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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

老いらくの恋?~再あっぷ案内

2006年07月31日(Mon) 22:55:26

気に入っているんです。「和やかな日差し」。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-419.html
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-420.html
夫婦交換の淪落の渦のなか。侵入してきた吸血鬼のため。
人妻の一人は若い生命を落とす。
そんな苦い過去を共有しながらいたわり合う、初老の男女。
老女をテーマにしたしんみり系のお話はほかにもありまして。
シチュエーションはぜんぜん違うのですがこのお話を目にするたびに思い出すのが、
「時を経て 見つめつづけるまなざしに」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-317.html
だったりします。^^
「和やか」は去年の八月に描いたのですが。
どこか初冬の穏やかで弱々しい陽射しを思い浮かべてしまいます。

※この記事のすぐあとのコラム「今晩は」がお話の解説になっているので、「和やかな日差し 2」の「後記」としてつけ加えました。

ちょっとだけ、再あっぷ

2006年07月30日(Sun) 22:21:30

今回は、新旧取り混ぜになっちゃいました。^^;
「人妻さん」のすぐ下にも新作ありますので、お見逃しなく。^^

「人妻さん」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-415.html
男が寂しいとき。
選ぶ衣裳にまで心を含める、優しい奥様のお話です。
いちど夫と別れて。夫の親友だった吸血鬼と結ばれて。
夫の望むまま、それまでと同じように二人、連れだって公園を歩く。
不倫賛歌は必ずしも好みではないのですが。
このお話は不思議と気に入りなのです。^^;

珍しくoffice編をふたつつづけてあっぷしていますが。
「オフの午後」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-416.html
のほうは、再あっぷです。
体調を崩した蛭田を見舞う、女史のお話です。
ちょっとやり方がロコツすぎたかなあ・・・^^;と反省したのですが。
そのせいか(?)あっぷが遅れました。^^;;;

美人局

2006年07月30日(Sun) 22:13:07

「お願い。これ以上は許して。処女のまま、お嫁に行きたいの」
女が哀願するのはいつものことだ。
蛭田はあやすように女を撫す手をとめないでいる。
辛い涙は、やがて甘さを滲ませて。
女の理性を流し去ってくれるはず。
ところが。
こんどは見当ちがい・・・だったらしい。
女は、しんけんだったのだ。
「お願い。お願い」
蛭田のしつような吸血にもめげず。
息も絶え絶えになりながら、哀訴をくり返す。
口調は弱々しくとも。
語勢は却って、力を増したようだった。
・・・しまったな。
白布に落とされた一点のシミのように。
後悔がかすかに、胸を刺した。
刺し傷は、時間の経過とともに。
もう、なすすべもなく、深みを広げていく。
こうなると、蛭田は弱い。
ほんのちょっとの淫ら心に火をつけて。
互いに快楽をむさぼるのは愉しくとも。
自分のしたことで相手がちょっとでも傷ついた。
そう感じると。
とめどもなく、だめになっていってしまう。
甘く哀切なものの漂っていた密室は、とうに空気を変えていて。
蛭田はけんめいになって、泣き崩れる女を慰めにかかっている。

「・・・で。どうだったの?」
「どうだった・・・って?」
蛭田は浮かぬ顔をして、奈津子の傍らで横っ面を向けていた。
「ハルミちゃんはめでたく、処女のまんまお嫁にいきました・・・とさ」
ホホホ・・・
投げやりになった蛭田の口調が、よほどおかしかったらしい。
ころころと、くすぐったそうに、じつに小気味よげに。
奈津子は椅子からのけぞり落ちんばかりにして、笑い崩れていた。
「そんなに笑うこと、ないじゃないですか。(((ーー;」
取り残されたような気分になった蛭田だが。
あのとき女に謝罪して、清いまま別れたその記憶は。
なぜか揺りかごのなかで心地よく揺られている赤ん坊だったころを思い出させるような、甘い懐かしさに包まれている。
それにしても。
どうしてこんなことまでべらべらと・・・
あぶないなぁ・・・と予感しながらも。
誘いをかけてきた奈津子の口車にまんまと乗って、
過去の悪事をべらべらと喋ってしまった自分を責めても、もう追っつかない。

RRRRR…
蛭田の家に電話がかかってくることは、あまりない。
それも、真夜中を少しまわった時分。
奈津子に飲まされたテキーラが、まだ頭のなかをぐるぐると回っている。
処女さんとの思い出、大切にね。あたしこれから約束があるんだ。
と。
いともかんたんに、振られてしまったのだった。
そりゃ、そうだよな・・・
あんな話を自分のまえでしみじみ語るような男と、ベッドを共にするわけがない。
と、さすがの蛭田でもわかっている。
それでも奈津子の蛭田への由来不明な情念が、まだ身辺にまとわりついているのを、彼の本能はなんとなく、感知している。
だからてっきり、奈津子からの電話だと思った。
「蛭田くん?いまホテル。迎えにきてくれる?」
にべもなく別れておいて。
そんな電話を平気でしかねない女なのだ。
寝ぼけ眼で起き上がり、受話器を取った。
声の主は、奈津子ではなかった。
くぐもるような、ひそやかな声。
もしもし?あたし・・・憶えてる?
もう何年も逢っていないのに。
先刻の話題の主だと、すぐにわかった。

そのあとの展開を、どう考えたらいいのだろう?
考えるよりも先に、行動がすべてに優先していた。
電話、かわるわ。
挨拶もそこそこに、代わって受話器をとったのは。
彼女の夫の沼居だった。
ハルミから聞いたよ。あいつの血をずっと吸っていたんだって?
ェ・・・(-_-;)
旧悪をあばかれるのか。
とっさにした警戒は、無用のようだった。
沼居はあくまで穏やかだった。
「まぁまぁ。昔のことだし。べつに怒ってはいないから・・・
  それよりも、よくガマンしたな。ハルミ、処女だったぞ」
お礼をしたい気分だよ。
そういうと、沼居はちょっと口ごもる。
生唾を呑み込んでいるのが、気配でそれとわかった。
蛭田をずきっとさせたのは、そのあと洩れた彼の言葉だった。
ハルミを、抱いてくれないか?

最近、夫婦生活がマンネリでね。
あいつがほかの誰かに抱かれるところを見れたら・・・なんて。
妙な話だろ?
でも不思議と、そういう会話をすると、燃えるんだよ。
会話だけじゃもの足りなくなっちゃってね。
誰か、信用のおけるやつはいないかって。
さいしょは口ごもっていたくせに。
堰が切れた、というのだろうか。
恥ずかしい願望を平気な口調で、すらすらと語りはじめている。
沼居とは部署も違うし、顔をあわせることもほとんどない。
そんな関係の薄さに、却って気安いものを覚えるのだろうか?
いずれにしても蛭田は、飛ぶような速さで約束のホテルへと向かっている。
一日の通常業務が終わるのがこれほど待ち遠しかったことは、このごろ絶えてないことだった。

来ていたのは、ハルミだけだった。
「挨拶なんかやめて」
ハルミはひたと蛭田を見据えている。
服装も。髪型も。
あのころとはうって変わって、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
娘から、妻になった。
そんな変化が、惻々と伝わってくるのだが。
くたびれいてる・・・
そんなふうに感じるのは、なぜだろう。
ほつれたおくれ毛が。憂えるような目じりが。
なにかを蛭田に、訴えていた。
そんな蛭田におかまいなく。
かれの前、女はそそくさとブラウスを脱ぎ始めている。
即物的なまでの振舞いに、夫の願望が妻には無理だったのでは・・・蛭田はとっさにそう思う。
しぐさのひとつひとつに、無理が感じられるのだ。
昔、おもしろ半分に手を出した女。
婚約しているときいて。
それでも、処女の血をむさぼるチャンスは、手放しがたいほど貴重だった。
さいごの一瞬、処女を守ろうとして。
聞いている蛭田がすっかり決まり悪くなるほどの心情を吐露した彼女に、一抹の人らしい愛着を覚えたものだったが。
いま人妻となった目のまえの女は、あまりにも現実的な行動に出ようとしている。
ねぇ・・・
声をかけようした、そのときに。
すっ・・・、と差し出されたのは。
ヘビのようにしなやかにくねる脚だった。
地味なベージュ色をした無地のロングスカートをむぞうさにたくし上げると。
ふくらはぎを包む肌色の薄いストッキングが、かすかに波打っていた。
瞬間、蛭田の理性はかけらもなく、消し飛んでいた。

服は汚さないで。
女はみじかく、囁いた。
ブラウスを取り除けて。
うなじを吸って。
いぜんあれほど親しんだ清冽な芳香は、今はどんよりと澱んだ熟れた濃密さに変化している。
腰はとうのむかしに、ひとつに合わさっていた。
まるで過去にいくどもそうしていたかのような、自然さで。
女経験も、それなりにあるとはいえ。
醒めたものが終始、蛭田のなかにわだかまり続けている。
すぐ傍らで作動しているカメラのせいだけではない。
こんな安直な・・・
相手への想いがなまじ深かっただけに。
淡い失望が、蛭田を興ざめさせている。

・・・・・・!
頭の上から、冷たい氷の柱を。
まるで胸に打たれた杭のように覚えていた。
ない。ない。ない!
鞄のなかに、たしかに忍ばせておいたのだが。
ぴかぴか光る、オレンジ色の円盤。
あのなかに秘められた情報は、決して洩らしてはならぬもの。
なのに・・・
冷静になりきれない記憶を辿ったけれど。
もどかしい記憶の糸は、あのホテルの一室で断ち切られていた。

―――面白いものが、手に入ったの。
未知の女の声が冷ややかに、耳朶を打つ。
―――なぁに?
鮮やかに刷かれたルージュが、おもむろに白い歯を覗かせた。
―――さぁ・・・当ててみて。
声はあくまでもいたぶるように、たたみかけてくる。
―――切るわよ。忙しいの。
受ける女の声の、冷たく尖った落ち着いた声に。
受話器の向こうはちょっと狼狽したらしい。
―――ほんとに知らないの?
―――さぁ、なんのことかしら。
嘲るのは、こちらの女の側になり始めている。
本末転倒よ。そう言わんばかりに。
未知の声は初めて、苛立ったような妍をみせた。
―――蛭田さんからね。お預しているのよ。CDを一枚・・・
―――そう・・・
―――中身は、まぁまぁ…あなたの部署も、乱脈なことね。外に出たら、まずいんじゃない?
フフン。
得意になるときと。相手を哂うとき。
鼻を鳴らすのが、女の癖。
―――で、どうしてほしいわけ?
―――そうねぇ・・・三日間、時間をあげる。私がどうして欲しいか考えて。
電話が切れた。
女は初めて苛立たしげに首を振って。
カツン!
もっと苛立たしげに、ヒールのかかとを鳴らした。
かっちりとした脚を包んでいるのは、かすかな光沢を帯びた、濃紺のストッキング。
「私。蛭田くんを呼んでくれる?」
鳥飼女史は不機嫌そうに、ちかりと金縁のメガネを光らせた。

蛭田を迎え入れると。
いつになく、女史は優雅なしぐさで、席をすすめた。
遠慮する蛭田をソファに腰かけさせて。
自分はゆっくりと、向かいの席に腰をおろす。
濃紺のストッキングの脚を、これ見よがしに優雅に組んで。
かすかにくねる、流れるような脚線美が、光沢をきらりとよぎらせる。
あたかも、研ぎ澄まされた刀身のように。
「誰と寝たのかしら?」
もうこれだけで、じゅうぶんだった。

夜の街。
繁華街から離れた一角は、まえも見えないほど暗い。
街灯は切れて点かなくなっているし、足許には時折、
おりからの風に吹き寄せられた新聞紙が、足元にまとわりつく。
女はそんなことも苦にするふうもなく。
ひたと前を見つめて、歩みを進めてゆく。
ふっ・・・と、カーテンがおりるように。
女史のまえ、白いものが舞い降りてきた。
イブニングドレスか?と見まごうほどに。
優雅な白い衣裳を着た女。
お嬢さんのように両肩に流した黒髪が、濡れるような艶を放っている。
「通してくれる?」
女史の声が尖ったのは。
相手に、ただならぬものを感じたから。
そう。電話の主などとは段違いに鋭く、閃くものを。
「さぁ・・・」
女は、ひとごとのように、横っ面で受け流す。
「あなたじゃないことはわかっているけれど。邪魔するつもりなのかしら?」
まるであの世から響いてくるような声色だった。
―――邪魔してみたい気はするけれど。
冷たく鎖されている口許から、言葉だけが幻のように、洩れてくる。
―――そんなことしたら、あの子がかわいそう・・・よね?
ぴかぴかと光る、オレンジ色をした円盤。
女はまるでフリスビイでも愉しむように。
女史に向かって、投げてよこした。
「いいの?」
あんまりつまらない手だったから。組みする気になれなかったの。
あの子のほうが、はるかにましだもの。世間の評価は、どうだか知らないけれど。
感謝するわ。
女史はいいたくもない、というように。
口を「へ」の字にしながら、そういった。
「それをいちばん、聞きたかった」
女はにんまりと笑むと。にわかに唇が、薔薇色を帯びた。
そうして、うって変わって。
お嬢さんのように淑やかに一礼すると。
フッ・・・と、幻のように、かき消えている。

うー。うー。
沼居は縛られたように、身動きできなくなっている。
けれど、彼をいましめる縄もロープも、目にすることはできない。
どうやらこれが、金縛り、というやつらしい。
朝になったら解けるわよ。
白衣の女は嘲るように、沼居の頭上に言葉を浴びせた。
あなたが奥さんに言わせた欲しいもの・・・って。何だったのかしら?
もういちど、蛭田に奥さんを犯してほしい?
本当は、そうなんでしょ?
だいじょうぶ。安心して。
奥さんもきっと、おなじ気分よ。
だって。あなたあのとき・・・
さいごのひと言は、ハルミに向けられたものだった。
女が消えると。
沼居は声をひそめて、
なにがあった?あの女はなにを言おうとしてたんだ?
妻を問い詰めた。
ハルミはフッと、あきらめたような、投げやりな口調になって。
ヤッちゃったのよ。彼と。
えっ。それはお前・・・
しないって約束だったろ?なんのために催眠薬、持っていったんだ?
そんなことは、いえた義理ではなかったが。
彼の書いた筋書きとは微妙にちがう、別のストーリーを妻は描いていたらしい。
ヤツは、来るのか?本当に・・・?
せっぱ詰まった口調の夫を憐れむように。
さぁ。どうかしら。来たら・・・そうね。私も貴方といっしょに、ぜんぶ血を吸ってもらおうかしら?
ハルミは優しい妻の口調を取り戻している。

「か・え・し・て・あ・げ・な・い」
困り果てた蛭田の前。
女史はオレンジ色の円盤を、器用にもてあそんでいる。
「中身も、み・ちゃ・っ・た」
そ、それは・・・どうか。中身は、プライバシイのしんが・・・
よく言えたわね。
ぎらりとブッソウに光る、そんな女史の目線に出くわすと。
蛭田の抗議は意気地なく、止まってしまう。
「貴方の華麗な過去が、これ一枚に♪」
あああああああ!
内容まで告げられると。もう蛭田はぼろぼろだった。
「貴方は増やしていく。奈津子は減らしていく。どうなってるの?あなた達」
女史は、真顔になっている。
えっ・・・?
と、思う間に。
傍らから綺麗な白い手が、スッと伸びた。
「この人の恥は、わたしの恥。返していただきます」
キリッと結ばれた口許に。女史は初めて、相好を崩した。
「閲覧は役員室かぎりにしようかと思ったけれど。岬さんなら、管理できるわね」
奈津子のことを苗字で呼ぶと、じゃあこれは、あなたに。と。
円盤を、奈津子の手に渡してやった。
「面白いわよ~。とっても。でもあんまり、怒らないでね♪」
青くなったり赤くなったりする蛭田の顔を横目にしながら。
ふたりは同僚の女の子みたいにはしゃいでみせる。
「それから」
女史は改まった顔で、蛭田を見つめる。
「内容を精査したところ。
 当部の女性で特定できるのは、岬さんひとりだけ。どうするの?蛭田くん?
 わが社では社内恋愛はご法度になっているはずよ?」


あとがき
「美人局」と書いて、「つつもたせ」と読みます。
内容は・・・もうみなさんよくおわかりですね。^^
ちょっとちゃちなお話になってしまいました。
苦手なんです。陰謀もの。
結論がお気に召したかどうか。皆様のご意見をお待ちしています。^^;

血を絶やすには・・・

2006年07月30日(Sun) 18:10:21

「餌だ。好きにするがいい」
氷室専務が連れてきたのは、制服姿の若いOL。
水色のチェック柄のベストに濃紺のスカートという服装は、
艶やかな黒髪以外すべてが初々しい彼女によく似合っていたけれど。
大きな黒い瞳はまっすぐに見開かれて。
ワナワナと身を震わせながら、初対面のはずの男を見つめている。
専務はあくまでも、冷酷だった。
「なんなら、死なせても良いのだぞ」
そっけなく言い放つと、女を置いて部屋を出ていった。
素早く鎖された扉の向こう。
冷静な足どりがコツコツと、早くも遠ざかってゆく。

女はひっ、と呻いて、男のほうから飛びすさる。
男が詰め寄ろうとすると、素早く身を翻して、壁を伝って、
なんとか獣との距離を作ろうとしたが、
もちろんかなうはずもなく、追い詰められて。
しっかりと、捕まえられてしまった。
男は慣れた手つきで女の首をねじ上げると、
青白い静脈の浮いたうなじの肉に、無表情に食いついた。
アアッ!
絶望的な悲鳴。かすかな抗い。そして、静寂。
しずかになった女を放すと、
うなじからすすーっ、と、音もなく。
血がひと筋、伝い落ちていった。

「すんだのか」
いつの間にか、専務が舞い戻ってきている。
タイつきブラウスの胸がかすかに上下をしているのを見て、さもつまらなさそうに、
「吸い尽くしても、よかったのだぞ」
「由来を聞いていない」
男はあくまで、ぶっきら棒だった。
その声色の奥に隠しようもない満悦が秘められているのを見抜いて。
専務はフフッ・・・と、かすかな嘲りを洩らす。
それを横っ面で受け流して。
男はタバコに火をつける。
女から思う存分血を吸って、死なせたところで。
どうせさいごまで始末をさせられるのは、自分なのだ。
あくまで手を汚そうとしない、卑劣な男。
けれども彼は、血に飢えた体に若い女を提供してくれる、またとないパートナーでもある。

「で、用件は?」
こういう活きの良い餌を携えてきたときは。
必ず、きな臭い仕事を持ってくる。
感情を込めないで。事務的に処理してきた仕事の数々を。
男は二度と記憶に戻そうとはしない。
幸か不幸か。
専務の依頼した標的は、多かれ少なかれ人非人のような奴らばかりだった。
しかし、こんどばかりは違うようだ。
「なるべく殺めない・・・そいつがあんたの信条だったね?」
試すような、人のよくないこいつの作り笑いを、男はなによりも嫌っていた。

言いつけられた用件は、かんたんだった。
血筋をひとつ、絶やしてほしい。
いざ用件を切り出すときに。
専務の言葉はひどく明解だった。
亡くなった前会長には、まだ若い遺児がいた。
前会長の保有していた株式の大半を受けついでいて、現社長の政権を脅かすことのできる、ただ一人の存在。
いまの社長は、専務のかいらいである。
専務は前会長の娘婿だったのだが。
それゆえに、すぐの社長就任を避けたのである。
なかなか用心深い、策士であった。
「亡き会長の息子、ユウスケくん。夫人の冴子さん。それに会長の未亡人の珠代さんにも、あんたに会っていただく。
  会長のあとを追っていただくもよし。もっと違うテで、社会から抹殺するもよし。お前の腕は信用しているからな。
  どうだね?いい話だろう?良家の子女を牙にかけることができるのだぞ」
ぬるりとした顔で、こちらを覗き込んでくると。
つい、ぶっきら棒に遮っていた。
「ひとつだけ訊く」
なんだ、とあごをしゃくる様子は、飼い犬が主人にたてをつくつもりか、といいたげな倣岸さをもっている。
「あんたの奥方も、そのことは知っているのか」
「未亡人のこと以外は、な」
専務の口調に、嘘はなさそうだった。
「じゃー、わかった。一週間以内に・・・な」
男は、専務から逃れるようにして、部屋をあとにした。

「よく来たね、ゆっくりしていってよ」
ユウスケは訪いを入れた男に気さくに話しかけ、手を取るようにして邸のなかに招じ入れた。
ゴシック調の大邸宅。
会長の遺した遺産は見るからに、若いユウスケには不似合いだった。
「ここに住み込むことになったんだって?」
「エエ。専務の命令でしてね。警護がわり・・・だそうです。
  ご迷惑のかからないように、離れに住まわせていただきますよ」
離れは母親の弓枝の住まいだったのだが。
会長の死去がこたえたのか、先月あたりから体をわるくしている。
もっと身近に面倒をみるために、どのみち母屋に引き取るつもりでいたんですよ。
ユウスケの妻のミチルがにこやかに告げた。
慎ましげに、親しげに、こちらに向けられる視線から。
ちょっと目をそらしてしまっている。
お気の毒ですな・・・
つい洩らしたひと言は、けっして演技ではなかった。

障子越しに、影が立った。
「あの。失礼いたしますが・・・」
落ち着いた年配の女の、遠慮がちな声。
ユウスケの母の静代だろう。
きのうは体調が悪くて臥せっているということで、対面は遠慮したのだが。
ユウスケとどこか似通った声の響きで、すぐにそれと察しがついた。
「ああ・・・お母様ですか?どうなさいました」
地味な柄の着物姿の静代は、古風な婦人らしく物腰柔らかに丁寧な礼をしてきた。
じつは忘れ物をしてしまいまして・・・
飛んで火に入るなんとやら・・・だ。
男の不吉な本能が、そう囁いた。
押し入れの奥の、ちょっと分かりにくいところですの。あちらはお使いにならないと聞いたので、整理が間に合わなくて。
老女はくどくどと言い訳をしたが、言葉遣いはあくまでも丁寧で、雅びですらあった。
ついていった小部屋の住みにある押し入れにかがみ込んでいる静代のえり足をじいっと見つめながら。
男は、ふうっ、とため息をつく。

障子の奥から。
あっ、何をなさいます・・・
驚く声は小さく、庭先までしか届かなかった。

昨日とおなじように。
ユウスケはにこやかに、男を洋間に招じ入れた。
男が口許から血をしたたらせているのを見ても、顔色ひとつ変えなかった。
ユウスケの首すじにも、おなじようなしたたりが赤黒い痕をつけている。
「母は苦しんだのですか?」
遠慮がちに、そう訊ねると。
―――なるべくお苦しみのないように、してさしあげましたよ。
ああ、そうですか。
ユウスケは、遠い目になっている。
来てくれたのが貴方で、なによりだったかも。
意志の弱そうな瞳の光が、そう語っているようだった。

父の遺産は私にとって、重圧いがいのなにものでもないのですよ。
子供でもあれば・・・もうすこしがんばったかも知れませんが。
それでも、どこかに限界はあったでしょうな。
あのどん欲な義兄や姉に、所詮かなう勝負ではないのですよ。
そうなるまえに、私の精力が尽きてしまいましたし。
どのみち、父一代で。亡びる家系だったのでしょう。
どうせ亡びるのなら。そう。貴方のいうように・・・そうしてもらいましょうか。
そう、語り終えると。
ユウスケは洋間の向こうを見やった。
半分開いたドアの向こうが、夫婦の寝室になっている。
あちらに、いちばん美味しい獲物が待っていますよ。
そう口にしたときだけ。
悪戯っぽい上目遣いを、子供のように輝かせる。

妻が愛したのは私ではなく。社長一族という家柄だったのです。
だからすすんで、私以上に乗り気になって。こんなご提案を容れたのでしょう。
さあ、どうぞ。ご遠慮なく。できればぞんぶんに、愉しんでください。
あれの終生の思い出にもなりましょうから。
この期に及んで、令夫人の貞操をどうこうされるのは。
もっといやな気分のするものだろう・・・と思ったのですが。
久しく耳にしていない、あれのはずんだ息遣いを思い描くと。
かなり、ドキドキする気分です。
最初はね。
義兄は、親子ほど年が離れているくせに。
あの家内のことを狙っていたのですよ。
家内が誇り高い女だったので、いまでも彼女は私しか知らない体ですが。
娼婦になるわ。
夕べ家内は、そんなふうに私に告げたのですよ。
いとも、愉しげに。
あの晩は。
とうとう体のつながりは持てなかったのですが。
ひと晩寝ずに、いたわり合っていたんです。
もしかすると。
夫婦として想い合えたのは、夕べが初めてのことなのかもしれませんね・・・

帰宅した専務は、あまりの成り行きに頬を紅潮させていた。
もちろん怒りに・・・である。
社内の騒動を取り静めるのに、表ざたにしないために、ひと通りの苦労ではなかったのだ。
朝の社内通用門を入ったすぐのところ。
出勤してきた誰もが通り過ぎるロビーの広間で。
ユウスケの妻が半裸のあられもない姿で。
あの男と、戯れていたのだから。
関係者の制止を振り切って。
あらん限りの痴態を尽くして。
そのあとで。専務の薄汚い所行を、端から端まで語りつくして。
陥穽に落ちて専務の寝室に取り残されそうになったきわどいシーンももちろん、虚実取り混ぜて語られたのだ。
いつもの慎み深さをかなぐり捨てた、あばずれ女のような大声で。
きょうの出来事はなによりも、
策士である妻の耳に入れて、相談しなければならなかった。
「おい。マサヨ、いるか・・・?」
紅潮していた専務の顔が、こんどは蒼白になっている。
「お・・・おいっ・・・?」
専務の叱声は、妻にではなく。妻に取りついている男に向けられていた。
手遅れのようだった。
男は早くも、口許にぬらぬらとした血潮を輝かせている。

血統を絶やせ・・・というご命令でしたな。
だとすると。
ほかならぬ貴方の奥方も、標的に含まれるのですよ。
奥方がいなくなっても。
遺産はそっくり、あなたのもの。
すべて辻褄は、合うことになりますな。
今回頂戴したかたがたは、まだご存命ですよ。
かなり、酔い酔いになっておいでですが。
ですがもう、胤を宿すことはありません。
私の胤・・・であれば。また別の話ですがね。
あなたに、お子さんがいらっしゃらなくて、何よりでした。
娘さんなら、ご自身に。
息子さんなら、花嫁に。
胤をつけてでも、血統を奪う。
それが、われらの流儀ですからね。
先方の姑さんと花嫁御寮は。
ご本人ともども、かわるがわる。そっくり頂戴しましたが。
奥方の血はいま少し、愉しませていただくとしましょうか。
悪女の血、なかなかの味ですから・・・。


あとがき
デカダンな若当主の邸を舞台に、ちょっとダークなお話になりました。^^;
悪役の専務がさいごに皮肉な思いを・・・というところが唯一、救いでしょうか。^^
それにしても、うちでは悪役が多いですな。専務。

再あっぷ紹介

2006年07月29日(Sat) 07:45:47

「母と継母」
母さんの服を着るんじゃない!
父の再婚相手に冷たく接する少年。
後妻に前妻の写真を見せようとしない夫。
父子のあいだには、世を忍ばなければならない秘密が・・・
わが身を献ずることで初めて受け容れられた後妻さんのお話です。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-410.html

「通りがかりの人」
誰からも冷たくあしらわれて、通りに佇む少年。
そんな少年に声をかけて、自ら血を与えた女は、
少年を人殺しの手先に仕立てようとする。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-411.html

「通りがかりの人 2」
手を引いて促した、公園で出会った少女。
彼女の涙に、シンとなってしまう少年。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-412.html

「通りがかりの人」はこの二話だけでおわっていますが。
あの悪戯坊主とおなじ少年かも知れません。
少し生ぬるい出来かも・・・ですが。愛着のあるお話です。

大雑把な勘定ですが。

2006年07月28日(Fri) 08:05:01

おかげさまで。
先日で、「妖艶」のあっぷが400話を越えました。
「幻想」時代の再あっぷ(197話くらいかな)を入れての数字ですが。
そのうち、コメントを頂戴できたのが72話。
もっと「低打率」だと思っていたのですが。
7話にひとつは、コメントを頂戴していたわけですね。^^
ありがとうございます。m(__)m
月ごとにみると、五月の五十が最高です。
コメントをいただいた方には必ずレスをつけるようにしていますので、
うち半分が自分のものだとしても。
この月はほぼ毎日コメントを頂戴した勘定になりますね。
再あっぷ分は、以前からの読者の方にしてみれば「いまさら」なはずだろうと思ったのですが。
いままでのコメント数は34。
六月・七月とほぼ同じ数のコメントを頂戴しています。m(__)m
旧作にも改めてお目を通していただいて。
これだけコメントを頂戴できますと。
再あっぷする甲斐もありますね。^^
人目を忍ぶ?マイナーサイトですが。
これからもお見捨てなく、コメントくださいませ。m(__)m

村長就任

2006年07月28日(Fri) 07:22:26

「ちょっと、出かけてくる」
村長選挙に当選すると。
夫は口数少なく、出かけていった。
そのまま、遅くまで戻ってこなかった。
翌朝戻ってきた時には。
極度の疲労のためか、顔色は蒼ざめて。目じりのあたりが、黒ずんで見えた。
だいじょうぶ。
やはり口数少なく、そう答えたあと。
明日はきみにも、来てもらう。

夫の実家のあるこの村に来たのは、選挙が始まってからだった。
都会育ちの千栄子にとって、鄙びた村の男たちはどこか卑しげで、まともに見てはいけない人びとに映ったのだが。
わが家の伝統なのだから。
そう言い張る夫に、今さら候補を辞退してくれ・・・とは言い出すことができないまま。
首尾よく選挙に当選してしまったのだ。

「当選、おめでとう」
目のまえにいるのは、対立候補だった前村長。
夫よりもやや年配だった。
傍らに控えているのは、夫人だろうか。
黒っぽいスカートの上、淑やかに手を重ね合わせて、終始無言のまま俯きがちだった。
気詰まりな対面を短時間ですませると。
そそくさと席を立つ前村長夫人に、やはり無言で控えていた若い男の給仕が
イママデドオリ、ヨバイニイクデ。
そう囁いてなれなれしく、夫人のお尻をぽんと叩いた。
神経質そうな夫人は意外にもチラッと笑みをよぎらせて、
男をさりげなく、受け流している。
ヨバイニイクデ。
どういう意味か、そのときの千栄子にはよく飲み込めなかった。

「きみにはまだ、お役目が残っている」
きのうよりいっそう顔色を悪くした夫が、奇妙な薄笑いを浮かべた。
え・・・?
目のまえにはいつの間にか、老婆がひとり、佇んでいる。
ほつれた白髪に、うす汚れた着物姿。
よほど貧しい家の老婆なのだろうか。
お婆さまだ。
夫が引き合わせるように、そう囁いた。
お婆さま・・・?
問い返す妻に、
せいいっぱい、もてなして差し上げてくれ。
え・・・?
夫の言葉をきくと、老婆はにんまりと卑しげな笑みを露骨に浮かべて、
戸惑う千栄子のほうへとにじり寄ってきた。

白のブラウスの両肩を抱かれて、
あっという間に、猿臂のなかに、取り込まれて。
ちくり・・・
うなじのあたりに、刺すようなかすかな痛みを感じると。
つつーっ・・・と伝い落ちたなま暖かいものを、
老婆はかさかさの唇にうけて、掬い取ってゆく。
えっ?
痛いほど締めつける腕をふりほどこうとするうちに、悩乱が千栄子におおいかぶさった。

おやめください。どうか、おやめくださいまし・・・
いままで口にしたこともない、古風な言葉・・・
誰に教わるともなく覚え込まされた、儀礼的な拒絶。
狭い密室の中。雅びに流れる謝絶の語を愉しげに受け流しながら。
老婆は千栄子のうなじから唇を離そうとしないでいる。
きゅうっ、きゅうっ、きゅうっ・・・
規則正しいもの音は、千栄子の血を啜る音。
重たくくぐもるような音のひとつひとつに想いを込めて。
老婆は新村長夫人の生き血を、心ゆくまで喉に流し込んでゆく。
どうか、そこまでは・・・
スカートをたくし上げられて。
肌色のストッキングのうえから、べろを這わされそうになって。
千栄子がさすがに、色をなして拒絶すると。
つよい力が肩にかかって、千栄子のうごきを制している。
もうすこし、愉しませて差し上げなさい。
夫の瞳が、静かに蒼く、焔をあげている。
ストッキングを破らせまいとして。
ちょっとのあいだ、身を揉んで拒絶の言葉を口にしたものの。
むぞうさに埋め込まれた鋭い牙は、すぐに千栄子から理性を忘れさせていた。
どうぞ、こちらの脚も・・・
恥らうように、目をそむけ。
おねだりするように、差し出した脚。
老婆はしたたかに食いついて。
ストッキングをちりちりに引き剥いてゆく。
ふしだらに裂き堕とされてゆくのをウットリと見守っていると。
代々のしきたりでね。
夫はねぎらうように、千栄子の肩をぽんと叩いた。
しっかりやれよ。
そんな夫の笑みに、妻もかすかに頷いて。
老婆の恥知らずな欲望に、知らず知らず応えはじめていた。

吸い尽くされるほどに、もてなしてしまうと。
体内にわだかまっていた澱が抜けたように。
どこかすっきりとしたものが、行き渡っている。
千栄子は別人になっていた。
小気味よいほどに、思い切りよく。
老婆の辱めに応えつづけると。
挨拶回りに出かける夫のあとに、つき随った。
スカートの下には、老婆に破かれたストッキングを着けたまま。
ブラウスを剥ぎ取られた胸は、降り注ぐ陽光の下、あらわになって。
恰好のよいおっぱいが、ぷるんとそそりたっていた。

「ご当選、おめでとうございます」
行き交う村人が慇懃に、村長夫妻に礼をかけてくる。
夫がするのを見習って。
千栄子も、半裸の姿を恥じるふうもなく。
ひとりひとりに礼を返し、
握手を求められて差し出した手の甲にくわえられる接吻を、なんの違和感もなく受け容れいてゆく。
白髪交じりのみすぼらしい農夫と行き会ったとき。
夫は、さあ・・・というように。
妻を傍らの草むらに促していた。
求められるまま。
吹きかけられる熱い吐息に、肌をゆだねていた。
見通しの利かない草陰のなかは、女を大胆にするらしい。

行く先々で。
村長夫人は、懇親を求められる。
そのたびに、恥ずかしげに、そして優なほほ笑みを浮かべて、夫をかえりみる。
夫がちいさく頷くと。
夫とふすま一枚隔てて引きこまれた部屋の中。
待ち構えたように敷かれている褥に組み敷かれていって。
魔性の淫楽にひと刻、身をゆだねてゆく。
こんど、夜這いに行くで。
男たちのなん人かは、そんなふうに。
想いを遂げた女に、熱い吐息交じりに囁きかけてきた。

なん人、囁いてくれたかね?
夫の問いに恥らいながら。
七人よ。
いずれも村の、長老たちだった。
まずまずだね。
夫は満足げにそういって。
あまり、ふしだらに乱れたら・・・その場でお仕置きをうけるのだよ。
いままでにないほどに、愉しげな笑みを頬に滲ませた。


あとがき
発作的にキーを叩いたら。
またまた、とんでもないお話になってしまいました・・・^^;
この村で村長になると。
村長の夫人には特別な義務が課せられます。
村の主と呼ばれた老婆にひと刻、いたぶられて。
それから、長老たちの家を順繰りに訪問して、情を交わす。
そんな淫らなしきたりを。
代々の村長夫人たちはためらわず、受け入れることを要求されて。
首尾よくつとめを果たすことが美徳とされていたようです。
さいしょに出かけていった夫は、魔性の老婆に自らも血を吸い取られ、
妻を提供することを誓わされ。
その代償としておそらくは。
敗れた対立候補の夫人に対して、みずからも長老の一人として振る舞ったという噂です。

おなじ血

2006年07月28日(Fri) 06:01:10

きゃ・・・
傍らで、ちいさな悲鳴があがった。
壁ひとつ隔てた、向こう側。
声の主は、妹のはず。
そっと細めにあけたふすまの向こう。
うずくまる和服の老婆の下。
セーラー服の妹は。
ちょっと痛そうに、くすぐったそうに、目を瞑っている。
老婆はそんな妹のうなじに唇を吸いつけて。
ずるっ・・・じゅるうっ。
いやらしい音をたてて、生き血を吸い取っていた。
むざんな吸血。
生前の私なら、まぎれもなくそう思ったはずなのに。
血を吸われる立場から、吸う立場に身を置き換えると。
閃光のような衝動が胸を刺し、ときめきを覚えるのを。
抑えることができなくなる。

ひぃ・・・
階上から洩れるのは、母の声。
ずっと、狙っていたんだ。
家にあがりこむときに。
幼馴染みの陽三はそういって、陽焼けした頬をほころばせた。
褐色の陽焼けはひどく色あせていて。
逞しかった体内に、血が一滴もないことを示していた。
むき出しのうなじに口を着けて。
母の生き血を呑みこんでゆく、逞しい喉・・・。
己の根源をも支配されるような。
足許が揺らぐほどの、妖しい愉悦。

目のまえで母をあいてに吸血に耽る、その幼馴染みとおなじように。
血を一滴ももたない体にされて。
こちら側の人間になってしまうと。
家族の血を与える。
そんな。まがまがしい所業さえ。
客人をもてなすときの、最上の好意だと理解できた。
むしろ。
自分とおなじ血を味わってもらっている。
それも、ひどく旨そうに、満足そうに。
むさぼる者たちの横顔に滲む、悦びと。
獲物になった女たちの頬をよぎる、甘い翳りと。
そのどちらもが、むしょうに心をゆすぶってくる。

まるで己がいま一度、体内に宿した血を吸い尽くされるような。
愉悦に満ちた、そんな錯覚。
うら若い血液をぎゅうぎゅうと奪われてゆく妹。
下着フェチな悪友の手にかかり、衣裳もろとも辱められてゆく母。
甘い愉悦が色濃く渦巻いた、狭い空間。
代わる代わる、見守りながら。
愉しまれ、抜き去られてゆく同じ血しおに。
惜別と。満悦と。
ふたつながら、深く胸に刻んで。
またいっしょに暮らせるね。
少しはオレにも、分けてくれるね。
耳もとに囁くと。
女たちは嬉しげに、深く頷き返してきた。

妹におおいかぶさる老婆が卑猥な笑みをたたえながら
濃紺のプリーツスカートをたくし上げる。
悪友がまた、照れた笑いを浮かべながら
華やいだ柄のスカートをひき上げる。
蜘蛛の巣みたいに引き裂かれてしまったパンストを、まだ太ももに残しながら。
女たちは、イタズラっぽく笑みかえしながら。
娼婦の輝きに頬を染める。

あとがき
吸血鬼となったものにとって、家族もまた同じ道をたどることは。
えもいわれぬ一体感を覚えるもののようです。
やや、意味不明になってしまいましたが・・・^^;

ストッキングを買いだめする妻

2006年07月28日(Fri) 05:49:29

「今夜、会社の宴会なの。行ってもいいよね?」
妻の理恵はあまりお酒を嗜まない。
むしろ酔っぱらいは大嫌い、というのが口癖なぐらいだ。
結婚以来ずっと派遣社員として働いているけれど。
どこの勤務先でも、いまほど頻繁に飲み会に顔を出すことはなかったし、
たまに断れなくて出ていっても、
アーイヤだった。イヤだった。世の中どうして酔っぱらいなんて人種がいるんだろう?
そんなぐちをこぼすのがせいぜいだった。
それなのに。
今夜もまた、理恵はスカートをひるがえして、夜の街へと出かけてゆく。

つまらんな・・・
和朗は、朝が早い。
夜には子供のように早くに寝てしまうこともしばしばだ。
さて、寝るか・・・
妻の理恵は宵っ張りなので、
和朗が寝る時には隣室の電気がついていることが多い。
けれどもなにごとにも無頓着なほうである和朗は、そんなことは苦にもならずに寝てしまうのだった。
妻のいない夜。
真っ暗な部屋は、意外に眼が冴える。
そういえばあいつ、スカートなんか普段穿かなかったよな・・・
飲み会のときだけは、普段とちがう装いの妻。

留守中妻の箪笥をのぞくような不健全な趣味はもっていなかったけれど。
却ってそれは幸いだった。お互いのために。
箪笥の抽斗のとある一角には。
普段夫が見慣れないはずのストッキングが、渦巻くようにたくさん詰め込まれているのだから。
それもさいしょは安っぽいバーゲン品ばかりだったのが。
中身は、普通の女性としてはごく頻繁に入れ替わり、
だんだん薄手でつややかなものに取って代わっていって、
いまでは高価なインポートものさえ混じっているのだから。

がたん。ばたん。どたっ。
時ならぬ物音に、和朗は目が覚めた。
がさつな妻は、戻ってくるとやけにけたたましい物音を立てるのだ。
今夜もまた、それだろう・・・
たかをくくってそのままの姿勢で寝そべっていると。
ぅー。・・・。
かすかな呻き声がする。
「?」
どこかに、ぶつけたのかな?
それとも、具合でも悪いのだろうか?
布団のなか、さすがに和朗は首をひねり、起き出していった。

理恵が玄関に腰をおろして、ぐったりとなっている。
「おい!?だいじょうぶか?」
ワンピースの肩を揺すられても、理恵の返事ははかばかしくない。
あたりには饐えたような、酒のにおい。
理恵が身にまとうにはもっとも適さない芳香だった。
「飲まされ・・・ちゃった」
ばかだな。断ればいいのに。
「だって、だっ・・・てぇ」
理恵はへらへらと笑っている。
なにが起こっても陽気なのが、この女房のいいところ・・・なんだろうけれど。
シャワー浴びたい。
危ないぞ・・・?
だって、キモチ悪いんだもん。
言い出したらきかない妻。
そのくせ正体はなくなっている。
オレが入れるの・・・?
ちょっと躊躇はしたけれど。
もともと優しいたちの和朗は、大柄な身体に妻を抱きとめて、
シャワールームまで連れてゆく。

「脱がせて・・・服」
おいおい。
若い頃ならいざ知らず。
そういうこととはこのごろ無縁になりつつあるのだが。
和朗は文句ひとついわないで、
妻のワンピースを脱がせにかかる。
注意深い夫なら。
まてよ。
そう、思ったはずである。
出かけてゆくとき。
妻の服装は黒っぽいブラウスにオレンジ系のスカートだった。
少なくとも、いま着ている白と黒のワンピースではなかった。
ストッキングの色も、黒から肌色に変わっている・・・

さすがに。
夫は、息を呑む。
脱がしたワンピースの下からあらわになった太ももに。
ちりちりに裂かれたストッキングが、貼りついていた。
ちょっとしたはずみに破けた。
そんな感じではなくて。
明らかに、人為的な力がくわわっている。
裂け目のほぼ真ん中には、咬まれたような痕が。
かすかな痣と、唾液のような透明で微量な粘液をあやしたまま。
白い肌に赤黒い滲みをたたえている。

おーい。おおい。
朝になってもまだぼんやりとしている妻。
和朗の口調がのんびりしているのは、根っからの性格なのだろう。
心の奥にはただならぬさざ波が立っているはずなのだが。
それ以上に。
気は確かか・・・?
そういいたくなるくらい。
飲み会の翌日の理恵は夢でも見ているような顔つきになっている。
今朝の場合はとりわけ、それがひどかった。
マーマレードが嫌いな和朗のパンに、マーマレードをしっかり塗りたくるし。
ふだんはあまり飲まない牛乳をたっぷり注いで、飲み込んだあとにむせ返っているし。
きょうは会社、休むわ・・・
そんな妻の言葉に、かえってホッとしていた。

その日の仕事は忙しく、帰りは深夜になった。
和朗を迎えたのは、真っ暗な自宅。
いつも宵っ張りの理恵だったが。
さすがにもう、床に就いたらしい。
飲みつけない夕べの酒が、よほどこたえたのだろうか?
服を脱ぎ、シャワーを浴びて。
夕べ妻の服を脱がせたことがちょっとだけ、記憶をかすめる。
子供作らないの?
母ののどやかな口調が思い出される。
うちにはまだご縁がない話だよなあ・・・
このところ縁遠くなっている妻の肌をひさしぶりにおがんだのに。
夕べも、それどころじゃなかったっけ。
シャワールームを出ると、そらぞらしいほどの冷気を感じた。
いまどきの季節に似合わないほどの、まるで毒を含んだような冷気・・・・・・
和朗はふと、気を喪っていた。

あっ・・・ああ・・・っ。
寝室から、妻の声がする。
気分が、よくないのだろうか?
待てよ。飲み会は夕べだったはずだ。
薄闇の向こうに、見慣れた妻の肢体がうごめいている。
まだ服を着ているようだ。
黒っぽいブラウスに、オレンジ色のスカート。
ストッキングは黒、だろうか?
つい最近、そんな服を見たっけな・・・と思いながら。
いつのまにか、妻の周囲は滲むような灯りを帯びはじめ、
気がつくと服の色がはっきりと見えるほどの明るさになっていた。
じょじょに眼が慣れてくると。
半透明にまぎれたもうひとつの影が、妻にまといついているのを発見した。
「お前は、誰だ・・・?」

お前は、誰だ?
誰何されても、影はうごきをとめない。
黒のストッキングを履いた妻の脚に、しなやかな腕をからみつかせ、
ついでのことに唇までも、あてがって。
あちこちに、見境なく。要所要所に這わせてゆくのだ。
冷静な状態の和朗なら、力ずくでも相手のうごきを止めたであろう。
けれども今、彼の意識はひどく薄ぼんやりとしてしまっていて。
目のまえの出来事も、うつつか幻か・・・という状態だったのだ。
「あら。ばれちゃった」
妻がイタズラっぽく、舌を出す。
「ごめんね。もうちょっとだけ、目つぶっててくれる?」
どういうことなの?
妻に訊ねる声色が、子供のようなたどたどしい口調になっている。
「んー。ひと言ではいえないなあ」
妻はそれでも、語りはじめてくれた。
黒ストッキングの脚を、影のいたぶりにゆだねつづけたまま。
薄墨色に染まった理恵の脚が、はじめて夫の目に、淫靡なものに映った。

特殊サークルの、会員になったの。
もう、半年くらいになるかな。
会合があれば予定を繰り合わせてでも、出ていくの。
近くに住んでいる親戚の、結婚式くらいかな。優先順位でいうと。
だからあなたの留守中も、しょっちゅう行ってたわ。
呼び出されると必ず、スカート穿いて、おめかしして。
もちろん、ストッキングも穿いて・・・出かけていくのよ。
夕べもじつは、そちらのほうだったの。
黙っていて、ゴメンね。
なにをされに行くのかって?
だいじょうぶ。安心して。
一般会員のばあいは、ストッキングを破かれるだけ。
そう。おなじサークルの男性会員にサービスするんだよ。
破きたい人には破かせてあげるの。
触ったり、舐めたりも、アリかな・・・
ちょっぴり。だけど。
でもね。お愉しみはそこまで。
素肌に触れるのはダメだし、もちろんエッチも厳禁。
ちょっと変わっているのは。そうね・・・
血を吸われることかしら。
お酒のにおいでごまかしたけど。
夕べはふたりがかりで。ハデに吸われちゃって。服が汚れたの。
ほら。

和朗は、息を呑む。
むぞうさにたくし上げられたスカートの裏地には、
赤黒いものがべっとりと広がっている。

ああ、平気よ。だいじょうぶ。
キモチいいんだ。血を吸われるのって。
和朗も、どう・・・・・・?

うかつだった。
影はもうひとつ、存在した。
そいつは和朗の背後にまわって、かがみ込んで。
かっちりとしたうなじに、
ちくり。
鋭利なものを、素早くうずめてしまっている。

ちゅ、ちゅ~うっ。
夫の身体からあがる吸血の音に、理恵は満足そうな笑みを浮かべた。

判定結果。弱M型。
「強、だったら。どうなの?」
咎めるような目をして見あげる理恵に、影は呟いた。
この場でさいごまで、尽くしていただけたか・・・な。
冷ややかな口調とは裏腹に。
傍らで眠りこけている和朗に対するたくまぬ親愛の情が伝わってくる。
・・・仲良くしてもらえそうね?・・・ああ、もちろん・・・
え?
ふたりの声が聞えたのか。
和朗が切れ切れに、呟いている。
「お客さん・・・かんげいするよ」
ありがと。
理恵は優しく手を伸べて。
瞑りかけた夫の瞼を、しっかりと閉じてやっている。

女性会員の夫がサークルの会員になると。
一般の男性会員とは違う役割を与えられる。
そう。会の趣旨を、じゅうぶんに理解して。
愛する妻を、自分の責任のもとに、会に提供することに同意して。
あやかしの宴に、妻を送り出す。そうした、大切な役割を。
もちろん、会に出席することも許可される。
むしろ、歓迎される・・・といっても、間違いないはずだ。
ただし、その場合には・・・
妻はもちろん、女性会員としての役目を果たすことになる。
おなじ会員となった、夫のまえで・・・

「おぉい、理恵」
和朗がいつもののんびりした声で、妻を呼ぶ。
おかしいな。ぜんぶ夢・・・・・・だったのか?
残業に疲れ果てて、裸のまま寝てしまったらしい。
体のあちこちについた畳あとが、ひどくずきずきしてくる。
うなじに潜り込んだ疼痛などは、とっくに皮膚の奥底に紛れ込んで。痕跡さえも残っていない。
妻は今朝も、スカート姿。
「帰り、遅いの?」
いままで妻が夫に訊いていたことを、今朝は夫が問うている。
「う~ん。わかんない。・・・あ。でも夕食は外で済ましてくれると助かるな」
ああ、いいよ。
気軽に引き受けた和朗は、知らず知らず長めのスカートからのぞく足許に目をやっている。
「それ、ストッキング?」
「きょうは違ーう。柄もののハイソックス。だってすぐ破けちゃうから」
わざと破ってるんじゃ・・・という言葉を飲み込みながら。
それでもうっかり、口をすべらせてしまっている。
  破けたところも色っぽいねぇ。
「あら、貴方にしては珍しい」
少女のようにはしゃいだようすは、いつもとまったく変わりがなかった。

再あっぷかいせつ

2006年07月27日(Thu) 22:09:25

「縁の深い彼」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-402.html
屍鬼となって蘇えった人々がさまよう秘密の園を訪れた少年は。
幼馴染みの少年のために、自分の血を吸われて。
おなじ体験を、気になる同級生、妹、そして許婚とも共有する。
周囲の親しい女性と関わりをともにする彼はたぶん、生涯の、いや永遠の友・・・

「言葉と裏腹に」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-403.html
ちょっぴりSな吸血鬼に迫られる女の子。
表向きはいやいやをしながらも。
吸い取られたえっちな血潮はちがう言葉を囁きかける。

「小道」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-404.html
柏木気に入りの一編です。
さいしょはいやいや襲われていた少女と、
野蛮ななかに優しさを秘めた吸血鬼との交流。
唐突な別離のあと、再会したふたりは・・・

交際許可権

2006年07月26日(Wed) 07:02:25

「蛭田君。折り入って、相談が・・・」
いつになく改まった口調で招かれた役員室。
営業部のイスなどとは比べものにならないほど居心地のよいソファの上。
蛭田は居心地悪く、縮こまってしまっている。
役員室は鳥飼女史とのイキサツで、散々慣れているでしょう?
そんなふうに冷やかされても。
冗談じゃない。あれは慣れる・・・なんて。そんなものじゃない。
蛭田はきっと、首をすくめて口ごもりながら、頑強に反論するだろう。

「お願いがある」
三十分も待たされて。慌しく現れた烏森専務は、向かいにどっかと腰をおろすと、
いさぎよいほど鮮やかに、白髪頭を垂れていた。
専務の傍らには、いっしょに部屋に入ってきた岬奈津子。
隣りの課の、こわもての・・・いや、うるわしの先輩が。
お姫さまのように艶然と。堂々と。
そして、ひっそりと控えている。
「奈津子さんを愛している。交際を承諾してもらいたい」
―――えっ?どういうことよ?
蛭田は混乱して、専務の顔をまともに見てしまった。
―――それはこっちの言いたいことだ。
専務の顔つきは、蛭田のそれとおなじくらい、混乱をあらわにしている。
「奈津子さんとは、去年の夏、大阪の出張に同伴してからの付き合いなのだが。どうしてもこれからは、君の承諾を取ってくれと言うんだ。・・・いったいどういう関係なのだね?君たちは」
さいごの一句は、無意識に詰問口調になっている。

どういう関係?
課は隣同士。
じつに優秀で切れ者な女の先輩と、どじばかり踏んでいるできのわるい男の後輩。
そこまでは、誰だって知っているはずだ。
たまにツーショットで一杯ひっかけにいくのも。(むろん蛭田のおごりで)
そこまでの関係も、知っている人は知っているだろう。
けれど。
女のストレスが嵩じたときに、別室で。
求められるまま、身に着けているストッキングを破ってやったり、
もののはずみで本性あらわに血を吸ったり、
あげくの果てに、やりすぎて。手厳しいお返しを頂戴したり。
そんなことは誰も、知らないはずだ。
―――まさか、そんなことまでしゃべったの?
チラと向けた視線を、奈津子はそ知らぬふりで受け流している。

きみは、奈津子の婚約者でもあるのか?
専務がいいたいのは、そこだろう。
まさか・・・
一笑に付すべきか?
それも怖いような気がする。
だが、この奇妙にのっぴきならない状況は、いまこの場で解決しなければならないようだ。
「どうだろうか?許可してもらえるかね?」
息せき切っていた専務は、少し余裕を取り戻したのか、
ちょっと蛭田をからかうような目をして、問い質してくる。
もういちど、奈津子を見ると。
試すような顔つきで。さっきから。
じいっと、蛭田を見つめている。

「困りますよ。そんなことを私に言われても。
 そもそも私にそんなことを許可する資格なんかありませんし。
 専務だってご家庭をお持ちのわけですから、
 『それはまずいじゃないでしょうか?』としか申し上げられませんね」
蛭田にまともに言い返されて。
専務は人が変わったように、赤くなり、蒼くなり。
しばらくものも言えないで口ごもっていたけれど。
「わかった。もうふたりとも部署に戻ってくれ。それから、わかってくれるだろうが、こんな話はくれぐれも口外しないように」
さいごの語尾は、不安げに震えていた。

さっきからコツコツというハイヒールの音だけが、廊下に響いている。
ピンと背筋を張った奈津子の歩きぶりは、脚さばきもさっそうとしている。
狭い廊下にこだまするハイヒールの音も、その小気味良い歩みぶりを映して。
どこまでもリズミカルに奈津子のあとをつづいてゆく。
お互い無言。
探り合っている・・・などと思い込んでいたのはきっと、蛭田のほうだけだっただろう。
営業部が近づいてくると。
奈津子は一瞬足をとめ、
「よかったわね。殴られなくて」
リンと取り澄ました、冷たい声。
「専務のこと?」
「私に・・・よ」
相変わらずニブいのね・・・
奈津子はいつも蛭田をなじるときのあの顔つきを残して、そそくさと部署に戻っていった。

つぎに会ったとき。
烏森専務は、憔悴し切っていた。
服装は社内にいるときよりはさすがにラフだったが。
ブレザーにスラックス姿。決して自堕落な服装ではない。
家に客人を招くときは、必ずそうしているのだろう。
「家内の晴枝だ」
引き合わされた夫人も、地味だがきちんとしたベーズリ柄のスーツを着て、夫の傍らに控えている。
蛭田のかたわらには、奈津子。
先日は、専務の隣。きょうは、蛭田の隣。
おなじように、淑やかめかして。きりっと背すじを伸ばして。
ピンストライプのスカートの膝のうえ、両手を丁寧に組み合わせている。
このごろ濃い目になっていた化粧が、きょうは清楚に薄っすらとしているのは。
初めてお邪魔した重役宅・・・だからだろうか。
貸しを作った専務の手前。初対面の夫人のまえ。
ことさらお嬢様をとりつくろおうとする下心・・・だなどとは、思っても口にできまい。
清楚な衣裳の下。
足許を黒く淫靡に染めているストッキングはきっと、インポートもののガーターストッキングだろう。
こういうときの蛭田の推測は、はずれたことがない。

さっきから、蛭田の目を捕らえて離さないのは。
目のまえで上品に流された、晴枝夫人の脚。
先日開かれた社内のとある式典に、重役の多くは夫人同伴で現れた。
晴枝夫人を目にしたのはそのときが初めてだったけれど。
齢より若く瑞々しい白い肌が、濃い紫のワンピースに映えて。
ひときわなまめかしい風情に、目を釘づけにされたのが。
あれからもう数ヶ月も経つというのに、いまだに鮮やかな記憶となって残っていた。
晴枝夫人の脚を染めるのは、あのときとおなじ黒のストッキング。
薄手のナイロン越しに滲むように透けている白い肌に、蛭田は牙の付け根を疼かせてしまう。

見かけの淑やかさとは裏腹に。
かなりあけっぴろげな人らしかった。
「アラ。あなたったら。何口ごもっているのよ」
晴枝は口を尖らせて、夫を軽く非難する。
「貴方がそうしたいっていうから、お呼びしたらって申し上げたのに。決心つかなくなったの?」
夫婦というよりも。息子の悪戯を咎める母親のようだった。
「ああ。いやいや・・・」
夫の曖昧な態度のなかに、「予定変更はない」という意図を見抜いたのだろう。
夫人のほうがはるかに、思い切りが良かった。
「男のひとのまえで裸になるんですから、あなたたちはずしてくださいね」

「いや、いや!」
専務は気の毒なくらいに、狼狽している。
わかっているわよ・・・
晴枝は白い眼で夫を見返して。
「はい、はい。気の毒な貧血症の社員さんに血を差し上げるだけ・・・でしたよね?」
さあもういいですから。おふたりで寝室へでもどこへでも消えて頂戴。
そんな態度で、夫を追っ払うように夫人のほうから立ち上がっていた。
そわそわと、そそくさと座を立って。
奈津子を引き立てるようにして、専務は廊下に通じるドアをあけた。
では。
ソファから立って、礼儀正しく一礼して通り過ぎようとする奈津子に。
油断のならない子。
晴枝はそんな一瞥を、送っている。

階段のきしむ音がゆっくりと遠ざかってゆくと。
夫人は蛭田と差し向かいになって。
「どこから、お吸いになるの?」
脚・・・といいかけて。
どこからでも来なさい。
そんな印象すら窺える夫人の態度に気圧されて。
蛭田はちょっと、口ごもる。
初めての女性を襲うとき。
初めは、首すじか、胸。
あるていどの量の血液をひと息に、理性とともに奪い取って。
それからゆっくりと、ストッキングの脚を愉しむことにしている。
いつものまがまがしい野性がぐぐっと鎌首をもたげて。
蛭田はいっしんに、ブラウスの襟首からわずかにのぞく胸許に眼を馳せた。
わかったわ。
晴枝夫人は蛭田の目線に敏感に応えてきた。
もの分かりよく一歩まえに出ると。
頭ひとつは丈のある蛭田と、まともに目線をあわせてくる。

いざとなると、きつい眼をするひとだ。
そんなふうに思いながら。
蛭田は咎められたような後ろめたさを隠しながら、晴枝夫人の目線をかいくぐり、
うなじに唇を押し当てていた。
暖かい―――。
ほどよく柔らかい皮膚の下に息づくぬくもりに、理性をさきになくしたのは男のほうだった。
牙を入れた瞬間。
女はさすがにびくっと四肢をこわばらせて。
それでもなんとか、姿勢を保とうとした。
ちゅ・・・っ・・・ちゅう・・・
勢いよくはじけた生温かい鮮血は、蛭田の喉を心地よく浸してゆく。

「なんだか、眠くなってくるわ。あまり失礼なこと、なさらいわよね?」
念を押すように、そういうと。
返事も待たず、蛭田の腕の中。晴枝夫人は気を喪った。
しずかになった身体にのしかかって、なおも傷口を吸いつづけ。
豊かな肢体が意思を喪ったのを確かめると。
黒のストッキングに包まれたふくらはぎに、欲情をズキズキ滲ませた唇をあてがってゆく。
自分のために装われた、薄手のナイロンが。
微光の差し込む密室のなか。かすかな光沢を滲ませて。
豊かな脚線美をなまめかしく、きわだたせている。
過去になん人の女が、こうしてストッキングを破られていったことだろう。
専務の妻でありながら。
晴枝夫人もまた、蛭田の牙に毒されてゆく。
スキひとつない装いに、手抜きはなかった。
蛭田のための装いは、よほど高価なものらしい。
サラサラとした舌触りが、ひどく心地よかった。
蛭田のしつような嬲りに応えるように。
豊かなふくらはぎを柔らかにコーティングしたナイロン製のオブラアトは、
しなやかな色気を滲ませて、ギラギラと脂ぎったものを輝かせながらなすりつけられてくる唇や舌を迎えてくる。
すぐに破るのはもったいないな。
侵しがたい風情の貴婦人をまえに。
蛭田はけしからぬ感想を抱きながら、晴枝夫人のスカートに手をかけた。
奥までしのび込んでゆく手の動きにあわせ、スカートを彩るベーズリ柄がうねうねと波打ってゆく。
ほぅ・・・
太もものつけ根まで忍ばせた蛭田の掌が、うごきをとめた。
ガーターストッキング・・・
そして、そのうえは。
予期された特定の衣類の感触が、ない。
秘所をおおいかくすため、女がふつう身に着けている衣類の感触が。
いっしょに此処にやってきた女が、ピンストライプのスカートのなか装ったように。
この女もまた、おなじ装いに身をやつしている。
むき出しにされた部分の体毛が。
まるで抜き身の刃のようにチクチクと、蛭田の指先に触れてきた。
「失礼なこと、なさらないわよね?」
ああ、やっぱりそういう意味だったのか・・・
蛭田はにんまりと、笑んでいた。

精緻な画質だった。
さっき妻をおいてあとにしたばかりの応接間が、激しい情事を痕づけるように。
ソファやイスの置き所までも変えている。
大画面に映し出された、一対の男女の所作。
かがみ込んだ蛭田の牙に、濃艶な風情に包まれた脚線美を侵されてゆく妻。
じゅうたんの上、転がされ。
毒虫に養分を吸い取られるようにして、血を啖らわれてゆく妻。
見慣れた外出着に、かすかなバラ色を散らしながら。
半ば気失しつつも、男の求めるまま。
清楚な薄墨色の長沓下の脚を放恣に開いてゆく妻。
「ズキズキ・・・する?」
可愛く笑んだ柔らかな唇が、イタズラっぽい響きを耳もとに吹き込んでくる。
眼は、うっすらと夢見心地。
それでいて。患者の容態を注意深く見守る看護婦のように。
怜悧な輝きを秘めていた。
「たまには、いいでしょ?こういう覗き見も・・・」
スカートを剥ぎ取られてあらわになった太ももは、ガーターで鮮やかに区切られて。
素肌の地の白さをいっそうきわだたせている。

再あっぷ紹介

2006年07月25日(Tue) 23:03:53

今夜は去年のちょうど今ごろ、
まだ「幻想」がお客さまをほとんど持たないでいたころにあっぷされたものを取りあげてみました。
どうせここに来る人はいないだろう。
そう、たかを括って。
勝手気ままに描いていたころのものです。
あ。^^;
「勝手気まま」・・・今でもそうですよね。(^^ゞ

どういうわけか、そろいもそろって女吸血鬼のお話です。

「女吸血鬼の獲物」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-396.html
どこからか拉っし去ってきた人妻を力ずくでねじ伏せて。
衣裳もろとも、血を辱めてゆく。
ちょっぴりSなムードを漂わせた女吸血鬼です。

「お腹が空いたの」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-397.html
「好み」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-398.html
「O型血液の味」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-399.html
以上三話は、おなじストーリーです。
美少女の吸血鬼にたぶらかされた、純朴な青年。
命乞いはあきらめたほうが賢明だ・・・と。
冷酷なことを、同情をこめて囁きながら。
しだいしだいに青年の心を読み取って、彼好みの女へと自らを装って。
その母親をさえも、篭絡して。
破滅の予感を漂わせながら、刻だけがしっとりと、過ぎてゆく。
そんな感じのお話です。

今度は・・・

2006年07月25日(Tue) 07:39:16

旨いね、旨い・・・
ぴちゃぴちゃと音たてながら。
やつはボクを横抱きにして。
つけた傷口に、べろをなすりつけてくる。
負担のかからないようにするから。
そんな約束に、奇妙に義理堅く。
あまり大量な吸血は、されたことがない。
夜明けの公園に呼び出されて、
見通しの利かない薄闇のなか。
ほんの少しの吸血に浸る相手をする。
ほんとうに、惹き込まれるように。
やつのペースにはまってしまっていたけれど。
一方的に血を啜られる。
そんな習慣に。
いつか慣れ、なじんでしまった日常。

きみの血は、絶対旨いと思ったんだ。
見通しが当たったね、といわんばかりに、得意気な彼。
どうして?
そう、訊くと。
お袋さんの血も、舐めたから。
えっ。
ダメ・・・?^^;
悪戯の許しを請うような人のよげな笑いに、つい苦笑を返してしまう。
母はなんていっているの?
だめじゃないって、いいながら。
首をかしげてくれるんだよ。ちょうどきみがしてくれるみたいに、ね。
そう。
親父さんも、苦笑いして、お袋さんを送り出してくれるんだ。
えっ?
だからきみも、素直にならなきゃダメだよ。
ちょ、ちょっと違うんじゃ・・・
あわてるボクに、やつはニヤニヤしながら囁いた。
ズボンの下に、女もののストッキングを穿いているね?

ズボンのすそと靴との、ほんの数センチもないすき間から。
よく、目ざとく見抜いたもの。
やつの意に従うようになってから、
ひとりでに身についていた、変わった習慣。
たくしあげたズボンの下から、
白い皮膚が透ける薄いナイロンの皮膜ごしに、
ざりざりと掠める舌が、しつようにすりつけられる。
今度は、半ズボンを履いてこいよ。
夜だから、誰にもわからないよ。
そそるように誘いかける目線に、抗うことなく頷いてしまっている。

ひんやりとした、公園の空気。
薄手のナイロン一枚に隔てられた冷気はかえって心地よく。
人の目線を気にかけてこわばった脛を、ひんやりと包んでいる。
霧の彼方から、やつの影。
来たね?
悪戯の共犯者みたいな親しげな目線が、ボクの足許に注がれている。

破っちゃっても、いいよね?
やつの嬲りは、いつになく執拗。
女のように彩られた脚に、明らかに昂ぶりを覚えているようだ。

これだけ破いちゃえば、だれも気がつかないだろうね?
半ズボンの下、やつは顔をあげて、にんまりと笑みを送ってくる。
くまなく嬲りをうけた薄手のナイロンは、凌辱のあとのようだた。
しっとりと密着する肌触りはとうに去って、むざんに脚の線から浮き上がっている。
やつはボクの肩をだくようにして。
こんどは、女装してこいよ。
持っているんだろう?お袋さんの服。


あとがき
これもなん日か前に描いたまま、幻になりかけていたものです。
男同士の吸血に、だんだん女性に近づいてゆく少年のお話・・・

つぶやき

2006年07月25日(Tue) 07:35:42

悲しいわ・・・悲しいわ・・・血を吸い取られてしまうのは。
死んでしまうんでしょう?こういうことをくり返して。
だから。たとえようもないくらい、悲しいの。
もっと生きていたい。
どうしてって?
貴方が、好きになってしまったから。
こんなに、辱められているのに。
想いを、とめられない・・・
美味しいの?わたくしの血・・・?
だったら、嬉しい・・・
いいのよ。ごめんなさい、困らせてしまって。
もっと、吸って・・・。
でもね。私・・・
あなたのために、生きていたい。
少しでもたっぷりと、私の血をあげたいから。
大変でしょう?こんな手の込んだやりかたで、女の子をつかまえるのは。
お願い、キスして。怖くても、耐えられるから。
いっしょにいられるあいだだけでも。少しでも永く。
私のこと、愛してくれる・・・?


あとがき
なん日か前にちょっと描いてみたやつなのですが。
どういうわけか、あっぷが遅れました。なぜだろう。

聖女

2006年07月25日(Tue) 07:31:17

黒一色の礼服に装った、後ろ姿の妻。
薄墨色に縁どられたふくらはぎが、周りの涸れ果てた風景のなか、きわだって映る。
その妻の足許にうずくまるのは、ふたりの少年。
ひとりは、息子。
もうひとりは、友達だからと言って息子が連れてきた少年。
ふたりはひとしく、競い合うように。
黒ストッキングに覆われたふくらはぎに、唇を這わせている。
失血に蒼ざめながらも。
妻はほろ苦い笑みをたたえたまま、ベンチに腰をおろして。
少年たちの不埒なふるまいに、自らの脚をゆだねつづけている。

妻がうずくまり。少年たちが立ちあがる。
接近した、身長差。
飢えた唇は、しぜんとうなじに押し当てられる。
ほっそりとしたうなじを前にした少年たちは。
競い合うように。譲り合うように。
かわるがわる、唇を這わせてゆく。
容赦なく、せがむように。
しんから、甘えるように。
かわるがわる吸いつけられ、なすりつけられてくる唇を。
妻はおうように頷きながら、受け容れてゆく。

どちらの少年が、よりむさぼっているのだろう?
肉親である、私の息子と。
どうやらその道では手だれらしい、見知らぬ少年と。
どちらが妻の血に、より深い想いを寄せるのだろう?
たんに血を摂るために現れたとしか思えなかった未知の少年は、
意外なくらい甘やかに、素肌に唇を滲ませて。
ひと口、ひと口、だいじそうに吸い取ってゆく。

なにも、見なかった。
なにも、知らずにいる。
それが、なによりなのかもしれない。
慕い寄ってくる子供たちの頭をかわるがわる撫でながら。
ほろ苦かった笑みは、聖女の微笑にかわっていた。

例によって紹介です

2006年07月24日(Mon) 21:41:28

あまりお話が浮ばなくなったせいでしょうか。^^;
以前「幻想」のころあっぷしたお話を、このところつづけざまに再あっぷしています。
解説などを。

「亡き夫へのメッセージ」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-388.html
初名には「妻から・・・」となっていましたが、
ちょっと長いのでタイトルを変えてみました。
夫のいなくなったあと、堂々と?浮気を愉しむ未亡人のお話です。
「闇夜の語らい」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-389.html
相手はまちがいなく、大人の女性ですね。
上品に。親しげに。とても紳士的に。
舌なめずりをしながら、淑女をいたぶって愉しむ、イケナイ刻。^^
どちらも去年の9月12日にあっぷしたものです。
「一人芝居」的な要素をもっているという点で共通しているかも。
一人芝居、けっこう好きなのですよ。
わりとノッているときに。
ニマニマしながら、描いているのかも(怖っ。^^;)

「従姉」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-390.html
年頃になった従姉のお姉さんに憧れたことはありませんか?
そんな彼女を吸血鬼と組んで襲ってしまうお話。
けれどもそのひとはやがて・・・
あとは読んでのお愉しみ♪

「マイナーな色のストッキング」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-391.html
ストッキングをこよなく愛する柏木、たまに気が乗るとこういうお話を描くのですが。
そのなかでも気に入りなやつです。
かなり実話かも。^^

夕べは久しぶりに「魔」が降りてきた・・・と思ったら。
明け方またもや、現れまして。
両方来るのは、珍しいんですよ。^^
おかげですっかり、寝不足です。
今夜は早くに寝ようっと。(^^)/

覗かれた神秘

2006年07月24日(Mon) 07:16:48

その男の人が訪ねてくるのは、決まってパパが留守のとき。
ママは人が変わったように打ち解けて。
ボクが寝たのを確かめると。
ふたり手を取り合って、夫婦の寝室に消えてゆく。
寝室のドアがかちゃりと音を立てると。
ボクは胸をどきどきさせながら、ドアほうへと忍び寄って。
鍵穴に。
庭先に回ったガラス戸ごしに。
顔をぴったりくっつけて。
なかのふたりに、子供らしくない目線を這わせてゆく。

ママはうつ伏せになって。お尻を突き出して。
男に支配される雌。
そういう姿勢だと、幼かったボクにもよくわかる。
いつもボクには厳しいママが。
いつもきちんと装ったママが。
ベッドのうえ、おっぱいをまる見えにさせて。
もだえている・・・そんな言葉。
まだ使い慣れなかったけれど。
乱れたまままだ身に着けているブラウスが、スカートが。
ひどくいやらしく、視界にからみついていた。

それからかれこれ、二十数年が経っている。
おなじ寝室のなか。
若々しい胸をさらけ出しているのは、妻。
対手は、私ではない、見知らぬ年配の男。
妻はいつものつつしみとは裏腹な、艶めかしい笑みを淫らに輝かせて。
逆立つほどにぷるんとしたおっぱいを、
誇るように、男の目線にさらしている。
腕を後ろに組んで。
軽く、身をよじらせて。
そんなふうにしなをつくることは、
夫婦のベッドではありえないことだった。

妻を一方的に犯される。
それを愉しみだと感じはじめたのは、一体いつのころからだったろう?
真面目な夫と、貞淑な妻。
そんな仮面をかなぐり捨てて。
別人のように乱れる妻に。
うす汚れた日常は、まがまがしくも眩い光芒に包まれる。
太ももに浮いた、筋肉が。
ばたつく脚の悩ましげなくねりが。
シーツに乱れた黒髪が。
裂き散らされたブラウス、ストッキングが。
目のまえで放出される粘液よりもねばっこく、
網膜を妖しく、彩ってゆく。

ああ、そうだったのか。
半開きになった、向かい側の扉。
その扉の隙間から見えるのは、息子の眼―――。
父もきっと、気づいていたのだな。
振り返ると写真立てにおさまった夫婦は仲睦まじく寄り添いながら。
笑んだ顔が気のせいか、いつもより悪戯っぽく輝いている。

鎖のように

2006年07月24日(Mon) 06:47:20

ごめんなさい。
妻はハッと我に返ると。
拝むように手を合わせ、謝罪をつづける。
口許にも。ブラウスの胸元にも。
ぬらぬらと光らせているのは、私から吸い取った血――― 。

あの子がね。
指さす彼方にあるのは、かつて私の息子だった男。
いまはしずかに瞳を蒼白く輝かせ、夫婦の有様を見つめている。
わかっているよ。
友だちに血を吸い取られ、屍鬼に堕ちた息子。
夜な夜なたずねてきて、ほとほとと、扉を叩く。
妻は切なさに耐えきれず、家の扉を押し開いていた。
密会は、ほんの数夜―――。
そのわずかな隙に、妻の体内を流れる血液は、ほとんどが息子のものになっていた。
それでも、いいんです。
俯きながらも、妻の語調はしっかりしている。
おいしかったんでしょう?
幼な児をいたわるように、うずくまる息子の頭を撫でて。
さぁ。もっと。
妻は居ずまいをただすと、息子と向き合って。
スッと近寄せられる唇に、みずからうなじを傾けてゆく。

ちゅ、ちゅ・・・っ。
さっき妻が、私に対して立てた音。
随喜のなか、頬ずりせんばかりに、身を寄せて。
受難を受難とも受け止めないで。
もう、息子のなすがまま。
嬉々として、生き血を吸い取らせてゆく。
四十半ばの熟女の血は、さぞや美味かったことだろう。
息子は手の甲で口許をぬぐい、
ぬぐったものを妻の胸になすりつけ、ブラウスを赤黒く染めた。

細く白い腕が、闇の向こうに手招きしている。
さあ、いらっしゃい。だいじょうぶよ。父さん怒ったりしないから。
母親に招び寄せられた娘は、
いつも学校に着てゆく、紺のジャンパースカートに黒の長沓下を履いていた。
闇夜に、白百合の花びらが揺れるように。
戸惑いに頬を揺らす娘。
肩まで垂れた黒い髪の毛が、そのうごきに合わせていちだんと揺らいだ。
若々しい。いつの間にか少女に育っていた娘。
その娘さえ、兄の腕の中身を投げかけて。
ちゅ・・・・・・っ
母とおなじ音をうなじにすべらせてゆく。

さぁ、あなた・・・
妻に促されるままに。
身はひとりでに、闇をすべってゆく。
行き着いた真下には、目を瞑った娘。
胸元を引き締めているリボンを、震える手で解きはなって。
あらわになった白珠のような胸に、生え初めたばかりの牙を突き立ててしまっていた。
もっとも禁忌とすべき行ないを。
妻と息子は手に手を取り合って、いちぶしじゅうをみとどけていた。
ほんの、つかの間。
父娘を襲った、衝動の嵐―――。
娘は一瞬、身じろぎして。苦痛に身を引きつらせ。
それでもすぐに、安心しきったように、背中に腕をまわしてくる。
まるで、恋人同士のように。
重たい濃紺のスカートのなか、かすかにぬるぬるとするものは。
うなじに流れるものとおなじくらい紅い、ひとすじの糸。
ぎこちなく合わさる腰と、腰。
傍らでは妻と息子が、私たちとおなじ行為に耽りはじめてゆく。

一条の鎖のような。
まがまがしい連環に身をゆだねて。
昏く落とした灯火の下、獣のにように。
代わる代わる、血を啜りあう。
いつかそのなかに、息子の恋人や娘の婿。
それに彼らの姉妹や親たちまでもが加わるまで。
血の交歓は夫婦のあいだ、親子のあいだ、秘められながら。
音も無くひそかやに、交わされつづける・・・

淪落の渦

2006年07月24日(Mon) 06:29:05

生まれて初めて・・・男の人にこんなにもてたの。
妻は、随喜の涙声。
きちんと結った長い黒髪を振り乱して。
モノトーンの柄のプリントワンピースをくしゃくしゃに着崩して。
寄り添う二の腕のぬくもりが妙に生々しかったのは。
薄い皮膚の内側を流れる血液が淫らにほてっているせいなのか。
輪姦の痕を露骨に漂わせながら。
それを恥じることすら忘れた女。
  あなた、いいでしょ?いいでしょ?
  私、もっともてたい。
身を揉んでせがむ妻のいうなりに。
伸びてきた毛むくじゃらの腕に、妻の細腕を結び付けてしまっている。
どうしようもないどす黒い衝動が衝きあげてきて。
もう、やすやすと。
理性を越えた振る舞いに身をゆだねてしまっていた。

きゃあきゃあと小娘のようにはしゃぎながら。
いままでのつつしみも淑やかさもかなぐり捨てて。
はしたない・・・そんな口癖さえも忘れ、
ノーブルな横顔に淫蕩の翳をあらわに滲ませて。
男たちの腕のなか、放恣に身体を開いてゆく。
魔性の震えにゾクゾクと身を震わせて。
私のなかにあるのは、屈辱を越えたもの。

土俗の祭礼。
そう呼ぶにふさわしいほどの、野の宴。
男どものどす黒い欲望の渦がつむじ風のように吹き荒れる。
渦の真ん中には、妻と娘。
今宵の生贄に群がるのは、
一人の父親。七人の息子たち。
血を吸い取られ、理性を奪い尽くされて。
宴に興じ、家庭の崩壊すらを愉しみに変えていた。

三番めの息子だと、名乗っていた。
赤黒く染めた股間を誇らしげに露出したその少年は、
私の傍らにやってきて。
  ごめんね。おじさん。
  でももう、皆さんはボクの奴隷なんだよ。
鬼ごっこのルールでも話すように悪戯っぽく、囁きかけてくる。
  そうだね。
呟くともなく、呟き返していた。
  よろこんで、きみの奴隷になるよ。
少年はそれを耳にすると、くすぐったそうに笑っていて。
  わかる?婚礼の席なんだよ。ボクとあの娘の。
  よそ者の女は、嫁になるときに。
  ほかの身内の男とも、仲良くすることになっているんだよ。
  お母さんはさしずめ、引出物かな。
  おじさんにはちょっと高価すぎる引出物だろうけど。
  ボクのお母さんでもあるわけだから。
  親孝行、させてもらうね
そうして、フフッと笑んで。スッと傍らをかすめると。
脚ばたつかせてはしゃぎまわる妻のうえ、
もういちど、のしかかってゆく。

抑えつけた両腕に、若さのなごりを弾ませて。
妻は激しくかぶりを振りながら、愉悦に耐えている。
  もう。もう。見ないで頂戴。あなたったら。
甘えきった口調で、悩乱して。
婿になる若者と腰をひとつに合わせ、淫靡な舞踏に耽り抜く。
夜は長く、宴は尽きない。

あとがき
あーあ。またとんでもないお話が・・・(><)
いや、どれもとんでもないんですけど。^^;
終末フェチ・・・ではないんですけどねぇ。

目のまえで 狙われて・・・

2006年07月24日(Mon) 00:21:42

人妻と、遊んでみないか?
悪友の囁きに乗って出かけた夜更けのこと。
待ち合わせ場所は、近在の空き家。
夜ともなると、あたりを照らすのは古びた街灯だけのなか。
暗がりだから、誰にも分からないよ。
そんな囁きに、まるで悪童のころに戻って。
そわそわと出かけていった。

約束の場所には、着飾った人妻がふたり。
薄闇を通して、さだかには見えないまでも。
ほとんど同年輩の、甲乙つけがたい女たち。
どこん家(ち)の女房かは、このさいせんさくなしだぜ?
ヤツがそういうくらいに、付き合いの濃い田舎の村だった。
それでも得意げにフフン・・・と笑んで。
ーーどうだい、なかなかの獲物だろ?
獲物。その言葉が夜のオオカミの心をちくりと刺激する。
女たち・・・いや獲物たちは、思い思いにポーズを取る。
そそるように、しなをつくって。
脚をくねらせ、身をしならせて。
ハッとした。
女のひとりは、女房だ。
あいつ、オレに気がついていないのか?
わかっていて、振る舞っているのか?
そんなオレをあざ笑うように。
ヤツはおごそかに、いいわたした。
ーーオレは、青いワンピースのほうをモノにする。
いつも見慣れた、女房の外出着。
こざっぱりと身にまとった衣裳をひけらかすように。
娼婦はすすんで、ヤツの腕のなか、抱きすくめられてゆく。

あっ・・・うふっ。オォォ・・・ッ・・・
崩れかけた壁から洩れる、月明かりに照らされて。
女房はまるでオレを無視して。
ヤツの逞しい肢体と格闘している。
オレはもうひとりの女の、ピンク色の衣裳を剥ぐと。
まるで女房への不埒な振る舞いに仕返しするみたいに、
ヤツの真横でぐいぐいと、
スカートの奥に吶喊をつづけている。
ヤツは、くすくす笑んでいる。
とうにわかっている。
オレが犯しているのが、ヤツの嫁だということを。


あとがき
仕掛けられたスワッピング。
悪友氏は、どうやらなかなかの手だれのようです。
親友の愛妻を篭絡したかわり。
夫同様手練手管にたけているその妻を差し出して。
もう、文句など言わせずに。
これからも情を交わしつづけるこんたんなのでしょうか?
ちょっとワルなお話。一夜明けたあと、この夫婦はどんなやり取りをするのでしょうか。。。

灯りの落ちた家

2006年07月23日(Sun) 23:55:58

月に何軒となく、増えてゆく・・・
夜も灯りの点らない家。
住人たちが血を吸われ、生命の灯をとうに消した家。
それでも以前とおなじように。
家の主たちはその家に住みつづけている。

仲良しだったヒデキの家が。
週末から灯りを落としている。
さいごに会ったのは、金曜日。
下校の道でさよならをいうときに。
ここ数日具合を悪くしたのか、ちょっと蒼くなった顔色をしていて。
返してきた寂しそうな笑みに、薄ら寒いものを覚えたけれど。
昨日の夜家族で通りかかったとき。
いつもこうこうと室内を照らしている灯りが、
蛍火のような蒼白さを帯びて揺らいでいた。
「あっ」
すべてを察して、ボクは涙声になっていた。

学校帰りの途中だった。
「ごめんよ」
ヒデキはさいごに会ったときよりも、いっそう頬を蒼くしていた。
あとの言葉を口にするまいとして、
さいごの理性が口許をかたくなに引き締めていたけれど。
なにを言いたいのか、ボクにはすぐにわかっていた。
血をくれないか。喉、渇いちゃったんだ。
ボクはすすんで、ヒデキのあとについていった。
「姉さんも、欲しがっているんだ。いいよね?」
笑んでいるつもりなのか、
蒼い唇から滲んだ前歯の白さに、
ただ惹きつけられたように、魅入ってしまっていた。

「怪我をしたのね?」
母さんは、そういって。
うなじの傷をさりげなく、包帯でくるんでくれた。
包帯の下、じくじくとした疼きを我慢していると。
父さんは僕の肩を優しく抱いて。
「ヒデキとは、生まれたすぐからの仲良しだったんだよね」
そうして、母さんのほうを振り返って。
「家族ぐるみの付き合いだったけど。マサヨさんも、ケイタのやつも。サユリちゃんも。
 ・・・みんなあちら側に行っちまったようだね」
ふだんと変わらない、さりげない口調に。
母さんも、笑みを含んで応えている。

灯りの消えたヒデキの家の玄関に。
影が三つ、寄り添うように伸びている。
今晩は。おかげんいかが?お見舞いに来たんですよ。
お薬に、暖かい生き血はどうですか?
ギイ・・・
開いた扉の彼方は、いちめんの闇―――。
けれどもボクも、父さんも。母さんまでも。
怖がることなく、入ってゆく。
そう。ひとりでに、闇に吸い込まれてゆくように。
お邪魔しますね。
母さんがいつものように、ストッキングのつま先を板の間に滑らせる。
足首をつかまれて。
ふくらはぎを吸われて。
いいんですよね?あなた・・・
ヒデキのお父さんに組み伏せられるまえ。
父さんに向けた母さんの笑みは、ちょっぴり悪戯っぽかった。

父さんは、ヒデキの母さんと。闇の彼方―――。
母さんとはべつべつの方角へと消えていた。
子供は、子供どうし。
仲良くしようね。
薄闇ごしに浮かび上がるサユリ姉さんの白いセーラー服が、
いつもよりずっと、眩しく映った。
ひとりでふたりに与えていたら。
きっと、うちでいちばん早く灯りを落とすのはボクの部屋だろうか。
冷たく濡れた、サユリ姉さんの唇が。
うなじに、柔らかく貼りついて。
ちゅ、ちゅ・・・っ。
玉子の黄身を吸い出すようにして。
ボクの血を、吸い取ってゆく。
血が抜けてゆく感触がひどくくすぐったくって。
ボクはクスクス笑いながら、
太ももに吸いついてくるヒデキの唇に、
やっぱりドキドキしながら脚を伸べてやってしまっている。

・・・ア・・・
母さんの消えた方角だった。
喉に詰まったような。ひどくせつじつな呻き・・・
見慣れた濃紺のスカートがまくれあがるのが闇に透けて見えたのは。
錯覚・・・だろうか?
仲良しの姉弟はにんまりと顔を見合わせて。
してるね。
うん・・・
申し合わせたように、愉しげに笑みあって。
ねぇ。わかる?お母さん・・・うちのパパのお嫁さんになっているんだよ。
賢しげに尖らせた口許が、闇夜に濡れて輝いていた。
まね・・・してみない?うちの姉さんで。
ヒデキはそういって、ボクのわき腹を軽く突っついている。

ちょっとご無沙汰でした。

2006年07月20日(Thu) 21:43:12

ここんとこペースが崩れてまして。^^;
毎日1~2作ほども新作をあっぷしていたのですが、
明け方よく訪れる「魔」が、とんと寄りつきませぬ。
それで、「幻想」時代の過去作品を再あっぷしてみました。
ほとんど手直しもしておりません。ごめんなさい。
でも、まぁまぁツジツマは合っているかと思います。^^;;;
こういう短いやつは、しいて手を加えてゆくと、
だんだん全体が崩れてきまして、とうとう全文削除・・・という結果に、往々にしてなりがちです。
なわけで、これらの作品はすでに作者からひとり立ちしたものとみなし、
あえて手を加えなかった・・・というわけです。(多分に言い訳・・・^^;A)

これらは昨年10月下旬くらいに書かれたものですが。
ほとんどが見事なまでに、近親愛に貫かれて?おります。
直しを入れていないおわび代わり・・・というわけでもないのですが。
多少のコメントなどを。
「真夜中の女医」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-371.html
性別不詳な吸血鬼さんの活躍?です。
女と男のはざまを自在に往来し、夫婦を堕としめてゆく。
そんなノリのお話です。

「夜風1・2」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-372.html
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-373.html
夫の血を吸って吸血鬼に堕としめた男。
本当は吸血鬼として蘇える夫が獲るはずの妻の血まで先取りしてしまう。
蘇えった夫をまつものは・・・
どうして「近親」に入っているのかは。「2」を読むとわかります。^^

「宵闇」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-374.html
愉しげな情事。
「ふたりの服には、たくさんの落葉」というフレーズ、いまでも気に入っています。

「家のなかで」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-375.html
一見すると母子相姦のお話なのですが。
もしかすると擬似・・・なのかも。というお話です。

「乱倫の宴」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-376.html
このころ描いた一連の近親もののなかの「代表作」?
乱れ合うふた組の母子・父娘。

「マザコンな吸血鬼」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-377.html
ごく短いお話ですが・・・いけない世界が凝縮されています。^^
「お義母さま、長いわね」
口を尖らせる若妻が気に入っています。

「同病相憐れむ または 狩られた妻」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-378.html
「あぁ、よくがんばったね・・・」
そういって、監禁されて血を吸い取られていた妻を迎える夫。

「あてがわれた母親」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-379.html
吸血鬼になった友だちに女の血をあげるために、お母さんを連れてきた少年のお話です。

「ちょっと息ぬき・・・^^;」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-380.html
ちょっと・・・というか、かなりの脱力ねたです。^^;

「妻と義父 義母とわたし」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-381.html
「あとがき」にもあるように。
「乱倫の宴」の状況をちょっと変えてみたバリエーションです。
こちらは義母対婿、実父対娘の関係です。
どちらのほうが、いけないお話でしょうか?^^
どちらにしても、いけないお話のようですね・・・^^;;;

そうそう。
これだけまとめてあっぷをしたのは。
明日から数日間、あっぷがとまるせいです。
それまでのあいだを旧作でつなごうというコソクなやり口。
どうぞ、お許しを・・・m(__)m
明朝「魔」が囁いてくれれば、その限りではありませんが。
期待せずに、見守ってやってください。^^

深夜の喧騒

2006年07月17日(Mon) 04:18:18

がやがや・・・ざわざわ・・・
深夜だというのに。
家の前の通りがいやに騒がしい。
なにかあったのだろうか?
事件・・・という感じでは、さらにない。
縁日の帰り・・・のような、身内どうし寄り添っての和やかささえ伝わってくる。
雨戸をとおして・・・
しかし。
この刻限に、ひとが通るようなところではない。
なにしろここは、真夜中になると本当に真っ暗な、田んぼのなかの一軒屋なのだから。

賑やかだろう?
傍らで、囁くやつがいる。
口許からしたたっているのは、妻の生き血か。私のものか。
許しあっている関係に、なぜか奇妙な安らぎを覚える。
ちょっと、外をのぞいてみようか。
誘われるままに。
玄関に出てみた。
奥さんはよく、お寝みだよ。
ヤツはいたずらっ子のような笑みを浮かべている。

脚にまとっているのは、黒のストッキング。
ヤツの好みに合わせて、せがまれるまま身に着けた妻の衣裳。
このままの恰好で、外に・・・?
ふり向くとヤツは、いっそうたちのわるそうな笑みを浮かべて、
黙って私をそそのかすだけ。
ままよ・・・と思いつつ。
サンダルをつっかけて、表に出ていた。

蛍火のように、薄ぼんやりと浮かび上がる光芒のなか。
密やかな喧騒のもとは、多数の男女。
二、三十人もいるのだろうか。
年齢もまちまち。服装もとりどり。
紅い水玉模様のワンピースを着た女の子。
紺の絣(かすり)も涼やかな老婦人。
あちらにいるのは、一対のカップル。
よそ行きのスーツ姿の若い女性に、背広ネクタイの男性が寄り添っている。
この季節のネクタイ姿は、すっかり珍しくなった。
女性のほうも、今どき珍しく淑やかで奥ゆかしい風情を漂わせている。
ハイヒールにストッキングという、フォーマルな装いのせいばかりでなく。
二人して対面している老婆に対する物腰が、潔いほどにきちんとしている。

「ええ。だいじょうぶ。怖くなどありませんわ」
女はそういいながら。
足許にかがみ込んでくる老婆を見おろして、
それでも恥ずかしげに、ちょっと脚をすくめてみせた。
男は女をいたわるように両肩を抱いて、寄り添っている。
兄、というよりは。許婚のようであった。
老婆が、くちゅっ、と、女の脚に唇を這わせる。
ストッキングの裂けるときの。
ぴちちっ・・・という音が聞えたのは、錯覚だろうか。

よく見て御覧。
ヤツがいつのまにか、傍らに寄り添ってきている。
促されるままに。
カップルの乗ってきたらしい車に目をやった。
え?
いつの時代のものだろう?
ついぞ見かけなかった、古い型の車が。
ぴかぴかに磨かれ、長大なボディを誇らしげに横たえていた。
とうていいまどき動けるような車種ではなかった。
よく見ると、
道行く人々はみな、どこか時代をはずれた古風ななりや顔つきをしていた。
亡霊・・・?
はじめて、ゾッとするものが背筋を走る。

怖がることじゃないのだよ。
ヤツはかまわず、囁きつづける。
大人が子供を諭すような言葉つきだった。
みんな、愉しいから出てきているのさ。
血を吸い尽くされて、この世から引退してしまっても。
やっぱりあのときの愉しさが、忘れられないんだな。
またこうやって、現れて。
だから、せめて血を吸い取ってしまったことへの謝罪から。
あいつらもああやって。
亡霊たちに合わせてつきあっているのさ。
恥らっていた女は、くすぐったそうにきゃっ、きゃっ、と声はずませながら。
老婆が吸いつけてくる脚をかえるたび。
かわるがわる、片足立ちを繰り返していた。

じゃあ・・・
では、またね・・・
別れを交わし合う、声と声。
にわかに消えた幻のあと。
夜風が寂しそうにぴゅうぴゅうと吹き去ってゆく。
みんな、帰ってしまったな。
さ、家に戻ろうか。
あんたの番は、まだまだ先のようだから・・・

睦言の中身

2006年07月15日(Sat) 11:49:45

月曜は芽衣子。
火曜は那恵子。水曜はケイ。木曜はひろ子。金曜は梢。
そして土曜日は、由貴子。
さいきん妻の気に入りは、新来の吸血鬼。
蘇えった後、娘と再婚した妻の血を吸いに来る、あの罪のなげな初老の男である。
「行ってまいりますわね」
嬉しげにこちらを振り返り、
わが妻ながら、若い娘と見まごう白のワンピース姿をひるがえして。
ウキウキと、夜の公園に出かけてゆく。
「行ってまいりました」
そういって妻が帰宅を告げるのは、もう真夜中すぎ・・・
純白の衣裳にぬらりと浮いた赤黒い痕が、
ひどくナマナマしく映えている。
足許のシルエットを引き締めていたストッキングも、ちりちりに破かれていて。
いくら罪のなげな控えめな老紳士とはいえ。
人の妻を拝借したうえでやることは、おなじらしい。
「行ってまいりました」が「逝って・・・」と耳に響くのは。
きっと、気のせいばかりではないはずだ。

「お行儀のいいかたよ。那恵子さんの処女を奪ったのも、
 彼女が失恋して、ごじぶんのほうから望まれたあとだったそうよ」
妻は彼の紳士ぶりをふいちょうしてやまない。
「あちらのほうも、とても想いのこもったなさりかたなのよ。
 それでね、今夜は・・・」
生垣の奥に引きこまれて。燈火も届かない闇のなか。
どんな儀式がおこなわれたのか。
こと細かに伝える可愛い唇は。
軽く、嘲りを浮かべるように。
私の顔色を、くすぐたったそうに愉しんでいる。
そうしてさいごに、思い出したように。
「あらそうね。あなただけいいこと、なかったわね」
引きずり込んだ夫婦のベッドのなか。
可愛い唇は、さえずりをやめない。
―――こんど、逢っているところ、見せてあげるわね。
―――あなた、愉しんでくださるわよね?

気が進まない。むしょうに気が進まない。
女が吸血鬼に襲われるシーンはいく度も目にしてきたけれど。
よりにもよって、最愛の妻が・・・
そういう思いと裏腹に。
もう、いまから、腰のあたりがじくじくと恥ずかしい湿りを帯びてくる。
足は、ひと足早く出かけていった妻の後を追って、
しぜんと公園へと向いている。
昼間の喧騒とは裏腹に。
ひんやりと霧たちこめる公園の敷地。
煌々と照らし出す燈火のなかで
しぃん・・・と静まりかえった空間が広がっている。
生垣の奥の闇のなか。
ざわざわとかすかな音のたっているあたりが、
きっと不倫の現場なのだろう。
「ねぇ、ねぇ。今夜は主人が見ているの。あなたも協力してね」
生娘のような白い頬に。
ニッと、イタズラっぽい笑みを浮かべて。
妻はそんなふうに、情夫をそそのかしているのだろうか。

夜目がきいてきた。
薄闇の彼方から浮かび上がるのは、一対の男女。
妻は薄目をあけて、夢見心地のまま、血を吸われている。
ワンピースにあしらった花柄が不規則になったように見えるのは。
派手に散らされた、薔薇の花びらのせいだろう。
紳士は妻の手の甲に接吻を重ねて。
慇懃に、礼をかえしているようだった。
妻がなにかを、囁いている。
―――ホラ、あのひとが来たわ。たっぷりと、見せつけてあげましょうよ。
そんなふうにでも、囁いているのだろうか?
男は妻の両肩に手を添えて。
謝罪するように、その身を寄り添わせて。
こちらには目も向けずに、姿勢を崩していった。
ふたつの影が埋没した草むらが、いつまでもいつまでも、
風もないのに、不自然に波立っている。

「お嬢さんたち、吸われる量が減ったみたい」
それはそうだろ・・・ひとり増えたんだからな。
少し、むくれている私。
妻はすべてを見透かしたように。
お莫迦さん、ねぇ。
声をひそめる。
「草むらのなかの私の囁き、聞えなかったみたいね。
 なんて言ったか、あててみて。あ・そうそう。
 ダンナに見せつけたいなんて、これっぽっちもいってないわよ。
 あの人はそういうこと、お悦びにならないから」
どこまでも見透かしたようにそう言われて。
すっかり毒気を抜かれている。

吸血鬼が血を吸うのはね。
渇いたから・・・だけじゃないのよ。
あのお齢であれほど召し上がるのは。
怨念があるからよ。
奥様、再婚なさっていたでしょう?
どうしても、気になるんですって。
那恵子さんも彼氏とすぐに別れちゃったし。
お嬢さんたちは皆さん、フリーですよね?
私だけが、主婦♪
それが夫をおいて逢いにくる。
どういう女か?って思ったらしいの。
私申し上げたんです。
ひと刻の愉しみに、ほかの男に身を任せても。
いちばん大切なのは夫ですのよ・・・って。
つまらない嫉妬で、奥様を苦しめてはいけないわ。
・・・言い過ぎだったかしらねぇ。


あとがき
7月3日付の「黒いハイソックスの看板娘」の続編です。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-338.html
いちどダミーで血を吸わせた由貴子が、事件が「解決」してからも逢っている・・・
嫉妬にかられた夫の目からは、魂の浄化のため・・・とはなかなか映らなかったようですが。^^;

どちらを、選ぶ・・・?

2006年07月15日(Sat) 11:17:01

目ざめると、あたりはいちめんの闇だった。
手足にまとわりついたざわざわとした濡れて重たいものは、泥なのだろう。
思ったとおりの状態だった。
身体は意外なくらい、生きているころと変わりがない。
そう。人ではない身体となってしまったというのに。
霜田は起き上がると、暗がりを通してあたりを見分けようとした。
ばさっ。
頭のうえから、毛布が落ちてきた。
「生還、おめでとう」
悪戯っぽくほほ笑む、翳のある口許。
「マサ・・・」
霜田は嬉しげに、相手の名前を口にする。
ごく近しい友であった男。
そして、彼の血を、一滴あまさず吸い取っていった男。

喉が渇いている。
いいようもないほどに。
渇きを癒す方法は、ただひとつ。
村は、屍鬼が支配しようとしている。
どのみち誰かに啖われるのなら。
こいつがいい。
初めて訪いをつげたマサに、霜田はためらいなく、己の首すじを差し出していた。
どうしてそう感じたのか。
目に見えないところで、より近しくつながっていた彼だった。

見詰め合う眼が、おなじことを伝え合っている。
癒す相手を、どこに求めるのか。
マサは独り暮らしだった。
足はひとりでに、霜田が生前暮らしていた家に向かっている。

夜更けだというのに。
灯りがついている。
自分以外の男の存在を心に描いて、霜田はちょっと胸を翳らせたが。
その翳りが微かな色つやを帯びていることにまで、気が回らなかった。
きっとそれだけ、餓えていたのだろう。
窓の灯りに、女の影が照らし出されている。
女は腰つきのキュッと締まったプロポーションを誇示するように、
いちだんと胸をそらして。
鏡にでも向かっているのか、長い髪を後ろで結わえているようすだった。
身体の線をしなやかに映す、丈の長いワンピース。
あれは、妻だ。
霜田はひそかに呟いた。
彼の呟きを横目にして。
マサは催促するように、友人のわき腹をつついていた。
  どちらを、選ぶ・・・?あんたに任せる。
そう囁いて。
どちらが?どちらを?何をするのだと?
自問しかけ、ふり向こうとすると。
強い猿臂が彼の身体をもう一歩、家のほうへと押しやった。
なにかに操られたように。
足がひとりでに、前に進んでゆく。
あれは妻だ。妻の美佐代だ。
いまいちど、愛妻を抱きしめようと。
男は渇望に迷わず身を任せていた。

がさり、と外で音がした。
だれ・・・?
佳世はビクッとして、ふり向いた。
血を吸われて喪われた人が、家族の血を求めて夜、訪れる・・・という。
同級生のサヤちゃんも。
お隣の美沙おばさまも。
そうやって、パパやご主人の牙にかかったという。
むしろ、自分からすすんで。嬉々として・・・。
パパ。
懐かしい姿を目にした佳世は、
黒のストッキングに包まれたつま先を、一歩前に踏み出した。
父がいなくなってから。
喪服代わりの黒のワンピースに合わせて履いていた黒のストッキングが、
電灯に照らされてツヤツヤと輝いている。

なまめかしく彩られた、まな娘の脚。
それを霜田は違った目線で視ている。
妻の美佐代がやって来る。
そう見えたのだ。
かすかに揺れるワンピースの裾が、大人びた歩みを見せていた。
いったん女をやり過ごし、真後ろに立ちはだかって。
ちょっと、ためらって。
すぐにためらいを消して。
ぐぐ・・・っ。
はがいじめに、抱きすくめてしまっていた。
きゃ・・・
短い悲鳴はすぐに止んでいる。

女の悲鳴が消えると、マサは素早く庭を横切って、階上のベランダへと飛びあがった。
豹のように、敏捷な身のこなしだった。
霜田を襲った時とおなじ手口だったので。
この家の勝手は、よくわかっている。
ガラス窓に吸い込まれるように。
スウッ・・・と、通り抜けていた。
闇のなか。
若い女のぬくもりに似た芳香が、むっと漂っている。
こちらは娘の部屋だったはずだ。
娘に関心はなかった。
ずっと恋していた女(ひと)をもとめて。
マサはドアをあけ、薄明かりの点る廊下にさまよい出た。
すこし開いたドアの向こうから、薄日のような灯りが洩れている。

あ・・・あ・・・
押し殺した呻き声をあげつづける女を組み敷いて、
霜田は夢中になって喉に喰らいついて。
血を啜りはじめた。
若い。
妻はこんなに若い血を持っていたのか?
恐怖に震える華奢な肩を抱きすくめると。
女は相手が誰だか察したらしい。
ありがたいことに。
もうそれ以上の抗いを止めて。
体の力を抜いていた。
ちゅう・・・ちゅうう・・・
飢えた唇をあてがって。
素肌を賞ではじめたとき。
・・・?
父親の手が止まっていた。

女は夜の来訪を、とっくに予期していたようだった。
「おいでなさいませ」
落ち着き払った声でそういうと。
正座を崩して、侵入者に三つ指を突いている。
纏われているのは娘とおなじ、黒のワンピース。
「主人も、来ているのですか?」
「ええ・・・貴女を狙っておいでのご様子でしたが」
「誰でも、娘に手をかけるのはためらうでしょうから・・・」
ええ・・・そうですね。
たくまずしてひとつになった心が、部屋の空気を揺らがせた。
揺らいだ空気に身を任せるように。
「では、どうぞ。妾(わたし)も先に望みのない身ですから」
丈の長いワンピースの裾から控えめに、
薄墨色のナイロンに包まれたつま先を覗かせた。
  ずっと、貴女が好きでした。
謝罪するように呟く男に、赦しの視線が注がれている。

いいのよ、いいの・・・
どうせなら、パパにそうしてもらいたかったから。
娘になだめられるようにして。
男は、貴いものを押し戴くようにして。
娘のうなじを。胸を。足首を。
すみずみまで、賞ではじめている。
壁一枚隔てて聞えるのは、
マサが隣室の主の血を啜る音。
かすかな物音のなかに。
妻の落ち着いた物腰さえ、ありありと伝わってくる。
えっちね。パパも。
佳世はくすり、と笑いながら。
黒のストッキングごしに唇を這わせてくる父に応じてやっていた。
隣りでは。
やはり、ストッキングを破られた女が、
常夜の夢を結んでいた。
おおいかぶさる影になって。
十年越しの恋をようやく実らせることのできた幸福な男が、
憧れの君のすべやかなうなじに、飢えた唇を慕い寄らせている。

再あっぷ情報です。

2006年07月14日(Fri) 23:48:20

盟友HAIREIさまより頂戴したイラストをもとに描いたお話二編をあっぷしました。
直そう直そうと思うたびに、一日伸ばしになりまして。
けっきょく、ちょっとしか直していないんですね。^^;
もう、文章よりも絵をあっぷしたくて。
そそくさとヤッちゃいました。(笑)

これをさいごに。
「幻想」のころのお話を再あっぷするやり方を変えようか・・・と思います。
こういう紹介記事を描いて。
そこにリンクを張って。
お話そのものは、最初から過去の日付にしておこうかと。
もしご意見があったら、教えてくださいね。

では紹介です。
「女の子の服」
姉を紹介するために、姉の服をまとったママ。
ボクのまえにパパが差し出した服は・・・?
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-364.html
「少女を襲う老婆」
ちょっとクリミナルで意地汚い吸血老婆の登場です。
この老婆。ブログ始めるだいぶ前に妄想していた吸血鬼さんでして。
小ぎれいなお姉さんたちをお行儀悪くいたぶるんです。^^
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-365.html
「脚を長く見せる」
ミニスカートとオーバーニーソックスについての考察?です。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-366.html

・・・と、やってみたのですが。
なんか、めんどっちいな・・・(苦笑)
どちらにしても、明日からちょっとのあいだネット落ちしますので。
再あっぷなお話でもよろしければ、暇つぶしに愉しんでいただけると嬉しいです。^^

婚約者と吸血鬼

2006年07月14日(Fri) 07:52:41

「考えてあげたら?美奈子さんのこと。」
母はそんなことをいう。
妖しい微笑を浮かべながら。
何もかもを、わきまえながら。
「でも・・・」
そう口ごもるボクをそそのかすように。
「いいじゃないの。このさい本当のことを申し上げてみても」
試してみたら。
心のなかのそんな本音が、ありありと聞えてくる。

代々吸血鬼に血を与える一家であることを。
同じ年恰好の男の吸血鬼に、好んで血を与える間柄になっていることを。
そして、妻を娶ったら、新妻を与えなければならないしきたりがあることを。
ひと息に、話してしまった。
美奈子は一瞬、顔を染めて。
怒るのかと思ったら。
  ありがとう。話してくれて。何かあると思っていたから・・・
口許から洩れた声色は、いままで耳にしたどんな女の声よりも。
妙なる響きをもっていた。
  やめることは、できないのですね?
上目遣いにひたと見すえる白目が、異様な輝きを帯びている。
その輝きに魅せられるように。
  ええ。離れることができないので。
異様な本音を吐いてしまった。
胸のつかえがおりて。
心を救われたボクがいた。
  いいでしょう。そのかたさえよろしければ。
  わたしの血を吸っていただくわ。
ずきん!と胸を轟かせたのは。
彼女がいとおしく思えたからか。
無垢な彼女に、異形の翳を重ねることを、本能が悦んだためなのか。

向き合う一対の男女。
女は美しく。
男も、この世のものではないほどに美しく。
申し合わせたように、スッと寄り添って。
仰のけられた白いうなじに、
きらめく牙を埋め込んでゆく。
いつも、ボクの首筋を求めてやまない、
あの毒を含んだ牙を。唇を・・・
あ・・・
女は一瞬痛そうに眉をひそめて。
それでも、もうそれ以上ひと言も口にしないで。
ちゅ、ちゅ―――・・・
呪わしいほどスムーズに流れる血液の流れを耳にして。
彼と二人で過ごす夜、覚える昂ぶりよりも
よりいっそう昂ぶってしまっていた。

いかが?
睨むように見あげる瞳を。
彼はくすぐったそうに受け流して。こちらをふり向いて。
おめでとう。素晴らしい花嫁だ。
口許にあやした血が、鮮やかなバラ色の輝きをもっている。
キミによく、お似合いだよ。この女(ひと)の血。
熱に浮かされたように。
ボクの口から発した言葉に。
男はもちろん、女のほうまでも。
艶然と笑みながら、嬉しげに応じてくる。
初めての褥を、キミに捧げたい。
いいの・・・?
女の目線はそう問いかけながら。
もう離れられない。
寄り添わせた肢体が雄弁に、そう伝えてくる。
ああ。見ていてあげるから。
それが、貴女がボクに捧げてくれる初夜。
そう思っても、かまわないだろう?

祝言をあげると。
吸血鬼の青年は、行方を晦ました。
二年は、ともに睦みたまえ。二人っきりで。
それからは。ウフフ・・・
遠慮なく、入り込ませていただくよ。


あとがき
恋敵である青年に処女の血を与えるときの、花嫁の挑戦的な視線。
もっと巧く描きたかったです・・・

淫らな甘えん坊

2006年07月13日(Thu) 21:48:17

ここは現世から隔離された無名の施設。
預けられた子供たちは、吸血鬼の落とし児たち。
そそり立つ高い壁に隔てられた建物に出入をするのは、
暗い面持ちをした若い女たち。
いずれも、借金や痴情沙汰を背負い込んで、
行き場のなくなった女たち。
指導力のあるものは「先生」と呼ばれて落とし児たちの面倒を見、
そうでないものはたんに「姉さん」と呼ばれて、血を提供する。

まだ年端もいかないヨウと呼ばれるその少年は、奥の病室に隔離された収容者。
個室を与えられるものはたいがいは。
手のつけられない乱暴ものか、誰もが気味悪がって近寄らない、ヘンな子供。
それぞれひとりの先生がつきっきりで、面倒を見る。
沙紀というその先生は、施設にきて間もない「新卒さん」。
なにも知らずにここに来て。
さいしょに見させられたのがヨウだった。
ヨウは知性の成長が止まり、いまだに姉さんと先生の区別さえつかないでいる。
ヨウがたくまずしかけてくるいやらしいしぐさにいちいち苛立ち、
鉄火な態度でぴしりとはねつける。そんな毎日。
それでもヨウは性懲りもなく。
沙紀先生が後ろを向くと背中にのしかかろうとする。

油断もすきも、あったものではない。
「ヨウくん!ダメですっ。大人の女性はそういう悪戯を喜びません」
杓子定規な態度にどういうわけかよけいそそられるらしく、
先生の叱責は、ほとんど役に立っていない。
そんな事実にますます苛立ちを募らせて。
「ダメですっ!ダメですっ!」
叫びに近い叱責に。
周囲の先生も姉さんも。
口を抑えて転げまわらんばかりにして。
噴き出す笑いをこらえている。

「姉さん。こうするとキモチいいんでしょ?」
「なにするんですっ!?ダメですっ!」
「でも、キモチいいんでしょ?」
「気持ち悪いです。やめてください」
「やだ。ボクが楽しい」
「貴方が楽しくても、私は楽しくありませんっ!」
「嘘だ。ほら、こんなに濡れてきて」
「侮辱すると、許しませんっ!」
「でも・・・でも。ほら、だんだんしっくりとしてきた」
「そう、いう・・こと・・・はっ。だめ・・・なん・・・ですっ」
先生の声が、途切れ途切れになってゆく。
姉さんたちも、先生たちも。
そ知らぬ顔をして立ち働きながら。
奥の病室のほうへと耳をそばだてている。

幼くても力の強いヨウは、どうやら先生を組み敷いてしまったらしい。
こうすると、こうすると、とてもキモチよくなるんでしょ?
呪文のように、繰り返しながら。
ひたすら、先生の秘所を捉えて揉みしだいている。
先生はもう、声もだせなくなっていて。
キュッと引き締めていたはずの口許が、いつか弛みはじめている。
生理現象よ、こんなもの。侮辱が快感になるわけがない。
理性を保とう・・・あくまで力む態度をあざ笑うように。
「ねぇ。握ってみて。おおきくなっちゃった」
つかまれた掌に無理に握らされたものは、熱く膨張しきっていた。
これを・・・これを・・・?

初めてだったのだろうか。
無理に押し込んでくるやり口は、ひどくぎこちないものだった。
それでも剛くそそり立った先端は否応なく侵入してきて。
むぞうさに、沙紀先生のデリケートな部分を貫いていた。
「ああ・・・・・・っ」
  あ~あ。
  姦られちゃったみたいだよ。
  これで、沙紀先生も一人前ね。
洩れてくるそんなささやきも、二人の耳には入らない。

はじめは力ずくだった。
強引に、乱暴に、侵してきた。
こちらの想いも関係なく。理屈や筋道もおかまいなく。
女はひたすら、憤った。
その力に、切実さがつたわってきた。
野生の本能?慄とする・・・
気がつくと。
首すじのあたりが、ぬらぬらと生暖かく濡れている。
咬み傷から溢れる血なのか・・・と思ったが。
それは透明な涙 だった。
ヨウは、泣きむせんでいた。
「ごめんね。先生」
初めて沙紀を、先生と呼んでいる。

誰もがばかにして。まともに相手になってくれない。
けれど、沙紀先生だけは、まともにボクを構ってくれた。
弱い脳みそが形作ることができない言葉の連なりを。
すり合わせてくる身の動きで、伝えてくる。
そう。だから。嬉しくて。
男が女にできる、いちばん素敵なことだと聞いていることを。
先生に、してあげたくて。
荒々しいものも。大人げのない無作法も。
すべて、過ぎ去っていて。
そこにあるのは、ひとつになった男と女の姿だけだった。

沙紀先生に、ヨウの専任をお願いします。
施設の長の指名を、それでもまだ半分以上呪わしく耳にした。
完全に納得したわけではない。
ここにくるまでは、ちゃんと恋人だっていた。
それがどうしてあのような、人であって人でないものの支配下に入らなければならないのだろう?
貴女だけなんですよ。ヨウが信服をみせたのは。
施設の長のそうした言葉に背中を押されて。
沙紀はヨウのいる奥の病室に入ってゆく。
いつもよりちょっと、濃い化粧をして。
いつもより鮮やかな色の服を着て。
ヨウくん・・・ヨウくん・・・?
病室を覗いた先生は。
ヨウくん・・・・・・。
涙声になっていた。
天に召された少年は、いままで見たこともないほど幸せそうな眠りについている。

すこし、お休みをください。
ええ、でも。必ず、戻ってきます。
あの子とおなじような子が、おおぜいいるんですもの。
ちょっとヘンで。薄気味悪くて。
けれども、私が逃げてきた俗世間の住人がとっくになくしたものを、なくさずに持っていて。
戻ってきたらもう少し。うまくやれそうです。
けれどもあの子を忘れないために。
ほかの子のものになるまで少しのあいだ、時間を頂きたいんです。

褥のなかの人形

2006年07月13日(Thu) 21:11:56

邸から、まんまと誘い出して。
長い髪の毛をかきのけさせて。
白いうなじに唇をあてがって。
いく晩も。いく晩も。
そうして、逢瀬を重ねあって。
女はしんから、影を寄り添わせてくるようになって。
白百合のように高雅な面だちが、
いまはウットリと、わが身を仰いで。
しなやかな細腕を伸べてくる。
夢にまでみた、そのひと刻。
けれども悪夢は、知らぬ間に忍び寄っていた。

日に日に。逢瀬を重ねるごとに。
正気を喪った女はそのぶん、
ひどくそのひとらしくなくなってゆく。
生き血を吸われ、代わりにそそぎこまれた毒液に
身を焦がされて、心を蝕まれて。
しぐさも振る舞いも従順そのもの。
けれどもそこに、あのひとの魂はかよってくることはない。
嬉々として血を吸われに来る、生ける人形。
獲ることのできるのは、そのひとではなく。
そのひとの残骸。

褥のなかの人形を得るのか。
蘇えらせて別れるのか。。。
壊してまで、獲たいのか。
敵となってでも、永らえてほしいのか。
二者択一に迫られる、一夜。そしてまた一夜。
さいごと決めたその夜も。
夜に咲いた薔薇のように。
彼女はゆったりとほほ笑んで。
無防備に胸をさらし、腕を投げかけてくる。
そのしぐさは、彼女のものでありながら。
けっして、彼女のものではない。
惜しむように。甘えるように。
ひっそりと、うら若き美酒を啜り込む。
額にかるくキッスをして。
お戻りなさい。
いつものように別れを告げながら。
ただひとつ。ひそかな封印を施している。

白昼―――。
活き活きと振る舞うそのひとは。
鉄格子のはまった窓を隔てた陽だまりのなか。
恋人と腕を組み、笑いさざめいている。
輝くほほ笑みは、昼に咲き誇る薔薇。
夜の薔薇は、もういない。
わざとすれ違ってみた。
そのひとは、訝しげな一瞥をくれただけで。
すぐ恋人との談笑にかえっていった。
あの人にかえったあの人は、
もう見も知らぬ、ゆきずりの人。

ひどく寂しい。

2006年07月10日(Mon) 23:18:01

ひどく寂しい。心細い。
feeling small とは、よく言ったもの。
音楽も、絵も。語らいも。そのほかあらゆる慰めも。
胸の奥の隙間を埋め切ることができないままに。
時間だけが通り過ぎ、夜が更けてゆく。
こういうときにはたいがい、「魔」が囁いて。
奇妙な話のひとつやふたつ、浮んでくるものなのだが。
今宵はそういう訪いすらもないようだ。
きりきりとかすかに痛む胸のすき間から。
絞り出すようにしたたってくる、一条の血潮。

歪んだ家族

2006年07月10日(Mon) 16:01:34

父親がいなくなると 母は息子の女になる。
貞淑な主婦の仮面を脱ぎ捨てて。
息子の前に立つと、ひとりの娼婦。
ベージュ色のブラウスをさらさらとはだけて、胸を開いてゆく
フミオはどうしようもないほどに身も心も痺れさせながら
まとわれた母の衣裳の下に隠された 淫らな肌に唇を吸わせてゆく
我ながらつたない・・・と思いつつも
行為をとめられなくなってゆく息子をうながすように
母親は、息子の背中に回した腕に、ギュッと力を込める
思わず、
しくっ。
昂ぶってしまった。
昂ぶりがフミオを、ケモノに変えはじめている。
母の前の息子から、餌食の前のけだものに・・・
もう、無我夢中で、母の首筋に唇をあて、舌を這わせ
いやがる身じろぎさえも愉しみながら、
  母を征服する
そんな禁断の愉しみに、蟻地獄みたいに堕ちてゆく
ぴくっ。
いつか、母親の乳首が、
尖るほどに突き立っていた。

言うことをきくんだぜ?・・・まどか
息子に名前を呼び捨てにされて。
まどかは無言で、こくり とうなずく
こっちを向くんだ まどか
オレのものをしゃぶってみろ まどか
初めのうちこそ、母の名を口にするときに
ちょっとはばかるように、口ごもっていたのに。
そのうちだんだんなれてくると
要求はいっそう エスカレートする
シルクのブラウスに精液まみれのぺ○スをなすりつけられ
スカートの奥を 無理むたいにまさぐられ
それでも息子を咎めようともせずに
忘れかけていた女の本能をよび起し、衝動に身を任せ始めてしまっていた
夫に対するときには忘れていた熱情が ふつふつと湧いてきて
淫らな血液がどくんどくんと、鼓動を早めている
新婚のときの初々しかった熱情はまったくちがった濃艶さ
女として熟れきった いちばん美味しい自分
それを息子のまえ、さらけ出して
いかに目のまえの昂ぶった若い男の身体を慰めるか 満足させるか
解き放たれた女の本能は
もうそんなことにしか、頭からなくなっていた。
おれの女。おれの女・・・
まどかをわがもの顔に、力いっぱい抱きすくめながら
フミオはそうつぶやいていたけれど。
女はそういう息子の我儘に
ひたすら従順に、頷きつづけている。

落ちたのは、ひと月まえのこと。
学校から戻ったフミオが目にしたのは。
いつもとかわらないワンピース姿の母親が、
黒衣の男に抱き寄せられて 押し倒されて
ひたすら腰を合わせ、愛を奏でている現場。
人の気配を察すると、黒衣の男はこちらをふり向いて。
目線でたちまち彼を痺れさせていた。
  来い。母さんが欲しいんだろう?
どこでどう 見抜かれたのか。
そもそもどうして ボクのことを識っているのか。
そんな疑問すら頭から消えていて。
気がついた時には、半裸に剥かれた母のうえ、おおいかぶさっていた。
いつもの服が 見慣れた服が なまめかしく着乱れていて
少年を日常から非日常の世界へと導いた。
居所を変えた未知の男は 血走った眼で
じい・・・っと、ふたりのようすを窺って。
ふたりが 衝動のままにまぐわい始めるのを
満足げに見届けていた。

まどか・・・まどか・・・
オレのものだな?オレだけのものだよな?
着衣を散らされた花びらのように荒々しく踏みしだかれながら。
まどかは酔ったように、頷きつづけている。
貴方よ。あなただけのものよ・・・
嘘だ。違う。あの男と、しているんだろう?
知っているんだぞ。
きのうだって、ボクが戻ってくる前に あの男と逢って
肌色のストッキング、嬉しそうに破らせていたじゃないか。
男との痴態を頭に描くと、なぜか。
フミオの股間はいっそう、狂ったように昂ぶってくる。

ふふ・・・ふふふ・・・
なにがおかしい?
堕ちてしまったのね。貴方も。
腕の中、支配に屈していた母親が、一瞬。
瞳の奥に、別人のように蒼白い焔をあげた。
あ・・・いいのよ。して・・・お願い。
魔女じみた焔をかき消すと。
引き裂けた濃紺のストッキングからみつけたまま、くねらせた脚を
自分のほうから、息子の脚へとからみつけていった。
まるでツタがからまり合うように 濃密に しつように・・・

ことり。
部屋の隅で、物音がする。
虚ろに広がる残響に。
フミオははっと顔をあげようとする。
いいのよ。
柔肌に包まれた両腕が、息子の顔を深い谷間に沈ませる。
貴方はね。好きなだけここで、息抜きをしていけばいいのよ・・・
滲んだ笑みに含まれた毒々しいものを、まどかは豊かな頬の奥にひたとおさめて。
自分よりも丈の伸びたはずの息子を、しっとりと。
熱っぽく血潮を滾らせた素肌につつんでゆく。

どうかね?
隣室に、影のように佇んでいるのは、黒衣の男。
傍らに立ちすくむ別の人影に、応えを促している。
ああ・・・
もう一人は、曖昧ななま返事をかえしながら。
かつての自分そっくりな男が、自分の妻を犯している情景に
食い入るように、見入っている。
これで、いいのだな?
ああ・・・
ため息か。苦痛か。それとも、恍惚か・・・
胸の奥深く望んだものを得た男は、昂ぶりを抑えかねている。
血を吸われる家族。
そんな家に生まれ合わせて。
いつか、弄ばれる妻が洩らし始めた愉悦に昂ぶりを覚えるようになって。
年頃になった息子の、妻を見る眼に獣の色を認めた父は
みずからすすんで、ふたりを結ぶ糸をたぐり寄せる。
あんたもそうして。自分の母上とのあいだにフミオをなしたのだったな。
淪落の淵に堕ちた家族。
その姿を目の当たりにして。
黒衣の男の嘯きなど、もう彼の耳は届かなかった。

あとがき
さいご、ちょっとわかりにくかったでしょうか。
なさぬ仲の母子、なんですな。
母子相姦の所産として生まれたフミオ。
そんなフミオと身体を重ねあう、なさぬ仲の母親。
それを見守る父親は、かつて自分の母との過ちでフミオをなした過去を持っている・・・
かなり、かなり歪んでいます。

再あっぷ分を元のさやにおさめてみたら。^^;

2006年07月10日(Mon) 15:19:37

ありゃあ。
ほとんどなくなってしまいました。七月分。^^;
先刻あっぷした「仲良くなりたい・・・」(これも再あっぷ分です)で、今月のあっぷは17あったのですが。
今月のオリジナルはたったの四つ。だったんですねぇ。^^;
才能の枯渇が危ぶまれるきょうこのごろです。
当分、売り食いに徹しようかな?
今月になってからの再あっぷものは、二月の下旬から三月の上旬にかけてのものですんで、
また御覧になりたいというかたはぜひそちらのほうへいらしてくださいね。

狩られた男女

2006年07月07日(Fri) 07:46:45

日本人ばなれした彫りの深い横顔に冷たい笑みを滲ませながら、
その美少女はハンドル片手に携帯電話を離さない。
「そう。ひとりは女。残念ながら、いつものだよ。
 それからもうひとりは新人さん。男の子だけど若いから、そこそこ愉しめるかも」
凛と響く澄んだ声色は、後部座席の二人の運命を冷酷なまでに淡々と伝えている。
「女のほうは問題ないわ。男のほうは・・・そうね。
 口止めできそうだったら放してやることにするわ」
電話を切ると少女はこちらをふり向いて、ニッと笑った。
軽トラックのなか、はめられた鉄格子を隔てて。
荷台に載せられぐるぐる巻きに縛られた二人は、
たがいに干渉し合うこともなく、それぞれ離れ離れになって、
冷たいシートに腰を落としている。

「さあ、連れてきたわよ。好きになさいね」
女とは思えないほどの強い力に引っぱられて、
二人は荷台から引きずりおろされた。
女はそうしたあしらいに慣れているのか、かろうじて膝を曲げ、
服を汚さないように着地したけれど。
初めてだった男のほうは、もろにひざを突いてしまっていた。
「運動神経に問題ありそうだな、兄ちゃん」
二人の周囲に群がる影どもから、哂いが洩れる。
「いいじゃないの。優しくしてくれるんだから」
美少女は口を尖らせて影どもを黙らせると、
持っていたバックから注射器を取り出した。
「動かないで。痛くないためのおまじないをしてあげる」
そういってまず、ノースリーブのワンピースを着た女の二の腕を掴まえると、
おもむろにぐいっと針を刺し込んだ。
女は反射的にキュッと目を閉じて、それでもなされるままにしている。
なかの透明な液体が体内に注入されて、見返りに赤黒いものが、ぐぐっ・・・と抜き出される。
注射針を口に含んだ美少女は、唇をすぼませて。
ちゅうっ。
音を立てて旨そうに、中身を吸い出していた。
道端で摘み取った果物をほおばるように、こともなげに。
「おい、華・・・お前ひとりだけ、ずるいじゃないか」
口を尖らせるのは、今度は影どものほうだったけれど。
華と呼ばれた美少女は、「役得よ」といわんばかりに、相手にもしていない。
「つぎはあなたの番よ。暴れないでね」
華の美貌に浮いた清らかで無邪気な笑みのなかに、
抗いがたい魔性を見出して。
男はびくっと立ちすくみ、行為が終わるまで身じろぎひとつできないでいた。

「夫婦ものかい」
年かっこうの似ている二人を見比べて、影のなかの頭だったのが華に訊いた。
「ううん。べつべつのとこで掴まえてきたもの」
「じゃあ、兄ちゃんにいちいち断る必要はないわけだな?」
「ウン、そうする必要はないわけだよ」
華は男口調で応じると、
「そのほうが、よほど愉しめたかな?こんどは夫婦づれを狙おうか」
影どもがざわっ、と陰気な哂いをはじけさせる。
「じゃ、手っ取り早く、済ませようか」
ぞんざいな口調が、手慣れたようすを見せつける。

影どもが女をとり囲んで、そろそろとにじり寄る。
女はこれからわが身に訪れる受難を見まいとして、キュッと瞼を瞑っていた。
厭うような面持ちが、影どもをいっそうそそらせたらしい。
ノースリーブのワンピース姿はたちまち彼らにおし包まれて、男の視界から遮られた。
「あっ、痛うぅ・・・っ」
女のうめきを、確かに聞いて。
ふと振り返ると華がふふん・・・と笑った。
「おまじないのこと?かわいいわね。あなた。信じてたの?」
ひいっ・・・ひいっ・・・
喘ぎながら咬まれてゆく女を横目にちらと見やって、
「あれはね。血が美味しくなるおまじないなのよ。あなたも観念してね」
ちょっとだけお茶しましょ。
そんなふうに聞き違えるほどさりげなく。
「血を吸わせてね」
美少女はスッ・・・と、寄り添ってきた。
そのときだけは、恋人のように、慕わしそうに。

はじめてのキスは、首筋だった。
「あら。案外弱いのね。もうノビちゃうの?」
華は興ざめ・・・といわんばかりに、男の体をつよく揺すぶる。
「もう少しくらい、がんばってね。ほかにもお友だち、おおぜいいいるんだから」
女は口許を赤く濡らしたまま、男が楽な姿勢を取れるようにと、草地に寝かせてやっている。
血の味はいろいろなことを嗅ぎ分けたらしい。
「へぇ。その年で童貞なんだ。かわいいわね」
華は男の顔をのぞきこんだ。
可愛い笑みは、さっきから変わらない。
ちらちらと妖しくなってきた視界に美少女の笑みをとらえると、
男は半分の恐怖と、半分の愉楽を滲ませて、女の顔を仰ぎつづけている。
「ちょっとだけ、いい気持にしてあげるね。お礼のつもりだから、遠慮なく受け取って」
くつろげられた腰周りに、生暖かくすべすべとした肌が、ぬるりと慕い寄ってきた。

絞り取られるような・・・
しつようなうごめきに酔わされながら、男は周囲を虹が彩るような錯覚を覚える。
女のなかにびゅうびゅうと吐き出してしまいながら。
それを女がさっきむしり取った血とおなじくらい、ひどく歓んでいるのを感じていた。
怒張したものがほどよい硬さに収まるまで。
華は絞り取ることを、やめなかった。
なおもすがりついてこようとする男の腕からするりと抜け出すと。
「お愉しみはおしまい。あとはお仕事、つづけてね」
そういうと、自分の場所を影どもに譲っている。
大の字になった無防備な半裸に、影がふたつもみっつも、群がってゆく。

頭の芯が、じんじんとしている。
宿酔にちかい頭の重さを感えたが、決して不快なだけではない。
身体じゅうをぐるぐると、火の玉のようなものがかけめぐり、
涸れかけた血管を火照らせている。
傍らの女も同じ気分らしい。
ちょっとウットリトしたような顔をして、
力の抜けた肢体を男に寄りかからせている。
「さあ、ここだ。じゃあな」
また迎えに来たら、ちゃんと大人しく乗るんだぞ。
軽トラックを運転してきた影のひとりはそう呟いて。
男も女も無表情に頷くのを確認すると。
ぶおおおん。
軽くエンジンを轟かせて、瞬時に視界から去っていた。

間の悪いひと刻が流れた。
女も男も、互いにどうあいさつしてよいのか、戸惑っている。
ともに、あの妖しい儀式が通り過ぎた身をさらし合った仲。
並んで寝かされた草地のうえ。
いくたりもの衝動が、ふたりの上におおいかぶさってきた。
たがいの身じろぎを身近に感じながら。
助けることも、声をかけることすらかなわずに。
熱っぽく過ごした、忘我の刻・・・
見ると、女のワンピースはところどころ裂けている。
服を着たまま身体のあちこちを咬まれたのだろう。
かすかな血を滲ませた衣裳の裂け目からのぞく素肌が、ひどく妖しく白く艶めかしい。
さらりと肩を流れる黒髪に、女を感じていた。
「あの・・・」
男は瞬間、女の肩を捕まえた。
「エ・・・」
女は意外なくらい抵抗なく、力の抜けた手を男に預けていた。
男は女の手を取って、傍らの草むらへといざなってゆく。
まだ、夜のとばりがすべてを塗りこめていた。


あとがき
「夫婦ながら襲えるじゃん」
ティーカップを片手に、華は嬉しげにうそぶいていました。

夜の女と吸血鬼

2006年07月06日(Thu) 05:29:05

夜の街を舞う女の帰り道。
それはしばしば明け方まえの、とんでもない刻限だったりする。

ひたひた。ひたひた。
足音を忍ばせて。
麻美は帰り道を急いでいる。
ショッキングピンクのワンピース。艶を帯びた黒のストッキング。
派手な白い化粧は、ことさら素人ぽく長く垂らした黒髪に、目だちすぎるコントラストを与えている。
午前四時。
普通の人の歩く時間ではない。
この商売に身を染めて、もう何年になるだろう。
見た目は小ぎれいな衣裳に、お客の煙草の臭いと、
浴びせかけられた淫らなジョーク、しつこくまといつけられた腕の感触をまだ残しながら。
醒めた目をまえにむけて、そそくさと家路をたどっている。

がさ・・・
さっきから。
はるか後ろから誰かが尾(つ)けてくる。
遠慮がちに。けれども抜きがたい劣情をけばだたせている、その気配。
商売柄、そうした気配には、かなり敏感になってしまっている。
「誰?」
思い切って、ふり向いた。
影はビクッとして立ち止まり、けれどももう我慢しきれない・・・というように、ツカツカとこちらに足を向けてくる。

すみません。
男の顔に、見覚えがあった。
馴染みの客だった。
いや、馴染みなのは、この男の上司の、いかにも役員然とした中年男のほうだった。
目のまえの男は、うちの店の常連になるには若すぎる。
普通の収入では、とても顔を出せないような店だった。
上司の男は酒癖がわるかった。
いつも泥酔して店の女の子にしつこくからんでは、その男が止めに入っていた。
一見にこやかなご機嫌とりの物腰に、いいようのない怒りがこめられていたのが、
初めて店に入ってきたときの潔癖そうな風貌を裏切っていなかった。
お山の大将が意気揚々とひきあげるとき。
払いはいつも彼の受け持ちだった。

その。
男はかなり、口ごもっている。
けれども、こんな夜道で街のネオンに染まった蝶を呼び止める男の意図は、いつも同じ。
ためらいがちに。
どうしても、欲しいんです。
男はそういった。
どうしても、がまんできなくて。
お金を払えばいいんですが。
もう、お金もないんです。
こんなことをあからさまに貴女に対して口にするだけでも、じゅうぶん犯罪なのですが。
ああ、もう。わかったわ。
ほんとうに、わかりましたから。
ふつうなら、もっとちがった対応をしていたはずなのだが。
女は近くの公園に、男を促していた。

本番までは、いいんです。
そこまでなくても、愉しめる体なので。
どういうこと?
もうそれ以上口にするのは。
男の目色がせつじつに、そう告げている。
・・・ああ、そういうこと。
イ○クラに勤めたこともある彼女は、みなまで言わせずに男の欲求を理解した。
おち○ちんを、脚になすりつけてみたい。
それも、ストッキングのうえから。
足許にかがみ込んできた男のちょっとしたしぐさから、
なにをやりたいのか、察しをつけてしまっていた。
お店でいつもしていたように。
麻美はそそくさとベンチにこしかけて。
男と向かい合わせになって。
せわしなくズボンをおろす男を醜い・・・とも思わないで。
どうすれば男が歓ぶのか、心得ているままに振る舞ってやった。
いいのよ。どうせクリーニングに出す服だから。
そのひと言にほっとしたものか。
ワンピースの生地のなかにくるんでやった一物は、
堰を切ったように熱いほとびを伝えてきた。
男はすうっ・・・と、大きく息を吸って。
声にならない謝罪と感謝で、女の耳もとを暖めていた。

ひたひた。ひたひた。
家路を辿る夜道。
きょうも、誰かがあとを尾けてくる。
このあいだとはかなり、雰囲気がちがう。
男の数も、複数だった。
まがまがしい欲望が、背後から迫るように漂ってくる。
いつかの夜と違って、女は恐怖を感じていた。
足早になったところを、強引にさえぎられた。
煙草の臭いの染み付いた作業衣姿。
毛むくじゃらの髭面には、柄の悪い素行のすべてがあらわになっていた。
「姉ちゃん、ちょっと相手してくんねえか?」
逃がさないぞ・・・というように。
左右からべつべつの太い腕が、麻美の肩を捕まえていた。

引き立てるように連れて行かれたのは、あのときの公園。
やめて!放して!
抗う声もかすれがちで、もちろん助けに応じる人影もなかった。
「うるせぇアマだな。黙らせてやろうか?」
烈風のような拳が女の頬を横なぐりにした。
夜の女だからといって。
店を一歩出たら、ただの女である。
人並みの羞恥心も、プライドももった、ひとりの女なのだ。
それをこいつらは、踏みにじろうとしている。
どうすることもできないで、麻美はベンチに押さえつけられた。
酒臭く汗臭い粗野な息遣いが、襟首から胸に這い込んだ。

そのとき。
なにか恐ろしい勢いが、汚れた臭いにまみれた作業衣を麻美のうえからひっぺがした。
「なっ、何しやがるんだ!」
髭の男は悪態をついて向かっていった。
どす・・・
鈍い音が、向こうから背中まで突き抜けて。
髭の男はぐうの音も出ないでその場に崩れた。
「野郎!!」
仲間の二人がナイフを抜いた。
髭の男をさえぎった男が痩せ身でネクタイ姿なのをみて、
男どもはよけいに凄みをきかせたようだった。
この!
激突する肉体と肉体。
つぎの瞬間。
「このっ!屑どもがあっ!!!」
痩せ身に似合わぬ大喝とともに、暴漢どもは吹っ飛んでいた。
まりのように空高く舞い上がり、くるくると回転して、なんメートルも先にある噴水のなかに、
ざぶうん・・・
大きな水柱をあげていた。
さいしょにのされた作業衣姿がすぐ後を追って、おなじように水柱をあげた。
まだ寒い季節のことだった。
噴水の池に張っていた薄氷が割れて、水しぶきといっしょにあたりに飛び散った。
「ひいっ、ちく生っ!」
濡れ鼠になった男どもは意気地なく悲鳴をあげて、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

痩せ身の男は麻美に近づくと、優しく抱き起こした。
やっぱり・・・
あのとき、けしからぬ悪戯を申し込んできた、あの若いサラリーマン風の男。
麻美は息を呑んだ。
ほかの男たちがさかんに吐き出していた白い息が、目のまえの若い男の口許からはかけらもあがらなかったのだ。
息をしていないのね、あなた・・・?
男は謝罪するように、照れくさそうに、フッと笑った。
一週間まえ、ノイローゼになった若いサラリーマンが自室のバスに水を張って、切った手首を突っ込んで自殺した。
新聞の片隅に出ていた記事を憶えているのは、そこにあった名前が店のメンバー・カードで見覚えていた彼の名前だったから。
「汚れた血を体から追い出す」
狂った筆跡でかかれたそんな走り書きだけが遺されていた、という。
  あのときは、ありがとう。
  恥ずかしい想い、させちゃって。
  でもやっぱり、ダメだったんです。
  もうどうにもならないところまで、逃げるしかありませんでした。
  貴女はもっと大変な世界でこうして生きているというのに。
  恥ずかしいです・・・
「血のない人に、なっちゃったんだね?」
目のまえの、いかにもエリートサラリーマンの風貌とは不似合いな、
いかにも頭の悪そうな、舌足らずなしゃべり方。
男はそれを耳にして、却ってホッとしたような笑みを浮かべる。
「血が欲しい人に、なっちゃったのね?」
上目遣いに相手の顔を窺いながら。
それでも麻美は怖れるふうもなく。
求められもしないうちから、ブラウスの胸をくつろげている。
公園に吸血鬼が出没するらしい。
数日まえから耳にした、そんな噂話。
けれども被害届は、どこからも出されていない、という奇怪な噂だった。
闇に塗り込められた盛り場の夜は、しばしば理不尽な暴力の嵐が吹き荒れる。
そんなとき、暴漢から救われた女たちは、お礼のしるしに救世主に血を与えていたのだった。

初めてのあの晩のあと。
―――あんまりかわいそうだから、許してあげたの。
ごく親しい仲間うちにそんなふうに打ち明けたとき。
―――莫迦な子だね。
周りの連中はそう嘲ったけれど。
彼女は賢い女だったのかもしれない。
「あなたの好きなの、脚だったよね?」
脚を差し出す代わりに胸元を掻き寄せながら、
女は胸をドキドキさせながら、男の所行を見つめている。
王女さまに接吻をするナイトのように。
男は跪き、肌色のストッキングのうえから唇を吸いつけていた。

大卒のサラリーマンと、高校卒の商売女。
出会うことも、結ばれることも考えられなかった、男と女。
ひとりは冥界に旅立って。
そんな隔たりを超えて、いまは濃艶な夢を結びあっている。
ストッキングを履いた女のひとの脚が好き。
そんな欲求を、もう包み隠さず夜の恋人の前、さらけ出しながら。

別離の朝

2006年07月04日(Tue) 07:17:16

きょうかぎり・・・なんだね?
ああ・・・
妻の上から身を起こした彼は、とても鬱した横顔を隠そうとしない。
夫婦のベッドのうえ。
明け方は、もうすぐだった。
私は二人の傍らで、大の字になって。
うなじにはまだ、じんじんと疼く傷痕―――。
散らされた血潮が、まだパジャマをぬらぬらとさせていた。

まず夫のうえに。
そして、その妻に。
順ぐりにのしかかって、生き血を啖う。
いつもの彼のやり口に、いつも口を尖らせながら。
夫ならぬ身に抱かれたまま、悩ましく悶える妻の横顔に、
ヤツの冷たい頬がそのまま重なるのを、
幾夜となく、見守ってきた。
淫ら絵を見初めた少年のころのように、ドキドキと胸はずませながら。
それがヤツのかけた魔法なのだと知りながら。
みすみす、すすんで、術中にはまりこんでいった。

遠くへ行く。
ただ、それだけ。
いつ、戻る?
さぁ、当分は・・・
ひそめた眉に映る寂しさに、思わず引き込まれてしまっていた。
仇敵どうしのはずなのに・・・

おれの「当分」は、貴方がたと違うのだ。
なん年、なん十年。幻のように。あっという間に過ぎてしまう。
もう、若いわたしたちに、逢うことはないのかね?
たぶん・・・
そう応えて。ヤツはとても心細げな目をしていた。

夫婦ながら、生き血を吸われて。
でも、ヤツのやり方はフェアだった。
辱めるのはやめてもらいたい。
ヤツが新妻に膚を迫らせたとき。
とっさに投げたひと言に。
ヤツはひどく忠実になってくれた。
あくまで、血を摂るだけの関係。
それでもガマンならなかったのか、
しばしば妻の身に着ける衣裳を要求された。
求められるままに貸し与えたネグリジェやスリップ、それにストッキング。
ほとんどは戻ってこなかったけれど。
いつのことか、悪戯心たっぷりな笑みを浮かべて返してくれたストッキングは、
みるかげもなく破れ、透明な粘液をからみつけられていた。

もうじき、夜明けだな。
ヤツは妻の上、ちょっとだけ身を起こして。
ただ、時間の経過という事実を確認する。
そんな乾いた口調で呟いた。
私はすっと身を起こした。
失血のわりに、我ながらかるがるとした身のこなし。
座をはずすよ。
え・・・?
見あげる彼に。
きみは、約束を守ってくれた。
だから、感謝のしるしに、私が一番大事にしている宝をゆだねよう。
しばしのあいだ、妻とふたり。
別れを惜しむがいい。
ふと我にかえった妻もまた。
彼の腕のなか、ウットリと笑みながら。
私のほうを見つめて深く頷いて。
悪戯っぽいウィンクを投げてくる。

ふたりと私を隔てて閉ざされた扉の彼方。
ぎしぎしときしむベッドのうえ、
ふたりは初めて、哀憐に身を焦がす。
切れ切れに洩れてくる、かすれた声―――。
妻は生涯、貞淑でありつづけるだろう。
己のため、私のためだけばかりでなく。
彼のためにも・・・


あとがき
「別れの・・・」とか、朝と名のつくものには別離を示すものが目だちます。
吸血鬼ものでも、朝は別離を意味します。
朝日を浴びるまでとどまれば、それこそ永遠の別離に・・・(笑)
たぶん。ですが。
夜の逢瀬の終りが朝であることが。
朝と別離とを、強く結びつけているのでは、と。
雨雲の彼方から洩れる一条の朝日をみながら、ふとそう感じました。

黒ハイソックスの看板娘

2006年07月03日(Mon) 11:26:22

玄関のほうからなん人もの客があがりこんでくる気配がした。
スリッパに履き替えるばたばたという物音。
足音はやがて一団となって、応接間に上がりこんでくる。
ストレートのロングにポニー・テール。ゆるい三つ編み・・・と、
とりどりの髪形をした女の子が、五人。
いずれも色白な肌に黒髪が似合う、清楚なかんじのする娘さんたちである。
息を呑んだ。
壮観・・・だった。
細い肩には、おそろいの黒のカーディガン、白のブラウス。
濃紺のスカートの下は、これまた申し合わせたように、黒のハイソックス。
ソファに並んだ、太さも長さもさまざまなふくらはぎに。
ひざ下までぴっちりと引き伸ばされたナイロンがツヤツヤとした光沢をかすかに放って、いっそうしなやかに目映かった。

「まぁまぁ、あなた。いい眺め・・・ね」
ティーカップをお盆のうえでかちゃかちゃとさせながら入ってきた妻の由貴子が、冷やかすようにこちらを窺う。
見透かしていたのは、女の子たちも同じだった。
ちょっと照れたような空気が漂って、女の子たちは一瞬、黒のハイソックスに包まれた脚をすくませる。
そんな様子は目に入らない、といわんばかりに。
由貴子はおっとりと澄ました顔で、傍らの肘掛け椅子に腰をおろした。
「どうぞ、召し上がれ・・・あ、今日はだいじょうぶですよ。
 ヘンなことはいっさい、ありませんから」
くすり、と笑んだ口許に、人のわるそうなえくぼを滲ませた。

私の知人は市内のB地区で、小さな会社を経営している。
五人は、そこで受付業務をしている娘さんたちなのだ。
制服姿で・・・というのは、知人がわざと気を利かしたのだろうか。
好みのタイプの女性に優しくなるのは、どうしようもない男の性である。
どちらにしても、きょうはこの娘さんたちの悩みを聞いてやらなければならないのだ。

「うちの女子社員が勤め帰りに次々と襲われて、血を吸われているんだ。
 お前、そっちのほうは詳しいんだよな?」
社長とは、子供のころからの仲良しだった。
吸血鬼族には友好的で、高校を卒業するまでに、友人の吸血鬼に血をそっくり飲ませてしまっているうえに、
若い女の血を欲しがるその悪友のために、妻や年頃の娘まで逢わせてやっているくらいだったのだが。
「さすがに他所のお宅からお預している娘さんとなるとねぇ」
髪の毛がやや後退し始めた頭を横に振って、しんそこ困惑しているようだった。
「B地区には長いこと、吸血鬼なんか出没しなかったのだが・・・」
不審は、こちらもいっしょである。
それにしても。
いざ本人たちに会ってみると。
ちく生。
あんないい娘たちを・・・
思わずこちらが歯噛みしたくなるほど、ぴちぴちとした肢体は輝いている。

座を仕切っているのは、由貴子のほうだった。
「で、夕べ首を咬まれちゃったのは、どなた?」
娘の一人が自分から肩までかかる長い髪をかきのけて、
赤黒く浮いた傷をあらわにした。
「うん、うん。痛そうね。でももう、痛みは取れているでしょ?
 かわりに、その・・・疼いたりする感じになって
 日が暮れてくると、なんかいてもたってもいられなくなってくるでしょう?」
いちいち思い当たるらしく、娘は強く相槌を打っていた。
「ひと晩経っちゃっているし、唾液の採取はむずかしそうね。
 こんど襲われたら、その足でうちに来てくれる?唾液でそこそこのことはわかるから」
「怖いんだよねー。初めのうちは痛いし、服汚れるしぃ。
 ハイソックスのうえから咬まれちゃうんでしょ?
 わかるわよ。あいつら、本当、いやらしいんだから。
 でも制服じゃどうしようもないわよねぇ。
 どうせ社長の趣味だろうけど・・・」
しょうしょうアブナイことまで、こともなげに口にしながら。
由貴子はいつの間にか一座の中心に陣取って、娘さんたちの話を聞いている。
というか、聞き出している。
同性の気安さだろうか。
私と喋るよりもはるかにすんなりと、こちらの聞きにくいことまで喋ってしまっているのだ。

五人はそれぞれ当番で、曜日ごとに交代で事務所を閉めて帰宅する。
社長をしている知人を含めて、男性社員は得意先まわりで帰りが深夜になる。
だから、夕方のごく早い時間、閉店は彼女たちが受け持つのだ。
当番の順序どおりに、彼女たちは吸血鬼に襲われたのだった。

月曜は甘谷芽衣子(24)。
「公園を通り抜けたときでした。後ろからいきなり、襲ってきたんです。
 夢中でもがいたんですが、抵抗しているうちに気が遠くなって・・・
 ・・・つい、うっとりしちゃいました。乱暴な感じがしなかったせいでしょうか」
火曜は比嘉谷那恵子(19)。
「私が襲われたのも、やっぱり公園でした。
 気は遠くならなかったけど、あっちこっち咬みつくから痛くって・・・
 でもそのうち慣れちゃいましたけど。」
水曜は菱本ケイ(22)。
「んー。なんていうか・・・大丈夫ですよ、私」
木曜は佐沼ひろ子(36)。
「私だけちょっとおばさんなんですけど。(笑)
 でも平等に?襲われちゃいましたね~。
 気持ちよかったですよ。何が・・・?って。それは・・・(^_^;)」
金曜は笹原梢(23)。
「先輩たちに聞いていましたから、意外に落ち着いていました。
 そんなに悪い人じゃなさそうでしたけど、
 血を抜かれていくときはさすがにくらくらしちゃいましたね」
口数も少なく語ってくれた「体験」に、苦痛や厭わしさは感じられない。
むしろ、加害者に対していちように好意や同情さえ寄せているのが伝わってくる。
社長の取り越し苦労で終わるのなら、それにこしたことはないだろう。

初めて襲われた次の週は、用心して二人ずつ連れ立って帰宅するようにしたのだが、
・・・やっぱり襲われてしまったのだそうだ。
娘たちはむしろ愉しそうに、そのときのことを振り返る。
「もう、二人して、芝生にうつ伏せにされて、かわるがわる・・・ね。
 ハイソックスを履いたまま、脚を吸うんですよ~。
 なんか、やらしいですよね。妙にくすぐったいですし。
 まるでナイロンの材質まで確かめてるみたいに、べろ這わせてくるんです。
 ぴちゃぴちゃ音までたてて、それはしつっこく^^;」
「ねぇ。梢ちゃんなんか、あのとき光沢てかてかのやつ履いていたから。
 よけいしつこかったよねぇ」
由貴子が口を挟んでいた。
「そのときは、乱暴されたりしなかったの?」
「え、ええ。ふたりとも無事でした・・・」
笹原梢といっしょに帰った比嘉谷那恵子が、ふしぎそうに応えた。
「私・・・さいしょのときもそこまでされなかったし。
 じつは付き合い始めた彼氏、いるんですけど。
 襲われた・・・なんてとてもいえないなぁって思ってたんですけど。」
いちばん年配の佐沼ひろ子が
「ケイちゃんは二回とも、ヤられちゃったんだよね~」
あっけらかんと、そうのたまわった。
「もうっ」
クールな感じの美人である菱本ケイは、ちょっと不貞腐れたように口を尖らせたが、
それ以上抗議をつづけなかったのは佐沼ひろ子と仲が良かったからだろうか。

「このなかで、処女のかたはどなた?」
五人を見回す由貴子のまえ、いちばん若い比嘉谷那恵子だけがおずおずと手を挙げた。
「じゃ、さいごまで姦られちゃったかたは、誰と誰?」
甘谷芽衣子、菱本ケイ、佐沼ひろ子の三人が手を挙げた。
いまどき結婚まで処女を通す娘はほとんどいないくらいだから、
こちらのほうが態度も堂々としている。
「処女を吸血鬼さんに捧げたかたは、いらっしゃらないのね?」
五人がいちように頷くと、由貴子はなぜか満足そうにほほ笑んだ。
「今夜の閉店の当番は誰かしら?」
佐沼ひろ子と笹原梢が手を挙げた。
「悪いけど、私代わってもいいかしら?」
由貴子はイタズラっぽく笑って、夫の顔を覗き込んだ。

がちゃっ。
ドアのノブがまわり、外から開かれた扉の向こうから、由貴子が姿を見せる。
先刻招待した五人のお嬢さんとおなじイデタチが、肩からずれてすこし歪んでいた。
ほつれた髪をむぞうさにサッとかきのけると。
「姦られちゃったあ」
あっけらかんと夫にそう告げて、由貴子はそそくさと脇をすり抜けてゆく。
試薬のついた布でうなじを拭い、もう一枚の布をついでのようにスカートの奥にもぐり込ませた。
「ねぇ。見て見て。ほおら、こんなに」
小娘みたいに爽やかで無邪気な態度とは裏腹に。
差し出された布に付着した粘液は、爛れたようにてらてらと光っている。
こちらの顔色なんかにお構いなく、
「だいじょうぶよ、遠慮していないでお入りなさい」
由貴子は手招きをして、まだ外でもじもじと決まり悪そうに佇んでいた娘を招きいれた。笹原梢だった。
「やっぱ怖かったから。佐沼さんには帰ってもらって、梢ちゃんに付き合ってもらったの」
え?
問い返そうとする私を遮って。
「でも、犯されちゃったの、私だけでした。すごくよかったのに。あなた、残念だったわね」
笹原梢がもの慣れた由貴子の口調に目を白黒させていると、
由貴子はスッと彼女のほうへと身を寄せて。
虚を突かれたように立ちすくむ娘のうなじに、唇を吸いつける。
ちゅ、ちゅ・・・っ
傷口を吸っていた。
抱きつかれたまま梢は、由貴子の腕の中、
ちょっとウットリしたように瞼を閉じて身を任せていた。
由貴子の白い頬が彼女のうなじをはなれると、
冷静に取り澄ました薄い唇から、吸い取った血液をペッと吐き出して、試薬になすりつけている。

由貴子は白っぽい洋服に着替えていた。
スカートからのぞく白のストッキングが、看護婦然とした風情を添えている。
夜の十時。
受話器に添えられた掌が、白い皮膚に青白い静脈をほんのりと透かせていた。
「ああ、梢ちゃん?さっきはどうも。わかったわよ。いろいろと。
 明日ね。お休み取っているんでしょ?
 まだ元気があったら…だいじょうぶよね?
 お母さまといっしょに公園に行ってみて御覧なさい。
 お店を閉めた先輩が通りかかる前に・・・必ずね」
さいごのひと言にことさら語気を強めると、由貴子は一方的に電話を切った。
「貴方も、御覧になりたいでしょ?黙っていてもきっと、覗きにいらっしゃるんだから」
恋人がウキウキと胸を弾ませるような、若やいだ身のこなし。
「役得ね。若い子の血はやっぱり美味しいわ。
 こんどは試薬のためじゃなくって、お礼にもっといただくことにしようかしら」
鶴のようなほっそりとした首をスッと伸ばして、こちらの背中に腕をまわしてくると。
「白状なさい。・・・いかがでした?わたくしのあで姿」
ぎゅううっと腕に巻かれていきながら、小悪魔はイタズラっぽい笑みを消そうとしない。

薄闇に浮かび上がったのは、長身の男だった。
あたりには霧が立ち込めて、待ち受けている梢やその母を視界から遮らんばかりである。
「天気予報、そんなに悪くなかったのに」
ことさら、意味ありげに口にして。
由貴子は、うっとりとした流し目をしかけてくる。
濃い霧が男の纏うヴェールだということくらい、私にだって察しがついている。
男と梢のあいだに、梢の母親が遮るように立ちはだかった。
つぎの瞬間。
娘を護ろうとした母親は愕然としたように、両手で口を抑える。
嗚咽しているのだ。
まるで謝罪するように、深く頭を垂れながら。
そんな母親の肩を抱きかかえて、梢が何か男に囁いている。
そして母親をなだめるようにして、やはりなにかを囁いた。
母親はちょっとためらうそぶりをして、娘を振り返る。
娘が深く頷くと。
こんどはすすんで男のほうへと身をゆだねていた。
男はすぐに母親のうなじを吸おうとはせずに、
そのままじっと立ち尽くし、女をしっかりと抱きしめていた。
「・・・つまらない?」
由貴子が、ちらと視線を投げてくる。
「いや・・・」
なま返事をかえして見つめ続ける目線の向こう。
男は母娘をかわるがわる抱きしめて。
そのうち母親が意を決したように男に向き合い、
娘はそんな母を仰ぐように見守って、祈るように両手を組み合わせている。
男の唇が、母親のうなじに吸いついた。
娘は、涙ぐんでいるらしい。
そっとハンカチで目許を拭っている。

ふぅぅ。
どうやら一件落着、かしら。
それまで吸血鬼の因縁のなかった場所に出没するってことは、
新たにそんな境遇に入った者だって。貴方教えてくださったわよね?
最初はね。
処女の生き血が欲しくて、比嘉谷さんを犯さなかったのかなって思ったんだけど。
例外がひとり、いたのよね。
それが、梢さん。
あの子、処女じゃないのに、犯されていなかったでしょう?
どんなに女に飢えていても。
父娘だから、契れなかったのよね。
梢ちゃんのお父さん、亡くなっているってききましたから。
あぁ、やっぱりそうか・・・って。
わたくしのうなじに付着していた唾液。いい証拠になりましたわ。
あちらのほうも、サンプル以上に愉しめたし。^^
逞しい人よ。それに、いい人。
犯すことで将来が台無しになるかもしれない娘さんは、抱かなかった。
古風な年配者としての良識は、吸血鬼になっても持ちつづけたのね。
ま、私の魅力には勝てなかったようだけど。^^
同僚の子たちもきっと、あれが梢ちゃんに近い人だって、薄々感じていて。
それでやすやすと身を任せたんじゃないかしら。
あの子たち、仲良さそうだし。社長が思っている以上にね。
私だって、相手かまわず抱かれに行くわけじゃないんですよ。
軽く嘲るように薄っすらと笑んだ唇には、いつになく哀しげな色が漂っている。

ママが再婚しちゃったから。
うちに戻ってこれなかったんです。
だからかわいそうに、しばらくさまよっていたんですって。
でも、もう平気。
来月から独りで暮らすんだけど。
そこに、パパを呼んで、いっしょに住むことにしましたから。
妹がね。まだ処女だっていうんです。
パパ、喜んでくれるかしら。
梢はちょっぴり肩をそびやかして。
ぺこりと神妙に、私たちに頭をさげた。
みんなもね、彼氏ができるまでは相手してくれるって。
「行くわよぉ」
そよ風に髪をなびかせている同僚たちの声に応えて、梢は思い切り手を振った。

あとがき
推理短編としてもメロドラマとしても不出来ですねぇ。^^;
おまけに長くなってしまって・・・
二時間もかかっちゃった。(苦笑)
道行くOLさんたちが申し合わせたように黒のハイソックスを履いていて。
まるで制服みたいに見えるんですね。それが。
キリッと背筋伸ばして二、三人。
連れだって歩いていると。
凛として見えるんです。ひざ下ぴっちりの黒のハイソックス。
・・・今回はよけいごとばかりでゴメンです。^^;;;