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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

吸血怪人に捧げた花嫁

2024年04月08日(Mon) 01:26:41

はじめに
これも旧作の続編です。^^;
たぶん、1月ころに描いたものですが、最後の婚礼のシーンだけをいまほど書き下ろしました。A^^;
えーと、どれの続編かと言うと、こちらです。
正義のヒーローに退治されながら生き残った、怪人のその後
(2023年9月12日あっぷ)

正義のヒーローに退治された吸血怪人が出所させられて、かつて襲った人たちと「旧交」を温める?お話です。
本作のヒロインは、さいごに襲った勤め帰りのOLです。
かつての犠牲者たちがつぎつぎと再征服されていったとき、婚約者同伴のうえ自分の吸血を希望しています。

> 刑に服する前に襲った勤め帰りのOLは、彼の出所を聞きつけて、婚約者を伴ってやって来た。
> 彼も納得しているので、私も仲間に加えてくださいと、彼女は懇願した。
> 彼女の体内には、初めて咬まれたときに植えつけられた淫らな衝動が、まだ色濃く残留していたのだ。
> 婚約者は自分の未来の花嫁を襲った牙を自らの身体に受け容れたうえ、
> 最愛の彼女の純潔をあきらめるという譲歩をしてくれた。

というくだりです。
では――。


美菜子さんが、デートの約束に遅れてきた。
几帳面なひとだから、そんなことはいままでに、めったになかった。
どうしたのだろう?と訝りながら彼女を迎えたが、
いつも身ぎれいにしている彼女にしては珍しく髪を振り乱していて、
いっしんにぼくの目をひたと見すえてきた。
「私・・・知ってしまったの」
美菜子さんは言った。
「あのひと・・・出てきたみたいなの」
どういうこと・・・?――と、訊くまでもなかった。
彼女がぼくのことをさしおいて「あのひと」といえば、
2年まえ、彼女を襲った吸血怪人のことだ――と、感づかずにはいられない。
そう――あのとき美奈子さんは、勤め帰りを襲われて、
ブラウスの胸もとに吸血管を刺し込まれ、バラ色の血潮を、ぬるっ・・・と抜き出されてしまったのだ。

遠目に見たそのときの光景は忘れない。
怪人の胸部から突き出た触手のような吸血管が、
美菜子さんの着ていた真っ白なブラウスごしにブスリと突き刺されて、
薄汚れた半透明の管を、彼女の赤い血液が満たしてゆくそのときのことを。
美菜子さんの胸もとから怪人の心臓へと直結した透明な吸血管は、
ぼくのたいせつなひとの血潮を一直線に、その干からびた心臓へと送り込んでいった。
急速に失血した彼女は眩暈を起こし、掌を額に当てながらゆっくりと姿勢を崩して、路上に膝を突いてしまった。
醜悪ななりをした怪人は、長い長い吸血管を、たぐり寄せるようにして、
うずくまる美菜子さんに近づいていって・・・
やがて彼女のスーツ姿を抱きかかえると、
擬態を解いて痩せこけた老人の姿を現わして、
うなだれる白い首すじに、あの恥知らずな唇を吸いつけていったのだ。
ギュッと力を籠めた唇から、美菜子さんの血は再び吸い出されていった。
待てっ、待ってくれっ!
ぼくは声を限りに叫び、路上に手を突いて悶える美菜子さんのほうへと駆け寄った。
怪人は、ぼくのほうを見た。
射すくめるような目だった。
ぼくはやおら我を忘れて、立ち尽くした。
お互いの目線が一瞬、激しく交錯した。
ゆっくりと歩み寄ってきた怪人は、ふたたび擬態に立ち戻ると、
さっき美菜子さんの血を吸い取った吸血管を触手のように伸ばしてきて、
こんどはぼくの胸をブスリと突いた。
強引に押し入ってくる異物の感触に、ぼくの身体は痺れた。
ぼくは立ち尽くしたまま、先刻美菜子さんの血液が通り抜けた吸血管を、今度は自分の血で染めることになった。
ぼうっ・・・と意識が遠のいていって、ぼくは頭と足許とが逆さになるのを覚えた。

気がつくと、ぼくはさっき転倒したのと同じところに座りこんでいた。
美菜子さんはうつ伏せに横たわっていて、その上にあの怪人が老人の姿になって、おおいかぶさっていた。
必殺の吸血管をくり出す時は怪人の姿に、
そして、獲物に人並みな欲情を覚えたときには老人の姿に入れ替わることを、
ぼくはなんとなく察するようになっていた。

ぼくがわれに返ったとき。
彼はその恥知らずな唇を、美菜子さんの脚に強く吸いつけて、しつようないたぶりを加えていた。
唇から時折洩れる卑猥な舌が、薄地のナイロン生地の表面にヌメりついて、
淫らな唾液をなすりつけてゆく。
おぞましい・・・なんておぞましい・・・!
ぼくは敏感に昂った自尊心をピクピクと震わせながら、起ちあがろうとした。
けれども、できなかった。力が完全に、抜けていた。
目のまえで。
圧しつけられる好色な唇の下。
美菜子さんのストッキングが皺くちゃにいたぶり抜かれ、
いびつによじれ、しまいにブチブチとかすかな音を立てて咬み破かれてゆくのを、ぼくは息を詰めて見せつけられていった。

屈辱。後悔・・・
けれども、いったいどうしたことなのだろう?
ぼくの股間は熱く昂り、そそり立った一物の先端が蕩けるように潤んでいることを、認めないわけにはいかなかった――


「あのひとが出てきたのを、知ってしまったの」
美菜子さんは食い入るような目をしてそういうと、「視て――」といった。
美菜子さんは、真っ赤なチョーカーを首に巻いていた。
いつにない装いだったが、細いうなじにキリリと巻かれた紅いチョーカーは華やかで、妖艶な感じがして、美菜子さんによく似合っていた。
美菜子さんは黙って、チョーカーをほどき始めた。
取り去られたチョーカーの下から、くっきりと浮いたふたつの咬み痕が現れた。
忘れもしない2年まえ、怪人が美菜子さんに咬みついた痕だった。
ふだんは長く垂らした黒髪の下に隠れ目だたなかったが、ポニーテールに結わえてしまうとすっきりと見える首すじにの一角のそこだけが、醜く爛れているのがいやでも目についた。
「ね――?」
美菜子さんは同意を求めた。
指さした傷口から、血が滲んでいた。
滲み出た血はやがてプツプツと微かに撥ねて、傷口の周囲を濡らした。
血は止まらなかった。
真紅のシミはじわじわ、じわじわと少しずつ、白い首すじを侵蝕するように拡がって、しまいには純白のブラウスを浸す勢いになっていった。

あえいだようになにか言おうとするぼくの手を掴まえて、美菜子さんは「行こ。」といった。
美菜子さんはぼくの掌を痛いほど握り締めると、
男のぼくが追いつけないほどの速足で、ただひたむきに、歩みをすすめていった。
ふんわりとした鮮やかな青のリボンの下にポニーテールに結わえた豊かな黒髪を揺らして、
かつて自分を辱めた怪人と顔を合わせるために、まっしぐらにすすんでゆく。
シンプルな純白のボウタイブラウスに、濃紺のタイトスカート。
ひざ丈のスカートの下からにょっきりと伸びた脚は、濃い肌色のストッキングが陽の光を照り返して、つややかな光沢を放っていた。
あの日彼女は、穿いていたストッキングを他愛もなく咬み破られていったけれど。
あれが、再現されるのか。とうとう、再現されてしまうのか――
いびつな予感におののきながらも、彼女の歩みを止めることはできなかった・・・

怪人は街なかを、ふつうに出歩いていた。
擬態のままの姿で、あの触手のような吸血管をぶら下げていて、
だれの血を吸い取ったものか、その先端からは赤いしずくをポタポタと、したたらせていた。
美菜子さんはためらいもせずに、彼の前へと進み出た。

「憶えてますか?私のこと。憶えてますよね?」
ひたと見すえた目線で、表情のみえない醜悪な怪人を見すえるようにして、
息せき切ってその場にかけつけた美菜子さんは、開口一番そういった。
「私のことも――仲間に入れて欲しいんです!」
かつて牙にかけた犠牲者たちを再びなん人か襲ったことを、美菜子さんは聞きつけていたのだ。
「私、もう一度あなたに血を吸われたい・・・」
あっ。あっ。
そんなことまで言ってしまうの――?
ぼくはおもった。
待ってください・・・
思わず口走っていた。
美菜子さんは、ぼくのほうをふり返った。
止めないで――と言いたげに開いた唇を制するようにして、ぼくもわれ知らず、口走っていた。
「美菜子さんのことを襲う前に・・・ぼくの血を抜いてください・・・」

怪人は初めて、ぼくのほうを見た。
見覚えのあるやつだ、という顔をしていた。
美菜子さんのことも、ぼくのことも、きっと忘れずにいたのだろう。
ぼくはいった。
「ぼくたち、もうじき結婚するんです。
 妻を守るのが、夫の務めです。
 だから、美菜子さんの血を抜くというのなら、先にぼくの血を抜き取って欲しいんです」
嘲笑がくるかと思った。
けれども、予期に反して怪人の反応は穏やかだった。
「そうか――あんたらは結婚するのか・・・」
くぐもった、しわがれた声色だった。
「飢えているんだわ」美菜子さんがぼくに、囁いた。
けれどもその囁きは、飢えた怪人を気の毒に思いやる語調を帯びているのを、ぼくは聞き逃さなかった。
怪人はぼくを見すえて、少し黙ると、意外なことをいった。
「・・・おめでとう」
えっ?
ぼくたちは、顔を見合せた。
「あんたらのことは、よく憶えておる。
 あのときわしに襲われたのに、あんたはこの女を救おうと懸命だった。
 わしの必殺の吸血管を喰らって意識を保ったのは、あんたくらいのものだ。
 よほどこの女が好きなんだなと思い、殺す気にならなかった。
 それに、あんたの血もなかなか旨かった――」
怪人はそういうと、地べたに長々と横たえていた吸血管を、ぼくたちのほうへと向けた。
鎌首をもたげた吸血管は、美菜子さんのことを狙っていた。
危ない――!
とっさにぼくは美菜子さんを庇った。
吸血管がブスリと、ぼくの胸に突き刺さった。

目の前がクラッとした。
血液を急激に抜き取られる感触が、ぼくの三半規管を麻痺させて、身体が宙に浮いたような気がした。
皮膚を突き破って深々と突き入れられた吸血管は、ぼくの血液を強欲に漁り摂ってゆく。
ぼくが眩暈を起こしてその場に倒れ臥してしまうと、怪人は擬態を解いた。
もとの老いさらばえた老人の姿になって、うつ伏せになったぼくの足許にかがみ込んで、今度はスラックスのすそをたくし上げる。
たまたまだったけれど。ぼくは、ハイソックスを履いていた。
「ククク・・・やっぱり・・・」
スラックスの裏側を透視する方法でもあるのだろうか?
かれは、ぼくがハイソックスを履いていることに満足した。
美菜子さんが襲われて以来、彼のことはそれなりに調べていたので、
丈の長い靴下を、男女を問わず好餌にしていることを、ぼくは知っていた。
案に相違せず、彼はほくそ笑んだままの口許をそのまま、ぼくのふくらはぎへと吸いつけてきた。
しなやかなナイロン生地を透して、生温かい唾液が粘りつくのを感じた。
しみ込んできた唾液がヌラヌラと、ぼくの素肌を侵蝕してくる。
ちゅるっ・・・
ハイソックスを舐めて楽しんでいる・・・
そうだ、あのとき美菜子さんの足許も、同じように嬲られていたっけ。
怪人は、ぼくの履いているハイソックスによだれをなすりつける行為に、しばらくの間熱中した。
美菜子さんは立ちすくんで、両手で口許を覆っている。
やがて、ねっとりと圧しあてられてきた唇の両端から、尖った異物がチクチクと突き立つのを感じた。
ぼくの血に欲情している――そう直感した。
「どうぞ、吸ってください。そして、もしもぼくの血を吸って気が済んだら、美菜子さんを襲うのはあきらめてもらえませんか・・・」
後半はむしろ、懇願に近かった。
それに応えるように、口許の両端から覗いた牙が、ハイソックス越しに突き入れられてきた。
じゅわっ・・・
生温かい血を靴下に滲ませながら、怪人はぼくの血を、旨そうに啜りはじめた・・・

目のまえが、ぼうっとしていた。
ぼくは路上に、横倒しに倒れていた。
身体からは力が抜けて、身じろぎ一つできない。
彼方に、立ちすくむ美菜子さんに怪人が迫っていくのが見えた。
いけない――やめろ・・・
けれども、ぼくの必死の叫びは、怪人には届かない。
壁際に追い詰められた美菜子さんのブラウスに、必殺の吸血管が突き立てられた。
ずぶり・・・
突き刺された瞬間、美菜子さんは力なく目を瞑り、おとがいを仰のけた。
ぼくの血で染まった吸血管が、こんどは美菜子さんの美しい血を染めて、充たされてゆく・・・
怪人は、キキキキキ・・・と嬉しげな呻きをあげて、美菜子さんの血を摂取していった。
ひざ小僧から力が抜けて、美菜子さんは手を突いて四つん這いになってしまった。
怪人は、そんな美菜子さんに寄り添うように近づいて、彼女の身体をあお向けにひっくり返した。
そして、再び擬態を解くと、老人の姿に戻って、ブラウス姿の上に馬乗りになった。
クヒヒヒ・・・
怪人は美菜子さんの両肩をしがみつくようにして掴まえると、
笑んだ唇をそのまま美菜子さんの首すじに迫らせてゆく――
むき出された牙が白いうなじに吸い込まれるのを、
撥ねかる血潮が真っ白なブラウスに飛沫となって散るのを、
ぼくはぼう然と眺めていた・・・

きちんと穿きこなしたストッキングをむざんに食い剥かれてしまうときも、
美菜子さんはじっと、耐えていた。
むしろ、従順と言っていいほどの応対だった。
美菜子さんは通勤用のパンストを、怪人の舌を愉しませるためまとってきたのだ。
処女の生き血は貴重品扱いだったので、美菜子さんがそれ以上の乱虐をくわえられる気遣いはなかったけれど、
ストッキングを穿いた脚に向けられた彼の卑猥な関心は、ぼくを警戒させずにはおかなかった。
かれははっきりと、美菜子さんを血液摂取の対象としてだけではなくて、異性として狙っている。
いやでもそう意識するしかなかったのだ。

もうろうとしているぼくに、怪人が近寄ってきた。
これ以上血を吸われたら、生命が本気で危ない・・・
ぼくは観念した。
美菜子さんと晴れて結ばれることもなく死んでしまうのかと思った。
怪人はぼくのうなじに口を近づけ、耳たぶにその呼気が触れた。
「死なせはせぬ」
怪人はいった。
美菜子はあんたをだいじに思っている。だから、死なせることはない――
ただし、あんたの血はたっぷりと、楽しませていただく――
彼はそう言って、ぼくの首すじを舐めた。
咬まれた傷跡が、じんわりと疼いた。
吸い残された血がかすかに撥ねた。
ひっ。
ぼくはうめいた。
怪人はぼくの身じろぎを体重で制すると、舐めた傷口を牙で抉ってきた。
ま、まだ吸うのか・・・生命は奪らないって・・・っ
ぼくの声は、途中で途切れた。
そして、数日後病院のベッドで目を覚ますまで、意識を失ってしまったのだった。


頭がジンジンと、疼いている。
意識を失う寸前、怪人がなにかを囁いていったような気がする。
そうだ――美菜子さんのことだ。
美菜子の血を吸うときには、ぼくに教えると言っていた。
あれは、どういうことなんだ?

退院の日、美菜子さんは、病室にやって来た。
まるで、もう夫婦であるかのように従(つ)いて来て、ぼくを自宅のマンションまで送り届けてくれた。
「明日、お約束してもいいかしら・・・?」
「もちろん」
何げなく返事を返すと、美菜子さんは意味ありげに笑った。
そういう翳のある笑い方をする人ではなかったはずだと思ったけれど――ぼくは無邪気に翌日に控えた彼女との久々のデートに想いを馳せていた。

映画を観てからディナー。
それは彼女との、定番のようなデートコースだった。
けれども、食事が終わるころに、いつもの習慣にないことが起きた。
「ねえ――」
美菜子さんが、笑いかけてきた。
昨日目にした、あの翳のある笑い方だった。
「え・・・?」
目をあげたぼくの目に、美菜子さんのうなじに巻かれた赤いチョーカーが目に入った。
さっきトイレに起ったとき。
彼女はストレートに垂らしていた黒髪をポニーテールにまとめたのだ。
赤いチョーカー・・・赤いチョーカー・・・
チョーカーは、巻かれたすぐ下に染みついたあの忌むべき咬み痕を隠すために巻かれていて、
赤い色はほかでもない、傷口から滲んだ血の色をまぎれさすためのものだった。
「行きましょ」
美菜子さんはもう一度、翳のあるほほ笑みでウフフ・・・と笑った。

頬をよぎる夜風がなまめかしかった。
いつか、街はずれの墓地に着いていた。
どういうこと・・・?
デートコースには不似合いなスポットにぼくが訝しそうな目を向けると、
美菜子さんは言った。
「約束どおりにしているのよ」
「え?」
「私が血を捧げるときには、ご一緒してくれるって仰ったじゃないの」
あ――
美菜子さんはきょう、怪人と逢う約束をしていたのだ。

闇の彼方から溶け出すように、怪人が姿を現した。
美菜子さんは、丁寧にお辞儀をして、彼を出迎えた。
「お約束どおりに伺いました――」
静かな声色が、闇に融けた。
「ぼ、ぼくが先に――」
ぼくは、夫としての義務を履行することにした。
美菜子さんと怪人の間を遮るように、大股に一歩踏み出した。
「きみが美菜子を、連れて来てくれたのだな」
怪人がいった。
え・・・
言いよどむぼくをしり目に、美菜子さんがこたえた。
「ハ、ハイ。約束どおり二人の若い血を楽しんでもらおうって、彼言ってくれたんです」
自分がぼくのことを引っ張ってきたのを紛らせて、ぼくを立てようとしてくれている――そう感じた。
「殊勝な心掛けだ――」
怪人は、しんそこぼくに感心しているようすだった。
できれば、美菜子さんの血を吸わせたくないと思った。
「ぼく、がんばるからね――」
美菜子さんをふり返ってそう言いかけると、怪人はぼくの喉笛に、あの吸血管を刺し込んできた・・・

気がつくと、墓地の舗道部に横たわっていた。
美菜子さんと怪人の影は、ぼくの数歩先で、ひとつになっている。
解かれたチョーカーの下。
バラ色の血がしずくとなってしたたり落ちていた。
もう、二度三度と、咬まれてしまったようすだった。
「ああ、もう一度――」
牙を引っ込めようとする怪人を引き留めて、美菜子さんはもっと咬んでとせがんでいた。
白くて細い首すじが、月明かりに透けていた。
男の唇が、美菜子さんの輪郭を冒した。
ちゅうっ。
あからさまな吸血の音。それも一回では済まなかった。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
自分の血を吸い上げる呪わしいほどリズミカルな音に、美菜子さんはウットリとして聞きほれていた。
一滴だって、吸わせたくないはずの美菜子さんの血が、ぼくの目のまえで、むしり取られるような荒々しさで求められて、
おびただしい量を、ゴクンゴクンと飲まれてしまってゆくのを、ぼくはただぼう然として、見つめるばかりだった。
同時に、ズボンのなかでぼくの股間が激しく疼き、さかんに射精してしまっているのを、ズボンを通して生温かく拡がる感触で、いやがうえにも自覚させられてしまっていた。

それからは、2,3日おきに、美菜子さんからのオファーがあった。
デートの後は、あの墓地に出かけていって、
こんどはぼくが自分の意思で、美菜子さんを連れ出してきて、
若い女の血に飢えた怪人のため、婚約者の処女の生き血をあてがうのだった。
ほんとうならば、おぞましいだけのはずのその行為に、
ぼくはしだいしだいに、のめり込んでしまっていた。
そのうちに。
美菜子さんから言われるまえに、ぼくのほうから、
「きみの血を彼にご馳走したい――」なんて、口にするようにさえなっていた。
美菜子さんは戸惑いながらも、ぼくの変化に悦んでいるようすだった。
「あなたの意思ね」
と、念を押すように確かめる美菜子さんに、
「そう、ぼくが美菜子さんの血を彼にあげたいと願っているんだ。
 きみの血を美味しいと思ってくれるのが嬉しいんだ。
 きみの血が荒々しくむしり取られるところを視ると、ドキドキしちゃうんだ。
 ぼくの婚約者は世界一だろって、自慢してやるんだ」
ぼくは答えてしまっていた。
「ならいいわ。婚約者のいる身でどうかなって思ってたけど――
 あなたの希望通りに、私あの人に、私の処女の生き血を愉しませるわ。
 それがあなたの望みなら、私なおのこと嬉しいわ」
彼女は謡うように、そう口にするのだった。


数日間。
美菜子さんから音信が絶えた。
お互い勤めに出ている身でそんなことは始終あったけれど、
なんとなく気にかかったのは、直感というものだったのかも。
電話が鳴った。
受話器を取ると、くぐもるような声がシンシンと響いてきた。
やつの声だと、ぼくはおもった。
「今夜、例の墓地で――」
美菜子さんを連れて来いということなのか?
神経を逆立てるぼくを受け流すように、かれはいった。
「独りでくれば良い」
どちらにしても。
数日もブランクが空けば、彼は渇いているはずだ。
美菜子さんを介することなくぼくが血を提供すれば、彼女と彼との接点をひとつつぶせる。そんな想いがぼくを支配した。

墓地はひっそりと静まり返り、柔らかな闇に支配されていた。
闇の向こうから、影が現れた。やつだとぼくはおもった。
「こんばんは」
「こんばんは」
ぼくも礼儀正しく応じた。
「視ているが良い」
男はいった。
なにを――?という間もなく、通りのほうから人影が近づいてきた。
ほかならぬ、美菜子さんだった。
美菜子さんが、ぼくにも告げずにこの墓地に来ている。
目的はひとつしかないはず――
いまの美菜子には、お前は見えない。そのまま黙って視ておれ。
男はいった。
美菜子さんは、バラ色のドレスを着ていた。
以前コンサートに出かけたときに身に着けていたものだと、すぐに気づいた。
ほっそりとした身体を、豪奢な衣装が包んでいる。
四角に区切られた胸もとが、病的に白く浮かび上がる。
月の灯りのせいだ、と、ぼくはおもった。
それにしても。
今夜の美菜子さんは、ちょっとやつれてはいないだろうか?
「済まないな、」
男の言を、聞き違いかと思った。
でもたしかに男は、「毎晩」と口にした。
「どうぞ――」
美菜子さんはひっそりと応え、ストレートに垂らした黒髪を肩の向こうへと押しやって、おとがいを仰のけた。
ククク・・・やつが嗤った。
そして、美菜子さんの白い首すじを、あの呪わしい牙で冒しにかかった。
「ァ・・・ァ・・・ァ・・・」
美菜子さんは目を細めて、ひと口啜られるたびにかすかに声を洩らした。
感じている声だ・・・ぼくは暗澹たる気分になった。
貧血を起こすほど啜られた後、美菜子さんは傍らの石段に腰を下ろした。
オレンジ色のドレスをむぞうさにたくし上げると、黒のストッキングに包まれた太ももがあらわになった。
「いかがですか・・・?」美菜子さんが上目遣いにやつを見る。
「ありがたくいただこう」やつがこたえた。
そして、ぼくに遠慮会釈もなく、黒のストッキングになまめかしく染められた太ももに、唇を這わせてゆく。
美菜子さんは目を凝らして、卑猥に這いまわる怪人の唇を目で追っていた。
意外にも、楽しそうな面持ちだった。
「ああ・・・」
声があがった。
咬みついたのだと、すぐにわかった。
ごくり。
喉の鳴る音がした。
「おイタさんですね・・・」
美菜子さんはクスクスと笑った。
くすぐったそうな、イタズラっぽい笑いだった。
男は、美菜子さんのストッキングを脚から咬み剥ぐことを楽しんでいる。
美菜子さんもまた、自分の礼装が唾液に辱められむしり取られていくのを悦んでいる。
それだけは、はっきりと分かった。
そしてぼく自身も――美菜子さんの脚を艶めかしく彩るストッキングが蹂躙されてしまうことを、悦んでしまっていた・・・

「あのひとがかわいそう」
美菜子さんがいった。
ぼくのことだと分かるのに、少し時間がかかった。
「だって――あの調子でわたくしのことを庇っていたら、血がいくらあっても足りないですもの」
「そうだな」やつがこたえた。
「だから、内緒でお逢いすることにしたんです。それに二人きりだと、気兼ねなく楽しませてあげることができますもの」
前半はぼくにたいする気遣いだったとしても。
「気兼ねなく楽しませてあげることができますもの」って・・・
ふたりは、ぼくに隠れて密かごとを楽しんでいる。
楽しまれてしまっている。
楽しませてしまっている・・・
ぼくは脳天を割られたような衝撃を受け、しばらくその場に佇んでいた。

4月8日。
ぼくたちの結婚式は予定通り、盛大に行われた。
たくさんの拍手に包まれて外の光を浴びると、真ん前に怪人がぼくたちの前に立ちはだかっていた。
すでに婚礼に来てくれた新婦の友人たちが数名、着飾った衣装に血を跳ね貸せて、その足許に倒れている。
純白のドレスを身に着けた美菜子さんは、あっと声をのんだ。
そのいとまもあらばこそ、怪人は淫らなヌメりにまみれた触手を伸ばしてきて、
コルセットを巻いたウェストに巻きつけてくる。
同時にもう一本の触手が、肩を露わにしたドレスのえり首に這い込んで、胸をあからさまにまさぐりはじめる――
伸びてきた吸血管を胸もとに刺されてぼくが昏倒してしまうと、もはややりたい放題だった。
「ここで急きょですが、新婦のお召替えとなります・・・」
ホテル付きの司会の女性の事務的な声色が、婚礼客たちの混乱を押しとどめた。
ドレスのすそをまくり上げられた美菜子さんは、純白のストッキングのガーターまで露わにされて、まだ潔(きよ)い太ももを割られてゆく――
皺くちゃにずり降ろされたストッキングが脛からゆっくりとすべり落ちた。
怪人のグロテスクに逞しい腰を股間に沈められながら、
美菜子さんは羞ずかしそうに目を瞑り、歯を食いしばって、初めての痛みに耐えている・・・


「結婚おめでとう」
「ありがとうございます。ご臨席までしていただいて――」
相手が醜悪な吸血怪人でなければ、ごく尋常な目上の客への挨拶にすぎなかったであろう。
けれども新婦のドレスは凌辱の痕跡もあらわに乱されて、
きちんとセットした黒髪もすすけだってしまっていた。
周りの人たちは、目の前で行われた新婦の処女喪失劇を完全にスルーして、
ひたすら拍手を送りつづけてくれている――
新婦と、新郎新婦の母親二人は、お互い苦笑いを交えながら、意味ありげに目配せをし合っていた。
引き裂かれたドレスのすそから、ストッキングの脱げた太ももを曝け出す新婦も。
吸血怪人に黒留袖の帯をほどかれて、齢の順に犯された母親たちも。
同じ男に自分の妻を犯された夫たちも。
等しく嬉し気な苦笑いに、すべてを押し隠そうとするのだった――

実現された妄想

2023年11月21日(Tue) 23:51:39

母さんを殺さないで――
清彦少年は、失血で自由の利かなくなった身体をジタバタさせながら、叫んでいた。
かなわぬ願いになるに違いない、と思っていた。
ところが、母親を掴まえて首すじを食い破り吸血に耽っていたその怪人は、信じがたい反応を示していた。
目が覚めたようにこちらに目を向けると、清彦少年の瞳をじっと見つめた。
深い瞳だ、と、少年はおもった。

代わりにボクの血をもっと吸っても良いから・・・
清彦少年はそういって、ふたりのほうへと身を近寄せようとする。
怪人は、気絶してしまった母親を放すと、少年のほうへとおもむろに這い寄ってきた。
「悪イガ、ソウサセテイタダコウーー」
くぐもったような声で怪人は少年の想いに応えると、
さっきからたっぷりと血を吸い取った首すじにもう一度唇を近寄せてきた。
清彦少年は、観念したように目を瞑った。

尖った牙が容赦なく、うなじの傷をもう一度抉ってくる。
新たな血が噴き出すと、怪人は心地よげに喉を鳴らして、少年の血に飲み耽った。
「美味イ・・・ジツニ美味イ・・・」
時おり傷口から口を放しては、怪人はなん度もそう呟いた。
二の腕の周りからギュッと抱きすくめる触手に込められた力は強く、清彦少年は時おり苦しそうに呻いた。
少年が呻くたびに怪人はわれに返ったように彼の顔を見、触手の力を弛めた。
頬を血塗れにさせながら、少年はいった。
「男の子でも、ハイソックスが好きだったんだよね?小父さん」

つい昨日のことだった。
少年の友人が3人ながら公園で襲われて、気絶したまま、白のハイソックスを履いたふくらはぎを舐めまわされていったのは。
あまりにおぞましい光景を前に、清彦少年はあわててその場を逃げ去り、かろうじて魔手を逃れていた。
けれども、前島君が穿いていた赤ラインが2本のハイソックスや、公原君が気に入っていたブルーのラインの上下に黒のラインが走ったハイソックスや、多田鳥くんが部活のときに履いていた紺のストッキングが順繰りに犯されて、唾液まみれにされた挙句咬み破られて濡れた血潮を拡げてゆく光景が、清彦少年の脳裏から去らなかった。
きょうの清彦少年は、赤のラインの上下に黒のラインが走ったハイソックスを履いていた。
公原君の履いていたハイソックスの色違いだったのは、偶然ではない。
怪人が三本ラインのハイソックスをいたく気に入って、いちばんしつこく舐めまわしていたのを、清彦少年は目の当たりにしていたのだった。

差し伸べられた清彦少年の足許に、怪人はもの欲しげに舌をふるいつけてきた。
ああ――
少年は無念げに眉をひそめた。
イヤらしい舌なめずりが、しなやかな厚手のナイロン生地ごしに、生温かく浸されてくる。
「本当に・・・ほんとうに母さんのことを助けてくれるんだね!?」
少年は怪人に念押しをした。
怪人は黙って肯くと、少年のふくらはぎの一番肉づきのよいあたりに、鋭利な牙を喰い入れてきた。
じゅわっ・・・
はじける血潮の生温かさを感じながら、少年はうめいた――


それが、十数年前のことだった。
いまでも清彦は、そのときのことを時折、胸に思い描くことがある。
そして、なぜかときめいてしまう自分に、自己嫌悪のようなものを覚えるのだった。
少年のか細い身体から提供可能な血液をむしり取ると、怪人はふたたび、彼の母親を襲った。
母親の光枝が着ていた白地に紺の水玉もようのワンピースは、赤黒い飛沫を不規則に、その柄に交えている。
ガッと喰いついた口許から撥ねた血が、ワンピースの柄をさらに塗り替えてゆく。
清彦の懸念を読み取ったように怪人は、彼のほうを振り向くと。
「安心しろ。きみのお母さんの生命は奪らない」――そう約束していた。

頬を血に濡らしながら、清彦の母・光枝は、咬まれていった。
肩や二の腕、わき腹、太ももと、ワンピースのうえから咬まれていった。
そのうえで。
清彦の識らない世界がくり広げられた。
セックス経験のある婦人を餌食にするときに、必ずといっていいほど行われる「儀式」だった。
たくし上げられたワンピースから覗く白い太ももを眩しいと、少年はおもった。
怪人は、母親の脚から肌色のストッキングを音を立てて引き裂くと、ショーツを脱がせ、それで鼻を覆った。
いやらしいやつだ、と、少年は感じた。どこか、嫉妬ににたような感情も波立った。
母親は、すっかり観念してしまったらしい。
手足をだらりと伸ばして、身動きひとつしなかった。
まだ意識があるのは、胸もとがかすかな鼓動を伝えて上下するのと、
男の非礼を咎めるように、時折瞬きしながら緩慢にかぶりを振るようすから、それとわかった。
けれどももはや、無抵抗に伸べられた太ももの間に男が入り込んでゆくのを、止め立てするものはいなかった。
激しく上下動する逞しい腰の下、母親が大切なものを穢されてゆくのを、彼は直感で感じ取っていた――

だいぶ経ったある日、怪人が捕らえられたことをニュースで知った。
父親は、被害届を出すのはよそうと母親に告げて、母親も黙って肯いているのを記憶している。
怪人が母親にしかけたことが不名誉なことだったということを識るには、まだ清彦少年は稚なかったが、
それでもめくるめく光景のなかで行われた儀式がただことでなかったことは、直感的に感じ取っていた。

怪人が解放されたと知ったのは、それからさらに数年後のことだった。
清彦は、どこかで怪人との再会を夢想していた。
母をむたいに襲い、自分たち親子の血をほしいままにむさぼった、おぞましい存在――
そう思い込もうとしたけれど。
母親の助命を訴える必死の叫びを受け容れてくれたこともまた、彼の記憶からは去らなかった。
話せばわかる相手。
けれども、人間の血液を摂取せずにはいられない存在――
そんなものと、また関わることは、自分にとって不名誉や不利益以外のものをもたらさないと分かってはいたけれど。
彼と共存する生活を、なぜか時おり、夢想してしまうのだった。
きっと、血を吸い取られたときに注入された毒液のせいだ、とわかっていたけれど。
そのことすらも、呪わしいことだとは、感じることができなくなっていた。

もしも自分に恋人ができたなら、あの怪人はうら若い処女の生き血で舌づつみを打ちたいと願うだろうか?
きっとそうに違いない。
けれども彼は、暴力的に襲われた彼の恋人が泣き叫び惨めに堕ちてゆくというような、悲惨な情景を想像することはなかった。
むしろ彼の恋人が初対面の怪人に恐怖しながらも、一定の理解を与えて、
羞じらい戸惑いながらあの容赦のない吸血管をその胸もとに受け容れてしまうところを、胸をときめかせて想像してしまうのだった。

俺は変態だ。
そう思わずにはいられない。
そのことが、彼の婚期を遅くしたし、彼が異性に近づくことをためらわせる原因になっていた。


地元の大会社の社長令嬢との縁談が降ってわいたように起こったのは、そんなときだった。
父が務める銀行の取引先という触れ込みだった。
30を過ぎたらさすがに身を固めないわけにはいかない。
そういう常識まみれの選択を考えるほどに、清彦は律義な社会人として暮らしていた。
現れた女性は、眩いほどの白い肌と、澄んだ大きな瞳の持ち主だった。
女性経験のない清彦は、気後れしつつも彼女に応対した。
ぶきっちょだが素朴な態度が却って好かったのか、女性の側からは色よい返事が寄せられた。

穂乃村悧香というその24歳の女性は、父親の経営している会社でOLとして勤務しているという。
いちど転職をしているのだが、その時にも縁談があったものの、なにかの事情で見送りになった――とも聞かされていた。
品行方正な母親に厳格に育てられた、箱入り娘という触れ込みだった。
たしかに、見合いの席に現れた母親は、美しいがいくらか妍のある婦人だった。
清彦はいくらかの気づまりを覚えながらも彼女とも接し、幸い悪からぬ心証を抱かれることに成功した。
このまま結婚するのだろうか?
怜悧に取り澄ました相手の女性との、なかなか縮まらない距離感に悩みながらも、
交際期間はだらだらと続いていく。
特に結論を急かされることもなく、初対面からすでに3ヶ月が経過しようとしていた。

その悧香に呼び出されたのは、とある週末のことだった。
「どうしても急に逢いたい」悧香からのたっての希望だった。
いつもは清彦のおずおずとしたオファーに悧香が無表情で応じる――そんなことのくり返しだったので、
彼は相手の珍しい反応に驚きながらも、よろこんで面会に応じたのだった。

通されたリビングには、豪奢なデザインのじゅうたんの上に、いかにも高級感のあるソファーセットが置かれていた。
通された部屋で肘掛椅子に腰かけるよう求められた彼は、テーブルを挟んで悧香と対座した。
「さっそくなんですけど――」
悧香はいつになくそわそわとした様子で、口火を切った。
「私――あなたのお嫁さんに、相応しくないと感じるんです」
大きな瞳に吸い込まれるように、清彦は彼女の目を凝視した。
「ああやっぱり・・・」
思わず口を突いて出た言葉を、悧香が聞きとがめた。
「あら・・・どうしてですの?」
いや、だって――
声にならない声が、清彦を硬直させる。
なかなか距離の詰め切れない、そのくせ自分との交際を断ろうともしないこの美少女の真意を測りかねて、彼は戸惑った。
「自分がモテない・・・と思うからです」
清彦は正直にこたえた。
「あら――」
悧香は目線を笑いに和ませて、清彦を見た。
「合わないと思ったら、すぐにお断りしているところです」
悧香はいった。
「ではどうして・・・?」
上ずる清彦の声を受けて、悧香は言いよどんでいたが、やがておもむろに口を開いた。
「わたくし――」
一瞬笑みを含んだ頬がふたたびこわばって、目線を下に落としている。
「貴方に対して申し訳ないことをしてしまったの・・・」
「それは・・・どんな・・・?」
ザワザワとした予感に、不思議な昂ぶりを覚えながら、清彦は訊いた。
「この街で暴れていた怪人の話ご存じですか」
それは地域でも有名な話だった。
なん人もの人妻が襲われて憂き目をみていたし、結婚前の娘たちも襲撃の対象となっていたのだから。
「あ・・・ハイ」
「わたくし2年まえ、あの怪人に襲われているんです・・・」
「え・・・」
清彦が顔をあげた。
「あの怪人が釈放されたこともご存じですか」
「エエ、ニュースでみました」
「――再会してしまったんです・・・」
「・・・と、いうことは・・・?」
「求められるままに血液を提供して――わたくし男のひとを識らずにいたのですが、つい先日識ってしまいました・・・」
・・・・・・ぇ。
声にならない声を、清彦はかろうじて飲み込んだ。
「怒ってもらって良いのだけれど・・・自分から求めて、あの男の身体を受け容れてしまったの」
「・・・・・・」
でもね、と、悧香はつづける。

わたくし、後悔してないんです。
勤め帰りにやって来たのを、わたくしのほうからこの家にお招きして、血を差し上げたの。
ご存じでしょう?吸血管がニュッと出て、胸をブスリと刺して吸血するの。
そのうちに相手の女性が気に入ると、擬態が解けてしまって、ただの男になって――醜く痩せこけたお爺さんなのよ――
そんなひとに、勤め帰りのスーツ姿をまさぐられながら、血を啜り獲られてゆくの。
さいしょはおぞましかったけど――わたくし、それが嬉しくなっちゃって・・・
貴方のことももちろん、考えたの。思い浮かべたの。ごめんなさいって心の中で謝ったの。
それでも、知らず知らず身体を開いてしまっていたわ。
強引に突っ込まれたペニスは、さいしょのうちこそ痛くてたまらなかったけど、じきに慣れたわ。
むしろ、激しく求められることで、ヒロインになった気分まで味わっちゃって――わたくし、最低の女ですね。
貴方との結婚を控えながらも、ほかの男に身を許してしまったんです・・・
ええ、それでも――後悔はしていません。貴方以外の方に処女を捧げたことを。
そして、これからもたぶん、あの方とのお付き合いは止められそうにない――
貴方と婚約しても、きっとセックスしてしまうし、貴方と結婚しても、きっと貴方を裏切って逢いつづけてしまう――そう確信しているんです。
そんな不埒な女を嫁にして、貴方にどんな得があるかしら?
ですから、お別れしましょう。
わたくし、一生独身で過ごします。
でも、彼がいればきっと、楽しい人生になると思っています。確信しています。
彼の奴隷になるのが、いまではとても、楽しいの。
そんな女と、貴方の幸多いはずの人生を、リンクさせるべきではない――貴方もそう思われますよね・・・?

さいごのほうでは女は俯き、顔を覆って涙ぐんでいた。
きっとだれとも結婚できない。
こんな恥ずかしい告白をしているいまでさえ、爛れた秘奥をヌラヌラ滾らせて、強引な吶喊を求め始めている自分がいる。
でも、わたくしはあの方に支配されるのが好き。楽しくってしょうがない――
婚約者を失う悲嘆に泣き濡れながらも、女の胸に後悔はなかった。

俯く肩に置かれた掌を感じて、女は顔をあげた。
間近に、清彦の顔があった。
「どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか・・・?」
清彦の唇が、目の前でそう動いた。
「え・・・でも・・・」
ためらう悧香の両肩に、清彦は手を置いていた。
「じつは・・・」
清彦は初めて、自分の過去を語った。
同じ怪人に襲われて、母親ともども生き血を吸い取られたこと。
身じろぎできないほど血を啜られたうえ、目の前で母親がメイク・ラブされてしまったこと。(彼はそういう表現で語った)
それ以来母親は、父親の理解を得ながら怪人と逢いつづけたこと。
そんな母親の逢瀬を、自分はよく目にしては、不思議な昂ぶりを感じたこと。母親を責める気には全くなれなかったこと――

「どういうことかというと」、清彦は言葉を切った。
見つめなおした悧香の顔つきは、同じ高さの目線にある。
澄んだ大きな瞳が、いままでになく間近に感じられた。
「同じ怪人に血を吸われていたんですね」
憑き物が落ちたように、悧香は声色を和ませている。
「貴女に、ただならないご縁を感じます」
清彦はいった。

もしも自分に恋人ができたなら、処女の生き血を吸わせてやろうと思ったこと。
その時も、恋人は泣きじゃくって激しく抵抗するわけでもなく、羞じらいながら血を吸い取られてゆくのを妄想したこと。
その妄想が決して不快なものではなかったこと・・・

「むしろ、悧香さんが自分から彼に処女を捧げたことを、ぼくは嬉しいと感じます」
清彦はいった。
「母もきっと、貴女を杉川家の嫁として歓迎すると思います」
そういって悧香をほっとさせると、清彦はさらに言った。
「これからご一緒しませんか?ぼくも――久しぶりに彼に血を吸わせてあげたい。
 それに、ぼくの未来の花嫁を支配してくれたお礼を伝えたい。
 婚礼の後の初夜には彼を招いて、目の前で花嫁を奪ってもらいたい。
 彼のことは真っ先に新居にお招びしたい。
 これを結婚の条件にしてくれますか・・・?」
悧香は羞じらいながら、こくりと頷いた。
過去に幾度となく妄想してきた、羞じらいながら血を捧げる彼女の面影に、そっくりと重なるのを彼は感じた。


あとがき

これは一気呵成に描いちゃいました。
どう考えてもヘンなお話なのに、すらすらと紡いでしまいました。 苦笑

社長令嬢が堕ちた夜

2023年11月21日(Tue) 22:35:37

やはりホットコーヒーは、ブラックにかぎる。
オトナのブラック。
自分で淹れたホットコーヒーがくゆらせる湯気の香りを楽しみながら、
穗乃村悧香(ほのむら りか)は、濃いブルーに金の縁取りの入ったコーヒーカップに口をつける。
外出の予定はないのに色濃く刷いた口紅が、金の縁取りを塗りつぶした。
悧香はかすかなため息を洩らしてカップについた口紅を拭うと、
傍らの口紅をもう一度、念入りに刷き直した。

硝子戸がガタンと、風が当たる音にしては不自然な音をたてた。
悧香はその音に振り向くと、腰かけていたソファからそっと腰をあげて、窓辺に立った。
「やっぱり来たんだ」
ひっそりとした微かな声色は幾分の冷笑を含んでいた。
名前のとおり怜悧な令嬢にに育った彼女の口から暖かみのある声が洩れることはふだんあまりなかったのだが、
いまの呟きには幾分のもの柔らかな感情が込められているのが、彼女の母親だったらわかっただろう。
悧香は白い手を伸べて、硝子戸をからからと引き開けた。
「また来たのね、イヤらしい怪人さん」
嫌悪と蔑みをあらわにしながらも、透きとおったその頬には愉快そうな感情も窺うことができた。
本人がそれをどこまで意識しているかは別として。


2年ほど前のこと。
初めて悧香の前に初めて姿を現した怪人は、気の弱い人が見たら即時に気絶するレベルの、おぞましくグロテスクな「なり」をしていた。
胸もとから伸びた透明な吸血管は直径数cmはあり、数m遠方の獲物に巻きついてからめ取ることができた。
勤め帰りのピンクのスーツ姿にツタのように巻きつけられた吸血管は、悧香よりひとり前の犠牲者の血液を留めて、まだ赤黒く半透明に染まっていた。
恐怖に立ちすくむ悧香は声をあげる間もなく、真っ白なブラウスごしに、吸血管の尖った先端をズブリと突き通されてしまった。
皮膚を強引に突き破ってくる異物をどうすることもできないまま、
急速に抜き取られる自分の血液が半透明の管を浸してゆくのを目の当たりにして、
彼女は目を大きく見開き、絶句し、さいごに目をまわしてその場に倒れ臥してしまう。
怪人の擬態は不完全で、性的欲情を覚えるとたちまち解除されてしまうのがつねだったが、
悧香のときも、その例外ではなかった。
醜く痩せこけた老人の実体に戻ると彼は、うつ伏せに倒れたこの若いOLの足許にうずくまると、
ヒルのように爛れた唇を恰好のよいふくらはぎに吸いつけた。
肌色のストッキングを皺くちゃに弄びながら。
劣情にまみれた唇や舌を無骨になすりつけて、悧香の下肢に凌辱を加えたのだった。
そのまま怪人のアジトに連れ込まれた彼女は、連日連夜、その身をめぐるうら若い血潮を、怪人の餌食にされたのだった。

正義のヒーローによって救出されたとき、彼女の理性は半ば崩壊しかけて、言葉を紡ぐことさえ覚束ない有様だった。
人質に取られた娘のために家族から差し入れられた服はことごとくが、擬態を解いた男の唾液に浸されて、
男が特に執着した通勤用のストッキングは、拘束された日数にまさる本数だけ、同じ憂き目をみていた。
この件が表ざたになって彼女は公私の両面で評判を落とし、親たちによって進められていた縁談も破れた。
もっとも縁談が破談となったことについては、悧香はむしろある種の解放感を感じていた。
彼女は勤め先を、自分の父親の経営する会社に変えはしたものの、今までと変わらぬOL生活を享受していたのだった。


彼女が怪人と”再会”したのは、彼が刑期を繰り上げて出獄してすぐのことだった。
人の生き血を求めて徘徊する怪人は、
さいしょは自身を日常的に看護していた看守の家に入り浸っていたのだが、
看守とその妻や娘の血液だけでは足りずに、かつて暴れた街へと舞い戻ってきたのだ。
かつてなん度も襲った「実績」のあるキャバレーのホステスの血を吸い取ると、つぎに向かったのが悧香の住む邸だった。
真っ白なブラウスの胸から毛むくじゃらの胸もとへと直接送り込まれた若い血液に、彼は少なからぬ恋着を抱いていたのである。
そして、彼女が装った生真面目なOLらしいお堅いお勤め用のスーツ姿もまた、けばけばしく刺戟的なホステスのそれと同じくらい、彼の恋着を誘っていた。

ウッソリとうずくまりながら自宅の様子を窺っている怪人をみとめて、悧香はハイヒールの歩みを止める。
その白い首すじに付けられた古傷が破れ、ひとりでに血に濡れてくるのを、悧香は感じた。
あいつだ――すぐにそうわかったけれど、もはや辱められた憎しみは湧き上がってこなかった。
ただ、うなじを伝い落ちた血が勤め帰りのブラウスの襟首を濡らす生温かい感触だけが、彼女の感覚を淫靡に彩った。
これはもう逃れられないな――と彼女は直感して、むしろその直感にある種の安堵さえ覚えていた。

掴まえた獲物に劣情を覚えるたびに、怪人の擬態は解かれてしまい、無力な老人の実体に立ち戻る。
悪の組織がこの怪人を「製造」したときの、致命的欠陥だった。
そして彼が欲情のままに人質の生き血を楽しんでいる最中に、正義のヒーローに付け入るスキを与え、征伐されてしまったのだ。
悧香は男が、強力な怪人の姿ではなく、街にとけ込みやすい実体の姿で現れたことに好感を持った。
そして彼に声をかけると、自宅にあげてしまっていた――
そこには彼にとって美味しい果実になりかねない、47歳の熟妻である彼女の母もいることも知りながら・・・。

出迎えた母親の由香里は蒼白になり、立ちすくんだ。
47歳の人妻の、肌色のストッキングに包まれたふくらはぎに、怪人はあからさまに欲情している。
絶句する母親に、娘はいった。
「ママったらいつも、こいつにひと言言ってやりたいって言ってたじゃないの」
24歳のあたしの、うら若い血潮に、47歳の熟妻であるママの生き血。
悦んでくれたら嬉しいわ――
悧香は心のなかで、ほくそ笑んでいた。



2年まえのこと。
「私――おかしくなっちゃったのかな・・・」
ブラウスを真っ赤に濡らしながら、悧香は呟いていた。
傍らに寄り添う怪人に向けて呟いているようでもあり、
ただうわ言のように独り言をしまだけなのかも知れなかった。
「こんなにいっぱい血を吸われちゃうのが嬉しい・・・なんて。やっばりおかしいわよね?」
ふた言めめは明らかに、怪人に話しかけていた。
貧血に顔は蒼ざめ、紫色になった唇には、蕩けたような笑みが泛んでいた。
怪人は悧香の背中を労るようやなさすりながら、
それでも一方で、彼女の首すじに食い入れた傷口に唇をあてがい、
ごく緩やかな調子で、しかし冷酷なくらい単調な音を漏らしながら、
彼女の血しおをしつように口に含みつづけている。
悧香に気遣いをしているようでなお、
捕らえた獲物から養分を摂取することには、あくまでも貪欲なのだ。
「ありがとう。楽になるわ・・・」
悧香はそれでもほほ笑みを絶やさずに怪人の掌を握りしめて、従順に己のうなじをゆだねつづけた。
眩暈が視界を遮るほどに拡がり、頭をふらつかせながら、
自分の血が啜り取られてゆく喉鳴りを、
しつように擦りつけられて来るかすかな舌なめずりを、
鼓膜で楽しみはじめていた。
男のなまの唇がべっとりとふくらはぎに吸いつけられると、白い歯をみせて咲った。
「おイタさんね・・・私のストッキング、よっぽど気に入ったのね?」
と、イタズラっぽい流し目で、相手を睨んだ。
応えの代わりにその唇が強く圧しつけられて、チクリと鈍い痛みが刺し込まれると、
ストッキングがチリチリとかすかな音をたててはじけた。
ふくらはぎ周りに感じていた緩やかな束縛がじょじょにほぐれてゆくのを、彼女は感じた。
ストッキングを破られる。
これで、なん足めなのだろう?
さいしょは侮辱に感じていたその行為がいまでは、
意志疎通が不器用な怪人なりの、自分に対する愛情表現にさえ感じられてくるのはなぜだろう?
錯覚に過ぎないのだろうか?きっと、そうに違いない。
けれども、しつように圧しつけられてくる唇を、悧香はもはや避けようとはせずに、
薄いナイロン生地の舐め心地を悦ぶように擦りつけられてくる唇に、舌に、
むしろそうされることを誇らしく感じているかのように、すすんで自分の脚をゆだねてしまうのだった。
そして、自分の穿いているストッキングが引き破られて、
脛の途中までずり落ちてしまうのを、面白そうに見届けていった。
囚われの姫は衣装を辱められながら、理性を忘れた堕落の淵へといざなわれていった――

「なぞなぞ。」
と、女はいった。
ブラウスの胸もとには撥ねた血が不規則なまだら模様を作り、
脚には破れたストッキングを片方だけ穿いているという自堕落ななりだったが、
女は気にしていなかった。
「私のブラウス、なん着汚した?」
「7着。」
男の答えは正確だった。
「囚えた日数分以上に愉しむと、度を越えるからな」
ウッソリとした言葉つきだけは変わらなかったが、声色そのものは別人のような色艶を帯びている。
捉えた女がその身にふさわしい品位を確保できるよう、
入浴の機会や化粧の時間も、じゅうぶんに与えられた7日間ではあった。
「きちんと装った女の人を虐めるのが、そんなにお好き?」
女はなおも言葉を重ねる。
はた目には気になる男に愛らしく絡んでいるようにしか見えないほどだった。
怪人は無言でうなずいた。
「どうせあなた、つかまるわ。もしかしたら、死んじゃうかもしれない」
悧香は冷徹に、自分を餌食にした獣の将来を予告する。
「そうだろうな」
怪人の応えは意外に素直だった。
「こういう害毒しかまき散らさないやつは、そうなったほうが良いのだ」
「そんなふうに考えていたのね」
失血による眩暈が、少し明るくなったような気がした。
悧香は怪人にいった。
「でもそうなるまでは――どうぞ私の血を楽しんで頂戴ね」
怪人が征伐されたとき。
与えることが可能な血液を一滴余さず提供した彼女は、口もきけないくらいの状態で保護されていた。


解放されて2年が過ぎて、けれども怪人に対する記憶は摩耗することがなく・・・
だが、悧香は不思議と、自分の血を吸い服を汚した怪人に対して、悪感情を抱かなかった。
ウッソリと蹲る老人の姿をした怪人を見つけると、なんのためらいも抵抗もなく、自宅に誘っていた。

悧香にとっては2年ぶりの再会だったが、母親にとって怪人をじかに視るのは初めてだった。
自分よりも明らかに齢が上の、こんなにもみすぼらしい老人が、よりにもよってうちの悧香を――
「ひと言言ってやりたかったんでしょ」という娘の挑発のままに、由香里は怒りと悔しさとを新たにした。
「どういうつもりで、うちにいらしたのよ!?」
悧香が飛び上がるほど大きな声で、由香里は怪人を罵った。
「娘の将来を台無しにしてくれて、どういうことなのかしら!?」
由香里は本気で、怒っていた。
娘の将来が壊された・・・ということではなく、自分自身の見栄が根こそぎにされたという怨みのほうが大きかった。
破談となった縁談の相手は、母親が自信をもって見つけてきた男だった。
もっとも彼はその後他の女性と結婚したが、かなりの暴君であるということは、この母娘の耳にも入っていたけれど。
自分の見栄を破壊されたことに、変わりは無かったのだ。
凄まじい罵声をふた言、無抵抗な怪人に浴びせると、由香里は大きく息をついた。
ふだん落ち着いた賢夫人として知られた彼女にとって、大きな声をあげることは意外に高いハードルだったのだ。
「ママもう気が済んだわ。お引き取りいただいて」
別人のように声の調子を落とした母親に、悧香はこたえた。
「私の血を差し上げたら帰ってもらうようにするね」
「え・・・?」
娘の意外な答えに、由香里は顔をあげた。
「血液不足なんですって。なんとかしてあげなくちゃ。
 管を豪快にブスリと刺されても良いし・・・口で直接飲んでもらうのも楽しいかも。
 こいつ、私のスーツ姿気に入っているのよ」
悧香は不敵に笑った。
そして、怪人のほうをふり返ると、
「勤め帰りのきちっとした服装、お好きったわよね?」
と、念押しまでしてしまっている。

さいごには母も、堕ちてくれた。
処女喪失の痛みはきつく、気絶してしまうほどだったけれど。
なん度も突っ込まれちゃっているうちに、痛いだけではない行為だとすぐに気づいて。
すこしでも早く痛みに慣れよう・・・快感とやらを味わってしまおう・・・そんなことを考えて。
覆いかぶさってくる怪人の性急な求愛から逃げようとはせずに、
スカートを着けたままの腰の奥に、魔力に満ちた棒状の肉塊を、
なん度も受け容れてしまっていた。
悧香にはふたたび、縁談が進行中だった。
相手の男性とも、なん度となく顔を合わせて、デートを重ねる間柄だった。
彼に対して申し訳ないという想いも、チラとはよぎった。
けれども、圧倒的な力で彼女を圧し伏せる欲情の強さのまえには、
氷のように堅い貞操観念も、あっけなく蕩かされてしまっている。
ごめんなさい、清彦さん。
悧香は、自分の夫となるかも知れない見合い相手に、心のなかでそういった。
けれどもそのあとすぐに、
でも――悪いけどひと足先に体験しちゃうわね。あとはなんとでもなるはずだわ。
という不逞な考えが、彼女の頭を支配していた。
身を擦り寄せてくる暴漢の逞しい胸に圧倒されながら、彼女は股間に溢れる歓びを感じないわけにはいかなかった。

次は、由香里の番だった。
リビングに入る母親をその場で餌食にするのかと思ったが、
降りていった怪人は、ほどなく母を伴って戻ってきた。
母は、怪人を出迎えた時と同じスーツを着ていた。
行儀の良い人で、家のなかでもスーツやワンピースにストッキングを嗜む婦人だったのだ。
同じスーツ ということは。
まだ彼女が暴行を受けていない、なによりの証拠だった。

血を吸い取られて貧血を起こした悧香は、怪人の手で伸べられた布団に横たわっていたが、
その様子を見て母親は少しだけ、安堵したようだった。
娘の気持ちも健康状態も考慮に入れない相手だったら、絶対しないだろう対応だと感じたためだ。
もっとも、タオル一枚かけられただけの娘は着崩れたスリップ一枚の半裸の姿だったから、
部屋に入ってきた由香里は、肌色のストッキングの脚をこわばらせ、立ち尽くした。
娘が処女を奪われたことが、残酷なくらいに明白だった。
嫁入り前の娘の不始末から目をそらしつつも由香里は、
礼儀だけは心得ていらっしゃるようねと呟いた。
悧香は、母の背中を押すべきだとおもった。
そして、この小父さん私の血だけじゃ足りないみたいよ、とそそのかすようにいった。
母親の反応は、意外なくらいにあっけなかった。
「お好きになさいな」
由香里はあきらめたように目を瞑ったのだ。
娘を疵物にされてしまった以上、もはや万事休すと覚ったらしい。
長年守り抜いてきた貞操を汚辱に塗れさせることを、ためらいもなく受け容れてしまっていた。

後ろから羽交い絞めにされながら首すじに牙を突き入れられる母親の姿を、
悧香はドキドキしながら見守る。
尖った牙が母親の白いうなじにもぐり込むと、赤黒い鮮血が鋭く撥ねた。
あ・・・あっ・・・
気丈にも悲鳴をこらえた母の様子が、娘の目にもいじらしく映る。
それでも朱を刷いた薄い唇はかすかに歪み、歯並びのよい前歯を覗かせた。
これがあの娘の感じた痛み――由香里は脳天が痺れる想いで、娘と同じ痛みを体験し始める。
首すじに圧しつけられた怪人の唇のすき間からは、ぬるりとした血の帯がひとすじ、どろりと伝い落ちて、
ブラウスの襟首を、そしてその奥のブラジャーを濡らした。
「もうじきママの誕生日だから・・・私ママに替えのブラウス買ってあげるね」
孝行娘がそう呟くのに頷きながら、由香里はお願いね、というのが精いっぱいだった。
姿勢を崩した由香里は、座布団のうえに膝を突いた。
ひざ小僧を包む肌色のストッキングが、かすかに波打ち、いびつによじれてゆく。
その上から脂ぎった唇が圧しあてられて、ストッキングの引き攣れが深くなった。
母親の着用するストッキングが、自分のそれと同じように淫らにあしらわれ、卑猥な口許を愉しませるのを、悧香は面白そうに見守っていた。

ママったら、案外ウブなのね。
悧香はおもった。
由香里はうろたえながらブラウスを剥ぎ取られ、強引に迫られた口づけにおずおずと応じていった。
ひざを突いて四つん這いになったふくらはぎに唇を這わされて、
ストッキングを皺寄せながら、失礼なことなさらないでください――と相手を制しようとするのを遮って、
「怪人さん、ママの穿いてるストッキングもたっぷり楽しんでね」
と言い添えていた。
「もう・・・あなたったら・・・っ」
由香里は目で娘を咎めたが、態度が言葉を裏切っている。
劣情もあらわな舌舐めずりの前に、評判の賢夫人と評されたこの熟妻は、
ストッキングで装った脚をすすんで差し伸べて、みるみるうちによだれまみれにさせてしまっていた。


「私――おかしくなっちゃったのかな」
2年まえのあのときと同じように、悧香は呟く。
ブラウスは血浸しにされて、生温かく胸もとを染めている。
スリップにまでしみ込んだ血潮のベトベトとした温もりを、悧香はいとおしいと感じた。
指先で首すじの傷をなぞり、あお向けになった目のまえにかざしてみる。
バラ色をした自分の血潮を、綺麗だとおもった。
そのまま指先を自分の口のなかに突っ込んで、自分の血を舐め味わっていた。
錆びたような甘酸っぱい味に、いつにない昂ぶりを感じた。
失血が、彼女のなかに半吸血鬼としての萌芽をもたらしていた。
自分の血を美味しい――とおもった。
だとすると、彼にとっても私の血って美味しいはず。
そして、ママの生き血も楽しんでくれているはず・・・
母娘ながら生き血を味わわれている受難を、悧香は楽しいと感じていた。

傍らの母親も、夢中になってあえいでいた。
顔の半分は、バラ色の血を光らせていた。
念入りに刷いた化粧が見苦しいまだら模様に剝げてしまうほど、
情夫の舌なめずりに惜しげもなく、頬をさらしていた。
破れ堕ちたストッキングを脛の途中までずり降ろされた脚を緩慢にすり足しながら、
血浸しにされたブラウスを大きくはだけ、豊かな乳房を誇らしげに露わにして、
娼婦のように大胆に大股を開いて、そそり立つ怪人の男根を、股間に咥え込んでしまっている。
令夫人と称えられたその身を恥辱にまみれさせても、もはや惜しげもなく、後悔もなく、
ただひたすらに、そそぎ込まれる精液の奔流に夢中になってしまっていた。
あなただけよ、あなただけよ・・・と、あらぬうわ言さえ口走っていた。
激しい精液の奔流が母親の体内に流れ込む有様を、娘はありありと想像していた。
彼女は手を伸ばして、だらりと床に伸びた母親の手を握っていた。
ママ、貞操喪失おめでとう――
娘がそう囁くと、由香里は無言で彼女の手を握り返してきた。

母が長年守り抜いた貞操と引き換えに、懸命になってお手本を披露してくれている。
つぎはもういちど、私の番ね・・・
悧香は口辺に嗤いを滲ませて、スリップ一枚に剥かれた自分に怪人がのしかかってくるのを、受け容れていった。
すぐ傍らで自分の母親が、
悧香さん、いけないわ、まだお嫁入り前じゃないの――と形ばかりの叱責を続けるのを、
薄笑いした頬で受け流しながら――


あとがき
まとまりは良くないのですが。
ここしばらく書き継いでいたモノをあっぷしてみます。
前作の続きです。

汚され抜いて。

2023年09月23日(Sat) 23:49:18

妻がエプロンを着けたまま食卓に座るのを、比留間は見るともなしに見ていた。
相変わらず活発に座を切り盛りして、娘の差し出すお替りにも腕まくりをして応じていった。
4人のなかで男ふたりはむしろひっそりとしていた。
特に怪人は、気配を感じさせないほどに、ひっそりしていた。
人間の食するものも、少しは口にするようになっていた。
監獄での経験がそうさせたのだが、それ以上にこの家に迎え入れられてから、艶子の作る食事が口に合ったのがおもな理由のようだ。
艶子も、ほんらい人間の血しか口にしないはずの男が、自分の作った食事を――ほんの少しにせよ――口にしてくれることにまんざらではないようすだった。

娘の真由美が箸を置いて起ちあがった。
「そろそろ学校行く」
いつも通りのボソッとした声色だった。
ちょうど食事を終えた怪人が、同時に起ちあがった。
「え・・・なによ」
真由美はちょっとたじろいだ様子で怪人とにらみ合った。
「頼むから――」
怪人は真由美以上に低い声色で、なにかを請うた。
「・・・・・・しょうがないなぁ」
真由美はいかにもイヤそうに口を尖らせると、
それでも白のハイソックスを履いた足許に相手がにじり寄ってくるのを遮ろうとしなかった。

男の唇が、真っ白なハイソックスのふくらはぎに、ニュルッと吸いついた。
そしてそのままジリジリと唇をせり上げるようにして、真由美のハイソックスを唾液で濡らすことに熱中し始めた。
「ねえ――ほんとに濡れたまま学校行かなきゃダメなの?」
戸惑ったような声色が、ここ数年不貞腐れ続けていた真由美に似つかわしくなく、両親の耳に新鮮に響いた。
「ああ・・・頼むよ」
男は上目遣いに真由美を見、嬉し気に白い歯をみせた。
「いけすかないっ」
真由美はむくれながらも、鞄を手に取った。
男のよだれのしみ込んだハイソックスのまま、学校に行くということらしい。

夕べは夫婦ふたりきりの寝室だった。
怪人が真由美と同衾を願ったためだった。
真由美も、「いいじゃん別に」と、他人ごとみたいな顔つきで、怪人を自室に受け容れてしまっている。

いったい何があったんだ――
両親の懸念は当然だった。
けれども艶子も比留間も、娘がいつものように起き出してくると、なにも切り出せなくなっていた。
夕べと今朝とで、娘と怪人との距離は、明らかに縮まってた。
歯を磨いている間も、怪人は馴れ馴れしく真由美の肩を抱きつづけていたし、真由美はそれを拒むふうもなかった。
制服に着替えるときも、怪人は真由美の部屋から出なかった。
なにをしているのかはわからなかったけれど、時折娘がキャッキャとくすぐったそうな声をあげるのを頭上に聞きながら、
両親はただ顔を見合わせただけだった。

娘が学校に行くと、それからすぐに比留間も勤めに出ていく時間になる。
比留間はいつものように妻に見送られて玄関を出ると、家の周りを一周して自宅に戻り、
家の中には入らずに庭の植え込みの陰に身を隠した。
「いったい、うちの娘になにをしたのよ?」
窓越しに、妻の声がした。
妻の懸念はもっともだった。彼自身もっとも訊きたいことだった。
「安心しなよ、ヘンなことはしちゃいねぇから――」
怪人の声色は、落ち着き払っていた。
「ヘンなことって――」
艶子が言いよどんでいる。
「あの子の血は旨いな」
男はうそぶくように、そういうと、ちょっとめんどうくさそうに、
「安心しなって。処女の血は貴重品なんだから」
といった。
艶子の安堵が、窓ガラスを通して伝わってきた。
「だけどさ」
艶子はもはや、怪人相手にため口である。
「ほんとうに、なんにもしなかったのかい?」
「あの子はくすぐったがってただけだぜ」
男はいった。
何ということか――
ひと晩じゅうかけて、娘の首すじや胸もと、それに太ももや股間に至るまで、舐め尽くしたというのだ。
「え――」
さすがに艶子が絶句したその唇に、男は自分の唇を重ねてゆく。
窓越しに映る妻は、身を揺らして戸惑いつづけ、それでも結局、男の口づけを受け容れていった。

ちゅっ、ちゅっ、ちゅちゅうっ。
吸血を伴わない口づけ。
だがそれは、夫の立場を脅かすに十分な熱さと深さを帯びていた。
「ちょ――主人出かけたばかりだよ、そんなこと・・・っ」
艶子は男の唇の追求を避けようとしながらも、そのつど頬を掌の間に挟まれて、けっきょく口づけを許してしまう。
狎れきった男女がそうするように、2人はつかず離れずしながら、キスを求めたり、拒んだり、強引に奪ったり、愉しみ合ったりし続けた。

窓の外では、比留間がひたすら、懊悩している。
なんということだ・・・ああ、何ということだ・・・
一夜にして犯されてしまった妻。
その妻は昨晩の交接を辱めとは受け取らず、いままたなんのためらいも見せずに再演するばかりの気色である。
俺の目がないと、ここまで許すのか。乱れるのか――
そう思いながらも、出ていって2人を制しようとするような無粋はするまい――と、なぜか思ってしまう。
邪魔をしてはいかん。そういうことは男としてよろしくないことだ。
人の恋時を邪魔するやつは――というけれど。
比留間は自分の妻のアヴァンチュールにすら、そんなことを考えてしまうような馬鹿律義なところがあった。
蹲る彼の頭上で、浮ついた口づけの微かな音が交わされて、夫の心を掻きむしるのだった。

「ね、、いいんだよ。姦っても。構やしないわよ」
なんということだ。
妻は自分から、身体を開こうとしていた。
「昨夜は引っぱたいたりして、悪かったね。亭主の手前、そうしなくちゃいけないかなって思っただけ。本気で叩かなかったろ」
という艶子に、怪人はいう。
「じゅうぶん痛かったぞ。憂さ晴らしにわざとやったな」
「ふふん、バレた?」
妻は自分を犯した吸血怪人すら、手玉に取っている。

艶子はまだエプロンをしていた。
男がエプロンに欲情するのを、よく心得てのことだった。
「あ!よしなさいよっ」
ドタッと押し倒す音がした。
激しくもみ合う音が、ガラス戸を通してやけにリアルに伝わってくる。
「ちょっと、ダメだよ。あっ――」
妻の声が途切れた。
ぐちゅっ。きゅううっ。
吸血の音が生々しく響いた。
比留間はたまらなくなって、植え込みから起ちあがった。
ガラス戸の向こうでは、組み敷かれた妻が、首すじを咬まれて目をキョロキョロさせている。
そんな妻の狼狽におかまいなく、男は自分の欲求を充たすことに熱中していた。
口許に散った血が、バラ色に輝いていた。
そして、そのしたたりが、はだけかかったエプロンに、そしてその下に身に着けた淡いピンクのブラウスにしみ込んでゆく。
「あ、あっ・・・なにすんのよっ」
ブラウスにシミをつけられながら、妻が抗議した。
血を吸い取られるよりも、服を汚されるのを嫌っているようだった。
比留間にとっても、想いは妻と同じだった。
あのブラウスは、やつが出所する前に迎えた妻の誕生祝いに買い与えたものだった。
夫婦愛の証しが、不倫の愉悦にまみれて汚されてゆく――なんという責め苦だろう?
始末の悪いことに、そんな状況が妻を悦ばせてしまっていた。
「きゃっ、やだっ、なにすんのよっ」
声では抗いながらも、吸い取った血潮を唇からわざとブラウスの胸めがけて滴らせてくる男の悪戯に、興じ切ってしまっている。
「ちょっと、やだったら――ほんとに失礼な人よねえ!」
身をよじって歯をむき出して抗いながらも、そうすることが男をよけいに楽しませることを、彼女は心得ていた。
男はなん度も女に咬みついた。
首すじに、胸もとに、わき腹に、ふくらはぎに――
艶子はわざわざ真新しいストッキングを穿いて、男の相手を務めていた。
肌色のストッキングは男の卑猥ないたぶりに触れるとフツフツとかすかな音を立てて裂け、
ふしだらに広がる裂け目が、男の欲情をいっそう駆り立てた。
「だっ、だめえ・・・」
そう声を洩らした時にはもう、破れ堕ちたストッキングはひざ小僧の下までずり降ろされて、
無防備に剥かれた股間に男のもう一つの牙を受け容れてしまっていた。
「あ・・・ぅ・・・うぅん・・・っ」
荒っぽいしぐさで男の吶喊に応えながら、女はもはや恥を忘れて、股間に渦巻く激しい疼きに身をゆだねていた。
「上手・・・もっとォ・・・」
妻の唇から、さらなる情交を求める声が洩れた。
組み敷いたブラウス姿から顔をあげて、男が窓越しにウィンクを投げてきた。
そんなもの――どうやってあいさつしろというのだ?
比留間は戸惑うばかりだったが、悩乱してゆく妻の様子から、もはや目が離せなくなっている。

「あ・・・ううん・・・」
意味のないうわ言をくり返す妻にのしかかり、怪人は囁きかける。
「だんなとどっちが良い?」
「あんたに決まってるじゃない」
ああ――なんと呪わしい返答・・・!
「別れてわしといっしょになるか?」
「ううん、それはしない」
「ほほー」
「あんただって、あいつの嫁を辱め抜きたいんだろ」
「よくわかってるな」
「あたしも、あいつの奥さんが犯され抜くのが楽しいの」
だって私――主人を愛してるから。

さいごのひと言は、窓の外からの視線の主へのものだった。
「時々さ――こんな感じで楽しもうよ」
彼女のひと言kは、どちらの男に向けられたものだったのだろう?


あとがき
前作の続きです。
そろそろ種が切れたと思ったのですが、まだ少しだけ残っていたみたいです。(笑)

正義のヒーローに退治されながら生き残った、怪人のその後

2023年09月12日(Tue) 22:09:39

正義のヒーローに退治された吸血怪人がいた。
ふつう怪人が征伐されると爆発を起こして四散してしまうのであるが、
幸か不幸かこの怪人は爆発を免れ生存してしまった。
しかし、使命を果たせなかったことから悪の組織からは破門され、路頭に迷うことになった。
妊婦や幼児を連れた母親、それに病気の老女の血を吸わずに見逃していたことも露見して問題視されたのだ。
目にした女はことごとく襲って生き血を吸うことが彼に課せられた任務だったのだ。

飢えた怪人は切羽詰まって、路頭で一人の女性を襲った。
勤め帰りのOLだった。
そのため傷害罪で逮捕され、刑務所にぶち込まれることになった。
食を欲すればそれだけで罪になる。
怪人は必死になって、人間並みの食事を覚えようと努めた。そうでなければ餓死の運命が待っていた。
どうにか人間並みの食事を摂取できるようにはなったものの、
人の生き血を飲まなければこの人造人間の身体は急速に衰え死に至ることまでは変えられなかった。
いっそ死んだ方が良い――と思っていたところ、
またもや幸か不幸か、怪人は模範囚として刑期を短縮されて出獄することになった。
人間並みの食事を摂取することから、再犯の危険なしと判断されたのだ。
俺を野に放つのはまずい、終身刑を果たしたいと怪人は主張したが、手続きの関係で予定通り出獄させられた。

刑務所には1人だけ、親切な看守がいた。
彼は人間の血を欲する怪人の欲求に理解を示し、時折自分の指をナイフで傷つけて、怪人に血を吸わせていた。
怪人がどうにか所期の能力を維持できたのは、彼の血のおかげだった。
行き場のない怪人の身を案じて、看守は自分の家に彼を引き取った。
看守には30代の妻と、10代の娘がいた。
「2人にはよく言い聞かせてある。でも私にとっては大切な家族だから、どうか手加減してもらえないか」
怪人は、吸血した相手を洗脳することができた。
看守も少しばかり洗脳されてしまっていたので、こんな破格の善意を示してくれるようになったのだが、
まだ血を吸われていない身体のままで夫の言を信じた妻や、両親の言いつけに従った娘が立派だった――ともいえるだろう。
引き取り先となった看守の自宅では、一夜にして、妻も娘も吸血された。
2人の女は、自分たちの血が怪人の喉を愉しませるのを悦ぶ身体になってしまったし、
看守もまた、服を血に染めながら横たわり怪人の意のままにされてゆく妻や娘の甘美な受難を目にすることに、性的な歓びを覚えるようになっていた。
この3人の心の中では、自分たちが不幸になったという実感はまるでなかったのである。

怪人は看守の妻を自分の愛人どうぜんにあしらっていたが、看守はそれに対して苦情を言い立てることはなかった。
むしろ、怪人に愛されることで、自分の妻が生き延びられる見込みを持ったことに、安心しているようすだった。
怪人は看守の妻をまじめに愛した。
性欲を発散するだけの掌と、自分の身に真心を込めてくる掌とが違うことを、彼女はよくわきまえていた。
夫に対しては、切羽詰まった欲求に応えるすべも身に着けていたが、
怪人からは労りと慈しみに似た感情を帯びた掌を当てられることを、むしろ悦ぶようになっていった。
さいしょは寄る辺のない身の上に同情して意に染まぬセックスの相手をするだけの関係が、
心の通い合う文字通りの「情交」になってゆくのを、彼女はせつじつに感じていた。

怪人は夜中に夫婦の寝室を冒すことはあえてしなかったが、
看守が出勤していくと、送り出したその妻の首に腕を回して家の中に引きずり込んで、
もうたくさん!と言わせるまでスカートの奥を汚す行為をやめなかった。
そのうち看守も、怪人が夜這いどうぜんに夫婦の寝床に侵入してくるのを妨げずに、
自分の欲求を散じてくれた妻が時間差のある輪姦を遂げられてしまうのを、悦んで目にするようになっていた。

しかし、いつまでも看守一家の恩情にばかり甘えているわけにはいかなかった。
彼の必要とする血液は、看守や女2人から摂取できる血液量を、はるかに上回っていたためだ。
看守は娑婆に戻った怪人が「お礼参り」をしないかと恐れていた。
「そんなことはしない」と、怪人は誓った。
あくまで自分の催淫能力の虜になったものだけを餌食にして生きていくつもりだった。
彼の催淫能力には限界があって、だれでも彼でも誘惑できるわけではなかった。

まず手始めに、悪の組織に所属して任務を遂行していたころに餌食にした女たちを物色した。
彼女たちが、いちどは彼に洗脳された「実績」の持ち主だったからだ。


看守の家を出て数日が経っていた。
道行く人たちを無差別に襲うことだけはすまいと誓って出たのだが、
彼によって吸血の被害を受けた女性たちはほとんどが転居してしまっていた。

牙にかけた女性はたったの1人だった。
彼女はキャバレーのホステスで、かつて怪人が「現役」だった時、未明になった帰り途を怪人に襲われ餌食にされたのだった。
怪人の思惑に外れて、彼女の身体からはすでに「毒気」が去っていた。
いきなり襲った相手が本気で抵抗してきたことで、すぐにそれとわかった。
あわてて手を引っ込めようとしたときに、女は怪人の顔を見、相手の正体に初めて気づいた。
「なあんだ、あんたか」
女はそういって、紫色の派手なドレスをたくし上げ、太ももをさらけ出した。
「おやりよ、あんただったらかまわない」
女は怪人の魔力の影響を免れていたが、彼が女性の太ももに好んで咬みつくことはまだ憶えていた。
怪人は有無を言わさず彼女を抑えつけ、太ももに喰いついた。
ウッ・・・
女は甘くうめいて、生き血を吸い取られていった――

引きずり込まれた草むらのなかから身を起こすと、
女ははだけたドレスをむぞうさにつくろって、いった。
「服を破らないでくれてありがとね。何せ商売道具だからね。時々だったら声かけなさいよ」
明日は仕事の日じゃないから、少し多めに吸わせてあげるといった彼女の頬は、蒼かった。
自慢じゃないけど、気に喰わない男には身体を許したことなんか一度もないんだ――
女はわざと聞こえるように言い捨てて、ふらふらとよろけながら、通りに戻っていった。

ホステスの身体から摂った血が彼の干からびた血管から消えかかった、その日の夕刻。
怪人は薄ぼんやりとなりながら、とある大きな家の前に佇んでいた。
背後で、ハッとして脚をすくめる気配がした。
怪人が振り向くと、ピンクのスーツを着た若い女が1人、立ちすくんでいる。
かつて襲ったことのある、社長令嬢だった。
「現役」のときには人質に取って、アジトのなかでは度を重ねてうら若い血を愉しんだ相手だった。
たしか、父親が社長をしている中堅企業に勤めていたはずだ。
お互い見つめ合った目と目の間に、敵意はなかった。
「入りなさいよ」
女は言い捨てるようにして、インタホンを鳴らした。
「はい・・・」
インタホンの向こうから聞こえる落ち着いた声に、女はいった。
「あの時の吸血怪人さん、来たの。ママも逢うわよね?」
母親とは初対面だった。
けれど彼女は、娘を襲った憎い怪人との対面を希望していた。
ひと言詰ってやりたかったのだ。
誘拐事件のおかげで、娘の縁談が破談になっていたためだ。
「娘の将来を台無しにして、どういうことなのかしら!」
母親は土間から怪人をあげようともせずに、詰問した。
力づくならかんたんに籠絡できるはずの母親相手に、オドオドと接し、ぶきっちょに謝罪の言葉まで口にする怪人に、娘は好意を持った。
「ママったら、そうムキにならないでよ。私にしてみれば感動の再会よ。
 このひと、外であたしを襲って服を破いたりしたら近所の評判になると思って、ガマンして家の前で立ちんぼしてたの」
娘は怪人が昼間からずーっと外で待ちぼうけしていた怪人の本意を見抜いていた。
あの時のお見合い相手はその後別の女性と結婚したが、とんだ暴君でおまけに放蕩者だった――と娘は打ち明け、怪人を笑わせた。
久しぶりに、心から笑った気がした。
「勤め帰りのきちっとした服装、お好きだったわよね?」
娘はそういうと、怪人を自室にいざなった。
ここなら多少着衣を乱されても問題じゃない。
声さえあげなければ、ご近所の評判にならないから。
娘の囁きが怪人の耳たぶに暖かく沁みた。

遠慮しいしい咬み入れた首すじは以前と同様引き締まっていて、ほとび出る血潮の美味さも変わりなかった。
「ドラキュラ映画のヒロインに見えるかしら?」とおどける娘に、「すごく魅力的だ」とこたえて抱きしめていた。
知らず知らずお互いの唇を求めあって、重ね合わせていた。
娘が貧血を起こして畳のうえに倒れると、彼女の下肢に覆いかぶさって、ストッキングを穿いた脚に舌をふるいつける。
薄いナイロンのなよなよとした感触が、唇に心地よかった。
ストッキングに裂け目を拡げながら、自分のふくらはぎに牙を埋めてくるのを、娘はウキウキとしながら許していった。

往きがけの駄賃というわけではなかったが、母親も餌食になった。
リビングに降りてきた怪人が娘から吸い取った血に唇を浸しているのを目にした母親は、「人でなし」と罵った。
けれども、娘の安否を確かめようと母親が自室に入ると、
貧血を起こした娘は服を部屋着に改めて、伸べられた布団の上にちゃんと寝かされていた。
折り目正しいことを何よりも重んじる母親は、「礼儀は心得ていらっしゃるのね」と、気色を改めた。
「ママ、この小父さん――あたしの血だけじゃ足りないみたいよ」
娘はイタズラっぽくウィンクをした。
母親は大仰に吐息をついて、怪人にいった。
「お好きになさいな」
つぎの瞬間、痺れるような痛みが、社長夫人の首のつけ根に走った。
これと同じ痛みを、この娘(こ)はなん度も愉しんでしまったのだなと彼女はおもった。
怪人の持つ洗脳能力によって酔わされていると自覚していながら、
女は自分の血液を侵奪してゆく男の掌を、ブラウスのうえから取り除けることができなくなっていた。
したたる血潮がブラウスのえり首から入り込んでブラジャーを生温かく濡らすのを感じながら、
娘が吸血されるとき、自分の服を濡らして台無しにしてしまっても構わないと思ったのももっともだと感じ始めていた。
40代後半になろうとしている分別盛りの年配なのに、年ごろの娘のようなときめきを抑えきれなくなっていた。
自分の気持ちが若返ったことにほろ苦い歓びを感じながら、
社長夫人は娘に続いて、パンストを引き裂かれショーツを荒々しくむしり取られるのを許してしまっていた。

朝になるとこの家のあるじである社長が出張先から戻ってくる――という母娘の手で、怪人は追い立てられるようにして家を出た。
母親は、忘れた頃におととい来なさい――と、拒んでいるのか受け容れてくれるのかわからないことを言った。
娘のほうは、母親の言い草のあいまいさをはっきりさせるように、「待ってるから」とハッキリ言った。
いまの縁談がだめになったら別のくちを考えるわ、とも言ってくれた。
その日の朝に洗濯機に投げ込まれた娘のショーツが初めての血で濡れているのを、母親は見逃さなかった。


つぎの訪問先が夕刻になったのは、なんとかその家だけは立ち寄るまいと逡巡したせいだった。
夕べ訪れた社長の邸宅に比べると、古びているうえにふた周りも小さい一軒家だった。
そこは、堅実に暮らすサラリーマンの家だった。
バタバタと急ぎ足の小さな足音がした。
怪人が目を向けると、そこにはその家の息子が佇んでいた。
初めて襲った時と同じ、半ズボンに白のハイソックス姿だった。
「え?来たの?」
息子は目を見開いて怪人を見た。
「脱獄?」
「残念ながら、刑期が短縮になったのだ」
「それって、良かったってことじゃない」
「わしの身の上をわかっているだろ・・・」
怪人はさえない声で呟いた。
ああそうだね――と息子は、まだ幼さの残る声でこたえた。
彼は、怪人が人の生命を奪うのを忌んでいることを知っていた。
「殺人罪じゃなくて傷害罪だったから良かったんだね」
息子は晴れやかにそういった。ボクだって勉強してるんだよ――と言いたげな口ぶりがほほ笑ましかった。
「婦女暴行も絡んでいるから、厳罰だったがな・・・」
怪人はそう言いかけて、言葉を飲み込んだ。子供にまだきかせる内容ではないと思ったからだ。
「ここに来たってことは、血を吸いたいんだろ?
 ボクで良かったら、いいよ」
少年はハイソックスを履いた脚を、怪人のほうへと差し伸べた。
目のまえで怪人が、母親の穿いているストッキングを嬉しそうに咬み破るのを見ていた少年は、
男が長い靴下を汚しながら吸血する変態趣味の持ち主だと知っていた。
「ここでかい?」
「へえ~、周りの目を気にするんだ。進歩したじゃん」
少年は無邪気に声をはずませて、怪人をからかった。

少年に対する吸血は、路地裏で実行した。
真っ白なハイソックスに着いた血のりが赤黒いシミを拡げてゆくのを、少年は面白そうに見おろしていた。
「だいぶ体力がついたようだな」
怪人がいうと、
「もともと強い子だったけどね」
と、少年は負けずにこたえた。
逃げた人質を庇おうとして少年が機転を利かせたおかげで、正義のヒーローの到着が間に合ったのだ。
「だから、仕返しに来たのかとおもった」
「そうではないが・・・」
口ごもる怪人を見て、少年はアハハと面白そうに笑った。
少年は、怪人が家のまえでためらっている理由に心当たりがあるようだった。
「待ってな、母さん呼んできてやるよ」
怪人が心から望む再会をかなえてやるとあっさり口にすると、
少年はさっきと変わらぬ急ぎ足で、バタバタと自宅に駆け込んでいった。

10分ほどして、少年の母親が路地裏に現れた。
人目を気にしぃしぃ玄関から出てきたのを、怪人はよく見ていた。
この家で長いこと主婦をやっていかなければならない彼女にとっては、近所の評判がどうしても気になるのだろう。
「息子から聞きました。仕返しにいらしたの」
真顔になっている母親を前に、怪人はうろたえた。
なんということだ。ちっとも伝わっていないではないか――と、怪人は切歯扼腕した。
そうじゃなくて・・・と言いかけると、ムキになった顔つきが可笑しかったのか、母親はクスッと笑った。
「そういってからかってやれば面白いって、ショウくんが言うから――」
と、母親はいった。
あの子にはやられ放しだな――怪人は本音でそう呟いた。
「お時間あまりないの。子供たちに晩ご飯食べさせてあげないといけませんので――」
うちの人もそろそろ帰ってくるし、家にあげてあげることもできなくてごめんなさいね、と、母親はいった。
そして、穿き替えてきたばかりらしい紺のスカートをめくって、肌色のストッキングに包まれた太ももを、怪人の前にさらけ出した。
「悪いね、奥さん」
「うちの子がご迷惑をかけたので――あうッ!」
太ももに食い入る牙の鋭い痛みに、母親は言葉の途中で声を失った。
初めて噛まれたときの記憶が、いちどによみがえった。

あのときもこんなふうに、ストッキングもろとも食い剥かれていったんだっけ――
母親は反すうした。
あのときもこんなふうに、
スカートたくし上げられて、ふだん穿きのショーツを視られたのが恥ずかしかったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
ショーツを引きずり降ろされて、お外の空気ってこの季節でも意外に肌寒いのねなんて、のん気なこと思ったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
ハァハァと血の匂いの交じった息を嗅がされて、キスを奪うなんてひどい、うちの人としかしたことないのにって思ったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
ショウくんややよいちゃんや私の血の匂いだから、決して嫌な匂いじゃないのよって、思おうとしたんだっけ――
あのときもこんなふうに、
主人に悪い悪いって思いながら、いつもより大きなモノを突っ込まれて、思わずドキドキしちゃったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
絶対こんなのダメよって思いながら、いつの間にか怪人さんの背中に腕を回してすり寄ってしまっていたんだっけ――
あのときもこんなふうに、
このひと私の血を美味しそうに吸ってるなって、ちょっと嬉しい気分になっちゃったんだっけ――
あのときもこんなふうに、
もぅ、なん回姦ったら気が済むのよ、そんなに私のこと気に入っちゃったの?なんて、いけないことに夢中になってしまったんだっけ――
――そして怪人は、若い母親が自分の凌辱に酔ってしまったことを、とうとうだれにも打ち明けなかった。

「あなたも逢ってあげなさい!」
母親に送り出されて招び入れられた路地裏で、
やよいちゃんはピンクのブラウスに血を撥ねかせながら、柔らかい首すじを牙で冒されていた。
座り込んでしまったやよいちゃんを後ろから優しく抱きしめながら、怪人は首すじから唇を離そうとしなかった。
新鮮な血潮が自分の喉だけではなくて、心の奥底まで暖めるのを感じていた。
咬まれる前やよいちゃんは、母さんやショウ兄ちゃんの血に濡れた牙を見せつけられたけど、怖いとは思わなかった。
むしろ、家族の血を帯びた牙にあたしの血も混じるんだなってほっこりとした気分になるのを感じた。
このひとがもっと兇暴だった時にいちどだけ吸われた体験が、やよいちゃんの心を柔らかく和ませていた。
咬まれるのはちょっと痛かったし、血を吸われるのは怖かったけれど、
怖がる自分を怪人が終始なだめすかして、なんとか落ち着かせようとしてくれたのを、やよいちゃんはまだ鮮明に憶えていた。

子どもたちが食卓に顔を合わせた時、母親はまあとあきれた顔になっていた。
息子は血に濡れたハイソックスをそのまま履いていたし、
娘はやはり、えり首に血の撥ねたピンクのブラウスをそのまま着ていたからだ。
怪人が私を誘拐したときといっしょだ――と母親は思い出した。
ショウくんは赤く濡れたハイソックスを見せびらかすようにして、
ボクたち、あの小父さんの仲間にされちゃった――と言って、彼女が気づかないうちに背後に立った怪人を指さしてくれたのだった。
「父さんに見られたらどうするの」
咎める母親に、息子はいった。
「父さんに内緒にするのは良くないよ」
そういう母親もまた、みるもむざんに食い剥かれたストッキングをまだ穿いていた。

「やよいはいいなぁ、首すじ咬んでもらえて。やっぱ吸血鬼っていったら、首すじだよね?」
ショウ兄ちゃんがそういうと、
「お兄ちゃんだって、ハイソックス濡らしてカッコいいじゃん。
 母さん、晩ご飯終わったらやよいもハイソックスの脚を咬んでもらいたいけど、いいよね?」
やよいまでそんなことを言い出した。
そうね・・・そうね・・・
失血で蒼ざめた母さんは、首すじにもふくらはぎにも、いくつも咬み痕をもらってしまっていた。
それらのひとつひとつがジンジンと好色な疼きを素肌の奥にしみ込ませて来るのを、どうすることもできなくなっていた。

背丈の違う肩を並べた兄妹を前に、怪人は2人を代わる代わる抱きしめた。
遠目にそのようすを見た母親は、あの人は血だけじゃないのねと、改めて思った。
いつもの夫の、ただ自分の性欲をぶつけてくるだけのセックスではないものを、怪人は短時間のうち、彼女の膚にしみ込ませていった。
やよいの穿いている白の縄柄のハイソックスがいびつに滲んだ血のシミを拡げてゆくのを見守りながら、
子どもたちの番が済んだら私がもういちど相手をしよう――と決めていた。

「なんてことだ!」
帰宅した亭主は、神妙に正座してすべてを告げる妻を見おろし、不機嫌そうに怪人を睨みつけた。
「あんた、この前で懲りて服役までしたんじゃないのか??」
亭主の怒りはもっともだった。
そういうえばこのひとにだけは、まだ謝る機会がなかったのだと怪人は思い出した。
いまさらながら・・・と頭を下げる怪人と、そのすぐ傍らで正座の姿勢を崩さない妻を等分に見て、亭主はいった。
「いちばんよくないのは――」
その後を口にしようかどうか、ちょっとだけ逡巡したが、帰宅そうそう咬まれた痕に疼きを覚えると、そのまま吐き出した。
「家内や子供たちを、家の外で相手をさせたことだ。うちにも近所の評判ってものがある・・・」
それは私がいけなくて――と言いかけた妻を亭主は制して、いった。
「これからは、ちゃんと家にあげてお相手しなさい」
返す刀で、亭主はさらにいった。
「あんたもあんただ。家内を口説きたかったら、こんな時間ではなく昼間に来なさい」
おれはそういうところを視る趣味はない――と、亭主はいった。
その晩、夫婦の交わりはいつにもまして濃く、
彼女は久しぶりに満ち足りた刻を、相手を変えて2度も過ごすことになった。


いったい、なん人”征服”したのだろう?
看守夫妻とその娘。
キャバレー勤めのホステス。
社長夫人と令嬢。
サラリーマンの一家4人。

それ以外にも。
刑に服する前に襲った勤め帰りのOLは、彼の出所を聞きつけて、婚約者を伴ってやって来た。
彼も納得しているので、私も仲間に加えてくださいと、彼女は懇願した。
彼女の体内には、初めて咬まれたときに植えつけられた淫らな衝動が、まだ色濃く残留していたのだ。
婚約者は自分の未来の花嫁を襲った牙を自らの身体に受け容れたうえ、
最愛の彼女の純潔をあきらめるという譲歩をしてくれた。
ただ――彼女が「初めて」を捧げるところは見届けたいと懇願した。
婚約者の処女を奪って欲しいという破格の申し出を、受け容れないわけはなかった。
秘められるべき「初めて」を共同体験したいという彼の本心を見抜いた怪人は、彼の希望に快諾した。
花嫁は華燭の典でまとうつもりだった白のストッキングを血に染めて、
「素敵・・・凄く素敵・・・」とうわ言をくり返しながら、
花婿の目の前で彼のことを淫らに裏切りつづけた。
人生最良のはずのその日に、花婿はもうひとつの災難に見舞われた。
披露宴がはねた後、独り身で自分を育ててくれた母親まで牙にかけられてしまったのだ。
若い身空で夫に死別した彼女は、怪人相手に青春を取り戻すために、嫁の身代わりを務めると言い、
自分の喪服姿を花嫁衣裳代わりに提供し、怪人に黒のストッキングの太ももをゆだねるようになった。

社長令嬢はその後、吸血怪人を自宅に引き入れたのが明るみになって家を出され、縁談も破談になりかけた。
けれども、縁談の相手は彼女に手を差し伸べた。
たまたま彼は、自分の母親をかつて怪人に襲われた男性だった。
「お母さんを殺さないで」という懇願を聞き入れてくれた怪人が、
「きみの婚約者をモノにしたい」懇願するのを、彼は素直にも受け容れた。
裁判のときにも彼は出廷して、「いうことをきく相手には終始親切だった」と、怪人に有利な証言をしていた。
そんな彼のことであったので、結婚を前提に交際中の彼女が吸血タイムに耽るのも、
おそらくはそのあと淫らな情事に発展しているあろうことも、すべて察しをつけながらも、
婚約者が怪人と交際を重ねることに嫌悪を抱かず暖かく見守りつづけていた。

社長夫妻は娘を許し、2人は晴れて結婚――
「お母さんの黒留袖姿を襲いたい」という卑猥な欲求さえも、花婿は好意的に叶えてやった。
感動の再会に、新郎の母親は感涙にむせび、見て見ぬしてくれた夫に感謝しながら、あのときと同じように脚を開いていった。
人知れず妻と娘を食い物にされたことにさいしょはご立腹だった社長もいまでは、
「堂々と来るなら、許す」と告げて、
自分の妻を目当てに時おり自宅を襲いに来る怪人に、もはや悪い顔はしないという。


俺には世界征服なんて、どだい無理だった――と怪人は思う。
けれども彼の「征服」したおおぜいの人の血が、自分の生命を支えてくれる。
彼らのことを守るのが、俺の新たな任務なのだ。
怪人はそう誓った。

その後の彼は、社長の運転手として雇われた。
運転手としては社長の再三の危機を救ったし、
悪だくみをしていたころに培ったデータ管理能力は、スパイの危険に曝された特許を守った。

社長から得た給与で、キャバレーを追い出された女を自分のもとに囲って養うようになり、
女はそのころに着た派手なドレスを、1着1着惜しみながら男の手に引き裂かせていった。

激務で健康を害した看守には、いまの会社に再就職の途を開いてやった。
出獄後初めて相手をしてくれた看守の妻と娘には、格別な愛着を感じていた。
看守の妻は家事の合間を縫って怪人の家を訪れて、奥さんに気兼ねしながらも激しく身をくねらせ呻き声をあげていったし、
娘のほうもまた、処女を奪われたことを口先では恨み言を言いながら、学校帰りの制服の裏に秘めたうら若い肢体を弾ませていた。
ふたりはキャバ嬢あがりという怪人の妻に分け隔てなく親しんだので、
時には男1人女3人での戯れに、時を過ごすこともしばしばだった。

いちばん悩みの多い時を迎えたのは、サラリーマンの一家だった。
パートに出た妻はその容貌のおかげでさまざまな誘惑にさらされたが、怪人の存在が不心得な男どもを遠ざけていった。
いじめに遭ったショウ兄ちゃんを救い、美しく成長したやよいちゃんには性の手ほどきをした。
さいごのひとつは、同等に言えることではないけれど――
いまでも週に一度は怪人に抱かれている母親が、たっての願いでそうしたことは、
きっと彼との情事がそれほど良い――ということなのだろう。
サラリーマンをしている亭主も、自分勝手な性の日常を反省して、妻を怪人に奪われないように思いやりのある夫になりつつあるという。

歪んだ形ではあるものの。
怪人は彼らのなかで、「正義のヒーロー」になっていた。


あとがき
凄く長々としたお話になりました。 苦笑
昨日あっぷをしたお話は、春頃から構想して書き溜めていたやつを仕上げてあっぷしたものですが、
これは久々に、入力画面にじか打ちで書き上げたものです。
案外こうするほうが、すんなりまとまるのかも知れませんね。(笑)

【イラスト】正義の味方なき怪人物語~吸血怪人!チスイヒトデ きみも顔が蒼くなる!

2018年01月22日(Mon) 06:30:12

稚拙なものですが、前作のイラストをあっぷしてみます。
果たして見やすい感じで載りますかどうか・・・

本編のURLはこちら↓
【素案】正義の味方なき怪人物語~吸血怪人!チスイヒトデ きみも顔が蒼くなる





ワタル少年は貧血を起こしてその場に倒れてしまいましたが、
チスイヒトデはまだ飽き足りないらしく、もう片方の脚にも取りついて、ワタル少年の血を吸い取ったのでした。



突然現れた真っ赤なヒトデ状の怪人に、お母さんは悲鳴をあげてその場に尻もちを突いてしまいました。
チスイヒトデは動転してしまって動けずにいるお母さんの足許に這い寄ると、
ひざ丈の緑色のスカートから覗くふくらはぎによじ登り、
肌色のストッキングの上からお母さんの血まで吸い始めたのです。


チスイヒトデは、うつ伏せに倒れてしまったお母さんの両脚から血を抜き取ると人間体に変態して、
裸体のまま、お母さんにおおいかぶさっていきます。



血を吸われて洗脳されてしまったワタル少年も、お父さんまでも、
お母さんが犯されてゆくのを面白そうに見守りつづけていました。



ワタル少年はタカシくんに迫っていって、足許にかがみ込むと、
ポケットからチスイヒトデを取り出して、タカシくんの脚になすりつけました。
「うわ、わ・・・っ!」
叫び声の下、チスイヒトデはみるみる変色して、
タカシくんの履いているひし形もようのハイソックスの上から、この少年の血を吸い取ってしまったのです。

【素案】正義の味方なき怪人物語~吸血怪人!チスイヒトデ きみも顔が蒼くなる!

2018年01月21日(Sun) 06:44:02

引っ込み思案のワタル少年は、きょうも独りで公園で遊んでいました。
独りベンチに腰かけていたワタル少年の足許に忍び寄るのは、怪人チスイヒトデ。
子どもの手のひらくらいの大きさで、ふだんは土や草など、周りの色に同化して見分けがつきにくい生き物です。
チスイヒトデは音もなくワタル少年の足許に這い登ると、
ワタル少年の履いているライン入りのハイソックスのうえから、血を吸い始めたのです。
「アッ!なんだこれっ!?」
声をあげたときにはもうすでに遅く、チスイヒトデはワタル少年の血で真っ赤になりながら、
強烈な勢いで血を吸いあげてゆくのです。
「ウ、ウ~ンッ・・・」
ワタル少年は貧血を起こして、その場に倒れてしまいました。
チスイヒトデはまだ飽き足らないらしく、もう片方の脚に取りついて、ワタル少年の血を吸い取ってしまいました。

「ただいま」
玄関でぽつりとそう呟くと、ワタル少年はすっかり蒼ざめてしまった顔を視られないようにと、
すぐに勉強部屋へと引き上げてしまいました。
チスイヒトデはワタル少年の脚から離れて壁の色と同化しながら台所に移動して、
こんどはお母さんの血を狙います。
そこにちょうど、お父さんが勤めから帰宅しました。
チスイヒトデは目標を変えて、まずお父さんの脚に取りついて、血を吸い取りました。
「あらッ!?お父さんどうなさったのですか!!?」
急にその場に倒れてしまったお父さんに、お母さんはびっくりして駆け寄ります。
そのお母さんのエプロン姿に、チスイヒトデは素早く迫っていったのです。
突然現れた真っ赤なヒトデ状の怪人に、お母さんは悲鳴をあげてその場に尻もちを突いてしまいました。
チスイヒトデは動転してしまって動けずにいるお母さんの足許に這い寄ると、
ひざ丈の緑色のスカートから覗くふくらはぎによじ登り、
肌色のストッキングの上からお母さんの血まで吸い始めます。
「あ・・・あ・・・アァ~」
お母さんは悲鳴をあげますが、夫婦の血で真っ赤に変色したチスイヒトデを引きはがすことはできません。
穿いているストッキングがパリパリと裂け目を拡げて、
その下に透きとおるお母さんの白い肌も、ワタル少年のときのようにみるみる蒼ざめていったのです。

チスイヒトデは人妻の血を吸うと、人間体に変態する習性を持っていました。
そして、人間体になると、居合わせた女という女を襲って犯してしまうといういけない習性も持っていました。

チスイヒトデは、うつ伏せに倒れてしまったお母さんの両脚から血を抜き取ると人間体に変態して、
蒼い身体の裸体のまま、お母さんにおおいかぶさっていきます。
お母さんの間近に倒れていたお父さんは、顔をあげるのが精いっぱいでした。
自分の妻が醜い怪人に襲われて、みるみる血を吸い取られて、あげくの果てに犯されてしまうのを、
ただぼう然と見つめるばかり。
ワタル少年もいつの間にか二階の勉強部屋から降りてきてお父さんの背後に立ち尽くすと、
家族に隠していた蒼い顔をさらして、
お母さんがエプロンを着けたまま犯されてしまうのを、面白そうに眺めていました。
お父さんもワタル少年も、血を吸われたために、二人とも洗脳されてしまっていたのです。
二人はにやにやと含み笑いを泛べながら、
チスイヒトデがお母さんの血を美味しそうに吸い尽したり、
緑色のスカートをお尻がみえるほどまくり上げられて侵されてしまうのを、満足そうに見守りつづけていました。

こうして、ワタル少年の家は、チスイヒトデによって家族全員が吸血されて、たったひと晩で征服されてしまったのです。

翌日の夕方、ワタル少年はいつものように独りでベンチに腰かけていました。
そこに通りかかったのは、いじめっ子のタカシくんです。
「よう、何独りでいじけてんだよ。学校だって、ずる休みしたんだろ!?」
タカシくんはワタル少年に邪慳に突っかかっていきました。
テストで悪い点を取ったりすると、いつもそんなふうにワタル少年のことを小突き回して、愛さを晴らしているのです。
でもこの日のワタル少年は、いつもと違いました。
俯いていた顔をあげると、いつもと違ったふてぶてしい笑いを泛べて、タカシくんのことを視かえしたのです。
タカシくんはワタル少年の顔色の蒼さにビクっとして、
「お前、その顔色どうしたんだよ??」
と叫びました。
ワタル少年はタカシくんに迫っていって、足許にかがみ込むと、
ポケットからチスイヒトデを取り出して、タカシくんの脚になすりつけました。
タカシくんの履いていたひし形もようのハイソックスの上で、チスイヒトデはピンク色に変色して発情します。
「さあ、こいつの血を吸い尽すんだ」
チスイヒトデの仲間になってしまったワタル少年がそういうと、形勢逆転、いじめっ子のタカシくんは初めて怯えた顔になりました。
「うわ、わ・・・っ!」
叫び声の下、チスイヒトデはみるみる変色して、
タカシくんの履いているひし形もようのハイソックスの上から、この少年の血を吸い取ってしまったのです。

「そのヒトデ、きみにあげるよ。家に持って帰って、お母さんの血を吸い取らせてあげるといいよ」
蒼い顔を近寄せて囁くワタル少年に、やはり蒼い顔になってしまったタカシくんは肯きかえすと、
「こんどから、仲良くしような」
「ウン、指切りね」
と言いました。
ふたりは、同じチスイヒトデに血を吸われることで、仲良しになったのです。

「じゃあね、チスイヒトデ。タカシくんの家族の血を吸ったら、また戻っておいで。
 父さんも、きみが母さんのことを征服するのをまた視たがっているんだ。
 母さんを襲ってぼくたちを夢中にさせてくれたら、またお友だちを紹介するから。
 ぼくはもう、独り遊びはやめて、友だちをおおぜい作るから。
 いろんな人の血を、きみに吸わせてあげるために・・・ね」

巨大蛾

2015年09月09日(Wed) 07:37:57

クヒヒヒヒヒヒヒ・・・
奇怪な唸り声を嬉し気に響かせて、わたしの上にのしかかっているのは、巨大な蛾。
真っ白な重たい翅(はね)に、背広を着たまま捕らえられて、
首のつけ根には太い管をぐさりと挿し込まれ、生き血を吸い上げられてゆく。
めまいが・・・ひどいめまいがしてきた。
巨大蛾は、人語を囁いてくる。

お前の血は、旨い。お前の血は、旨い・・・
クヒヒヒヒヒヒヒ・・・

膨れあがった下半身をなすりつけるように摺り寄せながら、やつはわたしの血を吸い取ってゆく。
たしかに自分で言っている通り、それはそれは旨そうに。

この街に転入してきたら、吸血鬼に襲われるのが通過儀礼・・・とは教わってきた。
それでも夫婦ともども都会を逃れてこなければならない事情というのを抱えたわたしに、それ以外の選択肢は残されていなかった。
しかし・・・
よりにもよって、こんな怪物に襲われるとは!

いいかな?あんただけじゃない。奥さんも血を吸われるんだぞ。それでも赴任に同意するのかね?

まえの上長はたしかに、そう念を押してきた。
まあ・・・私もあそこには赴任した経験があるのだがね・・・
と、つけ加えることも忘れずに。
わたしは意思を喪った人形のように、こっくりと頷いていた。

たしかに、生身の男に妻まで襲われるということには、正直かなりの抵抗を感じていたし、
赴任後の上司との妻を交えた面談でも、そんな話をした覚えがある。
そうだな、蛾の怪物に襲われたのだというのなら、まだしもあきらめがつくのかな・・・
薄れゆく意識の下、わたしはうすぼんやりとそんなことを考えていた。

ヒイイイッ!
妻は喉の奥から悲鳴を漏らし、壁を背にして逃げ惑う。
なんとか逃れようとするのだが、巨大蛾は長い触手を伸ばして、妻の行く手を遮りつづける。
妻にしても、血を吸い取られた夫が足許にぶっ倒れている状況のなかで、いつまでも逃げ回ることができるとは、思っていないらしい。
そうはいっても、真っ白な巨大蛾が自分の血を求めて触手を伸ばしてくる光景には、本能的に恐怖を感じ、あらがってしまうのだろう。
脳天を薄ぼんやりとさせてしまっているわたしは、不思議な昂ぶりを覚えていた。
子供のころに観ていた特撮もののドラマに、そういえばこんな感じの怪人が登場していたっけ。
あのとき、ふつうの人間が襲われて餌食にされてゆくのを、たしかドキドキしながら見守っていたっけ。
それがいま、現実のものとなって目の前にあった。
ワンピース姿を触手にからめとられた妻は、わたしのときと同じように、首すじに吸血管を埋め込まれていった。

生身の男に妻が抱きすくめられて生き血を吸い取られるというのには、抵抗がある。
たしかにそう思っていた。
この街の吸血鬼は、そんなわたしの心境をくんで、こんな化け物を吸血相手に選んだのだろう。
血を吸われて昏倒した妻は、やはり血を抜かれて意識をさ迷わせている夫の傍らで、ずっと抱きすくめられていた。
ただし巨大蛾は、いまは人間の男に姿を変えている。
正体はきっと、こっちなのだ・・・わたしは薄ぼんやりとそう自覚して、自覚しながらも抱きすくめられている妻の肢体から目を離すことができなくなっていた。
男は膨れあがった下半身を、妻の股ぐらに擦りつけていって・・・もうひとつのおねだりまでをも、果たそうとしていた。

巨大な怪人が妻を襲って、征服しようとしている。
化け物が人に入れ替わっても、そんな情景に昂ぶりを覚えつづけているわたしは、いったいなんなのだろう?

自分の心のなかに棲む怪人の存在に気づきながらも。
犯されてゆく妻を――歓びに目覚めてゆく妻を目の当たりにしながら、
わたしは不覚にも、射精を繰り返していた。

吸血沼に、遊びに行こう。

2010年12月10日(Fri) 07:48:06

吸血沼に、遊びに行こう。
えつ?吸血沼?
転校して間もないサダオは、きき慣れない地名を訊き返した。
早く来いよ。男子の秘密の遊び場なんだ。
いっしょに来なかったら、もう遊んでやらないぞっ。
まだ友だちのいないサダオにとって、そのひと言は強かった。

木立の生い茂る、沼のほとり。
半ズボンの下、色とりどりのハイソックスを履いた男の子たちの脚が、
すべりやすい足許を気にしぃしぃ、恐る恐る歩みをすすめる。
しましま模様のハイソックスのタダシと、肩を並べて進むのは。
真っ白なハイソックスのユウ。
そのすぐあとには紺に赤ラインのハイソックスのシロウ。
男子のくせに真っ赤なハイソックスを履いている、アキオ。
初めて誘われたタカヤは、折り返しに白のラインが入った、ブルーのハイソックスを履いていた。
あいつのハイソックス、美味しいだろうな。
新顔の少年を、まんまと深みに誘い込んだ少年たちは、
ひそひそ声で、囁き合う。

あっ、もういるぜ。
タダシが真っ先に、声をあげた。
ほら、と指差す足許に。
しましま模様のハイソックスに、黄緑色をしたヒルが這っていた。
あ、おれの脚にも。
おつ、ボクの脚にも。
口々に声を洩らす、少年たち。
ハイソックスの足許に、極彩色にぬめったヒルが、いつの間にか這い寄っていた。

きみのは、これ。
真っ白なハイソックスのユウは、ヒルの這うあとに微かに紅いシミを滲ませている。
え?このヒル血を吸うの?
初めて足を踏み入れたタカヤが、びっくりしたように声をあげる。
血を吸うんだよ。だってヒルだからな。
かたわらの木の幹にへばりついているやつを、ユウはむぞうさにはがすようにして。
これ、お前のぶん。
避ける間もなく、ぬるりとなま温かい感触が首すじに触れた。
痺れるような痛みに、タカヤは「ああっ!」と叫んでいた。
すごいめまいがして、タカヤはその場にくず折れる。
オレの血を吸うヒルの、弟なんだ。よろしくな。
ユウは事務的に、そういうと。
タカヤの首すじからはがしたヒルを、こんどはブルーのハイソックスのふくらはぎに這わせていった。
こいつらさ。ライン入りのやつ、好きみたいなんだ。
傍らに立っていたはずのシロウは、紺のハイソックスのふくらはぎの赤いラインにヒルを這わせていたし、
アキオの真っ赤なハイソックスにも、極彩色のヒルが粘液を光らせていた。

くらくらとしためまいから、解放されたとき。
タカヤは洋館のなかにいた。
沼のほとりの洋館は。
吸血鬼たちの巣窟だった。
男の子たちは例外なく、大人の男に組み敷かれて。
ハイソックスのふくらはぎから、血を吸い取られていた。
こいつら、血を吸うと人間の姿に戻れるんだ。
ユウはどうやら、きょうの新入りの教育係らしい。
ママにばれちゃうよ。
そうかな?でもたぶん、その方がいいと思うぜ。
ユウの言い草に、なぜか安心してしまったタカヤは・・・
真新しいブルーのハイソックスに、惜しげもなく赤黒いシミをしみ込まされていった。

どうしたの?こんな寂しいところに連れてきて。
つまんない、という顔つきの姉に。
タカヤは後ろから、忍び寄る。
お姉ちゃん、ごめんね。
手にしたヒルを素早く、姉の首すじに這わせてしまった。
きゃーっ。
学校帰りの制服姿が、のけぞって。
発色の鮮やかな赤のチェック柄のプリーツスカートを、
惜しげもなくぬかるみに、浸していった。
ボクの血だけじゃ、足りないんだ。
お姉ちゃんも、協力してね。
失血のため、目の周りに隈をにじませながら。
タカヤの姉は、ゆっくりと頷いて。
紺のハイソックスの足許にヒルを這わせてくる弟の手を、
避けようとはしなかった。

妹連れて来たんだ。
すごくしんけんな顔をしたアキオは。
きょうも、真っ赤なハイソックスを履いている。
お前のハイソックス、妹のやつかよ?
そうからかっていたものが、絶えたのは。
だれもが吸血沼に、惹き入れられてしまってから。
まだ小柄な、アキオの妹は。
おさげ髪をかいくぐって、首すじに這わされたヒルに。
ひと声「きゃっ!」って、叫んだけれど。
オレのヒルにも、いいよな?
白の編みめもようのハイソックスのうえ、タダシが這わせてきたヒルに。
さほど迷惑がらずに、脚を添わせていった。

お前、ずいぶん薄いの履いてるんだな。
しましま模様が気に入りのはずのタダシが、きょうは珍しく薄いのを履いている。
パパのやつ借りてきたんだ。ストッキングみたいに薄いだろ?
きょうはママの身代りなんだ。
脛を白く滲ませた、濃紺の薄手のナイロンのうえ。
ぴったりと密着した極彩色のヒルは。
ぶちりとかすかな音をたてて、薄いナイロンに裂け目を走らせた。
やっぱりママのストッキングじゃないと、いけないかな。
明日は法事だから。ママは黒いやつ履くはずなんだ。
パパといっしょに、連れきちゃおうか?

新入りなのに、姉をたぶらかしたタカヤは。
もうだれからも、仲間と認められていた。
姉さんのときにはすぐに、人間のかっこうに戻るんだね。
制服姿にいやらしく寄り添おうとする、その中年の男は。
なんど、姉の制服のスカートに、あのぬるぬるとした白い粘液をなすりつけたことだろう?
きょうはめずらしく。かなり長いことヒルの姿でいるけれど。
グレーのハイソックスがものめずらしいのか、すでにかなり肥大化しはじめている。
こんど。うちのママも、連れてこようよ。
えっちなこと、させちゃおっ。
姉から借りた、お揃いの。グレーのハイソックスの脚に、代わる代わるヒルを這わせ合いながら。
姉さんはさりげなく、爆弾発言をした。

吸血怪人による征服の姿。

2010年04月21日(Wed) 07:27:21

皮膚にぴったりと密着した吸血チューブを通して、自分の血のぬくもりが伝わってくる。
血を抜かれるようになって、どれほど刻が経ったのだろう?
頭がぼーっとしてきたところをみると、そろそろ生命の危険すら自覚しなければならないかもしれなかったのに。
なぜかひどく冷静で、安らかな気分だった。
隣のベッドでは、べつの吸血怪人が、妻のうえにおおいかぶさっている。
こちらは首筋に尖った嘴(くちばし)を突き立てて、花柄のワンピースが濡れそぼるくらいに行儀悪く巻き散らしている。
わるく思いなさんな。あれはあれの流儀で、奥さんの血を愉しんでいるのだから。
どうやらその気分が伝わっているらしく。
妻はさっきからへらへらと笑いこけていて、
嘴でうなじをつつかれるたび、感じたようにピクッと身を震わせているのだった。

わたしの股間に手をやった怪人は、性別で言うと女らしかった。
さっきからなにかを確認するように、わたしのペ○スを握りしめていて、
ふん、あんた。なかなかの変態だね。奥さん侵されるのがそんなに愉しいのかい?
侮蔑の言葉にも、挑発の響きがあった。
妻にのしかかっているほうのやつは、男性らしかった。
ワンピースのすそを腰のあたりまでたくし上げて、さっきから深々とした上下動を、妻の腰へと伝えていく。
淫らな排泄行為をされてしまっているのは、あきらかだった。
妻はそれでも、へらへら笑いをやめようとはしない。
むしろくすぐったげに、異形のものの凌辱を愉しんでいるのだった。

淫らな血を、ぜんぶ吸い取ってやろうかね。
それとも少ぅしは、残しておいて。
なんども襲って愉しんでやろうかね。
男の怪人は、女の怪人の夫か愛人なのだろうか。
さっきから女怪人の口調には、憎々しげな想いがこめられている。
ぜんぶ吸い取ると、つぎの供給先を探すのが大変なのだろう?
どうかね?教え込まれてしまった妻と。自覚してしまったわたしと。
両方とも生かしておいて、エネルギーの補給源にしてみたら?
その話、乗ったよ。あんた、意外に悪党だね。
その会話、隣のベッドにも届いたらしい。
男怪人は「んがぁ」と嬉しげな声をたてて、もういちど妻を深々と抉っていたし、
妻は妻で、わたしに感謝のこもった侮蔑のまなざしを向けて、
―――もうすこし、愉しませてもらうわね。
挑発たっぷりに、腰を使い始めている。

世界征服は無理にしても。
少なくとも、わたしたち夫婦のことだけは、征服することができたらしい。
吸血怪人に、歓びを―――

奴隷家族 ~怪人に堕とされて~

2010年04月16日(Fri) 07:54:00

大昔に観ていた“変身”もので、怪人が人間を襲って吸血するときには、

シュワシュワシュワシュワ・・・

という妖しい擬音がひっそりと響くのです。
あの音は・・・それなりにトラウマになったかも?^^;


シュワシュワシュワシュワ・・・
わたしの身体から、血液が吸い取られてゆく。
さいしょはもちろん、抵抗したけれど。
なにかを強引に引き抜かれてゆく感じが、なんともいえなくなって。
失血とともに弱まったのは、抵抗だけではなくて、理性そのもの。
わたしの血を理性とともに吸い取ったのは、巨大なヒルのような姿をした怪人。
キヒヒヒヒヒ・・・
嘲るような皮肉な嗤いに、わたしは薄ぼんやりとした笑みを交わしていく。
血を吸い取られる前には想像もできないようなことを口走りながら。
―――さぁ、どうか・・・わたしの家族の血も、ご賞味を。

薄暗いリビングのなか転がされているのは。
34歳の妻。まだ稚ない息子と娘。
水玉もようのワンピースに、肌色のストッキングの妻は。
―――アッ、何なさるんですっ!?
のしかかってくるヒル怪人に向かって叫んだけれど。
キヒヒヒヒヒヒヒ・・・
怪人はさも嬉しそうに含み笑いを響かせながら。
オ前ノ亭主ガオ前ノ血ヲ勧メテクレタノダ。観念スルンダナ。
そういいながら、白と黒の水玉もようのワンピースの脇腹に、
おもむろに吸血管を刺し込んだ。
―――きゃあっ。
妻はひと声、呻くと、そのまま失神した。
シュワシュワシュワシュワ・・・
さっきわたしの血を吸い取ったばかりの、あの忌まわしい音が。
妻の身体のうえにも、おおいかぶさってゆく。

洗練されたワンピース姿におおいかぶさった大ビルは。
妻のうなじにも飢えた吸盤をあてがって。
シュワシュワシュワシュワ・・・
情け容赦なく、食事に没頭する。
くねくねと床の上をくねる触手は、妻のふくらはぎに巻きついていって。
れ、令子・・・っ!?
叫ぶわたしの目のまえで。
肌色のストッキングがみるみるうちにくしゃくしゃに堕とされていった。

ママッ!! か、母さんっ!?
子供たちの声に、応じるように。
振り向いた妻の目許には、蒼白いアイシャドウ。
キヒヒヒヒヒ・・・似合いだな。
大ビルにほめられた妻は、ちょっと羞ずかしげに俯いたが。
呪わしいほどハッキリとした声で。たぶん本人が夢にも思っていなかっただろう言葉を呟いている。
どうぞ、子供たちの血も、愉しんでくださいね。

シュワシュワシュワシュワシュワ・・・
半ズボンの下、ねずみ色のハイソックスの脚に巻きついた触手を、どうすることもできないで。
息子はずり落ちたハイソックスを赤黒く染めながら、意識を喪ってゆく。
シュワシュワシュワシュワ・・・
フリルのついた真っ白なハイソックスをずり落としながら。
娘もおさげ髪の頭を、がっくり俯けていった。

だれもかれもが、目許に蒼白いアイシャドウ。
息子に似合うわけのない、まだ稚ない娘に似合うわけもない。
違和感ばかりが漂う形相を。
大ビルは好のましげに見まわした。
オ前タチノ血ハ、アトノ愉シミノタメニ、取ッテオク。
トキドキ吸イニ来ルカラナ。
妻はにこやかに、ほほ笑んで。
子供は早く寝るのよ。
母親の顔に戻っていて。
もっと血を吸われたがった息子と娘を、たしなめると。
つづきはあしたの夜に。新しいハイソックス履いていらっしゃいね。
ドアの向こうへと、押しやっていった。

私にはまだ、御用がおありなんでしょ?
別人のように冷ややかな響きを持つ、妻の声。
キヒヒヒヒヒッ・・・
大ビルの嗤いが、いっそういやらしさを帯びていった。
モノ分カリノイイ奥サンダナ。エ?
わたしの顔を覗き込んだ大ビルに。
主人のわたしも、もの分かりはいいほうですよ。
応えてやった。
妻を生かしておいたのは、そちらの愉しみもありだから・・・でしょう?って。

お気に召していただいて、夫として嬉しいです。
どうぞ妻をぞんぶんに、あしらってください。
ヨカロウ。オ前ノ望ミトアラバ、カナエテツカワソウ。アリガタク思ノダゾ。
妻は自分からぶりぶりと、血のついたワンピースを、引き裂いていって。
怪人の鉤のように太い爪が、ブラジャーの吊り紐を切り裂いていた。
全体重をかけてのしかかる大ビルの下。
緩慢にばたつく脚が、キュッと立膝になる。
脱げかかった肌色のストッキングが、ふしだらにずるずると、すべり堕ちていった。

オ前ノ妻ハ、戦闘員ノ性欲処理ニ使用スル。
ワシノ女ニナッタ特権デ、凌辱対象ハ二名ニ限ッテヤル。
オ前モ好キナトキニ、妻ヲ抱トヨイ。
放心した妻に、全身黒ずくめの戦闘員がふたり、
イィ・・・イィ・・・
怪音を発しながら、代わる代わるのしかかっていった。
略奪するような荒々しいあしらいに身をまかせながら、
妻は意識も朦朧となりながら、へらへらと笑いこけている。
イィ・・・イィ・・・
獣どもの声が、侵蝕された自宅のリビングのなか、ひどく嬉しげに響き渡った。

オ前タチハ我々ノ奴隷。
女房ハ娼婦。
毎週一度ハ、血ヲ吸イニクルカラナ。
わたしは恐る恐る、そのくせはっきりと。
頷きを、かえしてしまっていた。
知らず知らず、ぬらぬらと。
透明な粘液が、わたしの股間を浸している。
恥ずかしいようすを、すっかり見届けた妻は。
蒼白いアイシャドウの目許を、冷然と引き締めて。
優雅にウェーブした髪を、事務的にささっと掻きのけると。
では、そういうことで。
出てゆく男どもを、丁重に見送っていった。

見かけはそれからも、仲良し家族。
いつも優雅に装うおしゃれな妻に、
服を泥だらけにして帰って来た息子と、おてんば娘。
けれども週に一回は、”番組”が始まる。
照明を落としたリビングのなかは、惨劇のリプレイの場。
お気に入りのワンピースを惜しげもなく血だらけにしながら、
娘ははしゃぎながら、気前よく血を吸い取られてゆくし、
息子は怪人の吸血管や吸盤、触手に触らせてもらいながら、
解説を聞きながら、自分から胸に吸盤をあてがって、Tシャツを真っ赤に染めていく。
すごいね。ホラー映画みたいだねって、昂奮しながら。

子供たちが気を失うほど血を摂られると。
大ビルと戦闘員たちは、妻を拉致していく。
行き先は、近在のアジト。
オ前ハ妻ノフシダラナ行イヲ、トックリト見届ケルノダ。
妻は冷然と、蒼いアイシャドウの目許を引き締めて。
では、そういうことで。
素っ気ないほど他人行儀に、わたしに向かって会釈をすると。
黒の礼服に黒のストッキングの装いを、
大ビルのヌラヌラ濡れた触手にゆだねてゆく。
ぱりっ。ぶちぶち・・・っ・・・
他愛なく引き裂かれてゆく礼装のすき間から、真っ白な肌が露出した。

怪人たちの饗宴

2009年08月18日(Tue) 11:19:25

ふすまを開けはなった隣室から。
女のすすり泣きが、洩れて来る。
まだ服を着たままの女は、仰向けになったまま。
醜悪な肢体の持ち主である怪人に抱きすくめられていて。
注射針のように鋭利な吸血管の先端を、首筋にちくりと埋め込まれていた。
うぅ~っ・・・、く、くう・・・うううっ・・・
細く震えを帯びた呻吟の声に、「キヒヒヒヒヒヒヒッ」と嬉しげな声が覆いかぶさっていて。
嬉しげな響きがあがるたび、透明なチューブ状の吸血管のなか、赤黒い液体の通り抜ける速さが増すようだった。

傍らに立ったまま縛られたセーラー服姿の少女は、黒のストッキングのつま先を、居心地悪そうにたたみにつけて、
やがて自分に覆いかぶさって来るであろう運命を見せつけられるままになっていた。
恐怖に引きつるノーブルなおもざしは、目の前で難に遭っている女のそれと似通っていて。
どうやら拉し去られてきたのが母娘らしいと、容易に察することができた。

母親がぐったりとなると、深く突き刺した吸血管を、胸元からグイッと引き抜いて。
こんどは娘のセーラー服の襟首に、忍びこませてゆく。
「キャーッ!」
絹を引き裂くような悲鳴とは、こういう悲鳴を言うのだろう。
いちど空になりかかった透明なチューブ状の吸血管は、ふたたび赤黒い液体で満たされた。
はたち前の娘の、うら若い血液に。
怪人はひどく満足げに、「クヒヒヒヒヒヒヒッ」と、随喜の呻きをあげている。
一方的な吸血に、娘は表情をこわばらせて、
ちょっとのあいだ、耐えるように黒のストッキングを履いた脚をたたみの上に踏ん張ったけれど、
やがてくたくたとくず折れるように姿勢を崩して、ずるずると背中をすべらせて、尻もちをつくようにして。
ロープを巻かれたままの制服姿を、自からの作った血だまりの上に浸してしまっていた。

「命だけは、ね。お願い・・・」
三人めは、勤め帰りのOLらしい。
以前にも襲撃を受けた経験があるのか、吸血を許すのと引き換えに、必死に命ごいをしていた。
若い女の選択は賢明だった。
怪人は愉しげに三たび、透明な吸血管をバラ色の血液で満たしていくと、
それだけでは飽き足らず、接吻するように女のうなじに食いついて、スーツの肩先を汚している。
制服の少女の傍ら、女はくたりと腰を落として。
足許ににじり寄ってくる怪人の唇を避けようとして、いともやすやすと足首をつかまれて。
吸いつけられた唇の下、ふくらはぎを包むストッキングがふしだらにねじれてゆく足許から、悔しそうに目をそむけていった。

「何をしている?お前ぇもやって、かまわないんだぜ?」
怪人のそそのかす声に、わたしははっと我に返った。
はぜるような渇きが、本能的にせり上がってくる。
「ここに引き入れられた女たちは、半ば承諾済みの身のうえ。同情など無用のことだ。早く、養分をむさぼるがいい」
肩のつけ根から生えてきたばかりの吸血管が、わたしの本能をあらわにするようにしなり始めた。
むくりと鎌首をもたげたそいつは、かすかに人間の感性を宿しているわたしの意思とは裏腹に。
さいしょに倒れた女の二の腕に、ヘビのようにからみついてゆく。
吸血管の先端が皮膚に突き刺さる微妙な手ごたえが、
かすかに残った理性をあの忌まわしい悦びで否応なく塗り替えてゆこうとする。

「うふふふ・・・ふふふ・・・クククククッ・・・」
抱きすくめた母親にのしかかって首筋をなめ始めたわたしのすぐ傍らで。
怪人はOLのスーツをはぎ取り、スカートのすそを割っていた。
―――多少のことは、構わないのだぞ・・・
わたしの運命を変えた男は、訳知り顔にそう囁いて。
さいごに残った一抹の罪悪感さえ、拭い去ろうとする。
けだるそうな抗いを掻きのけて、身体のあちこちに、唇を這わせていって。
女の熟れた肢体からもたらされる暖かい体液は、すさんで棘だった気分をうっとりと和らげてくれる。
怪人が母親の脚にとりついて、OLのときと同じように肌色のストッキングを凌辱し始めると。
わたしはその娘のスカートをたくし上げて、黒のストッキングのふくらはぎに唇をあてる。
「お前の舐めかたは、念が入っているな」
怪人は、言ってほしくないことを容赦なく指摘する。
「ただの餌だと割り切るのだ。馴れればいずれは、そうなるのだから」
つい、想像してしまうのさ。
遮るようにして、わたしはつい口にする。

このブラウスは、ご主人に買ってもらったものなのかと。
この黒髪を、毎晩しかるべきひとに、めでてもらっていたのかと。
初めて制服に袖をとおすとき、この娘はどんな期待をよぎらせていたのかと。
黒のストッキングに唇をつけるとき、初めて脚に通した時の大人っぽい気分はどんなものだったのかと。

ふん。
あしらうような反応だった。
怪人は軽蔑したように、そっぽを向くと。
まず母親の身に着けていた肌色のストッキングを。
つぎに娘の履いていた黒のストッキングを。
こともなげに、はじけさせていて。
見るかげもなくなるほど噛み破り、脛までずり下ろしていった。
まずOLを。それから、母親を。腰を思い切り上下させながら、踏みにじって。
けれども娘だけは、犯そうとしなかった。
処女の生き血は、貴重だからな。
多少のことは、構わないんだが・・・

多少のことは、構わない。
そう。
わたし自身を、堕としたあと。
それとまったくおなじことを、この怪人はわたしの家族に降り注いでいった。
その記憶が、まだわたしには、残っている。
やがて、消えるさ・・・
そういう彼もかつては、やはりわたしを引きずり込んだのとおなじやり口を、仲間から受けたことがあったのだろうか。
そう、やがて消える。順ぐりに・・・
別れ際わたしは無表情に、生命だけは助けてくれた妻と娘を、週末呼び寄せてやることを約束している。


あとがき
う~ん、ちょっと長いし、くど過ぎるかも。。。 ^^;

愛しの吸血管

2009年08月05日(Wed) 07:49:47

たった今まで、わたしの胸に突き刺さっていた吸血管が。
怯える妻の胸元に、迫っている。
引き抜かれた直後の管の先端からは、まだ吸い取ったばかりのわたしの血がしたたっていた。
逃れようとする妻の行く先を、長い長い触手が封じていった。
ねばねばとした粘液を、うわぐすりように光らせた触手は、
見慣れた妻のブラウス姿をぎゅううっ・・・と、締めつけていって。
ふりかざされた吸血管が、まるでとどめを刺すように。
ずぶり・・・
ブラウスの襟首深く、埋め込まれる。
きゃあああっ。
断末魔の叫びとともに。
抜き取られてゆく妻の血が、透明な吸血管を伝わってゆく。
不思議にも。
冷え切ったわたしの身体までが、ぬくもるような錯覚を覚えて。
妻の血が抜かれてゆくありさまを、わたしはワクワクとして、見守っている。
いちど血を抜かれてしまうと。
こんどはべつのものの血で、あの吸血管を満たしたくなってくる。
恐るべき魔性を秘めた怪人だった。

からになったビールびんみたいに、わたしの傍らごろりと転がされた妻の身体。
土気色になった頬を、めいっぱいほほ笑ませて。
妻はわたしの同類になったことを、悦んでいた。
ねぇ。わたしたちの血。おいしかったようね♪
吸い残しておいてくれたら、もっと吸わせてあげたのにね。
一滴でも吸い残したら、失礼にあたるんだそうだよ。
ひと足先にあちらの世界に踏み込んだわたしは、
物知りげに妻に解説を試みていた。

つぎは・・・睦美の番ですね。
そうだな。わたしたちの血がおいしかったのだから、娘の血がまずかろうはずがない。
ふたりそろって、娘の勉強部屋に引き入れた怪人は。
真っ白なハイソックスのふくらはぎを、あの触手で撫でまわしてゆく。
ずぶり・・・
苦悶にゆがむ唇の下。
あの吸血管が、わたしたちの娘の血を、いともおいしそうに吸い上げてゆく光景を。
わたしたち夫婦は固唾をのんで見守っていた。

ママも薄情だね。
跡取り息子を放置するなんて。
さいきん色気づいてきた息子は、久しぶりに履く半ズボンに照れ笑いを浮かべながら。
すこし寸足らずな娘のハイソックスを、めいっぱいひざ下まで引き延ばしていって。
触手って、ぬるぬるとしてキモチいいんだね。
妹のハイソックスが、すねの周りでくしゃくしゃになってゆくのを、面白そうに見つめていて。
ぶすりと刺されたときには、きゃっ、と小娘みたいに。くすぐったそうな声をあげていて。
吸血管を満たしてゆくバラ色の液体に、うっとりと見とれていた。
ボクの彼女の家、母子家庭なんだ。
血が足りなくなったら、こんど手引きしてあげるからね。
こうして一夜にして、家族全員が。
怪人の奴隷に堕ちていた。


あとがき
意味のないお話になっちゃいました。(^^ゞ

怪人さん、よいお目覚めで^^

2009年07月21日(Tue) 06:56:00

けさも怪人が、闇の世界からお出ましになった。
朝の支度中の女房と、登校まえの娘をつかまえて。
ごくりごくり・・・と、血を啖らっていった。
いつもながらの、お盛んな食欲だった。
白目をむいてぶっ倒れた女房は、ごていねいにもスカートのなかまでまさぐられて。
あへあへとはしたなく、おめいていた。
ついひと月まえまでは、わたししか識らない身体だったはずなのに。

怪人保護条例がひそかに施行されているこの街では。
怪人たちに危害を加えるのは、ご法度である。
妻や娘を怪人に襲われて、血を吸われたり犯されたりしてしまう・・・とわかっていても。
一家の夫や父親たちは、自分たちの女家族に明らかに不埒な意図をもった彼らを、
すすんで自宅に招待しなければならなかった。
夫や父親たちの手ほどきで。
娘たちは処女の生き血を捧げる歓びに目ざめ、
人妻たちは、夫公認の不倫に酔い痴れる。

世界征服は、このひとたちには無理そうだけど。
我が家はすっかり征服されちゃいましたね。
妻はそんな風に、うそぶいた。
世界征服のために、養分たっぷり吸い取られちゃった。
新調したばかりのスーツごし、吸血管でぶすぶす突かれて、穴だらけにされていた。
スーツの新調、この季節に何度目かしら?って。
ちょっと嬉しそうな上目遣いをしてみせた。

透明なチューブで血を吸い取られるのは、キモチ悪いけど。
抜かれ切っちゃうと、スッとするんだ・・・
娘は、ひっそりと呟いて。
長い髪の毛を、けだるそうに掻き除ける。
ショジョの血が、お気に入りだっていうから。。。犯されるのガマンしてるんだけど。
ママの血だって、吸うもんね。
あたしも早く、犯してもらいたいな♪
彼氏の許可だって、もらっているんだもの。
さっ、早く学校行かなきゃ。遅刻しちゃうから。
セーラー服の胸元に大胆に横切るしたたりを見せつけるようにして、
なにごともなかったかのように、登校していった。

出勤まえ

2009年07月13日(Mon) 07:36:31

行ってきま~す
朝なのにちょっと気の抜けた声を投げて、登校していく娘のことを、夫婦で見送って。
さて・・・おれも出かけるかな。
やっぱりけだるい声を投げると、妻はかいがいしくスーツの上着を取り上げる。
さりげなくスッと身を寄せてきて。
意味ありげに、囁いた。
あの子もそろそろ・・・ですわね。
早い子は、中学にあがってすぐに、体験している。
隣の家に住む、娘の幼馴染みの少女も。
入学式の帰り道、父親の触手に巻かれて、黄色い声をあげていた。

そう。
どこにでもいる父親を、演じながら。
正体は、生まれもつかぬ怪人となった身。
ワイシャツのそで口から覗く手が、一瞬グロテスクな緑色の光に包まれた。
だめ、だめ。家のなかだけですよ。
妻は肩まで伸ばした髪をかきのけて、首すじのあたりをくつろげる。
齢不相応に、お嬢さんのようなウェーブのかかった髪が、つややかに揺れた。
袖から覗いた手首が不自然に伸びていって、妻のうなじにからみつく。
半透明な緑色をした触手は、ヘビのように甲羅ばっていて、
そのくせ妙にぬるぬるとした粘液に包まれている。
触手の透きとおった部分が、妻の血の色をあやしはじめて、
目のまえの女体はうっとりと寄り添いながら、しずかにその身をくねらせてゆく。

きょうもだれかを、襲ってくるのね―――?
妻の瞳のなかにある色は、嫉妬なのか哀しみなのか。
それとも、心からの愉悦なのか。
あぁ、人の血はいくらあっても、多すぎることはないのだからね。
わたしは甲羅ばった頬と触手を、素早くスーツの奥にしまい込んで。
通勤かばんを手に取った。
帰りは、遅くなるよ。夜は部長のお宅に招ばれているからね。
部長には中学と高校の娘がいるはずだ。
後輩の結婚式で顔を合わせた奥さんも、部長にはもったいないほど脂ののりきった美人だった。

怪人の棲む病院

2009年05月18日(Mon) 06:52:23

画面に映し出されたのは。
真っ黒な背景に、赤いテロップ。
題して。
「襲われるナースステーション」

たしかに、この病院の看護婦たちだった。
おそろいの白衣をひるがえして。
いちように、恐怖の色をありありとたたえながら。
三人、もつれ合うようにして、部屋の隅に追い詰められてゆく。
恐怖におびえる女たちのまえに立ちふさがるのは、グロテスクな体形をした怪人。
2メートルはあろうかという背丈。グロテスクごつごつのついた皮膚。
なによりも。指先から長く伸びた吸血管が。
女たちの柔肌を、狙っていた。
キヒヒヒヒヒヒヒ・・・
吸血管の鋭い切っ先が、白衣のすき間を狙っていた。
「お前たちの血を、おれのエネルギーにする」
芝居がかった宣告に。
看護婦たちは、度を失っていた。

ぶすり。ぎゅう~っ。
一人めの看護婦が、白衣の胸に吸血管を突き立てられた。
あうううっ・・・!
悲痛な呻きをもらして仰け反る女は、みるみる顔色を変えてゆく。
同僚ふたりは、仲間を助けることも出来ずに、ただ口許を抑えて悲鳴をこらえているだけ。
意思を喪った泥人形が、鉛色の顔をして床に転がると。
二人めの犠牲者が、毒牙にかかる。
キヒヒヒヒヒヒヒ・・・
首っ玉を抑えつけられて、うなじに吸血管を刺し込まれた。
あああああっ・・・
白目を剥いた看護婦は、別人のようにふやけた陶酔の色を浮かべながら、
透明な吸血管を、自分の血で赤黒く満たしていった。
あ・・・あ・・・あ・・・
さいごに残ったのは、いちばん若い看護婦だった。
ナースキャップを振り落して逃れようとするのを、肩をつかまえて、こぼれおちた黒髪をたぐり寄せて。
キヒヒヒヒヒヒヒ・・・
嬉しそうな随喜の声が、女の悲鳴におおいかぶさった。
若い看護婦は白衣をびりびりと引き裂かれて、むき出しにされた白い肌に、鋭利な吸血管を吸い込まれた。
ゆっくりと引き抜かれてゆくバラ色の液体が、女から顔色を奪っていった。

倒れた三人の看護婦の足許に、にじり寄って。
怪人は床に這わせた触手で、白のストッキングに包まれた脚を撫でまわしている。
どろりとした粘液をうわぐすりのように光らせた触手は、
しなしなとくねりながら女の脚に巻きついてゆく。
薄手のストッキングはねじれて波打ち、しまいにオブラアトをとろかすように引き裂かれていった。

―――どうかね?少しは面白かった?
白衣の院長は、わたしのことを冷静に観察していたらしい。
だいじょうぶ。あなたは適合するようだね。では、治療を始めよう。
そっけなく言った横顔に、冷やかな笑みがよぎった。
わたしをその部屋に導き入れるとき。
ちょっとためらいながらも、囁いてきた。
あのドラマの続きなんだが。わたしの妻もヒロインなんだ。
つぎに襲われるのは、院長夫人と令嬢。
わかるかね?いまのきみと同じなのさ。

ひた・・・ひた・・・ひた・・・ひた・・・
身体じゅうにまとわりついている粘液は、足音さえも消すらしい。
怪人が目指している病室にいるのは、わたしの妻と娘。
閉ざされたドアの向こう側。
きゃあ~っ!
ふた色の絶叫が、わたしの耳をつんざいた。

ドアからは一歩も入ってはいけない。
けれども理性を超えると、人間なにをするかわからないからね。
開いたドアの向こう側には、鉄格子が嵌められていた。
怪人はいったいどうやって、この鉄格子を抜けたのだろう?
そんな疑問は、荒々しい光景をまえに吹っ飛んでいた。

黒一色のスーツ姿の妻が、怪人の触手に巻かれている。
制服姿の娘は、両手で口を覆って立ちすくむばかり。
さっきのドラマと寸分たがわぬ光景のなか、妻と娘がさらされていた。
怪人のふりかざす鋭利な吸血管が、病室の照明にきらりと光った。
ぶすり・・・
あうううううっ!
吸血管に吸い出されてゆく妻の血は、どす黒かった。
キヒヒヒヒヒヒヒ・・・
あの忌まわしい笑い声が、病室に響いていた。

壁ぎわに追い詰められて、尻もちをついた娘は、とうとう立ち上がることができなかった。
キヒヒヒヒヒヒヒ・・・
怪人は容赦なく娘を捕まえると、セーラー服のえり首ごし、
たったいま、妻の生き血を吸い取ったばかりの吸血管を、初々しい胸許に刺してゆく。
ああ~っ!
キヒヒヒヒヒヒヒ・・・
ぬらぬらとした緑色の触手に巻かれながら、絶叫する娘。
うねうねともつれた細長い吸血管は、バラ色の液体でカーブを描く。
若い娘を相手にしているときのほうが、嬉しそうな声だった。

横たわる二対の脚。
娘は、ひざ下までの白のハイソックス。
妻は、スーツに合わせた黒のストッキング。
まだ血色の残っている足許は、しなやかなナイロンの生地ごしに、ピンク色のふくらはぎをかすかに透きとおらせている。
キヒヒヒヒヒヒヒ・・・
順ぐりに巻かれてゆく、妻の脚。娘の脚。
女たちのストッキングやハイソックスは、いとも愉しげに引き剥かれ、ずり降ろされてゆく。
スカートのなかに侵入した触手は、奥の奥まで愉しんでいた。
気丈な妻も。
年頃になって生意気になった娘も。
苦悶のなか、甘美な陶酔を滲ませて。
怪人の求めるまま、奥の奥まで許していった。

治療代は、いらないよ。
奥さんと娘さんからいただいた血で、おつりをあげたいくらいだからね。
その代り時々、奥さんと娘を、病院に連れてくることだ。
こんどは院長夫人と令嬢、四人まとめてご馳走してみようか。
妻同士、娘同士。仲良くなれそうじゃないか。
院長の含み笑いは、ひどく病的で、満ち足りたものだった。


あとがき
う~ん・・・
なんとも、無内容。(笑)

怪人の隠れ家

2008年08月04日(Mon) 07:23:39

正装した妻の背後に迫る怪人は。
シックな調度とも、棲む人の装いとも、いかにもマッチしないグロテスクな姿。
2メートルはある体長で、抱きすくめると。
下品な極彩色をした粘液まみれの猿臂のなか。
華奢な礼装姿を呑み込んでしまう。
白のブラウスに、くい入るように。
透明な吸血チューブを、ぐるぐると巻きつけて。
もだえる妻は、ブラウスごし乳房を浮き彫りにしながら。
首筋に迫らされた吸血管の先端を、指先でもてあそびながら。
自分の手で、ぶすりと突き刺してしまっていた。

ふやけた顔つきの妻は、横抱きにされたまま。
束ねた長い黒髪を、じゅうたんまでぶらりと垂らしていた。
あとは・・・わかっているだろうな。
それだけは・・・よしてくれ。
震えた声の拒絶を、あざ笑いで受け流すと。
おまえの体面は、じゅうぶん取り繕ってやったぞ・・・・と、
こちらの本心を見透かすようなことを言って。
夫婦の寝室に待つ無表情な戦闘員三名に、この家の主婦を投げ渡していた。

乱れたシーツのうえ、戦闘員たちによる凌辱がづづいている。
もうガマンできない・・・切なげにひと声、洩らしたうめきが呼び水になって。
着崩れした礼装を、惜しげもなく破り取らせながら。
妻は凌辱の渦のなかに、巻かれてゆく。
淫らな血ほど、採血に適している。
怪人の声には、姿に似合わぬ深い響きがあった。
かわるがわる、犯されながら。
首筋には、吸血管を突きたてられて。
透明なチューブを、真っ赤に浸しながら。
妻はまつ毛をナーヴァスに、震えさせながら。
戦闘員たちの腰が股間に沈み込むたび、随喜のうめき声をガマンできなくなっていた。

そう、ここは怪人の隠れ家。
昼間は旧家の邸宅でも。
夜になると一転、不夜城になりかわる。
占領された邸宅は、怪人たちの饗宴の場。
初めての夜のリプレイに、わたしは危うい想いに胸を焦がしている。


あとがき
解放された罪なき市民たちが。
血管の奥深くそそぎこまれたマゾヒスティックな本能を呼び覚まされて。
退治されてしまったはずの怪人を、家にかくまって。
家族の血で、養いつづけて。
初めて襲撃された夜のリプレイをくり返されながら。
妖しい歓びに目ざめてゆく。
そんなプロット、お気に入りなのです。^^

凌辱の森

2008年07月26日(Sat) 06:47:42

夜の闇が、しらじらと明けてきた。
夏場とはいえ、高原の森に漂う透明な空気は涼やかで。
日中の濁った蒸し暑さとは、同じ場所とは思えないほど。
朝霧にけぶる彼方から。
人影が足音もなく浮かび上がり、じょじょにこちらに近づいてくる。
二人、三人、・・・五人、六人・・・
ぜんぶで一ダースほどの人影の一番後ろから姿を現したのは、異形の怪人。
両腕から垂れ下がる触手をぶらぶらさせながら、
のしのしと無造作な足取りをこちらに向けてくる。
その時分には、前のほうの人の列は、ひとりひとり見分けがつくほど近まってきて。
先頭を歩くのは、妻。
半歩遅れて歩みを進めるのは、妹。
すこし遅れて母までもが、二列に並んだ黒い影に、付き添われるように、取り囲まれるように、
おなじ歩みを進めてくる。
怪人の尖った頭が、しなる触手が。
冷酷そうな口許が。
紅く生々しく濡れているのは、彼女たちの身体をめぐっていた血潮。

「コノアタリデヨカロウ」
葬列のように無言の一行を、機械的な声がひきとどめた。
怪人の発したものだった。
まず、先頭を歩いていた妻が。
無表情に、一同のほうへと向き直る。
紺と白のボーダー柄のシャツに、濃紺のスカート。
ほとんど暗い色調の装いに、白っぽいストッキングを穿いた脚が、鮮やかに浮き上がっている。
怪人は、死刑執行人が振り下ろす鎌のように、妻の胸元に吸血管を振りかざして。
ぶすり・・・
ものの見事に、突き刺していた。
ひっ・・・
ひと声、かすかなうめき声を発しただけで。
黒ずくめの連中に両肩を抑えられた妻は。
立ったまま硬直し、透明なチューブ状の吸血管を、赤黒く充たしていった。

紅く染まった吸血管のカーブが、うねうねとしなる以外、すべてのうごきが停止していた。
制止したシルエットからにじみ出るのは、むしり取るほどの荒々しい貪婪さ。
妻は力なく、ひざを折ると。
丈のある下草にくたくたと身を沈めていった。
つぎは、妹の番だった。
純白のセーラー服の下に着けている、濃紺のスカートに黒のストッキングが。
下肢の輪郭を重たげにしていたけれど。
セーラー服の胸に突き刺さった吸血管は、うら若い血を容赦なく吸い上げる。
触手の一端が、細い首に巻きついて、妹は稚なさの残った目鼻を苦しげに歪める。
首に巻きついた触手の先端は、白い線が三本走った襟首ごしに、ぬるりと這い込んで。
純白のセーラー服の内側から、不自然な隆起を見え隠れさせた。
控えめな胸に、貪婪なまさぐり。
妹はせめて、両腕を掴まれている母親のほうだけは見るまいと。
キュッと目を瞑り、顔を背けつづけている。
もういっぽうの触手は、黒のストッキングの足許に巻きついて。
肌の透けるほど薄いナイロンに、ぬらりと光る粘液を沁み込ませていきながら。
じわじわとゆがめ、しわ寄せてゆく。
ぶちち・・・っ。
とうとう耐えかねたように、ストッキングが裂けてしまうと。
ぐいいっ・・・
力を込めて引き抜かれた吸血管からは。
赤黒い血のりがぽたぽたと、草地に垂れてゆく。

濃紺のプリーツスカートを草地に埋めて尻もちをついた妹の向こう。
黒のブラックフォーマルに身を固めた母は。
軽く頬を引きつらせていたものの。
それでも気丈に、怪人の吸血管を、黒のブラウス越し深々と受け止めていた。
三人三様、熱情を秘めた血潮が、透明で無機質の吸血管を、かわるがわる充たしてゆく。
クククククククク・・・
獣じみた随喜の声をあげながら。
母の生き血を吸い終わった怪人は、娘や嫁の隣で尻もちをついた母の足許に、なおも執着して。
黒のストッキングごし、粘液にまみれた触手を、心地よげに巻きつけてゆく。

三人の背後に忍び寄る黒い影どもは。
てんでに、ブラウスやセーラー服に手をかけて。
びりびりっ・・・ブチブチッ・・・
おおっぴらな音をたてて、むぞうさに引き裂いてゆく。
ぁ・・・
女たちは、むき出しになった両肩を、心細げに二の腕で掻き抱いて。
あらわな胸を隠そうとする努力もむなしく、両手を引きはがれ、ブラジャーの吊り紐を断たれていった。

転がされた草地のうえ。
裂かれたストッキングを巻きつけたまま。
三対の下肢は、立てひざをし、ふくらはぎの筋肉をキュッと緊張させて。
しまいに太ももに、淫靡な血潮をめぐらせながら。
一人・・・ふたり・・・
のしかかってくる黒影どもと、夫婦どうぜんの契りを交し合ってゆく。
怪人は独りたたずみながら。
随喜にくねる女たちの脚に、時おり触手をからめていって。
脚の線から浮き上がり、ずるずるとずり落ちてゆく薄いストッキングを、
たくみに裂き取り、引き剥いでゆく。

さいごに、女たちをうつぶせに抑えつけた黒影どもの促すままに。
さいしょに、母。
それから、妻、
さいごに、妹。
順ぐりに、お尻のうえから、腰を合わせていって。
逞しい臀部を、沈み込ませて。
狂わせていった。

いい眺めだな。
しじまのかなたから、声がした。
女たちのきゃあきゃあという、はしゃぎ声に似た悲鳴が、一瞬遠のいた。
そうですね・・・
声のしたほうを、振り返りもせずに。
ぼそりと応えた声色が、昂ぶりを秘めている。
そっけなく抑えた声色からそれを聞き取ったらしい背後の声の主は。
母さん、いちばん長いね。
標的に選ばれただけでも、えらいと思ったんだがね。
おなじ種類の昂ぶりに、声色を震わせながら。
自分の妻が異形のものに征服され、ぶきっちょにしがみつきながら、じょじょに応えはじめてゆくのを。
ひどく満足げに、窺っている。
漆黒のスカートからはみ出した、純白のスリップ。
制服のプリーツスカートからあらわになった、むき出しの太もも。
似通った血の味は、怪人をひどく満足させたらしく。
母のときだけが、ひどく長かった。
佐恵子さんは、一番人気のようだね。
そう・・・新婚数ヶ月の若妻は、堕とされた草むらのうえ、大胆なポーズをとりながら。
黒影どもを相手に、腰を激しく振っていた。
あからさまで聞こえよがしな声を、あげながら。
美加はまだ、かわいそうだったかな。
だいじょうぶ・・・あいつらが濡らしているのは、太ももだけだから。
いまにしんそこ、思い知らされるだろうがね。
さて・・・そろそろ戻ろうか。
女たちに気づかれないように、寝たふりをしないとな。
わたしは声のするほうを、振り向きもしないで。
背後の声が去ってからも。
ただひたすら、静かに進行してゆく饗宴に、酔いしれていた。
堕とされてゆく日常―――。
妻はきっと、なに食わぬ顔で、朝餉の支度をするに違いない。

怪人に追い詰められて

2008年07月18日(Fri) 06:32:03

あの怪人さん、あんたの奥さんに執心やな。
傍らの同僚は関西弁で、わたしにそっと、囁いてくる。
夜更けの道。
息せき切って逃走をはかる妻は、時おり後ろを振り返りながら。
家の方角へと足を速める。
薄暗い街灯の下。
白のブラウスだけが鮮やかに浮き上がっていた。

声をひそめた同僚も。
夫であるこのわたしですらも。
邪魔が入らないように、見守るだけの立場。
わたしとほぼ同年輩であるらしいその男は、
言葉のなまりから関西出身としか、わからない。
レオタードのように全身に密着する戦闘服からは。
顔かたちはもちろんのこと、体格以外のいかなる情報も与えてくれないのだった。

もうどれほど、走ったことだろう?
運動神経の鈍かった妻が、こんなに長く走れるということを。
怪人のアシスタントに身を落としてから、初めて知ったわたし。
どこまでもつづく高い塀に仕切られた迷路のなかを。
妻は紺のスカートをひるがえして、懸命に駆けつづける。
白のブラウスが浮き立った上半身とは対照的に。
足許は、暗い。
それが身に着けている黒のストッキングのせいだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
月明かりと切れかかった街灯だけが頭上を支配する薄明のなか。
ただ、白のブラウスだけが、浮き上がって。
ブラウスだけが一枚、自らの意思でひらひらとなびいているようにさえ映る、
とても静かな光景―――。

とうとう、追い詰められてしまった。
袋小路になった無表情な壁を背に、妻は怯えて立ちすくんでいる。
内股になった両脚が、黒のストッキングに薄っすらと染まっているのが。
はじめてあからさまに、目に入った。
まんまと獲物を追い詰めた怪人は、甲殻類みたいにごつごつとした皮膚に鎧われていて。
威嚇するように触手をぶるんぶるんと振り回しながら。
その場にへたり込みそうになっている獲物をまえに、じりじりと距離を詰めてゆく。
ゆるく旋回する触手が発する鈍いうなりが、あたかも催眠術のように。
妻から抵抗の意思を奪っていった。

わざと一回だけ、逃げ切らせてやったのさ。
あるとき怪人は得意げに、こっそりそんなことを教えてくれた。
もしかすると、逃げ切れるかもしれない―――
そううい希望があれば、人は必死に逃げるもの。
だれだって、あらぬ辱めを受けたいなどとは、思わないからな。
毎週、木曜の夜。おなじ時間帯。
勤め帰りの妻を襲う受難は、定例と化していた。
怪人ものの特撮ドラマで、さいしょに襲われて血を吸われてしまう、無名のヒロイン。
妻の役柄は、まさにそれだった。
激しくかぶりを振って、いやいやをする女は。
からみつけられた触手に、くるくると全身を回転させながら、巻かれていって。
ぬるぬるとした粘液に光る触手に、着衣を乱されながら。
ブラウスの襟首に、ぐさりと吸血管を突き立てられてゆく。
「ああああああっ!」
たまぎる絶叫に、怪人はグフフフフフ・・・と、得意げな笑い声を重ねていって。
透明に輝く吸血管を、妻の血液で満たしていった。

ふふふ。一件落着やね。
同僚の男はわざとらしくぞんざいに肩をすくめて。
お役目ご苦労さん、ご同輩。
やけに親しげに、肩を叩いてきた。
さいごまで、見届けていくんやろ。
わしはこのへんで、おしまいや。
男は小手をかざして別れの会釈をすると。
ひっそりと足音を忍ばせながら、家路をたどっていった。
なぜかちょっぴりだけ、淋しげに。
きっとあいつも、わたしと同じように。
家族の生き血を、やつらに狙われているのだろう。
わたしはそう、直感した。
ふだんは深い身の上話は、お互いの間で厳禁されていた。
同僚のあいつに、今夜の犠牲者がだれなのかが告げられたのは、ほんとうに珍しい例外だった。
「今夜の獲物は、こいつの妻だ!」
せせら笑う怪人は、ほんとうに愉しそうだった。
わたしもくすぐったそうな顔をして、びっくりしたようすの同僚を窺っていた。

黒の網タイツにブーツを履いた彼の後ろ姿は、足取り速く去って行った。
それは、まるで悪役レスラーのコスチュームのようにこっけいだったが。
おなじなりをしたわたしが、口にできることではない。
さっきから。
太ももを締めつける網タイツの触感が。
まるで呪縛のように、皮膚の奥にまで食い入ってきて。
あらぬ高ぶりを、さそっているのだった。
目のまえで妻が、異形のものに生き血を吸い取られているというのに。
さいしょの夜。
ふつうのなりをしていたわたしは、縛られたまま。
触手に巻かれた妻が、生き血を吸い取られて狂わされてゆくありさまを見せつけられていた。
あのとき両腕に食い入ったロープと、いま身に着けている網タイツと。
なにがどれほど、違うのだろう?

”饗宴”は、最高潮に達していた。
白のブラウスのあちこちを、ほとばされた持ち主の鮮血で光らせながら。
妻はあえぎを深めていった。
不規則に散らされた赤黒い水玉もようが、じょじょに広がって。
そのうちブラウスの地の色が深紅と思えるほどに、染め抜いてしまうのだろう。
触手の片方は、おっぱいが浮き上がるほどつよく、ブラウスに包まれた上体を締めつけていて。
もう一方の触手は、黒のストッキングの足許を狙っていた。
エレガントな足許にしつように巻きつけられた触手は、
ぬるりぬるりと粘液を光らせながら。
ふらちな悪戯を、しつっこくくり返し、塗り重ねていって。
薄手のストッキングを蕩かすように、ぬめり尽くしていって。
しまいにブチブチと、音をたてながら。
薄々の装いを、他愛なくはじけさせてしまっている。
うなじに突き刺された吸血管を、自分の血で赤黒く満たしてゆきながら。
妻は恍惚となって、みずから血を捧げつづけている。
旨い・・・旨んまい・・・
怪人のささやきに、かすかに頷いて。
引き抜かれた吸血管を、手にとって。
自分の手で、胸元にあてがって、ブラウス越しにぐさりと突き刺していた。

ホホホホホ・・・
優雅な笑い声をころころと響かせながら。
自分の手で着衣を持ち主の血潮に染め抜いてゆく妻は。
破れ堕ちたストッキングから、むき出しにした太ももを、
街灯の下、惜しげもなくさらけ出したまま。
むたいな狼藉を、愉しみはじめている。
這いずり、転げまわったあげく、追い詰められた袋小路から抜け出した影は、
近くの川っぺりの土手までもつれあっていって。
きゃーっ!ははは・・・
あけっぴろげな声は、夜のしじまを突き破って。
ふたつの影は、からみ合いながら、土手の下に落ちていった。
背の高い草むらに見え隠れする光景を、わたしは固唾を飲んで、見届ける。
せり合わされた腰と腰が、狂った闇に沈むのを。

朝―――
早くしないと、遅刻よ~。
妻はお気に入りのストライプもようのエプロン姿。
いつものようにせかせかと、朝餉の支度に余念がない。
夕べの惨劇など、微塵も見られないほど、日常に溶け込んでいた。
ほら、あなたも。なにをぼやぼやしているの?電車に間に合わなくなりますよ。
軽く睨んだ視線を投げた後、反応をうかがうのももどかしく、そそくさと台所に戻ってゆく。
肩まで伸びた黒髪の合い間からちらと覗いた紅い痕だけが。
夕べの出来事が真実だと告げていて。
わたしはぞくりとして、現実から引き戻された。

制服姿の娘がばたばたと、玄関からあわただしく出て行こうとする。
ほんとうに遅刻寸前らしかった。
黒革のストラップシューズに、黒のストッキング。
母親似に内股をした脚つきが、一瞬とまって、
真新しく硬質に輝いた靴のすき間から覗いた脚の甲が、肌の透ける靴下ごしに、なまめかしく浮き上がるのが見えた。
娘が出て行ってしまって、喧騒が静寂に一瞬戻ると。
妻はゆっくりと後ろから近づいてきて。
わたしの想いを見通すように、囁きかける。
黒のストッキングが似合うようになりましたね。あの娘。
そろそろ怪人さんに、紹介してあげなくちゃね。
処女のうちに、血をあげないと。
怪人さん、きっとむくれてしまうわよ。
今夜はあの子、部活で遅いの。
半休、とっていらっしゃるんでしょう?
いつものように・・・ね。
着替えのコスチュームは、いつもの引き出しにちゃんと用意してありますから・・・


あとがき
どうしても夫をからませたがる、悪趣味な柏木です。(^^ゞ
昼間は日常を暮らしている家族なのに、
真夜中になると、襲われるヒロインと、襲う怪人の側に立つしもべに立場を変えています。
追われる妻。追い詰める夫。
愉しい鬼ごっこだと思います。^^

私んとこよりもはるかに妖しい怪人が出没する、舞方さんのブログでは。
みごと、三年連続アップを達成されたようです。
お祝い代わりに、こんなものをあっぷしてみました。
お祝いにならんか・・・?(笑)

触手に支配された街

2008年06月18日(Wed) 07:56:08

住民のほとんどが洗脳されて、吸血怪人に支配されてしまった街の話です。

「お引き合わせしましょう。妻と娘です。さあ、どうぞ。若い女の血を、ぞんぶんに絞り取ってください」
男はそういうと、怯える母娘を引き立てるようにして。
「さあ、おもてなしをするのだ」と、強要している。
母娘が怯えるのも、無理は無い。
初めて目にする怪人は、自分の背丈よりも体長の長い、大きなヒルのような身体つきをしていたのだから。
全身にヌメヌメとした粘液を光らせながら、すがりあう母娘を壁際に追い詰めてゆくのを。
男はフフフ・・・と、たちの悪そうな含み笑いで見守っていた。
まず母親が、折り目正しく装った和服の襟首に、触手を這い込まされた。
両手で口許をおおう娘の目のまえで。
ちゅーっ。
奇妙に機械的な音とともに、血液が抜き取られてゆく。
透明なチューブ状の吸血管を、母親の血が赤黒く充たしてゆくありさまに。
娘はその場にへなへなと、へたり込んでしまっていた。
白目を剥いて倒れ臥した母親の向こう側。
つぎはお前の番だ!
指差された触手は、ふくらみを帯びた胸元に突きつけられる。
タートルネックのセーターごしに、ズブリと突き刺さる吸血管に。
きゃあ―――っ!
少女は絶叫して、のけぞって。
けれどもやっぱり母親とおなじ経緯で、赤黒い血液を抜かれていった。

ふむふむ。
吸血管の先端にこびり着いた血液を、口に含んでいきながら。
やはり生娘の血は佳いのう・・・
父親の背丈よりもある大ヒルは、なおも物欲しげに少女にすり寄っていって。
真っ白なハイソックスのふくらはぎに、触手をにゅるにゅると巻きつけていく。
ひざ小僧の下、きりっと引き伸ばされたハイソックスは、みるみるくしゃくしゃに波打っていって。
セーターにしみ込んだのとおなじ赤黒い痕を、じわじわと広げていった。

ママ・・・。カオリお姉ちゃん。
つぎつぎと生き血を吸い取られてゆく光景を、窓越しに目の当たりにして。
マサル少年は、急いで玄関に回りこんでゆく。
とうてい間に合わないとわかっていながらも。
けなげにも、ふたりを救い出そうとしたのだった。
ママーッ!?お姉ちゃーんっ!
声張り上げて叫んだ玄関先。
けれども部屋の奥はシンと静まり返っていて。
マサル少年は、惨劇の起きた部屋のまん中に立ち尽くして、ぼうぜんとなっていた。
三人とも、影も形もなかったのだった。

どこだろう?
隣室に立ち去ろうとしたとき。
シューッ。シューッ・・・
押し殺すような音が、畳のうえを這い回るのに、少年は気がつかなかった。
薄暗い室内。
ねずみ色のハイソックスの足許に、少年の背後に、触手が忍び寄っていく。

あああああっ・・・
気がついたときには、もう遅かった。
少年の脚にしなやかに巻きつけられた触手は、じわじわと血を吸い出してゆく。
血に濡れたハイソックスのうえ、触手は少年の血の色を滲ませていて。
触手の活き活きとした彩りとは裏腹に、半ズボンの太ももはどす黒い紫に変色していた。
助けて。殺さないで・・・
けんめいの命乞いを、触手の主は寛大にも聞き届ける。
よかろう。その代わり、今夜はお前が母親と姉を連れ出してくるのだ。

ひたひた・・・ひたひた・・・
夜道を並んで歩く、三対の脚。
まぶたに別人のような翳りを帯びた少年は、先頭に立って。
母と姉をうながしてゆく。
たどり着いたのは、街はずれの沼。
三人の人影が水面に映ると。
それまで死んだように静かだった沼は、にわかにざわざわと波立ちはじめた。
さあ。おあがりよ。ママとお姉ちゃんを連れてきてやったから。
大蛇のように鎌首をもたげた触手たちは。
沼辺のベンチに腰かけた脚たちに、そろりそろりと迫ってゆく。
さいしょに、少年の脚が。
ハイソックスに血のりを滲ませた。

少年がうつろな目になって、失神すると。
ずり落ちて尻もちをついたすぐ隣。
制服姿の姉が、黒のストッキングの脚を触手にゆだねてゆく。
うふふふ・・・ふふ・・・
くすぐったそうな含み笑いを、うつろに響かせながら。
足許に加えられる凌辱を、愉しげに見おろしている。
巻きついてくる触手が、脛を蒼白く透きとおらせている黒ストッキングをくしゃくしゃにしていって。
しまいにブチブチと音をたててはじけさせてゆくと。
脚の白さを切れ切れに滲ませた下肢を、草地にじかに横たえて。
セーラー服のわき腹に。
白のラインも鮮やかな首周りに。
折り目正しいプリーツをくしゃくしゃに折り曲げたスカート越しに。
ヌルヌルと這い寄ってくる触手に、わが身をゆだねていった。

母親のほうは、さっきから。
紫のタイトスカートの下、肌色のスッキングの脚を狙われて。
唇噛みながら、足許に加えられる辱めから、視線を離せなくなっている。
巻きつけられた触手の下。
かすかな光沢を帯びた肌色のストッキングは。
ねじれ、ゆがんで、裂けていって。噛み剥がれ、堕ちてゆく。
ああ・・・
絶望のうめき声を、なぜか甘美に震えさせて。
まな娘と脚を並べて倒れ臥す。
キュウキュウ・・・キュウキュウ・・・
あからさまな吸血の音が、倒れた三人の人影におおいかぶさっていって。
闇がすべてを、支配してゆく。

数年後。
こんど、結婚する人だよ。
すでに大人びた翳をもった青年は。
かつて母や娘を生贄にしたように。
未来の花嫁を、沼地に伴っている。
ええっ?どういうことっ!?
怯えきった白タイツの脚は、立ちすくんだまま動けなくなっている。
ボクの友だち。
生娘の生き血が、好物なんだ。
ごちそうしてあげてくれるよね?
いつものように優しく語りかけてくる恋人の声色が、かえって怖ろしくくぐもっていた。

恋人に抑えつけられたか細い肩は。
これから加えられるしつような吸血に耐えられるのだろうか?
草地に怯える足許には、すでに触手がにじり寄っていて。
初々しいふくらはぎをまえに、もの欲しげにとぐろを巻いている。
さあ・・・破って御覧。
女のコの履いているタイツ・・・お好みなんだろう?
マサルは少年のころのように、声震わせて。
触手を恋人の脚に、巻きつけてゆく。
アア―――ッ!
魂切るような叫びを残して、髪振り乱した恋人が草地に倒れ臥すと。
少年は翳らせたまつ毛を、いっそうもの憂げにひそませながら。
手にしたヒルを、透きとおるうなじに貼りつけてゆく。
ううっ・・・
まつ毛を震わせて気を喪った恋人を。
軽く抱き寄せて。額に接吻をして。
首筋に貼りついたヒルが、みるみる赤黒く、醜く膨らんでゆくありさまを。
うつろに笑いながら、見守っていた。

寂しい夜道の口裏合わせ

2008年05月25日(Sun) 06:11:40

彼女を、紹介してやるよ。約束どおり。
いつもキミと待ち合わせているあの公園に、連れてきてやるから。
そう、やっぱり裏道がいいのかな?
キミは意外と、恥ずかしがりやさんだから。
あそこは、ボクの血を、キミにすっかり抜かれちゃった場所。
いまでも血管が渇きに疼くとき。
あの晩のことを思い出して、つい胸をずきずきさせてしまうのさ。

彼女、きっとおめかししてくるよ。
なにしろ、ボクとのデートだからね。
いつ抱かれてもいい・・・って、とっくに覚悟を決めているんだよ。
悔しいなぁ。
キミにはいちばんおいしいところを、もって行かれてしまうんだね。
黄色いワンピースが、彼女の一番のお気に入り。
ぴちぴちした太ももが覗くくらい、短い丈で。
今夜はボクだけじゃなくて。キミも・・・きっと目を奪われちゃうんだろうな。
デートのときにはいつも穿いてくる、肌色のストッキング。
きみ、むぞうさに破っちゃうんだろう?

どうやって、引き合わせようか?
彼女・・・まだキミやボクの正体を知らないんだ。
やっぱり、定番どおり・・・
ふたりとも襲われちゃう・・・って筋書きで、お願いしようかな。
さいしょに襲われるのは、もちろんボク。
きみはあの晩と同じように、彼女の目のまえで、ボクの生き血を吸い尽くす。
ごく短時間で、すませるのだろうね。
ボクの身体のなかに、血はもうほとんど、残っていないから。
さいしょは、痛そうな叫び。それからだんだんトーンを落としていって、さいごに和ませる。
そうすれば・・・彼女もどんなふうにキミの相手をすれば気に入られるのか、すぐに察しをつけるだろうから。

た、す、け、てーっ!
彼女はきっと、叫ぶだろう。
けれどもあたりは、人っこひとりいない、草ぼうぼうの寂しい夜道。
きみが彼女の血をまる呑みにしちゃうまで、助けはきっと、間に合わない。
えっ?ひと晩で吸い尽くすのは、もったいないって?
ボクもいま、そういおうと思っていたんだよ。

ボクの血に濡れた牙を、首筋に突きたてられて。
ぶちゅっ!って、唇を這わされちゃって。
いくらもがいても、キミの腕のなか。
彼女は抜け出すことができない。
くんずほぐれつ・・・の愉しい抗いのなか。
黄色いワンピースの肩先は、持ち主の血に濡れる。
腕から抜け出すほうが先か。
血を吸い取られて身動きできなくなっちゃうほうが先か。
もちろん勝負は、見えているんだよね?
キミはこういうとき、手加減しない人だから。
あー!早くもタイムリミット。
想像のなか、彼女は抵抗を弱めていって。
じょじょに姿勢を、崩していく。

うら若い女の生き血は、さぞかしおいしいことだろうね。
ほかならぬボクの彼女の生き血だから。
キミはさぞかし、気に入ってくれるだろう。
じゅるじゅる、ごくごく・・・って、いやらしい音を立てて。
せいぜいボクを、悔しがらせることだね。
いっぺんに吸い取っちゃ、いけないよ。約束だよ。
ボクは冷たい地面に頬を浸して。
彼女の血に酔いしれるキミを、羨望の目で見守りつづけているから。
あ・・・恨みっこなし・・・だったよね?
もちろんさ。
キミは彼女を、この世の極楽に堕としてくれるのだから。

身体のなかをめぐる血を、キミにぬるぬると吸い出されちゃって。
くたくたと力をなくして、地べたにひざ小僧を突いちゃって。
でもキミは、ボクを抑えつけたあの逞しい腕で、彼女の身を支えてくれるんだよね。
肌色のストッキングが、それ以上汚れないように。

ベンチに寝そべった彼女は、もう覚悟を決めちゃっている。
そう・・・捧げる相手が変わるだけで。
彼女は予定どおり、女になる。
もうすっかり、キミとは打ち解けちゃっていて。
支えてくれたお礼に・・・って、むっちり肉のついた太ももをさらけ出して。
泥をつけずにすんだ肌色のストッキングを穿いたまま、キミを愉しませちゃう。
あなただけよ・・・って、くすくす笑いながら。
彼氏の仇敵の飢えた唇に、柔らかい白い肌を惜しげもなく吸わせちゃって。
ストッキングを汚さずにすんだお礼だから・・・って。
黄色のワンピースの胸に、思い切りよく血を撥ねかせていく。

丈の高い草むらに、キミは彼女を投げ込んで。
狭い小道に脚だけ覗かせて。
彼女はキミの、エジキになる。
真夜中の婚礼は、満月だけが招待客。
嫁入り道具は、うら若い生き血と裂かれた着衣。
ちりちりに破けたストッキングは、ハイソックスみたいな丈になって、ひざ下までずり落ちていて。
堕とされたレディは、へらへら笑いながら、着衣を着崩れさせていく。

あたりに散らばった、ハンドバックの中身。
口紅、手鏡、ハンカチーフ。
ぴかぴか磨かれた、白いエナメルのハイヒールは、向きを変えて転がって。
花びらが散るように、浅ましくさらけ出された下着類。
ブラもパンティもおなじレエス柄の白なのを、ボクはどうしてか知っている。
そう。だって。
彼女のたんすの引き出しから抜き取ったストッキングを、身代わりに脚に通して。
キミに何回か、プレゼントしたんだったっけ。
脱ぎ捨てられたストッキングは、うつろな抜け殻みたいになって、草の穂先に引っ掛けられていて。
彼女がまだレディだったとき、足許を魅きたてていたあの光沢を、わずかな灯りに滲ませている。

黄色のワンピースだけは、脱ぎ捨てられずに、身に着けていて。
服のすき間のあちらこちらからチラチラこぼれる素肌は。
いっそ全裸より罪深く美しい。
彼女をモノにされちゃったボクは、情けないほど股間を昂ぶらせながら。
汚されて堕ちてゆく恋人の変貌を、毛すじひとすじ見逃すまいと、見守っている。
振り乱された栗色の髪の妖しいほつれも。
泣き濡れた頬に時おりよぎる、淫らな翳も。
太ももを伝い落ちる、バラ色の血も。
なにひとつ、見逃さないで。

え?そういうことだったの?
彼女は怒ると、頬をかわいく膨らませるんだ。
頬っぺたについた泥と、バラ色の血と、草の葉っぱを拭ってやって。
とっさにそむけた頬によぎった安堵の色を、ボクは見て見ないふりをする。
静脈の透ける白い肌にしみ込まされた淫蕩を、ボクはつぶさに見届けて。
これからもこんなふうに・・・愉しまないか?って、囁きかけて。
もぅ。
ツンとすました彼女の、柔らかなおっぱいに手をやると。
もうふりほどかないで、くにゅくにゅさせてくれちゃっている。
順番・・・だぜ?
キミのいけない囁きに、彼女は初々しく頬染めて。
けんかしないでね・・・って、いいながら。
抜き身の裸身をいさぎよく、濡れた泥にまみれさせてゆく。

週末のデートは、公園の裏道。
愉しい口裏あわせに、彼女も一枚くわわって。
きっと・・・そう。
こんどはきっとキミのために、女友だちを用意してくることだろう。

ワンピース40

花嫁たちの純潔

2008年04月25日(Fri) 20:21:02


ふーっふっふっふ・・・
笑い声に、エコーがかかっていた。
まるでテレビの子供向け番組に出てくる、怪人みたいだった。
壁ぎわに追い詰められて恐怖に震えているのは、新妻の緋紗代。
さっきまでおおぜいの親類友人に囲まれて、紺のカクテルドレスを着てはしゃいでいたのが嘘のように。
怯えて、縮み上がってしまっている。
部屋の外から斜めに射し込んでくるおぼろげな照明が、侵入者の影を長く引き伸ばしていて。
人間離れしたその人影は、ピンクのスーツ姿にゆっくりとおおいかぶさってゆく。
ただならぬ光景のはずなのに。
彼女を救うため足が前に出ないのは,いったいどうしたことだろう?
それもそのはず。
新郎の範彦はひと目侵入者と視線を合わせた瞬間、どうやら催眠術にかかってしまったみたいなのだ。

きゃっ。
緋紗代が恐怖に引きつった声をあげた。
抱きすくめられた腕の中。
ピンクのスーツに、不自然なしわが走った。
荒い息とともに解かれてゆくブラウスのタイ。
首すじにあてがわれた唇は、しつようなくらいつよく、女の肌を吸った。
うーっ。
顔をしかめて目を瞑り、なおも痛そうに眉毛がピンと吊りあがる。
吸いつけられた唇のすき間からは、ぽたぽたと赤いしずくがしたたり落ちた。
ちゅう~っ。
人をこばかにしたような、あからさまな音をたてて。
目のまえで緋紗代が、生き血を吸い取られてゆく。
吸血鬼だっ!
範彦はけんめいに、声をあげようとしたけれど。
カラカラになった喉はこわばって、ひくいうなり声を洩らしただけだった。
満面・・・いや身体じゅうがほてったようにのぼせていて、いつもとようすがひどく違っていた。
あ。オレ・・・どうかしてる・・・
昂奮してるんだ・・・って、気がついたときには。
新妻は、「うーん」とひと声呻いて、ベッドのなかに埋もれかかっていた。

く、ふ、ふ、ふ・・・
ピンクのスーツのすそからにょっきりと覗く緋紗代の脚は、黒のストッキングに包まれている。
薄手のナイロンごしに透ける白い脛に、惹きつけられるように。
怪人の唇が、ヒルのように吸いついた。
ナイロン製のしなやかな生地のうえからにゅるりとなすりつけられた唇は、そのままもの欲しげな唾液を光らせながら、脚線美をなぞるようにぬめりあげてゆく。
ストッキングに走るひきつれやたるみが、足許を彩る気品を猥褻な色香にかえていった。
ぐ、ふ、ふ、ふ、ふっ。
もはや、疑いなかった。
範彦の花嫁に向けられた欲望は、吸血だけにとどまらなかったのだ。
侵入者は肌脱ぎになると、新婦のスーツ姿のうえにのしかかってゆく。
はだけたブラウスやスカートのすき間から、生身の裸体をすべり込ませる。
あ、あっ!やめろ。やめてくれっ!
範彦の叫びは、むなしかった。
ブラウスの切れ端が、むしり取られた花びらのように床に散らばった。
力なくだらりと伸びた脚。
太ももまでのストッキングが、淑やかにも淫らにも映る薄墨色に、凌辱される女の下肢を彩っていた。
侵入を許した瞬間。
抗う手は動きをとめて、目じりからつつっ・・・と、涙がしたたり落ちる。
キュッと結ばれた口許からチラと覗いた歯の白さを、範彦は終生忘れないだろう。


ふーん。
姉さんそれで、落ち込んじゃっているのかな。
義兄からいちぶしじゅうを聞かされた和美は、声がわりした低いトーンで、まるで人ごとのようにつぶやいた。
自室のベッドのうえ、自堕落に寝そべりながら。
義兄も義兄で、そうシンコクな顔つきをしていたわけじゃない。
―――ねえねえ?姉さん処女だった?初夜のときの姉さんて、どうだったの?
無邪気にあからさまな質問を投げてきた新妻の弟に、新婚旅行の土産話みたいにして、初夜のようすをごくかいつまんで説明したのだった。
―――それがさー。緋紗代さん確かに処女だったんだよ。
―――義兄さんが犯すまではね?(笑)
―――いーや、さいしょに犯したのはボクじゃなくて、吸血鬼。
―――え、えー?
和美は面白いねたをつかまえた、という顔をして、次の義兄の言葉を待ち受けた。
ー―ー処女の生き血が好物なんだ。だから緋紗代さん、気絶するまで吸われちまったんだよ。
―――ウソだ。^^
―――どーして?
―――だってー。ボクが吸血鬼だったら、意識のあるうちに犯すよね。
鬼畜だなぁ。範彦は苦笑いをした。
やつの放った毒液でいくら麻酔をかけられていたとはいえ、痛そうに顔をしかめたあのときの緋紗代の面差しは、いつまでたっても忘れることはないであろう。
けれども彼は、もうひとつ「ねた」を持っていたのだ。

どうやって生きて帰れたか、わかるかい?
うーん、まさか吸血鬼氏と仲良くなっちゃったの?
図星なこたえに、内心びっくりしながら、範彦はあとをつづけた。
やっぱり乾いた口調のままだった。
まあ・・・そんなところかな。家にきたときは緋紗代の血を吸わせてやるって約束なんだ。
でもあいつ、処女には目がないからな。
言うんだぜ?
オレが征服した処女は、おまえの花嫁で12人めだ。13人目を紹介する権利をおまえに与えてやろう。
ってね。
それでボクは・・・キミと絵里ちゃんを推薦したんだ。
えーっ!?


ただいまー。
範彦が家に戻ると、迎えに出てお帰りなさいを言ったのは緋紗代ではなくて母の美登里だった。
実家と新居とはそう離れていないとはいえ、やたらと姑が新居に出入りするのは好ましくない。
範彦はちょっとだけ、顔をしかめた。
太り肉で迫力満点の美登里の脚は、てかてか光る肌色のストッキングのなかで、はち切れそうに見える。
母さん、珍しいね。光るストッキング履くなんて・・・思わず口にしようとしたら、思わぬ返事が返ってきた。
お宅の怪人さんが、光るやつ履いて来いっていうのよ~。
そんなストッキング、いつものスーパーに売ってないから、わざわざ街なかのデパートまで行ってきちゃった。
えー!?
よく見ると、てかてかのストッキングはあちらこちらぶちぶちと破けていて、目映いほどの光沢も、裂け目のあたりだけは途切れている。
ちょっと蒼ざめた頬の下、珍しく髪をアップにしてあらわに魅せた首筋には、ぽっちりと二つ、紅い咬み痕が綺麗に並んでいた。
お父さんには、しゃべっちゃダメよ。あの人ったら気が小さいから、気絶しちゃう。

あとから緋紗代に訊いたところだと、母親の振舞いは至極開けっぴろげで能天気なものだった。
きゃ~!どうしましょ。
ウキウキとはしゃぎながら怪人の猿臂に巻かれていって、うなじをちゅうちゅうやられてしまうと、
他愛もなく白目になって、たたみの上に仰向けにぶっ倒れたというのだ。
犯されているあいだも、おほほほほ・・・って。それは愉しそうに笑っていらしたわ。
緋紗代は自分よりも愉しんじゃっているようすの姑に、ホッとしたような困ったような、フクザツな顔をしていたけれど。
だってお義母さま・・・長いんですもの。
母の情事を語るさいちゅう、しじゅう不満げな顔色をしていた理由の大部分は、案外そんなあたりにあるのだろう。
そう。
新婚旅行帰りの彼女が元気がなかったのは、夫以外の男のために純潔を奪われたショックなどではなくて、たんなる失血と度重なる情交によるものだったのだ。

母さん頼むよ。破けたストッキング履いたまま帰るのだけは、よしてくれよ。
だって~。このストッキング高かったのよ。四千円もしたんだもの。
値段の問題じゃない。
いちど破かれ脱がされてしまったストッキングを、どうしてわざわざ履く気になるのだろう?
節約主義にも、ほどがある・・・
範彦は見当ちがいなところで、ぶつぶつ文句を言っている。
で・・・?
辺りを見回すと、妻の姿がない。
息子の顔色を察したように、母親はどこまでも能天気に言い放ったものだった。
あらー。察しがわるいわね。
母さんなんか、ほんのオードブルなのよ。本当のお目当ては、あなたの奥さん♪
緋紗代さん、張り切ってたわよ~。
ばっちりとおめかししちゃって、新婚旅行のときに着てったピンクのスーツ着込んでいたわ。
愉しげに息子を挑発する姑の声に応えるように、夫婦の寝室のほうから声が洩れてきた。
き、効くぅ~と言っているらしいのを、勤め帰りの夫はかろうじて聞き流している。


夫婦のベッドのうえ、緋紗代はスーツ姿のまま、荒縄でぐるぐる巻きにされていた。
あーあー。
お袋のことを、咎められない。笑うことさえできない。
範彦じしんも、もう能天気になってしまうしか、手がないようだった。
初夜の床を襲った吸血怪人は、女ふたりの血を吸って、鼻筋のとおったいい男になっていた。
水もしたたる・・・とはいうけれど。
母や妻の身体から吸い取った生き血を口許からしたたらせている侵入者は、整った白皙の面貌を輝かせて、憎らしいほどの二枚目ぶりである。
ようこそ。
しらけ切った範彦の声を気にするふうもなく、
怪人は、やあ・・・と気軽に会釈をかえしてきた。
妻が無事ですまなかったのは。
なかば剥ぎ取られた黒のストッキングの裂け目に滲んだ透明な体液からそれと知れた。
悪いが今夜ひと晩、緋紗代はオレの奴隷だぜ?
怪人は範彦の妻の名前をわざと呼び捨てにし意地悪く笑むと、女を促して、おとがいを仰のけさせる。
正座して待ち構える面前に、男は股間をさらけ出して、さっきまで存分な振舞いをしてのけた一物を、受け口になった唇のすき間に割り込ませてゆく。
うう・・・う。
夫のまえでの戯れに、さすがに緋紗代は顔を背けていたけれど。
唯々諾々と相手の意に従うようすと、嫌がっていない唇のうごきとが、すべてを裏切っていた。
妻の口許を濡らしているのは、自分の唾液なのか、男にしたたらされた精液なのか。
ぬらぬらとした淫蕩な輝きは、唇と陰部との区別を難しくしている。

和美くんには、言い含めてきたんだろうな?
自分の意思が通らないわけがない。
そう決めてかかっているような口ぶりにわざと水をさすように、
いちおう、話はしてきたよ。でも、決めるのは本人だからね。
で・・・?いつ、彼女をオレのところによこすつもりだ?
怪人はどこまでも、楽観的である。
そうした楽観的な態度だけは、ガマンならなかった。
なんとか、突き崩してやろうと思った。
まさか・・・どこの世界に自分の婚約者を連れてきて「さあ処女を奪ってください」っていう男がいるものか。
うーん・・・
怪人は腕組みをした。
しんそこ不可解なように首をひねっているようすに、範彦は思わず笑い出してしまった。
怪人の逆立った先端は、いまだに妻の唇に咥えられている。


そうかねそうかね。ぶじ、もどってきたのかね。
ああ・・・ああ・・・よくわかった。和美には私たちのほうからもよく言っておくよ。
それにしても・・・いまさらなことだけど。
わざわざあのホテルを結婚式場に択ぶなんて・・・ねぇ。
白髪交じりになった頭を時おり掻きながら、誠一郎は受話器を握ったまま、妻のほうをチラチラと盗み見ている。
会話の半分しか聞き取れないのに、妻のスミ子はおおよその内容を察してしまったらしい。
電話がまだつづきそうだと見て取ると、夫のほうをチラと見て、そそくさと立ちかけた。
受話器の口を抑えた夫の声が、あとを追いかける。
スポーツ・ジムに行くにしちゃ、ずいぶんとめかしこんだんだね。
夫の冷やかしをさりげなく受け流して、スミ子は黒のストッキングに透ける形のよい脚を玄関へと向けた。

行ってらっしゃい。
玄関先から、表向きだけのにこやかな表情を貼りつけて妻を送り出す夫に、
電話、切っちゃったんですか?
わざと小首をかしげて、訊いてみた。
さぐるような上目遣いをくすぐったそうに受け止めると。
スポーツ・ジムなら汗かいて、化粧直したりシャワー浴びたりするんだろうね?
ええ。髪の毛が濡れていても、ヘンじゃないですからね。
―――浮気に出かけるのよ。
ありありと顔に描きながら、スミ子はしゃあしゃあと応えていた。
この夫婦、仲はいいのだが・・・
合わないセックスだけが悩みの種で、子どもから手が離れてからはなかば黙認のかたちで、スミ子は夫よりもずっと年上の男のもとに入れ込んでいるのだ。
送り出すときに、こうした軽い詮索をして。
それに対して、ミエミエなウソをお返しして。
帰宅を迎えるときには、かすかな痕跡をさりげなく口にして。
迎えられるほうは、アクセサリイのように、情事の痕跡をこれ見よがしに身に着ける。
それが、夫婦のあいだでの儀式になっている。


出ていらっしゃい。遠慮はいらないのよ。御覧になっているんでしょう?
リンと響いた、よどみない声色に。
かなわないなぁ・・・和美は頭を掻き掻き、クローゼットのなかから姿をあらわした。
はは・・・お母さんのほうが、一枚うわ手だったね。
母の浮気相手はベッドのうえで、おうように笑っている。

中学二年生のときだった。
和美が初めて、母の浮気の現場を眼にしたのは。
いつも学校の父母会や授業参観のときに着てくる深緑のワンピースをはだけながら、
見知らぬ男にお尻を腰でつつかれながらアンアンともだえている母。
その光景は、それまでの人生が完璧に塗り変わってしまうくらいに衝撃だった。
黙ってるよ。ボク・・・
ママに優しい小父さんは、無条件にボクの味方。
じじつ、小父さんは引っ込み思案でいつも独りでいた和美の、よい遊び相手になってくれていた。
パパのことは尊敬しているし、キライじゃないけど・・・
でも、小父さんとママのことは黙っているね。
口止め料がわりなのか、濡れ場となる夫婦の寝室は、いつもドアが開けっぱなしになっていた。

女の子の服の着方や化粧の仕方を教えてくれたのも、小父さんだった。
和美は、女の子でも通用する名前だね。
小父さんは男の子にしてはさらさらとしたロングヘアを撫でながら、スカートを巻いた少年の腰を、逞しい自分のひざに乗せてあやしている。
それ以来。
姉の制服や母が浮気現場で着替えたあとのワンピースは、和美の”女の子ごっこ”のかっこうのねたになっていた。
和美の秘密のすべてを握っている小父さんは、いまではだいぶ闊達になった彼にとって、まだ救世主であり王様だったのだ。

範彦くんのお嫁さんは、とうとう頂戴できなかったなー。
王様のあけすけな言い草に、和美は目をぱちくりさせてしまった。
ママはおっぱいをぷりんとさらけ出したまま、小父さんのとなりに正座して、かしこまって耳を傾けている。
えっ?このひと、姉さんのこと狙っていたの?
そういえば。
姉の制服を和美に着せるときの小父さんの顔つきは、ただごとじゃなかった。
お互い同性愛の趣味はかなったから、どうのこうのということはなかったのだけれど。
緋紗代のハイソックスを履いた和美の脚への執着は、かなり濃いものがあった。
たたみのうえに寝そべらされて、長いこと、ハイソックスのうえからふくらはぎを吸われつづけたのだったのだ。
たんなるフェチじゃ、なかったんだー。
母親似だった緋紗代に関心がいったのは、母にそそがれた濃い愛情と無縁のものではなかっただろう。
そして、和美も母親似だったのだ。

こんどは、和美くんのお嫁さんを世話してもらおうかな?
予期したとおりの言葉に、和美はスカートの奥で勃ってくるものの気配を消そうと、やっきになっている。


お嫁さんを世話する。
ふつうは、独身男性のために花嫁候補を見つけてくることをいうはずだ。
まだ世間の狭い和美にも、さすがにそれくらいの言葉の知識はあった。
ところが親切な小父さんのお邸で呟かれた「世話」は、それとは正反対のもの。
だって和美には絵里という、同い年の婚約者がもういるのだから。
「こんどは、和美くんのお嫁さんを世話してもらおうかな?」
それは、すでに定まっている婚約者に、暗に逢わせろと言われたのとおなじこと。
母親の例からして、逢わせる以上ただですまないことは、わかり切っていた。
そして、いつも親切な小父さんは、和美にとって王様なのである。
でも。
じぶんからすすんで、花嫁の純潔を食い散らされたいなどと願う男の子なんて、はたしているんだろうか?
和美にはまだ、いっさいがナゾである。


ようこそ。
和美が連れてきた絵里をまえに、小父さんはとても鄭重だった。
まるで上流階級の家が他所のお宅の嫁入り前のお嬢様を迎えるような物腰に、ボーイッシュな絵里はすごく恐縮して、仔猫みたいに小さくなっていた。
気をつけて気をつけて。
コーヒーを淹れてあげましょう、と親切な小父さんが引っ込むと。
和美は小声でそういいながら、絵里の横腹を小突いた。
えー?だって・・・
絵里の声は、必要以上に大きい。
いい小父さまじゃないの。貴族みたいにエレガントだし~。和美も見習ったらぁ?
そ、それはたしかに、否定しないけど・・・
和美はまだ、ごもごもと口ごもっている。
ツタのからまるお邸なんて、めったに入れないもんね。和美が連れてきてくれなかったら、お母様にお願いしてつれてきてもらおうって思ってたんだけど。
えー!
よかった。
ママはいちばん、信用できないや。
なにしろ、小父さんとぐるなんだもんな・・・
和美はひそかにほうっと安堵の吐息をついた。
女の子の純潔を守る・・なんて。なんて大変なことなんだろう?
と、ともかくここ来る時は、かならずボクにことわって。あと、ボクといっしょのときじゃないと、絶対ダメだからねっ。
隣室に引き取った小父さんに聞えないように、絵里の耳もとに、吹き込むような性急さで囁いたけれど。
いちばん信用のおけないの、じつはボク自身だったりして・・・
このあいだ、母の浮気現場で「お嫁さんを世話してほしい」って小父さんに迫られた時。
スカートのなかで勃ってしまったことを、ありありと思い出してしまっていた。


ボクのお嫁さんの純潔を、ふたりの男が狙っている。
ひとりは、姉さんの初夜を襲った怪人。
こいつは、義兄さんのお母さんまでモノにしてしまった「前科」をもっている。
もうひとりは、親切な小父さん兼和美の王様。
こちらも、ママをたらし込んで、一家の日常に侵食している・・・という「実績」がある。
でも、姉さんのことは狙っていたのに、とうとう挙式当日まで手を出せないで。
けっきょく怪人に、おいしいところをさらわれてしまっている。
かわいそうだな。小父さん。
やっぱり小父さんにしようかな。
それとも、記念すべき13組めのカップルになってみようかな・・・って、迷いかけて。
ふとわれに返る。
冗談じゃない。絵里ちゃんの純潔は、ボクのものなんだ。

10
和美くん。和美くぅん。
表のドアをどんどんと叩いているのは、範彦義兄さん。
和美?かずみぃ!?
隣の部屋までようすを窺いに来ているのは、ママとパパ。
はさみ打ちだ。絶体絶命だ。
ようやく逃げ込んだはずの絵里の家は、もう無防備同然だった。
和美は絵里とふたり、手を取り合いながら震えを抑えきれないでいる。

夕べのことだった。パパまで意外なことを言い出したのだ。
お前、絵里さんのことどうするつもりなんだ?
どうするつもり・・・って?
なにげなく訊きかえしてみたら、いかにも愚問だといわんばかりに。
絵里さんをどなたに差し上げるのか、もう決めたのかな?
パパは惜しいことをしたんだよ。
ママと結婚したのは、都会だったから。
この村の風習どおりなら、ほんとうは真っ先に小父さんに逢わせてあげるところだったんだけど。
じぶんでスルのよりも・・・はたで観ているほうが。じっくりと、観察できるものだよ。
え?え?え?
するとパパは、小父さんの味方なの?
少なくともママを犯されちゃっていることは、小父さんとのあいだになんの溝も生んでいないらしい。
いや・・・ちょっと・・・それは・・・
いい加減にごもごもと返答をあいまいにして、そうそうに自室に引き取ってしまったのだ。

朝起きてみると。
裏庭の植え込みには、例の怪人が。
パパとママの寝室には、小父さんが。
息を潜めるようにして、ボクの部屋を見あげているのだった。
逃れるようにして、家を出た。
でも、どこへ行けばいいんだろう?
足は知らず知らず、絵里の家の方角へと向かっていた。

けれども、追っ手に容赦はなかった。
絵里の家には、あっという間に二人の標的にされていた。
止めを刺したのが、絵里の母親だった。
絵里ちゃん、出ていらっしゃい。だいじなご相談があるの。
襲われる・・・という本能的恐怖も、母親の命令にはかなわなかった。

択ぶ必要は、ないのですよ。
絵里の母親は、優しく笑っている。
けれども絵里によく似た彼女のうなじにつけられた赤黒い痕に、和美は油断のない視線を這わせている。
あ・・・キズのことですね?
よく気のつくたちの絵里の母親は羞ずかしそうに笑みながら、娘のほうをかえり見て、
ママも、お嫁入りまえに済ませたことなのよ。
怖ろしい言葉を、口にしていた。
左右に控えていたはずの怪人と小父さんが、影を薄ぼんやりと滲ませあってゆく。
ふと見ると、ふたりはおなじ姿になっていた。

そういうことなのだよ。
和美の父親は、息子の肩をぽんと叩く。
お前の負け、といわんばかりに。
昼間はツタのからまるお邸の主人。
夜になると街を徘徊する怪人。
どうやら分身の術も、心得ていられるようだから・・・同時にふたりの女を愛することもできるのだよ。

11
行ってくる。
ウン、気をつけて。
血をあげてくるだけだから、だいじょうぶよ。
そうだよね。もちろんだよね。
くどいほど念押しをして、指きりげんまんまでして。
和美は絵里と見つめあう。
分かれ道の行き先は、むろんツタの絡まるあの邸。

処女の血が欲しいんだって。
だから、お嫁入りするまでは、安全なんだって。
ぜんぜん信用できない、そんな言い草を。
あえて鵜呑みに信用して。
和美は絵里を送り出している。
制服のスカートの下。
真っ白なハイソックスに滲んだ赤黒い血のシミだけで、ひどく昂ぶってしまったけれど。
昂ぶりがおさまる気配は、まったくない。
きょうの絵里は、夏もののセーラー服に、黒のストッキングを合わせていた。
黒のストッキング。
姉さんが新婚初夜に穿いていたもの。
ママが男と逢いに出かけるとき、きまって脚に通してゆくもの。
薄黒いナイロンは、絵里のすらりとした脚を、じんわりとなまめかしく染めている。

絵里がお邸をさがるとき。
絵里の母親は和美に電話をかける。
娘の御用がすみましたので、迎えに行ってくださいね。
ハイ、お母様。
和美はよい子の見本みたいな素直な受け答えをすると、受話器を置いて、両親に行ってきますを告げに行く。
ママは庭先で服を着崩れさせて、地べたに仰向けになったまま、若い男たちの相手の真っ最中。
パパは縁側に出て、妻の所業など目に入らないような顔つきで、新聞を読んでいる。
将来はパパみたいにならなくっちゃ。
和美はひそかに、そう思っている。

ツタの絡まるお邸の奥深い部屋のなか。
絵里は白いセーラー服に、吸い取られた血をぼとぼとと落とされて。
夢見心地になっている。
処女でいられたのは、小父さんが処女の生き血を獲るあてをべつに見つけるまでのことだった。
絵里が、太ももまでのストッキングを着けるようになりました。
彼女の母親がそんな報告に訪れたとき。
両親はおめでとう。これで絵里さんも一人前の女ね、って祝福してくれた。
嬉しいのか、羞ずかしいのか・・・
立ちするほど勃ってきた一物が、ズボンのなかできゅうくつそうにヒクヒクとしていたっけ。
いまは、甘酸っぱい想い出だった。

お邸に着くと、たいがい客まで独り待たされる。
かなり長いこと待たされることもあった。
几帳面な絵里だったが、こういうときだけはさんざん待たせてもわびひとつ言わない。
髪の毛が濡れてるね。
シャワーを浴びたのよ。
首筋のキズ、広がっていないかい?
ええ、ヘイキ。だいじょうぶ。
スカートのすそが濡れてるよ。すこし匂うね。
レディに失礼な質問だわ。
別れぎわ、なにを渡されたの?
パンティよ。ベッドのうえに忘れてきたの。
え・・・ベッド?
やだわ。なに想像しているの?疲れたから、ほんの少し休憩しただけよ。
だけど、パンティを脱ぐなんて・・・
暑いから、脱いじゃったのよ。
そう。もうじき夏。
お邸の裏庭も、雑草の丈が高くなってきていた。
半ズボンに白のハイソックスという、子どものような身なりの和美。
ハイソックスのあちこちに泥が撥ねているのを、絵里は決して咎めようとしていない。


あとがき
えらく長くなりました・・・
それもあんまり、面白くないかも。
すらんぷです~(><)

処女の生き血を狙うもの

2008年04月22日(Tue) 07:54:11


だっ、だれだっ!?
紅いじゅうたんの敷かれた、ホテルの廊下。
エイイチの目のまえに現れたのは、干からびたミイラのような長身の男。
特撮ものに出てくる怪人のようなグロテスクな姿に、さいしょは着ぐるみかな?とさえ思ったのだが。
意識を飛ばされる瞬間、これは本物の怪人なのだ・・・と気がついた。
けれどもすでに遅かった。
目のまえのドアノブの向こう、さっき披露宴を終えたばかりの新妻・もと子に危険を報せるいとまは、残されていなかった。

もと子さん?入るよ。
いつもと変わらないエイイチの遠慮がちな声色に、もと子は苦笑しながら、腰かけていたベッドから立ち上がった。
もう・・・いつまでたったら「さん」づけをやめるのよ?
気軽に押しあけたドアの向こう、エイイチさんのほかにもうひとりの人影をみとめて、もと子はちょっとびっくりした。
新婚初夜の部屋を訪れようというのは、よほど図々しい人なのか、親しい人なのか、それとも・・・?
紹介するよ。ボクのお友だちなんだ。もと子さんも、仲良くしてくれると嬉しいんだけど・・・
何気ない口調の向こうに立ちはだかっているのは、どうみてもミイラそのものとしか思えない、干からびた長身の男。
獣じみた瞳を、らんらんと輝かせて、もと子のほうへと迫ってきた。
うぅん・・・
男の視線に射すくめられるようになって、もと子はその場で気を失った。

これから先を見届けるのか、廊下で待っているのか。それはお前が決めることだ。
侵入者のくぐもった声に、エイイチは無表情に「はい」とだけ応えている。
ミイラ男の目力に、すっかり洗脳されてしまっているのだ。
そのままその場を去ろうとしない新郎に、「よほど愛しているのだな」ミイラ男はニヤリと笑んだ。
そうだからこそ、いただきがいがあるのだぞ。
ミイラ男が取り出したのは、ムチのようにしなるワイヤーだった。
しなやかなワイヤーをスーツのうえから巻きつけられながら、エイイチはいつまでも無表情だった。
ベッドに横たえられた、純白のスーツ姿。
眠るように目を瞑っているもと子に、兇悪な意図を含んだ影が迫る。
  助けを呼ばなくちゃいけないのに。
  花嫁を救い出さなくちゃいけないのに。
  なぜ・・・ゾクゾクするのだろう?
薄ぼんやりとなってしまった理性は、胸のおくでひそひそ声を洩らすだけだった。

くちゅっ。
かさかさした唇が、もと子のみずみずしい唇を呑みこんだ。
ウ・・・
嫉妬に胸が焦げるようだ。
花嫁の唇をねっとりと揉みしだくと、ミイラ男の唇はかすかなぬめりを帯びて、柔らかなうなじへとすべりおりてゆく。
きゅうっ。
首筋の一角にひときわつよく、吸いつくと。
かさかさの唇を浸すように、赤い血液がどろりとしたたった。
あ・・・
男の正体を知った時、エイイチの胸をどす黒い閃きが貫いた。

あ、は、は、は・・・
花嫁の血に唇を血浸しにしたまま、ミイラ男は吸い取ったばかりのうら若い血を、花嫁のブラウスにしたたらせてゆく。
ぼた、ぼた、ぼた、ぼた・・・
バラの花びらが、散らされるように、
純白のブラウスは、紅いしずくの水玉もように彩られた。
男はそのまま身をすべらせるようにして、こんどは女の足許にかがみ込んでゆく。

ぬるり。
肌色のストッキングのうえから這わされた唇は、ぬらぬらとしたよだれを含んでいた。
かさかさの膚を、じょじょにうるおわせながら。
もと子の血を吸ったミイラ男は、すこしずつ生身の男へと変容してゆく。
飢えた唇にいたぶりを受けるたびストッキングの表面をよぎるひきつれが、エイイチの目に灼きついた。
なまめかしい。ひどく、なまめかしい・・・
そんなこと、想っている場合ではないのに。
痺れた理性は半開きの瞳で、花嫁に向けられた欲情を、妖しい歓びとして胸の奥まで浸してゆく。
パチパチッ。
薄いストッキングが、男の唇の下ではじけた。
う、ふ、ふ、ふ・・・
男がさらに淫らな意図を抱いていることを、察しないわけにはいかなかった。

もと子は、処女だった。
シーツのうえの紅い痕跡が、その証しだった。
放恣に開かれた太もものあいだ、痕跡は残酷なほど生々しく、花婿の胸を染めている。
見るかげもなく引き裂かれた肌色のストッキングをまつわりつかせたまま。
女は目を剥いて、それでも初めての歓びに、本能を震わせていた。
お前の花嫁は、支配した。時おりわが身を、満たしに来る。心から歓迎するように。
「歓迎します」エイイチの声は、どこまでも無表情だったけれど。
頬にはかすかな愉悦を、滲ませている。
どす黒い渦巻きが、妖しくひたひたと、男の理性をつき崩していたのだった。


ナオキが親友のエイイチの誘いを受けたのは、エイイチが新婚旅行からもどってきてひと月ほど経ったころだった。
結婚間近なカップルばかりを招いているときいて、そろそろお呼びがかかる頃かな?とは想っていたが。
親友の誘いになんの疑念もなく、ナオキは恋人のめぐみを連れて、新居を訪れた。
新居は都会の郊外の真新しい一戸建てだった。
通されたリビングはこぎれいにととのえられていて、新妻のセンスのよさと初々しい気張りを感じさせる。
もと子さん、きれいになったわね。
冷やかすようなめぐみの言葉に、もと子は羞じらうように目を伏せていた。
こいつ、すっかり色っぽくなっただろう?
エイイチの底抜けの自慢に、日ごろ屈折した彼のことを知るナオキは開けっぴろげな笑い声をたててしまった。

女たちが長い話に花を咲かせ始めると。
エイイチはそれとなく、ナオキを別室に呼んだ。
ここにくるカップルは、きみたちで10組めになるんだけど。
ボクに恥をかかせないでくれるよね?
え?なにかまずいことがあった?
いや・・・これから起こるんだよ。まずいことかどうかは・・・きみ自身が決めることに属するがね。
謎めいた親友の言い草に、ケゲンそうになったナオキだが。
突き出された写真をひと目みて、ああそういうことかと合点がいった。
まだ彼女のいない友だちに、お見合い写真を突きつけるように見せられたのは。
ミイラのように干からびた、瞳だけはらんらんと輝かせた男の写真。
びっくりしないんだね。
いままでのやつはみんな、びっくりして、彼女や奥さんを連れて立ち去ろうとして、後ろ姿を襲われちゃったんだけど。
え?襲われた?
そういえば。
彼の家に招かれてから行方不明になったカップル2組もあると聞いていた。
そうだろうね。
いがいなナオキの応えに、エイイチはちょっと意外そうに首を傾げた。
よく知っているんだ。彼のこと。
そう。
彼は一人ぼっちだったころのナオキの、ほとんど唯一の幼馴染み。


公園のブランコに揺られていたナオキは、この街に越してきて間もない少年だった。
引っ込み思案で、友だちひとり作れなくて、きょうも一人ブランコで所在なげに揺られていたのだった。
現れた怪人のグロテスクな姿に、ナオキはなぜか驚きを感じなかった。
じぶんを支配する人間を、本能で察したのかもしれない。
噛まれるままに、うなじを噛ませてしまっていた。
ちゅ~っ。
血を吸い取る音に、くすぐったそうな笑い声をたてると。
お前は、いい子なんだな。
男は別人のようにみずみずしく冴えた頬を輝かせて、少年を見つめた。
差し出したねずみ色のハイソックスを履いた足許に、危険なキスを受け入れて。
ねずみ色のハイソックスが赤黒く染まるのを、面白そうに眺めていた。

何度も逢ううちに。
ボクの血だけじゃ、足りないんだよね?
そういって、つぎの夕方には、ママを連れて公園に行ったのだった。
草むらのなか、仰向けに倒されたママは。
肌色のストッキングに裂け目の広げながら、脚をばたつかせて。
そのうち、静かになってしまった。
吸血怪人に、血を吸い尽くされちゃった?
そんな心配をしていると。
ひどく心地よげな、いままで耳にしたこともないような呻き声が。
苦しくないのよ。気持ちいいだけよ。
無言の報せが、少年を安堵させていた。


あれから十なん年たったのだろうか?
あー!それにしても。
よりにもよって、彼女まで襲われちゃうなんて!
ナオキは男ふたりの部屋のなか、ぐるぐる、ぐるぐる、いつまでも歩き回っていた。
ほら、落ち着くぜ。
エイイチが差し出したカクテルグラスには、紅い酒が充たされている。
中身の正体を訊きもせずに、ナオキは一気にあおっていた。
それでいいのさ。
振り返ったエイイチの顔がぼやけ、にじんで、いつの間にかミイラ男のそれとすりかわっていた。
久しぶり。
ナオキの頬に、少年のような微笑が浮かんだ。

高校に入って、彼女ができたころ。
怪人は街を追われて、立ち去っていた。
正体がばれて、棲むことができなくなったのだ。
さいごの晩、ママのところに現れた怪人は、ほほ笑むパパに迎えられて、夫婦の寝室をあけてもらって。
明け方になるまでママとふたりきり、別れをたっぷりと、惜しんでいった。
おなじようにしなくちゃならないね。
彼女・・・まだ処女だと思うから。お手柔らかにね。
ほほ笑みを投げられたミイラ男は、深く深く頷いている。

キャーッ!た・す・け・て・ぇ!!
ビデオ画面のなか、めぐみは満面に怯えをみせて、じりじりと壁ぎわに追い詰められてゆく。
やだぁ。
この場面になると、いまだに羞じらうめぐみは。
いまはもう、二児の母。
子どもの手がかからなくなって、こういうものを夫婦で真昼間から観られるようになるのに、ずいぶんと時間がかかったものだ。
ブラウスの二の腕を、かさかさの掌がつかまえて。
そのまま力づくで、抱きすくめて。
細いうなじに、食いついて。
ちゅーっ!と、処女の生き血を吸い出してゆく。
きゃあっ。
画面のなかの声と、傍らの妻の声が、重なった。
ふふふ・・・
いまのところ、もういちど。
巻き戻そうとするナオキに、
あっ、いやぁん。
肩をぶっつけ合いながら。
それでもめぐみの視線は画面に釘づけだった。
ちゅう~っ。
きゃあっ。きゃあっ。ナオキさん、助けてぇ。
空色のブラウスに血を撥ねかせたまま、くたりと姿勢を崩して、
めぐみはひざを、突いている。
う、ふ、ふ、ふ。
あの晩、花嫁のストッキングの脚を狙った時とおなじ目で。
ミイラ男は、若返った頬に欲情を募らせて。
白いハイソックスを履いためぐみの足許に、かがみ込んでゆく。
あぅぅぅ・・・
こんどうめいたのは、ナオキの番。
初めて会った公園で、自分の血をしみこまされたねずみ色のハイソックス。
そのときの記憶と、彼女を初めて襲われた時の記憶が、おりまぜになってゆく。
はい。きょうはここまでね。
玄関に聞えてきた子どもたちのはじける声に、
奥さんはわれにかえって、テレビ画面を消してゆく。

変容  ~怪人との逢瀬~

2008年04月10日(Thu) 06:48:52

どこかの国ではね。
かなり年上のその友人は、いつものように。
年配らしいおだやかな声で、語りはじめた。
娼婦をとるときにはこんなふうに、ヒルに娼婦の血を吸わせるというのだよ。
目のまえで、体調10cmはあろうかという半透明の軟体動物が、ヌルヌルとした粘液をうわぐすりのように光らせて、彼の手のなかで不気味にうごめいている。
娼婦・・・?
わたしは彼女と目を見合わせた。
彼女はなぜか羞じらうように、目を伏せてゆく。
さあ・・・
男は彼女のほうへとにじり寄ると、手にしたヒルをおもむろに突き出して、
彼女の首筋に這わせてゆく。
ひっ・・・
ぬるりとした感触に、縮みあがるように。
その瞬間彼女は座ったまま、白いハイヒールの爪先を立てていた。

白いうなじに這う半透明のヒルは、淫靡なうごめきをつづけながら。
じわじわと、その身を彼女の血潮の色で滲ませてゆく。
あ・・・あ・・・あ・・・
肩を抑えられ、首筋をとらえられながら。
押し殺したような呻き声をあげる女は、
肩先まで流れる長い黒髪を、かすかに震わせて。
首筋に這わされたヒルをもぎ離そうとした手指は、
いつかいとおしむように、自分の血を吸う軟体動物を包むように覆っていた。
一瞬走った嫌悪の翳は、いつか甘い苦悶に浸されている。

さぁて・・・と。
彼はおもむろに手を伸ばして、彼女の首筋からヒルを引き剥がした。
あ・・・うっ。
よほど強烈に吸いついていたのだろう。
彼女はとっさに、上半身を波打たせた。
振り乱された黒髪が、白一色のスーツの肩先にゆさっと揺れる。
しばらくのあいだ。傷口を抑えながら、荒い息を吐いていた。
瞳に滲む蒼い焔。
それは彼と出逢っからというもの、こうして過ごすひと刻だけに宿される情欲の焔。

つぎは、きみの番だね?
穏やかな上目遣いが、逃がさないぞと告げていた。
彼女の血を吸って膨らんだ、忌むべき軟体動物が。
こんどはわたしの首筋に、あてがわれる。
そいつの冷ややかな体温が、わたしの皮膚に伝わってきた。
痺れるような痛みが、皮膚の奥までしみ込んでくる―――
にじみ出た血潮が、ヌメヌメとうごめく軟体に吸収されてゆくのを覚えながら。
彼女の血とわたしの血が、そいつの体内で交わることに、なぜか陶酔を感じはじめていた。
皮膚を破られて生き血を吸い取られながら、わたしは変容を遂げてゆく。
彼はブランデーグラスを傾けながら、冷ややかにわたしの顔色を観察し、
彼女はくすくすと笑いながら、まるで引力でひきつけられるように、彼に身を寄り添わせてゆく。
妖しくなってきた視界の彼方。
人の形をしていた彼の輪郭が、滲むようにかすんでいって。
やがて不自然に鮮やかな黄緑色をした、巨大な軟体動物になりかわってゆく。
薄暗い密室のなか。
彼は大ビルに変容し、わたしは心のなかを変容させてゆく。
彼女も、微笑を振りまきながら。
変容して、娼婦に変わる。

ふ、ふ、ふ。
大ビルは彼の声を含ませながら、触手をあやつって。
純白のスーツに身を固めた彼女の身体に、巻きつけてゆく。
透明なチューブに似た触手は、折り目正しいスーツのジャケットをところどころしわ寄せながら、ゆっくりと巻きついていって。
かんじがらめに、緊縛してしまう。
ううっ・・・
傍らの柱ごと、立ったまま巻かれた彼女は、わたしのほうを見るまいと目をそむけ、
振り乱した黒髪が、頬をおおってゆく。
触手の先端が、ブラウスの襟首にもぐり込んでゆく。
あ・・・あ・・・あ・・・
彼女を征服される。
それも、人間ばなれした怪人に。

ちくり。
触手の鋭い先端が、彼女の豊かな乳房を突いた。
はだけられたブラウスのすき間からのぞく胸元は、青白い静脈が透けるほど白く、
柔肌の下脈打つ血液を、触手が欲しているのは、目に見えるほどあからさまだった。
触手の先端は、そのままぐぐ・・・っと、埋め込まれて。
ちゅーっ。
人をこばかにしたような、あからさまな音といっしょに。
彼女の血潮が、抜き出されてゆく。
真っ白なスーツのうえ巻きつけられた、透明なチューブが。
赤黒い液体に、ゆっくりと充たされていった。
長いチューブを、這うようにして。
彼女の血が抜き取られてゆく、残酷な光景。
純白のスーツの周り。
縛りついたチューブは、紅い紐のように、彼女をがんじがらめに緊縛している。
あ・・・あ。。。ア・・・っ。
生命の源泉を搾り取られる、甘美な苦痛。
喉からほとばしる呻き声が、なぜか扇情的にわたしの鼓膜にしみ込んできた。
わたしにからみついたままのヒルは、わたしたち二人の血を吸って、数十cmにも成長していて。
シャツの上から吸いつけた吸血口が、皮膚に擦りつけられてくる。

くたり。
触手をほどかれた途端、彼女は肌色のストッキングに包まれたひざ小僧を床に突いて。
四つん這いになって、突っ伏している。
かすかに上下するおとがいが、喪われた血の量をものがたっていた。
大ヒルに化けた男は、なおも容赦なく、かすかな澱を残した透明な触手を、
ストッキングを穿いた彼女のふくらはぎに巻きつけてゆく。
かすかなてかりをよぎらせた肌色のストッキングは、透明感を滲ませていて。
締めつけるように巻かれてくる触手にいたぶられて、くしゃくしゃになっていって。
オブラアトのように他愛なく、チリチリになって剥ぎ堕とされてゆく。
ふ。ふ。ふ。
大ヒルはふたたび、男の姿に戻っていた。
とうとう堕ちたな。
あとは人の身に成り代わって、喰ろうてやろう。

我が物顔に彼女に迫り、衣裳を剥いでいって、堕としてゆく。
身体も心も痺れさせられてしまったわたしのまえ、
堕ちてゆく婚約者は、悩ましくまつ毛を翳らせていた。
半脱ぎになったズボンからむき出しになった筋肉質の脚は、
破れたストッキングをまつわりつかせた白い太ももの間に分け入って、
逞しく筋肉を浮き上がらせた臀部を、スカートの奥へと沈み込ませていった。
あぁあ・・・
引きつるような呻きを喉からほとばしらせて。
その瞬間、彼女はキュッと、唇を噛んでいた。

ふふ・・・ふふ・・・ふふふ・・・
くすぐったそうな含み笑いを、虚ろに響かせながら。
黒髪に隠されていた白い頬は、いつか淫蕩な笑みを浮かび上がらせていた。
ホホ・・・ホホ・・・ホホホ・・・
もはやつつしみをかなぐり捨てた女は、未来の夫のまえ。
公然と夫を、裏切りつづけてゆく。
純白のスカートのすそに散らされた、ぬるぬるとした粘液は、
彼女を身体の裏側から支配している。

一週間後、またここに来るのだぞ。
こんどはお前の妹も、連れてこい。
生娘のうちに、味わっておく。
おだやかな声色は、もとのままだったが。
気づかいに満ちていたはずの言葉は、いつの間にか命令形に変わっている。
くぐもった声に、拝礼するように。
わたしたちは黙って頭を垂れて。
手に手を取り合って、部屋を出る。
ここに入るまえとおなじように、さも仲睦まじげに。


あとがき
くろすさんと吸血三葉虫のやり取りしていたら、昔のことを思い出してしまいました。(^^ゞ

魔性の遊戯 怪人に犯された夜

2008年02月08日(Fri) 06:42:53

少ーし、こあかも。^^;

おしゃれなワンピースに、鮮血の帯をよぎらせて。
純白のブラウスの肩先に、血のりを輝かせて。
婚約者とその母は、並べられたじゅうたんの上。
知性も、気品も、世間体までも、かなぐり捨てて。
くすぐったそうにへらへら笑いこけながら、転げまわっている。
女たちにのしかかっている怪人どもは。
ひどく醜悪で、グロテスクで。
それでもうら若い母娘は、そんなことおかまいなしに、じゃれ合ってしまっている。

未来の花婿である、ボクのまえ。
深夜呼び出された婚約者とその母親は。
あっという間に怪人どもに、たぶらかされて。
ワンピースやブラウスの胸元深く、残忍な吸血管を刺し込まれていった。
柔肌を奥深くえぐった兇悪な牙は、貪婪な食欲を発揮して。
めまいがするほど多量の血を、あっという間に抜き出してゆく。
身体の変化に、理性はついていくことができないで。
突然娘のほうがけたたましい笑い声を上げたとたん、
母親のほうも、慎み深さを忘れて。
ころころと笑いほうけてしまっていた。

見て見て。綺麗・・・
妹のリサが、指さしたのは。
母娘の胸元にぐさりと突き刺さった、吸血管。
ルビー色をした吸血管の中身は、女ふたりの若さを魅せつけるように。
官能的なまでの艶と輝きを秘めている。
女たちの熱情が込められた血液は。
ひたすら、怪人どもの喉をうるおしていって。
それでも女たちは、じぶんの魅力と若さとを愉しまれることを誇るように。
この遊戯が生命を落とす危険と隣り合わせだということさえ、忘れ果てて。
きゃあきゃあとはしゃぎながら、相手をつづけてゆく。
血の奴隷と呼ばれる、娼婦たち。
良家の子女は、鮮血に染まる通過儀礼とともに、
今宵、そのなかの仲間入りを遂げる。

平和な夜のリビングに、怪人どもを招きよせた悪友のレイジは。
とうに、本性をさらけ出していて。
ボクのまえ、婚約者と腰をひとつにしていた。
処女の生き血が、好物なんだぜ。
だいじにいただこうぜ。
たしか、そんなふうに言っていたはずなのに・・・

母は、黒のスーツを着崩れさせて。
妹のリサは、真っ赤なチェック柄のスカートの奥まで、
怪人のひとりの腰をすり寄せられて。
ふたりながら、犯されている。
グロテスクな仮面のなかにあるのは、生身の人間。
いや、もと生身の人間だった魔性のもの。
血に飢えた男どもは。
男の子を介して、こんなふうに夜のお宅にお邪魔して。
貴婦人たちの貞操を盗み取ってゆく。

今宵は、宴。
妹と婚約者の純潔と。母の貞操までもが堕とされた、忘れがたい喪失の記念日。
娼婦になり果てた女たちは。
ただひたすらに、じゅうたんの上。
小娘にかえって、笑い転げている。
姦られちゃったね。
傍らで呟くのは。
未亡人になった母の孤閨を慰めていた、情夫。
こんどはわたしの家内も、仲間に入れていただこうかな?
うっそりとした呟きが。
深く深く、胸を侵してくる。
母の情夫。嫁と姑。婚約者を寝取った悪友。
ほんとうなら、言葉を交えることさえ忌むほどの関係が。
信じられないほど、打ち解けていて。
吸血という魔性の遊戯に、ただひたすらに、耽り合う。
いつか、血を吸われすぎて、肌を蒼ざめさせていたボクも。
仰のけられただれかの胸の谷間に、生え初めた牙を心地よく突き立てていった。

凄いヤツが、いっぱい!

2008年02月08日(Fri) 02:37:58

うちにお出でよ。凄いヤツがいっぱいいるからさ。
クラスの中でも、とびきり目だたなくて。
いつもひっそりとしているレイジが。
あるときぼそっと、呟いたとき。
瞳の奥に秘められた、稲妻のような輝きに、
ボクは目をまん丸にしてしまっていた。

約束どおりお邪魔したレイジの家は。
古びたごたいそうなお邸で。
濃い紫のロングドレスをエレガントに着飾ったレイジのママが、
それはにこやかに、迎えてくれた。
テーブルのうえに広げられたのは。
テレビでおなじみの、怪人たちのフィギュア。
全長数cmしかないとは思えないくらい、真に迫った迫力があった。

いいだろ?
いいなあ・・・
ねぇ。
うん?
いいかい?今夜、キミん家(ち)へ遊びに行っても。
あんまり遅いと、ママに叱られるなあ。
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
ママもリサちゃんも、怒ったりなんかしないって。
今夜は月夜だから。
こいつら、本物になって甦るんだぜ?
ええー?
レイジはときどき、ウソみたいな話をする。
時にはだれにも相手にされなくって。
でも、そういう状況におかれることを予期しているらしくって。
いっつも片頬で、ほくそ笑んでいるんだけど。
ボクがひとりでついていくと。
ほんとうに、彼のいうとおりだった・・・そんなことが、何度もあったのだ。
何時に、来るの?
ボクはいつしか、頬を紅潮させて。
時間の約束を、してしまっていた。

九時。
約束の時間だった。
りぃん。ろぉん。
時ならぬインターホンに、けげんそうなママを尻目にして。
ボクは一目散に、玄関に向かっていた。
こんばんは。
のそっと顔を出したレイジに、ママはふしんそうに小首をかしげたけれど。
相手が顔見知りのボクの仲良しだと知ると、
あら、こんばんは。
おうむ返しに、声を返した。
遅い時間に、どうしたの?
少し咎めるような声色を、気にするようすもなく。
お邪魔しまぁす。
レイジはまるで、自分の家みたいに馴れ馴れしく。
一人で先に立って、ボクの勉強部屋めざして階段を上っていった。
お茶、淹れるわねぇ。
ママはいつになく、薄ぼんやりとした声をして。
いがいに物分かりよく、まだ洗いものが残っている台所へ顔を引っ込めてくれた。

勉強部屋に入ると、レイジは窓を開け放った。
くろぐろとした街なみのかなたには、こうこうと輝く満月。
満月の夜。満月の夜。
レイジが呪文のように、くり返すと。
ベランダの手前の屋根瓦のあたりの闇が、いちだんと濃くなって。
むくむくと、黒々とした奇怪な影を形作っていた。
ごらんよ。すごいだろ?みんな連れてきたんだぜ?
レイジの声とともに、ぞろぞろと現れたのは。
昼間にみたフィギュアが等身大になった姿だった。

見れば見るほど。
どいつもこいつも、奇怪なカッコウをしていた。
全身赤黒くて、グロテスクなブツブツのついているやつ。
ぬるぬると黒光りしていて、触手を八本も持っているやつ。
ひょろりと上背があって、首から上がそげていて。切断面が吸血口になっているやつ。
どれひとつとして、まともな人間の形をしていない。
みぃんな、吸血怪人なんだぜ?
ちょっと得意そうなレイジに、ボクも「ふーん」と引き込まれている。
やっぱり等身大だと、迫力が違うよね?
そうさ。本物みたいに、血を吸うこともできるんだぜ?
えー、そうなの?
タツヤの血で、試してみるかい?
面白そう♪
不思議と、怖さは感じなかった。
ボクは半ズボンの太ももを、手近な怪人の前に近寄せていく。

そいつの手は、平たい吸盤みたいなカッコウをしていて。
平らな面にはレンコンみたいな穴ぼこが、いくつもあいていて。
見ろよ。この穴ぼこが、吸血管なんだぜ?
レイジに言われるまでもなく、ボクは「そんなこと、知ってるさ」って、強がりを言って。
平たい吸盤を思い切りよく、太もものあたりに貼りつけられていた。
きゅうっ。
奇妙に間延びした音がして。
ボクはクラッと、めまいを起こしていた。
ひんやりとあてがわれた吸盤からにじみ出るような、しびれるようなムズムズが。
いつかたまらない疼きになって。
なま温かいぬるぬるが、太ももをぬらり・・・と、伝い落ちてくる。
血を吸われている・・・ありありと感じるほどに。
ボクは足許を、ふらつかせてしまっていた。

キミ・・・だいじょうぶ?
だいじょうぶさ。
えぇと、こっちのやつは、触手を巻きつけるんだよな?
ボクはまだまだ、強がりを言って。
もうひとりの怪人の触手を、わきの下にくぐらせてゆく。
すごい。すごいな。本物そっくりだ。
浮ついた声を、かすれさせていると。
もうひとりの怪人が、後ろから。
ボクの首筋に、ぬるりとしたものをあてがってくる。
じゎん・・・
めくるめくような、陶酔。
ふらっとなった身体は、そのまま吸血怪人たちに、抱き取られていった。

うぅん・・・
目をこすりながら、起き上がると。
どうだい?
レイジは得意そうに、ほほ笑んで。
自分も怪人ふたりに、はさまれて。
奇怪な吸血管を、胸やお尻に突き刺されて。
Tシャツや半ズボンを、真っ赤に濡らしている。
キュウキュウ・・・キュウキュウ・・・
人をこばかにしたような、あからさまな音といっしょに。
レイジも面白そうに、怪人たちの触手を皮膚にすりつけて。
生き血を、吸い取らせていったのだ。
子どもの血は、イキがいいんだってさ。
そうだ。リサちゃんの血も、吸わせてやろうよ。
レイジはさもいいアイディアが浮かんだみたいに、声をあげて。
ボクにいなやも言わせずに、妹の名前を呼んでいる。

きゃあっ。
リサはさすがに、女の子らしく。
怪人たちの奇怪な姿に、半べそになって。
すぐに助けを呼ぼうと、スカートのすそをひるがえしたけれど。
そのときにはもう遅く、怪人の一人に触手を伸ばされていた。
そいつはさいしょにボクの血を吸った、あのレンコン怪人で。
ボクのときとおんなじように。
真っ赤なチェック柄のスカートの下から覗いた太ももに。
レンコンの形をした吸盤を、ぴったりとあてがわれてしまっている。
きゅうっ・・・
ボクのときと、おなじように。
ボクとおなじ血が。
パパとママから、もらった血が。
おいしそうに、吸い取られていった。

おさげの髪を、ふり乱して。
リサは強くかぶりを振って、抗ったけれど。
背後から伸びたべつの吸血唇に、うなじを吸われて。
激しい首振りは、少しずつ緩慢になってゆく。
うふふふふっ。女の子の血は、おいしいんだね。
レイジはくすぐったそうに、壁を背にして姿勢を崩してゆくリサの受難を見つめていたけれど。
ボクのほうを、振り返って。
だいじょうぶ。
キミひとりに、ソンはさせないぜ。
夕べはボクのママや姉さんも。
こいつらに、血を吸われちゃったんだから。
そんな怖ろしいことを、人ごとみたいに囁いている。

レイジは半ズボンの下、濃紺のハイソックスをねじれさせて、
ボクはねずみ色のハイソックスを、赤黒く汚していて。
リサも、真っ白なハイソックスに、ぬらぬらとしたよだれを光らせている。
三足のハイソックスは、それぞれの持ち主の脛をすべり落ちて。
くしゃくしゃにたるんで、バラ色に染まってゆく。
ちゅうちゅう・・・キュウキュウ・・・
入れ替わり、立ち代わり。
怪人どもは、たたみの上にころがったボクたちの上にのしかかってきて。
思うさま、吸血を愉しんでいた。

キモチいいだろ?血を吸われるのって。
ウン。なかなかいい具合。
頭がスッと冴えたようになって。
身体のなかでもやもやとしたものが、いっさいがっさい抜き取られてしまったような。
突き抜けるほどの、爽快感。
じゃあ、キミのママにも体験させてあげようよ。
しずかになったリサのうえには、赤黒い吸血怪人がのしかかっていて。
真っ白なハイソックスのうえから、ふくらはぎに吸盤を這わせていた。
カチャカチャ・・・カチャカチャ・・・
近づいてくる、ティーカップの触れ合う音に。
レイジもボクも、にんまりと笑みを交し合う。

えっ?どうしたの?
吸血怪人と、遊んでいるんだ。
怪人?ですって・・・?
ボクたちの血を、ご馳走してあげてるんだよ。
キモチいいんだ。ママも試してみる?
なにをいっているの?あっ、リサっ!?
半ば気を喪いかけたリサが、真っ赤なチェック柄のスカートをはねあげられて。
へらへらと笑いながら、グロテスクな怪人の触手を手にして、自分からうなじに巻きつけていた。
ほら。こいつら、おばさんの血も欲しがっているんだよ。
ボクたちの血だけじゃ、足りないんだって。
タツヤやリサちゃんの血が、気に入ったみたいだから。
おばさんの血も、きっと好みに合うはずだよ。
がんばって、いっぱいご馳走してあげてね。

あれよあれよ・・・と戸惑うママを横目にして。
アブナイ遊戯に耽ってゆく。
やめさせようとしたときには、もう遅くって。
ママも・・・吸血怪人の相手をさせられていた。
相手は、首から上がそっくり吸血管になっているやつ。
あいつは、しつっこいんだ。
先週なんか、ボクに巻きついて。ひと晩じゅう放してくれなかったもんね。
レイジは面白そうに、ママが取り乱すありさまをうかがっている。
きりっとした黒のスーツが、着崩れしていって。
スカートのすその奥まで這い込んだ触手は、ママの太ももをなぞるように撫でている。
そろってずり落ちてしまった、ボクたちのハイソックス。
けれどもママの履いている黒のストッキングがちりちりに裂けてゆくありさまは。
もっともっと、エロチックだった。

あっ、あっ、あっ・・・
眉毛を八の字にして。白目をむいて。虚空を引っ掻いて。
しまいにのけぞって、たたみの上に大の字になっていた。
ママのスーツ姿の上、怪人どもがなん人も、おおいかぶさっていって。
胸といわず、わき腹といわず、太ももといわず。
思い思いに、吸血管を刺し込んで。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
規則正しい、リズミカルな吸血の音に。
ママの生き血も、抜き取られていった。
いい眺めだね。
おばさんも、たっぷり血を吸われるんだよ。
ママの耳もとに、レイジが囁きを吹き込むと。
正気じゃなくなったママは、無表情に頷いてしまっていた。

七恵伯母さんや、美奈子ちゃんも呼んで御覧。
きみ、美奈子ちゃんと結婚するんだよね?
こいつら、女の生き血に目がないんだ。
気前よく、ご馳走しちゃおうよ。
怪人だって、一ダースもいるんだから。
二匹にひとりくらいは、獲物を用意してあげたいからね。
電話機をプッシュする指先を、震わせながら。
ボクはママとおなじく未亡人している伯母さんの声をあいてに。
パーティをやっているから、着飾って来てくれる?
思いつく限りの甘い誘い言葉を、触手のように巻きつけて。
うら若い二人を、呼び出していた。

着くまでに、まだ三十分はかかるよね?
そうだね。おめかししてくるだろうからね。
レイジに、ボクに、ママに、リサ。それに女ふたりが加われば。
6対12。
まあまあ・・・いい割合なんじゃないかな?
絵の具の混ぜ具合でも確かめるようにむぞうさな口ぶりの向こう側。
胸元に吸血管を刺し込まれたママとリサが、
代わる代わる、心地よげなうめきを洩らしはじめている。
夜はまだまだ、長い。

飼われている吸血怪人

2006年11月05日(Sun) 23:06:27


包丁を持った強盗が夜、四人家族の住居を襲った。
両親と息子、息子の嫁の四人を順繰りに縛ると、いちばん若い息子の嫁に、よだれをたらしてすり寄った。
「悪く思うな。女ひでりなんでね」
男は若い夫に向かって嘲るようにうそぶくと、着飾った奥の和室へと引っ立ててゆく。
あ、あ・・・
男たちの戸惑いのうめきを背に、強盗がにまにまとしながら嫁の首筋を吸おうとしたそのとき。
ぎゃっ。
顔を引きつらせて魂切るような悲鳴をあげたのは、強盗のほうだった。
部屋の奥からぬっと現れたのは、身長二メートルにもなろうかという怪人。
姿かたちはすでに人間のそれではない。
大ビルのような胴体に、カマキリのような頭。
爬虫類の獰猛さと毛虫のキモチ悪さとをミックスしたようなグロテスクなやつである。
そいつが強盗の頭部をぶぅんと横殴りにすると、
うわあああっ!
強盗はあっさりと、その場に伸びてしまった。
大ビル怪人は強盗のうえにうずくまると、胸のうえから吸血管をぐさりとさしこんだ。
半透明な管には、たちまち赤黒いものが満ちてゆく。
ケケケ・・・
怯える家族を卑猥に嘲った強盗を無気味な声で嘲りかえすと。
大ビルは家族ひとりひとりにかけられた荒縄やビニールテープをこともなげに断ち切ってゆく。
いましめを解かれたお父さんは真っ先に、
ありがとう。助かったよ。
怪人にお礼を、言っている。
まるで懇意な知人に話しかけるような口調で。
怪人は家族とは長いあいだの顔見知り・・・いやもっと深い間柄だった。
「家内を犯すだけなら、許してやってもよかったんだけどなぁ」
トンデモナイことを呟くにやけたご主人を、奥さんが後ろからぶっ叩いたのは当然として。
怪人もまた、たどたどしい言語で反論する。
「ダメ、ダメ。ゆう子。誰ニモ触ラセナイ。コイツ許セナイネ」
器械のような声でフンガイしながら、
「コイツノ血、マズカッタ」
血を抜かれて呆けてしまった強盗を、憎ったらしそうに足で蹴転がす。
「サ、オ父サン。早ク、早ク。ヒャクトーバン、ネ」
逆にお父さんをせっついている。

一件落着すると。
とうぜんのように、おねだりが始まった。
さっきはあんなに嫉妬深いところをみせたくせに、自分がひとの女房を取るのは問題ないらしい。
父も息子も、いなやはない。
妻たちが怪人に奥の居間に手を引かれてゆくのを、苦笑しながら見守るばかり。
いつもはトシの順、なのにね。
先に招ばれた嫁の後ろ姿に、お母さんがちょっぴり不平そうに口を尖らせる。
あいつが襲われそうになったのをみて、きっと発情しちゃったんだよ。
息子がなかば困り顔で、母親をなだめていたが。
ふすま越しに「きゃっ」と声がすると、
「あー・・・刺されちゃった」
蚊に食われるのとでは、わけがちがうのだが・・・
キュウ、キュウ・・・くちゅ、くちゅ。
悩ましいもの音がつづいた30分後。
「サァ、ツギハ順子ノ番。用意ハイイネ?」
嫁とおなじくお母さんまで、これまたなれなれしく呼び捨てである。
お母さんはまだ若さのじゅうぶん残る頬を輝かせ、ミスコンテストで指名をうけたときのようにウキウキと立ち上がる。
「あなた、ごめんね。ちょっと浮気してくるからね」
夫をかえりみてイタズラっぽいウィンクをすると、手を引かれるまま、部屋に引きずりこまれてしまう。
「ああぁ・・・」
押し殺すような呻きが洩れてくると、彼女の夫も息子も、くすぐったいのをこらえるような渋面になっている。

ほら、母さんのほうが長いだろう?
得意気に鼻をうごめかせているのは、お父さん。
さっきから奥さんは、はだけられたワンピースから豊かな白い肌をのぞかせて、吸血管を刺し込まれている。
鋭く尖った管の先端が皮膚に突き刺さるときだけは、ちょっと顔をしかめていたけれど。
そのじつ、あんまり痛そうではない。
痛そうではないどころか・・・くすぐったいのか、疼くのか。
脚をばたつかせて跳ねまわりそうになるのを、どうやら必死でこらえているようす。
お母さんの生き血で吸血管をたっぷりと充たして。
怪人は、ククク・・・と嬉しそうに吸血をつづけている。
吸血しながら、胸とかお尻とか。もっとキワどいところとか、ヌルヌルとした触手で触りつづけているのだが。
お母さんはそれを苦にするどころか、
「イヤぁ、もぅ」
悪戯っ子のわるさを咎めるような、甘い口調。
となりに転がされている嫁は。
ブラウスに血を撥ねかせたうえ、どうやらスカートもめくられたようだった。
たくし上げられた紺色のキュロットスカートからあらわになった太ももからは、グレーのストッキングがぱちぱちと裂け目を広げていて。
ヌルヌルとした触手で、しつようになぶられた痕をはっきりと残していた。
目ざとい夫はそのまた奥に白く濁る粘液が鈍く輝きながらゆらゆら揺らいでいるのを発見しているのだが。
情交の痕跡ありありな奥さんを、面白そうに観察して。
怪人でも、精子は白いんですねぇ・・・
合いの子ができなけりゃ。すこしくらい、構わないよな?
とんでもない父子である。

街から強盗が姿をひそめて、もう何年にもなるだろうか。
表立っては忌まれながらも。
闇夜にひそむ兇悪なやからの血を餌にしていた怪人は、どうやら餌には不自由していないらしい。
あるとき迷い込んできた怪人を、暖かく迎える家庭がいくつもあるという。

怪人と逢ってみたいの。
そんなおねだりをした、お隣のお嬢さん。
気遣って同伴したお母さんも戸惑いながら、母娘ながら吸血に応じていった。
ふたりながら、脚に触手を巻かれていって。
苦笑いしながら、真新しいストッキングをチリチリにされて。
まずお手本に、お母さんが、スカートの奥まで触手を忍び込まされて。
そいつが娘のスカートの、お嫁入りまでだいじにしなくちゃならない処にまで入り込んでいくのを、いまは忍び笑いをこらえながら、見守っている。

浮気の張り番、頼みますね。
悪戯っぽくそういいおいて単身赴任していった夫のかわり、向かいの家で寝ずの番をしながら。
許された少量の血と引き換えに、寂しい奥さんのため・・・夫の代役を果たすときもある。
留守だといいながら。・・・隣りの部屋に通じるふすまがこっそり細めに開いていて。
けしからぬ昂ぶりを帯びた目が、もだえる奥さんを見つめつづけているのも。
怪人はよく、心得ていたりする。
きみになら・・・いっとき妻を奪られてもいいかな・・・って。
少年のころ、独りぼっちだった彼。
ただひとり、心を開いていたのが・・・公園で独り寂しく遊んでいる彼のまえに現われ、いっしょに遊んでくれた怪人だった。
優しい奥さんが、夫を愛しながらも。
風変わりな客人と賢明に接してゆくことに・・・密かな満足を覚えていた。

一見なにごとも起こらないような、閑静で平和な住宅街。
けれども不思議な共存関係は、街の裏通りに潜んでいて。
見たい人にしか、見ることはできない。


あとがき
なんともまあ、奇妙奇天烈なキワモノになってしまいましたが。(^_^;)
特撮ものの吸血怪人のようなものをイメージしてもらえるといいと思います。
彼らから受けた影響は決して小さくないのですが。
「幻想」時代のはじめのころに、そんなエッセイを描いた覚えがあります。
・・・って、まだ再あっぷしていなかったっけ?(^_^;)

正体

2006年04月21日(Fri) 06:05:44

身の丈ほどもある大ビルに襲われて、
若い女はひと声、きゃあっ!と悲鳴を洩らしたけれど。
すぐに目を伏せ押し黙ってしまって。
そのまま仰のけたうなじに、細く鋭利な吸血管を刺し込まれてしまっている。
ぎゅうっ・・・
無慈悲にナマナマしい音を洩らしながら。
半透明の吸血管は、抜き取られてゆく赤黒い液体に満ちている。
体じゅうについている吸盤を、体液を唾液のようにてらてらと光らせながら、
若い女の身体じゅうにぬめりつきながら、吸盤を吸いつてゆく。
うら若い潔癖な素肌に不潔な体液をしみ込まされて。
厭うようにけだるげに、しばしはかぶりを振っていたけれど。
やがて身をゆだねきるようにうっとりとして。
女は体の力を抜いていた。
貼りつけられた吸盤の下、肌色のストッキングがぶちぶちと裂けてゆく。

恍惚として目を瞑った女の顔から、みるみる血の気が失われてゆくと。
傍らで様子を窺っていた年配の和装の婦人はたまりかねたように
大ビルの上におおいかぶさるようにして、そいつの体を娘から引き離し、
まるで身代わりになるように、
無慈悲な吸血管を訪問着の胸許に自ら突き立てていった。
アアッ・・・
抑えかねた叫びを切なげに散らして。
年配の女もまた、半透明な吸血管を己の血で赤黒く染めてゆく。
壁に抑えつけられて吸血されながら。
和装の女はこちらを向いて。
つぎはあなたの番よ。
そんなふうにほほ笑んでいた。

姉さん、かんにんね。
弟に背中を押されるようにして。
前に二、三歩踏み出すと。
そいつは避けるすべも与えずに、やおらおおいかぶさってくる。
苦もなく押し倒された床が、ごつごつと背中に痛かった。
そうこうしているうちに、大ビルの執拗な吸着に、抗うすべを奪われてしまっている。
物慣れたように機械的に、あの鋭利な吸血管がうなじに迫ってきた。
ずぶり・・・
力ずくに突き刺されていた。
皮膚を破った尖った異物は、滲むようにくい込んできて。
ぎゅうっ・・・
体内をめぐる血液を、強引に抜き取ってゆく。

あまりの強欲さに軽い眩暈を起こしながら。
取りすがる二対の掌が、むしろ抗いを抑えようとしているのを感じていた。
ねばねばとした吸盤だらけの巨体は、すがりつくように執着してくる。
直感した。
正体は、あのひとだ。
わたしを抑えるふたりにとって、兄であり息子であるひと。
飢えた大ビルに押しやった弟の、親友であるひと。
機械的なまでに無慈悲な吸血に、濃密な想いを込めて。
男はわたしの血を吸いあげてゆく。
いいのよ。もっとお吸いなさい。
あなたが人に戻れるまで、私処女のままで待っているから・・・

従姉

2005年11月05日(Sat) 20:31:35

グレーのハイソックスを履いたボクのふくらはぎに、吸血鬼のおじさんはさっきから、牙を埋め込んでいた。
すべてに慣れてしまったボクにとって、ちゅうちゅうと旨そうに血を吸われるのは、決して悪い気分ではない。
少しだけ、くらくらと眩暈がするのを覚えながら、ボクは彼をそそるようなことを口にしてしまっていた。
「週末、いとこのお姉さんが遊びに来るんだけど・・・」

薄いピンクのスーツに白のブラウス。
ゆったりとウェーブした黒髪に、乳色の肌。健康そうな歯並びの良い歯。
薄手のグレーのストッキングに、白のパンプス。
はたちを過ぎたか過ぎないかの従姉の夕子さんは、とてもきれいで、まともに見つめることがなかなかできないでいた。
いっしょに街はずれの公園に散歩に行くといったボクに、ママは、
「あんまりあぶない所に行っちゃダメよ」
といいながら、ちょっと顔をしかめていた。

忽然として現われた黒衣の男に、お姉さんはふるえあがって、
きゃああっ!と、叫び声をあげた。
お姉さん、怖いっ。
そういいながら、ボクは夕子姉さんさんの腰にしがみついて・・・逃げられないように抑えつけていた。
「あっ!うう・・・」
かすかな身じろぎと呻き声とで、吸血鬼が夕子姉さんのうなじに、ぐいっと牙を埋めたのがわかった。
キュウキュウ・・・くちゅうっ。
聞き慣れた血を吸うときのナマナマしい音が、綺麗に着飾った夕子姉さんにおおいかぶさる。
やがてお姉さんはくたくたと、その場にしゃがみこんでしまっていた。

吸血鬼のおじさんは、お姉さんを縁側に腰かけさせて、グレーのストッキングの上からふくらはぎを舐めている。
お姉さんは息も絶え絶え、心持ち仰のけた顔をふらふらさせて、喘ぎながら、おじさんのやり口に眉をひそめていた。
失礼なやり口に抗議をしたくても、もう思うように体が動かなくなっているらしくって。
とても悔しそうに、おじさんがストッキングの脚をにゅるにゅると汚らしくいたぶりつづけるのを見つめつづけていた。
その目つきがいっそう気に入ったらしくって。
おじさんはさぁ御覧、とばかりにいっそう、意地汚く、夕子姉さんのストッキングを辱めていくのだった。

血を吸い取られたあとの傷口は赤くはれあがって、吸い残した血潮がまだてらてらと光っている。
ボクはさりげなく白いうなじに触れてゆき、
ちゅるっ。
ちょっとだけ口に含んだ夕子姉さんの血は、錆びたようなつぅんとした香りに包まれていた。

ぱりぱりっ。つつつぅー。
ふくらはぎに、ストッキングの伝線が走る。
夕子姉さんがとてもイヤそうに顔をくもらせるのを、吸血鬼のおじさんはとても嬉しそうにうかがっていた。
―――さぁ、こっちへおいで。
吸血鬼のおじさんは、まえにママを連れて行った植え込みの陰に、夕子姉さんを引きずりこんでいく。
怯えたような白い顔に、おじさんの銀髪がワサワサと乱れかかった。
たくし上げられた薄いピンクのスカートから、かっこうのいい脚がにょっきりと伸び、草むらに横たえられる。
破けたグレーのストッキングが、夕子姉さんの脚を、まだひざ上まできれいに染めていた。
ツヤツヤとした感じが、ひどくなまめかしい。
姉さんの白い脚が。
くすぐったそうに。むず痒そうに。ヘビみたいにくねるたび、
ストッキングはだらしなく、ずるずるとずり落ちてしまった。
オトナっぽい感じのするストッキングが。
きれいな脚の輪郭から、たるんで。浮き上がって。
みるかげもなく、くしゃくしゃになってゆく。
子供心にも、とてもふしだらに映るそんなありさまを。
ボクは息をこらして、あまさず見つめつづけてしまっている。

姉さんがお勤めの引けると毎週のように公園に出かけるようになったのは、それからのことだった。

数年後。
叔父さんが亡くなったあと、夕子姉さんはさと子叔母さんとふたりで帰郷してきた。
お墓参りに訪れたふたりは、そろって薄黒いストッキングを履いている。
ところもおなじ、公園の東屋で。
夕子姉さんは破けたストッキングに白い肌を滲ませながら、ボクのほうへと近寄ってくる。
「見ちゃ、ダメよ。見ても、忘れてちょうだいね」
東屋のなか、叔母さんの白い肌がはだけた黒のワンピースになまめかしく映えていた。
そのうえにおおいかぶさっている黒い影が、なにをしているのか、むくむくとうごめいているのが見える。
さと子叔母さんはその黒い影の下で、ちょっとつらそうに、でもどこかキモチよさそうに、顔をしかめていた。
ちょうどあのときの姉さんと、おなじ顔つきになっていた。

夕子姉さんはもう、血を吸われたあとだった。
白いうなじにふたつ、咬まれた痕がどす黒く、刻印されている。
おなじものを、さと子叔母さんもつけられちゃったに違いない。
「お父様もいらっしゃらないんですもの。すこしでも若くて、きれいなうちに・・・逢わせてあげたかったのよ」
そう口にする夕子姉さんの頬に乱れかかった髪の毛はちょっぴり栗色に染められていて。
夜の巷の女みたいに、すさんで見えた。

つぎの日。
吸血鬼のおじさんは、叔母さんだけを誘って、お邸に連れて行った。
きっと、夕子姉さんみたいに洗脳してしまうつもりなのだろう。
一人残ったお姉さんは、あの公園へとボクを誘った。
白のブラウスに、千鳥格子のスーツ。
黒のパンプスを履いた脚は、あのときとおなじ、グレーのストッキングに包まれている。
ストッキングには、いままでになくツヤツヤとした光沢がじんわろと滲んでいた。

小さい頃から憧れていた、優雅な二重まぶた。
目じりにすこししわが浮いていたけれど、夕子姉さんはまだ独身だった。
「母もわたしも、あのかたに食われつづけるんだわ」
すこしもイヤそうでなく、姉さんは言った。
「責任、取ってくれるわね?」
うかつなことに。
それが従姉からのプロポーズだと、すぐには気がつけないでいた。
従姉弟でも結婚できるということは、本を読んで知っていたのだけれど・・・。
なん年もまえ。
吸血鬼のおじさんと示し合わせた悪戯は、ほかならぬボクの花嫁を犯す儀式だったのだ。


あとがき
少年の回想という形を取ろう、と思ったのですが。
ちょっと平板にながれてしまいましたね。(^_^;)

あとがき 2
再あっぷ後、すこし直してみました。^^;

素材としての吸血怪人 3 吸血怪人、大活躍(?)

2005年06月27日(Mon) 08:04:06

吸血怪人の悪口ばかり書いてしまいましたが、過去の記憶から密かに萌えたシーンの話などを。

其の一 教会の吸血怪人

古びた教会に巣食う悪の組織が、花嫁を次々と餌食に・・・
そんなストーリーだったと思います。
たったのワンシーンでしたが、バレリーナが舞台で襲われて逃げ惑い、さいごに首のつけ根を咬まれるシーン。
頭上からのアングルで、戸惑い、つまづき、抱きすくめられ、ふりほどき、またつかまえられて・・・
かなりリアルなシーンが、脳裡に灼きついています。
肩先にピンと張りつめた、コスチュームを吊るストラップのあたり。
豊かな肉づきに獰猛な牙が突き立って。
瞬間、場面は黒一色に転じて、その上を真っ赤な塗料(血潮?)がドバッと・・・
稚拙なぶん、かえって妖しいエロチシズムが漂います。
生れて初めてみた、ストッキング姿の女性が血を吸われるシーンとして貴重な?記憶です。
ほとばしるような急テンポで流れるパイプオルガンのBGMも雰囲気を盛り上げていました。

其の二 吸血三葉虫

なんともおどろおどろしいタイトルです。
楚々とした和服姿の教授夫人の首筋に這わされた三葉虫の化石が、夫人の血を吸って怪人に・・・
これを、夫である教授の目の前でやるんですね。今にしてみればかなりSなシーンだったような。
和服の襟足からのぞく、キュッと引き締まった首筋に這う三葉虫。
血を吸い取られた夫人はしばらくのあいだ、自宅でぼう然となっています。
なにもかも抜き取られからっぽにされた夫人の虚ろな無表情が、支配されたものの虚脱感を体現していました。
幸い教授夫人は生還しますが、夫婦にとってトラウマにならなかったんでしょうか?

其の三 ヒルゲルゲ

名前はうろ覚えです。
雑木林で遊んでいる少年たちの頭上からヒルの大群がふってきます。
ヒルゲルゲは気絶した少年たちにおおいかぶさって、吸血管を胸元に差し込むと血を抜き取っていきます。
赤黒い血液が、透明な管にすごい速さでかけめぐるシーンが連続。
後日そこを訪れたお父さんまでやられてしまいます。
ここでも透明な管に血液が満たされるシーンが。(きっとおなじ映像だと思います)
これが娘とお母さんだったら、もっと萌えたかも。^^
でも、残されたお父さんがかわいそうかな。

其の四 追いかけっこ

獰猛な吸血管を持つ怪人が、男の子を連れた若いお母さんを追い回します。
お母さん、色白でぽっちゃりしていて。
はた目にも、とても美味しそうなんですね。(笑)
なんどか、吸血管を突き立てられそうになるのですが。
そのたびに、危うく回避。
とうとう人妻の美味しい血にありつけないまま、怪人は正義の味方に敗れて惨死を遂げます。(カワイソウ・・・)
あんなふうになるのなら。せめてひと口だけでも、吸わせてやりたかったな。^^

このお母さん、怪人に襲われたあと悪の組織につかまって、人質にされて柱に縛りつけられたりします。
どうにも嗜虐癖のある組織です。(笑)
縛っている時間的余裕があるのなら、怪人に血を吸わせてやることもできたはず。
お母さんは無事生還するのですが。
うがった見方をするならば、さいしょから殺害の意図はなく、ただ虐めて愉しむだけのつもりだったのかもしれません。(そんなワケないって・・・(^_^;))
怪人がとうとうお母さんの血を吸えなかった要因は、虐めかたについて、怪人と幹部とのあいだに見解の相違があったためと思われます。(違)
生き血にありつけずパワーダウンした怪人はあえなくノックアウトされて、悪の組織はまたも、めでたく(笑)野望を挫かれたのでした。