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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

途中退席

2006年03月31日(Fri) 08:32:20

法事のさいちゅうだった。
淑やかにそろえられた、母の脚。
薄墨色のナイロンが染めあげる豊かな肉づきについ目がいってしまって。
母の耳もとに、囁いていた。
  喉、渇いちゃった。
つつましやかにとりつくろった表情に。
母は一瞬、うろたえた色を滲ませて。
周囲をうかがうと、音もたてないでスッと立ち上がる。

ひんやりとした廊下の床。
薄い靴下を履いた母のつま先が、いっそう寒そうに映えている。
障子を閉ざして外からの視界を遮ると、ボクはさっそく母の喪服姿を組み敷いていた。
ヒルのように、うなじに唇を貼りつけて。
きゅうきゅう・・・きゅうきゅう・・・
どん欲に、血をむさぼってゆく。
はぁはぁ・・・はぁはぁ・・・
切なげな、母の息遣い。
お目あての黒ストッキングの脚ににじり寄って、
ちゅうっ。
その瞬間。母は咬まれたときよりももっと、身を固くした。

しなやかなナイロンの舌触りを愉しみながら。
ボクは背後から注がれる熱い視線を感じはじめている。
視線の主は、父。
周囲に人を近寄せまいとする、父として夫としての配慮と。
それ以上にいわく言いがたい、男としての軽い愉悦と。
裏腹なふたつの想いが込められた視線。
それをくすぐったく感じながら、
ボクはひときわつよく、黒ストッキングのふくらはぎに唇を吸わせてゆく。

ヒールの上から

2006年03月30日(Thu) 08:23:54

カツン・・・カツン・・・
凍ったように冷たい、深夜の舗装道路の彼方から。
おぼろな灯にありありと浮かび上がる、スーツ姿のシルエット。
硬く響く足音を立ち止まらせて。
ヒールを包み込むように、掌をあてがって。
ストッキングに包まれた足の甲から、ほのかな体温がにじみ出てくる。
素肌に吸いつくような。
しっとりとコーティングしているしなやかな薄手のナイロンが、
きみの素肌をいちだんとなまめかしくきわだたせている。
それをいとおしむように、なでさすりながら。
迷惑そうに眉をひそめ、見おろしてくる君の目線を、
とてもくすぐったく受け流しながら。
いつか魅せられたように唇を慕わせてゆく、肉づき豊かなふくらはぎ。
きみはきゃっ、とちいさな声をたてて。
それでも立ちすくんだまま、不埒なぼくの所行に脚をゆだねてゆく。
くちゅくちゅ・・・くちゅくちゅ・・・
音をしのばせながら。
けれどもきみの耳に届くほどの音を洩らしながら。
きみの礼装を汚してゆく、至福なひと刻・・・・・・。

優しいお兄さん

2006年03月30日(Thu) 08:07:45

そのお兄さんたちが遊びに来ると、パパはいつも出かけてしまう。
仲が悪いわけではないみたいで、
パパは、お兄さんたちをとても歓迎しているみたいだし。
お兄さんたちも、パパのことを尊敬しているみたいだし。
すごくうまくいっているみたいなのは、伝わってくるんだけど。
どういうわけか、お兄さんたちが来ると、パパはいなくなってしまう。
昔はボクもいっしょにお出かけしたんだけれど。
ユウヤは家にいなければならないよ。お兄さんたちに遊んでもらうといい。
パパはそう言って、きょうもひとり出かけていってしまった。

お兄さんたちはママのお部屋に入る前、お互い顔を見合わせて。
ちょっとのあいだ、譲り合うようにするんだけど。
けっきょくじゃんけんかくじ引きか。
ときにはボクに順番を決めさせて。
代わる代わる、ママのお部屋のドアをノックする。
来ちゃダメだよ。ユウヤはあっちで遊ぼうね。
そういうときにいつもボクを階下に連れてゆくのは、ケイゴ兄さんだった。
  もう、ゲームには飽きたかい?
いちばん親切なケイゴ兄さんは、どちらかというと口数が少なくて。
でも、ボクのことを気に入ってくれているのは、子供のカンでわかっていた。
  ううん。ゲームは楽しいけれど。
はじめのうちは気にならなかったドアの向こうのママの声。
いつになくウキウキとはずんだ声が、いつかウンウンと苦しそうな声になって。
でもお兄さんたちが帰ってゆくのを見送るときは、スッキリした顔をしているのだ。
それがこのごろ、むしょうに気になるのだった。
  ママのことかい?もう、そういうことが気になる年頃になったんだね。
どっか後ろめたい疑いを、ケイゴ兄さんはおだやかに受け止めてくれて。
でも、キミが覚えるのはまだ早いな。こんどお父さんに相談してみてあげるけど。
ママはね、いまとっても幸せな気分なんだ。
ママのことを好きな男の人だけが、ママをそういう気分にさせてあげることができるんだよ。
この家に育ったキミは、年頃になると、
女のひとの血が吸いたくなってくるんだけど。
キミはまだ、だいじょうぶみたいだね。
血が欲しくなったら、ママにねだるんだよ。
ママだけじゃ足りなくなったら、ボクに相談してね。
大きくなったら、ボクのお嫁さんを紹介してあげるから。

どきどき、ワクワクの社内旅行

2006年03月30日(Thu) 06:57:04

社内旅行の夜は長い。
先に寝ちゃう人以外は、もう真夜中とか明け方とかまで盛り上がっちゃう。
まりあはお酒が好きだから、そんなときには決まって飲むグループにいるけれど。
夜更かし組のおしゃべりにはじつはあまり関心がない。
にぎやかなのは好きだけど。
本当に気をひかれているのは、先に寝静まった暗い部屋。
だって。
もちろん、まじめに早寝してる人だっているんだけど。
どうして彼と彼女はこっちの部屋で盛り上がっていないんだろう?
いつも仲良く、遅くまで飲み歩いているくせに。
まりあは知っている。
あっちのお部屋と隅っこのお部屋。
ほんとうは三人部屋なんだけど。
同室の仲間にはちゃんと断ってあって。
そこは、カップルの指定席。

ぽん、と肩をたたかれた。
ふり向くと笑っているのは、となりの課の小林クン。
彼とは秋に、結婚することになっている。
噂のカップルの立ち話。
たまたま出くわした人たちも、気を利かせて素通りしたり、行き先を変えたりしてくれた。
「ダメだよ、覗きは」
そういう彼の声色も、どこか熱を帯びて悪戯っぽい。
まりあはためらいがちに、口を開いた。
  部屋に、行く?
同期のりなちゃんにことわって、部屋はちゃんとキープしてあったりする。^^;
無言で肩をつかまえられて。
熱っぽい吐息が耳たぶをくすぐった。
ねぇ、知ってる?
彼の指さしたのは、隅っこの部屋。
熱気に包まれた闇が、あたりを包んでいる。
  知ってるよ。関屋さんとかよちゃんだよね。
  あっちは篠山さんとリッちゃんでしょ?
誰だって知っている、公然の秘密なカップルだった。
なのに彼ったら、いっそう熱にふるえた声色で、
  違うんだよ。
えっ?
やらしぃ顔しちゃって。
  隅っこの部屋は、かよちゃんと篠山さん。
  あっちのお部屋は、リッちゃんと関屋さん。
えっ?えっ?えええっ?どういうこと?
  取り替えあってるんだよ。
ウフフ・・・口許から洩れる悪戯っぽい笑いが、なんだかとてもいやらしい。^^;
  今夜だけって約束みたいだけど。本当に今夜だけかなぁ。
あの子とあの人が。
そして、彼女と、あのひとが。
すごく刺激的な想像に、まりあはぞくうっとつま先立ってしまっている。
  ねぇ?
小林クンはそんなまりあのスケベ心を見透かすように、顔のぞきこんできて。
  彼・・・
  え・・・?
まりあのとなりにいつの間にか、佐藤クンが立っている。ふたりは大の仲良しだった。
  三人で、してみない?今夜だけ。
え、えええっ?
イヤよ・・・と常識的にかわすつもりが。
どうしてこうも頬っぺたがほてってくるんだろう。
まるで、のぼせあがっているみたい。
もう、温泉からあがってだいぶたっているはずなのに。


あとがき
社内旅行の夜って、開放的になるのは一次会のはねたあとですね。
そういう夜。
開かずの部屋って、あったりしませんか?
おたくの会社はまじめだから、そんなことはありませんよね?
知らないのはあなただけ・・・なんてことはなおさらないと思いますが・・・。^^

息子に返って

2006年03月29日(Wed) 08:16:22

ごめんください。
約束どおり連れだって、青年たちは訪ねてきた。
三人連れで現われた彼らは仲が良いらしく、交わし合う目線もどこか気持ちが通い合っている。
「きょうはお世話になります」
頭だった青年はそういって、丁寧に頭を下げた。
ほかのふたりも、彼にならった
じゃ、しっかり愉しんでいってくださいね。
物分りのよい夫としてにこやかに彼らを迎えると、
奥の部屋からは着飾った妻が控えめに会釈をおくってくる。

嬌声の洩れる家をあとにして。
足を向けたのは、母の棲む家。
吸血鬼のお兄さんたちがお泊りしにきてね。
そういっておとないを入れると。
またナミコさんを抱かせているの?
穏やかに落ち着いた声色が、私を包む。

お父さんにも、困ったものね。
まだ若いころ、そんなふうにこぼしながら。
それでもいそいそとお化粧をして。
PTAのときに着ていくスーツのうしろ姿を何度も見送っていた。
夜遅く帰ってくる母はちょっとだけ髪の毛をほつれさせていて。
スカートのなかの太ももには、ストッキングの伝線があざやかに奥まで這い込んでいた。

血を吸うの?もう年寄りだから、まえみたいに美味しくなくってよ。
そんなふうにいいながら。
差し伸べられたふくらはぎは、とても若やいだ輝きを帯びている。
清楚な黒のストッキングのうえから唇を這わせてゆくと。
いま風ではないストッキングはじりじりとたあいなくねじれていって。
圧しつけた唇の下、ちりちりと裂け目を走らせてゆく。
喉に沁み込んでゆく、母の血液。
切ないほどのぬくもりを秘めた少量の液体が、
波立ち騒ぐ胸の奥を、ツンとさした。
たったひとすくいの血潮だったけれど。
それはしっとりと渇いた胸の奥に染み透って。
癒されるような想いが満ちてゆく。
私とおなじように、母を奪われ続けている青年たち。
そんな彼らもいまごろは、こんなふうに甘えるように。
妻の生き血を口に含みつづけているはずだ。

誘われるように

2006年03月29日(Wed) 07:05:10

もう、聞いていられないわ。
妻はそういって、顔をしかめる。
まるで私に苦情を言ういように。
無理もない。
いちばん奥まった和室からは、
ああ・・・ん。ううぅ・・・っ・・・
ふすま一枚へだてて洩れてくる、悩ましい呻き声。
ましてその声の主が自分の姑や小姑だとなれば、
妻が眉をひそめるのも当然だった。

週にいくどとなく現われる男たち。
かれらが等しく要求するのは、若い女。
渇きを癒すためには片ときも、人の生き血をたやすことは許されない。
からからなった喉とひからびた血管と飽かしめるため。
家族の女たちがその身に宿す血液を、つねに供しつづける日常。
幸か不幸か。
他家から嫁にきた妻は、その対象に含まれていなかった。
都会には無縁だったはずの、異形の慣習。
それが閑静な住宅街の片隅にある我が家でくり広げられるようになったのは、
ついひと月前、実家のものたちが田舎から移り住んできた日からのことだった。

ああ、もう耐えられない。あなたごめんなさい。わたくしも・・・
うわ言のようにあられもないことを口走る妻。
なにを言い出すんだ?
怪訝そうに見つめる私のまえ、妻はいつになく着飾ったスーツ姿。
肌色のストッキングに包まれたつま先を奥の部屋へと向けてゆこうとすするのだった。
まるで誘蛾灯のような抗いがたい引力を、ふすまの向こうから感じ取ってしまったように。
待ちなさい。取り返しのつかないことになる・・・
そういって、妻をとめようとする私。
夫婦のあいだでのもみ合いは、しかし唐突におさまった。
びりっ。
うっかり妻のブラウスに手をかけてしまったのだ。
あらわになった、乳色の肩先。
ぴいんと張りつめたブラジャーの白いストラップが、ひどく妖艶に網膜を刺激する。

妻はさすがにハッとして肩を抑えたけれど。
かえって好都合だわ。お願いごとが伝わりやすいもの。
そんなふうに呟いて。
まるで見えない力に引きずり込まれてゆくように、
ふすまの向こうへと消えていった。
きゃっ。え・・・そんな・・・っ
三人めの女の声から意味のある言葉が消えるのに、さして時間はかからなかった。

客人は、三人。
そのうちのひとりが、悦に入ったように、にんまりと笑んで、
私のまえ、見せびらかすようにして。
裂かれた妻のストッキングをぶら下げている。
みるかげもなく引き裂かれた薄手のナイロンは、
そのあと彼女がどのようなあしらいを受けたのかを、不必要なまでにあからさまにしている。
さいしょに妻の相手をしたらしい彼は、悪びれないどころか。
まるで共犯者の腕前をたたえるように。
おかげでうまくいったよ。ご馳走様。
弛んだ口許からしたたっているものは、ついさっきまで妻の身体に秘められていた生命の源だった。
新しい口紅、とてもよくお似合いですね。
妻の血は愉しんでいただけましたか?
一家の慣わしに従って、そんなふうに口にしても。
もはや正気の去った妻の耳を刺激する気遣いはない。
敷かれた布団のうえ。
妻は下肢もあらわに息を弾ませて。
銀髪を振り乱しながらのしかかってくる老吸血鬼との情事に耽っている。
きちっと着こなしていたスーツには、ふしだらなしわが波打っていた。

妻は、父親よりも年のいった老人と。
母は、まだ童顔の少年と。
そして目のまえの私とほど同年輩の男は、パートナーに選んだ妹をとうの昔に気絶させてしまっている。
互いに獲物を取り替えてあって。
濃い誘惑を肌に沁み込まされた女たちは代わる代わる、性欲の虜に堕ちてゆく。
いかがかな?ご家族のあでやかな舞い姿。
奥方いがいの女となら、かけ合せてあげてもよろしいのだが。
拭い取られるような他愛なさで、理性を飛ばされている私。
迷うことなく母のほうへとにじり寄って、
ワンピースのすそに手を入れて。
裂かれたストッキングをひざ小僧の下までずり下ろしていった。

はぁ・・・はぁ・・・
あぁん・・・ひいぃ・・・
冷え冷えと静まった和室のなか。
密やかで熱っぽい息だけが、絶え間なく満ちている。
もうOLになっている妹は、高校のころの制服に身を包んでいた。
妻と結婚して、都会に住み着いてからは、
ついぞ忍ばせることもなかった、セーラー服の襟首の奥。
そんな私を面白そうに見つめる妻の上には、いつか父がのしかかっている。
ゆう子さん、なかなかおしゃれだね・・・
息子の嫁の乱れ髪をあやすように撫でながら。
父は妻の身に着けている下着を玩んでいた。
やだわ、お義父さまったら。
ひどく嬉しげに応接している、ねっとりとした妻の声。
とうとうきみも、娼婦に堕ちてしまったんだね。
まだ着けているスカートは、すでになん人もの精液を光らせてしまっていた。
白昼訪れた妖魔たちの姿はもう、どこにもない。
代わりに現われた父は妻と。弟は母と。そして私は妹と。
ひと目を憚ることなく乱れあってしまっている。
こんどはカツジのフィアンセだな。
からかうような父の口調に、弟は照れたような笑みをかえしてくる。

夫婦ながら

2006年03月28日(Tue) 08:01:23

くちゅう・・・
さっきまで私のうなじに吸いついていた、ヒルのような唇が。
いまは傍らの妻のうなじを這いまわっている。
声もなくもだえ、身をよじっている妻。
しかし力づくの吸血は、そんな抗いなどものともしないで。
きゅうっ・・・きゅうっ・・・きゅうっ・・・
どこかリズミカルで小気味よい音を洩らしながらも。
容赦なく進行してゆくのだった。

血を抜かれてぬけがらみたいに横たわっている私は
そんな妻の悶えすら、もはや心地よい。
たっぷり血の気を帯びた素肌が触れ合うたびに。
よかったね。美味しく味わっていただけて。
そんなふうに妻を祝福するまでに、理性を奪い尽くされている。

彼の身体の奥深くめぐっているのは、私の血。そして妻の血。
夫婦の血がかれのなか、織り交ざって、和合して。
新たな生命を帯びて活き活きとめぐりはじめている。
そんなことがむしょうに快感な、秘められた宴・・・

代役

2006年03月28日(Tue) 07:53:54

妻たちの身代わりに、吸血鬼の邸を訪れる夫たち。
ほとんどが例外なく、己の妻の下着をなにがしか、身にまとっている。
ショーツだけ・・・ということはほとんどない。
なるべく身体のほとんどを蔽うようなスリップとか、ストッキング。
夜も更けると、すべてが妻の衣裳・・・というものまで現われる。
多くは、そんな不自然ななりをひとに見られるのを恥じながら・・・
そうした夫たちを、吸血鬼はにこやかに出迎える。
美しい姫君のご入来ですな。
そんなふうに、悪戯な笑みさえ漂わせながら。
  どうか、今宵は妻を見逃してやっていただきたい。すっかり調子を崩してしまって。
急くように訴える夫たちをなだめながら。
  いえいえ、ここまでしていただいて。
  奥方をしのぶのに、なによりのよすがですな・・・
  まったく貴方というかたは、夫のかがみというべきですよ。
そんなふうに彼の行為をたたえながら、それでもせつじつな目になって。
ストッキングに包まれた筋肉質な太ももの奥深く。
しずかに牙を、埋めてゆく・・・

夫たちは、知っている。
このような振る舞いをしてまでも、気休めにしかならないのだと。
妻たちを狙う目に情や容赦はなく。
ひととき紛らわせた飢えがふたたびおし寄せると。
血を求める獣たちは、自宅まで訪ねてくるのだった。
  ご主人、せっかくですが・・・
  あなたのくださった血は、もう私の体内で溶け果ててしまいました。
  今度こそ、奥方の番ですよ。よろしいですよね・・・?
そういって。
もはや抵抗するすべも意志さえも喪った妻たちは、己からうなじをさしのべて。
おいしそうにしゃぶりついてゆく優雅な獣たちを、夫たちすら恍惚として見守ってゆくばかり。
それでも、吸血の愉悦をいちど知った夫たちはすでに、
妻たちの受難を愉しむ側へとまわっている。
遠からず己自身も、妻さえも、生き血を吸い尽くされてしまうかもしれないというのに、
むしろ嬉々として。
夫婦ながらの饗応に応じてゆくのだった。
そうと知りながらも今宵もまた。
妻たちの身代わりに、ストッキングに脚を通してゆく夫たち・・・

無邪気な児

2006年03月27日(Mon) 18:06:39

貴方の履いているハイソックスと、おなじ丈になっちゃったね
引き入れられた雑木林から出てくると。
母さんはそういって照れ笑いしている。
引き剥かれた黒のストッキングと、めくれ上がったスカートの間からのぞく白い太ももがひどく眩しい、昼下がり。
あとから出てきた少年は悪びれることもなく。
むしろ初々しく頬を輝かせて。
眩しく母さんのことをみあげると。
  お兄さん、ありがとう。お母さんの血、とってもおいしかったよ。
そういって笑う無邪気な顔が、凄惨に衣裳をはぎ取られた母のようすとひどく不釣り合いだった。

こんどはうちに遊びにいらっしゃい。
父さんのいないときに、招んであげるから。
女のひとのお洋服を、外であまり悪戯するものじゃありませんよ。
まるで息子をさとすような口ぶりで、母さんは彼の頭を優しくなでる。
いいなあ・・・兄さんにはほんとうの母さんがいて。
甘酸っぱい感傷が押寄せてきたのか。
ちょっぴり涙ぐんでいた。

母の身支度

2006年03月24日(Fri) 08:16:30

貴方の仲良しなんでしょう?
だったら、母さんも安心ね。
彼のところに出かけるときに。
そういって、母さんは身支度をはじめる。

黒一色のスーツ。
父さんがいなくなってから、外出するときはいつも着ているもの。
きょうがこれ着るさいごかもね。
取り出したスーツをしみじみ見ながら、そう呟いたとき。
ボクはちょっとだけ、どきりとする。

部屋のふすまを細めにあけて。
どきどきしながら、なかをかいま見る。
父さんがいなくなってからしぜんと身につけてしまった、悪い癖。
舞うように しかし手早く
黒のレエスのスリップ姿を、ブラウスでおおい隠してゆく。
無駄のない動きは、子供のボクがおもうほど色っぽくもかっこよくもなかったけれど。
どことないしぐさになぜかふわっとした大人の香りが漂ってきて。
ふきつけるようにボクの周りにうずまいた。

きちんと引き伸ばされてゆく、黒のストッキング。
とても上品でつつましやかな装いなのに。
このまえ、ボクの脚にとおして彼にいたぶらせてしまったときの
忌まわしくも妖しい記憶がよみがえって。
母さんの姿と重なり合った。

連れだって歩く、昼下がりの道。
いつも見慣れた街並みが、どこか異国のたたずまいのようにさえ見える。
ちらちらと盗み見る、スカートの下の足許。
清楚になまめかしい、肌の透けてみえる黒のストッキング。
胸はしっかりと、ブラウスのタイで引き締められていたけれど。
髪をあげたうなじはつやつやと輝いていて。
もうじき、誰かの飢えた唇があのうえに這うのかと思うと、
とても妬けてきた。

息子がお世話になっています。
母さんは丁寧に頭をさげて。
ためらいがちに、つづけていた。
感謝のしるしに、ふつつかですが。
私の血を、召し上がって下さいませ。
そのかわり、息子の命までは取らないで。
どうしても取る・・・とおっしゃるのなら。
私をさきにして下さいな。
そういうと。
胸元にきちんと結んだリボンを、自分のほうから解いてゆく。
はじめて目にする胸は乳色に輝いて、とても眩しかった。
彼は母さんに近寄ると。
むぞうさに、赤黒くただれた唇を。
ボクのときにそうしたみたいに、
ぎゅうっとねじりこむみたいにして這わせてしまった。

あう・・・っ
母さんは痛そうに顔をしかめて。
思わず声を忍ばせていた。
ボクの目のまえで、彼は母さんに抱きついて。
きゅうきゅう、きゅうきゅう、旨そうに音をたてて血を吸い取ってゆく。
恥ずかしいから、見られたくないの。
母さんのせつじつな視線に押されるように、ボクはふたりとボクのあいだをふすまで隔ててしまった。
身支度よりもはるかに重い行為が遂げられる。そう知りながら。
いつものようにふすまをひらくことは、とうとうできないでいる。

乙女の寝室

2006年03月24日(Fri) 06:22:27

あの方がお見えになったら、精いっぱい抵抗するんですよ。
でもそのあと必ず、血を吸わせて差し上げるのよ。
そうするのが、あの方への礼儀なの。
ママにそう教えられて。
まりあはドキドキしながら、床についた。
今夜は、黒のストッキングを履いておやすみなさい。
ママの言いつけは、どれもがまりあにとって不思議なことばかりだった。
それでもまりあはママに言われたとおり、
箪笥の抽斗から真新しいストッキングを取り出して、パッケージを切っている。

気持ちが昂ぶって、眠れない・・・
ストッキングに包まれた脚は布団のなか、暖かい輪郭を描いているような感じがした。
太ももやふくらはぎの周りに帯びた、軽い束縛感。
それは思ったほどきゅうくつなものではなくて。
ほてるほど暖まった脚は、薄手のナイロンのなかで居心地良さそうに素肌をはずませている。
うっとりするような血のめぐりが肌のすみずみにまで行きわたっていた。

パパもママも、ぐっすり寝入ってしまっているのか。
家のなかでは、ことりとも音がしない。
音というものが忘れ去られてしまったかのような、深い静寂・・・
ぎい・・・っ。
窓のきしむ音がする。
枕に伏せていた顔をあげると、両開きになっているガラス窓がぱたぱたと静かな音をたてて、
開いたり閉じたりしていた。
おかしいわ。締めたはずなのに。
窓を閉めようとして、まりあは起き出した。
フローリングに触れたつま先が、肌寒い。
窓から差し込んでくる濡れるような月の光が、まりあの足許を照らす。
薄闇のなか。
黒のストッキングが、ふくらはぎに妖しい翳りをおとしていた。
ガラス窓をぱたりと締めると、夜風のかすかな音が遮断されて。
部屋にはいつか、もとの静寂が満ちている。
はっとした。
部屋のなかに、誰かいる。

窓辺にたたずむまりあと、さっきまで身を横たえていたベッドととのあいだ。
黒い影がシンと静まり返って、佇んでいた。
まりあはゾクッと、身をすくませる。
「あの・・・あの・・・」
それ以上はもう、言葉にならない。
影はすうっとこちらへと迫ってきて、まりあはたちまち両肩をつかまれていた。

厭ッ!厭ッ!やめてえぇ・・・っ。
激しく身を揉んであらがうまりあ。
ママの奇妙ないいつけを思い出したのは、そのあとだった。
いいつけどおりにしてかまわない。
そう思うと、抗う手足によけい力がこもっていた。
相手は、大人の男性らしい。
そんなまりあの抵抗を愉しむように。
ふふっ・・・とかすかに笑う息が、まりあの耳たぶをかすめている。
迫ってくる胸をわが身から隔てようとして。
腕を突っぱって。
突っぱった腕をへし折られて。
あああああああああ・・・
抱きすくめてくる両腕を振り放そうとして。
髪を振り乱して。
もう、気が狂ったように身悶えをして。
それでももう、ダメだった。
まりあはベッドに組み伏せられて、身動きできないように抑えつけられてしまっている。
にんまり笑んだ男の口許から鋭利な牙がのぞいて、夜の闇にきらめく。
あぁ・・・
まりあは絶望に身を震わせる。
ママの声が耳の奥によみがえった。
さいごは必ず、血を吸わせてあげるのですよ。
力の抜けた腕のすき間に入り込んできた彼が。
心地よげにうなじに牙をうずめてくる。
ちくっ・・・
うなじのつけ根に鈍い痛みが沁み込んだ。

あぁ・・・
仰のけた口許をセイセイとはずませて。
まりあは恍惚となって、血を吸い取られてゆく。
処女だったまりあ。
吸血鬼さん、まりあの血、気に入ってくれたかしら。
そんなことを薄ぼんやりと思いながら。
上体から去っていった彼の体重が、こんどは腰周りに迫っているのを感じていた。
ふうっ・・・
吹きつける息が、薄いストッキングに護られた太ももを刺激する。
そう、じんじんと・・・
あ・・・どうしよ。
怯えのなかに奇妙な期待感が芽生えてくる。
冷たい唇が、ストッキングのうえから圧しつけられてきた。
あっ・・・あっ・・・どうしよ・・・
戸惑い恥らうまりあをいたぶるようにして。
吸いつけられた唇はいっそう念入りに、大人びたまりあの装いを辱めてゆく。
ちろり・・・ちろり・・・
あてがわれる舌が、ひどくいやらしくなすりつけられる。
あっ、ダメ・・・
吸血鬼さんのイタズラをやめさせようと手を伸ばしたけれど。
他愛ないくらいに、すっととりのけられていた。
ぬるり・・・ちゅるっ・・・
いやらしいわ。はしたないわ。こんなことするなんて。
だめ。意地悪しないで。
あぁ、でも・・・こんなにしっとりと吸いつけてくるなんて。
ねぇ、もしかして、愉しんでいるの?気持ちいいの?
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・くちゅう。
困ったわ。恥ずかしいわ。
もう。ひどい。もてあそぶみたいに。
まりあを侮辱しているの?そうよ、きっとまりあのこと、おもちゃにしているんだわ。
あ・・・それなのに。
こんなことされているのに。
どうして雫があふれてくるの?
まりあを楽にさせようとしている・・・?
だめーーー・・・身体の力が抜けてゆく・・・
あ・・・あっ。
ママはどうして、まりあがこうなるって知っているのだろう?
でもいいわ。今夜、まりあは大人になるんだわ。
どうぞ、お好きなように。
ひと晩かけて、まりあをおもちゃにして・・・ちょうだい・・・ね・・・っ

母の衣裳を身につけて

2006年03月23日(Thu) 08:21:47

束縛されるように。
護られているように。
ボクのふくらはぎや太ももをゆるやかに締めつけているのは、
母のストッキング。
吸血鬼の彼に、おねだりされて。
箪笥の引き出しを開けて。
それを、母に見咎められて。
正直に言ったら意外にも、いいわよ と返事がかえってきた。
いちどだけ、脚を通したものがあるから、これにしなさい と
母の目のまえで、履かされて、送り出された。

スカートの中に秘められているストッキングの太ももを、
じかに男の目にさらさせるような気分になって。
母の下肢を見せびらかすような軽い昂奮と。
みすみす母の衣裳を辱められてしまう一抹の悔しさと。
どちらがボクのなかで、勝っていたのだろう?

濡れた冷たい唇を押し当てられて。
ドキドキしていた。男どうしだというのに。
太もものまわりをかすかによじれながら、
母のストッキングは唇のいたぶりと唾液とに辱められて
迫ってくる唇に、
まるで、母じしんが辱められているかのような、
嫉妬と、昂ぶりと。

近い将来。
母じしんがこれを身につけて。
きっと、彼に迫られているのだろう。
その光景すらもありありと、想像して昂ぶってゆくボク・・・

衣裳はご馳走

2006年03月23日(Thu) 07:23:16

ひどいわ。
その身をなかば、草むらに埋もれさせながら。
女は口を尖らせて、男を責めている。
新調したばかりのブラウスなのよ。
男は眉ひとつ動かさないで。
  だから、綺麗に裂いている。
そういいながらまたひとつ。
チャッ!と鋭い音を立てて、白のブラウスに裂け目を入れた。
隠れているようで、覗いている。
乳色の肌のなまめかしさは、むき出しの裸身よりも人の目を扇情させた。

やめて。
女はなおも、抗議する。
このスーツ、高かったのよ。
男はやはり無表情に。
  だから、お前の貴重な血をしたたらせたのだ。
つうっと撥ねた血潮が、グレーのジャケットやスカートに、
赤紫の翳をおとしている。

ひどい。
女は恨めしそうに、男をにらむ。
ストッキングまで、破くなんて。
男は皮肉に冷たい愉悦を頬に滲ませて。
  愉しんで、辱めているのだよ。すこしは我慢したまえ。
そう、女に命じると、悔しげに注がれる目線をくすぐったそうに横っ面に受けながら。
女のふくらはぎを包む薄いナイロンを、踏みしだくように唇で蹂躙してゆく。
つつっ・・・
なよやかな薄衣に走る裂け目が、女の脚を淫らに染めた。

ねぇ・・・
女はけだるげに、男を見あげる。
どうしていつもこんなに・・・優しいの?
男ははじめてほほ笑んで。
  やっと、わかってくれたようだね。
女と結び合わせた腰をさらに深々と埋めながら。
  きみの装いは、なによりの馳走なのだよ。
そういって、ほんとうに優しく、女の腕を、肩を、黒髪を。
たんねんに、たんねんに、撫してゆく。
抱きすくめた華奢な肢体をくるんでいる装いは、乱されるほど、引き裂かれるほど、女を淫らに映えさせていた。

卒業式

2006年03月23日(Thu) 06:53:31

紹介するよ。
きのう婚約した佳代ちゃん。
まだちっちゃいから、おじさんならすぐに血を吸い尽くしちゃうよ。
だから、襲ったりはしないよね?
ミチルの家では、しかるべき家柄の女の子とごく若いうちに婚約をすませるしきたりになっている。
そして、もうひとつの秘められたしきたりは。
婚約者を仲良しの小父さんの邸に連れて行って紹介すること。
仲良しの小父さんは・・・ママの血を吸っている吸血鬼。

卒業式を間近に控えて、学校が終わるのも早くなっていた。
「佳代ちゃん、すっかり色っぽくなったなぁ」
クラスメイトのユウジはそういって、前を歩いている佳代のことを眩しそうに見つめる。
「ダメダメ。オレの許嫁なんだから」
ミチルはそういってやんわりと、女好きな友達の目線を遮ってゆく。
「わかってるって。未来の村長夫人に手は出さないよ」
ユウジが開けっぴろげにいうように、ミチルの家は代々村長を勤める家系だった。
「それに、あのかたもついているしな」
ユウジは意味ありげにつけくわえて、悪戯っぽくにやりとする。
佳代ちゃんと小父さんの関係は、周囲でも知っている人は限られていた。
知るのはごく近しい血縁だけ。そのあいだですら、「公然の秘密」なのであった。
幼馴染みのユウジは、特別だった。

柔らかい日差しのなか。
友達と連れ立って、身を弾ませながら無邪気なおしゃべりに興じている少女。
白く乾いた路に歩みを進めるのびやかなふくらはぎは、真新しいハイソックスに包まれている。
少女の足許をひざ下までたっぷりと蔽っている白のハイソックスは陽射しを照り返して、ことさら眩しく少年たちの目を射た。
ごくり。
と、生唾を呑みこんだクラスメイトを、もはやミチルも咎めようとしていない。

少女たちは濃紺のプリーツスカート。
男の子たちは、同じ色の半ズボン。
小学生みたいだなあ。
ユウジなどはそういって照れながら、女の子みたいでいやらしいからといって、制服に指定されている紺色のハイソックスをわざと縮めてはいているほどだった。
そんなユウジの足許を、ミチルは見て見ぬふりをしている。
ユウジも、なにも語らない。
幼馴染みの足許は、いつもたるませて履いているハイソックスの代わりに、
うっすらとなまめかしい黒のストッキングが、脛を青白く染めていた。
じゃあ、ここで別れるね。
ユウジは遠慮がちに、そう囁いた。
彼の家はもっと、ミチルの家に近いはずだった。

ただいまぁ。
引き戸をがらりと開けた向こう側に、自分の声だけが虚ろに響く。
誰もいないのかな?
そう思って耳を澄ませると、かすかな呻き声が鼓膜をふるわせた。
母の寝室からだった。
そういうときはいつも足音を忍ばせて、二階にある勉強部屋へと直行するのだが。
きょうだけは逆に、忍ばせた足音を声のするほうへと向けてみる。
奇妙になまめいたユウジの足許が、少年の分別を迷わせたのだろうか。

その日に限って、母の寝室はドアが半開きになっていた。
はぁ・・・はぁ・・・
切れ切れな声は、間違いなく母のもの。
ぎし・・・ぎし・・ぎし・・・
ベッドのきしむ音の重たさは、身を横たえているのが母だけではないことを十分に想像させた。
少年らしい嫌悪感はもうすっかりけし飛んで。
親に隠れて悪戯を愉しむときのような好奇心に、胸がいっぱいになっている。
覗く・・・という行為はどうしてこれほどにどきどきするものなのだろう?
ミチルが母の情事をあからさまに覗くのは、いまがはじめてのことだった。

上半身は、いつもと変わらぬワンピース姿。
ベッドのうえで仰向けになった母。
のしかかっている黒衣の侵入者の下で。
モノトーンな色調のプリントワンピースは、柄が見分けられなくなるくらいくしゃくしゃに乱されていた。
ふたりの顔は部屋の奥の側へと向けられていたけれど。
たくし上げられて太ももまであらわになっている脚を視ただけで、少年は心臓がはね上がるくらいどきどき胸を弾ませてしまっている。
ベッドからはみ出して床についている脚からは、引き裂かれたストッキングがふくらはぎの途中までずり落ちている。
ふつうの肌色ではなくて、見慣れないグレーのストッキング。
色が目だつぶんだけ、着衣のふしだらな脱落が淫らに映る。
色がちがうぶんだけ、いまが特別な刻だと実感が伝わる。
毛むくじゃらな男の太ももと、せめぎ合うようにすれ合うたびに。
いつも母の足許を上品に彩っている薄手のないろんはだらしなく波打っていた。

あうぅぅ・・・
牙を引き抜かれたとき。
ナマナマしい声色に、少年はびくん!と下肢をふるわせていた。
身を起こした黒衣の男は、かれの仲良しの小父さんだった。
はじめてこちらに顔を向け、愛人を見あげる母の顔からは、
いつものお堅く取り澄ました雰囲気は消えていて。
ただただウットリとなって、自分を征服した男に濡れた目線を注いでいる。

「佳代ちゃんと、いつまで付き合わせるつもりなの?」
つぎの日の帰り道。
ユウジはガマンならないという面持ちで、ミチルを問い詰めた。
「いつまでっていわれても・・・うちのしきたりだからさぁ」
ミチルの声色も、いつになく心もとなげだ。
「もう佳代ちゃんだって、子供じゃないんだし。あのままだと取り返しのつかないことになると思うな。オレ」
幼馴染みを気遣ってくれているだけなのか。それ以上の下心があるのか。
まるで自分の恋人がみすみす吸血鬼にうなじをくわえられてしまうかのように残念そうだ。
もっともおおらかな性格のユウジの声は、どこまでものどやかで素直な響きに包まれていたのだが。

佳代ちゃんとの婚約パーティーがすむと。
  婚約おめでとう。早くおじさまのところにうかがって、佳代ちゃんを紹介していらっしゃい。
  あとはおじさまがすべて心得ていらっしゃるから。なんでもいうことをきくのですよ。
そう、母親に訓えられて。
隣でほほ笑んでいる佳代ちゃんは、ちょっぴり大人びた青のチェック柄のプリーツスカートの下、お気に入りの白のハイソックスをひざ下までぴっちりと引き伸ばしていた。
小父さんのお邸でも佳代ちゃんはハキハキとものおじしないで。
お姫様、おみ脚に接吻を・・・
老いたナイトのような古風さでそう口にする吸血鬼に、なんの疑いももたないで、
ハイソックスの脚を半歩まえに差し伸べていた。
ぎゅっと圧しつけられた唇の強さにハッとして。
そのときにはもう、彼の腕は佳代ちゃんの両膝をしっかりと巻き込んでいる。
まっ白なハイソックスに押し当てられた唇の周りには、濡れを帯びたばら色のシミがみるみるうちに広がっていった。
きゅうっ・・・
すべてを呑み込むような、獣じみた息遣い。
おろおろする佳代ちゃんを抱きすくめて。
小父さんは容赦なく、ほっそりと透きとおる首すじにも、唇を這わせてゆく。
抱きすくめられた腕の中、目を瞑ったまぶたから、涙がひと筋、頬に伝い落ちていった。
一瞬で過ぎた嵐にぼう然として。
それでも良い家のお嬢さんらしく、お行儀よくご挨拶までして。
親たちに言い含められていたとはいえ。
佳代ちゃんはとてもえらい子だった。

週に一度、付き添って。
ミチルは佳代ちゃんを連れて、小父さんの邸に向かう。
仲良しの小父さんに二人ながら、大好物の血をあげるために。
まずミチルがお手本を見せてあげて。
ほどよくぼうっとなった視界の彼方で、少女の吸血シーンに陶然となっている。
さいしょのときに涙ひと筋流した少女は、
未来の花嫁の前。抱きすくめられた腕の中。
うなじに刺し込まれる牙に、ちょっぴり痛そうに眉をひそめながら吸血を受けて。
それでも幼い素肌に毒液が染み透る速さはあざやかだった。
スカートのすそをまさぐられ、お気に入りのハイソックスに唇を吸いつけられるころにはもう、
きゃっ、きゃっとはしゃいだ声さえたてて。
自分の脚にふらちなイタズラをしかけてくるのをくすぐったそうに見つめているのだった。

「きょうも黒のストッキングだね」
ミチルはそういって、ユウジをからかった。
ユウジはちょっと照れくさそうに、へへへ・・・と笑うと、
「なかなか、似合うだろ?」
悪びれもしないで、黒ストッキングの脚を見せびらかした。
「どういう心境の変化?」
ハイソックスだって女みたいだといっていた彼なのに、人目もはばからずに学校の帰り道女もののストッキングをたしなむなんて。
ギャップがあまりにも大きすぎた。
「母さんのことをね、紹介してやったんだ・・・四丁目のSさんに」
Sさんは三年前に奥さんをなくした五十過ぎの寡夫だった。
噂では、吸血鬼に血を吸い取られてしまったらしい。
死んだはずの奥さんの姿を見た人が、何人もいるという。
夫であるSさん自身も、夜だけ訪ねてくる奥さんに、いまでも血をあげているらしい。
いっぽうで、半吸血鬼になった彼もまた、人の血を欲しがるという。
  奥さんの血を全部あげたご褒美に、人妻を五人までモノにしていいことになってね。
  うちの母さんもそのなかの一人なんだって。
  人選は本人がするからね。きっと前から母さんのことが気になっていたんだと思うよ。
  町内会とかで、顔あわせているし。
  家のこと、話してなかったよね。
  ボクのとこって、息子がキューピッド役をつとめることになっているんだ。
  母さんと吸血鬼を結びつけるための。
  ほんとうは父さんの役目なんだけど、うちは今、父さんいないだろ?
  だから、ボクが代役をするのさ。
  こうやって、紹介する女の人の服を身につけて。
  身代わりになって、自分の血を吸わせて。味を試してもらうんだ。
  ボクの血が気に入ったら、母さんの血はもっと気に入るだろうから。
  あと十年もしたら、こんどはお嫁さんを紹介するんだけど。
  それは、結婚してからでもいいんだって。
  きみのところはそれを、結婚前にしなければならないんだね・・・

卒業式は、雲ひとつない快晴だった。
毎年この日は、晴れることが多いのだという。
金文字の入った円筒をかかえた生徒たちがあちらこちら、泣いたり笑ったりして。
クラスでいっしょだったのが、だんだん人の輪がほぐれていって。
やがて親しい四五人がかたまり、そのうち特定の彼氏と彼女とがすっといなくなる。
どこにでもある、卒業式のあとの風景。
ミチルもまた佳代とふたり、連れだって人の輪から離れていった。
おそろいの濃紺の制服も、着るのはきょうがさいごのはず。
誰もが着古した制服姿だったのに。
佳代ちゃんは、真新しい制服を着ていた。
この日のために新しいのを一着、とっておいたのだ。
柔らかに降り注ぐ春の日差しのなか、ぱりっとした濃紺の制服はいっそう輝いて見えた。
濃紺のスカートのぴっちりしたプリーツがかすかに揺らぐ彼女の足許を包むのは、黒のストッキング。
肌の透けて見える薄手のストッキングはか細い脚にちょっと寒そうに映ったけれど。
透明なナイロンごしに浮かび上がる白い肌は、ぐっとひきたって。
まるで別人みたいに大人びて見える。
ふたりが脚を向けた先は、どちらの家でもない。
そう。
お気に入りの白のハイソックスを脱ぎ捨てた少女は、初めて女の衣裳に脚を通す。
日が暮れて彼女が家にもどるときには、もう子供ではなくなっているのだから。
曲がり角までくると、佳代ちゃんはもういちどだけ、声の遠くなった校門を振り返った。


あとがき
えらく長くなってしまいました。^^;
卒業式のシーズンを控えて、ちなんだものを描きたかったのですが。
もうどこの学校もおわっているみたいですね。^^;
ハイソックス=少女 ストッキング=大人
私のなかにそんな図式があって。
さいごのくだりでハイソックスの少女がストッキングに履き替えて、
さりげなく大人の女になる意思表示をする・・・というお話にするつもりだったのが。
尾ひれがだいぶ、ついてしまいました。(笑)
村にはいろいろな家柄の家系があって。
ユウジの家では夫か息子がその家の主婦を連れ出すようですし、
ミチルのところは婚約者のうちから馴染みの吸血鬼にゆだねて、さいごには一人前の女にしてもらうことになっているようですね。
村長になるほどの家に課せられたものは、なかなか重たいものがあるようです。^^

切望

2006年03月23日(Thu) 05:30:02

お願いだから。
もう少し。あとほんの少しだけ、きみの由貴子さんといっしょにいさせてくれまいか・・・
夫婦の寝室で夜ごとくり返される、吸血鬼の懇願。
蒼ざめた肌からオーラのように発する妖しい熱情に、
まるで毒にあたったようにくらくらとさせられて。
引き合わない請いを、いつも寛大な夫の顔で受け入れてしまっている。

かれに両肩を抱かれた由貴子さんは、お酒に酔ったときのようにほんのりと頬を染めて、
小娘みたいに、俯いている。
純白のシルクのブラウスのあちこちに、赤黒い飛沫を光らせて。
それでも続けられるお行儀のよくない晩餐を、咎める言葉を失っていた。
乱れた息を、吹っ切るようにととのえて。
私のほうをふり仰ぐと、
ーーーあなた、ごめんなさい。このひとのいうように私、してさしあげたいわ。
瞳のなかにたたえられた悩ましい切望の輝きに、拒むすべを忘れていた。

すまないね。
彼の目に宿る感謝と贖罪には、偽りはない。
そして、ただそれだけの代償と引き換えに、
私は最愛の妻の淑徳を捧げつづける。
合わない話だと人は笑うけれど。
永く交わし合わされた妖しい三角関係のなかで培われた夫婦の濃密な結びつきを、知るものは少ない。
ーーーお父さんが、いちばんよ。でも今夜は目をつぶってくださるわね?
艶然とほほ笑む妻は、四十に手が届くとは思えないほど
素肌に初々しい輝きを帯びている。

ーーー目をつぶるなんて。
猫じゃらしでくすぐってやるような視線を妻の全身に注ぎながら。
そんなもったいないこと、できるわけないじゃないか。
ーーーほかならぬきみの、いちばん魅力的なところを拝めるというのに。
まぁ。
ムキになったときの由貴子さんは、少女のように可愛らしい。
意地悪。
そう、口を尖らせると。
これ見よがしに彼の背中に腕を巻いていって。
口づけを交わして。
うなじに牙をうずめられて。
もうひとつの剛く逆立った牙を、スカートの奥へとさし入れられる。
妻の若さを味わい、熱情を注ぎ込んでゆく吸血鬼。
ねぇ、私って、まだ若いかしら?若いでしょ?ね?ね?
もうあからさまに媚びを漂わせてゆく妻をしっかりと抱きすくめていった。

年下の子

2006年03月22日(Wed) 21:53:43

こげ茶色のスーツを着た母さんはその場にしゃがみこんで、
その男の子が吸いやすいように、うなじをちょっと仰のけていた。
男の子は母さんのうなじに口をくっつけて。
ちゅうちゅうと音をたてて、母さんの血を吸い取っている。
お互い身体をささえ合うように。
母さんの腕が、その子の背中にまわっていた。

美味しそうな、吸血の音。
母さんの血がそんなに気に入ったのかい?
さっきからあんまり強く口を押しつけるものだから。
母さん、のけぞって倒れそうになっているぜ?

その子が口を離すころ。
母さんはちょっとだけ頬を蒼ざめさせていた。
手にしたハンカチで軽く、うなじにつけられた傷口をぬぐい取ると。
もう、気が済んだ?
まるで息子をなだめるように、両肩に手を置いた。
その子は聞き分けのない態度で、つよくかぶりを振っている。
さよ子姉さんに会わせてくれる?
しょうがないわね。
母さんはちょっとうつむいてため息をつくと。
それでもさよ子姉さんを小声で呼んでいた。

黒のベストに、まっ白なブラウス。
プリーツスカートと同じ柄の赤いチェック柄のリボンがひきしめる胸元は、
弟のボクの目にも眩しいふくらみを帯びている。
男の子にむかってぎこちなくお辞儀をするときに。
三つ編みのおさげがゆらりと揺れた。
姉さんが三つ編みのおさげをするのは、家のなかだけになっていた。
だって、編まないでそのまま肩に垂らしたほうが、
首すじの傷をかくすのにつごうがよかったから。

傍らのベッドに腰かけると、
姉さんは男の子の目線を避けるようにうつむいた。
まだ、かれの相手をするのに慣れていないのだ。
その子が血を吸ったのは、母さんの方が先だったから。
背伸びしながら姉さんのうなじに唇をふれさせてゆくときに。
ボクの胸のなかにちろりちろりと焔のようなものがひらめいて。
そのたびに、痛いような、くすぐったいような、そんな想いがこみ上げてきて。
落ち着かない気分に体をむずむずさせていた。

ちゅうっ。
母さんのときと、同じ音。
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
男の子は容赦なく、姉さんの血を奪ってゆく。
ブラウスの肩先に撥ねた血に、姉さんはちょっと眉をひそめ、
それでも胸のリボンを解いてゆき、
彼の吸いやすいようにと、眩い肌を惜しげもなくあらわにしてゆく。
ぬるりと輝く、乳色の肌。
その子は嬉しそうに唇を吸いつけて。
ちゅ、ちゅ~っ。
吸われる音といっしょに、姉さんの顔色がじょじょに翳りを帯びてくるのを見つめながら。
あぁ・・・どんどん吸われちゃう。
あんな小さな子に姉さんを好きなようにされてしまっている悔しさと。
それとは裏腹に、まるで自分が姉さんの血を味わっているかのような甘美な歓びと。
そんな相反する感情の、せめぎ合い。

さよ子姉さんの血、美味しいよ。
男の子がそういうと。
そう?
姉さんはひとごとのように、上の空な返事をかえしている。
まだメイワクそうに眉をひそめながら。
それでも紅い血をあやす傷口にくり返し重ねられてくる唇に、いともやすやすと肌を吸わせてしまっていた。

ねぇ、もうよして。
ダメ。もうちょっと。
ちゅう、ちゅう、ちゅう・・・
だったら、この手を放して。
ううん。ダメだよ。逃がさないからね。
ちゅっ、ちゅううううっ。
お願い・・・っ。もうかんにん・・・
ダメ、ダメ。あと少し。
男の子は手をゆるめずに、姉さんを責めつづける。
ボクのパンツに薄っすらと、潤んだものが滲みはじめてゆく。

まだ血を持っているころに。
独りぼっちに見えたその子は転校してきたばかりのボクとすぐ仲良くなっていた。
弟が欲しかった、ボク。
打ち解けて戯れているうちに。
その子の口が、首のつけ根にあてがわれた。
ちょっとの痛みと、軽い口臭。
どうしてか、痺れてしまったようになったボクは、
そのまま、彼の妖しい欲望を充たしつづけてしまっていた。
お母さんやお姉さんの靴下を履いてきて。
そんなふうに、ねだられて。
内緒であけた箪笥の抽斗。
肌色のストッキングを破らずに脚に通すのは、難しかった。
タイツを履いていた幼稚園のころを思い出しながら、
すねの上、たぐり寄せるようにして引き伸ばしていった。
オトナの衣裳だ・・・そう感じた。
だって薄いナイロンは男の子の唇の下、
とても刺激的な疼きを帯びて、
滲み込んでくる唾液と妖しい感触と。
そんなものをこともなげに増幅させていったのだから。

きみの血、おいしいな。全部吸っちゃうのがもったいないや。
そんなふうにいいながら。
ほんとうは、全部吸い取ってしまいたいのだ・・・そう直感していたボク。
惜しげもなく。我ながら思いきりよく。
全部あげるよ。
足りなかったら、母さんや姉さんにおねだりしなよ。
そんなふうにいいながら。
ボクは気分よく、屍鬼となって目ざめるまでのつかの間の睡眠に落ちていった。

いま目のまえで。
母さんは濃いブラウンのストッキングを咬み破られて、
姉さんはまっ白なハイソックスに紅いシミをつけられてゆく。
やがて行為がたび重なると。
よく似た二重まぶたは眠たそうにとろんとしてきて。
いつか、彼の吸いよいように、脚の向きまで変えていったりしている。


あとがき
小さな男の子の意のままになって、つぎつぎと血を吸い取られてしまう小奇麗な母娘。
そんなようすをドキドキしながら見守る息子。
どういうわけか、そういう情景に奇妙な昂ぶりを覚えます。

開店準備

2006年03月20日(Mon) 14:44:52

当ブログにお越しいただきまして、ありがとうございます。
開設まで、いましばらくお待ちください。

無表情な女

2006年03月20日(Mon) 00:02:00

その女はいつもここを訪れるとき、とても無表情だった。
週に一度、きまって水曜日にやって来る女。
村での決めごとに逆らえず、ほとんど義務的にこうやって、
屍鬼となったわが身に血を与えるために、アパートのドアをノックする。
口数も、いたって少ない。
ドア越しに、
―――失礼します。
ひくい声でそういうと。
ドアを開けても目を合わせることを避けるように、伏し目がちに会釈をするだけ。
アパートのいちばん奥の、窓際の和室に通してやると、
無言のまま自分から仰向けになってゆく。
―――どうぞ。
目を瞑った女のうなじに、チカリと牙をあてがって。
ぴんと張りつめた素肌は、女がまだ若い血潮をその身にたっぷりめぐらしていることを感じさせる。
ドクドクと静かに胸をはずませながら。
そうっ、と、牙をうずめてゆく。
痛いのだろうか。なるべく苦痛は取り去ってやっているつもりなのだが。
ぐぐ・・・っと咬みつくと、女は頑なに身をこわばらせ、
いっさいの愉悦を感じまいとしている。
ちゅ、ちゅーー・・・っ。
脂ののり切った女が秘めている熟れた血潮をむさぼる、
屍鬼としては至福のひととき。
血とひきかえに注ぎ込んで遣った毒液が、身体のすみずみにしみ込んで、
ほどよい陶酔が行き渡っているはずなのに。
それでも女は身じろぎひとつせずに、
ひたすら身体を固くして、じいっと耐えているだけだった。
口を離すと。
糸を引いた唾液をうろたえもせずに拭き取って。
約束ごとを守るような律儀さで、無表情のままうつ伏せになってゆく。

女が脚に通しているのはいつも、光沢のない地味な肌色のパンティストッキング。
いまどき珍しくなったノンサポートタイプ。
あくまで事務的な女の対応とはうらはらに、
ぼくは冷えた皮膚の下、活き活きとめぐりはじめる新鮮な血潮に胸躍らせて、
貧しい肉づきのふくらはぎにべろを這わせ、唇で吸って。
じわじわといたぶりはじめてゆく。
柔らかいナイロンは手ごたえを感じないほど他愛なく、ぐねぐねとよじれて、
それでも女は冷ややかな自分を変えようとしない。
飽きるほど血を吸い取ると、こちらが身を離すのを推し測るようにして。
―――よろしいですか?
シミだらけの壁と古びた天井に囲まれたうらぶれた部屋のなか、冷たい響きが凛と耳を打つ。
―――いつも、悪いですね。
冷静なひとのまえで見せてはいけないもののように、昂ぶりを押し隠しながら。
きまり悪げにそういうと。
―――いえ。
ひと言みじかくそう答えて。軽く身づくろいを済ませて。
玄関さきにきちんと外向きに自ら並べたかかとの低いパンプスに、
靴下を脱ぎ捨ててむき出しになったつま先を差し入れて。
入ってきたときとおなじように、目線を避けるように会釈をして。ドアを閉じる。
まるで悪夢を追い払うようにそそくさと階段を駆け下りてゆく足音だけを残して。

所帯じみた感じのする地味な服装や年恰好から、結婚しているようだったけれど。
じぶんの身許を示すようなものはいっさい見せずに、つかの間の逢瀬を遂げてゆく女。
あるとき入ってきた彼女の肩を抱いて、
有無を言わさず、唇を重ねた。
女はちょっとの間ぼうぜんとなって。涙の出そうになった顔を隠すようにして俯いて。
それでも、いつものように仰向けになって目を瞑る、義務的な所作をくり返した。
後悔に疼く心の裡を、暖かい血潮がなだめるようにゆるゆるとめぐり始める。
―――いつも、なにも話してくださらないのですね。
気後れしながら、そう話しかけると。
女はちょっとだけ顔を曇らせて、やっぱりさりげなく、目線を避けてゆく。
責めるようないい方をしてしまったことをまた悔やみながら。
もうどうしようもなく壊れた空気を立て直すことをあきらめて。
ただ正直に、告げてゆく。
―――とても感謝してます。ありがとう。
―――お気が進まないのなら、なにもおっしゃって下さらなくてかまわないです。
女はハッと顔をあげたようだった。

―――人に接するチャンスがなくて。来てくれる人とせめて仲良くなりたくて、それで話しかけているだけですから。
―――かえって気まずい思いをさせてないですか?
―――ごめんなさい。
女が初めて、口を開いた。
昂ぶってしまうとつい、背中を優しく撫でたり、きつく抱きしめて身を接してみたくなったり、
そういう気分に囚われてしまうのです。
ぼくの気持ちを淫らだというのなら、たしかにそうなのかもしれません。
しょせんは鬼・・・ですからね。
でも、そのなかにいくらかだけでも、感謝と謝罪・・・伝えたかった。
堰を切ったようにひと息に。
そう、女の耳元で囁くと。
もうそれ以上告げることばは、ぶきっちょな自分には残されていないようだった。
女の表情がくすんで見えたのは、失血のせいだけだったろうか?
やがて女はもう耐え切れない、というふうに。
―――愛されているのか、追いやられているのか、わからない。
なんの脈絡もなく呟いた。
ご主人のことですよね?
咄嗟にひらめくままに問いかけると、かすかな頷きがかえってきた。
見て。
ぼくは彼女を立たせ、硝子戸のカーテン越し、外を見るよう促していた。
見おろした通りは人もまばらな細道で、二軒むこうで突き当たりになっている。
その突き当りの曲がり角。
電信柱の陰から目線を送ってくる切なげな男の顔をみて。
女は初めて、救われたように肩の力を抜いた。
足許に、破れ落ちた肌色のストッキングがくしゃくしゃにたるんでいる。
白い頬に不思議な笑みを浮かべて、
―――ごめんなさいね。いつも安物ばっかりで。
ひと言だけ、そういうと。
あとはいつものように、楚々とした物静かな物腰で会釈をして帰っていった。
めずらしく、目を合わせて。

二日後は、だれも来ないはずだった。
それなのに、女はいま、ぼくのまえにいる。
驚くぼくの顔つきを面白そうにうかがう様子は、まるで別人のようだった。
「主人を待たせていますの。土曜も来てくれる、って言ってくれたので」
めずらしく長い挨拶をすると、じぶんから部屋にあがりこんできて。
―――お部屋に入るのはどうしてもいやだっていうから、あそこでああやって、立ちん坊。
イタズラっぽく、くすり・・・と笑った。
―――寒いのにかわいそうだから。手早くすませてくださらない?
ええもちろん・・・と、初対面のときみたいにへどもどとするぼくに、
少しだけなら、エッチないたずらしてもいいのよ。
たくし上げられたロングスカートの下には、つやつやとしたなまめかしい光沢に彩られた脚が隠されていた。

訪ねてくる女たち

2006年03月20日(Mon) 00:01:00

隠れ家のアパートには。
あてがわれた女たちがいくたりか、代わりばんこにやって来る。
たいがい、週に一度ずつ。
おなじ女が三回以上来てくれることは、ほとんどなかった。
体力的に、ムリがあるのだよ。
屍鬼となって墓から這い出してきたぼくを家に迎え入れてくれた墓守は、
このアパートにぼくを隠すとき、そう説明してくれた。
ご家族の血がいちばんよいのだが。
きみの家は果報ものだね。いまちょうど、
母さんと妹さんが、代わるばんこにひとりの屍鬼をもてなしているよ。
もう少し落ち着いたら、必ず連れてきてあげるから。
しばらくはほかの女のひとの血で、我慢するのだよ。
あれ以来、家族の誰とも顔を合わせていない。
家族の血、だなんて。とても気恥ずかしかったから。
いいですよ。
そう口にしたあとで、墓守の説明をもういちど、反芻してみる。
―――母さんと妹さんが、代わるばんこにもてなしている。
そうなんだ・・・
もはや血の流れていないこの身には、さほど違和感を覚えることのできなくなっている事柄。
血を持っているものが血のないものに恵むのはとうぜんのことなのだと、芽生えたばかりの本能が囁きかけてくる。
そういうものなのか。
墓守が実家を見せたがらないのは、
まだ母も妹も、訪れる屍鬼たちに見苦しく抗っているからなのだろう。
そんなひとときが過ぎ去って、素肌に牙が滲むのに慣れてしまうと、
客あしらいの良い主婦や気前の良いお嬢さんになってしまうのだろうけれど。
ちょうどぼくがそうだったように・・・

アパートにやって来る女たちは、どれも見覚えのないものたちばかり。
年代もまったく、まちまちだった。
夜ごと女の血を採るためにはね。いろんな女を知らなければならないのだよ。坊や。
まるで幼い子供をあやすような墓守の言い草にちょっとだけ反撥を感じたものの。
真っ先に妻をあてがってくれたうえ、さらにいくたりもの供血者をあてがってくれるというものにたいしては、なにもいうことはできなかった。

村の配慮で屍鬼たちにつけられた女たち。
素性は明らかにしないで、
この家はだれと、あのお宅はかれと・・・
まるで当番を決めるように事務的に割り振られているようだった。
それは、屍鬼たちを危険に飢えさせないための、村での決めごと。
若くして未亡人となったものは、選定の対象となることを通夜の晩から覚悟をかためるという。

ぼくのアパートの玄関に立つのは。
ひとりは母親くらいの年配者。
未亡人だというその女は、いつも黒のスーツに身を固めて、
いつもいく筋も伝線させてしまう黒のストッキングを脱ぎもせずに、
裂け目に白い脛を滲ませたまま、まだ明るいうちに立ち去ってゆく。
運の良いことに、女学生もいた。
下校途中に友達とふたり連れだって、制服姿でやって来る。
おそろいの黒タイツを履いたまま差し出されるふくらはぎはとてもぴちぴちとしていて、
圧しつけた唇を跳ね返しかねないほどに生気を放っている。
どうみても母娘なのに、きまってべつべつに訪問してくるふたりの女。
母親は平日の日中に。
亭主の目を盗んでくるものか、エプロン姿のまま現われたこともある。
娘のほうは、勤め帰りの夕方に。
ストッキングを破ってみたい。
そんなけしからぬ言い分に、
仕方ない子ね・・・
おなじような口調で。瓜ふたつの面差で。
母娘とも、おなじ答えを返してくる。
地味なスカートから覗く、肌色のストッキング。
きりっとしたスーツのすそから覗く、グレーのストッキング。
母親は豊かな太ももを、娘は発育のよいふくらはぎを、それぞれにさらけ出して。
色とりどりのストッキングのうえから咬ませてくれる。
ストッキングを破らせてくれたあと。娘のほうは
スーツ汚されると困るから。
スリップ一枚になって、嫁入り前の肌を惜しげもなく外気に触れさせて。
そのまま目を瞑り、ぼくの腕に抱かれてゆく。

そんな日々を送ったぼくのところに、
べつの母娘があらわれた。
ふたりとも、きまり悪げに顔を見合わせながら、
それでもイタズラっぽい笑みをちらちらこちらに送りながら、
―――母さんが先よ、年の順でしょ?
―――なに言ってるの。若いあなたが先よ。兄さんでしょう?
母も妹も、とても楽しそうにして。淫らを共有し合う血の娼婦になっている。

ふる里の少女

2006年03月19日(Sun) 23:45:00

工事現場のむき出しの鉄筋に石を投げても、
冷たい金属音しか跳ね返ってこない。
都会の学校での毎日は、彼にとってそうしたものだった。
どの子も、洗練されていて、クセがなくて。
頭がよさそうで。身ぎれいにしていて。
それがかえって取り澄ました冷たさにしか受け取れなくて。
学校への重たい足どりの行き帰り。
いつか故郷の青空に心を馳せていた。

都会の乾いた空気がサッと飛散して。
懐かしい匂いを帯びた湿りが、そこかしこに漂っていた。
ぼうっと見あげて見回す周囲に広がるのは、まごうことなく故郷の空。
都会(ここ)よりは冷たく澄んだ空気。
たしかに冷たくはあっても、金属に帯びられたようなそれではなくて、
地面にしみ込んだぬくもりの裏返しのような、生気に満ち溢れていた。
しっかりしたものに包み込まれた充実感が、いつか少年の心をひどく落ち着かせくつろがせる。

あら、どうしたの?
少女は長い長いお下げ髪の間からあの人懐こいえくぼを浮かべて、
濃紺の制服を揺らしながらこちらに歩みを進めてきた。
ミナコちゃん。
少年は鼻腔の奥に甘酸っぱいものを痛いほど覚えながら、
精いっぱい、声を震わせまいとしていた。

少女はくすっとひそかな笑い声をたてて、
えくぼの傍に、温かい吐息を滲ませる。
―――血を吸いに来たんでしょう?
まだ、村に住んでいたとき。
少年が訪ねてくると彼女はいつもそういって。
ためらいもなく大胆に、胸元のリボンをほどくとブラウスをはだけて、
健康な小麦色の素肌を惜しげもなく、飢えた牙と渇いた喉のまえにとさらしてくれた。

都会でいい子ができたとばっかり思ったら。
悪戯っぽい微笑を浮かべて少女が蓮っ葉にからんでくるのを真に受けて、
しんけんになって抗弁しようとしたら。
相変わらず、コドモだね。
才気を含んだからかいが、鼓膜にとても心地よかった。

まだ持っているのよ。
少女は得意そうに、片足をこちらに差し向けてくる。
重たい制服のプリーツスカートからひざ小僧をむき出しにして。
スカートの下で少女のふくらはぎを蔽っている白のハイソックスはリブが太くて、
細い紺のラインが三本、ふくらはぎの周りを横切っている。
かれ好みのものだった。
少女がハイソックスをひざ下までぴっちりと引き伸ばすと、
かれはもう夢中になって少女にむしゃぶりついていって。
そんな彼のことを姉のように受け止めて、
少女はじぶんから、草地に身を投げ出した。

チィチィ・・・チィチィ・・・
名も知らぬ虫が奏でる声に、ふたたびもどった静謐をかんじながら。
身づくろいする少女の髪を、いっしんに撫でつけていた。
きちんと結わえていたお下げはほどかれて、
さらりと長い黒髪は、なまめかしい乱れをブラウスの背中に描いている。
抱いてもらえて、よかった。
制服のスカートからのぞかせた股間にかすかな血を滲ませながら。
二重まぶたの大きな瞳を潤ませているのは、たしかに嬉し涙だった。

ふと気がつくと。
少女の母が、眼に涙を一杯ためて、たたずんでいた。
さいごにあの子、降りてきたのね。あなたと遊ぶために・・・
娘とよく似た二重まぶたがひどく若々しく潤んでいて、少年をどぎまぎさせている。
幻を見たのね?でも、楽しかったでしょう?
もう、いないのよ。あの子・・・
半年前に病で死んだと、彼女はじぶんの娘の死を少年に告げていた。

血の汚れる病だった。
さいごのさいごまで、逢いたがっていた。
それと察した母親が報せをしようとすると、
少女は報せないでくれ・・・かえってそう、懇願した。
さいごに逢ったとき。
いちばんおいしいころの私の血を吸ってもらって、
その想いのままでいてもらいたいから。
いま私の血は汚れてしまって、もうおいしくはないのだから・・・
遺影のなかの少女は、草地のうえで抱きしめたときそのままに。
いまも清らかな笑みをかれに向かって注いできている。

あの子ったらね。
あなたの好きな靴下、何足もとっておいたのですよ。
やっぱり、貴方に逢いたかったのね。
少年のひざ下を、少女が好んだ長靴下が蔽ってゆく。
逞しくなった筋肉質なふくらはぎには、年上の少女の靴下はほんの少し小さくなっていた。
脚に通した恋人の形見に、護られるようにしっかりと包まれて。
その下を流れている冷えた血液が、ほんのりと暖かくなったような感じがする。
もう、あのひとの血はこの世のどこにも遺されていないはずなのに。
彼の周りを、空気のように漂って、ずっと彼を見つめ続け慰め続けてくれているようだった。
娘の形見のうえから自らのふくらはぎを撫でさする少年の指が、
いつまでも、いつまでも、とても切なげにしなやかにさすり続けていた。

ハッと気がつくと。
あたりは夕闇。
漂ってくるのはいろんな匂いの入り混じった、ひどく汚れた都会の空気。
すべては十年以上もまえに目の前を通り過ぎた、甘い追憶だった。
いま彼がまとっているのは都会のサラリーマンの装い。
すっかり板についた当意即妙の身のかわし。
理論武装の鎧におおわれた、したたかさ。
それでいて三十過ぎになるいまもまだ独りでいるのは、血を吸う性のせいばかりではない。
冷えた擬態のさらに奥深く、秘められた想いはまだ募っている。
あら、どうしたの?
聞き覚えのある声だった。
都会には耳慣れない、独特な響きを持った甘い声色。
周囲の汚れきったものをたったひとしずくで清めてしまうほどの力を秘めた、涼やかな響き。
懐かしさが胸からにじみ出てきた。
長い長いお下げ髪。そのあいだからこぼれる、愛らしいえくぼ。
やっと、逢えたね。
いまでは珍しくなってしまったライン入りのハイソックスを。
少女はあの得意そうな笑みをうかべながら、
スカートをちょっぴりめくりあげて、見せびらかしてくる。

贖罪

2006年03月19日(Sun) 23:00:00

貴女はじいっと、こちらを見つめている。
睨むような、つよい視線。
なにかを耐えるように固く引き結ばれた、気品をたたえた薄い唇。
そんな切迫した空気を貴女にまとわりつかせてしまったのは、
きりっとしたスーツのうえから巻かれた、ひと筋の荒縄・・・

いまだ正気を喪っていない生身の人間から、
柔肌の奥深く秘めている生き血を獲ようとするときは。
こんなふうにしょうしょう手荒いやり口で、
力づくで、想いを遂げることが少なくない。

そんなやり口が貴女の侮蔑をいっそう誘うと知りながら。
私の唇は心と裏腹な薄笑いを浮かべながら、
ゆがんだ口許と、顰められた眉の色香に、ついうっとりと見入ってしまう。
恐怖と屈辱と羞恥とが織りなす造形の、妖しい美しさに魅きこまれてゆくように、
容赦なくふたりのあいだの隔たりを埋めてゆく。

抱きすくめた衣裳の下、貴女の肢体はあまりにも華奢で、
まるで軍服のようにぱりっとした外見のスーツには、不似合いなほど嫋々としていた。
頼りなく力ないその挙措に、たとえようもなく胸わななかせる瞬間(とき)――。
それでも飢えた唇の下に秘めた鋭利なものは、
情とはべつの次元の衝動に突き動かされて。
もうこらえようもない疼きを身体の芯にまで律動させてしまっている。

思うさま力ずく。
うずめ込んだ牙の切っ先に、貴女のぬくもりを覚えながら。
絶望が抗う両のかいなから力を奪い取る感覚にかぎりない愉悦を覚えながら。
足許をスキなく彩るなよなよとしたナイロンのストッキングをいたぶって、
みるかげもなく裂き落としてゆきながら。
私はいっしんに、ゆがめられた貴女の表情を見守っている。

たとえ素肌が赤みを帯びて、差し入れた指に吸いついてきても。
たとえ開かれた花びらが淫らな露を帯びて、もの慣れたまさぐりに耐え切れず応じはじめてきても。
貴女はさいごまで、心に秘めた高貴な一線を放棄するまいと、
いっしんに目を瞑り、歯を食いしばって、
無力な抗いに心を焦がしている。
牙とともに肌の奥深く刺し込んでやった毒が貴女の体内を巡りきって、
貴女の体が我を忘れて乱れ始めても。
けっして心を許すまい。死んでも娼婦に堕ちるまい。
そんな切なる心の抗いが、乱された衣裳をとおしてまだひしひしと伝わってくる。

貫かれて、吐き出されて。
意志をさえ崩されかけた女。
己の無力さにがっくりとうなだれて。
すすり泣きむせび泣きはじめたとき。
赦してください。
そう呟いていたのは、私のほうだった。
心の裡に巣食う汚らしい情欲を、心ならずも受け止めてくれたそのひとに。
尊いものに額づく心と、母に甘えるような情とに心を濡らして、
いつかすすり泣きは、ふた色になっている。
潤んだ想いをからみ合わせて。
そんな私の背中に両腕をまわしてくる、貴女・・・

外聞

2006年03月19日(Sun) 22:00:00

娘が吸血鬼に襲われただなんて、外聞の悪い話だわ。
ご近所にはもちろん知られてはいけないし・・・
あなた、お義父さまやお義母さまにもお話しないでくださいね。わたしも父や母にも相談しませんから。
かえって心細くないだろうか・・・?
などというまっとうな悩みは、じつは愚問であったりする。
私はちゃんと、知っている。
娘の部屋を訪れる黒衣の男がその足で、妻の寝室にも忍び込んでいることを。
深夜まで書き物に追われる私を待たず、眠りについている妻。
そんな彼女も、とうに気づいているはずだ。
私がわざと半開きになった扉の陰からこっそり覗いて愉しんでいることに。
だから今夜もああやって。
娘を汚した招かれざるべき訪客に、
これ見よがしの媚態を振りまいているのだ。

濡れ痕

2006年03月19日(Sun) 01:00:00

はた目に見てもか細い、妻のふくらはぎ。
肌色のストッキングに包まれたほっそりとした両脚はきちんとそろえられていていた。
後ろから忍び寄る、飢えた唇。
気配に気づいてか、気づかないでか。
彼女の脚がこころもちすくんだようだった。
足首をつかまえて。
おもむろに吸いつけれる唇に。
妻は声をあげることさえためらって、
一瞬、ふくらはぎの筋肉をキュッと緊張させた。
ぬるりと塗りつけられる唇は、まるでうわぐすりをかけたみたいに、
ナマナマしい唾液をたっぷりあやしている。
ヒルのようにぬめぬめと。
上品な礼装のうえを這いまわっていって。
その痕にはくっきりと、濡れた痕が残されている。
つややかな光沢を塗りつぶすように、くまなく圧しつけられてくる分厚い唇。
ほっそりとした妻の脚はそんな唇の侵害をうけて、よりいっそうか弱く頼りなく目に灼きついた。
ちょっとだけ厭わしげに身をよじり、足許にも咎めをこめた目を注いだようだったけれど。
妻はあくまで淑やかな姿勢をくずそうとしない。
まるで気づきもしないように、
よだれに濡れた唇を。そしてぬめりつけられてくる長い舌を。
まるで無抵抗に、受け入れてしまっている。
なまの唇と露骨なべろの執拗ないたぶりを許すうちに。
いつか妻の脚もとが乱れはじめていた。
そう、相手の不埒な欲情をかなえるために、吸いやすいように脚の向きをかえてゆくのだ。
貪婪な舌や唇のむさぼりから妻の素肌をガードしている紙のように薄いナイロンは、
整然としていた細やかな肌理をゆがめられ、ふくらはぎの周りでじりじりとよじれてゆく。
そんな様子を愉しむように、静かで淫靡なステップを踏みはじめるハイヒール。
音もなく、軽やかに。
あてがわれるべろや唇を愉しむように、待ち受けるように。
ゆったりとした律動を帯びた舞踏には、おおいようもない愉悦を含んでいた。
スカートのうえに重ねられた両手を取りのけようとする手を抑えると。
おもむろにスカートをたくし上げていって。
欲情に満ちた掌を、自分から太ももに這わせてゆく。
きみはいつから、そんなふしだらな女になってしまったのだね?
そして、私もいつからか、こんな不埒な夫になってしまっている。
ふたりの密事をこうやって、昂ぶりに満ちた視線で追いつづけているのだから・・・


あとがき
バス待ちをしているときに、先客のご婦人のほっそりとしたおみ脚がこんなふうになまめかしくて。
ついつい、目線をちらちらと・・・
まぁそこまでは、許されるでしょうかな・・・^^;

妻のブログ

2006年03月18日(Sat) 00:01:00

4月1日 エイプリル・フール

パパがお友だちの吸血鬼を紹介してくれた。
えっ?うっそぉ。ホンモノの吸血鬼?なんて言っていたら。
パパの目のまえで、咬まれちゃった。きゃー。
痛かったけど。キモチよかった。
首のあたり・・・肌に痛みがジンジン残っていて。
それがなんだか、疼いている・・・
咬まれたのは首筋だけじゃなくって。
「太ももを咬みたい」だって。きゃー。
なんだかやらしい感じがして、パパのほうをみたら。
パパはとても嬉しそうな顔をして、「咬んでもらったら?^^」
え、えーっ、いいの?って感じ。
パパのまえ。ためらいながらスカートのすそに手をかけて。
ちょっとだけひざ小僧を出したら、するりとその人の手がすべりこんできた。
さすがに息詰めて。ストッキングを脱ごうとしたら、そのままでいいんだよっていわれた。
ストッキングが好きなんだって。
なめたり、咬み破ったりして愉しむ・・・それもなんだか・・・凄くやらしい。
ちょっぴりいいにくそうにしていたのが、かわいかった。(笑)
黒のストッキングだった。肌の透けて見えるやつ。
それで、発情?したみたい。^^;
あたしの脚、きれいじゃないですよお。
照れ隠しにそういったら。
肉づきの豊かなほうが好みでね・・・
ごくり、と生唾呑み込むあたりが、ちょっとホラー。
咬みついてきた尖った牙がジンジンして。とても熱かった。
んー・・・かな~り、貧血かな・・・
あと、咬まれたところがじんじんする。
胸がどきどきしてくるような、不思議な疼き。

4月5日
パパと吸血鬼さんと三人で、初デート。
美術館で絵を見たり。(あたしの趣味)カレ(吸血鬼さん♪)のお宅にもお邪魔した。
広くて、古くて、でかかったー。
あんなに大きな暖炉。うちにも欲しいな。
向こうのお宅で、咬まれちゃった。パパに両肩、つかまれて。
グレーのストッキングに発情?したみたいで。
長いこと、しつっこく、なめられちゃった。
パパも大興奮。つかまれた指が痛いくらい、肩にくいこんできた。
牙より痛いよ~!(‘0’;)
太ももとか、肉のついているところに、あっちこっち咬みついてきて。
履いているグレーのストッキング、ちりちりになるまでいたぶられた。
あー。だいじょうぶかな・・・まだちょっと、理性が揺らいでいる。


4月10日
吸血鬼さんのことをカレって呼ぶようにって、パパから言われた。
カレかぁ。まるで女子高生のころみたい。
で、そのカレから電話。
「今からお伺いするので」って。
部屋かたづいていない~!
それよりも。また、血を吸われちゃう~っ!・・・どきどき。
三十分間で、全部片づけた(片寄せた・・・汗)
カレはいっつも、黒い服。
うっかりして、着替えてなかったー!まるっきりのふだん着。
スカートだったから、まだいいか。
ストッキングだって、履いていたし。(安物だけど♪)
飲むんでしょ?って。あたしのほうからきいちゃった。
がぶっ!ってやられちゃったけど。
パパもいないのに~!恥ずかしい。
お味はいかが?ってきいたら。
O型だけあって、大味だけど旨いよ。ですって・・・
大味・・・?大味・・・。う~ん、ほめてるのかなぁ。微妙。
でも、旨いっていわれたのが不思議と嬉しい。
傷あと、まだじんじんしてる。
鏡でみると、真っ赤な痕がふたつ。ちょっとホラー。
パパに見せたら、嬉しそうな苦笑い・・・
まっ、パパもご機嫌だし。カレも旨いっていってくれたし。
きょうのところはよしとしよう。

4月12日
カレがデートに誘ってきた。
パパに電話で聞いてみた。行ってもいいヨって言ってもらえて。
なぜか嬉しかった。パパありがとね。♪
ウキウキしながらおめかしをして、さっそくお出かけ。
行き先はデパート。(買い物につきあってもらっちゃった。荷物持ち。ゴメンネ・・・汗)
それから、カレのお邸。
誘惑されちゃいそうになった。
「血を吸ってもいい?」ですって。どっきり。
「どうぞ」って、胸はだけたら。
嬉しそうに、食いついてきた~!きゃー!
ほんのちょっぴりだったけど、美味しかったかな?


4月16日
子供の学校の参観&親子面談。
息子は先に帰して、先生と三十分ほど面談。
進路のことを聞かれた。お宅の息子さんは優秀だから、A高かF高あたりもトライできますね。ですって。
やるじゃん。ハルキ。
で、帰り道。スーツ姿で歩いていたら。
道端の草むらから出てきた黒い影・・・
むっ・・・?と思ったら、カレだった。
わざとらしく、通せんぼ。
分かってるってー。もう。
目だたないようにって、草むらの奥の茂みの奥に連れ込まれて・・・
えっ?やだ。この先、書くの~?~?~?
(となりにパパがいるんです・・・^^;)
ことわっとくけど、うちのダンナはなかなかエッチである。
えっと、ブラウスはだけられて。
キス奪われちゃった。きゃー。
それから、ストッキング履いている脚も。
太ももに両方。ふくらはぎにもかわるがわる。
不思議とあんまり痛くない。慣れたのかー?わがことながら、怖。^^;
でも、ストッキングのうえからなめるのって、ちょっとエロ。
しつっこく、べろまで這わされた。
私のストッキングが気に入っちゃったみたいで、こないだよりもしつこくなめられた。
&上から咬まれた~!(><)
くすぐったくって、けらけら笑ってしまったけど。フキンシンだったかな?
ごめんなさい。
暗くなるまでずっと、茂みのなかで血を吸われてた。。。
貧血・・・思い切りっ・・・
ふらふらになっちゃったら、カレが家まで送ってくれた。
ストッキングが肌色でよかった。
破けたストッキングのまんま外歩くのって、恥ずかしいっ。
裸で歩かされてるみたいだった。

4月25日
カレには逢わないの?って、パパにきかれた。
こないだ吸われすぎちゃったせいか、ちょっと日があいている。
ときどき寵愛をいただかないと、忘れられちゃうよ~、ってパパにいわれて。
なぜだかすごく、あせっていた。
パパにせかされて。彼のうちに電話をしたら。
いた。
飢えてるって~。
怖いから、うちにお招きすることにした。
カレがきたら、こんどはパパが。
「オレ、タバコ買ってくる。帰り、遅くなるからね」
いつごろ帰る?ってあたしがきいたら。
「夜中すぎかな?^^;」
うっそー。
パパの出がけに目のまえでうなじを咬まれて・・・
パパはあたしが目を回してちゅーちゅーと血を吸いあげられるのを見届けてから、出かけていった。
ほんとうに、真夜中まで戻ってこなかった。
息子は部活の合宿。^^v
だから、好きなように愉しんじゃった。
って、一方的に血を吸われて服汚されてるだけだったけど・・・(汗)
こんなことヘイキで書いている自分が不思議。


4月30日
まだ、抱かれてないの?って?
いいの?奥さんそこまでいかせちゃっても・・・
ウン。もちろんパパが一番だよ。
でもあんな電話、パパ以外の男性にかけたの初めてだった。
私を抱いて。いますぐ行くから。
せいいっぱいおめかしして、家を出た。
じゃあね、愛しのパパ。バイバイ、パパだけのものだったあたし。

ごもっとも。

2006年03月18日(Sat) 00:00:00

帰宅そうそうの私の耳に入ったのは。
階上の部屋から伝わる、あわただしい物音。
妻の寝室のほうだった。
あわててかけのぼってみると。
吸血鬼が妻のことを組み敷いて、いままさに牙を突きたてようとするところだった。
「おいっ!何を・・・」
私の声を掻き消すように、
「シッ!」
男は近所迷惑だ、といわんばかりに、かぶりを振った。
それはそうだ・・・と我に返った私が黙り込むと。
「手伝ってくれ。チャンスを逃したくないんだ。この女の腕を抑えつけていてくれないか?」
なんでオレがそんなことの手助けを・・・
そういいかけると。
「奥方に、極楽をみせて差し上げたいのさ。どうせなら」
おかしい。なにかがおかしい。そう思いながら妻の腕を抑えると。
「あぁん・・・っ」
悶える妻は、まるで嫌がるそぶりをみせずにいた。
熟れた肉をたっぷりと帯びた首筋に刺し込まれる、鋭利な牙。
「きゃっ。」
妻はちぢみあがってひと声叫んだけれど。
その声色はひどくくすぐったそうだった。
ちゅ、ちゅう~っ・・・っ・・・
消え入るような余韻が、闇の広がる廊下にまでこだました。
ひとしきり、血を吸い取ると。
ぐったりとなった妻をこれ見よがしに抱きすくめながら。
「ほんとうにすまない。勝手ばかりを申し上げて・・・いましばらく奥方を独り占めさせてくれまいか。本当に心地よい夜だから」
じゃあ、愉しい夜を、つつがなく・・・
そう私はふたりに告げて、なるべく音のしないよう、ドアを閉ざしていた。
あとにのこるのは、淫欲の立ち込めた、しっとりと広がる闇―――。

倒錯の宴

2006年03月17日(Fri) 00:00:00

スリップのうえから乳首を触れられて。
どうしてこんなに感じてしまうのだろう?
さらさらとした肌触りのスリップをとおして、
女の親指がじわじわと迫ってくる。
たんねんに、たたみかけるように撫でまわされて。
喉の奥から声にならない呻きを洩らしてしまっている。
私にはやや小さめな、妻のスリップ。
まるで束縛するように、肩を、胸を、わき腹を、タイトに締めつけてくる。
軽い拘束感に酔わされて。
いつか、本当の女になってしまったような錯覚が、理性を甘く崩れさせている。
あの女はブラウスの下、いつもこんな娼婦のような衣裳を身に着けていたというのか。
あぁ・・・
女は切なげな吐息を洩らし、
スリップ一枚の身体をひしと抱きすくめてくる。
しぜん、両の腕(かいな)は彼女の背中に・・・
身をしならせて、くねらせて。
まるでなぶるように、いたぶるように、柔肌をすりつけてくる女。

ツタのように絡みつきもつれ合うふたりの脚には、
まるでおそろいのような、黒のストッキング。
すべすべとしたナイロンを通してすれ合う、二対の太もも・
素肌と素肌のあいだに介在する薄手のナイロンが、
玄妙な和音を奏でるひと刻。
そのあいだに、忍び込むように差し入れられたしなやかな指は、
ぱりり。
まず彼女の腰周りを。
それから・・・
ぶちっっ。
私を包むナイロンを、こともなげに引き裂いていた。
太もものはざまで昂ぶりを帯びた塊が取り出されて。
女の指は、思いのほか温かく柔らかかった。
握りしめられた掌のなか。
塊は恥ずかしいほどに怒張して。
掌のなかよりも温かく、ぬるぬるとしたすき間へと導かれてゆく。

いいでしょ?奥さんともやらせてね。
甘い脅迫。いけない囁き。
そうと分かっていても、もうこらえきれなくなっていた。
女の請いに不覚にも頷いて。
激しく頷きながら、女の腰にまわした腕に力をこめる。
わが身のうえにおおいかぶさる豊かな肉を、もっと近寄せるようにして。

蒼白くかすんだ視界のかなた。
ふすまが音を消して、半開きになっている。
覗き込んでいる、見慣れた瞳 そして唇が。
くすっといたずらっぽく笑みをたたえて。
ふたりの痴態を愉しげに見つめつづけている。

窓の鍵 心の鍵

2006年03月16日(Thu) 00:03:00

窓の鍵は心の鍵。
あの女はたしかにオレにそう囁いてきた。
ぎいっときしみをたてる窓には、約束どおり錠はおろされていない。
  やっぱり、無用心だよな。
オレは独り、呟いていた。
部屋の中に憩いをとっている人がもう、オレの漂わせる毒素に酔って、目ざめることのない身体になったいると知りながら。
  かけるのは、心のなかの鍵だけにしておけよ。
そう囁いて。
オレは意識の失せた女のうなじに、いつものように唇を這わせてゆく。
まりあという名の、働き盛りのOL。
昼間はきりりとしたスーツに身を包んで、オフィスを闊歩しているのだという。
いちど服を着たまま襲ってやったときには、たしかにそんな感じがじゅうぶん、ただよっていた。
戦士のような颯爽としたイデタチのなか、抱きすくめた身体は思いのほか華奢で、
弱々しくもたれかかってくる身体をオレは苦もなくすくい上げて、傍らの草の褥に放り込んだものだった。
けれどもいま腕のなかにいるのは。
そうした表向きの束縛を逃れた、一個の女。弱い女。
少女のように他愛なく、世間の汚れを忘れきったように無垢な顔をした眠り姫。
鍛えられたしなやかな皮膚にそうっと唇を這わせてゆくと、
かりり。
ひと思いに、うなじの肉を食い破る。
唇のあいだ。なま暖かくにじみ込んでくる、甘美な液体。
オレはもう我慢ならなくなって、
吸いつけた唇にいっそう力をこめている。

きゅうっ・・・きゅうっ・・・
お行儀悪く、音を立ててむさぼる、若い女の生き血。
ひとの栄養を盗み取って生きる毎日に嫌気が差さないのは、
やはりこうやって美女から美女へと渡り歩く暮らしが愉しいからなのだろうか。

うふん・・・
まりあは幸せそうな笑みをうかべたまま、寝返りをうつ。
さらりと床に落ちた掛け布団から、シースルーのネグリジェに包まれた肢体があらわになる。
ちょっとだけ、目を見張った。
就寝中だというのに。
まりあは、黒のガーターストッキングを身に着けていた。
まるでオレの訪れを待ちうけたかのように。
薄明るい灯火の下、挑発的な黒光りを放つ太ももは蛇のように妖しくくねり、
あべこべにオレを巻き込むかのように、からみついてくる。
オレはまりあの脚をつかまえて。
にんまりと笑んだ唇を、薄いナイロンに包まれた足の甲に押しつけていた。
さぞや窮屈で、寝苦しかろうに。
そんなふうにまりあを気遣いながら。
じつのところオレの頬はもうどうしようもないほどに、笑み崩れてしまっている。
女もののストッキングって、色っぽいね。
初めてまりあの足許に唇をさ迷わせたとき。
まりあはちょっと恥ずかしそうに脚をすくめながらも、
足許を妖しく彩る薄絹に加えられる不埒な悪戯を咎めようともしないで。
なよなよとしたストッキングをくしゃくしゃになるほどいたぶらせてくれていた。
そう。まるで姉のような優しさで。
子供っぽいオレの希いをかなえてくれたのだった。

すまないね。気を遣わせてしまって。
そんなふうに贖罪のことばを口にしながら。
口先の慰めとは裏腹ににんまり笑み崩れている口許を、
すらりとしたふくらはぎに思うさま、押しつけてしまっている。

は・・・はふぅ・・・うぅん・・・
どこまで気づいているのだろう?
けだるげに寝返りをうつ足許で、女の脚を彩るなまめかしい色彩はむざんなばかりに散らされて、
オレを夢中にさせてしまっている。
昏く。激しく。熱っぽく。
からみ合い、狂い合う、身体と身体。
月の光の差す窓辺、上気した頬を蒼白く輝かせて。
夢かうつつか、音もなくしなやかに腕や脚をくねらせて。
女は狂おしい舞いに、わが身をすり寄せてきた。
腕のなか、愉悦に酔い痴れ蠱惑的に舞う華奢な身体を抱きすくめて。
ほんとうはこの女が意識など喪っていないのだということを、
この身にじかに感じ取る。

ともに戯れあった寝床を抜け出して、明るさのけぶり始めた外気に身をさらすとき。
ありがとう。
そんな呟きを耳にしたような気がする。

金貸しの女

2006年03月16日(Thu) 00:01:00

その晩襲ったのは、金貸しの女。
目のさめるような美貌に似合わず、あるいはその美貌のゆえにか、
冷血魔といわれるほどの、取立て上手。
それがいつしか金の流れが逆転して。
もとの無一文に舞い戻った。
残されたものは金貸し業とはあべこべに生まれた多額の借金と、人々の怨嗟ばかりだった。

もう、売り食いするしかないのよ。
いま身にまとう豪奢な装いも、ほんとうは売ってしまうはずだった。
虚栄がまだまかりとおっていたころを髣髴とさせる遺産。
それをきらきらしく身にまとい、
惜しげもなく持ち主の血潮を撥ねかせてしまっている。
けれども疲れ果てたその顔に、極上の盛装は、もはや似合ってはいない。
まだ色あせ切っていない女のうなじに牙を突き立てて吸い出した血潮は、
ぞっとするほど、冷たかった。

冷血とはよくいったもの。
女の心の冷えをそのまま映したかのように、その血はまずく、
飢えていなければとても飲めたものではないほどだった。
身体の芯まで凍えを覚えながら。
オレはいつしか女の身の上話に耳を傾けていた。
そう。女はオレに抱かれたまま、死ぬ覚悟でいたから。
  もう、たくさんだから。あたしのこと、好きにしてちょうだいね。
貴方がわたしにとって、さいごにめぐり合った男なのだから。
  血がほしいのね?全部あげるわよ。
自棄になったように女はそう、吐き捨てた。
吐いて捨てるようなものなど、欲しくはない・・・
そう主張する贅沢を、そのときのオレは持ち合わせていなかった。
女にとってそれが不幸せだったのか。まだしもの幸せだったのか。

十代のころに両親が離婚。
お前だって人の子だろう・・・といったら、そんな言葉がはね返ってきた。
それから親戚の家で、独りで暮らした。
従姉妹たちに、さんざん意地悪されながら、暗い青春時代を過ごした。
初めてできた恋人は、そんな舞台裏を察すると、言葉ひとつ残さずに去っていった。
  本当に、本当に、独りっきりだったのよ、わたし。
女の声に初めて、潤いが滲んでくる。
牙にあやした血潮が、わずかに温もりを取り戻す。
就職先で待っていたものは、表看板の実績主義とは裏腹な、
醜い中年男どもの巣窟。
肩書きいがいになんの値打ちももたない男どもに、
それでも媚びを売らないと生きていくことができなかった。
先の見えた会社勤めを辞めて、事業を起こした。
金まみれの男どもの餌食になって、餌食になるほど、事業は肥えた。
女のなかの悪徳といっしょに、肥えつづけた。
  あのころは本当に、得意だったわね。
ふふん。女は高慢そうに、鼻を鳴らす。
血潮のなかに帯びはじめた温もりがスッと消えて、ふたたび冷え冷えと喉を打つ。
仔猫がいてね。あの子だけがわたしに、なついてくれた。
その話のときだけ、温もりが女の肌に、ぽっと点ったようだった。
ほとんどが、冷えた話の連続だった。
オレはなぜか、冷え切った女の頬に、涙をしたたらせいた。

泣いてくれるの?
いつか、女の声が濡れている。
このまま、なにもないまま終わるのか?
血を奪ってゆくわが身をわすれて、オレはひとり呟いていた。
  そうね。それでもいいかしら。
  貴方がわたしにとってさいごの男。さいごのお客さまとお呼びしようかしら。
  ちょっとちがうのは、いままで私が血を吸っていたのだけれど。
  今夜はあなたに吸われちゃう番なのね。
女の肌はすっかり、もとの温もりを取り戻している。
もう消えようもない温もりをブラウス越しに撫でさすりながら。
夢見心地にこちらをふり仰ぐ女の唇に、思わず唇を重ね合わせていた。

人妻が家を出るとき

2006年03月16日(Thu) 00:00:00

「ごめん。私吸血鬼になってしまったの」
ある日突然、貴方の奥様がそう話しかけてきたとしたら・・・貴方はどうなさいますか?

その女を初めてつかまえたのは、夜遅く。
ふたりきりになった事務所のなかでのことだった。
本性をさらけ出して迫ったとき。
さすがにちょっとびっくりしていたけれど。
意外なくらい怯えも抗いもせずに、オレの腕のなかに落ちていた。
首筋に這わせた唇を放したとき、女はひと言。
  わたし、まだまだ若いのね。
ちょっと満足そうにほほ笑んで、
そして、
たじろぐほどにひたとした上目遣いで、オレを睨みあげてきた。

夢か、幻か・・・
その晩、女の家のことがつぶさにオレの前に現われた。
亭主らしいその男はいかにも仕事やつれした無表情で、ぱちりぱちりと音を立てて、爪を切っていた。
女には見るからに似合いそうもない、夢も希望も忘れた男。
いまの日常に溺れ流されて、感性も思いやりも、どこかへ置いてきてしまった男。
「おい、家計簿みたけどさ」
ぞんざいな口調で、そいつは女房にいった。
「よけいなもの、買いすぎているだろ?支出がこんな額になるわけないんだよなぁ」
あなたに生活の苦労がどこまでわかるの?
女は一瞬そういいたげに男のほうへとまなざしを送ったが、
男の冷えた横っ面をみると諦めたように、なにもいわずに黙っていた。

それから毎晩のように女は遅くまで残業をつづけ、
残業のあと、オレに抱かれて首筋をゆだねた。
そして、決まったようにこう訊くのだった。
  ねえ、わたしってまだ若いでしょ?
オレは決まって、応えてやった。
  独身の女のように若いね と。
それがどれほど女の慰めになったことかわからないが。
ある晩女は己のすべてを見定めたようにして、こういった。
  どうせ、このままわたしの血を吸い尽くしちゃうつもりなんでしょう?
  お願い。ぜひそうしてもらいたいな。
  違う世界には、も少しちがうわたし、いるわよね?
オレは黙って頷いて、いつものように女の首筋に牙をたて、甘く暖かい血潮を抜き取っていった。

「ゴメン。わたしもうあなたと暮らせない。吸血鬼になっちゃった」
亭主はあわててなにかを言おうとしたけれど。
蒼白い肌の奥から差してくるオーラのような輝きに、いつもの減らず口を封じられて。
ただばかみたいにぽかんと口を開けて突っ立っていた。
あとに残る世間体や、女房の実家になんて言い開きをしたらいいかしか頭にない亭主を残して、
女はじぶんのささやかな砦だった家庭をさえ振り捨てて、
窓の外にまつオレの懐に飛び込んできた。
ほんとうに、いいんだな?
そう囁きかけた女は、初めて血を吸われたときに浮かべたいかにも満足そうな笑みをまた浮かべて、
少女のように無邪気に笑って頷き返してくる。

封印

2006年03月15日(Wed) 13:05:00

創造者によって突如封印された、幻の空間。
秘められたその世界の一端。いまここに甦る。

【業務連絡】
え。ぎょうぎょうしいイントロですが。^^;
ここから下はかつて存在していた「吸血幻想」に掲載されたお話の復活バージョンです。
一部リメイクされていますので、既読のかたもお時間のあるときにお越し下さい。