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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

誰であるかを秘めた貴女へ

2007年04月30日(Mon) 21:10:12

かえさじと 思えどいだく 恋の文(ふみ)

突然の展開に、心ならずもなにも応えることのできなかった私。
だってそれは、禁じられた恋だったから。
それでもせきあげる想いは、ひとつの文をつづっていました。渡すあても、ないままに。
あて先をなくした恋文は、破り捨てることができぬまま。
いつまでもそっと、胸の奥に秘めています。
いまは、遠く離れていても。
貴女が元気なら。そして、幸せならば。私も幸せなのです。
この恋文を、ついに届けることがかなわなくても・・・

行きずりの貴女へ

2007年04月30日(Mon) 21:09:37

決めかねる きみの責めかた 苛めかた

そこの貴女。・・・ご覧になって、しまわれましたね?
吸血鬼の恋は、行きずりにはじまるのですよ。^^
ふとしたすれ違いの一瞬が。紅蓮の焔をゆらめかせて・・・
貴女の理性をとろとろに溶かしてゆくのです。

ときめく街角

2007年04月30日(Mon) 21:09:04

ゆきずりの 脚にときめく 急ぎ道

オフィスや街を闊歩する女性の脚は、高らかなヒールの音を響かせて、きりりと引き締まる脚線を誇示するごとくに歩みを進めるようです。
すれ違う麗人も、瞬時のうちに視界から遠のいてゆく、テンポの速い都会の刻(とき)。
一瞬目を奪われ、胸さわがせて。
それでも数瞬のちにはまた、もとのビジネスモードに戻ってゆく。
働き盛りの男性ならば誰しも、そうした瞬間をよぎらせるのではないでしょうか。

さよなら貴女・・・

2007年04月30日(Mon) 21:08:43

卒業に そっとつぶやく さよなら、と。

だれにもそういう、澄んだ想いに心迫らせた刻があるものですよね。
柄にもなく、無垢だった青年時代に思いをめぐらせてみました。

ちょっとお休みになっている、祥子様の「淑やかな川柳」。
復活を祈りながら、自作の気に入りをこちらに転記してみます。^^

慈善事業 3

2007年04月30日(Mon) 08:08:51

脚ぜんたいを、ぬるりとおおっていたガーターストッキングを、
ハイソックスみたいに、ひざ小僧の下までたるませて。
四角く折り目正しかった襟首を、いびつにゆがめた胸元には。
泥と汗と、かすかな血。
由貴子さんは、はれぼったい目をして。
わざと乱された衣裳のまま、帰宅する。
きょうは、連れもいるようだ。
つづいて入ってきたのは、母。
凌辱されたブラックフォーマルが、ふしだらと裏腹な気品を滲ませているのは。
「年の功かしら?」
振り返った新来の女は、由貴子さんのお母さん。
申し合わせたようにおそろいのブラックフォーマルのすそに、かすかな泥を滲ませて。
破かれた黒ストッキングの脚を、互いに見せ合って。
男のひとって、喪服が好きねぇ。
ウフフ・・・って、笑み合っている。
しょうがないわねぇ、と悪戯っ子にあきれるように。
さいごに入ってきたのは、律子さん。
純白のセーラー服を、やっぱり泥だらけにされて。
母や祖母たちとおそろいの黒ストッキングは、
紙のように他愛なく、破かれている。
まだ、処女なんですよ。
だってあのかたたち・・・処女の血をたいそう好まれますものね。
妻は透きとおった笑みをたたえながら。
律子さんの身づくろいを、息子に手伝わせている。
着替えを持ってきた息子は、母親たちの目を盗んで、
恥らう律子さんの足許から、破けた黒のストッキングをチャッ、チャ・・と剥ぎ取っていった。

御覧になっていたわね?
薄っすらほほ笑む妻に。
息子も私も。おそらくは、この場にいない父さえも。
苦笑をもって、むくいるばかり。
慈善事業。けっきょくは、だれのためなのかしら?
涼やかな声のうそぶきを、聞えなかったように受け流していた。

慈善事業 2

2007年04月30日(Mon) 07:57:12

おや、お宅もですか・・・
エェ。そちらもなんですね。
お隣同士。夫同士。
ひそかな呟きに込められた、濃厚な共感に。
しばし、互いの立場を思いやる。
夜更けて、さ迷い出るように。
ひっそりと出かけてゆく、妻たち。
それを送り出す、夫たち。
妻たちは、まるで申し合わせたように。
ぴかぴかのハイヒールに、黒のストッキング。
夜の闇にコツコツと響く硬質な足音が遠ざかると。
夫ふたりは、互いの目を見て、笑んでいる。
いかがです?どうせ、お寝みにはなれないでしょう?
そうですね・・・あとをつけてみますか。
お互い、悪戯ざかりの少年のように。
おなじことを考えついていた。

村はずれの納屋は、女たちの解放区。
息を忍ばせるようにして、夜道をたどってきた女たちは。
待ち受けていた男どもに、護られるように取り巻かれ。
逞しい猿臂に巻かれながら、スーツやワンピースに着飾った身を淪(しす)ませてゆく。
脱がされるブラウス。
中身ごと、もみくちゃにされるブラジャー。
たくし上げられた紺のスカートから覗く太ももは。
ついぞ見慣れない、ガーターストッキングに区切られている。
妻たちは、背中合わせに立ったまま。
くすくすと笑み合いながら。
あらまぁって、恥じらいながら。
縛めをうけているわけでもないのに、唯々諾々と意のままに随ってゆく。

なかなかやりますね。あいつらも。
お隣のご主人は、妻の情人たちを賛美している。
どうやら負け惜しみだけでは、ないようだ。
ほら、あんなに上手に、家内のおっぱい揉みくちゃにしちまって。
あんなに感じているところ・・・めったに見ることができないのですよ。
うちの妻も・・・感じ始めているらしい。
頬にさしたバラ色をした高潮が。
いつになく生々しく、はずみがついている。

脱がされたハイヒールが、藁の上に転がった。
ストッキングの薄いつま先を、なかば泥にまみれさせて。
女たちは、きゃあきゃあとはしゃぎながら。
戯れかかってくる男どもを、あしらいかねてゆく。
くすぐったそうに身を揉みながら、服を脱がされてゆく奥さんに。
あいつ、あんなに太もも、開いちゃって。
うぅん。なんて、いやらしい・・・
ご主人、いやらしいのは。僕たちのほうかもしれませんよ。
けれどもわたしも、ひとのことなど言えやしない。
由貴子さん、わたしとの夜よりも・・・昂ぶっておいでですよね?

あっ。あいつぅ・・・
お隣のご主人が歯噛みをしたのは。
真っ先に奥さんに挑みかかったのが、大の仲良しだったから?
あっ。妻のほうもいつの間にか、組み敷かれている!
黒光りしているガーターストッキングを穿いたまま。
しなやかな脚をヘビのようにくねらせてゆく、藁のうえ。
はっ、はっ、はあっ・・・
迫るほどの息遣いに、息遣いを重ねてゆく、獣になった男たち。
わたしの妻と、知りながら・・・
彼の奥さんと、知っていながら・・・
ただ本能のまま、おおいかぶさって。
ふざけるように。じゃれ合いながら。
藁の褥を、乱してゆく。
あっ、あっ、あんなに乱れちまって。あんなに奥まで、入れさせちゃって。
ご主人、声が大きいですよ。

妻たちに群がる男どもは。
職場の後輩だったり。
息子の学校の先生だったり。
とにかく誰もが、仲のよい身内や友人。
翌朝になったなら。
おや、いいお天気ですね。
だなんて。
当たり障りのないあいさつを、しかけてくるのだろうか。
お宅の奥さん、おいしかったですよ。ごちそうさま♪
なんて、想いながら・・・

慈善事業

2007年04月30日(Mon) 07:36:00

出かけてくるわ。
夕暮れ刻に妻がそんなふうに囁くときは。
かなり、あやしい。
白い頬に、謎めいたほほ笑みを薄っすらと浮かべて。
嘲るように、気遣うように。
かすかな声を、ホホ・・・と洩らしながら。
何処へ・・・?
と問うわたしに、待ち構えたように返される応えは。
慈善事業。
まだ少女のように初々しく透きとおる頬に、ポッとさしたバラ色が。
すべてを、物語っている。

結婚できない中年の独身者。
遊ぶほどのお金を持たない少年たち。
吸血鬼のもとに血を吸われに出向く妻たちを留められなかった、わたしの同類項。
そうした、夜のパートナーに不自由している男性たちを、慰めるため。
三々五々、家を忍び出て、夜の闇にまぎれ込んでゆく、人妻たち。
そんな人群れのなかに、ほかならぬ妻の影も交じってゆく、妖しい夜。

今夜はお義母さまも、ごいっしょなのですよ。
まるで華やかな夜会にでも出向くように、ウキウキと告げる妻。
あぁそれと。律子さんもお連れするんですよ。
律子さんは、息子の敦夫の婚約者。
女学生って、需要が高いの。ちょっぴり妬けるわ。
そういえば。
ご近所の独身中年氏が、制服姿の息子をつかまえて。
やっぱり若いお嬢さんは、いいねって。
囁かれた敦夫のやつも、くすぐったそうに笑っていたっけ。
姑ともども。息子の未来の花嫁ともども。
顔を並べ、隣り合わせに犯されてゆくというのだろうか・・・

そんなわたしの思惑も、知らぬげに。
白のタイトスカートの下、薄黒いパンストをむぞうさに脚に通していって。
ぐーんと伸びる薄手のナイロンが、白い脛を今夜も妖しく染めてゆく。
娼婦のように手馴れた身づくろいを、
いままで幾晩、見守ってきたことだろう。
バッチリとキメた、かっちりしたデザインの白いスーツ。
妖艶な気品をたたえた、黒のストッキング。
長い黒髪をきりりと結い上げてあらわにした白い首筋を。
まるで鶴のように気高くふりたてて。
薄い唇を真一文字に引き結んで。
ひっそりと出かけてゆく妻。
闇の向こうには、どんな男たちが待ち構えていて。
清楚に装ったスカートの奥、滾りたつ毒液をほとばせてゆくというのだろうか。
あくる朝、何事もなかったように清楚な笑みでわたしを勤めに送り出す妻。
それとなく家のまえを通りかかる、妻を犯した男たち。
ひと晩妻を共有したものたちの、露骨なまでの感謝のまなざしが・・・痛痒い。

密着する罠

2007年04月30日(Mon) 06:04:04

ぴったりと股間に密着した、パンティストッキングの薄い生地に。
芋虫のように勃ったペ○スは、恥ずかしいほど反応する。
掌でなぞるようにたしかめるなめらかな感触に、
敏感になった先端が、じわりじわりと、うるんでいって。
淑女の礼装を、娼婦の小道具へと変貌させる。
薄黒く染められた脚は、女みたいになまめかしくて。
まとわりついてくるナイロンの、しつようなまでのなめらかさに包まれている。
密着する網目模様は、蜘蛛の巣のように狡猾な罠。
あの あえやかな感触で、わが身を縛り、麻痺させて。
ひたぶるに引きずり込まれ、突き堕とされてゆく、本能の世界。
ふるいついてくる傍らの男の、手荒な愛撫にゆだねていって。
吐き散らしあう濁り液に、互いの股間を浸してゆく。
役柄は、互いに女。そして、男・・・

凌辱の間

2007年04月30日(Mon) 05:54:05

「プレイ開始。」
たったひと言の宣言で。
赤いベレー帽の女学生も。
ふさふさウェーブの黒髪の乙女も。
知性や人格とはなんのかかわりもないところで。
凌辱。
という運命に、さらされる。

仲のよいクラスメイトが、隣同士で。
よく似た面差しの姉妹が、あちらのソファとこちらのじゅうたんで。
それぞれべつべつの男に、組み敷かれ、抑えつけられて。
制服の紺のスカートや、チェック柄のプリーツスカートを、
巻き上げられるようにして、すそ乱されて。
お気に入りの白のハイソックスや、ご自慢の洋もののストッキングに。
唾液に汚れた唇を、荒々しく圧しつけられて。
乱されてゆく礼譲に、目をそむけながら。
秘奥に芽生えた妖しい快楽に、
ただひたすらに、身をゆだね心を浸してゆく。

お嬢さん、逃げちゃいけない、仲良くしようぜ。
優等生な日常にはとても不似合いな野卑な文句に。
少女たちは、身を打ち震わせて。
まるで魔法にかかったように。
清楚な衣裳を剥ぎ取られていって。
娼婦のようにフェミニンに輝いたスリップのすき間から。
ぬるりと艶を帯びた裸身をさらけ出して。
身にまとう礼節を、一糸まとわぬまでに略奪にさらしたあと。
さいごにのこった裸身を、抜き身の刀のように、輝かせ。
ひたすら汚辱に、捧げてゆく。

スカートの奥に吐き出される、白く濁った熱い液。
っ!・・・つぅ。
衣裳に撥ねかる汚辱に、眉をひそめた令嬢の、無言のうめき。
ぶり、ぶり、ぶり、ぶり・・・っ、と。
ブラウスを引き裂かれる、押し殺す悲鳴のような音。
闇に支配された一室で。
くり広げられる、いつ果てるともしれぬ異形の宴。
猛禽に肉食い散らされるごとく、泥人形と化してゆく少女たち。

汚辱を受けたその身が、ふたたび白日にさらされるとき。
そこにあるのは、茫然自失した堕ちた女のみじめな姿などではなく。
すきもなく身づくろいして、ひとつの痕跡さえも残さない、
闇におおわれる以前とは、寸分の狂いもない令嬢、淑女。
この世の闇は。この世の白日は。
裏も表も、おなじ面差しをもて、あざ笑い続ける。


あとがき
あらまぁ。すごい文章になっちゃった。^^;

隣室の音

2007年04月29日(Sun) 23:53:38

うなぎの寝床みたいに狭苦しいマンションで。
部屋を真っ暗にして。
かすかに窺う、隣室の気配。
先週引っ越してきたのは、若いOL。
つやつやとした浅黒い頬。振り分けた黒髪から覗く、聡明そうな額。
エキゾチックなまでの、二重まぶた。
どれもが若々しく活き活きとしていて。
その身に巡る血潮の香気が、彼女の周囲に放散するように。
私を魅了し、惹きつけてゆく。

がたがた、がたん。
どうやら、お帰りのようだった。
ふたつ向こうに住むべつのOLは。
よく男を連れて帰宅してくるというのに。
こんどの彼女は、そういうこととは無縁のようだ。
美しいのに、化粧っ気もなく、
つややかな黒髪をサバサバとたなびかせて。
まるで世間の汚れとは、無縁なように、
リズミカルに闊歩するハイヒール。
そんなわけはない。
あの齢で。男を知らないわけはない。
そうは思ってみたものの。
彼女から放散されるのは、あまりにも健全すぎる透きとおった空気だけ。

じゃ、じゃわあーっ。
どうやらシャワーを、浴びているようだ。
夜になると鋭敏さを増すこの耳は。
壁ひとつへだてた向こう側を、あたかも何も遮るものがないかのごとくに聞き分ける。
独り食事をつくっているとき。
テレビのチャンネルを、あてもなくひねっているとき。
インターネットは、仕事用の検索くらいにしか、使っている形跡がない。
壁一枚隔てて、隣り合わせに暮らしている彼女。
もう、なにもかも。行動の癖まですっかり、わが身に添うほどになっている。
え?
そうまでしてまで、どうするつもりなのかって?
知れたことじゃないか。
影を添わせてゆくちに。
いつかほんとうに違和感なく、彼女をじぶんの影のなかへと取り込むことができるのだから。

がたがた。がたん。
どうやら、シャワーを浴びおえたようだ。
バスタオルで、体をくまなく拭っているらしい。
やがて、浴室から出て来て。
それまで着ていたものを、放り込んだ洗濯機をONにして・・・
おや?
うちの洗濯機、タイマーなんか仕掛けていたっけな?
ぐぅん・・・ぐぅん・・・
彼女の部屋の洗濯機は、まだONになっていないのだろうか?
聞えるのは、予定外に回されている、私の部屋の洗濯機の音。

「お待たせ」
え・・・?
ふと顔をあげると。
湯あがりの黒髪をいっそうつややかに輝かせた彼女が、目のまえにいた。
え?え?え?
いつの間にか、ひとつのお部屋になったみたいだね。
太陽のように、ほほ笑むきみ。
さらりと撫でつけた黒髪に、
白いうなじがひときわなまめかしく映えていた。
あんまり痛く、しないでね・・・
そのときだけほんのりと頼りなげに、呟くと。
彼女はほっそりとした指を、灯りのほうへと伸ばしていって。
境界のなくなった世界を、闇に変えていた。

はなればなれ

2007年04月29日(Sun) 23:40:25

いつの間にか・・・のことだった。
単身赴任先から戻るたび。
自宅の雰囲気が、変わってゆく。
あたかも見ず知らずの他人の家庭のように。
じゅうたんの色も。
家具のたたずまいも。
なによりも・・・
妻の顔色。子どもたちのようす。
なにもかもが、そらぞらしく。
まるで他人を遇するような態度で、わたしに接するようになってゆく。

いつの頃から・・・なのだろう?
単身赴任先から戻るたび。
夫の態度が、変わってきた。
まるでよそよそしくって。
はじめからべつべつに暮らしていたひとのように。
メガネの格好も。
スーツの趣味も。
なによりも・・・
ものごとのすすめかたから、たいせつなことを決める順序まで。
なにもかもが、他人事のようで。
まるで、赤の他人のようなそらぞらしさで、わたしたちに接するようになっていった。

一年、二年、そして数年。
あるとき家に戻った夫は。
自宅と思って訪れた家に、ちがう家族が住んでいるのを知った。
あるとき夫と名乗る男の訪問を受けた妻は。
目のまえの男が、夫とは似ても似つかない他人であることを知った。
どこまで遠のいてしまったのだろう?
じぶんの戻る家は。
わたしの迎え入れるべき夫は。
どこにさ迷っていってしまったのだろう?

ひとりでに・・・

2007年04月29日(Sun) 23:34:56

深夜。
真っ暗な寝室で。
PCの電源が、ひとりでについた。
じゎーーーん・・・と響く、かすかな電動音。
かたりかたりかたり・・・
画面に大写しになったのは。
”妖艶なる吸血”という、タイトル名。

描かれてあるとおりに、実行しなさい。

メッセージを目にしたわたしは、黙ってうなずいて。
寝床を出て、ひそひそと着替えをする。
グレーの半ズボンに、薄く透ける紺の長靴下。
そのかっこうで、歩け。と。画面はわたしに命じている。

ひえびえとした夜霧のなか。
ひたひたと歩みをすすめる音に、べつの足音がかさなってくる。
そうしてわたしの影にも。
べつ人影が、おおいかぶさってくる。
朧月夜のなか。
ひとつになった影は、わたしになにかを、囁きつづける。

奥さんを、連れて来い。
もちろん、いますぐに。
別室で寝んでいたはずの妻は。
室内に取って返したわたしを、真夜中には場違いな着飾った姿で。
嫣然とほほ笑んで、出迎える。
ようこそ。
夫婦どちらからともなくかけた声に。
廊下に忍び込んでいた影は、ススッ・・・と歩み寄り、
細くて白い妻のうなじに、いっそう色濃く影を宿してゆく。

お嬢さんは、まだ起きてお出でだね?
ェ・・・・・・?
顔を見合わせる夫婦の頭上。
みしり、みしりと階段のきしむ音。
真っ白なハイソックスのつま先が、玄関前に敷かれたじゅうたんを踏みしめるころ。
影は女学生の後ろ姿を、黒い霧になって圧し包んでゆく。

息子さんは、彼女を迎えに行かれたのだね?
直接庭先に通すよう、携帯メールを打つことだね。
あぁ、そのほうがよさそうだ・・・
わたしは携帯を取り、妻はうつろになった娘を、庭先へといざなってゆく。

描かれてあるとおりに、すべてを実行に移したならば。
PCの電源をこんどこそ、OFFにして。
ゆっくりと・・・お寝みなさい・・・

アッ!何、なさいます・・・?

2007年04月27日(Fri) 11:40:13

アッ!お許しくださいませっ。
なにを・・・なにを、なさいます?
むたいに肩を、つかまえて。
そんな、そんな。どこへお連れになろうというのです?
路地裏ですか?
ひとに、見られたくないのですか?
そのようなこと、妾になさると、おっしゃるのでしょうか?
どうか、どうか、お許しくださいませ。
女に恥を、かかせるなんて。あんまりでございます。
まだ、昼間でございますのに・・・
夜ならつごうがよろしいのか、ですって?
なんという、むたいなことを。
だめです、どうか、お許しを・・・アアッ!!
あっ!・・・痛っ!・・・痛ううぅ・・・

あんまりです。血を吸うなんて。
こんなことして、言うこときかせようなんて。ひきょうだわ。
あぁ、目のまえが、曇ってきた。
めまいが・・・めまいが・・・頭がくらくらします・・・
おやめになって。
わたくしを放して。
このまま何もなさらないで、家に帰してくださいませ・・・
あっ。うっ。
まだ、咬むのですか?
痛い・・・痛い。痛いです・・・っ。
嫌いなんです。こんなこと。
お洋服が、血で汚れますわ。
どうしてくださるの?
だめ・・・あっ、わざとこんなに、したたらせて・・・
ひどい。外を歩けないですわ。
ちょうどいい、ですって?
暗くなるまで、仲良くしよう、ですって?
なんということを、仰るの?
あっ。ごむたいな。
脚まで吸うなんて。
ストッキングが、破けてしまいます。
え・・・すぐには破かない、ですって?
そのあいだ、どうすると仰るの?
だめ・・・そんな・・・恥ずかしい・・・
いたぶるだなんて。
あっ、そんなに乱暴にしたら、よじれてしまいます。
ねじれるところが見たいというの?
変態。赦せないわっ。
あっ、唇つけて、吸っている・・・
だめ・・・だめ・・・赦して。そんなふうに、汚さないで。
あなたにこんなことされるために、穿いて来たわけじゃないのよっ!
ひどいっ!破ったわねっ!?
弁償するですって?そういう問題じゃないわよっ。
女に恥を、かかせておいて。
恥なの・・・?・・・ですって?
どういう・・・意味・・・?
ああっ。いつものめまい・・・
・・・じんじんしてきた。
動けなくなっちゃう。
彼に、いいように、どんどん食べられちゃう。
だめ。力が抜けていく・・・。
愉しいだろう?ですって?
気分がラクになっただろう?ですって?
なに仰るの?
無理やり、こんなところに引きずりこんでおいて。
明日は仕事じゃないんだろう?ですって?
だから少しくらい血を吸ってもいいんだろう、ですって?
ひどい、ひどいわっ。
だめっ。そんなに吸っちゃ。
わたし、おかしくなっちゃう!
あっ。あっ。あっ・・・

花嫁吸血 ~老婆の場合~

2007年04月27日(Fri) 11:04:27

くふふふふうっ・・・
よぅ、参ったのぅ。
よしよし、それほどわらわに、血を啜られとうなったかや。
さればぞんぶんに、愛でてつかわそう。
それ、もそっとこちらへ寄りなされ・・・
そうじゃ、そうじゃ。そう硬くならずに、の。
もそっと、こう。うなじをあげて。
ほほぉ。恥ずかしいかや。
目をつぶっておるわいの。
じゃがの。お隣の婿どのは。
しっかり、御覧になっておるぞえ。
そもじが好んで、処女の生き血を吸わせるところを・・・のぅ・・・
かりり。
きゅうっ・・・。

くふふふ・・・ふふふ。
はや、目を回してしもうたかや?
お若いに、他愛のないことよの・・・
どれ。そもじの血が、まだ口のはたについておるわ。
いつものように、わらわのたもとで拭ってしもうても、よいのじゃが。
きれいなブラウスをお召しでおいでじゃの。
白のブラウスに、赤いまだらはよぅ似合うじゃろうからな。
そぉれ・・・たっぷりと・・・拭ってとらすぞ。
手向かいなさるかや?
おう、おう・・・お元気なことじゃて。
じゃが・・・だめじゃ。ほぅら。
お仕置きに、もっとよけいに拭ってつかわそうぞ。
真っ白なブラウスに、こう・・・こう・・・こんなあんばいに、の。
どうじゃ?婿殿?似合うじゃろう?
そうか、そうか・・・婿殿とは、好みが合いそうじゃ。
わらわのいけない仕打ち、愉しんでくださっておいでのようじゃて。

おや、だいぶ。お加減がわるそうじゃの。
なに?立っておれぬと?
そおか、よいぞ。おニューの白いスーツを、泥まみれにしたいと仰せなのじゃな?
なぁに、じつは。わらわも・・・の。
さっきから、そうさせとうて。
そもじの血をたしなんでおったのよ。
ほれ、ほれ。
すぐ足許は、ぬかるみじゃ。
ここで転んだら・・・
真っ白なスカートのすそが、泥にぬらぬらと、ひたるわいの。
どうじゃ?どうじゃ?まだ倒れぬかや?
ほれ。小突いてくれよう。
おっと・・・
惜しいの。
気丈なお振る舞い。
辛抱強いことじゃの。
じゃが、わらわにすがられては、ちと重たいの。
うふふふふふふ。
泣いておるのか?
仲良しのそもじに泣かれては・・・わらわも切ないの。
仕方ない。も少し、我慢するのじゃぞ。
わらわが若いおなごの血を好むのは。
女学生の時分から、よぅご存知じゃの?
まだまだたっぷりと、味わわせてくださるお心づもりなのじゃろう?
そう、申してくれるなら。
もうちっと、辛抱なされや。
すぐに、そこなる腰かけまでお連れするほどに。
お慈悲じゃぞい。

ほぅれ、はぁはぁと、息をついておいでかの。
かぐわしい。かぐわしいの・・・そもじの息が。
そうやって、苦しそうに、肩はずませて。
もだえて、髪振り乱して、歯を覗かせて。
うぅん。こたえられんわい。
さ、わかっておるの?つぎは脚じゃ。
流れるようなふくらはぎ。たんと、いたぶらせていただこうぞえ。
婿殿、見やれ。
ストッキングも、薄々の白じゃ。
婿殿の、好みかえ?
なに、わらわのために、選んでおったとな?
明日の祝言のために、わざわざおろしたものじゃとな?
よう、教えてたまわった。
されば心して・・・愉しませていただくぞえ。
これ、脚を引っ込めるでない。
恥ずかしがることは、ないのじゃぞ。
どのみち血が無(の)うては、よう手向かいもできまいて・・・

ぬるり・・・ぬるり・・・にゅるん。
うふふふふふっ。
たいそうよい舌触りじゃ。
舶来ものかえ。
よいたしなみじゃの。
思い切り、ねじれさせての。
くしゃくしゃになるまで、いたぶってつかわすぞい。
たまらぬの。たまらぬの。
いたぶるたびにの、ほれ、こうやって。
糸が、とろけてゆくようじゃ。
それ、そうやって。
恥ずかしそうに目をそむけておるそもじの横っ面も。
ぞくぞくするほど、美しいぞ。
くちゅうっ・・・くちゅううっ・・・かりり・・・かりっ。
おっ。破けた・・・
いい感じで、裂け目が伝ってゆくわい。
ほれ、御覧。いい眺めじゃろう?
おや、泣いておるのかや?
わかっておる。嬉し泣きじゃの?
婿殿のまえで、わらわにこれほど可愛がられて。
嬉しうて、たまらんのじゃろう?
よし、よし。のぞみどおり。もっといたぶってつかわそうぞ。
なに、無礼とな?もう厭じゃとな?
心にもないことを、ほざきおって。
遠慮することはない。
わらわの舌づかい、ぞんぶんに愉しむがよかろうぞ。
・・・・・・。
・・・・・・。

さて、婿殿よ。
貴殿の花嫁ご、今宵まであずかって。
生娘のまま、生き血をたんのうさせていただいた。
よぅ、かんにんしてくだされた。
礼を申しますぞえ。
されば、心ばかりのもてなしを、用意させていただきましょうぞ。
え?もちろん、嫁ごの身持ちのことじゃ。
生娘の花、おん目のまえにて、散らしてつかわそうと思うての・・・
わらわの息子ども、三人に。
花嫁ごの白い衣裳を、泥まみれにさせて見とうての。
よいじゃろう?
純潔を汚される、というのも、一興じゃとおもうじゃろ?
それ、それ・・・
逞しい茎じゃ。
みごとなまでに、そそり立っておいでじゃの。
これで・・・明晩。恥らう嫁ごを初めて愉しませるつもりでおったじゃろうが。
しかし、こうやって。樹に縛りつけられておっては。
お気の毒じゃ。どうにも、なるまいのぅ。
いちばんうえは、わらわとおなじ吸血鬼。
荒っぽいのが、好みでの。
若いみめよいおなごをつかまえると。
ぎゅうぎゅうと抑えつけての。愉しげに酔わせてしまうのじゃよ。
つぎの息子は、母ごをわらわに喰らわせてくれた、かわいい養い児。
ねっとりしつこくするのが、得意じゃで。
あやつにかかったおなごは、明け方になるころにはの。
もう、酔っ払ったように、へろへろにされてしまうのじゃ。
末っ子は、悪戯者でな。
ほれ、なんというたか・・・
おなごを縄で縛ったり、蝋燭をしたたらせたりする遊びがあろうの。
あれが大の、好みなのじゃよ。
夕べもここに、となり村の新妻を、夫婦ながら呼びたてての。
ご亭主のまえ、蝋をしたたらせて、したたか愉しんだとか言うておつたわ。
どうじゃ?だれが、好みかの?
択ばせてやろうほどに。
なに、花嫁の処女を進呈するのはそなたじゃからの。
なに?
いやじゃと?
それだけは、赦してくれとな?
はてさて、気前のわるいことじゃわ。
茎はこれほど見事に、勃っておるにの。
上と下とで、申すことが違うようじゃな。
なに?なに・・・
いずれはみたりとも、夜這いさせるとな?
それは、それは。よい心がけ。
じゃからの、今宵をなれ初めに・・・
それでも、厭じゃとな?
ええい、往生際のわるいこと。
わらわが、狂わせてつかわそうぞ。
きゅうっ・・・

どうじゃ?お加減は?
体じゅう、じんじんとして参ったろうが。
嫁ごを、抱かれとうなったろうが?
口にするのが、恥ずかしいかや。
嫁ごに、聞かれとうなかったら。
ほれ、わらわの耳もとに、こっそりと囁いてみやれや。
なに、どうしても・・・?
しぶといのう・・・
まぁよい。
そもじとも、永きえにしじゃ。
仕方ない。望みをかなえて、つかわそうぞ。
それならば・・・
今すぐ、ここで契りやれ。
わらわがいちぶしじゅう、眺めておるほどにな。
若いおなごが初めて犯されるところを見るのが。
わらわはたいそう、気に入りなのじゃ。
さあ、縄を解いてつかわすぞ。
おや、花嫁ご、恥ずかしうて、おもてをそむけておいでじゃわ。
これ、こちらを向きやれ。
の?ほれ。逞しそうな茎じゃろう?
これを、太ももの奥に、埋めていただくのじゃぞ。
エエな?結び合わせるように、根元まで、しっかりとじゃぞ?
ほかの男をかけ合わせるのがわらわの好みじゃというに。
この男・・・頬をつねってくれようぞ。
さ、睦みやれ。この場で。すぐに・・・


あとがき
花嫁の処女を逸した三人の息子たちは、
たぶん老婆の実の息子ではないのでしょう。
けれどもきっと、このあとに。
新婚祝いに、かわるがわる。
新居に夜這いを、かけるのでしょうな。

裏切られて 救われて

2007年04月27日(Fri) 06:38:01

-1-

りぃん。ろぉん・・・
凍えた空気の室内に、うつろに響くインターホン。
地下室の男は一瞬頭上に洩れる明るみに目をやったが。
すぐにまた、顔を俯けてゆく。
りぃん。ろぉん・・・
男はチッと舌打ちをしたけれど。
かまわず、動作をつづけていった。
机のうえ、うつ伏しているのは、若い女。
長い黒髪を、スチール机のうえにふり乱したまま。
合わせた手の甲のうえ、額をぴったりと重ねている。
よし、よし・・・
男は女の髪をいとおしげに撫でつけて。
いとおしげに、頬の輪郭をなぞるように、掌を寄り添わせて。
そのまま、襟首のなかへと、すべり込ませてゆく。
シルクのスリップの向こう側。
ぽちゃぽちゃと柔らかな乳房が掌に心地よい。
まさぐる掌のなか、人肌のぬくもりはいっそう熱を帯びていって、
淫らな血をかきたててゆく。
うふふ・・・ふふ・・・
男は満面の笑み、手中に堕ちた女を、いとおしげに撫でさする。

りぃん。ろぉん・・・
心地よい闇の快楽をさえぎるように。
またも、インターホンが鳴らされた。
玄関に立つ訪客は、どうやらあきらめないらしい。
しつように、追い討ちをかけるようにして、
うるさくないほどの一定間隔をおきながら、
まるでだれかをおだやかに説得するように、
無機質な音を室内に響かせてゆく。
ちっ。
男はまたも、舌打ちをして。
よしよし。いい子で待っておいで。
どうせ、きみの姉さんだろう。
すぐに、追っ払ってくるからね。
口もとの含み笑いは、絶やされることがなかった。

玄関先に現れた女は、妹とよく似た、大きな瞳の持ち主だった。
ウェーブのかかった髪を茶色く染めているところが、
いまだにのこる初々しさをすこしだけ、そこなっていて。
そのぶん、妹よりも大人びたふうを漂わせている。
さぁさ、どうぞ・・・
男はいんぎんに、その若い女を迎え入れ、火の気も人けもないリビングに招じ入れてゆく。
デニムのジャケットの下は、やや不釣合いにフェミニンな白のスカート。
足許を染めるのは、肌の透けるほどに薄い黒のストッキング。
下半分は、わたしの好みだな・・・
男は不埒にも、地味めな女のイデタチに、そんな想いをよぎらせる。

妹を、かえしてください。
女の要求は、きっぱりとしていた。
その瞬間、ほのかに漂わせる色香が、まるでそらぞらしい敵性をよぎらせて。
男は用心深く、凍りついた面持ちのうらに感情を隠しながら。
さぁ。なんのことですかな。
とりあえず、しらばくれてみた。
知っているんです。もうなん日も、妹はこちらにおじゃましているのでしょう?
いえ・・・なんのことだか。
若い女は性急だった。
まさか・・・あやめてしまったわけではありませんね!?
胸ぐらをつかんで揺すりかねないほどの、迫力だった。
「あやめて」という不慣れな言葉づかいのなか。
いだいた疑念の恐ろしさがにじみ出ているのだが。
恐怖は一方で闘志にすりかわって、姉娘の肩先から焔のようなオーラさえ発している。

困った。
こういうストレートな感情は、苦手なのだ。
どうやらしらばくれてみても、はじまらないようですな。
かすかなささやきを洩らすと、
男はやおら身を起こすと、姉娘の足許にかがみこんでゆく。
あっ。
脚をすくめるいとまもない。
女はたちまち、足首をつかまれて。
すくめた足許に、唇を吸いつけられてしまっている。
薄い黒のストッキングのうえ、ねっとりと這わされた唇は。
妖しく光る唾液を滲ませていて。
淫らなものを、素肌の奥にまで秘め込もうとしている。

ぬるり・・・ぬるり・・・
常人ではない力を、素肌うえへと迫らされて。
姉娘は絶句したまま、礼装への仕打ちをどうすることもできなくなってゆく。
うふふふ・・・ふふ。
いいお味の血をお持ちのようだね。噛ませてもらうよ。
女はこわばった顔のまま、知らず知らず頷きをかえしてゆく。
すねからひざ小僧へ・・・。
淡い黒のナイロンの表面に、ちりりと淡い裂け目が滲んでゆく。
うふふふ・・・ふふ。
わかっているのだよ?きみも、淫らな女なのだよね?
彼氏の数も、ひとりやふたりじゃ、ないのだろう?
けれども、ストッキングの色選びは、正解だ。
なによりも、わたし好みだからね。
女学生の頃、制服のスカートの下に着けていたやつだろう?
今でもよぉく。似合っているよ。
わたしにイタズラしてもらいたくって、わざわざタンスの奥から取り出して、履いて来てくれたのだろう?
女はもはや、吸血鬼の手中に堕ちて。
求められるまま、生き血を啜り取られてゆく。

女は頭を抱えて、テーブルに突っ伏していた。
けれども、男の顔は冴えなかった。
取り込んだばかりの若い女の血潮は、渾身の想いをこめて、
男の胃の腑のなか、訴えつづけている。
妹を返して。たったひとりの妹なんです・・・
男の背後に忍び寄ったのは。
頬を蒼白くこわばらせた長い黒髪の少女。

ばかね。姉さん・・・
あたしからこのひとを、取らないで。
口を尖らせる妹に。
姉はかろうじて身を支えながら。
どう説得しようかと、言葉を捜しかねていた。
やっと見つけた恋人なのよ。
姉さん、なにもかも私から取りあげておいて。
そのうえこのひととの仲まで、裂こうというの?
妹の詰問に、姉は言葉を失っていたけれど。
帰って来て。みんな、心配しているから・・・
やっとのことで、そう呟いた。

帰ればいいさ。
男はぽつりと、呟いた。
え?
妹娘は、信じられない、という顔で、恋人を見つめたけれど。
いきなり拉し去ったわたしが悪いのだ。
いちど、ご両親に会ってきて。
ご家族のようすが落ち着いたなら。
はやくここへ、戻っておいで。
女は不承不承だったけれども、男の言葉に素直に頷いている。
それっきり。
女がふたたびこの邸の玄関に立つことは、ついになかった。


-2-

十年以上も、過ぎただろうか。
口許をこわばらせ、
目許はきつく、一点を見据えながら。
急ぎ足をすすめてゆく、ひとりの女。
デニムの上下という地味めな服が。
子どもができてからずっと、身近なものになりきっていた。
三十代の落ち着きに、あのころのはしゃいだ華は影をひそめていたけれど。
かつて吸血鬼の花嫁と見込まれた清楚な面差しだけは、まだ色濃く目鼻に滲んでいる。
娘がかえらなくなって、はや二週間がすぎただろうか。
ご近所に、いいひとができたみたい。
年頃の娘の外泊が珍しくなくなった風潮に惑わされて。
まさかまな娘がくぐった門が、あの邸だとは。
うかつにも、気づかないでいたのだった。
もっとうかつだったと、気づいたのは。
デニムのスカートの下からのぞく、足許の装い。
ストッキングなんか、履いてくるんじゃなかった。
そんな女ぽい感情も、一瞬よぎらせたけれど。
女はすぐに、母親の面持ちにたち戻って。
もはやためらいもなく、十年ぶりに邸の門をくぐっている。
りぃん。ろぉん・・・
あのとき姉が自分を連れ出しに来たときと。
インターホンの音色は、変わっていなかった。

現れた白皙の男は。
あのときと寸分変わらない端正な面差しに。
かすかに血色を滲ませている。
娘から摂った血が、かつての恋人の頬を染めていると気がつくと。
女はき然とした母親の顔をして。
娘を返してください。
きっぱりとした口調に、吸血鬼は一瞬ひるんだようだった。
そそがれる弱々しいまなざしが、女をかえって口ごもらせた。
ごめんなさい。
身勝手、ですよね?わたし・・・
男はなにもいわないで、ゆっくりとかぶりを振っている。

あんたが悪いわけじゃない。
わたしの存在そのものがわるいのだ。
よぅく、わかっているのだよ・・・
けれども、あのときずっときみの帰りを待ちつづけて。
とうとう戻ってくることがないのだと、あきらめて。
それからどれほどの人を牙にかけてきたことか。
わたしの力をもってすれば。
理性的なきみの姉さんさえ、堕とすことだってできたのだよ。
けれども、きみはいっていた。
姉さんはわたしからなにもかも奪ってゆくと。
そういうひとに、きみも代役をお願いして。
身代わりに抱くことはできなかったのだよ。
姉さんは、きみを愛している。だから、危険を冒してきみを救いにきた。
いまきみが、じぶんの娘を救いに来たように。

帰らないわよ。
娘の口調は、きっぱりとしていた。
ぜんぶ、聞いちゃった。そういうことだったのね。
おじさまは、わたしにはなにもおっしゃらなかったけれど。
初めて遭うはずなのに。
わたしを見つめる目が、切なそうだったから。
つい、首筋を許してしまったの。
家にだって、ときどき戻っていたのよ。
ママが家にいないときに・・・
そうして、ほら。
少女は見せびらかすように、ファッションショーのモデルめかして。
くるりとその身をひるがえす。
紺のブレザーに、真っ赤なタイトミニ。
ふくらはぎを彩る濃紺のストッキングは。
いつも白い靴下だった少女の脚を、別人のような大人の女にかえていた。
それはかつて、少女の母親が此処に拉し去られたときの服。
見かけだけじゃないのよ。
このひとに、変えてもらったわけじゃない。
あたし自身で、変わったの。
え?ママったら。なに考えているのよ。
そんなわけないじゃない。
だってこのひと・・・好物は処女の生き血なんだから。

二週間して、娘は家に戻ったけれど。
それでも足しげく、お邸へと足を向けていた。
真夜中に呼び入れられるとき履いて行くストッキングは。
翌朝解き放たれるときには。べつの色に変わっていた。
少女に恋人ができたとき。
恋人は愉しそうに、いっしょにお邸に訪ねていって。
自分の妹や母親さえも、連れて行くようになっていた。

誰かが救ってあげないとね。
あのひと、永遠に浮かばれないじゃない・・・
少女の言い草に、少女の母も。伯母も。
ただ、苦笑を交し合うばかりだった。
すくめた足許には。
濃い目のストッキング越しに目だたなくなっていたけれど。
娘があやしているのとおなじくらいの大きさの古い痣が、まだかすかに滲んでいた。

只今別居中

2007年04月26日(Thu) 08:09:32

ええ、あのひととは、別れるわ。
もう、別居しているの。
顔もみたくないのよ。
いまお逢いしたいのは、あなただけ。
あなたはわたしの血を吸って。
わたしの理性を狂わせてしまったわ。
さぁ、抱いて・・・
夫のまえでは決して見せない、美々しく装ったフェミニンなシルエット。
投げ出された淑女の影に、黒影は遠慮会釈なく、覆いかぶさってゆく。

しどけなく、衣裳を乱して。
あえぎながら。もだえながら。
女は道ならぬ恋に、胸焦がす。
けれども、お隣も、ご近所も。
それぞれの寝室で、寝たふりをしている娘や息子たちも。
みぃんな、知っている。
ふたりは別居中の夫婦だと。
あのひとの顔なんか、見たくないのよ。
女はことさらに、暗闇を要求し、男は黙ってそれにしたがってゆく。
道ならぬ恋に、酔い痴れるの。
安心できるひとと、戯れあうの。
夫が嫉妬しているわ。
そうよ、たっぷり、見せつけてやりたいのよ。


あとがき
昼間は仲が悪くて、別居中の夫婦。
それなのに。
彼女が選んだ暗闇のパートナーは、なんと夫じしんでした。
こういうどんでん返しなお話は、いかがでしょうか?^^
もっとうまくかけたなら。
もっと面白いお話になったかも。(^^ゞ

靴下をずり下げて・・・

2007年04月26日(Thu) 08:05:05

制服の濃紺の半ズボンの下。
ひざ下までぴっちりひきあげていた紺のハイソックスを、ずり下げて。
ほてるほど、飢えた唇を這わされて・・・
ずずっ。じゅるうっ・・・
老婆はほくそ笑みながら。
少年の生き血に酔い痴れる。

つぎの日のこと。
少年が連れてきたのは、セーラー服の少女。
真っ白な夏用セーラー服に、黒の襟章。
三本走った純白のラインが初々しいモノトーン。
黒のプリーツスカートの下、のぞいているひざ小僧は。
薄墨色のストッキングに、なまめかしく染まっている。
老婆は舌なめずりしながら、足許ににじり寄って。
にゅるり・・・にゅるり・・・
恥らう少女の足許に、舌を這わせてゆく。
兄さんが、ついていてあげる。
甘いささやきに、かすかにうなずき返しながら。
オトナっぽい装いに加えられる凌辱を、
ウットリしながら、見守っている。
破っても、いいですよ・・・
少女はそう、囁いたけれど。
母御に知れるじゃろう。
老婆はニタニタ笑みながら。
少女のおさげをかきのけて。
白いうなじに唇を這わせてゆく。
きっちりとしたプリーツスカートの直線を、いびつに乱されながら。
生き血を吸い取られ、淫らにあしらわれてゆく妹に。
兄はドキドキと、胸とどろかせ。
ひそかに、ちゅうっ・・・と、反対側のうなじを吸っている。

そのつぎの日のことだった。
おさげをほどいて、肩先に髪を流した少女は、
清楚な黒のフォーマルスーツに身を包んだ、
じぶんと瓜ふたつの母親を連れてくる。
後ろから忍び寄ってきた息子と。
傍らからしなだれかかってくる娘と。
ふたりにはさまれた女は、老婆にうなじをくわえられて。
肩先に散らした、バラ色のコサアジュに。
困ったかたね・・・とほほ笑んでいる。

えぇの。順番じゃ・・・
老婆はニタニタと、ほくそ笑みながら。
芝生のうえ、母娘、そして少年を転がしていって。
まず、少年の履いている、濃紺のハイソックスを。
母親の目のまえで、辱めてゆく。
きょうの靴下は、ずいぶん薄いのね。
ウットリとした目線のかなた。
息子のふくらはぎの周りを染めるのは。
ストッキング地のハイソックス。
チリチリと滲まされた伝線に。
少年は薄っすらと笑みくずれながら。
ダメだよ、おばさま。
イタズラっぽく、白い歯を輝かせている。
つぎは、どちらの番じゃの?
おそろいの黒ストッキングの足許に。
老婆と少年は、顔を並べて、近寄せて。
どちらがどちらの脚に噛みついたのか。
それは、おぼろな靄のかなた・・・


あとがき
おさげのままだと、ママに噛み痕を見られちゃうわ。
少女はクスリ・・・とイタズラっぽく笑んで、母親をつれてきたのでしょうか。
靴下を破っていただくのは。
そう、お叱りになるお母様が、ごじぶんからストッキングを破らせてから。
母親みずからが許してしまったいけない悪戯を。
緑の芝生の上、
傍らで息子も娘も愉しみはじめてしまう。
そんなお話です。

若妻のころ

2007年04月25日(Wed) 07:27:47

由貴子さんが若妻だったころの一情景です。

その晩帰りが遅くなって。
帰宅した玄関を照らす門灯の輝きの、わずかな変化にそれと察して。
インターホンを鳴らさずに、門をあけて、
足音忍ばせてもぐりこんだ、庭先の闇のなか。
覗き込んだガラス窓の向こうには、案のじょう。
若妻となった由貴子さんのほかに、もうひとつの影。
恋人同士、もしくはごく親しい身内どうしの雰囲気漂う、寄り添った姿。

由貴子さんは、結婚前好んで装った、白一色のワンピースに。
カラフルな花柄のエプロンを着けて。
すっかり主婦になったね。
そんな囁きに、夢見心地にうなずいている。
アッ。ダメだ。乗ったらいけない。悪魔のささやきに。
そんな私の心の叫びは、
長い黒髪のポニーテールを愉しげに揺らす耳もとには届かない。

ヤツは、なれなれしく由貴子さんの肩を、抱き寄せて。
我がもの顔に、接吻を奪う。
ねっとりと、密着する唇と唇が。
せめぎ合うように。
なにかを交し合うように。
かたくかたく、結びついている。
もはや・・柔らかな鎖に結びつけられてしまった、ふたつの影。
唇を離し、向かい合い笑み合う由貴子さんの透きとおった頬は。
夫に隠れて身も心も許している軽い罪悪感という、甘美な毒に輝いていた。

でも・・・
ためらいうつむく由貴子さんは。
体内をめぐる血に織り交ぜられた毒が。
まだ、まわりきっていないのだろうか。
いざ寝室へ・・・と誘う手を軽くこばんで。
台所のまえ、ちょっとのあいだ、立ちすくんでいた。
貞操を守りぬこうとする彼女の努力は、どこまで続くのだろう?
すねを薄っすらと彩るのは。
ひざ小僧まで覗かせた、寸足らずのワンピース。
すらりと伸びる足許をうっすらと彩るのは。
白のワンピースにはやや不似合いな、薄墨色のストッキング。

主人だけに許した肌身を、おのぞみですか?
そんなふしだらなこと・・・主人に叱られてしまいます・・・
夫ひとりに捧げた貞操を、貴方にもお捧げしなければならないのですか?
秘めやかに流れるような、由貴子さんの抗弁に。
余裕たっぷり、いちいちうなずきを与える、黒い影。
由貴子さんはなぜか、白い頬に薄っすらとした笑みを浮かべながら。
エエ、わかりました。
主人にナイショにしていただけるのなら・・
ひと様に、みだりに破かせてはいけないと主人にさとされているのですが。
わたくしの履いているストッキング・・・
破っていただきたくって、さっきからうずうずしておりましたの。

まるで、これ見よがしなように。
由貴子さんは、細い腕を吸血鬼に腕にからみつけるようにして。
ちょっとのあいだ、首筋をゆだねて。
白い肌を、舐めさせている。
青白い静脈の透ける、薄い皮膚のうえ。
チロチロと這い回る、毒蛇の舌。
あっ、いけない・・・ダメだ。そんなことを許してしまっては。
素肌にしみ込まされる毒が。
きみの理性をさいごの一線まで、つき崩してしまうのだから。
けれども、わたしの訴えは届かない。
由貴子さんは足許をさらりと撫でつけて。
薄っすらと、謎めいたほほ笑みをたたえながら。
足許に迫る唇を、挑発するように見おろしている。
黒のストッキングに縁どられた、ふくらはぎの輪郭に。
じょじょに近寄せられてゆく、まがまがしい熱気を帯びた唇に。
足許への誘惑を、ウキウキと見つめる由貴子さんに。
わたしは本気で、嫉妬する。
いけない、ダメだ!わたしの由貴子に、なにをする!?
吸血鬼の横顔が、冷やかすように笑んだのは。
気のせいだったのだろか。

ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・くちゅうっ。
あからさまに波立てられて、くしゃくしゃによじれてゆく黒のストッキング。
淑女の品格を、乱されて。
乱されることに快楽をおぼえる由貴子さんも。
いまは、柏木夫人を辱めている共犯者。
足許の凌辱を愉しむふたりは、申し合わせたように、目線を合わせて、ほほ笑んで。
いかが?若妻の味・・・
ウフフ。美味だね。柏木くんには、すまないが。
わたしの性欲処理女に、なっていただけるというのだね?
アラ、そんな・・・恥ずかしい・・・
我がもの顔に抱き寄せられた、細い肩。
隣室にととのえられた夫婦の褥は、なぜかさいしょから。
こうこうとした灯りの下に、さらされていた。


あとがき
由貴子さんの態度がにわかに積極的になったのは。
きっと・・・覗かれているということに気づいたあたりからだったのでしょう。
あるていど、さいしょから合意のうえでの訪問だったようですが。

彼女の代わりに 公園へ・・・

2007年04月23日(Mon) 06:12:20

やあ。やっぱり、来てくれたんだね。
電話で話したとおり、彼女体調悪いんだ。
いや、いや。だいじょうぶ。きみのせいじゃないってば。
女の子ならだれでもある、定期的な体調不良というやつさ。
どうしても喉が渇いて、ガマンできないようだったら。
ボクでよければ代わりをしようか、って言ったんだけど。
それでもやっぱり、きみは来たんだね。
男の子の血じゃ、ムード出ないだろう?
えっ?寝取った女のダンナや彼氏の血は旨いんだって?
きみもなかなか・・・言うんだね。

さぁ、約束どおり、履いてきたよ。
彼女がいつも履いているハイソックス。
半ズボンなんて。きみと逢うときくらいしか履かないから。
いつも弟のやつを、借りて来ているんだよ。
きっと、きみのことだから・・・弟が彼女のできる歳になったら。
そのうちこんどは、弟がきみのまえで半ズボンを履くようになるんだろうけど。
えっ?よく似合うって?
冷やかさないでよ。
だって・・・男なのに。似合うわけないよね?
ストッキングみたいに薄い、白のハイソックスだなんて。
彼女が、択んでくれたのさ。
きょうのきみとボクだったら、これがいいかなって。
きみがボクのために履いて来てくれたのも、やっぱり彼女のやつなんだろう?
白と黒の、ボーダー柄。
そういうやつ、ボクのまえで履くこと、ないんだけどな・・・
えっ?妬きもちやくと、もっと血が美味しくなるって?
ひどいことを、いうんだねぇ。

さぁ、おいで。
噛んで御覧。ちょっぴり痛くしても、ガマンしてあげるから。
生地が薄いから、すぐ破けちゃうだろうけど。
よかったら。すぐに噛まないで。
たっぷり舐めてみて。
薄い靴下にしみ込んだ、彼女の気配。きみだったら、感じることができるんだろう?
あっ・・・あっ・・・
いつも・・・そんなふうに・・・
彼女に、・・・迫っているんだよね?
だから物堅い彼女も・・・あんなふうに・・・乱れ・・・ちゃうんだね?

遠慮しなくて、いいんだよ。
またお電話、ちょうだいね。
彼女のとこでも、ボクのとこでも。
一人だと心細いっていわれたら、ボクが連れて来てあげる。
きみが彼女を独り占めにしたいときなら。
はっきり教えてね。
彼女の血、気に入ってくれたんだね。
実のところ・・・ボクもまんざら、悪い気はしていないんだ。
もっと、逢わせてあげるから。
もしも彼女がきょうみたいに、具合わるくしていたら。
もちろんボクも、相手をしてあげるけど。
できたら処女の血を、ご馳走したいな。
いつもの黒革のストラップシューズに、女の子の足首をくるんで、
きみに愉しませてやりたいな。
さしたっては、そう。
妹に、真っ白な通学用のハイソックスを履かせて、ここに連れて来てあげようか?
ゴムのすぐ下に、校章の縫いとりのあるやつだよ。
きみ、そういうの、好きだろう?
弟には、まだ彼女できそうにないからね。


あとがき
婚約者の少女の血を吸っている吸血鬼の少年のため、
彼女のハイソックスを履いて、かいがいしく代役をつとめる青年のお話です。
妹さんや弟さんのことも紹介してくれそうな、好意的な青年のようですね。
お母さんのことはもう、紹介済みなのでしょうか?
ストッキング地のハイソックスをねだる少年のこと。
熟女のストッキングに、目をつけないとは思えませんもの。^^

インモラル・バー 初老の紳士

2007年04月23日(Mon) 04:06:56

ひとり、苦い酒をたしなんでいると。
傍らの止まり木に腰をおろしたのは、初老の紳士。
古風にハイカラな背広姿は、むしろひょうひょうとしていて。
ズボンのすその下滲ませた濃紺の透ける靴下が、きりりとした色気を滲ませていた。
失礼、落としものをしてしまいました。
わたしはそう、彼に囁くと。
彼はゆっくりと、うなずいて。
不自然なわたしの動作に、許しを与えてくる。
止まり木の下、わざと落としたライターを手ばやく拾うと、
お洒落なチェック柄のズボンのすそをさらりとめくって、
ふだん隠している牙をむき出しにして、
薄い靴下ごし、ふくらはぎに牙を埋めている。

ちゅうっ・・・っ。きゅきゅきゅうっ。
いつ耳にしても心地よい、吸血の音。
澱んだ血は、深く織り交ざったさまざまな芳香を喉越しに伝えてきて。
紳士の豊かな体験が、そのまま乗り移ってくるようだった。
どうぞ。もっと・・・
イスの上からの囁きは、そんなふうに私を促して。
もう片方の足首が、誘うようにさらりとさし寄せられてくる。
まぁ、やむをえなかったのだろうけど。
すぐに、噛んでしまったね。
こんどはもっと、舌触りを試して御覧。
気に入りの靴下なのでね・・・
紳士の声はどこまでも、落ち着き払ったひくい響きを伝えてくる。
はぜるような渇きが満たされると。
靴下を愉しむゆとりが芽生えてきた。
ごつごつとした筋っぽいふくらはぎの周りを包む薄手のナイロンが。
すべるように心地よい舌触りを帯びていて。
紳士ものとは思えないほどしなやかなコーティングに、しばし私は酔い痴れる。
同性の戯れ・・・ということさえも、忘れ果てて。

ウフフ。キミもなかなか、通のようだね。
ひとしきり。遊戯が済むと。
口許を拭った私を、軽く横目でにらみながら。
紳士はいとも愉しげに、口許に笑みを含ませている。
つぎは、わたしの番のようだね。
紳士は私の首筋に、そうっと唇を近寄せてきた。
度の強いアルコールが漂う、カウンターで。
酌み交わされる血潮と血潮。
濃い血はいっそう濃い血と交わって。
淫らな色を深めあってゆく。

明晩も、来れるかね?
お望みなら、こんどは家内のストッキングを穿いてこようか・・・
うつろに満ちた紳士の声に。
私は深く、うなずいて。
では私も、ふつつかですが。
若いOLの、光沢入りのを穿いてきましょう。
黒で、よろしければ・・・
いいね。それでは私は、今夜とおなじ濃紺にしようか。
夫婦の味比べ。よろしいですね。
いずれこうして、こんなふうに。
仲を深め合って。
靴下の持ち主を、引き合わせあって。
影と影とを重ね合わせていくようになる。
そんな予感を、互いの笑みに交ぜながら。
紳士はひとのわるそうな含み笑いを浮かべてゆく。
ウフフ。きみのほうも、わけありのご様子だね。
ええ。そのOLというのは。
秋に結婚する相手ですから。
処女の生き血を、だれかに召し上がっていただきたくて。
わたしだけでは、もったいないですからね・・・


あとがき
はじめは、老紳士のほうが一方的に妻や娘を進呈してゆく筋書きだったのですが。
キーを叩いているうちに、内容に若干の変化が生じたようすです。^^

吸血披露宴

2007年04月23日(Mon) 03:49:16

あちらは、花婿の妹さん。
地味な礼服の下は、厚手の黒タイツにおおわれているけれど。
あれでなかなか・・・とても柔らかいふくらはぎをお持ちなのだよ。
そのお隣は、花婿のお母さん。
淑やかに装ったイブニングドレスのすその奥。
たくみに身体の線を消しているけれど。
手ごわい凶器のような二本の太もものすき間の奥は。
とても・・・キュッと引き締まっていてね。
じつに、こう・・・愉しめるのだよ。
え?どうして知っているのかって?
隣席に座を占める彼の自慢は、とどまるところを知らないようだ。
それもそのはず。
花婿の実家ばかりではない。
花嫁のお母さんも。兄嫁さんも。
そして、当の花婿や花嫁さえも。
まるで申し合わせたように、首筋に赤黒い痣を滲ませている。
くすくす。ホホホ・・・
いかにもおめでたい席の、談笑が。
妙にそらぞらしいもののように思えてきた。

今夜はとうぜん、花嫁を襲わせていただくのだよ。
そういうしきたりになっているお宅なのでね。
夕べまで、彼女は生娘だった。
けれども、婚家の姑さんが、嫁のふしだらを許す、と仰せになったのでね。
喜んで、ご好意に甘えさせていただいたのだよ。
もちろん、今宵の新床も・・・
花婿さんのご好意で、頂戴できることになっているのだよ。
ついては、きみにもおねだりがあるのだが。
言われずとも、察しはついている。
傍らの妻は、甘い微苦笑を浮かべながら、いちぶしじゅうに耳を傾けている。
オードブルくらいには、なりそうかな?
私の言い草に、妻は、あらいやだわ、って。
表向き、口を尖らせているけれど。
内心まんざらでもないらしく。
さっきからしきりに、脚を組んだりそろえたり。
テーブルの下は、落ち着かないことこのうえない。
わかっているよ。
きょうのためにおろした、真新しい濃い紫のストッキング。
破ってもらいたくって、うずうずしているのだろうね?

だって。
妻はなおも、声をひそめて。
大事なお役目なんでしょう?オードブルって。
そう。
花嫁を襲うまえ。
牙を研ぐために供される、女の素肌。
適度に与えられた血は、吸血鬼の喉を和ませて。
花嫁を惑わせ崩してゆくのに必要な、あの不敵な落ち着きをもたらすのだという。
わたくしたちのときだって・・・母がオードブルになってくれたのですからね。
くすっ、っと浮かべたほほ笑みは。
姪にあたる花嫁と、瓜ふたつに重なり合っていた。

妄想撮影師

2007年04月23日(Mon) 03:11:20

差し出されたのは、一冊のアルバム。
豪奢な装丁のうえ、行書体で書かれたタイトルは。
環境改変計画
いったい、どういうことなのかね?
懇意になったその写真家は。
まあ、御覧になってくださいと言うばかり。
いぶかしげに表紙をめくると。
目に飛び込んできた衝撃的なフレーズが。
私の脳裏を塗り替えていた。

××家 夫人・令嬢凌辱計画

家の名前は、もちろん私の姓。
そして、そこに貼られているのはまさしく、
盛装して、イスに腰掛けた妻。傍らに立つ私と娘。
凛とした品格を滲ませた妻と。
童顔にそこはかとない色香を漂わせはじめた娘と。
いったいなにを、されるというのだろう?
どうぞ、めくってみてください。
緑華堂、と呼ばれるその写真師は。
あくまで慇懃に、私の手を促してゆく。

おそるおそる開いた第一ページ。
ハッと顔をあげる私に、彼は気の小さそうな目鼻をいっそう弱々しく翳らせながら、訊いてきた。
吸血鬼は、お嫌いですか?
好き・・・というものではないまでも。
現実世界とは遠くかけ離れたそうした存在に、ついぞ意識を払ったことのない私。
好き嫌い・・・というよりも。なじみがないといったほうが適切かな。
私がそう応えると。
いずれ、なじみになりますよ。こんなふうにね。
なじみ・・・どころの話ではない。
吸血鬼映画のスチールから取り出してきたような写真。
黒衣の男に抱かれるヒロインは、ほかならぬ妻の利栄子だった。

男は口許に鋭い牙を滲ませて。
牙の切っ先から、吸い取ったばかりの血潮をたらたらとしたたらせていた。
その血潮は、妻の体内を流れていたもの。
見覚えのある、縦のストライプもようのワンピース。
整然と流れるストライプもようの上を、紅いしたたりが点々と滲んでいる。
そう、ナマナマしいほどに・・・
さぁどうぞ。つぎのページを。
言われるまでもない。
ためらいなくひらいた、つぎのページ。
予期したとおり、ヒロインは娘の有里にすげ替わっている。

いまはまだ春先・・・だというのに。
有里は夏用のセーラー服を着て。
襟首に三本走る白ラインに、赤黒いものを滲ませている。
薄暗い室内に、輪郭ばかり浮かび上がった頬に、
にじみ出るような愉悦を秘めながら。
夢見心地に、抱かれてしまっている。
つぎのページを、めくる勇気はおありかな?
緑華堂の、そそるような含み笑いに。
震える指は、意思と離れて。
機械的に、ページを繰ってゆく。

きりりとしたスーツの胸元を乱し、肌をしどけなくあらわにする妻。
濃紺のプリーツスカートを、ひざ上までの靴下があらわになるほどたくし上げてゆく娘。
スカートの裏地に、射精を許す妻。
セーラー服のまえをはだけて、襟首から指を差し入れられる娘。
制服の胸に不自然な起伏がよぎるのを。
むしろ面白そうに見おろしている。
次は・・・そのつぎは・・・

いかがです?
昂奮するね・・・
つい、呟いてしまった声に。
もはや、いささかのためらいもない。
色濃くきざした狂気を見つめ、緑華堂は嬉しげに。
ではこのとおり・・・実行させていただきますよ。
え・・・?
訝しげに問う私に。
すべては私の描いた幻影を、そのまま印画紙に落としたまでのことなのですよ。
奥さんも娘さんも、じっさいにはまだ犯されておりません。
でも・・・
あなたがそれを、望むなら。
かなえて進ぜましょう。そう。今夜にも・・・


あとがき
緑華堂は、だいぶ以前にいちど登場した、不思議な写真師です。
その話では、浮気に走った夫に取り乱す人妻を。
姑の機転で、伴われて。
じぶんもまた、姑とおなじ淪落の道をたどる・・・
たしか、そんなお話だったと記憶しています。
アルバムは、そう、きっと・・・
「凌辱アルバム」という、やっぱりべつのお話から紛れ込んできたもののようです。

フィアンセのハイソックス

2007年04月23日(Mon) 02:52:00

寝取られる とは。
自分の妻や恋人を、自分以外の男に酔わされてしまうこと。
もっとも恥辱であるはずのことが。
いま・・・恥ずかしい愉悦に変わろうとしている。

その男の子は、わたしのうえにまたがって。
年下とは思えないくらい、つよい力でねじ伏せていって。
身動きできないままにうなじに尖った犬歯を刺し入れられて。
ぎゅうぎゅうと、むしり取るようにして。
わたしの血を、抜き取っていった。
牙をぐいっ・・・と、引き抜かれたとき。
わたしはもう、すっかり彼のとりこになっている。

母はわたしを離れに呼びつけると。
きちんと正座をして、いつになく改まった口調で告げていた。
あなたの結婚相手が、決まりました。
学年がひとつ下の、恵子さんです。
でも・・・あちらのお宅の事情で。
嫁ぐまえ、ある経験を済ませなければなりません。
どういう経験か、殿方ならお察しですよね?
そう。
花嫁になった夜から、お婿さんにだけお許しすること。
それをさきに、ほかのひとと済まされることになるのですよ。

ふすまの向こうにひかえていたその少年は。
母に呼び入れられると。
会釈ひとつさえ、抜きにして。
わたしをたたみのうえに抑えつけていた。
それが、許婚の彼氏になるという男。
仇敵になるいぜんに、わたしの主となり、かつまたわたしの讃仰者になっていた。

きみのお母さんはね。
お父さんのところに嫁ぐまえの晩。
ボクの父に、犯されたんだよ。
きみも、お父さんと同じように振舞わなければいけないよ。
恵子さんの純潔を、ボクに捧げてくれるね?
嫌々・・・じゃなくって。
きみは、そうすることがたまらなくって、
フィアンセを犯して欲しいって、ボクに頼み込んで。
ボクは親しいきみに、申し訳ないのに。
やむなく引き受けることになるんだよね?
そんなこと・・・とても口に出してはいえないだろうから。
もしも、わかってくれるなら。
週末ボクと会うときまでに、彼女のハイソックスを一足。
彼女のママからもらってきてくれないか?

街はずれの公園の夕闇には、魔物が巣食うというけれど。
かれは間違いなく、魔物だった。
ボクの目のまえで、彼女の家に電話をかけて。
これから出てこれるかい?血を吸ってあげるからね。
えもいわれない声色に、だれもが従わざるを得なくなってゆく。
半ズボンの脚にまとわれているのは、恵子さんのハイソックス。
彼女にはぴったりなサイズは、かれのすねの途中でとどまっていた。
支配されている。
そんな気分をいっそう濃厚にさせる、彼女の装い・・・

彼は恵子さんを呼び出すと。
そのまま彼女の首筋に噛みついていって。
しっかりつかまえられた腕の中。
恵子さんはうぅんっ・・・ってうめいて、目をつぶって。
ひたすら、耐えるように吸血されてしまうと。
眩暈を起こしたように、ふらふらと。
傍らのベンチに姿勢を崩してしまっている。
ひざ小僧の下。
真っ白なハイソックスに縦に走る太目のリブが、夕陽に映えて。
鮮やかなスジを、浮き上がらせていた。
あいつはそのうえから、臆面もなく唇を吸いつけてゆく。
半ズボンの下にまとわれた恵子さんのハイソックスが、
足首のあたりで、キュッとひきつれていて。
抜き差しならぬ密着感で、あいつの脛を包んでいた。

きゅうっ・・・
恵子さんの血を吸い取られる音が。
わたしの鼓膜に、妖しい彩りをしみ込ませた。
そのときのことだったのだろうか。
啜られることが。抗いがたい快感にかわったのは・・・

どう?すこしは昂奮できた?
気がかりそうに尋ねてくる彼に。
恵子さんの処女も、きみに奪られてしまうんだね?
わざわざ念を押しているのは。
もちろん先にやらせてもらうよ、という返事を耳にしたいから。
わたしはひそかに、囁いている。
こんどは、母のストッキングを履いてみてくれないか?と・・・

あとがき
前作のつづきです。
ヘンな時間のあっぷのせいか、いまいちキーが乗っていないかも?^^;

娘が公園に呼び出されるとき

2007年04月22日(Sun) 15:07:15

夕方、娘さんに電話がかかってきて。
娘さんがだまって出かけようとしたら。
必ず、行き先を訊いてください。
そして、街はずれの公園に・・・という応えがかえってきたら。
どうぞそのまま、送り出してあげてください。

お嫁にいけなくなる公園。
ある齢になると、乙女たちが必ず囁きあうところ。
囁きの主たちは。
そう。きっと、みんな。
・・・体験しているはず。

送り出した娘さんのあとを、黙ってついていくのもいいでしょう。
時には、ご主人や。
もしも娘さんが婚約をしているならば。
婚約相手の青年も、誘い合わせて。
ぜったいに、さとられないように。
あとを、つけてみてください。
そう。
電信柱や曲がり角で、
ほんのすこしだけ、見失うくらいの隔たりをつくって。

娘さんはきっと、振り返ったりはしないでしょう。
ぼうっとのぼせた彼女の胸に、もはやそんなゆとりはないでしょうから。
処女の血を吸われる。
そんな欲求が、呪文のように。
娘さんの身も心も、縛りつけてしまっているのだから。

相手はきっと、公園のすみの暗がりで待ち受けているはず。
こざっぱりとした格好で、子どもみたいに半ズボンを履いているのに。
なぜか、とってもスマートに見えるはず。
半ズボンの下に履いているのは・・・
そう。見覚えのある、娘さんのハイソックスのはず。
あらかじめ、目印に・・・って。
だれかがきっと、彼に手渡しているのでしょう。

初めてのことにはきっと、だれでも臆病になるものだから。
娘さんはお友だちと連れだって、呼び出されていくことでしょう。
だって、お友だちも、それぞれに。
お相手からの呼び出しを、受けているはずだから。
おなじような、半ズボンの男の子たちが。
半ズボンの下には、ライン入り、ボーダー柄、ストッキング地と。
とりどりのハイソックスを履いて。
娘さんやお友だちを、待ち伏せているはず。
それぞれが、それぞれの相手をすぐに見つけて。
娘さんたちも、じぶんの相手がだれだかを、すぐにさとって。
男女べつべつに向かい合った集まりは、
すぐに別れ別れになって。
思い思いのお相手と、思い思いの暗がりに分け入っていくのです。

どうか、勇気を出して。
暗がりの果てまで、覗いてみてごらんなさい。
すこしくらい、生垣から顔を出しても。
お互いに夢中になっているふたりは、きっと気づきはしないでしょうから。
三つ編みのおさげを肩先に揺らしながら。
娘さんがうなじを彼の唇にゆだねても。
けっして、じゃまをしてはなりません。
だいじな、儀式なのですから・・・

娘さんは、肩を抱かれて、ウットリと目を閉じて。
セーラー服の肩先に、ほんのちょっぴり、バラ色のしずくをほとばせて。
ちぅちぅ、ちゅううっ・・・って。
心地よげに、音を立てて、彼に生き血を吸い取られるままになってゆきます。
娘さんの婚約者が、もしも昂ぶりを抑えかねたら。
それとなく、気遣ってあげてください。
きっと彼も、まえもって渡りをつけられて。
彼女がじぶんを裏切るために、こんな夕べを過ごしているなどとは、夢にも思っていないでしょうから。

うなじをつかまれ、咬みつかれて。
わが身を吸血にゆだねるひと刻、ふた刻・・・
やがて娘さんは姿勢をくずし、傍らのベンチに腰を落すでしょう。
それでも、娘さんの血の味を知ってしまった彼は。
ベンチの上でうずくまる娘さんの足許に、にじり寄って、
しつように、唇を吸いつけてゆくことでしょう。
透ける黒のストッキングには、青白く肌を滲ませた伝線を。
真っ白なハイソックスには、ほんのりとしたバラ色のシミを。
遠目にもそれとわかるほどに、滲ませてゆくでしょう。
こと果てて、彼が娘さんを介抱しているあいだに。
皆さんは家に、お引き取りください。
娘さんの帰り道は、なにひとつ気遣いは無用です。
きっと彼が玄関先まで見送ってくれるでしょうから。

娘さんが、戻ってきたら。
さりげなく、出迎えてあげて。
そうして、ずばりと訊いてあげましょう。
お嫁に行けなくなる公園に行ってきたのね?と。
娘さんは、目を見開いて。手を合わせて、なにかを言おうとするでしょうけれど。
みなまで言わせずに、のみ込んでください。
いいわよ、だれにも黙っていてあげるから、って。

つぎの日には、娘さんといっしょに出かけてください。
行き先は・・・彼女がよく知っています。
だって、夕べ血をあげたひとの住処なのだから。
そうして、夕べは娘がお世話になりましたと、ご挨拶を交わしてください。
彼からもきっと、礼儀正しい返辞がかえってくるでしょうから。
そうしたら。
ふつつかですが・・・
ひと言、そう呟いてみてください。
あとは、お齢の順に・・・
そう。噛まれてゆくのです。
まず、あなたから。
娘さんの血がお気に召すのですもの。
あなたの血が、お口に合わないわけは、ありません。
思う存分、振舞ってあげてください。
ぼうっとなったあなたのまなざしに包まれて。
娘さんもまた、忘我の境地に浸るでしょうから。
女ふたりの血を獲た彼は、やがて欲望を抑えきれなくなって。
あなたに、挑みかかることでしょう。
そのときは・・・もちろん。許してさしあげることですね。
きっとご主人とのときよりも・・・愉しむことができるでしょうから。

おふたりの情事は、きっとその場でわかってしまいます。
そのときには、娘さんにそっと囁いてあげてください。
だいじょうぶ。
あなたはまだ、未来の花婿を裏切ってはダメよ。
裏切って抱かれるのではなくて。
愛し合うことを、愉しみ合えるようになるまでは。
賢明なあなたのことですから・・・
ご主人はなにもかも、お察しになっていらっしゃるのでしょう。
あなたの娘婿が、あなたのご主人をまねる日まで。
娘さんの純潔は、安全です。
だって花嫁の純潔は、未来の花婿から彼に譲り渡されるべきものですから。


あとがき
妖しい手引書・・・のようなお話になっちゃいましたね。^^;

郷に入りては・・・

2007年04月22日(Sun) 13:15:04

小さいころから、あたりまえだと思い込んでいた。
ママが吸血鬼のおじさんのお邸に、週末お泊りに行くことを。
行ってくるわねと夕方出かけたママが、つぎの日の朝帰ってくることを。

ママがいない夜。
パパはいっつも、
寂しがるんじゃないよ。ママはきれいになって戻ってくるからね。
って、ボクのことを寝かしつけていた。
くすんだ色のスーツを着て出かけていったママは、
朝になると真っ赤なワンピースをしゃなりしゃなりさせて戻ってきて。
パパの顔を見ると、いつも照れくさそうに笑うのだ。
足許をみると、夕べ履いていた地味なねすみ色のストッキングを、
てかてか光る濃紺のストッキングに履き替えていたりする。
パパもママも、ウキウキしていて、一日じゅう、仲良くしているから。
決して、わるいことではないとばかり思っていた。

兄さんが、ボクの義姉さんになるひとを連れてお邸にいったときも。
義姉さんは堅い感じのする淡いグレーのスーツから、
ドキドキするほど鮮やかなショッキングピンクのワンピースを着込んでかえってきて。
兄さんとふたり、愉しそうに、照れくさそうに、笑い合っていた。
ぴかぴか光る黒革のハンドバックから取り出したのは、義姉さんが夕べ履いていたグレーのストッキング。
ふやけたようにふくらんだ、太もものあたりに。
ちょっぴり赤紫のシミがついていたように見えたのは、
錯覚だったのか、そうではなかったのか。

ところが先週都会から引っ越してきたIくんに、そんな話をしてみると。
そんなバカな・・・って、笑われちゃった。
結婚している女の人や、結婚のきまった女のひとが。
ご主人や彼氏とちがう男のひとの家にいって、ひと晩泊まるなんて、ありえないって。
そんなこと、ないんだよ。村ではみんな、そうしているんだよ。
くわしい話、知っている小父さんがいるんだ。
会わせてあげるよ。
ボクはそういって、Iくんの手を引っ張るようにして、お邸に連れて行った。
閉ざされたドアの向こうでなにがあったのか、聞かなくてもだいたいのことはわかっている。

部屋から出てきたIくんは。
うなじのあたりをカリカリとかゆそうに引っかきながら。
きみの話、わかったよ。そういう世界もあるんだね。
しちゃいけないことだから、よけい愉しいんだね。
ごめんね。ばかにしたりして。
おじさん、こんどはボクの家にも来てくれるってさ。
つぎの週末のことだった。
Iくんのお母さんが、夜中ご主人に見送られて、ひっそりと家から抜け出したのは。

花嫁の夜想曲

2007年04月21日(Sat) 08:25:02

いいのかい?あいつのところに行かなくて。
頬を生気なく蒼ざめさせた少年の呟きに、礼子はおおきな瞳をはりつめて。
はっきりと、かぶりを振っている。
ううん。セイジがいいって言ってくれたから。
礼子の恋人の名を耳にすると、少年ははっとしたように、そのときだけ頬を淡くして。
少女のほうへと歩み寄った。
一瞬重なり合う、影と影。
さっと交わされる軽い接吻のように。
少年は少女の血をすこしだけ吸うと。
つかの間の抱擁から、少女を解放していた。
行ってあげて。きょうはあいつ、ほんとうは寂しいはずだから。
ウン。そうするね。
ハッキリとした輝きをもった瞳に感謝の色を浮かべて、少女は草原の彼方へと駈け去っていった。

ながいながい口づけだった。
セイジは恋人を抱擁から解くと、もういちど、甘えるように、
少女の髪の生えぎわに、接吻を重ねてゆく。
しばしのあいだ、言葉もはさまずに、抱き合いつづけて。
お互いのお互いへのぬくもりをたしかめあような、
すがりつくほどの抱擁を交し合うと。
はじめてセイジは、ほかのひとの名前を口にする。
あいつに、吸わせてやったの?
少女のうなじに、痣のように残るふたつの痕。
乾きかけた傷口には、ほんのちょっぴり紅い残滓が滲んでいた。
なにもいわないで。
少女は表情を見られまいとして、セイジの胸に顔を埋めた。
さらさらとした長い黒髪を、いつまでも撫でながら。
いいんだよ。願ったのは、ボクのほうなのだから。

きょうだいのように、幼いころからいっしょに育ってきた男ともだち。
じぶんの分身のような存在だった彼は、年頃になると、血筋どおりの本性をあらわにし始めた。
そういうならわしなのよ。
訪れてきた彼に血を与えたセイジの母は、息子にさとすように告げている。
処女の血を獲てはじめて、あの子も大人になれるの。
あなたに彼女ができたら、ぜひそうしてあげて。
そうやってお父さんも・・・あの子の父親にわたしを引き合わせたのだから。

おそるおそる囁いた家伝のしきたりに。
少女は夢見るように、うなずいて。
いいわよ。あなたたちのヒロインになってあげる。
でも、あなたも視ていて。逃げちゃダメよ。
ふるえるような、なよやかな声は。
幼い恋人を、しなやかに心地よく縛りつけていた。

・・・痛かった?
はじめて腕のなかにした、年頃の少女。
重みをずっしり受け止めながら。
いまぬくもりをくれたばかりの少女を、少年は固く、抱きしめる。
おそるおそるのぞき込んだ少女の顔は、思いのほか明るくて。
いまじぶんの血を吸ったばかりの少年のことも。
気遣わしげに寄ってきた恋人にも。
かわるがわる、慰めるようなまなざしを投げ返していた。
吸血鬼の少年は、むしろ彼のほうが痛々しげに少女を見つめて。
懐中からハンカチをとり出すと、白い肌に滲むバラ色のしずくを、含ませていった。
少女の血の沁みたハンカチを、あたかも宝物のようにおしいただいて、ふたたび懐中にすると。
こんどは恋人が、少年の所作をまねて、自分のハンカチに少女の血潮を吸わせていった。
忘れないようにしようね。
三つの頭が、それぞれに。かすかにうなずき合っていた。

いずれあの子と、夜明かしするんだろう?
訊いたのは、セイジのほう。
けれども少年は、黙って首を横に振った。
お前がやれよ。
でも、しきたりでは・・・
そう。
祝言のまえの晩までに。
きみはボクに、花嫁とひと晩過ごさせてくれるはずなんだよね?
でもね・・・
それは、やめにしておこうよ。
きみも、あの子も。まっすぐなひとだから・・・
言葉とは裏腹の深い想いが、瞳に哀しい色を帯びさせているのをみとめながら。
もうこれ以上、なにも口にしてはならないのだと、セイジは察していた。

初夜の窓辺。
なかを覗けるように、カーテンはひらかれ、
入ってきてもいいように、窓さえ開かれていたけれど。
少年は外のかすかな冷気に包まれたまま、じいっと耳をふさいでいた。
やがて、こと果てたのだろうか。ほのかな灯りが寝室にともると。
ちょっとだけ、待っていてね。
花嫁が、甘く囁くと。
花婿も、淡く笑みかえしていた。
窓辺にたなびく、幻のような白い影。
幻はやがて、純白のドレスをまとった女となって。
しずかに地面に脚をつけた。
白のストッキングを穿いたつま先が、かすかに寒そうに足取りをすすめて、
うずくまる少年の後ろから近寄ると。
肩にそう・・・っと、手を置いていた。
慰める姉のように。
いたわりに満ちた手づかいで。
少年は電気に触れたように、ビクッと顔をあげると。
もはや少女でなくなったはずの少女は、
いつものように、塵ほどのくもりのない透きとおった笑みを洩らして。
純白のドレスのすそを軽くつまんでひき上げると、
薄手の白のストッキングに透けた脚を、妖しくたおやかにくねらせていた。
破ってくださる・・・わね?
おてんばな少女のようにイタズラっぽく、くすっと笑んだ頬に。
白い影を抱きとめた黒影は、熱い接吻を滲ませてゆく。

からからと枯葉の舞う夜の庭。
あえかな温みを帯びた微風が、淡く吹きすぎてゆく。
地べたをいとわずに舞いつづける、白と黒の影たちは。
あるときは、仔猫がじゃれ合うように。
あるときは、しっとりと溶け合うように。
深い二重唱を重ね合わせてゆく。
初々しい花嫁と、闇夜に棲むものとが奏でる、禁断の夜想曲を。
窓辺の青年は、うっとりと見つめていた。
軽い含み笑いさえ、うかべながら・・・
きみはボクをまっすぐな男だといってくれたけど。
やっぱりこれは、見逃せないよね。
ふたりながら。彼女といっそう仲良くなれた夜だもの。

待って!お願い。逃げないで・・・

2007年04月21日(Sat) 07:38:38

「待って!お願い。逃げないで・・・」
少年の声に、女は思わずハッと振り向いて。
一瞬逃げ足をとめていた。
逃げないで。お願いだから・・・
だれも助けてくれなくて。あなたでもう、七人目なんだ。
助けてほしい・・・
ひとを襲っているくせに、少年の瞳はどこまでも暗くて寂しげな光をみせていた。
夢中で抗っていたときには気がつかなかった、瞳の色。
女はじぶんの置かれている立場も忘れて、瞳と瞳をじいっと合わせていた。

相手はずっと年上の女だった。
結婚しているのだろうか。
髪は茶髪で、パーマをかけていたが、化粧は薄く、
彫りの深い目鼻立ちに、気の強さがにじみ出ている。
淡いモスグリーンのカーディガンに、ベージュのスカート。
さりげなく装った服装はどちらかというと地味で、落ち着いた感じがしたけれど。
ベージュ色のパンプスを履いた脚が震えているのは、夜の寒さのせいばかりではないはずだった。
どんなに気丈な女でも、それは、怖いだろう。
だって相手は、吸血鬼なのだから。
初めて女を見かけたときに感じた気の強さに、そのまま頼れそうな安らぎを覚えたけれど。
脚の震えをみたときに。
やっぱり、怖いんだ。
それがより強い共感にかわってくる。

さんざん追いかけっこをしたあとらしい。
ふたりとも、肩で息をしている。
だってあなた、人の血を吸うんでしょう?
女がはじめて、口を開いた。
けれども、死なせたことはいちどもないよ。
そんなこと、信じられないわ。
お願い。助けて。僕を救って。あなたに逃げられたら、もうだれも通りかからないと思うから。
ムシのよすぎる願いだとは、わかっていた。
どう考えても、聞き入れてもらえるわけはなかったのだ。
ところが女は少年の手をじゃけんにひくと、
とにかく、うちへ来なさいよ。
そういって。
ようやく息をしずめた少年とふたり、とぼとぼと夜道を歩きはじめていた。

窓ががたがたと、異様な音鳴りを帯びている。
恐怖の夜。
街の人たちが、声を潜めて告げあう、そんな夜。
闇の彼方には魔性が棲んでいて、しばしば人をたぶらかすという。
あなたは、魔性の子なの?
女は少年の腕の中、うつろな声で問うている。
ううん。でも・・・そうなのかもしれない。
でも。僕といっしょにいるかぎり、ほかのやつはだれもあなたに手出しをできないんだ。
だって・・・もうあなたの血を吸ってしまったんだもの。
少年は唇を濡らしている女の血を、拭おうとはしなかった。

寂しいんでしょう?
いく度めか、少年がうなじに唇をあててきたとき。
うつろな声色が、それでもはっきりとした響きを帯びている。
女のうえにおおいかぶさっていた影は、びくっと身を揺らして。
なにもこたえずに、女の肌をつよく吸っていた。
いいのよ。なにもいわないで。
いつか母親のように、少年の髪をまさぐりながら。
うつろな声色はなおいっそう、生気を帯びてくる。

ばついちなのよ、わたし。
あのひとと別れて、もう何年になるかしら。
うぅん、未練なんか、とっくにないのよ。
よそで女をつくって、家から出て行ったような男だから。
あなたも・・・他所で女をつかまえて、血を吸うんでしょう?
よその女にも、いまみたいに、こうやって、甘えるんでしょう?
勝手ね。どんな男も。
ごめんよ。慰めてあげ切れない。。。
フフフ・・・
女はじめて、口許をゆるめた。
正直な子。
わたしひとりに付きまとわれて、吸い尽くされちゃっても困るしね。
でもときどき、いらっしゃい。
忘れたりしたら、いやぁよ。

すめばみやこ?

2007年04月21日(Sat) 07:31:06

夜明けの来ない夜はない、といいますが。
はたして、ほんとうなのでしょうか?
夜が明けないまま、この世からさよならしなければならない人だっているというのに。
それでも夜は明ける、というのでしょうか。

そもそも夜は悪、なのでしょうか。
闇のなかでしか生きられない人もいるのなら。
闇を愛することはないのでしょうか。

闇に安らぐ夜もある

そう、呟くことはできないものでしょうか。

妹からの借りもの

2007年04月19日(Thu) 21:31:46

垣根を隔てた向こう側。
お兄ちゃんのセイジは、半ズボンの高等部。
妹のあゆみは、セーラー服の中等部。
兄は寮生活。妹は家からの通学。
たまに学校のなか、兄妹で顔をあわせるたびに、
お兄ちゃんはずんずんと背が伸びてくような気がする。
だんだん大人びていっちゃって、あゆみの手の届かないところに行っちゃうのかな?
いっぽう兄のほうは。そんなことにはぜんぜん疎くて。
妹の白い肌がだんだん透き通っていって、色香を漂わせ始めていることに、
いっこう、気づいているようすはない。

どうしたの?
珍しい呼び出しに、小首をかしげるあゆみをまえに。
うん。ストッキング、破っちまった。
兄貴は情けなさそうに、半ズボンを履いた自分の脚をさし伸ばす。
あら、あら・・・
あゆみがお兄ちゃんの足許を見ると。
濃紺の半ズボンの下、びちっと縦に走るしま模様。
半ズボンの下に黒のストッキングという、男の子の制服としてはあり得ない取り合わせ。
けれども寮制のしかれた学園のなかは、別世界。
こんな制服規定が、しばしば好んで守られているけれど。
どうやら男の子のごつごつとした太ももに、薄いナイロンのストッキングはなかなかなじまないものらしい。

また、暴れたんでしょ?
同情なのか、あきれているのか。
あゆみの口調はどこか妹ばなれして、まるで母親みたいな口調になっている。
こういうときは、どちらが年上だかわからなくなるのだが。
セイジは頭をかきながら。
これからすぐに、部活なんだ。一足、貸してくれないか?
まるでノートや鉛筆を忘れてきたときのように、こともなげな頼みかたをしている。
ウン、。いいよ。ちょっと待ってね。
あゆみは面白そうにクスッ、と笑うと。
生垣に身を寄せるようにして、。
お兄ちゃん、ちょっと通せんぼしていてね。
軽く腰をかがめると、履いているストッキングをためらいもせずに、自分の脚から抜き取ってゆく。
えっ?おい、おい・・・
さすがの兄貴も、焦っている。
いいよ、あたし。素足でも平気だから。
それにあたしも。履き替え、持ち合わせていないのー。
とりあえずこれで代用しておいて。
少女はちっとも騒がず振舞うと、静かな瞳で兄をじいっと見つめている。
手渡された黒いナイロンの塊は、セイジの掌のなか、頼りなく縮こまっていたけれど。
かすかなぬくもりが、しみ込むように残されていた。
いくらなんでも・・・なぁ。
セイジはことさらにガキくさく頭を掻きながら。
それでもよほど困っていたらしく、妹と代わりばんこに生垣に隠れて、ストッキングを脚に通してゆく。

くふふふふふふふっ。
老婆が、まるでいまにもよだれの垂れそうな意地汚い笑みを浮かべて立ちはだかったのは。
妹が立ち去ったすぐあとのこと。
足取りを見られなかったのが、救いだったけれど。
あ。これから部活が・・・って、すり抜けようとしたセイジは軽く肩を抱きとめられていた。
おいしそうな靴下をお召しじゃな。しょうしょう悪戯させていただこうかの。
老婆はところどころ歯の抜けた口を半開きに弛めながら。
いかにも不都合だ、といわんばかりに頬をふくらませた少年行く手を、しっかり遮っている。

ぬるり・・・ぬるり・・・
濃い黒に包まれた足首を。ふくらはぎを。ズボンのすそからのぞいた太ももを。
せり上げるように舐め尽くしてゆく老婆は、時おり随喜の笑みを洩らしながら。
それでも容赦なく、唇を吸いつけ舌を這わせてくる。
お若いのに、ふしだらなこと。おなごの味がするのぅ。
口許からだらしなくよだれをしたたらせながら。老婆はずばりとそう言った。
どっ、どうしてっ?
思わず妹の立ち去った彼方に目をやってしまったセイジをみて。
語るに落ちたようじゃのぅ。
老婆はなおも、だらしのない舌なめずりに相好を崩して、
なれなれしく少年の背中ごし、肩に腕を回してゆく。
え?どこのおなごと、契られた?
すみに置けぬのう。たいそう、妬けるのぅ。
老婆のさぐるような舌をあてられながら。
ぞくぞくと鳥肌立つような閃きが。
素肌になにかを語らせていた。
そぉか。そぉか。よぅ、わかったぞえ。
老婆は毒蛇のように、長い舌をひらめかせながら。
やはり痛いところを、衝いてきた。
妹ごが、おるはずじゃ。いちど、たまわることはできまいかの?
あぁっ、そんな・・・
老婆にたいする拒絶は、うなじに埋め込まれた牙に、封じられていった。

生娘、じゃろうの?
老婆のまなこが、ぎらぎらと。
じぶんの妹に注がれるのを。
セイジはズキズキしながら、うなずいている。
血の喪われた血管が、じゎんじゎんと、ほてるような昂ぶりをおびていて。
目のまえの少女は妹とは別人で、おいしい生き血をたっぷり宿したエモノのように思えてくる。
では・・・しばし独り占めにさせていただくぞい。
分け前はそもじにも、つかわそうほどに。
老婆は言い捨てるようにして、少年から視線を移すと。
それでもあゆみはゆったりほほ笑みながら。
老婆に近寄るように、遠ざかるように、ゆっくりと、脚をはこんでいる。
ストラップシューズにお行儀よくおさまった足の甲が、薄墨色のナイロンにくるまれているのを、
老婆がいとももの欲しげに見つめてくるのをわかっていながら。
まるで誘うように、ゆっくり、ゆっくりと、思わせぶりに歩みをすすめてゆく。
フウッ・・・
老婆は耐えかねたように、獣じみた息遣いをひと息洩らすと。
目にもとまらぬはやさで、少女の足許ににじり寄っていた。

あっ。
思わずすくめた足許に。
老婆は化け猫みたいなナマナマしい息遣いを吹きかけて。
きちんと履かれた黒のストッキングを、しわくちゃに波立てようとする。
いけませんわ。おばさま・・・
戸惑いに揺れる少女の上体は、純白の夏服に包まれていて。
きちんと着こなしたモノトーンの制服に、ポニーテールの黒髪がはげしく揺れる。
整然と足許を遮っていた黒のプリーツスカートを、強引にたくし上げられて。
ヒルのように飢えた唇を、むたいにぎゅうぎゅうとなすりつけられて。
それでも少女は気丈に振舞って、手近な樹にもたれかかったまま。
とうとう、老婆にストッキングを破らせてしまっている。

ちぅちぅ・・・きぅきぅ・・・
ごくり・・・ごくり・・・ごくりん。
いともうまそうに、制服姿の妹から、生き血をむさぼる老婆。
老婆は時おり、うす汚れた着物のたもとで口をぬぐいながら。
甘露・・・甘露・・・
熱に浮かされたようにそう呟きながら。
なおも血を獲ようとして、傷口に唇をねぶりつかせる。
セイジは痺れたようになって、妹の受難を見守るばかり。
あゆみはかわいい唇で、ふしぎな言葉を洩らしていた。
いいんです。いいんです。もっと、もっと、ごゆっくり、召し上がれ。
おかげであたし、あなたのなかで・・・兄とひとつになれるんですもの。
ぐらり。と、なにかがセイジのなかで平衡を喪った。
その瞬間からだった。かれが獣に変わったのは。

じゅうたんのような芝生のうえ。
じゃれ合うように転げまわる老若二個の女体のあいだに割って入って。
老婆のうでのなかから、もぎ取るように妹の身体を奪い取ると。
セーラー服の襟首に手をかけて、たてにあざやかに引き裂いていた。
えっ?
一瞬、信じれらない、という顔をした少女は。
なおも肉薄してくる兄の身体に、剥かれてあらわになった白い肌をしぜんに合わせていって。
兄の衝動に従うまま、丈の長いプリーツスカートをさばいていって。
剥ぎ堕とされたストッキングに彩られた太ももの奥、
逞しい臀部が沈み込んでくるのを。
みずから誘うようにして、受け入れてしまっていた。
う、ふふふふふふふっ・・・クククククッ。
老婆が化鳥めいた哂いを洩らしたのは。
ふたりが身体を抜きあうことができぬほど。ひとつに交わったときだった。

どれほど刻が、経ったのだろう。
濃紺のスーツ姿に寄り添っている、濃い紫のロングのワンピース姿。
くるぶしだけが見え隠れする足許は。
申し合わせたように、ストッキングのように薄い濃紺の靴下。
腕を組んで歩みを進める公園の隅。
待ち構えているのは、古びた着物姿の老婆ひとり。
ウフフ。
一対のカップルはイタズラっぽく笑みあって、並んでベンチに腰かけると。
うずくまる老婆のまえ、すそをちょっとずつ、たくし上げて。
薄手の靴下に走る縦じまもようを、面白そうに見つめている。
夫婦どうぜんに暮らす兄妹を。
老婆はいつまでも、祝福しつづけていた。


あとがき
これは、けさ浮かんだお話だったのですが。
時間がなくて、あっぷできなかったのです。^^;

妹のストッキングをねだる兄。
ひそかな想いを込めて、自分の脚から抜き取る妹。
好色な老婆にとらえられて、妹のストッキングを履いたまま脚をいたぶられる少年。
妹を狙う老婆を見守るうち、いつか淪落の渦に引きずり込まれてゆく兄妹。
そんな構想が捨てがたくて、あっぷしてみたのですが。
いちど情熱をくぐり抜けてしまうと・・・たいそうな凡作になってしまうのですねぇ。A~^;
次回に期待しませう。--;)

母の代役

2007年04月17日(Tue) 07:36:19

ぱしゃん。
取り落としたワイングラスは、軽い音を立てて床のうえ、跡形もなく、飛び散っていた。
お母様、だいじょうぶ?
若い娘は、かすかに身を傾けた母親をかばいながら。
気遣わしげに妻の顔色をうかがう父といっしょになって。
ひと目をはばかるように、身をなでるようにして介抱していた。

お父様が、吸いすぎるからよ。お母様の血を。
娘は口を尖らせて。父を軽くなじっている。
もとより、毒のあるなじりかたではない。
父の吸血癖は、妻も娘も認めるところだったから。
夕べも遅くに。お母様は寝室のなか、美々しく着飾って。
ナイトのようにまえに跪くお父様に向けて、
つやつやと透きとおる肌色のストッキングの脚を、半歩まえに差し伸べていた。
お父様はお母様の脚を、押し戴くようにして。
足の甲に、軽く接吻をくわえると。
そのまま脛へと、せりあげていって。
素肌に滲むほどの熱い接吻を、重ねていった。
お母様は頬を心もち蒼ざめさせながら。
それでも誇るように、背筋をきりっとさせて。
いとおしむようにすり寄せられる唇を。
いたわるように、見つめつづけていた。

こうこうと輝く常夜灯の下。
待ち受ける吸血鬼をまえに、うら若い衣裳をまとうのは。
今宵は、わたしの番。
お母様は家に戻るなり臥せってしまって。
さすがにふた晩つづいての吸血に、お齢が耐えかねたのだろう。
中学を卒業したお祝いに、制服姿で血を吸っていただいてから。
お父様にお仕えするのは、これでいくたびになるのだろう?
生みの娘の血までは、なかなか啜ろうとしないお父様。
それが罪悪感ばかりのせいではなくて。
年頃の輝きを帯び始めた娘への眩しい羞恥とわかるのに。
さして刻はかかからなかった。
お母様とおなじように、つややかなストッキングで脚に彩りを添えて。
奥ゆかしい長めのスカートのすそを、フェミニンに漂わせて。
お父様はナイトのように、わたしの足許に、跪く。

ぬめるような輝きを帯びた、お父様の唇が。
まるで恋人を慕うように、足許に吸いつけられてくる。
あぁ・・・
こんなにも、熱い接吻だったのか。お母様が体験なさったのは。
薄手の靴下を通してしみ込んでくる、かすかな唾液。
ちっとも、きたならしいとは感じない。
熱い湿りが、ストッキングを通して、素肌に滲んでいって。
薄い皮膚に蒼白く浮き出した静脈に、唾液の毒がまぎれ込んでゆく。
苦痛を与えまいとする、妖しい麻酔に、女としての酔いをおぼえながら。
お母様がそうしたように、背筋をキリリとさせて。
かろうじて、身体の平衡をささえている。
きゅうっ・・・
目もくらむような・・・
あぁ、わたくしの、若い血潮が。
お父様を、満たしてゆく。
そう。
吸われているときにお母様が浮かべる、満ち足りた笑みは。
なにもかも捧げる歓びを滲ませていたのか。

まだ、まだ。若いね・・・
そう。お母様みたいに、奥ゆかしくは振舞えませんわ。
でも・・・若い血。すこしは愉しんでいただけたかしら・・・
ぼうっとなってゆく意識の彼方から。
なおもしつようにおおいかぶさってくる影の重みが、
少女を心地よく女に変えてゆく。
リビングのなか、妖しく漂う薄闇が。
濃い闇のなかに、堕ちていって。
熱い吐息がこのうえなく優しく、娘の耳朶に触れてゆく。