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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

寝取る男

2006年02月28日(Tue) 06:08:25

「お前、結婚する気はないかね?」
まるでどこかに遊びに行こうというような気軽さで話をもちかけてきたのは親友の亀次だった。
美雄はちょっとだけ不快そうに、顔をしかめた。
お互い、何から何まで知り尽くしている関係。
美雄が幼いころの病気で彼が性的不能になっていることも、性欲すらもめったに感じない体質であることも、亀次はよく心得ているはずである。

そうじゃなくってさ・・・
亀次はいいにくそうに、口ごもる。
ニヤニヤと照れるように笑いながらこちらの様子を窺っているのは、どうせけしからぬ企みを懐にいだいているときだと、気心知れた美雄には手に取るようにわかっている。
こんな風采のあがらない男がどうしてこうも手当たり次第に女をたらし込むことができるのだろう?
美雄とはあべこべにそんな亀次であるのだが。
まだお互いに、三十近くになるのに独り身でいるのだった。
どうしてかというと。
亀次がモノにする女はことごとく、人妻であったのだ。

「オレさぁ、ほかのやつの女房じゃないと燃えないんよ。それで、お前に結婚して欲しいというのはね・・・」
亀次が口にした計画は、じつにケシカラヌものだった。
  美雄が嫁をもらう。
  当然彼は夜のつとめができない。
  そんな寂しい嫁を、亀次が慰める。
そんな言い草ではあったけれども。要するに、
  美雄がもらった嫁を寝取りたい。
「そういうことなんだな?」
親友の悪戯を咎めるとき。
いつも美雄はニヤニヤと笑っている。

祝言をあげたのは、秋だった。
美雄がそういう体だということは村じゅうが知っていたのだが。
嫁にきた華代はたいそう気だてがよく、そのうえ美しかった。
  色の白い女が好みなのだろう?
祝言の夜、そうささやきかけてきた花婿に、亀次は滑稽なほど落ち着きをなくしていた。
初夜の床。
衣裳をといた花嫁に美雄はよく言い含めると、そっと部屋を抜け出した。
入れ替わりに閨に忍び込んできた亀次が、花嫁を犯した。
道ならぬことに悩乱しながら体を開かれていった花嫁は、雨戸ごしにこちらをうかがっている花婿の気配をおぼえて、硬くした体をいっそうこわばらせていた。
こわばった初々しい肢体のうえ。
無邪気なほどに昂ぶった男は、まるで初めて女を相手にするときのように熱っぽく、もどかしく、
ほてった膚を重ね合わせていった。

三日にあげず、亀次は新居を訪れる。
まるで自身が嫁をとったかのように、華代のもとに通いつづけた。
夫がいないときもあったし、やがて慣れてくると美雄が家にいるときでも臆面もなく亀次は現われて、美雄の新妻を犯してゆく。
まるで名義を貸したみたいだな・・・
花嫁を気に入った亀次を美雄そういって冷やかしていたけれど。
亀次を怨むようすは露ほどもなかった。
それは亀次がしんそこ美雄や華代を好いていたせいでもあり、
華代が思慮深い女で終始夫をたてて振る舞うせいでもあった。

半年もすぎたころ。
その晩も、亀次は忍んできていた。
ふすまのむこうから洩れてくる華代の声が、いつになく悩ましく耳に響いてきた。
それはまるで呪文のように美雄の鼓膜を疼かせた。
下腹部から熱い塊が突きあげてくるような気分がする。
嫁はきょうも寝乱れているのだろう。
昼間はしっとりと頭のうしろに結わえている黒髪をふり乱し、
淑やかに引き結ばれた薄い唇をふしだらにあけ拡げて、
悩ましくいやいやをしながらも、せきあげてくる衝動をもう抑えようもなく、道ならぬ愉しみに耽っているのだ。
真下にある親たちの部屋からは、今夜もことりとも音がしない。
表向きなにも知らないことになっていたけれど。
姑夫婦をはじめ、妹や使用人にいたるまで家じゅうのものたちが息をひそめて跡取り息子の嫁が情事に耽る有様に聞き入っている。
薄闇のなかでとぐろを巻いているなにかねっとりとしたものが美雄の首すじを撫で、胸ぐらにまとわりつく。
はじめは鬱陶しいばかりだったその感触は、そのうちにじりじりと焦がれるような衝動を美雄に与えてゆき、
美雄は思わず、ふすまを開け放っていた。

華代が息を呑んでこちらを向き、はだけた胸を隠そうとしている。
亀次はそんな華代のうえにのしかかっていて、まだ腰をあわせたままでいる。
さっきまでふたりがかぎりなく淫らな震動に身をゆだねていたのは、跳ね上げられた布団や波を打っているシーツがあらわに伝えていた。
こん畜生。
たれにも聞えない呟きを口に含んだまま、美雄は華代に襲いかかっていった。

「できたじゃないか」
意外にも、亀次はしんそこ悦ばしそうに笑んでいる。
妻の華代も、羞じらいを含んでうつむきながらも、みずからを襲った衝動の名残りに全身を満たしているようだった。
「こうなるのを、待っていたのさ」
幼馴染みは、病のあとを克服した親友が妻を抱ける体を取り戻したことを、心から喜んでくれている。
わざとだったのか?
いまさらそんな問いは愚かであろう。
深々と謝罪するように頭を垂れる妻を抱き寄せて、美雄は本来自らが占めるべき褥を取り戻していた。
「よかった、よかった。これで親御さんも喜ばれるよ」
どこまでも人のよい亀次だったが。
ひと言、そうっと囁きかけてきた。
  お礼、ねだってもいいかい?たまに、たまにでいいからさ・・・
ことさらひそめた声が聞えたのか、美雄の嫁までがくすぐったそうに、くすり、と忍び笑いをうかべている。

冥界の恋人

2006年02月28日(Tue) 05:01:31

隣室から洩れてくる女の声にふと、目が覚める。
妻が寝ているはずのベッドをふり向くと、案の定もぬけの殻になっていた。
震えを帯びた悩ましい声は、さっきから延々と続いている。
「あっ・・・いけないわ・・・そんなこと・・・っ」
もうたまらなくなってドアをそうっ、と開いてみると。
ぼおっとした夜の灯りの下、ネグリジェ姿の妻が携帯電話を握りしめていた。
うずくまるような姿勢でソファに腰をおろした彼女は、もう片方の手を股間の奥深く差し入れている。
まさぐっているのだろう。
くゆり。くゆり。
そんな感じで右へ左へと傾がる頭が、ひどくけだるそうに写った。
すべてが暗いオレンジの陰翳に刻まれて。
はぁはぁと昂ぶりに息を弾ませている妻は、目を半開きにして忘我の境地を彷徨っている。
いつもそうして小半時もついやして。
魂が抜けたようにその場にぐったりとうつ伏してしまう妻。
携帯の着信履歴をたよりに、思い切って相手を探り出そうとしたことがある。
相手方は携帯ではなく、一般電話。
息を呑むような思いで通話ボタンを押した私は、その瞬間、愕然とした。
「この電話番号は、ただいま使われておりません。番号をお確かめのうえ・・・」
背筋にゾッとしたものが走ったのは、そのときのことだった。

娘を、嫁にもらってくれないか。
彼女の父親からそう切り出されて、ちょっと戸惑う気分だった。
しかし、断ることは難しかった。
大人しいばかりが取り柄の、風采のあがらない五十男。
まずそんな印象しか人に与えない彼にしてはびっくりするくらいの有無を言わせぬ気迫に気圧されたこともあるのだが。
なにしろ彼の女房を寝取って三年間も性欲を発散してきたという弱みがあったのだ。

舅となるその男は、見るからに気の小さそうな男であった。
どことなくそそられた彼の女房に目をつけて留守宅に足を運ぶようになり、女房とねんごろになってしまったと知っても、文句ひとつ言って寄越さなかった。
ばれている・・・とわかったのは。
あるとき情事の真っ最中に家に戻ってきて。
浴室でシャワーを浴びているすきにあわてて身づくろいして。
湯上がりの彼に何食わぬ顔をして辞去しようとしたそのときに。
彼はこういったものだった。
  近所の評判にならないよう頼むね。留守中遊びに来るのはかまわないから・・・
そんな彼の控えめすぎる態度には、後ろめたい気分のこちらですら軽い侮蔑をさえ感じたものだった。
しかしそんな思いはあくまで一瞬のことだった。
堅実な取引先でもあった彼は公私共に得難いパートナーだったので、
心からの感謝と若干のおかしみを覚えつつ、それとなく空けてくれた留守宅に、彼の妻を犯しにしのんでゆくのが常であった。

そんな彼がじぶんの娘との結婚をすすめてきたのは。
さすがにもうこれ以上妻に手を出されるのが我慢ならなくなったのだろうか?
それとも、娘がふた目とみられないほどの醜女であって、経済的に豊かな私にていよく押しつけてしまおうとけちな思惑をめぐらしたのか?
彼は冴えない風貌の持ち主だったし、脚の美しさに魅かれただけであるその女房も、面相はどちらかというとぱっとしないほうだったのだ。
もうなん年となく。これほど夫婦と「親密な」関係にあるというのに。
どういうわけか娘と顔を合わせるのは、初めてだったのだ。
どちらにしても。
親子丼になっちまうな・・・
そんな卑猥な感情が湧いてくるのを、抑えることができなかった。

疑念のふたつ目は、すぐに氷解した。
娘は夫婦のどちらにも似ず、奥ゆかしい感じの美人だったのだ。
しいていえばどことなく寂しげな翳をその整った容姿に折々よぎらせるのが気になったものの。
これならなにも親が嫁ぎ先を心配するまでもなく、いくらでも申し分のない縁談がふってくると思われるのに。
親たちはどうやらそうしたものをさして考慮した形跡もなく片っ端から断っているようだった。
本人のまえで訊くことではなかったのだが、私は娘のまえでついそうした問いを発してしまった。
父親は低めた声で、応えたものだ。
「イエね。娘にはちょっと人様に申し上げられない奇癖があってね・・・夜の寝惚けかたがひととおりではないのだよ」

新婚初夜。
ただでさえ無口なたちの花嫁は、言葉というものを忘れてしまったかのように終始声をたてなかった。
抵抗なくあっさりと落ちた彼女は、処女であった。

異変は、その夜からはじまった。
祝い酒がたちのよくない毒にあたったみたいにぐるぐるとめぐってきて、
あっという間に寝入ってしまったのだが。
ふと目を覚ましたのは、若い女の発する淫猥に震える声色のせいだった。
ホテルの寝室の隅、さっき犯したばかりの花嫁は、人が変わったように放恣に肢体をひらいている。
じゅうたんのうえに尻もちをついたまま大またを開いて、
片手に受話器を握りしめ、もう片方の手をネグリジェの奥深くに突っ込んで淫らな手つきでぐりぐりとまさぐっているのだった。

「どうかね?新婚生活は」
義父となった男は気のせいか、ニヤニヤと笑っているようにみえた。
もっとも小心そうに引きつったような彼の風貌は、いつもどこか泣き笑いを浮かべているように映ったものなのだが。
「えぇ、家事もしっかりこなしてくれますし、帰りが遅くなっても文句ひとついわないし。とにかく手のかからない人ですな」
まるで紋きりばったの挨拶だったが、事実にはちがいない。
ところが義父はうるさい蠅でも追っ払うように手を振って、
「イヤそれはそれでけっこうなことなのだが・・・」
それ以上は口を濁す彼が聞きたがっているのが娘の夜の行状だとすぐにわかった。
義父ははっきりと、皮肉にみちた笑みを心地よげに浮かべていたのだ。

あれはね、私とも妻とも血のつながっていない女なのだ。
もうすこし分かりやすくいうと、息子の許婚だったのだ。
早く死に絶えた遠い親戚の生き残りでね。
身寄りがなくなったので、私たち夫婦が育てたのだ。
息子がどうしても嫁にしたいといいだして。
高校を出るときに婚約させたのだが。
息子は急病にかかって、あっけないくらいぽっくりといってしまったのさ。
それからのことだよ。
あの娘に夜更け、毎晩のように電話がかかってくるようになったのは。
私が出ると、切れてしまう。
そもそも電話なんか通じていなかったみたいに、はじめからツー・・・ツー・・・という発信音だけなのさ。
あの娘に訊いても、無言でかぶりをふるばかり。
相手が息子だ・・・とわかったのは、あの子が携帯を持つようになってからのことだよ。
着信履歴をみて納得したよ。
なにしろあの電話番号は、息子のために建ててやった離れの番号なのだから。
そういって義父はもうとっくに取り壊して跡形もなくなった離れのあったあたりに、虚しい視線を投げていた。
離れの跡地には、水仙が列をなして薄黄色の花を咲かせている。
満開になった花が顔をそろえていっせいにこちらを窺うように、強くなってきた風のなか、くゆりくゆりと頭を揺らしていた。

憑依

2006年02月26日(Sun) 08:40:06

例によって「魔」が去ると。
こんどはなぁんにも浮ばなくなって。
ぼけらっとして画面のまえに座っていました。
そういうときは旧作を読み返したりするのですが。
ふと、思うんです。
  あれ・・・この娘。こんなに可愛いこと言っていたんだっけ。
  憶えてないなぁ・・・
  これって、本当にオレが描いたんだろうか・・・?
などと。
そう思える作品が、そこかしこに散らばっているんです。このブログ。
・・・ちょっと、背筋が寒くなってきましたか?
だいじょうぶ。
寒さと、風のせいですって。^^

どうぞ、この場で・・・

2006年02月26日(Sun) 06:46:13

ああ・・・っ・・・ううぅぅぅん・・・っ
長くひくく震えるような、妻の呻き。
それは傍らにいる本人が発しているものではない。
ハイビジョンの画面に大写しにされた妻の裸体は、ひどく赤裸々で若返ったようにさえみえる。

もう白髪の混じる、五十間近な妻。
そんな彼女がこのところ若返ったように活き活きと振る舞って。
身に着ける衣裳は小ぎれいで、セクシーで、心配りまで濃やかになっている。
そんな彼女の俄かな変化がなにによるのかを今、わかってしまった。
恋はいくつになっても、女をきれいにするものらしい。

私たち夫婦のまえでにこやかに応対する、長身の紳士。
彼は振り返って、声のするほうをかえりみる。
悪戯を見つかった子供のような、ちょっとはにかんだその顔だちは、
画面のなかで妻を犯している相手と同じもの。

「どうやら、脅迫されているようですな」
さぐるように、口火を切った私。
胸の奥でとぐろを巻いている妖しい昂ぶりに理性を置き忘れそうになっている証しに、語尾が震えるのをとめられなかった。
「貴方を脅迫・・・とんでもないことですよ」
ちょっと引きつっているであろう私のほほ笑みを穏やかに受け止めて、
彼はあくまでも、紳士的であった。
そう。
さっきさりげなく身をすり寄せてきて、なにか鋭いものを私の喉元に過ぎらせたあの一瞬をのぞいては。
彼の口許にちらちらと光っている紅いものは、さっきまで私の体内をめぐっていた生命の源泉―――。
すでに妻のほうは私の知らぬ間に、わが身をめぐるものをたっぷりと捧げる仲になっていた。

少女のようにきらきらとした瞳で、さっきから愛人を見つめている妻。
かすかに紅潮した頬は、どこかウキウキとしていて、胸の奥に騒ぎ立つものを抑えかねているようすだった。
あの頬を染めるピンク色のほてりは、夫に密事をしられた羞恥よりも、
むしろあらわな画像に映し出された情事のシーンに、
身に覚えのある歓びをありありと甦らせたためなのだろう。
体内にしみこまされた毒が私の頬さえも否応なく染め始めているのを、
まるで酒に酔い始めたのを自覚するほどの気分で感知し始めている私。

「もう、どうしようもありませんな」
彼の紳士的な態度は、私にも伝染してしまったらしい。
「どうぞこの場で、家内をお愉しみいただけないでしょうかな?」
紳士は一瞬、敬意と驚き表に出して。
「え・・・それは」
妻は恥じらいを装いながらも、露骨な歓びを浮かべて。
「えぇ?あなた、いいのお?」
いいわよね?
上目遣いのウットリした眼を、訴えるように輝かせている。

足許に目をやって、ストッキングにねじれがないかを点検している妻。
どうせ、破かれてしまうのに・・・というのは無粋な思惑であろう。
くすっ、と笑んで。
そろそろと差し出される、一対の脚。
あまり恰好のよくない脚は、ごく地味な肌色のストッキングに包まれていたのだけれど。
夫の目には。
もっと若々しくて、もっとつやつやとした光沢に彩られた脚線美とおなじくらい妖艶に映ってしまう。

深夜のドライブ 2

2006年02月24日(Fri) 07:33:17

行き先は、告げられるまでもない。
「好みは、年増の女・・・だったよね?」
傍らでそう嘯いた彼の所望の相手は、ここから車で十分ほどの大きな邸に住んでいる。
そこはほかの何処でもない、私自身の実家であった。
携帯の発信音に代わって聞えてきたのは、母の声。
ひくくてまろやかな声色は、まだじゅうぶんに若さを秘めている。
「若いね、母さんの声」
「どうしたのよ、いきなり・・・」
母は素っ頓狂に笑いこけていたが、客人の来意を伝えると改まった声になり、
「心からお待ちします、って伝えてくれる?お父さんには私からうまく話しておくからね」
今夜の凌辱の対象となることに、遠まわしに承諾を与えてきた。

子供のころから見慣れている、古びた日本間。
そこに通されたとき、床の間の置き時計の針はすでに午前一時をまわっている。
ふすまがスッと、音を忍ばせるようにして開かれる。
肌色のストッキングのつま先が、畳の上をすべるように歩みを進めてきた。
ダークグリーンの膝丈までのスカートから覗くふくらはぎは、まるで和服のように楚々とした風情を漂わせていた。
「アラ、よくお似合いね」
黒のストッキングに彩られた私の脚をまじまじと見つめると、助手席から青年が投げてきたのとそっくり同じな言葉を口にした。
「由貴子さんの靴下ね。よく似合ってるじゃないの」
夫婦仲もうまくいっているようね・・・
言外に、そんな想いが滲んでいる。
少女のようなイタズラっぽい目色の母。
いつまでも天真爛漫な彼女はそうやって、もはや遠くなった若い日に、吸血鬼との初めての夜を迎えたのだった。

「ごめんね、小母さん」
そういいながらも青年は、敏捷な身のこなしで母のほうへとにじり寄っている。
母は青年を受け入れるように、うなじを垂れた。
まるでこれから重ねる不倫を父に謝罪するしぐさのようだった。
そんな想いとは無関係に。
伸べられたうなじにむぞうさに這わされてゆく、飢えた唇。
そのとき。
はにかみを含んだ童顔は一瞬に、うって変わった変貌を遂げていた。
蒼白く輝く肌。
尖った耳。
なによりも、凶暴な紅い輝きが閃く瞳。
それはモノトーンな和室の落ち着いたたたずまいを、場違いなまでの毒々しさに塗り替えてしまう。
鋭く研ぎ澄まされた爪が、柔らかな二の腕にくい込んでいた。
本性を現した彼に、母はちらと目線を投げて。
―――困った子ねぇ。
そう言いたげな微笑を滲ませて、じぶんのほうからうなじを彼の口許に押しつけていったのだ。

くちゅ・・・っ。
さっき私の足許に忍ばせたのとおなじ、唾液のはぜる音。
ちゅっ。ちゅうううぅぅ・・・
姿をみせない父はどこかから、己の妻の血を吸いとられるひそやかな音に聞き入っているに違いない。
絶え間なく続く、うら若さとはひと味ちがう濃艶な趣きとの深いやり取り。
美味しいね。  そぅお?私もまだ、捨てたものじゃないかしら・・・  貴女の魅力を、とことん味わうよ。  ええ、ぜひそうして頂戴・・・
無言の対話をききとるすべを、私はいつか体得するようになっている。

肌色のストッキングの表面をちりちりとせりあがってくる、鋭い裂け目。
初めて犯された夜とおなじようなうっとりとした面持ちで、母は淑女の装いに受ける不埒なあしらいを愉しんでしまっている。
息子の私も。
開かれたふすまの奥から注がれてくる、もうひとつの熱い視線の主も。
今宵のプリマドンナを演ずる女の、たくまぬ淫事のいちぶしじゅうを包むように見守っていた。
吸血の音とおりなすように、濡れるようにしっとりと協和する、震えを帯びた妙なる呻き・・・
ひくく落ち着いたメゾ・ソプラノで綴られる夜想曲は、いつ果てるともなく夜のしじまにこだました。

ふたたび闇にもどった実家の窓を、私は車のなかからちょっとのあいだ見つめていた。
遠目に望む夫婦の寝室は、闇に閉ざされていたが。
いつもより濃いようにみえるその闇は、ぬらりとした濃厚な艶を澱ませているようにみえる。
「さぁ、行こうか」
小僧は私をうながした。
これ以上ここにとどまるのは無粋というものだろう。
私はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
静かなエンジン音をすこしでも早くふたりの耳から遠ざけるために。

「もう、すませているだろうね。由貴子さん」
小僧は生意気にも、妻のことを名前で呼んでいる。
モノにした女のことは、名前で呼ぶのが礼儀だろう?
私を見透かすように、蒼白い面貌の主は嘯いている。
そんなものかね・・・
どこまでも小生意気な青年の口ぶりが、ひどくくすぐったかった。
たったいま、お袋を犯したくせに。たいしたものだな。
  まぁ・・・ね。彼女は由貴子のまえのオードブル、かな。
  もちろん、ここだけの話だけれど。
ひとをなぶるようなもの言いに、悪意は含まれていない。
悪戯心に通が邪気を、私はいく度も耳の奥に反芻している。
―――いまならまだ彼女、起きているよね。彼のあとでも、いやじゃないからさ。
鼓膜をくすぐるような彼のリクエストをかなえるべく、私はいつか無意識のうちに車を急がせていた。


あとがき
イラストは、リンクをいただいているHAIREIさまから頂戴したものです。
いただいたあと。
しばらくのあいだじいっと、私は彼と目を合わせつづけていました。
そう、対話するように。
憂鬱な鋭さを秘めた彼。
一見酷薄そうな面持ちをあらわにしながらも。
胸の奥に漂う寂しさを認めるのは私だけでしょうか?
このお話は、そうした「彼」との対話のなかから生まれたものなのです。

追記
彼がわざわざ熟女ばかりを狙うのは。
初めて男、として振る舞った相手が実の姉。
それ以後モノにした女たちも、ほとんどことごとくが年上の女性だったせいでしょうか。
初夜を過ごした姉から。
初めて犯されることには深い意味がある・・・と訓えられて。
処女を受けつけなくなったのかもしれません。
既婚女性であれば、皆さん一定の心得は持っていますからね。
濃い淡いの違いこそあれ。^^


深夜のドライヴ 1

2006年02月24日(Fri) 07:16:01

ぶるぅぅん・・・
エンジンキーを差し込んでくるりとひねると、車は軽い振動と共に快調な音を心地よげに夜のとばりに響かせた。
その振動にちょっとの間身をゆだねていると、傍らのシートに人の気配がするのに気がつく。
横を見ると、助手席には冷めた顔つきの青年がいつの間にか入り込んできていて、じいっとこちらを窺っている。
まだ少年の純粋さを残した顔だちに、獣じみた憂鬱さをたたえる青年―――。
かつて悪戯小僧と呼んでいた彼は、いまでは一人前の男性となっていた。
「似合うね、小父さん」
彼はちょっと冷やかすような口調で、私の足許を見おろしている。
カーキ色の半ズボンの下には、黒のストッキング。
妻がいつも脚に通しているものだった。

青年の刺すような視線に、ひどくくすぐったい想いがよぎる。
私はちょっと黙って、肩をそびやかした。
深夜のドライヴを私が愉しもうとするとき。
それがどういうときなのか、彼はじゅうぶん心得ていた。
女の装いに彩った脚を、空々しいほどの夜の冷気にさらすとき。
嫉妬に昂ぶり燃え立つ血管に、初めてクリアーな静寂さを取り戻すことができるのだ。

夫婦の寝室に、吸血鬼を迎え入れる夜。
「ごめんなさい。ちょっとのあいだだけ、ガマンしてくださる?」
組み敷かれた褥の上。
妻はもう悩ましげな目になって、その場をはずしてほしい・・・目線でそう、訴えてきた。
ふくらはぎを、太ももを。
しんなりと包む、薄手のナイロン。
それは嫉妬にほてり昂ぶった私の肌をなだめるように、そしてあおるように、
なまめかしい薄墨色は私の脚を、まるで夜のとばりのようなつややかな翳に染めている。

「よく、似合うよ」
決して皮肉ではない・・・そう言いたげに、小僧はまだ私の足許を見つめている。
そうして、おもむろにすいっと口を近寄せると。
くちゅうっ。
臆面もなく、黒ストッキングのうえから唇を吸いつけてきた。
くちゅ・・・くちゅ・・・くちゅう・・・っ。
小僧はもう夢中になって、私の脚に愛撫を加えてくる。
唇から洩れてくる舌がナイロンの表面をぬめり、くすぐるような感覚を素肌にじかに伝えてきた。
嫉妬のほてりを鎮めるように。それでいてややもするとあおるように。
ぞんぶんに這わされる舌は薄手のナイロンの感触を明らかに愉しみながら、飢えた唾液を滲ませてゆく。
ひとしきりそんな行為に耽ったあと。
「さぁ、行こうか。狩りに」
身を起こした青年は、挑発的に獣の眼を輝かせる。


Dさんのこと 2

2006年02月24日(Fri) 07:08:43

っく・・・っちゅう。・・・ずるっ・・・
ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・
あ・・・ははぁぁあ・・・っ・・・ん・・・っ
吸いついたように柔肌を這いまわる、Dさんの手指。
くり返しせめぎ合う、腰と腰。
執拗に奥深くまで探られる挿入。
淫猥きわまる愛撫の音にかすかな呻きが紡いだ糸のように重なり合って、
ひたすらに、ただひたすらに、忘我の悶えを織りなしています。
家内はほとんど、受け身でした。
Dさんの責めるような肉薄になすすべもなく、まるでうぶな小娘のように惑っていました。
ぴったり合わされる両肩にしがみつくように抱きつきながら。
かすかに悩ましくかぶりをふりながら。
ただもう無我夢中で下腹部に迫る吶喊に耐えているようでした。
ふらふらと他律的に舞い踊る白い脚からずるずると破れ落ちた黒のストッキングが、ハイソックスほどの丈になっています。
狂気の凌辱が待ち受けるこの部屋を訪れるそのときまで、
まるで家内の知的な礼節をあらわすように落ち着いた色調でスーツの下を彩っていた薄いナイロンの薄衣は、
ちりちりになるまで弄ばれ、辱められてしまっています。
わずかに破れ残ったあたりにだけ滲んだナイロンの光沢が、先刻まで漂わせていた気品の名残りをとどめていました。
そしてそれすらも、しつようにすりつけられもつれ合わされてくるDさんの毛むくじゃらな逞しい下肢のためにじょじょに引き剥かれ、剥ぎ堕とされていったのです。

私はといえば。
家内のハンカチーフでしなやかに縛られた手首をどうすることもできずにいて、
ぼた・・ぼた・・・・・・ぼた・・・
絶え間ないしたたりの音とともに、白く濁った淫ら汁を、
じゅうたんに、黒の革靴のつま先に、濃紺の薄手の長靴下に、しとどに散らしておりました。
ひざ下に性感帯でもあるのでしょうか、ぴっちりと締めつけるハイソックスの口ゴムがじんじんと滲むような疼きを伝えてきて、私のM心にいっそうの刺激を与えていたのです。
途中起きだしてきたDさんは、ずり落ちかけた私のハイソックスを引きあげると、
そそり立っている己自身をそのうえから圧しつけてまいります。
「なるほど。なかなかいい感触ですね」
家内を犯すまえの、丁寧な物腰に戻っていました。
薄いナイロンのうえから妻を犯したばかりの硬く突き立った先端をずりずりとなすりつけると、彼は初めて納得したように頷いて、
さいごにもういちど、己自身の腹ですうっと撫あげていったのです。
いましがた家内を踏みにじった赤黒い怒張は、いも虫のように這いついてきて、
柔らかな裏側にもぬるぬると混合した熱い愛液にまみれていました。
ベッドのうえには、放心した家内。
その傍らで、靴下のうえから女を穢した精液を塗りつけてゆく男。塗りつけられる男。
一瞬静謐にかえったホテルの一室で、私たちは不思議な共同行為にしばし熱中していました。
突き上げるような動悸や、背徳の愉悦にはずんだ躍動は、もうありませんでした。
そのとき私を支配していたのは、むしろ乾いた心の中をなにかしっとりと湿ったもので潤おされるような、ひどく満たされた感覚だったのです。
三人の体液に濡らされた長靴下はさいごに彼の手で、家内のストッキングともども持ち主の脚から抜き取られましたが、
彼は今でもそれを、家内をゲットしたときの記念品として大切に保管してくださっているそうです。

前から、うしろから。我がもの顔に横抱きにされながら全身をまさぐられて・・・
なん年も慣れ親しんでいたかのように、ふたりは息をぴったりと合わせています。
十年以上連れ添う関係でありながら、私たち夫婦がついに登りつめることのできなかった領域。
そこまでの境地に、Dさんは軽々と家内を引っぱり上げてしまったのです。
いままでの夫婦生活はは、なんだったのだろう?
そんな敗北感、無力感とは裏腹に。
私の胸には新たな感情がとめどもなく湧き上がってまいりました。
たったいちどの逢う瀬でここまで家内と息を合わせることのできるDさんへの、同性としての賞賛と。
最良のパートナーを得てすみずみにまで行き渡る悦びに肌を輝かせている家内への、夫としての祝福と。
虚しく手許に留めおかれていた宝器はいま、その値打ちにふさわしい落ち着き所を得たのでした。
あんなに合うひと、初めてよ。
あとで家内が、そういいました。
羞恥もてらいもふり捨ててそう口走る彼女の正直さを、私は美しいと思います。
よかったね。女としての悦びにめざめることができて。ほんとうに、よかったね・・・
そんなふうに思ってしまう私はやはり、じゅうぶん軽蔑に値するMなのでしょうけれど・・・
しかし、私の行為や思惑に厳しい非難を与えるであろう社会常識なるものは、日常渦巻く俗世間の空気から隔絶されたこの密室のなかではいかほどの意味もありません。
カーテンの向こうから洩れてくるまだ昼下がりの明るさとは裏腹に。
室内にたちこめる濃密な空気は、昏く堕ちてゆくふたり・・・いや三人のあいだを、しめつけるように甘苦しく漂いつづけていました。

こと果てたときはもう、ワインカラーに縁取られた灰色の雲が、夕焼けのさいごのなごりをかろうじてとどめていました。
「お疲れさま」
さいごの吶喊を存分に愉しむと、Dさんはやっと家内を放して私のほうへと感謝に満ちた笑みを浮かべました。
まだノーマルだった私たち夫妻を初めて出迎えたときのままの、爽やかな表情に戻っていたのです。
吐き出すものを出し尽くしてしまった私の脳裡を、いまは意外なくらいに清澄なものが支配しています。
家内も恐らくそうだったのでしょう。
ちょっと蒼ざめた顔をしながらも、おっぱいを大胆にさらした姿のまま起き上がると、
まずDさんに対して
「ふつつかでございました」
乱れた褥の上に神妙に三つ指を突き、
それから私のほうへと向き直って
「粗相をしました」
他人行儀なまでに鄭重に、淑女にかえった会釈を送ってきたのです。
スッと伸ばした腕のなか。家内はためらわず、戻ってきてくれました。
淫らに濡れた汗をまとった素肌の奥。
素裸にむかれ、てらいをかなぐり捨て、
いかなる虚飾からも自由になったただの女が、腕の中で息づいていました。
「ご苦労さん。だいじょうぶ?」
私も澱みない声で、家内をねぎらっています。
我ながら驚くくらい冷静に。
さっきまでカラカラになった喉の奥までわななかせていたとは思えないくらいに・・・でした。
いつも神経質に、ぴりぴりとした主婦を演じつづけていた妻。
その瞳には、いつになく柔らかな、濡れるような潤いと、感謝に満ちた輝きをたたえています。
そうして彼女はベッドからおきあがると、私のほうへと身を移し、ごくしぜんなしぐさで寄り添ってきたのでした。

「みっともなかったでしょ?わたし」
もとの見栄っ張りな古女房の顔を取り戻しはじめた家内は、ちょっと照れたようにして。
肩に乱れかかった長い髪の毛を所在無げに掻き除けながら私を見つめます。
「たんのうしちゃったよ」
精いっぱいの笑みをつくる私に家内はぷっとふくれたように
「ばか・・・」
早くも、もとの夫婦へと戻っていたのです。

家内をかち獲た祝意をこめて、私は改めてDさんに
「深いお情をいただいて、ありがとうございました。家内をすっかりしつけられちゃったみたいで。お似合いのカップルでしたよ」
そんなふうに、敬意を表しました。
「なんだかひさしぶりに、若者みたいに燃えちゃいましたよ」
Dさんも、ひどく素直な気分に浸っているようでした。
「どうりで、ワルだったわよねぇ・・・長いし」
露骨な会話を嫌う家内も、どことなくウキウキしています。
「改めて、奥様との交際を申し込みたいのですが」
口調と姿勢まで改めて切り出してきた彼のまっすぐな態度をうけて、私もきちんと向き直っています。
「エエ、よろこんで。ふつつか者ですが。貴方を、家族にもっとも近いひととして受け入れたい」
私は深々と頭を垂れています。
「奥様を、柏木夫人のまま犯しつづけたいのですよ」
別れてはならない。お二人にはお二人なりの愛し合いかたがみつかるはず。
ただたんに女を手に入れて玩ぶ・・・という次元を越えて男女の道に長けたDさんならではの心遣いを感じました。
「じゃあ、あなたがお好きなパンストプレイの勉強も私しなくちゃね」
心の奥底で待ち望んでいた言葉がまるで魔法のように、家内のにこやかな口許から流れ出るのを。
私はうっとりとした面持ちで受け止めていました。
「無理のないところから、教えていただこうね」
頷く家内の目が、もうすでにウキウキとはずんでいます。

ルールはすぐに、決められていきました。
けっして夫婦関係を壊さない。世間には洩らさない。
お互いのプライバシイを尊重しつつ、家内の在りどころについてはお互いに行き届いたコミュニケーションを持つ。
そういったいままでの取り決め以外にも。
淫らな娼婦と堅実な主婦業とを両立させること。
Dさんの出張の時には最優先に夫婦の寝室を明け渡すこと。
テレホンセックスに応じるのは必ず子供がいない昼間か、寝入ってからにすること。
女装ぎらいで潔癖な家内を「夜だけは淫らな娼婦」つくりかえるため、Dさんはあらゆる努力を惜しまないこと。
ふたりの交際に対して、私はいつまでも理解ある寛大な夫でいること。
などなどが。
「あなたのお留守中でしたら、構わないですわね?」
いつものお上品な家内の口調が、淫らな色を秘めはじめていました。
しかしそこには軽侮の色はなく、感謝と蠱惑的な悪戯心に満ち溢れていたのです。

アラ、お盛んね。
ホテルに戻った私たちとたまたまロビーで行き会ったのは母でした。
身内の披露宴でしたから、両親もまた私たちとおなじように招かれていたのです。
家内の身に着けていた黒のジャケットもスカートもいちおうぶじでしたが、
まだ春先の気候を慮って、というよりも、Dさんがどれほどあからさまなあしらいを家内の装いにもたらすかを測りかねていたので、なにがあっても安心なようにすべては薄手のコートの下に隠されていました。
用意していった履き替え用の黒のストッキングを二足ともDさんの欲情に供してしまったために、家内はやむなくホテルの売店で購入した肌色のストッキングで脚を包んでいたのです。
色違いのストッキングを目ざとく認めた母は、披露宴のあと二次会にも顔を出さなかった私たちがどういう方向に時間を費やしたのかをあらまし読み取っていたのでしょう。
そんなふうに息子夫婦をからかう母の珍しく蓮っ葉な調子はやはり、旅の解放感からくるものでしょうか。
母は家内と違ってなかなかの旅行好きでした。

ねぇあなた・・・
家内はふと、私のほうへと身を寄せてまいります。
さきほどの披露宴まで見せていた淑やかで従順な嫁の顔はすっかり影をひそめていて、
そこにいるのは好色で悪魔的な娼婦のもつ翳りを満面の笑みのなかに落としています。
「じつはこんや、あのひとをお呼びしてあるの・・・でも、せっかくのチャンスですもの。お義母さまにもお引き合わせしたいって思うんだけど・・・」

・・・あ・・・っ・・・、はあっ、はあっ・・・
フロアの一番奥を占める私たち夫婦の部屋。
半開きになったドアの向こう、ソファに腰かけながら息を弾ませているのは、ほかならぬ私の母でした。
しどけなく乱されたブラウスのえり首から、久しく目にすることのなかった乳房を覗かせて。
身につけていた黒のレエスのブラジャーは、先刻彼女の嫁がそうされたように、ブラウスのなかで引き裂かれていて、断たれたストラップが白い肌の上、ヘビのように垂れ下がっています。
モスグリーンのフレアースカートは、娼婦のように大胆にたくし上げられいて、
齢不相応な瑞々しさを帯びたふくらはぎは、毒々しいほどの肌色の光沢に包まれていました。
そう。
早くも堕とされた母は彼の好みを体で教え込まれてしまっていて、
彼を歓ばせるために、持参していた光沢入りのストッキングを脚に通していたのです。
古風な母は昔から、ガーター・ストッキングを身に着けていました。
脱ぎ捨てられたショーツは床のうえ、踏みにじられたままになっていて。
スカートから垣間見える太ももはすでに、男の体液をぬらぬらと光らせてしまっています。
  父だけしか知らなかった。
  いまから考えると、損な人生だった。
  もっと女であることを、愉しみたかった。
  貴方のおかげで、永く守りつづけてきた貞潔を今、堕とすことができて。
  スッとしたわ。いままでの苦労が、泡みたいに消えてゆくわ。
  どうぞ、たっぷり汚して頂戴。息子の前。嫁の前。それに夫のまえで・・・
うわ言のような口調でしたが。
母は確かにDさんに向かって、そう告げていました。
息子の私にすら告げたことのない、そんな心の内奥までさらけ出すほどに、いまは打ち解けてしまった母。
欲情あらわにふるいついてくるDさんの舌や唇に、脚を包む気品のある装いをもう惜しげもなくさらしていたのです。
優雅な笑みを交えながら、くすぐったそうに肩をすくめて。
守りつづけてきた貞操を、むたいなあしらいに気前よくゆだねている母・・・。
それはつねに落ち着いた物腰の母に接しつづけていた私が、自分でも自覚することのなかった心の奥底でしんそこ目にしたいと思うそのままの光景だったのです。

ぶちぶち・・・っ
耳ざわりな音が、ドアをへだてたこちら側にまで洩れてまいります。
ストッキングの裂ける音でした。
白い脛の周りでいびつにねじれ、くしゃくしゃにしわを寄せてゆく、母のストッキング。
泡だつよだれをぬらぬらとなすりつけられ、いたぶられながら。
母の礼装もまたずるずるとだらしなく、破れ落ちてゆきました。
淑女のたしなみとして日常好んで母が身に着けていた薄いナイロンの礼装。
それがいま、堕とされた品性そのままに、彼女の足許からふしだらに脱げ落ちてゆくのです。
そのありさまは、息子の目にすら、とても妖しく挑発的な眺めと映ったのです。
「あら・・・マア・・・」
悪戯を咎めるには甘すぎる声色で。
足許をべろで嬲りつづける情夫の頭をあやすように撫でながら。
薄いナイロンの礼装が脚許から剥ぎ堕とされてゆくありさまを、母はいつまでも面白そうに見つめていました。

引き裂かれた着衣から解き放たれたように。
もう六十を過ぎているとは思えないほどの熱い痴態が、花を開かせていきます。
女は齢ではないのだよ。
そんなDさんの言い草そのままに、秘めていた艶を輝かせてゆく母の横顔。
脱げ落ちたブラウスの袖を。腰まで恰好わるくたくし上げられたモスグリーンのフレアースカートを。
そんな衣装の乱れを厭うふうもなく、けだるそうにはね上げながら。
白い裸身をかすかな紅に染めて。
うつろな熱情を帯びた目線をあらぬかたにさ迷わせて。
母は淪落の世界にひたすらに酔い痴れはじめていました。
スカートの奥深く慎ましく秘めていたものをさぐり当てられ、抉られて。
・・・あうっ・・・おおうっ・・・
いまだかつて耳にしたことのない、喉の奥から迸るようないななきをほとばしらせて。
ソファに腰かけたままのDさんの上、嫁とおなじ奉仕にしどけなく腰をふりつづけていたのでした。

しく・・・っ。
私の足許を締めつけているのは、黒のストッキング。
母の身に着けているのとおなじブランドのものを家内に頼んで買ってきてもらったものでした。
母が破らせている肌色は、男の脚にはそぐわないから・・・と。
家内は気を利かせて、黒を求めてきました。
私のときみたいに、濃紺がよろしかったかしら。
ちょっと悪戯っぽく、笑みを浮かべながら。
湯上がりのバスローブの下、ストッキング一枚に彩られた男の下半身。
はた目には、異様な風体に違いなかったのですが。
淫らな血をたぎらせる淡い毛脛の脚を淫靡に柔らかく包み込むしなやかなナイロンは、禁断の欲情をいやがうえにも増幅していったのでした。
犯した女の夫や息子の血で牙を彩る・・・
勝利を自覚するために、あるいはさせるために求められた儀式が、私を待ち受けているのです。
痴態に蝕まれた母の目には、彼女のつぎにストッキングの脚を饗する私の姿は、さして奇異には映らないでしょう。

「いい眺めね」
家内は感に堪えたように、母の痴態を見守ります。
女どうしのみにわかるであろうものをすみずみまで読み取ってゆく、容赦ない同性の視線。
必ずしも円満でなかった姑の堕ちるありさまを見届けたい・・・
そんな冷たさを秘めていたはずの目は、同性としての共感からか、いまは熱く充血しています。
ホテルを訪れたDさんは、紳士的にも、まず父との面会を求めました。
そして意気投合した父が気前よく己の血を振る舞って、いさぎよくその妻を差し出すように仕向けたのでした。
息子夫婦を籠絡した彼に、もはや不可能はなかったのです。
「ではわたくし、お義父様をお慰めにまいりますね」
そういい残すと家内は、踵をめぐらせます。
ゆく先は、すでに存分にたぶらかされて己の妻の操を気前よく客人に振る舞った男の待つ部屋。
カツカツと冷たく響くヒールの音が、そんな父の待つ部屋へと遠ざかっていったのでした。


あざやかなお手並みだね。
新婚旅行に発ってゆく新郎新婦を見送ると。
父が悪戯っぽく笑います。
夕べのことだけではありません。
花嫁の首筋には、まごうことなく濃い痣がふたつ―――
白い肌にくっきりと、綺麗に並んでいたのです。
「こちらの花嫁お二方のほうが」
傍らで、私たちにしか聞えないように声色をひそめたのは、Dさんでした。
「よほど、魅力的でしたよ^^」
「ヤですわ、もぅ・・・」
母と家内は珍しく和やかに顔を見合わせて、小娘みたいに恥らっています。
ふたりのうなじにはもちろん、花嫁がつけられたのとおなじ痣が。
まるでおそろいにように、つけられています。
バラ色の血潮をちょっぴりナマナマしくあやしているのは。
ふたり並べられてさっきまで、嫁姑ながら寵愛を受けていた名残りでしょうか。
奴隷の刻印。
そんな言い草を口にするDさんを。
私も、父も、苦笑いして受け容れたのです。
「東京に戻っても、愉しませてくださいね」
悪びれずに父に告げる母。
「ごいっしょに、イタズラしましょうね。ダンナ抜きで」
小悪魔のようにほほ笑む家内。

別れ際。
スーツのすそから覗く足許に。
Dさんはお姫様のまえ跪くナイトのようにかがみ込んでいきます。
唇に秘められた不埒な意図を知りながら。
男二人は彼の行為からさりげなく目線を逸らしていました。
女たちは「まぁ」と顔を見合わせながら。
母は肌色の。家内は黒の。
つややかな光沢を滲ませた薄手のナイロンごし、
気品にみちた脚線美を今はもう惜しげもなく、淫らな接吻にさらしてゆきます。
くちゅっ。・・・・・・ちゅうっ。
脛まで届く、モスグリーンのフレアスカート。
わずかにひざ小僧が覗く、黒のタイトスカート。
いずれ劣らぬ脚線美の輪郭をめでるように、ひとしきり舐めまわすと。
ぶちっ・・・ちり・・・っ
ふたりとも、順ぐりに。夕べとおなじように。
年の順、ストッキングを散らされてゆきました。

人の行き交う、ホテルのロビー。
こんな淫行が、どうして人目にたたないのでしょうか。
とうとう深紅のじゅうたんのうえ、仰向けにされて。
ふたりの淑女は代わる代わる、
つつましく秘めていたはずのスカートの奥を、すみずみまでむさぼられていったのでした。

あとがき
「Dさんのこと」の、続編です。じつはきのう描いたのですが、私にしては珍しく見直していたのです。
そう、イケナイ愉しみに耽りながら。(笑)

あとがき2
再あっぷを機に、翌朝の後日談を加えました。

手軽な魔法

2006年02月22日(Wed) 08:07:07

ストッキングは着衣ではなくて化粧である・・・ときいたことがありますが。
たしかに素肌を染めるあのなまめかしさは、靴下という実用性を越えたものがありますね。
朝の寒い通学路を行く女学生が短い靴下ですねを赤切れさせてあるいているのを見かけると。
お嬢さん、貴女はあの魔法をご存じないのですか・・・?
そんなふうに問いかけてみたくなってまいります。
(もちろんリアル柏木はそんなむたいなことはけっしていたしませんが・・・^^;)
彼女たちがオトナの脚の魅力に目ざめるのは、昔と違ってだいぶあと、リクルートスーツに身を包むころからでしょうか。
もっとも女性のありようが往時とはまるでちがっている今日に、そんな感傷じたいが的外れなのかもしれませんが・・・

Dさんのこと

2006年02月22日(Wed) 07:57:45

だいぶ以前から、あるかたとチャットしています。
お名前はかりにDさんということにしておきましょう。
Dさんは過去に恋人をほかの男性に抱かせた御経験のあるかたです。
その折の昂ぶりを忘れかねているうちに、人妻を狙う吸血鬼になってしまったようです。^^
狙った人妻のご主人をたぶらかして。
夜な夜なその目のまえで、奥様の貞操を散らしてゆく日常。
そんなDさんは、私の家内のことも凌辱したいとおっしゃっておいでです。
女を手当たり次第に手篭めにして、ためらいなく凌辱する。
そんな男性に妻を狙われて。
つぎは、お前の番。
ちょっと、ドキドキしませんか?
かけがえのない最愛の妻も、高い知性や勝気な気性を突き崩されて。
ほかの女たちとおなじように堕とされてしまうのでしょうか・・・
以下のお話がどこまで事実かは、ほかのお話同様に保証の限りではないことを書き加えておきます。

Dさんは遠隔地にお住いでいらっしゃいます。かりに九州、ということにしておきましょうか。
わたくしが家内のことを日常的にDさんに提供できないのも、ひとつには遠方に住まわれているという物理的条件があるからなのです。
そうでなければもうとっくに、私は家内を紹介して、気前よく寝取らせてしまっていたかもしれませんから。
もっともDさんは吸血鬼でいらっしゃるので、じつのところは時間と空間の隔たりはそのじつたいした問題ではないのかも知れません。
案外大人の配慮をしていて、私たち夫婦がその気になるのをじっとお待ちになっていらっしゃったのかも。
(きっと、かなりの確信をこめて・・・)

そんな私たちに、ふって湧いたように、九州に行く用事ができました。
親類の結婚式があるためです。
日取りはまだだいぶ先のことでした。
家内の貞操を奪っていただけますか?
綺麗に犯して貴方の奴隷にしていただくかわりに、所帯持ちのよい堅実な主婦のまま裏側だけを淫らな女につくりかえていただけますか?
いまさらDさんにこんなお申し出は失礼なのかもしれません。
彼がいかにたくみに人の妻を奪うかは、つねづねあらわな証拠を交えて吹き込まれているからです。
それらの淫らな映像はじつに鮮明であるのに、けっして個人の特定をできるものではないことはいうまでもありません。
そしてそのことがいっそう、私のなかの彼への信用を増しているのです。
最愛の妻をゆだねるのは、このかたをおいてほかにはない。と。

まず、家内に切り出すのが先でした。
家内は、はっきりとした性格です。
NOといえば、もはや完全にNG。
反対に、興味を覚えれば。
つねの人が思いもしないことだって、ためらいなくやってのけるところがあります。
プライドも高く潔癖症でもあるのですが、セックスが好きなことも確かです。
そして、これほど仲がよく、お互いを理解しあっているというのに、
二人のセックスの相性はけっして最良とはいえないものでした。
そのせいか、ここしばらくは本当にご無沙汰になっているのです。

「なんか、やらしいこと考えてない?」
家内はいかがわしそうな目をして私をにらみます。
子供たちが寝静まったあとのことでした。
カンの鋭い女なので、こういうときはごまかしがききません。
「じつはこんどの九州行きでね、お前のことをほかの男性に誘惑させてみようと思うのだよ」
多少入っていたお酒のせいとはいえ、信じられないほどスムーズに切り出してしまいました。
もしかすると九州にいるはずのDさんが時空を越えて我が家の窓辺におりたって、私に妙なオーラを投げてきたのかもしれません。
「セックス、合わないんだろう?」
「・・・。」
無言の肯定。
だって今夜の私からの誘いをにべもなく断ったすぐあとのことでしたから。
「このまま、年取っちゃうつもり?」
家内は初めて、私をまともに見つめます。

どんなスケジュールになるのか、あらかじめ家内に伝えること。
妻である彼女をすすんで差し出す以上、結果のすべてをきちんと受け止めて、
家内に対してもDさんに対しても一切の不満を表明しないこと。
お相手のDさんが家内の気に入らなければ、いちどだけで終りにすること。
そんなことを私のほうから約束したうえで、私なりに望んでいることを家内に伝えてゆきました。
こういうつねではない状況を平和裡につくりだすためには、きちんとした決まりごとをしておいたほうが良いと感じたからです。
さいごの条件について。
どうしても家内の気乗りがしなかったら、その場でお断りしようか、と言ったのです。
Dさんも、その場合、決して無理には・・・と申し出てくれていました。
奥さんの意向がすべてであって、本人が引いてしまったらこの種の愉しみはけっして成就することはない。
そういう配慮からでした。
「そういうわけにはいかないでしょう」
家内が反論しました。
  たとえどんなにキモい人だったとしても、ちゃんといちどは抱かれますから。
  そうしないと、貴方の信用問題でしょ?
朱の唇から覗いた白い歯を、怜悧に輝かせながら。
家内はひとつひとつ、数えあげるように語りはじめます。
けっして家庭を壊さないこと。
秘密を外に洩らさないこと。
いかなる場合も夫を尊重すること。
夫である貴方も、もちろん私のプライバシイを尊重すること。
もしも交際をつづけるならば、彼と逢う予定を事前に私に告げること。
可能であれば事後の報告も・・・と冗談ごかしに付け加えたら。
「ヤラシイわねぇ。まったくぅ」と、キツいお応えを頂戴しました。
そういうときの彼女がけっして不機嫌ではないのを、私はよく心得ています。

貴女にとって私は何番目の男?
こんなお願いをして、男をさげてしまったかな?
念を押すようにそう訊く私に、彼女はお父さんが一番ですよ、と応えてくれました。
瞳の奥に隠しきれなくなっていた私の懸念を、家内は敏感に読み取っていたのかもしれません。
そこさえしっかりしていれば、大丈夫。
どこかでホッと胸をなでた自分がいたことを、正直に告白します。
ふたりの決めごとをDさんにメールして、快諾をいただいたことはいうまでもありません。

九州に行くことはめったにありません。
家内に至ってはまったくの初めてです。
温暖な気候、見慣れない草花。
そんなものが旅の解放感をくすぐるものなのですが。
「どこ行ってもあまり変わらないわねぇ」
風景などよりはショッピングのほうに気の行く家内はそんなものよりも、
いずこも変わらぬ都会のたたずまいに却ってリラックスを覚えたようでした。
お式が終わって、落ち着いてからね。
密会は、彼女の希望どおり、披露宴がはねたあとのことでした。
披露宴は、お昼どきでした。
宴が果てて、祝い酒にほろ酔い気分を覚えながら。
私たち夫婦は、凌辱の場に脚を踏み入れたのです。

家内は披露宴のために新調したスーツをそのまま着用していました。
新調、といっても地味派手な彼女が選択したのはごくオーソドックスな黒のスーツだったのですが。
スーツを買いに行った洋服売場で、私は家内にDさんの服の好みを訊かれました。
Dさんはどちらかというと風俗的なけばけばしい服ではなくて、
地味で清楚な感じのする、ごく普通の装いを好まれるのです。
清楚で上品なものを堕とすのが好きだ、というのが彼の口ぐせでした。
彼女にそれを伝えると~まさか洋服売場でそこまでコアな表現はつつしみましたが~じっと聞き入って、さっきから気に入っていたらしいそのスーツを取りあげて、
「じゃあこの服なんかぴったりじゃん」
わざと蓮っ葉にそんなふうに応えたものでした。

「黒い喪服で貴方の奥さんの貞操の喪を弔うのよ♪」
披露宴の出がけにあてつけるように投げられた言葉に私が反応してしまったのは、いうまでもありません。
そう、彼女は珍しく、肌の透けて見える黒のストッキングを穿いていたのです。
照りつける陽射しの下。
南国の都会で歩みを進める、黒ストッキングの脚。
ちっとも場違いには映りませんでした。
清楚にも知的にも、かつ淫靡にも映える黒のナイロンが織りなす脚線美の輝きに、
夫である私の目もしばし釘づけになったのでした。
輝くような笑みを投げてくる、着飾った妻。
こんないい女をみすみすべつの男に・・・
そんな思いもかすめるいっぽうで。
スキのないこの気品ある装いをまだ見ぬ彼はどんなふうに堕としてゆくのか・・・そんなあらぬ想像にも胸をじりじりと焦がしていたのです。

指定されたホテルは、一流のホテルでした。
ホテル代も彼が持つ、といわれたのですが、鄭重にお断りいたしました。
もともと用事があって出向いたまでのことなのですから。
彼はその代わり、極上のシャンパンを取り寄せる、と約束してくれました。
「奥さんのアナザー・マリッジを祝うために」
という彼。
アナザー・マリッジ。
別な結婚。
夫とは別のパートナーとの、淫らごと。
披露宴で出かけてくる私たちにひっかけた、彼一流のジョークでした。
うまいことをいうもんだなあと、物慣れたDさんのの態度に改めて舌を巻いたものです。
ロビーで待ち合わせしましょうか?という彼の申し出も、ご辞退いたしました。
ひと目のあるところでそういう人に逢うのを、家内がひどく恥ずかしがったからです。
気の強い割りに、人見知りも強い女なのです。
Dさんには先着していただいて、お部屋でお待ちいただくことにしました。
チェック・インをしようとすると案の定鍵を渡されないで、先客様がお待ちでいらっしゃいますという答えがかえってきました。

ドアをひらくまえ。
「ドキドキするなぁ」
家内は初めて、正直に気弱なところをみせました。
ここは男である私が彼女の背中を押してやらなければなりません。
私はなにも応えずに、がちゃり、と音を立ててドアを開きました。

Dさんは38歳と言っていましたが、思ったよりも落ち着いた、それでいて若々しい爽やかさの持ち主でした。
私よりも幾つか若いだけの彼はあきらかに、女性を惹き寄せるオーラをもっていました。
おおぜいの女性たちからエキスを吸い取って、いまの彼があるのでしょう。
そして家内の身体に流れる私にとってかけがえのないものも、そうやって彼のなかに吸収されたエキスの一部にすぎなくなってゆくのです。
彼はにこやかに私たち夫妻を迎えると、お茶を淹れておきましたよ、といってソファに導きました。
湯気をくゆらせたお茶が三つ、男とは思えないくらい心遣いの利いた手つきで並べられてゆきます。

実のところ家内は、女っぽい振る舞いをする男性を好みませんでした。
大きな声ではいえないのですが、私は女装趣味を持っています。
家内にそれがわかったときに、彼女はあからさまな嫌悪感を隠そうともしませんでした。
止めようもないようだから・・・と黙許してくれたときも、彼女はまだいけすかないという表情を露骨に浮かべていたのでした。
それでも彼は己の発する体臭が必ずしも家内のお気に召さないのを敏感に感じ取ったらしく、器用にそれを包み隠すと、彼女の反応を確かめるように話題を選び言葉をえらんでソツのない健全な会話を愉しみ始めたのです。
私の見込んだとおり。
Dさんの知性と才気は、家内のことを安堵とリラックスへと巧みに導いていったのでした。

まとわりついたよそよそしい外気が消えるころ、彼は取っておきのシャンパンを開けました。
「まだ披露宴のお酒が残っているんじゃありませんか?」
からかうような彼の口調にちょっと打ち解け始めていた妻は
「アラ、大丈夫ですわ。私お酒は好きなので」
と、ためらいもなくグラスを口に持ってゆきます。
いつもより派手な色調に刷いた口紅が、かすかにグラスに残りました。
Dさんは、家内の衣裳を褒めています。
決して歯の浮くような蓮っ葉なものではなく、的確であったのは。
彼が女性の衣裳にも通じているためでした。
何しろ、数え切れないほどの女性の服を、持ち主の肢体から剥ぎ取ってきた男性ですから。
見えすいたお世辞を受けつけない彼女ですが、不思議と受け答えはいつになくよどみがありません。
言葉に秘められた魔力に、じょじょに理性を侵されはじめているのだ・・・私は初めて、そう気づきました。
きちんとセットされて頭の上に束ねられた長い黒髪の鮮やかさとか、
胸元からさげられた銀色のネックレスの清純な輝きとか、
いちいち指摘されるのをたいそううるさがる女なのですが、
とうとう穿いている黒のストッキングのブランドまで教えてしまっているのです。
打ち解けついでに家内はとんでもないほうに話題を振りました。
「見て見て、うちのダンナ。まだ春先なのにあんな薄い靴下履いているんですよ。女もののストッキングみたいでしょう?」
私がそのとき履いていたのは濃紺色の紳士用ハイソックスでした。
ひざ下あたりに性感帯でもあるものなのか、
引き伸ばされた長靴下の下を血潮がめぐるときにいっそう暖かみがますものなのか、
こういう沓下を身に着けていると、不思議に寛大な気分になれるのです。
もう、なにもかもお捧げしてしまう大切な刻。
私はあるかないかの衆目の目を気にせずに、ストッキング地のハイソックスを脚に通していました。
「え?いいじゃないですか。男はちょっと色気があるくらいがいいんですよ。それに、女装なら私だってやりますから」
Dさんはさらりとそう言ってのけたのです。

Dさんが女装をすることを、私は家内に話していませんでした。
そういうことを露骨に嫌う家内の印象を、面会前から不用意にわるくすることを慮っていたのです。
ところが家内はそんなDさんの言い草をきちんと受け止めて、
「男の人って、そういう願望持っているものらしいですね。うちの人も・・・」
なんて、じつにノーマルに応対していたのです。
傍らで会話の行方にひやひやとしている夫のほうには目もくれないで。
「どんなときに女装なさるんですの?」
家内がそう問いかけたとき。
Dさんの瞳の奥に、獣じみた光がかすかに刺すのがわかりました。
「女のかたの、生き血を吸い取るときとか・・・ですね」

腰を浮かしかけたDさんに、家内は意外なくらいに冷静でした。
こういうときに、女は肝が据わるものなのかも知れません。
「そうですか。じゃあ・・・」
家内は許諾を乞うように私のほうをふり返ると、ひとり肘掛け椅子から立ち上がりました。
私も、つられたように立ち上がります。
ひざ下をゆるやかに締めつけているハイソックスの口ゴムが、妙にじんじんとしています。
多少落ち着きをなくしている私でしたが、そうした感覚はけっして不快なものではありませんでした。
Dさんは私たち夫婦と自分とを隔てている丈の低いテーブルをまわってこちら側へと足をすすめて、家内の両肩をつかまえました。
黒のジャケットのうえから添えられた蒼白い掌に力がこめられて、家内のジャケットの二の腕にわずかなしわが浮きました。
冷静な面貌の下で滾りわたっている彼の欲情が、初めて家内の衣裳に投影されたのです。

ふたりは一瞬、じいっとにらむように見つめあい、それから男はおもむろに家内のうなじを咥えました。
蒼白い静脈の浮いた白いうなじにヒルのように吸いついた赤黒い唇は、わずかに唾液をあやしています。
欲情を秘めた、透明な粘液が。
家内の素肌を濡らし、染み透ってゆくのを見つめながら。
妖しい魔力がいま、じわじわと家内の理性を侵しはじめている。
・・・と思うせつな、家内がアッとひくくうめいて、真っ赤な口紅のすき間から白い歯をのぞかせたのです。
瞬間、固く抱きすくめられた家内は硬直したように身をのけぞらせ、もうそれ以上身じろぎひとつできなくなって首筋を咬まれていました。
鋭利な牙が口許からわずかに覗いて、注射針のようにむぞうさに、白い皮膚に押し当てられます。
真珠色をした家内の肌に、黄色くうす汚れた牙はひどく不似合いに見えたのですが、
もうそのときの私はすっかりわけがわからなくなっていて、ただ夢中になってうしろから家内のことを抱き支えるように掴まえていたのです。

「痛かったわよ。貴方の手のほうが」
あとで家内から、そんなふうに文句を言われました。
捧げる獲物を差し出すしぐさを要求されたのでね・・・と応えると、すこしは納得してくれたのですが。
黒のスーツ越しに家内の身じろぎが生々しく伝わってきたときに。
不覚にも、理性を喪って。肩を抱く掌に、つよく力をこめてしまっていたのです。
家内の不用意な身じろぎは、ひどく厭わしげなようでもあり、あべこべに切なげなようにも思えました。
どちらにしてもこの瞬間、私は家内を犠牲に饗する共犯者となり果てていました。

ちゅう・・・っ
吸血の音があがりました。
家内は私の腕のなかでゆるやかに身悶えしながら、
三十路の人妻のもつ熟れた血潮を吸い取られていったのです。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅうっ・・・くちゅう・・・っ
血を吸いあげる音。唾液のはぜる音。
許されるはずのない肌に臆面もなく唇を這わせたDさんは、
そんな音をわざとあからさまに響かせて妻の血を愉しんでゆかれます。
くっきりつけられた傷口のうえ、彼の舌が、唇が、悦びを含んで踊るのを、
私ははっきりと、目の当たりにしていました。
彼はあきらかに、家内の血を気に入ったようです。
牙を突き立てて、唇を慕わせて。ナマナマしい音までたてて。
家内に対する吸血行為を、あからさまに愉しんでいたのです。
彼女の血を美味しく愉しんでくれている。
そう感じた私はもう、ゾクゾクとしてしまって。
家内の体にしがみつくようにして、ただひたすら家内の抵抗を封じようとしていました。
ガクガクになっていた手足が彼女を拘束するのにどれほどの役に立ったのかは心もとないのですが・・・
あとで見せていただけたビデオカメラには、
懸命に身をよじる家内の足許で、黒のストッキングの整然とした肌理が妖しくねじれ歪んでゆくありさまが克明にとらえられていたのですが、
もとよりそんなことに気づくゆとりなどどこにもなかったのです。

ひとしきり家内の血を吸うと、Dさんはやっと家内を放してくれました。
ふぅ・・・
男たちの引きつった腕の間から解放された家内はため息ひとつつくと、肩をまだ上下させていました。
昂ぶりのためか、失血のためか、はずんだ息がおさまらないようです。
「すこしは、お気に召していただけました?」
ハンカチで傷口を拭いながら、口調だけはかろうじて、まだ平静を保っていました。
そんな家内の振る舞いを感にたえたように見つめるDさんの目には、賞賛の色が宿っています。
こんなときでも家内を賞賛されるのは心地よいものなのでしょうか?
もとより私が異常な性向の持ち主だというに過ぎないこととは承知しているのですが・・・
「お若い血ですね。こちらのほうが、気圧されてしまいましたよ」
じっさいには、家内はDさんより二つほど年下なだけなのですが。
瞬時に生き血を吸い取られた家内は気のせいか、いつもよりひどく弱々しく映ったので。
優しく介抱するDさんは頼もしく、家内よりずっと年上のように見えたのでした。
Dさんは正直に家内をほめるとふたたび肩を抱いて、夫である私の見ている目のまえで家内を抱き寄せ接吻を加えたのです。
たんなるケモノの口寄せではなく、敬意と情愛のこもった接吻でした。
ほんの一瞬のことでしたが。
唇を許した・・・という行為は彼女をひどくうろたえさせたようでした。
家内はちょっとだけよろめくとかろうじて態勢をたて直して、
「では・・・」
見あげる瞳も声色も、どこかなまめかしい濡れを帯びていたのです。

つぎに凌辱を受けたのは、黒ストッキングの足許でした。
ストッキングへの凌辱に昂ぶりを覚える私の性癖を汲んでくれたDさんの好意でした。
Dさんご自身もストッキング・フェチでいらっしゃるので、
黒いストッキングを履いた家内の脚をぜひ愉しんでいただきたい。
そんな申し出を、くすぐったそうな声色とともに承諾してくださったのです。
私は家内を肘掛け椅子に座らせると、黒のタイトスカートをたくし上げます。
ふだんお行儀のよい家内にとって、そんな失礼な振る舞いは夫婦のあいだでも許しがたいものだったはずなのですが。
ちょっとだけ抗った家内の腕からは、いつもの強情なまでのこわばった力はまったく感じることができませんでした。
タイトスカートを大胆なまでにせり上げてしまうと、私は「さぁ・・・」とDさんを促します。
悔しげに目をそむける家内の横顔を、Dさんはニヤニヤと舐めるように見渡すと、黒のストッキングに包まれた家内の太ももに、両手で包むように触れてゆくのです。
するっ・・・しゃり・・・っ。
薄手のナイロンが肌の上をこすれるかすかな音。
淫猥な感触を皮膚にすり込むようにして、彼はたんねんに、たんねんに、ストッキングの脚を撫してゆきます。
「あの、ちょっと・・・」
失礼なあしらいに耐えかねて、たしなめようとした家内が声をあげたとき。
彼の唇はもう、太もものうえにむぞうさに這わされていたのです。
「きゃっ!」
家内が小娘みたいに、声をたてました。
ぬるり・・・ぬるり・・・
唾液を光らせて、しつように、いやらしくぬめる唇の下。
家内の身に着けているストッキングは微妙にねじれ、整然とした繊細な網目をゆがめていきます。
ぬらり・・・くちゃっ。
気品と礼譲をたたえたはずの装いに不似合いなあしらいに、家内は柄にもなく恥らいながら、それでも肩をつかまえている私を振りほどくでもなく、
ただひたすらに辱められ堕とされてゆく足許に目線を落とし、また目をそむけていました。
家内の穿いているストッキングは、どうやらなかなかの舌触りのようです。
彼の唇がひどく嬉しげに慕い寄ってゆくのが、じつにあからさまなまでにわかるのです。
ぞんぶんに味わって、愉しんでくださいね・・・
そんな思いをこめながら。
清楚なストッキングに透ける肌に淫猥なものを滲みこませてゆくDさんに、私は心から声援を送っていました。
ちり・・・っ
圧しつけられた唇の下。
かすかに走る伝線が、白い脛をあらわにします。
ちゅ、ちゅ・・・っ
それでも容赦なく、裂け目をなぞるようにいたぶってゆく唇の恥辱に耐えかねたように、
つ、つつーーーーっ
と、伝線が鮮やかな縦のストライプを描いていました。
ふくらはぎのしなやかな流れに添うような絶妙なカーヴに、三人は三様の目色をして見入ってしまっていました。

ストッキングにまで無作法なあしらいを許してしまうと。
もうあともどりできないな・・・すくなくとも私はそう感じました。
礼譲のシンボルのように家内の足許を清楚な翳りでガードしていたストッキングは、不埒な振る舞いをまえに見るかげもなく堕とされてしまっています。
いざ家内の足許に彼の唇を受け容れて、破らせてしまうと。
そこには私だけの家内・・・とはべつな女が現れました。
Dさんの獲物となった、美しい人妻という。
いつもきちんとした服装を心がけている家内が、破れたストッキングを人目にさらすということが、まずなかったせいでしょう。
ストッキングを散り裂かれるということは、これほどの変貌をもたらしていたのです。
あとで家内に聞いたのですが。
―――ストッキング破られちゃったときに、もう引き返せないなって思っちゃった。
はからずも夫婦ながら、おなじことを感じていたようです。
夫ならぬ唇にストッキングをいたぶらせ、欲情のおもむくまま、ぞんぶんに破らせる。
そのとき、もはや家内は淑女ではなくなっていたのです。

はじめは夫婦ならんで肘掛け椅子に腰かけていたのですが。
私は家内を促して、Dさんがひとり腰を下ろしているソファのほうへと導いてやりました。
さすがに家内はちょっとためらって、「ちょ、ちょっと待って」と、あわてたように立ちすくみます。
もの慣れたDさんは、こういうときにもあわてません。
「まぁ、まぁ」とそつなくふたりを落ち着かせると、血をなくされたあとだから、すこしくつろいだほうがいいですね、と私たちをベッドのうえに腰かけさせたのです。
部屋の真ん中にしつらえられていたダブルベッドは広々としていて、見るからに寝心地がよさそうです。
お尻の下にふかふかとした弾力が伝わってくると、私はどうにも落ち着かなくなって、ここに座りつづけている場合じゃないなと感じました。
立って、彼のためにこの場所をあけるべきなのだ・・・と。

どおです?
彼が飲み残されたシャンパンのグラスを両手に持って、戻ってきました。
顔つきは、あくまでもにこやかです。
私はわざと真っ赤な口紅のついた家内のほうのグラスを受け取ると、中身を一気にあけてしまいます。
「もぅ・・・」
家内はあきれたように私のほうを見やり、自分は飲まずに傍らの袖机のうえにグラスを置きました。
失血のショックが去り接吻の余韻がまだ残る絶妙なタイミング・・・と感じた私は、
「ちょっとだけ、私の体面も気にしてもらおうかな?」
自分から立って、彼に縛ってほしい、と頼んだのです。

センスのよい柄をした家内のスカーフが、きゅっ、きゅと小気味よく、私の手首を締めつけてゆきます。
洗練された装いじたいがDさんの共犯者のように、妻を護るべき手を封じてゆく行為。
そんなふうに唯々諾々と縛られてゆく私のことを、家内はなにを思ってかじいっと食い入るように見つめていました。
袖机には、飲みさしのシャンパングラスと、家内のハンカチーフ。
式場のために用意をしたまっ白のハンカチーフは、初めて咬まれた痕を拭き取ったなごりをまだ鮮やかに残しています。
最愛の女(ひと)の体内に宿っていた、誠の証し。
まだ初々しいほどに鮮やかなバラ色を秘めて、しずかな輝きを放っていましたが。
その多くはどん欲にむさぼられ飲み込まれて、Dさんの渇いた喉を通って胃袋に満ちているのです。
こんな具合で構わないかね?
いつかDさんがぞんざいな口調になっていることに、私は否応なく気づかされます。
そう。
家内の血を奪われてしまった以上、彼女の主人は、いまや彼。
ほどよく引き締まった肉体が自らを誇示するように、ツヤツヤとした輝きに包まれていました。
いっぽうで私はといえば。
革靴に薄い長靴下一枚を残して裸に剥かれて、椅子の背もたれに手首を縛られたまま立たされていたのです。

迫ってくる男の影から逃れるすべは、もう家内には残されていませんでした。
とっさに立ちかけた彼女はすぐさま男の猿臂に巻かれていって、ベッドのうえに押し倒されてしまったのです。
そのままベッドに圧しつけるようにしてぎゅうぎゅうと強引なキッスを味わわすと、Dさんは家内にも命令口調になっていきます。
「さぁ、奥さん。もうお高くとまっている場合じゃないんだぜ?」
ぴしぃん!
家内の頬が、鮮やかな平手打ちに鳴ったのです。
ア・・・
Dさんは息を呑む家内になおも迫っていって
ぶちっ。
こんどはむぞうさにブラウスを・・・
びちいッ・・・
絹を裂くような・・・といいますが。
じっさいにブラウスが裂ける音は、そんなふうではありません。
もっと耳ざわりな、横なぐりの侮辱でひとを虐げるような音なのです。
初めての人前で恥をかかないようにとおそらく新調したであろうレエスつきのブラジャーも、諦めねばなりませんでした。
ブチッ・・・ブチブチ・・・ッ
ストラップを断たれて、いともむぞうさにはぎ取られてしまったのです。
・・・ッ!
声にならない叫び。
あらわになる胸から獣の視線を遮ろうと、堕とされたブラウスを掻き寄せる手。
なおも襲いかかる平手打ち。
勝負のわかりきった力比べでした。
迫ってくる男の胸からわが身を隔てようとして、突っ張る妻の腕を他愛なく折ってねじ伏せてしまうと。
「ダンナを見なよ。ざまはないな。あんたが犯されるからって、もうチ○ポおっ立ててやがるんだぜ」
そんなふうに嘯いて、冷たい目で私のほうを振り返ります。
濁った瞳。舐めるような目つき。
さっきまでウマの合うメル友だったDさんは、あきらかに獣に変貌していたのです。

男の豹変は、家内を怯えさせるのに十分でした。
ふたたび口を寄せてきた男に、家内は
くちゅう・・・っ
と、無防備な乳首を含まれてしまったのです。
くちゅう、くちゅう。ちゅちゅちゅうう・・・っ
私だけのための空間が、いま目のまえで、わざといやらしい音をたててむさぼられ、蹂躙されていきます。
しかしそう思い込んでいるのは私だけなのかもしれません。
結婚前から幾多もの男と関係をもってきたという妻は、いままた奔放な独身時代にかえったように、放恣に身体を開ききろうとしているのです。
「さぁ、ダンナによぅく、見せてやるんだ」
男は家内の頭をつかみ、無理やり私のほうへと顔をねじ向けます。
はからずも家内と目が合ったとき、もうその瞳が虚ろに輝いていて、淫らな世界に酔いはじめたのを認めざるを得ませんでした。
本人は、もうすこし冷静だった、と主張しています。
  貴方がじつは悪い人に騙されていたらと、それは怖かったけれど。
  愉しませちゃったら。あの人にも、貴方にも、納得してもらえるかな・・・なんて思っていたのよ。
そんなふうに、いまこうしてキーを叩いている傍らで、彼女は悪戯っぽく、くすくす笑ったりしているのですが。
それでも股間に疼く淫らなものが身体の芯にまで行き渡ってしまっていたのことは、さすがの家内も否定できないはずでした。
モノのようには扱わないで。
そうお願いした私でしたが、いささか常軌をはずしてしまったかのように目のまえで家内を玩び、きちんとセットされた髪までもくずされてほどかれてゆく有様に、いつか目を血走らせて見入ってしまっておりました。

家内は長い髪の毛をうしろで束ね、きちんとセットしていました。
うなじをすっきりと見せるのが好みだったようです。
私は逆に肩先まで流したお嬢さんスタイルに固執していたのですが、このてのダンナの好みというものはまず容れられることはありませんでした。
きちんと結わえた髪に指を突っ込まれ、ほどかれて。
はからずも私の好みに沿うように、家内は艶のある黒髪を滝のようにひとすじにだらりと垂らしていたのです。
もっとも、婚礼の席にふさわし気品のある礼装はみるかげもなく堕とされて、
白いブラウスを撫でるはずの黒髪は、むき出しの肌に直接触れかかっていたのですが。

ぶちっ。ぶちぶち・・・っ
黒のストッキングが、太ももから、腰周りから、むざんに引き剥がされてゆきます。
スカートの奥に突っ込んだ手が秘所をさぐりあてて、ショーツのうえから、そしてショーツの中にまで指を差し入れて、まるでもみほぐすように、たんねんに、たんねんに、それはたんねんに、家内のあそこをかき回してゆきます。
オオッ・・・アウウ・・・ッ
身をよじりながらふり絞られる、獣じみた家内の呻き。
それはもはや苦痛に満ちたものではなく、あらわな愉悦を滲ませていました。
発している本人にもそれは自覚できたようです。
それからの彼女は終始、私のほうからは目をそむけつづけていました。

ショーツを存分に愉しむと、Dさんはそれをむぞうさにつま先へとすべらせてゆきます。
家内の手が伸べられて、おろされるショーツを掴まえます。
ちょっとのあいだ綱引きをしたあとで。
もう耐えられないわ・・・っ。
そんな顔をあらわにして。
家内は自分で自分のショーツを引き裂いていたのです。

そら・・・。
男はこちらをふり向くと、己の戦利品をこちらに投げてよこしました。
妻の操を守り、包んできた薄絹―――。
狙いははずれずに、私の手の甲に落ちました。
べっとりと湿った粘液は、妻のもの。
淫らになりたい。辱め抜かれたい。
そう告げるように、それは静かなぬめりをぬらぬらと光らせていたのです。
私は彼と目を合わせました。
嫉妬や悔しさは、ふしぎなくらい、ありませんでした。
家名に泥を塗りかねない行為なのに。
己をはるかに優越する存在に、最愛のひとを捧げる。辱め抜いていただく。
そんなマゾヒスティックな歓びがゾクゾクと全身をかけめぐり、
淫らな毒を含んだ血液が躍動し、からだじゅうの血管をじわじわ疼かせるのを止めることができなくなっていたのです。
―――お見事なお手並みだね。すっかり狂わせてられてしまって。
―――なぁに、これくらい。朝飯前ですよ。
―――う~ん、悔しいな。恥ずかしいな。けれどもむしょうに、嬉しいな・・・
―――いいんだね?あんたの奥さん、オレの女にしても・・・
―――ああ、喜んで、きみを家内の愛人として迎えたいね。
お互いの想いを、目線に込めて。
おなじ女性を愛するものどうし、通じ合うものを確かめ合って。
「どうぞお願いします。アナザー・マリッジ。おめでとう」
ひと言だけ、ふたりを祝福すると。
彼はくすぐったそうな笑みで応じながら、もう降参・・・といわんばかりに開ききった家内の下肢に腰をうずめて・・・
家内を狂わせたのでした。

立て膝をした白い脚。
じりじりと崩れるように破れ落ちてゆく、剥ぎ堕とされた黒のストッキング。
それは彼女が守りつづけてきた高貴なプライドや礼節というものが他愛なく崩されてしまったことを露骨なまでに見せつけていました。
どろり・・・どろり・・・
ふと、気がつくと。
不覚にもそそり立っていた自分自身から放出したものが、
むき出しの太ももをなま温かく濡らし、じりじりと伝い落ちて、
濃紺のストッキング地のハイソックスに沁みこんでゆきます。
その日脚に通していたのは、紳士用とは思えないほど艶のあるものでした。
家内が淑女であったときといささかもかわらない、ツヤツヤとした光沢に包まれた自分の脚。
その下に秘めた血管をめぐる淫らな血潮がドクドクと妖しい脈動を昂ぶらせています。
淑女であった家内はいまはお尻を突き出して、愛人として迎え入れた男性への奉仕に夢中になっています。
どこまでも、客あしらいのよい主婦として。


あとがき
異様に、長くなっちゃいましたね。^^;
これはあくまでもフィクションであり、登場人物は実在のいかなる人物でもありませんので。
・・・って心配するほどのリアリティを感じていただけるかどうか。(笑)

仲良くなりたい・・・

2006年02月21日(Tue) 09:56:53

「お母さんと、仲良くなりたいな・・・」
すうっとそばに寄ってきた男は私の耳もとにそう囁くと。
ボクのうなじをつかまえて唇を吸いつけて。
どんなふうに仲良くしたいのかを教えてくれた。
ごくり、ごくりとボクの生き血を飲み味わいながら。

ふと気がつくと。
公園のベンチに横たえられて、介抱されていた。
もう少し、がんばろうね。キミのお母さんをモノにするまでの辛抱だから。
耳もとにくすぐったく囁きかけてくる声は、ボク自身の声色だった。
声を奪われちゃった。
ううん。ちょっと借りただけだよ。
聞き慣れた声が。知らず知らず、ボクをうなずかせてしまっていた。

家に招んでくれるだけでいいんだよ。
そういう彼のいうなりに。
ボクは玄関のベルを鳴らす。
ドアを開けたのは、妹だった。

妹さんも、綺麗だね。
さっきボクにしたみたいにうなじに手を寄せて。
あっという間に咬みついている。
きゅうっ。くちゅーーーっ
気の遠くなるような吸血の音。

ほら、他愛もないだろう?
彼は得意気にボクのほうをふり返り、吸い残したものを口許からしたたらせ、
セーラ服の胸を持ち主の血で彩っていった。
妹はもうすっかり、夢見心地になっている。

あがりこんだ奥の部屋。
妹は彼の腕のなか、くすぐったそうに声はずませて。
いやよ、いやよ、と口ではいいながら。
黒のストッキングのつま先にすべらせてくる唇を拒みかねていた。

ただいまぁ・・・
母さんの声だ。
はぁい。こっちだよ・・・
ボクの声であって、ボクの声ではない。
なにも疑いのない足音が、部屋に近づいてきた。

ドアのかげに隠れた彼は、ボクが母さんと話している隙に背後にまわり、
いきなり頭をつかまえて、仰のけたうなじにぐぐ・・・っと。
鋭い牙を刺し込んでいた。
いっ。痛たたたっ・・・

痛そうに眉をしかめて抗う母さんの肩をつかまえて。
ちゅうっ、ちゅうっ、くちゅう・・・・・・っ
唇をせわしなく這わせながら、母の生き血を吸い取ってゆく。
母さんはくねくねと体を折り曲げて、
やっぱり他愛なく、畳のうえに突っ伏してしまった。

母さんの貞操が・・・
妹の純潔が・・・
手の届く間近で汚されてゆく。
それだというのにボクはもう、ただワクワクとした昂ぶりに息を詰まらせて、
よかったね、仲良くなれて。
そんなふうに囁きかけてしまっていた。
悪友は感謝に満ちた視線をボクに投げかけると、くすぐったそうな笑いを浮かべて。
もういちど、母を貫いていた。

こと果ててふたりが静かになると。
男はふたりの足許にかがみ込んで。
倒れた二人の足許からストッキングを抜き取ってゆく。
制服のプリーツスカートの下からは、黒のストッキング。
折り目正しいグレーのスーツの下からは、肌色のストッキング。
母娘の足許を清楚に彩っていた礼装が、
むぞうさにくしゃくしゃにされて、だらしなくねじりおろされてゆく。
はぎ取られ抜き取られてゆくありさまにドキドキと見入っていると。
男はさらに、囁いた。
キミの声を借りてね。キミの許婚も呼んでみたんだ。彼女のストッキングはなに色だろうね?・・・と。

順ぐりに

2006年02月21日(Tue) 08:55:52

我が家に小僧が住みつくようになって、もう何年になるだろう。
ヤツの体は半分透けていて、一家のもののほかには姿を見ることができない。
だから、小僧に話しかけるのは客がいないときに限っている。
いくらなんでも空気に向かって話しかけてるところを見たら、誰だってびっくりするだろうから。

小僧はいつも心配そうに、私たち家族のまわりをうろうろしている。
病人がでると看病もするし、
家族のなかでいさかいがあると、それはおろおろとして両方のあいだを行き来して。
なんとか仲直りさせようとする。
ヒステリーを起こした娘にものを投げられても、泣きながら逃げ回るだけ。
そういうときの妻は決まって小僧をかばって娘を叱る。
路地裏で凍えて泣いていたところを見つけたお袋が気の毒がって、なかに入れてやったのがさいしょだった。
いまでは誰もが小僧を家族の一人と認めている。
男の子のいない家なので、我が家に取っては息子どうぜんのあつかいだった。
けれどもかれと私たちとのあいだには、どうしても越えることのできない一線が引かれている。
なぜなら彼は、吸血鬼だったから。

さいしょに血を吸われたのは、お袋だった。
勤めからもどって真っ暗な部屋に電気をつけたのは、私。
お袋は部屋の隅っこに大の字になって、小僧にうなじをちゅうちゅうやられていた。
はじめはふざけているのかと思ったけれど、小僧の口許についた紅いものとお袋が目もうつろにウットリとなっていたのでただごとじゃないと気がついた。
あわてて小僧を引き離すと、
だいじょうぶよ、だいじょうぶ。
傷に手をあてがいながら起き上がったお袋は、申し訳ながってべそをかいている小僧をとりなした。
よほど気分がよかったものか、お酒を飲みすぎたときみたいに呂律がまわらなくなっていた。

次の日から。
小僧はいっそうお袋になついていて。
どこまでも、金魚のふんのように後をついてまわっていた。
まぁ・・・まぁ・・・
あきれたような、お袋の声。
いつの間にか咬まれていたふくらはぎの上、黒のストッキングが鮮やかな伝線を走らせている。
早くに亡くなった父を弔うために、いつも脚に通していた装い。
そんなものすらも、小僧の戯れ心にゆだねていた。

安心しなさい。あなたたちに相手しろなんていわないからね。母さんひとりで面倒みるから・・・
お袋はたしかにそう言っていたけれど。
つぎに狙われたのは、妻だった。
うかつなことに、そのときはちっとも気づいていなかった。
ところがある晩夜中に目が覚めると。
寝室に灯りがこうこうと点っていて。
小僧は私のうえに馬乗りになっていて、私の血で頬を濡らしてしまっていた。
ごめんね。どうしても血が欲しくって。
悪戯をみつかったときのように決まり悪げに、彼はもじもじと俯いている。
まるで酔っ払ったようなけだるさから、怒りを忘れて腑抜けてしまっている私。
いいんだよ。お袋だけじゃ無理だってわかっていたから。もっと吸うかい?
私が優しくそういうと、謝罪するような目で私のことをじいっと見下ろして、それから素直にこくりと頷いた。

こくっ・・・こくっ・・・くいっ・・・きゅうっ・・・
奇妙にあからさまな音を忍ばせて吸い取られてゆく私の血。
なにか得体の知れない強い力に吸い寄せられて、深淵に引き込まれてゆくような気分がした。
けっして、悪い心持ではない。
引きずり込まれた深淵は暗く暖かく、そしてとても安らかなヴェールに私を包んでゆく。
脳裏の奥深くとぐろを巻いていたストレスがみるみる薄れて、清い静寂がしみとおってくる
ふと傍らを見ると、スリップ一枚の妻が気遣わしそうにこちらをうかがっていた。
妻のうなじにもくっきりと、私が今つけられているのと同じ痕が浮いている。
咬まれちゃったの?
私が訊くと。
ゴメンね。わたしのほうが先だったの。
そうなの。
事態を、ごく自然に受け入れてしまっていた。

母のときのように。
力の抜けた体を大の字になったまま。
夫の目を気にして恥らいながら小僧に組み敷かれてゆく妻を横目に見守っている。
股間がチリチリと微妙な疼きをつたえて、
まだ幼い体の下、スリップ一枚のまま身もだえする妻の様子から目を逸らすことができずにいた。
しても、いい?
そう、訴えかけてくるような、小僧の目。
暗い瞳のなかに宿る切実な翳に思わず引きこまれるように。
驚くほど素直な気分で。私はこくり、と頷いていた。
夫の目を意識してか。
妻はいつも以上に乱れていった。

それ以来。
小僧はかわるばんこに、妻とお袋のもとを訪れる。
夜更け、お袋の部屋にこそこそと忍び込んで、
きゅうっ・・・ごくん。
あぁ・・・
昼間は聞けない、お袋の妙なる声。
覗きにいこうする私は、およしなさいよ、と引きとめられる。
嫁と姑ふたりながら小僧に操を許してしまったことも、もはや暗黙の了解。
ふたりは仲良く、かばいあっている。
ゆさゆさと、布団の音。がたがたとふすまをけ飛ばす音。
そんな音たちがふと途絶え、ひとしきりしずかになると。
ひたひた。ひたひた。
幼い足音はこちらほうへと向かってくる。
すすっと隙間を空けるふすま。
忍び込む、小さな影。
私はそうっと起き出して、小僧に場所を譲ってやる。
きゅうっ・・・。ごくり。
おぉぅ・・・っ
ふすまを通して洩れてくる声や音をききながら、小僧が満足するまで廊下の寒さに震えていた。
とうとうこらえきれなくなって、まだ犯されつづけている妻を傍らに、布団のなかにもぐり込む。
見られることを恥ずかしがって、妻はこちらのほうを見ようともしない。
昼日中から。
甘えるように体をすり寄せて。
スカートのうえからお尻に食いついたり。
ちょっと寝そべってもらって、ふくらはぎを吸ったり。
大人の服に悪戯できる嬉しさをあらわにして。
よだれに濡れた唇で、ストッキングにしわを寄せてゆく。
そういえば、まだ幼い娘も母親に寄り添って、
嬉しそうに、恥ずかしそうに。
白のハイソックスを紅いもので濡らしている。

お袋の顔色がすぐれなくなっている。
母と妻と戯れ合うことを許された小僧にとって、ふたりは私にとってとおなじくらいかけがえのない存在。
それでもそういうときはついに訪れるのだろうか?
私は哀願した。
お前を路地裏からひろってくれたお袋じゃないか。
母親みたいにキミに優しい妻じゃないか。
兄妹みたいに仲良くしている娘じゃないか。
けれども小僧は悲しそうにかぶりを振っている。
ごめんね。ひもじくてもう、我慢できないよ・・・
一家が死に絶えたのは、それからなんか月もたたないうちのことだった。

それから数ヶ月。
誰もいなくなったはずの家の灯が、月曜の夜更けだけはひそかに点される。
灯りの下では、往時とかわらない団らんのざわめき。
母も妻も娘も、あるいは若々しく、あるいは初々しく着飾っている。
週にいちどのおめかしなのだから。
小僧ももちろんそのなかにいて、幸せそうにほほ笑んで、周りを見回している。
まずまっさきに私が胸を開いて、わずかに残された血液を啜らせる。
それからはお互い顔を見合わせながら、順ぐりに。
にまにまと悪戯っぽく笑う小僧の下敷きになってゆく。
もぅ。すぐに汚しちゃうんだから・・・
さいごに娘のくすぐったそうな声が、消えかかる星とともに朝焼けの彼方に吸い込まれていった。


あとがき
前作は血を吸われたものがまた別のものの血を吸って・・・というお話でした。
今回は、ひとりの吸血鬼がある家族をひとりずつ、血を吸ってゆくお話です。
どちらがぴったりくるでしょうか?^^

順番

2006年02月20日(Mon) 09:09:31

夜更け。
母の寝室に、ふたつの影が浮かび上がっている。
ひとりは、母。もうひとりは、もうこの世にいないはずの父。
真夜中だというのに、母は黒一色のスーツ姿。父を弔うための衣裳だった。
父は、黒っぽいマントのようなものを羽織っていた。
ふたりは生前と変わらぬ穏やかな笑みを交わしあっている。
じぶんの血を吸いに訪れた吸血鬼であっても。
それが夫であることに変わりはないようだ。
ふたつの影はやがて身を寄せ合って、ひとつになってゆく。
白いうなじに貼りついた唇は、ひどく蒼ざめていて寒々としていた。

褥のうえに紅いものを散らせて。
母はブラウスの襟首をかき合わせていた。
スカートからのぞくすらりとした脚は、吸血鬼を欲情させるにじゅうぶんな若さに満ちていた。
黒マントの男は、薄黒い沓下に包まれた母のふくらはぎを意地汚くねぶり続けていたが、
そんな失礼な振る舞いも、母は薄っすらと笑みながら許していく。
父を弔うために着けられたはずの装いは、いつか男を挑発し、悦ばせはじめていた。

母が死んで何年も経って。
傍らに寝ていた妻が「お義母さま・・・」ひと言、呟いた。
おとがいを仰のけたネグリジェ姿から起き上がった姿は、懐かしい顔でほほ笑みかけていた。
「ボクのほうが先じゃないの?」
咎めるように口にすると。母は蒼白い頬に笑みを浮かべて、
そうだったわね。そういうと、こんどは私のほうへと身を投げかけてくる。
チクリとする微痛―――。
母は、痛くないようにと気を遣ってくれていた。
すうっと気が遠くなるような一瞬だった。
いいよね。母さんからもらった血だからね。
そう呟きながら。
傍らでは妻が、しっかりするのよ、と励ますように、私の掌を握りしめていた。

ひゅうひゅうと冷たい風が頬をかすめてゆく。
目指すのは我が家。
夜も更けたというのに、妻の寝室にはぽつんと灯りがともされている。

死後の再婚は自由だと言い残した私の言いつけを半分守った妻は、私の友人を情夫に選んでいた。
夜ごと妻を訪れる私はしばしば、ふたりの乱れ合うところをさえ目の当たりにしてきた。
眩暈のするような嫉妬に胸を焦がしながら。
人と人とが愛し合う絶妙の光景に見入ってしまった日々。
そんな日々すら、もはや遠い。
家族ぐるみのつきあいのあった情夫は、女の血を欲しがる私のために自分の妻を連れてきたりもした。
夫婦ながら血をくれたふたりはいまごろ己の墓場を抜け出して、自分たちの息子夫婦のところに行っているはずだ。

ほとほとと窓を叩くと。
妻はネグリジェ姿のまま、私を引き入れた。
「娘夫婦はまだだめよ。子供を生んで、育ててから」
蒼ざめた頬を心地よげにゆるめた妻はそういって、悪戯っぽく笑いかけてきた。
私の番がきたら。息子のお嫁さんの血をいただこうかしら。
冷たい腕に抱かれながら、ウットリとなった妻はそういって、白いうなじをさしだしてくる。

薄い沓下

2006年02月20日(Mon) 08:50:00

「もう、恥ずかしいですわ」
妻の由貴子は口許に手をあてがって、
薄い唇からのぞく白い歯をさりげなく隠していた。
画面には、彼女がヒロインの吸血シーン。
白のワンピースに血をしたたらせながら、いつか悩ましげに身をのけぞらせ脚を開いてゆくところが鮮明に映し出されている。
「もぅこの時点で、完全に降参しちゃったんだね」
「いやですわ。そんなふうにおっしゃって」
私の問いを受け流しながら、目は熱っぽく、画面のなかの所作を追っている。
長いまつ毛が憂いに濡れて、いく度もしばたたかれた。

着ているワンピースを腰までくしゃくしゃにたくし上げられて、さいごに挿入を許すシーンに。
「あっ、見ないで・・・」
妻は飛び上がって、私の手の甲を抑えつける。
言葉とは裏腹に、声は嬉しげに華やいでいた。

傍らで私たちのことを得意気に見守るのは、妻のワンピースを汚した張本人。
ズボンの下に履いている薄い黒の沓下に、青白い肌が透けていた。
「家内のものだね?」
私が訊くと、ふふん・・・と、照れたような含み笑いがかえってくる。
モノにした女の下着をせしめてゆく癖は、夫の私さえもなぜか昂ぶらせてしまう。

お洗濯

2006年02月20日(Mon) 08:39:41

眩しい太陽が部屋の奥にまで差し込んでくる、朝のひととき。
妻は洗濯機のまえ、なかの衣類を引っ張り出している。
ゆっさ、ゆっさとリズミカルに揺する体の動きにあわせ、
束ねた長い黒髪が尻尾のようについてまわり、水玉模様の白のワンピースがさやさやと踊っている。
私の前でみせる淑やかさをかなぐり捨てた所作のなか、
若妻の生気がなまの色気を振りまいている。
足許に積み重ねられてゆく衣類はまだ洗濯前のもの。
繊細な衣類をネットに詰め替えたりするために、いちどすべての衣類を出すという。
まだ濡れの残っていそうなショーツに、情事のとき穿いていたストッキング。
そんなものもむぞうさにネットのなかに詰めてゆく手つきには、夕べのなごりなどみじんも感じられない。
彼女に覚えのないはずの黒のスリップが出てきた。
下腹部のあたりに粘った濡れを認めると、妻はちょっと顔をしかめて。
それでもむぞうさにネットのなかに差し入れた。

ふと振り向いて。
妻はハッと顔色を変えて立ちすくむ。
薄っすらと人のわるい含み笑いを浮かべた黒衣の男が、妻の背後に音もなく立っていた。
「こっ・・・困りますぅ」
哀願するような目が、かえって男をそそったらしい。
男は妻の二の腕をつかまえて、力まかせにぐいっと引いた。
うなじを咬まれるとき。
壁ぎわに抑えつけられた妻は、痛そうにキュッと瞼を閉じていた。

ちゅ・・・ちゅうっ。ずずっ・・・っ。
家事の真っ最中にあがる、時ならぬ吸血の音。
からみ合いせめぎ合うふたつの体のすき間から、絶え間なく洩れてくる淫らな響き。
  美味いぞ。
  そんな・・・
  若いね。
  いまさらなにを・・・
  どれ、もう少し。
  あっ、もう、そんな・・・
ことばのやり取りよりも濃厚な交わし合いをつづけるうちに。
きらきら輝くバラ色の破片のような飛沫をワンピースのあちこちにほとばせながら、
  あっ。うぅん・・・
妻はいつの間にか、悩ましく眉を寄せている。

ごつごつとしたフローリングの上に横たえられた、白のワンピース姿。
黒の水玉模様のうえにぼとぼとと、深紅の水玉がちりばめられてゆく。
うなじに唇を這わせ、吸い取り、のけぞる体を抑えつけ。
吸い残したものをこれ見よがしにしたたらせ・・・
そうして彼はそろそろとワンピースのすそをたくし上げていって。
静かになった妻の太ももをあらわにして。
透明なストッキングによぎるつややかな光沢に魅せられるように、
唾液の浮いた唇を、ぬめらせるようにして吸いつけてしまう。

はぁ・・・はぁ・・・
はげしくかぶりを振って。
焔のような吐息に肩を震わせて。
妻は悶えながら、腰までめくりあげられたワンピースの奥に、結合を許してしまっている。
もはや侵入と抗いとではなく。
切なく身をよじらせる共同作業となっていた。
妻は頬を真っ赤に上気させている。
お前は肌が白いから、頬っぺを染めるとよけいに目だつのだよ・・・
いちぶしじゅうをのぞいている私の太ももを、熱いものが濡らしはじめている。
洗濯物は、まだ増えるらしい。


あとがき
いつもながらのストーリーにおつき合いいただいてありがとうございます。
ひとつ作品を考えていまして。
これはその習作のひとつです。

母親の血

2006年02月19日(Sun) 16:51:43

どんなにもてない男でも。
この世にただひとり、奴隷にさえできる女性を持っている。
それは、母親という女性である。

血を吸われて吸血鬼になったその青年は。
ある雨の晩自分を埋めた墓から這い出してきた。
放り出されたような孤独感を抱えて彷徨う、しのつく小雨の夜の路地。
あてもないまま足を向けるのは、やはりかつての我が家だった。

ほとほと・・・ほとほと・・・
音を忍ばせてノックする向こう側。
父親はいつになく厳しい顔をして。
入れてはいけないよ。
そう、妻にいいつけていた。

父親は、己れも妄念をふり払うように寝酒をぐいっとあおると、
そのまますやすやと寝息を立ててしまっている。
寝酒に入れられた眠り薬の効き目を見届けると、
母親はドアを開けて、生前とおなじ暖かさで息子を迎え入れる。
おかえりなさい。血が欲しいのね?

口もきけないくらいに冷え切った体を支えるようにして浴室に連れてゆき、
息子が湯浴みをしているあいだ、彼女は寝巻きからよそ行きの服に着替えてゆく。
なるべく質素に・・・と思いながら。
ブラウスに純白のシルクを選んだのは。
ストッキングに肌の透けるものを選んだのは。
果たして、息子にへの心遣いなのか。
それとも、これからわが身にふりかかる運命を前に、せめて美々しくわが身を飾りたかったからなのか。
胸わななかせて待つ女のまえで、浴室の扉は開かれた。

いつもなら肌をピンクに染めているはずの湯上がりに、息子はまだ蒼ざめた肌のままでいる。
なにが足りないのか、お互いにわかっていた。
ひたと見つめる母親の目線を受け流すゆとりもないままに、息子は見境なく迫ってくる。

生贄となることを忌み嫌って逃げ惑う人妻を演じながら。
あとずさりした彼女は自らわが身を追い込んで、
待ち構えていたように立ちはだかる壁際に背中をおしつけていた。
貞淑な妻でもあった母親は、あらがいひとつみせずに抱かれるわけにはいかなかったのだ。
家じゅうを音も立てずに逃げまわったすえ、
これで、お父さんへの義理は果たしたわ。
彼女はホッとしたように軽くため息をつくと、
さぁ、お吸いなさい・・・
はだけたブラウスからこぼれる肌を。
生え初めた毒牙のはみ出たわが子の口許に、すすんで押しつけてゆく。

ちゅ・・・ちゅ・・・う・・・っ
最初は、ためらうように。
やがて、むさぼるように。
勝ち誇るように力をこめて抱きすくめた腕のなか、
息子は母の生き血を啜る。

頬が、笑んでいた。唇が、悦んでいた。
嬉々として圧しつけられてくるヒルのように飢えた柔らかい唇に傷口を吸われながら、
美味しい?喉は癒えた?母さん、まだまだ若いでしょ?
そう囁きながら、恋人同士のように自らも息子の背中に腕をまわしてゆく。
純白のブラウスにてらてらと光る、魂の破片。
いちどは振り乱した髪をととのえながら。
不規則なばら色のストライプ模様に染めあげた着衣を見回して。
お行儀悪いわね。
眠たい目で優しくにらむ。

もはや、単なる栄養源ではなかった。
母の体内から吸い取った、どんよりと濁った赤黒い液体。
魂のかけらにこめられたなまめかしい生気はいたわり深い情愛をよぎらせて、
冷えひからびた息子の血管にそそぎ込み、暖めてゆく。

母さん、ありがとう・・・
力を喪って倒れ臥した小柄な女体を押し戴くようにして。
息子の瞳は切実な色に満たされる。
それでも離れがたくまとわりついた獣としての本性から
すんなりと伸べられた足許へとかがみ込んでゆき、
黒のストッキングになまめかしく彩られた太ももに、
甘えるように唇を這わせてゆくのを忘れない。
「吸血幻想」2月19日掲載

慰めてあげる

2006年02月11日(Sat) 07:44:38

「傷ついているのね?・・・苦しんでいるのね?」
ひくく落ち着いた声色が、ベッドに突っ伏した耳もとに囁きかけてくる。
それでも少女は濡れた瞳をあげることができなかった。
初めて味わった失恋に、自己のすべてを否定されたようで。
苦く重たく冷たいものが、胸のすみずみにまで満ちている。

振り返る必要は、ないのかもしれない。
声の主は、幽鬼だった。
いつの間にか身の回りに出没するようになって。
ときにはキリキリと痛いほど腕を巻きつけてきて、うなじや足許から血を吸い取ってゆく女。
誰も助けてくれない。気づいてさえくれない。
そんな周囲の状況に、いまはすっかりなれてしまったこのごろだった。
―――彼に会いにいくの?いいわよ。ちょっとのあいだは離れてあげる。
どうやら年上らしいその女幽鬼は意外に物分りよく振る舞って、少女をいちどならずホッとさせたものだった。

空気に透けた掌が、そうっと包むように、涙に濡れる少女の掌に重ねあわされる。
―――慰めてあげるわね。
耳もとに囁く口許がうなじに吸いつくと、ジリジリとした牙がいつものように素肌に滲み込まされてゆく。
「や、やめて」
少女は声をあげた。
この期に及んで、私を苦しめるの?
―――苦しめる?
うなじから口を放して、女は訊き返す。
フフッと笑んだ吐息が、耳朶に流れ込んできた。
「だって、いつもそうじゃないの。しびれ薬みたいなもので、私を酔わせて。そのあいだに血を吸い取ってゆくんだわ」
―――あら、心外ね。
女はなおも、少女の両肩に掌を這わせるように重ねてくる。
―――慰めているのよ。こうやって、ぞんぶんに・・・
踊るように背中のうえをすべってゆく掌が、ひどく心地よい。
相手の術中に堕ちると知りながら、少女はつい、その掌に身をゆだねてしまっている。

―――こうすることでしか、伝えることができないのよ。貴女を好きだということを・・・
どこか悲しげな響きを帯びた女の声色に、気持ちを同じくしてくれている気配がありありと伝わってきた。
誰もわかってくれない悲しみを、ともにしてくれている・・・
そんな想いが、少女をすこし和ませた。
酔わされはじめた少女は静かにうなずくと、うなじに刺し入れられてくるものを、もう拒もうとはしなかった。


あとがき
今朝の「魔」が囁きかけるのは、女吸血鬼の世界のようです。
男が女の血を吸うときと比べて。女どうしの吸血はどこまで心を通い合わせることができるのでしょうか。
前作に現われた女吸血鬼たちとはちがって。
一見執拗につきまとっている幽鬼は、姉のような優しさで少女を包んでいるようです。

妖しい来訪者

2006年02月11日(Sat) 05:58:28

―――ごめんください。
声がしたのはすでに、玄関の内側だった。
え?鍵しめておいたのに。
みどりは訝しそうな顔をして、勉強部屋を立って階下におりていった。

あでやかなひと・・・
深紅のブラウス。白いスカート。
ふさふさとした茶髪に囲まれた、白く整った面貌。
真っ赤な紅を刷いた口許に、どこか人のわるそうなうすら笑いを浮かべている。
「お母さまはお戻りかしら」
「エ・・・母は留守なんです」
なぜかこの美しい訪客の相手を長いこと続けてはならないような予感がして、
少女はせかせかと落ち着きのない声で答えていた。
「まぁ、そう邪慳になさらないことよ」
そんな少女の反応を、女はおうように受け止めて。
口許に浮かべた含み笑いをいっそう濃く滲ませた。
「じゃあ、お嬢さん。あなたが身代わりになって。お食事をさせてくださいな」
知人の家でお茶を出してもらうようなさりげなさで。
でもこの女(ひと)の要求が、なにかもっとまがまがしいものを含んでいることを、少女はいやでも感じ取ってしまっている。

「あがらせていただくわね」
女はそういうと有無を言わせずに、
透明なストッキングのつま先をフローリングの上に滑らせた。
「あ・・・あの・・・」
あたし、料理苦手なんです・・・などと。
少女がとんまな返答をするまえに。
女はみどりのふっくらとしたうなじをつかまえていた。
「ひ・・・っ」
少女は完全に、怯えている。
「こういうおイタは、初めてのご様子ね」
女はどこまでもにこやかに、そして冷ややかに。
少女の怯えを観察している。
―――母さん、早く帰ってきて・・・
必死の願いをかき消すように、おおいかぶさってくるものが少女の視界を遮った。

「だいじょうぶよ。ちょっと痛いけど。すぐに慣れるわ」
ひくく落ち着いた声色で。
女は謡うようにそういうと。
いやいやをする少女を圧倒するほどのあでやかさで、迫ってゆく。
体を硬直させて、ひくひくと喉を痙攣させている少女を腕のなかに取り込んでしまうと、
女は、口の端から光らせた鋭利な牙をチカリと光らせた。
―――ごめんあそばせ。
含み笑いはどこまでも、冷酷だった。

ずず・・・ずずず・・・っ・・・
見かけの優雅さと比べて、飢えた女の所作はひどく性急だった。
傷口からあふれるばら色の液体を汚らしい音をたてて飲み込んでゆく面貌は浅ましく歪み、
少女のわななきを愉しむかのようにして、着衣のうえからのまさぐりを止めようとしない。
・・・美味しい・・・美味しいわ・・・
うっとりとした唇をなおも近寄せてくる女に、みどりはただ怯えきって、いやいやをつづけるだけだった。

ひざ下までぴっちりと引き伸ばされた白のハイソックスだけが、もとのままだった。
まだ初々しい乳房が控えめな隆起をみせているのも。
だらりと開かれた股間から淡い茂みが生え初めているのも。
気を喪った少女のすべてが、さらけ出されている。
ホホ・・・
少女の血が、よほど気に入ったらしい。
女は少女から獲た生き血をわざと少女の頬に塗りつけて、ついでに自分の頬にも塗りたくり、
爪にはマニキュア、唇には口紅をさすように。
きらきらと光る少女の血で、自らを彩ってゆく。
まぁ、いくら吸っても吸い足りないくらいのものね・・・
そんなふうに嘯きながら。
豊かな乳房を持つ「女」はスカートのなかの股間をさらけ出す。
そこには少女の父親が持つはずのものがぴいんと逆立って、赤黒い欲望を滾らせていた。
「いただくわね・・・」
少女におおいかぶさってゆく吸血鬼は、なおも含み笑いをやめなかった。


あとがき
「ふたなり」の吸血鬼さんだったのですね。^^;
あくまで女のように優しく、意地悪く少女に迫っていきます。
帰宅したお母さんはさぞやびっくりされたことでしょう。お大事に・・・

夜の奇蹟

2006年02月10日(Fri) 07:13:58

夜も更けた。
妻は、今夜は帰らない。
日が暮れたころ、いつもより濃い化粧を刷いて。
肌寒い季節だというのにノースリーブのジャケットに若い女の子のようなミニスカート、テカテカのストッキングに銀色のピンヒールサンダルを履いて、ウキウキとして出かけていった。
吸血鬼の邸に、抱かれに出かけたのだ。

私の家は、「ろ組」と呼ばれている。
婚約者が処女のうちに吸血鬼に饗することを課せられた家。
結納をすませた夜。
「彼」は初めて、彼女の寝室の窓辺に立った。
私の許婚は処女の生き血を吸われつづけて、そのあいだの数ヶ月、祝言は先延ばしにされた。
身持ちの正しいまま嫁ぐことは許されるものの。
若妻の血潮を捧げることも強いられて。
子供が大きくなってから、通りがかりを待ち伏せされて。
とうとう花柄のワンピース姿を草むらにまろばされてしまった。
吸血鬼といちばん親密な絆を持つ「い組」では、花嫁の純潔さえあきらめなければならなかった。
どちらのほうが幸せなのか、この村では結論が出ていない。

家のなかを支配する薄闇の彼方に、白い影がすうっと佇んだ。
娘の有紗だった。
こんなに遅い時間には不自然な白一色のワンピースに、長く垂らしたポニーテールの黒髪が映えている。
いつも無表情な子だった。
浮気に出かける母親の姿をどう思っているのか、きょうも感情を消した顔つきをして見送っている。
「眠れないの?お父さま」
躾けの行き届いた娘。
妻はこういうところでは手堅い主婦を演じてきた。
「お母さま、吸血鬼のおじさまに抱かれにいらっしゃっているんですよね」
かしげた小首の動きにあわせ、豊かな黒髪がさらりとワンピースの肩先に踊った。
「いまごろ、どうしていらっしゃるのかしら」
まだ幼さののこる年頃に似合わず、大人のそそるようなことを口にする。
ひからびた血管がにわかに疼きはじめてきた。
妻の情夫の渇きを飽かしめるために供された私の血。
いまはもうほとんど吸い尽されて、私自身が半吸血鬼になっている。

「どうぞ」
有紗は目を閉じて、おとがいを仰のけてくる。
恋人の接吻を迎える若い娘のようだった。
いつしか大人びた輪郭をもち始めた娘の顔をいつくしむように撫でながら、
私は恥ずかしい欲情に身を淪めた。

つ、つ―――っ・・・
赤黒い血がひとすじ、ふたすじ・・・
まっ白なワンピースのうえをしたたり落ちる。
それを厭うふうもなく、有紗はためらいなく若い血を吸われつづけた。
暖かい血液が喉のなかにまとわりつくようになじんで、どんよりと心地よくよぎってゆく。
―――近親の血にこそ、最高の味わいがある。
妻の情夫のうそぶきが、ふとよみがえった。
「ハイソックスも、いいわよ。お父さまのために穿いてきたの」
ふくらはぎをひざ下までぴっちりと蔽っているストッキングのように薄い白のハイソックスは、少女の足許を蒼白く染めている。

圧しつけた唇の下。
ひんやりと乾いた薄手のナイロンのさらりとした舌触りを覚えながら。
キュッとこわばったふくらはぎに、深々と牙を埋めていた。
旨い・・・
心のなかの呻きが届いたものか、なよやかな掌が私の頭を包むように抱いた。
ごくり・・・ごくり・・・
喉を鳴らして飲み味わう、まな娘の血潮。
頭上に優しい色を帯びた目線を感じながら、私は自らの浅ましい行為をとどめることができなかった。

「いつかわたしもあのかたに、犯されてしまうんですね」
ため息交じりの声は、大人の女性のように胸に沁み入ってきた。
つぎの瞬間。
嵐が吹き過ぎ、均衡が失われた。
板の間に押し倒した有紗は、私の下でほほ笑んでいる。
「して・・・くださいますね・・・」
声色はさすがに、震えを帯びていた。
なにかを授けるような。
そんな想いはつかの間に消え果てて。
激しく切ない吐息を荒げて。華奢で柔らかい獲物をむさぼってしまった恥ずかしい刻。
それでも私は息を弾ませてすがりついてくる少女を夢中になって抱き寄せて、恋人のように交接を遂げていた。
若い肌とすれ合うごとに、肉体が久しぶりに血を沸き立たせ、喪われたものをよみがえらせてくるようだった。
ドアの向こうからひっそりと注がれてくる息子の視線に気づきながらも・・・
私はなおいっそう昂ぶってしまう自分をどうすることもできなかったことを白状する。
純白のワンピースの裏地は、すこし前に流されたのとは違う色の血で薄っすらと染められていた。

あくる朝。
娘はなにごともなかったかのように、しかしいつになく上機嫌だった。
黒のスカートの下には、若いOLが穿くようなダイヤ柄の黒のナイロンハイソックス。
戻ってきた妻もご機嫌で、今夜のご飯は赤飯ね。そんなふうにウキウキと台所で立ち働いている。
息子は知らん顔をしながら、私が読み捨てた本に目をおとしている。
そういえば昔。
母さんがワンピースを裂かれた姿のまま家に戻ってきたときに、私も父の読みさしの本を読むふりをしながら。
お腹の奥を焦がすようなじりじりとしたものを覚えたものだった。


あとがき
白一色の衣裳は時として、処女を喪う覚悟をかためた少女の心意気を伝えることがあるようです。

寄り添って

2006年02月10日(Fri) 06:07:18

連れ立って歩く、細い肩。
長年連れ添った妻はいまでもじゅうぶんに若さを帯びている。
行き着く邸に待ち受けるものは、
そんな妻から若さを獲ようとする吸血鬼。
若さを愛でる彼の前。夫婦ながら若さを誇りながら。その若さを捧げてゆく歓びに酔い痴れて。
妻を伴ってのお邸通いをつづけて三月めになる。

本当に、乱れてしまってかまわないのですね?
妻は私を振り返りながら。
甘くほころびた口許が告げていた。
―――構イマセンヨネ?愉シンジャッテモイイノデスヨネ?
それは嬉しげにほころびを見せる、まだ若々しい口許。
彼と三ヵ月以上交際したものに課せられる、貞操喪失の試練。
それをいま私たちは、快く受け入れようとしていた。

ブラウスに紅い飛沫を散らしながら。
妻は髪をほつれさせ、はぁはぁと肩を上下させている。
うなじにふたつ、綺麗につけられた傷口は。
まだ乾き切っていない血のりをてらてらと光らせている。
妻を襲っている吸血鬼はにんまりと笑んだ口許を、
肌色のストッキングに包まれた太ももに這わせている。
しどけなくめくりあげられたこげ茶色のスカートからにょっきりのぞいた太ももは、
ストッキングのなか、まだじゅうぶんに若さを帯びて、ぴちぴちと輝いてみえる。
ヤツが唇にひときわ熱をこめると。
びち―――ッと鋭い音を立てて、ストッキングが裂けてゆく。
とろけるような、他愛なさで。
破けちゃったね。
妻は悪戯っぽくそう呟いて。
足許を這ってゆく伝線を面白そうに見おろしている。
淑女でなくなる妻。それを暗示するように。
繊細なナイロンはいびつにゆがみ、
地味なこげ茶色のスカートは手を差し入れられて、ふしだらなしわを深めた。

さぁて、そろそろ。お愉しみといこうかな?
上目遣いに、にんまりと。
これから妻を犯そうとする男はいっそう嬉しげに、そう私に笑いかける。
私はもう酔っ払ったような気分になっていて、つい禁断のなかに脚を踏み入れてしまった。
首を縦に振る・・・というじつにかんたんなしぐさで。

くしゃくしゃに乱されたベージュのブラウスはやがて花びらのように裂き散らされて。
ずりおろされたレエス柄のブラジャーからは乳色の肌をしたおっぱいがぷるんとあらわになっている。
まだ胸に帯びていた銀色のネックレスだけがかろうじて、彼女が淑女であったことを告げるようにひっそりときらめいていたけれど。
地味なこげ茶色のスカートを、腰まではしたなくまくり上げられて。
妻はもう白い眼になって、陶酔の愉悦に浸りきっている。
ひとつになった腰と腰。
清冽な血潮の流れを獲た見返りに、びゅびゅうと勢いよく注ぎ込まれる濁液。
そのほとびが、夫婦で握り合った掌を通して伝わってくる、忘我の刻・・・

寄り添いながら。
失血とともに喪われてゆく体温と、肌のほてりを濃くしてゆく熱情と。
そのふたつをふたつながら感じ取って、
大切なものを抜き取られてゆく苦痛と愉悦を妻もろともに感じ合う。

家柄

2006年02月10日(Fri) 05:45:45

友人のFはかつて、夜の客人となった吸血鬼に妻を差し出したという。
柱に縛りつけられて、貞操までねだり取られてしまったという、忘れがたい一夜。
そのときの想い出を、いまは誇らしげに語る彼。
吸血鬼と交わりを結んだものたちは、妻や娘、母や妹を犯されることで、より深い満足を覚えることになる。
もっとも愛する近しい女性を共有することで、かれらとの固い絆を実感するからなのだろう。

深いつながり・・・という意味では。
私の家もかれらと深く結ばれている。
彼は処女で嫁入った妻を与えたわけなのだが。
それはもとより、高価な生贄であることはいうまでもないのだが。
私の親族はみな例外なく。
妻となる女性を処女のうちから引き合わせるしきたりを持っている。
そう。
我が家を訪れる吸血鬼たちは皆、処女の生き血を愉しむことができるのだ。

そんな私の家ですら、Mの一家にはかなわない。
吸血を体験した妻はいまでも、嫁入り前に寝室を訪れる吸血鬼との逢瀬を嬉しげに口にするのだが。
彼の家では捧げられるのは血液ばかりではなく。
初夜権の行使すらも含まれている。
母親は嫁入り前に父に連れられて。
妹は学校帰りに俺が連れて行ったんだ。
そして今夜は彼女の番・・・
困ったしきたりだよ・・・
そう呟いた彼はさして困ったふうもなく、
向こうでほほ笑みながら待っている着飾った婚約者のほうへと去ってゆく。
純白のスーツを穢されると知りながら、ふたり連れ立って若い歩みを進めていった。


あとがき
妻の操を与える家<処女のうちから生き血を与える家<処女を犯すことまでも許す家
という感じでしょうか。
「被害」の度合が大きいほど、高い家柄となるようです。

処女喪失の神秘

2006年02月10日(Fri) 05:32:44

おなじときに描くものは、どうしてもにたようなモチーフを帯びるようです。
きょうのテーマは「処女喪失」でしょうか。それとも、「代替わりの奉仕」でしょうか。(笑)

吸血鬼が襲うのは処女である・・・というのが通り相場のようです。
婚約者や父親の目を盗んで。
夜な夜な処女を呼び寄せて逢瀬に耽る吸血鬼。
忌むべきナマナマしい吸血の音とともに、白いネグリジェに身を包んだ若い女性におおいかぶさったりします。^^
どういうわけかこういうシーンにときめく男女が多いからこそ、
彼らは時を超えて活躍することができるのでしょうね。

たびたび書いてきたことの繰り返しになるかも、ですが。
処女の血を吸う、という行為から見えるものは、
彼らが欲している生命力や若さを摂取する、という面と、
もっとロマンチック、ないしエロチックな面だと思います。

古典的な映画や小説の場合、吸血鬼はたんなるマーダー(殺人鬼)ではなく、血を吸っている処女に対する恋情を秘めているようですが、
ものによってはその熱情が恋人のほうにも乗り移り、
己の血を吸う忌むべき存在を、婚約者とはべつに愛するようになったりさえします。

夫たるべき人の目をかすめて情を交わす・・・という世界は女性にとってはウットリする世界であるはずですが。
それはまぁさておいて、そうして血を吸っている吸血鬼が情交にまで及ぶというシーンは皆無に近いのではないでしょうか。
血を吸う・・・ということで彼女のすべてを支配してしまう以上、あえて人間レベルの愛情行為である挿入を必要としない・・・ということなのか、
生殖ということの入りにくい種族である彼らにそういう習慣がない・・・ということなのか、
定かではありませんが、もっと深い理由があるような気もします。

牙で咬まれるのは破瓜の隠喩、という話もしばしば出てまいりました。
けれども、実際の破瓜に及ばないのはどうしてでしょうか。
多くの場合ヒロインはほんらいの婚約者のもとに戻りますので、
彼女たちの結婚生活を考慮して・・・んなわけないですよね。^^;

どちらにしても、「処女」というものに重きを置いているのは間違いないことでしょう。
どう考えても、恋情をもち処女への欲求のある彼らが、ヒロインを性的に抱かないということは想定しにくいように思うのですが。

吸血鬼と友好的な人間にとって彼らを遇する最高の儀礼はやはり、
吸血の対象として処女を与えること、そして処女そのものも差し出してしまうこと
のように感じます。
そしてその対象が通りがかりの女などではなく自分に近しい存在~娘とか婚約者とか~であれば、さらに厚い儀礼であると言えましょう。
もとより禁断のお話であるのですが。
そんなこともあってか、処女を与える男たちのお話は、オトナな人妻の熟したロマンスとおなじくらいの比重を占めていたりするのです。

・・・なんかわけのわからないお話になってしまいましたね。いつもながらわかりにくくてごめんなさいです。^;

お嫁に行けなくなる公園 2

2006年02月10日(Fri) 05:08:36

女学校の帰り道、生徒たちが必ず通るようにと校則で決められた公園。
そこは血を吸う性癖の幼い悪戯坊主たちが出没する、禁断の茂みがある。
夕方の散歩を愉しむカップルさえしばしば餌食にされる、危険地帯。

男子生徒たちの性行為は教育上好ましくないとして、固く禁じられていた。
早くに許婚を定められた少年たちはそのために、相手の少女たちを自ら犯すことは許されない。
許婚に選ばれた少女の裸をどうしても見たい・・・
そういう好奇心あふれる男の子たちは、許婚たちにねだって、
学校帰りを遅くして、クラスメイトのだれよりもあとに公園を通るように頼むのだった。

そんな男の子が三人も、公園の茂みの向こうからなかを覗いている。
なかでくり広げられている、結果のわかった鬼ごっこを見るために。
茂みのあちこちで少女たちの声がはじけ、つぎつぎとつかまえられてゆく。
「ア・・・」
ひとりの少年がうめいた。
許婚がセーラー服の肩をつかまれていた。
相手は自分よりずっと年下の男の子。
彼はにんまり笑むと見かけによらぬ強い力で少女を組み伏せて、
ちかりときらめかせた牙を素早く白いうなじのつけ根のあたりに埋めている。
「ひでぇ」
べつの少年が舌打ちをする。
彼の許婚はセーラー服の上からなだらかな隆起をもみくちゃにされていた。
さいごのひとりが捕まえられて、クラスメイトとならんで草地に寝かされてしまうと、
少年たちはもう声も洩らさずに、おのおのの許婚がどんなふうにあしらわれるのか血走った眼で見つめつづけた。

プレゼントの包み紙を破くように、他愛なく剥ぎ取られてゆくおそろいのセーラー服。
あるものはストッキングをずり下ろされ、あるものはハイソックスの脚を不自然な角度に押し開かれてゆく。
ウ・・・ウ・・・
食いしばった白い歯は、快感を覚えまいとするさいごの抵抗。
やがて少女たちは唇をわななかせながら理性を喪ってゆき、
いつか年下の男の子と腰のうごきをひとつにしている。
散らされた初々しい涙がやがて、上気した頬のうえでかわくころ。
少年たちは自分の許婚が愉しみはじめてしまっていることを、男の子の背中に回された細い腕の震えで見取ることになる。

それから十なん年もたって。
美奈子さんがいちばん早く堕ちたんだぜ?
うちのやつなんか、さいごまでがんばってたんだもの
でも、昂奮したよねぇ
そういいながら。
父親になった彼らはまた、娘たちをおなじ公園に送り出している。
男どもの悪さは、いくつになってもおさまらない。


あとがき
「お嫁にいけなくなる」といいながら、しっかり嫁におさまっている女学生たちのお話になりました。
いまでは死語となっていますが。
この形容、「嫁入り前に襲われて処女を喪うこと」の慣用句として使用されていました。
処女ではなくなった娘は「キズもの扱い」されて、一段価値の低いものと見なされていたのですね。

村の習慣も忌むべきなのですが。
中途半端に偽善的な「教育的指導」はさらに罪深いのですが。
いちばんよくないのはやはり、こまった男どもなのでしょうね。^^;

草むらの彼方で

2006年02月10日(Fri) 04:47:19

だいじょうぶ?
ふらっ、とよろけた少女の肩を抱きながら、吸血鬼は彼女の耳もとに囁いた。
気遣わしげな口調に安らぎを覚えたのか、少女は穏やかに頷いた。
むこうのほうから、ひくい口笛が聞えてきた。
あ。
少女は顔をあげて、口笛の鳴るほうを振り返る。
おじさん、もう少しあっちのほうで。
口ごもりながらうつむく少女の言うなりに、
草むらから少し出た石畳のあたりに足を進める。
黒の革靴にまっ白なハイソックスを履いた少女の脚が、さきに導いた。
照れくさそうに笑みながら、手を振っている青年。
婚約者なんです。
少女はそういうと、ちいさく手を振った。
あなたといっしょにいるところ、みたいんですって。
青年の手首を布切れで、傍らのベンチに縛りつけられていた。
さ、このへんでいいわ。
少女は石畳のうえに自分から横たわる。

いいのかな・・・?
イタズラっぽい囁きが熱い息吹とともに少女の耳朶をくすぐった。
エエ、いいわ。
少女はお人形のように無邪気な眼で吸血鬼を見返して、
乱れかけたスカートのすそからのぞいた発育のよい太ももをすうっと自分からおし広げた。

さやさや・・・さやさや・・・
まだ淡い色をした草むらが心地よい春風にそよいでいた。
その彼方、なれ初めたふたりの姿が朧になって見え隠れしていた。
密かごとを包み込むようにそよぎつづける若草のなか、
幼い許婚は吸血鬼の腕に抱かれ、あやすような愛撫のなかで白い手足を惑わせている。
草むらの彼方で無邪気に笑いながら純潔を散らしてゆく幼い許婚を見守りながら、
青年は彼女に結んでもらった布切れとの綱引きを、いつか愉しみだしている。
布切れにみえたのは彼女からの贈り物―――。
彼女が初めて脚に通したストッキング。

いつもより大人びた装いをみせびらかすように脚を伸ばしながら。
オトナになるのよ、わたし。
その証しを見てくれる?
仰ぐように振り返り笑いかけてきた許婚のお願いに、魅き込まれるようにして頷いてしまってる彼だった。

描かれた未来図

2006年02月10日(Fri) 04:32:10

少年のころ愛読していた図鑑が出てきた。
「未来の日食」
19××年×月×日  ○○○地方
19△▲年△月△日  ××地方
書かれてある年代は、もうとうに過ぎ去った過去のもの。
たしかに予定通り日食があったことがわかるよう、
日食を報じる新聞記事も、黄色くなったまま丁寧に折りたたまれている。
それとおなじようにして。
折られた紙片がさりげなく、ページのあいだにはさまっていた。

素敵な女の子を見つけてくれる?その子と仲良くなれるようにしてくれる?
その子は緑色のハイソックスがよく似合う、明るくてとてもやさしい子。
女の子の服が大好きなボクのためにいつもハイソックスやストッキングを履いてきて、いっしょに歩いて寄り添ってくれる。
ほかにどんなかっこいい男や秀才が現われても。
ずっとずっと、ボクだけを好きでいてくれる。
・・・もしも本当にこれだけかなえてくれるのだったら、
デートのときにお邸にその子のことを連れて行って、
緑色のハイソックスの脚を吸わせてあげる。
おじさんだけは、彼女と仲良くなってもらっていいからね。
その子が大きくなっていつもストッキングをはくようになって、
ボクのお嫁さんになってからも、血を吸わせてあげるからね。

いまは傍らに寄り添う妻の、にこやかな笑みが息のかかるところにある。
図鑑の隣りに並べられたアルバムには、折りたたまれた新聞記事とおなじようにして、
モニターカメラからプリントされた写真がなん枚も、セピア色がかったまま貼られていた。
ポートレートのなかで無邪気に微笑む少女は緑色のハイソックスを脚に通していて、それはまごうことなく妻の若い頃のものだった。

緑色のハイソックスを履いた少女が照れながら、まだ髪の毛の黒いおじさんにすねを吸われている写真。
濃紺のプリーツスカートの下で、黒のストッキングに鮮やかな白い筋目を走らせてしまっている写真。
そして、まっ白なワンピースに身を包んだままベッドのなかに組み敷かれて、
肩をむき出しにして、たくし上げられたすそから白い太ももをあらわにしている写真。
あいてはもちろん、ボクではない。

いまでは娘がそっくりに振る舞って。
かつて彼女の母親がそうしていたように、緑色のハイソックスの脚を吸わせてやっている。


あとがき
少年の日の約束がすべて履行されるとき。
すでに若者になった彼は戸惑いながらも、恋人の処女を賞味させていったのでしょうか。
彼女のほうも案外、そんなキケンな関係を面白がって、
まだ熟しきっていない肢体をむぞうさに開いていったのでしょうか・・・

喪ったのか 獲たのか

2006年02月10日(Fri) 04:20:45

姉がお嫁にいくときに。
お婿さんになる人に頼んでくれた。
この子は血を吸う癖があるの。
でも、ちっとも悪い子じゃないの。
お願いだから、あなたの妹さんを紹介してくれるかしら。

姉にぞっこんだった彼は制服姿の少女を家に連れてきて、
自分は姉と出かけてゆき、ボクは彼女と残された。
彼女は、なにもかも聞いているわよ・・・というそぶりをして、
まっ白なハイソックスを履いたふくらはぎを、
ボクが咬みやすいようにじゅうたんのうえに伸べてくれた。

姉はその日処女を喪ったけれど。
彼氏の妹さんはそれからしばしば学校帰りに我が家に遊びに来て。
処女の生き血をご馳走してくれた。
やがて彼女のお母さんもやってくるようになった。
嫁にせがまれましてねぇ・・・
困ったように母さんにそういいながら。
肌色のストッキングの脚をやはりじゅうたんのうえに伸べてくれた。

なん年もたって。
姪が大きくなると。
自分の母や叔母がそうしたように、
真新しいハイソックスや履きなれないストッキングを脚に通して我が家を訪れて。
彼女たちとよく似た香りの血をボクに飲ませてくれるようになった。

姉婿はそんなボクを咎めようともしないで。
いつも女たちの真ん中でニコニコと、なにごともないような顔をしておさまっていた。
もらった嫁のために母も妹も娘までも奪われたようでいて。
じつは彼はなにものも喪っていないのだ。


あとがき
吸血鬼の弟に血をあげていた姉が嫁ぐとき。
あとに残った弟を気遣って婚家の女たちを招き寄せる・・・
そんなシチュエーションを思い浮かべると。
嫁のために犠牲になる姑や、母や妹たちを餌食にされる姉婿さんなどはどんな想いを持つのだろうか・・・などということもあわせて妄想したりするものです。

言葉交わす人 交わさぬ人

2006年02月10日(Fri) 04:11:03

いつも通っている、人妻の邸。
彼女の愛人は、幾人もいるらしい。
だれは何時から。かれは何時から。
興じかたひとつで、指定された時刻が重なり合うこともある。
おなじように出入している男たちと顔をあわせても。
会釈することはあれ、言葉を交わすことはない。
おれの女を寝取っている男たち。
彼らをそんなふうに呼ぶ資格は、もちろん俺にはない。
敵意も憎しみもなく。ライバルと呼ぶ関係なのか。
ただ無表情に会釈だけを投げ合って、彼我の居所を交代するだけ。

そんな俺たちだれもの認識として。
ひとりだけ、一目置いている男がいる。
ほかならぬ、彼女の夫。
俺たちの用件がなんであるのかを先刻承知しているはずなのに。
彼女が迎え入れる男性の誰に対しても礼儀正しく接し、
知的で軽妙な言葉を交わしあって、
俺たちを夫婦の寝室に送り出してゆく。

恥ずかしながら、もう女を抱けない齢でしてね。
どうか、妻のことを悦ばせてやってください。
最愛の妻があなたがたに磨かれて、ますますいい女になるのなら、
それはそっくり私の誇りでもあるのですから。

そうはいいながら。
彼が本当は性的不能者などではないことを、
俺たちは薄々知っている。
彼女をもっとも悦ばせることのできるのは、
ほかならぬ彼なのだから。


あとがき
親しくさせていただいているご婦人方のサイトに私とおなじように訪れている男性と仲良くなるチャンスは、ありそうでなかなかないものです。
この人はなかなかだなぁ・・・と思うことはかなりしばしばあるのですが。
意外に声かけるきっかけがなかったりしますね。
まぁ、私の世界を正確に理解してくれる方は男女を問わず少ないだろう・・・という引け目も手伝って・・・なのかも知れませんが。

早く帰ってきてね

2006年02月08日(Wed) 07:07:40

姉さんが修学旅行に出て、ふた晩になる。
喉が渇くと母さんがうなじをのべて、不自由ないようにしてくれるのだけれど。
くすくす笑いながら制服姿を組み敷かれてくれるイタズラ相手がない日々に、もう死ぬほど退屈してしまっていた。

父さんも母さんも寝静まった、真っ暗な家。
ボクだけはひとり目が冴えて、眠れなくなっている。
かちゃり。
そっと開いたつもりのドアは、音のしない廊下に耳障りにきしんだ。
姉さんの部屋のドアノブをまわすときは、音もなくうまく開いてくれた。
暗闇のなか甘く香る、男の子の部屋にはない匂い。
漂うものにむせながら、ボクは箪笥の抽斗をあけていた。
手探りする掌に、なん度か脚を通したらしいストッキングが、柔らかい感触を伝えてきた。

そのまま部屋に持ち帰って。
縮れたように丸まっている黒い靴下をふくらはぎへ、太ももへとせり上げる。
ふくらはぎの周りを微妙にすれるナイロンが、しんなりとした感触を皮膚に滲ませてきた。
どこか、優しい女のひとが傍らに寄り添ってくれているような。
そんな幸せな錯覚におちる刻。
ぴったりと密着するナイロンのうえから股間をまさぐりながら、
早く帰ってきてね。
呪文のようにくり返している。
衣裳につけてしまった潤いを見たら、姉さんはまたプッと頬をふくらませてボクをにらむのだろうか?

しのつく雨の帰り道

2006年02月08日(Wed) 06:57:10

夕方の下校時間。
道ゆく女学生のお姉さんたちは誰彼となく親切で、
ボクが声をかけると紺のプリーツスカートをたくし上げて、
ストッキングやハイソックスのふくらはぎを惜しげもなく咬ませてくれる。
行きずりにそのようすを眺めている同級生の男の子たちが妬きもちをやくには、ボクは少し幼すぎた。
ちょっぴりトクしたような。悔しいような。
そんな思いを感じながら、もうワクワクとしてお姉さんたちの長靴下によだれに濡れた唇をすりつけちゃっていたりする。

けれどもきょうは、寂しい気分がなかなか消えない。
あの制服姿の行列のなかに、ひろ子お姉さんの姿は含まれていなかった。
誰よりも優しくしてくれた、ひろ子お姉さん。
もう、村のどこへ行っても、あのひとはいない。
都会の学校に行かせますから。
ひろ子さんのお母さんは口ではそういっていたけれど。
本当はもうこれ以上娘がボクに咬まれるのが不憫になって。
ボクから引き離すために都会の親戚のところへお姉さんをうつしてしまったのだ。

しのつく冷たい雨のなか。
活き活きとしたおおきな瞳を想い出して佇んでいた。
頬をよぎる雨のしずくがフッとぬくもりを帯びて。
つぎの瞬間、ボクは見知らぬ街のただ中にいる。

彼方から歩いてくる女学生の一群は、そろって制服姿だった。
見慣れないグレーのベストに、黄色のネクタイ。青のスカート。
都会の女の子たちだと、ボクはすぐに直感する。
想いがこうじたのだろうか。
ボクはお姉さんのいる街に、瞬間移動していたのだ。
雨に湿ったあたりの空気は、田舎の帰り道よりもひとまわり暖かく、和やかで少し埃ぽかった。

「リョウくん?リョウくんね?」
女学生の群れのなかから、聞き覚えのある声がはずんでいる。
真っ先に駈けてきたのは、ひろ子お姉さんだった。
マフラーを首に巻いたお姉さんは、ほっぺを赤くして息を弾ませている。
お行儀よく取り繕った冷たい顔のならぶ中、お姉さんは昔とちっとも変わりがなかった。
白や紺色のハイソックスが目立つなか、黒ストッキングを履いたお姉さんの脚はちょっぴり大人びて目だっている。

大勢の連れたちとバイバイをして。
お姉さんは人けのない路地裏にボクを連れてゆく。
都会の街中には意外なくらい、
人目につかないこういうスポットは、人通りから一歩離れるといたるところにあるらしい
「ここがいいかな?」
左右を注意深く見渡して、お姉さんは目新しい青のスカートをたくし上げてくれた。
久しぶりに這わせた唇の下。
肉づきがいちだんとよくなったふくらはぎを、お姉さんはいつものように、ちょっぴりこわばらせた。
つかの間によみがえった、お姉さんとボクだけの、二人の世界・・・

どちらの脚にも唇を吸いつけて。
甘えるように、思う存分。
お行儀わるくなすりつけてしまった。
ぬるぬるとしたよだれにお姉さんは苦笑いをしながら。
「すこしだけなら、破っちゃってもいいわよ」
ボクはもう後先考えないで、
なめらかなナイロンを通して牙を刺し入れてしまっている。
見慣れない青の制服にようやく、なじみを感じはじめた。

「ちょっと引っかけちゃった・・・って嘘ついても、ばれちゃうわね」
右にひとすじ。左にふたすじ。
足許に鮮やかに走らせてしまった伝線を見おろして、
困ったようなほほ笑みは、まえと少しも変わらなかった。

それからは毎週のように。
都会のお姉さんを訪れる日々がつづいた。
人目を気にしなくてもいいように、近くのスーパーの女子トイレも見つけた。
いっしょに住んでいる伯母さんが、習いごとで木曜だけは家を空けるのだといって、
家にも招いてもらえるようになった。
村にいるころから見慣れた机や本棚が、モダンな勉強部屋のなかに昔と変わらず居並んでいる。
「セーラー服、持ってくればよかったね」
青い制服姿のお姉さんは、ボクの下でイタズラっぽく笑っていた。

半年が過ぎて、ふたたび秋がめぐるころ。
いつも待ち合わせている(待ち伏せている?)通学路に、ひろ子お姉さんとよく似た小母さんがボクのことを待ち構えていた。
―――坊やお願い、こっちへ来て。
逃がさない。
そんな目線の気迫に、ボクは足をすくませる。
引きたてられるように手を引かれた路地裏で、小母さんはしんそこすまなさそうにボクにいった。
「つらいだろうけど、見てちょうだい」
やがて通りかかったお姉さんは、おなじ学年の男の子といっしょに歩いていた。
青い制服のスカートの下には紺のハイソックス。
ボクとは遠い存在の、都会の女学生がそこにいた。

もう、あの子に逢わないでくれる?
あの子のことが好きなのなら、人なみの青春をあの子にあげて欲しいのよ。
せいいっぱい装ってきたらしい肌色のストッキングの脚をさりげなく差し伸べる小母さんにかぶりを振りながら。
それでもボクはさいごの一瞥をお姉さんの後ろ姿に送りつづける。
なにを語っているのか。
お姉さんは楽しげに、ちょっと背の高い男の子に話しかけている。
ボクの知らないお話を。
ふたりを遮るのは、冷たい翳りをもったしのつく雨―――。


あとがき
多くの場合女の子がそうであるように。
男の子は女の子を好きになることで青年になるのでしょうね。

友だちの妻~兄の嫁と弟の嫁

2006年02月07日(Tue) 08:42:37

やっと・・・
女の血にありつけた♪
断られたり、男所帯だったりで、今夜はここで三軒目。
迎え入れてくれたのは、親友のご一家だった。
兄弟とももうお嫁さんをもらっていて。
兄嫁はこのあいだ子供をうんだばかり。
奥さんを差し出してくれたのは、ふだんはあまり言葉を交わさない弟君のほうだった。
寝室にあてがわれた和室のふすまをすうっと開けて。
奥さんはちょっと緊張した面持ちで、私のまえに三つ指を突く。
どうぞお手柔らかに・・・というように。
ふだんはあまり履かないの、といいながら。
肌の透けてみえるナチュラルカラーのストッキングを脚に通して忍んできてくれている。

遠慮がちに肩をつかまえると。
目をそむけながらも抗いもせず、じょじょに姿勢を崩してゆく。
ウフフ。よく心得ているね。^^
内心ほくそ笑みながら。戸惑う顔色にゾクゾクとなって、牙を迫らせる。
奥さんは畳のうえ、困ったように身をよじらせて。
それでもうなじのつけ根をちくん、と牙で刺してやると、
待っていたように抗う手をとめてしまった。

はずんだ素肌の下に息づいている活き活きとした血潮をごくんごくんと呑み込んで。
やっぱり、若いお嫁さんはいいなぁ。
つくづく思いながら抱きすくめる、太り肉の新妻さん。
大柄の身体からは、若い血液をたっぷりと頂戴できることだろう。

そう。学校の先生だったの。
じゃあ、こういういけないおイタは初めてだね。^^
え?お嫁にきたときは処女だったの?
で、まだダンナさんしか知らないの?
そっかあ。お嫁入りまえにお逢いしたかったですね。^^
だって、兄嫁さんのほうは婚約したときに連れてきてもらって。
頂戴しちゃったんですよ。処女を。
あのときちょっと涙ぐんでいたお嬢さんが、もうお母さんになっているのですね。
あなたも、じきのことでしょうから。
もしもどうしてもお子を授からないようで、周りの目にお悩みになられるときは。
どうぞ、私めをお招きください。
精を注いで進ぜましょうから。^^

いかがでしょう?今宵はその、予行演習など・・・
ダンナさまも薄々は、覚悟なさっておいでのご様子。^^
だって、こんな甘い暗闇のなか、男女が肌を触れ合って刻を過ごしているのですからな。
だいじょうぶ。すべてナイショですませますから。
せっかく取り持ってくれた弟さんにも、恥をかかせたくないですし。
貴女の身持ちは堅くって、とうとうお許しいただけなかったのだと。
とりあえず、嘘をついておきますから。
そのほうが、ご主人も救われる・・・というものですよ。

たまに、ダンナさんに内緒で逢ってくれませんか?
ご主人もなかなか、味なお方ですな。
「留守にしているときだったら、女房が何してるかわからないですよね」
なんて。
ですから、そんな流儀で。時折愉しみ合いましょうね。
あまり見せつけるのも気の毒だから。

囚われた夫婦

2006年02月07日(Tue) 08:27:07

縛りつけられたご夫君のまえで、奥さんに迫る夜。
恨めしげな目線が和み、尖ったものが薄れてゆく。
そう、彼のほうには私の妻が食いついて、さっきから熱烈にキスを繰り返しているのだから。

さあ。もう、躊躇わないで。
ご主人だって、愉しんでいるじゃないか。
きみももう、おおっぴらに愉しんじゃってかまわないのだよ。
いくらいやいやをしてみたところで。
喉にはじける貴女の血はそれはもうぴちぴちとしていて。
貴女が凌辱を待ち受けていることを饒舌すぎるほどに伝えてくるのですよ。
なに。恥ずかしがることはないでしょう。ご主人いがいの男性が初めて・・・というわけでもあるまいに。
いやいや。これはいらぬ詮索だったね。過去は問わずに。いまを愉しもうではないですか。
そうそう。そうやって、身体を開いて。すぐに楽園に導いて差し上げよう。

ご主人は、お加減いかがかな?
わが妻の牙の切れ味などは。
奥さんがこんなにウットリしているところ、ご覧になるのは久しぶりじゃないのかな?
いやぁ、心地よいものですな。温かい柔肌。
ご主人いつも、こんな暖衣に身を包んでおいでなのですね?^^
え?そんなことないって?いけませんねぇ。
夫婦は折々、まぐわわないと。^^
これを機会に、毎晩になさるとよろしいですよ。
仲良くなりたくて。貴方とも、奥さんとも。
だからこうやっておふたりに、夢見心地な一夜をプレゼントしているのですよ。
どうか存分に、愉しみたまえ。わが妻も。貴方の奥方の痴態も。

愉しみが果てるころ。
夫婦は眩暈を振り払うようにして。お互いを見つめあって。
裸の身体をすり合わせて・・・こんどは夫婦で和合した。
そうしてお互いの淫らな所行を軽く咎めあいながら、睦まじい日常に戻ってゆく。


あとがき
本当に「囚われた夫婦」なのでしょうか。
むしろそれは擬態にすぎず、本当のところは「解放された夫婦」とお呼びするべきなのかも・・・