろう?
妻が今ごろ、犯されているというのに?
疑問符でいっぱいのなか、それでもパンツのなかの一物は、苦しくなるくらいに膨張を止めなかった。

その日も妻は、犯されなかった。
噛まれて血を吸われる行為は、目をつぶって許したけれど。
いざことに及ぼうとされたとき、嫌悪感が全身を走って、必死で抵抗したのだという。
妻の強い意志が通じたのか、男はまたも妻を力づくで犯すことを断念した。
それどころか、貧血でふらつく足取りの妻を、玄関のまえまで送ってくれたのだという。
妻が寝(やす)んでしまうとわたしは、彼のところに電話をかけた。
「すまなかったね。またもご意向に沿えなかったみたいで」
すんでのこと、妻を犯されるはずが、必死の抵抗ですり抜けてきた――そんなことのあったすぐあとに、夫が口にするべき言葉ではないことが、すらすらと口から出てきた。
胸の奥をチクリと、針を刺されたような刺激が走る。
男は受話器の向こうで、ちょっと笑ったようだった。
かすかな好意的な響きが、耳元に伝わってくる。
「きみが謝ることはないさ。でも、楽しかったよ。ストッキングを穿いた脚に咬みついて、ストッキングをビリビリ破りながら上目づかいに彼女の顔見たらさ、悔しそうに睨みつけているんだよ。ついつい興が乗って、ひざがまる見えになるまで咬み破っちまった」
男の言いぐさが、ひどく鼓膜に沁みついた。情景をありありと、想像してしまったのだ。

2度目のデートは、それから中2日置いた後だった。
毎日吸ったら、彼女が身体を壊すから。
といって、あまり日を置くとせっかく身体のなかに埋め込んだ毒液が消えてしまう。
せっかくここまでなじんだのだから、また一からやり直しはめんどうだからね。
めんどう――男の言いぐさはわざと真剣味を欠いたものだった。
けれどもその裏側にある想いは本気なのだ――と、夫であるわたしは直感した。
こんどこそ。こんどこそ・・・妻はあの男の女にされてしまうに違いない。
けれどもその日も、妻は無事に帰ってきた。
もちろ ん、したたか血を吸い取られて、顔色は真っ蒼になっていたけれど。
お礼の電話に出た男は、「かけてくると思ったよ」と半ばわたしを揶揄しながらも、語ってくれた。
「今回も、一歩前進。穿いてきてくれた黒のストッキング、自分から咬ませてくれた。びりびり破いてそれから外の公園をおデート。黒だと裂け目が目だつからね。すれ違う人がみんな、彼女の足許見るんだ。彼女、ずーっと俯いていたけれど、とうとういちども自分から帰ろうって言い出さなかったんだ」
義務感の強い妻だった。
吸血鬼に血液を提供するのが義務だと知らされると、首すじを咬まれても、脚を咬まれても、必死で耐えていた。
血液を良くするための食物を熱心に研究して、わたしにも食べさせ、自分も食べた。
中には、嫌いな食べ物もあったはずなのに。妻は、好き嫌いの多いほうだった。
デートの相手がストッキングを破ることを望んだから、彼女のなかでは非礼極まりない行為でも許したのだろう。
派手に破けたストッキングの脚を外気に曝して歩くことを強制されたときにも、自分を制してそれを受け容れたのだろう。

3度目のデートで初めてキスを済ませた。
そういう男に、わたしはいった。
「おめでとう。というか、頑なな妻ですまないね」
「いや、あんたに迷惑がられなくって、感謝している」
「きょうは妻のことを襲わないの?」
わたしはきいた。
デートの翌日、わたしの家に来た彼は、応対に出た妻に「ご主人に会いたい」といった。
あくまで他人行儀で、あくまで知人の家を訪れたときのその家の主婦に対する態度を、一歩も出なかった。
そして、妻をではなく、わたしの血を真っ先に望んだのだった。
彼らは女の生き血を好む習性を持っていた。
だからこそ、真っ先に夫を襲うのだ。
人妻をモノにするのに最大の障害である夫を手なずけてしまうことで、あとがどれほど有利に運ぶのかを、よく知っていたから。
それなのに、彼は妻ではなくわたしを真っ先に選んだことが、なぜか誇らしかった。
働き盛りの血液は、彼の血管をじゅうぶんに潤したに違いない。
わたしの問いに、彼はこたえた。
「もちろんね」

階下におりた男は、台所にいた妻をリビングに呼んで、ソファに座らせた。
わたしはベッドのうえであお向けになりながら、階下でのふたりの行動を、伝わる気配で察していた。
勃ってきた。またしても。
けんめいにこらえたけれど、パンツのなかが窮屈に張りつめてくるのを、どうすることもできなかった。
長い長い沈黙があった。
けれども、わたしが予期したような、ものが倒れる音や妻の悲鳴などは、とうとう聞かれなかった。
「お帰りになりました」
2階にあがってきた妻は、なにごともなかったようにそういって、テーブルに並べられたお皿や茶わんを片づけ始めた。

4回目のデートの帰りは、遅かった。
ドアを開けたわたしは、アッと声を出して息をのんだ。
荒々しく強姦された女が、目の前にいた。
髪を振り乱し、目じりには泣いた痕があった。
ブラウスはボタンが飛んで胸がはだけ、ストッキングは破れ、スカートの裏にはじわじわと、異臭を放つ粘液がからみついていた。
輪姦されたのだという。
さいしょは男が、いつものように妻の血を吸い、キスを重ね、抵抗の意思を奪うとブラウスのタイをほどいていった。
ストッキングを片方脱がされずり降ろされたふしだらなかっこうで、妻は男を受け容れた。
2度、3度・・・くり返される吶喊は、ひどくて慣れていて、いままでなん人もの女たちを手なずけてきたであろうことが、容易に想像できるほどだった。
自分が冷静なのを自分で訝りながら、けれども妻も、不覚にも耽ってしまった。
それくらい、よかったのだという。
それからだった。
男は別室に妻を連れ込んだ。そこには、彼の仲間が5人いた。
その全員に、吸血とセックスとを強要されたのだ。
わたしは妻の手を引いて、玄関からあがらせて、なおも手を引きつづけて――寝室に引きずり込んだ。
我に返ったのは、夜明けだった。
新婚以来、こんなにしつように二人で身体を重ねたことは、かつてなかった。
太陽が黄色く見える朝だった。

やっぱり私、大勢は無理。
妻は男に、そう語ったのだという。
あなたがどうしてもって望むのなら、でもその時はお相手します。
でも、愛人として認識できるのは、あなただけ。
そういうことにしてもらえませんか――?
彼女の意思は、すべて尊重された。

眩暈とまどろみからさめたとき。
開けた視界には、ふたりがいた。
わたしの身体のうえには、男が。
傍らのベッドには、妻が。
わたしたちは床を転げまわったあげく、部屋のまん中で身体を重ね合っていて。
妻はよそ行きのスーツを着て、夫婦のベッドのうえにいた。
「視ちゃったわ。男どうしって、思ったほど不潔じゃないのね」
股間には男の粘液が、生温かくまとわりついていた。
妻の身体の奥深くそそぎ込まれる粘液とおなじものを、わたし自身も愉しむようになっていた。
フフフ・・・と笑う妻は、男の好みに合わせて、ソバージュをかけている。
もはや、公然とした男の愛人だった。夫の公認で交際していることも、周囲のものはみな知っている。
じゃあ、奥さんをいただくよ。あんたの前で。
男はそういうと、夫婦のベッドのうえで妻におおいかぶさってゆく。
「あッ、イヤだわ。主人のまえで・・・そんなのいけない、いけないわ・・・」
妻はそう言いながらも、行為そのものは拒んでいない。
ブラウスを脱がされ、ブラジャーをはぎ取られ、わたしだけのものだったはずの乳房のあいだに顔を埋められ・・・
「ああっ、やらしい・・・やらしい・・・いや・・・あ・・・ん」
媚態もあらわに、小さくかぶりを振りつづける。
ずり降ろされたストッキング。目のまえに脱ぎ捨てられたショーツ。
それらのひとつひとつが、服従の愉悦になって、わたしの網膜を彩った。
彼は、わたしの血も好んでいた。
しつような吸血だった。
歓びのひとときだった。
失血で身じろぎひとつできないほどに血をあさり取られてしまいながら。
むき出しになった股間の昂ぶりを、抑えることができなかった。
「あ、勃ってる。勃ってる・・・」
妻のからかう声色さえもが、わたしをよけいに昂らせていた。

目覚めた主婦

2016年04月24日(Sun) 09:11:47

鏡台のまえ、寺崎千代は念入りの化粧を整えると、新調のスーツをまとった身をもたげ、リビングに向かった。
リビングには夫がいた。
夫は千代の淹れたコーヒーカップを片手に、テレビを観ていた。
騒々しい、バラエティ番組だった。
けれども夫の注意はテレビになどちっとも集中していなくて、
じつは夫婦の寝室で身づくろいをしている千代にいっしんに注がれていたらしい。
夫の顔色ですぐにそれと察すると。
千代はつとめて明るい声で、いった。
「どう?似合うかしら?このスーツ」
夫は妻の明るさに合わせて、かろうじて笑みを交えながら、
「うん、良く似合っているよ。さすが瀬藤さんだ。きみの良さをよくわかっていらっしゃる」
瀬藤さんの好みがちょうど、きみに似合っているのかもね・・・
ぽつりとつぶやく夫の言いぐさを軽く流して、千代は「じゃあ行ってくるわね」とだけ言って、夫に背を向ける。
夫はもちろん、何もかも知っている。
新調してもらったスーツを、瀬藤さんに見せに行くだけじゃない。
このスーツを着たまま血を吸われ、ついでに抱かれてしまうために出かけるのだ――

千鳥格子のスーツを仕立ててもらうとき、瀬藤は自ら千代を同伴して知り合いの洋品店に採寸に付き合ってくれた。
そのとき夫はいなかった。
「今回は記念じゃから」
瀬藤は年配者の塩から声で、口数少なくそういうと、
「わしの好みの柄じゃから」
そういって、千鳥格子のスーツを店主に持ってこさせていた。
記念だといわれて初めて、気がついた。
初めて瀬藤に抱かれて、ちょうど一年が経とうとしていた。

瀬藤が千代に服をプレゼントすることは、よくあった。
いつもあんたの血で汚してしまうから・・・と、妙な心遣いをするのだった。
服を汚すのを気にするくらいなら、血を吸わなければいいだろう・・・って?
そうはいかんのだな。わしは吸血鬼なんじゃから。
瀬藤は自慢とも自嘲ともとれない声で、千代にそういっていた。

一年前のきょう――
千代は友人の婚礼に招かれて、夫とともに初めてこの街を訪れた。
吸血鬼が棲んでいるのよ、この街。
新婦となる友人はそういって笑ったが、千代はただの冗談だと思って受け流した。
それが、彼女に許された精いっぱいの警告だなどとは、思いもしないで。
この街での婚礼は、三日続く。
初日の披露宴の、仲人のあいさつや乾杯の発声、
そのほかにもウェディングケーキの入刀やら、キャンドルサービスなどなど・・・が一段落すると、宴席の雰囲気は改まる。
都会ではそこまでの披露宴が、淫らな風習の息づくこの街では、これからが本番だった。
それまでに女たちの目星をつけていた婚礼の客たちが、それとなく目あての女性の近くに席を移していって、
やがて宴席は淫らな乱交の場に変わり果てる。
それまでに、女性たちを守るべき夫や息子、父親たちは、一人残らず血を吸い取られてじゅうたんの上に転がされていた。

そのとき、初めて千代を犯したのが、瀬藤だった。
父娘ほども齢の離れた相手が、赤ら顔をぎらつかせ、息をはずませて、欲情もあらわにのしかかってくる。
千代のか弱い腕はすぐに、ほかの何人もの男たちに抑えつけられて、
こぎれいなブラウスは、花びらが散るように胸からはぎ取られていった。
夫は千代の傍らに、血を吸い取られて転がっていた。
幸か不幸か、夫にはまだ意識が残っていて、うつろな目はすべてを見届けてしまっていた。
そう、不覚にも千代が、股間をくり返す襲う衝撃に耐えきれず、なん度も声をあげ、行為に応じてしまったのも。

嵐が過ぎ去ったあと、千代のなかでなにかが塗り替えられていた。
正気づいた夫もまた、なにかを塗り替えられていた。
血を吸われたせいだ。引き抜かれた血液と引き替えに、なにか淫らな毒液をそそぎ込まれていた。
まして千代は、ストッキングを穿いた脚をばたつかせ、視られてはならないショーツを裂き取られて、
股間の奥に、淫らな粘液まで、それも5人も6人もの粘液を、念入りにたっぷりと、そそぎ込まれてしまっていた。
もういちど、お逢いしようよ。
夫がそういうと。
エエ、ごあいさつしなくちゃね。
妻も即座に、応じていた。
妻を犯した最初の男のことを、あてがわれた宿のあるじに尋ねると、
シャワーを浴び、よそ行きの服に着替えて、夫婦連れだって、出かけていった。
それが瀬藤だった。
瀬藤の家には、こうなると察して待ち構えていたその時の男衆たちまで、顔をそろえていて。
夫は気前よく、最愛の妻の肉体を、自分の父親ほどの年配の男たちに与えたのだった。

感染力が強かったんだな。
瀬藤が夫にそう語るのを、半裸に剥かれた身体をけだるく横たえながら、千代は聞いていた。
婚礼の席で蹂躙を受けたあと、その晩のうちに来てくれる夫婦は、そう多くはないのだという。
しかしあんたたちは、来てくれた。嬉しいね。
けだものだとばかり思い込んでいた男が初めてみせた笑いは、ひどく人懐こかった。

妻の貞操をプレゼントするという行為は、この街では最良の厚誼の証しなのだと。
それを、妻を輪姦されたその日のうちに許すことは、夫としては理想の振る舞いとされていた。
千代たちは、この街に受け入れられた。


幸か不幸か、夫は失業していた。
だからそのまま、この街に棲みついてしまっていた。
そのあいだにも。
男たちは千代の新居に昼夜とわずあがりこんできて。
夫の血を吸い取り、酔い酔いにしてしまうと、
わざとその目線のまえで、千代を犯した。
夫もどうやら、そうしたあしらいを歓んでいるらしい――そう気づくのに、時間はかからなかった。

血管を干からびさせてしまった夫は。
新しい友人たちの干からびた血管を、若い女の血で潤してやるのを生きがいにするようになっていた。
若い血液を少しでも多く確保するために、
まだ独身の妹を招び、
兄や友人を妻同伴で招び、
両親までも街に呼び寄せてしまっていた。
同じ不幸を背負わせてやろうという意図ではなかった。
同じ歓びを分かち合いたいと、本気で思っていたのだった。
夫のひたむきな想いに、妹は結婚を控える身にもかかわらず嬉々として処女を喪い、
兄は渋々ながら兄嫁を差し出し、友人たちも同じように、愛妻を街の男たちと共有するようになっていった。
母親は街の顔役にひと目惚れをされ、ロマンスが芽生え、
長年連れ添った妻のそんな様子を視つづけた父親は、
自分より年上の男の、妻に対する老いらくの恋を、寛大に受け容れてしまっていた。

そういうわけで。
千代は始終彼らの訪問を受けていたし、
とくに瀬藤に対しては、服を買ってもらったときには必ず、出向いてお礼を言いに行っていた。
もちろん、お礼の対価は具体的だった。
夫はそれを、しいて歓迎しないまでも、決して拒もうとはしなかった。

道すがら、路上に伸びる自分の影に、千代は問いかけている。
私は本当に、愛されているの?
私に求められているのは、たぶん身体だけ。その身体に流れている、若い血液だけ。
ええもちろん、それでも満足よ。
私だって、楽しいもの。
夫以外の男と不倫するのを、夫は理解してくれて。
おうちでテレビ観ながら、待っててくれるの。
でもほんとうに、それだけなの?
たぶん私は、子供を産めない。
産んでみたところで、それは夫の子供ではないかもしれない。
三年前、結婚したときには、愛情に満ちた家庭をって言っていた。
ほんとうのところは、どうなのかな・・・

瀬藤の家に着いた。
瀬藤は一人だった。
ほかには招ばなかったの?って訊くと、
きょうはわしだけに独り占めさせてくれるって、みんな言うんじゃよ。
そんな返事が、返ってきた。

女たちを押し倒し、着衣を乱しながら血を吸い凌辱していく彼らなのに。
仲間内には、不思議な連帯感と思いやりの行き来があるのを、千代は知っている。
こういう街のことだから。
彼らはお互いの妻を交換して、血を吸ったり犯し合ったりしていた。
そうした、妻を共有するもの同士の関係だろうか――もっとも瀬藤は、独り暮らしだったけれど。
そういえば夫も必ず、千代を送り出すときには必ず玄関まで出てきて、
「瀬藤さんによろしくね」
そんなふうに、声をかけてくる。
あれは、少なくとも半分は本音だったのか。

「千鳥格子のスーツ着た女のひとを、襲いたかったんですよね?」
あからさまにそんなふうに言われないまでも、瀬藤の気分はじかに伝わってくる。
図星を言われて、瀬藤は無言の肯定を返していた。
「じゃあわたし、家の片づけをしますから。その間にお気が向いたらいつでも、襲ってくださいね」
何気ない家事をしている女性を、背後から羽交い絞めにして、首すじを咬むのが好みだと。
この街に身を落ち着けて初めてこの家を訪問したときに、露骨に言われたものだった。
以来、独り暮らしのこの家にくると、千代は必ず、瀬藤の身の回りの世話から入るのだった。

化粧はひときわ、念入りだった。いつもよりきっと、若く見えるだろう。
新調したスーツは完璧だったし、髪もきのう、わざわざ美容院に行ってセットするほどの気の入れようだった。
脚に通した肌色のストッキングは、もちろん新品。穿き替えももちろん、3足まで用意している。
そういえば、彼に逢うときには、ストッキングの着用は義務づけだった。

いそいそと台所に向かい、洗っていない食器を片づけて、
リビングでは散らかった新聞を折りたたんで積み重ね、郵便物までチェックする。
ひととおり、さしあたって必要なことを済ませたあたりが、要注意の瞬間だ。
瀬藤には、千代の器用さを頼りにしているところがあって、
こまごまとしたことは、わざと放置しているらしかった。
それらが片付いたあたりが、潮時、というわけだ。
きょうはいやにため込んでいるんだな。
いつもなら襲いかかってくるタイミングに、背中越しに彼の気配がしないのを感じながら、
千代はいつも手を伸ばさないところまで、整理整頓していった。

・・・?
ソファからいっこうに腰をあげない瀬藤の様子を窺うと、いつになく沈んでいるようだった。
もしかすると、荒々しいお遊びのできる体調ではないのかも。
彼の相手をする女性は何人かいたが、千代がいちばん若かった。
その千代が、この一週間ほどご無沙汰だった。
いけない、早く血をあげないと。
千代はいそいそと、瀬藤の隣に腰かける。
「ご遠慮なく、吸っていただいてよろしいんですよ。千代の血は、あなたに吸われるためにあるんですから」
「ああ、すまないね」
タイトスカートのうえに組んだ掌に置かれた瀬藤の掌は、意外に暖かだった。
「血は足りていらっしゃるの?」
「吸いたいが、飢えてはいない」
「そう、じゃあ私、ここにいますね」
「そうしてくれ」
20代の人妻の匂やかな色香が隣の男にどう作用するのか、じゅうぶんに心得ていた。
「なにかして欲しいことがあったら、遠慮なく仰ってくださいね」
夫も同意してくれていますから、と、わざと耳もとで囁いてみせる。

じゃあ、そのままそばにいてくれ。

え・・・?

聞き違えたのかとおもうくらい、ハードルの低さ。
千代は瀬藤の顔をまじまじと見つめた。

血も足りている。
女にもいまは、飢えていない。
ただ、そばにいてもらいたくて、お前を招んだ。

そうだったんだ。
千代は、ほっと身体の力を抜いた。
もう一年になるのに、やはり構えてしまうのは。
血を吸い取られるという行為が、生命の危機に直結していることを、本能で識っているからなのだろう。
そういえばいつも、この家にくるときには、心と身体のどこかが、こわばっていた。

物心ついたころにはお袋が、毎日吸血鬼の相手をしていた。
親父の幼馴染だった。
そのお袋がよく、相手の家に着ていったのが、千鳥格子のスーツだった。
あのときのお袋の後ろ姿を、いまでも忘れていないから。
たぶんあんたに、同じ服をきてもらいたかったんだろう。
あんたをご主人から、取り上げようとはおもわない。
ただほんの少しの時間でいいから、いっしょにいてもらいたいのだ。

――それは、千代がこの街に来て以来、もっとも欲していた言葉だった。

いいひとなんですね。
千代は瀬藤をまっすぐ見つめて、そういった。
そうして、瀬藤の両頬を両手で抑えると、真正面から口づけをした。
長い長い口づけだった。
姉が弟をあやすような、口づけだった。

あなた?ごめんなさい。今夜はお泊りさせていただくことにしたわ。
寂しくっても、泣かないでね。え?だいじょうぶ?
でもどうしても気になったら、覗きに来ても構わないって。瀬藤さん仰ってくださっているわ。
それから、たまに、たまーにでいいから。
これからも、瀬藤さんのお宅に、お泊りしたいの。
ううん、離婚なんかしない。あなたを愛しているから。
でも、約束して。私子供産むから。
その子の父親がだれであっても、あなたと一緒に育てたいの。
えっ?いつもの私らしくないって?今夜は、いやにはっきり言うんだね、ですって?
そう・・・ほんとうはもっと、私の本音をききたかったんだ。
だいじょうぶよ。あなたに売られたなんて思っていない。
私の浮気をあなたが許してくださるのを、心から感謝しているわ。
この街では、妻をほかの男に抱かせるのは、最上級の礼儀作法なんでしょう?もう、常識よ。
だから私たち、いちばんよくしてくださっている瀬藤さんに、
血を吸っていただいたり、夫婦同然に親しくして差し上げたりして、ご恩返しをしているの。
美穂子の披露宴のときには、もちろんびっくりしたけど。
いまではこういうの、いい関係だと思っているわ。
あなたの愉しみかたも、愛情の裏返しだと思っているから・・・恥ずかしがることなんか、ちっともありはしないわ。
披露宴のとき、おおぜいの方たちにエッチされて。
さすがにあのあとは、気まずかったけど・・・
でもあなたがその気になってくれて、その晩のうちに同じメンバーの方たちとお逢いして。
あなたはどこまでも気前のよいご主人で。
皆さんも私と、とても仲良くなってくれて。
きっちり、輪姦(まわ)していただいたあとは、私けっこうスッキリしてたの。
え?淫乱ですって?失礼ね。街の天使って呼んでくださいな。無理?
じゃあ、そろそろ切るわね。
あのひとさっきから、私のスーツのジャケットによだれを垂らして、迫ってくるの。
気になったら、いつでもこちらにいらしてね。
気になるわよね。妻の貞操の危機なんだから。
じゃ、おやすみなさい・・・

調和 2

2016年03月31日(Thu) 07:45:26

理不尽だと思いこんでいた。
いくら全財産を失ったからと言って。
いくら社会的信用のすべてを失ったからと言って。
かろうじて与えられた生存の場で、献血を強いられるとは。
いや・・・其処で風習として行われている献血は、ふつうのやり方の献血ではなかったから。
新天地でわたしは、妻の貞操まで喪うはめに陥っていた。

新しい勤め先から帰宅した晩。
妻は見知らぬ男たち3人に、手籠めにされていた。
取引先の工場主に血を吸われて帰った夜。
わたしはその光景を、ただ茫然と眺めているだけだった。
ひそかな昂ぶりさえ、股間に滾らせながら。
妻はそれ以来、慣れ初めた男たち3人の餌食に、進んでわが身を提供するようになっていた。

勤めに出ている間。
男を取りつづける妻。
男たちは妻の肢体に群がって、
吸い取った血潮をブラウスにしたたらせ、
はぎ取ったブラジャーを奪い合い、
めくれ上がったスカートの奥に秘めた処を、深々と愉しんでゆく。
その情景を。
勤めに出たはずのわたしは、昂ぶりながら見つめていて。
やがて侵入する男たちもまた、吸血鬼に支配されていて、
自分の妻子を提供している事実を知ると、
同じ昂ぶりを共有するものとして、
留守宅を彼らにすすんで、明け渡すようになっていた。

いまでは・・・
新たな転入者の新居に通い詰めているわたし。
これを彼らは、”調和”と呼ぶ。

転入、おめでとう。
きょう、あなたのお宅に伺って奥さんを犯すのは・・・もしかしたら、私 かもしれないですね。