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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

共感。

2017年03月08日(Wed) 06:27:25

ハイソックスを履いたぼくの脚をギュッと床に抑えつけて、
カツヤくんはぼくのふくらはぎを咬んでいた。
きつくつねられたみたいな痛みを帯びて、
カツヤくんの唇が、ぼくの血を吸いあげてゆく。
真新しい紺のハイソックスは、ぼくの血潮で生温かく染まっていった。

眩暈を感じても。
頭痛を訴えても。
カツヤくんはぼくの脚を放してくれようとはしなかった。
そのうち意識が遠くなって、ウットリしてきても。
それでもカツヤくんはぼくの脚に執着しつづけた。
ぼく、死んじゃうの?
放った質問の意味と、われながらシンとしたその言葉の響きとに、
ぼくは内心どきりとして、そしてなぜだかわくわくしていた。

なん度呼びかけても応えてくれないカツヤくんに、なん度めか。
われ知らず、ちがう質問を放っていた。
――ぼくの血が、おいしいの?
カツヤくんは初めて顔をあげ、口を開いた。
――ウン、おいしいね。
しんそこ嬉し気な声だった。
カツヤくんは口許に、ぼくから吸い取った血潮を、べっとりと光らせている。
ふだんだったら卒倒しそうなその光景をみて、ぼくは思わずつぶやいていた。
――きみの頬っぺたには、ぼくの血が似合うんだね。
カツヤくんはぼくに向けて、初めて笑いかけてきた。
――気に入ってくれて、よかった。
あり得ないやり取りを口にしながら、ぼくはなぜか満ち足りていた。
カツヤくんもとっても、満足そうだった。

きみのパパの血は、僕のママが。
きみのママの血は、僕のパパが。
いまごろたっぷりと、吸い取っているさ。
きっとそれぞれ、仲良くなって。
いまごろは、打ち解けた関係になっているはず。
そう――家族ぐるみで仲良くなるって、そういうことさ。
この街で暮らしていくにはそのほうが、居心地よく暮らせるんだから。
カツヤくんの言いぐさは、まだ子供だったぼくには、意味が半分しかわかっていなかったけれど。
そう・・・って、ごくしぜんに相づちを打ってしまっていた。

これから泊りがけで、都会に行ってくる。
先月まできみの住んでた、あの街に行って、
きみの彼女のこずえさんの血を吸ってくる。
どう?うらやましいだろ?
きみはまだだけど、ぼくは彼女の血が吸えるんだぜ。
きっと――なにも知らないこずえさんは、見ず知らずのカツヤくんに征服されてしまうのだ。
彼女を征服される。
そんなおぞましいはずの想像に、なぜかぼくはふたたび、胸をワクワク昂らせてしまっていた。
こずえさんのうら若い、温かな血潮が、いまのぼくと同じみたいに、カツヤくんに吸い取られてしまう。
カツヤくんのことをうらやましと思えるのは、なぜ?
血を吸ったこともないぼくが、自分自身がこずえさんの血を味わったような気分になっているのは、なぜ?
その問いに対する答えが与えられるのには、すこしだけ時間がかかった。

おはよう。
ぼくの家の玄関のまえ、いっしょに都会に住んでいた時と全く同じように、
こずえさんは制服の肩先に三つ編みおさげの黒髪を揺らして、いっしょに学校に行こうと声をかけてくる。
幼い頃から仲の良かった、こずえさん。
将来はいっしょに結婚するんだと、ごくしぜんにそう思い込んでいた。
それが、父さんの借金のおかげで、住み慣れた街を夜逃げどうぜんに出ていくはめになって、
お別れも言えない永遠の訣(わか)れに、ぼくは胸を暗く閉ざしていたものだ。
それなのに。
都会の制服からこの街の女学校の制服に衣替えしたこずえさんは、いまぼくの前にいる。
顔色をちょっとだけ蒼ざめさせてはいたけれど。
イタズラっぽく覗かせる白い歯の輝きは、ひと月まえまで見慣れていたそのままだった。

ぼくはカツヤくんに、週1回血を吸われる。
こずえさんもカツヤくんに、週1回血を吸われる。
カツヤくんはこずえさんの血を欲しがるときにはいつも、ぼくにエスコートを頼むことになっていた。
ママがカツヤくんのお父さんに呼び出されるときと、同じように。
ぼくはカツヤくんの家の閉ざされた玄関のドアのまえ、1時間ほども待ちぼうけを食わされて、
彼女が咬まれる光景を想像しながら、じりじりとした刻を過ごす。
そのじりじりが、なぜか愉しくて。
こずえさんが吸われる木曜日が、ひどく楽しみになっていた。

「ヘンなひと」
こずえさんはぼくの態度にちょっぴりあきれながらも、イタズラっぽく輝く白い歯を、隠そうとはしない。
咬まれた後の白いハイソックスに撥ねた血を街じゅうに見せびらかしながら、
ぼくにエスコートされて、古びた商店街をおっとり歩くのが、いつか彼女の習慣になっている。
きょうもこずえさんは、濃紺のプリーツスカートの下、
真新しい真っ白なハイソックスのふくらはぎを、初々しく輝かしている。
ぼくはぼくで、彼女と同じ色のの半ズボンの下、濃紺のハイソックスのリブをツヤツヤとさせて、彼女の前に立つ。
こずえさんがぼくにナイショで、ひとりきりでカツヤくんのおうちにお邪魔して、
ふたりきりで逢っているのは、お互い口にしないことにしている公然の秘密――
でもぼくは、なかば血のなくなりかけた身体じゅうに、淫らに走り抜ける快感のなかで。
カツヤくんがこずえさんの血を吸い取ることにたいする共感を、なんら違和感なく受け止めてしまっている。
――将来はきみも、こずえさんの血を吸える身体にしてあげる。
もしかしたら空手形かもしれないそんな彼のささやきに、
ぼくはウンウンと嬉しそうに、うなずき返してしまっていた。

ベースキャンプ

2017年01月04日(Wed) 07:29:11

何年ぶりかで、血を吸われた。
都会に出てきてからは、無縁の悦楽だった。
封印していたはずの快感が身体のすみずみにまで行きわたって、
終わるころにはもう、自分から身体を離すことができないまでになっていた。
相手は幼なじみのリョウタ。
もちろん同性である。
身を起こす間際にもう一度、首すじに這わされた強烈な口づけに、思わずときめいてしまっていた。

これからしばらく、きみのところをぼく達のベースキャンプにさせてもらうよ。
一方的な言いぐさに、すぐに頷いてしまっている。
「妻は巻き込みたくないな。何も知らないんだ」
「そうか」
リョウタは案外と素直にそういうと、
「無理強いはしないから」
と、あまりあてにならない約束をしてくれた。
約束はむろん、その晩のうちに破られた。

泊めるだけで構わないといわれ、三人分の布団を急きょ母の家から調達した妻は、
それでも来客への心遣いなのか、綺麗にお化粧をし、よそ行きのスーツまで着込んでいた。
もちろん、幼なじみたちの、絶好の餌になってしまった。
死に化粧とならなかっただけ、マシと思わなければならなかった。
過去にはそうした時代もあったのだと、親たちから聞かされてはいたけれど。
吸血鬼と共存するようになって久しいこのごろでは、血を吸われて死ぬということは、絶えて聞いたことがなかった。

「ちょっとたばこを買ってくる」
そういって外出した十数分のあいだに、妻はあっけなく、狩られてしまっていた。
血を吸い取られ輪姦を受け、洗脳されてしまった妻は。
客人たちの世話を頼むというわたしに、ホッとしたように最敬礼する。

都会の女を狩りに来た吸血鬼たちは、あの街の出身者の家をベースキャンプに指定する。
居合わせた妻や娘は否応なく、血液を提供することを強いられて、
夫や父親たちは、彼らの滞在中妻や娘をその支配下にゆだねることに同意させられる。

「無理強いはしないから」
という彼の約束が正しかったことを、ぼく達夫婦は、自分たちから証明してやることにした。
好奇心にとりつかれて、血を吸われてみたいとせがむ妻の願いをかなえるため、
夫に依頼された彼らは、妻をウットリさせてくれたのだった。
ぼくはぼくで、久しぶりにやって来た彼らにせめてものもてなしをするために、
たばこを買うのにかこつけて、妻を襲うための時間を作ってやったことにした。
もしかすると、ほんとうにそうだったのかもしれないと、あとで思った。
血に飢えた彼らのため、ぼくはうら若い人妻の生き血を毎晩、捧げることに同意した。

出勤するわたしを見送る妻は、よそ行きのワンピース姿。
このあとすぐに、彼らへの餌として惜しげもなく破かせてしまうのだろう。
それだのにウキウキしている妻は、いままでとは別人だった。

吸血鬼のベースキャンプ。
その家に住まう主婦は、獲物のないときの客人に、自らを獲物として差し出してゆく――

支配された街

2016年12月06日(Tue) 07:37:05

勤務先の病院の口うるさい婦長が、白衣の下にラメ入りの白タイツを穿くようになった。
それ以来。
看護婦の半数はスカートを着用し、その下にラメ入りの白タイツや網タイツ、
地味なひとでも白の薄々のストッキングを穿くようになった。
院内を女主人の顔をして闊歩する院長夫人も、いつものパンツスタイルをかなぐり捨てて、
優雅なフレアスカートの下、薄手の肌色のストッキングに包んだ肉づきたっぷりのふくらはぎをさらすようになり、
見舞客の女性たちすら、そのほとんどがよそ行きのスーツ姿で訪れるようになる。

道行く女性たちも着飾った姿が目だつようになり、
女学生たちの足許も、地味な白のソックスから大人びたハイソックスやなまめかしい黒のストッキングに、すり替わってゆく。
気がつくと。
未亡人している母も、いつも身に着ける喪服の下を、黒の網タイツで彩るようになっていた。
そのだれもが帰り道をたどるとき、なまめかしいストッキングに裂け目を走らせて、家路につく。
「白だと血のシミが目だつわ」
と愚痴る看護婦も。
「アラ、黒のほうが裂け目が目だつんですよ」
と、鮮やかな裂け目を妖しく拡げたストッキングの足許を自慢げに見せびらかす母も。
きちんとセットした髪を振り乱し、はだけたブラウスすらも小気味よげに外気にさらす院長夫人も。
首すじには等しく、ふたつ綺麗に並んだ咬み痕を滲ませている。

吸血鬼が支配してしまったこの街で。
わたしもいつの間にか咬み痕をつけられて、母を愛人の棲み処へと送り迎えをくり返している。

娘の身代わり。

2015年12月26日(Sat) 07:52:51

忍田が足音をひそめて近寄ると、そこには女の影が佇んでいた。
濃い夕闇が視界を奪って、影の主がたれなのか、すぐに判別できない。
きょう待ち合わせているはずの少女は、16歳。
ふた月ほどまえから血を吸うようになった、県立の高校生だった。
案に相違して。
そこに佇んでいたのは、少女よりもはるかに年上の女だった。
面差しがどことなく、少女のそれと似通っている。
女はおずおずと忍田を見、気まずく口ごもりながらも、話しかけてきた。
「優香が・・・娘が体の具合を悪くして・・・」
みなまで言えずに言いさした言葉を、忍田は無遠慮に継いだ。
「お母さんが身代わりに、わしに血を吸われにおいでなすったのか」
女は凍りついたように、立ちすくむ。
赤いバラをあしらった小ぎれいなワンピースに、ぴかぴか光る黒のエナメルのハイヒール。
肩先に波打つウェーブの栗色の髪は、美容院でセットしたばかりのように鮮やかな輪郭を持っている。
女というものは、こういうときでさえ、己をひきたてようとするものなのか。
忍田の胸の奥で、なにかがぶるりと慄(ふる)えた。

優香と呼ばれる少女が血を吸われ始めたときには、週一回の約束だった。
それが週二になり、週三になり・・・いまではほとんど、毎日のように逢っている。
身体の具合も悪くなるわけだ。
それほどまでに、彼の牙から分泌される毒は、無防備な素肌に色濃くしみ込まされたのであろう。
ここは吸血鬼の支配する街。
逃げるだけの理性を持ったものたちはすでに逃げ、
残っているのはひたすら、支配を甘受しようとする者たちだけだった。
忍田はきょうの日の来るのを予期しながら、少女の血を容赦なく啜りつづけた。

今朝のことだった。
少女の家から出勤してきた背広姿の男が、目ざとく忍田をみとめた。
彼女の家のものには、面が割れていないはず。
それなのにいち早く彼を、娘の生き血を吸う吸血鬼だと察したのは、親というものの持つ本能なのか?
男は人目の立たない近所の公園へと忍田をいざない、真剣な顔つきで懇願した。
「娘の血を吸うことについては、なにもいわない。でもせめて、死なせないでくれ」
代わりに自分の血を吸ってもらえないか・・・?男の申し出は、要するにそういうことだった。
忍田は言われるままに優香の父親の首を咬み、ほんの少しだけ血を啜った。
けれどもやっぱり、無理だった。
「悪いが、どうしても男の血は受けつけないのだ」
身を挺してまで娘を守ろうとした父親に、忍田は衷心から頭を下げた。
けれどもそのあとには、血をほしがる本能が、忍田に冷酷な囁きを強いていた。
あんたの奥さんに、そう伝えてくれ―――――と。

自分の妻の血を吸おうとする男に、協力する夫などいるのか・・・?
そう問いたげな視線に、忍田はいった。
力を貸してくれたら、恩に着る。
もちろんふたりとも、殺(あや)めたりはしない。
最愛の妻とまな娘の生き血をみすみす啜らせた恥知らずな男だなどと――――
この街ではあんたのことをそう思うものはだれもいないし、
俺もそんなことを考えたりはしない。
ただ俺には、血を吸う相手がもうひとり、どうしても要りようなのだ  と。

男が勤務先から自宅へ、どんな連絡をしたのか、忍田は知らない。

優香の母親は相変わらず、こわばった視線で忍田を見あげている。
肉づきのよい身体つきをした彼女だったが、上背は忍田よりもずっと劣り、
彼女が体内に宿す血液の全量をもってしても、忍田を満足させられるとは思えなかった。
「わしは処女の生き血が大好きじゃ。だから娘さんには、手加減して愉しませてもらってる。
 しかしあんたは、大人の女だ。手加減はせん。
 どういう目に遭うのか、わかったうえで来なさったのか」
母親はこわばった顔つきをさらに凍りつかせたが、やっとの思いで、いった。
「主人と相談したうえで、伺いました」
忍田はちょっとだけ気の毒そうな顔をして、女を見た。
けれどもその口から発した言葉はみじかく、さらに容赦がなかった。
「わかった。来なさい」
忍田は門柱にもたれかかるようにして彼が通りかかるのを待っていた女の背中を邪慳に押し、
門の中へと追いやった。
硬く施錠されているはずの玄関は、忍田が手を触れると苦も無く押し開かれ、
ふたつの人影は鎖された古びたドアの向こうへと消えた。

「横になるかね?」
忍田の問いに、女はかぶりを振るばかりだった。
見通しの良い庭に射し込む夕陽は、門前の暗さとは裏腹な明るさをまだ持っていたが、
女はその情景に目をやろうともしない。
「わしの好みは知っていような?」
スイッと傍らにすり寄り、囁きかけてきた男の気配に女はビクッとして顔をあげた。
けれども、伸ばされた猿臂に両肩を抱かれ、身じろぎひとつできなくなっている。
「あんたの名は・・・?」
「美穂・・・永黒美穂といいます」
美穂さん・・・か。
名前を識ってしまうと、妙な親近感がわくものだ。
そこには人格があり、親族知人の係累がある。
かつてはその身に温かい血潮を宿していた時だってある。
忍田は相手のおびえを、なんとかして落ち着かせようと思った。
女の言葉が、忍田に一歩先んじた。
「ふくらはぎを咬むんですよね・・・?それから首すじ」
「娘さんから聞いたんだね」
「は、はい・・・」
「じゃあさっそく、お世話になろう」
忍田は並んで腰かけたベッドから腰をあげ、すぐにその場に四つん這いになると、
美穂の足許にそろそろと唇を近寄せてゆく。
「ひっ」
思わず避けようとした脚を掴まえると。
忍田は美穂のふくらはぎを吸った。
くちゅっ。
生温かいよだれを帯びた唇が、美穂の穿いている肌色のストッキングをいやらしく濡らした。

美穂はベッドのうえ、仰向けに寝かされていた。
男はさっきから、表情を消した美穂のうなじに咬みついて、
キュウキュウ、キュウキュウ・・・生々しい音をたてながら、生き血を啜りつづけている。
放恣に伸ばされた美穂の脚に、パンティストッキングはまだまとわれていたが、
あちこちに咬み痕をつけられて、むざんな裂け目を走らせている。
着衣ごしにまさぐられる胸が、恰好のよい輪郭を、くしゃくしゃにされたワンピースに浮き彫りにしていた。
「優香と同じ香りがする」
男は女の耳元で、彼女の娘の名前をわざと呼び捨てにした。
「家に・・・帰してください・・・」
「あの子もさいしょのときには、そう言っていた」
吸い取ったばかりの美穂の血をあやした唇が、彼女の唇まで求めてきた。
避けようとしたが、すぐに奪われてしまった。
二度、三度、重ね合わされてくるうちに。
舐めさせられた血潮の、錆びたような芳香が鼻腔に満ちて――――
いつの間にか女のほうから、忍田の唇を求めはじめていた。
どういうことなの?いったいなぜなの?
女は自問しながらも、忍田とのディープ・キッスを、やめられなくなっている。
男の手がだしぬけに股間に伸び、ショーツとパンストとを、いっしょに引き破った。

あっ・・・!と思ったときにはもう、遅かった。
男は目にもとまらぬ速さで女の股間に自分自身を肉薄させて、
怒張を帯びた硬い肉棒が、女の秘部にもぐずり込んでいた。
あっ・・・あっ・・・あっ・・・
女は有無を言わさず、犯された。
白濁した精液がどろどろとそそぎ込まれるのを、もうどうすることもできなかった。
征服・・・された?こんなに、あっけなく・・・?
脳裏に戸惑いを漂わせながら、女はなん度も吶喊を許し、不覚にも応えはじめてしまっていた。

こぼれた粘液がシーツをしとどに濡らすころ。
男はふと、呟いた。
――――我慢づよいご主人だ。
半開きになったドアの向こう。
忍ばせた足音がかすかに床をきしませながら遠ざかるのを、美穂は確かに耳にした。

街の婚礼

2015年09月07日(Mon) 06:52:23

この街の婚礼は、いっぷう変わった風習を持っている。
宴たけなわになると、招待客のうち男性だけが、帰ってゆくのだ。
それと入れ替わりに、どこからともなく、蒼白い顔つきの男たちがふら~っと現れ、宴席にさ迷い込んでゆく。
閉ざされたドアの向こうには、黄色い悲鳴が華やかに満ち溢れる。

薄いピンクに、濃い紫。淡い茶色に、深い濃紺。
色とりどりの光り物のスカートの下。
追い詰められた女たちは、新婦の友人、新郎の妹。それに新婦の兄嫁。
だれもがスカートの裾からにょっきり覗くふくらはぎを、真珠色に輝くストッキングに彩っていて。
それを目当てに、飢えた男の指が、唇が、迫ってゆく。

立ちすくんでいるのは、拒んでいない証拠。
はち切れんばかりのおっぱいの隆起は、揉んでほしい証拠。
拒絶の哀願は、姦ってほしいという意思表示。

なにもかもを、おのれの都合よいように受け取って。
顔の蒼い男たちは、うら若い女たちへと迫ってゆく。
衣装の下に隠された、うら若い柔肌を求めて。

ねじ伏せられた赤いじゅうたんの上。
女たちは競うように、肌色のストッキングに包まれたふくらはぎをさらして、
薄いナイロンの舌触りを愉しまれ、辱められながら咬み破かれてゆく――
引き裂かれたパンストをまだ脚に通したまま、その両脚をゆっくりと開いていって、
堕ちる瞬間の昂ぶりを、諦めのため息に織り交ぜてゆく。

主賓席では、新郎新婦の母親たちが。
黒留袖の帯をほどかれていって。
いずれ劣らぬ珠の肌をさらけ出しあって、
肩を並べて淑徳を散らしていって。
永年連れ添った夫たちを、その目の前で裏切ってゆく。

純白のウェディングドレスをまくり上げられた新婦は、
ツヤツヤとした光沢に包まれた城のストッキングの脚をばたつかせながら、
抑えつけられた円卓のうえ、テーブルクロスをくしゃくしゃにしながら、はやくもなん人めかの男を迎え入れて、
うろたえる新郎のまえ、花嫁修業に耽ってゆく。

そう。一部の男性は、退席を許されない。
この佳き日の主役を勤める男性と。
その種の歓びを自覚できるものたちは。
招待客の男性の多くが席を立ったあとも、宴席にとどまるという忌まわしい特権を与えられる。
妻が、娘が、妹が組み敷かれ、
よそ行きのスーツのすそを乱し、
ブラウスをはだけられ、
ブラジャーの吊り紐を切られながら、
家族の前であることも忘れて、吸血鬼どもの支配を受け容れよがり狂ってしまうまで、
しっかりと見届けさせられ、たんのうさせられる。

宴は、真夜中まで尽きることがない。
この式場では、披露宴の部屋の借り切りは、真夜中までとなっているから。
昂ぶり切った夫たちは、さいごには相手を取り換えあって、交わってゆく。
新郎は、新婦の友人代表と。
新婦の父は、新郎の母と。
新郎の父は、自分のまな娘と。
見境なく襲いかかって、身体を交え息を弾ませあってゆく。
それが、夫たちの払った代償に対する対価――
吸い取った血潮を口許に光らせたまま。
”彼ら”は、吸い取った血潮の持ち主である親族たちが、淫らに堕ちてゆくのを、愉しげに見届ける・・・

秋まつりの予定。

2012年09月15日(Sat) 07:09:28

干からびたような細腕が、さっきからせわしなく携帯をいじっている。
もはや老女といっていいほどの年かっこうのその女は、去りかけた色香をまだ、顔の輪郭にとどめている。
白髪交じりのは見の生え際から覗く首すじは、不ぞろいに陽灼けしていて・・・
そして、夕べつけられたばかりのものらしい赤黒い咬み痕をふたつ、鮮やかに滲ませていた。

ふん。まったくうちの子らときたら・・・

なにか言いたげに口をもぐもぐさせながら、
老女は年かっこうに似ず慣れた手つきで、携帯をまさぐりつづけていた。

長男に宛てたメールには、こう書かれてあった。

今年の秋まつりは、ぜひいらっしゃい。
お隣の源治さんが、珠代さんに執心なのよ。
リョウくんは、大学で彼女出来たかしら?
梨佳も高校に入学できたから、今年は来れるよね? 母


つづいて次男宛てのメール。

今年の秋まつりは、どうするの?
瑤子さんの誕生祝い、するんだよね?
女旱(ひで)りの村の男衆5~6人声かけとくから、覚悟しなさいよ。 笑
佑香もさとみも、そろそろ男を覚えてもいい年頃だね?期待してるから。 母


それから三男宛てのメール。

今年の秋まつりは、来れるかな?
彼女はできた?
まだお付き合いが始まってなくても、村まつりに連れてお出で。
連れてさえ来たら、母さん話をまとめてあげるからね。 母


長男の返信は、速かった。

ビビッ・・・と鳴った着信音に、老女はうたた寝を中断して、
さっそくもの欲しげな手つきで、携帯をまさぐった。

家族そろって、伺います。
源治さんには、どうかお手柔らかにとお伝えください。
息子に彼女できました。
ご両親と一緒に来ると言ってくれているそうです。
梨佳は2年前のことがショックだったので今年は遠慮しましたが、
優しい人がいたら今年もお願いします。


ほほ・・・さすがに孝行息子だこと♪
老女は嬉しげに、ほほ笑んだ。
口許から覗く犬歯が、ちょっぴり尖っている。
おととし孫娘の首すじに、初めて突き立てたときのことを愉しげに思い出しながら、
彼女は指先で、犬歯の切っ先を撫でている。
肉親なら、襲って血を吸ってもいいことになっているのだった。


今年は、リョウくんで我慢しとくか。
彼女を襲われているときには、気が気じゃないだろうからね。

よからぬことを口にしながら老婆は、つづいて鳴った着信音に気を奪われた。

次男の返事―――

ご承知のとおりわたしは、今年の春から単身赴任です。
瑤子は子供たちの受験準備で忙しいし、佑香は高校受験、さとみも中学お受験の真っ最中です。
留守宅には言い含めておきますので、都会まで出てくるお人があったら、お報せください。
その際には、あまり家のなかで物音を立てないようお伝え願います。

まあ、冷たい子だこと。
老女は不平そうに頬をふくらせたが、

物音くらい、どうってことありゃしない。
女に飢えた村の衆を5、6人、入れ代わり立ち代わり送りつけてやる。
夜這い自体は容認なんだから、ご近所への顔は立つか・・・

三男の返信は、かなり遅かった。


上司の紹介で親類の娘さんとお見合い中ですが、どうも僕自身引っ込み思案のせいなのか今回もうまくいきそうにありません。村のお祭りの話をしたら興味を持ってくれたみたいで、ご一緒しましょうか?って言ってくれてはいるのですが、ご両親が娘さん想いなのでいっしょにくるといってききません。二人きりにならないとお互いの意思を確かめることは難しいと思うし、ともかくいつもご両親同伴なのでつい気を使ってしまいます。村への帰郷のことはもう少し待ってください。彼女の好意をもう少し確認できるまで待ったほうがいいように思うのです。いつも慎重すぎて婚期を逃すと、上司のかたにもお叱りを受けているのですが

改行もしないでずうっと打ち続けた文面は、世見苦しいことおびただしく、老女も顔をしかめて目を細めて文面を追った。
文章の途中で間違えて送信してしまったのか、ここで終わりなのかさえも定かでない優柔不断な文章を見て、老女は怒りに目をあげた。
やおら携帯を取り直した彼女は、直に電話をかけていた。

ばっかも―――んっ!
ぐずぐず言わんで、親もろとも、連れて来―――いっ!!!

足ぐせ

2011年12月09日(Fri) 07:14:41

じわじわと生き血を吸い取られていくとき。
母はじれったそうにして、しきりに脚で床を踏み鳴らしていた。
妹はもじもじと、足指をねじっていた。
未来の妻は、切なそうに摺り足を繰り返していた。

田舎に着任して。
その土地に棲む年配の男に、血を吸われるようになって。
もう何回も、都会の実家に招いていた。
母はすでに血を吸われることに慣れ、
父は同年輩の彼と、飲み友達になっていて。
目のまえで長年連れ添った妻が、気に入りのロングスカートのなかに、むぞうさに手を突っ込まれて。
ズロースを降ろされていくのを、息をつめて見守っていた。
ブラウスをはぎ取られて、おっぱいをまる出しにして。
女の操をむしり取られてゆくところさえ、ひと晩がかりで見届けていったのだった。

その日も、羞じらう母を、押し倒して。
齢不相応の派手なワンピース姿のまま、脚を踏み鳴らしながら、血を吸われて。
グラス片手に息を詰める父のまえ、
男の好みに合わせてたしなむようになった、太ももまでのストッキングを。
太ももを横切るゴムまで、じんわりと見せつけながら。
踏み鳴らす足の音が絶えたあと―――
忍ばせたうめき声は、妹が下校してくるまで、つづいたのだった。

吸血鬼なんか、家に連れてきて・・・
根暗でぶあいそな妹は。
白い目でわたしを、睨みつけると。
ピチピチと輝く太ももに這わされるもの欲しげな目つきを避けるように、
デニムのスカートのすそを、抑えつけていた。

お勉強、教えて下さるんですって。
取り繕うように言葉を添える母の言いぐさを、無言で黙殺しながら。
来たければ、来れば?
男にぶあいそな声を投げつけると。
白のハイソックスに履き替えた脚を、ぴ多ぴたと鳴らしながら。
二階の勉強部屋へと、あがっていった。
はしたないほどどたどたと階段を上がる足音が、そのすぐあとにつづいていった。
視てきてちょうだい。
母に目で促されたわたしも、あとにつづいた。
部屋に入ることは、許されない。
半開きになったドアの向こうから、覗き見するだけだった。

机のまえに腰かけた妹の後ろにまわって、
男はしきりに、拡げられたノートを指さしていて。
ほんとうに、勉強を教えているようすだった。
妹は幾度となく、男の言葉にうなずいて、ノートに鉛筆を走らせている。
それも、、つかの間のことだった。
男の影が背後から、白のカーディガンを着た妹の影に寄り添うようにして。
首筋に唇を、吸いつけてゆく―――
アー・・・
みじかく叫んだ妹は。
血を吸われながらも、机にしがみつくようにしていたけれど。
やがて椅子に腰かけたまま、ちょっとずつ姿勢を崩していって。
さいごに行儀悪く、たたみの上に転がった。

たたみの上に横たわる妹を。
男はまじまじと、観察をして。
やがておもむろに、ふたたび首筋に、唇を這わせていった。
きゃー。
こんどはくすぐったそうな声が、あがっていった。
机にしがみついていたときも。
たたみの上で、エビのように身体を折り曲げているいまも。
白のハイソックスのつま先のなか、足首をうねうねとねじりながら。
目をつむり歯を食いしばって、吸血に耐えていた。

ティー・カップを手に取って。
無表情を取り繕った母は、
スカートに撥ねた淫らな粘液と、ストッキングの伝線を気にしながらも。
目のまえの絨毯のうえに身を横たえた自分の娘が、
乙女の血潮を捧げるようすを、見守っていた。
父が母の時、そうしていたように。
真っ白なハイソックスには、バラ色の血がべっとりと撥ねていて。
真新しい靴下に包まれたつま先はやはり、もじもじとした足指のうねりをつづけていた。
真っ赤なチェック柄のプリーツスカートを、太ももまでたくし上げられた妹は。
自分の父親ぐらいの齢かっこうの男に組み敷かれたまま、
股ぐらを開かれて、そのうえに強引に沈み込んでくる逞しい腰に。
稚拙に動きを合わせていった。
妹が、大人になっていく―――わたしよりも先に。
その事実を目の当たりにさせられて。
まぶしいような。照れくさいような。誇らしいような。羞ずかしいような。
基本的には我が家の汚点となるはずのあしらいに、
股間がむしょうに、じりじりと疼いていた。

ひどいじゃないですか。
村での知人の結婚式に、都会から招いた婚約者は。
髪をふり乱したまま、まだ息を弾ませていた。
ここは、村でたった一軒のモダンなホテル。
知人の結婚式という名目で、呼び寄せた未来の花嫁は。
口実を設けて狭い密室で、あの忌まわしいごま塩頭と、ふたりきりにさせられて。
母や妹のときと、おなじように、不意に背後から迫られて。
華やいだクリーム色のワンピース姿を、抱きすくめられていった。
吸血される歓びに、はしたないほどあっけなく目覚めてしまった彼女は。
それでも、ワンピースのクリーム色に撥ねかったバラ色のしずくを、
しきりと気にかけていた。

しばらくは、おぼこのまんまだぞ。
妹の純潔を、あっけないほどかんたんに踏みにじった男は。
わたしの花嫁に対しては、時間をかけるつもりらしかった。
お前えはここで、観ておるんだ。あっちさ行っちまっちゃ、なんねぇぞ。
彼女さんが、気の毒だがや。
洗練された都会の装いにはおよそ不似合いな声の持ち主は。
彼女の手を引くと、そのまま隣室に引きずり込んで。
古びたせんべい布団のうえに、背中を突いてまろばせた。
白のストッキングのつま先を高々とあげてひっくり返った彼女。
きゃあっ!ひどいっ!
華やぎを隠そうともしない声色に、わたしはチカリと嫉妬を覚える。

そんなに私の血がお好き・・・?
女の問いには応えもせずに。
男はがつがつと、うら若い血を貪り啜った。
女はもう、あん・・・あん・・・って、嬉しげな声さえたてながら。
クリーム色のワンピースが赤黒いまだらもように染まるのを、厭いもせずに、相手をし始めて。
もう・・・わたしなど眼中にないかのようだった。
あくまであんたの女房のまま、ええとこだけ頂戴するんだ。
振り向いた男は意地悪そうに目を輝かせて、悪童のようにイタズラっぽく笑いかけてきて。
わたしは知らず知らず、男の言うなりに深いうなずきを返してしまっている。

首筋につけられた深い傷口が、じんじんとした疼きを秘めていた。
じんじんとした、疼き。
じんじんとした、嫉妬。
じんじんとした、えもいわれない歓び―――
たいせつなものが無造作に汚されてゆくことが、どうしてこうも、むしょうな歓びを秘めるのだろう?
わたしは、恥ずべき人間なのか?
人はだれでも、そういうマゾヒズムを心に秘めているものなのか・・・?

週末は田舎通いを始めた彼女に、いつもわたしは誘いを受ける。
都会の洗練された装いを、男のために身に着けて。
きりっとした、通勤用のスーツ。
フェミニンな、お招ばれ用のミニドレス。
ふだん用のえび茶のフレアスカートに、薄いピンクのブラウスという、何気ない装い。
それらすべてを、順ぐりに。
わざと血浸しにされながら。
彼女は摺り足を、繰り返す。
それはそれは、切なげに。

あしたは祝言という夜。
彼女の母は、彼女の父のまえ、操を奪われていった。
両親がいたわり合いながら、久しぶりの夜を貪る隣室で。
彼女は明日着るはずだった純白のスーツを装って。
わたしが息を詰めるまえ。
白のストッキングを、ずりおろされていった。
ふしだらなしわをたるませて、くしゃくしゃになってずりおろされたストッキングを、まだ脚に残したまま。
彼女の脚は、摺り足を繰り返す。
ちょうど妹が、稚ない血を太ももに散らせたように。
バラ色のしずくの輝きが、すらりとしたむき出しの太ももを、伝い落ちていく。
粗野で強引な上下動に、あらわになった白い臀部が、じょじょに動きを合わせていって。
そのあいだわたしは、
羞ずかしいような、照れくさいような。誇らしいような。
自分の身に加えられた恥辱が、どうしてこうもむしょうに悦ばしいのか。
理性の崩壊した、考えのまとまらない頭のなかで、
えもいわれない官能の歓びだけが、わたしの常識を塗り替えていった。

「まみちゃん」

2011年10月24日(Mon) 06:50:59

都会に潜入して初めてあてがわれたのが、「まみちゃん」という少女のいる一家だった。
「あてがわれる」というと、聞こえはいい。
しかし吸血鬼の存在を認知していない都会にあっては、あとはわが道を切り開くしかない。
だれかがなんらかの口実で、出入りを許された家庭。
その者になり代わって、ひたすら自力で侵蝕していくしかないのだった。

「まみちゃん」は、おさげ髪の似合う、無邪気な少女。
俺が吸血鬼だと正体を明かしても、びびらなかった。
姉ふたりを差し置いて彼女を狙ったのは、なんとなく彼女がそう接してくれるだろうと感じたから。
子供に近い心の持ち主は、意外なくらい純真で柔らかい心を持っていた。

吸血鬼のおじさん、まみちゃんの血を吸いたいの?
まだ稚ない彼女は、じぶんのことを「まみちゃん」と呼んでいた。

ああ、吸いたいね。
その可愛らしいブラウスを、きみの血で汚してみたいし。
真っ白なハイソックスを汚すのも、愉しいだろうから。
きみの首すじやふくらはぎは柔らかくって、
とても噛み応えがいいだろうね。

わざと露悪的にならべたことばに、
まみちゃんは怯えるようすもなく、
ただほんのりとほほ笑みながら、耳をかたむけていた。

じゃあ、いいよ。
まみちゃんの血を、吸わせてあげる。
でも―――ほかのひとには、手を出さないでね。
上のお姉ちゃんは結婚をひかえているから、お婿さんがかわいそうだし。
下のお姉ちゃんにも彼氏がいるから、彼氏さんかわいそうだし。
ママにはパパがいるから、パパがかわいそうだから。
まみちゃんがたっぷり、血をあげるから。
気の済むまで、生き血を吸ってね。

まみちゃんはにっこりほほ笑んでいた。
俺が迫っていくのを受けとめるような、力のあるほほ笑みだった。
柔らかいうなじに唇を近寄せたとき。
さすがにちょっと、顔をしかめたけれど。
無防備なうなじの肉を、引きつらせることもなく。
柔らかいままに、噛ませてくれた。
刺し込んだ牙が包み込まれるような、しっとりと潤んだ肌をしていた。

ちゅ、ちゅー・・・と血を吸いあげたとき。
まみちゃんはちょっぴり、べそをかいたけれど。
あたし、良い子だから。強い子だから。
力んで強がるわけでもなく、自分に言い聞かせるように。
じゅうたんの床を踏みしめて立つ白のハイソックスの両足は、
意外なくらいにしっかりしていた。

バラ色の血に濡れたハイソックスをぶら提げて、まみちゃんの部屋を立ち去ったのは。
もう土曜日の明け方になっていた。
さすがに耐えきれなくなって、ベッドにあお向けになった少女は、
傷口についた血がシーツにかすかなシミを作るのを厭うように、立てひざをしていて。
また来てね。
小手をかざして、俺を見送ってくれた。

それからは。
約束どおり、この少女だけを襲うことにした。
まみちゃんは言ってくれた。
遠慮しないで吸ってね。
でも、ほかのひとは駄目だからね―――
さいごのひと言は、ひときわ強かった。
あなたのことは、あたしひとりでせき止めてみせるから。

けれども俺の貪婪な食欲を支えるには、
まみちゃんの小さな身体には負担が大きすぎた。
一週間と経たないうちに、まみちゃんはみるみる蒼ざめていった。
ふっくらとしていた頬からは、血の気がひいて。
頼りないほどか細い手足は、
いまでもほんとうに血がめぐっているのかと思うほど、冷えてしまった。

まみちゃん、もう無理だ。降参しな。
俺に負けたからって、きみの不名誉にはならないよ。
たったひとりで、よくがんばったね。
そう言って、まみちゃんの頭を撫でて、褒めてあげたけど。
まみちゃんは激しくかぶりを振るばかり。
だめ。お兄さんたちがかわいそう。パパがかわいそう。
泣かんばかりにして、あたしひとりを狙って・・・そうくり返すのだった。

動いたのは、周囲が先だった。
夜更けの末娘の勉強部屋に漂う異様な空気を、まず敏感に察したのは母親だった。
俺がまみちゃんとふたりきりでいる勉強部屋に入ってきたとき。
彼女は子供の友だちを迎える母親よろしく、お紅茶をふたつ淹れたお盆を手にしていた。
あなたの正体は、娘からきいてしまいました。
娘は、あなたを裏切ったわけではありませんの。
親の言うことをきいたまでですわ。
わたくしは娘の懇願に、負けました。
主人と相談して、三夜にひと晩は、身代りを勤めさせていただきます。
だからそのかわり・・・どうぞ娘を、わたしたちから取りあげないでくださいね。
・・・・・・。
たしなむ習慣を持たなかったお紅茶は。
せっかくだから、淹れてくれたご本人に飲んでもらうことにした。
俺はもっと甘美で濃い飲みものを、このひとの身体から味わうのだから。
さいごまで渋っていたまみちゃんも、
「わたしを幸福にしてくれるのは、あなたなのだから」
お母さんにそう言われてはじめて、ふたつ並べられたティーカップを手に取った。

毎夜噛み破ってきた白のハイソックスの脚の代わりに差し出されたふくらはぎは、
肌色のストッキングで、薄っすらと覆われていた。
長い靴下をお破きになるご趣味があるそうね。
まず、好い趣味とは思っていただけないでしょうが―――
そうですね。あまり好ましいことではございませんけれど。。。
できれば回避したいという本心をちらりと覗かせながら。
それでもお母さんは、俺の意を受け容れてくれた。
まみちゃんも、大きくなったらママみたいに、ストッキング穿いてくれるかな?
明け渡す地位をあくまで惜しもうとするまみちゃんは。
それと引き換えに、俺と指きりげんまんをしてくれた。
それでもやはり、肌色のストッキングを穿いた脚にいやらしくぬめりつけた唇のうごくさまから、彼女の視線がはなれることはなかった。
お母さんの穿いていた肌色のストッキングは、他愛なく破けてしまったけれど。
彼女が淡い嫉妬を寄せるほど、とてもしなやかで、色っぽかった。

お兄さんたちと仲良くなるのは、意外にかんたんだった。
少なくとも彼らには、まみちゃんの目は光っていなかったから。
下のお姉さんの彼氏さんとはすぐに仲良くなって。
彼の好む球技の秘密練習の相手を、じつにうまくやってあげたら、
ひざ丈まであるスポーツハイソックスのふくらはぎを、差し伸べてくれて。
どうぞ遠慮なく・・・って、噛ませてくれた。
太めのリブがはっきり浮いたハイソックスは。
まみちゃんの履いているものみたいな柔らかさはなかったけれど。
しっかりとした舌触りを愉しみながら、
逞しい脛を覆う鮮やかなリブを、ぐねぐねとねじ曲げていった。
スポーツで鍛えられた熱い血は、同性の俺さえもドキドキさせてくれた。

上のお兄さんがひた隠しにしていたのは、女装趣味。
あるきっかけで突き止めてしまうと、話はうそのように早かった。
婚約者にうまく話して、あんたの趣味を認めさせるよ。
そのかわり―――
彼女の血を欲しいのか?
警戒に息を詰める花婿氏に、俺はゆっくりとかぶりを振った。
女装したまま、俺の相手をしてくれる・・・?
脚に通した舶来もののストッキングは。
お母さんのそれよりも、すべすべしていた。

わたしの理性を、奪ってください。
まみちゃんのお父さんの招きを受けて。
慣れない酒の相手をさせられたあと。
家族の寝静まった家の、リビングで。
彼は怒ったように、そう言った。
あなたはなにも、喪っていない。
詭弁だろう。
そうでもないさ。
俺はうそぶきながら、グラスを傾ける。
俺が欲しいのは血液と、しいて言えばご婦人たちの身体かな・・・
それ見ろ。
でも、みんなあんたを気遣っている・・・
ふと洩らしたそのひと言に、かれは長いこと黙っていた。
献血だと割り切れば良い。つごうの悪いことには片目をつぶれば、みんな察してくれるさ。
男の子たちは、俺に彼女や婚約者のバージンをプレゼントしてくれる約束をしてくれたんだぜ?
彼はしばらく、だまっていたが。
俺はふと、洩らしていた。
この酒美味いな。
酒が美味いって・・・?
ああ。どうしたわけか、初めてそう感じるような気がするな。
酒が美味いんじゃ、しょうがないな。
男は初めて、上機嫌になった。
ズボンのすそを、まくってみな。
ぶっきら棒に言われるままに、スラックスの裾を引きあげて。
俺は思わず、呟いていた。
これが、いちばん欲しかったかもしれないな―――
彼の脛を覆っていたのは、ストッキング地の紳士用の長靴下。
精いっぱい、俺の趣味に合わせたのだろう。
俺は遠慮会釈なく、薄っすらと白く滲んだ彼のふくらはぎを、がぶりと噛んだ。
働き盛りの血は意外なくらい口に合って、
気づいたときにはもう、顔が蒼ざめるほど、吸い取ってしまっていた。

みんな、小父さんにたぶらかされちゃったんだね。
まみちゃんはちょっぴり、ご機嫌ななめのようだった。
無理もなかった。
一家全員そろった夜は、結納のあとのことだった。
上のお兄ちゃんの婚約者が連れてきた両親とは、すぐに仲良くなって。
奥さんが和服の襟あしをくつろげるのを、先方のお父さんは手ずから介添えしてくれていた。
そのあとはお定まりの、落花狼藉―――

お父さんが視て視ぬふりをする傍らで。
まっさきにお母さんが、奥ゆかしい洋装を着崩れさせて、
娘たちに手本を見せてくれた。
上の娘から純潔を奪い取っているあいだ、
片時も離れたくないという花婿は、血の気の失せた頬を妖しく歪めながら、花嫁の手を握りつづけていた。
いちばん気に入りの紺のハイソックスを穿いてきた彼氏さんは、
これじつは、彼女のおさがりなんだ。
そういって、彼女の視てるまえで噛ませてくれて。
彼女の部屋の片隅で、尻もちをついたまま。
素っ裸になった俺を、制服姿で迎えた恋人が。
制服姿のままお尻に尖った一物を突っ込まれて、
四つん這いになってはぁはぁ息を切らすのを、ドキドキしながら見つづけていた。

みんなひと晩で、始末しちゃうなんて。
まみちゃんね、お兄さんたちにおわびをしなくちゃいけないわ。
「おわび」の具体的方法を、いまはすっかり心得てしまった彼女だった。
そんなことを、思う必要はないのだよ。
俺はまみちゃんの両手を握りしめて、そう囁いた。
きみにもちゃんとした彼氏が、いずれできるのだから―――
まみちゃんはビクッとして、顔をあげた。
小父さんが彼氏になってくれるんじゃなかったの?
瞳には、せつじつな輝きが込められているのを知りながら、
俺はわざと、目をそらせた。
小父さんは齢だし―――それに、独りであとなん百年も生きつづけなければならないんだ。
まみちゃんをほんとうに俺のものにするには、まみちゃんも吸血鬼にならなくちゃならないよ。
きみはでも、人間として生きていたいのだろう?
まみちゃんはこっくりと、素直に頷いていた。
少女のうなじの動きに合わせて、おさげ髪がユサッと揺れた。

あたしの未来の彼氏さんに、乾杯♪
未来の彼氏さん、赦してね。
まみちゃんは髪をサッと撫でつけて。
真っ白なハイソックスをひざ小僧のすぐ下までキリリと引きあげると。
用意はできたわよ。
そう言いたげに、真顔で俺を視る。
ひと晩かぎりの花嫁だった。

たしかにほかの女たちも抱いたけれど、それは肉欲だけのこと。
研ぎ澄まされた劣情が、ほどほどになるまでにふるい落として。
いちばんいやらしい部分は、お母さんやお姉さんたちに遠慮なくふりかけてきた。
まみちゃんが身を張って、彼らの血を守ろうとしたように。
女三人は俺の劣情が優しく和むまで、俺と肌をすり合わせてくれた。

あんまりいやらしく、しないでね。。
まみちゃんもいざとなると、さすがに怯えを顔に浮かべる。
ああ、まみちゃんに嫌われたくないからね・・・
俺はいままでになく優しくほほ笑んで、
ウットリするようなキスで、唇を結び合わせると。
股間に秘めた鎌首をひそかにもたげて、少女の身体に、挑んでゆく。
押し倒されたまみちゃんは、ちょっぴり痛そうに顔をしかめながら。
せっかく引き伸ばしたハイソックスが、たるんでずり落ちていくのを。
お母さんに買ってもらったばかりのチェック柄のスカートのすそが、お行儀わるく乱れるのを、
ずっとずっと、気にしつづけていた。