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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ぎょっとするような

2006年04月29日(Sat) 21:31:29

ブログを発見しました。
題して、「60歳法」。
http://sixtyslaw60.blog59.fc2.com/
目を引いたのは
>日本国籍を有するものは、個人の尊厳を守る為に満60歳の誕生日に合法的安楽死を選択できるものとする。
という条文です。
どきっとしますね。こういうの。
まだ始まったばかりで、59歳になった主人公?が、亡くなった父母の土地をどうするか・・・という第一幕がアップされているだけですが。
どういうわけか、むしょうに気になったサイトなので、ご紹介だけしておきます。
アップが速そうなので、速めにチェックをしないと乗り遅れそうなので・・・
あ、残念ながら。えろくはないですよ。(笑)

時折こんなふうに、気になるサイトを見つけられるといいなあ。

応接室

2006年04月29日(Sat) 06:33:21

訪れた家のあるじは、いんぎんな男だった。
きれいに分けた髪。シャープな感じを漂わせる銀縁眼鏡。
一見して、さばけたエリートである彼は、どうしてあの男の餌食になったのだろうか?
彼は心から吸血鬼と、私とを歓迎して。
応接間に迎え入れてくれる。

いらっしゃいませ。
楚々とした物腰で現われた若い女性は、奥さんだろうか?
それにしてはしょうしょう、若すぎるような気もする。
なによりも。
あるじとよく似た面差しが、血のつながりを感じさせた。
ちらちらとさりげなく、失礼にあたらないていどに注がれる視線を感じながら。
その柔らかさから、視線の主に悪意も警戒心もないことを察していた。
カチャリ。
よどみのなかったやり取りが一瞬断ち切られて、
テーブルに置かれる陶器がたてる、かすかな音だけが四人の男女のまん中にある。

あら。
ふたたびドアが開かれると、べつの女の声がした。
ちょっと驚いたような声色に、かすかな不平を滲ませている。
「やあ、すまないね」
気まずくなりかけた空気を、よどみのない夫の声が救っていた。
「自慢の家内、みゆきです。27歳。まだ子供は生んでいません。いい身体してますよ。^^」
「まぁ」
ちょっと諧謔味さえ帯びた夫の紹介に、妻の機嫌はすっかり直っている。
「こちらは妹の早百合。こら。抜け駆けしちゃダメだぞ。嫁入り前の処女なんだからな」
処女。
そんなことばを耳にすると。
びくりと反応するのが隣にいて痛いほど伝わってくる。
お前は手を出すなよ・・・
そんな気配が、ひしひしと。

「では、わたしはちょっと用足しでもしてきますか」
夫であり兄であるその男はたんたんとそういって。
早くも席を立ちかけた。
いや。しばらく・・・
吸血鬼は手で制した。
外はまだまだ肌寒い。そういうときの独り歩きは寂しいものですぞ。
そんな想いをさせたくはないものだ。
そういいおいて。
まず御婦人方にお目にかけねばな。
つぎの瞬間、スッと足許に忍び寄っていた。
たくし上げられたスラックスからあらわになったのは。
女ものの、黒のストッキング。
誰のもの・・・?
女たちの目が、いっせいにそそがれる。
それと察したように。
「きみ達のは小さすぎてね」
苦笑いを浮かべながら、咬まれていった。
足許からあがる異様な音に、女たちもいつか身を寄り添わせて。
ちょっと蒼ざめて、聞き入っている。

男におとずれたのは、ほどよい陶酔。
彼の目がとろんと鋭さを失うと。
女たちの運命は、定まった。
処女はわしがいただく。
吸血鬼はこちらを睨むようにそういうと。
貴方も、見届けるのがお役目ですぞ。
おだやかに、そう告げる。
これから妻と妹を犯されようとしている男は晴れやかに、迷惑そうな苦笑いを浮かべていた。

使用済みの妻

2006年04月26日(Wed) 07:24:28

楚々と装った妻は。
ふすまを隔てるまえと何ら変わりのない顔をして。
いっしょに部屋から出てきた男に丁寧にお辞儀をし、
それから私に向かっておなじくらい深々と頭を垂れた。
相手の男には、「ふつつかでした」
私に対しては、「恥ずかしゅうございました」
ベージュのスーツは、訪れたときのままのもの。
肌色のストッキングがひきつれひとつ見せていないのは、
ふすまの向こうで履き替えたから。
部屋に引き入れられたときに脚に通していたのは、黒のストッキングだった。
妻の足許を染めていたものは、見るかげもなく引き裂かれて。
いまは彼の胸ポケットをふくらませている。

表情を消していた妻を抱きとめて。
「よく頑張ったね。お疲れさま」
耳もとに吹き込んだ囁きに、身体の力が消えて、
硬くよそよそしい態度が、にわかに潤いを滲ませてくる。
「ご厚意、心から感謝する」
吸血鬼は乾いた声でそういい置いて。
振り返るともう、姿を消していた。
あわせようとした唇を、指一本で隔てた妻は。
「もう、私使用済みなのよ」
いつになく、卑下するようにそういった。
いいじゃないか。
ジャケットの裏側で、白のブラウスが赤黒く、べっとりと濡れを帯びている。
ブラウスに隠された下着は、さらに乱されている。
股間に忍ばせた掌は、真新しいストッキングの向こう側にわだかまる、なま温かい湿りを感じ取っていたけれど。
熱くほてった身体はもうとりつくろいようもなく。
じゅうたんのうえ、まろばせたスーツ姿にのしかかって、
ただの男になって。
狂ったように乱れた心をあらわにしてゆく。
久しぶりに訪れた、激しい欲情。
ことのなりゆきを見おろしているのは、寒々と冷え切った漆喰の天井ばかりだった。

おねだり

2006年04月26日(Wed) 07:08:52

あの・・・長い靴下、履いてきて欲しいんだ。いま履いているようなやつ。
当日の服装にご要望は?
そんな質問におずおずと口ごもりながら。
ああ、これね?
お姉さんはくすっ、と笑い、足許を見た。
スカートの下のふくらはぎは、透きとおるほどの薄さのストッキングにおおわれている。
いいわよ。お出かけのときにはいつも履いているから。お安い御用だわ。
履き替えのご用意、いるんでしょう?
さいごのひと言に、おもわずぞくぞくしてしまったけれど。
オトナなお姉さんはそんなボクの態度を見透かすように、もういちどくすっ、と笑っていた。

約束どおり、つぎの日曜日にやってきたお姉さんは、大人っぽくおめかししていた。
玄関を上がって廊下をすべるつま先が、グレーのストッキングに包まれているのを見て、
ボクはぞくり、と胸ふるわせる。
そんなボクの様子を愉しそうに窺って。
ふたりきりになりましょ。
いっしょに来た伯父さんや伯母さんに、そういい置いて。
散らかっている勉強部屋、もっと片付けておけばよかった。
そんなふうに思っていると。
あんな汚い部屋じゃダメよ。
傍らからするのは、母の声。
床の間の部屋、特別にあけてあるから。しっかりね。

替えたばかりのたたみのうえに延べられた、
すんなりとしたふくらはぎ。
おずおずと唇をくっつけようとして。
思いなおしてもういちど。こんどは大胆に・・・・・・
ぬるっ。
ヒルみたいに、這わせてみた。
ぴくり、と身じろぎするのを。しくっ、と筋肉が締まるのを。
ストッキングを通して、唇でありありと感じ取っている。
紙のように薄いストッキングは、思ったよりもずっとなよなよと頼りなくて。
お姉さんの足許を、ずるずるとだらしなく、よじれてゆく。
面白い・・・
子供っぽい悪戯な気分で、いっぱいになったボクは、きゅきゅっ、くちゅうっ、と、
わざといやらしい音をたてて、
姉さんが恥ずかしがる様子に興じている。

来週も来るからね。
大人びた物腰は、かわらない。
ご両親も、ホッとしているようだった。
あなた、そのままで帰るの?
ピンク色のスーツのすそまで忍び込んだストッキングの伝線を見咎めた母親に。
ウン、約束だから。
無邪気なえくぼは口やかましい母親も黙らせてしまった。
落ち着いた態度がちょっと小憎らしくて。
澄ました顔にわざとぶつけた。
また、ねぶらせてもらうね。こんどはもっとイヤラシク。
ばか。
軽くぶたれてしまったけれど。
口許のえくぼは、消えていない。


あとがき
親戚のお姉さんが穿いてくるストッキングは、オトナの証しのようで。
いままで遊び戯れていた自分とのあいだに、ひとつ垣根ができてしまったのを感じるものです。

まだ少年な彼。
いまはまだ、大人っぽいストッキングに悪戯するだけで満足していますが。
いよいよイケナイ世界に踏み込むのは、もうちょっと先のようですね。

見に来ちゃ、ダメよ。

2006年04月26日(Wed) 06:52:23

法事を終えた帰りがけ。
母さんはふと足を止めてボクを見て。
家まで、ひとりで帰れるわね?
私はおじさまたちと、御用があるの。
あなたはまっすぐ、帰りなさい。
見に来ちゃ、ダメよ。
そういって。
ボクだけを分け隔てるようにして。
叔父や従兄弟たちと連れ立って、反対方向へと歩いていった。

息を弾ませながら、
根気よく、辛抱づよく、尾けていった小屋のまえ。
入っていったなん人もの大人たちの、押し殺したような呻き声が洩れてくる。
一時間ほどもして。
ふたたび姿をみせた母さんは、何ごともなかったような、喪服姿。
ちょっと恥らうように、うつむいて。
それでも、けんめいにわが身を支えるようにして。
いつもの落ち着いた物腰で、礼儀正しく深々とお辞儀をしていた。
後ろで束ねた髪の毛がちょっとほつれていたのと、
ストッキングの濃さが違っていたのと、
あのまま真っすぐ家に戻っていたら、そんな変化には気がつかなかっただろう。

学校を途中で抜け出したり。
夜中に黙って家をあけたり。
ボクはそれから、悪い子になった。
庭先にまわったガラス戸越しに、
くる日もくる日もくり返される、
母さんと男たちとのなれ合いに。
すっかり夢中になって、見入ってしまったから。
父さんがいなくなってから。
母さんは、悪い女になった。
だから、ボクも悪い子しちゃおう。
じめじめした思いよりも、
子供っぽい悪戯心のほうがまさっていた。

はだけたブラウス。破けてずり落ちたストッキング。
女とはこういうふうにあしらうものなのか。
股間に熱いものを感じながら。
くねり合いからみ合う様子に見入っていると。
覗いているところを後ろから肩に手を置かれた。
同い年の従兄弟の、キヨシだった。
いま母さんを犯している男は、その子の父さんだった。

中学にあがったら。
トシ坊に声、かけてやれ。
父さんがトシ坊の母さんに逢っているうちに。
母さんのとこに連れて行ってやるんだぞ。
そんなふうに言われた・・・。
せっぱ詰まったような顔をして。
うちの母さんじゃ、好きくないかな?
おずおずと切り出したキヨシには答えずに。
カギは持ってるの?
そんなふうに、訊いていた。

受け取ったカギは、汗ばんでいた。
鍵穴に突っ込んで。かちゃかちゃと回して。
ひんやりとした薄闇が、なかにたちこめていた。
母さんの部屋はこっちだよ・・・
手引きされるままに、あがりこんで。
黒一色の喪服を着たキヨシの母さんは、たたみの上に仰向けになって。
軽く目を瞑っている。
息を詰めて見つめるキヨシの視線が、くすぐったい。
ボクは照れたようにキヨシの視線を受け流して。
キヨシの母さんの唇に、唇を重ねてゆく・・・


あとがき
未亡人ができると、親族の男たちが代わる代わる、孤閨を慰めるしきたりがあるようです。
あとに息子が残されているときは、お母さんを頂戴した罪滅ぼしに。
自分の妻に「筆おろし」の相手を務めさせる・・・
そんな習慣を抱き合わせにして。

のどかな凌辱

2006年04月26日(Wed) 06:29:38

あら、あら。ハデにやられちゃったわね。
凄まじい身なりと裏腹に、
女房の声色はどこまでものどやかで。
いつもとまったくかわりがなかった。
ここは山奥の、小さな小屋。
夫婦もろとも連れてこられて。
われ先にあてがわれる飢えた唇に、
生き血をぎゅうぎゅうとむしり取られて。
そのうえで。
男たちの荒々しい猿臂に巻かれた女房は、
ブラウスやスカートをびりびりと引き裂かれていった。
夫である私のまえで・・・

あん。あん。あうぅん。
代わる代わる突き入れられているときも。
やたら愉しそうに振る舞う女房に。
男たちはダンナを揶揄することも忘れ、
ひたすら女房の白い肢体に群がっていった。
いまは満ち足りた声色が、小屋の外から聞えてくる。
出て行ってね。着替えたいから。
ひとしきり儀式が過ぎたころあいを見計らって女房がそういうと、
男たちは素直に従って、夫婦ふたりを残して出て行ったのだ。

もういいわよお。
子供たちのかくれんぼのときの「もーいいよ」みたいに。
女房の声はどこまでも、のどやかだった。
どやどやと上がりこんできた男たちといっしょに、猥雑な空気がもどってきた。
「仲直りはできたかね?」
頭だった髭面がそういうと。
あらぁ。もともと仲いいんですよ。
男たちは不思議そうに、顔を見合わせている。
いままでの惨劇はどこへやら。
都会風のワンピースに身を包んだ女房は、ふんわりとほほ笑んでいるのだ。

さぁ、つづきを愉しみましょ。
あなたは、縛られていないとかっこ、つかないわね。
お手数だけど、どなたか主人を縛ってくださる?
そう、そう。そうやって。
アラ。結構サマになるものなのね。
じゃあ、わたしも縛っていただこうかしら。
後ろ手に結わえて、抵抗できないようにして。
主人のまえで、すすんで抱かれるわけにはいかないわ。
かるーく、ぐるぐる巻きにしてくれればいいからね。
あんまりきつくしないでね。
痕がのこると、困るから。
あなた、女もののストッキング、お好きでしょう?
いいんですよ、照れなくて。
わざわざあなたのために穿いてあげたのよ。
破くまえに、いっぱい悪戯するといいわ。
貴方は胸、ね?えっちだわ。
おっぱい、はみ出すように縛るなんて。
あなたはどちら?
いきなり3人は、無理ね?
じゃあ、わたしか主人の血を吸って、精力をつけるといいわ。
さぁ、一番バッターは、どなたかな?

男たちはまったく気を呑まれてしまっていて。
うやうやしく女房の手の甲にキスをすると。
やっぱり荒々しく迫ってしまったけれど。
こと果てたあとは、私にまでも丁寧に会釈をして。
群がって取り囲むようにだったけれども。
ふたりを、村まで送り届けてくれたのだった。
泥だらけのワンピースを風になびかせて。
あなたとご一緒だと、とっても愉しいわ。
女房の声色は、どこまでものどやかだった。

山歩き

2006年04月26日(Wed) 06:06:45

都会の女の子たちが四人、山歩きにでかけました。
ひなびた温泉宿で一泊する予定になっていました。
そのうち一人は足が遅く、だんだん仲間から遅れてゆきます。
連れの女の子たちはあまり思いやりのあるほうではなかったので、
宿でまってるわね。
そういって、どんどん先に行ってしまいました。
あたりに広がっているのは草むらと雑木林ばかり。
人っ子一人いないところに置き去りになってしまいます。

きゃっ!!!
いきなり後ろからはがいじめにされて、女の子は必死で抵抗しました。
けれども相手は若くて逞しい男でした。
とうとうどうすることもできなくなって、
地べたに押し倒されてしまいます。
犯される・・・!殺される・・・!
そんなふうに思ったら、男は意外なことをいいました。
お嬢さん、悪いけど血をいただくよ。
男はそういうと、女の子の首筋に咬みついてきたのです。
きゅうっ・・・
若い二人が身を沈ませた草むらのなかから、奇妙な音があがります。

女の子は泥だらけ、汗みずくになって。
胸のうえに突っ張った腕を折られると、必死でいやいやをして。
それでも許してもらえないで、
しくしく、しくしく涙ぐみながら、血を吸い取られてゆきました。
ごめんよ。
男はそういいながらも、血を吸うのをやめません。
ああ、やっとありつけた・・・
どん欲なしぐさから、そんな想いが伝わってきます。
ひとしきり血を口にして落ち着いたのでしょうか?
喉、渇いているからね。つらいだろうけど、辛抱してね。
初めていたわりの言葉を口にして。
時を惜しむようにして、傷口に口をあててくるのです。
女の子のほうも、最初のうちこそ、
イヤ!イヤ!厭・・・っ。
という感じだったのに。
いまはもう、すっかり落ち着きを取り戻して。
血を吸われながら、言葉のやり取りを交わしはじめていたのです。
ほかの子たちは、どうなったの?
いまごろ仲間で山分けしてるさ。
こともなげな答えにどきり、とします。
おれは遅れていったから、あぶれちゃったんだ。
ありつけなかったのはオレだけだったけど。いつも要領わるいからね。
仕方ないからあきらめて、薪を取りにきたのさ。
連れが遅れてくるなんて、誰も教えてくれなかったしね。
わたし、死んじゃうの?
さぁ、どうかな?できれば助けてあげたいけれど。喉渇いちゃってるから。
女の子のなかで、スイッチが切り替わります。
お願いがあるの。
どうしても、イヤなんです。
こんな泥だらけで、汗みずくなまま死ぬなんて。
女の子ひとり死なせるくらい、血がお入り用なんでしょう?
貴方の家が近いのなら、せめて身体を洗いたいの。
こざっぱりとして。女の子らしい服に着替えて。
それからもういちど、吸わせてあげる。
涙も涸れるようなお願いに、男は無言で頷きます。
そうして、あちこち作ったすり傷や打ち身を気遣いながら、
女の子を家のあるほうへと送り届けてやりました。
泊まりの予定にしていた温泉宿のある村でした。

ひと晩、男の家に泊められて。
男の母親は気の毒そうに、夕餉をふるまってくれました。
首筋にはやっぱり、咬まれた痕を滲ませていたけれど。
明るくくったくのない母親の態度は、女の子を和ませてくれました。
夕餉が終わると、湯上がりの黒髪を肩に垂らしたまま、
女の子はすすんで男の部屋に入ってゆきました。
都会風ないでたちに、男は目を輝かせて。
さっきよりもずうっといやらしく、女の子に触れていきます。
不自然にしわ寄せられたワンピースの衣擦れに閉口しながらも、
荒々しい愛撫に込められた真情に、しらずしらず太もものすき間をひろげていきました。
やっぱり処女だったんだな。
夜が明けるころ、男がそんなふうに呟くのを。
女の子はくすくす笑いをこらえながら、聞いていました。

がやがやとした朝でした。
古びた公民館には、村の男たちと、そして連れの女の子たちが集められています。
おなじ目に遭ったのでしょう。
女の子たちはみないちように、蒼い顔をしていました。
失血のせいばかりではないはず・・・ですね。
男と一夜をともにした女の子も、もとの動きやすい服に戻っています。
帰ろう。
頭だった子がそういうと、村の男たちに見送られ、言葉すくなに村をあとにしました。
これにこりずにまた来いよ。
揶揄を含んだ見送りでした。


思いやりのない連れのおかげで、見境なくの野合の場だけは免れて。
やはりあぶれてしまった彼は気持ちのある男だった。
単独で襲われると生命にかかわるくらい血を抜かれてしまうこともあるのだが。
女は、男が我慢したのに気づいていた。
ひと月たって、ふたたび村を訪れた女は、
都会の女の子の服を着てあらわれて。
装いもろともわが身を男の胸にゆだねていた。
他所からもらった嫁は村じゅうの男たちと仲良くする。
そんなおぞましいしきたりにさえ、ためらいもなく頷いて。
祝言を挙げたあとは、ひとり残った母親を呼び寄せて若返らせていた。
連れの子たちのうちの一人は二度と村に寄りつかなかったけれど。
二人は祝言に現われて。
友だちの結婚を夜通し祝っていった。
そのうちの一人はやはり、村の男の嫁になっていた。
あの山歩きで初めて相手をした男だった。
見知らぬ山道には、ご注意を。

義母との一夜

2006年04月25日(Tue) 08:46:29

好夫さん、よろしいかしら?
書斎のドアを開けて顔をのぞかせたのは、義母の志津子。
旅行好きの義母は、長逗留と称してここ数日、家に居座っている。
少女のように無邪気で、ものにこだわらない。
話し好きで、話の合い間には、いとも愉しげにころころと笑う。
淑やかに低い声で。
昔の女学生のように、軽く口許を手で抑えながら。
すべすべと光る襟足が。
ほっそりとした白い指が。
時折ひどくなまめかしく、脳裏に灼きつくのだが。
そんなことなどまるで気づかない、というように。

由貴子さん、お出かけなのね。もう真夜中なのに。
天井まで届く蔵書の山を感に耐えたように見あげながら。
ちょっと、お邪魔してもよろしいかしら?
小首をかしげるしぐさに、読みさした本を仕方なく傍らに閉じると。
  今頃アノ子、血ヲ吸ワレテイルノネ?
どきりとするようなことを口にする。
  心地ヨサソウニ。目ヲとろん、トサセチャッテ。
  チュウチュウ、チュウチュウ、生血ヲ吸イ取ラレテイルンダワ。
忌まわしげな色は、かけらもない。
謡うような口調は、むしろなりゆきを愉しんでいるかのようだった。
そんな子に育てたおぼえはないのですけれど。
親のわたくしの不行き届きですわよね?
じいっと、のぞき込むように見つめてくる瞳に。
いや、そんなことは・・・
不覚にも、狼狽を覚えている。

真夜中だというのに。おめかしして出かけていきましたから。
そんなふうに、伏し目がちに口にするくせに。
真夜中だというのに。
ゆったりとした純白のブラウス。漆黒のロングスカート。
ちらとのぞいた踝を包んでいるのは、
清楚に白い肌を滲ませる、黒のストッキング。
あなたも少し、血を嗜まれるのでしたね?
無言の肯定を切り返すように。
娘のつぐないをさせていただきますわ。
ノーブルな顔だちにサッと閃いたものが、ゾクゾクするほどどす黒いものを交えて迫ってきた。
ぎくり、と身体をこわばらせると。
やだわ。襲うのは貴方のほうなのよ。
いとも愉しげにほほ笑んで。
見てのとおり、やせっぽちですから。あまりたくさんはダメですよ。
真面目な口ぶりが却って、強い誘惑を漂わせる。

抑えつけたじゅうたんの上。
うずたかく積まれた書物だけが、周囲から見おろしてくる。
どうぞ、召し上がれ・・・
気兼ねなくおやりなさい、とでも言わんばかりに。
ピンと張った長いまつ毛が、大きな瞳をとざしていった。
うなじにつけた唇に、豊かに潤った皮膚が心地よい。
もうがまんできなくなって。
甘えるように両肩を抱いて。
ひと息に、食いついてしまっている。
どろりと喉にみちてきたものは、ひどくなまめかしく、妖しいほどに若々しい。
毒牙にかけた女を味わいつくすのは、吸血鬼としての礼節。
相手が義母であっても、たがえることはない。
ブラウスの下の身体から力が抜けるのを確かめると。
劇場の緞帳を引き上げるように。
はぐりあげてゆく、黒のロングスカート。
唾液をたっぷり含ませた唇を、ヒルのように貼りつけて。
楚々と装われた黒ストッキングを、くまなくあてがう唇で穢してゆく。

純白の襟元を赤黒く滲ませたまま。
下からじいっと見あげてくる瞳。
失血に迷いかけた声色を、励ますように。
  パパのことも、誘ったのよ。
ピクニックに誘うみいな口ぶりだった。
戸惑うこちらの反応を、愉しむように。
  でもね、やなんですって。奥さんが貴方に抱かれるのを見るなんて。
  貴方くらいに、大物になればいいのにね。
どこまで本音かわからないことをいいながら。
部屋に入るときさりげなく置いた黒い箱のようなものを、ごく間近に据え直す。
  ソノクセ・・・ネ。びでおニ撮ッテオイデ、デスッテ。
  構ワナイカシラ?アトデ貴方ニモ見セテアゲルカラ。
操を汚しにきたのよ、わたし。
綺麗に犯してちょうだいね。映りがいいほうが、パパも歓ぶから。
由貴子の身代わり、とでも。
ただの娼婦、とでも。
どちらでも、都合のよいほうに思し召せ。
そういうと。
いつものように、肩をすくめて。
少女みたいにくすっ、と笑った。
ひしと抱きすくめた腕のなかで。
白い面差しがぐっと若返っている。

本当は誰を

2006年04月25日(Tue) 07:54:09

もう、いいわよ。あなた
半開きになった扉の向こうから、妻の佐知子が顔を出す
いつもと変わらないきびきびとした身のこなしをうつして、
ぎゅっと縛った長い髪の毛がゆらり、と揺れた。
おそるおそる覗き込んだ、夫婦の寝室。
彼はもうあらかた、身づくろいを済ませて・・・とみえたのだが。
よくみるとまだ、下半身をむき出しにさらしたままだった。
佐知子にいたっては、ほとんど全裸。
わずかに足許に、破れてひざ下までずり落ちたねずみ色のストッキングをひらひらさせているばかり。
淑女の装いの切れ端をふしだらにたるませている情景は、
全裸よりも却ってイヤラシク映る。
ボックスティッシュから二、三枚ティッシュを引き抜いて。
太ももについたぬらぬらとした粘液を、慣れた手つきで拭い取った。
たくさん、吸い取られちゃった。逆さに振っても、鼻血もでないわよ。
くすっ、と笑んだ白い顔には、かけらほどの邪気もない。
そんな佐知子に、彼は音もなく忍び寄って。
後ろから抱きすくめ、うなじに唇をあててゆく。
あ・・・。
ちょっと痛そうに顔をゆがめながら、妻は軽く仰け反った。
結び合わせたようにキュッと閉じた瞼に、淫らな翳を過ぎらせながら。
ちゅうっ・・・
かすかに洩れる、吸血の音。
妻の真情をさえ吸い出すように、血潮を引き抜いてゆく。
まるで己の血をも吸い取られてゆくような錯覚に、くらくらと理性が揺らいできた。
むき出しの肩に、赤黒いしずくがひとすじ。
乳房のあいだの深い谷間を伝い落ちてゆく。
己の所行に、ふたたび昂ぶりを覚えたものか。
腕の中の裸体をぐるりと向きを変えて。
へし折るほどの強い力で抱いたまま。
展べられた褥のうえにもういちど、その身を沈めてゆく。
踏みしだくような荒々しさで。
それでもありのままの熱情をあらわにした愛撫には、
可愛がっている。
そんな形容のほうがぴったりとくる。
すべすべとした皮膚におおわれた牝の獣は、頬に笑みを含んだまま。
へらへらと笑いこけながら。
逃れようもない猿臂のなかで、ひたすら愉悦しつづけていた。

妻の身体から引き抜かれたものは、
うわぐすりのような濡れを光らせている。
怒張を含んだままの逸物を、ほっそりとした指が押しつつんで、
そそり立つ先端を、朱を刷いた薄い唇が軽く含み、
そしてためらいもなく、根元まで呑み込んでいた。
しごくように強く吸い、うわぐすりを拭い取るように引き抜くと。
妻は力尽きたようにぐったりと褥に身を沈めて、
かすかな寝息をたて始める。
彼はわたしのほうをちらと窺って、ため息交じりの苦笑を送ってきた。
げんきんなものだな。
そう言いたげに。

いつ用意したのだろうか。
ぬるま湯に浸したタオルが、一糸まとわぬ裸体にあてがわれる。
淫らなものの残滓を、片鱗さえもとどめぬように、
きゅっ、きゅ・・・と、拭ってゆく。
すみずみまで、いとおしむように。
いとおしみを、すりこむように。
磨きあげられた裸体が白い輝きを放つのを、眩しげに見つめると。
部屋の隅に脱ぎ捨てられていたネグリジェを、それは丁寧に纏わせて。
きれいだよ・・・
ひくい声で、囁きかけて。
眠りこけている額に、かすかな口づけをすると、素早く身を離してゆく。

造作をかけます。
家を訪れたときあれほど欝蒼と立ち込めていた翳が、わずかながら晴れている。
すこしは、お役に立ったようですね・・・
そういいながら、スラックスを軽く、たくし上げてゆく。
ストッキング地の紳士用の長靴下のうえから這わされた唇は、
まだ濃厚な熱を含んでいた。
妻のストッキングがそうされたように。
脚周りに加えられてゆく、放恣な凌辱。
男の身にも、おなじようにくり返される。
刺し込まれた牙はいとおしげに肌の奥深く食い入って。
ほとび出る深紅の液体を、悦びにむせぶ唇の奥へと抜き去ってゆく。

不思議なものですね。
あなたのなかで、妻と私が織り交ざっているなんて。
まじまじと見つめる目に、照れたような笑みが返ってきた。
御婦人に優しく接する貴方ゆえにか、
ちっとも、腹が立たないのですよ。
母も、妹も、妻までも犯されているというのに。
なによりだ。
彼はわたしの肩をつかまえると、ふたたび身を寄せてきて。
かりり・・・
うなじのつけ根に、鈍い痛みを滲ませてくる。
ほんとうは、奥さんよりも、誰よりも。
じつはあなたのことが好きなのかもしれないな・・・
あなたに近づきたいために。
あなたの身近な女たちをともにしたくなるのかも。
そういう彼は、来訪のたびごとに。
いつもわたしをさいごの獲物にして。
彼のために装った、女のようにつややかに肌を染める薄い靴下を。
いとも嬉しそうに咬み剥いでゆくのだった。


あとがき
ちょっとアブない関係の男どうし・・・ですな。^^
柏木、そのケはまるでないのですが。
妄想のなかではつい、大胆になってしまいます。^^;
たんなる血液供給源ではなく。まして性欲処理の具でもなく。
ぬくもりを求め、いとおしむために女たちを訪れる吸血鬼。
母を、妻を、妹を。
つぎつぎと毒牙にかけながら。愛し抜いてゆくのですが。
案外彼女たちの夫であり息子であるひとに惹かれての行為・・・なのかもしれませんね。

インモラル・バー 4

2006年04月24日(Mon) 07:56:36

こんな遅いお時間に、まだ飲んでいらっしゃるの?
いけないひとね。
奥さんに愛想、尽かされてしまいますよ。
ええ、いい気分だったわ。
血を吸われるとね、どういうわけか、スッとするんですの。
ほら、痕もほとんど残らないし。
(うなじのあたりを撫でるように、すっと指先をすべらせて)
ほぉら、私の血。綺麗でしょ?
まだぬらぬらと、若々しくって。
少し、自信が取り戻せるわ。
あのひとたち、とても強欲なんですの。
思うさま、漁り取るようにしたあげく、なかなかおねだりをやめてくれないんですの。
抵抗はないの?ですって?
男のひとのまえで乱れちゃうこと?
わかっていらっしゃらないのね。
胸がズキズキするんですよ。それはもう、痺れるくらい。
こんな感覚がまた戻ってくるなんて。信じられないわ。
でも若い頃だったらここまで愉しめなかったかな。羞恥心もつよいほうだったし。
いろんなものがね、心の奥のたがを弛めてゆくものなんでしょうね。歳をとると。
そのうちに、安全さえ、世間体さえつくろうことができるのなら、
ぜーんぶ、さらけ出しちゃえ、って。
・・・キケンかしら?
さぁ、もう一杯だけお酒いただいて。
血の気がもどったらも少し、サービスしてあげようかな。
ああ、ありがと。ストッキングの穿き替え、とってきてくれたのね。
この場で穿いても、お行儀わるくないかしら?
じゃあ、失礼するわね。
男のひとって、いいわね。ストッキングなんか穿かないですむのだから。
とてもきゅうくつ、なんですのよ・・・
えっ?
なかなかいい眺め、ですって?
しょうがない方ね・・・
じゃあ、穿くのをちょっと、手伝っていただこうかしら?
そう。そうやって、引き上げて。
ちょっとくらい強く引っぱっても、だいじょうぶ。
わざと破いたりはしないで頂戴ね。(微苦笑)
そう、そう。どお?似合うかしら?ガーター・ストッキング。
わたしがこんなもの持っているなんて、ダンナは御存知なかったりするんですよ。
ちょっと、娼婦になった気分。
さいしょはね、穿き替えるのに、スカートまくりあげるのが恥ずかしくって。
パンストは貞淑女房やめた時点でバイバイかなあ・・・なんてね。
ダンナといるときにはパンストなんだけど。
じゃあ、もうひと踊り、してくるわね。
そうしたら、貴方に家まで送っていただくわ。
明日の朝は何ごともなかったように、目ざめますから。
時間通りに起こしてね。あ・な・た。♪


あとがき
酔ったようで、なにもかもお見通しな奥様。
冒頭に現われて餌食にされた人妻さんと、同一人物でしょうか?

インモラル・バー 3

2006年04月24日(Mon) 07:56:11

おたくのパートナーさんは、どちらかな?
あぁ、あちらの真っ赤なドレスをお召しになっているお方ですな?
まだ、お若いようですな。46?いえいえ、ちょうどお年ごろですよ。
ストッキングも、派手に破かれてしまって。愉しんでいますね。お相手のかたがたも。
ドレスをたくし上げられて、おみ脚をおがめるというのがなによりですな。
おっと、失礼。他人のわたくしがまじまじと拝見してはご迷惑でしょうね。
  こういうお店ですからね。
なるほど。
お若いのに、感心なかたのようだ。乾杯。
(チリン、とグラスの触れ合う音)
濃い紫のストッキングですか。なかなか趣味がよろしいようですな。
さいきんとんと見かけない色ですが。
ほほぅ・・・母上がお越しの時に召されておいでだった・・・
お姑さんとお嫁さんと、二代続けてのご入来、というわけですな。
いや、私も古い客です。
今はすっかり、改心しましたが。(苦笑)
若い頃はこれでも、人妻を食うほうの側にいたのですよ・・・
もしかしたら、貴方の母上を頂戴したこともあったかもしれませんな。(笑)

そうそう。
長年連れ添っていても。
女たちには夫に見えないものをいろいろと、しょい込むようですな。
さらけ出すことのできる場を、こさえることができればまだ紛れるのですが。
すすんで外に求めることのできない不器用ものも、けっこう多いのですよ。
嫁入り前に遊んでおって、そんな感覚はいくらでも身につけていたはずの女でも。
忘れちまうんでしょうかな・・・私にはわかりかねるのですが。
家内もね。
主婦なんて、無期懲役刑みたいなものなのですよ。
優しそうな顔しながらね。そんな怖ろしいことを口にするのですよ。
いつもの穏やかな、思いやりたっぷりな声色でね。
今夜ですか?
お恥ずかしい話なのですが。
事業がいささか左前になっておりましてな。
取引先に、抱かせてしまったのですよ。それでちゃらということで。
情けない夫です・・・
お互い気持ちよく踏ん切りつけられるように。
抱かせるまえにいちど、こちらにお邪魔しましてね。
もうこれきりで、商売から足を洗うことにしました。
今夜は、廃業パーティなんですよ・・・
どうやら、常連客になりそうです。こんどは夫婦ともどもに。
家内は処女のまま嫁入ってまいりましてね。
浮気のひとつも、なかったようです。
本当に、こもりきりの専業主婦でしたから。
それが先日こちらにお邪魔して。初めて操を喪って。
あくる朝家に戻るときの横顔が、妙にすっきりとつやつやしていましてね。
取引先に逢いに出かけるまえに、
終わったら、あそこ行きましょうね。
そんなふうに、云われましてね。
家内がわたしになにかをねだったのは、あれが初めてのことだったのですよ・・・

インモラル・バー 2

2006年04月24日(Mon) 07:55:44

くぐもるようなベースの音に、シンバルの焦げついた音色がおおいかぶさって。
時折、淫靡な輝きを帯びたトランペットが紫煙に満ちた薄闇を切り裂く。
ジャズ・・・のような。クラシック・・・のような。
ジャンル不明な音楽は、まるで楽器の織りなす呪文のように、
淫猥なものをじわじわと人々の鼓膜に沁み込ませてゆく。
ハイチェアの下は、色とりどりに装われた、淑女たちの脚。
トーンを落とした照明をうけて、毒々しい光沢をてからせている。
清浄とはいいがたい空気のなか。
ざわめくというほどの喧騒までは至らない、囁きの輻輳は。
互いの話の内容をつぶさに耳にすることはできないほどの錯雑を交えている。
低くくぐもった声色は、
いずれも歳を経た女のみがもつ、奥深い響きを帯びていた。
気の早い女たちが、ひとりふたりと。
思い思いに、床にまろび臥してゆく。
小奇麗なワンピース姿を、惜しげもなく。
テーブルと椅子のあいだに淪めてゆく。

午前二時―――。
夜通し続くかにみえた宴は、とうに下火になっている。
猥雑な音楽は、とうにやんでいた。
そもそもほんとうに、音楽は流れていたのか?
人々のささやきをかき消すための小道具は、とっくにレコード・プレイヤーから取り除けられて、
知らん顔を決め込んで、店の奥まったケースに戻されていた。
店の外には、閉店の立て札。
それ以前に。
店の前から、人通りは絶えてひさしい。
妙なる音色は、まだつづいている。
淫らなヴォーカル。
思い思いにまろび臥した女たちが奏でる、宵越しのアリア。
あちらはアルト。
向こうはメゾ・ソプラノ。
密やかな響きは高く低く、不ぞろいな音色はどこかで折り重なって。
協和音となって、想いのたけを歌い抜く。
カウンターの奥には、いく人かの聴き手がいた。
それぞれに適度な間隔を持って。
影のようにうずくまって、
時折黙々と強い酒を口にもってゆく以外の動作をいっさい控えている。

ギイ・・・
閉店のはずなのに。
扉がおもむろに、開かれた。
女たちはそれでも人ごとのように、演技の披露を中断しようとしない。
  遅くなってしまいましたね。
入ってきた初老の紳士は、伴ってきた同年輩の婦人を手招きしてなかに引き入れる。
新来の女はちょっとためらったように立ちすくんだが、
じゅうぶんにいい含められていたらしく。
淡く滲ませた悩ましい翳を、すぐさま口許からかき消していた。
  こんばんは。
小首をかしげるように、会釈して。
軽くステップを踏むような足どりで、カウンターのハイチェアに腰かける。
うずくまっていた黒い影のいくつかが、
静かになったパートナーのうえから身を起こし、
新客の足許へと這い寄ってくる。
女は、はじめてではないらしい。
  まぁ、まぁ。おイタさんね。
そんなふうにおどけながら。
膝から腰へと無遠慮にせり上げられてくる腕をはらいのけるそぶりをした。
お洒落なワンピースのすそをくしゃくしゃにたくし上げられて。
よだれを光らせた唇を、ストッキングのうえからなすりつけられて。
  あらまぁ、お行儀わるくってよ。
口では咎めながらも、闇たちの歓迎をきらってはいないらしく、
後ろから回されてきた猿臂に、しつような胸のまさぐりをゆるしてしまっている。

ちゅ、ちゅうっ・・・
きゅうううぅ・・・っ
カウンターに突っ伏したパートナーのうえから奇妙な音があがると、
初老の男性はマスターのほうをむいて、
おどけたように肩をすくめてみせる。
  奥さんでしたね?
いつものように低く穏やかな、マスターの声。
傍らで始まった吸血を横目に、新来の紳士に歓迎の辞を口にする。
  エエ、三十年連れ添った家内です。
  今夜は、ご褒美をあげたくてね・・・
がたり。
なにかが崩れ落ちる音を背中で聞きながら。
すこし離れた、同伴者の振る舞いがよく窺えるあたりに腰をおろした。
  どこからかの、お帰りですか?
  エエ、まぁ・・・
男が口を濁すと、マスターはそれ以上関与しようとしないで、
いつものリキュールとチェーサーを置いて、まえから立ち去った。
傍らに置かれた重たそうなスーツケースにもたれかかるように姿勢を崩して。
妻におおいかぶさってゆく凌辱を目の当たりにする瞳は、
面立ちのくもりとは裏腹に、濁りひとつない澄んだ輝きをたたえている。
チャッ、チャッ、・・・
ぴりり・・・
地面に散った花びらのように引き裂かれてゆく、ワンピース。
はだけた柔肌が淪落の渦に巻かれてゆくのを見つめながら。
小気味よげに薄笑いを浮かべた口許に、強い酒をあてがってゆく。

カレンダーをつけました。

2006年04月23日(Sun) 00:51:36

カレンダーがないですよ~
あるかたから、ご指摘を受けました。
たしかに前はあったような・・・
なんて思いながら。
あっちこっちいじっているうちに、やっと出ました。(笑)
旧ブログ崩壊以来久々に陽の目をみたカレンダーさんに拍手。

部署をうつされて

2006年04月21日(Fri) 07:43:59

カツン、カツン、カツン、カツン・・・
廊下に響くハイヒールの硬質な音が、こちらに向かって近づいてくる。
蛭田は心臓がとび出そうなくらい胸をズキズキと弾ませて、物陰にひそんでいた。
軽くもたれたスチール製のロッカーの真横を通り過ぎる人影をやり過ごす。
女はひたと前を見すえるようにして。
背筋を格好よくピンと反らせていた。
颯爽と歩みを進める足許を彩るのは、濃紺のストッキング。
女王の風格・・・というべきか。
そんな威厳に気圧されるようにして。
のそのそと追いかける足どりは、我ながらひどくぶざまに思えた。

「あの・・・失礼します・・・」
不覚にも喉がひきつって、舌が回らない。
オフィスきっての美人である奈津子をはじめ、幾人も女たちを毒牙にかけているというのに。
いつになってもオドオドと萎縮してしまうのは、最年少重役の鳥飼女史ただひとりのような気がする。
「そんなことはないわよね?」
目のまえに立ちふさがった若い吸血鬼に、不敵に笑う。
えっ?なにが?
想いを読まれたことに愕然とする蛭田をからかうように。
「いつだって、おどおどしているくせに」
嘲りの言葉にこめられた親しみに、蛭田はぼうっとノボセあがってしまう。
こんな未熟者が、このごろ殊勝に語ること・・・
心のなかでそう思いつつ、
「来なさい。渇いているんでしょ?」
硬質に輝くエナメルのハイヒールと、なめらかな光沢を帯びるストッキング。
そんな風景をこれ見よがしに見せつけながら。
女史は飢えた吸血鬼にためらいもなく背中を向けて、ふたたび歩みを速めてゆく。

どっしりと腰を下ろしたアームチェアのまえに立たされると。
どうしてこうも、萎縮してしまうのか。
目のまえに惜しげもなくさらけ出されたふくらはぎは、
かっちりとした輪郭をしなやかでなまめかしい薄手のナイロンでコーティングしている。
手の届くところにありながら、侵しがたいものに遮られているかのようだった。

ああ、部署のことね?ご不満なわけね?
それはそうでしょうとも。
春になったら営業部は新入の女子社員であふれかえるんだもの。
あなたなんか危なっかしくて。とても置いてはおけないのよ。
職級のこと?ばかをおっしゃい。どうして間々田といっしょに進級できるなんて思いこめるの?
身の程をしることよ。
リンと響き渡る女史の声。
まるで氷の結晶みたいに冷たく澄んでいた。
鞭のように鋭くしなやかな叱声に、小気味よく切り裂かれながら。
蛭田はいつか、陶然となっている。

まぁ、そうはいっても。
男だけの部署じゃ、お気の毒よね。
同期のフィアンセに、声かけたくもなるわよね。
・・・どうしてそれを知っているんですか?
丸田重役に見初められるほどのお嬢さんですもの。大事になさいね。
・・・どっ、どうしてそんなことまで知っているんですか?
もう手も足も出ない蛭田のまえで、
女史はチラとタイトスカートをせり上げていた。

くちゅ。くちゅ。にゅるり・・・
シャープで男勝りな、俊秀のひと。
それほどの存在にはおよそ不似合いな卑劣な音を忍ばせながら。
母親に甘えるようにしてひざ小僧にすがりついてしまっていた。
女史はとろんとした目をしてほほ笑みながら。
ストッキングの凌辱に熱中する蛭田の痴態を見おろしてくる。
もうこうなると、女史の目線は怖くない。
むしろ、痺れるほどの快感を疼かせながら。
蛭田は精力をみなぎらせた唇を、執拗になすりつけてゆくのだった。
唇の下でねじれてゆくストッキングは、妖しい光沢を過ぎらせて。
男の劣情を焙りたてるように、そそってゆく。

若い女なんか、メじゃないんですよ。女史。
いまどきのコはストッキング似あわなかったりしますからね。
力の抜けた脚もとに、思い切り研ぎ澄ませた牙を埋めながら。
意識の落ちた肢体をいたわるように、いつまでもいつまでも撫でつづけている。


あとがき
前作にひきこまれるように。
突然再来しましたね。鳥飼女史。^^
新入社員との不祥事を気遣う女史。
でもそれは取り越し苦労だったようで。
蛭田くんにはどうやら、ちょっとオトナな年上の女性のほうがよろしいようですね。^^

浮気なフィアンセ

2006年04月21日(Fri) 07:02:56

あちらへいそいそ。
こちらへいそいそ。
一見手当たり次第のようでいて。
彼女の選ぶ男はだれひとり、
その行為ゆえに未来の夫を莫迦にするようなことはしなかった。

情事の果てに戻ってくるのは、決まって婚約者の腕のなか。
あなた、こうすると愉しいのよ。
こんなふうにすると、もっとキモチよくなれるのよ。
女嫌いだった男をそんなふうにしつけてしまっていて。
浮気相手から教わってきた性技のすべてを、身を寄り添わせながら教え込んでゆくのだった。
重たい鎧を脱ぎ捨てるように
いつもの堅苦しいほどの謹厳さをふり捨てて。
ベッドのうえ男は苦笑しながら、相手の女に主導権をゆだねている。
浮気とか。不倫とか。
そういう不埒なことをなによりも受けつけられなかった男。
女づきあいになじめずに、30近くまで童貞でいた男。
かたくなに閉ざされた扉をこじ開けるようにして。
女は男の懐に器用に入り込んできて。
男自身をも閉じ込めていた殻を、いともむぞうさにつき崩してしまっていた。

素晴らしい奥さんになるだろうね。
男として羨ましいよ。
できれば結婚してからも、奥さんを開発させてもらえまいか。
彼女にもっとも好意を寄せる重役は、礼儀を尽くして。
それでも男らしく、面と向かってそう申し入れた。
  おつきあいは、ご自由に。
  そういう妻のプライベートには立ち入らないことにしていますから。
昇進と引き換えにすることをきらった男に、重役はよけい好意を持ったようだった。
謹厳な面持ちのまえにさらす言葉ではないと遠慮したものの。
籍を入れたあとは中に出すことはするまい・・・などと。
部下の女を抱くくらいなんとも思わないはずの彼さえも、
三歩さがりたい気分になっていた。

春に受け取った辞令は、融通のきかない彼にとってまたとないほどの配置。
いいのかな。不当な優遇を受けるのは、かえってプライドが傷つくな。
そう独りごちる彼に、蛭田は言った。
相性だろうよ、なにごとも。
ボクにそれをやれといわれたら、間違いだらけで目も当てられないさ。
たしかにな・・・
軽く苦笑を浮かべる頬に、落ち着いた安堵があった。
妻になる女を、蛭田にだけはおおっぴらに抱かせている。
あいてが魔物じゃ、しょうがないしな。
そういいながら。
女の肌に牙をうずめて、いそいそと栄養補給している親友のようすを、
まるで昆虫の生態でも観察するような目つきをして
面白そうに見つめている。
見せものじゃないんだぜ?
困惑する蛭田をからかうように。
もっと吸いなよ。須美子のやつ、今夜のために下着をぜんぶ新調したんだぜ?
扉を開きかけたとはいえ。
誰にも見せないほどの悪戯な笑みさえ浮かべて。
今夜のブラを、見せてやりなよ。
それとも、ガーターのほうがこいつ悦ぶのかな?
そんなふうにフィアンセをけしかけたりしてしまっている。

きれいだなあ・・・
ロングスカートからさらけ出された脚線美を目のまえに。
蛭田は切なそうに、ため息をした。
落ちる夕陽を眺めても。
野辺に咲く名もない花を目にしても。
おなじようにうっとりと目線を迷わせる。
哀しげな翳さえよぎらせて。
そういうやつだから、許せるんだろうな。
笹山は同僚の肩を抱くように引き寄せると。
あとはよろしくな。
そう言い置いて。
二人になりたがっていた須美子の下心を見透かすように、片頬で笑んでみせる。
マタ教エテアゲルワネ・・・
はじけ合う二人の目線を羨ましそうに眺めながら。
蛭田は自身が昂ぶりはじめるのを抑えかねていた。


あとがき
久しぶりのoffice編です。
蛭田と同期の笹山はぶきっちょで潔癖な男。
初登場は、去年の12月27日でした。
かたくなな性格ゆえに周囲からも認められず、女とも縁遠かったのですが。
処女を奪わないことを条件に婚約者の血を吸うことを認めてしまってから、運命が変わります。
とうとう我慢できなくなって初めて抱いた須美子さんは目ざめてしまい、
嫁入り前の体をあちらこちらでさらけ出すようになってしまいます。
処女を得たことで満足したためなのか。
男女の悦びを知ることで、もっと深いものにも目覚めてしまったせいなのか。
そんな彼女の振る舞いを寛大に許すようになった彼。
彼女とは、与えられた役職以上に相性がよかったようです。

正体

2006年04月21日(Fri) 06:05:44

身の丈ほどもある大ビルに襲われて、
若い女はひと声、きゃあっ!と悲鳴を洩らしたけれど。
すぐに目を伏せ押し黙ってしまって。
そのまま仰のけたうなじに、細く鋭利な吸血管を刺し込まれてしまっている。
ぎゅうっ・・・
無慈悲にナマナマしい音を洩らしながら。
半透明の吸血管は、抜き取られてゆく赤黒い液体に満ちている。
体じゅうについている吸盤を、体液を唾液のようにてらてらと光らせながら、
若い女の身体じゅうにぬめりつきながら、吸盤を吸いつてゆく。
うら若い潔癖な素肌に不潔な体液をしみ込まされて。
厭うようにけだるげに、しばしはかぶりを振っていたけれど。
やがて身をゆだねきるようにうっとりとして。
女は体の力を抜いていた。
貼りつけられた吸盤の下、肌色のストッキングがぶちぶちと裂けてゆく。

恍惚として目を瞑った女の顔から、みるみる血の気が失われてゆくと。
傍らで様子を窺っていた年配の和装の婦人はたまりかねたように
大ビルの上におおいかぶさるようにして、そいつの体を娘から引き離し、
まるで身代わりになるように、
無慈悲な吸血管を訪問着の胸許に自ら突き立てていった。
アアッ・・・
抑えかねた叫びを切なげに散らして。
年配の女もまた、半透明な吸血管を己の血で赤黒く染めてゆく。
壁に抑えつけられて吸血されながら。
和装の女はこちらを向いて。
つぎはあなたの番よ。
そんなふうにほほ笑んでいた。

姉さん、かんにんね。
弟に背中を押されるようにして。
前に二、三歩踏み出すと。
そいつは避けるすべも与えずに、やおらおおいかぶさってくる。
苦もなく押し倒された床が、ごつごつと背中に痛かった。
そうこうしているうちに、大ビルの執拗な吸着に、抗うすべを奪われてしまっている。
物慣れたように機械的に、あの鋭利な吸血管がうなじに迫ってきた。
ずぶり・・・
力ずくに突き刺されていた。
皮膚を破った尖った異物は、滲むようにくい込んできて。
ぎゅうっ・・・
体内をめぐる血液を、強引に抜き取ってゆく。

あまりの強欲さに軽い眩暈を起こしながら。
取りすがる二対の掌が、むしろ抗いを抑えようとしているのを感じていた。
ねばねばとした吸盤だらけの巨体は、すがりつくように執着してくる。
直感した。
正体は、あのひとだ。
わたしを抑えるふたりにとって、兄であり息子であるひと。
飢えた大ビルに押しやった弟の、親友であるひと。
機械的なまでに無慈悲な吸血に、濃密な想いを込めて。
男はわたしの血を吸いあげてゆく。
いいのよ。もっとお吸いなさい。
あなたが人に戻れるまで、私処女のままで待っているから・・・

妻を迎えに

2006年04月21日(Fri) 05:23:06

ざく、ざく、ざく、ざく・・・
霜を踏みしめて。白い息を凍らせて。
青白く明けかけた夜空にせかされるように。
訪れたのは村はずれにある、大きな邸。
夕闇が濃くなるころ。
足音を忍ばせて書斎にやって来て
許しを乞うように、目を伏せて
出かけてまいります。
そう告げる妻に。
気をつけて言ってくるのだよ。
言葉少なな応対に、むしろ感謝を滲ませて。
夕暮れを塗りこめた闇に隠れるようにして、
人目をしのんで、出かけていった妻。

携えていた妻の着替えは、
小脇に抱えた腕のなか、ふわりとした軽さと、しっとりと落ち着いたしなやかさを伝えてくる。
妻が出かけるまえに、じぶんで用意していたものだった。
明け方を迎えるころには、衣裳をしどけなく乱されしまっているわが身のために。
夜が明ける前に。
お迎えにいらしてくださいませんか?
人目にたつことだけは、いたしたくありませんから。
控えめに、いいにくそうに。
けれども確かな声色で、そう告げていった。

出迎えた彼はいつになくにこやかで。
立ち居振る舞いさえきびきびとしていた。
握りしめられた掌を伝わってくる、いつにないぬくもりは、
妻の体内から抜き去ったものから獲たものだった。
私から受け取った妻の衣裳と引き換えに。
手にしたものは、それまでの装い。
ところどころ引き裂かれたワンピースと、ストッキング。
しつように唇を当てられた証拠に、
裂け目の広がった黒のストッキングは、蜘蛛の巣のようにちりちりになっている。
あんなことも。
こんなことも。
そんな妄想に彩られてしまった目のまえに、
引きたてられるようにして連れてこられた妻。
改めた装いにすべてを押し隠して。
血の気の失せた白い顔は、夫と目を合わせまいとして、
萎えた百合の花びらのように伏せられている。
どれほどのあしらいを受けたのか。
口にするには残酷すぎる問いであろう。
手渡されたワンピースの奥に描かれた熱情の残滓には、
目がいかないそぶりをつづけている。

あなたがたのご厚意に感謝する。
ご夫婦がきょうも幸いに包まれるように。
邪淫の神父のたれる祝福に、妻も私も神妙にかしこまってしまっている。
さあ、失礼しましょうか。
お互い目交ぜをかわし合って。
しらじらとしてきた東の空をはばかるように辞去を告げる。
人目を忍ぶ道行きを、寒々と重たい冷気が包んでゆく。

毎朝の散歩に出る隣家の老夫婦。
間に合わなかった。ちらりとかすめたものを察するように。
軽く会釈したふたつの白髪頭は
だいじょうぶですよ。
そう言いたげに、穏やかにほほ笑んだ。
お帰りなさい。
存じていますよ。大変でしたね。
早く、お宅にお戻りなさい。
そんな目線に送られて。
素早く閉ざした扉のなか。
抱きしめた妻の唇は訴えるように、切なげな呼気を洩らしつづけている。

村に秘められた、隠微のしきたり。
名指された家のあるじは、若い女をひとり、夜伽にはべらすことを求められる。
そのたびごとに、生娘のような若作りに身なりを変えて。
妻はいそいそと奉仕に向かう。
年老いた隣家の夫も、かつてはそうして妻を送り出していたのだろう。

血脈

2006年04月21日(Fri) 04:46:12

人妻のもとに通い詰めて。
迫って、追い詰めて、ほどよく堕としてやって。
せいせいと胸弾ませる背後に忍び寄って。
うなじをがりり・・・と噛んでやる。
ほとび出る血潮はひどく熱くて。
女もまた、切ない吐息を洩らしながら、
おれの本能を充たしてゆく。

あの人には言わないでね。絶対に、言わないでね。
そんなことはとうにわかっているのだが。
それでもおれの心を疑うように。
求めるままに血を許してゆく女。
同居している姑のことをひどく怖がっているので、
おれは一計を仕掛けて、姑のほうも襲ってしまった。
血を吸い取って乱れさせた和服姿につい、そそられて。
返礼に白く濁った毒液をたっぷりと、注ぎ込んでしまっている。
そんな有様をお内儀は、物陰から息をひそめて見つめつづけていた。

ごめんなさい。ごめんなさい。
顔を隠して姑にわびるお内儀に。
意地悪そうに見えた姑は意外なくらい、もの分かりがよかった。
仕方のないお嫁さんね。
薄っすらと苦笑を浮かべて、身づくろいをすませると。
ご存分に、お愉しみなさい。あの子には黙っててあげるから。
そんな言葉にそそられて。
黒のストッキングの足許に見境なくべろを這わせて。
地味めな白のブラウスの胸許を、力づくで押し広げていった。

孫娘ですのよ。
さぁ、ご挨拶なさい。お母様のお友だちよ。
あなたも血を吸っていただくとよろしいわ。
優しい祖母の口ぶりになんの疑いもはさまずに。
少女はそれでもおずおずと、
白のハイソックスのつま先を、ごく控えめにさし伸ばす。
この家で初めて口にする処女の血は、とても甘くて熱っぽかった。

毎日のように、通い詰めて。
ひとりひとり、犯してゆく。
年端もいかない少女さえもが、
祖母や母親の行状を、見よう見まねにまねようとして。
チャコールグレーのプリーツスカートを、ぶきっちょにたくし上げている。
嫁、姑、娘・・・と。三人ながら衣裳を乱し、皮膚を破って。
むさぼるように啜り取ってゆく。
甘美に赤黒い液体は、互い互いに混ざり合って。
媚びるようにねっとりと、喉の奥まで沁み込んでくる。
清楚なような。淫らなような。
控えめなような。したたかなような。
女たちの生き血はうっとりするほどどんよりと。
干からびたおれの血管をめぐってゆく。

パパ、ゴメンネ。
アノ人ニ、申シ訳ガ立タナイワ・・・
息子ヲ苦シメナイデアゲテネ。悪イ子ジャナイノダカラ。
女たちが想いを寄せているのは、ただひとり。
息子であり、亭主であり、父であるひと。
せめぎ合うほどに妖しく織り交ざる女たちの血潮は
それまで冷ややかにしか認めていなかった亭主の存在すら和ませてゆく。


あとがき
前作の続編です。
というか、さいしょに浮んだのがこちらでした。
母、妻、娘と。三人ながら寝取られてしまった男に対して、
もともと彼は憎悪や軽蔑を向けてはいなかったのですが。
冷ややかな無関心を暖かなものに変えてしまったのは、
息子であり夫であり父である存在への、女たちの想いゆえだった・・・
ということのようです。(笑)
もとはといえば吸血鬼と亭主とは敵同士の関係で、
そんなとげとげしいかかわりを、女たちの血が和ませてゆく・・・
みたいなお話にするつもりだったのですが。
どうも力不足で、そこまで筆が及びませんでした。(苦笑)

拒みながら。

2006年04月21日(Fri) 04:21:18

亭主の目をかすめて、お内儀を失敬する。
これほどの愉しみはそうそう、見あたらないだろう。
亭主に対してべつだん、悪気があるわけじゃない。憎いわけでもない。
どちらかというと顔を合わせずにすませたい。
そのていどにしか、意識にのぼらない関係。
壁に押しつけたお内儀は黒の衣裳に秘めた柔肌の色香をむんむんとさせて、
却っておれのほうに身体を寄り添わせてきた。

べつだん、淫乱というわけでもない、
どこにでも見かける、ごく人並みにまじめな主婦。
訪ねていくといつも伏し目がちにおれを出迎えて、
早く帰ってほしいようなそぶりさえするというのに。
いったん迫って、堕としてしまうと。
別人みたいにあられもなく取り乱して、
娼婦さながらの媚びを見せてくる。

露骨に乱れる女は、好みではない。
お前ら夫婦はいったいなんなんだ、とさえ思ってしまう。
だがこの女がみせる媚態はひどく禁欲的で。
感じていることを見せることを厭う本能を持ち合わせていた。
乱れまい、スキなど与えまい。
不埒な女と思われまい。
そんな意思さえありありと伝わってくるほどに。
拒んでくるしぐさのすべてに、罪の意識に対するおののきを伝えてくる。
それでももっと奥深い本能は、女の意図を裏切って。
つねに禁忌を犯しつづける。
抗いのなかにたくまぬ媚態を秘めながら。
もみくちゃにされる衣擦れの下。
豊かな素肌に透きとおる青白い静脈を、
いつか赤裸々に毒々しく弾ませてゆくのだった。

あのひとが戻ってくる・・・
そう訴えれば、おれがやめると思っているのかい?
いけねぇ。また、そそられちまった。
拒もうするそのやり取りが、おれを却って惹き込んでいるの、
あんたはどこまで承知しているんだね?
真っ黒なスカートにくっつけられた、白く濁ったぬらぬらとしたものを。
あんたはまたさりげなく巧みに押し隠し、
もの静かで控えめないつものお内儀に戻ってゆくというんだね?

麻酔のように

2006年04月20日(Thu) 22:38:22

その来客は決まって、夜更け我が家を訪れる。
態度は慇懃、あくまでも主人である私をたてるジェントルマン。
巧みな話術に酔うように、いつか睡魔が訪れて。
話の途中で必ず寝入ってしまうのだが。
そんな私を咎めたり、まして揺り起こすような無礼をはたらくこともなく、
彼はいつの間にか、姿を消している。

アラ、オ帰リニナラレマシタヨ。
オ父サマ、マタ寝チャッタノネ?
妻も娘も、そんな私に苦笑いする。
良家の子女にふさわしく、
必ず着飾って訪客を迎えるならわしだったのだが。
脚周りを染める色とりどりのストッキングはふしだらにゆるんでいて、
スカートのすそからあらわに裂け目をのぞかせている。

はじめはさして不思議にも思わなかったけれども、
たび重なる粗相を見咎めると、
二人はフフフ・・・と、謎めいた笑みを交わし合うばかり。
たまたま目ざめの早かったとき。
謎はすぐさま氷解した。

身体にのしかかる体重が去って、
そらぞらしい空気に取り巻かれるのを覚えて。
ふと我にかえった私が目にしたものは、
うっとりとするばかりの絵空事。
妻はにこやかに笑んだまま、
口許から赤黒いひと筋のしたたりを帯びた唇を、
まるで無抵抗に吸いつけられてゆく。
ぱりり・・・
かすかな音をたてて破られるストッキング。
乱された衣裳のすき間から洩れてくるのは、
まごうことになき、吸血の調べ。
娘もイタズラっぽく笑いながら、
いつも学校に履いてゆく黒のストッキングに包んだつま先を、
ためらいもせずにすべらせてゆく。
ぶちちっ・・・
こんどは娘の番だった。

きゃっ。きゃっ。・・・。
ふたりながら、脚をつま先立てながら。
男の淫らな欲情に、装った脚をいたぶらせてしまっている。
こと果てるまで、薄目をしながら見届けてしまったわたしは、
彼の立ち去った後、もっともらしく、のびをする。
どれ、今夜も寝過ごしてしまったようだね。

アノ方、今夜モ見エルソウヨ。
ジャア、オ料理、気張ラナクッチャネ。
妻も娘もウキウキと台所にたつ夕べ。
いつものようにから眠りをする私。
いつものように脚を伸べてゆくふたり。
いつものようにふしだらに乱される、女たちの衣裳。
誰もがとうに、気づいている。
気づきながらも、けっして口にはのぼらない。
不面目や不名誉を却って愉しみのスパイスにしながらも。
今夜もわが家は客人を待ち受ける。

賭け 2

2006年04月19日(Wed) 08:00:58

女を抱かしてやるよ。お前、そういうこと初めてだろう?
俺たちなれているから、さきにヤッちゃって。
大人しくなってから、お前に譲ってやるからな。
そう、言い含められて。
ようやく、声がかかったようだ。
もうガマンできないくらい、ボクの喉はカラカラだった。

あぁ・・・!だめぇ・・・!よして頂戴ッ。
切れ切れな叫びと悲鳴。
階上から洩れてくる声だけでも、初めてのボクには刺激的。
かわいそうだ、と思うよりも。
愉しそうだ、とい感じるのはなぜだろう?
先客の二、三人がどたどたと降りてきた。
どうやら、ボクの番らしい。
イキのいい、奥さんと娘だよ。まだまだたっぷり、吸えるぜ。
口許に紅いものを散らした少年たちの声は、生き返ったみたいに活き活きと弾んでいる。

早く、あんなふうになりたい。
別人のように喜色に輝いていた顔を思い出し、ふすまをあける。
ふたりの女のうえには、まだ数人の少年たちがむらがっている。
ちゅう、ちゅう。きゅう、きゅう。
こく・・・・・・っ
ナマナマしい音を洩らしながら、
女たちの体内から洩れる血液を無言で啜り取ってゆく少年たち。
昏い欲情が、すべてを忘れさせた。

さいしょは年配の女のようだった。
破れかけたねずみ色のストッキングが、ムラムラとした昂ぶりに火をつけた。
母さんもこんな色のストッキング、よく履いていたっけ。
思わずふくらはぎを吸っていた。
ひきつる皮膚を破って。どろどろと温む液体を口に含んで。
初めて人心地がついた・・・と感じたのは、娘のほうから身を起こしたときだった。
すでに、射精してしまっている。多くは少女の体内に吸い込まれていったようだ。
ハッと合わさった目線に、ボクはずきん!と胸をわななかせた。
ありがとな。
隣の少年は肩に手をあてて、立ち上がる。
感謝の言葉は切実で、嘲りや諧謔とは遠いものだった。
ほかの少年たちもまた、敬意とねぎらいを目線に滲ませながら、去ってゆく。
取り残されたのは、実の母と妹だった。

いいのよ。あなたに会えたなら、それだけで。
遠慮なく飲んで頂戴ね。いちばん飲ませてあげたかったのはあなたなんだから。
いたわりあうように身を寄せ合う、三つの影。
せりあげられるワンピースやスカートのすそといっしょに、
第二の舞台が、しずかに幕をあげてゆく。

賭け

2006年04月19日(Wed) 07:49:11

迫ってくる吸血女たちを目のまえに。
「あの・・・あの・・・どうぞ、お手柔らかに」
年配の婦人はそういいながら、落ち着きを失うまいとけんめいになっている。
かいがいしい立ち居振る舞いは、自分の後ろに隠れるようにしている娘を怯えさせないため。
  エエ、わたくしのほうから先に、召し上がってくださいませ。
  淫乱なのかもしれませんね・・・
ちっとも似合いではない言い回しをあえてしたのは、
注意を自分ひとりに振り向けようとする空しい試みのため。
見るからに淑女な人妻は、服従のしるしに、
ワンピースのすそをおそるおそるたくし上げた。

太ももを包んでいるグレーのストッキングは、光沢もなく地味なもの。
けれどもなよなよとした薄さだけは、じゅうぶん色香を放っていた。
血を吸われることに同意した女が課せられた、衣裳のルール。
清楚に装い、穢される。
そのための演出と察しながらも、
求められるまま身に着けた、スカートとストッキング。

おしとやかなのね・・・
吸血女はくすり、と笑った。
ツーショットで、お相手するわね。ときどき、獲物を取り替えて。
ひっ・・・
背後から洩れる声を、淑女は手を握り合ってたしなめる。
ためらう女たちはひとり、またひとりと、引き入れられてまろばされる。
恥知らずな劣情をおおっぴらにさらけ出して。
吸血女たちはしんそこ嬉しげに笑いさざめく。
その笑いに巻かれるように。
若作りなワンピース姿も、濃紺の制服姿も、淫らな褥に沈められてしまった。

二人並べて、うつ伏せにして。
女吸血鬼たちは、にたりと笑った。
花柄のワンピースからのぞく、グレーのストッキング。
濃紺のプリーツスカートからのぞく、黒のストッキング。
女どもは思い思いに相手を選んで。
ウキウキしながら、ふくらはぎに唇を這わせてゆく。
どちらが先に、ストッキングを破いてしまうか。
お互いのガマン強さを賭けたはずなのに。
けっきょく、競い合うようにして、清楚な薄絹をぱりぱりと咬み破ってしまっていた。

さあ。あなたたちの賭けは、これからよ。
失血にぼうっとなってしまった母娘を引き立てるように。
女たちは声をはげました。
男の子たちが、乗り込んでくるわ。
ぐずぐずしていたら、お嬢さんは純潔を。お母さんは貞操を。
むたいに辱められてしまうのよ。
そんなのって、お厭でしょう・・・?
だから早く、逃げるのよ。
逃げられたら・・・のお話だけど。
もう、私たちに血を吸われて、ぐったりしちゃっているんでしょう?
無理かなぁ。でも、逃げられるといいわね。
もしもダメだったら。
思い切って、愉しんじゃいなさい。
みんな、お母さんや妹さんの血を吸われちゃった、気の毒な男の子たちだから。

女吸血鬼たちが立ち去ると、
母と娘は懸命になって、逃れようとする。
けれどもいうことを聞かなくなった身体は重く、
少年たちがやって来たときには、ようやく身を起こそうとして四つん這いになったところだった。
Aちゃんのお母さんと妹だ・・・
そのなかのなん人かが、口々に呟いた。
だから見逃してくれる・・・というわけではなさそうだった。
求めていた獲物に群がるように、男の子たちは
くらくら眩暈を起こしている母娘にのしかかっていった

みんなで可愛がってあげてね

2006年04月19日(Wed) 07:34:20

「嫁さん、連れてきたよ。みんなで可愛がってあげてね」
そんなあいさつが抵抗なく言えるようになったのは。
身体じゅうの血のほとんどを、吸い取られてしまってからのこと。
  いいじゃん。相手が吸血鬼なんだから。
無茶苦茶な理屈だったけれど。
イタズラっぽく笑う妻は、ちょっぴり肩をすくめた。
まだ22歳の若妻は、飢えた少年たちにとって絶好の獲物だった。

「そろそろお出かけの時間ね」
ウキウキと弾んだ口調で。
お洒落なワンピースの肩に、ショルダーバックをひるがえす。
「似合ってるじゃん、思いきり」
茶目っ気たっぷりに輝く瞳は、仕掛けた悪戯の効果を満足そうに振り返る。
  血を吸われるのも犯されるのもかまわないけど。
  あなたも女装して、いっしょに襲われて。服貸してあげるから。
妻のつけてきた条件は、刺激を含んで鼓膜の奥に入り込んできた。

群がってくる彼らのまえで、妻はすっかりアイドル気取り。
「こんばんわぁ。今夜もうんと、愉しもうね」
ポニーテールの黒髪を揺らして、かわいく肩でお辞儀する。
ふたり並んで仰向けにされて。
思い思いにかがみ込んでくる少年たち。
妻がされているのとおなじように、
ワンピース越しにちくちく刺し入れられてくる、牙の感覚。
「奥さんとおなじブランドだね」
生温かいべろを足許にぬめりつけてきた少年は、ひどく舌が肥えていた。

きゃあっ!きゃあっ!
隣で妻が、はしゃいでいる。
  みんなに可愛がっていただくの。
  今夜ももてちゃいそう♪
彼女はどこまでも他愛がなくて。
もう何人目かの恋人と熱く乱れあってゆく。

兄嫁

2006年04月19日(Wed) 07:02:17

暗くなった夜道を抜けて。
ぶらりと家に上がりこんできたのは弟だった。
頬にちょっぴり、泥を撥ねかして。
「とうとう相手、見つからなかった」
ぶあいそな言葉遣いが照れ隠しからくるものだと、誰もがとっくにわかっていた。
まだ肌寒い春先の夜に、のどかな散策を愉しむ若い女は少なかろう。
「義姉さん・・・招んでくれる?」
兄をみあげたとき、少年はちょっとはにかんだような童顔になっている。

表情を消して現われた兄嫁。
飾りけのない白のブラウスに、黒のキュロットスカート。
伏し目になって遠くから、儀礼的な無言の会釈をかえしてくる。
「ごめんね。兄さん」
無言の裡に交錯する、謝罪といたわりと。
少年は自分よりも背の高い義姉の手をひいて、
床の間のある部屋のふすまをしめた。

灯りを消すことは禁じられている。
「何するか、わからないからな」
油断のならないやつだ、と言いたげに弟を睨んだ目つきは
それでもどこか親しみを含んでいた。
ふたりの間の近すぎる間合いにとまどうように、
兄嫁は不意に合わせてしまった視線をそらそうとする。
腰を抱かれて。のがれられなくなって。
黒のストッキングに包まれたひざを崩してゆく。

ふくらはぎにねっとりと這わせた唇に、
さらさらとした薄手のナイロンが心地よい。
ねじれたストッキングの向こう側、かたくなに張りつめた皮膚に牙を刺してゆく。
服、脱がせるのはカンベンな。
兄貴はたしかに、そういった。

むしょうに、くすぐったかった。
ふすまの向こう側から注がれてくる、しつような視線。
義姉もそれとなく察しているのか、時折かすかにためらうしぐさを見せてくる。
けれどもそんなことは許さずに、むしろいっそう嗜虐心を昂ぶらせて。
少年は義姉を抑えつけていた。
うなじのあたりに漂う、ほのかな体温と香水がつむぎだす大人の香り・・・
疼いた牙をもういちど、拒みつづける両肩を抱きすくめて埋めてゆく。
兄への義理は、そこまでだった。

ふすまの向こうから洩れてくる、荒い息遣い。
それは和室の外からのものだった。
「弓恵ちゃん、ね?」
囁きかけてくる義姉の声に、どこかせっぱ詰まった妬みの色を読み取って。
しかたなかったんだよ。三人兄妹のなかで、弓恵だけが女の子だったから。
真っ先に襲われちゃったんだ。
いまでも兄貴のことを慕っていて、ああやって突然現われるんだよ。
口先でなだめられたって、納得できるものじゃないわ。
義姉がにわかに見せた人くさい感情が、かえってむしょうにかわいらしくて。
少年はさっきから結び合わせてしまっているスカートの奥に、若い熱情の残滓を思うさま降り注いでゆく。

あの世に捧げる操

2006年04月18日(Tue) 07:48:27

申し訳ございません。
貴方のご好意は、まえからずっと存じておりましたの。
けれども女のわたくしから、胸に秘めた心のたけをお伝えするわけにはまいりません。
ですからずっと、お待ち申しあげておりましたの。
それなのに・・・
そんなわたくしの心になど、なんの心配りもないあの男は、
さっさとわたくしの両親に話をつけて、
穢れをしらないこの身を、汚れた褥に放り込んでしまったのですわ。
こうなってしまいましてはもう、貴方に合わせる顔はございません。
悲しいさだめではございますが。
しきたりどおり、初めて操を捧げたかたのもとへ参りとう存じます。

瞼の裏に隠した熱いものをけっして滴らせまいとして。
俯きかげんの令嬢を、じいっと見つめていた。
乱れのない、静かに落ち着いた声色。
昨日までと変わらない、透きとおるような白い肌。
そんな造られた静謐を裏切るかのように、
白いスカートの膝のうえ、ギュッと握りしめられたハンカチーフだけが、
持ち主になりかわるようにして。令嬢の乱れた意思を告げている。
お別れに、そのハンカチーフを・・・
青年のさいごの願いに、令嬢は初めて我に返ったように、
恥じらいに染めた頬を見られまいとして顔をそむけていた。

明け方に、あの子は亡くなりました。
上品な和服姿が、生まれついての貴婦人らしい物腰にしっとりと寄り添っていた。
ハッと見開かれた令嬢の眼に閃く、悲痛の色。
追い打ちをかけるような悲報だった。
どこで手に入れたものか、毒蛇に咬まれて・・・いえ、自ら咬ませて。
あの子はなにも語らずに、黄泉路に旅立ってゆきました。
心を抑えた声色を、握りしめたハンカチーフが裏切っている。
ことさら告げられなくても。
昨日までの持ち主が他ならぬ自分であったことを、令嬢はよく知っている。
あの子がこの世に遺したさいごの名残りです。
さし広げられたハンカチーフの片隅に、赤黒い飛沫がかすかに滲んでいた。

本来でしたらお伺いするところなのですが。
わざわざお越しいただきましたのは・・・
いったい、どうしたことでございましょう。
もう貴女さまは・・・当家とはなんのかかわりもない方なのに。
ですからどうぞ、これからさきなにかを目にされたとしても、
見なかったことにして、お邸にお戻りあそばせ。
そしてどうぞわたくしどものことなど一日も早くお忘れになって、
お幸せにお暮らしになって下さいませ。
老婦人はすうっと立ち上がり、痩せこけた身体を隣室に忍ばせる。
もしかしたら母になったかもしれないそのひとは、
足音を消したきり、とうとう戻ってこなかった。
はしたないと思いながらも、令嬢は隣室の様子を窺った。
倒れた和服姿の傍らに、極彩色をした蛇が、ぬらぬらと輝く肢体を誇るように、とぐろを巻いていた。

おかあさま・・・っ
我知らず叫んだ令嬢の声に、意識も遠くなりかけた老婦人は満足そうに微笑んだ。
母と呼んでくださるのですね?かりそめにも・・・
貴女のそのお気持ちを耳にできたこと、嬉しく思いますわ。
あの世で息子に伝えたら、さぞや喜ぶかと存じます。
薄っすらとなってゆく目の前に。
令嬢は蛇をわしづかみにして、差し出していた。
うなじにあてがった蛇の頭部から伸びた舌は、
ちろちろと妖しく、柔らかなうなじをくすぐっている。

戯れに令嬢を傷つけ、哀れな母子ともども死に追いやった男は、それからも栄達の道を歩みつづけた。
幸運というものにもっともふさわしくないはずの男は、
不当な利益をむさぼり続けるかに思われた。
あの令嬢の親たちも、自分たちの軽率な決定を悔やみながら、とうの昔にいなくなっていた。
男はそれからいくらもたたないうち、とある大富豪の令嬢と結ばれて、
そのあいだに生まれた一人娘は前途有望な青年の婚約者となろうとしている。
青年は旧家の出で、妻の実家に負けず劣らずの大富豪であるという。
青年にも、その身内にも、会うのはきょうが初めてだった。
男の母親も、妹も、かなりの美人と聞いている。
うまくすればまたいい女が抱けるかもしれない・・・
いままで権力ずくで奪ってきた女たちがそのたびに抱えて帰った怨みや屈辱になど思いも及ばずに、
男はそんな空想に満悦していた。
娘は幸運と獲物を招き入れてくる。
許婚の母と、妹とを。
丁寧なお辞儀の下からみえる美貌にズキズキとした期待を押し隠していた男は、
アッ!と叫んでいた。
あのとき自害した老女と、そして令嬢。
そして娘の許婚はほかならぬ、己が死に追いやったはずの男だったから。
振り返ると奇妙な薄笑いを浮かべた自分の娘は、うなじに奇妙な咬み跡を滲ませている・・・

あとがき
娘さんももしかしたら、過去に無理やり抱いた女だったのかもしれませんね。
凌辱、という言葉はこういう場合、なんの愉悦も含まないようです。
(8月14日、一部を改作)

握手

2006年04月18日(Tue) 06:50:52

ゆったりとした花柄のワンピースを着た妻は、
いつもと何も変わらないような面差しで。
目のまえの男と言葉を交わしている。
いつもとすこし違うのは、
お嬢さんみたいな若々しい柄のワンピースのすそが、
くしゃくしゃになるまでたくし上げられていて。
ひざまでずり下ろされた肌色のストッキングがまる見えになっていることだった。

ふたりの腰は深く合わさって、
まるで握手をしているように結び合ったまま
おしくらまんじゅうでもしているように前へ後ろへと揺れている。
お国はどちら?
あら、まぁ、そうなんですの?
受け応えする優雅な声は、かわらない。

男はそれだけでは飽き足らず、
飢えた唇をうなじへと、近寄せてゆく。
ふつうの男女の場合とは違って、こちらのほうがはるかに致命的な意味をもっているのだが。
それでも妻は動じるふうもなく、
求められた接吻にゆったりと応えはじめている。

皮膚の下に埋め込まれる毒針に、
かすかな吐息を洩らしたけれど。
己の若さを誇るように、
妻は花柄のワンピースをひきむしるようにして、むぞうさに裂け目を入れてゆく。
踏み荒らされた花園のすき間からのぞく白い肌。
白すぎるほど透きとおった素肌から、
深紅の液体が、少しずつ。
まるで拷問を愉しむかのように、引き抜かれてゆく。

数日前この男のために血を全部ご馳走した私が人として死んでしまったように。
私だけの妻としてのこの女も、死んでゆく。
開けっぴろげな嬌声を、高らかにけたてながら。

染められて。

2006年04月17日(Mon) 07:37:31

淑やかに伸べられた足許に手を這わせ、
透きとおるような薄手の黒ストッキングに包まれたふくらはぎを愛でてゆく。
きみはちょっと恥らいながら、うつむけた目線を足許に注いでいた。
肌を青白く浮かび上がらせた清楚な礼装のうえから、
くまなく掌をあて、唇を吸いつけて。
淫らなものを沁み込ませてゆく。
すべすべとしたしなやかなナイロンは、
掌を、唇を、奥深い優しさで挑発し続ける。
太ももの奥がしとどに濡れて、礼装さえも汚すとき。
深い彩りを帯びた血潮が素肌に満ちて、
青白い脛はいつかジューシイなピンク色を滲ませている。
淫らな輝きを帯びた、娼婦の脚。
それまでの淑やかさは、どきりとするほどに変貌を遂げる。
さぁ。
心のヴェールをはぎ取るように、素肌のガードも取り去ってしまおう。
爪先立てた指の先、ちりちりと描き始める、堕落の模様。

団欒・・・?

2006年04月17日(Mon) 07:27:59

ママに教えてもらったことを。
妹にも教え込んでみたくなって。
このごろすっかり大人びてきた濃紺の制服姿に、
気がつくと自分の身体を重ね合わせてしまっていた。
ママと違って妹のスカートの奥はとても硬くって、
とうとうこじ開けるようにして、奪っていった。

あの娘だって、ご近所の評判くらい気にするのよ。
ママのお叱りはそこまでだった。
ご近所迷惑にならないようなら、存分にお振る舞いなさい。
勉強部屋のふすまは閉ざされていた。
ふすま一枚隔てたこちら側で妹のことを思う存分可愛がると。
ボクはなにかを感じ取って。
ふすまの向こうに歩み去ったはずの肌色のストッキングをすぐ間近に追い求めていた。

じゅうたんの上。
ボクの上にはママが。
妹の上にはパパが。
またがって、静かな息を押し殺している。
兄さま、兄さま・・・
妹が囁きかけてくる。
父さま、とても素晴らしいわ。義姉さまになられるあのひとも、
さいしょは父さまにお願いしてみるとよろしいわ。
めぐる妄想に眩暈をかんじて、
ボクは苦笑いするパパのまえ、お行儀悪くママのスカートを濡らしてしまう。

家族の血

2006年04月17日(Mon) 06:51:02

きゅうっ・・・
ネグリジェ一枚の母におおいかぶさって、
うなじに這わせた唇から、異様な音が洩れてくる。
きゅうっ・・・きゅうっ・・・
血を吸いあげるときの音は、ひどく嬉しげでリズミカルで、
鼓膜の奥深くまで、奇妙な疼きをつたえてくる。
両手で顔を覆った母がけだるそうに姿勢を崩すと、
つぎは妹の番。
濃紺の制服姿の妹は、いとわしそうに眉をひそめながら。
それでも抗いひとつみせないで、素直に抱き寄せられるままになって。
三つ編みのおさげをかいくぐるようにしてつけられた唇に、うなじをさぐられてゆく。
ちゅううっ。
またひとつ洩れてくる、吸血の音。
まがまがしい音色に身をゆだねた妹は、
だんだんうっとりと目線を迷わせて。
プリーツスカートをせり上げられてゆくころには、眠そうに目をこすっている。
通学用の黒のストッキングの上から、ふくらはぎに吸い着いて。
なおもしつように妹をなぶり続ける、飢えた唇。
ネグリジェ姿の母のほうはもうとうに、
肌色のガーターストッキングをむざんに伝線させてしまっている。

我が家に代々課せられた、忌むべき儀式。
そのなかで女たちは無抵抗に身をゆだね、
この血統の血が気に入りだという彼のため、
素肌の奥にめぐるものをむぞうさに、ほとばせてしまっている。
ほんとうに旨そうに血を啜る彼のために装った、
清楚な衣裳をしどけなく乱しながら・・・

先月結納を交わしたばかりの許婚は、そんな光景に魅入られたように立ちすくんでいたけれど。
わたくしも・・・
そっと私に言い置いて。
花柄のワンピースのすそをちょっとだけたくし上げ、
グレーのストッキングのふくらはぎを、惜しげもなく彼の前にさらけ出してゆく。
気品ある翳に縁どられた脚線美に、ぬるりとべろを慕わせると、
ヤツは絡みつくツタのように身をせり上げて。
あっ、痛うぅ・・・っ。
首筋に走る痛みに目をキュッと閉じ、許婚は初々しい肌をヤツにゆだねていた。
ワンピースのすき間から縫い針のように忍び込まされる、鈍い銀色に輝く牙。
ちゅう・・・っ。
ふたりにおおいかぶさったのと同じ音色が、いま許婚の身にもふりかかる。
ゆるく身もだえしながら血を抜かれてゆく、ワンピース姿。
たしかに血はつながっていないけれど。
処女の生き血はさぞや、彼の口に合ったことだろう。

花びらのように、ワンピースを引き剥かれ。
蜘蛛の巣のように、グレーのストッキングを散らされて。
たたみを濡らすのは、ぽってりとした赤黒い血だまり。
咬まれて迸った鮮紅色のシャープなほとびとは違う部位から洩れ出たものは、
甘い敗北感をちりちりと焙りたててゆく。
ご家族のなかのひとりに加えていただくわけですから・・・
そんな殊勝な心がけは、偽りではないだろう。
おなじく血を吸われ、おなじく犯されて。
淫らな上下動に等しく身をゆだねながら。
女たちは愉しげに、目配せし合っている。

狙われた綻び

2006年04月17日(Mon) 06:22:16

あのひとが、破くんですの・・・
黒のストッキングの膝に走った、ひとすじの伝線に。
悦子未亡人は苦笑しながらも、すぐに履き替えようとはしなかった。
ちいさな裂け目から、脛が青白く透けている。
そのうえをまるでいとおしむように撫でさすりながら、
女はわざと裂け目を広げてゆくのだった。
あのひと、とてもエッチなんですよ・・・
そんなふうに、とても愉しげな笑みを浮かべながら。

ひとり立ち去る未亡人を、物陰の鋭い目線が狙っていた。
ほんとうにひとりきりになると、目線の主は喪服姿の前に立ちふさがって。
怯えたように見あげる瞳にいっそうそそられたようにして。
荒々しく女の腕を捉えると、崩れかけた塀をくぐり抜け、
塀のなかの草地に黒のワンピース姿をまろばせていた。
ふたたびおおいかぶさってくる男から、逃れるすべはない。
女は無理無体に衣裳を乱されて、堕とされていった。
誰も見ていない昼下がり。
あからさまに降り注ぐ陽の光のなかで、白い裸身をむき出しにして。

はぁ、はぁ、はぁ・・・
男は荒い息を、女の首筋にふりかけていた。
女は薄っすらと目をひらくと、
お気が済んだ?
そういって、咎めるでもなく、自分の奥を刺し貫いた凶器をじいっと見つめている。
男は、目線に反応するように。
みるみる、怒張をあらたにしていったが。
女はごく自然なしぐさで、男の要求に応じていった。

不思議な奥さんだな。
取り乱しもせずに、とつぜんの凌辱に身をゆだねた女。
淫乱なのかね?
からかうように顔をのぞき込んできたときだけは。
ちがいます。
きりりとした声色に、怖気をふるったのは男のほう。
すまない。侮辱するつもりはなかった・・・
わかっていますよ。
女はすぐに険しい色をおさめると、
貴方がお困りのご様子だから。誘ってさしあげたのですよ。
そういって、もとのにこやかな温顔に立ち戻っている。
お困りでしたら、いつでも救ってあげますよ。
あのひとだって、かげで愉しんで見ているかもしれないですから・・・


あとがき
裂けたストッキングをわざと履き替えずに、男を誘惑した未亡人。
彼女の名誉のために、ですが。
けっして都合のよい女、ではないようです。
行きずりに強姦されて黙っている女なんか、いるわけないですからね。(笑)
どうしても男を救わなければならない事情があったのでしょう。
ここでは深くは触れませんが・・・

秘された日常

2006年04月17日(Mon) 06:05:31

うつろな目を見開いて。
じいっと天井を仰いでいる女。
両腕をだらりとたたみのうえに伸べたまま
おおいかぶさってくる男どもに、恐れ気もなく身をさらしている。
黒一色の、ワンピース。
深い胸ぐりから曝した白い柔肌を、男の唇が侵していた。
きゅうきゅう・・・ちゅうちゅう・・・
若い体から吸い取ってゆく美血に酔い痴れる音だけが、
ひくくひそやかに、冷えた空気に染み透る。
どこにでもある住宅の日常空間に、異形のものたちが蠢いていた。

ワンピースのすそからにょっきりとのぞく、二本の脚。
薄く透けた黒のストッキングになまめかしく染めあげられたふくらはぎ。
その一角も、飢えた唇が侵している。
旨そうに。とても旨そうに。
ヒルのようなぬめりは、とどまるところを知らない。
それでも女は無表情に、嵐が過ぎるのを待っていた。
耐え切れない・・・
そんな切なげな呻きをどちらからともなく洩らすと、
男どもは獣になって、いっそう深く女の身体にとりついてゆく。

困った方たちですね・・・
起き上がって身づくろいしている女は、やはり落ち着き払っていた。
傍らを見やると、ふすまの隙間の向こうから。
はだけたもう一対の太ももが見え隠れしている。
ふくらはぎまでずりおろされた、肌色のストッキング。
夫の母のものだった。
齢に不似合いな濡れるほどの光沢をよぎらせたナイロンは、
まるで生きもののように、いやらしくくねり続ける脚の周りをよじれてゆく。
ふたたびすり寄ってくる吸血鬼に、女はフッと苦笑を洩らした。
あのかたに負けるわけにはいかないわね・・・
そういうと。
後ろからまさぐりを深めてくる、胸にあてがわれた無骨な掌。
濃い誘惑を、覆い包むようにして。
静脈の透けた手の甲が、しっかりと上から抑えつける。


あとがき
嫁姑ながら吸血鬼の一群に襲われている情景です。
義母(はは)がつづいているのに、自分だけおわるわけにはいかない。
お嫁さんのしんけんさに拍手です。(違)

斜陽族の狂気

2006年04月17日(Mon) 05:08:54

射し込んでくる夕陽が、にわかに昏さを深めてくる。
それでもこの家のなかには、灯りがつけられないでいる。
電気は先週から、とめられていた。
時代遅れのイブニングドレスに身を包んだ侯爵夫人は、じいっと庭先に目をやっていた。
かつては贅をこらした風情漂う庭園が、いまでは荒れ放題になっている。
桜の花も、菜の花も。
ほうぼうに好き勝手に咲いていて、それはそれで野趣があるのだが。
庭本来の意図はとうに雑草のなかに埋もれきってしまっていた。
籐椅子に腰を下ろして庭を見やる侯爵夫人は、長い黒髪を丸髷に結っている。
濃いオレンジの夕映えが、すっきりあらわになった首筋に掘りの深い陰翳を投影していた。
息子の目をさえ釘づけにするほどの気品となまめかしさ―――

母はなにかを口ずさんでいるようだった。
少女のころの唄であろうか。
その調べがふと止まると。
低い声色がそれに取って変わった。
艶を帯びた声は、押し殺すような強さを秘めている。
「貴子さん、どちらにいらしたの?」
―――さぁ、なにも言わないで、出かけていきましたよ。
「アラ。貴方にも黙って?お珍しいわね」
口調はあくまで丁寧だったが、その裏に含まれた毒に気がつかないほど、息子ももう幼くはない。
「どうしてお断りになったのかしら。鈴原のおじさまが桜を見に行こう・・・ってお誘いになったのに」
え?
息子は意外そうな面持ちで、母の横顔を見つめていた。
鈴原のおじさま。
父の義弟、とも。母の従兄弟とも。
どういう係累に当たるのか、なんとなくはぐらかされたようにしか聞かされていない、長年関係のある年上の男。
婚約者である自分にも断りなく、貴子をどこに連れていこうとしたのだろう?
奇異の感に打たれている息子のようすに、侯爵夫人は初めて籐椅子をめぐらした。
丸髷の下の表情は、まばゆいばかりの逆光に包まれてまるでうかがえない。
「貴方もよく御存知のように・・・鈴原のおじさまはね。身内で唯一羽振りがよろしいのよ。この家をたて直すも滅ぼすも、あのひとの意向ひとつで決まってしまうの」
棒読みするような、生気のない声。
これがかつて社交界で才智と美貌をうたわれた貴婦人と同一人物なのだろうか?
そんな疑念さえかすめる面差しのまえに、侯爵夫人はだしぬけに、ぐっと乗り出してきた。
襲いかかる白刃のように、なまめいた吐息が息子の眼前に迫ってくる。
「ご執心なのですよ、貴子さんに」

ええ、気づいていましたよ・・・
夕陽は遠くなっている。
なにもないがらんどうの部屋のなか。
間近に嗅ぐ畳の匂いだけが真新しかった。
身代の揺らいだ旧家がお金のために息子の婚約者を人身御供に供する。
そういうこともたしかにあるだろう。
けれども家の恥につながるそのようなたぐいのことに、なぜ母親はこうも熱心になれるのだろう?
まるで、女衒のような。
いま彼女が寝取らせようとしているのは、ほかならぬ息子の婚約者なのだ。
わかっているくせに。
だから、気づいていたって言っているではないですか。
鈴原が自分の婚約者に執心だということ。
そして。
母そのひとが、実の息子に執心だということも。
畳に寝そべった彼の傍らで、侯爵夫人は彼の手をイブニングドレスのすその奥へと導いている。
太ももをおおっているストッキングは、思いのほかすべすべと居心地のいい感触を伝えてきた。

彼は、貴女の情人のはず・・・でしたよね。
ご存知でしたの、そのことも。
えぇ、彼、私にそれとなく語ってくれていましたから。
それにね。見てしまったんですよ。
別荘での夜ね?
ええ、お父様がもういなくなったあとだというのに。
おなじお声が夜更けの寝室から・・・
まだ中学生でしたからね。ちょっぴりショックでした。
深刻な話題をいなすように、息子は軽くフフッと笑みを洩らす。
その彼に、どうして貴子さんを抱かせる気になったのですか?
決まっているじゃありませんか。
貴方を・・・わたしのものにしたいから。

侯爵夫人の手が、青年のズボンをたくし上げてゆく。
ひざ下まである薄い長靴下を、すうっ・・・と引きおろして、
ツヤツヤとした脛をいとおしげに撫でさする。
あのひとも、気づいているんですよ、きっと・・・
母は初めて、貴子のことを口にする。
どこまで逃げても、鈴原は追ってゆきます。
わかっていますよ、それも。
彼は貴女にとりついて、そして貴子のことも毒牙にかけようとしている。
のがれるすべは、ないのですね・・・
そうよ。でも、のがれることもないじゃありませんか・・・
侯爵夫人はいとしげに、青年の肩に手を添えてくる。
行儀のよい母がふきかけてくる初めての求愛に、青年はちょっと怯えたような顔つきになる。
ホホ・・・
まだ、子供なのね。
そう言いたげな優越感が、濃艶な媚びに包まれていた。
媚態は息子の顔におおいかぶさっていって、
あわせた唇のすき間から、まるで毒液を注ぎ込むように入念に、女の息吹を含ませてゆく。
ぴりっ・・・
スカートのなかで、息子の手がストッキングを裂いていた。
おいたは、ダメよ。
自分の下の青年の耳朶をくすぐるように柔らかい声を発すると、
女は豪奢なドレス姿を半裸の青年に覆いかぶせていった。
過去の遺物であるはずの綺羅錦秋が、蘇えるようにきらびやかな光を放っている。

貴子さんはいまごろ、桜の下でしょうね。
身づくろいしている母に、青年のうつろな声がひびいた。
嘘。断られた・・・っておっしゃっていたのですよ。
イイエ。鈴原はいまごろ、貴子さんを抱いておいでです。
散りしきる花びらの渦のなか。
か細い白い肩をむき出しにした貴子が目を閉じて、年長の男のなすがままに身をゆだねているのが見えるようだった。
たったいま夫人を熱く貫いたばかりのものが、ふたたび剛くそそり立ってゆくのを目の当たりにして、
女はそれをじっとりと、唇の奥へと含んでゆく。
ご存じなかったのですね?お母様。
青年は天井を見あげたまま、乾いた嗤いを放つ。

まっ白な褥のうえ。
横たわっている彼は半裸に剥かれていて。
傍らに乱れた衣装は、女学校を出るか出ないかの年恰好の、若い娘が身に着けるもの。
素肌にまだ残っているスリップは、気品ある肌触りを青年の皮膚の奥にまで滲ませている。
剃りあげられた脛には透けるほどに薄い黒のストッキングがなまめかしい翳をおとして、ほんとうの女の脚のように染めあげていた。
ストッキングをひざ上まで引きおろされてむき出しになった青年の太ももには、
白く濁ったふた色の粘液が織り交ざって、ぬらぬらとした光をたたえている。
かたわらの絨毯に寝そべっているのは、一対の男女。
鈴原と貴子だった。
秋に苗字を変える。
その予定に変更はないまでも。
嫁となる女には、姑の果たしてきたつとめがそのまま課せられる。
乾いた声で告げられる宣告に。
婚約者は京人形のように無表情にこっくりと頷いて、
椅子に腰かけた背後に男が回りこむのも、
後ろから羽交い締めにしてくるのも、
行儀よくきちんと組み合わされた膝のうえの掌を解くことはなかった。
束ねられた長い黒髪はなまめかしい艶を放ちながら、蛇のようにとぐろを巻いてのたうっている。
身に着けていた純白のストッキングとワンピース。
どちらにも薄っすらと、薔薇色の飛沫を滲ませて。
悔しげでもなく、心地よげでもなく。
ただ無表情に夫ならぬ身の精を享けてゆく。
まるで公的行事に参列するときのそっけなさで、
彼女は着飾り、純潔を散らしていた。

フフ・・・
青年は母の上、溶け込ませるようにして己の裸体を埋めてゆく。
乱れたイブニングドレスがかれの演じた狂乱を色濃くうつしたまま、
女は男を受け入れてゆく。
母さんはボクが欲しくって、貴子さんをかれに渡したおつもりでしょうけれど。
私も貴女が抱かれ、貴子さんが抱かれることに。
とても、欲情してしまったのですよ。
よいでしょう。
貴女の望むとおり、貴子さんを彼に捧げつづけましょう。
あのかたが貴子さんの衣裳を破り、貴女のストッキングも裂いてゆく。
そんなことに、ボクはとても昂ぶってしまうのですから・・・
こんどはおそろいでお出かけになってくださいね。
わたしももちろん、お供しますから・・・


あとがき
狂気に堕ちた斜陽族の母子を描いてみました。
息子と契りたいために、息子の婚約者を人身御供にさらそうとする母親。
そんな邪悪な意図を越えて、もっとまがまがしいものに身を浸していた息子。
おどろおどろしいですね。いつもながらのことですが・・・

お当番

2006年04月11日(Tue) 07:56:36

きょうはお当番なの。帰りは遅いからお食事は外ですませてね。
出勤間際の夫たちに、そう告げる妻たち。
町内会の当番のように、さりげなく。
日常に組み込まれた密かな行事。
夫たちを送り出すと、妻たちはお出かけのスーツやワンピースに着替えて。
化粧をして。
ストッキングを履いて。
まるで客を取りに街に向かう娼婦のように身づくろいを整えてゆく。

しゃなりしゃなりと、連れだって。
目映いほどの服に彩られて。
三人も連れ立ってあるくと、道ゆく人さえも。
あの奥さんの脚、むっちりとしていて、いいなあ。
そうかね?わしゃ、真ん中のおとみさんの脚がすっきりして気に入りだが。
そんなそんな。もっと女房のことも見てやってくださいよ。
いつの間にか、ダンナの声まで加わっていたりする。

お当番の奥様がたが脚を向けるのは。
吸血鬼の住処となった、街はずれのお邸。
待ち構えた男たちは思い思いに相手を選んで、牙を突き立ててゆくのだが。
飢えた牙を刺し入れられているさいちゅうも。
人の視線から解放された妻たちは、くちぐちにお互いのイデタチを値踏みしあっている。

アラ、奥様。素敵だわ。黒のストッキング。でもその裂け目、ちょっといやらしいわね・・・
まぁ、あなただって。そんなてかてかのストッキングなんて穿いちゃって。ご主人にいいつけちゃいますよ。
ねぇ、見て見て。もうこんなにされちゃった。
男のひとってどうしてハイソックスなんかに昂奮するのかしら。

声を合わせて、笑い声をはじけさせて。
それらが静まる頃。
身を横たえた女たちはほんとうの娼婦に堕ちている。
窓辺に差し込む昼下がりの陽射しだけが、痴態をずっと見つめ続けていた。

打ち明け話

2006年04月11日(Tue) 07:18:56

初めて女房を襲われたとき?
あー、もうだいぶ前になるかな。
真夜中に、スーツ泥だらけにして戻ってきてね。
吸血鬼に襲われた、って騒ぐんだよ。
うなじにべっとりと、赤黒い血のりがついていてね。
そりゃあ、ナマナマしかったよ。
でも、言ってやったんだ。おめでとう、って。
肌色のストッキングが伝線していてね。
素っ裸よりも、そそられるんだよな。ああいうの。
ふくらはぎからね、伝ってくるんだ。
白く濁った・・・あはは。皆まで言わせるなよ。

うちの場合は新婚そうそうだったんですよ。
こちらがそういう村だと知らずにお邪魔しましてね。
いや、遠縁のものがいるもので。
いまではもう、長いお付き合いをさせていただいているんですが。
家内のほうも、まんざらでもなかったらしくって。
お誘いがあると、とんでもない刻限でも出かけてゆきました。
ウキウキとおめかしをして。
デートですからね。気分もひきたつでしょうよ。
真夜中のスーツ姿って、場違いで妙に引き立つんですよね。
まぁそういう時間のほうがひと目にもたたなくて、体裁考えると都合がよかったのですが・・・。
案外先方も、そのあたり気を遣ってくれていたのでしょうね。
でもまあ、慣れないうちは、ずいぶんハラハラしたものですよ。
家内をとられちゃうんじゃないか、って。
皆さまといっしょで、まったく取り越し苦労でしたな。
おいしいところだけ頂戴したい・・・っていうものですから。
つい、OKしちゃったんですね。
もうそれからは、おおっぴらに。
私の目のまえだって見境なく、家内に迫っていくようになりました。
ふくらはぎに吸いつけられた唇の下で肌色のストッキングにぶちちっと伝線が広がってゆくようすが忘れられないですなあ。

ストッキングで思い出しましたよ。
母が父に言ったんです。まるでおねだりするみたいな調子でしたっけ。
あのひとにストッキング、破らせてあげたいの、って。
子供の耳にも、ズキッとくるような刺激がありましたね。
いつも口うるさくて、厳しい父だったのですが。
そのときばかりは照れたように口ごもっちゃって。
いいよ・・・と言っていたようです。よく聞き取れませんでしたが。
つぎの日学校から戻ってくるとね。
奥の和室のほうからすすり泣くような声がする。
開け放たれたふすまごしに、脚だけみえました。
短めのワンピースのすそからにょっきりと伸びた脚が。
いつも履いている肌色のストッキングが、ちりちりに破けていて。
母はちょっと苦しそうな、気持ち良さそうな、妙な声を洩らしていました。
今はさすがにもうトシですから。引退ですよ。
おととしもらった女房が、代役を引き受けているんです。

薄暗いロウソクの下。
男たちはかわるがわる、身うちの女性たちが吸血鬼の相手をするさまを語りつづける。
静かで、淡々とした口ぶりで。
語りを取り囲む一座のなかには、まるで怪談を愉しむような猥雑な空気が漂っている。
一座の真ん中にいる若い男が、聞き役だった。
つぎに順番がまわってきたのは、彼と同じ年恰好の若い男。
秋に祝言を挙げる予定の許婚が吸血鬼に迫られて、
スーツのすき間から牙を突き立てられていって、
それでも嬉しそうにはしゃぎながら血を吸い取られてゆく話をつづけていた。
聞き役の彼にはじいっと耳を澄まして。
一言一句聞き漏らすまいと耳を傾けていた。
ふすま一枚へだてた向こうの部屋で、
いままさに彼の許婚が組み敷かれている真っ最中だったから。

ぬくもりが欲しい・・・

2006年04月11日(Tue) 06:58:42

体が冷える。ぬくもりが欲しい・・・
いく度、彼の呟きを耳にしたことだろうか?
そのたびにスーツのズボンをたくし上げて、
長めの靴下ごしに飢えた牙にふくらはぎを侵させてやっていた。
理性を奪われて、意のままにされながら。
独りでいる彼とのあいだにはそこはかとない共感と親愛が漂っていた。

暖まりたい。渇きをやわらげたい。
そうせがまれるたびに。
男の血じゃ、癒しきれないんだろう?
せめてものこととストッキング地のハイソックスを脚に通して
すがりつくような性急さですりつけられてくる唇に帯びた寂しさを紛らわせてやる。
いつも、すまないね・・・
彼のねぎらいは、ふらりと揺らいだ理性の彼方、ひどくうっとりと耳に響いていた。

あぁ、おかげできょうは少しだけ、和らいだ。
いつになく伸びやかな、彼の声。
いつもかさかさな肌にうるおいの艶がよぎり、
整った目鼻だちからは、あの差し迫ったような険しさが去っている。
あぁ、それはよかったね。
心から友を祝福しながら、口許についた血のりをハンカチで拭ってやった。
もう少し、もう少しだったら、彼女も気分を害さないだろうね。
念を押すように覗き込んでくる目線に、柔らかに応えながら。
きみに魅入られて、厭がるやつはいないだろう?
そういう私も、身体の奥に感じ続けていた渇きを癒される思いだった。

うつ伏せに倒れているワンピース姿に、慕い寄るようにかがみ込んで。
仰のけたおとがいのすき間に割り込むように、うなじに牙を滲ませてゆく。
ぐいっ・・・と食いついた拍子に、女の顔がこちらに向いた。
どす黒いなにかが、ちくりと胸を刺した。
まぎれもない妻の顔が、そこにある。

ちゅう、ちゅう、ちゅう・・・
くいっ、くいっ、くいっ・・・
リズミカルなまでにどん欲な吸血の音が、鼓膜の奥まで心地よく注ぎ込まれる。
心の奥の渇きを潤おすような、不思議な力を秘めた音。
抱きすくめられた腕の中。
妻は目を瞑り、眉をひそめ、半ば開いた口許から白い歯を覗かせて。
切なげに身もだえしながらも飽くなき吸血に応じはじめている。
男の血じゃ、きみの渇きは癒しきれないのだったね。
彼の獲物がたまたま妻だった。いまは、それだけのこと。
切ない渇望を満たすためにヒロインの役をみごとに演じきっている妻が誇らしい。
頭を抱かれたまま、うなじを侵されている妻。
血を吸っている相手が本当にいとおしくなったときの、彼の癖だった。
彼の獲た快感が。妻の感じはじめている恍惚が。
私の心の奥にまで、滲み込むように伝わってくる。
よしよし。もっと吸い取らせておやり・・・
少女のようにうっとりとした笑みをうかべつづける妻の頭を撫でてやる。
相手が私の妻だと気づいた彼は、いっそうこれ見よがしになって。
ちらりちらりとイタズラっぽい目線をこちらに送りながら、
ストッキングに包まれた太ももを、意地汚くいたぶり始めている。

インモラル・バー

2006年04月11日(Tue) 00:27:30

からん・・・。
中身を空けてないワイングラスが横倒しになり、カウンターを転がって下に落ちた。
ぱしゃん・・・
小さな音が硝子の破片とともに、ハイヒールの足許に飛び散ったが、女はそんなことに気づきもしないまま突っ伏している。
「閉店」
向こう側でお皿を洗っていたマスターが、乾いた声で呟いた。
表情を押し隠した、黒のサングラス。
客席の向こうからつかつかと歩み寄る、ふた色の陰。
客人の立ち去らないままに出入り口に鍵をかけ、照明を落とす。
ふたりは女性客の肩を捕まえて軽く揺すった。
気づかせようとするのではなく、むしろ気を喪ったことを確かめるために。
反応がないのを見定めると。
マスターと三人、顔を見合わせて。
にやりと冷たい笑みを交わし合う。
ひとりはそのままうなじのあたりに。
もうひとりはかがみ込んでふくらはぎに。
思い思いに唇を吸いつけていった。
かたり。
ハイヒールの脱げ落ちる音。
ぶちち・・・っ
ストッキングの裂ける音。
きゅうっ・・・ごくん・・・
生き血をむさぼる吸血鬼をよそに、マスターは相変わらず表情を消したまま、皿を磨きつづけている。

あまり多くはもらわなかったんだ。酔っぱらいの血はまずいからな。
男の口許にはまだ、生々しい芳香の片鱗を漂わせている。
夕べの閉店後、酔いつぶれた女性客にどのような運命がおおいかぶさったのか。
乾いた声が、簡潔すぎる描写をつづけていた。
介抱して。床に寝かせて。
ワンピースの胸をはだけて。呼吸を楽にさせてやって。
もっと、ラクになれるように。
血液と引き換えにたっぷり注ぎ込んだ毒液に痺れた肌を愛撫して。
ワンピースのすそから、不埒にそそり立つものを忍び込ませて。
昇天させた。
ガーターストッキングだったからね。脱がせる手間が省けたよ。
乾いた口調で、たんたんと続けられる。
  あくまで静粛に、紳士的に。
誰に向けたものか、サロンにはそんな文句が掲げられていた。
聞き手の男もまた、その場のルールを守ってか、
感情を消したまま相手の話に聞き入っている。
凌辱劇のヒロインは、ほかならぬ彼の妻だったのだが。

「遅くなるからここの店に先に行って、飲みながら待っていてくれないか?」
妻に手渡した、店の地図の書かれた紙片。
それは淪落への招待状。
夫が現われたのは、すべてが終わったあとだった。
ぐったりとなった妻を抱き上げて車に乗せ、帰宅して。
夕べの名残りをかけらもとどめぬように身づくろいをさせて。
あくる朝自宅で目覚めた妻はもとより、なにも憶えていなかった。

「そろそろだぜ?」
奥さんは、間違いなく現われる。
男はそう、断言した。
妻の血を吸い犯した男は薄暗い店内を見回すと、あたりに立ち込める闇のもっとも深いほうを指さした。
「ちょっと動くだけでいい。奥さんはあんたに気がつかないはずだから」
夫はいわれるままに、カウンターの一番隅に席を移している。

ギイ・・・
扉が開かれると同時に、ゆったりとした音調のBGMが、流れはじめた。
ずっと前から鳴り続けていたかのようなふりをしてそらぞらしく回転する、黒い艶を帯びたレコード。
「いらっしゃい」
ひくく落ち着いたマスターの声は、美しい客を歓迎する慇懃さを含んでいる。
開かれた扉の向こうに佇むのは、小粋に着飾った女。
カウンターの隅に腰かけている男の、妻だった女。
「マティーニ」
女は短くオーダーを告げると、男の隣に腰を下ろす。
「夕べは、愉しかったわ」
性急に肩を捕まえてうなじを吸おうとする男を受け流しながら。
それでも熱烈に圧しつけられてくるキスに自ら唇を合わせてゆく。
店内にくゆらぐ、あくの強い煙草の香り。
霧のたったその彼方で戯れに耽る妻と情夫。
夫はそれでも無表情にグラスを重ねていた。
相手がふたりになり、女は注文した酒を断って止まり木から降りた。
壁際のゆったりとしたソファに腰をかけ、
ひとりには首すじを。
もうひとりには脚を。
おしげもなくさらけ出して。
なまの唇や舌を這わされて、ぴちゃぴちゃと音を鳴らしながらすりつけてくるのを厭うふうもない。
二度目の入店からはお酒を口にするのではなく。
むしろ自ら秘めた美酒を馳走する。
無言の裡にそうしたルールを読み取った女。

マスターと目が合った。
絶え間なく続けられる無言の動作の合い間に、いつの間にか間近になっていた。
「サービス」
みじかく素っ気ない声とともに差し出される、深紅のグラス。
「血の抜けた身体には、よく効きますよ」
奨められるままに口にした液体は喉から胃の腑へとぬるぬると伝い落ち、
火花がはじけるように、身体の奥をほてらせる。
「ここの最初の客は、おれの女房と娘だったのさ」
ぼう然とした男を残して、マスターはまたもとの位置に身を移している。

あら。ダメよ。そんな。
テーブルとソファの谷間から、のどやかな声だけが聞えてくる。
とうに脱げ落ちたハイヒールは床に転がっていて、
どす黒いエナメルの冷たい輝きを衆目にさらしていた。
おおいかぶさる欲情。
皿を拭いているマスター。
何事もないように、グラスを重ねる夫。
澱んだ空気と猥雑な声。
不条理の夜は今宵もまた更けてゆく。


あとがき
まとまりのないお話になりましたね。^^;
血を吸い尽くされた夫がそれとなく、彼らの巣窟であるバーに妻を呼び寄せて、首尾よく?餌食にさせた。
さらりといってしまえば、そのていどのお話です・・・

姉とおそろいで

2006年04月10日(Mon) 11:50:02

黒のストッキングって、いいよね?
そういうみどりに、いつも優しいほほ笑みが返ってくる。
高校に進学したゆう子姉さんは、とても大人びてきた。
紺のスカートの下に、黒のストッキングを履くようになってから。
毎朝おなじ中学に、おそろいの白のハイソックスをそろえるようにして通学していたのが、ずっと昔みたいな気がして。
そういうときにみどりはちょっと寂しくなる。

ゆう子姉さんのストッキングは、いつも太ももまでのもの。
どうして母さんみたいに、パンティストッキングにしなかったの?
そう訊いても、ふふっ・・・と笑って、教えてくれない。
オトナの秘密・・・ということなのかなぁ。
なんとなく、取り残されたような気分。

そういえば。
あれから姉さんは
お邸に行ってきます。
母さんにそんなふうに言いおいて。
夜更けに出かけてゆくことが増えていた。
どこ行ってるの?
そう訊いても、やぱりふふっ・・・と。
くすぐったそうな笑みがかえってくるだけだった。

とうとうガマンできなくなって。
ゆう子姉さんのあとをつけてみた。
雨上がりの夜道。
ひたひたと音を忍ばせた革靴が二対、距離を置いて歩みを進めてゆく。
時折横切る街灯が、黒のストッキングに染められた姉さんの脚をどきっとするほどなまめかしく浮かび上がらせる。
あたしの脚もいま、あんなふうに見えるのかな?
家を出るときにいつものハイソックスを脱ぎ捨てて、
みどりも黒のストッキングを脚に通していた。
どうしてそんなことをしたのか、本人にもわからないでいる。
こういうときはそうしなければならないのだと、誰かに言われたような気がしたから・・・

「みどりが出かけましたよ」
その時分。
割ぽう着のままの母親が、新聞をへだてた父親にそう、話しかけた。
「しょうがないやつだな」
できるだけ感情を抑えた父親の声が、新聞紙の向こうから聞えてきた。
「ほんとうに・・・仕方ありませんよね」
ため息混じりにそういいながら、母親は夫と自分の茶碗だけに、ご飯を盛ってゆく。

たどり着いたお邸は、こんな家がこの街にあったのか・・・というくらい古風に豪勢な邸宅だった。
姉が門前に現われると、ひとりでにゲートが開く。
玄関に佇むと、やはりひとりでに、扉が開かれた。
扉の向こうに呑み込まれるように姿を消した姉。
みどりはためらわず、扉を押した。
拍子抜けするほどあっけなく、扉は開かれた。
目のまえは広々とした吹き抜けになっている。
見通しのよい空間にそらぞらしく佇んだ不意の来訪者の姿を、
しかしとがめるものはないようだった。
無人の館のように、人の気配のしない家。
しかし誰かが住んでいることは間違いない。
入念に手入れされた室内には、階段の手すりにもちり一つついていなかった。

あぁ・・・
声がしたようだった。
声とみどりのあいだには、階上につうじる階段があった。
足音を気遣うことも忘れ、少女は一気に駆けのぼって、声のしたと思しきドアを開いてしまっていた。

「とうとう来ちゃったのね?」
ベッドにうつ伏せになっていた姉は顔をあげ、いつものように優しく笑っている。
黒い影がふたつ、横たわる姉におおいかぶさっていた。
ひとりはうなじに、ひとりは黒ストッキングのふくらはぎに、唇を吸いつけているように見えた。
じじつ、吸いつけていた。
ちゅう、ちゅう・・・
きゅう、きゅう・・・
異様な音を立てて・・・血を吸っている!
ひっ・・・。
ひくく呻いて身体を硬くしたみどりとはうらはらに、
ゆう子姉さんはまどろむような夢見心地にひたっているらしい。
うっとりとした含み笑いを滲ませながら、
男たちが吸いやすいようにおとがいを仰のけ、脚の向きをかえてやっている。

「ど、どうしてっ・・・!?」
おののくみどりを、背後から伸びてきた一対の猿臂が抱きすくめる。
やめてぇ・・・
縫い針をちくりと刺されたような感覚とともに、
冷たく尖った異物がもぐり込むように、少女の肌を侵した。
縮みあがって抗う少女の動きは、すぐにとまった。
「あまり、乱暴にしないであげてね」
ゆう子はとりなすように、男たちに声をかけた。
少女が大人しくなったためか、ゆう子の言うことは聞き入れる約束になっているためか、
男たちは必要以上に手荒なあしらいを加えることはなかった。
ただひとつの例外を除いて・・・
純白のシーツにおおわれた、広々としたツインベッド。
姉の傍らに仰向けにされたみどりはただわなわなと唇を震わせていて。
チェック柄のプリーツスカートからにょきりとのぞかせた両脚は、意思を喪ったように半ば開かれて、シーツの上にだらりと横たえられていた。
もうじき黒ストッキングの足許と白のシーツとを己の血で汚すことを予感しているかのように。
「お嬢さん、失礼するよ」
さいしょにみどりの首筋に牙を入れた男は薄笑いを浮かべながら、少女の身体に体重を載せてゆく。
「初めてのようだが・・・遠慮なく、お邪魔するとしようか」
濡れた唇が刻印するようにねっとりと、冷たい感触を素肌に沈めると、
少女はちょっぴり痛そうに身をすくめ、
あとはもう、なされるがままスカートのすそを乱していった。


あとがき
ゆう子姉さんはどうしていつも、太ももまでのストッキングを着けていたのでしょうか?
あとはもう、言わぬが花、ですな。^^



スカートを買う少年たち

2006年04月10日(Mon) 09:54:15

インターネット百科事典○ィキペディアのなかの「セーラー服」に、ネット通販のことがでているのですが、こんなくだりを見つけました。

ttp://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%BB%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC%E6%9C%8D&oldid=5236071 
(参照するときは冒頭にhを入れて下さい。)

学生スカートも紺、グレー、チェックが選択できる。またプリーツ、ボックス、三本ヒダなども選べる。ウエストも57~110cmまであり、男性の着用も可能なものとしている。現に、男性が購入していることも多い。
コスプレのパーティー用としても購入している女性もおり、多いのはピンクとチェック柄である。
男性(男子高校生も含む)が購入していることも多く、主に黒~紺色をはじめ、セーラー服だけアイボリーホワイトなどもある。学生スカートだけの購入もあり、グレーのプリーツスカートを購入している男性もいる。

う。。。ホントなんだろうか?
とくに(男子学生も含む)とは・・・?
そんなに早く目覚めちゃっているのでしょうか?
学校に履いて行くことはもちろん、人前で公然と履くこともないでしょうから、実態は謎です。
それとも案外、あったりして・・・?^^
知りたい・・・。
親にはばれないのでしょうか?
意外に、そういう子の場合親も推奨していたりして・・・?^^
う・・・妄想がますます疼いてくる。(笑)
常識的には彼女へのプレゼント・・・と思いたいところですが・・・。
こういう改まったかたちで目にすると、さすがに言葉に窮してしまうものらしく、言葉遣いもいつになく、断片的になっています。^^;
不覚・・・。

そういえば白のハイソックスも男女共用で売られていますが、男子はどれくらい購入しているのでしょうか。
体育の時間でもない限り、男子にとってふくらはぎをさらす機会は少ないですね。
ズボンの下がどんなふうになっているのかは、スカートの奥よりも謎?かも知れないです。(笑)

追伸
長い引用になっちゃいました。問題が出そうになったら直ちに削除しますね。

<強制バトン> 見ちゃったらやってね♪

2006年04月10日(Mon) 09:01:02

だそうです・・・ーー;
ふらふらと訪問履歴見てたら、目のまえにばば・・・っと。
罠にかかっちゃったんですね。^^;
知らん顔して素通りしようかと思ったけれど。
たまたま見たのが面白いブログだったので、やってみますね。^^
あまり本気に読まないように・・・

●今、どこに居る?
 吸血鬼邸です。

●今、一番近くに誰が居る?
 誰もいないはずです。
 とくに背後に黒衣の男の気配なんかは・・・しませんよね・・・?^^;

●今 どんな服装?
 薄茶のハーフパンツに白のハイソックス。
 オフなので、ふつーじゃないかっこしてます。^^;

●今、何食べたい?
 クッキー

●今、何飲みたい?
 紅茶
 血、ではありませんぞ。あくまでも・・・

●今、真後ろには何がある?
 誰かの影。 ^^;

●今、まわりを見渡して、いちばん目についたものは?
 目のまえにどどーん!と広がっている夢幻空間(PCのことですよ。^^)

●今、誰に会いたい?
 きょうは一日、独りでいたいですね。
 血を吸わせてくれる御婦人だけは、いつでもウェルカムですが。^^

●その人に今伝えたいことは?
 今夜はどのような装いで私のお相手を?^^

●今一番歌いたい曲は?
 レクイエム(おいおい・・・) 

●今頭の中でパッと思い浮かんだ言葉もしくは台詞は?
 いつまでやってんだろ。早くPCから離れよう・・・

●今の体調は?
 寝不足のわりに快調。
 ブログのあっぷしたあとは、決まってこうですな。^^

●今どんな気持ち?
 満ち足りています。時間がゆっくり過ぎるといいなあ。

□■ルール■□
見た人は全員やること!
絶対だから!嘘つきはだめ!
訪問履歴に残るから!!

まあ、身体壊してまでやるもんじゃないですね。(笑)
興味がわいたらやってみてください。
というわけで、
ねたをくれた「まいちゃんの暮らし日記」さん、ありがとね。
ここ、見ないと思うけど。^^
http://mai55.blog54.fc2.com/

娘の服をお召しになりませんか?

2006年04月10日(Mon) 08:44:25

女の子のお洋服がお好きなの?
まぁ、あなたったら。
いい歳をして、いけない趣味ですね。
そんなことでは、お嫁さんをもらいそびれてしまいますよ。
どうしても、着たいとおっしゃるの?
困ったかたね・・・
まぁいいでしょう。
死んだ娘の服がまだ残っていますから。
あなたとおなじ背格好ですから、きっとお似合いになるわよ。
どんな服がよろしいかしら?
やっぱり下は、スカートでしょう?
だってそのほうが、女の子らしくなるものね。
真っ赤なチェック柄のプリーツスカートはいかが?
男の子がいきなり履くのはちょっと、恥ずかしいですか?
じゃあせめて、青系のものにしましょう。
私服のときによくお招ばれで着ていったものがありますから。
あの子も、とても気に入っていたものなのですよ。
初めて血を吸われたときも、このスカートを履いていたそうですから・・・

あらあら・・・よくお似合いですね。
びっくりしたわ。
イイエ、本心からですわ。
べつに男の人がスカートを履いたからって、そうおかしなことではないのですよ。
ためしに、ストッキングもどうかしら?
履いたことはないのですか?
なれれば誰でも、かんたんに履けるのですよ。
うまく履けないで破れてしまうこともありますけれど。
まぁ、最初のうちはあまり高くないもので練習することですね。
そうそう・・・男のかたにしてはお上手ね。
ちょっと曲がっているから、直すわね。
あらぁ。びっくり。意外によくお似合いよ。
ぴっちりと、まるで吸いついたようにフィットしてますね。
かっちりとした脚の輪郭が、よけいに映えていますよ。
どうかしら?
スカートだと股のあたりが肌寒いですから、
ちょうどほどよく暖かいでしょう?
履き心地がお気に召しました?
私のでは色気がないでしょうから、こんどぴったりのサイズのものを買い揃えておきますね。
男のかたがレジに持って行ってお求めになるのは、ちょっと恥ずかしいでしょうから・・・

さぁ、今夜のご用意はこれでよろしいわね?
それでは、御機嫌よう。
死んだ娘があなたの血を吸いに現われたら、どうぞお相手してあげてね。
うんと、仲良くしてあげてくださいね。
あの子は寂しがり屋だから・・・
まだ、お嫁入りまえの身体だけど。
どんなに仲良くしてくだすっても、よろしいのですよ。
あしたは少し、ぼうっとなってしまうでしょうけど。
きっと、手加減してくれるわよ。
自分のお洋服だったら、あの子もあまり派手に汚そうとはしないでしょうから。

部屋のなかにもう一人・・・?

2006年04月10日(Mon) 08:25:31

「あのう・・・」
めったに人のこないこの部屋のドアをノックしたのは、マンションのオーナーだった。
白茶けたタートルネックのセーターに、黒っぽいパンツルック。しょぼしょぼとした顔つきをした、初老の女性だった。
たまに道で会っても、眉毛をいつも八の字にしている、いかにもさえない感じの老女である。
女は、意外なことをいった。
「入居されてもう、三ヵ月ですよね?」
「エエ、そうですけど」
「なにか、変わったことはありませんでしたか?」
え?
変わったこと・・・?
いや、なにもないですよ。
そう答えると女は納得のいったような、いかないような顔をして、
相変わらず眉を八の字にして辞去していった。
勤め先と家との行き帰りだけの毎日。
戻ってくるのは夜遅くだったので、ほとんど寝に帰るような日々だった。
「変わったこと」など、起こりようのない日常。
そんなの毎日はずだった・・・

インターネットをするだけが、唯一の趣味。
まともに就職しなかったら、きっと迷わず引きこもりになっていたであろう。
じっさい、職場でも気の合った同僚というものがほとんどいない。
残業にくたびれ果てて家に戻って。寝るまでのほんのひとときのあいだ。
日常とはかけ離れた世界をかけ抜ける。
それが気晴らしになるのか、あとの寝つきだけはよいほうである。
ふと、妙なタイトルが目を引いた。
「妖子の献血な毎日」
管理人は、吸血鬼フェチな若い女性らしい。
ブログの形式で毎日、その日に思い浮かんだ妄想などを綴ってあった。
夜ごと訪れる吸血鬼にドキドキしながら抱かれ、血を吸われている・・・
要約すればまず、そういった内容だった。
彼氏のいない女のたわごとかな?
そんなふうに思いながらも、目はひとりでに敷きつめられた小さな文字を追っていた。
もう読み捨てようと思いながら読みつづけた他愛ない妄想の果てに、こんなことが書いてあった。
「今夜も妖子は制服に着替えて、あのかたに血を捧げます」
画像も、添えられていた。
本人のものらしい、脚だけの写真。
すこし日焼けのした畳のうえに伸べられた、黒いストッキングの脚。
のびやかなふくらはぎが、光沢をちょっと滲ませたナイロンごしに青白く透けている。
きれいだ・・・
思わずごくん、と生唾を呑みこんでいた。
そして、ちょっとびっくりした。
端のほうだけ写っている押し入れのふすまの模様が、この部屋のそれとまったく同じだったのだ。

ブログの主は、このマンションのなかにいる?
かけめぐる疑念に駆り立てられるようにページをめくると、
脚だけ、制服の後ろ姿だけの写真の端々に、室内の様子が窺えた。
画質が粗いので判別できないものも多かったけれど。
台所の造りも、バスの内部も、玄関先のタイルまでそっくりだった。
真夜中をはるかに過ぎるまでページをたぐるうちに、疑念は確信に変わっていた。
いったい、どんな女なのだろう?
うかつにも、マンションにどんな人間が住んでいるのかまったく知らないでいた。
もっとも、それが普通だろう。
近所づきあいという相互干渉をいっさい遮断した密室空間。
隣に誰が住んでいるかもわからないほどの機密性。
それがマンションのウリでもあるのだから。

それ以来、マンションの玄関を往来する人に注目するようになっていた。
ほとんどが寒々とした顔をして古ぼけた鞄を抱えたサラリーマン風の男たち。
ワンルームマンションだから、単身赴任族が多いのだろう。
まれにいる女性の住人らしきものも、年配の女性がほとんどだった。
ほとんどが男たちと同様疲れた顔つきの、化粧の消えた面差しに貧しい品性をあらわにしているような老女ばかりだった。
女学生、と書かれていたが。
もちろん、実体がそうであるとは限らない。
むしろそうでない可能性の方が高いのだろう。
だって、他愛ない妄想のなかに散りばめられた言葉はちょっと古風な言葉つきで、いまどきの女子高生のそれではなかったから。

他愛のない推理は、他愛なく頓挫・・・するはずだった。
周囲におなじタイプのマンションが三軒。
それぞれが三階建てで、部屋数はゆうに百はあろうというマンションの住人を逐一把握するなど、とうていむりなことだったから。
ところが・・・
え?
あるときサイト上に掲載された写真をみて、わが目を疑った。
伸べられたつま先の向こうに写っているふすまの縁が、すこし破れている。
その破れかたが、自分の部屋のそれと瓜ふたつなのだった。
・・・?・・・?・・・?
少しかぎ裂きになった破れ目は、おなじものをもうひとつ作ろうとしても容易ではないはず。
これはいったい・・・?

その晩は妙に寝つかれなかった。
まぁいい。明日はどうせ仕事は休みだ・・・
こうなったら開き直って、眠れるも眠れないも、なりゆきにまかせるよりないだろう。
そんなふうにまんじりもしないでいると。
すうっ。
ひとりでに。
自分の腕が布団をつかんでいた。
あれ?何してるんだろう?
そう思ういとまもないままに。
ゆらり。
起き上がっていた。
かぎ裂きの入ったふすまに手をかけて、ふだんは絶対手を伸ばさないような奥のほうを探り始めていた。
おい、おい・・・
おれ、おかしくなっちゃったのかな?
そう思ったのがさいごだった。
なにかがスッ・・・と、身体のなかに入り込んできた。

慣れた手つきで取り出したのは、見慣れない古ぼけた衣裳ケース。
紙製のそれは、とある有名百貨店の名前が入っている。
ロゴが古すぎる・・・
こんなもの、持ってきたっけな?
そんなことを思う間もなく、手はひとりでに動いて、なかを開けている。
出てきたのは、濃紺のセーラー服だった。
胸のホックをはずして、わき腹のジッパーを引きあげて。
かぶるようにして上体に通したとき、ほのかな防虫剤の匂いがツンと鼻を突く。
スカートのウエストも、あつらえたようにぴったりだった。
布団の中でぬくぬくと暖かかった股のあいだに、妙に空々しい冷気が入り込む。
箱のすみには、なんどか脚を通した形跡のあるストッキングがふやけたようになってとぐろを巻いていた。
つま先をさぐる手が、かすかに震えを帯びている。
慣れないための不器用さからくるものではなく、あきらかに昂ぶっているのだった。

ドキドキと、胸をはずませながら。
黒のストッキングを脚に通し、純白のタイで胸元をきりっと引き締める。
ストッキングなど、履いたこともなかったのに。
まるで毎日しているかのような、なれた手つきだった。
ひんやりとした薄手のナイロンの、しなやかな感触が素肌を打つ。
いつの間にか。
傍らに、人影がたっていた。
おなじタイプのセーラー服。
胸元にもおなじ、純白のタイをふわりと流している。
「わたしを呼んだわね?」
少女、と呼ぶには落ち着いた、大人びた語調。
けれども、声色のみずみずしさはやはり少女のそれだった。
古風な結びかたをした黒髪が、窓から差し込むわずかな月の光につやつやと輝いている。
豊かな髪に囲まれた顔だちはおぼろにしか窺えなかったが。
慄っ、とした。
両の瞳は焔のように、青白く輝いていたから。

魔性の焔・・・
そう感づいたときには二の腕をつかまれていた。
長袖のセーラー服のうえからぎゅっとつかんでくる握力は、痛いほど強い。
か細い少女の腕に秘められたものとはとても思えないほどだった。
「これからわたし、血を吸われるの。あなたもいっしょに、吸われて頂戴。お友だちでしょう・・・?」
一滴一滴と毒液を沁み込ませてくるような、たたみかける声色。
逆らうことはできなかった。
匂いたつような少女の気配が込められたセーラー服のなか、身体はがちがちに硬直してしまっている。

「ああ・・・」
少女が肩のあたりを抑えて、にわかに切なそうな声を洩らす。
背中からおおいかぶさるようにして。
ひとまわりも大きい黒い影が少女に迫って、うなじをくわえている。
「つ、痛う・・・っ!」
痛そうに眉を寄せて、少女は身もだえした。
少女ばなれした濃艶な生気をあたりにまき散らし、それが眩暈するように襲ってくる。
恋人の接吻を受けるように。
いつか少女は影と向かい合わせになって、鋭い牙をうなじに埋め込まれていた。
「さあ、つぎはあなたの番」
白い夏服の襟や胸元に赤黒い飛沫を光らせたまま。
少女は笑みさえ浮かべて、つかんだ二の腕を離さない。
「や、やめて・・・」
いつか、少年のように怯えていた。
やめて・・・やめて・・・
そんな怖ろしいことは・・・
ほんとうに少年に還って、独り夜道に迷っているような錯覚に押し包まれる。
がりり・・・
首のつけ根のあたり、ちから任せに突き入れられた鈍い痛みが、眩暈をいっそう激しくさせた。

うふふ・・・ふふ・・・
傍らの少女はくすぐったそうな含み笑いを洩らしながら、黒のストッキングの脚にまとわりついてくる陰をソツなくあしらっている。
避けてくねらせたり、振りほどいたり、逆にすうっと差し伸べてやったり。
そんなふうにしがら、いつか太ももを身動きできないように抱きすくめられてゆく。
ぴちゃぴちゃというなまなましい音の下。
薄墨色の翳におおわれた太ももに、唾液をはじけさせて。
もう、ダメよ。そんなこと・・・
少女がたしなめるほどに、気をそそられたように。
陰はなおもしつように、少女の脚をいたぶりつづけていた。

もうどれくらい経ったのだろうか?
うつ伏せにされて抑えつけられたふくらはぎに深々と埋められた牙が、じんわりと痺れるような鈍痛を滲ませてくる。
もはやけっして不快ではなくなった、その感触。
傍らの少女はもう静かになっている。
腰までたくし上げられたプリーツスカートからあらわになった脚もとを、滲むような裂け目をいくすじも帯びたストッキングを履いたまま・・・

このお部屋にはね。
昔、娘が住んでいたんです。
独り住まいをしてみたいから。
そんな言い分、耳を貸さなければよかったのに・・・
それから三月ほど経ったころから、娘はだんだん顔色がわるくなってきて。
どうしたの?ってきいても黙って首を振るばかりで。
しまいに、学校にも行かなくなって。
とうとうその年の秋のおわりに、はかなくなってしまったんです。
でも、寂しくはないんですよ。
だって、毎晩のように来るのですもの。あのときのままの初々しさをもったまま。
世間話の繰り言のように。
きょうも玄関先で呟く老女。
もうだいぶ陽気もよくなった時分だというのに相変わらず、
白茶けたタートルネックのセーターにパンツルック。
まるでなにかを隠すかのような厚着をしていた。
ところであなた、あれから特にお変わりは?
なにも変わったことなんて、ないですよ。
口をついて出てくるのは。
いつもと変わりない、当たり障りのない答え。

秘せられた儀式

2006年04月09日(Sun) 09:13:22

「兄様、よろしいかしら?」
ふすまを細めに開いて顔をのぞかせたのは、妹の美夜。
古風に束ねた長い黒髪が、傾けた瓜実顔に合わせてさわ・・・と流れる。
応えも待たず畳のうえにすべらせたつま先は、薄墨色のストッキングになまめかしくつつまれていて。
つい先日までの幼い妹とは別人のように、大人びている。
女学校の入学式を済ませてから、制服の一部であるストッキングは彼女の愛用品となっていた。

「母様、お寝みになられたご様子よ」
相変わらず小首をかしげたまま。
美夜は意味ありげにくすり、と笑みを洩らす。
白い頬にくっきりと、えくぼを浮ばせて。
それでも口を開きかねていると。
もう・・・
苛立たしげに口を尖らせて。
美夜の望み、ごぞんじのくせに・・・
そう言いたげにして、すり寄ってきて。
「切なくなっちゃって・・・お勉強はかどらないの」
声を忍ばせて、そう囁きかけてきた。
毒液のような誘いの言葉は耳朶をくすぐり、鼓膜を貫いた。
いいのか?
そう問いかけることさえ忘れて、ボクは崩れるようにかがみ込んでいる。
黒靴下の足許に、引き寄せられるようにして。
「今夜はお破りにならないで。いちどに何足もなくしては、怪しまれるわ」
頭上に降ってくる幼い女神の声に頷きながらも、
舌はすでに女の装いを濡らしはじめていた。

ああ・・・
振り仰いでくる妹は、夢見心地に目線を迷わせて。
しっかりと抱きすくめられた腕のなか、
居心地よさそうに弾んだ四肢をゆだねている。
乱されたプリーツスカートのさらに奥。
自分とは別もののように大きく怒張したものを沈ませて。
はしたないほどびゅうびゅうと、禁じられた熱情をほとばしらせてしまっている。

入学式の夜。
誰に教えられたのだろう。
寝静まった闇に身を忍ばせて、部屋に現われた妹。
真新しい制服姿に身を包んで。
さすがにか細く震える声で。
お願いします。お受けくださいませ。
日頃の無邪気をかき消して取りつくろった大人の口上。
昼間からしつように視線をからみつけていたのを気づいていたのだろうか、
思い切ったようにスカートをめくり、
黒ストッキングの脚をさらけだしてきた。
ぴちゃぴちゃと音をたてて。
むさぼるようになすりつけてゆく舌に、
はじめは涙ぐんで怯えていたけれど。
肩に手をかけて口づけを交わして、
じょじょに体重をかけていって、
そうっと畳に抑えつけたときにはもう別人のように静かになっていて。
太ももまでの長靴下を自分のほうからずり下ろして、
せわしく怒張してせりあげていったものに、あらわな部分をさらしてきた。
きつく抱きすくめた腕のなか。
その瞬間、すこし力んだように身を固くしたものの。
制服姿の妹は顔色も変えないで、ボクに純潔を捧げたのだ。

今夜も、美夜が履いていたのは、太ももまでの長靴下。
むき出しの劣情に、禁欲的な制服姿を惜しげもなくさらしてゆきながら。
乱れた息を整えようと懸命になっているのが可愛ゆくて。
抱きすくめる腕にもしっとりしたものを帯びていた。
つやつやとした黒髪をかきのけるように撫でつけて。
うなじに唇を這わせてゆく。
兄様・・・
さすがに悩ましさをたたえた囁きにふと耳を傾けると。
不自由な手の向きをずらして、忍んできたふすまの隙間を指差していた。
人の気配。
気配の主はひそと静まったまま、
冷たい廊下からこちらに身を移してくる様子はなかった。
背筋をのばし。正座した膝のうえにきちんと両の掌を重ね合わせて。
かしずく侍女のように、静かに控えている。
しん、と音もなくうずくまるその人影は、時折耐えかねたような密やかな吐息を洩らしながら。
忘れたころには霧のように消え去っている。
美夜がひと目を憚らず、帰り道をたどれるように。


あとがき
いまどきこんな古風な話し方をする女学生はいませんね。
時代を無視してお読みください。
嫁入り前の不埒が公的にとがめられていた時代。
少女の純潔が確かな価値を持ち、安易に譲り渡されることの考えられなかった時代。
そんなころの上流家庭に秘められた絵巻・・・と思し召せ。
代々伝わる禁断のしきたりを妹娘に告げたのは誰?
咎めるべき立場にありながら、ことの成就を静かに見守っているのは何故?
和装の貴婦人はそんな私の問いかけに、ただ謎めいた微笑をもって応えるばかりだったのです。

ここのとこ

2006年04月07日(Fri) 08:00:16

公私共に、えらく忙しくなりました。
昼夜を問わず囁きかけてくる「魔」の相手をするのが精いっぱいで、
お友達のサイトにお邪魔することがめっきり減っています。
最近更新が滞りがちなこちらとか、
大長編が佳境に入ったあちらとか、
もう、何日もじっくり読んでいないような。
話題に乗り遅れないかと、心配です。^^;

アラ、ばれちゃった?^^;

2006年04月07日(Fri) 07:57:11

かちゃり。
玄関のドアが開く音。
なんだか少し、あたりをうかがうようで。
こっそりと音をひそめている。
「ただいまー」
平静を装う、妻の声。
ウキウキしているような。すっきりしているような。
こちらの様子をうかがうような。
顔も見ないうちに、疑惑はほとんど確定的に。
出かけるときにきちっと結っていた長い髪は、ひとすじとして乱れていなかったけれど・・・
声もかけずにそうっと近寄り、やおらスカートのすそをつかまえる?
えっ?
と色をなす瞳の奥を覗き込むようにして。
「・・・してきたよね?^^」
スカートの裏地はしとどに濡れを含んでいた。
「アラ、ばれちゃった?^^:」
こんなとき。
妻はあっさり、白状する。
こんなふうに。あっけらかんと。

スカートを抑える手をすり抜けるようにしてもちあげて。
わざとらしく、くんくんと匂いを嗅ぐと。
密やかに注ぎ込まれた熱情の残滓が甘酸っぱく鼻腔を突いた。
「まぁ、いやらしい」
口を尖らせる妻。
どっちがさ・・・
そうひとりごちて、後ろにまわり、ブラウスのうえから胸をまさぐる。
柔肌の下には、淫らな脈動がまだ疼いていた。

よろけそうになった身体を支えるように、テーブルに突いたショルダーバック。
手早く中を開けると、妻は
「ハイ、お土産ね♪」
そういって、しなしなとした黒い塊を押しつける。
ぬらぬらとした光沢をを滲ませた帯のように長い衣類は、私の掌から零れ落ち、蛇のように長く垂れ下がった。
濡れ場に入るまで、妻の脚を彩っていたストッキング。
みるかげもなく破れ果てた、情事の証し。
しなやかにぴっちりと足許を引き締めていた装いに、
ヤツはどれほど不埒に唇を迫らせていったのか?
あんなふうに・・・こんなふうに・・・
渦巻く妄想に目を眩ませながら。
妻をその場に押し倒す。

母と吸血、そして凌辱

2006年04月06日(Thu) 07:22:40

自分の母親を犯されたい。
そんな願望をいだく青年は、意外にすくなくないようです。
母親はもっとも身近な異性。
日常は生活の一切を取り仕切る支配者の面も。
装うと別人のような貴婦人になることも。
男の目でしっかりと感じ取っています。

着飾っているところを迫られる。
そんな妄想が、昂ぶりを招ぶようです。
服を脱がされたり、引き裂かれていったり。
そういう光景を思い描くと、胸を刺すような衝動をかきたてられるのです。
美しく気高い母親がほかの男に迫られる・・・
そんな妄想が、好奇心をひどく刺激するのです。

吸血鬼に迫られたお母様に、どのような態度を期待しますか?
そう問われたら。
あられもなく乱れる・・・というよりは。
あくまで気丈に振る舞ってもらいたい。
そんなふうに感じます。
ひたすらえろくなってしまっては、それはもう母親ではありません。
日頃息子に訓えている節度を崩すまいともうそれは必死になって、
眉をしかめて、目をキュッと閉じて、かぶりを振って。
淫靡な感情をおもてに滲ませまいとするのです。
さいしょは毅然としていても。
じょじょにみだれてゆくのは仕方がありません。
ついにはただならぬ愉悦に浸ってしまったとしても、
息子さんはきっと許してくれるでしょう。
さいごまで屈辱に怒り悲しんでいたとしたら。
じつは共犯者だったりもする彼はひどく悩み後悔するでしょうから・・・

服を破かれてゆく・・・というのも、「感じる」要素です。
あくまで、清楚に気高く装って。
そんな装いを打ち消すように、むぞうさに衣裳を剥ぎ取られてゆく。
漂わせていた気品を穢すように、みるかげもなくくしゃくしゃにされていって。
裂けた衣装の隙間から覗く肌は、すべてあらわにされた素の肉体よりも数段、淫靡に映えます。
清楚な衣裳のにわかな変貌は、
かっちりとした日常の枠からかけ離れて堕落させられる・・・
そんな想像につながります。
苦痛を滲ませ、戸惑いながら、裂かれた衣裳から普段目にすることのない肌をあらわにしてゆく母親。
萌えます。

自分でも犯したいか、ですって?
はっきり、志向が別れるようです。
柏木は、したくないほうです。
されているのを、人目にたたぬところから覗き込んで。
独り愉しんでいたいです。
いじましいという要素は意識しないです。
制圧された母親が淑女を装おうと必死になりながら、
こらえきれずに変貌をとげてゆく。
装いながら堕とされてゆく気高さ。
そんなものがモチーフになるのでしょうか・・・

母を紹介する

2006年04月06日(Thu) 07:00:08

血をせがむ友人のまえ。
着飾っている母さんはあくまでもにこやかだった。
いつもきちんとしていて、しっかり者の母。
そんな母をボクは彼に引き合わせてしまっていた。
血が欲しいんだって?おばさんなんかでもかまわないの?
ほんとうはもっと若いお姉さんとかがいいんでしょう?
そんなふうに人なつこく話しかけながら。
もうこらえきれなくなって、ボクのまえで見境なく迫っていく彼。
あら、やぁねぇ・・・
母はちょっと戸惑いながらも、笑みを絶やさずに。
そのままのびてきた猿臂に身体を巻きつけられてゆく。

見慣れたプリントワンピースを泥だらけにされ、くしゃくしゃにされて。
まだ、気が済まないのね。どうぞ遠慮なく召し上がれ。
うちに遊びに来たボクの友達にお紅茶を振る舞うときと変わらない、落ち着いた声色だった。
めくれ上がったワンピースのすそからあらわになった脚。
ストッキングを履いたまま、太ももを咬まれていた。
破れ落ちた肌色のストッキングはひざ下までずり落ちて、
それが堕とされてゆくなによりの証拠・・・

う、ウン・・・うぅん・・・
いつになく力むような声を洩らしながら。
母さんは昂ぶる少年の動きに応じている。
犯されている。姦られちゃっている。
それも、ボクの目のまえで・・・
たくまずにじみ出てくる愉悦をとっさに押し隠すように、
ひそめた眉と、キュッと閉じた目と、食いしばった歯と。
けれども、
く・・・くう・・・っ
たくまず洩れてくる愉悦の呻きが、ボクの下肢までもむずむずとさせてくる。

いたたまれなくなって席をはずしたリビングで。
洗練された衣裳を乱されながら。
母さんは優雅に笑みをたたえながら、凌辱を許してゆく。
窓の外はいつもと変わらない昼下がり。
夢中になって母さんを犯している彼と。
ふたりを覗き込んで独り昂ぶりを愉しんでいるボクと。
三人三様の、息を殺した愉悦。
日常と隔絶された密室のなか、宴はいつ果てるともなく続いてゆく。

屍鬼となった少年 3 ~同類の友人と母~

2006年04月06日(Thu) 06:46:17

母さんをあてにして家に帰ったんだけど・・・
マサオの声はすこし、震えていた。
怒り、というよりは、心もとない頼りなさで。
いっしょに血を吸われ、生命もろともすべてを吸い出されてしまった幼馴染み。
必要に迫られて。血を獲るために目指したのは、やはり自分の家だった。
母ひとり、子ひとりの家族。
あてにしていたのはもちろん、母親の血だったのに。
母さん、もうほかの男に摂られちゃってたんだ。
戻った彼が目にしたものは、勤め帰りのスーツ姿のうえにおおいかぶさっている年配の吸血鬼の姿だった。
彼の口許は母親の血潮に濡れていた。
ふたたび咬みついてきた男の下から喜悦に満ちた呻き声が洩れるのを耳にして。
かれはそそくさと、家を出てきたというのだった。

ママはエッチな服を着ているんだね。
はぎ取ったブラウスの下、レエス柄の黒スリップをまさぐりながら。
少年はきょうも自宅のなかで、熟れた血潮に酔い痴れていた。
ストッキングも、とてもイヤラシイ感じがするね。
こんなイヤラシイ服をつけて、誰と逢っているの?
責めつづける息子に対して、
ゴメンね。ママも寂しかったのよ・・・
じゃあ、さびしくないようにしてあげる。
もの問いたげなママに、少年は言っていた。
マサオにも、血を吸わせてやって欲しいんだ。

母さんの服を借りてくれたの?
懐かしい緑のスーツを着て現われた貴美香を目にすると。
マサオの声はもう甘く上ずってしまっている。
少年は実の妹を。マサトは少年の母親を。
そういうことで、話がついていた。
妹はもう、セーラー服の襟首に紅いものを散らしながら、
母親のことなどお構いなくうっとりと兄に抱きすくめられてしまっている。
妹の血を飲み耽りながら。
目はいつか、傍らで同類に血を吸われはじめた母のほうへと向いていた。
マサオはもう我が物顔に、ママに迫ってゆく。
自分の母がいつも着ていた洋服を身に着けたそのひとはもう、彼に取っては友人の母親ではなかったのだ。
母さん、今日こそ血をたっぷりいただくよ。
そういうと。
少年の目のまえで、キスまで奪ってしまっている。
キュン!と胸がひきつるとき。
そのなかにチカリチカリと閃いたものは、ひどく心地よく少年を痺れさせていた。
さぁ、もうボクのものだからね・・・
そういって迫ってくるマサオに、ママはまったく無抵抗に身体をあずけていって。
ブラウスの上から胸をまさぐられながら、うなじに唇を這わされていった。
くちゅう、・・・きゅうっ・・・
じぶんのときよりもはるかにナマナマしく響いた、吸い初めの音。
ブラウスは胸のうえでもみくちゃにされている。

はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
ふたりの女たちはじゅうたんの上、隣り合わせにまろばされて。
競い合うようにあがる吸血の音の下、うっとりとなって白目を剥いている。
ママはもうマサオの母になりきっていて、
いい子ね、いい子・・・
あやすように両腕をマサオの背中に巻きつけている。
もっと、わたくしを辱めて・・・
ママの声がいちだんと、上ずっている。
え・・・?
ただならぬことを口走った横顔は、別人のような華やぎをみせていた。
乱されたの衣裳。
たくし上げられたスカートからむき出しにされた太ももの周りを、
いたぶり尽くされた黒のストッキングがよじれていた。
マサオの腰はスカートの奥深くまで探りいれられていて。
ママの太ももは、ぬらぬらとした粘液をうっすらと光らせていた。
えっ?えっ?
たくまぬ放射だったに違いない。
マサオはすっかり酔い痴れたように、母さん、母さんといいながら、少年の母にすがりついてしまっている。
そう。ママはいつもこんなふうにして、男のひとと逢っているんだね。
むらむらとせりあがってくるどす黒い衝動。
嫉妬は昂ぶりを呼び、昂ぶりは充実を招いた。
すぐ下にあるのは、やはり着衣を乱している妹。
じつの妹なのに。
そそりたった先端の疼きをもうこらえきれなくなって、
開かれた太ももの奥にさぐり入れてしまっていた。
硬かったけれど。あっさりと突き破ってしまっていて。
意思を喪った身体の奥に、びゅうびゅうと沸騰したものを注ぎ込んでしまっていた。

屍鬼となった少年 2 ~母親~

2006年04月06日(Thu) 06:19:13

足しげく公園通いをするようになった妹。
兄にせがまれるままに。
ハイソックスを履いた脚をきちんとそろえて、ふくらはぎを咬ませてやっている。
ふだんは、紺色。ママの帰りの遅いときは白。
ほんとうは白がいいんでしょう?でもママに見つかるとやばいから、ふだんは紺にするね。
そのほうが、血が目だたないから・・・
そういいながら。履いてくる色は白のときが多くなっていた。

ママの帰り、今夜も遅いの?
ハイソックスの向こう側に弾む、ぴちぴちとしたふくらはぎの肉を唇に感じながら。
兄は妹を見あげている。
最近ね、ママに恋人ができたらしいの。
ーーーえ・・・・・・。
スカートの下をまさぐる兄の手が止まっていた。
こんど、連れてきてあげようか?
兄の渇いた視線から逃れるように、さおりはぎこちなく身づくろいをすませると、
そそくさとベンチから立ち上がっていた。

そのつぎの日の夕暮れ時。
いつものベンチに座っていたのは、さおりよりも上背のある、年配の女。
見慣れた柄のプリントワンピースに、少年はズキズキと本能を疼かせる。
ママだ。
ひたと見つめる視線がまともにぶつかって、絡み合う。
逆光になってよくわからなかったけれど。
その女(ひと)はあきらかに、ほほ笑んでいた。
  きょうはさおりは来れないわ。体の具合が悪いんだって。
たしかにここのとこ、ほとんど毎日になっていた。
死んだはずの息子が公園で娘と逢ってなにをしているのか、おおよそ察しはついているはずなのに。
ママはあくまでもおだやかだった。
  生き返ることができたのね。よかった。
しっとり落ち着いた優しい声色のなかに熟れた女の匂いをかぎつけてしまうのは、忌むべき新たな本能のせいだろうか?
  どうしてもっと早く言ってくれなかったの?二人して隠し事なんかしちゃって。
ママだって、してるんでしょ?隠しごと・・・
そういい募りたくても言葉にならなくて。
彼はいつの間にかママのほうへとにじり寄っていた。

耳たぶに、切迫した呼気がせまってくる。
貴美香はそれに応えるように、うなじをちょっと仰のけてやった。
かりり・・・
首のつけ根のあたりに、鈍い痛みが滲んだ。
ちゅ、ちゅう・・・っ
忍びやかな音をたてて。
血を吸い取られるたびに、スッと頭のなかが透明になってゆく。
  もっと、もっと。わたしを注ぎかけてあげたい。
抱きついてくる息子の腕に、いっそう力が込められてきた。

淑やかに組まれた脚が、薄手の黒のストッキングに透けている。
父がいなくなってから、毎日のように母の脚を染めていた清楚な衣裳。
どきどきしながら、唇をあてがっていった。
妹のハイソックスよりもずっとなよなよとたよりない感じがした。
頼りなさ、心もとなさを帯びながら、
すべすべとした感触はまさぐる手の指を、すりつけてゆく唇を、
痺れさせるばかりに迷わせてゆく。
  おいしい?
見透かしたように、ゆったりとおりてくるママの声。
いっぱい、責めようと思ったのに。
もう、とても勝負にならないような気がしていた。

屍鬼となった少年 1 ~妹~

2006年04月06日(Thu) 05:57:46

た、助けてぇ・・・
怯えて逃げ惑うセーラー服姿をつかまえて。
両肩を後ろからがっちりと、羽交い締めにして。
飢えた唇を、うなじに忍ばせてゆく。
白く透けた妹の素肌からは、なまな体温がずきずきするほど伝わってきた。
ごめん・・・
そう、念じながら。
かりり・・・
びろうどのようにしなやかな皮膚に、生え初めた牙を咬み入れていた。
ほとび出てくる暖かい血液を、ものもいわずにむさぼっていた。

ぐったりとなった妹が抵抗をやめると、
ようやくすこし、ゆとりが生まれた。
あったかい血を持っていやがる・・・
血を分けた女のせいだろうか。
口許に漂う微薫はひどく馴染み深く、少年の喉にしっくりと沁みいってきた。

もう、逃げる体力は残されていなかった。
さおりはくらくらとする眩暈に喘ぎながら、
制止することもできないままに兄に咬まれ続けていた。
しっかりと抱きすくめてくる両腕のなか、せいせいと息を弾ませながら。
お兄ちゃん、許して。もうカンベン・・・
いく度、そう呟いたかわからない。
けれども兄の発作は渇きがおさまるまで、とどまることはなさそうだった。
このまま兄の欲望に屈してしまえば、動けないのをいいことにすべての血を吸い尽くされてしまうのだろうか?
そんなことを思いながら、不思議と恐怖は去っている。

悪いな。
いいのよ・・・
兄さんがまっ白なハイソックスのうえからふくらはぎに唇を吸いつけてくと、
吸いやすいように脚をくねらせて、向きをかえてやっている。
さおりのハイソックス、前から気になっていたんだよ。
知ってるよ。よく、イタズラしてたでしょう?
ひとしきり落ち着くと、兄妹のやり取りにもどっている。
襲うもの、血を吸われるものの関係でありながら・・・
うぅ。イイ感じだ・・・
えっち。
初めて、ふたりのあいだに笑いが洩れた。

道端の草むらから、ちぃちぃと虫の鳴き声がする。
あたりはすっかり暗くなって、白い制服に撥ねた赤黒い飛沫を隠してくれていた。
このままなら、誰とも顔をあわせずに戻れそう。
ママも今夜は遅いから、帰ってくるまえに制服を着替えてしまおう。
着替えた制服は、みどりちゃんのうちのクリーニング屋に黙ってだしてしまおう。
素足に革靴。
お気に入りだったハイソックスは兄の手で抜き取られ、兄のポケットにむぞうさにねじ込まれていた。
学校帰りに、たまに寄ってくれよ。
毎日は、無理だよね・・・
それでも公園通いは続きそうだった。

春の夜道

2006年04月05日(Wed) 03:27:12

凍りつくような冷気がゆるんで、
夜風はいつか、なまめくような暖かさを帯びはじめている。
ひたひた。ひたひた。
足音を忍ばせて、歩みを進める道。
こんな夜にはまるでお守りのように、必ず身に着けている黒のストッキング。
吸いつくようにぴったりと密着している薄手のナイロンは、あたりのぬるんだ外気から素肌をここちよくガードしている。
姿も心も隠してしまいたい女の気分そのままに。
黒一色の装いは翳りゆく闇に吸い込まれて、足音さえも夜のしじまに沈もうとしている。

ぴたり。
足音がとまる。
そよぎかけた夜風が、女の黒い姿を包み込む。
流れる涙は、心地よいぬくもりを含んでいた。
もはや、人目をはばかることはない。
声だけは忍ばせて。
女は懐かしさに包まれて涙しつづける。

ひそやかな風のそよぎに隠されているのは、
あの男の手。
黒の靴下の脚に執着したその手はいくたび彼女の礼装を玩び、辱めてきたことか。
その彼は、もういない。
けれども。
わかっているのよ、あなた。そこにいるんでしょう?
女は嬉しそうに、心のなかの呟きをくり返す。
そうでしょう?いるんでしょう?
わかっているのよ・・・相変わらず、スカートのなかにおイタをして。
その証拠に、今夜もススッ・・・と、
ブラウスごしに胸をかすめて。
ストッキングの太ももを撫で上げて。
あぁ・・・いいのよ、遠慮しないで。
あのときみたいに、ブラウスをはぎ取って。
ストッキングがくしゃくしゃになるまで、濡れたべろでいたぶって。
ここはあなたのくることのできない都会だけれど。
いまなら、誰も見ていないから。
あなた、一人だけ風なんかに化けちゃって。
いつもほんとうに、ずるいんだから・・・