淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
巷の灯りに彩られて
2005年10月30日(Sun) 19:50:00
シティホテルから見おろす、都会の巷。
路上にあふれかえる車のヘッドライトが幾重にも重なって、
それは一見幻想的ですらある。
それらひとつひとつのなかに、数個の生命が、そしてそれと同数の人間的な日常が宿っているなどということのほうが、
かえって現実味がないようにすら思える。
しかしそれらの光芒がわずかに照らし出すビルの壁面は暗く冷たく、
やはりそのなかに人間のもつはずの暖かい日常が埋没しているとはなかなか思えない。
まりあの住んでいる街にも、こういうオフィス街はなくもない。
しかし、このような無機質なばかりのコンクリートの塊がこれほど果てしもなくつづくようなことはない。
まさに、コンクリートの檻、といえるこの光景。
東京沙漠。
古ぼけた流行歌のタイトルは、いまだに生命力をなくしていない。
設備の整った、快適なホテルの一室。
しかし、煌々と部屋の隅々にまで行き届くライトの明るさも、いまはそらぞらしいばかりである。
きょうのクライアントもまた、冷静に、的確に、ビジネスの話をすすめていき、
さいごにそらぞらしい儀礼的な挨拶をして、あのビルの巷へと消えていった。
それらのはてのどこかには、暖かい家庭なるものが待っているのだろうか?
ふぅ。
息が詰まるような絶景から、まりあは逃れるように目を逸らす。
かちり。
テレビのスイッチを入れる。
家でいつも目にしているおなじみの番組が、
いつもより色あせて液晶のうえを踊っている。
気乗りのしない展開に耐え切れず、ぱちぃん、とスイッチを切ったとき―――。
同時にすべての灯りが消えていた。
ぶぅん・・・ぱぁん、ぱぁん。
遠鳴りのように聞える都会の喧騒だけに支配された部屋。
しばらくぼう然と佇んだまりあはちょっとだけ、現実に引き戻された。
―――ちょっとぉ、なんなわけ?せっかく奮発していいお部屋とったつもりなのにい!
憤然となって、フロントに苦情のひとつもいってやろうと受話器を取ろうとすると、
コツコツ。
誰かが扉をノックした。
「申し訳ありません。お客様・・・」
おずおずと切り出す男の声は、どうやらホテルの従業員らしい。
「ご迷惑をおかけいたします。停電のようでございます。ちょっと中を点検させていただきたいのですが」
なんの疑念もなくあけた扉の向こう側には―――。
そう、あの黒衣の男がにんまりとした笑みを浮かべていた。
「ルームサービスはいかがかね?お嬢さん」
とっさに両手で口をふさいだまりあ。
「どっ!どうしてここへ?」
そんなまりあの狼狽を完全に無視して、吸血鬼は部屋をいちぶしじゅう、見回している。
「どーやら停電、このお部屋だけのようだね。アンラッキーなまりあちゃん」
ふふん、とそんなふうにうそぶくと、まりあのほうを振り返り、
嘲るように鼻を鳴らして、
「時間と空間の隔たりは、私にはあまり意味のないものなのだよ、まりあくん」
そういって、まだスーツを着替えていないまりあの、頭のてっぺんから足のつま先まで、ちろり、ちろりと目線を這わせてゆく。
そうしてあごに手をやって、ぐいっと顔を持ち上げると。
「まだまだきみは、お勉強不足のようだね」
そういって。
冷たく研ぎ澄まされた牙をむき出すと。
ちくり。
まりあのうなじに突き刺した。
「う、ううんっ・・・」
まりあは甘い微痛に眉を引きつらせて。
それでも自分の体から男の体へと移動してゆく血液の流れをとどめることができずにいた。
ちゅぷっ。
ちょっといやらしい音をたてて。
吸血鬼の牙が、引き抜かれる。
快楽とともに下肢を冒す男性器が抜き取られるときのような快感を伴って、
わずかに散らされた血潮が、白のブラウスにぴゅっと撥ねた。
吸血鬼はまりあの髪の毛をまさぐるようにしてかき上げて。
うなじにつけた傷口に、満足そうに見ほれている。
「よしよし。いい子だ。そのまんま、大人しくしているんだぜ?」
かれはそういうと、いつものように足許にかがみ込んでゆく。
「ま、待って・・・」
まりあはとっさに、部屋のすみへと飛びすさる。
そうすると、おもむろにストッキングを脱ぎ始めた。
「おやおや。覚悟のいいことだ。さっそく、お嫁入りのご用意かね?」
「ひどいこと、いわないで」
まりあはキッとにらみ返して。
こんどは一転、挑発的なポーズを取って、
脱ぎ替えた真新しいストッキングの脚を見せびらかした。
薄闇のなかに射し込んでくる巷の灯りを反射して。
すらりとした脚の輪郭を、濡れるような光沢が際立てていた。
「汚いの、嫌いだったわよね」
そういって、まりあはちょっとだけ怖がるようにいやいやをして。
キュッと目を閉じていた。
月夜の晩の舞姫の舞いに、吸血鬼はとても満足したようだ。
じゅうたんのうえ、押し倒したまりあの足許で。
吸血鬼はイヤらしく、
くちゅっ。
ぬるり。
唾液にたっぷりと濡れたべろをふくらはぎに這わせながら。
―――覚悟のいいのだけは、どうやら当たっているようだね。
静かにそう、呟いていた。
照明の消えたまま。
色とりどりのネオンやライトがオーバーラップするホテルの一室。
都会の装いはもうしどけなく乱されて。
いつも家の近所の草むらのなかでそうされるように、ふしだらに肌を露出させていた。
ふくらはぎの周りを束縛していたストッキングがちりちりほぐれていって、疲れた脚から緊張感が去ってゆく。
まりあは陶然として、傷口のうえを踊る舌と、唇の奏でる絶妙なハーモニーに酔い痴れる。
巷の喧騒は遠かった。
悪戯坊主 1
2005年10月30日(Sun) 12:52:07
学校にあがったばかりのわたしの坊やは、吸血鬼。
お父さんは、お姉ちゃんのパパとはちがう人。
クラスの女の子を襲っちゃダメよ、
どうしてもガマンならなかったら、お姉ちゃんの教室に行きなさいよ。
そう言い聞かせている毎日。
そんなときに舞い込んだ、親類からの招待状。
坊やの世話を誰にも頼むことができなくて。
お姉ちゃんといっしょに初めてお出かけした結婚式場。
おめかしをしたきれいなお姉さんたちが行き交うたびに、彼の目は足許に釘づけ。
とうとうガマンできなくなっちゃって。
私の脚をおねだりされちゃった。
だって、困るわよ。こんなところで。
仕方なくって、お姉ちゃんを外で待たせて、坊やと一緒にトイレに入る。
個室のドアを閉めたとたん、
脚をつかまえる手ももどかしく、
性急にねぶりつけられた幼い唇。
い、痛・・・ッ!
しょうがない子ね、ほんとうに。
黒は裂け目が目立つのよ。
履き替え用意していたからいいようなものの。
先が思いやられるわ。
お願いだから、おとなしくしていてね。お式がおわるまで。
あ、ちょっと。お行儀悪い。
テーブルクロスの下にもぐりこんだりして。
ちょっとぉ。
ダメよ。ダメだっていうのに・・・
もう。
黒は目立つのよ。本当に。
テーブルの下に隠れた場所で。
いいようもなく快感なチクチクとした牙の下、
チリチリ裂けていくのが、伝わってくる。
こんどはお姉ちゃんね。
ちょっと痛くても、ガマンしてね。
ア、ほんとに痛そう・・・
ほかの方たちに気づかれないかしら。
真っ赤なハイソックスでよかったね。目だたないですむから。
どこに行ったの?
向かいの淑子おばさんね?
ダメよ、そっちは。
主人の妹だから、坊やとは血が繋がっていないのね。
だからって、ものめずらしくすり寄って。
淑子おばさま、顔しかめてる・・・
ごめんあそばせ。うちの子がそそうして。
やっと席に戻ってきたと思ったら。
おばさんのストッキングは肌色だから、目だたないよ。
そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?
そう咎める私にはそっぽを向いて。
口の周りにつけた赤いものをぶきっちょに拭い取って。
あ!そっちはダメよ!
あぁぁ。
新婦さんのほうにいっちゃった。(><)
真っ白なウェディングドレスに包まれた、かわいい感じの今どきのお嫁さん。
彼が足許に這い寄ると、
キューン!
って、眉しかめちゃって。
困ったぁ・・・
でも、どういうわけか何も言わずに黙ってくれていた。
花嫁のお姉ちゃん、白だったよ。^^v
聞いてないわ、そんなこと。
それからあとは順繰りに。
目だたぬ背丈をいいことに。
あちらこちらのテーブルにもぐり込んで。
お嫁さんのお母さん。
親戚のお姉さん。
友人代表の女の子。
もぅ、騒ぎにならないのが不思議だわ。
お願い、もうおイタはやめて頂戴!
あとがき
なぁんか、いつにも増してヘンなものになっちゃいました。^^;
結婚式場に行くといつも、着飾ったおばさま&お姉さまの足許に目がいってしまう、いけない柏木の妄想です。^^;
初夜のあと
2005年10月27日(Thu) 08:20:06
夕べ、婚約者の由貴子さんは吸血鬼に抱きかかえられるようにして。
じぶんの寝室につれてゆかれた。
花嫁さんのために。
母がそういってしつらえた、実家の一室。
ドアがバタンと閉まるとき。
由貴子さんの細い腰にまわされた吸血鬼の腕にぐいっと力がこめられたのが、さいごの光景。
あああっ。ううん・・・っ
あきらかにそれとわかる、破瓜の痛み。
お隣は、茶の間。
母はちゃぶ台のまえ、正座してお茶をすすりながら。
うん。かわいいものね。
壁いちまいへだてた向こうから伝わってくる嫁の振る舞いを、涼しい顔してそんなふうに評している。
ボクはもう、ぞくぞく、ぞくぞくとしてしまって。
もうとても、母の相手なんかしていられない。
いまごろ、由貴子さんは何されちゃっているんだろう?どんな顔してるんだろう?
服をはぎ取られているんだろうか?ヤツのモノをつきつけられてしまっているのだろうか?
あらぬ想像が恥ずかしいくらいに。
ぐるぐる、ぐるぐると、めまぐるしくかけ回っている。
もう寝るどころじゃない、寒気に似たズキズキするものにひと晩じゅう、さいなまれて。
震えつづけて迎える静かな明け方。
母はもう、とっくにボクのことなどほうり捨てて、
自室でのどかな寝息を立てている。
ようやくまどろんだ朝。
チチチ・・・
という鳥のさえずりに、テーブルにうつぶした重たい頭をあげると。
由貴子さんはもう起きていて、
白っぽい清楚なワンピース姿がぼんやりとした視界の彼方、いつものように軽やかに行き交っている。
嫁らしく、朝食の手伝いをしているのだろう。
生き生きと弾む声が、母の命令口調と重なった。
食器の音をかちゃかちゃのどかに立てながら。
目の前に並べられるパンやサラダ。
「おはよう」
何気ないそぶりをつくって、ほどいたままの長い黒髪をさらりと肩の向こうに追いやっている。
キュッと束ねたふだんのときよりも。
由貴子さんの髪の毛は生き物のようになまめかしくとぐろを巻いていた。
艶やかな光沢をもったあの黒髪は、夕べどれほどかき揺れたのか。
ワンピースの胸もとからのぞく白い肌のうえを、獣のような唇はどんなふうに這わされたのか。
すでにほかの男のものになってしまった、彼女の身体―――。
そんな妄想が、ぐるぐるぐるぐると渦巻いて。
もう、朝の献立なんかにはかまっていられなくなっている。
遅れてゆったりと席についた母。
きらきらとした笑顔と、まるで卒業祝いのように改まった口調で。
「由貴子さん、おめでとう。よくがんばったわね」
息子の嫁になる人の不貞な営みを、おなじ女としてはっきりと祝福していた。
「えぇー、もう・・・」
さすがに由貴子さんは照れたようにうつむいて。
ボクの顔色にちらと視線を投げて口ごもる。
それでもすぐに。ささやくように。
「衝撃的・・・でしたっ。」
語尾がちょっとだけ、悪戯っぽくはずんでいた。
きのうまでとなにひとつ変わらない、きちんと化粧を刷いた控えめでノーブルな目鼻立ち。
けれども薄いまぶただけは、いつもよりちょっとはれぼったかった。
ワンピースのなかでかすかに揺れる、しなやかな女の肉づきに、
夕べはっきりと身につけてしまったらしいしたたかなものを、ちょっとだけ垣間見る。
「・・・でしょう?」
「・・・でしたわ」
「よかったの?」
「うふふ」
股間をしっくりと昂ぶらせ、げんきんなまでに立ち直っているボク。
朝食のあとのコーヒーは、いつもよりちょっぴりよけいにほろ苦かった。
寝室で
2005年10月27日(Thu) 07:18:35
「おい、ちょっと・・・」
ヤツは私を呼び止めて。
ぐうっと肩を引き寄せて。
がぶり・・・
うなじにつけ入る、鈍い疼痛。
きゅっ。きゅうううっ。
ナマナマしい音をたてて血を吸い上げられながら。
三半規管をたちまち麻痺させられて、
無重力状態になった部屋のなか。
私の意識は宙をさまよいはじめる。
くたりとくず折れる畳部屋。
妻の帰宅は、これからだった。
目ざめたときは、すでに夜。
胸の上にかけられた布団の重みをおぼえながら。
けだるくかえりみるかたわらに、
滲むような薄闇のなか。
ふたりは折り重なるようにして、戯れあっていた。
勤め帰りのスーツを着たまま、眠りこけていた私のすぐ横で犯されている妻。
きちんと着こなしていた折り目正しいタイトスカートを思いっきりまくりあげられて。
ストッキングのガーターまであらわになった、肉づきたっぷりな白いふともも。
はだけられたブラウスはくしゃくしゃになっていて、
ストラップをちぎられたブラからはみ出る、ぽっちゃりとした乳房。
薄闇に浮かび上がる、妻の白く豊かな肢体―――・・・
まるでレイプシーンのような淫らな情景。
ことさらかたくなを装いながら。
うぅん、あぁあっ・・・って
ささやくような愉悦の呻き。
そんないやらしい声を洩らしながら、
きみの腰はしっかりと、ヤツの腰に結びついて、
みだらなまぐわいを愉しんでいる。
きみはずうっとそんなふうにして、男の相手をしていたのか。
このわたしの、かたわらで―――。
あとがき
たまには奥さんを出せよ。
そう、吸血鬼にそそのかされて。
せがまれるままに夕べの情景などをさくっと打ってみました。
よくいうよ。さくっとねぇ。
人の悪い笑みをうかべて、いま耳もとで囁いていますね・・・
時をへだてて
2005年10月25日(Tue) 20:44:52
お久しぶりね。
なん年ぶりだろう。
彼女が里帰りを果たしたのは。
まゆみは濃い口紅のあいだから歯並びのよい歯をみせて艶然とほほ笑む。
人妻の落ち着きだろうか。
地味めだがお洒落な柄のワンピースが、垢抜けた化粧ともども、しっとりと似合っている。
あのころのまゆみはまだ、
化粧っけのない顔に三つ編みのお下げを揺らせる、セーラー服の女学生だった。
初めて襲ったのは学校の帰り道。
逃げ惑う彼女をゆっくりと追い回し。
怖がる顔色をぞんぶんに愉しんで。
たくみに行く手を遮って。
ひと気のないほうへと追い詰め追い詰めして。
とうとうつかまえた草むらのなか。
背の高い雑草をがさがさ揺らして、
青臭い草いきれのなかで押し倒した制服姿。
濃紺のスカートをまくりあげて。
薄手の黒のストッキングのうえからぞんぶんにいたぶり抜いた、初々しい肌。
少女の脚を薄っすらと彩るストッキングは、頼りないほどさらさらとした舌触りだった。
舌触りを愉しみ抜こうとしてなおもべろをなすりつけていると。
少女のストッキングは自ら恥じるようにして、ぷちちっと破けた。
あっけないほどの儚さで。
膝小僧の周りから、つま先、腰のあたりまで、裂け目はすぐに広がった。
それを見て少女は涙ぐむ。
まるで、自分の気品が散り落とされてしまったみたいに。
そんな想いで。
細い肩を震わせて泣き続けていた。
吸血鬼はそんな少女の嘆きになど目もくれないで、
無情にもふくらはぎに唇をすりつけて血を啜り取っていった。
少女が彼の好意に狎れるのは、ほんとうにすぐのことだった。
姉も、母親も、叔母も。
彼女の家の女たちは誰しもが、彼の牙を経験している。
こういうことはみんな、お嫁入りまえに済ますのだと、
むしろ娘に訓えたのは、母親のほうだった。
それからは週になん回も。
濃紺のプリーツスカートの下に黒のストッキングを身に着けて。
彼を訪ねていった少女。
薄いナイロンになまめかしく染めあげられた初々しいふくらはぎや太ももにいやらしくまとわりついてくる腕を拒もうとはしないで、
飢えた唇に、惜しげもなく黒ストッキングの脚をゆだねていった。
隣町の男との祝言を翌日に控えた涼しい夜。
初めて襲われた草むらで、
彼女は吸血鬼に純潔を捧げた。
あれから二年。
子供のないままに彼女の夫は海外に赴任していった。
いいのよ、前みたいになさっても。
少女だったころよりは輪郭のしっかりとした顔に、
昔とおなじ人懐こい笑みを浮かべて。
彼女は黒ストッキングに彩ったふくらはぎを差し出してきた。
男はまえとおなじようにして、
ヒルのように唇を這わせていった。
彼女のいま身に着けているそれは、サポートタイプのストッキング。
細くて強靭になった糸は鮮やかな発色と色つやを帯びている。
「ウフフ。なかなかすべっこいね・・・」
「やぁだ、くすぐったい」
草むらのなかきゃあきゃあと無邪気に響かせていたかん高い声は、
落ち着いた低いトーンにコーティングされて。
隣家に決して届かない、ひそめた声になっている。
もうあのころの少女はどこにもいない。
かん高い声。なよなよとしてすぐに破れるストッキング。
それらとともに、永遠の記憶のなかに、彼女は消えてしまった。
しなやかなナイロンの表面に舌をすべらせながら、
女の体の隅々に過去を求めようと試みつづけていた。
小道
2005年10月25日(Tue) 20:12:26
1
お嬢ちゃん、ちょっとこちらへおいでなさいな・・・
黒衣の男に誘われて。
ついていってしまったあの日の夕べ。
いやいやをするブラウスのすき間から、
鋼のように冷酷な牙は少女の胸元に突き立った。
鋭い牙にさらすには、まだ柔らかすぎる肌であった。
少女を待ち伏せるのは、かんたんだった。
夕方いつも、決まってこの道を通るのだから。
行くてに立ちふさがると。
少女は蒼くなって立ち止まり、
ちいさくいやいやをしては伸びてくる逞しい腕に抱きかかえられて、
うなじをがぶり。ふくらはぎをがぶりとやられていって。
こちらの思うまま、やすやすと。
小ぎれいなお洋服を台無しにされてしまうのだった。
そんな幾日が過ぎてから。
このごろには珍しく、激しく泣いていやがった。
もうだいぶ、牙になれてきたころなのに。
訝しく思って問い質すと、
少女はすすりあげながらこういった。
このお洋服は汚さないでちょうだい。お願いだから・・・と。
そして、
きょう着ているカーディガンは、母親が手縫いでつくった大事なものなのだ、と。
遠い記憶が、男の胸の中で渦巻いた。
じぶんにも、そんなころがあったっけ。
つい、しゅんとなって肩を落とすのを、少女は悲しげに見つめている。
男は少女をなだめすかしてカーディガンを脱がせ、
いつもすまないね。
そういって、ハイソックスを履いたふくらはぎだけを少女にねだった。
少女はじいっと吸血鬼を見つめ、
それでも、逃げ惑っているうちにずり落ちかけた真っ白なハイソックスを、
きちんとひざ下まで引き伸ばしていった。
いい子だね。
吸血鬼はいつになく優しくそういって、
少女のうなじから口を離した。
いつものようにたっぷりと吸い取った血潮を牙に光らせながら。
少女は自分の体から抜き取られた赤い液体をじいっと見つめ、
チィちゃんの血、そんなにおいしいの?
そう、ささやいた。
相手が素直に頷くと、
女の子のお洋服、好きなのね?
重ねてそう尋ねてきた。
そう。今夜もチィちゃんのお洋服、汚してみたかったのだよ。
そういうと。
じゃあ、あしたは約束ね。
指きり、げんまん。
そうしてチィちゃんは手を振って、吸血鬼のおじさんとお別れした。
道を変えることも、学校を休むこともできたのに。
それからも少女は毎日、その道をかよってきた。
ブラウスに血が撥ねても、ハイソックスの脚をいたずらされても。
まえみたいに泣くことはなくなった。
もっとしてみて・・・
なにかの加減であまり血を吸われずにすむときも、
少女はじぶんから遊びを続けよう、と誘ってきた。
若々しい血潮は、飢えに渇ききった血管を生き生きとめぐり、
男の心のなかまでも豊かにうるおしていった。
男はいつか、気づいていた。
幼い血潮に宿る哀しい色に。
少女の母親はもういないことも。
独りぼっちで暮らしていることも。
そして決して変えようとしないこの道は、
母との想い出深いかよい道だったのだと。
2
その日お母さんは男の人と立ち話をしていて。
チィちゃんのほうに向き直ると、
おうちに、一人で帰れるわね。
帰ったらマサコおばさんに電話をしてね。
今夜はおばさんのうちに泊めてもらうといいわ。
そういって男のひとと雑木林の植え込みの向こう側へと消えていった。
さいごに振り返ったお母さんは気のせいか、
ちょっとだけ蒼い顔をしていた。
それが、チィちゃんがお母さんをみたさいごだった。
いつも帰り道を待ち伏せして。
新鮮な生き血をおねだりしている少女。
仲良くなってからなん日かして。
おうちに来ない?
そういって、家に招んでくれた。
一人ぼっちで住んでいる家はやたらとひろく、
ひどく冷たく、がらんどうな感じがする。
チィちゃんはたたみのうえに寝そべって。
いいわよ、
ひと言だけ、そういった。
初めて男のひとに抱かれるときって、血を流すんだよね。
チィちゃんは、妙なことを知っている。
お父さんの書棚の奥から見つけた本に、そう書いてあったのだと。
チィちゃんもいっしょだね。
少女はイタズラっぽく笑って、そういった。
柔らかい肌に牙を突き刺したとき。
―――。
目の端から、何年も忘れていたものがあふれてきた。
涙
だった。
この子とはこれで、お別れなんだな。
吸い出した暖かい血潮とともにあふれる、少女の想い。
さようなら。
ありありと、伝わってきた。
それ以上のことは、かたく閉ざされた心の扉の向こうにあった。
ひたすら惜しむように。
こっくん、こっくん。
静かな音を立てて少女の血潮を啜りあげる。
獣であるこの身には、
別れを惜しむときにすら、こんなことでしか気持ちをあらわすことができないのだ。
せいいっぱいの別れをこめて、少女の血を吸い終わったとき。
チィちゃんは不思議そうにこちらを見あげていた。
まだ意識が残されていることが、とても意外だ、といわんばかりに。
あくる日、いつもの小道に少女の姿はなかった。
次の日も。また次の日も。
少女の足音は聞こえてこなかった。
来る日も来る日も人の生き血を欲する体。
その身を保つために、下校途中の女学生や勤め帰りのOLを襲って、
獣のような食欲を満たしていく。
少女と出会う前の殺伐とした生活がまた、戻ってきた。
足早に立ち去ってゆく女どもと別れると、
チィちゃんの住んでいたあの家に忍び込み、
もはや誰もいなくなったがらんどうの部屋のなか、
箪笥の抽斗にわずかにのこされた彼女の服を、
声もなくひっそりと抱きしめていた。
なん年もして。
少女の記憶が遠くなりかけたころ。
ひとりの女が小道を通りかかった。
あの少女とよく似た、中年の女。
なんのためらいもなく彼女の前に立ちはだかって、
雑木林に連れ込んだ。
あの娘を連れて来きてくれ。
そういい募っては、いつのまにか彼女を木に縛りつけて、
スカートのすそをたくし上げ、
腰をひとつにしながらそう願いつづけていた。
なん日かして。
再び小道に現われたあの少女。
しばらく見ないうちに、すっかり大人びていた。
お下げにしていた髪の毛は長く伸び、
ほっそりとしていた肢体は、ほどよい丸みを帯びていた。
まるで別人のようになった娘が、目のまえにいた。
しばらくね。
少女はちょっとだけよそよそしく、そういった。
血が欲しかったのね。ゴメンね。ずっと来れなくて。
舌足らずな言葉遣いだけは、昔と変わらなかった。
いきましょう。
少女はそういって、先に立って歩きはじめた。
家まであとすこしの茂みのまえで、
少女はふと立ち止まる。
昔あれだけ赤かった頬っぺを青白く輝かせ、
しばらくのあいだ、あたりをじいっと、見回していた。
淋しそうな横顔に、
初めて少女に逢った日のことを思い出す。
ここでね。
彼女はおもむろに、口を開いた。
お母さん、吸血鬼に襲われて、血を全部吸われちゃったの。
ほかにも吸血鬼が、いくたりとなく出没する街はずれ。
この身も、よく行き来している界隈だ。
八年まえのことよ。
少女の声が、悲しげに響いた。
八年まえ―――。
そのあいだ、なん人、人を襲ったか数え切れない。
そのなかに、少女の母がいたかどうかさえ、記憶は定かでなかった。
それほどおおぜいの人を牙にかけてきた、忌むべき日常。
母親を襲った吸血鬼の顔を、少女はよく憶えていない、といった。
あなたかな、って思ったけど。あなたはとっても、優しかった。
母を吸い殺す人には思えなかった。
でも、母を襲ったのが貴方なら、それでもよかったのかも。
きっと、たいせつに吸ってくれただろうから・・・
そういいながら少女はあたりをぐるりと見回して。
ここで、あたしの血を全部吸ってくださいな。
そんな、恐ろしいことを口にした。
細い両肩に手を置いて。
むかしのように、うなじにちくりと刺し込んだ牙。
むかしとおなじ、柔らかく暖かい肌。
その肌を、まるでうわぐすりのように、年頃の娘らしい潤いが沁みとおっている。
少女の気持ちが変わりはしないかと、それだけを念じながら。
別れたときとおなじように、ゆっくり、ゆっくりと吸い出してゆく。
ひと口、ひと口、惜しむように飲み込んでゆく、暖かい血潮。
すぐにわかった。
少女は重く、病んでいた。
遠くで赤いサイレンが明滅している。
少女を乗せた、白い救急車。
通行人を装ってかけた携帯電話は、少女の胸ポケットに、そっと戻しておいた。
少女の血とともに、病魔をもろともに我が身にとりこんで。
冷えた体のなかで、絞め殺す。
あれほど少女の血を吸ったあとだというのに、
共倒れになりかかるまで闘った体は、ぞっとするほど冷え込んでいる。
少女の体は、元に戻るだろう。
弱った体にすこしばかり、栄養を与えてやれば。
動き始めた車の向こうには、無邪気に笑いさざめく幸せが待っている。
もう二度と、逢うことはないだろうか。
逢っては、いけないのかもしれない。
立ち去るまえ、もういちど振り返り、車のなかの人にさいごの一瞥を送る。
八年前。
彼女の母親もそうして、蒼い顔に必死のまなざしをこめたのだろう。
あとがき
昨年10月25日の夜と28日の朝の二回にわたって描いたものです。
第一話では反響がなかったのですが。
余韻を残した終わり方だったためか。
完結したところで、嬉しい反響を頂戴しました。
言葉と裏腹に
2005年10月25日(Tue) 19:25:00
さっきからきみの血はちゅるちゅる、ちゅぱっと、小気味よいように。
私の喉の奥へとはじけている。
ひどいです。
きみは上目遣いに白目をむいて、恨みがましそうにそういい続けている。
新調したばかりのブラウスは持ち主の血潮を撥ねかして。
スカートにまでたらたらと跡をつけてしまっている。
それでも私はきみを放そうとしないで。
ぴったり横から抱きすくめて。
いまもご自慢の牙を、きみのうなじに埋め込んだままにしている。
イヤがるきみを草地の青臭い香りのなかに抑えつけて。
切れ味のよさをきみに見せつけるようにして、
ぐぐぐいっと食いついてやったのだ。
―――いやぁ、痛いいっ。放してくださいっ。
激しくかぶりを振ってそう訴えながら。
けれども喉にはじけ散るきみの血潮は、それとは裏腹なことを伝えてくる。
ネエ、若イデショ?
アタシッタラ、他ノ誰ニモ負ケナイクライ、トッテモ若クッテ、魅力的ナノヨ。
アナタガアタシヲ欲シイノダッタラ、モウ喜ンデゴ馳走シチャウカラ。
モット、モット、アタシノ若サヲ味ワッテチョウダイネ。
もう、放さないよ・・・
口先でいくら拒んだって、きみ自身、こんなにしてまで僕の牙を享けたがっているじゃないか・・・
けれどもきみの恨みは、そればかりじゃないようだね。
―――他ノ方トモ、コウヤッテ逢ッテイラッシャルンデショウ?
―――私ト同ジヨウニシテ、モテアソンデ、愉シンデイラッシャルノヨネ?
―――ソレガトッテモ、悔シイノ・・・
きみが意識しようとするまいと。
抱きすくめたブラウスの下で震える肩先は、明らかにそう語っているじゃないか。
いいのかい?
きみが私を独り占めにするときは。
一滴あまさずきみの血を、吸い尽してしまうときなんだぜ?
きみ一人の抱えている血液では、とうてい僕の食欲を満たし切ることはかなわないのだから。
きみはそれでも本望だというのだろうけれど。
うす汚い僕の本能は、きみからもっと沢山の血液を獲たい・・・と、
意地悪にもそう囁き続けているのだよ。
さぁ、いい子にしようね。
聞き分けよく、ここいらで気を喪って・・・
そうそう・・・
もうすっかり、お酒に酔ったような、ウットリとした顔つきになっているじゃないか。
ほらほら、危ない。
もうだいぶ、体が傾いてきたようだぜ。
―――犯すつもりなの?ひどいわ。抵抗できないようにしておいて・・・
―――完全に気絶したほうが、まだましよ。私、あなたがなにをなさるのか、全部わかってしまっているのよ!
朦朧となりながらも、きみはなかなか手厳しいね。
でもきみはそうやって表向きすねながら。
今夜も僕にスカートのすそをあずけてくれるのだね。
彼氏にはもちろん、黙っていてあげるから・・・
そう、そうやって、大人しく・・・
あとがき
以前書いた「処女を縛る」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-186.htmlの続編をイメージしました。
たんに襲われるのがイヤ・・・というレベルから、ほかの人と愉しんでいる貴方が恨めしい、という心裡に変わってきているようです。
けれど、そんな彼女をも吸血鬼は理性を奪い陶酔の淵に眠らせてしまう。
悪いヤツですねぇ。^^
ライバルには勝ったけど
2005年10月24日(Mon) 07:34:00
やったぁ!
とうとう間々田に勝った。
ヤツの一課とボクの二課と、おなじ企画のコンペに参加して。
受注は二課!
連絡の電話が部長席にかかってきて。
一同それとなく、なりをひそめて聞き入っていて。
「そうですか!ありがとうございます・・・オイ、○○くん、おめでとう」
呼ばれたのはうちの課の課長だった。
その瞬間間々田は絶句して、メジャーに行ったゴジラが三振を喫したときみたいに天を仰いで、
尻餅つくようにしてイスに座り込んでいた。
おたがいそれぞれの課のチーフとして、毎晩遅くまで残って見えない火花を散らしあってきたここ一ヶ月。
ヤツとは珍しく、トゲトゲしいやり取りしか交し合ってこなかったのだが。
ざまーみろ。
そう思った瞬間、いままでのプレッシャーはかるがると氷解して、ヤツと心から握手したい気分になっていた。
みんなの手前、とてもそういうわけにはいかなかったけれど。
同期トップの間々田あいてに、こちらはいつも引き立て役で。
恥ずかしいかな、入社×年目にして、なんとこれが初勝利。
まあ、おなじ会社のなかでこうまであからさまな競争になる機会はそうないのだけれど。
悲喜こもごもの興奮の坩堝と化した部屋をあとにして、
蛭田は一路、役員室に向かう。
ちょうど扉が開いて、部長とうちの課長とがふたり雁首並べて恭しく最敬礼して出て行った。
きっと、社長室に行くのだろう。
いままでにないくらいに、身体がはちきれるような昂ぶりを抑えかねながら、彼女の部屋をノックする。
「・・・そお。よかったじゃないの」
意外にも。
女史は冷たくリンとした表情を崩さずに、そっぽを向いたままそういった。
予想外の冷たい祝福に、子供みたいにガクゼンとなった彼。
負けてるときはあれだけ罵っておいて~・・・(-_-;)
勝ったら勝ったでご機嫌斜めって、そりゃないでしょお?
・・・などと言い募る勇気なんかとてもない。
チリリリリン。
電話のベルが金属的な音をちいさく響かせると、女史は立ち上がり、もう蛭田なんかおかまいなしに応対を始める。
ごつごつと逞しいカモシカのようなふくらはぎに、彼女にしては珍しいネットのストッキングがなまめかしく映えているのさえ、もぅむしょうに疎ましかった。
つややかに色っぽいぶん、もう自分のものではなくなってしまったように、とてもよそよそしく見えてしまったのだ。
部屋をノックするまでの意気込みはどこへやら。
悄然とお辞儀をして、蛭田は役員室をあとにした。
「なんか元気ないよねぇ、蛭田くん」
社員食堂で女子社員がそういっているのが聞えてくる。
「大金星にぼ~っとなってるんだよ。さわらないさわらない」
揶揄するような、男子社員の声。どの声も、ロコツなくらいの羨望がまざっている。
でももう。
なにをいわれても、もう関心度ゼロだった。
はぁぁぁ・・・
今夜は瑞枝とアポイントがある。
彼女の血を吸って、憂さを晴らすしかないかな・・・
と・・・
じと~っとした冷たい視線が注がれるのを意識した。
研ぎ澄まされたようなあの鋭さは。
とっさに役員席を振り返ると、珍しく社員食堂に姿をみせた女史が冷たく取り澄ました顔をして、器用な手つきでナイフとフォークをあやつっている。
もちろん、こちらをうかがっていたそぶりなど、毛すじほどもみせないで。
(まさか間々田をそこまで追い詰めるつもりじゃないんでしょうね!)
脳裡に忽然と、いままでになく凄まじい顔をした女史が現われて、ひとを突き刺すような口調で詰問してきた。
しまった。
瑞枝はやつの女だったな・・・
あわただしく食事を終えて人気のない廊下にでると、おれはキャンセルのメールを瑞枝に入れていた。
よし、それなら三課の奈津子にしよう。
役員室に呼ばれた三課の面々が定例の打ち合わせを終えると、鳥飼女史はいちばんさいごに退室しようとした奈津子を呼び止める。
「主任試験、通ったそうね。おめでと」
「あ、いえいえ」
男勝りでならした怜悧な奈津子も、女史のまえでは役者が違う。
うって変わって、まるで小娘みたいにあがってしまっていた。
フ、かわいいわ・・・
女史はちらっと口許に笑みを浮かべる。
才気に満ちた奈津子は以前から女史に評価され、かわいがられていた。
「これ、お祝いよ。イザというときお使いなさい」
「瑞枝にふられたんでしょ~」
女史にひいきにしてもらった上機嫌も手伝って、奈津子は意地悪な顔で蛭田にからんだ。
「ちがう、オレから断ったんです」
ぶすっとして蛭田が応える。
夜の十時。
もう、そうとうお酒がまわっている。
「私は第二志望か。つまらんな」
奈津子はまるで男のような口をきき、組んだ両手の上にあごを乗せる。
「瑞枝なんかにまで、追い抜かれちゃうし。あせっちゃうよなぁ」
ぜんぜん焦ってないような口調でのんびりと、彼女はお店の気の利いたインテリアに目線をめぐらしている。
結婚する気、あるんですか?先輩・・・
うっかり訊いてしまいそうになり、あわてて口をつぐむ蛭田。
「なにかいいたそうね」
ちらっと油断のない流し目をして、奈津子はいった。
「間々田、ショックだったみたいよ~。まさかあなたに負けるなんて思っていなかったようだし。そのうえ今夜瑞枝ちゃんまでとられちゃったら、生きていけないよ~」
そういいながら彼女の容赦ない唇は、同僚の不運をめいっぱい肴にして楽しんでいる。
―――それに気づいたからやめたんじゃないか。
そう思いながら。
きょう一日得意になったり、がっくり落ち込んだり。
たまの手柄に夢中になって、女史の視線を浴びるまで間々田の立場を見落としていたうかつさに、じぶんで腹が立っていた。
こういうときの間々田は、脆い。
大学を優等で卒業し、運動部では主将。いつも強気でおしまくる仕事振り。
ところがいちどつんのめってしまうと。
そんなふだんの姿とは、うって変わった落差をみせる。
もちろんそれに気づく人間は彼をふくめてごく限られているのだが。
ただし蛭田も、それに輪をかけてもろい。
もともと、自信のつきにくいたちである。
そのうえなまじ中途半端にひとの気持ちに通じているものだから、自分の失策で不用意に人を傷つけてしまったりすると、もうどうしようもなく落ち込んでしまう。
そんな蛭田の顔色を奈津子は抜け目なく見てとって、
「さっ。早いとこ済まそうか」
バックを片手に立ち上がり、もうレジの向こうを通り過ぎている。
寝乱れたベッドはすごいことになっていた。
「いまごろ間々田、ぜったい瑞枝ちゃんとヤッてるよ~」
そんな初歩的な挑発にやすやすとのっかって。
かれは奈津子の柔らかな肢体に馬乗りになっている。
服をはぎ取ると、ぬるりとした肌の持ち主は、意外なくらいに華奢だった。
まっすぐに挑みかかっていくと、かれを迎え入れる両の腕はしなやかなツタのように器用にからみついてきて、か弱い力でさりげなく背中を撫でつけてくる。
背中というものがこれほどぞくぞくするものかと思うほど丹念で練れた愛撫に、男の蛭田のほうが圧倒されぎみだ。
まるで猫のように執拗に甘えながら、主導権はしっかり握って放さない。
あるときは挑発し、あるときは軽く拒んで、いつか蛭田をすっかり自分のペースに乗せている。
吸血鬼は女を翻弄するはずなのだが。
奈津子を相手にするといつも立場が逆転する。
「いいのよ、遠慮しないで。好きにして・・・」
いつものカン高い声とはうって変わって、ひくい声でささやくと、女はそれきり目をつむった。
受け身に徹した彼女のたいどに、こんどは蛭田のほうが加速度的に昂ぶりをあらわにたけり狂ってしまっている。
なかばまとい、なかばはだけたブラウスを、ふしだらに乱れさせたまま。
スカートのすそからにょっきりとのぞいた脚に、裂かれたストッキングをひらひらとさせたまま。
女は青白い吐息を吐きながら、男を幾度でも迎え入れる。
深々と突き入れた秘奥のなかで。
ぎゅうっとにぎりしめられるような感覚にしばしば眩暈さえ覚えながら。
蛭田は行為を繰り返した。
はぁはぁと息も荒く、ふたりはいつかベッドの上で向かい合わせにうずくまっている。
「まだ、気がすまないの?こわれちゃうわよ、あたし・・・」
口先とは裏腹に、ベッドのうえの柔らかい獣は、とても頑丈である。
彼女の瞳は、燃えていなかった。
あくまでさいごの一線は、氷のような冷たさを崩すことがない女。
なにもかも見透かしたようなドライな面貌が、衝動的に小面憎くなった。
女はニッと微笑むと、ほっそりとした指でずり落ちたストッキングを引きあげる。
すうっと。
音もたてないで。
蛭田はやおら奈津子の脚にむしゃぶりつくと、ストッキングのうえから舌をあてて、これ見よがしにぬらぬらと唾液をなすりつけてゆく。
・・・っ?
「どうしたの?」
訝しそうな奈津子。
「どうして、あのひとは冷たいのかな」
「女史のこと・・・?」
「・・・」
「あなた、まだ子供だね。どんなにいい子でも、そんなだったら誰からも嫌われるよ」
「エ?」
「ベッドでほかの女の話なんかするものじゃないでしょう?」
たったひと言の償いに、腰が抜けるほど浸かり抜くハメになった。
おまけに、そのまえにぱしぃん!と引っぱたかれた頬が、いまだにジンジンと疼いている。
けれども、獣になったときの蛭田にとって、手だれな奈津子を気絶させるくらいのことはお安いご用だったのだ。
鮮やかな平手打ちのお返しに。
「許してあげる」
というはずが、
「もう許して」
になるまで、蛭田は奈津子を愛し抜いたのだ。
本当に好きなのかな・・・
自分の浮気心を自分で軽く責めながら。
まだ総身にただよう倦怠のなかで、しっとりうるんだ柔肌の感触を反芻している。
手には、奈津子の脚もとから引き抜いたストッキングをまだぶら下げていた。
ベッドのうえで白目を剥いて大の字になった奈津子のうえに、ばさっと羽毛布団をかけてやると、脱ぎ捨てられたストッキングを拾いあげて、さっきみたいにもういちど、唇にあてがっていた。
やはり・・・
女史はどうしてこうも、なにもかもお見通しなんだろう。
ストッキングの舌触りは、いつもの女史のお気に入りブランドのものだった。
灯りをつけていない重役室は、まだ鉛色の冷気が立ち込める外の薄暗さに支配されている。
「午前四時二十八分―――」
腕時計を見やる女史の冷たい声が、静かに響き渡る。
「いらしたんですね」
「満足させるのに、だいぶ時間がかかったようね。またヘマしたでしょ?」
毒々しくって耳障りな声色にうっとりと聞き惚れながら。
深くて響きのよい声色に、人のわるい悪戯心がこめられているのが、さすがの蛭田にもわかった。
たまの大手柄に有頂天になっている蛭田をわざと冷たくあしらって。
今夜の相手が奈津子であると見越して。
その奈津子に自分の愛用のストッキングを与えて。
おかげで蛭田はいま、明け方の重役室に忍び込んでいる。
「けさは拾ってもらうものはなさそうだけど・・・」
女史はこれ見よがしに、きめの細かいネットのストッキングの脚を組みなおした。
昨日重役室を訪れたときに見かけたものと同じだと、すぐにわかった。
いつになく柔らかに見える脚線美が、室内にようやく注ぎ込んできた暁の斜光線を跳ね返して、まばゆい光沢に包まれてゆく。
「新作のマイクロネットのストッキングよ。ためしてみる?」
どじばかり踏んでいるかわいい部下を横目で睨む瞳は、挑発的な輝きを帯びていた。
あとがき
気になる部下とアポイントを取っているであろう美人OLに自分のストッキングを穿かせて。
彼女の肌と彼の唇のあいだにしっかりと割り込んでいるんですね。
さすがの奈津子さんも、ちょっと道化になってしまいました。^^;
おっとそれから。
後輩と飲んだら、たまには払ってやったほうがいいかも、ですよ。(遠慮がちなつぶやき・・・)
夫のいる家~人妻まりあの寝室
2005年10月22日(Sat) 20:22:00
~その1~
夜ごと窓辺に現われる彼。
まるでピーター・パンのように、あたしを夢見心地の世界にいざなう。
違うのは彼が正義の味方なんかじゃないっていうこと。
そうと知りながら、あたしはついふらふらと、彼に身を投げかける。
人妻だっていうのに・・・ね。^^;
エプロンのうえからあたしの胸をまさぐって、もみくちゃにしていく彼。
そんなに私の巨乳がお気に召して?
つい声を忍ばせながら。
あぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ
と洩らしてしまうあたし。
だって、ダンナがすぐ階下にいるんだもの。
彼はそんな私を放してくれないで。
うなじに唇、ぬるりと吸いつけて。
あっ。だめ・・・だめぇ・・・
さっきからずっとおっぱいをいじくりまわしている片方の手に気を取られていたら。
もういっぽうの手がスカートのすそをつかまえて、太もものをせり上がってくる。
ぶちっ。ぶちぶちっ。
鈍い音を立ててストッキングを引き裂いて。
あたしもつい夢中になって、自分でショーツを破っちゃっている。
股間に差し入れられる、ほっそりとした指。
あふっ・・・はふっんん・・・あぁっ・・・いいっ・・・・
のけぞったり。すくんだり。
激しく身体、くねらせて。
不覚にも乱れてしまうまりあ。
「おぉい、まりあ・・・」
階下でダンナが、呼んでいる。
あたしのことを知ってか知らずか。
まりあはごくんと生唾をのみこんで。
こみ上げる快感を押し殺して
「はぁ~い」
いつものようにかわいい声でこたえている。
胸のはみ出したブラウスを取り繕って、
「もぅ、困るんです」
甘えて彼に抱きついて。
お別れのキッスをさっと交わすと。
もういつもの主婦にもどって。
ばたばたと階下におりてゆく。
脱ぎ捨てたショーツやストッキングを彼の手の中に残したまま。
~その2~
窓から忍び込んできた吸血鬼さんと戯れる、とてもえっちなひととき。
階下には、ダンナ様がいるけれど、
畳のうえで思いっきり、体くねらせちゃっていた。^^v
おぉい、まりあ・・・
ダンナ様の呼ぶ声に
はぁ~い♪
何事もなかったようにいつものかわいい声で返事して。
まりあの上にいる吸血鬼さんはねのけてあわてて身づくろい。^^;;;
あたふたもどった居間の灯りがしらじらしくって。
おもわず眩しく、目を細めてしまう。
ダンナ様はまりあをみとめると、
「あれぇ、ブラウスのボタン、取れてるよ」
「え?うっそぉ。気がつかなかった」
なんだかちょっと、わざとらしい。
「いいよいいよそのままで。おっぱいチラチラしてていい眺めだし♪」
ダンナ様は人の悪そうに微笑んで。
まりあの胸元にちらちら目線を這わせてくる。
「それとも誰か、ほかの男に見られたらやばいかな~?^^」
「もうっ!バカ」
まりあは本気で言い返す。
さっきまで、あんなことしてたくせに。^^;
目線と目線がぶつかりあって。
―――見せてないわよ、だれにだって。
―――ほんと???^^
どこまで知っているんだろう?^^;ダンナ様。
そうしたら。
「あれぇ、ブラウスに血がついてる・・・^^」
あら、どうしたのかしら。
「おかしいなぁ、ケガでもしたの?」
ケガはしてないけど、ケガサレたかも・・・^^;;
「ストッキングも、破けてるぜぇ」
よけいなお世話。(/_・)
「おやおや。脚になんかしたたり落ちてる・・・^^」
もうっ!知らないッ!
思わず急に抱き寄せられて。
そんなキミが、かわいいよ。
―――素直じゃないんだから・・・
ダンナの背中、ひっぱたきながら。
たったいま精液を吸いこんだばかりのところをまたじくじくさせはじめてる・・・
あとがき
いつものようにおうちに招んだ吸血鬼とえっちをして。
ダンナ様に呼ばれて階下におりていったまりあさん。
隠れてこそこそ愉しんでいたはずなのに、しっかり、ばれているんですね・・・^^
そんなまりあの気紛れをおうように許してやっているダンナ様もあっぱれ、です。
この作品、もともとは10月22日と11月11日の二回に分けて描いたものなのですが。
いい機会だったので、ひとつにまとめてみました。
妻と義父 義母とわたし
2005年10月20日(Thu) 23:01:53
週末に妻の実家を訪れて。
「おとうさま」
妻は意味ありげに父親に目配せをする。
黒のスカートの下に身に着けた、肌の透けて見える濃紺のストッキング。
なまめかしく彩った脚をさしだして。
「お父様のために、履いてきましたのよ」
そういって小首を傾げると、頭のうしろで束ねた長い髪の毛がゆらり、と妖しく揺れる。
「じゃあ、ご馳走になろうかな」
わたしのまえで臆面もなく娘の足許に這い寄ってゆく義父。
なにかが彼に乗り移っているかのようなケモノじみたしぐさに、
嫉妬のような人間臭い感情は、いがいなほどに湧いてこない。
ふだんは、潔癖症の妻。
ストッキングを履いた脚に唇を許すなど、ふだんわたしにすら許そうとはしないのに。
フフフ・・・と悪戯っぽい含み笑いをしながら、もうやすやすと唇を吸いつけられてしまっている。
透明なナイロンを通して実の娘の素肌を執拗に求める、赤黒い舌。
うふふ・・・うふふ・・・
妻はくすぐったそうにして、ふるいつけられる唇を時折受け流しながらも、
嬉々としてよだれをたっぷりぬめらせたべろをなすりつけられてゆく。
やがて耐えかねたようにつよく唇が吸いついて。
ぶちっとかすかな音をたてて破れる、妻のストッキング。
ちりちりっ、つつーーーっと、
つま先からスカートの奥にまで、鋭い伝線が上下に走る。
そのうえから執拗にあてがわれる唇は、ヒルのようにヌメヌメと女の素肌を這いまわっていた。
「あ、ううっ・・・」
妻が眉を吊りあげて顔を仰のけた。
―――まるで、他所の人妻を盗むようだね。
口ではおだやかにささやきながら。
ちらちらと見え隠れしていた本性はうんと露骨になってくる。
はあ、はぁぁ・・・と息遣いも荒く自分の娘に迫ってゆく彼。
いやだわ、お父様ったら。
口に軽く手をあてがって、こぼれる白い歯をかくす妻。
やだぁ、だめよお、モリオさんが見ているじゃないの
そういいながら、もう首すじを父に吸わせてしまっている。
束ねていたはずの長い黒髪はとうに乱れて、じゅうたんのうえにゆっさりと流れた。
彼が妻の秘奥を獣のように踏みしだいたとき。
不覚にもわたしは、ひそかにズボンを濡らしていた。
だいぶ、かげんがいいようだね・・・
義父はどういう意味で言ったものか。
しかし、ブラウスをとっくに剥ぎ取られた妻の背中に巻きついた彼の腕は、
満ち足りたように、妻の身体を気遣うように、
やんわり、じんわりとくまなく撫で回してゆく。
もう卑猥なものは、みられない。
けれど腰の動きをひとつにして、まごうことなくまぐわっているふたり。
あらまぁ、昼日中から。
義母は呆れ顔でも、ふたりの不貞をとめようとしない。
申し訳ありません。
衷心からそうわびる義母に、
娘さんの不始末、責任取っていただけますね?
私もニヤニヤとなれなれしく笑いながら。
若作りでおしゃれなワンピースに小ぎれいに装った義母に迫ってゆく。
わたしのために装った・・・
そう、義父はささやいてくれていた。
もはや、あきらめきったように手足を投げ出す義母。
しかしそれは、見栄っ張りな彼女が体面を保つために装う演技。
趣味が似ている彼女とはよく連れだって美術館に行く。
かえりのホテルでしばしば交わす交歓のひとときを、義父はこころよく、許してくれていた。
若いのに、感心だね。美術館めぐりとは。
無趣味な義父が、妻の話の合うわたしを珍重するのはまんざらポーズだけではなさそうだ。
時折家内の相手をしてやってくれたまえ。
そういいながらいっぽうで、娘を庭の木立ちの陰にいざなってゆく彼。
そんなふたりを見送りながら、互いの腕を互いの身に絡み合わせるわたしたち。
ちょっと風変わりな夫婦交換。
スカートのすそをたくしあげて。
ふだんは身に着けないというガーターストッキングの脚もあらわに。
いつも淑やかな義母はあられもなく恥じらい、取り乱す。
痩せ身の義母を固くだきしめながら。
小娘みたいにきゃあきゃあとはしゃぎながら脚をばたつかせている妻を横目に、
煮え滾った精液をびゅうびゅうと注ぎこんでしまっている。
あとがき
ちょっと前にアップした「乱倫の宴」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-376.htmlで祥子さまから頂戴したレスにおこたえして、
>実母対息子や義父対嫁よりも、
>義母対婿や実父対娘のほうが、
>たとえ恋し合ったとしても、より許される関係…なのかも知れません。
などというやり取りをいたしました。
より許される関係の一端を、描いてみました。^^
縁の深い彼
2005年10月20日(Thu) 22:35:43
明け方の薄闇を通して、雑木林にはなん人もの人影がしらじらと、見え隠れしている。
夏休みなのに制服姿の女子学生たち。
顔見知りの近所の小父さんや小母さん。
そういう種々雑多な老若男女が家を抜け出して集っている。
屍鬼たちに、血を与えるために。
さいきん越してきた、近所に住む中年の夫婦。
ご主人はこれから早い出勤なのか、スーツにネクタイ。
奥さんは都会風の洗練されたかんじのワンピースにストッキング。
まずご主人がうなじを咬まれてウットリとなり、それから奥さんの両肩を抑えて自分を咬んだばかりの吸血鬼をにこやかに促している。
ご主人の腕のなか、羽交い絞めになった奥さんの顔をあおのけて。
夫婦よりやや年配な男の屍鬼は白髪頭をふりたてて、うなじにぐいいっ、とかぶりつく。
びゅっとワンピースに散る血潮。
奥さんもまた、真っ赤な血が自分の衣裳を染めるのを面白そうに見つめている。
同級生の沙織。
濃紺のベストとスカートという制服姿に、
いつも学校に履いてくる白のショートストッキング。
肌の透けて見えるストッキング地の長靴下のなかでピンク色に輝くふくらはぎに、授業中にも目が行ってしまう。
そんな彼女の足許にかがみ込んで、ショートストッキングのふくらはぎに遠慮なく唇を吸いつけているやつがいる。
ちゅ、ちゅうっ。
鈍い音とともに男の喉の奥に散り、吸い取られてゆく沙織の血。
沙織はそれでもぼうっとなった顔をして、足許に加えられる悪戯を咎めようとはしなかった。
沙織がよりかかった木の幹にもたれるようにずるずると姿勢を崩して尻もちをついてしまうと、
そいつはこちらを振り向いて、親しげに
「よぅ」
と、声をかけてきた。
同級生のケイタだった。
初めてわたしの血を吸ったあいつ。
「いつもわるいな」
そういいながら。
いつものように口を近づけてきて、
かすか口臭と唾液を感じながら、わたしのほうへと顔を近寄せて、黄ばんだ犬歯をむき出した。
さっきの奥さんみたいに、両肩に手を置かれ。
それでもわたしはひとりでに、うなじを彼のほうへと差し伸べてやっている。
フウッと当てられる、なま温かい呼気。
首のつけ根のあたりに走る、ちくりとした鈍い痛み。
くいっ。
なにかを力まかせに、引き抜かれるかんじ。
くらっと眩暈を覚え、よろめいていた。
「だいじょうぶ?」
そういいながら。
「ほんとは女の子のほうがいいんだろ?」
わたしから吸い取った血潮を口許にてらてら光らせながら、ニッと笑うあいつ。
「しょうながいじゃん」
わたしも照れ隠しに笑いながら、傷口についた血を手で拭っている。
漂いはじめる、錆びたような匂い。
ちょうどいま、あいつの喉がぐびぐびと鳴っている。
もうひと口。
「どお?いい気分だろ?」
そういうあいつに、無言で頷いてしまっている。
「これ、妹」
ボクは後ろからついてきた妹のしおりを紹介する。
妹も、中学のセーラー服に、黒のストッキング。
集いに参加するのは、今朝が初めてだ。
「いいの?」
「親にはまだ、ナイショだぜ?」
「わかってるって」
そういいながら。
わたしの血をまだべっとりとほっぺたにつけたまま、
あいつは黒ストッキングを履いた妹の足許にかがみこんでゆく。
さっきの沙織とおなじように。
ちゅうっ。
いやらしい音をたてて吸われる、妹の血。
妹はちょっと痛そうに顔をしかめて目をつむり、
「痛―っ」
そういいながら、うずくまるあいつの両肩に、しっかりと両手をかけて体を支えている。
「うぅん、やっぱ処女のコの血はいいなあ」
かけがえのない大切な妹の血をしたたかに吸い取っておいて。
あいつはいつものように、勝手なことを行っている。
「しおりちゃん、あたしもいいかな?」
そういって近寄ってきたのは、去年の秋に死んだはずの蝶子叔母さんだった。
まだ屍鬼として未熟だったあいつが死なせた叔母も、いまは自分の血を余さず吸い取った男と恋仲だったりする。
「ええ、どうぞ」
しおりはもうなんの抵抗もなく、叔母さんにうなじをさしだしていた。
ちょっともうろうとなった目線が、あらぬかたを虚ろに迷っている。
「制服汚したらごめんね」
そういいいながら姪娘に咬みついてゆく叔母。
さっきはちょっと躊躇していた妹も、
いまはすっかり慣れて、ウットリとなって血を吸い上げられている。
傍らに
さくり。
雑草を踏みしめる、別の足音。
振り向いて、びっくりした。
わたしの許婚の喜美子だった。
「ごめんね。わたしもケイちゃんに血をあげてるの」
そういって恥らう喜美子。
「ケイちゃん」
いつからそんなふうにあいつを呼ぶようになったのだろう?
ずいぶんなれなれしいんだな。
薄闇をとおりぬける微風のようによぎった、軽い嫉妬。
「いいよね?」
と、ふりかえるあいつ。
「構わんさ」
ちょっとだけ投げやりにいいながら、
それでも真っ白なハイソックスのうえから這わされるあいつの唇から目を離せなくなってしまっている。
きゅうっ。
いい音だ。
畜生。旨そうに吸いやがって。
じりじりとじれながら、許婚が血を吸い取られてゆく現場をただ見ているしかすべがない。
気になる同級生。妹。そして許婚。
あいつとはよくよくの縁なんだな。
もしも血をぜんぶやってしまうとしたら、そのときの相手はやっぱりあいつなのだろうか・・・
病院の片隅にて
2005年10月20日(Thu) 04:27:19
おや。
まりあくん。
どうして震えているんだね?
いまさら、私が怖いわけはないだろう?
え?体調がよくない?
そんなことはないだろう。
こんなに血色がよくて。
そんな見えすいた嘘をつくのは、いけないね。
これから血を味わおうというときには、あいての血が旨いかまずいか、
すぐにわかるというものだよ。
それにきみ、献血は日頃のお仕事でじゅうぶん慣れているはずじゃなかったのかな?
どぉれ。
拝見させていただこうかな?
白のストッキング。
いいねぇ。いつもながら清楚なかんじがして。
看護婦を経験したものなら多かれ少なかれ自覚していることだろうけど、
これは、患者さんを元気づけるために、身に着けているのだよ。
だって白衣のなかでいちばん、色っぽくできる部分じゃないか。
肌が透けて、ちょっとエッチな感じがするよね。
治りかけの患者さんはきみ達の脚をみて、あらぬ妄想をかりたてるものなのだよ。
多くの場合、性欲の昂進は完治の兆候といえるからね。
いいねぇ、いつ見ても。
ナースストッキングって。
看護婦のトレードマークみたいなものだからね。
おがめるだけで、とてもハッピーな気分になるのだよ。
おや。
きょうのストッキングはちょっと派手めだね。
光沢てかてかと光らせて。
おやおや。
ガーターストッキング、じゃないか。
きみ、恥ずかしくないのかね。
こんなイヤラシイものを職場に履いてきて。
うん?
泣きべそをかいているね。
べつに、きみのことを責めているわけじゃないんだよ。
そうそう。
履いてきた目的はよくわかっているのだからね。
もちろん、わたしに愉しませてくれるために・・・だろう?^^
違う、とは言わせないよ。
まぁまぁ。
そうテレなくてもいいのだから。
じゃあ、お望みどおり、味わって差し上げよう。
感謝したまえよ。
ちゅるっ。
にゅるり。
え?
下品だって?はしたないって?
うふふ。
きみはそうして恥らっているときが、いちばん素敵なのだよ。
うんうん。
なかなかいい舌触りだね。
だいぶ、吟味してブランドを択んでいるようだ。
感心、感心。
じゃあ、咬んでみようかな?
なに?破れちゃう?
当たり前じゃないか。
履いたまま、咬みつくわけだからね。
でも、破れたかんじがとってもエッチでね。
つい、愉しくなってしまうのだよ。
よしよし、いい子だ。
おじさまのいけない趣味を、きみは許してくれるというんだね?
ずぶ・・・っ
ちゅ、ちゅう~っ。ちゅ、ちゅっ。
ちぅぅぅぅぅぅ~っ。
ごくり。
うぅん。
いいお味だ。
いつもながら、きみの若々しい血は、とても嬉しい気分にさせてくれるね。
そぉれ。こっちの脚も。
あぁ・・・
たまらんね。
どうだい?まりあ。よく見て御覧。きみの足許。
とても色っぽい裂け具合だろう?
わたしは咬むのが上手だからね。
じつにたまらない眺めだよ。
きょうはこのまま、履き替えないで勤務したまえ。
さぁてと。
つぎは首すじ、かな?おや、ほんとに調子が悪そうだ。
おや。
べそをかいているね。
そんなに怖いのかい?
怖がらなくって、いいんだよ。
じゃあきょうのところは・・・
そのぷりんとしたおっぱいにしておこうかな?^^
なぁに。許してもらえると勘違いしたようだね。
でもお薬は、規定量を投与しないとじゅうぶんな効果は得られないよね?
学校で習っただろう?
では。
ちょっとだけ、ボタンをはずさせてもらうよ。
ほらほら。
抵抗しないで。
白衣が破けたらきみ、仕事に差し支えるだろう?
どおれ。
見せてごらん。
ほほう・・・
立派な熟れぐあいだ。
長野のりんごだって、比較にならない。
さすが、きみの乳房は一級品だね。
じゃあ、いただくよ。
がぶり・・・
じゅるうっ。
ごく、ごくごく・・。ごっくん。
うぅむ・・・
いいお味だ。
旨い。じつに旨いね。とってもジューシーで。^^
じゃあ、もうすこし。
かまわないだろう?
白衣に血が散ったって。
オペのあとにはありがちなことだよ。
まぁ、看護婦さんがオペされちゃうなんて。
ふつうは逆の立場のはずなんだかね。
ううん。
がぶ。がぶ。ごっくん。
いい喉越しだね。
まるで、上質のワインをいただいているような気分だよ。
おや。
気絶してしまったようだ。
ということは、きみ・・・。^^
あとはなにをしてもご自由に、ということなわけなんだね?
そういうことなら。^^
遠慮なく食べさせていただこうかな?
ちょうどベッドもあいていることだし・・・ね。
うふふ・・・
処女を縛る
2005年10月19日(Wed) 08:00:08
セーラー服のまま校庭の木に縛りつけて。
いやいやをする顔を無理やりこちらに振り向かせて。
初めてだという口づけを奪い、マシュマロみたいな唇をなぶり抜く。
きみはとってもいやそうに顔をしかめながら。
いつのまにかむさぼりあっている、唇と唇。
重たいプリーツスカートのなかに手を突っ込んで。
柔らかな黒ストッキングのうえから太ももをまさぐって。
しなやかなナイロンの感触がかえってじんわりと、素肌に妖しくしみ込んで。
きみはちょっとだけ、つくったしかめ面に翳をよぎらせる。
少しずつ。ほんの少しずつ。
硬い乳房を揉みほぐし、きみを楽にしてあげよう。
きちんと着こなした制服に、ふしだらなしわを波打たせて。
吸いついたようにぴっちりとした黒のストッキングを、ひざまでおろしてゆく。
ほぉら、清楚なきみの服までも、ずいぶんといい感じに乱れてきたようだ。
足許に投げ出された鞄に詰まった宿題のことなど、もうきれいに忘れてしまおうね。
きりりと結った三つ編みのおさげを揺らしながら、
きみはさいごまで戸惑い、恥じらいつづけている。
先生が来るわ。人に見つかるわ。
まだ、お嫁入りまえなのよ・・・
硬くそそり立つボクの肉を埋められるとき、
きみはうんと痛そうな顔をして横を向いた。
制服の下で小刻みに震えている身体を、
縛った縄よりもきつくきつく抱き締めていったボク。
あとがき
うぅん。青春だなぁ。
なんて呟いたら、訴えられますか?^^;
実話ではありませんよ。あくまでも。
譲り渡すとき
2005年10月19日(Wed) 07:14:27
その日のきみのイデタチは、
白地に黒い水玉模様のワンピース。
黒のストッキングにエナメルのハイヒール。
いつも頭の上でまとめて背中に長く垂らしている黒髪は、お嬢さんみたいにそのまま肩先に流している。
きょうの装いは、これから逢いにゆくあの男のためのもの。
そう思うと、清楚で気品あふれる身なりにもかえって昂ぶり嫉妬してしまう、心の狭いわたし。
清楚に装うほど劣情をそそられて、きみにおおいかぶさってゆくという彼。
その彼の贈りものとして装うのか。
それとも大切な刻を迎えようとしている身体を、ただせいいっぱいに飾りたかったのか。
そんな思惑も知らぬげに、速いテンポでカツカツと響くハイヒールの音。
―――妻の生き血を正式に進呈します。・・・非公式にはもう召し上がっておいでのようですが。
―――幸いお気に召していただいているようですので。夫としても嬉しい限りなのですよ。
そういって、妻を引き合わせるわたし。
妻を奪われたのではなく。
あくまで、飢えたるものを癒すための慈善行為として。
自発的に潔く、妻を与える機会を与えられた。
妻の熱心なすすめは、決して自分を正当化するためだけではなく。
どこかに、一点も曇りのないものを秘めていた。
それで、だれもが幸せになるのだと。
たしかにひとつの答だね・・・と。
そう肯くことを急かすようにして、うなじにじんじんと響く傷口がせわしく疼いていた。
初めてわたしの血を吸ったときとおなじように、
吸血鬼氏はとても丁重な態度でわたしたちを迎え入れた。
―――どうか妻の生き血で、喉をうるおして下さい・・・
心ならずも口にしているはずのその言葉。
からからに渇いた喉から、なぜかせり上がるようにあふれ出し、
唇は嬉しげに、かすかなわななきに震えている。
心の中の葛藤を見通すように、彼はわたしをじっと見つめて、
そしてちょっと気の毒そうに微笑んできた。
奪われる夫と、獲る男。
そんなふたりの視線がからみ合って。
しかしお互いの関係はそう殺伐としたものではないのだと。
なにかが心のなかに囁きかけてきた。
そう。
ふたりは同じひとりの女性を愛するもの同士。
わたしは妻を促して、彼の前へと導いていた。
ストッキングのふくらはぎに唇を当てながら、
―――いつもよりも、高価なもののようだね。
気持ちよさそうに唇を這わせてゆく彼。
「アラ恥ずかしい」
そういってちょっと脚をひきながら、
踊るような軽やかな足取りで身をかわしながらも、
さいごには清楚な脚にぬめぬめとした唇を許してしまっているきみ。
「ガーターストッキング、ですの。たまにはちょっと、おしゃれして」
明るく振舞おうとする彼女の声色も、やはりわくわくとした震えを帯びていた。
わたし以外の男性は初めて、というのは、本当のようだった。
ぴちゃぴちゃ。
くちゅっ。
夫のまえで衣裳ごしに加えられる、戯れに似た辱め。
ぞんぶんに興じはじめたかれに聞えるように。
―――この部屋から出るまでは、妻としての義務を忘れてもらってかまわない。
―――なにが起きても、きみのことを咎めたりはしないよ。
そういうわたしに、きみはハッとしたような顔になり、そしてすぐに深々と頭を下げた。
扉に向かう背中に感じる視線には、深い感謝がこめられている。
べつの男の刻印を押された妻はどのように変わっているのだろうか。
それとも、いつもとかわらない冷静さで受け止めて、衣裳の乱れひとつみせないで出てくるのだろうか。
冷たく無機質な壁におおわれた廊下を行き来しながら。
愛器を焼いている窯の前に佇む陶芸家のような心境で。
扉の向こうを見通すようにして、妻を気遣うわたし。
鬼ごっこ
2005年10月18日(Tue) 23:15:00
いつもの公園に、OLまりあはきょうもやってきた。
秋深まって、夕闇が訪れるのが早くなってきたこのごろ。
でも、さいごの夕陽のひとかけらが、淡いグレーのストッキングに包まれたまりあの足許をほどよく照らし、妖しい光沢で彩っている。
「ねぇ、鬼ごっこしない?」
「鬼ごっこ?」
まりあは意外そうな顔をする。
装われた大人の顔が少女のようにあどけない色を帯びる一瞬。
そんなときが、むしょうにみたくなって。
「女の子が吸血鬼に襲われるんだぜ?そんなの、ふつうはイヤがるものだろ?」
悪戯心の含み笑い。そういうことに、まりあは察しが早かった。
「あたし、もと運動部だから。足速いんだよ?」
すらりとしたふくらはぎに浮き出しす筋肉が、凛と張りつめている。
ウフフ・・・
含み笑いがこらえきれずに、満面に広がる。
「いいよ、思い切り逃げ回って」
「追いつけなかったら、そのまま逃げちゃうからね」
そういいながらもハイヒールの脚は軽やかに踊るように、ゆっくりと草地を駈けた。
ときにはこちらを挑発するようにわざと立ち止まり、振り返りしながら、こちらを揶揄してくる。
けれども決して、彼女は小道に区切られた草地を飛び出そうとはしなかった。
鬼さんこちら。手の鳴るほうへ。
そんな声がきこえるくらい。
じじつ彼女はそう呟いていたのかも。
しまいにだんだん本気になって、
まりあをつかまえたときにはもう、ふたりは公園のはずれの、薄闇に包まれた茂みのむこうにいた。
汗ばんだブラウス。はずむ息遣い。
せわしく上下する細い肩。
制服ごしに、つかまえた獲物の充実した肉づきをしっかりと覚えながら、
ぐいっ。
とうなじに食いついた。
「あひいっ・・・」
その瞬間まりあは息をのみ、
いつもよりも感じた証拠に、くっと身を仰け反らせていた。
本能的に抗うまりあの身もだえを。
しっかりつかまえた腕の中で愉しみながら。
唇に思いきり力をこめる。
ちゅ、ちゅううう~っ。
・・・・・・。
「もう・・・」
くろぐろと盛り上がる植え込みが外界からの視界をさえぎってくれるのを幸い、どこまでも味わいつくしてしまった私。
まりあはあらわにされた胸を押し隠そうとして、剥ぎ取られたブラウスをぷるんとしたおっぱいのうえにあてがっていた。
振り乱された髪。
泥や木の葉のついた頬。
しどけなく剥ぎ堕とされたオフィスの制服。
ぶちーっと伝線したグレーのストッキング。
まりあは、にやぁっ。と笑っている。
その淫らな顔つきがたまらなくて。
「すけべ」
指でほっぺたを軽くつまみあげてやる。
「どっちが?」
と訊きかえす顔つきが無邪気だった。
いたずらっ子同士の交し合うような笑みがそこにあった。
それはたまらないくらい無邪気で、淫らで、かつ犯しがたいなにかを帯びていた。
いつまでも憶えているだろう。
夕暮れ時に太陽が放つさいごのまばゆい光芒につつまれた横顔を。
もしも彼女がいなくなって、独り公園に佇むときが訪れたとしても・・・
夢
2005年10月17日(Mon) 23:52:48
見た夢ひとつで人生観が変わった・・・なんてご経験、ありませんか?
そういえば柏木は小学生のころ、母に台所に呼ばれてストッキングを破らせてもらう夢をみました。
晩ご飯のおわったあと。
「○○(私の名)、ちょっと・・・」
って、呼ばれまして。
なんか、叱られるようなことしたっけな?と、内心びくびくしながらあとをついていくと、
エプロン姿のまま脚をさし伸ばして、破ってごらんなさい、というんです。
脚にぴったり貼りついているストッキングはなかなか破けなくて。
そうしたら、手を取って破き方を教えてくれるんですね。
今ではあまり見かけない、こげ茶色のストッキングでした。
ぶりぶり破いてしまうと、むざんに破けたすき間から白い肌がのぞいて・・・
子供心になまめかしかったのをよく憶えています。
実体験?
よくいわれるんですが、わかりません・・・
でもこのブログで展開されている世界はあの夜生れたんだろうと思います。
スパイス
2005年10月17日(Mon) 23:49:00
「オイ、きょうのチャーハン、なんか味おかしくない?」
和朗は口をもぐもぐさせながら、妻の理恵にそういった。
いったあと、しまった、と思った。
料理そんなに上手でもないくせに、こっちがケチをつけると妙にとんがるのだ。
「何なのよー!いつも会社でそんなにいいもの食べてるわけー!?そんなにいうならたまには自分で作りなさいよー!」
ご機嫌が悪いとこんなふうに、ちょっとヒスまで加わる。
(うわぁ、まじーな。疲れてかえってきたのに)
残業で帰りが10時をすぎたのに待っていてくれたのだから、もうちょっと気の利いたことをいうべきだった・・・と反撃に身構えてしまう弱い夫。
ところが理恵は
「そぅお?そんなわけないけどなあ」
・・・めずらしく、おとなしい反応だった。
「実家からもらってきたスパイスのせいかしら・・・?」
その晩の夢は、ヘンだった。
ドアの向こうにいる理恵は、いつもよりずっと若作り。
いつもは色気なく頭のうえでぎゅうっと束ねている髪の毛をお嬢さんみたいに肩まで垂らして。
白のブラウスに、ペンシルストライプの濃紺のスカートというイデタチに、いつもはあまり見かけないストッキングまで穿いている。
それはいいとして。
誰か知らない背の高い男と向き合って、なんかウットリした目つきで相手のことを見上げているのだ。
じぶんにはついぞ見せたことのない、媚びるような上目遣い。
―――おいおい、抜き差しならないぞ。
夢のなかと知りながら、さすがにあわてる和朗。
そんな夫に見せつけるように、妻は相手の男の黒っぽいスーツの背中にじぶんのほうから腕をまわしてゆく。
男の口許からチラとのぞいた犬歯は、とても尖っている。
それを男はむぞうさに、妻のうなじに押しつけていた。
―――あっ。
じぶんが咬まれたように、和朗は神経をぴりりと震わせた。
夢にはありがちなことだったが、
つぎのシーンはもっと飛躍している。
ただし、先刻から妻にまとわりついている不埒な男は視界から去っていない。
去っていないどころか、さらにフラチにも、理恵にすり寄るようにして、我が物顔に肩に腕をまわしているのだ。
それだけではない。
もはや理恵は全裸に剥かれてしまっていて、その裸体を自分のほうからからみつけてしまっているではないか。
口許から洩れる熱い喘ぎが、二個の裸体の結合をあらわにしている。
ところが。
妻が、妻が犯されている・・・というのに・・・
その風景は和朗自身に意外な反応をもたらしていた。
思い切り昂ぶっているのだ。
どうして・・・?
いぶかしい和朗。
しかし目のまえではずむ妻の裸体は、彼の本能をいやが上にも逆なでするように、いっそう激しい上下動に熱中していった。
引き裂かれた下着やストッキングをまだまとわりつけているのが、とてもエロチックに映る。
和朗はえもいわれぬ快楽に引きずり込まれてゆく自分をどうすることもできないで、ぼう然と妻の痴態に見入ってしまっていた。
「けさのチャーハン、やけにうまいじゃん」
「え~!?夕べの残りものだよ」
「そっかあ?なんか変わったスパイスかけてなかったっけ?」
「実家の姉がくれたのよ~。あなたったらすぐケチつけるようなこというんだから。姉に報告しておくわね」
理恵以上に手ごわい姉の気の強そうな顔を想像して、和朗は朝からげっそりとする。遠方に住んでいて、年に何回も顔をあわせずにいられてラッキーなくらいだった。
「夕べけなしたの、忘れてないんだからねー。きょうはおわびに○○デパートの地下で豆大福、買ってきて頂戴ね」
夕べのカタキまでしっかりとられて、なんのために理恵の料理をほめたのかわからなくなってしまっている和朗。
しかしひと晩たって、妙なスパイスの入ったチャーハンはじつにおいしくなっている。
あとがき
ひと晩たったら風味がかわる料理ってありますよね。
でもこのスパイス、香りたぶんかわっていないはず。
変わったのは・・・そう。ご主人。あなたのほうなんですよ・・・^^
想いに負けて
2005年10月16日(Sun) 07:27:21
もぅ、イヤなんです・・・
身を揉んで拒みながらも、その実とても嬉しそうに笑んでいる妻。
うなじから引き抜かれた牙を追いかけるように、
バラ色のしずくがブラウスの上をころがり落ちるのを、くすぐったそうにすくい上げて。
「また、シミつけちゃったじゃないの」
と、お相手の吸血鬼を軽くにらみつけている。
ストライプ柄のスカートのすそからにょっきりのぞいた足許を彩る、
しっとりと落ち着いた色調の黒ストッキング。
それが片方の脚だけはもう、むざんに破られて、
ひざ下までたるんでずり落ちている。
むぞうさにスカートをたくし上げると、破れたほうのストッキングをぐーんと引き伸ばし、
イタズラっぽい横目をして、もういちど牙を差し入れさせたりしちゃっている。
誘いかけられた戯れ心を真に受けて、ぐいぐいと迫ってくる彼に。
妻は脚をばたつかせ、小娘みたいにはしゃいでいる。
貴婦人のたしなみというものを絵に描いたような上品な装いが、
みるみるうちに目のまえで、他愛もなく崩れ果ててゆく。
妻が淑女でなくなるとき。
それを暗示するような風景に、私は不覚にも生唾を呑み込んでしまっていた。
そのあとに待ち受けている饗宴。
各々が思い描く、マガマガしい光景。
気高く貞淑に振舞おうとする妻を、いっしょうけんめい思い描こうとしている私。
しかし、そんな私の想像のなかでさえ、彼女はだんだんと淫らに堕とされていって、
劣情もあらわに組み敷かれると、みずからもまた酔い痴れるようにして・・・
淫らな舞いに耽ってゆく。
お互い思い描いている構図がいっしょになったとき。
吸血鬼は私と目を見合わせて笑った。
ヤツのほうは、無邪気ににんまりとした得意気な笑みを浮かべて。
そんな彼に私は諦めたような笑顔でこたえ、愛する妻の主権を譲りわたしてしまっている。
あとがき
オチのないお話になっちゃいました。^^;
んー。どうにもキーが乗りません。
不作つづきで、ごめんなさい。^^;;;
ちょっと息ぬき・・・^^;
2005年10月15日(Sat) 21:45:46
私の悪友である吸血鬼は、とても物識りだ。
たしかに、トシをくっているせいもあろう。
なにしろ、娘だったころの祖母から処女の生き血を吸い取った、というほどだから、
百年、いやなん百年生きてきたのか見当もつかない。
もちろん寿命が長ければ物知りとは限らないのだが・・・
闘士かインテリか・・・と訊かれれば、後者に属することは間違いないのである。
それで、ちょっと訊いてみた。
「今年って、なに年だったかな。干支でいうと」
「ぶた。」
「・・・じゃあなくって・・・(^_^;)」
「じゃあ、ねこ。」
どうやら今夜は、調子がよくないみたいである・・・
妻の身の上が、案じられてきた。
あてがわれた母親
2005年10月15日(Sat) 08:36:52
エモノにあぶれた幼馴染みのために。
母を家から連れ出した、夕暮れ時。
父親の手前、地味なブラックフォーマルと、
ヤツを愉しませるために、薄黒いストッキングを装って。
約束の沼地に、ハイヒールの脚を踏み入れる。
「お袋、つれてきたぜ」
そういうぼくに済まなさそうなあいつ。
それでも抜け目なく、無骨な礼服の黒い襟元からのぞいたうなじに、
ヒルみたいに唇を吸いつけていった。
ちゅうっ。
ひそやかな音をたてながら。
四十代のおばさんの身体から吸い上げられてゆく、
淫らになまめかしい人妻の血潮。
母はウットリと薄目になって、
ヤツの抱擁に身をゆだねてゆく。
うつろな目線を宙に迷わせる女の足許にかがみこんで。
ヤツは喪服姿の女のいちばんなまめかしいあたりに
ぬらりと舌をぬめらせた。
気を利かせてその場を外して一時間も経って。
すっかり暗くなった向こうから、
かかとの折れたハイヒールと、
脱がされた黒いスカートとをかかえて、
ひざ下までずりおちた黒ストッキングの脚をあらわにしながら、
母はちょっとはしゃぎながら戻ってくる。
荷台に母を乗せた自転車がきしむ音が、
ぎしぎしぎしぎしと
人目のない夜道でいつまでも続いていった。
同病相憐れむ または 狩られた妻
2005年10月15日(Sat) 06:55:00
狩られてしまった妻を引き取りに。
吸血鬼の邸に着いた私。
そこには先客の男性がいて、よくみるとお隣のご主人だった。
―――おや、お宅もそうですか。
チラッと交し合う、意味深な苦笑い。
―――そちらはツーショット。うちのやつのほうはお二人ですよ・・・
親切にもそう教えてくれるご主人に、
―――お互い、大変ですねえ。
―――まぁ、ゆっくり待つよりないですねぇ。
嵐に遭ってずぶ濡れになった同士にありがちな、のぼせたような困惑。
寒々とした廊下に漂う、奇妙な連帯感。
お互いの目線をそれとなく逸らしあいながら、
扉の向こうにいるそれぞれの妻を想う沈黙が流れる。
やがて向こうの部屋のドアが開かれると、
猥雑に流れるにわかなざわめきが緊張を破った。
土気色になった奥さんが服をはだけて、息をはぁはぁとはずませている。
―――馳走になった。すまないね。
そういって口許を拭う吸血鬼に、ちょっとだけ悪態をついて。
抱き取るようにして奥さんを受け取ると、
「あぁ、よくがんばったね・・・」
といって、優しくねぎらっていた。
スカートからのぞいた太ももに走るストッキングの伝線と、その周囲に散らされたぬらぬらと光る白い塊から、さりげなく目を逸らした私。
ちょっと遅れて現われた妻も、肩で息をしていた。
振り乱された髪の毛がやけに色っぽい。
つかの間の恋路を愉しんだお相手に、包まれるように扶けられて。
彼の腕のなかから抜け出すときにからみ合わせた目線の妖しさに、下腹がむしょうに熱くなる。
―――だいじょうぶ?
と、蒼い顔をした妻を気遣いながらも。
はだけたえり首からのぞくセクシィなスリップや、しどけなく破れ落ちたストッキングの裂けぐあいをしぜんと点検してしまっている。
身を持たれかけてくる妻は、血を喪ったぶんだけ軽くなったようだ。
けれども。
さいなまれていたたはずの肌が愉悦の名残りにうずいて、とても淫らにつやつやとしていた。
先客のご夫婦は、とうに姿を消している。
マザコンな吸血鬼
2005年10月15日(Sat) 06:10:00
妻を抱くときよりも、母を襲うほうに時間をかける吸血鬼。
幼馴染みの彼は、とてもマザコン。
高校を卒業するころに、母を。
それからすこしして、まだ彼女だったころの妻を。
初めて襲わせて、血を吸い取らせてしまった。
引き裂かれるセーラー服やワンピース。
たちのよくないイタズラの共犯になったぼくは、
そんな情景を息を詰めて見守っていた。
オトナっぽいかんじのするストッキングに魅せられて。
ふたりのふくらはぎや足首をしきりに舐めつづけていた彼。
行為のあとはいつものお人よしに戻っていて、
照れくさそうに、すまなさそうに。
まるで吸血鬼に似つかわしくないそぶりの彼に、おもわず失笑してしまったぼく。
いいのよいいのよ、といいながら、
母も彼女も、おかわりをねだる彼に素肌を吸わせつづけてしまっている。
―――お義母さま、今夜も長いわね。
長く閉ざされた応接間のドアを見やりながら。
ちょっと不満そうに、口を尖らせる妻。
そんな私たちを離れて見守る白髪交じりの父は、
気恥ずかしそうに、それでもちょっと得意そうににやにやとしている。
乱倫の宴
2005年10月15日(Sat) 05:57:09
ちらちらと互いの顔を見やりながら。
足音を忍ばせるようにして、嫁と姑は帰宅してきた。
しゃれた柄のワンピースに隠された、豊かな肢体のそこかしこにのこる逢瀬の名残り。
しかしうなじにしたたかにつけられた、そのうちいちばんはでなやつだけは、いやおうなく見せつけられしまってている。
「お義父さま、素敵・・・」
妻はそう絶句して、じゅうたんのうえ父に組み敷かれている。
そのすぐかたわらで、母はぼくの下で荒い息を弾ませていた。
よその家のお嬢さんに迫るいやらしい中年のおやじのように妻に迫っていった父。
白いワンピースの短いすそをひっぱりながら、そんな父に抱かれていった妻。
ふたりへの嫉妬を熱い塊にして、母のなかへとはじけさせてしまっているぼく。
妻の実家でも、こんなことをくり返していた。
結婚前から実の父に抱かれていたという妻。
痩せ身の義母をかき抱きながら見るふたりの痴態には、なぜかじぶんの父に対するときほどの嫉妬を覚えない。
なれ切ったふたりのセックスは、むしろ健康体操ほどのさりげなさに満ち足りていた。
―――そお?私、貴方がお母様とやっているときのほうが妬けるわよ。
そんな勝手なことを言いあっている、不思議に気の合った夫婦。
セットがくずれ、振り乱された髪。
汗を滲ませた素肌から漂う、淫靡な芳香。
ぐしゃぐしゃに踏みしだかれてゆく、よそ行きのワンピース。
ぬらぬらとした下半身を女たちの服の切れ端で拭いながら、
精根尽きて、うつろになった男たち。
しかし、荒々しい宴はまだつづいている。
いちど解放したエモノをおいかけてきた彼―――。
情事に沸き立つ熟れた血潮を味わいにきた吸血鬼は、ふたりの夫の面前で、
順繰りに、その妻たちにおおいかぶさってゆく。
淫らな血潮を啜られて。
日頃の堅実な主婦の仮面をかなぐり捨てて。
肌もあらわに、娼婦のように身をしならせる女たち・・・
あとがき
読み返してみて、われながら絶句。(-_-;)
無類に破廉恥ですね・・・
誰と誰の組み合わせが一番嫉妬をそそるものなんでしょうか・・・
家のなかで
2005年10月15日(Sat) 05:38:00
ひとり寝の夜は。
かならずといっていいほど、忍んでくるようになったわたしの息子。
そんな彼を、娘のような若作りの服を着て迎えるわたし。
お嬢さんみたいにおろした長い髪の毛をかきのけて、我が物顔にうなじに這わされる唇。
こめられた熱情に応えるように、わたしの血潮はきょうも柔肌の奥でズキズキと疼いている。
この子ったら、いつになったら親離れできるのかしら・・・
そんな母親めいたことを口にしながら、
さりげなく差し出す、ベージュ色のストッキングに包んだ脚。
艶美なストッキングを舐め、濡らし、辱めることさえも受け容れて。
衣裳もろとも、ちりちりに堕とされてゆくわたし・・・
夢とうつつのはざまをさまようように。
若い皮膚に包まれた逞しい筋肉に圧倒されながら。
恥さえわすれ、ただひたすらに穢し抜いてゆく、夫婦の褥。
わたしと彼とが結ばれて、どれほど経ってからだろうか。
父さんの帰りが遅くなり、週一の夜勤が週二になったのは。
あとがき
「母親めいた」・・・。
もしかするとこのカップル、実の母子ではないのかも。
母を犯す妄想に憧れる少年と人妻。ふたりを許すというマゾヒスティックな歓びに目ざめるご主人。
そんなストーリーも、密かに想い描いています。
宵闇
2005年10月15日(Sat) 05:36:00
「待たせたね」
雑木林の奥から現われた悪友のK。
そのすぐ後ろからは、照れくさそうな妻。
ふたりの服には、たくさんの落ち葉。
親戚の婚礼のかえり道。
たまたま帰り道に出くわして。
よそ行き姿の妻にすっかり見とれてしまった彼。
「ちょっとだけ、借りられない?」
断りきれなかった・・・どころか、すすんで妻の手を握らせてしまったぼく。
イタズラっぽい笑みをちらちらとこちらに投げかけながら、闇の向こうに消えた妻。
見通せるようで見通せない、木々の重なりの彼方。
ふたりと一人をさえぎる宵の闇はうっすらと、
下草の時ならぬざわめきをぼかすように包んでいた。
服を通してしみ込んでくる冷気も忘れて、ぼくは独り路傍に佇んだ。
「縛られちゃった」
エヘヘ・・・と舌を出す妻の二の腕に、じんわりと滲む赤い血潮。
ぼくは食いつくようにして妻の傷口を唇でおおい、
よだれをすりこむようにして、すり傷をぴりぴりさせてやった。
夜風 2
2005年10月13日(Thu) 06:16:00
いまごろの季節の風には、いい匂いがする。
15歳の少女みどりは目を閉じて、庭で夜風に身をゆだねていた。
四月ももう終わろうか、というころ。
十日くらい前までは桜の花びらの香りがまだ残っていた夜の微風は、今やすっかり若葉のそれに塗り替えられている。
背後の家のなかには、灯りひとつ、ともっていない。
弟のユキヨシはカゼだといって、昨日から寝込んでいた。
「父さん、いるんでしょう?」
少女は夜風の彼方に呼びかけた。
夜更けの静寂を破るのを怖れるような、忍びやかな声だった。
声に応えるように。
さくっ。
と、下草を踏みつける音がした。
この夜更けにまだ学校の制服を着こんだ少女は、じいっと闇の彼方を見つめている。
父娘は、縁側に腰かけている。
「母さんがね。父さんに気をつけろって言ってる」
「そうかね?」
父親は他人事のように受け流して、夜空を見上げている。
「早く済ませて」
少女はみじかくいった。
ひざ下まできっちりと引き上げられたハイソックスの裏には、なかなか消えない傷が隠されている。
どういうこだわりなのか。
父がみどりの血を吸うときはかならずといっていいほど、靴下のうえから唇を押し当ててきた。
「べつに。メイワクなわけじゃないけど」
少女は無機質な声で、制服の一部にわざとのように唾液をなすりつけてくる父親の行為を受け容れていた。
ヒルのようにじっとりと濡れた唇から洩れてきた牙がチクチクと、滲むような痛みを押し重ねてくる。
すこしのあいだの辛抱だった。
あやまたず、いつもの傷口に刺し込まれてくる牙が。
おどるようにハイソックスをなぶりつづける唇が。
少女の温かい血潮を悦んでいた。
「母さん、今夜はもどらないと思うけど」
夜風の彼方に目線をおいたままの横顔に浮んだ拗ねたような色は、まだまだ子供っぽかった。
「ほかの男に、血を吸われに行っているのさ」
「知ってるの?」
「父さんの血を吸ったヤツだからね。ヤツは母さんのことが好きで、我が家を狙ったようなものだから」
そういう呼気がそろそろと、うなじにふりかかってくるのを厭う景色もなく、少女は相変わらず父のほうを見ずに、闇夜の彼方を見つめつづける。
「ブラウス、汚さないでね。母さんに見つかるとうるさいから」
母さん、という言葉にちょっと侮蔑の色をこめた少女は、父にされるままにおさげをかきのけられてゆく。
ちゅ、ちゅううううっ・・・
紅い液体を体内から吸いだされる音にも、少女はとても無表情だった。
澄んだ月明かりの下。
父娘はしっかりと、抱き合っている。
吸いついてくる唇にやどるものに、少女はとうに気がつく年頃になっていた。
ブラウス越しにあてがわれる冷たい掌に掌を重ね、自分の掌の下でその掌がゆるやかに乳房をまさぐってくるのを、もうそれ以上妨げようとはしないでいる。
「母さん、いいの?ほっといて・・・」
さすがに夢見心地に揺れはじめた少女の目線のなかで、男は静かに頷いている。
「たちの悪いのは、お前やユキヨシにまで順繰りに取りつくだろうがね」
「母さんだけなんだね・・・あのひとのお目当ては」
「そういうこと」
男は愛人を抱き寄せるように軽々とみどりを引き寄せると、もういちど、みどりのうなじに濃厚な接吻をかさねていった。
服を汚すのは、女を征服した証しなんだぜ。
ヤツは悪友らしい顔つきで、彼にそう告げた。
妻はもう、ヤツの腕の中だった。
身に着けていたブラウスは、持ち主の血潮でしとどに濡れている。
「いいから。もっと吸えよ」
男は無表情に、気失しかけた妻の身体を、ヤツのほうへと押しやっていた。
さっきから妻の洩らしつづけている呻き声には、もはや甘やかな媚態をまじえはじめている。
ずり落ちかかったハイソックスを、少女の手が引き伸ばす。
そのうえからあてがわれる唇を、少女はもはや避けようとはしていない。
イタズラに興じるように。
とても無邪気に愉しげに。
少女はわざとらしく、脚をくねらせつづけている。
真っ白なハイソックスに、ちらちらと輝く赤黒い飛沫。
白い着衣が濡れてゆく・・・
なんだかそれがとても淫靡なもののように、少女の目にも映るのだが。
もうすっかりと、父のイタズラの共犯になっていた。
可愛らしい唇からこぼれる白い歯が、父親のなかのわだかまりを拭い取っている。
「ユキヨシのやつ、早く吸血鬼になりたいらしい。みどり姉さんのこと、襲いたがっているぞ」
「父さんも大変だね。競争相手増えちゃって」
くすっと笑う少女はもう、ブラウスを脱いでいた。
「処女の血じゃないと、ダメなの?」
ゆっくりとかぶりを振る父に、
「下着なら、濡らしても母さんにばれないよ」
少女の吐息はどこまでも初々しく、甘やかだった。
あとがき
母の浮気を咎める娘が、父の相手に・・・
ありがちな近親相姦ものに近い結論になってしまったような・・・
母に見つからないようにとブラウスを濡らされるのをきらった少女ですが、どうしても・・・という父にせがまれて?学校に履いて行くハイソックスを己の血で濡らしています。
夜更けには不似合いな制服姿も、父親の好みでしょうか。
ちょっとマニアックな世界ですね・・・^^;
夜風
2005年10月13日(Thu) 05:31:00
甘い微風のそよぐなか、ひと組の男女の姿が月夜に照らし出されている。
まるでこれから踊りを披露する一対のペアのように。
女は苔むした岩のうえに腰をかけて、頭をもたれかけてくる男のするがままにさせていた。
一見、嫋々とした風情と映る女はしかし、白いドレスの下にむっちりとした女の肉づきを豊かに秘めている。
うなじから肩にかけてむき出しになった褐色の皮膚はとてもなめらかで、脂ののり切った、という表現が似合いだった。
熟れた人妻の素肌がかもし出すものに、男は鼻腔の裡を濡らしはじめている。
「どうなすったの?きょうはずいぶんと、甘えん坊さんなのねぇ」
低く穏やかな声色が、揶揄するように男の鼓膜をなぶる。
女の手が男の頭をまさぐり、短く刈り込んだ髪の毛をもてあそぶのを、男はそのままにゆだねていた。
「血がたくさん、欲しいんでしょ?」
顔をかがめて覗き込んでくる女に、
図星だ
といわんばかりに、
男の手がそろそろと女の足許を伝いおりてゆき、
薄闇に透けてぬらりとした光沢を帯びたストッキングの上から足首をつかまえている。
「ウフフ・・・」
女の含み笑いには、淫靡な香りを帯含んでいいる。
足首を抑えつけてくる男の手には、それくらいあからさまな欲情がこめられていた。
「いいのよ。好きになさって。どうせもう主人もいない身体ですもの・・・どうやらそうしてくだすったの、あなたのようだけれど」
「ほんとうは、あの男があんたの血を吸うはずだったのかもな」
男が物憂げに呟いた。
あの男―――膝の上の男は女の夫だった男をそう呼んだ―――は、もともとああなる素養があったのだ、と。
吸血鬼に血を吸われて仲間になったものはしばらくのあいだ、己の家族の血を吸って生きながらえようとする。
おれはやつの、その当然の権利を横取りしてしまっている・・・
「なぁに、弱いことおっしゃっているの?要は血を吸いたいんでしょう?」
夫の話題となると、女はとても冷ややかだった。
―――あのひとに血をあげるくらいなら、あなたに獲させてあげたい。
男の耳もとに注ぎ込まれたささやきはあきらかに、男のなかに埋もれ火のようにくすぶっていた欲望に火をつけていた。
きゃっ。
ひと声、ちいさな悲鳴をのこして、
ふたつの人影は岩の向こう側へと消えた。
悲鳴は、とてもくすぐったそうだった・・・
あとがき
どこか弱さをたたえる吸血鬼。
うちに強さを秘める熟女。
襲う側と血を吸われる側とが入れ替わりになったような力関係ですね。
最近の重要なモチーフになっているような・・・^^;
真夜中の女医
2005年10月11日(Tue) 22:39:00
―――あら、元気ないのねぇ。
深夜の闇のなか。
女は、軽い非難を口にする。
ひそめた眉が妖しいまでに美しい。
陶然となって見あげる私のまえに漂う長い髪は、
黒髪なのか、銀髪なのか。それとも金なのか。
朦朧としてそれすら分からないのは、理性が喪われたため?
それとも単に、闇のせい?
白い頬に散った、バラ色の飛沫。
女は口ではくさしておきながら、
小指でなぶるようにして、
冷たく色あせた薄い唇に紅を刷くように、
私の血で己の唇を彩ってゆく。
すうっとひとすじに・・・
治療に参りました。
部屋に入ってくるときに。
女は弛んだ口許をさらに弛めるようにして、そういった。
いちおう、白衣は身に帯びている。
―――治療に来たくせに、患者を貧血にするのかい?
イタズラっぽく訊く私。
―――それとも、女医さんというのは、嘘・・・?
女はいっそうイタズラっぽく、
―――アラ、いつ女だと申し上げたかしら。
―――じゃあ、男なのか・・・?
弛んだ唇がいっそう弛む。
―――さぁ。どちらだったかしら。忘れたわ・・・
あくまでなぶるようにしてうそぶく女の、冷たい横顔。
お相手の望むまま、男にも女にもなれるのよ。
でも、女に化けるほうが、とても疲れるの。
女は、装わないといけないから。
だから、血も沢山、いりようなのよ。
分かってくださるでしょう・・・?
女はそういってもうひとしきり、私のうえにおおいかぶさると、
冷え冷えとなった身体の上から起き上がり、
―――では、奥様の番ね。こんどは男に化けて、奥さんのこと犯してみようかしら。
鼻を鳴らしてうそぶく女。
上機嫌なときのクセだった。
私がかすかにうなずくと、それに応えるように、
さあっ・・・
と、色も定かではない長い髪の毛をさらさらとひるがえして、
妻の寝室へと消えていった。
ドアの向こうから洩れる、ちいさな悲鳴。
もはや苦痛だけではいい表せなくなった何ものかを忍ぶような、愉悦の呻き。
意識の遠くなりかかった鼓膜が、そんなひそかな物音に心地よく震えていた。
あとがき
ひさびさのアップです。^^;
今回の吸血鬼は、「ふたなり」みたいです。
女が男に化けるのと、男が女に化けるのと。
どちらが大変だろうか・・・
なんて考えているうちに、こんなものになってしまいました。^^;
彼(彼女?)は云います。
何百年と生きているうちに、自分の性別もわからなくなった・・・
はたして、本当でしょうか?
ちゃあんとすべて、わかったうえで男をなぶっているように思えてならないのですが。
私はこのひと、女のような気がするのですが。
それとも、奥さんをあとにとっておくあたりは、やはり男の感覚でしょうか?
P.S.
>皆様
病中、かずかずの暖かいメッセージ、まことにありがごうございました。m(_)m
病んでいます・・・
2005年10月08日(Sat) 08:23:00
半吸血鬼であるわが身は、
時に人間なみの病を背負う。
爛惰に沈むベッドから
魂魄だけが忍び出る夜更け。
貴女は今宵も道に彷徨い、
私との逢う瀬を心待ちにする。
いつも身にまとう挑発的な軽い服ではなく、
いまの貴女は私好みの清楚なスーツ姿。
似合わないでしょ?
気遣わしげにそう呟きながら。
貴女はさりげなくその身をみずから近寄せる。
淑女ならば忌むべき牙を間近にしながら、
怖れ気もなく、その身を近寄せる。
とても似合っているのに。
そうとは気づかない、一途な貴女―――。
私はもうめくら滅法に、
貴女を引き寄せ、掻き抱き、
なめらかな素肌に毒蛇の唇を吸いつける。
闇にはじける、真紅のしずく。
それを思うさま啜り取る、至福の刻―――。
もはや夢見心地になったきみ。
衣裳を辱めずにはいられない、私の恥ずべき嗜好を、
こともなげに受け容れて。
汚してください、と言わんばかりに純潔な、白のブラウス。
かすかな灯に妖しく輝く、透明なストッキング。
そんな気品漂う衣裳を、そのままにさらしてゆく。
今宵のような捨て身の献身を幾晩か。
もういいよ、病は癒えたから・・・
私がそう告げるまで、決してやめようとしないきみ―――。
あとがき
皆さま、カゼにはくれぐれも、ご注意を。^^;
えっちな診療室 ー本日休診ー
2005年10月05日(Wed) 11:22:00
女医まりあはこのところ、ご機嫌がよくない。
さいきん、すごくイライラしている。
つきまとう頭痛は、ストレスがたまっている証拠。
原因はよぅく、わかっている。
看護婦のまりあも。
このまえまで入院していた人妻まりあも。
高校で同期だった女教師まりあも。
みんな経験している、吸血体験。
どうして私のところにだけ、現われないのだろう?
あの中年の婦長だって、襲われちゃったっていうのに。
おもわず、涙がにじんでくる。
けれども。
ここに登場してしまった以上。
わかっていますよね?^^
きょうの貴女の運命。
朝の占いで二重丸、ついていませんでした?
外来の患者のためにいつも開けっ放しにしているドア。
それがおもむろにばたん、と閉じる音に振り向いて。
アッと叫ぶ声を、なぜか自分の両手がふさいでいた。
蒼白い頬。秀でた目鼻。
酷薄に輝く魅惑的な瞳。
季節ちがいの黒いコート。裏地は血のような赤。
―――私をお呼びのようだね?
その男は呟くように、そういった。
「なっ、なんの御用でしょうか・・・」
さすがにすくんでしまった女医まりあ。
ちろちろ這わされる視線が。
白衣からちらりとのぞいた豊かな胸に。
濃紺のタイトミニからのぞいた太ももに。
這うようにじわ~りと、注がれてくるのがくすぐったい。
―――輸血を願いたいのだが。
男は、冷ややかにそういった。
「そっ、そのまえに、診察を・・・」
小娘みたいに戸惑いながらそういうまりあに
―――なにを時間稼ぎしているのだね?私は忙しいのだよ・・・
つかつかとまりあのまん前にまで足を運んだ。
知らず知らず目線を落としてしまう。
薄い靴下を履いている・・・
どうでもいいことを考えていると、うえからおっかぶせるように。
ぐいっ。
と、荒々しく首をつかまれた。
「なっ、なにを・・・!」
顔を仰のけられ、あごをつかまえられて。
呼気が頬にあたるほど、近づいて。
―――診察なら、この身が施して進ぜようぞ。
笑みを含んだ声色が、毒液を注ぎ込むように、耳朶をくすぐる。
「ちょ、ちょっと・・・」
華奢な身体をだきすくめられて。
でも、見かけ以上にずっしりとしたボリュームにセクシーな肉の息遣いと、これから獲れる血の量とを感じ取って。
吸血鬼は満足そうに、笑みを広げた。
―――覚悟は、いいね?
「うっ・・・」
うなじのつけ根に唇をあてがわれて。
ちゅ、ちゅう~っ・・・
誰もいない診察室。
インテリ女性の血潮を吸い上げるひそやかな音が、
部屋いっぱいに、妖しく満ちた。
「あっ。はぁっ・・・」
牙を引き抜かれて。
白衣のうえに、かすかに散った血。
―――お仕事柄、血を見ることにはなれておいでのご様子だね。
「わたくし、内科ですから・・・」
いいわけには耳も貸してくれないで、
―――いま少し。
そういうと、こんどは胸に・・・
「あっ。だめぇ・・・」
むっちりもりあがる胸元に、注射針みたいに刺し込まれる二本の牙。
ちくっとした感触が、たんなる痛みだけではない妖しいものを素肌にじんわり、滲ませてくる。
ちゅ、ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうううっ。
血液を引き抜かれるようにされて。
ふらあっとしてくるまりあ。
完全に男の猿臂に体重をゆだね切っている。
―――美味しい。
呟きは鼓膜を通したものだろうか?
柔肌に深々とうずめられた牙を通して伝わってきたような・・・
錯覚よ。頭がおかしくなりかけているのよ。
失血は理性の低下をもたらし・・・
医学の教科書みたいな文言を思い浮かべ、崩れる理性を必死でたてなおそうとするまりあ。
けれどもそんな努力をあざ笑うように。
ちくり・・・
ちくり・・・
聴診器をあてるみたいな手堅さで、男はまりあの感じやすい部位ばかりをねらって、あちこちから咬みつきはじめていた。
肩先に、わき腹に。服のうえから当てられてくる牙。
スカート越しにお尻を咬まれたときには、
「きゃあっ、いやぁん・・・」
おもわず、はしたない声をたててしまった。
―――あちこち、お加減がよくないようだね。
お医者様が診断をくだすみたいな理知的に冷たく冴えた声。
これだけえっちなことをしているのに、あなたはどうしてそんな冷たい声が出せるというの?
まりあはこれだけ、酔ってしまっているというのに・・・
酔いつぶれてしまう寸前に、まだまだ顔色ひとつ変えないで飲んでいる男の人がうらやましかった時分のことをうすぼんやりと思い出して。
そうして酔いに身をゆだねきってしまったあたしは、あのときそのままベッドに引きずり込まれてしまっていた。
いまもまた、おんなじみたい・・・
去りかけたさいごの理性が、まりあにそう語りかける。
「気絶したぞ」
吸血鬼は傍らの看護婦まりあにそういった。
「では、ベッドの用意を」
きびきびと立ち回る看護婦まりあのうなじにも、まりあ先生とおなじ痕がふたつ、くっきりとつけられている。
「きょうは、休診だね」
婦長のほうを振り向くと。
「おっしゃるとおりでございます」
玄関には休診の札を、とうの昔にかけております・・・
律儀な婦長はそう告げる。
「輸血の用意はいいね?」
「もう、なさるのですか?」
すぐに、まりあ先生の白い腕に注射針をぐいっと刺し込みたそうにしている婦長。
「なにを言う。愉しみはこれからだよ」
奥の病室は、がらあきになっている。
気絶したまりあ先生を軽々と抱き上げて、
「きょうはたっぷり、ご馳走になるよ。私への挨拶がおそかったぶん、よけいに・・・ね」
そういって、おでこにちゅっと接吻をした。
「輸血のあとは、わたくしも・・・」
婦長の切実な声色を背に、ばたんと閉ざされる扉。
ふたりきりの部屋。
まりあの身体をどさりとベッドに投げ込んで。
吸血鬼は
にやり。
と笑みを浮かべ。
髪を振り乱した寝姿に、すうっと寄り添う黒い影になって。
その日一日、まりあを淫らにもてあそぶのだった。
ウチの家内、美味しいですか?
2005年10月05日(Wed) 10:44:33
「行ってまいりま~す♪」
言葉も軽くウキウキと、妻のまりあはでかけていった。
行く先には男たちの逞しくて好色な腕が待ち構えている。
そうと知りながら。
なぜか私のほうまでウキウキとした気分で、送り出しちゃっている。^^
見送る後ろ姿が曲がり角に隠れる瞬間、軽やかなワンピースの裾がひるがえった。
三、四十分もたったころ。
ちろりん、と着メロが鳴った。
一人すむたびに送られてくる、携帯メール。
一人目 あっという間
肩で息をしながら打っている・・・
短いフレーズから伝わるそんな情景。
言い知れぬドキドキに、昂ぶる私。
それから少したって、もういちど。
ちろりん。
二人目 荒々しくって
なにをされているんだ?どんなふうにされているんだ?
かけめぐる妄想。
ちろりん。
ちろりん。
ちろりん。
際限なく続く着メロの、妖しい響き。
もぅ、耳を塞ぎたくなってくる。(><)
けれどもやめられない、一方的なコミュニケーション。
三人目 しつこいくらいていねい
四人目 もう・・・ダメ
五人目 よだれたらたら
六人目 ごちそうさん。奥さんのけぞってるよ^^
どういたしまして。いっぱいかわいがってやってくださいね。夫より
おもわず手にとった携帯に、そう、返信してしまう。
イタズラざかりの少年みたいに、胸をドキドキさせながら。
思う存分、いたぶられておいで。今夜はもう帰らなくてもかまわないよ。^^
かなう
2005年10月04日(Tue) 21:41:00
私はてっきり、妻の知人だと思っていた。
妻はおなじように、私の友人だと誤解していた。
そんなふうに音もなく、さりげなく家庭のなかに忍び込んできた彼―――。
吸血鬼なんです。
貴方の血が欲しいのです。
そうせがまれて。
私は黙って、彼にうなじを差し出していた。
なぜ、そんな気分になったのだろう。
まるで催眠術にかかったみたいに、見えない糸で彼にたぐり寄せられてしまっている。
たとえそれが詐術に似たものであったとしても。
もはや快楽に身をゆだねてしまった私としては、どうでもいいことになってしまっている。
家族という大切なものを、決して喪ってしまったわけではなく、
そこには新たな絆が用意されていた。
素肌に唇を這わされて。
毒蛇のような舌をちろちろとあてがわれて。
彼はまるで恋人同士のようにして、私に身をすり寄せてきた。
同性愛というものに、格別なんの関心もいだかなかった私。
けれどもいまそれに似たものが、私を妖しい境地に彷徨わせようとしている―――。
しっかり抱き締められた腕のなかで。
崩された理性を宙に迷わせながら。
私はいつか、つぶやいていた。
生命までも、きみにプレゼントしなくちゃいけないのかね?
彼の熱くささやかな吐息が、耳朶にかかって。
鼓膜をくすぐるようにして、揺るわせた。
―――死なないで下さい。とことわに・・・
そういって彼はまた、私を熱く抱き締める。
なにが、欲しいの?
むしょうに何かを与えたくなってしまっている私に対して、
彼は悪魔のような囁きを、私の耳の奥深くに吹き込んできた。
―――奥様を、愛してしまっているのです。そう・・・あなたに対するのとおなじくらいに。
熱っぽい囁きが、決してからかいやあざけりを含まない、純な気持ちを伝えてくる。
そうだったんだね。それで、妻に近づいたのだね。
―――お許し下さい。どうか・・・貴方からこれほどのご好意を頂戴しているというのに・・・
そういって俯いて、ひたすら悔いている彼に。
―――べつだん、いけないことではないんじゃないかな?
私は心から、そうこたえている。
好きなもの同士。おなじひとを好きになった。それがあとさきになった。それだけのことじゃないか、と。
もしも許されるのなら・・・
そういう彼にせがまれるままに。
留守中の彼女の箪笥を引きあけて。
いつも彼女の脚を彩っているストッキングを脚にとおしてみる。
しっとりとした感触を帯びたつややかな光沢が、淡いすね毛におおわれた私の脚を包んでいった。
妻と一体になったような錯覚。
いや。それは錯覚ではなかったのかも。
女の衣裳を身にまとう不自然さにかすかな戸惑いを覚えつつ、
私は彼の目の前に、妻の装いを帯びた脚を差し出した。
あてがわれる唇の熱さに。
妻に対して彼のいだいた濃い情念を感じ取る。
そうか。そんなに好きだったんだね・・・ずっと、我慢していたんだね・・・
我が身につまされるような気になって、彼への同情がふつふつと湧いてくる。
不覚にも立てられた牙のために、ぴちっとはじけるような伝線がひろがる。
じりじりと破れ、堕ちてゆくナイロンの薄衣のありさまに。
妻のなれの果てを垣間見たような気分になって。
それでもやめられないでいる彼のために、好きにさせてしまっている私。
そのままに。
妻といっしょになって、まだ若さを宿している血潮を捧げつづける・・・
その晩のことだった。
妻は私になり代わって。
ブラウスを装い、スカートをまとい、脚に通したストッキングのふくらはぎを、彼にゆだねきっている。
他愛なく引き破られて、だらしなくゆるみきったストッキング。
それは、妻がもはや私のためだけの貞淑な主婦ではなくて、ふしだらな娼婦に堕ちてしまった証しのようだった。
純白のブラウスはすでに、持ち主の血潮をうけてしとどに濡れて、不規則なバラ色の水玉模様を妖しく輝やかせていた。
彼がいま吸っている脚は、素肌は、はたして彼女のものなのか。じつは私のそれなのか。
失血に目が眩み、無重力状態のような夢見心地のるつぼのなか。
妻も、私も。
とうに見境がつかなくなっている。
そんな私たちに代わる代わるのしかかり、彼は己の欲望をひたすら、成就させてゆく。
はぐり取られたスカートの奥。
妻の股間には夫ならぬ身から発散された若々しい液体に濡れていた。
私と抱き合い。妻と抱き合い。
ひとつに結ばれあった三人の影。
いったい、このような結びつきがあり得るのであろうか。
妻を共有し、夫をともにする。
濃密な触れあいに、今宵も心酔わされてゆく・・・
叶さまのサイト「再応」は、ボーイズラブの小説をテーマにしたサイトさんです。
http://saioh.suger.biz/contents/top.htm
その掲示板でおもわずもりあがった吸血鬼ねた。
私にしては異色な、ちょっとソレがかったストーリーを書いてみました。
タイトルの「かなう」は、叶さまのお名前にあやかったものです。
そのスジの方からすると、ぜんぜん物足りないだろうと思いますが・・・^^;
声の快楽
2005年10月04日(Tue) 20:40:00
「きゃあっ!嫌っ!血を吸われるのなんて」
スーツ姿の妻は白い顔を引きつらせ、真っ黒な髪の毛を振り乱して抗う。
「嫌!嫌!いやッ・・・!」
身をもんで抗う妻をベンチに抑えつけて、ヤツはがぶり!と白いうなじにくいついた。
「あ・・・あっ」
のけぞる妻。
それでも非難を浴びせ続ける。
「痛っ!やだっ!ひどい・・・っ!!」
ブラウスをくしゃくしゃにされ、バラ色のしずくをほとばされて。
スカートを引き上げられ、ストッキングを引き破られ、そのうえずりおろされて。
引きずり倒された足許の草地のうえで。
衣裳の奥に秘めた貞操までむさぼられてしまう妻。
「夫に、顔向けできないわっ・・・」
泣きじゃくりながらも、妻はいつか、せわしなく腰を上下させてゆく。
むき出しの太ももに愉悦をたっぷり滲ませて。
大仰な非難は、じつは物陰から窺う私にきかせるためのもの。
吸血鬼も私の熱い視線を意識して、よけい妻を手荒にもてあそぶ。
ちょっと淫らなオフ会 5
2005年10月04日(Tue) 20:33:00
↓の、続きです。
うんと長くなっちゃいました。
てきとーに、読み飛ばしてください。^^;
「たいした盛況だな」
吸血鬼が眺めているのは、通りのはすむかいに歩みを進める女たちの足許だった。
「あれが全員、今夜招かれている・・・というのなら、悪くない話だね」
そううそぶく彼の視線が、じつは最も熱く理恵ひとりに注がれているのを、柏木は見逃していない。
「今夜の訪問は歓迎されるとみて、間違いないようだな」
そう決めつける目線の彼方に、遠目にも鮮やかな、夏場には不似合いな黒のストッキングに包まれた彼女の足許があった。
ヤツがそうして、喉の奥に消えた血潮の味わいを反芻するように陶然としているのは、そうそういつもいつものことではないのを彼は知っている。
まず十人に一人、だろうか。
そのなかにはむろん、彼の妻である由貴子や、母も含まれている。
そういえばさいきんモノにしたという、まりあという女と褥をともにした朝も、おなじ顔つきをするようになった。
看護婦だとか、教師をしているとか、正体をはぐらかして決して真実をつげない吸血鬼に対するときと同じ感情―――とてもじりじりとした、焦りに似たもの―――が、いまもまたよみがえってきた。
自分のなかに渦巻きはじめた嫉妬が、理恵を好いている男としてのものなのか、自分に乗り移った母や妻のそれであるのか、よくわからなくなってきている。
インターホンの音に
「はぁい・・・」
と、理恵は重たい腰をあげた。
―――やっぱり夕べはキツかったなぁ~。
と、さすがに思う理恵。
よくまあ身体のなかに血がのこっていたなと思うほど、ふたりがかりで強欲に漁りとられてしまっていた。
そのうえ、昼の外出である。
―――だって、どうしても見たかったんだもん。初之丞の演じる梢。
AかBか、ではなくて、いつもAもBも、と欲張る理恵。
若さにまかせてきょうもまた、いつものように欲張ってしまっていた。
けれどもここは自宅。
こんどは向こうが、欲張る番。
多少欲張られちゃったとしても、ぶっ倒れるまで相手をしても、だいじょうぶ。
それ以上に、すんでのことで夕べ帰りそこねるところだった理恵を吸血鬼が自宅まで送ってくれたことが、無上の安心感を彼女に与えていた。
帰宅してから、本当は昼間の歌舞伎見物に着ていくつもりだった服に着替えている。
お出かけの時には必ずといっていいほど着ていく服に迷って、あきらめた服を出しっぱなしにしたままあわただしく出かけてしまうことがある。
家に戻ってすぐに着替えたときも、じつはそういう状況だった。
もちろんそんなことは吸血鬼にも内緒であるが・・・
インターホンの音にこたえるように。
着替えたばかりの濃い紫のスカートをひるがえして、彼女は玄関に向かう。
脚には、黒のストッキング。
先週銀座にくり出したときに買った、よそ行き用のやつだった。
ブラウスは夕べに引き続いて、純白のボウタイつきのもの。
バラ色をした血が映えるように・・・しぜんとそういう服を択んでしまっている。
「あら、柏木さんは?」
「遅れてくるようだよ」
吸血鬼はそういうと、挨拶抜きにあがりこんだ。
鍵をかけようとする手を制してにぎりしめ、唇をあててゆく。
そのまま腕にまきこんだ理恵の華奢なブラウス姿を奥の部屋へと引きずり込むよな強引さでいざなった。
鍵をかけ忘れたことをあくまで気にする舟橋家の主婦が
「無用心ですわ」
と主張するのを、
「わしがいるところに忍び込む愚か者がいようか?」
たったひと言で納得させてしまう。
リビングはすっかり片付いていて、きれいにみがかれたフローリングの床がてかてかとしている。
ソファにもつれ込むようにして。
吸血鬼はさっそく、人妻の首すじを狙う。
「柏木さんが、来てからよ・・・」
軽くかぶりを振ってこばむ理恵を抑えつけ、
「昨日も、ヤツがさいしょだったはずだぜ」
そういって彼女に迫り、うなじに唇を這わせてゆく。
力ずくで這わされた熱い唇がヒルのようにむずむずと素肌の上をうごめきだすと、
理恵はもうガマンならなくなって、つい
「あぁ・・・」
と唇から声を洩らしてしまっている。
吸血鬼は理恵のあごを捉まえてちょっと強引に顔を仰のかせると、冷たい頬をちらりとゆるめて、
「えっちな奥様、だね」
そういいながらふたたびかがみこむと、早くもずぶりとうなじをえぐってしまっていた。
きゅうううっ・・・
三十代の人妻のなまめかしい血潮がおびただしく、瞬間移動を始める。
百年以上というもの。
幾多の女性におおいかぶさり、理性を奪い取っていった吸血の音。
昼下がり、罪のない都会の一主婦の身の上にも、それは例外なく訪れる。
ア・・・あ・・・ぁ・・・あぁ~っ・・・
むっちりとした肌に牙を突き立てられたまま生き血を吸い取られてゆく理恵は、いつか陶然となって身をくねらせてゆく。
「おぉーい!またバンカーかよ」
微妙に狂ったスイングから放たれた白い球は青空に鈍い放物線を描いてあらぬ方角へとすっ飛んでゆき、
芝生におおわれたなだらかな丘の彼方にかすかな砂煙をあげて見えなくなった。
また手許が狂ったじゃん・・・
和郎はチッとイマイマしそうに舌打ちをした。
これじゃー、120は確実にオーバーだ。
不本意以下のできである。
「どーしたんだよ。名人」
いっしょに回っている同僚の豊野が、ニヤついている。
どうしたはずみか、和郎とどっこいどっこいのヤツが、このぶんだと90は切るかもしれないというペースでまわっている。
というよりは、なんのことはない、いつもと同じペースでまわっているだけだと、あまりにも調子を崩した和郎は気づかないでいる。
「奥さんまた病気じゃないの?」
豊野はどこまでも意地が悪い。
まえに大叩きしたときは、家にもどったら理恵は季節外れのカゼをひいて寝込んでいた。
そんな話をしたら、かえって「ご馳走様」だと。
まったく、どうにもなんねぇな・・・
渋い顔の和郎はお気に入りのアイアンを握りなおす。
吸い取ったばかりの血に、牙をバラ色に染めながら。
吸血鬼はにんまりと笑んでいる。
「もぅ・・・」
痛いくらいにきつい抱擁のなか。
甘ったるい声で口を尖らせる理恵。
もういちど、こんどはじぶんのほうから彼の背中に腕をまわして、吸血鬼の抱擁を受け容れていく。
ブラウスのうえから加えられるまさぐりがいっそうしつっこくくり返されるうちに。
下腹部にじりじりとした潤いを覚えながら、理恵はなおもいやいやをくり返す。
「プレゼントは柏木さんがお先、のはずよ・・・ね?」
子供に言い聞かせるような口調。つい甘ったるくなってしまう上目遣い。
それでも言葉はあくまで柏木に忠実だ。
「私の知ってしまった過去を語られたくなかったら・・・なんて田舎文句は吐きたくないものですね・・・」
そんなよこしまな囁きを、口先に手をあてがって封じる理恵。
しなやかな鋼のような強い意志。
一見嫋々とした女の柔肌に秘められた剛いものを見せつけられて。
「うふふ。貞操堅固な奥様だね」
口では理恵をもてあそびながら、ちょっと残念そうにかれは身を引いていた。
さっきから。
ドアの向こう側から注がれる、熱い視線を感じている。
「ううん・・・」
我ながら悩ましい声に驚きながら。
執拗に絡みついてくる視線がくすぐったくて。
抱擁のなかの身もだえに、ついつい熱が帯びてくる。
もしかして・・・
やっぱり。
「遠慮なく、入りたまえ」
理恵の気配にそそれと察した吸血鬼がふりかえった。
彼に応えるように開かれたドアの向こうにいたのは、やはり柏木だった。
柏木さんの目が心なしか、充血している。
のぞいていたの?
卑怯、ということばは、さばけた理恵が口にする言葉ではなかった。
―――まぁ、お独りで愉しんでらしたのね。人がわるい。
にんまりと浮かべる笑みを、共犯者どうし交わし合っている。
さっきのきわどい会話をどこまで聞かれたのかしら?
そんな懸念を媚びを含んだ笑いの下に押し隠しながら、
「愉しんでいただけました?ドラキュラ映画の吸血シーン」
「ドキドキしちまいましたよ。まるで、自分の女房抱かれているみたいに」
そういう柏木も、耳にしたやり取りのことなどおくびにも出さないでいる。
その実自分のいないところでさえも、理恵が自分に忠実に振舞おうとしてくれたことにかなり喜んでいたのだが。
「二人で歌舞伎見物、してきたんだぜ。せっかく東京まで出てきたのでネ」
「うそぉ。女の人見物、なんでしょ?」
図星に苦笑いして、吸血鬼は抱擁を解いていた。
―――黄緑のスーツ着ていた女の脚がたっぷりしていて、咬みごたえがありそうだ。
―――Aさんのことだわ。さすが。お目が高い。
打ち解けた雰囲気。きわどい会話。すべてが昨日の繰り返しだった。
「貞操堅固な奥方だよ。」
ちょっと残り惜しそうにしていたのは、理恵に一番乗りする野心を捨てていなかったのだろう。
まったく、油断もスキもない・・・
タメイキする柏木だったが、もとより彼への悪意はない。
いままでになん人、彼とのあいだに女性を交えてきたことだろう。
洗練された物腰とも、世なれた振る舞いとも無縁な柏木のことを大目に見るように、
彼はそれでも自分が酔わせたかなりの女を柏木に譲ってくれている。
「吸いなよ。じつに旨い血だ」
上質のワインを同好者にすすめるときのような口調で、吸血鬼は柏木を促す。
「淫乱女の、ね」
そうつけ加えてにやりとする吸血鬼に
「もうっ!」
といいながら、早くも柏木に襲いかかられている理恵だった。
ちょ、ちょ、ちょっと待ってぇ・・・
うなじにつけられた傷からにじみ出ている血を舐め取られながら、理恵は少なからず悩乱している。
「う、う、うぅ~ん・・・っ」
ソファに押しつけられて、黒ストッキングの脚をばたつかせ、お行儀悪く立て膝しながら相手に応えてゆく理恵。
うなじのべつのところに咬みつかれながら。
ちゅ、ちゅうう~っ・・・
血を吸いだされる細い音に鼓膜をくすぐられ、とうとう笑いこけてしまっていた。
ひとしきり発作がやむと。
理恵は気前よく、柏木のまえでスカートをはねあげていた。
濃い紫の、アールヌーボー調の柄に隠された太ももが、エレガントな黒のストッキングのてかてかとした光沢に包まれている。
あけっぴろげなお人柄とはうって変わった風情にごくんと生唾を飲み込んだ柏木に、
「奮発して、高いストッキング買っちゃった。^^」
別室から覗いていたときから。
理恵の脚を彩る淫猥な黒ストッキングのなかでキュッと浮き出るしなやかな筋肉に目が釘づけだった。
「柏木さんのために履いてきたの。せっかくだから、いっぱい愉しんでね。まだ吸血鬼さんにも触らせていないのよ~」
どういうところが相手のツボなのかをしっかり心得ている理恵の手管にまんまとひっかかって。
自分のなかでもそんなじぶんを自覚しながら。
柏木はつい理恵の足許に跪くようにして。
ひざ小僧をつかまえて。
ちゅるり
と、べろを這わせてしまっている。
「やだ!エッチ・・・」
30代主婦の抗議には耳もかさないで。
ちゅう、ちゅう、ちゅう・・・っ
ひざ小僧から。ふくらはぎから。足首から。
くまなく唇をねぶりつけて。
高価なストッキングの上からぬるぬるとしたよだれをなすりつけてしまっていた。
しなやかなナイロンの舌触りを、その向こう側で素肌がきゅっとひきつる感触を、ともどもに愉しみながら。
抱きついたふくらはぎを撫でさする指の間に卑猥な情念をたっぷりとみなぎらせて。
淑やかに装った脚に卑猥なまさぐりを受けながら。
理恵も柏木の頭を抱いて。幼な児をあやすようなこまやかな手つきで愛撫を繰り返し始めていた。
「ウフフ。たまらんね・・・」
感にたえたように呟くと、吸血鬼は人妻のうしろからにじりよって、
もういちど、うなじのあたりをぐいいっ、とえぐっていた。
「破くまえに、いっぱい愉しんでちょうだいね」
昂ぶりに息をはずませながら。
理恵はスカートをはねのけて、なまめかしい太ももを二人のまえにさらけ出した。
いちどは脱ごうとしたスカートを、そのまま身に着けるようにととめられた。
淑女を、犯したいので・・・
という言い草に、
こだわるなぁ。
と思いつつ。
そういう遊戯に案外とノッてしまっている理恵だった。
まえにこのスカート履いていたときは。
たしかまだ梅雨のころ、AさんやSさんたちと美術館見物に行ったときだった。
つぎの機会が、まさかこんなことのために・・・なんて。
まるっきり、想像もしていないでいたのに。
いま理恵の目線の下で、ご自慢のスカートはくしゃくしゃに乱されて、いつも淑やかに隠している脚を男たちの好奇の視線のまえにさらしてしまっているのである。
まぁ、私としたことが・・・
消えかかった理性がまだ時折彼女の軽はずみを咎めつづけているのだが。
淫らな血潮が彼女自身の身を躍らせてゆくのを、今さらもう止めることなどできよう筈もない。
巧みな人形遣いに踊らされるマリオネットのように。
理恵は自分でもこんなこと・・・と内心いぶかるくらいにまで、エッチに身をくねらせつづけ、男たちを煽りつづけている。
「ねー、こんどは吸血鬼さんの番よ♪」
とかいいながら、柏木のまえでこれ見よがしに吸血鬼に脚を差し出して。
お色気たっぷりにくねらせて。
薄手のナイロンの上から、ちゅうっ・・・と吸わせちゃったりしている。
幾度目だろうか。
なすりつけられてきた唇からにじみ出るように。
柏木さんの牙がふくらはぎにもぐり込んでいた。
「あ、あ・・・ッ」
ほろ苦い痛みの周りから。
ストッキングの繊細な網目模様がちりちりと裂け目を走らせて。
白い素肌を白日にさらけ出しながら、つま先までつ、つっと伸びてゆく。
むっちり脚をほどよく包みこんだ心地よい束縛がじょじょにほぐれてゆくのを覚えながら、
―――もっとやってぇ。
心のなかで叫ぶ理恵。
もう後戻りできない・・・
衣裳を破られると、女はそう実感するのだろうか?
あぁ・・・
破られた皮膚からにじみ出る血潮を、くいっ・・・くいっ・・・と喉の奥へと流し込んでゆく柏木。
長い猿臂に抱きすくめられた中、卵の黄身でも吸い出されるようにして。
まるで恋人どうしのようにウットリと、我が身をゆだねきってしまっている。
自宅のリビングの見慣れた景色。
そのなかに身を置いて。
夫のいない空間にめくるめく誘惑の渦に自ら巻き込まれていって。
当然いだくべき罪悪感がすっぽり抜け落ちている自分が、ひどく自然に思える刻一刻。
―――ちょ、ちょっとぉ・・・
川の流れの深みに引きずり込まれてしまいそうな間隔に、気づいたらばしばしと柏木の背中を叩いている。
―――いっぺんに、吸いすぎよっ。もっと優しくしてくんなきゃ、身が持たないわぁ。
リラックスしたせいだろうか。持ち前のわがままを発揮し始めている理恵だった。
「これは、お許しを」
柏木はそういいながら、こんどは足許へとかがみ込んでくる。
もう・・・
どこまで好色なのだろう?
じぶんのことをたなにあげて、理恵は柏木を、そして吸血鬼を軽くなぶるようにののしっている。
ああぁ・・・
ふたりはかわるがわる、理恵にのしかかってくる。
どれがだれの唇だか、もうわかんない。
うなじに。胸元に。
ブラウスのタイはいつの間にかほどかれて、ブラジャーのストラップは断ち切られている。
ぷにゅぷにゅとしたおっぱいをじかにまさぐられて。
それに応えるようにのぼせ上がってくるバラ色の血潮が肌をじんわり染めるのをありありと感じながら。
それでいて足許にもいやらしくなすりつけられる唇を同時に愉しんでしまっている。
ちりちりに咬み破られてしまったストッキングは、もうひざ下までずり落ちていた。
もう貴婦人でも淑女でもなくなってしまった自分。
それを意識しながら、もうやめられないキケンな遊戯。
あああぁ・・・
吸血鬼さんはやっぱり、首すじがお好きならしい。
いまはもっぱら理恵のうなじにとりついて、
ずぶり。くちゅくちゅっ。
鋭い牙の切れ味をひけらかすように食いついて、
くすぐるようにして血を吸いあげる。
抜き去られてゆく血潮が傷口を通り抜けるときのズキズキとした疼きが素肌にしみ込んで。
いっそう淫らな気分に堕ちてゆく。
―――こうして奥さん、堕とされたのね。柏木さん・・・
たるんだストッキングのうえからなおもしつように唇をなすりつけてくる柏木。
スレンダーな脚じゃないのに・・・
そう思いながらも。
まるで凌辱されるような唇に応えるように。
びんびんに快感疼かせながら、はしたないくらいに昂ぶりにはずむ素肌。
欲情に満ちた唇と、誘惑に崩れてゆく素肌のあいだで、堕とされたストッキングがいびつに歪められて。
その柏木が、まろばされた上体にするするとせり上がってくる。
初めて脚を吸ってもらったときのぎこちなさと裏腹に。
紳士の仮面をかなぐり捨てると、男は動きさえも別人になるのだろうか。
踏みにじられるように、おっぱいをもみくちゃにされて。
ケモノじみた呼気をうなじに当てられて。
ショーツを裂き取られて護るものもなくなった秘所がすぅすぅするなぁ・・・
らちもないことを思ううちに、
ぐぐぐっ。
猛り昂ぶった硬い肉が、止めようもない勢いで、
夫にだけに許されるはずの処に食い込んできた。
ほとんどあっけないくらいにずぶずぶっと、食い荒らされてしまっていた。
―――!―――!
硬いフローリングがごつごつと、背中に痛い。
己じしんをえぐり抜かれて。
奥の奥までむさぼられて。
吶喊につぐ吶喊。
白く濁ったどろどろとした汚い液を、思う存分ほとばされて。
いちどでは、もちろんすまされなかった。
はぁっ。
と柏木が息つくいとまもなく。
彼を押しのけるようにして、吸血鬼がふたりのあいだに割って入ってくる。
あううううっ・・・
あまりの刺激に目が眩んで。
いともたやすく、おなじ行為を許してしまう。
このひとのもの。うんと硬い。
―――なんてえっちなこと考えているのよ。
理恵のなかのしたたかな理恵が苛立たしげに呟くのを覚えながら、
ううぅんっ!
こんどこそ、おもいきりえっちに、身をしならせてしまう。
傍らであたしを見ている柏木さん。
別人みたいな痴態に、昂ぶっちゃったみたい。
そうよ。これがあたしの正体よ。吸血鬼とどっちが化け物かしら。
じゅぷっ・・・
牙より硬くなく、けれども牙よりもしつようなものを引き抜かれて。
はー。はー。
肩を弾ませる理恵に、もういちど彼が・・・
あ、あっ・・・
びゅうっ。
まだかろうじて身につけていたスカートを。
先走った濁り汁でしとどに濡らされてしまっていた。
吸血鬼は化け物かもしれないが。
柏木さんは、人なのだ・・・
そうした意識が罪悪感を、ちょっとだけ濃いものにして。
その濃厚さにすら愉悦を覚える悪い妻。
あっ、あん・・・
甘えるような低い呻きを洩らしつつ。
かわるがわるにところを替え役を入れ替わる男たちの蹂躙に、理恵は陶然としながら我が身をゆだねきっていた。
目線の彼方に剥ぎ取られたブラウスが、あちこちに赤黒い飛沫に濡らされたまま、まるで散らされた花びらのようにフローリングの上に投げ出されている。
そのうえに照りつける夕陽が、じょじょに濃い。
もうじき、陽が暮れてゆく。
しかし、それがなんだというのだろう?
近所に、手ごろな空き地があったっけ。
日が暮れてしまったら。
きっとふたりはつづきを愉しもうよと囁いて、あたしをそこに引きずり出すんだろう。
否応なく下腹部を締めつける愉悦に身をゆだねきりながら、理恵はうふふん・・・と、うれしそうに唇をゆるませる。
三つどもえに絡まりあった好色な焔は激しく揺らぎあい、室内に覆いかぶさってくる薄闇のなかでさいげんなく熱い火花を散らしあってゆく・・・
「えぇと、『あずさ』のホームはどちらでしたかな?」
新宿駅の雑踏のなか。
吸血鬼は道行く人を呼び止める。
ばかに若々しいじゃないか。
柏木はさっきから、苦笑いをこらえきれない。
若々しい黒髪を肩にたなびかせ、褐色の肌を高潮させて。
季節はずれのはずのまっ黒なスーツ姿が似合いすぎていて、
はた目にも違和感を覚えない。
昨晩散々に吸い取った30代主婦の血が、吸血鬼をかくもよみがえらせている。
ズボンの下に女の衣裳をまとわりつかせているなんて、周りからはどう見たってわからないだろう。
そういう柏木も。
じんわりとした感触を帯びながら足許を引き締めるストッキングの肌触りをズボンの下で愉しんでいるのだが。
「けんかしないようにね~♪」
情事が終わってシャワーを浴びると、頭にタオルを巻いたままのカッコウで、理恵は一足ずつ、愛用のストッキングを持たせてくれている。
まるで旅館のおかみさんが、翌日の弁当を持たせるように。
目が眩むほどのお色気モードはどこへやら、まるでかぐや姫みたいに豹変して、いつもの主婦の顔つきにもどっている。
たしかに女は化け物だ・・・
家には妻が、待っている。
若々しい風貌に似ずに古風な物腰と言葉遣いで自分に駅のホームを尋ねた男のことを、舟橋和郎はすぐに忘れた。
きのうのゴルフは、最悪だったな・・・
相手の男が自分の顔をみてフッと笑んだことなどは、もとより彼の意識にはない。
あいつ、ほんとに病気してないだろうなぁ・・・
そんなことを取りとめもなく思い浮かべながら、意識はもう明日から始まる仕事のほうへと飛んでいる。
あとがき
珍しくだらだら時間をかけて長々と、書いてしまいました。
長編、苦手なんですけど・・・^^;
はっきりいって不自信作です。^^;;
ちょっとは、お楽しみいただけましたでしょうか?
ちょっと淫らなオフ会 4
2005年10月04日(Tue) 18:09:00
かなり間があいてしまいましたが・・・
二泊三日で東京を訪れた吸血鬼&柏木が、一人の人妻と夜を明かすお話です。
ひと晩めは、首尾よく血を吸い取ったものの、いよいよ・・・というところで、ご主人からの電話が・・・
完結に向けて走ります。^^
チチチ・・・
小鳥が囀る朝を迎えながら。
隣室からは淫らな声がふた色、交わっている。
理恵を帰してしまったあと、吸血鬼は己れの褥に柏木の義母を引きずりこんでいた。
夕べあれだけ迫りながら。
場違いな夫からの電話のおかげで、とうとう淫靡の頂点をきわめるまでに至らなかった。
東京くんだりまで出てきていったい何を・・・
誇り高き吸血鬼にとって、稀な失敗は充分屈辱に価した。
だれのせいでもないのだが。
柏木の義母はうまいタイミングで理恵を引き留めて、そのうえ深夜になるまで独り寂しい時間つぶしをしのんでくれた。
いつも妻を寝取ってやっている柏木も、いつものぶきっちょのわりにはうまく立ち回った。
肝心の理恵はすっかりその気になっていた。
ああ、それなのに・・・
鬱積したエネルギーを発散する対象が必要だった。
それにしても、たいしたウッセキ具合だな・・・
柏木は半ばあきれながら、ふすまの間からふたりの痴態をのぞいている。
かれは義母の髪の毛をつかんで、控えめに口紅を刷いた薄い唇をぱっくりと開かせて、そそりたつ己れの一物を根元まで押し込んでしまっている。
おもちゃのようにあしらわれてしまっている義母。
もはや楚々とした淑女の面影は、かけらもない。
娘である柏木夫人の生き血をたっぷり啜り取ってきた彼のために自らも肌身をさらし、ひたすら従順に彼の欲求に応えてゆく。
そんなようすをわざわざ娘婿の柏木に見せつけて、悦に入っている吸血鬼。
まるでほしいおもちゃが手に入らない駄々っ子みたいなウサ晴らしに、柏木はただ苦笑するばかり。
半裸に剥いた義母を放り出すようにして乱れた褥に残したまま。
吸血鬼は欲情を吐き出したあとのさばさばとした顔つきでダイニングに姿を見せる。
昨晩はいいところまでいきながら、つまらない邪魔が入ったものだ。
ダンナとの会話を端折るようにして切り上げた理恵だったが。
さすがにハッと我に返ったように、
―――アラ、私としたことが。ごめんなさい。ちょっとはしたなかったわ。
そういって、お行儀わるくまくれあがったタイトスカートからむき出しになった太ももを素早く押し隠してしまった。
用意のいい彼女はそのあとも、ハンドバックに忍ばせていたストッキングに履き替えて、かわるがわる二人の相手をしてくれたものの。
とうとうブラウスをはぎ取らせてくれるまでのノリは見せてくれなかった。
そちらのほうは、あとの愉しみ・・・ということで。
三人のなかにそうした同意が無言の裡に流れるなか。
惜しげもなく差し伸べられるふくらはぎに代わる代わる唇をあてがって。
ストッキングに包まれたふくらはぎを凌辱するのに熱中してしまう。
さすがに彼女はよく心得ていて。
切られて脱げ落ちたストッキングやショーツを「最愛の柏木さんに」と握らせて、彼のなかにわだかまりかけた吸血鬼に対する嫉妬を拭い去るのも忘れない。
「柏木さん、たしか黒がいいのよね~♪」
能天気にエッチな戯れを愉しみはじめた理恵。
ちりちりになったストッキングを脱ぎ捨てると、こんどは薄手の黒のストッキングを脚に通して、娼婦のようになまめかしくふくらはぎを染めあげた。
それから夜が明けるまで。
「こんなにモテたの、しばらくよ」
と、頬を上気させながら、襟首のなかをまさぐるまでは許してくれたのだった。
「夫のカン、というやつかな」
自分も吸血鬼に妻を寝取られている柏木は、理恵の夫に少なからず感心している。
「しつっこいダンナだな。せっかくいいところだったのに」
あべこべに、吸血鬼のほうはいまだに未練たらたらだ。
女のまえではどこまでも紳士なくせに、心を許しているせいだろうか、柏木のまえではこっけいなくらいに子供じみたところをみせることがある。
それでも衣裳を濡らしてしまった彼女の帰り道を気遣って、夜空を翔んで自宅に送り届けた彼。
「いつでも忍び込めるようにしたんだろ?」
まめ男を装うウラに隠れたけしからぬ意図を、柏木は正確に見抜いてしまっている。
いちど招き入れられた家には、いつでも忍び込める力を彼はもっていた。
「約束が違うところだったぜ」
たちのよくない悪友に、その点をぬかりなく指摘するのを忘れない。
「流れだよ・・・理恵を最初に食べるのはあんただったな」
「まったく、油断もすきもないのだな」
あはは・・・
屈託のない笑いがかえってくる。
「自宅訪問のチャンスをつくったんだ。それに免じて許していただこうか?」
暑さはまだ、厳しかった。
歌舞伎座前の通りは白々と乾ききって、照り返す太陽の光が陽炎のような熱気を足許に漂わせている。
狭い道の向こう側から見上げると、首が痛くなるほど巨大で、
見ようによっては少なからずグロテスクな、和風造りの白亜の建物。
その中身はしかし、あるときは宝石箱のように、またあるときには玩具箱のように、理恵には愉しい。
きょうの演目は「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」。
梶原平三景時は義経を陥れた男として知られ、昔から評判のよくないほうでは屈指の人物。
別名「げじげじ」とまで呼ばれ、悪役と相場がきまっている梶原平三だが、このお芝居では珍しく人情味豊かな善人となって登場する。
いわゆる、「もどり」というやつである。
悪役の善玉返りというのに、理恵は一種独特の好感を覚えている。
テレビドラマの世界でも、悪役でならした俳優が一転していい役を演じ、一躍人気を取ることがあるではないか。
―――吸血鬼もたいがい悪役だけど。
そう思いながらも、理恵は自分の小説のなかで吸血鬼を決して邪悪な存在として扱っていない。
夕べの名残りであるうなじの傷を、肩まで伸ばした髪の毛の陰でまだずきずきさせながら、何食わぬ顔をして連れの女性たちと会話を交わしている自分が、なぜかとても可笑しかった。
いずれも同年輩の女たちであるが、こういう場にふさわしく、皆小ぎれいに着飾っている。
理恵はそうした彼女たちの、色とりどりのスカートやワンピースのすそからのぞいているストッキングのふくらはぎについつい男のような目線を走らせてしまっている。
まぁ、はしたない。
そう思いながらも、
Aさんのふくらはぎ、美味しそう・・・彼らだったらどうするかしら・・・
そんなけしからぬ想像をつい、してしまっている。
知らず知らず、知人達の足許を、いつか吸血鬼の目で観察しているのだった。
彼女のお気に入りである女形の中村初之丞は、きょうも艶麗な演技をみせてくれた。
現代社会だと女装者は異端の烙印を押されてしまうのだが。
ひとつちがう世界では悪役が善玉になり、忌まれる嗜好も芸術ともてはやされる。
いいではないか。
わたしはゆうべ、ひとつの異界をかいま見た。
自分の血管にいくばくか邪悪な毒液が流れているのをひしひしと自覚しながら、夫のいない今夜の情景にドキドキと胸をときめかせていた。
今夜、彼らは来るだろうか―――
来ずにはおれまい。
来て欲しい―――
あとがき
と、ここまではえろがぜんぜんありませんです。
つまんなかったらごめんなさい。^^;
文句の多い女
2005年10月01日(Sat) 21:48:25
待ち合わせたいつもの喫茶店。
いつものように遅れて現われたあの女は、
席につくなり口を尖らせる。
―――ストッキング、伝線させちゃった。
出がけに急いで破ってしまったと。
でもふっくらとした白いふくらはぎをいま包んでいるストッキングには、ひきつれひとつ、浮いていない。
―――高いやつだったのよ。まだおろしたばかりだったのに。
人目を避けるような伏し目勝ち。
その姿勢で表情を隠しながら、鬱陶しそうに口を尖らせて。
女の文句はよどみを知らず、まだつづいている。
―――ア、破ラナイデ。勿体ナイワ・・・
―――昨日、ズット貧血デシタノヨ・・・
―――主人ニ、怒ラレチャウ・・・
逢うたび文句を呟く女。
初めて襲ったあの夜も。
―――ア、痛ッ!手首、捻挫シタカモ。仕事休メナイノニ・・・
―――ブラウス、ドウシテクレルノヨ。高カッタノヨ。
失血でくらくらしているくせに、
人妻なのに犯されてしまったくせに。
そんなことはどうでもいいのか、
ひたすら服を汚したことと、明日の仕事を気にかけていた。
文句をいうほど、恵まれていないわけではない。
ダンナはエリートサラリーマン。
持ち家、車つきのいい生活。
子供はもう手がかからなくって。
浮気相手も三人、四人。
それでも文句はとまらない。
なにもかもうまくいっているのに。
逢瀬のたびに文句を口にする、あの女。
―――ドウシヨ。知ッテル人に見ラレチャッタ。
―――見テ。スカートノ沁ミ、クリーニングデモ消エナイワ・・・
あのときだけはゾッとした。
―――ダンナニバレチャッタ・・・^^;
それでもなぜか、すべての困難を切り抜けて。
きょうも私のまえにいる彼女。
まるで文句が魔よけの呪文のように、
女の周囲を取り巻いて。
幸せな家庭と幸せな職場と、そして幸せな愛人に。
文句の数だけ囲まれている、とても不思議なあの女。