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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

貌(かお)怜悧にして、胸熱く・・・

2006年05月31日(Wed) 07:41:07

コツ、コツ、コツ、コツ・・・
ひた、ひた、ひた、ひた・・・
夜道に響く、ハイヒールの音。
寄り添うように。隠れるように。
忍び足。
まりあはとっくに、気づいている。
月夜の晩。
勤めが遅くなると決まって帰り道におおいかぶさってくる、黒い影。
カッ、カッ、カッ、カッ、
テンポを速める、硬い足音。
ス、スーーーーーっ・・・
もはや音とすら聞き分けることができないほどの、えもいわれぬ気配。
迷路のようなジグザグの小路を分け入るように。
もう、どこ走っているんだか、まりあにもよくわからない。
追い詰められた袋小路。
電信柱を背に立ちすくむスーツ姿に、
忍び足の主は、
ふふ・・・っ
軽い含み笑いに、怜悧な翳を滲ませる。

「や、やめて・・・」
拒絶のことばに、どれほどの意味があるのだろう。
男はもとより、耳を貸すはずもない。
リーチの長い腕をすうっと伸ばして。
まりあの両肩を、しっかりと捕まえる。
ギュッと痛いほどにこめられた力に、もはや抗いようもなく。
濡れた唇がじりじりと、忍び寄ってくる。
男の面貌はあくまでも蒼白く、無表情。
無慈悲なほどに確実に、獲物を引き寄せ捕食に入ろうとする。

あっ、やだ・・・
まりあは、食べものじゃない・・・っ。
心のなかでいくら叫んでも。
声を消されてしまったかのように、
猿臂の束縛のなか、ただひたすらにもがくだけ。
かりり・・・
男の牙が容赦なく、うなじの皮膚を食い破る。

きゅうっ・・・きゅうっ・・・くいっ。
濡れた飛沫がブラウスを浸すのを感じながら。
体内の血液をごく機械的に抜き取る強烈な引力が、
脈動を弱めるほどにぐいぐいと迫られて。
切ないほどに迫る欲求と。ほとび出る血潮と。
呼吸をひとつにした、せめぎ合い。
やがてまりあは、男の唇が、声もない歓びに満たされてゆくのを覚えていた。
くちゅうっ。
牙を引き抜くとき。
傷口を擦る柔らかい唇が、ことさらになすりつけられる。
それがこの男の接吻なのだろう。
まりあを身動きひとつ許さない猿臂に込められた、
すがりつくような熱情。

男はいったん身を離すと。
面白そうに、にやにやと。
相変わらずすべてを沈黙に秘めたまま。
じいいっと、まりあのことを観察している。
ひくひくと痙攣するように、嫌悪に震える頬。
本能的な恐怖と、えもいわれぬ期待を宿した、輝く瞳。
にやりと冷たい笑みが、男の頬をよぎる。
手にしているのは、糸のように細い、強靭なロープ。
なにをされるのかをさとりながらも、
まりあは電信柱に寄りかかったまま逃れようともしなかった。

ぐるぐる巻きにされたロープが、
ブラウスの上から、ぎゅぎゅぎゅっと、締めつけてくる。
息苦しいような束縛感。
ふたり、いっしょになって、まりあの身体を縛っている。
思わずそんな錯覚を覚えるほどに、
まりあは従順に、身をロープにゆだねている。
どす黒く甘美なものが、闇よりも濃くまりあを包み込んでいた。

目のまえの見通しが、とつぜん開けた。
男が足許にかがみ込んだのだ。
なにをされるのか。
先刻承知のうえだった。
オフィスを出るときに。
万一あの男と出会っても恥をかかないように。
真新しいストッキングに脚を通していた。
くちゅっ。
さっきまでまりあの肌を執拗に苛んだ唇が、
こんどは愉悦を込めて、なすりつけられてきた。
まりあの装いを辱める。
恥ずかしい行為が、辱めを受ける側をさえ、昂ぶりにもえたたせる。

ああっ、イヤ・・・ッ
足許を這うナメクジのようなぬるぬるとした感覚に、女はもだえた。
いくらなんでも、イヤラシすぎる・・・っ。
人の耳に届かないほどに。
まりあはいつか、口に出して男に訴えた。
いやらしいっ。
恥ずかしいっ。
影はそのたび、嘲るように。
いっそう濃やかな接吻を重ねてきて。
足許を艶やかに彩る礼装に、いっそうたちの悪い凌辱を加えてゆく。

男の口許には、まだ赤いものがしたたっている。
ついさっきまで、まりあのしなやかな身体をうるおしていたもの・・・
似合うわ・・・
まりあは恍惚として、男の口を濡らす黒い輝きに見入ってしまっている。
男の唇が、まりあの唇をとらえた。
終始、無言。
照れ屋なのね。あなた・・・
初めて、まりあはくすっと笑んだ。
もっと、して。
辱めて・・・
スカートの奥、もうこんなに熱く潤んでいるのよ・・・
声にならないまりあの想いを見透かすように。
すべり込んできた手の甲が。指先が。尖った爪が。
ショーツをなぞるようにして、熟した果実を責めはじめてゆく。

二代続けて・・・

2006年05月28日(Sun) 13:04:06

美沙子さんを、紹介するのか?
父さんは真顔でそう訊いて。
ウン。綺麗に犯してくれる・・・ってさ。
ボクが無表情にそう応えると。
あれは、いいものだぞ。
いつも生真面目な父さんが、いつもの重々しい口調でそういうと。
なんだかとても、ヘンな気分だが。
子供のころに見た、夜の風景。
父さんは書斎にこもり、おじさんは母さんに迫っていって、
母さんはボクの目線をきまり悪そうに避けながら、
めくれたスカートから、太ももをにょっきりとのぞかせて、
戸惑いながら、組み敷かれていく。
なんども目にした光景に。
親の決めた婚約者に逢ってもらう。
それは、とても自然なことに思われた。
美沙子さん、処女だといいね。
父さんの呟きに。
ウン、せっかくあげるんだから。やっぱりそのほうが、嬉しいな。
ごくしぜんに、そんなふうに応えてしまっている。


あとがき
母と付き合ったことのある男性に、婚約者の処女を捧げる。
とても非現実的なプロットで描いてみました。

泊まっていきなさい

2006年05月28日(Sun) 12:58:16

ミチオおじさんは、父さんとも母さんとも大の仲良し。
だから、夜遅くにも、遊びに来る。
3人で、お酒を飲んで。
笑い愉しんでいる様子は、子供のボクも夜更かししてしまうくらい居心地が良かった。
そのうち父さんは徹夜でお仕事だと言って、おじさんにはよければ泊まっていきなさいとすすめて、
一人書斎にこもってしまう。
取り残された母さんは、子供はもう寝なきゃダメよ、と、とたんにボクを子供扱いする。
さいしょはしぶしぶだったけど。
そのうち、素直に子供部屋に引き上げるようになった。
愉しいお芝居を、早くみたくてしょうがなかったから。

ああ・・・っ。う・・・ん・・・うんっ・・・
階下が暗くなったのを見定めて、足音をひそめて階段を降りてゆく。
さっきまでにぎやかだった客間は、薄暗いライトに照らされて。
べつの部屋みたいに静まり返っている。
押し殺すような声遣いは、それよりもさらに奥。
ふだんは夫婦の寝室になっている部屋。
おじさんが泊まるときはいつも、父さんが徹夜仕事で、
代わりに母さんと寝るのだと。
なんの疑いもなく教え込まれていたけれど。
スッと開いたふすまのむこう、
おじさんとの約束どおり。
枕もとの蛍光灯は、まだ点いたままだった。

こらっ。見ないの・・・!
母さんはそういいたかったらしいけど。
はだけたエプロン姿のままおじさんに抱きすくめられて、
身動きひとつ、できないでいて。
いっしょに動く腰から下を、息子のボクの目線にさらし続けてしまっている。
もう・・・っ。
口を尖らせながら、おじさんを。ボクを責めながら。
後ろから馬乗りになってくるおじさんを、どうすることもできなくて。
ぬらぬら濁った粘り気のある液体を、ぼたぼた布団にしたたらせていった。

子供が見るもんじゃないぞ。
書斎にいた父さんは、なぜかにやにやと冷やかすみたいにボクを見て、
そんなふうに、たしなめた。
―――ボクのお嫁さんも、あんなふうになるのかな。
つい口走ったひと言に、虚を突かれたように真顔になって。
―――そうだね。たぶん・・・適当な相手がいなかったら、おじさんに頼むといいよ。
男ふたり、照れ笑いを交し合っている。


あとがき
子供のころから、母親と他の男性との情事を見慣れていて。
それを、父親がたしなめるどころか、むしろ理解を示して。
好きなもの同士、してもかまわないのだよ。
そんなふうに教え込まれていたら。
案外初夜権というものも、当然のならわしとして育ってゆくものでしょうか。
歪んだ閉鎖社会の風景です。^^

孤独な狼

2006年05月28日(Sun) 12:47:39

女房を寝取られて、奪われて。
もはや、守らなければならないものは、どこにもいない。
そんな境遇に落ちたオレは、背中に黒い翼が生えるのを覚えていた。
いままでの気難しく潔癖に縮こまったオレの代わりに。
―――あんたの奥さん、抱かせて欲しい。
長年付き合ってきた会社の同僚たちに、面と向かってそんなことを申し込むオレがいた。

快く応じてくれるやつがかなりいたのには、驚いた。
―――ああ、いいよ。あしたは夜勤だから。妻に話しとく。遊びにおいで。
飯でも食いに来い。
そんな感じであっけらかんと言われてしまうと。
アブノーマルに堕ちたはずのオレのほうが、かえって呆気に取られてしまうのだが。
狙った獲物を訪ねるために、いざ夜道を歩いているときなどは。
同僚には悪いが、脚が三本になっているような気分だった。

抱きすくめる女たちは、上は50代から下は20代まで。
若妻を抱くときは、結婚した頃の初々しかった女房を。
姥桜をモノにするときは、他人に盗られて身をよじる女房を。
心のどこかで、追いつづけていた。
新婚三ヵ月の後輩が。
夜の営みに、興を添えたくて・・・
照れながら、オレのところにいいにきたときは、さすがに引いた。
  ウソぉ。ウソぉ。ケンちゃん、感じちゃってるの?
そいつの奥さんはオレの腕のなか、
ちょっと戸惑いながら、罪の意識に却って昂ぶりながら。
  やらしい・・・ケンちゃん、大嫌い!
口走る非難とは裏腹に、下腹の筋肉はヒクヒクと吸いつくように応えてきた。

夜勤の多い職場。
知らない男と浮気されるよりはね・・・
愛妻をオレにゆだねた同期の男は、そういって。
あられもなく乱れた奥さんの写真を、いとおしむようにしてポケットにねじ込んでいた。
相手に、不自由はしなかった。
まるで吸血鬼のように。
夜ごと、相手を変えて、同僚である夫たちが辿るはずの夜道を忍んでゆく。
妻たちの艶笑。夫たちの苦笑。
いずれ劣らず注がれる好意と同情を、感じずにはいられない。
いちばん寛大だった同僚は。
女房を寝取ったやつを、オレに紹介した男だった。
  じつはうちのやつも、姦られてたんだよ・・・
あとからそっと、教えてくれた。

チリリン・・・
休日と知って、かかってきたのか。
―――恥ずかしいお願いなんだけど。うちの家内に逢ってもらえませんか?
時折かかってくる申し出に、もの慣れてしまった応対を返しながら。
男の声に、聞き覚えがあった。
軽い謝罪を込めた口ぶりに、かつての敵意は湧いてこない。
男が口にしたのはまぎれもなく、
かつてオレの女房だった女の名前だった。

甘美な責めに

2006年05月28日(Sun) 11:11:37

かりり・・・かりり・・・
非の打ち所ひとつないプロポーションのあちこちに。
細く鋭い牙を、突き刺してゆく。
身じろぎをする上体を、しっかりと抑えつけて。
はげしくかぶりを振るパートナーを抱きすくめたまま、
疼くような痛みを滲ませてゆく。

くちゅう・・・っ。
洩れてくる血潮を、牙に絡ませ、舌で転がしながら。
玩ばれる・・・
甘美な苦痛に喘ぐ横顔を、
くすぐったく盗み見る。
悩ましい翳を帯びた、整った目鼻立ち。
奴隷に堕ちた淑女。
気品漂うスーツのすそをたくし上げ、
ストッキングのうえから太ももを唇で嬲ると、
ひどく迷惑そうに、濡れた睫毛を震わせた。

かりり・・・かりり・・・
わが身を苛まれているはずなのに。
すがりつくように接してゆくこの身を、
女はいつか、母親のようにかき抱いてくれている。
ひと咬み、ひと吸いごとに込められた、
毒々しいほど渦巻く情愛を、
貴女は感じ取ってくれたというのだろうか・・・

すごく嬉しかったこと。

2006年05月27日(Sat) 06:08:19

ちょくちょく出入していた悪鬼さまのサイト、「SM川柳」。
ご自身が忙しくなってしばらくとだえていたのですが。
パートナーの心愛さまのご尽力で、見事復活です。(^^)/
http://akkikokoa.blog22.fc2.com/
SMと川柳という意想外のドッキング。
ユニークなだけではなくて、まじに面白いです。
投稿すると、管理人さんの丁寧かつウィットに富んだレスがつきます。
そのためかレベルの高い力作が吸い寄せられるように、あとからあとから・・・^^
ピンチヒッターの心愛さまも、今ご多忙な悪鬼さまの手法にならって大奮闘。
素敵な返歌までちゃんと返されていらっしゃいます。
さぁ、怠けている場合じゃないぞ。(^^)/
あれ?
「詩歌」のカテゴリ。
空っぽ・・・・・・。(-_-;)

婚約者萌え

2006年05月27日(Sat) 06:00:07

処女の血を吸い取られた婚約者が吸血鬼と逢瀬を重ねるようになり、
結婚前夜には純潔まで散らされる・・・
どういうわけか、そんなお話に萌えてしまいます。
多くは、許婚自らが協力したり黙認したりしています。
血を吸われるほうはともかくとして、
みすみす婚約者の純潔を進呈したいなどという男性は、
普通いないですよねぇ。^^;
ですからこのプロットは極めて実現性のないお話ですね。
男性がすでに洗脳されているか、
古来からある歪んだしきたりに従っているか、
だいたいどちらかのパターンを採っているのはそのせいです。
血を吸われる側の男性にとって。
処女の生き血~彼らがもっとも獲たいと願っているもの~を与えるには、
姉妹とか、自分の婚約者とかを与えるのがいちばん適切?な振る舞いなのでしょうか。
「同じ血」を持っている妹を・・・というのもひとつの萌えなのですが。
未来の伴侶を捧げる・・・というほうがよりスリリングなような気がします。
夜な夜な召されて、血を与えるために着飾って出かけてゆく婚約者。
飢えた唇に肌を許し、血とともに意思や魂をさえ吸い取られてゆく。
傍らでやきもきと嫉妬しながら、最愛の女性の妖しい受難に目線を離せなくなってゆく婚約者。
すごく、歪んでいますね。我ながら・・・^^;

さいごの接吻

2006年05月26日(Fri) 07:46:59

いつものことなのだが。
女房の血を吸いおえると、
ヤツは、しずかになった肩をいとおしげに抱いて。
深い接吻を重ねるのだ。

夫婦ながら、ヤツに血を与えるようになってからは。
まず、オレの身体からくらくらするほど血を抜いて、
それから女房に迫ってゆくのがきまりだが。
血を吸い取っている最中ですら。
女房の意思とか、心の奥とか、魂までも掌のうちにされてゆくようで、
失血にぼうっとなりながらもハラハラしながら見守っているのだが。
この、さいごの接吻ほど、ハラハラさせられるものはない。
重なり合うふたつの影が、溶け合うほどに寄り添って。
しんそこ恍惚ともつれ合うように映るのだ。
大丈夫よ。
女房はそう、断言するのだが・・・

オレの気分を見透かしたように。
やつはこちらを振り返って、
すまんな。
ひと言そう、呟いた。
モノだと割り切れば。食事だと思ってしまえば。
あんたをここまでハラハラさせずにすむのかな。
人の血を吸っていると。
どうにも相手のことを好きになってしまうのだよ。
もちろん、あんたのこともね・・・
だから、奥さんの血を身体いっぱいに獲ているときは。
あんたに悪いと知りながら。
つい、奥さんに恋してしまう己を、どうすることもできなくなってしまうのだよ・・・

お気に召すままに。

2006年05月24日(Wed) 07:58:15

永いつきあいの親戚なの。
実家のならわしなの。
最愛の妻、まりあにそうせがまれて。
オレはその男と初めて、逢ってみた。
どちらかというと、控えめで、物静かで。
紳士だった。
思っていたような、いけ好かない感じのヤツではないことに、
オレはひとまず、ホッとした。
本当に、まりあの言うように。
血なし病、という難病の治療に必要な行為なのかと思った。
オレは、口ごもりながら、切り出した。
「まりあの血が、お入用なんですね?」
声が震えていたのは、まがまがしい光景を想像してしまったから。
半分は嫌悪。でも残り半分は・・・
知らず知らずだったけれど。
いわくいいがたいねっとりとした熱情に、じょじょに蝕まれていったのだ。

ヤツはまりあと向き合っている。
いつになくしんけんな、まりあの横顔。
それはそうだろう。
これから咬まれて、血を吸われるんだから。
まごまごしていると、はんぱな怪我じゃすまないかも知れない。
だから、オレはしじゅう、ハラハラのし通しだった。

ヤツがまりあの肩を抱く。
ま。しょうがないか。目をつぶってやろう。(-_-;)
ヤツはまりあを引き寄せる。
う。・・・ん。ここはまぁ、親戚づきあいだ。ぐっとこらえよう。^^;
ヤツがまりあの首すじに・・・
アッ、危ないッ!(><)

ちゅう・・・・・・っ

オレまで気が遠くなるほどの、ナマナマしい吸血の音。
おいおい、いくら親戚だからって。
人の女房なんだぞ?すこしは遠慮しろよな・・・
あんなに身をすりつけて。
まるで、オレにあてつけているみたいだぞ。
まりあのやつまで、あんなに身をそらしちゃって。
痛いのか?苦しいの?それとも・・・?
オレはまりあの顔をのぞき込んで。
アッと声をあげそうになった。
いつも見る、あの無心な表情。
そういう顔をするときは。
きまって、閨のなかだった。
ああ・・・やっぱり・・・
ブラウスのうえから食い込んだ、長い爪。
しつように吸いつけられている唇。
それらのすべてが、ヤツの意図と。
まりあとの距離と。
はっきりと、ものがたっていた。

あなた・・・あなた・・・
まりあが、呼んでいる。
ねぇ、あなた・・・
甘ったるい声に、オレは逆らうことができない。
ストッキング、破らせてあげてもいいよね?
え?
ストッキングを破るって?
それがなにを意味するのか、そのときのオレにはじゅうぶんにわかっていたわけではなかったのだが。
つい肯いてしまったのは。
その背後にある意味の淫靡さに、薄々感づいていたから・・・
しいてオレが威厳を保つことができるのは、
ヤツとの関係を寛大に許すこと・・・
そのときにはもう、そんな想いしか、頭になくなっていた。
そんなオレの想いを知ってか知らずか。
ヤツはオレのほうを振り返り。
感謝している。きみにも奥さんにも。
囁きに秘められた魔性のものに。
オレは身動きもできないくらいに痺れてしまって。
つい、肯いてしまっていた。
どうぞ、お気に召すままに・・・

きゃっ。ああ・・・うぅん・・・っ
いつものまりあの悩ましい声。
夜中に、それも、オレとの閨いがいでは秘められていたはずの声。
それがいま。
目のまえで。
吸血鬼とはいえ、ほかの男とのあいだで交わされている。
ああ・・・
この、胸の奥にじんじんと疼くものは、なんだろう?
そういえば。
閨のことも、しばらく遠ざかっていたっけ。
ひたひたと浸してくるような、メゾアルトに。
オレはしんそこ、まりあの肌が恋しくなった。
めいっぱい、愛されるがいい。
そのあとは、オレと・・・
いつも以上に乱れるつもりなんだね・・・?


あとがき
最愛の奥さんを吸血鬼に食べられてしまうご主人のお話です。^^
吸血鬼が生命まで奪らない、という保証と。
それにもまして、妻まりあとの変わらぬ絆があるからこそ、可能な関係です。

夜道の妹

2006年05月24日(Wed) 07:22:11

夜道を歩く、黒ストッキングの脚。
魅せられてあとを尾けたコウイチは。
足音に気づいて早足になった少女を追って、駆け出していた。
壁際においつめた、セーラー服姿は、意外なことを問いかけてきた。
「お兄ちゃん?お兄ちゃんよね?」
えっ?
意外にも。
血を求めて迫った獲物は、妹のめぐみだった。
・・・上背のあるせいか、もっと年かさの子だとばかり思っていた。
「わかる?めぐみよ?」
必死の問いかけを無視して、それでも彼は少女に迫っていった。
妹だからといって。
いまの切迫した飢えや渇きを、どうすることもできないのだ。
心を鬼にして。がっちりと両肩をつかまえると。
少女は諦めたように、目を瞑ってゆく。
「すまない」
思わず口にした呟きに。
めぐみはなぜか、ほっとしたように顔を和ませる。
「わたしだって、わかってくれればいいの」
わたしをわたしだと判別できない獣のような状態で、襲ってもらいたくなかっただけ。
そう、めぐみは囁いて。
「いいよ。お兄ちゃん。血が欲しいんでしょ?」
自分のほうから、おとがいを仰のけてきたのだった。

すべすべとした皮膚だった。
柔らかい肉だった。
そして、美味しい血だった。
処女だ。
すぐにわかった。
若い女の子の血は、やっぱりいいなあ・・・
肉親の情を越えて。
いつか少年はちゅうちゅうと、少女の血潮に酔い痴れていた。
「お兄ちゃん。めぐみの血、美味しい?」
ああ・・・とても旨いよ・・・
そういいながら。
いつまでも、いつまでも、抱きしめていた。

気がつくと。
ぐったりと力を失った体が、腕のなかにあった。
「めぐみ?めぐみ?」
さっきまでピンク色にほてっていた肌が蒼白く、なによりもぞっとするほど体が冷たい。
はっとした。
幸いにも。
腕のなかの体は、身じろぎをした。
恐怖に閉ざされていた瞼が、薄っすらと開いた。
「お兄ちゃん、逃げなよ。わたしを置いて。ここにいたら、パパやママにばれちゃうよ。お兄ちゃんの仕業だって」
けなげな言葉が、却って兄をふるいたたせた。
できるものか。こんな夜道に置き去りにするなんて。
気合いをこめて一躍すると、ふたりの影は、屋根の上にいた。
寝静まった家。
ベランダを隔てて、めぐみの部屋があった。
隣の部屋は、自分がいなくなってから、誰も手をつけていない様子だった。
すうっ、と。ガラス窓を通り抜けていた。

ベッドに寝かせてやると。
めぐみは手を振って、
「いいよ、もう。本当にもういいから。早く出て行って。見つかるといけないから・・・」
激しくかぶりを振りながら、妹の体をなでさすり、ひたすら介抱していた。
ふたたび傷口に唇をあてて、いちど吸い取った血を戻してやりさえした。
「お兄ちゃん、優しいね。ソンするよ・・・」
淡い笑みを、憐れむように滲ませて。
黒いストッキング、好きなんでしょ?
知っているのよ。
めぐみのを、こっそりイタズラしてたでしょう?
いいのよ、べつに。
めぐみの脚、きれいに見えた?
血を戻してくれたお礼に、ちょっとならイタズラしてもいいんだよ。
あさましい・・・そう思いながら。
差し伸べられた脚に、気がついたらべろを這わせていた。
ふふ・・・ふふふ・・・
ベッドのうえから、くすぐったそうな、軽い含み笑いが洩れてきた。

次の晩。
めぐみの帰りは早かったらしい。
勉強部屋にはもう、灯りがついている。
窓ガラスのきわに忍び寄って。
なかの様子を確かめるゆとりもなく、姿を部屋のなかへと滲ませていった。
びっくりした。
そこにはめぐみではなく。
母の由香里が、改まったスーツ姿で正座していたのだ。
あわてて逃げ出そうとすると。
「お待ちなさい」
たしなめるような母親の声に、かれの動きはとまっていた。
ベランダに、あの子の靴が落ちていましたよ。
イタズラをみつけたときのように。
ママはふふっ・・・と笑っていた。
  めぐみは体の具合が悪いのです。
  夕べは吸いすぎた血をもどしてくれたみたいだけど。
  やっぱりあなた、吸い過ぎよ。
頭を垂れるコウイチに。
  しょうがないわね・・・
ため息混じりに、そう呟いて。
  お父さんには、おことわりしてありますから。
え?
改まった口調に、訝しげに顔をあげていた。

めぐみほど美味しくはないでしょうけど。
ママはそういって、きちんと正座していた脚を崩してゆく。
こげ茶のタイトスカートの下から覗いたのは、チョコレート色のストッキング。
そういえば昔、黙って借りて。
おかずにしちゃったことがあったっけ。
恥ずかしい記憶に照れ笑いをしながら。
コウイチはもう臆面もなく、ストッキングを履いたママの脚にかじりついていった。


あとがき
なんてことはない、ハッピーエンドなお話です。
こういういじらしい女の子とか、優しいお母様とか、たまに描いてみたくなるんです。^^

理性の薄い壁

2006年05月22日(Mon) 07:35:43

ホホ・・・ホホホ・・・
喪服姿の妻は笑いこけながら、
スカートの下を、吸血鬼にゆだねている。
足許に透きとおる、薄手の黒のストッキング。
薄墨色に染めあげられた白い脛は、
いっそうなまめかしく、ツヤツヤとした輝きを帯びていた。
素肌にぴったりと密着した濃淡織り交ぜたナイロンの薄衣は、
いまだ若さを帯びた脚線美の輪郭を、いっそうきわだたせている。

そんな清楚な装いに。
脂ぎった唇をねばりつけられて。
這わされたべろに、よだれをたっぷりなすりつけられて。
濡らされてゆくナイロンは、ひと舐めごとに、くしゃくしゃにされて。
じょじょにほぐれるように波打って。
やがて、凌辱に耐えかねたように、
吸いつけられた唇の下、ぴちっと裂け目を走らせる。

侮辱する唇と。
笑み返す口許と。
交わし合わされる劣情の下、清楚な装いだけが妻の名誉を誇示しようとしている。
なまの唇から素肌をガードするように。
淫靡な情夫と。
さらに淫靡な持ち主のあいだに挟まれて、
なよなよと頼りない薄衣は、あまりにも弱かった。

もろくも裂けて。
ちりちりに裂けて。
蜘蛛の巣みたいになったのを面白そうに見つめる、淫らな娼婦。
迎え入れた交接に、ひざの下までずり落ちて、
破れ落ちふしだらな弛みをみせて。
剥ぎ堕とされた装いは、持ち主にふさわしく妖しい乱れを見せつけてくる。

純心

2006年05月22日(Mon) 07:10:31

もう幾晩、女たちを襲っただろうか。
夜更けに着飾って外を歩いている女たちは、心得のあるものばかりだった。
後ろから忍び寄り、肩を抱きすくめると。
きゃっ!とか、ああ・・・っ!とか、声をあげて。
もちろんひと通りは抗いもするのだけれど。
あとは皆、いちように押し黙って。
素直にうなじをゆだねてくるのだった。
柔らかな皮膚からもたらされる血液はひどく甘酸っぱく、
からからに干からびた血管を、心地よく潤おしてゆく。
盛り場で出会った親友のひとりなどは、
―――お前、屍鬼になっちゃったんだな。かわいそうに。
アルコール混じりの血を差し出そうとはしないで
―――何時ころ、ここにいるんだ?女房を散歩させてやろうか
約束どおりの刻限に彼の女房が着飾ってやってきたときには、本当にびっくりした。
雑木林に連れ込んで、たくし上げたスカートの下。
己の妻がそうされたように、ストッキングのうえから唇をねばりつけ、
舌を這わせてくしゃくしゃにしてゆく。
女は、こうしたあしらいに馴れているらしく。
軽くハミングしながら、吸いやすいように脚の向きを変えてくれた。
こうやって幾晩も、夫いがいのものに血を与えつづけてきたのだろうか。
それでも、親友に対する軽侮などは露ほども覚えなかった。
ただ女と、女を差し向けてくれたものへの深い感謝を、本能が切々と訴えていた。
やつもこうして、私の最愛の妻を抱いたのか・・・
足はひとりでに、家のほうへと向いていた。

真っ暗がりだった。
妻の窓辺にたたずむと。
ガラス戸越しにセイセイと、はずむ息遣いが聞えてくる。
嫉妬の情がふたたび焔をあげたけれど、
もはや灼けつくような鋭さは帯びていない。
心地よく妬ける・・・
そんなことがあるのだろうか?
隣の部屋は、薄い灯りが洩れている。
灯りの下には、ベッドに倒れ臥す華奢な身体があるのだろうか?
父親に戻って案じながら、思わず窓に手を触れると。
ぎい・・・
錆びた金具が耳ざわりにきしんで、大きく開け放たれていた。
部屋の中のひとと、まともに目線を合わせていた。
「お父さま」
暗闇のなか、どうやって見透すことができるのか。
娘の声は、歓びにはずんでいた。

―――どうしてあの晩、そのまま忍んでくださらなかったの?
褥の上。
娘はもはや、わが腕のなかにいた。
今宵はまだ、侵されていないようだった。
かわりに今、生硬なうなじに牙を埋めてしまっている。
父親でありながら・・・
そんな想いを、少女の大胆な行動が消してくれた。
―――お待ちしていたの。早く沙織を襲って・・・
娘は、セーラー服のリボンをほどき、部屋の隅へと投げ捨てて、
校章の縫い取りのある胸当てをさえ取り去って、
自分のほうから、身を投げかけてきたのだった。
首筋の薄い皮膚を、痛くないようにちくりと刺して。
にじみ出てくる血潮は、信じられないことにまだ純潔の香りを鮮烈にたたえていた。

そのまま褥に身を沈め、
初めてつけた傷口を、吸い、また吸っていた。
愛するように。いとおしむように。
その身からしたたるものを、一滴たりとも洩らさぬほどに。
掬い上げ、啜り上げ、なおもいとしげに背中をなでさすり。
一生かけて、護りつづけてきた少女を、
やはり護り抜くように、抱きしめる腕に力をこめる。
夏服の下、柔肌の気配をありありと覚えながら。
ひとりの男として、少女を抱きしめ、愛でていた。
―――お父さま。
濡れるような声色に、青年のようにどきどきしながら。
初めての口づけをさえ、交わしてしまっている。
ためらいなく応じた娘は。
―――初めてだったんです・・・
そのときばかりは、とても羞ずかしそうに。
甘い抱擁のなか、ちょっと肩をすくめてみせた。

  あのかたが初めてお見えになったのは。
  お父さまがいなくなったつぎの晩のことでした。
  年の順にね・・・
  母さんが、お手本になりますからね。
  あなたも、お作法を心得てくださいね。
  お母さまはそうおっしゃって、
  ご自分から、牙にかかってゆきました。  
  血を吸い取る音が、怖ろしくて。
  逃げることもできないで、立ちすくんでいると、
  お母さまはお酒に酔ったみたいに頭を揺らして、うっとりとしてしまって。
  つぎはあなたの番よ、
  っていうふうに、わたくしのほうをご覧になるんです。
  口許にお母さまの血のついたまま、あのかたに迫られて・・・
  とても、怖ろしかった。
  痛みよりも。
  お父さまとお母さまからいただいた血を、穢されているような気がして。
  ほんとうに、飲み物を飲むように。
  がぶがぶと音をたてて、召し上がってゆかれましたの。
  くらりとした眩暈が、幾重も折り重なってくるようでした。
  今はすっかり、慣れましたけど・・・

  許せなかったのは。
  お母さまが、もののひと月とたたないうちに、
  あのかたに、操を許してしまっこと。
  あれほど、お父さまに愛されたのに。
  いともやすやすと、喪服を脱いで。
  おおいかぶさってくる汚らわしい欲情に、身をゆだねられてしまったのですわ。
  わたくし、それが許せなくて。
  あのかたに、お願いしたんです。
  女としての務めまで、わたくしに求めないで。
  母か、わたくしか。
  一人を択んでください。
  できればわたくしだけでも、いま少し。
  清い身体でいたいのです。
  あのかたは、なにもかもわかっておいでのようでしたわ。
  沙織ちゃんの思うようにするがいいよ。
  ひと言、そうおっしゃって。
  お父さんが来るのを、待っているのだね?
  ウフフ。
  察しのよい方だわって。
  やっと、お母さまとの関係を許せる気持ちになったのですわ。
  女のカンだけど。
  あのかた、ずっとお母さまのことがお好きだったのね。
  お父さまももしかして、お気づきになっていらして?

  こんなふうに、夜通し声がして眠れなくても、
  許せる気持ちになりました。
  あのかたはそれ以来うちへいらしても。
  ほとんどお母さまとばかり、お逢いになるようになりましたもの。
  たまに、ほんとうに喉が渇いていらっしゃるときだけは、お相手しているけれど、
  妬きもち、やかないでくださいね。
  あら、もっと吸ってくださいな。
  沙織はまだまだ、しっかりしててよ。
  ああ・・・
  夢だったんです。お父さまにこうして吸われるの。
  できれば、さいしょのひと口も・・・
  お父さまに差し上げたかった。

  ダイヤ柄の靴下、まだ履いていてくださっているのね?
  嬉しいわ。
  わたくしが今脚に通しているものも、お父さまとおそろいなのよ。
  今夜あたり、なんだか胸騒ぎがして。
  お父さまが来てくれるような気がして。
  わざと制服を着たまま、お待ちしていたんです。
  こんどはいつも学校に履いていく、黒のストッキングにしようかしら。
  お母さまのストッキングは、娼婦みたいに毒々しくなってしまいましたけど。
  沙織はまだ、清楚そのものでしょう?
  幾晩か、通ってきて。
  処女のままの沙織を抱いてくださいね。
  でもそのあとは・・・
  あのかたも、お察しのようですから。
  わたくしが心から純潔をお捧げしたいお相手は、
  ほかならぬお父さまだということを・・・


あとがき
前作のつづきです。
親友に血を吸われ、それでも妻子を託してしまう夫。
父親が蘇えることを予期して、純潔を守りつづける娘。
純粋ですね。
すこしは、歪んでいるかもしれないですが・・・

奪られた家庭

2006年05月22日(Mon) 06:27:45

ベッドのうえ、折川は薄っすらと目を開いた。
両肩に、誰かの体重を感じる。
相手は誰なのか、よく知っている。
もう慣れきった感覚に、彼はもういちど目を瞑った。
首のつけ根のあたりに走る、ちくりと刺すような感覚。
つうっ・・・。
皮膚の内側に脈打つものが少しずつ、
痛いほど貼りつけられたヒルのような唇の向こう側へと移されてゆく。
軽い眩暈。ほどよい酩酊。
頭をくらりと揺らすと、からだの上におおいかぶさっていた影は、あわてたように身を起こす。
「気づいていたのか?」
「ああ・・・あんただと思ってね」
「いつも、すまないね」
「いや・・・」
邪魔したくなかったのだよ・・・
中断した吸血に淡い失望さえ覚えながら。
間近にあおぐのは、同年代の男。
キョウイチという名の彼とは、幼いころから親しかった。

38歳。いまだ独身。
気のいい彼はいいことなしの人生も笑って過ごしてきたのだが。
夜更け訪れる屍鬼は、そんな彼さえも容赦をしなかった。
妻や娘と連れ立って葬儀に参列したのが、ついふた月まえ。
墓場から起き上がって、泥だらけになって我が家に転がり込んできたのが、先月のこと。
気の毒に。
そんな顔色と声色に、言いたいことも言い出しかねて。
挨拶もそこそこに誰も待っていない自分の家に戻ろうとしたのを。
女房や娘を会わせるわけにはいかないが。
そんなふうに、呼び止めて。
内心火がつくほどに欲しがっているはずのものを、
こちらのほうから、差し出してやった。
それからは、週に幾夜となく忍び込んできて。
義理堅いことに、彼のほうから妻子に手を出すということはついぞなかった。
その分貪婪な吸血を、わが身ひとつに引き受けて。
いま横たわるベッドは、そのまま死の床になるのを予感した。
「娘の成長を、見届けたかったな」
「気の毒したね」
「いや、いいんだ」
折川は一瞬口ごもって。すこしためらって。
それでも思ったとおりを口にしていた。
「どのみち誰もが、避けられないんだね」
「ああ、そういうことだ」
「あとに残った女房と娘は・・・お前にまかせるよ」
信じられない・・・と気遣う瞳に、本能的な歓びが満ちるのを見て。
安堵と嫉妬とが入り混じる。
それでも、最愛のものを託するのに、彼以外には考えられなかった。
「家族が、増えるじゃないか」
つとめて明るく振る舞うと。
「そうだね。寂しくなくなるよ」
とりつくろった笑みのなかには、惜別の情が交じっていた。
キョウイチの態度にホッとしたように。
折川は扉の向こうに声をかける。
「お入り。大丈夫だから」

女がふたり、蒼ざめた顔をして。
さぐるような目をして侵入者を見つめる。
折川は親友に、布団の足許をめくるように言った。
ひざから下をぴっちり覆っているのは、女ものの薄い靴下だった。
「娘のやつだよ。存分にしてご覧」
震える唇が彼のひざ下に吸いつけられてゆくのを、
女たちは身を寄せ合い、手を取り合って見守りつづけていた。

けだるい重苦しさに目が覚めると。
重圧を覚えた。
土のなかにいる感覚だった。
両手に力を込めて、上にある木の板を思い切り押し上げると、
布団をとりのけるほどのあっけなさで、目のまえの真っ暗闇が取り除けられる。
すうっと入り込む冷気。広がる夜空が銀色の星をちりばめていた。
膝から下を覆っているのは、娘の靴下。
娘のお気に入りだったダイヤ柄のすき間から、青白い脛が月明かりに照らし出された。
血液はほとんど一滴あまさずに、やつの喉へと抜き取られてしまったらしい。
足はひとりでに、家へと向かっていた。
この刻限。遺された自宅になにが起きているのかを予期していながら。
ほかに、行くあてはなかった。

あぅ・・・
夜露に濡れた庭先の、娘の部屋の窓辺に立つと。
昏い予感は現実になっていた。
こうこうと照らされた室内。
カーテンのすき間からのぞくのは、ネグリジェに包まれた立ち姿。
立ったまま、うなじを侵してくる男の唇に、すべてをゆだねてしまっていた。
あ、あ・・・っ・・・
切れ切れな呻きを悲痛に洩らしながら。
わが身をさいなむ身体的な苦痛よりも
耐えている屈辱の深さを伝えるように。
呻き声は絶え間なく、あどけない唇から洩れつづける。
うう・・・
奪られている。
そんな自覚が、己をさいなんだ。
自分がそうされているときをはるかに越えて。
ごくり。ごくり。
喉のひと鳴りごとに。
娘の身体から摂られてゆく血液の重さ。
胸の奥の辛吟をかみ殺しながら。
下腹部にじんじんと疼く焔を抑えながら。
まがまがしく輝く眼で、いっしんに娘の受難を見つめていた。
ヒルのように貼りついた唇に力をこめて、
娘の血を吸い取ってゆく男の横顔が、
たとえようもないほどの心地よさを滲ませる。
男が去ると、娘は長い髪を振り乱して。
ひとり、ベッドのなかに倒れ臥す。
青いネグリジェを、ロングドレスのようにたなびかせて。
血を抜かれた身体は、蒼ざめるほどに白く、なまなましく。
静寂の戻った部屋、切なげに肩をはずませている。

隣は、妻の部屋だった。
こちらにも、客人を待ちうけるように、灯りがこうこうとともっている。
申し合わされたように開かれたカーテンのすき間から、ふたりのやり取りはつぶさに窺えた。
―――ようこそ。遅いお越しですわね。
冷やかすような口調には、娘への妬心が含まれている。
男は悪びれるふうもなく。
―――お待たせしたね。
そっけなく応えると、かつての親友の妻を我が物顔で抱きすくめ、
むぞうさに口づけを交わしている。
女の子にろくろく気のきいた口さえきけなかった彼とは、別人のような振る舞いだった。
妻は淑やかな喪服姿。
私を弔うためではなく。彼を挑発するための装いだと、すぐに察しがついた。
―――いかが?
女は夫には見せたことのない流し目をして、
漆黒のスカートのすそを軽くひきあげる。
清楚な彩りのはずの黒のストッキングが、脛の白さをひきたてて。
本来の意図を裏切って、淫靡に輝いている。
―――この靴下で。貴方と、夫と。ふたり見送ったのよ。
フフッと笑う様子は、妖婦さながら。
吸血鬼は女の術中にはまるように、足許にかがみ込んで。
清楚な装いに不似合いな、脂ぎった唇をかさねてゆく。
―――ふふ。ふふふ・・・
含み笑いの下。
黒のストッキングはしつようにまさぐられ、くしゃくしゃに堕とされてゆく。
くちゅっ。かりり・・・
―――あ、痛ううっ・・・
女は初めて苦痛を浮かべて、キュッと瞼を瞑っている。
フォーマルウェアに包まれた上体が、ゆらりとベッドに身を沈めるのに、そう時間はかからなかった。

あうっ。おお・・・っ
女のもだえは、日頃なじんだものだけに。
いっそう深く、鼓膜を刺した。
行為のひとつひとつが、男をジンジンと昂ぶらせ、挑発する。
蛇のように男の背中に巻きつけられる腕の白さ。
黒の衣裳からのぞく胸元の、輝くようなコントラスト。
引き破られたストッキングの、ふしだらなたるみ具合。
なによりも、相手を受け容れきった上下動の濃やかさ・・・
それらすべてが狂おしく、男の網膜を極彩色に彩ってゆく。

もう見ていられなかった。
そこには心を許した友も、最愛の妻もいなかった。
あるのはまがまがしいまぐわいと、獣のような情欲と。
男は独り、巷に出る。
まだ更けきっていない夜空の下には、
売笑婦のひとりやふたり、つかまるだろう。
本能にまかせた衝動にゆだねるには、その種の女でじゅうぶんなはずだ。

中休み

2006年05月21日(Sun) 16:28:38

お昼は、サンドイッチとお紅茶。
いかが?
いつものくせで小首をかしげ、お盆に載せたお昼を書斎に持ち届けてくれる妻。
わざとドアを開け放して、そそくさと出て行った。
きちょうめんな妻がドアを開けっ放しにするとき。
そういうときは決まって、何かがある。
「お義母さま、お昼ですよ」
のどかに響く、若い声。
ふすまの向こうから、和装の母が顔を出す。
ちょっとやつれた頬に、びんの毛がひとすじ、まとわりついている。
「なん人、お逢いになられましたの?」
不穏な会話が、始まった。
「まぁ、由貴子さんたら」
はしたないわ、と眉をひそめる母に。
妻は白い頬をきらきらと輝かせて。
「わたし、十人もお相手してしまいました」
恥ずかしそうに、すまなさそうに。
けれどもとても自慢げに、そんなことを口にしている。
後ろに束ねた黒髪ひとすじ乱さずに。
ワンピースにしわひとつ、とどめずに。
そういえば。
ろくろく言葉も交わさずに、そそくさと書斎を去ったのは。
吐く息の乱れを気取られたくなかったのだろう。
そういえば、さすがの彼女もちょっと、肩をかすかにはずませている。
「あら まあ」
母はあきれたように
「若いかたは、うらやましいわね」
そういいながら。
「わたくしも七人、お世話したんですよ」
「まぁ!」
ころころと笑いころげる、女ふたり。
一服したら、まだ戻らなくちゃね。
ちらちらこっちを窺いながら。
ひそひそと自慢話めいたやり取りをしたり。
午後に履いてくストッキングを吟味したり。
魔物は果たして、ふすまの向こうで待つ側だけなのか。
ティーカップ片手に笑い興じる、美しい妖女たち・・・


あとがき
情事のあとはやはり、髪の毛ひとすじ乱さずに現れて欲しいものです。

昏き饗宴

2006年05月21日(Sun) 12:17:00

夜の灯りが消え果てる頃。
名指された女たちは声ひそめつつ、着飾って。
父親や夫にも告げずに、玄関に立つ。
しずしずと現れる、一台の馬車。
小手をかざして御者に合図をすると、スカートやワンピースのすそをつまみあげる。
先客の婦人とも黙礼を交わし合って、
目ざすのは街はずれの古びた邸。
そこに待ち受けるのは、夜を徹した凌辱の宴。

色とりどりのストッキングに染められた脚が、
あるいは連れだって、あるいは単独で。
そろって広間に歩みを進める。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく流れる、異様の調べ。
足許に漂う、淫らな薄闇。
そこかしこに家族、知人を目にしても。
決して言葉を交わすことはない。
お互い、顔を合わせなかった。
此処では、なにも起きなかった。
すべては夜明けとともに秘される。
それがこの夜の暗黙のルール。

現れた黒い影たちに、
婦人たちはひとりひとり手を取られ、
広間の中央へと導かれてゆく。
淫らに甘い調べにあわせて、
衣裳は風にたなびき、その身はすべるように舞う。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく流れる、異様の調べ。
足許に漂う、淫らな薄闇。
かすかな衣擦ればかりをまとわりつかせて、
艶美に重なり合う、ふたつの影。
気づかぬほどに、ひそやかに。
ひと組、またひと組と、
足音忍ばせて、姿を消してゆく。

輪舞に身を任せる淑女たちから隔たって。
舞姫たちを見守る、一陣の群れ。
無心に舞う人影を。
その視界の外から、食い入るように見つめる血走った眼。
身内の女がいかに振る舞うかを、そぶりひとつ洩らすまいとするように。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく流れる、異様の調べ。
足許に漂う、淫らな薄闇。
踊り手がひと組姿を消すたびに。
沈黙の群れもまたひとり、影を消してゆく。

広間にとどまるのは、少数の女たちとその相い方。
離れて彼らを見つめる、ほぼ同数の影。
人影が減るほどに、張りつめた空気は昂ぶりを帯びて。
その昂ぶりが、クライマックスに達すると。
にわかにひと声、悲鳴があがる。
それを合図にするように。
手当たり次第の凌辱が、盛装した淑女たちに襲いかかる。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく流れる、異様の調べ。
すべてを隠す、淫らな薄闇。
視界の外に立ちすくむ影は、
己ひとりのものであるはずのものが
放恣に身を開き悦楽にむせぶ姿を目の当たりにする。

真っ暗闇の廊下をひとつ隔てて、
ホールの調べも、悲鳴交じりの乱倫も届かない小部屋。
ロココ様式の典雅なたたずまい。
かすかな灯りにきらめく、姿見。金時計。
扉を開くまでもなく。
ガラス戸を通して、なかの様子は手に取るように窺える。
調べは絶えてもいましばし、
薄闇の輪舞は続いている。
口許を軽く、引き締めて。
向かい合う相い方をひたと見つめる、黒い瞳。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく続く、妖艶のステップ。
足許に漂う、淫らな薄闇。
声もなく、音を忍ばせて。
対決するかのごとく、まなじりを吊りあげて。
にらみ合い、火花を散らし合う、瞳と瞳。
窓の外の影は息を呑み息を潜めて。
猿臂に巻かれてゆく最愛のものの影を見つめつづける。

踊り手たちは動きを止めると。
女はおとがいを仰のけ、男は胸元に顔を埋める。
白一色の衣裳にほとばしる、深紅の輝き。
ああ・・・
絶え入るような、甘美の呻き。
かすかに洩れる、喜悦の唸り。
熱っぽく入り乱れせめぎ合う、押し殺された吐息。
ぴったりとひとつに重なった影は、
そのままひと息に、冷えた床に身をまろばせる。
すべては一瞬のこと。
頭上には、昏くきらめくシャンデリア。
途切れることなく洩れる、妖しい息遣い。
狂気を蔽う、淫らな薄闇。
淫靡な舞踏にもつれる脚は、
薄明かりのなか、ストッキングの光沢を毒々しく滲ませている。
オオ・・・
喉の奥から絞りだすような随喜が洩れると。
窓の外の影はひとしきり、自らを慰めるがごとく身震いをして。
今や酣(たけなわ)の宴に、声忍ばせて、昂ぶりを抑えつづける。


あとがき
密かに招かれる貴婦人。
招待を知らされて、あとを尾ける父親や夫たち。
広間に立ち入る許しと引き換えに、
手だしやさまたげは一切認められない。
招かれた淑女たちのあるものは輪姦に。
あるものは特定のものの慰めに。
盛装に包んだ貞操を蹂躙されてゆく。
あまり深い意味のないお話ですね・・・

凌辱アルバム

2006年05月20日(Sat) 09:37:09

部屋を支配する薄闇を、たった一条の灯りが斜めによぎっていた。
男は重々しい書物を持ち出して、私の側に向けて扉を開いた。
大判のアルバムほどの大きさだった。
革装の扉に刻印された文字を、読む遑もないほどに、素早く。
なかの表紙には、
「環境改造計画」
と、ただそれだけ、書かれている。
男は表情を消したまま、つぎの頁をめくった。

そこには大判の写真が一枚。
写されているのは、私と、妻と、娘。
まるで写真館のショーケースに飾れそうなほど、たいそう改まったものだった。
妻と私は、スーツ姿の正装。娘は学校の制服に、白のハイソックス。
この男が、写真家と称して撮ったものだった。
「写真を撮られると魂を吸い取られる、というが」
男は人のよくない親しみを込めて、私ににやりと笑いかける。
「いまのあんたなら、信じるだろうね?」
男にしてはほっそりとした指が、ふたたび頁を繰る。

妻と娘をひとりずつ、全身を写した写真が見開きになっている。
服装は、さっきとおなじ。
背景は、漆黒の闇。
まえの頁とちがうのは、写真の随所に書き入れがしてあること。
首筋。胸元。それに、ふくらはぎ。
赤いペンによる書き入れは、子供の落書きのように、ふたりの姿に挿入されていた。
男は興味なさそうに、つぎの頁を繰った。

「初夜」
と、ただそれだけ、書かれていた。
男は表情を消したまま、次のページをめくる。

アッ、と叫びそうになるのを、かろうじて呑み込んでいた。
写真はやはり、見開き。
左の頁には妻が。右の頁には娘が。
妻はさいきん見かけなくなった黒と白との柄物のプリントワンピースを着ている。
娘は相変わらず、濃紺の制服姿。
ふたりとも衣裳に血を撥ねかして、仰向けにされて。
虚ろな目は、すでに意識を喪っていること示している。
乱れた胸元。
肩先にコサアジュのようにつけられた血痕。
足許の靴下はちりちりに裂かれている。
「さいしょのときのものだ。あんたも生で見るべきだったな」
男は一瞬得意気に笑んで、すぐにその笑みをおさめて、次の頁を繰っていた。

大判の写真のなかで。
妻が、甘苦しく俯いている。
足許に唇を這わせているのは、他ならぬ目のまえの男。
まくれあがったワンピースのすそから覗く太ももには、
ストッキングの伝線が鮮やかなカーブを描いている。
もう一枚。
妻はたたみの上、仰向けに組み敷かれている。
男は柔らかそうなうなじを咥えて。
女の顔色を窺いながら、血を吸い取っていた。
女は眉をひそめ、目鼻をゆがめて。
けれどもそのゆがみのなかにありありと滲む、愉悦の翳。
男はさらに頁を繰った。
娘がおなじような姿勢で、組み敷かれていた。
振り乱された黒髪の向こうに写っているのは、勉強部屋にある椅子の脚。
長いまつ毛のかすかな震えまで伝わってくるような、生々しさが焼きつけられていた。
心地よい眠りにおちたように、うっとりとした寝顔。
白い夏服を、己が血で汚され放題に汚されてしまっているというのに。
なにも気がつかないで、目を瞑っている。
もう一枚。
普通に制服を着て、勉強部屋の椅子に腰かけているところを、横から撮っているのだが。
唯一尋常でないのは、
黒のストッキングを履いたふくらはぎに、男の唇を享けていること。
ちょっと厭わしげに振り返って。
足許を見つめようか、見つめまいかと曖昧に目線を迷わせていた。
「どうやって、撮ったのかね?」
第三者の存在が、どうしても気になった。
「安心したまえ。あくまで私だけの愉しみだ」
愉しみ・・・その言葉に胸の奥をツンと突き刺されるような疼きが走る。
「お互いに、写真の撮りっこをしたのだよ。母娘で、ね」
えっ。
色をなしている私。
血を吸われながら。衣裳を辱められながら。
妻と娘は戯れ心に、相手の受難にカメラを向けたというのだろうか?
私の心の渦を見透かすように。
「どうかね?征服される・・・という気分は」
からかうような口調とは裏腹に。
男の瞳には、深い色あいが漂っている。
さいごの頁が、めくられた。

そこにはまだ、写真は貼られていなかった。
写真のあるべきところにあるのは、軽いデッサンによるカリカチュア。
凌辱される女を描いた戯画だった。
左の頁には妻と。右の頁には娘と。
瓜ふたつに似せて描かれた、二葉の絵。
「剥がして、家に持ち帰りたまえ」
男は命じた。
「代わりに、写真を貼って。あなたの記念品として進呈しよう」
男はぱたりと、アルバムの扉を閉じた。
表紙の金文字が毒々しく、私の胸を染める。
「○○家 夫人・令嬢凌辱計画」
家の名を穢すことを。代々強いられつづけている家系。
狂った血はそんな文字を目の当たりにしてさえも。
ドクドク、ドクドクと、無軌道に脈打つのだった。

リセエンヌ

2006年05月20日(Sat) 06:38:56

好夫さん、いるかしら?
階下に、由貴子さんの声。
時ならぬご入来にどぎまぎとしながらおりてゆくと、
見慣れぬセーラー服の後ろ姿。
妹を連れてきたのだろうか?と思っていると。
あら。
ふり向いたのは、まぎれもない由貴子さん本人だった。

濃紺のセーラーカラーに、白のラインが三本鮮やかに走っている。
胸元を引き締めるのは、ゆったりとした白のネッカチーフ。
軽くウェーブのかかった眺めの黒髪をさらりと肩に流している風情は、ドキドキするほど清純。
楚々たる女学生姿が、なんの違和感もなくマッチしていた。
私の反応に、
くすっ。
と、含み笑いすると。
おかしいかしら?もう似合わないわよね?
小首をかしげて、応えを待っている。
―――そんなことありません。びっくりしました。あんまりお似合いなので。
そう?わたし、綺麗かしら?
―――ええ、眩しいくらいですよ。
由貴子さんは私の応えに満足したように、
ウットリとした目を向けてきて。
おとがいを心もち、前に差し出すようにして。
白い歯をのぞかせて、囁いた。
  コレカラネ。アノ方ノ処ヘ、血ヲ吸ワレニ参リマスノ。
  ゴ一緒シテクダサイマスワヨネ?
えっ。
心のなかで叫びながら。
イヤ、とは言い切れないでいた。

私のためには一度だって、こんな恰好をしてくれなかったのに。
なん年ぶりかで装う女学生姿を、彼に捧げるというのだね?
そんな想いを振り切るように。
  サァ、オ支度ヲ整エテクダサイナ。急イデ急イデ。
もう、こぼれんばかりの笑みをたたえて、背中を押されて。
  あの。
口ごもる横顔に、まだ、なにか・・・?そう問いかけると。
  これ、身に着けていただけませんこと?
差し出されたのは、まだ封の切られていない女もののストッキング。
  黒でしたら、男のかたでもお似合いだと思いますの。

吸いつくようにぴったりと密着してくる薄手のナイロンの感触が、
私のなかからさいごの理性を取り除いてしまっていた。
由貴子さんはなおもイタズラっぽく、容赦なく。
  ハーフパンツにしてくださいね。脚がよく見えるように。
そんな要求さえしてくるのだが。
もはや逆らうことはできなかった。

ほほう。よくお似合いだね、ふたりとも。
吸血鬼はそういって目を細めると。
まず私の足許にひざまずくようにして。
ぬるりとした唇を、這わせてくると。
かりり・・・
ぴちっとした裂け目を容赦なく、黒のストッキングに走らせてゆく。
では、頂戴しようかな。
眩暈をおこしてその場に崩れた私を置き去りに、
由貴子さんの肩に腕をまわしてゆく。
  ア・・・
悩ましげに瞼を閉じて。まつ毛をピリピリと震わせて。
荒々しい腕に巻かれてゆく、フィアンセの女学生姿。
襟首から覗く白い肌を、私の血をあやしたままの牙に侵されて。
きゅうっ・・・
聞きなれているはずの音が、いっそうリアルに鼓膜を刺し貫いていた。
あっ、咬まれちまった。あんなに痛そうに・・・
ノーブルな目鼻だちをゆがめながら、抗いをやめない由貴子さん。
しかしそれはあくまで、表向き。
もう、すっかり愉しみはじめちゃっているのを、悔しそうに見つめているしかない。

きゅうっ・・・きゅうっ・・・きゅうっ・・・
規則正しい吸血の音とともに崩れてゆく女学生姿。
やがて黒ストッキングのひざ小僧を、がくりとじゅうたんに突いてしまう。
ククク・・・
あいつはたちの悪い含み笑いを浮かべながら。
じゅうたんの上、すんなり伸ばされた足許にかがみ込んでゆく。
薄墨色のストッキングを通して透ける白い肌が、いっそうなまめかしく、美味しそうに映る。
ちく生、みすみす目のまえで・・・
心のなかで歯噛みする私のまえで、これ見よがしに舌なめずりをすると。
ちゅるり。
と、いやらしく。
黒ストッキングのふくらはぎに、唇をねばりつけてゆく。
  ぅ・・・
かすかな呻き。顰める眉。しくっとこわばる脚の筋肉。
それらを愉しむように、いとおしむように。
そしてなによりも、かち獲た餌食を誇るように。
やつはにゅるにゅると執拗に、由貴子さんの足許をいたぶりつづけている。


あとがき
なんのオチもないお話です。(笑)
女学校を卒業して、OLさえも卒業してしまっても。
なおかつ中学・高校のころに身につけていた濃紺の制服が似合う人って、いますよね。

その昔、ある雑誌が女優さんにセーラー服を着てもらう、という企画を打ったことがあります。
お名前は忘れましたが、名だたる女優さんたちだったと記憶しています。
もう20代か30前後にもなろうかというかたたちでしたが。
清楚な初々しさにオトナの魅惑が重なって。
とりどりに、えもいわれぬ風情を漂わせていました。

勇姿と嘆声

2006年05月18日(Thu) 21:48:13

後ろの座席に端座している横顔は、
ついさっきまでいつものようにきりりと引き締まっていたはずなのに。
運転席を降りた向こう側、ふたたび外気に横顔をさらした女史は、
うって変わってしずかだった。
そのままオフィスに戻って、ふたりで重役室の扉を開いて。
慌しく資料を整えると。
まっすぐ社長室に向かうはずの足許が、わずかながら揺らめいた。
え?
振り返る目のまえで、女史の顔色は真っ青になっている。

疲れたわ。

フッと洩らした、ただならぬ声色。
激務につぐ激務は、これほどの女(ひと)さえも圧し潰すというのか。
どさり。
わが身を投げ入れるようにソファに腰を落とすと、
行きかけた足取りを180度めぐらした脚がぞんざいに投げ出される。
緊張に包まれたスケジュールに、ほんのすこし逸脱が生じた。

顔を仰のけて。
ひと息ふう・・・っ、とおおきく深呼吸して。
それでもまだ、おさまりきらないものがわだかまっている。
どうしようか。どうしたものか。
想像はひとつ。
しかし今、その手は使えない。
なにしろ、顔色が真っ青なのだ。
そして社長との要談は、あと五分後に迫っている。

あら。
襲ってこないのね?
珍しいわ、と言いたげに。
ぞんざいな言葉遣いだけは、変わらない。
けれどもそれが負け惜しみにみえるほど、
いまの女史は痛々しい。
一時間。いえ、せめて30分もてばいいのに。
そう言いたげな顔つきをみるのは、これが初めてのことだった。
見てはいけないものを見ているのか。
それとも、そこまでの裏をさらけ出してくれているのか。
判断を迷わせる、一瞬。二瞬。

はっとした。
瞬間想い描いたのは、もっと若々しい横顔。
神経質で気位高いその女は、こういうときにいつも呟く。
ストッキング、破ってくださらない?

いつになく。
恐る恐る伸ばした、手。
鋭く尖った爪が本性をあらわにして、
女史の脛に突き立った。
淡い光沢を帯びた肌色のナイロンは、
ぴちちっ・・・
ちいさな音をたてて、はじけてゆく。

瞬間。
ぱしぃん!
脳震盪をおこしかねないほどの衝撃だった。
雷鳴の閃光のように鋭い平手打ちに、横っ面をすっ飛ばされた。

「ばかね。何してんのよ!」
瞬間、いつもの女史が戻っている。
ひらめく怒声も、逆巻く髪も。
そしてなによりも、焔のように燃えたつオーラが、女史そのものだった。
「行くわよ」
ついて来なさい。
いつもと微塵も変わらない、キリッと伸びた上背のある背中が。
蛭田にそう命じている。


あとがき
私にしては珍しいのですが。
帰る道々、思いついたお話です。
男女を問わず。
いつも気丈で勇ましい人が、フッと洩らすため息、弱音。
ときに芸術的といえるほど、人を動かすこともあるのですが。
蛭田のしたことが適切だったかどうか。
どちらにしても、女史は一瞬で復活し、蛭田は例によってつんのめっています。^^;
あ、そうそう。女史。
社長のとこ行く前に、ストッキング履き替えていったほうがいいですよ~。^^

姉妹ならべて

2006年05月18日(Thu) 07:41:26

処女だ。
こっちもだ。
並べて組み敷いているのは、結婚をひかえた美しい姉妹。
姉娘は、気丈にも歯を食いしばって。
妹娘は、痛みに泣きむせびながら。
ことさらメイワクそうにひそめた細い眉に、
あらわになりかかる愉悦を滲ませないようにと、耐えていた。
苦痛と悲しみのそぶりは、視ているものたちへの礼儀作法。
じゃあ交換ね。
黒影どもは無邪気な口調でそういって、
初めての夜にいっそう濃い闇を重ねてゆく。

かちゃり。
ティー・カップを三つ。
姉妹の母の振る舞いに、ふたりの青年は応えもせずに。
じいっと己の婚約者の所作を見つめつづけている。
しぐさ一つさえ、見逃すまいとするように。

召し上がれ。
あの子たちの血ほど、濃くはないですが。
いかが?
うちの娘たちの女ぶり。
身持ちのたしかなことも、おわかりいただけたようですね。
そのへんだけは、親もあずかりしらないことですから。
ちょっと、気がかりだったのですが。
ふたりともこれから、血を吸われてゆくのですよ。さっきみたいに。
もう、処女の血を捧げることはかなわないけれど。
許してやっていただけますね?
これからもあの子たちが、あのひとたちと逢いつづけることを。


あとがき
婚約者の処女喪失を、視ることで愉しもうとする青年たち。
案外、お母さんのかつての情人だったりするのかも?
すべては、謎です・・・

処女の姉妹を並べて犯す。
そんな設定に、どうにもそそられてしまいます。
いけませんね・・・

女ともだち

2006年05月18日(Thu) 07:21:20

悔しい。
こんなかたちで、みすみす若い生命を落とすなんて。
相手のやり口は、卑劣だった。
衣裳を玩び、素肌を侵し、生き血を吸い取ってゆく。
血液を抜き取られてゆく感覚が、なんともいえず無気味でもあり、切なくもある。
じょじょに喪われてゆくにつれ、
身体は抗いを忘れ、ふと油断するとそのままうっとりとしてしまいそうになる。
生命を維持するに必要な血液が喪われた時点で、意識は闇に落ちるはず。
計算ずくで、血を摂っているのか。
身動きできないようにおおいかぶさってくる黒い影は、
彼女の意図をひとつひとつ知り尽くしているかのように、
抗う手足を封じ込んでゆく。

だいぶ、顔色がわるくなってきたようだね。お嬢さん。
口辺に漂う虚ろな笑いとは裏腹に。
影はちょっと哀しげに、そう呟いた。
あのひとを狙ってほしい。
そんな依頼を受けてね。どうか、怨みに思わないでもらいたい。
誰に・・・?
思わず発した問いに、
わかるだろう?
え・・・誰が・・・?
依頼人は、彼女の行動パターンから当日の日程、くせまで知り尽くしたものに違いない。
女?
そう。苦しまないように、堕としてほしいと。
あのひとだ。
長いつきあい。そして、勉強も、仕事も、恋も。
いつも競争相手だった、あの女。
ひどい・・・
憤りが新たになって身じろぎしようとしたが、
影は抜け目なく、女の動きを封じつづけている。
あの女。あんたのことが好きだったみたいだぜ。
え・・・?
おれの依頼主は、見返りに。
もっている血をそっくりおれにくれたのだ。
若いくせに、濃い味だったな。
あんたが赦してくれるなら。
いっしょに蘇えりたい・・・とも言っていたな。
どうする?
しばらくの沈黙のあと。
女は訊いていた。
私、あのひとより美しいかしら?
服は、あのひとのよりもセンスあるかしら?
血も美味しいのかしら?
影は、女をあやすように髪を撫でながら。
ああ、いとしいほどにね。
できればこれきりのご縁にはしたくないものだね。
わかったわ。
せっかくだから、すみずみまで味わって頂戴。
それからひと言、おねだりね。
あの女よりも、美味い・・・
囁きつづけてね。お願い・・・


あとがき
ライバル同士の女は、吸血鬼として蘇えっても。
モノにした男の数を競い合うのでしょうか。
怖・・・。^^;

血を吸われる「女」たち

2006年05月18日(Thu) 07:09:03

「さて。姫君たちのご入来のようだ」
邸の主はひとめぐり、周囲にむらがる黒い影どもを見回すと、
「皆、身許は秘するという約束でお招きしてある。ぞんぶんに愉しむことだな」
愉快そうに、うそぶいた。
パンパンと手を叩くと扉が開いて、
開いた扉の向こうから現れたのは、とりどりの女たち。
女子大生ふうの、ぴちぴちとした感じの若い娘。
四十過ぎの、見るからに上流夫人という風情の女。
それと瓜ふたつの、十代の少女。
身に着ける衣裳は派手すぎず、地味すぎもしない。
色も丈もまちまちなスカートのすそから、
ストッキングに彩った脚線美をさらしてゆく。

女たちは無言のまま、にこやかに黒影どもに近づくと。
じぶんのほうから身を寄せて、笑みさえ浮かべて、
思い思いに牙を埋めてくる男たちに、
素肌を惜しげもなくゆだねていくのだった。

レイジの相手をしたのは、若い娘だった。
密かに憧れている、節子によく似ていただったからだ。
掘りの深い目鼻立ち。楚々とした、ひかえ目なしぐさ。
てっきり本人かと見まごうほどだった。
なによりも、スカイブルーのジャケットに白のワンピースという装いが、節子のお気に入りの服そのものだった。
灰色がかった淡い翳をもつストッキングも、
彼女がよく脚に通し、レイジの目線を惹きつけてきた。

彼の欲求を心得るように、女はうつ伏せに横たわり、
ふくらはぎをなぶられるまま、差し出してゆく。
牙の切っ先にひっかけたストッキングが、
パチパチとちいさな音をたててはじけてしまうと。
もう我慢しきれずに、無理無体に牙を埋め込んでしまっている。

あたりはすっかり、密やかで熱っぽい吐息に満ちている。
ひとしきり女の血を吸い取ると。
・・・?
ふとした直感にかられた。
レイジは女の上体に身をせり上げて、上からのしかかる。
牙を埋め込んだうなじの筋肉は、あきらかに男のものだった。
気づいたね?
似ているわけだった。
節子の弟、ミチヤの顔がそこにあった。

なん人もいるんだよ。このなかに。
女装しているやつ。
でも、ちょっと見にはわからないだろう?
家族の女の身代わりにきているのさ。
襲ってもらいたくない、って思って応じるらしいんだけど。
けっきょくは魅入られちゃって。
ミイラ取りがミイラ、というわけさ。
ボク?
もちろん最初から、姉さんをキミに紹介してあげたくってね。
服を無断で借りてきたのさ。
・・・汚してしまったね?
もう、手遅れだな。
あとは自由解散らしいから。
これからいっしょに、家にお招きしようかな?


あとがき
姉に憧れている顔見知りの吸血鬼のまえに、姉の服を着て現れて。
なり代わって血を与える青年のお話です。
同性同士の吸血って、書きなれていないですね・・・(笑)

若返りの密室 3

2006年05月17日(Wed) 07:25:41

鍵穴を通してみえるのは、
ソファに腰かけた年頃の女性。
母の妹の娘・・・つまり従姉にあたる女(ひと)だった。
将来はボクの花嫁に・・・といわれたそのひとも、
いまは老女の部屋にいる。
ぱらり。ぱらり。
ページをめくる優雅な指先に、
秘密をひとつひとつ、あらわにされるような心地にふるえながら。
セピア色の画集に見入る彼女から、目を離せないでいる。
あくまで無表情な面差しは、手の届かないほど高貴に写った。
気づかないのだろうか?
上品に彩られた足許に、老女が唇を吸いつけ、舌を這わせていることに。
紺のスカートの下に映える、流れるような脚線美。
グレーのストッキングに透ける、ピンク色をしたふくらはぎ。
薄暗がりのなか、辱められて。
やがてくしゃくしゃに波打って、しどけなく裂き散らされてゆく。
ホホ・・・
嘲るような老女の嗤(わら)いに応えるように。
ばら色の液体をコサアジュのように肩先に散らしながら、
ボクの未来の花嫁はゆったりと、笑み返している。
自らのなかに秘めた血潮の若さを誇るように。

若返りの密室 2

2006年05月17日(Wed) 07:19:35

老女に迫られて。
母は壁におしつけられたまま、血を吸い取られていった。
見慣れた水玉模様のワンピースを着たまま悶える姿は、見慣れた母とはちがう女。
きゃっ・・・あううっ。
ひくく呻いて、身をよじって。
それでも力づくでのしかかる着物姿を取り除けることは、とうとうできなかった。
うふふ。ふふ・・・
口許を血に染めながら。
ストッキングを履いたふくらはぎにまで唇を這わされていったとき。
あの絵を見たときとおなじ昂ぶりに、なぜか総身を震わせていた。

あちらへお行き。
老女はボクを追っ払うと、母と二人きりの寝室で。
どんな交わりを遂げたのか、幼いボクにはうかがい知ることができなかった。
ふたたび開かれた扉から逃れるように現れた母は。
まるで別人のように艶然とほほ笑んでいて。
お洋服、汚れちゃったじゃないの。
ワンピースの肩先にばら色の飛沫をきらきらと滲ませながら。
ボクのことを怨ずるように、優しく睨む。
時々お邪魔することにしましょうね。お父さんにはナイショですよ。
いつもの口調に戻った母は、スッと立ち上がると、
ふつつかでした。それではいずれ。
そっけないほどによそよそしく、礼儀正しく挨拶した。
老女のにたにた笑いには、目もくれないで。
日常にもどった主婦の立ち姿とは不似合いに。
ワンピースの下からは、咬み破られたストッキングがちりちりと、
ふしだらな裂け目に、白い肌を滲ませている。

お仕置きよ。あなたにも、女のひとのかっこう、していただくわ。
え?
戸惑うボクに、自分の衣裳一式を差し出して。
しゃらりしゃらりとした、純白のワンピース。
腰周りがすうすうとする、紫のスカート。
脚には母とおそろいの、黒のストッキング。
寄り添うようにぴったりと密着してくる薄いナイロンの肌触りにぞくぞくしながら。
母のパンプスに、そうっと足を差し込んでいた。
アラ。なかなかお似合いよ。
揶揄することもなく。真顔でボクを見つめる母。
黒一色の喪服姿に、背筋を伸ばした立ち姿がしっくりと似合っている。
こんな恰好で、外歩けないよ。
渋るボクを、
夜道ですからね。だいじょうぶですよ。
母はこともなげにドアの向こうへとボクの背中を押していた。

どうかしら?
母の悪戯心に応えるように。
老女はにんまりと笑んでいて。
では、お嬢さんからいただこうかの?
そういうと、ブラウスの肩に手をかけてくる。
くもの巣に捕えられた蝶のように。
着慣れぬ衣裳に妨げられて、あらがうこともままならなくて。
うなじを、胸を。足許を・・・
じわり、じわりと侵されてゆく。
籐椅子に腰をおろして、ボクの受難を見守る母は、
ホホ・・・
心地よげに笑みをたたえて。
どこかで見たセピア色の美女のように、
艶然と、煙草をくゆらしている。

若返りの密室 1

2006年05月17日(Wed) 06:53:45

やらしい写真、いっぱい持っててさ。いくらでも見せてくれるんだ。
口ごもるようにして、こっそり教えてくれた幼馴染み。
乗り気になったボクをみて、なぜかさいごにくすっと笑った。

家の近くに独りで住む老女。
遊びに行くと、夫のものだという昔の写真集を見せてくれるのだという。
ぱらり、ぱらりとページをめくると、
そこにはセピア色をした女たちが、思い思いのポーズを取って。
あるものは上目遣いに、あるものは伏し目がちに。
こちらのほうを窺うような、避けているような。
さまざまな風情で、まだ幼かったボクを巧みに挑発する。
古風な衣裳も、髪型も。
それ以外の、そこはかと漂う雰囲気に魅せられて。
ボクはうっかり、時間の経つのを忘れていた。

愉しいかね?坊や。
老女はこちらを覗き込むようにして。
頬をかすめた息遣いが、奇妙になまなましかった。
この絵を御覧。
指さす絵は、老女じしんにそっくりだった。
そりゃ、そうだよ。昔のあたしなんだよ。これ。
こともなげにそう呟くと。
さりげなくすす・・・っと、足をさし伸ばしてきた。
ナイロン製のストッキングに彩られたふくらはぎが、まるで若い女のように。
びっくりするほど艶めかしく輝いている。
さぁ、御覧。
女はそういうと、大胆にこちらへと身を寄せてきて。
かりり・・・
首のつけ根に走る奇妙な痛みに顔をゆがめたのは、つかの間のこと。
きゅ、きゅう~っ
どんよりとした液体を、そのままの姿勢で、身体の奥から抜き取られていった。

目が覚めたかい?坊や。
目のまえの女は、もはや老女などではない。
臈たけた。
そんな表現がぴったりとくる、絵のような美女。
セピア色の写真よりも数段美しさにまさる面差しに、息をするのも忘れるほどに魅入っていると。
どうしてもらいたいか、わかるね?
頷くボクの首すじに、ふたたび牙を沈めてきた。
あぁ。美味しい・・・
いかにも満ち足りた声色に、ボクも血管をズキズキと疼かせてしまっている。
このうえなにを望みか、ききたいだろう?
若々しく美しい顔とはうらはらに。
女の声はまだ、不似合いにしわがれていた。
声じゃよ、声。
もうすこし、血が入りようなのじゃ。
女はほんとうに渇望するように、天を振り仰ぐ。
これ以上、お前さんからいただくわけには参らぬ。死んでしまうでの。
けれど、妾にはあきらめきれぬ。
お身内の御婦人をおひとかた。
あすじゅうにお連れ願えまいかの?
近しいほど、血の味が似通うでの。
そなたの味とそっくりの血をお持ちの御婦人から、おねだりしてみたいのじゃよ。
ほとび出るような乞いの言葉に、ボクは静かに頷いてしまっている。
母はもう、30を過ぎていますが。
それくらいが、いちばんじゃ。
わが意を得たりとばかりにんまりとする笑みは、うっとりするほど美しかった。


あとがき
なん十年もまえから男たちの目を愉しませてきた古い絵。
セピア色をした彼女たちは、いまどうしているのだろうか?
そんなことをふと思っていると、「魔」が奇妙な話を囁きかけてまいりました。
あり地獄のように。
彼もまた、友だちに老女の館のことを語り誘うのでしょうか。

雑記

2006年05月17日(Wed) 00:13:11

少ないモチーフをふくらませた例について、このところ描いたお話について例をとると。
11日に描いた「地味なスーツの女」。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-269.html
最初に浮んだのは、「処女じゃなくてゴメンね」と、女が相手の吸血鬼に謝るシーン。
つぎに浮んだのは、相手の女性に愛着を覚え始めた吸血鬼が、毎晩女を襲いたい気持ちと裏腹に、「来てはならない」と、ほんとうに女の身を案じるようになるシーン。
それらを描いているうちに。
さいごの女のセリフは、キー叩いているうちにしぜんと湧いてきました。
まるですぐ横で彼女じしんが囁いている錯覚を覚えました。
こんなふうに、生まれてきたキャラクターが作者の意図を離れて自由自在に語るとき。
作者自身も彼や彼女の独白にうっとりと聞き惚れてしまうことがあります。

maria さんから感想を頂戴しましたが、いみじくも第一のシーンに触れてくれていまして。
思い描いたシーンが読者のかたの印象的に残る、というのが、描き手にとってはいちばん嬉しいことなので。
このお話は成功だったのだろうと、勝手に決め込んでいます。^^

12日にあっぷした「血を吸う継母」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-271.html
では、吸血鬼の継母に血を吸い取られてゆく少女の哀しげな表情がまず浮び、
それから次には姉を慕う異母妹が姉に血を吸われてゆく、という展開が浮んできました。
感想をくださった祥子さんは炯眼にも、どちらのシーンにも触れてくださったうえ、
私のなかで前者のインパクトがより深かったことまで見通されておいでです。
このお話は、描きあげたすぐあとには、正直満足感はいまいちだったのです。
もうちょっと、描きこむことができるかな。なんて思ったので。
あとから読み返して、納得するようになりました。
描き手がそれほど気に入りでなかったものが、意外に好評を博することもあるようで、
そういうときはとても勉強になったりします。

短編の愉しみ

2006年05月16日(Tue) 23:47:26

まあそんなわけで、ブログを描きはじめてからは。
うって変わって短編ばかりに徹しています。
もともとがちょっとしたウサ晴らしに始めた部分がありまして。
限られた時間に瞬発力でがががっ、と描くつもりでしたから。
短編というスタイルが気分的にもいちばんぴったりとくるのです。

時間帯としては、なぜか明け方が多いのですが。
まどろみからさめる頃、フッとよぎる情景のひとつふたつ。
それを重ね合わせて、ないしはたったひとつのモチーフで。
そこを際だたせ、浮き彫りにするために。
尾ひれをちょこちょこ、っと、しつこくないていどにつけ加えて。
だいたいこんなものかな・・・と感じると。
やおら起き上がって、キー叩くんです。
こまかいとこや言い回しは叩きながら考えて。
だから背景の説明とか、長編では必要とされるもろもろのものは一切省略して。
話のスジの特長だけを骨太に浮き上がらせることに集中するようにしています。
細部まで描きこんだ肖像画ではなく、
鼻筋一本で描きあげるカリカチュアみたいなノリで。
すすーといい気分で打ちあがると、頭のなかがスッとします。

吸血鬼のお話ですから、深夜のほうが湧いて出そうな気もするのですが。
真夜中ってくたびれてるんですかね。
夜更かしして考えても考えても、話ひとつ浮ばない、なんてことがよくあります。
煮詰まっちゃうみたいなんです。
むしろ睡眠をとったあとのリセットされきった頭でいるときのほうが、
感性もそれなりに研ぎ澄まされているような気分になりますし、
集中力も出るようです。

そういえば。
このあいだ高校生なら誰でも英語でいちどは習う、高名なアメリカの某短編小説家(どんでん返しのお話が多い)の小説の描き方をなにかで目にしたのですが。
頭の中でお話が組みあがると、一気呵成に描きまくって。
描いたあとはろくろく推敲も書き直しもやらないで、編集者に渡すんだそうです。
ここんとこだけは、私のやり方ちょっと似ているみたいです。
お話の出来不出来はまた、別ですが。^^;;;

ぽしゃった大長編の話

2006年05月16日(Tue) 23:34:25

その昔、いけないお話をこっそりと描きためていたころがありまして。
もちろんブログ開設なんて思いも寄らなかったころのことですが。
どれひとつとして、まともに完結しなかったのです。ーー;
まぁ、落書き気分で、描きたいところだけ描いていた・・・ということもあるのですが。
当時描いていたものは一部いまでも持っているのですが、あっぷの参考にはほとんど使っていません。
ただ、独自の世界観?だけはしっかりと確立されていましたが。(笑)
そのなかのひとつに、こんな話があります。

主人公は都会に住まう19歳の青年。
母はまだ幼いころに吸血鬼に襲われて死に、会社のオーナーをやっていた父も、つい最近亡くしている。
いまは父の後妻と、後妻の産んだ14歳の妹との三人暮らし。
美しい継母はしかし気位が高く、なさぬ仲の主人公を寄せつけないばかりか、なにかにつけて辛く当たる。
そのいっぽうで、亡夫の事業を受けついだ夫の弟とは不倫な関係をつづける毎日。
年頃になって女の衣裳に憧れるようになった主人公は、しばしば継母の衣裳に手を出しては、嫌悪されたりこっぴどい仕打ちを受けたりしているが、
妹のほうはそんな兄の奇行の裏にある実母への思慕を感じ取り、母に隠れて自分のストッキングを貸してやったりする、不思議な関係。
あるとき山奥に迷った主人公は、因習に満ちた村を支配する吸血鬼の老婆に魅入られて、
やがて母や妹までも、淫楽の渦に巻き込んでゆく・・・

みたいなお話だったのですが。
無計画にいい加減に描いているうちに、どんどんツジツマがあわなくなっていったんですね。
(あたりまえですが・・・^^;)
都会と田舎というコントラストを出したかったのと、突然襲われる貴婦人、みたいなモチーフをだいじにしたかったのとで、
吸血の現場を田舎にするつもりだったのですが。
妹娘のキャラをあまりにも優しくか弱げにしたためにカワイソウなだけのお話になりそうになってボツ。
で、こんどは娘にもう少しエキセントリックな色を添えてみて、
  母さんの血も吸わせてあげようよ。
と、逆に兄をどんどん挑発するようなお話にしようとしたのですが。
そうするとこんどは田舎での滞在期間がやたら長くなってしまって、これもボツ。

初めて襲われるシーンはやっぱ重要ですから。
母娘ながら襲われるのか、ひとりずついただくのか。
年の順なのか、それともお宝な処女の生き血にさきにありつけるようにしたほうが興を添えられるのか
・・・などと、しょうもない想像をしてウンウンと推敲しているうちに。
やがて埋没の運命に・・・(苦笑)
骨組みとしては面白い気がしているので、どこかで復活させる?かもしれないですが。
今んところはあくまでも、埋没した幻の大長編、ということで。^^

それにしてもこのころの吸血鬼、しわくちゃの婆ちゃんなんですな。
かなり下品で、うす汚れた一張羅の着物姿で、
都会育ちの貴婦人たちを、欲情もあらわに襲い、ねじ伏せてゆくんです。
いまよりいちだんと、ダークなイメージですな。

がり勉の少女

2006年05月16日(Tue) 07:59:43

お茶はいかが?
そういって、お母さんは入ってきたのだが。
湯気のたった紅茶を口にするのは、娘のほうだけである。
なぜなら、家庭教師は吸血鬼だったから。
「ティー・ブレイク」を頂戴するのは、お母さんの身体から・・・だった。
お母さんは、壁ぎわにへばりつくようになって。
きゃっ。
ひと声あげるともう、短めのワンピースから覗く太ももを侵されてしまっている。
ちぅちぅ・・・ちぅちぅ・・・
むしんに続く吸血の音をよそに、娘はひとり、なに食わぬ顔をしてティーカップを口にした。

ちょっぴり息をはずませて。
ストッキングの伝線を気にしながら、お母さんはそろそろと立ち上がる。
かろうじてパンティ部まででせき止められていたけれど。
びちーっと広がった裂け目は、はた目にも鮮やかで。
薄黒いナイロンの靴下をよりいっそう色っぽくきわだたせている。

赤い縁のメガネをかけた娘はそんな眺めにも関心がないようで。
なにごとも起こらなかったかのように、ふたたび勉強机にむかっていた。
かちゃかちゃと響く茶わんの音が遠ざかると。
娘ははじめて、口を開いた。
女のひとの靴下がお好きなの?
見てのとおりだよ。
わたしのハイソックスじゃ、子供っぽいかしら?
さしのべられるふくらはぎのたっぷりとした肉づきが、真っ白なハイソックスに包まれている。
鮮やかに流れる太めのリブが、ツヤツヤと輝いていた。
なかなかいい眺めだね。
吸血鬼が囁くと。
ちょっとだけだよ。
と、いいかけて。あわててつけ加えるように、言い直した。
ハイソックスが真っ赤になるまで、かまわないわよ。
じゃ・・・あたし、勉強がんばるから・・・

ふたたびカリカリと鉛筆の音を立てて。
無表情に参考書に向き合う少女。
濃紺のプリーツスカートの長い裳裾をかいくぐるように。
吸い始めたふくらはぎ。
しつように嬲るうち、きちんとひざ下まで引き上げられていたハイソックスはみるみるよじれていったけれど。
それでも少女はいっしんに、参考書に目を落としている。
かりり・・・きゅうっ。
その瞬間だけ、息を呑んでいた。
ちぅちぅ・・・ちぅちぅ・・・
母のうえにおおいかぶさったのとまったく同じ音が絶え間なく、足許から洩れてきた。

始まった吸血にもめげずに、少女はなおも鉛筆を走らせていたけれど。
夕闇が迫るころ。
灯りをつける手はついに伸びないままに。
机のまえの人影はじょじょに傾きうつむいていって。
やがてがくりと姿勢を崩し、畳のうえに寝そべってゆく。
まだ、真っ赤にはならないね・・・
耳もとで囁くと。
もぅ。
少女は口を尖らせながら。
それでも男の嬲るまま。
通学用のハイソックスを愉しませてしまっていた。

はじめて・・・

2006年05月16日(Tue) 07:03:37

「いまからそっち、行きます」
えっ・・・?
オレはひどくうろたえてしまった。
潔癖な彼女は、オレのような種族をひどく嫌っていたはずだったから。
「オレは、変態だぜ?」
「・・・わかってます」
だいたいどんな変態だか、見当ついていますから、とまで、彼女は言った。
思いもしなかった言葉が、口をついて出た。
「遠山さん、処女なんだろ?」
「・・・」
さすがに一瞬、口ごもっていた。
もうそれなりの年齢である女性に対して、失礼な質問ですらあった。
それでもすぐに、
「・・・処女です」
きっぱりとした声が、かえってきた。

せめてものことと部屋を片づけていると、
予期しないほど早くに、インターホンが鳴った。
ドアの向こうには、息を弾ませている遠山がいた。
  そんなに血を吸われたくって、ウズウズしていたのかね?
ふだんのオレなら、そんなふうに女をからかったはずである。
なのに、なぜか黙って女を迎え入れていた。
いつもTシャツにジーンズの彼女が、珍しくスカートを履いていた。
珍しい、どころか。初めてだったかもしれない。
  学生時代のやつじゃないのかね?
まさしくそんなかんじの、チェック柄のプリーツスカート。
丈も長めでひざまで隠れるスカートの下には、黒のストッキングまで履いている。
オレ好みの、肌の透き通ってみえるやつだった。
いかにも履きなれないようにみえたのは。
男の子とかわりないくらいにいつもキビキビと振る舞っている彼女に、
女らしい服装がうまく重ならなかったせいだろうか。

「・・・血を吸うんですよね?」
単刀直入に、ずばりと訊いてくる彼女。
イデタチこそいつもと違っていたけれど。
こんなところは本当に、遠山らしかった。
ああ、と軽く応えてしまってから、初めて女の顔をまともに見つめた。
しんけんなまなざしが、上目遣いにじいっと注がれてくる。
いいの?
ええ・・・
咬みつかれる・・・と予想したのだろう。
キュッと瞑った瞼が、わずかに震えを帯びている。
オレもそうするつもりだったのに。
なぜだろう。
弓恵・・・と呟いて。
しっかりと女を抱きとめて、唇を重ね合わせていた。
せつじつに応えてくる唇に、髪を撫で、いっそう身を慕わせて。
そういえば。
彼女のことを名前で呼ぶのは、初めてのことだった。

身内のつどい

2006年05月15日(Mon) 08:03:39

誰それの奥さんが、ストッキングを破らせたらしい。
どこそこの女房も、スリップを濡らしたそうだ。
あいつも、奥さんのスカートのすそ、やつに握らせちゃったみたいだぜ?
ほほぅ。若いのに、やるねぇ。彼も。

身内で集まると、いつも決まって洩れてくる、他愛のないうわさ話。
どの顔も、さすがにはた目に見苦しいほどではないまでも。
ちょっとだけ、好色げな艶を滲ませている。
うわさにあがる男女はみな、身内や知人ばかりだった。
それがかえって、一座のなかに妖しい親近感を高めてゆく。
幸か不幸か。
うちの家系は吸血鬼に気に入られているらしい。

あんたのところは、だいじょうぶかね?
誰かにそう、水を向けられて。
従弟は白い歯をみせて笑った。
  なに。知らないのか?下の息子はやつの胤だよ。
  えっ。
  上の娘の血を吸いたがって、往生しているのさ。お宅の息子さんにどうかね?うちの娘・・・
従弟の話相手はうかつにも、自分の女房が毒牙を愉しみはじめていることに、まだ気がついていないらしい。

そそくさと立ち去る男に哀れみ混じりの笑いを浮かべた従弟は、
  きみのところも、気をつけろよ。
そんなふうに、私にまで忠告してくるのだけれど。
知らないはずはないだろう?
きみだって、やつが家内をまた貸しするときに。
いの一番に手を上げたそうじゃないか。
  そんなこともあったよな・・・
従弟は苦笑いをしながらも。
心配なのは、息子さんのほうだけど。
後ろを振り向くと、うなじに引っかき傷を浮かべた息子。
  こんど、ボクのフィアンセを、おじさんのお邸にお連れするんです。
  たったいま、お約束してきたんですよ。
息子の後ろに控えているのは、白い頬を初々しく輝かせたお嬢さん。
いいのかい、お前・・・?
わかっていますよ。
さすがに恥らうような笑みを浮かべて、息子が後ろを振り返ると。
なにもかも見透かすような笑みをたたえながら。
お嬢さんは悪戯っぽく、小首をかしげている。

逢瀬それぞれ

2006年05月15日(Mon) 07:42:14

早く見つかるといいわね。あなたの餌になってくれる人。
おれの血を吸い取ったその女は、ちょっとずる賢そうな顔をして。
肩をすくめてくすり、と笑っていた。

家族や知り合いを襲ってもいいのよ。
いっそそのほうがやりやすい、って言う人もいるわ。
なにか見透かすような目色をしてそんなふうにそそのかしてくる女に、反撥を覚えながらも。
墓場から抜け出して。
心当たりのある若い女といえば、妻以外の女は思いつかなかった。
足音を忍ばせて家路をだとり、いよいよ・・・と窓からなかを覗き込むと。
予期してはいたものの・・・
夫婦のベッドのうえ、妻は喪服をはだけて、白い肌をべつの男に見せびらかしていたのだった。

妻を犯しているユウイチは、名うての女殺し。
おれが生きているときにも冗談ごかしで
  こんど、奥さんを抱かせてくれよ。
しきりに戯れかけてくるその目は、ひどく真剣だったのだ。
こんなふうにしてよみがえることなど頭になかったおれは、
  おれが死んだら妻を犯してもいいんだぜ?
そんなふうにうそぶいていたのだが。
早すぎる。
おれが墓場に入ってから、まだ一週間と経っていなかった。
夜道を引き返したおれは、迷わずやつの家へと足を向けていた。

堂々とインターホンを鳴らして。
でてきた女はおれを見ても驚くふうもなく迎え入れて、
薄暗く照明を落とした寝室に、先に立って案内して。
ネグリジェをはだけて、うなじをあらわにしていった。
初めて咬みついたとき。
さすがにちょっとだけ、身じろぎしたけれど。
なぜか怯えるふうもなく、おれの欲求に応えていった。

朝方人目を忍ぶようにして、家に戻ってきた人影に。
  お疲れさん。人の女房の味はいかがかな?
ユウイチは目を丸くしていたけれど。
おあいこというわけか。
そう、察すると、すぐに。
  なかなかのお味だったよ。ご馳走さま。
そんなふうに、笑み返してきたものだった。

妻はおれに血を吸わせると、手際よく傷口のあとをぬぐい取って。
身づくろいをすませ、おめかしをして。
まるでファッションモデルを気取るように、くるりとひと回りして。
  どう?
にっこりと、ほほ笑みかける。
きれいだよ。
わたしも笑って、そう応えてやる。
  あの人と、お約束なの。
その身を情事に染めるため、今夜も喪服に身を彩って。
  しっかり、挑発してくるからね。あなたもうまくおやりになってね。
軽い含み笑いを残して、家を出る。

やつの家に着いたのは、ちょっと早かった。
  主人からききましたわ。女もののストッキングがお好きなんですって?
妻から聞き出した手のうちを、やつは自分の女房にまで伝えていたらしい。
奥さんの足許を彩るストッキングが、これ見よがしなほどにつややかな光沢を放っていた。
  さいきん女房のやつ、ストッキングに凝りはじめてね。
  青とか紫とか、妙な色のを穿くんだよ。誰かさんの入れ知恵かね?
やつもそんなことをうそぶきながら。
自分の女房と、おれとを見比べて、にやにやとしている。
  どうせなら、気に入りの服のほうがノルだろう?
  女房の血が役に立つんなら、いつでも誘ってやってよ。
ひとの妻を寝取る男は、自分の妻にも寛大だった。
  たっぷり吸わせてやれよ。
ぽん、と女房の尻を叩くと。
  じゃあ、おれも出かけるかな。お邪魔だろうしね。
そそくさと、腰を浮かしかける。
  また、どこかの奥さんといけない遊びをするのね?
ちょっと怨ずるような上目遣いに、きらきらとした好奇の輝きをみとめると。
  そう、友だちの奥さんを、犯しにいくのさ。
おれのほうをみて、にんまりと人のわるい笑みを残して、
  ごゆっくり・・・
いそいそと出てゆくようすが、どことなくねたましかった。


あとがき
人間のレディキラーと吸血鬼とのあいだの夫婦交換の情景です。
どちらがトクをするのか?なんて、下司の勘繰りですよねぇ・・・^^

夜明けの幻影

2006年05月15日(Mon) 06:03:45

真夜中に招いた乙女がウットリとした目つきをして、褥を抜け出してゆく。
真っ赤なもので、ネグリジェの肩先と、そして太もものつけ根のあたりとを光らせながら。

しばしのまどろみののちに。
褥の傍らに、フッと人影が立つ。
優しくまろやかな曲線を帯びた人影は、懐かしい声色でこう囁いてくる。
―――また、悪さをなさいましたね・・・本当にいけ好かない人。
言葉の棘とは裏腹に、愉快でたまらなそうな口吻が漂っている。
まるで共犯者のように。
―――わたくしの家系のものが、いまだにお気に入りのご様子ね。
女の影は、満足げな呟きを残して。
音も立てずに、すうっと消えていなくなる。

かちゃり。
寝室の扉が開いた。
扉の向こうには、古風な白のドレスをまとった女。
音もなく、ススッと忍び寄り、褥のまえに跪く。
―――お目覚めでございますか?今朝は、私めがお供を・・・
お久しぶりですわね。囁きかける声が、いともゆったりと。
この女との逢瀬がつい先週であったかのような、心地よい錯覚。
顔を洗い、髭を整える。
女は悪戯っぽく笑みながら、私のうなじのあたりにすうっと、剃刀をあててゆく。
―――貴方の剃刀はもっと、切れ味がよろしゅうございましたね。
タオルで拭った面前には、女の面影はもうよぎらない。

たったひとりのために用意された朝食。
こじんまりとした広間では、どれほどの女が私の主催する饗宴に酔い痴れてきたことか。
そんな名残りさえとどめぬほどに、塵ひとつなく清められていたけれど。
そこかしこに漂う私だけの記憶は、目につかないほどのほんの小さなシミを目にしてさえも、
あの兇事たちが真実であったことをありありと蘇えらせてくれる。
―――お待ち申し上げておりました。朝餉のお供はぜひ私めが・・・と思っておりましたの。
丁寧に、つつましやかにお辞儀をするのは、奥ゆかしい和服姿。
襟足にほんの少し滲ませた、紅いもの。
ほんのささやかな名残りのかげに、どれほどの血潮をたんのうしたことだったろう?
―――はしたないことを申し上げるようですが。
女が遠慮がちに口をひらく。
―――夕べのお嬢様とは、ずいぶんとお愉しみになったようでございますね。
小うるさい女だ、と。
心地よいほどの皮肉を含ませた女の声色を苦笑いで受け流す。
―――あぁ、わたくしにもあの方ほどの血がありましたら・・・
諧謔味さえ交えていた女の語尾は、ちょっとだけ寂しげに震えていた。

なぜかひとりずつ出没する女たちの影。
女どうしが顔をあわせることは、ほとんどない。
  私だけが主役。そうじゃなくて?
みんな、みんな、身体じゅうの血を抜かれてゆきながら。
そんなふうに私を軽く睨んで。
いまは亡い懐かしい女(ひと)たちの幻影は、きょうも私の目線を和ませる。
忘れないでね、と言いたげに・・・

え~~~(もじもじ。)^^;

2006年05月14日(Sun) 22:12:16

やってみたら、うまくいきませんでした。^^;
んで、元に戻してみた・・・つもりなのですが。
だいじょ~ぶでしょうか?^^;;;
ここのサイト、お話はアブナイんですけど。^^
アブナイのはお話だけで。
テンプレのほうは美しさを追求したいな・・・って思ってます。
とりあえずは、カレンダーを出して、左端のてっぺんにプロフをもってきたい・・・(笑)

ちょいとひと呼吸おきまして

2006年05月14日(Sun) 21:36:24

テンプレートをいじくって、カレンダーを出してみました。
このてんぷれなかなか素敵なんだけど、あまりいうことを聞いてくれません。^^;
うまく見えますか~?

起き上がれずに・・・

2006年05月12日(Fri) 11:58:23

脚に通しているのは、母がいつも身に着けている黒のストッキング。
そのままの姿勢でつい、寝入ってしまっていた。
気がつくと。
窓を開け放ったままの庭先は、昼下がりから一転昏くなりかけている。
ふくらはぎに。太ももに。
いつの間にか、ぬらぬらとしたものが染みとおっている。
細く鋭い裂け目を滲ませて。
まだ目が覚めやらぬのか。
身体じゅうにじぃんと滲む、鈍いだるさ。
「○○、いるの?」
私を呼ぶ、母の声。
廊下の足音が部屋をさして近づいてくるというのに。
ついにそのまま、起き上がれずに。
足音の主を迎え入れてしまっている。
注がれた視線がみるみる尖るのを感じながら。
それでも予期した嘲りは、ついに耳に届かない。
  アラ、マア。仕方ノナイ子ネ・・・
トーンを落とした声色でそう呟くと。
そのまま部屋をあとにしていた。

階下の部屋の異様な静けさに誘われて。
そろそろと起き上がると。
ストッキングを穿いたまま、居間へと足音を忍ばせる。
夕食のしたくは、まだらしい。
奥まった一角にあるリビングからは。
ちぅちぅ・・・きぅきぅ・・・
人をくったような、妖しげな音。
こんどは母が、起き上がれずにいるようだ。
二重まぶたを悩ましげに伏せながら。
足許にとりつく黒影を見やる母。
  モウ、仕方ノナイ方ネ・・・
どこかで聞いたことのあるため息交じりの声色に、淡い愉悦を滲ませて。
薄墨色に染まった、黒ストッキングのふくらはぎ。
吸いつけられた唇の下、滲むように広がってゆく白い筋に、ウットリと見入ってしまっている。

忘れ形見

2006年05月12日(Fri) 11:14:24

学校からの、帰り道。
チラチラ後ろを振り返るたび、見え隠れしながらついてくる黒い影。
美奈は苦笑しながらも。
「見ないで見ないで!」
いっしょに歩いている友だちを邪慳に小突いている。
小突かれた友だちも、きゃっきゃとはしゃぎながら。
どんなふうに血を吸われるの?
なんて、かわいい口もとから怖ろしい言葉を口走っている。
行き帰りの護衛を一方的に引き受ける、黒衣の男。
姉の恋人の父親でもある彼をみると。
声かけてきた不良少年たちも、青くなって逃げ出した。
親切な近所のおじさん。
けれどもすこし違うのは、
姉さんの彼氏ともどもに、親子ながら吸血鬼だということだった。

家が近くなったころ。
「いいのよ。出てきてちょうだい」
美奈の声に応えるように。
黒い影は、少女たちの傍らに音もなく寄り添ってくる。
いつもは友だちと別れてからそうするのだが。
どうやら美奈は友だちに、血を吸われるところを見せたがっているようだった。
「あ この子は咬んじゃダメよ。血を吸われるのは、私だけ」
親しいおじさんに接するように、どこまでもゆったりほほ笑んで。
長く伸ばした黒髪をサッと肩の後ろに追いやっていた。
男の尖った顎が、思い切りよく仰のけたうなじを侵すのを。
友だちはドキドキ胸はずませて見守っている・・・

「帰り、遅かったじゃないの」
母は気遣わしそうに、娘の様子を窺った。
ちょっと卑屈な感じがいとわしくって。
執拗な視線をふり払うように
「見て見て。また咬まれちゃった」
白いハイソックスには、赤黒い血が滲んでいた。
まぁ・・・
もってのほか・・・と言わんばかりの咎める目をはね返して。
「あら。姉さんが襲われるのは、いいんでしょ?」
そんな生意気を口にしていた。

13才の生き血が、身体のすみずみに心地よくはずんでいる。
このごろ娘らしくなってきたぶん、よけいに味がよくなってきた。
吸血鬼はにんまりとほくそ笑みながら。
なおも路傍に佇んでいた。
向こうからやってくるのは、高校の制服に身を包んだひと組の男女。
女の子のスカートからは、黒のストッキングに透けた脛がつやつやとジューシイに輝いていた。
「父さん?」
日焼けした少年の顔が、ぱっとはじけた。
「千絵ちゃん、まだ来ないの?」
息子の問いに応えるかわり、見せびらかしたハンカチはかすかなばら色を含んでいる。
ハンカチに滲んだ妹の血を見つめながら、真央はちょっとだけ心配そうに
「まだ小さいんだから、あんまり沢山吸っちゃダメですよ」
まるで大人のようにたしなめてくるのを苦笑して受け流しながら。
「ちょっとだけ、真央さんをお借りするよ」
近しい女性をゆだねてくれる夫たち恋人たちには、分け隔てなく礼節を尽くす彼だった。

困ったね・・・
苦笑いを浮かべながら。
父にだけは、真央を許してしまっている。
真央の母親は、かつて父がただひとり愛した女性。
すでに亡いひとの面影を娘に重ね合わせているのだと、
父親はひと言も告げなかったけれど。
喉の渇いているときは誘っていいんだよ。
じぶんのほうから、許していた。

「ユキエちゃんかサオリちゃん、招ぼうか?」
真央がいう。
真央がシュウイチの家から学校に通うようになっても。
真央のふたりの友だちは、恐れ気もなく家に遊びに来ていて、
じゃれ合うような遊び相手になっている。
シュウイチや父親を相手に、時には処女の血を吸わせてくれる、とてもありがたい存在。
けれども真央のいないところでは、決してふたりに近づこうとしないシュウイチだった。
「いいよ。家で待ってる」
シュウイチはこのごろいちだんとしっとりと大人びてきた恋人のことを眩しげに見つめると、
サッと身を翻して、家をさして駈け去っていった。

木立ちがさやさやと、真央の頭上で居心地よさそうに葉を鳴らしている。
息子の婚約者におおいかぶさっている黒い影は、
ひそやかな音をちゅうちゅうとたて続けている。
目のまえを過ぎった横顔に、悩ましい翳を認めて、
青年のように心ときめかせる瞬間。
甘い追憶がありありと、目のまえにあざやかに浮かび上がってきた。

初めてあの女(ひと)を襲ったとき。
邪悪な意図による依頼のままに振る舞ったのだが。
つぎの日招び出されたそのひとは。
なんの隔意もない笑みをたたえて。
  喉が渇いていらっしゃるの?お気の毒ですね。わたしの血でよろしければ・・・
そういって。
純白のブラウスに蔽われた胸を、みずから開いてくれていた。
夕べ注ぎ込んだ毒液のせいだ。きっとそうに決まっている。
人の情などいっさい信じなくなったかたくなな心が、いつまでもぶつぶつと呟きつづけていたのだが。
そんな思いを断ち切るように。
  ふたつだけお願い。夫を悲しませたくないので。
  みなまで吸うのと・・・操に手をかけることだけは。
  どうぞ見逃してくださいな。
信じきった人の言葉のつよさに押されるように。
聞き届けるはずのないことに、強く頷きかえしてしまっていた。
遠からず、このひとは生命が尽きる。
血潮に澱んだ危険な芳香は、女に死病が宿っていることを告げていた。
かぎりある生命に彩りを添えるために。
べつのロマンスを求める女。
すでにあるものを大切に守ろうとする女。
この世にはふた通りの女がいるのだと。彼は初めてさとっていた。

いけない。もういい刻限だな。
すこし、吸いすぎたようだな。
組み敷いた娘はせいせいと、いつもよりちょっと苦しげに息をはずませている。
真央を、不幸にしないでくださいね。
消え際に幻がそう願ったことを。男はたしかに耳にしている。


あとがき
前作「義母に縛られて」の続編です。
かつて恋した人妻の忘れ形見は、息子の恋人になっていて。
大人びるほど似てくる面差しに、ふと心を迷わせかけて。
それでも現われたかつての恋人の幻影は、
娘と瓜ふたつの、昔ながらの優しい面差しをしながらも
娘を不幸にしないで。
その声にはっと我にかえって。
妖しく迷いかける心を、かろうじて収めてゆく・・・
息子の婚約者への危ない感傷を描いてみました。^^

血を吸う継母

2006年05月12日(Fri) 10:25:04

許して、お継母さま・・・
激しい悶えにあわせて、純白のシーツがうねるように波立った。
ベッドのうえ、結華は継母の意図を止めようと、必死に抗っていたのだが。
やがて抵抗は力を喪って、
あぁ・・・っ。
絶望に満ちた呻きをひと声洩らすと。
無気味な静寂を時折切り裂くのは、
ずずっ・・・じゅるうっ。
汚らしいほどの、むざんな吸血の音。

なんてまずい血なんだろ。
あんたの母親とおなじくらい、まずいんだね・・・
いつも美しく、上品な継母。
しかし二人きりになるとうって変わって面相を歪めて、
身体の自由を奪い、うなじに牙を突き立ててくる。
もういく度となく、血を吸われて。
終末が近いことさえ予感しながらも。
もうどうすることもできない空虚な無力感が結華を支配し始めていた。

父が亡くなるまでは、継母もおおっぴらに結華を手ごめにすることはなかったけれど。
継母と、継母の生んだ妹と。三人きり取り残されると。
弔いの帰りの喪服を脱ぐまでもなく、結華は自室で襲われていた。
  お前の母親をあの世に送ったのは私じゃない。病魔だ。
  それがとっても、残念だ。
  せめてお前だけでも、私の手であの世に送り届けてあげる。
露骨な憎悪をむき出しに、夜な夜な寝室で襲われつづけるようになっていた。
助けて。生命だけは助けて。血が欲しいのでしたら、差し上げます。これからはあなたの娘ですから。
そんな哀願などには耳も貸さないで。
ひたすら死なせることを目的に、皮膚を侵してくる牙は刺々しく少女を苛んでいた。

時折血潮の暖かさに心を和ませて。
気紛れな優しさを発揮することもあった。
それが本当の継母なのだと、せめてそう思い込もうとしたけれど。
少女の血潮の暖かさが、本当に継母に伝わるよりも。
血液が尽きるほうがさきだった。
妹の由梨は、母違いの姉を慕っていたけれど。
母親の狂態をどうすることもできなくて。
みすみす姉が血を吸い取られてゆくのを見守るほかになかった。
ある日のこと。
お庭にいらっしゃい。
硬い表情でそう告げる継母に従って出てゆこうとした姉を引きとめたけれど。
いいのよ。
結華は寂しく笑って、妹の手を優しく包んで。
額に軽く、接吻をして。
それがお別れだった。
自室にもどった結華は、持っているいちばん良い服に着替えて庭にゆき、
求められるまま、継母の抱擁に身をゆだねていった。
邪悪な腕に抱きすくめられた白いワンピース姿は、みるみるうちに力をなくしていった。
その身に巡る血潮を一滴あまさず母に与えて。
肌を蒼白く輝かせながらついに動かなくなった姉にとりすがって。
由梨はいつまでも、泣きじゃくっていた。

窓から差し込む、真夜中の白い月。
いつもよりも研ぎ澄まされてみえた夜。
由梨は寝室の窓を開け放つ。
庭先にたゆたう、白い影。
見覚えのある衣裳だった。
姉の死に装束となった、雪のように白いワンピース。
由梨は裸足のまま、庭におりている。
ばきっ。
踏んづけた小枝の音に、白い影はびくっとふり向いた。
生前と何らかわらない、懐かしい姿。
姉さま・・・
由梨は思わず駆け寄って、大好きだった姉に抱きついていた。
いいの?
ええ・・・待っていたの。
交わす言葉は、短かった。
白い月影の下。
ふたつの白い影は、溶け合うようにひとつに重なっていた。

日に日にやせ衰えてゆくまな娘を気遣って。
継母は名医に診せようとしたけれど。
由梨は頑なにかぶりを振って。
いつもの控えめなひくい声で。
もうじき母さまとは、お別れね。
きっぱりとした静かな語調に、継母は身をすくませた。
お庭に行くわ。招ばれているの。
そういい置いて。
気に入りの真っ赤な服を着て。
この服よりも、私の血のほうが赤いって。お姉様そう仰るのよ。
蒼白くなった頬は、それでも幸せそうな笑みを浮かべていた。


あとがき
おもったほどうまく描けませんでしたね。^^;
前妻の娘を憎む継母に血を吸われて死んだ姉娘。
そんな姉を慕っていた妹は、吸血鬼となった姉に自らの血を吸わせる・・・
ちょっと同性愛の色を滲ませたお話にしようと思ったのですが・・・
修行が足りません。(笑)
それにしても、昔の少女マンガに出てきそうなストーリーかも・・・ですね。^^

継母(はは)に縛られて

2006年05月12日(Fri) 09:30:53

ブラウス越しに食い込んでくる荒縄が、ぎゅぎゅ・・・っと容赦なく胸を締めつけてくる。
お願い。そんなにきつく縛らないで・・・
真央は哀願するような目で後ろを振り返ろうとしたけれど。
縛りつけることに夢中になっている背後の人影を視界に入れることはできなかった。
あまりにもつよく、縛られてしまっていたので。

さぁ、ここでひと晩、過ごすのよ。
この雑木林にはね。魔物が棲んでいるの。
あなた、ひと晩で血を吸い尽くされてしまうかもよ。
朝になったら、来てあげる。
そのときまであなたが生きていたら、仕方がないわ。赦してあげるから。

少女を縛りつけてしまうと、女はそそくさと立ち去ろうとした。
初々しい目じりに初めて、こらえ切れなくなった涙がじわっと噴きこぼれてきた。
絞りだすような悲痛な声で。少女は女を呼び止めようとした。
お継母さま・・・っ。
女は振り返りもしないで、雑木林をあとにした。

さわさわ。さわさわ。
陽気がよくなったとはいえ。
夜のとばりに閉ざされてゆく雑木林は、冷えた空気に満ちていた。
頭のうえで絶え間ない葉ずれの音が、佇む少女をいっそう寂しさの淵に追いやった。
吸血鬼ではなくても。
不良少年にみつかっても、ただではすまないだろう。
いちどだけ、近くをオートバイが通り過ぎたのだが。
真央は唇をこわばらせて、ひたすら気配を消していた。

がさ・・・
背後で、下草を踏みしめる音がして、
真央はびくっとして、すくみあがった。
とうとう来た・・・
近寄ってきた相手がなにを求めているのかを、直感で察したのだ。
背後の足音はこちら側に回りこんできて、
やがて少女と真向かいになっていた。
闇を透かすようにして相手を見定めようとした少女は、はっとした。
見覚えのある少年が、所在なげにたたずんでいる。
クラスメイトのシュウイチだった。
△○くん・・・?
真央の口から、彼を苗字が洩れた。

シュウイチが吸血鬼だということは、周知の事実。
それゆえに、彼を忌んだり避けたり、あからさまに罵声を浴びせるものさえいたのだけれど。
そんな彼とも、少女はわけへだてなくふつうに接していた。
じぶんと同じように、周囲に遠慮しながら生きていることに感づいていたから。
どうして、縛られている?
さすがに、少女は応えることができなくて。
無意識に、顔をそむけていた。
まずいことを訊いた・・・
そう感じたのだろう。
シュウイチはすぐに言葉を継いだ。
お継母さんだね?こんなことするの。
少年が特別、勘が良かったわけではない。
  雑木林の奥に若い女がひとり、縛りつけられていますの。
  朝まで身動きできないわ。あとはどうぞ、ご自由に・・・
受話器の向こうから作り声で囁きかけてきた女の声には返事もしないで、
黙って受話器をおいて出かけてきたのだ。
けれどもとてもそんなことは、口にすることはできなかった。
目のまえでうちひしがれている少女を、もっと悲しませるだけだから。
おれが、きみの血を吸う。
ひと言、宣言するようにそういうと。
シュウイチは真央の肩をつかんでいた。
少女は彼のことをじいっと見つめ、静かに、そしてはっきりと頷いた。

吸血は、ごくみじかい時間で済んでいた。
すこし呼吸を乱した少年が、口許についた血のりを手の甲でむぞうさに拭うと、
濡れた手の甲をまっ白なハンカチーフがそっと押し包んでいた。
少女をきつく縛めていた縄は、吸血のまえに解かれていたけれど。
逃がれるそぶりひとつみせないで、真央はなじに口をつけてくる少年にわが身をゆだねていた。
朝までいっしょに、いてやるよ。
少年は優しくそういうと、上着を脱いで少女の肩にかけていた。
父も吸血鬼だから。家に連れてくわけにはいかないからね・・・
口辺に滲ませた笑いに諦めと寂しさが滲むのを、
真央は痛々しそうに見守っている。

日がだいぶ高くなってから雑木林にやってきた継母は、
縄を解かれた真央が生きて佇んでいるのをみつけて、ちょっとびっくりしたようだったけれど。
そのまま邪慳に手を引いて、家に連れ帰っていった。

あくる日も。
お仕置きは続いた。
継母は真央を引きずるようにして、雑木林に連れてゆこうとした。
姉さんを許してあげて・・・
下の娘は継母の子だったが、
真央を慕って泣きじゃくりながらついてきた。
ものも言わないで真央を木に縛りつける母親と、
やっぱり無言でうつむき続けている真央とにかわるがわる取りすがってやめさせようとしていたけれど。
年端もいかない少女には、どうすることもできなかった。
継母の足音が娘の泣き声とともに遠ざかると、
待ち構えたように黒い影が現われた。

遠慮がちに立った人影に、ほほ笑みかける余裕がわいていた。
シュウイチくんね?
きのうはよそよそしく苗字で呼んだそのひとのことを、今夜は名前を口にしていた。
  もっと、愉しんでもいいのよ。
真央はそういって、縛られたわが身を見せびらかすようにして。
ちょっぴり肩をそびやかそうとした。
きつい縄目のせいで、思ったようにはふるまえなかったけれど。
せいいっぱい優しい顔で、少年にほほ笑みかけていた。
夕べの吸血が、故意に抑制されたものだと気づいている。
いちど吸血されると、ほかの吸血鬼には襲われることがない。
だから・・・
もっとたちの悪いものたちから少女を守るために、
最小限の血を取っただけなのだと。
  ストッキング、好きなんでしょう?
  母がわたしを連れ出すような気がしたから。
  あなたのために履いてきたの。
  ゆきえちゃんやさおりちゃんが襲われたときだって、
  黒のストッキング、破いていたでしょ?
  優しいあなたがそこまでするんだもの。
  よっぽど、好きなんだろうな、って。
  でもどうして、わたしのことは襲わなかったの?
少年はしばらく口ごもっていたけれど。
襲えなかった・・・
たったひと言、ぽつりと呟いた。
それ以上のことを、いまの少年には口にする勇気はないのだろう。
真央は目をつむって、
さ。どうぞ。ごゆっくり召し上がれ・・・
そういうと、黒のストッキングを履いた脚を半歩、前に差し出した。

おそるおそるあてがわれた唇は、思いのほか熱っぽく吸いついてくる。
ぬるぬるとした唾液に居心地悪い思いをしながらも。
もっと決まり悪そうにしている少年を気遣って。
なにもいわないで許しつづけていた。
身じろぎひとつで、ぱっと離れてしまいそうだったから。
薄手のナイロンに滲む脛の白さに気後れしながら。
ぶきっちょな口づけを重ねてくる少年は、やがて行為に慣れるうち、
いつか大胆に、舌をねばりつけてくるようになっている。
うふふ・・・うふふ・・・
少女はくすぐったそうに笑いを洩らし、
少年はそんな少女に甘えるように、唇を慕わせてゆく。

継母は明け方、迎えに来た。
早い時間になったのは、妹娘が私も行くと言い張ったせいだった。
真央はうっとりとなったまま、木の根元に尻もちをついていた。
スカートの下に伸びたストッキングの裂け目に、
継母は気味がよさそうにほくそ笑み、
妹娘はキュッとまぶたを閉じて見まいとした。
  いい子ね。毎晩こんなふうに縛ってあげる。
  しまいに全部、血を吸い取られておしまいなさい。
  あの女の血を、絶やしてしまいたいのよ。私。
冷酷なひと言ひと言を、真央の胸に刻みつけるように発していた継母は、
突然立ちすくんで、アッと息を呑んだ。
真央の後ろに少年と、その父とを認めたからだ。
継母の目線はいっしんに、父親のほうへと注がれていた。

冷たい笑いを口辺に滲ませて。
シュウイチの父親は継母の前にたちはだかった。
  ずいぶん冷たい女になったものだな。
  亭主も優しい男だっただろうに。
  お前にいわれてこの娘の母親の血を啖らいつづけて。
  母親が亡くなったあと、お前が後がまに入るまでは知っていたが。
  お前だけは冷たくなったのだな。
  まあ。女が冷たくなるのに、理由はいらないのだろうがな。
  お嬢さん、あんたの母さんの血はわたしが申し受けたのだ。
  気の毒だったな。
  あれから十年以上にもなるのに、暖かな血の味が恋しく懐かしい。
  死なすつもりはなかったのだ。これだけは本当だ。
  信じてはもらえまいがね・・・
  この女はそのころから父さんのことを好きだったのだ。
  それで、わたしを語らって。母さんのことを狙わせたのだ。
  喉が渇いていたわたしに、母さんはとても優しく接してくれた。
  癒されたのは喉だけではなくて、心まで癒してくれた。
  けれどももうその時分には、あのひとは死病にとりつかれていたのだ。
  手を尽くしたが、助けてやることはできなかった。
  皮肉なものだな。
  母さんを死なそうとした女のおかげで、
  わたしはあのひととめぐり逢い、恋することができたのだ。
  こんどは息子とあんたの番のようだな。
  あんたは健康そうだから、末永く息子を慰めてもらえるだろうね。

暴きたてられた犯罪に継母は目をそむけていたが、
寄り添う若い男女を背に、そそくさと娘の手を引いて立ち去ろうとした。
吸血鬼の父親は油断なく呼び止めて。
  お前の血は冷たくてまずそうだ。
  そんなものにあまり関心はないのだが。
  妹娘のほうは、いい子のようだな。
  よかろう。
  中学にあがったら、帰り道を送ってあげることにしよう。
  若い娘の身持ちを守ってやるのに、わたしほどの適任者はまずいないだろうからね・・・。


あとがき
下校する少女のガードマンを引き受ける吸血鬼?^^
そっちの話のほうが面白いかも。(笑)

地味なスーツの女

2006年05月11日(Thu) 07:45:29

はじめのうちは、たんなる捕食だった。
勤め帰りのスーツ姿をつかまえて。
壁におしつけて。
無理に仰のけたうなじにがぶり・・・と食いついて。
うら若い女の生き血をぎゅうぎゅうと。
身体じゅうに染み透るくらいに頂戴した。
未婚で、恋人がいるようすもなかったのに。
もう処女ではなかった。
けっ。することだけはしてやがる。
ほのかな香りのなかにかぎつけた不純なものを感じ取って。
ちっ、と舌打ちをする。
血を吸い取った見返りに。
地味なえび茶のスーツのすき間から、淫らな毒液をたっぷりと注ぎ込む。
もう抵抗しようなどという気にならなくなるくらい。

義理堅いことに。
女は毎晩、おなじ夜道を歩いてきた。
おかげで毎晩、あぶれることなく女の生き血を獲ることができた。
若い身体から摂れる血潮は栄養たっぷりだった。
あしたも、ありつくことができるんだろうな?
そんな問いにも、女は無言で頷くばかりだった。
スーツのすそからのぞく脚を、肌色のストッキングもろともいたぶってやったとき。
女は悔しげに眉をひそめて。
それでもオレの不埒な悪戯を咎めようとはしなかった。
王女さまでもなぶり抜いている気分だな。
毎晩、ストッキングを穿いて来い。
いわれるままに女が脚にとおしてくるものは、
破れやすい古いタイプのやつだった。
今夜も他愛なくちりちりに引き裂いてやりながら。
まるで若いころのお袋に逢っているような錯覚が、胸をかすめていた。

女は日に日に顔色をわるくして。
ときには仕事疲れにふらつきながらも、夜の公園を通りかかる。
うずくまるように腰かけるベンチの足許に。
唇をねばりつけ。べろをなすりつけ。
ストッキングの脚をいたぶってゆく。
どこで穿き替えてくるのだろうか、いつも真新しい肌色のストッキングは、
頼りない舌触りとともに、なよなよとよじれていって。
みるかげもなくくしゃくしゃにしわを波打たせていった。
わたし、死んでしまうのね?
女が珍しく、呟いたとき。
知らず知らず、牙を引いてしまっている。
いつのころからか。
来ちゃいけない。オレと逢ってはならない。
女への警告が、閃光のように胸をよぎるようになっていた。
逢えなくなることが、ふたたび寂しい日々が訪れることを意味すると知りながら。

だって、毎晩こなければ。
あなたは飢えて、べつな女のひとを襲うのでしょう?
それは私、がまんならないのよ。
私だけのひとでいてほしくって。
ヘンよね。こんなにヒドイ目に遭わされているというのに。
くもの巣みたいに裂けてしまったストッキングをもてあそびながら。
うつろな声色が、細く震えるように、続いてゆく。
肌を重ね合わせることで、いつか生まれていた想い。
親近感、などというよそよそしいものよりも。
さらにいちだんと豊かで色濃い趣のもの・・・
この女もオレとおなじものをいだき始めていたというのか。
処女だったら、もっとよかったのにね。
見透かすようなことを囁く女を。
オレはいつの間にか固く抱きすくめてしまっている。

真夜中のオフィス

2006年05月11日(Thu) 00:52:46

くっ、た・・・びれ・・・た。
オフィスの時計は、十一時半をさしている。
遠く隔たったむこうの壁には毎週水曜にきまって貼りさだれる掲示。
「きょうは定退日です!プライベートを大切に」
なにがプライベートよ。
まりあは心のなかで、反撥する。
しょせんは経営者と馴れ合いの組合が、体裁つけるためだけに出している、安っぽいスローガン。
うそばっかり。
げんにまりあはこんな遅い時間まで働いている。
スローガンをいいことに。
えらい人ほど早くに帰っていった、夕暮れ時。
部長はもちろん、課長だって、課長補佐だって、とっくの昔に退社して。
いまごろ奥さんとか愛人とか愛人とかと、とっても愉しい時間をすごしているに違いない。
あんなそらぞらしいポスター。
いったい、だれのために貼ったんだろう???

ビルに残っているのは、電子施錠された玄関を守る守衛さんだけ。
そうとわかっているまりあは、フッとほほ笑んで。
口笛を鳴らしてみる。
冷たい音色が誰ひとり聞く人もないオフィスに流れた。
スッと肩をそびやかして。両腕をあげて。
制服のブラウスを、むぞうさに脱ぎ捨てる。
足許の床にぱらりと落ちたブラウスのうえに、
淡いグリーンのスカートが持ち主の腰から離れてゆさりとかぶさっていた。
はずしたブラジャーのストラップを手先で器用にくるくると回しながら。
ショーツをおろしたときのドキドキする感覚は、いつものことながらズキズキとした躍動を身体の裡に伝えてゆく。
だれもいなくなったオフィスでただひとり、まりあが演じるひとり芝居。
一糸まとわぬ姿で。
昂然と胸をそらして。
オフィスの隅から隅までを。
女王さまのようにゆったりと。
エレガントに歩みをすすめる。
部長席から支店長席へ。
支店長席から部長席へ。
昼間は刺々しい空虚な緊張感と、芝居がかった重々しさに支配されている空間。
それらを挑発するように、踏みつけるように。
心地よげな歩みは幾往復も重なってゆく。

ひた。
素足がとまった。
大きく見開かれた瞳は、一点に釘づけになる。
視線の彼方。
半開きになった応接室の扉の奥。
つやつやと輝く素肌は、異形のものを呼び起こしてしまったらしい。

・・・・・・っ!
深夜のオフィスに、吸血鬼が現われる。
誰ともなく口にするようになった、そんなうわさ。
もちろんまりあはそんなこと、これっぽっちも信じていなかった。
まことしやかなお伽噺。
けれどもそんなお伽噺は、いつわりなく目のまえに姿をあらわにしている。

音もなく這い寄って。
がくがくと引きつる足許から、退路を奪って。
拒む手足をたくみにからめ取って。
影はたくみに、OLの豊かな肢体を取り込んでいた。
生き血を一滴のこらず吸い取られて、死んじゃった子だっているらしいぜ。
同僚の男が得意そうに洩らしたうわさが、忽然とよみがえる。
どうして?どうして・・・っ?
まりあがなにをしたっていうの?
まじめにお仕事していただけなのにっ・・・!
身もだえして。泣き伏して。
たったいままで仕事でいっぱいだった頭を、みるみるうちにウェットに濡れそぼらせて。
まりあは無力に、いやいやをくり返すだけ。

わかっている。
影が口を開いていた。
え・・・?
わかっているんだ。
ひとの仕事まで背負い込んで。
こんな時間までひとりでいるのだろう?
ひと刻、一緒に過ごしてくれないか?
一瞬でも、なにもかも忘れさせてやるから。
どうしても厭だったら。
せめて慈善事業だと思ってくれないか?
たぶん、愉しんでもらえるって。ちょっと自信あるんだけどな。

まるで十年もつきあっている友だちのように囁きかける声。
乾いた職場の誰よりも、近しく響く声色に。
まりあはいつか、強く頷いてしまっている。


あとがき
あなたの会社にもありますか?定退デー。
そして、ほんとうに守られていますか? (-_-;)

障子の向こう

2006年05月09日(Tue) 07:44:55

「静世・・・静世・・・!」
離れの父の部屋から、苛立ったように呼ぶ声がした。
「いやですわ、お義父さま。わたしは光代ですよ」
おうように応える、妻の声。
障子一つへだてたなかの様子は、庭先からは定かには窺うことができなかったけれど。
このごろ立ち居振る舞いにもこと欠くようになった父がかんしゃくをおこしかけるのを、妻はかいがいしく付き添ってなだめているのだった。
まるで年端もいかない息子をあやす母親のように。
いや、ほんとうの夫婦のように。
二十年ほども経つのであろうか。
光代と瓜ふたつの面差しをしたそのひとは、父と睦まじく寄り添っていた。
いまの嫁と舅の風景に、そっくり重なり合うように。

静世は父の妾だった。
前夫との間に生まれた光代をつれて、身よりのないままに転がり込んできて。
どんな縁故があったものか、母の反対を押し切って、父は母娘をこの離れに住まわせた。
ただごとならぬ関係だと知れるのに、いくらも時はかからなかった。
古風な女であった母は、父と静世の関係を黙認していたけれど。
内心おだやかでなかったのは、年頃になっていた私の目にも明かだった。
もっとも母子のあいだでそういう話題が出ることは、ついぞなかったのだけれど。
気位の高かった母は、そんな感情を息子に知られるのさえ嫌がっていたから。
父の持った不潔な女関係に対する義憤から、私の母子に対する心証も、決して良いものではなかった。
ある日のことだった。
私は母子の留守をいいことに、離れに忍び込んでいた。
目当ては洗濯場に干してある、静世の下着。
母がついぞ身に着けたことのないような、妖艶なレエスに縁どられた黒の下着は、高校生の私にはたまらなく刺激的だった。
これを身に着けて、父と逢っているのか・・・
はじめのうちこそ、犯罪の証拠品をみるような目であった。
いくほどもなく、それは男としての目に変わっていた。
誰・・・?
咎める声にはっとしたとき、私は義母のスリップを身に着けて、体の周りで嬲るように撫でまわしていたのだった。
股間にわだかまるものをこらえ切れなくなって・・・
立ちすくんでいる女の髪をわしづかみにすると、その場に引きずり倒していた・・・

衝動のままに吹き荒れた嵐が過ぎ去ると。
静世は髪のほつれをつくろいながら、
「なにも、ございませんでした。・・・ですからもう、お帰りになってください。ここにはもう、いらっしゃらないほうがいいですよ」
襟足をちょっと型崩れさせてはいたが。
しゃんと背筋を伸ばして見すえてくる毅然とした姿に、私はなにもいえずに引き返していった。

さいごの言葉だけは、守られることがなかった。
両親や光代がいないときを見計らって。
私はしばしば静世を襲った。
静世は私をどう思っていたのだろう?
父に訴えた形跡は、ついになかった。
禁じられた状況を利用するそぶりさえ、とうとう見せることはなかった。
無言であがりこんでくる私を見ると、あきらめたようにほほ笑んで。
かき抱く腕のなかで、豊かな肢体が熱い肌を合わせてきたのだった。
静世が亡くなったのは、それから二年後のことだった。

悩みに蝕まれていたらしい。そばについていながら、なにもわかってやれなかった。
つれあいを亡くした夫のように嘆く父を、母も私もひややかに見つめていた。
光代は遠い親戚にひきとられ、ふとした縁で再会したのは母が亡くなってからのことだった。
あのころの幼女は、輝くばかりの美少女になっていた。

時折みせる寂しげな翳が、母なるひとを思い出させた。
目に見えないなにかにするするとたぐり寄せられるように契ってしまって。
責任取れよ。
父のいうままに、光代をめとった。
その父も、もはや老境にある。
「いやですわ、お義父さま。私はみ・つ・よ。静世じゃありませんのよ」
小娘のように笑いころげながら。
戯れかかってくる父の手を、さりげなく受け流しているらしい。
想像のなかで、卑猥に震える父の指が、光代の白い太ももを撫でている。
幼な児が乳を求めるような無心さで。
父は光代の手を握りしめ、そして胸の上へとさまよわせてゆく。

どうしたものかしら。
お義父さま、私に触るんですのよ。
光代がけっして父を厭うてはいないことは、言葉の端々から窺えた。
私と犯した過ちを気に病んで寿命を縮めたであろう、光代の母。
想いがよぎるたび、恍惚の域に迷い込みつつある父のことを険しく咎めだてすることは憚られるのだった。
もとより光代はあずかり知らないことではあったけれど。
名前の感じが似ているせいかしら・・・
などと、罪のない横顔は、ふしんそうに呟いていた。

「あら・・・だめですよ。お義父さま。ちょっと・・・」
障子の向こうの声が、にわかに切迫したものを帯びていた。
私はとっさに腰を浮かして、それでも障子を開け放つことをためらった。
裏手にまわった私は、窓ガラス向こうに見える状況に、立ちすくむ。
父は光代を押し倒し、ブラウスを剥いでいたのだった。
あっ、あっ、ああ・・・・っ・・・
不自然に波打つスカートが、奥に差し入れられたまさぐりを映している。
苦しげに目を瞑り、時折身をのけぞらせる光代。
あっ。
再現だった。
少年の日、静世と父のあいだで演じられたものを。
ちょうどいまのこの場所からのぞき込んでいた。
母親と瓜ふたつの面差しが、あのときと寸分たがわずに、
淫らに悩ましい翳を滲ませている。
枯れ果てた顔だちは、別人のように精悍な色を帯びて、
若々しかったころどうように、雄々しく振る舞い始めている。
あっというまに。
光代は蹂躙を受けていた。
下で踏みしだかれながら。
光代はうんうんと唸りながら。
身体いっぱいに、歓びを滲ませて。
あなた・・・あなた・・・あぁ。
母から教わったわけではないはずだ。
それなのに。
夫婦の床でも耳にすることのないことば。
それは、あのときの静世そのままだった。
降りてきた静世の霊魂が、娘に乗り移っているのだろうか?
悶える妻を目の当たりに、私はただ硬直して立ち尽くしている。
なかからわき上がる異様な情念に、ずきずきと蝕まれながら・・・

その夜のことだった。
光代は乱れたままの姿勢で、放恣に手足をひろげていた。
いつになく執拗な求めに戸惑っていた妻は乱れに乱れていた。
余韻はまだ腕に残っている。
夢枕だと、なぜかはっきり自覚していた。
静世が現われたのだった。
ありがとうございます。娘の体を借りてしまいました。
どうしても、さびしくて・・・
もうじきあのひとも、こちら側に来てくださると思うのですが。
それまでしばし、お邪魔さえていただきますわ。よろしいですわね?
そういえば。
貴方が御覧になっていたあの場所で。
お父様、独り愉しんでいらしたのですよ。
親子って、似るものなのかしら。

黒いブーケ

2006年05月08日(Mon) 08:02:26

披露宴がはねたあとも、新婦は喜びに輝いていて、
純白のウェディングドレスの胸元を上気させていた。
「ご結婚、おめでとう。いいお式だったね」
吸血鬼は新婦に声をかけると、華やかに飾られた花束を手渡した。
花束に負けないほど、あでやかに頬を染めて。
新婦は鄭重に腰をかがめて、花束を受け取った。
真っ赤な薔薇が意味するものは、ただひとつ。
その意味を、居合わせたごく少数ものたちは皆、察しをつけている。
アラ、早イノネ。オ嫁サン、モウ処女ヲ失クシテシマッタトイウワケネ。
控えの小部屋に同席しているのは、ごく近しい身内ばかりだった。

式を挙げる直前に。
義姉になったそのひとは、ウェディングドレスのすそをはねあげて、
立ったままの姿勢で、目を瞑って。
潔い処をむしり取られていったのだ。
そのあいだ、ただひとりだけ同席を許された新郎は、ドレスの裾をかかげたまま。
恋人が純潔を喪うさまを、網膜に灼きつけるようにして見守っていた。
鍵穴からそれを覗いていたのは、新郎の弟である私だけ。

「どうぞ」
いきなり差し出されたのは、小さな黒い花束。
ハッとして顔をあげると、新婦がにこやかにほほ笑んでいる。
ほんとうは後ろ向きに投げて渡すんだけど。
私からの気持ちよ。
かわいらしく小首をかしげながら。
黒い瞳は毒々しいばかりに輝いていた。
  見タデショウ?オ仕置キデスヨ。
  罰トシテ、貴方ハゴ自分ノオ嫁サンヲ、同ジ目ニ遭ワセナクッチャナラナクテヨ
さ来月結婚する予定の従妹は、ひときわ鮮やかな青のワンピースをまとっていて。
ちらちらと、こちらの様子を窺っている。
黒いブーケ。
それを受け取ることがなにを意味するのか、誰もが知っていた。
「ありがとう。つぎは私の番でしたね」
照れたような顔をして、にこやかに花束を受け取っていた。
そんなやり取りを見届けた従妹もなぜか、照れたように笑いながら。
妹たちと肱をつつき合っている。

ロングテール

2006年05月08日(Mon) 07:21:17

ロングテール、という言葉をご存知ですか?
私もつい今しがた、知りました。
いえ、もちろん長い黒髪を束ねるときの人妻さんのスタイルとかではなくって。^^;
あまり売れない商品でもロングセラーになって、結果的にばかにならない売上になることを意味するようです。
ニッチ商品(すき間産業的な商品)に目だつようです。
目ざしたいけれども、あまりにもニッチな私・・・(笑)

お礼

2006年05月08日(Mon) 06:46:15

「鼻唄を歌っているな」
遠目にもそれとわかるほど。
妻の歩みは小気味よいテンポを伴っている。
家のまえまで通じる田舎の泥道は、左右を草むらに囲まれていた。
ストラップの切れたミュールを、片手にぶら下げて。
淡い色の夏もののワンピースのすそに、泥を撥ねあげて。
素足を思いきりよく、雨上がりの泥を、すねまで光らせて。
家を出るときに穿いていた肌色のストッキングは、どこにも見あたらなかった。

「ただいま♪」
悪びれるふうもなく、小首をかしげると。
麦わら帽子の下、解き放たれた長い黒髪が、お嬢さんみたいに肩先に揺れていた。
「ストッキング、取られちゃった。あの子たちったら、ほんとにおイタさんなのよ」
軽々とそう告げると、私の掌に白い手を結び合わせるようにして。
「帰ろ」
いうなり、私の手を引っぱっていた。
理性のおかしくなった頭のなかで。
あの子「たち」という言葉尻は、愉悦を含んで胸を刺す。
とっくに喪われてしまった貞節。
今さら、ひとりにこだわる気持ちはとうに失せていた。
朝方かかってきた、妻を呼び出す電話。
受話器をとった私に悪びれるようすもなく、
「いつもお世話になっています。○○です。奥様の×子さん、いますか?」
しつけの行き届いたしっかりとしたことば遣いは、まだ少年のものだった。

「あがれないだろ?」
用意してやった雑巾で足を軽く拭うと、真っすぐ浴室に向かう。
「洗ってやるよ」
そお?じゃ、お願いね。
気のせいか、そのときだけは妻の声がくぐもった翳りをよぎらせる。

ざああぁぁ・・・ざぁぁ・・・
勢いよく素肌を打ちつける、湯気のたったしぶきのなかで。
なめらかな皮膚はいちだんと輝きを増していた。
愛撫するように清めながら。
「嫉妬している?」
上目遣いに窺ってくる目色に、
「ばか」
お尻を軽く、叩いてやった。
汚れてないでしょ?わたし。
その言葉とは裏腹に。
彼女の股間はべとべととした粘液を乱雑に塗りつけられていたけれど。
ああ。きれいだ。なにも変わっていないんだね。
後ろからしっかりと抱きすくめた肢体は、仔猫のように従順だ。
若い子にモテるのよ。あなた、妬けるでしょ?
挑発するようにきらきらと笑むときも。
まなざしには込められた想いの深さは、体の関係を越えた揺るぎない絆の証しだった。
「汚れているわけないわ。だって、磨かれてきたんだもの」
くすっ、と笑みながら。
つぎに向けられた上目遣いは、まるで挑発するような魅惑をたたえていて。
「ばかだな」
私はまた、おなじことを呟いている。
かつては私たちだけのものだった処に触れてゆきながら。
そそり立つものをこらえきれなくなって、うなじに熱いものを這わせていった。

あれからどれほど経つのだろう?
じぃじぃとかしましくふりそそぐ蝉時雨を浴びながら。
その日、言われるままに足を向けたのは。
家のまえの泥道をずっと行った先にある、住む人もない荒れ寺だった。
昼前に家を訪れたのは、半ズボンをはいた少年。
「あの・・・おばさんのこと、お寺で待ってますから・・・」
言い含めたのは父親であろうか。
はにかむように口ごもってそういうと。
だっと走り去っていった。
顔を見合わせた妻は、のどやかにほほ笑んで。
「ご招待されちゃったみたいね。じゃあ行ってくるわね」
ちょっと散歩に出るような口ぶりで、いそいそと出かける用意を始める。
夕べうなじにつけられた傷あとには、まだ赤いものが滲んでいた。
妻が家を出てから、ゆうに二時間はたっている。
なにも知らぬげに佇む、崩れかけた築地。傾いた軒先。
じぃじぃとかしましい蝉時雨は、いっそう盛んになっていたが。
人の声ひとつ、耳にすることはできなかった。
ところどころ背丈ほどもある雑草の生えているなかを、かき分けるようにして。
やっと見つけた妻は、放恣に脚を開ききって。
白目を剥いてあおむけになっていた。
小ぎれいなワンピース姿には不似合いな、草の褥のうえ、
むき出しの太ももが目に眩しい。
肌色のストッキングに滲む光沢が、びちっと縦に走る伝線がみごとなまでに断ち切られている。
妻の上にまたがっているのは、半ズボンのまえを開いた少年。
二時間前に家にきた子とは、ちがう色の半ズボンだった。
相手は父親たちではない。
妻は、子供たちに犯されていたのだ。
声をかけるのをためらっていると。
やがて少年は気配を察したようにそろそろと起き上がって。
目を合わせると照れたようにお辞儀をして。
「ありがとうございました」
礼儀正しく頭を下げて、逃げるようにして崩れた築地を乗り越えていった。
そばにはまだいく人も、半ズボンの股に両手をあてがった少年たちがいる。
築地の彼方を目で追っていた妻は、私に目を転じると
「あら」
不平そうな声色は、約束破りを責めるように尖っている。
「私だったら、だいじょうぶ。お約束どおり、日暮れまでには戻るわ」
日暮れ刻というのは、夕べわが家を訪れて妻をモノにしてしまった吸血鬼との約束の時間だった。
私は子供たちのひとりを手招きすると、妻の手を握らせてやる。
もどかしそうに半ズボンを脱ぐ様子を視界の端にとどめながら。
言われるままに立ち去るしかなかったのだ。
先に戻った私が妻の帰宅を迎えたのは、鏡のように澄み渡る夕焼けがもはや消えかかる時分だった。

夜な夜な訪れてくる吸血鬼どものため、妻の褥が空くことはまれだった。
村のしきたりどおり、縛られて傍らに転がされ、すべてを目の当たりにさせられる。
はじめはおそるおそるだった妻の態度がすっかり解き放たれるのに、もはや幾晩とかからなかった。
夫が「目ざめてしまった」のをよいことに。
夫婦の褥のうえ、おおっぴらに悶え乱れる妻。
恥を忘れた痴態は、夫婦の慣れきったまぐわいよりもあざやかで。
夫の目をさえ淫らに染める。

長い湯浴みだった。
湯気に包まれた肌を上気させた妻は、バスタオルをターバンのように頭に巻きつけていたけれど。
それをほどきにくるやつが、そろそろお出ましになる刻限だった。
朝方受けた電話は二本。
ひとつは荒れ寺へのお誘い。
もうひとつは夜の宴への招待だろう。
きっちりと施錠をしたはずの家のなか、どこからともなく忍び込んだ黒い影。
頭上のターバンを解いて濡れた黒髪をふるい落とすと。
妻はにっこりと笑んで。
いちどだけ、私のほうをふり返って。
ニッ、と白い歯をみせると、夫婦のベッドルームに消えていた。

呼び鈴が鳴った。
虚ろな心に沁みとおるような、涼しげな音だった。
玄関のまえにいたのは、昼下がりの少年だった。
誰もが礼儀正しかったけれど。
いつもきまって妻あてに電話をかけてくるその子は、なかでもきちんと振る舞う子だった。
半ズボンの下にいつも履いている紺色のハイソックスは、きょうにかぎってひどく薄手で。
白い脛をじんわりと滲ませている。
少年の後ろに控えているのは、控えめな面差しをした中年の女性。
その子をしっかりとしつけたであろうひとだった。
「母を・・・犯していただきにあがりました」
よどみなく告げる声は、ひどく大人びている。
そんなつもりは・・・
言いかける私に、
「当地の礼儀でございます。奥様もよく、ご存知のはずですよ」
息子どうよう、きちんとした口ぶりに、
  恥をかかせないでくださいね。
そんな思いが込められている。
主人も、奥様にお世話になっていますから。
貴方には、私を抱く立派な資格があるのですよ。
しなやかな両腕に押されるように。
場は玄関先から居間へと移されていた。
少年は口ごもるようにして。
「ボク、見ていてもいいですか?」
引きつめた口調が、少女のように可憐だった。

しきたりどおり、縛るように願われた。
初めて得た立場に戸惑う私を気遣うように。
「椅子をお借りしますね」
母親はそういうと、スカートのベルトを抜き取って、胸からスカーフを取り去って。
髪を束ねていたリボンさえ解き放って。
息子の両腕をスカーフで後ろ手に。ベルトで片足を。リボンでもう片方を。
順序よく、ていねいに縛ってゆく。
優しい手つきで、ぎゅ、ぎゅっ・・・と締められるたびに。
少年はひどくくすぐったそうに、まえにうずくまる母を見つめている。
「ほんとうは血を吸ってもらうんだけど・・・おじさんはまだ吸血鬼じゃないんですよね?」
せめてそぶりだけでも、とねだられて。
言われるままに、少年の足許に唇を吸いつけた。
ストッキングのように薄いハイソックスの向こう側で、ぴちぴちとした肌がしくっ、と引き締まるのを唇で感じながら。
なぜかぬらぬらと、よだれをなすりつけてしまっている。
行儀のわるい振る舞いに、
「いいんですよ」
お母さんは穏やかに落ち着いた、よく響く低い声をしていた。
ワンピースの下からのぞかせた肌色のストッキングの脚を半歩まえに差し伸べて。
「やっぱり、女ものの靴下のほうが、お口に合いますでしょう?」
なにもかも、よく弁えている立ち居振る舞いだった。
衣裳もろとも、辱めてくださいな・・・
求められるままに、手を迷わせて。
くすぐったく注がれる目線に戸惑いながら、股間を逆立ててゆく。
階上では、妻が。
真下には、私が。
パートナーを変えて、夜を更かしてゆく・・・

一変。

2006年05月07日(Sun) 22:31:03

移り住んだ村は、吸血鬼の里だった。
そうとは知らずに24歳の若妻を連れて・・・

侵奪されるのに、一週間とかからなかった。
「気の毒だったな」
男の口許からは、まだ私の身体から吸い取った血がしたたり落ちている。
身体のなかが空っぽになるほどの、虚脱感。
じじつ、ほとんど空っぽだったのだよ・・・
仲良くなってから、彼はそう私に告げたのだが。
そのときはまだなにもわからずに、ただ恐怖感と敗北感だけが私の頭を支配していた。
時折胸を刺す、劣情に似た衝動。
それはどす黒い閃きをくり返しながら、なかから私を蝕んでゆく。

当然のように、妻を要求された。
女房を呼べ。着飾って来いと連絡しろ。
冗談ではない・・・という憤りは、どうか妻までは・・・という哀願に変わっていたのだが。
もとよりヤツがそんなものに耳を貸すわけはない。
手はひとりでに、動いていた。
「おめかしして出ておいで」
そんなふうに、携帯メールを打っていた。
こざっぱりとした装いで邸を訪れた妻は、私と顔を合わせることはなかった。
すぐさま別室に連れ込まれ、襲われたのだ。
むごいことに、それは私のいる隣室で実行された。
失血でろくに身動きもできない私は、意図的に半開きになったドアの隙間から、妻の受難を見守るはめになっていた。

目もくらむ凌辱の下、切れ切れにあがる叫び声。
髪を振り乱し、抗う妻。
心づくしのおめかしは、たんに吸血鬼の嗜虐心を満足させたに過ぎなかった。
ストライプ柄のワンピースはみるみる引き剥がれ、下着もむしり取られ、
衣裳もろとも乱され堕とされてゆくにつれ、叫びはじょじょにちいさくなっていった。
ひい・・・っ。
受け容れたとき。
妻はたったひと声、喉を引きつらせて呻いただけだった。

べつべつに家に帰されて。
なに食わぬ顔で交わし合う、そらぞらしいやい取り。
不器用な努力をあざ笑うように。
ヤツはその晩家に上がりこんできた。
ベッドを譲っていただこう。奥方と約束しているのでね。
氷のように研ぎ澄まされた声に、ふたりは抗う力も意思も忘れていた。
惑うように身を引きながら、抱きすくめられてゆく妻は、さすがに私と目を合わせようとしなかった。
執拗なまでにくり返される上下動のすえ。
妻はとろとろに溶かされて。
さいごには自分から、悦びはじめていた。

どうする?お前も血が足りないのだろう?
女房の血を吸うがよい。
無理に注ぎ込まれた血は、喉に染みつくほどに美味だった。
杯に注がれた、どろりと赤黒い美酒。
むさぼるように、飲んでしまった。
妻はそうした私のようすを、じいっと見つめていた。
己の血を啖うありさまに、私が人外のものになったことを納得したようすだった。
お前の女房の血は、おれのものだ。それでいいな?
頷いていた。
時々借りて、血を吸ったり犯したりする。それもかまわんな。
頷くよりなかった。
よかろう。そのかわり、誰か一人、お前の世話をできる女を見つけてやる。
人の襲いかたはわかるか?
人の血なんか、欲しくない・・・
そんなきれいごとは、言っていられなかった。
さぁ、誰が良い?望みのままを言ってみろ。
さんざんに責めたてられて。
ふと口にしてしまったのは、義母の名前だった。
早くに夫を亡くしてまだ若々しい義母。
上背のあるすらりとした立ち姿は、どこかきりりと凛々しくて。
それでいて嫋々たるたおやかさを漂わせていて。
妻よりも女らしく見えるときさえ感じるひと。
その名を口にしたときに、妻はしんそこ悔しげに、
私と吸血鬼とを等分に睨みつけていた。

誰の血を吸い、誰の貞操を堕とすか。
人の運命をわかつほどのことを、
彼らは日常茶飯事に、ごくむぞうさに決めてゆく。
私たち夫婦のときも。
―――こんど都会から越してきた夫婦ものな。誰がヤるんだ?
―――順序からいうと、オレの番だな。
―――好きにするさ。うまくやんなよ。
―――まかせとけって。
ほんのそればかりのやり取りで、夫婦のあずかり知らぬところで決められてしまっていた。
妻の凌辱を決めるときとおなじくらいこともなげに。
やつは義母を私にあてがうことを請合っていた。

望みがかなうのは、早かった。
妻がしんそこ堕とされるのとおなじくらい、早かった。
私を送り出す朝方と、勤め帰りの夕刻と。
そのあいだは、所帯持ちのよい貞淑な専業主婦。
それ以外のときは、吸血鬼の秘書兼娼婦。
そしておそらくは、栄養源。
理性を奪い尽くされた妻は、
この村に生まれ育ったごくふつうの人妻とおなじくらいにすべてをわきまえて。
私たちが自分の母をモノにしようとする企てに、むしろウキウキと身を乗り出して参画するようになっている。

和装の義母を押し倒したとき。
それは、彼の邸にただひとつある、奥の座敷が使われた。
装いに似つかわしい場を用意しなくちゃな。
まるで花婿と花嫁を世話するように。
ご丁寧に、私は紋付袴まで着せられていた。
抗う体を、抑えつけ。
帯をほどく手も、もどかしく。
介添えに入ったあの男は、妻のときとおなじように、
むぞうさに義母のうなじを吸っていた。
娘の血で潤った喉に、いままた母親の血潮をほとばせて。
ほどよく理性を奪ってしまうと、やつはやすやすと帯を解き、
さぁ、とあごをしゃくって私をうながした。
襟足をまさぐるうちに。
絢爛の衣裳はあっけないほどに、するするとずり落ちて。
なめらかな輝きを放つ裸体をあらわにしていた。

妻は、私を挑発しながら燃えあがっていた。
もっと。もっとよ・・・
傍らに仰向けになっている妻の上には、吸血鬼。
もう。見ないで頂戴。
恥らって目を伏せる義母の上には、私。
母娘そろって享ける、凌辱の愉悦。
昼下がりの庭先には、
忍びやかに洩れつづける、ふた色の妙なる声。


あとがき
ちょっと強引に迫ってみましたが。いかがでしょうか。
いささか無作法、でしょうか?それともまだまだ迫力不足・・・でしょうか。^^

迫る女

2006年05月07日(Sun) 14:24:48

お待ちしていたのよ。いつまでたっても、いらしてくれなくて。
女は着飾った衣裳をひらひらさせて、男のほうへと駆け寄った。
さぁ・・・
エレガントな面差しに不似合いなほど荒々しく。
引き裂くばかりにむぞうさに、ブラウスのまえをはだけて、
血を吸ってくださるお約束よ。
月明かりに浮かび上がる、白い肌。
青白く透ける静脈。
皮膚に伝わるかすかな拍動。
男はぞくぞくと震える指をうなじにかけて。
ちょっとためらったすえ、
ぐいとおとがいを仰のけて。
ぐぐ・・・っ。
鋭い牙を根元まで埋め込んでいる。

ずずっ・・・じゅ・・・っ。
ナマナマしい吸血の音にひるむふうもなく。
女はもううっとりとなって、
焦点の定まらない瞳を、きらきらと輝かせている。
これから受ける辱めを厭うように顰めた眉に。
男はますます焔をかきたてて、
草の褥のうえ、女にのしかかってゆくのだが。
ウ、ウ・・・ッ
苦しげに呻いたのは、男のほう。
どうしたの?
訝しげに見あげる女の目を避けるように、
激しくかぶりを振って、身を翻してゆこうとする。
待って!!
女は男の二の腕をつかまえて、
ふりほどこうとする男に、必死になってむしゃぶりついた。

どうして?どうして離れていってしまうの?
いつも、いつも、そうなのよ。
わたし独り、取り残されてしまう。
切々たる訴えに、男は無言でかぶりを振って。
哀しい諦めに力をなくした細腕を、今度こそふりほどく。

泣き崩れる女。
振り返りもせずに、去る男。
男の顔は、蒼い。
とても血を吸ったあと、とはみえないほどに。
今宵のうちに、2、3人は餌食にせねば・・・
女の体内をめぐる、毒を含んだ冷たい血。
解毒するには、真人間の女の血が、ふんだんに入り用なのだ。
男は気ぜわしくあたりを見回すと、
街灯に照らし出された丸みを帯びた人影を見出して、足を止める。
勤め帰りらしい、スーツ姿の女。
スタイルと髪型からその若さを察すると、
狙いを定めたハゲタカのように、人影のほうをさして、
すう・・・っと影をよろめかせてゆく。

遠くからこだまする切れ切れな悲鳴は、哭きつづける女の耳には届かない。
どうしてみんな、逃げていってしまうの?
夜空に問うても、応えは返ってこない。
女は気づいていない。
己の血に含まれる毒のことも。
そして、涙の滲む瞳から蒼白い獣の輝きが満ちていることも。
心の優しい男たちは、それを女に告げることができないままに、
女のもとから去ってゆく。
求めれば求めるほど、失う女。
もっと冷酷な男が現われてくれるまで、悩み深い放浪は終わることがない。
闇のなか、魂を蒼白く燃えたたせながら・・・

婚礼の控えの間

2006年05月07日(Sun) 11:07:00

ひきあげられたウェディングドレスのすそからあらわになったのは、
白のストッキングに覆われた、初々しいふくらはぎ。
侵しがたい気品とは不似合いな、よだれをナマナマしく光らせた唇を這わされて。
ちゅうっ・・・
血を吸い取られてゆきながら。
ブーケを手にした花嫁は、姿勢ひとつ崩さずに。
高貴に装った脚許を侵す男の狂態を無表情に見つめている。
吸い出した血潮は、もはや清純なばかりではない、
大人の色香を秘めている。

傍らで見守るタキシード姿の花婿は、かつての教え子。
先生に、彼女の純潔を差し上げたいんです。
ガマンできなかったときに奥さんに相手してもらった、ささやかなお礼です。
どうして・・・?
とっさに問い返してしまった。
見守るよりも、ともに体験するほうが好ましくはないのかね?
そんな問いに。
処女はなん人も頂戴しているんですよ。
フジヒコのとこの嫁さんもそうだし。
がきっぽい照れ笑いをすぐにおさめると。

いちばん大切なひとだから。
見境なくただ夢中に犯してしまうよりも。
その瞬間を迎える彼女の顔を、声を。
より鮮やかに記憶にとどめておきたくて。
問わずがたりの告白に、ただ耳を傾けて聞き入ってしまっていた。
そういう愛し方もあるのだろうか?
相手の女性も黒い瞳を輝かせて。
かねてから、敬愛申し上げておりました。
つつまやかに、礼を返してきた。
その日、彼はカメラもビデオも持ち込まず。
ただ網膜に刻みつけておきたい。
そう告げて、隣室に姿を消した。
ふすまを細めにあけたまま・・・
そうして姿勢ひとつ崩さずに、婚約者の堕ちるさまを一部始終、見届けていった。

婚礼の席の、控えの間。
新郎新婦いがいのたれもが居合わせないはずの空間で、
密かに遂げる吸血の儀式。
純白の花嫁衣裳を、すこしだけ乱して。
衣裳の奥の貞操にさえ、触れてゆく。
乳白色の液体を注ぎ込まれて。
そのときだけ、淑女は淫らな翳を滲ませた。
飛沫のひとしずくも、洩らさずに。
魔の抱擁から解放された花嫁を。
花婿は固く固く抱きしめる。

同級生のさゆりも、悪友のサクオの嫁さんも。
さいしょに穴あけちゃったのは先生なんだって?
あいつらのときよりか、よかったでしょ?
こと果てたあと、かつての悪童にもどった花婿に、
もうっ。
ウェディングドレスの主も、お転婆娘にかえっていた。

危機・・・!(脱力ねたです)

2006年05月07日(Sun) 10:38:22

壁ぎわに、追い詰められた。
ヤツは目のまえに立ちふさがって。
逃げ場を封じながら、迫ってくる。
口辺ににたにたと、人を嬲るような笑みをたたえながら。
どうしよう。どうしよう。
脚はがくがくと震えて、硬直したように立ちすくむだけ。
が・・・っ。
両肩を拘束する、冷えた両掌。
そのうち片方が肩先をすべり、うなじを這う。
氷のように冷たい指先で撫でながら。
嫌悪にひきつる目線をくすぐったそうに受け流す。
「もう逃げられないよ。観念しな」
ただひと言、そっけなく引導を渡すと、
ゆるめた口許からこれ見よがしに鋭利な牙をむき出しにした。

ぐい、とひねるようにうなじを仰のけられて。
ひんやりと這う冷気に、ゾクゾクと鳥肌をたてて。
ぎゅうっ。
無理やり圧しつけられる、鋭い異物。
ヴュッ・・・・・・!
低く鈍い音をたてて、飛び散る鮮血が闇を切り裂いた。
ブラウスの胸許を重たいほとびに濡らしながら、
理恵は渦巻く眩暈に我を喪った・・・

じゅー。じゅうぅぅ。ちゅう、ちゅううぅぅ・・・っ。ちゅー。

「はい。ご苦労さん」
え?
目のまえには、じいっと見つめる吸血鬼の顔。
相変わらず人の悪そうなにやにや笑いを滲ませながら。
「お駄賃だ。とっとけ」
差し出されたのものは箱詰めの「そば饅頭」。
もぅ。
理恵は口を尖らせて。
さいごまで、しっかり酔わせなさいよね。
吸血鬼の頬ぺたを軽くつねっている。
べっとりと血を滲ませたブラウスを見せつけながら、
クリーニング代だって、高いんですからね。
ぶすぶすぶすぶす、文句を並べていた。
わかったわかった。(ーー;)
脱ぎはじめるのを手伝いながら、
では、話のつづきと参ろうか。
理恵はさりげなく胸の丸みに向けられた手を払いのけて。
「おまんじゅうが先ですよ♪」
さっそくひとつほおばりって。
「甘みが足りないわね。こんどはもっといいのを持ってくるのよ」
はいはい・・・(-_-;)


あとがき
気分転換に?ちょっぴりムードをぶっ壊してみました。^^
しりあすな展開を期待した方、ごめんなさい。m(__)m

果実

2006年05月06日(Sat) 07:34:46

あっ、先生・・・
退校する校門で声をかけてきたのは、男子生徒の二人連れ。
こちらに半歩、歩みを進めてこようとして、
もうひとりに肩をつかまれて遮られている。

妖しい月夜の夕べ。
誘いだされた草むらで、妻は若い二人の男たちに組み敷かれて、
スカートの奥に秘めた貞操を侵奪されていた。
見慣れた黒の礼服姿を草むらに沈めた男たちの影に、ふたりの教え子のそれはぴったりと重なったけれど。
ああ、いいんだよ。わかってる。うちにもいちど、遊びに来なさい。

赦されたことにたくまぬ安堵の色を浮かべて去ってゆく教え子たちの背中を見ていると。
あっ、先生。こちらだったんですね?
より大人びた、若い男の声。
さっきの子たち・・・
言いかけた彼は青年のころのように顔を赤らめて。
奥様、お元気でいらっしゃいますか?
尋常な言葉の裏に秘められた意味を感じ取って。
お互い、くすっ・・・と。人のよくない笑みを浮かべあう。
遠い昔。
草むらの影になって妻を迎え取った彼。
初めてだったんです。
あくる朝顔を赤らめた美青年は、いまはばりっとしたスーツに身を固めている。

紹介します。彼女です。秋に結婚するんです。
後ろに控えていたのは、目の覚めるような鮮やかな青のワンピースに身を包んだ若い女性。
放つ香気のあまりの初々しさに、虚をつかれたようになって。
じゃあ、お祝いしなくちゃな。
あいさつもそこそこに洩らした、うろうろとした声色に。
若い二人は苦笑して、顔を見合わせて。
似合うでしょ?ボクの見立てなんですよ。
それにほら、黒のすけすけのストッキング。先生好きでしょ?
すべてを見抜いている彼は悪戯っぽい笑みをはじけさせて。
だいじょうぶですよ。ぜんぶ、言い含めてありますから。

初めて女を知った歓びのあまり彼がした約束を、
さすがに真に受けることもなく、忘れかけていた。
彼女ができたら紹介しますね。処女までは差し上げられないですけど。

きゃっ。
黒ストッキングの脚に唐突な接吻を受けて。
戸惑いながらも、はしゃいだ声をあげるひと。
ねぇねぇ。見て見て。
私、先生に食べられちゃうわ・・・
おどけた言い草に不覚にも劣情をさらけ出して。
青のワンピースをたくし上げたひざ小僧のうえ、
ぐにゅぐにゅと意地汚く、薄手のストッキングをねぶり抜いていた。
では、ボクは久しぶりに奥さんを・・・
お茶を持って現われた妻をまえに、そわそわと腰を浮かす彼。
馴れ馴れしく回された腕に苦笑しながら、妻は華やいだワンピース姿を彼にゆだねて、
ぴったり身を寄せ合った後ろ姿は、ベッドルームの扉に遮られている。

いいんですか?ほんとうに・・・
無粋な問いとは知りながら。
けれども、時間を逆に戻すことは、もう誰にも不可能になっていた。
胸をまさぐる掌も。
ワンピースのすそに深く迷わせた指先も。
正直なまでの衝動にゆだねられていて。
彼女もごく自然な成り行きに身をゆだねていた。
傾いだうなじに動きをあわせ、長い黒髪がゆさっと肩に降りかかる。
青白く浮かび上がった静脈の上、ズキズキ疼く唇をあてがって。
なめらかな皮膚のうえ、生え初めた牙をちくりと刺す。
生暖かいバラ色の液体を口に含むと、胸の奥深くとぐろを巻いた劣情が、いっそう激しく渦巻いていた。

あ、あっ・・・
転げ落ちたソファの下。
あまりに間近なじゅうたんの模様が、焦点の合わぬまま滲んでいる。
意識の揺らぎを覚えつつ。
おへそが見えるほどたくし上げた、青のワンピース。
黒のパンティストッキングの下、女はショーツを着けていない。
細めに開いた、隣室のドア。
かいま見るふた色の目線を察しながら。
襟首をくつろげる腕。ストッキングを引き裂く手。
もう、とどまることはなかった。
秘された処に、逆立つ昂ぶりをおもうさま押しつけて。
硬い・・・
ええ、ままよ。
ぐぐ・・・っ。
埋められたものの持つ意味は、うなじに享けたものよりも彼女にとって重大だった。
流れ出た初めてのしるしに戸惑いながら。
まとわりついてくる尖った視線に織り交ざる、ドキドキと弾む息遣いをあらわに感じて。
動きもしなやかになった柔らかい肉体に、さらに奥深く怒張を埋め込んでいった。


あとがき
先生の奥さんに狙いをつけて。
呼び出した草むらのなか、筆おろしをすませた青年。
そのときのお礼を果たすのには年月が要ったようですが。
まさか処女まで頂戴できるとは、さすがの先生にも想像できなかったようですね。
さいしょのふたりの教え子も、おなじ道をたどるのでしょうか。

公園の灯りの下で

2006年05月06日(Sat) 06:28:15

あら、ハイソックス?
向こうの奥さんにそう尋ねられて。
妻は悪戯っぽく笑みながら、すその汚れたスカートをたくし上げる。
ひざ下まで引き剥かれた、黒のストッキング。
裂け目を滲ませ、いびつによじれ、妖しい光沢を滲ませていた。
うちのやつも、ですよ・・・
ご主人も微苦笑を浮かべながら。
奥さんの花柄のワンピースをちょっとだけ、ひき上げた。
片方になった、透明なガーターストッキング。
もう片方は、お相手の男性に差し上げたんですよ。
俺が誰だか当ててみな。
目印に、あしたはこれを身につけて過ごすから。
そう、いわれましてね・・・
もしかすると、身近な人なのかも知れません。
おおかたの見当はついているような口ぶり。
それでいて、相手の男性が己の妻に重ねた仕打ちを、憤るふしはない。
その男性の奥様を、一夜の恋人にしているかもしれませんからね・・・

モテちゃったんですよ。
誇らしげな妻。
お相手はお二人・・・若いかたでしたよ。
もう、荒々しくって・・・
裂かれて肩からずり落ちたブラウスは、ブラジャーのストラップをあらわにしていて。
さすがにご主人の目線を避けるように、あわててひきあげていた。

いますこし、余韻を愉しみませんか・・・?
ためらいがちに、ご主人が口を切る。
よろしい・・・ですね。
さすがに私の声も、かすれいてた。
では・・・
お互いの居場所を入れ替えて。
各々すこし離れた植え込みの影に身を沈めてゆく。
肩に抱いているのは、お嬢さんみたいなワンピース姿。
闇を透かして悶えをみせる妻の喪服姿に昂ぶりながら。
恥らうように目線を避ける奥さんのうえ、
どす黒いものをおおいかぶせてゆく。