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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

市役所の若い女性職員が、結婚前に・・・

2022年08月19日(Fri) 23:36:14

「常川桃花、本日付けで係長を命ずる」
無表情な課長の言葉に、桃花はひっそりと唇を噛んでうつむいた。
淡いブルーの格子縞のベストに、濃紺のタイトスカート。
市役所の清楚な制服に包まれたОL姿が、恐怖に立ちすくんだ。
それもそのはず、課長の隣に控える黒い影は、昨今市役所に出入りするようになった吸血鬼。
彼は、桃花の血が目当てで市長にすり寄って、
ついに本人の承諾を得て、係長の肩書と引き替えに吸血する機会を得たというわけだ。
もとより、本音は気の進まない応諾に違いない。
けれども、もうじき結婚を控えている――そんな当然すぎる抗弁さえもが、無力にへし折られた。
市の上層部の圧力に屈した彼女は、生き血を吸い取られるというおぞましい選択をせざるを得なかったのだ。
婚約者のいる身で、良家の娘が道を踏み外した行動に走ることを、吸血鬼はひどく悦んでいた――

招き入れられた別室で二人きりになると、吸血鬼はいった。
「わしがどこを咬みたがっているか、わかっておるな?」
「は、はい・・・」
「声に出して、それをわしに教えてはくれまいか」
控えめな茶髪の頭をかすかに揺らして、桃花はちょっとの間だけためらったが、
引き結んでいた唇をおもむろに開くと、いった。
「首すじ、肩、胸、脇腹。それに脚――でいいですか」
吸血鬼は、彼女の答えに満足したようだった。
おもむろに彼女の足許にかがみ込むと、桃花のふくらはぎをなぞるように撫でた。
発育の良いむっちりとした脚が、茶系のストッキングに包まれている。
立ちすくんだ脚がたじろいだように揺れたが、吸血鬼は許さない。
パンプスを穿いた脚の甲を抑えつけ、なん度もしつように、くり返し撫でつけてゆく。

さいしょはいつ咬まれることかとおびえ切っていた桃花だったが、
やがて自分の足許にうずくまり脚を撫でつづけている吸血鬼が、
ストッキングの手触りを愉しんでいるのが、ありありとわかった。

「なんていう色?」
吸血鬼は訊いた。
履いているストッキングの色を訊かれることを、
まるでスカートのなかに匿(かく)しているパンティの色を訊かれたように羞じらいながら、桃花の唇がかすかに動く。
「ア・・・アーモンドブラウン・・・」
「ウフフ、きみの脚に似合っているね」
吸血鬼は嬉し気にそう呟いたが、彼女の顔が屈辱に歪むのを認めると、「すまないね」とだけ、いった。

行為はこともなげに始まった。
ひざ丈のタイトスカートのすその下、ふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたりに、
飢えた唇が、アーモンドブラウンのストッキングの上から圧しつけられた。
薄地のストッキングを通して、唾液を含んだ唇のすき間から、ヌラリと濡れた舌が、ねぶりつけられる。
薄地のナイロン生地がみるみるうちに、欲情たっぷりなよだれにまみれてゆくのを、
桃花はキュッと瞼を瞑って耐えた。
口許から一瞬だけ覗いた鋭い牙が、若い下肢に埋め込まれる。
アッ・・・
耐えかねたような小さな叫びが、半ば開いた大人しやかな唇から不用意に洩れた。

処女・・・なのだね?
吸血鬼の囁きに、桃花は応えようとはしなかった。

・・・・・・。
・・・・・・。

床のうえにあお向けになった市役所の制服姿にのしかかり、吸血鬼は新任の係長、常川桃花の首すじに、唇を貼りつけている。
ひざ丈のタイトスカートは強引にたくし上げられて、太ももまでがあらわになっていた。
桃花の足許をなまめかしく染めていた茶系のストッキングは、吸血鬼の牙と唇の蹂躙に遭って、派手な裂け目を拡げていた。
裂けたストッキングを履いたままの脚が切なげに、緩慢な足摺りをくり返している。
それ以外に、抵抗のすべをもたないのを嘆くかのようなけだるげな足摺りも、いつか失血のために徐々に動きを止めていった。

欲情に満ちた唇が、健康そうな素肌の上をヒルのように蠢いて、
自分の手に落ちた若い女の柔肌の舌触り、それに体温を、ぞんぶんに愉しんでいる。
こくり、こくり・・・と喉を鳴らして、この潔癖な21歳OLのうら若い血液は、魔性の喉に飲み込まれていった――


その一週間前のこと。
若い市役所職員の里川肇は、市役所の廊下で尻もちをついた格好のまま、吸血されていた。
背中を壁に抑えつけられ、首すじを咬まれている。
太くて鋭い牙は、男の首すじをなんなく食い破り、ワイシャツの襟首を血で汚しながら、
傷口のうえに飢えた唇をせわしなく、蠢かせてている。

肇は桃花の婚約者だった。

吸血鬼はキュウキュウと不気味な音をたてながら、肇の生き血を啖(くら)い取っている。
「あー・・・、あー・・・」
微かに洩れる悲鳴をなだめるように、吸血鬼は肇の髪を丁寧に撫でつけている。
男にしては、長めの髪だった。
失血のせいか、肇の上半身は力を喪い、横倒しに倒れていった。
それでもなおかつ、吸血鬼は肇の血を吸いやめようとはしなかった。
今度はスラックスのすそを引き上げて、ヒルのように貪欲な唇を、肇のふくらはぎに靴下のうえから吸いつけてゆく。
破けた靴下に生温かい血がしみ込むのを感じながら、肇は意識を薄らげていった――

「ぼ、ぼくの靴下を破いたみたいに――」
肇は、喘ぎ喘ぎ、いった。
「桃花さんの穿いているストッキングを、いたぶろうというおつもりですか・・・?」
「もちろんだ」
吸血鬼は、しずかにいった。
「わかりました・・・」
肇はうなだれた。けれどもけなげにも、彼はいった。
「桃花さんのストッキング――ほかのやつに愉しまれてしまうのは悔しいけれど・・・
 彼女が恥ずかしい想いをしながら破かれてしまうのなら・・・せめて存分に愉しんでくださいね」

「理解のある男だな、きみは――」
吸血鬼は、貧血でくらくらとしている肇の頭を抱きとめてやり、しみじみとつぶやいた。


変わった青年だった。
都会の大学を出て当地に赴任してきて、同じ職場の桃花と知り合った。
市が吸血鬼集団に屈してしまったことを知りながら、彼は内定辞退者が多く出るのをしり目に、予定通り職員に採用された。
半年ほどの交際期間を経て桃花と婚約したころにはもう、
役所の職員のうち既婚者の半数は妻を吸血鬼に食いものにされていたし、
女子職員もその三分の一が、吸血鬼を相手に処女を喪失したとうわさされていた。

「わたし、吸血鬼に咬まれちゃうかもしれないですよ。
 咬まれたら夢中になって、あなたどころじゃなくなっちゃうかもしれないですよ。
 処女だって奪(と)られちゃうかもしれないし、でも拒んだらダメっていうし・・・
 奥さんになるひとがそんなふうになっちゃっても良いんですか?」
交際を申し込んだとき桃花はそういって、いちどは肇の求婚を辞退した。
けれども肇はあきらめなかった。

彼らは人間の女性と、結婚することはできないそうだ。
だから、きみを見初めた吸血鬼がいたら、教えてほしい。
ぼくはそのひとと何としても仲良くなって、
もし望まれたなら――きみの純潔をよろこんでプレゼントするくらいの関係になってみせるから――

桃花は目を見開いて、しげしげと肇を見、
けれども彼の奇妙な申し出を笑い飛ばしたりはせずに生真面目に頷くと、彼の求婚を承知したのだった。


「きみの恋人は素晴らしい。処女だった。処女の生き血というものに、久しぶりにありついた――」
桃花の血を吸い終えたあと。
肇をまえに吸血鬼は、舌なめずりせんばかりに随喜の想いをあらわにしている。
「処女だった」
という言い草を耳にした肇は、目の前の吸血鬼が桃花の純潔までも散らしてしまったのかと一瞬おもった。
むろん彼らは、処女の生き血を格別好んでいたし、
品行方正な若い娘をつかまえて、さいしょのひと咬みで処女を奪ってしまうようなことはしないはずだった。
その点は、人妻狙いの吸血鬼とは違っていた。
セックス経験のある婦人は、生娘とは対照的に、いちど血を吸われると例外なく、その場で犯されてしまうのが常だったから。


吸血鬼が市役所の女子職員や職員の妻を襲った後、
その婚約者や配偶者は、吸血鬼との面談することを義務づけられていた。
吸血鬼たちは、彼女たちのパートナーをも征服し、支配することを望んでいたからだ。
妻を犯されたことに不満を持ち、いうことを聞かない夫がいたら、その場で血を吸い尽くして、
「きみを妻の愛人として、よろこんでぼくの家庭に迎えよう」というまで、放さないのだった。
彼らの牙の犠牲となった女たちの男性パートナーたちは、
目のまえの男が喉の渇きを潤すために最愛の女性の生き血を使用したことのお礼代わりに、
自身にとって大切な女性が、いかに彼らを満足させたかをこと細かに聞かされるのだった。
残酷すぎる面談だったが、里川はあえて自分から、面談を希望した。

「では、桃花さんの生き血は貴男のお気に召したのですね?」
肇は目を輝かせて、吸血鬼にいった。
「きのうきみの身体から吸い取った血と、さっき桃花の素肌から抜き取った血とが、
 わしのなかで仲良く織り交ざって、脈打っておるのだよ」
しずかにこたえる吸血鬼の言い草に、肇は股間を熱く火照らせてしまっている。
マゾの血が、ぼくの身体のすみずみまで脈打っている――
肇はそんなふうに感じた。


「常川くん、献血の用意はできているかね?」
課長に声をかけられた桃花は、「ハ、ハイ!!だいじょうぶです」と反射的に返事をかえしたが、
その場に肇がいるのを認めて顔を赤らめた。
通りかかった年配の女性事務員が桃花に笑いかけて、
「用意がいいね。パンストも、新しいの穿いてきたんでしょ?」
と、からかった。
桃花は真新しいパンストの脚を伸ばして、照れ笑いした。
吸血鬼に気に入られたアーモンドブラウンのパンストが、
ピチピチとはずむうら若い下肢に、つややかな光沢をよぎらせている。
わざと肇のほうは見ないで、桃花は席を起った。
女性係長の責務をまっとうし、若くて健康な血液を提供するために。


桃花が戻ってくるまでの時間が、ひどく長く感じられた。
ゆうに2時間は経っただろうか?
もしや桃花は、興が乗るあまりに犯されてしまったのではないか?
まさか、市庁舎のなかでそんな不謹慎なことを――と思い返してはみたものの、
そのようなことはすでに常識となりつつある昨今では、全くないとは言い切れなかったのだ。

吸血鬼は確かに、桃花の処女は結婚するまで守り通す――と約束してはくれた。
けれどもそんなものは、きっとどうにでもなってしまうのだと肇は知っていたし、
かりに桃花の処女が彼の手で早々と汚されてしまったとしても、桃花とは予定通り結婚するつもりだった。
汚された花嫁の手を取って華燭の典を挙げる――
そんな想像に、マゾヒスティックな想いが、ゾクゾクとこみあげてしまうのだった。
自分の理性がマゾの血で毒されつつあることを、肇はもう恥ずかしがってはいなかったし、
むしろそんな自分こそ桃花の花婿にふさわしいのだと感じていた。


「やっぱり私、婚約を破棄させてもらうわ」
桃花の声は冷たく、透き通っていた。
え――
肇は天を仰いだ。
いちばん聞きたくない言葉だった。
どうして?ぼくだったら、すべてを許すのに・・・
口にしかけた想いは、言葉にならなかった。彼は自分の意気地なさを呪った。
「私、一人の人にしか夢中になれない人だと思う。
 いまのように中途半端な気持ちだと、あなたにも、吸血鬼さんに対しても、いけないことだと思ってる」
桃花にとって、彼女の血を日常的に愉しんでいる吸血鬼はもはや、至高の存在だった。
なので、自分自身だけのことではなく、「彼に対しても申し訳ない」と言われてしまうと、さすがの肇も返す言葉がなかった。


「なんとかなるじゃろう」
吸血鬼は肇にいった。
まだ貧血でくらくらする。
肇もまた、時折吸血鬼の誘いに招かれて、彼の館で血を提供する関係になっていた。
身にまとっている服は、桃花のものだった。

もちろん、桃花自身から借り受けたのではない。
吸血鬼が桃花との逢瀬を楽しんだとき、
桃花の身体から剝ぎ取って自分のものにした服を肇に着せて、
肇を桃花に見たてて吸血を愉しんでいるのだ。
それでも、いちど別れてしまった桃花がそばにいるようで、肇は満足だった。
見覚えのある服も袖を通したし、初めて見る服もあった。
桃花がプライベートでどんなファッションを楽しんでいるのかを、彼はこういう形で知っていたのだ。
身に着けた服は吸血鬼に返したが、桃花本人をゆだねてしまうような気持になった。
吸血鬼は桃花と逢うたびに服を取り替えさせているらしく、
肇は桃花の服をなん着も、愉しむことができた。
いちど肇が身に着けた服を着て、桃花が市役所に出勤してきたときには、
思わず股間が熱くなって、そそくさと部屋からトイレに直行したことまであった。

吸血鬼の舌でしつように舐めまわされた足許からは、
桃花の代わりに穿いていたストッキングがむざんに裂けて、
その裂け目から肌に直接触れる外気が、そらぞらしいほどに冷ややかに感じる。
桃花はこんなふうにして、彼を満足させているのか・・・
嫉妬で狂いそうになったが、それでも彼は桃花になり切って、吸血鬼にかしづくのだった。
桃花の服を身に着けて吸血鬼に抱かれることが、桃花が彼を裏切る行為をなぞっているのだとわかっていながら、
肇は桃花の恋人の欲求を拒むことをしなかった。

「桃花はわしの牙に惑うて、お前を捨てた。
 わしはお前から桃花を奪った。
 じつはお前は――恋人を奪われてみたかったのではないか?」
鋭い見通しに足許を震わせながら、肇は頷いてしまっている。
そうなのだ。
恋する人を奪われたい。
もっともみじめな形で、皆に暴露されてしまうような形で、婚約者を寝取られ奪われる。
勤務中、上司が桃花をからかって、今夜は彼氏とデートかい?と冷やかすと、
桃花は人目を憚らず照れ、羞じらった。
周囲の男女も、桃花が彼氏を乗り替えたのだと知りつつも、「ふぅ~ん、お幸せに♪」などと、いっしょになって冷やかしている。
だれもが、肇が婚約までした恋人を吸血鬼に寝取られたのを知りながら、桃花の新しい恋を祝福しているのだ。
呪わしい光景。呪わしすぎる光景。
けれども――
そんな惨めな風景のなかで、どうしてぼくは恥ずかしい昂ぶりから逃れることができないのだろう?

自分を襲った悲運に、肇はいちはやく反応して、
ナイフのように心臓をえぐる悲しみは、すぐさま心の奥底からの歓びに変わっていた。
吸血鬼はいった。
「このままで済ますつもりはない。
 お前は、わしが捨てた桃花ともういちど、縁を結ぶ。そして今度こそ、ふたりは結婚する。
 だがな――そのあとのことはむろん・・・わかっておるぢゃろうの?」
ほくそ笑む吸血鬼の顔つきが憎たらしいほどに、図星を刺してしまっている。
「お礼は・・・もちろんいたします・・・」
桃花に扮した肇は、桃花になり切ったかのように、女奴隷のような科白を口にしてしまっている――


「ほんとに・・・いいの?」
きまり悪そうに、桃花は口ごもる。
「もちろん、最初からそのつもりだったから」
いつも引っ込み思案な肇のほうが、むしろずっと、歯切れがよかった。
きみを寝取られたくてたまらないんだから――とまでは、さすがにいえなかったけれど。
桃花が再び戻ってきたことに、彼の血管の隅々まで、歓びがいきわたるのを感じていた。
「でもあたし、あの人に襲われたらまた、随っちゃうよ。たぶん今度こそ、征服されちゃうからね」
肇はもう、負けていない。
「できればぼくのまえで――征服されてほしいんだ」
上ずった声に、桃花はプッとふき出していた。
「ほんとうにあなた――マゾなのね」


華燭の典は、とどこおりなく挙げられた。
その前の晩、桃花は肇の立ち合いのもとで、吸血鬼を相手に処女を捧げた。
鼻息荒くのしかかる吸血鬼の劣情に組み敷かれ、踏みにじられるような初体験だった。

なにも知らない両親が当地に向かっているあいだに、
彼らが自家に迎え入れるはずの花嫁はすでに、その身体に不貞の歓びを覚え込まされていた。
けれども桃花もまた、すでになん度も口づけを交わし合った情夫を相手に、息を弾ませて応じていって、
明日着るはずだった純白のウェディングドレスを精液まみれにされながら、
花婿を前にしての不貞に、明け方まで興じたのだった。

明日は花嫁となる桃花が、清楚なるべき盛装をこの暴君のために身に着けたいと願った時、
肇は、彼女の嫁入りが一日早まったことを理解した。

明日の華燭の典のヒロインが、
嫁入り前の白い肌を惜しげもなくさらして、
イタズラっぽい笑みさえ泛べながら、
おずおずと身体を開いていって、
市役所の係長としての責務を全うしてゆくのを、

吸血鬼が桃花がきょうまで守り抜いてきた純潔を容赦なく汚し、
蹂躙し、
しんそこたんのうし、
心まで奪い取ってしまうのを、

肇は目を輝かせ、昂ぶりに息を詰まらせながら見届けていった。

花嫁の婚礼衣装を精液で彩られてしまった新郎はその晩、
新居の畳や床までも、おなじ精液で濡らすことを承諾させられた。
もちろん悦んで、承諾してしまっていた。


「わしの兄がな、肇の母上のことを見初めおった」
婚礼の席上、ひな壇に陣取る肇にビールを注ぎに行くふりをして、吸血鬼が肇に囁いた。
え・・・?
肇はさすがにびっくりして、吸血鬼を視た。
「安心しろ、うまくやる。
 ぢゃが、事前に息子である新郎殿の了承を取ってから誘惑したいと、兄が申しておる」
――それが、ぼくに礼を尽くすということなのだろうか。いや、きっとそうに違いない。
肇はそう感じた。そして、彼の直感は正しかった。
なにもりも夕べ、吸血鬼が桃花の肉体を隅々まで味わい尽くしていったとき。
桃花の身体を、心を、ぞんぶんに愛し抜いていたことを肇は知っている。
たんなる性欲の処理行為などではなくて、
この吸血鬼は桃花のことを、しんそこ愛してしまっているのだ。
吸血鬼は花婿の目の前で桃花の純潔を辱め抜き花嫁への深い愛を示すことで、肇に対する礼儀を尽くし、
自身の花嫁が目の前で辱め抜かれるのを目の当たりにすることで、肇は吸血鬼への礼を尽くしていた。

礼服の股間が逆立つのを感じながら、肇は囁き返した。
「父のことを傷つけないのなら――」
「肇は優しい息子だな。心得た。お父上の名誉は尊重しよう」
――ぼくの名誉も尊重したくせに、桃花を犯したんですよね?
肇はクスッと笑い、吸血鬼をにらんだ。
さっきからお色直しで席を外している花嫁の白無垢姿を追いかけていった吸血鬼が、
花嫁を控室で押し倒し、さんざんにいたぶってきたことを、肇は知っている。

「妹御には、許婚がおられるのぢゃな」
「妹まで牙にかけるおつもりですか」
「むろんぢゃ。処女が好みなのは存じておろうが」
「ははー、かしこまりました。どうそ妹の純潔も、ぞんぶんに味わってください。ご兄弟♪」
妹婿になるという男とは、この場が初対面だったから、肇はさほどの同情を抱かなかった。


お色直しのたびに、吸血鬼は姿を消した。
花婿も同時に、着替えと称して座をはずした。
むろん考えることは、ひとつだった。
夕べ精液にまみれた純白のウェディングドレスは、花嫁控室のじゅうたんを彩り、再び花婿ならぬ身の精液に濡れた。
カクテルドレスに着かえた時も、いっしょだった。
新郎新婦の入場で、腕を組んで傍らに立つも桃花が、ドレスの裏側を白く濁った粘液でびっしょり濡らしているのを思い描いて、
肇はかろうじて勃起をこらえていた。

「白無垢のときね、あのひとに懐剣抜き取られて、もう身を守るすべがないのねって、すごくドキドキした」
ふたりして戻った婚礼の席で、新婦は新郎にそう囁いた。


肇の父の名誉を尊重するという約束を、吸血鬼の兄弟は律義に守った。
そのために、彼らはいささか込み入った筋書きを用意した。
最初は、肇の妹が狙われた。
「少しもったいなかったがね、他所の土地から来たものは、一発でキメちまったほうが良いのさ」
とは、吸血鬼の言い草。
夕べ新妻の桃花の処女を食い散らしたぺ〇スは、愛する妹の純潔までも、初めての血にまみれさせたのだ。
気の強い妹は、強姦されたときに引き裂かれたストッキングを穿き替えると、
気丈にも何事もなかったような顔をして席に戻り、
それ以後は彼氏の問いかけにも応じないで、式のあいだじゅう、ずうっと黙りこくっていた。
潔癖だったはずの股間を、淫らな毒液が浸潤してしまうのは、時間の問題だった。

そのつぎはいよいよ、彼の兄が肇の母を狙い想いを遂げる番だった。
肇の母の名は、登美子といった。
兄弟は、性格がよく似ていた。
両親の部屋に忍び込むとき、
「あの部屋を出るころまでには、あの女のことを登美子と呼び捨てにすることを、
 きっとご夫君から許されておることぢゃろう」
と、豪語した。

式がはねて、その晩泊る部屋に戻った肇の両親は、そこで吸血鬼の訪問を受けた。
くしくもその部屋は、昨晩当家の嫁が身持ちを堕落させたのと同じ部屋だった。
吸血鬼はおだやかに、夫妻に祝いの酒を進め、酔うままに打ち解けるままに、
自分の弟が新婦を挙式前から誘惑しつづけてきたと語り、
そして首尾よく、新郎の寛大なる理解と手助けを得て花嫁の純潔を手に入れたことを暴露した。
そのころには毒液を含んだ美酒は夫妻の血管を駆け巡り、理性を犯され始めた肇の父は、
息子が悦ぶことでしたら、それはけっこうなことですなどと、応じてしまっていた。
つぎは貴方の番ですよ――吸血鬼は意地悪く笑う。
貴方のまえで奥方を誘惑したい、黒留袖の帯というものをいちど、ほどいてみたい――とせがまれて、
せがまれるままに断り切れず――
腰の抜けてしまった肇の父は、うろたえる妻が着物の衿足をくつろげられて、帯を手ぎわよくほどかれてゆくのを、目の当たりにする羽目になった。
いけませんわおよしになって、主人のまえでと戸惑う声は、ディープ・キッスでふさがれてゆき、
肇の父も熱に浮かされたように、家内の貞操を貴方に差し上げますと誓ってしまっていた。

うろたえる夫。
うろたえる妻。
脱ぎ放たれた黒留袖を下敷きに獲物を組み敷いて、鼻息荒く迫る吸血鬼。
妻の黒留袖姿をまえに、
飢えた吸血鬼が行儀悪くよだれをしたららせながら襲い掛かるのを、
夫君はもはや制止しようとはしなかった。

そんなふうにして。
肇の父は惜しげもなく、長年連れ添った妻の貞操を、思い存分散らされていったのだ。

夫しか識らなかった股間はいかにも無防備で、
度重なる遠慮会釈ない吶喊に、分別盛りのはずの婦人の理性は、いともかんたんに崩れ落ちていった。

齢相応の分別というものをすっかり蕩かされた登美子は、
情夫に自分を呼び捨てにするのを許し、夫にも許してほしいと懇願していた。
彼の豪語は実現したのだ。
そして明け方になるころにはもう、今夜が自分にとっても婚礼だったのだということを思い知っていた。

夫君は気前良くも、きみと登美子は似合いのカップルだとふたりの仲を祝福し、
もはや登美子はきみのものだ、もしもきみが登美子をわたしから奪うというのなら、わたしは悦んできみの意向に随おう、
最愛の妻の名字を、きみの名字に置き換えてもかまわない――とまで申し出た。
しかし吸血鬼は、登美子をわしの奴隷にすることはのぞむところだが、
ご夫君のご令室のまま愛し抜き辱め抜きたいのだと希望した。
妻を犯された夫君が、吸血鬼の申し出を歓んだのは、いうまでもない。
こうして吸血鬼は結果的に、夫君の名誉を守ったのだった。

こうして吸血鬼の兄弟は、かたや弟が花嫁の純潔を勝ち得て、
つづいて兄が翌晩に、嫁の不貞を最も咎めるべきはずの姑の貞操を、辱め抜くことに成功したのだった。

夫君にも、褒美が与えられた。
最愛の妻の貞操を惜しげもなくプレゼントしたのだから、当然その資格があると、吸血鬼の兄弟はいった。
褒美とは、彼らが伴ってきた愛娘のことだった。
そう――夫君は心の奥底で、自分の娘を犯したがっていたのだった。
夫妻の血を吸い取ることで夫君の禁断の願望を悟った兄の吸血鬼に促されて、夫君は自分の娘を、その許婚の目の前で抱いた。
着飾ったよそ行きのドレスを反脱ぎにされて、肌色のストッキングを片方、ひざ下に弛ませたまま脚をばたつかせる彼女を前にうろたえる許婚に、肇はいった。
ぼくも夕べ、きみとまったく同じ体験を愉しんだのだ――と。
妹の許婚は、婚約を破棄することをあきらめて、未来の花嫁のために吸血鬼の愛人を新居に迎え入れることに同意した。

花婿二人は、獲物を取り換え合う獣たちを前に、
自分の花嫁がイカされてしまう光景にはらはらしつつも、
記念すべきその一日を、白昼の情事で極彩色に染めたのだった。


あとがき
お話、大きく前編と後編にわかれます。
前編は、結婚を控えた桃花が吸血鬼に狙われて、婚約者を裏切ってその餌食になるお話。
後編は、桃花と吸血鬼との関係を受け容れた肇の母親が婚礼の後、夫のまえで嫁の情夫の兄に犯されて、奴隷になってしまうお話。
まとまりのない話になってしまいましたが・・・どちらも好きなプロットです。^^

妻を汚されるということ。

2022年08月18日(Thu) 01:48:48

役所の車は、私用に使われることがある。
もちろん所属長が認める限りのことなのだが。
多くの職員たちはひっそりと、私用届を上司のもとに持ち届け、
上司たちは感情を消した顔つきで、しゃくし定規に判を捺す。

許可をもらった職員は、職員専用の駐車場から車を出して、自宅へと差し向ける。
そこにはよそ行きのスーツやフェミニンなワンピースに着飾った妻が待ち受けていて、
夫は華やかな装いの女を、助手席に乗せる。

行先は、街はずれのラブホテル。
あるいは、さらに鬱蒼と静まり返った古屋敷や、荒れ寺。
そこには若い女の生き血に渇くものたちが、自らの慰めを携えてくるものたちを、今や遅しと待ち受ける。

ホテルのフロントに二言三言囁くと、指定された部屋番号を告げられて。
職員は自身の妻を伴って、ドアをノックする。
そこに待ち受ける黒い影は、まず夫に襲い掛かると、首すじにかぶりついて、
息をのんで立ちすくむその妻の目の前で、夫の生き血を吸い取ってしまう。
生気を抜かれた夫が、からになったビール瓶のように客室のじゅうたんんじ転がされると、
こんどはその妻が、ベッドのうえに放り込まれて、
着飾ったブラウスを引き裂かれ、スカートをむしり取られ、ストッキングをいたぶり尽くされながら、
うつらうつらしている夫の目の前で身ぐるみ剥がれ、
引き裂かれたブラウスの襟首を持ち主の血で散らしながら首すじを咬まれ、
脚にまとうストッキングをブチブチと剝ぎ堕とされながらふくらはぎを咬まれ、
しまいには白肌をさらけ出して、犯されてゆく。

さいしょはまぐろのように横たわったまま、吸血鬼の凌辱を受け容れるがままだった妻たちも、
やがて夫の咎めるような目線に慣れ始めると、
しだいしだいに打ち解けていって、
着衣もろとも辱めようとする自身の愛人たちのけしからぬ趣向に、
わざと拒んだり嫌がったりしながらも応接するようになっていって、
しまいには夫の名前を叫びながら、よがり狂ってしまうのだった。

自分の妻が、ベッドのうえで、ほかの男を相手に娼婦のように振舞って、
結婚記念日にプレゼントしたスカートのすそを精液に浸し抜かれたり、
家の名誉を汚す淫らな粘液を、喉いっぱいに含まされたり、
主人のよりいいわぁ・・・などと、はしたない言葉を強制されるのを、
そのうち自分から口走るようになってゆくのを、見せつけられる。

妻たちが装い、唾液で汚され掌で引き裂かれ、辱められてゆくスーツやワンピースは。
かつて、結婚記念日や誕生日に、夫が自分で稼いだ金でプレゼントしたものだということを、
妻もそして吸血鬼どもも、よく心得ている。
夫たちは――自分の稼ぎで装わせた妻たちの貞操を、彼らにプレゼントすることを強いられているのだと。
いやでも自覚する羽目となる。

もはや理性を奪われた妻たちが、
四つん這いになった背後から、なん度もなん度も熱く逆立つ逸物をぶち込まれたり、
あお向けになった情夫の上にまたがって、自分から腰を使ってひーひー悶えながら髪をユサユサ揺らしたり、
間断ないまぐわいも、お互い息がぴったり合って呼吸を弾ませ合ってゆくのを見せつけられるなど――
結婚した当初には、予想もつかない仕儀であった。

夫たちは知っている。
これは妻たちから、罪悪感を取り除くための儀式なのだということを。
そしてじっさいには、
妻たちは自分たちの勤務中、家族の目を盗んで、夫の知らない密会を始終愉しんでしまっていることを。

ご念の入ったことに。
そうした事実を教えるために、妻の情夫たちはわざわざ夫に内密の連絡をとって、
留守宅に忍び込んだ夫婦のベッドの上や、
つい昨日夫のまえで見せつけたばかりのホテルの一室や、
時には街の人々が行き交う通りに面した草むらで、
彼らの妻の脚を、ストッキングの舌触りを愉しむように意地汚く舐めまわしたり、
しっかりとした肉づきをしたうなじに、舌をからませてみたり、
血を吸われることにも犯されることにも慣れ切った身体を、思い存分に弄ぶのだった。
夫たちもまた。
彼らの招待をこころよく受け入れて。
いつの間にか、最愛の妻が娼婦のようにあしらわれ、愛し抜かれてゆく有様を視る歓びに、目を眩ませていくのだった。

正の字。

2022年08月18日(Thu) 01:25:14

ひところ300人を数えたという市役所の職員は、今や200人ほどに減っていた。
なにしろ――吸血鬼に支配された街である。
相当数の市民が転居してしまい、それにつれて職員も離脱するものが相次いだ。
とうぜんのことだろう。
自分の妻や娘が吸血鬼の毒牙にかかって平気だという男のほうが、まれではないか。

けれども――すでに多くの男たちが咬まれ、吸血鬼に心酔してしまっているこの街で。
妻の貞操や娘の純潔を守り抜こうとするものは、すっかり少なくなっていた。

市役所の玄関に、奇妙な掲示がされるようになったのは、そうしたころのことだった。
正の字が、控えめな筆跡で、一本また一本と、引かれてゆく。
足取り鈍く出勤してくる職員たちが、人目をはばかるようにひっそりと、一本また一本と、正の字を引いていくのだ。
前の晩襲われた人妻や娘の数を、意味していた。

体重の約8%が血の量だと言われている。
そのうち20%も喪うと、生命にかかわるという。
だから、体重が40kgの女性だと、640mlほどが限界だということだ。
吸血鬼たちは、女性たちの生命を損なう意思はない。
なので、それ以上の血液をひとりの女性の身体から啜り取るということは、まずない。
もっと多くの血を彼らが欲する場合には、彼女の夫や娘が、餌食となる。
いちど彼らの牙の味を識ってしまったものは皆、彼らの毒に酔いしれるようになってゆく。

正の字の数からすると。
夕べ職員やその家族の体内から喪われた血の量は、20ℓにものぼった。
ひと晩のうちに、40人もの女性が、彼らの牙に弄ばれた――否、献血に協力し職員としてのキムを果たしたことになる。
夫よりも遅れて登庁した市長夫人もまた、純白のスカートのすそをしゃなりしゃなりとさせながら、誇らしげに棒を一本、引いていった。

数々の掌によって引かれた、ぶかっこうな正の字には。
一本一本に、夫たちの想いを載せている。
一本一本に、淫らに堕ちていった女たちの喘ぎが、込められている。

回りくどい告白。

2022年08月18日(Thu) 00:24:42

市長の奥さんが、吸血鬼の餌食になった。
三上の言葉に妻の優里恵は言葉を失った。
意思を喪った といっても良いかもしれない。
それくらい優里恵は、夫の上司の夫人に心酔していた。
いや、おそらくは――
この狭い街の住人のほとんどが、この高雅なトップレディを崇拝していたといっても過言ではなかった。

でも・・・そんな・・・
戸惑う優里恵にとどめを刺すように、三上はいった。
市長も、二人の仲をお認めになっているそうだ。
ご覧――
三上の指さすほうに目をやると、純白のスーツ姿の婦人が、見知らぬ男と語らっているのがみえた。
洋装のスーツを和服のような奥ゆかしさで着こなす人は、たぶんあのひとしかいない。
相手の男は市長夫人の肩にそっと手を添えると、夫人はすんなりと頷いて、すぐ目の前のビルへと消えた。
ラブホテルのロビーだった。

献血するときに、彼らが専用に使用しているらしい。
三上は妻に囁いた。
優里恵も・・・なん人かの人妻仲間から、そのことは聞き知っていた。
彼女の周囲でも、吸血鬼に身を許す人妻が続出していたのだった。

こっちへおいで。
三上は優里恵を、路上に連れ出した。
陽射しのまっすぐな表通りを、夫婦肩を並べて歩いていると、優里恵は少しだけ、冷静さを取り戻した。
けれども、彼女が取り戻しかけた理性はすぐに、もうひとつの情景のまえに、粉みじんに砕かれることになる――

こっち、こっち。
まるでいけないものをのぞき見しようとする悪い男の子のような顔をして、夫は優里恵をいざなってゆく。
たどり着いたのは、市役所近くの公園だった。
広々とした公園は緑が豊かで、街なかにあるとは思えないほどの奥行きを感じさせ、市民の憩いの場となっている。
三上はその公園の入ってすぐの片隅の、芝生の奥へと足を踏み入れてゆく。
遊歩道から離れ、あまり人のいない一角だった。
生垣の向こうに、優里恵は異変を感じた。
なにかまがまがしい気配が、どす黒く蠢いていた。

視て御覧。
夫に促されるままに生垣の向こうを覗き込んだ優里恵は、はっと足許をこわ張らせた。
肌色のストッキングに包まれた豊かな肉づきを、三上は我妻ながら惚れ惚れと盗み見る。
硬直しきったふくらはぎは、やや硬く筋ばっているようにみえたが、
それがまたカッチリとした輪郭をきわだたせ、四十にはまだだいぶある女の肉づきを、艶めいたものにしていた。
このふくらはぎに遠からず、吸血鬼の牙が食い込むのだ――
忌まわしい想像にそれでも三上は、歪んだ昂ぶりを覚えずにはいられない・・・

見開かれた優里恵の眼は、生垣の向こうの情景にくぎ付けになっている。
それもそのはずだった。
そこにいたのは、見知らぬ男と、官舎では向かい合わせに住む、町村助役の夫人・規美香の姿があった。
規美香とはしばしば行き来があり、つい先日も連れだって、デパートに買い物に行きランチをしたばかりだったのだ。
しかしそこに横たわる女は、いつもの快活な規美香ではなく、別の女だった。
きちんと着こなした上品なスーツを惜しげもなく着崩れさせて、
はだけたブラウスから覗く胸は、取り去られたブラジャーを押しのけるようにして豊かに熟れた乳房をあらわにし、
スカートを脱いでこれまた惜しげもなく曝された太ももの周りには、
ずり降ろされたストッキングがふしだらな弛みを波打たせまとわりついている。
淫らな吐息もあらわに戯れる、娼婦のような女――
それが目の前にいる女だった。
助役夫人の首すじには、バラ色のしずくを滲ませた咬み痕がふたつ、綺麗に並んで付けられている。

びっくりした?
夫の問いに頷き返すことさえ忘れて、優里恵はふたりの痴態から目を離すことができなくなっている。
白昼、陽射しの照りつけるさなか。
慣れ親しんだ同性の友人が、それも夫の上司である助役夫人が、見知らぬ男と痴態に耽り、別人のように乱れ果てている。
ショッキングな光景は優里恵の脳裏に狂おしく灼きついて、声を発することも、知人のふしだらをとがめることも忘れ果て、
その間に彼女の理性はまるで紅茶に沈んだ角砂糖のように、脆くも崩れ果てていくのだった。

幻惑された。そういってよかった。
忘れられない光景だった。あのひとが、規美香夫人が、夫のいる身で娼婦になり果てるなんて。
さりげなくさらけ出された、自身よりも秀でているように映る肢体が、男の逞しい体躯に、白蛇のように絡みつく――
スカートの奥に秘めた下腹部に、なにかがジワリとしみ込むのを、彼女は感じた。

行こう。
囁く夫の言に随って、彼女はわき目も振らずに現場から離れた。

視たよね?
視たわ。
どう思う?
どう思うって・・・ふしだらだわ。
愛し合っているとしても・・・?
そんな馬鹿な。
人の心は、裏まで見通せないものだからね。
いつも子供っぽいと思い込んでいた夫の声音が、どことなく深々と、優里恵の胸に食い込んだ。
視て御覧。
もういや。
でも、もういちどだけ――
彼方になった生垣の向こう、男女はすでに起きあがっていた。
そして優里恵は、もういちど、目を見張ることになる。

どこから立ち現れたのか、そこには規美香の夫・町村助役の姿があったのだ。
勤務の中を抜け出してきたのか、助役は夫と同じく背広姿だった。
彼は、さっきまで自分の妻を犯していた男と和やかに言葉を交わし、男もまた慇懃に、助役の声に応じている。
なにを話しているのかまでは聞き取れなかったが、二人がそう険悪な関係でないことは、容易に伝わってきた。
ご主人何も知らないの・・・?
優里恵が夫にそう囁こうとしたとき、その唇は凍りついたように止まった。

町村助役のまえ、男は規美香を我が物顔に引き寄せると、優しく抱き留めて、深々としたディープ・キッスを果たしたのだ。
夫である助役は控えめに傍らに佇んだまま、むしろ二人の様子をまぶし気に見つめている。
男は規美香の手の甲に接吻をして、いちどはその場から離れようとした。
ところが助役はふたりの間に入ると、妻と男の手を捕まえて結び合わせるように手を握らせると、
妻に二言三言囁いて――離れていったのは男のほうではなく、助役自身のほうだった。

助役夫人はそのまま、未知の男と腕を組み、まるで恋人同士のようにしてその場を立ち去ってゆく。
向かう先が、さっき市長夫人が不貞の場に選んだホテルの方角だと、優里恵にもすぐにわかった。

視たね?
視たわ。
あのひとは、吸血鬼のなかでも四天王と呼ばれるほどの大物なんだ。
日常的に献血に応じてくれるご婦人を最低一ダース必要とする、精力絶倫のひとだそうだ。
ご夫婦が散策しているところをたまたまあのひとが見初めて、助役夫人に「奥さんの血を分けてほしい」と望まれたそうだ。
助役はあのひとの奥さんに寄せる好意をかなえてあげることにして、
その晩――奥さんはあのひとの恋人にされたそうだ。

先日市役所で通達が流れてきた。
市長夫人が吸血鬼への献血に応じたことを自分から表明して、
ほかの市役所職員のご家族や女性職員に向けて、献血事業への協力を呼び掛けたんだ。

夫人が堕ちた日は「恩恵の日」と呼ばれることが正式に決定して、
その「恩恵の日」より前に吸血鬼に身を許した女性は、
「軽はずみな娼婦」と呼ばれることになって
市長夫人よりも身持ちの堅かった――つまりまだ貞操を保持している人妻は、
「身持ちの正しい賢夫人」と呼ばれることになったんだ。
だからきみは、「身持ちの正しい賢夫人」ということさ。
まだ、どの吸血鬼にも襲われていないのだろう?

ええもちろんよ・・・優里恵は言いかけたが、なぜかそれは言葉にはならなかった。
そして、夫の言葉は彼女の顔つきを、完全に凍りつかせることになる。

「あのひと、つぎはきみを餌食にと狙っている。きょう、本人から望まれたんだ」

回りくどい告白ね。
すごくすごく、回りくどい告白ね。
優里恵は微笑んだ。微笑もうとした。けれどもうまく微笑むことはできなかった。

市長夫人の行動を夫である市長から教わり、
分別盛りの齢ごろの妻が市民の憩いの場の片隅で「あおかん」に及ぶことを助役から教わり、
そのうえで、きょう受けたという告白を妻に伝える――
うろたえながらもこれだけの段取りを果たした三上のことを、優里恵は有能なやつだとおもった。
有能な職員の妻は、やはり夫に見合った役目を果たさなければならないと、同時におもった。

身体の奥がビクン!と、衝動にわなないた。
恥を忘れて夫のまえで淫ら抜いた規美香の姿が、ありありとよみがえった。
こんどは――私の番だ。
規美香は感情を消した笑顔を夫にむけて、いった。

じゃあ私も、娼婦になっちゃってかまわないのね?
いま穿いているパンスト、あのひとのよだれで濡らされちゃったり、咬み破らせちゃったりしても良いのね?
三十代の人妻の熟れた血――愉しませてあげちゃって、かまわないのですね?

今夜、お招きしようと思う。きみという御馳走を、あのひとに振舞うために――
十二になる娘の由香は、母の家に預けよう。
そして、妻がまだ若いうちjに吸血鬼の牙を、舌を、喉を愉しませる幸運に、俺も浸り抜こう。

十数年連れ添った妻を堕とす段取りを整えてしまった男は、いつか自分の股間をいびつな昂ぶりにゆだね始めてしまっている。

歪められた統計

2022年07月24日(Sun) 22:13:16

柔らかな肌色のストッキングを脚に通して、
つま先にはカッチリと輝く、白のハイヒールに足の甲を反らせて、
コツコツという硬質な足音が、純白のタイトスカートのすそをさばいて、市長室を目指していく。

壬生川京子(56)は、市長の夫人。
そして壬生川市長はいま、畢生の問題に取り組んでいる最中だった。

「減っておりますのね」
低く透き通る響きの声に、市長は振り返りもせず、「ああ」とだけこたえた。
ふたりの視線の行く先には、針広げられた方眼紙のうえに赤い線でなぞられた、折れ線グラフ。
去年の秋をピークにダウントレンドに転じたその折れ線は、今や鎮静の一途をたどっている。
最悪期には、一日百件以上を記録した事案――
それは、吸血鬼に襲われた市民の数だった。


去年の夏が、初めてだった。
下校途中の女子高生が襲われて、瀕死の重傷にまで追い込まれた。
原因は、極度の貧血。
証言から、彼女が首すじを咬まれて、血液を経口的に、それもしたたかに吸い取られたことが判明した。
以来、勤め帰りのOLはもちろんのこと、家にあがりこんでうら若い主婦を狙うものまで現れるしまつだった。
招待されたことのない家には立ち入ることができない――という言い伝えはどうやら本当のようだったが、
彼らのなかには一般の市民も少なからず混じっていて、
そういう者たちが、顔見知りの人妻を目当てにする吸血鬼のため、手引きをしているのだった。

襲われるのは女性が主だったが、男性にも魔手は伸びた。
特に、いちど襲われた女性の夫や父親が、狙われた。
それ以来。男を襲われた一家から、同様の被害届が出されることはなくなった。
特定の女性がなん度も狙われるケースが目だったが、やがてそうした被害届も、出なくなった。


市長の知人の妻が吸血鬼に襲われ血を吸われ始めたのは、去年の秋のころだった。
有夫の婦人、あるいはセックス経験のある女性が襲われると、ほとんどの場合犯された。
ことのついで――ということなのかと、市長は訝ったが、
情報提供に応じてくれた被害者の夫は、どうやら本心から好意を持つらしい――と告げてくれた。
彼らは多くの場合、まっとうな結婚ができない。
けれども、かつては人間であり、暖かい血を体内にめぐらしていた過去を持つ彼らは、人並みに女を愛さずにはいられないのだった。

市民から提出される被害届は、この半年で目だって減っている。
体面や外聞を憚って被害届を取り下げる者もいたが、
もっと別な理由――自分を襲った吸血鬼、あるいは自分の妻や娘を襲った吸血鬼への好意や共感から、
被害届の提出を思いとどまるものが、少なからずいるという。
「自分の奥さんを犯されたのにかね?」
市長はさすがに顔をあげて、知人を見た。
エエそうなんです、と、知人はこたえ、
彼らは大概、犯した人妻のだんなも狙いますからね――と、意味深なことを告げた。

だいぶあとからわかったことだが、血を吸われたもの同士のあいだは、同じ運命をたどった人の首すじの咬み傷が見えるという。
知人は早い段階で咬まれ、妻同様生き血を吸い取られていた。
そして――血を吸われる快楽に目覚めたものたちは、だれもがくり返し吸われることを望み、
自分の妻や娘が生き血を餌食にされ、みすみす犯されてしまうのすら、許容するようになるのだった。


「減っているのは表向きだけだ」 市長がいった。
「わかっておりますわ」 京子夫人がこたえた。
「けれどもこれは、良い傾向なのだ」
市長は自分に言い聞かせるように、いった。

市長は街のあらゆる有力者たちとくり返し会合を持ち、ひとつの結論に達した。それが、去年の初冬のころだった。
知人夫妻を通して透けて見えた彼らの意図は、ごく穏便なものだった。
人の生き血が欲しい。
女のひとを抱きたい。
そうした欲求をさえかなえてくれるのであれば、必要以上に暴れることはない。まして人の生命も奪ったりしない。
それが、彼らの意向だった。
じじつ、いまのところ、吸血事件で命を落としたものはいない。
けれども彼らと対立を深め、吸血行為を弾圧すればきっと、望まざる犠牲者の出現も間近いはずだった。

市長は彼らとの間に、協定を締結した。
彼らの欲望を満たすことを妨げない代わりに、市民の安全を保証してほしい――と。

吸血鬼との協定を独断で結んだことには、激しい反撥がうまれた。
市長は女性の名誉を守らないのか――とまで、糾弾された。
吸血鬼の横行する街に、自分の妻や娘を歩かせたくないという人々が、多く街を捨てた――
いまでは街に残った大概のものが、自分自身や家族の血液を、彼らの渇きのために提供するようになっていた。

さいしょの被害者であった女子高生は、初めて自分を襲った吸血鬼に、純潔を与えたという。
つぎに咬まれた勤め帰りのOLは、自分を咬んだ相手に婚約者を紹介し、ふたりで吸血される歓びに目ざめると、
未来の夫が視ているまえで、小娘みたいにはしゃぎながら犯されていったという。

何よりも。
市長自身が、模範を示さなければならなかった。
彼には、京子夫人とふたりの娘がいた。
50代となっても美しく気品をたたえた京子夫人は、自身が狙われるのと引き換えに娘たちの安全を願ったが、
そうはいかないことはだれよりも自覚していたし、娘たちもまた、健気に母の意向に随っていった。

上の娘はすでに結婚していたが、里帰りする度に、夫には内証で吸血鬼の相手を務めた。
妹娘は通学している女学校の授業中に呼び出され、空き教室で男の味を覚え込まされた。
それでも市長の一家は以前と変わらず睦まじく、何事もないかのように暮らしている――


あとがき
ひどく説明的な文章に。。。 (^^ゞ
つづきは描くかもしれず、描かないかもしれず・・・ (笑)

吸血鬼を受け容れた街の記録。

2019年09月30日(Mon) 09:19:14

はじめに
ひところ描きためていたもののあっぷです。
上記のテーマで散発的に描きつづけていたのですが、読み返してみるとひとつのストーリーとしてそんなに破たんはしていないようなので、一括してあっぷしてみます。
吸血鬼と和解して、人命の保証と引き替えに彼らに市民の血を自由に吸わせることになった街の日常を、いろんな目線から語ってみようと思ったのですが・・・まあ似たり寄ったりの目線にしかなっていないみたいです。(苦笑)
途中途中に描いた日付を入れています。かなり前後しながらも、ぶれないお話を描こうとしていたみたいです。
「構想」としていますが、その実ほとんど変えていません。


タウン情報

○○市は、吸血鬼との共存を目指すため、来月1日から「吸血鬼親善条例」を施行、吸血鬼の受け入れを積極的に促進する。
近年吸血鬼による襲撃被害が続出していることに対応した措置。
具体的な施策は、居住地のあっせん、子女の公立学校への正式な受け入れ、暫定戸籍の整備、供給する血液を確保するための血液提供者の募集など。
吸血鬼の子女を対象とした学校への受け入れには、一部の私立学校も追随する見通し。また、血液提供の希望者には、市からの一定額の謝礼が支給される。
すでに吸血行為を体験した市民は少なくなく、市の担当課は、新規の血液提供者を大々的に募集する必要はなく、日常生活への影響は軽微であるとしている。
なお、この措置を受けて、吸血鬼側は人命を損なう恐れのある吸血行為を今後控えることを表明した。


校内だより  「吸血鬼受け入れのお知らせ」

来月1日から、当校は吸血鬼の生徒を受け入れます。
転入学に際しては、教職員、生徒及びその父兄をみだりに吸血の対象としないことが条件となっているため、生徒や父兄の皆様に必要以上に危害を及ぼす事態は発生しないものと思われます。
生徒、父兄の各位においては冷静な行動を取るようにお願いする次第です。
なお、転入者との親睦を深めるため、当校では生徒・父兄を対象に吸血鬼のために血液を提供する希望者を募集します。
年齢は13歳から60歳まで。健康な方で、男女を問いません。
面接は随時受付け、採否は本人のみに通知し、秘密は厳守されます。
生徒の安全を確保するため、各位の積極的な応募を希望します。


タウン情報 「変わる学校 父兄の協力求める市」

市内の学校では、吸血鬼受け入れについて父兄の間で不安が広がり、一部の生徒には転出の動きもみられた。
ただし、すでに吸血鬼は市内で日常的に活動しており、顔見知りの吸血鬼がいるという市民や吸血鬼の出入りを受け容れているという家庭も少なくないことから、動揺はむしろ限定的であるとも伝えられている。
反対に、「実態が不明であったものが明らかにされることで日常生活上の不安がなくなる(公立高校の父兄)」といった声もきかれ、同級生の吸血鬼のためにクラスの約半数が血液の提供を希望している学校もある。
市の担当者によると、「今回の措置は、すでに市内に浸透している少数弱者を保護するためのもので、吸血鬼と市民との平和的共存が趣旨。市民の皆さまは決して動揺することなく隣人との和解、懇親を心がけてほしい」と話している。


校内だより

当校では来月から、血液を求めて来校する方々への奉仕を充実させるため、当番制を導入することになりました。
月初以降、下記の順番で吸血鬼を対象とした奉仕を実施します。

3年1組 2組 3組 (各出席番号順)
1年生のうち希望する生徒
教職員 (担任については、生徒引率時に奉仕を行う)
2年1組 2組 3組 4組 (各出席番号順)
3年生のうち希望する生徒
教職員 (担任については、生徒引率時に奉仕を行う)
1年1組 2組 3組 4組 (各出席番号順)
2年生のうち希望する生徒
教職員 (担任については、生徒引率時に奉仕を行う)

来校する吸血鬼は日によって増減があるため、進度は未定です。
奉仕が1週間以内となった生徒を対象に、父兄の皆様には個別に通知いたしますので、
ご子息・ご令嬢の体調管理にご留意いただき、当日はストッキング・ハイソックスを着用の上登校させるよう指導をお願いします。

(描き下ろし)


タウン情報 「”被害”ではなく”親善” 微妙なケースも」 

吸血鬼親善条例が施行されて、きょうで約1ヶ月となる。一部で懸念された混乱はなく、市民の間には平穏な日常が保たれている。

去る17日、下校途中の女子中学生3名が転入したばかりの吸血鬼の集団に襲われ、吸血、暴行される出来事が発生したが、その後被害に遭った女子生徒とその家族、女子生徒と交際中の男子生徒らとの間に和解が成立。3名の女子生徒は吸血鬼との交際を受け入れた。被害に遭った女子生徒の交際相手である男子生徒は、「彼女が犯されてしまったのは残念ですか、今では状況を理解し前向きに受け容れています。彼女が血液を提供するためにお相手を訪問するときには、彼女の負担を減らすために二人で行くようにしています。母も協力してくれるので、心強いです」と話している。

また、条例が施行された当日の1日には、帰宅途中の三十代の夫婦が吸血鬼と遭遇して、夫婦とも失血のため昏倒した事案も発生している。一時、夫が全治2週間の負傷、妻が複数の吸血鬼による性的な暴行を受けたと伝えられたが、その後吸血鬼と夫婦との間に和解が成立。夫は「性的な関係は生じたが、"暴行"ではなかった」と証言し妻もそれを認めたため、これも事件として取り扱われていない。加害者の吸血鬼と夫婦はその後親しく行き来しており、大きな問題は生じていないもよう。

このようなケースは他にも少なくとも数件発生しているが、「直後に和解が成立したケースは事件として取り扱わない(吸血鬼親善対策室)」という市の方針から、深刻な紛争には至っていない。
トラブルの多くは条例の施行後に市内に転入した吸血鬼によるもので、いずれも旧来からの居住者である吸血鬼が和解を仲介しているという。こうした市の対応には、「丸投げではないか」と一部から疑問が提起されているが、吸血鬼親善対策室は「担当部署では旧来から居住している吸血鬼に協力を仰ぐため、彼らとの意思疎通に腐心している。彼らと懇親を結ぶためにほとんどの職員が自身はもとより夫人や子女の血液を自発的に提供するなど誠実に取り組んでいる」と反論、理解を求めている。


生徒の提出作文(上記男子生徒による作文。卒業文集より転載)

彼女を吸血鬼に捧げたお話

ぼくの彼女は、ぼくが3年の2学期のとき、吸血鬼に犯されました。
当時彼女は2年生。同じ課外クラブてま知り合いました。
そして、(親にも内緒だったのですがら)彼女が1年の冬休みに、ふたりは初めて結ばれました。未熟者どうしの関係だったから、文字通り"手探り"のセックスをくり返す日々。友だちには早すぎると言われましたが、毎日が夢中でした。確かに早かったかもしれませんが、お互いにお互いを"最初で最後の異性"だと、いまでも思っています。

結ばれて半年ちょっと経った9月から、市が吸血鬼との親善条例を施行して、ぼくたちの学校にも吸血鬼がおおっびらに出没するようになりました。けれども、彼らはもともと生徒や父兄、先生や職員のあいだに紛れ込んでいたし、来賓として学校に堂々と出入りしている吸血鬼までいたので、条例じたいにそんなに違和感を感じていませんでした。時おり先生がたが、あらかじめオーケーしている生徒たちを空き教室に集めて来賓の吸血鬼に応接させたり、自分たちも手本わや見せたりしていました。それも順番に予防接種でも受けるような身近な感じがしたので、彼女とも「いつか咬まれちゃうかもネ」って話したこともありました。セックスの経験のある女子は咬まれたときに犯されることも聞いていましたが、ぼくたちの学年でそうした女子がほとんどいなかったので、あまり実感がありませんでした。(なんとなくは、警戒してたけど)

彼女が友だちと連れだっての下校中に吸血鬼に襲われたときいたのは、そんなある日のことでした。教えてくれたのは、母でした。ぼくたちの学校ではPTA のつながりが強いこともあり、こういう情報は早いのだと、母は言いました。話題が話題なので、ぼくにその話を切り出すときも母はおっかなびっくり、腫れ物に触るような態度でしたが、ぼくはむしろ「とうとう"順番"が回ってきてしまった」という気持ちでした。当時の新聞を読み返すと、「彼女が犯されてしまって悲しい」と書かれてありますが、いまの記憶では、むしろ、「ずっきん♪」ときてしまった部分のほうが大きかったような気がします。

彼女がどんなふうに抵抗したのか、
どんなふうにねじ伏せられたのか、
どこを咬まれてどんな感じがしたのか、
彼女を咬んだ吸血鬼は彼女の血を気に入ったのか。
彼女のほうではどうなのか?

気になって仕方ありませんでした。
すぐに彼女に会いに行きました。
彼女の家には、彼女以外にだれもいませんでした。
彼女は一人きりで泣いていたようでしたが、ぼくを家に入れてくれると、「ヤられちゃった♪」と、照れくさそうに笑いました。それからぼくたちは、長いことセックスに耽りました。
ぼくしか識らなかった身体には、彼の痕跡がありありと残されているような気がしました。ささいな仕草とか声とかが、いつもと違っていたからです。
けれどもぼくは、恥ずかしいことにそうしたことにさえ昂奮してしまって、「ユウちゃん、あたしのこと犯されて昂奮してるでしょ?」と図星を指されからかわれてしまいました。
なによりほっとしたのは、彼女のぼくに対する態度が変わっていないことでした。
吸血鬼とのセックスが気持ち良いあまり夢中になって、ぼくとのことを忘れられてしまっていたら、それこそ悲しかったですが、そんなことは全くありませんでした。
「咬まれたり犯されたりしているあいだ、ずっとユウくんのこと考えていた。怒られちゃうかな、嫌われちゃったら悲しいなって」と、彼女は言ってくれました。やっぱり彼女は最初で最後の女(ひと)なんだと思い、やさしく抱きしめてあげました。
これからのことも、彼女とじっくり相談しました。
彼女を襲った吸血鬼とは言葉を交わすことができて、「きみは彼氏のことを本気で愛しているようだから、仲を裂くつもりはまったくない。むしろ仲良くしなさい」と言われたそうです。それでも吸血鬼は彼女のことをあきらめたわけではなくて、つぎの週のおなじ曜日に逢おうと約束していました。彼女も、その約束は守るつもりだと言いました。
彼女が犯されているあいだ、ずっとぼくのことを考えていたのは、ぼくにすまないと思ってくれたからではあったのですが、そのなん分の一かは、「楽しんじゃってごめんなさい」だったのです。
そのときぼくはほんのちょっぴりだけムッとしましたが、いまでは違います。
彼女と同じ吸血鬼に咬まれて気持ち良いし愉しいと感じてしまいましたから・・・
彼女の生き血を奪われたことに対しても、ぼくは吸血鬼に嫉妬していました。そしてなによりも、

彼女はどんなふうに抵抗したのか、
どんなふうにねじ伏せられたのか、
どこを咬まれてどんな感じがしたのか、

そんなことが、とても気になっていたのでした。
吸血鬼が彼女の血を気に入ったことや、
彼女も吸血鬼のことを憎からず思っていることは、すでに忌々しいほど、わかってしまっていたのですが。。

ぼくは彼女に、これからすぐに彼に逢おうと言いました。
ぼくもいっしょに咬まれてあげると言ったら、彼女はホッとしたように頷きました。
びっくりしたのは、ふたりで出かけるときに彼女が、それまで着ていた目だたない普段着からよそ行きの服に着替えたことでした。
気になる男性のまえでは、すこしでも綺麗でいたいという女心を、意識しないてまはいられません。
ぼくとのデートのときも、彼女はいつもおめかししていました。だから、その日の彼女のおめかしも、ぼくといっしょに出かけるためではあったはずですが、同時に自分を咬んでモノにした吸血鬼のためなのだと感じたのです。

そんなぼくの気分を、彼女はしっかり見抜いていました。
わざわざ、「あなたたち二人のためにおめかしするんだよ」と、言ったのです。
その上には、「これからは」の接頭語がついているの?とぼくが訊くと、
「ヤーダ、国語の優等生!」とからかわれて、はぐらかされてしまったけれど。。

彼女のうら若い血を奪われたことに嫉妬を覚えたぼくは、当然のことながら、彼女を犯されたことにも嫉妬を感じていました。
けれども、好奇心のほうがまさってしまったのです。
ぼくは、ぼく以外の男に彼女がどんなふうに反応するのか、気になって仕方がなかったのです。

目のまえで彼女を咬まれ、犯されたときの感想ですか?
それはちょっと勘弁してください。(この作文を読んだ皆さんが、一番知りたいことだろうけど)
いま、ぼくにそのときの心境を正直に描きとめる力はありません。
ただいえることは、彼女が吸血鬼に咬まれに行くときにはなるべくぼくがエスコートして、2回に1回はその場に立ち会っている・・・ということだけです。
それでも、時には彼女はぼくに内緒で彼と逢ったりしているらしく、そのことをあとで彼から聞かされたりすると、かなり妬けてしまうのですが・・・

(ここまで7月28日~8月3日構想)



地元新聞

「ハイソックスを着用している健康状態の良好な男女生徒、若干名を募集します。該当する生徒は、302教室に集合してください」
「ストッキングを着用している健康状態の良好な女子生徒、若干名を募集します。女子の制服とストッキングを着用した男子生徒もOKです。該当する生徒は・・・」
授業中の教室に流れる校内放送に、教師も生徒も一瞬発言を控えて聞き入る姿が、地元の中学・高校で頻繁に見受けられるようになった。
校内に来賓として現れる吸血鬼に向けての対応である。
中学2年のクラスを受け持つ鹿村京子教諭(32、仮名)は語る。
「こういうとき、教師も指定されている場合には、率先して生徒を引率するんです。初体験の生徒や経験の少ない生徒の不安を取り除くために指示されました」
引率する教諭は、応接前に生徒の服装をチェックすることが定められている。
ストッキングを穿き慣れない女子生徒の足許を入念に点検し、ストッキングのねじれを直す姿などがよく見受けられるという。

鹿村教諭の受け持ちのクラスの生徒は、すでに全員が吸血鬼への応接を体験している。
「最初に漏れのないよう、出席番号順に呼び出されましたから、全員が体験者です。担任はその都度生徒を引率しました。クラス持ち回りだったので、貧血で倒れることはかろうじてありませんでした」
セックス経験のある女性が吸血の対象とされるときには、性的関係も結ぶことになる。秋に結婚を控える鹿村教諭にそのあたりの事情を取材すると、
「質問は生徒の引率のことだと聞いたのですが」と、やんわりと回答を拒否された。
ちなみに生徒たちに取材すると、鹿村教諭の最近のあだ名は「娼婦」だということである。

●●高校2年の林田直樹君(17、仮名)と井尾谷佳織さん(17、仮名)は、周囲にも認められた相思相愛のカップル。林田君によると、
「募集の放送がかかったときには、彼女と2人で行くようにしています。知らないところで何をされているのか心配しているよりも健全なので・・・エエ、井尾谷さんは処女なので、そちらのほうは心配ないので。ただ、彼女は吸血鬼の間でも人気があるので、目のまえで吸血されると嫉妬しますけどね」と、はにかむ。
井尾谷さんによると、最近彼女を特に指名する吸血鬼が2~3人できたという。
「”またあの人だね”って、彼と言い合いながら教室に行くんです。犯される心配はないのですが、ブラウスを脱がされたりハイソックスをずり下ろされたりといったことは普通にあるので、彼がやきもちを妬くんです。彼氏の前で乳首を舐められたときにはさすがに恥ずかしくて、対応に困りました」と、こちらも照れ笑い。
嫉妬しているところをばらされた林田君は笑って彼女を小突いていた。
「好きですから、嫉妬するのは当たり前です」と、笑いにも屈託がない。
「高校を卒業するまでには処女を卒業します」という井尾谷さん。「お相手はどちらに」という記者からの質問に、「微妙ですね」と意味深な反応が返ってきた。
「彼女の初体験を見せつけられるほうにも、最近興味があるんです」と語る林田君。
井尾谷さんの純潔の行方は、たしかに「微妙」な状況にあるようだ。

市内の中学・高校の中には当番制を採用している学校もあるが、詳細の対応については「市では一元的な指導は行わず、学校ごとに一任している(吸血鬼親善対策室)」としている。

(ここまで8月25日構想)



地元新聞 「冠婚葬祭の実態も一新 吸血鬼向けにリニューアルされる施設」

市内の結婚式場「しあわせホール」は施設を一新、来月1日から再オープンした。
今回の新装の眼目は、吸血鬼の出席者への対応。花嫁が披露宴の席上ウェディングドレス姿で襲われるケースが多発していることから、ホールのスペースを従来よりも2割~3割程度拡張し、出席者全員が吸血され犯される花嫁のあで姿を展観できるよう配慮された。
新郎、新婦の母親や新婦の友人代表も同時に襲われて交接を遂げられるケースが多いため、ホール中央に男女数組が交接できるスペースを設ける。吸血鬼の出席者を多数受け入れる披露宴の場合、交接の対象者が拡がり宴がエスカレートするケースもあり、「中央スペースの広さは従来の披露宴での実例を参考に設計したが、様子をみてさらに拡げることも検討する(式場担当者)」という。
失血により体調を崩した出席者のための応急対応に備えた救護室や、披露宴で生まれたカップルのための個室も用意される。披露宴で吸血の対象とされるのは既婚女性が多いため、カップル用の個室には夫など家族の控え室も用意されているという。「吸血鬼と二人きりになった奥さんのことが心配というご主人は毎回多いので、控え室付きの個室は1ホールにつき40室と多めに設置している。野外での交接を希望するカップルや、個室が行き渡らない場合には庭園をご利用いただけるよう、外部との境界には高い壁と植え込みを設けている(同)」
実際に野外の庭園の利用頻度は高く、「皆さんに視られながらのセックスで、いままでのマンネリ気分が一掃された(結婚歴10年以上のご夫婦)」や、「開放的な気分になって、彼氏以外に抱かれても抵抗なく受け入れることができた(来月結婚を控えた彼氏と同伴した独身女性)」といった声もきかれている。
「吸血鬼が増えたこの街でも、年配者の方々を中心に"妻を吸血されたり犯されたりするのは恥ずかしく不名誉なこと"ととらえる人がほとんど。ご令室やご令嬢を吸血の対象として提供を強いられるそうした方々への配慮も怠らず、吸血鬼と人間との親善が生まれる場となるよう努めたい(式場担当者)」といわれるように、まだ意識の古い男女も少なくないが、そのぶん「個室の利用頻度は予想以上に高い(同)」ともいわれ、新規の設備は有効に稼働しているようである。
当日の花嫁と花婿以外にも、多くのカップルが結ばれる場として、地元結婚式場の果たす役割は大きい。

(ここまで7月27日構想)


地元新聞 「吸血鬼に支配された結婚式場 ”歓び”に目ざめる招待客」

「しあわせホール」で、市外からの利用が増えている。
市民の結婚式に参列した経験のある男女がリピーターとして訪れているようだ。
その中の一人である園かなさん(23、仮名)は語る。
「初めて来たのは、友人の結婚式でした。その場で吸血鬼に襲われて以来、病みつきになってしまって、あまりつきあいのない人の結婚式にもすすんで出席しています。彼氏はいますが、ここの存在はまだ秘密にしています。将来結婚するときには、ぜひ利用したいです。彼氏のお母さんが厳しい人なので、ぜひここの流儀に慣れてもらいたいと思っています」
「複数の吸血鬼と関係ができてしまったので、言いにくくって」と本音を漏らしたかなさんは、屈託なく笑う。
すでに性的な関係を結ぶ特定の吸血鬼も複数いるというかなさんの顔に、曇りはない。

都会で大手企業の重役を務めるFさん(53)も、知人の披露宴に出席して被害に遭ってから、家族ぐるみで式場を積極的に訪問するようになった一人だ。
甥の結婚式に家族で参列したことが、Fさんの運命を変えた。
Fさんの過去を長男のHさん(27)が代弁する。
「従兄の結婚式には、わたしも妻を伴って参列しました。当時新婚三か月だったのですが――ご承知の通りの展開となりまして、妻も披露宴に居合わせた8人の方に犯されました。吸血するのは当然吸血鬼の方々なのですが、乱交タイムになると普通の人間の参列者も加わるんですね(笑)。そのうちのなん人かとは、妻がわたしの時よりも燃えている感じで・・・かなり妬けました。
母は厳しい人なのですが、それでもお1人だけ経験しました。吸血鬼のなかに仕切っている人がいて、”大勢は駄目”というタイプの女性を見抜くんだそうです。たしかに、妻が体験したようなことは母には不似合いというか――ですから父の隣に座っていた人(あとで吸血鬼だとわかりました)がしきりに父にお酒を勧めていて、日ごろ気難しい父が意気投合しているのが意外でした。
人妻を狙うときの最適任者は、ご主人とウマの合う人だそうですが、母の相手は父との相性で選ばれたみたいです。そのまま奥の部屋に手を引かれていって・・・ですから、”決定的瞬間”を目にしたのは、父だけなんです。
妻がなん人めかの男性と夢中で交わるのを前に目のやり場に困っていると、その前に妻をモノにした別の男性から声がかかって、奥であなたを呼んでいるからと・・・披露宴の広間に隣り合わせにいくつも小部屋があるのですが、母はその中のひとつにいました。ちょうど入れ違いに出てきた父が、”あまり視るものじゃないよ”とたしなめるように呟いたのは憶えているのですが、そこで母が父とは別の男性に抱かれていました。よく気づかいをする人で、心のつながりができているなと感じるようなセックスでした。身持ちの堅い母までもが堕ちてしまうのだと思うと妻の行状にも初めて納得がいきました。
それから妻のところに戻ると、わたしも乱交の仲間に加わったのです。妻の両肩を抑えつけてほかの男性に促したり、わたし自身もまたがっちゃったり・・・妻にはあとで軽く叱られましたけどね」
さいごは照れくさそうに首をすくめたHさんも、奥さんともどもかなり楽しんだようだ。
その時のご縁で吸血鬼1人、人間の男性2人と親密になったHさんの妻は、いまや「しあわせホール」の常連。交際相手の男性と示し合わせて、直接関係ないカップルの結婚式にも参列してお祝いをするという。「人の少ない披露宴だと、私たちのようなエキストラの招待客も歓迎されます。人数が多いとその分、場が華やぐからだそうです。私も若い女性の中にカウントしてもらえるので、そこそこうれしいですね。そこでお嫁さんが犯されるのを鑑賞してから、ダンナを裏切るんです(本人談)」という。
それでも夫婦仲が安泰なのは、「しあわせホール」への参列がいつも夫婦同伴であるところに現れていた。
息子夫婦の暴露を受けて、Fさんもようやくひと言だけ、重い口を開いた。
「遺憾ながら、家内のお相手は家内ととてもお似合いです。それが、重役夫人の名誉を汚すことを認めた理由です」


地元新聞 「黒のストッキングはお好き? 冠婚葬祭場でも”吸血・不倫の舞台”を演出する”ダミー法事”が続出」

市内の結婚式場「しあわせホール」の隣接施設で冠婚葬祭場である「やすらぎホール」が、18日に改装を終えた。
従来通り実際の冠婚葬祭の場としても利用されるが、今後は「ダミーの法事」を軸に営業を展開するという。
同ホールを経営する「かしこ祭典」の梶間代表はいう。
「吸血鬼が街に侵入するようになってから、礼装姿のご婦人が襲撃を受けるケースが増えた。彼らは特に黒のストッキングを着用したご婦人の脚に好んで咬みつく習性をもっているので、喪服姿のご婦人が大勢集まる当ホールで吸血鬼向けの営業を企画した」という。
一部には「不謹慎だ」という声もあがるが、同社では「実際の式典とは別日に企画される等一定の配慮をしている(梶間代表)」と強調、受注件数も順調に伸びているという。
最初に企画されたのは、喪服女装の愛好会によるもの。
「淡い毛脛の浮いた男性の脚が黒のストッキングに装われて、独特ななまめかしさを帯びており、吸血鬼たちにも相当の人気のある企画(同社)」といわれる。
実際の法事の二次会としても活用されている。
「親族間では血の味が似通うことから、吸血鬼の間でも需要がある」といわれる。昨今では親戚同士の集まりは敬遠されがちであると伝えられるが、妻を寝取られる嗜好を持つ夫たちの間では喪服姿の夫人を同伴して活動するケースが少なくなく、「親戚づきあいは苦手ですが、やすらぎホールだけは別。今は”聖地”です」と断言する利用客も増え始めている。

(描き下ろし)


地元新聞 「市の経済にも大きな好影響」

市の経済状況をはかる市内経済白書がきのう公開された。白書によると、一部衣料品店の売上が対前年比20~30%増と、目立って好調である。
特に婦人服はフォーマルウェアを中心に対前年比40%と異例の伸びを示した。
「吸血鬼に襲われるご婦人が増えたことが大きいですね」と語るのは、創業70年のA洋服店。街の中心街のアーケード化から年々売上不振にあえいでいたが、ここにきて完全に息を吹き返したという。
「吸血鬼親善条例ができてから、ご婦人が真っ昼間から大っぴらに襲われるケースが目立って増えました。彼らはよそ行きのきちんとした服装の女性を好むので、勤め帰りや冠婚葬祭帰りのご婦人が好んで襲われるようです。学校帰りの途中を中高生が制服姿で襲われることも多いですね。ご婦人方がご主人や親御さんに内緒で親密な関係になった吸血鬼と逢う場合、事前に服を買うことが多いのですが、出先で唐突に難に遭い破れたブラウスの胸を抑えて駆け込んでくるご婦人も少なくありません。服はかさばるから持ち歩くわけにもいかないし、襲うときにはできれば前もって報せてほしいというのが本音ではないでしょうか(同)」
長期的に低迷してきてストッキングの売上も大幅に伸びた。ストッキングの売上が前年同期比50%増となったB用品店では、「吸血鬼がご婦人を襲うときには、ストッキングを穿いた脚に好んで噛みつくので、今では予備のストッキングを2~3足持ち歩いているご婦人がほとんどです。公立学校でもストッキングの着用を推奨しているので、一時は皆無に近かった女子中高生の需要も増えました」と語る。
「OLさんが愛用している着圧式のハイソックスも人気があるようです。また、学生さんの間ではハイソックスの人気も根強く、"毎週3~4足は破かれてます"という強者もいます。男子生徒の間でもハイソックスが流行していて、彼女を同伴して血液の提供に行く生徒さんが履いているようです(同)」と、ハイソックスの売上も順調だという。
意外にも、ストッキングを買う男性も増えているという。襲われた妻のために購入するケースばむろん多いが、それ以外にも"好んで穿いている男性が増えている"という。「奥さんを庇って身代わりに女装して血液を提供しているうちにはまってしまって、奥さん以上の頻度で身なりを整えて出かけて行くご主人もいるみたいですよ(同)」
ストッキングの嗜好が、市民の性嗜好にも大きな影響を与えつつあるようである。

(ここまで8月25日構想)

【タウン情報】 夫たちの血液提供は、「時間かせぎ」?

2017年05月15日(Mon) 06:28:18

昨年吸血鬼の受け入れを市が表明してから、夫婦ながら吸血鬼との交際を受け容れる家庭が増加している。
その実態は不明ながら、本誌はそうした家庭のいくつかから取材することができた。

町野元政さん(29、仮名)は、昨年秋に中学からの同級生だった章子(29、同)さんと結婚した。章子さんとは幼なじみで、十数年の交際を実らせた結婚だった。
その章子さんが吸血鬼に襲われたのは、結婚を間近に控えた去年の夏のこと。
デート帰りを襲われた元政さんはとっさに章子さんを逃がしているあいだに吸血されたという。
「彼女が逃げおおせるまでの時間かせぎのつもりだった」という元政さん。その場は章子さんを逃がすことに成功したものの、以後章子さんには告げずに吸血鬼との会合を重ねたという。
「わたし自身が病みつきになっちゃったんですね」そう苦笑いする元政さんはその1か月後、自分から章子さんを吸血鬼に紹介している。
「わたしの顔色が悪くなっていくのを、だいぶ心配してくれていたみたいなんです。
 ですから彼との面会を継続していると打ち明けたとき、”早く本当のことを言って欲しかった”と言われました」
生真面目な交際だったためそれまで処女だったという章子さんだったが、度重なる逢瀬から章子さんの魅力に目ざめた吸血鬼は、供血者に対する以上の好意を抱くようになる。
婚約者の純潔を求められた元政さんは、吸血鬼の希望を「好意的に受け容れた」という。
「最終的には、彼女と相談して決めました。処女を奪われても愛情は変わらないというのは、交際期間が長かったからかもしれませんね」
婚約者の供血行為は結局、恋人を救うことにはならなかった。しかし、と、元政さんはいう。
「妻は今でも、あの時わたしが身代わりになって血を吸われたことに感謝してくれています。やはり、最愛の女性を身をもって守るという行為は、むだにはなっていないと思うのです」。

高野常春さん(36、仮名)と妻の豊子さん(32)が吸血鬼に遭遇したのは、ちょうど結婚10年を迎えたころのこと。
「吸血鬼が夫のいる女の人を好きになった場合、まず夫にアプローチするんですね」と、常春さんはいう。
「なん度も妻を提供するよう求められました。でもわたしは断固として反対しました。妻を奪われたくなかったからです」
という常春さんは、その後十数回も吸血鬼との面会を遂げながらも、妻へのアプローチを拒み続けたという。
「でももちろん、それで彼があきらめてくれるわけがありません。とうとうわたしが貧血症になって倒れ、見舞いに来た妻を目のまえで襲われてしまいました」
豊子さんの首すじを咬んで、美味しそうに血を飲み耽る吸血鬼をまえに、さすがの常春さんもどうすることもできなかったという。
「結局、わたしが妻を襲われまいとして血を提供したのは、ただの一時しのぎにしかならなかったのです」
以後豊子さんは吸血鬼との交際を強いられたが、「本当は心惹かれるようになってからも、わたしのまえでは嫌々出かけてゆくそぶりを見せる妻のことを、潔く送り出すようにした」という。
「頼もしかったのは、妻が主婦としての務めを片時も忘れなかったことですね。
 浮気に出かけても、夕食の支度をするころにはちゃんと家に戻ってきてくれるんですよ」と、常春さんは明かす。
「”夫がいますので”と言っても、許してくれないんです。でも、御飯時になるからと言うと、ちゃんと帰宅を許してくれました。そういうときには、”夫がいますので”と言うとちゃんと聞いてくれるんですよ」と、豊子さんは笑う。
「自分自身が空腹で人を襲うから、でしょうか」とは、豊子さんの想像だが、「意外に相手のことを気にするんですよね。だから主人のことも思いやってくれたのかもしれません。」
もっとも、――どんなふうに思いやるのですか?――という記者の問いに豊子さんが
「エエ、私と逢っている時に、とても主人のことを気にするんです。
 ”いまごろご主人は悶々としているだろうね”とか、”夫がいるのにほかの男に股を開くのは屈辱なんだろう?”とか・・・」
と言いかけた豊子さんに、「それはからかわれているだけだよ」と、常春さんは突っ込んでいた。
しかし、御飯時や子供が帰宅する時間を気にする吸血鬼の習性は街の住民には広く知られており、豊子さんの理解もまんざら的はずれというわけではなさそうだ。
「いまでは、”結婚十周年を機に、妻に愛人をプレゼントした”って、割り切ることにしたんです」
そういって笑う常春さんに、重苦しい嫉妬の影はない。そういう豊子さんも、愛人との交際開始一周年を、間近に迎える。

取材に応じた二組の夫婦の共通点は、どちらの場合も夫が身代わりとなって、吸血鬼に自身の血を吸わせていること。
その動機は、自分が身代わりになって妻を守るという夫の務めを果たそうとしたことにある。
最終的には妻も襲われてしまうので、夫たちは「しょせん時間かせぎに過ぎなかった」といちように洩らす。
しかし、果たしてそれは、単なる時間かせぎに過ぎなかったのだろうか。
恋人の目の前で純潔を奪われてもなお婚約者への愛を失わなかったり、
浮気に出かける妻が夫の御飯支度を気にかけたり、
吸血鬼と不倫をつづける妻たちは、いちように「夫を一番愛している」と告げる。
時間かせぎで消費されたはずの夫たちの血は、きっと時間かせぎ以上の効用を持ち得たと感じるのは、記者だけだろうか。

【タウン情報】初体験の効果は絶大 処女で吸血された女性の回帰率は9割

2017年05月15日(Mon) 05:31:57

市が吸血鬼の受け入れを表明してから20年となるのを機に、本誌は当時処女であった女性80名を対象にアンケート調査を行った。
独自に入手したリストによれば、80名の女性の当時の年齢は、14歳から28歳。うち未成年は約2割であった。
初体験年齢が比較的高いのは、当時は市が吸血鬼を受け容れたばかりであったため、結婚間際の女性が多く狙われたためと思われる。

こんにちでは、吸血体験を遂げた処女の約8割が家族を介して初体験を遂げている。
つまり、すでに血液提供を経験している両親や兄弟姉妹といった家族の紹介で、血を吸われているのである。
一方、20年前に初めて血を吸われた処女たちは、うち6割が初対面の吸血鬼を相手に初体験を遂げていた。
当時はまだ血液提供行為が浸透し切っていなかったことから、親密な関係を築いた吸血鬼に処女の血液を提供するという行為も行きわたっていなかったことが窺えた。

また、初体験後1年未満で結婚した女性が4割を占めた。
学校が吸血鬼によって解放されているこんにちでは、初体験の年齢は低年齢化の一途をたどっており、
20代でしょ体験を遂げる女性の9割が、他市からの転入者である。
市に定住して間もない頃の吸血鬼たちが、結婚を控えた女性を性急に襲ったことが窺える。

初めて性的関係を結んだ相手が吸血鬼である割合は5割強と、昨年の調査とほぼ変わりがなかった。
そのうちの8割以上が、恋人・婚約者の同意を得て結ばれた関係であり、婚約者の純潔はいまもって吸血鬼に捧げられるグレードの高いプレゼントとして若い世代に認識されていることがわかる。
残り5割の女性は予定通り?吸血開始当時から交際していた人間の婚約者と初めての性的関係を結んでいることになる。
吸血鬼は女性の妊娠・出産を機に、一時関係を断つと言われている。育児による大きな負担を考慮しての対応と考えられているが、問題はその後である。
処女のうちに吸血された女性のうち吸血鬼と性的関係を結ばばなかった女性44名のうち、じつに41名が、婚姻後に同じ吸血鬼と性的関係を結んでいるのである。
夫の同意を得て(28名)、最初は気が進まないながら(25名)性的関係を遂げ、以後は夫婦円満に吸血鬼と共存している(41名)というパターンが一般的なようであるが、本人の意思で自発的に吸血鬼と再会している人妻も16名にのぼることから、処女のころの体験の影響力が深いことがわかる。

婚約者の純潔を守り通した世の夫諸君にとって油断ならない結果が判明したが、彼らの名誉のために言い添えると、どの家庭でも吸血鬼を円満に受け容れており、トラブルが皆無であるあたりはさすがであるといえよう。

吸血鬼の棲む街☆裏のタウン情報

2017年04月08日(Sat) 11:04:49

吸血鬼を迎え入れる家庭が密かに急増? 世帯の6割が「歓迎」

当市に吸血鬼の出没が報告されて、はや一年を迎える。
その後、市街地・郊外を含め昼夜を問わず吸血鬼が街出没するようになり、
道ばたの草むらで吸血鬼と人間の恋人同士による和気あいあいの吸血シーンを目にすることも珍しくなくなっている。
本誌はかねてから、当市に居住する10代から50代の男女を対象に意識調査を継続してきたが、このほどその結果の一部が明らかにされた。
もっとも注目されたのは、実際に吸血鬼と接触を持った人たちの受け入れ度。
調査を開始した昨年5月のデータでは、「迷惑に思う」が90%。「仕方なく受け入れている」が10%。
それが夏を過ぎた頃から好意的な見解がにわかに増加して、初めて「好意を持って受け入れている」が5%と低率ではあるが出現した。
さらに年末になると「迷惑に思う」は65%に減少。20%は「仕方なく受け入れている」だったものの、10%が「好意を持って受け入れている」となり、「歓迎する」が5%と初お目見え。
このほど公開された4月の統計ではその傾向がされあに拡大。
「迷惑に思う」はわずか8%にとどまり、「仕方なく受け入れている」も15%。そして「好意をもってけ入れている」「歓迎する」を合計すると、じつに77%の高率を記録し、吸血鬼と人間との関係性が様変わりしているところを見せつけた。
このうち、「迷惑に思う」と回答した8%のすべてが、吸血されて一週間以内であった。
なん度も吸血されるうちに親しみが生まれ、受け入れ度が高まることを示している。

特に夫婦ながら同じ吸血鬼を受け入れているケースが目立ち、「妻が吸われているところを視ると昂奮を感じる」という意見が多く見られた。
限定公開されている当サイトならではの、人々の本音を反映したものといえよう。
吸血鬼筋によると、配偶者の受難の光景を目にして性的昂奮を覚える男性は、「無類の愛妻家がほとんど」。
その情報が拡散したこともあって、愛妻家を自称する夫、夫に愛されていることを自覚したい妻が、すでに吸血鬼を受け入れている知人を介して相手探しをするケースが増えているという。

                  ―――

「なかなか刺激的な記事だね」
ぼくの背後で吸血鬼が笑う。
パソコンに向かうぼくの後ろで、やつに抑えつけられ血を啜られているのは、妻の裕子。
そう、ぼく自身が、吸血鬼を「好意をもって受け入れている」夫の一人なのだ。
さいしょはもちろん、抵抗があった。
けれども、夫婦ながら血を啜られつづけているうちに奇妙な愛着がわいて、
いつの間にか三日に一度と決められていた訪問が待ち遠しくなり、
こちらからお願いをして二日に一度――夫婦で血液を提供する場合、健康を損なわないぎりぎりの頻度――まで頻度を上げてもらい、
さらに今では、彼を居候の一人として養うまでになっていた。
「あんたが妙なサイトを立ち上げてくれたおかげで千客万来、わしらは大助かりぢゃ。心から感謝するぞ」
男は感謝のしるしに・・・と、自分のものにしてしまった人妻に、劣情に熱っぽく濁った粘液をありったけそそぎ込んでゆく。
なにが感謝のしるしなのだ?
いや、やっぱりこれは、感謝として受け入れるべきものなのだろう。
だってぼくは――マゾになってしまったから。
そんな自問自答をしながら、ぼくは部分的には真実も含まれる記事をつぎとぎと、アップしていく。

「知人を介して・・・か。言い得て妙だの」
失神した裕子をそのへんにころがしてしまうと、男は興味津々、ぼくのPC画面をのぞき込んでくる。
「おかげであんたのご両親も、お兄さん夫婦も、わしらに献血してくださるようになったんだからの」
ぼくの頭のなかで、どす黒い悪夢が旋風のようによみがえる。
法事と称して呼び出した肉親の女性たちは、だれひとり洩れることなく吸血鬼の餌食にされ、犯されていった。
居合わせて夫婦ながら血を吸われた夫たちもまた、惑溺の彼方に。
吸血鬼がその鋭利な牙から分泌する淫らな毒に理性を冒されてしまうと、
夫たちは彼らに若い女の生き血を吸わせるため、自分の妻や娘を悦んで差し出すようになる。
いまでは彼らの欲望を満たすための奉仕を、当番制で代わる代わる務めるために妻たちが着飾って出かけてゆくのを、止めるものはいない。
そう。たしかにぼくの周囲に限っては、「好意を持って受け入れている」「歓迎する」といった人たちばかりになっているのだ。
そしてきょうも――

コン、コンと控えめな音でノックされるドアを、ぼくはおそるおそる開けた。
ドアの向こうには、来月結婚する親友の和樹が、彼女の舞を伴って、恥ずかしそうなニヤニヤ笑いを泛べている。
「ブログ、読んだよ。吸血鬼に奥さんや彼女の血を吸わせるのって、愛している証拠なんだって?」
彼女のほうにせがまれちゃってさあ・・・と、言わない約束になっていた事実をぼろっと口にして、彼女にブッ叩かれた。
「やだ!もう!言わないって言ったじゃんっ!」
活きの良い若い声が玄関先ではじけるのを、やつが聞き洩らすはずがなかった。
若さは強さでもある。
貧血から目ざめた裕子のうえに、またも馬乗りになっていた男を指さして、ぼくはいった。
「このひと、女房の彼氏なんだけど、和樹がヤじゃなかったら――」
「そうね。相手のいるひとのほうが安心かも」
結婚を控えた女子らしい慎重さで、舞はやつを値踏みした。
未来の夫の親友が妻を犯されている現場に居合わせているというのに動じないのは、
いまどきの子だからなのか。それとも、可愛い顔に似合わずドライな感情の持ち主だからなのか。
あやまった値踏みだとも知らないで、舞は「この人と吸血体験する」と、和樹にいった。
和樹もひと目みて、やつのことが気に入ったらしい。
「舞がよければ」と、異存はないようだ。
もちろん、和樹も自分の選択がおおいに誤っているとは夢にも思っていないし、
ぼくはぼくで、みすみす罠に堕ちようとしている親友に警戒するよう忠告することを故意に怠ってしまっていた。

「さあ、お嬢さん、くるんだ」
先に血を吸われてめろめろになってしまった和樹をまえに、舞はさすがに怯えた声で彼氏をふり返る。
「いいのかな・・・和樹?」
不安げにゆがむ口許のすぐ下、柔らかい首すじに、やつの淫らな牙が、容赦なく突き立った――

あとは、ぼくの前でまだ結婚前だった裕子がもてあそばれたときと、まったく同じ再現だった。
結婚を控えた彼女が処女を散らす光景をまのあたりに、禁断の歓びに目ざめてしまった親友は、称賛の声をあげる。

共感。

2017年03月08日(Wed) 06:27:25

ハイソックスを履いたぼくの脚をギュッと床に抑えつけて、
カツヤくんはぼくのふくらはぎを咬んでいた。
きつくつねられたみたいな痛みを帯びて、
カツヤくんの唇が、ぼくの血を吸いあげてゆく。
真新しい紺のハイソックスは、ぼくの血潮で生温かく染まっていった。

眩暈を感じても。
頭痛を訴えても。
カツヤくんはぼくの脚を放してくれようとはしなかった。
そのうち意識が遠くなって、ウットリしてきても。
それでもカツヤくんはぼくの脚に執着しつづけた。
ぼく、死んじゃうの?
放った質問の意味と、われながらシンとしたその言葉の響きとに、
ぼくは内心どきりとして、そしてなぜだかわくわくしていた。

なん度呼びかけても応えてくれないカツヤくんに、なん度めか。
われ知らず、ちがう質問を放っていた。
――ぼくの血が、おいしいの?
カツヤくんは初めて顔をあげ、口を開いた。
――ウン、おいしいね。
しんそこ嬉し気な声だった。
カツヤくんは口許に、ぼくから吸い取った血潮を、べっとりと光らせている。
ふだんだったら卒倒しそうなその光景をみて、ぼくは思わずつぶやいていた。
――きみの頬っぺたには、ぼくの血が似合うんだね。
カツヤくんはぼくに向けて、初めて笑いかけてきた。
――気に入ってくれて、よかった。
あり得ないやり取りを口にしながら、ぼくはなぜか満ち足りていた。
カツヤくんもとっても、満足そうだった。

きみのパパの血は、僕のママが。
きみのママの血は、僕のパパが。
いまごろたっぷりと、吸い取っているさ。
きっとそれぞれ、仲良くなって。
いまごろは、打ち解けた関係になっているはず。
そう――家族ぐるみで仲良くなるって、そういうことさ。
この街で暮らしていくにはそのほうが、居心地よく暮らせるんだから。
カツヤくんの言いぐさは、まだ子供だったぼくには、意味が半分しかわかっていなかったけれど。
そう・・・って、ごくしぜんに相づちを打ってしまっていた。

これから泊りがけで、都会に行ってくる。
先月まできみの住んでた、あの街に行って、
きみの彼女のこずえさんの血を吸ってくる。
どう?うらやましいだろ?
きみはまだだけど、ぼくは彼女の血が吸えるんだぜ。
きっと――なにも知らないこずえさんは、見ず知らずのカツヤくんに征服されてしまうのだ。
彼女を征服される。
そんなおぞましいはずの想像に、なぜかぼくはふたたび、胸をワクワク昂らせてしまっていた。
こずえさんのうら若い、温かな血潮が、いまのぼくと同じみたいに、カツヤくんに吸い取られてしまう。
カツヤくんのことをうらやましと思えるのは、なぜ?
血を吸ったこともないぼくが、自分自身がこずえさんの血を味わったような気分になっているのは、なぜ?
その問いに対する答えが与えられるのには、すこしだけ時間がかかった。

おはよう。
ぼくの家の玄関のまえ、いっしょに都会に住んでいた時と全く同じように、
こずえさんは制服の肩先に三つ編みおさげの黒髪を揺らして、いっしょに学校に行こうと声をかけてくる。
幼い頃から仲の良かった、こずえさん。
将来はいっしょに結婚するんだと、ごくしぜんにそう思い込んでいた。
それが、父さんの借金のおかげで、住み慣れた街を夜逃げどうぜんに出ていくはめになって、
お別れも言えない永遠の訣(わか)れに、ぼくは胸を暗く閉ざしていたものだ。
それなのに。
都会の制服からこの街の女学校の制服に衣替えしたこずえさんは、いまぼくの前にいる。
顔色をちょっとだけ蒼ざめさせてはいたけれど。
イタズラっぽく覗かせる白い歯の輝きは、ひと月まえまで見慣れていたそのままだった。

ぼくはカツヤくんに、週1回血を吸われる。
こずえさんもカツヤくんに、週1回血を吸われる。
カツヤくんはこずえさんの血を欲しがるときにはいつも、ぼくにエスコートを頼むことになっていた。
ママがカツヤくんのお父さんに呼び出されるときと、同じように。
ぼくはカツヤくんの家の閉ざされた玄関のドアのまえ、1時間ほども待ちぼうけを食わされて、
彼女が咬まれる光景を想像しながら、じりじりとした刻を過ごす。
そのじりじりが、なぜか愉しくて。
こずえさんが吸われる木曜日が、ひどく楽しみになっていた。

「ヘンなひと」
こずえさんはぼくの態度にちょっぴりあきれながらも、イタズラっぽく輝く白い歯を、隠そうとはしない。
咬まれた後の白いハイソックスに撥ねた血を街じゅうに見せびらかしながら、
ぼくにエスコートされて、古びた商店街をおっとり歩くのが、いつか彼女の習慣になっている。
きょうもこずえさんは、濃紺のプリーツスカートの下、
真新しい真っ白なハイソックスのふくらはぎを、初々しく輝かしている。
ぼくはぼくで、彼女と同じ色のの半ズボンの下、濃紺のハイソックスのリブをツヤツヤとさせて、彼女の前に立つ。
こずえさんがぼくにナイショで、ひとりきりでカツヤくんのおうちにお邪魔して、
ふたりきりで逢っているのは、お互い口にしないことにしている公然の秘密――
でもぼくは、なかば血のなくなりかけた身体じゅうに、淫らに走り抜ける快感のなかで。
カツヤくんがこずえさんの血を吸い取ることにたいする共感を、なんら違和感なく受け止めてしまっている。
――将来はきみも、こずえさんの血を吸える身体にしてあげる。
もしかしたら空手形かもしれないそんな彼のささやきに、
ぼくはウンウンと嬉しそうに、うなずき返してしまっていた。

ベースキャンプ

2017年01月04日(Wed) 07:29:11

何年ぶりかで、血を吸われた。
都会に出てきてからは、無縁の悦楽だった。
封印していたはずの快感が身体のすみずみにまで行きわたって、
終わるころにはもう、自分から身体を離すことができないまでになっていた。
相手は幼なじみのリョウタ。
もちろん同性である。
身を起こす間際にもう一度、首すじに這わされた強烈な口づけに、思わずときめいてしまっていた。

これからしばらく、きみのところをぼく達のベースキャンプにさせてもらうよ。
一方的な言いぐさに、すぐに頷いてしまっている。
「妻は巻き込みたくないな。何も知らないんだ」
「そうか」
リョウタは案外と素直にそういうと、
「無理強いはしないから」
と、あまりあてにならない約束をしてくれた。
約束はむろん、その晩のうちに破られた。

泊めるだけで構わないといわれ、三人分の布団を急きょ母の家から調達した妻は、
それでも来客への心遣いなのか、綺麗にお化粧をし、よそ行きのスーツまで着込んでいた。
もちろん、幼なじみたちの、絶好の餌になってしまった。
死に化粧とならなかっただけ、マシと思わなければならなかった。
過去にはそうした時代もあったのだと、親たちから聞かされてはいたけれど。
吸血鬼と共存するようになって久しいこのごろでは、血を吸われて死ぬということは、絶えて聞いたことがなかった。

「ちょっとたばこを買ってくる」
そういって外出した十数分のあいだに、妻はあっけなく、狩られてしまっていた。
血を吸い取られ輪姦を受け、洗脳されてしまった妻は。
客人たちの世話を頼むというわたしに、ホッとしたように最敬礼する。

都会の女を狩りに来た吸血鬼たちは、あの街の出身者の家をベースキャンプに指定する。
居合わせた妻や娘は否応なく、血液を提供することを強いられて、
夫や父親たちは、彼らの滞在中妻や娘をその支配下にゆだねることに同意させられる。

「無理強いはしないから」
という彼の約束が正しかったことを、ぼく達夫婦は、自分たちから証明してやることにした。
好奇心にとりつかれて、血を吸われてみたいとせがむ妻の願いをかなえるため、
夫に依頼された彼らは、妻をウットリさせてくれたのだった。
ぼくはぼくで、久しぶりにやって来た彼らにせめてものもてなしをするために、
たばこを買うのにかこつけて、妻を襲うための時間を作ってやったことにした。
もしかすると、ほんとうにそうだったのかもしれないと、あとで思った。
血に飢えた彼らのため、ぼくはうら若い人妻の生き血を毎晩、捧げることに同意した。

出勤するわたしを見送る妻は、よそ行きのワンピース姿。
このあとすぐに、彼らへの餌として惜しげもなく破かせてしまうのだろう。
それだのにウキウキしている妻は、いままでとは別人だった。

吸血鬼のベースキャンプ。
その家に住まう主婦は、獲物のないときの客人に、自らを獲物として差し出してゆく――

支配された街

2016年12月06日(Tue) 07:37:05

勤務先の病院の口うるさい婦長が、白衣の下にラメ入りの白タイツを穿くようになった。
それ以来。
看護婦の半数はスカートを着用し、その下にラメ入りの白タイツや網タイツ、
地味なひとでも白の薄々のストッキングを穿くようになった。
院内を女主人の顔をして闊歩する院長夫人も、いつものパンツスタイルをかなぐり捨てて、
優雅なフレアスカートの下、薄手の肌色のストッキングに包んだ肉づきたっぷりのふくらはぎをさらすようになり、
見舞客の女性たちすら、そのほとんどがよそ行きのスーツ姿で訪れるようになる。

道行く女性たちも着飾った姿が目だつようになり、
女学生たちの足許も、地味な白のソックスから大人びたハイソックスやなまめかしい黒のストッキングに、すり替わってゆく。
気がつくと。
未亡人している母も、いつも身に着ける喪服の下を、黒の網タイツで彩るようになっていた。
そのだれもが帰り道をたどるとき、なまめかしいストッキングに裂け目を走らせて、家路につく。
「白だと血のシミが目だつわ」
と愚痴る看護婦も。
「アラ、黒のほうが裂け目が目だつんですよ」
と、鮮やかな裂け目を妖しく拡げたストッキングの足許を自慢げに見せびらかす母も。
きちんとセットした髪を振り乱し、はだけたブラウスすらも小気味よげに外気にさらす院長夫人も。
首すじには等しく、ふたつ綺麗に並んだ咬み痕を滲ませている。

吸血鬼が支配してしまったこの街で。
わたしもいつの間にか咬み痕をつけられて、母を愛人の棲み処へと送り迎えをくり返している。

娘の身代わり。

2015年12月26日(Sat) 07:52:51

忍田が足音をひそめて近寄ると、そこには女の影が佇んでいた。
濃い夕闇が視界を奪って、影の主がたれなのか、すぐに判別できない。
きょう待ち合わせているはずの少女は、16歳。
ふた月ほどまえから血を吸うようになった、県立の高校生だった。
案に相違して。
そこに佇んでいたのは、少女よりもはるかに年上の女だった。
面差しがどことなく、少女のそれと似通っている。
女はおずおずと忍田を見、気まずく口ごもりながらも、話しかけてきた。
「優香が・・・娘が体の具合を悪くして・・・」
みなまで言えずに言いさした言葉を、忍田は無遠慮に継いだ。
「お母さんが身代わりに、わしに血を吸われにおいでなすったのか」
女は凍りついたように、立ちすくむ。
赤いバラをあしらった小ぎれいなワンピースに、ぴかぴか光る黒のエナメルのハイヒール。
肩先に波打つウェーブの栗色の髪は、美容院でセットしたばかりのように鮮やかな輪郭を持っている。
女というものは、こういうときでさえ、己をひきたてようとするものなのか。
忍田の胸の奥で、なにかがぶるりと慄(ふる)えた。

優香と呼ばれる少女が血を吸われ始めたときには、週一回の約束だった。
それが週二になり、週三になり・・・いまではほとんど、毎日のように逢っている。
身体の具合も悪くなるわけだ。
それほどまでに、彼の牙から分泌される毒は、無防備な素肌に色濃くしみ込まされたのであろう。
ここは吸血鬼の支配する街。
逃げるだけの理性を持ったものたちはすでに逃げ、
残っているのはひたすら、支配を甘受しようとする者たちだけだった。
忍田はきょうの日の来るのを予期しながら、少女の血を容赦なく啜りつづけた。

今朝のことだった。
少女の家から出勤してきた背広姿の男が、目ざとく忍田をみとめた。
彼女の家のものには、面が割れていないはず。
それなのにいち早く彼を、娘の生き血を吸う吸血鬼だと察したのは、親というものの持つ本能なのか?
男は人目の立たない近所の公園へと忍田をいざない、真剣な顔つきで懇願した。
「娘の血を吸うことについては、なにもいわない。でもせめて、死なせないでくれ」
代わりに自分の血を吸ってもらえないか・・・?男の申し出は、要するにそういうことだった。
忍田は言われるままに優香の父親の首を咬み、ほんの少しだけ血を啜った。
けれどもやっぱり、無理だった。
「悪いが、どうしても男の血は受けつけないのだ」
身を挺してまで娘を守ろうとした父親に、忍田は衷心から頭を下げた。
けれどもそのあとには、血をほしがる本能が、忍田に冷酷な囁きを強いていた。
あんたの奥さんに、そう伝えてくれ―――――と。

自分の妻の血を吸おうとする男に、協力する夫などいるのか・・・?
そう問いたげな視線に、忍田はいった。
力を貸してくれたら、恩に着る。
もちろんふたりとも、殺(あや)めたりはしない。
最愛の妻とまな娘の生き血をみすみす啜らせた恥知らずな男だなどと――――
この街ではあんたのことをそう思うものはだれもいないし、
俺もそんなことを考えたりはしない。
ただ俺には、血を吸う相手がもうひとり、どうしても要りようなのだ  と。

男が勤務先から自宅へ、どんな連絡をしたのか、忍田は知らない。

優香の母親は相変わらず、こわばった視線で忍田を見あげている。
肉づきのよい身体つきをした彼女だったが、上背は忍田よりもずっと劣り、
彼女が体内に宿す血液の全量をもってしても、忍田を満足させられるとは思えなかった。
「わしは処女の生き血が大好きじゃ。だから娘さんには、手加減して愉しませてもらってる。
 しかしあんたは、大人の女だ。手加減はせん。
 どういう目に遭うのか、わかったうえで来なさったのか」
母親はこわばった顔つきをさらに凍りつかせたが、やっとの思いで、いった。
「主人と相談したうえで、伺いました」
忍田はちょっとだけ気の毒そうな顔をして、女を見た。
けれどもその口から発した言葉はみじかく、さらに容赦がなかった。
「わかった。来なさい」
忍田は門柱にもたれかかるようにして彼が通りかかるのを待っていた女の背中を邪慳に押し、
門の中へと追いやった。
硬く施錠されているはずの玄関は、忍田が手を触れると苦も無く押し開かれ、
ふたつの人影は鎖された古びたドアの向こうへと消えた。

「横になるかね?」
忍田の問いに、女はかぶりを振るばかりだった。
見通しの良い庭に射し込む夕陽は、門前の暗さとは裏腹な明るさをまだ持っていたが、
女はその情景に目をやろうともしない。
「わしの好みは知っていような?」
スイッと傍らにすり寄り、囁きかけてきた男の気配に女はビクッとして顔をあげた。
けれども、伸ばされた猿臂に両肩を抱かれ、身じろぎひとつできなくなっている。
「あんたの名は・・・?」
「美穂・・・永黒美穂といいます」
美穂さん・・・か。
名前を識ってしまうと、妙な親近感がわくものだ。
そこには人格があり、親族知人の係累がある。
かつてはその身に温かい血潮を宿していた時だってある。
忍田は相手のおびえを、なんとかして落ち着かせようと思った。
女の言葉が、忍田に一歩先んじた。
「ふくらはぎを咬むんですよね・・・?それから首すじ」
「娘さんから聞いたんだね」
「は、はい・・・」
「じゃあさっそく、お世話になろう」
忍田は並んで腰かけたベッドから腰をあげ、すぐにその場に四つん這いになると、
美穂の足許にそろそろと唇を近寄せてゆく。
「ひっ」
思わず避けようとした脚を掴まえると。
忍田は美穂のふくらはぎを吸った。
くちゅっ。
生温かいよだれを帯びた唇が、美穂の穿いている肌色のストッキングをいやらしく濡らした。

美穂はベッドのうえ、仰向けに寝かされていた。
男はさっきから、表情を消した美穂のうなじに咬みついて、
キュウキュウ、キュウキュウ・・・生々しい音をたてながら、生き血を啜りつづけている。
放恣に伸ばされた美穂の脚に、パンティストッキングはまだまとわれていたが、
あちこちに咬み痕をつけられて、むざんな裂け目を走らせている。
着衣ごしにまさぐられる胸が、恰好のよい輪郭を、くしゃくしゃにされたワンピースに浮き彫りにしていた。
「優香と同じ香りがする」
男は女の耳元で、彼女の娘の名前をわざと呼び捨てにした。
「家に・・・帰してください・・・」
「あの子もさいしょのときには、そう言っていた」
吸い取ったばかりの美穂の血をあやした唇が、彼女の唇まで求めてきた。
避けようとしたが、すぐに奪われてしまった。
二度、三度、重ね合わされてくるうちに。
舐めさせられた血潮の、錆びたような芳香が鼻腔に満ちて――――
いつの間にか女のほうから、忍田の唇を求めはじめていた。
どういうことなの?いったいなぜなの?
女は自問しながらも、忍田とのディープ・キッスを、やめられなくなっている。
男の手がだしぬけに股間に伸び、ショーツとパンストとを、いっしょに引き破った。

あっ・・・!と思ったときにはもう、遅かった。
男は目にもとまらぬ速さで女の股間に自分自身を肉薄させて、
怒張を帯びた硬い肉棒が、女の秘部にもぐずり込んでいた。
あっ・・・あっ・・・あっ・・・
女は有無を言わさず、犯された。
白濁した精液がどろどろとそそぎ込まれるのを、もうどうすることもできなかった。
征服・・・された?こんなに、あっけなく・・・?
脳裏に戸惑いを漂わせながら、女はなん度も吶喊を許し、不覚にも応えはじめてしまっていた。

こぼれた粘液がシーツをしとどに濡らすころ。
男はふと、呟いた。
――――我慢づよいご主人だ。
半開きになったドアの向こう。
忍ばせた足音がかすかに床をきしませながら遠ざかるのを、美穂は確かに耳にした。

街の婚礼

2015年09月07日(Mon) 06:52:23

この街の婚礼は、いっぷう変わった風習を持っている。
宴たけなわになると、招待客のうち男性だけが、帰ってゆくのだ。
それと入れ替わりに、どこからともなく、蒼白い顔つきの男たちがふら~っと現れ、宴席にさ迷い込んでゆく。
閉ざされたドアの向こうには、黄色い悲鳴が華やかに満ち溢れる。

薄いピンクに、濃い紫。淡い茶色に、深い濃紺。
色とりどりの光り物のスカートの下。
追い詰められた女たちは、新婦の友人、新郎の妹。それに新婦の兄嫁。
だれもがスカートの裾からにょっきり覗くふくらはぎを、真珠色に輝くストッキングに彩っていて。
それを目当てに、飢えた男の指が、唇が、迫ってゆく。

立ちすくんでいるのは、拒んでいない証拠。
はち切れんばかりのおっぱいの隆起は、揉んでほしい証拠。
拒絶の哀願は、姦ってほしいという意思表示。

なにもかもを、おのれの都合よいように受け取って。
顔の蒼い男たちは、うら若い女たちへと迫ってゆく。
衣装の下に隠された、うら若い柔肌を求めて。

ねじ伏せられた赤いじゅうたんの上。
女たちは競うように、肌色のストッキングに包まれたふくらはぎをさらして、
薄いナイロンの舌触りを愉しまれ、辱められながら咬み破かれてゆく――
引き裂かれたパンストをまだ脚に通したまま、その両脚をゆっくりと開いていって、
堕ちる瞬間の昂ぶりを、諦めのため息に織り交ぜてゆく。

主賓席では、新郎新婦の母親たちが。
黒留袖の帯をほどかれていって。
いずれ劣らぬ珠の肌をさらけ出しあって、
肩を並べて淑徳を散らしていって。
永年連れ添った夫たちを、その目の前で裏切ってゆく。

純白のウェディングドレスをまくり上げられた新婦は、
ツヤツヤとした光沢に包まれた城のストッキングの脚をばたつかせながら、
抑えつけられた円卓のうえ、テーブルクロスをくしゃくしゃにしながら、はやくもなん人めかの男を迎え入れて、
うろたえる新郎のまえ、花嫁修業に耽ってゆく。

そう。一部の男性は、退席を許されない。
この佳き日の主役を勤める男性と。
その種の歓びを自覚できるものたちは。
招待客の男性の多くが席を立ったあとも、宴席にとどまるという忌まわしい特権を与えられる。
妻が、娘が、妹が組み敷かれ、
よそ行きのスーツのすそを乱し、
ブラウスをはだけられ、
ブラジャーの吊り紐を切られながら、
家族の前であることも忘れて、吸血鬼どもの支配を受け容れよがり狂ってしまうまで、
しっかりと見届けさせられ、たんのうさせられる。

宴は、真夜中まで尽きることがない。
この式場では、披露宴の部屋の借り切りは、真夜中までとなっているから。
昂ぶり切った夫たちは、さいごには相手を取り換えあって、交わってゆく。
新郎は、新婦の友人代表と。
新婦の父は、新郎の母と。
新郎の父は、自分のまな娘と。
見境なく襲いかかって、身体を交え息を弾ませあってゆく。
それが、夫たちの払った代償に対する対価――
吸い取った血潮を口許に光らせたまま。
”彼ら”は、吸い取った血潮の持ち主である親族たちが、淫らに堕ちてゆくのを、愉しげに見届ける・・・

秋まつりの予定。

2012年09月15日(Sat) 07:09:28

干からびたような細腕が、さっきからせわしなく携帯をいじっている。
もはや老女といっていいほどの年かっこうのその女は、去りかけた色香をまだ、顔の輪郭にとどめている。
白髪交じりのは見の生え際から覗く首すじは、不ぞろいに陽灼けしていて・・・
そして、夕べつけられたばかりのものらしい赤黒い咬み痕をふたつ、鮮やかに滲ませていた。

ふん。まったくうちの子らときたら・・・

なにか言いたげに口をもぐもぐさせながら、
老女は年かっこうに似ず慣れた手つきで、携帯をまさぐりつづけていた。

長男に宛てたメールには、こう書かれてあった。

今年の秋まつりは、ぜひいらっしゃい。
お隣の源治さんが、珠代さんに執心なのよ。
リョウくんは、大学で彼女出来たかしら?
梨佳も高校に入学できたから、今年は来れるよね? 母


つづいて次男宛てのメール。

今年の秋まつりは、どうするの?
瑤子さんの誕生祝い、するんだよね?
女旱(ひで)りの村の男衆5~6人声かけとくから、覚悟しなさいよ。 笑
佑香もさとみも、そろそろ男を覚えてもいい年頃だね?期待してるから。 母


それから三男宛てのメール。

今年の秋まつりは、来れるかな?
彼女はできた?
まだお付き合いが始まってなくても、村まつりに連れてお出で。
連れてさえ来たら、母さん話をまとめてあげるからね。 母


長男の返信は、速かった。

ビビッ・・・と鳴った着信音に、老女はうたた寝を中断して、
さっそくもの欲しげな手つきで、携帯をまさぐった。

家族そろって、伺います。
源治さんには、どうかお手柔らかにとお伝えください。
息子に彼女できました。
ご両親と一緒に来ると言ってくれているそうです。
梨佳は2年前のことがショックだったので今年は遠慮しましたが、
優しい人がいたら今年もお願いします。


ほほ・・・さすがに孝行息子だこと♪
老女は嬉しげに、ほほ笑んだ。
口許から覗く犬歯が、ちょっぴり尖っている。
おととし孫娘の首すじに、初めて突き立てたときのことを愉しげに思い出しながら、
彼女は指先で、犬歯の切っ先を撫でている。
肉親なら、襲って血を吸ってもいいことになっているのだった。


今年は、リョウくんで我慢しとくか。
彼女を襲われているときには、気が気じゃないだろうからね。

よからぬことを口にしながら老婆は、つづいて鳴った着信音に気を奪われた。

次男の返事―――

ご承知のとおりわたしは、今年の春から単身赴任です。
瑤子は子供たちの受験準備で忙しいし、佑香は高校受験、さとみも中学お受験の真っ最中です。
留守宅には言い含めておきますので、都会まで出てくるお人があったら、お報せください。
その際には、あまり家のなかで物音を立てないようお伝え願います。

まあ、冷たい子だこと。
老女は不平そうに頬をふくらせたが、

物音くらい、どうってことありゃしない。
女に飢えた村の衆を5、6人、入れ代わり立ち代わり送りつけてやる。
夜這い自体は容認なんだから、ご近所への顔は立つか・・・

三男の返信は、かなり遅かった。


上司の紹介で親類の娘さんとお見合い中ですが、どうも僕自身引っ込み思案のせいなのか今回もうまくいきそうにありません。村のお祭りの話をしたら興味を持ってくれたみたいで、ご一緒しましょうか?って言ってくれてはいるのですが、ご両親が娘さん想いなのでいっしょにくるといってききません。二人きりにならないとお互いの意思を確かめることは難しいと思うし、ともかくいつもご両親同伴なのでつい気を使ってしまいます。村への帰郷のことはもう少し待ってください。彼女の好意をもう少し確認できるまで待ったほうがいいように思うのです。いつも慎重すぎて婚期を逃すと、上司のかたにもお叱りを受けているのですが

改行もしないでずうっと打ち続けた文面は、世見苦しいことおびただしく、老女も顔をしかめて目を細めて文面を追った。
文章の途中で間違えて送信してしまったのか、ここで終わりなのかさえも定かでない優柔不断な文章を見て、老女は怒りに目をあげた。
やおら携帯を取り直した彼女は、直に電話をかけていた。

ばっかも―――んっ!
ぐずぐず言わんで、親もろとも、連れて来―――いっ!!!

足ぐせ

2011年12月09日(Fri) 07:14:41

じわじわと生き血を吸い取られていくとき。
母はじれったそうにして、しきりに脚で床を踏み鳴らしていた。
妹はもじもじと、足指をねじっていた。
未来の妻は、切なそうに摺り足を繰り返していた。

田舎に着任して。
その土地に棲む年配の男に、血を吸われるようになって。
もう何回も、都会の実家に招いていた。
母はすでに血を吸われることに慣れ、
父は同年輩の彼と、飲み友達になっていて。
目のまえで長年連れ添った妻が、気に入りのロングスカートのなかに、むぞうさに手を突っ込まれて。
ズロースを降ろされていくのを、息をつめて見守っていた。
ブラウスをはぎ取られて、おっぱいをまる出しにして。
女の操をむしり取られてゆくところさえ、ひと晩がかりで見届けていったのだった。

その日も、羞じらう母を、押し倒して。
齢不相応の派手なワンピース姿のまま、脚を踏み鳴らしながら、血を吸われて。
グラス片手に息を詰める父のまえ、
男の好みに合わせてたしなむようになった、太ももまでのストッキングを。
太ももを横切るゴムまで、じんわりと見せつけながら。
踏み鳴らす足の音が絶えたあと―――
忍ばせたうめき声は、妹が下校してくるまで、つづいたのだった。

吸血鬼なんか、家に連れてきて・・・
根暗でぶあいそな妹は。
白い目でわたしを、睨みつけると。
ピチピチと輝く太ももに這わされるもの欲しげな目つきを避けるように、
デニムのスカートのすそを、抑えつけていた。

お勉強、教えて下さるんですって。
取り繕うように言葉を添える母の言いぐさを、無言で黙殺しながら。
来たければ、来れば?
男にぶあいそな声を投げつけると。
白のハイソックスに履き替えた脚を、ぴ多ぴたと鳴らしながら。
二階の勉強部屋へと、あがっていった。
はしたないほどどたどたと階段を上がる足音が、そのすぐあとにつづいていった。
視てきてちょうだい。
母に目で促されたわたしも、あとにつづいた。
部屋に入ることは、許されない。
半開きになったドアの向こうから、覗き見するだけだった。

机のまえに腰かけた妹の後ろにまわって、
男はしきりに、拡げられたノートを指さしていて。
ほんとうに、勉強を教えているようすだった。
妹は幾度となく、男の言葉にうなずいて、ノートに鉛筆を走らせている。
それも、、つかの間のことだった。
男の影が背後から、白のカーディガンを着た妹の影に寄り添うようにして。
首筋に唇を、吸いつけてゆく―――
アー・・・
みじかく叫んだ妹は。
血を吸われながらも、机にしがみつくようにしていたけれど。
やがて椅子に腰かけたまま、ちょっとずつ姿勢を崩していって。
さいごに行儀悪く、たたみの上に転がった。

たたみの上に横たわる妹を。
男はまじまじと、観察をして。
やがておもむろに、ふたたび首筋に、唇を這わせていった。
きゃー。
こんどはくすぐったそうな声が、あがっていった。
机にしがみついていたときも。
たたみの上で、エビのように身体を折り曲げているいまも。
白のハイソックスのつま先のなか、足首をうねうねとねじりながら。
目をつむり歯を食いしばって、吸血に耐えていた。

ティー・カップを手に取って。
無表情を取り繕った母は、
スカートに撥ねた淫らな粘液と、ストッキングの伝線を気にしながらも。
目のまえの絨毯のうえに身を横たえた自分の娘が、
乙女の血潮を捧げるようすを、見守っていた。
父が母の時、そうしていたように。
真っ白なハイソックスには、バラ色の血がべっとりと撥ねていて。
真新しい靴下に包まれたつま先はやはり、もじもじとした足指のうねりをつづけていた。
真っ赤なチェック柄のプリーツスカートを、太ももまでたくし上げられた妹は。
自分の父親ぐらいの齢かっこうの男に組み敷かれたまま、
股ぐらを開かれて、そのうえに強引に沈み込んでくる逞しい腰に。
稚拙に動きを合わせていった。
妹が、大人になっていく―――わたしよりも先に。
その事実を目の当たりにさせられて。
まぶしいような。照れくさいような。誇らしいような。羞ずかしいような。
基本的には我が家の汚点となるはずのあしらいに、
股間がむしょうに、じりじりと疼いていた。

ひどいじゃないですか。
村での知人の結婚式に、都会から招いた婚約者は。
髪をふり乱したまま、まだ息を弾ませていた。
ここは、村でたった一軒のモダンなホテル。
知人の結婚式という名目で、呼び寄せた未来の花嫁は。
口実を設けて狭い密室で、あの忌まわしいごま塩頭と、ふたりきりにさせられて。
母や妹のときと、おなじように、不意に背後から迫られて。
華やいだクリーム色のワンピース姿を、抱きすくめられていった。
吸血される歓びに、はしたないほどあっけなく目覚めてしまった彼女は。
それでも、ワンピースのクリーム色に撥ねかったバラ色のしずくを、
しきりと気にかけていた。

しばらくは、おぼこのまんまだぞ。
妹の純潔を、あっけないほどかんたんに踏みにじった男は。
わたしの花嫁に対しては、時間をかけるつもりらしかった。
お前えはここで、観ておるんだ。あっちさ行っちまっちゃ、なんねぇぞ。
彼女さんが、気の毒だがや。
洗練された都会の装いにはおよそ不似合いな声の持ち主は。
彼女の手を引くと、そのまま隣室に引きずり込んで。
古びたせんべい布団のうえに、背中を突いてまろばせた。
白のストッキングのつま先を高々とあげてひっくり返った彼女。
きゃあっ!ひどいっ!
華やぎを隠そうともしない声色に、わたしはチカリと嫉妬を覚える。

そんなに私の血がお好き・・・?
女の問いには応えもせずに。
男はがつがつと、うら若い血を貪り啜った。
女はもう、あん・・・あん・・・って、嬉しげな声さえたてながら。
クリーム色のワンピースが赤黒いまだらもように染まるのを、厭いもせずに、相手をし始めて。
もう・・・わたしなど眼中にないかのようだった。
あくまであんたの女房のまま、ええとこだけ頂戴するんだ。
振り向いた男は意地悪そうに目を輝かせて、悪童のようにイタズラっぽく笑いかけてきて。
わたしは知らず知らず、男の言うなりに深いうなずきを返してしまっている。

首筋につけられた深い傷口が、じんじんとした疼きを秘めていた。
じんじんとした、疼き。
じんじんとした、嫉妬。
じんじんとした、えもいわれない歓び―――
たいせつなものが無造作に汚されてゆくことが、どうしてこうも、むしょうな歓びを秘めるのだろう?
わたしは、恥ずべき人間なのか?
人はだれでも、そういうマゾヒズムを心に秘めているものなのか・・・?

週末は田舎通いを始めた彼女に、いつもわたしは誘いを受ける。
都会の洗練された装いを、男のために身に着けて。
きりっとした、通勤用のスーツ。
フェミニンな、お招ばれ用のミニドレス。
ふだん用のえび茶のフレアスカートに、薄いピンクのブラウスという、何気ない装い。
それらすべてを、順ぐりに。
わざと血浸しにされながら。
彼女は摺り足を、繰り返す。
それはそれは、切なげに。

あしたは祝言という夜。
彼女の母は、彼女の父のまえ、操を奪われていった。
両親がいたわり合いながら、久しぶりの夜を貪る隣室で。
彼女は明日着るはずだった純白のスーツを装って。
わたしが息を詰めるまえ。
白のストッキングを、ずりおろされていった。
ふしだらなしわをたるませて、くしゃくしゃになってずりおろされたストッキングを、まだ脚に残したまま。
彼女の脚は、摺り足を繰り返す。
ちょうど妹が、稚ない血を太ももに散らせたように。
バラ色のしずくの輝きが、すらりとしたむき出しの太ももを、伝い落ちていく。
粗野で強引な上下動に、あらわになった白い臀部が、じょじょに動きを合わせていって。
そのあいだわたしは、
羞ずかしいような、照れくさいような。誇らしいような。
自分の身に加えられた恥辱が、どうしてこうもむしょうに悦ばしいのか。
理性の崩壊した、考えのまとまらない頭のなかで、
えもいわれない官能の歓びだけが、わたしの常識を塗り替えていった。

「まみちゃん」

2011年10月24日(Mon) 06:50:59

都会に潜入して初めてあてがわれたのが、「まみちゃん」という少女のいる一家だった。
「あてがわれる」というと、聞こえはいい。
しかし吸血鬼の存在を認知していない都会にあっては、あとはわが道を切り開くしかない。
だれかがなんらかの口実で、出入りを許された家庭。
その者になり代わって、ひたすら自力で侵蝕していくしかないのだった。

「まみちゃん」は、おさげ髪の似合う、無邪気な少女。
俺が吸血鬼だと正体を明かしても、びびらなかった。
姉ふたりを差し置いて彼女を狙ったのは、なんとなく彼女がそう接してくれるだろうと感じたから。
子供に近い心の持ち主は、意外なくらい純真で柔らかい心を持っていた。

吸血鬼のおじさん、まみちゃんの血を吸いたいの?
まだ稚ない彼女は、じぶんのことを「まみちゃん」と呼んでいた。

ああ、吸いたいね。
その可愛らしいブラウスを、きみの血で汚してみたいし。
真っ白なハイソックスを汚すのも、愉しいだろうから。
きみの首すじやふくらはぎは柔らかくって、
とても噛み応えがいいだろうね。

わざと露悪的にならべたことばに、
まみちゃんは怯えるようすもなく、
ただほんのりとほほ笑みながら、耳をかたむけていた。

じゃあ、いいよ。
まみちゃんの血を、吸わせてあげる。
でも―――ほかのひとには、手を出さないでね。
上のお姉ちゃんは結婚をひかえているから、お婿さんがかわいそうだし。
下のお姉ちゃんにも彼氏がいるから、彼氏さんかわいそうだし。
ママにはパパがいるから、パパがかわいそうだから。
まみちゃんがたっぷり、血をあげるから。
気の済むまで、生き血を吸ってね。

まみちゃんはにっこりほほ笑んでいた。
俺が迫っていくのを受けとめるような、力のあるほほ笑みだった。
柔らかいうなじに唇を近寄せたとき。
さすがにちょっと、顔をしかめたけれど。
無防備なうなじの肉を、引きつらせることもなく。
柔らかいままに、噛ませてくれた。
刺し込んだ牙が包み込まれるような、しっとりと潤んだ肌をしていた。

ちゅ、ちゅー・・・と血を吸いあげたとき。
まみちゃんはちょっぴり、べそをかいたけれど。
あたし、良い子だから。強い子だから。
力んで強がるわけでもなく、自分に言い聞かせるように。
じゅうたんの床を踏みしめて立つ白のハイソックスの両足は、
意外なくらいにしっかりしていた。

バラ色の血に濡れたハイソックスをぶら提げて、まみちゃんの部屋を立ち去ったのは。
もう土曜日の明け方になっていた。
さすがに耐えきれなくなって、ベッドにあお向けになった少女は、
傷口についた血がシーツにかすかなシミを作るのを厭うように、立てひざをしていて。
また来てね。
小手をかざして、俺を見送ってくれた。

それからは。
約束どおり、この少女だけを襲うことにした。
まみちゃんは言ってくれた。
遠慮しないで吸ってね。
でも、ほかのひとは駄目だからね―――
さいごのひと言は、ひときわ強かった。
あなたのことは、あたしひとりでせき止めてみせるから。

けれども俺の貪婪な食欲を支えるには、
まみちゃんの小さな身体には負担が大きすぎた。
一週間と経たないうちに、まみちゃんはみるみる蒼ざめていった。
ふっくらとしていた頬からは、血の気がひいて。
頼りないほどか細い手足は、
いまでもほんとうに血がめぐっているのかと思うほど、冷えてしまった。

まみちゃん、もう無理だ。降参しな。
俺に負けたからって、きみの不名誉にはならないよ。
たったひとりで、よくがんばったね。
そう言って、まみちゃんの頭を撫でて、褒めてあげたけど。
まみちゃんは激しくかぶりを振るばかり。
だめ。お兄さんたちがかわいそう。パパがかわいそう。
泣かんばかりにして、あたしひとりを狙って・・・そうくり返すのだった。

動いたのは、周囲が先だった。
夜更けの末娘の勉強部屋に漂う異様な空気を、まず敏感に察したのは母親だった。
俺がまみちゃんとふたりきりでいる勉強部屋に入ってきたとき。
彼女は子供の友だちを迎える母親よろしく、お紅茶をふたつ淹れたお盆を手にしていた。
あなたの正体は、娘からきいてしまいました。
娘は、あなたを裏切ったわけではありませんの。
親の言うことをきいたまでですわ。
わたくしは娘の懇願に、負けました。
主人と相談して、三夜にひと晩は、身代りを勤めさせていただきます。
だからそのかわり・・・どうぞ娘を、わたしたちから取りあげないでくださいね。
・・・・・・。
たしなむ習慣を持たなかったお紅茶は。
せっかくだから、淹れてくれたご本人に飲んでもらうことにした。
俺はもっと甘美で濃い飲みものを、このひとの身体から味わうのだから。
さいごまで渋っていたまみちゃんも、
「わたしを幸福にしてくれるのは、あなたなのだから」
お母さんにそう言われてはじめて、ふたつ並べられたティーカップを手に取った。

毎夜噛み破ってきた白のハイソックスの脚の代わりに差し出されたふくらはぎは、
肌色のストッキングで、薄っすらと覆われていた。
長い靴下をお破きになるご趣味があるそうね。
まず、好い趣味とは思っていただけないでしょうが―――
そうですね。あまり好ましいことではございませんけれど。。。
できれば回避したいという本心をちらりと覗かせながら。
それでもお母さんは、俺の意を受け容れてくれた。
まみちゃんも、大きくなったらママみたいに、ストッキング穿いてくれるかな?
明け渡す地位をあくまで惜しもうとするまみちゃんは。
それと引き換えに、俺と指きりげんまんをしてくれた。
それでもやはり、肌色のストッキングを穿いた脚にいやらしくぬめりつけた唇のうごくさまから、彼女の視線がはなれることはなかった。
お母さんの穿いていた肌色のストッキングは、他愛なく破けてしまったけれど。
彼女が淡い嫉妬を寄せるほど、とてもしなやかで、色っぽかった。

お兄さんたちと仲良くなるのは、意外にかんたんだった。
少なくとも彼らには、まみちゃんの目は光っていなかったから。
下のお姉さんの彼氏さんとはすぐに仲良くなって。
彼の好む球技の秘密練習の相手を、じつにうまくやってあげたら、
ひざ丈まであるスポーツハイソックスのふくらはぎを、差し伸べてくれて。
どうぞ遠慮なく・・・って、噛ませてくれた。
太めのリブがはっきり浮いたハイソックスは。
まみちゃんの履いているものみたいな柔らかさはなかったけれど。
しっかりとした舌触りを愉しみながら、
逞しい脛を覆う鮮やかなリブを、ぐねぐねとねじ曲げていった。
スポーツで鍛えられた熱い血は、同性の俺さえもドキドキさせてくれた。

上のお兄さんがひた隠しにしていたのは、女装趣味。
あるきっかけで突き止めてしまうと、話はうそのように早かった。
婚約者にうまく話して、あんたの趣味を認めさせるよ。
そのかわり―――
彼女の血を欲しいのか?
警戒に息を詰める花婿氏に、俺はゆっくりとかぶりを振った。
女装したまま、俺の相手をしてくれる・・・?
脚に通した舶来もののストッキングは。
お母さんのそれよりも、すべすべしていた。

わたしの理性を、奪ってください。
まみちゃんのお父さんの招きを受けて。
慣れない酒の相手をさせられたあと。
家族の寝静まった家の、リビングで。
彼は怒ったように、そう言った。
あなたはなにも、喪っていない。
詭弁だろう。
そうでもないさ。
俺はうそぶきながら、グラスを傾ける。
俺が欲しいのは血液と、しいて言えばご婦人たちの身体かな・・・
それ見ろ。
でも、みんなあんたを気遣っている・・・
ふと洩らしたそのひと言に、かれは長いこと黙っていた。
献血だと割り切れば良い。つごうの悪いことには片目をつぶれば、みんな察してくれるさ。
男の子たちは、俺に彼女や婚約者のバージンをプレゼントしてくれる約束をしてくれたんだぜ?
彼はしばらく、だまっていたが。
俺はふと、洩らしていた。
この酒美味いな。
酒が美味いって・・・?
ああ。どうしたわけか、初めてそう感じるような気がするな。
酒が美味いんじゃ、しょうがないな。
男は初めて、上機嫌になった。
ズボンのすそを、まくってみな。
ぶっきら棒に言われるままに、スラックスの裾を引きあげて。
俺は思わず、呟いていた。
これが、いちばん欲しかったかもしれないな―――
彼の脛を覆っていたのは、ストッキング地の紳士用の長靴下。
精いっぱい、俺の趣味に合わせたのだろう。
俺は遠慮会釈なく、薄っすらと白く滲んだ彼のふくらはぎを、がぶりと噛んだ。
働き盛りの血は意外なくらい口に合って、
気づいたときにはもう、顔が蒼ざめるほど、吸い取ってしまっていた。

みんな、小父さんにたぶらかされちゃったんだね。
まみちゃんはちょっぴり、ご機嫌ななめのようだった。
無理もなかった。
一家全員そろった夜は、結納のあとのことだった。
上のお兄ちゃんの婚約者が連れてきた両親とは、すぐに仲良くなって。
奥さんが和服の襟あしをくつろげるのを、先方のお父さんは手ずから介添えしてくれていた。
そのあとはお定まりの、落花狼藉―――

お父さんが視て視ぬふりをする傍らで。
まっさきにお母さんが、奥ゆかしい洋装を着崩れさせて、
娘たちに手本を見せてくれた。
上の娘から純潔を奪い取っているあいだ、
片時も離れたくないという花婿は、血の気の失せた頬を妖しく歪めながら、花嫁の手を握りつづけていた。
いちばん気に入りの紺のハイソックスを穿いてきた彼氏さんは、
これじつは、彼女のおさがりなんだ。
そういって、彼女の視てるまえで噛ませてくれて。
彼女の部屋の片隅で、尻もちをついたまま。
素っ裸になった俺を、制服姿で迎えた恋人が。
制服姿のままお尻に尖った一物を突っ込まれて、
四つん這いになってはぁはぁ息を切らすのを、ドキドキしながら見つづけていた。

みんなひと晩で、始末しちゃうなんて。
まみちゃんね、お兄さんたちにおわびをしなくちゃいけないわ。
「おわび」の具体的方法を、いまはすっかり心得てしまった彼女だった。
そんなことを、思う必要はないのだよ。
俺はまみちゃんの両手を握りしめて、そう囁いた。
きみにもちゃんとした彼氏が、いずれできるのだから―――
まみちゃんはビクッとして、顔をあげた。
小父さんが彼氏になってくれるんじゃなかったの?
瞳には、せつじつな輝きが込められているのを知りながら、
俺はわざと、目をそらせた。
小父さんは齢だし―――それに、独りであとなん百年も生きつづけなければならないんだ。
まみちゃんをほんとうに俺のものにするには、まみちゃんも吸血鬼にならなくちゃならないよ。
きみはでも、人間として生きていたいのだろう?
まみちゃんはこっくりと、素直に頷いていた。
少女のうなじの動きに合わせて、おさげ髪がユサッと揺れた。

あたしの未来の彼氏さんに、乾杯♪
未来の彼氏さん、赦してね。
まみちゃんは髪をサッと撫でつけて。
真っ白なハイソックスをひざ小僧のすぐ下までキリリと引きあげると。
用意はできたわよ。
そう言いたげに、真顔で俺を視る。
ひと晩かぎりの花嫁だった。

たしかにほかの女たちも抱いたけれど、それは肉欲だけのこと。
研ぎ澄まされた劣情が、ほどほどになるまでにふるい落として。
いちばんいやらしい部分は、お母さんやお姉さんたちに遠慮なくふりかけてきた。
まみちゃんが身を張って、彼らの血を守ろうとしたように。
女三人は俺の劣情が優しく和むまで、俺と肌をすり合わせてくれた。

あんまりいやらしく、しないでね。。
まみちゃんもいざとなると、さすがに怯えを顔に浮かべる。
ああ、まみちゃんに嫌われたくないからね・・・
俺はいままでになく優しくほほ笑んで、
ウットリするようなキスで、唇を結び合わせると。
股間に秘めた鎌首をひそかにもたげて、少女の身体に、挑んでゆく。
押し倒されたまみちゃんは、ちょっぴり痛そうに顔をしかめながら。
せっかく引き伸ばしたハイソックスが、たるんでずり落ちていくのを。
お母さんに買ってもらったばかりのチェック柄のスカートのすそが、お行儀わるく乱れるのを、
ずっとずっと、気にしつづけていた。