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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

家族の権利と義務

2019年05月19日(Sun) 05:57:47

次男(17)
義務・・・
登下校の際ハイソックスを着用し、献血の時に吸血鬼の娯楽に供すること
(現在は血液を全量喪失、吸血鬼化したため免除)
彼女を紹介し、処女の生き血の提供に協力すること
同じ部活のクラスメイトを誘い、ハイソックスを着用した男子の供給に協力すること
(ただし、誘引に成功したクラスメイトは吸血して良い)
母親や妹を吸血し(優先順位は吸血鬼に劣後)、吸い取った血液を自身の身体から提供すること
彼女や妹の制服を着用して献血すること

権利・・・
生存に必要な血液を、クラスメートや家族から得ること
母親の肉体を性的愉悦の対象とすること


長男(26)
義務・・・
自身の血液を提供すること
婚約者を紹介し、処女の生き血を提供すること
吸血鬼の住処まで婚約者を送迎すること
望まれた場合には、婚約者が衣装を凌辱されながら吸血され愉悦に堕ちる状況を見せつけられてしまうこと
婚約中は禁欲し、パートナーの純潔を維持すること
挙式直前に婚約者の純潔を提供すること
婚約者が貧血症になった場合には、その衣装を着用し身代わり献血を行うこと

権利・・・
婚姻前に婚約者が処女を喪失する際、一部始終を見届けること(ある意味義務??)


長女(14)
義務・・・
登下校の途中、制服姿で献血すること
吸血鬼化した次兄に血液を提供すること
処女の生き血を提供するため、禁欲して純潔を維持すること
性的関係を伴わない彼氏を作り、その家族もろとも吸血の対象者に加わらせること

権利・・・
私服で献血訪問をする場合、母親の所持するストッキングを着用すること


母親(47)
義務・・・
自身の血液を提供すること
貞操を提供すること
つねに正装し、吸血鬼の来訪を受けたときには衣装もろとも辱めを享受すること
吸血鬼化した次男と近親姦の関係を結ぶこと
週に最低1回、夫に隠れて密会を遂げること
週に最低2回、夫に同伴されて献血・情交すること

権利・・・
吸血鬼に求められて血液を提供するとき、同時に不倫を愉しむこと
次男との近親姦を愉しむこと(当初は義務だったが本人たちの意向から権利化)


父親(49)
義務・・・
勤務中に血液提供を望まれたときは、勤務を放棄して献血に応じること
妻子に対する吸血を容認すること
妻の貞操を無償で提供すること
妻が献血及びそれに伴う不倫を遂げる時、自家用車で送迎すること
次男と妻との近親姦の関係を容認すること
部下の女性を紹介し、献血を勧めること

権利・・・
吸血鬼を相手に不倫をしている妻の様子をのぞき見すること
(時と場合によっては義務)
最初の襲撃を受けた際血液を一時的に全量喪失(現在は家族から得た血液によって回復)した副作用として渇血状態となったとき、妻や娘、息子の婚約者の血液を摂取すること
(優先順位は吸血鬼に劣後。また、娘との近親姦は許容されない)
息子の結婚後、その新妻と性的関係を結ぶこと(息子には許容の義務が生じる)


あとがき
おカタい表現は、ときに微妙にエロさをかもし出すことがあります。^^
あなたはどの人物になりたいですか?^^
男性の場合は全員、パートナーを侵されちゃうんですけどね。。^^;
視る(見せつけられる?)権利は付随しますが。(笑)

喪服のおばさん。

2019年05月13日(Mon) 07:55:00

白髪頭の吸血鬼が、太っちょのおばさんを捕まえて、首すじに咬みついた。
おばさんは恐怖の色を浮かべて抵抗しようとしたけれど、
そのまま、ごくごく、ごくごくと、生き血を飲まれていった。
おばさんは、黒一色の喪服姿だった。
わざわざ喪服を着て男に逢いに来たのだと、あとから知った。
女のほうも同意済みの、吸血行為だった。
どうして抵抗したかって?
それは、視られているのがわかっていたから。
他人行儀におばさんと書いたけど・・・じつは、襲われているのはぼくの母親。
息子の手前、すこしは抗ってみせたんだ。
そのほうが、父さんにも言い訳がつくだろうから・・・

五十台の人妻の生き血がなまめかしくって美味しいなんて、咬まれる前には思ってもみなかったけれど。
母さんが襲われて、黒のストッキングのふくらはぎを吸われているのを見て、納得した。
薄黒いストッキングに透けた青白い肌はなまめかしくって、吸血鬼がしゃぶりつきたくなる気分が、よくわかった。
チュウチュウ、チュウチュウ、音を鳴らして母さんの脚をいたぶり抜いて、
さいごにパリパリとストッキングを咬み破りながら、血を吸い取ってゆく。

はだけた喪服の隙間から、白い肌を滲ませて。
母さんがそのまま無事に帰されるわけはなかったけれど。
ぼくは母さんの名誉を守ろうとは思わない。
むしろ、同じ男として、吸血鬼が母さん相手の欲望を成就させるほうを望んでいた。
父さんもたぶん・・・ぼくと同じ気分のはず。
だって母さんに喪服を着せて差し向けたのは、ほかでもない父さんなのだから――

≪長編≫ 吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 番外編 まゆみの花婿候補

2019年05月13日(Mon) 07:30:47

「お兄ちゃん、ハイソックス似合うね」
青田優治がふり返ると、そこには一人の少女が小首をかしげたかっこうで佇んでいた。
栗色の髪をツインテールを長く長く伸ばした少女は、両手を後ろ手に組み、いたずらっぽい笑みを口許に滲ませて、優治の顔を上目遣いに窺っている。
齢のころは、まだ小学校低学年くらいだろうか。
これ見よがしにわざとらしいポーズに、あからさまなからかいが込められているのは、優治にもよくわかる。
へたをしたら父娘くらい齢の離れた少女の嘲りに、優治はそれでも苦笑しながらこたえていく。
「ありがと、この齢でハイソックスなんて変だよね」
「うぅん、そんなことない。似合ってる」
少女は、今度は真面目に目を輝かせていた。
「いつもハイソックスに半ズボンなんだ」
汗ばむほどの陽気だった。
優治はしま模様のTシャツに白の短パン、それに真っ白なハイソックスを履いていた。
「小学生みたいなカッコ、好きなんだね。でも似合ってるよ。お兄さんが幼稚とかそういうじゃなくて」
少女は少女なりに、気を使っているらしい。
舌足らずな甘え声にそれを感じた。
優治はちょっとだけ、少女に心を動かしかけた。
けれども、「いやまだ早い、もう5~6年は大きくならないと」
と、自分の心にしぜんと制動がかかった。
少女の齢のころは、まだS学校の3年生くらい。そこから5,6歳年上といっても、中学かせいぜい高校どまりである。
そう、優治はロリコンだった。
「ねえ、脚にキスしてもいい?」
「え?」
少女の意外な申し出に、優治は怪訝そうに首を傾げた。
「そうしたいの。似合うから」
優治は、少女のいちずな目に射すくめられたようになって、「うん、いいよ」とこたえた。
こたえた――というよりは、口がしぜんと動いたという感じがした。
「じゃ、するね」
少女は齢に不似合いなくらいだらしなく口許を弛めて、優治のふくらはぎにハイソックスの上から唇を吸いつけた。
自分の足許をしなやかに締めつけるハイソックスの生地に、なま温かい唾液がしみこむ感触に、優治ははぜかぞくっとしたが、
つぎの瞬間だしぬけに、「あああッ!」と悲鳴をあげた。
少女がハイソックスの上から、優治の脚に咬みついたのだ。
優治は、またがっていた自転車もろとも、その場にひっくり返った。
尻もちをついたまま顔をあげた優治の前で、少女は無邪気に笑っていた。
口の周りは、吸い取ったばかりの優治の生き血で、べっとりと濡れている。
足腰立たないほど慌てた優治は、そのまま後じさりしようとしたが、少女は構わず優治の足首を捕まえて、
ふくらはぎにもう一度、唇を吸いつけた。
「ああああッ!」
体内の血液が急速に逆流して、吸いつけられた少女の唇に含まれてゆくのを、どうすることもできなかった。
優治はただ茫然としたまま、自分の履いている真っ白なハイソックスが赤黒い血のりに浸されてゆくのを、薄ぼんやりと見つめていた。
キュッ、キュッ、キュッ・・・
小気味よい音を立てて、少女は自分よりも20歳も年上の男を組み敷いて、血液を摂りつづけた。
少女の名前は、ナギ。
労務者の父親ともども吸血鬼に血を吸われ、齢がとまったまま自らも血を吸う身になった、吸血少女だった。


「ただいま」
蒼ざめた顔を俯けて家に戻ってきた息子を、父親は黙って迎え入れた。
息子の身になにが起きたのか、彼はじゅうぶん把握していた。
この村に来たら、だれしもそうなることが、息子の身にも例外なく降りかかっただけのことだった。
「母さんは今忙しいよ」
奥の部屋にいる母親の気配を求めた息子の背中に、父親は声をかけた。
ふすまの向こうから、母親のうめき声がした。
なにをされているのか、なんとなく察しがついた。
よく見ると、父親も蒼い顔をしていた。
スラックスの下に履いているストッキングのように薄い黒沓下が縦に裂けて、くるぶしを半周しているのに、優治は気づいた。
「ハイソックスはよく洗って、咬まれた相手に渡しなさい」
父親は手短かにそういった。
優治は黙ってあてがわれた自室にひきあげたが、
その前に風呂場の前の洗濯機に、脱いだハイソックスを放り込むことを忘れなかった。

大の男のハイソックスに欲情するような連中にとって、お袋の穿いているパンストはさらに美味だろうということは、容易に察しがついた。
優治は、さっきの少女との語らいを反芻した。
ハイソックスを真っ赤に濡らした大人の男と、彼から吸い取った血で口の周りを真っ赤に濡らした少女との、和やかな語らいを。
「お兄さん、どこから来たの」
「都会でね、先生をやっていたんだ。こんどこっちの学校で空きができたからって、先生をやりにきたんだよ」
「なあんだ、スケべー春田の後釜か」
少女の投げやりな言い方に、優治は噴き出した。
「そうだったの?」
「うん、あたしのお友達のまゆみちゃんが初めて襲われたときにね、まゆみちゃんが落としたブラジャーせしめようとしてナギに怒られたの」
「ははは、教え娘のブラジャーにいたずらするなんて、それはあんまりだね」
「お兄さんは、そういうことしないの」
「うーん、どうかな。ぼくも似たり寄ったりかな」
「じゃあスケベーなの」
「男は大概そうだよ」
話しながら優治は、目の前にいる少女が少女ではなく、対等な大人と話しているような気がした。
「都会の学校でね、女子生徒と問題起こして、いられなくなっちゃったんだ。親がここの学校を紹介してくれて、校長先生がそんなぼくを拾ってくれてね。でも、ロリコンの先生が中学教師じゃ、具合悪いよね」
「そんなことないよ、楽園じゃん」
優治には、ちょっとだけ気になることがあった。
「ところでさ、きみ、さっき、前の担任の春田先生って人が、まゆみちゃんという生徒のブラジャーをいたずらしようとしたって言ってたよね」
「ウン、言った」
「その子って、月田まゆみっていう子のことかい?」
「そうだよ、あたしの大好きなお姉ちゃん」
「お姉ちゃん?」
「血を吸わせてくれる女の子のことをね、ナギ、そう呼んでるの。空いている教室に呼び出して、父ちゃんといっしょに襲って血を吸ったんだ」
「ええっ!?」
顔色をかえた優治に構わず、ナギは言い放った。
「楽しかったなー、よく思い出すけど、あわてるまゆみちゃんのこと思い出すたび、元気が湧いてくるの」
「そういう関係だったんだね」
「そう、そういう関係」
優治は、ナギがすべてを見通していると直感した。
「まゆみちゃんは、おとなしく血を吸わせてくれたの」
「そんなわけないじゃん、あたしのことを叱りつけたり、ものを投げたりして、さんざん抵抗したの。手こずったなー」
「それはそうだよね、まゆみちゃんも、ナギちゃんのことが怖かったんじゃないかな」
「さいごにね、学校の外まで追いかけっこして、転んで死んだふりをしてまゆみちゃんをだまして、駆け寄ってきたところを咬んだの」
「ええっ、それは卑怯だな」
「さんざん血を吸い取ってあげたら、やっとまゆみちゃんもわかってくれて、それからは仲良し。だから卑怯でもなんでもないよ。うまくいったからいいじゃん」
ナギの無茶苦茶な理屈に、優治は真面目に頷きかえしてしまっている。
「まゆみちゃん、白のハイソックス大好きだよ。こんどお兄さんと二人で、おそろいで履いてうちに遊びにおいでよね」
そういうとナギは愛くるしく笑って、手を振って駈け去っていった。

吸血少女とのやり取りを思い出しながら優治は、さっき咬み破られたハイソックスを、もう少し履いていてもよかったと感じた。


三か月ほどあとのこと。
優治は月田まゆみと肩を並べて、蛭川ナギの家へと歩みを進めていた。
白の短パンと紺のプリーツスカートの下は、おそろいの白のハイソックス。
いつもは、最初にナギに咬ませたライン入りのスポーツ用のハイソックスだったが、
きょうはまゆみの通学用のハイソックスを借りて脚に通している。
優治が呼び寄せられたのは、まゆみとの縁談のせいだった。
「自分の教え娘を姦っちゃうのって、おしゃれだよね」
ナギはそういって優治をからかっていた。
赴任した時校長先生は、授業中だった月田まゆみをわざわざ呼び出して、優治に引き合わせた。
「この子が月田くん。きみの花嫁候補」
あからさまな紹介にまゆみは顔を真っ赤にして照れて、もじもじとあいさつするのが精いっぱいだった。
その初々しさに、優治がどきん!と胸をはずませたのは、いうまでもない。

受け持ちのクラスに月田まゆみが含まれていると知ると、もう授業どころではなかった。
もっとも優治のクラスはすでに崩壊してしまっていて、生徒たちは勉強やスポーツに励むよりも、
学校に出没する吸血鬼たちを制服やブルマー姿で応接することに熱中していたから、
優治の授業など、どうでもよかったのだが。

まゆみもまた、訪ねてくるナギやその父親の蛭川に呼び出されるまま、制服姿のまま若い血をすすり取られるのが日常になっていた。
優治の役目は、まゆみの血を求めて学校に現れる父娘のために、教え娘を呼び出すことだった。
そんなおぞましいことはできないとしり込みをする優治に、ナギはいった。
「その代わり、お兄ちゃんのためにまゆみちゃんを連れてきてあげる。
 まゆみちゃんがお兄ちゃんを気に入ればいいけど・・・じゃないとこの縁談は破談だからね。
 うまくいったら、二人で仲良く過ごすといいよ。キス以上はだめだけど。
 あっ、でも、ハイソックスの脚にイタズラするのは許してあげようねって、あたし言っといてあげるから」 
半信半疑でいると、夕方には本当にまゆみが家まで訪ねてきた。
真っ白な夏用のセーラー服に濃紺のスカート姿。
この季節にはちょっと暑すぎるかもしれないのに、ハイソックスもちゃんと履いてきてくれていたのをみて、優治はずきり!と胸をはずませた。
その日は意気地なくどぎまぎしただけで、なにもできずに終わってしまったが、
二度三度と面会を重ねるたびに、少しずつ会話が増えていった。
まゆみがナギの奴隷になるまでの話も、聞かせてもらった。
そしれまゆみがいまの状況に納得していること、
将来は結婚を考えているが、結婚相手にはこれからもナギ父娘に血液を提供することを認めてもらおうと思っていること、
もしも優治さんがそうだったら、女学生の制服姿にイタズラされても我慢して受け入れること・・・
その話を聞いた優治が、その場でまゆみの制服姿に挑みかかったのは、いうまでもない。
「キスより先なんだね」
まゆみにからかわれながらも、優治は教え娘の発育のよいふくらはぎにしゃぶりついて、
真っ白なハイソックスによだれをなすりつける行為に、恥を忘れて熱中してしまった。

さいしょのうちは、露骨にまゆみの血を欲しがる父娘を忌まわしく思い、
彼らのためにまゆみを呼び出すことに躊躇を感じていたが、
(むろん優治がそういう態度をとることも、この父娘の愉しみのひとつになっていた)
やがてまゆみの血を啜りに来る異形のものたちのために、自ら未来の結婚相手を呼び出すという行為に、
マゾヒスティックな歓びを見出すようになっていた。
そして、彼らが嬉々として、制服姿のまゆみのうら若い血液にありつく有様を、隣室から覗き込むことに昂奮を覚えるようになっていた。

きょうは、そんな日々にひとつの区切りをつける日だった。
道々、ふたりは何度か立ち止まっては、お互いに顔を見合わせ微笑みあった。
どちらの顔にも、照れくさそうな笑みがあった。
処女の生き血を蛭川に捧げるさいごの機会。
まゆみの初体験は、ずっとまえからナギの父ちゃんが楽しむことになっていたが、
優治は彼の望みを好意的にかなえることに、やっと同意する決心をつけたのだ。
「ナギの父さんには、まゆみちゃんの純潔は、ぼくのほうからプレゼントしてあげることにしたい」
婚約者の純潔を汚させるための訪問――
けれどもきっと、ナギの父親はいうにちがいない。
「教師のくせに、教え娘に手ぇ出して。在学中に姦っちまうとは、エエ度胸しておるなあ」
そして、優治はきっと言うだろう。
「エエ、ぼくは教師失格です。ですから罰として、ぼくのまゆみさんを、目の前で汚してください」
と。
罰なんかどうでもエエ。きょうは祝いじゃ、宴じゃ・・・
そういって相好を崩した蛭川は、薄汚れた作業衣を着た図体をにじり寄らせて、セーラー服姿のまゆみに向き直るに違いない。
穿きなれない黒のストッキングに白い脛を滲ませて、大人びた色香を発しはじめたまゆみ――
濃紺のセーラー服の襟首から覗く白い首すじを舐められて、
せり上げられた上衣から覗くわき腹に、卑猥な牙を突き立てられて、
あらわにされたブラジャーをずらされて、覗いた乳首を好色な唇に含まれて、
未来の花婿の目の前で、「ああん・・・」とあられもないうめき声を漏らしながら、
つかまれた足首の周り、薄手のストッキングがよじれて皴を波打たせるのにも気づかずに、
あからさまに這わされたべろに、唇に、牙に、身に着けたばかりの礼装をいたぶり抜かれて、
ストッキングを片方脱がされたかっこうで、秘所を舌でなぶり抜かれる――
そうした行為のひとつひとつに、優治はきっと、恥ずかしい昂奮を覚えてしまうに違いない。

「やはりさいごは、あの真っ白なハイソックスがエエのお」
呼び出された両親からハイソックスを受け取って、
履き替えたハイソックスのうえから、なおも辱めの唇を吸いつけられて、
父、母、そして未来の花婿の目の前で、
知的な色合いをした濃紺のプリーツスカートを踏みしだかれて、
真っ白なハイソックスを半ば脛からずり下ろされた両脚をめいっぱい押し拡げられて、
まゆみは初めての歓びに貫かれる――
彼女の通う学校は、親よりも年上の男との不純異性交遊を認める学校だった。


あとがき
去年の10月に長期連載したシリーズの番外編が、とつぜん思い浮かびました。
大の男が吸血少女の征服を受けて、
その彼が教師で、教え娘を姦る権利と引き替えに、
未来の花嫁の血を啜りに学校にやってくる吸血父娘のため、手引きをする――
ちょっとコアなお話に仕上げてみました。

主人公の優治は「まさはる」と読みます。
その父親は、このシリーズの冒頭に登場します。
まゆみの父親の同僚で、薄手の黒沓下を履いた男です。
知らないうちに妻が法事の手伝いに呼び出されて、喪服姿を襲われて、黒のストッキングを咬み破られながら吸血されてしまいます。
そして、それに味をしめた吸血鬼が、今度は夫の勤務先にも表れて、
「奥さんのストッキングとはひと味違う」といって、犯した人妻の夫の血を啜るようになります。
黒沓下の男は、相手が妻を情婦のひとりに加えた男と知りながらも、吸血に応じていく――
そんなストーリーだったと思います。
詳しくは、第二話を読んでください。

今回のお話は、むしろ「嫁入り前」のカテゴリにすべきかもしれないのですが、
ほかの話に合わせて「家族で献血。」に入れました。

Love affair

2019年04月15日(Mon) 07:51:12

たんなる捕食や殺人として吸血するやつらも、もちろんいる。
だがわしが人を襲うとき、その行為はlove affair(情事)であるようにと思っている。
だからあんたの息子さんを襲ったときも、love affairだったのだ。
そして息子さんはわしの好意に応えてくれて、
長い靴下を履いた脚を咬みたがっているわしのために、
わしと逢うときはいつも、紺のハイソックスを履いてきてくれた。
これは立派な、love affairではないか?
恋するものはだれでも、相手の好みに合わせて装うものだからな。
同性だからと言って、恋愛が成立しないとは言い切れないだろう?

そ・・・それはたしかにそうかも・・・
わたしはこたえた。
ことの是非は別として、だ。!と、つけ加えることを忘れずに。

息子さんとわしとの仲を、賢明な奥方はすぐに感づいた。
当然だ。
息子が毎日のように、咬み痕のあるハイソックスを履いて帰って来るのだからな。
そしてわし達の逢瀬を、見つけてしまった。
脂の乗り切った人妻を、わしがどうしてそのまま見過ごしにするだろうか?
そう、その晩わしは、奥方の生き血もたっぷりと、おすそ分けに与った。
母親と息子の生き血が、親子ながら渇いたわしの喉を潤したのだ。。
もちろん奥方とは、その場でlove affairを遂げた。
魅力的なご婦人に迫らないのは、失礼に当たるからな。
そして奥方は、わしに恥を掻かせることなく、夫しか識らない身体を開いてくださった。
奥方の名誉のために言う――彼女は夫しか識らない貞女だった。
そしてその無防備な股間を奥底まで味わったあと、身体の隅々にまで、わしの毒液をしみ込ませてやった。
もちろんこれも、love affairといえるだろうな?

もちろん・・・そうだろう・・・
わたしはしかたなく、こたえた。
ことの是非は別としてだ、あくまでも・・・

ところで、だ。
いまわしは、あんたの血を吸っている。
目のくらむような貧血だろう?だいじょうぶか?あしたはなんの予定もないのだったな?
なに、週末はずっとぐったりしているんだと、奥方から聞いて知っておる。

たしかに男はわたしを組み伏せたうえでほくそ笑みながら獲物の自慢をつづけ、
時折これ見よがしにと、吸い取ったばかりのわたしの血をたらたらとしたたらせて、
わたしのワイシャツの胸に、ほとびを拡げていったのだった。

これも、love affairだとでも、いいたいのかね?
言葉を途切らせながら問うわたしに、
ああ、そうだ。もちろんそうだ。
男はそう言って、むき出しの股間をわたしの腰に圧しつけて、
妻と息子とを辱めた勁(つよ)い一物で、わたしの股間をこともなげに貫いた。
――妻と息子が堕ちた理由(わけ)を、わたしは一瞬で理解した。
わたしたちのlove affairを、二対の眼(まなこ)が、間近な物陰から息を詰めて見守っているのを感じながらも、
わたしは恥を忘れて呻き仰け反って、自分が快感の坩堝(るつぼ)に達してしまったことを、態度で示してしまっていた。
いままでの家長権が崩壊するのをありありと感じながら、
同性の魔物の誘惑に屈していく自分を、どうすることもできなくなっていた。

・・・・・・。
・・・・・・。

二日後のこと。
勤め帰りのわたしは、背後からひたひたと迫って来る足音を感じていた。
あの公園の前まで来ると、わたしは家路を外れて公園のなかに入っていった。
公園のいちばん奥にあるベンチに腰かけると、男は正体もあらわにわたしのまえに立ちはだかった。
奥方も息子さんも、家で寝(やす)んでいると彼は告げた。
ふたりを勤め先と学校に送り出したあと、奥方をエプロン姿のまま追いかけまわして首すじを咬んだのだと、
男は楽しそうにいった。
それからワンピースの裾を腰までたくし上げて、肌色のストッキングもろとも太ももをなん度も咬んで採血を愉しんで、
妻がぐったりとしてしまうとやおらワンピースを引き裂いて、お昼過ぎまで犯しつづけたのだと。
なにかを予感して、息子は学校をさぼって家に戻って来た。
そして、通学用の紺のハイソックスを履いた脚を差し伸べて、気の済むまで咬み破らせてやった。
母子を代わる代わる抱きながらlove affairをくり返して、わたしの帰宅を待っていた・・・というのだった。

わたしは、会社に三日間の休暇届を申請してきたと彼に伝えた。
そしておもむろに、スラックスをたくし上げてゆく――
出勤前の身づくろいのとき妻が出してくれた長い靴下に覆われた脛に、男は露骨に目を輝かせた。
真新しい長靴下が、見るかげもなく咬み破られながら徐々にずり落ちてゆくのを、わたしは面白そうに見つめつづけた。
失血で薄ぼんやりとなったわたしは、スラックスを脱がされて太ももがそらぞらしい外気に触れるのを覚え、
逞しい猿臂が蛇のように絡みつけられ、
どす黒く熱した股間の一物がわたしの腰の奥へと侵入するのを感じた。

妻や息子の股間を濡らした粘液が自分のなかに満ちるのを、どうして嬉しそうに反応してしまったのか?
もはやそんなことは、どうでもよかった。
彼らだっておなじことではなかったか?
公園を取り囲むご近所のカーテンのすき間から覗く好奇の視線を、感じずにはいられなかった。
彼らだって、同じ運命に身を浸しているではないか?
夜更けの公園で、わたしは随喜の声を洩らしながら、彼の征服を受け入れていった――

家族会議。

2019年04月08日(Mon) 07:33:40

街を徘徊する吸血鬼が、妻に求愛した。
彼を妻の情人として受け入れるかべきかどうか、家族会議が開かれた。
次男が言った。
――ぼく、母さんが犯されるところを観てみたい♪
長男も言った。
――母さんが犯されちゃうの、ぼくもちょっぴり悔しいけどさ、
――でも、いちどだけなら片目をつぶってあげようよ。
長女が言った。
――お父さんには気の毒だけど。
――お母さんの恋、かなえてあげようよ。
長女の言いぐさに、とどめを刺された。
妻はすでに吸血鬼に魅入られて、めろめろになってしまっているのを、認めないわけにはいかなかった。
子どもたちの意見が通り、妻の貞操は吸血鬼が勝ち得ることになった。

あとから知った。
子どもたちは3人とも、吸血鬼にたぶらかされていた。

真っ先に咬まれたのが次男。
つきあっていた彼女を吸血鬼に紹介して二人はつきあい始め、
花嫁はローブデコルテの裏を花婿ではない男の精液で濡らして華燭の典を挙げた。
新妻を共有することに、次男はとても満足していた。
それは、自身の妻が魅力的な女であることを、彼が認めたことになるからだった。

つぎに咬まれたのが、長女。
就活を途中であきらめて、リクルートスーツのすそを彼の精液で濡らしながら、吸血鬼に征服された。

さいごに咬まれたのが、長男。
――我が家の嫁になるひとは、いちどあのひとに咬まれないと。
妹の無茶苦茶な理屈に彼が屈したのは、
婚約者がいながら実の妹の色仕掛けに惑わされて、近親相姦の味を識ってしまったから。
いちどだけならという約束で、婚約者には善意の献血だからと言い含めて血を吸わせた。
彼女の身体をめぐる清冽な処女の生き血は、吸血鬼をいたく満足させた。
約束はもちろんまもられることはなく、
長男の嫁はなん度も吸血鬼に抱かれて、
己の身をめぐるうら若い血液で相手の唇を浸す行為に、夢中になって耽り抜いてしまった。

婚礼の前夜、二人で訪問した吸血鬼の屋敷のなかで、
我が家の跡継ぎ息子の花嫁は、花婿ではない男に処女を捧げた。
息子は自分の花嫁がむざむざと汚されるのを、むしろドキドキしながら見守った。
ズキズキとした嫉妬に胸を昂らせながら、花嫁の媚態から目が離せなくなっていたのだ。
彼らがつぎは母さんを、、、と思ったのには、もっともな謂われがあったのだ。
そして、自身で言い出した「いちどだけなら」という約束が守られないことも、身をもって理解していた。

娘や嫁たちのふしだらを咎める務めを放棄して、妻は四十路の身体を吸血鬼にゆだねていった。
高価なブラウスに包んだ胸をまさぐられ、
清楚なストッキングに染めた足許を辱しめられて、
楚楚とした装いもろとも汚されてゆく――

綺麗だったよ、お母さん。貞操喪失おめでとう。

子どもたちの不思議な祝福を受ける妻は、戸惑いながらも嬉しげに微笑んで、
これからは永年連れ添った夫を裏切り続けるのと誓っていた。
わたしは妻の裏切りを許し、これからは我が家のあるじとして、吸血鬼の忠実なしもべとなることを誓っていた。
わたしたち夫婦は、結婚式をもう一度挙げたような気分に浸っていた。
それは決して、間違いではなかった。

塗り替えられた記憶

2019年03月22日(Fri) 08:16:32

きっ、吸血鬼・・・!
小声で叫んだ孝子に、吸血鬼が迫った。
カラフルなワンピースを着た少女は、あっという間に抱きすくめられ、首すじを咬まれていった・・・
貧血を起こしてぐったりとなった少女をソファに寝かせると、男はにんまりと笑い、
ハイソックスを履いた少女のふくらはぎに、無慈悲な唇を吸いつけてゆく。
なすりつけられた唇の下、真っ白なハイソックスがみるみる真紅に染まった。

ちぇっ、お前のロ〇コンも、まったく治らねえな。
相棒の吸血鬼が、傍らからからかった。
少女を襲った吸血鬼の兄だった。
そういう兄貴の腕のなかで、少女の母親、琴絵が首すじから血を流して、ぐったりとなっている。

兄貴だって、おばさん専科じゃないか。
口を尖らせる弟に、兄貴は「まぁ・・・な」と、あいまいに嗤った。
そして、琴絵の足許に唇を近寄せて、ストッキングを破りながら血を啜り始めた。
不運にも琴絵には、まだ意識があった。
礼装を辱めながら吸血をつづける相手をどうすることもできずに、
相手の思うまま、熟れた血潮をむざむざと愉しまれていった。

「あ・・・うん・・・」
そのあとは、自然の成り行きだった。
琴絵のスカートは兄貴の手が、
孝子のワンピースのすそは弟の手が、
慣れた手つきでたくし上げていった。
良家の母娘は、そろって眩しい太ももをさらしながら、さらなる汚辱の刻を迎えた。
「娘だけは堪忍して」
という母親の願いは、聞き入れられなかった。
「お母さんも祝ってあげようよ」
耳もとで兄貴にそう囁かれたときには、
孝子は太ももに淡い血をあやしながら、沈み込まされた逞しい腰に、腰の動きをぎごちなく合わせていたし、
琴絵自身もまた、肉薄してくる強引な腰つきに、セックス慣れした身体で応えはじめてしまっていた。

不運にも、ちょうどそのとき、夫のキヨシが帰宅してきた。
「お前たち!何をしている!?」
立ちすくむ夫はすぐさまふたりの吸血鬼に迫られて、両側から首すじを咬まれた。
あとは、妻や娘がたどったのと、まったく同じ経緯だった。
貧血を起こしてへたり込んだキヨシに、ふたりはなおもおおいかぶさって、血を啜った。
働き盛りの血液は、不埒な吸血鬼どもに、新たな精力を得させてしまった。

「処女の血も、悪くないよな」と、兄がいい、
「俺、女を抱きたくなった」と、弟がいった。
孝子の処女は弟のほうがすでに奪ってしまっていたが、
その夜のうちなら処女だと、彼らは見なしていた。

幸か不幸か、半死半生になったキヨシには、まだ意識があった。
「奥さんの名前、何という?」
「それを訊いてどうするのだ」
「教えてほしいから聞いているんだ、そうしたら命は助けるから」
弟の言葉を信じた夫は「琴絵」と妻の名を口にした。
妻にのしかかる吸血鬼がどうして妻の名を聞きたがったのか、すぐにわかった。
弟は琴絵の服を剥ぎ取って、「琴絵、琴絵」と名前を呼びながら、犯したのだ。
「あああああ」
キヨシは屈辱に震えた。

娘の孝子にも、むごい運命が降りかかっていた。
「きれいなおべべ、だいじにしようね」
兄の吸血鬼は孝子の血を吸いながら、血しぶきが孝子の着ているワンピースに撥ねないよう気遣いをしていた。
孝子にもそれがわかるのか、せめてお洋服だけは台無しにされまいと、抗うことをこらえていた。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ・・・
吸い取られてゆく処女の血潮が悲し気な音をたてるのに、キヨシはふたたび悶絶した。
「きみの血は、俺たちの身体のなかで、母さんの血とひとつになるのだよ」
兄貴にそう囁かれて、孝子は観念したように身体の力を抜いた。

初めての夜に男をふたりも識ってしまった少女には、無軌道な青春が待ち構えているのだろう。
「悪い評判が立たないよう、気を使ってやるからな」
吸血鬼たちの捨て台詞が、キヨシを黙らせた。
しばらくは憤りを抑えきれなかったキヨシは、妻や娘が彼らと密かに密会を重ねていると知り、
もはや成り行きに任せるしかないと観念した。
兄弟は、和解を誓ったキヨシを慰めるため、記憶を塗り替えてやった。

―――

吸血鬼の兄弟が、妻と娘を見初めた。
妻も娘も常識のある婦人だったので、外聞を気にして、なかなかお二人のご好意に応えようとはしなかった。
それで、恋情を抑えかねたふたりは、ある夜わが家に侵入して、強引に欲望を遂げてしまった。
娘は初めての男に夢中になってしまい、
用心深かった妻も、無防備にさらけ出した貞操をむさぼり尽されて、不覚にも歓びを覚えてしまった。
わたしが帰宅しても、彼らは妻や娘に対する好意をあらわにすることをはばからなかった。
それくらい、妻と娘のことを気に入ってくれたのだと、わたしは理解した。
彼らはいちど結んだご縁を深めるために、獲物を取り替え合って愉しんだ。
そして、はからずも妻と娘を提供することになったわたしに同情をして、夫として父親としての名誉は必ず守ると約束した。

妻も娘も魅入られてしまって、彼らとの逢瀬を重ねるようになった。
それでも妻はわたしによく尽してくれ、娘もいままで以上に勉強に励むようになった。
わたしはお二人を、よろこんで家庭に迎え要れることにした。
妻も娘も、お二人との交際を願ったためである。
彼らの習性の理解を示し協力を約束したわたし自身も生き血を差し出すようになって、
ふた組のカップルが愛し合う場で、歓びを共にするようになった。
わたしの親友である吸血鬼たちは、良家の貞淑な人妻と令嬢と結ばれて、愛人としてゲットすることに成功したのである――

家族で献血。

2019年02月26日(Tue) 07:44:50

吸血鬼さん、血が欲しいの?
まだ稚ない娘たちは、目のまえにいるのが吸血鬼なのだと知りながら、
人懐こく口々に問いかけて、
ハイソックスの脚を咬みたがる彼のまえ、無邪気に笑いながら脚を差し伸べてゆく。

上の子は、真っ赤なワンピースに赤のハイソックス。
下の子は、黄色のワンピースに黄色のハイソックス。
飢えた吸血鬼は蒼ざめた頬を弛めながら、齢の順に咬んでゆく。
ふたりとも、
「あ」
と、ひと言だけ洩らして、
痛みを口許から覗かせた白い歯に、初めての苦痛を秘めてゆく。

嫌ではなかった証拠に、キャッ、キャッとはしゃいだ声をあげながら、
もう片方の脚も咬ませていって、
真新しいハイソックスを、惜しげもなく咬み破らせてやっていた。

お母さんは終始笑顔の娘たちとは裏腹な怯えた顔で、いちぶしじゅうを見届けて、
さいごに首すじを、咬まれていった。
「お母さんの血も、美味しそうだね・・・」と、うそぶかれながら。
「子どもの新鮮な生き血を欲しい」
そんな言いぐさを真に受けて、自分は免れると思っていたのだろうか?
いや、ちがう。きっと、ちがう。
だって娘の父親で自分の夫である男が、首すじから血を流して夢うつつになっているのを、横目でチラチラと窺っていたのだから。

ハイソックスに血を滲ませて気絶した娘たちの傍らで。
お母さんも同じように、肌色のストッキングを咬み剥がれていった。
うっとり見つめるわたしのまえで、スカートの奥まで受け入れていった。

婚約者を共有する。

2019年02月24日(Sun) 10:10:09

力づくでむしり取られているはずが、けんめいに捧げ抜いているように映る。
無理強いに抑えつけているはずが、情愛込めて抱きすくめているように映る。
生命の源泉である血液をむさぼられているという危険でまがまがしい行為のはずが、
パートナーの渇きを慰めるため、自ら危険を冒してまがまがしいはずの行為を許しているように映る。
そう、ぼくの麻衣子さんは文字通り献身的に、少年のころからのぼくを支配しつづけてきた小父さんに、尽くそうとしている。

さいしょはなにを求められているのか理解できずに戸惑っていて、
やがて相手の意図を知ると、うろたえて逃げ惑って、
ぼくが後ろから優しく両肩を抱きしめると、いぶかしそうに救いを求めるような上目遣い――
けれども麻衣子さんは、優しいぼくの抱擁から奪い取られるようにして、小父さんの猿臂に身を巻かれていった。

抗うピンクのスーツ姿は、すぐに動きを止めた。
小父さんの慣れたやり口は、どうしたらよいかわからない初体験の若い女性の抵抗をくぐり抜けて、
あっという間に首すじを咬んでしまったのだ。

ごくっ、ごくっ、ごくっ・・・
リズミカルなくらい規則正しい音を立てて、麻衣子さんの血が小父さんの喉を鳴らす。
それにしても器用なものだ。
麻衣子さんのピンクのスーツには、血潮一滴こぼれていない。
親と暮らしていて、帰りが困るから・・と、痕跡を残さないようぼくからお願いしていたのだ。

貧血を起こした麻衣子さんは、その場にくずおれるようにして座り込んでしまい、
小父さんに促されてやっとのこと、ソファに横になった。
新味に介抱を続けた小父さんはなにやら麻衣子さんに囁きかけて、麻衣子さんも薄目をあけてかすかに頷き応じている。
それを少しだけ離れて見つめるぼくは、かすかな嫉妬の疼きを覚えた。
やがて麻衣子さんはそろそろと脚を差し伸べていって、小父さんに足首をつかまれていった。
小父さんの掌のなかの麻衣子さんの足首に、ストッキングのしわがキュッと波打つ。
礼儀正しく装われたストッキングに帯びたかすかなしわが、麻衣子さんの堕落を予告しているかのようだった。

やがて小父さんは、麻衣子さんの足許にそろそろと唇を近寄せていって、ストッキングのうえからクチュッ・・・と舌を這わせた。
「仲直りのしるしに、ストッキング破かせてあげるって言ったの」
あとで麻衣子さんは、ぼくにそう教えてくれた――

まるでレ〇プのあとのようだった。
ピンク色のスカートは腰までたくし上げられて、ストッキングは派手に咬み剥がれて大穴が開いて、
太もももひざ小僧も、素肌を露出させてしまっている。
貧血を起こしながらも麻衣子さんは、彼のためにうら若い血液を提供しつづける。
もはや渇きを満足させた小父さんは、量をむさぼるのではなく、純粋に麻衣子さんの血の味を愉しんじゃっている。
麻衣子さんも生き血を緩慢に啜り取られてゆくのをひしひしと感じながらも、自分の血が小父さんの喉を鳴らすのを、ウットリと聞き入っていた。
まさに、お似合いの二人――ぼくにさえ、そう思えてしまった。

「ありがとう。麻衣子さんの生き血は美味しかった。これからも時々逢わせてほしい。
 逢って処女の生き血を吸わせてほしい」
静かな声色でそう願う小父さんのまえ、むしろ麻衣子さんのほうが積極的だった。
「美味しいって言われると嬉しいものですね。ちょっとブキミだったけど――
 こちらこそ、よろしくお願いします。というか、お手柔らかに。(笑)
 貴志さんが子供のころから親しい方なら、信用できますからね」

それからは、ぼくが麻衣子さんを連れて行く時もあれば、
麻衣子さんが小父さんと2人きりで逢うときもあった。
だんだんと、回を重ねるごとに。
2人きりで逢う頻度が多くなって、そのうち麻衣子さんのほうからは、事前の連絡が来なくなった。
それでも小父さんはこまめに、ぼくに麻衣子さんとの密会の状況を伝えてくれた。
麻衣子さんの羞恥心が濃くなってきたととるべきなのか?
――でも、羞恥心をそそるようなことを小父さんが麻衣子さんにしているということなのか?
麻衣子さんよりも小父さんのほうが信用できるというべきか?
未来の花嫁を寝取られつつあるのに、信用するって言うのもなんだか・・・だけど。。
けれどもそうした密会も、小父さんは残らずぼくに覗き見させてくれた。
表むきは、「きみも気になるだろう?」と気遣ってくれた結果だけれど、
じつは見せつけたがっているんでしょう?と訊いたら、「良い勘だね」と、にんまりされた。
さすがのぼくも、ちょっぴり憤慨したのだけれど。

でも、回を重ねるごとに・・・ぼく自身、気持がだんだん変わって来た。
さいしょのうち色濃く感じていた後ろめたさやいかがわしさは消えていって、
小父さんが麻衣子さんに対して初夜権を行使することに、むしろ昂ぶりをもって受け容れてしまいそうな自分がいた。

あるとき久しぶりに、ぼくにお呼びがかかった。
ママや妹の血をむやみとむさぼったあとは、ぼくにもお呼びがかかることが少なくなかったけれど。
ここ最近は麻衣子さんが加わったことで、彼の喉もだいぶうるおっていたのだろう。
邸を訪ねていったぼくの目のまえに置かれたのは、見覚えのある麻衣子さんのスーツ――
「彼女から借りた。きょうはきみがこれを着て、わしの相手をするように」
そう――
先週の逢瀬のとき、夢見心地になった麻衣子さんに、来週も来れるか?と訊いたとき。
来週は勤め先の研修で・・・と麻衣子さんが応えると、小父さんは厳かに告げたのだった。
では貴志くんに、身代わりをつとめてもらおう。
きみの服を貸しなさい。
彼、じつは女装趣味があるのだよ――

震える手でブラウスの釦をはめて、
戸惑いながら、スカートを腰に巻きつけて行って、
昂ぶりながら、ストッキングを脚に通してゆく。
麻衣子さんの足許を包んでいたストッキングの感触が、妖しく足許にまとわりついた。

その日女として奉仕したわたしのことを、いつもと真逆に見つめる麻衣子さんの気配を、ありありと感じながら。
麻衣子さんを近々狂わせるはずの一物が、いつも以上の熱烈さでぼくの股間を抉るのに、視線を気にせず乱れ果ててしまっていった。

ひとり残らずモノにされる。

2019年02月24日(Sun) 08:56:08

吸血鬼に襲われて、ぼくやぼくの家族の血をゴクゴクやられてしまうことに奇妙な昂奮を覚えるようになって、
どれくらいの時間が経ったのだろう?
さいしょはもちろん、怖かった。
けれども、ぼくの首すじに咬みついたその小父さんが、ぼくの血を美味しそうに飲んでいるのだと実感したとき、
えもいわれない満足感に支配されて、好きなだけ飲んでいいからね・・・って、囁いてしまっていた。
ハイソックスを履いたまま脚を咬みたいとねだられたときも
お気に入りの紺のハイソックスを、ねだられるままに咬み破らせてしまっていた。
ママがいつも穿いているストッキングも愉しんでみたいと言われたときも、
後先考えずに、OKしてしまっていた。
小父さんを家に招んで、勉強部屋で2人きりになって、白地にライン入りのハイソックスを咬み破らせてあげているとき、
折あしく、お紅茶を淹れてくれたママがお盆を抱えて現れた。
小父さんはママの淹れてくれたお紅茶をひと息に飲み干すと、
ぼくの履いているハイソックスが血に濡れているのを見てびっくりしているママを横抱きにつかまえて、
首すじをガブリ!と咬んでいた。
ぼくのときとまったく同じやり方で、
ぼくのときとまったく同じようにママは目を回してしまって、
お紅茶よりも美味しいご馳走を、お客さんにたっぷりとご馳走する羽目になっていた。
花柄のワンピースで四角く区切られた白い胸もとを、赤黒い血のしずくがしたたり落ちて、
ワンピースをいびつに濡らしてゆく光景を、ぼくは自分が血を吸われているときと同じくらい昂奮しながら見つめていた。
そのあと小父さんがママにしたことは、ママが魅力的だったからだという囁きを、
ぼくは誇らしげに笑って頷き返してしまっていた。
パパにはナイショ――それが小父さんとママとの約束だったけど。
いつの間にかパパにはばれてしまっていた。
ぼくはママが小父さんの恋人になればよいと思っていたけれど、
パパもまったく同じ考えで、ふたりを似合いの恋人だといって、ふたりが服を着崩れさせながら仲良くしているのを、
ぼくと代わりばんこにのぞき見していた。

のぞき見といえば、妹のときもそうだった。
ぼくの親友のヨシトくんは、妹を連れ出して小父さんの家に連れて行き、「貴志の妹をつかまえてきました」といった。
ヨシトくんもいつの間にか血を吸われて、小父さんの手下になっていたのだ。
処女の生き血を吸わせてあげたい一心で妹を連れ出したヨシトくんを、ぼくはとがめることができない。
ほんとうは、ぼくが小父さんに妹を逢わせてあげなくちゃいけなかったのかもって、思ってしまった。
ヨシトくんに羽交い絞めにされた妹は、すっかり怯え切っていたけれど。
小父さんは「どれ」とひと言いうと、妹のおとがいを仰のけて、おもむろに首すじを咬んでいた。
「ああッ・・・!」
と、ひと声悲しそうにうめいた妹は、そのまま引きつったように身動きできなくなってしまって、
小父さんはまだ年端もいかない少女の活きの良い血液で、喉をゴクゴクと鳴らしていった。
そんなありさまを、ぼくはどちらに手を貸すでもなく、物陰からのぞき見をして、心をズキズキ疼かせていた。

きれいに着飾った女の人を襲いたがる小父さんのため、ぼくは女の人の服を着るようになっていた。
小父さんもそんなぼくのことを、好んで襲ってくれるのだった。
ママのワンピースや妹の制服を、ぼくはなん着も汚してしまった。
2人がぼくのことを咎めるのもどこ吹く風で、ひたすら小父さんのために、若い女を演じていった。
高校受験の合格祝いに、ストレスをため込んだぼくのことを邸に招いて、
ぼくは小父さんに、初体験を捧げた。
横倒しになった姿見のなかで、ぼくはみるみるうちに、女にされていった。
貴志というぼくの名前を貴子と呼ばれるようになって、TAKAKOという音の響きはぼくの鼓膜を心地よくくすぐった。

ママはいつまでも、小父さんの良き恋人だった。
勤めに出るとき、黒のストッキングを脚に通して出かけていったママを見送って、
ぼくもママとおそろいの黒のストッキングで、小父さんの相手をした。
お勤めはおろそかにできないという生真面目なママの考えを、小父さんが尊重してくれる代わりに、
ぼくがママの服を着て、ママの身代わりに抱かれるのだ。
夕方になったら、ママは勤めから戻って来る。
そして今度は、ママの番だ。
失血でぼうっとなってしまったぼくの脇をすり抜けるようにして、ママは夫婦の寝室に入っていく。
そして夫婦のベッドのうえ、小父さんは、ぼくたち母子のストッキングの味比べを愉しんでゆく。
小父さんはパパに遠慮して、ママと仲良くするのはパパが帰宅してくるまでと決めていたけれど。
パパも小父さんに気を使って、そういう夜には決まって、帰りが遅いのだった。
男同士の気遣いをママはきちんと理解していて、
パパが戻って来るときにはもう、なにごともなかったようにすべての痕跡をかき消しておくのだった。
たまに――破けたストッキングが屑籠の端から覗いていたりとか――わざとそんな仕掛けをして、パパを焦らせることもあったけれど。

きょう、ぼくは家に婚約者の麻衣子さんを連れてくる。
なにも知らない麻衣子さんは、初々しいピンクのスーツ姿。
けれども小父さんには、「麻衣子はあなたに血を吸われたがっている」と、嘘をついていた。
当然のように抱きすくめようとする小父さんと、うろたえながら抱きすくめられてゆく麻衣子さん。
そして、せめぎ合いのあげく、彼女もまた、ママや妹と同じように――首すじを咬まれてゴクゴクとやられてしまうに違いない。
そんな麻衣子さんを、きっとぼくはドキドキしながら見つづけてしまうに違いない。
その場でたぶらかされてしまった麻衣子さんはきっと、ピンクのスーツを血で汚さなかったお礼に、
肌色のストッキングの脚を小父さんに差し伸べて、惜しげもなくビリビリと破かせてしまうに違いない。

ママ、妹、麻衣子さん。
ぼくの女家族は、ひとり残らずモノにされる。
そのだれもが、生き血の味を愛でられて。
肌のきめ細かさを愛でられて。
装いのセンスを愛でられて。
股の締まり具合まで、愛でられてしまう。
そのことに――ゾクゾクとズキズキをくり返すぼく。

ぼくは変態だ。
誇り高き変態だ。
女家族が一人残らず愛でられることに、誇りと歓びとを見出しながら。
ぼくの家族はきょうもまた、汚され、辱められ、愛されてゆく――
そして、きょうはいよいよ、未来の花嫁にその災厄がくだる番――

薄地のストッキングに透ける麻衣子さんのつま先が、ぴかぴかに磨かれたフローリングのうえを滑るように歩みを進める。
あとわずかな時間でむざんに咬み剥がれてしまう運命のストッキングの透明感に、ぼくはいつまでも目線を這わせつづけた。

ひとり残らずモノにする。

2019年02月24日(Sun) 07:28:22

吸いつけた唇の下、黒のストッキングごしに触れるふくらはぎは、ちょっぴりだけ筋肉質だ。
姿は女性でも、ほんとうは男――
まだ半ズボンにハイソックスの少年だったころから、俺が血を吸いつづけている男の子――
貴志という本名を変えて、女の姿をしているときには、”貴子”と呼ぶことにしている。

しなやかなナイロン生地の舌触りを名残惜しみながらも、私は唇を放す。
いつもよりちょっと昂奮したせいか、少し吸い過ぎたらしい。
”彼女”は蒼ざめた頬に、それでもほほ笑みを泛べる。
貴志を正式に彼女にしたのは、高校受験の合格祝いで犯したときだ。
傍らに横倒しにした姿見のなか、ずり落ちかけた紺のハイソックスの両脚が、股間の疼きをこらえるように、足ずりをくり返していた。


貴子の家を出たのは、夕方近くだった。
部屋を出るとき”彼女”は、半裸のまま放心状態だった。
ストッキングの穿き心地をこよなく愛する”彼女”のために、
太ももがあらわになるほど咬み剥いだ黒のストッキングは、”彼女”の足許をいびつに染めていた。

家を出てすこし歩くと、彼方から着飾った女たちが数人、連れだって歩いてくる。
そのなかに俺は、貴志の母親である達子を見出した。
達子もすぐに、俺に気がついた。
彼女は仲間たちに別れを告げるとそそくさと列を離れて、寄り添うように歩み寄って来た。
「私の血が欲しいの?」
口許についた息子の血を、達子は気づかぬふりをした。

ふつうなら、着飾ったご婦人たちが通りかかると、
ひとり残らず足許に唇を這わせて、ストッキングをむしり取ってしまうのだが――
達子がそのなかにいるときだけは、別だ。
彼女のまえでほかの女を愉しむほど、俺は無作法ではない。
なによりも――達子との仲は、彼女の夫さえもが認めている関係なのだから。

初めて貴志を襲ったころは、達子はまだ30代。
むしろこの人妻が目あてで、その息子を狙ったのだ。
首尾よく息子を手なずけて、家にあがり込んで、勉強を教えると称して貴志と部屋で2人きりになって、
お茶を淹れて部屋に来た達子に俺は慇懃に礼をいうと、すぐにお茶を飲み干して、
それから達子の生き血で喉を本格的に潤したのだ。

人妻を襲ったときには必ず、男女の関係も結んでゆく。
半死半生で喘いでいる達子を抱きすくめたのは、貴志の目のまえでのこと。
けれども貴志は俺の狼藉を止めようともせずに、
まるで自分が犯されているかのように、息せき切りながら、
母親が主役のポルノビデオの生演技に、見入ってしまっていた。

さっき出てきた貴志の家に戻ると、
リビングの真ん中で女装した息子が大の字になって気絶しているのには目もくれず、素通りして夫婦の寝室に足を向けた。
そして、俺を部屋に招き入れると、ベッドのうえにあお向けに横たわった。
抱きすくめた両肩をかすかにこわばらせながらも、達子は首すじに刺し込まれてくる牙を、おだやかに受け止めた。

ずず・・・っ・・・じゅるう・・・っ・・・

生々しく啜られるほうが好き。
達子の口癖だった。
俺はわざとクチャクチャと下品に音を立てながら、熟れ切った40女の生き血を喉に流し込んでいった。

達子が静かになると、じゅうたんに伸べられた黒ストッキングの足許に唇を吸いつける。
息子とおそろいの黒のストッキング。
彼女が脚に通していたナイロン生地はツヤツヤとしていて、
くまなく唾液をなすりつけてゆくヒルのように強欲な唇に、しなやかな舌触りを伝えてくる。
ネチッ、ネチッと咬み破りはじめると、達子は「アッ、ひどい」と、人並みなご婦人らしい非難を込める。
けれどもその実彼女が悦んでいることは、
俺が吸いやすいように、あちこちと吸う部位を変えてゆくのに合わせて脚をくねらせつづけることで、それとわかった。


翌日のこと。
昨日吸い取った母親と息子の血潮の味を反芻しながら邸でのんびりかまえていた俺のまえに、ふたりの訪問客が現れた。
「貴志の妹を連れてきました」
青年のほうがやや引きつった声で、自分よりも少し年下の少女を、俺の前に引き据えた。
青年は貴志の親友だった。
――あいつ、親友に妹を売られちまうのか。
ちょっぴりの憐憫が、俺の胸をかすめる。
うしろから両肩を羽交い絞めにされた少女は、恐怖に引きつった眼で俺を見つめる。
俺は、こういうまなざしに弱い。
「どれ」
とひと言呟くと、やおら身を起こして少女ににじり寄って、
つぎの瞬間腕のなかに抱きすくめた少女の首すじを咬んでいた。
「ああーッ!」
貴志の妹は悲しげに呻いた。
けれども俺は、貴志の妹の活きのよい血液で、ゴクゴクとのどを鳴らしつづけた。
貴志の妹を連れてきた青年は、数年後彼女と結婚した。
そう、彼は未来の花嫁が処女のうちに、俺に生き血を吸わせてくれるという、最大限の好意を示したのだ。
婚礼の前の晩、生き血を抜き取られてぐんにゃりと伸びてしまった花婿の目のまえで。
花嫁の処女破りの儀式を盛大に遂げてやったのは、いうまでもない。


貴志が男のなりをして、若い女性を一人連れておずおずと現れたのは、それから少し経ってからだった。
どう言い含めたものか、やつも自分の親友と同じことをしようというのだ。
「三田麻衣子さんです。来春、結婚するんです」
やつは改まった口調で、そういった。
うちは吸血鬼に献血をしている家だと、やつは彼女に正直に告げたそうだ。
それでもお嫁に来てくれるのか?と問う貴志に、黙って頷き返したという彼女も、かなりの変人だと俺は思う。
ピンクのスーツの下、肌色のストッキングに透けるすらりとしたふくらはぎに、俺は早速目を奪われてしまっている。
「じゃあ遠慮なく」
俺はひと言そういうと、すすめたソファに腰かけた麻衣子の傍らににじり寄って、こともなげに首すじを咬んでいた。
「あッ・・・」
抱きすくめた両肩に力がこもり、彼女は本能的に俺の腕を振りほどこうとしたけれど。
貴志は彼女の両方の掌を、スカートのうえに抑えつけてしまっていた。
「だいじょうぶ。ぼくがついているから・・・」
恋人を勇気づける健気なささやきをくすぐったく聞き流しながら、俺は23歳のうら若い生き血で、ゴクゴクと喉を鳴らしてしまっている。
貧血を起こした麻衣子がぐったりとソファに身をもたれかけさせると、
肌色のストッキングに透ける足許に、おもむろに唇を吸いつけてゆく。
貴志はそんな俺の不埒な愉しみを、ドキドキとした目線で見守るばかり。
未来の花婿の目のまえで。
嫉妬に満ちた目線にくすぐったさを感じながら、礼儀正しく装われた薄いナイロン生地を、
俺は目いっぱい意地汚く、咬み剥いでいった。


案外と。
貴志の周りの女どもを、一人残らずモノにしながらも。
俺の一番の目当ては、むしろ貴志本人なのかもしれない。
貧血を起こした恋人の身代わりにと、彼女のよそ行きのスーツを着て現れた貴志は、
恋人の見守るまえで俺に女として抱かれ、女の歓びに酔い痴れてしまっている。

ハイソックス好きな少年とその家族

2019年01月31日(Thu) 08:04:56

ハイソックス好きな少年がいた。
その時分はハイソックスの流行は終わっていて、男の子たちはだれもハイソックスを履かなくなっていたが、少年は毎日ハイソックスを履いて通学していた。
ある晩帰りが遅くなった少年は、公園のベンチで、ひと休みしていた。
そこを喉をカラカラにした吸血鬼が通りかかったのが、運の尽きだった。
吸血鬼は少年のことを女の子と間違え、首すじを噛んで血を吸った。
少年が貧血を起こしてベンチにたおれこんでしまうと、足許にはいよってハイソックスのふくらはぎをきまなく舐めた。
少年は、この人はハイソックスが好きなんだと直感して、内心いやらしいなと思いながらも、男の気の済むまで舐めさせてしまった。
大人しくしていれば生命は取らないという吸血鬼の囁きを信じた少年は、彼の好意を受け容れた。
吸血鬼は少年の履いているハイソックスを咬み破り、吸血を続けた。

次の日、少年は再び吸血鬼に出会った。
待ち伏せていたのだ。
吸血鬼の期待どおり、その日も少年はハイソックスを履いていた。
少年は、きょうのハイソックスは気に入っているのてま、破くのはやめてほしいと願った。
吸血鬼はハイソックスを舐めて舌触りを楽しむだけで許してやった。
それ以来少年は、吸血鬼を信用するようになった。
数日に一度は彼と待ち合わせて、ハイソックスの脚を咬ませてやるようになっていった。
少年は、吸血鬼が自分と同じくハイソックスが好きなことに気づいたので、彼に親近感を持った。
吸血鬼のほうも、少年が彼の嗜好に理解を示し若い血液を気前よく振る舞ってくれることに感謝していて、少年の体調をに配慮を示して吸血の量を加減してやることもあった。
同じ趣味の二人は、少年はハイソックスを履いて吸血鬼を愉しませることで、吸血鬼は少年のハイソックスをいたぶり咬み破ることで、愉しみを共有するようになった。

少年の母親は、息子が時々素足で北口することに疑念を抱いた。
そして、少年の帰りが遅いある晩、様子を見に出かけて行って、少年が吸血鬼に血を吸われているところを目撃してしまった。
彼女はすぐに吸血鬼に捕まえられて、首すじを咬まれ血を吸われたうえ、犯されてしまった。
少年は失血のあまり朦朧となっていたが、
母親が自分の血を吸っている男に捕まえられて、穿いていたストッキングをめちゃくちゃに咬み破られて犯されてゆくのを、ただうっとりと見守っていた。
長い靴下を履いていると、見境なく咬みつくんだね、と少年はいうと、今夜のことは内緒にするかわり、母さんと交代で逢いにくると吸血鬼に約束をした。
母親は、息子が覚え込んでしまったけしからぬ習慣をやめさせることができなかったばかりか、自分自身も巻き込まれて、不倫を犯してしまったことを悔いた。
けれどももう、後戻りをすることはできなかった。
彼女は息子の留守中や、貧血で倒れた息子を迎えに行ったときに、息子ともども生き血を啜り取られるようになった。
出かけていく時彼女は、吸血鬼に言い含められるままに、薄手のストッキングを脚に通していった。
無体に弄ばれて咬み破られると知りながら、彼女は吸血鬼の意向に従っていた。
客人のまえで正装するのは、礼儀正しい婦人として当然の行いだと思ったからである。
そして、欲情もあらわにのしかかって来る吸血鬼に、自分は貴男を愉しませるために正装しているわけではないと主張しつづけた。
そしてもちろん、彼女の正装は吸血鬼をぞんぶんに、愉しませてしまうのだった。

少年の父親は、かつて吸血された体験を持っていた。
彼は妻と息子が代わる代わる吸血鬼に逢いに出かけてその欲望を満たしているのを知ると、自分も出かけて行った。
彼はその頃流行っていた濃紺のストッキング地のハイソックスを履いていた。
それが吸血鬼の好みに合うことを知っていたからである。
獣性もあらわに咬みついてくる吸血鬼をまえに、スラックスを引き上げると、なまめかしい薄地の長靴下に透ける脛に、吸血鬼は目を輝かせた。
貴方は良いご主人であり父親だと彼を称賛すると、父親の長靴下をくまなく舐め尽して、
その息子や妻に対してそうしたように、靴下を咬み破って血を啜った。
こうして少年の父親も、働き盛りの血を吸い取られてしまった。
少年の父親は、妻や息子の生き血が彼の好みに合ったことを嬉しく思っていたので、自身の血をむさぼり尽されてしまうことに、喜びを感じていた。
こうして一家はめでたく、吸血鬼の支配を受け容れたのだった。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ ≪番外編≫ まゆみ、ナギの日記を読む

2018年10月30日(Tue) 07:57:01

「いけないっ。夕べ干すの忘れてたッ!」
まゆみお姉ちゃんはナギの顔を見かけると、頭に手をやっておっきな声を出した。
いっしょに歩いていたお友だちとバイバイすると、ナギの手を引っ張って道をそれ、手近な公園のベンチに腰をおろした。
まえに朋子を襲った公園とはべつのところだったけど、噴水が静かな音をたてて、周囲を行き交う車の騒音を遮っていた。

ナギはさっそく日記帳を取り出して、「きのうの日記。」といって、まゆみに手渡した。
ところが手渡したとたんなにかを思い出したらしく、ナギは「あ!」と声をあげるといちど手渡した日記帳をまゆみの手からひったくり、ページを一枚破いた。
「な~に、それ?気になるじゃん!」
まゆみはわざとナギの手もとをのぞきこんで詰め寄り、ナギを困らせた。破かれたさいごのページには、こう書かれていた。
"父ちゃんとまゆみお姉ちゃんの母さんができていることは・・・ナギはずるくないし、正直なのが好きだから。"


自分自身がひとの目から見てどう映るのかは、とても気になるものらしい。
まゆみはとても熱心にナギの作文を目で追っていた。
ナギはむしろ、まゆみの反応が面白くて、彼女がナギの描いた日記を目で追って、そこに登場する彼女自身に照れ笑いしたり噴き出したり、口を尖らせたり妙に羞ずかしがったりするのを、興味津々に観察していた。

"そのときの顔つきがかわいかったので、血を吸いたくなりました。"
「なぁに?こんなきっかけでひとの血を吸いたくなるわけ?」
まゆみはこのくだりで、いかにも不当だという顔をした。

"父ちゃんにいったら、前から目をつけていたと言いました。そういうことなら顔役さんに話してみるっていいました。それで、父娘でまゆみちゃんの血を吸っていいことになったので、まゆみちゃんに会いに中学校に行きました。"
「ひどい父娘~っ!あたしの知らないところで勝手に決めるなんてっ。本人にもひと言、ことわりなさいよねっ!!」
口では怒りながら、言い回しがおかしかったのか、まゆみは白のハイソックスを履いた脚をじたばたさせて笑った。
「ひと言いったら吸わせてくれた?」
「ううん、吸わせてあげなかった」
「もう~!」
血を吸わせるとか吸わせないとか、かなり突拍子のないことを話題にしているのに、ふたりの雰囲気は和やかで、はた目には仲の良い姉妹のようにしか見えなかった。

"春田という教師は、ぼくのせいにならないのなら手伝ってあげてもいいよといって、"
「春田のやつぅ~~」
ここのくだりは、まじめに怒っているようだった。
奥歯をキリキリいわせるのまで聞こえてきて、ナギは春田の妻を連れて来させて父ちゃんに紹介するという自分のアイデアがまちがっていないことを確信した。

"足にはお肉がたっぷりついていて、はいていた白のハイソックスはリブ編みもようがツヤツヤしていて、とってもおいしそうに見えました。"
"でも、まゆみちゃんはまだ、あたしがそんな気持ちでお姉ちゃんのことを見ているなんて、夢にも思っていないのです。そう思うとなんだかゾクゾクしてきました。"
ここのくだりは「けだものだ。けだものだよ~。ナギちゃんやっぱり怖いよ~」なんて言いながら妙に嬉しがっていたし、

"ナギが正直に、お姉ちゃんの血を吸いたいのといったら、お姉ちゃんは、悪い冗談だよね?といってナギのことをおっかない顔でにらみました。でも、血を吸われるのならナギと父ちゃんとどっちがいい?ってナギがまじめにきいたら「うそ、うそ!」って、怖がっていました。父ちゃんは女のひとの血を吸うとき必ずいやらしいことするんだよって教えてあげました。そう聞いたら、ふつうの女の子ならナギのほうを選んでくれると思ったのです。"
こんなやり取りはなん度も読み返して面白がっていた。もっともまゆみによれば、都会の女の子としては父娘どちらにも応じることは無理で、血を吸いたいなんて言われたとたんにふつうの女の子なら逃げ出すということだそうで、やっぱり都会の女の子はなにかと難しいとナギは改めてそう思った。

"そして、まゆみお姉ちゃんの前で父娘でけんかになってしまいました。
お姉ちゃんはうんざりした顔をして、「いいわ、けんかはやめて。お姉ちゃんがちょっぴり痛いのガマンすればいいんだよね?」と言うと"
「こんなにあたし、もの分かりよかったかなぁ」まゆみはどうしても思い出せないらしく、しきりに首をひねっていた。じつはこのくだりは完璧な創作だということは、ナギはわざと黙っていた。

そのあとのくだりにまゆみの黙読が近づくにつれて、ナギはわくわくしていた。
そして、彼女が絶対ひっかかると予想したくだりで案の定まゆみがが大真面目に抗議したのて、クッククックと得意になって笑いころげた。

"そうしたらそのうちお姉ちゃんもノッてきちゃって「ああーん。もっと吸って」と言いました。"
「うそ!うそ!あたしそんなこと言ってない!絶対言ってない!!」
あまりにも憤慨しているのが面白くって、ナギはけらけらと笑いころげてしまったほどだ。意外に真剣に読まれたのがそのあとの、

"ピンク色をした乳首に父ちゃんのよだれを光らせながら、お姉ちゃんはまゆ毛をうんとよせて、苦しそうなきもちよさそうな顔つきになっていました。"
というくだりで、「ほんとう・・・?」って、かなりまじめに訊いてきた。
たしかにはた目にはこのとおりに見えたのだが、だからといってまゆみのことを「実はいやらしい人」と見なしてしまうのはフェアではないとナギは思う。
父ちゃんもナギも唇の奥に含んでいる毒は、ひとをそれくらい堕としてしまうことはわけのないことだったから。

"でもお姉ちゃんはナギにものをぶつけて逃げました。"
「かわいそう~。ごめん~、痛かった~?」
ここのくだりでは、まゆみはひどくすまなさそうに同情して、まだばんそうこうを貼ったナギのおでこを撫で撫でした。
あのときお姉ちゃんに、痛いけどゴメンね、なんて言われるとは、さすがのナギも予想していなかった。
けれども、ものを投げられてムキになったのが案外勝因だったとナギは思っている。だから、

"まだじぎょうがあるのに、学校をサボってどこかに行っちゃうのはだめだと思いました。"
というのはどちらかといえばつけたりだったのだが、まゆみには却って面白かったらしい。
「授業に出たら、ホントに赦してもらえたの?」そういうまゆみに、ナギはとうぜんのようにかぶりを振ったのだけど。


きっとこれからも、この姉妹のように仲の良い少女二人は、こんなやり取りを続けていくのだろう。
片方は血を吸って日記を書き、片方は血を吸われて日記を読む。
年上の少女がもうひとりの少女の父親に素っ裸で抱かれて、犯されてしまう日記を描く日もそう遠くないと、ナギは心のなかで思っていたし、
将来だれと結婚するとしても、いちばんはじめに自分を犯すのはこの子のお父さんだと、まゆみも心のなかで思っていた。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ ≪番外編≫ 隣町の令嬢のその後

2018年10月30日(Tue) 07:42:28

露川朋子は、高校に進学してから親しくなった隣町に住む同級生、力武賢司の家を辞去したところだった。
外の風は意外に冷たく、朋子はジャンパースカートの制服姿をちょっとすくめた。
赤と紺のストライプ柄のネクタイを締めなおし、ツインテールの豊かな黒髪をサッと撫でつける。
慣れない黒のストッキングの足許が、よそよそしい外気に触れてすーすーとした。

朋子の頬には、和やかだった力武家の温もりがまだ残っていた。
初対面だった力武夫人は気さくで話し好きだった。
「高校あがると日曜まで模擬試験あるのねぇ、たいへんねぇ」
さいしょは固くなってお辞儀をするのがやっとだった朋子もつり込まれて、むしろ賢司本人とよりもよっぽど話がはずんだくらいだった。
母親の実家がこの村だということも、賢司の母親の心証をよくしたようだった。
賢司は親切で惹かれるタイプの子だったけど、ふつうの男の子なみに口数のすくないほうだったから。
朋子ははこのあと近在の祖母のところにも用事を作っていた。
慎重な彼女は、もしも賢司の家の雰囲気が気詰まりだったら、それを口実に早々と切り上げようと考えていた。
けれどもそれは杞憂だった。
むしろ尻が長くなりすぎて、祖母のところに寄ったら帰りが暗くなってしまいそうだった。
力武夫人は早手回しに、朋子の祖母の家に電話をかけてくれた。
孫娘を引き留めてしまったことをおわびして、生真面目できちんとしたお嬢さんですね、と、抜け目なく誉めことばをつけ加えることも忘れなかった。

電話口から戻ってくると、賢司の母は話のついでのように、
「これお姉ちゃんのなんだけど、あなたも履かない?町の学校では今どきストッキングなんて履かないのかな」
と、親切にも、自分の娘が通学用に履いている黒のストッキングの未使用のものを箪笥から持ち出してきて、
朋子が遠慮したのに耳も貸さずにわざわざ封を切ってくれた。
その場で履いてみせないわけにはいかなかった。
朋子は履いていた白のハイソックスを脱ぐときちんと折り畳んで、ありあわせの紙袋をもらうとそれに包み込んで通学鞄のなかにきちんとしまった。
真新しいプリーツのきいた制服のすその下、濃い墨色に透けた脛の白さが、賢司にもその母の目にさえも目映く映った。
「アラよく似合うわぁ」
力武夫人は頓狂なくらい声をあげ、朋子の足許を本気でほめあげた。


朋子が真新しい黒のストッキングに革靴の脚をそろえて、お母さんに教えられたように玄関先できちんとご挨拶をして辞去していくと、母親は息子にこういった。
「うまくいったね。親がこの村の出だなんて、あなたいい子を見つけてきたね。身体も大きくて、美味しい生き血がたっぷり獲れそうな娘さんじゃない。母さん鼻高々だよ」
賢司は、ずるさのまったくない聡とそうな目をして、
「朋子さんって、クラスでいちばんのっぽなんだよ。性格もおとなしいし口も堅いんだ。顔だって可愛いでしょう?3つ下の妹さんもいるっていうし、今から楽しみだよね」
と、母親に応えた。どこまでも、家に招んだ彼女を母親にほめられて得意になっている少年の笑顔だった。


朋子はいま自分のことをにこやかに送り出した親子がそんな会話を交わしているなどとは夢にも思わずに、
黒のストッキングが相変わらずすーすーとする足許を気にしながら、祖母の家の方角に脚を向けた。
ここに来るまえに母さんが、あちらのお母さんとの相性はお婿さんの性格よりも重要だって言ってたけれど・・・まさか賢司くんが私のお婿さん??
母親にまじめな顔をされたとき朋子は一笑に付したけれど、いざ賢司の家に行って母親とまで実際に顔合わせまでしてしまうと、軽い気持ちで応じたきょうの訪問が、じつは深い意味を持っていたような気がしてきて、朋子はひとり顔を赤らめた。

賢司の家と祖母の家のちょうど中間くらいのところに、そこそこの大きさの公園があった。
公園の入り口を通りかかると、小さな女の子がひとり、うずくまるようにしてしゃがみ込んでいた。
朋子はなにかに怯えているらしい彼女に声をかけ、自分よりもずっと年下の少女の仕掛けたわなにまんまとかかり、善意の手を差し伸べた。
怯える少女を家まで送り届けるつもりで脚を踏み入れた公園は、魔の園だった。
現れた少女の父親に生き血を求められた朋子は、自分をだました少女に後ろから抱きつかれ、じたばたともがきながら、ヒルのように強欲な唇を首すじに吸いつけられていった・・・


「大事なところを見逃すんじゃないよ。もしかしたらうちの嫁になるかも知れない子なんだからね」
母親にそう言い含められた健司は、連れてきた彼女が辞去してすぐ、家の前の通りの曲がり角を曲がったころに家を出た。
ナギが朋子をだますところは手に汗を握って聞き入っていた。
だまされないでほしいという普通の気持ちは人並みの青年としてもちろんあったが、
自分が気に入った同級生の朋子がなにも知らずに公園に脚を踏み入れてゆくところをついに声をはさもことができないで昂りとともに送り出してしまっていた。
一瞬遅れて足を踏み出そうとした彼を引き留めるものがいた。
落ち着いた物腰の老女だった。
彼女は、朋子の祖母だと名乗った。
用意周到だった健司の母親は、同郷のこの婦人にも抜け目なく手を打って、見届け役を依頼したのだった。
ここの女たちは、彼女たちの共通の秘密を守る。
朋子の祖母も、他所の街に育った孫娘がおなじ道を歩むことを歓迎した。
村でも有数の賢夫人であった彼女は、突然の相談におどろきながらも、孫娘が血を吸われる場所を自分の家の間近にした夫人の配慮に感謝した。
電話を切るとそそくさとよそ行きのワンピースに着替え、サッと化粧を刷くと、孫娘とおなじ黒のストッキングを脚に通して出かけてきたのだった。


ジャンパースカートの制服のすき間のそこかしこから、十六歳の処女の清冽な血潮が、荒々しく抜き取られてゆく。
濃紺の制服姿に巻きつくように、二対の唇が、赤ネクタイを緩められたえり首やわきの下、ひざ丈のすそをたくしあげられてむき出しにされた黒のストッキングを履いたままの太ももと、思い思いの部位へとしつように吸いつけられてゆく。
ズルズル・・・ぢゅるうぅっ・・・っと、汚ならしい音をたてながら。


公園のベンチに尻もちをつくように腰をおろした朋子は、隣に腰かけている祖母に寄りかかった格好で、ほとんど正気を喪いながら、なにやらとりとめのないうわ言を呟きつづけていた。
暗緑色のベーズリー柄のワンピースを着た祖母はそんな孫娘をあやすように、背中ごしに回した腕で孫娘の肩を抱いてやっていた。
祖母の腕のなかで、貧血を起こした朋子はうつらうつらとなって、上体をゆらゆらと揺らし始めていた。
自分の脚の片方に草色の作業衣の腕が巻きつけられて、足許にかがみこんできた分厚い唇が黒のストッキングのうえから吸いついて、オトナっぽく足首を染める薄いナイロン生地をみるかげもなく咬み破っているのも、まるで上の空だった。
「いい子だね。朋ちゃんはほんとにいい子。とつぜんだったのに、よくがんばったね」
小声で優しく孫娘のことをいたわる祖母の足許にも、餌食になったその孫娘をだました少女が、たっぷりとした肉づきをした脛に、薄黒のストッキングのうえからかじりついている。
ヒルのように貼りつけた唇の下で、豊かな肉づきの輪郭を微妙な濃淡で縁取っているナイロン生地が、あざやかに裂け目を拡げはじめていた。
ふくよかな肉づきに、紅い歯形がくっきりと浮いている。
歯形に淡くあやされた血潮を意地汚く舐め取ると、ナギはもういちど、ストッキングの裂け目ごしに生えかけの牙を埋めた。
そうしてヒルのように貼りつけた唇を、もの欲しげにせわしなくうごめかして、朋子の祖母の脛にはりつめたストッキングをくしゃくしゃにしていった。
孫娘よりも幼い少女が自分の足許にとりついて、食べ盛りの年ごろらしい食欲を発揮するのを、朋子の祖母はそれでも穏やかな視線を逸らさない。
「お嬢ちゃん、こんなおばあちゃんの血じゃあ美味しくないだろうけど、堪忍ね。
お姉ちゃんは小父ちゃんのお相手で精いっぱいだから、きょうのところは見逃してあげてね」
祖母は足許の少女が素直にこくりと頷いたのをみて、穏やかにほほ笑んだ。
その代わり・・・というように、淑やかに装った黒のストッキングの脚を、ベーズリー柄のワンピースのすそから、さりげなく覗かせてやる。
ナギが目の色をかえて彼女の脚にとりついて、脚にまとったストッキングをひざ小僧がまる見えになるくらい手ひどく咬み破くのを、
「まぁ、まぁ・・・」
と、ころころと笑いこけていた。


「きょうはどうにも、あいすまんことで・・・」
律儀な職人の顔に戻った男は、孫娘から吸い取った血潮をまだ口許にあやしながら、老婦人に慇懃なお辞儀をくり返した。
「はいはい、どういたしまして」
老婦人はなにごともなかったように、男にむかって礼儀正しい会釈を返していた。
男の作業衣についた塗料のシミのうえには、またも赤黒い飛沫のあとを上塗りさせていて、それはまだ乾き切っていなかったし、
老婦人の首すじにも、おなじ色の飛沫が散っていた。
ベーズリー柄のワンピースの下は、ナギのおイタのせいで、濃い墨色のストッキングがひざまでまる見えになるほど、派手に伝線している。
そのすぐ傍らで、じつの祖母に甘えるように寄りかかったナギは、彼女から吸い取った血を、しきりに手の甲で拭っていた。
ぶきっちょに口許を往復したこぶしは、却って紅く汚れた部分をひろげて、頬ぺたまで紅い血のりで毒々しく光らせていた。
父ちゃんはへまをした娘のしぐさに忌々しそうに目をくれて、
「・・・ったくお前ぇは!うちさ帰ってちゃんと拭けって!」
と叱った。

朋子はひとりベンチに残って、失血で息をはずませていたが、男の叱声をきいてふらふらと立ちあがった。
赤と紺のストライプ柄のネクタイは乱暴にほどかれてブラウスから飛び出ていて、そのブラウスも、えり首や胸許にバラ色の飛沫をはねかせている。
ジャンパースカートにもところどころ赤黒いものが撥ねていたが、それは濃紺の生地のおかげであまり目だたなかった。
黒のストッキングも、祖母のものに負けず劣らず、むざんな裂け目を拡げていた。
朋子は制服のポケットからハンカチを取り出すと、ナギの頬を丁寧に拭いた。
ブラウスに撥ねた血も、まだ濡れているところは念入りにハンカチに染み込ませ、血のりがこびりついた手指も、優しく包むようにして拭き取ってやった。
拭い取った血は、祖母の血がほとんどだったが、朋子の血も含まれているはずだ。
「小父さんも」
そういって朋子は、男の頬や耳たぶにべっとり光っていた彼女自身の血も拭き取った。
「あ!?あぁ・・・わざわざすいません」
男は虚を突かれたように目を丸くし、決まり悪そうな顔をしながら朋子にされるがままになった。
襲って生き血を吸った少女に顔まで拭かれるとは、思ってもいなかったらしい。
「よくできた娘でしょう?自慢の孫娘ですのよ」
老婦人は、おだやかに笑った。
「あなたもきちんと、ご挨拶なさい」
祖母に促されて、朋子はなんと言ったものかとっさに口ごもったが、もともと躾の良い家に育ったらしく、ひと言、「ふつつかでした」といって、礼儀正しくお辞儀をした。
ほどかれたネクタイや制服の乱れは、祖母が傍らから手を伸べて整えてやっていた。
「い、いえいえ・・・こちらこそ」
喉が潤うとぼくとつな真人間に戻る男は、へどもどと要領を得ないあいさつを返し、ナギもまた神妙な顔つきをして「こちらこそ」と、父親にならった。
「お知り合いになれて、良かったわね。きょうはいきなりだったからあなたもびっくりしただろうけど、ここらあたりでは珍しいことじゃないのよ。朋ちゃん、えらいわ。よくがんばったね。お祖母ちゃん鼻が高いわ」
祖母はもう一度孫娘を褒めると、「そろそろお開きにしてもよろしいかしら?」
と、血吸い鬼のふたりに訊いた。あくまで決定権は彼らの側にあるという態度だった。ナギがいいにくそうに、朋子にいった。
「お姉ちゃん、もうちょっとだけ咬んでもいい?」
「えっ?困ったなぁ・・・」
朋子は破けたストッキングの脚を寒そうにすくめて祖母をみた。もっとも一応はためらってみせたものの、しんそこ嫌がっているふうではない。
そんな朋子の顔つきを読んで、祖母はことさら渋い顔を作って言った。
「アラ、いけないわ。せっかくのおねだりじゃないの。咬ませておあげなさいな」
祖母は孫娘の血をまだしつこく吸いたがるナギの肩をもった。
「どのみち今夜は、お祖母ちゃんのおうちに泊まりなさい。疲れているんだし、着替えもしなくちゃね。お母さんには私から電話しといてあげる。心配いらないわ。あなたのお父さんには内証だけど、お母さんもあちらにお嫁に行くまではこちらの皆さんに血を差し上げていたのよ」
「う~ん、じゃあ・・・」
母親まで・・・・ときいたことが、少女を勇気づけたようだった。
進退きわまった孫娘は、ちょっとのあいだ照れたように笑うと、
「ちょっとだけ・・・ね?」
と、うまうまとだまして手中にしたお姉ちゃんの血を父ちゃんにほとんど独り占めされるのに我慢をしていたナギのために、朋子はストッキングの破れがすくないほうの脚をすっとさし伸べてやった。
ちゅー・・・
通学鞄を抱えたままつま先を差し出す朋子の足許にうずくまって、ナギが静かな音をたてながら吸血に耽っているあいだ、男に慇懃なお礼を受けた祖母は、お互いに手短かながら事情を交換しあっていた。
――妾(わたし)は代々この村に棲む家で、還暦を過ぎたいまはお呼びがかかることはめったにないがかつては"お得意"の少ない血なし鬼を相手に手広く施しを続けていた。
朋子の母親である娘も、生娘のころには妾といっしょに"お寺詣り"に出かけてなん人もの血なし鬼の相手をしていた。
やがて隣町の家と縁談が整うと、その家は"お他所の家"だったので、さいごのご奉仕の晩に村の長老に処女を与えて嫁いでいった――と。


「ナギちゃん、お行儀よくないわ、またお口が汚れちゃったじゃない」
朋子お姉ちゃんはナギを優しくたしなめながら、少女の手を引いて祖母たちのほうへと歩み寄ってきた。
「ナギちゃん、もういいって」
そう口にするのがやっとだった。
びりびりに破けた黒のストッキングをねだられるままに脱ぎ与えた朋子は、
「お姉ちゃん、きれいなハンカチもうないんだ。良かったらこれでお手々やお口を拭いてね」
と、脱いだストッキングを少女のまえに帯のようにぶら提げた。けれどもナギはかぶりを振って、
「ううん、拭かない。お姉ちゃんの血をつけたままおうちに帰る」
よほど朋子お姉ちゃんの血が気に入ったとみえて、ナギは朋子から吸い取った血をわざと自分の頬になすりつけた。
居合わせた皆が、そんなナギのしぐさをみて、笑った。

吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ ≪番外編≫ お買い物

2018年10月30日(Tue) 07:33:23

「都会のデパートまで出かけて行くことはないわよ。すぐ隣町に、いいお店があるから。」
そう教えてくれたのは、はす向かいの奥さんだった。
夫とおなじ勤務先。越してきたのは二年まえ。
おなじくらいの年恰好でも、はるかにベテラン。相手を務める男性の数も、片手にあまるらしかった。

――もてると、お洋服代もばかにならないわ。もちろん実入りもそれなりにあるけれど。

招びもしないのにうちにあがりこんできて、さも自慢げにそういって。
尻も長く居座られたとき、彼女はふふふ・・・と、含み笑いをしながら囁いてきた。

ねぇあなた、こないだご主人が連れてきたかたから、お金預かったでしょ?
ほら、夕方にいらした父娘連れの・・・。
ご近所同士なら、お話ししたってだいじょうぶよ。お互い秘密は守ることになっているから。

妾が恐る恐る、黙って頷くと。つけ入るように彼女はいった。

お買い物に行きましょう。始めはつきあってあげるから。お店も教えてあげる。
ほかにも、ここの村のこととか、あのひとたちのやり口とかも。

そういうと彼女はもういちど、ふふふ・・・と、あのいやらしい含み笑いをくり返した。


隣町のブティックは、古ぼけた街並みのなか、場違いなほどに浮いていた。
入り口のたたずまいの、なんとなしにひっそりとした感じが、後ろめたい買い物をする身には、すんなりと入りやすかった。

ご近所のひともよく来るのよ、このお店。
知ってるひとと目が合ったら、悪びれないで挨拶なさいね。
此処に来るひとはみんな、同類なんだから。
アラ、さっそくまあまあ・・・岡原さあん!さきにいらしてたのね!?
ご存じ?このかたは月田節子さん。先月ご主人の転勤でいらしたばっかりなの。よろしくね。
あぁこちらは、三丁目の岡原麻衣子さん。三人とも、同じお勤めさきなのよ。
月田さんのお相手も三丁目だから、きっとどこかですれ違っているわね。

岡原夫人はこちらが気恥ずかしくなるほどはっきりと妾を見、落ち着いた物腰でお辞儀をしてきた。
身体の線にぴっちりとしたワンピースの腰つきが、ひどくしっとりと目に映えた。
お互いそれ以上の干渉を避けるように左右にさりげなく別れると、彼女はいった。

若いひとはいいわね。あの方これから、ホテルに行くと思うわ。
ひと言そんな陰口をたたくと、彼女は妾のための衣装選びに熱中した。自分の買い物以上に熱心に。
こちらに背中をみせた岡原夫人が脚を向けたのは、下着売り場だった。

あなたは地味な顔だちだから、服は思いきり派手な色がよろしいわ。
ここのひとたちはね、そういうの悦ぶの。
この黄色のスーツなんかどう?イイエ、こんな派手な色着たことがないなんて、そんなこと言ってる場合じゃないわ。
それからきょうは、最低限5、6着は買わなくちゃ。
汚されたり盗られたり、そんなことしょっちゅうなんだから。
手持ちの服なんか、あっという間になくなっちゃうわよ。
それから喪服も一着買いましょう。
此処はね、法事がしょっちゅうあるのよ。いまの手持ちはひと揃い?たぶんすぐに、破かれちゃうわね。つぎか、そのつぎくらいには。

妾の運転で半日がかりで買い物をすませると、
「やっぱり車は便利ね」
彼女はすまして、そういった。
両手に、妾に買わせた以上の服を抱えて。
こんなお買い物が、きっとこれからも続くのだろう。
そう思いながら、妾は薄ぼんやりと頷いていた。
耳の奥には、助手席にふんぞり返った彼女の言いぐさが、しっかりとこびりついていた。

思いきって、大胆にいきましょうよ。
だんな様も、認めてくだすっているんでしょう?
お洋服代がなくなってきたら、遠慮なくおねだりするのよ。
ご主人にも。彼氏にも。
あたしたち、そうする権利があるんだから。


初めて献血をしたのが金曜だった。
それは、なんの前触れもなく訪れた。
帰り道の途中で電話をくれた夫の言い方は、ひどくまわりくどくって、なにを言いたいのか要領を得なかったから。
茫然とする妾のことを嵐は一瞬でおし包み、うっとりとしているあいだに、なにもかもを塗り替えていった。

彼はつぎの日の朝もきた。あの汗くさい作業衣を着て。
衝撃づくめの一夜から、幾時間も経っていないのに来てくれたことに、なぜか妾はほっとしたし、嬉しかった。
嵐の過ぎ去ったあと夫とふたりきりで取り残された時間は、そう気詰まりなものではなかったはずなのに。
ほんとうは拒まなければならなかったかも知れない来客を、妾は嬉々として迎え入れてしまっていた。
夫がいないこの部屋に。

女として求められている。

そんな自覚が、妾の背中を押していた。
貧血ぎみの身体をおして相手を務めた妾を気づかってか、血を吸う量は手かげんしてくれた・・・ような気がした。
そのぶん、もうひとつのお勤めのほうは、ねっちりとしつこかった。
夕べとおなじように、着ていた服ごと辱しめられ、汗くさい口づけや荒々しいだけのまさぐりに、応えてしまっていた。

ふすまの向こうからひっそりと覗いているのが夫だと、すぐに察した。
夕べは二階と一階だった。
階下の天井がきしむ音で、夫はすべてを察しただろう。
もともと、彼らをこの家に連れてきたとき、すでに覚悟はしていたはずだ。
でも、間近に視たのは初めてだろう。それをわざわざ視るために、夫は会社を早退けさえしたのだった。

夫が妾のまえに、おおっぴらに姿をあらわしたのは、ことが果てたあとだった。
「服を汚した」さりげなくそんな表現を使うのに、ひどくどぎまぎした。
けれども夫は、妾のそんな言いぐさも聞き流しにした。
ただお洋服代を受け取ったといっときだけ、すこしだけいやな顔をした。
さすがにいけないことを言っただろうか?
内心ヒヤリとした妾に気づかなかったのか、家計とは別々に管理しますという妾の説明には、黙って頷いてくれた。
夫はただ、お金を受け取ることをいさぎよしとしなかっただけだった。いつも通りに律儀で損な性格の夫がそこにいた。
長年連れ添った妻の貞操を、あのひとは惜しげもなく、ただで手放したのだ。


はす向かいの奥さんが待ちかねたように声をかけてきたのは、週明けのことだった。

彼は妾のことを、たった2日我慢しただけだった。
真っ昼間、いきなり現れて、有無を言わせず押し倒された。「お前ぇの娘の血さ吸ってきた」
そう囁く彼に、妾は
「そう・・・」
とひと言応えただけだった。
大事な娘が生き血を吸われたというのに。われながら驚くほどに、無感動だった。
ここまで堕ちたんだもの。どうせ時間の問題だろうと諦めてもいたし、夫の会社の人が「お子さんには説明無用」といっていたとも聞かされていた。
むしろこうなって、ほっとできるような気がした。

獣のように荒々しい呼気が妾の頬に迫ってきて、無気力で無責任な母親の首すじに、娘から吸い取った血をあやしたままの牙が突き立てられた。
尖った異物が皮膚を冒すのを、妾は唇を噛みながら耐えていた。
あの娘が素肌をさらしたのと、たぶんおなじように。
じゅるじゅる・・・ずずうっ。
汚ならしい音をたてて血を啜られるのが、むしょうに小気味よかった。
恥知らずで淫らな血に、似合いの音だとおもったから。
帰ってきた娘にたしかに視られたと気づきながらも、妾は随喜のうめきを洩らしつづけた。
彼が立ち去ったあと娘は部屋から降りてきて、献血行為を始めたと正直に告げてきた。
母娘で隠し事をしなくていいのだと、妾たちは女どうしの目配せを交わして、確かめあった。


あれから幾たび、彼と逢曳きを重ねたことだろう。
理性の壊れてしまった妾は、朝夫と娘を送り出すと、良し悪しの分別もなくこちらから出かけていった。
「大胆にいきましょうよ」だれかのそんな囁きだけが、耳に残っていた。

モスグリーンのカーディガンに、黒のトックリセーター。紺のスカート。
ふだん着にしていたこの服装も、容赦も見境もない劣情のまえに、淫らにまみれた。

まだ明るかった帰り道、裂けたストッキングをまとったふらつく脚を、すれ違う人たちの視線にさらしながら、
からみついてくる好奇の視線に、どきどきと胸をはずませた。まるで小娘みたいに。

彼の家の薄暗がりのなかふだん着姿のまま組み敷かれていく妾のことを、物陰から見つめる視線があった。
たれのものよりもしつようにからみつくその視線が、妾にはひどく快感だった。
娼婦のように取り乱した妾は、視線の主が見なれた服を着たまま、「もっと・・・してぇ」と、口走っていた。

家に帰ると、夫もすぐに戻ってきた。
「まるであとを追いかけてきたみたい」
冗談ごかした妾のことを、夫はものもいわずに抱きすくめた。
もともと淡白な夫婦のはずだった。
けれどもいまは、ちがっていた。
色香というものにめぐまれなかったはずの妾は、主婦の立場のまま娼婦にすり替えられて、ふたりの男に同時に愛された。


いわゆる「法事」 にも、お招ばれをした。
彼に連れられ夫にまで付き添われて、いままで着ていたひと揃いの喪服はなん人もの男の手で裂き散らされていった。
この日妾は、彼一人の「お友だち」として、正式に認められた。


隣町のひなびた百貨店では、毎月セールをやっている。
「月田さん慣れたわね」
はす向かいのあのひとの冷やかしに耳も貸さないで、妾はひたすら服をあさる。
鮮やかな若草色のワンピースを。
シックで落ち着いたえび茶色のスーツを。
袖の透けた夏用の喪服を。
露出の大胆なショッキングピンクのタイトミニを。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ ≪番外編≫ 月田氏、吸血少女の日記に、娘の受難を読み取る

2018年10月30日(Tue) 07:23:28

私がナギの書いた日記を読んでいるあいだ、ナギは私の足許にうずくまって、私の顔つきをジーッと視ていた。
時おり指を私のくるぶしの辺りにあてて、咬み破った靴下に滲む血をすくって舐めていた。
咬みついて吸い取るほうがこの子らしいのに、そんないじましいことをするのは、日記を読んだ私の反応が気になったからだとあとからきいた。
たしかに恥ずかしいほどドキッとするくだりが多かった。
しかし日記のなかの娘の言動は、まさにまゆみそのものだった。
ただ、父娘げんかのあいだにはさまって閉口したまゆみが父娘で仲良くあたしの血を吸えばいい、といったくだりは、ちょっと首をかしげた。
この段階では娘はまだ血を吸われたわけではないので、ここまでもの分かりがよくなるものだろうか?と疑問に思ったのだ。
ナギを怒らせて逃げるときには、怖かったことだろう。かわいそうなことをしたかもしれない。
さいごに引きずり倒されて咬まれてしまうくだりでは、さすがにすこし涙が出た。
わが娘が、生き血を漁り尽くされてしまう場面だったから。
こちらの気分を察したナギはちいさな声で「ごめんね・・・」と言ってくれた。
かわいそうに、きまり悪そうに、身体を縮こまらせていた。

そう、この子は観察力が鋭くて情がこまやかなのだ。
少なくともま人間に戻るときには。押すとみせては退き、退くと思わせて押してくる。
妻を彼女の父親に引き合わすはめになったあの夜などは、手加減抜きで押しまくられて、妻の一切合財をさらい取らせてしまうことになってしまったのに、ナギは終始静かな目で、私たち夫婦を見つめていた。
無理にすりよることも、力ずくでねじ伏せることもほとんどせずに。
牙を入れてくるときも、ナギの歯に込められる力は弱い。甘く咬んで薄い皮膚を破るとあとはひっそりと唇や舌を浸してくるだけ。だからこそ怖い。
彼女はつぶらな優しい目で、じっと視ているだけ。
静かに侵され蝕まれてゆく私や家族の日常を。私の家族がじりじりと堕ちてゆくありさまを。

それに比べるとナギの父親はよほど分かりやすかった。
だれかの血で満ち足りているときにはぼくとつな真人間だった。
もっともたいがいの場合、彼が私とコンタクトを取るときは渇いているときだったから、私のほうでは彼のことを、いつも落ち着きをなくして切羽詰まっている人という印象を受けている。
妻を目の前で支配されながら黙っている私のことを、彼はいったいどう思っているのだろうか?
その彼もまゆみの血を吸ったということに、正直うろたえてしまった。妻も娘も襲われたわけだから。
吸血鬼の父娘に挟まれて、まゆみはいったいどんな気持ちで咬まれていったのだろう?
けれどもすでに、そんな想像はむなしいものとなっているはずだった。
いまのまゆみ自身が吸血されるということに、ほとんど苦痛を感じていないだろうことは明らかだから。
まゆみはこの村に棲む少女の多くとおなじように、この子としょっちゅう、これから出歩こうというのだから。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 23 ナギの日記

2018年10月28日(Sun) 23:52:41

ナギの日記

きょうは、月田まゆみちゃんという女の子の血を吸いました。まゆみちゃんは中学三年生で、ナギよりずっと年上の子です。都会から引っ越してきたばかりで、このあたりの風習のことはなにも知らなかったみたいです。お父さんは、ナギがいつも血を吸わせてもらっている親切な小父さんです。この間小父さんのおうちに遊びに行ったときにはいなくて、父ちゃんが小母さん(あたしに血をくれている親切な小父さんの奥さんです)の血を吸っていい思いをしただけでした。でもナギたちが帰るころになってまゆみちゃんはやっと戻ってきたので、ちょっとあいさつだけはしました。ナギたちがまゆみちゃんの父さんと母さんの血を吸ったことはまだ内緒になっていたので、まゆみちゃんは変な人たちだなという顔をしていました。
はじめてまゆみちゃんと口をきいたのは、こないだ道をすれちがったときでした。ナギがお姉ちゃんのことをじろじろみたら、ご用があるなら仰いと、おこられてしまいました。でもナギが、「お姉ちゃんの父さんと母さんのひみつを知ってるよ」といったら、口をぽかんとあけていました。そのときの顔つきがかわいかったので、血を吸いたくなりました。父ちゃんにいったら、前から目をつけていたと言いました。そういうことなら顔役さんに話してみるっていいました。それで、父娘でまゆみちゃんの血を吸っていいことになったので、まゆみちゃんに会いに中学校に行きました。
校長さんはまゆみちゃんの担任の春田という教師を紹介してくれました。春田という教師は、ぼくのせいにならないのなら手伝ってあげてもいいよといって、まゆみちゃんを人のいない教室に呼び出してくれました。自分のせいになるのがイヤだなんて、ちょっとずるいなと思いました。
お約束どおり、まゆみちゃんはその教室に来てくれました。ナギはまゆみちゃんが校舎に入るのをこっそりのぞいていました。足にはお肉がたっぷりついていて、はいていた白のハイソックスはリブ編みもようがツヤツヤしていて、とってもおいしそうに見えました。でも、まゆみちゃんはまだ、あたしがそんな気持ちで自分のことを見ているなんて、夢にも思っていないのです。そう思うとなんだかゾクゾクしてきました。
あたしがあとから教室に入っていくと、まゆみちゃんはビックリしました。ナギがえらそうに、お姉ちゃんのことなら何でも知ってるよといって色々ひけらかしてみせたら、気味わるそうにナギを見ました。
父ちゃんはあとから来ることになっていました。ほんとうはお姉ちゃんの血をナギにはくれないで独り占めしたがっていました。ナギが正直に、お姉ちゃんの血を吸いたいのといったら、お姉ちゃんは、悪い冗談だよね?といってナギのことをおっかない顔でにらみました。でも、血を吸われるのならナギと父ちゃんとどっちがいい?ってナギがまじめにきいたら「うそ、うそ!」って、怖がっていました。父ちゃんは女のひとの血を吸うとき必ずいやらしいことするんだよって教えてあげました。そう聞いたら、ふつうの女の子ならナギのほうを選んでくれると思ったのです。ここには父ちゃんが来るから、一度お姉ちゃんを逃がしてあげて、あとで別の場所で待ち合わせて血を吸わせてもらってもいいとも思いました。
そこに父ちゃんが来ました。父ちゃんはあたしたちの話を盗み聞きしていて、ナギがお姉ちゃんを独り占めしようとしているのに腹をたてて、ナギのことをどなりました。父ちゃんはずるいんです。いっつもナギに段取りだけさせて、自分はあとから来て、いいとこをあらかた取るんです。だからナギは「父ちゃんずるい!」と言いました。そして、まゆみお姉ちゃんの前で父娘でけんかになってしまいました。
お姉ちゃんはうんざりした顔をして、「いいわ、けんかはやめて。お姉ちゃんがちょっぴり痛いのガマンすればいいんだよね?」と言うと「ふたりで仲良くまゆみの血を吸ってちょうだいね」と、いすに腰かけて、ナギたちが血を吸いやすいようにって足とうなじを伸ばしてみせてくれました。まゆみちゃんって都会から来たのに血なし鬼に理解のあるいい子なんだな!と思いナギはうれしくなりました。
でも父ちゃんはやっぱりずるくって、おれが先だといって、ナギをろうかに追い出しました。父ちゃんがまゆみお姉ちゃんの血をちゅーちゅーおいしそうに吸っているのを順番待ちしながら、ナギはしかたなく指をくわえて見ていました。
そうしたらそのうちお姉ちゃんもノッてきちゃって「ああーん。もっと吸って」と言いました。お姉ちゃんがそういった時、病気の人がうわ言をいうみたいに、目をつぶってまゆ毛をよせていました。父ちゃんは調子に乗ってお姉ちゃんの着ているセーラー服をめくると、お姉ちゃんのおっぱいをなめたりしました。ピンク色をした乳首に父ちゃんのよだれを光らせながら、お姉ちゃんはまゆ毛をうんとよせて、苦しそうなきもちよさそうな顔つきになっていました。
お姉ちゃんは中学のセーラー服着ているしまじめっぽく見えたのに、実はいやらしい人だということがわかったので、ナギはお姉ちゃんやらしいといっておこりました。ナギがあんまりおっかない顔をしたので、お姉ちゃんは走って逃げました。せっかくいろんなことを教えてあげたのに、ナギには血を吸わせないつもりなんだと思いました。ナギはずるいずるいといいながらお姉ちゃんをトイレに追いつめました。でもお姉ちゃんはナギにものをぶつけて逃げました。その間に父ちゃんはまゆみお姉ちゃんの母さんの血を吸いに行ってしまいました。とりのこされたナギは、お姉ちゃんとふたりきりで鬼ごっこをすることになりました。
お姉ちゃんは学校の外に逃げ出しました。まだじぎょうがあるのに、学校をサボってどこかに行っちゃうのはだめだと思いました。大人も大きい子もみんなずるいと思ったら走る力がわいてきました。ナギはけんめいにはしってお姉ちゃんに追いつくと、引きずりたおして首を咬みました。お姉ちゃんの首すじは、むっちりやわらかくて、かみごたえがありました。血がいきおいよく出たので、ほっぺを真っ赤にしながらゴクゴクのみました。若い女の子の生き血のつよい香りに、くらくらしました。
そのうち、のどがかわかなくなったので、お姉ちゃんを放してあげました。さっきまでいっしょにかけっこをしていたお姉ちゃんは、息をはずませながらいいました。
「逃げちゃったりしてゴメンね。仲直りのしるしに、ナギちゃんの父さんがしたみたいにハイソックス破らしてあげる。ナギちゃんもまゆみのハイソックス破きたがってるみたいだったから、片方の足はおじ様にお願いしてとっておいたのよ。まだ飲み足りないだろうから、気のすむまで咬んでね」
お姉ちゃんは走ってる間にずり落ちていたハイソックスをわざわざおひざのところまでギュッとのばしてから、いっぱい咬ませてくれました。たてのリブ編みに真っ赤なシミがにじんでいくのを、ふたりでおもしろそうにかんさつしました。
父ちゃんがまゆみちゃんをひとりじめにしているときに咬んだ以上に、ナギはまゆみをうみちゃんのことを咬んだのです。
それでお姉ちゃんと仲直りをして、手をつないでお姉ちゃんのおうちの前まで行って、そこでバイバイしました。お姉ちゃんのおうちのなかにはまだ父ちゃんがいて、お姉ちゃんの母さんにのしかかっていつもみたいにいやらしいことをしながら血を吸ってました。お姉ちゃんがふたりのじゃまにならないようにナギのほうに背中をみせて、足音を立てずに二かいのお部屋にあがるのがみえました。
父ちゃんとまゆみお姉ちゃんの母さんができていることはナイショです。みんな知ってるみたいだけど。みんな知らないふりをしているんです。でも父ちゃんにまゆみお姉ちゃんの母さんを紹介したのがまゆみお姉ちゃんの父さんだというのは、まゆみお姉ちゃんは知りません。いつか教えてあげようと思います。ナギはずるくないし、正直なのが好きだから。


「これ、どこまでほんとうなの?」
長いこと読んでいるうちにずり落ちためがねを直しながら、親切な小父さんはあたしに訊いた。
けっこう正直に書いてしまったので(うそも書いてるけど)あたしはちょっとはらはらしながら、あたしの書いた日記帳を目で追う小父さんの顔つきをのぞきこんでいた。
ショックだったらかわいそうだなって思いながら。
でも正直に生きるには、なにごともちゃんとわかりあっていたほうがいいとあたしは思う。
家族同士ではらのさぐりあいなんて、いきがつまるだけだもの。
そうはいいながら日記帳にはいろいろぼかして書いてみた。
教室のなかであたしが父ちゃんのためにお姉ちゃんのことを抑えつけたことなんかとくに書かないでいた。
お姉ちゃんがあたしより弱かったって知ったら小父さんもやだろうなっておもったから。
あと、あたしがあんなにがんばったのに父ちゃんだけがいい思いしたのがどうしても悔しかったというのもあるけれど。
あたしは都会の人にもけっこう気を使っているのだ。
「んー、これはね、ナギの作文」
小父さんがどうとってもいいように、あたしは澄ましてそう応えた。
きょうは水曜日。さいごに小父さんの血をもらったのは、父ちゃんに小母さんを襲わせてあげた金曜の夜だから、なか4日あいていた。
小父さんはあたしの「お友だち」だから、ほかの人に血をあげることはない。
休養充分だと、やっぱり血の味が濃くて美味しくなっている。
あたしはさっき咬みついた足許に拡がる靴下の裂け目に、うっとり見いった。
女の人が穿くストッキングみたいに薄い長靴下は、縦にチリチリと破けて、ゆるくカーブを描いていた。
すね毛の浮いた脚が裂け目からのぞいて、そこだけまる見えになっていた。
きのうまゆみちゃんのふくらはぎから咬み剥いで愉しんだハイソックスよりも、ずっともろかった。
きのう父ちゃんの相手をした小母さんがひいひい呻き声を洩らしながら破かれていった肌色のストッキングも、こんな破けかたをしていた。
小母さんの血は吸ったことがないからわからないけれど、小父さんの血はまゆみちゃんの血の味とよく似ていると思った。
「まゆみお姉ちゃんの血、小父さんの血の味と似てたよ」っていったら、小父さんはちょっとうれしそうな照れくさそうな顔をして笑っていた。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 22 まゆみ、母親の不倫をやり過ごす

2018年10月28日(Sun) 23:50:12

まだ、夕暮れ刻ではないのかもしれない。
けれども、まゆみの周囲はすべてが黄色い翳に彩られていた。
刻が止まってしまったような時間が、ほとんど音もたてずに流れた。
いつも窓の外から聞こえてくる車が通りすぎる音や、干した布団を叩く音、通りでおいかけっこをする子供の声やピアノの練習のつたない音色・・・そうした日常がかもし出す雑然とした音たちは、まゆみの鼓膜には届かなかった。
いや、音といえば唯一、階下のふたりの声や、たてる物音だけは、筒抜けに伝わってきた。
それはいやというほど露骨に、すべてが未経験の少女の鼓膜に、残酷に流れ込んだ。
なんとなくいやらしさを感じた血を吸われるという行為が、いやらしいことそのものと直結していることを、まゆみは知った。

「生娘は犯しちゃなんねえ」
とナギの父親はいったが、いま階段の下では、あの旧校舎の教室でまゆみがされた以上のことを母がされていた。
まゆみはなんとなく、母さんが身代わりになって犯されているような気がした。
けれどもそれは娘を庇って恥辱を受ける、というような自己犠牲的な気高さのある行為ではなく、もっと後ろめたい、大人だけが踏み入れるどろどろとした劣情をはらんだものだった。
そこからはまゆみが予期し耳をそむけたくなる類いの、抗いの叫びやすすり泣きは、洩れてこなかった。
終始一貫して、熱っぽい喘ぎと呻き声だけだった。
それは感情の昂りやなにかがひと区切りしたような静まりをときに交えながら、いつ果てるともなくつづいていった。
こうすることが、きょうが初めてではない。そんななれあいのような雰囲気も感じた。きのうきょうの関係ではないような。

「おっ母ちゃんのおっぱいよりでけえな」
教室でまゆみを追い詰めたとき、いま階下で母を犯している男は、そういった。
「エッチ!すけべ!あんたの母さんといい勝負!」
まだ敵対関係だったとき、彼の娘もそういった。
なぁんだ、そういうことだったのか。知らなかったのは、あたしだけ。近所の小母さんだって知ってる。
だから家に入ろうとするあたしを引き留めようとしたんだ。
女はみんな、秘密を守る。
はからずも覗き込んでしまった大人の世界を、まゆみは自分でもびっくりするくらい冷静に受け止めてしまった。
「母さん、どうすんのかな?父さんに何て言い訳するんだろ」
まゆみはふくらはぎに貼りついているハイソックスの生地をつまみ上げ、ピンとはじいた。
乾いた血のりでごわごわとしてきたリブ編みのナイロン生地は、まだ弾力性を残していて、まゆみの指先を離れるとピチッと小気味のよい音をたてて皮膚を打った。
咬み痕にはふたつずつ、綺麗に並んだ穴ぼこが空いていた。穴ぼこの周りには、乾きかけた血のりが大小ふぞろいな赤黒いシミとなって、こびりついていた。
まゆみはハイソックスを履いたまま、穴ぼこの数を「ひとつ・・・ふたつ・・・」数えてみた。
父親に咬まれたほうは三ヶ所、ナギに咬ませてあげたほうには五ヶ所も、穴ぼこがあった。
咬みつきかたに手ごころを加えながらも、ナギが父ちゃんを意識して実はよけいに咬んでいるのを確かめると、まゆみは愉快そうに苦笑いした。
階下で母親が服を着崩れさせながら情事に耽っていることなんか、なんでもない普段の出来事のような気がしてきた。
母の情事がつづくあいだ、洩れてくる喘ぎ声を横っ面でうけ流しながら、まゆみは血の着いたハイソックスを降ろしたり引き伸ばしたりしていた。

男が立ち去ったあとも、母と娘のあいだには気まずい雰囲気が漂い、母親は帰宅してきた娘におかえりをいうこともなく、台所に立っていった。
むしょうにだれかと話したかった。
まゆみは足音を忍ばせて階段を降りると、階段のすぐ下にある電話の受話器をとった。指先がたどった電話番号は、ナギの家のものだった。


「はい。蛭川ですけど」
ナギの他人行儀な声が、冷ややかに流れてきた。
台所では水仕事が始まったらしく、かえって受話器の向こうの声のほうが聞こえにくいくらいだった。
「ナギちゃん?いまお話しできる?」
電話に出た第一声でナギのみせた獣の警戒心に改めてたじろぎを覚たが、受話器の向こうからは「あっ」という呟きがして、声の主はにわかに語調を和らげた。
「うん、ヘイキだよ。父ちゃんまだかえってこないし。そうそう、さっきはどうも」
「イイエ、どういたしまして。うふふ」
変なあいさつだったが、すらすらとしたやり取りだった。
さっき自分の血を吸い取った唇が、受話器の向こうで言葉を紡いでいる。
「父ちゃん帰ってきたら、悪いけど切るね。長電話大嫌いなんだ、あのひと」
「男はみんなそうだね。ナギの父ちゃん、も少ししたら帰ってくると思うよ」
「どうしてわかるの」
「・・・さっきまでうちにいたんだもん」
「やっぱりねぇ・・・そんなに長居したんだ。お姉ちゃんもやられちゃった?」
「ううん、あたしは大丈夫。目があったけど二階に逃げちゃった」
「お姉ちゃん甘いね。その気になったらあの人、どこまでも追いかけてくるよ」
「そっか」
さっきナギの物凄いねばりを見せつけられたばかりなので、まゆみはすぐに納得した。
「ほんとはね。あたしがまゆみちゃんに追いつけなかったら、父ちゃんがも一度あなたを襲う手はずになっていたんだ。
だからお姉ちゃん家(ち)に先まわりしてたの。あたしもあとから合流して、父娘で血を飲んじゃおうって」
「あっ、ヒドイ」
「あたしにつかまえられて、よかったね。父ちゃんはきっと、まゆみちゃんの靴下に両方とも血がついてるの見て、
あたしが成功したってわかったから、お姉ちゃんのこと放っておいたんだと思うよ」
「もしかして処女だったからってこともありだったりして?」
「あっ、お姉ちゃんするどい!そう、この村で処女の子勝手に犯したら村八分だからね。それにきっと、父ちゃんはあなたのおっ母ちゃんに夢中なんだよ」
「ナギちゃんも知ってたんだね。あたしショックだったー・・・」
語れる相手を見いだして、まゆみの頬に初めて涙が伝った。
「まゆみちゃん、悲しい?」
ナギの声はむしろ、不思議そうだった。
「感覚がちがうんだね。都会の人は。うちの父ちゃんとまゆみちゃんの母さんが仲良くなるの、あたしは嬉しいけどな。
お姉ちゃんとの関係が強くなるから」
思ってもみない発想だった。
それはそれで一理ある。まゆみは素直にそう思った。
でも、すぐに同調することは都会育ちのまゆみには難しいことのような気がした。
「うぅん・・・言ってることはわかるような気がするんだけど・・・」
「ついて来れなさそう?」
「うん今はキビシイかも」
「無理しないでいいよ。納得できないなら、いまのまゆみのままでいいから。そういうまゆみも、あたし好きだから」
「うん、ありがとね」
「みんなで仲良くなろ。そう考えると、ちょっと楽になれるよ」
みんなで仲良くなる。女と男が仲良くなるには、血を吸われたり、ハイソックスやストッキングを咬み破らせてあげたり、お布団のうえであんなことされたり・・・そんなことが必要なんだろうか?
「でも、あたしたちはそれでよくっても、父さんがかわいそうかなぁ」
まゆみはしぜんと、父親のことを想っていた。
「まゆみちゃん、優しいんだね。あたしの父ちゃんなんか、自分から友だち連れてきて、母ちゃんの血を吸わせたんだよ」
「えっ」
「あたしは初めて血を吸われるとき、母ちゃんがそのひととやってお手本見せてくれた」
「そんなぁ~」
まゆみは声を忍ばせながら叫んでみせた。あくまで台所からの物音に気を使いながら。
拒否反応よりはくすぐったいような好奇心のほうがまさっているのが自分でもわかった。
「そ。父ちゃんは自分の幼馴染みに、自分の奥さんと娘の血を吸わせたの。そのひとに、奥さんといっしょに住みたいってお願いされても、女房をそこまで気に入ってくれたのかって、とても喜んで聞き入れてあげたの。母ちゃんとはたまに会うけど、いつもは父ちゃんとふたりで暮らしてるの」
「ナギちゃん、寂しくない・・・?」
「みんなで仲良くなるんだから、あたしは平気。・・・でもやっぱり、おうちで独りぼっちのときは、たまに寂しいかな。あたし学校もいかないし。だからお姉ちゃん遊びに来て。だれかに甘えたいときもあるし・・・ただお腹が空いているだけのときもあるけどね」
さいごは冗談ごかしで、笑っていた。
「あっ、父ちゃんかえってきた!」
ナギがあわてた声をした。
「じゃ、切るね。話聞いてくれて、ありがとね」
「あたしも楽しかった。また会おうね」
少女たちは同時に受話器をおいた。話をし終わってまゆみはなにかすっきりした気分になった。
ずっと年下のナギに「まゆみちゃん」とか「まゆみ」とか呼ばれたけど、全然腹がたたなかった。
ナギちゃんは大人だなって、素直に思った。
なんでも自分で考えて生きてるから、きっとそうなんだと思った。
われに返ると、妙にひっそりしている母親が気の毒になってきた。まゆみはサバサバとして、起ちあがった。


「母さん、洗濯機今夜まわす?」
「べつに予定ないけど・・・急ぎの洗濯でもあるの?」
いつもの母さんの調子だった。そう、母さんは、あたしよりうわ手なのだ。まゆみはいった。
「あたし、ナギちゃんっていう女の子に献血することにしたの。初めて咬ませてあげたハイソックス、記念に欲しいっておねだりされたから、早めに洗って今夜乾かして、早ければあした、渡してあげたいの」
びっくりするくらい、すらすらと言えた。突拍子もない話のはずなのに、母さんにはすぐに意味が通じたらしい。
ごく普通のことのように「ああそうなのね」と頷いてくれた。
え?って怪訝そうに顔をしかめることも、いったいどういうことなの?って頭ごなしにとがめだてすることもなかった。
「でも母さん、今はちょっと手がはなせないな。よかったらまゆちゃん、洗濯やってくれない?ついでにほかの洗濯物もいっしょにお願いしちゃってもいいかしら?いま洗濯機のなかに入っているやつだけでいいから」
あくまで娘に家事を手伝わせようとする、いかにも専業主婦らしいいつもの母さんだった。まゆみは気持ちよく
「あっ、いいよ。きょうは宿題ないし。すぐやっちゃうね」
と、てきぱきと動き始めた。母さんはいつもの母さんだったが、まゆみはいつものまゆみと全然違っていた。
洗濯機の前で血のついたハイソックスを引っ張り抜くように片足ずつ脱いでいると、困った子ねぇと言いたげな声が追ってきた。
「あなた、宿題がどうのって・・・」
「アッ!いけないっ!」
担任に呼び出されてクラスの教室を出るとき、荷物を鞄ごと置いてきたのをすっかり忘れていた。
「まゆちゃんが帰るまえ、蛭川さんって仰るかたがみえて、学校から預かって来ましたって届けてくだすったのよ」
「よかったー!あした学校行けないとこだったー!」
もろ手をあげて喜んでみせたまゆみだったが、制服にあけられた穴ぼこのことを思い出し、ひやりとした。
ところが母さんの話は終わっていなかった。
「その蛭川さんなんだけど、まゆちゃんにって新しい制服をお持ちになったの。お礼だって本人にお伝えいただければわかりますからって仰るだけで、よくわからないままお預かりしたんだけどあなた心当たりある?」
話して差し障りのない話はなんでもしてしまおうと、まゆみは腹を決めた。そう。女はみんな、秘密を守るのだ。
「ナギちゃんってね、苗字は蛭川さんっていうの。来たのはお父さんじゃないかな?草色の作業衣着てなかった?」
「ああ、そうそう。だから学校の人にしては変だなって母さん思ったのよ。献血のお礼だったんだね」
「きょうの制服もクリーニング出すから。記念にナギちゃんにあげるの。穴ぼこ空いちゃって、もう着れないから」
「だったらおあいこだね。お礼返しに値のはるものをっていうことになったら、困っちゃうとこだった」
まゆちゃんが帰るまえ・・・か。
まゆみは心のなかで呟いた。
そうね。あたしが帰ってきたときには、そんな男の人はいなかった。
母さんがそういうことにしたいのならば、そういうことにしておこう。
それと、蛭川家にこれ以上、値のはるものを贈る必要はないわ。大丈夫。母さんは困ることないはずよ。すごく値のはるものをさっき惜しげもなく、いっぱいあげてたじゃない。
けれども、それらは口にすることではなかった。話して差し障りのあることだったから。
「まゆちゃん、新しい制服サイズが合うかどうか着てみて頂戴。スカート短すぎたら直してあげるから」
声をあげる母さんに、いつもは面倒くさがるまゆみだったが、今夜に限っては「はーい、すぐにね」と良い子のお返事をかえしていた。


「な~にやってるんだ?さっきから」
父ちゃんは苦虫をかみつぶしたようなしかめ面を作って、娘に声を投げた。
そういうときはたいがい、実は機嫌が良いときの照れ隠しなんだと、ナギはよく知っている。
あれだけ若い女の血を吸ったあとだもの。勝手なこと言ったらひっぱたいてやる・・・なんて生意気なことを思いながら、ナギは鏡に向かって手を休めずにこたえた。
「んー、ばんそうこう貼ってるの」
「なににぶつけた?」
「モップ」
「モップぅ?」
頓狂な声をする父ちゃんに、ナギはさらに手を休めずにいった。
「まゆみちゃんに投げられた」
「はっ!おお捕物なこったな」
父ちゃんはこばかにしたように言葉を投げた。娘に対してまゆみの演じた激しい抵抗を想像して、父ちゃんはにやにやと笑った。
「なにさ、いけすかない・・・あとで聞いたよ。月田の小母さん犯してきたんだって?」
ガキのくせに、澄ました顔してやけに生々しいことをいう。
「耳が速ぇな」
忌々しそうにそっぽを向く父ちゃんに、ナギはこともなげにいった。
「まゆみちゃんからきいた」
「仲のええこった」
「ウン、仲良くなった」
「うそこけぇ」
「だいぶしつこかったらしいね」
「だれから訊いた」
「それもまゆみちゃんからきいた」
「あの娘(あま)っ子もすみに置けねぇな。聞き耳立ててたんか」
「おうちの中だもん。耳ふさいだって聞こえるよ。閉口してたよ、まゆみちゃん」
「ふたりして何をよからぬ話をしてるだか」
父ちゃんはぶつぶつ言った。
「とうちゃ~ん。まゆみちゃんがいるときには止しにしときなよ。都会の人はそういうのって気にするみたいだから。たぶんあの父娘、きょう自分たちに起きたこと、半分も喋ってないと思うよ。少なくとも小父さんは、カヤの外だろうねぇ」
ナギはしわしわの婆さまみたいな口調で、親切な小父さんのことを思いやった。
お仕事に出てる最中に、妻も娘も食い物にされちゃった、かわいそうな小父さんのことを。


行ってきまーーすっ!
通学鞄を手にしたまゆみは、あいさつもそこそこに、ばたばたと登校していった。
月田は娘の姿が消えたあとも、まだ玄関先に視線を残していた。
廊下を飛び越えるようにおお股で跨いでいった白のハイソックスの両脚が、妙に目に灼きついていた。
娘の着ていたセーラー服も、気のせいか真新しくなったように、彼の目には映った。
「まゆみのやつ、こっち来てから元気になったな」
「そうか知ら」
妻はのんびりと、洗濯ものを干している。きょうはいつものトックリセーターにパンツルックだった。
「東京にいたときは不登校だったものな。こっちで仲良しでもできたのかな」
「さぁ~、どうか知ら。あの子学校のことはあんまり話さないですからねぇ」
「おいおい、頼むよ。父親にはもっと話さないんだから。お前がしっかり訊いといてくれないと」
夫は口を尖らせたが、柔らかな口調は変わらなかった。
「はい、はい」
月田夫人も軽々と夫をうけ流し、洗濯物をいっぱいぶら提げて庭に出ようとした。
「ばっかねぇ、あの子ったら。夕べのうちに干しとけば、きょう渡せたのに」
「なんだ?」
なんでもないわぁ・・・といいながら彼女は夫に背を向け、小物のいっぱいぶら提がったトレーをひとつ落っことしたのを取り残して庭に出た。
妻のお尻を視線で追いかけていた月田は、妻の落とし物に目をやった。
娘のものらしい白のハイソックスが、洗濯ばさみに挟まれたまま、たたみの上にとぐろを巻いていた。
ハイソックスにはところどころ穴があいていて、白い生地には洗い落とせなかった紅いシミが残っていた。
「?」
月田の目が釘付けになった。
さいしょはそういう柄なのかと思ったほど、その紅いシミは目だったまだら模様になっていたから。
それがなにを意味するのか、彼にはすぐにわかった。娘の洗濯物をみた母親が、初潮をさとるときのような的確さで。
思わずズキリ!ときた。とうとうまゆみまで・・・そんな想いももちろんよぎった。
さいしょからそのつもりだったとはいえ、娘にだけは説明を一日延ばしにして、人事の担当者に「どのお宅でも、お子さんには直接仰らないみたいですねぇ」などといわれたのをいいことに、とうとう何も言わずに済ませていたという心のとがめもあった。
そのくせ、娘がきちんと状況に順応して母親と示しあわせるまでになっていることに安堵もし、半面自分だけがつんぼ桟敷におかれたという身勝手な悲哀も淡くではあるが感じていた。
証拠物件を目の当たりにして、(ずいぶんはでにやったなぁ)と内心思ったもののそんなことはおくびにも出さず、「母さん落としたよ」と夫はあくまでおだやかな声をあげただけだった。
「まゆちゃんねー、献血するようになったんですって」
母さんは手仕事の手も休めずに世間話をするみたいな調子でそういうと、さりげなく父さんの顔色を窺った。
娘がなにか一人前のことをしてきた、といいたげな口ぶりだった。
「ふーん」
父さんは一見気のなさそうな返事をして、「さてそろそろ行くか」と、起ちあがって伸びをした。
なにかを紛らすような感じに、妻の目には映った。父さんは大きく伸びをすると思い出したように訊いた。
「母さんだれか紹介したの?」
(やっぱり気になるんだ)彼女は多少の安堵と少しばかりの危惧を感じながら、
「あらっ?あなたが紹介したんじゃなくって?」
といった。父さんがちょっとあわてたのが、背中ごしに伝わってきた。
「えっ、私が?」
「蛭川さんですよ」
向き直った妻のまともな視線を浴びて、父さんは気の毒なほどおろおろした。こんどは母さんがあわてた。夫が誤解したのにすぐに気がついたからだ。
「あー、ごめんなさい。ひと言足りなかったわね。ナギちゃんっていう娘さんのほう。会社でよく会ってるはずだってあの子が言ってたわ」
「アッ、あの子か!そういえば私のとこにはきのう、来なかったな。週末会社休んだしお腹すかしてるかな?って覚悟してたんだけどね」
フフフ・・・度のつよい眼鏡の奥で父さんの目が優しく笑うのを、母さんはおっとりと見つめた。
いつの間にか地元の風習にお互いがどれほどなじんだか、かなり大っぴらな会話を交わすことができるようになっていることに、夫婦のどちらもが気づいていた。
吸血鬼相手に家族のめいめいが相手を選んで血をひさぐようになり、妻は夫や娘の間近で娼婦のように振る舞い、夫はすすんで妻にそうするように仕向け、自ら招いた結果がもたらした昂りが夫婦の営みを復活させる。
互いにあらわにしない部分を秘めあいながらの平穏な日常・・・こういう関係もありなのか。安堵と悲哀、嫉妬や昂り・・・いろんな感情がいっしょくたにわきあがってくるのを吹っ切るようにして「母さん行くよ」といっていつものように出勤していった。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 21 教師への制裁

2018年10月28日(Sun) 23:47:25

「担任さんブラジャー没収よ」
職員室のなか、ナギは春田教諭のまえにまっすぐ手のひらを差し出した。
「な・・・なんのことですかっ」
神経質そうな色白の頬を蒼白にし、七三にきっちり分けた髪を震わせててうろたえる春田教諭に、ナギはどこまでも高飛車にたたみかけた。
「あの教室のあと始末はお願いしたけど、拾い物を自分のものにしていいなんて言わなかったよね。
あなたの役得なんて、なにもないの。早く出して頂戴」
スーツばかりの室内で明らかに浮いているはずの子供服が、冷然と目の前の教師を追い詰めていた。

朝はもっと露骨だった。
校長に呼ばれた春田はそこでナギという少女を紹介されて、部屋を出てゆく校長の背後で少女に首を咬まれていた。
痺れるような疼痛は、元々もろい彼の理性をかんたんに突き崩し、その場で言われるがままの奴隷になった。
要求されたことはかんたんだった。
旧校舎の鍵を渡すこと、受け持ちのクラスの月田まゆみという生徒を呼び出して、いまから説明する口実でその旧校舎に行かせること、ころあいを見計らってあと始末をすること、そしてそこで起きたことは一切報告しないこと。
ナギはずうっと春田の首を咬んだまま、埋め込んだ牙を通して意思を伝えてきた。
そのあまりの異常さに、春田はしたがうしかなかった。
「あなたのせいになんかならないから」
少女の言いぐさになわかな安堵をおぼえ、みっともなくその場で尻もちをついてしまったくらいだった。

春田は通勤鞄をあけるとがたがた震えを帯びた手で中をさぐった。
吊り紐の切れたブラジャーがそこから出てきた。ブラジャーの裏側にまわったかすかな血痕は、彼の目に留まっていなかった。
ナギは澄ました顔をして周囲を見回した。
「いまのとこ、だれも視てないわよ。ね・・・?」
教師たちはふたりをわざと無視することで、彼女の期待に応えた。
「よかったね、教え子のブラジャーせしめようとしたの、だれにもばれなくて。お礼を頂戴ね」
「え・・・このうえなにを」
教師は再びうろたえた。ナギは冷ややかに言った。
「あんたの奥さん連れてきて。お腹がすいた時に声かけるから。できるはずよ・・・あんたは恥知らずだから」
凶暴な目付きで春田を射すくめると、ナギは表情を一変させて普通の女の子の顔に戻って、無邪気な笑いをはじけさせた。
操作ひとつで形相一変する文楽人形みたいに不自然だった。
凍りついた男を自分のつごうで一方的に取り残し、ナギは「じゃ~ね~♪」といって背中を向けた。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 20 母の醜聞

2018年10月28日(Sun) 23:45:10

部屋の隅に押しやられたちゃぶ台の前、ひざを突いた格好で上背を反らせた母親は、まつ毛を震わせ口許を喘がせながら、父さんではない男のひとに抱きすくめられていた。
抱きつかれたあとひざを落としたようにみえた。男は草色の作業衣を着ていて、母さんの背中に腕をまわし、片方の掌で母さんの頭を、もう片方の掌でこちら側のうなじを掴まえて、むこう側のうなじに顔を埋めていた。
男は、くいっ・・・くいっ・・・っと喉を鳴らしていた。
鈍くて重たい音だった。
母さんがなにをされているのか、さっきおなじことを経験してきたばかりの娘には、すぐにわかった。
母さんは腰にエプロンを巻いたまま、そのエプロンにも、エプロンのうえに着た空色のブラウスにも、モスグリーンのカーディガンにも、赤黒いしずくを点々と滴らせていた。
しずくは母親の生命を映すように、しずかな光をたたえながら彼女の身体を伝い落ちていった。
ひっ・・・
声をあげたのは、まゆみだったのか母親のほうだったのか。
やがて母親は姿勢を崩して、身体を転がすようにたたみのうえにひっくり返った。
紺のスカートがめくれ上がり、すそにレエスをあしらった薄いピンクのスリップがちらっと覗いた。
まだ意識は残っているのか、たしなみのあるいつもの母さんらしく乱れかけたスカートのすそをしきりに気にかけていた。
立て膝をした向こう側に倒れ込んだので、ふたたびうなじを狙った男の顔つきもろとも、すべては肌色のストッキングを穿いたふくらはぎに遮られてしまった。
母親が珍しくスカートを穿いていることに、まゆみは初めて気がついた。

くちゃ、くちゃ・・・じゅるうっ。
のしかかってくる生々しい吸血の音を払いのけるすべもなく、モスグリーンのカーディガンの腕がだらりとたたみのうえに伸びた。男はそれでもしばらくの間、まゆみの母親の首すじにうずくまっていたが、やがておもむれに顔をあげた。
「やめて・・・!」
声をあげてしまったことに気づいたのは、不用意にあげたまゆみの声に反応して男が振り向いたあとだった。

ナギの父親は、両脚を血で濡らしたまゆみを見ると、険しい顔つきを変えずにいった。
「あっちさ行ってろ。生命まで取んねえ」
――ナギの相手さしてくれて、すまねぇがったな。
初めて聞くしみじみとした声音に、まゆみは茫然と立ち尽くした。
男はそれ以上まゆみを振り返ろうともせず、ちゅうちゅうと音を立ててまゆみの母の血を吸った。
「ぁ・・・。ゥ・・・」
旨そうに啜る音に応えるように、母さんは呻いていた。いつかの晩ふすまごしに耳にした、夫婦の営みごとのときとそっくりな声音だった。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 19 かえり道

2018年10月27日(Sat) 10:08:05

その日中学校近くのはたけ道で、女学校の制服と赤い子供服のふたり連れが姉妹のように仲良く手をつないで、いっしょに童謡を唄いながら家路をたどる光景がみられた。
はた目には仲のよい姉妹としか見えなかったが、女学校の制服にはあちこち黒っぽいシミのついた穴ぼこがあり、丈長の靴下は左右まちまちの高さにずり落ちて、赤黒いシミをべっとりとにじませていた。
背丈のちいさいほうの子はTシャツに赤黒いものでまだらもようにはねあとを作っていたし、頬や口許にもおなじ色をした液体をべたべたと毒々しく光らせていた。
子供服の少女は集落に顔見知りが多いらしく道行くなん人もが彼女に声をかけた。
「おや、お友だち?」
「そう。新しいお友だち!」
少女が無邪気に笑って嬉しそうに白い歯をみせると、集落のものたちは「よかったねえ」と口々にいった。
年上のほうの少女は、ニコニコとほほ笑むだけで、ほとんどなにもいわなかった。
人々は、年上の少女の顔色のわるさを気づかって、いつ木乃伊(ミイラ)みたいになってぶっ倒れるのかと内心はらはらしたが、
少女は時おり小またになって脚を引きずることはあったものの倒れる気づかいはとうぶんなさそうだった。

「おなかいっぱいになったかな」
「ウン、これでしばらく持ちそう」
「お腹空いたら、いつでも声かけてね」
「ありがと。こんどからそうするね」
「血が足りてても会いに来てね。おうちで仲良くお話ししよ」
「あー、ウン。嬉しいな、それ。ナギはお友だち少ないから・・・お姉ちゃん音楽は好き?
鼓笛隊やってるんだよね?うちに音楽関係の本いっぱいあるんだ。古いのばっかりだけど」
「エッ!?見たい。見たい!」
「じゃ、約束ね」
指きりげんまんをするふたりは、ふつうの女の子に戻っていた。
たんなる食べ物扱いされていないことが、まゆみの胸をあかるくした。
血を吸う以外に用がなくて、ほかのお話しはいっさい耳を貸さないといわれたら、悲しかったから。
けれどもナギは、血が足りてるときでもまゆみといっしょにいたいと言ってくれた。
血が足りてま人間に戻ると、ナギはいい子になるのだ。
ふたりはさっきまでいがみあいながら続けていた鬼ごっこのときの手の内まで、ばらし合いっこまでしていた。
ながい距離をいきせききって走りあった連帯感に似たものだけが、意地を張り合った鬼ごっこのあとに残った。
「きょう中に血をもらえないと死んじゃう、って言ってたけど、あれウソでしょ?」
「ウン、よくわかったね。まゆみお姉ちゃんにしては上出来」
「こら」
「お姉ちゃんは意地っ張りだけど、お涙ちょうだいをしたらちゃんとワナにはまってくれる気がしたんだ。いい手だと思ったんだけど、惜しかったなぁ」
「けどあのときは、かけっこおしまいにしようかとチラッと思った」
「そっか。いいセンはいってたんだね。次回もこの手でだましてみよう」
「だーめ。もうだまされないわよ。でも、吸血鬼と人間が仲良く暮らしてるっていうのもウソなの?」
「はずれ。あれはほんとだよ。さっきの人たちも、あたしにお友だちができたってよろこんでいたでしょ?
あたしや父ちゃんがまだ新米でお友だちが少ないの知ってるからよろこんでくれたんだよ。
あの人たちもたいがい、だれかとお友だちだからね」
「ふーん、そうなんだ」
血の抜けた身体のわりには、全身が火照っているような気がした。
ナギに咬まれたところも、父ちゃんに咬まれたところも。ずきずきしていたけれど、苦痛には感じなかった。
どちらかといえば痛痒い感じで、傷口のひとつひとつに、あの尖った牙が傷口の寸法どおりにぴったりと埋め込まれている感じがした。
それは決して不快で落ち着かない気分のものではなく、素肌にしっくりと食い込んでいるようだった。
まゆみの首すじに食いつく直前に約束したとおり、ナギが女の子らしく気をつかって、素肌に必要以上の傷をつけないよう柔らかな甘咬みをしたのを、まゆみは父ちゃんに咬まれた感触との比較で気づいていた。
彼女の父親の相手をするのは気が進まなかったが、ナギがひもじいと訴えてきたら、こたえてあげたいと思った。
「だまされててもいいや」
大人を相手に平気でずるをするナギのことだからあり得ると思ったけれど、こだわるのはやめようとまゆみは思った。
ナギのおうちに遊びに行くようになったら、やはり自分の家にも招ぶべきだろうか。
ナギがひもじくなったらお紅茶やお菓子の代わりにあたしが首すじを咬ませてあげるのはいいとして、母にも事情を話しておいたほうがいいのだろうか?
万一のときには母にも血を分けてもらえるように・・・
「お姉ちゃんはまだそこまで考えてくれなくていいよ」
ナギは謎めいた微笑を返して話題をかえた。
「あ、もうじきお姉ちゃん家(ち)だ。あたしはここでさよならね」
みると、まゆみの家のすぐ前に着いていた。


ナギちゃん・・・?
ふとわれに返ったまゆみは脚を止め、辺りを見回した。
さっきまですぐ隣で腕を触れ合わせていたナギは、もう影も形もなく姿を消していた。
周囲を静寂が支配するのが、シンシンと胸に響いた。
陽ははやくも傾いて、街並みに翳りを投げはじめていた。
いったいナギとはなん時間、刻をともにしたのだろう?
担任の春田教諭に呼ばれてクラスの教室を離れたのは、一時間目の授業が始まる前だった。
まゆみは黄色く翳る風景のなか、とぼとぼとした足取りで家路をたどった。
血なし鬼の父娘にしたたかに血を抜かれたあとのけだるさが、身体を重くしていた。
われに返ることで、失血によるダメージがのしかかってきた。
「あらっ、月田さんとこのお嬢さん。どうなさったの?大丈夫?」
声をかけてきたのは、顔見知りの近所の小母さんだった。毎日登下校のとき顔を合わせる、父さんの会社の人の奥さんだった。
お互い下の名前もろくに知らない同士だから、まさか血なし鬼の女の子と仲良くなって生き血を吸われて来たんですとは言えなかった。
あっ、大丈夫ですから。ちょっと貧血ぽいので早退けしてきたんです・・・といって、そのままやり過ごそうとしたのだが、
小母さんはまゆみの手を握らんばかりにして、
「顔色よくないよ、ちょっとうちに寄っていかない?」
と、やけにしつこく引き留めようとする。すぐそこが家なのに、なかなか放してくれそうにない。
いつにないしつこさにむしょうにいらいらしてきて、
「家で休みますからいいです!」
とピシャリと言い返して振り切ってしまった。
背後から、せっかくひとが親切に・・・というブツブツ声がしたが、聞こえないふりをして家の門をくぐった。
「ただいまぁ」
薄暗い玄関から母さんのいるはずの居間に向かって声を投げた。
われながら、うつろな声をしていた。奥から反応はなかった。
だらしなくずり落ちかけて赤黒い飛沫の散ったハイソックスのつま先を板の間に降ろしたとき、居間のほうから
「・・・ァ」
と、声が洩れてきた。
母さんの声だった。ただならない雰囲気を感じて、「母さん・・・?」といいかけたまゆみは、ハッと息を呑んで立ちすくんだ。
悪夢は終わっていなかった。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 18 まゆみとナギの鬼ごっこ

2018年10月27日(Sat) 10:05:39

まゆみは無我夢中だった。
どれだけ血を吸われたのかもよくわからなかったが、とにかく全速力で走ることができるのだけは確かだった。
走る方向を間違えたのを惜しいとおもった。
まゆみのいた教室は旧校舎の二階の最後部にあり、彼女がこの旧校舎に入った入口にいちばん近い側だった。
彼女がとっさに出たのは、前の扉だった。後ろの扉からすぐのところに階下に続く階段があったが、ナギがいたから通れなかった。
しかたなく彼女は、廊下のいちばん向こうまでそのまままっすぐ走り抜けた。そちら側にもたしか、昇降口があったはず・・・。
旧校舎内で土足がオーケーだったのは、まゆみに幸いだった。上履きから履き替えることなく、そのまま表に逃げてしまえばよかったから。

ナギもおんなじことを考えていた。もちろん舌打ちしながら。
へんに行儀のよいまゆみのことだから、上履きのまま外に逃げ切ろうなんて機転のきくわけがない。必ず帰巣本能みたいに、本校舎の昇降口をめざすはずだった。
それにしても父ちゃんはばかだ。どうしてこういうときにばかり、変に情をかけるんだろう?
おまけに助平ときているから、娘に分け前渡すのも忘れていやらしいことなんか始めて、あんな間抜けな姉ちゃんに油断を突かれるようなへまをするんだ。
まゆみお姉ちゃんの身体から吸い取った血が父ちゃんの身体をまわり始めるには、もう少し時間が必要なはず。
はやいとこあたしに引き継いでくれれば、あたしがまゆみを大人しくさせてる間に、父ちゃんの身体にもまゆみの血がめぐってきて、あとはふたりして好き放題にできたはずなのに。
ちっきしょう!逃がすもんか!
ナギは駆ける脚に力を込めた。

えっ!?そんなっ!
こんどはまゆみが仰け反る番だった。
校舎の最前部の昇降口は、閉鎖されていたのだ。
まゆみはナギがばか正直に彼女のあとを追ってくることを願った。そうであれば、いくらナギだって大人の足には追いつくまい。
でも・・・ナギが持ち前のずる賢さを発揮してただしい選択をしていたら、まゆみは袋のネズミ・・・勝利はあの子のものになる。
果たして・・・階段を飛び降りるようにかけ降りたまゆみが視たのは、校舎からの唯一の出入口に佇む小さな人影だった。
獣じみたカンの鋭さ・・・まゆみはゾッと震え上がった。
ふたりの間には女子トイレがあった。トイレはまゆみの側に、やや近かった。
あそこに入れば活路があるかも・・・一階の教室の窓から降りることも考えたが、脚力でもナギに勝てるかどうか、あやしくなってきた。
ナギは彼女よりも身軽に窓を乗り越え、校庭でまゆみのことをかんたんにつかまえるだろう。
そのときこの学校では、生徒も、教職員すらも、ナギの振る舞いを表だって制止してはくれないような気がした。
そして、まゆみのその直感はただしかった。

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飛び込んだトイレの鏡をみると、そこには顔色をなくした少女が立ちすくんでいた。
髪を振り乱し、うつろな目をして、自分とはまるで別人のようだった。
セーラー服の襟首に沿った三本の白線ははねた血のりでところどころ消えかかり、胸許に締めた純白のタイはほどけかかって、やはり赤黒い血のりがまだらに撥ねていた。
首すじにはふたつ並んだ咬み痕が、黒々とつけられていた。まゆみはせっぱ詰まった状況を一瞬忘れ、棒立ちになった。

ナギは怒りを込めた口許を、かたくなにひん曲げていた。まゆみは泣きべそを掻いていた。
女子トイレの入口側に、ナギが。
奥まったほうに、追い詰められたまゆみが。
いままで余裕の薄笑いで彼女をあしらっていたナギを、どうやら本気で怒らせてしまったらしい。
「ナギちゃんお願い!お姉ちゃんのこと見逃してっ!あたしこういうの、ほんとにだめなの・・・」
見栄もプライドもかなぐり捨てて、まゆみは手をあわせて哀願した。
ナギは、聞いちゃいられないという顔をした。彼女の怒りの理由は、まゆみにとってすごく理不尽なものだった。
「お姉ちゃんの意地悪っ!どうしてあたしにだけ血を吸わせてくれないのっ!?」
理不尽すぎる主張というのは、意外にやっかいなものだ。理不尽すぎて、抗弁の方法が見あたらなくなるからである。
「えっ?その・・・だって・・・」
まゆみはたじたじとなり、しどろもどろになった。
ナギは女の子らしい潔癖さをあらわにしていい募った。
「あれほど仲良くしてねってお願いしたのに、父ちゃんとばっかりいちゃついて、あんなにイヤラシイことまでやっちゃうんだから!
エッチ!すけべ!ばいた!ヘンタイっ!あんたの母さんといい勝負っ!」
よくもまあこんなにも、女が女を罵る言葉を知ってるものだ。
「ばいた」なんて言葉は、まゆみですらなかなか思いつかない語彙だった。
たまたま国語の時間に習った古い小説に出てきて、注が振ってあったからわかったようなものだった。
きっとあの粗野な父親の影響だろう。
いまこの子につかまったら、あのひとのところにまた連れて行かれる・・・虫酸が走ったのをどうやって見抜いたか、ナギは嘲るように白い歯をみせた。
「大丈夫だよ。父ちゃんのとこになんか、連れて行かないから。あなたの血の残りは、あたしが独り占めにするんだ」
ナギは獣のように吼えると、口許から初めて牙をむき出しにした。父親のそれと同じくらい、尖っていた。
「痛いけどゴメンね」
ナギが呟いたのとおなじ呟きを、まゆみも同時に口にした。
えっ?と目を見開くナギの顔面に、モップが投げつけられた。
それから、亀の子たわしやら、ホースの切れ端やら、雑巾やら、ありとあらゆるものが降ってきた。
やわなものもあったが、力いっぱい投げつけられる物たちを避けるのに、ナギは思わず頭を庇って俯いた。
特に丈の長い雑巾は効果的で、ナギの顔に巻きついて、格好の目つぶしになった。
ナギが苛立たしげに雑巾をはね除けたとき、目の前からまゆみの姿が消えていた。
見ると、ナギの手の届かない高窓が開けっ放しになって、その真下にはスチール製の小さな踏み台が転がっていた。
ナギは踏み台をおき直し高窓に手を伸ばしたが・・・すこしだけ、背丈が届かなかった。おかっぱ頭の黒髪が、激怒に逆立った。


はっ、はっ、はっ・・・
中学校の旧校舎は、はるか向こうになっていた。
まゆみは学校の裏口を出て、その周りの住宅街を駆け抜けて、街なみをはずれた坂道の白く乾いた砂利道を、息せききって駆けのぼっていた。
とっくにけりがついているはずの鬼ごっこが、いったいいつになったら終わるのかとうんざりしながら。
遠くに小さくではあるが、赤いしま模様の入った白のTシャツに真っ赤なスカートの女の子が、あとを追いかけてくるのがみえた。
小学校のころ、かけっこはいつも一番だったのに、中学に入っておっぱいが大きくなってから、すっかり身体が重たくなっていた。
砂利道の石ころに足を取られるのも、もどかしかった。
すべてはナギとおなじ条件のはずなのに、距離が少しずつ縮められていくような気がしてならなかった。
まゆみはもつれそうになる足どりを励ましながら、ゆるくて長い坂道をかけのぼった。

はぁ、はぁ、はぁ・・・
まゆみは立ち止まってうつむいて、両手で両ひざを抑え、肩で息をしていた。もう限界だった。
こんなに長く走ったの、きっと中学に入ってからは初めてだろう。
もしも今ナギが追いついてきて「よくがんばったねお姉ちゃん」と囁いたとしても、頷くのがやっとで首すじをゆだねてしまいそうな気がした。
幸いそうなるには、ふたりのあいだにはまだへだたりがあったけれど。
あとを追いかけてきたナギも、まゆみが立ち止まったのをみて、足をとめた。石を投げれば届く距離にまで、差は縮まっていた。
「いったいどこまで、ついてくる気っ!?」
投げた叫びに苛立ちがこもった。
「もうかけっこやめようよー」
陰にこもったナギの声色は、お陽さまの下ではか細く響いた。
「あなたがやめるまで、あたしはやめないっ!」
まゆみは叫び返した。
「じゃあ、あたしもあきらめないっ!」
か細い叫び声がかえってきた。交渉決裂だった。鎮まりかけた息を再び弾ませて、ふたりの少女はまた走りはじめた。

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ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・
何度めか振り返ったとき、ナギが足をとめているのがみえた。
ナギが立ち止まったのをみるとまゆみも息が切れて、走るのをやめた。
どちらの足どりものろのろとしてきて、ほとんど意地の張り合いみたいになっていた。
「ナギちゃん、もうあきらめようよっ!」
声を投げたのはやはり、まゆみのほうからだった。
「お姉ちゃんの血が欲しいのっ!」
か細い声はどこまでも真剣だった。
「きょうじゅうにだれかの血をもらえないと、ナギ死んじゃうんだもん!」
叫び声には、切実さがこもっていた。
「全部ちょうだいなんてひどいこと言わないから・・・ほんの少しでいいから分けて・・・」
追い風に乗ってくる声は、すすり泣きをしているように聞こえた。まゆみは歯を食いしばって、また駆け出した。

もぅ・・・だめ。
もういちど、ナギの邪まな望みをなんとかあきらめさせようと、振り返ったときだった。
まゆみが立ち止まるのをみたナギは、自分も立ち止まろうとして、足がばかになったのか、前のめりにひっくり返ってしまった。打ち所が悪かったのか、そのままぴくりとも動かない。
えっ!?どうしたの?大丈夫っ!?まゆみは相手が血なし鬼だということも忘れて、思わず駆け寄った。
ふたりのへだたりは、もう十数歩に迫っていた。
「ナギちゃん?ナギちゃん?だいじょうぶっ!?」
仰向けに倒れたナギを抱き上げて揺すったが、反応がなかった。
「やだ、どうしよう・・・」
血がもらえないと死んじゃう。ナギはそういっていたはずだ。
でもここでは、人間と吸血鬼が仲良く暮らしている、ともいっていた。
通りがかりのだれかが、助けてくれるかもしれない。
まゆみは辺りを見回したが、いちめん背の高い草むらが続くばかりで、人の気配はなかった。
ふとナギの顔に視線を落として、まゆみはぎょっとした。
抱き上げられた腕のなか、ナギがあの冷ややかな薄笑いで、まっすぐまゆみのことを見上げていたのだ。

イヤッ!だめっ!ひいっ・・・!
組んづほぐれつ、上になり下になり、ふたりの少女はつかみ合った。
踏みしだかれた草の青臭い匂いがふたりの鼻をつき、服は葉っぱにまみれていった。でももう、勝負はついていた。
「お姉ちゃん、懲りないね。ナギは嘘つきだって、よく知ってるくせに」
薄笑いを浮かべた唇の両端から、ナギは尖った牙を再びむき出した。
「でもそういうおばかさんなところ、あたし好きかも。いっぱい走っちゃったけど、おトイレよりはお外のほうがまだいいよね?」
「殺さないで。殺さないで」
まゆみは必死にかぶりを振った。ナギは父親がむざんにつけた首すじの咬み痕を見つめて、さも気の毒そうにいった。
「かわいそう。父ちゃんにやられたんだね。やだったでしょう?ナギは女の子だから、お肌が荒れないようにもっとやさしく咬んであげる」
まゆみはちいさく、かぶりを振った。
同情といたわりに満ちた声色を裏切って、迫ってくる牙は父親のそれと変わらない鋭さをもっていた。
ナギは嬉しそうにニッとほほ笑んだ。
そして、あきらめのわるいライバルがなにか言おうとするのをまるきり無視して、
ニッと笑った可愛い口許から尖った牙をさらけ出し、父ちゃんが咬んだのとは反対側の首すじに、牙を突き立てた。

くいっ・・・くいっ・・・くいっ・・・
猛禽類が獲物を漁る獰猛さで、ナギはまゆみのうなじをくわえたまま、喉を鳴らした。
そのあいだずっと、まゆみはキュッと目を瞑り、歯を食いしばってナギの吸血に耐えた。
濃紺のセーラー服のあちこちに葉っぱをつけて、片方は乾きかけた血のりのはねたハイソックスの脚を立て膝して踏んばりながら。
自分のなかに脈打つ血潮を一滴でも多く体内に留めようと、まゆみはのしかかってくるナギの身体と隔たりをつくろうとし、
やめて、よして、と、声で制止しようとし、
かぶりを振って拒絶の意思をあらわにし、
それらがすべて無視されると、ただひたすら身をかたくこわばらせて、ひと口でもよけいに血を抜き取られまいと身体をこわばらせながら願いつづけた。
けれどもまゆみの首すじに吸いつけられた唇はたゆみなくうごめきつづけ、ナギはものもいわずに食べ盛りの食欲を見せつけつづけた。
ナギがようやく牙を引き抜いたとき、まゆみの身体からはもう、力が抜けきってしまっていた。
ナギは口許を毒々しいくらい真っ赤に濡れ光らせて、相手に力の差を見せつけるように、引き抜いた牙からわざと吸いとった血をぼとぼととまゆみの胸許にほとばせた。

「アハハハハハッ」
あっけらかんとした笑い声をたてたのは、まゆみのほうだった。ナギもまゆみに声を合わせて笑った。
「ちょっとー。ひどーいっ!」
さっきまでとはまるで別人のように、能天気な声色をしていた。もう、すっかり毒がまわってしまったらしい。
教室でこの子の父ちゃんに咬まれつづけたあたりから自覚し始めていた妖しい歓びが、まゆみの理性をすっかりかき消してしまっていた。
まゆみは胸許に締めていた白のタイをほどいて、それが派手なまだらに赤黒く染まったのをナギに見せて口を尖らせた。
それまでみたいな差し迫った敵意は、すでに消えていた。
うなじの傷口にべろを這わせてくるのをされるがままに受け入れると、
「ナギちゃんにもハイソックス破らせてあげるね」
といった。
まゆみのハイソックスは、ナギの父ちゃんの乱暴狼藉やその後の逃走劇で、どちらも脛の半ばや足首までたるんでずり落ちていた。神妙にお座りしながらも露骨に舌なめずりをしているナギのために、まゆみは靴下を左右両方ともめいっぱい引っ張りあげた。
「これでよし・・・と」
リブがまっすぐになるように、ハイソックスのゴムをひざ小僧のすぐ下のあたりまで念入りに引きあげると、まゆみは得心がいったように、呟いた。せっかく咬ませてあげるんだから、きちんと履いた状態で愉しませてあげよう。
まゆみは、ナギが彼女のふくらはぎに咬みつきやすいように、セーラー服に泥がつくのもかまわずに、その場に腹這いになった。
脚の輪郭に沿ってゆるやかなカーブを描いたリブ編みのハイソックスが、肉づきの良いまゆみの足許をきりっと引き締めている。
「父ちゃんひどいよねぇ」
ナギはまた気の毒そうに、ハイソックスが赤黒く汚れたほうのふくらはぎを見、まゆみの足許にそろそろとかがみこむと、それでもしっかりと、まだ咬まれていないほうの足首を選んで抑えつけた。
あくまで父親の手をつけたほうを避けるナギの態度にまゆみは苦笑しながら、
「きょうのやつ、履き古しなんだよ。前もって言ってくれれば新しいのおろしてきたのに」
といった。
「ふふふ。でも履き古しもなかなか、味があるよね?」
可愛い口許からピンク色の舌がのぞいて、リブ編みのハイソックスの白い生地のうえから、毒蛇のそれのようにちろちろとさまよった。
父親の粗野なあしらいとちがってもの柔らかで丹念で、姉を慕う妹のような甘えを帯びていたが、
却ってそれだけに、しつようないやらしさがこめられていた。
「ナギちゃんもやっぱり、やらしいね?」
お姉ちゃんは顔をあげて足許のナギをかえりみ、ナギはそれに対して「ウフフ」と応じただけだった。
「やっぱり履き古しは履き古しでいいなぁ」
舌で舐めくり回したハイソックスの生地を、よだれでじっとりと濡らしてしまうと、ナギはかなり濃いことを呟いた。まゆみも
「どうぞ、召し上がれ」
と、脚をすらりと伸ばした。まゆみのひざから下を包む白のハイソックスは、ほんりと汗の沁みたリブをツヤツヤさせていた。
「ウフフ。じゃあ遠慮なく、いただきまぁす♪」
ナギはニマッと歯をみせて笑うと、たっぷりと肉のついたふくらはぎに、美味しそうに咬みついていった。
真っ白なナイロン生地に、赤黒い血潮が勢いよく撥ねた。
ふた色の含み笑いがくすぐったそうにからみ合うなか、まゆみの足許に縦に流れるリブ編みに沿ってバラ色のシミがじわじわ拡がっていった。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 15 まゆみの担任

2018年10月27日(Sat) 09:58:35

まゆみが教室に入ると、転校してきてすぐに仲良くなった同級生が、「あっ、まゆみ・・・職員室来てくださいって」
なにか言いにくそうな顔をしたのを、まゆみはうっかりと見落とした。

担任の春田教諭の席は、職員室いちばん奥のほうにあった。
なにも悪いことをしていなくても、職員室という部屋は、まゆみのようなごくふつうの生徒にとって、あまり居心地のよい場所ではない。
だから、その職員室のいちばん奥まったところに席のある春田のところに行くのは、いつもすこしばかり気詰まりだった。
おまけに、この春田という教師は、若くて整った顔つきをしているのに、どうもなじみにくいところがあった。
それはことさらまゆみだけが感じていることではなかったらしく、ようやく打ち解けて話のできるようになった他の女子生徒たちも、ほぼおなじ感情を抱いていた。
春田教諭は去年の秋に都会から転入してきたばかりの教師だった。
すでに三年ほど前に結婚していて、村には妻を伴っていた。
色が白く、髪の毛をきれいに七三に分けたすぐ下には、いかにも理知的な広い額と銀ぶちメガネの奥によく光る黒い瞳が、美男というにはやや鋭角的すぎる印象を与えたが、女子生徒たちが共通に抱くかすかな反感は、そういうところにはなかった。
あるものは「なんとなく冷たそう」と評し、あるものは「都会っぽさが鼻についていやだ」といったあと、あわてて、「ううん、都会から来たからって、まゆみはちがうからね」と言ってくれたが、もっとずけずけとしたことを言う女子生徒は、「逃げるんだ、あいつ」と、露骨にこきおろした。
たしかに彼女のいうことはある程度的を射ていて、それは春田のどこか弱々しい言動や、とかく「校長」だの「村のえらい人」だのの名前を、ふた言めには出すというところに現れていた。
それは、彼がまだ地元の流儀をじゅうぶん理解していないことを意味していた。

まゆみが職員室に入ると、春田教諭はいつものように、あまり思いやりのなさそうな冷たい視線を注いできた。
そして、おはようのあいさつも抜きに、いきなり本題に入った。
気持ちにゆとりのなさそうな、性急で強圧的な態度だった。
こういうときには必ず、この教師がおかしなことを言い出すのをまゆみは経験で知っていたし、いやな予感が彼女の胸をよぎった。
「月田くんは、"来賓当番"って知っている?」
春田の質問は唐突だった。まゆみがそのことについてなんの知識もないことを態度で知ると、にわかに安堵か優越感のようなものをありありとよぎらせて、それでも自分の表情をまゆみに読まれたのに気がつくと、
「いや・・・ぼくも去年の秋にこちらに来たばかりだから、あまり詳しいことまでは聞かされていないんだけどね」
と、弁解がましく不自然につけ加え、決まり悪そうなごまかし笑いをした。
「ぼくも校長や村の顔役さんから聞かされただけなんだけど」
と、教諭はまたも言い訳がましい前置きをして、その"来賓当番"というものについて説明をした。
およそまとまりのない、要領を得ない説明だった。しいて要約すれば、つぎのようなことらしかった。

毎月定期的に、村のえらい人ほか数名の同行者が、視察のために来校する。
そのお世話は、当校の女子生徒がなん人か組になって、交代で務めることになっている。
これは昔からの習慣で、教育の一環としての校内行事として位置づけられている。
長上を敬うという趣旨もあるので、来賓はほとんどが年配の男性であるが、そうでない場合もある。
一部、地元に長く住んでいる家の生徒のなかには、当番を免除されている生徒もいるが、彼らはその代わり、縁故のある人に個別の接遇をすることになっている。
4月は新入生が対象だったが、それが一巡したので、上級生に順番がまわってくることになる。
とくに三年生は、下級生にお手本をみせるという意味で、二年生よりもさきに順番がまわってくる。
個々人の順序は、不公平のないように、クラス順、出席番号順になっている。
うちのクラスでまだ"来賓当番"を経験していないのは転入してきたばかりのまゆみだけで、彼女と仲の良い有働や市宮も、入学以来の行事なので慣れている。

終始一貫、なんとなくだれかに言わされているような棒読み口調なのが、まゆみには妙に気になった。
あきらかに、本人の実感が伴っていなかった。
「きみだけなんだよねぇ、まだなのは」
と、そこだけに実感を込めた春田教諭に、まゆみはがまんし切れなくなって、訊いた。
「先生も、経験あるんですよね?」
春田は、なにを言っているんだ?と言わんばかりに、「いやこれは女子生徒だけの行事だから・・・」と、自分は関係ないと言いたそうな顔をしたが、まゆみはなおも突っ込んで、
「でも、引率とかしないんですか?学校行事なんだし」
と訊いた。春田は、え?と、虚をつかれたように目を見開いた。
「いや、担任は引率しないんだよ。女子生徒だけでやるんだから。ぼくも立ち会ったことがないんでね。」
口ごもってうつむいた春田教諭は、これから未経験者対象に説明があるので、××教室に行きなさい、授業のほうはきょうは出席にしておくから・・・と、しつこく食い下がるまゆみを厄介払いするようにして、自分の目のまえから追い払った。

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≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ きまぐれなかいせつ3

2018年10月24日(Wed) 06:20:02

すこし中途半端な長さなんですが、いったんここで切ります。
最新話でナギちゃんた言っている「おお捕り物」が、次回以降けっこう長く語られますので。^^

さいしょのお話は、一転してべつの女の子の受難話です。^^;
今回の餌食は、ナギが日常的に血を分けてもらっている隣家の優しいお兄ちゃんの彼女です。

こういう、「通りがかりの少女の受難」のシーンは、吸血鬼物語ではたいがい、冒頭で使われることが多いです。
どこのだれともわからない女の人が吸血鬼に襲われて、あっという間に咬まれてしまい、「キャー」という叫びひとつを残して絶命・・・なんてシーンが多いです。
たいがい地味めで、そこはかとなくはかなげな美人さんが演じることが多いです。

でも、こんなふうな扱いを受けてしまう「ヒロイン以外の犠牲者」にも、それなりの人生があるはずです。
どんなふうに両親に育まれて、
どんな友だちと出会ってきて、
どんな努力をして第一志望の高校に合格して、
さっきまでどんな日常を送って来たのか?
ワンシーンの女性のこうした背景は、ふつうだとあっさり省略されてしまいます。

こうした「ヒロイン以外の犠牲者」のことを、ついたんねんに描いてみたくなるのが、柏木の悪い癖です。
そうすることで、ちょい役はちょい役ではなくなり、準ヒロインくらいに格上げされてしまうだけのことかも知れないのですが・・・

舞台となっている村よりはやや都会っぽいところからやってきた彼女、霧川朋子さんは、高校生。
見慣れぬジャンパースカートの制服に、足許は黒のストッキングで大人っぽく染めて登場です。
そのストッキングに包まれたひざ小僧を、もの珍しげに見つめるナギちゃん。
「大人っぽいお姉さんだなぁ・・・」とあこがれつつも、結局は獲物を値踏みする吸血少女の目で、なにも知らない善意の持ち主であるこの年上のお姉さんのことを冷ややかに観察しています。
「大人をだますのを何とも思わない」と、前段の科白で呟いたナギちゃんの、本領発揮といえるでしょう。
「うまく捕まえたっ!」というくだりには、獲物を捕食する猛禽類のような、獣じみた無同情さが伝わります。
悲痛な叫びを残して血を流す彼女・・・その運命はこのさいばっさりと省略して、
吸い取った血潮で顔や手を真っ赤にした父娘を描くことで、ホラーさを演出してみました。^^
その辺の扱いは、「通りがかりの少女の受難」の定石?どおり、あえてあっさりとやってみたのですが、果たしてどんなものでしょうか?
じつは朋子さんのその後については、「番外編」も用意しています。
気が向いたら、掲載するかもしれません。(そこまで連載を続けたいものです・・・)

はっぴぃ・えんどを専門とする?柏木ワールドでは、けっきょく彼女も吸血される歓びに目ざめて、
ふつうの人間の女の子として生きつづけるのですが。^^

こんなふうに、善意の少女をずる賢く料理してしまうこの吸血父娘の冷酷さを描いた後、いよいよ「まゆみの捕物」の段取りです。
「通りがかりの少女の受難」のシーンの役割は、ヒロインがたどるかもしれない悲劇をほかの人物に投影させることにあるので、朋子はどこまで行ってもやはり、わき役なのです。

もっとも柏木は、しょうしょう頭が悪く、お行儀もよくなさそうなまゆみよりも、こういう控えめで奥ゆかしい美人のほうに気が行くので、しょうしょう描き方が濃くなったかもしれませんが。
^^;


★前回の「かいせつ」は、コチラ。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3652.html

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 14 明日の悪だくみ

2018年10月24日(Wed) 05:53:16

―――父ちゃんはあしたの朝、力武の小母さんから忘れずに血をもらってね。
明日はおお捕物だから、力をつけとかなくちゃね。
朋子お姉ちゃんを襲ったときみたいな、あんなのろまなことやってたら、すばしこいまゆみに、してやられちゃうから。
あのときのの父ちゃんの動きの鈍さったらなかったよ。身体のなかの血がなくなると、あんなふうになっちゃうんだね。
力武の小父ちゃんが仕事に出てったら、すぐにお隣に行くんだよ。
小母ちゃん、お昼はどこか出かけてたみたいだから、もしかしたらどこかのだれかさんといいことしてきちゃったかもしれないけれど、このさい容赦しないで。
お腹がいっぱいになるまで、血をもらってくるんだよ。きっとだよ!
まゆみちゃんはきのうのお姉ちゃんよりも太っちょだけど、案外すばしこそうだから、しくじると逃げられちゃうからね。
きょうのお姉ちゃんとちがってあたしたち、あの子には面が割れちゃってるから、うんと用心してかからなくちゃね。
力武の小母ちゃんの血だけで足りるかな?心配だったら豊原のお祖母ちゃんにも無理してもらう?
朋子お姉ちゃんはもう、隣町に帰っちゃったかな。まだこっちにいるのかな。
あれだけ血を漁ったあとだから、くたびれちゃってお祖母ちゃんのうちにいるかもね。豊原を使えないのは、痛いなあ・・・
エッ!?お祖母ちゃん言ってたの?「月曜1日くらい、学校休んだっていいじゃありませんか」って?
そういうのって、黙ってないで教えてよ。
あたしに聞こえるような声で話していたって言われたって、あのときあたしはお姉ちゃんから血をもらうのに夢中だったんだもの、聞いてるわけないじゃない!

あしたのことなんだけど、まゆみの担任の春田って教師に、まゆみのこと呼び出してもらうことになってるから。
父ちゃんもあいさつしたんだよね?おとつい?なにかそのことで話はあった?
全ったくうっ!
男どうしって、腹芸だの、以心伝心だの、あたしにわかんない大人の言葉でかっこばっかりつけちゃって、どうして肝心なことの話しをしないんだろう。
月田の小母さんのときだって、あたしがぜんぶ仕組んだんだよ。公園のお化けは父ちゃんの考えだけどさ・・・
あぁ、あのときのロボットみたいなぎくしゃくした動き、いま思い出しても笑っちゃう!
お姉ちゃん怖がらせるためにわざとしてるんだと思ってた・・・
で、話は戻るけど、春田がまゆみをだれもいない教室に呼び出すから・・・それからあたしがあの子を教室から連れ出して・・・父ちゃんは体育用具入れの倉庫のところで・・・あの子にはあたしたち面が割れてるから、きっと用心してかかるからね・・・どうしても追い詰めることができなかったら、そのときはね・・・。

中学3年のまゆみは、ナギよりずっと歳上だった。
けれども、学年がもっと上である賢治の姉や彼女を餌食にしたナギは、「まゆみちゃん」と対等あつかいしていて、話が熱してくると時には「まゆみ」と呼び捨てにしたりした。
いつも親切に血を分けてくれる都会の小父さんの娘ではあったが、すでに父ちゃんの言うなりになったその母親とは違って、まゆみはまだ風習の領域外にいる"敵"にすぎなかった。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 13 独りぼっちのナギ

2018年10月24日(Wed) 05:48:24

週明けの月曜日は、地元の学校は開校記念日で休みだった。
中学も高校も休校になるのだが、女の子のいる家はたいがい、忙しかった。
というのも、女子生徒の約半数は記念行事のため登校させられたし、それ以外の少女たちも、あるいはお寺の本堂に集められ、あるいは個別に縁故のある家を訪問したり、逆にだれかを自宅に招いたりすることになっていたからだ。
ナギの隣家の娘は優等生で、いつも学校の来賓たちのお世話掛りをしているくらいだったから、とうぜんのようにセーラー服を着て登校していった。


ナギの家では、そうする必要がなかった。
だってナギはもう、ふつうの女の子みたいに、血を吸う人に吸わせてあげるためのうら若い血をもっていなかったから。
吸ってもらえる血がないというのは寂しいことだとナギは思った。
せめて吸わせてあげる血をもっていれば、独りぼっちで過ごさなくて済むのに。
少なくとも、ふつうの女の子だったころ、彼女は大好きな顔役の小父さまに血を吸ってもらえるのが愉しくてしかたなかった。
こういうときに"お友だち"のすくない血なし鬼というのは、寂しい想いを抱えることになる。
どこの家からも、どんな意味でも、声がかからないのだから。
隣家の姉娘はさばさばとした顔をして登校していったし、優しいお兄ちゃんの賢司は隣町の学校なので、やはりふつうに学校に行っているはずだった。
小母さんはお寺に手伝いに出かけたから・・・もしかすると少しばかり血を吸われてくるかもしれない。
どちらにしても、隣家の人たちは、ナギ父娘専属の"お友だち"ではなかったから、たとえ彼女たちがどこかの男に血を吸われようが交わってこようが、文句をいえる筋合いはなかった。

きのう初めて襲った朋子は、夕べの別れぎわ、ナギと「指切りげんまん」までして"お友だち"になる約束をしてくれた。
彼女は隣町に住んでいて、賢司とおなじ学校に通っていたけれど、
吸血されたのが初めてでしかもあれだけしたたかに生き血を吸い取られた後のことだから、
いまごろは疲れはてて、祖母の家でぐったりしているかもしれない。
それとも、あの善良な生真面目ぶりを発揮して、夕べのうちに隣町の家に帰宅して、気丈にも登校したのだろうか?

夫婦して"お友だち"になってくれたあの親切な都会の小父さんの家も、きょうは頼るべきではなかった。
ご縁が始まったばかりなのに、金曜土曜と連日訪問していたから。あんなに頻繁に血を吸われるなんて、慣れない人たちにはかなりの負担だったはずだ。
土曜の朝にお邪魔したときにはさすがに遠慮しぃしぃ戴いたと父ちゃんは言っていた。
翌日朋子を襲ったときの、電池の切れかかったお人形みたいな、あのみっともない動きをみると、あながち嘘ではないらしい。
父ちゃんはいつも、変なところで義理堅いのだ。
いや、月田家にかんするかぎりは、血を吸っただけではなくて、大人の男女が息をぜいぜいさせて身体をもつれ合わせるあの変な遊びでだいぶ発散してきたみたいだから、たんに助平なだけだったかもしれないけれど・・・
なんにせよ、あの夫婦は中四日くらい置かないと、使いものにならないかもしれない。
そして、あの愚かな夫婦の娘のまゆみは、地元の中学校に通っているくせにまだ風習の存在すら知らないで、なにもない休日をただ手持ちぶさたに過ごしているはずだった。

あぁ、切ない・・・
ナギはひざ小僧を抱えて座り込んで、ひどく寂しい顔をした。
こういうときにはいつも、空っぽの血管がシクシクと疼くのだ。

血が欲しい。
ピチピチとした活きのいい血が・・・

暖かくてうら若い血を持ちながら、なにも知らずに身体をもて余しているまゆみのことを、つくづくもったいないと思った。
昨日打ち解けて仲良くなってしまった朋子だったら、体調さえ許せば優しく笑ってうなじを咬ませてくれるだろうに。

夕方、父ちゃんは手ぶらで帰ってきた。塗料と脂まみれのいつもの草色の作業衣を、肩からぶさ提げたように引っ掛けて。
「手ぶらで」ということは、血を吸える人間をお土産に持ち帰ってこなかったということだ。
今夜はお互い、ひもじい想いをするのだろうか。
父ちゃんはそれでも、とっておきのひとつ話しでも披露に及ぶような勢いで、隣家の力武の息子は戻ってきたか?と、娘に訊いた。
「知らない」って答えると、行って確かめてこいと言った。
なんのことはない、ナギに賢司の血を吸わせて、自分はナギからその血を分けてもらう魂胆らしい。
「どうして自分で吸ってこないの」
と訊いたら、
「男が男の血を吸って愉しいわけがあるか」
という。
まんざら横着で言っているわけではないらしい。
そういえば都会の親切な小父さんの血も吸わなかったし、隣家の奥さんから血をもらってくるときも、たまたまご主人がいても目もくれないで奥さんひとりにのしかかっていた。
どうせきょうだって、たぶん選り好みばかりして、女の人ばかり訪ねていったのだろう。
こんな日につかまる"自由な"女なんか、よほどのあてがないかぎり、いないだろうはずなのに。
唯一父ちゃんがえらかったのは、それだけ窮しても、都会の小父さんの奥さんのところに行かなかったことだろう。
何しろ、なじみになっていきなり二日つづきだったから。
父ちゃんはこういうところだけは、変に義理堅いのだ。

「あしたの段取りだけどさ」
すこしして家に戻ってきたナギは、差し出した手首に目の色をかえてしゃぶりついてくる父ちゃんをしらっとした目で見ながらいった。
口許と頬ぺたに、隣家のお兄ちゃんから吸い取ってきたばかりの血を、くろぐろと光らせながら。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 12 餌食にしている少年の彼女を練習台にする

2018年10月24日(Wed) 05:37:39

公園のまえを通りかかった霧川朋子は、〇学生くらいの女の子が公園の入り口ちかくにうずくまるようにしてしゃがみ込んでいるのを見かけた。
学校帰りの彼女は黒のストッキングを履いた脚をとめて、ちょっとのあいだ怪訝そうにその女の子のことを窺った。
女の子は、ひどく怯えているようだった。
朋子は素通りしてはいけない気がして、
「どうしたの?お腹でも痛いの?」
と、その女の子に声をかけた。
女の子はしゃがんだままこちらを振り向いて、見慣れないお姉さんのことを疑り深そうな目つきで見あげた。
このあたりでは見かけないジャンパースカートに赤い紐ネクタイの制服が珍しいのか、彼女は朋子の制服姿を頭のてっぺんからつま先まで、無遠慮にじろじろと眺めた。
朋子は明るく笑って、
「べつに怪しい者じゃないわ。あたし隣町の学校に通っていて、お友だちのうちに寄り道してきたの。お祖母ちゃんもこの村に住んでて、これからお祖母ちゃんのおうちに行くところなの。三丁目の豊村っておうち、知ってる?」
女の子はみじかく、「知ってる」とだけ答えた。消え入りそうな声だった。
朋子は女の子のそばに自分もしゃがんで、彼女とおなじ高さの目線になって、
「どうしたの?お姉さんにできることがあったら、話してみて」
と、親身に話しかけた。
女の子は、黒のストッキングに透けた朋子のひざ小僧をもの珍しそうに、間近にじいっと見つめると、「怖いの」とだけいった。
「えっ、なにが?」
「ナギのおうちね、公園の向こうにあるの。でもこの公園怖いお化けが出るの。ひとりじゃおうちに帰れない!」
女の子はやっとのようにそう呟くと、もうなにも訊かれたくない、というように、両手で顔を覆ってしまった。

「困ったなァ・・・」
どうやらナギというこの女の子は、鍵っ子らしい。
それにしてもまだこんなに明るいのに、「お化け」とはどういうことだろう?
朋子は公園の向こう側にあるというナギの家の方角をみたが、ちょっとした木立ちや生け垣があるだけの見通しのよい公園で、左右は住宅地に挟まれていた。
それらの家々の二階の窓からは、公園の隅々まで見渡すことができるはずだった。
奥行きこそ多少はあるものの、向こう側の家並みの屋根瓦も、わずかながらではあるが木立ちの向こうに見え隠れしているのだった。
朋子は三丁目の祖母の家に行くのに、この公園を横切るほうが近道だと気がついた。
「いいわ。お姉ちゃん、ナギちゃんのこと公園の向こうまで送ってってあげる。お祖母ちゃん家(ち)に行くのも、そのほうが近そうだから」
「ほんと!?本当?お姉ちゃん、ありがとう!!」
ナギは無邪気に笑って、小躍りした。さっきまでの塞ぎ込みようなど、きれいに忘れてしまったようだった。
「じゃっ、行こ」
朋子なナギと手をつないで、なんの警戒心もためらいもなく、公園のなかに脚を踏み入れた。
よっぽどこの公園が怖いのか、ナギは朋子の手を痛いほどギュッと握り締めていた。


不幸にして朋子は、この公園が村でなんと呼ばれているのか、祖母からまだ聞かされていなかった。
さすがにそれを教わっていたとしたら、彼女も公園を横切ることを躊躇したに違いなかった。
この公園はこの界わいで、「お嫁に行けなくなる公園」と呼ばれていた。


公園の中程まで来たときだった。
ナギは朋子の手を掴まえていないほうの手の指をいきなり自分の口に突っ込んで、「ピィー!」と唇を高く鳴らした。
「?」
朋子が訝しげにナギを見返ると、ナギは親切なお姉ちゃんのほうには目もくれないで、
「父ちゃん、こっちこっち!うまく捕まえたっ!」
まるで草むらできれいな蝶々を捕まえた子どもみたいに、得意そうな声を張り上げた。
「えっ!?」
朋子が目をまるくしたときにはもう、遅かった。
公園の出口のほうに向き直ると、そこには薄汚れた作業衣の年輩の男が、赤ら顔を怒らせて立ちはだかっていた。

「お姉ちゃん、怖いっ!」
ナギはあくまでも怯える女の子を装って、朋子のジャンパースカートの腰に抱きついた。
意外に強い力だった。
お化けの小父さんのことを怖がってすがりつくように見せかけて、ナギは自分よりずっと歳上の女学生を、たくみに羽交い締めにしていくのだった。
朋子は事態がよくのみ込めないままに、さいしょはナギの手を引いて公園の向こうの出口まで走ってたどり着こうとし、
その逃げ道を未知の男に遮られると、ゆっくりと迫ってくる男の脇をなんとかすり抜けようとした。
しかしナギが朋子のことを後ろからしっかり掴まえていたのに手足をとられ、思うように動きがとれず、ただ徒らに身を揉んで脚をばたつかせるばかりだった。
どういうわけか、男の動きはやけにスローモーで、まるで電池の切れかかった人形のようだった。
相手がこの年輩男だけだったら、朋子は辛くも難を逃れることができたかもしれない。
けれどもナギに掴まえられた朋子はどうすることもできずに男に抱きすくめられていった。
「アァーー!」
悲しげな悲鳴がひと声、あたりの空気をつんざいた。
後ろから腕をまわしてお尻に抱きついてくるナギと、前から迫ってくる作業衣の男に挟まれるようにして、朋子は男に咬まれた首すじから赤い血を滴らせた。
あれよあれよという間に、濃紺のジャンパースカートを着た朋子の身体は草色をした作業衣の腕に巻かれていって、
白いブラウスのえり首に紅い飛沫を散らしながら、白いうなじをなん度もなん度も、繰り返し咬まれていった。
あたりには少女の悲鳴が切れ切れにあがったが、周囲の家々からはなんの反応もなく、ただ無表情に窓を締め切っていたのだった。

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二時間後――
あたりはすっかり、薄暗くなっていた。
「いい練習になったね」
ナギは得意げに、父ちゃんのことを見上げた。
「あんなにうまくだませるなんて、思わなかった」
「あの娘の親が見てたら、泣くだろうな」
男は、父親らしい感想をいった。
通りすがりに目にした小さな女の子が怯えているのを気の毒がって、善意に手をさし伸べたのが、まちがいのもとだった。
「あの子が優しいばっかりに、こんなことに・・・」
もしもあの女学生が死んでいたら、母親が涙声を詰まらせるところだろう。

「きょうの子は、かなりなお人好しだな。都会の娘っ子は警戒心が強そうだから、きょうみてぇにひとすじ縄じゃいかねぇかも知んねぇぞ」
男は考えぶかげに目を細めた。
「ウンウン。あたしもそんな気がする。まゆみちゃんってのんびりしてそうで、意外と抜け目ないかも」
ナギは調子のよい声で父親に応じ、まだ口許を濡らしている血のりを手で拭った。
「ほれ!そうすっからまた顔が汚れる・・・」
「いいもん。あたしあのお姉ちゃんの血、気に入った」
ナギは父ちゃんが叱るのも聞かずに、血のりで毒々しく光る頬を街灯にさらした。
「まるで化けもんと歩ってるみてぇだ」
おっかないものでも見るような目つきをして毒づく父親に、
「化けもんじゃない。あたしたち」
ナギは明るい声で父ちゃんの言いぐさを肯定して、開きなおった。娘の言い分もとうぜんだった。
きょうの獲物は、ナギにいつも血を吸わせてくれている隣家の少年の彼女だった。

「あのひと、賢司お兄ちゃんのお嫁さん候補なんだよね?」
春先までつづいた受験勉強の合い間に、息抜きをかねて血を吸わせてくれた善意の少年は、隣町の高校に進むとすぐに彼女をつくり、ナギとの約束どおり吸血の対象として朋子を紹介してくれたのだ。
「あした僕の家を訪ねてきた女の子が、家を出るとき黒のストッキングを履いていたら、お父ちゃんとふたりで襲ってもいいよ」
賢司は清々しく整った顔だちに、いつものような優しげな笑みをみせて、そういってくれた。

どういう手を使って彼女に靴下を履き替えさせたのかは本人に訊いてみないとわからないが、
きっと母親がぐるになって一枚かんでいるに違いない。
賢司がナギに血を与えるようになったのとほぼ同時に、男は賢司の母親を手ごめにしていた。
賢司の母親は、献身的な女性だった。
薄汚れた作業衣姿の血吸い人である情夫のために、わが身をめぐる血を一滴でも多く振る舞おうとし、
それだけでは足りないとさとると、何とか一人でもよけいに、情夫の獲物を増やそうとした。
息子の彼女は、絶好の獲物だった。
既婚の女性が家の外の男相手に血を与えるということは、同時に肌身を許すことを意味していた―――だから、あの都会の会社に勤める月田家を訪ねたとき、血を提供してくれた月田の妻を、なんの躊躇もなく犯したのだが―――隣家に棲む吸血鬼の情婦となったうえに、その情夫の娘にひとり息子の生き血をあてがう女が、息子の彼女をおなじ災難に引きずり込むことを、躊躇するわけがなかった。

「しっかしあの二人、そろいもそろってお人好しじゃ。似合いのカップルってやつかね・・・こっちが心配になるくらいだな」
身体に人の血がかようと、気分も人間らしさを取り戻すらしい。
男は若いふたりのために歯がゆそうにひとりごちたが、ナギは他人事みたいに淡々と、
「得な性格だよね。みんなに気にしてもらえて」
と論評した。
「それより明日のまゆみちゃんだよ。ちゃんと段取り確かめとかなきゃ」
少女の関心はすでに、つぎに初めて牙にかけるつもりの年上の少女のことに移っている。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ きまぐれなかいせつ2

2018年10月22日(Mon) 07:54:27

第8話から第11話では、ナギと月田氏のひとり娘であるまゆみとの絡みが描かれています。
まゆみは、都会の生活で病んだ少女です。
彼女が引き籠りになってしまったことが、月田夫妻が都会を引き払うことを選択した原因のひとつにあげられています。
もっとも、多少身勝手な夫妻のことですから、もしかすると娘の引き籠りさえもが、言い訳の一部でしかなかったのかもしれません。
ナギによると、「お姉ちゃんは太っちょ」と形容されていますが、発育の良い女子中学生だったようです。
体格は良くても心は病んでいる少女。つぎに毒牙にかかるのは彼女だと、すぐに察することができます。

下校してきたときに入れ違いのようにはち合わせた父娘が、まさか両親の血を吸いに来た吸血鬼だなどとは、まゆみは夢にも思っていません。
その夜も、持参された赤飯をふしぎそうに口にするばかりです。
お赤飯の見返りに、自分の生き血をねだられるなどとはつゆ知らず、多少気ままな彼女の日常が語られます。
(遅刻寸前に登校したり)
けれども彼女は、帰宅したときに感じた違和感から、母親の態度に疑念を抱きます。
その疑念は正しいのですが、はぐらかす母親のほうが、女としては一歩うわてでした。
まゆみはナギからの積極的なアプローチを受けて、自分の周囲に漂う不吉な雰囲気を感じ取るのです。

後半は、ナギの独白です。
そこでは、ナギのいびつな前半生が語られます。
首すじに傷跡をもつ吸血鬼がいますが、彼らもかつては人間だったはずです。
そして、自身が血を吸い取られた場面も存在するはずです。
そこを再現してみたくなりました。(ここでは使い古された技法ですが)
父ちゃんが母ちゃんを吸血鬼に紹介して寝取らせたうえ、ナギは母ちゃんの間男になった顔役氏に気に入られ、自分のほうからも顔役氏になついて、全身をめぐる血をぜんぶ、すすんでプレゼントしてしまいます。
自分の血を吸い取らせることと、自分が吸血鬼になってだれかの血を吸うこととは、表裏一体のことのように思われませんか?
人間だったときから、血を吸う人たちへの共感をはぐくんだ少女は、自身が吸血鬼となることを、すんなりと受け入れます。

彼女のなかには、いろんな種類の寂しさがあるようです。
母親との別離。血を吸う人になったのに、血を吸わせてくれるひとがいないこと。そして、大人はずるいという観念――
そこからは、親切に血をくれる都会の小父さんをだましても良いという、身勝手な確信まで生まれてきます。
けれどもどうやら、すべてを観念してこの街に来た月田氏は、家族もろとも吸血されることを消極的ながら受け容れていました。
だまされているとわかっていても彼は、少女への献血を拒むことはないかもしれません。

第8話「お洋服代」で描かれる月田夫人の節子は、すでに犯され吸血鬼の情婦になった状態です。
つましい暮らしに狎れた節子は、吸血鬼から「お洋服代」として差し出された現金を、いともあっさりと受け取ります。
夫が露骨にも「売春ではないか」と疑念を持つのに対して、彼女は吸血鬼のために汚されるお洋服を弁償してもらうという態度です。
節子はあくまでも夫に従順な妻ですが、それでも女のしたたかさを時折、ちらちらさせるようになるのです。

■この記事の前編「≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ きまぐれなかいせつ」はコチラ。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3648.html

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 11 ナギの独白

2018年10月22日(Mon) 07:34:25

砂ぼこりの風に真っ赤なスカートをひらひらさせながら、少女はつまらなそうに通りを歩いていた。
さえない曇り空の下、家々の窓ガラスは締め切られていて、狭い路上には人影がなかった。
この週末、彼女は血を吸わせてもらえるあてがなかった。
ここ1週間くらい、毎日のように遊びに行った都会の会社の事務所で働いているあの親切な小父さんは、きょうはお仕事を休んでいた。
こないだ父ちゃんを家に連れていって小母さんの血を吸わせてもらったときに、うっかり調子に乗りすぎて、小父さんが貧血になるまで吸いすぎちゃったらしい。
事務所に遊びに行ったら、べつの人が出てきて、月田さんは具合が悪くなって勤めを早退けしたよと言われて、すげなく追い返されてしまったのだ。
代わりに応対に出てくれたそのひとは、気の毒そうにいった。
「すまないねぇ。みんな身体がふさがっててね。ぼくもお昼過ぎにお友だちと約束があるんだよ」
ひとの分け前を横取りすることはできなかった。血を吸う人々は、お互い譲り合って生きていた。
限りのある餌は、仲良く分け合うことになっていたから。
吸血鬼になって日が浅く、まだそんなに「お友だち」のいない者は、訪ねていくあてがなくなると、ちょっぴりひもじい想いをしなければならなかった。
でも、数少ない「お友だち」に、あまり無理なお願いをすることはできなかった。
お願いをすればきっと、優しい小父さんやお兄さんは、いくらでも血を吸わせてくれる。
でもそうすると、彼らはみるみる痩せ衰えてしまって、血の味が落ちてしまうのだ。
もちろん度を過ぎると死んでしまうことになりかねないのだが、それはひとの分け前を横取りすること以上に厳しく禁じられていた。
いくら仲良しにせがまれたからといって、持っている血をあんまり気前よく与えすぎてしまうとどういうことになるのか・・・それを彼女は自分自身の経験として識っていた。
少女に血を吸う習慣を与えたのは、村でも指折りの長老で、「顔役」と呼ばれている男だった。


―――父ちゃんの幼なじみだったその顔役の小父さまは、子供のころから父ちゃんの血を吸いなじんでいて、父ちゃんの手引きでまず母ちゃんの血を吸って、それからあたしの血を吸った。
でもさいしょのうち顔役の小父さまは、母ちゃんの血だけで満足していて、娘のあたしのことまで狙ってるなんて、父ちゃんにさえ、おくびにも出さなかった。
母ちゃんとはひどくウマがあったらしくて、顔役の小父さまは母ちゃんだけのための家を建ててくれた。
その家にはあたしと父ちゃんは招ばれなくって、これからは父ちゃんとふたりだけで暮らすんだよって聞かされて。
母ちゃんと離れて暮らすのを寂しがって泣いたら、「めでたいことなんだぞ」って、逆に父ちゃんに叱られた。
ふつうは他所の家の奥さんから血をもらうことがあっても、家まで建ててくれるというのは、村じゅうでもなん年かにいちど、あるかないかということだった。
血をもらう人が血をあげるおうち人たちとよほど仲良くなって、そのおうちの旦那さまがそうして欲しいといわないかぎり、絶対といってないはずの、よくよくのご縁なのだと、あとから聞かされた。
きっと父ちゃんは、兄弟みたいに育った幼なじみが自分のお嫁さんを気に入ってくれたことが、とても自慢だったんだろう。

それでも母ちゃんはあたしのことを、新しい家にこっそり招んでくれた。
それを知った顔役の小父さまも、いつでも遊びにお出でと言ってくれて。
「お嬢ちゃん、今度のお休みにはおめかしして遊びにお出で。小父さまも都合をつけるから。いっしょに遊んであげよう」
って、言ってくれて。
まえの日にはわざわざ、母ちゃんも久しぶりに家に戻ってきて、父ちゃんとふたりで、あした着ていく訪問着を選んでくれた。
おニューの服を着てお出かけするのが嬉しくて、両親に挟まれて手をつないで出かけていって・・・帰りは真夜中どころか、つぎの日の日が暮れた後のことだった。

顔役の小父さまにいっぱい遊んでもらったあたしは、首すじを吸われながら尻もちを突いちゃって。
そのままひどい貧血になって立ち上がれなくなっちゃったから。
その日おニューの真っ白なハイソックスを履いたのは、小父さまがくまなく舐めて愉しんで、よだれでびしょ濡れにするためだったと、じっさいそうされて初めて知った。
まず母ちゃんがお手本を見せてくれた。父ちゃんも視ているまえでブラウスのえり首を拡げて、顔役の小父さまに、うなじを咬ませて。
母ちゃんはうっとりとして口をぽかんと開けたまま、仰のけられたおとがいの下から洩れてくる、チュウチュウと美味しそうに血を吸い上げる音に聞き入っていた。
父ちゃんも惚けたような顔をして、母ちゃんが生き血を吸い取られてゆく音に聞き入っていたくらいだから、きっといいことなんだろうとあたしは思い込んでいた。
そう。生き血を欲しがるひとに自分の血をあげるのは、とても良い子のすることなんだ。
吸い残された紅いしずくを首からしたたらせたまま、母ちゃんは顔役の小父さまの前に肌色のストッキングを穿いたふくらはぎを差し出して、やっぱり同じように咬ませてあげていた。
ストッキングの薄い生地は、べっとりと圧しつけられた小父さまの唇の下、ブチブチと面白いようにはじけていって、父ちゃんも母ちゃんも、それを面白そうに見つめていた。
父ちゃんはあたしの肩を抱いて、つぎはお前ぇの番だぞって言ったけれど、なんの疑問もいだかずに、うんうん、ってうなずいていた。
とうとうあたしの番がきた。
母ちゃんがあたしのブラウスのボタンをふたつはずして、えり首のあたりを拡げるときに、胸のあたりまで空気が入り込んで、すーすーしてちょっと震えた。
「怖がらんでえぇぞ」
父ちゃんは優しい声で頭を撫でてくれたし、母ちゃんはずうっと手を握ってくれていた。
血を失くした母ちゃんの掌はいつもより冷たかったけれど、あたしの手を放さずにしっかり握りつづけてくれたのが心強かった。
顔役の小父さまは、怖いまんがに出てくる吸血鬼みたいに、あたしの目の前で前歯をむき出した。
唇の両端に伸びた犬歯が尖っていて、さっき吸い取ったばかりの母ちゃんの血がまだしたたっていた。
血を吸われちゃうんだ、あたし。
改めて実感したけど、案外冷静でいられたのは、小父さまの牙についていた母ちゃんの血のせいかもしれなかった。
だって、母ちゃんとおなじようになるだけなんだもの・・・
そのあとあたしが目をつぶったのは、べつに怖かったからじゃない。
お隣のお姉ちゃんから借りたコミックスで、かっこいいお兄さまとファースト・キスを交わすとき、女の子は必ず目をつむっていたから。
そう、血を吸われちゃうのって、キスとおなじようなものだって、あたしは思った。
たぶんそれは、まちがいじゃない。
だって、血を吸うときの小父さまって、女の子のことをあんなにもうっとりさせちゃうのだから。
首のつけ根がチクッとして。硬くて尖ったものが皮膚を破って、さらにその奥にずぶりと埋まってきて・・・
あとはもぅ・・・よく覚えていない。
かたわらから父ちゃんが、「えぇ子じゃ、えぇ子じゃ。ナギは強いな」って、いつもはあたしのことを叱ってばかりいるくせに、うそみたいにほめてくれたけど・・・
でもあたしは、小父さまにほんのふた口み口吸われただけで、もぅ夢中になっちゃっていた。
痺れるぅ・・・
あたしは自分でもおかしいくらい、けらけらと笑い転げちゃって、母ちゃんがストッキングを破かれたみたいにハイソックスの脚を吸われたときも、真っ白なハイソックスに血がはねて、すこしたるんでずり落ちながら真っ赤に染まってゆくのを、大はしゃぎしながら見つめていた。
さいしょからさいごまでずうっと手を握ってくれていた母ちゃんの掌は、さいしょのうちこそ冷たく思えたけど、いつもの温もりがだんだん戻ってきた。
もしかすると、身体じゅうの血を抜き取られて、あたしのほうが冷たくなっていたのかも。
でもほんとうは、ナギのことを逃がさないようにって掴まえてただけなんだ・・・って、あとから母ちゃんが教えてくれて。なぁんだって思っちゃった。
あたしが大人を信用しなくなったのは、それからのことだった。
べつに傷ついたとか、そんなシンコクなものじゃない。ふーん、大人ってそういうものなんだって、ふつうに思っただけ。
だからあたしは、あてがわれたおうちに行くときは、そのおうちに住んでいる大人をだましても、なんとも思わない。

父ちゃんに連れられて家に戻ったあたしは、つぎのお休みの日も真っ白なハイソックスを履いて顔役の小父さまのところに遊びに行きたいっておねだりをした。
それに、1週間も待ちきれないから、いっそ学校を休んででも小父さまにつごうをつけて欲しい・・・って。
もぅ、血を吸われることに夢中になっていた。
顔役の小父さまがあたしにもう一度会いたがっているって母ちゃんから聞いたときには、舞い上がっちゃうくらい、有頂天になっていた。
せがまれるままに、あたしの身体のなかにめぐる血を小父さまにぜんぶ吸い取らせてしまうのに、たいした日数はかからなかった。
だってあたしの身体はまだ小さかったし、ひと足さきに血を吸うひとになった父ちゃんにも吸わせてあげなくちゃならなかったから。
あたしもそれなりに、苦労はしているのだ。


身体じゅうの血を抜かれ、血を吸う習慣をもつようになったあたしたちは、これまでどおりひとつ家で暮らしていた。
そして、あたしの血をそっくりあげた小父さまに言われたおうちに行って,こんどは血をもらうようになっていた。

さいしょに遊びに行ったのは、いつもコミックスを貸してくれた、お隣のお姉ちゃんの家だった。
お姉ちゃん自身はもう売れ口が決まっていて、通ってる女学校の来賓の人のお世話係を勤めていた。
みんなが、あそこのうちのお姉ちゃんはできがいいってほめるのも、もっともだとあたしは思った。
だからさいしょのご馳走は、お姉ちゃんのすぐ下の弟で、来年受験を控えている男の子だった。
男の子といっても、あたしよりはいくつも、年上だったけど。
このお兄ちゃんとは、もともとあいさつ程度のおつきあいしかなかったけれど、性格はお姉ちゃんに似て小さい子にやさしくて、おまけにお人好しだった。
小母さんは、お兄ちゃんが受験を控えていることを気にして、あたしが来ることにあまりいい顔をしなかったけれど、
お兄ちゃんが自分から、ナギちゃんの相手をしてあげてもいいって言ってくれたらしい。
まだ小さいのに血を吸う人になってしまったあたしのことを、とてもかわいそうがってくれた。
あたしはあたしのことを、べつにかわいそうだなんて思わなかったけど、そう思われていたほうがつごうがよかったので、もっともらしく悲しそうな顔つきをしていた。

お兄ちゃんは、勉強の合い間に時間を作ってあたしを招んでくれて、息抜きの時間ぼーっとしながら首すじを咬ませてくれた。
スポーツマンのお兄ちゃんの活きの良い血が、あたしのことをしっかりと支えてくれた。
階下の茶の間では、うちの父ちゃんが小母さん――お兄ちゃんのお母さん――のことを押し倒していた。
顔役の小父さまが、あたしと母ちゃんの血をプレゼントした父ちゃんへのお礼に、小母さんのことを襲っていいって言ったらしい。
小父さまも、いくら村の顔役だからって、お礼に他所のおうちの人をあてがうなんてずるいなって思ったけど、いい思いをしているのはあたしもいっしょだったから、知らん顔して黙っていた。
お兄ちゃんは、高校に受かったら彼女を作って、あたしと父ちゃんとに紹介してくれるって約束してくれた。
コミックスを貸してくれたお姉ちゃんも、たまにはいいからって、血を分けてくれた。
こんなふうにして、あたしたちは「お友だち」を殖やしていった。


都会の会社の事務所に新しい転入者がくるって聞いて、運良くあたしたちに出番がまわってくると、顔役の小父さまがくれた家族構成の書かれた走り書きをまえに、あたしたちは額を寄せあって相談した。
だれもが気を許す小学生の女の子がまず事務所に入り込んで、小父さんと仲良くなって、小父さんの帰りを待ち伏せして、おうちに連れて行ってもらって・・・あまり考える時間をあげないほうが、小父さんのためにもいいって、みんなが言っていた。
都会の小父さんにもプライドというものがあって、時間が経ちすぎると気が変わることもあるから、さきにいろいろとするべきことを済ませちゃったほうが分かりが早いからって。
うちのときには父ちゃんが、すすんで顔役の小父さまに母ちゃんやあたしの血をあげたのに、
お隣のおうちの小父さんも家族の血を吸われていてもとやかく言うことは全然なかったのに、
都会の人はそういうことに慣れていないから、随分勝手が違うなって思った。

父ちゃんとの相談では、小父さんの血はあたしが独り占めしていい代わり、父ちゃんが小父さんのおうちに上がり込む手引きはあたしがやることになっていた。
小父さんにお願いして父ちゃんを小父さんのおうちに連れて行ってもらって、小母さんの血を分けてもらうのは、そんなに難しいことではなかった。
けれどもあのおうちのお姉ちゃんの血をだれが吸うのかは、まだちゃんと決めていなかった。
父ちゃんは「お前ぇは小せぇんだからちっとでエエじゃろ」って言うけれど、あたしだってひもじいのは嫌だもの。
さいしょにモノにする役目は父ちゃんでも、あたしも絶対、お裾分けに与ろうと思っていた。
だってあのおうちのお姉ちゃん、お隣のお姉ちゃんよりも太っちょだし、いっぱい血が採れそうなんだもの。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 10 まゆみの疑念

2018年10月22日(Mon) 07:25:26

「お帰り、遅かったわねぇ」
娘の遅い帰宅を口でいうほど訝しんだようすもなく、母親はいつもと変わらず台所仕事の手を休めずに、こちらに背中を向けたままだった。
「お父さん、会社早引けして寝ているから、静かにね」
母親はひっそりと、そういった。
「ねぇ、最近変わったことなかった?」
単刀直入に訊いたつもりだった問いは、
「さー?なにかあったか知ら?」
と、あっさりと受け流されてしまった。
母親のほうがずっとうわ手なのか。自分の思い過ごしなのか。判断がつかなくなりそうだった。
けれどもあの出来事はまぎれもない。
あの無気味な少女は夕べ、下校してきた彼女と入れ違いに家から出てきた父娘連れの娘のほうだったはず。
少女は獣みたいに冷たい目をして呟いていった。
「あなたの父さんと母さんの秘密を知っている」
と――

夕べからなんとなく、家じゅうに変な匂いが立ち込めていた。初めてそれを感じたのは、家の階段をあがって部屋に戻り通学鞄を置いたときだった。
「ヘンな臭い・・・」
彼女は思わず呟いて、臭いのもとを探ろうと、周りを見回した。どこか変だった。
部屋ぜんたいがなんとなくいつもより片づいていて、不自然な落ち着きかたをしていた。
だいいち、今朝始業時刻に遅れまいと急いで飛び出した部屋のまん中にほうり出していったはずの鼓笛隊のバトンが、部屋の隅っこにきちんと立て掛けてあった。
すぐには倒れないように立て掛けられたバトンの入念な角度に、几帳面な母親の気配を直感した。
晩ごはんがお赤飯だったのも、妙に気になった。
自分の帰宅と入れ違いに帰っていった父娘連れのことが、頭をよぎった。
あのふたりはあたしにろくろくあいさつもせずに、どうしてあんなにこそこそと立ち去ったのだろう。
そういえば、おかえりなさいを言ってくれた母親の態度も、いつになく決まり悪げで、よそよそしかった。

入浴を終えて部屋に戻っても、臭いはまだ消えていなかった。かえってよけいに、気になるくらいだった。
パジャマに着替え灯りを消して横になったが、目が冴えて寝つかれない。
真っ暗な部屋の中、周りに立ち込める饐えたような臭いが、よけいに耐え難くなった。
こんな部屋ではとても寝られないと思った。階下で両親が寝支度にかかった気配を見越して、「やっぱ下で寝る」と、彼女は呟いた。
寝具をまとめるのに意外に手間取って、枕や蒲団を抱えて階下に降りたときには、茶の間も両親の寝間も真っ暗になっていた。
茶の間に降りてきてもまだ、さっきの臭いが鼻先を去らない。
二階の部屋から臭いを引きずって来てしまったのか?どうやらそうではないらしかった。
臭いは茶の間の壁やふすまにも沁みついているようだった。
それ以上に、ふすま一枚へだてた両親の寝間から間断なく洩れてくる物音が、少女を悩ませた。
両親も寝つかれないのかと声をかけようとして、出かかった声をすぐに引っ込めた。
赤ちゃんがどこから来るのか、教えられなくても識っている年ごろだった。
親たちは、娘がすぐ隣の部屋に降りてきても気づかずに、どう考えてもそれとしか思えない行為に熱中している。
だいいち、母さんの声がふつうじゃなかった。
嫌悪感に、耳をふさぎたくなった。
まゆみは結局音を忍ばせて蒲団をたたみ、あの忌まわしい臭いの待つ自室に戻っていった。

ひと晩まんじりともしなかったまゆみは、朝起きると寝不足の赤い目をこすりながらもそそくさと支度を整え、
いつも朝ごはんをいっしょに食べるはずの父親が寝坊をしているのに注意を向けるゆとりももたず、そそくさと登校していった。

学校から家に戻ってきて。
ふたたび夕べの夜遅くに洩れ聞こえたのとおなじ声色を耳にして。
なんとなく家の中には入りにくい雰囲気を感じてまわり道をした挙げ句、あの無気味な少女との不愉快な邂逅をして、まゆみは再び、家に戻ってきた。
夕べ一睡もできなかった自室からは、あの嫌な臭いはほぼ消えていた。
でも、どこかにまだ残り香が潜んでいるような気がして、まゆみはしばらくのあいだ、部屋のあちこちに顔を向けて、鼻をひくつかせていた。
「お姉ちゃんの父さんと母さんの秘密を知ってる」
あの少女の呟きの理由が、気になってしかたなかった。
ふと何げなく目をやった勉強机の下に、なにか光る丸いものを見つけた。
拾い上げてみると、それは洋服の釦だった。自分のものではなかった。
まゆみは釦のことを言い出せないまま、気詰まりな週末を過ごした。

週明けの朝、まゆみは出がけに母親を振り返り、思い出したようにいった。
「この釦、あたしの部屋から出てきたんだけど、母さんのカーディガンのじゃないかな」
出かけていく娘に背を向けて台所に向かっていた母親はお皿を拭く手をとめて、娘のほうをふり返った。
手渡された釦をみて一瞬表情を凍りつかせたが、すぐに家事の合い間の顔にもどり、
「アラ。いつ落としたのか知ら」
といっただけだった。
娘はそんな母親のいちぶしじゅうを、注意深く観察していた。
けれどもまさか、母親が娘の部屋でカーディガンの釦を飛ばしたとき、女の操まで捨てたなどとは、さすがに夢にも思わなかった。

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 8 お洋服代

2018年10月22日(Mon) 06:48:37

節くれだった掌に籠められた握力が、ヒリヒリとした余韻となってまだ残っている。
この握力が妻の身体を抑えつけたのか。
痩せ身の妻に備わった貧しい筋力では、とうてい抗いようがなかったにちがいない。
抵抗を諦めた妻の股間を、血を吸う男は容赦のない荒々しさで踏み荒らしていった。

夫が濡らしたスラックスまで自分の情夫となった男にていよく押しつけてしまった妻は、そそくさとお昼の支度に取りかかっていた。
「かんたんなものしかできませんよ。あなた帰ってくるなんて、思わなかったから」
日常にかえった妻はいつもの愚痴っぽさを取り戻して、台所で立ち回りはじめている。
昼食の支度は手を抜いて、火を使わないですますつもりのようだった。
「これは・・・?」
ちゃぶ台に座ると、見なれない封筒が置かれているのを夫は見とがめた。
「あぁ、それ?お洋服代ですって」
こともなげに応えを投げてきた妻に、夫はちょっと顔をしかめた。
「お返ししてきなさい。こんど伺ったときでいいから」
任地になじむために地域の風習に従うのは、今さら異存をいう筋合いではなかった。
しかしそれはこちらからの一方的な好意によるもので、金銭ずくでどうこうするのはなんとしても気が引けるのだ。
「そうか知ら」
夫人は同意しかねる、という顔つきをした。こちらをまともに見返してくる妻の視線にたじろいで、夫はすこし、いいよどんだ。
「だってお前・・・それじゃあ売春みたいじゃないか」
え?
小首を傾げて怪訝そうな表情だった。
あからさまな情事の現場をこの目で視なければ、男との肉体関係について、妻の潔白を信じたかもしれなかった。
夫人はいずまいを正すと、
「あなたのおっしゃる通り、あなたも含めて皆さん善意でなさっていることだから、血を差し上げることへの見返りは、もらうべきじゃないですわね?」
そこまでいうと、彼女は穏やかなほほ笑みを浮かべた。
「献血のときにお洋服が汚れるのは仕方のないことだけど、クリーニング代や着替え代はわしのほうでどうにかすべきだろうって、先様は心配してくだすっているの。でも、貴方の仰るとおりお金のことはきちんとしましょうね。このお金はわたしが責任もってお預かりします。家計簿とはべつにして、あの方たちにお目にかかるときのお洋服代だけに使いますから」
節子は言い終わると、ニッと笑った。
血を吸う男の腕のなか、あらぬことを口走ったときと同じ笑みだった。
淡いピンクの唇が弛んで、白い前歯が淫蕩な輝きをみせた。
思わず伸びた腕がモスグリーンのカーディガンを着た節子の肩を掴まえた。
節子は軽く吐息を洩らし、戸惑ったようにいった。
「あの子・・・きょうは午前中で帰ってくるわ・・・」
首筋に這わされた唇の熱さに声を詰まらせながら、女はひくい声で夫をたしなめつづけた。


ただいまぁ・・・
まゆみはそういって玄関に入ろうとして、危うく声を呑み込んだ。なかの雰囲気があきらかに胡散臭かったから。

「・・・ァ。」

圧し殺すような女の呻きが、低くくぐもって聞こえてきた。
屋内に立ち込める薄い闇を見透すように、少女は上背の足りない制服姿をつま先立ちさせたが、やがてなにかを追い払うようにかぶりを振って、セーラー服の襟をひるがえしてまわれ右をした。