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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

出所した怪人、看守一家を征服する。 副題:チョイ役一家の意気地

2023年09月14日(Thu) 01:31:55

それはいつも決まって、食事のあげさげをするときだった。
看守の比留間湊(46)はお盆を受け取るとき、そっと指を差し出してやる。
檻の中の男は「いつもすまないね・・・」とひっそりと囁いて、比留間の指を口に含んだ。
ナイフを軽く擦った指先からは、血が滲んでいた。
囚われた男は、もと吸血怪人だった――

こんなことが、なん度続いたことだろう。
さいしょは、囚人が暴れないための予防策のつもりだった。
ほんの少しだけで良いから、人の血がもらえればな――
刑務所のなかの作業場で男が呟くともなく呟くのを耳にして、他の囚人への影響を心配した彼は、上役に相談した。
「あの男にほんの少しだけ、血を飲ませてやった方が良いんじゃありませんか」
「誰がそんなことを??」
尖った声の上役に向かって、私が自分の責任でやりますから――と告げると、責任問題に巻き込まれずに済む安心感からか、
案外あっさりと許可がおりた。
入所してすぐのころは、壁が破れんばかりにぶっ叩くわ、鉄格子をねじ切るわ、大変な騒ぎだったのが、
怪我をした看守の血が床に滴るのを舐めただけで、男はようやく落ち着いたのだった。

「気をつけろよ、相手は怪人なんだからな」
上役は看守に注意を促すことを忘れなかった。口先だけだったとしても。
しかし、彼の懸念は正しかった。
さいしょのうちは気づかなかったけれど。
摂取した血液と入れ替わりに、男は淫らな毒液をひっそりと、看守の体内にしみ込ませていったのだ。

「あなた、顔色がよくないわ」
妻の艶子(42)がそういうのを、看守は上の空で受け流した。
「ね、顔色が良くないって言ってるのよ!?」
気丈な妻は声を励まして、夫を正気づけようとした。
「わかってる――わかってるって・・・」
看守はフラフラと起ちあがると、その日も勤務先に出かけていった。

指先がジクジクと疼いた。
身体もどことなく、熱を帯びているような気がした。
きょうで三日、やつに血を与えていなかった。
そういう日が続くとどういうわけか、指先が疼き身体じゅうがゾクゾクと熱っぽくなるのだ。
男がいちどに摂取する血の量も、気のせいか少しずつ増えているような気がする。
突き出した指先が生温かい分厚い唇にくるまれて、ニュルッと舌を巻きつけられて、傷口にわだかまる血潮をキュッと抜かれる。
そんな仕草を忘れられなくなってしまったことを、彼はまだ上役に相談していない。

「いつもすまないな」
囚人はいつものようにひっそりと囁いた。
その囁きがいつになく、熱を帯びているのを彼は感じた。
キュウッ・・・
差し伸べた指先を口に含めると、男は比留間の指を強く吸った。
くら・・・ッと眩暈がするのを、比留間は感じた。
「出所が決まった」
男がいった。
言葉の内容ほどには、嬉しくなさそうな声色だった。

さっきまで。
もう少し・・・もうちょっとだけ舐めさせてくれ・・・
男に請われるままに指を差し伸べつづけていた比留間は、手に持っていたカミソリで、もう片方の人差し指を傷つけていた。
二本目の恩寵を享けた男は、どうやら心かららしい感謝の呟きを口にすると、
こぼれ落ちようとする赤いしずくを、素早く掬(すく)い取っていた。
ごくり・・・
自分の血が男の喉を鳴らすのを、比留間はウットリと耳にした。
そんなに旨いのか?
比留間は男が自分の血を旨いと褒められることに、深い満足感を見出していた。
男が出所すれば、このささやかで密かな愉しみも終わりを告げる。
そんな当たり前のことに、今ごろになって気がついた。
明日が出所という日に、さいごに自分の指を五本も舐めさせた後、
困ったらわしの家に来い――といって、妻や娘の住む家の住所を書いたメモを手渡していた。

「もしもやつが来たら、家にあげてやってくれ」
勤め先から戻るなり、比留間は妻にそう告げた。
「え・・・?」
艶子は怪訝そうに夫を見た。
「だって・・・吸血怪人なんでしょ?そんな危ないのを家にあげるわけにはいかないわ」
色をなして反論する妻をみて、こいつもすっかりやつれた――と比留間はおもった。
四十の坂を越えたあたりから、妻の容色は目に見えて衰えていた。
それは、受験やら進学やら、パート先でのいざこざやらで神経をすり減らす毎日が、
彼女の髪や肌の色つやを、粗砥(あらと=粗いやすり)で削り取るように殺(そ)いでいったためだった。
肩まで伸びた黒髪が、カサカサに乾いていた。
頬の輝きもかつてミス〇〇候補と言われたころにはほど遠く、
かつての面影を知らないものの目には、並以下のおばさんにしかみえなくなっていた。
俺たちはこうしてすり減っていくのか――比留間はおもった。

「たぶんな、若返るぞ」
「え?」
なにを言うの?という目で、艶子が彼を見あげる。
「言ったとおりの意味だ」
「信じられないわ」
「どうして」
「だってあなたを見ていたら、あの男に血を与えるようになってから、ずっと顔色悪いんだもの」
「少し過度になっていたのは認める」
夫は譲歩した。
「血は与えすぎても良くないのだ。だが、あそこでは俺以外、やつに血を与えるものがいなかった」
「なにを仰りたいの・・・?」
「なにも言わないで、やつに求められたらお前の血を吸わせてやって欲しいんだ」
自分で口にして、自分で驚いていた。
やつに居所がなかったら、俺のところに招んでやろう。
どうしてそんな仏心をおこしたのか。
やつを家に招んで、なにをどうするつもりだったのか。
それがいまになって、やっとわかった。
俺は・・・俺は・・・女房や娘がやつに血を吸い取られるところを視たいのだ。。。

やつは「現役」のときも、吸血行為は冒したが、人の生命は奪っていない。
だから、血を吸われたからと言って死ぬ心配はない。絶対にない――
そんなふうに力説する夫の言をどこまで信用したのか、艶子は「わかりました、仕方ありませんね」と折れていた。
「そのひとが私の血を吸いたがったら、ちゃんと吸わせてあげます」
まるで変なペットを連れ帰った家族に対するように、艶子は根負けしたように言ったのだった。


男が出所した後、一週間はその姿を見かけなかった。
案外、自分がかつて洗脳したものを見つけて、「感動の再会」を果たしているのかも知れなかった。
けれども比留間は、勤め先と自宅との行き帰りの間、どこかであの男を見かけないかと、心のどこかで期待していた。
そして一週間後の帰り道、男が寒々としたようすで家の近くの路地に佇んでいるのを見つけた。
「よう」
すすんで声をかけた比留間に、男は首をすくめてみせた。
「出所おめでとう。でも景気悪そうだな」
比留間の声はガラガラ声だったが、人柄の温みは男にも伝わっていたようだ。
見知らぬ雑踏のなかで知己に出逢えた歓びを、男は素直にはにかんだような笑みで伝えてきた。

自宅近くの公園で、凩に吹かれながら、男ふたりは寒そうにコートの襟を立てていた。
「悪いけどさ・・・」
男が遠慮がちに口火を切る。
「血が欲しいんだろ」
比留間がむぞうさにこたえた。
指か?と訊く比留間に、「脚でもいいか」と、男が問うた。
そういえば――
男が現役の吸血怪人のときには、人妻のパンストや女学生のタイツばかりではなく、
男の子のハイソックスまで血に染めながらかぶりついていた。
そんな過去の「活躍」を、すぐに思い出していた。
比留間は自分のスラックスのすそを、引き上げていた。

穿いていた靴下は、瞬く間に血浸しになった。
濃紺の靴下に縦に流れる白のラインが、隠しようもなく赤く染まっていた。
「このまま家に帰ったら女房がびっくりする」
苦笑する比留間に、「奥さんの血ももちろん要りようだ」と、怪人はあつかましい要求を突きつけた。
「良いだろう、ちゃんと話はつけてあるから――」
男ふたりがベンチから起ち上がったときにはもう、あたりは暗くなり始めていた。

「いらっしゃい――え?このひとが?」
艶子は目を丸くして、怪人を見た。
案に相違してごくふつうの中年男だったので、拍子抜けしてしまったのだ。
齢のころは、夫よりも五つ六ついっているだろうか?
白髪交じりに冴えない顔色、背丈も手足もずんぐりしていて、魅力のかけらもない男だった。
「まあ、まあ、お寒いですからどうぞ、おあがりになってください」
狭い敷居の奥に客人と夫を通すために後じさりするつま先が肌色のストッキングに透けているのを、怪人は見逃さなかった。

こたつを隔てて顔を見合わせている同年配の男ふたりに、艶子はお茶を淹れている。
なんということはない、だだのおっさんじゃないの。
艶子のなかには、相手をちょっと軽んじる気分が生まれていた。
ただ、ひとつだけどうにも、解決しておかなければならないことがある。
「あなた、ちょっと――」
艶子は頃合いを見計らって、夫を廊下に呼び出した。
(なんだい?)
妻の顔色を察して小声になる夫に、艶子はいった。
(あたしは仕方ないけれど、真由美にまで手を出さないでしょうね?)
今さらながらの心配だった。
(だいじょうぶだ、ちゃんと言ってある。本人とお前の了解なしに、そんなことはしないってさ)
(なら良いんだけど・・・)
艶子は熟妻らしく、新来の男に対する警戒を完全には解いていなかった。

「ちょっと表出てくる」
比留間はとつぜん、艶子にいった。
「真由美は塾だろ?どうせ遅せぇんだよな」
「ええ――晩ご飯まで帰らないけど」
比留間家の夕食は、真由美の帰りに合わせて晩(おそ)かった。
その前に――やつが自分の夕食を欲するに違いない。
さすがにその場に居合わせることに忍びなかった彼は、妻を怪人の前に残して、ちょっとだけ座をはずしたのだった。

「あの――」
艶子は恐る恐る、怪人に話しかけた。
「うちには年ごろの娘がいます。真由美と言います。大事な娘なんです。だから――」
緊張でカチカチにこわばった声を和らげるように、怪人はいった。
「どうぞご安心を。ご主人の血だけで生き延びてきたわしですから――そんなオーバーに心配しないでいただきたい」
「そうですか・・・?」
2人きりになった気まずさから、艶子はまるで生娘みたいに縮こまっていた。
「だいじょうぶです。血を吸うときもほんの少し――
 ご主人のときには少し吸い過ぎました。あの人しかいなかったから・・・
 でも貴女が協力してくれたら、ご主人もすぐに元気になりますよ」
「あ――」
艶子は絶句した。もうすでに、彼女の血液は彼の計算に入ってしまっているのだ。
思わず腰を浮かせかけたのが、呼び水になった。
怪人は目にも止まらぬ早業で、部屋から逃れ出ようとする艶子を、後ろから羽交い絞めにしていた。
「ひいッ!」
艶子はうめいた。
男の唇が、はだけたブラウスからむき出しになった肩にあてがわれたのを感じた。
生温かい唾液が自分の素肌を濡らすのを感じた。
おぞましい――思った時にはもう、咬まれていた。
ググッと咬み入れてくる鋭利な牙に、艶子ははしたなく惑乱した。
空色のブラウスを赤黒く染めて、看守の妻は血を啜られた。

怪人が熟妻の豊かな肢体を畳のうえに組み敷いてしまうまで、数分とかからなかった。
艶子はまだ意識があり、男の腕のなかでひくく呻きつづけていたが、
さっき咬まれた肩とは反対側の首すじに牙の切っ先を感じると、身を固くして押し黙った。
女が言葉を喪ったのをよいことに、怪人はふたたび艶子の膚を冒した。
ズブズブと埋め込まれる牙に、赤黒い血が勢いよく撥ねた。
ぐちゅう・・・っ!
露骨な吸血の音に、女は失神した。

玄関ごしにガシャーンとお皿の割れる音が聞こえて、比留間は思わず振り向いた。
自宅の灯りはなにごともないように点いたままになっている。
しかし、ガラス戸にかすかな赤い飛沫が撥ねているのをみとめて、思わずドアを開けて家のなかへとなだれ込んだ。

居間はしんとしていて、だれもいなかった。
恐る恐る覗き込んだ夫婦の寝間に、艶子は畳のうえにあお向けに大の字になって手足をだらりとさせている。
男は気絶している艶子にのしかかって、首すじに唇を吸いつけて、生き血を吸い取っている。
妻の生き血が吸い上げられるチュウチュウという音が、比留間の鼓膜を妖しく浸した。
男は身を起こすと、静かな顔つきで比留間を見あげた。
「シッ!」
とっさに唇に一本指を押し当てた吸血怪人を前に、比留間は逡巡した。
「見逃してくれ・・・」
男はひくく呟くと、比留間の返事を待たずにもう一度艶子に覆いかぶさり、こんどは胸もとに牙を当てた。
久しぶりに目にした妻の胸もとは思ったよりも白く透きとおり、痴情に飢えた男の唇にヌルヌルと嬲られてゆく。
突き立てた牙をそのまま無防備な素肌に沈めると、鮮血がジュッと鈍い音をたててしぶいた。
「おい――」
やり過ぎだろう?と咎めようとしたとき。
比留間はジワッとなにかが体内で蠢くのを感じた。
蓄積された毒素が、妻の受難を目にして目ざめたマゾヒスティックな興奮を掻き立てたのだ。
「ウーー!」
比留間は絶句してのけぞった。
「悪く思うな。俺は俺のご馳走にありつく・・・」
はだけかかった艶子のブラウスを、男はむぞうさに引き裂いた。

いつも見慣れた地味な深緑のスカートが、いびつな皴を波打たせて、じょじょにたくし上がってゆく。
肌色のストッキングに包まれた艶子の太ももが、少しずつあらわになってゆくと、
男は嬉し気に彼女の脚を掴まえて、ストッキングの上から唇を這わせていった。
そうなのだ。熟妻のストッキングはこいつの大好物だったのだ。
貪欲なけだものを家に入れてしまったことを、比留間は今さらのように悔やみながら、焦れに焦れた。
下品な舌なめずりが、艶子の足許になん度もなすりつけられた。
そのたびに、微かにテカテカと光るパンストが少しずつ、ふしだらに皴寄せられてゆく。
男は明らかに、艶子のパンストの舌触りを愉しんでいた。
「やめろ・・・やめてくれ・・・」
比留間はうめいた。
「あんたには良くしてやったじゃないか。恩を仇で返すのか?」
男はなにも応えずに、艶子の下肢のあちこちに牙を当てて、パンストをブチブチと食い破りながら、血を啜った。
ひと啜りごとに得られる血の量はさほどではなかった。
こいつ、ひとの女房の血の味を楽しんでやがるんだ。
比留間は相手の意図をありありと悟った。
まるで腑分けでもするようにして。
男は艶子のスカートをむしり取り、ブラジャーを剥ぎ取り、ペチコートを引き裂いてゆく。
「わ、わかった・・・わかった・・・艶子はあきらめる。全部渡してやる。だが、娘には手を出すな、絶対手を出すなよ――」
比留間は念仏のようにそうくり返しながら――艶子の腰周りに手をやって、自分の手で妻のショーツを脱がせていった。
「すまないね、だんなさん。恩に着る。悪いようにはしねえ」
怪人は比留間にそう囁くと、なん度目かの牙を艶子のうなじにお見舞いした。
サッと撥ねた血潮が、寝間の畳を濡らした。

むき出された怒張はみるからに逞しく、自分のそれよりもはるかに威力がありそうだった。
赤黒く膨れあがったその一物が、妻のふっくらとした下腹部に押し当てられ、そしてもぐり込んでゆく――
「あうううっ」
艶子が白い歯をむき出して、顔をしかめた。
それから「ひーーっ」と呻いて顔をそむけようとすると、それすらも許されず、男の唇をまともに受け止めさせられていた。
「あう・・あう・・あう・・」
もはやどうすることもできずに、艶子はただ、喘ぎつづけている。悶えつづけている。惑いつづけている――
ロマンチックではまるでない。絶対にない。
女房は実に見苦しく、芋虫みたいに転げまわっているし、呻き声だって可愛くなかった。
けれども、必死に手足を突っ張り、吸血に耐え、身もだえをつづけながら
ケダモノのように爆(は)ぜ返るペニスを受け止めてゆくその光景は、ひどく淫らで、底抜けにイヤラシイ――
四肢を引きつらせて受け留めた怪人のペニスが妻を狂わせるのを、比留間は目もくらむ想いで見届けてしまっていた・・・


「ただいまぁ」
いつもの投げやりな声色で、娘の真由美(16)が帰宅してきた。
制服のブレザーをむぞうさに脱ぎ捨てると、「母さん、水・・・」と、ぞんざいに言った。
いつものようにすぐに反応が返ってこないので、不平そうに部屋を見回して、真由美は初めて異変に気づいた。
家じゅう、いやにひっそりしている。
壁のあちこちに撥ねている赤い液体は・・・えっ?うそ。人間の血??
なにが起きたの!?
白のハイソックスのふくらはぎが、緊張に引きつった。
夫婦の寝間に、なんとなしの人の気配を感じて、白のハイソックスの脚は抜き足差し足、引き込まれるように部屋の奥へと歩みを進めた。
真由美は再び、足取りを凍りつかせてしまった。
寝間にはほとんど全裸に剥かれた母が、血に染まって倒れていた。
父もその傍らに気絶して倒れていた。
両親の首すじには、咬み痕がふたつ、同じ間隔でつけられている。
母の足許には、見慣れぬ黒い影がうずくまっていた。
黒い影は、母のふくらはぎを、いじましそうに舐めつづけていた。
ひざ小僧の下まで破れ堕ちてずり降ろされたパンストに、皴を波立てるのを愉しんでいた。
経験のない真由美にも、母親の身に起こったことがなんなのか、すぐに察しがついた。
「あ、わわわわわっ・・・」
さっきまでの投げやりな態度はどこへやら、真由美はガタガタ震え出した。
逃げようとしたけれど、脚が思うように動かない。
背後から伸びてきた掌が彼女を掴まえ、居間のじゅうたんの上に引き据えた。
なんとか逃れようとジタバタしたけれど、身じろぎひとつできなかった。
母のパンストを引き破った男は、こんどは娘のハイソックスに目が眩んでいた。
同じようにされる――本能的にそう察した真由美は声をあげて助けを呼ぼうとしたが、喉が引きつっていて声は満足に出なかった。
母親から吸い取った血に濡れた男の唇が、そのままふくらはぎに吸いつけられるのを感じた。
ひざ下をほど良く締めつけているしなやかなナイロン生地を透して、ヌルヌルとした唾液が生温かく、素肌にしみ込んでくる。
あっ――と思った時には、圧しつけられた唇にいっそう力が込められていた。
両親の首すじを咬んだ2本の牙が、ハイソックスを咬み破って、真由美のふくらはぎを激しく冒した。
十代の若い血潮がしたたかに、男の唇を濡らした。
学校帰りのハイソックスを真っ赤に濡らしながら、真由美は十六歳の生き血を吸い取られていった――
男はうら若い血を強欲にむさぼり、そして魅了されていった。
淡い意識をたぐり寄せながら、比留間は眠りこけた娘の横顔を見守った。
娘は自分の血の味を誇るかのようにほほ笑んでいるように見えた。
「あたしの血美味しいのよ、たっぷり吸い取って頂戴」
そんなふうに言っているように見えた。


1時間後。
ともかくも夕食を終えた3人は、吸血怪人を囲んでひっそりと俯いている。
部屋じゅう鮮血をまき散らして3人の血を喰らった男は、至極満足そうだった。
頭からは白髪が消えて、褐色に萎えていた顔色にも血色をみなぎらせている。
その「血色」は、自分たちの体内から獲られたものだと、3人とも知っていた。
真由美は怪人の横顔を精悍だとおもった。
自分の身体から吸い取られた血液がそうしているのだとしたら、ちょっと自慢したいような、不思議な気分に囚われていた。
艶子も同じように感じていた。娘まで牙にかけられたのはなんとしても悔しかったけれど、
自分が喪った血がむだになっていないのは良いことだと、想いはじめていた。

「ともかく飯を食いなさい」と言ったのは、怪人のほうだった。
乱雑に散らばった座布団やら、ひっくり返ったちゃぶ台やら、撥ねた血潮が滴る洗濯ものやら――
怪人は慣れた手つきでそんなものを取り片づけて、着られそうな洗濯物をふたたび洗濯機に放り込むと、
艶子は自分を襲った怪人を無視するように、血の気を失った無表情のまま晩ご飯を用意していた。
親子3人がひと言も言葉を交わさずに食事をしている間も、怪人は部屋を片づけ、壁に飛び散った血を雑巾でぬぐい取っていた。
真由美が箸を置くと、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
ふだんなら投げ出すように箸を置いて部屋に引きこもってしまう子が、珍しく殊勝なしぐさを見せたことに、母親は優しく反応した。
「疲れたでしょ?今夜は早く寝ましょうね」
「うん、そうする。明日も部活で早いし――怪人さんもおやすみ」
真由美は自分の血を吸った怪人にまでおやすみを言って、部屋に引き取っていった。


「これからどうするつもりなのですか?」
娘が姿を消すと、待ち構えていたように艶子がいった。
目つきは鋭く、詰問口調。相手は怪人のほうにだった。
もうこの家の主導権を握っているのは夫ではないと悟ったようすだった。
「ここのお父さんはこの人だからね――」
怪人は控えめにこたえた。
あんたのご主人は俺でなく、あっち――と言いたげにみえた。
この期に及んで亭主を立てたのは、自分によって初めてしたたかに血を吸い取られた比留間の気持ちを確かめておきたかったのだ。
もしも出て行けと言われたら、出ていくつもりだった。
その代わり、家人のだれもを死なさない程度に、致死量ぎりぎりまでの血を3人から頂いて立ち去るつもりだった。
「あんた、ひどいこと考えてるよな?」
比留間は相手の思惑を見抜いたようにいった。
「ウン、でもその代わり、俺は二度とここには寄り付かねえよ」
怪人はいった。

比留間は傍らの妻の横顔を見た。
覚悟していた吸血を予想以上のしつようさで受け容れさせられたばかりではなく、案に相違して犯されてしまった妻。
そのうえ気絶しているうちにとはいえ、「決して手は出させない」と力説していた娘の血まで吸い取られてしまった今、
裏切られたといちばん感じているのは妻のはずだった。

これがドラマだったらきっと、俺たち一家3人は、ただの雑魚(ざこ)に過ぎないはずだ。
出獄した吸血怪人の第一の犠牲者で、女房にも娘にも、役名すら与えられず、
お人好しな夫が仏心を起こして家に引き入れた怪人を相手に、続けざまに首すじを咬まれて、服を血に染めて倒れてゆく。
ただそれだけの役なのだ。
でも、そんな無名のチョイ役にだって、意地もあれば、プライドもある。
数十年積み重ねてきた人生の苦楽だってある。
俺は二十年以上いまの仕事を続けてきたし、
おととしは俺の勤続20周年を祝って、家族旅行で温泉に浸かってきた。
女房だってパートに精を出して家計を支え、なにより家族に飯を作って送り出してくれている。
娘が高校に受かったときにはみんなでよろこんで、街でいちばんのレストランで食事会をやったっけ。
そんな家族の積み重ねは――飢えた怪人に咬まれて血を流して倒れてしまうワンシーンだけで片づけられてたまるものか・・・

「まず、女房に謝ってくれ」
比留間はいった。
え?と振り向く2人のどちらに向けてともなく、彼はつづけた。
「俺はお前に指を切って血を吸わせてやった。
 そのうえで、お前が出所したら行く当てがねえだろうからって、良ければ家(うち)に寄って行けとも確かに言った。
 俺に淫らな薬を仕掛けて血を吸う歓びに目ざめさせたのはまだいい。
 でも、女房は自分が血を吸われることには乗り気じゃなかったんだ。
 そりゃそうだろう?
 だんながいる身でほかの男に肌に唇を当てられて血を吸われるんだぞ。
 おぞましいだけじゃ済まねえよな?
 でも女房は、なんとかがんばって、お前ぇさんに血を分けてやった。
 そのうちこいつもどうやら・・・乗り気になっちまったみたいで――その後のことはもういい。
 行きがかりとはいえ、あんなことをしてれば流れでそういうことにだってなるかも知れねえものな。
 女房の血を吸わせてやろうなんて思いついた俺がいけねぇんだ。
 でも、女房には頭を下げてくれよな。男女のことだから、亭主の俺でも立ち入れねぇかもしれないけれど――
 本気で嫌だったのなら、それは女房の問題だ。
 なにより許せねえのは――娘のことだ」
怪人はビクッと肩を震わせた。
言葉が静かなぶん、身に染みているらしかった。
「両親どちらも、娘に手を出して良いとは、ひと言も言ってねぇ。
 人の好意を踏みにじって、約束をほごにした。
 お前がこの家から出ていっても、そんなことを重ねていたら、きっとろくな死に方はしねぇだろうよ」
比留間は言葉を切ると、思い切ったようにつづけた。
「お前がろくな死に方をしなかったら、吸い取られた俺たちの血は無駄になるってことじゃないのかい?」

ガタ・・・とその時、比留間の背後でガラス戸がきしむ音がした。
建付けの悪いガラス戸は、ちょっと手をかけただけで耳ざわりな音を立てるのだ。
3人が振り向くと、そこには真由美が佇んでいた。
高校に入ってからテストテストで荒みかけていた頬が、いつになく透きとおっている――と両親はおもった。
真由美はおずおずと言った。
「あたし――いいよ。別に血を吸われても」
「真由美!」
艶子が声を張りあげた。
「あなた、勉強だってあるんだし、部活も頑張ってるんだろ?
 怪人さんに血なんか吸われていたら、テストで良い点取れなくなるよ?
 試合にだって出れないだろう?ずっと補欠じゃやだってこの間言ってたじゃないの」
「うん。そうだけど・・・いい」
真由美の声は、きっぱりしていた。
「あたし、父さんや母さんといっしょに、この人に血をあげたい・・・だって、楽しいんだもの・・・」
「俺の・・・勝ちだ!」
怪人は嬉し気にいった。けれどもすぐに神妙な顔つきに戻って、艶子にいった。
「あんたには詫びる、いろいろとすまなかった。
 でも、あんたの血は本当に旨かった。ありがたかった。久しぶりに、人妻の熟れた血を愉しませてもらった。
 刑務所でのお勤めの辛さが、吹っ飛ぶくらいのものだった――」
「ちょっと――」
艶子は真顔のまま、怪人と顔を突き合わせた。
次の瞬間、
ばしいんっ。
艶子の平手打ちが、怪人の頬を打った。
「これでおあいこに、してあげる。いいよねあんた?」
後半は、夫に対する念押しだった。


狭い家だった。
玄関を上がってすぐに居間があり、その向こうが台所。二階は娘の四畳半の部屋がひと間だけ。
あとは居間の奥に、さっき濡れ場と化したばかりの夫婦の寝間があるだけだった。
「怪人さんをどこに寝かせるの?」
艶子は所帯持ちの良い妻らしく、明日からの切り盛りが気になる様子だった。
「あたしと寝る?」
真顔でそういう真由美を、さすがに母親は「ちょっと・・・」と制した。
「あんたがガマンするんだね」
艶子は夫に向かって、フフッと笑う。
「そうだな――そうするよりないな」
俺は居間に寝るよと、比留間はいった。
艶子と怪人のために気前よく、寝間を明け渡すというのである。
「じゃあさっそく今夜から――」
怪人はにんまりとした笑みを艶子に投げた。
「まったくもう、いけすかない」
艶子は反撥しながらも、まんざらではなさそうだった。
さっき襲われていたときの艶子の腰遣いを、比留間はありありと思い出していた。
さいしょのうちこそさすがにためらっていたけれど――
あれは間違いなく、悦んでいるときの腰遣いだ。
服を破られまる裸にされて、股間にズブリと突っ込まれちまって。
それからあとのあいつの乱れようったらなかった――と、
失血で遠のく意識が妻のよがり声でなん度も引き戻されたのを、ほろ苦く思い出していた。

「あたし、明日学校休む」
真由美がみじかく告げた。
「制服濡れちゃったから学校行けないし、どうせだったらこれ着てもう一度楽しませてあげようか」
ハイソックスも履き替えてきたよ――少女は真新しいハイソックスに眩しく包んだ足許を、吸血鬼に見せびらかした。
「あたしも、真由美に負けないように頑張らなくちゃね」
 パンストはなに色がお好き?網タイツとかもあるんだよ?
 だんなが出かけてから楽しもうか?それともさっきみたいに、見せつけるのが好きなのかい?
 とっておきのよそ行きの服があるの。特別に着てあげようじゃないか。あたしの血で、タップリ濡らしておくれよ・・・」

女どものはしゃく声が部屋を明るくし、比留間家にはようやく平和が戻った。


朝の明るさが、雨戸のすき間から洩れてくる。
はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・ひぃ・・・
寝間から洩れてくるうめき声に、きょうも比留間はひと晩じゅう悩まされた。
ふすまの向こうで妻の艶子が、見慣れたこげ茶色のワンピースを着崩れさせて、
あお向けに寝そべる怪人のうえに太もももあらわにまたがっている。
太ももを覆うパンストは見るかげもなく裂け目を拡げて、
そのうえ男の舌が存分にふるいつけられた名残に、唾液に濡れ濡れになっていた。
ああ・・・くうっ・・・おおおっ。
激しく擦れる粘膜の疼きに耐えかねたよがり声が、ひと晩じゅうだった。
あー、寝られねえ、寝られねえ・・・
もっとも昼間も、事情を知った上役から、長期の休みをもらっていたのだ。
「寝不足でやってられないだろう」という配慮だった。

うちの一家はたぶん、「モブキャラ」だ。
「吸血怪人物語」では、いの一番に狙われて、家族全員が血を流してぶっ倒れてしまう、
たぶん役名もつかないようなチョイ役だ。
でもそのチョイ役にだって、意地がある。いままで生きてきた人生がある。
勤続二十年以上の真面目なだけが取り柄の男に、所帯持ちの良いしっかり女房。
あれ以来肌をよみがえらせて、すっかり若返った熟妻は、亭主の残業代で買った色とりどりのストッキングを穿いて。
学校の制服が似合うようになった、年ごろの娘、白のハイソックスを紅い飛沫でド派手に濡らして。
だれもがたいせつな、ひとりひとりなのだ。
「あんたの奥さん、つくづくいい身体してるな。相性が好いのかな?
 わしは気に入った。気が向いたらいつでも抱かせてもらうからな」
などと。
やつは勝手なことを抜かしているが。
女房にはさすがにいえないけれど――
俺はやつに女房を犯されるのが、このごろ無性に嬉しくなる。
女房の良さを、やつはちゃんとわかってくれている。
かいがいしくかしずく女房を、ちゃんと可愛がってくれている。
女房のあそこが、やつの精液で濡れ濡れになっても。
喉の奥まで、おなじ粘液をほとび散らされても。
ボーナスで買ったばかりのよそ行きのワンピースが台無しになるまでふしだらに着崩されても。
艶子のことを分かってくれるんだったら――
やつが俺に見せつけたいという愉しみとやらに、よろこんでつき合いつづけてやるんだ・・・
「女房を犯すのはやめてくれ~、ああお前、またそんな声出して、ダメだ、ダメだ。夢中になったらいけねぇって・・・」

狩られた一家

2023年09月12日(Tue) 19:06:52

――公原亘 42歳 サラリーマン の家族構成――

公原まどか 39歳 専業主婦  亘の妻
公原理央  14歳 〇学二年生 亘・まどかの娘
公原鈴江  64歳 専業主婦  亘の母

連れ立って歩く三人の女とは距離を置いて、
三人の男吸血鬼がひっそりと、あとを尾(つ)けてゆく。

「理央ちゃんの白のハイソックス・・・」
そう呟いたのは、肥塚羊司、34歳。いわゆる、「きもおた」の独身中年。
「鈴江さんの黒のストッキング・・・」
そう呟いたのは、円藤静雄、42歳。公原亘の同期で元エリート・サラリーマン。
「まどか殿の肌色のストッキング・・・」
そう呟いたのは、烏鷺長生【うろ・ながお】、61歳。
肥塚・円藤ふたりの血を吸った、生粋の吸血鬼。
3人が3人とも、亘の家族の生き血を狙っていた。

――亘の述懐――

真っ先に三人がかりで血を吸い取られ、失血にあえぐわたしの前で、
まず太っちょの肥塚氏が、娘の理央にむしゃぶりついていきました。
理央は涙も涸れんばかりの顔つきで、憐みを乞うようなまなざしを自分を狙う吸血鬼に投げるのですが、
悲しいかな、それはなんの効果も同情ももたらさなかったようです。
彼女の柔らかいうなじは瞬時に喰い裂かれ、
噴き出る血潮が理央の着ている紺のワンピースを濡らしました。
肥塚氏は好みの年ごろの少女というご馳走を前に、少し焦っているようでした。
わなわなと手を震わせて理央の胸をワンピースのうえからまさぐると、
その手を体の線をなぞるように降ろしていって、こんどはワンピースのすそを引き上げてゆくのです。
「お願いです、やめていただけませんか。
 まだ子供なんですから、娘の名誉まで奪うのは止してください」
わたしの識る肥塚氏はいつもオドオドとしていて、根は素直で純朴な男でした。
けれどもその時の彼は、血の欲求に昂った狂った目つきになっていて、
わたしの訴えは耳に入らないかのように無反応だったのです。
肥塚氏は、理央の太ももに咬みつきました。
手かげんのまったくない咬みかたでした。
咬むまえに、ネチネチと唇を這わされて、あまりの気味悪さに理央はもう一度、悲鳴をあげました。
切なくなったわたしはもういちど、
「わかってください!
 きみが理央を気に入ってくれているのはよくわかりました。
 だから、その理央を悲しませるようなことはしないでもらえませんか?」
きみの気持ちが真面目なものなら、理央を嫁にと考えても良い・・・とまで、わたしはいったのです。
さいごのひと言は、彼の耳にも刺さったようです。
一瞬彼は嬉し気に白い歯を見せました。
けれど、すぐにその歯を理央の太ももに埋めてゆくのです。
もういちど、鋭い叫びがあがりました。
肥塚氏が理央の血をガツガツと食らって、食欲を充たして大人しくなったときにはもう、理央は気絶していました。
理央の履いていた白のハイソックスは、肥塚氏が執着するあまり、真っ赤に染まってしまっていました。
潔癖な理央がこのキモオタ中年と交際を深めて処女を捧げるのは、これよりもう少しあとのことでした。

「ふん、気色の悪いロリコンめ!」
気絶した理央に向かってなおも舌をふるいつけてゆく肥塚氏に、
わたしと勤務先で同期の円藤はそう、毒づきます。
「うちの娘と同じようにあしらいやがって。どこまで変態なんだよ!」
そうはいいながら。
彼もまた、我が家に女の生き血を求めてあがりこんできた輩です。

円藤はさすがに、同じ年頃の娘を持つ親でした。
なのできっと、すこしは理央のために同情してくれたのでしょう。
自分の娘を肥塚氏に狩られたことへの嫉妬も、少なからずあったのかもしれません。
肥塚氏は、ロリコンでした。
円藤の家が肥塚氏の侵入をうけたとき、肥塚氏はその牙をぞんぶんに振るって、
彼のまな娘のブラウスを真っ赤に濡れそぼらせられたにちがいないのです。
けれどもそんなふうに肥塚氏の吸血行為を批難しながらも、
円藤の口許にもすでに、女の血が散っていました。
抑えつけた掌の下には、わたしの母である鈴江が気丈にも腕を突っ張って、その肉薄を拒み続けていたのです。

円藤は、マザコンでした。
自分の母親が吸血鬼に襲われたとき、
よそ行きのブラウスやスカートに血を撥ねかせながら生き血を吸い取られ姿勢を崩してゆく様子を目にして、
それが胸の奥に灼(や)きついてしまったそうです。
どこのお宅にお邪魔しても、その家でもっとも年配のご婦人を襲うことで知られていました。
なので、円藤が母を狙ったのも、当然のことだったのです。
鶴のように細い首すじに、円藤が唇を這わせ、這いまわる唇の端からかすかに覗いた牙が皮膚を冒すのを、
わたしはなぜか、ゾクゾクしながら見届けていました。
血を吸われるものの愉悦を覚え込まされた身体は、同時に血に飢えた身体にもなり果てていて、
人を襲って血を獲るものの快楽が、まるで自分のことのように感じられるようになりかけていたのです。
咬まれた瞬間、母はウッ・・・とひくく呻いて歯を食いしばり、
自分の血がチュウチュウと聞えよがしに音を立てて啜りあげられるのに聞き入る羽目になっていました。
さっき息子であるわたしが散らしたように、
母もまた同じように、ブラウスに生き血をぶちまけながら啜られ続けたのです。

母を「供出」することに、父は当然ながら激しく反対しました。
そして、どうしてもそうせざるを得ないと知ったときにも、妻の仇敵に自分の血は吸わせまいと言いました。
結局父は、吸血鬼どもからもらった睡眠液で、そのあいだじゅう眠りにつくことにしたのでした。

円藤は強欲でした。
母が絶息して静かになると、ふくらはぎに唇を押し当てて、
黒のストッキングのうえからネチネチ、ネチネチと母の脚をなぶり抜くのです。
けれどもわたしには、その行為がたんに母を侮辱するものとは映りませんでした。
円藤の口づかいはどことなく、母親というものを慕っているような感情を帯びていたからです。
たしかに母のストッキングは唾液にまみれ、ふしだらにずり降ろされて皺くちゃになっていくのです。
でも――
彼がわたしの母に抱いている敬意はそこはかとなく感じられ、
わたしは彼が母を蹂躙してゆくのを許容することができたのでした。
脛の下までずり降ろされたストッキングを足首にたるませたまま、
母は女としての愉悦を、全身にしみ込まされて行ったのです。
後に父の許しを得て晴れて円藤との交際を許された母は、
同年代の婦人会の幹部となって、熟女たちの血液を差配する役に就くことになりました。


家内のまどかを襲ったのは、最年長の烏鷺(うろ)氏でした。
烏鷺氏は肥塚氏と円藤の両名を家族もろとも血を吸い尽くした張本人です。
先に襲われた肥塚氏は、円藤の娘をモノにする幸運に恵まれたのですが、
それだけでは飽き足らず、円藤の娘と仲良しであるうちの娘にまで魔手を伸ばしてきたのでした。

三名の吸血鬼のなかでいちばんのヴェテランの相手を仰せつかったまどかは、
恐怖に顔色を白くしながらも気丈に応対していきました。
もともと烏鷺氏はまどかのことを気に入っていました。
いつも「まどか殿」と敬称を着けて呼んでいて、
はた目にはほほ笑ましい関係のはず――でした。
けれども、血を吸う側と吸われる側に別れてしまうと、もうどうにもなりません。
烏鷺氏は、娘を庇ういとまも与えずにあっという間にまどかのことを掴まえると、
うなじにガブリと食いついたのです。
まどかのうまじから、赤い飛沫がサッと撥ねて、薄いピンクのブラウスを帯のように塗りつぶします。
彼女はなにかをいおうとしましたが、それは言葉にならず、
体内の血液を急速に喪い、顔色を色あせさせていったのでした。

安心せよ、生命は奪らぬ。
ただともかくもご婦人がたにはわしらの渇きを充たしていただかねばならんのぢゃ。
先日円藤の一家を襲った後、吸い取ったばかりの血を口許にあやしながら、
烏鷺氏はそうわたしに告げました。
烏鷺氏が家内の生き血を気に入ったのは、はた目にも明らかでした。
家内の体内をめぐる血液は、素晴らしい速さで烏鷺氏の喉の奥へと経口的に移動したのでした。
ほかの2人が各々の獲物の足許にかがみ込んで、
母のストッキングや娘のハイソックスを辱めることに熱中しだすと、
烏鷺氏もまた、家内の足許に舌を這わせ、肌色のストッキングを皺くちゃにしていくのでした。
旨めぇ、うんめぇ・・・なかなかのものぢゃ。
烏鷺氏は随喜の呻きを洩らしながら、ひたすら家内の足許を蹂躙してしまいます。
きちんと脚に通した肌色のストッキングを、ひざ小僧が露出するほど剥ぎ堕としてしまうと、
烏鷺氏はいよいよ家内に対して、男としての本能を発揮してしまうのです。
折り目正しい紺のタイトスカートを後ろから剥ぎあげると、
家内のショーツをむぞうさにむしり取り、気絶寸前の家内を背後から交尾したのです。
「奥さんどうやら、ア〇ルは初めてのようぢゃのお」
烏鷺氏は酔い痴れたものの呂律のまわらぬ口ぶりで満足の意を洩らしながら、
家内の秘められた初体験を根こそぎ奪い取ってしまったのでした。

失血量がいちばん多く、最後に眠りから覚めたまどかはその後、
烏鷺氏が自分の血を非常に気に入ってくれたことに満足し、
3日にあげず烏鷺氏宅を訪問しては、熟れた血潮を提供するようになったのでした。

ガツガツと乱暴にむしり取られた家族の血潮――
けれどもそれは、わたしたち家族をこの街に強く結びつける絆になったのでした。


あとがき
ひとつの家族が老若の区別なく同時に襲われて、血液を吸い取られてゆく――
まあそんな情景を描いたつもりなのですが、どうも本編は座りがよろしくないです。
吸血シーンも、ちょい残酷めかもしれませんね。。

娘と妻を、吸血鬼に捧げて・・・

2022年11月05日(Sat) 04:33:25

濃い緑色のハイソックスに浮いた太めのリブが、豊かなふくらはぎをなぞるように流れていた。
はた目には太い脚としか映らないかもしれないが、八束にはなによりもセクシィに見える。

この制服を考案したデザイナーは、採用した名門校は。
折り目正しく着こなしたはずのこの制服がひとたび着崩されたとき、
こんなにふしだらな風情を醸し出すことを意識していただろうか。
制服の少女が出歩いてはいけない刻限の、夜更けの街灯を照り返すハイソックスのリブが、
こんなにも淫靡に照り輝くことを、知っているのだろうか――

たった今処女を喪失した少女は、薄目をあけて、悲鳴のひとつ、うめき声の欠片さえ口から洩らさずに、
スカートの内側を初めての血で濡らしている。
滴る血潮は太ももを伝い落ちて、ハイソックスのゴムにまでしみ込んでいた。
リブをくしゃくしゃに折り曲げながら、八束はみずきの足許から、ハイソックスを抜き取ってゆく。
今夜の記念、戦利品としてせしめるつもりなのだ。
片脚、もう片脚・・・と、手を緩めずに、容赦なく、制服の一部を剥ぎ取っていった。
それから少女の身体を仰のけると、ふたたび首すじに唇を這わせ、
這わせた唇を、おとがいから少女の唇へとすべらせてゆき、
自身の分厚い唇で覆い隠すように、小ぶりで控えめな少女の唇を呑み込んでいった。

かすかな吐息を洩らしながら、少女は初めて切なそうな顔をして、男の口づけに応じていった。
裸足になったつま先は、芝生のうえをなん度も足摺りをくり返して、
白い指先が掘り返した泥にまみれていった。


合格するまでは、駄目。
みずきの意思に八束はしたがい、合格発表の帰りを待ち伏せて結果を聞くと、
否応なく公園に引きずり込んだのだ。

いちどだけでは、嫌。
みずきの希(ねが)いを、八束はかなえた。
少女の下校途中を毎日のように襲い、ある時は公園に引き入れ、深夜になれば路上に制服姿を横たえて、犯し、愛し抜いた。
ぶあいそに閉ざされていた口許は、ときにほころびたように白い歯をのぞかせて、
その白い歯並びは、淫蕩なうわぐすりを塗られたように、なまめかしさを帯びて静かに輝いた。
少女のそんな変化に気づく大人は、担任を含めほとんどいなかった。

みずきが一度だけの関係を忌んだのは、
たんに処女を破る愉しみだけのために自分の肉体を供することをきらったのであって、決して淫蕩な意図ではなかった。
けれども回を重ねることで、18歳の少女の身体はじょじょに目ざめていった。
みずきの母親を含めなん人もの女を夢中にさせた八束のぺ〇スは、
この初心で頑なな少女の身体をも、淫らに染め抜いていたのだった。
無防備な素人娘の肉体は、手練手管に長けた八束の思うままであった。
八束は制服のブラウスに包まれた彼女の胸をまさぐり、ブラウスを引き裂いて、ブラジャーも引き剥いで、
ピンク色の初々しい乳房を、唇で蹂躙した。
派手やかな蹂躙に、少女は口を開き、なにか言おうとし、そして言葉のすべてを呑み込んで、制服姿をその蹂躙にゆだねた。
それでも彼女はかたくななまでに、いつも通学用に愛用している分厚いだけの野暮ったい黒タイツを脚に通しつづけた。
けれども八束にとって、彼女の不器量な装いはむしろ、どんなに艶やかなストッキングよりもそそられるものになっていた。
地味すぎるほど大味な黒タイツを咬み破りながら、彼はうら若い少女の生き血に酔いしれた。

彼女の母親は、学校指定の高価なハイソックスを娘とその情夫のために買いそろえた。
みずきは母校の制服の一部が黒タイツと同じくらい吸血鬼の劣情をそそり、目をくぎ付けにすることを知っていた。
機嫌が良いときの彼女は、しばしばハイソックスを脚に通して、深夜の路を制服姿で出歩いた。
深夜の通学路は、淫らな闇へとつながっていた。
街灯に照らされるハイソックスのしなやかなナイロン生地に浮き彫りとなるツヤツヤとしたリブを、見せびらかすようにして脚をくねらせると、
よだれまみれの好色な唇に惜しげもなくさらしてゆき、気前よく咬み破らせていった。


娘を愛してくれているのだね。
みずきがいつものように黒タイツを咬み剥がれ、淫辱のかぎりをつくした挙句、裸足に革靴を突っかけて立ち去ったあと。
彼の傍らに立ったのは、みずきの父親である遠藤だった。
「きみのおかげで、遠藤家の名誉は泥にまみれてしまった。きみは、娘だけではなくて、家内のためにも仇敵なのだ」
言葉は恨みに満ちていたが、言葉遣いは物柔らかだった。
娘のみならず妻までも凌辱されしまった夫・父親の苦痛を減じるには、手段はひとつしかなかった。
妻が凌辱されたとも知らずに家路をたどる遠藤を彼は待ち伏せて、否応なくその首すじに咬みついたのだ。
吸い上げた血潮には、かすかにみずきの血と似通った芳香が含まれていた。
八束は、みずきの父親の生き血を、ゴクゴクと嚥(の)んだ。
遠藤の理性が消えるまで、八束は彼に対する吸血行為をやめなかった。
致死量近い血液を抜き取ってしまったのは、遠藤の脳裏から常識と理性を奪い去るのに必要なことだったが、
同時に彼は、遠藤の血の味にも魅了されていた。
さすがはみずきちゃんのお父さん――そう念じながら、彼の妻を犯してきたばかりのぺ〇スをそそりたて、遠藤の血を吸いつづけた。

ふらふらと自宅にたどり着いた遠藤を迎えたのは、娘を寝かしつけた妻だった。
驚いたことに妻は、見慣れた花柄のブラウスを引き裂かれ、ラベンダー色のスカートにはだれのものとも知れぬ精液を滴らせていた。
ストッキングをむしり取られた素足にも、おなじ色の忌むべき粘液はまとわりついていた。
留守宅でなにが起こったのか、彼はひと目で覚っていた。
彼は妻をねぎらい、自分も同じ相手に血を吸われてしまったのだと告げた。
いまごろ、夫婦の血が仲良く、干からびていたあいつの血管をめぐって、こわ張った皮膚を温めているんだろうな――
そういいながら、互いに互いをいたわり合うように、身体を重ねていった。

遠藤夫人は、その後も八束と逢瀬を重ねた。
八束は遠藤の妻を犯すたびに、その事実を彼に告げつづけた。
遠藤は、自分に嘘をついてまで八束との時間を作ろうとする妻の心の裡に、すでに真面目な恋が芽生えているのを直感した。
どうか、妻の想いまでは踏みにじらないでもらいたい――遠藤はただ、八束にそう希(ねが)った。
八束は遠藤の志をありがたく受け取り、妻をきみの愛人の一人にして欲しいという彼の希(ねが)いにこたえることにした。
娘が襲われたことが縁となって結ばれたふたりは、夫である遠藤の理解のもと、愛をはぐくんでいった。


遠藤が、娘と生き写しの細い目であらぬ方を見やりながら、八束を前に独り言(ご)ちた。

 血に飢えた貴男を娘が見かねて、自分の生き血を吸い取らせた。
 初めての吸血体験を楽しみすぎた娘が貧血になったのを貴男は介抱して家に送り届けてくださり、
 それに感謝した家内もまた、「娘の生き血がお口にあうようならば」といって、すすんで貴男に首すじをゆだねた。
 そして二人は恋に落ちた。
 わたしは長年連れ添った家内に裏切られはしたが、家内が実り豊かな恋を体験できたことを、わたしは夫として感謝したい。
 そして、家内の恋を祝福したい。
 遠藤家の名誉などは、よろこんで泥にまみれさせてしまおう。
 最愛の妻である真緒(まお)の貞操を、改めて貴男にプレゼントしたい。
 家内の貞操は、すでに貴殿が独力で勝ち得たものではあるけれど、改めてわたしから捧げたいのだ。ぜひ受け取ってほしい。
 それに娘の未来も、きみが開いてくれた。
 娘にとって、きみは大きな存在だ。そして、最初に識った男性だ。
 今後娘はだれかと結婚するかもしれないが、きっときみのことを忘れないだろう。
 もしも結婚した後の娘も欲しいというのなら、わたしは娘婿よりも、きみの側に立つと思う――

ありがたいことですね――奥さんも娘さんも、遠慮なく貴方から受け取りましょう。
八束はいった。
遠藤が、スラックスのすそをそろそろとたくし上げる。
淡い毛脛の浮いた脚を、黒光りする薄地のナイロンが、毒々しく輝いていた。
いま、家内の愛用しているストッキングを、黙って持ち出してしまいました。
貴男にぜひ、愉しんでいただきたくて、ね――

ちゅうっ――
遠藤の足許から、忍びやかな吸血のおとがあがった。
激しい食欲の発露に、この初老の紳士がみるみる顔を蒼ざめさせてゆくのを、ひとりの青年が息をつめて物陰から見守っていた。

通勤用の靴下に魅せられた吸血鬼

2022年09月10日(Sat) 01:09:53

はじめに
煮詰まりの第三弾です。^^;


門春貴美也は、うつ伏せに組み敷かれていた。
相手の男は貴美也のスラックスを引き上げて、ふくらはぎに咬みついている。
昨日息子を襲っていた吸血鬼だった。
この街では吸血鬼が出没するとはきいていたが――まさか自分の身に降りかかる災難だとは、うかつにも思ってもみないでいた。
夕べ吸血鬼は、半ズボン姿の息子を抑えつけて、ハイソックスのうえからふくらはぎに咬みついて、血を啜り取っていた。
相手が自分の血を吸い終えると息子は人目を避けるように足早に立ち去ったが、
貴美也はそんな息子に声をかけることができなかった。
あのときの息子の、ウットリとした表情が忘れられなかった。

勤め帰りの貴美也は、丈が長めの靴下を履いていた。
黒地に赤のストライプの入った、凝ったデザインだったが、
吸血鬼はきのう息子にしたのと同じように、
貴美也の履いている靴下を咬み破りながら吸血していた。

ゴク、ゴク、ゴク・・・
男は喉を鳴らして、貴美也の血を旨そうに飲み味わっている。
同時に、貴美也の靴下を破るのも愉しんでいるらしく、
さっきからあちこちと角度を変えてくり返し咬みついては、
赤のストライブ柄の靴下を、持ち主の血で濡らしてゆく。

「あんたは、靴下が好きなのか?」
貴美也は思わず、訊いていた。
男が無言で強くうなずくのが、気配でわかった。
「息子のときも――ハイソックスを咬み破っていたな?」
「すまなかった」
男ははじめて、口をひらいた。
「こういうことが好きなものでね・・・」
ひっそりとそうつぶやき返しながらもう一度、男は貴美也の脚を咬んだ。
血がジュッと撥ねて、またも靴下を濡らした。
「どうしてこんなひどいことをするんだ!?」
貴美也は訊いた。
このままでは死んでしまう――とは、なぜか思わなかった。
相手の男は貴美也の血を愉しんではいたが、殺意は感じなかった。
「俺は人間の血が要りようなのだ。気の済むまで飲ませてくれたら、ありがとうを言ってお別れしたい」
勝手な言い草だ――貴美也は毒づいた。
「ごもっともだ。弁解の余地はない」
男は貴美也の靴下を舐めた。舌触りを愉しんでいるかのような、しつような舐めかただった。
――生命のあるうちに放してもらえるのなら、お礼に別の靴下を履いてきてやろうか?と、ふと思った。
むろんそんな歪んだ想像は、すぐに打ち消したけれど――
男はなおも、靴下を舐めている。
靴下に着いた血を舐め取って、舌触りを愉しみながら味わっているらしい。
いじましいことをするやつだ。 貴美也はおもった。
けれどもどうやらそれは、貴美也の生命を危ぶむ気持ちからそうしているらしい――と、ふと察した。
男は純粋に、貴美也の血を飲み味わい、履いている靴下を舌で愉しみたがっているだけのようだった。
しばらくの間、吸うものと吸われるものとは互いに葛藤しながら、
それでも吸わせることを、吸うことを、無言の押し問答のようにつづけていた。

せめて、息子のことを襲うのはもうやめてほしい、と、貴美也は懇願した。
――お気持ちはごもっともだ。
吸血鬼の声色には、同情がこもっていた。
どうやらそれは、本音らしい。
わしも人間だったころ、息子の血をほかのやつに吸われたからな。
吸血鬼は、ひっそりといった。
そうなのか?
そうなんだ。
息子さんは・・・?
親子ながら、吸血鬼となっている。
「俺も吸血鬼にするつもりなのか?」貴美也は訊いた。
「わしにそこまでする力はない。だが、あんたや息子さんを死なすつもりもない。
 ただ、くり返し恵んでいただきたいだけだ」
男はまたも、貴美也の靴下を舐めた。
しつようないたぶりに弛みを帯びたナイロン生地に、濡れた生温かい舌が愛でるようになすりつけられる。

迷惑だ――貴美也はいった。
男はかまわず貴美也のふくらはぎを吸い、なおも靴下に唾液をなすりつけた。
良い趣味だな。と、吸血鬼はいった。
なにが・・・?と訝しむ貴美也に、
いまどき珍しい、お洒落なタイプだと、男はほめた。
靴下の柄をほめているのだと、やっとわかった。
からかうな――貴美也はやり返した。
そうむきになりなさんな。わしは本気で、ほめている。
這いまわる舌が、薄地の紳士用靴下を、みるみるうちに皺くちゃに弛ませ、ずり降ろしてゆく。

男が貴美也の履いている靴下を気に入っているのは、どうやら本音らしい。
舐めかたにも、咬み破るときの牙の使い方にも、靴下を愉しんでいる気配をありありと感じた。
おぞましい――と、貴美也はおもった。
しかし――たしかにおぞましくはあるのだが・・・と貴美也は反すうした。
反すうの先にある闇の深さを初めて自覚して、意識がくらくらとなった。
失血のせいで、理性が変調をきたしている――貴美也はそう思い込もうとした。

もう少しだけ、愉しませてもらいたい。
好きにしろ――貴美也は自棄になったようにつぶやき返した。
ご厚意に感謝する。
男はにこりともせずに、こたえた。
厚意じゃない――決して厚意などではない。
貴美也はおもった。あくまでもこれは、強いられたことなのだ。
自分の履いている靴下に目の色を変えて、男が物欲しげに唇を、舌をふるいつけてくるのを、
貴美也はだまって耐えた。
丈の長めの靴下は、舌のいたぶりに耐えるように、しばらくの間はピンと張りつめていたが、
やがて淫らを帯びた舌なめずりに蕩かされるようにして弛んでずり落ちて、
吸血鬼の舌が分泌するよだれと持ち主である貴美也の血潮とで、濡れそぼっていった。

もう気が済んだだろう――?
貧血にくらつく頭を抱えながら貴美也が苛立たしげに囁くと、吸血鬼はやっと彼の足許から顔をあげた。
初めて目を合わせたその男は、蒼白な頬をゆるめて、ゆるやかにほほ笑んだ。
険しい顔だちには不似合いな目つきの穏やかさと、口許から滴る鮮血とが、ひどく不似合いにみえた。
「この靴下を譲ってほしい」
「好きにしろ」
投げやりにこたえた貴美也の足許から、片方、もう片方と、靴下が抜き取られていった。
吸血鬼はわざわざ、履き替えを用意してくれていた。
落ち着いたらこれを履いて、家に帰るとよい。
そう言い残すと、吸血鬼は煙のように夜の闇に溶けた――

貴美也の手に残された履き替えの靴下は、ひどく生地が薄かった。
まるで女の穿く黒のストッキングのようだ――と、彼はおもった。


終わりを告げようとする夏の夕風が、一抹の涼しさを過らせて吹き抜けた。
オフィスから出てきた貴美也を待ちかねたように、男がぬっと立ちはだかり、その行く手を阻んだ。
また来たのか――貴美也は内心、あきれている。

あれ以来。
男は三日にあげず貴美也の勤め帰りを襲って、血を啜るようになった。
息子に手を出すのをやめてくれるのなら――と、せがまれる吸血に渋々応じるようになって、
きょうでもうなん度めになるだろう?

幸い貴美也は自分の服の始末は自分ですることにしていたので、
通勤用の靴下の減り具合に、妻の美津代は気づかずにいた。
器用な男だった。
貴美也が抵抗さえしなければ、ワイシャツの襟首を汚すことなしに、首すじからの吸血をし遂げることができるのだった。
夜道で行き会うとふたりは数秒だけ目を合わせ、
貴美也がもう逃れられないと観念して目を反らすと、プレイが始まった。
男は貴美也の背後に回り込み、首すじを咬んで、ワイシャツの襟首を濡らすことなく吸血を遂げる。
手近なベンチに貴美也を腰かけさせると、スラックスのすそを引き上げて、
貴美也の履いている通勤用の靴下を、舌をふるって愉しむのだった。

きょうの貴美也のくるぶしを染めていたのは、さいしょの夜に逢った時手渡された、ストッキング地の長靴下だった。
脚に通すのが恥ずかしいほど薄い靴下は、やがて貴美也を魅了した。
いままで気に入りだったストライプ地の靴下と半々に履くほど愛用するようになっていた。
じんわりとした光沢を帯びたストッキング地の靴下は、貴美也の足許を、蒼白くなまめかしく染める。
濃紺のストッキングなど、女性でもなかなか脚に通さないだろう。
しいて言えば、夜の街の娼婦たちが、派手すぎるロングスカートの裾から、
抜身の刀を抜くように、青黒く装った脚線美をぬるりとさらけ出す――そんなときくらいしか、頭に浮かばなかった。
男に咬まれるのを予期しながら濃紺の靴下を脚に通すたびに、
貴美也は自分がまるで女のように、彼のために尽くし始めているのを自覚した。

その夜貴美也が穿いていたのは、黒の薄地の靴下だった。
男はずっと、貴美也の血を求めて、事務所の間近を徘徊していたらしい。
同僚の視線を気にしながらも、貴美也は手近な公園の手近なベンチへと、すすんで腰を下ろしていった。

「どうやら、息子の血はあきらめてくれないらしいな」
貴美也はいった。
男はこたえずに、引き上げられたスラックスのすそからのぞく薄黒く染まった貴美也の脛に、執着しつづけている。
靴下もろとも脚を辱める――そんな“前戯”ともいうべき行為を、男はひどく好んでいた。
貴美也はお洒落な靴下を好んでいたが、男は貴美也の履く靴下をいたぶることを好んでいた。
劣情にまみれた舌をふるいつけられながらも、プライドだけは失うまい――そんなふうに感じていた。
その半面で。
貴美也の履いてくる靴下の柄を趣味がよいと褒めながら舌をふるいつけてくる男のために、
せっかくだから愉しませてやれ。
そんな気持ちもわき始めていた。

薄地の靴下を咬み剥がれてゆきながら、貴美也はふと思う。
きっとこいつは、女好きだ。
そして貴美也のストライプ柄の靴下をよだれに濡らしながら咬み破ってゆくときと同じくらい愉し気に、
きっと近々、学校教師をしている貴美也の妻にも挑みかかっていって、
タイトスカートのすそから伸びたふくらはぎに取りついて、
あの肌色の薄地のストッキングを咬み破ってしまうのだろう――と、想像した。
それでも良い。
失血のあまり意識が揺らぐのを心地よく感じながら、貴美也はおもった。

そう感じ始めてから、一週間と経たぬうちに。
すっかり血を抜かれた貴美也の傍らで。
あわてふためくスーツ姿の足許ににじり寄った吸血鬼は、
肌色のストッキングに包まれたふくらはぎの一角に唇を吸いつけて、
淑やかな装いの主の悲鳴を、くすぐったげに受け流していった。
息子は今ごろ子供部屋で、真っ白なハイソックスに血をあやして、気絶しているに違いない。
いや、案外と――
意識を薄らげてゆく父親の目を盗んで、自分の母の受難を目にすることで、思春期に目ざめ始めようとしているのかもしれなかった。

生き血を吸われる婚約者 (副題:花婿の実家、崩壊す)

2022年01月19日(Wed) 19:47:53

婚約者の喜美枝さんには、吸血鬼の彼氏がいる。
女学生のみぎりから血を吸われ初めて、彼らの好物である処女の生き血を提供し続けているという。
初体験は、小学校の卒業式の帰り道。
謝恩会帰りの晴れ姿を襲われて、真っ白なハイソックスを血に浸したのがさいしょだった。
服フェチな吸血鬼の嗜好に合わせて、いまは勤め帰りのスーツ姿を好んで襲わせているらしい。

じっさい、ぼくも視てしまった。

夜の公園の街灯の下。
ピンクのスーツ姿の喜美枝さんが、
吸血鬼と思しき男に立ったまま抱きすくめられ、首すじに唇を吸いつけられていた。
男の齢はわかりかねたが、白い首すじを這いまわる唇はヌメヌメといやらしく、
喜美枝さんは初々しい頬に薄っすらと羞じらいを過【よぎ】らせつつも、
ぴったりとあてがわれる男の唇を厭うふうもなく、喉を鳴らしてうら若い血潮を飲み味わわれてゆくのだった。

すき間のないほどに密なこのふたりのあいだに、ぼくが割り込む余地があるのだろうか?
少なからず意気沮喪したぼくは、仲人である叔父を訪ねてみた。

この街は、吸血鬼との親和を標榜している。
吸血奉仕条例なるものを発した当地では、市を中心に、彼らに提供可能な血液の供給を増やそうとする動きが活発化している。
市役所職員は、吸血鬼に望まれれば本人および家族を対象とした吸血行為を受け入れることを義務付けられていて、
すでに職員の半数近くが、何らかの形で自身の家庭に吸血鬼を迎え入れている。
ぼくの縁談も、その一環だった。
いかに喜美枝さんが清楚な美人でスタイルも良く、真面目で堅実な女性だとしても、
吸血鬼に魅入られた娘を嫁に迎えるなど、想像するだにおぞましいことではないか。

「大丈夫」
叔父は拍子抜けするほどあっさりと、ぼくの懸念を打ち消してくれた。
「先方は、喜美枝さんが人妻になることを望んでおいでなんだ」
これほどの娘が一生独り身とはあまりにも不憫。
婿を持たせて家庭をつくり、いずれは子供たちを導いて家族をあげての献血に励むことになるだろう・・・というのだった。
そうすると、ぼくの子供たちは皆、吸血鬼の餌食ということになるのですね?
ぼくは訊いた。
なんという輝かしい未来図だろうか。
「この街に残った以上仕方がないよ」
叔父はぼくを慰めるようにいった。
「うちの繁子叔母さんも奈々枝のやつも、毎週相手を変えて、吸血鬼と愉しんでるぜ」
叔父の慰めは、もはやなんの慰めになっていなかった。
従妹の奈々枝は17歳。
この縁談がなかったら、もしかするとぼくと結婚していたかもしれない娘だった。
それがいまは、学校帰りの制服をはだけられて乳房を吸われ、紺のハイソックスの脚を大きく拡げ、
好色な年配の吸血鬼を、娼婦のように迎え入れているという。
どのみち、ぼくの花嫁となるひとは、彼らに犯される運命にあるらしい。


お見合いの席には、地味なチャコールグレーのスーツで現れた喜美枝さん。
鮮やかな朱をはいたノーブルな薄い唇を開いて告げてきたのは、残酷な事実だった。
「すでにお聞き及びのことと存じますが、わたくしには吸血鬼のお相手がおりますの。
 十代の初めからそのかたに、処女の生き血を差し上げてまいりました。
 貴方との結婚を控える身になったとしても、それは続けるつもりでおります。
 女としての初めての経験も、そのかたにお許ししようと思います。
 つまり貴方はわたくしの夫でありながら、そのかたに花嫁の純潔を盗られ、
 新居のじゅうたんに新妻の不義の相手の精液を沁み込まされてしまうことにおなりです。
 お気の毒には存じますが、いまからそのお心積もりでいらしてくださいませ」

大丈夫・・・そう告げた叔父の横顔が思い浮かんだ。
でもこのひとは、夫を求めているのだ、と。
ぼくはこたえた。
「ご事情は承りました。そのかたは、貴女にとってとても大切な男性・・・と受け止めても宜しいのでしょうか?」
「エエ、あのかたに求められるのなら、先々夫となる貴方を裏切ることも、躊躇うことも厭うこともなくし遂げることと存じます」
目の前のひとは、気品のある目鼻だちに、微かな微笑みさえ浮かべ、
夫となるぼくのことをも、躊躇なく裏切るといった。
ぼくの心の奥底に眠るマゾの本能に火がついたのは、そのときだった。

ぼくはこたえた。
まるで自分ではないかのような、すらすらと流暢な言葉つきで。
「そのかたに、逢わせてください。
 貴女を伴侶とする以上、そのかたはぼくにとっても重要な存在になるはずです。
 ぼくの意思で、結婚を控えた婚約者と二人きりで逢わせて処女の生き血を愉しませたり、
 花嫁の純潔を捧げたり、夫婦のベッドも自由に使っていただくのですから、
 両親以上に尽くす相手となるはずです。
 できればいまから、良い関係を作りたいのです。・・・間違っていますか?」
彼女は婉然と微笑んだ。
「願ってもない、ご立派な態度だと存じます」


初対面のぼくに、彼は相好を崩し、ごく好意的に接してくれた。
ぼくよりも、ほんの少しだけ年上の感じの彼は、血を吸われて吸血鬼になったときに、齢の進行が止まったのだと教えてくれた。
彼女を吸血しているところを視てしまったと伝えると、それなら話が早いなと、喜美枝さんを見ていった。
そうね、と、喜美枝さんは応えると、
ぼくの隣からスッと立ち上がり、招き入れられたドアに閂【かんぬき】を下ろした。
花嫁を吸血鬼の自由にされる哀れな男の運命は、こうして定まった。
ぼくは喜美枝さんの目の前で、彼に一対一で襲われて、与えることができる生き血を、一滴余さず啜り採られた。

 仲良しのきみに、未来の花嫁を紹介するよ。
 そのまえに、からからに渇いたきみの喉を、ぼくの血で潤してあげよう。
 白いワイシャツを彼女のブラウスみたいに真っ赤に染めて、
 紳士用の薄い靴下を、彼女のストッキングみたいに咬み破かれて、
 抱きすくめる猿臂のしつようさに、きみの好意を感じながら、
 ぼくの刻を止めてくれ。
 ぼくの血を旨いと言ってくれたきみの好意に報いたいんだ・・・

体内をめぐる血液が刻一刻と喪われてゆくことに、妖しい充足感を覚えながら、ぼくは意識を途切らせていった。


両親と妹のいる実家に顔を出したのは、その約一週間後のことだった。
ぼくの顔色と、首すじに鮮やかにつけられた吸血の痕跡に、三人は色を失った。
さすがに父だけは、一家の長としてどう振る舞うべきかを、すぐに察した。
「後悔はしてないね?」
念を押すようにぼくに問い、
「ぼくの血は、このかたのお口に合ってしまったようです。
 なので、父さんの息子として恥ずかしくないよう振る舞いました。
 いまの境遇を与えてくれたことに、感謝しています。
 それから彼は、ぼくと同じ血を宿しているひとの生き血をお望みです」
ぼくがそうこたえると、納得したように笑った。

父は喜美枝さんにも問いを投げた。
「家内や娘は、見逃してもらえないのだろうね?」
喜美枝さんは美しい頬に冷然とした笑みをたたえて、
「お義父さま、それは難しい相談ですわ」
とこたえた。
切って捨てるような態度だった。
「・・・そのおつもりで、お揃いで見えられたということですな」
父はいった。
「このひと、自分がモノにした花嫁のお姑さまは、ご自分の所有物だと思ってますの。
 それに、お嫁入り前にわたくしを犯してしまうおつもりなので、代わりの処女を確保したがっておりますの。
 お宅であれば、そのどちらも叶えてくださりそうですわね」
「わたしも市役所の職員です。
 吸血鬼と懇親することがわたしどもの役割です。
 貴男を慶んで、わたくしの家庭にお迎えしましょう。
 当家でできる限りのおもてなしを致しましょう。」
母と妹の奈美は、顔を蒼白にしながら、父とぼくの花嫁とのやり取りを聞いていた。
「せめて奈美だけでも!」
母はそう言い募ろうとしたが、父がそれを制した。
「進一郎の血がお気に召したのだ。もはやだれも逃れられないよ」
父はぼくを見て、
「親子で女房を同じ男に獲られることになるとは思わなかったネ」
と笑い、
「支度をするので、すこし時間をください」と、自分の妻や娘を犯しに来た男に告げると、
「跡取りが亡くなったのだ。盛大に弔いをしよう。母さんは喪服。奈美は学校の制服に着替えてきなさい」
と、一家の長らしく促した。
いまはこれまでと、母がいつもの気丈さを取り戻して眉をあげると、
「では、当家の女たちの振る舞いを、とくと御覧くださいね」
と、家庭内に忌むべき吸血鬼を引き入れた嫁を、屹【キッ】と睨みすえるようにして、形ばかりほほ笑んだ。
「この方々は、ご婦人の黒のストッキングがお好みだ。
 母さんは肌の透ける薄いのを履くように。
 奈美は・・・紺色のハイソックスですが、お気に召しますかな?」
と、吸血鬼に声を投げていた。

突然切り出された献血の要請に驚きながらも、父の振る舞いは善意に満ちていて、
自分たち家族全員の血を吸いたがる訪問客を満足させようと心を砕いているようだった。
そんな父の応対を、ぼくは心から誇りに感じた。
これから吸血鬼に取り憑かれた嫁をもらうぼくに、どのように振る舞うべきかを訓えようとしてくれたのだろう。

女ふたりが正装に着替えて戻ってきたとき、父はすでに首すじに毒牙を埋められていた。
声を呑む母に、騒がずにいなさいとたしなめると、息子に続いてそのまま、働き盛りの血潮を一滴余さず吸い取られていった。
吸血鬼は少しのあいだ、絶息した父に掌をあわせて、敬意を表してくれた。

わたくしを先に・・・と娘を庇った母が、次に犠牲となった。
ぼくを弔うために身に着けた漆黒のブラウスを、首すじを咬まれて撥ねた血でびしょ濡れに濡らしながらも、
奥ゆかしい令夫人としての気丈さを失わずに、夫の仇敵を悦ばせるために、華奢な身体に脈打つ血潮を舐め尽くされてゆく。
まだ若さを宿した血潮を誇るように首すじを差し伸べて、漆黒の喪装に潔く、真紅のしぶきを散らしていった。
がっくりと倒れ臥す彼女がかたくなに引き結んだ薄い唇からは、ただ辱められるわけではない――という、女の意地が見てとれた。
「怖くはないから・・・ね」
奈美にひと言笑いかけると、あとは極度の失血に促されるまま自然の摂理に身を任せ、意識を遠のかせてしまった。

「大丈夫よ、女のひとは殺さないの」
喜美枝さんはひとり遺された奈美に弄ぶような視線を投げて、無同情に嗤った。
そして、思わず後じさりをする奈美の背後にまわり込むと、羽交い締めにしておとがいを仰のけさせた。
怯える妹の胸元に、吸血鬼は力を込めて食いつくと、容赦なく奈美の身体からも血をむしり取った。
ぼくは恐怖に震える奈美の手を握りしめて、大丈夫だから、と、慰めるように囁いた。
残りわずかとなった羽根田家の血をがつがつとむさぼる吸血鬼の頬には、
父の、母の、そして奈美の血潮がほとび散り、目も当てられない有り様・・・
それなのにぼくときたら、三人が三人ながら、羽根田家の血を気前よく供給したことに、心から満足を覚えていた。
羽根田家の血は、気に入ってもらえたのだ。
ごくりごくりと生々しく喉を鳴らす音さえもが、彼の満悦を伝えてくるようだった。

まな娘の惨状を知らずにうつ伏している母は、このあと黒のストッキングをチリチリに咬み破られながら再び吸血されて、
漆黒のスカートの奥を我が物顔にまさぐられ、
父のために守り抜いてきた貞節を、一時の劣情を紛らすためだけに辱しめられてしまうのだろう。

ぼくと同じ半吸血鬼に堕ちた父は、やがて息を吹き返して、
淫らな悦びを覚え込まされてしまった妻が、日ごろの淑やかさとは裏腹な淫欲の虜となって、
破れ堕ちた黒のストッキングをひざまで弛ませたまま嬉々として下品な交尾をくり返すのを、ただの男として堪能してしまうのだろう。

そして潔癖な奈美さえもが、濃紺のハイソックスに淫らな唾液を沁み込まされる恥辱になれてしまって、
もう片方の脚までもおずおずと差し伸べていってしまうのだろう。

ぼくにこの縁談をすすめた叔父は、
吸血鬼に気前よく首すじを許した見返りに家庭を崩壊させられて、そうされたことへの歓びに目ざめてしまい、
同じ歓びを兄の家庭にももたらそうとしたに違いない。

いまは喜美枝さんとの新居をかまえ、夫を裏切る新妻の痴態を覗き見してドキドキ、ズキズキと昂りながら、
家族ぐるみで供血できたことを嬉しく誇らしく想いながら、幸せな日常を過ごしている。

ショートショート・だれよりも。

2022年01月19日(Wed) 19:23:29

妻が吸血鬼に犯された。
相手は、妻のまとう都会ふうなワンピース姿に魅せれた、年配の男だった。
道ばたの草むらの中、たっぷりと愛し抜かれたうえ、
ほだされ、感じ、意気投合し、
淫らに浮いたひと刻の愉しみを、植えつけられてしまっていた。
半裸に剥かれた姿で連れまわされて、帰宅したのは夜だった。

母も吸血鬼に犯された。
相手は、奥ゆかしく着つけた着物姿に魅せられた、年若な男だった。
帯をほどかれ下前をはね上げられて、
人通りのある道ばたで犯され抜いて、
いまはなき父への謝罪を口にしながら、
もろ肌もあらわに手を引かれ帰宅したのは夜だった。

相次ぐ女たちのご帰館に、
怒りも忘れてあきれ果てたぼくの前。
ふたりの吸血鬼はにんまり目配せ交わしあい、ぼくに襲いかかる。
彼等はぼくを手際よく引き倒すと、思い思いに咬んできた。
働き盛りの男の生き血は、不幸にも彼らを魅了して・・・
ワイシャツを血で濡らし、靴下を咬み破かれながら、
妻と母とを狂わせた逸物を代わる代わる突き込まれ、
きょうの出来事に対するお礼を言わされていた。
否、心からの悦びをさえ、覚え込まされてしまっていた。
その日、いちばんもてたのは、男であるはずのぼくだった。

魅入られた花嫁の一家

2022年01月09日(Sun) 22:17:47

吸血鬼だと自分から名乗る中年男をまえに、ウキウキと瞳を輝かせる女学生――
そんな妹には、すでに別の魂が宿っている。ぼくはとっさに、そう感じた。

あの男、道行く女学生を待ち伏せては、黒タイツの脚に咬みついていたやつだ。
父は苦々しそうに、そう語った。
自分の娘の求婚者の蔭口をいうものではないと、めずらしく父のことを、たしなめていた。
いつもは気難しいぼくが、父にたしなめられているというのに。
それもそのはず、ぼくの首すじには、いちど血を吸われた者しか視ることのできない咬み痕が、くっきりと着けられていた。
妹がすでに着けられてしまっているそれと、サイズは同じはずだった。

この頃寛大になったね。と。
職場の同僚から、いわれるようになった。
それはそうかもしれない。
勤め帰りに襲われて、首すじを咬まれてがぶがぶと生き血を飲み耽られて、ぼくはすっかり、変わってしまった。
ワイルドな飲みっぷりが、むしょうに気に入ってしまって、
いきなり咬んだことを咎められ神妙に頭を垂れる彼に向って、もう一度逢う約束をしてしまっていた。

彼は、薄い沓下を好んでいた。
だから彼が好んだのは、父のいうように、黒のタイツ ではなくて、黒のストッキングだと、ぼくにはわかっていた。
ちょうどその時分には、年配の男性を中心に、ストッキング地の紳士用ハイソックスが、密かに流行していた。

くるぶしが透けて見えるような靴下を履くなんて、とても恥ずかしいとおもっていたぼくが、
彼の好みを受け容れて、そういうものに脚と通すようになったとき。
きっとぼくは、人間と吸血鬼との境目を、くぐろうとしていたのだろう。
ストッキングを穿いた脚に咬みつくのを好んだ男は、相手が男性であっても同じ満足を味わうのだと知ると、
喉をカラカラにしてぼくの勤め帰りを待ち伏せる彼のため、その種の沓下はもう、必需品に格上げされていた。
道行く女学生が戸惑いながら、制服のスカートの下、薄黒いストッキングを咬み剥がれていくように。
待ち合わせた公園の外套の下で、引き上げたスラックスの下、
ぼくは惜しげもなく、濃紺のハイソックスの脚を吸われ、惜しげもなく咬み破らせていった。
きっと二時間前には、下校途中の妹が、そうされたのだと確信しながら。


お前もだったのか。
父さんも、されちゃったんですね。
親子でそんな会話をする日がくるまんて、もの堅かった若いころには、ついぞ予想だにしていなかった。
父の着けられた痕もまた、ぼくや妹のそれと、同じサイズのはずだった。
そういえば父も、出勤するときには薄い沓下を履くようになっていた。


吸血鬼と人間との縁組は、ど派手な華燭の典で結ばれることになる。
その夜、一族同士の懇親も兼ねたその宴で、
花嫁の母親の貞操は最高の引出物とされ、人間の側の出席者の男性は一人残らず、自分の妻を襲われることになる。
彼等の婚礼は、たったひと組の男女を結び合わせるとは限らなかったのだ。
それと知りながら、父は一人娘が吸血鬼に嫁ぐことを、諒承した。
それと知りながら、母は父の決めたことに、異議を唱えようとはしなかった。
それと知りながら、ぼくさえも、新婚三か月の新妻を連れて参列すると、約束してしまっていた――

吸血鬼が気に入ったのは、妹だけではなかった。
父やぼくの血で食欲を日常的に満たすようになった彼は、母やぼくの妻にまで触手を伸ばそうとしていた。
一家全員が、彼に魅入られてしまったのだ。

おなじ咬み痕を着けられたもの同士の、不思議な連帯で。
父は「さきに、母さんを逢わせるからな」といい、
ぼくは、「そのあと必ず美津江を襲わせるからね」と約束していた。
挙式当日は無礼講で、だれとかけ合わせになるかもわからない状況と聞かされて、
ぼくたちは自分の妻の初めての相手として、一家に婿として迎える彼を選ぶことにしていた。
妹はすでに――とうの昔に処女を捧げ抜いてしまっていた。
その母と兄嫁とが、後を追うのは当然のように感じられた。


そろそろ席が、ざわついてきた。
新郎側の顔色のわるい男性たちの雰囲気が、ぐっとケンアクになってきたのだ。
そろそろ始まるね。
同僚のひとりが、ぼくにそう耳打ちをした。
彼もまた、妻を同伴していた。飢えた吸血鬼に、三十代の人妻の生き血を提供するために。
ぼくももはやと、覚悟を決めた。
父は新郎に耳打ちをして、ホールから出ていった。
後を追うように廊下に出たぼくに、会話が筒抜けになった。

――いよいよだね。
――そうですね。
――家内も、娘も、犯されてしまうのだね。
――エエ、ぼくの新婦と姑は、なによりのご馳走になりますからね。
――やはりその場は、視たくはないものだね。
――お義母さんとわたしの密会は、たっぷり御覧になったくせに、そうなんですね。
――冷やかさないでくれたまえ。
――お義母さん、黒留袖が良くお似合いですね。着乱れたお姿も、うるわしいと思いますよ。
  お義母さんのことは、悪友仲間によく頼んでありますから、あとでこっそりのぞいて愉しみましょう。
――ああ、そうするよ。そのまえに・・・
――わかっています・・・

声は途切れた。
タキシード姿の男ふたりが抱き合って、口づけを交し合っているのが目に入った。
おぞましい、とは、おもわなかった。
同性でもいいじゃないか、と、思っていた。
父は花嫁を寝取られる新郎のために、薄地の紺のハイソックスで、足首を染めていた。
別室へと急ぐふたりを、ぼくはやり過ごした。
新婦が純白のストッキングを咬み破かれる刻、
新郎は新婦の父親の靴下に、唾液をたっぷりしみ込ませ、じわじわと咬み剥いでゆくのだろう。
ぼくはそのあとか・・・
そう。
ぼくもまた、スラックスの下、黒のストッキング地の紳士用ハイソックスで、父と同じようにくるぶしを染めていた。


あとがき
正月にふさわしく(ふさわしくないかも)、めでたい席のお話しなどを。^^
前作の関連作です。

支配された由梨の家庭(いえ) ~妻と娘を吸われた男、吸血鬼に転生する~

2021年11月21日(Sun) 09:14:58

以下は、ある絵画作品のオマージュとして描き始めたものです。
描き始めてかれこれ数日になるうちに、前振りだけが恐ろしく長くなってしまいました。
いちおう、ストーリーのヒロインは、「有馬由梨」という童顔の少女です。
けれどもお話は、彼女が登場する以前、その同級生が吸血されたり、
由梨を狙う吸血鬼に母親が血液の提供を申し出たり、
なかなかヒロインにたどり着きません。^^;
いつものパターンといえば、いえなくもないのですが・・・

かなり長いお話になりましたので、おひまなときにどうぞ。
ほんとうは、「◆」の箇所で一話一話区切ろうかとおもったのですが、
それでは紙面の構成上かえって見づらくなるため、あえて一篇で描き通しました。



◆姪娘への吸血を、その親たちから希まれる  ―有馬由梨の場合―前編

「うちの由梨の血を吸うつもりはないですか?」
妻の弟である有馬から、そんな申し出を受けたのは、
わたしが吸血鬼になってだいぶ経ったころだった。
有馬の娘は、この春中学にあがっていて、五月に十三歳になったばかりだった。
娘の香織が初めて吸血鬼に襲われたのよりも、まだ四つも若かった。
若い、というよりは、稚ない――そんなイメージを持ったのは、
由梨がまだ小さいころから見知っていて、
生まれついての童顔が、ますますわたしのなかで彼女を稚なくみせていたためだった。

親戚の娘を襲って生き血を吸う。
それも、当の娘の父親に誘われて。
そんな趣向に胸をゾクリと騒がせたのは、わたしのいけない習性だった。


変わった少女だった。
まだ小学校四年生の頃から、そら怖ろしいことを口にしていた。
「あたし、吸血鬼に血を吸われてみたい♪」
などと、こともなげに語るのだ。
両親はただ、苦笑しているだけだった。
けれどもすでに、娘をひそかに吸血鬼に嫁入らせてしまったわたしは、
堅く結んだ唇の裏に押し隠した牙を、グググっと昂らせてしまったのだった。
この娘の生き血を勝ち得るのはいったい、だれなのだろう?
わたしたち家族の血を吸い尽くした、あの赤鬼なのだろうか?
――と、そのころはまだ、そう思っていた。


◆赤鬼は、譲ってくれた。

赤鬼は、わたしの娘ばかりか、妻の生き血まで愛飲していた。
ふつうなら一滴余さず吸い尽くしてしまうはずの血液を、
彼女たちの身体のなかに少しずつ留めておいて、
そのために妻も娘も生前と変わらぬ活き活きとした血色を保っていて、
求められるたびに、惜しげもなく、残された生き血を愉しませているのだった。
その妻の弟の娘――
ふたりの血をことのほか愛飲する赤鬼が、由梨に目をつけないはずはない。そう感じていた。


「姪御さんの生き血は、あんたが愉しめばよい」
赤鬼にそういわれたのは、GWが明けたころ、勤めから帰宅したある晩のことだった。
妻は夫婦の寝室で、血を吸い取られて気絶していた。
娘は冬物のセーラー服姿のまま、リビングに大の字になって、伸びていた。
重たい紺のプリーツスカートがめくれ上がって、
父親の目にも眩しい太ももを、さらけ出していた。

こんな恰好をママに見られたら、お行儀悪いと叱られちゃうぞ。

赤鬼がわたしの妻と娘とを、二人ながら餌食にするのを見慣れていたわたしは、
そんなのんきなことを、呟いていた。

娘は首すじから滴る血潮で、セーラー服の襟首を走る、白のラインを染めていた。
もうなん着、汚したことだろう?
卒業してからも時おりセーラー服姿を求められ、その都度娘は女学生の姿に戻り、
そのつどわたしたちは苦笑いをしながら、着替えの制服を求めに、制服店に赴くのだった。

血を吸い終えた母娘をこともなげに足許に転がした赤鬼は、
わたしに姪娘の血を吸えという。
「え?わたしが・・・ですか?」
赤鬼の言を意外に感じて、わたしはいった。
「貴美香と香織の血は、わしのものだ。ぢゃから姪御の血は、山分けにすればよい」
なるほど、そういうことか。
赤鬼に呼び捨てにされた妻も娘も、いまや赤鬼が、独り占めしてしまっていて、
わたしは二人の血を吸うことを、許されていないのだ。
「少しは温情もある――というわけですね?」
少しばかりの皮肉を込めたわたしの応えに、
「あんたにはつくづく、感謝しているよ」
赤鬼はひっそりと嗤うと、意外にもそんな応えをかえしてきた。



◆姪のクラスメイトを、襲ってみた。~由梨の番はもうすぐ~

由梨のクラスメイトである西崎弥生を襲ったのは、その翌月――
由梨が中学にあがった年の6月だった。
「うちの由梨を、入学祝いのしるしに襲って欲しい」
さすがにそのころの義弟はまだ、そんなことは夢にも思わずにいたし、
わたしもまた、一般人としての日常をすごすなか、あえて禁欲していた。
そう、妻と娘の生き血を日常的に餌食にされるだけの、
彼の恥知らずな情欲を埋め合わすため、妻の貞操と娘の純潔を無償で提供するだけの、
一般人の夫・父親として――

セーラー服を着るようになって、少し大人びた由梨のことを、
身近な少女のひとりとして、将来の吸血の対象として、
意識しないわけではなかったけれど、
かりにそんなことになるとしても、せめて夏服になるまでは、ふつうの女の子としての青春を、楽しませてあげたかったのだ。
ちょうど娘が、高2の秋まで、そうしていたように。


西崎弥生は、見ず知らずの少女だった。
たまたま通りかかっただけ、それも娘と同じ学校の制服を着ていただけの理由で、
彼女はわたしの牙を埋められて、うら若い血をむさぼられてしまったのだ。
中高一貫性の私立校であるこの女学校では、だれもが同じ制服を身に帯びていて、
かつて娘の白い夏服姿を、ひそかに眩しく横目で盗み見ていたころのことを、つい思い出してしまったのだった。
そして弥生のことも、娘と同じ夏服の白のセーラー服にそそられて、つい襲ってしまったのだ。

若い娘は、美しい順、若い順に吸血鬼に襲われるといわれるこの街で、
弥生は評判の優等生だった。
吸い尽くすのが惜しかったので、妻と娘のあるじとなったあいつと同じやり口で、
わたしは弥生の体内に彼女の血を少しだけ、留めておいた。
そして時折気が向くと弥生を呼び出して、残りの血を少しずつ、愉しむことにした。
その弥生が由梨と、姉妹のように仲が良いと知ったのは、すこし経ってからのことだった。

20190725018 35
「あたし、弥生ちゃんを襲った吸血鬼に逢ってみたい♪」
由梨がそんな言葉を口にするようになったのを、父親の有馬はさいしょ、苦々しく思い、
けれども由梨の決意が変わらないと知って、
同時にこの街では美しい順、若い順に娘たちが襲われていくことを思い出していた。
ミス〇中であった弥生が襲われたとすると、
自分の娘に順番が回って来るのに、なん回も経たないことだろう。
どうせ襲われてしまうのなら、気心の知れたわたしに――そう思いつめたものらしかった。

彼がまな娘を吸血させることをわたしに持ちかけてきたのは、そんなころのことだった。・

もとよりわたしに、否やはない。
13歳の若い血を、両親公認のうえで吸えるのだ。
またとない機会ではないか。
そしてたしかに、由梨の番は、あと数人というところに迫っていたのも事実だった。



◆吸血鬼の家族は侵蝕されていた――

イヤですわっ。あなたは・・・あなたはっ・・・主人の仇敵ではないですかっ・・・
夫婦の寝室から洩れてくるのは、妻の悲鳴。
これ見よがしに開け放たれたドアの向こう、
妻が黒のストッキングを片脚だけ脱がされて、犯されていた。
いや、すでに・・・
「犯されていた」という表現は、無意味かも知れない。
香織が生き血を吸われ犯された数日後、
香織を淫らに染めた男と対決しようとした妻はみごとに返り討ちにあって、
自らもまた、生き血をたっぷりと提供し、淫らに染め抜かれてしまっていた。
そして、娘が受け容れさせられた股間の一物をも、
潔(きよ)く保ちぬいていた秘奥の処に、ずぶずぶと奥深く、侵入を許してしまっていた。

母親の不倫を横目に見ていた香織は、わたしの傍らで、
すでに聞き慣れてしまった母親のあえぎ声に、フフンと鼻を鳴らして、いった。
「ママったら、パパの命日に限って、黒のストッキングを穿いて遊ぶのよね~」
イタズラっぽく上目遣いでわたしを見つめる彼女の首すじにもまた、
母親につけられたのと同じ歯形が、くっきりと刻印されていた。
そんな香織ももはや、女子大生。
吸血鬼となった正体を隠しながら大学に通い、すでにクラスメイトを何人も、自分の情夫に奪わせていた。
香織の血をよほど気に入った赤鬼は、わたしの血を吸い尽くした後、わたしにこう囁いた。
「母娘ともに気に入った。末永く楽しむことにした」
そのときに総身を走ったマゾヒスティックな歓びを、いまでも忘れることができない。

20210404001 35 05じ05

わたしはそんな香織の血を、吸ったことがない。
同じ部族となった掟のなかでは、
わが娘であるとしても、血を獲たものに断りなく、手を出すわけにはいかないのだった。
しぜん、わたしの関心は、かつて娘が着ていたのと同じ制服を着た少女たちへと向かっていた。


◆娘のまえに、わたくしを・・・ 
 ―役所勤めの夫を持つ倹しい人妻の初不倫・有馬茉莉恵の場合―

その日は由梨の通う中学の近くで、少女をひとり襲ったばかりだった。
下校中の少女は、曲がり角で待ち伏せたわたしに驚いてひと声叫んだけれど、
その叫び声が終わるころにはもう、好色なうめきをもらしていたのだった。
きつめの目許はなぜか愛嬌も帯びていて、少女がそそっかし屋であることを告げていた。
そそっかしい少女は、
自分が吸血のヒロインに選ばれたことを悦ぶことも悲しむこともできぬまま、
ただ泡を食ってわたしに咬まれ、若い血を啜り取られていったのだ。

この娘は娼婦になれる――
わたしは少女の首すじに食いついて、あふれる血潮をむさぼりながら、
初めて牙にかけた獲物のずっしりとした重みを、嬉しく心地よく抱きとめていた。

20190814017 35じ02

満足して立ち去ろうとしたとき。
あの――
と、背後から呼び止められた。
襲った娘の母親に呼び止められたのか?
それなら、返り討ちにするだけだ。
かつてのわたしの娘と妻のように――とおもったら、
背後の声の主は、有馬の妻、茉莉恵だった。

義妹とはいえ、妻の弟の嫁である茉莉恵とは、血縁関係はない。
法事の席でたまに、顔を合わせるだけの、遠い関係だった。
けれどもそのたびに目にする彼女の質素な喪服のすそから伸びた豊かな脛は、
黒のストッキングに艶めかしく蒼白く透けていて、
退屈な法事の席を楽しいものに変えてくれていた。

有馬夫人は、自分のいいたいことを、性急な口調で、矢継ぎ早に口走った。
「いまのお嬢さんの血を、お吸いになりましたね?」
「うちの由梨も、同じようにされてしまうのでしょうか?」
「ならその前に、お願いがあります。
 主人の希望ですのでもはや異存は申しませんが、
 そのまえにわたくしの血を、召し上がってください。
 たいせつな娘の生き血をむざむざと吸われてしまうのです。
 その前に娘に、手本を見せてあげたいの!」
娘も不思議なら、その母親も不思議だった。
むろんわたしに、否やはなかった。

彼女は真っ白なブラウスに、ついぞ見ない緋色のスカートを腰に巻き、
ひざ丈のそのスカートの下の脛は、
わたしが日頃から卑猥な視線を絡みつかせていた、黒のストッキングを穿いていた。
勝負服なのだな――と、わたしは思った。

茉莉恵は一通の書付を差し出した。
それは、吸血鬼になった義兄に娘ばかりか妻までも差し出そうとする義弟からのものだった。


山名の義兄様へ

近々、最愛の娘、由梨の血を愉しんでいただくことになると思います。
わたしが義兄さんに由梨の血を吸わせたいと告げたところ、
家内から、「その前に私の血を吸ってもらうようにしたい」と言われました。
娘の身代わりになって自分の血を与え、それでも足りないとなって初めて、娘に相手をさせたい――というのです。
自分が無傷なまま、むざむざと由梨の血を吸わせたくないのでしょう。

既婚の婦人の血を吸った後、
義兄さんが吸血した女性になにをするのかわたしは知っているし、
家内も薄々察しはつけているはずです。
けれどもどうぞ、わが家の女たちの血は母娘とも、義兄さんに進呈ようと思います。
家内の貞操の危機を思いつつも、いずれどこかの吸血鬼に襲われるなら、
見ず知らずの者などではなく、
他でもない義兄さんに獲させてあげたいという想いは変わりません。
どうぞ家内のことを、よろしくお願いいたします。


できれば犯すのだけは見逃して欲しい――そうも読み取れる文面だった。
けれどもわたしは、吸血鬼としての特権を、
義理の妹である有馬の妻に対して、遠慮なく行使することに決めていた。
なによりも。
法事のたびにわたしが視線を吸いつけると知りながら、
あえて黒のストッキングを脚に通してきた茉莉恵の覚悟が、
義弟の妻を犯したいというわたしの欲求を助長させていた。


茉莉恵は、目のまえでわたしが餌食にした娘の若さを気にしていた。
「若いひとのあとでは、気後れしちゃうけど・・・」
一瞬茉莉恵がみせた逡巡が、わたしの衝動に火をつけた。

妻と娘を同じ吸血鬼に所有される――
そんな境遇が決して悪いものではないことを、義弟に訓えたくなっていた。
わたしは茉莉恵の手を強引に引いた。
茉莉恵はちょっとだけ身体をこわばらせて抵抗したが、それはわたしの衝動をさらに燃え広がらせただけだった。
わたしは茉莉恵を、手近なホテルへと連れ込んでいた。
この街に住む人妻たちが、自分の生き血を求める情夫とひと時を共にする、
そんな淫らなスポットとして、有名なホテルだった。
うらぶれたホテルのロビーの入口を見あげて、
そこがどこなのかを知った茉莉恵は、
再度しり込みをしたけれど、
わたしは強引に彼女を促して、なかに連れ込んだ。
そしてフロントの男性にちらと目配せをすると、
男性は余計な手続きを一切省略して、201号室が空いています、とだけ、いった。
201号室。
そこが茉莉恵を堅実な主婦の世界から、一歩逸脱させる場となった。


有馬は市役所の職員で、妻の茉莉恵、一人娘の由梨との三人暮らしで、
倹(つま)しく暮らしていた。
茉莉恵の両親は、教師だった。
そんなもの堅い家庭にそだったはずなのに、茉莉恵は結婚前に二人の男を体験していた。
「義兄さんは良いですね。姉は男を識らずに処女のまま嫁に行きましたが、
 ぼくのばあいはそうはいきませんでした――」
過去にいちどだけ、有馬はそんなことを囁いてきた。
妻が非処女であったことに、有馬は暗い影を感じていたが、それも娘の成長とともに、忘れ去られた古傷のようなものになっていた。
いままたこの古傷が、酷いかたちで開くことを、わたしは気にかけていた。
どうせなら、心地よい疼きにしてやりたい――
偽善かも知れないが、
罪滅ぼしにならない罪滅ぼしに過ぎないかもしれないが、
わたしは有馬のために、そんなことを考えていた。

この女は教師の娘として育ちながら、結婚前に男のまえでストッキングを脱いだのか。
だからといって茉莉恵を、粗末に扱うつもりはなかった。
結婚後は品行方正な専業主婦として暮らしてきた女だった。
けれども、この親戚の女性に対する礼譲を、
わたしは欠片もとどめず忘れ果てしまうことになる。
ホテルの部屋に入るとわたしは、茉莉恵を突き飛ばすようにして部屋の奥へと追い込んで、
後ろ手でドアのカギを締めると、立ちすくむ茉莉恵に向って、ゆっくりと距離を縮めていった。

壁ぎわまで茉莉恵を追い詰めると、わたしは彼女の首すじに掌をあてがって、
脂の乗り切った素肌をなぞるように撫でまわしながら、いった。
「血を吸ってください――と言いなさい」
茉莉恵は上目遣いでわたしを見た。
瞳には、恐怖の色をありありと帯びている。
けれども彼女はその瞳に力を籠めて、いった。
「わたくしの血を、どうぞお召し上がりになってください」
義務的な口調ではあったが、ハッキリそう言い切ると、目を瞑っておとがいを仰のける。
引きつった白い頬には、十代のころの茉莉恵に惹かれた男も目にしたであろう、女学生のような初々しさが、かすかに輪郭をとどめている。
考えてみれば茉莉恵は、まだ三十代の若さだった。
由梨の素朴な童顔は、この母親譲りなのだと、ふと思った。
わたしは躊躇なく、義弟の嫁の首すじに、牙をズブズブと埋め込んでいった――

茉莉恵は、拍子抜けするほど咬みごたえのない、柔らかな皮膚をしていた。
その滑らかな皮膚の下に脈打つ太い血管を食い破ると、
純白のブラウスを血浸しにしながら、むせぶようにして、女の生き血を飲み耽った。
大人しやかな横顔や、倹(つま)しげな装いに似ず、
茉莉恵の血潮は淫らに甘く、香(かぐわ)しかった。
育ってきた環境や、地味な外見を裏切って、
この女の肉体をめぐる血は淫蕩なのだと、わたしは知った。
辟易するほどの強い芳香が、鼻腔を充たした。

深々と埋めた牙を思い切りよく引き抜くと、
吸い残した血潮をわざと、女の着ているブラウスにほとび散らせた。
そして、手近なところに置かれてあった姿見に向き返らせて、
首すじにつけた咬み痕を、見せつけてやった。
純白のブラウスが真紅の血潮に浸されている惨状に茉莉恵は打ちのめされたように目をそむけたが、
わたしは許さずに、彼女のおとがいを捉えて、姿見のほうへと捻(ね)じ向けた。
「ひどい――」
茉莉恵は静かに呟いた。
ぼう然としているようでもあり、案外冷静でいるような感じでもあった。
「きょうからあんたは、わたしの奴隷だ」
わたしがそう宣言すると、茉莉恵は観念したように目を瞑り、
どうぞ末永くお願いしますと、囁き返していた。

服従を誓った彼女の神妙な面持ちが、
どす黒い衝動を、勁(つよ)く勃起した一物のように、猛り立たせた。
わたしは茉莉恵をベッドに押し倒し、ブラウスを引き剥ぐようにして脱がせると、
スリップとブラジャーの吊り紐を長い爪で断ち切って胸をあらわにし、
乳房を口に含み、乳首を舌で弄び、ひたすら股間を逆立てていく。

茉莉恵は、有馬夫人としてのさいごの義務を果たすかのように、
弱々しい抵抗を放棄していなかった。
けれども、その細い腕はへし折られるようにしてねじ伏せられ、
胸もとやわき腹までも咬まれていくうちに、じょじょに気力を喪っていった。
黒のパンストに包まれた脛や太ももを愉しみ始めたころにはもう、
ベッドの上の相手を満足させるために、
唇を這わせやすいように脚をくねらせてわたしに吸わせ、辱めさせ、咬み破らせて、
さいごには蜘蛛の巣のように破かれて、チリチリに剥ぎ堕とされてしまうのだった。

妻と娘の血液を提供してくれた義弟の密かな願いも虚しく、
わたしは茉莉恵を、自分の情婦に染め変えていた。

「わたしの血、美味しかったですか?」
おっかなびっくり、というていで、彼女が問いを発したときにはすでに、
股間の関門を6回も、貫通してしまったころだった。
彼女の股ぐらは熱く、
猛り立った一物をくるみ込むように迎え入れた膣は、
ぬるりとしたうわぐすりのような粘液にしっとりとコーティングされているようで、
わたしの一物と密着するように締めつけてきた。
彼女の腕はまだ抵抗を止めていなかったし、顔は背け目は瞑られたままだったけれども、
熱く爛れた秘所はむしろ、侵入してきた熱い鎌首を、積極的に迎え入れてくるのだった。
やはりこの女は、淫乱なのだ。
夫を持っても、ほかの男を求めてやまないのだ。
わたしはそう、確信した。

「有馬一人では、足りなかったんじゃないのか」
彼女の問いに応えず、わたしはいった。
茉莉恵は応えを避けるように目をそむけたが、
こちらに向けた横顔は、無言の肯定を伝えてきた。
「あんたの血は、美味しかった」
わたしの答えに、茉莉恵はほっとしたように身体の力を抜いた。
「では、きっと、由梨の血も美味しく召し上げるんでしょうね?」
娘の名を口にしたときだけ、茉莉恵の顔は母親のそれに戻っていた。
「娘さんからも、たっぷり頂戴するからね」
わたしはいった。
どうぞお願いします――と、茉莉恵はこたえた。
自分を征服した吸血鬼に、まな娘の血を与える。
そんなおぞましいはずの約束を、彼女はあえて誓ってくれたのだった。

「口では吸われてみたいとか申しておりますけれど、娘は怖がりなんです。
 あまり苛めないであげてくださいね」
そういう茉莉恵もまた、少しだけ涙ぐんでいる。
やはり怖かったのだろう。
そういえば娘も、さいしょに咬まれた夜は泣いたという。
妻もまた、娘の不義を咎めに行った返り討ちに初めて吸われたとき、
やはり涙ぐんだという。
初体験のときの涙というものは、女には共通のものなのだろうか。
「吸血鬼に血を吸われてみたい」
そんな異常な願望を告げる由梨も、初めてわたしに求められたら、やはり泣くのだろうか。

「乗りかかった舟です。あとはどうぞ、お好きなだけなさってください。
 ――仲良くいたしましょう」
有馬の妻は、このあとのしつような情事を、明らかに予期していた。
愛妻を襲わせてくれた有馬が、妻の貞操喪失を予期し、いくらかの逡巡を文面にあらわしていたのとは対照的に、
妻のほうは意外なくらい、つきつけられた運命に対して前向きに向き合っていた。
「ああもちろんだ、このままでは帰さない。というか、明日の朝まで帰さない」
わたしはそういって茉莉恵を抱き寄せると、茉莉恵は自分のほうからキスをねだった。
四十前の人妻の活き活きと生温かい呼気は、
冷えて干からびた唇には、眩暈のするほどの刺激だった。
「有馬を裏切っちゃって、いいのか?それともこれからは、好んで裏切るのか?」
そんな訊かずもがなのことを問うたわたしに、茉莉恵は囁き返してくる。
「“毒を食らわば皿まで”って、言いますでしょ?」
義弟の妻は、わたしの腕のなかで、ひっそりと笑っている。


◆不倫の交わりを結ぶために出かけた妻を、迎え入れて

6月の朝風は、一年のなかでもっとも清々しい。
けれども陽のあがらない刻限には、まだ外の冷気は服を通してしみ込んでくるほどで、
まだまだ油断のならない鋭さを帯びている。
その薄暗がりのなか、妻の茉莉恵はホテルから戻ってきた。

初めて体験する吸血鬼との不倫から、無事生還したのだ。
もとより、妻の生命を心配する必要はなかった。
妻の生き血を提供した相手の吸血鬼は、ほかならぬ姉の夫である山名なのだから。
有馬家は、山名家とどうよう、この街では知られた名家だった。
なので、その家の子女の恥は、あまり公にすることは好ましくなかった。
わたしはしがない市役所の一職員に過ぎなかったけれども、
その程度の節度は、やはり親戚一同からも、厳しく求められていたのだった。

茉莉恵は、一人ではなかった。
なんと、自分を犯した義兄に伴われての帰宅だった。
「茉莉恵への想いを成就させていただいた。
 お礼をひと言言いたくて、奥さんを送りがてら来たのだよ」
わたしにそう告げる義兄は、晴れ晴れとした表情をしていた。
憎たらしいほど、スッキリとした顔をしていた。

晴れ晴れと笑う義兄の傍らで小さくなっている茉莉恵は、気の毒な有様になっていた。
家から着て行った純白のブラウスはべっとりとした血に浸されていたし、
緋色のひざ丈スカートから覗く脛を包む黒のストッキングは、
みるかげもなく剥ぎ堕とされて、むざんな裂け目をいく筋も走らせている。

吸血鬼との逢瀬がいかに激しかったのかを見せつけられて、
わたしは胸の高鳴りを抑えかねていた。
「家内にはご満足いただいたようですね」
わたしがいうと、山名は、
「茉莉恵は気に入った。わたしの愛人第一号にしたいと思うが、よろしいかな」
とヌケヌケと訊いてきた。
わたしは茉莉恵を盗み見るように、見た。
茉莉恵は謝罪するような目で、わたしを見返した。
なにを懇願しているのか、痛いほど伝わってきた。
「エエ、もちろんです。第一号なんて、嬉しい名誉だと思います」
わたしには、茉莉恵の望む返事をするのが、精いっぱいだった。

そして一言、茉莉恵の足許を見つめながら、いった。
「由梨が学校に履いていくハイソックスも、こんなふうにされちゃうんですかね――」
茉莉恵は少しだけ母親の自覚を取り戻したものか、気づかわし気に情夫を見あげる。
「ああもちろんだ。
 由梨ちゃんのハイソックスを咬み破るのが、いまから楽しみでならないよ」
山名はやはり、ヌケヌケとこたえた。
わたしも、応えるしかなかった。
「十三年間たいせつに育てたまな娘です。お手柔らかに頼みますよ・・・」

「すまないね」
蒼白い顔になり果てた義兄は、そのときだけ、生前のころの顔つきに戻っていた。
そう、彼もまた、娘と最愛の妻とを、吸血鬼に喰われた過去を持っている。
「あとから知らされてたいそう驚いたけれど、
 いまではうちの娘と家内とを選んでくれたことを誇りに思っているのだ」
家族を襲われた夫としてそう伝えてきた山名はきっと、
わたしにも同じ応対を期待しているのだろう。

――家内と娘とを、末永くお願いします。
わたしがそういうと、山名も応じた。
茉莉恵もまた、山名に抱かれる直前、わたしとまったくおなじことを口にしたという。
夫婦は似るものか。
茉莉恵はいつの間にかわたしの傍らに座を移して、照れたように笑っている。
わたしも、照れくさく笑い返した。
犯された妻と、妻を犯された夫――
けれども、可愛い娘に恵まれた、幸せな夫婦でもあるし、
妻の情夫もわたしたち夫婦がそうありつづけるあることを望んでいる。

そういえば、妻が嫁入り前からほかの男を識っていると気づいたのは、新婚当初のことだった。
そのときは、心の奥に毒液を流し込まれたような嫌な気分にしかならなかったが、
心の奥底に澱んだ毒液は、年を経て確実に、豊かに熟成されていた。
わたしの妻が、有馬夫人のまま、義兄の愛人になろうとしているというのに。
わたしは妻の不義を認め、むしろ促そうとさえしてしまっている――


◆抵抗という名の礼儀作法 ―さいごまで“抵抗”した妻―

妻が吸血鬼に犯された。
相手は、わたしの姉婿だった。
わたしは姉と妻をふたりながら、同じ男に犯されたのだ。

義兄妹とはいえ、血のつながっていない関係だから、恋愛が成り立ってもおかしくなかった。
妻は終始、弱々しく抵抗を続けていたらしい。
そうすることで、わたしへの操を立てようとしたのだろう。
「抵抗したけれども犯されてしまった」
きっとそういう経緯を望んだに違いない。
夫以外の男性を自分から受け容れた――という汚名を被りたくなかったから。

姉婿に伴われて帰宅した妻の報告を受けたわたしは、
「よくがんばったね」
と言ってやった。
妻は報われたような顔をして、緊張が解けたのか、初めて涙ぐんだ。

「きょうのところは、お引き取り下さい」
とお願いをした姉婿のため、わたしは次の日、妻を姉婿のもとに送り出していた。
妻はわたしのための貞操を弔うため――と、黒のストッキングを穿いていた。
けれどもじっさいには、それは姉婿の好みに合わせたに過ぎなかった。

わたしもまた、
「親戚のよしみで、義兄さんに週一回は、お前の血を差し上げるように」
と、妻に告げた。
「週一回は、義兄さんとセックスしてきなさい」
とは、名家の当主として、口が裂けてもいえなかったが、
せめて茉莉恵をあまり後ろめたくない気分で送り出してやろうと思い、そう告げたのだ。

妻は弱々しく抵抗することで人妻としての体面を守り、
義兄の需(もと)めを受け容れることで、親戚としての義務を果たした。
(妻の生き血を提供することは、わが家にとってもはや、義務になっていたのだ)
わたしは妻に献血を命じることにより、夫としての体面を保ち、姉婿への義理を尽くした。


吸血鬼の親類にまな娘をゆだねて、うら若い血液を摂取させる。



◆大好きなおじ様に、うら若い血を捧げて ―有馬由梨の場合― 後編

私の夢      四年四組 有馬由梨
私の将来の夢は、吸血鬼にかまれて血を吸われることです。
首すじをかまれて、ブラウスやスカートをぬらしてしまいながら、
ごくごくと強く強く生き血を吸われる想像をしては、ドキドキしてしまっています。
とても変な想像ですが、年頃になったら早く吸われてみたいって、思っています。
お相手の吸血鬼は、若くてハンサムな人とかではなくて、
むしろしわくちゃに老いさらばえたお年寄りだったりしていて、
若い女の生き血で干からびた身体をうるおしたがっていて、
私はそれにこたえてあげる。
そんなことを夢見ています。
できれば身近なおじ様で、由梨に優しくしてような人に、初めての血をあげたいです。

小学校の担任から返された娘の作文を見て、親たちはずいぶんびっくりした。
たしかにこの街では吸血鬼がはびこっていて、
大勢の住人たちが彼らの立場を理解して献血に協力している――
平穏な日常に潜んだそんな裏面もたしかにあるのだけれど、
小学校四年生にしてこんな作文を夢に綴る少女は、さすがにめったにいなかったのだ。
「由梨ちゃんは将来、心強いお嫁さん候補だね」
校長先生がそういって由梨を褒めたのは、
血を吸わせる生徒がさすがに少ない現状を反映したもので、
かれもまた、血液が不足がちのこの街を運営する立場にあって、
彼らを満足させるのに足りないぶんを、
妻や娘の血で補うことを余儀なくされていたりするのだった。

20190720002 35

「学校の生徒さんのなかから、吸血鬼に血液を提供してくれる生徒さんを6~7人、ご紹介いただけませんか?生徒さんが少ないようなら、生徒さんのご家族や教職員さんでもお願いします」
いつもそんな要請をしてくる市役所職員のまえ、
街の名門校であるU女学校の校長は、あからさまに眉をひそめる。

それが新入生を迎えた後の、毎年の年中行事になっていた。

ところが今回は、要請された生徒の数が、5~6人、と、いつもの年より1人少なかった。
たった一人でも、それは掛け替えのない娘さんの運命である。
供血可能な生徒を募るため、校長や教職員は連れだって家庭訪問をくり返し、
まな娘を抱えた親たちに、若い血液を提供することへの理解を求めなければならないのだ。

きょう訪れた職員は有馬といい、街でも指折りの名家の出であった。
たしか一人娘が今年、本校に入学したはずである。
「おや、いつもより一名少ないのですね。吸血鬼が一人いなくなったのですか?」
校長は訊いた。
吸血鬼一人を養うのに、少なくとも数名の女子生徒が必要なはず。
彼らが一人減れば、もしかするとその年に学園の提供する女子生徒は、一人も要らなくなるくらいの出来事なのだ。
「イエ、吸血鬼は増えています。でも、良家の子女を預かる名門のU女学校さんにお願いする生徒さんの数を、安易に増やすわけには参りませんし・・・」
では、どうして?
重ねて問う校長に、有馬職員は告げた――
減った分の一名は、うちの娘が加わります と。



あとがき
うーん・・・
尻切れトンボですね。(^^ゞ
どういうわけか、ここで構想がぴたりと止まってしまったのです。(-_-;)
かんじんのヒロイン・有馬由梨がほとんど出てこない、「看板に偽りあり」のお話しでした。。(-_-;)
由梨が吸血される本編は、画像で構成することを検討しております。
それまでの間、今しばらくご猶予を。m(__)m


後記
このお話をあっぷした後、霧夜様がお話にマッチした画像をご提供くださいました。
西崎弥生が襲われている画、母親の不倫を揶揄する香織の画、吸血鬼に襲われる夢を語る由梨の画です。
香織の画像はあえて絵詞なしで頂戴したので、柏木が入れてみました。
あと、ちせつな血の痕をつけたのも、柏木です。^^;

あり得ない妄想のはずなのに、
りあるな画像があると、お話のイメージがいっそう、リアリティを増すようです。
霧夜さま、ありがとうございました☆
(2021.11.23)

有馬由梨(14)を襲った吸血鬼のひとりごと

2021年11月10日(Wed) 21:32:56

その昔わたしは、明治以来の旧家である山名家の当主だった。
当地のミスコンテストに選ばれた女を妻とし、母親似の可愛い娘に恵まれた、
この辺りでは最も恵まれた男として通っていた。
しかしその境遇が、たんにひとりの男に快楽をもたらすために過ぎなかったと知ったのは、
わたしが破滅する直前のことだった――

このあたりに吸血鬼が出没するようになったと知ったとき、
すでにわたしの運命は定まっていた。
吸血鬼は当地の女たちを、若い順、美しい順に襲っていったので、
わたしの娘が、そして妻が、だれよりも早く、獲物として狙われてしまったからだ。

真っ先に娘が吸われ、処女を奪われた。
それは地元では旧家として通っている山名家としては、極めて不名誉なことだった。
不義をはたらいた娘を打ち果たすとまで息巻いた妻はしかし、
相手が吸血鬼とも知らずに娘を辱めた男と対決して、
――ただの獲物として狩られてしまった。
妻は娘と同様首すじを咬まれ、貞女の血を啜り取られて、
その場で娘婿の情婦(おんな)にされてしまった。

わたしのつゆ知らぬ間に、
誇り高き山名家の子女は、その身をめぐる生き血を母娘ながら愉しまれ、
吸血鬼の奴隷と化してしまったのである。

事情を知ったわたしは、妻が吸血鬼と逢う現場を抑えようとした。
しかしそこで、ふたりがしんそこ愛し合うところを目にする羽目になってしまった。
不倫の床で行われる、息もぴったりと合った愛の儀式をまえにわたしは、
妻を取り戻すことがもはや不可能であることを実感した。
そして、ふたりの行為が済むと夫婦の寝室に入っていき、
妻には永年操を守り抜いたことを讃えて、
今後は恋人と想いのままに振る舞うようにと告げた。
そして妻と娘の仇敵であるはずの吸血鬼には、
ふたりがわたしの大切な家族であることを告げ、
そのうえで改めて、娘の純潔と妻の貞操を貴殿に無償で進呈しようと誓っていた――

男は自分のかち得た勝利を確実なものにするための、最善の手段をとった。
情婦たちの父であり夫であるわたしを捉えて首すじを咬んで、
わたしの体内を数十年温め続けてきた血液を、一滴余さず吸い取ったのだ。
首すじを咬まれながらもわたしは、
娘のみならず妻までもが、どうしていともたやすく堕ちたのかを納得した。
それほどまでに、男のわたしにとってさえも、彼の牙は甘美な誘惑に満ちていたのだ。

妻と娘は、わたしが理解ある行動をとったことに心から感謝して、
自分たちの血を吸い取った吸血鬼と、一生添い遂げると誓ってくれた。
そして、わたしを弔う夜には母娘ながら、
黒のストッキングに装った脛を喪服のすそからさらけ出し、
父を、夫を弔うために脚に通した薄衣を、吸血鬼の淫らな劣情にゆだねて、
唾液まみれにされて、
惜しげもなく咬み破らせ、剥ぎ取らせていった――

以来わたしは、妻と娘を奴隷にした男と同じ姿になって、
夜な夜な若い娘を狙って夜道を出没するようになった。
――いただいたお嬢さんと同じ年恰好の娘たちを、自由に襲えるようにしてあげますよ。
男はそういって、わたしの好意に報いてくれたのだ。
妻が犯されるのを目の当たりにした夜、
わたしが不貞の行為をさいごまで遂げさせてやったことを、
彼は彼なりに感謝していたに違いない。

いまは、若い娘の学校帰りを待ち伏せしては、そのうら若い生き血を愉しむ身。
嫁入り前の娘を狙い、妻を犯したあの男を蔑むことなど、できようはずもないのだった。


【追記・2021.11.11】
盟友・霧夜さまが、またもや画像を寄贈してくださいました!
襲われる山名夫人の哀しげな表情、きちんと着こなしたスーツに滴り落ちる、まだうら若さを帯びた血潮。
このあとどんなことになってしまうのか、陰翳の目立つ絵だけに、想像力をかきたてられます。

娘のみならず妻までも狩られながら、そのことを追認した青鬼さん。
こんどは通りがかりの少女に迫る光景は、ちょっと芝居がかってユーモラスですが、
襲われる三秒前の少女の、しれっとした表情もまた、危機的状況とのギャップがあって楽しい一枚です。

本文ともども、どうぞお楽しみくださいませ。

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父さんの立場。

2021年07月13日(Tue) 07:14:49

まだ、子供のころのこと。
ぼくの一家は吸血鬼に迫られて、
「子供の血は新鮮だ」といって、ぼくは真っ先に狙われて。
ねずみ色のハイソックスに赤い飛沫を撥ねかせながら、生き血をがぶ飲みされていた。
「人妻の生き血はなまめかしい」といって、母さんはその次に狙われて、
ねずみ色のストッキングをチリチリに破かれながら、肉づきのよい脚を飢えた牙にさらしつづけていた。

めまいのするほどの貧血にあえぎながら、ふと思った。
父さんは、どんなつもりでいるのだろうと。
息子も、最愛の妻も吸血鬼に襲われて、生き血を吸い取られてしまって。
生命は散らさずに済んだものの、母さんは吸血鬼にスカートをめくられて、奴隷のように弄ばれていた。

ブラウスをはだけ、肌着を覗かせて、ストッキングをむしり取られながら。
母さんはウンウンと苦しげに唸り、それでも強引に重ね合わされた腰と、自分の腰とを、うごきを重ねていってしまった。
なにをされているのかは、子供心にも薄々察しがついたけど。
母さんが吸血鬼の忠実な妻にされてしまうのを、ぼくはドキドキしながら見届けていった。
吸血鬼が目の色を変えた乳房の持ち主もまた、吸血鬼がひとしきり自分の肉体に夢中になってしまったことを、誇りに思っているようだった。

父さんは素知らぬ顔で、身近に屋移りしてきた吸血鬼と交流を持って、
時にはさしで、飲みに行く間柄になっていた。
そして、酔いつぶれた父さんを自分のねぐらに寝かせると、
吸血鬼は母さんのストッキングとぼくのハイソックスを玩びに、再びわが家へと取って返すのだった。


時が移った。
吸血鬼には、ぼくより少し年下の息子がいた。
その子が色気づくと、母さんが筆おろしの相手をさせられた。
もちろん父さんには、黙ってのことだったはず。
吸血鬼の息子の成人祝いに加わった父さんは、
自分の愛妻の貞操が引出物だったのだと、気づいていなかったのだろうか?

やがてその息子は、結婚を控えたぼくに、未来の花嫁を紹介してほしいとねだった。
否やはなかった。
母さんまでもが、処女の生き血は貴重なんだから、あなたお捧げしなさいと、ぼくに説教するしまつだった。
挙式の前夜。
彼女は夢見心地で首すじを吸われ、ウェディングドレスの下に着けるはずだった白のストッキングをむしり取られながら、
初めての血を股間からも、洩らしていった。

新妻は吸血鬼との恋に夢中になって、
自分がヒロインの不倫ドラマを、それは楽しげに演じつづけた。
ぼくの息子も、娘までも、吸血鬼の息子の手で同じようにされたとき。
過去の問いがぼくへの問いとして、よみがえった。
――父さんは、どんな想いでいるんだろう?

いま、ぼくの隣にいる彼は、
だれのものか分からない血を滴らせて、
ほくそ笑みながら、ぼくがペンをすすめるのを読み取っている。
きっとさいごにこう書くだろうと彼が確信していることを、ぼくはやっぱり書いてしまう。
――家族ぐるみで血を愉しまれる歓びに、目覚めてしまっているのだ と。

文集

2021年03月12日(Fri) 08:00:15

春先に親友から、分厚い文集が送られてきた。
内容は、去年の夏旅先で知り合った吸血鬼と、親友夫妻との交情の記録だった。

迷い込んだ山中で、さいしょに親友が血を吸われ、
朦朧となった目の前で奥さんが草むらに組み敷かれ、首すじを咬まれながら犯されたのをなれ初めに、
やがて夫婦と吸血鬼とは打ち解けあって、親友は妻の不貞を許し、
愛妻の貞操喪失記念にと、ストッキング一枚に剥かれた妻が愛し抜かれるいちぶしじゅうを、
ひと晩がかりで目の当たりにするという体験をしたという。

そんな田舎にストッキングなどを持って行ったのは、
さらにそのまた知人の誘いで、当地の婚礼に出るためだった。
婚礼があるというのは、嘘ではなかった。
自分の妻と吸血鬼との婚礼であると気づくのに、そう時間はかからなかったから。

出会った吸血鬼は、ストッキングフェチだった。
喪服に黒のストッキングを身に着けていれば、年配のご婦人にまで言い寄るようなやつだった。
まして、まだ四十代の親友の奥さんの、ストッキングに透きとおる足許が狙われたのはむしろ当然だったのだと、親友は文集のなかで書いていた。
手持ちのストッキング二、三足では愉しませきれないと、奥さんは感じた。
家に帰ればこじゃれた洋服を、奥さんはなん着も持っているのにと、親友も感じた。
彼らが都会の自宅に吸血鬼を迎え入れたのは、これもとうぜんのなり行きだった。

こんな文集が送られてきた理由は、ひとつしかなかった。
文集を持ってきたのは、ほかならぬ吸血鬼当人だったから。
あまり度が過ぎると健康を損ねるから――という理由で、彼は夫妻といちど距離を置くことにしたのだ。
その間の血液の供給先として選ばれたのが、わたしの家だった。
わたしにはまだ三十代の妻、この春中学にあがる娘、それに還暦前の母がいた。

三人の女たちが、どんなふうにしてスカートをめくられたのか、わたしは文集に書いた。
妻や娘のフレッシュな生き血だけではなく、
ふだんでもストッキングを脚に通す習慣を持った母さえもが、すっかり吸血鬼のお気に召していた。
長年連れ添った妻がストッキングをひざまで降ろされて、じゅうたんのうえを転げまわるのを、父までもが好奇心を苦笑に押し隠してひっそりと覗き見していた。

この文集を、弟のところに送ってやろう。
彼はまだ、新婚だ。
吸血鬼はきっと、満足するだろう。

二人の美しい人妻

2021年03月07日(Sun) 09:15:08

妻が吸血鬼に襲われたということは、
吸血鬼にとっては、貴重な生き血の供給先を得たということを意味する――
夫にとっては災難でも、彼らにとっては救いなのだ。

妻と母とが、吸血鬼の兄弟に狙われた。
最初に襲われたのは、妻だった。
相手の吸血鬼は、わたしの親友だった。
親友が獲物をゲットしたときいたら、きみは祝福してくれるかね?
そういわれてわたしは、とてもフクザツだった。
バーのカウンター席、彼の向こう側には妻が座り、
照れくさそうに申し訳なさそうに、こちらをみて笑っている。
その首すじにはくっきりと、ふたつの咬み痕が刻印されていた。
わたしはふたりの濃厚なキスを見せつけられて、
そのあとふたりがホテルへと足を向けるのを、咎めることさえ忘れてぼう然と見送った。

良き悪友である彼は、妻の血を吸い尽くすことはしなかった。
彼はわたしがするように、いやもっとしつように妻を愛し抜き、
気の強い妻はひと晩じゅうベッドのうえ、男の腕の中、
「奴隷になるわ、奴隷になるわ」
と、誓い続けていたという。
結局わたしは悪友の欲望成就を祝い、ふたりの関係を受け容れていた。


嫁の不貞を咎めだてしない姑はこの世にいない。
母の場合もそうだった。
けれども、たまたま不貞の現場を抑えた彼女を襲ったのは、
妻の不貞相手の兄だった。
兄貴は兄貴らしい貫録で母をあしらい、首すじに咬みついた。
無抵抗の婦人の悲痛なうめき声を、妻は楽しそうに聞き入っていたという。

母を襲った吸血鬼はストッキングフェチで、正装したご婦人を見かけると、
相手が五十六十であっても、つややかなストッキングで装われた足許に
好色な視線を投げかけてゆくという。
母は彼の期待通り、よそ行きのタイトスカートの下、薄地のストッキングを脚に通していた。
奥ゆかしく装った肌色のストッキングをチリチリと咬み破かれながら、
豊かなふくらはぎの肉づきを愉しまれながら、母は吸血されていった。

妻の不貞相手の兄貴は、兄貴らしい貫録で父と話をつけて、
父の名誉を守る代わりに母と交際する権利を勝ち得ていた。
彼の好みに合わせて黒のストッキングを脚に通すようになった母は、
神妙な顔つきで父に三つ指を突いて許しを請うと、
その目の前で情婦との濃厚なキスを交し合ったという。

理解のある夫ふたりは、ほろ苦い想いを胸に妻たちの服従の儀式を目の当たりにしながらも、
妻と情夫との交際を快く受け容れた。

こうして吸血鬼の兄弟は、二人の美しい人妻を、めでたくゲットしたのだった。

「一家覚醒」。

2021年02月17日(Wed) 19:27:10

1.狙われた若い兄妹
木島貴志はベッドのうえに組み伏せられながら、
やめて、もうやめて・・・と、女の子のように懇願していた。
布団ごしに覆いかぶさってくる吸血鬼は、貴志の首すじに食いついていて、
若々しい皮膚に深々とめり込んだ牙を容易には引き抜こうとしない。
とろり、とろりと血液を緩慢に吸い出されてゆく感覚に、貴志は怖気を振るい身をひきつらせた。
まるで新婚初夜の花嫁のように、貴志は初めての刻をすごしたのだった。

木島清香も、兄の勉強部屋のすぐ隣の寝室で、吸血鬼に迫られて、父親の血に染まったままの牙を突き立てられていった。
壁一枚へだてた隣同士の部屋。
若い兄妹は同じ両親から分け合った血を、啜り取られていったのだった。


2.貴志の場合
貴志には、隣町の中学校にいたときの彼女がいた。
彼女の名前は、飯高菜々恵といった。
貴志は、彼を支配した吸血鬼に、菜々恵の血を吸わせたいと願った。
男の場合、いちど血を吸われてしまうと、自分の身近な女性の生き血を愉しませてやりたくてたまらなくなってしまうのだ。
げんに、かれの父親がよき模範を示しているではないか。
そして、木島家のなかで処女の生き血の芳香を漂わせたのは、貴志の妹だけではなくなるのに、そう日数はかからなかった。


立膝をした白のハイソックスの両脚が内またになって、
引きつったつま先立ちになっている。
仰向けになって抑えつけられた少女は、その姿勢のまま首すじを咬まれてしまっていた。
キュウキュウというひとをこばかにしたような、あからさまな吸血の音。
少女は悩ましげに、羞ずかしげに、白い歯をみせながら悩乱している。

彼氏にすすめられるまま吸血鬼と対面した飯高菜々恵は、、
若い女の血に飢えた吸血鬼に迫られると、
ためらいながらもブラウスをくつろげて、
健康そうな素肌に好色な牙を刺し込まれ、
息を弾ませながら、処女の生き血を捧げ抜いていた。

「あんたも少し、吸うがよい」
吸血鬼に促されるままに、貴志は菜々恵の血を吸った。
菜々恵も懸命に、こたえていった。
「こんど、母を紹介するわ」
吸い取られた血潮の残滓を頬にべっとりと光らせたまま、菜々恵はいった。
「こんなにねんじゅうブラウスやハイソックスを汚していたら、すぐにばれてしまうもの」

吸血鬼が制服フェチだということに、貴志はすぐに気づいていた。
自分自身がそうだったから、同好の男のやることに察しがついたのだ。
その上、貴志の血を吸った吸血鬼は、同性愛のケがあった。
貴志の血を吸うときに、必要以上に肌をすり合わせ、呼吸も荒くのしかかってきたのだ。
体内の血のほとんどを吸い尽くされたあと、貴志の股間は生温かい粘液で濡れていた。
吸血でエクスタシーを感じる彼らに、男女の別はないのかもしれないと、貴志はおもった。

貴志は少しでも菜々恵を守ろうとして、菜々恵から彼女の制服を借りると、
呼び出された菜々恵の代わりに出かけて行って、身代わりになって血を吸われた。
注文通り菜々恵が現れないことに、吸血鬼はほとんど異を唱えなかった。
そして三度めに貴志が吸血鬼の誘いに応じたとき、
貴志は初めて股間を深々と抉られてしまう。
スカートの裏地を精液まみれにされながら犯され抜いたあと、
いっしょに連れだってやって来た菜々恵に吸血鬼の影が覆いかぶさるのを、どうすることもできなかった。
股間にじわじわと残る快感の余韻に浸る彼は、
彼女がいかされてしまっても、納得してしまっていた。


3.清香の場合
校舎の裏手で、木島清香は牙をひらめかせ、同じクラスの男子生徒・川黒佳哉に迫っていった。
川黒佳哉もこの街にきて、まだ間もなかった。
清香は自分を襲った吸血鬼にそそのかされるまま、まだ事情をよく呑み込んでいない佳哉を、毒牙にかけることにしたのだった。
生き血を吸い取られている最中は、それをおぞましい行為だと思い込んでいた。
けれどもいまはちがった。
自分の体内から吸い取られた血を口移しで飲まされた清香は、美味しいと心から感じた。
早くも、彼女のなかに吸血鬼の魂が芽生えていたのだ。
彼女の体内の血はほとんど涸れるまで吸い尽くされてしまったので、
若い血が欲しかったら、だれかを襲うしかなかったのである。
そうすることで、自分を支配した吸血鬼にも、若い血を分けてあげられると思ったのだ。
ククク・・・ッ
清香はひとのわるい含み笑いを泛べると、立ちすくむ佳哉に獣のように飛びかかった。
揉み合いはすぐにおわった。
清香の口許に生え初めた牙が、少年の首すじに突き立ったのだ。
佳哉は身体が麻痺したように動きを止めて、自分の血がチュウチュウと吸い上げられる音に聞き入っていた。

「あなたのお母さんを紹介して」
清香は佳哉にいった。
佳哉は無表情に頷いていた。


二日後。
川黒家ではふすま一枚隔てて、母親と息子がそれぞれ、吸血鬼と清香を相手に、血を吸い取られていた。
佳哉の父親は出勤していて留守だった。
今ごろ佳哉の父親は、吸血鬼と示し合わせた上司から夜中までの残業を命じられているはずだった。
佳哉の母親は吸血鬼に凌辱されて気を失った。
四十女の貞操くずしに熱中した吸血鬼は、失血で朦朧となっている佳哉のまえで、
こんどは清香に襲いかかった。
学校帰りの清香は、セーラー服を着ていた。
佳哉は、ここの中学校のセーラー服がどうして前開きになっているのかを、初めて知った。
淡いピンク色をした清香の乳首を舐っているあいだ、吸血鬼は牙を引っ込めていた。
そして、同級生の女子の吸血シーンに見入っている佳哉のまえで、清香の処女を奪った。
「ついでみたい」
口を尖らせる清香に吸血鬼は悪びれず、「そう、ついでだな」といった。
それでも、ついでにしては濃厚過ぎる愛撫が、初心な少女を夢中にさせた。
「ああ、どうにかなっちゃいそう!」
清香は声をあげて喘ぎながら、絶息した。
吸血を交えての濃厚な交接に、これまた気絶してしまったのである。

吸血鬼は佳哉にいった。
「おい、ガキ。よぅく聞け。これからはわしがこの家のあるじだ。
 お前ぇはわしがお前の母さんを欲しがった時にはいつでも手引きするんだ。
 それから、この娘が処女を喪ったのはお前のせいだ。
 責任を取ってこの娘と結婚しろ」
無茶苦茶なことを言いながら吸血鬼は、清香のあごをつかまえて仰のけると、素直な寝顔を覗き込んでいった。
「どうだ、可愛いだろう?わしはお前ぇに、可愛い嫁御を世話した恩人だ。
 そう思ってよく仕えるんだぞ」
言いながら吸血鬼は、自分の言い草に欲情してしまったらしい。
半裸に剥いた少女の身体にふたたび身を重ねると、
唯一身に着けたスカートの裏地を濡らしながら、びゅうびゅうと大量の射精をつづけた。
少年が「心からお仕えします」といったのを、くすぐったそうに横っ面で聞いていた。


5.奥様貞操公開!娘も抱けます。
木島夫人の幸枝の貞操が堂々と公開されたのは、それから一週間後のことだった。
街じゅうに貼り出されるタウン誌にも、その報らせが載った。
「奥様貞操公開!18日夜は転入したての木島邸の令夫人!娘も抱けます!まだ13歳ですが、教え込まれてすっかり達者になりました!母娘双方と睦むことも可能!許された刻限はいつも通り、夜明けまで!」
参加希望者は、すでに自分の妻や娘を吸血鬼に襲われ侵された男ばかり。それでも街じゅう合わせれば、かなりの人数になるはずだった。
その晩、木島家には、夫の孝一と息子の貴志が嫉妬にうなるほど、大勢の男たちが行列をつくった。
なかには、孝一の勤務先の上司や同僚、貴志の同級生の姿まであった。
けれども、だれが挑みかかろうと、夫や息子、父親や兄は、妻や母親、娘や妹にのしかかる男どもを妨げることは許されなかった。
むざんにも夫婦のベッドのうえでことが行われている間、
孝一はその場を離れることを許されず、
二十三人もの男どもが順繰りに妻にのしかかるのを、見届けさせられる羽目になった。
貴志もまた、ほとんど同じ数の見知らぬ親父や顔見知りの同級生が妹に群がるのを、
壁に開けられた小穴から覗き見させられ、
時おり射精しては妹をモノにした同級生たちに邪気のないからかいを受ける羽目になった。

そのとき初対面だった清香の同級生、川黒佳哉は、初めて入る清香の勉強部屋で、いちぶしじゅうを見せつけられた。
同級生たちは佳哉と清香を無邪気に祝福し、佳哉は照れながら、初めて自分のものになった清香のおっぱいを軽く揉んでみせるのだった。



あとがき
どうもこのところ、柏木にしてはコアな話が多いですね。(^^♪
あっぷの頻度そのものは、さほどでもないのですが、(^^ゞ

「一家全滅」。

2021年01月31日(Sun) 10:27:18

うぅっ・・・!
木島孝一は吸血鬼に後ろから羽交い絞めにされて、首すじを咬まれた。
ああッ!!
孝一の妻幸枝も、べつの吸血鬼に抱きつかれて、首すじを咬まれた。

ちゅーっ。
夫婦の血は競い合うように、飢えた唇によって吸い取られていった。

やがて夫が、つづいて妻が、
じゅうたんのうえにひざを突き、
四つん這いになって、
とうとう力尽きてうつ伏せになった。
吸血の音は、しばらく絶えることが無かった。

ふたりが静かになると、吸血鬼は顔をあげて、
互いの相棒の血塗られた頬を認めて、笑みを交わした。
その笑んだ口許も、吸い取ったばかりの血潮で、生暖かく濡れていた。

ふたりは目くばせし合うと、足音を忍ばせて階段を上っていった。
階上では、兄妹の勉強部屋が、隣り合わせになっていた。
やがて半びらきになったふすま越し、
「うっ!」「キャッ!」と相次いで小さな叫び声が洩れ、
やがて静かになって、
キュウキュウという吸血の音だけが夜のしじまを支配した。
ひとりの吸血鬼の胃の腑は父親と娘の、
もうひとりの胃の腑は母親と息子の生き血で、
たっぷりと充たされていった。


「これは明らかに、吸血鬼の仕業ですな」
吸血探偵と呼ばれるその男は、ことさらしかめ面をつくりながら、
小さくなってかしこまっている駐在と第一発見者である隣家の夫婦のまえ、
重々しく断定した。
彼らの足許には、血を吸い取られて絶息した四人が、
手足をまがまがしく折り曲げたまま横たわっている。
「もはや手遅れでしょうか?」
「いいや、たまたまなのだが、血をたっぷりと蓄えている吸血鬼に心当たりがある。彼らから血を分けてもらうとしよう」
入んなさい、と、探偵が目配せすると、外からふたりの男が神妙な顔つきで入ってきた。
「これから”血戻しの儀”を執り行います。
 目にすることは禁じられているので、皆、出ましょう」
探偵に促されて、第一発見者も、駐在までも吸血鬼のまえ亡骸を置き去りにして家を出た。

翌日――
「行ってきまぁす」
ふた色の若い声が、その家の玄関にこだました。
見送る両親のうち、父親のほうはすでに出勤の準備を整えて、背広姿である。
母親もまた、出かける予定でもあるのか、
PTAにでも出席するかのようなこざっぱりとしたスーツ姿である。
家族はほんの一瞬の暗黒を通り抜けた末、以前の日常が戻っていた。

「じゃあ、行ってくるからね。戸締りに気をつけて――」
孝一がそういって家を出ると、幸枝は言われた通り、中からしっかりと鍵を閉め、ドアチェーンを入念におろした。
「ご主人はご出勤か。ご苦労なことだ」
幸枝の背後から、声がした。
声の主はもう一人の相棒を伴っていた。
男たちが、自分たちに血を戻してくれた命の恩人であるとともに、
その前の晩、家族全員の血を漁り尽くした獣どもであることを、
すでにだれもが心得ている。
幸枝は哀れみを請うように媚びるようなほほ笑みを泛べた。

男ふたりが幸枝を挟み込むように前後に立ちはだかり、
背後の一人は幸枝の両肩を羽交い絞めにし、
もう一人は彼女のブラウスをむぞうさに引き裂いた。
黒のスリップ越し、豊かな胸のはざまが、物欲しげな男どもの目を惹きつけた。

はぁ、はぁ、・・・
ふぅ、ふぅ、・・・
切羽詰まった三十代主婦の息遣いが、狭いリビングに満ちていた。
スリップ越し、ストッキング越しにさんざん吸血をされた幸枝は、
スカートだけを腰に巻き、ストッキングを片方脱がされて、
四つん這いの屈従的な格好を強いられたまま、
二匹の獣の代わる代わるの吶喊を受け容れつづけていた。
いつか男どもの快感は女にも伝わり、
いまでは男女が一体となって、その行為を愉しみはじめていた。
「だんなに隠れての不貞は、楽しかろう」
「は、はい」
「だんなも文句を言えんから、余計に安心して楽しめるだろう」
「は、はい、とっても」
「娘の処女はワシがもらった」
「え、ええよろこんで・・・」
「息子の嫁の処女は、オラのもんだ」
「も、もちろんですとも・・・」
不貞を重ねた挙句、禁断の言葉まで口にさせられて、
服従の愉悦を身体の芯まで覚え込まされた幸枝は、じーんと身体を火照らせてゆく。

その陰には、観客までもがいた。
出勤したはずの孝一だった。
傍らには探偵が、付き添っていた。
妻を抱かれるところを視て逆上した夫が暴れ出さないようにするためである。
だが、木島家にかぎって、その気遣いは要らなそうだった。
木島の股間に手を触れると、ぱんぱんに勃起した一物で、ズボンがパンクしそうになっていた。
「どうですか、こたえられないでしょう・・・?」
「あ、ああ」
「はっきりご返事を聞かせてほしいですな」
「唐突な訪問でしたが、感謝しています」
「そうでしょうそうでしょう。奥さんを犯されて、嬉しいですか?」
「エエ、とても嬉しいです」
「あんたの気持ちはよくわかりますよ」
探偵はほくそ笑んで、そういった。
吸血鬼の奴隷に堕ちたこの家庭が崩壊するのも、時間の問題だろう。
しかしそれは、当事者にとって、幸せな崩壊であるはずだった。
なにしろ、探偵は自身の経験で知っていた。
彼もまた、吸血鬼に夫婦ながら襲われ、妻を犯された経験を持っていたからである。
勝利に酔っている目の前の吸血鬼どもが、一家を征服した後探偵の家の玄関を叩き、
夫のまえでの輪姦の愉悦に浸ったことを、探偵はさすがに口にしようとはしなかった。

吸血学園のPTA 2

2019年12月02日(Mon) 07:00:42

「奥さんのふしだらが許せなくなったら、いつでもわしの頬をはたいて、それから奥さんを家から追い出してくれ。」
わしが一生面倒を見るから。
PTAの会合で。
着飾ったお母さんを教室で抱いた吸血鬼が、あるご主人にそういった。
「いや、それには及びませんよ」
ご主人はにこやかにそう応えた。
10分前まで自分の妻が、目のまえの男に組み敷かれてひーひー言わされていたなど、微塵も感じさせない穏やかな物腰だった。
「惚れ直しましたから」
傍らで奥さんが、うっとりとした目でご主人を見上げる。
「私も、惚れ直しました」
「いやいや、ご馳走様・・・」
吸血鬼はやんわりと引き下がる。
夫は妻のあで姿に。
妻は夫の寛大さに。
どちらもべつべつの理由で、惚れ直してしまったらしい。
「ふしだらな奥さんに、助平なダンナだ。罰として今度は、立たされ坊主を1時間から2時間に延長してさしあげようか」
心のなかで呟いたけれど。
ご主人はきっと、もっと長い時間でも愉しんでしまうに違いない。
「子どもたちには、ナイショですよ」
別れ際も、ご主人は笑って手を振ってくれた。
まるで、ごく親しい友達との別れを惜しむように。
だいじょうぶ。
きみらの娘さんも息子さんも、まくれたスカートやずり落ちたハイソックスを直しながら、同じことを言っている。
「親には絶対、ナイショだからね♪」


あとがき
前作に触発された描きおろし。

妻を縛りつけた樹

2019年10月05日(Sat) 20:52:30

人間と吸血鬼の共存が可能になったとしても、
彼らに一方的に襲われて、片っ端から血を吸い取られるだけではないか――
ひそかにそう思っていたわたしだが、予想通り日ならずして、家族もろとも犠牲になる日がやってきた。

その日わたしは、早朝のランニングをしていた。
吸血鬼は夜訪れるもの、という先入観を捨てきれなかったわたしは、彼らがわたしの走路を遮るなど予想もしていなかった。
どうして彼らが真っ先にわたしを狙ったのか、さいしょはわからなかった。
彼らは、わたしの履いているハイソックスに目をつけたのだった。

手近な公園に連れ込まれたわたしは、三人の吸血鬼に組み伏せられた。
彼らのチーム・ワークは抜群だった。
わたしのことをベンチに抑えつけると、三人が三人とも、ほぼ同時に咬みついてきた。
ひとりは首すじに、ひとりは二の腕に、もうひとりはふくらはぎに。
チュウチュウと音を立てて生き血を吸い取られながら、わたしはしだいに陶然となっていった・・・

ふと気がつくと、彼らはいちように涙を流している。
意外な反応に思わず、どうしたのか?と、問いかけていた。
彼らは先週からわたしの自宅の隣家に棲みついていて、ふだんはあいさつ程度の言葉は交わしていたのだ。
彼らのひとりがいった。久しぶりに人の生き血にありついたので、と。
もうひとりがいった。ご主人の血が意外に若々しくて、予想以上に美味かったので、と。
さいごのひとりがいった。貴男の履いている靴下の舌触りが、ひどく気に入ったので、と。
律儀に応えをかえした彼らは、ふたたびわたしのうえにかがみ込んできて、生き血を貪りはじめた。
すでにベンチから転がり落ちていたわたしは、芋虫のように転がりながら、彼らのなすがままに血を吸い取らせてしまっていた。

奥さんと、年頃の娘さんが2人いますね?
たたみかけてくる彼らの目が、歓びに満ちていた。
家族には手を出さないでくれと懇願したが、受け容れてもらえなかった。
ひとりがわたしの家に走って、妻を呼んできた。
血の撥ねた芝生の上にわたしを見出した妻はびっくりして、その瞬間男たちの貪欲な猿臂に巻かれてしまっていた。
チュウチュウという音が、今度は妻に覆いかぶさった。
彼らが既婚女性を相手にするときには、性的関係を結ぶ習性があるときいていた。
失血にあえぎながらわたしは、妻が傍らの樹に縛りつけられて、
三人の男に代わる代わる愛されてしまうのを、目の当たりにするはめになった。
妻は、薄い黄色のカーディガンにえび茶色のスカートを着けていた。
日頃からきちんとした人で、肌色のストッキングを脚に通していた。
それが不幸にも、彼らの目を刺激してしまったのだ。
彼女の足許は男どもの舌にいたぶられ、淡いナイロン生地はみるみるうちに皴を拡げ、みるかげもなく咬み剥がれていった。

「さゆりと喜美香の血も、ご馳走してあげましょうよ~」
妻がわたし以上にイカレてしまったのも、無理はない。
夫の目の前で三人の男に凌辱されたのだから。
男の味を思い知らされてしまった妻は、さいしょのうちこそ抗っていたが、
やがて自分から気前よく身体を開いて、生き血を振る舞い始めて、
しまいには着慣れた洋服を皺くちゃに着崩れさせながら、夢中になって腰を使い始めてしまっていた。
破れ果てたストッキングをつま先から抜き取られながらきゃあきゃあとはしゃぐ妻の傍らで、
わたしは携帯で自宅に電話をかけていた。
たまたま出たのが長女だった。
いま父さんも母さんもお隣さんに襲われて、仲良くなったところだ。
これからうちに招待することにしたから、そのつもりでいなさい――
長女は結婚を控えていたが、感情を消した声で、待っているから気をつけて帰って来てね、と、こたえてくれた。

落花狼藉は、帰宅後が本番だった。
長女は22、次女は17.
3人の吸血鬼のうち2人は、処女の血を欲しがっていた。
お互い顔を見合わせると、それぞれの相手を決めたらしく、
わたしの二の腕を咬んだ男は長女を、わたしと妻の脚を咬んだやつは次女を追いかけまわした。
キャーっと相次いで娘ふたりの叫び声があがり、逃げ込んだ隣の部屋で2人とも咬まれてしまったのがいやでもわかった。
妻はうっとりとして、娘たちの叫び声に聞き入っていた。
「素敵・・・」と絶句しつつも、発育のよいふたつの若い身体から血液が旨そうに吸い出されていくのを気配で感じ取って、ひどくウキウキとはしゃいでいた。

次女はその場で犯された。
長女は結婚を控えているからと懇願して、凌辱を免れた。
案外と優しいやつだな、と、わたしは妻を振り返り、
妻は長女に、ほんとに良かったの?タカシさんには内緒にするから、あなたもして頂いたらあ?なんて、たしなめていた。
次女にも彼氏はいたのだが、有無を言わさず犯されてしまったので、お姉ちゃんずるいと口を尖らせた。
長女は口ごもりながらも、「だって喜美ちゃんかわいいけど、あたしはそんなことないから、せめて処女だけはタカシさんのためにとっておきたかったの」と、いった。
喜美香は「さゆりちゃんかわいい!」と姉を褒めて、「そんなら許す」といった。
そして、自分を犯した吸血鬼を上目遣いで睨んで、「彼には内緒だからね」といいつつも、血の流れた太ももを再び、開いていった。

娘たちを追いかけようとしなかったやつは、妻に執心だった。
夫婦ながら首すじを咬まれていたので、言うことを聞くしかなかった。
娘たちがそれぞれの勉強部屋にこもって、改めて相手を始めたとき、
彼は夫婦の床を我が物顔に占拠して妻の上におおいかぶさった。
妻は自分の情夫が女の洋服を引き裂くのを愉しむ習慣を持っていると知ると、
よそ行きのスーツに着替えて、荒々しくまさぐる掌に、ゆだねていった。
「主人の前です、お止し下さい」とかいいながら、わたしのほうをチラチラ盗み見しながら、襲われることを愉しみ始めていた。
制止する言葉やしぐさが、情夫をいっそう燃えたたせると思ったからだった。


3人はひと月というもの、我が家に入り浸った。
しかし、わたしたちが失血で身体の不調を訴え始めると、初めてしまった、という顔をして、
身体が治ったころにまた来ると言い置いて、家からも隣家からも姿を消した。


公園のベンチに腰かけながら、わたしは妻と、わたしが家で淹れてきたコーヒーを愉しんでいた。
2人が座るベンチは、わたしが最初に襲われたときに、正気を喪うまで生き血を吸い取られた場所。
目のまえにそびえる樹は、呼び出された妻が縛りつけられて、代わる代わる犯された証し。
夫婦の床を占拠されているあいだ、わたしはコーヒーを淹れるのを習慣にしていた。
彼らは血の愉悦からさめて正気にかえると、ふつうの人間と変わらず飲み食いし、知的な会話も通じることが分かったから。
妻や娘を襲っている吸血鬼のためにコーヒーを淹れる。
わたしは卑屈な気分になるよりもむしろ、そういう被虐的な気分を愉しむようになっていた。

「いなくなると、寂しいもんだわね」
妻はコーヒーを口にしながら、つぶやいた。
コーヒー通の妻は、わたしの淹れたコーヒーを、味も香りも愉しみながら、ゆったりと口に含んでいく。
首すじにつけられた痣ふたつが、少しだけ薄くなっていた。
けれども色白の肌からは、まだまだくっきりとした情欲の痕跡は執拗に残っている。

長女は、吸血鬼に襲われたことを彼氏に打ち明けたという。
「振られるの覚悟ですべて話した」とあとで母親に告げたそうだが、彼氏もこの街の人間だった。
結婚の決まった彼に操を立てて処女を奪うのは見逃してもらったと聞かされると、彼女を優しく抱きとめたという。
「今夜、彼のところに泊ってくる」
と告げて、ひと晩家を留守にした長女。
翌日には彼氏と連れだって吸血鬼の家を訪問し、3人の吸血鬼に惜しみなく若い血を与えたという。
いちどモノにした彼女を提供する羽目になった彼氏は、吸血鬼たちに「気が進まなかったら座をはずしても良い」といわれたが、
ゆったりとほほ笑んで、最後まで見届けていきます、とこたえたという。
そして、未来の花嫁が吸血鬼3人に愛され尽くしてしまうと、「ふつつかでした」と頭を垂れる長女を抱き支えて、家までエスコートしたという。

次女の場合も、彼氏にばれてしまった。
処女を捧げることを強いた男が、次女の彼氏のところに出向いていって、「きみの恋人はいい身体をしている」と、無神経極まりないことを告げたのだった。
次女の彼氏からパンチを10発ほどももらった後、ふたりは不思議なことに、意気投合した。
「処女を奪られたのは許すとしても、そこは観たかった」という彼氏に、
「さいしょは視ないほうが良いのだ」ともっともらしくアドバイスする吸血鬼。
妻は隠れて聞きながら、笑いをこらえていた。

血液を抜かれて空っぽになった血管が、きょうも疼いている。
脱力した感じが居心地よくもあり、なにか飽き足らない予感も渦巻き始めている。
「あなたもほかの人を襲っていらっしゃいよ」
妻が傍らで、白い歯をみせた。
血を抜かれ過ぎて半吸血鬼になったわたし――
今は時おり、自分や家族の血を吸った彼らと連れだって、街の住人の家にお邪魔することもある。
聞けば彼らももとは普通の人間で、吸血鬼に妻や娘、母親を寝取らせることでいまの”特権”を得たという。
寝取られる愉しみを覚えてしまった男たちは、周囲にも同好のものを増やしながら、自らの欲望を満たしてゆく。


振り仰ぐと、目のまえの樹は赤く染まった葉に彩られている。
妻が縛りつけられたときには濃い緑色だったのに、「もう秋なんだな」と、ふと思う。
「あの樹の葉っぱの色は、きみの血の色かな」
と妻を振り返ると、
「あのとき真っ赤になって恥じらった、私の頬の色ですよ」
そんな返事が、かえってきた。

分身の術。

2019年09月26日(Thu) 07:02:03

「いちどに大量の血液が必要になった。
 大勢でいくからそのつもりで」
吸血鬼から届いた連絡は、簡潔で残酷だった。
分身の術に心得のある”彼”は、いちどに複数の人間を襲うことができるのだ。
ふだんは顔色が悪くうっそりとした表情の”彼”は、いちど別れると顔を思い出せなくなるほど特徴のない顔だちの持ち主だった。

もともとわたしの取引先として家族に接近した”彼”は、さいしょに息子を襲い、
仲間に引き入れた息子の手引きで自宅に入り込むと、つづいて妻を襲った。
既婚の婦人を相手にするときには必ず、性交渉も遂げてゆくという”彼”の欲望に屈して、
妻は結婚して十数年守りつづけた貞操をむしり取られた。
いちど犯されてしまうともう、あとは夢中でしがみついたまま、
なん度も気前よく、許しつづけてしまっていた。
息子はそれを傍らで、失血した身を横たえながら、陶然と見入っていたという。
ふたりが男女の関係を結ぶのに、そう時間はかからなかった。

つぎに襲われたのが娘だった。
兄に連れ出された少女は制服姿のまま、”彼”の牙を享けた。
幸か不幸か、処女の生き血の貴重さを知る”彼”のおかげで、まだ純潔を保っているが。
それからいくばくもなく、若すぎる年頃で結婚相手の定まったいま、
未来の花婿の同意付きで、結婚前の身体を奪われることになっている。

さいごに吸われたのが、わたしだった。
もうどうなっても良い・・・と観念したわたしに、”彼”は終始紳士的に接した。
一夜明けるころには、妻は息子、娘が堕ちたのも無理はない・・・と思えるようになった。
家族はすぐに、平穏な日常を取り戻していた。

息子、妻、娘、わたしと、1人1人別々に吸われたものが。
きょうは同時に襲われるという。
常識的には、忌まわしい刻に違いないはずなのに。
ドキドキしてしまうのは、なぜだろう?
息子も、娘も、妻さえも。
同じ思いを抱いているらしい。
わざとらしい日常のやり取りを努めて重ねたけれど、そのうちだれもが黙りこくってしまって、
仲の良い家族は、約束の時間の約30分前を、ほとんど無言で過ごしていた。

インターホンが鳴った。
息子が起ちあがるとドアを開けて、さいしょに”彼”を家庭に引き込んだ時のように、”彼ら”をリビングへと引き入れた。
”彼ら”は無言で、めいめいに相手を選んで、距離を詰めてくる。
「きゃあっ」
さいしょに声をあげたのが、娘だった。
ブレザースタイルの洗練された制服姿を抱きすくめられて、真っ白なハイソックスの脚をすくめながら、
白ブラウスの襟首を早くも赤く染めている。
「ひいっ」
すぐ傍らで、妻が声をあげた。
そしてほとんど無抵抗のまま、じゅうたんの上にまろび臥した。
彼女が娼婦と化すのは、時間の問題だと思った。

気がつくと。
息子もわたしも、あお向けにされていた。
だれもが吸血鬼にのしかかられて、首すじを咬まれている気配が”彼ら”の背中越しにそれとわかった。
息子は、半ズボンから伸びた紺のハイソックスの脚を左右に拡げて、
娘も、白のハイソックスの脚をばたつかせて、
妻さえも、黒のストッキングに蒼白く滲ませた脛を、立膝にして。
めいめいに、しつような吸血に応じてしまっている。
やがてめいめいがめいめいに身体をひっくり返されて。
ストッキングやハイソックスの足許を、いたぶり尽くされてゆく。

「視たかったんだろう?家族が同時に吸われるところ」
わたしの上におおいかぶさっている”彼”が、耳元に囁いた。
思わず強く肯くわたしを、ぐいっと抱きすくめて。
鋭い二本の牙が首のつけ根を冒し、歪んだ劣情に淀んだ血潮を、ぐいいっと吸い上げる。

無上の快楽に目が眩んだわたしは、妻子を汚した男を、強く抱き返してしまっていた。


あとがき
個々に襲われる。
同時に襲われる。
家族で献血することを検討されているご主人。
貴男はどちら派でしょうか?

夫の降伏(幸福)

2019年09月26日(Thu) 06:20:36

まったく。
なんてつまらないことをしているんだろう。
歩みをすすめながら、タカシばおもった。

さいしょに息子が襲われた。
この街に棲みついた吸血鬼に、若い生き血を狙われたのだ。
襲われた吸血鬼と息子とは、その場で打ち解けてしまい、
息子はせがまれるままに、ハイソックスを履いたふくらはぎを咬ませていた。
妻が息子の異変に感づいた時。
しなやかなナイロン生地の舌触りを好む吸血鬼のために、
通学用のハイソックスをほとんど咬み破らせてしまっていた。

つぎに襲われたのは、妻だった。
息子を家に送り届けたときに顔を合わせたのがきっかけで、熟れた生き血を狙われたのだ。
初吸血のときに犯された妻は、その場で吸血鬼にほだされてしまい、
娼婦のように腰を振りながら、すっかり不貞行為にのめり込んでしまっていた。
夫がふたりの関係に気づいた時。
薄いナイロン生地の舌触りを悦ぶ吸血鬼のために、
ストッキングを1ダースも破らせていた。

さいごが彼本人だった。
勤め帰りを襲われて、その場で意気投合してしまい、
スラックスを引き上げて、長めのビジネスソックスを咬み破らせていた。
気づいた時にはもう、
ストッキング地のハイソックスを履いてもう一度逢おうと約束してしまっていた。

それが今夜のことだった。

息子と妻は、先に家を出ていた。
きっと若い順に、我が家の血を愉しまれているはず。
許すべきではない屈辱のはずなのに。
なぜかタカシの心は揺れた。
自分が生き血を啜り取られたときのあの感覚がよみがえってきて、
妻や息子が吸われるところを想像して、陶然となっている自分に気がついていた。

「穿いてきてやったよ、好きにしたまえ」
投げやりに言葉を放ったタカシに、吸血鬼はどこまでも鄭重な態度で接した。
貴兄の尊厳を傷つけるつもりはない。
そういいたいらしかった。
けれども吸血鬼の口許は、妻や息子の血で濡れていて、
吸い取られたふたつの身体は、同じ広間の片隅に、正気を失ったまま横たわっている。

息子の履いている紺のハイソックスのうえに、淫らな唇が吸いついて、
清冽な血潮が、ちゅう・・・っと吸い上げられて。

妻の穿いている肌色のストッキングのうえに、卑猥な唇が這わされて、
熟れた血潮が、ちゅう・・・と吸い上げられて。

自分の穿いているストッキング地の長靴下を通して、エッチな唇がまさぐりつけられて、
働き盛りの血液を、ちゅう・・・っと吸い上げてゆく。

いけない。
くらっとしためまいを覚え、頭上のシャンデリアを仰ぐと、
さらに眩暈が倍加した。
タカシは平衡を喪って、その場に倒れた。

引きあげられたスラックスの下。
妻が履いているストッキングと同じくらい薄手のナイロン生地ごしに、
卑猥な舌がなんども這わされた。
舌触りを愉しみ、牙を差し込まれ、生き血をちゅう・・・っと引き抜かれ、
ひざ丈の靴下はじょじょに弛み、しわくちゃにされて、ずり降ろされていった。

気がつくと。
妻はベッドのうえで吸血鬼と腰を結びあわされて、
着崩れしたブラウスのすき間から、乳房の白さをチラチラとさせて、
蒼白い吐息を穿きながら、愉悦していた。
妻の貞操を守ろうとする意思は、すでに失われていた。
さっきまで。
男は彼のうえにいた。
股間に突き入れられた衝撃が、まだじんじんと響いて、タカシの理性を冒している。
そのまえが息子だった。
半ズボンを脱がされた息子は、犯された女子高生みたいになって、
金のハイソックスを履いたままの両脚を、放恣に伸ばしていた。

妻が、なにかを言おうとしている。
こちらを向いてけんめいに、目で訴えている。
「もう、こんなのはイヤ」
というのかと思った。
けれども女が洩らした言葉は、真逆のものだった。
これからも、なん度も来ようね――
それにこたえる自分の反応も、思っていたのとは真逆のものだった。
ぜひ、そうさせてもらおう。今夜のきみは、とても素敵だ――


あとがき
家族を吸われた夫が、さいごに陥落するときに。
妻や息子の仇敵である吸血鬼の好みに合わせて、
ストッキング地の紳士用のハイソックスを自分から穿いて、出向いてゆく。
息子のハイソックスや妻のストッキングと同じようにいたぶられながら、
働き盛りの血を吸い取られて、自身も同じように堕ちてゆく。

まえにも同じようなものを描いた記憶がありますが、いつ頃のことだったかよく思い出せません。
バブルのころまでは少なからず見かけた、ストッキング地のハイソックスを履くビジネスマンも、このごろはまったく見かけなくなりました。

半吸血鬼の特権。

2019年09月01日(Sun) 06:27:18

さいしょに吸われたのは、息子だった。
どうや息子は、その吸血鬼と相性が良かったらしい。
彼は吸われる歓びに目覚めてしまうとすぐに相手と意気投合し、
自分を吸った吸血鬼を家に引き入れて、自室で愉しみに耽るようになっていた。

吸血鬼は、いちど招待された家には自由に出入りできるようになるという。
それから娘が咬まれ、妻まで咬まれてしまうのに、ものの数日とかからなかった。

わたしたち一家は一度は家を出て、難を避けることにした。
家族の血の味を覚え込んでしまった吸血鬼は、しつようにも転居先にもやってきたが、
その時にはわたしが応対し、鄭重にお引き取りを願った。
「もうこれ以上家族を襲うのは、止めてほしい」
吸血鬼はわたしの懇願を聞き入れて、そのときは意外にも物分かりよく引き揚げていったけれど、
しばらくしてわたしは、シビアな事実に気づくことになる。
息子も娘も妻までも、わたしに隠れて旧居に戻っては、吸血鬼と密会を遂げるようになっていた。

ついにわたしも観念して、不自由な仮住まいからもとの自宅に戻ることにした。
潔く、家族の血を明け渡すことにしたのだ。
わたし自身も、すすんで血を吸われた。
「ストッキングやハイソックスがお好きなのよ」と妻から教わったわたしは、
当時通勤用に好んで履いていた、ストッキング地のハイソックスを履いて応対した。
幸い彼の気に入ったらしく、
妻の穿いているてかてかの光沢入りストッキングとおなじくらいしつように、みるかげもなく咬み剥がれていった。
わが身をめぐる血液を緩慢にむしり取られていきながら、わたしは不思議な満足を感じた。
妻は吸血鬼を満足させるため、そのころ若いOLのあいだで流行っていた、てかてかとした光沢の入ったストッキングを穿くようになっていた。
血を吸い取られてぐったりとなったわたしの傍らで、妻は小娘のようにはしゃぎ切っていた。
娼婦が脚に通すようなけばけばしい光沢のストッキングを、ブチブチと咬み剥がれながら。
そして、裂けたストッキングを脚に通したままスカートの奥に腰を沈められてゆくのを、ただ恍惚となって、見守っていた。

それ以来、わたしまでもが、吸血される歓びに惑溺を覚えるようになった。
そして、「お前も吸血鬼になれば、若い女を襲い放題なのだぞ」とそそのかされるままに、
血を一滴残らず、吸い取られてしまっていった。

わたしのいなくなった家には、わたしの血を吸い尽くした吸血鬼が我が物顔に居座った。
息子も娘も妻までも、わたしの仇敵であるはずの吸血鬼を以前と変わらず歓待し、わが身をめぐる血でもてなしつづけた。
長年連れ添った妻までも支配を受けてしまったとしても。
人の生き血を吸う特権と引き替えに家長の座を明け渡してしまった以上、文句はいえなかった。
「だれにでも囁く話ではないのだぞ」と、彼は言った。
確かに、周りで吸血鬼になったのは、わたしだけだった。
どうしてわたしが選ばれたのかは、よくわからない。
もしかすると、妻のことを本気で好きになったのかもしれない。
その証拠に彼は、なん人もの人妻を愛人にしながら、かつてのわが家に住処を移して、妻と夫婦同然にして暮らすようになっていたからだ。
もっとも彼は、若い血を獲ている息子や娘に対して、自分自身のことを「お父さん」とは呼ばせなかった。
「それはあのひとのことだから」と、頑なに断りつづけたという。
少しは礼儀をわきまえているのだなと、皮肉交じりにわたしがいうと、
「きみの奥さんの肉体だけで、わしは満足している」と、ずいぶん露骨なこたえがかえってきた。

自分の生き血の全量と妻の貞操を譲った代わり、この街に住む女たちは、よりどりみどりになった。
しばらくのあいだ、わたしはその権利の行使に夢中になった。
娘のクラスメイトはもちろんのこと、息子の彼女まで襲ってしまっていた。
いちばん嬉しかったのは、以前から気になっていた美人の姪のことだった。
結婚を控えた姪が我が家に招かれたとき――妻がそれと察して、わたしのためにわざわざ招いたのだ――たまたま連れてこられた彼氏には気の毒なことだったが、彼氏の前で襲ってしまった。
わたしは心を震わせながらうろたえる姪を抑えつけて、
そのしなやかな肢体からピチピチと活きの良い血液を引き抜くことに熱中した。

吸血鬼のはびこるこの街では、襲われることはごく当たり前になっていたから、だれもが事態をそう深刻には受け止めなかった。
恋人を父親に吸われた息子は、苦笑しながらわたしの所業を許してくれた。
そして彼女と婚約すると、未来の花嫁が時折わたしの誘惑に屈するのを、見て見ぬふりを決め込んでいた。
姪は予定通り彼氏と結婚すると、この街を離れた。
そして十数年後に戻ってくると、すっかりいい女になった肢体を再びさらけ出してくれた。
「跡継ぎが欲しかったので、しばらくおいとましたんです」
姪と同じ咬み痕を首筋につけられた姪婿は、照れくさそうに笑った。
わたしが姪との逢瀬を遂げようとするときも、姪婿はけなげなくらい協力的で、
子供たちをさりげなく外に連れ出したりしてくれた。


かなりの刻が流れた。
志郎と呼ばれるその少年は、息子の長男――つまりわたしの孫にあたる。
中学にあがってすぐに、初めて咬まれた。
相手はわたしを咬んで吸血鬼にした男だった。
よほどわが家の血が口に合ったらしく、すでに家族全員が彼に咬まれていたから、
彼の番がまわってきたのは当然といえば当然だと、わたしはクールに受け止めてしまっている。

志郎は運動部に属していて、日常的にハイソックスを履いていた。
かつてわたしの通勤用のハイソックスを残らず咬み破いた牙が、発育の良い十代のふくらはぎに魅せられないはずはなかった。
年頃になってから初めて襲われた志郎は、いまでは日常的に血を吸い取られるようになって、つねに貧血症になやんでいた。

「悩んでいるようだな」
わたしは志郎に、自分と彼との血縁を告げずに声をかけた。
「エエ、二日にいっぺんは吸われているんです」
わたしが吸血鬼だとありありと感じ取りながら、彼は応えた。
「二日にいっぺんか・・・それは大変だな。わたしが咬まれていたころでも、いちばん多いときで週2か週3くらいだったからな」
「小父さんも、ずいぶん気に入られていたんですね」
「気に入られ過ぎて血を吸い尽くされて、こういう身になってしまった」
「後悔しているんですか?」
「そんなことはない。若い女の子は襲い放題だからな」
「羨ましいけど・・・ぼくはいいです」
生真面目そうな瞳を知性的に輝かせながら、志郎はいった。
この子はわたしとは、別路線らしい。
「どんなふうになりたいのかね」
「いまのままで良いですけれど、もう少し活動の自由が欲しいです。貧血がひどくて・・・」
「気の毒にな」
「たまに吸われるのが嫌になることがあります」
わたしは言った。
「吸ってもらえる血があるというのは、嬉しいことなのだぞ」
「なるほど――」
と、少年はわたしの横顔をまじまじと見た。
「どうしても血が足りないのなら、半吸血鬼にしてもらえばよい。たまにはきみも、ほかの人の血を吸ったらいい」
「それもいいかもしれませんね。――妹が、いつでも血を吸っても良いっていうんです」
「兄想いな妹さんなんだな」
わたしはいった。
「きみの血は美味しいのだ。誇りに思えばよい。そして、一滴でも多く、彼らに分けてやるとよい」
「どうしてぼくの血が美味しいとわかるのですか」
「きみの母さんの血を初めて吸ったのは、わたしだからね」

少年はめをぱちくりとさせた。
「やっぱり吸血鬼だったんですね?ぼくのことも、見逃してもらえそうにないですね」
「いや・・・」
さすがのわたしも逡巡した。相手は孫だったから。
「とにかく、半吸血鬼になることだよ。そして、わたしとはちがって、まっとうに人間として生きるとよい」
貧血に悩む彼の血を吸うつもりはなかったけれど。
「こんど、きみのお母さんを連れてきておくれ」と、ねだらずにはいられなかった。
青年は母親にいちびしじゅうを正直に告げて、律儀にも母親を連れてきてくれた――


さらに何年かが経った。
公園で一人で佇んでいるわたしのところに、志郎が通りかかった。
通りかかった、というわけではなくて、さいしょからわたしの存在を目当てにここに現れたらしかった。
「ぼくの彼女です。こないだ、ぼくを初めて咬んだひとに咬まれてしまいました。でもほんとうは、貴男に咬んでもらうべきだったと思いました。だから今夜、ぼくは貴男に未来の花嫁の血を差し上げます」
楚々としたたたずまいの志郎の恋人は、羞ずかしさを含んだ微笑を泛べて、慎まし気にこちらにお辞儀をしてくる。
抱きすくめた身体は意外にしっかりとしていた。
一見か弱く見えたスリムな肢体は、意外なくらいしっかりとした筋肉に恵まれていた。
たしか、志郎と同じ運動部だといったな・・・わたしはひそかに納得した。
志郎のことも良く支えてくれそうだと、わたしはおもった。
咬みついた首すじから流れる血潮は清冽な香りを放っていて、彼女がまだ男を識らない身体なのだと告げていた。
あの吸血鬼に未来の花嫁の純潔を奪われなくて良かった――わたしは志郎のために悦んだ。

「孫の嫁です。よく味わってくださいね――お祖父さん」
どうやら彼は、決して名乗らなかったわたしの正体を、とっくに見抜いていたらしい。
咬まれたあとの恋人と同じくらい、彼は屈託なく笑っていた。

2019.8.28構想

家族の権利と義務

2019年05月19日(Sun) 05:57:47

次男(17)
義務・・・
登下校の際ハイソックスを着用し、献血の時に吸血鬼の娯楽に供すること
(現在は血液を全量喪失、吸血鬼化したため免除)
彼女を紹介し、処女の生き血の提供に協力すること
同じ部活のクラスメイトを誘い、ハイソックスを着用した男子の供給に協力すること
(ただし、誘引に成功したクラスメイトは吸血して良い)
母親や妹を吸血し(優先順位は吸血鬼に劣後)、吸い取った血液を自身の身体から提供すること
彼女や妹の制服を着用して献血すること

権利・・・
生存に必要な血液を、クラスメートや家族から得ること
母親の肉体を性的愉悦の対象とすること


長男(26)
義務・・・
自身の血液を提供すること
婚約者を紹介し、処女の生き血を提供すること
吸血鬼の住処まで婚約者を送迎すること
望まれた場合には、婚約者が衣装を凌辱されながら吸血され愉悦に堕ちる状況を見せつけられてしまうこと
婚約中は禁欲し、パートナーの純潔を維持すること
挙式直前に婚約者の純潔を提供すること
婚約者が貧血症になった場合には、その衣装を着用し身代わり献血を行うこと

権利・・・
婚姻前に婚約者が処女を喪失する際、一部始終を見届けること(ある意味義務??)


長女(14)
義務・・・
登下校の途中、制服姿で献血すること
吸血鬼化した次兄に血液を提供すること
処女の生き血を提供するため、禁欲して純潔を維持すること
性的関係を伴わない彼氏を作り、その家族もろとも吸血の対象者に加わらせること

権利・・・
私服で献血訪問をする場合、母親の所持するストッキングを着用すること


母親(47)
義務・・・
自身の血液を提供すること
貞操を提供すること
つねに正装し、吸血鬼の来訪を受けたときには衣装もろとも辱めを享受すること
吸血鬼化した次男と近親姦の関係を結ぶこと
週に最低1回、夫に隠れて密会を遂げること
週に最低2回、夫に同伴されて献血・情交すること

権利・・・
吸血鬼に求められて血液を提供するとき、同時に不倫を愉しむこと
次男との近親姦を愉しむこと(当初は義務だったが本人たちの意向から権利化)


父親(49)
義務・・・
勤務中に血液提供を望まれたときは、勤務を放棄して献血に応じること
妻子に対する吸血を容認すること
妻の貞操を無償で提供すること
妻が献血及びそれに伴う不倫を遂げる時、自家用車で送迎すること
次男と妻との近親姦の関係を容認すること
部下の女性を紹介し、献血を勧めること

権利・・・
吸血鬼を相手に不倫をしている妻の様子をのぞき見すること
(時と場合によっては義務)
最初の襲撃を受けた際血液を一時的に全量喪失(現在は家族から得た血液によって回復)した副作用として渇血状態となったとき、妻や娘、息子の婚約者の血液を摂取すること
(優先順位は吸血鬼に劣後。また、娘との近親姦は許容されない)
息子の結婚後、その新妻と性的関係を結ぶこと(息子には許容の義務が生じる)


あとがき
おカタい表現は、ときに微妙にエロさをかもし出すことがあります。^^
あなたはどの人物になりたいですか?^^
男性の場合は全員、パートナーを侵されちゃうんですけどね。。^^;
視る(見せつけられる?)権利は付随しますが。(笑)

喪服のおばさん。

2019年05月13日(Mon) 07:55:00

白髪頭の吸血鬼が、太っちょのおばさんを捕まえて、首すじに咬みついた。
おばさんは恐怖の色を浮かべて抵抗しようとしたけれど、
そのまま、ごくごく、ごくごくと、生き血を飲まれていった。
おばさんは、黒一色の喪服姿だった。
わざわざ喪服を着て男に逢いに来たのだと、あとから知った。
女のほうも同意済みの、吸血行為だった。
どうして抵抗したかって?
それは、視られているのがわかっていたから。
他人行儀におばさんと書いたけど・・・じつは、襲われているのはぼくの母親。
息子の手前、すこしは抗ってみせたんだ。
そのほうが、父さんにも言い訳がつくだろうから・・・

五十台の人妻の生き血がなまめかしくって美味しいなんて、咬まれる前には思ってもみなかったけれど。
母さんが襲われて、黒のストッキングのふくらはぎを吸われているのを見て、納得した。
薄黒いストッキングに透けた青白い肌はなまめかしくって、吸血鬼がしゃぶりつきたくなる気分が、よくわかった。
チュウチュウ、チュウチュウ、音を鳴らして母さんの脚をいたぶり抜いて、
さいごにパリパリとストッキングを咬み破りながら、血を吸い取ってゆく。

はだけた喪服の隙間から、白い肌を滲ませて。
母さんがそのまま無事に帰されるわけはなかったけれど。
ぼくは母さんの名誉を守ろうとは思わない。
むしろ、同じ男として、吸血鬼が母さん相手の欲望を成就させるほうを望んでいた。
父さんもたぶん・・・ぼくと同じ気分のはず。
だって母さんに喪服を着せて差し向けたのは、ほかでもない父さんなのだから――

≪長編≫ 吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 番外編 まゆみの花婿候補

2019年05月13日(Mon) 07:30:47

「お兄ちゃん、ハイソックス似合うね」
青田優治がふり返ると、そこには一人の少女が小首をかしげたかっこうで佇んでいた。
栗色の髪をツインテールを長く長く伸ばした少女は、両手を後ろ手に組み、いたずらっぽい笑みを口許に滲ませて、優治の顔を上目遣いに窺っている。
齢のころは、まだ小学校低学年くらいだろうか。
これ見よがしにわざとらしいポーズに、あからさまなからかいが込められているのは、優治にもよくわかる。
へたをしたら父娘くらい齢の離れた少女の嘲りに、優治はそれでも苦笑しながらこたえていく。
「ありがと、この齢でハイソックスなんて変だよね」
「うぅん、そんなことない。似合ってる」
少女は、今度は真面目に目を輝かせていた。
「いつもハイソックスに半ズボンなんだ」
汗ばむほどの陽気だった。
優治はしま模様のTシャツに白の短パン、それに真っ白なハイソックスを履いていた。
「小学生みたいなカッコ、好きなんだね。でも似合ってるよ。お兄さんが幼稚とかそういうじゃなくて」
少女は少女なりに、気を使っているらしい。
舌足らずな甘え声にそれを感じた。
優治はちょっとだけ、少女に心を動かしかけた。
けれども、「いやまだ早い、もう5~6年は大きくならないと」
と、自分の心にしぜんと制動がかかった。
少女の齢のころは、まだS学校の3年生くらい。そこから5,6歳年上といっても、中学かせいぜい高校どまりである。
そう、優治はロリコンだった。
「ねえ、脚にキスしてもいい?」
「え?」
少女の意外な申し出に、優治は怪訝そうに首を傾げた。
「そうしたいの。似合うから」
優治は、少女のいちずな目に射すくめられたようになって、「うん、いいよ」とこたえた。
こたえた――というよりは、口がしぜんと動いたという感じがした。
「じゃ、するね」
少女は齢に不似合いなくらいだらしなく口許を弛めて、優治のふくらはぎにハイソックスの上から唇を吸いつけた。
自分の足許をしなやかに締めつけるハイソックスの生地に、なま温かい唾液がしみこむ感触に、優治ははぜかぞくっとしたが、
つぎの瞬間だしぬけに、「あああッ!」と悲鳴をあげた。
少女がハイソックスの上から、優治の脚に咬みついたのだ。
優治は、またがっていた自転車もろとも、その場にひっくり返った。
尻もちをついたまま顔をあげた優治の前で、少女は無邪気に笑っていた。
口の周りは、吸い取ったばかりの優治の生き血で、べっとりと濡れている。
足腰立たないほど慌てた優治は、そのまま後じさりしようとしたが、少女は構わず優治の足首を捕まえて、
ふくらはぎにもう一度、唇を吸いつけた。
「ああああッ!」
体内の血液が急速に逆流して、吸いつけられた少女の唇に含まれてゆくのを、どうすることもできなかった。
優治はただ茫然としたまま、自分の履いている真っ白なハイソックスが赤黒い血のりに浸されてゆくのを、薄ぼんやりと見つめていた。
キュッ、キュッ、キュッ・・・
小気味よい音を立てて、少女は自分よりも20歳も年上の男を組み敷いて、血液を摂りつづけた。
少女の名前は、ナギ。
労務者の父親ともども吸血鬼に血を吸われ、齢がとまったまま自らも血を吸う身になった、吸血少女だった。


「ただいま」
蒼ざめた顔を俯けて家に戻ってきた息子を、父親は黙って迎え入れた。
息子の身になにが起きたのか、彼はじゅうぶん把握していた。
この村に来たら、だれしもそうなることが、息子の身にも例外なく降りかかっただけのことだった。
「母さんは今忙しいよ」
奥の部屋にいる母親の気配を求めた息子の背中に、父親は声をかけた。
ふすまの向こうから、母親のうめき声がした。
なにをされているのか、なんとなく察しがついた。
よく見ると、父親も蒼い顔をしていた。
スラックスの下に履いているストッキングのように薄い黒沓下が縦に裂けて、くるぶしを半周しているのに、優治は気づいた。
「ハイソックスはよく洗って、咬まれた相手に渡しなさい」
父親は手短かにそういった。
優治は黙ってあてがわれた自室にひきあげたが、
その前に風呂場の前の洗濯機に、脱いだハイソックスを放り込むことを忘れなかった。

大の男のハイソックスに欲情するような連中にとって、お袋の穿いているパンストはさらに美味だろうということは、容易に察しがついた。
優治は、さっきの少女との語らいを反芻した。
ハイソックスを真っ赤に濡らした大人の男と、彼から吸い取った血で口の周りを真っ赤に濡らした少女との、和やかな語らいを。
「お兄さん、どこから来たの」
「都会でね、先生をやっていたんだ。こんどこっちの学校で空きができたからって、先生をやりにきたんだよ」
「なあんだ、スケべー春田の後釜か」
少女の投げやりな言い方に、優治は噴き出した。
「そうだったの?」
「うん、あたしのお友達のまゆみちゃんが初めて襲われたときにね、まゆみちゃんが落としたブラジャーせしめようとしてナギに怒られたの」
「ははは、教え娘のブラジャーにいたずらするなんて、それはあんまりだね」
「お兄さんは、そういうことしないの」
「うーん、どうかな。ぼくも似たり寄ったりかな」
「じゃあスケベーなの」
「男は大概そうだよ」
話しながら優治は、目の前にいる少女が少女ではなく、対等な大人と話しているような気がした。
「都会の学校でね、女子生徒と問題起こして、いられなくなっちゃったんだ。親がここの学校を紹介してくれて、校長先生がそんなぼくを拾ってくれてね。でも、ロリコンの先生が中学教師じゃ、具合悪いよね」
「そんなことないよ、楽園じゃん」
優治には、ちょっとだけ気になることがあった。
「ところでさ、きみ、さっき、前の担任の春田先生って人が、まゆみちゃんという生徒のブラジャーをいたずらしようとしたって言ってたよね」
「ウン、言った」
「その子って、月田まゆみっていう子のことかい?」
「そうだよ、あたしの大好きなお姉ちゃん」
「お姉ちゃん?」
「血を吸わせてくれる女の子のことをね、ナギ、そう呼んでるの。空いている教室に呼び出して、父ちゃんといっしょに襲って血を吸ったんだ」
「ええっ!?」
顔色をかえた優治に構わず、ナギは言い放った。
「楽しかったなー、よく思い出すけど、あわてるまゆみちゃんのこと思い出すたび、元気が湧いてくるの」
「そういう関係だったんだね」
「そう、そういう関係」
優治は、ナギがすべてを見通していると直感した。
「まゆみちゃんは、おとなしく血を吸わせてくれたの」
「そんなわけないじゃん、あたしのことを叱りつけたり、ものを投げたりして、さんざん抵抗したの。手こずったなー」
「それはそうだよね、まゆみちゃんも、ナギちゃんのことが怖かったんじゃないかな」
「さいごにね、学校の外まで追いかけっこして、転んで死んだふりをしてまゆみちゃんをだまして、駆け寄ってきたところを咬んだの」
「ええっ、それは卑怯だな」
「さんざん血を吸い取ってあげたら、やっとまゆみちゃんもわかってくれて、それからは仲良し。だから卑怯でもなんでもないよ。うまくいったからいいじゃん」
ナギの無茶苦茶な理屈に、優治は真面目に頷きかえしてしまっている。
「まゆみちゃん、白のハイソックス大好きだよ。こんどお兄さんと二人で、おそろいで履いてうちに遊びにおいでよね」
そういうとナギは愛くるしく笑って、手を振って駈け去っていった。

吸血少女とのやり取りを思い出しながら優治は、さっき咬み破られたハイソックスを、もう少し履いていてもよかったと感じた。


三か月ほどあとのこと。
優治は月田まゆみと肩を並べて、蛭川ナギの家へと歩みを進めていた。
白の短パンと紺のプリーツスカートの下は、おそろいの白のハイソックス。
いつもは、最初にナギに咬ませたライン入りのスポーツ用のハイソックスだったが、
きょうはまゆみの通学用のハイソックスを借りて脚に通している。
優治が呼び寄せられたのは、まゆみとの縁談のせいだった。
「自分の教え娘を姦っちゃうのって、おしゃれだよね」
ナギはそういって優治をからかっていた。
赴任した時校長先生は、授業中だった月田まゆみをわざわざ呼び出して、優治に引き合わせた。
「この子が月田くん。きみの花嫁候補」
あからさまな紹介にまゆみは顔を真っ赤にして照れて、もじもじとあいさつするのが精いっぱいだった。
その初々しさに、優治がどきん!と胸をはずませたのは、いうまでもない。

受け持ちのクラスに月田まゆみが含まれていると知ると、もう授業どころではなかった。
もっとも優治のクラスはすでに崩壊してしまっていて、生徒たちは勉強やスポーツに励むよりも、
学校に出没する吸血鬼たちを制服やブルマー姿で応接することに熱中していたから、
優治の授業など、どうでもよかったのだが。

まゆみもまた、訪ねてくるナギやその父親の蛭川に呼び出されるまま、制服姿のまま若い血をすすり取られるのが日常になっていた。
優治の役目は、まゆみの血を求めて学校に現れる父娘のために、教え娘を呼び出すことだった。
そんなおぞましいことはできないとしり込みをする優治に、ナギはいった。
「その代わり、お兄ちゃんのためにまゆみちゃんを連れてきてあげる。
 まゆみちゃんがお兄ちゃんを気に入ればいいけど・・・じゃないとこの縁談は破談だからね。
 うまくいったら、二人で仲良く過ごすといいよ。キス以上はだめだけど。
 あっ、でも、ハイソックスの脚にイタズラするのは許してあげようねって、あたし言っといてあげるから」 
半信半疑でいると、夕方には本当にまゆみが家まで訪ねてきた。
真っ白な夏用のセーラー服に濃紺のスカート姿。
この季節にはちょっと暑すぎるかもしれないのに、ハイソックスもちゃんと履いてきてくれていたのをみて、優治はずきり!と胸をはずませた。
その日は意気地なくどぎまぎしただけで、なにもできずに終わってしまったが、
二度三度と面会を重ねるたびに、少しずつ会話が増えていった。
まゆみがナギの奴隷になるまでの話も、聞かせてもらった。
そしれまゆみがいまの状況に納得していること、
将来は結婚を考えているが、結婚相手にはこれからもナギ父娘に血液を提供することを認めてもらおうと思っていること、
もしも優治さんがそうだったら、女学生の制服姿にイタズラされても我慢して受け入れること・・・
その話を聞いた優治が、その場でまゆみの制服姿に挑みかかったのは、いうまでもない。
「キスより先なんだね」
まゆみにからかわれながらも、優治は教え娘の発育のよいふくらはぎにしゃぶりついて、
真っ白なハイソックスによだれをなすりつける行為に、恥を忘れて熱中してしまった。

さいしょのうちは、露骨にまゆみの血を欲しがる父娘を忌まわしく思い、
彼らのためにまゆみを呼び出すことに躊躇を感じていたが、
(むろん優治がそういう態度をとることも、この父娘の愉しみのひとつになっていた)
やがてまゆみの血を啜りに来る異形のものたちのために、自ら未来の結婚相手を呼び出すという行為に、
マゾヒスティックな歓びを見出すようになっていた。
そして、彼らが嬉々として、制服姿のまゆみのうら若い血液にありつく有様を、隣室から覗き込むことに昂奮を覚えるようになっていた。

きょうは、そんな日々にひとつの区切りをつける日だった。
道々、ふたりは何度か立ち止まっては、お互いに顔を見合わせ微笑みあった。
どちらの顔にも、照れくさそうな笑みがあった。
処女の生き血を蛭川に捧げるさいごの機会。
まゆみの初体験は、ずっとまえからナギの父ちゃんが楽しむことになっていたが、
優治は彼の望みを好意的にかなえることに、やっと同意する決心をつけたのだ。
「ナギの父さんには、まゆみちゃんの純潔は、ぼくのほうからプレゼントしてあげることにしたい」
婚約者の純潔を汚させるための訪問――
けれどもきっと、ナギの父親はいうにちがいない。
「教師のくせに、教え娘に手ぇ出して。在学中に姦っちまうとは、エエ度胸しておるなあ」
そして、優治はきっと言うだろう。
「エエ、ぼくは教師失格です。ですから罰として、ぼくのまゆみさんを、目の前で汚してください」
と。
罰なんかどうでもエエ。きょうは祝いじゃ、宴じゃ・・・
そういって相好を崩した蛭川は、薄汚れた作業衣を着た図体をにじり寄らせて、セーラー服姿のまゆみに向き直るに違いない。
穿きなれない黒のストッキングに白い脛を滲ませて、大人びた色香を発しはじめたまゆみ――
濃紺のセーラー服の襟首から覗く白い首すじを舐められて、
せり上げられた上衣から覗くわき腹に、卑猥な牙を突き立てられて、
あらわにされたブラジャーをずらされて、覗いた乳首を好色な唇に含まれて、
未来の花婿の目の前で、「ああん・・・」とあられもないうめき声を漏らしながら、
つかまれた足首の周り、薄手のストッキングがよじれて皴を波打たせるのにも気づかずに、
あからさまに這わされたべろに、唇に、牙に、身に着けたばかりの礼装をいたぶり抜かれて、
ストッキングを片方脱がされたかっこうで、秘所を舌でなぶり抜かれる――
そうした行為のひとつひとつに、優治はきっと、恥ずかしい昂奮を覚えてしまうに違いない。

「やはりさいごは、あの真っ白なハイソックスがエエのお」
呼び出された両親からハイソックスを受け取って、
履き替えたハイソックスのうえから、なおも辱めの唇を吸いつけられて、
父、母、そして未来の花婿の目の前で、
知的な色合いをした濃紺のプリーツスカートを踏みしだかれて、
真っ白なハイソックスを半ば脛からずり下ろされた両脚をめいっぱい押し拡げられて、
まゆみは初めての歓びに貫かれる――
彼女の通う学校は、親よりも年上の男との不純異性交遊を認める学校だった。


あとがき
去年の10月に長期連載したシリーズの番外編が、とつぜん思い浮かびました。
大の男が吸血少女の征服を受けて、
その彼が教師で、教え娘を姦る権利と引き替えに、
未来の花嫁の血を啜りに学校にやってくる吸血父娘のため、手引きをする――
ちょっとコアなお話に仕上げてみました。

主人公の優治は「まさはる」と読みます。
その父親は、このシリーズの冒頭に登場します。
まゆみの父親の同僚で、薄手の黒沓下を履いた男です。
知らないうちに妻が法事の手伝いに呼び出されて、喪服姿を襲われて、黒のストッキングを咬み破られながら吸血されてしまいます。
そして、それに味をしめた吸血鬼が、今度は夫の勤務先にも表れて、
「奥さんのストッキングとはひと味違う」といって、犯した人妻の夫の血を啜るようになります。
黒沓下の男は、相手が妻を情婦のひとりに加えた男と知りながらも、吸血に応じていく――
そんなストーリーだったと思います。
詳しくは、第二話を読んでください。

今回のお話は、むしろ「嫁入り前」のカテゴリにすべきかもしれないのですが、
ほかの話に合わせて「家族で献血。」に入れました。

Love affair

2019年04月15日(Mon) 07:51:12

たんなる捕食や殺人として吸血するやつらも、もちろんいる。
だがわしが人を襲うとき、その行為はlove affair(情事)であるようにと思っている。
だからあんたの息子さんを襲ったときも、love affairだったのだ。
そして息子さんはわしの好意に応えてくれて、
長い靴下を履いた脚を咬みたがっているわしのために、
わしと逢うときはいつも、紺のハイソックスを履いてきてくれた。
これは立派な、love affairではないか?
恋するものはだれでも、相手の好みに合わせて装うものだからな。
同性だからと言って、恋愛が成立しないとは言い切れないだろう?

そ・・・それはたしかにそうかも・・・
わたしはこたえた。
ことの是非は別として、だ。!と、つけ加えることを忘れずに。

息子さんとわしとの仲を、賢明な奥方はすぐに感づいた。
当然だ。
息子が毎日のように、咬み痕のあるハイソックスを履いて帰って来るのだからな。
そしてわし達の逢瀬を、見つけてしまった。
脂の乗り切った人妻を、わしがどうしてそのまま見過ごしにするだろうか?
そう、その晩わしは、奥方の生き血もたっぷりと、おすそ分けに与った。
母親と息子の生き血が、親子ながら渇いたわしの喉を潤したのだ。。
もちろん奥方とは、その場でlove affairを遂げた。
魅力的なご婦人に迫らないのは、失礼に当たるからな。
そして奥方は、わしに恥を掻かせることなく、夫しか識らない身体を開いてくださった。
奥方の名誉のために言う――彼女は夫しか識らない貞女だった。
そしてその無防備な股間を奥底まで味わったあと、身体の隅々にまで、わしの毒液をしみ込ませてやった。
もちろんこれも、love affairといえるだろうな?

もちろん・・・そうだろう・・・
わたしはしかたなく、こたえた。
ことの是非は別としてだ、あくまでも・・・

ところで、だ。
いまわしは、あんたの血を吸っている。
目のくらむような貧血だろう?だいじょうぶか?あしたはなんの予定もないのだったな?
なに、週末はずっとぐったりしているんだと、奥方から聞いて知っておる。

たしかに男はわたしを組み伏せたうえでほくそ笑みながら獲物の自慢をつづけ、
時折これ見よがしにと、吸い取ったばかりのわたしの血をたらたらとしたたらせて、
わたしのワイシャツの胸に、ほとびを拡げていったのだった。

これも、love affairだとでも、いいたいのかね?
言葉を途切らせながら問うわたしに、
ああ、そうだ。もちろんそうだ。
男はそう言って、むき出しの股間をわたしの腰に圧しつけて、
妻と息子とを辱めた勁(つよ)い一物で、わたしの股間をこともなげに貫いた。
――妻と息子が堕ちた理由(わけ)を、わたしは一瞬で理解した。
わたしたちのlove affairを、二対の眼(まなこ)が、間近な物陰から息を詰めて見守っているのを感じながらも、
わたしは恥を忘れて呻き仰け反って、自分が快感の坩堝(るつぼ)に達してしまったことを、態度で示してしまっていた。
いままでの家長権が崩壊するのをありありと感じながら、
同性の魔物の誘惑に屈していく自分を、どうすることもできなくなっていた。

・・・・・・。
・・・・・・。

二日後のこと。
勤め帰りのわたしは、背後からひたひたと迫って来る足音を感じていた。
あの公園の前まで来ると、わたしは家路を外れて公園のなかに入っていった。
公園のいちばん奥にあるベンチに腰かけると、男は正体もあらわにわたしのまえに立ちはだかった。
奥方も息子さんも、家で寝(やす)んでいると彼は告げた。
ふたりを勤め先と学校に送り出したあと、奥方をエプロン姿のまま追いかけまわして首すじを咬んだのだと、
男は楽しそうにいった。
それからワンピースの裾を腰までたくし上げて、肌色のストッキングもろとも太ももをなん度も咬んで採血を愉しんで、
妻がぐったりとしてしまうとやおらワンピースを引き裂いて、お昼過ぎまで犯しつづけたのだと。
なにかを予感して、息子は学校をさぼって家に戻って来た。
そして、通学用の紺のハイソックスを履いた脚を差し伸べて、気の済むまで咬み破らせてやった。
母子を代わる代わる抱きながらlove affairをくり返して、わたしの帰宅を待っていた・・・というのだった。

わたしは、会社に三日間の休暇届を申請してきたと彼に伝えた。
そしておもむろに、スラックスをたくし上げてゆく――
出勤前の身づくろいのとき妻が出してくれた長い靴下に覆われた脛に、男は露骨に目を輝かせた。
真新しい長靴下が、見るかげもなく咬み破られながら徐々にずり落ちてゆくのを、わたしは面白そうに見つめつづけた。
失血で薄ぼんやりとなったわたしは、スラックスを脱がされて太ももがそらぞらしい外気に触れるのを覚え、
逞しい猿臂が蛇のように絡みつけられ、
どす黒く熱した股間の一物がわたしの腰の奥へと侵入するのを感じた。

妻や息子の股間を濡らした粘液が自分のなかに満ちるのを、どうして嬉しそうに反応してしまったのか?
もはやそんなことは、どうでもよかった。
彼らだっておなじことではなかったか?
公園を取り囲むご近所のカーテンのすき間から覗く好奇の視線を、感じずにはいられなかった。
彼らだって、同じ運命に身を浸しているではないか?
夜更けの公園で、わたしは随喜の声を洩らしながら、彼の征服を受け入れていった――

家族会議。

2019年04月08日(Mon) 07:33:40

街を徘徊する吸血鬼が、妻に求愛した。
彼を妻の情人として受け入れるかべきかどうか、家族会議が開かれた。
次男が言った。
――ぼく、母さんが犯されるところを観てみたい♪
長男も言った。
――母さんが犯されちゃうの、ぼくもちょっぴり悔しいけどさ、
――でも、いちどだけなら片目をつぶってあげようよ。
長女が言った。
――お父さんには気の毒だけど。
――お母さんの恋、かなえてあげようよ。
長女の言いぐさに、とどめを刺された。
妻はすでに吸血鬼に魅入られて、めろめろになってしまっているのを、認めないわけにはいかなかった。
子どもたちの意見が通り、妻の貞操は吸血鬼が勝ち得ることになった。

あとから知った。
子どもたちは3人とも、吸血鬼にたぶらかされていた。

真っ先に咬まれたのが次男。
つきあっていた彼女を吸血鬼に紹介して二人はつきあい始め、
花嫁はローブデコルテの裏を花婿ではない男の精液で濡らして華燭の典を挙げた。
新妻を共有することに、次男はとても満足していた。
それは、自身の妻が魅力的な女であることを、彼が認めたことになるからだった。

つぎに咬まれたのが、長女。
就活を途中であきらめて、リクルートスーツのすそを彼の精液で濡らしながら、吸血鬼に征服された。

さいごに咬まれたのが、長男。
――我が家の嫁になるひとは、いちどあのひとに咬まれないと。
妹の無茶苦茶な理屈に彼が屈したのは、
婚約者がいながら実の妹の色仕掛けに惑わされて、近親相姦の味を識ってしまったから。
いちどだけならという約束で、婚約者には善意の献血だからと言い含めて血を吸わせた。
彼女の身体をめぐる清冽な処女の生き血は、吸血鬼をいたく満足させた。
約束はもちろんまもられることはなく、
長男の嫁はなん度も吸血鬼に抱かれて、
己の身をめぐるうら若い血液で相手の唇を浸す行為に、夢中になって耽り抜いてしまった。

婚礼の前夜、二人で訪問した吸血鬼の屋敷のなかで、
我が家の跡継ぎ息子の花嫁は、花婿ではない男に処女を捧げた。
息子は自分の花嫁がむざむざと汚されるのを、むしろドキドキしながら見守った。
ズキズキとした嫉妬に胸を昂らせながら、花嫁の媚態から目が離せなくなっていたのだ。
彼らがつぎは母さんを、、、と思ったのには、もっともな謂われがあったのだ。
そして、自身で言い出した「いちどだけなら」という約束が守られないことも、身をもって理解していた。

娘や嫁たちのふしだらを咎める務めを放棄して、妻は四十路の身体を吸血鬼にゆだねていった。
高価なブラウスに包んだ胸をまさぐられ、
清楚なストッキングに染めた足許を辱しめられて、
楚楚とした装いもろとも汚されてゆく――

綺麗だったよ、お母さん。貞操喪失おめでとう。

子どもたちの不思議な祝福を受ける妻は、戸惑いながらも嬉しげに微笑んで、
これからは永年連れ添った夫を裏切り続けるのと誓っていた。
わたしは妻の裏切りを許し、これからは我が家のあるじとして、吸血鬼の忠実なしもべとなることを誓っていた。
わたしたち夫婦は、結婚式をもう一度挙げたような気分に浸っていた。
それは決して、間違いではなかった。

塗り替えられた記憶

2019年03月22日(Fri) 08:16:32

きっ、吸血鬼・・・!
小声で叫んだ孝子に、吸血鬼が迫った。
カラフルなワンピースを着た少女は、あっという間に抱きすくめられ、首すじを咬まれていった・・・
貧血を起こしてぐったりとなった少女をソファに寝かせると、男はにんまりと笑い、
ハイソックスを履いた少女のふくらはぎに、無慈悲な唇を吸いつけてゆく。
なすりつけられた唇の下、真っ白なハイソックスがみるみる真紅に染まった。

ちぇっ、お前のロ〇コンも、まったく治らねえな。
相棒の吸血鬼が、傍らからからかった。
少女を襲った吸血鬼の兄だった。
そういう兄貴の腕のなかで、少女の母親、琴絵が首すじから血を流して、ぐったりとなっている。

兄貴だって、おばさん専科じゃないか。
口を尖らせる弟に、兄貴は「まぁ・・・な」と、あいまいに嗤った。
そして、琴絵の足許に唇を近寄せて、ストッキングを破りながら血を啜り始めた。
不運にも琴絵には、まだ意識があった。
礼装を辱めながら吸血をつづける相手をどうすることもできずに、
相手の思うまま、熟れた血潮をむざむざと愉しまれていった。

「あ・・・うん・・・」
そのあとは、自然の成り行きだった。
琴絵のスカートは兄貴の手が、
孝子のワンピースのすそは弟の手が、
慣れた手つきでたくし上げていった。
良家の母娘は、そろって眩しい太ももをさらしながら、さらなる汚辱の刻を迎えた。
「娘だけは堪忍して」
という母親の願いは、聞き入れられなかった。
「お母さんも祝ってあげようよ」
耳もとで兄貴にそう囁かれたときには、
孝子は太ももに淡い血をあやしながら、沈み込まされた逞しい腰に、腰の動きをぎごちなく合わせていたし、
琴絵自身もまた、肉薄してくる強引な腰つきに、セックス慣れした身体で応えはじめてしまっていた。

不運にも、ちょうどそのとき、夫のキヨシが帰宅してきた。
「お前たち!何をしている!?」
立ちすくむ夫はすぐさまふたりの吸血鬼に迫られて、両側から首すじを咬まれた。
あとは、妻や娘がたどったのと、まったく同じ経緯だった。
貧血を起こしてへたり込んだキヨシに、ふたりはなおもおおいかぶさって、血を啜った。
働き盛りの血液は、不埒な吸血鬼どもに、新たな精力を得させてしまった。

「処女の血も、悪くないよな」と、兄がいい、
「俺、女を抱きたくなった」と、弟がいった。
孝子の処女は弟のほうがすでに奪ってしまっていたが、
その夜のうちなら処女だと、彼らは見なしていた。

幸か不幸か、半死半生になったキヨシには、まだ意識があった。
「奥さんの名前、何という?」
「それを訊いてどうするのだ」
「教えてほしいから聞いているんだ、そうしたら命は助けるから」
弟の言葉を信じた夫は「琴絵」と妻の名を口にした。
妻にのしかかる吸血鬼がどうして妻の名を聞きたがったのか、すぐにわかった。
弟は琴絵の服を剥ぎ取って、「琴絵、琴絵」と名前を呼びながら、犯したのだ。
「あああああ」
キヨシは屈辱に震えた。

娘の孝子にも、むごい運命が降りかかっていた。
「きれいなおべべ、だいじにしようね」
兄の吸血鬼は孝子の血を吸いながら、血しぶきが孝子の着ているワンピースに撥ねないよう気遣いをしていた。
孝子にもそれがわかるのか、せめてお洋服だけは台無しにされまいと、抗うことをこらえていた。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ・・・
吸い取られてゆく処女の血潮が悲し気な音をたてるのに、キヨシはふたたび悶絶した。
「きみの血は、俺たちの身体のなかで、母さんの血とひとつになるのだよ」
兄貴にそう囁かれて、孝子は観念したように身体の力を抜いた。

初めての夜に男をふたりも識ってしまった少女には、無軌道な青春が待ち構えているのだろう。
「悪い評判が立たないよう、気を使ってやるからな」
吸血鬼たちの捨て台詞が、キヨシを黙らせた。
しばらくは憤りを抑えきれなかったキヨシは、妻や娘が彼らと密かに密会を重ねていると知り、
もはや成り行きに任せるしかないと観念した。
兄弟は、和解を誓ったキヨシを慰めるため、記憶を塗り替えてやった。

―――

吸血鬼の兄弟が、妻と娘を見初めた。
妻も娘も常識のある婦人だったので、外聞を気にして、なかなかお二人のご好意に応えようとはしなかった。
それで、恋情を抑えかねたふたりは、ある夜わが家に侵入して、強引に欲望を遂げてしまった。
娘は初めての男に夢中になってしまい、
用心深かった妻も、無防備にさらけ出した貞操をむさぼり尽されて、不覚にも歓びを覚えてしまった。
わたしが帰宅しても、彼らは妻や娘に対する好意をあらわにすることをはばからなかった。
それくらい、妻と娘のことを気に入ってくれたのだと、わたしは理解した。
彼らはいちど結んだご縁を深めるために、獲物を取り替え合って愉しんだ。
そして、はからずも妻と娘を提供することになったわたしに同情をして、夫として父親としての名誉は必ず守ると約束した。

妻も娘も魅入られてしまって、彼らとの逢瀬を重ねるようになった。
それでも妻はわたしによく尽してくれ、娘もいままで以上に勉強に励むようになった。
わたしはお二人を、よろこんで家庭に迎え要れることにした。
妻も娘も、お二人との交際を願ったためである。
彼らの習性の理解を示し協力を約束したわたし自身も生き血を差し出すようになって、
ふた組のカップルが愛し合う場で、歓びを共にするようになった。
わたしの親友である吸血鬼たちは、良家の貞淑な人妻と令嬢と結ばれて、愛人としてゲットすることに成功したのである――

家族で献血。

2019年02月26日(Tue) 07:44:50

吸血鬼さん、血が欲しいの?
まだ稚ない娘たちは、目のまえにいるのが吸血鬼なのだと知りながら、
人懐こく口々に問いかけて、
ハイソックスの脚を咬みたがる彼のまえ、無邪気に笑いながら脚を差し伸べてゆく。

上の子は、真っ赤なワンピースに赤のハイソックス。
下の子は、黄色のワンピースに黄色のハイソックス。
飢えた吸血鬼は蒼ざめた頬を弛めながら、齢の順に咬んでゆく。
ふたりとも、
「あ」
と、ひと言だけ洩らして、
痛みを口許から覗かせた白い歯に、初めての苦痛を秘めてゆく。

嫌ではなかった証拠に、キャッ、キャッとはしゃいだ声をあげながら、
もう片方の脚も咬ませていって、
真新しいハイソックスを、惜しげもなく咬み破らせてやっていた。

お母さんは終始笑顔の娘たちとは裏腹な怯えた顔で、いちぶしじゅうを見届けて、
さいごに首すじを、咬まれていった。
「お母さんの血も、美味しそうだね・・・」と、うそぶかれながら。
「子どもの新鮮な生き血を欲しい」
そんな言いぐさを真に受けて、自分は免れると思っていたのだろうか?
いや、ちがう。きっと、ちがう。
だって娘の父親で自分の夫である男が、首すじから血を流して夢うつつになっているのを、横目でチラチラと窺っていたのだから。

ハイソックスに血を滲ませて気絶した娘たちの傍らで。
お母さんも同じように、肌色のストッキングを咬み剥がれていった。
うっとり見つめるわたしのまえで、スカートの奥まで受け入れていった。

婚約者を共有する。

2019年02月24日(Sun) 10:10:09

力づくでむしり取られているはずが、けんめいに捧げ抜いているように映る。
無理強いに抑えつけているはずが、情愛込めて抱きすくめているように映る。
生命の源泉である血液をむさぼられているという危険でまがまがしい行為のはずが、
パートナーの渇きを慰めるため、自ら危険を冒してまがまがしいはずの行為を許しているように映る。
そう、ぼくの麻衣子さんは文字通り献身的に、少年のころからのぼくを支配しつづけてきた小父さんに、尽くそうとしている。

さいしょはなにを求められているのか理解できずに戸惑っていて、
やがて相手の意図を知ると、うろたえて逃げ惑って、
ぼくが後ろから優しく両肩を抱きしめると、いぶかしそうに救いを求めるような上目遣い――
けれども麻衣子さんは、優しいぼくの抱擁から奪い取られるようにして、小父さんの猿臂に身を巻かれていった。

抗うピンクのスーツ姿は、すぐに動きを止めた。
小父さんの慣れたやり口は、どうしたらよいかわからない初体験の若い女性の抵抗をくぐり抜けて、
あっという間に首すじを咬んでしまったのだ。

ごくっ、ごくっ、ごくっ・・・
リズミカルなくらい規則正しい音を立てて、麻衣子さんの血が小父さんの喉を鳴らす。
それにしても器用なものだ。
麻衣子さんのピンクのスーツには、血潮一滴こぼれていない。
親と暮らしていて、帰りが困るから・・と、痕跡を残さないようぼくからお願いしていたのだ。

貧血を起こした麻衣子さんは、その場にくずおれるようにして座り込んでしまい、
小父さんに促されてやっとのこと、ソファに横になった。
新味に介抱を続けた小父さんはなにやら麻衣子さんに囁きかけて、麻衣子さんも薄目をあけてかすかに頷き応じている。
それを少しだけ離れて見つめるぼくは、かすかな嫉妬の疼きを覚えた。
やがて麻衣子さんはそろそろと脚を差し伸べていって、小父さんに足首をつかまれていった。
小父さんの掌のなかの麻衣子さんの足首に、ストッキングのしわがキュッと波打つ。
礼儀正しく装われたストッキングに帯びたかすかなしわが、麻衣子さんの堕落を予告しているかのようだった。

やがて小父さんは、麻衣子さんの足許にそろそろと唇を近寄せていって、ストッキングのうえからクチュッ・・・と舌を這わせた。
「仲直りのしるしに、ストッキング破かせてあげるって言ったの」
あとで麻衣子さんは、ぼくにそう教えてくれた――

まるでレ〇プのあとのようだった。
ピンク色のスカートは腰までたくし上げられて、ストッキングは派手に咬み剥がれて大穴が開いて、
太もももひざ小僧も、素肌を露出させてしまっている。
貧血を起こしながらも麻衣子さんは、彼のためにうら若い血液を提供しつづける。
もはや渇きを満足させた小父さんは、量をむさぼるのではなく、純粋に麻衣子さんの血の味を愉しんじゃっている。
麻衣子さんも生き血を緩慢に啜り取られてゆくのをひしひしと感じながらも、自分の血が小父さんの喉を鳴らすのを、ウットリと聞き入っていた。
まさに、お似合いの二人――ぼくにさえ、そう思えてしまった。

「ありがとう。麻衣子さんの生き血は美味しかった。これからも時々逢わせてほしい。
 逢って処女の生き血を吸わせてほしい」
静かな声色でそう願う小父さんのまえ、むしろ麻衣子さんのほうが積極的だった。
「美味しいって言われると嬉しいものですね。ちょっとブキミだったけど――
 こちらこそ、よろしくお願いします。というか、お手柔らかに。(笑)
 貴志さんが子供のころから親しい方なら、信用できますからね」

それからは、ぼくが麻衣子さんを連れて行く時もあれば、
麻衣子さんが小父さんと2人きりで逢うときもあった。
だんだんと、回を重ねるごとに。
2人きりで逢う頻度が多くなって、そのうち麻衣子さんのほうからは、事前の連絡が来なくなった。
それでも小父さんはこまめに、ぼくに麻衣子さんとの密会の状況を伝えてくれた。
麻衣子さんの羞恥心が濃くなってきたととるべきなのか?
――でも、羞恥心をそそるようなことを小父さんが麻衣子さんにしているということなのか?
麻衣子さんよりも小父さんのほうが信用できるというべきか?
未来の花嫁を寝取られつつあるのに、信用するって言うのもなんだか・・・だけど。。
けれどもそうした密会も、小父さんは残らずぼくに覗き見させてくれた。
表むきは、「きみも気になるだろう?」と気遣ってくれた結果だけれど、
じつは見せつけたがっているんでしょう?と訊いたら、「良い勘だね」と、にんまりされた。
さすがのぼくも、ちょっぴり憤慨したのだけれど。

でも、回を重ねるごとに・・・ぼく自身、気持がだんだん変わって来た。
さいしょのうち色濃く感じていた後ろめたさやいかがわしさは消えていって、
小父さんが麻衣子さんに対して初夜権を行使することに、むしろ昂ぶりをもって受け容れてしまいそうな自分がいた。

あるとき久しぶりに、ぼくにお呼びがかかった。
ママや妹の血をむやみとむさぼったあとは、ぼくにもお呼びがかかることが少なくなかったけれど。
ここ最近は麻衣子さんが加わったことで、彼の喉もだいぶうるおっていたのだろう。
邸を訪ねていったぼくの目のまえに置かれたのは、見覚えのある麻衣子さんのスーツ――
「彼女から借りた。きょうはきみがこれを着て、わしの相手をするように」
そう――
先週の逢瀬のとき、夢見心地になった麻衣子さんに、来週も来れるか?と訊いたとき。
来週は勤め先の研修で・・・と麻衣子さんが応えると、小父さんは厳かに告げたのだった。
では貴志くんに、身代わりをつとめてもらおう。
きみの服を貸しなさい。
彼、じつは女装趣味があるのだよ――

震える手でブラウスの釦をはめて、
戸惑いながら、スカートを腰に巻きつけて行って、
昂ぶりながら、ストッキングを脚に通してゆく。
麻衣子さんの足許を包んでいたストッキングの感触が、妖しく足許にまとわりついた。

その日女として奉仕したわたしのことを、いつもと真逆に見つめる麻衣子さんの気配を、ありありと感じながら。
麻衣子さんを近々狂わせるはずの一物が、いつも以上の熱烈さでぼくの股間を抉るのに、視線を気にせず乱れ果ててしまっていった。

ひとり残らずモノにされる。

2019年02月24日(Sun) 08:56:08

吸血鬼に襲われて、ぼくやぼくの家族の血をゴクゴクやられてしまうことに奇妙な昂奮を覚えるようになって、
どれくらいの時間が経ったのだろう?
さいしょはもちろん、怖かった。
けれども、ぼくの首すじに咬みついたその小父さんが、ぼくの血を美味しそうに飲んでいるのだと実感したとき、
えもいわれない満足感に支配されて、好きなだけ飲んでいいからね・・・って、囁いてしまっていた。
ハイソックスを履いたまま脚を咬みたいとねだられたときも
お気に入りの紺のハイソックスを、ねだられるままに咬み破らせてしまっていた。
ママがいつも穿いているストッキングも愉しんでみたいと言われたときも、
後先考えずに、OKしてしまっていた。
小父さんを家に招んで、勉強部屋で2人きりになって、白地にライン入りのハイソックスを咬み破らせてあげているとき、
折あしく、お紅茶を淹れてくれたママがお盆を抱えて現れた。
小父さんはママの淹れてくれたお紅茶をひと息に飲み干すと、
ぼくの履いているハイソックスが血に濡れているのを見てびっくりしているママを横抱きにつかまえて、
首すじをガブリ!と咬んでいた。
ぼくのときとまったく同じやり方で、
ぼくのときとまったく同じようにママは目を回してしまって、
お紅茶よりも美味しいご馳走を、お客さんにたっぷりとご馳走する羽目になっていた。
花柄のワンピースで四角く区切られた白い胸もとを、赤黒い血のしずくがしたたり落ちて、
ワンピースをいびつに濡らしてゆく光景を、ぼくは自分が血を吸われているときと同じくらい昂奮しながら見つめていた。
そのあと小父さんがママにしたことは、ママが魅力的だったからだという囁きを、
ぼくは誇らしげに笑って頷き返してしまっていた。
パパにはナイショ――それが小父さんとママとの約束だったけど。
いつの間にかパパにはばれてしまっていた。
ぼくはママが小父さんの恋人になればよいと思っていたけれど、
パパもまったく同じ考えで、ふたりを似合いの恋人だといって、ふたりが服を着崩れさせながら仲良くしているのを、
ぼくと代わりばんこにのぞき見していた。

のぞき見といえば、妹のときもそうだった。
ぼくの親友のヨシトくんは、妹を連れ出して小父さんの家に連れて行き、「貴志の妹をつかまえてきました」といった。
ヨシトくんもいつの間にか血を吸われて、小父さんの手下になっていたのだ。
処女の生き血を吸わせてあげたい一心で妹を連れ出したヨシトくんを、ぼくはとがめることができない。
ほんとうは、ぼくが小父さんに妹を逢わせてあげなくちゃいけなかったのかもって、思ってしまった。
ヨシトくんに羽交い絞めにされた妹は、すっかり怯え切っていたけれど。
小父さんは「どれ」とひと言いうと、妹のおとがいを仰のけて、おもむろに首すじを咬んでいた。
「ああッ・・・!」
と、ひと声悲しそうにうめいた妹は、そのまま引きつったように身動きできなくなってしまって、
小父さんはまだ年端もいかない少女の活きの良い血液で、喉をゴクゴクと鳴らしていった。
そんなありさまを、ぼくはどちらに手を貸すでもなく、物陰からのぞき見をして、心をズキズキ疼かせていた。

きれいに着飾った女の人を襲いたがる小父さんのため、ぼくは女の人の服を着るようになっていた。
小父さんもそんなぼくのことを、好んで襲ってくれるのだった。
ママのワンピースや妹の制服を、ぼくはなん着も汚してしまった。
2人がぼくのことを咎めるのもどこ吹く風で、ひたすら小父さんのために、若い女を演じていった。
高校受験の合格祝いに、ストレスをため込んだぼくのことを邸に招いて、
ぼくは小父さんに、初体験を捧げた。
横倒しになった姿見のなかで、ぼくはみるみるうちに、女にされていった。
貴志というぼくの名前を貴子と呼ばれるようになって、TAKAKOという音の響きはぼくの鼓膜を心地よくくすぐった。

ママはいつまでも、小父さんの良き恋人だった。
勤めに出るとき、黒のストッキングを脚に通して出かけていったママを見送って、
ぼくもママとおそろいの黒のストッキングで、小父さんの相手をした。
お勤めはおろそかにできないという生真面目なママの考えを、小父さんが尊重してくれる代わりに、
ぼくがママの服を着て、ママの身代わりに抱かれるのだ。
夕方になったら、ママは勤めから戻って来る。
そして今度は、ママの番だ。
失血でぼうっとなってしまったぼくの脇をすり抜けるようにして、ママは夫婦の寝室に入っていく。
そして夫婦のベッドのうえ、小父さんは、ぼくたち母子のストッキングの味比べを愉しんでゆく。
小父さんはパパに遠慮して、ママと仲良くするのはパパが帰宅してくるまでと決めていたけれど。
パパも小父さんに気を使って、そういう夜には決まって、帰りが遅いのだった。
男同士の気遣いをママはきちんと理解していて、
パパが戻って来るときにはもう、なにごともなかったようにすべての痕跡をかき消しておくのだった。
たまに――破けたストッキングが屑籠の端から覗いていたりとか――わざとそんな仕掛けをして、パパを焦らせることもあったけれど。

きょう、ぼくは家に婚約者の麻衣子さんを連れてくる。
なにも知らない麻衣子さんは、初々しいピンクのスーツ姿。
けれども小父さんには、「麻衣子はあなたに血を吸われたがっている」と、嘘をついていた。
当然のように抱きすくめようとする小父さんと、うろたえながら抱きすくめられてゆく麻衣子さん。
そして、せめぎ合いのあげく、彼女もまた、ママや妹と同じように――首すじを咬まれてゴクゴクとやられてしまうに違いない。
そんな麻衣子さんを、きっとぼくはドキドキしながら見つづけてしまうに違いない。
その場でたぶらかされてしまった麻衣子さんはきっと、ピンクのスーツを血で汚さなかったお礼に、
肌色のストッキングの脚を小父さんに差し伸べて、惜しげもなくビリビリと破かせてしまうに違いない。

ママ、妹、麻衣子さん。
ぼくの女家族は、ひとり残らずモノにされる。
そのだれもが、生き血の味を愛でられて。
肌のきめ細かさを愛でられて。
装いのセンスを愛でられて。
股の締まり具合まで、愛でられてしまう。
そのことに――ゾクゾクとズキズキをくり返すぼく。

ぼくは変態だ。
誇り高き変態だ。
女家族が一人残らず愛でられることに、誇りと歓びとを見出しながら。
ぼくの家族はきょうもまた、汚され、辱められ、愛されてゆく――
そして、きょうはいよいよ、未来の花嫁にその災厄がくだる番――

薄地のストッキングに透ける麻衣子さんのつま先が、ぴかぴかに磨かれたフローリングのうえを滑るように歩みを進める。
あとわずかな時間でむざんに咬み剥がれてしまう運命のストッキングの透明感に、ぼくはいつまでも目線を這わせつづけた。

ひとり残らずモノにする。

2019年02月24日(Sun) 07:28:22

吸いつけた唇の下、黒のストッキングごしに触れるふくらはぎは、ちょっぴりだけ筋肉質だ。
姿は女性でも、ほんとうは男――
まだ半ズボンにハイソックスの少年だったころから、俺が血を吸いつづけている男の子――
貴志という本名を変えて、女の姿をしているときには、”貴子”と呼ぶことにしている。

しなやかなナイロン生地の舌触りを名残惜しみながらも、私は唇を放す。
いつもよりちょっと昂奮したせいか、少し吸い過ぎたらしい。
”彼女”は蒼ざめた頬に、それでもほほ笑みを泛べる。
貴志を正式に彼女にしたのは、高校受験の合格祝いで犯したときだ。
傍らに横倒しにした姿見のなか、ずり落ちかけた紺のハイソックスの両脚が、股間の疼きをこらえるように、足ずりをくり返していた。


貴子の家を出たのは、夕方近くだった。
部屋を出るとき”彼女”は、半裸のまま放心状態だった。
ストッキングの穿き心地をこよなく愛する”彼女”のために、
太ももがあらわになるほど咬み剥いだ黒のストッキングは、”彼女”の足許をいびつに染めていた。

家を出てすこし歩くと、彼方から着飾った女たちが数人、連れだって歩いてくる。
そのなかに俺は、貴志の母親である達子を見出した。
達子もすぐに、俺に気がついた。
彼女は仲間たちに別れを告げるとそそくさと列を離れて、寄り添うように歩み寄って来た。
「私の血が欲しいの?」
口許についた息子の血を、達子は気づかぬふりをした。

ふつうなら、着飾ったご婦人たちが通りかかると、
ひとり残らず足許に唇を這わせて、ストッキングをむしり取ってしまうのだが――
達子がそのなかにいるときだけは、別だ。
彼女のまえでほかの女を愉しむほど、俺は無作法ではない。
なによりも――達子との仲は、彼女の夫さえもが認めている関係なのだから。

初めて貴志を襲ったころは、達子はまだ30代。
むしろこの人妻が目あてで、その息子を狙ったのだ。
首尾よく息子を手なずけて、家にあがり込んで、勉強を教えると称して貴志と部屋で2人きりになって、
お茶を淹れて部屋に来た達子に俺は慇懃に礼をいうと、すぐにお茶を飲み干して、
それから達子の生き血で喉を本格的に潤したのだ。

人妻を襲ったときには必ず、男女の関係も結んでゆく。
半死半生で喘いでいる達子を抱きすくめたのは、貴志の目のまえでのこと。
けれども貴志は俺の狼藉を止めようともせずに、
まるで自分が犯されているかのように、息せき切りながら、
母親が主役のポルノビデオの生演技に、見入ってしまっていた。

さっき出てきた貴志の家に戻ると、
リビングの真ん中で女装した息子が大の字になって気絶しているのには目もくれず、素通りして夫婦の寝室に足を向けた。
そして、俺を部屋に招き入れると、ベッドのうえにあお向けに横たわった。
抱きすくめた両肩をかすかにこわばらせながらも、達子は首すじに刺し込まれてくる牙を、おだやかに受け止めた。

ずず・・・っ・・・じゅるう・・・っ・・・

生々しく啜られるほうが好き。
達子の口癖だった。
俺はわざとクチャクチャと下品に音を立てながら、熟れ切った40女の生き血を喉に流し込んでいった。

達子が静かになると、じゅうたんに伸べられた黒ストッキングの足許に唇を吸いつける。
息子とおそろいの黒のストッキング。
彼女が脚に通していたナイロン生地はツヤツヤとしていて、
くまなく唾液をなすりつけてゆくヒルのように強欲な唇に、しなやかな舌触りを伝えてくる。
ネチッ、ネチッと咬み破りはじめると、達子は「アッ、ひどい」と、人並みなご婦人らしい非難を込める。
けれどもその実彼女が悦んでいることは、
俺が吸いやすいように、あちこちと吸う部位を変えてゆくのに合わせて脚をくねらせつづけることで、それとわかった。


翌日のこと。
昨日吸い取った母親と息子の血潮の味を反芻しながら邸でのんびりかまえていた俺のまえに、ふたりの訪問客が現れた。
「貴志の妹を連れてきました」
青年のほうがやや引きつった声で、自分よりも少し年下の少女を、俺の前に引き据えた。
青年は貴志の親友だった。
――あいつ、親友に妹を売られちまうのか。
ちょっぴりの憐憫が、俺の胸をかすめる。
うしろから両肩を羽交い絞めにされた少女は、恐怖に引きつった眼で俺を見つめる。
俺は、こういうまなざしに弱い。
「どれ」
とひと言呟くと、やおら身を起こして少女ににじり寄って、
つぎの瞬間腕のなかに抱きすくめた少女の首すじを咬んでいた。
「ああーッ!」
貴志の妹は悲しげに呻いた。
けれども俺は、貴志の妹の活きのよい血液で、ゴクゴクとのどを鳴らしつづけた。
貴志の妹を連れてきた青年は、数年後彼女と結婚した。
そう、彼は未来の花嫁が処女のうちに、俺に生き血を吸わせてくれるという、最大限の好意を示したのだ。
婚礼の前の晩、生き血を抜き取られてぐんにゃりと伸びてしまった花婿の目のまえで。
花嫁の処女破りの儀式を盛大に遂げてやったのは、いうまでもない。


貴志が男のなりをして、若い女性を一人連れておずおずと現れたのは、それから少し経ってからだった。
どう言い含めたものか、やつも自分の親友と同じことをしようというのだ。
「三田麻衣子さんです。来春、結婚するんです」
やつは改まった口調で、そういった。
うちは吸血鬼に献血をしている家だと、やつは彼女に正直に告げたそうだ。
それでもお嫁に来てくれるのか?と問う貴志に、黙って頷き返したという彼女も、かなりの変人だと俺は思う。
ピンクのスーツの下、肌色のストッキングに透けるすらりとしたふくらはぎに、俺は早速目を奪われてしまっている。
「じゃあ遠慮なく」
俺はひと言そういうと、すすめたソファに腰かけた麻衣子の傍らににじり寄って、こともなげに首すじを咬んでいた。
「あッ・・・」
抱きすくめた両肩に力がこもり、彼女は本能的に俺の腕を振りほどこうとしたけれど。
貴志は彼女の両方の掌を、スカートのうえに抑えつけてしまっていた。
「だいじょうぶ。ぼくがついているから・・・」
恋人を勇気づける健気なささやきをくすぐったく聞き流しながら、俺は23歳のうら若い生き血で、ゴクゴクと喉を鳴らしてしまっている。
貧血を起こした麻衣子がぐったりとソファに身をもたれかけさせると、
肌色のストッキングに透ける足許に、おもむろに唇を吸いつけてゆく。
貴志はそんな俺の不埒な愉しみを、ドキドキとした目線で見守るばかり。
未来の花婿の目のまえで。
嫉妬に満ちた目線にくすぐったさを感じながら、礼儀正しく装われた薄いナイロン生地を、
俺は目いっぱい意地汚く、咬み剥いでいった。


案外と。
貴志の周りの女どもを、一人残らずモノにしながらも。
俺の一番の目当ては、むしろ貴志本人なのかもしれない。
貧血を起こした恋人の身代わりにと、彼女のよそ行きのスーツを着て現れた貴志は、
恋人の見守るまえで俺に女として抱かれ、女の歓びに酔い痴れてしまっている。

ハイソックス好きな少年とその家族

2019年01月31日(Thu) 08:04:56

ハイソックス好きな少年がいた。
その時分はハイソックスの流行は終わっていて、男の子たちはだれもハイソックスを履かなくなっていたが、少年は毎日ハイソックスを履いて通学していた。
ある晩帰りが遅くなった少年は、公園のベンチで、ひと休みしていた。
そこを喉をカラカラにした吸血鬼が通りかかったのが、運の尽きだった。
吸血鬼は少年のことを女の子と間違え、首すじを噛んで血を吸った。
少年が貧血を起こしてベンチにたおれこんでしまうと、足許にはいよってハイソックスのふくらはぎをきまなく舐めた。
少年は、この人はハイソックスが好きなんだと直感して、内心いやらしいなと思いながらも、男の気の済むまで舐めさせてしまった。
大人しくしていれば生命は取らないという吸血鬼の囁きを信じた少年は、彼の好意を受け容れた。
吸血鬼は少年の履いているハイソックスを咬み破り、吸血を続けた。

次の日、少年は再び吸血鬼に出会った。
待ち伏せていたのだ。
吸血鬼の期待どおり、その日も少年はハイソックスを履いていた。
少年は、きょうのハイソックスは気に入っているのてま、破くのはやめてほしいと願った。
吸血鬼はハイソックスを舐めて舌触りを楽しむだけで許してやった。
それ以来少年は、吸血鬼を信用するようになった。
数日に一度は彼と待ち合わせて、ハイソックスの脚を咬ませてやるようになっていった。
少年は、吸血鬼が自分と同じくハイソックスが好きなことに気づいたので、彼に親近感を持った。
吸血鬼のほうも、少年が彼の嗜好に理解を示し若い血液を気前よく振る舞ってくれることに感謝していて、少年の体調をに配慮を示して吸血の量を加減してやることもあった。
同じ趣味の二人は、少年はハイソックスを履いて吸血鬼を愉しませることで、吸血鬼は少年のハイソックスをいたぶり咬み破ることで、愉しみを共有するようになった。

少年の母親は、息子が時々素足で北口することに疑念を抱いた。
そして、少年の帰りが遅いある晩、様子を見に出かけて行って、少年が吸血鬼に血を吸われているところを目撃してしまった。
彼女はすぐに吸血鬼に捕まえられて、首すじを咬まれ血を吸われたうえ、犯されてしまった。
少年は失血のあまり朦朧となっていたが、
母親が自分の血を吸っている男に捕まえられて、穿いていたストッキングをめちゃくちゃに咬み破られて犯されてゆくのを、ただうっとりと見守っていた。
長い靴下を履いていると、見境なく咬みつくんだね、と少年はいうと、今夜のことは内緒にするかわり、母さんと交代で逢いにくると吸血鬼に約束をした。
母親は、息子が覚え込んでしまったけしからぬ習慣をやめさせることができなかったばかりか、自分自身も巻き込まれて、不倫を犯してしまったことを悔いた。
けれどももう、後戻りをすることはできなかった。
彼女は息子の留守中や、貧血で倒れた息子を迎えに行ったときに、息子ともども生き血を啜り取られるようになった。
出かけていく時彼女は、吸血鬼に言い含められるままに、薄手のストッキングを脚に通していった。
無体に弄ばれて咬み破られると知りながら、彼女は吸血鬼の意向に従っていた。
客人のまえで正装するのは、礼儀正しい婦人として当然の行いだと思ったからである。
そして、欲情もあらわにのしかかって来る吸血鬼に、自分は貴男を愉しませるために正装しているわけではないと主張しつづけた。
そしてもちろん、彼女の正装は吸血鬼をぞんぶんに、愉しませてしまうのだった。

少年の父親は、かつて吸血された体験を持っていた。
彼は妻と息子が代わる代わる吸血鬼に逢いに出かけてその欲望を満たしているのを知ると、自分も出かけて行った。
彼はその頃流行っていた濃紺のストッキング地のハイソックスを履いていた。
それが吸血鬼の好みに合うことを知っていたからである。
獣性もあらわに咬みついてくる吸血鬼をまえに、スラックスを引き上げると、なまめかしい薄地の長靴下に透ける脛に、吸血鬼は目を輝かせた。
貴方は良いご主人であり父親だと彼を称賛すると、父親の長靴下をくまなく舐め尽して、
その息子や妻に対してそうしたように、靴下を咬み破って血を啜った。
こうして少年の父親も、働き盛りの血を吸い取られてしまった。
少年の父親は、妻や息子の生き血が彼の好みに合ったことを嬉しく思っていたので、自身の血をむさぼり尽されてしまうことに、喜びを感じていた。
こうして一家はめでたく、吸血鬼の支配を受け容れたのだった。