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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

虎口に出戻る。

2018年08月21日(Tue) 07:44:18

命からがら都会の家まで逃げ延びることに成功したのは、わたしと妻だけでした。
その村に出かけていったもの全員が、囚われの身になってしまったのです。
囚われの身というのは、不正確かもしれません。
「囚われた」夫婦3組のなかの1組だった両親からは、手紙と電話で、
自分たちの意思でこの村に転居すると連絡がありました。
おそらく本音でOKしたのだ。ふたりとも、洗脳されてしまったのだ――と、
父の語気からすぐにわかりました。
電話をかけてきた父は、むしろ落ち着いた声で、母さんの浮気を認めてやることにした、と告げたのです。
従妹の嫁いだその村は、吸血鬼の棲む淫らな風習に彩られた土地でした。

都会で挙げられた従妹の披露宴には、新郎側からはほとんど出席者がありませんでした。
田舎のものなのでかえって恥を掻くから遠慮したい・・・という彼らのために、二度目の披露宴が村で挙げられたときのこと。
招かれたのは新婦の両親である伯父夫婦、わたしの両親、そして兄夫婦とわたしたち夫婦の8人でした。
あとから聞いた話では、当初兄夫婦までは招かれる顔ぶれに入っていなかったのですが、
都会の披露宴で兄嫁を見初めた新郎の兄が、とくに加えるようにと希望したというのです。
なにも知らない4組の夫婦は村に招かれ、お座敷での婚礼の席上吸血鬼と化していた村人たちに襲われたのでした。
年輩の男に組み敷かれた妻を救い出すのが、精いっぱいでした。
男は後じさりする妻の足首をつかまえて、ふくらはぎにヌメヌメと唇を這わせようとするところでした。
一瞬唇が吸いついて、すぐにわたしが引き離しました。
男はわたしを押しのけて妻に迫り、なおも首すじを吸おうとしましたが、わたしに蹴られてたじろぐところを危うく救い出したのです。
わたしはともなく、パンプスだった妻がよくあそこまで走れたものだと思います。
ほかの三組の夫婦と違い車で来ていたのが幸いしました。
宿に戻るとすぐにわたしたちは車に乗り込み、都会の自宅をめざしたのです。
男はしつようにあとを追いかけてきて、どうしても奥さんと話をしたい、といいました。
耳も貸さずにアクセルを踏んだのは、いうまでもありません。
都会も間近になったとあるドライブインで休憩をしたとき。
妻の穿いているストッキングに、あの男の粘り気のある唾液が沁みついているのを発見して、
むやみに嫉妬したのを憶えています。

3組の夫婦の転居届は、すべてわたしが手続きを済ませました。
彼らからの要望だったのです。
兄の手紙は、理解に苦しむものでした。
あの都会の披露宴の席で自分の妻が吸血鬼の目に留まり、村での婚礼の席で首尾よく征服されてしまったことを、
むしろ嬉し気に書いて寄越したからです。
父もまたかの地で、複数の男性を交えて痴情に耽る母のことを、むしろほほ笑ましく見守っているという文面でした。
父の手紙には、「私たちに義理立てして、わざわざ再訪する事は無い」と、再三書かれてありました。

ところがどうしたわけか、それからひと月と経たないうちに、
わたしの脳裏にべつの感情が芽生えてきたのです――
やはりほかの親類たちと同じように、あの村に行った方が良いのではないか?と――
父の手紙には、あのとき妻を逸した吸血鬼が、いまだに不遇をかこっていると、ごくひかえめにしたためてありました。

「やっぱりぼくだけ、行ってくるよ」
そう言い出したわたしを、妻は強いて止めようとはしませんでした。
両親が貧血になって身体を壊さないか気になるから・・・という口実に、手向かえる反論を持ち合わせていなかったからかもしれません。
さいしょは一回だけのつもりでした。
わたしは妻を狙った吸血鬼と面会し、身代わりに血液の提供を申し出ました。
男は意外に紳士的でした。
あのようなやり方で突然迫られたら、どんなご婦人でも身の危険を感じて逃げるでしょう、あさはかでした、といい、
わたしの好意を素直に感謝し、くつろげたワイシャツの襟首に尖った歯をあてがって、そっと吸血していったのです。
意外なくらい、ひっそりとした吸血でした。
父は「もうあまり来ないほうがよいのではないか」とわたしをたしなめ、
母は真逆に「こんどは佳代子さんも連れてらっしゃいよ」と、積極的なことをいいました。
連れてきたら犯されてしまうんでしょう?というわたしの問いに、
母はあっさりと「ええそうよ」といい、
でも芳子伯母さんは吸血鬼にモテモテになって若返っちゃってるし、伯父さんもそんな芳子伯母さんに満足しているし、
真菜子さん(兄嫁)はご執心の吸血鬼と夫婦どうぜんに暮らしているけれど、
お兄さんとも一緒に暮らしていて、男どうしもうまくやっているみたいだし・・・と、
やはりわけのわからないことを口走るのでした。

一回だけのつもり、と、書きました。
そうなんです。そのはずがいつの間にか回を重ねて、わずかふた月のあいだに、6回も通い詰めてしまったのです。
妻が思い詰めたように、言いました。
「こんど行くなら、私もいっしょに連れて行って」

あのとき私に迫った方は、不自由しているそうね。
もうちょっとで私に咬みつけたのに、貴方に邪魔されて、果たせなかった。
なのに貴方とはすっかり仲良くなって、打ち解けて下さっているそうね。
それなら私も――もういちど、よそ行きのストッキングを穿いて、あの方の唾液に濡らされてみたいの。

一週間後。
わたしは妻を伴って、あの村に来ていました。
都会の女たちをことごとく呑み込んでゆく、忌まわしい村に。
そのくせ妻を奪われる夫たちを惑乱させて、むしろ奪わせてしまうという、忌まわしい村に。

その晩。
あの婚礼の夜の情景が、再現されました。結論だけは真逆になって。
男にすっかり血を抜かれて手も足も出なくなったわたしのまえで、
妻はあのときと同じ薄茶色のスーツを着て、足許をてかてか光るよそ行きのストッキングに包んでいました。
男の唇は、今度こそあやまたず妻のふくらはぎに吸いついて、這いまわって・・・
なまめかしいストッキングがチリチリになるまで、いたぶり抜いていったのです。
都会の装いもろとも辱められてゆくことに、さいしょのうちこそ悔し気に身をすくめていましたけれども。
妻の態度が打ち解けて、甘くほぐれてゆくのに、時間はかかりませんでした。

いちど逃れたはずの虎口はわたしを捕えつづけて、
結局妻の手を引いて、舞い戻る羽目になってしまったのです。
けれども、後悔はありません。
都会の装いに身を包み、セイジさん、セイジさん・・・と、わざとわたしの名前を呼びながら犯されてゆく妻。
すべてを喪うのと引き換えに得たいまの歓びを、たいせつにしていきたいと願っているのです。


あとがき
妻を襲われかけて危うく難を逃れたのに、なぜか違う結論を観たくなった夫。
都会の装いを着乱れさせ、ストッキングを男の劣情に満ちた唾液で濡らされながら、堕ちてゆく妻。
そこを描きたかっただけなんですけどね。 つい長くなってしまいました。

街のタウン情報――春山さん宅で『人妻狩り』が行なわれました。

2018年06月28日(Thu) 07:34:34

当村の法事に都会の奥様が招ばれるときに、決まって始まるのが「人妻狩り」です。
6月27日に行われた春山家の法事でも、「人妻狩り」が行われました。
ターゲットは春山家の三男坊のお友だちの奥様という、当村からは遠い関係のご婦人です。
もちろん、当村にこうしたしきたりがあるということは、ご夫婦ともに聞かされていません。

「法事の最中から、『人妻狩りだ』、『人妻狩りだ』・・・と村の方たちが口々にそう呟いているのが聞こえてきました。初めのうちは、なんのことかわかりませんでした。まさかうちの妻が狙われているなどとはつゆ知らず・・・ですね」
そういって苦笑するのは、晴れて奥様を村の男衆たちの性奴隷に捧げて気前の良さをみせた夫の深山さん。
遠縁の法事ということで招かれたこの村で、奥さまの翠さん(36)が、逞しい村の男衆たちの生贄にされるのをみすみす見せつけられる羽目に遭ってしまいました。
「そりゃとてもメイワクでしたよ。どうしてボクの妻がそんなことにならなきゃならないのか?って、抗議もしましたし、やめてほしいとお願いもしました。でも、断り切れなくなっていったんです」
最初はそんなふうに、奥様と村の男衆との性交を拒んだ常識的な深山さんだったのですが・・・
「いまでは後悔していません。妻がヒロインの淫らな宴を実見するという貴重な機会に恵まれたと感謝していますし、妻ともどもこの村への移住を考えています」
深山さんは都会育ちのサラリーマン。もちろん自分の妻をほかの男性たちに提供するしきたりに巻き込まれたのは初めてです。
「妻を愛していましたし、いまでも愛しています」という深山さん。
いったいこのようにひょう変することができたのは、どういうことだったのでしょうか?

「だんなさんを女装させたんですよ。このテを使うと、けっこうな確率で夫婦ともに墜とせます」
というのは、村の長老格の花地アキラさん(58)。
「じつは、わたしもこのテで堕とされちゃった旦那の1人なんですがネ」
アキラさんは、そういって照れ笑いをしました。
そう――ご自身も都会育ちの身でありながら、数年前、奥様を伴われて当村に移住、「人妻狩り」を体験したご主人なのです。
じつはアキラさんも、移住後一週間で奥様ともども堕とされてしまった1人です。
「人妻狩りに遭った奥さんのご主人は、その晩のうちに強制的に女装させられて犯されるんですが、なんだか本当の女にされた気分になって、物凄い昂奮してセックスしてしまいました。男相手に――それも全員が、妻を犯した相手でした。でもそれ以来、女として犯されることにはまってしまったんですね。その晩以来彼らと意気投合しましてね。この村に棲みついて、妻を日常的に提供するようになったのは、自然の成り行きでした。妻も男衆たちにうまいこと言い聞かされてしまって――それ以来、村で夫婦ながら調教を受けることになったんです。家内を最初に犯した長老様とはいまでも夫婦ともどもねんごろなお付き合いですし、身内の奥さん連中も、少しでも若いうちに紹介してあげようと思いました。それで、娘夫婦や弟の一家まで巻き込んだのです」
都会で暮らす身内を紹介して人妻を3人奴隷に堕とした功績?から、アキラさんは都会出身者としては異例の抜擢?長老格に収まっているのです。

アキラさんのお話はあとのお愉しみとしまして――昨夜最愛の奥様を淫らな宴のヒロインとして提供された深山さんの話に戻ります。
アキラさん曰く――
「犯した人妻のご主人は、たいがいそんなふうに、強制的に女装させちゃうんです。女装したご主人は、たったいま奥さんを犯した男衆たちに、女として犯されます。つまり、夫婦で同じペ〇スを体験するんですね。この効果はけっこう絶大です。夫は妻に対して尊敬されるように振る舞うものですが、自分自身まで女にされて犯されてしまうと、そんな薄っぺらい羞恥心というかプライドは、吹っ飛んでしまいます。特に女装に目ざめてしまうご主人の場合だと効果は絶大ですね。いままでなん人もこのテで、ご主人を味方につけています」

村の男衆の逞しい身体に代わる代わる妻を蹂躙されるのを目のまえに、自身も女の姿にされて凌辱されてゆくご主人――嵐が過ぎ去ったあと、ご夫婦は目線も合わさず、声を立てる気力もなく、しばらくは四つん這いの格好のまま、その場に座り込んでいたそうです。

「まず奥様を、別室に連れて行きました。そこではもちろん、乱交パーティーの再開です。ご主人も自分の奥様がなにをされているのか、わかっていらっしゃる。わたしもあえて否定しない。奥さんと仲良くさせてくれてありがとう――くらいは言ったかな。それから、諄々とお説教です。深山さんも、ぼくの話をさいごまで素直に聞いてくれましたよ。それで、こんなふうにお話したんです――」

「いちど打ち解けちゃうと、もう元には戻れない。奥さん男の身体を覚えてしまったからね。ご主人がいくら邪魔したところで、奥さんは男に逢いに行く。ご主人に隠れてでも逢って、抱かれてくる。そんなことで夫婦の間に秘密ができたら、却ってよくないじゃありませんか。観念して交際を認めてあげたほうが、賢明ってもんですよ」

「この時肝心なのが、『わたしも経験者ですから』って言ってあげることです。同じ経験をしたもの同士の共感がここで生まれますからね。あくまで意地を張っていたご主人も、『あなたもそうなんですか』となってしまう。それで、こちらも言うんです。『恥ずかしいけれど、妻が犯されるのを見て昂奮してしまいました。だからもう何年も、この村に棲みついてしまったんです。貴男もここにお住まいになりませんか?奥様の恥も外には洩れませんし、恥ずかしい昂奮もこの村の人たちはわかってくれますからね』――このへんが、まあとどめといったところでしょうか」

「頃合いを見はからって、奥様を連れ戻してきます。相手は皆、気心が知れていますからね。なにしろ、ぼくの妻も『人妻狩り』にかけた連中ですから――それで、夫婦で晴れてご対面です。奥様は全裸の状態で、乱れ髪、あられもない姿です。ちょっとのあいだご夫婦はお互いの視線を避けていらしたのですが、奥様のほうから、思い切って口火を切りました――『私、この方たちの愛人になります。それでもあなたの妻でいさせてもらえませんか?』たいがい女性のほうが度胸が据わっていますから、こんな極限状態でもイニシアチヴをとれるんです」
ご主人はなんと?
「エエ、もの分かりよくなっておられましたよ。ご主人はまだ、女装姿のままなんです。『きみがそうしたいのなら、仕方がないな』って、理解のあるところをお示しになりました。でも、それだけでは済まされません――」
「ぼくね、言ってやったんですよ。『ご主人、さっきの話と違うじゃありませんか?それでは奥様だけが悪者になってしまいます』お2人で仲良く暮らしていくには、ご主人が許すだけでは十分ではないのです」
では、どんなふうに?
「『ぼくの言うとおりに、仰って見て下さい――わたしもきみと同じように女になって、きみを抱いた男たちに抱かれたい。それから、きみがわたしを裏切ってほかの男のものになっていくところも見届けたい。ほかの男と昂り合ってるきみをみていると、ドキドキするんだ』――そう言って御覧なさい」
「奥様は息を詰めて、ご主人がぼくの言った科白をなぞるのを聞いておられました。無理に言わされている感じではなかったですね。ちゃんとした情感がこもっていました。これでOKなのです。そこでその場で、儀式の再開です。奥様もご主人も、いったん別々に身体を洗ってきてもらって、着替えてもらいます。奥様は自分がもってきた喪服を着せられるとき、ひどく恥かしがっていました。服を着るともとの深山夫人の気分に戻りますから、羞恥心が高まるんですね。ぼくたちのつけめもそこにあるんです。そしてご主人はもちろん、女装です。ご主人もまた、喪服を希望されました。仲間うちに服屋がいましてね――たいがいのサイズの婦人服はあつらえてくれるのです。
それでさっそく、女2人――奥様と女になったご主人と――を取り囲んで凌辱パーティーです。夜が明けるまでには、お2人の気持ちはすっかり、変わってしまっていましたよ」

深山さんは記者の取材に応えて言いました。
「さいしょはなんてことをと思ったのですが、朝になるころにはアキラさんへの感謝の念でいっぱいでした。妻もノリノリになってしまって、その日の夜には『もういちどしてもらおうよ』と、大人しい妻のほうから言い出したのです。びっくりしましたけれども、嫉妬と昂奮とで、ズキズキしてしまった自分がいました。それで、妻を連れてアキラさんの家に伺ったのです」
ちょうどアキラさんの奥様は、別の男性との逢瀬に出かけていました。そしてアキラさんはさいしょに翠さんを犯した男性のほか数名に声をかけ、ご夫婦を交えた乱交を再び、朝まで愉しんだということです。

「人妻狩り」が別名「人妻借り」と呼ばれるのは、きっとこうした村の衆とご主人との平和な関係があるからではないでしょうか。

悪い予感・良い予感

2018年05月08日(Tue) 07:54:35

なんの前ぶれもなく、ハイヒールのかかとが取れた。
転びそうになるのをかろうじてこらえながら、
晴子は、いやな予感がした。
一時間後、夫の辰夫が吸血鬼に襲われて血を吸われ、
命を落としたという連絡が入った。

あわただしく昼食を済ませようとしたら、ブラウスにケチャップが撥ねた。
手早く拭き取ったあとにかすかに残ってしまったシミを気にしながら、
晴子は、いやな予感がした。
お寺に向かう途中、彼女は吸血鬼に襲われて、
漆黒のブラウスを目だたないシミで濡らす羽目になった。

お通夜に出るため家を出る間際、ストッキングを伝線させてしまった。
晴子は、いやな予感がした。
しめやかに終えられたお通夜の席で。
弔問客を送り出し独り本堂に残った彼女は、再び吸血鬼に襲われた。
変態!変態ッ!と、罵りながら。
穿き替えた黒のストッキングを卑猥な舌でいたぶられ、飢えた牙に裂き散らされるのを、
我慢して耐え忍ばなければならなかった。

地域の風習で土葬に付された夫の墓に詣でるために出かける間際、眼鏡を割ってしまった。
晴子は、いやな予感がした。
コンタクトなしで詣でたお墓の前で、彼女は吸血鬼に襲われて、犯された。
焦点の合わない視界の隅に、墓からよみがえったばかりの亡夫の辰夫の姿が映ったが、
夫は犯される妻の様子をただ、昂ぶりながら見つめているだけだった。

カーテンを開けたら、そこには晴れやかな朝の風景が広がっていた。
晴子は、良いことが起こりそうな予感がした。
夫の仇敵である吸血鬼に襲われて血を吸われ、犯されてしまったのに。
夫の仇敵であるはずの吸血鬼のまさぐりに反応して、感じてしまったのに。
女は立ち直りが、早いのだ。
彼女は服を喪服に着替え、きのうと同じように夫を弔うためにお墓に出かける。
セットしたばかりのセミロングの髪を緩やかに揺らし、軽くハミングをしながら。

自分の仇敵であるはずの男が妻を犯すのを、夫はむしろ昂ぶりながら見守っていた。
晴子を救い出そうとする行為が、彼女の歓びを奪うのをわきまえているかのように。
そんな貴方に感謝♪
晴子はそう呟きながら、夫の墓前に花を供える。

背後に立った翳に晴子は振り向いて、晴れやかにおはようございますと挨拶をした。
翳の主は挨拶を返さずに、やおら晴子を抱きすくめた。
きょうは眼鏡をかけているんですよ、という晴子に、それでかまわない、と、翳は返した。
吸血鬼なのに、お陽さまが出た後も人を襲うのね、という晴子に、その通りだ、と、翳は返した。
首のつけ根に食い込んだ牙が太い血管を食い破り、喪服の襟首と真珠のネックレスを濡らすのを、晴子は感じた。
全部吸い取ってもかまわないわ。
でも少しだけ、主人の分も残しておいてくださらない?
女の言いぐさに翳は頷き、応えの代わりに女の頸動脈を食い破った。

墓前で発見された皎(しろ)い肢体は、喪服を心地よげにくつろげて、黒のストッキングに伝線を幾すじも走らせていた。
快楽に酔い痴れた後のような惚けたような笑みを湛えて、それでも口許は淑やかに閉ざしていた。
尖った犬歯を押し隠す賢明さを、彼女は冷たくなった後も忘れずにいた。


なんの前ぶれもなく、パンプスのかかとが取れた。
転びそうになるのをかろうじてこらえながら、
晴子の母の詩乃は、いやな予感を覚えた。

報せをきいてあわただしく昼食を済ませようとしたら、ブラウスにケチャップが撥ねた。
晴子の妹の乃里子は、いやな予感を覚えた。

お通夜に出るため家を出る間際、ストッキングを伝線させてしまった。
辰夫の母の光江は、いやな予感を覚えた。

同じお寺の本堂で、深夜。
弔問客を送り出し、通夜を守ろうとした3組の夫婦は、吸血鬼たちの不意の来訪を受ける。
夫たちの血は、辰夫と晴子の生命を奪った吸血鬼が吸い取った。
そして、晴子の母の詩乃、妹の乃里子、辰夫の母の光江の順に、首すじを咬んでいった。

詩乃は、おろしたばかりの新しいパンプスを穿いて帰宅できなくなることを残念に思った。
永年連れ添った夫が血を抜かれながらも、嫉妬と羨望に満ちた目で身体を開いていく妻のことを見つめている事実よりも、
新しいパンプスをもう一度穿くことのほうが、彼女にとっては重要だった。

乃里子は、喪服が間に合わずに着けてきた白のブラウスに血が撥ねるのを厭わしく思った。
さっきのケチャップと一緒じゃない――ぐったりとなった夫が、恥を忘れて痴態に耽り始めた妻のことを目の当たりにしている状況よりも、
新調したばかりのブラウスに撥ねた血がクリーニングでも消えないことのほうが、彼女にとっては重要だった。

光江は、恥知らずな唇が自分の穿いている薄墨色のストッキングをよだれで濡らしていくことを恥ずかしく思った。
出がけに伝線させたストッキングは今ごろ、平穏を保った自宅の屑かごに放り込まれたままになっている。
そのほうがどれほど良いことか――
長年連れ添った夫の前、初めて識る他の男の肉体を味わい尽してしまったことよりも、真新しいストッキングで装った脚を辱められることのほうが、彼女にとっては重要だった。

弔いは済まされたが、弔われた者たちはすでに墓場から抜け出していた。
お義兄さま、意外にいい男じゃない。時々浮気するから、貸してね。
晴子の妹の乃里子は夫と姉の前、そういって肩をすくめてみせたし、
あなたの不始末を、私からも辰夫さんにお詫びしないとねえ。
晴子の母の詩乃は夫と娘の前、もっともらしくうなだれながら、2人の顔色を窺ったし、
息子とデキちゃったなんて、恥ずかしいですね。でも、家族で仲良くしなければなりませんね。
辰夫の母の光江は夫と息子の前、そういってふたりの顔色を見比べた。

ひと晩、妻たちのあで姿を見せつけられた夫たちは、なにも言わなかった。
彼らは故人を弔うために集まった女たちのなかから、喪服の似合うご婦人たちを選び抜いて、
半吸血鬼となった自分たちのため、いっしょに身内を弔ってくれないかと誘いをかけ始めている。
妻たちはそんな夫たちの所行を苦笑しながら見守り、
夫たちは浮気に走る妻たちの所行を苦笑しながら、見て見ぬふりを決め込んでゆく。

「すみません、靴のかかとが取れてしまって・・・」
弔問客の1人で40代の綺麗なご婦人が、顔いろの蒼い傍らの男性に、肩を貸してほしいと頼んだ。
彼女の夫はなにも気づかずに、顔いろの蒼い婦人たちに伴われながら、同じ色の喪服姿を埋没させてゆく。
肩を貸してほしいと頼まれた男性は、こころよく肩を貸してご婦人がわが身を支えるのを助けながら、訊いた。
「故人とはどのような関係で?」
「晴子さんの高校時代からの友人なんです。彼女、まさかこんなことになるとは」
「ご主人のことはご存じないのですね」
「エエ、結婚式にも都合で出られなかったものですから、お顔も存じませんの」
「ご夫婦とも、首すじに咬み痕がついていたそうですよ。もしかして吸血鬼にやられたんじゃ――って、地元の人たちは言っているんです」
「まさか、吸血鬼なんて」
「そうですよね?でも、吸血鬼に血を吸われると、気持ちよくなっちゃって、やめさせることができなくなるというんです。じつは私の妻も吸血鬼に襲われましてね・・・まあおかげさまで、いまでも元気で、ぴんぴんしてるんですけどね」
「また、ご冗談を」
「ご当地かぎりの話なんですよ。だから奥さまも内緒にしておいてくださいね。
吸血鬼の彼も、気の毒なんです。
毎晩のように、若い女の生き血を吸わないといけないので――
だからわたしも、彼が妻の血を吸うのを、見て見ぬふりをしてやっているんです」
「まあ、そうなんですか?」
「それよりも、これから先歩けますか」
「そうなんですの。主人は先に行ってしまいましたし、どうしましょう?」
かかとの取れたパンプスを手に、これ以上歩けないとご婦人は途方に暮れた。
彼女にはまだ、悪い予感を自覚していなかった。
男は言った。
「お墓に行くのはあきらめて、お寺でゆっくりしていきませんか?そこまでなら、彼女のご主人を差し置いてで恐縮ですが、お姫さま抱っこしてあげますよ」

顔いろの蒼い男は、不運なご婦人を抱きかかえた。
事情をよく心得ている地元のものの目には、
吸血鬼が獲物のご婦人を抱きかかえて、血を吸うためにねぐらに戻るところにしか見えなかったけれど。
ご婦人は、これからわが身に降りかかる災難など夢にも思わずに、行きずりの男に感謝の言葉を口にした。
数分後には、自分の血をしたたらせた口許から、おうむ返しに感謝の言葉を受けるとも知らないで。

両腕にずっしりとくる重みが、これから獲られる血の量を想像させて、
男は唇の奥に隠した牙を疼かせながら、良い予感にうち震えていた。
女は男の良い予感を予知することができないで、折れたパンプスのかかとのことを、いつまでも気にしていた。
パンプスを穿いて帰宅するチャンスがもうないことなど、まるで予想をしていなかった。

月にいちどのお務め。

2018年01月17日(Wed) 07:42:00

月にいちど。
村はずれの荒れ寺に、都会妻たちが集められ、村の男衆に奉仕をする。
都会に棲めなくなった夫婦ものを引き受ける、村の出張所が主催する、お愉しみ行事なのだ。

熟女・若妻・新婚妻までも取り交ぜて、
パーティードレスにワンピース、よそ行きのスーツや着物、果ては喪服姿まで、
思い思いの衣装に着飾った都会妻たちは、
自宅に夫たちを残して、さりげなく家を抜け出して、
ウキウキとしたようすなどおくびにも出さずに、三々五々集まって来る。
そのくせお互いさぐり合うように、
あの人嫌々来ているのかしら。
ほんとうは目あての男がもういるのじゃないかしら。
そんなふうに、互いに互いの顔色を窺いながら。

お寺の本堂に集められた女たちがなにをされるのか、
おめかしして出かける妻を送り出した夫たちを含めて、だれもが知っている。
女たちは皆、
着物の襟足をくつろげて、
ブラウスのボウタイをほどかれて、
ロングスカートを腰までたくし上げられて、
ストッキングをひざまでおろして、
ショーツを自分から、つま先まですべらせて。
息荒くのしかかって来る男どもを、それとは劣らぬ熱い吐息で迎え入れてゆく。

夜明け近くになったころ。
その晩あったことなどはおくびにも出さず、
私は貞淑なのよといわんばかりに楚々として、妻たちは帰宅の道をたどる。
ふだんとは違う眼の色をした夫たちをまえに、
妻たちは見え透いた弁明をくり返す。
私だけはなにもなかったの。だれにも挑まれたりしなかったの。
危なかったけど、さいごまで貞操を守り抜いたの。って。

でも夫たちは、知っている。
目のまえの妻の着崩れした衣装が、
ほつれた乱れ髪が、
破けて引きずりおろされたストッキングが。
必要以上のことまで、白状してしまっているから。

そうでなくても、夫たちの一部は、もっとよく知っている。
そういう夫たちは、素知らぬ顔で妻を送り出した後、
自らもこっそり、妻のあとを尾(つ)けてお寺に出向いて、
本堂の向こう側から、覗いて見届けてしまっているから。
妻たちがどれほど積極的だったのか、
どれほど不熱心に、身に降りかかる恥辱を振り払おうとしたのか、
そしてどれほど熱っぽく、彼らの劣情に接しつづけたたのかを。

そうした夫たちを持つ妻たちもまた、
夫に覗かれていると知りながら、清楚な衣装とはおよそ不似合いな、これ見よがしな痴態に耽り抜いて、
あなたごめんなさい感じちゃってるのとか、
主人のものよりおっきいわあ、あなたのほうが素敵♪とか、
あらぬことまで口にする。

そうした妻たちをモノにする村の衆もまた、情婦の夫をそそのかして、
女房の様子が気になるんだろ?
思い切って覗きに来いよ。
あんたの目のまえで、母ちゃんよがり狂わせてやっからよ。
見届けるのも、夫の務めってもんだぜ と。

それでも夫たちは、いそいそと妻のあとを追う。
ひっそりと、妻の帰りを待ちわびる。
月にいちどのお務めが済んだあと。
そこにはいまだかつてないほどの、熱っぽい夫婦のまぐわいがあるのだから。

村の回覧より~先日の美野家ご一家の婚礼について

2018年01月17日(Wed) 07:12:55

皆さまご承知の通り、去る9月×日、田貫家において、
令息要之助様と美野家令嬢の美織様との婚儀が、滞りなく挙げられましたことを改めて報告します。

夜の披露宴には、
新婦美織様のご母堂規矩子さま並びにご夫君の富晴様、
ご令兄の辰夫様と夫人の雅恵様、
叔父市晴様と夫人の由香里様もご臨席賜り、盛大を極めた席となりました。

ことに都会のお美しいご婦人方の黒留袖姿に村の男衆は魅了され、
お三方のご令室様はお1人の例外もなくその場を去ることなく、くり返しの凌辱を受けられました。
先に献血を済まされたご夫君たちは、他の男性と打ち解けてしまったご令室様のご様子を目にして潔く観念をされ、
意気投合した男衆たちのため、ご自身から改めて、永年連れ添ったご令室様の貞操を譲り渡すと申し出られたのでした。

一夜明けて、ご一家はお召し物を直されたあと長老の染谷瓢右衛門氏の来訪を受け、
お祝いのご挨拶をお受けになられました。
特にご令室がたの奥ゆかしい応対にはご褒詞があり、ご夫君方はいたく恐縮されたよし。
また、お三方のご令室様は乱れたお着物の着付け直しを受けられ、行き届いた応対に感謝されたよし。
村独特の荒っぽいあしらいに、ご一家は最初のうちこそ驚いたご様子でしたが、
すべてが親愛の情によるものだとすぐにご理解をされ、
あとは潔く、永年連れ添われたご令室様を自然のなりゆきにゆだねられていきました。

白日の下、はだけられた黒留袖の装いからさらけ出された白い柔肌に男衆たちは驚喜し、
その後のお召し替えでは、都会ならではのモダンな洋装に思い思いに装われたご令室様に、いちように称賛を送りました。
もとより通りいっぺんの称賛ではなく、
そのあと三人ながら納屋に引きずり込まれて、心のこもった歓待を受けたのはいうまでもありません。

「まるで母と妻の貞操を処刑されているようでした」とは、辰夫さんの弁。
まさに言い得て妙、この儀式を済まされたご令室様がたは、都会の日常の合間を縫って当村を訪れ、
都会妻でありながら村の男衆の気持ちを込めた愛撫を受ける日々をお過ごしになられることでしょう。

新婦美織さんのご令妹である沙織さんは、まだ未経験の乙女であるため、大人の席には加えられず、
けなげにも村の長老様につききりで、うら若い血潮を吸い取られるご奉仕を尽されました。
美織さんの兄嫁である若妻の雅恵さんは、お名前の通り優雅な恩恵を村の男衆に与え尽されましたが、
都会のご実家に小さいお子様を置いてのご来訪。
これからもお子様を都会において、夫の目を盗んで泊りに来るとのことでした。
ご親戚のご令室である由香里様は、「今度は息子の嫁を連れてきますね」と明るくお約束をしてくださいました。
「まだ息子以外の男を識らないようだから、早く愉しませてあげたい」との、頼もしい弁。

今後は当村を訪れる都会妻がまた、増えることが期待されます。
ご令室様方のご健勝と、理解あるご夫君方のご活躍を、当村の男衆一同、心から願うものであります。

晩夏の挽歌~婚礼の翌朝

2018年01月17日(Wed) 06:46:49

まだ暑さののこる時分のことだった。
美野辰夫はさっきからぼう然と座り込んだまま、庭先にかしましい蝉しぐれを、聞くともなしに聞き入っていた。
広い座敷の奥からは、木立ちの豊かな庭の野趣あふれる風情を見通すことができた。
眩しい朝――しかしそこには、清々しいばかりではないなにか不健全に澱んだ空気が、そこかしこに漂っている。
さっきまで。
この部屋で行われていたことがただならぬ狼藉であったことは、
周囲に散らばった髪飾りや黒留袖、金襴の帯などが、露骨なほどに物語っていた。
散らばされた衣装のあるじである辰夫の妻の雅恵は、白の襦袢だけを羽織らされたまま、
やはり放心状態で、夫とはやや距離をおいて座り込んでいた。

ふたりの首すじにそろってつけられた、二つの赤い斑点。
吸血鬼による咬み痕の周りには、吸い残された血潮が数滴、まだ生々しく滲んでいる。
ふたりがぼう然としているのは、失血のせいもむろんあったが、それ以上に奪われたものが大きかったのは、周囲の状況から明らかだった。
この村に棲む吸血鬼が人妻を襲うとき、獲るものは生き血だけではなかったから。

ふすま越しにこちらに人が歩み寄って来る気配を感じ、辰夫は背後のふすまのほうに目を移した。
妻の雅恵も同じように、夫以上にビクッとして、ふすまの向こうを見通そうとした。
足音の主に害意がないのは、歩み寄る気配の穏やかさでそれと分かった。
足音の主は、二人だった。
彼らが居ずまいを正す間もなくふすまが静かに開けられた。
そこには辰夫の両親の姿があった。
父の富晴は紋付きを、母の規矩子は黒留袖を着つけている。
もっとも母の黒留袖はなんとなく着ずれしている感じだったし、
昨日美容院で数時間かけてセットしたという髪は、乱れ髪をかろうじて抑えたというふうであった。
二人とも、首すじには若い夫婦と同じ赤黒い痕を、毒々しく滲ませていた。
「だいじょうぶ?」
規矩子は母親らしい気遣いを、息子に投げた。
雅恵のほうをわざと見なかったのは、恥辱の名残りをまだありありとさせている嫁に対する、別の意味での気遣いだった。
雅恵も姑とは目を合わせずに、かすかに会釈を返しただけだった。

やや遅れて、着物姿の老女が一人、そそくさとした足取りで現れた。
気が利いているのか利いていないのか、乱暴狼藉の痕跡もあらわな若い嫁のようすを目にすると、
「あっ、これはどうも・・・」
と、少し耳障りな声をあげて、
「では、若奥様もお直しを・・・」
と、こんどは事務的な声色になって、雅恵の手を取った。
容赦ないほど事務的な扱いに、むしろ雅恵はすんなりと応じて、少しよろけながらも、ともかくも起ちあがる。
老女は周囲に散らばった雅恵の衣装を手早くかき集めると、
「では、しばしのあいだ、ごゆるりと・・・」
と、目立たぬ含み笑いで残りの三人を見比べて、雅恵を促し、奥の部屋へと消えていった。
まるで雅恵自身がもとからいなかったかのような鮮やかな姿の消し方だったことに、辰夫はなんとなく安堵を覚えた。
老女のやり方は、明らかに慣れていた。
きっとこの屋敷では、過去にもこうしたことがしばしば、起きているのだろう。

父親の富晴が息子になにか言いかけたとき、
縁側の廊下から一人の老人が姿をみせた。
夕べ行われた華燭の典を取り仕切った、この村の顔役だとすぐにわかった。
老人は、すでに齢は還暦をはるかに越えて、人の好い枯れきった爺様という穏やかな風情をしている。
瓢右衛門と名乗るその老人は、折り目正しく正座すると、三人の前で三つ指をついて深々と頭を垂れた。
老人のあくまで律儀で恭しい態度に引き込まれるように、富晴も、規矩子も、辰夫までも、いちように座り直してきちんとした会釈を返していく。
彼は、初めて彼ら一家のまえに現れたときと寸分たがわぬ、もしゃもしゃとした老人特有のしわがれ声で
「おはようございます。瓢右衛門でございます。よきお目覚めでしょうか。
 このたびは、まことにおめでとうござりました」
といった。
「ありがとうございました」
ついそんな返事を返して、三人はいちように「しまった」という表情をした。
老人が言っているのは、夕べの婚礼に対してではないと直感したのだ。
三人の思惑を態度で察したらしく、瓢右衛門氏はすぐに言った。
「いや、いや、ほんとうにおめでたいのですよ。
 都会のご婦人方のご来訪など、この村ではめったにないこと。
 皆の衆も、たいそうな悦びようでしてな・・・
 花嫁の美織様はたいそうな気に入られようで、まだ殿方のお相手に励んでおいででございます。
 当地の嫁入りのしきたりでしてな、他所の土地から嫁にくるおなごはだれもが通る道なのでございます。
 ふた晩、三晩かけてでも、皆の衆と仲良うなってから、ここでの暮らしが始まるのですぢゃ」
「あの・・・沙織のほうはどうしているのです?」
さっきから気づかわしそうにしていた規矩子が、花嫁の妹の名を口にした。
老人はおうむ返しにこたえた。
「ご安心めされませ。沙織様はまだ殿方のご経験がないとわかりました。
 お若いお身体ですから、献血のほうはそれ相応にお願いいたしましたが、
 ご心配されておられるようなことは、なにもございませぬ。
 当村では、処女のおなごは貴重ですのでな」

「あの・・・由香里叔母さんと市晴叔父さんは・・・」
辰夫がいっしょに都会から来た叔父夫婦のことを気づかうと、
「ご安心めされませ。市晴様は当地の男衆たちとさっそく意気投合されましてな。
 ご令室の由香里様の晴れ姿を、いまでもあちらの離れでご一緒にお愉しみになられておいでです。
 お盛んな方のようで・・・村の女衆も交えてですから、お互い恨みっこなしということでしょうかの」
老人のこともなげな応えで知った弟の態度に、富晴はさすがにあっけにとられたようすだったが、
傍らの規矩子が囁くように、意外なことを言った。
「郷に入りては・・・ということかもしれませんね・・・」
「まさかお前!?」
富晴はびっくりして、永年連れ添ったはずの妻を、見知らぬ別の女でも見るような目で視かえしたが、
規矩子はそれには構わずにつづけた。
「ひととおりのごあいさつをしなければ、この村から出ることもできないのでしょう?」
続けはしたものの、そこまでが規矩子の限界だった。
「でもちょっと私・・・恥ずかしいわ・・・息子だっているのに」
妻の悩まし気なためらいように、今度は富晴がいった。
「いや、ごもっともです。それにしても、こう申してはなんですが、変わったお土地柄ですな。
 ふだんからこのようなことをくり返しておられるのでしょうか?」
「エエ、そうですな。身内の恥を申すようですが、かくいう私も新婚そうそう、家内を寝取られましてございます。
 嫁入り前の身体から生き血を啜り取られて、すっかり参ってしまったのでしょうな。
 彼らは夜這いの時には、地酒を持ってまいりましてな、亭主殿にしたたかもてなして、酔いつぶしておいて、
 それから嫁御に挑むのですな。地酒と引き替えに、嫁の身体を・・・というわけでございましてな。
 エエ、娘も、息子の嫁も、皆々そんなふうにして、夜は姿かたちを変えるのですぢゃ。
 誰もが恨みっこなしで、人の嫁を、娘をと、群がり集いましての。
 婚礼などのような晴の席は、おなご衆も着飾ってまいりますから、そうしたことの格好の場なのですぢゃ」

ひとしきり話が済んだころに、黒留袖を着つけ直してもらった雅恵が現れた。
どことなく着ずれしていて、髪型も不自然にまとめられているのは、姑と同じだったが、
とにかくも宿までは歩いて帰れそうな感じだった。
「お身の回りのものは、お宿から引き払って当屋敷でお預かりしておりますぢゃ。
 後ほどお部屋にご案内いたしますでの。
 落ち着かれたらまた・・・ここにお出でなさいませ。
 なに、いきなり男衆がおおぜい群がるような無作法なことはございません。
 そういうことは、得心がゆかれてからのほうがお愉しみいただけるものですからの。
 お気持ちが据わられたら、このお座敷で、お昼のご用意などさせていただきますでの」
――要は、昼前に腹を据えて、妻たちを差し出す気持ちを固めろ・・・ということなのであった。

結局、富晴も辰夫も、自分たちの妻を村の男衆に提供することに同意した。
女たちはいちようにためらいを見せ、恥じらったが、
「できれば少しでもお手柔らかに」とまで言う夫たちに逆らうこともできず、
着付け直された黒留袖のまま、渋々のように男衆の待つ席へと足を向けた。
男衆どもが、都会の奥様方の着物姿をもう一度おがみたいと望んだためだった。
夫たちも、ためらいながらもその場に立ち会った。
そして、夕べと同じ落花狼藉が、真昼間の庭先で再現されるのを、息をのんで見守った。

「母と雅恵の貞操を処刑されているうようだった」と、あとで辰夫は語る。
むき出された白い柔肌が黒留袖に映えるありさまが、母ながらなまめかしかったと。嫁ゆえに悩ましかったと。

「まさに、晩夏の挽歌でしたな。しゃれにもなりませんが」と、凌辱の現場で富晴もひとりごちた。
「お察ししますよ」老人は応じた。「でも、良い眺めでござんしょ?」
老人の言いぐさに富晴はちょっとためらいをみせたものの、素直に肯きかえしていた。
女たちは今や恥を忘れて、夫たちに見せつけるようにして、
身につけた礼装にはおよそ不似合いな、露骨な痴態に耽っている。

受話器。

2017年11月26日(Sun) 08:29:25

「お義母さまにも、いい想いをさせてあげましょうよ。すこしでもお若いうちに」
妻のそんないけない囁きにそそのかされて、受話器をとったわたし――
ここは吸血鬼の棲む村。
村の衆は誰もが彼らのいうことを聞き、妻や娘さえも捧げることを、むしろ誇りとし悦びとしていた。
そんな土地だと知りながら、都会に住むことができなくなったわたしたちはこの村にやって来て、
いまではわたし自身すらが、妻が愛人をつくることに同意してしまっていた。

母をこの土地に招ぶ――
多少の罪悪感と後ろめたさを感じながら、わたしは受話器をとった。
受話器の向こうから聞こえてくる声色は落ち着いていて、
それでも熟れた美味しい血を宿した女が放つ声だと自覚してしまうのは、
この土地に慣れ親しんでしまったものの身につける忌まわしい感覚なのだろうか。
母は、紅葉の見ごろになったら父といっしょに遊びに来ると、約束してくれた――

身体が埋もれるほど積み重なった紅葉のうえで。
それまで気丈に振る舞っていた母は、
帯を解かれ襟足をはだけられ、眩しいほどの裸身を輝かせながら、
息荒く群がる男衆たちを相手に、気丈に振る舞い抜いていった――

数か月後。
母は父を連れて、この村に移り住むようになった。
うわべは渋っていた父もまた、母と村の衆との交際を認めないわけにはいかない仕儀となったらしく、
いまは潔く?妻の貞操を荒々しい抱擁と吶喊とに、譲り渡してしまっている。

握りしめた受話器の向こうから聞こえてくる、母の声は。
ひどく若やいではずんでいて、
きっとよそ行きのスーツを奥ゆかしく着込んでいるはずなのに、
そのスーツのすそを腰までまくり上げられて、
ストッキングを脛まで引きずり降ろされて、
後ろからズンズンと突き抜かれつづけているらしく、
「あなたもっ・・・典子さんにきをつけてッ・・・あげなさい・・・ネッ・・・!?」
と、声の抑揚もどことなく、おぼつかなくなっていた。

数か月前の老成しきった、もの静かで冷静な声色とは、20歳は若返ったかのように、はずみきっていた。

受話器の向こう側はどうやら、収拾がつかないことになってしまったらしい。
やがて母の手から受話器をひったくったらしい父が出て、いった。
「もういいから、かんべんしてあげなさい。あとは父さんが面倒見ておくから」

振り返ると妻は、ベッドのうえに片脚だけもたれかけさせながら、床のうえに大の字になって気絶している。
口許からは、だらしなく垂れたよだれがしたたり、
ベッドのうえに無造作に投げられた脚は、ひざ小僧までずり降ろされたストッキングが、ふしだらな光沢を放っていた。

目のまえには、抜け殻どうぜんになるまでむさぼられた妻の裸体。
受話器の向こう側からは、理性を塗り替えられた両親の声。
そのどちらもが、わたしの理性をも狂おしく塗り替えてゆく。

戦利品 その2 ――蟻地獄――

2017年11月26日(Sun) 07:54:12

「嬉し恥ずかし」の初応接の時期が過ぎると、妻と交際を続ける男衆の頭数はぐっとしぼられてくる。
犯す側と犯される側とのあいだには、必然的に「相性」というものが生まれてくるからだ。
いまは、2~3人の特定の男衆が代わる代わる妻をあの藁納屋に誘い出して、
時には一対一で、時には複数で、辱め抜いてゆく。
「辱め」といっても、人妻本人にもその夫にすらも苦痛を感じさせることがないのは、こういう村ならではのことなのだろう。
わたしもまた、妻ともども彼らに誘われたときには、できるだけ応じるようにしている。
彼らは獲物にした人妻を夫の目のまえで弄びたがるというけしからぬ趣味を持っていたので、彼らの願望を好意的にかなえてやるために――
都会育ちの人妻の淫らな遊戯は、夫までも巻き込んで、明け方までつづくのだった。

妻の身体からはぎ取られ、せしめられていった洋服や装身具たちは、
その後交際から遠ざかった男の手から、交際を続ける男の手へと移っていって、
さいごはひとりの男が、あのときの服装のすべてを手にすることになる。
それを見せつけられた夫は、妻と間男との交際に、三人で乾杯をして、
「おめでとう、末永く妻をよろしく」と言って、すべてをゆだねることになっている。

妻の父親もわたしの父も、わたしと同じように寛大な夫になるのに、そうは時間がかからなかった。
さいしょに妻を咎めたのは、実の母親だった。
けれども彼女はすぐに、母娘もろともあの納屋で輪姦されて、すっかり大人しくなってしまった。
身ぐるみ剥がれてムシロ一枚の「お菰さん」なんかにされてしまっては、それまでの人生観など無に等しいものになってしまったとしても、あながち本人を責められない。
「娘に関心があったら、お袋のことも抱きたくなるもんだね」
妻の洋服ひとそろいをの所有者になったあの男衆は、そういいながら、
さっきわたしの義母を犯してきたという一物を、ズボンのうえから自慢げに撫でさするのだった。

彼がふたたび自分の一物をズボンのうえから自慢げに撫でさするのを見たのは、それからひと月あとのことだった。
相手はわたしの母だった。
ぐうぜん妻の濡れ場を目撃して、姑として厳しい咎めだてをしたときのことだった。
そのときも。
嫁と姑はひとしく男衆たちの餌食にされて、納屋の中で衣装ひとそろいをせしめられて、
引きかえにムシロを一枚渡されて、家に帰されたのだった。
そのときの妻の機転で、母は自らの裸体を通行人にさらす機会をあまり多く持たずに済んだ。
自分の母親の時もそうだったから、もう慣れたものだった。
母は自分が咎めようとしたはずの嫁の機転に、後々まで感謝することになる。
そして息子に隠れて――息子であるわたしは、すべてを知ったうえで黙認したのだが――毎朝毎昼毎晩情事にいそしんで、いままで厳しく守り抜いていたあそこをゆるゆるにされて、都会の自宅に戻っていった。
そして次の訪問のときには、父のことも連れてきた。
「どうして父さんまで連れてきたの?」と訊くわたしに、
「だって、お父さんだけのけ者じゃ、かわいそうじゃない」と、彼女は答えたものだった。
母の不始末をネタにやんわりと脅された父は、脅しに屈することなく――しかも彼らの好意的な真の意図をきちんと見抜いたうえで――自発的に妻の貞操をプレゼントすると彼らに約束した。
彼らが都会妻たちと関係を取り結ぼうとする強引なやり口から、独特の好意を汲み取ることができる才能は、もしかしたら“血”だったかもしれない――
彼らはきっと、その血を口にすることで、獲物に見合った待遇を決めるのだろう。

もう、還暦を過ぎてしまったのに――
そういって恥じる母に父は優しく、「魅力と年齢とは関係ないのだよ」と諭し、
若い肉体を持て余す男衆の待つ藁納屋へと、促してやっていた。
楚々としたワンピースも、なまめかしいストッキングも、一枚のムシロにひき変えられてしまうと知りながら――

村の男どもの棲み処にまた、女もののよそ行きの衣装がこれ見よがしにとひるがえる。
落ち着いた年輩の婦人が好んで身につける、洗練された衣装たち――
それは花柄やベーズリー柄のワンピースだったり、高価なシルクのブラウスだったりする。
スカートハンガーに丁寧に吊るされた丈長のスカートたちは、その裏側に、
忌まわしくも淫らな粘液をたっぷりと吐き散らされて、
裏地が白茶けるほど濡らされているのだろう。
なん足も引きむしられたストッキングは束にされて、持ち主が犯された回数を誇示するように、夫たちの目のまえにぶら提げられる。
夫たちはそれを見あげて満足げに、こう呟く――
「家内のことを気に入ってもらえて、嬉しいですな」と。

村を中心にして親族知人を巻き込む“蟻地獄”は、こうして今回も平和裏に、都会の家族を呑み込んでいった。


あとがき
人妻が堕ちてしまったあとにどうしてもつけ加えたくなるのが、その母親や姑の濡れ場です。
悔しがり、歯がみをし、羞じらいながらも欲望に勝てずに、それまでの気丈さをかなぐり捨てて耽ってしまう彼女たち。
村の男衆と永年連れ添った妻たちとの関係を快く受け容れる、寛大な父親たち。
あり得ない風景かもしれませんが、どういうわけか鮮明に妄想することができてしまうのです。

戦利品。

2017年11月26日(Sun) 07:32:44

村の男衆たちの手で、納屋に引きずり込まれるまえ。
妻が着ていたよそ行きのスーツの代わり、
納屋からふらふらとさ迷い出てきた妻がまとっていたのは、一片のムシロ。
むき出しの腕や藁にまみれた裸足を隠しかねながら、
まだ息荒く、それでもあたりのようすを憚るように身をかがめながら、
こちらへと戻って来た。
いつもの気の強さには不似合いな、オドオドとした目線をあたりに配りながら。

出し抜けに首すじに貼りついたヒルのような唇が、欲望を果たし切ってしまうまで、
とうとう離すことができないままに、
くらくらと貧血を起こしてその場に倒れたわたし。
そのわたしを気づかうような、昏い視線だけを残した妻は、
吸血の習癖を持つ男衆の手で、納屋に引きずり込まれていった。
妻がようやく解放されて、貧血から立ち直りかけたわたしの許に戻ってくるまでに、
小一時間が経過していた。

生き血を吸い取られる意外になにをされたのかは、明白だった。
けれども、わたしにはどうすることもできなかった。
彼らがそういう性癖を持つことまで知りながらこの村を訪れたのは、
他に行く場を失ったわたしたち夫婦の意思だったから。

妻のあとをついてくるようにして、男衆たちも納屋から姿を現した。
手に手に妻の身体からはぎ取った衣類を、戦利品としてぶら下げながら。

ブラウス。
ジャケット。
ネックレス。
スカート。
スリップ。
ブラジャー。
ショーツ。
ストッキング。
ハイヒール。
どれもがひとつひとつ、別々の男の手に持たれて、せしめられている。
見返りに妻に手渡されたのは、かろうじて身を覆うことができる大きさの、一片のムシロだけ。
妻は怯えたように彼らを見回し、
彼らはなれなれしい目で、自分たちが支配した女を眺めまわす。

「真面目な奥さんなんだな。ずいぶん手こずったぜ」
若い衆のひとりが言った。
「んだんだ。でも、エエ身体しとるのぅ」
もうひとりが応じるようにして、そう言った。
「こんな女優さんみたいな嫁さんもろうて、羨ましいのぉ」
べつの男がしんそこ眩し気に、わたしたち夫婦を見る。
「気ぃつけて」
さいごに口を開いた頭だった男の声色は、奇妙な親しみといたわりに満ちていた。

道行く人たちは皆、見て見ぬふりをしてくれた。
こちらの異変に、明らかに気づいていながらも。
自分の妻を捧げた夫を、侮辱してはならない――そんな不文律に支配されているかのように。
村に迎えられるためにだれもが通らなければならない荒っぽい通過儀礼は、
こうしてわたしたち夫婦の間を、嵐のように通り過ぎた。


「早くしよ。遅れたら失礼よ」
そういってわたしを促す妻は、真っ赤なスーツに黒のブラウス。
足許を染める薄地の黒のストッキングは、肉づきのよいふくらはぎをなまめかしく染めて、
淡いピンク色をした脛が、ジューシィに透きとおっている。
休みの日ごとにかかるお誘いに、きょうも夫婦そろって出かけるのだ。

迎える男衆はたいがい、独り者だ。
夫婦者の場合には、自分の妻がほかの男の相手をしに出かけていったときに、声をかけてくる。
女っ気のない寒々とした部屋に妻を呼び入れる彼らの目的は、わかりきっている。
熟れた人妻の生き血と、その血を宿す瑞々しい肉体――
身につけたスーツを突き通すように鋭い男どもの視線は、
夫であるわたしの目の前であるにもかかわらず、露骨に鋭くもの欲しげだった。
応接間には、これ見よがしに掲げられた、女もののジャケット、ブラウス、ストッキング――
初めてのとき、納屋のなかで組み敷いた妻からせしめた戦利品が、あの日の出来事を鮮明に蘇らせる。

男どもの接待は、それは念が入っていて、
土地の料理からここでしか口にすることのできない地酒にいたるまで、至れり尽くせりなのだ。
わたしはわざとのように途中で酔いつぶれ、
あとは妻と相手の男との痴態が、夫の目の前もはばからずくり広げられる。
夫公認の浮気にすっかり狎れてしまった妻は、
いけませんわ、いけませんわ・・・あなた、助けてえっ!
と、相手とわたしの気を引くような声をわざとあげながら、息荒い欲情のもとに、組み敷かれてゆく。

目のまえの凌辱を愉しむことができるようになったわたしにとって、
こうしたお呼ばれに、苦痛を感じることはない。
若い血液と都会妻の肉体を、男どもと分かち合う歓びだけが、
狂った鼓膜と網膜とを痺れさせてゆく――

かつては妻の地位と品性とを彩っていたネックレスが、ブラウスが、スカートが。
愚かな痴態に耽るわたしたちを見おろすように、ハンガーにかけられてぶら下げられている。
なにもかもが初めてだった妻の身体からはぎ取られ、せしめられた戦利品たちが、
わたしたちの和解を祝っているのか、呪っているのか、
ただ無表情に、わたしたちのことを見おろしている。

「だめダンナ」

2017年10月14日(Sat) 04:32:50

オフィスの中でいつもいかつい顔をして肩をいからせている部長が、
めずらしく照れくさそうに笑っている。
部長のデスクには、いつも威厳たっぷりに置かれている「〇〇部長」のプレートの代わり、
「だめダンナ」と大きく書いたプレートが。
いったいあれはなに?
この職場に来て間もないわたしが周りに訊いても、だれもがニヤニヤ笑うだけ。
だいじょうぶ、すぐわかるから。だれもが順番に置いてもらえるから。
同僚の一人はそう言って、自分のところにも月2か3くらいで置かれるんだといって、
部長と同じように、照れくさそうに笑った。

その晩自宅に戻った私は、この街に棲むという吸血鬼の訪問を、初めて受けた。
首すじにつけられた咬み痕が、ジンジンと妖しく疼いた。
相手は父親よりも年老いた、100に近いのではという老人。
それがまだ吸われていない妻のまえ、わたしに言った。
ご夫婦の寝室はどちらかな?
こっちです。もう布団を敷いてありますけど。
恐る恐る、妻がこたえた。
では、わしはその部屋で寝(やす)むとしよう。
吸血鬼はつづけていった。
奥さんを小ぎれいに着替えさせて、わしの部屋に連れて来てくれ。
寝苦しかろうが、あんたはそこのソファで寝ると良い。
首すじの疼きは、わたしの理性をあっさりと奪い、
どうぞお気の済むようにと会釈を返すと、ためらう妻を促していた。

「だめダンナ」
きのう部長の机に置かれたプレートが、今朝はわたしのデスクに置いてある。
臨席の同僚が、そっと囁いた――おめでとう、と。
職場のだれもが、見てみぬふりを決め込んでいる。
そしていつもと変わらぬ日常が、くり返されてゆく。
帰りぎわ。
プレートはいつの間にか、なくなっていた。
そして、向かいの同僚の席に置かれていた。
「彼のところがいちばん多くて、週1くらい。
そのつぎがぼくで、月2か3くらい。
やっぱり若い奥さんのほうが、彼としてもいいらしくって。
部長はきのうが初めてだったから、あんなに照れくさそうにしていたんだ。
あの人、部下の奥さんのことをあっせんするのは、得意なんだけれどもね」
彼の口調にちょっぴり非難の色があったのは。
彼の奥さんも部長にあっせんされてしまったからだろうか?

来月も。
若い社員がひとり、この職場に赴任してくる。
たしか新婚三か月だときいている。
事態は薄々、事前にきかされているはず。
でも、断り切れないなにかを抱えて、この職場にやってくる。
みんな都会にいられなくなった事情を抱えながら、
きょうも自分の机のうえにプレートが乗るのを、
なぜかドキドキしながら、待ち焦がれている。

(10月6日構想)

村の吸血鬼に捧げた妻

2017年10月04日(Wed) 07:00:49

薄いピンクのスーツに、黒の網タイツ。
そんないでたちをお出かけ姿にした妻は、
立派に「都会育ちの淫乱妻」。
そういう役柄を望んだのは。
望んできたわけでもないこの片田舎の任地で、
妻を見初めた村の衆。
相手は妻の父親よりもずっと年上な、みすぼらしい爺さまだった。

むしろそういうひとのほうが、気楽だわ。
妻がそう言ったのは、男が妻を組み伏せて、無理やり想いを遂げたあとのこと。
前もって首すじを咬まれて血を抜かれてしまったわたしは、
むざむざと征服されてゆく妻のありさまを、ただ見せつけられることしかできなかった。
植えつけられてしまった妖しい昂ぶりを、歯を食いしばってこらえながら。

行為が済まされてしまうまでのあいだ、わたしが歯を食いしばっていたのを、
屈辱をこらえていたのだと誤解した妻は、
はだけたブラウスを直そうともせずに、わたしのほうへとすり寄って、
あなたごめんなさいを、ひたすらにくり返していたけれど。
男との取引はその場で成立して、妻を安心させていた。

夫を愛しているから、離婚するつもりはない――と、妻。
妻を愛しているから、離婚するつもりはない――と、わたし。
離婚してもらうには及ばない。家族を壊すのも嫌だし――と、爺さま。
そして爺さまがそっと囁いたひと言に、わたしはゾクッと昂ぶりを覚える。
あんたの奥さんを、志藤夫人のまま辱め抜きたいのぢゃ。

でも二人が望むなら、お付き合いに応じさせても・・・と言いかけてしまったら。
妻があとを継いで、つつしんでデートのお供をつとめさせていただきますと言い出して、
あなたの妻のまま、あなたを裏切らせて――そう囁く妻に、無言で肯きかえしてしまっていた。

都会に住んでいたころ、肌色のストッキングしか穿かなかった妻は、
いまでは男の好みに合せて、妖艶な黒のストッキングや、けばけばしい光沢タイツ、網タイツを穿くようになった。
そして逢引きをする時には、わたしの送り迎えを望むようになった。
だって、貧血になるんですもの。
頭をかかえながら一人で帰るのはいやだわ。
だって、お洋服をくしゃくしゃにされてしまうんですもの。
おっぱいをまる見えにさせながら一人で帰るのは困るわ。
妻の言うなりに、送り迎えのつとめを果たすことに、
辱めよりも歓びを感じはじめてしまった、わたし――


きょうもまた、わたしの隣を歩く妻は、
網タイツの脚をおおまたに、歩みを進めてゆく。
発育のよろしい肉づき豊かなむっちりとしたふくらはぎに、
水商売の女みたいな妖しい網タイツを穿いて。
大またで歩いてゆくその先には、
年老いた情夫の待ち焦がれる、恥知らずな不倫のベッド。

娘よりも若い女を迎え入れた爺さまは、
おぅ、おぅ、きょうはいちだんと、あでやかぢゃの――と、妻のことをほめたたえて、
どうせ、血をたっぷり獲るには太い脚のほうがいいって仰るんでしょ――と、妻はこれ見よがしなふくれ面をして、
どうぞごゆっくり――と、わたしは気をきかせて、座をはずす。
うかうかしているとその場で血を抜かれて、いちぶしじゅうを見せつけられる羽目になる。

そ知らぬふりをするわたしの背後、
爺さまは恥知らずに妻にすり寄って、網タイツの脚にしゃぶりつき、
妻は恥を忘れてきゃあきゃあとはしゃぎながら、つま先立ちをしてもの欲しげな唇をなすりつけられてゆく。
黒の網タイツをびりびりと咬み破かれながら、生き血を吸われ、犯されてゆく――

人妻を口説く。

2017年09月04日(Mon) 05:19:02

民俗学の本みたいな描きかたで、描いてみました。^^


この村は、人妻を口説く行為に寛容である。
夫の親友がその妻を。
舅が息子の嫁を。
息子の幼なじみがその母親を。
親しい同士で口説き、夜這い逢っているという。

節操というものは大切にされていて、
村の少女たちは年ごろになる前からそうしたことを母たちから教わっているほどであるが、
同時に大切である節操を与えるということもまた、陰では奨励されているのである。
なによりも、当の母親たちが夫の親友や舅、それに息子とまで通じ合っているのだから。

人妻を見初めた男はその家に言って、その女の夫に地酒を振る舞う。
夫のほうでも相手の下心はよく心得ているが、
よほどのことがなければその地酒を飲んでひと寝入りを決め込む。
そうなる以前から間男のほうから夫に申し入れがしてあって、
夫はそれとなく、妻に言い含めておく。
相手の間男のことをことさらに褒め、
その男との関係は自分にとって大切であること、
であるから妻である貴女もまた、彼と親しくなることが務めであることを告げるのである。
それだけで妻の側もいっさいを承知して、
夫がその男を迎える日には、身なりを整えきちんとした服装で応接をする。
妻を口説かれるということは、その妻を持つ夫を称賛することだと見なされている。
だから間男は人妻を征服しても夫の名誉を傷つけようとはしないし、
夫もまた同じ女性を愛する男性として、間男の好意を容認するのである。

夫が地酒によってひと寝入りしてしまうのを見はからって、
間男は妻に言い寄り、夫婦の布団のうえで彼女を組み敷いてゆく。
さいしょのときの抵抗が長ければ長いほど称賛の対象となるが、
どこかでは必ず力を抜いて、夫の友人の好意に応え、応接しなければならない。
その夜は、妻にとっても夫にとっても、長い夜になる。

まぐわいはひと晩つづけられ、その間夫は別室にこもり時を過ごす。
なかには友人が愛妻に親しむところをかいま見て、興じるものもいるという。
友人や身内が自分の妻を犯すところを視るのは、夫の特権とされていて、
視ることを望まれた間男は、その妻をことさらに猛々しく征服し、
妻もまた気丈に振る舞いながらも、熱情をこめてまぐわいを受け容れる。

一夜が明けると夫が起きる前に間男は家から姿を消し、
妻はいつものように朝の炊事に精を出す。
もちろん、なにごともなかったように。
夫のほうも夕べのことはおくびにも出さず朝食を採り、仕事に出かけてゆく。

夫が仕事に出かけてゆくと、間男は再び戻ってきて、その妻と通じる。
そして妻を家から連れ出して自分の家に引き入れ、一日じゅうまぐわいを続ける。
まぐわいはその次の日の夜明けまでつづき、妻は間男に連れられて帰宅する。
妻の朝帰りは近所のだれもがそれを知るような刻限に行われるが、
夫が妻と間男とをこころよく迎え入れることで、周囲に二人の関係をそれとなく知らせるのである。

一週間以内にその家では近所や身内を招んでの宴が開かれ、
宴の趣旨は公にされないものも、だれもがそれを実質的な披露の宴と心得ている。
その席では夫は末席にいて、妻と間男とが上座についているからである。
このような形で認知されると、夫と間男は今まで以上に親身な関係を築き、生涯助け合うという。

あいさつ

2017年08月01日(Tue) 06:39:16

まだ、引越しのあいさつがないね。いちど奥さん連れて、うちに来なさい。
あんたにも、いい地酒を飲ませてあげる。

隣に住むそのごま塩頭の男は、そういってわたしたち夫婦を誘った。
田舎の人間が「あいさつがない」と言い出すと、
どこか頑なで横柄なものをイメージするかもしれないけれど、
彼の場合はごくおだやかで、
「ここのしきたりを、まだよくはわかっていないのだね。教えといてあげるよ」
と言いたげな親切心さえ感じられた。
男に言われたことを、帰ってすぐに妻に告げると、
「アラ、そうでしたわねぇ。でも、何も持っていくものがないわ」といった。
男はそうした妻の困惑にさえ気持ちが行き届いていて、
「そんなものは要らんから、身ひとつでお越しになってください」とまで、いってくれていたのだった。

翌日の晩、わたしたち夫婦は、彼の屋敷を訪ねた。
隣家といったが、彼の家は大きな古屋敷だった。
実際、周りの人間のあいだでも、彼の家は「古屋敷」という呼び名で通っていた。
男はその家に、独りで棲んでいるようだった。
古びてどす黒く汚れた床に、淡い色のストッキングを穿いた妻の脚が、寒々と映えた。

男は「さ、さ、奥へどうぞ」といって、わたしたちをいざない、
迷路みたいに曲がりくねった廊下を通り抜けて、中庭に面した和室へと案内してくれた。
なにもない座敷だったが、真ん中のちゃぶ台のうえには、待ってましたとばかりに一升瓶が置かれていた。
酒を嗜まない妻のためには、冷えたジュースが用意されていた。

どこから来なさった?
不景気で離職、借金・・・それは大変だったねえ。
それであの会社の社長さんと知り合って、ここに赴任した。そうかね、そうかね。
わたしたちはもっぱら、この田舎に流れてくるまでの過去について話し、
男はもっぱら聞き役になって、わたしたちの話しに同情に満ちた相づちを打って来る。
わたしたち・・・といっても、妻は時折言葉をはさむ程度だったが、
その控えめな態度に、男は明らかに好意を持ったようだった。
すすんでお酌をしたのも、男の心証をよくしたのかもしれない。
妻は地味な性格で落ち着いていたが、そういうところはしっかりしていた。

酒がまわってきた。それも出し抜けといえるほど、急激に――
そしてわたしは身体をふたつに折るようにしてその場に突っ伏し、
同時に男は、傍らに控える妻の細い肩へと手を伸ばした。
「あっ、何をなさるんです!?」
妻の叫び声がした。
どたばたと抗う物音もした。
けれどももう、わたしの身体は痺れたように動かなくなっていて・・・
男のいった「あいさつ」の本当の意味を、理解するはめになっていた。
田舎のみすぼらしい家屋には不似合いなくらい、妻の身なりは洗練されていた。
そんな都会育ちの衣装を揉みしだかれて、はだけたブラウスから覗く乳首を口に含まれて、
千鳥格子のタイトスカートを、腰までたくし上げられて、
ツヤツヤとした光沢を帯びた肌色のストッキングを、むざんに剥ぎおろされて、
身動きできないわたしのまえで、妻は恥知らずな凌辱に素肌をさらしていった――


「今夜も、ごあいさつに伺いましょうよ」
「明日も、お勤め帰りにごあいさつに伺いましょうよ」
「あたし・・・きょうは一人でごあいさつに伺ったの」
妻は罪のない大きな瞳を輝かせて、きょうも「ごあいさつ」を口にする。
「アラ、あなたお隣で振る舞われたお酒、お口に合うって仰ったじゃないの」
けげんそうに言いかえしてくる妻の言うとおり、たしかにあの家の酒は美味だった。
美味な地酒と妻の貞操を交換することに、いつか嫌悪感を忘れかけてしまっていた。
男はわたしたちの頻繁な訪問を悦んで、いつも慇懃に奥の間に通してくれて。
そこでわたしは貴重な古酒を振る舞われ、
足腰立たなくなってしまってから、男は妻に襲いかかる。
妻は男から受ける凌辱を予期しながらも、いつも都会ふうに着飾って、男の家を訪れる。
古くさくみすぼらしい屋敷のたたずまいに不似合いなくらい洗練された衣装は、
男の節くれだった指にむしり取られ、裂き散らされてゆく。
乱れ果てた衣装のすき間から覗く、白い裸体――
そんな情景にわたしは不覚にも昂奮を覚え、
男はそんなわたしの恥ずべき嗜好をあらかじめ知っていたかのように、
都会育ちの人妻然として着飾った妻に、我が物顔でのしかかってゆく。

古屋敷にごあいさつに伺う。
それは、周囲でも公然となっている、地元の風習。
わたしたち夫婦だけではなく、
古くから男を識っているものも。
つい数年まえに転入してきた都会の夫婦も。
定期異動で不運(幸運?)にも当地に赴任してきた教諭夫妻も。
必ず夫婦連れだって、ごあいさつに来るという。
当地に赴任して一年が過ぎた頃、都会の本社から、赴任を継続するかどうかの意向伺いがきた。
妻は大きな瞳でわたしを見つめ、わたしが黙って肯くと、
自分でペンを取って、「可」の欄に大きくマルを書き加えていった。

「うちの父さんが、沙耶ちゃんの血を吸いたがってる」

2017年07月18日(Tue) 06:29:38

「うちの父さんが、沙耶ちゃんの血を吸いたがってる」
同級生のハルオくんがぼくにそう持ちかけてきたのは、
ぼくが彼に吸血されるようになってから半月くらい経ってからのことでした。
なんでも、下校途中の沙耶を見かけてすっかりご執心になったとか。
そういうときって、いちいち親族に断って紹介させるものなのかい?
って、ぼくはハルオくんに訊きました。
ぼくのときは、体育の時間にふと気づいたら二人きりになっていて、
ライン入りのハイソックスを履いたふくらはぎを咬まれてチューチューやられたのがきっかけだったから。
ハルオはそのときのことを訊かれているのだとわかったのか、ちょっときまり悪そうにしながら、
「うちの父さんはシャイだから」
と、いいわけにもなりそうにないいいわけを、してきたのでした。

沙耶ひとりでは怖がるだろうからと、さいしょは本人の前でぼくが、ハルオくんを相手に吸血されるところを、お手本に見せることになりました。
夕方沙耶を連れ出すとき、母さんはぼくの意図を薄々察していたようですが、止めようとはしませんでした。
いずれ自分の番が回って来る・・・と、わかっていたからです。

この街は、父さんの勤める会社の創立者の出身地で、吸血鬼と人間とが平和に共存しています。
都会からこの街に越してきたぼくたちは、父さんの勤め先の人事担当者から、そうしたことを聞かされていましたし、
ぼくたちがこの街に送り込まれる理由も、血液を提供するためだと言われていました。
いろいろな事情で都会に住めなくなったぼくたちは、献血の協力と引き替えに、安住の地を得ることになっていたのです。

なにも知らない沙耶は、暗闇迫る公園で、兄妹で二人きりになって、
彼方から二人が姿を現したときにはじめて、なにが起こるのか気づきました。
「やだ、お兄ちゃん怖い」
怯える沙耶をなだめすかして、ぼくのまえにかがみ込んでくるハルオ君を相手に、
いつものように足許をくつろげて、ハイソックスを履いたふくらはぎを咬ませていきました。

「痛くないの?平気なの?」
なん度もくどいほど訊いてくる沙耶の背後に、ハルオくんのお父さんがまわり込んで、
後ろから抱きすくめると、否応なしに首すじを吸って、牙でガブリとやってしまったのです。
「あぁあーっ!」
沙耶はかわいい悲鳴を上げて、ベンチの隣に座るぼくとおなじように、チューチューと血を吸いあげられていったのです。
兄妹の身体から、競い合うように吸いあげられる血の音を、ぼくたちのことを気にかけて様子を見に来た母さんは、息を殺して聞き入っていた――あとでそんなことを打ち明けられて、家族3人でにっこり笑い合ったのは、もっとずっとあとのことでした。

ハルオくんも、沙耶の血を吸いました。
お父さんから分け前をもらえたのです。
ハルオくんはお父さんと入れ替わりに、沙耶の後ろにまわり込むと、
ベンチの背もたれに身体をもたれかけさせた沙耶の首すじを咬んで、
さっきお父さんがやっていたみたいに、沙耶の血をチューチュー吸いはじめたのです。
咬んだのは、お父さんが咬んだのとは逆側でした。
お父さんは「生意気だ」と苦笑いしながらも沙耶の足許にかがみ込んで、
沙耶の履いているハイソックスを咬み破りながら血を吸いはじめます。
真っ白なハイソックスには、みるみる赤黒いシミが拡がりました。
ぼくの履いているライン入りのハイソックスは、ハルオくんに咬み破られて、
やはり赤黒いシミをべったりとつけて、たるんでずり落ちかけていました。
沙耶のハイソックスも同じように弄ばれて、くしゃくしゃにずりおろされてしまうのを、
ぼくはなぜか胸をドキドキとさせながら見つめつづけてしまいました。

それ以来。
ぼくたち兄妹は、学校帰りにハルオくんの家にお邪魔して、
兄妹ながらハルオくん親子に血を吸われるようになったのです。
ほとんどの場合ハルオくんがぼくの、お父さんが沙耶の血を吸ったのですが、
たまに獲物を取り替え合うことがありました。
一人の人間を襲って生き血の味が気に入ると、家族の血も気になるのだそうです。
血のつながった家族の血は、味も似ているらしいから・・・
お父さんがぼくたちの母さんを襲ったのは、きっとそういうことだったのでしょう。
その前にお父さんは、ぼくたちの父さんを勤め先まで訪ねていって、咬んだそうですから。
貧血になるほど血を吸われ、病院経由で父さんが帰宅したときは、
こんどは母さんが血を吸われている真っ最中で、
父さんはハルオくんのお父さんに遠慮して、母さんが吸血されているリビングには入らずに、
隣の部屋からいちぶしじゅうを見守っていた――と、ハルオくんから後で聞きました。
母さんが襲われているあいだ、「視ないほうがいいよ」といわれたぼく達兄妹は、
妹の勉強部屋で3人でいて、交代でハルオくんに首すじや脚を咬ませてあげていたのでした。


その夜の出来事がきっかけとなって、
母さんはハルオくんのお父さんと、父さんとは内緒でおつきあいをするようになりました。
「子どもは知らないほうが良い」とハルオくんは言いましたが、
ぼく達だってそこまで言われたら、母さんがハルオくんのお父さんに何をされているのかは、おおよそ察しがついてしまいます。
ですからぼく達は、知らないふりをしつづけることにしました。
母さんがいつものようにキビキビと立ち働いて、ぼく達を早く学校に行かせようとするのを、沙耶とふたりこっそり目くばせし合っては、クスクス笑いをこらえていました。
なにしろ、ぼく達と入れ替わりに、大人のお愉しみが始まるのですから――

母さんがハルオくんのお父さんの餌食になってしばらく経って、ハルオくんがぼくに自慢しました。
「俺、大人の女の味を識ってしまった――雄太の母さんで」
予期してたことではあったけど、ちょっぴりショックでした。
そう、ハルオくんは、ぼくの母さんを相手に、いわゆる「筆卸し」、つまり初体験を済ませたのです。
ショックでしたが、なぜかドキドキしてしまいました。
ハルオくんはそんなぼくのようすをなにも言わないで見ていましたが、
それ以来、ぼくは母さんか沙耶のどちらかに付き添うことをお願いされました。

ハルオくんのお父さんが沙耶を呼び出したときには、
よそ行きの服に着替えた沙耶をハルオくんの家に送り届けて、
先にお父さんに血を吸われて、元気になったお父さんが沙耶のうえにのしかかります。
さやがおめかしをしてきたのは、お父さんに襲われるためだったのです。
だからお父さんの節くれだった掌が、
沙耶の着ているブラウスを荒々しくくしゃくしゃに着崩れさせたり、
折り目正しいプリーツスカートを、パンツが見えるまでたくしあげられたりするのを、
沙耶はくすぐったそうな笑い声をあげながら、受け容れていったのでした。

ハルオくんが母さんを訪ねて家にやって来るときは、
よそ行きの服に着替えた母さんはウキウキと台所に立ってお紅茶の用意をし、
ふたりでいる勉強部屋に、お紅茶を3杯淹れていそいそと現れます。
ハルオくんは色気づいた気分になると、父さんがいる日でも構わず家に来るので、
そういうときには3人で、ぼくの部屋にこもり切りになるのです。
ぼくはハルオくんの分のお紅茶も余分に飲みながら、勉強に熱中するふりをして、
ハルオくんがお紅茶の代わりに母さんの首すじやストッキングを穿いた脚を咬んで生き血を啜るのを、チラチラ盗み見ていたのです。
一定量の血を吸って渇きが満たされると、ハルオくんは母さんにのしかかって――ぼくのまえでセックスまでしていったのです。
さいしょはぼくのまえではかっこをつけようとしていた母さんも、
ハルオくんの来るのが度重なると、もうガマン出来なくなって、
聞こえよがしに声をあげるようになってしまいました。
ぼくはそれでも勉強に熱中した振りをしながら、
半ズボンをぬらぬらとした粘液で濡らしてしまうのでした。
母さんの不倫体験――まさかこんなふうに目にすることがあるなんて、思ってもいませんでした。

沙耶のほうも、大きな変化が起こりました。
ぼくが沙耶をハルオくんの家に連れていったある日のこと、
ブラウスのうえからおっぱいをまさぐったり、
パンツのなかに手を入れたりしていたハルオくんのお父さんは、
とうとうガマン出来なくなって、沙耶のことを犯してしまったのです。
居合わせたぼくは貧血でぶっ倒れていたので、あわてる沙耶を助けることもできずに、
たださいしょから終わりまでを、しっかり見届けさせられてしまったのです。
妹の初体験――まさかこんな形で目にするなんて、思ってもいませんでした。


いまお話したのは、10年ほどまえの出来事です。
ぼくたち家族はこの街で、元気に暮らしています。
父さんは同じ勤め先で働いていますし、
母さんは浮気に励んでいます。
沙耶はハルオくんのところにお嫁に行って、ハルオくんとお父さんの面倒を見る毎日です。
ハルオくんのお嫁さんになっても、初体験の相手はハルオくんのお父さんですから、
そうした関係も、ハルオくん公認で続けているみたいです。
「身体の隅まで識られてしまうとね、亭主の親が齢取っても、きちんと面倒をみるものなのだよ」
ハルオくんのお父さんはもっともらしい顔をして、そんな自慢をぼくにします。
たしかに――沙耶はいい嫁になっているのかもしれません。
ハルオくんのお母さんはべつの吸血鬼の恋人なので、
姑の身代わりの役も、それは熱心に果たしているらしいです。

花嫁を父親に寝取らせているハルオくんにも、今年良い話がありました。
ぼくが結婚することになったからです。
結婚相手は、父さんの勤務先の同僚の娘さんで、都会育ちのなにも知らないお嬢さんです。
結婚を控えた彼女を連れてハルオくん親子の家にあいさつに行ったのはつい先週のこと。
そして昨日――ハルオくんはぼくの婚約者に迫って、とうとう処女をゲットしてしまったのです。
「初めての女の人は初めて」と悦ぶ、ハルオくん。
未来の花嫁の初体験を目の当たりに、妖しい歓びに目ざめてしまった、ぼく。
彼女がぼくを裏切って、べつの男性に処女を捧げるシーンはとても悩ましく、
母さんや沙耶が襲われるところを目にして植えつけられてしまったマゾヒズムを、大きく開花させてしまったのでした。

これからはきっと、ぼくもこの街の良き住人として、花嫁の治子さんともども仲良く暮らしていくのでしょう。
築いた明るい家庭では、優しい心を持った息子や娘が育ち、
娘は年配の吸血鬼――たぶんいい齢になったハルオくん――を相手に純潔を捧げ、
息子は妹を初めて犯した同じ吸血鬼に、自分の未来の花嫁をゆだねるのでしょう。

あなたも、この街で暮らしませんか?
ご家族と一緒に。


あとがき
友だちの妹に目をつけた父親のため、吸血鬼の少年が吸血相手の友だちに妹を連れ出させる――
父親が妹を犯すところまで見届けるながらも、さいごは彼女を妻にすることに。
結果的に、自分の結婚相手を父親に襲わせ処女まで与えてしまう というのを描きたかったのですが。
友だち目線にした結果、
「妹の吸血初体験を協力させられて、妹の血を気に入った相手に母親まで襲われて、
妖しい歓びに目ざめてしまったあげく、結婚相手の処女まで奪わせてしまった」
という、別の形の寝取られ話になってしまいました。
^^;

延命された貞操

2017年07月10日(Mon) 06:37:09

貞淑な主婦が犯されそうになったとき、必死で抗って。
相手が自分の心を読んで、暴力で彼女を犯そうとする意図を諦めて、見逃してくれたとしたら。
彼女はどれくらい、感謝するでしょうか――?


吸血鬼と共存しているというこの街に赴任して、一か月ほど経ったときのことでした。
妻の生き血を、特定の吸血鬼にプレゼントする羽目に陥ったのは。

その日は、わたしの所属する地元のクラブ・チームの試合の日でした。
都会出身の職場の同僚に同好の人がいて、メンバーに加えてもらったのです。
対戦相手は、吸血鬼のチームでした。
締まっていこうぜ。負けると試合のあと、血を吸われちまうからな。
同僚の囁きにもかかわらず、結果は惨敗でした。
吸血鬼チームのメンバーは、けた違いの馬力を発揮して、吸血する権利を手にしたのでした。
彼らは思い思いにわたしたちのチームの選手を一人ずつ選んで、血を吸ったのです。

奥さんが応援に来ているチームメイトも、おおぜいいました。
彼らは促されるまま奥さんともどもグラウンドの向こうの草むらに脚を向けて・・・
立ち去りぎわに振り返ると、彼らは顔が土気色になるまで血を吸い取られて草むらの中に転がっていて、
そのすぐ傍らで、こんどは奥さんまでもが襲われていたのです。

――――――

エッ、奥さん姦られなかったの?
職場のみんながいっせいにこちらを振り向いたのは、週明けのことでした。
その前の日には、職場対抗のスポーツ大会があって、
わたしの所属するチームは吸血鬼のチームに惨敗してしまったのです。
吸血鬼のチームに負けると、選手は全員血を吸われてしまうことになっていました。
丈の長い靴下が好みだという吸血鬼たちにとって、わたしたちの身に着けたユニフォームは美味しいご馳走だったようです。
短パンの下は、白のラインが三本走ったブルーのストッキング。
試合後選手は全員、相手チームの吸血鬼に呼び集められて、
短パンの下に履いているストッキングのうえから、ふくらはぎを咬まれて血を吸い取られたのです。
奥さんが応援に来ていたチームメイトは、奥さんまで血を吸われ、おまけに犯されてしまっていました。
まるで、自分の奥さんの血を吸わせるために招んだようなものでした。
(いま考えると、事実そうだったのかもしれませんが・・・)

負けるとそういうことになるときいていたので、わたしはわざと1人で参加したのですが、
それは無駄な努力に終わりました。
わたしのことを獲物に選んだ男は、にんまりと笑って言ったのです――きみの血は、きみの家で愉しませてもらうから。
彼の目あてがなんなのかは、訊かなくてもわかります。
でも、断り切れなかったわたしは仕方なく、彼を自宅へと伴ったのです。
そう。この街で吸血鬼に魅入られたら、逃れるすべはない。
それと知りながら赴任を承諾したのは、私たちがもう、都会にいられない事情を持った人間だったからでした。
――この土地は、どんなに負い目のある人間でも、分け隔てなく仲良くしてもらえる土地柄なのだよ。
わたしに転任を薦めた上司はそう言って、自身もかつて数年間、その街にいたのだと告白してくれました。
(彼も既婚者でした)

ほかのチームメイトは全員奥さんを招んでいたので、グラウンドに残っていました。
試合のあとのグラウンドで、チームメイトの奥さんたちは、
よそ行きのブラウスやワンピースを泥だらけにしながら、
生き血を吸われ、犯されていったのです。
きゃあきゃあとはしゃぎながら、それは愉し気に。


家に着くと、妻がびっくりしたように、わたしを出迎えます。
相手チームの吸血鬼を連れ帰るとは、もちろん聞かされていません。
それでも――どういう意図で家まで来たのかは、薄々察しがついたようすでした。
妻もまた、自分の置かれた立場を、よく心得ていたのです。
試合のあとに人を――それも相手チームの吸血鬼を――家に招ぶ予定はなかったし、
途中から妻に連絡するようなこともしなかったので、おもてなしの用意などなにもありません。
でも、そんなことは初めから必要ないのです。
妻は相手の望むままに、妻自身の生き血を振る舞えば、それで済むのですから。

この街で、吸血鬼が既婚の女性を襲うとき、例外なく相手の女性を犯すと聞いていました。
自宅を舞台にした落花狼藉――それはもう、避けては通れないものになっていたのです。
けれども彼は、意外にも紳士的でした。
彼の言によれば、彼が妻のことを見初めたのは、
わたしたち夫婦が赴任のあいさつで初めて出社したときだったそうです。
彼はわたしの同僚たちに、宣言したそうです。
――あの奥さんの脚を咬んで、ストッキングを破りながら血を吸いたい――と。
その望みが、きょうかなえられるのです。
わたしは仕方なく、「おめでとう」と、言ってやりました。
それを真に受けて、素直にありがとうを返されて。
わたしは初めて、まず自分の血を提供するために、ライン入りのストッキングのうえから、牙で冒されていったのです。
太めのリブのツヤツヤした真新しいナイロン生地ごしに、唾液にまみれた唇の熱さが、じかに伝わってきました。

チクリ、と突き刺す、かすかな鈍痛。
じわっと滲む、生温かい血。
チュウチュウと小気味よく吸い取られる、働き盛りの血。
貧血で頭がくらくらするまで、吸いつづけさせてしまっていました。
この唇が。この牙が。
これから妻の素肌を侵すのだ――そう思うといても立ってもいられない気持ちになるのですが。
そのいっぽうで。
こんな唇に誘惑されて、
こんな牙に咬まれてしまったら。
妻だって、ふつうの気持ちでいられるわけはない・・・などと。
感じはじめた罪深い陶酔に、わたしはいつの間にか、夢中になってしまっていました。
なんとか妻の素肌を咬ませたい。
男の相手を初めてわずか数分後には、すっかりそんな想念にとりつかれてしまっていたのでした。

妻が真新しいストッキングに穿き替えて、彼の前に現れたとき。
わたしはもう、貧血のあまり頭を抱えて、じゅうたんの上に転がっていました。
ちょうど――グラウンドを去り際に、同僚の一人が土気色の顔をして草むらのなかに横たわり、
その傍らにねじ伏せられた奥さんが、羽交い絞めにされながら犯されていったときのように。

妻はソファに腰かけて、息をつめて男を見あげます。
男は妻の手を取り、手の甲に接吻すると、ひと言「落ち着いて」と囁き、
それからおもむろに妻の足許にかがみ込んで、
わたしの血を吸い取ったばかりの唇を、ストッキングを穿いたふくらはぎに吸いつけていったのです。
わたしの履いていたスポーツ用のストッキングも、その唇に冒されたばかりです。
まして妻の穿いているパンティストッキングはひどくなよなよと頼りなくて、
ちょっといたぶったらすぐにでもほつれてしまいそうな代物でした。

くちゃっ。
圧しつけられた唇の下。
真新しいナイロン生地にかすかな唾液が散って、
唇のしつようないたぶりにつれて、いびつによじれていきます。
なん度もなん度も、男はその行為をくり返しました。
そしてなん度めかの接吻を、ただの接吻で終わらせずに、そのまま牙を埋め込んでいったのです。
妻の整った横顔がキュッと引きつるのを見て、「咬まれてしまったな」と、実感しました。

チュウチュウ・・・
キュウキュウ・・・
ひとをこばかにしたような音をたてて、妻は生き血を吸い取られていきました。
緊張に包まれた妻の表情がやがてほぐれて、目の焦点が合わなくなって。
口許にはへらへらとした薄笑いさえ泛べて、
やがて姿勢を崩して、ソファからじゅうたんのうえにすべり落ちる――
しかし、男は意外にも、その場で妻を犯そうとしませんでした。
貧血で顔を蒼ざめさせた妻を引きたてるようにすると、もう一度首すじに唇を這わせ、ひとしきり血を吸って、優しく抱きしめると、そのまま解放してくれたのです。

意外な展開に、妻は首すじにつけられた咬み痕に手を添えながら、じっと男を視ています。
男も妻のことを、じっと視かえしていました。
まだ決心がつかないようだね。
男のひと言に、妻はほっとしたように表情を和らげます。
そう、潔癖症な妻はどうしても、この場で、夫の目の前で犯されるという現実に、耐えることがまだできずにいたのです。
男は血を吸いながらも冷静にそんな妻のようすを見極めて、
妻が立ち直れないほど打ちのめされてしまうのを避け、あえて状況を寸止めにしたのでした。

わしらがあんたがたを犯すのは、恥を掻かせてやろうとしてそうしているわけじゃない。
生命と同じ値打ちのあるものを飲み物にさせてくれたお礼に、敬意を表したいだけなのだ。
だがそんなことを言われても、いきなり信じられるものじゃない。
ふつうの奥さんなら、強引に迫って落としてしまったほうが、踏ん切りがつくこともあるのだが。
だいぶ、潔癖なひとのようだから。
奥さんを人間なみのやり方で抱くのは、つぎの楽しみに取っておくよ。

男は朗々とした声色で、そう告げたのでした。
破いたストッキングを弁償したいとまで、男はいって、わたしに一万円札を差し出しましたが、それは断りました。
妻のことでお金をもらうわけにはいかないから――そう言って、そこは鄭重に辞退をしたのです。
「受け取っておけばよかったのに」
妻は後で、あっけらかんと言ったのですが。
もしかすると受け取ってしまったほうが、妻がわたしにたいして感じる罪悪感を、目減りさせることになったのかもしれません。

男は代わりに無心したのは、妻の穿いているストッキングでした。
見るかげもなく破けて血の滲んだストッキングに、どんな値打ちがあるというのでしょう。
でも彼が「ぜひに」と欲しがるのを、拒むすべはありませんでした。
わたしは妻に目配せをし、妻も黙って肯きます。
破れ落ちたストッキングは、男の手で妻の脚から抜き取られて、彼のポケットのなかにせしめられていきました。
辱めを免れた妻にとって、それくらいはお安い御用だったみたいです。
裂けたストッキングを戦利品にされたのを恥じらいながら、妻は上目づかいで好意的な照れ笑いをしてみせました。
きっとあの瞬間――男は妻の心をつかんだのでした。

えっ、姦られなかったの?
職場の人たちがいちように驚いたのは、じつにもっともなことでした。
彼らのだれもが、初対面の段階で妻を襲われ、血を吸われたばかりか犯されてしまっていたからです。
いや、うちも危なかったんですよ――わたしはそう弁解しながらも。
――この街では、吸血鬼に襲われた女が犯されないのは、魅力がないと思われてしまう。
そんな事実を実感せざるを得ませんでした。
彼のいうように、血を吸った女を犯す行為が敬愛の情の表れだとしたら、
それを受けることのできなかった女は一段低く見られたことになり、
女の身体に称賛を与えなかった男のほうも、非難の対象となる――きっとそういうことなのだろうと。

けれども、妻の貞操が生き延びることができたのは、そこまででした。
なぜなら、彼は三日にあげず自宅にやって来て、妻の血を吸いつづけたからです。
首すじに、ふくらはぎや太ももに、なまの唇をじかに這わされて。
スリップを真っ赤に濡らし、ストッキングを咬み破かれながら、
妻はその素肌にくまなく、もの欲しげな舌なめずりを這わされつづけ、
あげく、パンティストッキングをひざまでずり降ろされたうえ、
ショーツの奥にまで舌を這わされてしまっていたのでした。
度重なる訪問に耐えかねて。
妻は少しずつ、肌身を許しはじめていったのです。

もはやわたしも、潔い夫として振る舞うしかありませんでした。
わたしはつぎの週末、男を自宅に招いて、妻のことをたいせつにすると約束をさせたうえで、二人の交際を認めるといってやりました。
先週はスポーツ大会で惨敗したわたしは、今度は妻をめぐる競争でも惨敗したことになるのでしょうか。
「勝ち負けではないですよ」
男はわたしに、言いました。
貴男の最愛の奥さんをまんまと手に入れた私も、勝ち。
最愛の奥さんを潔くほかの男と共有することに決めた貴男も、勝ち。
旦那よりもずっとストロングな男を情夫に持つことになる奥さんも、勝ち。
どうですか――?
多少わたしの分が悪いような気もしないではありませんでしたが、
もっともらしく肯きかえす妻を傍らに、わたしもただ無言で肯きかえすばかりでした。

返礼は派手なものでした。
わたしはその場で提供可能なかぎりの血液を吸い尽されて、
意識が朦朧となって、ぶっ倒れてしまって。
男はそんなわたしの目の前で、妻を羽交い絞めにし、じゅうたんのうえに組み敷いていったのです。
こぎれいなワンピースに装った妻の華奢な肢体は、逞しい彼の下敷きになって、見るからにか弱げだったのを、いまでもよく憶えています。
そのワンピースは、このあいだの結婚記念日にわたしがプレゼントしたものでした。
貞操を喪失するという記念すべき刻に彼女が選んだ装いは、夫から贈られた服。
彼女も非常な決意で、きょうのこの場に臨んだのでしょう。

男は顔を妻の顔に近寄せると、飢えた唇をいつものように首すじに吸いつけようとはしないで、そのまま妻の唇に重ねていったのです。
永遠の愛を誓うキス――
私はそれを見せつけられながらも、ただ「おめでとう」と妻を相手に想いを遂げる男を祝ってやることしか、できませんでした。

見慣れた花柄のワンピースのすそがじゅうたんのうえいっぱいに拡げられて。
それまで脚を通したことのないガーターストッキングの留め具を覗かせるほど、太もももあらわなポーズを取って、
良家の子女だった妻は、いままでとは別の世界へと足を踏み入れていきました。
ええもちろん、わたし自身も――
目のまえで妻を寝取られてしまうことに、もう心臓を高鳴らせながら。
妖しい昂ぶりの虜になって、その場の状況を見守るばかり。
母がこの場に居合わせたなら、「なんというばかなことを」と、たしなめたに違いありませんけれど。
わたしはそのときの選択を、いまでも間違っているとは思いませんし、むしろ誇りにすら感じています。

恥を忘れて娼婦になり果てた妻――
わたしのまえですらさらしたことのないほどのはしたない喘ぎと媚態とをあらわにして、
彼の欲求に心から応えていったのです。
添田家の主婦が堕ちた、記念すべき瞬間を、わたしは非常な満足とともに見届けたのでした。


あとがき
だらだらと長くなっちゃいましたね。^^;
心の中では犯されたくないと願う人妻の心を汲んで、いちどは見逃してやって。
その意気に感じた夫婦が、夫は夫としての自尊心を忘れ、妻は妻としての貞操観念を自ら泥まみれに濡らしてゆく。
そんな心理を描いてみたかったのですが・・・

この街に棲むようになった夫たちのための手引き。

2017年05月27日(Sat) 10:57:01

相手がほんとうに兇悪なやつで、きみの妻や恋人、娘や母親に危害を加えようとするのなら、
断固として戦うか、それが難しければ逃げるべきだ。
けれどもこの街に出没する吸血鬼は、決してそういう存在ではない。

まず彼はひっそりときみの日常に、居心地よく入り込んできて、
さりげなくきみの背後に佇んで、そっと首すじを吸うだろう。
気づいたときにはもう、彼の奴隷。
けれども彼は、そうして獲た正当な権利を、決して強引に行使しようとはしない。

礼節を尽くしてきみに接し、きみの健康を害しない範囲で、
自分の生命をつなぐのための最小限の血液を、きみの身体から欲するだろう。
その願いをかなえてやるだけの寛容さを、彼の牙がもたらした毒液は、きみに確実に植えつける。
それでもいずれ、きみの血液の量だけでは、彼の食欲をまかない切ることができないと気づくだろう。
彼はきみにそれを気づかせるために、ふだん彼のために血液を供給してくれる人たちとの交わりを断って、きみだけにかかり切りになるだろうから。

きみは初めて、焦りを感じる。
しかしそれは、身に危険が迫ったための単なる本能的な恐怖心からくるものではなくて、
むしろ彼に与える血液にこと欠いている状況が気になるだけだ。
きみは彼の渇きを癒すため、自分の妻を紹介することを、ごくしぜんに思いつく。

彼とは事前に、よく話をつけておくとよい。
彼がきみの妻に対して、どの程度の、そしてどんな種類の想いを抱いているのかを。

もし彼が、きみの妻に対して、刹那的な性欲を満足させるためだけの欲求を感じているのなら。
ためらうことなく、妻を紹介すると良い。
きみの妻がどれほど貞淑であろうとも、きっといちころでイカされてしまうだろうから。

もし彼が、きみの妻に対して、継続的なセックスフレンドとして遇するつもりがあるのなら。
ためらうことなく、妻を紹介すると良い。
ふたりはきみに迷惑のかからないやり方で、意気投合した交際を続けるだろうから。

もし彼が、きみの妻に対して、夫に近い愛情を感じはじめているのなら。
ためらうことなく、妻を紹介すると良い。
こと果てて骨の髄まで侵されてしまいさえすれば、きみの妻はきみに対して、感謝の念しか抱かないだろうから。

もし彼が、きみに対して、永遠の仲間に加えたいという意思を抱いているのなら。
ためらうことなく、自身の血を吸い尽させて、そのうえで妻を紹介すると良い。
彼はきみの家庭に入り込み、妻も娘も支配してしまうだろうけれど。
その見返りにきみは、この街で気になった女性を、未婚既婚問わずにモノにする権利を得られるだろうから。

奥さん、よくもつな。

2017年05月22日(Mon) 07:38:09

「奥さん、よくもつな」
同僚にふと声をかけられて。
そんなものかと思ってしまう。

妻がこの街に棲む吸血鬼に襲われて、はやひと月になる。
この街に転居してきたのがひと月半ほどまえのことだから、
たったの2週間で襲われたことになる。
もう――真人間として暮らすより、長い時間を過ごしてしまったことになる。

セックス経験のある女性を相手にするとき、吸血鬼はきまって肉体関係まで迫ってくるという。
「お願い。それだけはしないで」
妻の懇願を容れてくれたというのは、当地ではかなり珍しいことらしい。
「うちのやつなんか、ぼくのいる目の前でヤられちゃったんですよ」
若い社員のひとりはそんなことを、いともあっけらかんと口にする。
そう。
吸血鬼に妻を姦(や)られるという事態がふつうに存在するこの街では。
妻や娘を吸血鬼に犯されることは、必ずしも不名誉なことと見なされていない。

さいごまで気丈に振る舞った妻。
献血には理解を示し、相手の渇きを見定めると、過不足なく自分の血を与えるようになっていた。
「たまには、あなたに言わないで出かけることもあるけど、心配しないで」
吸血鬼と2人きりで逢っても吸い殺されることはない。
それはお互いが暗黙の裡に交わした、信頼感の賜物なのか。

相手の男は妻を襲った翌日、わびを入れにわが家を訪れ、
自分から首すじを与えて、妻の味わった貧血をわたしも味わってしまうと、
妻がこの男に狂わされた理由をすぐに察して、
貧血がさほどでもないことを良いことに、ほんの少しの間だけ、家を空けてやったのだった。
帰宅したとき、妻のスカートは透明な粘液に彩られ、裏地まで浸されていたけれど。
「そこから奥には入り込んでいないから」という説明を、わたしは全面的に信用することにした。

「奥さん、よくもつな」
そんなことがあってからひと月たって、言われた言葉。
そう――妻はいまだに、吸血鬼に身体を許していない。
貞淑ぶりを発揮した妻は、いまでは羨望と畏敬の念で、わたしの職場で語られる。

つい先週、2人きりで逢ったとき。
奮発して、インポートもののストッキングを穿いて出かけた妻。
ひざ小僧までまる見えになるほど咬み剥がれたストッキングもそのままに帰宅した妻は、
「いつものやつでも十分嬉しいって言われた」と、
ちょっと嬉しそうにそういった。
「ストッキング代くらい、わたしが稼いであげるから」
わたしがそう耳もとで囁くのを、まるで恋人同士だったころのように、ウットリと頷き返す妻。
嫉妬は昂ぶりを生むものなのか。
そのあと二人の身体がバランスを崩していったのは、理の当然というものだろう。

「ストッキングを破る行為は、セックスの代わりらしいね」
村の長老の老いらくの恋を好意的にかなえてやったという上役は、
おだやかな声色でそういった。
「だから奥さん、奮発して高いストッキング穿いて行ったんじゃないかな」
そうかもしれませんね、と相槌を打つわたし。
いまでは、妻の貞操をなんとしても守り抜こうとは、必ずしも思っていない。
なりゆき次第で、妻を犯されてしまっても。
彼はわたしのもとから妻を奪い去ろうとまではしないことも、
妻が彼に従って家を去ったりもしないことも、
十分に伝わってくるから。

必要とする血の量が、かせとなって。
ひとりの女だけを追い求めることのできない身。
それは男としても悲しいことだと彼はいう。
でも――そうした宿命だから、あんたから奥さんを奪えずにいて、
あんたの幸せをすべて壊してしまうことがないんだろうな。
いつだか彼は、そういっていた。

ある晩わたしは、出かけてゆく妻の耳もとで、そっと囁く。

好きにしていいんだよ。

妻ははっとしてわたしを見返ると、しんけんなまなざしをこめて、いった。
じゃああなた、今夜私についていらして。
初めて犯されるところ――夫として見届ける義務があるわ。

ジャケットを通すのにひどくまごついているわたしを見て、
「うろたえないで」と、たしなめるきみ。
そう、きみは今夜、最愛の夫の見守るまえで、二度目の恋を成就させる。


あとがき
コチラのお話と、ちょっとだぶっているかも。
「間もない同士」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3467.html
ストッキングを奮発するくだりが、どうも頭に残っていて。
このお話を描いてすぐ、こんなメモをとっていました。
「奥さん、よくもつな」
「奮発して、高いストッキングを穿いて行った」
「セックスの代わりになっている?」

たった3行のメモから作ったお話です。

気丈な姑 6  吸血鬼の遠い記憶

2017年04月13日(Thu) 08:00:19

「イヤです!血を吸われるなんて・・・お義父さま、お義母さま、どうか堪忍してくださいッ!」
うら若い白い頬に血の気をのぼせ度を失って訴える少女に、大人たちは諭すように告げた。
「なあ初枝さん、堪忍していただくのはこちらのほうですぞい。
 あのお方を慰めることができるのは、もはやあんたのうら若い血しかないのですからの」
朴訥な父はとどめを刺すようにそう告げたし、
「初枝さん、世の中きれいごとでは済まないことがあるのですよ。
 当家の人になってくださるのなら、ここをこらえていただかないと」
そういう母は、いつの間にか初枝の背後にまわり込んで退路を断っている。
母の頬は鉛色で生気がなく、首すじには赤黒い痣がふたつ、くっきりと浮かんでいる。
「もう遅いのじゃ。お招きしておるのでな。初枝さんの血を吸うのを、愉しみにしておられたのじゃ。
 当家の嫁として、粗相のないようにしてくだされや」
父の顔色も蒼く、首すじには母のそれと同じ間隔を置いて、ふたつの痣。
そしてそのまがまがしい記憶をいまだに消せずにいる俺も、同じ痣をふたつ、首のつけ根に疼かせていた。

つぎの記憶は、自分の嫁になる少女が、黒衣の男に立ったまま抱きすくめられているところ。
「ああっ!」
涙声の悲鳴を呑み込んで、唇をキュッと噛みしめるのと。
抱きすくめた初老の男の口許から覗いた牙が、彼女の首すじに突き立つのとが、同時だった。
黄ばんだ犬歯が、その尖った切っ先を白い素肌に埋め込まれてゆく光景は、いつ思い出してもどきりとする。
「諦介さん、たすけてえっ」
自分を呼ぶ叫び声に、思わず耳をふさいだあの日。
けれどもつぎの記憶はさらに鮮明に、俺の脳裏に灼きついている。

黒のストッキングの足許に、俺と両親の血を吸ったその男は舌を這わせて、
薄黒く上品に透けたふくらはぎを、舐めくりまわす。
その有様を無念そうに見おろす少女の目線は、すでに理性を喪いかけて宙を迷っていた。
白い首すじにしたたるバラ色のしずくが、ピンク色のブラウスのえり首を浸そうとしているのに、
もはや彼女はそんなことなど意に介していないのだ。
男の卑猥な唇は、薄手のストッキングがくしゃくしゃになるまでいたぶり抜いて、
しまいに牙を突き立てて咬み破っていった。
少女はふらふらと身を崩し、その場にあお向けになって、
あお向けになった少女のうえに、彼女の未来の夫からすべてを譲り渡された幸運な男がのしかかり、
ねだり取った花婿の権利を、無垢な肢体に行使してゆく。
太ももまでめくれ上がったスカートの奥に、逞しくそそり立つどす黒い魔羅が忍び込んでゆくのを、
鋭利な牙が初枝の首すじに埋め込まれるのを見たときと同じくらいドキドキしながら、
とうとう視線を外すことができずに、さいごまで見届けてしまっていた。
そそぎ込まれた精液は、彼女のスカートの裏側を濡らしただけで、身体の秘奥を侵すことがなかったのは。
たんに、処女の生き血をもっと吸い取りたいだけだったのだと、容易に想像することができた。

三か月後に決まっていた祝言の日取りを俺はもう三か月伸ばして、
やつが初枝の身体からむさぼり取る処女の生き血の量を増やしてやることにした。
いぶかる初枝の両親がすべてを納得するのに、時間はかからなかった。
一人でも多く支配して、享受する血の量を確保したかったあの男の手で、
初枝の両親もまた、うちの両親と同じ運命に堕ちてしまったのだから。

それからどれほどの年月が流れたことか。
「黒のストッキングがお好きなの?いつものことながら、いやらしいわね」
軽い非難をこめた目で、女は俺を上目づかいで睨みつける。
その目線にかすかな媚びがあるのを、俺も、彼女の亭主も、見逃してはいなかった。
「いいわ。穿いてきてあげる。今度のあなたのお宅の法事、お手伝いに伺うわ」
女は亭主のまえ、気前よく咬み破らせてくれた肌色のストッキングを穿いたまま、
これ見よがしに亭主に見せつける。
「ね、黒のほうが、目だつわよね?」
不承不承に頷く亭主は、チラッと俺のほうを窺い目線を交えると、
「わたしも心配なので、伺うよ」
と、言ってくれた。
きっと、失神した女房をかばって自宅に連れ帰る役目を、引き受けてくれるつもりなのだろう。

この夫婦は、このあいだモノにした若夫婦の、婿さんの側のご両親。
嫁の不倫を咎めようとして俺の邸に上がり込み、返り討ちに遭ってしまった、おっちょこちょいな女だった。
その実、悪賢い嫁が口うるさい自分の姑を堕落させるために仕組んだ罠だったということに、いまだに気づいていないけれど。
俺の褥で弄ばれて、汚され尽したあとなのに、
いまだに元教師らしい凛とした潔癖さを失くしていない。
「そこが好ましい。そこに惚れた」
よりにもよって亭主にいうことではなかったけれど、いわずにはいられなかった。
あんたの女房は良い女だ と。
亭主をまえにぬけぬけと、女はいった。
「ねえ、今度から悠子って呼んで。ほかにそう呼ぶのは、ダンナだけなの」

五十に近い齢を感じさせないうら若さを秘めたこの女は、いま俺を癒すだけではなく、救おうとさえしている。

気丈な姑 5

2017年04月12日(Wed) 08:15:56

「お待ちになったかな」
「ううん、そうでもないわ。私もいま来たところ」
ほんとうは、30分待った。
きっと、前の訪問先で、お相手とほんの少しばかりよけいに名残を惜しんできたのだろう。
その証拠をさりげなく、私は指摘してやる。
「お口」
真新しいハンカチで拭った彼の口許は、だれかから吸い取った血でまだ濡れていた。

ショルダーバッグをひるがえして、すすんで腕を差し出して、
若い恋人同士みたいに、腕を組んで歩く。
あとから尾(つ)けてきているにちがいない主人はきっと、
嫉妬のほむらを燃やし、そのぶん目はうつろになって、私たちの後ろ姿を追っているに違いない。
ああ、いじましい。(笑)

すれ違う街の人たちの目も、もう怖くはない。
「アラ悠子さん、お出かけ?」
わざわざ見え透いたにこやかさで話しかけてくる、女の知人。
そう、あなたがなにを言いたいのかは、わかっている。
「また浮気?見かけによらず、あなたふしだらなのね」
そう仰りたいんでしょ。
でももう、なにも怖くない。私は平気。

さいしょは自由奔放に振る舞って私の一人息子をキリキリ舞いさせている嫁への、対抗心もあった。
嫁の浮気を叱り飛ばしたのは、恥を掻かせてやりたかったからだけど、その裏側には嫉妬もあった。
あなたは若いうちから勝手なことをしているのね。
私は学校の先生だったから、みんなの模範にならなければならなかったし、
浮気はもちろん、好きなことも我慢しなければならなかった――
でもそんな私の目論見は、嫁の浮気相手が吸血鬼だという未知の事実のおかげで、すっかり狂った。
嫁に恥を掻かせるはずが、恥を掻いたのは私だった。
私は嫁の目の前で犯され、夫以外の男の身体を初めて識った。
むぞうさに遂げられた禁断の行いは、それまでの私のかたくなな倫理観を、いともあっさりと突き崩したのだ。

美那子さんが貧血のときは、私がデートの相手をする。
吸血鬼にとって、四十女の私はきっと、第二志望。いや、すべり止め?
それでも私は、いい加減で日和見な主人にこれ見よがしに、彼とのデートに応じていった。
――美那子さんより罪は軽いわ。もう子供を産む齢ではないんだし。
でもそれは、「もう若くない」ということの裏返し。
きっと美那子さんも気づいているし、一番傷つくのは私自身。

吸血鬼とのデートは、案外危険も少なく、いやらしくもない。
いえもちろん、さいごは彼の家でファックされてしまうのだけれど。
そうなる前は、映画館通いに、美術館めぐり。
彼は高い教養と良い趣味の持ち主で、いざなわれる映画はどれも古典的な名作だったし、
美術館での彼の博識ぶりは、もと教師の私も知らない奥深い世界をかいま見させてくれた。
だから、私たちのデートをつけ回す主人は、行き先が意外なくらいまっとうなのに、ちょっと拍子抜けするのだという。
「若い人にはわかってもらえない話を、貴女は理解し楽しんでくれる」
そういう彼の横顔も、どこか誇らしげで楽しげだ。
そしてそんなふうにして――さりげなく触れられたくもない私のコンプレックスを、あのひとはさりげなく、覆い隠してくれる。

2人ともに気づかれているのも、主人のほうでも気づきながら。
主人は妻の浮気現場を抑えようと、ばか律儀な尾行をつづける。
それが妻へのIの証しだと、いわんばかりに。

夫の尾行を黙認する私たち。
そして、私の浮気を黙認する夫――
不思議な黙契は十数歩の距離を置きながら、つかず離れずの関係を保っている。

さいごはもちろん、ファック、ファック、ファック。
こんな下品な言葉、自分で口にするなんて、思いもよらなかった。
息子さえ結婚している齢になった私が、唯一堕落したと認めざるを得ないこと。
夫以外とのセックスこそ、最大の堕落 ですって?
必ずしも、そういうものではないでしょう。
私が身をもって彼に尽くしている証しだし、
彼が私を支配するのと裏腹に、私は自身の血液と柔肌で、彼のことを守っている。

時には道ばたの草むらのなかでさえ乱れてしまう私たちを、
主人は邪魔だてもせず、遠くからじいっと見守っている。
最愛の女性が他の男に肌を許すのを。
自分がプレゼントしたスーツで装った妻が、それが礼装フェチの愛人のための装いで、
夫の好みの服を愛人に辱めさせてしまうのを、じっと遠くから視て・・・そして昂っている。
二等辺三角形の一辺だけが異様に近いこの距離感で。
私たち3人は3人ながら、それぞれの歓びに目ざめてゆく。

夫が恋し手に入れた女は、
夫が買い求めた服もろともに弄ばれて、
買い求めた服と、その服を着た妻とが、同時によその男を満足させる姿を見せつけられる。

「ただいま」
素知らぬ顔をして、帰宅する私。
「おかえり」
素知らぬ顔をして、出迎える主人。
「楽しかった?」
おずおずと訊いてくる主人に、私はいけしゃあしゃあと、応えてゆく。
「エエ、とっても。あなたもきょうは、楽しい一日だったかな?」

気丈な姑 4

2017年04月11日(Tue) 08:19:25

息子・貴志の独白。

男にとって、致命的な経験を、ぼくは二回も遂げてしまった。

ひとつ目は、自分の妻となる女性が他の男の誘惑を受けて、目のまえで処女を捧げてしまったこと。

相手は吸血鬼で、いっしょに血を吸われたぼくは、婚約者の美那子ともども、すぐに彼と仲良くなってしまった。
彼に処女の生き血を吸わせてやりたい一心で、ふたりは結婚前を生真面目な交際で通し、
ぼくは美那子を彼の邸に連れ入ていって、彼女が処女の生き血を吸い取られウットリとなってゆく有様を、息をつめて見守っていた。
ふたりはやがて、ぼくに黙って逢うようになったけれど、
むしろそうした事実を知ることで禁断の昂ぶりに目ざめてしまったぼくは、ふたりの関係を黙認しつづけたのだった。

挙式前夜にお祝いをしてくれるといって招ばれた彼の邸で、美那子は初めて彼に女として抱かれた。
デートの時によく着て来たピンクのスーツ姿のまま猿臂に巻かれ、
ストッキングを破かれ、ショーツをむしり取られ、
吊り紐の切れたブラジャーもそのままに、はだけたブラウスのすき間から覗くピンク色の乳首を舐められながら、
彼女はぼく以外の男と接し、両脚をゆっくりと、開いていった――


ふたつ目の致命的な体験は、母の悠子のことだった。
しつけに厳しい毅然とした母は、嫁の浮気について優柔不断なぼくよりも、ずっと峻厳な態度を取った。
そして堂々と彼の邸を訪れて、浮気の現場を抑えると、ふたりに対してしてはならない叱責を浴びせてしまったのだ。
結果はもちろん、淫らなものにすり替えられていた。
母はその場で、嫁の血を吸い取ったその唇を素肌にあてられ、苦悶しながら血を吸い取られ、奴隷に堕とされた。
吸血鬼はセックス経験のある婦人を相手に選ぶとき、例外なく性的関係を結ぶという。
ぼくの母だからということで、斟酌はなかった。
嫁の見ている前で母は、時折洩れてしまうはしたない声を悔しがりながら、婦徳を穢されていったのだ。

知ってる?あなた・・・
寝物語に聞いた、妻の情夫と母との不倫。
その不倫を、あろうことか父までもが、真面目な交際として認めているという。
ぼくは思わず、ほっとしていた、
これでもう、母さんに叱れずに済む。

けれども、自分を生んだ女が、父親以外の男のものになるということは、
人知れずぼくの心の奥に、居心地のよい闇を作った。
それは、自分の妻を犯され次代を奪われる脅威に直面するのと同じくらいの深さを持った闇だった。

もしかしたら母は、嫁に負けないくらいの体験をぼくに突きつけることで。
いまでも嫁と、張り合っているのかもしれない。

気丈な姑 3

2017年04月11日(Tue) 08:05:34

知ってる?あなた。お義母さま、長いのよ。
ベッドのなか、傍らで寝ていた妻の美那子が、ちょっと意地悪そうな笑みをたたえて、ぼくに囁いた。
え?どういうこと?
お義父さまも、ふたりの仲を認めていらっしゃるんですって。お洒落なご夫婦ね。
ますます話がみえなかったぼくに、美那子は一連の話を語って聞かせてくれた。

きょうのヒロインは、貴志くんのお母さんの悠子さんです。
悠子さんは長年連れ添った近田さんと、おしどり夫婦で知られていました。
息子の貴志くんは結婚前に知り合った吸血鬼の小父様と仲良くなって、
未来の花嫁である美那子さんの生き血を吸わせてやるようになりました。
結婚してからも、小父様が美那子さんを愛人のひとりに加えることに賛成をして、
ふたりの逢瀬に協力的になるくらい、理解のある夫です。
吸血鬼が人妻の生き血を狙うとき、ふつうは夫が最大の障害になるのですが、
貴志くんは立派な紳士だったので、むしろ最大の協力者になっていたのです。
でも母親の悠子さんは、そんな息子にがまんがなりませんでした。
そうです。吸血鬼が人妻の生き血を獲るのに、姑が最大の障害になったのです。
悠子さんは身持ちの正しい姑として、吸血鬼を𠮟りにいらっしゃいました。
でも、吸血鬼は惚れっぽいので、五十手前の悠子さんにまで、ときめいてしまったのです。
そして吸血鬼のお邸を訪問した悠子さんは、貞淑なご婦人のままそのお邸を辞去することはできなくなったのでした。
めでたく結ばれた二人は逢瀬を重ねましたが、
悠子さんのご主人は息子の貴志くんと同じくらい穏やかな紳士だったので、
永年連れ添った妻と情事を重ねる吸血鬼を許してあげたのです。
血を吸い尽さない代わり、貞淑だった四十路妻を吸血鬼の愛人の一人として捧げることに同意したお義父さまは、
最愛の妻が吸血鬼に生き血を愉しまれ、犯されてゆくいちぶしじゅうを見届けたのでした。
着ているよそ行きのお洋服をくしゃくしゃに着崩れさせながら、はしたない喘ぎ声をあげる奥様をまのあたりに、
いつかお義父さまも、覚えてはならない歓びに目ざめてしまったのでした。

どお?このおとぎ話、ウケるでしょ?

妻の笑みには毒気がなかった。
だいじょうぶよ。私たちはみんなお仲間。
わたくしの母の生き血も、少しでも若いうちにあのひとに愉しませてあげたかったから、
父には内緒で連れ出して犯していただいたのだし、
父もそんな母と娘を、内心好もしく思っているんですって。

それに――あの小父様ご自身もお若くてまだ真人間でいらしたころに、奥様ともども血を吸われて、
自分の血を吸った相手に、奥様を愛人として差し出して、末永く三角関係を愉しんでいらっしゃるんですってよ。

わたくしたち・・・まだ序の口ですわね。
妻はそううそぶくと、再び眠りに入ろうとする。
「やだ!眠いのにっ」
目ざめてしまったぼくは、ギュッと目を瞑る妻を抱きすくめ、股間を熱く逆立てていった。

気丈な姑 2

2017年04月11日(Tue) 07:50:13

息子さんの挙式のときからね、貴女にひと目惚れしていたんですよ。
貴女がお嫁さんの浮気の件で私を叱りに見えたとき、
あのときとおなじスーツを着てきたのに気づいて、夢かと思ったくらいです。
気がついたら貴女に迫って、咬んでいました――。
そんな口説き文句を、いけしゃあしゃあと囁く彼は、わたしよりも年上の吸血鬼。

「いいじゃないの、少しくらい。
 美那子さんがするよりも、罪は軽いわ。もう子供を産む心配は、ないんですから」
浮気は夫に対する裏切り行為なのだと、日ごろから嫁を非難するときには必ずついてまわったあのふた言目は、すっかり忘却の彼方らしい。

「いつでも吸わせてあげる」
と、妻は男を家に誘い、わたしのまえで抱かれていったし、
「切羽詰まってるらしいの、あなたもいらして」
と、わたしの血まで栄養補給に提供させられた。

「喉が渇いているんだって。行ってあげなきゃ」
と、夜中もいとわず彼の邸を訪問するときは、必ずこぎれいなよそ行きの服に着替えていった。
「きれいなブラウスを、持ち主から吸い取った血で濡らすのがお好きなんですって」
そんなフラチな嗜好までこころよくわきまえて、よそ行きのブラウスを気前よく汚させる女。
「ストッキングを穿いた脚を咬むのがお好きなの。破いて愉しむんだって。いやらしいわよねぇ」
のろけ話をするような嬉々とした口調でそんなことまで夫に語り、
やはり気前よく真新しいストッキングを脚に通して出かけていって、ためらいなく咬み破かせる女。
そんな女に、いつの間になってしまったのだろう?

とどめのひと言は、家にあげた情夫と組んづほぐれつしたあとに、彼の腕のなかで呟いた言葉。
「もっと若いうちに、お逢いしたかった。
 そうすればもっと美味しい血を差し上げられたし、もっと若い身体で抱いてもらえたのに」
わたしは夫として、引退したほうがよいのか。それとも、かなわぬと知りながら妻を堕とした相手と闘うべきなのか?
思い詰めかけたわたしの気分をほぐしてくれたのは、意外にも彼のほうだった。
「あんたにはつねづね、感謝している。佳い奥様をおもちで、羨ましいですよ」
同性としての賛嘆の念が、瞳の奥の深い輝きにこめられていた――

妻もまた、わたしには少し、気を使っているらしかった。
遣っている最中は、つい言葉のやり取りも過激になるというもの。
「俺だけのものになってくれ」という彼に、
「とっくになっているじゃないの。あたしは一生あなたのもの」
夫のわたしが聞いていると知りながら、そんなことを口走りつつも、
「でもあのひとに、感謝してね。あのひとあってのあたしだし、あたしあのひとのこと心から尊敬しているの」
夫とは絶対別れない・・・愛人の切なる願いを無にしてまで、そう宣言していた。

種明かししてあげようか。
あるとき妻は、意地悪い笑みをたたえながら(それが、わたしに戯れかかるときの、昔からの彼女の癖なのだ)、こちらへとやって来て、囁いた。

ほんとうはね。最初からあなたと別れる気はないの。
彼にもその気はないの。
だって彼、なん人もの血を吸わないと生きていけないでしょ。一夫一婦ってわけには、いかないのよ。
だから、人の妻を餌食にするのがお得意なわけ。
あのひと、言ってたわ。
悠子を近田夫人のまま犯しつづけたいって。
あたし、あのひとの趣味に合わせることにしたの。
身を近寄せる妻の息遣いが、いつになく色っぽい。
いつのまに、彼女はこんな面を持ち合わせるようになったのか。
わたしは彼女をその場に押し倒し、ふたりは久しぶりに夫婦らしい交歓をともにする。

いままで黙認してたけど。こんどはっきり彼に言おう。
永年連れ添った愛妻の悠子を紹介します。
末永い交際を、どうぞよろしくお願いします――と。

気丈な姑 1

2017年04月11日(Tue) 07:30:22

息子の嫁の浮気相手に、妻は文句を言いにでかけていった。
それが、真人間だった妻を視た最後になった。
嫁の情夫は、吸血鬼だったから。

不幸中の幸い、相手の吸血鬼は人情味のあるやつだった。
いきなり奥さんが無言で帰宅したりしたらこたえるだろうからと、
ちょっとした貧血程度になるまでで我慢してくれた。

帰宅してきた妻は、ちょっときまり悪そうで、
その日一日は黙りこくっていたし、
妻のご機嫌がうるわしくないと感じ取ったわたしも、彼女との接触をなるべく避けていたのだった。
きまり悪かった理由は、あとでわかった。
セックス経験のあるご婦人を相手に選ぶとき、吸血鬼は例外なく性的関係を結んでいくという。

それ以来。
妻はなん度も、出かけていった。
「また美那子さんと逢っているらしいの。私説教してくるわ」
そういうときの妻はいつになくウキウキとしていて、
よそ行きの服で若作りをして、それどころか前日にはふだん行かない理容室で髪をセットまでして、出かけてゆくのだった。

「父さんは行かないの?僕は美那子のときにはいつも、お邪魔しているんだよ」
嫁の浮気の現場をのぞき見する愉しみを、くったくなく語る息子。
そういう息子の首すじには、嫁がつけられたのと同じ咬み痕が、どす黒い痣になって、くっきりと浮いていた。
そしてわたしの首すじにも、いつか同じサイズの咬み痕が、どす黒い痣になって、くっきりと浮いているのだった。

たしか数日前――「あなたも叱ってあげてくださいな」。そういって妻が連れてきた、嫁の浮気相手。
彼と酌み交わした酒はいつか意識を迷わせて、いつの間にか正体を告白されていて、
わたしは彼の正体を理解をもって接し、献血にも応じてやって、
妻がすっかり慣れっこになっていた献血をわたしのまえでするのさえ、咎めもせずに見守っていて、
吸血鬼がセックス経験のあるご婦人に対していかに振る舞うものなのかまで、いちぶしじゅうを見せつけられてしまっていた。

「きょうも叱ってあげてくださいな」
先日と同じように、妻が連れてきた吸血鬼。
わたしの血を先に吸って酔い酔いにしてしまうと、
おもむろに妻に迫って、首すじを咬んでゆく。
日ごろ几帳面だった妻なのに。
花柄のロングスカートをしどけなくたくし上げられ、太ももを咬まれ、穿いていたストッキングまで破かれてしまうのを。
「いやだわ、やらしいわ」とか言いながら、
自分よりも年上の男の痴戯を、面白そうに見おろしつづけていた。
彼の帰り際、「また来てね」と、妻は小手をかざしてバイバイをした。

「また来てね」「またいらしてね」「また咬んでね」
「また、主人のまえで抱いて頂戴ね」――
妻の要求はエスカレートしていったが、彼は妻の要望に、律儀に応えつづけていった。
そしてわたしも、とがめだてひとつせず、嫁の不倫相手に犯されてゆく妻の痴態を、ただの男として愉しみはじめてしまっていた。

互いに互いを  ~地方赴任者たちの、お愉しみパーティー~

2017年02月12日(Sun) 07:19:02

きょうは、新規に転入してきた社員夫婦を招いての、ホームパーティー。
つきあいの良い事務所長宅は地元の旧家を改造した広大なお邸で、
こういう集まりにはうってつけだ。
招かれた夫婦は、わたしよりも10歳くらい後輩の、三十代後半。
娘が一人いて、いまは転入したばかりの私立中学で、授業を受けている時分だろう。

集まったのは総勢、十数人もいるだろうか。
一同親し気に笑いさざめいてはいるものの――
なかなかどうして、この宴には裏がある。
そもそもこんなパーティーを企画するようになったのは、いつのころからか。
じつは転入者のだれもがくぐり抜ける通過儀礼なのだとわかるのは、すべてが終わったあとのこと。
げんに半年前の、わたしのときがそうだった。

この街の人たちね、吸血鬼と共存しているんですよ。
ここに来る以前から顔見知りだった同僚が、ふとそう囁くと。
一同は一瞬押し黙り、突然部屋の明かりが薄暗くなった。
首のつけ根に鈍痛を感じ、眩暈を起こして。
振り返ると隣にいた見慣れない地元の老人が、吸い取ったばかりのわたしの血を、口許にしたたらせていた。
次は妻の番だった。
失血に眩暈を起こしたわたしは、その場に尻もちを突いて、動けなくなっていた。
老人は猿(ましら)のようなすばしこさで、向かいに座っていた妻に襲いかかった。
キャッと叫んで飛びのこうとした妻は、
あろうことか左右にいたわたしの同僚二人に抑えつけられて、
わたしと同じ経緯で老人に頭を掴まれ、首すじをがぶりとやられてしまっていた。
半死半生になったわたしは、ただ抜け殻同然となってソファに横たわり、
脚を吸われた妻がストッキングを咬み破かれながら、むざむざと血を吸い取られてゆくのを、見守っているよりなかった。
そのあとは――落花狼藉である。
わたしたち夫婦を堕落させることに協力した同僚たちは、てんでに妻の上に群がって、欲望を成就させていったのだった。
相手がわたしの同僚と知った妻はけんめいに抗ったが、だれもが隙だらけの装いのなかに指を差し入れていって、かわるがわる、想いを遂げていった。
「けっこう手こずったね」
みんなは顔を見合わせて笑った。
お互いの健闘をたたえ合うような、妻の頑強さを賞賛するような、たぶん両方の意味でのくったくのない笑い。
「そう悔しがるなって。つぎに転入者が来たときには、あんたもいい想いできるんだから」
同僚の慰めは、共犯者の誘惑だった。
さいごはわたし自身が妻に覆いかぶさって、妖しく昂った熱情を、いままでになく激しく突き入れていた。
そうすることで目のまえの落花狼藉を認めてしまったわたしは、
留守宅に交代で妻を訪ねてくる同僚たちをそれ以上咎めることもなく、
夢中になってしまったことを全身で告白してしまった妻は、
わたしの態度をいいことに、それまでの貞淑妻の仮面をかなぐりすてて、日がな情痴に耽るのだった。

笑いさざめく口、口、口――
それらの口はどれもが、妻の素肌を這った口。
彼らの妻たちも数人、顔を並べていたが、それはきょうのヒロインが凌辱されている間手持無沙汰な順番待ちの解消要員。
そのなかにはむろん、妻の姿も含まれている。
一座の男たち全員の奴隷に堕ちた妻がいる。
同僚の妻たちも皆、同席している男性すべてを識っていた。わたしのことも、よく識っていた。

この街がまだ山間の寒村だったころ、夜這いの風習があったという。
だから、吸血鬼がなじみやすかったのさ。
だれかがそんなことを言っていたが、きっとそうなのだろう。
彼ら地元の者たちは彼ら同士で、互いの妻と親睦を深め合っているという。
わたしたちが同じ風習を平和裏に真似て、何が悪いというのだろう?

きょうの主賓は、地元の長老格のひとりだった。
彼は、ストッキングを穿いた都会育ちの女たちの脚を好んで辱めようとする。
その場に居合わせる都会妻たちの、ひとりを除く全員が、彼にストッキングを咬み破かれていた。
一座の男性の、やはりひとりを除く大半は、妻を最初の餌食に献上する羽目になっていたし、
あの日わたしの隣に腰かけたのも、この男だった。
彼の唇はいままでになん度、わたしたち夫婦の血をあやしたのだろう?
いまとなっては、そんな勘定は意味をなさないくらい、彼の唇はわたしたち一家の血潮をなじませてしまっている。――娘を含めて。
あの晩の出来事は、わたしたち夫婦のなかでも塗り替えられて、
わたしのほうからあの男に、妻の貞操を奪って欲しいと懇願したことになっていた。

なにも知らない初顔の奥さんは、亭主に言われるままによそ行きのスーツをきっちりと着込んできていて。
ライトイエローのタイトスカートの下からは、白のストッキングに透けたふくらはぎを、
それとは意識することなく、ジューシーに見せびらかしている。
部屋の照明を照り返してじんわりと光沢を滲ませているストッキングが、
あと数刻でむざんに咬み破られるなど、
きっと、夢にも思っていないはず。

笑いさざめく口、口、口――
それらの口がほんの一瞬、いっせいに閉ざさるとき。
あの老人は亭主にひと言囁いて・・・
そして部屋の灯りが突然、薄暗くなった。


追記
ひと月ほど前に創作、今朝改稿。

法事の手伝い

2017年01月10日(Tue) 06:16:42

「いっしょに行きましょ。法事のお手伝い」
お隣の敏子さんは、そういってひっそりと笑う。
「そうね。ごいっしょしましょ」
声がウキウキと昂るのを抑えることができないのは、ちょっとはしたないかな?と、自分で思う。
洋装のブラックフォーマルのスカートのすそをひるがえして、夫のところに舞い戻ると、私は言った。
「法事のお手伝いに行ってきますね」
「ああ、気をつけて。皆さんによろしくね」
夫はいつものように、優しく穏やかに送り出してくれた。

法事の手伝い――それはこの村では、卑猥な意味が隠されている。
そこに集まるのは、村に棲み着いている吸血鬼たち。
手伝いと称して呼び集められる私たちの役目は、彼らの餌食になることだったから。

「黒のパンスト、お好きみたいね」
二度目の手伝いのとき、連れだって歩いた敏子さんは、そう呟いた。
敏子さんに言われるまでもなく、肌の透ける黒のストッキングに染まったお互いの脚を、私たちはどちらからそうするともなく、見比べ合っていた。
敏子さんの脚は、すらりとしてきれいだった。
「ただ太い。とにかく太い」
そういって卑下する私を、敏子さんはむしろ羨ましがった。
「だけど、いっぱい吸ってもらえるじゃないの」

夫同士が、同じ勤め先。
同じ時期に転勤で、この村に来た。
そして同じ日に、法事の手伝いにかり出されて、
同じ部屋で男たちに取り囲まれて、めいめい違う相手に、首すじを咬まれていった。
その場で姿勢を崩し、ひざ小僧を突いてしまうと、負け。
狭い畳部屋にふたり並べられて、代わる代わるのしかかってくる相手に、犯されてしまった。
お互い、片脚だけ脱がされた黒のストッキングを、ひざ小僧の下までずり降ろされたまま、
脚をばたつかせながら、決して侵入を許してはいけない男の体の一部に、股間をえぐられていった。

「きょうのことは、内証にしておいてやるよ」
男たちは恩着せがましくそういうと、それでも裂けたブラウスや脱ぎ捨てられたストッキングを拾い集めてくれた。
着せてくれるのかと思ったら、めいめい嬉しそうにせしめて、持ち帰られてしまった。
敏子さんにも、私にも、一人ずつ男性がついて、家まで送ってくれた。
乱れ髪に、ジャケットを羽織っただけの、おっぱいまでもがまる見えの上半身。
スカートの下は、みじめなくらいに白く映えた、むき出しのふくらはぎ。
黒革のパンプスに、ノーストッキングのつま先がごつごつと居心地悪く収まっていた。
夫は私の様子を見ると、すべてを察した顔になって。
自分の妻を犯した相手にお礼を言って、私のことを引き取ってくれた。
夫はなにも言わないままに、今度法事の手伝いをいわれてどうしても厭だったら断りなさい、と、言ってくれた。

家族ぐるみで村にとけ込むのが仕事の一環――そう聞かされてきた私にとって、頼まれごとを断るという選択肢は、あり得なかった。
三日後に再び法事の手伝いがあったとき、私は夫には告げずに、出向いていった。
新調した洋装のブラックフォーマルのお金は、私を家まで送ってくれた彼が、持ってくれた。
初めて私に迫り、私を犯した人だった。
私に夫以外の身体を体験する歓びを、教え込んでしまった男だった。

敏子さんとは幸い、ウマが合った。
そのせいか、法事の手伝いのときには、いっしょに組まされることが多かった。
私たちはいつも、同じ部屋に呼びこまれ、男たちに迫られて、血を吸われ、犯されていった。
破られると知っていながら、私たちは真新しい黒のストッキングを脚に通して、出かけていった。
男たちのために馳走するつもりで穿いて行ったのだろう?って、仮に夫に責められても、私はきっと頷き返してしまっただろう。
それくらい・・・男たちの息遣いの渦に巻かれることに、なじんでしまっていた。

乱交の渦の中でも、相性というものはやはりあるらしい。
いつか、敏子さんにも私にも、現れる確率の高い男性がなん人か、できるようになっていた。
そのなかに、私を初めて犯したあの人が含まれていることを、なんとなく居心地よく感じてしまっていて。
そう感じてしまっている自分に気づいて、どきりとすることがよくあった。

ここは夫の生まれ故郷だった。
故郷をきらって都会に出た夫は、不景気のあおりを受けて、結局故郷に頼ることになった。
それで、いまの勤め先に落ち着いたのだ。
だから、私と交わる男たちのなかで、夫と昔から顔なじみだという人は、なん人もいた。
「マサルのとこのお嫁さんだろ?うわさにはきいていたけど、別嬪さんだな。あそこの具合もいいんだって?」
彼らは親しみを込めた口調でさりげなく、それでもしっかりと露骨なことを口にして、
私に一物を咥えさせたり、はしたないことを言わせたりするのだった。
主人のよりも大きいわあ。もっとヤッてえ・・・イカされたいのっ。とか。
みんな顔なじみだから、気安く交わることができる。そんな雰囲気がここにはあった。
まったくのよそ者だった敏子さんさえ、私と同じように仲良くなっていた。
ふたりはお互いに、礼服のスカートの裏地に、複数の男たちからほとばされた粘液を光らせながら、家路についた。

ガマンできなかったのは、息子が私の痴態を見たがることだった。
さいしょのときから、私とは別に寺に呼び出されていて。
敏子さんと並べられて犯されるのを目にした息子は、どうやら病みつきになってしまったらしい。
それ以来、母さんのことが心配だといっては寺に来、私が血を吸われたり侵されたりするのを、半ズボンの股間を抑えながら見守っているという。
夫と同じように、この子もまた、村の人の血が脈打っているのだ。

お寺の本堂の薄暗がりで、折り重なってくる男たちのなかに、義父の姿もあった。
義父は好んで私と逢いたがる男たちのかなに、含まれていた。
さいしょの時も、なん人めかの相手が義父だった。
「うちの嫁だから、順番は遠慮したのだ」
あるとき問い詰めると、義父は悪びれもせず、そう応えたものだった。
けれどもそのじつ、私にご執心だというのは、たぶん私のうぬぼれではないはず。
夫のいない夜、義父は私にお酒の相手をさせて、ついでにベッドの上でのお相手も、強いてくる。
義母は若いころから村の長老に気に入られていて、家を空ける夜が多かった。
だからお前は、わしを親だと思って、孝行しなければならない――そんなしかつめらしい言いぐさを言い訳にしなければならないほど、義父は不器用な男だった。
その不器用さにほだされて、私は親孝行に応じることにした。
どういうわけかそういう晩に限って、夫は夜勤だと言って、家を空けていたから、私たちの逢瀬は気軽に遂げられることが可能だった。
村のしきたりを離れた家のなかという狭い空間で、
義父と私は身体の関係を重ねていった。
義父は必ず、私の中に子種をそそぎ込んでゆく。
もしかするとあいつ(夫)は、俺の子じゃないかもしれないからな――
そんなことはない。あなたたちはそっくりよ。
義父の胸の中での私のつぶやきを、たぶん義父は知らないでいる。

この村では、だれの子をはらむかわからない。
けれども、いちど宿したお子は、大切に育てなければならない。
この村は、子供を愛する土地柄だった。
義父の子ならいい。そう私は思う。
この家の子であることに、変わりはないのだから・・・と。

市庁舎職員の応接 ~都会めかした女~

2016年11月23日(Wed) 22:20:29

こんな狭くて古い街からは、とっととおさらばしたかった。
その直感は、正しかった。
こんな街にとどまったばかりに、俺は正常な結婚をしそびれてしまった。
親のコネで安定した収入を得られるという誘惑に屈して、自ら街から脱出する希望を捨ててから、すでに数年経っていた。
街に吸血鬼が侵入してきて、都会でも味わうことのできない愉しみを体験する羽目になるとは、
つい先週まで思いもよらなかった。

その部署に突然配属された俺は、部屋に入って来た黒ずくめの男に目を見張ると、
――ああ、あんたはまだだったんだな。
その男はそう呟くと、俺と真向かいに近づいてきて、首すじにどす黒い衝撃をぶつけてきた。
気がついたらその場に尻もちをついていて、眩暈のむこうにそいつがいた。
俺はそいつに血を吸われながら、もっと吸ってくれと頼み込んでしまっていた――

吸血鬼と知れた黒影どもは、市役所庁舎でももっぱら、この隔離された空間だけにやって来る。
どうやら俺たちは、吸血鬼から市民を護るための防波堤にされたらしい
――そう感じたときにはもう、その理不尽な方針を、むしろ進んで受け入れていた。
それくらい。やつらの牙に含まれた毒は、俺たち職員の理性を一瞬にして奪ってしまっていたのだ。

隣の席になった関野真美子は、採用年次がひとつ下。
俺が大卒で向こうが短卒だから・・・齢はいくつ若くなるのだろう?
都会に出たら、うようよいそうな。
そして、この街には珍しく。
けばけばしい美貌と、斜に構えたすさんだ雰囲気とを持っていた。
「おいでなすったわね。じゃあ私、お勤めしてくるから」
真美子は蓮っ葉なちょうしでそういうと、
洗練されたスーツ姿をひるがえして、自分のほうへと迫ってくる黒影に、真正面から歩み寄る。
がっちりと抱きすくめられ、うなじを吸われ・・・それらいちぶしじゅうがすべて、俺のすぐ目の前での出来事。
影は、真美子の血を美味そうに吸い取ると、荒縄を巻くように羽交い絞めにした猿臂をほどき、
女の細い肩に手を置いて、隣室へと促してゆく。
そこでなにが行われるか――大人の男なら、だれだってわかろうというものだった。

鎖されたドアのほうへと、恐る恐る足を忍ばせて。
真向いになったドアの向こうの、極彩色の情景を思い描きながら、鍵穴に目をやると。
後ろからそうっ・・・と背中に手を置かれ、ぎょっとする。
「まったくぅ。油断も隙もないわね」
しらっとした冷めた目つきは、都会の女の瞳――部屋の中に消えたはずの真美子が、なぜか俺の後ろにいる。
「夢見てるんじゃないわよ」
薄ぼんやりとした視界の手前で、パーに開いた掌をひらひらさせて、
目のまえでドアのカギを、カチャリとかける。
かけたカギはとたんにはずされ、再び開かれたドアの向こう、真美子はもういちど、しらっとした目を俺に注いだ。
「視たけりゃ、視たっていいんだからね。あほらしいから、開けとくわ」
部屋の奥にしつらえられたソファのうえ、吸血鬼はふんぞり返って、俺のことを面白そうに窺っている。

「きゃ~、愉しんじゃおうよ~♪」
真美子は吸血鬼のひざの上に乗っかると、
千鳥格子の派手な柄のジャケットの襟首をくつろげて、
男の手を自分から胸の奥へと導いていって。
もう片方の手で、同じ柄のタイトミニのスカートのすそを、お尻が見えそうになるまでたくし上げてゆくk。
目の毒だ・・・目の毒だ・・・
俺の理性は、ドアを閉ざしてこのまがまがしい光景から視界を隔てようとしているけれど。
俺の両手は、痺れたように動きを止めて、
俺の両目は、男の見栄やおざなりな理性など軽く裏切って、
きりっとしたスーツ姿を身分から着崩れさせてゆく真美子の応接の、いちぶしじゅう見届けてしまっていった。

「あの人たちさあ、処女は犯さないんだって。
でもあたし、高校の時にもう姦っちゃってたから、職員の女の子たちの前で、真っ先に抱かれたわ」
参っちゃったなァ・・・
かなりすごい体験をしたはずなのに、
それさえも、悪戯を見つかった悪ガキみたいにきまり悪そうに頭を掻き掻き、あっけらかんと笑い飛してしまう彼女は、
来る日も来る日も訪れる吸血鬼のため、他の女子職員たちに交じりながら、
ときには同時に複数の吸血鬼を相手にして、
だれよりも積極的に相手を誘って、
他の女子職員のお手本みたいに、真っ先によがり声をかしましくたてるのだった。

「ねぇ、あたしと結婚しない?」
出し抜けな問いかけにぶっ飛びそうになった俺に、
「本気なんだけどさあ」
都会の女めかした瞳には、話題をそらさせない真剣味がこめられていた。
どうして俺なんだよ・・・?
言いかける俺に、女はどこまでも素直じゃなかった。
「ひとに知られたくない秘密を、あんたがいちばんよく知ってくれちゃっているからさ」

結婚しても、あのひとたちは来るからね。
新居に遊びに来るからね。
そしたら悪いけど、あたしあのひとたちの相手するから。
お義母さんが咎めたって、ダメ。
むしろ、ごいっしょしたいわ。
だってそのほうが、話がはやいもの。
ほんとはね。
お義母さんを手籠めにしたがってる吸血鬼がいるの。
お義父さんには、あたしが話をつけるから。任しといて。
ぜったい、ぜったい、家内安全、夫婦円満、間違いなしよ。

そんなはずが、あるはずがない。
なん人もの吸血鬼に新妻の血を吸われ、ことのついでにモノにされてしまう日常――
けれども俺は、彼女の問いに頷いてしまっていた。
この街では、都会にはない世界がたしかにある。
間違いなく、存在する・・・


あとがき
9月3日製作、本日翻案脱稿。

煙草

2016年11月18日(Fri) 07:36:23

血ィ、吸われなすったね?
独り煙草を吹かしていると、初老の男が通りすがって、そんなふうに声をかけてきた。
エエ、まあ・・・
わたしがあいまいに返事をすると。
まぁ、この街のモンはたいがいそうだから・・・
と、さりげなくマフラーをずらしてみせる。
赤黒い咬み痕が、綺麗にふたつ並んでいるのを認めると。
見ず知らずだったその男に、不思議な親近感がわいてきた。
あんた、もともとこの街のモンじゃなかとね?
男がわたしの顔を覗き込む。
去年越してきたばかりです。
ああ・・・やっぱりね。
男はそういう顔をすると、「都会の会社さんにお勤めされとるね」とだけ、いった。
どうやらわが社は、この街では有名な存在らしかった。
そうすると、ご家族で来られとるんじゃね?
たたみかけるよう男はいう。
エエ、女房と息子がいるもんで・・・
じゃ、奥さんももう、咬まれておりなさるね?
図星を突かれたわたしは、ごくたんたんと、開き直っていた。
だからここで、煙草を吹かしているんですよ。
そう。妻の生き血を目あてに情夫が上がり込んできたときは、
私は気を利かせて座をはずし、いつもこの公園で煙草を吹かすのだ。
吸い切った煙草を放り捨てて踏みにじると、
それじゃあもう一本。
男はさりげなく自分のポケットから煙草を出して、わたしにすすめた。
まるで、「座布団一枚」と、言われた気分だった。
ちょっとだけ躊躇して、結局煙草を受け取ってしまっていた。
男はわたしの隣に腰かけて、自分も一本取り出して、火をつけた。
よくまあ、物好きに、この街に来なさったね。
都会にいられなくなったからですよ。すべて承知のうえで、こっちに来たんです。
清水の舞台から飛び降りる思いで・・・とは、よくいったもの。
舞い降りてきたこの街は、はたして地獄なのか天国なのか。
この街に棲む不特定の吸血鬼に、夫婦ながら血を吸われ、
妻は日常的に浮気をして、それを認めさせられている。
そんな日常の裏側を抜きにすれば、この街での暮らしは決して悪くはなかった。
勢いよく吸い込んだ紫煙の香りが、すがすがしいほど焦げ臭く、肺腑に満ちる。
ふと気がつくと。
男はわたしの手を握りしめ、自分の掌に握りしめたものを、わたしの掌へと移動させる。
一万円札だった。
うちに来たいなら、これはいらない。
わたしは男にお札を返すと、男はばつの悪そうな顔をした。
でも、そうまでしてくれるあんたの顔をつぶすつもりはないから。
わたしがそういうと、男は納得した顔になった。
ウチ妻、どこかでお目に留まったんですか?
わたしがいうと、
すでに友達が三人、奥さんのお世話になっている。
だったらなおさら、わたしがこんなことで小遣い稼ぎなどしないたちだとわかってくれてもよさそうなのに。
ねだられるままに煙草を一本おすそ分けすると、男はいった。
煙草代は受け取ってくれるよね?
――わたしは自分の女房を、たったの百円で売り渡していた。

自分が知り合った男を、妻に引き合わせ、襲わせる。
そんな行為に面白味を覚え始めたのは、ごく最近だった。
さいしょに妻を抱いた男が、わたしに無断で妻のことをまた貸しし始めたとき。
さすがに抗議をしたわたしに、彼は言ったものだった。
あんたもそうして構わないんだから。
無茶苦茶な理屈に、なぜか納得してしまったわたしは、その晩行きずりの男に声をかけ、妻を抱かせてしまっていた。
妻はわたしがひき込んだ男なら、どんな老爺でも、どんな醜男でも受け入れて、
素直に服を、脱がされていった。
わたしが視たいというとさすがに恥ずかしがったけれど、拒否することはしなかった。
あしたもきっと、わたしはこの公園に煙草を吸いに来る。
そして、わたしの評判を聞きつけている誰かが、わたしの妻を目あてに、わたしの隣で煙草をすすめてくるのだろう。

寝取らせ話。 ~村はずれの納屋は、「処刑小屋」。妻を”処刑”してもらった男の話~

2016年11月07日(Mon) 06:53:32

うちは複数派なんですよ。
さいしょがね、もう輪姦だったんです。
懇親の酒盛りの場が、妻に対する懇親の場に早変わりしたのです。
村の男衆が、よってたかって、わたしのことをふん縛ると。
まるで見せしめの処刑みたいに、妻に群がっていって、
ブラウスを引き裂き、ブラジャーをはぎ取って、スカートをまくり上げると、
けだものが獲物を分け合うみたいに荒々しく、踏みにじっていったのです。
でも夫婦双方とも、昂奮しちゃいましてね。
妻はそれまで、エッチは嫌いなほうだったんですが。
わたしのまえで、もの凄く乱れちゃって。
嵐が過ぎた後、夫婦で相談して、もういちどこちらから、納屋に出向いて行ったのです。
そこは、「処刑小屋」って呼ばれているのだと、あとから知りました。
先に赴任してきた人は、わたしたち夫婦が納屋での懇親会に招かれたってきいただけで、あとどうなるかを知っていたんですね。
知っていながら、黙っている――でもきっと、わたしもあとから来た人に対しては、同じ態度をとるでしょうね。

妻が初めて“処刑”された納屋では毎晩のように、お互いの奥さんを取り替え合って、仲良く?姦り合っているというんです。
そのなかにわたしたちはおずおずと顔を出して、
ときどきでいいから、女ひでりのときとかでも、してもらえませんか・・・?
って、恐る恐るお願いしたら。
暖かく迎え入れてくださいました。(笑)
その夜の納屋には、女はいませんでした。
わたしたちがきっとやって来ると見込んで、待ち受けてくれていたそうなのです。
すっかり、読まれてしまっていましたね。(苦笑)

妻はそのときも着衣だったのですが、
きちんとした服を着ていくのが礼儀だって、よそ行きのスーツを着ていました。
都会妻のスーツ姿に、彼らもぞっこんになっちゃって。
もう、亭主の前だろうが、おかまいなしなんですよね。 (汗)
やはりあの晩と、同じように。ケダモノが獲物を平等に分け合うみたいに。
みんなで代わる代わる妻の肉体をむさぼりまして。
わたしはそれをずうっと見届けるんですよね。
妻を一方的に侵されているという、男としてはかなり恥ずかしい立場だったはずなのですが。
きみは村に貢献しているのだって言われて、そんなものなのかな?って、思っちゃって。
妻も同意見でした。わたしたちは夫婦で村に貢献しているんだって。
彼らもね、もっと愉しみたいらしくって。
自分の男っぷりを、だんなに褒められるのが嬉しいっていうのですよ。
だからね、ひとりひとり、感想を言わされたりなんかして・・・
さいしょはさすがに照れましたが、そのうちふつうにいえるようになりました。
さすがですね!ぼくのなんかより、ずっと大きいですね。
とか、
妻がこんなに乱れるの、初めてですよ。恥ずかしい女房を持って、幸せですよ。
とかね。
しまいに、あんたも恥ずかしがってないで、すればいい。自分の奥さんなんだからって、すすめられて。
とうとう、輪姦の輪の中に加わってしまいました。
みんなして、共同で妻を犯し合いながら、共犯同士の関係というか、一体感というか、
そんな共感みたいなものを感じ合うようになってしまって・・・
妻の肌を共有し、おなじ穴に一物を埋めた関係というか、うまくいえないんですけどね。
そんなわけで彼らとは、うまくやっています。
いまでは妻のことを「処刑」してもらう行為は、夫婦の営みのなかでも大事な一部分なんですよ。

寝取らせ話。 ~地元の男衆たちは、抱かせてくれるというのですが・・・妻のことが気になって仕方のない夫~

2016年11月07日(Mon) 06:45:28

さいしょはもちろん、抵抗ありましたよ。
お互いの妻に通い合う風習があるなんて、赴任前には聞かされていませんでしたからね。
でも、いちど潔く?差し出しちゃうとね。
不思議と癖になっちゃいましたね。うちの場合。
もしかすると、そういうわたしの性癖を熟知したうえで、赴任させられたのかもしれません。
わたしの勤め先の男性社員は全員、妻や恋人を地元の男衆に寝取られてしまっているのですが。
そうしたことに対する苦情が出たことは、いちどもありませんからね。

自分の奥さんを差し出した場合、おれたちの女房を抱いても構わないんだぜ?
ひととおり、妻の貞操を男衆たちと分かち合った後、そうは誘われたんですが・・・
やっぱり家内のほうに、気が行ってしまうんです。
それも相手の奥さんに、失礼な話じゃないですか。
通過儀礼のようなもので、ひととおりはご厚意に甘えた――彼らの奥さんを、ひと通りセックスを済ませた――のですが。
やっぱり家内のようすが、気になっちゃいましてね。
まだ彼らが自宅から立ち去らないうちに、家に戻るのです。
もちろん二人には声をかけずに・・・物陰から、熱く息をはずませ合うふたりのようすを、こっそり覗いているんです。
初めて差し出したときには、息が詰まって目を回してしまったはずの光景なのに。
いまでは、妻がヒロインを演じるポルノ映画でも鑑賞するように。
わたしの目を意識しながらも、肉体の快感に克てずに息をはずませてしまう家内のことを、
夫であるにもかかわらず、昂ぶりながら・・・いちぶしじゅうを見届けてしまっているのです。
いまでは、一方的に犯してもらっています。そのほうがわたしも、妻も、ときめくことができるので。

同僚

2016年10月11日(Tue) 07:41:59

某地方都市に転勤になったとき。
前々任地でいっしょだった同僚・葉裏になん年ぶりかで再会した。

忘れもしないあの土地は、創業者の出身地。
都会にいられなくなった者たちのなかでも、家族状況を勘案の上、
極秘の性格テストに合格したものだけが赴任を許されるあの土地で。
其処は、吸血鬼と人間とが、密かに共存を許された土地。

たいした仕事を割り当てられずにぶらぶらと過ごすことを許されたわたしたちは、
自分自身と家族の血液を提供して、のんびとした日常を送っていた。
自分の妻を吸血鬼に抱かせた者は、あとから赴任してきたものの妻や娘を抱く特権を手に入れる。

そんな輪廻にも似た連鎖のなかで。
この街に来て初めてわたし以外の男を識った妻に、もっとも執心だったのが葉裏だった。
街の有力者に初めて抱かれ、身も心も解放されてしまった妻は。
そのあと、なん人もの吸血鬼を相手に、性の処理まで引き受けて。
それから、わたしの同僚たちを相手に、順ぐりに不倫をくり返した。
そのなかで、いちばん深く妻に執心し、いちばん多く妻を抱いたのが葉裏だった。
この街に棲みつく都会妻は、だれしもが街の吸血鬼たちの愛人にされるというのに、
妻は異例にも、都会育ちの葉裏とカップリングすることを許された。

葉裏はあの街に棲みついて、家族ぐるみで服従していた。
街の長老に母親を紹介し、長老は父親の理解を勝ち得てその妻を囲い者にしていたし、
子供たちは母親の愛人に懐いていて、
娘たちは齢の順に、村の男衆に処女を捧げていた。
息子は地元でできた彼女を、自分の母親を愛人に紹介し、女の歓びを教え込んでもらっているという。

そんな葉裏が、街に家族を置いて単身赴任してきた。
葉裏の妻が、愛人との同棲を望んだので、願いを叶えてやるために単身赴任を選んだという。
もちろんこんな会話は――ふつうの社員の知るところではない。
なにも知らない同僚たちの視線をかいくぐるようにして、
わたしたちは共犯者同士の目配せを、交し合うのだった。

葉裏が転勤してきた。
わたしが妻にそう告げると、妻は驚いて、嬉しげな顔色をあわてて隠した。
こんど連れてくるから――そういうわたしに、不安そうに頷いていたのは。
なにも知らないこの土地の同僚や奥さん仲間にばれてしまうと困るから――そんな気分だったのかもしれない。

常識的な日常が支配するこの土地で。
わたしはふたたび、妻を葉裏に抱かせていた。
葉裏はわたしの夜勤や残業の時を狙って留守宅に忍び込むと、
着飾って待ち受けている妻に襲いかかって、夫への貞節を守ろうとする妻を、力ずくでねじ伏せる。
首すじを熱く吸われながら、妻はすぐさま偽りの抵抗をあきらめていた。
そんな妻の堕落のありさまを、夜勤で帰りが遅れるはずのわたしは、隣室で息をつめて、見守っていた。
敷かれた布団のうえ、あお向けに転がされた妻は、こちら側に脚を向けて、
わたしの目線には気づきもせずに、喘ぎと媚びとをあらわにする。
向けられた脚を彩るなまめかしいストッキングが、照明を照り返してツヤツヤと輝いて、
組み敷かれた婦人のリッチな日常と、その陰に隠れたふしだらさとを物語って。
しわくちゃになってずり降ろされ、みるかげもなく引き破かれていく薄手のナイロン生地が、
いびつで不規則に波打って、妖しく乱れ果ててゆく。
遠目にも。
葉裏が気を入れて、ありったけの精液を熱く熱くそそぎ込むようすが、
生々しい筋肉の隆起とくり返される激しい上下動とともに、わたしの網膜を狂わせた。

解放された街で許された情事が、いま常識まみれのこの街で再演される。
あのときは強いられて行った淫姦を、いまはすすんで取り結んでいた。
禁忌に触れる。そんな想いが、むしろ歓びと昂ぶりとを、掻きたてていった。

妻子を飢えた吸血鬼の棲む街に住まわせてきた男は、代わりにわたしの妻を、現地妻として勝ち得ていて。
あのときでさえ愛人を持とうとしなかったわたしは、妻を一方的に侵されることで、淫らな歓びを勝ち得ていた。

在任数か月で、葉裏はこの街を去り、前任地へと戻っていった。
それと前後して妻がわたしの前々任地に転居していったのを、不審に思うものはいなかった。
葉裏がこの街を去る、さいごの夜に。
わたしたち夫婦は彼を家に招いて、夜の宴をともにした。
わたしは結婚指輪をはずして彼に餞別として与えようとし、
彼はそれを遠慮して、これからもはめつづけるようにと願っていた。
妻は、わたしと同じ結婚指輪をはめた手を彼にあずけることを希望して、わたしはそれを承知した。
わたしたちは、彼女がわたしの妻の立場でありながら、葉裏の想いのままにされる――そんな日常を選んだのだ。

いま、わたしの妻は葉裏と暮らしている。
けれどもその家の表札には、わたしの苗字が書き入れられていて、
葉裏は自分の妻が吸血鬼の訪問を受けているときだけ、わたしの家に入り浸っている。
もっとも――吸われるべき若い血がふんだんに得られる葉裏家が、吸血鬼の訪問を受けない日のほうが珍しいのだが。
わたしがその家に「戻る」とき。
葉裏は夜這いをしかけてくる。
夜這いのすんだ夜明けになると。
わたしは初めて妻を熱く抱き、この街をいったん離れてから過ごすことのまれになっていた熱い夫婦の営みを、再開する。


あとがき
村に棲みついた都会の夫婦が、常識の支配する別の任地に赴いて、
そこで再び、村で奥さんを好んで「相伴」した同僚と一緒になって。
あのときの記憶が、再現される――

吸血鬼に妻を譲り渡した都会の夫たちが手にした特権を、あとから赴任した同僚の妻を相手に行使して。
それがエスカレートして、任期が終わっても愛人関係を継続する・・・そんな世界が、あるようです。