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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ハイソックスのころ。

2017年02月21日(Tue) 07:12:48

遠い昔、男の子でもハイソックスを履いていたころのこと。
ハイソックスを履いたふくらはぎを咬まれて吸血鬼になってしまった僕は、
吸血鬼を受け容れることを決定したこの街で、いままで通り登校することを許可された。
学校で不用意にクラスの子を襲わないように、
母さんや担任の女教師、母さんよりもちょっと若い養護教諭の先生の献血つきで。
仲の良かった男子のなん人かも、献血に協力してくれた。
吸血鬼から伝染(うつ)されたハイソックス・フェチの性癖も理解してくれて、
血を吸っても良い日には、わざとハイソックスを履いてきてくれた。
でももちろん、中にはそうではない子も多かった。

「履いてあげる靴下考え中だから」――
そういって僕の吸血をえん曲に断ってきたのは、仲良しだったSくん。
さいしょは本気にして、いつあのお気に入りの、赤のラインの入ったハイソックスを履いてきてくれるのだろう?と思っていたけど、
それ以来、彼はハイソックスを学校に履いてこなくなった。
「悪いけど、キモチ悪い。ゴメンな」
そういって去っていった友だちもいた。
そのたびに声をかけてくれたのは、Kくんだった。
「気にすんな。こっち来なよ」
Kくんはいつもそういって、僕を後者の裏に呼んで。
毎日のように履いてきているハイソックスのふくらはぎを、咬ませてくれるのだった。
半ズボンの下眩しい、真っ白なハイソックスのうえから、僕は夢中になって、Kくんの足許に唇を吸いつけていった。
スポーツマンのKくんの血はいつも活き活きとしていて、心身ともに僕のことを力づけてくれた。
教室に帰るとき、Kくんはハイソックスをはき替えないで、
赤黒い血のシミをわざとそのままにしてクラスのみんなと親しんでいた。

まつ毛の長いやさ男のYくんも、僕に同情的だった。
いつも女の子みたいな、薄手のストッキングみたいなハイソックスを履いていて、
Kくんが部活に行ってしまった後、「ちょっと」と僕のことを呼び止めて、
だれもいなくなった教室で、ハイソックスの脚を咬ませてくれた。
貧血に翳る憂い顔がどことなく女ぽくて。
Yくんの血を吸っているときは。
なぜか、異性の血を吸っているときのような陶酔感を覚えていた。

年月が経って、わかったことがある。
もちろん、吸血鬼になった僕のことを不気味がった子もいたけれど。
離れていった多くの仲良したちが警戒したのは、僕に彼女を奪(と)られちゃうかも?ということだったらしいことを。
それと察したKくんは、自分の彼女を真っ先に紹介してくれた。
「処女の血が好きなんだろ?ぼくの彼女紹介してあげるよ」
みんなの前で僕にそういって周囲を驚かせたKくんは、
翌日みんなの前で、恋人の優子さんを紹介してくれた。
学校の成績が良くて快活な優子さんは、万年学級委員。
Kくんとは似合いのカップルだった。
「映画のヒロインになったみたい・・・」
優子さんは両手で恥ずかしそうに口を覆い、「きゃー」とおどけながら、僕に首すじを咬ませてくれた。
「ハイソックス汚したらママに怒られるから、きょうはゴメンね」
Kくんを含むみんなの前で堂々と吸血された優子さんはサバサバとした言葉づかいで、
僕のフェチな行動を封じていった。

翌日のこと。
Kくんはみんなのいないところに僕を呼んで、
隣の教室から呼び出していた優子さんと引き合わせ、「きょうだったらOKだから」といって、
紺のライン入りのハイソックスを履いた優子さんの脚を、僕に咬ませてくれた。

優子さんとは、二人きりで逢ったこともあるけれど。
妖しい関係には、とうとうならなかった。
Kくんとの友情が、それだけたいせつなものだったから。
そしてKくんがじつはだれよりも、僕に優子さんを奪(と)られてしまうのを心配していたから。

初めて性的な関係を結んだのは、同性のYくんだった。
女のような憂い顔の持ち主のYくんは、じつはいまでいうトランスジェンダーだった。
そんな言葉も認識もない時代、彼はずいぶん悩んだらしいけれど。
ある日のこと、彼女のできない僕のことを気遣って、
就職して家を出たお姉さんが高校生だったころの服を着て現れて。
真夜中の公園で、デートをしてくれた。
両親がYくんを家に残して結婚記念旅行に出かけた夜だった。
僕たちは初めてキスを交わし、Yくんのなまなましい呼気に触発されて獣になった僕は、
Yくんの穿いていたスカートの奥に、好奇心に満ちた掌を、荒々しくまさぐり入れていった。

意外だったのは、その後のSくんの行動だった。
「履いてきてあげる靴下考え中だから」と言いつづけていた彼は、
卒業間際になって、僕がずっと気にしていた赤のラインのハイソックスを履いてきて、
だれもいない教室で、こっそり咬ませてくれたうえ、こんど彼女を紹介してあげるとまで、約束してくれた。
期待しないで待っていたら、ほんとうに彼女を連れて家までやって来た。
彼女は、頑なな性格のSくんを和らげる力を持った少女だった。
Sくんの言うなりになって、僕に咬まれてしまうと。
「時々二人で、遊びに来るね」と、約束してくれた。
僕が過ちを犯したのは、寛大なKくんの花嫁の優子さんではなく、S夫人のほうだった。
一見頑なな彼が、ひそかに見せてくれた特殊な性癖に、僕は生涯かけて感謝することになる。

そのほかにもなん人か、奥さんや恋人を献血用にと紹介してくれた友だちがいた。
僕は彼らの血も吸っていたから、彼らの芯に意図するところを吸い出した血の味から読み取って、
彼らの連れてくる奥さんや恋人を、抱いたり抱かなかったりした。
でも――いまでもいちばん記憶に残る血の味は、
Kくんの彼女だった、優子さんのもの。
彼女への想いは、かなえられることのない淡い想いとして、いまでも僕の心の奥に秘められている。

父親の独り言。 ~小悪魔 後日譚~

2017年02月12日(Sun) 07:00:58

先日あっぷした、コチラのお話の後日譚です。
「小悪魔」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3395.html

この街に移り住んで、まだ半月足らず。
そのあいだに妻と息子は、街に棲み着く吸血鬼の手にかかって堕落させられ、その身をめぐる血液を、彼らの好餌にされていた。
わたしが大けがをしたと偽って連れ出され、その道すがら。
妻は男に、息子はその彼の娘の牙にかかって、血を啜り取られてしまったのだ。
大けがをしたのはわたしではなくて、妻と息子のほうだった。
もとより、咬まれた傷はさほどのものではない。
けれども、そのささやかな傷口からそそぎ込まれた毒液は、
彼らの理性を痺れさせて血潮を淫らな色に変え、
ふたりを淪落の蟻地獄へと、引きずり込んでいったのだった。

「あなたの奥さん、うちのパパと浮気しているみたい」
オフィスに訪ねてきたその少女は、白い目でわたしを見、唐突にそんなことを呟いていた。
長い長い黒髪の間に、一見素直そうな、大きな黒い瞳。
上品で齢以上に大人びた紺のワンピースに、白のハイソックス。
お行儀よくきちんと折り返したハイソックスの脛をきちんとそろえ、つぶらな瞳でわたしを見ていたが、
その視線は冷たく、なにかを見通そうとしているようだった。
「おじさん、うちのパパに血をあげてくれませんか」
「何を言っているんだきみは?わけのわからないことを言わずに家に帰りなさい」

いちどはそういって、峻拒してみたものの。
すでに妻も息子も奴隷になってしまったのは、白昼こっそりと帰宅したときに、たっぷり見せつけられてしまっていた。
妻はよそ行きのスーツにわざわざ着替えて、ブラウスを引き裂かれ、おっぱいをまる見えにさせながら、ひたすら首すじを吸われていたし、
息子はおどおどと、少女の言うなりになって、紺のハイソックスのふくらはぎを、じわじわと冒されてゆく。
少女だけがわたしの気配を察して、察しながらも気づかないふりをして、
そして、気づかないふりをしてあげているのよと言いたげに、ご丁寧になん度もこちらをチラチラ盗み見ながら、
息子の履いているハイソックスを、容赦なく咬み破っていったのだった。
父親のほうは、こちらのことなど眼中になく、肌色のストッキングを穿いた妻の脚に夢中になっていて、
ストッキングがしわくちゃになるほど、べろをねぶりつけさせたあげく、ブチブチと咬み破っていって、
喘ぐ妻はすっかり言いなりにされてしまっていて、ベッドのうえにあお向けに転がされると、
ストッキングを自分から片方脱いで、スカートの奥に秘めた股間を、男の侵入にゆだねていった。

「小父さんも、持っているでしょ?ストッキングみたいに薄い、紳士ものの長靴下。
あれを穿いて、パパに破らせてあげてほしいの」
ふたたび現れた少女は、やはり無表情の白い目でこちらのことを睨(ね)めあげてきて。
「降参のしるし」
そういって、クスリと笑う。
「でもね、悦んで。うちのクラスの転校生のママは、みんなパパの餌食になったけど。
あのひとがあんなに熱心につづいているの、奥さんだけだよ」
ほかの人妻たちはみんな、仲間の禿げ親父どもに分け与えちゃった・・・
黒髪の少女は、自分の母親くらいの女性たちの運命を、こともなげにそう片づけたのだ。

週に、3,4回くらいかな。
奥さんのこと、連れ歩いているの。
いつもエッチってわけじゃ、ないみたい。
大人のつきあいのことだから、詳しいことはわかんないけど。
でもね。ずうっといっしょにいるあいだ、お話ばかりしていることもあるんだって。
だんなの顔をつぶしちゃいけない。お宅の家の名誉と秘密は必ず守るって、あのひとにしては態度が殊勝なんだよね。

あくまで上から目線の少女の言いぐさは、自分の父親のことさえ「あのひと」と突き放しながらも、
そんな「あのひと」が妻にかなり真剣なことまで、淡々と伝えてきたのだった。
「降参のしるし、穿いてきてくれる?」
少女はとどめを刺すようにそういうと、黒い瞳でじいっとこちらを見返してきた。


じわり。
わたしのふくらはぎに、男の唇が吸いついたとき。
薄いナイロン生地のうえから感じる唇の熱っぽさに、どきりとした。
このひとはほんとうに、妻に執心なのだと、しんそこ実感した。
這わされた唇は容易に離されることはなく、すぐに咬もうとはしないでゆっくりと、わたしの足許をくまなく這いまわった。
ヒルのように貪欲で、妖しい唇だった。
この唇が、妻の唇を奪ったのか。
この唇が、妻の柔肌を這ったのか。
あらぬ想像が胸の奥を駆けめぐり、わたしの体内をめぐる血潮をまがまがしく染めた。
そんな想いを吸い取った血潮から感じ取ったらしい。
いつの間にか咬みついていた男は顔をあげ、わたしの顔を覗き込む。
「恥じることはありません。貴男は善い行いをなさっている」
わたしが虚ろに肯くと、男はそのままわたしの首すじに咬みついた。
ちゅうっ。
吸いあげられる血潮が、支配するされるものの体内から引き抜かれ、支配するものの喉の奥へと収められてゆく。
この牙が、息子の首すじを噛んだのか。
この牙が、息子の理性まで狂わせたのか。
吸血行為は、共同作業なのだ。セックスと同じくらいの意味で。
目ざめてしまった快感に耐えながら。
わたしはシーツがくしゃくしゃになるほど握りしめ、男の吸血にあえいでいた。
「私の胃の腑には、奥さまやご令息の血潮も満ちているんです。
家族三人仲良く、成仏なさってくださいね」
成仏という言葉はどうやら、堕落という言葉と同義語らしいと自覚しながら。
わたしは小声で「お願いします」と、呟いていた。
男がもういちど、わたしの足許にかがみ込んで。
薄地の長靴下を、思うさま咬み破ったとき。
身体の芯を突き抜けるような開放感が突き抜けて、自分が堕落したことを受け容れていた。

小悪魔

2017年02月09日(Thu) 06:08:09

長い長い黒髪で首を締められたら、どんな気分になるかわかりますか?

そんな一節。どこかの本で読んだはず。
その子のことを初めて見かけたときに、どうしてそんな言葉が思い浮かんだのか。いまでもよくは、わからない。
「そんなこと感じたの。あなた、直感が鋭いわね。女の子みたい」
あとになって僕の話を聞いた彼女は、そういってクスッと笑った――

僕が彼女に初めて会ったのは――もういいや、リサという本名で書いてしまおう――この街に越してきて10日ほど経ったある日のことだった。
「大変です。ご主人が大けがをされました」
父さんよりもずっと年上のその律儀そうな白髪頭の男が僕の家を訪れて、母さんにそう告げたのだ。
リサはその男の娘だといって、あとについて来たのだった。
不機嫌そうな怒り顔で、へどもどとあいさつをした僕には返事すらしないで、睨み返してきた。
おでこがまる見えになるほどひっつめたポニーテールの長い長い黒髪は、真っ白なカーディガンになまめかしく映えていた。
まだ、年ごろというには入り口の年代のはずなのに。
まだ、同じクラスの子として出会って、2週間もたっていないのに。

「早く行こ」
よそ行きのスーツに着替えるのに時間を取られた母さんと、先導役のはずの自分の父親を置いて、
リサは僕の手を取って、いきなり駆け出した。
つんのめりそうになりながらも、僕は必死であとを追った。
彼女の握力は強く、振り放すこともできないままに。
母さんの姿が見えなくなるほど走ったあと、さすがに息を切らしたリサは、「こっち」とみじかく告げると、
道を外れた生垣の向こうへと、僕のことをいざなった。
いきなり押し倒されて尻もちをつかされた僕は、「なっ、なにを・・・!?」って言ったきり、二の句をつぐことができなくなっていた。
首のつけ根のあたりに彼女の歯を感じて、身動きできなくなっていたのだ。
長い長いポニーテールは、こういうふうに使うのだと言いたげに僕の首に素早く巻かれ、
窒息しそうになった僕は、じたばたしながら結局どうすることもできずに、そのまま首を噛まれていった――

「吸血鬼だったの?きみ・・・」
無言の哂いで応えるリサの頬は、僕から吸い取った血を、まだぬらぬらさせていた。
「うちのパパに、あなたのママを襲うチャンスをあげてくれる?」
否応なしのお願いだった。
「ちょっとのあいだ、ここから覗いているだけでいいんだから」
え?
イタズラっぽく輝く黒い瞳にそそのかされるようにして、生垣の向こうの道に目をやると。
そこで母さんがたったまま、リサの父さんに噛まれているところだった。
さっき僕が、リサに噛まれていたのと、おなじように。
強く横抱きにされた母さんは、どうすることもできずに目を白黒させながら、首すじを嚙まれつづけて、
チューチュー音をたてて、血を吸われている真っ最中だった。
チャコールグレーのジャケットの肩先に、真っ白なブラウスに、吸い取られた血が点々と散っているのが、
ドキドキするほど・・・なまめかしかった。
なんで、「なまめかしい」なんて、感じてしまうんだろう?
訝しく思う僕の首すじに、リサはまたも嚙みついてきた。
「だれかが血を吸われているのを見ていると、こっちも欲しくなっちゃうんだから」
って、言いながら。
彼女はつねるような痛みを無遠慮にねじ込んできて、容赦なく僕の身体から血を吸い取っていった。

「すまないですね」
太い樹を背に追い詰められた母さんは、足許にかがみ込んでくる男をまえに、やっぱりどうすることもできないで、
しっかりとした肉づきのふくらはぎに、唇を吸いつけられてしまっていた。
脚に履いていた肌色のストッキングが、くしゃっと引きつれて、みるみるうちに破けていった。
貧血を起こした母さんがその場に尻もちをついてしまうと、リサは僕を引きずり出すようにして生垣から通りのほうへ引返して、
仰向けに倒れた母さんのすぐ傍らに僕のことを引き据えると、こんどは足許に噛みついてきた。
噛み破られたハイソックスに滲んだ血が、生温かく拡がった。
母さんの隣で僕が、リサにハイソックスの脚を噛まれていって。
僕の隣で母さんが、リサの父さんに肌色のストッキングをびりびりと破かれていって。
「こっち行きましょ」
リサは僕のことを引きずり回すようにして母さんの傍らから離すのと、
リサの父さんがまるで獣が獲物を漁るようにして、母さんのブラウスの胸を押し拡げるのとが、同時だった――

「うふ。お〇ん〇ん、勃ってるよね。たいがいの子が、そうなんだ。男の子って、面白いね」
半ズボンのうえからあてがった手をそのままベルトにかけて、僕の腰周りを引き剥ぐと、
リサは遠慮会釈なく、僕のペ〇スを咥えていった。
ためらいなどかけらもない、慣れたやり口だった。
まだ稚なげな唇が僕のペ〇スを呑み込んで、舌先が挑発するように、先端を刺激する。
思わず不覚にも。
びゅびゅびゅっっ・・・と、吐き出してしまった。彼女の口のなかで。
「行儀悪いね」
リサはしんそこ怒った顔つきで僕を睨み、それでもゴクゴクと呑み込んでしまった。
「ほら、あんたのママも、愉しんでいるわよ」
指さす方向でくり広げられる情景を、目にしたくはなかったけれど、やっぱり目を向けてしまった。
向けた目はそのままクギづけになって、唖然とした僕の横顔を面白そうに眺める視線に応えることさえ忘れていた・・・

「洋太のパパ、大好き!」
自宅のソファでくつろいだ父さんに、ソファの後ろからリサが抱きついたのは、その数日後の土曜日のこと。
僕と同じ経緯で、父さんはあの長い長いポニーテールの黒髪を、まんまと巻きつけられてしまって。
窒息寸前まで追い込まれながら、首すじを噛まれていった。
「お前、母さんを誘い出して噛ませたんだって?」
そう訊いてくる父さんの目は、怒っていなかった。
お互いにお互いの首すじにつけられた、同じサイズの歯形を見つめ合いながら。
「まあ、仕方ないか」と、うつろに笑い合ってしまっていた。
さっき、リサの父さんに連れ出された母さんは、夫婦のベッドに押し倒されて、切ない吐息を吐きつづけている。
気前よく咬み破らせてしまったストッキングは、早くも片方、脱がされていて。
花柄のフレアスカートは、齢不相応に逞しい腰の侵入を受けるままにくしゃくしゃにされて、
それを父さんはドア越しに、眩しそうに見つめている。
「よそで話しちゃ、ダメだぞ。父さんと母さんの不名誉になるからな」
目を白黒させながら、母さんの浮気現場から目を離せなくなっている父さんのことを冷やかすように、リサは言った。
「だいじょうぶよ。うちのクラスの転校生のお母さんは、みんなうちのパパが食っているから」

それ以来。
リサのパパと母さんの交際が、半ば公然と始まった。
「うちのパパ、あなたのママが気に入ったみたい。
 2日に一度は連れ歩いているわ。
 ほかの子のママよりも回数多いし、逢っている時間も長いみたい」
ひとをこばかにしたようにフフッと哂うリサは、つぎの瞬間悩ましい目つきで、僕に迫る――
「あなたもあたしに、噛まれてくれるわよ・・・ね・・・?」

サッちゃんと母親と。

2017年01月24日(Tue) 07:07:45

幸田貴志は公園で、吸血鬼に遭遇した。
走って逃げれば、逃げられなかったわけではない。
その吸血鬼は脚が悪く、貴志の脚力なら、振り切って逃げることができるはずだった。
けれども彼は半ズボンに紺のハイソックスの制服姿を、ベンチから起たせようとはしなかった。
じいっと見つめる目と、目。
相手はゆっくりと、近づいてきた。
逃げないんだね?
男は訊いた。
父親よりもずっと年上の、白髪の男だった。
貴志が逃げなかったのは、男に見覚えがあったからだった。
そしてその時のことが、どうしても気になったからだった。

体育館の倉庫で、サッちゃんの血を吸っていた人だよね?
ああ・・・そうだが。
見られていたんだな、と、男は呟いた。
夢中になって吸っていたからな。不意を打てば、きみは彼女を救えたかもしれなかったぜ。
貴志はかぶりを振った。
でも、サッちゃんは逃げるつもりがなかったみたいだから。
押し倒された少女の顔は、吸血鬼の肩に隠れて見えなかったけれど、
甘いうめき声は、いつものサッちゃんからは想像のつかないものだった。
ただ、立膝をした真っ白のハイソックスのふくらはぎが、ひどく鮮やかに網膜にしみ込んだ。
わざわざそのためにおニューをおろしたらしいハイソックスは、眩しい白さに輝いていたが、
ところどころ血が撥ねて、丁寧に咬まれたらしい痕は、特に毒々しく染まっていた。

だから、わしの愉しみを邪魔しないでいてくれたのだな。
そういうことになっちゃうね。
貴志はちょっと、悔しそうだった。
サッちゃんが好きなんだね?
問いには答えずに、貴史は訊いた。
サッちゃんの血を、吸い尽すつもりなの?
そんなつもりはない。それに彼女はもう、半吸血鬼になっちゃったからな。
え・・・
さすがに貴志の顔色が変わった。
ぢゃが、人の生き血を吸えば、真人間に戻れる。
サッちゃんは、僕の血を吸ってくれるかな・・・
たぶんね。
わしがそう仕向けるさ・・・と、吸血鬼は顔で答えた。
じゃあ、小父さんに吸われても構わないや。
貴志は紺のハイソックスの脚を、黙って吸血鬼のほうに差し伸べる。
サッちゃんが血を吸われるところをいつも覗いていた貴志は、
いつも彼女が学校に履いて行く真っ白なハイソックスを咬ませてしまっているのを知ってしまっていた。
すまないね。
吸血鬼は貴志の足許にかがみ込み、ハイソックスのうえから飢えた唇を吸いつけた。
サッちゃんのハイソックスを破り、素肌を咬んだのと同じ牙が、
自分のハイソックスも咬み破り、鈍い疼痛を滲ませてくるのを、貴志は感じた。

約一時間後。
貴志は蒼ざめた顔をして、家路をたどる。
連れの男はさっきまで吸い取っていた貴志の血を、まだ口許にしたたらせていた。
すれ違っていく通行人たちは、それと気づいていながらも、見て見ぬふりをしてやり過ごしていく。
この街では、吸血鬼たちは存在を認知され、昼日中から堂々と闊歩しているのだった。

息子さんが具合を悪くしていたのでね。お連れしたのですよ。
玄関に出てきた貴志の母親は、来客の正体をひと目で知って、蒼ざめたけれど。
蒼ざめた息子がそれでも穏やかな表情をしているのを見て取って、すぐに決意を固めたらしい。
「どうぞ」とひと言だけ言って、男が敷居をまたぐのを許していた。
吸血鬼は、肌色のストッキングに包まれた貴志の母親の足許から、もの欲しげな視線をはずそうとしなかった。
畳部屋に寝かされた貴志は、わざと開かれたふすまのすき間から、
リビングに押し倒された母親がストッキングを破られながら犯されていくのを、ドキドキしながら見守った。
凌辱される母親の姿を目にしたことでもたらされた昂ぶりが、貴志の血の気をじゅうぶん取り戻していたけれど。
あのとき、白のハイソックスの脚を切なそうに足ずりしながら血を吸われるサッちゃんを助けなかったのと同じように、
母親がストッキングを片方だけ穿いた脚をゆらゆらさせながら腰を振って応じていくのを、複雑な視線を送りながら見つめ続けていた。

少年の得た自由

2017年01月05日(Thu) 08:11:30

息子さんの血が旨いから、母親のあんたの血もきっと旨いぢゃろうて。
ぢゃからわしは、息子さんにお家にあがらせてもらったのぢゃよ・・・
野卑な言葉遣いもあらわに迫る老人のまえで怯える人妻は、まだぎりぎり三十代。
干からびた老人の体格と対をなすように、小ぎれいなワンピースに包まれた肢体の豊かさが、息子の目にもなまめかしい。
少年は母親を危難から救い出す努力も忘れて、
母親の白い首すじに牙が突き立ち真紅のしずくがしたたり落ちる光景を、
ただただ見惚けてしまっていた。

ボクのときよりも美味しそう・・・
見当違いな嫉妬に胸を焦がしながら、少年は自分の母親がみすみす生き血を吸い取られてゆくのを、ウットリとした目つきで見届けた。

じゅうたんの上、くたりと姿勢を崩した母親に、吸血鬼はなおものしかかり、容赦なく血潮をむさぼった。
「ひいぃ・・・」
しつけの厳しいお母さんの怯えた声に、不覚にも少年は失禁し、制服の紺の半ズボンの股間を濡らした。
気絶した母親の、ストッキングを穿いたふくらはぎに、男はねっとりと唇を吸いつけ、よだれを塗りつけてゆく。
正気であれば、決して受け容れることのできない恥辱のはずなのに。
生き血を味わわれてしまった女は悔しそうに歯を食いしばったまま気を喪って、男の思い通りに、薄手のナイロン生地をくしゃくしゃにされていった。

ストッキングの伝線をワンピースのすその奥にまで走らせた女は、股間に白く濁った粘液を吐き散らされたまま、白目を剥いてあお向けに横たわる。
その向こうで、こんどは少年が自分の番を待ち受けて、伸ばした首すじをすんなりと、差し伸べてゆく。
ずぶ・・・
さっき母親を咬んだのと同じ牙が自分の首すじに埋まるのを、少年は嬉しそうに受け入れた。

「ホラーじゃん」
ワイシャツに派手に飛び散った血のりを鏡で見ながら、少年は面白そうに笑った。
吸い取ったばかりの血潮を、わざとほとび散らせてくる吸血鬼の下で、シャワーを吹きかけられたときみたいに、思わずきゃあきゃあとはしゃいでしまった。
「きびしいお母さんも思い通りになっちゃったから、これからはおおっぴらに愉しめるね」
「そうだね。これからもよろしくね。吸血鬼さん」
少年は男の目あてを見透かすように、ずり落ちた紺のハイソックスをひざ小僧の下までピッチリと引き伸ばした。
「いつも学校に履いて行くハイソックスに穴をあけたら、お母さんに叱られるかな」
「どうだろ・・・」
ふくらはぎを咬ませながら、少年は横たわる母親を見た。
母親の穿いている肌色のストッキングは、男の欲情のままに、みるかげもなく咬み破られてしまっている。
「あのね、お願いがあるんだけど・・・」
「え?」
「母さんのこと襲うとき、ボクも部屋にいて構わないかな。邪魔したりしないから・・・」
少年の声色が妙に昂っているのを、男は聞き逃さない。
「父さんにも、ナイショにしておくから・・・」
「いい子だ」
男はそういうと、差し伸べられた足首をつかまえて、少年のふくらはぎをもう一度咬んだ。
血で濡れたハイソックスに生温かいシミが拡がるのを、少年は含み笑いをして受け流していく。
きっとこの子は、自分の母親が目のまえで犯されたことに、昂奮を感じてしまったのだろう。
「女と男が仲良くするようすを視ておくのは、大事なことだ」
「そうだよね・・・だいじなことなんだよね・・・」
少年は震え声で応じ、男に押し倒されるまま姿勢を崩した。
半ズボンを脱がされてあらわになった腰周りが、ドキドキするほど寒々しかった。
股間にめり込んでくる、剛(つよ)い一物は、さっき母を犯したもの。
おなじモノを体験してしまう禁断の歓びに、少年は理性を喪失した。
凌辱の愉しみに目ざめた少年は、自分を組み伏せている吸血鬼の背中に、ためらいながら腕をまわしていった。

男女ともにライン入りのハイソックスを履いていたころのこと。

2016年11月24日(Thu) 06:11:25

かつて男女を問わず、ライン入りのハイソックスが流行ったころ。
ぼくたちの街に、初めて吸血鬼が侵入した。
ぼくの彼女にも、魔の手が迫った。
吸血鬼に迫られた彼女は言った。
血を吸われるのは仕方がない。でもどうしても吸われたくない時には、見逃してほしい。
ライン入りのハイソックスを履いているときは、遠慮なく襲ってね。
それ以来、女子たちは吸血鬼に襲われても良いときに、ライン入りのハイソックスを履くようになった。
やつらは女子の履いているハイソックスに欲情して、
彼女たちのふくらはぎに咬みついてはハイソックスに血を撥ねかしていった。

同じ運動部にいる男子たちが、そうした吸血鬼の好みに敏感に反応した。
ライン入りのハイソックスだったら、オレ達だって履いている。
みすみす彼女の血を吸われるくらいなら、オレ達が身代わりになろう。
もちろん、身代わりが務まり切れるわけはなかったけれど。
ぼくたちはそろって、ライン入りのハイソックスを履いて、吸血鬼たちの前に立った。
女子と同じように、ハイソックスを履いた脚を咬ませて、若い血を吸い取らせて。
ぼく達は女子と同じ愉しみや歓びを共有する。
そして、女子たちが吸血鬼に抱きすくめられ、血を吸われる光景を見ることにさえ、
いつか湧き上がる歓びをガマンできなくなっていった。

ライン入りのハイソックスを、めったに見かけなくなった現在(いま)。
あの学校の生徒たちは、男女そろってグレーや濃紺のハイソックスを履いて学校に通う。
制服のモデルチェンジもまた、いまも学校に巣食う吸血鬼たちの好みに、意図的に合わせられているのだ。
ぼく達の息子や娘たちも、例外ではない。
だれもがグレーか濃紺のハイソックスを履いて登校し、
血を欲しがる吸血鬼が校内に現れると、それが授業中でも求めに応じるのがルールになっている。

やっぱりオレ達正解だったな。
あのときのキャプテンは今なお、そういって自慢する。
だれよりも先に彼女を作ったあいつは、
だれよりも先に彼女を吸血鬼に襲わせて、
だれよりも先に彼女は大人の女になった。もちろん、初めて血を吸わせた吸血鬼の手によって。
たしかにそれは、致命的なオウンゴールだったかもしれないけれど・・・
少なくともいえるのは、そうすることで本当に困っていた吸血鬼たちを救う結果になったということ。
救われた彼らは学校に平和裏に巣食うようになり、そのためにだれも死なずに共存を果たすことができた。
ぼく達が卒業したあの運動部は、いまでも試合の時、同じライン入りのハイソックスを履いて活動している。
そして時々、グランドで吸血鬼に追い回されるだけの部活を、愉しんでいるという。

ぼくは同級生の人気者。

2016年11月21日(Mon) 07:19:06

周東、お前の血を吸わせろよ。
きょうも休み時間になると、同級生の吸血鬼たちは、ぼくの血を欲しがって群がってくる。
担任の先生も、見て見ぬふり。
だって先生も放課後には、彼らを自分の家にあげて、奥さんの血を吸わせているくらいだから。
都会から転入してきた教え子が血を吸われるくらいは、ごく当たり前のことみたいだった。
ナオキくんは、ぼくの足許ににじり寄ると、
半ズボンの下に履いている紺のハイソックスのうえから、唇を吸いつけてきたし、
ハルオくんは、ぼくを後ろから羽交い絞めにして、
首すじにぬるりと、舌を這わせてくる。
タカオくんはシャツをはみ出させて、ぼくのわき腹を。
キョウタくんは半そでシャツからのぞいた二の腕を。
立ち尽くしたぼくを取り囲むと、みんな思い思いに咬みついて、じゅるじゅると音をたてて血を啜る。

眩暈を起こしてその場に尻もちをついてしまうまで、やめなかった。
尻もちをついたぼくに、みんなは「ありがとな」「ごちそうさま」「おいしかった」口々にそうお礼を言って、
さいごにナオキくんに頭を撫でられて、解放される。
ほかの三人はぱたぱたと足音を立てて走り去ったが、ナオキくんだけは戻ってきた。
だいじょうぶかよ?といって、ぼくが起ちあがるのに手を貸してくれる。
家までついていってやるからさ。
そういって付き添ってくれるのは、半分は親切心。でももう半分は、はっきりちがう。
家にあがってく?
ぼくはナオキくんをもてなしてやる気になって、そういった。
ナオキくんもくすぐったそうに笑い返して、うれしいな、と、こたえた。

ナオキくんのお目当ては、母さんの生き血。
血を吸われるようになったぼくは、ぼくの血を吸ってくれる友だちに、母さんを紹介していた。
さいしょに吸血鬼の友だちを四人、家にあげたとき。
母さんはお紅茶を淹れてくれたけど。
彼らの目当ては、もっと濃い赤い液体――
母さんはみんなに取り囲まれて、押し倒されて。
きゃあきゃあと小娘みたいにはしゃぎながら、血を漁り取られていった。
いつもしつけにきびしい母さんが、
ブラウスをはだけて、ブラジャーをむしり取られて、
スカートのすそから太ももをあらわにのぞかせながら、
ぼくの仲良し相手に、生き血をチュウチュウ吸い取られてゆくのを、
ぼくは目を見張って立ち尽くして、いちぶしじゅうを見届けてしまっていた。
ゾクゾクとした歓びに目ざめてしまったのは、そのときだった。
脚好きなナオキくんはそのときも、いつもぼくの履いているハイソックスを咬み破くときとおなじように、
母さんの脚から肌色のストッキングをむしり取っていった。

父さんも時々、お友だちを連れて帰ってきて、母さんのことを襲わせている。
ぼくも父さんの目を盗みながら、父さんの友だちと入れ代わりに、ぼくの友だちを送り込む。
とくにナオキくんは、ぼくの母さんのことをとても気に入ってくれたみたいだった。
母さんは貧血に顔を蒼ざめさせながらも、ぼくの友だちの相手をしてくれた。
ナオキくんもそういうときは、母さんに手加減をしてくれて、
足りない分はぼくの首すじを咬んだり、ハイソックスを咬み破ったりして、お腹を満たしていく。
このごろは、そんなふうに母子ながら血を吸い取られることが、むしょうに嬉しい。
母さんの血とぼくの血が、彼らのなかで仲良く織り交ざっていくのを想像するのが、むしょうに愉しい。
きっと、そのうちに、ナオキくんたちが年頃になって色気づいたら、
ぼくの母さんを相手に、筆おろしの儀式を済ませるのだろう。
「だいじな瞬間だから、周東の母さんと姦りたい」
そんなふうに面と向かって言われても、ぼくはただ、くすぐったそうに笑い返すだけ――
ひょっとしたら、ぼくの筆おろしも、母さんが相手をしてくれるかもしれなかったから。


あとがき
もしかするとこのお話のヒロインは、前作の奥さんと同じ人かもしれません。
旦那様からも息子さんからも紹介されつづけたら、すごい貧血になっちゃいそうですが。(笑)

”女生徒”どうし。

2016年10月11日(Tue) 03:45:53

マキちゃんまた貧血ぅ?よっぽど吸血鬼の小父さまに気に入られちゃったのね♪
んー、それ、困るよぉ。ウレしくないよぉ・・・
マキちゃんと呼ばれた女生徒は、眠たそうに目をこする。
そおー?でもよかったじゃない。楽しいんでしょ?吸われてる最中って。
そうだけどさー、ヒラちゃんみたいに、あたしもスポーツとかやりたいよぉ。
マキちゃんはそういいながら、教室に向かう生徒の列を外れて、ひとり保健室をめざす。

はぁ・・・

ヒラちゃんと呼ばれた女生徒は、ちょっと立ち止まってクラスメイトの行き先を見つめ、ため息をついた。
よく見ると。
マキちゃんもヒラちゃんも、ほんとの女生徒ではない。
女装した男子生徒だった。
この学校は、じつは男子校。
でも生徒のうちの約半分は女生徒の制服を着用して登校するので、はた目には共学校とよく間違われている。
マキちゃんの本名は、牧野純男。ヒラちゃんは平岡清太郎。りっぱな男らしい名前だった。

ヒラちゃんの悩みは、まさに「男らしい」体格と風貌。
入学以来女子として振る舞っていて、念入りに化粧までして学校に来るけれど、どうしたって地は隠せない。
マキちゃんのなで肩の体格に典雅な風貌、それに持ち前のなよっとした立ち居振る舞いにはかないっこなかった。
もっともマキちゃんはそうした「女子力」のために、まえの学校ではいじめに遭っていたらしいけれど。

あー、くさくさする。

ヒラちゃんは教室に着くと、すぐさま部活のユニフォームに着替えていた。
所属しているバスケットボール部では、主力選手なのだった。
一時間目は、体育。けれども、出席率はよくなかった。
えー、あたしだけ・・・?
クラスの全員が貧血で、ヒラちゃん以外の生徒はどうやら、教室で自習を決め込むらしい。

がらんどうの体育館に、ボールのはずむ音が残響たっぷりにうつろに響く。
・・・ったく、もう!
ヒラちゃんはボールを手に取ると、いきなりダンダンダン・・・と短兵急な音を響かせてドリブルして、
ゴール前で巧みに身をくねらすと、鞭のようにしなる腕から、ボールを繰り出す。
放たれたボールはあやまたずゴールポストに食い入って、直下の床をダン!と響かせた。
きょうの授業は、教師さえもが貧血らしい。
かまうものか。独りで授業こなしてしまおう。
さらにもう一回――ヒラちゃんはボールを手に取ると、再び敏捷な動きでドリブルをくり返し、ゴールに迫る。
ライン入りのハイソックスの下、がっちりとした筋肉がギュッと隆起する。

と――

放たれたボールはあらぬかたをめざし、体育館の高い天井間近まで舞い上がると空しく落下した。
おい・・・ッ
思わず男声になって振り返ると、ムササビのように飛びかかって来た男の影は
ヒラちゃんと反対側に飛び交って、床に這うようにうずくまると、こちらを見返してくる。
目にもとまらぬ早業だった。
そいつがヒラちゃんの一瞬のスキを突いてボールに手を伸ばし、ゴールをまっすぐ目指すはずの弾道をでたらめにねじ曲げたのだ。
こんの野郎――
ヒラちゃんは闘争心もあらわに、こんどは男の妨害を許さずゴールを狙う。
けれども結果は、同じことだった。
いままで幾重の防御を縫ってゴール前に突進し、外されたことのなかったシュートは三度、みじめな放物線を描いてゆく。
気がつくと、汗だくになっていた。
挑発され、幻惑され、さいごに絶望させられる――
こいつ・・・新顔の吸血鬼じゃないか。
気がついたときにはもう、体育館の床に腹ばいになって、男にふくらはぎを咬まれていた。
どうやらこいつも、脚フェチらしい。
いままでヒラちゃんのスカートの下を狙う吸血鬼はほとんどなかったし、貧血を覚えるほど血を吸われたこともなかった。
だのにこいつは、平気でヒラちゃんのふくらはぎに食いついて、身体ぜんたいがふわぁってなるほど、したたかに血を吸いあげる。
部活のユニフォームの一部であるライン入りのハイソックスは、勝った側のご褒美といわんばかりにもてあそばれて、
くまなく舐め抜かれ、あちこちと咬み破られて、ずるずるとだらしなく、ひざ小僧の下からずり落ちていった。
・・・ったく、このっ・・・
ヒラちゃんは悔しがったが、どうすることもできない。今度の体育の時間にリベンジを誓うのが精いっぱいだった。

つぎの日の体育の時間。
授業に参加した生徒はやはり、まばらだった。先生も来なかった。
しかし、あのいまいましい黒い影は、やはり彼のことを目あてに体育館に来ていた。
狙ったシュートは7回外され、敏捷な身のこなしは先の先まで読まれてつかまえられて、ヒラちゃんはふたたび、床に転がった。
好きにしなよッ。もうッ!
やけになって投げ出した脚に男はむしゃぶりついて、ライン入りのハイソックスのうえからヒラちゃんのふくらはぎに唇を吸いつけると、
それはおいしそうに舌をねぶり着けて、しなやかなナイロン生地に唾液をたっぷりとしみ込ませてゆく。
女生徒のかっこうをしているときには近寄りがたいと敬遠されつづけるヒラちゃんが、
体育館では恰好の餌食として狙われる。
女もののハイソックスは無傷のまま家路をたどることがほとんどだったのに、
部活用のハイソックスは毎日のように赤黒いシミに汚されていった――
ヒラちゃんが女装をやめたのは、それからすぐのことだった。

よぅ。
朝の通学路で声をかけてきたヒラちゃんは、入学前の平岡清太郎に戻っている。
おはよっ。
女声で返してくるマキちゃんは、女生徒の服装がすっかり板についていた。
元に戻ったの?でもヒラちゃんカッコいいよ。ファンになりそう♪
マキちゃんの女ぶりに、いつも以上にグッとくるのは。
ブレザーの女子用制服を脱ぎ捨てて、詰襟に戻ったからだろうか?
行こうぜ。
二人は連れだって、学校を目ざす。
俺さ、やっぱ男もいいんだよね。
ウン、ヒラちゃん男服似合うもん。
いや・・・それだけじゃなくってさ・・・
ヒラちゃんはちょっとだけ口ごもると、それでも言った。男らしく、まっすぐに。
――俺の彼女になってくれないか?
マキちゃんは一瞬立ち止まってヒラちゃんを見あげ、眩しそうに顔を見返すと、すんなりと頷いていた。

あたし、もう処女じゃないんだよ。先週、吸血鬼の小父さんに犯されちゃった。
人間の彼氏ができても、彼氏と話しつけてでもお前を放さない・・・って、言われているの。それでもいい?
もちろん・・・さ。
ヒラちゃんも、意外なことをいった。
いつもバスケでかなわない彼ね、こないだ俺のこと組み伏せて、短パン脱がされて無理やり姦られちゃった。
ライン入りのハイソックスの脚おっ拡げてさ、みんなの前で、ウンウンうなりながら、夢中になっちまった。
だからさっきも言ったろ。やっぱ男もいいって。
あいつ、いいライバルだから。俺もマキちゃんを彼女にしながら、あいつと男同士も愉しむからさ。
マキちゃんもいっぱい、小父さんにかわいがってもらいなよ。
お互い女の彼女ができたら、きっとあいつらに紹介しちゃうだろうから。
そうなるまえに、マキちゃんを寝取られても愉しめるようになっておきたいんだ。

ほんと、あたしたちってば歪んでるよねー。
マキちゃんはあっけらかんと笑った。宅まぬ笑い声が、すでに女声だった。
それをうらやましがっていたヒラちゃんが、いまは別の目でマキちゃんの女ぶりに目を留めている。
いきなりマキちゃんの行く手に立ちふさがると――
熱い唇が、マキちゃんの唇をふさいでいた。
や・・・だ・・・
マキちゃんはヒラちゃんの腕のなか、ちょっとだけ抗ったけど。
すぐに傍らの草むらに引きずり込まれて、スカートのなかに手をさ迷わされてゆく。
ヒラちゃんはどこまでも男らしく、マキちゃんを圧倒しつづけた。
そんなヒラちゃんに、マキちゃんは女になりきって、華奢な身体をすがりつけていった。


あとがき
完全な?同性同士のお話は、じつは珍しいかも知れませんね。 ^^;

妹の紺ハイソ

2016年10月05日(Wed) 06:40:04

公園のベンチのごつごつとした感触にも、もうだいぶ慣れた。
むしろここにうつ伏しているときのほうが、教室にいるよりもリラックスした気分になれる。
というも――
このベンチで腹ばいの姿勢を取っているときは、吸血鬼の小父さんに、脚を咬んでもらっているときだから。

きょうも小父さんは、ボクのふくらはぎにとりついて。
小父さんのために履いてきたハイソックスを脱がせもせずに、牙を深々と埋め込んでいる。
しっかりとしたナイロン生地の舌触りが、たまらないのだという。
さいごはハイソックスをずり降ろして、素肌の上から咬むのだけれど。
そうする前に、たっぷりと・・・ボクの履いているハイソックスを舌や唇で愉しんでいくのだった。
そんな小父さんのために、チュウチュウと勢いよくボクの血を吸いあげる小父さんのため、
うら若い血液を気前よく、分けてあげてしまっている。
血液が傷口を通り抜けるときのあの妖しい疼きが、きょうもボクを迷わせていた。

ふぅ・・・
傷口から牙を引き抜いて、小父さんが満足そうなため息を洩らすとき。
ボクも身体から力を抜いて、「ふぅ」と息をはずませる。
ライン入りのハイソックスは、運動部の部活のときのユニフォーム。
この服装で小父さんの相手をするときは、チームメイトを裏切っているような後ろめたさを感じたけれど。
うちのキャプテンが餌食になってからはみんな、小父さんやその仲間たちのため、
みんながおそろいで、ライン入りのハイソックスの脚を咬ませるようになっていた。

また女の子が相手をしてくれなかったんだね。小父さんのこと怖がって、みんな逃げちゃうんだよね?
ボクのからかい文句を、小父さんはくすぐったそうに受け流すと、いった。
こんど、きみの妹さんを連れてきてくれないか?

やらしい・・・なんだか、やらしいな・・・
兄さんに妹を紹介させるの?
みんなそんなふうにして、女子の生き血をゲットしているの?
だからさいしょに、男子をたぶらかしにかかっているの?
小父さんたちのやり口が見えてしまったとき――それでもボクは批難の言葉を慎んで、素直に肯いてしまっている。
じゃあこんど、妹の下校時間に合わせて、小父さんと逢うことにするからね。

公園の通路を横切っていく制服姿の妹を、遠目に追っていくと。
その小さな人影は、こちらを振り向いて。立ち止まって。びっくりしたように佇みながら、様子を窺っていた。
「春江、おいで!」
ボクが脚を咬まれながら声をあげると、妹の春江はもじもじしていたけれど、
くり返し名前を呼ぶと、気の進まないような足どりで、こちらに歩み寄ってきた。

「お前も脚咬んでもらいな」
ボクの命令なんかいつも無視しているくせに、どういうわけかその時だけは、春江はとても従順だった。
「お兄ちゃん。顔色悪いよ」
そういって、ちょっとだけ心配そうにボクの顔を窺うと。
ボクは無言でベンチの上から降りて、春江も無言で、ボクのいたところにそのまま腰をおろす。
「ハイソックスの上から、咬むんだね」
ぶすっと呟く仏頂面の妹に。小父さんは猫なで声で迫っていく。
「面白そうだろ?だから自分から来たんだろ?」
「そんなこと・・・ないよ・・・」
「お兄ちゃんのことが心配だったのか」
「それも・・・あるけど・・・」
言葉を交わしながら春江の横に座って、なれなれしく肩に腕を回してくる小父さんに。
いつも気の強いはずの春江は、意外にも無抵抗だった。
「紺のハイソックス、たっぷりとしていい感じだね」
「あたし、脚太いもん」
「いや、これくらいの肉づきのほうが、男子にモテるんだ。本当はね」
「そうなんだ」
春江はまんざらでもない顔になる。
「咬まれるのは初めてかい」
「まだ咬ませてあげるって、決めたわけじゃない」
そういって春江は強がるけれど、もうすっかり小父さんの腕のなかに取り込まれていて、
スカートの上から太ももをもの欲しげにまさぐる手を、どうすることもできないでいる。
さすがに、露骨にやな顔をして、さっきから小父さんをにらみつづけていたけれど。
小父さんはそんな春江の目線がむしろ好もしいらしくって、
「女子にモテない」ってボクにからかわれたときと同じように、くすぐったそうに受け流していく。
「首すじと、どっちが先がいいかね」
「だからー!まだ咬ませてあげるって決めたわけじゃない」
「安心しなさい。きみにそんな恥ずかしい決断をさせたりしないから」
「エ・・・どういうこと」
「わしが一方的に・・・咬む・・・!」
さいごは大きく口を開いて。
伸びた犬歯にあわてた春江が、両手で口をふさぐ間に。
おさげの黒髪をかいくぐり、むき出した牙を春江のうなじに埋めていた。
きゃ~っ。
時ならぬ悲鳴に、不覚にも射精してしまっい、半ズボンの裏をびしょ濡れにさせたことは、いまでもナイショ。
吸血鬼は妹を掴まえたまま、ごくり・・・ぐびり・・・とロコツな音をたてて、十代の女子の生き血を飲み耽る。
妹は座ったしせいのまま、気おされまいとするように、歯を食いしばって悲鳴をこらえる。
決して泣くまい。弱みを見せる麻衣。
そんな意地っ張りなようすが手に取るように伝わってきて、思わず「かわいいなあ」って、呟いてしまう。
春江はボクのことをにらんだけれど。
知らず知らず施してしまっている飲血の奉仕の光景を、ボクは絶句しながら見届けていた。

「もう、知らないからね」
やっとやっと首すじを放してくれた小父さんに、春江は精いっぱい強がってそういうと。
ずりおちかけた紺のハイソックスを、ひざ小僧の下まで引き伸ばす。
「ご馳走すればいいんでしょ」
どこまでも、ツンツンとした態度。
吸血鬼は、女の子のそんな強がりをまるきり無視して、
自分は自分の仕事をするといわんばかりに春江の足許にかがみ込むと、
差し伸べられたふくらはぎに、ねっとりと唇を吸いつける。
紺のハイソックスを履いたまま、春江は小父さんの牙を受け容れた。
ボクがいつも、運動部のユニフォームのライン入りハイソックスをご馳走してあげるときと、まったく同じようにして。

紺のハイソックスも、いいなあ。
ボクも脚に通して、小父さんに咬ませてあげたいなあ。
妹が生き血を吸い取られていくというのに、このけしからぬ兄はそんなことを妄想して。
吸血鬼の不埒で好色な唇の下、春江の履いている紺のハイソックスが、みるみるよじれて、くしゃくしゃになってずり落ちてゆくありさまを。
息をつめて見守って、愉しんでしまっている。


愉しんでたよね?お兄ちゃん。
小父さんと別れてしまうと、いつもの力関係が、現実と一緒に戻ってきた。
そうだね。愉しんでたかな。
ボクは頭上に広がる青空を見あげながら、ひとごとみたいにそう応えると。
そのまま空を見あげながら、いった。
紺のハイソックス、まだ持ってる?ボクも履いてみたいんだけど。
じゃあ、こんどはおそろいで――あたしのハイソックスお兄ちゃんにも履かせてあげるから。
春江は血の気の失せた蒼ざめた頬に、満面の笑みを浮かべてこたえた。
そして、イタズラっぽい笑みを切らさずに、言ったのだ。

こんどさ、ママがお兄ちゃん用に、女子の制服買ってくれるってさ。
今度から、女子になって登校するんだよ。学校でももうなん人か、そういう男子いるからさ。恥ずかしがらないでも平気だって。

妹を堕落させるのにひと役かったつもりでいたけれど。
やはり妹のほうが、一枚上手だったらしい。

鞄。

2016年09月08日(Thu) 07:42:54

ただいまぁ。
下校してきたタカシの声が、見慣れたはずの家の中でうつろに響いた。
いつもの家のはずなのに、なにかが変だ。
思わず、帰ってくる家を間違えたのか?と思って
玄関の表札を見直しに後戻りしかけたくらいに、ヘンだ。
よく見てみると、敷居を上がってすぐのところに、見慣れない鞄が投げ出してある。
それはタカシがいつもそうしているように、むぞうさに置かれていて、
我が物顔に廊下の半ばを占めて通り道をふさいでいた。
見慣れない鞄だと思ったけれど、見覚えはあった。
仲良しのリョウタの持ち物だった。
さっきまで、隣の席でいっしょにいたじゃん。
そう思いながらリビングに入っていって、アッと声をあげそうになった。

リビングのすぐ隣は、両親の寝室になっている。
いつも几帳面な母の手でぴしゃりと閉ざされているその空間が、
やはりむぞうさに半開きにあれていて、
視てはならないものがやはり無造作に、いやでも視界に入り込んできた。
見慣れたこぎれいなワンピースを着た母が、
おっぱいをたわわにさらけ出して、
ストッキングを半脱ぎにされて押し倒されていた。
半ズボンを片方だけ脱いで、母の上にまたがって、
腰を上下に動かしながら、母を夢中にさせているのは、
ほかならぬ幼なじみのリョウタだった。

たいせつなふたつのものを同時に喪ったような強烈な不信感に強くかぶりを振って、
それをとっさに拭い取ったら、
あとからあらわになったもっとどす黒い衝動が、目も当てられないほど、
あたりいちめんに拡がっていた。
認めざるを得ない二人のあり得ない関係を目の当たりにに、
股間を抑えながら昂ぶりを隠せなくなっている自分がいた。
脱がされたストッキングが母の足許でふしだらに弛んでいる光景が、
網膜に灼きついて離れなくなった。

そのまま息をひそめて、親友が母の肉体を愉しむのを見守りつづけ、
パンツがびしょ濡れになるくらいに昂奮しつづけて、
でも部屋から出てきたリョウタに、声をかけずにはいられなかった。
「おい」
ほんの呟くような小声しか発することができなかったのに、
リョウタは飛び上がるほどびっくりして、
すぐにタカシの手を引いて、「来い」というと、
廊下に置きっぱなした鞄をひったくって、
お化け屋敷から逃げ出すような勢いで門の外まで二人で飛び出していた。

お前ぇ、先生に呼ばれていたからきっと、帰り遅いと思っていた。
おれだって、帰りが遅いつもりでいた。あいつ、説教長いからな。
すぐに解放されたんだ、ラッキーだったな。
まったくだよ。あいつ急に黙って、もういいから帰れって言ったんだ。
お互い意識して、さっきまで両親の部屋で起きていたことを話題から避け、
まったく無関係なことをしゃべくり合って。
しまいに話題がなくなって、核心に触れざるを得なくなった。

長くなると形勢が不利になると思ったらしい。
リョウタはひと言、
「母ちゃんにさっきのこと言うなよ。親子の関係がヘンになったら困るだろ。
 なんにも気づかなかったふりして、絶対話すんじゃないぞ。
 話したくなったら、おれに言えば相手するから」
「相手する」の意味が、男子らしい粗暴な意味ではなくて、
どうやらたまったうっぷんを晴らしてくれるという意味らしいことだけは、なんとなく伝わってきて、
タカシはちょっときまり悪げに「じゃあな」と言い、
リョウタもちょっときまり悪げに「じゃあな」と言った。


次の日も。
リョウタの鞄は、タカシの家の廊下に無造作に投げ出されていた。
タカシは母が親友に犯される場面に、きのうと同じくらいしんけんに息をつめて、見入っていた。
少なくとも、二人が合意のうえで息をはずませ合っているという状況だけは、飲み込むことができた。
母は父と自分とを裏切って、リョウタの性欲のはけ口になっていて。
リョウタは自分の母親以上に、タカシの母に懐いて発情して、
後ろから視ているタカシの目をじゅうぶん自覚しているくせに、
タカシの感情などおかまいなしに、タカシの母のワンピースの奥に、精液を吐き散らかしていた。

おい。
あお向けで大の字になった母を置いて部屋を出て、そのまま前を素通りして帰ろうとするリョウタのまえに、タカシが立ちふさがった。
タカシは無造作に置かれたリョウタの鞄を拾い上げ、
鞄。
といって、手渡した。
鞄だけは、かんべんしてくれないかな。
タカシはぶすっとひと言、そういった。
外からも見えるし、あんまり見良いもんじゃないから。
なにも意識しないで置き捨てた鞄が親友の心に与えた意外な影響に、リョウタがちょっとびっくりしたような顔をすると。
表に出て。
タカシはやはり乾いた声で、そういった。
リョウタがタカシに従って、玄関を出ると。
門の手前でタカシはリョウタに向き直り、
一発だけ、なぐらせろ。といった。
いいぞ。
リョウタは地面に足を踏ん張った。
ばちぃん!
強烈な平手打ちに目が眩んだ。
どちらかというと大人しいタカシの一撃に、リョウタはおどけて「さすがや」というと、
タカシは「これでおあいこな」とだけ、いった。
「おれのときにはさ、脱いだ背広だった」
リョウタは意外なことを口にする。
「背広?」と、タカシが問うと、
「お前の鞄」とだけ、リョウタはいった。
家に帰ると背広の上下が母親の部屋の前に脱ぎ捨てられていて、
閉ざされたふすまの向こうから、あぁ~ん・・・という声が洩れてきた。
間違いなく母の声だったのに、立ちすくんでしまって、ふすまを開けることができなかった。
ふすまを開けることができないのに、ふすまの向こうの情景が気になって気になって、気が狂いそうになった。
しんぼうにしんぼうを重ねて待ち続けて、出てきた男に言った。
せめてふすまは開けといてくれませんか?と。
出てきた男の正体にびっくりしたリョウタに、
リョウタに視られていたこと自体にびっくりしたその男は、
つぎのときからは律儀に、ふすまを半開きにしておいてくれて、
リョウタのほうも律儀に、ふたりの愉しみを妨げようとはしなかった。
タカシが感じたのと同じ不思議な昂奮を、リョウタも感じてしまっていたから。

だからお前のときには、気を使おうと思ったんだけどな。鞄だったか。
まだまだ、間男失格やな。
リョウタは笑って頭を掻いた。
タカシは「この」と言いながら、リョウタの頭を軽くどついた。
お互いのあいだに潔い空気がよぎるのを、お互いが感じていた。


それからは。
リョウタが目配せすると、タカシはリョウタより一拍遅れて学校を出、
リョウタが母を相手に行う儀式を、タカシはふすまのすき間から、息をつめて見守っていた。
母を間男されているリョウタは、タカシの気分をよくわきまえていた。
タカシが視たがるときには、ほかの予定をあと回しにしてでもタカシの家に行ったし、
タカシがほんとうに切ないときには、タカシの家に行くのを控えるようになった。
母はとっくに気づいていたようだった。
けれどもそのことを、母も息子も、口にすることはなかった。
リョウタがふつうに遊びに来たときの帰り際、母がリョウタと二人きりの時間を持つのも、
三人の間では、ごくあたりまえのことになっていた。
それでも母と息子のあいだで、そうしたことが口にのぼることはなかった。

やがてリョウタは、自分の母親の間男を連れて、タカシの家に来るようになった。
大人同士のセックスは、ふたりの少年を夢中にさせるのにじゅうぶんだった。
タカシはリョウタの家に呼ばれて、リョウタの母がその男と交わるようすを見せてもらった。
リョウタの母は美人だったし、乱れ方もひととおりではなかったけれど、
やっぱり自分の母親の時のほうが昂奮できるとひそかに思った。
ふたりの母親の間男をしたのが、ほかならぬあのがみがみ親父の先生だったことは、
ふたりをよけいに、昂奮させた。
「あいつ知能犯やな」と、リョウタがいった。
あの日、タカシを叱ろうとして教室に残し、
タカシの帰りが遅いのを見越したリョウタがタカシの家に出向くのを見極めて、
わざと中途半端な時間だけタカシを残して家に帰して、
ちょうどのっぴきならない状況のときに、帰宅するように仕向けたのだろう。
「まさかタカシの母さんまでモノにできるとは、あいつ思っていなかったみたいだけど」
リョウタはいっぱしのワルめかして、へへっと笑った。


二十年後――
ただいまぁ。
タカシが家に戻ると、家のなかは真っ暗だった。
廊下には、無造作に投げ出された通勤鞄。
あいつ、悪い癖が抜けないな――
また帰る家をまた間違えたのか。
リョウタは律儀にも、あらかじめタカシに仁義を切っていた。
きれいな嫁さんやな。こんどいっかい、ユーワクさせてくれへんか?
箱入り娘だった嫁は、おぼこだった。
もらったばかりの嫁は、そうしたことにはまったく無防備で、
リョウタのトライにあっけなく屈すると、
夫の帰りの遅い夜には、リョウタに連絡するようになっていた。
来月から単身赴任。そして、リョウタはまだ独身。
すでに三人もいる子供のうち、ひとりは間違いなくリョウタが父親だった。
帰ってくる頃には、二番目の子とうり二つの子がもうひとり、増えているかもな。
そんな想像に昂りながら、タカシはいつもの場所にいそいそと陣取っていった。

真夜中の公民館

2016年08月29日(Mon) 01:12:12

月に一度のその夜は。
吸血鬼と人間とが共存するこの街では、お決まりの夜。
男たちは妻や娘、姉や妹を家に残して、公民館で宴を張る。
家に残った女たちは、よりどりみどり。吸血鬼の餌食にされる。
もちろん、生命の保証はあっての好意――でも、貞操は無事では済まされない。
血を吸った女の操は犯すのが、彼らにとっては礼儀なのだという。
襲った女が魅力的だったことの証しとして、愛していくのだから。

少年のころ、父に連れられて宴会に行った。
そこでは大人たちがお酒で顔を赤くしていて、ぼくたち子供は隅っこで小さくなっていた。
父はしばらくの間、口数少なくその場にいたが、やがて堪えられなくなったらしい。
留守宅で母と姉とが、ムザムザと吸血鬼の餌食になることが。
「おまえはここにいなさい」そう言い残して、父は家へと取って返した。

よせばいいのに・・・という人と。
そこは気になるだろうさ・・・という人と。
父の背中に投げられた囁きがそう冷たいものではないことに、ぼくは安堵を覚えていた。
黙認の形で公民館まで逃げてくれば、まだしもかっこうはつく。
けれども吸血鬼たちに侵蝕されている真っ最中のわが家に戻れば――そこから先は、どうなるのだろう?

やがてぼくも、ガマンできなくなって、
「ぼくも気になるから」
大人の人に、そう告げてそこを出た。
よしなよ・・・という声と。
まあまあ・・・と、その声の主を引き留める声とを、
さっき父が出ていったときと同じように、背中で聞いた。

家に着くと、そこは真っ暗だった。
電気をつけようか・・・と思ったけれど、なぜかそうしてはいけないような気がして、手を引っ込めた。
洋間の手前で父が倒れていた。
父はかろうじて意識はあったけれど、寝ぼけたような顔をしていて、なんかとりとめもないかんじだった。
母と姉とをかばってさいしょに血を吸われ、理性を引き抜かれたうえで、すべてを見届けてしまったのだと――あとで知った。

奥の部屋には布団が二対敷かれていて、それぞれの布団のうえに、母がいて、姉がいた。
どちらも吸血鬼が一人ずつのしかかって、必死で腕を突っ張る母娘のうえに、黒い影をおおいかぶせていた。
ドキドキしてきたのは、そのときだった。
いつも厳しい母が。
いつもきちんとお行儀のよい姉が。
見慣れたよそ行きの服を着崩れさせて、おっぱいや太ももをちらつかせながら、
眉をひそめているのに、どこかキモチよさそうで、止めてほしくないようすで。
吸血鬼を相手に、ぼくの識らないひと刻をともにしている。
そのことへの嫉妬と悔恨と、正体不明の不思議な昂ぶりとが、
半ズボンのなかに押し込んであるものを、勃ちあがらせていった。

あの。
ぼくはどちらの吸血鬼にともなく、言っていた。
昂ぶりに震える声で――
ぼくの血も、吸ってください・・・

母におおいかぶさっていたほうが、起きあがって、ぼくのほうへと向きなおった。
母は布団のうえにあお向けになって、首から血を流したまま息をぜーぜーさせていた。
「来ちゃダメじゃない」
母親らしく洩らした声が、咎めながらも受け入れてくれていた。

ハイソックス履いているんだね。女の子みたいでいいな。
吸血鬼はそういうと、ぼくを畳のうえに抑えつけて、首すじを咬んだ。
ちゅうっ・・・
ほかのみんなと同じようにされて、ぼくは我を失っていった・・・
男の手は、半脱ぎにされた半ズボンのなかにまで、伸びてきて。
お尻に突き込まれてきたものの正体はぼくにもよくわかったけれど、
しまいまでわからないふりを、し続けていた。

その夜からのことだった。
ぼくが姉の服を借りて女装をして、家にとどまって吸血鬼の相手をするようになったのは。

そのころからのことだった。
家にとどまった夫たちが、知人たちにも家にとどまることをすすめて、
だれもが家に居るようになって、公民館での宴会が途絶えたのは。

子供のころの作文  「吸血鬼の小父さんとお母さん」

2016年04月04日(Mon) 08:02:03

ぼくのお母さんは、吸血鬼の小父さんと仲良くしています。
毎晩お父さんが帰ってくる前に、お母さんはおめかしをして、
小父さんの待っている公園に出かけていきます。
そこで小父さんに首すじやあしをかまれて、血を吸い取らせてあげています。
小父さんは、お母さんの肌に口をつけて、チュウチュウ音を立てて、
それはおいしそうに、お母さんの血を吸うのです。
お母さんはいつも足にパンストをはいているので、
小父さんに足をかまれると、破けてしまいます。
でもお母さんは気前が良いので、いつも小父さんにせがまれるまま、破かせてあげています。

これはナイショだっていわれているんだけど、お母さんの血を吸ったあと、
小父さんは、お母さんのスカートをめくって、いやらしいことをします。
お母さんはかまれている時よりも顔をしかめて、ハーハーと息をもらして、小父さんのしたいようにされていきます。
たまにはおっぱいが見えたりして、そう言うときにはボクまでドキドキしてしまいます。
いやらしいことが終わると、お母さんは起きあがって、スーツについた泥をたんねんに落とします。
お父さんに、ばれないようにするためです。
ボクはかくれてそのようすを見ているのですが、いつもお母さんにばれて、見つかってしまいます。
お母さんは、そういうときにはあまりボクのことを怒りません。
「いけない子ね。いま見たことは、お父さんに言ったらダメよ」
といって、ボクと一しょに、手をつないで帰ります。

小父さんは、ボクの血を吸うときもあります。
長いくつ下が好きなので、半ズボンの下にハイソックスをはいて行くと、
お母さんのパンストのときみたいに、足をかまれてビリビリ破かれてしまいます。
小父さんは、ボクの血を「うまい、うまい」と言って吸います。
お母さんを迎えに来たごほうびだ、とも言ってくれます。
そういうときには、てれくさいような、うれしいような、不思議な気分になります。
そういえば、さい近は、お母さんのあとをついていく時には、
ハイソックスをはいていくことが、多くなりました。

お母さんは、夜公園で吸血鬼の小父さんに会っていることはお父さんには内緒にしているみたいです。
でも、お父さんは、お母さんと小父さんのことを、ちょっぴり知っているみたいです。
「あの小父さんは、お父さんの仲良しだから、お母さんとも仲良くしているのだよ」
なにかのときに、そんなふうに言っていました。
でも、小父さんが夜公園にお母さんを呼び出してお母さんの血を吸ったり、いやらしいことをしたりするのを、お父さんが知っているというのは、お母さんにはナイショにすることになっています。
お互いわかっているのにナイショにするなんて、大人ってむつかしいなって思います。
おしまい

ユニセックス。

2016年03月31日(Thu) 07:51:49

妻の貞操と引き替えに。
吸血鬼にあてがわれたのは、男子生徒とその家族。
わたしが教諭を務めるその学校では、
男子も半ズボンの下、女子と同じハイソックスを履く。
男女の生徒が入り乱れる教室では、脚たちに男女の区別はほとんどなかった。

少年は、初体験を済ませたばかりだった。
相手は、わたしの妻を吸った男――
人の血を吸うなんて、あんたも初めてだろうから。
お互い不慣れだと、良くないケガをするからな。
もっともらしい言いぐさだったが、間違いではないのだろう。
彼はわたしに感謝されながら、わたしの同性の恋人の純潔を奪っていった。

わたしに初めて求められたとき。
少年は大きく目を見開いて、「先生が・・・?」とだけ、いった。
「そう」とわたしが言うと、「よろしくお願いします」と言って、素直に頭を下げていた。
母さんはすでに、毒牙にかかっていたから。
自分も時間の問題だと、感じていたらしい。
わたしは教え子の首すじをいとおしげに抱き寄せて、咬んでいた――

きょうも少年は、保健室にやって来て貧血を訴えて。
わたしも気鬱を訴えて、保健室にやって来る。
年老いた養護教諭はすべてを察しながら、座をはずす。
少年がうつ伏せになる、掛布団のないベッドににじり寄って。
濃紺のハイソックスがぴっちりと引き締める足許に、わたしは牙を忍ばせてゆく。
枕を掴まえる少年の掌に力がこもるのを横目に、
わたしはググ・・・ッと、牙を埋める。
至福のひと刻――
愛の交歓に、男女の別はないことを、わたしは少年の身体を通して、識ってしまった。

調和。

2016年03月31日(Thu) 07:36:08

血を吸われるなんて、理不尽だと思っていた。
少なくとも、不自然だと思っていた。
転入許可の条件として、校内に来賓として訪れる吸血鬼に、血液を無償で提供することが条件に入っていたことも。
制服が半ズボンに、女の子みたいに紺のハイソックスを着用することが義務づけられていることも。
PTAの席では母さんも血を吸われて、吸血鬼の愛人にされちゃったことも。
いちいち理不尽だと思っていた。

自分から吸われに行くなんて、非常識だと思っていた。
身体がムズムズするのも、咬まれた痕がジンジンと疼くのも。
気がついてみたら、ボクをひいきにしてくれる吸血鬼の目のまえで手を合わせて、
お願いだから血を吸ってくださいって懇願しているときだって。
引き抜かれた血液と引き換えにあいつがボクの身体のなかに注入した毒液のせいだけだと思っていた。

身体も心も、調和していく。
週1回の吸血の義務は、週2~3回の愉しみにすり替えられて。
家に戻るとたいがいくり広げられている母さんの情事は、
のぞき見をする後ろめたさと半々の、やっぱり愉しみにすり替えられていた。

こんどはきみの彼女を紹介してくれる番だぞ。
そう囁く小父さんに。
ボクは精いっぱいのしかめ面を作って、応えている。
紹介するだけだぞ。なんにもさせないぞ。
彼女だって、身持ちの正しい子なんだから。
お前なんかの自由にされないぞ。
彼女の純潔をかけてもいいから・・・って。

男の吸血鬼に、血を吸われる。

2016年02月15日(Mon) 07:01:46

ここは、街はずれにある古い洋館の大広間。
ボクはじゅうたんの上、うつ伏せになって。
あの男に生き血を、吸い取られている。
もう・・・なん回めになるだろう?

わが母校は崇高なる人類愛を標榜して、
街に出没する吸血鬼を受け容れた。
通学するおおぜいの男女生徒の血液を、彼らに無償で提供することで、
人と吸血鬼との共存を図ろうというわけだ。
学校の意図は、成功しているんだそうだ。
だって、ほとんどの生徒が血を吸われたというのに、生徒の死亡例が皆無だからだ。

男の吸血鬼は、好んで女子生徒を襲った。
それが人情というものだろうから、気持ちはわかる。
彼女の麻利絵さんまでが毒牙にかかったときは、さすがに悔しかったけれど――
だからといって、どうすることができるわけでもない。
首すじに咬み痕をつけた彼女は、自ら望んでお相手と密会を続けている。

麻利絵さんの血を吸っているやつが、ボクのことを襲ったのは。たぶん偶然だ。
でも、その事実を知ったとき――なぜかむしょうに、嬉しかった。
ヤツの体内で、ボクの血は彼女の血といっしょになる・・・そんなふうにも思えたし。

いまヤツは、ボクの首すじに唇を当てて、
チュウチュウといやらしい音を立てて、血を吸っている。
麻利絵さんのときにもきっと、そうしているのだろう。
心地よげに目を半ば瞑りながら吸いあげてゆくのが、傍らの姿身に映っている。
首すじの次は、脚だった。
そろそろとふくらはぎに這い寄って、
紺のハイソックスのうえから、ヤツはボクのふくらはぎに牙を立てる。
そう――ボクがいま身にまとっているのは――女子の制服。
そのほうが気分が乗るから・・・とせがまれて、
学年がひとつ下の妹のやつを、無断で拝借している。
ハイソックスは何足、穴をあけてしまっただろう?
ボクは素知らぬ顔をしていたけれど、妹のやつはきっと、気づいているに違いない。

吸血は性行為だという。
彼女も時々、そんなことを口にする。
ゴメンね・・・って、いいながら。
彼女はイタズラっぽく笑って、ボクの顔を盗み見る。
キミ以外のひとと、浮気してるみたい。でも許してね。
言っている内容はシリアスなのに、きみの口調はどうしてそんなに愉し気なんだい?

吸血が、性行為だとしたら。
たまたま自分の血を吸う吸血鬼が男だと、どういうことになるのだろう?
男に血を吸われた男子は、かなりの確率で同性愛に目覚めるという。
女子の制服を着ながら、息をはずませちゃって・・・
ボクもそんなひとりに、なってしまうのだろうか・・・?
ゴメンね・・・と囁く彼女の幻影に。
ゴメンな・・・と応えてしまっているボク――
彼女とはきっと、長続きするに違いない・・・。

オリのなかのウサギ。

2016年01月26日(Tue) 06:56:32

ライオンとウサギがおなじオリの中に入れられたら、ウサギがライオンに食われるという結果しか考えられないように。
吸血鬼と勤め帰りのサラリーマンが夜の無人駅で出くわしたら、人間が吸血鬼に血を吸い取られるという結果しかあり得ないだろう。
その不運な若いサラリーマンは、無人駅の駅舎のなか、接続の悪いバスを待ちくたびれていた。
当地に赴任して間もなかった彼も、このかいわいで吸血鬼が出没することは知っていたので。
待合室のベンチで向かい合わせに座っている黒衣の老紳士が吸血鬼だということは、直感でわかった。
というよりも。
夜とはいえはた目にも目だつ長々とした黒マントを羽織り、顔色は鉛色で、目つきばかりギラギラ光っているやつを見かけたら、それは普通じゃないと受け取るのが常識というものだろう。
やなやつといっしょになっちゃったな・・・こっちのこと、あまり気にしないでいてくれると助かるんだけどな・・・
どんな種類の人間でも、想いは同じです。
けれども残念なことに、この吸血鬼は喉をカラカラにしているようだった。
なにかを我慢したげに、手にした水筒をしきりにいじりまわして、
ふたを開けては中身を飲み干そうとしている様子。
なかに入っているのは、携行用の生き血?
それをもしかすると、飲み干しちゃったということ?
自分がうら若い乙女なんかじゃなくてよかった・・・などと安堵するのは、早計というものだろう。
男の血なんか味気ないなんて贅沢を言っているゆとりは、相手にもあまりありそうになかった。
救いが少しでもあるとしたら――吸血鬼とおぼしきその男は、脳みその欠落したモンスターみたいなやつではなくて、いちおう理性だの知性だのも備えていそうな老紳士にみえること。
けれども見かけと中身がいっしょだなどと、このさい自分に都合の好すぎることは、考えないほうが身のためらしい。
バスはまだか。早く来ないか――この駅ではいつも、30分以上待たされる。
男は持っていた文庫本を、読みふけっているふりをしたけれど。
やはりどうしても気になるのは、向かいの男。
しかもあちらも、どうやらこちらのほうを、チラチラと窺っている様子。
そしてうっかり、目を合わせてしまっていた!

あんた、この寒いのに薄い靴下穿いているんだねえ。
老紳士は唐突に、そんなことを話しかけてきた。
え?
若い男は思わず、自分の足許に目をやった。
ああ、これですか・・・
彼はちょっと言いにくそうに、言い添える。
僕もちょっぴり、恥ずかしいんですけどね。
透ける靴下なんて穿いているの、周りにはまずいませんでしたから。
でもここに赴任することが決まると、父さんがくれたんですよ。穿いてくといいって。
父さん、いま僕が勤めている会社にいたんです。
というか、不景気で済んでのことで就職しそびれるところを、コネで拾ってもらったんです。
そういえば、父さんも若いころ、こんな靴下穿いていたんですよね。
いまどきこんな靴下穿く人いないし、意味よくわかんなかったんですが、
夏場は涼しいし、うちの事務所の男性はたいがい、こういうの穿いているんですよ。
都会では、よほどの年寄りしか、穿いているの見たことないんですがね・・・
いつになく饒舌になっている自分を訝りながら、それでも会話をしていると恐怖を忘れることに、少し安堵していた。
案外、世間話で切り抜けられるかもしれない――と。
けれども見通しは、甘くはなさそうだった。
老紳士は気の毒そうにいった。
そうそう、バスね、急に運休になっちゃったらしいよ。運転手が急病で、代わりがいないんだってね。
え・・・?
男は凍りついたように、老紳士を視た。

そういうわけで、きみはわしに血を吸われるしかないみたいだ。気の毒だったね。
えっ・・・あの・・・あの・・・そんな・・・えぇと・・・
恐怖で腰が抜けてしまったのか、若い男は身動きもできなかった。
気のせいか、ワイシャツの襟首から入り込む冷気が、スースーと肌寒い。
俺もこいつみたいに、冷たく鉛色の肌にされてしまうのか――
にじり寄ってくる老紳士を目のまえに、若い男はみじろぎもできず、拒否の意思を伝えるためにただ激しくかぶりを振るばかりだった。

首すじからは、やめておこう。
きみは初めてのようだし、暴れると血がワイシャツに撥ねるからね。
わしも、派手なまねは慎みたいんだ――
老紳士はそういいながら、若い男の足許にかがみ込むと、スラックスのすそをつかんで、ゆっくりと引き上げていった。
薄い靴下に透ける脛が、じょじょにあらわになってゆく。
濃紺の薄地のナイロン生地は、駅舎の照明を照り返して、微妙な光沢を放っていた。
男ものにしちゃ、ずいぶん色っぽいんだね。
老紳士は、フフフと笑う。
どういうんですかね・・・仰る通りですね。
若い男はかろうじて理性を保った応えを返しながら、ふと思い出す。
このあたりで吸血鬼に襲われるのは、老若男女区別がないけれど、不思議な共通点があることを。
吸血鬼は好んで、脚に咬みつくという。
襲われたのは、サッカー少年や学校帰りの女子高生。
勤め帰りのOLに、買い物途中の主婦、お通夜帰りのおばあちゃんまで。
ライン入りのサッカーストッキングに、通学用の紺のハイソックス。
肌色やねずみ色、濃紺や黒のストッキング。
だれもが老若男女の区別なく、穿いているストッキングやハイソックスを、咬み破られていたという。
この吸血鬼がその本人だとしたのなら――自分の穿いている靴下は、じゅうぶん条件に合いそうな気がした。
そんなことがきっかけで、狙われちゃったのか?
若い男の思惑などとんじゃくせずに、老紳士は薄い靴下のふくらはぎを目のまえに、舌なめずりをくり返している。
あの――血を吸われると、死んじゃいますよね?そのあと吸血鬼になっちゃうんですか?
ばかばかしい。
老紳士はほくそ笑んだ。
口許から洩れる呼気が、薄いナイロンを通して脛に当たる。
そんなことをしたら、エサはなくなる、競争相手は増える、ろくなことはないではないか――
なるほど。若い男は妙に納得した。
そういえば。
襲われた連中はなにひとつ変わりなく、なにごとも起きなかったような顔をして、いつもの通勤通学の車内で、顔を合わせているではなかったか。
迷惑だろうけど、ちょっと愉しませていただくよ。
上目づかいにこちらを見あげる吸血鬼に、もはや逆らうすべはなかった。
あ・・・よかったらどうぞ――
震える声で、思わずそう呟いてしまうと。
すまないね。
有無を言わさぬ強い語気で老紳士は呟いて、薄手の長靴下のうえから、舌を這わせてきた。
ぬめり・・・ぬめり・・・
生温かい舌を、いやらしく擦りつけられてきて。
薄手のナイロン生地はじわじわと、いびつなたるみを走らせてゆく。

気がつくと、もう片方のスラックスも、すそを引き上げられていた。
先に咬まれたほうの脚は、ずり落ちかけた長靴下に、裂け目をいく筋も、走らせてしまっている。
老紳士が愉しんだ痕だった。
なすりつけられた唾液がまだ生温かく、生地に沁みついている。
もう片方の靴下も、舌触りを愉しむようにして、いたぶり抜かれていった。
血を吸うのと。靴下をいたぶるのと。こいつにとってはどちらも、愉しいのだろう。
そう思わずには、いられなかった。
すまないね。悪いね・・・
老紳士は呟きをくり返しながらも、薄い靴下に舌を這わせ、牙をあてがい、咬みついてくる。
チクチクと刺し込まれてくる尖った異物が、いつの間にか快感を帯びた疼きを滲ませるようになっていた。
痛くないぢゃろ?
上目づかいの老紳士に、知らず知らず頷き返してしまう。
口許には、吸い取られたばかりの自分の血が撥ね散らかされているというのに。
むしろそんな光景さえ、眩しく映る。
ああ、どうぞ。こっちからも・・・
男が吸いやすいように、時折脚の角度を変えて、内ももやふくらはぎを、交互に咬ませてしまったりしている自分を訝りながら、若い男は自分も愉しみはじめてしまっていることを、いやでも自覚した。

そういえば父さんも、この街にいたときには顔色が悪かった――ふと思い出した過去の事実。
ほかに行き場はないのか?そうも訊かれたっけ。
仕方ないわねぇ。母さんが眉を寄せて父さんと顔を見合わせたのは、きっとすべてわかっていたからだろう。
この男はかつて、父さんの血を吸ったんだろうか?案外母さんも、吸われていたんだろうか?
仮にそうだったとしても、口の堅そうな老紳士が過去の交友関係を軽々と明かすようには、思えなかった。

悪いね。靴下チリチリにしてしまって。
老紳士は長靴下をみるかげもなく咬み破ってしまったことにはわびを言ったけど。
彼の血を吸い取ったことには、謝罪のかけらもみせなかった。

どうやら、オリのなかのウサギにはならずに済むらしい。
会話の通じる相手。共存できる相手。
都会の冷酷な上司や同僚たちよりも、どれだけましか、知れやしない。
父さんもそう思ったから、この土地に長くいたんだ。
僕が年頃になるまえに都会に戻ったのは、希望してそうしたんじゃない。
たぶん――僕に選択の余地を残したんだろう。
真人間として都会で生きるか。自分と同じように、吸血鬼の奴隷になり下がるのか。
でも彼はもう、いまの気持ちを恥ずかしい選択だとは感じていない。
奴隷じゃなくて――友だちってことでも、いいですか?
いつもの爽やかな目つきに戻って、白い歯をみせる青年に。
吸血鬼はゆっくりと、頷いている。
そのうち、きみの父さんや母さんも、連れてくるといい。
そうですね。それ、いいかもですね・・・
若い男は無邪気に、頷き返していた。
セックス経験のある女性とは、性交渉まで遂げてしまう――
そんな話も、わかっているはずなのに。


あとがき
長いわりに色気のない話で、ごめんなさい。(^^ゞ

世代は移る。

2016年01月24日(Sun) 09:55:17

子供のころに血を吸われて、吸血鬼になった。
父さんも母さんも血を吸わせてくれたけど――それだけではまだ、もの足りなかった。
だってその年ごろは、食べ盛りなんだから。
クラスの子を襲うなら、男の子だけにしなさいね。
いつも僕に血を吸われるたびに、スカートをめくられパンツまで脱がされてしまう母さんは。
恨みを買わないように――と、いつもそうつけ加えていた。
父さんのことは、だいじょうぶだから。相手が息子なら、まだ耐えられるって言っていたから。
破けたストッキングを脱ぎ捨てて、くずかごにむぞうさに放り込むと、あとから取り出して、裂け目を確かめて愉しんでいた僕は、
はやく中学に上がって、周りの女の子たちが黒のストッキングを履くのを、楽しみにしていたけれど。
それはあっさりと、おあずけになった。
その代わり。
クラスの男子たちはだれもが親から言い聞かされていて、協力的だった。

男の子は、だれもが半ズボンにハイソックスを履いていた時代。
だからといってべつに、女っぽいやつなんかいなかった。
だれもがいさぎよく、ハイソックスの脚を差し出して。
きょうはお前に咬まれると思って、履いてきたんだ・・・って、いいながら。
赤のラインが2本入った、ねずみ色のやつとか。
白地にひし形もようの入った、ちょっとおしゃれなやつとか。
なかにはストッキングみたいにスケスケの、真っ白なのを履いているやつもいた。
僕に咬まれるまえには、だらしなくたるませて履いていたハイソックスを、
だれもがきりっと引き伸ばして、見映えがするようにって、教室や廊下やベンチのうえにうつ伏せに寝そべって。
しなやかなナイロン生地のうえから、よだれの浮いた唇を吸いつけて、
その唇の両端からむき出した牙を、ズブズブと埋め込んでいった。

この街では、うんと若いうちに、結婚相手を親が決める。
友だちのなん人かは、そうして決められた彼女を連れて、おずおずと僕の前にやって来る。
女子の履いているストッキング、関心あるんだろ?俺の彼女でよかったら・・・
だれもがそういって、未来の花嫁を僕と二人きりに置き去りにしてくれた。
さいしょはむっつりと押し黙っていた彼女は、
上目づかいで怖々と僕のことを窺って。
足許にすべらせる唇を、うろたえながら避けようとして。
いやらしいよだれの浮いたべろを両脚になすりつけられてしまうころには、もう観念して目をつむって。
しまいには、ブチブチ、ぱりぱりと音を立てて、薄手のストッキングを見る影もなく咬み破られていく。

大人になったころ。
僕にはなかなかお嫁さんは来てくれなかったけど。
子供だけはもう、なん人もできていて。
その子たちが大きくなると、
男の子はサッカーストッキングを履いて、
女の子は学校に履いていく紺のハイソックスを脚に通して、
息をはずませて、僕の家へとやって来る。
父さんや母さんには、黙っていてね。
そういいながら、善意と共に差し出される脚たちに、
僕は淫らな接吻を、くり返してゆく。

やだ。近親相姦になっちゃう。
僕の腕のなかで、なん人の女の子がそういって、口を尖らせたことだろう。
はだけたブラウスから覗く、ピンク色をした乳首を。
くしゃくしゃにたくしあげられた制服のスカートのすき間から覗く、真っ白な太ももを。
息をつめて見守る、婚約者の男の子たち。
じつは半分血のつながった兄妹だと、どこまで気づいているのだろう?
僕はそんな男の子たちのまえ、我が物顔で腰を使って。
少女たちはされるがままに、激しい動きに応えてくれて。
男の子たちはひたすら股間を抑えて、場の雰囲気を愉しんでしまっている――

吸血接待業。 2 若い既婚のビジネスマン

2015年12月07日(Mon) 07:53:42

「ストッキング地のハイソックスをたしなむ、既婚の若いビジネスマンの方。
(40歳位まで)
 お気が合えば奥様を紹介いただける方なら、なお可」
そんなオーダーが斡旋者からパスされてきたのは、金曜の夜のことだった。
早めに帰宅していたわたしはサッとシャワーを浴びると、妻に告げた。
「アルバイト行ってくる。帰りは遅いか朝になるから、寝てていいからね」
妻が感情を消した顔で頷くのを横目に。
ふだん穿きのスラックスをたくし上げると、黒の薄手のハイソックスを、するすると脚に通していった。

やあ、いらっしゃい。
ホテルのロビーでわたしを出迎えた吸血鬼は、思ったよりも若い感じがした。
わたしの表情を読んだのか、男はきまり悪そうに言った。
切羽詰まってしまってね。
通りがかりのメイドを一人、襲ってしまった。
まあここでは、そんなアクシデントはもみ消されることになっているようだけど。
吸血鬼の定宿として知られる、このホテル。
外見はふつうのホテルで、一般の客ももちろん受け入れるのだが、
吸血プレイのための場として、特定の客室を持っていた。
若いメイドの血と、もはやみすぼらしい中年男になり果てたわたしの血とが、彼のなかでいっしょに織り交ざるというのか。
あまり、美味しくありませんよ。
わたしは苦笑しながら、言った。「口直しが必要になるかも」と。
吸血鬼は笑って、「ご謙遜を」と、言ってくれた。

ベッドに仰向けになったわたしは、腕に献血チューブを挿し込まれる代わりに、首すじに男の唇を吸いつけられていった。
チクリ、と刺し込まれた牙が容赦なく皮膚の奥を抉り、あふれ出てくる血潮を舌をふるいつけて啜り取ってゆく。
意外なくらい熱っぽく、男はわたしの首すじにからみついた。
わたしたちは愛人どうしのように、狭いベッドのうえに身をひしめき合わせながら、熱っぽく吸い、吸われつづける。
薄い靴下、穿いてきてくれたんですね。
男がそうささやくと、わたしは「御覧になりますか」と応じ、スラックスを引き上げた。
照明の下、肌の透ける脛が妖しい光沢に包まれて、ごつごつとした筋肉の隆起を浮き彫りにした。
ククク。
男は獣じみた含み笑いを、そのままふくらはぎへと圧しつけてくる。
あ・・・
わたしの声に応じずに、男は、薄いナイロン生地の舌触りを愉しむよう、にゅるにゅると唇を這わせはじめる。
しばらくの間。
わたしはうつ伏せになり、ストッキング地の靴下の舌触りを、男にサービスし続けた。
やがて牙が圧しつけられ、熱烈な口づけをしながら、咬み入れてくる。
あ・・・
わたしの声色もまた、熱を帯びてきた。
多重債務者の日常を隠すため、血液提供者として登録されて半月、いつか血を吸われることに快感を覚えるようになっている。
本来は苦痛であるはずのことが、苦痛を和らげる本能によって快感に変換される――きっとそういうことなのだろう。
咬み破られた薄い靴下に、生温かい血のりがしみ込むのを感じながら、わたしはすすんで献血に応じていった・・・

今度は、女もののストッキングを穿いてきてあげましょうか?
もう一度逢いたいと感じた吸血鬼は、彼が初めてだった。
面白そうですね。ぜひお願いしましょう。
男は快諾してくれた。
熱っぽい吸血プレイは、本心からのものだったらしい。
打ち解けた笑いが、お互いの頬にあった。
胸の奥がズキリ!となるようなことを言われたのは、そのすぐ後だった。
奥さんのストッキングも、ぜひこんなふうにしてみたいものですね。
男はわたしから吸い取った血潮を、まだ口許にテカらせていた。
妻の血が、この男のあごや口許を、こんなふうに彩る・・・
とっさに湧いた想像は、ひどくリアルだった。
「口直しが必要になるかも」
咬まれる直前、自分で口走った言葉を、わたしはありありと、思い出した。
「口直しなんかじゃ、決してありませんよ」
気遣う男に笑顔を向けて、わたしは携帯を手に取った。
「友里江?ちょっと出てこれないか?すこしおめかししてさ。着替えを一着、あとストッキングの穿き替えも、持っておいで」

吸血鬼の親心。

2015年12月01日(Tue) 08:04:11

すべての財産を失った桐原は、死を覚悟した。
それは、家族もろともの死であった。
けれどもそのとき、見知らぬ男からの電話が、すべてを変えた。
受話器の向こうから聞こえる、正体不明の声は、とある郊外の村に来るよう、桐原を誘っていた。

桐原は早速、声の主の求めに応じ、息子を伴って村に向かった。
もはやそうするよりほか、道はなかったからである。
どうして息子がいることを知っているのかなどと、考える余裕もなかったのである。
彼とその家族は、予期せぬ歓待を受けた。
相手は、電話の声の主だった。
しわがれた声色通りの年配の男は意外なくらいに物柔らかな紳士だった。
その背後には、ひとりの少年がいた。
引っ込み思案な暗い瞳が、同年代である桐原の息子に注がれた。
この子は病気だから、普通の食事ができないのだと、電話の主の老紳士は説明した。

久しぶりに、腹いっぱいの食事だった。
桐原の息子も嬉しそうに、ステーキをほおばった。
老紳士とその息子らしい少年とは、押し黙って二人の様子をうかがっていた。
息子が嬉しそうにごちそうをほおばっているのは、親として嬉しい限りです。
桐原はそういって、礼を述べた。
老紳士は、まったく同意という顔つきだった。
しかし、その直後だった。
様子が一変したのは。

気がつくと、老紳士は桐原のことを、羽交い絞めに抱きすくめていた。
桐原の首のつけ根には、深々と、老紳士の剥きだした犬歯が、食い込んでいた。
かすれた視界の向こう、息子もまた、自分と同年代の少年に襲われていた。
真っ白な半ズボンの下から覗いた太ももが、みるみる血色を喪ってゆく。
ひざ小僧から力が抜け、息子は硬い床の上に姿勢を崩した。

御覧なされ。
うちの息子・・・あんたのとこの息子の生き血を、それは美味しそうに飲んでいるじゃろう?
息子が嬉しそうにごちそうにありついているのは、親として悦ばしいかぎりなのじゃよ。
老人の囁きに、桐原はなにかに屈したように、頷き返すだけだった。

な?後悔はないじゃろう?
そういう老人のまえ、ふたりの少年は、血を吸うものと吸われるものと、正反対の立場にいながらも、
笑い声を交し合い、首すじを吸い、吸われていった。
血を吸うものばかりではなく、
血を吸われるものさえも、歓びに目覚めていったのだ。
そんな息子を咎める資格など、桐原にはもうなかった。
老人に完全に堕とされた彼もまた、自身の生き血を、惜しげもなく振る舞い始めていたのだから。

ふたりの少年は、じゃれ合い、転げ合って、血を吸い、吸い取られてゆく。
今度は、奥さんの番じゃな。
夜にお連れなされ。息子さんもごいっしょに。
父子ふたりがかりで妻を、母親を吸われる歓びは・・・もう察しが付くじゃろう・・・?
男の言いぐさに、桐原はまたも、頷いてしまっている。
明日をも知れぬ生活だったのが、いまは安住の地を見出した想いだった。

甥っ子の生き血。

2015年11月19日(Thu) 08:09:28

やだっ!やだっ!だめだってばっ!
省吾少年は必死になって抗い、首すじを求めてくる吸血鬼相手に、抗っていた。
相手は叔父の誠二。四十を過ぎてまだ独身だった。
人が良くて物知りな叔父に省吾はなついていたが、母の峰子は弟の性癖をよく心得ていたから、
「誠二叔父さんは吸血鬼だから、気をつけなきゃダメよ」と、よく息子をたしなめていた。
その母親の警告がいまさらながらのように、省吾の耳によみがえる。
でもどうやら、手遅れのようだった。
「血を吸わないでっ!血を吸われるなんて嫌だよ・・・っ」
そんな省吾の哀願に、誠二はふと手を停めて、いった。
「わしは生きつづけては、いけないかね?」

交し合わされる目と目に、省吾は悟った。
そうだ、叔父さんは血を吸って生きているんだ。
思わず力の抜けた腕をすり抜けて、叔父が首すじに唇を吸いつけるのを、
省吾は黙って耐えた。

ちゅう―――っ・・・
ひさびさにありついた活きの良い血にむせ返りながら、誠二は甥の身体を抑えつづけた。
観念し切って目を瞑った省吾には、傷口を這う叔父の唇が、ひどくくすぐったく感じられた。
悪いね、少し愉しませてもらうよ。
そういう叔父が、ハイソックスを履いたふくらはぎを求めていると自覚しながら、省吾はうなずくともなくうなずいていた。
真っ白なハイソックスに赤黒い血を滲ませながら、足許をくすぐる吸血の感覚に、省吾は笑みをこらえかね、白い歯を見せている。
セクシャルにからみついてくる叔父を愉しませようと、軽く抗ったり悲鳴をあげたりして愛咬をくり返し受け容れながら、
まるで永年の愛人のように従順に献血に応じはじめている自分自身を、省吾少年は誇らしく感じ始めていた。

半ズボンの下の礼装をしっかりと凌辱されつくしてしまうと、省吾はいった。
「次はいつ?」

翌日。
省吾は再び叔父の家を訪れていた。
きょうの半ズボンはグレーで、ハイソックスも同じ色。
「母さんが、ハイソックス買い置きしておいてくれるってさ」
わざとぶっきら棒にそういうと、いきなりじゅうたんの上に腹ばいになっていた。
太ももやふくらはぎにあてられる熱い呼気が、化け猫の息遣いみたいに生々しくて、省吾少年は肩をすくめた――

きみの筋肉がもっとたくましくなったら、こんどはいまのきみみたいに肌の柔らかい女の子を連れてきておくれ。
そんな叔父の言葉にうなずきながら、重ね合わされてくる唇を、省吾少年は避けようとはしなかった。

おそろいのサッカーストッキング

2015年11月10日(Tue) 06:42:32

知ってますか?須藤先生ってホモらしいですよ。あっ、両刀使いか♪
いきなりそんなことを話しかけてきたのは、息子のユウタの友達のお父さん。
彼の息子のタカユキくんは、ユウタと同じサッカーのクラブチームに所属している。
息子たちふたりは、おそろいの白のユニフォームに、白地に黒ラインのサッカーストッキング。
日焼けした太ももの下を覆う真新しい白の長靴下が、親の目にも眩しかった。

さいしょはね、チームの子を狙うらしいです。もちろん同意でね。
そのあとは、お父さんとお母さん。
モノにしちゃったお母さんは、目印に、チームの子と同じサッカーストッキングを履くらしいんです。
そういえば。
タカユキくんのお母さんは、デニムのショートパンツの下から覗く格好の良い脚に、
息子たちと同じ、白地に黒ラインのサッカーストッキングを履いている。
そして、いっしょに並んで歩いているタカユキくんのお父さんも、同じサッカーストッキングを履いていた。
お父さんはそこまでいうと、照れくさそうに笑った。

その日の試合は、圧勝だった。
決勝点を入れて有頂天だったユウタは、先生にお祝いをしてもらうんだと言って、
親たちと別れてみんなといっしょにグラウンドを去っていった。
結局、その日に独り住まいの先生の家まで行ったのは、ユウタ一人だったらしい。

つぎの週の練習日。
家族で家を出るときに。
いつもキビキビと身支度の早いはずの妻が、いちばんあとから玄関を出た。
なぜか照れくさそうにしている妻の足許は、白地に黒ラインのサッカーストッキング。
たまにはいいでしょ?と見せびらかす脚に。
なにもかも知っているらしいユウタは、「母さん似合うよ♪」といって、笑った。
わたしもなぜか潔く白い歯をみせて、妻のことをからかっていた。「たまにはいいじゃないか」
意味深な言葉の意味を理解したらしい妻は、いつもの裏表のない笑顔にやっと戻って、「そうね」とだけ、いった。
練習のある平日に、彼女はいつも穿いていた肌色のパンストを、先生の前で脱ぎ捨ててしまったらしい。

そのつぎの週の練習日。
家族三人で、おそろいのサッカーストッキング。
夕べ強引にこすり合わされた股間が、まだひりひりと疼いていた。
たしかに――あの一物でゴールされたら、妻も息子も、ひとたまりもなかっただろう。
「きょうもしまっていくぞ!」
精力絶倫な監督さんの明るいどら声が、きょうもグラウンドに響き渡った。

未亡人、堕ちる。

2015年09月11日(Fri) 05:18:43

だめ!だめ!だめ!それだけはダメ!
ほかのことは何でもいうことをききますけれど、それだけはダメ!

男に迫られた母さんは、そんなふうに頑強に、最後の一線を守り抜いたという。
そう、ほかのことは何でも、いうことをきいちゃったんだけれど。

首すじをガブリとやられるのも。
ワンピースのわき腹に、かぶりつかれるのも。
新調したばかりのよそ行きの服に、吸い取られた血潮をボトボトとしたたらされるのも。
スカートを脱がされ、戦利品としてせしめられてしまうのも。
ふくらはぎを咬まれて、穿いているストッキングをチリチリに咬み破らせてしまうのも。

ストッキングを咬み破る――という行為は、
この街に棲みつく吸血鬼たちの習性からすると、

隷属的に屈従する。

という意思表示をしたのとおなじことになるはずだったのに。
そこまでのことを許しながらも。
母さんは、セックスだけはどうしても、許さなかったのだ。

男が母さんの意思を尊重して、それ以上迫ることを思いとどまったとき。
母さんは唯一、ディープ・キッスだけは、許してしまったのだけれど。
それは男に対する信頼の証し・・・だったらしい。
下着1枚に剥かれながら、母さんは男と会話を交わし、
男は着衣を剥ぎ取られた母さんのことを侮辱することもなく遇していた。

少しずつ。
男と母さんの距離が縮まったのは。
きっとそんな、ひとすくいの配慮からだったと、いまでも思う。

だんだんと。
母さんは大胆になって、許容範囲を拡げていった。
ディープ・キッスに加えて、ブラジャーを取り去ることも。
取り去られたブラジャーから覗いた乳首を、唇に含まれることも。
スカートの奥に、濡れた精液をまき散らされて、スカートの裏地を汚してしまうことも。
そして、フェラチオまでも。

真っ昼間、ボクたちが下校してくると、母さんは男を夫婦の寝室に招き入れていて、
男の一物を根元まで口に含んだ母さんの横顔に、
ボクは思わずちく生!と呟いて若菜に笑われて、
そのくせ、貞淑な主婦が堕ちてゆくのを目の当たりに、ズキズキとした昂ぶりに目覚めていった。

そんなころだった。
若菜が父さんを家にあげて、首すじを吸わせるようになったのは。

真っ先に気づいたのは、母さんだった。
女親とは、鋭いもの。
ふたりが逢瀬を愉しんでいる真っ最中に、娘の勉強部屋に乗り込んでいって。
「まあっ!?」
娘の相手がまさかかつての夫だったとは。夢にも思わなかったみたいだった。
それきり小娘みたいにもじもじとして、きまり悪そうに引き下がって。
父さんと若菜とを二人きりにして立ち去ってしまうという不覚をおかしたのは。
きっと――父さんがいながら男との関係を深めつつあることに、強い後ろめたさを感じてしまったからに違いなかった。
ちょうどその翌日のことだった。
母さんは街なかの、ホテルに誘われていた。

家を数歩出て、母さんは真新しいストッキングを穿いた脚を、ぴたりと止めた。
そしてくるりと回れ右をすると、まっすぐ家に戻ってきた。
若菜と父さんがいる部屋のドアをほとほとと叩いて、昼間からくんずほぐれつしているのを、咎めようともしないで――
わたし、あのかたとお付き合いを始めたんです。
父さんにむかって、そう”宣言”したのだった。

そう?
父さんは相も変わらず、あっけらかんと他人事みたいだった。
あのひと、母さんを大事にしてくれている?
エエ、だいじにしてくれているわ――あなたの次くらいに。
母さんがどぎまぎしながらも、そう答えると。
そう。
父さんはこっくりと、頷いていた。
だったらよかった。気を付けて、いってらっしゃい。
友達と遊びに出かける妻をふつうに送り出す、夫の態度だった。
行っても・・・いいの・・・?
むしろ躊躇する母さんの、背中を押すようにして。
母さんだって女なんだから。たまには好きな人のために、大胆にならなきゃ。
父さんは悪戯っぽく笑って、母さんの脇腹を小突いている。
ちょうど初めて咬まれた日にかぶりつかれたあたりを突かれて、母さんはちょっとなまめかしくうめくと、
すぐにさばさばとした、いつもの母さんらしい顔つきに戻ってゆく。
じゃあ行くわ。若菜をよろしくね。
ああ、彼によろしく。
ふふふ。
ふたりは声を交えてちいさく笑い、開かれていたドアがバタンと閉ざされてゆく。

キリッとしたタイトスカートに包んだ貞操を、これから捨てにいく母さんのことを。
ボクは玄関まで、送っていった。
浮気に出かける母さんを、こんなふうにサバサバと送り出すことができるのは。
父さんと母さんのおかげなんだと思いながら。
ボクは手にしたものを、母さんに差し出している。
ボクが手にしていたのは、封の切っていないパッケージ入りのストッキング。
どうせ破かれちゃうんでしょ?穿きかえ用に。
生意気ねぇ。
母さんはそんなふうに苦笑しながら、それでもボクからの浮気成就の祝福のしるしを、ハンドバックにしまい込んでゆく。

門がガチャリと閉ざされると。
ボクの背中を小指で突くやつがいた。
イタズラっぽく笑っている、若菜だった。
若菜の後ろには、父さんが。その傍らには、カツヒロが。すこし離れて、優衣さんが。
愉し気にフフフ・・・と、笑いあっている。
あと、尾(つ)けちゃお。
そういって白い歯をみせる若菜に、みんな同意らしかった。
母さんの貞操喪失、みんなで愉しまなくちゃな。
父さんはあっけらかんとしていて、どこまでも他人事だった。

父さんのことは、忘れてほしくはないけれど・・・

2015年09月11日(Fri) 04:38:11

母さんの血を、このひとに吸わせてあげようよ。
虚ろな声で、若菜がいった。
いつものように、通学用の白ブラウスの肩先を、血のりでべっとりと濡らしながら。

血を与えるのは、ボクたち兄妹にとって、日課になりかけていた。
日課にしちゃうと、血がなくなっちゃうよ。
そうカツヒロにからかわれては、相手役を代わってもらったり。
木戸原くん、貧血だよね?
そう気遣う優衣が、男とボクの間に立って、淑やかにお辞儀をすることもあったけれど。
男にとって本命は、どうやらボクたちの血のようだった。
口に合うんだ。
男は淡々と、そういったけれど。
ボクはしらっとして、横目で男を睨んでいた。
ほんとうは、母さんが目当てだったんだろ?父さんの血を吸ってたさいしょの頃から・・・
図星。
男はニヤリと、昏(くら)く嗤った。

母さんの血を、吸わせてあげようよ。
あたしたちの血が口に合うんだもん。父さんの血だって、吸っていたんだもん。
きっと母さんの血も、気に入ると思うなあ。
若菜はうわ言のように、そんなことをいう。
自分の母親を吸血鬼に襲わせ、血を吸わせる。
そんなことをしていいのか?
そんなことにこだわるのは、ボクが息子で相手が女親のことだから?
でも、父さんが血を吸い取られちゃったのは、小気味よかったなあ。
若菜は時折、とんでもないことを口にする。

きみはどうなんだい?
カツヒロの問いかけに、ボクは本音をするりと洩らした。
父さんのことは、忘れてほしくはないけれど・・・母さんが愉しいのなら、それもアリかな・・・って。
ボクたちは知っていた。
セックス経験のある女の血を吸う場合、ほとんど例外なく犯されてしまうのだと。


かんたんなことだった。
家に上げてしまえばよかった。
もともと、ボクの部屋も若菜の部屋も、すでに男の根城と化していた。
ボクたち4人は、息を詰めて隣の部屋から、様子を窺う。
白地に黒の水玉もようのワンピースを着た母さんが、男に迫られていた。
気丈にも細腕をふるって、男を拒もうとしたけれど。
とうとう抱きすくめられちゃって、うなじを咬まれちゃって・・・
眉を顰めて、瞼をキュッと瞑って、悔しそうに歯を食いしばって・・・
生き血をチュウチュウと、吸い取られていった。
父さんのためだけの、貞淑な妻でいようとする努力を、男は完璧なまでにねじ伏せてしまっていた。

おかしいな。
そろいもそろって、あるシーンを期待していたボクたちは。
ちょっとだけ、顔を見合わせた。
母さんは男に、しきりとなにかを懇願している。
男はそんな母さんの哀願を受け流しては、
首すじをがぶりと咬んだり、
ワンピースのうえからわき腹に食いついたり(血がきれいに撥ねて綺麗だった)、
ディープ・キッスを奪ったり、
肌色のストッキングのうえから、ふくらはぎを咬んだり、
しまいにワンピースをはぎ取って戦利品にしてしまって、
母さんのことを、スリップ1枚にしてしまったり。
ありとあらゆることを、し尽くしたのに。
とうとう母さんのことを、犯そうとはしなかったのだ。
さいごには母さんの手を取って、手の甲に接吻までして、サッと身をひるがえして、立ち去ってゆく。

その場に取り残された母さんは、血の付いたスリップを屑籠に放り込んだり、
あたりに飛び散った血のりを丹念にぬぐい取ったり、
レイプされたあとみたいにほつれた髪の毛を、しきりに気にかけたりしていたり、
長いこと、身づくろいに余念がなかった。
どうやら男は柄にもなく、父さんを忘れたくないという母さんの気持ちを尊重して、犯すのはあきらめたらしかった。

つぎの日曜日。
母さんがウキウキとよそ行きのスーツに装って、出かけてゆくのを、
ボクたち兄妹は、素知らぬ顔をして見送った。
母さんのいなくなった部屋の中。
若菜は屑籠から、風の着られたストッキングのパッケージを取り出して、
新しいストッキングおろしたのね?って、白い歯をみせていた。
初めて襲われたあの日には、母さんがシャワーを浴びているすきに、やはり屑籠をあさって、
あのひとにプレゼントしようよ♪って、血の付いたスリップをねこばばしていたっけ。

あの晩母さんを犯さなかったことで、男は母さんから一定の信頼を勝ち得たらしい。
それからも、ふたりの清い?交際がつづいた。
もちろん、彼のために装った衣装は、いつも見る影もなくはぎ取られ、紅いまだらもように染められてしまっていたけれど。
母さんは惜しげもなく、父さんから買ってもらった洋服を、男の慰み物に供していった。


えっ???
息が止まるかと思うくらい、びっくりしたのは。
そこに立っていたのが、父さんだったから。
生き返ったの?
ああ、そういうことみたいだな。
父さんは以前と同じ、すっとぼけた口調で、ひとごとみたいにのんきな感じでそう言った。
へえー、父さん血を吸えるの?
若菜までもが興味津々に、父親にすり寄った。
もともとお父さん子だった若菜は、父さんが蘇生したのは大歓迎だったらしい。
自分たちが母さんを吸血鬼に襲わせたことなんか、おくびにも出さずに、お帰りなさい♪なんて、嬉しがっちゃっている。
うーん、血は吸えるみたいだけど、まだ吸ったことがないや。
父さんは、うら若い匂いをぷんぷんさせて迫ってくる娘に、辟易しちゃっていたけれど。
若菜はいっこうに、かまわないらしかった。
処女の生き血だよ?父さんにも吸わせてあげようか?なんて。
カツヒロが聞いたら卒倒しそうなことまで、こともなげに言いだしている。

父さん、あの、ボク・・・
やっぱり親の前では、つい正直になってしまう。
バカねえ・・・と顔をしかめる若菜のことは、横っ面で受け流して。
ボクはくちごもりながら、母さんと、あいつとが・・・って、言いかけていた。

父さんの反応は、意外なくらいさばさばしていた。
ああ、わかってるわかってる。
母さんの血をあいつに吸わせるために、キューピッド役を買って出たっていうんだろう?やるじゃないか。
ボクも若菜も、目を丸くして父さんを見た。

たぶんね、私が復活したのは、そのせいなんだよ。
あのままこちらに戻ってくることはできないはずが、
自分の女房が貞操の危機を迎えたってんで、舞い上がっちゃったんだろうな。
でも私は、もう少しおとなしくしていることにするよ。
母さん、あいつにどこまで本気になるかな?
さいごのひと言の呟きは、イタズラっぽく声を弾ませていた。


折々出没する父さんの影にも気づかずに。
母さんは男と、みるみる距離を縮めていった。
映画に行き、ドライブに誘われ、夕食もいっしょに出かけて行った。
そう、男はふつうの人間のように飲み食いも、するのだった。
父さんは、そんな母さんの変化を、賞賛すべき忍耐力で見守っていた。
むしろ、二人の交際が深まっていくのを、悦んでいるふしさえ感じた。
そんなことで、いいのかな・・・息子のボクのほうが、ちょっと焦っていた。
母さんを襲わせて、男に血を吸わせてしまった張本人のくせに。

ねえ、母さん、あのひととお付き合いをしてもいいかしら?
母さんがウキウキと、ボクにそんなことを口走ったのは、それから半月と経たないころだった。
再婚・・・するの?
おそるおそる訊くボクに、母さんは「まさか」と笑い、お付き合いをするだけよ、とこたえた。
わたしの夫は、父さんだけよ。父さんだけは別格なのよ。
ああ・・・そのひと言があるから。その気持ちがあるから。父さんは母さんのことを、許せるんだ。
初めて納得のいったボクは、母さんの好きにしていいよ、とこたえ、それから心を込めてつけ加えた。
「おめでとう」。

妹の彼氏。

2015年09月11日(Fri) 03:59:20

親友のカツヒロは、妹の彼氏。
妹の彼氏という存在は、どこかまぶしくて、目を背けたい気持ちにかられるもの。
だって、妹と親友を結びつけた・・・ということは。
そのまま、妹を犯す権利を与えた・・・という意味でもあるのだから。
けれども、あいつなら許せるな。だからこそ、妹の彼氏に、なってもらった。

同じクラブに属するカツヒロとは、帰りがいっしょになることが多い。
そのカツヒロのまえ、思わず口を、すべらせてしまった。
――若菜の彼氏になってもらったってことは、若菜を犯してもいいっていうのと同じことだよな?

しまった・・・と焦る俺に、カツヒロはちょっと目を細めただけだった。
わかるよ、その気持ち。
俺も自分の妹を、吸血鬼の小父さんに紹介するときには、そんな気がしたもんな。

この街の住民は、吸血鬼と共存している。
そんなうわさは、聞いていたけれど。
親友の口からそれが漏れると、どこか生々しい気分になる。
それ・・・うわさだけのことじゃあ、なかったの?
ああもちろんさ――カツヒロはこともなげに、そういった。

きみもそのうち、だれかに血を吸われるんだ。
俺はもう、吸われちゃったけど。まだ特別の相手はいないんだ。
妹も、お袋もそう。うちはそういう家みたいなんだ。
でも、俺はきみの血を吸うのとおなじやつに、咬まれたいな。
だって、きみの血を吸うということは、若菜の血も吸うっていうことだろう?

いくら彼女だからと言って、その彼女の兄貴のまえで、”若菜”なんて呼び捨てにすることはないだろう?
カツヒロの言い草よりもまずそちらのほうに、ビクンときたのは。
ボクも若菜に、気があるのだろうか?
実の兄妹だからといって、エッチな関係になってはいけない――そんな倫理観は、この街では素通りされてしまっている、という。

ああ、ごめんごめん。
カツヒロは目を細めて謝った。すぐにこちらの胸中に、察しをつけたらしい。
きみはまだ、この街の雰囲気に慣れていないからね。
自分の彼女やお袋までも呼び捨てにされてみたら、考え変わるとおもうよ。
そんなものだろうか?でも、ボクはまだ、この街に慣れていないのだろうか?
父さんだって、この街のだれかに血を吸われて――いまはもう、この世にいない。

もっとも、父さんの相手の名誉のためにひと言いえば、父さんがいなくなったことは血を吸われたことが原因ではない。出張中の事故が原因だった。
ほんとうは・・・相手に血を吸い尽くされて吸血鬼になりたかったのだと、ボクはあとから母さんから聞いた。
念のため土に埋めた父さんは、もうなんヶ月にもなるというのに、まだボクたちの家に戻ってこない。
母さんも、とっくにあきらめちゃっているようだった。

カツヒロと別れて、夕暮れの街を歩いていると。
ふと、呼び止められたような気がした。
振り向くとそこにあるのは、街の柔らかな闇――
声は、その闇の向こうから聞こえてきた。
きみ、木戸原さんの息子さんだね・・・?

そうだけど?
訝しげに応えたボクのまえ、影は意外にいさぎよく、その身をさらした。
気の抜けたような顔つきの、初老の男。
まとっている黒いマントが、彼の正体を告げていた。

わしは、きみの父さんの血を吸っていた者。あれからもう、100日近くになるね。
なにをしに来たの?
男に相槌さえ打たないで、ボクは訊いた。
きみの血を、吸いに来たんだ――
父親が吸われたら、息子があとを引き継ぐのが役目なのか・・・
ボクは無表情のまま、男が近寄ってくるのを迎え入れて、首のつけ根に鈍い痛みを感じていた。
咬み入れられた牙は、皮膚の裏側で重く疼いて――気が付いたときにはもう、夢中になっていた・・・


その次の日から、ボクは部活のあとの帰りを独りでたどるようになった。
独りで帰る・・・というボクに、カツヒロはちょっとだけ目を細めたけれど。
それ以上なにも訊こうとはせずに、にこりと微笑んだ。
じゃあ俺は、若菜といっしょに帰るから。

帰り道には、自宅近くの公園に、必ず寄り道をした。
黒マントの男はそこでボクを待ち受けていて、
ボクは部活のユニフォームのまま、短パンの下から太ももをさらして、男の牙を埋め込まれていった。
帰り道を制服に着替えなかったのは。
ひざ下までぴっちりと引き延ばしたユニフォームのストッキングが、男のお気に入りだったから。
ボクは練習のあとは必ずシャワーを浴びて、ストッキングを穿き替えて、家路についた。


あああ。やっぱりね。
聞きなれた淡々とした声色が、ストッキングの足許を男に愉しまれながらうつむいていたボクの頭上に、降ってきた。
だいぶ顔色よくないぜ?三日も連チャンだもんな。
カツヒロは柔らかく微笑むと、言った。
選手交代だ。きょうは俺が相手するよ。
カツヒロもまたユニフォーム姿で、短パンの下から逞しい筋肉によろわれたふくらはぎをさらしている。
おそろいのストッキングに縦に流れる太めのリブが、鮮やかなカーブを描いていた。
俺、木戸原とちがって脚太いからな。おっさん、こんなみっともない脚でも、咬んでくれるかな?
男はもちろんだ、ありがたくいただく・・・といって、カツヒロの足許に唇を吸いつけてゆく。
恋人がべつの男とキスをかわそうとするときのような嫉妬・・・を感じたのは、なぜだろう?

ちゅーっ・・・
ボクのときとおなじ、妖しく微かな音を洩らしながら、男はカツヒロの血を喫った。
そうして、若者二人の身体から吸い取った血を口許に光らせたまま、こういった。
どっちが若菜さんを、紹介してくれるんだい?

兄と恋人に紹介された吸血鬼に、若菜はさすがに目を丸くしながらも、意外なくらい従順に応じていった。
自分の部屋に、男3人を引き入れて。
こげ茶色の胸リボンに赤のチェック柄のプリーツスカートの制服を着たまま、
若菜は羞じらいながら、じゅうたんの上に組み敷かれていった。
初々しい、若々しい、柔らかな身体のうえに、ツタのように絡みついた男が。
若菜の健康な素肌に唇を這わせ、うら若い血潮を吸い取ってゆく――
貧血に顔を蒼ざめさせた男ふたりは、ウットリとなって血を吸い取られてゆく妹を、恋人を見守りながら。
説明のしようのない、羞ずかしい昂ぶりに、気分を妖しく惑わせていた。

つぎは、あんたの彼女の番だな。
男は淡々と、ボクにそういう宣告をする。
ちょうど同じころこの街に越してきた、父さんの同僚の人の娘――優衣もこの男に、喰われてしまうのか。

あの男、きみのことを本当に、好きなんだな。
カツヒロはいつもの淡々とした口調で、ボクに言った。
俺もきみが好きだから、きみの妹を欲しくなった。
きみ、俺に”若菜”って呼び捨てにされて怒っていたけど、内心ちょっと、ズキズキしてただろ?
同じことを、優衣さんのときにも感じるんじゃないかな。
彼女があいつに、髪の毛をつかまれてねじ伏せられて、首すじをガブリとやられちゃったときとかに・・・


いまでも、トラウマになっている。
そう。ボクはそのつぎの日には、男に優衣を紹介していて。
なにも知らずに訪れたボクの部屋。
髪の毛をつかまれてねじ伏せられて、首すじをガブリ!とやられちゃって。
ブラウスに撥ね飛ぶ血潮。
アーッ!という、たまぎる悲鳴。
濃紺のハイソックスのふくらはぎに吸いつけられた、赤黒く膨れあがった唇。
そんなもののすべてに、ボクは嫉妬し、昂っていた。
処女の生き血が好物だから、優衣はまだ犯されてはいないけれど。
彼女の純潔を喰われてしまう・・・という妄想が。
ボクの理性を崩れさせ、いびつに歪めてしまっている。

お袋も妹も、吸血鬼の小父さんに犯してもらったんだ。
若菜のことも、あのひとに先にヤッてもらっちゃうつもりだけどね。
目を細めて淡々と呟くカツヒロに。
知らず知らず、頷き返してしまっていた。

運動部員が狙われる理由。

2015年07月08日(Wed) 08:05:13

学園に侵入した吸血鬼たちのなかでは。
運動部員は、花形だった。
理由はふたつあった。
ひとつには、
筋肉は固くて咬み心地はよくないが、鍛えた血は美味しいこと。
もうひとつには、
運動部員はたいがい女子生徒にもてるので、仲良くなれば彼女を紹介してもらえる確率が高いこと――

アキヤは、しまった、と思った。
三回咬まれてなじみになったのは、父親よりも年配の吸血鬼。
以前は作業員だったのか、いつも薄汚い作業衣姿。
名前を教えてくれないので、いつも「おっさん」で通している。
けれども鍛えられた筋肉はアキヤのそれよりも強力で。
ねじ伏せられるたび、むしょうに羨ましくなっていた。
部室に仲間を引きいれたマネージャーの陽太を笑えない、と思った。
逆に笑われちゃうかも・・・と思ったのは。
実際に、同級生の真奈美を「おっさん」に紹介させてしまったこと。

咬まれたんだね。
まっすぐな瞳を向ける真奈美の声が、澄んでいて。
つい、口走ってしまっていた。
オレと同じ吸血鬼に、いっしょに咬まれないか・・・?
信じがたいことに、真奈美は瞳の色も変えないで、うん、と、素直にこっくりと肯いていた。

しまったなあ・・・
彼女が咬まれるシーンって、ドキドキするんだぜ?
チームメイトのテルオがいつだか囁いたけれど。
じっさいに、ドキドキしてしまった自分が、ここにいる。
けれども「しまった」と思ったのは。
彼女とはもう、深い関係になってしまっている事実。
セックス経験のある女子は、残らず吸血鬼とエッチされてしまう・・・という。
だとすると。
彼女も姦(や)られちまうのか・・・
そこまでは、既定路線として受け止めるつもりでいた。
でもしかし。
オレ、セーラー服の真奈美とエッチしたこと、まだないんだよな・・・・・・
指をくわえて見守るアキヤの目のまえで。
アキヤを力でねじ伏せたあの逞しい猿臂が、華奢なセーラー服姿を抱きすくめていって、
紺のハイソックスの脚を開いてしまった彼女のひざを割り、
濃紺のスカートをもみくちゃにしながら、剥きだされた浅黒い腰を、深々と上下させてゆく――

腹黒なマネージャー

2015年07月08日(Wed) 07:49:45

男子が脚を咬まれるときってさ。
ハイソックスの上から咬まれる率が女子よりずっと高いんだってさ。

部室で物知り顔に言うのは、二年生部員のテルオだった。
半ズボンの下からにょっきり伸びたふくらはぎは、ごつごつとした筋肉質。

毛脛の脚が嫌いなんだろ~?

ユニフォームに着替えはじめていたアキヤが、手を止めて応じた。

そうらしいね。女子だと柔らかいふくらはぎを、じかにねちょねちょ・・・って。

いつも陽気なトモカズが、さらに話題を上乗せする。

だれもまだ、ハイソックス破られてないよな・・・?

さいしょに話題を振ったテルオが、用心深げに一堂を見回した。
どうやらこの部室は、”汚染”されていないらしい。
だれもがそういう心証を抱いた。
吸血鬼の侵入が、いよいよこの学園でも始まっている。
昨日だけでも、女子生徒が3人、男子生徒が2人、貧血で学校を欠席している。

いちど中に入れちまうと、いつでも出入りできるようになるらしいぜ、あいつら。家でも部室でも。

アキヤもいつになく小心そうに、あたりをきょろきょろ見回した。

甘いね。

部室の一番隅っこから、声がした。
さっきから一向に着替えようとしない濃紺の制服姿は、彼がマネージャーであることを意味していた。
二年生の陽太だった。

ほら。

これ見よがしに指先を半ズボンの下のハイソックスの口ゴムにすべらせて。
ハイソックスに皺を寄せてぐにゅっとずらすと、そのまますーっと下にずり降ろしてゆく。
真っ白なふくらはぎにふたつ、赤黒い斑点――明らかに、咬まれた痕だった。

女みたいに柔らかい脚・・・だってさ。
もう遅いよ。ぼくが中に入っちゃったから・・・みんな入り込んでくるからさ。

低い声色を合図にしたように、施錠されていたはずの部室のドアが開け放たれて、
そこには明らかに尋常ではない顔色の男たち――だれもが見慣れない年輩者だった。

このひとたち、きのうこの街に着いたばかりでさ。まだだれの血も吸っていないんだって。
よかったらちょっとだけ、愉しませてあげないか?

立ちすくんだ一同は、だれもがあきらめ顔になっていた。

オレ・・・お袋がもう咬まれてるんです。

迫ってきた吸血鬼に敬語になっているのは、いつも明るいトモカズだった。

い・・・いやらしいですよ・・・これって・・・っ

早くもハイソックスのふくらはぎを咬まれてしまったテルオが、思い切り顔をしかめる。

どうせなら、初体験はユニフォーム姿のほうがいいかな。

自分を納得させるように呟くアキヤは、短パンの下に履いた真っ赤なストッキングを思い切り引き伸ばした。
白のラインがきっちり見えるように丁寧に直す手の下に、飢えた牙が迫っていた。

ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
ごくん。

薄暗い部室のなか。
若い血潮を吸い上げるまがまがしい音が、陰々とくぐもった。
チームメイトが次々と血を吸い取られてゆくのを見回しながら。
陽太はさいごに入室してきた吸血鬼を見返って、面白そうに笑った。

お礼にボクの血を、ぜんぶ吸い尽してもらえないかな?
ボク、むしょうにきみたちの仲間になりたくなったんだ。

三人の少年とその家族

2015年04月16日(Thu) 06:57:41

おそろいの濃紺のハイソックスに、おなじ色の半ズボン。
そんなイデタチの三人の少年たちの足取りが、ふと立ち止まる。
早いね。もう来てたの?
頭だった少年が気軽に声をかけた相手は、明るい陽射しにはそぐわない黒衣の男。
男はうっそりと起き上がり、少年たちを見比べる。
血を吸いたいんだろ。ほら、三人ともかまわないからさ。
どの少年も、しょうがねぇなあ・・・という笑みを泛べて、男が自分たちの足許ににじり寄ってくるのを見守っている。
三人三様、ハイソックスに包まれたふくらはぎは、
がっちりしていたり、むちっと肉がついていたり、すらしと細かったりしていた。

さいしょに咬まれたのが、頭だった少年。
三人のなかでもっとも筋肉質なふくらはぎに唇を這わされると。
痛ぇ!って、わざとおおげさに声をあげた。
平気なはずだ。
吸血鬼は、生真面目な男らしい。
年輩男らしいしわがれ声でそう呟くと、いちど放した唇をもういちど、少年の足許に吸いつけた。

うーんっ!
最初の少年が眩暈を起こして、その場に尻もちをついてしまうと。
男は無表情に、二人めの少年の足許にとりついた。
むちっとしたふくらはぎをいとおしむように、さいしょの少年の血をあやしたままの唇を、なすりつけてゆく。
ア・・・
喉の奥からひと声、呻きを洩らすと。
第二の少年もまた、天を仰いだ。
ごく・・・ごく・・・ごく・・・
冷酷なほど太い音を立てて、男は第二の少年の生き血で、喉を鳴らした。

仲間ふたりがへたり込んでしまうと、三人めの少年は傍らのベンチに逃げるように腰かけて、
か細いふくらはぎを、心細げに脚組みをした。
ははは、そんなに構えんでいいぞ。
男はくぐもった声で最後の獲物をなだめながら、さっきのふたりと同じように、濃紺のハイソックスの脛に唇を当てた。
さいしょに吸われた少年が、やっぱり黒森の血がいちばん美味いんだよな・・・って、
ちょっとうらやましそうに呟く。
そんなんじゃないよ・・・痩せた少年が泛べた微笑は、ひっそりとした翳を含んでいる。
ちゅう・・・ちゅう・・・
あからさまな音をあげて。
彼の血潮もたっぷりと、男の唇に含まれ、飲まれていった―――


ったく、きょうはしつっこかったなあ・・・
さいしょの少年は、独り家路をたどりながら、彼にしてはめずらしく愚痴っぽく呟いた。
しつっこかったって?
耳もとで囁かれた声に、少年はビクッと顔を振り向ける。
さっき自分の血を吸い取ったばかりの男が、すぐ後ろでほくそ笑んでいた。
おい!おい!びっくりさせんなよっ!
とっさに飛びのく少年を、男は壁ぎわに追い詰めていた。
フットワークの良いはずのスポーツ少年も、この男の身の軽さにはかなわない。
どうしたいんだよ?まだ気が済まねぇの?
むっとした顔の少年に、男は言った。
じつはお前の血が、いちばん美味かった。ほかの奴らのまえで言ったら悪いと思ってな。
だから・・・もう少し吸わせろって?
なおも睨みあげる少年に。
これから、彼女に逢うんだろ?
男は図星を、突いていた。
お前なあ・・・
口を尖らせる少年に、人の彼女にまで手を出す気かよ・・・と皆まで言わせずに、男は言った。
彼女、あんたの負担を減らしたがっていたぜ。
彼が主将を務めるチームは、ここのところ連敗だった。
主将がOKすると、みんなOKしてくれるんだもんなあ。
男の言う通りだった。
チームメイトのほとんどは彼の毒牙にかかっていて、順ぐりに血を吸われる関係になっていた。
男は自分の仲間に善意の献血者たちをまた貸ししたため、人数の割に需要は逼迫している。
おかげでチームは、連戦連敗。
二部落ちはいやだ~というのが、女子生徒たち共通の願いにまでなりつつある。

男がいうまでもなく、ふたりの背後には気づかわしそうな顔つきをした少女がひとり、佇んでいた。
濃紺のプリーツスカートの下に履いた、真っ白なハイソックスのふくらはぎに、
さっき自分がされたのと同じように、唇が吸いつけられてゆくのを。
男がチューっと唇を鳴らして、少女の血潮をムザムザと吸い上げてゆくのを。
濃紺のひもリボンをほどかれた首すじに、飢えた唇がなおもしつように這わされてゆくのを。
少年は股間の疼きの熱さを我慢しながら、見守っているしかなかった。


ったく、迷惑この上ないよなあ・・・
二人めに吸われた少年は、ハイソックスの下に隠した咬み痕をさすりながら、愚痴っていた。
たしか体重増加防止になるって言い草だった。
うっかりそれで、首すじをゆだねてしまったのが、運の尽きだった。
やつはそれ以来、彼に付きまとって――家のなかにまで勝手に入り込んでくるようになっていた。
いつだか家に呼んで血を吸わせて以来、施錠されていてすら入り込めるようになったらしかった。
迷惑この上ないって?
いきなり囁かれた小声に、少年はビクッと後ろを振り向いた。
案の定。
男はすでに部屋でずっとくつろいでいた・・・といわんばかりにリラックスして、ほくそ笑んでいる。

わかったよ。まだ吸い足りないんだろ?
少年はやけになって、ハイソックスのつま先を差し出した。
すまないね。
男は少年の気前良さを遠慮なく受け止めて、唇をチュッと吸いつける。
きょうで二足めだぜ・・・
恨みがましそうに見おろしてくる少年の目線をくすぐったそうに受け流しながら。
男は聞えよがしな音をチュウチュウたてながら、少年の血を吸った。
やっぱり血の味がいちばん良いのは、きみだね。
ほかの連中には、ナイショだぜ?
そんなうまいこと言って・・・どうせほかのやつらにも、同じこと言ってまわってるんだろ?
図星を突かれた男は、フフフ・・・と含み笑いをしながら言った。
きみの母さんの穿いている肌色のストッキングも、面白そうだよね?

母さんの血を吸うつもり!?
大きな声出すなよ。聞こえるだろ?
いや、だって、それは、だめだって!よくないよ・・・父さんだって、困るって。
うろたえる少年を制しながら、吸血鬼は言った。
お父上のことはさておいて・・・きみは母さんの血を吸われるのに、異存があるのかね?
少年は目を見張った。
きみの血が美味しいといことは、親御さんの血も美味いということになるね。
血を吸われるたびにそんなことばかり囁かれているうちに――
母も自分と同じように血を吸い取られてしまうという想像が、少年の脳裏に色濃く刷り込まれてしまっている。
異存は・・・ないけどさ・・・
じゃあ決まりだ。きみはここで息をひそめていればいい。
すっと立ち上がる男を、失血で尻もちをついた少年は止めることができなかった。
母さん、逃げて!早く・・・
彼の希望を断ち切るように、「あっ、どなた?」「な、何するんですッ!?」ドタバタッ。「きゃあ~っ!」
そんな声と物音とが、階下のリビングから聞こえてきた。

リビングに下りてゆくと、母親の血を吸い終わった男が、吸いつづけていた首すじから唇を放したところだった。
エプロンに血を滲ませたまま、母親は半死半生のていで、息を弾ませていた。
むふふふふふっ。これからがお愉しみさ。
男は母親のワンピースのすそをたくし上げると、あらわにした太ももに再び咬みついてゆく。
肌色のストッキングに包まれた太ももは、ドキッとするほどむっちりとしていた。
太ももの一角に突きたてられた牙に、母親がもういちど、悲鳴をあげた。

パリッ。ぶちぶち・・・ッ
ストッキングを破り放題に愉しみながら。男は尻もちを突いたままの少年に囁いた。
いつもすまないね。
いえ・・・
仲の良い母子だった。
招かれざる訪問客の渇きを、自分たちの身体をめぐる血で代わる代わる、癒していったのだ。
ここから先は、きみはまだ視ない方が良いな。
男はそう言ったけれど、少年にはその場を立ち去る機転も体力も、残されていなかった。
母親のワンピースのすそが、さらにたくし上げられるのを、
そして母親が自分から、ショーツをつま先までずり降ろしてしまうのを、
少年はただぼう然と、見守っていた。


ったく、昂奮で眠れやしない。
いちばん痩せた少年が恢復したのは、夕食後のことだった。
ひとの血だと思って、自分のつごう次第でむしり取るんだから・・・
夜空の窓を見あげる少年の傍らで、囁きが洩れた。
眠れないって?
え?
ビクッと振り向く少年の後ろで、男がほくそ笑んでいる。
もの欲しげな笑みを、もう少年は見慣れてしまっていた。
ボクの血が、じつはいちばん美味しかった・・・とか言うんだろう?
図星を刺された男は、まあ、そうひとをうたぐるもんじゃないと言ったけれど。
すまない。きょうはとめどがないみたいなんだ。
正直にそういって、もうパジャマに着替えてしまっている少年の足許に目線を落とした。
今夜はなにがご希望?
こないだ家に上がり込んできたときは。
父さんが視ているまえで母さんを襲って生き血を吸い取っていった。
さすがの父さんも、血を吸われてしまうとぼう然となって、最愛の女性がみすみす血を吸い取られてしまうのを、ぼう然と見守っているだけだった。
そのあとどんなことが起きたのか――視ないほうがいいと言われるままに二階の勉強部屋に引き取った彼は、目にしていない。
もちろんなにが起きたのか――理解できない年頃ではなかったけれど。

あの公園でさ。妹さんとデートする気はないかね?
え?
妹さん、きょうは遅くまで塾なんだって?お疲れ様。
要するに、塾帰りの妹の携帯に連絡を取って、公演で待ち合わせろということらしい。
この時間だ。きみも制服が望ましいな。
まるで教師みたいな口調に向かって、露骨にしかめ面を返しながらも、少年はパジャマから制服に着替えていた。

お兄ちゃん・・・
ひどい。ヒドイわっ。
ほの香の血を、こんなひとに愉しませちゃうなんて!

口先では目いっぱいの抗議をしながらも。
公園の地面に倒れ込んだ少女は、そんな非難の声すらも囁きに変えてしまっていた。
真っ白なハイソックスのふくらはぎに物欲しげにかがみ込んできた吸血鬼が、チクリとした痛みを伝えてくるのをじっと耐えながら。
崩れかけた理性を立て直そうとして、
「こんなじゃいけない。はやくやめさせないと・・・」と、意志を奮い立たせようとしたけれど。
ゴクリゴクリと音をたてて自分の血を飲み耽る男のまえに、そんな意志さえはかなく散ってしまいそうになる。

あたしの血、おいしいのかしら。
お気に入りのハイソックス、愉しんでいただいているのかしら。

いつのまにか泛んだ、そんな心の呟きにはっとなりながら。
肩先を撫でてあやしてくる兄さんは、囁いてくる。

ボクや母さんの血だって、美味しく飲んでくれているひとなんだから。
ほの香の血が、美味しくないわけがないじゃない。

そうね、安心していいのよね・・・
少女は安心しきった笑みをほんのりと泛べ、
兄はそのほほ笑みの妖しさに、ハッと息を呑んでいた。

自分の血を美味しいと褒められた少年は、母親を引き合わせ、
母親の血を吸われた少年は、妹を連れだして。
母と妹を吸われた少年は、自分の彼女さえ紹介してしまう。
そんな食物連鎖の影で、血に飢えた男はひっそりと笑う。
ただしその笑いの裏側には、ひそかな憐憫と同情、それに感謝や尊敬も湛えている。
皮膚に突きたてられる牙を通してそれらの感情を敏感に感知したものだけが、
忌み嫌うことなく己の身体から血を吸い取らせ、大切な女性たちをも共有しつづけてゆく――


あとがき
さいごの結論に書いた順序通りにすればよかったかなあと、ちょっと反省。
リベンジは逞しい順に行われるべきだろうし、
いちばん逞しい少年には彼女がいるだろうし、
妹を夜の公園に連れだす役柄は、もっとも繊細そうな痩せた少年に割り当てるのが好ましいし、
そんなことを考えながら、お話を作りました。
一部関連画像を、近々某所にあっぷするかも・・・です。乞うご期待。

いつになく。やらしいね・・・

2015年03月02日(Mon) 06:59:13

小父さん、小父さん・・・
きょうの小父さんは、なんかいやらしいよ。
裸になって生き血を吸わせろ なんて。
ちょっといやらし過ぎや、しないかい?

血を吸われるのは、かまわないけど。
小父さんが美味しそうにゴクゴク飲んでくれると、ボクも嬉しかったりするからね。
でも、きょうのはいつもと、すこし違うね。
裸になれ なんて。
ハイソックスだけは、履いていていい なんて。

Tシャツや半ズボンを脱ぐときに。
ボクがちょっぴり、ドキドキしたの。
小父さん、気がついている?
きょうのボクは・・・なんだかいつもより、汗っぽいや。

あっ、ボクの首すじ咬んだね?
血が、すーっと垂れていく。
鈍い痛みが、じんわりと。
ボクの理性を痺れさせてく。

小父さん。
小父さん。
ほんとうは・・・お目当てボクじゃないんだろう?
母さんの血を吸いたいの?
婚約したばかりの姉さんを襲いたい?
妹のセーラー服のえり首から覗く首すじを見つめる目も、いまとおんなじくらい、やらしいよ。
でも、でも。
この昂ぶりも、うそじゃないんだね?
股のすき間にじんわり拡がるこの生温かさ――
いったいきょうの小父さんは、どうしちゃったの?
いつもより。
ボクを抱きすくめる腕にも、ギュッと力がこもっているよね?
あ、うん。求められてる気分って、悪くないよ。むしろ好きだよ。
だから小父さんに、生き血を吸わせろってせがまれても――ボクはつい、許しちゃうんだよね。

どうするの?どうするの?
えっ?お婿に行けなくなるかもって?
そんな心配、ないじゃない。
ボクだって、お嫁さんをもらうときには。
処女のうちに、小父さんに紹介してあげるつもりなんだから・・・


追記
このワンシーンを、イラストにしてあります。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=49046772

でぶちんなぼく。

2014年11月04日(Tue) 07:23:55

ぼくのことを咬むなんて、小父さんよっぽど喉が渇いていたんだね。
押し倒された公園のまん中で、大の字になったまま。
ぼくはあっけらかんと、笑ってしまった。
小父さんも、ぼくと声を合わせて笑っていた。
とても低くて憂鬱そうな声色だったけど。
さっきまで呟きつづけていたおどろおどろしい脅し文句のときなんかよりは、よっぽど打ち解けた声色だった。

ぼくはクラス一のでぶっちんで、
いつもかけっこのときなんか、文句なくビリ。
だぶだぶのお肉をたぷたぷさせながら、よたよた歩くようなスピードでしか、走れない。
短パンの下に履いているサッカーソックスだって、見せかけだけなのに。
女もののストッキングやハイソックスの脚を好んで咬むという小父さんは、
そんなぼくを襲うときだって、ふくらはぎを狙っていた。

幾ら相手がいないからって、ぼくのハイソックスなんか狙うなんて。
いきなり吸血鬼物語の主人公に「昇格」したのが、むしょうにおかしくって。
ぼくはへらへらと笑いながら、ずり落ちていたもう片方のハイソックスを、ひざ小僧の下まで引き上げてやった。
すかさずふくらはぎに這わされてきた唇が、ぴったりと吸いついてきて。
しっかりとした感触のするナイロン生地によだれがじわっとしみ込んでくるのを、ありありと感じていた。

気分はどうかね?
うーん、悪くない・・・
身体のようすに気を使ってくれているのがわかったぼくは、なんとなく安心した気分で、手足をくつろげて。
大の字になったまま、チュウチュウと血を吸い取られていった。

ありがとう。助かったよ。
お礼にきみのことを、いけめんの男子に作り替えてあげよう。
そういう小父さんの言葉は、きっとでまかせだったに違いない。
ぼくはあまり期待しないで、こたえていた。
もしもぼくがほんとうにいけめんになって彼女ができたら、その子を紹介して血を吸わせてあげるよ、って。


そのひと、ほんとうは母さんのことが狙いなんじゃないの?
こんど家に誘ったから。そう言ったぼくのまえで、母さんは蒼くなっていた。
そうじゃないよ。ぼくの未来の彼女がお目あてなんだ。
ぼくがのんびり答えると。
お前彼女できたのか?
牛乳びんの底にみたいに分厚い眼鏡の奥から、父さんがぼくを見直していた。
生真面目な視線に、母さんもぼくも、笑いこけていた。

都会から越してきたぼくたちは、近所の人からそれなりの情報をもらっていた。
この街には吸血鬼が出没するけど、お互い共存する約束ができていて。
死なせるほど吸うことは絶対ないから、頼まれたら気持ちよく血を分けてあげるようにって。

逢ってみていい人だったら、協力してあげたらいいじゃないか。
父さんはパンを口にほおばりながら、のんびりとそう、応えていた。

つぎの日。
血をたっぷり抜かれて勉強部屋で大の字になって寝転んだぼくは。
階段の下のリビングで、母さんがきゃーきゃー言いながら逃げまどうのを、
ああっ・・・!てひと声、ちいさな悲鳴を洩らすのを、
ぼくにそうしたみたいに、小父さんに首すじやふくらはぎを咬まれていって、
ちゅーちゅー音をたてて、生き血を吸い取られるのを、
薄ぼんやりとして、聞き入っていた。

ミセスの女のひとを襲ったときは、セックスまでしちゃうんだってさ。
そういえば同級生のひとりが、そんなふうに耳打ちしてくれたっけ。
じつはオレも、ママを襲われちゃったんだ。って。
イタズラっぽくウィンクするのを、忘れずに。
父さんもこうなることを、知っていたのかな・・・たぶん知っていたんだろうな・・・
失血のけだるさが心地よくなってきたぼくは。
母さんがまるで小娘みたいに、ころころと笑いこけているのに、ぼんやりと聞き入っていた。

その日の夕食は、お赤飯だった。
母さんはいつものように、お箸をちゃんと扱いかねているぼくに口をとがらせていたし。
父さんもいつものように、新聞を読みながら食卓に向かって、母さんにぶつぶつ言われていた。


数か月後。
ぼくはそれまで着ていた服を、ぜんぶ取り替えなければならなかった。
だって、見違えるほど痩せてしまったから。
ぼくの血を吸い取るのと引き換えに、小父さんはなにか毒液みたいなものを、ぼくの身体に注入したらしい。
ただたんに血を吸われて不健康に痩せたわけではなくて。
むだなぜい肉のない、引き締まった身体つきになっていた。
顔はそれほど、いけめんにはならなかったけど。

服もすっかりおしゃれになったね。
そういってぼくと肩を並べて、よりそうように歩く女の子が、ぼくにもやっとできたのは。
ちょうどそんな時分のことだった。
それほどいけめんになったわけでもないぼくに、すぐに彼女ができるわけがない。
吸血鬼の小父さんは、自分が血を吸っている女の子のなかから、ぼくの彼女になる子を見つけてきてくれたのだった。
紹介したのは私だが、ちゃんとつきあっているのはあんただぜ。
小父さんはぼくを褒めることを、忘れなかった。
激ヤセしてコンプレックスの消えたぼくは、明るい性格になっていたし、太っている子を見てもばかにしない優しさも持つようになっていた。
ぽっちゃりさんだった彼女を、うまくフォローできたのが、付き合い始めるきっかけだった。

うちの母さんたらさあ、このごろあの小父さんと付き合い始めたんだよ。
生真面目な彼女は、まあるい頬をプッとふくらませて不平を言った。
敬太くんのところはどう?
訊き返す彼女に、うちもそうだよって、ほんとうのところを答えてやる。
ぼくが服を全部取り替えることになったころ。
母さんの服もほとんど、入れ替わっていた。
清楚でエレガント系の服に魅せられた小父さんに血を撥ねかされて、たいがいボツになっちゃったから。
小父さんは気を使って、母さんのことをブティックに連れていって、やっぱり清楚でエレガントな服を買ってあげていた。
つくづくまめだなぁ・・・って、からかうぼくに。
大切なことなんだから、よくおぼえておくように って。
真面目くさった顔で説教したけれど、説得力はなかったな・・・
たまにはいたずら心で、真っ赤なミニスカートを買って、試着室で着けたまま、タグを切り外しただけで帰宅させて。
たまにはいいじゃないかって、父さんまで面白がっていた。

そんな話を彼女にしてみたら。
そうねえ・・・うちはまじめな人ばっかりだから。敬太くんのところを見習うわ。
あんまり自信なさそうに、そういっていた。
そんなに心配いらないんじゃない?
ぼくはのんびりと、応えていて。
ぼくと歩調を合わせる絹香さんも、おっとりとうなずき返してきた。
会社の社長をやっている絹香さんのお父さんは、吸血鬼の小父さんの家に出かけるお母さんを、外車で送り迎えしているらしいから。


卒業間近になったころ。
小父さんはぼくの血を吸ったあと、耳打ちしてきた。
敬太はまじめなんだね。まだきぬちゃんとヤッていないんだって?
下品なこというなよ、って、ぼくはわざと顔をしかめてやった。
でもたいがいの子が、やっているみたいだぜ。
早い子は中学で、ほとんどの子は高校を出る前に、結納を済ませてしまうというこの土地で。
ぼくの晩熟(おくて)ぶりは、異例なのかも知れなかった。
けれども、かんたんに女の子を傷つけちゃいけないんだぞっていう父さんの訓えには、どこか真実味があったから。
潔癖症らしい彼女の態度もあいまって、ぼくたちはそうした話題を、意図的に避けてきた。

忘れちゃいけないぜ。わしがきぬちゃんの生き血を毎週のように吸っていることを。
セックス経験のある女は、たいがいさいしょの機会で堕ちるんだが。
処女だって例外じゃないんだぜ。
ぼくのいないところで小父さんと逢っている彼女のことを、ヘンに疑ったことがなかったのは。
処女の生き血をことさら好む小父さんのことだから、彼女の身持ちには心配がないだろうって思ったから。
大変な信頼をされているようだね。
小父さんは苦笑しながら言った。
きみだから言っておくが。まだかきぬちゃんはずうっと処女のまま・・・ってことは、ないだろうね?

よろしくお願いします。
絹香さんと手をつないで現れた小父さんは、呆気に取られたようだった。
その日絹香さんは、小父さんに血を吸われる約束をしていたから。
いつもぼくには内緒で来るはずが、いっしょに手をつないできたのだから、びっくりするのも当然だった。

ぼくが小父さんに、襲われます。
血を抜かれて息も絶え絶えになっているあいだに、小父さんはお目当ての女子高生を襲って血を吸ってしまいます。
血を吸われたきぬちゃんは、ぼくのまえで犯されてしまうけど。
ぼくはきぬちゃんのことを気持ちよく許して、将来を誓います。

母さんがね、言っていたんだ。
処女のうちに小父さんに逢えたら、父さんとの婚約が決まっていても初めてのよるは小父さんと過ごすってね。

父さんはぼくにそう耳打ちをして、すぐさまなにもなかったように、生真面目な顔をして出勤していった。
敬太は彼女を処女のうちに捧げるチャンスがあって、うらやましいね。
父さんの囁きは、そそのかす感じがこめられていた。
母さんは知らん顔をして、リビングで縫物を続けながら、声だけで父さんを淡々と送り出していた。

小父さんはいまでも、ぼくの好んで履いているサッカーソックスに、咬み痕をつけてくる。
じわっと滲んだ血潮のなま温かさ。薄ぼんやりとなってくる失血の感覚。
やっぱり薄ぼんやりとなってきた、視界のかなた。
きぬちゃんは、ぼくの目のまえで抱きすくめられていって―――
冷静さを装うために、けんめいに顔つきをこわばらせて、眉をしかめてゆく。
押しつぶされそうになったきぬちゃんの上で、逞しい腰を上下させてわが物顔に振舞う小父さんは。
内心抑えかねていた劣情のありったけをきぬちゃんにぶつけていたけれど。
なりふり構わない態度に、打ち解け切ったものを感じていたぼくは。
股間のあいだが物凄く逆立ってくるのをどうすることもできないままに、
初めて見るきぬちゃんの裸体の白さに、いつまでも見入ってしまっていた。

ぽっちゃりなきぬちゃんの素肌はとてもきれいだった。
花嫁にできるきみが羨ましい・・・そういった小父さんの本音に、ぼくは自慢そうに頷いている。
結婚したら、ちょっとのあいだだけは、二人きりでいさせてね。
たまには小父さんにも、逢わせてあげるからね・・・

半ズボンの通学路

2014年10月31日(Fri) 05:47:11

肌寒くなってきた、朝の通学路。
ぼくはそれでも、半ズボンで通している。
体育の授業の時。
吸血鬼の小父さんが、ドラマチックに登場したあの日から。
ぼくの血を美味しいと言ってくれた小父さんのため。
脚に通したハイソックスが、遠目からも目じるしになるのだから。

クラスの中で、きみだけが。
赤のラインのハイソックスを履いていたから。
ぼくを咬んだあと。
小父さんがささやいたそんなひと言に。
ぼくはゾクッと昂ぶっていた。
男の子のくせに。ぼくはハイソックスが好き。
吸血鬼の小父さんは。ハイソックスの脚に、咬みつくのが好きだった。

来る日も来る日も、いろんな柄のハイソックスを履いていく。
青のラインのハイソックス。
鮮やかな黄色のハイソックス。
ひし形もようの、アーガイル柄。
そのたびに小父さんは、鮮やかな色や柄をーーーぼくの血の色で彩ってゆく。
真新しい生地に、真紅のシミが拡がるのを。
腹這いになったり、ベンチに背中をもたれさせたぼくは、ドキドキしながら見おろしていた。

姉さんは、渋々ながら貸してくれた。
学校の名前のイニシャルの、飾り文字があしらわれた紺のハイソックスを。
初めて脚に通す、女の子が履く通学用のハイソックスに
ぼくはゾクゾクしながら、街を歩いた。

父さんは、好きにしなさいと笑って、真新しいのをポケットに忍ばせてくれた。
出勤していく父さんの足許が、いつも気になっていた。
どうしてあんなに薄い、パンストみたいなハイソックスを、毎日履いていくだろう?・・・って。
ひざ小僧の下を、ピチッと引き締める太めのゴムと。
脛の周りを、なよなよって包む、薄い生地とに。
ぼくは姉さんのときとおなじくらいドキドキしながら、通学路を歩いていた。

これ穿いて街を歩けたら、ほめてあげるわ。
母さんが肌色のパンティストッキングをくれたころには。
小父さんとぼくとの関係は、周囲では公然のものになっていた。
脚全体をくるむ、薄手のナイロンの。
じわっとした妖しい感触に。
ぼくはたちまち、夢中になっていた。

咬み破ったハイソックスの持ち主は、その日のうちに小父さんに、生き血をもてなすはめになっていた。
まだ血を吸うことのできないぼくは、
姉さんが首すじを咬まれるのを。
父さんがスラックスをひきあげるのを。
母さんがワンピースに、血を撥ねかすのを。
ただゾクゾクとしながら、見守るだけだった。

小父さんは、ぼくの履いている赤ラインのハイソックスがいちばん好き。
だからふだんは、ラインの入ったハイソックスを、半ズボンの下から見せびらかして、学校に通う。
気になる彼女は、校舎の裏にぼくのことを呼び出して。
だれにも内緒だよ・・・っていいながら、ぼくに血を吸わせてくれた。
初めて口に含んだ、処女の血潮に。
ぼくはウットリとしながら、その血がついたままの唇を、彼女の唇に重ねていった。

肌寒くなってきた、通学路。
ぼくは今朝も、むき出しの太ももをさらして、学校に通う。
ひところは血が途絶えてしまった血管を。
彼女から吸い取らせてもらった血が、暖かくめぐるようになった太ももを。
いっしょに登校しよう。ふたりでおそろいで、あたしのハイソを履いた脚で。
そういってポケットにねじ込んでくれた、寸足らずの紺のハイソが、ピチッとくるんだふくらはぎを。