淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
ママのブラウスを身に着けて
2007年10月30日(Tue) 07:47:27
制服のブレザーの下には、ママが着ている白いブラウス。
濃紺の半ズボンからむき出しになったひざから下は、
パパのタンスから引き抜いてきた、ビジネス用のハイソックス。
しゃらしゃらと胸元に揺れるブラウスのボウタイが、うっとりするほどなまめかしくって。
長い靴下は紳士用とは思えないくらい、肌が透けるほど薄く、
染め上げた脛の白さを、蒼白く浮き上がらせている。
鏡に向かってルージュを刷いた唇が、イタズラッぽく笑みを浮かべる。
お化粧は服を着たあとにするもの。
ママの日常が、そう教えてくれていた。
男の子にしては長めの髪を、さらりとかきのけて。
足音を忍ばせて、家を出る。
たどり着いたのは、真夜中の公園。
待った?
がらんどうの闇を見透かすように、おそるおそるかけた声に、
ホゥ・・・
ふくろうの声だけが、応えてくる。
戸惑いながらすすめるストッキング地のハイソックスの脚を、
しずかに両肩に置かれた掌が、おしとどめた。
よく来たね、坊や。
黒影の主の顔は、闇に埋もれて見えないけれど。
薄っすらと笑んだ口許から覗く鋭利な牙だけは、月明かりに輝いている。
いいよ、吸って・・・
少年は心もち、おとがいを仰のけて。
待ち合わせの相手を振り仰ぐような姿勢のまま、目を瞑る。
くすぐるように首筋を撫でる切っ先が、ゾクゾクするほど心地よい。
ガマンしないで。噛んでもいいんだよ。
少年の呟きに、くすぐったそうに笑いながら。
男は生硬なうなじに牙を埋めてゆく。
純白のブラウスは、べっとりと血のりをあやし、
月の光の下、しずかな輝きに濡れている。
ふふ・・・っ。
少年は大人びた含み笑いを浮かべながら。
くすぐったそうに、うなじの傷を撫でていた。
ブラウス、台無しにしちゃったね。
ためらいがちな、ひそひそ声に。
押し殺すようなバリトンが重なった。
綺麗な血だ。母さんの服に、よく似合っている。
ふふふ・・・
揺れるような含み笑いを。
まだ少年の血に濡れている唇が、熱くおおってゆく。
家にかえろうか。
恋人の肩を抱くように。
吸血鬼は少年の肩を抱き寄せると。
少年はおとなしく、彼のいうがまま、家路をたどる。
人けのない、夜更けの道に。
コツコツという足音が、やけに耳ざわりだった。
まぁ、どうしたの?こんなに遅い時間・・・
玄関の物音を聞きつけたのか、
ママは眠そうな顔をして、現れた。
息子がブレザーの下、じぶんのブラウスを身に着けて。
純白のブラウスが鮮やかなバラ色を散らしているのを見て、
まっ!あなた!
思わず声をあげようとすると。
少年の脇をすり抜けた訪客は、ママを思い切り、抱きしめていた。
きゃっ。
たったひと声だった。
さっき息子にそうしたように、吸血鬼はママのうなじに食いついている。
キモチいいかい?ママ・・・
うなじの傷口を撫でながら。
ママがおなじ疼痛を味わっているのが、むしょうに小気味よかった。
こんな夜更けなのに。
ママはブラウスにスカート姿。
出かけたボクが心配で、起きていたのだろうか?
吸血鬼はこれ幸いと、着飾った衣装にイタズラを重ねてゆく。
ブラウスに血を撥ねかせて。
スカートを捲り上げて。
あらわになった太ももに、ストッキングのうえから、噛みついてゆく。
かすかに光沢をよぎらせたなまめかしい肌色のストッキングが、
ふしだらにしわを広げ、ちりちりに破けてゆく。
綺麗・・・
少年はいつまでもいつまでも、ママの受難を見守っている。
ひざ下をしっくりと締めつけているのは、パパのタンスから引き抜いてきたハイソックス。
ストッキングのように薄いナイロンは、毒々しいほどの光沢をにじませていて。
紳士ものとは思えないほど、なまめかしい。
男はにゅるり・・・と唇を這わせてきて。
ナイロン越し、生硬な肌を、じわりと撫でる。
ゾクゾクと鳥肌をにじませながら。なおも半歩、脚を差し出していって。
破いてもいいんだよ。
少年のささやきに、くすぐったそうにうなずきながら。
ママのストッキングとおなじくらい、たんねんにいたぶって。
鮮やかな裂け目をにじませてゆく。
今夜も、出かけるの?
ああ、パパにはナイショだよ。
半ズボンの下、なにを穿こうかと迷っている息子に。
ママはじぶんのストッキングを差し出した。
黒なら・・・男の子でもよく似合うと思うわ。
少年はくすぐったそうに、受け取って。
器用に、脚に通してゆく。
身に着けた衣装の主は、かならず毒牙にかかるという。
だからボクは、ママのブラウスを着ていったのに。
こんどはママから、衣装をボクにゆだねてきた・・・
わたしもついてゆくわ。
ママはねずみ色のコートの袖を通して、
真っ赤なプリーツスカートの下、ストッキングの光沢を輝かせる。
夜露に濡れた芝生の上。
仰向けになったまま、冷たく輝く月を見上げていると。
ちゅうちゅう・・・ちゅうちゅう・・・
まだ、ママの血を吸っているらしい。
洩れてくる吸血の音に、鼓膜がくすぐったく震えた。
さきにつけられたうなじの痕が、まだじんじんと疼いている。
ママもおなじ疼きを感じているんだ・・・
共犯者の共感が、ママを一段高いところから引きずりおろしていた。
一段奥の草むらから、脚だけをのぞかせて。
ママはおめかししたイデタチを淪(しず)めていて、
時おりがさがさというせわしない音が。
せめぎ合う二人の動きを想像させた。
ストッキングを剥ぎ堕とされて、むき出しになったふくらはぎが。
こうこうと照りわたる冷たい月明かりに浮かび上がって。
皮膚の白さをツヤツヤと、浮かび上がらせている。
思いがけないほどの色っぽさが、少年をすこし大胆にしていた。
だいじょぶ?
草むらを掻き分けて。ママの姿を求めると。
ママは両肩を我が物顔に抱きすくめられて、
うなじを吸われていた。
ぐいぐいとむさぼられたあげく、ちょっぴり顔を蒼白くしていたけれど。
愉悦のにじんだ頬は、愉しげな笑みを湛えている。
代わるかね?
さいしょは、男の言っている意味がわからなかった。
けれど・・・渇いた喉は、ぱりぱりにほてっていて。
衝動のおもむくまま、仰のけになっている母親のうえにのしかかっていった。
傷口にあやした、バラ色のしずく。
少年はむさぼるようにして、ママの血潮に酔いしれてゆく。
いつか・・・背中にまわされた両腕に、妖しい力がこめられていて。
抜け出せなくなっていた。
真っ赤なプリーツスカートの奥、逆立ったものが擦りあわされていって。
ママのショーツが濡れていることまで、切っ先で感じてしまっていた。
埋めるんだ。思い切り強く・・・
ささやきの命じるままに、ママにとりついていって、
そうして、貫いてしまっていた。
いけないことなんだ・・・って。心のなかで感じていたけれど。
はぜるほどの衝動は、もうどうしようもなく、衝きあげてきて。
あえぎともだえを、重ね合わせてしまっていた。
出かけるの?
うん。待たせちゃっているからね。
じゃあ、わたしもついていくわ。
ふたりは、申し合わせたように声を重ね合わせていて。
おなじルージュで、かわるがわる、唇をなぞってゆく。
笑みあった唇と唇が。うっとりと重ねあわされていって。
ブラウスとブラウスが離れあうと、
母親は、黒の礼服。
息子は、真っ赤なプリーツスカート。
スカートの下は、申し合わせたように。
黒のストッキングで、脛を妖しく染めている。
足音を忍ばせて玄関にむかう母子は、気づいているのだろうか。
半開きになったドア越し、息を詰めて見守る眼の存在を。
あとがき
いまはなかなか見られなくなってしまった、薄手の紳士用ハイソックス。
透ける足首は、見ようによってはユニセックスな装いだったと思います。
ディスコの華
2007年10月29日(Mon) 14:45:41
今夜ひと晩、貸し切りのディスコ。
無機質にめくるめく、ミラーボールの輝き。
狂ったように流れるのは、あのころの喧騒の調べ。
あのころのコスチュームに装った男女は、思い思いに踊り狂って。
思い思いの相手に、触手を伸ばす。
クラス会。
そう銘打った、禁じられた夜。
あの彼は、狙っていたあの彼女と。
その彼女は、ゾクゾク心震わせたあの男に。
夫婦の禁忌を忘れ、影を重ねてゆく。
妻は少女のように、長い髪を解いて。
スレンダーな肩先に挑発的に揺すぶりながら。
あのとき・・・あのひとにも、声かけられてたのよ。
その彼と、ツーショット。
向かい合わせに、手足を振る。
思わせぶりな、腰つきに。
なだれるような、しなやかな腕。
きらめくライト。
揺れるサウンド。
ずきずき震える、いけない心。
私もグラス片手に、妻の踊りを盗み見ながら、
隣り合わせに座る見知らぬひとと、むき出しの二の腕を触れ合わせる。
ソファの裏側。
闇包む廊下。
密かな小部屋。
互いにパートナーを、入れ替えて。
淫らな彩りの夢を結ぶ。
都会の地下は、解放区。
ふしだらな隠花植物の、咲き誇る園。
母さんの囁き
2007年10月28日(Sun) 08:26:54
ほら、よく見て御覧。
あれがお前が結婚したいって連れてきた、娘さんだよ。
名前は沙希、って言ったっけ?
ほかの男と逢うのに。
あんな派手な、真っ赤なドレスなんか着て。
髪の毛だって、ふわふわウェーブさせちゃって。
口紅だって、お前が連れてきたときよりも、かなり濃くないかい?
ストッキングだって、ほら見なさいよ。
お前のときには、地味な肌色だったのに。
おなじ肌色だって・・・あんなにてかてか光るやつじゃないか。
母さんも、覚えがあるけど。
ああいうストッキング穿いて来るときは。いざ、勝負!ってときなんだよ?
えっ?あのときは私に遠慮していたんだって?
あんまり派手な娘だって、思われたくなかったんだって?
さあ、どんなものだかね・・・
ほ~ら、見て御覧。
あの子、あんなにすり寄っちゃって。
あんなに仲良さそうに、くっついちゃって。
見るからに、打ち解けてるって感じじゃないか。
いいのかい?
お前のお嫁さんになる人なんだよ?
あっ、咬みついた。
ほら、御覧。咬みついているよ。あの娘に。
なんて娘さんなんだろうね。
ブラウスに、血を撥ねかされちゃっているのに。
気持ちよさそうに、まつ毛をぴりぴりさせちゃって。
お前、聞いているのかい?
素肌だって、吸わせちゃって。
お前、キスだって、まだなんだろう?
ほら、ほら。
あんなに唇、すりつけられちゃって。
それでも、拒みもしないで・・・
まるでさいしょから、咬んでくれってつもりじゃなかったのかい?
ああ・・・どんどん吸われてゆく。
初めてじゃ、ないんだね。
なんどもああやって、逢っているんだね。
そうしてあの男に、肌を吸わせてやっていたんだね。
お前には隠れて。内緒にして。あの男と、逢っているんだよ?
そんな女を嫁にもらって、お前我慢できるのかい?
あ、あ、あ。スカートめくらせちゃっているよ。
綺麗な太ももだねぇ。
きりっと引き締まって。ほどよく肉がついていて。
あれは、たしかに美味しそうだよ。
お前、あのまま咬ませちゃうのかい?もったいないと、思わないのかい?
ほ~ら、てかてか光るストッキングのうえから、あんなにじっとりと吸わせちゃって。
あのお嬢さん、あいつの思うままなんだよ。食い物にされちまっているんだよ。
うちの嫁になるひとだっていうのに・・・
それを、あいつ、あんなに旨そうに。
ストッキングの舌触り、愉しんでるみたいに。
チロチロ、ちろちろ、舐めてやがるんだ。
お前、妬けないのかい?あのまま許しちまって、いいのかい?
結婚して、お前と暮らすようになっても。
あの女はああやって、お前に隠れてあいつと逢いつづけるんだよ。
そうして肌を吸わせて、血を啜らせて。
ほら、キスまで愉しんで。
きっとお前、祝言挙げるまえには、もう生娘じゃなくなっているのだよ。
それでも、平気なのかい?
それでも、あの子を愛せるのかい?
ほ~ら、ストッキング、破らせちまって。
ちりちりになって、だらしなくふしだらに、脱げおちていくじゃないか。
むき出しの太もも、あんなに触らせちまって。
くすぐったそうに、笑っちゃって。
まるで娼婦みたいな身持ちなんじゃないのかね?
え?ほんとうに生娘だって?
そうだね。あんなに旨そうに、生き血を吸っているんだからね。
え?ゾクゾクするんだって?
まぁ、なんという子だろうね。恥ずかしい。
あいつと隠れて逢っているところを、隠れて覗くのが、そんなに愉しいとお言いなのだね?
いけない子だね。どうしてそんな子に育ったものかね。
育て方を、まちがえたかね・・・
まあ・・・好きにしなさい。
挑発的な浮気女房を持つのも、男によっちゃ、愉しいって人もいるんだからね。
ウチの人みたいにね。
あんた、たしかにあの人の血を引いているよ。
ほかのやつが、いくらとやかく言ったとしても。
間違いなく、お前はあの人の息子なんだよ。
母親たち
2007年10月28日(Sun) 08:00:43
下校途中の夜道でのことだった。
ユリのまえをさえぎったその影は、いきなり彼女の手首を握りしめて。
傍らの草むらに、有無を言わさず引きずり込んだ。
きゃっ!
ちいさな悲鳴を耳にした人間は、たぶんだれもいないはず。
その通りはいつも人けがなくて、帰り道にしてはいけないと親たちが教える道。
けれどもたまに近道をして、ユリは秋風に胸元のリボンをたなびかせ、制服姿を通わせていたのだった。
押し倒され、しりもちをつき、制服についた泥を気にする間もなく。
影はうなじに唇を吸いつけて、遠慮会釈なく食いついてきた。
あう。
喉もとに響く疼痛が、じんじんとした。
抱きすくめた腕は強く、振りほどくことなどできなかった。
なにをするの?いったいどういうつもりなの?
無我夢中でいるうちに、男はズズズ・・・と汚らしい音を立てながら、
ユリの血をすすりはじめていた。
恐怖と痛みとにわれを忘れて、ユリは意識を飛ばしていた。
学校からの帰り道。
ユリは今夜も、いつもの道を選んでいた。
行ってはいけない。通ってはいけない。
心でそう念じているのに・・・脚がなぜか向いてしまうのだった。
男はその晩も、ユリの道をさえぎった。
同じようにして、手を引かれて草むらに引きずり込まれた。
なにが目当てなのか、とうに察しはつくようになっている。
やめて。やめて。わたしの血は、飲み物じゃないのよ。
少女は精いっぱい抗弁したが、男は震える声の哀願に耳を貸すふうはなく、
やっぱり夕べとおなじように、鋭い牙でユリのうなじを抉っていった。
家まで向かう、帰り道。
ユリはおなじように、夕べの道をたどってゆく。
どうしても・・・そうしなければならないのは。
脳裏に残った男の言葉。
初めて彼女の制服を、草むらの泥で汚したとき。
まがまがしい唇がうなじに貼りつくまでの、ほんのわずかな間。
ごめんね。すまない。
聞き取れないほど小声の呟きが、ユリの鼓膜を痺れさせた。
かすかに、うなずいてしまったような気がする。
そうすると男はユリをぎゅっと抱きしめて。
甘えるように、抱きしめて。
すがるようにして、唇をすりつけてきたのだった。
飲み物に・・・しないで・・・
涙声で、うめきを洩らすと。
ゴメン・・・
確かに聞き覚えのある声だった。
「申し訳ありませんでしたねぇ。ウチの息子がまさかこんな」
仰々しい挨拶を投げてくるのは、同級生のシンジの母親。
恰幅のよい身体つきには、どことなしの威厳がそなわっていて。
ユリの母親はひたすら恐れ入るばかりのようだった。
シンジでさえ、母親の傍らで小さくなっている。
いや、いつも小さくなっていて、クラスでも目だたない彼だったのだ。
少なくとも、陽の明るいうちだけは。
シンジの声が、影の主の洩らした声と重なることに気づいたとき。
ユリはなぜか、どきどきしてしまった。
学校からの帰り道。
なぜかその日だけは、道をさえぎる影は、現れなかった。
そのかわり。
家に来ていたのは、気の小さそうな同級生の顔をしたシンジとその母だった。
「ユリちゃん、なにぼやっとしているの。お茶の用意をしてくれない?」
客人への丁重な物腰とは裏腹に、ユリの母は鉄火な声を娘に投げた。
「いえ、いえ。どうぞわたしのことはお構いなく」
かわりに・・・
手ごわい客人は、流し目をして、ユリと自分の息子とを見比べた。
「まぁ。まぁ。つり合わないこと、おびただしいわね。こんないい娘さんに・・・」
みなまで言わせずに、ユリの母親があとを引き取った。
「お茶はあちらで、召し上がれ」
ふたりの母親に促されるようにして、シンジは隣の和室に追いやられた。
ユリは紺色のハイソックスを黒のストッキングに履きかえさせられて、
おなじ和室に送り込まれた。
「さあどうぞ・・・お茶を召し上がれ」
ユリの母親は、なぞをかけるように娘の同級生の顔を覗き込む。
あとはお二人で・・・ごゆっくり。
ふふふ・・・と笑み会う女たちの横顔が、蒼白い輝きを放っていた。
ストッキングショップ・柊亭
2007年10月28日(Sun) 07:59:46
舟橋理恵が事務所に入ってゆくと、その男はデスクに向かい、うずくまるように背中を丸めて、分厚い書物に読みふけっていた。
あのぅ・・・表の看板見てきたんですが。
おそるおそる、声をかけると。男ははじめて、目を通していた分厚い書物から顔をあげた。
そうして、珍しくもない、というふうを冷淡な視線に滲ませながら、
事務所に入ってきて自分の読書の静寂を破った女を、頭のてっぺんから脚のつま先までじろじろ無遠慮に眺めまわした。
表の看板にはたしかに、かかれてあった。
「従業員募集 30~50歳くらい迄 時給千二百円 交通費等優遇」と。
ふつうのストッキング・ショップ、なんですよね?
理恵の質問の裏側には。
いかがわしいお店じゃないですよね?
そんな意味がこめられていたのだが。
妖しいわけは、ありませんよ。
店主と名乗るその男は、こともなげにそういったものだった。
うちで変わっているのは・・・そう、制服規定くらいかな。
男が差し出した紙切れには、従業員の制服規定が事細かに書かれていた。
月曜日
髪の毛は後ろで縛り、首筋が見えるようにする。
服装はプリントワンピース 色鮮やかなもの
ストッキングの色は任意。ただし肌の透けるタイプのもの。
火曜日
髪の毛は肩まで垂らし、ナチュラルにまとめる。
服装は紺もしくはグレーのスーツ。地味でかっちりとしたデザインのもの。
ストッキングの色は任意だが、グレーが望ましい。肌の透けるタイプのもの。
水曜日
髪の毛は肩まで。火曜日と同じ。
服装はプリントワンピース モノトーンなもの
ストッキングの色は黒または濃紺。肌の透けるタイプのもの。
木曜日
髪型、服装とも任意。
ただしスカート及びストッキングの着用は必須。
ストッキングは肌の透けるタイプのもの。
金曜日
髪型は首筋が見えるよう、頭の後ろでしっとりとまとめる。
服装は黒のスーツ。ブラックフォーマルが望ましい。
ストッキングは黒。肌の透けるタイプのもの。
土・日曜日
特別出勤日。
服装はフェミニンなワンピースもしくはカラーフォーマル。
比較的派手なもの。
ストッキングの色は任意。ただし肌の透けるタイプのもの。
ラメ入りか光沢入りがのぞましい。
※靴はハイヒールかパンプス。かかとの高めのものが望ましい。
ずいぶん細かいんですねぇ。
理恵があきれた口調でそういうと、
なにしろ、時給千二百円ですからね。
おうむ返しに、こたえがかえってきた。
ご希望でしたら、ストッキングはうちの売り物を支給しますよ。
いえ、ぜひそうしていただきたいのです。
うちの商品の宣伝にもなりますからね。
奇妙なアルバイトが、はじまった。
理恵はふだんは着慣れないワンピースをひらひらさせながら、
もの珍しげに見送る夫の視線を背に、しゃなりしゃなりと出勤してゆく。
始業は朝の八時。そんな時間にストッキングを買い求めるお客はほとんどいない。
たまに通勤途中でストッキングを伝線させてしまったらしいOL風の若い女性があわただしく駆け込んでくるくらい。
いちばん安いやつを片手にトイレに入ってゆくのを見送りながら、店主の柊はチッと舌打ちしたりしている。
「まったく。ストッキングのよさをわからないのだな」
たまのお客が安物しかかって行かなくて、売り上げがあがらなかった・・・というよりも。
女のセンスそのものを軽蔑しているらしい。
ふーん。そんなものなの・・・
理恵には意外なことだった。
げんにこうして、ワンピースやスーツ姿でしゃなりしゃなりと歩いているだけで、ひどく足許が疲れるのだ。
男のひとは、どこまでこの苦痛を知っているのだろう?
女が装うのは、ただの目の保養にすぎないのだろうか?
そんなことのために、スカートにストッキング、それにハイヒールだなんて。
あまりにも、高くつきすぎる・・・と思うのだ。
結婚してしまってからは、なおさらのことだった。
かかとの高い靴は、すこしあわてて小走りになるとすぐにつんのめるし、
薄いストッキングは破れやすくて履きにくい。
どうしてこんなめんどうな、実用性のないカッコウを、男たちはさせたがるのだろう?
あるときのことだった。
黒衣ずくめの男性客が、音も立てずに入店してきた。
男はなれたようすで店内を見回すと、最後に見慣れないものでも見るように、理恵をじろじろ見つめるのだった。
いらっしゃい。
店主がそっけなく声をかけると、男は得心いったような顔つきをして、ことさら足音を消して売り場のあちこちを徘徊する。
商品を選んでいるのか、時折投げる視線は妙に鋭く、抜け目がない。
男のひとなのに・・・ストッキング買うの?
理恵の内心の思いを察したように、店主がひそひそとささやいてきた。
うちは男のお客も多いから・・・そそうのないようにな。
レジのカウンターまでやってきた男がむぞうさに置いたのは。
ボーダー柄のストッキングに、バックシーム入りのガーターストッキング。
いかにも凝ったものを・・理恵は内心思いながら、ありがとうございます、何千何百円ですと応対して、お店の紙袋を取ろうとして後ろを向いた。
きゃっ!
脚をすくめて縮みあがったのは。
足許にぬるり・・・と、這うような感触を覚えたから。
見下ろすと、いつの間に忍び入ったのか、黒衣の男は理恵の足許にかがみ込み、
両手で足の甲を抑えつけているのだった。
あっ。
口紅を刷いたように鮮やかな唇から、毒蛇のようにまがまがしい舌がチロチロと洩れて、
ぬるり・・・
黒のストッキングの上を、撫でつける。
あまりのおぞましい感触に、理恵はとっさにハイヒールで蹴飛ばそうとした。
両肩に置かれた手が、やんわりと、そしてしっかりと、理恵のうごきを拘束する。
そのまま吸わせておやりなさい。お客様に乱暴は、いけないですよ。
なにしろ・・・あなたは時給千二百円なんだから。
え?え?え?
ちょ、ちょっと待ってよ・・・
なにを言って、どうしようかと思い惑ううちにも、男はストッキングの脚をべろでいたぶりつづけ、店主はギュッと肩を抑えつづけている。
舶来ものの、ストッキングだね?細くてしなやかな糸をしているね・・・
男が口にしたのは、たしかに理恵の履いているストッキングのブランド名だった。
理恵の足許に、ねっとり唇を這わせながら。
まるでヴィンテージもののワインを口にするように、
男はたんねんに、舌をあてがってきた。
ぬるぬる・・・にゅるにゅる・・・かりり。
さいごの鋭い感触が、理恵にすべてを忘れさせた。
つぎの日。
やってきたのは、男の子だった。
万引きかな?理恵はそれとなく警戒したけれど。
その心配は無用なようだった。
かわりに、べつの心配が要りようだったと、後悔した。
男の子はすすっと無遠慮にすり寄ってきて、理恵の両膝に抱きつくと、
もう臆面もなく、肌色のストッキングのうえからふくらはぎを吸いはじめたのだ。
きゃっ!なにするのっ!?
脚をすくめて、抗ったけれど。
こういうとき、店主の柊は助けてくれないのは、先刻ご承知のとおり。
たちまち脚を抱きすくめられて、むぞうさに唇をすりつけられていた。
性急に圧しつけられてくる唇の下、ストッキングがパチパチと伝線して、みるみる裂け目を広げてゆく。
店頭の騒ぎに、柊はぬっと顔だけ出して。
こら。大人に悪戯するんじゃないぞ。
まるで、自分の息子をしかるような口調だった。
ご婦人には、礼儀ただしくやるんだ。
しかられた男の子は、しょげたようにうつむいてしまって。
理恵はちょっぴり、気の毒になった。
このひとは優しいから、ちゃんと謝れば許してくれるよ。
店主がおだやかな声にかえってゆくと、
男の子は神妙に頭を下げて、
お姉さん、ごめんね。
そういった。
「お姉さん」というひと言に気をよくしたのだけは、間違いだった。
許してもらえた・・・そう思ったらしい彼は、ふたたび理恵のストッキングを、はげしくいたぶりはじめたのだ。
男の子の早とちりをわからせようと、なんと言ったものかと思いあぐねていると。
この子はね。悪戯坊主って呼ばれているんだ。しょうしょうのことは、大目に見てやるんだよ。
なにしろきみは、時給千二百円なのだから。
ストッキングは、お店の商品から選びほうだいだった。
破けたものも、そのままお店の負担になっていた。
けれども店主はそのたびに。
ストッキング代だよ。
そういって。
時給とはべつに、一万円札をくるんでくれるのだった。
血液代かも・・・しれないね。
理恵は薄っすらとほほ笑んで、ボーナスの入った封筒を受け取っている。
じぶんの頬が、ほんのちょっぴり蒼ざめたのに、気づきもしないで。
特別出勤日には、セーラー服でも着てこようかしら。
髪型はポニー・テール。
服装は、セーラー服。
ストッキングは黒。肌の透けてみえるもの。
靴だけは特別に、黒のローファーかストラップシューズ。
きみならとても、似合うはずだよ。
店主は自信たっぷりに、かえしている。
連れ込み宿 五―い
2007年10月22日(Mon) 23:48:32
場末の盛り場の、そのまた果てに。
闇夜にひっそりとうずくまるその宿は。
破れ障子に、傾いた軒。
古びたままに、人から忘れ去られたようにして。
それでも夜更けになると、「営業中」の灯りが、ひっそりと点される。
門前を行き交う男や女たちは。
寄り添うでもなく、よそよそしく隔たるでもなく。
人目を避けて。互いの視線までも、交えずに。
いかにもわけありげに、不自然なさりげなさを装って。
言葉も交わさずに、門をくぐる。
すべては古びた雨戸のなかに秘められてゆく、一夜。
人はそこを、「連れ込み宿」と、呼んでいた。
主人が留守のうちだけよ。
そういう約束だったはず。
それなのに・・・今でも、逢いつづけている。
夫が三年の単身赴任を終えて戻って、もう三ヶ月になるというのに。
田舎に転勤していった夫。
都会の家に残ったのは、年頃になった娘と息子と、わたしだけ。
そんな気の張る留守宅に、いつの間にか溶け込むようにして。
男はわたしの隣に立っていた。
あるとき突然、つかまえられて。
畳の部屋に、連れていかれて。
ねじ伏せられ、身動きもままならぬまま、すべてを奪い尽くされていた。
貞操ばかりか、理性と罪悪感までも・・・
畳に抑えつけられた背中が、ひりひりするのを感じながら。
見慣れた古い箪笥が、薄っすら洩れた涙の向こう側に滲んでいた。
ふたたび起き上がって、身づくろいするころには。
清楚なワンピースの持ち主には不似合いな、大胆な娼婦になっていた。
こんどは、いつ逢ってくださるの?
知らず知らず、上目遣いに滲ませた媚態に。
男はくすぐったそうに、そっぽを向いた。
逢うのはいつも、昼間だった。
昼間の盛り場は、毒々しい夜のすさんだ名残りを、そこかしこにのこしたまま。
まだ、白茶けた空気をよどませている。
そのなかを、人目を避けるように、場末まで歩いていって。
ひっそりと佇む民家のような隠れ家に。
導かれるまま、入っていった。
あのときと、同じようにして。
畳のうえに、組み伏せられて。
古びた畳の、日焼けしたような匂いにむせ返りながら。
夫を裏切る行為のまがまがしさ、息詰まるようなときめきに。
われ知らず胸を、はずませていた。
目の端に映った古びた箪笥は、こんどははっきり瞼に灼きついていた。
濃い闇のなか。
せめぎ合う、息遣い。
もつれては放れ、放れてはもつれる、腕と腕。
ドクドクとめぐる、狂おしい血。
破れたストッキングが頼りなくずり落ちてゆくふしだらな感触を、脛に心地よく覚えながら。
スカートの奥で暴れまわる剛(つよ)い筋肉の塊に、ずずずんと小気味よく、貫かれてゆく。
あられもなく、うめきながら。
口の端には、よだれまで浅ましく、垂らしながら。
日ごろ装った良妻賢母とは別人の、ひとりの牝に、かえってゆく。
そんなひと刻と、離れがたくて。
子供たちが学校に行っているとき。
刻を盗むようにして、男と逢った。
自宅の夫婦の寝室で、あられもなく乱れ果てているときに。
玄関先で、帰ってきた子供がもの音を立てたときには。
さすがに、縮み上がってしまって。
それからは、あの隠れ家で逢うことがもっぱらになっていた。
限られた家計から、宿賃を工面するのが骨になるほどに。
スカートの裏側の淫らな汚れを隠すようにして、いつものようにお代を支払うと。
いつも表情を消している宿の女将が、そのときにかぎって、ふと目を留めてなにか言いたげにした。
その老女は、みごとなまでの白髪を、きれいに頭の後ろにキリリと結いあげて。
枯れ木のように痩せこけた和装の上背を、いつもしゃんとさせていて。
それでも細面の顔には時おり、まだ枯れ切ったとは思えない艶を滲ませている。
おつり銭を数えるほっそりとした指を止めて。
あの・・・
呟くような声色に、
なにか・・・?
思わず、尖った声を返していた。
女将はそれでも、臆する風もなく。
お得意様だけに、ご紹介しているのですが・・・特別料金のお部屋があるのですよ。
手短かに、さりげない言葉をついでゆく。
お得意様。
わたしはそういう、立場なのか・・・
犯してきた悪事の累積に、ハイヒールの下踏みしめた土間が、ぐらぐらとした。
けれども老女の見あげる視線は、どこまでも自然で。
変わった女、罪深い女を視る目ではなかった。
みごとなまでの白髪の裡に、どれほどの密事を見てきたのだろう?
身分の高い奥女中のように、しずしずと廊下をわたる物腰に。
おなじ女・・・というよりも。
気おされるほどの風格をさえ、漂わせている。
こちらのお部屋でございます。
案内された部屋は、大名の奥御殿のように広く、豪奢な造りをしていた。
こんな古びたこの宿に。こんな部屋があったのか。
男もわたしも、しばし言葉も交わさずに。
それでも整えられた金襴の褥のうえ、痴態をかわす互いの姿を思い浮かべてしまっている。
こちらに・・・
老女は目で促して。部屋の裏手へとまわってゆく。
そこにはべつに、息が苦しくなるほど狭苦しい玄関がしつらえられていて。
ひとりかふたり分しかない土間の沓脱ぎ石には、打ち水がされていた。
壁に大きく貼られた紙には、墨くろぐろと、描かれている。
「覗き部屋 お一人様三十分 参千円也」
堂々と貼り出されたあからさまな言葉に、ふたりがしばし口を噤んでいると。
どのお客様も、そうなのですよ・・・
老女はそんなふうに、言いたげに。それでも言葉を呑み込んで。
ごく事務的に、あとをつづけた。
プライバシイは厳守の、お部屋なのですよ。
もちろん撮影などは、お断り。
顔も見えない工夫がございます。
どこのだれとも知れない殿方に。
どこのだれとも知れない男女が、むつまじくまぐわって見せる。
お互い、行きずりのもの同士・・・
お愉しみがすんで、宿を出たら、もう赤の他人様でございます。
そこをご承知いただけるなら・・・お代はいただくことがございません。
格安料金で・・・ございましょう?
部屋に案内されたとき。
さすがに、息が詰まっていた。
もうお客様は、お見えでございますよ。
女将の声に、むやみやたらと緊張してしまって。
帰ろうかしら。
思わず口走ったとき。
女将はなにかを、握らせてくれた。
よいお薬でございますよ。なにもかも、お忘れなさいませ。
いまさら・・・恥ずかしいもなにも、ありゃしないじゃないですか。
気品のある物腰とは裏腹な、伝法な口ぶりに。
わたしははっとなって、女将を見つめると。
ふふふ・・・
人の悪そうな含み笑い。
眼は決して、笑っていなかった。
整った目鼻立ちが、なにもかも見透かすように、こちらを見すえてくるばかり。
毒に当てられたようになったわたしは、言われるままに薬を嚥(の)んでしまっていた。
男に手を引かれるまま、ふらふらとよろめくように歩みを進めた狭い廊下。
まるで楽屋から舞台に出るような張り詰めたものは、いつかほどけていた。
お客様は、お待ちかねでございます。
さっきとおなじことを言われたはずなのに。
もう・・・余裕たっぷり。出番のきた本職の女優のように、頷きかえしてしまっていた。
お客様。
それは、覗きに来る人たちのこと。
ひっそりと、裏の木戸を押し開いて。
狭いあの空間に、すし詰めになって。
互いに口ひとつ開かずに、いちぶしじゅうを見つめてゆく。
その人たちのまえ、わたしは服を乱され、身体を開いてゆく。
覗かれる。覗かれる。
犯されるところを。もだえているところを。
覗かれる。覗かれる・・・
部屋のなかは、こうこうと明るかった。
灯りを・・・消して。
わたしは男に願ったけれど。
男は耳を貸そうとせずに、わたしの背中をなぞるように、後ろから撫でおろしていった。
薄いワンピース越し、男の指が。秘めた欲情を滲ませて、食い込んでくる。
ぁ・・・
声にならないうめき。
わたしはすっかり、男の指に感じてしまって。
向こう側からひそめられているであろう視線のことなど、すっかり忘れてしまっている。
男はなおも、いたぶるように。
わたしの首筋を。二の腕を。腰を。
服のうえから、なぞってゆく。
むやみに撫でつけられた首筋に、わたしは血潮を沸きたたせてしまう。
しゃらり。
かすかな音を、響かせて。
夫の贈り物のネックレスが、畳に落ちた。
ああ、そういえばこの服も。
結婚記念日に買ってもらったんだっけ。
鮮やかに走るストライプ柄が、身体の曲線に沿ったカーブを描いていたけれど。
それが不自然にくしゃくしゃに折れ曲がるのは・・・たぶんわたしのせいではない。
思わず立ちすくみ、そしてしゃがみ込んで。
ストッキングの上から、ひざ小僧をなでられて。
あまりのいやらしさに、男を突き飛ばそうとすると。
あべこべに張られた平手打ちに、頬を痺れさせてしまっている。
いつもより、ねちっこく責められながら。
清楚に装った衣装の内側を、狂おしいほど熱っぽくほてらせてしまっていた。
畳のうえ・・・?
こんなところでも。
傍らに延べられた金襴の褥を、恨めしそうに見やりながら。
それでも男をはねのける力は、残っていなかった。
このまま、凌辱されてしまう・・・
今まで意識しなかった隣室からの視線が、まるで囲み込んでくるように息苦しく、ひたひたと身体を突き刺した。
声を出せ。
男のささやきが、鼓膜を刺した。
ダンナの名前を言え。ごめんなさい。許してくださいと言うんだぞ。
命じられるままに。
わたしは夫の名を口にする。
セイジさん、ごめんなさい。許してください。
あとはひとりでに・・・それはよどみなく、続いていった。
わたし、ほかの男に抱かれてるんです。
とっても、キモチいいんです。
単身赴任のあいだだけ・・・って思ったんだけど。
忘れられなくなっちゃった。
離れられなくなっちゃった。
あなた・・・あなた・・・ごめんなさい。
あなたの奥さんは、とてもいやらしい女になっています。
ほかの男と、エッチするなんて。
結婚したてのころには、想像もできなかったのに。
でも・・・キモチいいんです。
とっても、キモチよく、されちゃっているんです。
この人になら。
貴方のプレゼントのネックレスを、取り去っても。
貴方と交わした結婚指輪を、隠しちゃっても。
貴方に買ってもらったワンピースを、ナマナマしい体液で汚されても。
貴方のために装っていたストッキングを、むぞうさに破られてしまっても。
わたし、惜しくはないんです。
こんなわたしを・・・許してくださるかしら?
みしみしと、廊下のきしむ音がする。
二人だろうか。三人・・・だろうか。それとも、もっと・・・?
壁一枚隔てた向こう側。
殿方たちの視線は、わたしたちの痴態に釘づけになっているはず。
不自然に、身体をこわばらせて。
初めてのときみたいに、強引にねじ伏せられて、奪われてしまった。
凌辱・・・
そんなことばがひらめいたのは。
男の荒々しさに、感じてしまったからだろうか。
淑徳を奪い去られたあの瞬間から、忘れかけていた言葉だった。
思わず身体を折ってしまって。
感じている・・・って、態度で告白してしまっていた。
お客様は、満足してくれたかしら?
まさかそんな恥ずかしいことを、だれに質すことができるわけもない。
わたしはただ、男の横顔を、さぐるように。
もの問いたげに、見あげるばかり。
けれどもあのひとは、黙っているだけで。
戸惑うわたしを、横目で愉しんでいるようだった。
自分までもが見世物になった・・・などという羞恥心とは無縁なひとは。
己の情事を見世物にした人妻を、愉しんでいたのだろうか?
こんどはいつに、なさいます?
わたしはとうとう、いつもと同じ問いを、男に向かって投げていた。
秋の深い青空は、どこかそらぞらしくて。
いけないことをしに出かける身には、気恥ずかしいほどあからさまだった。
わたしはいつものように、お気に入りの黒のハンドバッグを手に、
冬ものの紫のスーツに袖を通していた。
足許だけは、あのひとの好みどおり、肌の透ける薄々のストッキングで装わなければならない。
フェミニンなスリップやインナーも、手抜きすることは許されない。
だから・・・よけい厚手のものを、選んでしまったようだった。
濃い紫のスーツは、しっとりと落ち着いていたけれど。
それを着ると、きみもセクシーに見えるね。
このスーツで初めて装った三年前、冷やかすように囁いたのは、単身赴任がはじまったばかりの夫だった。
あのときはまだ、浄い身体だった。
やぁね。って。子供の手前、口を尖らせてみたけれど。
セクシーに見える
そんなふうに言われることが、わたしのなかの“女”に、人知れず火がついたみたいだった。
ほてった肌を。熱した血を。
だれかに癒してもらいたい。
たとえそれが、夫でなくとも・・・
そんな妖しい想いが、闇のなかの焔のように、ぽっと灯ったのは。
たぶん、そう。きっと・・・あの晩のことだった。
あの男と、はじめてひとつになった昼下がり。
脳裏をかけめぐったのは。いいようもない充足感。
男は約束の時間よりも、早く来ていたようだった。
木枯らしの通り過ぎるなか、すこし寒そうに、コートの襟を立てていた。
夜には盛り場になるその界隈は、昼下がりでもよどんだ空気をしている。
人どおりも、まばらなのに。
夕べのけだるさだけは、まだ人の気配の名残となって、そのまま残りつづけているようだった。
男は、吸いさしの煙草を、むぞうさに投げ捨てて。
人目もはばからずに、キスを重ねてきた。
夫は煙草を吸わない人だ。
ほろ苦い煙草の匂いが、違和感となって鼻について、わたしは男をへだてようとしたけれど。
男はこれ見よがしにとばかり、強引に。わたしの唇を奪っていった。
まばらに行き交う人々は、見てみぬふりをして、通り過ぎてゆく。
彼にとっては、ほんのささやかな羞恥プレイ。
頬をほてらすわたしを、かわすようにして。
さて・・・と。行こうか。
これからひと仕事だな・・・とでも言うように。帽子を目深に、かぶり直して。
からかうような視線で、舐めるようにわたしを見る。
濃い紫の、エレガントなスーツのすそと、黒のパンプスの間。
濃紺のストッキングが脛を透き通らせているのを目にすると、にやり・・・と得心がいったように笑んでいた。
憎たらしい、下品な笑い。
もう逃れようのない、嘲り笑い。
憎くても、焦がれるほどいとおしく。
逃れられなくても、逃れようとさえ思わなかった。
ダンナとは、うまくやっているかね?
声を忍ばせた問いの裏を読むように、わたしは男の横顔を見つめていた。
夫婦仲はうまくいっているのかね?
セックスのほうは、だいじょうぶ?
ばれずにうまく、あしらっているんだろうな?
いろんな問いに、いっぺんに応えることができるのだろうか?
さいきんは、後ろめたささえも忘れ果てて、ただ男との時間を盗むことばかり考えているわたし・・・
毎晩主人に、求められるんですよ。
ほぅ。そうかね。
男は他人ごとみたいに、うそぶいていた。
わたしがほかの男に抱かれても、貴方は平気なんですか?
その問いは・・・夫にこそするべきものなのだろう。
夫ではない男とセックスに耽り、なに食わぬ顔をして、帰宅して。
もっともらしい母親の顔に戻って、子供たちを迎え入れて。
なにもなかったころと、まったく変わらない態度で、夫婦のやり取りをつづけている。
こんなことができるだなんて。
かつては、想像することさえなかった。
毎晩求められる、ってことは・・・
男の声が、わたしを現実に引き戻した。
それだけあんたが、魅力的だということだろうね。
やっぱり他人ごとのように返してきながら。
だれのおかげで、その魅力を取り戻すことができたのかな。
きっとそんなふうに、思っているはず。
憎たらしい。
けれども、憎みきる資格は、いまのわたしにはもうない。
宿の女将はいつものように、痩せた枯れ切った身体を和装に包んで。
鶴のように、上背をしゃんと伸ばして。
つくねんと帳台に、腰かけていた。
いらっしゃい。いつものお部屋ですね?
いつものように、そつのない物腰だった。
さいしょに男に伴われて、此処に引き入れられたとき。
思わず足許をすくませてしまったときも。
この、さりげない物腰が、その場を救ってくれていた。
わたしは男に手を預け、ハンドバッグを手渡して。
まるで女王様のように、薄手のストッキングのつま先を、よく磨かれた廊下にすべらせてゆく。
よく見ると、古びてはいるものの、手入のゆき届いた床も柱も、ぴかぴかに磨かれていて。
まるで御殿のような、上質ななまめかしさを漂わせている。
奥女中のように楚々とした物腰で。燭台片手にわたしたちの前に立つ老女。
きりりと結い上げた白髪に、しゃんと伸ばした背筋。
わたしもいつか、知らず知らず・・・口許をきりりと、引き結んでしまっている。
招じ入れられた部屋は、あれ以来定宿になってしまった「殿様部屋」。
すこし下世話な響きが気になったけれど。
男の命名が的はずれではないくらい、そこは仰々しく飾り立てられていて、
すべてがこそばゆいほどに、あからさまだった。
灯りを・・・消して。
わたしはいつものように、演技に入る。
脱がされたジャケットが、畳に落ちる。
あとを追うように、髪にさした櫛が。胸元のコサアジュが。腕時計が・・・
夫から贈られた、ネックレス。結婚指輪。
まるで花びらを散らすように、ぱらぱらと。
わたしが夫の所有物であることを裏づける装身具が、取り払われてゆく。
ひとつひとつ、念入りに。
大名の姫君が、初夜のとき。
打掛を。櫛を。懐剣を・・・
こんなふうにして、畳の上にまき散らされるのだろうか?
ひょっとして、あの老女も若いころ・・・?
ふと流れた意識を、よび覚ますように。
男はブラウスの上から、荒々しくわたしの乳房を揉んだ。
夫ですら・・・ここまで我がもの顔には振舞わなかったものを。
純白のブラウスが、くしゃくしゃになるほどに。
男は無理無体な凌辱を、わたしの胸にまさぐり入れた。
華やかに結んだボウタイを、ほどかれて。
けだものが獲物を虐げるように、抑えつけられて。
ブラウスを花びらのように裂き散らされてゆくのが、むしょうに小気味よかった。
あなた。あなた。
あなたの奥さんは、こんなふうにして。
よその男の食い物にされているんだわ・・・
口をついて出てくる台詞は、かすかに震えを帯びながら。
われながら、よどみなくつづいていった。
ああ・・ああ・・ああ・・
悩ましくかぶりを振るわたしの上にまたがって。
こうこうと照りわたる灯りの下。
男はわたしの肌を、掌を這わせるようにして賞玩しつづける。
ときには唇や、舌さえもまじえながら・・・
まるで肉食動物が獲物に群がるような貪婪さで、わたしを食い尽くしてゆく。
ぎし・・・
雨戸の向こうの人の気配。
覗かれる情事には、もうすっかりなれてしまっていて、むしろ男たちの視線が絡みつくのが快感にさえ思えていた。
きょうは一人・・・なのだろうか?
けれどもはぜるような熱情の焔は、壁一枚へだてたこちら側にまで伝わってきて、
わたしはあらぬ想いに惑いながら、いつも以上にもだえていた。
視線が、気になるかい?
秘められた囁きに、かぶりを振って。
ううん。愉しいわ。
雨戸の向こうにまで聞こえる声で、応えてしまっていた。
濃い紫のスカートを、腰周りに着けたまま。
秘められた太もものすき間に、びゅびゅっ・・・とほとばされる淫らな熱い粘液が。
わたしの肌をいっそう濃く熱く、染めていった。
白く濁った濃密なほとびの名残りが、スカートの裏地をぬらぬらさせるているのさえ、好ましくて。
わざとおねだりして、よけいにすりつけ、巻きつけて。揉みしごいて・・・
じっとりと・・・しみ込ませてもらっていた。
シンと静まった、夜のとばり。
あしたの朝の冷え込みは、いっそうきついものになりそうだった。
遅かったね。
子供たちはもう、寝んでいるよ。
風呂あがりらしい夫は、暖房のきいた部屋のなか。身軽ななりでくつろいでいた。
わたしの帰りが遅かったのも、咎めずに。
いつものように、優しく迎え入れてくれた。
宿を出たときには、もうあたりは暗くなっていた。
驚いて脚をすくませるわたしを、彼は珍しく優しく包んでくれて。
だいじょうぶ。きみさえしらばくれていれば、誰にだってわかりっこないのだから。
励ますように、肩を抱いてくれたのだった。
根拠のない言い繕いを真に受けて、それでも彼の予期は裏切られることがないと、なぜか確信していた。
根拠のないままに・・・
けれどもそれは、正しかったのかも知れなかった。
さきに寝むよ。
そういい置いて、夫がわたしを置き去りにすると。
わたしはリビングを、片付けはじめた。
読みさしの新聞は、広げられたままになっていて、
三つ並んだ夫や子供たちのコーヒーカップも、台所にさげられないままこげ茶色になって乾いていた。
ふだんは几帳面なわたしにとって、我慢のならない光景だったが。
文句も言わずに片付けるようになったのは、夫が戻ってきてからのことだった。
テーブルのうえ、さいごに置かれた一片の紙きれ。
読んでもいいと言わんばかりに、わざとむぞうさに置かれているように見えたけれど。
ひとのものを盗み見る習慣は、厳格な親をもったわたしにはなかった。
あんなことを、繰り返していてさえも。
ふだんのわたしは、まだまだ潔癖だったのだ。
だれのものかもわからないまま、捨ててしまおうか、テーブルに載せたままにしておこうか、ちょっとだけ迷った。
軽く丁寧に折りたたまれた便箋大の紙は、部屋のなかのかすかな風に吹かれて、わたしの指の間からこぼれ落ちて、床に落ちたはずみにはらりと開いた。
なよなよと細い夫の字が数行、書き連ねられていた。
妻を誘惑してください。
もしも妻を堕とすことができたなら。
単身赴任期間中は、最愛の妻を貴方のために捧げます。
もしも戻ってきてからも、妻が貴方との交際を望むなら。
私はただ、見守ることだけを愉しもうと思います。
誘われるままにみずから堕ちて、夫を裏切っていたつもりだったのに。
すべては仕組まれていたシナリオだったのか。
けれども、「売られた」という想いはわいてこなかった。
なよなよとした字体のなかで「最愛の」と書かれたところだけ。
やけに力がこもっていることに。
わたしはチラ、とほろ苦く笑みながら。
置きっぱなしになっているあのひとの営業鞄のなかに、紙片をそっと差し込んだ。
お客様が、お待ちかねですよ。
女将はいつものように、そっけなく告げていた。
けれどもその瞳は少女のようにイタズラッぽく、輝いていて。
壁越しの情事に昂ぶる客人の素性に、とっくに気づいているようだった。
あら・・・そうですか。
わたしがよそよそしい戸惑いを装うと。
彼はわたしの肩を抱いて、ぽんぽんと励ますように、背中を叩いてくる。
じゃあ気を入れてがんばるかな。ウデの見せどころだね。
もぅ・・・
わたしは口を尖らせて、彼を優しく睨んでいる。
ウデだなんて・・・うちのひとはとっくに、見せつけられちゃっているんですから。
見せつけるほど、乱れちゃいますよ。
小声の囁きは、羞恥と昂ぶりに震えている。
お酒をお持ちしました。
2007年10月22日(Mon) 23:47:28
障子をすす・・・っと開いて、
白くて細いうなじを、神妙に垂れて、
お酒をお持ちしました。
そういって、三つ指突いたのは。
居候になっている、この家のお内儀だった。
酒を持ってきた。
そういいながら、お内儀はなにも、携えていない。
あの・・・
戸惑うような声色を震わせて。
主人は今夜、帰らないと申しました。
謎をかけるような言い回しに。
ご主人の気遣いと奥方の寛大さが、オレの顔を背けさせる。
目に滲んだ涙を、決して見られまいとして。
この都会のはざま。
吸血鬼として、つねに人目を忍ぶ私にとって。
隠れ家を提供してくれるのは、ごく限られた友人ばかり。
この家のあるじも、かつて村でいっしょに遊んだ幼馴染みだったのだ。
いいのかね・・・?
そんな問いは、無益であろう。
見知らぬ男に肌を侵され、生き血を吸われる。
そんな身の毛もよだつ体験に耐えようとするのに、どれほどの努力が要ったことか。
村の女たちなら、いざ知らず。
羞恥に目許を染めているこの女にとって、忌まわしい以外のなにものでもないのだから。
オレはものも言わずに女の腰に取りついて。
力まかせに、引き倒している。
白のブラウスに、濃紺のタイトスカート。
シンプルすぎる装いは、濡らされる衣装をあきらめてもよい・・・という思惑に違いなかったはずなのだが。
それでも清潔に整えられた服は、オレを欲情させるに十分だった。
むぞうさに押し倒し、うなじを噛んで、血を吸い出して。
吸い上げた血潮を、ぼたぼたと夫人のスカートやブラウスに、おもうさましたたらせて。
恐怖に陥れられたご夫人が、そのあと唯々諾々となった・・・としても。
それはこの家の体面をそこねないはず。
なにしろ・・・わるいのはだれよりも、このオレなのだから。
うふふ。うふふうっ。旨い・・・旨いぞ・・・
うわ言のように、くり返しながら。
オレは友人の妻の足許に取りついて。
ストッキングのうえから、唇を舌を、ねぶりつかせて。
咬み破ったストッキングごし、滲んでくる血潮を舐め取ってゆく。
キミの女房のストッキングを破られるなんて。なんだかちょっとどきどきするな。
あいつはそういって、オレの所業を笑いに紛らせてくれたけど。
ほんとうなのか・・・?
細めに開いたふすまの向こう、オレはふと問いかけてしまいたくなってくる。
奥さん、きれいなストッキングを穿いているね。
目ざといやつだね。キミという男は。
あいつは苦笑いを浮かべながら。
いつもはあんなに短いスカート穿かないんだぜ。あいつ。
こっそり仕掛けてきた耳打ちに。
後追いするように、囁いてみる。
奥さんのストッキング、破いてみたいね。
エッチなヤツだな。
あいつはオレの小脇を小突きながら、
そのあと奥さんをつかまえて、何事か囁いていた。
奥さんはちょっとびっくりしたような顔をして、
それでもすぐに、フフフ・・・と、イタズラっぽい笑みを返していたっけ。
タイトスカートを、無理やり太ももまでたくし上げて。
ちりちりになるまで咬み破った肌色のストッキングを、ひざ小僧の下までずり降ろしていって。
オレは女の股間を自分のひざで、ぐりぐりとえぐるように責めながら。
せめぎあげてくるものに耐えかねて、われを忘れた女にのしかかってゆく。
おまえの女房、たしかにモノにしたのだぞ。
はっきりそう告げてやるために、淫らな刻印をつけてやる。
スカートの裏地も。薄々のスリップも。
白く濁った液体をしとどにねばりつけていた。
朝になると・・・
あいつも、この女も。
なにごともなかったように。
あるいは朝の支度をととのえて。
あるいは新聞片手にテレビのニュースに見入っているのだろう。
ダンナは出掛けに、囁いてくるかもしれないな。
夕べの酒は、旨かったかい?って。
真夜中のお芝居
2007年10月19日(Fri) 09:59:27
いつも現れるとは、かぎらない。
わたしが徘徊するあの公園に、まるで夕風のように現れるあの女。
ときには足しげく、それこそ毎晩毎晩かよってきて。
体は強いほうなのよ。私・・・
フッ、とささやきながら、甘えるようにしなだれかかってきて。
伸ばした腕を、まるで首飾りのように両肩に伸べてきて。
口許にクールな笑みをたたえながら、身を任せてくる。
けれどもいちど来ないと決めたなら。
くる晩も、くる晩も、わたしがいくら狂おしく待ち焦がれても、
影さえ見せず、音も立てない。
気が向くと、脚ふらつかせ、頬蒼ざめるまで、来るくせに。
来ないとなると、ぱったりと。
それこそ死んだように、音信を断ってしまう。
わたしの気など、おかまいなしに。
思うがままにふるまう、気まぐれ女。
それでもなぜ・・・こうも気になり忘れられないのか?
女の名は、まりあ。
彼女について知っているのは、そう。本名かどうかも知れない名前だけ。
公園への道順を忘れてしまったのかと思えるほどに、
すっかりご無沙汰になったある晩のこと。
ひそり・・・と吹いてきた、一陣の甘い風。
懐かしさに、ふっ・・・とこうべをめぐらすと。
長い髪を夜風になびかせ、女はひそとたたずんでいる。
口許にはあの謎めいた、薄っすらとした笑みをたたえながら。
感謝してちょうだいね。
わざわざ穿いてきてあげたのよ。
黒いワンピースのすそを、大胆にたくし上げ、
見せびらかすようにした太ももは。
素肌を薄っすらと透き通らせる、黒のストッキングに彩られていた。
あ・・・やめて・・・
性急に後ろから抱きついて。女の自由を奪ってしまうと。
甘えるように、うなじに唇近寄せて。
吸いつけた素肌はしんなりとみずみずしく、かすかな脈動が熱を秘めていた。
くねくねと頼りなくなった足許を、しっかりかばうように抱き上げて。
ベンチにもたれかけさせた足許に。
不埒な唇を這わせると。
女はひくくうめきながら、拒絶の意をつたえてくる。
ふん。知るものか。
ひとをこんなに、待たせおって。
わたしはわざとべろを長くして。
女のストッキングを意地悪く波立ててゆく。
もう・・・
黒のストッキングに、縦に走ったストライプもよう。
女は薄笑いを浮かべたまま、裂け目をなぞるように撫であげてゆく。
そうしてゆったりと、とろんとした目でわたしをみおろすと。
単刀直入に、びっくりするようなことをささやきかけてくる。
彼氏のまえで、わたしを抱いて。
と。
どういうつもりなのだ?
彼氏がいるなど、聞いた憶えはなかったが。
わたしはそのこと自体には、驚かなかった。
女の血潮のあえかな香りは、いつもべつべつの男の影を秘めていたから。
わたしが驚いたのは、ひどく唐突な女の希み。
好きな男がいながら。身の危険を冒してわたしとの逢瀬に足を運んで。
そのうえ男の前で抱かれたい・・・などと。
あしたの晩・・・ベランダで待っているわ。
家がどこかも、告げないで。
女はひどくコケティッシュな笑みを投げてくる。
待て。
立ち去ろうとする女の肩を抱きすくめ、
わたしは荒々しく、道端の草むらに押し倒していった。
レディを下着一枚で、歩かせるつもり?
引き裂かれたワンピースを、惜しげもなく脱ぎ捨てながら。
女は泣きもせず、不敵な笑みを投げてくる。
猫のようにしなやかな肢体を彩るのは、ぴっちりとスキのない、スリーインワン。
月明かりに浮かぶ見事な輪郭は、ほんとうにそのまま歩かせてみたいほど。
けれどもわたしは、気前よく。
身にまとっていた黒マントで、女の肢体を隠してやった。
ほかの男の目に、触れさせたくなかったから。
女は軽々とマントをまとい、イタズラっぽくくるりと一回転すると。
じゃあ、これが目印ね。
あとに残ったのは、いかにも愉しげな含み笑い。
翌晩のこと。
わたしは高層マンションの一角を、目にみえないすがたで漂った。
女が住まう、九階の部屋。
そこにはまだ、淡い灯りが窓辺に滲み、
灯りの下には、人影がふたつ。
必ずしも仲睦まじくなさそうなのは。
滲んだ人影を見ただけで、瞭然だった。
「何時だと思ってるんだ」
片方の影が、男の声で。
もう片方の影を、なじっている。
「ごめんなさい」
女の影は、神妙に。
わたしと逢っているときとは、比較にならないほど神妙に。
男のいうなりになっている。
まったく・・・わたしが歯がゆくなるほどに。
けれども幾度か繰り返される同じやり取りに。
女のしんねりとした芯の強さを覚えたのは。
決してわたしの聞き違いではなかったはず。
そう。
女の心はもう、男から離れかかっていた。
ざ、ざざあ・・・ざざあ・・・・・・
シャワーを浴びる音。
心地よげに響く湯のしぶきは。
その実男の影を流し落そうとしているかのようだった。
シャワーの音が尽きると、ユーティリティで体を拭く気配。
スキのないはずの身のこなしの、そこここから洩れてくる虚しい吐息を、
わたしが聞き逃すはずはない。
女は男の待つベッドルームには、まっすぐ向かわずに。
謎をかけるような、お芝居がかった女優さんみたいな足取りで。
ひとりベランダに、現れた。
さらりと肩に流れる長い髪を、
気持ちよげに、夜風にたなびかせて。
なにかを待ちわびるように、星空を仰いだ。
ククク・・・
わたしはこらえきれなくなって。
まりあの背後のソファーから、忍び笑いを洩らしている。
振り返った女は、ちょっとびっくりしたように。
一瞬、立ちすくんでいたけれど。
窓辺にさげていたわたしのマントを取り上げると、
さっ。
と、こちらに投げてきた。
それが合図だった。
わたしはまりあの背後に忍び寄って、
夕べとおなじように、荒々しく抱きしめる。
あぁ、ダメ、ダメよ、いけないわ・・・・
まりあは、うわ言のように呟いた。
隣室に待つ男に、聞かせるように。
隣のベッドルームで婚約者がわたしを待ってるの・・・
ふふふ。そんなことは先刻ご承知さ。
わたしは調子を合わせて、恋盗人を演じはじめる。
まさぐり入れた股間は、かすかに湯のしずくをあやしていた。
しとどに濡れていたのは・・・きっとお湯のせいだけではなかったはず。
わたしは得たり・・・と笑みながら。
すぼめて秘めようとする花びらを、力づくでさらけ出してゆく。
アンッ、アァッ・・ダメッ・・・・わたし・・・・結婚、するの、よ・・・・
うふふふふふっ。
禁じられた肉体ほど、甘美なものはないのだよ。まりあ。
わたしは息荒く、昂ぶりを押し殺した声を耳もとにそそぎ込んでやる。
アッ、ダメ・・・ダメえっ・・・
めまぐるしい火花があたりにはぜて、
わたしはまりあを頂点に導いてしまっていた。
あっ、だめっ、だめっ・・・
声では禁忌を装いながら。
身体は歓喜に震えていた。
犯される愉悦と、視られる昂ぶりに。
男の目は、まがまがしい嫉妬に満ちながら。
それでも広間へは出てこようとせずに、
のけぞりしなる恋人の肢体に、いつまでもいつまでも釘づけになっている。
おまえ、わたしを試したな・・・
疑念たっぷりに、太ももの奥に昂ぶったものを割り込ませてゆくと。
さあ・・・どうかしら・・・ね。
女は不敵に笑みながら、なおも禁忌の声を洩らしつづける。
あなた・・・あなた・・・許して・・・っ。
この女・・・
わたしは女の術中にはまるのを、ありありと感じながら。
それでも昂ぶりを、もうとめることができなくなっている。
許して・・・許して・・・いけないわっ。
こらえ切れずに堰を切った奔流が、まりあの奥へとなだれ込む。
びゅびゅびゅ・・・っ、ととめどなくあふれるしぶきは、
じゅうたんさえも、濡らしてゆく。
狭い部屋に、気が交錯した。
わたしがまりあから離れるのと。
隣室の影が、リビングに入り込むのとは、ぴったり同時だった。
まるで兄弟のように、ぴったりと息が合っていた。
男は全裸の恋人に、おおいかぶさるように。
声にならない声を洩らしながら、荒々しく抱きついてゆく。
虐げるような、凌辱にも似た愛撫だった。
まりあはいっそう息荒く、応えていって。
男と一体に、なっていた。
二度、三度・・・
さいごの一度を、果てたとき。
もう、息も絶え絶えになっていた。
男はすっかり、覗いていたのだろう。
ちょうどわたしより・・・いちどだけ、多かった。
男が蹌踉(そうろう)として、寝室にもどってゆくと。
わたしはふたたび、まりあのもとに降りてゆく。
あの男・・・くたばってしまったようだね。
いま少し。今夜の駄賃を頂戴するよ。
駄賃、だなんて・・・
いやらしい、といおうとする唇を、
わたしはしっかりと唇でふさいでしまって。
二対の唇は、結びついたようになって。
闇夜の夢を結んでゆく。
あくる朝。
夜の淫らな一幕は、名残さえもあとかたもなくなっていて。
男はいつものように、ぶすっと口数少なく、
女の家から勤めに出てゆくのだろう。
けれども女が秘めた艶だけは。
永く男の胸を突き刺しつづけるに違いない。
悪い女。賢い女。
そして、いとおしい女(ひと)・・・
この家族、みんなBだぜ?
2007年10月19日(Fri) 09:51:31
おなじ血液型、似通った味。
そんな取り合わせが、けっこう気に入られちゃってね。
今夜もまた、こうやって・・・
お招ばれしてしまっているのだよ。
家族ぐるみの付き合いなのでね。
彼は誇らしげに、そう告げて。
いっしょに伴った、上品に着飾った奥さんと。
制服姿にポニーテールのお嬢さん。
それに紺の半ズボンに真っ白なハイソックスの息子さん。
四人ながら、暗部屋へと入り込んでゆく。
あの暗がりに。
いったい幾人、潜んでいるのだろう?
さいしょに声がしたのは、きゃっ!とはねあがる、かわいい少女の声。
まあ、まあ・・・
あとからつづく、思慮深げに落ち着いた声色に。
奥さんの困り顔を、あらわに思い浮かべてしまう。
みんなBだよ。この家族・・・
暗がりから聞こえる声が、告げるのは。
たしかにそうとしっている、このご一家の血液型。
みんな、うなじを噛まれてしまったのだろうか?
声ひとつしなくなった暗がりのかなた。
ちぅちぅ・・・と忍びやかな吸血の音だけが。
細く長く、いつまでもつづいてゆく。
ツウでしたわねぇ。みな様。
ほつれた髪を撫でつけながらほほ笑んでいるのは、奥様。
なにごともなかったような落ち着き払った物腰とは、裏腹に。
足許を染めた黒のストッキングは、なまめかしいほどちりちりに破けていて。
かすかに滲む、白い肌には。
バラ色のしずくがひとすじ、ちらちらとした輝きを秘めている。
スカートのすそに手をやったダンナが、裏地にべっとり貼りついた粘液をさらりとぬぐって口に持ってゆくのを。
苦いけれども・・・いい味だね。妬けるよって。ささやかれて。
いやらしいわねって、言いたげにして。
ちょっと脚をすくめて、見あげていた。
味比べを、していたね。
くすぐったそうに、肩をすくめた娘さんは。
着ていたブレザーを脱いでいて。
空色のブラウスの肩先を、かすかに赤黒く染めていた。
鮮やかに赤いチェック柄のスカートから覗いた足許は。
白一色のハイソックスに包まれていたけれど。
やっぱり、ママとおなじように。
赤いしずくを滲ませていた。
お行儀わるいわよ。声立てたりして。
ママがたしなめるのに、口尖らして。
みんな、いっぱい吸うんだもん。
ピンと伸ばした首筋を。ポニー・テールがかすめていく。
色っぽいわねー。
娘のスカートを無遠慮にまさぐって。
お母さんがたくし上げてゆくのを。
あっ、ダメッ!
少女はあわてて、抑えようとしたけれど。
白のスリップがみごとに裂けているのを。
パパも弟も、しっかり視てしまっている。
お疲れ様。
みんなそれぞれに、愉しんでいただけたご様子だったね。
ご主人はさすがに、すこし気色ばんでいて。
けれどもそれを気取られまいと、さりげない面持ちを取りつくろっている。
ズボンのすそから覗いた薄い靴下は、案外奥さんの愛用品だったりする。
いいなあパパは。ボクも薄いの、履きたかったな。
むぞうさに投げ出した少年の脚は。
それでもお姉ちゃんのものらしい白のハイソックスを。
ひざまで伸ばして履いていた。
だれかを紹介すると・・・薄い靴下を履けるのだよ。
たしか・・・かよ子さんも、B型だったね。
パパがつぶやいたのは、彼女の名前。
なにか言おうとするママに、横顔で笑い返しながら。
しなやかな毒をもったささやきを、息子の耳に入れてゆく。
そうだよね。おなじ血、だよね・・・
少年はパパの下心を見透かすように。イタズラッぽい目をして、見上げながら。
そうやって・・・ママのことも紹介したんだよね。って。
ボクも薄い靴下、履いてみたいな。って。
すこしずつすこしずつ、傾いていって。
そうして血の色を、濃くしていった。
夜空の眺め ~客人の訪う夜更け~
2007年10月19日(Fri) 09:46:52
ただいまー。
帰ってきた夫の後ろに見慣れない男をみて、華恵はちょっとふしんそうな目をした。
どなた?お客様?
ああ。つい飲みすぎて、終電を逃してね。
家まで送ってくれたのだよ。
あらあら。それはまぁ、ご親切に。
お車ですか?と訊く華恵に、ご主人はいやいやと首を振る。
では、歩きで・・・?
夫の職場からここまでは、遠い。それとも近所で飲んでいたのだろうか。
空を飛んできたんだよ。
ええっ?
華恵は笑って、相手にならない。
ほんとうなんだ。信じる信じないは、きみの勝手だが。
街なみが夜空みたいで、なかなかきれいだったんだぜ。
ふぅん・・・
作り話にしては、よくできているわ。
ネオンサインや行き交う車のテールランプが。
たしかに上から見たら、星くずのように見えるのだろう。
およそ詩心のないダンナにしては、上出来な表現だった。
でもどうして、空なんかお飛びになれるの?
華恵ははじめて、客人のほうを振り返る。
整った面差しはすこし蒼ざめていて、知的な翳の漂う雰囲気は、ひどく独特だった。
客人に代わって答えたのは、夫のほうだった。
吸血鬼なんだよ。
ええっ!?
まったく、この人ったら・・・
いつもそんなふうにして、子供っぽいウソや出まかせで、彼女のことをかつぐのだった。
飲んでいるうちに、意気投合しちゃってさ。自分の正体のことなんか、めったに話さないっていうんだけど。
たしかに・・・
夫は腕のよいセールスマンだった。
言葉巧みに・・・というと、表現はよくないが。
相手をその気にさせて、同調して。ふつうなら口にしない裏事情まで探りを入れて。
そうして契約に結びつけてしまうのだった。
相手と話をするときは。
自分がしんそこ、自分を忘れて。
相手自身よりも、相手の立場に立つように。心を寄り添わせていくんだよ。
そうすることで、相手は始めて、わかってもらえないだろうってあきらめていることまで、教えてくれるのさ。
それでも、そうして得た秘密は。
決して、悪用してはならないのだよ。
はらを見せた相手を傷つけたときは、おなじ目に自分も遭うときなんだから。
だから、みんなオレにはなにもかも、話してくれるのさ。
しいて悪用したといえば、きみのときくらいかな?
からかうような目をする夫に、華恵はもう!と、背中を思い切りどやしつけるのだった。
なん歳で、いらっしゃるの?
夫にとも客人にともなく、訊ねると。
四百歳・・・だったっけねぇ?
夫はすっかり親友気取り。
相棒も、決まり悪げに、頭を掻いていた。
そんな態度が、いつか華恵をすっかり打ち解けさせていた。
晩御飯、召し上がる?
あなた遅いって言わなかったから。作っちゃったのよ。
じゃあ軽く・・・何かもらおうかな?
夫はむぞうさに、客人を家にあげていた。
まるで、十年来の親友をもてなすように。
四百年ものあいだ、人目をしのぶ境遇だった。
当地に来てからも。
吸血鬼の生命を断とうとするものたちの目をくぐり抜けて、なんどもあぶない橋を渡ってきた。
それでも必ず週に一度は、若い女の血にありつかずにはいられない身体。
そんな身体をもて余して、つい悪い術を使って、人を酔わせて想いを遂げてしまってゆく。
人間たちと長く同居してしまうと、いつか情が移ってしまって。
死なせるどころか、いたわったり、病を治してやったり。時には快楽のるつぼに堕としてしまったり。
それでもいつか、妻や娘を床に転がして血を吸う姿を忌まれるようになって・・・
夫や父親たちに硬い口調で拒絶をされる。
いやだと言われると、言い訳ひとつ、する気になれずに。
もう、なにも言わずに出て行ってしまう。
そんなことの繰り返しだった。
大変なんですねぇ。
華恵はすっかり、同情口調になっていた。
血を吸うときは、どれくらい召し上がるんですか?やっぱりその、映画で観るみたいに、吸い尽くしちゃうのかしら?
奥さんは、興味津々。
いえいえ、あんなに沢山は吸えません。
吸血鬼が閉口すると、
あらあら。(笑)そうなんですかー。飲みすぎは身体に悪いんですね?
もう怖さもそこのけで、話に興じてしまっている。
ええ。せいぜいワイン一本ぶんか、半分くらい。
ハーフボトルってところかな?
と、酒飲みのご主人が相槌を打つ。
ふと見ると、夜食に手をつけているのは、ご主人ばかり。
あら、お口に合いませんか?
って、気遣おうとして、あらためて男の口の端から覗いた牙に見入っていた。
ああそうだ。この人ったら、食べものはひと通りしか召し上がれないんだわ。
あなた・・・ちょっと、いいかしら?
奥さんは軽く耳打ちをして、ご主人を廊下に呼び出した。
ひと晩だけ、映画のヒロインになってみたいわ。
ああ・・・いいね。ぜひそうしてあげてくれ。
そうすればきみも・・・きっとお礼に夜空を飛び回ることができるだろうよ。
ボクはそろそろ、寝るからね・・・
千鳥足のご主人を寝室に送り込んでしまうと。
素足にワンピース姿の奥さんは、姿見のまえでくるりと一回転すると。
鏡を覗き込んで。軽く化粧を刷いて。湯あがりの洗い髪を撫でつけて。
素足に薄手の黒のストッキングを穿いて。
ふたたびリビングに、取って返した。
主人、寝ちゃった。少しだけなら、わたしも協力できるかしら・・・?
あくる朝。
なーんにも、憶えていないわけ?
華恵はあきれたように、思わず声を張り上げた。
うーん。なにしろ酔っ払っていたからなぁ。
ご主人は頭を掻き掻き、決まり悪げ。
夕べ、お客様を連れてきたのよ。
朝になったら、もういなくなっちゃって・・・
お帰りになったのかしら?
ええー?お客さん?きみが招んだのかい?
もうっ!
話にならないわ・・・とダンナを小突きとばしていた。
それにしても・・・ねぇ。
うなじに浮いた痕は、目だたないほどの大きさの痣になっていて。
吸い残した血潮が、まだチラチラと滲んでいるというのに。
そんなこと、朝の出勤支度にかまけた夫の目には入らないようだ。
ふと気がつくと。
髭を剃りに行ったご主人は、なかなか戻ってこなかった。
おやぁ?
華恵が足音を忍ばせて、洗面台のほうを窺うと。
ゴミ箱をひっくり返したり。洗濯機のなかを覗き込んだり。
なんだなんだ。しっかり憶えているじゃないの。
ちょっと、おどかしてやろうかしら・・・
散らかさないでね、って。声をかけようとしたけれど。
なぜか華恵は口を噤んだ。
わざと忘れたふりをしているんだ・・・
こと果てたあと、リビングから引き取るとき。
しっかり閉めたはずのドアが、半開きになっていたっけ。
「今夜は遅くなりそうだな。戸締り、きちんとな」
こちらの気配を感じたらいあわてたようなつくろい声に、内心にんまりとしながらも。
「はーい」
声だけは、いつもの健康な主婦。
行ってらっしゃい。
営業鞄を手渡して、肩が触れ合うほどに近づいたとき。
夜空の眺め、綺麗だったわ。
夫は、ちょっとあわてたような顔つきをしたけれど。
妻がまんざらでもなさそうなのを見て取ると、すぐに気を取り直したらしい。
玄関を出るときは、緊張に張り詰めたビジネスマンの顔つきに戻っていた。
立ち上がりざま、営業鞄が揺れて、鞄のポケットからなにかが一瞬はみ出ると。
華恵ははみ出たものをそっと奥へと押し込んでやる。
夫は妻の所作にちょっとだけ気を取られ、みじかく「うん」と返したけれど。
それでも、いちどつくろった硬い表情を変えはしなかった。
女の下着は、魔よけになるんだよ。
ふしぎなことを言いながら、鞄のなかに妻のパンティやストッキングをしのばせる夫。
すこしエッチなおまじない。それは夫婦の習慣になっていたから。
けれども、華恵は知っている。
いまのは自分が夕べ身に着けていた黒のストッキングなのだと。
あしたの朝は、どんな色のストッキングを忍ばてあげようかしら。
華恵はひとりごちながら、あとも振り向かずに出勤してゆく夫の後姿に、ひそかに投げキッスをした。
なやみ
2007年10月16日(Tue) 23:46:17
ほんとうに描きたいお話が、なぜか描けません・・・
ちがうお話ばかり、あぶくのように湧いてくるのに。
こういうのを、人はすらんぷと呼ぶのだろうか?
輪番
2007年10月16日(Tue) 23:45:21
いつも職場で顔を合わせる同僚も。
今夜は、当番だったよな?
いつになく小声で、ささやいてくる。
末席で小さくなってかしこまっている若い部下も。
残業しないで、伺いますね。
そのときだけは、クスッと笑んだ。
帰宅途中で一緒になった、お隣のご主人も。
ではまた、のちほど・・・
意味ありげに会釈して、さっと別れていくし、
隣町に住む、妹婿までも。
愉しみにしてますよ。ウデが鳴ります。^^
わざわざメールを、よこしてきた。
今夜だけは。
学校の先生をしている、上の娘も。
まだセーラー服の、下の娘も。
去年の秋結婚したばかりの、長男の嫁も。
来春に挙式予定の、次男の許婚者も。
そして、専業主婦の、妻までも。
だれひとり、例外なく。娼婦に堕ちる。
輪番。
隣近所のご主人どうしで、事務的な響きで呟かれる言葉。
月曜日は、まだ若いのに楽隠居を決め込んだ、はす向かいのお宅だった。
おとといは、すぐ裏に住んでいる新婚夫婦の家だった。
そしてきのうは、ついさっき「のちほど」と、
なに食わぬ顔でうそぶいた、あのご主人の家だった。
古女房も、若妻も。まだ嫁入りまえの生娘も。
はげた親父も、まだ童顔の青年も。
ひとしく入り乱れる、隣家の闇。
それが今夜、わが家のなかに、忍び込む。
裏に住む若いご主人は、囁いた。
輪番ということば。響きがマガマガしいですね。
なにか、べつの言葉に聞こえますよ・・・
時計が十二時を打つと。
あら。もうこんな時間。
時ならぬブラックフォーマルに身を固めた妻は、針仕事の手を止めて。
あしたの授業に、響くかしら。
上の娘は、この真夜中まで着込んだ地味なスーツ姿をそわそわさせて。
もうっ。姉さんたら・・・
下の娘は、セーラー服のリボンを揺らして、くすくす笑い。
長男の嫁と次男の許婚は、いずれ劣らぬカラースーツに装って、競うように肩を並べて、
それでも困ったように、顔見合わせる。
嫁入り前の娘は、爽やかなライトグリーンのスーツ。ボウタイつきの純白のブラウス。
てかてか光る、肌色のストッキングは。
形のよい脚を、いっそう眩く彩っている。
まだ初々しい若妻は、それより派手な装いで。
黒のジャケットにタイトスカート。フリルのついた、真紅のブラウス。
姑とおそろいの妖艶な黒のストッキングは、濡れるような光沢をよぎらせていた。
ぼーん。ぼーん。
祖母の代から家にかかった、古めかしい柱時計。
重々しい音で、刻限を知らせると。
また何事もなかったように、チクタク、チクタク、刻をきざみつづけてゆく。
がらり・・・
玄関の引き戸が開いた。
ごめんください。
若い男の声と、背後に息遣う多数の気配。
どやどやと詰めかける靴音の多さに
あら、あら。
もの慣れた妻は、のどかなあきれ顔で、娘や嫁たちを振り返る。
学校の先生は取り澄ましたように背筋を伸ばし、
羞ずかしそうに頬赤らめた女学生は勉強部屋へと、そそくさと立ち上がる。
ふたりの息子の嫁たちはよほど自信家らしく。
人目の多いこのリビングを選ぶようだ。
嫁と姑、嫁と小姑。
まえにはたしか、そんな組み合わせだったけれど。
今夜はどうも。。。
母と娘 息子の嫁たち
そんなふうに、引き別れて。
では、またね♪
軽く会釈し、手を振りあって。
妻と娘は手を取り合って、隣の和室に引き取ってゆく。
いらっしゃい。
つとめて穏やかに迎え入れると。
先頭切ってあがり込んできたお隣のご主人は、さっきまでの慇懃さはどこへやら。
わたしに来意を告げるまでもなく、手にしたロープを、ぐるぐる巻きにしてきたのだ。
悪く思いなさんな。あんたに恥を、かかせたくないからね。
耳元で呟く脅し文句は、村では恒例の挨拶がわり。
ズボンを脱がされ、後ろ手に縛り上げられて。
わたしはリビングの隅っこに転がされる。
足を縛られなかったから。家のあちこちには歩いていけても。
侵入者の狼藉は、視ることはできても、妨げることは許されない。
真っ先に視線を集中させられたのは、色鮮やかなスーツに身を包んだ若い嫁たち。
たちまち、群がり集う男らに取り囲まれて。
スーツ姿を暴漢どもの群れに沈めていった。
縛られて転がされたここからは。和室のほうまでまる見えになる。
妻は三人の男に取り囲まれて、観念したように目を瞑り、
上の娘は若い男たちに引き据えられて、早くもパンストを穿いた脚を吸われていった。
よく見ると。
長男の嫁の周りには、次男の姿が交じっていて。
次男の許婚の上には、長男がまたがって、なん回めかの交尾を交わす。
学校の先生をしている長女は、まだ童顔の教え子にのしかかられて。
メールをしかけてきた妹婿は、妻に挑みかかっている。
公認された近親相姦。
まだ若かったころ。
妻は祝言を挙げる前、当番の夜に招かれて。
父を相手に処女を捧げた。
息子たちは成長すると、母親の身体で女を識った。
そういうわたしも・・・その昔。
いま妻を踏みしだいている妹婿のまえ、
妹のセーラー服を引き裂いていた。
だんなさん。用意が出来たよ。
真っ暗闇で、顔は見えなかったけれど。
それは職場の同僚の声。
言われるままに、階上にあがると、
勉強部屋にいた下の娘は制服の上から、荒縄を食い込まされていた。
さぁ、姦りなよ。お父さん。
背中を押され、よろけると。
ぐるぐる巻きの縛めが、とたんにほどかれた。
お父さんじゃ、ないんだよ。娘さんでも、ないんだよ。
囃すような声の重なり。
娘は夢見たように、とろんとなって。
われを忘れて身体を重ねていくわたしのまえ、黒のストッキングの太ももを大胆に開いていった。
手探りをしたスカートの奥。
ストッキングは、太ももまでだった。
つぎは、私ですからね・・・
いつも神妙にかしこまっている若い部下は、どうやら娘に執心らしい。
初めて娘が迎えた当番の夜。
もう着ることのなくなった中学校の制服を。
たたみにまろばして、酔わせた男。
きっときみは、いい婿になるだろうね。
当番を引き受けた夜には、きみの新居も巻き込むのだから。
看護婦募集!
2007年10月15日(Mon) 08:13:49
看護婦募集!高級優遇!
そんな看板に、引き入れられるようにして。
昌枝は病院の玄関をくぐっていた。
あの・・・
ためらいながら、奥の受付に声を投げると。
患者さんですか?
愛想のない声とともに受付の小窓が開いて、初老の看護婦が冷ややかな目だけを覗かせた。
表の看板を見て・・・というと、あぁ、と首を振って、
珍しくもない、という顔つきをして。
院長先生に、お会いになりますか?
ぞんざいに投げた声だったが、内容はひどく具体的だった。
よく来てくれましたね。
さっきの看護婦と、おなじ年配だろうか。
にこやかに迎え入れてくれたロマンスグレーの先生は、がっしりとした体格を白衣に包んでいた。
白衣の下に着込んだ背広は仕立てのよさそうな落ち着いた柄で、いまどき珍しいかっちりとした黒ぶち眼鏡ともども、知性とステータスを感じさせる。
妙に古ぼけた薄暗い診察室が、およそ似つかわしくないほどに。
あなたさえよければ、明日から来てください。
ここは手が足りないほどに、忙しいのですよ。
果たしてそうだろうか?
人けのない、凍りついたような待合室と。
時計の針まで止まっているように思える、この古ぼけた診察室と。
病院を出てふり仰ぐと、かつては大病院だった面影を残す時代おくれの時計塔が、のしかかるように昌枝を見おろしていた。
同棲した男と別れたのは、半年前。
根こそぎ持ち出された昌枝の預金と引き替えに、
借金の取立て人がやって来た。
身に覚えのない取立てから逃れるために。
住み慣れた町を捨て、流れ流れてたどり着いた街。
棲みついた部屋は陰気で薄暗く、この界隈と同じくらい、殺風景だった。
いつまで、こんな生活がつづくのか。
男と別れてからは、家族らしいものはもうどこにも残っていない。
院長先生の血の通った優しい物腰が、歯切れのよい声色が。
ほのかな官能を秘めて、まざまざとよみがえってくる。
お世話になります。
待合室に入っていくと、あの初老の看護婦が、昨日とおなじように、ぶあいそな目で挨拶をかえしてきた。
院長先生に、お会いになりますか?
看護婦はぞんざいな声で、昌枝に訊いた。
きのう、初めてここに来たときと同じように。
おや?と思うほど。声だけは年恰好とは不似合いに艶めいていた。
患者さんは、いらしてないのですか?
ええ。いらしておりません。
とうぶん、暇でしょうから。
どうぞ、奥の病室に・・・院長先生はそちらにいらっしゃいます。
見送る視線が、背中に食い入るほどに強かったのは。
はたして・・・昌枝の若さへの、嫉妬だけだったのだろうか?
促された病室は、火の気はなく、がらんどうだった。
古ぼけたベッドの鋼鉄製の手すりは白い塗料がところどころ剥げていて、
しつらえられた調度も、やたら古めかしいものばかり。
それでもシーツだけは、換えたばかりの輝きを放っていた。
やあ、いらっしゃい。
やがてドアを開けて現れた院長先生は、昨日とおなじくらい、翳りのない笑みをたたえていた。
お互いが白衣姿になるのは、きょうが初めて。
昌枝の白衣は、あの看護婦とおなじ、昔ながらのかっちりとした型のものだった。
まえの病院で着ていたものは、今ふうに薄いピンクだったのだが。
昨日あれからわざわざ買い揃えたものだった。
木乃伊のように痩せぎすな、あの初老の看護婦と組むのには、ちょっと不釣合いに思えたから。
それでも彼女と並んだら、ふたりの差は歴然だったことだろう。
白のナースキャップの下の黒髪は、まだじゅうぶんに若さを秘めてツヤツヤと輝いていたし、
身体の線を隠す服装でも、中から透き通ってくるような活力が、そのまま身のこなしになって現れている。
長めのすそから覗いたふくらはぎは、薄手の白のストッキングに包まれていて、かすかにピンク色の肌が透けていた。
ここにお座りなさい。
先生の声が、なぜか一瞬ひやりと胸を突き刺した。
あ・・・はい。
ちょっと戸惑ったのは、それが患者のために用意されたベッドの上だったから。
けれども病室にはイスはひとつしかなく、そのたったひとつのイスには先生が座っている。
仕方なく、言われるままに、昌枝はベッドに腰をおろした。
お尻の下。ふかふかとした布団は、まだ冷たいままだった。
どうして看護婦を募集しているか、知っているかね?
忙しい病院だって、聞きましたから。
ああ・・・そうだったね。
院長先生はあくまでにこやかに受け答えしながら。
なぜかさっきから、ぎらぎらしたものを両の頬によぎらせている。
外の廊下はひっそりとしていて、足音ひとつしなかった。
そう。この広い病院のなか。
院長先生と、ふたりきり・・・
かすかな危険を覚えたとき。
院長先生が、だしぬけに身をすり寄せて、のしかかってきた。
あっ、なにをなさるんです!?いけませんっ・・・
声での抗議は、あまりにも無力だった。
しまいに昌枝は、手足をばたつかせて、抗った。
けれどもそれすらも、思いのほか強い筋力に圧し伏せられてしまっていた。
昌枝・・・昌枝・・・
息が詰まるほど熱っぽい息遣いが、獣じみた兇暴さもあらわに、うなじに吹きつけられる。
お前の若い血が欲しい。
えっ!?
首を仰のけようとしたとき。
うなじのつけ根に、鈍痛が滲んだ。
う、うっ・・・
尖った異物が皮膚を破り、重ねられた唇は熱っぽく、しつように傷口を吸いつづけていった。
薄ぼんやりとした意識の彼方。
院長の白衣姿が、霧の中のように滲んでいた。
白衣は両肩があらわになるほどはだけていて、
白のストッキングはむざんに裂けて、ひざ小僧の下までずり落ちている。
昌枝は放心したようになって、裂けたストッキングを太ももまでずり上げていた。
さっきまでひんやりと冷たかった布団には、いまはけだるい熱がしみ込んでいる。
暖房がないのも気にならないくらい、肌をほてらせていて。
まだなまなましい息遣いを、はぁはぁとさせていて、
抑えるのにけんめいになってしまっている。
あのあと、ベッドのうえに抑えつけられて。
白のストッキングごしに、ふくらはぎをいたぶるように吸われていた。
薄手のナイロンの舌触りを愉しむように。
男のなまの唇は、まるでヒルのようにぬめぬめと這い回って、
しまいにチクチクと、牙を突きたててきた。
人間離れした、尖った犬歯。
それがストッキングを切り裂いて、素肌にもぐり込んでくるのを・・・もう、どうすることもできなかった。
ちゅうちゅう、ちゅうちゅう・・・
自分の血が吸い取られてゆくナマナマしい音が、ひたひたと鼓膜の奥までしみ込んできて、
いつか昌枝も、理性を狂わせられてしまっていた。
おいしそう。
もっと、吸わせてあげたい・・・
秘めていた熱情もろとも、血潮を吸われてゆくことで。
先生と溶け合って、同化してしまうような心地よさを味わいながら。
もう片方の脚は、むしろ自分から差し出してしまっていた。
白のストッキングがいたぶられてくしゃくしゃになってゆく足許を、それは愉しげに見つめつづけていた。
足許から伝い上るようにしてせり上がってくる息遣いが、首筋にまで迫ってくると。
わなわな震える掌を、白衣のすき間に導いて。
秘めた柔肌を、思うさままさぐらせてしまったのは・・・間違いなく自分のほうからだった。
首筋に唇があてがわれ、唇の熱が伝染するように、素肌を狂おしく染めた。
伝い寄るようにして奪われた唇を、せめぎ合わせて。
たくましい背中に、腕を巻きつけて。
丸太ん棒のように太い、毛むくじゃらの太ももに。
ストッキングを剥がれた脚を、ツタのようにからみ合わせて。
もっと・・・もっと・・・と。うわ言みたいにおねだりをして。
恥ずかしいほど、大胆に振舞ってしまっていた。
病室のドア越しに人影が立ったのも、気がつかないほどだった。
なにもかも、奪われてしまうまで。
人影になど、かまっていられなかった。
すべてが終わり、頭のなかをよどんだようなけだるさが支配したとき。
コツコツと硬い足音が遠ざかってゆくのを、はじめて耳にしたのだった。
怖がることはない。かまわないのだから。
院長先生が優しく、囁いてくれるのに。
ただこっくりと、頷きかえしていた。
毎日・・・ではきつかろう。
一日おきに、出勤してきなさい。
診療行為をお願いすることは、特にない。
ぜんぶあの女が、取り仕切るだろうから。
あんたはここに来て、私に血を吸わせる。
時給五千円。悪い話では、ないだろうね?
睨めあげるような目線が、別人のようにねっとりとしたものを含んでいた。
一日おきに・・・と言われたのに。
ほとんど毎日、昌枝は通ってきた。
古風な白衣は毎日着替えられ、血のついたものは院長先生の夜の慰みものになっていた。
白のストッキングは、いつかつややかな光沢を帯びるようになっていて。
破かれるまえには、きまってしつようないたぶりにさらされるのだった。
そうと知りながら、昌枝は清楚な装いを崩そうともせずに出勤してきて。
清楚に装った白衣姿を、ぎらぎらとした情欲に、ためらいもなくさらしてゆくのだった。
診療行為はない・・・と言われたけれど。
先生は、診察だよ・・・と囁いてくる。
ほんとうに診察を受け、治療されているのは。いったいどちらなのだろう?
互いに肌をすり合わせ、互いに癒しあいながら。
度重なる荒淫の果て、ぼうっとなった頭のなかで。
女は人目もはばからない思いで、あらぬ痴態に耽ってゆく。
廊下に通う足音が、かえって刺激に思えるほどに。
疲れ果て、やつれ果て。
病室を出るときには、蒼ざめた顔にふしだらな色をよぎらせながら。
髪のほつれをさりげなく撫でつけて、
破れたままのストッキングの足許を気遣いながら。
それでも夜の闇に溶けるように身を沈めていって。
帰宅の途をたどるのだった。
めずらしく、患者さんだろうか?
凍りついたような廊下の向こう。
ためらうように、ドアが開かれた。
患者さんですか?
受付の窓越しに顔を出すと、そこには見慣れない女が、頼りなげに佇んでいた。
三十をいくらか、過ぎているだろうか。
すさんだものをかすかに帯びた頬は、世間の垢を薄っすらと漂わせていたけれど。
まだ、じゅうぶんな若さが、肌色のストッキング越しに透けている。
あの・・・表の看板を見たのですが・・・
おずおずと口ごもりながら来意を告げるのを、どこかで聞いたことがあるような気がする。
昌枝はぞんざいに奥の診察室を指差して。
どうぞ、奥の病室に。院長先生がお会いになられます。
金属的な声で、冷えた廊下を指差した。
廊下をたどれば、そこには地獄が待っている。
そう・・・極彩色の地獄が。
濡れそぼる礼装。心地よい恥辱。
すみからすみまで、見届けてあげる・・・
血の気の失せたかさかさの頬に、冷えた笑いが滲んできた。
あとがき
俺様吸血鬼が支配するあの病院とは、べつのところのようですね。^^
漂うムードも、ややおどろおどろしい感じがします。
若い血を吸うために、看護婦募集。
生き血を吸われて肌を枯れさせてしまった女たちは、新たな生贄を導きいれるための、忠実な助手。
こんな道具立て・・・なかなかおいしいような。(^^)
ママの浮気は怒りの対象?それとも・・・
2007年10月14日(Sun) 20:10:36
ママが浮気をしているところを見ちゃった男の子。
パパの浮気を知ってしまった女の子。
どちらが寛大でしょうか?
ここでのコアなお話を理解できる方をのぞけば、どちらもシビアな気がします。
ママがしているところを覗いて愉しんじゃう・・・という男の子の場合ですと、
パパにはナイショ♪
という場合もアリかも・・・ですが。
女の子の場合には、ちょっと想像にしくいです。
女性には、”覗き”に快感を覚える・・・という嗜好は少ないのでしょうか。
逆に女性の場合、”覗かれる”ほうが、快感だったりして。^^
さて、逆の場合はどうでしょう?
パパの浮気を知ってしまった男の子。
ママの浮気を知ってしまった女の子。
前者はぜんぜん、怒ったり傷ついたりしないような気がします。(笑)
よっぽどママ命な男の子は別として・・・
(いや、そのほうがある意味アブナイ? 笑)
後者は・・・どうなんでしょうね?
怒る?共犯になる?それとも・・・
女性のご意見をうかがいたいところです。
・・・って、ずいぶん間抜けな疑問だったりして?^^;;;
お勤めの帰り道 ~濃い紫のハイソックスを履いて~
2007年10月14日(Sun) 16:38:16
おやおや。
いつもこのごろはパンツルックで、私を寄せつけようとしない貴女が。
今宵は珍しく、黒のスカートを履いているのだね。
それでも薄々のストッキングは、わざとお召しにならないで。
かえって私を、挑発しているのだね。
え?なになに?そんなことはないのよ。ですって?
聞こえない聞こえない。^^
だって、なによりも。
その濃い紫のハイソックスが、脂ののり切ったおみ脚を、
流れるようなリブで、くるんでいるではないか・・・
おいしいわよって、言いたげに。
まさかみすみす見逃せなどと・・・仰るわけはあるまいね?
さあさ、あそこに都合よく。
人けのない公園が、いい暗闇を作っている。
隅っこに広がる木立のなかのベンチなら。
誰にも見られることはあるまいて。
もう・・・やぶ蚊も羽虫も、貴女を驚かせる季節ではないのだから。
さ、さ、早う、腰をおろして。
ゆったり脚をくつろげなされ。
ほほー、思った以上に伸びやかな。^^
ぐーんと伸びたひざ下丈のハイソックスが、夜目にはいっそう艶やかなこと。
真新しいやつは、いいねぇ。
ツヤツヤの光沢、なぞりたくなってくるね。
いやもちろん。
唇で、さんざ愉しんだあとは・・・
下の牙でも、なぞってみようぞ。
なに、なに?
行儀わるいのは、イヤですよ・・・って?
聞こえない聞こえない。
まぁ・・・いちおう言っておきたい気持ちは、わからんでもないがな。
さ、もそっとこちらへ・・・差し出して御覧。
そうして、じいっと身をすくませて。
あがった満月でも、仰いでいるがいい。
すこしくらいくすぐったくても、ガマンするんだね。
ぬるり・・・ぬるり・・・
うふっ。くすぐったいかね?
そう脚をくねらせちゃ。
よけい、そそられちゃうじゃないか。
ほら、ほら、ほ~ら。
リブがねじれてゆく。
お行儀よく整然と、ゆるやかなカーブを描いていたのに。
みるみるねじれて、ゆがんでゆくね。
おおかたきみの気分も、そんなふうに。
きっと乱れはじめているのだね。
えっ?なに?
いやらしいのは、イヤですよ。だって?
聞こえない聞こえない。
透けない靴下ごしに牙を入れて、熟れた血がたっぷりしている血管を食い破るには。
ちょいと工夫が、いりようなんさ。
そう。きみがそうやって。
のけぞるくらい、昂ぶると。
ほら、血潮の騒ぎが、ナイロン越しに。
じわじわじわっ・・・と、響いてくるのさ。
あーあ。
ハデに、破いてしまったね。
おうちへ帰るのが、恥ずかしいって?
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
ご主人はきっと、とがめたりはしないだろうから・・・
もう少しだけ、舐めさせて。
それからもう片方の脚も、もちろん噛ませてくれるだろうね?
お礼にさっきと同じくらい、じわ~りじわ~りと、愉しんであげるから。
おやおや、何を言うのかな?
昂ぶってるのが、ばれちゃうって?主人に叱られちゃうって?
聞こえない、聞こえない。
きみにはまだナイショなのだが。
ほら、ああやって。
さっきからああやって、木陰から覗いているご主人も。
私のいたぶりを眺めて愉しんでいるのだから。
ママにも、恋をさせてあげようよ・・・
2007年10月11日(Thu) 05:10:56
ママにも、恋をさせてあげようよ。
おませな娘は、そういった。
連れて来たのは、黒衣の男。
ブレザーの制服姿が甘えるように寄り添う姿に、なぜか嫉妬を覚えていた。
銀色の髪の毛に、蒼い頬。
ぎらぎら輝く瞳が、いっしんに。
着飾った妻を、見つめていた。
すまないね・・・
男は振り返り、倒れた私を見おろしていて。
私は放心して、うなじの傷を撫でていた。
ひっ・・・
息を殺すようなうめき声ひとつ。
妻はそのまま、正気を喪っていた。
ごくごくごくごくと、淫らな音を洩らしながら。
生き血とともに飲まれてゆく、夫婦の理性。
あらっ、汚れちゃった。
綺麗に撥ねているわ・・・。
真っ白なブラウスをしとどに濡らした、バラ色のほとび。
妻は酔ったように目を輝かせ、声震わせて。
小娘みたいに、はしゃいでいる。
いいでしょ?あなた。
このひと・・・嫁入り前の娘さんを、たぶらかして。
お婿さんや恋人と、壁いちまい隔てておいて。
そのまま、食べられちゃうんですって。
あの子はとっくに、すませちゃったみたいだから。
わたしも試して・・・みようかな・・・?
だってわたしも、娘で通用するって仰るんですもの。
あなた、わたしがそうなっちゃったら、嫉妬する?
それとも、そんなのつまらない?
つまらないどころか。
あれだけ失血しているくせに、パンツのなかを昂ぶらせている私。
ダメだ・・・ダメだ・・・そんなの駄目だ。
そんな呟きには耳も貸さずに、みるみる女に戻ってゆく妻。
フェミニンな衣装に包んだその身を、娼婦のように。
ためらいもなく、ドアの向こうへと躍らせていた。
ぎしぎし・・・ぎしぎし・・・
あっ。うぅ・・・んっ。
ぎしぎし・・・ぎしぎし・・・
いけないわ。いけないわ。
ぎしぎし・・・ぎしぎし・・・
ひっ。ああん・・・っ。
ベッドのきしむ音。
かすかなうめき声。
壁いちまいへだてた、向こう側。
妻はけなげに献血に励んでいる。
血が欲しいんですって。
熟れた女の生き血が、お望みなんですって。
いいわよね?いいわよね?
ちょっとくらい、吸わせてあげちゃっても。
だって。慈善事業ですもの・・・
妻はそんなふうに、うそぶきながら。
今宵も訪客のため、扉の向こうへと身を翻す。
壁いちまいへだてて。
まんじりともしないまま。
今夜も眠らない夜を私が過ごすというのに。
いんたびゅう ~婚約者を紹介した男~
2007年10月10日(Wed) 08:02:38
土俗学の研究のためにこの村に移り住んで、はや数年。
さいしょは心を閉ざしてなにも教えてくれなかった村人たちも、だんだんと打ち解けてきた。
なによりも。
現地に溶け込まなければ、私の作業ははかばかしい成果をうまないのだ。
この村に息づく、妖しい習俗。
そのひとつに、花嫁の処女譲り・・・と呼ばれる行事が存在すると確信できるようになったのは。
この数ヶ月のことだった。
そして今回やっと・・・村に棲む吸血鬼に、自らの花嫁をゆだねた男性から話を聴取することができた。
このレポートを、私はまとめきることができるのだろうか?
むしろフィクションとして・・・お茶を濁してしまいたい思いもあるのだが。
以下はその男性~仮にKさんとしておこう~へのインタビューである。
問
花嫁を迎えたのは、どこからか。どういう経緯で結ばれたのか
答
本人を特定されてしまうのでお答えしにくい質問なのですが。
さしさわりのない範囲で申し上げると、都会から迎えました。
都会のお嬢さんを当地の嫁に迎えるのは・・・地元の場合よりも大変なのですよ。(笑)
問
大変・・・というと?
答
当地で育った男女は、村のならわしをよく心得ています。
娘たちは母親にいい含められて、女学生のうちから吸血鬼に首筋をゆだねるようになっていますし、
男の子たちも、彼女や許婚がそうすることに嫉妬はしても、決してじゃまをするような無粋なまねはしないよう躾けられていますから。
でも・・・外部の子女となると、話は別です。
なにごとも一から・・・ですからね。
問
貴方のばあいは・・・
答
さいしょによくいい含めておくべきだったのですが・・・
やはりその勇気はありませんでした。
ですので、事情を打ち明けることなく、彼女をお邸に伴ったのです。
問
吸血鬼のお邸・・・ですね?
答
はい。
問
ご両親には、話したのですか
答
両親はもちろん、承知でした。
むしろそうすることが、我が家にとっての名誉になるとされていたので・・・
問
名誉と言うと・・・?
答
処女のうちに差し出すのと、人妻になってから・・・というのとでは違うのです。
もちろんどちらも尊い行為には違いないのですが・・・
一般にこの村では、良い家ほど子女や嫁に迎える女性を、処女のうちに吸血鬼に差し出します。
処女の生き血を彼らが好んでいることは、よく御存知ですよね?
ですから、家族の血で、彼らの想いを満たしてやるのですよ。
問
婚約者には、お邸のことをどう説明したのですか
答
代々お世話になっている、有力者の家系とだけ説明しました。
問
ご結婚前の挨拶伺い・・・というていにしたのですね。
答
そうです。
問
どんなふうに引き合わせたのですか
答
ごくふつうに、礼儀正しい挨拶を交わしましたよ。(笑)
そのうえで、二階の奥まった部屋に彼女を伴ったのです。
彼女と私は、隣り合わせにベンチに腰を下ろしました。
これが慣れると、向かい合わせになるのです。
そのほうが、吸われるところをよく見届けることができますから・・・
でも、初めてだったので、彼女に寄り添うようにしたのです。
問
彼女が怯えるから・・・?
答
それもありますし・・・
もうひとつには、介添えをしなくちゃならないので・・・
問
介添え・・・というと・・・?
答
吸血鬼の手助けです。
彼女はなにも知らないので、抵抗するとうまく吸血を成就できないかもしれません。
事情を知っている村人たちのあいだでも、娘を捧げる時には母親が介添えするんですよ。
さきに血を吸われて、娘にお手本を示すんです。
問
貴方のばあいは・・・?
答
男の血は、いまいちらしいのですが。(笑)
彼は私の血を、子どもの時分から吸いつけていましてね。
それでまず、用足しにかこつけて彼女を残して座をはずしたんです。
問
彼女を襲わせるために?
答
いえ、彼ももてなしの用意をする・・・といって席をはずして、
隣室で私は彼のまえ、ズボンをたくし上げて、脚を咬ませたんです。
血を吸われて正気を喪った・・・というていをとりつくろうのと、もうひとつお目当てがあったんです。
村に来た日に彼女がストッキングを見て、彼が興味を持ちまして。
ぜひ彼女のストッキングを悪戯してみたい・・・と言い出したのです。
問
さりげなくプロポーズ・・・というわけですね?
答
よくお分かりですね。(笑)
外部のかたなのに・・・
そのとおりです。
答えは・・・決まっていますね?(含み笑う)
あらかじめ彼女に内緒で、彼女のストッキングを一足失敬しまして。
それをズボンの下に履いて行ったんです。
問
彼女のストッキングを履いて、脚を咬ませた・・・?
答
ええ。味見をさせてやろうと思って。(笑)
問
いやらしいですね。(笑)
答
ええ。(笑)
問
それからいよいよお目当ての・・・ですね?
答
ええ。(笑)
私は彼より先に彼女のもとに戻りまして。
はずまない会話をしているうちに、彼はイスの下にもぐり込んで、後ろから彼女の脚に抱きついたんです。
こんなふうに・・・
(足首とひざ小僧を抑えつけ、ふくらはぎに口を近寄せるまねをする)
問
彼女の反応は・・・?
答
思ったよりも、小さな声でした。
アッ・・・って叫んで、戸惑ったように足許を見おろして。
咎めるように私を見上げたときには、もう目がうるんでいました。
問
泣いていた?
答
いえ、酔っていたんですね。
問
そんなに毒のまわりが速いのですか?
答
ええ・・・
足許からちゅ~っ・・・って、音が洩れて、それが耳に届いたときにはもうかかっています。
ばらされちゃった・・・とも言うんですが。
それこそ、理性をばらされちゃう。
問
Kさんはそのとき、どうしていましたか?
答
黙ってスカートの上に手を置いて、彼女のひざ小僧を抑えつけていました。(笑)
問
おやおや。(笑)
それが、介添えというわけですね?
答
ええ・・・
問
彼女は無抵抗で、血を吸われちゃったんですね?
答
そうですね。
もともと良家のお嬢さんで、人前で取り乱すのを潔しとしない躾を受けていましたので。
ひとしきり彼が血を吸ったあと、さすがに睨まれましたが。(苦笑)
問
なにか、仰っていましたか?
答
痛い・・・と。
問
咬まれたわけですからね。
答
いえ、ひざ小僧を抑えた私の手が。(苦笑)
問
おやおや。(笑)
答
思わず、力を込めちゃいまして・・・(照れ笑い)
でもそれくらい、冷静だったんですよ。彼女。(少し得意げ)
彼女が落ち着くと、私は黙ってズボンをたくし上げて、さっき咬まれた足許を見せてやりました。
咬まれたところでストッキングが破けて、血が滲んでいて・・・
それを彼女、吸い込まれるような目つきで、うっとりと見入っているんです。
かかったな。かかってしまったな・・・って、思いました。
問
もうあと戻りはできない、と。
答
そうですね。私のようにふつうの人間と同じに生活している半吸血鬼は、やっぱり半分は人間なんです。
吸血鬼に若い女の血をあてがうために結婚相手を紹介する・・・などというおぞましい行為には、やっぱり躊躇を感じますし、
最愛の女性の素肌にほかの男の唇を許す・・・ということにも、こだわりを感じます。
逆に、そうした躊躇とか羞恥心とかがあるから、貴重なもてなしになるということなのです。
問
あえなく?吸血鬼の術中に堕ちてしまったわけですが。
どんなご気分でしたか?
答
敗北感、無力感・・・そういったものも、むろんありました。
けれども私自身、血を吸われて酔わされてしまっていましたので。
シビアに感じることはありませんでした。
むしろ、心地よい倦怠・・・というのでしょうか?
理性を惑わせた彼女が、とてもかわいくて・・・
酔った女性が素敵に見えるのと、違うのかどうか。
でも彼のほうには、そう見えたはずです。
酔わせて堕とす・・・というのが、その日の目的なのですから・・・
問
酔わされてしまった?
答
ええ・・・
彼女もしっかりした女性なので、あられもなくなることはありませんでしたが、あるていどは。
私が傷口を見せるためにたくし上げたズボンを引き降ろし、もういっぽうのすそをめくると、黙って肩をすくめました。
悪戯っぽく、こんなふうに・・・
私は目交ぜで彼女に応えると、もういっぽうのズボンのすそをたくし上げました。
まるでお手本を見せるように、もういちどヤツに咬ませたのです。彼女のまえで。
痛くないの?
って、訊かれました。
慣れればキモチいいんだよ、って答えてやると。
そうかもね。
そんな返事がかえってきて・・・さすがにすこし、ぎくりとしました。
わたしのやつを、取ったのね?とも言われました。
私が履いたのは黒のストッキングだったので、ズボンの下に履いている限りは気づかれなかったのですが、
わざと咬ませた・・・って、察しをつけたようです。
けれどももうそれ以上、彼女はわたしを咎めようとしませんでした。
私がふくらはぎを両方とも咬ませてしまうと、彼女も私にならって、もう片方のふくらはぎを、そっと差し出して行ったのです。
問
ご自分のほうから、脚を差し出されたのですね?
答
ええ。
問
どんなお気持ちでしたか?
答
そりゃ、妬けましたよ~。(苦笑)
目のまえで彼女のストッキング破かれちゃうんですから・・・
お邸まで歩く道々、盗み見ていたのですが。
彼女の穿いていた肌色のストッキングは、陽の光を照り返しててかてか輝いていました。
若々しいふくらはぎにぴったりと、貼りついたように密着した薄手のナイロン・・・つい、目が行ってしまいまして。
みすみす、この脚を咬ませちゃうのか。なんてもったいない・・・なんて妄想渦巻かせていたのですから・・・
恥ずかしいことなのですが・・・
ヒルみたいに吸いついた唇の下で、彼女のストッキングがチリチリに裂け目を広げてゆくのを見つめているうちに、
もう、耐えられないほどゾクゾクするような昂ぶりを覚えました。
ひとしきり彼女の血を吸い取ると、ヤツは顔をあげて私を見上げて言ったのです。
間違いなく、処女の生き血だ。
きみのフィアンセの純潔に、乾杯・・・
と。
問
婚約者が処女だと言われて、どんなお気持ちでしたか?
答
素直に嬉しかったです。(笑)
自分の妻になる女性が、清い身体だったと証明されたわけですから・・・
でも同時に思ってしまったのは。
彼に処女の生き血を提供できたという、半吸血鬼としての満足感だったのです。
彼が彼女にとりついて、ちゅうちゅうと美味そうに音を立てながら血を啜るのを見て、えもいわれぬ歓びを感じたのは・・・偽らざる事実です。
まぁ、美酒に耽るのは、彼だけでしたが・・・
問
”お相伴”には、あずからなかったの?
答
たしかに・・・慣れている男女ですと、彼女の血を吸わせた後で彼氏がお相伴に預りまして、
三人ではしゃぎながら愉しみに耽る・・・ということも大いにあるんですがね。
私のときは・・・それこそなんとなく、躊躇してしまって。
それくらい、神秘的な雰囲気に満たされていました。
彼女は眉をひそめながらも黙って脚を差し出して、
彼は黙々と唇を吸いつけて、ストッキングを破ってゆく。
ツヤツヤした光沢のある柔らかそうな薄手のナイロンは、頼りなげにねじれて、ゆがんで、ずり落ちて・・・
悔しいやら、うらやましいやら、ゾクゾクするやら・・・
恥ずかしいのですが、ただの男として、淑女に対する辱めから目を離せなくなってしまったのです。
まつ毛がかすかに、ピリピリと震えていましたから。
高貴な礼装に辱めを受けるのは、やはり彼女の本意ではなかったのでしょう。
けれども客人を悦ばせるため、あえて彼女は脚を引こうとしませんでした。
キゼンとしていたね・・・って、あとから彼にからかわれましたが。
目のまえでそれを聞いていた彼女は、もうとっくに彼と仲良くなったあとだったのですが、
輸血のつもりだったのですよ。
薄っすら笑いながら、洩らしていましたっけ。
彼女、看護婦の経験がありましたからね。(笑)
問
首筋は、咬まれなかったの?
答
いえいえ、もちろんさいごの仕上げは・・・ご指摘のとおり、首筋です。
軽い貧血になったのでしょう。
彼女が額に軽く手をやると、それで察しをつけた彼のほうから、
もうすこしで、終わりにするからね。
って、いたわるように、囁きまして。
姿勢を崩しかけた彼女のスーツ姿に、力を込めていって。
そのままじゅうたんに、押し倒したのです。
私は彼女の耳もとに、かがみ込んで。
これから首筋を吸うから・・・って囁きましたら、かすかに頷いていました。
むしろ彼の吸い良いように、おとがいを仰のけて、ほっそりとした白い首筋を伸べたのです。
素肌の白さが、紅いじゅうたんによく映えていましたっけ。
あの紅さ・・・過去に流された乙女たちの血潮の色なのですよ。
彼は彼女を仰のけさせてしまうと、いままで以上に強く、がぶり!と食いついてしまったのですが。
彼女は「ァ・・・」と、ちいさく声を洩らしただけで。
あとは唯々諾々、ちゅうちゅう、ちゅうちゅう、血を吸い取られてしまったのです。
問
吸血はどれくらい、つづいたのですか?
答
ええ、もう、それは・・・
彼女が征服されてゆくあいだ、私はずっとそのようすを見届けさせられていたのですが。
それは長く、感じましたね。
彼女、だんだん蒼ざめてしまったのですが。
でも、不健康な鉛色ではなくて、肌が透き通ってゆくような蒼さでした。
ああ・・・ふたりは私の思いの及ばぬ刻を共有してしまったのです。
そうですね・・・時間にしたら、一時間弱でしょうか?
お昼すぎに、お邪魔して。
暗くなる前には辞去しましたから・・・
問
彼女にあとで、叱られませんでした?
答
たぶらかされちゃったあとですからね。(苦笑)
わりと、サバサバしていました。
破けたストッキング、脱いじゃって。
彼にあげても、かまわない?って、振り返られて。
ああ、いいとも・・・って、言ったんですが。
ほんとうは、履いていたストッキングを手渡すのって、深い意味があるのですよ。
それでも、ほとんど躊躇なく、お渡ししてしまって・・・
ノーストッキングでいるのは失礼だからって、
バッグから履き替えを取り出して、(ええ、破かれたのとおなじブランドの、肌色のやつでした)、
私たちの目の前で、脚に通していって。
そのうえもういちど、脚を伸べて、咬ませちゃって。
ストッキングを咬み破られたまま、お宅を失礼したのです。
見せびらかして、歩きたいわ・・・って、囁かれて。
ぎょっとして振り返ったら、薄っすらと笑み返されて。
でも、門を出るとき、ひどいわねって軽く睨まれましたよ。
でもあれは・・・
コンナオ愉シミガアルノナラ、ドウシテ教エテクダサラナカッタノ?
という非難なのですよ。
彼女、チャーミングに口を尖らせて。
このまま帰るから・・・って、もういちど、ストッキングの破けた脚を、見せつけられて。
ふたり、何事もなかったように・・・腕を組んで帰り道を急いだのでした。
問
ドキドキされて、冷静さを失いかねないご経験だったと思いますが・・・
よく落ち着いて、お相手をされたのですね。
答
ええ・・・まえも申し上げましたように、うちは代々吸血鬼とは親しい家柄ですから。
若い女の血を欲しがる彼にはじめて引き合わせたのは、母でした。
妹のことも、中学にあがったときに、彼の邸に連れて行ったのは私です。
父はそういうことが、苦手だったようなので・・・
母と妹。ふたりながら、彼の情婦にされてしまっていたので。
花嫁の情夫に迎えるべき男性は、彼しかいなかったと思います。
彼女は母の介添えで、彼の性欲に奉仕するために処女を捧げましたが、
惜しい・・・とはふしぎに、思いませんでした。
くすぐったいような嫉妬のほかに、むしろ誇らしい気分が交じっていました。
あれは・・・母を初めて襲わせたとき。
ワンピース姿の母を捕まえた彼が母のうなじを吸いながら、旨そうに血を啜るのを見たときに覚えたのと、まったくおなじ感情だったと思います。
問
長い時間、貴重な体験をありがとうございます
答
いえいえ・・・
つたないお話をきいていだき、こちらこそお礼申し上げます。
ーインタビュー終わりー
奥様は最初からさいごまで、物陰でお聞きになっていたようだった。
そして玄関先で失礼する私に、イタズラっぽい笑み交じりに語ってくれた。
そう。あのときはびっくり、いたしましたわ。
だっていきなり、咬まれちゃうんですもの。
ストッキングは裂けるし、彼の手は痛いし・・・困りました。
でも、傷口から血が抜けてゆくのが、くすぐったくって。
気がついたら、ころころ笑いこけてしまっていたんです。
いい若い娘が、お行儀のわるい・・・
自分でもそう、思いましたけど。
いまは堕としていただけて、感謝しているんです。
だって、魅力があったから、襲ってくださったんですし。
愛していたから、わたしのあわてるところ、見たがったんですから。
えっ?処女を喪ったとき?
ええ・・・主人は壁一枚へだてたお隣で、まんじりともしなで夜明かししたのですよ。
いまごろどんなにやきもきしているかと思うと、初めての痛さも・・・ゾクゾクするくらいのキモチよさに、すりかわっちゃったんですから。
あとがき
えらく長くなっちゃいました。
ここまで読んだ人がいたとしたら、とっくにお気づきと思いますが。
これは由貴子さんの初体験物語・・・なのですね。^^
身支度 ・・・襲い支度。^^
2007年10月10日(Wed) 06:36:55
第一幕 都会のお宅の玄関先。
どうやらご一家は、これからお出かけらしい。
半開きになった玄関から、黒の礼服姿のママがちょっと顔を出して、
すぐに家のなかを振り返る。
マ マ「ほらほら。リュック持った?」
男の子「だいじょーぶだよ。母さん。それより、山歩きっぽくない服なんだね」
マ マ「いいのよっ。パパがそうしなさいって仰るんだから」
男の子「だってー。それって喪服じゃん。お墓参りじゃないんだから」
長 女「そうだよー。まるでお墓参りじゃん~。あたしだってセーラー服だしぃ」
次 女「そうそう!きょうはお墓参りじゃなくって、紅葉狩りでしょ~?」
長 女「えー?どーしてあやかちゃんだけ、ミニスカートなのー?」
次 女「だってママがいいって言うんだもん。うらやましい?新調したんだ。真っ赤なタータンチェック♪」
長 女「ずるーい!」
男の子「山歩きっぽいのはボクだけか・・・それにしても、なんとクラシックな」
パ パ「ほらほら。文句言っていないで、そろそろ出かけるぞ。サダオもパパとおそろいなら、文句ないだろう?」
長 女「アーガイル柄って、男の子も履くんだね」
(もの足りなさそうに、黒ストッキングの足許を見る)
パ パ「いい眺めじゃないか。肌が透けてて、なまめかしいし」
長 女「えっちーーー!」
第二幕 夕暮れ刻の、村の荒れ寺
はずれかかった扉に、破れ障子。
秋風がかさかさと音を立てて、早くも落葉した紅葉を転がしてゆく。
狭いお堂のなかは早くも闇に包まれていて、妖しい影が二つみっつ・・・
一の魔「今宵の獲物は、つかまえたか?」
二の魔「ああ。甚作んとこの女房と娘っこじゃ」
三の魔「あれに縛って、置いてある」
一の魔「うふふふふっ。熟れた女に、生娘か。よい宴になるな」
二の魔「それよりも・・・季節柄じゃな」
三の魔「今年もあるんだろう?都会からの客人」
一の魔「バスツアーのことかね?」
二の魔「そうそう。それじゃそれじゃ」
一の魔「安心せよ。明晩はまさにその話だ。もうこちらに着いておるから、明日さっそく連れてこよう」
三の魔「うふふふふふふっ。都会育ちの柔肌も、こたえられんのう」
二の魔「写真、あるのか?見せろ」
一の魔「仕方がないな・・・」
(写真をばらばらと散らばすように床に投げ置く)
(魔どもはてんでに手にとって、ためつすがめつ眺めはじめる)
二の魔「ほほー。娘っこがふたりもおるわい」
三の魔「母ごも、うまそうなふくらはぎをしておるわい」
二の魔「うふふふふっ。黒の礼服に、セーラー服。それにチェック柄のスカートとおいでなすったか。
紅葉狩りには、うってつけの服装じゃ。歳の順にめくり上げてやろうわい」
三の魔「墓場に連れて行って・・・。泥ん中、てんでにまろばして・・・」
二の魔「狩る紅葉は、衣裳に散らしたおのれの血潮・・・そう知るのは、じきのことよな」
三の魔「母ごを犯して。娘ごを辱めて。かわるがわるか。たまらんのう」
二の魔「男の子も、捨てがたいの。手なずければ去年の子のように、彼女を連れてハイキングに来るかの?」
一の魔「さぁ~?サダオに彼女はいるのかな?」
二の魔「おのれがいちばん知らんのじゃろ。奥方に男ができたのもよう知らなんだほどじゃでのお」
一の魔「出し抜きやがって・・・」
二の魔「あれは去年の温泉宿じゃったな。浴衣姿を振り乱して、艶な夜じゃった。馳走になったの」
一の魔「ちっ!うまいことたらし込みおって。
しかしまぁ・・・お口にあったなら、なによりだ」
三の魔「わしは初見参じゃで・・・ようお世話してくだされや」
一の魔「よしよし・・・」
二の魔「なんにしても、早う娘っこを頂戴したいのお」(匂いを嗅ぐように、写真を鼻先にあてがっている)
一の魔「おぼこ娘だ。あまりしつこくするなよ」
二の魔「なーに、任せておけって。うまーく、たらしこんでやる。
おのれの奥方をバラしたときのように・・・な。^^」
一の魔、一同の鼻先に、衣類のようなものをぱらぱらと落とす。
二の魔「やや、これは・・・」
一の魔「リュックから抜き取ってきた。女たちの履き物じゃ」
二・三「気前のよいことだ。う・ふ・ふ・ふ」
一の魔「さて、今宵の宴にありつこうかな。(二の魔に)悪く思うな。甚作」
二の魔「明日こそ・・・な。吠え面かくなよ」
一の魔「今宵はおのれに吠え面かかせるわ」
二の魔「言いおるわ言いおるわ。さ・・・なにはともあれ・・・」
(母子が縛られている部屋の引き戸をあける)
二の魔「わが自慢の妻と娘。たっぷりたんのうしていくがええ。あすのオードブル代わりに・・・な」
三の魔「すまねぇな」
一の魔、三の魔につづいて部屋に踏み込む。
アーガイル柄のハイソックスが、夕陽に眩しい。
第三幕 山道
夕暮れ刻の山道は、樹樹に陰影を落とし始めていて。
穂先の高い草むらの下は、早くも夕闇の翳りに淪(しず)んでいる。
パ パ「はあっ・・・はあっ・・・」
(アーガイル柄のハイソックスをすねまでずり落として、ふくらはぎについた傷口を、痛痒そうに撫でている)
マ マ「あっ・・・あっ・・・」
草むらのなか身を沈めて、声だけ聞える。
マ マ「あおおおううっ!」
ばたつかせた脚が、草むらから覗く。
鮮やかに裂けた黒のストッキングが、白い脛をあらわにしている。
長 女「だめ・・・だ、め、え・・・っ」
重たい感じのする制服のプリーツスカートをたくし上げられて、
後ろから吶喊を許してしまっている。
真っ白なハイソックスには、臀部から滴る血。
次 女「くすぐったあ・・・い・・・」
みすぼらしい老婆にのしかかられて、うなじを撫でられている。
長 男「ひどい・・・なあ」
二の魔「ママとはもっと、仲良くしているんだぜ?」
長 男「そうなんだ。だからパパも、ぼーっとしちゃっているんだね?」
二の魔「そうそう。去年おふたりで見えられたときに、林間したんだ」
長 男「えーっ。ほんと?それ、凄く刺激的♪」
二の魔「ノリのいいお坊ちゃんだね。さすがに血は争えないわい」
長 男「え?なにか言った?
二の魔「いやいや、こちらのことだ・・・ママが犯されるとこ、見てみたかった?」
長 男「ウ・・・ウン・・・」
二の魔「今夜、魅せてやろうか?」
長 男「(声をひそめて)ほんと・・・?」
二の魔「ああ。パパには内緒だぞ」
長 男「もちろんさ・・・あの。それでそのあと・・・」(口ごもる)
二の魔「参加したいのじゃろ?」
長 男(無言で頭をかく)
二の魔「遠慮することはない。母ごはもう正気を喪っておるから、夜のことなど憶えちゃおらん」
長 男「ほんと・・・?」
二の魔「その代わり・・・今月のうちにもういちど、村にお出で。彼女を連れてな」
長 男「エッ、なにするの?
二の魔「安心せよ。生娘ならば、手荒なことはせん。祝言挙げるまで、じっくり愉しませていただくが」
長 男「血を吸うんだね?・・・(ひっそりと)いいよ」
二の魔「よしよし・・・おぼこでなければ。今宵の姉さんのようにしてもかまわんかな?」
長 男「ああ、いいとも・・・ショジョじゃなかったら。ママみたいにしちゃって・・・」
二の魔「いい子だ・・・」
(長男のうなじを吸う)
長 男「・・・・・・(うっとり)」
二の魔「これでご一家すべてを、たぶらかしたぞ」
長 男「エッ?なにか言った?」
二の魔「いやいや。こちらのことだ」
長 男「いいよ。たぶらかしても・・・じゃ、彼女のことも、よろしくね。指きり、げんまん♪」
二の魔「ああ、指きり、げんまん。夜は長い。ゆっくりと、馳走になるぞ」
長男、黙って草むらにあお向けになる。
二の魔、やはり口をつぐんで、その上にのしかかる。
時おり草むらから突き出されるのは、女たちの脚。
あらわになるたびハイソックスはずり落ち、ストッキングは裂け目をまえよりも広げている。
頭上をよぎるカラスが、殺風景な声をあげて飛び去ってゆく。
ー幕ー
あとがき
久しぶりに描いてみたら。
去年のバスツアーが、いっそう妖しい発展型に・・・(苦笑)
若い夫 年配の旦那
2007年10月05日(Fri) 00:34:52
いつもいつも、すまないね。
うちの古女房を貸した見返りに、若い奥さんを頂戴しちゃって。
子どもを生んでいない若い肌。
すべすべしていて、こたえられないね。
襟首から手を忍ばせて、おっぱいをまさぐったり。
つるつるとした首筋を、撫でさすったり。
奥さんはまるで小娘みたいに、くすぐったそうに。
きゃあきゃあ騒いで、身もだえするんだね。
純白のスーツを着てきてもらって、山道をドライブしたときなんか、
まるで、なにをしてもかまわない秘書を連れて来ているような気分になって。
ついそそられちゃって、ススキの陰に連れ込んで。
思う存分、犯してしまった。
スリップ引き裂いて、まるで凌辱するように。
四つん這いになって、屈従的なポーズを取って。
私に腰を抱えられて。
なんどもなんども、イッてしまった。
いいのかね?
わたしはなるべく、外に出すようにしているけれど。
それでも不覚にも、そそぎこんでしまったこともあるのだよ。
まして、みんなはどうしているのかな。
きょうも真っ昼間から。
きみの奥さんは、わたしのために装って。
白一色のタイトスカートのすそから、健康そうな太ももをちらちらと覗かせて。
肌色のストッキングの光沢の下、発色豊かな素肌を輝かせながら待ちわびているのだね。
きっとわたしは、自分の娘を犯したかったのだな。
こちらこそ、お世話になっています。
至れり尽くせりの奥様のもてなしに、毎晩酔わせてもらっています。
社長夫人を犯すなんて。
まるで自分が重役になったみたいな気分です。
貴方がボクの妻のピンクのスカートをつかまえて。
じゅうたんにねそべったふくらはぎを、ストッキングもろともいたぶり抜いているときに。
ボクはボクで、戸惑い浮かべる奥様に、迫っていって。
上品で地味ハデなロングスカートを、ひざのあたりまでたくしあげて。
黒ストッキングの下、薄く透ける白い肌に、まるで発情したみたいに昂ぶって。
奥ゆかしい高価なガーターストッキングにきらめくおみ脚を、たっぷりたんのうさせていただくんです。
いけない悪戯、いっぱいさせてもらっているんですよ。
子どものことは、ご心配なく。
皆さんマナーを心得ておいでのようですね。
でも・・・もしかして。
それって案外、途方もない遠謀深慮で。
ボクの娘や、息子の彼女まで、狙っているんじゃないですよね?^^
今夜も奥さんは、ボクのために。
しっとりとした上品なスーツを身にまとって。
ボクをがんじがらめの虜にしてしまったあの黒のストッキングをお召しになって。
お破きになりますか・・・?って、囁かれるんです。
ボクはもう、くらくらとしてしまって。
紙のように薄くて頼りないナイロンを、くもの巣みたいにチリチリにしてゆくんですよ。
耐えられますか?旦那様。
あんがいボクは、マザコンだったのかもしれないですね。
競い合う脚
2007年10月04日(Thu) 00:59:23
純白のハイソックスに包まれる、健康なふくらはぎも。
薄っすらとなまめかしい薄墨色のストッキングを装った、エレガントな脚も。
いずれ劣らぬ、美を放つ。
ナイロン越しに色香を秘めた素肌が、まるでオーラを放つように。
オーラのもとは、なまめかしい女の血?
それとも、淫らに翳った熱情?
母娘といえども、競い合うのは。
女という、濃くて熱い性からか。
背中合わせに、身をすり合わせて。
のけぞるくらい、背すじをピンと伸ばして。
高いヒールで、つま先だって。
かっちりとしたローファーを、ぴかぴかに光らせて。
安心するがよい。努力はきっと、報われる。
そう。今宵は齢の順にしようか。
もちろん、お嬢さんを先にして・・・。
連れ込み宿
2007年10月04日(Thu) 00:25:34
いとも優しげな面立ちをして。
いとも貞淑げに装いながら。
それでも齢が幾らも違わない前妻の娘が憎いのか。
いかに憎かろうとも。
すこし、狡猾すぎはするまいか。
こうして偽って、招び寄せて。
人の生き血をたしなむ私に、引き逢わせるとは。
場違いに待ち受けた褥のうえ。
なさぬ仲の仇敵と、その愛人のもくろみどおり。
少女は悔しげに、眉をひそめて。
忍びなく声色を、不器用に押し隠して。
そうしてさいごに、耐え切れないといわんばかりにして。
清楚に装った制服姿を、乱していった。
いいのかね?
ほんとうに、いいのかね?
だから、言わないことじゃない。
だってお前は。
無抵抗なあの娘を、禁断の蟻地獄により深く、
抜け出すことができないほどに、かかわらせてしまったのだから。
いままでは。
ひとりの男をめぐる、継母と娘。
それがいまは。
ふたりの男をあいだに挟んだ、女という名の仇敵同士。
みすぼらしくうらぶれた連れ込み宿の夜は更けて。
いまは少女も、涙を忘れて耽っている。
古びた布団に処女の生き血をしたたらせながら。
幾たびも吸ったであろう処女の証しを。
黄ばんだ敷布団の陳腐な柄が、今夜も激しい彩りを秘めてゆく。
秘密の楽園
2007年10月04日(Thu) 00:14:19
夕陽に照り返る、カモシカのような脚。
肌色に透けるストッキングは、ピンと張りつめた筋肉のうえ。
どこまでも優艶な光沢をよぎらせてゆく。
男女の区別が、あるだろうか?
男だから女の衣裳を纏っていけないという理由(わけ)が、いかほどあるのだろう。
涼やかな風翔け抜ける公園の一隅は。
だれ一人目を転じるものもない、秘密の楽園。
そう・・・いまは性を超えた、わたし独りのための。
よろず、心得て。
2007年10月03日(Wed) 07:49:07
1 アンケートにお答えします
落ち着いた物腰で。
しっとりと会釈を交わして。
頭の後ろにまとめた黒髪を、艶やかに輝かせて。
あらまぁ。ほほほ・・・
かるく握り締めた手で、奥ゆかしく口許を隠しながら。
声さえ控えめに抑えながら。
相手の話に合わせてゆく。
差し出されたアンケート用紙に、ちょっと小首を傾げて。
書かれた内容に、眉ひとつ動かさずに。
お答えすれば、よろしいのですね。
傍らの万年筆を、さっと取り上げて。
さらさらと流れるように、書き込んでゆく。
ー設問ー
吸血鬼に逢ったことがある ○
血を吸われるのは心地よいと思う ○
したたる血で服を濡らされることに、昂奮を覚える ○
ご主人以外の男性と、関係したことがある ○
不倫は心地よくて、愉しいと感じる ○
ご主人の前で他の男性と情事に耽ってしまったことがある ○
複数の男性と交わることに、抵抗を感じない ○
和姦としての輪姦なら、許容できる ○
そういう輪姦は、大勢の男性といちどに仲良くするためにうってつけのもてなしだと思っている ○
上記のようなことは婦人として嫌悪感を覚えるし、あってはならない ×
ー設問おわりー
そう。
落ち着いた物腰で。
淑やかな腰さばきで。
夜は娼婦となって。
妻は今宵も、淋しい客人たちを慰める。
2 いけないお出かけも、いたします。
出かけてまいりますわね。
落ちる夕陽を見つめながら。
思い出したように囁きかけてくる妻は。
いつになく、白い頬を上気させていて。
わたしも熱にうかされたように、返しの言葉を浮つかせる。
気に入りの濃い紫のスーツを、いそいそと装って。
薄っすらとしたストッキングを引き伸ばして、足許を薄墨色に輝かせて。
いつもより念入りに、髪を梳いていって。
いつもより濃いルージュを、きっちりと刷いていって。
黒のハンドバッグを腕に通して。
つばのある黒の帽子を、目深にかぶる。
密会のための装いは、はっとするほどにひきたっていた。
玄関のドアをあけると。
ほとんど同時に、お向かいのドアも開かれる。
出てきた若い奥さんと、とおりいっぺんに挨拶を交し合って。
たがいに背中を合わせたように、べつべつの方角へと脚を向ける。
互いに申し合わせたように履いた、黒のストッキングが。
送り出す者たちの目のまえを、悩ましく通り過ぎてゆく。
薄手のナイロンに透けた白い脚たちは、一瞬鮮やかに闇夜を彩り、そして闇に溶けてゆく。
困ったものですね。
お互いにね。
しんそこな苦笑を交し合う、送り出した者どうし。
あがっていきませんか?
初めて声をかけたのは、わたしのほう。
所在なげだった若いご主人は、吸い寄せられるように私の家の玄関をくぐり抜けていた。
お互いのズボンの下に。
紳士ものにしては薄すぎる靴下が、足の甲をそらぞらしく染めるのを見出していた。
互いに互いを、苦笑の裡に見つめあいながら。
ズボンの下の太ももは。
つい今しがたまで貞淑だった妻の履き物が、やんわりとした強さでキュッと締めつける軽い束縛感を滲ませていた。
どちらからともなく・・・だったろうか。
誘導したのは、わたしのほうからだったろうか。
そのような嗜みは、なにひとつなかったはずなのに。
お互いの妻のストッキングに酔うように。
ぬめるような感触を、愉しみあってしまったひと刻―――。
そろそろ時間ですね。
そうだね。姦られちゃったあとにのこのこ・・・というのは、男らしくないからね。
とんでもない呟きあいを、共有しながら。
淫らな体験を、どこまでも共有し合う仲になりそうだなと、お互いきっと、想いあってしまっている。
窓辺で迎える妻は、どんな痴態をさらすのだろうか?
淑やかなひとが、淫らな娼婦にかわる刻。
もちろんたしなみのある妻は・・・いまでも初めての夜と同じくらい、恥らっている。
3 衣裳を貸し出します もちろん持ち主も・・・
落ち着いた物腰で。
地味な服しか、ございませんのよ。
恥ずかしそうに、含み笑いを浮かべて。
箪笥の抽斗から、気に入りのスーツを取り出してくる。
たとえそれが無地の礼装であったとしても。
どこか艶めいたものを秘めるのは。
どの衣裳もいちどは、男の劣情にまみれたからか。
それほどに。
多くの殿方に、肌を許してしまった妻。
白い横顔に、ひんやりとした笑みを涼しげによぎらせて。
ねぇ、あなた。
鶴のような細首を、こちらにねじ向けては。
わたしの顔色を、愉しげに窺っている。
クリーニングをすませても・・・残るものは、残るのですね。
今宵が初めてだと言う、お隣の若いご夫婦は。
ちょっと蒼ざめながら、目を見交わしていたけれど。
ご安心なさいね。たぶんなんの抵抗もなく・・・堕ちることができますから。
若奥さんのまえに押しやったのは、新調したての二着めのブラックフォーマル。
”初めてのあの夜”のために用意されたそれはちょっと若作りで、
胸元のボウタイが、フェミニンに透けていた。
こういうきちんとした服装が・・・却って殿方をそそるのですよ。
若奥さんは、勘の良いひとらしい。
妻の送る無言のメッセージを、ご主人にさとられることなく感づいたらしい。
地味すぎないか・・・?
フクザツな視線を送るご主人に、わたしは余裕たっぷりを装って。
この土地では、むしろ自慢できる体験なのですよ。
妻の声色をなぞるように、抑えたはずの声色が。
ちょっぴり震えを帯びたと感づいたのは。
傍らから注がれる、優しい視線の持ち主だけ。
夜になって。
ご主人はひとり、頭を抱えて訪れて。
とても見に行く自信がないのです。
正直な告白に、妻もわたしも目を見交わして。
奥様、お出かけになったのですね?
まだ足音が聞えるくらいです。
はぜる息に喉を詰まらせながら、若奥さんを送り出して。
その足ですぐ、玄関先に立ったのだという。
よろしいですね・・・?
いいだろう。
お互いを、チラと見交わすと。
では・・・こちらへどうぞ。
しっとりと落ち着いた、ベーズリ柄のワンピースの主は。
蒼ざめた若いご主人を、別室にいざなってゆく。
閉まりかけたドア越しに、ねじるようにかえりみた白い顔が。
覗いちゃ、ダメよ。って。目で告げていた。
ふたたび姿をあらわした妻は。
黒のスリップ一枚と。
ひざまでずり落ちたガーターストッキングだけになっていて。
片方の靴下は、すっかり脱がされてしまっていた。
背後に立ったご主人は、さっきまでのおどおどとした態度はかけらもなくて。
ひとりの女をものにした獣の血を、若い五体にみなぎらせている。
さすがに爽やかな礼儀正しさは、失わないで。
ありがとうございました。ちょっと勇気が、わいてきました。
勇気・・・って。ねぇ。
冷やかすように応じるわたし。
たまにはうちにもいらっしゃいよ。
かすかな嫉妬を巧みに抑える長けた妻に、ちょっと肩をすくめたら。
共感を秘めた視線を、そそいできた。
今からならまだ、間に合いますよ・・・
妻に促されて送り出された足取りは、それでもまだ酔っ払ったように、ふらふらと覚束なかったけれど。
あなたのときだって・・・あんなふうでしたよねぇ。
笑みを含んだ囁きに、心地よくやり込められてしまっている。
たまにあちらに、お邪魔しましょうよ。
わたしは、若いかたと愉しめますし。
あなたは…覗いて御覧になれますから。
4 今夜も・・・
訪れたのは、はす向かいのご主人。
奥さんをいちども伴うことなく、一座のなかに入り込んでいて。
この方は特別なのだから。
あの方の、そんな囁きに支配されるまま。
かけがえのない妻の貞節を、燃えたつほどの劣情にゆだねてしまっていたのだが。
伏目がちに、控えめに抑えた声色は。
意外な無心を告げてきた。
濃紺のストッキング、お持ちになっていませんか?
え・・・?
聞き返すまでもない。
初めて迎えた禁断の夜。
そそがれた精液の熱さに酔った妻は、
それまで脚に通していた、礼譲な黒のストッキングを脱ぎ捨てて。
あくる朝、迎え入れた玄関先に立ったとき。
ブラックフォーマルのすそから黒のパンプスのあいだをよぎる流れるようなふくらはぎには、蒼い艶をよぎらせていた。
娼婦の色なんですって。
いちど抱かれた女は、あくる日一日、蒼を身につけるんですって。
きょうは一日、濃紺のストッキングで足許を染めて。
あちこちお出かけ、してまいりますわ。
よろしくて・・・?
小首をかしげてわたしを窺う妻は、小悪魔の笑みを秘めていた。
ほっそりとした指が、もてあそぶように取り出したのは。
封の切られていない、濃紺のストッキング。
奥様にもきっと、お似合いですよ。
落ち着いた物腰で。
しっとりとした言葉遣いで。
これから妻を捧げようとする男を、優しくそそのかす横顔は。
上品に透きとおり、淫靡に輝いている。
あとがき
長くなっちゃいましたね。^^;
前作の、年配のご夫婦のお宅から洩れてきた、かすかな囁き・・・です。^^
行き着く先は、きっとおなじ。
2007年10月01日(Mon) 07:32:11
「おや。お宅もなんですか?」
「ええ。うちだけじゃなかったんですね」
夜中。
向かい合わせの門のフェンス越し。
苦笑いを交し合う夫たち。
ちょうどタイミングが、ぴったりで。
送り出した妻同士はいつもと変わらぬ会釈を交し合って、正反対のほうへとハイヒールの音を遠のけていった。
お互い回り道をし合っておいて、行きつく先は、たぶんおなじ・・・
午前二時。
こんな刻限に。
まるで約束事のように、黒一色の礼装に身を固めて。
申し合わせたように、肌の透ける黒のストッキングを脚に通して。
漆黒の衣裳が闇に溶けてしまうのは、あっというまのことだった。
「すこし、お邪魔してもよろしいですか」
お互い眠れぬ夜になることは、言うまでもないらしい。
「御覧になりに、伺わないのですか」
初めての夜、なんでしょう・・・?
年配のご主人は、そんな目をしている。
「お宅も今夜が初めて・・・ですの?」
思わず女言葉になってしまうほど、今夜は人恋しい思いがする。
「ええ・・・まあ・・・」
言葉を濁す声色が、どこか震えを帯びている。
この街に越してきたのは、一ヶ月前。
お向かいのお宅が越してきたのも、たしか同じくらいの時分だった。
「一時間ほどしたら・・・ちょうどよいのだと言われているんですよ」
「では、それまでの間だけ・・・」
若い夫はカランと音を立てて、フェンスの錠をおろしている。
「広いお部屋ですな」
見あげるほどの本棚には、百科事典なのか。全集本なのか。
ずらりと並んだ革装の金文字に、若い夫は感嘆の声を漏らす。
この男が半生かかって築きあげた体面も、今夜を境に崩壊するのだが。
お互いの足許を染める靴下の薄さに、とうに気づいていた。
「見せてください」
「あっ、じゃあご主人のも・・・」
お互いズボンをたくし上げて。
それだけでは気がすまなくなって。いつの間にかズボンを脱いで。
「ほほぅ。ガーターストッキングですか。うらやましい」
うちの家内はまだそこまでのたしなみはないのですよ・・・
年配らしい落ち着いた物腰を漂わせたスカートの奥の、意外にセクシィな装いに。
若い夫は舞台裏を覗き込んだような昂奮を覚えていた。
「いえ、いえ。若奥様の色つやが、よく滲んでいますな」
妻からねだった、太ももまでの黒ストッキング。
きっと穿いたまま、姦られてしまうのだろうな。
あらぬ想像に、自らを昂ぶらせてしまっていた。
太ももをぴっちりと締めつけるゴムの感覚が、痛いほど皮膚を刺激していた。
着込んで行った地味なブラックフォーマルには不似合いなくらいつややかな光沢に、年配のご主人も目を細めている。
男の視線なのに・・・感じてしまう。
互いにぞくっとしたものを、覚えたらしい。
ちょっと、触らせてもらえませんか・・・
どちらからともなく、相手の脚に手を伸ばしていって。
肌ごしにすべる手つきに、卑猥なものを感じあって。
いつか脚と脚とを、すり合わせていた。
おや?
ははは・・・
照れ笑いに、すべてを隠して。
そろそろ、時間ですな。
どちらからともなく、言い出すと。
腕時計に目をやって、そそくさと立ちあがる。
では・・・
ええ・・・のちほど。
一時間ほど前に、妻たちがそうしたように。
互いに背中を向け合って。
一見べつの方角に足を向けながら。
遠回りをして、行き着く先はきっとおなじ・・・
チチチ・・・
頭のうえを、小鳥が鳴き交わしながら、ぱたぱたと羽音を響かせてゆく。
まるで、二日酔いのように。
じぃんと痺れたままの、頭の奥。
「あら。遅いわね。ご出勤遅れますよ」
エプロン姿の妻は、朝餉の支度の湯気の向こうで、いつもと変わらぬ笑みを浮かべる。
足許を染めるのは、濃紺のストッキング。
淑徳をたたえた黒のストッキングは、昨晩淫靡な裂け目を走らせて。
なまめかしい白い肌を、ほかの男のまえにさらけ出していった、幻のような昨夜の悪夢。
きゃあきゃあと、くすぐったそうにはしゃぎながら。
夫の手前をとりつくろうだけの、けだるげな抵抗はすぐにやんでいた。
じゅうたんの上にまろばされたふたりの淑女は、左右に互いの身体を並べて。
なで斬りされるようにして、衣裳もろとも婦徳をむしり取られていったのだ。
かわるがわるのしかかってゆく男たちの逞しさを、
隣のご主人とふたり、顔を並べて確かめ合っていた。
仲良くし合っていますな。
そうですな。来週は私どもも、あの殿方のお仲間ですかな。
そう。
今目のまえで、妻たちを辱め抜いている紳士たちは。
いずれも妻や娘をほかの殿方の欲望に供した、奇特な方々。
わたしどもといっしょ・・・というわけですな。
はじめのうちこそ、恥じらいながら。
二人目、三人め・・・
回を重ねるごとに、気分をほぐしていって。
はぎ取られてゆく礼装から、細い肩をあらわにして。
もういっぽうの肩も、むき出しにして。
ストラップを断ち切られて、はじけるようにおっぱいをさらけ出してしまうと。
太ももをさする卑猥な掌の下。
黒のストッキングをいびつにねじれさせていって。
男どもの、欲情に満ちた唇に。
惜しげもなく、裂き散らせてしまっていった。
淑徳を秘めた知的な黒ストッキングを脱ぎ捨てた女たち。
いまは娼婦のような淫靡な濃紺のナイロンが。
これ見よがしなほどなまめかしくふくらはぎを染めるのを。
夫たちは目を細めて、盗み見している。
「きょうは会社を、休もうかな」
あら・・・
出かけるところを、視られたくなかったのか。
夫人たちは軽い失望を、あらわにする。
「お出かけ・・・ですな」
「お宅も・・・ですか」
似たような声を交し合ったのは、つい数時間まえのことだったはず。
互いに相手の妻の足許が、濃紺のストッキングに染まっているのを確認し合って。
意味深い目配せを、交し合っていた。
「お招ばれしましょうか」
「では、今回はうちの番ですね」
若い夫はハーフパンツの下、てかてか光る肌色のストッキングを、
あからさまな太陽の下、恥ずかしげもなくさらしている。
「五人までは、数えましたが」
「うちのやつは、十一人ですよ」
「さすがに若いかたは、タフですねぇ」
「いやー、お恥ずかしい」
夕べはひそひそ声で、語っていたのに。
きょうはどことなく、あっけらかんとしたものが。
妻を寝取られた夫たちにも漂っている。
「なかなかいい・・・舌触り。ですな」
「いえ、そんな。ご主人の・・・いや奥様もほうこそ」
「そうですか?お気に召して、なによりですな」
互いに、相手の妻のストッキングのたしなみを褒め合って。
一時間経過すると
「さて、そろそろ・・・」
と腰をあげて。
互いに正反対の道を、たどってゆく。
行き先はきっと、今回もおなじ。
「夕べはご馳走様でした」
「今夜はお宅の番ですね」
血を吸い尽くされて、衣裳を裂き散らされた年配の奥様は。
今夜は裂き散らされた衣裳のまま、安眠に耽っている。
今夜、自慢の服を引き裂かせるのは、妻の番。
「きょうはばっちり、おめかしさせましたから。楽しんで行ってくださいな」
また・・・女言葉になっている。
ハーフパンツの下には、妻からねだった黒のストッキング。
犯されてるあいだ、薄手のナイロンの微妙な締めつけ感が。
きっと彼を、これから起こるすべてのことから、上の空にしてしまうはず。
「お若い肌を、たんのうさせていただきますかな」
「いやらしい」
夕べはご主人のまえ、戸惑う奥さんのスーツ姿を抱きすくめて。
楚々とした、物腰を乱していって。
恥らってそむけた横顔を覗き込みながら、
蒼いナイロンに滲んだ太ももをおし開いていった、愉しい記憶。
今夜の客は、八人。
妻はどれほど、乱れるのだろう?
家族そろって
2007年10月01日(Mon) 06:57:56
どうやら殺すつもりはないらしい。
直感的に伝わるものを覚えたけれど、
達郎にとりついたその老婆は、からみつくように身をすり寄せてきて、
脚といわず首筋といわず、わき腹といわず、
そこかしこに噛みついては、達郎の血を啜るのをやめようとしない。
痛痒いほどの疼きとともにつけられた傷口を通り抜けてゆく血のかすかな流れが、くすぐったくてたまらんくなってくる。
知らず知らず老婆の吸いやすいように、首をかしげ、脚を差し伸ばしてしまっている自分が、ひどく自然に思えて仕方がなかった。
「母さんを狙っているんだろ?」
―――ようお察しじゃの。
「香奈恵のことも、お目当てなんだろ?」
―――うふふふふっ。
人のわるい老婆の笑いに、自分の笑い声がかさなっていた。
老婆に同調しているわけじゃない。むしょうにくすぐったいんだ。
なんとか自分自身にそんなふうに言い聞かせようとするのだが。
空しい努力を、あざ笑うように。
正体のなくなった身体は理性を忘れ、ひたすら老婆の唇に素肌をさらしてゆくのだった。
とろんとなってきた。
血を吸われすぎたのだろう。
このまま、吸血鬼にされちゃうんだろうか?
そんな疑念が、むしろ心地よく、達郎を包みはじめている。
こっちだよ。
香奈恵を連れて訪れたのは、老婆の棲まう邸。
古びた邸は荒れ果てていて、口さがないものたちには「化け物屋敷」とまで、呼ばれていた。
「人が住んでいるんだね」
香奈恵はふしぎそうに、割れたガラス窓や物が散らばった床を眺めている。
―――二階の奥まった部屋に案内するがよい。あとは妾がうまく導いてくれようぞ。
くっくっ・・・と獣じみた含み笑いを浮かべて、老婆は達郎をそそのかしたけれど。
達郎の身体から吸い取った血を滴らせたままの、かさかさ乾いた唇と。
真っ赤なチェック柄のプリーツスカートからにょっきりのぞいた、香奈恵の発育のよい脚と。
想像の中で、まがまがしく重なってくる。
「ちょっと待っておいで」
ほんの数分、香奈恵をその場に置き去りにする。
もうそれだけでいいのだと、あの親切な老婆は囁いてくれた・・・
「あれ?父さん・・・なにしに来たの?」
達郎は訝しげに、父の美智也を見あげた。
「ああ・・・ちょっとな」
この時間には、とうに会社に行っているはずの美智也なのに、
なぜか出勤して言った時の背広姿のまま、こんな昼下がりにこんなところをうろうろとしている。
いつも落ち着いた父親の大柄な身体つきが、いつになく落ち着かないようすで、あたりをきょろきょろと目配りをしている。
唇がひとりでに、動いていた。
「母さんもいっしょに、来ているんだね?」
「香奈恵もそこにいるのか?」
「・・・・・・うん」
どうやら親子して、おなじことをたくらんでしまったらしい。
達郎の履いている半ズボンの下では、香奈恵のハイソックスが白く眩しく輝いていたけれど。
ズボンの下と革靴のすき間からわずかに覗く美智也の足首を包む黒の靴下は、肌が透けるほどに薄かった。
「女の子の靴下って、妙な履き心地がするんだね」
話題をそらしたつもりだった。
じっさいさっきから、白無地のハイソックスがじわんじわんと、彼のふくらはぎを刺激している。
「ふふん。そうかね・・・?」
互いの首筋に、赤黒い痣のような痕を見出し合って、ふたりはいつか、共犯者の笑みを交わしている。
「見に行ってもいい?」
「あぁ・・・香奈恵はどこにいるんだ?」
教えあった部屋は、おなじフロアの表側と裏側。
間口の狭いドアで仕切られた真っ暗な隠し廊下があって、じつは隣り合わせなのだと、すぐにわかった。
それぞれの部屋には、ご丁寧に小さな覗き窓まで、付けらられている。
「好都合だね・・・」
達郎はまるで大人のような口ぶりをして、もうためらいもなく覗き込んでいる。
小窓の向こう。
モノトーンのプリントワンピースを着た母は、若い男を相手にしている。
けらけらと、くすぐったそうに笑いこけながら、ワンピースのすそをまんまとたくし上げられて。
肌色のストッキングを、もうちりちりに破かれちゃっている。
「香奈恵はどう・・・?」
かすれた声に、
「視て御覧」
美智也の声も、低く震えていた。
うふふ・・・ふふふ・・・
足許にもの欲しげにかがみ込んでいる老婆をまえに。
脚を差し伸べたり、引っ込めたり。
白無地のハイソックスに、かすかなバラ色を散らしながら。
少女は一人前の娼婦よろしく、老婆を挑発しつづけていた。
あとがき
このお話のテーマ。
親子は似る・・・でしょうか?
それとも、仲良きは素晴らしきかな・・・でしょうか?
あんがい、引き合わせるのは愉しい・・・かな?
はたまた、女は怖い・・・なのかな?^^;
シンプルに、男は勝手(怒)だったりして♪