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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

同期の妻

2023年11月29日(Wed) 01:34:11

はじめに

連載?の途中ですが、別プロットのお話がさらっと描けちゃったので、そっちからイキます。^^


吸血鬼を受け容れたこの街には、都会のオフィスの支店がある。
街の出身者であるこの会社の社長は、故郷に錦を飾るため、
吸血鬼に血液を供給することを目的にこの支店を立ち上げ、社員たちを家族帯同のうえで赴任させていた。

初代の社員たちは、あっという間に食い尽くされて、
たった一週間で家族を含めて全員が捕食され、街の住民と全く同化していた。
そのつぎの一団も、すぐに同じ運命をたどった。

第三次として派遣された社員たちも、同様だった。
すこしだけ異なったのは、家族もろとも血液を善良提供する羽目になった第一次第二次の社員たちには、新たに動員された第三次の社員やその家族に対して、優越権が付与されていることだった。
表向きの日常生活を人間として生き、夜は半吸血鬼として人の生き血を楽しむ習慣を植えつけられた彼らは、
同じ会社の社員として、新来の同僚たちを淫猥な吸血の世界にいざなう役割を果たしていたのだ。

「きょうはこれで終業なのかな?」
三日前に着任したばかりの早勢貴之は、同期入社のノリカワをかえりみた。
「うん、拍子抜けだろうけど、ここの仕事はこんなもんさ」
ノリカワはのんびりとそう応えると、こんな早くに帰ったら嫁さんにうるさがられないかい?と冗談を言いながら、貴之を行きつけのラウンジに誘った。
ラウンジは街では唯一の五階建てビルの最上階にあった。
スーツの肩を並べて見晴らしの良い眺望を楽しみながら、
「こういうところは女を誘ってくるべきだったなあ」
と、ノリカワはのんびりと笑う。
「あはは。そんなことしたら嫁さんにぶっ飛ばされちまうよ」
結婚して1年の貴之は、まだ独身の同僚の冗談を、軽くかわした。
ノリカワに従(つ)いてくる女なんて、いるんだろうか?
貴之はひそかに思った。
どうみても風采の上がらない、人の好いだけが取り柄で、いかに生真面目な努力を重ねたとしても上司にすんなりと見過ごされてしまうタイプの男――貴之は悪意の持ち主ではなかったが、ノリカワのことをそう見ていたし、実際ノリカワはそういう男だった。

けれどもたしかに、夕陽に染まるがじょじょに暖色を喪ってゆくその光景はなかなかドラマチックで、ノリカワの言い草ももっともだと思わずにいられなかった。
貴之の妻・憲子は、ノリカワと面識があった。
面識があるどころか、3人は同期入社だった。
憲子は名門女子大を優等で卒業した才媛で、入社当初から同期からはもとより、周囲から注目された存在だった。
そんな憲子にノリカワが密かに想いを寄せていたことを、貴之はまだ知らない。
憲子と結婚すると告げられたノリカワは、無念そうな表情をとっさに隠し、親友の幸運を祝った。
風采のあがらないノリカワにとって、意中の女性をほかのだれかに攫われる経験は、初めてのものではなかったから、
貴之はノリカワの無念にまったく気づかずに、披露宴の友人代表まで彼に依頼したのだった。
ノリカワの無念、思うべし・・・

妄想のなかで、なんど反すうしたことだろう?
いつもの生真面目な表情など忘れたように、好色な色もあらわに迫って来る貴之をまえに、
純白のウェディングドレス姿の憲子が怯えながら後ずさりしてゆく光景を。
憲子を追い詰めた貴之はわが物顔で彼女を抱きすくめて、量感たっぷりなドレスのすそを大胆にまくり上げると、同時に彼女の身体を力まかせに押し倒していくのだ。
倒れ込んだ拍子にあらわになった太ももは、ひざ上までは真っ白なストッキングにピンク色の脛を滲ませながらも、健康そうな素肌を覗かせる。
脚に通した純白のガーターストッキングをふしだらに皺寄せながら、
ものなれた貴之の上下動に腰の動きを支配されながら、
おずおずと動きを合わせてゆく憲子――
その羞恥に赤らんだ頬にはいつか、淫らな色さえよぎらせてゆく・・・
淫らなものが清純なものを支配するとき、淫らなものは自身の淫猥で、相手をも淫らに染め抜いて狂わせてゆく――
そんな情景が、まるで焼きごてのように呪わしく、ノリカワの脳裏に刻みつけられた。

「おいおい、次なんにする?」
次のドリンクを貴之に促されて、ノリカワははっとわれに返った。
「アハハハ、ぼーっとしているところは相変わらずだな」
貴之は他愛なくわらった。
けれどもノリカワは、いままでの自分をこばかにされたような気分をひそかに味わった。
片田舎にありながら、社長の特命で創設されたこの部署を希望するものは多い。
けれどもそれには身体検査や心理テストを含む数々のハードルをクリアしたものにしか、開かれていない。
エリート感覚を人並み以上に身に着けていた貴之が、そういうポストに目をつけないわけはなかった。
そして、自分よりも早い段階でそのポストに、お間抜けで人の好いあのノリカワが、当たり前のように先着していることが、不思議でならなかった。

いつの間にか、男2人の隣には、ドレスに着飾った若い女性がついていた。
「こういう店なのか?」
貴之が訊くと、
「まあいいじゃないか」と、ノリカワはかわした。
「奥さんには黙っておくよ」ノリカワはのんびりと笑った。
相変わらずお間抜けなやつだ――貴之はおもった。
こんなお間抜けなやつがどうして、俺の狙ったポストに先に就いているんだ?
素朴な疑問は、嫉妬に満ちていた。
エリート社員にありがちな、すべてにおいて競争相手よりも優位でなければならないという意識を、貴之は当然のように持ち合わせていた。
貴之の隣に来た女性は、ピンクのドレスが良く似合う、はたちそこそこの娘だった。
目鼻立ちは秀でていて、ちょっと交わした会話で、彼女がまれに見る才気の持ち主だということも分かった。
一方、ノリカワの隣に控える水色のドレスの女はすこし年増で、それ以上にくすんだ印象で、どうみても30代後半だった。
まったく――こういうところでつく女の格でさえ、やつは冴えない。
貴之は心の中でほくそ笑んだ。
とはいえ、多少の軽蔑は感じるものの、ノリカワは当地では唯一の同期であり、警戒心を必要としない(つまり出世レースでの競争相手ではない)貴重な仲間だった。
貴之はそういう意味で、ノリカワに対して友情と親愛の情をもっていた。
彼は自分でも知らないうちにノリカワの恋する女を奪っていたが、もしその真相に気づいたとしても、彼は自分の自尊心を満足させただけだっただろう。

知らないうちに杯を重ね、刻が過ぎていった。
さあそろそろ――と起ちあがったときにはもう、9時を過ぎていた。
「アラ、もうお帰りになっちゃうんですか?」
ピンクのドレスの女が、軽い失望をあらわに上目遣いの秋波を送ってくるのが小気味よい。
「うーん、家では嫁さんが待ってるからね」
貴之はそういって、お会計を・・・と言いかけた。
その瞬間。頭と足許とが真っ逆さまになった。
のんびり屋のノリカワが、「おい、おい!」と、いつにない切迫した声をあげる。
「アラ、いけない!」
ピンクのドレスの女がとっさに貴之を抱きかかえ、冷たく絞ったタオルを額に当てる。
水色のドレスの女は視界の隅っこで、病院に連絡でもしているのだろうか、それまでの遅鈍な応対とは裏腹になにやらテキパキと手配していた。
飲み物になにか入っていたのか??と思う間もなく、貴之は意識を失った。

「だあーいじょうぶかあー?」
聞き覚えのあるのんきな声が、意識を取り戻したばかりの耳に飛び込んできた。
あお向けに寝そべった真上には、病院のものらしい無機質な天井が広がっている。
声のしたほうをふり返ると、ノリカワが気遣わしそうに自分のほうを見ていた。
ノリカワは黒いマントを羽織っている。勤め帰りのワイシャツの上からだから、どうにも不自然で、不格好にみえた。
「どうしたんだその恰好!?」
自分が倒れ込んだのも忘れて、貴之は怪訝そうにノリカワを見返した。
「あー、これかい?献血のご褒美だよ」
ノリカワは相変わらず、のんびりとこたえる。
「献血?」
訊き返す貴之に、ノリカワは真顔になってこたえた。
「そう、献血」
ノリカワの表情が微妙にくすんで、真顔になる。
「どうした――?」
もう一度訊き返すいとまもなく、ノリカワは身を乗り出してくる。
彼の口許が視界を離れたと思うとすぐに、首すじに鋭い痛みが走った。
「悪い!かんべんしてくれや」
咬みついてきたはずのノリカワがしんそこ済まなさそうに、手を合わせる。
ど・・・どういうことだ・・・っ!?
ノリカワとは反対側にいる誰かが、貴之の両肩を痛いほど強く抑えつけてくる。
そしてそちらの側からも、首すじのもう片側に同じ衝撃を加えられるのを感じた。
いったいなんなんだ?なにが起きているんだ?
貴之は混乱した。
ベッドの上に横たわる両方から抑えつけられて、首すじを咬まれている――それだけはどうにか知覚できたけれども・・・
なによりも、首すじの感覚が不気味だった。
ジンジンと痛みを滲ませる首すじに、生温かく湿ったものが圧しあてられてきたのだ。
そいつはにゅる・・・っと這いまわりながら、噴き出てくる血潮を、ゆっくりと、ネットリと、舐め取ってゆく。
人間の唇・・・?
ぎょっとしてふり返った。
え・・・?
貴之は信じられないという顔をした。
さっきのピンクのドレスの女が、ニタニタと笑っている。
うら若く知的で落ち着いたイメージを跡形もなく払いのけて、下品で強欲そうな色を泛べていた。
はたちそこそこ、と思っていたのは、どういう錯覚なのだろう?
女は六十はとうに越えた老婆だった。
そのうえ口許には、貴之から吸い取った血液を、ヌラヌラ光らせている。
女が貴之の血を喫(す)ったことは、疑いなかった。
「ど、どういうことだ!?なんなんだよこの女!?」
貴之は叫んだ。
「もう少し辛抱して・・・じきに憲子さんも迎えに来るから――」
ノリカワは相変わらず、のんびりとした声色だった。
ベッドのうえ、四つの掌に抑えつけられて、貴之はひたすら、二人に首すじを吸われつづけていった。
ノリカワと老婆とが、自分の血で喉を鳴らして旨そうに飲み味わってゆくのを、どうすることもできなかった。
「若いっていいわね」
ピンクのドレスの女がいった。
女の口許には、貴之の身体から吸い取った血潮が、生々しく輝いている。
「こいつ、スポーツ万能で女にモテたんだ。ぼくとは大違いだろう?」
「アラ、貴方だって良いところあるわよ」
女がいった。
自信もちなさいよ――と言われながらノリカワは、
「あんた優しいな、お世辞でも気がまぎれるよ」
と、まんざらでもなく感謝している。
「あんたも飲みなさいよ。恋敵の血は旨いわよ」
女がいった。
「ど・・・どういうことだっ!?」
恋敵という言葉を聞きとがめて、貴之が声をあげた。
ノリカワは女の誘いにウンと頷いて、起ちあがった。
そして、布団をめくると、貴之の太ももにかじりついた。
食い込んできた犬歯は尖っていて硬く、貴之は悲鳴をあげた。
「まだ効いてなかったのね」
女がいった。
「構わないから、思う存分やっちゃって」
女の指示に応えるように。
ズブリと食い込んできた犬歯は、皮膚の奥に脈打つ太い血管を食い破った。
じゅわっ。
大量の血が撥ねた。
布団に生温かい液体が飛び散るのがわかった。
「なっ、なにを――」
絶句する貴之におかまいなく、ノリカワはほとび出る貴之の血を嚥(の)んでいった。
そのうちに。
咬まれた傷口の痛みが鈍磨してきて、痺れを帯びた疼痛に変わってゆくのを、貴之は感じた。
「うふふふふふっ。効いてきたわね。あんたもやるじゃない」
女は、自分の相方を褒めた。

時間が経った。
首すじや太ももから流れる血の勢いが、さいしょのころよりはずっと、緩慢になっている。
失血のせいなのか、手心を加えた咬み傷が、自然に止血に向かっているものなのか。
「な、なんなんだよお前――」
ぼう然と呟く貴之に、
「うん、いきなりで悪りぃな」
と、ノリカワはなん度めかの詫びを入れる。
「あんた、謝り過ぎだよ」
ピンクのドレスの女が突っ込んだ。
「悪りい。ぼくの悪い癖だね」
ノリカワは従順に受け答えした。
「そうだな、今夜から貴之の血はぼくのものなんだもんな」
貴之はとびあがらんばかりに驚いた。
そんな貴之に応えるようにノリカワは、
「これ・・・」
と、ワイシャツのうえから不格好にまとった黒マントをちょっと持ち上げた。
「いまのぼくの正体」
ノリカワはみじかく告げた。


半年ほど前のこと。
ノリカワが赴任した最初の日だった。
所属長に招ばれて所長室に入ると、そこには見慣れぬ女が控えていた。
「ああ、ノリカワくん?この人ね、きょうからきみの女あるじだから」
所属長は事務的な口調でそういうと、スッと事務所から出ていった。
どうみても還暦過ぎの老婆は、無言で迫ってきた。
痩せこけた体格に似合わず、万力のように強い力で、ノリカワのことを押さえつけると、カサカサに干からびた唇を、その首すじにあてがった。
ノリカワが女の正体を自覚するのに、数分とかからなかった。
女はノリカワの血で、ゴクゴクと喉を鳴らした。
自分の血を愉しまれているのを、ノリカワはすぐにさとった。
死なす気なのか?それとも、たんに血を楽しんでいるのか?判断がつかないままに、女は自分の血を貪欲に含んでいった。
「あー、うー、こ、降参・・・」
ノリカワがそういうと、女は嗤った。
「あんた呑気なのねえ」
身体の力を失って足許に転がったノリカワは、言い返す気力もなかった。
「だいじょうぶ。あんたの若い血は、ぜんぶ飲んであげるから」
女はそういうと、軽くハミングしながらノリカワを抑えつけて、
ワイシャツから覗く首すじに、もういちど唇を吸いつけてきた。
「あ、あ、あ・・・」
うろたえているうちにも、血液はズイズイと、抜き取られてゆく。
「ぼく死んじゃうんですか」
ノリカワは訊いた。
「あなたしだいだね」
女はこたえた。
「まだ四十代のお母さんと、中学生の妹さん、いるでしょ?」
耳たぶに圧しつけられた囁きが、くすぐったい。
「お二人を招んで。だいじょうぶ、死なせない。
 招んでくれたら感謝する。とっても嬉しい。というよりか、援けてほしい。
 私のこと――」
女はそういうと、こんどはノリカワのズボンを脱がせて、太ももに喰いついてきた。
「若いひとの身体って、咬み応えがいいわ。あんたの身体って最高――」
女はいった。
貧相な体格をしたノリカワは、自分の体躯を褒められた経験がなかった。
「ぼく、運動音痴だし、全然ダメなんですよ・・・」
ノリカワは、やっとの想いでいった。
「あんたって、ほんとうに良い人だね。私、あんたの血を吸い尽くしちゃうかもしれない女なのよ」
女はいった。
「でも・・・でも・・・なんか話が通じそうな気がするから・・・」
ノリカワは、懸命につづけた。
「血をあげれば助けてくれるってことで、とりあえず良いですか?」
女は無言でうなずいた。
「でも、家族にはやっぱり、手を出さないで欲しいです」
それするくらいなら、ここで死んだほうがましだから・・・
生きるか死ぬかの瀬戸際でさえ、そう口にする気持ちがノリカワにはあった。
「もったいないなぁ――」
女はいった。
どうやら、獲られる血液の量と自分の生命とが、両てんびんにかけられているらしい。ノリカワはおもった。
でも――やっぱり家族は犠牲にできないよな――ノリカワは、覚悟を決めた。
女は意外に、寛大だった。
「わかった。助けてあげる。家族招びたくないなら、それもいい。でも、私のことも援けてほしい。これはお願い」
「ど・・・どうやって?」
女はノリカワの背中を抱き起して、彼の上体をひざで支えながら、いった。
「あんたの血を頂戴。くれられるだけで良いから。やっぱり若い血っていいな。あんたの血を吸って、改めてそう思った。
 生きるために欲しいし、楽しむためにも欠かせない。
 時々でいいからさ――」
「褒められているの?それとも、ぼくってあなたにとって、ただの獲物なの?」
ノリカワは呟いた。
「褒めているんだよ。家族を拘わらせたくないって言うあんたの心意気も素敵」
女はいった。
「でもあたしたちも、人間の血が要るの。こんなこと、都会では絶対無理。だからここの人たちといまは、仲良く暮らしてる・・・」
そういう街なのよ、ここは――と、女はつづけた。
わかったよ・・・
ノリカワは、とうとう観念した。
そして、人間の生き血がなければ生きていけないという女に同情した彼は、
「ぼくので良かったら、いいですよ」と――
自分の血液を提供することを約束していた。

「ノリカワくん、きみの査定をあげるからね」
翌朝出社すると、所属長はやはり事務的な口調で、ノリカワの昇給を約束してきた。
「夕べのことですか?」
ノリカワはいった。
「わかってるだろうけど」
所属長は乾いた声でこたえた。
「だったらいいです」
え・・・?
怪訝そうに見返す所属長の視線をはね返すように、ノリカワはいった。
「あのひと困っているみたいだから、自分の意思でそうします。
 でも、親からもらった血と引き換えに金をもらうなんて、あり得ません」
ノリカワの言い草に、所属長はグッと詰まったようだった。
「感心だね、きみは――」
うわべの言葉だけではなく、本音で感心したようすだった。
「そう言ってくれるのなら、きみは本当の意味での仲間だ」
所属長はいった。
「じつは私も、ここに来たばかりの時にはびっくりした。
 わたしも、妻と娘ともども、あの人たちに献血しているんだ。
 さいしょは自分のめぐり合わせを呪ったが、
 いまでは家族ぐるみで、仲良くやっているんだ。
 きみのような人が増えると、とても助かる。
 なにしろ・・・困っているひとが多いものでね」
自分の妻がモテるのって、夫としては嬉しいものだよ――と、所属長は小声でいった。


すべてが信じがたい話の連続だった。貴之はただ、お人好しな同期の顔を、穴のあくほど見つめ続けていた。
「それからね、しばらくしてぼくは、母さんと妹を招んだんだ。
 処女の血は重宝されるから、死なせることも吸血鬼にすることもないけど、
 セックス経験のある女のひとって、みんな迫られちゃうんだ。
 だから、母さんのことはあらかじめ父さんにも話さないと――って思っていた。
 父さんはね、なにか予感したんだろうね、ふたりを招んだときに、いっしょについてきたんだ。
 ぼくは3人のまえで、いまの状況を正直に伝えた。
 母さんに浮気してくれって頼むようなものだから、ひどい息子だと思われるとおもった。
 親子の縁を切られてもしょうがないかなって思ってた。
 それでもぼくは一人でこの街に残るから――って言ったら、
 母さんが号泣したんだ。
 あんた一人でなに悩んでるのよって。
 それから、『お父さん・・・良いですか?』って、父さんに訊いてくれたんだ。
 父さんは間違いなく、母さんに気おされていた。
 自分の妻が吸血されて犯されるなんて、ふつう受け容れられないよね?
 父さんもさすがに、かなりためらっていたけれど、さいごには、
 『ユウキを独りにするわけにはいかないもんな』って、言ってくれた。
 うちの一家が家族そろって献血するようになった功労者は、ぼくじゃなくて父さんだね。

長い時間かかったはずの打ち明け話なのに、ものの数分と経っていないように、貴之は感じた。
「え・・・じゃあ、いまはご一家でこっちにいるのか?」
「ウン、さいしょは一泊のつもりだったけど――妹の学校もあるしね――結局三泊していったんだ。
さいしょのうちは、沙織だけはよしましょうよ、将来があるんだから家に帰してあげようよって母さん言ったんだけど、
 沙織はみんなそうなるのに私だけ仲間外れなんて嫌だって言って・・・
 母さんには、七十過ぎの痩せこけたお爺さんがついて、
 父さんは母さんを襲う前に、自分を何とかして欲しいってそのひとにお願いして、さきに吸われて、気絶寸前までなって、
 その目の前で、母さんも首すじを咬まれていったんだ。
 母さんの血が美味しそうに吸い出されるのを見て、このひとたちに家族を紹介できて良かった――って思ってしまっていた。
 沙織は、そのお爺さんとはべつの男が欲しがって・・・
 希望者が3人いたんだけど、母さんは自分が咬まれる前にその人たちとお話してみたいっていって、
 でも、3人とも若い子の血が欲しいって必死な様子で――母さんも決めかねちゃって・・・
 それを見ていた沙織が、みなさんでどうぞって――
 沙織のやつ、制服着てきたんだけど・・・
 相手の男のうち、沙織に真っ先に咬みついたやつは、
 初めて好きになった子の制服が紺のジャンパースカートだったんだって、嬉しそうに言ってたっけ。
 ほかの1人は白のハイソックスが大好きだって、
 沙織の脚を咬んで、ハイソックスを真っ赤にしながら血を吸い取って、
 もう1人は、オレわき腹が好きなんだって、制服に穴をあけてごめんねって言いながら、
 沙織のジャンパースカートのうえから、わき腹に喰いついていた・・・
 母さんの希望者も、4人いたんだ。
 「沙織に勝っちゃったみたい♪」って、父さんのまえでわざと陽気に振舞って見せて、
 父さんは、気絶寸前まで失血しながらも、ずうっと意識を保とうとしていて、
 「殿方大勢にモテモテになって困っちゃう」って笑う母さんが堕ちていくのを、さいごまでしっかりと見届けたんだ。
 ぼくは一期生だったから、家族の血まで気前よく与えたお礼をもらえることになった。
 その後に赴任してくる同僚やご家族のなかから、好きな人を選んでいいって。
 ほんとうは、そんなの要りません――って言ったんだけど。
 無欲なのもいいけれど、きみも血を提供するんだから、少しは健康を維持することを考えなくちゃいけないよ――って、
 所属長に勧められて・・・
 ぼくの隣に座っていた、水色のドレスの人、いただろ?
 あの人じつは、次長の奥さんなんだ。
 次長は二期生で、ぼくは一期生だからね。
 当然ぼくのほうが、優越するルールなんだ。
 やって来た女の人たちのなかで、いちばん惹かれたのがあのひとだったんだ。
 あのひと、47なんだよ。若く見えるけど。
 でも、ああいう人好みなんだよね。こんなことだから、結婚できないんだろうけどね。
 次長は愛妻家だから、気の毒だよねって思ったけど――
 いまは、それなりに仲良くやってる。
 赴任中にだれにも咬まれないことは不可能って聞かされていたから、
 どうせだれかに咬まれるのなら、妻を好いてくれる人のほうがまだましだ・・・って、思ってくれて。
 「家内に目をつけるなんて、きみは目が高いね」って笑ってくれて。
 同じ女性を好きなもの同士、よろしく頼むよ――って、言ってくれたんだ。

「と・・・いうことはさ・・・つまり・・・」
貴之はあえいだ。
標的は自分だけではない。憲子が危ない。
そう実感した矢先、病室のドアが開いた。
「あなた、だいじょうぶ?」
憲子が心配そうに、ベッドの上の夫を見ていた。

そのあとのなりゆきを、貴之はずっと忘れない。
「アラ奥さん、よくいらしたわね」
ピンクのドレスの妖怪が、憲子に声をかけた。
なにも知らない憲子は礼儀正しくお辞儀して、
「主人がご迷惑をおかけしました」
といった。
「イイエ、そんなことないわよ」
とこたえる老婆の言葉は、本音と裏腹だった。
――これからたっぷり「ご迷惑」をかけるのは、こっちのほうなんだから――
横顔にそんな想いがありありと刻まれていた。

連れて帰れる状態なのですか?と訊く憲子に対して女は、
「ご夫婦でひと晩泊まれば良いじゃないですか」
と、わざとらしく笑った。
え・・・?
怪訝そうに首をかしげる憲子の背後に、ノリカワが迫った。
いけない・・・ダメだっ。
貴之は叫ぼうとした。
憲子、後ろっ。そいつにつかまるなっ。
――そう叫んだつもりだった。でも、声にならなかった。
その次の瞬間、後ろからノリカワに羽交い絞めにされた憲子が、首すじを咬まれて悲鳴をあげた。
悲鳴のすぐあとに、ノリカワの突き立てた牙が根元まで埋ずまるのを、貴之は視た。
妻の首すじに密着した頬にバラ色のしずくが大量に撥ね散るのも、貴之は視た。
じゅるうっ・・・と、ノリカワの喉が旨そうに鳴るのを、貴之は聞いた。
や、やめてえっ!と叫ぶ憲子が、吸血が進むについれて動作を緩慢にしてゆく。
自分の母親が父親の前で犯されたように。
ノリカワは俺の前で、憲子をモノにしようとしている――
貴之は、目のまえが真っ暗にまる想いだった。
エリートコースをひた走っているはずの俺が、どうして?
同期きってのエリートと結婚したはずの憲子が、どうして?
うろたえる貴之に向かって、ノリカワが声を投げた。
「貴之、悪りい。ぼく、憲子さんのこと好きだったんだ」
え?貴之は耳を疑った。聞いてないぞ、そんな話・・・
「でもそういったら所属長が、『じゃあ早勢くんの奥さんは、きみが面倒を見ると良いよ』って言ってくれたんだ。
 所属長も、自分の奥さんの相手は、奥さんのことを気に入ってくれたひとを選んでいたからね――
 次長だって、ぼくが奥さんのこと気に入ったから、吸血を許してくれたからね――
 ぼくに憲子さんはもったいないって、自分でも思うけど――
 できるだけのことをしてあげるつもりだから・・・・・・」
言葉も終わらずに、ドクドクと噴き出る憲子の血を、ノリカワはけんめいに口に含んでゆく。

「できるだけのこと」って、・・・なんだ・・・?
貴之はぼう然として、もみ合う二人を見つめていた。
血を抜かれた身体はぴくりとも動かなかった。
かつてノリカワの父親が先に血を抜かれて、自分の妻が犯されるのを見届けるはめになったときみたいに、
最愛の妻が凌辱されるところを目の当たりにするのを強制されるというのか・・・っ。
無念だった。理不尽だとおもった。
でも――ノリカワの牙は着実に憲子の素肌に肉薄して、首すじから肩先、わき腹と、なん度も喰いついていって、
そのたびに憲子は悲鳴をあげ、抵抗の力を弱めてゆく。
「憲子さんはおしゃれだなあ。いつも身ぎれいにしているから、憧れていたんだ――」
ノリカワは、真顔で告げた。
お前・・・ほんとうに憲子のことが好きだったのか・・・?
ハハ・・・
ノリカワは、乾いた声で笑った。
「きみとぼくじゃ、勝負にならないって。
 だからみすみす、お前が彼女に近づくのを、横目で見ているしかなかったんだ。
 無念やる方なかったけど、優れた男にはそうする権利があるんだものな・・・」
ノリカワの告白は、哀調を帯びていた。
ぐんぐんと上昇することしか視野になかった貴之のまなざしが、周りと、自分の後ろにも向けられてゆく。
そういうことだったのか――
貴之にも、非力だった幼年時代があった。
それから発奮してスポーツに励み、要領よく学歴も重ねて、いまの自分がある。
その積み重ねのうえに勝ち得たものに対して、後ろめたいなどとは思わない。
けれども、どうあがいてもどうすることもできないやつだっているんだ。
ノリカワは、そういう悲哀を30年以上、味わいつづけていたんだ。
貴之は、ノリカワがぶきっちょな努力家であることを知っていた。
同期で一番努力するやつだった。
なんて要領の悪い――だからいっつも、おいしいところを取り落とすんだ。
軽侮していたころのことを、遠く思い出す。
でも、立場が逆転したいまは、どうだろう?

「憲子・・・憲子・・・」
呼びかける妻は、もうこちらを視ていない。
憲子さんはおしゃれでいいなあ・・・こういうときでも、こぎれいなワンピースなんか着てくるんだもんなあ・・・
ノリカワの賛辞はきっと、本音なのだろう。
ひとを弄んで侮辱するやつでは、昔からなかった。
憲子はそのこぎれいなワンピースを、咬まれるたびに血浸しにしながら、
のけ反ったり、悲鳴をあげたり、お願い止してと哀願したりしている。
そのたびに。
ノリカワはゴメン、悪い・・・とぶきっちょに謝罪を重ねながら、
血に飢えた本能をそのまま、憲子に対してぶつけてゆくのだ。
「私の血、そんなに美味しいんですか!?」
とうとう憲子はそう叫んだ。
「あ、ハイ・・・!」
ノリカワは、叫び返した。
「私のことが好きなの!?」という叫びに、「好きです!」と応えるように。
憲子は困ったように佇み、夫を見た。
「大人しく飲ませてあげたほうが良いのかな・・・」
謝罪するような眼差しが、じわじわとくすぐったかった。
憲子が愉しみ始めていると、貴之は感じた。
咬まれるたびに。
着衣に血が拡がるたびに。
憲子は思い切り叫び、きゃあきゃあと騒いだ。
けれどもその声色に、いつかくすぐったそうな愉悦が混ざり始めているのを、貴之は聞き逃さなかった。
「私の服を濡らすのが楽しいんですか?」と訊き、はい・・・と答えられるとすぐに、
「もうびしょ濡れだけど、よかったらどうぞ」と、ワンピースのすそをたくし上げて、スリップのうえからお尻を咬ませてしまっている。

いままでなん人もベッドの上に押し倒してきた娘たちがあげるのと同じ声色を、目の前の妻があげ続けていた。

「少しなら。。。献血しても良いんじゃないかな・・・」
いかにも気の進まなそうな声色で、貴之は妻にこたえた。
「ノリカワは同期だから、きみがほんとうに困ることまでしないだろうから・・・」
言い添えた言葉に思わず本音を含んでのを、貴之は感じた。
「う、うん。そうするね」
憲子はかろうじてこたえて、ノリカワのほうを振り向いた。
「お洋服濡らすのが好きなんですか?」
「あ、ハイ。いけない趣味ですよね?」
「良くない趣味だと思います。女の人は怖がりますよ」と言いながら憲子は、
私はだいじょうぶだけど――とつけ加えていた。
ノリカワもその呟きを、訊き逃さなかった。
憲子はきれいな瞳で、ノリカワを見つめた。
「同期のよしみで、今夜はお付き合いしますから――」
それは、ノリカワがずっと待ち焦がれていた声だった。
差し伸べられたすらりとしたふくらはぎを、淡い光沢を帯びたナチュラルカラーのストッキングが包んでいた。
恐る恐る吸いつけた唇の下、うら若い血液を脈打たせる血管の気配にときめきを覚えながら、
ノリカワはむき出した牙に力を籠めて、憲子の素肌を食い破っていった――


あとがき
異常なお話ほどさくっと描けちゃうのは、どういうものなのだろうか?と、いつもながらに思います。(笑)

街に棲みついた夫婦の記憶。

2023年04月11日(Tue) 15:14:29

工藤健斗さんは人懐こい男性だった。
奥さんのカオリさんも、似たような人柄にみえた。
カオリさんは程よく陽灼けした丸顔に満面の笑みを湛えて、
シンプルなデザインの白のブラウスにからし色のロングスカートを穿いていた。
「太いから隠してるんです」と笑いながら、こげ茶色のストッキングに包んだ太目の脚を、ごく控えめに覗かせている。

「この街ではね、女のひとは脚太いほうが良いんですよ」と健斗さんは笑う。
「なにしろ、嚙みごたえの良さって連中は重視しますからね」
どういうことなのか、吸血鬼と共存しているこの街にいちどでも棲んだことのある人なら、すぐに察しをつけるだろう。

この夫婦は、去年の秋にこの街に移り住んだ。
それ以前のことは、「ほかに行くところがなかったから」と、言葉少なにしか語ろうとはしなかったが、
この街を安住の地としてすっかり居ついていることは、夫婦のやり取りからも感じられた。

やがて待ち合わせの時刻に少し遅れて、五十年配の顔色の悪い男性が現れた。
旱川(ひでりかわ)タカトさんは、吸血鬼である。
生粋の吸血鬼ではなく、若いころ奥さんともども血を吸われて吸血鬼になり、
以来30年近く、街の人たちに血を分けてもらって生活している。
離婚した奥さんは、それ以来自分の血を吸った吸血鬼と同居生活をしているという。
結婚したばかりの妻を吸血鬼に奪われた形だが――
「前の妻とはいまでも交流があります。血を吸わせてもらうこともあるし、
 先方の吸血鬼とも仲良くしてもらっています。
 何しろ、わしのことを吸血鬼にした男ですから、困ったときの相談相手にちょうど良いんです」
タカトさんは淡々と語り、素朴に笑う。
そして、傍らに居たカオリさんに近寄ると、肩を抱き寄せてむぞうさに首すじを噛んでゆく。
吸いついた唇からカオリさんの血が洩れて、着ているブラウスを濡らしたが、カオリさんはニコニコと笑っていた。
ご主人の健斗さんも和やかな顔つきを崩さずに、タカトさんが自分の妻の生き血を旨そうに啜る音に聞き入っている。
「きょうはいちだんと、美味しそうですね」と、健斗さん。
「カオリの血は、いつだって旨いやね」タカトさんも目を細めてこたえてゆく。
奥さんのことを呼び捨てにされても、健斗さんの笑みは消えない。
奪い尽くされてもなお夫婦関係を維持している彼の、夫としての自信を表しているようにもみえた。

貧血でちょっとだけ足許をふらつかせたカオリさんだったが、
気丈にも踏みこたえて、長い髪をぞんざいに掻きあげながら照れ笑いを浮かべた。
「こんなのいつものことだもんね」
カオリさんは健斗さんに声をかけた。
「家内は彼の気に入りなんです。さいしょはさすがに、焦ったけどね」
健斗さんは屈託なく笑っていた――


【カオリさんの回想】

この街にいれば安全だけど、この街そのものがアブナイところだっていうんです。
でもほかに行くところがないし――仕方なくこの街に住むことにしたんです。
主人はすぐに仕事が見つかって・・・そのときの取引先が、タカトさんだったんです。
街に入る前にあらかじめ吸血される決められていて、その人に血を吸われることになるんですって――
「まるで配分されるみたいで、ちょっと嫌だったな」
主人も時々、そのときのことを思い出すみたいです。
でも、あたしが襲われるときには、主人は助けてくれません。
助けちゃいけないことになっているんです。
あたしも、身を守ろうとしたり、逃げたりしてはいけないそうで――
血を吸い尽くされちゃったらどうしようって、まじで焦りましたね。。。

街に引っ越してきてすぐに、土地の信金に口座作ったんです。
びっくりしたのは・・・窓口の女の人が着ている制服のブラウスに、赤い血が撥ねていたんです。
それなのに、何事もなかったように「いらっしゃいませ」ってにこやかにお辞儀をしてきて・・・
「あの・・・だいじょうぶですか??」って思わず訊いちゃったんですけど、
「このへんでは普通ですから」って、こともなげに返されちゃいました。
いまでは個人的に仲良くしているんですけど――当時はいまのご主人と付き合っていて、
でも勤務中に迫られて血を吸われちゃった相手にも迫られていて、恋人関係だったんですって。
そのひともうちといっしょで、ご主人と吸血鬼は仲が良くて。
お相手の吸血鬼が制服フェチな方なので、結婚してからも奥さんは信金で今でも働いているんです。
金融機関と言っても――このあたりは暇ですからね。。
勤務時間中に襲われる子が、なん人もいるらしいんです。

信金のお姉さんの態度を見て、これは大変なところに来てしまった――と、改めて思いました。
そこでね、女の浅知恵なんですけど・・・色仕掛けしちゃおうって思ったんです。
襲われて血を吸われるときにセックスしちゃえば、女として気に入ってもらえれば命だけは取られないかなって。
ダンナも助けてくれないし、身を守るにはそれしかないって。

襲われるさいしょの日、主人はあたしを連れて旱川さんのお宅にお邪魔したんです。
えーと、あのときの服装は、黄色とオレンジのない交ぜになったワンピース着てました。
いまでもたまに着てます。初めて咬まれたときに撥ねた血がついて、落ちないんですけど――
カラフルになっていいじゃないって、いうんですよ。男たちは、無責任ですよね。
ストッキングも着用義務づけでして・・・礼を尽くすということなのかなって思って穿いて行ったら、それが全く違って。
脚を噛むときにストッキングも一緒に咬み破って楽しむんですよね。とてもエッチなんですよ。

主人はあたしを連れてくると、玄関近くの部屋で待たされました。
奥の部屋には、あたしひとりが呼ばれたんです。
タカトさんは、父より少し若いかなってくらいの齢にみえました。
実際には、10歳くらいしか違わないのに、血を吸い取られて顔色が悪かったから、老けて見えたんですね。。
血で汚れてもいいように、作業着姿でした。
あたしの服はどうしてくれるのよ?って、あとで思っちゃいました。(笑)

お部屋ではふつうに初めましてのごあいさつをして、どこから来たの?とか、ご主人はなにをしていたの?とか、
ありきたりの会話をしました。
そこでちょっとだけ、気持ちが落ち着いたかな。
でも、あたしの首すじや足許を、値踏みするみたいな目つきでじーっと視ていたので、やっぱり怖かったです。
「あの・・・あの・・・お願いがあるんです」
核心事項は、あたしのほうから切り出しました。
血を吸われるのはわかってます。美味しいかどうかわからないですけど、一生けんめい差し上げます。
でも死にたくないんです。吸い尽くしたりしないでくださいねってお願いしました。
それから――もしあたしでよかったら、犯しても良いです。その代わり殺さないで。
主人来てますけど、問題ありません。愛人になります。気持ちよくしますからって。そこまで言っちゃいました。
あとで主人に渋い顔されたけど――でも主人あたしが血を吸われるのを助けてくれなかったんですからね・・・

そうしたら、この人言うんです。
「ミセスの人の血を吸ったら、抱くのがふつうだけど」ですって。
そんなこと聞いてなかったですから・・・えー?どのみち抱かれちゃう運命なんですか?って、軽く絶望しましたね。
もう生命を守る手段がない・・・あのときはほんとうに、困りました。
でも、彼・・・言ってくれました。
きみは真面目そうだし、誠実に尽くしてくれそうだし、とにかく死なせたりしないからって。
えっ?えっ?って、あたしもう戸惑っちゃいまして・・・夢見る花嫁でしたね。
彼はおもむろにあたしの肩を抱き寄せて、さっき咬んだときみたいに、ごくさりげなくあたしのことを抱き寄せて、
そっと首すじを噛んだんです。

生温かい息遣いが迫って来たなって思ったら、もう嚙まれてました。
血がじゅわッてにじみ出て、それをピチャピチャ舌を鳴らして舐めるんです。
つけられたのはかすり傷でした。さいしょはそれで済ませてくれるつもりだったみたいです。
でもそれだけじゃご満足いかないらしくて――やっぱりそのあとすぐに、強く嚙まれちゃったんです。

ワンピースに血が撥ねました。でもそれどころじゃなかったです。
痛たぁーーいっ!って叫んじゃいました。
主人にも聞こえたみたいで――気が気じゃなかったって後で言われましたけど・・・
でも、痛いのは最初だけでした。
この人、毒素を持っていて、痛みを麻痺させちゃうんです。
だからあたしはその毒素を植えつけられちゃって・・・
気がついたら、立ちすくんだまま、強く抱きすくめられた腕の中でした。
牙は根元まで突き刺さっていて、素肌に唇を這わされていました。
それが始終うごめくんです。ヒルみたいに。
イヤラシイって思ったけど、もちろんそんなこと間違っても言えやしない。
満足して、とにかく早く満足してあたしを放してって思ったけど。
犯すところまでいくっていうから、「早くして」って意味が違うことになってしまう・・・(笑)
とにかくもう、どうすることもできないまま、ひたすら血を吸い取られていったんですよ。
ドラキュラ映画のヒロインみたいで、きみはとても素敵だったって言ってくれるけど。
絶対、オロオロしてたと思うんです。

ひとしきり血を吸い上げられちゃうと、もう貧血起こしちゃって・・・
すぐにそれと察して、ソファに寝かせてくれました。
居心地の良いソファにゆったりと横たえられて、姿勢が楽になったと思ったのはつかの間で・・・
このひと、あたしの足許ににじり寄っていったんです。
エエ、お目当てはあたしの穿いているこげ茶のストッキングでした。

「ストッキングはけちらないで、新しくて高いやつ奮発して穿いて行きなさいよ。
 もしも持ち合わせがなかったら、あたしが貸してあげてもいい。
 当日着ていく服ともども、花嫁衣裳みたいなものなんだからね」
――って、お隣の奥さんが教えてくれました。
花嫁衣裳か。たしかに、あのあとすぐに「花嫁」にされちゃいましたからね・・・
なので、持っていた未使用のストッキングで、いちばん値の張るやつを、がんばって穿いて行ったんです。エエ、それこそ「奮発」して。

タカトさんたら、あたしのストッキングのうえから唇をジワッと吸いつけてきて、
たんねんに、たんねんに、糸の一本一本まで舐め分けてるのかとおもうくらいしつっこく、
あたしの脚を舐め抜いたんです。
薄地のナイロン生地のすき間から、タカトさんのよだれが素肌の奥深くまでしみ込んでくるような感じがして――
あー、またなにかを植えつけられちゃうなって感じました。
でももう、どうしようもないじゃないですか。
けだものの獲物になって血肉を貪り尽くされちゃう餌食なんですから・・・
ふだんだったら、男のひとにストッキングをいたぶられるなんて侮辱以外のものではないはずなのに、
ウットリしながらびしょ濡れになるまで舐めさせてあげちゃってました。

そのあとね、こんどは牙をググっと圧しつけてきて・・・
あーと思っているあいだに、ストッキング咬み破られながら再度の吸血です。
しつこかったですね。本当に・・・
片脚が済んだら、もう片方も――ええ、首すじのときよりもたっぷり吸い取られたんじゃなかったかしら。
でもあたし、このころになるともう、なんだかこの人に血を味わわれるのが嬉しくなっちゃってて・・・
子どものころ、健康優良児だったんです。体力にも自信ありました。
だから、あたしが楽しませてあげることのできる血の量をありったけ、彼に捧げちゃおうって思うようになっていたの。
ゴクゴクと喉を鳴らしてワイルドにむさぼられていたのに、ちっとも怖くなんかないんですよ。エエ、強がりとかじゃなくって。
貧血になって徐々に血の気が引いていくのがありありとわかるんだけど、
若くて健康なあたしの血で、身体を暖めて。いっぱい飲んで、味も楽しんじゃって・・・って、心の中で言いつづけていました。

気がつくと、彼の顔がすぐ目の前にあって――
その眼がとろんとして、あたしの顔を見入っているんです。
ああ、わかった。わかったわ――あたしが欲しいのね?あたしに愛してもらいたいのね?ってわかったから。
もうそのころには穿いていたパンストは破れ堕ちて、ひざ小僧の下までずり降ろされちゃってたんだけど、
自分からショーツを脱いで、どうぞ・・・って、囁いちゃっていました。

強かったですね。強烈でした。主人の何倍も――
ええ、股間から身体の奥まで突き刺されるような衝撃でした。
ジワッと滲んだ暖かい感触――あれ精液だったんですね。それがジワジワと身体のなかに拡がっていって――
あとからあとから、ドクドクとそそぎ込まれてきたんです。
受け留めなきゃ、それがあたしの務めなんだからって思って、
タカトさんの背中に腕を回して、身体をひとつにくっつき合わせて、
ついていくのが大変だったけど・・・激しい腰の動きに合わせて、腰を振ってお応えしました。

夢中だったのですぐにはわからなかったけど、主人ったら、あたしが腰を使ってるの視ていたんですよ。
気になってしょうがなくって、ドアを開けたら施錠されていたはずなのにいつの間にか開いていて・・・って言っていました。
あとで聞いたら、タカトさんも、さいしょに犯すところは主人に見せたかったらしいんです。
この女はわしのモノだって、宣言したかったんじゃないかしら。
あたしも・・・主人の視線がくすぐったくって。
ふだんのセックスよりもずっとずっと、舞い上がっちゃっていましたね。ああ恥ずかしい――


取材を受けている間、健斗さんはカオリさんのことを眩し気に見つめるばかりだった。
その様子は、心ならずも吸血鬼に肌身を許した自分の妻が悦びに目ざめてしまったことに、むしろ満足さえ感じているかのようだった。
カオリさんの談話を耳にしながらタカトさんが、さっき咬みついた痕をなん度も舐めまわして行くのも、咎めようとはしなかった。
「あの日あの時からですね、ボクもタカトさんにシンパシーみたいなものを感じるようになったんです。
 カオリのことを気に入ってくれているようでしたから、それがむしょうに嬉しくて――
 せっかく最愛の奥さんを抱かせちゃったんです。やっぱり気に入ってもらえたほうが良いじゃないですか。
 数えていたんだけど、カオリは七回も愛されたんですよ。
 生身の人間であそこまで深くなん度も女のひとを愛することはできないってくらいにです。
 彼女、目いっぱい犯され抜いて、その後白目を剥いてぶっ倒れちゃったんです。
 気絶したカオリのことを抱き支えながら、彼いうんです。今夜はカオリのことを独り占めさせてほしい・・・って。
 もちろん妻がもうぼくのところに戻ってこないのでは?という心配はありました。
 でも、奪うことはしないって約束してくれたのを信じることにしたんです。
 約束通り、タカトさんはカオリを解放してくれました。
 翌朝いちばんに彼女が玄関先に現れたのを見て、うれし泣きしてしまいましたね。
 その後はお昼までぶっ通しです。彼女はあんなに疲れた日はなかったって言っていますが、
 はっきり言ってボクとまる一日過ごすよりも、彼のところでひと晩過ごす方がずっと、重労働ですよ。(笑)
 それからはボクも彼との約束を守って、妻を彼の恋人として捧げたんです。
 最愛の妻の貞操を汚奪ってくれたのが彼で、良かったと思っています。汚されがいがありましたね。
 今では完全に家内は彼の奴隷ですけれど・・・後悔はないです。
 いまでは周囲には、ボクのほうからお願いして、家内を襲ってもらったと話してあります・・・」

彼の言葉はまだ終わらなかったが、インタビューを終えたタカトさんは再び、カオリさんににじり寄っていた。
夫の健斗さんはすっかり心得ていて、「ああまたですね」と言いながら、カオリさんのロングスカートのすそをたくし上げてやっている。
あらわになった健康そうな脚にタカトさんがしゃぶりつき、
それこそ「糸の一本一本まで味わい抜くほどに」彼女の気に入りのこげ茶色のストッキングを辱めてゆく。
強く圧しつけられた唇の下でストッキングが裂け、吸血の音が重なるにつれてその裂け目を拡げ、他愛なく剥がれ落ちていった。

最後にはタカトさんが、手近な草むらにカオリさんを引きずり込んで、道行く人の目も憚らずにブラウスを剝ぎ取って、
吊り紐を断ち切られたブラジャーからこぼれ出た真珠色の乳房をまさぐり抜いてゆくのを、
健斗さんはいつまでも満足げな笑みを絶やさずに見つめているのだった。

貞操公開の夜。

2022年11月15日(Tue) 21:25:11

今夜の貞操公開は、安岡さん宅と永村さん宅が当番です。
安岡さん宅は、奥さん、お母さん、長女のルミ子さん。次女の初音さんはまだ年端がいかないので勘弁してほしいということです。
永村さん宅は、奥さん、長女の小春さん――それに次女の深雪さんが今回からOKをもらえました。

おぉ・・・という声にならないどよめきが、一座のあいだから洩れた。

説明は淡々と、続けられる。

永村さん宅では、長男の嫁の奈加子さんも、前回に引き続きOKです。
ご両家とも、着衣のままでの応接もご諒解が取れています。
ご家族全員、お相手の男性の精液でスカートのすそを浸したいとご希望です。
ひと晩ごゆっくり、楽しまれますように。

自分の苗字を「永村さん」とわざわざ他人行儀に読み流し、感情を殺してすべてを棒読みにしたわたしは、
みるからに好色そうな、自分よりもずっと年配の男たちの面々の間からかもし出される猥雑な雰囲気を、耳で目で確かめながら、
彼らの都合に沿ったわたしの言葉の影響が彼らの間に好もしく拡がるのを、忌まわしくも妖しい気持ちで眺めていた。
好奇の囁きがひと言、ふた言洩らされるのが、敏感になった鼓膜に、刺激的に突き刺さる。

安岡さんのご主人には地酒のご用意を――と言いかけたわたしの前に立ちはだかった凌蔵さんは、
「わかってるって」とこたえながら、わたしの目の前に一升瓶をどかんと置いた。

都会育ちのよそ者たちが、この村にとけ込むために――
自分の妻を、母親を、娘を、村の顔役たちを満足させるために差し出す苦痛を和らげるため、紛らわせるため、
彼らは当地のいちばん佳い酒を用意して、自分たちの性欲を満たすために尽力してくれた善意の持ち主に振る舞うのが習慣となっている。
さいしょは車座になって、いっしょに飲んでいる者たちは、やがて一人抜け二人抜けて、目ざす家へと足を向ける。
許された歓びを予期するあまり、自分の脚が三本になったような錯覚に囚われながら。

妻子を汚される夫たちが、酒を喉に流し込む間に、
妻や娘や母親たちは、順ぐりに。
彼らの濁った精液を、その身体の奥底にまで、注ぎ込まれてゆく。
そしてやがて、夫たちが酔いにその身を傾け、泥酔に堕ちてゆくうちに、
彼女たちまた、白い脛を放恣に開き切って、屈辱を愉悦へと塗り替えられて、堕ちてゆく――


淫らな風習を持ったこの村では昔から、妻を取り替え娘を取り替えては犯すことで、狭い世界での懇親を深めつづけていた。
そのうちの一人がにわかに都会で会社を興し、成功して。
格別の昇進を果たしたいもの、事情があって都会に住みつづけることができなくなったものを対象に、
自らの出身地に作った事務所への転勤を奨励するようになった。
過疎地である彼の出身地では、若い女がまれになったから、
社員の妻や母親、娘たちを、いまなお故郷に住みつづける男たちの欲求のために、還元しようとしたのだった。
かつて母親を相手に筆おろしを果たし、姉妹や妻たちを分け合い、娘たちまで犯し合ってきた昔馴染みたちのため、
若い女を供給することを、隠れた事業のひとつに据えこんだのだった。

出世を目当てに妻子を提供すると割り切った男たちは、
「ここでしばらく我慢すれば、あとはずっと贅沢できるのだから」とそそのかし、
都会に住まうことを憚らなければならずに流れてきた者たちは、
「ここで暮らすには、そうするしかないのだから」と言い含めていた。


酔いが回ってきたころに。
同僚の安岡の家に向けて、真っ先に駆け出していった男が戻ってきた。
白髪頭を振り乱して、昂った名残りに、まだ顔を火照らせて。
はだけたワイシャツも、着崩れしたズボンもそのままに、裸足でずかずかとあがり込んできた。
安岡宅に乗り込んだときにも、そうしたように。
「安岡の女房をいただいてきた。ええ女だ。娘も母親似だ。下の娘もいずれ、楽しみじゃのー」
こんなふうに責めたら、ああなりよった――と、ひとしきり自慢話が続き、
そのあとに随うように、どっとはやす声があがった。

一座の関心は、禁忌になっている下の娘に集中した。
「下の娘はなんつった?いくつだぃ?」
「初音っつうたな。14歳じゃそうな」
「エエ年ごろぢゃわい。食べごろぢゃわい」
「まったくぢゃ。安岡のやつも、出し惜しみしおつて」
彼らの舌鋒は、口々に安岡への攻撃を集中させた。
「それに引き換え、永村さんは気前がエエのう。わしらのことをちゃんとわかって下さっていらっしゃる」
彼らが妙にわたしに対して礼儀正しいのは、きっと目いっぱいの振る舞いを許容しているからだろう。
振る舞われる酒も、当地の一級の酒だった。

いまごろ、妻の美奈(48)は、長女の小春(22)は、今ごろなん人めの男に組み敷かれているのだろうか。
今夜が初めての「公開」となる下の娘の深雪(17)は、どんなふうに犯されているのか。
昨晩村の長老相手に処女を喪ったばかりの初々しい身体も、一人前に苛まれているのだろうか。
息子は――いまごろ家でどうしているのだろう?
初めて嫁を抱かれたとき、そして、自分の母親まですぐ傍らで犯されたとき、
がんじがらめに縛られて、怒りに顔を赤らめながらも、ズボンの奥の怒張を、こらえかねているのだろうか。

「ま、一杯飲みなせぇ」
傍らの男に注がれた酒を苦々しく口に含みながら。
覗きたい。その勇気がない。それでも気になる――
そんな自問自答を、今夜もくり返しながら、夜が更けてゆく。


あとがき
比較的短いですが、どうにも不徹底です。
自分の妻子の運命を決める言葉を吐く主人公の気持ちを、もっと深彫りする必要がありそうですな。
^^;

和解。

2022年05月11日(Wed) 23:13:05

ゆるい坂道の向こうから、スーツ姿の男が、足早にせかせかと歩いてくる。
それを逃げもせず、じいっと待って凝視していると、
向こうは尖った目線で見すえてきて、なおも距離を詰めてくる。
一発殴られるくらいは、我慢しなくちゃな。
良太はおもった。

いま、自分に迫ってこようとする男は、先日血を吸って犯した人妻の亭主だった。

三十代半ばだというその人妻は、都会育ちの女で、だんなに伴われてこの片田舎にやって来たのだ。
この街に来る都会の女たちは、だれもがわけありだった。
都会にいられなくなって、隠るようにして移り住んでくる者ばかりだった。
かれらは前もって、この村の秘密を聞かされてくるという。
村には吸血鬼が巣食っていて、都会育ちの女や男を食い荒らして愉しむのだと。
それを承知で、あえて村に来る夫婦――いったいどれほどの後ろめたいものを抱えて移り住んでくるのだろう。

だれもが無抵抗で、すぐ堕ちた。
夫たちもたいがい、視て視ぬふりを決め込んでいた。
生き血を啜る代わりに、死なさない。
好みのままに犯されても、その日常を受け容れる。
そんな黙契で、互いの関係が成り立っていた。

村にやってくる都会育ちの女たちは、だれもがストッキングを脚に通していた。
まるで田舎育ちの吸血鬼の気を惹くように、都会ふうに洗練された装いを見せびらかすように、緑豊かな野道を闊歩していた。
女たちの歩みにつれて、薄手のナイロン生地に陽射しが照り返し、痴情に飢えた目線をさらに昂らせた。
頼りなげな薄衣が、しなやかに隆起するふくらはぎの筋肉をしっとりと縁どって、なまめかしい翳りを帯びているのを、
田舎育ちの吸血鬼どもは、とくに好んでいた。

都会の女を蹂躙する。

彼らはそんなことを悦ぶかのように、
ストッキングを穿いた女たちの脚に唇を吸いつけ、舌でいたぶり、牙で咬み剥いでいった。
女たちは、片脚だけ脱がされたパンティストッキングを、足首にひらひらと漂わせながら、
ストッキングにも、スリップのすそにも、スカートの裏地にも、煮えたぎる白濁した粘液を、なすりつけられていった。


良太の狙った人妻は、こぎれいな女だった。
村にやって来て、隣に住むことになったといって、夫婦であいさつに来た時にもう、一目ぼれしてしまっていた。
女ひでりの村でもあった。
けれどもそれを抜きにしても、女の魅力は視るものを虜にした。
長いつややかな黒髪と、透きとおる白さをうわぐすりのように輝かせる素肌とが、
薄っすらとほほ笑む奥ゆかしさと、控えめな態度とが、
上品に装う洗練されたよそ行きスーツに、ねずみ色のストッキングに透ける恰好の良い脛とが、
血に飢えた良太の目の色を変えさせ、
彼女自身の運命も決めてしまっていた。

翌日、亭主が出勤したのを見計らって家に上がり込むと、
良太のまがまがしい意図を敏感に察した女は、うろたえ逃げ惑った。
もちろん、すぐに羽交い絞めにされ、首すじを吸われ、
ブラウスに血を撥ねかしながら、むしり取られるように生き血を吸われ、
そのうえで組み敷かれて、スカートの奥をまさぐられていった。

出来上がってしまうと、もろいものだった。
良太は女をしんそこ愛し抜き、
女はその熱情に染まるようにして、淫らに堕ちていった。
女あしらいには長けていたけれど、それ以上に情の濃さが伝わって、女を惹き込んでしまったのだ。

それが、つい昨日のことだった。
女は夫に忠実だった。
それが、いまの夫の剣幕なのだ。
勤務はよいのだろうか。彼の会社はすでに、始業後のはずなのに。
良太は夫のために、よけいな心配をした。

男は、せっかちで小心そうだった。
細い眉のあいだには困惑の翳りを宿し、目は怒りに輝いてはいるものの、臆病そうなためらいもそこにはみえた。
「あんただな!?」
男はいった。
「わしですよ」
良太はこたえた。

良太のほうが、20ばかり老け込んでいる。
年長者に対するためらいが、男の逡巡を深めているようだった。
男はしばらくためらった挙句、良太の前にひざまずくようにして、スラックスのすそを引きあげた。
淡い毛脛の浮いた脛に、濃紺の薄地のナイロン生地が、薄っすらとした翳りを帯びている。
今どきあまり見かけなくなった、紳士用のストッキング地の長靴下を履いていた。
「家内をよろしく頼みます」
男はいった。
「わたしも、献血に応じます」
良太は、男の申し出を潔いと感じた。
屈従させられた卑屈さを交えずに、こういうことを言える男は、めったにいない。
「あいつは身体が弱いんです。なので、血が欲しいときにはまず、わたしに言ってください」

「恩にきます」
良太は、男を拝むようなそぶりをして、みじかくこたえた。
そこから先は、自分の牙にものを言わせたほうが良いとおもった。
男の足許に唇を近寄せると、彼は少しばかり逡巡したが、脚を引っ込めようとはしなかった。
間近で眺める紳士用のストッキング地の靴下は、女もののそれよりも艶めかしいギラつきを帯びている。
吸血鬼どもの、もうひとつの好物だった。

ぬるり・・・と唇を這わせると、男の筋肉が引きつるのが、ナイロン生地を通して伝わってきた。
良太はゆっくりと、嚙んだ。

ちゅちゅ・・・じゅるうっ。
露骨に生々しい吸血の音に、男は顔をしかめていたが、
それでも脚を差し伸べ続けていたし、
あちこち咬みたがる良太の求めに無言で応じて、脚の向きを変えてやっていた。
片脚から靴下を咬み剥いでしまうと、もう片方も同じようにあしらわれた。

「なかなか・・・ねちっこいんですね・・・」
男は呟いた。
「家内の穿いているストッキングも、こんなふうにあしらったのか?」
「ハイ、とても愉しかった」
良太は、悪びれもせず白い歯をみせた。
「あんたの奥さんは、手ごわかった。最近では記憶がないくらい、抵抗されました。
 ほら、ここに引っかき傷が――」
指し示した手の甲には、いく筋か蚯蚓(みみず)腫れが浮いていた。
けれどもその蚯蚓腫れには血の気がおよそないことを、男は冷静にも見抜いていた。
自分の足許になおも食いついて靴下を引き剥ぐのに無言で応じながら、男はいった。
「家内には、もう抵抗しなくて良いと伝えた」
ぶっきら棒な声色だったが、妻の仇敵に対する敵意は、とうに消えていた。
「だから、もう蚯蚓腫れを作る気遣いはない」

良太は男の脚から牙を引き抜くと、顔をあげた。
「でもきっと、あのひとは俺に抱かれる時、きっとあんたに遠慮するんだろうな」
「もちろん、それは期待している」
「俺も、そうであってほしいと願っている」
「あなたは、ひどい人だな」
「人妻というものは、夫に忠実であって欲しいと思うのだよ。だからこそ、値打ちの高い女だと思えるのだ」

じつは――と、良太はいった。
俺もね、十数年前に、都会からこの村に来たのさと。

あんたと同じように、妻が狙われた。
相手は、俺よりひと廻り齢が上の男だった。
ちょうど、あんたと俺との年齢差だ。
さいしょに俺が、身じろぎできないほど血を吸い取られて、
むごいことに目の前で、妻が襲われた。
妻は声をあげて抵抗したけれど、すぐにねじ伏せられてしまって、
首すじを咬まれてブラウスを血で汚しながら、生き血をゴクゴクと飲まれていった。
よほど口に合ったんだろうな。すっかり蒼ざめるほど、血を抜き取られてしまったんだ。
(いまではそれを、嬉しいことだと思っている)
そのあと、やつは妻を犯した。
俺も失血であえいでいたけれど、むごいことにまだ、意識が残っていた。
なので、そいつと妻とのなれ初めを、たっぷりと見届ける羽目になってしまった。
女あしらいに長けたやつだった。
なので、数時間も抱かれているうちに、妻は不覚にも悶えてしまったし、
俺ももはやこれまでだと、観念してしまった・・・

だから、あんたの気持ちはよくわかる。
でも、あんたの気持ちはすぐ変わる。多分――。
俺はそれからそれほど日を置かずに、やつと和解した。
咬まれた後、血管に毒をめぐらされてしまったからね。
淫らな毒――というやつさ。
(俺もあんたに、さっき仕込んでやった)
けれどもそのことで、むしろ夫婦の苦痛は取り除かれた。
俺は和解のしるしに、妻との交際を受け容れると約束した。
それ以来、やつは毎晩のように妻のところに忍んできては、
三夜に一夜は血を吸い取って、
毎晩のように妻を愛し抜いていった。
俺はその関係に、とても満足している――
妻はやつにとっても魅力的で、愛されているということだからな。

「まだよくはわからないし、分かりたいとも正直思えないが」
男はいった。
「要するに、あんたはわたしの十数年後というわけなんだな」
「そういうことになるかな」
初めて打ち解けたような苦笑が、ふたりの間に交わされた。

「靴下を咬み破られるのには侮辱を感じるけれど――」
男はなおも躊躇しながらも、つづけた。
「あんたにだったら、仕方がないような気がしてきた。薄い靴下、こんどまた履いてくる」
「嬉しいね。じつはあんたの血も愉しみに思っている」
男はくすぐったそうに、笑っている。

「もしかすると、家内の身代わりに、家内がいつも穿いている、パンストを穿いてくるかもしれないな」
「楽しみにしていますよ」
良太はしんそこ嬉し気に、笑い返している。


あとがき
久しぶりにお話しがまとまりました。 ^^;
ここんとこなかなか、途中で構想が止まっちゃうことが多くてですね。
長いことあっぷできずにおりました。。 A^^;
まあ、焦って描くこともないのですが・・・
生存証明になれば幸いです。(笑)

不貞もロマンス

2021年08月23日(Mon) 07:21:39

妻と母とを、二人ながら犯されて、数か月が過ぎた。
この数か月は、いままでの人生を洗い流すほどの力を持っていた。
村に移り住んですぐに、二人を見染めた兄弟は、
わたしを虜にすることで、獲物への距離をひと息に詰めて、同時に想いを遂げていった。

立ち去ってもらうためにふたりに手渡した缶ビールが飲み干されてしまうまえに、
わたしは兄弟の棲む家を訪れて、
妻も母も真面目な交際を希望していると告げた。
しんそこ嬉し気に顔を見合わせる兄弟の横顔を、わたしも眩し気に見つめてしまっていた。
二人の相手に、適切な男性を選んだのだという実感が、ひしひしとわたしを包み込んでいた。

不仲の嫁と姑が、これを境に打ち解けた関係になっていた。
ともに、わたしの目を盗んで逢瀬を遂げる立場。
女どうしが共犯になるのに、さして時間はかからなかった。

妻は母のセックスを、「ロマンスですわ」と評していた。
父がすでに、いなくなっていたからだ。
けれども母は、「やっぱり不貞ですよ」と、謙遜していた。
それもそのはず、母の彼氏は、父の写真のまえで姦りたがり、
母も好意的に、彼の願望をかなえるようになっていた――喪服まで着込んで。

漆黒のスーツに身を包んだ母は、貞淑そうなを見せつけるように、
恋人に背中を向けて、父の写真に手を合わせる。
これからわたくしがいたしますこと、どうぞお許しくださいね――と、呟きながら。
そして、淫靡に光る黒のストッキングの脚をおし拡げられながら、
深い深い吐息を洩らしていくのだった。

妻は自分のセックスを、「不貞だ」といって自虐していた。
けれどもその「不貞」の表現は、いみじくもわたしにも向けられていて、
「きょうも貴方を裏切るわね♪」
というのが、わたしを勤めに送り出すときの妻の決まり文句になっていた。

三人そろった晩ご飯の席。
昭和のようなちゃぶ台のまえで、妻はわたしに深々と一礼する。
「ごめんなさい、あなた。きょうも不貞を犯してしまいました」
「ロマンスですよ」
と、言い添えたのは、母だった。
「不倫の恋も恋じゃないの。わたくしといっしょ。貴女の恋もロマンスなのよ」
あいまいに頷くわたしを受け流して、
「認めて下さるのですね!?お義母さま」
と、妻はしんそこ嬉しげだった。

「じゃあ――お前の恋もロマンス・・・ということで」
わたしはとどめを刺すように、思い切って告げた。
とっくにわたしだけのものではなくなった妻。
そのことを妻の眼の前で認めた、初めての刻だった。


あとがき
前作の続きです。
半月以上も経って思いつくというのは、このお話には愛着があるからかもしれないですね。

妻と母とを犯されて ――女ひでりの村の兄弟――

2021年07月30日(Fri) 07:25:49

鮮烈な記憶を刻みつけられたひとときだった。
わたしはリビングにいて、
左右のそれぞれの寝室で、
妻と母とが、同時に犯されていた。

昼日中から、声をあげて、
ふたりは呻き、悶え、教え込まれた歓びにむせびながら、
自分を辱めた男に、服従を誓わされていた。

半開きになったふすまから覗くのは、
肌色のストッキングを穿いた妻の脚。
薄茶のストッキングを穿いた母の脚。
二対の脚たちは、それぞれの部屋のなか、悩ましくもつれ、乱れながら、
都会育ちの婦人にふさわしい気品をたたえていたナイロン生地を、
脚の周りによじれさせ、くしゃくしゃに波打たせ、引きむしられていった。

女ふたりを襲ったのは、この村の兄弟だった。
わたしたち一家がこの村を訪れて、まだ一週間と経っていなかった。
女ひでりの村だったから、ふたりとも、四十代で独身。
五十も半ばを過ぎた分別盛りの母よりは若く、
まだぎりぎり二十代の妻よりも年上だった。
兄は母を。
弟は妻を。
一目ぼれに見染めてしまい、ぼくにふたりを紹介するようにと強請した。
ふたりの意思を尊重することを条件に、ぼくはふたりを家にあげ、
そしてぐるぐる巻きに縛られてしまっていた。
そのうえで、
だんなさん、おふたりをありがたく頂戴するよ――
捨て台詞のような、たったひと言のあいさつで、
二人は引き分けられるようにして、それぞれの寝室に引きずり込まれていったのだ。

嫁と姑は、不仲だった。
そのふたりが、いまは同じようにあしらわれて、
山野で鍛えた逞しい筋肉に、か細い四肢を抑えつけられて、
都会ふうの洗練されたブラウスの襟首に腕を突っ込まれ、
スカートのすそから、そそり立った一物を突き込まれ、
武士の家系にふさわしい名家の子女にふさわしく、
「枕を並べて討ち死に」を遂げてしまっている。

夫であり息子であるぼくのことさえ忘れ果て、
いいわ、いいわあって言いながら。
お互いの声が聞こえる距離のはずなのに。
いや、そうであるからこそかもしれないけれど、
声はずませ合って、堕ちていった。

妻と付き合っていた時には、半年がかりで口説いて、
やっとのこと、ベッドへといざなったはずなのに。
ものの数分のあいだで、彼女の理性はもろくも突き崩されて。
最高の愛の表現であるはずのことを、初対面の男と分かち合うようになっていた。

嵐が通り過ぎたあと。
ぼくはふたりに缶ビールを与えて立ち去らせ、
妻と母とのために、お茶を入れていた。
三人三様の想いを抱えて、黙りこくって、差し向かいになって。
ただお茶を啜る静かな音だけが、和室のリビングで唯一の音だった。

初めて口を開いたのは、妻のほうだった。
「私疲れちゃった――お義母さまは、お若いのですね。あんなに保つなんて」
母は穏やかな声をつくろって、こたえた。
「そんなことないわよ。あなただって、気丈に振る舞っていたじゃない」
してしまったこと、あらわにしてしまった態度について、女として理解する――
そんな感情を滲ませていた。
妻も、いつもの反抗的な態度を忘れたように、
ぶきっちょにほほ笑みながら、母を擁護するようなことをいった。
「でも、私の場合は不貞だけど、お義母様の場合はロマンスなんだわ。
 お義父さまだって、もういらっしゃらないのだし」
「そんなことないわよ、だって――」
母はいつもの生真面目な母らしくなく、独りごとのような口調で、こういった。
「だってあのひと、お父さんの写真の前でしたがったんですもの」


7月25日構想

娼婦に堕ちた妻。

2021年07月22日(Thu) 07:20:05

「Hi!」
まるでガイジンさんに声をかけられたようだった。
だしぬけな黄色い声にびっくりして振り向くと、そこには妻の真奈美の姿があった。
昨日家を出たときには、こげ茶のノースリーブに薄茶のロングスカートだったのに、
いまの彼女は真っ赤なスーツ姿。
ひざ上丈のタイトミニからにょっきりと伸びた足が、ドキッとするほど刺激的だ。
「どうも」
真奈美の横にいた紳士も、慇懃に会釈を投げてくる。
こちらは渋いグレーのスーツ。
ゴマ塩頭の下の陽灼やけした額だけが、山野で鍛えた職業を連想させた。
きのう真奈美のことを連れ出した、村の長老だった。
真奈美は長老の家でひと晩泊り、衣裳もろとも長老好みの女に仕立てられて、
あくる朝にはこうして、街なかを闊歩していた。

この村に流れてくる都会の男は、妻を村の衆に委ねる義務を負っている。
ゆえあって都会暮らしのできなくなった者たちの、さいごに辿る逃げ場。
それがこの村だった。
勤務先の創立者は、この村の出身者。
以前から吸血鬼と共存しているこの村では、
若い血液を提供する人たちを求めつづけていた。
故郷に錦を飾るため、創立者はビジネスチャンスなどまるでないこの村に、事務所を開設した。
彼らに若い血液を供給するために。
そして、事情ができて都会で暮らせなくなった人たちを、家族もろとも送り込んでいった。

お互いの“需要”と“供給”が一致していた。
ぼくの得た“供給”は、多額の借金と不祥事から逃れるための逃げ場。
村の衆はたちが得た“供給”は、都会妻の貞操――

「あなたがそれでもよければ」
妻は黒い瞳を輝かせて、転勤を打診するぼくを見返した。
ぼくが彼女を、ほかの男に委ねる妄想に夢中になっていることを識っている眼だった。
「夫婦関係は壊さない」
そういう約束をして、ぼくたちは転勤の話を受け容れることにした。
「ほんとうに、壊れないと良いわね」
都会をあとにするとき、妻は他人ごとのように、そういった。

村に着いてから、一週間が経った。
昨日、「お見合い」と証する席に、夫婦で招び出されて、
目のまえに現れたのが、その男だった。
がっしりとした体格の、還暦はとうにすぎた男。
それが妻の“花婿候補”というわけだった。
選択の自由はなかった。
30分後。
とりとめのない歓談をともにしたその男は、
真奈美を伴って、ぼく一人を置き去りにして、立ち去っていった。
薄茶のロングスカートを秋風にそよがせる真奈美の後ろ姿に、
男はさりげなく、腰に手を添わせてゆく。
ロングスカートのうえから無遠慮に置かれた掌にこもる情念を見せつけられたのは、
思い込みに過ぎなかったと言い切れるだろうか。
その晩ぼくは、独り寝の夜を、自室で悶々と過ごすことになった。

脚に通した肌色のストッキングを穿いたまま、舌でいたぶられ、
よだれでぐちょぐちょになったストッキングを、引き剥がされるようにして脱がされて、
ロングスカートに忌まわしい粘液を点々と滴らせながら、
ユサユサと腰を揺らして堕ちてゆく妻――。
そんなシーンに苛まれ、目を逸らせなくなって、しまいに魅了されていた。
くしくも。
ぼくの妄想と寸分たがわぬシーンが、男の邸ではくり広げられたのだという。

男が真奈美を独占するのは、差し当たって翌日の夕刻までだった。
村の衆に紹介された都会妻は、男とひと晩を過ごし、翌日もしばらくの間デートを楽しむ。
夕方6時には妻はいちおう“解放”されるが、
その後の三人の行方は、三人で決めることになる。
三つの意思表示のなかで、もっとも優先順位が低いのは、夫の立場。
ぼくのことだった。

まるで外人の将校に連れられた娼婦のようなイデタチと声色で、ぼくに声をかけてきた真奈美――
その表情はくったくがなく、過ごしてきた時間が彼女にとってそう不愉快なものでなかったことを証していた。
タイトミニから覗く脚は、光沢交じりのストッキングをギラつかせ、
いままでみたことのない彩りをよぎらせていた。
「約束の時間には帰るからね」
いつもの声色に戻った真奈美はそういって、姉のような慰め顔でほほ笑むと、
夕べ彼女を支配した情夫のほうへと、サッと身をひるがえしていった。
ぼくはぼう然と立ち尽くし、二人の行く手を見守るばかりだった。


真奈美を返してもらうのは、6時の約束だった。
そして6時ちょうどに家のインタホンが鳴って、そこには茶系の服に着直した真奈美と――男までもがいっしょにいた。
「デートは6時までの約束だから、戻ってきた」
真奈美はくったくなげにそういうと、ぼくをしり目に男を家にあげてゆく。
「喉渇いた。お茶出してくれる?」
主導権はすべて、真奈美が握っていた。
ぼくはいわれるままに、真奈美と、ぼくと、男のために、ティカップを三つ、用意した。
自分の妻を犯した男のために、紅茶を淹れる――
強いられた自虐的なサービスが胸にずん!とこたえたが、
それでもぼくは紅茶の濃さをはかりながら、念入りに淹れていた。

「正夫は、お紅茶淹れるの得意なの。私がするよりよっぽど上手」
「ほんとだ、美味いな」
男はぼくのまえでも、真奈美に対してすでに友達口調で、
二人が重ねた時間が作った親密さを、いやがうえにも思い知らされる。
ぼくの顔色を察したのか、男はやおらこちらに向き直って、
「真奈美さんをお借りした。楽しかった」
と、礼にならない礼をいった。
――「つまらなかった」といわれるよりは、みじめではないでしょう?
あとで真奈美はそういったけれど、
妻を自由にされたことに、変わりはなかった。
それでもなぜか、ぼくの胸に湧き上がったのは、
男が真奈美の肉体に満足し、高く評価してくれたことへの満足感だった。


「悪いんだけど――今夜は独りで寝てくれる?」
真奈美が言った言葉に、ぼくは耳を疑った。
「このひとを、家に泊めることにしたの。覗いてもいいから」
さいごのひと言を、声をひそめて口にするとき、
真奈美はぼくと戯れるときにみせるあのイタズラっぽい表情になっていた。
困惑したしかめ面をことさら作っていたぼくの本心を、言い当てた言葉だった。
「できるものか、そんなこと」
強がるぼくに、
「うそおっしゃい」
と、真奈美はぼくに、とどめを刺した。

「さいしょのときのお洋服って、プレゼントするのがならわしなんだって。
 でもあたしこの服気に入ってるからって言ったら、
 時々着ておいでって言って、返してくれたのよ」
真奈美は良く輝く黒い瞳で、しんそこ嬉しげにそう口にする。
「今夜はこの服が、パジャマ代わりだけど――」
男は、女を犯すとき、着衣のまま弄ぶのが好みだという。
男の好みに合わせて、自分の服を、やつの劣情を満たすために提供するのだという。
初デートのときに買ったその服が、情夫に媚態を売るための小道具に堕ちる。
妻の瞳が少しだけ、意地悪そうな輝きを帯びた。
――あなた、状況を楽しんでるでしょ?ね?いいわ、もっと楽しませてあげる。
真奈美の瞳は、あきらかにそう告げていた。

真奈美は、ストッキングを穿いていた。
家から穿いていったのと同じ感じの、地味な肌色のストッキングだった。
「都会妻の、ストッキングの脚をいたぶるのがお好きなんですって。いやらしいわよねえ」
真奈美はそんなことを言いながら、
ぼくに面と向かって、「奥さんの脚を愉しませていただく」と宣言した男のために、
屈託無げに、ストッキングの脚を伸べてゆく。

足許にかがみ込んだ男の頭を抱きかかえて、なにかひそひそと囁きながら。
薄茶のロングスカートを少しずつせり上げられていって。
自前のものらしい地味な肌色のストッキングのうえから、足許を舌でなぞられて、
ストッキングが皺くちゃになるほど波打つのを、面白そうに見おろしている。
「やらしいね・・・」
洩れてくるかすかな呟きが、なぜかぼくの股間を刺激した。

「し、主人が・・・視てる・・・っ」
真奈美の囁きが、ぼくを刺激しつづける。
男は真奈美を押し倒し、薄茶のロングスカートの奥をさぐっている。
妻がそこまでされているのに、ぼくは手出しすることを許されない夫――
ぼくにできることは、愛する妻の肉体を、気前よく提供することだけだった。
歯がみをしながら耐える真奈美にのしかかり、男は醜い交尾を遂げた。
真奈美も感じてしまったらしく、畳のうえで息をゼイゼイとはずませている。
薄茶のロングスカートに男が吐き散らした粘液が付着して、ヌラヌラと濡れていた。

「ご主人悪いな。寝室を借りるよ」
男はそういうと、「エッ、すぐやるの!?」と戸惑う妻をひき立てるようにして、
夫婦の寝室へと入り込む。
ベッドのうえに真奈美の華奢な身体が、ドサッと投げ込まれるのが見えた。
まくれあがったロングスカートから覗いた脚は、
ストッキングを脱がされたむき出しの白さを輝かせながら、じたばたと暴れた。
ベッドがぎしぎしと軋み、その音が重なるにつれて、妻の抵抗は熄(や)んでいった。
あとはただひたすら、熱っぽい吐息の応酬。。
ぼくはただぼう然と、事の成り行きを見守っていた。
ズボンに生温かい粘液の濡れがじわじわと拡がるのを、体感しながら・・・



あとがき
せっかく泛んだのであっぷしましたが、
今回はかなり一方的で、やや鬼畜めいたお話ですね。。。
あとでご主人に伺ってみたところ、
真奈美さんと年配の彼氏とのデートはほぼ毎日のようで、
彼氏に買ってもらった服を着るのと自前の服を着て出かけるのとは、半々だそうです。
なんでも、ご主人は、自前の服のほうが昂奮を覚えるとか。
いままでどおりの服装をした真奈美さんが他の男と腕を組んで歩み去ってゆくという、
お見合い直後の光景が、忘れられないそうです。
お相手の男性も、そんなご主人の嗜好を尊重して、家を出る時の真奈美さんを連れ出す姿を、わざわざ見せつけるようにしているとのこと。
この三人。
案外、仲が好いのかもしれません。

母親の黒留袖 新妻のワンピース

2021年07月19日(Mon) 08:10:37

こちらの長老さんが、母さんの黒留袖の帯を解いてみたいと仰るのだよ。
父が困惑してそう告げたのは、わたしの披露宴の席でのこと。

婚礼の席でロマンスが生まれたということは、決して珍しくはないけれど。
人もあろうに、新郎の母親に手を出す者があろうとは。
でも、この村ではそれも、ありがちなことだった。

で、父さんはどうなの?その人、父さんのおめがねにはかなったの?
そう問い返すぼくも、どうかしていた。
けれども――
縁もゆかりもないこの村で、婚礼を挙げていること自体が、すでにどうかしているのだ。
この村は、まだつき合っていたころの彼女と、旅先で迷い込んだ場所だった。

山菜採りによい場所があると騙されて、
村の若い衆六人組みに、ふたりながら村はずれの納屋に連れ込まれ、
ぼくはぐるぐる巻きに縛られて、
彼女はその目の前で、犯されてしまった。
六人がかりでまわされてゆくうちに、
か細い肢体が従順になってゆくありさまを、
ぼくはいやでも、見せつけられていて、
その光景にマイってしまったぼくも、
六人の逞しい若い衆にイカされてしまった彼女も、
その晩この村に宿を取って、彼らの夜這いを許したのだった。

この村で華燭の典をあげる花嫁たちは、
村の長老の手で、純潔を餌食にされるのがならわしだった。
すでに6人もの男を体験してしまった今夜の花嫁も、例外ではなかった。
お化粧直しのさい中にされてきたのだと、
披露宴の宴席に戻ってきた花嫁は、ぼくの耳もとでそっと囁いた。
純白のウェディングドレスを汚したかったのね・・・
その囁きに、ぼくは場所柄もわきまえず、情けない昂りをこらえ切ることができなかった。

その魔手が、母の身にまで及んだらしい。
困惑顔の父に、ぼくはいった。
この村、フリーセックスだから。でも秘密は守る村みたいだから。
母さんがロマンスを遂げるの、反対じゃないよ。
きっとそのひと、さっき絵美香さんを抱いたひとだから。

嫁姑ながら、おなじ男に抱かれるのか。
それも、ごま塩頭の年配の男に。
ぼくにとっては、若い衆に彼女を姦られたのと同じくらい、
いや、もしかしたらそれ以上に大きな衝撃だったかもしれなかった。
母さんまで、姦られるなんて。
あのひとに、支配されてしまうだなんて。

けっきょくその晩父さんは、愛妻の貞操に対する挑戦を断り切れなくなって、
母さんの黒留袖の帯を、そのひとにほどかれてしまっていた。
別室に連れ込まれるとき、母さんは父さんに、懇願したそうだ。
「あなた、そばにいらして。わたくし一人では心細いですもの」
人妻として正しい行動だったと、いまでも思う。
妻が初めて姦られるところを、夫は目にする義務を持つのだと。
村はずれの納屋での体験が、ぼくにそう教えてくれていた。

あくる朝。
両親の部屋から抜け出した長老は、
父さんの眼の前で、都会妻の洋装を身に着けた母さんの肉体にうつつを抜かして、
明け方まで、うつつを抜かしつづけたあげく、
母さんの脚から抜き取った黒のストッキングを大事そうにポケットにねじ込んで、
充たされた顔つきで、帰っていった。


ぼくたち一家が、駅に向かうとき。
皆が盛大に、見送ってくれた。

「また来いよ」「ああ、そのうちにね」
妻の肉体を共有したもの同士で、ぼくは若い衆たちと、兄弟のように別れを告げる。
わけても、絵美香の純潔を勝ち獲た男は、いちばんの好意を示してくれた。
ぼくも絵美香も、彼には特別の感情を抱くようになっていた。
この村を訪れるたび、都会のお嬢さんらしい装いを身に着けた彼女のことを、
いつも真っ先に抱かせる関係になっていた。
都会育ちのしなやかな肉体が、
山野の労働で鍛えられた逞しさに支配されるのを、
ドキドキしながら覗き見る癖を、教え込んでくれていた。

ふと見ると、母さんは父さんを交え、長老に挨拶をしていた。
「こんどはその肌色のストッキングを、破かせていただきてぇな」
長老の下品な言いぶりに、母さんは小娘みたいに羞じらいながら、
「まあ、仰るんですね」
と、それでも穏やかに受け答えしている。
「そのうち、家内だけでも伺わせますよ。わたしは仕事が忙しいのでね」
父までもが、まるで睦まじい親戚づきあいをしている相手のように、
長年連れ添った妻を譲り渡すようなことを、口にしてしまっている。

それが、このお盆の記憶だった。
秋祭りのときに、ぼくは六人の親友たちと、再会を祝した。
都会の若妻らしいワンピースを引き剥がれた妻は、
なれ初めの納屋のなか、藁まみれにされながら、
苦笑と快楽の余韻とを、横顔によぎらせていた。
母もいまごろ長老の家で、
なん足めかのストッキングを、引き破られていることだろう。

嫁も姑も、不義に耽る夜。
そんな熱い夜が、今夜もまた更けてゆく――


あとがき
前作の、六人組の若い衆に茄子を突っ込まれた若妻さんをイメージしたお話です。
ついでにお母さんの馴れ初めも、組み込んでみました。
というよりも、「黒留袖をほどきたい」が、さいしょに泛んだイメージだったのですが。
寛容な花婿とその父親に、拍手♪

茄子の季節。

2021年07月15日(Thu) 07:56:31

この村に棲みついたぼくのところに、今年も家族が集まることになった。
両親と兄夫婦に加えて、遠方に住んでいる妹夫婦まで、よせと言ったのにやって来た。
妹夫婦は、妹のだんなが海外赴任していたこともあって、村に来るのは初めてだった。

「いいとこに案内してあげますよ」
ひとしきり歓談したあとで、
妹夫婦は、初対面で意気投合した村の若者のそんな誘いに乗って、山へと出かけていった。
村の若者四人に守られるように囲まれた妹夫婦が肩を並べて出てゆくのを、
ぼくは黙って見送っていた。
「いいのかねぇ」
傍らに寄ってきた母が気づかわしそうに娘夫婦を見送っていたけれど、
母もまた、その動きを止めだてすることはしなかった。

「しょうがないな」
兄さんは思い切ったように起ちあがり、兄嫁に向かって言った。
「気は進まないけど、ごあいさつに行こうか」
そういうと、ちょっとだけ戸惑いを見せた兄嫁の手を引いて、部屋から出ていった。
「若いひとはお盛んだねぇ」
兄夫婦を見送るのは、村の長老。
座のいちばん上座に陣取って、昼日中から悠々と、杯を傾けていた。

だれもが知っている。
この村に伝わる、淫らなしきたりを。
そう、先に出かけていった、妹夫婦をのぞいては。
けれどもきっと、彼らもまた、行き先でその事実を、たっぷりと報らされてしまうのだろう。
ぼくたちは、若い獲物を村に引き込んだ共犯者――いや、功労者だった。

ぼくたちの婚礼の席で、初めて村にやって来た兄は、
伴ってきた兄嫁を、その祝宴で犯された。
都会の若妻は珍しかったのでほとんどすべての村の衆の相手をさせられた。
愛妻家の兄はひたすら泣き狂っていたけれど、
「やめろ!やめろッ!妻に手を出すなッ!」
と叫びながらも、礼装をはだけて輪姦の渦に巻き込まれてゆく兄嫁から、目線をはずそうとはしなかった。
それからは。
「冗談じゃない、ひとの女房をあんたらは娼婦に仕立てるつもりか!」とか、
「ふざけるんじゃない、俺の女房を犯したいなんて、失礼だろう!?」とか、
口では目いっぱい、相手を罵りながら、
兄嫁もまたやっぱり、
「厭っ、嫌っ、イヤッ!」と、
口では精いっぱい拒みながら、
村の衆たちの逞しい猿臂に、巻き込まれていった。
そう、それからは、毎年のように。
いまでは気に入りのなん人かと示し合わせて待ち合わせ、
兄嫁はきょうも、襲われる都会妻の役柄を、兄の前で演じるのだ。

「母さん、そろそろ・・・かな」
と、父までもが、母を促して座を起ってゆく。
暑い季節だったので、お盆の名目で集まりながら、喪服を着込んできたのは母だけだった。
重たげな漆黒のフレアスカートの下、薄墨色のストッキングがなまめかしく、涼し気に、母の足許を彩っている。
母はぼくの婚礼の席で、村の長老に見染められた。
長老にせがまれるのを断り切れず、父は長年連れ添った妻との交際を許し、
ふたりは愛息の新婚初夜に、息はずませてロマンスを遂げていた。
以来母は、長老の好みに合わせ、お盆以外の季節にやって来た時も、黒一色の装いで通している。
清楚に装った母に迫る長老が、礼儀正しい荒々しさで愛妻を蹂躙するのを、父は好んで視るようになっていた。

「身に着けるお洋服も、おもてなしの一部ですものね」
母にそう耳打ちされた妻のさゆりは、ぼくと同様、この村の出身者ではない。
ふたりでハイキングに出た帰り道、道に迷って助けられた村の衆に、
さゆりの身体はお礼がわりに弄ばれた。
その夜のうちに堕ちてしまったぼくたちは、
つぎの日の朝、さゆりをさいしょに犯した男の家に出向いていって、
こざっぱりとした服に着かえて恥じらうさゆりを傍らに、
もっと仲良くしませんか?と誘いをかけていた。

妹夫婦は、夜遅くに戻ってきた。
ふたりとも、コーヒーの缶を手にしていた。
それがきっと、妹の身体を愉しんだ代償なのだと、すぐにわかった。
「仲良くしちゃうことにしましたよ。でも、言ってくれないなんて、ひどいなあ」
義弟はぼくの隣で、あっけらかんと笑った。
「言われたら、行かないでしょふつう」
ぼくが返すと、「そりゃそうですよね」と相づちを打った。
義弟とは、どことなくウマが合う。
こんなところまでウマが合うとは、さすがに思わなかったけれど。
「缶コーヒー、よかったね」
ぼくがいうと、
「微妙な味がしました」
と、ほろ苦く笑った。

「義兄(にい)さんも、もらっちゃったんですか?缶コーヒー」
水を向けてくる義弟は、やはり聞きたいらしい。
しかたなく、話してやった。
「ぼくのときには、茄子だよ」
「茄子?」
けげんそうな顔をする義弟に、ぼくはいった。
「さゆりの中に入れた茄子をね、みんなで食べたんだ」
「みんなって、なん人?」
「ぼくのときは、6人」
男4人にモテた若妻の夫として、義弟はちょっとだけ眩しそうにぼくを見た。
「勝ったね」
白い歯をみせるぼくに、
「頭数じゃないですから」
と、口を尖らせる義弟。
ぼくたちは、声をたてずに笑った。
「でも、一本の茄子をえーと、8人で?」
あくまでけげんそうな義弟に、ぼくはいった。
「茄子はなん本も、さゆりを訪問したのさ」
「すごいですね・・・」
絶句する義弟に、ぼくはいった。
「茄子、いまごろが食べごろらしいぜ」
妹にも入れてもらえば?とおススメするのは、さすがに兄として、遠慮しておいた。
結婚三年目の妹も、きっと「食べごろ」だったに違いない。


あとがき
ちょっとまとまりの悪いお話かもしれません。

さいしょにイメージしたのが、村の衆四人組に取り囲まれて出かけてゆく妹夫婦の後ろ姿 でした。
このお話、前々話の「女ひでりの村」に、ちょっと通じます。
(前々話では、この夫婦が「棲みついた」となっているので、ゲンミツにはちょっと違いますが)

それからイメージしたのが、村の長老に見染められて、父にも許されて素直に堕ちた母親のこと。
このひとには、ぜひ黒のストッキングを穿かせて、貞操の喪を弔わせたかったです。
礼装と荒々しさとは、真逆のものですが。
双方がマッチすると、凄く見ごたえがあるように感じます。

さいごにイメージしたのが、一家の中心である、「村に棲みついた都会ものの夫婦」でした。
このご夫婦は、この村のものではなくて、都会から棲みついて村の色に染められた人たちなのだと思いました。
彼らを起点に、兄夫婦やご両親、ひいては妹夫婦まで、喰われていったのだと・・・
ではこの次男夫婦には、どんなエピソードを持たせようか?と思いました。
それで思いついたのが、前々話の「缶コーヒー」です。
この「缶コーヒー」に代わるものが、なんと「茄子」でした。
これは、お話をいまこうして、入力画面にベタ打ちしながら思いつきました。
「茄子」がいまの季節の旬だというのはたんなる偶然です。 笑
ここまで描いて、「ひと月早い「お盆」」だったたいとるを、「茄子の季節。」に変更しました。

でもこうして、理屈に堕ちたお話は、どことなく作りつけた印象になってしまうかも知れないですね。;

この夏のお盆。
人はどれだけ、動くのでしょうか。。

女ひでりの村

2021年07月13日(Tue) 07:55:31

「おごるよ」
その若い男は、手に持っていた缶コーヒーを、ぼくに向かって差し出した。
別の若い男も、同じように、手にした缶コーヒーを妻に向かって差し出した。
ふつうなら、お礼を言ってご馳走になるところだろうけれど。
ふつうとは、いささか事情が違っていた。
ここは村はずれの藁小屋で、
ぼくはぐるぐる巻きに縛られて、
妻は服を剥ぎ取られて半裸になっていた。

「おっと、いけねぇ。これじゃ飲めねえよな」
ほんとうに気づいていなかったらしく、ぼくの向かいの若い男は頭に手をやり、
その手でぼくの縛めを、解いていった。
身体に、開放感が戻ってきた。
妻のほうも頑なに目を伏せて、男の差し出す缶コーヒーから目を背けている。
ぼくは仕方なく、缶コーヒーを受け取った。
妻はそれを見て、相手の男のほうは見ずに、やはり缶コーヒーを受け取った。

「飲みなよ、遠慮は要らねえ」
男はなおも、ぼくに缶コーヒーをすすめた。
飲んでしまったら、彼らが妻にしたことを、認めたことになるような気がした。
するとこんどは妻が、「飲む」とひと言いって、缶コーヒーのプルタブを開け、ひと息に飲み干した。
「喉、乾いてたんだろ?」
妻の相手の同情は、まんざら口先だけではなさそうだった。

「奥さんを手荒に扱って、すまなかった」
ぼくの前の男は、慇懃に頭をさげた。
いまさら頭をさげられたところで、喪われてしまったものはどうにもならない。
妻は処女のまま嫁にきて、ぼく以外の男を識らない身体だった。

けれども、男の言い分は、ぼくの思いとは裏腹だった。
「こんどは、ちゃんとしんけんに愛するから」
というのだった。

この村、女ひでりでな。
嫁をもらえないものがたくさんおる。
だから、分け合うことになっている。
そこへ、あんたら都会もんが、村に移り住んでくるという話じゃ。
絶好の餌食だったんよ。あんたたち。
表情を消して語るその男は、妻のブラジャーをむしり取った相手。

入念に相談して、あんたらをこの納屋におびき寄せたんよ。
そこまでは、入念じゃった。
けどな、生身の若い女目にして、みんな目の色変わっとったんじゃ。
あんた、気づかんかったか?
「若い女」と口にしたとき色めき立ったその男は、妻を藁の山に放り込んだ相手。

わしらも生身の男じゃから、奥さんのぴちぴちとした身体みて、かなわなくなったんじゃ。
それに、都会の女ちゅうもんは、ストッキングとか穿いとるものな。
おしゃれでエエかんじだったわあ。
恍惚と語るその男は、妻のストッキングがよほど気になったのか、べろでいたぶりながらずり降ろしていった相手。

缶コーヒー、うまかったじゃろ。
喉、渇くもんな。
嫁が姦られているのを視て昂奮せん旦那はおらん。
おったとしたら、そりゃ別れる夫婦じゃ。
ぼくに缶コーヒーを無理に握らせたその男は、妻の股間をさいしょに割った相手だった。

四人がかりの蹂躙に、妻は泣きじゃくりながら抵抗し、
けれども獲物を狩る猛獣のような腕力にねじ伏せられて、想いを遂げさせられていった。
「こんどは、まじめにやる」
そう宣言した男は、意思を喪った妻を引き寄せて、押し倒してゆく。
妻は茫然としたまま抱かれていって――そして、ゆっくりと脚を、開いていった。
覆いかぶさってゆく逞しい背中に細い腕がまわるのを、ぼくは見まいとしたけれど。
缶コーヒーの男は、許さなかった。
「大事なところじゃ、見届けるのが夫の務めぞ」
男どもは、言葉少なに、真剣な顔つきで、そして代わる代わる、妻にのしかかっていった。
獣ががつがつと餌を食(は)むようなさっきまでとは、打って変わった静けさだった。
その熱っぽい静けさのなかで、妻は代わる代わる男たちと交わりを遂げていった。
腕を突っ張り、脚をじたばたさせた抵抗は、そこにはなかった。
妻は半裸に剥かれていたが、
これだけは都会育ちの女の特権のように腰に巻いたスカートをユサユサと波打たせて、
性急に圧しつけられてくる腰と、うごきをひとつに合わせていった。
男どもは、こんどは念入りに味わうように妻の肌に唇を這わせ、愛着を訴えかけるように口づけを交わしていった。
ピチャピチャ、ちゅうっ・・・と唇の鳴る音が、なん度も念を押すように、重ねられていった。

放心して、立て膝をしたまま仰向けに寝そべった妻の足許に、
破れ残ったストッキングがいびつによじれていた。

「決めごとぞ」
缶コーヒーの男がそういうと、他の男どももそれに従った。
「一、旦那さんのメンツは守ること。
 一、旦那さんをわるくいうもんを、決して許さんこと。
 一、その代わり、奥さんはわしらが交代で慰めること。
 一、慰めるときには、奥さんひとりを想って、愛し抜くこと。
 ――誓えるか?」
誓えるとも。
男どもは、口々にそういった。

「愛する・・・というのですか?」
訊き返すぼくに、缶コーヒーの男がいった。
「あんたと同じようにな」
妻を犯される傍らで、手の空いた男どもはぼくのことを、女のように愛していった。
その残滓がほんのりと、まだ太ももに残っている。
妻を狂わせた逸物たちの挿入を受けた名残りが、まだひりひりと股間を痺れさせていた。

「あんた、牛乳飲まんか」
べつの男が、挑戦的に瞳を輝かせ、いった。
牛乳がなにを意味するのか、さすがのぼくにもわかった。
「飲みなさいよ」
意外にもそう口走ったのは、妻だった。
「私、このひとたちに愛される」
妻はいった。
「あなたの奥さんのまま、この人たちと恋をする――いいでしょ?」
そうするしかなさそうだね・・・と気弱く呟くぼくに、缶コーヒーの彼はいった。
「人妻って、旦那がいるから人妻なんじゃ」
あんたも旦那として、気張らんかい・・・と、彼はぼくの背中を陽気にどやしつけた。
缶コーヒーの男がいった。
「わしの女房のときには、みんなの言うことをよく聞くもんだぞと言ってやったっけのう」

ぼくは震える口調で、妻にいった。
「このひとたちの言うことを聞こう。
 きみが恋をしても、ぼくは叱らない。
 だからいっぱい、愛してもらいなさい」
その後たっぷり三時間。
妻はぼくの目のまえで男たちに愛されて、女にされていった。


女としてこんなにされて、悔しい。
でも、私の中のもうひとりの女が、このひとたちと仲良くしたがってる。
このひとたちは、私を愛すると言ってくれた。
だから私も、この人たちと恋をする。
私は、ずっと貴方の妻だよ。
でも、この人たちとも、仲よくする。
妻は一気にそういうと、着替えに帰ろ・・・と、ぼくを促した。

都会妻の服、たくさん持ってるの。
都会ではもう暮らしていけなくなったから、私この村の女になるから。
でももういちど、都会の服を着て、あなたたちに抱かれてあげる。
ストッキングも穿いてきてあげるからね――と言われ、妻のストッキングを脚から抜き取った男は、ひどく悦んでいた。

投げ込まれた女ひでりの村で、
ぼくたち夫婦は、通過儀礼の一夜をこうして迎えた。

お友だちを紹介。

2021年01月31日(Sun) 10:16:50

今度、あたしのお友だちを連れてきてあげる。
澄江はにこりともせずに、親父と少年にそういった。
折り目正しい制服姿をこのピラニアどもに投げ与えることに目を輝かせるような、
澄江はそんな少女になりつつあった。
かつて彼女の母親が、婚約者の貴志の母親を引きずり込んだときのように。

ひざから下は、真っ白なハイソックス。
腰には制服の濃紺のプリーツスカートを巻きつけていたが、
上半身は全裸。
あられもなくむき出しにした胸は
健康な小麦色に覆われて、
薄闇のなかでも豊かな輪郭をきわだたせている。
きょうは、このごろ必ずといっていいほど同行している貴志の姿はない。
彼氏には黙って、吸血癖を持ったこの獣のような親子に抱かれるために、一人でこの村に来たのだ。

婚約者の澄江を男たちに抱かせて昂る貴志に黙ってやって来るときだけが不貞なのだと、
澄江は勝手に解釈している。

「あたしって、悪魔ね」
澄江がいった。
「俺たちから見たら、天使だけどな」
親父がいった。いつになく静かな声色だった。
澄江はびっくりして、親父を見つめた。
「どうして??」
「考えてもみろよ、
 お前は、血が欲しくて喉をカラカラにしていた俺たちために、
 若い女の血を惜しげもなく気前よく振る舞ってくれた。
 おまけに友達まで紹介してくれるという。
 こんなありがたい娘がそうそうそのあたりに転がっているものか」
言われてみれば一理あると、澄江はおもった。
いまでこそ獣欲のかたまりのような親父だが、もとは気が優しい知的な紳士だったに違いない。
彼もかつて、自分の血を吸った吸血鬼に若い女の血をあてがうために、
自分の妻を引き合わせたという。
いま彼の妻はその吸血鬼の妾になって、
たまに息子に逢いに戻ってくるほかは、情夫の囲われものになっているという。

「おまけに、嫁入り前の身体で、こんなことまでしてくれるんだからな」
男は太ももをこすり合わせながらもう一度、女の股間を求めた。
筋肉とは思えないほど固く怒張した一物が、
ふっくらと柔らかな股間にもぐり込んで、さらに奥へと突き入れられてくる。
澄江は男の動きに応じて腰を動かしながら、
「これはあたしも・・・楽しいから」
口ごもりながらも、そういった。
婚約者に対する罪悪感は、とうの昔に消えていた。

貴志が変態で、自分が男どもに姦されるのを視て昂奮する男であったことは、
いったんは澄江を落胆させ、シラケさせたけれど、
いまではちがった。
変態的な性欲のとりことなって彼女の裸体に目を輝かせる貴志のまえ、
おっぱいをぷるぷる震わせながら彼氏に痴態を見せつけることが、
たまらない快感になっていた。

彼女をそんな女にしたのは、
太股の奥に食い込んでくる硬い肉棒のほかに、
素肌に射し込まれてくる魔性の牙なのだということを、
澄江ははっきり自覚していた。

澄江は彼らの欲情するままに若い血を与え、下品に啜り採らせてやっていた。
制服姿に欲情されるのにも、良くも悪くも慣れっこになっていた。
学校のみんなを裏切るような後ろめたさを覚えながらも、
彼女はあえて求められるまま、自校の制服を着て村に通うようになっていた。

高価なブレザーやスカートを汚さないように、彼らの牙は澄江の足許に向けられた。
彼らに破かれ楽しまれるために、
澄江は黒のストッキングや、今夜のような真っ白なハイソックスを脚に通して村に通うのだった。
学生らしい清楚な靴下を辱しめることに彼らは熱中し、
澄江も彼らを昂奮させることに夢中になっていた。


澄江がクラスメイトの純野郁美を村に連れてきたのは、それから1週間後の週末だった。
週末にはね、乙女が終末を迎えるの。
それが最近の澄江の口癖だった。
郁美には彼氏がいたが、まだ未経験だった。
その置かれた立場が、吸血鬼の父子を熱狂させた。
彼氏に追いつけ追い越せというのである。


郁美の彼氏である加井野比呂志は、こっそりと澄江に招ばれていた。

郁美のいいとこ、見せてあげる。
けど、手出ししたらだめよ。

彼女の親友の囁きに、比呂志は自分でも不思議なくらい素直に頷いていた。
比呂志はスポーツマンだった。
「部活のユニフォームで来て。ラインの入ったハイソックスも忘れずにね」
たまたま村の近くで行われた遠征試合の帰り、彼は仲間と別行動で、村へとやって来た。
古ぼけた家々が、都会育ちの彼には新鮮で、なん度もあたりを見回しながら、教わった家へとあがりこんだ。
「だれも出迎えたりしないから。家に入ったら居間から奥の部屋を覗いてみて。
 でも、なにがあっても、部屋に入って来たらダメよ」
澄江の指示のまま、比呂志はまるで泥棒にでも入ったみたいな気分になぜか昂りを覚えながら、
いわれた通り奥の部屋を覗き込んだ。

あっ・・・と思った。
奥の部屋には制服姿の郁美と澄江が佇んでいた。
こちら側にいる澄江は、彼の息遣いが届きそうなすぐそばにいるのに、こちらには気づかないらしい。
ふたりはお互い羞ずかしそうに目線を交し合いながら、
這い寄ってくる鄙びた親父と子供のまえに、
黒のストッキングに包まれたふくらはぎを、彼らの物欲しげな視線のまえにさらしている。

向こう側の澄江は、自分の弟くらいの年恰好の少年に。
こちら側の郁美は、自分の祖父と変わらない年恰好の親父に。
もはや後じさりできないほど追い詰められた壁ぎわに立ちすくみ、
つま先立ちするほど緊張しながらも、彼らの意図を遮れずにいた。
二個の獣は各々の獲物の足許にすり寄って、

ちゅうっ・・・

と、その脛やふくらはぎに、よだれの浮いた唇をなすりつけていった。
少女たちの足許を包む黒のストッキングはいびつによじれ、波打ってゆく。
やがて獣たちの口許から尖った牙がむき出された。
黄ばんだ、不潔そうな牙だと、比呂志はおもった。
その牙たちが、澄江の柔らかそうな豊かなふくらはぎと、郁美のすらりとした脚に、食いついていった。
ぱりぱりとかすかな音をたてて、薄地のナイロン生地が破け、裂け目を拡げてゆく。
あ、うっ・・・
さいしょに郁美が、つづいて澄江が、目を瞑ったままその場に倒れ臥した。

い、郁美・・・っ!
思わず叫びそうになった比呂志は、一瞬、「部屋に入って来たらダメ」という澄江の戒めを思い出した。
けれども、そうはしていられなかった。
郁美が年かさの親父の不埒極まる欲情にまみれるなど、彼のプライドが許さなかった。
ふすまに手をかけた瞬間、彼の足許に刺すような痛みが走った。
見おろした足許に、少年がひとり、ハイソックスのうえから彼のふくらはぎにかぶりついている。
見ると、いま澄江の黒ストッキングの脚をいたぶっているはずのやつと、同じ少年だった。

ちゅうっ・・・

比呂志の足許からも、ふたりの少女たちの足許から洩れたのと同じ音があがった。
ひとをこばかにしたような、わざとらしいほどあからさまな音だった。
クラッとするような貧血が、比呂志を襲った。
「お兄ちゃんの血、美味しいね」
少年はそういうと、ニッと笑った。
口許からは、吸い取ったばかりの血を滴らせている。
そして臆面もなくもういちど、ハイソックスのうえから唇を吸いつけて、血を吸った。
こ、こいつッ!
憤激した比呂志は手にしていた鞄を少年の頭上に振り下ろそうとした。
けれども、急速に血液を喪失した彼の手から鞄は力なく離れ、少年の傍らにぱたりと落ちた。
いつの間にか比呂志は、年端もいかない少年に組み敷かれていた。
思いのほか、つよい力だった。
「だってボク、血が欲しいんだもん」
比呂志の心のなかの疑問をどうやって読み取ったのか、少年はそういうと、
兄ほどの年恰好の比呂志を組み敷いたまま、唇を首すじへと近寄せてゆく。
比呂志は腕を突っ張って幼い吸血鬼との隔たりを作ろうとしたが、むだだった。
少年の頬に散った血のりが、ぐーっと迫ってきた。

スポーツに鍛えられた活きの良い血が、キュウキュウと勢いよく吸い取られていった。


比呂志はぼうぜんとなっていた。
隣室に繰り広げられているのは、精巧な動画だった。
動画のなかに映し出された部屋のなか、
郁美はブラウスを剥ぎ取られ、ブラジャーをむしり取られ、
おさげに結った長い黒髪を振り乱しながら泣きじゃくっている。
親父は容赦なく郁美に平手打ちを食らわせると、
「えへへへへへっ。都会のお嬢さんよ、あんたはわしの、きょうの獲物ぢゃ」
と宣告すると、
嫌がる郁美の片脚からストッキングを抜き取り、ショーツを引き脱がせ、
目の前でショーツを引き裂いた。
郁美は自分のショーツが引き裂かれるのを目を背けて受け止め、
いつの間にか親父の怒張した一物をしっかりと握らされてしまっていた。

「うへへ、こいつをお見舞いしてやるんだ、その前にたっぷり可愛がってもらわんとな」
親父は怒張した一物を少女の頬にあてがい、唇をなぞり、口に含ませる。
一物に歯を当てる意地は、もはや少女には残されていなかった。
それどころか、自分のほうから大胆に、親父の一物を根元まで呑み込むと、
喉に当たるほどの怒張を舌で舐め味わうのだった。

い、郁美・・・っ!?

比呂志はことの成り行きの意外さに驚きつつも、画面から目を離せなくなっていた。
結末はおおよそ理解しながらも、受け容れられない気分だった。
けれどもいまや郁美は、男のなすがまま、
比呂志がおおよそ理解した結末をなぞるように、親父の汚辱まみれの好意に、こたえはじめてしまっている。
なによりも意外なのは、比呂志じしんの一物が鎌首をもたげ、抗いがたい昂りのまま怒張をはじめていることだった。

親父は郁美の頭を掴まえると、口の中の一物を引き抜いた。
そして、ふらふらと姿勢を崩す郁美の上に馬乗りになると、
傍らに控えていた澄江に「手伝え」と命じた。
澄江は二ッと笑って親父に応え、手早く郁美の両腕をつかまえ、畳のうえに抑えつけた。
「あ、あいつ、なんてことを・・・」
それでも親友なのか?と激しく疑問をぶつける比呂志のなかで、
澄江の純潔がとうに喪われていることは、まだ想像の埒外だった。

うふふふ・・・ふふふ・・・
親父は下卑た笑い声を口に含ませながら、郁美の細い首すじに、咬むように唇を吸いつけた。
今度は吸血ではないのだと、比呂志にもわかった。
純粋に、郁美のきめ細かい素肌を愉しんでいる。
親父は裸体となった上半身を意地汚く撫でさすり、唇では胸や首すじを賞玩し、
郁美の嫁入り前の身体を愉しみ始めたのだ。
それは、比呂志のみが権利を持つはずの行為だった。
郁美が比呂志に許したのは、キスと、制服越しに胸を触れるところまでだった。

親父は腰を巧みにすり合わせながら、郁美が唯一きちんと身に着けている制服のプリーツスカートをたくし上げてゆく。
折り目正しいプリーツがふしだらにくしゃくしゃにされるのを、比呂志は息をのんで見守った。
「・・・っ」
親父が無言の気合を籠めて、郁美の柔らかな秘部を突き刺した。
「あうっ・・・」
郁美が痛そうに顔をしかめ、身を仰け反らせる。
悔し気に唇を噛みしめ、目をしっかりと瞑っていた。
吶喊は、なん度にもわたった。
郁美の純潔は、”処刑”されたのだ・・・
敗北感と無力感とに浸されながら、比呂志は目じりに涙をため、
それでも恋人の処女喪失の現場から目を離せないでいた。
あろうことか、比呂志の怒張は限界に達し、
その場にびゅびゅ・・っと、熱液をぶちまけてしまっていた。

痛みに耐えかねて食いしばった歯が唇のすき間から覗くのを。
もうやめてといわんばかりに激しく振られたかぶりの動きに合わせおさげの黒髪がのたうつのを。
静脈の透けたおっぱいが、本人の意図を裏切ってピンク色に昂るのを。
比呂志はいつか、目で愉しんでしまっていた。


「こんどは、比呂志くんのまえでお願いします」
郁美が礼儀正しく三つ指ついて、親父にいった。
自分を汚した男を視るまなざしは、もはや尖ったものではなくて、むしろイタズラっぽく輝いていた。
さ、こんどはあなたの番よ・・・と、促されて。比呂志もいった。
「郁美の処女を味わってくれて、ありがとうございます」
少年がいった。「お兄ちゃん、男らしいね」
親父がいった。「わしもそう思う」

帰りぎわ。
郁美と親父とを首尾よく結びつけた澄江は、
手を振って見送る少年を振り返り、Vサインを送った。

吸い取られてゆく少年の生き血。

2021年01月30日(Sat) 19:25:06

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、

あっっ・・・!血を吸われてるッ!!

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、

やっ、やめろ・・・ッ!

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、

だ、誰かッ!助けてっ!

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、



ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、



・・・・・・。

あァ、旨かった。

(貴志、わずかに顔をあげる)

まだ息があるようだな。
(貴志の頭を掴まえ再び首すじに食いつく)

助けてっ!生命だけは・・・っ・・・

もう少し楽しませろ。
大人しくすれば生命だけは助けてやる。
(こんどはハイソックスの上から脚を咬む)

あ・・・う・・・っ・・・


ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、



どうだ、心地よいだろう?

え・・・ァ・・・ハイ・・・

もっと吸わせろ

ハ、ハイ、どうぞ・・・

ちゅうっ、・・・ちゅうっ、・・・

ゆっくり吸うんですね。

愉しんで吸っておるからな。

ハイソックスがお好きなんですか?

ああ、男女の分け隔てなく、愉しんでおる。

わかりました・・・お好きにどうぞ。

厚意に甘えるぞ。
(貴志の履いているハイソックスをべろでなぞり、波立ててゆく)

助けてくれるって約束してくれますよね?

どうしてそんなことを訊く?

ぼく・・・貴男にもっとぼくの血を愉しんでもらいたいから、そう言っているんです。


注:貴志が生還し得たのは、前話のとおり。

田舎の朝餉

2020年12月23日(Wed) 08:16:56

澄江が朝起きてきたとき、真っ白な顔をしていた。
寝不足らしく、目は充血しきっている。
すこし遅れて寝間から出てきた貴志も、
目を真っ赤にしていた。
向かい合わせに食卓に着いた二人は、
決まり悪げに目線を合わせようともせず、
食卓に載ったごはんやみそ汁や割られていない生卵に、
あてどもなく視線をめぐらしていた。

「ふふぅん」
澄江の母はそんなふたりを見比べつつ、
面白そうに、鼻を鳴らした。
貴志の母はそこまで露骨な態度を取らなかったが、
淡々とお野菜やら干物やらを子どもたちに取り分けてやると、
自らも箸をとった。

夕べ澄江は親父の部屋に連れ込まれて、
明け方までその若いピチピチとした肢体を愉しまれていた。
年端も行かない息子のほうも、親父の部屋に忍んできて、
ふたりは獲物を分け合うけだもののように、澄江の身体にむらがっていった。
田舎の親子に代わる代わる澄江が犯されるのを、
貴志は寝間から起き出して、ふすまを細目にしてみ続け、高ぶり続けていた。

澄江はそんなときでも、制服を着ていた。
濃紺の折り目正しい正装が、唯一彼女の身分を高めてくれるかのように、
規律と品位の証しであるその服装に頼ろうとしたのだろう。
けれども、都会の高校の制服は、鄙びた村に棲むこの親子を熱狂させただけだった。
彼らは澄江が自分たちを昂奮させるために、
わざわざ制服を着てくれたのだと独り合点して、
お返しに彼女を少しでも余計に昂奮させてやろうと、
ありとあらゆる手練手管を用いて、
制服のすき間に手を入れ、
股間やおっぱいをまさぐり、
ストッキングのうえから太ももをなぞり、
ブラウスの襟首を引き締める紐リボンをほどきながら、
首すじを舌でペロペロと舐めていった。

貴志が部屋に引きずり込まれたのは、
もう明け方に近かった。
澄江は制服をほとんど剥ぎ取られてしまっていて、
腰に巻いたスカートと、片脚を脱がされた黒のストッキングだけで身を覆っていた。
親父は貴志を部屋に引きずり込むと、
「このガキ、いちぶしじゅうをすっかり見てやがったな。
 口封じに、お前もやらせてやるからな」
といいつつ、ぼう然とあお向けになっている澄江の上に、
貴志の身体を無理やり重ねていった。
あとは、自然の摂理のおもむくままだった。
相手がだれなのかもわかっていたのか、いなかったのか、
澄江は両腕で貴志を抱きしめて迎え入れ、
貴志は澄江の肩を起こすようにして、うなじを掻き抱いた。

なにをどうすればいいのかは、
いやというほど見せつけられた後だったので、
初体験のわりには戸惑いがなかった。
股間は、とうの昔から勃起していた。
それどころか、すでになん度も激しい射精をくり返していた。
けれども彼の一物は、澄江の股間に触れると、
飽くことも知らず恥知らずに膨張した。
挿入は、拍子抜けするほどするりと入った。
父子がそれだけ澄江を飼いならしてしまった証しのように思えて、
貴志はさらに激しく怒張し、熱く生々しい粘液を、澄江の体内に放射していた。

「もうひと晩、泊っていかないか?」
貴志が澄江にそう切り出したのは、
四人がそろそろ辞去しようかというタイミングだった。
澄江は一瞬目を丸くし、そしてその目を探るように貴志に向けながら、
「タカシくんは・・・それでもいいの・・・?」
と、訊いた。
「ふたりで愉しもう。小父さんやユウくんも交えてさ」
女たちは顔を見合わせ、ほっとしたように笑った。
澄江も笑った。
「いいわよ、いっぱい、嫉妬させてあげる」
ちゃぶ台の下で、澄江の隣に座っていた澄江の母が、
ハンドバックから取り出したものを娘のひざに圧しつけた。
まだ封を切っていない、通学用の黒のストッキングだった。
その数の多さに澄江は思わず「こんなに?」と声をあげ、
女ふたりは楽しげに笑い、
母と婚約者とその母親を寝取られた貴志も、面白そうに笑った。

母たちの里帰り

2020年12月20日(Sun) 21:06:21

◆◆◆
やあ、いらっしゃい。
にこやかに招き入れられたその鄙びた家屋に上がり込むとき、
ふと自分で自分を魔物の餌に与えるような気がした。
母たちや澄江が色とりどりのストッキングのつま先を古びた床板にすべらすときも、
自分からすすんで魔物の餌食になりにいくように思えてならなかった。

にこやかに笑んでいる目の前の中年男が、
脂ぎったいやらしさで母たちのストッキングの足許を盗み見るのがありありとわかったし、
その人なつこい笑みさえもがいやらしい哄笑のように思われてならなかった。
痩せこけた奥さんは無表情で、母親の後ろに隠れてこちらの四人を窺っている少年は、
母親に劣らず痩せこけていて、白目だけがひどく鮮やかに映った。
こんな田舎では、ストッキングなど穿くような婦人は皆無なのか、
少年は自分といちばん齢の近い制服姿の澄江の脚を彩る黒のストッキングを、
物珍しそうに見つめていた。

今夜、ぼくたち一行は、この家に寝泊まりすることになる。
母とぼく、それに澄江と澄江の母の四人で。
古びた家の天井の木目までもがぼくたちをあざ嗤い、
その黒ずんだ木目をぼくたちの血で染めたがっているように見えた。


◆◆◆
今年のお供物は、うちですからね。
母にそう言い渡されたのは、ひと月ほど前のことだった。
“お供物”—―それは父には内緒の母と二人だけの秘密の言葉だった。
母の実家は、吸血鬼の棲む里だった。

あなたには教えるけれど、澄江さんには内緒よ。
そういうことになっているの。
年頃の娘があわててうろたえるところを視たがるんですって。
いけすかない好みだけれど、
母さんも、孝江小母さんも、そうして初体験を済ませてきたのよ。
だからあなたも、きちんと立ち会って。
花嫁の純潔を差し出すのが、お里では最高の礼儀なんだから。

母たちがぼくと澄江を結婚させたがっているのは、なんとなく察しがついた。
澄江は女の子だから、よけいにそういうことに敏感で、
一時はぼくから離れかけたこともあったけれど、
母親に言い聞かされたのか、自分でその気になったのか、
ぼくを避けようとしたのはほんの一時のことに過ぎなかった。
最近ではむしろ、ぼくの視線を意識して、
家に遊びに来るときは、身体の線がぴっちり浮き出る服を着てきたり、
ぼくがひし形もようのハイソックスを好んでいるとどこからか伝え聞くと、
三度に一度はひし形もようのハイソックスを履いて、ぼくを外に連れ出すのだった。

澄江は健康的な肌と大きな瞳の持ち主だった。
すこし太っちょなのが玉に瑕だったけれど、
十人並み以上の器量よしではあったから、
ぼくも知らず知らず、澄江のことを憎からず思うようになっていた。

その澄江が吸血鬼に侵される――
ぼくは憤りでいっぱいになったけれども、
心の奥底のどこかで、それを嬉しがっている自分がいるのに気がついて、
自分のことながらゾッとしてしまった。
自分の好きな子が、未来の花嫁になるかもしれない女の子が襲われるというのに、
ぼくはその事実を知りながら、教えることができない――
そのうえ母は、ぼくのことまで咬ませてしまうつもりらしかった。
この村の血すじには、マゾの血が流れている。
そんな伝説がほんとうのことなのだと、改めて思い知ったのだった。


◆◆◆
だしぬけの出来事だった。
十分気を配っていたつもりだったのに。
出されたお茶に眠り薬が入っているとは思わなかった。
うたたねをしかけたぼくに、「まぁ、疲れたんだね」
と母が言ったのがおぼろげに耳には入った。
それに反応しないぼくに、母があの少年に目配せをするのまで意識にあった。
気づいた時には首すじに激痛が走り、少年の両手でぼくは羽交い絞めにされていた。
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
現実ではないかのように、ぼくの身体から血を吸い取られてゆく音が鼓膜を刺した。
そのままぼくは眩暈を起こし、畳のうえに倒れ込んでしまった。

つぎに意識がよみがえったのは、澄江の叫び声だった。
あの親父が、澄江を追いかけまわしている。
家じゅうを逃げ回りながらも、あちこちで澄江は、先回りした親父と鉢合わせした。
親父の動きは獣のように素早かったのだ。
制服の重たいスカートを翻し、発育の良いおっぱいをゆすりながら逃げる澄江は、
ステテコ一丁の親父につねに後れを取った。

澄江がぼくの倒れ込んでいる部屋に逃げ込んできた。
あと一歩で、外に逃れることができるはずだった。
ところがそのまえに、あの少年が立ちふさがった。両手を拡げて。
澄江の頬に、怒りの引きつりが走った。
「どいて頂戴!!」
澄江は少年を突きのけようとしたが、逆に腕を掴まれて引き据えられてしまった。
「いいぞ、獲物はそうして捕まえるんだ」
親父は当然、息子の味方だった。
獲物を譲った親父は、息子に指図した。
「脚を咬んでやれ。パンストなんか、破いちまえ!」

少年はつぶらな瞳で澄江をじいっと見つめた。
澄江は少年にどう接してよいのかわからず、おっかなびっくり、
それでも睨みつけるだけの気力はまだ、持ち合わせていた。
少年はそろそろと、澄江に近寄ってゆく。
澄江はじりじりと後退して、部屋の隅に追い詰められた。
薄黒いストッキングに透けた豊かなふくらはぎが、頼りなげに映る。
ぼくはひっくり返ったまま、間近でくり広げられる血の争奪戦をただ視ているよりなかった。
痩せこけた腕が伸ばされて、澄江の足首をつかまえた。
強い力だった。
澄江が振りほどこうとしたけれど、だめだった。
少年はそろそろと澄江に近づいて、足許を舐めるようにして、
黒のストッキングのうえから澄江のふくらはぎに唇を吸いつけた。
「ああああああっ!」
恐怖の混ざった悲鳴があがった。

ものの30分ほどで、澄江は吸血鬼の親子の肉奴隷にされていた。
脚を咬まれてストッキングを剥ぎ落されてゆく澄江の後ろにまわった親父が、
澄江の肩を掴まえて首すじを咬んだ。
ふたりは澄江の生き血を、がつがつとむさぼった。
ぼくはなにもできなかった。
悔しかった。
けれども、ぼくの股間はむざんなくらいに、膨張しきっていた。


◆◆◆
夜になった。
澄江は隣の部屋で、“処刑”されていた。
親父が欲情もあらわに迫っていって、
澄江の叫び声と服の裂ける音が、ひっきりなしに続いた。
庭に面した廊下に、
澄江のブラウスが、シュミーズが、ブラジャーが、ズロースまでもが投げ出され、
叫び声は涙声に変わっていった。
ほら、何しているの、ちゃんと視るんだよ。
しばらく姿を消していた母がいつの間にか戻ってきて、ぼくを促した。
ぼくはおそるおそる、隣室とこちらとを隔てているふすまを細目に開いた。

いまはスカートだけを腰に巻いて、
黒のストッキングを片方脱がされた澄江が、
息せき切った親父に迫られていた。
思った以上に豊かなおっぱいに、
澄江がもう大人なのを発見して、
ぼくは強い昂奮を覚えた。
初めて目にするあらわなおっぱいに、
見慣れた制服のスカートの取り合わせが、
よけいにぼくを昂奮させた。
視てろぉ、ぶち込んでやるからなあ。
鎌首をもたげた親父の股間が、
あんなものが澄江の股間に収まるのかと
心配になるほど逞しかった。
自分の股間を見せつけながら、
布団のように従順に組み敷かれた澄江のうえにのしかかり、
親父の尻が澄江の股間に沈み込むのを、
ぼくははっきりと見届けた。
びゅうッと撥ねた生温かい粘液が、
ぼくの太ももを染めた。


◆◆◆
都会さもどっても、おらたちのこと忘れるでねぇぞ。
親父はにんまりと笑みながら、ぼくたちに話しかけた。
憎めない笑みだと、ぼくは思った。
「また来ますね」
いつも強気な澄江が、ぼくの顔を見ぃ見ぃ、遠慮がちにそういった。
「そうだね、また来よう」
ぼくがそういうと、澄江が、
「視るだけでよかったの?」
といった。
「戻ったら二人で、とっくりと勉強せえ」
親父がいった。
「勉強」という神妙な言い草に、女たちが笑った。
健康な笑いだった。
あのとき姿を消していた母たちも、近所の助平親父どもの昼間からの夜這いを受けて、
母は肌色の、孝江小母さんはねずみ色のストッキングを引きずりおろされて、
なん度もなん度も、ぶち込まれていたのだ。
でもぼくにとっては、澄江がぶち込まれるのを視ただけで、十分すぎるほどだった。

黒のストッキングを脚から引き抜かれ、親父にせしめられた後。
澄江はリュックからひし形もようのハイソックスを取り出した。
ぼくが気絶したふりをしているのを、彼女はとうに気づいていたのだ。
そして少年を手招きすると、「ちょっとだけやらせてあげる」といったのだ。
少年はこちらに背中を向けて、
都会のお姉ちゃんのスカートを恐る恐るはぐりあげると、
すぐに父ちゃんがそうしたように、開かれた股間の奥へと腰をくっつけていった。
ひし形もようのハイソックスを履いた脛がリズミカルに足摺りするのを、
ぼくは目を真っ赤に充血させて見つめていた。
自分でヤるよりも昂奮かもって思った自分が、ちょっぴり情けなかったけれど。
ほんとうに心から、昂奮した。
だれもが“お供物”を嫌がらない理由が、やっとわかった。

来年もぼくたちは、母たちの里帰りにつき合うだろう。
祝言もきっと、この村で挙げるのだろう。
そして、純白のストッキングを穿いた花嫁を輪姦されて、
股間を淫らな粘液のシャワーでぬるぬるにしてしまうのだろう。

不可思議な街

2020年10月26日(Mon) 18:45:47

不可思議な街だった。
人間と吸血鬼とが、仲良く共存していた。

未亡人は”伴侶ができて幸せ”といってわざと喪服姿で相手をし、
黒のストッキングを穿いた脚を咬ませて愉しませてしまっていたし、

病院勤めの看護婦は、光沢入りの白ストッキングで勤務して、
深夜のナースステーションで輪姦されながら、”夕べは凄くモテちゃった”と誇らしげ。

吸血鬼が万年鬼の鬼ごっこに興じる子どもたちは、
自分のハイソックスはもちろんのこと、
つかまえられたガールフレンドのハイソックスが血浸しになるのを、面白そうに見つめている。

夫の勤務先のオフィスでは、女子社員は全員献血を義務づけられているし、
その奥さんはご主人が執務しているすぐ隣の部屋で
パンストを片方だけ脱がされた格好で、息を弾ませてしまっている。

学校の女子生徒は制服姿で咬まれながら、
セーラー服の襟首に血を一滴も滴らせずに吸い取る腕前に感心し、
男子でも希望者は女子生徒に扮することが許されていて、
同級生と肩を並べて息を弾ませてしまっている。

こんな不可思議な街があるなどとは、目の当たりにしても信じられなかった。
けれども今は、信じられる。
あれから妻を呼び寄せて日常的に無償で春を売らせ、
娘を呼び寄せて処女の生き血をたっぷりと愉しませ、
息子夫婦まで呼び寄せてわたしと同じ愉しみに目覚めさせてしまったのだから。

タウン情報  「逆里帰り」

2019年12月26日(Thu) 07:57:42

暮れも押し詰まったこの時期になると、吸血鬼との共存が進む当地では、「逆里帰り」という現象が起こっている。

都会に住まう境康司さん(51歳、仮名)と芙実子さん(49歳、同)の姿も、その中にある。息子の孝嗣さん(27)が当地の女性と結婚し居住しているためだ。
「普通ならわたしたち夫婦が親のところに行くのですが、年末に人(吸血鬼〉の集まる当地では、血液の需要が高まるので人を呼び寄せることが奨励されます。わたしの場合は両親を呼び寄せています」と語る孝嗣さん。3年前に当地に棲むひろ子さん(22)と結婚して以来、毎年の行事になっているという。

「悪い嫁にはめられたんです」
孝嗣さんの母親、芙実子さんはそういって苦笑する。
もっとも嫁姑はむしろ仲が良く、今回の取材でもひろ子さんが甲斐甲斐しくフォローをしてくれている。
「いまとなっては記憶が不確かなんですけど――この街で吸血鬼に血を吸われると、記憶が入れ替わるそうですから――いま残されている記憶は、とても良い記憶なのです」
芙実子さんが語ることを要約すると、彼女を襲った吸血鬼は嫁であるひろ子さんの血を嫁入り前から吸っていた、長年の交際相手であるという。
「主人はいままでどおりの交際を許してくれましたけど、親族は話が別です。私、”うるさい姑に浮気を咎められる”って思ったんです」
傍らで嫁のひろ子さんは、そういって肩をすくめた。

いまの愛人に初めて襲われたのは女学生のころ。下校途中でのことだったという。
「変態なんです。脚を咬んで靴下を破くのが好きだった」
ふくらはぎを咬まれて吸血され、制服の下に履いていた白のハイソックスを汚されながらも、ひろ子さんは初めて体験する吸血の快感を、骨の髄まで味わわされてしまったという。

学校を卒業し、地元の企業に勤めるようになると、ハイソックスをストッキングに履き替えて”接待”をつづけ、2年後にはめでたく処女を卒業。
すでに、取引先として出会った孝嗣さんとの挙式を控えている時分だったという。
「未来の夫を裏切るという罪悪感はありませんでした。むしろ、処女を捧げるのはこの人で良かったと、抱かれる腕のなかで実感しました」と語るひろ子さんを、姑の芙実子さんは「ひろ子さんたら、ほんとうに悪い嫁なんですよ」と言い、おどけて小突いた。
「それで彼氏には、お義母さまを襲うことをすすめました。孝嗣さんも賛成してくれて・・・母さんが一日でもよけいに若いうちに血を味わわせてあげたいと言ってくれたんです。悪い嫁、ではなくて、悪い夫婦ですね」
ひろ子さんの傍らで妻の過去をずっと黙って聞いていた夫の孝嗣さんも、”洗脳”を受けてしまった一人である。
「花嫁の処女を別の男のひとに奪(と)られるんだと聞かされても、意外なくらいサバサバとしていました。すでにわたしもその方に血を吸われた後でしたし、ずっと処女の生き血を吸ってきたお相手である男性が芙実子の初体験の相手にふさわしいと感じたのです。初体験は、花婿のぼくから差し上げたんです」
爽やかに笑うご主人を、若妻のひろ子さんは頼もし気に見あげていた。

都会育ちのご両親を洗脳するのには、地元のほうが都合がよい――そう考えた若い二人は、結婚を控えて孝嗣さんのご両親を街に呼び寄せて一席もうけたところ、
「意外にも、父がさきに共鳴してくれました」
孝嗣さんはそう証言する。
「”母さんがはずしているうちに、まずぼくからしてもらおう”と、息子の嫁になる人の愛人に進んで首すじを咬まれて、その場でぐんなりと。父の血の味が気に入ったらしくて、怖くなるくらいゴクゴクと飲んでいましたね。ぼくの血の味と似ていたそうで・・・要は相性が良かったのでしょうね」
「妻を襲われるのに救おうとしないのは、やはり夫としてどうかと思いましたので」
長年連れ添った芙実子さんを伴って年越しに訪れた康史さんも、そう語る。
「悔しかったですよ、それは。永年守り抜いてきた操を、むざむざと夫の前で・・・」
わざと刺激的な表現を用いながら、芙実子さんは「塗り替えられた記憶」を語る。
択んだ言葉の割に印象が暗くならないのは、終始誇らしげな口調のせいなのだろう。
康史さんは、最愛の芙実子さんの血が相手の吸血鬼の気に入ったことを誇りに思っている、という。
「ええ、さいしょは首すじでした。ご主人のより柔らかですなとか言われて、私舞い上ってしまって・・・好きほうだいに、チュウチュウやられてしまいました。
靴下を破りながら脚を咬むのがお好きだそうで・・・私は気が進まなかったのですが、もうろうとなっていた主人にまで、”お望み通りかなえて差し上げなさい”と勧められて・・・」
面会した花嫁のご両親に対して失礼がないようにと装われた真新しいストッキングは、その場で吸血鬼の好色な唇を這いまわされて、見るかげもなく剥ぎ堕とされたという。
「家内、ノリノリになっちゃいましてね・・・」
そのあとを語ろうとする康史さんを「やだ」と恥ずかしがっていちどは制止した芙実子さんだったが、意を決したように口を開いた。
「エエ、お捧げしちゃいました。女の操。嫁になるひろ子さんがが純潔を捧げたというその男性に、なんですね。主人に視られていることと、嫁のお相手だということと、両方にドキドキしました。股を割られるまではあきれるほど呆気なくて・・・気がついたらもう、夢中になってあのかたにしがみついてしまっていました」
「妻の腕が嫁の相手であるその男性の背中におずおずと巻きつけられていくのをみて、これは終わったな。私は男として、家内は女として・・・と、すこしだけジンときましたね。けれども気がつくともう、わたし自身が目の前のラブ・シーンを食い入るように見入ってしまっていて。相手の男性が家内の身体に満足してくれたらしいことに、むしろ嬉しい気持ちになっていました。すでにあの時点でもう、咬まれたときに注入された毒がまわっていたんでしょうね」
吸血鬼は妻を気前よく与えてくれたご主人に感謝を告げ、
ご主人はベッドのうえでの妻に対するあしらいに、称賛を惜しまなかった。
人妻と結ばれただけではなく、その夫の友情を勝ち得ることに成功、「理想的な三角関係だと思います」と、孝嗣さんは語る。

ご両親は花嫁の愛人と握手して別れ、それ以来「逆里帰り」が続いている。
「盆と暮れの、年2回です。いまのところ。あまり頻繁にやるとキリがなくなるから――でも、近々当地に移住することを考えています。妻も積極的です。幸い蓄えもあるので、定年前にかないそうです」
長年連れ添った夫人の貞操喪失を淡々と、むしろ誇らしげに語るご主人を、芙実子さんは優しく見守っていた。

妻の脚も、捨てたものではない。

2019年04月18日(Thu) 07:24:12

法事に招ばれるようになってから。
村の人たちとの交際は、いやがうえにも深まった。
週末はいつも夫婦連れだって、村の法事に参列するのが、習慣になっていた。

見慣れた妻の太い脚が、黒のストッキングに包まれて、わたしの半歩まえ、歩みを進めていく。
妻の脚も、捨てたものではない。
そんなふうに思えるようになったのは、この村の法事に参列するようになってからのことだった。

あのう。
遠慮がちに声をかけてきた年配の男に、妻はにこやかに振り返る。
なにか御用でしょうか。
問う妻に、男はもじもじとしながら、いった。

おみ脚をちょっとだけ、拝ませてもらいてぇんだが。
旦那さんも、ええかね?

ええですよ、と、わたしは応え、妻をかえりみた。
妻もまた、どうぞとひと言囁いて、黒のストッキングの脚を半歩まえに差し伸べてゆく。
男の意地汚い唇が、ストッキングのうえからなすりつけられるのを、妻は面白そうに見おろしていて、
そんな妻のことをわたしもまた、魅入られたように見守ってゆく。

妻は足許を染める礼装を、惜しげもなくむしり取らせていった。
陽の光があからさまに照らす寺の庭先で、妻は犯された。
ストッキングを剥ぎおろされた太ももを、眩しくさらけ出しながら。

劣情を満足させた年配男は、しまりのない笑みを満面にたたえ、とても嬉しそうに寺を後にした。
庭先で犯されるのは、いちばん最低のあしらいなんだって。
妻は愉しげに、村のしきたりをわたしに語る
その妻と歩調を合わせ、わたしも愉しげに、
夫婦でするときよりも色っぽかったね、あたりまえじゃない、と、
おバカなやり取りを愉しみながら、寺を後にする。

あなたが来るほうが、盛り上がるんだって。

2019年04月18日(Thu) 07:14:15

こんどの土曜、空いてる?

妻がわたしに訊いた。
とくに予定はないけど・・・とこたえると、
妻は恐ろしいことを口にした。

法事に招ばれてるの。あなたも来ない?

どういう法事なのかは、とっくに経験済みだった。
田野倉家の名誉が地に堕ちた、屈辱の日。
そしてそんな未曽有の屈辱を、悦んでしまった魔性の刻。
そんな先週末の記憶が、ありありとよみがえる。

妻は追い打ちをかけるように、いった。

あなたが来るほうが、盛り上がるんだって。

亭主の目のまえで、その妻を犯す。
そんなけしからぬ企てを、彼らはしばしば愉しんできたという。
互いの妻を交代で輪姦し合う仲だという。
他所の土地から来た夫婦者で、もっぱら交接の対象とされるのは妻の側だけ。
亭主にそんな権利は、認めてもらえない。
権利があるとすると、自分の妻が代わる代わる凌辱されるところを見せつけられる権利だけ。
けれどもわたしは、妻の恥ずべき提案に、恥を忘れて頷いている。

土曜日は晴だった。
村はずれの寺の本堂の奥深い一室で、妻が張り裂けるような叫びをあげている。

おやめになって、およしになって。
田野倉家の名誉を、これ以上泥まみれにするわけにはいきません。
お願い、放して、ダメ、ダメですったら・・・
あなた、あなたあっ・・・

その傍らでわたしまでもが、あらぬことを口走っている。

家内になにをするんです!?
止めてください、家内を放してください。
うちの妻は売春婦ではないんです、みんなで乱暴するなんてあんまりです・・・っ

互いに言葉で夫婦の名誉を守ろうとしても、
彼らが汚そうとするものの価値を高めるだけの意味しかない。
けれども場を盛り上げるため、
わたしたちは犯される妻と、妻を犯される夫の役を、それは熱心に演じ抜いている。

こと果てたあとの愉快なお別れのころには、不思議にも、
スポーツを楽しんだあとのような爽快感が、漂っていた。

自信。

2019年04月18日(Thu) 06:14:27

すこし自信がついた。私って案外、モテるんだね。

法事の帰り道で、妻がいった。
きちんとセットした黒髪を乱れ髪にふり乱し、
身にまとう喪服は着崩れをして、ブラウスはボタンが飛んでいた。
大胆な裂け目を走らせた黒のストッキングは半ばずり落ち、
ふやけたようにたるんでいた。

この村に来て初めて招かれた、法事の席で。
妻に目をつけた村の男衆が三人がかりで、
引きずり込まれた別室で、代わる代わる犯したのだ。

法事とは名ばかりで、裏では「女の品評会」と呼ばれた席。
土地の者と仲良く暮らすには、必ずたどらなければならない通過儀礼と聞かされて、
気の進まない外出だったが、
永年連れ添った妻が、礼装を剥ぎ取られ痴態に堕ちてゆく光景に、わたしは不覚にも勃起を覚えた。

ねえ、戻らない?まだ終わってないんだよね?
妻の囁きが毒液のように、わたしの鼓膜を浸した。
そしてちょっとだけ恨めし気に、助けてくれなかったよね?といい、
それからちょっとだけイタズラっぽく、あなたも愉しんでいたみたいだし、と、つけ加えた。

一見シンと静まり返った本堂は、猥雑な空気を漂わせていた。
山門をくぐるとすれ違った男が、「あ」と声をあげた。
「さっきはどうも」
男は軽く会釈した。妻をさいしょに抱いた男だった。
「家内がお世話になりました」
わたしはいった。
「忘れもんですか」
男は間抜けなことを訊いた。
「イエ、もうちょっとしてもらおうか?って話し合いまして」
「ありがてえ、歓迎です」
男は妻を引き立てるようにして、本堂に取って返した。

結婚して二十年連れ添った妻は、
おおぜいの男に愛されて、自身を取り戻した。
その晩ひと晩じゅう、妻は土地の男衆と仲良く過ごし、
わたしは見せつけられる歓びに目ざめていった。

今週末にも、法事がある。
妻は新調した喪服をいそいそと試着し、真新しいストッキングを嬉し気に脚に通していく。

嫁と姑

2019年03月25日(Mon) 04:41:31

都会育ちの若い嫁が、公民館で吸血鬼に襲われて犯された。
近所の奥さんに会合があると誘い出されて行ってみたら、
そこには彼女目あての吸血鬼が一人で待ち構えていて、
「私は吸血鬼。あんたの血が欲しい」
といって、一方的に襲いかかったのだ。
若い嫁は抵抗したが、すぐにねじ伏せられて首すじを咬まれ、生き血を吸われた。
貧血で朦朧となったころ、ブラウスを脱がされパンストを引き降ろされて、犯された。
ひとしきり嵐が通り過ぎると、男は女を介抱しながら、いった。
都会から来たあんたが気になって、チャンスを窺っていたのだと。
そして、この村の奥さんがたはだれもが、吸血鬼を情夫にしているのだと。
あんたのしたことは村の人妻として当然のことだったのだから、だれにも恥じることはないのだと。
女は夫を愛していたが、こんどのことは夫に黙っていることにした。
夫を傷つけたくないから、内緒でつき合ってほしいと願ったのだ。
その実、吸血鬼の手管に身体の芯まで火照らされてしまっていることに、女は気づかずにはいられなかった。

毎日のように公民館に出かけてゆく嫁のことを、同居していた姑が怪しんだ。
息子が田舎に赴任するときいて、自分の夫まで退職してその村に棲みたいと願ったのだ。
夫はとある会社の重役だったが、悪事が加担して会社にいられなくなっていた。
息子のほうもそんな夫の口利きで就職したものだから、やはり会社にいづらくなっていた。
そんなわけで、この村に移り住んで、二世代住宅を構えることになったのだ。

姑は、いつになくおめかしをしてウキウキと出かけてゆく嫁のあとをつけていった。
嫁の悪事を暴きに行くのにふさわしく、折り目正しく地味なスーツ姿で出かけていった。
自分の足許を染める薄地のストッキングが、吸血鬼を発情させるのだなどとは、夢にも思わずに。

公民館にたどり着くと、嫁がふすまに囲まれた一室に消えるのを見た。
中には自分よりも年配の男が控えていた。
気づかれぬようにふすまをそうっと開くと、嫁はブラウスの襟首をくつろげて、男に首すじを吸わせていた。
まあ、なんと不埒な・・・!と憤った姑は、浮気の現場を抑えようとその場を起とうとした。
そのとき、彼女の肩を、別の男の手が抑えた。
あッ・・・!と叫ぼうとした口許を抑えられながら、姑は自分の首すじにチクリと鈍痛が走るのを覚えた。
相手は嫁を犯しているのと同年輩の吸血鬼だった。
「ああああああ」
姑は目を回しながら生き血を吸われ、その場で犯されてしまった。

怪しい行動をとる嫁を尾行して、浮気に耽る現場を抑えようとして、かえって犯されてしまった姑は、
行為をくり返すうちに不覚にも、忘れかけていた性の歓びに目ざめてしまった。
そして、隣室で嫁が浮気に耽っているのもかえりみずに、
強引に肉薄してくる男の逞しい腰つきに、腰の動きを合わせていった。
さいしょはぎごちなく、それからはすっかり打ち解けて!

恥を忘れて乱れてしまったことを姑は恥じたけれども、
この村に来た途端、あんたにひと目惚れしてしまったのだと口説かれて、ついその気になった。
これがこの村のしきたりなのだ、あんたは村の伝統を尊重してくれたに過ぎないのだといわれて、
「そうなのですね、私のしたことは間違っていないのですね」
と、くり返し念を押しながら、もういちど抱かれていった。

嫁がすらりとした脚にまとったストッキングを破かれながらふくらはぎからの吸血を許している隣の部屋で、
姑も豊かに熟れた脚を染めるストッキングを破かれながら、ふくらはぎからの吸血を受け入れていった。

「どうしたの?このごろやけに、ご機嫌じゃないか」
若い夫に何気なく問われた若い嫁は、
「あら、そんなことないわ」
と照れた。
そして照れ隠しに、最近この村で仲良しができたのといった。
田舎も案外住み心地が良いものね、この村を任地に選んでくれてよかったわ・・・とつづけた。

「どうしたね?このごろばかに、ご機嫌じゃないか」
永年連れ添った夫に何気なく問われた姑は、
「アラ、そんなことありませんわ」
と恥じらった。
そしてその場を取り繕うように、最近この村で知り合いができたのといった。
田舎だと思ってばかにしていたけれど、とてもいいところですね、ここにきてよかったわ・・・とつづけた。

「あなた、ちょっと習いごとにいってくるわね」
「あなた、ちょっとお友だちに会って来るわ」
嫁と姑はいつになく仲良く、小ぎれいな装いを身にまとい、ふたり肩を並べて出かけてゆく。
情婦たちのために装ったスーツ姿にワンピース姿を、夫たちは眩し気にしながら送り出していった。
「どうした?やけに楽しそうじゃないか」
と夫たちに訊かれると、
「アラ、そんなことないわ、ただの習いごとよ、エヘヘ」
「そうそう、私もただの会合よ、ウフフ」
日ごろ折り合いの良くなかったはずの嫁と姑が、にこやかに笑み合いながら出かけてゆく後ろ姿を、
夫たちはいつまでも見送っていた。

「よかったですね、父さん。母さんが吸血鬼に気に入ってもらえて」
「お前こそ、よかったのか?治子さんをあいつらに喰わせてしまって」
「エエ、治子があんなに気に入ってもらえてよかったです」
「村に棲みつく条件だったからな、妻を彼らに縁づけるのは」
「ところでどうしましょう?二人にはまだ、だまっていましょうか?」
「そうだね、そのほうが賢明だろう。母さんも潔癖な人だから、我々に売られたときいたら少しはご機嫌斜めになるだろうし」
「そうですね、うちにしてももう少し親密になるまでだまっていたほうが、よけいに感謝されそうですし」
男2人はウフフと笑い合い、お互いの妻が折り目正しく脚に通したパンストが、情夫たちを悦ばせるためだと知り抜いていた。


あとがき
夫たちに隠れて吸血鬼との情事に耽る妻たち。
そんな妻たちを裏で隠れて吸血鬼に取り持っていた夫たち。
秘密を抱えた同士というのは、どことなく居心地が良いような、良くないような・・・(笑)

変化の進度。

2019年02月26日(Tue) 07:31:32

都会から移り住んだわたしは、今では地元の男衆たちに、敬意を表されている。

俺たちは子供のころから、お袋の浮気を見てきたし、
友だちの母さんを相手に筆おろしを済ませたし、
処女喪失の儀式に妹を連れて行ったし、
お見合い相手はたいがい周囲の男や自分の家族とデキていたし、
それでも納得づくで結婚したし、
披露宴では花嫁はもちろん双方の母親までもがまわされてしまうし、
相手は幼なじみや義理の兄弟や義父だったし、
結婚してからも嫁には必ずなん人かの彼氏がいて、
そうした彼氏たちとも親しく行き来する仲なのだけど、

あんたの場合は大人になってからここに移り住んできて、
嫁を犯され娘を抱かれ、自分までもが情婦にされて、
あんたの両親が遊びに来たときには嫁があんたの親父に抱かれる代わり、お袋さんがまわされちゃったし、
嫁の両親が遊びに来たときにも、嫁が仕切って姑を抱かせてくれたし、
それでもあんたたちの両親は、遊びに来るのをやめないでいるし、
俺たちはもちろん職場の同僚が嫁を抱きに夜這いをかけてきても、夫婦の寝室をいさぎよく明け渡してくれている。

俺たちが半生かけて学んだことを、
あんたはたったの三月で覚え込んでしまった。

母を法事に連れ出す。

2019年02月12日(Tue) 07:21:01

「どうしたの、その格好?」
待ち合わせた駅のホームで、母はわたしを見て目を見張った。
息子夫婦と待ち合わせたはずなのに、そこに肩を並べて佇んでいる2つの人影はふたりとも、婦人ものの喪服を身に着けている。
近づいてよくみると、そのうちのひとりは自分の息子だった。
それは、どんな母親でも驚くだろう。
女の自分を母に見せるのは、美奈子の田舎でひと晩過ごした後で良い――わたしはそう思っていた。
けれども美奈子は、ここを出る時から女の格好でいるべきよ、と、わたしに言った。
もしもお義母さまがほんとうに筋金入りの堅物なら、女装したあなたを見て愛想を尽かして帰るでしょう。
お義母さまがそういうひとなら、あそこには行かないほうが良い――彼女はそういったのだ。
あそこでの営みが耐えがたい辱めにしかならないというのなら、さいしょからお義母さまにそういう経験をさせるべきではない。
同じ女として、それは残念過ぎることだから。
たしかに美奈子の言い分は、もっともだった。
わたしは勇気を出して、洋装のブラックフォーマルを身にまとい、黒のストッキングの脚を駅頭の風にさらした。
申し合せたように黒のストッキングに染まった三対の脚は、そのうち一対がたじろいだように半歩下がり、
行儀よくかかとをそろえてまっすぐに立ち、それから意を決したように他の二対と同じ方角へと歩きだしていた。
実家に残してきた父の写真に、彼女は顔向けすることができるのだろうか。
ふとかすめたそんな不安を正確に読み取って、わたしと向かい合わせに座った美奈子は、確信に満ちた笑みを投げてきた。

「伺うのは美那子の実家だけれども、美奈子と同郷である前のご主人とわたしは親友なので、墓参りもする。
 それが再婚の条件だから。
 でも、わたしが男の姿でいくと前のご主人が妬きもちをやくかもしれないから、女の姿でお参りをする」
母にはそういう言い訳を用意していたけれど、どうやらわたしの女装趣味はとっくに、カンの良い彼女のアンテナに触れていたらしい。
「前からそんな気はしていたけれど」
という母のつぶやきを、美奈子も、敏感になったわたしの鼓膜も、とらえていた。

美奈子の実家の敷居に、母が黒のストッキングに包まれたつま先をすべらせるのを、わたしは胸をドキドキはずませながら盗み見ていた。
そんなわたしを、美奈子は面白そうに窺っていた。
母は美那子のお父さんに向って、「お世話になっております」と、頭を下げた。
尋常な礼儀正しさを示す母に、義父もまた田舎めいた慇懃さを表に出して、応じてゆく――
母の写真を見ていちばん昂奮した男が、表向きの礼儀正しさを完璧に装うのをみて、
やはりこの土地の人たちは油断がならないと思った――もちろん、自分のことは棚に上げて。
初めて見せた母の写真を前に、「うっ、ひと目見ただけでおっ勃っちまう!」なんて騒いでいたくせに。
もっともらしい顔をしてお辞儀をし合っていてもきっと、これは夫婦の固めの杯だとか、どうせいけすかないことを考えているに相違なかった。

夜の宴に合わせて、三々五々、周囲の者たちがなん十人となく、集まって来る。
美奈子の叔父もそのなかにいた。
彼がはじめから美奈子を目あてにしていることを知りながら、わたしは彼とも親しげにあいさつを交わす。
先方も嬉しそうに、「やあ、いらっしゃい」と、歓迎してくれた。
はた目には、縁故が濃いわけでもないのに遠来の客を新設に迎える遠縁の人にしか、見えなかったはずだ。
いや、じっさいには美奈子を通して、ほんとうに濃い関係なのだが。
美奈子が初体験を済ませた相手がこの叔父で、それ以来祐介と結婚してからも、
里帰りのたびに情交を重ねてきた間柄。
わたしもまた、彼と美奈子との関係は尊重することにしていた。
美奈子とわたしとを、ふたりながら初めて征服したのも、彼だったから。
「未来の妻となる美奈子を犯して下さい」――わたしにそんなことを口にさせて悦に入る、わたしといい勝負の変態だった。

初めてわたしを犯した祐介のお父さんも、やって来た。
彼とも初手は、ごく慇懃に挨拶を交わしてゆく。
傍らから挨拶を交し合うふたりを目にした母は、まさかこの男が息子を女として征服しただなんて、思ってはいないだろう。
もっとも彼は、別れぎわわたしのお尻をスカートのうえから勢いよくボンと叩いて、周囲を笑わせていたけれど。

わたしのときには、さいしょのひと晩はそのまま寝(やす)ませてくれたけれど、
母のときには、宴はさいしょの夜から始められた。
美奈子の父親が、母にぞっこんになってしまったからだった。

真夜中。
宴がたけなわを迎えて、灯りが暗く落とされると、いつもの組んずほぐれつが始まった。
わたしの傍らで押し倒された美奈子の叔母は、「あとで・・・ね♪」と、わたしに目配せをした。
似通った面差しの叔母と姪――この村への”帰郷”が思った以上に頻繁になったのは、彼女の存在も理由のひとつになっていた。
わたしのうえには、息せき切った祐介のお父さんがのしかかっていた。
スカートのなかに突っ込まれた節くれだった掌はさっきから、ストッキングを波立てながら荒っぽい愛撫をくり返しはじめている。
母のほうを見ると、さいしょはなにが起きたのかわからなかったらしい、ちょっとびっくりしたような顔をしたが、
迫って来た美奈子のお父さんに、そのまま押し倒されていった。
美奈子は自分の父に手を貸そうと、母の両手首を抑えつけようとしたけれど、
母は「だいじょうぶですから」と、やんわりと美奈子の干渉を拒絶した。
そして、圧しつけられてくる唇を目を瞑って受け止めると、
喪服のブラウスのうえから乳房をなぞるようにまさぐる掌を、這いまわるままにさせていった。
賢婦人といわれた母。
自分から応えることは決してしなかったけれど、動じることなく毅然として、相手の男性の劣情に、身を任せていったのだ。

翌朝、母は鏡に向かって、墓参のための化粧をたんねんに施していた。
「そろそろいいかな」と声をかけるわたしに、「エエ、いつでもよろしいわ」と、鏡を見ながら応える母。
いつもと変わらぬ凛とした雰囲気ををたたえていた。
ちょっとからかってやりたくなった。
「夕べは母さんらしくなかったね」
「そんなことないでしょう」
母は鏡から目を放さずに、こたえた。やはりいつもと変わらないトーンだった。
「うちに置いて来た父さんの写真を思い出して、父さんごめんねって手を合わせましたから」
父さんごめんねで片づけられてしまうのか――女はやはりしたたかだ。
婦人ものの喪服を身に着けているのも忘れ、わたしは思った。
まだまだ女には、なり切れていないみたいだな、と。
言葉を途切らせたわたしに、今度は母がいった。
「母さんらしくないことを言うようだけど」
「なあに?」
「今朝のお化粧、美奈子さんのお父さまのためにしているのよ」

あのかた、やもめ暮らしが長いんですって?
再婚は法的にどうだかわからないけど、まだ私もだれかに尽くしてみたい気もするのよ。
もっともああいう方だから、母さんを未亡人のまま抱きたい・・・なんて仰るかもしれないけれど。

楚々とした母の横顔に、女の表情がよぎるのを、わたしはただ立ち尽くして見つづけていた。
背後からは、朝っぱらから自分の叔父と戯れている美奈子の声が聞こえる。
淫らな静けさを漂わせた田舎の早い朝が、始まろうとしている――

親友の未亡人

2019年02月12日(Tue) 06:34:55

この世を去る間際、親友の祐介は、わたしに言い残した――美奈子をよろしく頼む、と。
祐介は学生の頃からの親友だった。
女装趣味に走ったわたしは30になっても独身をとおしていたが、祐介はそんなわたしにも分け隔てなく接してくれたし、
時には奥さん公認で、女の姿でのデートにも応じてくれた。
もっとも祐介は、奥さんを裏切ったことはなく、セックスの関係はなかったけれど。
こんなわたしでは、美奈子さんが気の毒だ。
結婚に自身を持てないわたしは言った。なによりも、親友の早すぎる死を受け入れることができなかった。
けれども祐介は言いつづけた――きっとうまくいくから。お前も幸せになれるんだから。
祐介がいなくなってから一年経っても、彼女の意思が変わらないのを確かめてから、わたしは美那子と結婚した。
初めて美奈子を抱いた夜は、祐介の命日だった。
法事のかえりに祐介の家に立ち寄り、喪服姿の美奈子にムラムラッときたときには、もう遅かった。
理性の消し飛んだわたしは、祐介の写真のまえで美奈子を抱きすくめていた。
たたみの上に抑えつけられたままの格好で、美奈子はわたしを抱きとめながら、いった。
「祐介の前で、しよ」
――わたしは美奈子の唇を、夢中になって吸い始めていた。

2時間後。
わたしたちは2人肩を並べて、祐介の写真の前で深々と頭を垂れて、将来を誓っていた。

祐介と美奈子は、同郷だった。
初めての里帰りは、祐介の墓参も目的のひとつだった。
美奈子はともかくとして、わたしまで受け入れてもらえるとは思っていなかったので、
夫婦で泊れるようで近くの街にホテルを予約していたのだが、
村の人たちはわたしにも分け隔てなく接してくれて、「いっしょに泊まっていきんさい」と、地元の言葉で言ってくれた。
もっとも方言のきつい土地なので、何をしゃべっているのか、ほとんど聞き取ることができなかった。
ただ、彼らの温和な顔つきで、わたしも歓迎されていると伝わってきた。

村に到着したのは夜だった。
美奈子の実家の人、祐介の実家の人、その近所の人、そのまた親戚の人。
あの広い祐介の実家に、いったいなん十人の人が招(よ)ばれてきたのだろう?
男たちはそろって赤ら顔で、女性たちはそろって、美奈子と同じように色白で気品があった。
四十五十のご婦人でも、えもいわえれない色気を漂わせていた。
翌日お参りに出かけるときのこと。
祐介との約束で、わたしは婦人ものの洋装の喪服姿で墓参をすることになっていた。
おおぜいの人たちのまえで、洋装のブラックフォーマルを身に着けた姿をさらすのは、ちょっと勇気が要ったけれど。
都会の通りではかかとの高いパンプスを履きこなせるほどの経験を持っていたこともあって、
いちど視線を浴びてしまうともう、ふつうに振る舞うようになっていた。
「だいじょうぶ、私も祐介も、あなたのことしゃべっているから」という美奈子の言葉も、背中を押した。

異変が起こったのは、墓参をした日の夜のことだった。
その夜も、身内の宴が用意されていた。
わたしも美奈子も、墓参帰りの洋装のブラックフォーマルのまま、宴席に連なった。
夜中を過ぎて、酔いもかなり回ったころ、突然照明が落ちた。
停電ではなかった。なぜなら、オレンジ色の小さな照明だけは灯っていたから。
けれども、影絵のようになった人影たちは、てんでに組んずほぐれつ、妖しい舞いを舞い始めていた。
それがなにを意味するのかを、わたしは瞬時に覚った。
宴がたけなわを過ぎると、既婚未婚の見境なく、相手かまわず交わる風習――
目のまえでそれを見て体験するとは、夢にも思っていなかった。
すでに美奈子のうえには、美奈子の叔父がのしかかっていた。
やめさせようとする手をさえぎった人影は、わたしを押し倒し、唇を重ねてきた。
相手は、祐介の父親だった。
「あっ・・・それは・・・」
とっさに抗おうとしたけれど、思わずあげた悲鳴は女声になっていた。
祐介のお父さんは強引にわたしの唇を奪うと、「うちの嫁と乳繰り合っておるんだな」という意味のことを土地のことばで囁いた。
地元の方言のきついかれの言葉は、それまでほとんど聞き取ることができなかったのに、この咄嗟の場での囁きだけは、ひどく鮮明に鼓膜に伝わった。
「え、ええ・・・」
不覚にも応じてしまったわたしはいつか、強引に奪われた唇で、せめぎ合うように応じてしまっていた。
黒のパンストを唇でなぶられながら脱がされてゆくのを、わたしは脚をくねらせながら応じていって、
そんなわたしの様子を美奈子は、わたしでも祐介でもない男に抱きすくめられながら、顔を輝かせて見入っていた。

宴は明け方までつづいた。
そのあいだにわたしは、祐介のお父さん、美奈子のお父さんに弟、さいしょに美奈子を犯した美奈子の叔父・・・と、
限りなくなん人もの相手をつとめ、昂ぶりながら応じてしまっていた。
美奈子もまた、なん人もの男を相手に、交接に興じていった。
「お久しぶり」「すっかり女ぽくなりおって」
切れ切れに聞き取れるそんなやり取りから、美奈子が結婚前からすでに、おおぜいの男たちと交わってきたことを知った。
「お婿さん、さいごにビシッとキメてや」
だれかに言われるままに、全裸になっていたわたしは、さいごに美奈子を抱いた。
衆目の見つめる前フィニッシュを遂げたとき、祐介の写真のまえで初めてイッた夜のことを思い出した。
「どっちもこなせるなんて、良い婿さんだな」
傍らから聞こえたその声は、明らかに称賛の意思を帯びていた。
そしてわたしは、この夜を境に、初めはひと言も聞き取れなかったこの土地の方言を、聞き取れるようになっていた。

村を訪れたときには、一対の夫婦の姿をしていたけれど。
都会への帰りは、すすめられるままに、婦人もののスーツ姿で美奈子と肩を並べていた。
「またおいでなさいや、法事のときじゃなくても良かから」
すっかり馴染みになった祐介のお母さんが、優しく声をかけてくれた。
「エエ、すぐ来ます」
私に代わって美奈子が、イタズラっぽく笑って答える。
「この人も、来たがると思いますから」
照れ笑いを視られまいとして、わたしはわざと横を向いていた。
祐介のお父さんは、いった。
「あんたのお母さん、後家さんなんだってな?よければこんど、連れてきなさい」
美奈子のお母さんも、いった。
「みんなで仲良くなりゃええからね」
母は評判の賢夫人だった。
都会育ちの気位の高い母が喪服姿をはだけられながら犯されてゆくのを想像して、
わたしはスカートのなかで思わず、股間を逆立ててしまっていた。

都会育ちの若妻、村の風習にまみれる。

2019年02月10日(Sun) 09:11:28

磯辺の息子の晴也が妻の香澄を伴って村を訪れたのは、両親がこの地に移り住んだ翌年の夏のことだった。
そして、自分の両親がこの村で体験した不思議な話を聞かされた。
香澄は遠慮しようとしたが、義父は「香澄さんにも聞いてもらって構わない」といって、
赴任してすぐ、お母さんに夜這いに協力してほしいと頼み込まれて引き受けたこと、
それでもどうしても、お母さんを本気で好いている人以外にゆだねる気にはならないと訴えたこと、
ところが意外にも、お母さんが親切に面倒を見た男の人が、お母さんのことを好きになってしまったと告白してきたこと、
ひと晩だけのつもりでその人とお母さんとを逢わせてやったが、お母さんもその人のことを好きになって、
いまでは一緒に暮らしていることを告げた。

晴也はいった。
「だとするとお父さんは、お母さんに素敵な恋をさせてあげたことになるんだね」
息子の意外な言葉に磯辺は驚いたが、「お前がそう受け取ってくれるのなら、母さんもよろこぶはずだ」とこたえた。


ひと晩両親の家に泊まると、地元の若い衆に誘われるまま、晴也はつまといっしょに山に山菜取りに出かけた。
若夫婦の目当ては地元の新鮮な山菜であったが、
若い衆たちの目当てはもちろん、磯辺の息子が伴った若妻の新鮮な肉体だった。
人目のない山奥にまで来ると、三人の若い衆は、息せき切りながら若夫婦をふるい山小屋に引き入れた。
そこは、彼らが夜這いをかけた人妻を呼び出して、ひと晩じゅう愉しむために作った隠れ家だった。
山小屋に誘い込まれた晴也はあっという間に三人がかりで縄で柱に縛りつけられて、
びっくりして声も出ないでいる香澄は、やはりあっという間に男どもの猿臂に縛りつけられるようにして、犯された。
村の若い衆たちは、都会の洗練された装いの若妻を手籠めにして、好き勝手に熱情を注ぎ込んでいった。

予定通り山菜取りを終えた彼らは、若夫婦を磯辺の家の近くまで送り届けた。
若い衆の頭だった一人は、自分の居所を描いたメモを香澄に渡して、
夫の晴也には、逃げも隠れもしない、おれのしたことが罪だというのなら、訴えてもかまわないと告げた。
そして、「急なお願いだったのにご夫婦でこたえてもらって嬉しかった」と、不思議なことを口にした。

ふたりきりになると、香澄は晴也にいった。
「ねえ、もう一度してもらおうよ。あたし、三人がかりなんて初めて。凄く感じちゃった♪」
晴也があきれていると、「あたしもお義母さんみたいな、素敵な恋がしてみたい♪」と訴えた。
そしてさいごには、「晴也が嫌なら私一人でも行く♪」とまで、言ったのだ。
晴也は仕方なく、新婚三か月の妻に素敵な恋をさせてやることにした。

妻はノリノリ、夫は渋々なのを、迎え入れた若い衆たちはひと目で見抜いた。
けれども夫の渋々は、世間体を気にしてのものだということまで、見抜いてしまっていた。
彼らは晴也に対して、「こないだは縛ってゴメンな。きょうは一緒に楽しもう♪」と告げた。
村の男衆たちが息荒く香澄に挑みかかってゆくのを見せつけられた晴也は、
自身も不可思議な昂ぶりを覚えて、彼らに促されるままに妻の身体にのしかかっていった。
意外にも香澄が抵抗したことが、晴也の性欲に、かえって火をつけた。
愛欲まみれの一日が過ぎると、彼らはすっかり、兄弟のように仲良くなっていた。
「こんどはうちの嫁を抱かせてやる」という誘いに乗る晴也を、香澄は睨みつけたけれど。
「その留守は俺たちがお邪魔するから」
という三人の申し出は、決して拒否しなかった。

「お義母さまは純情だから、お1人がいいみたいだけど――
 あたしはおおぜいの男子にモテるのがいいな。
 もしかしたらあたし、多情なのかもしれない――こんなお嫁さんでゴメンね」
そういう香澄を許すという意思表示の代わりに、晴也は熱いキスを交わすのだった。

「子どもができるまでは、ほどほどになさいね」
姑の香奈江は、嫁の香澄をそういって送り出す。
若い嫁の生き先は、女ひでりの若い衆たちの乱交の場。
夫である息子でさえ、その交わりを許してしまっている。
そして自分は――
夫の留守中に、同居している年上の男のために都会の装いを着飾って、犯されてゆく。
出かけたはずの夫は、きょうも庭先から息をひそめて、妾(わたし)の痴態を昂ぶりながら見つめつづけるのだろうか――

都会育ちの熟妻、夜這いの風習にまみれる。

2019年02月10日(Sun) 08:48:36

都会でのぜいたく暮らしの末、破産寸前になった磯辺は、勤務先の計らいで人里離れた村里へと転勤を命じられた。
その土地は会社の創立者の生まれ故郷だった。
磯辺は妻の香奈江を伴って赴任したが、その直後上司を通じて、奇妙な申し出を受ける。
この村では夜這いの風習がまだ残っているので、奥さんにも協力してほしいというのだ。
磯辺はうろたえながらも即座に断るが、上司の依頼はくり返しつづけられた。
創立者は、過疎化にさらされた生まれ故郷のことを気にしていて、
女ひでりになっていたこの村に若い女性を補充するために、自分の社員やその妻たちを移り住まわせていたのだ。

磯辺は訴えた。
「ひとの大事な妻をもてあそぶとは何事か。わたしの妻を本気で愛するつもりもないくせに!」
ところが意外にも、村川と名乗る一人の男が名乗り出た。
怪我をしているところを行きずりの奥さんに助けられた、親切にしてもらってとても惹かれたと。
村の夜這いは原則として不特定の相手と交わることになっていたが、例外的にだれかが一人の人妻を独占することも認められていた。
村川は磯辺よりも10歳も年上で、つれあいに先立たれていた。
村の衆たちは、若かったころの村川が、その妻を気前よく夜這いに差し出していたことを知っていて、
村川であれば来たばかりの都会妻さんを独り占めにしても認めると口をそろえていった。
ひととおりではない借金を棒引きにしてもらった見返りに、観念した磯辺は妻に夜這いの協力をさせることを約束した。

妻の香奈江は夫でもない男に抱かれることを嫌がり、貴方にも息子にも顔向けできなくなると訴えた。
磯辺は、いままでの義理もあるのでひと晩だけは相手をしてもらう、
そのうえで、もしもどうしても厭だったら、その時には私から断ってあげようと請け合った。
未経験の妻が抵抗することを見越した村の衆たちが、磯辺にそのようにしても良いと事前に告げていたのである。

夫が夜勤に出た夜、香奈江は初めて村川を自宅に迎え入れる。
そして戸惑い、うろたえながらも、男の腕に抱きすくめられていった――
一夜明けて帰宅した夫は、そこにいままでと変わりない妻を見つける。
ひと晩の情事のあとをきれいに拭い去った妻は、夜勤明けの夫を優しく迎え入れ、何ごともなかったかのように振る舞うのだった。
香奈江は、夕べのことはなにも語らなかった。
そして、今後夜這いを受け容れるのは勘弁してほしい――とも、口にしなかった。

それ以来、香奈江は週にひと晩の頻度で、村川を自宅に迎え入れた。
いつも、夫のいない夜だった。
そして、朝までまぐわい続けると、夜勤明けの夫を優しく迎え入れた。
朝から着飾って自分を迎える妻を見て、村川は思った。
この身体が夕べ、わたし以外の男の身体を受け入れたというのか――
得も言われぬ昂ぶりに胸を焦がしながら、磯辺は久しぶりに妻を強引に抱きすくめた。

村の衆たちは、周囲の評判を気にする磯辺を気づかって、磯辺の妻と村川の関係に、いっさい触れようとしなかった。
磯辺にも、その気遣いは伝わっていた。
村川はやもめだったが、磯辺から香奈江を取り上げようとはしなかった。
狭い村のことだから、2人が顔を合わせる機会は随所にあった。
けれども村川は終始磯辺に対して、都会の大学を出たエリート社員への敬意を忘れなかった。
磯辺は、村川を妻の愛人として受け容れる気持ちになっていた。
彼は、夜勤を週二回引き受けたいと上司に願い出た。
転任してきてから三か月経つと、香奈江と村川の逢瀬は週に3回となった。
週3回の夜勤が体力的にこたえた磯辺は、香奈江にいった。
「村川さんがお前に逢いたいと言ったら、わたしがるときでも出かけて行ってかまわない」と――
やがて村川は、磯辺の招きに応じていままでの家を引き払い、磯辺夫妻と同居するようになった。
そして、磯辺夫人の用心棒兼愛人として、夫の磯辺が不在の時はもちろん、
彼が居合わせているときでも、磯辺夫人と愛し合うようになっていた。

息子夫婦にあらいざらいその話をしたのは、彼らが村に赴任してきた直後のことだった――

三つの鐘 ~祝・ご入学~

2019年01月19日(Sat) 07:08:55

不思議な風景に、貴志は胸をときめかせていた。
ひと月ほど前だったら、とても想像さえできない光景だった。
そのころはまだ、ゆう紀とは婚約をしたてのころだった。
親たちのすすめで、父親の同僚の娘さんという人とお見合いをさせられて。
十代の婚約は決して早くない、街のためにはとても良いことなのだと聞かされていた。
両親はまだ、その街に赴任したことはなかったけれど。
父親の勤務先の創業者が、不採算を承知のうえで設置したその街の営業所に勤めることは、エリートコースのひとつだとさえ、いわれていた。
「父さんもその街に赴任することがあるの?」
と訊く貴志に、
「さあ、どうだろうね?」
と、父親はちょっとだけ困った顔をしてなま返事をしたものだったが、
そのときにどうして父さんの返事がはっきりしないものだったのかは、いまの貴志にはよくわかる。

高校受験の時期が、近づいていた。
進路を母親に聞かれたときに、貴志が口にした学校名は、その街に所在する私立校だった。
大きく目を見開いた母親の美晴をまえに、「ぼくひとりでもあの街に行きたいんだ」と、貴志は告げた。
中3という若さで父親の同僚に処女を捧げた婚約者のゆう紀も、その学校に進学する予定だと、親たちも聞かされていたらしい。
「反対しにくいわね」と、貴志のいないところで美晴は夫の継田にいった。
継田家がその街のしきたりにまみれてしまう日もそう遠くないと、継田も予感せざるを得なかった。

合格通知が届くと、貴志はすぐにでも街に移りたがった。
「嘉藤の小父さんの家から通ってもいいって、言ってくれてるんだ」
息子がどうして同僚とそんな関係を結んだのか、継田にはわからなかったが、新たに費用を出して息子のためのアパートを借りるよりは安上がりだな、と、安直に思った。
まさかその嘉藤に、まな娘が日常的に汚されていることなど、そのときの継田にはまだ、思いもよらぬことだった。

貴志はいまの学校の卒業式も、セーラー服を着用して出席した。
「恥かしくないから。いまのクラスメイトとは、もう会わない関係だから」
貴志はそう言い張って、背広姿の父親と、スーツ姿の母親とともに、白のラインが三本入ったセーラー服姿で肩を並べて歩いた。
「良い時代になったってことなんだろうね」
継田は自分の気持ちを整理しかねながらも、自分自身に言い生かせるように美晴にいった。
美晴は継田よりもすこし前から、貴志が妹の制服を着て学校に行きたがっているのを知っていたし、
夫には内緒で一度ならず、女子の制服を着用して通学することを息子に許してしまっていた。
もちろんそんな彼女も、まな娘や息子の許嫁が、嘉藤に日常的に汚されつづけていることなど、思いもよらぬことだった。

その両親がいま、この街をいっしょに、歩いている。
街の学校はブレザーだったが、
貴志は同じクラスの男子生徒とはボタンのつき方が正反対のブレザーを着、
グレーのプリーツスカートのすそをひざの周りにそよがせて、
濃紺のハイソックスに包んだふくらはぎを見せびらかすように、大またで闊歩していく。
この街への転勤を希望した父親が、母親を伴ってこの街に来た時、貴志は父親の首すじに赤黒い痕がふたつついているのを発見した。
たぶんそれは、自分が嘉藤につけられた首すじの痕と、同じ間隔のはず。
父親は母親よりもひと足早く、同僚と和解をしたらしい。
嘉藤がまな娘と息子の嫁になる少女と契り、息子までも女として愛し抜いていることを、受け容れていたのだった。
そしていま父親は、まだなにも知らない母親の美晴を伴って、嘉藤の家を訪問しようとしている。
入学式の帰り道のことだったから、いつも質素な美晴も、小ぎれいなグリーン系のスーツで着飾っている。
けれども、この日のためにきちんとセットされた、ゆるいウェーブの黒髪も、
たんねんに化粧を刷かれた色白の豊かな頬も、
純白のブラウスの胸もとで清楚に結わえられたリボンも、
折り目正しく穿きこなされたベーズリ柄のスカートも、
脚に通した真新しい肌色のストッキングも、
ぴかぴかと光る黒のエナメルのハイヒールさえも、
あと10分と経たないうちに、夫よりもはるかに年上の暴漢の手にかかって、
持ち主の血潮を点々と散らされながら、弄ばれ嬲り抜かれてしまうのを、
貴志も、父親の継田さえもが、予感していた。

けれども美晴はきっと、快楽の淵に堕ちてしまうだろう。
娘や息子の血の味を通して、彼女もまた、貞淑妻の裏側にマゾヒズムを秘めていることを、読み取られてしまっているから。
折り目正しい正装に不似合いなあしらいを受けてうろたえた母さんが、
服を破かれ肌を露出させながら狂わされてゆく――
そんな光景を、父親とともに歓んでしまおうとしている自分が、呪わしくもほほ笑ましかった。
そして、堅実な良家の主婦を堕落させることを嗜好のひとつとしている嘉藤に、
永年連れ添った自分の愛妻を気前よく添わせようとしている父親の気前の良さも、呪わしくてほほ笑ましかった。
両親から受け継いだマゾの血が、いまでも貴志の全身に育まれ、脈打っている。
女子の制服を身に着けたその身に廻るぬくもりを抱きしめるように、貴志はひそかに自分の胸を抱いていた。

ボ~ン。
この街に持ち込まれた岩瀬家の古時計が、嘉藤の邸の奥で刻を告げた。
午後一時。
それは、継田夫人の貞操が喪失されると予告された時刻だった。
放恣に伸び切った白い脚には、裂かれた肌色のストッキングが、まだ切れ切れに残っていた。
自分を組み敷いている獣の欲情に応えはじめてしめてしまっている自分を呪いながらも、
美晴は夫と息子の見つめる視線を痛痒く受け止めながら、男に迫られた熟女としての役目を果たしはじめようとしている。



あとがき
「谷間に三つの鐘が鳴る」という歌があります。
ひとりの人間の人生を、生れたとき、結婚したとき、この世を去るときと、三つの鐘で表現した歌です。
素晴らしい歌とは似ても似つかない、どうにも罪深い鐘の音が、この街では絶えず聞かれるようですね。

美姉妹の葛藤を描いた前作を受けて、この三部作では妹娘の婚約者の変貌を描いてみました。
第一話では貴志の妹が添え物のように犯され、
第二話では貴志が女子生徒として犯され、
第三話では貴志の母が入学式のスーツ姿で犯されていきます。
母や妹、婚約者を寝取られてしまうことは、自身の初体験と同じくらい、深い意味をもっていると思われます。

三つの鐘 ~セーラー服の初体験~

2019年01月19日(Sat) 06:30:03

ボーン。

岩瀬家の古びた柱時計が、一時を告げた。
稚ない唇が、昂ぶりを帯びた股間の茎を、いっしんに咥え込んでいた。
たどたどしい舐めかたが、貴志を陶酔のるつぼに導いている。
その目線の先で、制服姿の遥希が、嘉藤に抱きすくめられていた。
遥希の制服は、都会らしいブレザータイプ。
薄茶のジャケットに赤のチェック柄のプリーツスカートをミニ丈に穿きこなして、
品行方正な白のハイソックスが、淫らな足摺りに翻弄されて半ばずり落ちたままふくらはぎを包んでいた。

「姉さんのときと、どっちが昂奮するの?」
自分の股間から顔をあげた上目遣いに、かすかな嫉妬が込められている。
結婚を約束した二人の間に、セックスの関係はまだない。
それはまだ、父親の同僚である嘉藤の特権であり続けていた。
フェラチオを覚えて間もないゆう紀の唇は柔らかで、生真面目なたんねんさで、恋人の一物をくまなくしゃぶり抜いてゆく。
同じ行為でも、姉の遥希とはだいぶ違っていた。
ゆう紀が抱かれている隣の部屋で遥希が貴志を慰めるときは、もっと挑発的な、なれたやり口だった。

自分の家にやってくる嘉藤は、出迎えた父親とはごくふつうに接していた。
そのなに食わぬ態度にむしろ、悪らつさを感じ取った貴志は、彼の態度に敏感になっていて、
父親が座をはずしたときに嘉藤が、母や妹をいやらしい目で盗み見るのを見逃さなかった。
まるで身体の輪郭を撫でまわすような目つきだと、貴志はおもった。
そのうち妹はすでに、両親の知らないところで、嘉藤の奴隷になり下がっている。
婚約者のゆう紀と交代でその嘉藤の家に妹を伴うという屈辱的な義務を、
それでも貴志は自分でも訝るほどの従順さで、果たしていった。
いびつな嫉妬が、この青年の感性を、鋭く育て上げようとしていた。

ソファに腰かけた貴志の前、ゆう紀はセーラー服姿のまま、姉との情事に見入る未来の夫を、唇で慰めつづける。
じゅうたんの上に拡がった、丈の長い濃紺のプリーツスカートに、貴志の目線が注がれた。
腰周りにまといつくスカートの、折り目正しい直線的なひだが、複雑に折れ曲がっているのを、薄ぼんやりと眺めていた。
「ぼくも穿いてみたいな」
「え・・・?」
顔をあげるゆう紀に、貴志がいった。
「ぼく、そのうちあのひとに、血を吸われるんだろ?」

そうね。吸われると思うわ。
嘉藤の小父さまは、父の血も吸っているの。
男の血はあまり関心がないって、口では言っているけれど。
奥さんや彼女を自分に捧げた男性の血は尊いって、いつか言っていたわ。
あなたの血にも、きっと興味あるはず。

「あなたの血にも、きっと興味がある」
ゆう紀の言いぐさに貴志はゾクッとした昂ぶりを覚え、その昂ぶりは股間を口に含んだゆう紀に直接伝わった。
「吸われてみたい?嘉藤の小父さまに」
「うん、それも、いいかも・・・」
「貴志くんも、やらしいね」
ゆう紀はクスッと笑った。
白い歯をみせて笑う白い顔はどこまでも無邪気で、まだなにも識らない十代の少女にしかみえない。
「ぼくも穿いてみたいって、なにを穿いてみたいの?」
「制服のスカート」
口にしてしまった言葉の異常さに、さすがに貴志は顔を赤らめたけど、
ゆう紀はまじめな顔をして、貴志を見つめつづける。
「ねえ、それって、私の制服?それとも、姉の着てるほう?」
はるちゃんの制服、かっこいいものね・・・と言いかけた言葉の裏にかすかに秘められた嫉妬に、貴志はうかつにも気づかなかったけれど。
彼は呼気をはやめながら、思ったままを口にしていた。
「きみの制服を、着てみたい」

貴志よりも少しばかり小柄だったゆう紀のセーラー服は、サイズがちょっとだけきつめだった。
それでも白のラインが三本走った袖は、貴志の手首を何とか隠していたし、
腰周りにギュッと食い込むスカートのウエストは、かえって少年の昂ぶりを高めた。
「制服は拘束具」だというけれど、貴志は別の意味でそうなのだと納得した。
腰の周りをユサユサと揺れる重たい濃紺のプリーツスカートは、ひざの下から入り込んでくる外気の空々しさには無防備で、
スカートの下でむき出しになった太ももを、ひんやりと撫でつける。
ひざ下までぴっちりと引き伸ばした真っ白なハイソックスの締めつける感覚にも、青年の皮膚を敏感になっていた。

「あの・・・」
女子生徒のかっこうになって嘉藤のまえに改めて立ったとき、貴志は心のなかが入れ替わるのを感じた。
身に着けたセーラー服が、彼を少女へと、塗り替えてゆく。
「恥ずかしい」
伏し目になった顔だちすらが、女の子の翳を帯びていた。
「似合っているよ、きみ」
嘉藤はそういうと、じゅうたんのうえにあお向けになった貴志の上に、荒い息でのしかかった。
セーラー服の肩をつかまれ、上衣の裾をまくり上げられ、胸を指でまさぐられる。
ゆう紀や遥希の胸をなん度もさ迷った手つきの巧みさに、貴志はわななきをおぼえた。
むき出しになった嘉藤の筋肉質で毛むくじゃらの脚が、重たい丈長のプリーツスカートを、じょじょにたくし上げてゆく。
嘉藤の荒い息に、貴志のはずんだ息遣いが重なった。
ふたりは、唇を重ね合わせていた。
ゆう紀や遥希、それに妹の彩音の素肌を這った唇――
その事実に慄然としながらも、貴志は行為をやめることができなくなった。
初体験のキスの相手が男だなどとは夢想もしていなかったけれど。
しつこく重ねられてくる爛れた唇のせめぎ合いに、なん度もなん度も、応えてしまっていた。

首すじに喰いついた牙が、自分の血を啜り上げるのを聞きながら。
股間から伸びたもうひとつの牙が、自分の股間を抉るのを感じた。
ゆう紀さんが夢中になってしまったのも、無理はない――貴志は思った。
これからもきっと末永く、ゆう紀さんはこの一物に、自分の操を蹂躙されつづけてしまうのだろう。
そして自分も、ゆう紀さんの結婚前の身体を、この男の劣情を慰めるために、悦んで与えつづけてしまうのだろう。
そして自分自身さえも、この男の情婦に堕とされて・・・女として犯されつづけてしまうのだろう。
両親がいまのこの光景を視たらどう思うのか?それは怖かったので、考えないことにした。
いまはただ、婚約者やその姉、そして彼の妹までも呑み込んだこの男の唇に、酔い痴れ続けてしまいたかった。

「母がいまいる街ではね、男子もセーラー服で通学できるんだよ」
ゆう紀がいけないことを、ささやいていた。
「ね。あたしたちも、あの街へ行こう。そして貴志くんも、女子生徒になっていっしょに学校に行こうよ」
ゆう紀のいけない囁きに、貴志は強く頷いていた。
「そうだね、ぼくもきみと同じ制服を着て、学校に行きたい」
「嬉しい!たまには気分を変えて、お姉ちゃんの制服を着ても良いからね」
いろんなことを見透かしてしまった悧巧すぎる少女の目は、それでも無邪気な輝きを失わなかった。

三つの鐘 ~少女たちの愉悦~

2019年01月19日(Sat) 05:45:16

ボーン。
岩瀬家の古めかしい柱時計が、一時を告げた。
貴志は蒼ざめた目線を、一瞬柱時計に注いだが、すぐに目線を元に戻した。
半開きになったふすまの向こう。
まだ稚ない婚約者のゆう紀が、セーラー服姿で、嘉藤に侵されていた。
これでもう、なん回目になるだろう?
すでにゆう紀は、貴志が覗いて昂っていることも、識っている。
それだというのに今は、結婚前にしてはならないことをしているところを、
未来の花婿に見せつけることに、快感を覚え始めてしまっている。

ねえ、貴志くんが見やすいように、ふすま開けておこうよ♪
そう提案したのは、ゆう紀の姉の遥希(はるき)だった。
初めて視られていると気づいたとき、さすがにゆう紀はハッと息をのんで、
両手に口を当てて貴志をまともに見つめていた。
「たっ・・・貴志くん?視ていたのっ!?」
震えて引きつった声が貴志を突き刺したとき、
まるで悪いことをしているのは自分のような気がして、貴志は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「いいじゃない、いいじゃない。貴志くんも愉しんでいるんだから――ふたり、お似合いのカップルよ」
貴志と自分との仲を姉が内心嫉妬していることに気づいていた妹は、
姉の言葉の真意をはかりかねて、それ以上に自分の過ちが招いてしまった状況のきわどさにうろたえてしまって、
なにをどう言っていいのか、わからないようすだった。
「ねえ、もう少しだけ、続けてみましょうよ。もうじき、煙草を買いに行った小父さまが戻っていらっしゃるから。
 そうしたらゆうちゃんは、小父さまをもういちど、満足させて差し上げるのよ」
貴志がゆう紀に向かって、ヘドモドと意味不明なお辞儀だけ残して隣室に戻ったのを見はからうと、姉はつづけた。
「貴志くん、けっこう愉しんでいるわよ。だから――ゆうちゃんも、もっと愉しんじゃおうよ」
状況を愉しんでしまっているらしい姉に、自分に対する揶揄が込められていないのを感じ取ったゆう紀は、
「そうするのがあなたの義務でしょ?」
と促す姉に、こんどはしっかりと頷きかえしていた。

再び戻って来た吸血鬼がゆう紀にのしかかるところをかいま見ながら、貴志は不覚にも股間を昂らせてしまい、
その昂った股間に、遥希の掌が、なだめるようにあてがわれた。
さいしょはズボンのうえからの愛撫だったのが、じょじょに大胆になって、
荒々しくジッパーをおろすとパンツのすき間から覗いた一物を揉みしだき、
さいごには唇を覆いかぶせて、噴き出す熱情のほとびを、慣れた口づかいで呑み込んでいった。

柱時計が真っ昼間の一時を告げたとき。
遥希はいつもそうするように、妹が犯されるのを視て昂っている貴志の股間を弄んでいた。
いつもとちょっとだけ状況が違うのは、傍らに少女がもう一人、あお向けに横たわっていることだった。
おさげ髪をじゅうたんの上に振り乱して、天井を仰いだ目は生気を失い、
それでもまだ意識がかすかに残っているのは、セイセイとせわしなく上下する細い肩からそれとわかった。
貴志の妹だった。
ゆう紀とは同級生で、なにも知らずに岩瀬家を訪れて、兄の目のまえで襲われて血を吸い取られた後だった。
おさげ髪を揺らしながらうろたえる少女の頭をつかまえて、嘉藤は獣じみた荒々しさで、そのうなじにガブリと喰いついた。
ふだん顔を合わせている同僚の娘に対する態度とはかけ離れたやり口に、
貴志の妹は目を回し、われを忘れた。
ゴクゴクと喉を鳴らしてうら若い血液を貪る男の意のままに、胸を揉まれ、股間をまさぐられながら、失神していったのだ。

美しい妹をきょうのご馳走の添え物のようにあしらわれたことに、貴志はマゾの血をよけいに昂らせてしまった。
「彩音ちゃん、だったよね?」
吸い取ったばかりの妹の血を口許からしたたらせながら、父親の同僚である嘉藤さんがかけた声に素直に肯くと、
「彩音です、よろしくお願いします」
と、神妙に頭を下げていた。

「良いのかしら?あんなに熱っぽくやっちゃって」
冷ややかに透きとおる遥希の声に、貴志はゾクッとした。
目のまえでは婚約者が、姦りまくられている。
そして、同じ危難に、妹までが巻き込まれようとしている。
もう少し大人になれば、もっと素敵な同年代の彼氏に恵まれるかもしれないか細い身体が、
父親よりも年上の男に汚されてしまうと知りながら、もうどうすることもできずにいたし、
妹の純潔が嫌らしい親父のひとときの性欲を解消するために蹂躙されてしまうという状況に、
身体じゅうの血管をズキズキとはずませながら昂りはじめてしまっている。

「よかったの?お兄さん?」
男の猿臂から解放されたゆう紀は、イタズラっぽい上目遣いで、恋人を見あげた。
「あ、ああ・・・うん・・・」
貴志の受け答えは相変わらずはっきりとしなかったが、真意は明確なのを、ゆう紀は見抜いてしまっている。

目のまえで、白いハイソックスを履いた妹のふくらはぎに、淫らな唇が吸いつけられる。
ふたたびの出血に真っ白なハイソックスを真っ赤に濡らしながら喘ぎはじめた妹の目が愉悦に狂い始めているのを、兄は見逃さなかった。

ゆう紀の手でズボンを脱がされるままに脱がされて、なん度めかの絶頂に近づいた股間の昂ぶりを、稚ない唇が包み込んでゆく。
姉を見習って、まだ不慣れな手つきがもどかしそうに、恋人の股間をつかまえた。
その手つきのもどかしさが、貴志をいっそう深い惑溺へと導いていった――

征服された妹娘

2019年01月17日(Thu) 07:18:21

お母さまはね、前に住んでいた街で恋をしたの。
お父さまは優しい人だから、お母さまがそのひとの恋人になるのを承知なさったの。
男の人がほんとうに女のひとを好きになると――
そのひとの裏切りすら、愛することができるようになるんだって。
信じるか信じないかは・・・・・・あなた次第ね。

姉の遥希(はるき)の口許からつむぎ出される、まるで呪文のようなひとり言。
妹のゆう紀は、聞くともなしに聞き入っていた。


お母さま、行っちゃったわよ。あたしたちを置いて。好きな人の棲む街に。
突き放すようにうそぶく姉の横顔を、ゆう紀はじっと見つめていた。
広いおでこの生え際を見せびらかすように、思いきりよく引っ詰めたロングヘア。
さらりと背中に流したその黒髪のすき間から、白い首すじが、これまた見せびらかすようにあらわになっていて、
その肌の白さの真ん中に、赤黒いシミのようなものがふたつ、数センチのへだたりをもって、肌の白さを翳らせていた。
「お怪我をしたの、お姉さま?」
ゆう紀の問いに遥希は薄っすらとほほ笑んでこたえた。
「怪我?・・・そうね、女の子は大人になるとき、怪我をするものなのよ」
あなたはまだ、なにも知らないのね・・・?
姉にそう指摘されたような気がして、ゆう紀はきまり悪そうに黙りこくった。

お母さまに手を出した人ね、お母さまの本命になれなかったの。
その人に悪いことをしたわ、つぐないたいのって、お母さまが仰るものだから。
だからあたしはその人に、初めての経験を差し上げたの。
あなた、あたしを悪いお姉ちゃんだと思う?
それともあなたも、あたしと同じ経験をしたいと思う?
え・・・いいの?
だってあなた、あなたには貴志くんって人がいるんでしょう?

長女の遥希には、まだ結婚を意識した相手はいなかった。
惣領娘(男兄弟のいない長女のこと)なのだから、お前は少し待ちなさい、と、父親からはいわれていた。
そして、次女のゆう紀のほうが先に、結婚相手が決まっていた。
まだ十代同士の婚約に、周囲はあまりの若さに驚いたけれど。
あの街ではこれがふつうなんですよという娘の父親の言いぐさに、同じ勤め先を持つ者たちは、無言の納得を示していた。

さいしょのときはね、お姉ちゃんが手を握っててあげる。
少しばかり痛いけど、声を出すのはガマンするんだよ。
あの人ったらね、痛そうに顔をしかめる女の子が、白い歯をみせるのが好きなの。


結婚してから夫となった人とだけすると聞いていた、あの行為。
恋人同士なら、ほかの人としてもかまわないのよ、とお母さまが囁いた、あの行為。
それをあたしは、結婚前に遂げようとしている。
相手の男が家に姿をみせたそのときになって、ゆう紀は初めて、身震いを覚えた。
いけないことをしてしまうという罪悪感と。
お母さまとお姉さまだけが知っていて、自分だけがまだ知らない未知の領域に足を踏み入れることへの好奇心と。
いったいどちらが、まさっていたのだろう?
そして意図的に顔をそむけた側には、婚約者である貴志への後ろめたさもまた、意識するまいとしても意識してしまっている。

「いいのかな?ほんとうに、いいのかな?」
姉に対する問いは、自分に対する問いでもあった。
けれどももはや、ゆう紀の純潔の行き先は、姉によって決められてしまっていた。
「もうここまできて、そんなことは言いっこなしよ。あたしが体験した男の人を、あなたも体験するの。
 お嫌?」
そこまで言われてしまっては、大人しい性格のゆう紀はもう、がんじがらめになってしまうのだった。

怖がらないでいいのよ。
お姉ちゃんが、手を握っててあげるから。
少しばかり痛くても、声をあげちゃダメ。
ご近所に、筒抜けになってしまうわ。あの家の娘はだらしがないって。
だから、あなたが声をあげないことは、家の名誉を守ることになるの。
――いいわね・・・?がまん。ガ、マ、ン。

のしかかってくる、自分の父親よりも年上の男をまえに、ゆう紀は悲壮な顔つきで、その刻を迎えた。
握り返してくる掌の力が痛いほどギュッとこもるのを感じて、姉娘は白い歯をみせる。
同級生のたか子ちゃんやみずきちゃんのときも、こんなだった。
あたし、痛いのって、好き・・・。
父親の上司だというその男が、目のまえで妹を汚すのを。
そしてその男の思惑どおり、妹が痛さのあまり白い歯をみせるのを。
姉娘は満足そうに見届けた。


どお?よかった?
いいのよあたしは。さいしょの刻だもの。ふたりきりにしてあげなくちゃ。
遥希の白い目線の先にいる少年は、
隣室で自分の父親よりも年上の男と息をはずませ合っている婚約者の横顔に、
目線をくぎ付けにしてしまってしている。
その頬が紅潮して、昂ぶりを見せていることに、遥希は自分の見通しが正しかったことへの満足感をおぼえていた。

ほんとうなんだね。男の人が女の子をほんとうに好きになると、その子の裏切りまで悦んじゃうって。
ふつうの女の子は、結婚前にこういうことをするのを、自分の結婚相手には見せたりしないものよ。
でもあなたは特別。
だから、きょうのパーティーに、あの子には内緒で、招待してあげたの。
あの子の処女喪失、あなたも祝ってくださるわよね?
うんうん、もう夢中で、彼女のお姉さんの声なんて聞こえてないっていうことね?

代わりにあたしのことを抱く・・・?って訊こうとして。
少女はそれを思いとどまる。こたえが想像できてしまったから。
どこまでいっても、私はわき役?
自分よりも先に結婚相手を得た妹への嫉妬を認めるのが怖くて、少女は口をつぐみ、目を背けそうになる。
その場を離れようとした遥希の掌を、強い力がギュッと抑えた。
貴志の掌だった。

ほら、お姉さん、視て御覧。せっかくの妹のあで姿なんだから。
示された指先のむこう、通学用のハイソックスだけを身に着けて全裸に剥かれたゆう紀が、
男と抱き合ったまま激しく腰を振って、息せき切ってその吶喊を受け容れている。
自分自身の初めての刻を思い出し、姉は顔を赤らめた。
ゆう紀さん、とってもきれいだね。ぼくはゆう紀さんのこと、惚れ直した。
ぼくが視に来たことは、ゆう紀さんには内緒にしておいてくださいね。
よかったらこれからも、パーティーに招待してくださいね。もちろん、時々でかまわないから。
ぼく・・・ゆう紀さんと結婚してからも、こういうパーティーを許してしまうかもしれないですね。
男として恥ずかしいけれど。

恍惚とした少年の横顔に引き込まれるように、遥希は少年の掌に、自分の掌を重ね合わせて、ささやき返す。
――ほんとう、ゆう紀の晴れ姿、とってもきれいだね。かわいいね。


あとがき
前作はあれでおしまいのつもりだったのですが、愛読者のゆいさんのリクエストを受けて初めて、インスピレーションが湧きました。
父親の上司を相手に処女を喪った姉が、妹も同じ運命に巻き込もうとするお話です。
自分よりも先に婚約者を得た妹や、自分たちを置いて恋人の元に走った母親への複雑な気持ちを描いてみました。
妹の初体験を一緒に目にした妹の彼氏に、彼女は父親をみていたのかもしれませんね。

「逆」単身赴任。

2019年01月06日(Sun) 08:06:46

夫が出勤の用意をしているすぐそばで、嘉藤和香子は受話器を片手に自慢のロングヘアをブラッシングしていた。
「ええいいわ。9時にホテル松ね?間に合うように行く。
 あっ、でも喉渇いてる?吸血のほうは手かげんしてほしいの。
 夕方ね、べつの方と先約があるから・・・」
和香子が受話器を置くと、入れ違いのように嘉藤がネクタイをいじりながらリビングに戻って来た。
「うまく締められない」
和香子は「はいはい」と言って夫に寄り添うと、器用な手つきでネクタイを直してやった。
ネクタイを直されながら嘉藤は、
「おれ、今夜は帰り遅いほうがいいの?」
と、訊いた。
「貴方さえ気にならないのなら、いつ戻って来てもいいわ」
「ん、わかった」

午後2時――
「これでよしと。じゃあねえ♪」
和香子はまだベッドにいる愛人に向かって小手をかざし、おどけた様子でその手を振った。
身づくろいはきっちりできていたが、首すじを咬まれた痕は淡い血潮をまだあやしていたし、
男の手で脱がされたストッキングはふやけたようになって、ベッドの端からじゅうたんに垂れていた。
「ストッキングはおみや(お土産)。好きにしてね」
犯した女の脚からストッキングを脱がしてせしめるのが、この情夫のくせだった。
部屋を出る間際、和香子の携帯が鳴った。
「はい?」と応える和香子の声と入れ違いに、嘉藤の声がひびいた。
「あ・・・だいじょうぶかな・・・と思って」
和香子は内心チッと舌打ちをすると、いった。
「お洋服は平気。ストッキング破られただけ。ホテルのベッドで、8回したわよ」
サバサバと言い捨てると、一方的に携帯を切った。

午後4時。
家のインターホンが鳴った。
「早いわねぇ・・・」
和香子はぶつぶつ言いながら、出た。
そして、玄関の前に立った男がだれなのかを確認すると、
「はーい、もうちょっと待ってぇ。あなたのために目下、絶賛お着替え中♪」
そういって、一方的にインターホンを切った。
約束は、5時だった。
でも女は表に待つべつの情夫を、インターホンの鳴った20分後には入れてやった。

午後7時半。
近くのパチンコ屋で時間をつぶすつもりが、玉の出が悪くて中途半端な帰宅になってしまった。
この刻限だと、妻のいる家にはまだ、男がいるかもしれない。もういないかもしれない。
約束は5時だと言っていたから、2時間もあれば妻の生き血も身体も、侵入者はじゅうぶんにたんのうした後だろう。
この街で、吸血鬼が人妻のもとに通うということは珍しい出来事ではなかったし、
それを承知で当地に赴任を決めたのは嘉藤自身だったから、
ふたりきりでいる時間を長くしてやるのも夫の務めだと考えていた。

都会妻は特に人気があって、同じ事務所に赴任してきた同僚のほとんどすべては、妻を吸血鬼に寝取られていた。
吸血行為を伴う逢瀬だから、毎日というわけにはいかなかった。
多い人で週2か週3が限度だった。
ひとりの相手に忠実に尽す人妻もいれば、なん人もの吸血鬼を情夫にもつツワモノもいた。
和香子の場合は後者だった。
そもそものなれ初めが、赴任直後に開かれた歓迎会が、そのまま乱交パーティーに移行したのだ。
目のまえで輪姦される妻が随喜の声をあげるのを、嘉藤は半ば絶望を感じ、半ば安堵を覚えながら見守りつづけた。

浮気妻に気を使って帰宅を遅らす自分を卑屈だと、年老いた母にはよく詰られた。
しかし、息子夫婦を詰問に訪れた母は嫁の情夫のひとりと出くわし、返り討ちに遭うように血を吸われた。
人妻の血を吸うと例外なく濡れ場をともにするのが彼らのしきたりだったから、
嘉藤の母も例外なく、そのようにあしらわれた。
以来母は嫁の不倫を憤ることをやめて、どうやって父を説得したものか、息子の赴任先に着飾って訪れるようになった。

恐る恐るドアを開けた自宅は、真っ暗だった。
嘉藤はああやっぱり、と、ため息をついた。
まだ帰って来るべきではなかったと思った。
それでも玄関を施錠し、靴を脱ぎ、身体が意思を喪って動くかのように、夫婦の寝室の前にたどり着いた。
「あぅあぅあぅあぅ・・・」
部屋のなかからは、妻があげる露骨なうめき声が洩れてきた。
昼間に咬まれたのとは反対側の首すじから血をしたたらせ、それを夫婦のベッドのシーツにぽたぽたと散らしながら。
真っ赤なスリップ一枚に剥かれた妻は、血色のわるい皮膚をした男と抱き合っていた。
むっちりとした太ももが、かすかな灯りを受けて白く輝き、夫の目にもなまめかしい。
吊り紐が外れかかってしわくちゃになった真っ赤なスリップが、妻がふしだらに堕ちていったことを物語っていた。

午後10時半。
「すこし、弱くなったんじゃない?」
ベッドから身を起こして、和香子がいった。
シーツを取り替えた後、やっと自分のものになった夫婦のベッドに身を横たえると、
嘉藤は獣のように妻を襲っていた。
妻の情事を目にすると、不覚にも劣情がむらむらと沸き起こり、情夫がベッドを離れると、つかみかかるように妻を押し倒すのがつねだった。
さいしょのうちはねちねちと妻を責めながら、軽く数時間は行為を続け、「まるで新婚のころみたい」と妻に言わしめた嘉藤だったが、
さすがに五十の坂を越えると、あちらのほうもさほどお盛んではなくなったらしい。
そのことと妻への愛情とは、また別次元の問題だったが――

先刻、部屋を出てくる情夫とはち合わせになると、
「ゥ・・・お邪魔しました」「いえ・・・どうも」と、男ふたりはきまり悪げにあいさつを交わし、
そのようすを和香子は面白そうに見ていた。
この情夫と夫とは同年輩のせいか、気が合いそうだと思った。
いちど三人でお酒を飲みましょうよという和香子の提案は、いまのところまだ一日伸ばしになっている。

「寝たばこはだめよ」
そういって和香子に取り上げられた洋モクを残り惜し気に見送りながら、嘉藤はいった。
「転勤が決まった」
「あ・・・やっぱり」
和香子はそうひとりごちると、夫にいった。
「私、この街に残るわ。お相手さんたちが悲しむもの」
「やっぱりな、そういうと思った」
「あなた単身赴任して下さい。もちろん、いつ戻って来てもいいわ。
 もともと私、平日は”アルバイト”で忙しいし、貴方も帰り遅いでしょう?
 平日にあまり会えない夫婦が、平日は全然会えなくなるだけじゃない」
「今つき合ってる人は、なん人いるの?」
夫の問いに、和香子は3人・・・4人・・・と、指折り数えて、いった。「7人よ」
一本一本折られてゆく和香子の指に嘉藤の目が吸いついてくるのを、和香子は感じた。
「7人も悲しませるわけには、いかないよなぁ・・・」
嘉藤はどこまでも、お人好しな亭主だった。

翌週、嘉藤の送別会が地元の男衆たちによって、賑々しく開かれた。
情夫たちの間をお酌して回る和香子を見ながら、俺の選択は正解だったと、嘉藤は思い込もうとした。
振る舞われた高い酒が、あと1杯で尽くされる。
こちらが地酒を飲んだのと見返りに妻を抱かれてしまうのは、歓迎会の乱パ以来のすじ書きだった。
今夜もきっと、そうなるのだろう。
一座の間から女性の姿が一人ずつ消えていき、七人の男衆はお酌をして回る和香子の立ち居振る舞いに目線をくぎ付けにしていた。
「ご主人飲んだ?そろそろいいかな?」
部屋の照明のスイッチに手をやる男衆のひとりに嘉藤が頷くと、灯りが消えた。
きゃあっ・・・
女の叫びがひと声あがり、真っ暗になった部屋は獣たちの熱気のるつぼと化していった。