淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
夜道の婚約者
2005年06月29日(Wed) 07:21:26
1
闇夜の向こうから、コツコツと足音が近づいてくる。
テンポのよい、硬質なハイヒールの響き。
闇に透けて近づいてくる白のスーツ。
婚約者の佐和子だった。
「悪いね」
俺の傍らにいた黒い影はそうささやくと、
躍り出るように黒衣をひらめかせて彼女の行く手をふさいだ。
息を呑んで立ちすくむ佐和子。
しかし、相手が誰だかみきわめると、
「あ、今晩は」
・・・おそるおそるだったが、長い髪の毛を揺すってお辞儀をした。
我が家に出入している怪人は、すでに彼女とも顔なじみになっていた。
2
婚約者を吸血鬼に紹介する。
家に伝わる、古くからのしきたり。
嫁取りをするときに、その娘がはたして我が家の嫁としてふさわしい身持ちのよさを備えているかどうか、証を立てなければならないことになっている。
やり方は、はななだ野蛮であった。
吸血鬼は許婚を招き寄せるとうなじにがぶりと噛みついて生き血を吸い、処女の生き血かどうか嗅ぎ分けるのだ。
清浄ではない過去があきらかとなると、その娘は嫁ぐことを許されず、吸血鬼の娼婦に堕ちることになる。
処女の証を立てることができたなら、祝言の日取りは繰り延べられる。
そしてその長い婚約期間中、吸血鬼は繰り返し、処女の生き血を愉しむことができる。
婚約者が提供する処女の生き血が、謝礼がわりとなるのだ。
そしてそのことが結果として、婚約者が婚家の主婦として果たすさいしょの務めになる。
母も、兄嫁も、嫁入り前にそうして血を流した過去をもっている。
佐和子もまた、例外ではなかった。
結納の日吸血鬼に引き合わされた彼女は、数日を経ずして帰り道を襲われた。
勤め帰りのスーツ姿のまま首筋を咬まれた彼女はくねくねと身をくねらせて、路傍に身を淪め、ブラウスをバラ色の血と泥で彩った。
3
知らず知らず後ずさりしてコンクリートの塀際に追い詰められた佐和子は、ちょっと怯えた顔をしている。
――どんな応対をしているのか、見たくないかね?
吸血鬼の誘いをふらふらと受けてしまったことを、ちらっと後悔する。
見てはいけないものを見てしまうのでは・・・と。
血を吸うために、佐和子の足許にかがみ込んでゆく吸血鬼。
佐和子はちょっとだけ脚を引こうとしたが、すぐに足首をつかまれていた。
貴婦人の脚に接吻をするように、吸血鬼は佐和子の脚に咬みついた。
やわらかいふくらはぎの筋肉に牙がしっくりと埋め込まれるのが、離れていても手に取るようにわかる。
痛そうに顔をしかめる佐和子。
しかしそこにはもう、さいしょのときのような恐怖や困惑はみられない。
通過儀礼を済ませた者の落ち着きだろうか。
まるで予防接種でも受けるような冷静さで、貪欲な吸血を受け容れていた。
「あとは家の中で」
佐和子は事務的にそういうと、じぶんから前に立って、がらがらと玄関を押し開いた。
4
家人は留守のようだった。
庭先に回った鼻先で、カチンと電源の入る音がした。
点された家の灯りにちょっとだけ目が眩む。
人影がふたつ、障子ごしにうきあがった。
深夜の一室。私以外の男とさしむかいになる婚約者。
細めにあけた硝子戸の向こう側で、佐和子はこちら向きになって、白のジャケットを脱いでいた。
「お洋服、汚さないでくださいね」
路傍の戯れで乱されたのだろうか。
ストレートのロングヘアがかすかに波打っている。
白い眼で上目遣いに吸血鬼を見あげる佐和子。
臆するようすもなく、つぎの瞬間には吸血鬼の腕の中にいた。
白い首筋に唇が這い、褐色の鋭い牙が沁み込むように素肌を侵す。
「ア・・・」
佐和子が、痛そうに眉をしかめた。
長い髪の毛に伝わるかすかな震え。
恐怖のうちの幾分かは、喜悦も秘められているに違いない。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
忍びやかに洩れる吸血の音。
吸血鬼は私の婚約者を抱きしめながら、容赦なく血を吸い取って己が渇きを満たしてゆく。
夫としての権利を侵害されつつある危うさが、どうして昂奮を湧き起こすのだろう?
ざわざわと身体の深奥から湧きあがるような衝動が、私をゆさぶり、理性を突き崩す。
佐和子を抱いているのは吸血鬼なのか。私自身なのか。
判別がつかなくなる一瞬。
血を吸い尽くされて涸れかけた私の血管が、皮膚の下でジリジリと疼きはじめる。
未来の妻が生き血を吸い取られてゆく、ドキドキするような刻一刻。
いまごろ吸血鬼の体内に流れ込んでいるであろう佐和子の血潮が、私の胸にも満ちるような幻惑。
私は吸血鬼と一体なのだろうか?
いっしょに佐和子の血を味わっているというのだろうか?
吸血鬼が佐和子を放した。
荒い息をはずませる佐和子。
失血は、華奢な身体つきの彼女には、たしかに負担をかけている。
ブラウスにバラ色のしたたりがひとすじ、胸元を伝い落ちていた。
「もぅ・・・」
部屋の姿見に映る台無しになったブラウス姿に目をやると、恨めしげに吸血鬼を見あげる。
「きれいな血だ」
「そうね」
佐和子は独り言のように、応える。
「もう少し、いいだろう?」
「お好きなように」
口を尖らせながらも、甘えるような拗ねかたをしている。
知らず知らず、飼いなさられはじめているのだろうか?
吸血鬼を誘うように、ちょっとだけ脚をくねらせると、
破れかけたストッキングを穿いたままふくらはぎを咬ませていった。
「時々、逢ってくれますね?」
「たまになら、いいですよ」
小首をかしげて、じっと相手を見つめる黒い瞳。
未来の妻は、私のプロポーズを受けたときと同じ瞳で、吸血鬼の愛人になることを認めてしまっていた。
目くるめくような嫉妬とともにこみ上げてくる、えもいわれない帰属感。
これで佐和子も特異な風習を受け容れて、我が家の人になった。
幾度となく重ねられる、うなじへの接吻にとろんとなりながら、恍惚の境地に堕ちてゆく佐和子の姿に、なぜか深い歓びを覚えはじめている。
細めにあけた硝子戸から目を離した私。
親たちは今夜は戻らないのだろう。
そして夜は長い。
しかし、祝言まではまだだいぶある。
おそらく佐和子の純潔が、穢されることはないだろう。
すくなくとも祝言の直前までは・・・
素材としての吸血怪人 3 吸血怪人、大活躍(?)
2005年06月27日(Mon) 08:04:06
吸血怪人の悪口ばかり書いてしまいましたが、過去の記憶から密かに萌えたシーンの話などを。
其の一 教会の吸血怪人
古びた教会に巣食う悪の組織が、花嫁を次々と餌食に・・・
そんなストーリーだったと思います。
たったのワンシーンでしたが、バレリーナが舞台で襲われて逃げ惑い、さいごに首のつけ根を咬まれるシーン。
頭上からのアングルで、戸惑い、つまづき、抱きすくめられ、ふりほどき、またつかまえられて・・・
かなりリアルなシーンが、脳裡に灼きついています。
肩先にピンと張りつめた、コスチュームを吊るストラップのあたり。
豊かな肉づきに獰猛な牙が突き立って。
瞬間、場面は黒一色に転じて、その上を真っ赤な塗料(血潮?)がドバッと・・・
稚拙なぶん、かえって妖しいエロチシズムが漂います。
生れて初めてみた、ストッキング姿の女性が血を吸われるシーンとして貴重な?記憶です。
ほとばしるような急テンポで流れるパイプオルガンのBGMも雰囲気を盛り上げていました。
其の二 吸血三葉虫
なんともおどろおどろしいタイトルです。
楚々とした和服姿の教授夫人の首筋に這わされた三葉虫の化石が、夫人の血を吸って怪人に・・・
これを、夫である教授の目の前でやるんですね。今にしてみればかなりSなシーンだったような。
和服の襟足からのぞく、キュッと引き締まった首筋に這う三葉虫。
血を吸い取られた夫人はしばらくのあいだ、自宅でぼう然となっています。
なにもかも抜き取られからっぽにされた夫人の虚ろな無表情が、支配されたものの虚脱感を体現していました。
幸い教授夫人は生還しますが、夫婦にとってトラウマにならなかったんでしょうか?
其の三 ヒルゲルゲ
名前はうろ覚えです。
雑木林で遊んでいる少年たちの頭上からヒルの大群がふってきます。
ヒルゲルゲは気絶した少年たちにおおいかぶさって、吸血管を胸元に差し込むと血を抜き取っていきます。
赤黒い血液が、透明な管にすごい速さでかけめぐるシーンが連続。
後日そこを訪れたお父さんまでやられてしまいます。
ここでも透明な管に血液が満たされるシーンが。(きっとおなじ映像だと思います)
これが娘とお母さんだったら、もっと萌えたかも。^^
でも、残されたお父さんがかわいそうかな。
其の四 追いかけっこ
獰猛な吸血管を持つ怪人が、男の子を連れた若いお母さんを追い回します。
お母さん、色白でぽっちゃりしていて。
はた目にも、とても美味しそうなんですね。(笑)
なんどか、吸血管を突き立てられそうになるのですが。
そのたびに、危うく回避。
とうとう人妻の美味しい血にありつけないまま、怪人は正義の味方に敗れて惨死を遂げます。(カワイソウ・・・)
あんなふうになるのなら。せめてひと口だけでも、吸わせてやりたかったな。^^
このお母さん、怪人に襲われたあと悪の組織につかまって、人質にされて柱に縛りつけられたりします。
どうにも嗜虐癖のある組織です。(笑)
縛っている時間的余裕があるのなら、怪人に血を吸わせてやることもできたはず。
お母さんは無事生還するのですが。
うがった見方をするならば、さいしょから殺害の意図はなく、ただ虐めて愉しむだけのつもりだったのかもしれません。(そんなワケないって・・・(^_^;))
怪人がとうとうお母さんの血を吸えなかった要因は、虐めかたについて、怪人と幹部とのあいだに見解の相違があったためと思われます。(違)
生き血にありつけずパワーダウンした怪人はあえなくノックアウトされて、悪の組織はまたも、めでたく(笑)野望を挫かれたのでした。
素材としての吸血怪人 2 抱擁の意味
2005年06月27日(Mon) 06:57:27
吸血怪人たちは、多くの場合女性に抱きついて生き血を吸います。
女性からすると、身動きもできないで、生きながら血を吸い取られてゆくわけですが、
人生最後に彼女たちが受けた抱擁には、残念ながら愛情のかけらも感じることができません。
ちょうどそのあたりも、レイパーと似ています。
行きずりのレイパーは、相手の女性に同情や思いやりをもつことはないでしょう。
レイプ願望のある女性がいるそうです。
でもそれは多くの場合擬似レイプです。
激しく犯されてしまう。
強引にモノにされてしまう。
そうした部分だけを切り取って、愉悦するのです。
男性の側は相手の女性に対して、恋人同然の気遣いや思いやりをもって接していきます。
複数の男性を相手にするケースすらあるようですが、それは「輪姦」という言葉がイメージするような陰惨なものではなく、
多くの男たちにかしずかれるようにして、愛撫を愉しむひとときのようです。
なかには夫や恋人を交えることもあるそうです。
理解できる人はまだ少数派でしょうが、性を享楽する一形態といっていいと思います。
愛情の有無という一点において、
擬似レイプやロマンチックな部類のドラキュラものにおける抱擁は、
本物のレイプや吸血怪人のそれとは似て非なるものがあります。
レイパーや怪人のそれは、たんにエモノの抵抗を封じるための手段でしかないようですから・・・
妻を襲ったあとの吸血鬼に訊きました。
抱きすくめながら血を吸っているとき、なにを思っているのかと。
いとしい思いでいっぱいなのだ、と、てらいもなく応えが返ってきました。
彼の特異な欲望を満たすために暖かい血を振舞い、はしたなく衣裳を濡らす妻のことがいとおしくて、愛情を込めて抱きしめるのだ、と。
いとしくもなるだろう?いっしょに莫迦になって、いっしょに愉しんでくれるのだから・・・
単なる食べ物扱いではなく、妻を淑女として遇してくれていることに夫として感謝しているよ、と伝えると、
珍しく済まなさそうに微笑を浮かべていました。
素材としての吸血怪人 1
2005年06月27日(Mon) 06:37:35
少年時代から特異な心象世界を形作った素材のひとつにまちがいなく数えることができるのは、「仮面ラ○ダー」など一連の特撮ものに出てくる吸血怪人たちです。
襲われる犠牲者は、きちんとした身なりをした若い女性だったりします。
とびきりの美人ではなく、ごく身近にいそうなそこそこ小ぎれいなくらいの女性です。
着ている服も、ご近所の大人の女性とそう代わり映えしないのが、かえってリアリティを感じさせます。
襲う側の怪人は、多くは極彩色の、醜怪な姿をしています。
人というよりも・・・花や昆虫、動物に似せた醜悪なフォルムは、襲われる美人たちと好一対な?対称をみせています。
さながらお嬢さんとレイパーのように。
怪人は女性に抱きつくと、首筋に牙を突き立ててアッという間に血液を吸い尽くしてしまいます。
無残にも、女性は力なく倒れてあっけなく絶命。
かいつまんでいうと、そんなシーンです。
なんの罪もない一般市民の女性が、突然げてもののような怪物に襲われて一瞬にして命を奪われてしまうわけですから、いまにして思うと残酷そのものなシーンです。
それでも、
「キャアーッ」
と叫ぶ女性の表情に、恐怖以外のものをみるのは・・・コアな私の読み過ぎでしょうね・・・
なんとなく、恐怖にはしゃいでいるようにみえるときすら、あるのですが。
お化け屋敷とかジェットコースター、好むのは圧倒的に女性といわれます。
そこには「おイモを食べたい」みたいな、女性特有の生理的欲求があるような気がします。
心の深い部分では、恐怖や嫌悪の感情に、それとは裏腹な快感を覚えるときがあるのかもしれません。 (完全な誤解かもしれませんが・・・・)
もちろん、実際に危害を加えられたり、まして殺されたりするなんてもってのほかですが。
(残酷趣味には、嫌悪しか覚えません。あと、スプラッタとかもイヤだな。)
さて、首尾よく?若い女性の血を獲た怪人は、はたして満足を味わうのでしょうか。
あまり、おいしそうに飲んでいるようすは感じられません。
吸血時間?も極めて短かく、一瞬で吸い尽くすケースが多いみたいです。
大人の女性の体内に流れる血液すべてといえばかなりの量のはずですが、どうやってあんなに素早く吸い取ることができるのでしょうか?
どうやら怪人にとって吸血とは、殺害の一手段にすぎないような気がします。
人生の最後の瞬間をこのような無惨な形で迎えなければならなかった女性たち。
それでも、大人になってから目にする彼女たちの最期のシーンは、子供の目にも恐怖とは別次元の異形の感興を呼び起こすようです。
両親は私の傍らで、どんな感想を持ったでしょうか・・・
あとがき
今にすれば似て非なる世界ですが。
「幻想」のごく初期に描いた、吸血怪人についての雑文です。
ちょっぴり、残酷趣味ですね・・・^^;
無題
2005年06月27日(Mon) 05:36:58
昨日のハイソックスを履いた少女が血を吸われる記事は、我が家に出入している吸血鬼氏の回想です。
うち「少女と母」のほうは、もしかするとうちの娘のことかも知れません。
「理恵も、ちゃんとお役目を果たしてきましたよ」
ある日娘を連れてどこかへと出かけていった妻は。
深夜に帰宅するとすぐに娘を寝かしつけ、母親の顔つきでそう、私に報告しました。
家庭訪問 3 親の目
2005年06月26日(Sun) 08:08:15
勉強部屋の畳の上に少女を抑えつけ、うなじを咬んで血を啜る。
「旨い・・・」
呻く私に、
「ウン」
とうなずく少女。
私のために装われたストッキングはとうにチリチリになって、くるぶしまでずり落ちていた。
「制服、汚しちゃダメだよ」
そういいながら、少女はうなじにしたい寄る唇を避けようとしない。
初々しい素肌を、ヒルのように執拗にいたぶられながら、顔色ひとつ変えずに血を捧げる少女。
さっきから。
熱っぽい視線を全身に感じている。
それはドアの隙間から洩れてきていた。
視線の主はいつも平静を装って、
何食わぬ顔で出てくる私をにこやかに迎えてお茶を淹れてくれたりする。
家庭訪問 2 セーラー服の上から
2005年06月26日(Sun) 08:02:39
勉強部屋のドアをひらくと、
机に向かっていたみさほは立って、礼儀正しくお辞儀をしてくる。
「ダイタンね」
くすりと笑うえくぼは、母親譲り。
いちおう、ふたりの関係は親たちには秘密、ということになっている。
「どお?」
彼女はすらりとした脚を伸ばして、私に見せびらかした。
薄い黒のストッキングに彩られている。
なまめかしくコーティングされたふくらはぎが、いつもとまるで違った風情をたたえていた。
「夏服にストッキングなんて、変わってるね」
そういいながらも、早くも唇を迫らせている私。
「いやん・・・」
素早く脚を引きながら、部屋のすみに身を避ける少女。
「そういわず、少しだけ」
ひざ小僧を押さえつけると、強引に唇を吸いつけている。
なよなよとした薄手のナイロンが、唇の下でたあいなくねじ曲がる。
「・・・おいしい?」
くすぐったそうな視線をかんじながら、さらにいやらしく唇をねぶりつかせる。
返事のかわり。
「もぅ・・・」
咎めるように口を尖らせるところがかわゆらしい。
ねじれたストッキングと少女の困ったような顔とを見比べながら、くしゃくしゃに乱れた制服のプリーツスカートをさらにたくし上げた。
「もう、オトナなのよ」
そういいたかったのか。
しかし、少女の小細工を裏切るように、ナイロンの向こう側にあるぴちぴちとした素肌は男の子のみたいに生硬だった。
家庭訪問 1 謝恩会の夜
2005年06月26日(Sun) 07:52:01
きょうは、家庭訪問。
にこやかに出迎える家人をよそに、まず生徒の部屋に通してもらう。
きょうのエジキは比奈倉みさほ。
夏もののセーラー服姿がまだ、初々しい。
さいしょにモノにしたのは、小学校の卒業式の日。
子供をおいて謝恩会に出かけた親たちを尻目に家にあがりこみ、
真っ赤なチェックのスカートをめくって、ヒルのような唇を太ももに吸いつけてやった。
気分が落ち着くと少女は、よくしてくれたお礼に、といって、
その日のために履いていたおニューのハイソックスのうえからふくらはぎを咬ませてくれた。
少女と母
2005年06月26日(Sun) 07:26:57
1 訪問
つれてきた娘はまだほんの少女だった。
幼い目鼻立ちの輪郭から、にじみ出るような色香を漂わせはじめる年頃だった。
肩まで長く垂らした黒い髪。
白のブラウスに、濃紺のプリーツスカート。
ひざ下まできっちりと引き伸ばされた、真っ白なハイソックス。
黒のストラップシューズ。
たしかに中高生の制服めかしているが・・・
近眼なのか、眼鏡はしていなかったが、広いおでこの下から細い目をいっそううっすらさせて私を見上げている。
「いかが?お気に召しますかしら?」
口許にえくぼを浮かべて、お母さんはにこやかに、私に問いかけた。
柔らかくノーブルな目線。つくりは母と娘と瓜ふたつだと気がついた。
二対のおなじ眼が、同時に私を見つめている。
「かわいい子だ。お母さん似のようだね」
私はそういいながら、女の子の髪をなでる。
まだ柔らかく、頼りないくらいサラサラしていた。
女の子はすぐに打ち解けないたちらしくしかめっ面をしていたが、せっかく梳いてきた髪がくしゃくしゃになるのをいとうようでもなく、されるがままになっている。
「それじゃあ、母さんお手本を見せるわね」
お母さんはそういうと、ネックレスを外した。
ご主人からもらったというお気に入りの、サファイアのネックレス。
夫からの贈り物を外すということが、意味しているものはひとつだけ。
飢えが、さからいがたくこみ上げてくる。
つぎの瞬間。
本能のままに、私は少女のまえでお母さんを抱きしめてしまっていた。
2 お手本
「あぁ・・・」
満ち足りた呟きが、耳朶をくすぐる。
柔らかい焔のような、温かい吐息とともに。
私の背中に回した腕をほどくと、ふらふらとなって、尻もちをつくようにしてソファに腰を下ろした。
失血した女性の、いつもながらのしぐさ。
けれども娘にははじめての体験だったから、隣りからもたれかかってくる母親をあわてて介抱しようとする。
「優子ちゃん、いいのよ。母さんだいじょうぶだから」
お母さんは相変わらず、優しげな笑みを口許に含んでいる。
「さ、ご遠慮なく」
娘の態度におかまいなく差し出される、黒ストッキングの脚。
エナメルのハイヒールと、濡れるような光沢を帯びたストッキングにコーティングされた女の下肢は、固唾を呑むほどなまめかしい。
ふくらはぎに唇を吸いつけて、ストッキングを咬み破る。
鋭い伝線をチリチリと上下に走らせながら、ナマナマしい唾液に彩られながら、
いたぶられてくしゃくしゃにされてゆく有様を、娘は息を呑んで見守っている。
目をそむけないだけ、見込みがあるな・・・冷たい計算を頭によぎらせながら、私はお母さんの身体に宿る濃厚な血液に耽溺する。
頭上に、娘にひたと注がれている母の目線を感じた。
ゆるやかに喉を浸す熟した血液に秘められた濃厚な熱情。
母の娘へのメッセージが、なぜか明瞭に伝わってくる。
アナタ、ワカッテイルワヨネ。
オ母サン、オ手本ヲ見セテアゲテルノヨ。
次ハ、アナタノ番。
オ母サンニ、恥ヲカカセナイデチョウダイネ。
傍らにつつましくひかえる、白のハイソックスの脚を横目に、母親のストッキングを食い散らす。
気のせいか、傍らにつつましくひかえるハイソックスの脚がもぞもぞと決まり悪げに揺らいでいた。
3 とうとう・・・
母親から吸い取った血潮を口許に光らせたまま、少女の足許に唇を迫らせる。
少女が息を呑むのがわかった。
母親は、濃紺のプリーツスカートの上から、娘のひざ小僧を抑えつけている。
逃げようもない姿勢のまま、少女は私の牙を享ける。
ゾクゾクするような緊迫感。
真新しいハイソックスの上から、薄汚れた唇をねぶりつかせた瞬間、
「ひっ・・・」
少女はひと声呻いた。
なまの唇をあてがわれるなんて、初めてのことだろう。
毛虫を這わされているような嫌悪感にふくらはぎの筋肉がこわばるのを唇で感じる。
気の毒だな・・・
そう思いながらも、本能のおもむくままに、口許についた血をなすりつけるようにしていたぶってしまう。
厚地のナイロンの生地が、とてもしなやか。
上品に装ったハイソックスがむざんに汚され、くしゃくしゃになってねじれてゆくのを、母親の満足そうな視線が包んでいる。
牙を刺し入れるとき、柔らかい筋肉がキュッとこわばるのがわかった。
隣の書斎から 3 とうとう妻の番
2005年06月26日(Sun) 07:10:40
襖ごしに聞える声の主は、妻に代わっていた。
母を散々犯し抜いた挙句、それでもまだ渇いているというのだろうか。客人は妻を望んだ。
否やはなかった。私の返事も待たず、妻はちょっとだけ身づくろいをし、真新しいストッキングに脚を通すと、ほどいて肩に垂らした長い黒髪とワンピースの裾をひらひらとなびかせて襖の向こうに消えたのだ。
母が出てきたのは、入れ違いだった。
さすがにえび茶色のスーツを羽織っていたが、きっちり合わせたはずの襟元から、ブラウスの裂け目がのぞいている。
うなじにはぽっちりと、まだ赤く濡れた傷口がふたつ。いかがわしい凌辱の痕。
胸までかかる黒い髪の毛が心もち乱れているのが、破れ果ててひざ下までずりおちているストッキングともども、娼婦のようにすさんだ女の色香を感じさせる。
妻もいまごろ、こんななりにされているのだろうか。
「由貴子さん、やっぱり若いのねぇ」
母がうらやましそうにそう呟いた。
もうそれだけで、大胆に身をくねらせておねだりをしている妻がありありと浮んでくる。
いまごろ私のことなど忘れ果てて、愉楽にふけっているのだろう。
嫁の乱行を咎めるべき立場の母は、率先して妻の不倫行為に加担している。
嫁と姑、仲良く連れだって、不倫に励むふたり。
嫁は守るべき貞操を惜しげもなくほかの男にふるまい、
姑は息子の仇敵であるはずの男に、すすんで肌身をゆだねる。
とてもハッスルしていたわよぉ。
サービス、お上手なのね。
いつもああなの?
誰に教えてもらったんだろう。私なんかとぜんぜん違うわ。
べつの種類の女みたい。
とっても、いかがわしかったわ。
あなた、気をつけないとダメよ
無神経な挑発。
じぶんのしてきたことを棚にあげて。
天真爛漫な彼女は、父に対してもおなじように話しているに違いない。
けれども息子に嫁の情事を語るときの彼女の言葉には、かすかな毒がこめられている。
部屋の外と、中と。
ふたりのあいだに交錯する微妙な嫉妬に、どこまでつきあったものだろうか・・・
今宵は何も浮びません
2005年06月25日(Sat) 22:46:22
自分としてはかなり急ピッチにアップしているような気がするのですが。
べつにあらかじめ原稿とかを用意しているわけではありません。
浮ぶときにははやいです。
一度下書きをしてみて、気に入らないと数日間くらいそのままにしておいて、気が向くとやおら仕上げてアップ、というのが最長コース。
本当に早いのは数分間。
すこし前にアップした「お召しかえ」は、珍しく吸血鬼を絡めない純粋?な寝取られものですが、
ほとんど書き直しなしで、書くそば書くそばアップしていました。
粗製濫造にしているつもりはないです。
ごらん頂く方々に失礼ですからね。
つまらないものですが、書いているときはかなり真剣です。
それこそ、吸血鬼に取り憑かれているみたいに(笑)。
いや、じっさい取り憑かれているのかも。^^
睡眠時間足りなくて、休日などはかなりぼうっとしていたりします。
血を吸い取られたような気分です(笑)。
のめり込んでいるか、そっぽ向いているか、両極端なんですね。
隣の書斎から 2 嫁と姑 味比べ
2005年06月24日(Fri) 10:45:03
「お義母様、お見えになっていらっしゃるのに」
妻はぷっとふくれて、まだふくらはぎをいじくりながらにんまりとしている吸血鬼をにらみつける。
子供のいたずらを咎めるような甘い目で。
ネチネチと太ももにまで唇を這わせてくるのを拒みかねながら、
「お義母様、紅茶が入りましたわ」
たまりかねたように、妻は声をあげた。
実家が近いので、母はよく遊びにくる。
「アラ、それじゃあ呼ばれようかしら」
奥の居間から返事がかえってくる。
肌色のストッキングに包まれたつま先が、応接間に踏み入れられる。
落ち着いた渋いえび茶色のスーツが、年相応の気品を引き立てていた。
やな予感がしたが、そのまま書斎で紅茶を啜り続ける私。
母の声があがった。
「まぁ、まぁ。はしたないですよ由貴子さん」
苦笑交じりのおだやかな声色。
「じゃあ、私もお相手させてもらうわね」
物分りよく、母は妻の傍らのソファーに腰を下ろした。
「よろしくお願いしますね」
ちょっとだけ、救われたような顔になる妻。
前は姑のまえで恥ずかしいようすをみせることを忌み嫌っていたのだが。
年月はすっかり二人を気安い関係にしたようだ。
妻の脚を艶めかしく彩っていた黒のストッキングは、みるかげもなく脛から剥がれ落ちてしまっている。
広がった裂け目からなまめかしい白い脛がのぞいていた。
「もぅ・・・」
ふしだらな仕打ちに口を尖らせる妻を尻目に、吸血鬼は、ぴっちりとした肌色のストッキングに包まれた母の足もとに、むしゃぶりついてゆく。
「アラ・・・まぁ・・・」
妻よりもはるかに前からなれ初めてしまっている母。
にこやかにスーツの裾をめくるとストッキングの脚を惜しげもなくさらけ出し、無理無体に圧しつけられてくるなまの唇に吸わせてゆく。
それっきり、声は途絶えてしまう。
みるみる唾液に浸ってゆくのを面白そうに眺めているらしい。
やがて、くすぐったそうな忍び笑い。
「まぁ・・・まぁ・・・」
無体なあしらいを受けて、真新しいストッキングがパチパチとかすかな音をたててはじけてゆく。
溶けかかったオブラアトみたいに、ストッキングが母の足許から破れ落ちるのが、視界に入った。
昼さがり。のどかに紅茶をすすりながら、とりとめもないおしゃべりに興じる嫁と姑。
その足許には、好色な唇がかわるがわる吸いついて、清楚に装われたストッキングのうえから無体なあしらいを重ねてゆく。
「由貴子さん、居間を借りるわね」
ちょっと血を吸われすぎたみたい。介抱していただくわ、といって、母は吸血鬼にほとんど寄りかかるようにして、襖の向こうへと消えた。
「オオゥ・・・」
喉の奥から振り絞るような呻き声が洩れはじめるのに、それからいくばくもかからなかった。
「五十になったらお父さんだけの女に戻るわね」
そういいながら、いまだに父を裏切り続けている母。
大人物な父は、そういう母を笑って許してしまっているのだが。
「もう!」
妻はいつになく、不機嫌だ。
「妬けちゃう。私をほったらかしにしておいて。ひどいわ」
そう口を尖らせる妻が、いつになく可愛い。
もしかして、父よりも妬いているのは、妻・・・?
隣の書斎から 1 おもてなし
2005年06月24日(Fri) 10:38:42
夕べも妻は、ストッキングを破られた。
欲望に渇いた吸血鬼は、劣情もあらわに妻に挑みかかる。
私が在宅していても、臆面もなく。
渇いたとき、襲う。ただそれだけ。
「見せつける快感も、たまらないからね」
彼はそう笑って、たちのよくない趣味をひけらかす。
そういうとき、決まってくすぐったそうに笑みを返す私。
ふたりは仲が良い。
彼は家にやってくると、小ぎれいに装った妻のことをつかまえて、しょうしょう強引にソファに座らせる。
ツヤツヤとした真新しいストッキングの上から唇を吸いつけられて、ぬるり、ぬるりとやられると、妻はきまって迷惑そうに眉をひそめる。
「まぁ、お行儀のわるい」
軽く、たしなめさえするのだが、
しかし、不埒な行為をやめさせようとはしない。
だんだん正気を喪ってゆくのだ。
隣の書斎にいる私は、何食わぬ顔で書物に目を落としている。
しかし開け放たれたドアからは、すべてが丸見えになっていた。
「なかなか、なめらかな舌触りだね・・・」
「まぁ・・・」
妻は小娘のように羞じらう。
「いつものと違うブランドなのよ。おわかりかしら・・・?」
知らず知らず、相手をし始める妻。
しどけない流し目。白目が淫蕩に輝いている。
幾度目にしても、妻がほかの男に送る秋波にはゾクゾクさせられてしまう。
「あ!やだ・・・」
妻の声色が、一段トーンをあげた。
咬みつかれたのだろう。
鮮やかな伝線が、つま先からスカートの奥まで微妙なカーブを描いている。
「破けちゃった・・・」
つま先に目線を落としながら、妻はひとりごちる。
ストッキングの脚を吸う音に、吸血の響きが重なる。
妻の若々しい血に潤う喉が、くぐもるような露骨な音をあげ続けていた。
お召しかえ
2005年06月22日(Wed) 07:02:38
夕方妻は、ウキウキとしてお邸へでかけていった。
ハイヒールの足音をカツンカツンと軽やかに響かせて。
お通夜と称して装う、ブラックフォーマル。
しかし、その調子はいかにも弔いらしくなかった。
艶めかしい光沢を放つ黒ストッキングの脚は、薄闇のなかに溶けるように消えてゆく。
夜明け前。
自宅のインタホンが鳴った。
あたりをはばかるように、か細いボリュウムで。
お邸つとめの顔色の悪い若い女中が、無表情に門の前にたたずんでいた。
黙って、手に提げた大きな紙包みを私のほうに突き出した。
見かけの割りに軽い荷物の中身にそれとなく察しをつけながら、私は軽く会釈を返す。
若い女中は決まり悪そうにうつむいて、ぶきっちょに頭をさげ、逃げるように去っていった。
おおきな紙箱のなかから出てきたのは、見覚えのある女物の衣裳が、ひとそろい。
黒のブラックフォーマル。
黒のレエス入りのスリップ。
黒のガーター・ストッキング。
夕べ妻が身にまとっていたいっさいが、納められていた。
見苦しく、ぐしゃぐしゃに丸め込まれるようにして。
出かけていったときの、ぱりっとした感じは、跡形もない。
タイつきのブラウスの胸に。
スカートの裏地に。
まとわりついた体液は、まだぬらぬらと、気品豊かに漂う衣裳を濡らしている。
果たしてほんとうにひとり分の体液だろうか?
その液体が人によって色が異なるのであれば、幾重にも重ね塗りされた油絵のように、衣裳は執拗なまでに彩られている。
イスの背中にかけたストッキングが、微風をうけて音もなくそよいでいる。
それは、妻がもう淑女ではなくなったことを告げるように、ふしだらな裂け目を広げている。
「ただいまぁ」
昼前、妻が帰宅してくる。
濃い目のピンクのブラウス。
ベージュのチェック柄のロングスカートに肌色のストッキング。
いつもとかわりのない、しゃなりしゃなりとした歩きぶりで、今のなかへと入ってきた。
「お留守の間、かわりはなかったかしら?」
妻の様子は、夕べまでとなんのかわりもない。
衣裳の体液が嘘なのか。
妻の態度が嘘なのか。
そんな私の詮索をあざ笑うかのように、鮮やかな紅を刷いた唇がうっすらと微笑む。
「夕ベハ、ユックリオ休ミニナレマシタ?」
頭の上にまとめていた長い髪の毛は、いまは胸元まで垂れてゆるやかなウェーブを描く。
変えられた髪形に、娼婦の匂いを感じた。
「夕べは、どうだったの?」
つとめて平静を装う口調が、当然のように語尾を震わせてしまう。
「夕べ?」
妻はとろんとした目で私を見上げる。そして思い出したように、
「アア、オ通夜ノコトカシラ」
小首をかしげ、ご機嫌な目線をこちらに注ぎかけてくる。
血のように真っ赤な唇が開かれて、ささやくように声を洩らす。
「貞操ノオ通夜。」
やはり、されてきたのだな・・・
諦めと、密かな昂ぶりと。
「皆サン、オ上手デシタワ。トッテモ。夢ミタイナ夜デシタワヨ」
皆さん?
お上手?
夢みたい?
本当に夢のように。
信じられない言葉が意味を把握できないまま、鼓膜を素通りした。
生唾を呑み込むようにして。
「・・・夕べの服、届いているよ。とても恥ずかしくて、クリーニングに出せないね」
「アラ。ソウカシラ?」
妻は小首をかしげる。別人のように、落ち着き払った態度。
夫を裏切る夜を明かすと、女はこれほどに不貞不貞しく振舞うことができるのか。
「アナタモ、悦ンデ下サルト思ッタノニ」
思わず私は立ち上がり、妻に襲いかかっていた。
私の腕のなかでくすくす笑う妻の胸から、ブラウスを剥ぎ取る。
真珠色の素肌が眩しく目を射る。
ほかの男たちに汚された肌。
その汚れの一片をもとどめずに、偽りの輝きを放っている。
男の体液を吸って輝きを増すかのように。
荒々しくじゅうたんの上に女を転がすと、のしかかってゆく。
嬌声をあげる娼婦。
獣のように踏みしだき、蹂躙する。
そう。獣のように・・・。
恥知らずな欲望が身体の芯から噴き出して、妻を隅々まで濡らし尽くすまで。
ボリュウムを低めに抑えたインタホンが、今朝もあたりをはばかるようにして鳴った。
妻は、今朝も朝帰り。
股間に男たちの精液を吸って、戻ってくる。
情事の名残りなど毛ほども見せないで。
引き裂かれた衣裳を精液に濡れたパンストのつま先で踏みつけながら、小ぎれいなワンピースにお召しかえをするのだろうか。
玄関を出ると、ちょっと照れくさそうに笑う妻。
門の錠前をはずすときのカチャカチャという音が近所にとどくかもしれないくらいに、音のない夜明け。
私は感じている。
寝静まっているようにみえる隣家やお向かいで、息を殺している家人たちの気配を。
オ隣ノ奥サンガ夕ベ、オメカシヲシテ出カケテイッタ。
行キ先ハオ邸ダソウダ。
多分、今夜ハ戻ッテコナイネ。
そんな噂が、軒先を伝うようにして飛び交ったであろう夕べ。
好奇に満ちた無言の視線を感じながら、私は妻を家の中へと迎え入れる。
朝になるとそ知らぬ顔で、日常のやり取りが繰り返されるのだろう。
玄関先を掃除するお向かいのお婆ちゃんとも。
お隣に住む新婚の若夫婦とも。
もう片方のお隣の、そろそろ年頃になった少女だけは顔を染めて、私たち夫婦からちょっと目をそらすのだろうか。
あとがき
初期作品の再あっぷです。
妻を寝取られた男の嫉妬と昂ぶり・・・というのはひとつのジャンルをなしているようですが。
夫が卑屈に過ぎることもなく。妻もあまりに崩れ果てることもなく。
ほどよい理性を保ちつつ、平穏裡に進行してゆく・・・というシチュエーションに魅かれます。
そのへんは人それぞれに。好きずきですなぁ・・・。^^;
吸血相手の夫たち
2005年06月21日(Tue) 08:21:05
奈緒美の父が、痩せこけてきた。
「パパの血も、吸っているの?」
と尋ねる奈緒美に、
「いいや、オレじゃない」
と応えた。
「そう・・・」
奈緒美はいつになく静かな目をして、父のいる部屋のほうを見やった。
「パパもノリ兄さんに吸ってもらえばよかったのかも・・・でも、そうじゃないならいいわ」
尊敬する父親が私に組み敷かれて生き血を啜られるところは、どうしても想像できないという。
「パパがほかのひとを択んだのなら、きっとパパも思い通りにしたいんだろうから・・・」
言葉と裏腹に、まなざしが悲しげに揺れる。
「奈緒美と仲良くしてくれているようだね?」
いつお目にかかっても、お父さんはおだやかで口数が少ない。
家族の血を吸いに来る私にさえ、こころよく会ってくれる。
「ええ・・・」
どうこたえてよいかわからずに、私は口ごもる。
男同士、といっても、こういう関係はちょっと特殊だった。
兄とは、さしあたって、うまくやっている。
「夕べ、こっちまで聞えたぞ。エッチなやつだな」
おかげでひと晩、眠れなかったじゃないか、と、明るく背中をどやしつけにくる。
こちらの気分を察したのかどうか、お父さんはつづけた。
「裕美の血も、吸ってくれているようだね」
「うん・・・」
さすがに口ごもる私。
「いいんだよ、気にしなくって・・・きみが来た晩に、こうなるだろうと思っていたしね」
とりなすように、言葉をついだ。
「父親というのは、哀しいものだね」
メガネの奥で感情を消している。
「手塩にかけた娘をほかの男に取られ、犯されてしまうんだ。
この村だけが狂っているわけじゃない。どこの親もいっしょだよ。
娘を嫁にやる、というのは、そういうことだからね。
でも、男親にはそれが嬉しいんだ。娘がそれで幸せになるのだったらね。
おかしななものだ。吸血鬼のキミに娘を取られても、同じように思えるなんてね。
あの子はキミといっしょになれて、喜んでいる」
痩せこけた五十男の頬に、死の翳が忍び寄っている。
相手は、幼馴染みの男性だと告げた。
自分の家族の血を吸っていたのが、それだけでは足りなくて、たずねてきたのだという。
私の来訪よりも、ちょっとだけ早かったようだ。
Yのやつ、そいつに妹を奪られたくなくて、おれに頼んだのか。
そんな思いが、頭をかすめる。
「ほんとうは裕美の血も吸わせてやろうと思ったんだが、キミのほうが早かったようだね」
「すみません」
「できれば、末永く、生かしてやってもらえないか?」
妻や娘の長命をねがうなら、そのまま生き血を吸われ続けることを許さなければならない。
ただ自らだけは、姿を消そうとしている。
愛する村の崩壊をみたくない、口ではそういっていた。
しかし。
愛する家族の生き血を吸われ続けるという、
そういう境涯に、己だけは身をおくことを肯んじないで、すすんで生を終えていこうとしているでは。
そう思えてならない。
兄と違って、あなただけは幸せにしてあげることができませんでしたね。
吸血鬼としての魔力。
吸血相手の夫や父の理性をも麻痺させて、己が妻や娘を捧げることにある種のマゾヒステリックな歓びさえ感じさせてしまうという。
家族の歓迎を得ることで、夫たちや親たちへの罪悪感を消し去って、エモノにありつけるはずなのだが。
お父さん。そんな小細工、あなたには通じなかったようですね。
娘のハイソックス 母親のストッキング
2005年06月19日(Sun) 07:45:44
学校に行くとき、奈緒美はいつもハイソックスを履く。
それ以外ではお呼ばれか、来客のときか、特別なときにだけ履く。
「どお?ちょっぴりお嬢様ぽいかな?」
兄のYを誘って映画に行くときについてきた奈緒美が得意そうに、おニューのハイソックスをそれとなく見せびらかしていたのを覚えている。
口に出しては言わなかったけれど、すねを蔽う厚手のナイロンはたしかに上品に映った。
最近の奈緒美は、いつもハイソックスを履いている。
「ノリ兄さんの好みでしょ?」
恩着せがましくいいながら、奈緒美はきょうも真新しいハイソックスをひざ下までぴっちりと引き伸ばす。
咬まれて血で汚されると知りながら。
さいしょの夜からしつこく唇を這わせたり、咬みついたりしていたから、よく心得ているのだ。
「はい、プレゼント」
スカートをひらめかせて無邪気に脚を投げ出す奈緒美。すっかり私の――屍鬼のモノになり果ててしまっていた。
純潔の証のように輝く無垢なかんじのふくらはぎが目映い。
わきあがる欲情が、抑えがたく胸を焦がし始める。
肉づきのいちばんたっぷりしているあたりに唇を這わせてゆく。
圧しつける唇を跳ね返すように、ももの筋肉がピチピチとしている。
しっかりとしたナイロンの生地の、しなやかな感触。じっとりと愉しむうちに、口許から洩れる唾液。
ちょっと、からかってやる。
「いい舌触りだね」
「えっち・・・」
奈緒美はもう、夢見心地に目を閉じている。
ハイソックスの向こう側から、まあ侵されていない青白い静脈が健康な血液を含んでたしかな脈動を伝えてくる。
ピチピチとはずむようなふくらはぎの張り具合を愉しみながら、ちくりと牙を突き刺した。
わずかに身じろぎするのを抑えつけて、牙を根元まで沈み込ませる。
純白の生地のうえに、バラ色のしたたりが不規則な水玉模様を広げた。
応接間では、母親の裕美が、小ぎれいにおめかしして待ちうけているはずだ。
娘のハイソックスとおなじように、自分の履いている濃紺のストッキングを破ってもらうために。
センスのよい柄物のプリントワンピース。
銀のネックレスに囲われたうなじには、ぽっちりとした赤黒い斑点がふたつ。
お母さんの首筋は、娘のよりもすこし、硬かった。
奈緒美のお母さんについて(かいせつ)
2005年06月19日(Sun) 06:44:48
奈緒美のお母さんは凄いです。
屍鬼になった息子の友人に、娘の血を吸わせてしまう
わけですから。
自分が血を吸われてたぶらかされているわけでもないのに。
村は危機に瀕しています。
ほとんどの住民が屍鬼の犠牲になったり、なりかかったりしています。
ところが主人公は、家族を含めて自分が襲う相手を、死なそうとしていません。
同じ屍鬼に襲われるのなら、
自分たちを死なそうとする屍鬼よりも
自分たちを死なせまいとする屍鬼を択ぶ、
という打算は成り立つかもしれないのですが。でも普通は、
屍鬼の毒牙から身を守る
ほうへといくはずですね。
お母さんは、事前に主人公の来訪を予知していたようです。
カンの鋭そうなお母さんですから、息子の行動を見抜いていたのかもしれません。
お父さんともある程度、相談済みだったことでしょう。
(お父さんも、文句を言わないところが凄い。愛娘の危機だというのに)
ともかくこのお母さんは、娘を屍鬼と結びつけようとする積極的な意思を感じさせます。
娘、とりあえず血を吸われるのイヤがっていますし。
べそをかいて。(カワイソウ)
でも、どんなに気が進まなくっても、お母さんの命令には逆らえないみたいです。古風なところのある、良い子のようですね。
親を立てて?首すじを咬まれていきます。
反面、お母さんのほうはなぜか、ウキウキしています。
自前の制服とはいえ、娘にコスプレさせてるくらいだし。
どうやら彼女の強烈な意思の根源は、
ノリくんをうちのお婿にしたい!
という、他所の息子への異常なまでの執着のように思われます。
よくいますね。なかなか結婚しようとしない親戚の青年とかを縁づかせようとして、やたら縁談もってくる叔母さんとか。
じつは案外、自分自身が本人のこと、好きだったりするんです。 ^^
立場上、それがかなわないのがわかっているから、自分でもそういう思いがあることを意識しないで、そういう行動に出たりするんですね。
めでたく?娘を縁づかせたお母さん。でも、なかなかの発展家のようですから、お母さん仲間やその娘まで「紹介」してしまいそうです。
娘さんの幸せ?よりもご自分の情愛のほうがまさっているようですから。
『屍鬼』異聞Ⅱ-2 真夜中の婚礼
2005年06月18日(Sat) 23:38:51
誘ったのは、Yのほうからだった。
「妹を襲ってやってくれ」
内気なYにしては、上出来だった。
両親にも気づかれないように家に忍び込み、Yの部屋で落ち合って、Yが奈緒美を呼び出す。
恐怖で声も出ない少女のうなじに牙をつきたてて、夢見心地にしてしまう。
そんな計画だった。
どうしてそんな気分になったのか。まだYの血を吸ったわけでもないのに。
そんな訝しさを、喉の渇きが打ち消していた。
思いつき同然の計画は、起き出してきた両親によってあっけなく狂ってしまった。
ところが。
死んだはずの私の姿をみてすべてを察した親たちは、意外な応対を示した。
ふたりはすぐに顔を見合わせると、
「ノリくん――私のこと――ならいいよね」
と短く言葉を交わす。
母親の裕美は奈緒美の部屋をノックする。
「奈緒美?まだ起きているわよね?お客様だから、着替えてこっちにきてちょうだい」
学校に遅れるわよ、というときとおなじような、いつもの口調。
あとは小声でなにか言いつけている様子。
奈緒美の部屋からがさがさと身支度の音が聞え始める。
母親はイタズラっぽい顔つきで私をかるくにらむと、
「セーラー服がいいわよ、ね?」
念を押すように訊いた。
そして、学校の制服に着替えてきた娘を連れ出してくると、私に生き血をご馳走するようにいいつけたのだ。
父親も気を利かせるように、その場を去っていった。
Yは両親から妹の介添え役をおおせつかって、部屋に残った。
なれないソファーで悶々としながら一夜を過ごすより、ましなようなように思えた。
怯えてべそをかいている奈緒美の肩先に飛びつくようにしてうなじにかじりついたとき、Yががちがち震えながら昂奮しているのを感じた。
からみついてくるねばっこい視線を意識しながら、奈緒美のおさげ髪をかきのけて、首すじに唇を吸いつける。
振り乱されるお下げ髪から漂う甘い匂いに、ゾクゾクと全身をかけめぐる興奮。
あとは、自然な欲求のなすがまま・・・
兄の勉強部屋の畳にぼとぼとと血潮をしたたらせながら、腕のなかでぐったりとなるセーラー服姿。
数分後、奈緒美は力つきたように、兄の前で尻もちをついた。
真っ白なセーラー服に血をしたたらせて・・・
自分の妹が襲われて、血を吸い取られてゆくありさまに昂奮するY。
背徳の悦びは、兄と共通のものだった。
Yが大人になるまで屍鬼になどならずにいたら、きっと彼女や婚約者を紹介してくれるに違いない。
そのチャンスを確保しておこう。
そう思った私は、妹の血を吸い終えると、Yの血も吸ってしまうことにした。
『屍鬼』異聞Ⅱ-1 ねぐら
2005年06月18日(Sat) 23:31:45
目が覚めたのは、親友Yの家だった。
Yの妹、奈緒美の部屋。
体を起こした私の下で、奈緒美はセイセイと切なげに息を弾ませている。
激しい行為のあと、ほどけかかったおさげ髪。
乱れた黒い髪の毛が散らばるように、畳のうえに長くのびていた。
夏用のセーラー服のうえには、不規則な水玉模様。
私のために散らされた、赤黒い飛沫。
濃紺の襟首にも。
真っ白な胸にも。
ほどけかかった深緑色のリボンにも。
獣のような所行に、わがことながらむっとした嫌悪感をいだく一瞬。
それでも、生理的に否みがたい充足感が心をひしひしと浸している。
生命を獲た、という充足感。
ひからびかけていた血管に、夕べ吸い取った血潮のぬくもりが、たとえようもなく心地よい。
十五歳の少女の血液。
いままで吸った血のなかで、もっとも若い血だった。
もうじき、夜が明ける。
階下からがたがたと、家人の起き出す物音がしてきた。
私は隠れ家にもどらなければならない。
奈緒美の部屋の押入れにしつらえられた隠れ家に。
あとがき
旧作『屍鬼』異聞Ⅱ-1 親友の妹 改題。
一部改訂・割愛のうえ再あっぷしました。
泊まりの出張だった。
2005年06月18日(Sat) 23:18:42
帰宅すると、妻はかなり衰弱していた。
食事は済ませてきたというと、ホッとしたような顔をして、すぐに寝室に引き取ってしまった。
状差しに、見慣れない紙片が・・・
柏木殿
お留守の間参上し、私以下三名の吸血鬼で奥様を頂戴いたしました。
順々に首すじを咬んで生き血を回し飲みにし、そのあとは・・・
お察しのとおりです。
どうです?妬けるでしょう?
奥様をモノ扱いにするようなあしらいに及んだことをお詫びするとともに、
ユキコの血液が客人を魅了したこと、かつユキコが客人のためのミストレスとしての役目を立派に果たし、彼等の渇いた性欲を満たし得たことをつつしんで報告いたします。
不一
『屍鬼』異聞3 堕とされた偶像
2005年06月14日(Tue) 02:05:36
隣は兄の寝室。
その暗がりのなかで、淫らな吐息を吐き続ける恵美子。
淑やかな衣裳の裾はしどけなく乱されて、清浄なるベき股間には私の体内から排泄された淫らな濁液を注ぎ込まれてしまっている。
秋に挙げる兄との祝言までは、衝動のままに契ることを許されている。
おそらく、正式に義姉となってからも、許され続ける。
胤をもたない精液は、誇り高いこの旧家の血統を乱すことはないはずだから。
堕とされた淑女。兄のかつての婚約者。
屍鬼と化した私に、兄はすすんで自分のフィアンセを与えてくれた。
むろん、好んで最愛の女性を血に飢えた男の手にゆだねたわけではない。兄なりに、切羽詰った状況だった。
村は、完全に屍鬼たちの支配下におかれようとしている。
そのなかで、若く美しい許婚は、ほうぼうからの羨望の対象であり、狙われるべき獲物となっていた。
うかつな男にむざむざと嫁を奪われては、家の不名誉になる。
村で指折りの旧家としては、家の名誉に傷がつくことは深刻な問題だった。
そう、嫁の貞節を守り抜くことよりも。
同級生に血を吸い取られて一度生を喪った私は、やがて「起き上がり」になった。
泥まみれで墓場から這い出して、闇雲に戻った我が家では、屍鬼となった私は意外な歓待を受けた。
未来の兄嫁にとってもっともふさわしい、吸血の相手として。
母は自ら首すじを差し出して、かつての私に乳を含ませたようにわれと我が血を吸い取らせた。
肉親の血は、よくなじむという。
屍鬼仲間でも、家族を襲うことはむしろ奨励されていた。
母の血は、滋味豊かに私の喉を心地よく彩った。
子供のころからストッキングが好きだった私はよく母の箪笥の抽斗のなかを漁って大目玉をくったものだが、
そんな私のためにわざわざ黒のストッキングを脚に通して、ふくらはぎを咬ませてくれた。
黒のストッキングを穿くのは、私を弔った以来だと、
嬉しそうに微笑みながら、かつて厳しく咎めた私の愚行を快く受け容れてくれたのだ。
すべてに餓えていた私が母のブラウスを引き裂くのを父は苦笑しながら見届けて、
黙って夫婦の寝室を私に譲ってくれた。
父を気遣って声を忍ばせる母を、ひと晩私は自分のものにした。
男女の営みが、これほど心を慰めるものだと、初めて知った。
私の身に潜む兇暴ななにかを女の身をさらして押し鎮め、初めて私は人を殺めずに生き続ける気になっていた。
次の晩は、兄が相手をしてくれた。
兄は、せめて私の嗜好に少しでも付き合おうとして、薄い沓下を穿いてきた。
紳士ものの薄手の長沓下だと言っていた。
舌を這わせた感覚が妙に艶っぽく、紳士ものの長沓下も案外捨てたものではないと思った。
そしてそのとき、自分の婚約者の行く末を私に相談したのだ。
姑の務めを嫁にもさせて、この家の主婦として認めさせたい。
そう切り出して。
紳士ものの沓下と偽って、じつは恋人の足許を彩っていたものだと、あとから聞かされた。
屍鬼に妻を引き合わせるまえにはこうするのがしきたりなのだと。
生命の保証と引き換えに、愛する女性をすすんでゆだねるものが、増え始めていた。
妻や娘の身に着ける衣裳の一部を身にまとい、まず自分の血を与えるのだという。
理性を喪った男性が、吸血鬼の求めるままに妻をゆだねる。
己れの名誉を傷つけることなく妻を明け渡すために捏造された、危うい方便だった。
兄にその風習を教えた男も、妻を屍鬼に寝取らせていた。
恵美子の血を吸ってくれ。
勿論誰にも襲わせたくはないのだが、いずれ誰かに襲われて血を吸われてしまうのであれば、お前に譲ったほうがまだしもだ。
兄の見通しは正しかった。
私の血を吸った同級生も、じつは恵美子のことを狙う屍鬼の一人だった。
屍鬼のあいだでは、特定の関係が生じるまでは、誰が誰にアプローチしてもよいことになっている。
私の血を吸った同級生は私を手先に恵美子をおびき出し、輪姦しようと目論んでいた。
同級生は昔から家に出入していたので、兄のこともよく知っているはずなのに。
屍鬼となってからは平気でそんな恥知らずなことを思いつくようになっていた。
血を吸われたあとに起き上がった夫たちは、妻を奪われまいとして、深夜に帰宅を繰り返すものが多かった。
しかしそれとは裏腹に、起き上がったもののなかには自分の妻を襲うのに忍びなく、みすみす他の男に血を吸い取られる妻のことを、指をくわえて見守る羽目になったものも少なくない。
母も、血のりに汚れた襟首のほつれを直しながら、居住まいを正して、兄の未来の花嫁を私に託したい、といった。
三人でかわるがわる血を吸われて、なんとかお前を養うから・・・と。
翌晩。
招かれた恵美子は、血を吸い取られ身動きできなくなった兄の目の前でスーツ姿を襲われて、凌辱によって私と結ばれた。
崩れかけた理性。
ふたりきりの夜を過ごすとき、恵美子は私の奴隷と化している。
嫁入り前の不貞行為は、家のしきたりの名のもとに正当化されていた。
彼女は兄に尽くし姑に仕えるために、すすんで嫁入り前の身を穢し、昼間から公然と、ふしだらな行為をともにする。
几帳面に結わえられ肩先までストレートに流れる黒髪は、今やゆったりとふり乱されて妖しいウェーブを描いて胸元までとぐろを巻き、娼婦のような風情を漂わせている。
昼間顔をあわせても、尊大な兄嫁として振舞うことはもう、いまの彼女には考えられない。
私が求めれば、彼女はいつでもそれに応じて、人のいない納戸や物置で、スカートをたくし上げる。
兄が在宅しているときでさえ。
清楚な衣裳もろとも私に食い尽くされ、辱められてゆく恵美子。
そこには、私が憧憬した高貴で潔癖な恵美子の面影はない。
思いを遂げることで私は恵美子を壊し、思いを寄せる彼女の実像はいっそう、遠いものとなってゆく。
その空しさを抱えながら、喉の渇きを癒すため、今夜も恵美子を呼び出し、白い肌に牙をつきたてる。
『屍鬼』異聞2 凌辱される兄嫁のストッキング
2005年06月14日(Tue) 01:24:19
乱れかけたスカートのすそに手をやって、思い切りたくし上げる。
純白のスーツ姿。白のタイトスカートは思ったより軽やかにめくれあがった。
あらわになった太ももが、ストッキングの放つつややかな光沢に包まれている。
まだ意識を残しているノーブルな目鼻立ちが屈辱にゆがんだ。
咎めるようなきつい視線を受け流しながら、ストッキングの上から太ももに唇を吸いつける。
われながら、ヒルのようだと思う。
卑劣な悦びに胸を焦がし、なよなよとしたストッキングをいたぶりながら。
人からヒルに堕ちてしまった、私。
病院勤務のときに履いている白のストッキングすら、いくたび咬み破ってきたことか。
看護婦という職業柄、輸血に熟練している彼女でも、
注射針を通さずに、もっと不埒で卑猥なやり口の輸血には不慣れであった。
勤務中にストッキングを破られて、患者の欲する血液をじぶんの血液で強制的に補うという、若い看護婦に課せられた特異な診療行為。
きょうは非番で、兄とのデートのはずだった。
兄のために装ったはずの、淡い光沢を帯びた肌色のストッキング。
テカテカとした上品な光沢は、透明な薄手のナイロンの表面に濡れるような彩りをたたえ、上品さとは裏腹の娼婦じみたいかがわしさをも秘めている。
そのうえから、思い切り唇をねぶりつけ、よだれで濡らした。
しなやかな舌触りのうえにあぶく混じりの唾液を塗りつけながら、兄嫁をあいてに卑劣な愉しみに熱中してゆく。
義姉になるはずの気高い女。その人格とは裏腹な仕打ち。
いくども、ナイロンの薄絹のうえから唇を慕わせ、凌辱を加える。
辱めに耐えかねたように、彼女のストッキングはしわを波立たせ、いびつにねじれてゆく。
「あぁ・・・あぁ・・・」
気の毒に彼女はまだ意識を残している。
ほとんどたよりなくなった昏い感覚のなかで、優雅に装った下肢にくわえられる侮辱だけはありありとわかるのであろう。
ゾクゾクと湧き上がる卑猥な衝動にたまりかねて、とうとう歯を突き立ててしまった。
したたかに食いついた犬歯の下で、薄手のストッキングはパチパチと音を立てて裂けた。
ふくらはぎの筋肉がキュッと引きつるのを覚えながら、そのまま牙を根元まで埋め込んでゆく。
破れた蜘蛛の巣みたいにチリチリになったストッキング。
ふしだらに破れ落ち、ひざ下までふしだらにずり落ちている。
それを足許にひらつかせながら、彼女は私のために虚ろな舞を舞い始めていた。
口許から洩れる吐息。せきあげてくる切なげな焔をゆらめかせ、恵美子はいつか私の背中に両腕をまきつけていた。
『屍鬼』異聞 兄嫁を狙う。
2005年06月14日(Tue) 01:06:52
屍鬼に描かれた滅びゆく村を題材に、兄嫁になる人を襲う男の話を書いてみました。
――どうして私のことばかり襲うの?
恵美子はキュッと口許をひきつらせ、恨めしそうに私をにらみつける。
――それはキミの血が美味しいからさ。
私はきまって、そう応える。
じっさい、恵美子の血は旨かった。
舌によく馴染んだ、というべきであろうか。
とにかく、相性がよかったのだ。
一滴あまさずどこかの吸血鬼にくれてやってしまった、かつて私の体内に流れていた血の血液型と、おなじO型だったせいかもわからない。
お嬢様育ちで東京の女子大を出たインテリということも。
僻地医療を志し、白衣の天使として赴任して、兄に見初められた女だということも。
そうした誇るべき彼女の美質は、血に飢えた私の前ではあまり関係のないことだった。
壁際に追い詰められて顔をこわばらせている恵美子をなんなくつかまえると、牙をむき出す。
後頭部で束ねていた長い黒髪がほどけて、バサッと肩にふりかかる。
つややかな光沢としっとりとした湿りを帯びた髪の毛が、それ自体生き物であるかのように波打ち、ユサユサと揺れた。
薄闇にすっきり浮き出た首すじをたしかめたくて、荒々しく髪の毛をかきのけようとすると、
――おお、やめてッ・・・!
恵美子はヒステリックな悲鳴をあげる。
いつも清楚な白い肌をいっそう引き立てている黒髪が、背中まで垂れ下がって、おどろおどろしい蛇のようにとぐろを巻いている。
――女は魔物だな。
自分の所行をたなにあげてそんなことを思いながら、うなじを仰のけて、
がぶり!
と、したたかに食いついてしまった。
とても柔らかい肌だった。
ジュウッと、鈍い音をあげてほとばしる少量の血。
無論、生命を奪うつもりはない。
私にとっては貴重な供血者なのだ。
生き延びるに充分な血液を体内にとどめるていどに、ほどほどにセーブして吸い取るようにしている。
ブラウスを血で濡らされた恵美子は、そんな私の配慮を有り難がるそぶりは毛ほども見せずに、整った顔にいっそう悔しそうな色を募らせる。
清楚な衣裳を台無しにされることが、彼女のプライドをいかに逆なでするのか。
ぴりぴりと神経質に打ち震える細い肩を通して、それはひしひしと伝わってきた。
ゾクゾクするほど、うれしくなる。知らず知らず、彼女のことをギュッと抱きしめてしまっていた。
なんとか逃れようともがく恵美子。
放すまいとする私。
迫っていく胸から我が身を隔てようと腕を突っ張る恵美子。
力任せに細い腕を折る私。
毒蜘蛛にからめ取られた美しい蝶のように、彼女は無為に抗い続ける。
うなじに唇を押しつけてふたたび傷口を吸うと、どろりとした液体が喉の奥を浸していった。
か細い肢体から供給される、びっくりするほど精気にみちた血液。
二十三歳の才媛が放つ清冽な芳香が、鼻腔を狂わせ、私を魅了していく、至福のひととき。
昏い欲望もあらわに、吸血に耽る私。それをどうすることもできない恵美子。
強気な彼女にも、やがて限界がきた。
かたくなに私を拒み続けていた体から力がうせて、ずるずると姿勢を崩してゆく。
しかし、お愉しみのほうはこれからだった。
『屍鬼』という小説
2005年06月13日(Mon) 07:32:45
世間との交渉から隔絶した村に吸血鬼のユートピアを作ろうとする美少女の吸血鬼。
その存在になかなか気づかないうちに村人は一人、また一人と血を吸われていきますが、最後はすさまじいバトルになります。
アクションものや、血がドバッと噴き出るような最近のホラー映画は興味薄なのですが、この小説ははまりましたね。
克明に描かれている「村」という舞台装置からは、
だれかがなんとかしてくれる。上に相談すればすむことだ。
という人々のいだきがちな安直な姿勢とか、
屍鬼を狩り始めた村人たちによる、疑わしきも罰する魔女狩りのような姿勢とか、
そんなところまで読み取ることができて、リアリティを感じます。
なによりも、土俗的なところがいいです。
日本の一隅。
どこにでもあるようなありふれた家庭の日常に忍び寄る魔性の手。
「起き上がり」と呼ばれる、土葬された墓場からよみがえる現象。
血を得るために家族を襲うことをすすめる吸血鬼の手先。
刺激を感じました。
主人公の僧侶が美少女の吸血鬼に血を吸われますが、ふたりの関係はあきらかに恋愛を伴ったもの。
僧侶とコンビを組んでいる村でたった一人の医師も、美少女の母親と称するノーブルな女性ー軽はずみな行動でまっさきに粛清されてしまうのですがーに血を吸われてしまいます。
こちらのカップル?はあくまで敵味方の関係なんですが、ほんとうにそうかというとやや怪しいです。
軽い酩酊感――悪くない気分。
腕を首に絡めたままカルテの処分を囁く女吸血鬼。
一瞬交錯する二人の影にロマンの片鱗を求めるのは・・・たんに私の感覚が異常なせいでしょうね。
原風景
2005年06月13日(Mon) 07:09:08
ここに書いているのはもちろんすべて妄想です。
ある人に言われました。
「もしかして、子供のころお母さんエッチしてるところ見ちゃったとか・・・?」
たしかにそういうトラウマ、ありがちですね。
でも、まったく記憶にありません。
母も妻も、貞淑で堅実な主婦だと信じています(笑)。
ドラキュラ映画のほかにもし原風景があるとすれば、「仮面ライダー」とかの子供向け番組のシーンでしょうか。
若い女性とかお母さんとかが怪人に襲われるシーン。
変身ものは一応実写なので、かなりリアリティがあります。少なくとも子供にとっては。
怪人が等身大であることも、重要な要素かも。
スーツ、ハイヒールにストッキングという、どこででも見かけるようないでたちで、怪人に襲われる女性たち。
大人っぽく上品な服を着た女性が恐怖におののきながら、醜怪な化け物に抱きすくめられ、首すじを刺されて血を吸い取られてゆくシーンは、大人になってから見てもかなりの迫力があります。
どんなに堅実で善良な市民でも、こういう超常的な手合いにはかなわないです。たあいなく、ねじ伏せられてしまいます。
無惨に殺害された女性はからからにひからびてしまって、うら若い血液だけが怪人の体内に吸収され、悪のエネルギーに転化されていきます。
原風景は案外これなのかも。
一人一人こんなに時間かけて殺していって、ほんとうに世界征服なんてできるのだろうか?という素朴な疑問はさておいて、
彼ら邪悪な組織が殺人を楽しんでいる卑劣な集団であることは疑いありません。やはり、健全な社会から抹殺されるべき存在であることは間違いないです。
でもきっとそれ以上に若い女の血はおいしかった筈・・・
若い女の血に魅せられることがなければ、ああいう怪人は開発されなかったはずです。
怪人が倒されても、殺害されてしまった女性たちは家族のもとに帰ることはありません。
こんな非効率的な方法で世界征服ねらうくらいなら、ずっと地下に潜伏していて、美しい女性たちを生かさず殺さず飼育して、エキスを吸い続けるほうが成功率高いし、愉しいのでは?
・・・などと思うのは、不健全な不良中年のゆがんだ欲求ですね。
幼馴染みY君の手記
2005年06月12日(Sun) 23:07:40
きょうもママは、吸血鬼のおじさんと出かけていっちゃった。
夜家で血を吸われたあと、おめかしして、おじさんの家に泊まりにいくと言って、ボクはパパとふたりでお留守番。
パパはサッカーの選手だった。(プロではないけれど)。
試合のときにはいている、真っ白なストッキングを今夜もはいて、吸血鬼のおじさんに、ふくらはぎをかまれちゃっていた。
面白そうに、自分のほうから、わざとかませていた。
――えぇー?だいじょうぶなの?
そう聞くボクに、パパは笑ってこう答えた。
――Yもいまにわかるよ。たのしめるようになったら、パパがお邸に連れていってあげるからね
そういうものなんだ・・・
でも、吸血鬼のおじさんがくると、パパもママもたのしそうだった。
おじさんがくるのはいつも夕方だった。
おじさんがくるまえに、町で一番のレストランに連れていってもらえる。
ふつうのお客さんだと、家でごはんを食べていってもらったりするのだけれど、
おじさんの主食は人の生き血だから、お料理の用意はいらないのだ。
ママはいつもよりおめかしして、いい服を着ておじさんを出迎える。
パパも気の向いたときには、夕べみたいに長い靴下をはいて、足の、もものあたりをかんでもらったりしている。
――長い靴下をかんで破るのがお好きなんだよ
――ママのはいているストッキングはとても長いから、特に好きなんだって。
パパはそう、教えてくれた。
おじさんがママの足をすうと、ママのはいている薄いストッキングは、すぐにびりびりと破けちゃうんだ。
ストッキングが破けるのは、とてもおぎょうぎのわるいことで、ママもさいしょはいやがっていたけれど・・・
ふだんお出かけするときにストッキングが破けるとママは困ったようにしかめ面するくせに、おじさんに破られるときには子供みたいにはしゃいで、おおさわぎをしている。
おじさんはママに抱きついて、キュウキュウと音をたてて、ママの血をおいしそうに吸い取っていく。
そういうママをみていると、なぜだかちょっとドキドキしてくる。
ママがおそわれているわけだから、ちょっぴりくやしいし。
でも、ママは血を吸われているときに、とっても気持ちよさそうな顔をしている。
おめかししたブラウスが血で汚れちゃっているのに。
大好物にありついてるおじさんがうらやましいみたいな。
ママがきれいだといってくれるのがうれしいみたいな。
とてもヘンな気分。
じつをいうと、ボクも夕べちょっぴりだけ、おじさんにかんでもらった。
ママからお願いしもらったら、Xさいになったお祝いだといって、首をかんでくれた。
かまれるときはすこし痛かったけど、軽くつねられたみたいで、思ったほどじゃなかった。
血を吸われるときにすこし、ぼうっとなったけれど、なんかくすぐったくて、あまりやな感じじゃなかった。
ーーよかったね。Y君。これでキミも一人前よ。
ママにそういわれて、とてもうれしくなった。
こんど遊びに来たら、ボクの血も吸ってね、っておねがいした。
パパが言っている。
Yも、大きくなってお嫁さんをもらったら、ママみたいにかんでもらおうね
うん、と、ボクはこたえた。
井戸端
2005年06月12日(Sun) 07:44:02
妻を伴って帰宅すると、ちょうど隣家のご主人が夜勤明けで戻ってくるところだった。
いつものように、軽く会釈を交し合って、それぞれの玄関に向かいかける。
隣家から「行ってきまぁす」と、ふた色の声。
子供の甲高さが残る声色。きょうものどが張り裂けんばかりの元気さだった。
セーラー服の娘と、半ズボンの息子がいっしょに玄関から出てくる。
娘のほうは私たちをみとめると、背筋をぴんと伸ばして
「アッ、お帰りなさい」
ぴょこんと挨拶をしてきた。この子はいつも礼儀正しい。きっとしつけがいいのだろう。
出かけてゆくふたりの足許につい、視線を落としている。
申し合わせたようにひざ下までぴっちりと引き伸ばされたハイソックス。
裏側に赤黒いシミがほんの少し滲んでいるように見えた。
蚊に食われたていどの、かすかな痕跡。
きっと誰も、気にとめないだろう。
子供たちを見送りにでてきた奥さんが、こちらに気づく。
白いTシャツに、デニムのロングスカート。
昨日よりはラフな身なりだった。
ちょっとやつれてすさんだ感じがしたのは、ウェーブのかかった髪の毛が乱れていたせいだろうか。
昨晩鮮血をしたたらせたであろう髪の毛は、何事もなかったように奥さんの胸のあたりでとぐろを巻いている。
目が合った瞬間、お互い目をそらせてしまう。
情事を知るもの。見られた意識をもったもの。そんな関係。
「お帰りぃ~^^」
奥さんはさりげなく目線を妻のほうに向けて、軽く手を振った。
お互いの情事のことは、奥さん同士でつうつうのようだった。
「じゃね。また」
奥さんは妻に手を振ると、すぐに引っ込んでしまった。
きっと、夫たちがいなくなってから、井戸端会議が始まるのだろう。
ご主人は奥さんのすばやさにちょっと取り残されたようだった。けれど、こちらに笑みかけてこういった。
「夕べはやかましくなかったですか?」
「だいじょうぶです。・・・よろしくおやりになってましたよ(^_-)」
ダンナどうしも、ツウツウだったりする。^^;
早朝の喫茶店
2005年06月12日(Sun) 07:42:47
「帰ろうか」という私に
「お茶でも、してかない?」と、妻。
ブラウスの襟首に、かなりべっとりと血がしたたっていたけれど、気にならない様子だった。
「いいね・・・」
気づいているのか、わざと見せつけているのか。
歩みを進めはじめた脚に、ストッキングの伝線がぴちーっとつま先まで走らせている。
駅前のカフェテラスは、マスターがいつも早起きで、こんな時間でも開いている。
お客は私たち夫婦だけ。
「よぅ、やられてきたねぇ」
白髭をたくわえたマスターは、気軽に声をかけてきた。
「あぁ、またハデにやられちゃったさ」
「お若いね。うらやましいよ」
まるで、スポーツクラブの帰りのような、さりげないやり取り。
「ご夫婦で?」
「いや、家内のほうだけ。女の血のほうが旨いっていうからね」
「そいつはけしからん。妬けるねぇ」
マスターも奥さんを寝取られているので、同病相憐れむ、という関係だ。
「うちのは今夜だ」
「もうやられて帰ってきたよ」
「そいつはご愁傷様」
「だいぶ腹空かせてるみたいだぜ。気をつけな」
幾度となくしてきた、そんなやり取り。お互い嫉妬のほろ苦さをほどほどに愉しみながら。
ウェイトレスあがりの奥さんはきれいだったので、かっこうのエジキだった。
血を吸われすぎて、お店を休んだこともある。
そうすると、わけ知りの常連客のあいだでは、奥さんの話でもちきりになる。
くすぐったそうに受け答えするマスター。
孫ができた今でもたまに、お邸に呼ばれているらしい。
「そんなに物珍しい?」
妻はイタズラっぽく、私の顔をのぞき込む。
ほかの男のものになったあと、ついしげしげと観察してしまう。もう長い間の癖だった。
「物珍しいのはオレのほうだろうね」
正直にそういった。たしかに、寝取られた女房を男の家まで迎えにいくダンナなど、そうそういるものではない。
「着替え、持ってったときあったよね。結構愉しいんだよ。あれはアレで」
「あなたのそういうところ、大好きよ」
妻は少女のように無邪気に笑った。
夕べの執拗な吸血。
皮膚はかさかさになり、顔にも十歳くらい老け込んだようなしわをうかべながら、それでも妻は少女のようにさざめいて、周りの空気をはずませる。
彼女が私をいまだに好いてくれているのは、確かだと思う。
いかに彼とのセックスの回数が私よりも多くても、彼のモノが私のそれよりも大きくても。
だから、笑って妻と彼との関係を許し続けていられるのだろう。
「柏木夫人のまま、犯し続けてあげるよ」
最初に妻を抱いたとき、彼はにんまり笑ってそう言っていた。
朝帰りを出迎えて
2005年06月12日(Sun) 07:34:36
妻を迎えに、お邸に行く。
お邸に着くともう妻は玄関を出て、しらっとした顔で私を待っていた。
うなじをスッキリ見せたいと、結婚してからは髪の毛を頭の上で結わえるようになっている。
夕べも、いつもの髪型で出かけた妻。
一夜明けると、きちんと結わえていた長い髪をお嬢さんみたいに肩にすらりと垂らしている。
しっとりとつやを帯び、量感のある黒髪。
うなじの傷をかくすため、襲われた翌朝だけは、娘のころの髪型に戻る。
はからずも、吸血鬼がもっとも好むヘアスタイル。
あるいは、望まれて髪型を変えるのか。
彼の好みに合わせるようになるほどに、彼の所有に帰してしまった妻。
黒髪のはえぎわから、白い首すじがあらわになって、いままでどれほど我が家の侵入者を欲情させ続けてきたことか。
その首すじにはいつものとおり、えぐられたような傷あとがふたつ。
綺麗に並んで、つけられている。
長く垂らした髪の毛で隠そうとしても、それはちらちらと見え隠れしている。
それと分かる身にはあまりにもあらわな、情事の名残り。
テラテラとまだ濡れている傷口には、彼の唾液が残されているのだろうか。
両肩をつかまれてがぶりとやられる瞬間が、脳裡をかすめる。深々と食い入ったであろう欲望の痕。
妻はさすがに、蒼い顔をしている。
どれほど吸い取られたというのか。
牙の深さと顔色で、夕べの寵愛の深さを推し量る。
そして、そのことに深い満足を覚える私。
妻の若さ、美しさを認知されたことに対する誇り。
そのために多少妻の身持ちが崩されていたとしても、充分に報われていると感じる。
日常の再開
2005年06月12日(Sun) 07:24:31
ガー、ガーと、朝早くから殺風景な音がする。
隣家の洗濯機である。
吸血鬼の訪問をうけると、きまってこうだった。
血に汚れた服を洗っているのだろう。
その程度で落ちるのかどうかわからないが・・・
家の中では朝の支度で子供たちの歩き回るどたどたという足音。
早くしなさい、遅れるわよ、とでもいっているのだろうか。ちょっととがった奥さんの声。
どこにでもある、ささやかな喧騒。
吸血鬼の立ち去ったあと、隣家の日常はもう、始まっている。
隣はなにを
2005年06月12日(Sun) 01:23:25
妻は今夜も、招かれて家をさまよい出て行った。
周囲は寝静まった住宅街。
こんな時間なのに、隣家だけは灯りがついている。
四十代の夫婦と、中学生の娘、小学校の息子の四人家族。
外泊しているご主人をのぞいて、全員起きているらしい。
深夜なだけに、声までよくきこえる。
どんなパーティーがあるのか、妻から聞かされていた。
息子 「痛ーーーっ!」
(痛がりながら、声は楽しそう)
奥さん「あらぁ…んんッ・・・もうッ!」
(こちらももだえながら、なぜか嬉しそう)
奥さん「まあっ!失礼ねッ!」
(きっと、スカートをたくし上げられているのだろう)
夕方、買物帰りの奥さんと顔を合わせた。
礼儀正しく挨拶されて、ふつうに会釈を返したが、
ストライプ柄のミニスカートからにょっきりのぞいた脚に、妙にドキリとした。
ミニスカートをまくり上げられて、あらわになった太もも。
光沢を身にまとっているかのように映った繊細なナイロンも、いまごろ脂ぎった唇にいたぶられて、オブラートみたいにとろかされているのだろうか。
あらぬ妄想が頭の中をかけめぐる。
ちゅ、ちゅう~っ・・・
奥さんの身体から血を吸い上げる音が、ひとをばかにしたようにわざとらしく、闇夜を通してこちらまできこえてくる。
脂の乗った熟女の血液にしんそこ酔った。
そんな満足感を、吸血鬼は血を吸い取る音で表明している。
奥さん「ううん・・・そんなに美味しい?^^」
甘ったるい声がした。とてもご主人にはきかせられない声だ。
所帯持ちのいいまじめな主婦。最愛の妻。
夜更けにつかまえられて血を吸い取られて、そんな理想が見るかげもなく崩れ果ててゆく。
パーティーには第二部があるようだ。
息子「姉さん、姉さんったら・・・」
弟の声は妙にはしゃいでいる。
まだ子供のくせに、年頃になった姉の血がいちばんのお目当てだと感づいているらしい。
二階の廊下のガラスごしに、まだなにも知らないらしい姉が階段を下りて行くのがみえる。
夏物の、白のセーラー服姿が妙にそそった。
「お隣の娘さん、まだなのよ・・・」
いそいそと逢引に出かけていった妻は、そういった。
なぜかウキウキとした声色だった。
屈辱を心地よさに巧みに変えてしまった妻にとって、未経験者の受難は格好の話題なのだろうか。
「遅くになるけど、大事なお客様が見えられるから、ちゃんと制服きていなさいね」
きっとそんなふうに、母親に言い含められているのだろう。
姉娘 「ユウちゃん(弟の名)どうしたの?そのかっこう」
奥さん「ミエちゃん(娘の名)ちょうどよかったわ。
母さんくたびれちゃった」
姉娘 「ママ、血が出てるわよ。早くばんそうこう・・・」
息子 「姉さん、ダメだよ、そんなこと言ってちゃ」
奥さん「ホラお客様よ。ご挨拶なさい」
姉娘 「・・・(口ごもりながら、挨拶している様子)」
奥さん「わかっているわね?」
姉娘 「エー?なにが?」
息子 「姉さんも、血を吸われるんだよ」(嬉しそう♪)
姉娘 「エエー?なんのこと?」
息子 「わざわざセーラー服着て待ってたの、そのためでしょ?」
姉娘 「どういうことー?」
奥さん「私の血だけじゃ、足りないのよ・・・^^;」(すまなさそう)
姉娘 「だから、どういうこと?」
息子 「母さん、この人に血を吸われてたんだよ」
姉娘 「ええっ!?」
奥さん「・・・みんな、かまれちゃったのよ^^;」
姉娘 「へ、平気なのッ!?母さん」
奥さん「あなたの血を欲しがって、遅くに見えられたのよ。
たっぷりご馳走して差し上げて頂戴ね」
息子 「母さんの血も、おいしそうに吸ってたよねー^^」
奥さん「子供は黙ってなさい!」
客人 「お嬢さんですね。初めまして。血液型は何型かな?」
奥さん「O型ですよ。私といっしょ」
姉娘 「ウソーーー!!」(べそをかいている)
奥さん「さ、あなたも早くご馳走するのよ」
息子 「よかったねー。吸血鬼さん。処女の血だよ!^^v
ボクが姉さんのこと、つかまえててやるからね」
奥さん「首すじ、怖いの?じゃ、脚から咬んでもらいなさい。
ハイソックス履いたままでいいから・・・」
姉娘 「きゃー!(><)」(絶句・・・)
声が途切れた。
しばらくしてがやがやし始めたときにはもう、娘も大人しくなっている。きっと正気を喪ってしまったのだろう。
息子 「これでみんなナカマ だね・・・(^^)」
奥さん「よくがんばったわね。ミエちゃん」
姉娘 「痛かったー(><)」
奥さん「お味はいかが?・・・まぁ嬉しい。
よかったわ。お口に合って^^」
姉娘 「やだぁ、母さんたら。
ストッキング、ちりちりに破けちゃってるよぉ(^O^)」
ふらふらしている頭かかえながら、精いっぱいに余裕を装い、見るかげもなく咬み破られた母親のストッキングがみっともないと、からかっているらしい。
奥さん「まー、この子ッたら!」
そういいながら、従順になった娘の態度に満足しているようだ。
声のトーンが穏やかになっていた。
息子 「母さん、なんだかやらしかったぞ」
奥さん「父さんによけいなこと言わないのよ」
助平な吸血鬼のことだ。太ももさすったり、おっぱい揉んだりしながら、奥さんや娘の血を吸い取ったのだろう。
子供の教育上、よくないことだ・・・
母と姉、ふたりながら血を吸われ、みだらなあしらいをされるのを見た息子は、このさきどんなふうに女たちに接していくのだろう?
姉娘 「学校に履いてくハイソックスだけど、よかったの?」
よくきこえないが、いい触り心地だったくらいのことは言っているに違いない。
夕方会ったとき、奥さんは肌色のストッキングを履いていた。
階段を降りていった娘は、ハイソックスを履いていたようだった。
女ものの靴下が大好物だという吸血鬼に、味比べされちゃったに違いない。
姉娘 「・・・わかった。じゃあ、もう一足ねっ♪ ^^」
階段を昇ってくる音。
二階から隣家のお茶の間を窺っていた私は、とっさに窓から身を離す。
若い子は、立ち直りが早いようだ。
ご主人の留守宅で今夜ひと晩、かれは三人もの若い身体から吸い取る血潮で安眠できるに違いない。
隣家でうなされる私を尻目にして・・・
夜光虫
2005年06月11日(Sat) 23:12:52
初めて母のストッキングを身につけて吸血鬼に破らせてしまってから。
母が寝に入ったあと、母の居間に侵入するようになった。
母の洋服を一そろい、手に入れるためだった。
「母さんの代わりに、ストッキング履いてきてやろうか?」
そういう私に、吸血鬼は血走った面をあげて、にやりとした。
「できるなら、そっくりお母さんの格好で遊びにこれないかね?」
胸の奥をぴーん!と刺されたような感じがした。
「いいね、それ…」
ボクの声は、ふるえていた。
それ以来、ボクは深夜、母の衣裳を身に着けて、彼の邸を訪れるようになった。
見慣れたはずの街が、まるで別世界のように電燈の明かりに照らされている。
穿きなれないハイヒールになんども躓きそうになった。
風が吹くたびにさやさやと揺れるブラウスや、その下に身に着けているスリップのしなやかな感触が皮膚を微妙に刺激する。
スカートから入り込むよそよそしい冷気が、なよなよととたよりないストッキングの履き心地に、日常とは別世界の密かな愉しみを満喫させされながら。
カツンカツンというハイヒールの足音が妙に耳障りだった。
人目を気にして明るいところを避けながら歩いていった。
吸血鬼のまえで母を演じて、襲われる…見慣れた母の衣裳をくしゃくしゃに乱されながら…
境界
2005年06月11日(Sat) 15:21:38
ドラキュラものと寝取られもの、それにストッキングフェチをからませた文章を・・・と思い、つれづれにつづっています。
が・・・
なかなか難しいですね。
ストッキング・フェチって、寝取られ願望のある人には結構理解者が多いんです。
あるサイトには、
ストッキング・フェチはMが多い
と、喝破されていました。
なるほどなあ、と感心しました。けっこうピンとくるものを感じました。
ところが、ドラキュラものは、ちょっと離れているんです。
寝取られものが限りなくリアルを追求するのに対して、ドラキュラものはあくまでファンタジーに徹しています。
妻を寝取られたい 犯されるところを目の当たりにしたい
というのと、
血を吸われたい 首すじに咬みつかれてみたい
というのと、自傷的な性嗜好という点では似ているのですが、
微妙に、ずれているみたいですね。
あべこべに、
自分が吸血鬼になって、好きな娘を襲いたい
なんて方もいらっしゃるでしょうし・・・^^;
あと、ヒロインの年齢。
前者はどうしても熟女になるのに、後者はやはり十代の女の子。
もちろん突極の理想は処女です。
四十代くらいの熟女が吸血鬼のエジキに・・・というのは、あまり聞きませんね。
↑こういうシチュエーション、個人的にはかなり萌えるのですが(笑)。
まあそんなわけで、きょうも少ない理解者の出現を期待して、落書きしてみようと思っています。
招かれた淑女たち
2005年06月07日(Tue) 20:13:00
1.招待
彼方にきらめくシャンデリアの下、白い衣裳に身を包んだふたりの女が、燕尾服の男たちと向き合っている。
ひとりは若く、ひとりは初老。
いずれ劣らぬ気品をそなえた良家の夫人たち。
それがにこやかな笑みをたたえて、密会の相手と言葉を交し合っている。
若いほうは、妻。
そして年配のほうは・・・母だった。
母もまた、夫-私の父-に黙って出かけてきたのだろうか。
わが家に出入りして、家族の生き血で喉を潤おしている吸血鬼。
時折、同類を招いて、深夜密かなパーティーに耽る。
母によると、相手として選ばれた女性たちは、遅くとも前の日の晩までには招待を受けるという。
妻は深夜のスケジュールについて、私にはひと言も洩らさなかった。
着飾った姿で私以外の男性のまえで抜群のプロポーションをさらけ出している妻。
これだけでもう、充分に不倫の罪を犯している。
そう感じる私。
刺すような嫉妬の思いがじわじわと、胸の奥を焦がしはじめる。
妻は私がここに来ていることを知っている。
密会の現場をどこかから覗き見されていることも、充分に意識している。
わかっているのよ。貴方が見ていることも、愉しんじゃっていることも。
見ていてね。美しく装った私が抱かれるところを・・・
一見清純にさえに映る笑みが加虐的な翳を含んで、嫉妬に満ちた夫の視線をクールに受け流す。
磨きぬかれた白い肌を輝かしながら、ノーブルな目鼻立ちに濃厚な媚びを浮かべて、上目遣いに相手の男に笑いかけている。
「夫に黙って抜け出してくるの、大変でした」と、妻。
「アラ、私はちゃんと、お父さんにお話してから来たのよ」
嫁のやり口を軽く非難するような口ぶりで、母は眉をひそめる。
しかし、イタズラっぽく笑う嫁を見やる目線はあきらかに、共犯者同士の共感をたたえている。
「ふつつかではございますが、どうかお手柔らかに・・・」
やや低めで穏やかな母の声も、いつもよりまろやかに響く。
あとはもう、言葉のいらない世界・・・
2.遊戯
母は未知の吸血鬼と。
妻はいつもの吸血鬼と。
それぞれ向かい合わせになって立っている。
母なりに、未知の危険から息子の嫁を守ろうとしたのか。
姑として、未知の客人を先にもてなそうとしたのか。
それとも単なる歳の順か・・・
渦巻く妄想をとめることができないままに、ふたりはそれぞれを迎える好色な腕に我が身をゆだねた。
上目遣いに各々のあいてを覗き込むようにしておとがいを仰のけて、おろされる牙を受け容れてゆく。
ふたつの細い首すじに吸いつけられる、飢えた唇。
女たちは、紳士の接吻を受け容れるときの優雅さでそれに応えてゆく。
肌を吸うひそやかな音が、ふた色。
ちゅうっ・・・ くちゅうっ・・・
ひそやかにあがる吸血の音に、女たちは黙りこくる。
愛する女たちの体内から、かけがえのない血液が刻一刻と吸い出され喪われてゆく、呪わしい音。
それはかすかに淫靡さを帯びながら、広間の壁に沁み込むように重く静かにつづいた。
ふたりが我が身に牙の侵入を許した瞬間、決して不愉快なだけではない衝動が、閃光のようにちかちかと胸の奥ではじけた。
母も妻も立ったままお相手の紳士に抱きすくめられて、乞われるままに供血に応じている。
さきに、ふらりと頭を揺らしたのは母のほう。
つづいて妻も、吸血鬼にもたれかかるようになっていた。
逞しい肩を我が身から引き離すようにした胸元に、バラ色の飛沫が鮮やかに散っている。
純白のブラウスに散らされた不規則な水玉模様。
清楚な衣裳を汚す愉しみ。
衣裳を濡らす鮮血が鮮やかに映えるよう、申し合わせたように白のブラウスを身に着けてきた二人。
意図したとおりの効果に、ふたりの顔は満足そうな笑みを含んでいる。
「どうかね?ご気分は」
お邸のあるじに促され、ふたりは並んでソファに腰をおろす。
「エエ、だいじょうぶですわ、これくらい。慣れていますもの…ねぇ、由貴子さん」
うなじの傷が疼くのか、軽く押さえたまま、母は嫁を見返る。
「ハイ。ちょっといい気分になっただけですわ。お義母さま」
心持ち蒼ざめながらも、うっすらとした笑みを浮かべる妻。
「まだお若いのですから、しっかりなさいね」
「だから、いっぱい吸われちゃったんです…私の血、美味しいんですよ」
「まぁ」
ふたりの女たちは互いに顔を見合わせて、くすくすと笑いこけている。
「どうぞ、お楽になさってください。おしゃべりでもしながら・・・」
「そうねぇ」
促されて母は、妻に語りかける。
いつものような、当たり障りのない世間話。
私の仕事のこと。忙しくて夜が遅いこと。こっそりと抜け出してくるのが面白かったこと。
「あらっ?」
突然、妻が声をあげる。
「まぁ・・・」
続いて母も。
いつのまにか吸血鬼たちは、ふたりの足許にかがみこんでいる。
視界の向こう側でなにをされているのか、察しはついていた。
足許に、唇をねばりつけられたのだろう。
「まぁ、まぁ、いやらしいわ・・・」
母が困惑したように脚をすくめて嫁のほうを見返るが、妻のほうは
「ちょっとォ・・・」
と、照れ笑いをしながら早くも相手の要求に応えはじめていた。
スカートやワンピースのすそをせり上げられて、ストッキングに包まれた脚線美があらわにされる。
妻は黒。母は肌色の。
飢えた唇から素肌をガードしているはずのストッキングは、かえって吸血鬼たちを誘惑するように、それぞれ濡れるような光沢を放っている。
臆面もなくべろをあてがい、唇をぬめらせる男たち。
やがて吸いつけられた唇に、キュッと力がこもる。
ストッキングがいたぶりに耐えかねたように、太ももの上でパチパチと音を立ててはじけていった。
すでに酔わされてしまっているのだろう。
ふたりは刺し込まれる牙の心地よい痛みにくすぐったそうに肩をすくめ、上品なストッキングがむざんに咬み破られ、剥がれ落ちてゆくのを面白そうに見つめつづけていた。
いいように衣裳を辱められていながら、妻も母もウットリとなってしまい、ことの善悪もわきまえず、吸血鬼の欲望のまま、玩ばせてしまっている。
ちゅっ…ちゅ、ちゅう~ッ…じゅるっ…
もはや、量を貪るようなやり口ではない。
むしろ風情を愉しむように、吸血鬼たちは、女たちの衣裳を熱っぽく、荒々しく引き裂いて、あらわになった素肌に、思い思いに咬みついていく。
嫁と姑とをかわるがわる取り換え合って、順繰りに生き血の飲み比べに耽る吸血鬼。
まるで利き酒でもするように、低く言葉を交し合って、血の香り、活きの良さはもちろんのこと、身に着けているスーツやワンピースの品質や、ストッキングの舌触りにいたるまで堪能し、引き比べ、悦に入っている。
ふたりの若さ、美しさ、淑やかな装い。すべてが賞玩の対象だった。
それから先は・・・?
ご想像のままに。
ここに集う夜の紳士達は、深夜に呼び出したご婦人に恥をかかせるようなまねはしなかった、とだけ言っておこう。
恐らく、母も妻も、夜明け前にはエスコートつきで帰宅を許されて、何食わぬ顔で早起きをして、何事もなかったかのように朝食を作って、それぞれの夫たちを笑顔で迎えることだろう。
音
2005年06月07日(Tue) 08:34:09
夜更け。
かすかにベッドをきしませて、妻は寝室から抜け出してゆく。
ネグリジェの裾に引っ掛けたのか、机の上にあったペン立てを不用意に落とした音がなければ、気づかなかったかもしれない。
少し間をおいて、私もベッドを抜け出した。
そらぞらしい外気に淡い鳥肌が滲み、もっとマゾヒスティックな歓びからくる寒気ににたようなものが、さらにそれを上塗りした。
しなやかな女体が音もたてずに、隣室のかすかな灯りの下でシースルーのネグリジェを脱ぎ捨てると、ゆるやかな白のブラウス、黒のタイトスカートを身にまとい,黒のストッキングに脚を通してゆく。
娼婦が身づくろいするような、手馴れた動き。
髪を整え、メイクをすませ、音を忍ばせて、妻は玄関から出てゆく。
吸血鬼に血を吸われる美女は正気をうしなって、命じられるままに夜中に自室からさまよい出るという。
しかしそれは本当だろうか?
完全に支配され、吸血鬼に心を奪われてしまったものたちは、己の密かな愉しみにふけるため、はっきりと自分の意思で家から抜け出してゆく。
「気づいたら、あのお邸におりましたの・・・」
困惑の表情をつくって、彼女たちは必ずそう口にする。
しかし、その語尾の震えは、ほんとうに恐怖からくるものなのか。
瞳の奥に少しでも、愉悦の曇りが漂うようなら・・・
妻の身持ちをいちどは疑ってみるべきである。
私も彼女と同じように、音もなくベッドを出る。
傍らをみると、テーブルの上にあるのは女性の下着。
ロングドレスのようにすその長い、黒一色のワンピース。
サイズが妻のものとちがうことを、私はよく知っている。
ムチの痺れを快感と受け取るある種の人たちと同じ種類の衝動が、心の奥に閃く。
「ここまでおいで」
人をあざけるのが面白くてたまらない、という感じに意地悪な笑いに崩れる妻の顔が浮かんだ。
そういうときの妻は、ひどく無邪気である。
私はいつのまにか、女の衣裳を手に取っている。
身支度するときの密かな音。
つけっぱなしになっている隣室の灯りの下、不倫の装いに身を飾ってゆく妻の姿が、幻のようによみがえる。
女装に身を包もうとする私の傍らで、洩れそうになる淫らな息遣いを忍ばせながら。
時折立てる不用意な物音。
あれは私が気配を察することができるほどに、わざと立てた物音だったのか。
薄笑いのすき間から白い歯を覗かせながら、寝入っている私の枕許でペン立てをわざと床に落とす妻・・・
音を忍ばせながら。
忍ばせた音に気づくよう、それとなく音を立てる。
手の込んだやり口に、甘い苦笑いが浮かぶ。メイクの下にこわばった唇から。
薄いナイロンの神秘
2005年06月05日(Sun) 21:14:06
少年時代。
母は、いつも小ぎれいに装っていた。
家にいるときでもスカートを履いて、ストッキングを身に着けている。
スカートとストッキング。
子供のころからそれは私にとって、女性のシンボルだった。
婦人ものの衣類のなかで、ストッキングほど艶めかしく、もろい素材でできたアイテムはすくない。
なよなよとたよりない薄い生地を脚に通すことによって、どうしてこれほどの変化が起きるのであろうか?
しなやかな薄手のナイロンは、同時に恐ろしくもろい。
ちょっとひっかけただけでも、すぐ伝線してしまう。
色の濃い目のストッキングほど、その効果は絶大だ。
そんな繊細でなよなよとした薄絹の向こう側から、ぬるりとしたなまの唇が吸いつけられる。
ナイロンの舌触りを愉しむように、そいつはヒルのようににゅるにゅると這い回る。
清楚な装いに、およそ似つかわしくないあしらい。
潔癖で感じやすい若い女の子だったら、毛虫のように忌み嫌うであろう感触。
脚の線に沿うように整然と流れるナイロンの繊細な網目模様はじょじょにゆがめられ、不潔な唾液に濡らされてゆく。
いちど伝線してしまうと、細いストライプはちりちりとかぎりなく伸びつづけ、裂け目を広げてゆく。
肌の透けて見えるような、紙のように薄い黒のストッキング。
その表面にひとすじのびた白い縦縞模様。黒と白の鮮やかなコントラスト。
破られて、脛からずり落ちたストッキングは、ふしだらにたるみ、くしゃくしゃになってゆく。
穢されて、堕とされた淑女のように、凌辱されたあとのストッキングは妖しく、なまめかしい。
あれから二週間後。
母はうっすらと笑いを浮かべながら、裂けたストッキングを静かにずり降ろし、つま先へとすべらせる。
目の前で自分の身体から吸い取った血潮を滴らしている吸血鬼に向かって、鮮やかに刷いた口紅のすき間から白い歯をのぞかせた。
レエスに縁取られたブラジャーをつけたまま、素肌に牙を圧しつけてくる吸血鬼のために、ブラウスの襟首をくつろげる。
純白のブラウスと、その下に敷いたシーツとを不規則な真紅の水玉模様で彩るために・・・
夕暮れ時の公園にて
2005年06月05日(Sun) 20:49:07
ふくらはぎにぴっちりと密着していたストッキングのうえからあてがわれる、唾液に濡れた唇。
あきらかに不埒な意図をもった唇に、清楚で透明なナイロンの皮膜にいびつなひきつれが走った。
執拗にいたぶりを続ける唇の下で、屈辱に耐えかねるように、ぱりっというかすかな音とともに縦に入る鮮やかな裂け目。
みるみるうちにチリチリになったストッキングは、ふくらはぎの周りから浮き上がって、だらしなくたるみ、くしゃくしゃになってずり落ちてゆく。
週末にあった法事のとき、母が黒の礼服の下に身に着けていた装い。
清楚でオトナっぽい彩りのなかにどこかエロチックなものを感じていた私は、吸血鬼に初めてご馳走するママのストッキングに迷わずそれを選んでいた。
それが変わり果てて、いまはむざんに咬み剥がれ、ひざから下にまで破れ落ちてしまっている。
足許には「吸血鬼のおじさん」と、みすぼらしい老婆の吸血鬼。
両方の脚に腕をからみつけ、ふくらはぎに牙を埋めている。
はじめてひざ下のあたりに唇を吸いつけられたとき、
「あぁ…ママが辱められてゆく・・・」
そう直感した。
すねの周りに密着している女物のストッキング。
ママが脚に通していたナイロンの装飾は、圧しつけられてくるなまの唇にいたぶられて、いびつにゆがみはじめる。
凌辱、などというオトナの言葉はそのころ、まだ知らなかった。
でも、そのときの私がありありと感じたのは、まさに凌辱そのものだった。
ママのストッキングは、持ち主の意思にかかわりなく、ふしだらなあしらいにさらされている。
「うふふぅ…すべっこい沓下じゃのぅ…」
古びた着物に身を包んだ老婆はヌルヌルと薄気味悪くよだれをひからせたべろを、いともむぞうさにねばりつけてきた。
「もったいない…」
身をすくめ、屈辱に歯噛みする。
ママがこんなやつらに侮辱されるなんて…
でも、血を吸い取られて夢見心地に意識をさまよわせ始めた私は、もうどうすることもできないで、身に着けたママのストッキングをむざむざといたぶり尽くされ、裂け目が広がるのを見守るばかり。
その様子は、折り目正しい衣裳を泥まみれにされてふしだらな侮辱にさらされるママ本人を想像させた。
堕とされる淑女。
本能がその有様をまざまざとリアルに描き、刺激的な映像を形づくる。
汚れたオトナがもつような恥ずべき欲望が、私のなかでそろそろと音もなく頭をもたげ始めていた。
後記
前段までは子供言葉。
ここではややくだって、大人になってからの回想として描いてみました。
箪笥の抽斗(ひきだし)
2005年06月05日(Sun) 19:59:33
家に誰もいないとき、母の部屋に忍び込み、箪笥の抽斗をあける。
防虫剤のかすかな匂いが、ツンと鼻を刺す。
最初に開けた抽斗には、見覚えのあるスーツやワンピース。
つぎの段には、ビニール袋にくるまれた、冬物のコートやセーター。
お目当てのモノはなかなか見つからない。
端から開けていって、ストッキングや肌着は一番上の抽斗にあることがわかった。
おそるおそる、震える手で、たたんでしまってある黒のストッキングの一足をつまみ上げる。
覚束ない指の間からつま先の部分がはらりとすべり落ちて、長々と垂れ下がる。
あ…
声にならない声。
取り出すまえ、どんなふうになっていたっけ。
もう、たたんで元に戻すことはできない。
ついこの前までのノーマルな日常から、一歩、また一歩と逸脱してゆく、軽い恐怖を伴った罪悪感。
あと戻りできなくなる…そんな思いとは裏腹に、ボクはぎこちない手つきももどかしく、ストッキングのつま先をさぐっていた。
しょうしょう手間取りながらつま先を合わせると、ストッキングをくるぶしからひざ下、そして太ももへと、じょじょに引き上げてゆく。
抽斗の狭いスペースのなかで萎縮していたナイロンがぐーんと伸びる。
ハイソックスよりも長い靴下を穿いたのは、タイツを穿いて幼稚園にかよっていた時分以後記憶がない。
なまめいた透明な薄衣が、しなやかな感触とともにボクの脚にぴっちりと密着する。
子供のころのボクの脚に、ママのストッキングはちょうどぴったりのサイズだった。
女の脚みたい…
別人のようになったふくらはぎに、我ながら見とれてしまう一瞬。
でも、そのうえからズボンをはいて家をあとにしたときには、ボクはもうすっかり落ち着きを取り戻している。
子供のころの作文 2
2005年06月05日(Sun) 19:41:40
初めてのときから、ボクは「吸血鬼のおじさん」になついていた。
ハイソックスの脚を咬まれたり、血を吸われたりするのはちょっととメイワクだったけれど、それでも週に二回くらいは、Y君といっしょにお邸に遊びに行って、二人そろってハイソックスを破らせてあげていた。
5、6足破らせてしまったころ、いつもハイソックスをなくして家に戻ってくるボクのことを、ママが疑いだした。
Y君にそれを話すと、Y君は自分のハイソックスをボクに貸してくれるようになった。
「吸血鬼のおじさん」は、ボクが行くといつも歓迎してくれた。
「いつも悪いね」
といいながら、ボクの脚や胸に咬みついて、キモチいい気分にさせてから血を吸ってくれた。
そんなふうにキモチよくしてもらえるのが嬉しくて、
ボクは自分のほうからかませていって、ゾクゾクするような快感に夢中になった。
けれどとうとう・・・ボクの血だけではガマンできなくなったらしい。
ある日、ママのストッキングをねだられたのだ。
さりげなく、
「お母さんのストッキングも、面白そうだね^^」
と。
子供のころの作文
2005年06月05日(Sun) 19:27:01
吸血鬼のおじさんは、どういうわけか長い靴下が好きだった。
同級生のY君に誘われて初めてお邸にいったとき、Y君は紺色のハイソックスをはいていた。
あとできいたら、ボクがたまたま、新しいねずみ色のハイソックスをはいていたので、吸血鬼にかませてやりたくなって、声をかけたといっていた。
お邸の奥のうす暗い部屋に通されると、Y君は、ぼろぼろの着物を着たおばあさんの吸血鬼のために、すすんでズボンをひきあげて、ハイソックスの脚をかませてあげていた。
家でわざわざはき替えてきた真新しいハイソックスに、おばあさんはよだれをしたたらせながら、唇を押しつけていた。
ボクは、50さいくらいの男の吸血鬼の相手をさせられて、Y君とおんなじように、ハイソックスの上からそのままかまれて血を吸われちゃっていた。
ちょっとチクチクしたけれど、思ったよりも、痛くなかった。
ちゅうちゅうと血を吸い取られていくうちに、頭がぼうっとなって、夢を見ているようないい気分になってしまった。
おじさんはやさしくて、痛くない?とか、加減はどうだい?とか、気をつかってボクにきいた。
ボクが本当に具合悪そうになったら、どんなに血が欲しくてもガマンしてくれるといってくれた。
慣れると血を吸われるのが気持ちよくなってきたので、もっと吸ってもいいよといったら、すごく嬉しそうにしてボクの首すじにかみついて、勢いよく血を吸いあげたので、ちょっとくらくらしてしまった。
ボクの血を吸い終わると、吸血鬼はボクの脚からハイソックスを引きずりおろして、脱がせてしまった。ハイソックスを引き伸ばすと、ちょっぴりついた血のシミをみて、嬉しそうに笑った。
欲しそうにしていたので、ハイソックスはあげてしまった。
ママには、はだしで遊んでいるうちになくしてしまった、とウソをついた。
Y君は、お母さんの言いつけで、三年生くらいのころから、よくお邸に遊びにきているといった。
この村で生れたY君は、男の子は中学に上がる前にこのお邸におじゃまして血をあげるのがこの村のしきたりだと、お母さんから教わっていた。
Y君のおかあさんも、よくここに血を吸われに来るらしい。
都会育ちのママはきっと、そんなことは知らないと思う。
吸血鬼のおじさんは、ボクの血がおいしかったといって、ボクに礼を言ってくれた。そして、来週また来て欲しいといわれた。
オーケーするとき、なぜかとっても、ドキドキした。
誰の代わりに・・・?
2005年06月05日(Sun) 17:45:49
戯れに、妻のストッキングを脚にとおすことがある。
ふだんは世間並みの潔癖さを持ち合わせている妻はもちろん、いい顔はしない。
書斎で半ズボンの下に黒のストッキングを履いているときに、
突然ドアを開けられたことがあった。
淹れてくれたお茶を、落っことしそうになっていた・・・^^;
夜更けだと、ストッキングを穿いたまま、外出をする。
こういうのを、短パン外出、というらしい。
近くの公園で、吸血鬼が待っている。
「ご主人、すまないね。夕べはちょっと、吸いすぎたものだから」
木陰で足元の隠れるベンチに腰をかけて、妻の代役を務める私。
遠い日には、母の代役を演じていたこともある・・・
※「身代わり」から改題
輸血
2005年06月02日(Thu) 01:41:18
彼女の職業は、看護婦だった。
輸血は日常業務として手馴れていたはずである。
しかし、必要とされる血液をいやおうなく自分の身体から補う羽目になったのは、むろん初めてのことだろう。
ひからびかけた吸血鬼の体内を潤おすために、うら若い血液をたっぷりと吸い取られてゆく由貴子さん。
体内にほとんど血液を残していない私と、同じ経験に我が身を重ねてゆく未来の妻。
えもいわれぬ帰属感が、胸に満ちてくる。
これで彼女も、私と同じ種類の人間になってゆく…
そんな思いが奇妙な安堵を呼び、抑えつける手にいっそう力がこもった。
目の前の彼女は、もはや行為を拒んではいない。
生き血を奪われるという体験に、むしろ悦びを見出し始めている。
執拗な吸血行為に、彼女は気高く耐えた。
自身の純潔を身をもって証明するために。
処女の生き血を愛でられていることを、はっきり自覚していた。
たおやかな柔肌の下に脈打っていた清冽な血潮は、そのままそっくり吸血鬼の渇いた血管に流れ込む。
もう取り乱すことなく吸血鬼の相手をつとめ、気前よく血液を振舞いはじめている、私のフィアンセ。
爽やかに装った洋装をさえ、惜しげもなく愉しみに饗し、ついには凌辱にゆだねてゆく。
こうして彼女は、柏木家の嫁として相応しい女となった。
あとがき
あっぷしていたつもりで落としていたお話を見つけました。
これも初期のものです。
由貴子さんの職業を看護婦に設定したお話は、これ一つきりでした。
初めての刻
2005年06月02日(Thu) 01:09:10
なん年前のことになるだろうか。
挙式を控えた夏の日。
未来の花嫁を伴って、お邸を訪問する。
親しい親類へのご挨拶。そう彼女には告げてあった。
真の目的は、とうとう告げることができなかった。
喉をからからにした吸血鬼に若い女の血をあてがうため・・・
婚礼をひかえた村の男たちに課せられた、おぞましい通過儀礼。
そんなこととはつゆ知らず、純白のスーツに身を包み、ハイヒールの靴音も高らかに古びた舗道を闊歩する彼女の脚。
ふくらはぎを包む透明なストッキングが、照りつける陽光を反射して、てかてかと輝いていた。
歩みに合わせて波打つ、ゆるやかなウェーブのかかった長い黒髪。
すべてが生気をたたえ、ぴちぴちとはずんでいる。
もったいないなぁ・・・
我ながら差し出すのが惜しくなるくらい、彼女は目映い。
え?
と、彼女はふしぎそうにあたりを見回す。
昼とは思えないくらい、薄暗い室内。
ひんやりとした空気に支配された、木目模様のフローリングが広がる洋室。
私たちを招き入れた老年の執事はいつのまにか、音もなく姿を消していた。
与えられたハイチェアに腰かける彼女のひざ上を軽く抑えるように手を当てて、さりげなく力をこめる。
「・・・?」
訝しげに見上げてくる目線を避けるように、
「ちょっとのあいだ、ガマンして」
乾いた口調で、彼女に求める。
音もなく背後から迫る唇がおもむろに、彼女の柔らかそうなふくらはぎに吸いつけられる。
「・・・え?」
にゅるにゅるとねばりつく、魔性の唇。
ぬらりと光る唾液が、ひきつれひとつない真新しいストッキングの表面をしたたかに濡らしていた。
その陰から鋭い牙が注射針のようにあてがわれ、ストッキングの上からひときわつよく吸いついて、ふくらはぎを侵す。
「・・・っ!!」
声にならない悲鳴。
知らず知らず、彼女のひざ小僧を抑える手に、力がこもる。
ちゅっ、ちゅう~っ・・・
ひとをくったような、吸血の音。
「あの・・・」
もの問いたげな彼女の目線がふらりと揺れた。
うろたえた目線がほんのしばらく足許のあたりをさまよい、それもうっすらとした白目になってゆく。
「痛い・・・」
低い呻きが、しっとり濡れた唇から洩れた。
引き抜かれた牙に血をあやした口許が、傍らでにんまりとほくそ笑んでいる。
「だいじょうぶ?」
覗き込んだ白い顔に、困惑したような笑みが浮かぶ。
「貴方の・・・手」
力任せに抑えつづけていたほっそりとした手の甲に、私の指の痕がくっきりと浮き上がっている。
彼女の職業は、看護婦だった。
輸血は日常業務として手馴れていたはずである。
しかし、必要とされる血液をいやおうなく自分の身体から補う羽目になったのは、むろん初めてのことだろう。
ひからびかけた吸血鬼の体内を潤おすために、うら若い血液をたっぷりと吸い取られてゆく由貴子さん。
体内にほとんど血液を残していない私と、同じ経験に我が身を重ねてゆく未来の妻。
えもいわれぬ帰属感が、胸に満ちてくる。
これで彼女も、私と同じ種類の人間になってゆく…
そんな思いが奇妙な安堵を呼び、抑えつける手にいっそう力がこもった。
目の前の彼女は、もはや行為を拒んではいない。
生き血を奪われるという体験に、むしろ悦びを見出し始めている。
執拗な吸血行為に、彼女は気高く耐えた。
自身の純潔を身をもって証明するために。
処女の生き血を愛でられていることを、はっきり自覚していた。
たおやかな柔肌の下に脈打っていた清冽な血潮は、そのままそっくり吸血鬼の渇いた血管に流れ込む。
もう取り乱すことなく吸血鬼の相手をつとめ、気前よく血液を振舞いはじめている、私のフィアンセ。
爽やかに装った洋装をさえ、惜しげもなく愉しみに饗し、ついには凌辱にゆだねてゆく。
こうして彼女は、柏木家の嫁として相応しい女となった。
キスの魔力
2005年06月01日(Wed) 08:27:42
主婦が不倫に走るとき。
いちどキスを許すと、あとはかなりの確率で、なだれ込むように行き着くところまで行く、という。
男に唇を吸わせる、ということには、それほどの重みがあるらしい。
そう。
吸血鬼に襲われて抗う妻が体の力を抜いたのは、たしかにキスを奪われてからだった。
吸われる という行為
2005年06月01日(Wed) 07:55:30
唇には、不思議な吸引力が備わっている。
恋人を他の男性に抱かせたことのある男性は私にこういった。
嫉妬を愉楽として感じることのできる、私と同じ血をもった男性である。
「挿入行為そのものよりも、キスを奪われているときのほうが昂奮した」
彼の意見に同感である。
吸われる、ということで、妻のすべてを奪い尽くされてしまうような気がする。
大切な女性が身も心も奪われてゆくときの、オスとしての本能。
危険信号のシグナルがちかちかと明滅するのが、自分でもわかる。
それがかえって、妖しいスリルを増幅させているということも・・・
血を吸うことで、彼は妻のすべてをわかってしまうらしい。
血液型はもちろん、妻の気性、その日の体調から、いま何を考えているのかまで、すべてお見通しだ。
そうした彼に襲われて、力ずくでねじ伏せられていきながら、妻は血を吸い取られてゆく。
いやおうなく強いられる吸血行為という、至れり尽くせりの愛撫。
彼女の体内から抜き取られるのは、血液だけではない。
血潮とともに理性も魂も、引き抜かれていくようだ。
どんなに貞淑な女性でも、堕ちるだろう。あの唇を這わされてしまったら。
妻がもういい、というまで、身体のすみずみにまで愉楽が染みとおるまでに愛撫は重ねられる。
妻をすっかり支配下においてしまうまで。
さいごに止めを刺すように、
ごくごくごくごく・・・
と、喉を鳴らして血液を呑み込んでゆくときには、妻はすっかり彼の奴隷となっている。
「キモチよくしてくれるんだもの。だから感謝のしるしに、血をあげるのよ」
何の屈託もなく、妻は言う。
「美味しそうに召し上がっていただけると、とても嬉しいわ」
と。
閑話休題。
キスを奪われる恋人に愉悦を覚えたかの男性、じつは私の妻のことを狙っている。
いまは夜ごと人妻を狙うようになった彼。飢えた吸血鬼と似た横顔をもつ。
現身(うつしみ)の男性に妻を与えたことは、まだない。
しかし、妻の貞操と引き換えに嫉妬の愉悦を与えてくれようとする友の好意を、断りきれない私がいる。
状況さえ許せば…そんな妄想が心の裡を昏く渦巻きはじめている。
彼の渇きを、飽かしめてやりたい と。
吸血鬼は妻の不貞を許すだろう。
どんな係累をたどってでもエモノを求めようとする彼にとって、
妻の浮気相手の奥さんは絶好のエジキだろうから。
奪わせる側の誇り
2005年06月01日(Wed) 00:13:34
吸血鬼が、まだ若かった妻をはじめて襲ったときのこと。
大人しくなった妻の身体から牙を引き抜くと、彼は言った。
「A型だね。引き締まったいい香りだ・・・」
一流のソムリエが上質のワインを賞玩するように、妻の若さと魅力とを正当に評価する。
「さすがに、きみの奥方になる人だ。毎晩素晴らしい夜を愉しめるだろう。キミは幸せ者だネ」
からかうような口調の中に、妻に対する賞賛と、私への羨望が滲んでいた。
そのことが私を、ひどく満足させている。
どこか、誇らしげな感情までわいてくるのはどういうわけだろう?これから妻を犯されてしまうというのに。
気失した妻を彼は思うさま賞玩し、美しい、とても魅力的だと心から褒め称える。
褒め称えながら、妻の肢体に己れの四肢をツタのように絡みつかせて、そそり立った逸物をたくし上げられたスカートの奥へと沈み込ませていった。
ノーブルな目鼻立ちにうっすらと苦痛を滲ませながら、その瞬間、妻は悲しげに、ちいさな呻きをあげた。
彼の欲望のままに、他律的に上下動を繰り返す妻の細腰。
支配が完全に成就したことを、ほろ苦い嫉妬を噛み締めながら見守る私。
初々しいスーツ姿をしどけなく乱されて、じょじょに素肌をあらわにされてゆく妻。
そのうえから覆いかぶさる息せき切った熱っぽい躍動が、寵愛の深さをいやがうえにも見せつける。
しかし、彼が妻を気に入っていることに、私は深い歓びを禁じえなくなっていた。
妻の体内に注ぎ込まれている精液のほとびに感応するかのように、乏しくなった私の血液も、ひからびかけた血管のなかで跳ね上がる。
すでにおおかた、彼に吸い尽くされてしまっている私の血。
それが、彼の胃の腑のなかで、妻の血潮とひとつになっている。
奇妙なマゾヒズムに、脳裡が昏く染まった。
身体だけではない。
気性の強さ、育ちのよさからくる気位の高さ、折り目正しい立ち居振る舞い、センスのいい衣裳にいたるまで、
彼は妻のすべてを愛でながら、犯してゆく。
その行為は決して、妻や私の誇りを傷つけることはない。
夫婦ながら血を玩ばれ、そのうえ目の前で妻を穢されてしまっているわけだから、蹂躙を受けていることは間違いない。
それでも、侮辱されている、という思いはまったく感じられないでいる。
どこか、私たちへの敬意や親愛の情を漂わせながら、世間並みの理性をすっかり私から奪い取り、妻をぞんぶんに犯されるという屈辱を、満足と悦びのヴェールで巧みにコーティングしてしまっているのである。
そのとき私は、夢見心地になりながら漆黒のマントにくるまれる妻とおなじくらい、満ち足りた笑みを浮かべているにちがいない。