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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

貌(かお)怜悧にして、胸熱く・・・

2006年05月31日(Wed) 07:41:07

コツ、コツ、コツ、コツ・・・
ひた、ひた、ひた、ひた・・・
夜道に響く、ハイヒールの音。
寄り添うように。隠れるように。
忍び足。
まりあはとっくに、気づいている。
月夜の晩。
勤めが遅くなると決まって帰り道におおいかぶさってくる、黒い影。
カッ、カッ、カッ、カッ、
テンポを速める、硬い足音。
ス、スーーーーーっ・・・
もはや音とすら聞き分けることができないほどの、えもいわれぬ気配。
迷路のようなジグザグの小路を分け入るように。
もう、どこ走っているんだか、まりあにもよくわからない。
追い詰められた袋小路。
電信柱を背に立ちすくむスーツ姿に、
忍び足の主は、
ふふ・・・っ
軽い含み笑いに、怜悧な翳を滲ませる。

「や、やめて・・・」
拒絶のことばに、どれほどの意味があるのだろう。
男はもとより、耳を貸すはずもない。
リーチの長い腕をすうっと伸ばして。
まりあの両肩を、しっかりと捕まえる。
ギュッと痛いほどにこめられた力に、もはや抗いようもなく。
濡れた唇がじりじりと、忍び寄ってくる。
男の面貌はあくまでも蒼白く、無表情。
無慈悲なほどに確実に、獲物を引き寄せ捕食に入ろうとする。

あっ、やだ・・・
まりあは、食べものじゃない・・・っ。
心のなかでいくら叫んでも。
声を消されてしまったかのように、
猿臂の束縛のなか、ただひたすらにもがくだけ。
かりり・・・
男の牙が容赦なく、うなじの皮膚を食い破る。

きゅうっ・・・きゅうっ・・・くいっ。
濡れた飛沫がブラウスを浸すのを感じながら。
体内の血液をごく機械的に抜き取る強烈な引力が、
脈動を弱めるほどにぐいぐいと迫られて。
切ないほどに迫る欲求と。ほとび出る血潮と。
呼吸をひとつにした、せめぎ合い。
やがてまりあは、男の唇が、声もない歓びに満たされてゆくのを覚えていた。
くちゅうっ。
牙を引き抜くとき。
傷口を擦る柔らかい唇が、ことさらになすりつけられる。
それがこの男の接吻なのだろう。
まりあを身動きひとつ許さない猿臂に込められた、
すがりつくような熱情。

男はいったん身を離すと。
面白そうに、にやにやと。
相変わらずすべてを沈黙に秘めたまま。
じいいっと、まりあのことを観察している。
ひくひくと痙攣するように、嫌悪に震える頬。
本能的な恐怖と、えもいわれぬ期待を宿した、輝く瞳。
にやりと冷たい笑みが、男の頬をよぎる。
手にしているのは、糸のように細い、強靭なロープ。
なにをされるのかをさとりながらも、
まりあは電信柱に寄りかかったまま逃れようともしなかった。

ぐるぐる巻きにされたロープが、
ブラウスの上から、ぎゅぎゅぎゅっと、締めつけてくる。
息苦しいような束縛感。
ふたり、いっしょになって、まりあの身体を縛っている。
思わずそんな錯覚を覚えるほどに、
まりあは従順に、身をロープにゆだねている。
どす黒く甘美なものが、闇よりも濃くまりあを包み込んでいた。

目のまえの見通しが、とつぜん開けた。
男が足許にかがみ込んだのだ。
なにをされるのか。
先刻承知のうえだった。
オフィスを出るときに。
万一あの男と出会っても恥をかかないように。
真新しいストッキングに脚を通していた。
くちゅっ。
さっきまでまりあの肌を執拗に苛んだ唇が、
こんどは愉悦を込めて、なすりつけられてきた。
まりあの装いを辱める。
恥ずかしい行為が、辱めを受ける側をさえ、昂ぶりにもえたたせる。

ああっ、イヤ・・・ッ
足許を這うナメクジのようなぬるぬるとした感覚に、女はもだえた。
いくらなんでも、イヤラシすぎる・・・っ。
人の耳に届かないほどに。
まりあはいつか、口に出して男に訴えた。
いやらしいっ。
恥ずかしいっ。
影はそのたび、嘲るように。
いっそう濃やかな接吻を重ねてきて。
足許を艶やかに彩る礼装に、いっそうたちの悪い凌辱を加えてゆく。

男の口許には、まだ赤いものがしたたっている。
ついさっきまで、まりあのしなやかな身体をうるおしていたもの・・・
似合うわ・・・
まりあは恍惚として、男の口を濡らす黒い輝きに見入ってしまっている。
男の唇が、まりあの唇をとらえた。
終始、無言。
照れ屋なのね。あなた・・・
初めて、まりあはくすっと笑んだ。
もっと、して。
辱めて・・・
スカートの奥、もうこんなに熱く潤んでいるのよ・・・
声にならないまりあの想いを見透かすように。
すべり込んできた手の甲が。指先が。尖った爪が。
ショーツをなぞるようにして、熟した果実を責めはじめてゆく。

二代続けて・・・

2006年05月28日(Sun) 13:04:06

美沙子さんを、紹介するのか?
父さんは真顔でそう訊いて。
ウン。綺麗に犯してくれる・・・ってさ。
ボクが無表情にそう応えると。
あれは、いいものだぞ。
いつも生真面目な父さんが、いつもの重々しい口調でそういうと。
なんだかとても、ヘンな気分だが。
子供のころに見た、夜の風景。
父さんは書斎にこもり、おじさんは母さんに迫っていって、
母さんはボクの目線をきまり悪そうに避けながら、
めくれたスカートから、太ももをにょっきりとのぞかせて、
戸惑いながら、組み敷かれていく。
なんども目にした光景に。
親の決めた婚約者に逢ってもらう。
それは、とても自然なことに思われた。
美沙子さん、処女だといいね。
父さんの呟きに。
ウン、せっかくあげるんだから。やっぱりそのほうが、嬉しいな。
ごくしぜんに、そんなふうに応えてしまっている。


あとがき
母と付き合ったことのある男性に、婚約者の処女を捧げる。
とても非現実的なプロットで描いてみました。

泊まっていきなさい

2006年05月28日(Sun) 12:58:16

ミチオおじさんは、父さんとも母さんとも大の仲良し。
だから、夜遅くにも、遊びに来る。
3人で、お酒を飲んで。
笑い愉しんでいる様子は、子供のボクも夜更かししてしまうくらい居心地が良かった。
そのうち父さんは徹夜でお仕事だと言って、おじさんにはよければ泊まっていきなさいとすすめて、
一人書斎にこもってしまう。
取り残された母さんは、子供はもう寝なきゃダメよ、と、とたんにボクを子供扱いする。
さいしょはしぶしぶだったけど。
そのうち、素直に子供部屋に引き上げるようになった。
愉しいお芝居を、早くみたくてしょうがなかったから。

ああ・・・っ。う・・・ん・・・うんっ・・・
階下が暗くなったのを見定めて、足音をひそめて階段を降りてゆく。
さっきまでにぎやかだった客間は、薄暗いライトに照らされて。
べつの部屋みたいに静まり返っている。
押し殺すような声遣いは、それよりもさらに奥。
ふだんは夫婦の寝室になっている部屋。
おじさんが泊まるときはいつも、父さんが徹夜仕事で、
代わりに母さんと寝るのだと。
なんの疑いもなく教え込まれていたけれど。
スッと開いたふすまのむこう、
おじさんとの約束どおり。
枕もとの蛍光灯は、まだ点いたままだった。

こらっ。見ないの・・・!
母さんはそういいたかったらしいけど。
はだけたエプロン姿のままおじさんに抱きすくめられて、
身動きひとつ、できないでいて。
いっしょに動く腰から下を、息子のボクの目線にさらし続けてしまっている。
もう・・・っ。
口を尖らせながら、おじさんを。ボクを責めながら。
後ろから馬乗りになってくるおじさんを、どうすることもできなくて。
ぬらぬら濁った粘り気のある液体を、ぼたぼた布団にしたたらせていった。

子供が見るもんじゃないぞ。
書斎にいた父さんは、なぜかにやにやと冷やかすみたいにボクを見て、
そんなふうに、たしなめた。
―――ボクのお嫁さんも、あんなふうになるのかな。
つい口走ったひと言に、虚を突かれたように真顔になって。
―――そうだね。たぶん・・・適当な相手がいなかったら、おじさんに頼むといいよ。
男ふたり、照れ笑いを交し合っている。


あとがき
子供のころから、母親と他の男性との情事を見慣れていて。
それを、父親がたしなめるどころか、むしろ理解を示して。
好きなもの同士、してもかまわないのだよ。
そんなふうに教え込まれていたら。
案外初夜権というものも、当然のならわしとして育ってゆくものでしょうか。
歪んだ閉鎖社会の風景です。^^

孤独な狼

2006年05月28日(Sun) 12:47:39

女房を寝取られて、奪われて。
もはや、守らなければならないものは、どこにもいない。
そんな境遇に落ちたオレは、背中に黒い翼が生えるのを覚えていた。
いままでの気難しく潔癖に縮こまったオレの代わりに。
―――あんたの奥さん、抱かせて欲しい。
長年付き合ってきた会社の同僚たちに、面と向かってそんなことを申し込むオレがいた。

快く応じてくれるやつがかなりいたのには、驚いた。
―――ああ、いいよ。あしたは夜勤だから。妻に話しとく。遊びにおいで。
飯でも食いに来い。
そんな感じであっけらかんと言われてしまうと。
アブノーマルに堕ちたはずのオレのほうが、かえって呆気に取られてしまうのだが。
狙った獲物を訪ねるために、いざ夜道を歩いているときなどは。
同僚には悪いが、脚が三本になっているような気分だった。

抱きすくめる女たちは、上は50代から下は20代まで。
若妻を抱くときは、結婚した頃の初々しかった女房を。
姥桜をモノにするときは、他人に盗られて身をよじる女房を。
心のどこかで、追いつづけていた。
新婚三ヵ月の後輩が。
夜の営みに、興を添えたくて・・・
照れながら、オレのところにいいにきたときは、さすがに引いた。
  ウソぉ。ウソぉ。ケンちゃん、感じちゃってるの?
そいつの奥さんはオレの腕のなか、
ちょっと戸惑いながら、罪の意識に却って昂ぶりながら。
  やらしい・・・ケンちゃん、大嫌い!
口走る非難とは裏腹に、下腹の筋肉はヒクヒクと吸いつくように応えてきた。

夜勤の多い職場。
知らない男と浮気されるよりはね・・・
愛妻をオレにゆだねた同期の男は、そういって。
あられもなく乱れた奥さんの写真を、いとおしむようにしてポケットにねじ込んでいた。
相手に、不自由はしなかった。
まるで吸血鬼のように。
夜ごと、相手を変えて、同僚である夫たちが辿るはずの夜道を忍んでゆく。
妻たちの艶笑。夫たちの苦笑。
いずれ劣らず注がれる好意と同情を、感じずにはいられない。
いちばん寛大だった同僚は。
女房を寝取ったやつを、オレに紹介した男だった。
  じつはうちのやつも、姦られてたんだよ・・・
あとからそっと、教えてくれた。

チリリン・・・
休日と知って、かかってきたのか。
―――恥ずかしいお願いなんだけど。うちの家内に逢ってもらえませんか?
時折かかってくる申し出に、もの慣れてしまった応対を返しながら。
男の声に、聞き覚えがあった。
軽い謝罪を込めた口ぶりに、かつての敵意は湧いてこない。
男が口にしたのはまぎれもなく、
かつてオレの女房だった女の名前だった。

甘美な責めに

2006年05月28日(Sun) 11:11:37

かりり・・・かりり・・・
非の打ち所ひとつないプロポーションのあちこちに。
細く鋭い牙を、突き刺してゆく。
身じろぎをする上体を、しっかりと抑えつけて。
はげしくかぶりを振るパートナーを抱きすくめたまま、
疼くような痛みを滲ませてゆく。

くちゅう・・・っ。
洩れてくる血潮を、牙に絡ませ、舌で転がしながら。
玩ばれる・・・
甘美な苦痛に喘ぐ横顔を、
くすぐったく盗み見る。
悩ましい翳を帯びた、整った目鼻立ち。
奴隷に堕ちた淑女。
気品漂うスーツのすそをたくし上げ、
ストッキングのうえから太ももを唇で嬲ると、
ひどく迷惑そうに、濡れた睫毛を震わせた。

かりり・・・かりり・・・
わが身を苛まれているはずなのに。
すがりつくように接してゆくこの身を、
女はいつか、母親のようにかき抱いてくれている。
ひと咬み、ひと吸いごとに込められた、
毒々しいほど渦巻く情愛を、
貴女は感じ取ってくれたというのだろうか・・・

すごく嬉しかったこと。

2006年05月27日(Sat) 06:08:19

ちょくちょく出入していた悪鬼さまのサイト、「SM川柳」。
ご自身が忙しくなってしばらくとだえていたのですが。
パートナーの心愛さまのご尽力で、見事復活です。(^^)/
http://akkikokoa.blog22.fc2.com/
SMと川柳という意想外のドッキング。
ユニークなだけではなくて、まじに面白いです。
投稿すると、管理人さんの丁寧かつウィットに富んだレスがつきます。
そのためかレベルの高い力作が吸い寄せられるように、あとからあとから・・・^^
ピンチヒッターの心愛さまも、今ご多忙な悪鬼さまの手法にならって大奮闘。
素敵な返歌までちゃんと返されていらっしゃいます。
さぁ、怠けている場合じゃないぞ。(^^)/
あれ?
「詩歌」のカテゴリ。
空っぽ・・・・・・。(-_-;)

婚約者萌え

2006年05月27日(Sat) 06:00:07

処女の血を吸い取られた婚約者が吸血鬼と逢瀬を重ねるようになり、
結婚前夜には純潔まで散らされる・・・
どういうわけか、そんなお話に萌えてしまいます。
多くは、許婚自らが協力したり黙認したりしています。
血を吸われるほうはともかくとして、
みすみす婚約者の純潔を進呈したいなどという男性は、
普通いないですよねぇ。^^;
ですからこのプロットは極めて実現性のないお話ですね。
男性がすでに洗脳されているか、
古来からある歪んだしきたりに従っているか、
だいたいどちらかのパターンを採っているのはそのせいです。
血を吸われる側の男性にとって。
処女の生き血~彼らがもっとも獲たいと願っているもの~を与えるには、
姉妹とか、自分の婚約者とかを与えるのがいちばん適切?な振る舞いなのでしょうか。
「同じ血」を持っている妹を・・・というのもひとつの萌えなのですが。
未来の伴侶を捧げる・・・というほうがよりスリリングなような気がします。
夜な夜な召されて、血を与えるために着飾って出かけてゆく婚約者。
飢えた唇に肌を許し、血とともに意思や魂をさえ吸い取られてゆく。
傍らでやきもきと嫉妬しながら、最愛の女性の妖しい受難に目線を離せなくなってゆく婚約者。
すごく、歪んでいますね。我ながら・・・^^;

さいごの接吻

2006年05月26日(Fri) 07:46:59

いつものことなのだが。
女房の血を吸いおえると、
ヤツは、しずかになった肩をいとおしげに抱いて。
深い接吻を重ねるのだ。

夫婦ながら、ヤツに血を与えるようになってからは。
まず、オレの身体からくらくらするほど血を抜いて、
それから女房に迫ってゆくのがきまりだが。
血を吸い取っている最中ですら。
女房の意思とか、心の奥とか、魂までも掌のうちにされてゆくようで、
失血にぼうっとなりながらもハラハラしながら見守っているのだが。
この、さいごの接吻ほど、ハラハラさせられるものはない。
重なり合うふたつの影が、溶け合うほどに寄り添って。
しんそこ恍惚ともつれ合うように映るのだ。
大丈夫よ。
女房はそう、断言するのだが・・・

オレの気分を見透かしたように。
やつはこちらを振り返って、
すまんな。
ひと言そう、呟いた。
モノだと割り切れば。食事だと思ってしまえば。
あんたをここまでハラハラさせずにすむのかな。
人の血を吸っていると。
どうにも相手のことを好きになってしまうのだよ。
もちろん、あんたのこともね・・・
だから、奥さんの血を身体いっぱいに獲ているときは。
あんたに悪いと知りながら。
つい、奥さんに恋してしまう己を、どうすることもできなくなってしまうのだよ・・・

お気に召すままに。

2006年05月24日(Wed) 07:58:15

永いつきあいの親戚なの。
実家のならわしなの。
最愛の妻、まりあにそうせがまれて。
オレはその男と初めて、逢ってみた。
どちらかというと、控えめで、物静かで。
紳士だった。
思っていたような、いけ好かない感じのヤツではないことに、
オレはひとまず、ホッとした。
本当に、まりあの言うように。
血なし病、という難病の治療に必要な行為なのかと思った。
オレは、口ごもりながら、切り出した。
「まりあの血が、お入用なんですね?」
声が震えていたのは、まがまがしい光景を想像してしまったから。
半分は嫌悪。でも残り半分は・・・
知らず知らずだったけれど。
いわくいいがたいねっとりとした熱情に、じょじょに蝕まれていったのだ。

ヤツはまりあと向き合っている。
いつになくしんけんな、まりあの横顔。
それはそうだろう。
これから咬まれて、血を吸われるんだから。
まごまごしていると、はんぱな怪我じゃすまないかも知れない。
だから、オレはしじゅう、ハラハラのし通しだった。

ヤツがまりあの肩を抱く。
ま。しょうがないか。目をつぶってやろう。(-_-;)
ヤツはまりあを引き寄せる。
う。・・・ん。ここはまぁ、親戚づきあいだ。ぐっとこらえよう。^^;
ヤツがまりあの首すじに・・・
アッ、危ないッ!(><)

ちゅう・・・・・・っ

オレまで気が遠くなるほどの、ナマナマしい吸血の音。
おいおい、いくら親戚だからって。
人の女房なんだぞ?すこしは遠慮しろよな・・・
あんなに身をすりつけて。
まるで、オレにあてつけているみたいだぞ。
まりあのやつまで、あんなに身をそらしちゃって。
痛いのか?苦しいの?それとも・・・?
オレはまりあの顔をのぞき込んで。
アッと声をあげそうになった。
いつも見る、あの無心な表情。
そういう顔をするときは。
きまって、閨のなかだった。
ああ・・・やっぱり・・・
ブラウスのうえから食い込んだ、長い爪。
しつように吸いつけられている唇。
それらのすべてが、ヤツの意図と。
まりあとの距離と。
はっきりと、ものがたっていた。

あなた・・・あなた・・・
まりあが、呼んでいる。
ねぇ、あなた・・・
甘ったるい声に、オレは逆らうことができない。
ストッキング、破らせてあげてもいいよね?
え?
ストッキングを破るって?
それがなにを意味するのか、そのときのオレにはじゅうぶんにわかっていたわけではなかったのだが。
つい肯いてしまったのは。
その背後にある意味の淫靡さに、薄々感づいていたから・・・
しいてオレが威厳を保つことができるのは、
ヤツとの関係を寛大に許すこと・・・
そのときにはもう、そんな想いしか、頭になくなっていた。
そんなオレの想いを知ってか知らずか。
ヤツはオレのほうを振り返り。
感謝している。きみにも奥さんにも。
囁きに秘められた魔性のものに。
オレは身動きもできないくらいに痺れてしまって。
つい、肯いてしまっていた。
どうぞ、お気に召すままに・・・

きゃっ。ああ・・・うぅん・・・っ
いつものまりあの悩ましい声。
夜中に、それも、オレとの閨いがいでは秘められていたはずの声。
それがいま。
目のまえで。
吸血鬼とはいえ、ほかの男とのあいだで交わされている。
ああ・・・
この、胸の奥にじんじんと疼くものは、なんだろう?
そういえば。
閨のことも、しばらく遠ざかっていたっけ。
ひたひたと浸してくるような、メゾアルトに。
オレはしんそこ、まりあの肌が恋しくなった。
めいっぱい、愛されるがいい。
そのあとは、オレと・・・
いつも以上に乱れるつもりなんだね・・・?


あとがき
最愛の奥さんを吸血鬼に食べられてしまうご主人のお話です。^^
吸血鬼が生命まで奪らない、という保証と。
それにもまして、妻まりあとの変わらぬ絆があるからこそ、可能な関係です。

夜道の妹

2006年05月24日(Wed) 07:22:11

夜道を歩く、黒ストッキングの脚。
魅せられてあとを尾けたコウイチは。
足音に気づいて早足になった少女を追って、駆け出していた。
壁際においつめた、セーラー服姿は、意外なことを問いかけてきた。
「お兄ちゃん?お兄ちゃんよね?」
えっ?
意外にも。
血を求めて迫った獲物は、妹のめぐみだった。
・・・上背のあるせいか、もっと年かさの子だとばかり思っていた。
「わかる?めぐみよ?」
必死の問いかけを無視して、それでも彼は少女に迫っていった。
妹だからといって。
いまの切迫した飢えや渇きを、どうすることもできないのだ。
心を鬼にして。がっちりと両肩をつかまえると。
少女は諦めたように、目を瞑ってゆく。
「すまない」
思わず口にした呟きに。
めぐみはなぜか、ほっとしたように顔を和ませる。
「わたしだって、わかってくれればいいの」
わたしをわたしだと判別できない獣のような状態で、襲ってもらいたくなかっただけ。
そう、めぐみは囁いて。
「いいよ。お兄ちゃん。血が欲しいんでしょ?」
自分のほうから、おとがいを仰のけてきたのだった。

すべすべとした皮膚だった。
柔らかい肉だった。
そして、美味しい血だった。
処女だ。
すぐにわかった。
若い女の子の血は、やっぱりいいなあ・・・
肉親の情を越えて。
いつか少年はちゅうちゅうと、少女の血潮に酔い痴れていた。
「お兄ちゃん。めぐみの血、美味しい?」
ああ・・・とても旨いよ・・・
そういいながら。
いつまでも、いつまでも、抱きしめていた。

気がつくと。
ぐったりと力を失った体が、腕のなかにあった。
「めぐみ?めぐみ?」
さっきまでピンク色にほてっていた肌が蒼白く、なによりもぞっとするほど体が冷たい。
はっとした。
幸いにも。
腕のなかの体は、身じろぎをした。
恐怖に閉ざされていた瞼が、薄っすらと開いた。
「お兄ちゃん、逃げなよ。わたしを置いて。ここにいたら、パパやママにばれちゃうよ。お兄ちゃんの仕業だって」
けなげな言葉が、却って兄をふるいたたせた。
できるものか。こんな夜道に置き去りにするなんて。
気合いをこめて一躍すると、ふたりの影は、屋根の上にいた。
寝静まった家。
ベランダを隔てて、めぐみの部屋があった。
隣の部屋は、自分がいなくなってから、誰も手をつけていない様子だった。
すうっ、と。ガラス窓を通り抜けていた。

ベッドに寝かせてやると。
めぐみは手を振って、
「いいよ、もう。本当にもういいから。早く出て行って。見つかるといけないから・・・」
激しくかぶりを振りながら、妹の体をなでさすり、ひたすら介抱していた。
ふたたび傷口に唇をあてて、いちど吸い取った血を戻してやりさえした。
「お兄ちゃん、優しいね。ソンするよ・・・」
淡い笑みを、憐れむように滲ませて。
黒いストッキング、好きなんでしょ?
知っているのよ。
めぐみのを、こっそりイタズラしてたでしょう?
いいのよ、べつに。
めぐみの脚、きれいに見えた?
血を戻してくれたお礼に、ちょっとならイタズラしてもいいんだよ。
あさましい・・・そう思いながら。
差し伸べられた脚に、気がついたらべろを這わせていた。
ふふ・・・ふふふ・・・
ベッドのうえから、くすぐったそうな、軽い含み笑いが洩れてきた。

次の晩。
めぐみの帰りは早かったらしい。
勉強部屋にはもう、灯りがついている。
窓ガラスのきわに忍び寄って。
なかの様子を確かめるゆとりもなく、姿を部屋のなかへと滲ませていった。
びっくりした。
そこにはめぐみではなく。
母の由香里が、改まったスーツ姿で正座していたのだ。
あわてて逃げ出そうとすると。
「お待ちなさい」
たしなめるような母親の声に、かれの動きはとまっていた。
ベランダに、あの子の靴が落ちていましたよ。
イタズラをみつけたときのように。
ママはふふっ・・・と笑っていた。
  めぐみは体の具合が悪いのです。
  夕べは吸いすぎた血をもどしてくれたみたいだけど。
  やっぱりあなた、吸い過ぎよ。
頭を垂れるコウイチに。
  しょうがないわね・・・
ため息混じりに、そう呟いて。
  お父さんには、おことわりしてありますから。
え?
改まった口調に、訝しげに顔をあげていた。

めぐみほど美味しくはないでしょうけど。
ママはそういって、きちんと正座していた脚を崩してゆく。
こげ茶のタイトスカートの下から覗いたのは、チョコレート色のストッキング。
そういえば昔、黙って借りて。
おかずにしちゃったことがあったっけ。
恥ずかしい記憶に照れ笑いをしながら。
コウイチはもう臆面もなく、ストッキングを履いたママの脚にかじりついていった。


あとがき
なんてことはない、ハッピーエンドなお話です。
こういういじらしい女の子とか、優しいお母様とか、たまに描いてみたくなるんです。^^

理性の薄い壁

2006年05月22日(Mon) 07:35:43

ホホ・・・ホホホ・・・
喪服姿の妻は笑いこけながら、
スカートの下を、吸血鬼にゆだねている。
足許に透きとおる、薄手の黒のストッキング。
薄墨色に染めあげられた白い脛は、
いっそうなまめかしく、ツヤツヤとした輝きを帯びていた。
素肌にぴったりと密着した濃淡織り交ぜたナイロンの薄衣は、
いまだ若さを帯びた脚線美の輪郭を、いっそうきわだたせている。

そんな清楚な装いに。
脂ぎった唇をねばりつけられて。
這わされたべろに、よだれをたっぷりなすりつけられて。
濡らされてゆくナイロンは、ひと舐めごとに、くしゃくしゃにされて。
じょじょにほぐれるように波打って。
やがて、凌辱に耐えかねたように、
吸いつけられた唇の下、ぴちっと裂け目を走らせる。

侮辱する唇と。
笑み返す口許と。
交わし合わされる劣情の下、清楚な装いだけが妻の名誉を誇示しようとしている。
なまの唇から素肌をガードするように。
淫靡な情夫と。
さらに淫靡な持ち主のあいだに挟まれて、
なよなよと頼りない薄衣は、あまりにも弱かった。

もろくも裂けて。
ちりちりに裂けて。
蜘蛛の巣みたいになったのを面白そうに見つめる、淫らな娼婦。
迎え入れた交接に、ひざの下までずり落ちて、
破れ落ちふしだらな弛みをみせて。
剥ぎ堕とされた装いは、持ち主にふさわしく妖しい乱れを見せつけてくる。

純心

2006年05月22日(Mon) 07:10:31

もう幾晩、女たちを襲っただろうか。
夜更けに着飾って外を歩いている女たちは、心得のあるものばかりだった。
後ろから忍び寄り、肩を抱きすくめると。
きゃっ!とか、ああ・・・っ!とか、声をあげて。
もちろんひと通りは抗いもするのだけれど。
あとは皆、いちように押し黙って。
素直にうなじをゆだねてくるのだった。
柔らかな皮膚からもたらされる血液はひどく甘酸っぱく、
からからに干からびた血管を、心地よく潤おしてゆく。
盛り場で出会った親友のひとりなどは、
―――お前、屍鬼になっちゃったんだな。かわいそうに。
アルコール混じりの血を差し出そうとはしないで
―――何時ころ、ここにいるんだ?女房を散歩させてやろうか
約束どおりの刻限に彼の女房が着飾ってやってきたときには、本当にびっくりした。
雑木林に連れ込んで、たくし上げたスカートの下。
己の妻がそうされたように、ストッキングのうえから唇をねばりつけ、
舌を這わせてくしゃくしゃにしてゆく。
女は、こうしたあしらいに馴れているらしく。
軽くハミングしながら、吸いやすいように脚の向きを変えてくれた。
こうやって幾晩も、夫いがいのものに血を与えつづけてきたのだろうか。
それでも、親友に対する軽侮などは露ほども覚えなかった。
ただ女と、女を差し向けてくれたものへの深い感謝を、本能が切々と訴えていた。
やつもこうして、私の最愛の妻を抱いたのか・・・
足はひとりでに、家のほうへと向いていた。

真っ暗がりだった。
妻の窓辺にたたずむと。
ガラス戸越しにセイセイと、はずむ息遣いが聞えてくる。
嫉妬の情がふたたび焔をあげたけれど、
もはや灼けつくような鋭さは帯びていない。
心地よく妬ける・・・
そんなことがあるのだろうか?
隣の部屋は、薄い灯りが洩れている。
灯りの下には、ベッドに倒れ臥す華奢な身体があるのだろうか?
父親に戻って案じながら、思わず窓に手を触れると。
ぎい・・・
錆びた金具が耳ざわりにきしんで、大きく開け放たれていた。
部屋の中のひとと、まともに目線を合わせていた。
「お父さま」
暗闇のなか、どうやって見透すことができるのか。
娘の声は、歓びにはずんでいた。

―――どうしてあの晩、そのまま忍んでくださらなかったの?
褥の上。
娘はもはや、わが腕のなかにいた。
今宵はまだ、侵されていないようだった。
かわりに今、生硬なうなじに牙を埋めてしまっている。
父親でありながら・・・
そんな想いを、少女の大胆な行動が消してくれた。
―――お待ちしていたの。早く沙織を襲って・・・
娘は、セーラー服のリボンをほどき、部屋の隅へと投げ捨てて、
校章の縫い取りのある胸当てをさえ取り去って、
自分のほうから、身を投げかけてきたのだった。
首筋の薄い皮膚を、痛くないようにちくりと刺して。
にじみ出てくる血潮は、信じられないことにまだ純潔の香りを鮮烈にたたえていた。

そのまま褥に身を沈め、
初めてつけた傷口を、吸い、また吸っていた。
愛するように。いとおしむように。
その身からしたたるものを、一滴たりとも洩らさぬほどに。
掬い上げ、啜り上げ、なおもいとしげに背中をなでさすり。
一生かけて、護りつづけてきた少女を、
やはり護り抜くように、抱きしめる腕に力をこめる。
夏服の下、柔肌の気配をありありと覚えながら。
ひとりの男として、少女を抱きしめ、愛でていた。
―――お父さま。
濡れるような声色に、青年のようにどきどきしながら。
初めての口づけをさえ、交わしてしまっている。
ためらいなく応じた娘は。
―――初めてだったんです・・・
そのときばかりは、とても羞ずかしそうに。
甘い抱擁のなか、ちょっと肩をすくめてみせた。

  あのかたが初めてお見えになったのは。
  お父さまがいなくなったつぎの晩のことでした。
  年の順にね・・・
  母さんが、お手本になりますからね。
  あなたも、お作法を心得てくださいね。
  お母さまはそうおっしゃって、
  ご自分から、牙にかかってゆきました。  
  血を吸い取る音が、怖ろしくて。
  逃げることもできないで、立ちすくんでいると、
  お母さまはお酒に酔ったみたいに頭を揺らして、うっとりとしてしまって。
  つぎはあなたの番よ、
  っていうふうに、わたくしのほうをご覧になるんです。
  口許にお母さまの血のついたまま、あのかたに迫られて・・・
  とても、怖ろしかった。
  痛みよりも。
  お父さまとお母さまからいただいた血を、穢されているような気がして。
  ほんとうに、飲み物を飲むように。
  がぶがぶと音をたてて、召し上がってゆかれましたの。
  くらりとした眩暈が、幾重も折り重なってくるようでした。
  今はすっかり、慣れましたけど・・・

  許せなかったのは。
  お母さまが、もののひと月とたたないうちに、
  あのかたに、操を許してしまっこと。
  あれほど、お父さまに愛されたのに。
  いともやすやすと、喪服を脱いで。
  おおいかぶさってくる汚らわしい欲情に、身をゆだねられてしまったのですわ。
  わたくし、それが許せなくて。
  あのかたに、お願いしたんです。
  女としての務めまで、わたくしに求めないで。
  母か、わたくしか。
  一人を択んでください。
  できればわたくしだけでも、いま少し。
  清い身体でいたいのです。
  あのかたは、なにもかもわかっておいでのようでしたわ。
  沙織ちゃんの思うようにするがいいよ。
  ひと言、そうおっしゃって。
  お父さんが来るのを、待っているのだね?
  ウフフ。
  察しのよい方だわって。
  やっと、お母さまとの関係を許せる気持ちになったのですわ。
  女のカンだけど。
  あのかた、ずっとお母さまのことがお好きだったのね。
  お父さまももしかして、お気づきになっていらして?

  こんなふうに、夜通し声がして眠れなくても、
  許せる気持ちになりました。
  あのかたはそれ以来うちへいらしても。
  ほとんどお母さまとばかり、お逢いになるようになりましたもの。
  たまに、ほんとうに喉が渇いていらっしゃるときだけは、お相手しているけれど、
  妬きもち、やかないでくださいね。
  あら、もっと吸ってくださいな。
  沙織はまだまだ、しっかりしててよ。
  ああ・・・
  夢だったんです。お父さまにこうして吸われるの。
  できれば、さいしょのひと口も・・・
  お父さまに差し上げたかった。

  ダイヤ柄の靴下、まだ履いていてくださっているのね?
  嬉しいわ。
  わたくしが今脚に通しているものも、お父さまとおそろいなのよ。
  今夜あたり、なんだか胸騒ぎがして。
  お父さまが来てくれるような気がして。
  わざと制服を着たまま、お待ちしていたんです。
  こんどはいつも学校に履いていく、黒のストッキングにしようかしら。
  お母さまのストッキングは、娼婦みたいに毒々しくなってしまいましたけど。
  沙織はまだ、清楚そのものでしょう?
  幾晩か、通ってきて。
  処女のままの沙織を抱いてくださいね。
  でもそのあとは・・・
  あのかたも、お察しのようですから。
  わたくしが心から純潔をお捧げしたいお相手は、
  ほかならぬお父さまだということを・・・


あとがき
前作のつづきです。
親友に血を吸われ、それでも妻子を託してしまう夫。
父親が蘇えることを予期して、純潔を守りつづける娘。
純粋ですね。
すこしは、歪んでいるかもしれないですが・・・

奪られた家庭

2006年05月22日(Mon) 06:27:45

ベッドのうえ、折川は薄っすらと目を開いた。
両肩に、誰かの体重を感じる。
相手は誰なのか、よく知っている。
もう慣れきった感覚に、彼はもういちど目を瞑った。
首のつけ根のあたりに走る、ちくりと刺すような感覚。
つうっ・・・。
皮膚の内側に脈打つものが少しずつ、
痛いほど貼りつけられたヒルのような唇の向こう側へと移されてゆく。
軽い眩暈。ほどよい酩酊。
頭をくらりと揺らすと、からだの上におおいかぶさっていた影は、あわてたように身を起こす。
「気づいていたのか?」
「ああ・・・あんただと思ってね」
「いつも、すまないね」
「いや・・・」
邪魔したくなかったのだよ・・・
中断した吸血に淡い失望さえ覚えながら。
間近にあおぐのは、同年代の男。
キョウイチという名の彼とは、幼いころから親しかった。

38歳。いまだ独身。
気のいい彼はいいことなしの人生も笑って過ごしてきたのだが。
夜更け訪れる屍鬼は、そんな彼さえも容赦をしなかった。
妻や娘と連れ立って葬儀に参列したのが、ついふた月まえ。
墓場から起き上がって、泥だらけになって我が家に転がり込んできたのが、先月のこと。
気の毒に。
そんな顔色と声色に、言いたいことも言い出しかねて。
挨拶もそこそこに誰も待っていない自分の家に戻ろうとしたのを。
女房や娘を会わせるわけにはいかないが。
そんなふうに、呼び止めて。
内心火がつくほどに欲しがっているはずのものを、
こちらのほうから、差し出してやった。
それからは、週に幾夜となく忍び込んできて。
義理堅いことに、彼のほうから妻子に手を出すということはついぞなかった。
その分貪婪な吸血を、わが身ひとつに引き受けて。
いま横たわるベッドは、そのまま死の床になるのを予感した。
「娘の成長を、見届けたかったな」
「気の毒したね」
「いや、いいんだ」
折川は一瞬口ごもって。すこしためらって。
それでも思ったとおりを口にしていた。
「どのみち誰もが、避けられないんだね」
「ああ、そういうことだ」
「あとに残った女房と娘は・・・お前にまかせるよ」
信じられない・・・と気遣う瞳に、本能的な歓びが満ちるのを見て。
安堵と嫉妬とが入り混じる。
それでも、最愛のものを託するのに、彼以外には考えられなかった。
「家族が、増えるじゃないか」
つとめて明るく振る舞うと。
「そうだね。寂しくなくなるよ」
とりつくろった笑みのなかには、惜別の情が交じっていた。
キョウイチの態度にホッとしたように。
折川は扉の向こうに声をかける。
「お入り。大丈夫だから」

女がふたり、蒼ざめた顔をして。
さぐるような目をして侵入者を見つめる。
折川は親友に、布団の足許をめくるように言った。
ひざから下をぴっちり覆っているのは、女ものの薄い靴下だった。
「娘のやつだよ。存分にしてご覧」
震える唇が彼のひざ下に吸いつけられてゆくのを、
女たちは身を寄せ合い、手を取り合って見守りつづけていた。

けだるい重苦しさに目が覚めると。
重圧を覚えた。
土のなかにいる感覚だった。
両手に力を込めて、上にある木の板を思い切り押し上げると、
布団をとりのけるほどのあっけなさで、目のまえの真っ暗闇が取り除けられる。
すうっと入り込む冷気。広がる夜空が銀色の星をちりばめていた。
膝から下を覆っているのは、娘の靴下。
娘のお気に入りだったダイヤ柄のすき間から、青白い脛が月明かりに照らし出された。
血液はほとんど一滴あまさずに、やつの喉へと抜き取られてしまったらしい。
足はひとりでに、家へと向かっていた。
この刻限。遺された自宅になにが起きているのかを予期していながら。
ほかに、行くあてはなかった。

あぅ・・・
夜露に濡れた庭先の、娘の部屋の窓辺に立つと。
昏い予感は現実になっていた。
こうこうと照らされた室内。
カーテンのすき間からのぞくのは、ネグリジェに包まれた立ち姿。
立ったまま、うなじを侵してくる男の唇に、すべてをゆだねてしまっていた。
あ、あ・・・っ・・・
切れ切れな呻きを悲痛に洩らしながら。
わが身をさいなむ身体的な苦痛よりも
耐えている屈辱の深さを伝えるように。
呻き声は絶え間なく、あどけない唇から洩れつづける。
うう・・・
奪られている。
そんな自覚が、己をさいなんだ。
自分がそうされているときをはるかに越えて。
ごくり。ごくり。
喉のひと鳴りごとに。
娘の身体から摂られてゆく血液の重さ。
胸の奥の辛吟をかみ殺しながら。
下腹部にじんじんと疼く焔を抑えながら。
まがまがしく輝く眼で、いっしんに娘の受難を見つめていた。
ヒルのように貼りついた唇に力をこめて、
娘の血を吸い取ってゆく男の横顔が、
たとえようもないほどの心地よさを滲ませる。
男が去ると、娘は長い髪を振り乱して。
ひとり、ベッドのなかに倒れ臥す。
青いネグリジェを、ロングドレスのようにたなびかせて。
血を抜かれた身体は、蒼ざめるほどに白く、なまなましく。
静寂の戻った部屋、切なげに肩をはずませている。

隣は、妻の部屋だった。
こちらにも、客人を待ちうけるように、灯りがこうこうとともっている。
申し合わされたように開かれたカーテンのすき間から、ふたりのやり取りはつぶさに窺えた。
―――ようこそ。遅いお越しですわね。
冷やかすような口調には、娘への妬心が含まれている。
男は悪びれるふうもなく。
―――お待たせしたね。
そっけなく応えると、かつての親友の妻を我が物顔で抱きすくめ、
むぞうさに口づけを交わしている。
女の子にろくろく気のきいた口さえきけなかった彼とは、別人のような振る舞いだった。
妻は淑やかな喪服姿。
私を弔うためではなく。彼を挑発するための装いだと、すぐに察しがついた。
―――いかが?
女は夫には見せたことのない流し目をして、
漆黒のスカートのすそを軽くひきあげる。
清楚な彩りのはずの黒のストッキングが、脛の白さをひきたてて。
本来の意図を裏切って、淫靡に輝いている。
―――この靴下で。貴方と、夫と。ふたり見送ったのよ。
フフッと笑う様子は、妖婦さながら。
吸血鬼は女の術中にはまるように、足許にかがみ込んで。
清楚な装いに不似合いな、脂ぎった唇をかさねてゆく。
―――ふふ。ふふふ・・・
含み笑いの下。
黒のストッキングはしつようにまさぐられ、くしゃくしゃに堕とされてゆく。
くちゅっ。かりり・・・
―――あ、痛ううっ・・・
女は初めて苦痛を浮かべて、キュッと瞼を瞑っている。
フォーマルウェアに包まれた上体が、ゆらりとベッドに身を沈めるのに、そう時間はかからなかった。

あうっ。おお・・・っ
女のもだえは、日頃なじんだものだけに。
いっそう深く、鼓膜を刺した。
行為のひとつひとつが、男をジンジンと昂ぶらせ、挑発する。
蛇のように男の背中に巻きつけられる腕の白さ。
黒の衣裳からのぞく胸元の、輝くようなコントラスト。
引き破られたストッキングの、ふしだらなたるみ具合。
なによりも、相手を受け容れきった上下動の濃やかさ・・・
それらすべてが狂おしく、男の網膜を極彩色に彩ってゆく。

もう見ていられなかった。
そこには心を許した友も、最愛の妻もいなかった。
あるのはまがまがしいまぐわいと、獣のような情欲と。
男は独り、巷に出る。
まだ更けきっていない夜空の下には、
売笑婦のひとりやふたり、つかまるだろう。
本能にまかせた衝動にゆだねるには、その種の女でじゅうぶんなはずだ。

中休み

2006年05月21日(Sun) 16:28:38

お昼は、サンドイッチとお紅茶。
いかが?
いつものくせで小首をかしげ、お盆に載せたお昼を書斎に持ち届けてくれる妻。
わざとドアを開け放して、そそくさと出て行った。
きちょうめんな妻がドアを開けっ放しにするとき。
そういうときは決まって、何かがある。
「お義母さま、お昼ですよ」
のどかに響く、若い声。
ふすまの向こうから、和装の母が顔を出す。
ちょっとやつれた頬に、びんの毛がひとすじ、まとわりついている。
「なん人、お逢いになられましたの?」
不穏な会話が、始まった。
「まぁ、由貴子さんたら」
はしたないわ、と眉をひそめる母に。
妻は白い頬をきらきらと輝かせて。
「わたし、十人もお相手してしまいました」
恥ずかしそうに、すまなさそうに。
けれどもとても自慢げに、そんなことを口にしている。
後ろに束ねた黒髪ひとすじ乱さずに。
ワンピースにしわひとつ、とどめずに。
そういえば。
ろくろく言葉も交わさずに、そそくさと書斎を去ったのは。
吐く息の乱れを気取られたくなかったのだろう。
そういえば、さすがの彼女もちょっと、肩をかすかにはずませている。
「あら まあ」
母はあきれたように
「若いかたは、うらやましいわね」
そういいながら。
「わたくしも七人、お世話したんですよ」
「まぁ!」
ころころと笑いころげる、女ふたり。
一服したら、まだ戻らなくちゃね。
ちらちらこっちを窺いながら。
ひそひそと自慢話めいたやり取りをしたり。
午後に履いてくストッキングを吟味したり。
魔物は果たして、ふすまの向こうで待つ側だけなのか。
ティーカップ片手に笑い興じる、美しい妖女たち・・・


あとがき
情事のあとはやはり、髪の毛ひとすじ乱さずに現れて欲しいものです。

昏き饗宴

2006年05月21日(Sun) 12:17:00

夜の灯りが消え果てる頃。
名指された女たちは声ひそめつつ、着飾って。
父親や夫にも告げずに、玄関に立つ。
しずしずと現れる、一台の馬車。
小手をかざして御者に合図をすると、スカートやワンピースのすそをつまみあげる。
先客の婦人とも黙礼を交わし合って、
目ざすのは街はずれの古びた邸。
そこに待ち受けるのは、夜を徹した凌辱の宴。

色とりどりのストッキングに染められた脚が、
あるいは連れだって、あるいは単独で。
そろって広間に歩みを進める。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく流れる、異様の調べ。
足許に漂う、淫らな薄闇。
そこかしこに家族、知人を目にしても。
決して言葉を交わすことはない。
お互い、顔を合わせなかった。
此処では、なにも起きなかった。
すべては夜明けとともに秘される。
それがこの夜の暗黙のルール。

現れた黒い影たちに、
婦人たちはひとりひとり手を取られ、
広間の中央へと導かれてゆく。
淫らに甘い調べにあわせて、
衣裳は風にたなびき、その身はすべるように舞う。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく流れる、異様の調べ。
足許に漂う、淫らな薄闇。
かすかな衣擦ればかりをまとわりつかせて、
艶美に重なり合う、ふたつの影。
気づかぬほどに、ひそやかに。
ひと組、またひと組と、
足音忍ばせて、姿を消してゆく。

輪舞に身を任せる淑女たちから隔たって。
舞姫たちを見守る、一陣の群れ。
無心に舞う人影を。
その視界の外から、食い入るように見つめる血走った眼。
身内の女がいかに振る舞うかを、そぶりひとつ洩らすまいとするように。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく流れる、異様の調べ。
足許に漂う、淫らな薄闇。
踊り手がひと組姿を消すたびに。
沈黙の群れもまたひとり、影を消してゆく。

広間にとどまるのは、少数の女たちとその相い方。
離れて彼らを見つめる、ほぼ同数の影。
人影が減るほどに、張りつめた空気は昂ぶりを帯びて。
その昂ぶりが、クライマックスに達すると。
にわかにひと声、悲鳴があがる。
それを合図にするように。
手当たり次第の凌辱が、盛装した淑女たちに襲いかかる。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく流れる、異様の調べ。
すべてを隠す、淫らな薄闇。
視界の外に立ちすくむ影は、
己ひとりのものであるはずのものが
放恣に身を開き悦楽にむせぶ姿を目の当たりにする。

真っ暗闇の廊下をひとつ隔てて、
ホールの調べも、悲鳴交じりの乱倫も届かない小部屋。
ロココ様式の典雅なたたずまい。
かすかな灯りにきらめく、姿見。金時計。
扉を開くまでもなく。
ガラス戸を通して、なかの様子は手に取るように窺える。
調べは絶えてもいましばし、
薄闇の輪舞は続いている。
口許を軽く、引き締めて。
向かい合う相い方をひたと見つめる、黒い瞳。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく続く、妖艶のステップ。
足許に漂う、淫らな薄闇。
声もなく、音を忍ばせて。
対決するかのごとく、まなじりを吊りあげて。
にらみ合い、火花を散らし合う、瞳と瞳。
窓の外の影は息を呑み息を潜めて。
猿臂に巻かれてゆく最愛のものの影を見つめつづける。

踊り手たちは動きを止めると。
女はおとがいを仰のけ、男は胸元に顔を埋める。
白一色の衣裳にほとばしる、深紅の輝き。
ああ・・・
絶え入るような、甘美の呻き。
かすかに洩れる、喜悦の唸り。
熱っぽく入り乱れせめぎ合う、押し殺された吐息。
ぴったりとひとつに重なった影は、
そのままひと息に、冷えた床に身をまろばせる。
すべては一瞬のこと。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく洩れる、妖しい息遣い。
狂気を蔽う、淫らな薄闇。
淫靡な舞踏にもつれる脚は、
薄明かりのなか、ストッキングの光沢を毒々しく滲ませている。
オオ・・・
喉の奥から絞りだすような随喜が洩れると。
窓の外の影はひとしきり、自らを慰めるがごとく身震いをして。
今や酣(たけなわ)の宴に、声忍ばせて、昂ぶりを抑えつづける。


あとがき
密かに招かれる貴婦人。
招待を知らされて、あとを尾ける父親や夫たち。
広間に立ち入る許しと引き換えに、
手だしやさまたげは一切認められない。
招かれた淑女たちのあるものは輪姦に。
あるものは特定のものの慰めに。
盛装に包んだ貞操を蹂躙されてゆく。
あまり深い意味のないお話ですね・・・

凌辱アルバム

2006年05月20日(Sat) 09:37:09

部屋を支配する薄闇を、たった一条の灯りが斜めによぎっていた。
男は重々しい書物を持ち出して、私の側に向けて扉を開いた。
大判のアルバムほどの大きさだった。
革装の扉に刻印された文字を、読む遑もないほどに、素早く。
なかの表紙には、
「環境改造計画」
と、ただそれだけ、書かれている。
男は表情を消したまま、つぎの頁をめくった。

そこには大判の写真が一枚。
写されているのは、私と、妻と、娘。
まるで写真館のショーケースに飾れそうなほど、たいそう改まったものだった。
妻と私は、スーツ姿の正装。娘は学校の制服に、白のハイソックス。
この男が、写真家と称して撮ったものだった。
「写真を撮られると魂を吸い取られる、というが」
男は人のよくない親しみを込めて、私ににやりと笑いかける。
「いまのあんたなら、信じるだろうね?」
男にしてはほっそりとした指が、ふたたび頁を繰る。

妻と娘をひとりずつ、全身を写した写真が見開きになっている。
服装は、さっきとおなじ。
背景は、漆黒の闇。
まえの頁とちがうのは、写真の随所に書き入れがしてあること。
首筋。胸元。それに、ふくらはぎ。
赤いペンによる書き入れは、子供の落書きのように、ふたりの姿に挿入されていた。
男は興味なさそうに、つぎの頁を繰った。

「初夜」
と、ただそれだけ、書かれていた。
男は表情を消したまま、次のページをめくる。

アッ、と叫びそうになるのを、かろうじて呑み込んでいた。
写真はやはり、見開き。
左の頁には妻が。右の頁には娘が。
妻はさいきん見かけなくなった黒と白との柄物のプリントワンピースを着ている。
娘は相変わらず、濃紺の制服姿。
ふたりとも衣裳に血を撥ねかして、仰向けにされて。
虚ろな目は、すでに意識を喪っていること示している。
乱れた胸元。
肩先にコサアジュのようにつけられた血痕。
足許の靴下はちりちりに裂かれている。
「さいしょのときのものだ。あんたも生で見るべきだったな」
男は一瞬得意気に笑んで、すぐにその笑みをおさめて、次の頁を繰っていた。

大判の写真のなかで。
妻が、甘苦しく俯いている。
足許に唇を這わせているのは、他ならぬ目のまえの男。
まくれあがったワンピースのすそから覗く太ももには、
ストッキングの伝線が鮮やかなカーブを描いている。
もう一枚。
妻はたたみの上、仰向けに組み敷かれている。
男は柔らかそうなうなじを咥えて。
女の顔色を窺いながら、血を吸い取っていた。
女は眉をひそめ、目鼻をゆがめて。
けれどもそのゆがみのなかにありありと滲む、愉悦の翳。
男はさらに頁を繰った。
娘がおなじような姿勢で、組み敷かれていた。
振り乱された黒髪の向こうに写っているのは、勉強部屋にある椅子の脚。
長いまつ毛のかすかな震えまで伝わってくるような、生々しさが焼きつけられていた。
心地よい眠りにおちたように、うっとりとした寝顔。
白い夏服を、己が血で汚され放題に汚されてしまっているというのに。
なにも気がつかないで、目を瞑っている。
もう一枚。
普通に制服を着て、勉強部屋の椅子に腰かけているところを、横から撮っているのだが。
唯一尋常でないのは、
黒のストッキングを履いたふくらはぎに、男の唇を享けていること。
ちょっと厭わしげに振り返って。
足許を見つめようか、見つめまいかと曖昧に目線を迷わせていた。
「どうやって、撮ったのかね?」
第三者の存在が、どうしても気になった。
「安心したまえ。あくまで私だけの愉しみだ」
愉しみ・・・その言葉に胸の奥をツンと突き刺されるような疼きが走る。
「お互いに、写真の撮りっこをしたのだよ。母娘で、ね」
えっ。
色をなしている私。
血を吸われながら。衣裳を辱められながら。
妻と娘は戯れ心に、相手の受難にカメラを向けたというのだろうか?
私の心の渦を見透かすように。
「どうかね?征服される・・・という気分は」
からかうような口調とは裏腹に。
男の瞳には、深い色あいが漂っている。
さいごの頁が、めくられた。

そこにはまだ、写真は貼られていなかった。
写真のあるべきところにあるのは、軽いデッサンによるカリカチュア。
凌辱される女を描いた戯画だった。
左の頁には妻と。右の頁には娘と。
瓜ふたつに似せて描かれた、二葉の絵。
「剥がして、家に持ち帰りたまえ」
男は命じた。
「代わりに、写真を貼って。あなたの記念品として進呈しよう」
男はぱたりと、アルバムの扉を閉じた。
表紙の金文字が毒々しく、私の胸を染める。
「○○家 夫人・令嬢凌辱計画」
家の名を穢すことを。代々強いられつづけている家系。
狂った血はそんな文字を目の当たりにしてさえも。
ドクドク、ドクドクと、無軌道に脈打つのだった。

リセエンヌ

2006年05月20日(Sat) 06:38:56

好夫さん、いるかしら?
階下に、由貴子さんの声。
時ならぬご入来にどぎまぎとしながらおりてゆくと、
見慣れぬセーラー服の後ろ姿。
妹を連れてきたのだろうか?と思っていると。
あら。
ふり向いたのは、まぎれもない由貴子さん本人だった。

濃紺のセーラーカラーに、白のラインが三本鮮やかに走っている。
胸元を引き締めるのは、ゆったりとした白のネッカチーフ。
軽くウェーブのかかった眺めの黒髪をさらりと肩に流している風情は、ドキドキするほど清純。
楚々たる女学生姿が、なんの違和感もなくマッチしていた。
私の反応に、
くすっ。
と、含み笑いすると。
おかしいかしら?もう似合わないわよね?
小首をかしげて、応えを待っている。
―――そんなことありません。びっくりしました。あんまりお似合いなので。
そう?わたし、綺麗かしら?
―――ええ、眩しいくらいですよ。
由貴子さんは私の応えに満足したように、
ウットリとした目を向けてきて。
おとがいを心もち、前に差し出すようにして。
白い歯をのぞかせて、囁いた。
  コレカラネ。アノ方ノ処ヘ、血ヲ吸ワレニ参リマスノ。
  ゴ一緒シテクダサイマスワヨネ?
えっ。
心のなかで叫びながら。
イヤ、とは言い切れないでいた。

私のためには一度だって、こんな恰好をしてくれなかったのに。
なん年ぶりかで装う女学生姿を、彼に捧げるというのだね?
そんな想いを振り切るように。
  サァ、オ支度ヲ整エテクダサイナ。急イデ急イデ。
もう、こぼれんばかりの笑みをたたえて、背中を押されて。
  あの。
口ごもる横顔に、まだ、なにか・・・?そう問いかけると。
  これ、身に着けていただけませんこと?
差し出されたのは、まだ封の切られていない女もののストッキング。
  黒でしたら、男のかたでもお似合いだと思いますの。

吸いつくようにぴったりと密着してくる薄手のナイロンの感触が、
私のなかからさいごの理性を取り除いてしまっていた。
由貴子さんはなおもイタズラっぽく、容赦なく。
  ハーフパンツにしてくださいね。脚がよく見えるように。
そんな要求さえしてくるのだが。
もはや逆らうことはできなかった。

ほほう。よくお似合いだね、ふたりとも。
吸血鬼はそういって目を細めると。
まず私の足許にひざまずくようにして。
ぬるりとした唇を、這わせてくると。
かりり・・・
ぴちっとした裂け目を容赦なく、黒のストッキングに走らせてゆく。
では、頂戴しようかな。
眩暈をおこしてその場に崩れた私を置き去りに、
由貴子さんの肩に腕をまわしてゆく。
  ア・・・
悩ましげに瞼を閉じて。まつ毛をピリピリと震わせて。
荒々しい腕に巻かれてゆく、フィアンセの女学生姿。
襟首から覗く白い肌を、私の血をあやしたままの牙に侵されて。
きゅうっ・・・
聞きなれているはずの音が、いっそうリアルに鼓膜を刺し貫いていた。
あっ、咬まれちまった。あんなに痛そうに・・・
ノーブルな目鼻だちをゆがめながら、抗いをやめない由貴子さん。
しかしそれはあくまで、表向き。
もう、すっかり愉しみはじめちゃっているのを、悔しそうに見つめているしかない。

きゅうっ・・・きゅうっ・・・きゅうっ・・・
規則正しい吸血の音とともに崩れてゆく女学生姿。
やがて黒ストッキングのひざ小僧を、がくりとじゅうたんに突いてしまう。
ククク・・・
あいつはたちの悪い含み笑いを浮かべながら。
じゅうたんの上、すんなり伸ばされた足許にかがみ込んでゆく。
薄墨色のストッキングを通して透ける白い肌が、いっそうなまめかしく、美味しそうに映る。
ちく生、みすみす目のまえで・・・
心のなかで歯噛みする私のまえで、これ見よがしに舌なめずりをすると。
ちゅるり。
と、いやらしく。
黒ストッキングのふくらはぎに、唇をねばりつけてゆく。
  ぅ・・・
かすかな呻き。顰める眉。しくっとこわばる脚の筋肉。
それらを愉しむように、いとおしむように。
そしてなによりも、かち獲た餌食を誇るように。
やつはにゅるにゅると執拗に、由貴子さんの足許をいたぶりつづけている。


あとがき
なんのオチもないお話です。(笑)
女学校を卒業して、OLさえも卒業してしまっても。
なおかつ中学・高校のころに身につけていた濃紺の制服が似合う人って、いますよね。

その昔、ある雑誌が女優さんにセーラー服を着てもらう、という企画を打ったことがあります。
お名前は忘れましたが、名だたる女優さんたちだったと記憶しています。
もう20代か30前後にもなろうかというかたたちでしたが。
清楚な初々しさにオトナの魅惑が重なって。
とりどりに、えもいわれぬ風情を漂わせていました。

勇姿と嘆声

2006年05月18日(Thu) 21:48:13

後ろの座席に端座している横顔は、
ついさっきまでいつものようにきりりと引き締まっていたはずなのに。
運転席を降りた向こう側、ふたたび外気に横顔をさらした女史は、
うって変わってしずかだった。
そのままオフィスに戻って、ふたりで重役室の扉を開いて。
慌しく資料を整えると。
まっすぐ社長室に向かうはずの足許が、わずかながら揺らめいた。
え?
振り返る目のまえで、女史の顔色は真っ青になっている。

疲れたわ。

フッと洩らした、ただならぬ声色。
激務につぐ激務は、これほどの女(ひと)さえも圧し潰すというのか。
どさり。
わが身を投げ入れるようにソファに腰を落とすと、
行きかけた足取りを180度めぐらした脚がぞんざいに投げ出される。
緊張に包まれたスケジュールに、ほんのすこし逸脱が生じた。

顔を仰のけて。
ひと息ふう・・・っ、とおおきく深呼吸して。
それでもまだ、おさまりきらないものがわだかまっている。
どうしようか。どうしたものか。
想像はひとつ。
しかし今、その手は使えない。
なにしろ、顔色が真っ青なのだ。
そして社長との要談は、あと五分後に迫っている。

あら。
襲ってこないのね?
珍しいわ、と言いたげに。
ぞんざいな言葉遣いだけは、変わらない。
けれどもそれが負け惜しみにみえるほど、
いまの女史は痛々しい。
一時間。いえ、せめて30分もてばいいのに。
そう言いたげな顔つきをみるのは、これが初めてのことだった。
見てはいけないものを見ているのか。
それとも、そこまでの裏をさらけ出してくれているのか。
判断を迷わせる、一瞬。二瞬。

はっとした。
瞬間想い描いたのは、もっと若々しい横顔。
神経質で気位高いその女は、こういうときにいつも呟く。
ストッキング、破ってくださらない?

いつになく。
恐る恐る伸ばした、手。
鋭く尖った爪が本性をあらわにして、
女史の脛に突き立った。
淡い光沢を帯びた肌色のナイロンは、
ぴちちっ・・・
ちいさな音をたてて、はじけてゆく。

瞬間。
ぱしぃん!
脳震盪をおこしかねないほどの衝撃だった。
雷鳴の閃光のように鋭い平手打ちに、横っ面をすっ飛ばされた。

「ばかね。何してんのよ!」
瞬間、いつもの女史が戻っている。
ひらめく怒声も、逆巻く髪も。
そしてなによりも、焔のように燃えたつオーラが、女史そのものだった。
「行くわよ」
ついて来なさい。
いつもと微塵も変わらない、キリッと伸びた上背のある背中が。
蛭田にそう命じている。


あとがき
私にしては珍しいのですが。
帰る道々、思いついたお話です。
男女を問わず。
いつも気丈で勇ましい人が、フッと洩らすため息、弱音。
ときに芸術的といえるほど、人を動かすこともあるのですが。
蛭田のしたことが適切だったかどうか。
どちらにしても、女史は一瞬で復活し、蛭田は例によってつんのめっています。^^;
あ、そうそう。女史。
社長のとこ行く前に、ストッキング履き替えていったほうがいいですよ~。^^

姉妹ならべて

2006年05月18日(Thu) 07:41:26

処女だ。
こっちもだ。
並べて組み敷いているのは、結婚をひかえた美しい姉妹。
姉娘は、気丈にも歯を食いしばって。
妹娘は、痛みに泣きむせびながら。
ことさらメイワクそうにひそめた細い眉に、
あらわになりかかる愉悦を滲ませないようにと、耐えていた。
苦痛と悲しみのそぶりは、視ているものたちへの礼儀作法。
じゃあ交換ね。
黒影どもは無邪気な口調でそういって、
初めての夜にいっそう濃い闇を重ねてゆく。

かちゃり。
ティー・カップを三つ。
姉妹の母の振る舞いに、ふたりの青年は応えもせずに。
じいっと己の婚約者の所作を見つめつづけている。
しぐさ一つさえ、見逃すまいとするように。

召し上がれ。
あの子たちの血ほど、濃くはないですが。
いかが?
うちの娘たちの女ぶり。
身持ちのたしかなことも、おわかりいただけたようですね。
そのへんだけは、親もあずかりしらないことですから。
ちょっと、気がかりだったのですが。
ふたりともこれから、血を吸われてゆくのですよ。さっきみたいに。
もう、処女の血を捧げることはかなわないけれど。
許してやっていただけますね?
これからもあの子たちが、あのひとたちと逢いつづけることを。


あとがき
婚約者の処女喪失を、視ることで愉しもうとする青年たち。
案外、お母さんのかつての情人だったりするのかも?
すべては、謎です・・・

処女の姉妹を並べて犯す。
そんな設定に、どうにもそそられてしまいます。
いけませんね・・・

女ともだち

2006年05月18日(Thu) 07:21:20

悔しい。
こんなかたちで、みすみす若い生命を落とすなんて。
相手のやり口は、卑劣だった。
衣裳を玩び、素肌を侵し、生き血を吸い取ってゆく。
血液を抜き取られてゆく感覚が、なんともいえず無気味でもあり、切なくもある。
じょじょに喪われてゆくにつれ、
身体は抗いを忘れ、ふと油断するとそのままうっとりとしてしまいそうになる。
生命を維持するに必要な血液が喪われた時点で、意識は闇に落ちるはず。
計算ずくで、血を摂っているのか。
身動きできないようにおおいかぶさってくる黒い影は、
彼女の意図をひとつひとつ知り尽くしているかのように、
抗う手足を封じ込んでゆく。

だいぶ、顔色がわるくなってきたようだね。お嬢さん。
口辺に漂う虚ろな笑いとは裏腹に。
影はちょっと哀しげに、そう呟いた。
あのひとを狙ってほしい。
そんな依頼を受けてね。どうか、怨みに思わないでもらいたい。
誰に・・・?
思わず発した問いに、
わかるだろう?
え・・・誰が・・・?
依頼人は、彼女の行動パターンから当日の日程、くせまで知り尽くしたものに違いない。
女?
そう。苦しまないように、堕としてほしいと。
あのひとだ。
長いつきあい。そして、勉強も、仕事も、恋も。
いつも競争相手だった、あの女。
ひどい・・・
憤りが新たになって身じろぎしようとしたが、
影は抜け目なく、女の動きを封じつづけている。
あの女。あんたのことが好きだったみたいだぜ。
え・・・?
おれの依頼主は、見返りに。
もっている血をそっくりおれにくれたのだ。
若いくせに、濃い味だったな。
あんたが赦してくれるなら。
いっしょに蘇えりたい・・・とも言っていたな。
どうする?
しばらくの沈黙のあと。
女は訊いていた。
私、あのひとより美しいかしら?
服は、あのひとのよりもセンスあるかしら?
血も美味しいのかしら?
影は、女をあやすように髪を撫でながら。
ああ、いとしいほどにね。
できればこれきりのご縁にはしたくないものだね。
わかったわ。
せっかくだから、すみずみまで味わって頂戴。
それからひと言、おねだりね。
あの女よりも、美味い・・・
囁きつづけてね。お願い・・・


あとがき
ライバル同士の女は、吸血鬼として蘇えっても。
モノにした男の数を競い合うのでしょうか。
怖・・・。^^;

血を吸われる「女」たち

2006年05月18日(Thu) 07:09:03

「さて。姫君たちのご入来のようだ」
邸の主はひとめぐり、周囲にむらがる黒い影どもを見回すと、
「皆、身許は秘するという約束でお招きしてある。ぞんぶんに愉しむことだな」
愉快そうに、うそぶいた。
パンパンと手を叩くと扉が開いて、
開いた扉の向こうから現れたのは、とりどりの女たち。
女子大生ふうの、ぴちぴちとした感じの若い娘。
四十過ぎの、見るからに上流夫人という風情の女。
それと瓜ふたつの、十代の少女。
身に着ける衣裳は派手すぎず、地味すぎもしない。
色も丈もまちまちなスカートのすそから、
ストッキングに彩った脚線美をさらしてゆく。

女たちは無言のまま、にこやかに黒影どもに近づくと。
じぶんのほうから身を寄せて、笑みさえ浮かべて、
思い思いに牙を埋めてくる男たちに、
素肌を惜しげもなくゆだねていくのだった。

レイジの相手をしたのは、若い娘だった。
密かに憧れている、節子によく似ていただったからだ。
掘りの深い目鼻立ち。楚々とした、ひかえ目なしぐさ。
てっきり本人かと見まごうほどだった。
なによりも、スカイブルーのジャケットに白のワンピースという装いが、節子のお気に入りの服そのものだった。
灰色がかった淡い翳をもつストッキングも、
彼女がよく脚に通し、レイジの目線を惹きつけてきた。

彼の欲求を心得るように、女はうつ伏せに横たわり、
ふくらはぎをなぶられるまま、差し出してゆく。
牙の切っ先にひっかけたストッキングが、
パチパチとちいさな音をたててはじけてしまうと。
もう我慢しきれずに、無理無体に牙を埋め込んでしまっている。

あたりはすっかり、密やかで熱っぽい吐息に満ちている。
ひとしきり女の血を吸い取ると。
・・・?
ふとした直感にかられた。
レイジは女の上体に身をせり上げて、上からのしかかる。
牙を埋め込んだうなじの筋肉は、あきらかに男のものだった。
気づいたね?
似ているわけだった。
節子の弟、ミチヤの顔がそこにあった。

なん人もいるんだよ。このなかに。
女装しているやつ。
でも、ちょっと見にはわからないだろう?
家族の女の身代わりにきているのさ。
襲ってもらいたくない、って思って応じるらしいんだけど。
けっきょくは魅入られちゃって。
ミイラ取りがミイラ、というわけさ。
ボク?
もちろん最初から、姉さんをキミに紹介してあげたくってね。
服を無断で借りてきたのさ。
・・・汚してしまったね?
もう、手遅れだな。
あとは自由解散らしいから。
これからいっしょに、家にお招きしようかな?


あとがき
姉に憧れている顔見知りの吸血鬼のまえに、姉の服を着て現れて。
なり代わって血を与える青年のお話です。
同性同士の吸血って、書きなれていないですね・・・(笑)

若返りの密室 3

2006年05月17日(Wed) 07:25:41

鍵穴を通してみえるのは、
ソファに腰かけた年頃の女性。
母の妹の娘・・・つまり従姉にあたる女(ひと)だった。
将来はボクの花嫁に・・・といわれたそのひとも、
いまは老女の部屋にいる。
ぱらり。ぱらり。
ページをめくる優雅な指先に、
秘密をひとつひとつ、あらわにされるような心地にふるえながら。
セピア色の画集に見入る彼女から、目を離せないでいる。
あくまで無表情な面差しは、手の届かないほど高貴に写った。
気づかないのだろうか?
上品に彩られた足許に、老女が唇を吸いつけ、舌を這わせていることに。
紺のスカートの下に映える、流れるような脚線美。
グレーのストッキングに透ける、ピンク色をしたふくらはぎ。
薄暗がりのなか、辱められて。
やがてくしゃくしゃに波打って、しどけなく裂き散らされてゆく。
ホホ・・・
嘲るような老女の嗤(わら)いに応えるように。
ばら色の液体をコサアジュのように肩先に散らしながら、
ボクの未来の花嫁はゆったりと、笑み返している。
自らのなかに秘めた血潮の若さを誇るように。

若返りの密室 2

2006年05月17日(Wed) 07:19:35

老女に迫られて。
母は壁におしつけられたまま、血を吸い取られていった。
見慣れた水玉模様のワンピースを着たまま悶える姿は、見慣れた母とはちがう女。
きゃっ・・・あううっ。
ひくく呻いて、身をよじって。
それでも力づくでのしかかる着物姿を取り除けることは、とうとうできなかった。
うふふ。ふふ・・・
口許を血に染めながら。
ストッキングを履いたふくらはぎにまで唇を這わされていったとき。
あの絵を見たときとおなじ昂ぶりに、なぜか総身を震わせていた。

あちらへお行き。
老女はボクを追っ払うと、母と二人きりの寝室で。
どんな交わりを遂げたのか、幼いボクにはうかがい知ることができなかった。
ふたたび開かれた扉から逃れるように現れた母は。
まるで別人のように艶然とほほ笑んでいて。
お洋服、汚れちゃったじゃないの。
ワンピースの肩先にばら色の飛沫をきらきらと滲ませながら。
ボクのことを怨ずるように、優しく睨む。
時々お邪魔することにしましょうね。お父さんにはナイショですよ。
いつもの口調に戻った母は、スッと立ち上がると、
ふつつかでした。それではいずれ。
そっけないほどによそよそしく、礼儀正しく挨拶した。
老女のにたにた笑いには、目もくれないで。
日常にもどった主婦の立ち姿とは不似合いに。
ワンピースの下からは、咬み破られたストッキングがちりちりと、
ふしだらな裂け目に、白い肌を滲ませている。

お仕置きよ。あなたにも、女のひとのかっこう、していただくわ。
え?
戸惑うボクに、自分の衣裳一式を差し出して。
しゃらりしゃらりとした、純白のワンピース。
腰周りがすうすうとする、紫のスカート。
脚には母とおそろいの、黒のストッキング。
寄り添うようにぴったりと密着してくる薄いナイロンの肌触りにぞくぞくしながら。
母のパンプスに、そうっと足を差し込んでいた。
アラ。なかなかお似合いよ。
揶揄することもなく。真顔でボクを見つめる母。
黒一色の喪服姿に、背筋を伸ばした立ち姿がしっくりと似合っている。
こんな恰好で、外歩けないよ。
渋るボクを、
夜道ですからね。だいじょうぶですよ。
母はこともなげにドアの向こうへとボクの背中を押していた。

どうかしら?
母の悪戯心に応えるように。
老女はにんまりと笑んでいて。
では、お嬢さんからいただこうかの?
そういうと、ブラウスの肩に手をかけてくる。
くもの巣に捕えられた蝶のように。
着慣れぬ衣裳に妨げられて、あらがうこともままならなくて。
うなじを、胸を。足許を・・・
じわり、じわりと侵されてゆく。
籐椅子に腰をおろして、ボクの受難を見守る母は、
ホホ・・・
心地よげに笑みをたたえて。
どこかで見たセピア色の美女のように、
艶然と、煙草をくゆらしている。

若返りの密室 1

2006年05月17日(Wed) 06:53:45

やらしい写真、いっぱい持っててさ。いくらでも見せてくれるんだ。
口ごもるようにして、こっそり教えてくれた幼馴染み。
乗り気になったボクをみて、なぜかさいごにくすっと笑った。

家の近くに独りで住む老女。
遊びに行くと、夫のものだという昔の写真集を見せてくれるのだという。
ぱらり、ぱらりとページをめくると、
そこにはセピア色をした女たちが、思い思いのポーズを取って。
あるものは上目遣いに、あるものは伏し目がちに。
こちらのほうを窺うような、避けているような。
さまざまな風情で、まだ幼かったボクを巧みに挑発する。
古風な衣裳も、髪型も。
それ以外の、そこはかと漂う雰囲気に魅せられて。
ボクはうっかり、時間の経つのを忘れていた。

愉しいかね?坊や。
老女はこちらを覗き込むようにして。
頬をかすめた息遣いが、奇妙になまなましかった。
この絵を御覧。
指さす絵は、老女じしんにそっくりだった。
そりゃ、そうだよ。昔のあたしなんだよ。これ。
こともなげにそう呟くと。
さりげなくすす・・・っと、足をさし伸ばしてきた。
ナイロン製のストッキングに彩られたふくらはぎが、まるで若い女のように。
びっくりするほど艶めかしく輝いている。
さぁ、御覧。
女はそういうと、大胆にこちらへと身を寄せてきて。
かりり・・・
首のつけ根に走る奇妙な痛みに顔をゆがめたのは、つかの間のこと。
きゅ、きゅう~っ
どんよりとした液体を、そのままの姿勢で、身体の奥から抜き取られていった。

目が覚めたかい?坊や。
目のまえの女は、もはや老女などではない。
臈たけた。
そんな表現がぴったりとくる、絵のような美女。
セピア色の写真よりも数段美しさにまさる面差しに、息をするのも忘れるほどに魅入っていると。
どうしてもらいたいか、わかるね?
頷くボクの首すじに、ふたたび牙を沈めてきた。
あぁ。美味しい・・・
いかにも満ち足りた声色に、ボクも血管をズキズキと疼かせてしまっている。
このうえなにを望みか、ききたいだろう?
若々しく美しい顔とはうらはらに。
女の声はまだ、不似合いにしわがれていた。
声じゃよ、声。
もうすこし、血が入りようなのじゃ。
女はほんとうに渇望するように、天を振り仰ぐ。
これ以上、お前さんからいただくわけには参らぬ。死んでしまうでの。
けれど、妾にはあきらめきれぬ。
お身内の御婦人をおひとかた。
あすじゅうにお連れ願えまいかの?
近しいほど、血の味が似通うでの。
そなたの味とそっくりの血をお持ちの御婦人から、おねだりしてみたいのじゃよ。
ほとび出るような乞いの言葉に、ボクは静かに頷いてしまっている。
母はもう、30を過ぎていますが。
それくらいが、いちばんじゃ。
わが意を得たりとばかりにんまりとする笑みは、うっとりするほど美しかった。


あとがき
なん十年もまえから男たちの目を愉しませてきた古い絵。
セピア色をした彼女たちは、いまどうしているのだろうか?
そんなことをふと思っていると、「魔」が奇妙な話を囁きかけてまいりました。
あり地獄のように。
彼もまた、友だちに老女の館のことを語り誘うのでしょうか。

雑記

2006年05月17日(Wed) 00:13:11

少ないモチーフをふくらませた例について、このところ描いたお話について例をとると。
11日に描いた「地味なスーツの女」。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-269.html
最初に浮んだのは、「処女じゃなくてゴメンね」と、女が相手の吸血鬼に謝るシーン。
つぎに浮んだのは、相手の女性に愛着を覚え始めた吸血鬼が、毎晩女を襲いたい気持ちと裏腹に、「来てはならない」と、ほんとうに女の身を案じるようになるシーン。
それらを描いているうちに。
さいごの女のセリフは、キー叩いているうちにしぜんと湧いてきました。
まるですぐ横で彼女じしんが囁いている錯覚を覚えました。
こんなふうに、生まれてきたキャラクターが作者の意図を離れて自由自在に語るとき。
作者自身も彼や彼女の独白にうっとりと聞き惚れてしまうことがあります。

maria さんから感想を頂戴しましたが、いみじくも第一のシーンに触れてくれていまして。
思い描いたシーンが読者のかたの印象的に残る、というのが、描き手にとってはいちばん嬉しいことなので。
このお話は成功だったのだろうと、勝手に決め込んでいます。^^

12日にあっぷした「血を吸う継母」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-271.html
では、吸血鬼の継母に血を吸い取られてゆく少女の哀しげな表情がまず浮び、
それから次には姉を慕う異母妹が姉に血を吸われてゆく、という展開が浮んできました。
感想をくださった祥子さんは炯眼にも、どちらのシーンにも触れてくださったうえ、
私のなかで前者のインパクトがより深かったことまで見通されておいでです。
このお話は、描きあげたすぐあとには、正直満足感はいまいちだったのです。
もうちょっと、描きこむことができるかな。なんて思ったので。
あとから読み返して、納得するようになりました。
描き手がそれほど気に入りでなかったものが、意外に好評を博することもあるようで、
そういうときはとても勉強になったりします。

短編の愉しみ

2006年05月16日(Tue) 23:47:26

まあそんなわけで、ブログを描きはじめてからは。
うって変わって短編ばかりに徹しています。
もともとがちょっとしたウサ晴らしに始めた部分がありまして。
限られた時間に瞬発力でがががっ、と描くつもりでしたから。
短編というスタイルが気分的にもいちばんぴったりとくるのです。

時間帯としては、なぜか明け方が多いのですが。
まどろみからさめる頃、フッとよぎる情景のひとつふたつ。
それを重ね合わせて、ないしはたったひとつのモチーフで。
そこを際だたせ、浮き彫りにするために。
尾ひれをちょこちょこ、っと、しつこくないていどにつけ加えて。
だいたいこんなものかな・・・と感じると。
やおら起き上がって、キー叩くんです。
こまかいとこや言い回しは叩きながら考えて。
だから背景の説明とか、長編では必要とされるもろもろのものは一切省略して。
話のスジの特長だけを骨太に浮き上がらせることに集中するようにしています。
細部まで描きこんだ肖像画ではなく、
鼻筋一本で描きあげるカリカチュアみたいなノリで。
すすーといい気分で打ちあがると、頭のなかがスッとします。

吸血鬼のお話ですから、深夜のほうが湧いて出そうな気もするのですが。
真夜中ってくたびれてるんですかね。
夜更かしして考えても考えても、話ひとつ浮ばない、なんてことがよくあります。
煮詰まっちゃうみたいなんです。
むしろ睡眠をとったあとのリセットされきった頭でいるときのほうが、
感性もそれなりに研ぎ澄まされているような気分になりますし、
集中力も出るようです。

そういえば。
このあいだ高校生なら誰でも英語でいちどは習う、高名なアメリカの某短編小説家(どんでん返しのお話が多い)の小説の描き方をなにかで目にしたのですが。
頭の中でお話が組みあがると、一気呵成に描きまくって。
描いたあとはろくろく推敲も書き直しもやらないで、編集者に渡すんだそうです。
ここんとこだけは、私のやり方ちょっと似ているみたいです。
お話の出来不出来はまた、別ですが。^^;;;

ぽしゃった大長編の話

2006年05月16日(Tue) 23:34:25

その昔、いけないお話をこっそりと描きためていたころがありまして。
もちろんブログ開設なんて思いも寄らなかったころのことですが。
どれひとつとして、まともに完結しなかったのです。ーー;
まぁ、落書き気分で、描きたいところだけ描いていた・・・ということもあるのですが。
当時描いていたものは一部いまでも持っているのですが、あっぷの参考にはほとんど使っていません。
ただ、独自の世界観?だけはしっかりと確立されていましたが。(笑)
そのなかのひとつに、こんな話があります。

主人公は都会に住まう19歳の青年。
母はまだ幼いころに吸血鬼に襲われて死に、会社のオーナーをやっていた父も、つい最近亡くしている。
いまは父の後妻と、後妻の産んだ14歳の妹との三人暮らし。
美しい継母はしかし気位が高く、なさぬ仲の主人公を寄せつけないばかりか、なにかにつけて辛く当たる。
そのいっぽうで、亡夫の事業を受けついだ夫の弟とは不倫な関係をつづける毎日。
年頃になって女の衣裳に憧れるようになった主人公は、しばしば継母の衣裳に手を出しては、嫌悪されたりこっぴどい仕打ちを受けたりしているが、
妹のほうはそんな兄の奇行の裏にある実母への思慕を感じ取り、母に隠れて自分のストッキングを貸してやったりする、不思議な関係。
あるとき山奥に迷った主人公は、因習に満ちた村を支配する吸血鬼の老婆に魅入られて、
やがて母や妹までも、淫楽の渦に巻き込んでゆく・・・

みたいなお話だったのですが。
無計画にいい加減に描いているうちに、どんどんツジツマがあわなくなっていったんですね。
(あたりまえですが・・・^^;)
都会と田舎というコントラストを出したかったのと、突然襲われる貴婦人、みたいなモチーフをだいじにしたかったのとで、
吸血の現場を田舎にするつもりだったのですが。
妹娘のキャラをあまりにも優しくか弱げにしたためにカワイソウなだけのお話になりそうになってボツ。
で、こんどは娘にもう少しエキセントリックな色を添えてみて、
  母さんの血も吸わせてあげようよ。
と、逆に兄をどんどん挑発するようなお話にしようとしたのですが。
そうするとこんどは田舎での滞在期間がやたら長くなってしまって、これもボツ。

初めて襲われるシーンはやっぱ重要ですから。
母娘ながら襲われるのか、ひとりずついただくのか。
年の順なのか、それともお宝な処女の生き血にさきにありつけるようにしたほうが興を添えられるのか
・・・などと、しょうもない想像をしてウンウンと推敲しているうちに。
やがて埋没の運命に・・・(苦笑)
骨組みとしては面白い気がしているので、どこかで復活させる?かもしれないですが。
今んところはあくまでも、埋没した幻の大長編、ということで。^^

それにしてもこのころの吸血鬼、しわくちゃの婆ちゃんなんですな。
かなり下品で、うす汚れた一張羅の着物姿で、
都会育ちの貴婦人たちを、欲情もあらわに襲い、ねじ伏せてゆくんです。
いまよりいちだんと、ダークなイメージですな。

がり勉の少女

2006年05月16日(Tue) 07:59:43

お茶はいかが?
そういって、お母さんは入ってきたのだが。
湯気のたった紅茶を口にするのは、娘のほうだけである。
なぜなら、家庭教師は吸血鬼だったから。
「ティー・ブレイク」を頂戴するのは、お母さんの身体から・・・だった。
お母さんは、壁ぎわにへばりつくようになって。
きゃっ。
ひと声あげるともう、短めのワンピースから覗く太ももを侵されてしまっている。
ちぅちぅ・・・ちぅちぅ・・・
むしんに続く吸血の音をよそに、娘はひとり、なに食わぬ顔をしてティーカップを口にした。

ちょっぴり息をはずませて。
ストッキングの伝線を気にしながら、お母さんはそろそろと立ち上がる。
かろうじてパンティ部まででせき止められていたけれど。
びちーっと広がった裂け目は、はた目にも鮮やかで。
薄黒いナイロンの靴下をよりいっそう色っぽくきわだたせている。

赤い縁のメガネをかけた娘はそんな眺めにも関心がないようで。
なにごとも起こらなかったかのように、ふたたび勉強机にむかっていた。
かちゃかちゃと響く茶わんの音が遠ざかると。
娘ははじめて、口を開いた。
女のひとの靴下がお好きなの?
見てのとおりだよ。
わたしのハイソックスじゃ、子供っぽいかしら?
さしのべられるふくらはぎのたっぷりとした肉づきが、真っ白なハイソックスに包まれている。
鮮やかに流れる太めのリブが、ツヤツヤと輝いていた。
なかなかいい眺めだね。
吸血鬼が囁くと。
ちょっとだけだよ。
と、いいかけて。あわててつけ加えるように、言い直した。
ハイソックスが真っ赤になるまで、かまわないわよ。
じゃ・・・あたし、勉強がんばるから・・・

ふたたびカリカリと鉛筆の音を立てて。
無表情に参考書に向き合う少女。
濃紺のプリーツスカートの長い裳裾をかいくぐるように。
吸い始めたふくらはぎ。
しつように嬲るうち、きちんとひざ下まで引き上げられていたハイソックスはみるみるよじれていったけれど。
それでも少女はいっしんに、参考書に目を落としている。
かりり・・・きゅうっ。
その瞬間だけ、息を呑んでいた。
ちぅちぅ・・・ちぅちぅ・・・
母のうえにおおいかぶさったのとまったく同じ音が絶え間なく、足許から洩れてきた。

始まった吸血にもめげずに、少女はなおも鉛筆を走らせていたけれど。
夕闇が迫るころ。
灯りをつける手はついに伸びないままに。
机のまえの人影はじょじょに傾きうつむいていって。
やがてがくりと姿勢を崩し、畳のうえに寝そべってゆく。
まだ、真っ赤にはならないね・・・
耳もとで囁くと。
もぅ。
少女は口を尖らせながら。
それでも男の嬲るまま。
通学用のハイソックスを愉しませてしまっていた。

はじめて・・・

2006年05月16日(Tue) 07:03:37

「いまからそっち、行きます」
えっ・・・?
オレはひどくうろたえてしまった。
潔癖な彼女は、オレのような種族をひどく嫌っていたはずだったから。
「オレは、変態だぜ?」
「・・・わかってます」
だいたいどんな変態だか、見当ついていますから、とまで、彼女は言った。
思いもしなかった言葉が、口をついて出た。
「遠山さん、処女なんだろ?」
「・・・」
さすがに一瞬、口ごもっていた。
もうそれなりの年齢である女性に対して、失礼な質問ですらあった。
それでもすぐに、
「・・・処女です」
きっぱりとした声が、かえってきた。

せめてものことと部屋を片づけていると、
予期しないほど早くに、インターホンが鳴った。
ドアの向こうには、息を弾ませている遠山がいた。
  そんなに血を吸われたくって、ウズウズしていたのかね?
ふだんのオレなら、そんなふうに女をからかったはずである。
なのに、なぜか黙って女を迎え入れていた。
いつもTシャツにジーンズの彼女が、珍しくスカートを履いていた。
珍しい、どころか。初めてだったかもしれない。
  学生時代のやつじゃないのかね?
まさしくそんなかんじの、チェック柄のプリーツスカート。
丈も長めでひざまで隠れるスカートの下には、黒のストッキングまで履いている。
オレ好みの、肌の透き通ってみえるやつだった。
いかにも履きなれないようにみえたのは。
男の子とかわりないくらいにいつもキビキビと振る舞っている彼女に、
女らしい服装がうまく重ならなかったせいだろうか。

「・・・血を吸うんですよね?」
単刀直入に、ずばりと訊いてくる彼女。
イデタチこそいつもと違っていたけれど。
こんなところは本当に、遠山らしかった。
ああ、と軽く応えてしまってから、初めて女の顔をまともに見つめた。
しんけんなまなざしが、上目遣いにじいっと注がれてくる。
いいの?
ええ・・・
咬みつかれる・・・と予想したのだろう。
キュッと瞑った瞼が、わずかに震えを帯びている。
オレもそうするつもりだったのに。
なぜだろう。
弓恵・・・と呟いて。
しっかりと女を抱きとめて、唇を重ね合わせていた。
せつじつに応えてくる唇に、髪を撫で、いっそう身を慕わせて。
そういえば。
彼女のことを名前で呼ぶのは、初めてのことだった。

身内のつどい

2006年05月15日(Mon) 08:03:39

誰それの奥さんが、ストッキングを破らせたらしい。
どこそこの女房も、スリップを濡らしたそうだ。
あいつも、奥さんのスカートのすそ、やつに握らせちゃったみたいだぜ?
ほほぅ。若いのに、やるねぇ。彼も。

身内で集まると、いつも決まって洩れてくる、他愛のないうわさ話。
どの顔も、さすがにはた目に見苦しいほどではないまでも。
ちょっとだけ、好色げな艶を滲ませている。
うわさにあがる男女はみな、身内や知人ばかりだった。
それがかえって、一座のなかに妖しい親近感を高めてゆく。
幸か不幸か。
うちの家系は吸血鬼に気に入られているらしい。

あんたのところは、だいじょうぶかね?
誰かにそう、水を向けられて。
従弟は白い歯をみせて笑った。
  なに。知らないのか?下の息子はやつの胤だよ。
  えっ。
  上の娘の血を吸いたがって、往生しているのさ。お宅の息子さんにどうかね?うちの娘・・・
従弟の話相手はうかつにも、自分の女房が毒牙を愉しみはじめていることに、まだ気がついていないらしい。

そそくさと立ち去る男に哀れみ混じりの笑いを浮かべた従弟は、
  きみのところも、気をつけろよ。
そんなふうに、私にまで忠告してくるのだけれど。
知らないはずはないだろう?
きみだって、やつが家内をまた貸しするときに。
いの一番に手を上げたそうじゃないか。
  そんなこともあったよな・・・
従弟は苦笑いをしながらも。
心配なのは、息子さんのほうだけど。
後ろを振り向くと、うなじに引っかき傷を浮かべた息子。
  こんど、ボクのフィアンセを、おじさんのお邸にお連れするんです。
  たったいま、お約束してきたんですよ。
息子の後ろに控えているのは、白い頬を初々しく輝かせたお嬢さん。
いいのかい、お前・・・?
わかっていますよ。
さすがに恥らうような笑みを浮かべて、息子が後ろを振り返ると。
なにもかも見透かすような笑みをたたえながら。
お嬢さんは悪戯っぽく、小首をかしげている。