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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

遊んでいる子 まじめな子

2008年08月31日(Sun) 08:10:59

遊んでいる子は、どこにでもいる。
夜中さまよい歩いているときだって。
どこからともなく、向こうから近づいてきて。
すれ違いざま、茶髪をさらりととりのけて、白い首筋をあらわにして。
ななめの上目遣いで、誘いかけてくる。
そのまま手近な電信柱に、抑えつけて・・・
性急に這わせた唇に、すべすべとした皮膚がなま暖かかった。
・・・・・・。
・・・・・・。
やることは相当、ヤッてますね。おねいさん。
下品な言葉を口にしようとしたら、あやうく吸い取った血を口許からこぼしかけた。
おっとっと・・・。
ぱし・・・
女の子は白い目でにらんで、平手打ちをするポーズ。
寸止めで頬に軽く触れた指先は、ひどく華奢でほっそりしていた。
服汚したら、罰金だよ♪
こういう子の罰金は、ひどく高くつく。
真っ白な夏服の季節も、もうすぐおわり。
ばら色のしずくをたらたらとやりたい欲求に、声上ずらせて。
罰金払ったら、汚してもいいの?
・・・ヘンタイ。
声が本気で、怒っていた。
こういうところだけは、こちらよりもずっと健全らしい。
具合、だいじょぶか?
蒼白くなった頬に、さすがに後ろめたくなってかけた声に。
―――罪滅ぼしにならないよ。いまさらそんなこと言ったって。
すべてを見抜いた憐れみ笑いが、かえってきた。
帰り道、気をつけて。
おじさんもね。
バイ・・・
ぞんざいにあげた片手が、後ろ姿といっしょに遠のいていく。

薄い血だった。
体質なのか、遊び疲れのせいなのか。
いや、もちろん。
ぜいたくをいえないのは、とうぜんだった。
けれども絶え間なく襲ってくる飢渇の衝動が。
つぎの獲物を、求めていた。

都会の従姉が、遊びに来ているんだ。
でも、きょうまでしか、いないんだよ。
あしたになったら、もう夏休みはおわりなんだから。
最近仲良くなった、都会育ちの少年は。
首筋にこしらえてやった赤黒い痣を、撫でながら。
ちょっと昂ぶった声でそうささやいていた。
今夜はうちで、お別れパーティなんだ。
セーラー服着てねって、そっと頼んじゃった。
ついでに黒のストッキングも・・・って。
昂ぶりに上ずった声色に。ことさらトーンを落とした声を重ねて。
ママとおなじようにしちゃっても、かまわないんだね?
乾いた血管をズキズキとはずませながら吹き込んだ囁きに。
愛すべき友は、こっくりと頷いてくれた。
そう・・・じゃ。
ごほうびに、噛んであげる。

田舎に来るのに、どうしてセーラー服を着ているのかって?
もちろん、この季節。
都会から田舎に移動する人は、改まった服装をするものだから。
せめて暑苦しくないようにって、ストッキングだけは肌の透ける薄いやつで。
すねを蒼白く、透きとおらせていたりするけれど。
かえってそれが、エッチになまめかしくそそるんだよね。
お父さんが、この土地の生まれで。
都会で得た家族を、連れ帰って、住み着いて。
だから親戚もみんな、都会育ちだったりする。
洗練された服を汚すのは、とても愉しい・・・

やだっ、やだっ、厭ッ!いやあっ!
お母さんが、言い含めているって約束だった。
けれどもそのじつ、そんなことはなくて。
畳部屋の隅っこで決まり悪そうにしている愛する友は。
思い切って言い出せなかったんだ・・・って、いいたげに。
すまなさそうに、目をそらしている。
隣の部屋、灯りがつけっ放しの畳のうえ。
うつ伏せに寝そべっているのは、少女のお母さん。
娘を説得できなかったかわり、黒の礼服の奥深く隠した柔肌を。
ズキズキと疼く牙に、あてがってくれたのだった。
え?もちろん強制なんかしていないよ。
静脈の浮いた肌に、噛み入れてやったとき。
ウッとうめいて、つねられたようにのけぞって。
そのままずるずると、姿勢を崩して。
まるで娘に、手本を見せるように。
豊かな肉づきのふくらはぎを、ストッキングの上から噛ませてくれた。
謎めいた愉悦の笑みを、娘からさえぎるように。
波打つ黒髪に、隠しながら。

ちゃぶ台のうえ。
抑えつけた腕のなか。
娘はまだ、泣きじゃくっている。
やだっ!やだっ!痛ぁい!
噛まれたうなじからしたたる血が、セーラー服の襟首を浸してゆく。
紺色の襟首に走る白線を、赤黒く滲ませて。
身じろぎするたび、真っ白な制服に、ばら色のしずくが飛び散ってゆく。
うっふっふっふ。
やっぱり処女の血で汚すには、白い制服に限るよね。
熱くたぎった唇を、キスするみたいに傷口に重ねていって。
ちゅるっ・・・ちゅるっ・・・くちゅうっ。
聞こえよがしな音をたてて、啜り込んでやる。
更けてゆく夜。
小麦色に陽灼けした、化粧など刷いたことのない頬ぺたに。
おびただしく散った涙を、光らせていた。
都会育ちの子だからって。
だれもがけばけばしいわけじゃない。
ほんとうに良い家の子は、おとなしやかで飾りけのない生娘で。
健康そうな血色のよい肌に、世間ずれのしていない初々しさを、
それはツヤツヤと輝かせていたりする。

まだ染めたことのない黒い髪を、けんめいに振り乱しながら。
必死にいやいやをして、抗っているけれど。
ふたつ並んで鮮やかにつけられた傷口を、つよくつよく吸われるのを。
もう・・・どうすることもできなくなってゆく。
吸い取った生き血は、濃くて剄(つよ)くて、
飢えた胃の腑に、ストレートにしみ込んでくる。
あー・・・。心地よい。
やっぱり若い生娘は、いいなぁ。
唇はいつもの諧調に、リズミカルな弾みを帯びて。
強く・・・弱く・・・ゆっくりと・・・また、強く。
緩急とり合わせて、迫っていって。
動揺の走る初々しい素肌に、魔性の疼きをしみ込ませていってやる。
うぶな子を誘惑するのは、とても愉しい。

理性を痺れさせる毒液を、たっぷりとすり込んでやると。
少女は大人しくなって・・・
黒のストッキングに染めたふくらはぎを、やっと噛ませてくれる気になってくれた。
ふ・・・ふ・・・ふ・・・
通り一遍には、噛まないよ。
そのまえにたっぷり、よだれで汚してやるんだ。
ひどい。
非難のこもった視線を、くすぐったく受け流す。
いよいよ唇を、薄墨色に染まった足首に吸いつけられてしまうとき。
わななく唇から、白い歯を滲ませて。
少女は悔しそうに、目をそむけていた。

しなやかにくるんだ黒のストッキングの向こうがわ。
発育の良いふくらはぎは、知的になまめかしい彩りを帯びている。
すねのまわりを整然と流れる薄いナイロンの生地を。
ねじれるほどに、いたぶり抜いて。
少女は羞ずかしそうに、時おりかすかな身じろぎを伝えてきたけれど。
ねっちりと沿わされてくる、よだれの浮いたべろに。
豊かな脚線を、なぞられていって。
凌辱に耐えかねたように、いったんほつれを見せると。
子どもっぽい破壊欲のおもむくまま、
他愛もないほどのたやすさで。
見るかげもなくちりちりに、噛み剥がれていった。

秋の連休に、またお出で。
あくる朝、少年の家族にまじって見送ってやると。
お母さんはとっさに娘を抱き寄せて。
けれどもすぐに、ふたり顔見合わせて。くすくすと笑って。
お父さんも、ご一緒ですよ♪
闊達な性質(たち)らしいご夫婦は、娘に気取られぬよう、含み笑いを交し合う。

別れぎわ、物陰に呼んだ少女は。
ちょっぴりだけだよ。って、ささやきながら。
おろしたばかりの真新しい黒のストッキングの脚を差し伸べて。
噛・ん・で♪
小首をかしげて、ニッと笑った。
こんな好意を無にできるほどの我慢強さは、持ち合わせていない。
音もなく、スッと唇をさし寄せて。
なよなよとした薄いナイロンのうえ、サッと唾液をよぎらせて。
ストッキングを通して感じた少女の体温に、我知らず牙をたてて。
思い切り、食いついてやると。
きゃっ・・・
かすかに洩れた悲鳴が、頭上に降ってきた。
そのままぬるぬると、いたぶって。
なまめかしい伝線を、ほんのりと滲ませてやると。
もう。
少女は口を尖らせて。
罰金だよ。
いつかどこかで聞いたことのある言葉を、囁きかけてきた。
罰金払ったら、破らせてくれるのか?
洩らした小声に、少女ははにかみながら、無言で頷きかえしてきて。
ストッキング代。
握らせた千円札は、さすがに押し返してきた。

手を振って見送ったご一家の、いちばん後ろ。
家族のだれよりもゆっくりとした歩調の、少女のふくらはぎ。
黒のストッキングに走る、帯のような伝線が。
折り目正しい制服姿に、ふしだらなスキをよぎらせていた。

仲良しの三人組

2008年08月30日(Sat) 07:56:53

人間の家の女の子が三人、うちに遊びに来てくれた。
いつも街で顔を合わせる、仲良しの三人組だった。
そろって三つ編みのおさげを肩に垂らして、白いセーラー服の夏服を着てて。
ひとりはぽっちゃりに赤ぶち眼鏡。ひとりは細面に色白。もうひとりはそばかすだらけののっぺり顔。
みんな、ふつうの女の子たちだった。

さぁさ、お姉さんたちが血を吸わせに来てくれたよ。
遠慮のう、たんとおあがり。
若い子の血は、イキがいいからね。
三人を連れてきたのは、ユウとタツヤのお母さん。
ユウもタツヤも、喉をからからにして、さっきからボクの隣でじりじりしていた。
仲の良い人間の家は。
こんなふうに順番こに、血をくれに来てくれるのだった。
女の子たちかわるがわる、おさげ髪を揺らし合って。
お互い恥ずかしそうに、顔を見合わせ、前を譲り合いながら。
おじゃましますって頭を下げて、うちの敷居をまたいできた。
しんとしていた家のなかが、にわかに華やいで、ちょっと騒々しくなった。

ボクたちよりも、三つ四つ年上のお姉さんたちは。
上背が伸びて、齢以上に大人びてみえる。
夏なのに、そろいもそろって黒のストッキングを履いていて。
それが不ぞろいに、濃かったり薄かったりしていて。
そばかす顔の子のやつは、タイツみたいに濃くて。
細面の子のすねは、青白く透けていて。
いちばん太っちょの子のやつが、いちばん薄くて。
たっぷり肉のついたふくらはぎを赤黒く染めて、はち切れそうに張り詰めていた。
太っちょの子がいちばん面白そうだな、って思った。
このごろ色気のついたユウのやつは、いちばん美人の細面の子のことを、さっきからじろじろ見つめていたし、
姉さんがそばかす顔のタツヤは、早くものっぺり顔の子の手をもの欲しそうに握り締めている。

じゃんけん、ぽん!
お姉さんたちをからかうために、わざとみたいにじゃんけんをして。
じゃあボクはこのお姉さん。
ボクのエモノはきみ・・・って、白い制服の肩をつかまえる。
じゃんけんで決めるなんて・・・って、お姉さんたちはふくれていたけれど。
相手が決まると、顔を覗きこんで、ちょっと迷惑そうに、ほほ笑んで。
お手柔らかにね・・・っていう声が、すこしかすれて震えていた。

ごめんね。
いただくね。
ちょっと痛いかも・・・
ボクたちは口々に勝手なことを呟きながら。
制服を着たお姉さんたちを、じゅうたんのうえに押し倒していった。
くちゅっ。
太っちょの子の首筋に唇をあてがうと、さすがにびくっと身体を堅くして。
こわばった上体を、さらに強く抱きすくめていた。
髪の毛のかすかな匂いに、ボクはいつの間にか夢中になっていた。
唇の下。
陽にさらされて暑くほてった皮膚が、どきどきとした脈動をかすかに滲ませている。
ボクはもう、夢中になって、食いついていた。
隣の子も、さらに向こうの子も、ボクの友だちにおなじ目に遭っているらしい。
時おりきゃっ!とか、痛っ!とか、抑えた声を切れ切れに洩らしながら。
ちらと視界に入った細面の子の脚は、薄っすらとしたストッキングのなかで怯えたようにすくんでいた。

何回されても、怖いのかな・・・
ユウは心外そうに呟きながら。
細面の子から吸い取った血を、お行儀悪くぼとぼとと、真っ白なセーラー服の胸にしたたらせていた。
タツヤに襲われたのっぺり顔の子は、そばかすの浮いた目鼻をキュッと痛そうに引きつらせて、
紺色の襟首に三本流れた白線を、バラ色に染めていた。
眼鏡、はずす・・・
ボクの獲物になってくれた太っちょの子は。
眼鏡を壊さないようにと、ほんとうは襲われる前にはずすつもりだったらしく。
ごめん、あわてちゃった。
ぶつぶついいながら、傍らのテーブルに眼鏡を置いた。
眼鏡をはずすと、意外にかわいい顔をしているなって思った。

きれいな脚だね、ってボクがいうと。
ありがと、って返事がかえってきた。
イタズラしてもいい?って訊くと、あなたのために履いてきたんだよって、声をくぐもらせた。
ボクはもう嬉しくって、あお向けになって姿勢を崩したお姉さんの脚に抱きついて。
太めの脚を覆う薄いナイロンに、たらたらとよだれをぞんぶんになすりつけていった。
すぐ隣でそばかす顔の子が、濃いめのストッキングに裂け目を走らせちゃっていた。
細面の子は、もう放心状態で。
三つ重ねたざぶとんを背中にして、すらりとした足許をべろで撫でられ始めていた。
すべっこいナイロンを、べろでいたぶるようにもてあそんで。
かすかに滲んだほつれに、つけ込むように、軽く歯を立てて、チクチクと噛みついていくと。
ぶつりとかすかな音を立てて、ちりちりになって破けていった。
ものを壊すのって、面白い。
ボクがストッキング破りに熱中しているあいだ。
お姉さんはひと言も、声を洩らさないでいる。
ストッキングを破られるあいだ。
両手で顔を隠して、恥ずかしがっていた。

ごめんね。
ううん・・・
ありがとね。
楽しかった?
おかげさんで。
じゃね。
また、来てね。
ウン、近いうちにね。
破けたストッキングも、よく似合うね。
ばか。

お姉さんたちが辞去したのは、もう夜遅く。
それぞれのお母さんたちが、迎えに来て。
やぶけたストッキングに白いすねもあらわにしたまま、革靴をつっかけてゆく。
そうして帰るのが、お約束。
外ではらはらしながら待っている彼氏や許婚者のお兄さんたちに、
すごくごひいきにされちゃった♪って、自慢して見せつけるんだって。
それぞれの恋人の手を心配そうに握り締めたお兄さんたちは。
伝わってくる体温をかみ締めるようにして確かめると。
「めっ!」と咎めるような目つきで、こっちに笑いかけてきて。
ボクたちも照れくさそうにイタズラっぽい視線を返している。
その昔。
人間の大人たちと吸血鬼の親たちが、顔寄せ合って決めたというしきたりを。
だれもがひっそりと、愉しんでいる。

夜明け前のオリオン座

2008年08月27日(Wed) 05:06:12

夏でもオリオン座が見えるって、知ってますよね?

ふと目ざめたら、まだ起きる時間にはずっとあって。
ぼくは目覚まし時計を止めて、表に出た。
夏は過ぎた・・・と、感じてはいたけれど。
迎えてくれた夜風は身震いするほど肌寒く、
背の高い木立ちの頭を、ざわざわと大振りに揺らしていた。

半年も経つだろうか。
もう、もっとになるだろうか。
だれもが記憶の彼方に追いやってしまった日々。
今はとっくに終わってしまった話題のドラマを見終わると。
ぼくは両親に黙って家を出て、待ち合わせの四つ角に足を向けていた。
季節外れの半ズボンの下は、ひざ小僧の下まで靴下を引っ張りあげていたけれど。
ストッキングみたいに薄い靴下は、脛を暖める力はなくて、
寒々とした外気に当てられて、ふくらはぎの周りにはりついていた。

出てこれなかったかな?
逡巡する、数分間。
時おり耳に入る人声は、塀ひとつ向こうの家のなか。
それでもしばらくすると、遠くからぱたぱたという駆け足が近づいてきて。
足音の主が彼女だとすぐ聞き分けると、ほんのちょっぴり安堵する。
待った?
おさげ髪を揺らして向こうから現れたみち子さんは、学校帰りの制服姿。
いや。
もう学校帰りには、遅すぎる時刻。
いちどふだん着に着替えて、それからまた制服を着なおしたのだろう。
白のカーディガンから、白い線が入った濃紺の襟首を出していて、
てっきり夏服を着てきたのかと思った。
重たげな濃紺のスカートは、ひだにかっちりとアイロンをかけていて。
ちらちら覗くひざ小僧の下は、薄っすらとした黒のストッキングまで履いている。

薄々のストッキングの脚を、寒そうにつま先立ちさせながら。
赤く凍えた頬っぺを覆っていた手を、手袋のうえからはぁはぁと息を吹きかける。
大げさじゃん。
ぼくが苦笑しながらたしなめると。
だって・・・寒いんだもん。
いつもながらの無邪気な声が、返ってくる。
制服なんだね・・・って、わざと訊くと。
だってー。そんなにいい服、持っていないんだもん。
いつもジーンズの彼女が黒のストッキングを履くときは、女学校に通う制服姿のときだけだった。
色白で、上品で可憐な顔だちなのにもったいない・・・なんて。
とても本人は、気づいていないのだ。

とぼとぼと歩く道すがら。
オリオン座を形作る星たちは、寒そうに瞬きながら。
じいっとしずかに、ぼくたちを見おろしていて。
肩を並べて村はずれへと急ぐぼくたちも、
びっくりするほど広がる星の世界に時おり顔見合わせながら。
またたきに応えるように、仰いでいた。

村はずれの雑木林は、陽気のいい時分でも寒々としているのに。
枯葉を落として骨だけになった木々は、月明かりのなか影絵のようにウッソリと立ちはだかっていて。
それじたいが、化け物みたいに映る。
怖いね・・・
声をひそめるみち子さんは、ぼくに軽く寄り添ってきて。
暖かい呼気がなぜかひどくなまめかしく、ぼくの耳たぶを打った。

がさり・・・
あ・・・
草踏み分ける足音に、振り向いたときには。
黒い影はぼくたちのまえに大きく立ちはだかっていて。
ちょっと威嚇するような気配を、こちらに送ってきた。
縮みあがって身を寄せてくるみち子さんを、いとおしく抱きとめながら。
いつも見慣れた影に、親しげに声を向けていた。
びっくりするじゃん。って。

悪いね・・・
声をひそめた黒影の主は。
ぼくの足許から、顔をあげると。
吸い取ったばかりのぼくの血を、彼女に見せつけるようにして。
ぬるぬると光る赤黒い舌で、口許をぺろりと拭っていた。
半ズボンの下に履いていた、黒の薄い長靴下は。
裂け目をいく筋も滲ませて、脛を外気にさらしてしまっている。
血を抜かれて腑抜けのようになったぼくは、
家を出るときには思いもかけなかったくらい、大胆に。
手本は見せたよ。つぎはきみが楽しむ番だから―――
余裕たっぷり、ゆったりとした笑みさえ浮かべて、彼女の肩を引き寄せていた。

大きな切り株に彼女を腰かけさせると。
黒のストッキングの足許に、ゆっくりとかがみ込んでいって。
ひそめた声を発した口許を、薄い靴下のうえから圧しつけてゆく。
キリリと結ったおさげ髪を、月の光に当てながら。
彼女はキッとした視線を、足許に注いでいたけれど。
ぼくの掌をギュッと握り締めたまま、
脚を斜めに流した姿勢を変えないでいた。

ぬるりと這った唇が、黒のストッキングを波立てたとき。
握ってくる細い指がかすかに震え、すがりつくように力を込めてくる。
くちゃ・・・くちゃ・・・
唾のはぜる下品な音を立てながら。
黒影はぼくの許婚の礼装を踏みしだくように、べろをあてていって。
ひとしきり、気の済むまで舐めあげると。
チリッとかすかな音とともに、ストッキングを噛み破っていた。
みるかげもなく噛み剥がれてゆく足許を見まいとして。
傍らの少女はけんめいに、夜空を彩る星座を眺めつづけていた。

あれから、半年は経っただろうか。
いや、もっともっと経っているに、ちがいない。
女学校を卒業したみち子さんは。
夏祭りの晩、吸血鬼に処女を捧げた―――。

夜明け前、彼女の部屋に夜這いわたる黒影は。
そのすこしまえに、ぼくのことをしぜんと目ざめさせて。
あの晩彼女と待ち合わせた四つ角で、顔つき合わせると。
ぼくに道案内をさせて、彼女の家の塀を乗り越えて。
向こう側から手を伸ばして、ぼくを引き入れてくれるのだった。
彼女の部屋の窓を閉ざす雨戸が、わざと半開きになっているのをみとめると。
しーっ。
影は大仰に、唇を一本指で封じると。
お前はここで見ているんだぞ。
子どもの探検隊みたいな芝居かがった声に失笑しそうになるぼくに、
しーっ。
もういちど、一本指を立てるのだった。
半開きになった雨戸。
それは未来の花婿を裏切る証しのはずなのに。
ぼくの視線は、吸い寄せられるようにして。
雨戸のはずれた彼方の闇に、いつか釘づけになってゆく。

真夜中に繰り広げられるお祭りは、まがまがしいほど熱気を帯びていて。
セーラー服を脱ぎ捨てた少女は、もっといい服を着るようになって。
昼間みたいにこぎれいなワンピースに装って。
毒々しい光沢入りのストッキングを穿いた脚を、シーツのうえにくねらせる。
たまには黒も履くんだよ・・・って、いいながら。
夜な夜な、息を殺して見守るぼくのまえ。
女学校のときのストッキングを、一足残らず破らせてしまった彼女。
悪い子になっちゃって、ゴメンね。
ちらと囁いたときだけは、ひどくしおらしげだった。

真夏の庭は、決して寒くはなかったけれど。
ぼくは身震いしながら、いちぶしじゅうを覗き見していて。
覗かれていると知っている彼女は、物陰のぼくを挑発するように、これ見よがしに乱れていって。
そんなぼくたちに、ご両親もきっと気づいているはずなのに。
客間をひとつ隔てた寝室からは、ことりとも音を立てずにいるのだった。

秋に祝言を挙げるぼくたちは、どんな冬を迎えるのだろう?

東京レンタル妻 7

2008年08月26日(Tue) 22:43:32

自宅に戻ってからも。
妻と男の関係は、まだ続いているようだった。
こちらが単身赴任を終えたからといって、
向こうもつごうよく、同時に終わり・・・というわけには、いかないのだった。
妻は時おり、夜遅く戻ってくる。
そういうときには、子どもをマサトの実家に預けて、心置きなく愉しんでくるようだった。
どちらかというと華のない女だった妻は、どこかで”開花”したのだろうか。
夜もしつように求める夫のまえ、ためらいもなく服を脱ぎ捨てて。
ぬるりとした裸身を闇に溶かしながら、高められた感度のまま、濃艶な媚態をあらわにするのだった。

今夜も美佐枝は、真っ暗な部屋に戻ってきた。
ただいまあ。
だれにいうともなく、つぶやくと。
灯りを点けようとして、手探りでスイッチをさがす。
スイッチをさぐりあてようとした手を、だれかの手が抑えつけた。
きゃっ。
悲鳴を上げて飛び上がると。
おれだおれだ・・・
過ぎた悪戯に頭を掻き掻き、マサトは部屋の灯りをつける。
帰り・・・早かったのね。
さすがに後ろめたさにしどろもどろになった妻を尻目に、
飯は食ってきた。シャワーも先に使ったよ・・・というと、
妻のことを目で、浴室に促した。
美佐枝はハンドバックをそのへんに置くと、浴室に向かった。
濃いブルーのストッキングの脚が、ひどくけだるそうだった。
どす黒い衝動が、マサトのなかを駆け抜けた。
後ろから妻を羽交い絞めにして、首に腕を巻いて、その場に押し倒した。
きゃ・・・
短い悲鳴はそのまま、もだえ声に変わってゆく。
下着検査だ。おまえ、浮気してきたな・・・
ひそかな呟きを、心の奥に秘めながら。
マサトはすこし前までほかの男を相手に熱をもった女体を、撫でくりまわしていった。

自宅に戻って半年、しばらくは出張もない生活がつづいた。
未知の男との、妻を通しての奇妙な同居関係は、そのあいだもずっと、つづいていた。
妻が時おりそわそわと、出かけるタイミングを見計らっているようすをしているとき。
わざとこちらから、水を向けて。
予定、入っているんだろ?今夜は子どもを連れて、実家で晩飯でも食おうかな。
そんなさぐりに、浅ましいほどかんたんに引っかかった妻は。
いそいそと身づくろいをして、出かけていった。
そういうときにはいつも、これ見よがしに。
生地は薄いけれども、濃い色のストッキングを脚に通していて。
透きとおる艶の向こう側、白い脛を妖しく淫らな色に染めるのだった。
女もののストッキングというものは、時にひどくイヤラシイ装いになるらしい。
生地の色に薄っすらと染まった脛は、淑やかにも、上品にも映ったけれど。
それと等分なくらい、淫靡な色をしていた。
妻に愛人を持つ夫の目は、まさぐるような視線で、
妻の後ろ姿を舐めている。

自分の留守中、忍び込んで。
ひっそりと妻を抱きすくめ、犯してゆく男。
聞こえないほどの小声で、妻を呼び出して。
押し殺した空気のなか、獣のように狂おしく襲いかかって、妻を狂わせる男。
あの女体を。さほど性には執着しなかった女体を。
どうやってあれほどまでに、狂わせることができたのか?
見映えのしない、かつては素朴すぎた妻のしぐさに、どうやってあの色香を添わせることができたのか?
妻の秘奥を抉っているやつの一物は、オレのものよりも奥まで届いているのだろうか?
人知れず妻の生き血を啜っている未知の男に、マサトはいつか親近感さえ感じはじめている。

妻に愛人を持つ立場―――
まるで持病のようなものだ・・・と、自嘲してみる。
持病というやつは、さほど重たくなくて、すこしばかりの忍耐ですむものならば。
かえって居心地よく、同居できるものであるらしい。
おなじ病をもった夫婦を、オレは東京に見知っている。
久しぶりに、東京の現地妻だった冬美の面影を、なつかしく思い浮かべていた。

東京の事務所は以前とおなじようにせせこましく、ざわざわと居心地が悪かった。
雑然とした匂いのする久しぶりの都会の空気に、へきえきしながらも。
マサトは勤め帰りの雑踏のなかに身をゆだねていた。
自宅に戻って半年して。
東京勤務の経験をかわれて、時おり長期の出張が入るようになったのだ。
そのほうが。妻も、かれ自身も、居心地がよいのだ・・・と、
まさか会社の人事ファイルに書いてあるはずはなかったのだが。
月に1、2度訪れるようになった贅沢な息抜きに、マサトはしばらくぶりの開放感に浸っていた。

気がつくと。
あの街に来ていた。
いまは、金曜の午後。
早めに引けた仕事の後、その足で札幌に戻って、週末を妻子と過ごしてもよかったはずなのに。
足はしぜんと、飛行場から遠のいて。
聞きなれたあのもの憂い、うらぶれた通勤電車の轍に、ぼんやりと耳澄ませていた。
ごみごみとした駅前の雑踏は、あのときと変わりなく、埃まじりのにおいがして。
かの女に声をかけられたときのまま、微雨のなかにけぶっていた。
○○銀座と書かれた古ぼけたアーチも、陳腐なたたずまいのアーケードも。
あのときのままだった。
ひそやかに熱し、ため息したあの身体が、ふと恋しくなっていた。
ふたりきりで過ごした、朝の静かな食卓も。
そして、家を出ていくときの、あの問いかけも。
今夜は何時に、戻られますか・・・?
女はそういって、彼の帰りを待ち受けてくれた。

かの女の夫は、まだ単身赴任中なのだろうか。
そろそろ戻ってくる・・・そういっていたような気もする。
交わした言葉のはしばしが、意外なくらい記憶の彼方に飛んでいることに少し驚きながらも。
入り組んだ道順をたがえずに、あのさびれたアーケード街を通り抜けていた。
かの女の棲む古ぼけたアパートも、あのときのままに。
いっさいがっさいを封じ込めたみたいに、室内の暗がりをカーテンの裏に押し隠している。
窓辺に滲んだかすかな灯が、季節にしては肌寒い外気にさらされている身に、ひどく暖かそうに映ったとき。
男はもうがまんできなくなって、なんども足踏みをくり返した階段を、ためらいなく昇りはじめていた。
カンカンと無機質に響き渡る錆びた鉄製の階段の音が、かの女の幻影に近づいてゆく。
ぎょっとした。
階段を昇りきった、踊り場に。
男がひとり、廊下に佇んでいた。
まるで通せんぼをするように、スラックスの足を伸ばして。
それがかの女の夫だと気づくのに、たいした時間はかからなかった。
かの女と同年代の、そしてマサトよりも目に見えて年若い男は、眩しげに彼を見あげて。
「妻に逢いにいらしたんですか?」
しごく、ていねいな口ぶりだった。
・・・ご主人ですか?
そういうのが、やっとだった。
見知らぬ男のさりげない言葉つきにずばりと差された図星に、致命傷を負ったみたいになって。
まんまと自白剤を嚥(の)まされたスパイのように。
マサトはどこまでも饒舌になりそうな自分を、自覚していた。
なにを云われるのか、と、いぶかっていると。
「残念ながら・・・先客ですよ」
男は自分の妻を犯しに訪れたはずの相手に、むしろ共犯者のようにイタズラっぽく笑いかけて。
肩をすくめて見せたのだった。
そっと指差した窓越しに。
かすかな声が、洩れてくる。

さびれた商店街には不似合いなくらい、新しい喫茶店の照明は明るかった。
真新しい灯りのそらぞらしさに、お互い身を隠すすべを失った影法師のように、肩をすくめあって。
男ふたり、うずくまるようにして、ほろ苦いコーヒーを啜っている。
シンヤと名乗る、かの女の夫に。
「妻がお世話になっております」
礼儀正しすぎるほど、きちんとあいさつされて。
マサトは居心地悪そうに、出されたコーヒーを啜り込んだ。
お世話になっている。
いったいどんなお世話を、目のまえの男の妻にしたというのだろう?
「あ・・・いえ、どうか。ご遠慮なさらずに」
むしろ恐縮したのは、かの女の夫のほうだった。

今夜のお客さん。長距離トラックの、運転手でしてね。
月の29日に、ちょうどここに立ち寄るんです。
初めて顔を合わせたとき、ちょっとやばかったんです。
何せ、密会の真っ最中に、それとは知らずに戻ってきたものですから。
宅配屋さんですよ。
妻が、能面みたいな顔をして。
落ち着いた口調でしらじらしい嘘を吐(つ)いたとき。
ああ、なるほどな・・・って、思ってしまったんですよ。
ふつうなら、われを忘れていてもおかしくない状況なのに。
妻のことに無関心になるほど、夫婦の愛情が薄れたつもりもないのに。
なぜかすんなりと、妻の嘘を呑み込んでしまっていたんです。
まるで、甘い毒でも嚥(の)み込むみたいに。
わたしはタバコを買ってくるから・・・って。
あたふたと、その場を逃れてきて。
それからまる一時間というもの、家には戻りませんでした。
いや、正確に言うと・・・
玄関の前までは、戻ってきていたのです。
別人のようななまめかしい吐息が、おわったとき。
わたしはあきらかに、別の種類の男に入れ替わっていたんです。

うふふふふっ。
思わずくすぐったくなって、笑みを浮かべると。
オレは相手の肩をぽんと叩いて。
じゃあ・・・ご同類、というわけですな。
今ごろわたしの女房も、男を引き入れている時分なんですよ。
直接やり取りはしなくても。
お互い相手のスケジュールは、なぜか分かり合っている間柄ですからね・・・
覗いたり、なさるんですか?ボクは声だけで・・・それ以上は勇気ないです。
ははは。どちらがすぐれている・・・ということはないですよ。
だってあなたは、声だけで昂ぶることができるんだもの。
目のまえの男の顔には、しずかな安堵の色がただよっている。

ごいっしょしますか・・・?と訊くかの女の夫に。
視たらほんとうに、嫉妬しそうだ。
そう呟くと。
だからこそ。妻もあなたを朝までいさせたんでしょうね。
かの女。
初めて迎え入れた貴方のことが、まだ忘れられないようですよ。
あしたの晩。
夫婦で食事に出かけることにしていたのですが。
ドタキャンしようと、思うんです。
もういちど。かの女のお客様に、なっていただけますか・・・?


あとがき
番号は、通し番号にしましたが。
これは「東京レンタル妻 2」の続編です。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-1465.html
かなり前に、ほぼ書き上げていたのですが。
なんとなく、あっぷしそびれていて。
ちょっとまえに、すこし直して。
いつもとはちがった刻限に、あっぷしてみました。

黒と白と赤

2008年08月18日(Mon) 00:04:15

~柏木からのごあいさつ~

はじめにひと言、お断りをば。
このお話は、当ブログの管理者・柏木の描いたものではございません。
かねてリンクをお願いしている、舞方雅人さまが私んトコのために、描きおろしてくださったお話です。
本家の柏木がびっくりするほど、ウチの世界になじんでおりますので。
くれぐれも、お間違えなきよう・・・。^^
まさに端倪すべからざる味わいですゾ。^^
それでは、はじまり。はじまり。

「黒と白と赤」

「ん・・・あ・・・ん・・・」切なげな吐息が漏れる。「うふふ・・・感じているのね? 可愛いわぁ」少し厚地の真っ白なタイツの上をピンク色の舌が生き物のように這っていく。舌先がつんつんと触れるたびに、相手の躰がぴくっと震える。夫の愛撫とはまったく違う感覚に戸惑いを感じているのだろう。可愛い人・・・獲物にしておくにはもったいない。口元に鈍く輝く牙をむき出しにして、柔らかい太ももに突き立てる。「ん・・・」吐息がさらに切なげになり、躰がじょじょに弛緩する。つつつと真っ白なタイツが伝線し、一筋赤い血が垂れる。流れ込む甘い血潮をたっぷりと味わうと、女はおもむろに顔を上げた。美しくも妖艶な表情で口の周りについた血をぺろりと舌で舐め取っていく。血こそ彼女の生きる糧。美しい獲物から美味しい血を味わうことこそ最高の愉悦。彼女はこの瞬間に満足していた。

くったりと壁に寄りかかり座り込んでいる美しい女性。漆黒のレオタードと見事なコントラストをなす真っ白いタイツが片方だけ伝線し、少しだけ赤茶けた血がにじんでいる。何が起こったのかすら理解できていないようなうっとりとした表情を浮かべ、目の前のもう一人の女性を見上げていた。彼女を見下ろしているもう一人の女性も、彼女と同じように漆黒のレオタードを身に纏い、白いタイツを穿いている。わずかな照明しかないうす暗いホールの中、周囲に設置されたバーとミラーがここがバレエの練習場であることを示していた。

「うふふ・・・どう? 気持ちよかったでしょ?」かがみこみ、耳元でそうささやく美女一人。彼女がこの練習場でバレエを教えているのはこの街では有名な事実。海を渡った彼の地から来た彼女にとって、長いこと慣れ親しんだバレエを教えるのは造作もないこと。この地では珍しい金色の髪も青い目も、バレエではとても素敵なアクセントになる。お気に入りの黒いレオタードと白のタイツに身を包めば、そこは彼女の世界になった。

「は・・・い・・・」まるで夢の中での出来事のようなうっとりとした表情で答える女性。彼女の教室にバレエを教わりに来たときから、すでに彼女は目をつけられていた。幼き日々にやっていたバレエを、再びやるようになったのは愛する夫のため。大好きな夫に少しでも喜んでもらおうと、美しい躰をより美しくするためにこの教室にやってきたのだ。そこがまさか人外の者の世界だとは露知らず。

「あなたのこと・・・すごく気に入ったの。私のものになりなさい」優しく耳元で語り掛けるバレエの先生の言葉。何も考えることなく彼女はこくんとうなずいていた。それがどのような意味を持つのか、そんなことはどうでもいい。とろけるような愛撫と太ももに感じた小さな痛み、それに続く甘美な感覚は彼女の思考をいとも簡単に奪ってしまう。薄れ行く意識の中で、彼女は先生の姿がなぜか鏡に映っていないことがふしぎだった。

                     ******

「ごめんなさい。疲れているの」そう言って夫を拒むようになったのはここ数日のこと。結婚してまだ一年ほどしか経っていない若い夫にとって、その返事はあまりにも残酷だろう。でも、言いつけは守らなくてはならない。そうしないとすべてを失ってしまうから。失うのは耐えられない。だから・・・しばらくの間は耐えてもらうしかないの。

「ごめんなさい。疲れているの」物憂げな表情でそう言った妻。前から色白だった妻は、ここ最近さらに色が白くなったと夫は感じる。それに比して口紅を塗られた唇がとても赤い。ぬめるような赤い唇を、時折舌で舐めていることに妻は気がついているのだろうか?そして、それを見るたびに夫は心がかき乱され、あそこを硬く勃起させてしまうことに気がついているのだろうか・・・

「あなたのために美しくなるからね」そう言ってバレエを習い始めた妻。金髪の美しい外国の女性が開いているバレエ教室。妻以外にも中学生や高校生の少女たち、場合によっては熟年女性も健康のためと称して習いに行っているという。

夫が気になったのはちょっとした噂。バレエを習っている女性のうちの幾人かが時折貧血を起こすという。バレエは見た目よりハードな運動だ。だから熱心に練習すればそんなこともあるのだろう。だが、健康で一度も貧血を起こさなかった少女でさえ、頻繁に貧血を起こすようになるというのはちょっと異常ではないのだろうか?

妻は言葉どおり美しくなった。適度に引き締まったプロポーションは美の芸術の域にまで達しようかというぐらい。一緒に街を歩けば道行く男たちが振り返る。それはとても誇らしいことではあるものの、どこか男を不安にさせるものでもあった。

仕事から帰ってくると、カーテンを引いた薄暗い部屋で横になっている妻。夫が訊くと、このところ多少貧血気味だという。太陽がまぶしいので外には出たくないらしい。でも、バレエの練習のある日はうきうきとして出かけていく。練習は夜だし、夜になると心が浮き立つのだそうだ。だが、本当にバレエに行っているのだろうかと夫は思う誰かと浮気をしているのではないだろうか・・・だから拒否をするのではないだろうか・・・

いそいそと出かける支度をしている妻。新しい白いタイツをパッケージから出している。最近は毎回のように新しいタイツを用意しているらしい。そんなにすぐにだめになってしまうものなのだろうか。

今晩こそは・・・夫は妻の行動を確かめるべく後を追う。バレエに行っている妻を確認して安心したいため。それだけのために夫は妻の後を追う。以前も美しかった妻は、今ではもっと美しい。その後姿を見ているだけでも、夫の胸はざわめくのだ。お預けを食らっていた仕返しに、今ここで襲ってやろうか。そんなことすら考えさせられる。

妻がやってきたのは一軒の住宅。入り口にはバレエ教室の看板が立っている。この家の地下室がホールになっているとのこと。同じ時間帯の生徒たちなのか、若い女性たちが何人か入っていく。その中に妻の姿も混じっていた。

夫はホッとする。妻はちゃんとバレエを習いに来ていたのだ。このまま家に帰って夕食を取ればいい。だが、夫の足は動かなかった。

妻の帰りは22時ごろ。以前は21時過ぎには帰ってきていた。近々バレエの発表会があるという。そのために居残り練習しているのよと笑っていた妻。だが、本当にそうなのか?疑念を抱いてしまうと確かめずにはいられない。夫はその場を立ち去れなかった。

レッスンが終わったらしい。三々五々と入り口から女性たちが出て行く。思い思いの方向に足を向けながら、友人たちに名残惜しそうに手を振っている。夫は待った。妻が出てくるのを待った。だが、妻は出てこない。五分が経ち、十分が経っても妻は出てはこなかった。

夫はいても立ってもいられない。足がついその家に向かう。もしかしたら妻は別の出口から出て行ってしまったのではないか?もうあの家にはいなくて、どこかで男と会っているのでは?そう思うと止められない。確認だけ。いるかどうかの確認だけ。それだけできればいい。夫はついに家の前まで進み出た。

呼び鈴が鳴る。思わず笑みが浮かんでしまう。やっと来たようね・・・彼女の牙のために伝線してしまった白いタイツから顔を上げ、うっとりとしている女の耳元にささやいた。「あなたのご主人が来たようよ」その言葉に、女の顔にも笑みが浮かんだ。

誰も出てこない。家の中は電気も消えている。やはり妻はもういないのか?どうしよう・・・ためらったのは一瞬だけ。夫はドアノブを回してみる。鍵がかかっていればあきらめただろう。だが、ドアノブはするりとまわり、音もなく開いていく。まるで家の中に入って来いとでも言うかのように。

夫は自分の躰をするりと入り込ませ、背後でドアを閉じる。暗がりに目が慣れると、広い玄関からは廊下がつながり、地下への階段がわきにある。「すみません。誰か居ませんか?」呼びかけてみても返事はない。悪いこととは知りつつも、夫は靴を脱ぎ、一歩を中に踏み入れた。

「あ・・・ん・・・」いつもとは違う感触。自分の躰が冷えていく。しばらくぶりに味わう感触だ。気持ちいい・・・いつもはこの感触を与えている。でも今日は受け取っているのだ。さあ、早くいらっしゃい。あなたの奥さんがどうなったのかを教えてあげる。とても素敵な吸いっぷりよ。唇に指を這わせ、舌先で指先を舐めていく。しばらくぶりの感触に、彼女自身も酔いしれていた。

一段一段恐る恐る足を進める。自分は何をやっているのだろうという疑問がないわけじゃない。だけど彼自身もうどうにもならないのだ。目に見えぬ力が彼を呼んでいる。そうとでも考えないとおかしいぐらい。ふかふかの絨毯に包まれた階段。足音はしない。それにしても、本当に誰もいないのだろうか・・・

地下にあったのは二つのとびら。一つは更衣室とプレートがついている。そしてもう一つは・・・夫はそちらのドアの取っ手をグッと握り締めた。

夫は思わず声を上げそうになる。ドアの隙間から覗き込んだ彼の目に、ホールの中の二人の女性の姿が映ったのだ。片方は金髪で肩までの髪の少し背の高い女性。もう片方は背中までの黒いつややかな髪の女性。後姿だけど間違いない。あれは妻だ。夫はそう確信した。

二人の女性はともに黒いレオタードと白いタイツを穿いている。薄暗い中で妻は先生であるはずの金髪女性の前にひざまずき、何かをしているようだった。何をしているのだろう。
夫は目を凝らす。そして息を飲んだ。

妻の舌が先生の白いタイツの上を這っている。両手でいとしそうに抱きしめた太ももに、ピンク色の舌をぬめぬめと這わせている。白いタイツはところどころ伝線し、一部が赤く染まっていた。

まるで夫が見ているのを知っているかのように、妻は少し角度を変え、先生の白いタイツを愛撫する。唾液で湿った白いタイツに、いとしそうに指を這わす。そしてそっと口付けまでしてるのだ。

「うふふふ・・・どうかしら、私の血の味は?」妖しい笑みを浮かべ、先生が妻に問う。「はい。とっても美味しいです」妻が白いタイツから口を離すと、新たに伝線した白いタイツに血がにじむ。

妻が先生の血を吸っている。そんな衝撃的な事実を目の当たりにしながら、夫は股間をたぎらせていた。普段の妻とはまったく違う妖艶な妻の姿に、欲情を禁じえなかったのだ。

「ほら、あなたのご主人が来ているわ。あなたを見て興奮しているわよ」「はい、知ってました」二人が入り口の方を向く。そこから覗いている夫に妻がふっと笑みを漏らす。「あなた。今はまだ入っちゃダメよ。そこで覗いているだけにしてね」

夫は何かを言いかける。ドアを開けて中へ入りたい衝動に駆られてしまう。だがそれは叶わない。なぜなら彼の躰はもう彼の自由にはならなかったから。妻の目が赤く輝き、夫の自由を奪ってしまったのだ。

「ごめんなさい。でも安心して。今晩一晩だけの辛抱よ。私は明日には生まれ変わる」見たこともない妖艶な笑みで唇に指を這わせる妻。真っ赤な唇が濡れたように光っていた。「見て、あなた。もうほとんど鏡に映らなくなったわ。私も先生の仲間になったの」妻の言葉に夫は驚いた。ホールの壁に広がっている鏡に二人の姿が映ってないのだ。「今までごめんなさい。変化し終わるまでダメって言われてたの。ねえ、あなた知ってた? 血ってすごく美味しいのよ。それに一人一人味が違うの。あなたの血の味はどんなかしら」そう言った妻の目は欲望に濡れていた。

「うふふ・・・よかったわねご主人」金髪の先生が髪をかき上げる。「彼女、とってもあなたを愛しているんですって。だからあなたが死ぬまでは一緒にいるそうよ」くすりと笑う先生。「血を吸われながらのセックスは最高よ。一度味わったらもうやめられないわ」「うふふ・・・今日はダメだけど、明日になったらしてあげるね。あなた」夫は言葉も出ない。だが、すでにその言葉どおりであろうことは肌で感じ取っていた。

「うふふ・・・でも時々は外で血を吸うのは許してね。あなたの血はきっと美味しいと思うけど、いつも同じ味じゃ飽きちゃうでしょ」「心配はいらないわ。あなたの思うとおりにしなさい。彼はもうあなたの虜。あなたの言うがままに生きるしかないわ」ああ、そのとおりだと夫は思う。黒いレオタードと白いタイツ姿で笑みを浮かべている妻に、彼は心の底から惚れ直していたのだ。これからも妻のためだけに生きるのだ。彼の血がすべてなくなり、妻が別の男を虜にするまでは。夫はそれで満足だった。

END

~柏木によるあとがき~
いかがでしたでしょうか?
タイツに包まれたふくらはぎから吸血する・・・という最初のシーン。
まるで鮮明な動画を見るような臨場感が漂っていますね。
ここでグイッとお話の世界に引きずり込まれた読者のかたも多いと思います。
女ふたりの交し合う息遣いさえ耳もとに届きそうな、ねっとりとしたからみ合い。
あなたが死ぬまでは一緒にいる・・・という、ちょっぴりブラックなオチ。
いつも同じ味じゃ、飽きちゃうでしょ・・・という、こともなげな浮気心。
ストーリーそのものは、ごくシンプルで、わかりやすい設定で。
それでいて、状況描写・心裡描写を濃くする手法。
文章のはしばしから芬々と漂う、妖しい色香。
ついに本家が、のっとられたかな?(^^;)
柏木もがんばって、描きま~す♪
舞方さま、今回はまことにありがとうございました。m(__)m

試合のあと 2

2008年08月07日(Thu) 07:01:42

試合のまえに、話つけておくんだぞ。
監督のおじさんが、こっそり耳打ちをすると。
吸血鬼の男の子たちは、だれもがしんけんに、うなずいて。
だれかがうふふふ・・・と、含み笑いをすると。
ばか!
そいつの肩を、べつのだれかがどやしつけている。

陽射しの降り注ぐグラウンドは。
目も開けていられないほど、眩しくて。
その眩しい彼方から。
相手チームのユニフォームを着た、同年代の男の子が。
短く刈った坊主頭の下、やっぱり眩しそうに、こちらのようすを窺っている。
やあ。
お互い気まずそうな照れ笑いを浮かべあって。
―――朗らかな感じのする、いいやつだな。
―――どうやら、悪いやつじゃなさそうだな。
それぞれに抱いたそんな印象が、相手に伝わるのも早かった。
陽射し、眩しくない?夜のほうが得意なんだろ?
いたわりをかけてくる人間の子に。
夜のほうが・・・って・・・なんて、口ごもったら。
あははははっ。
いさぎよいくらいこざっぱりと、笑い流してくれた。
これ、彼女。
人間の男の子は、いともむぞうさに。
肩を抱くようにして、恋人を引き合わせてくれた。
南国ふうな美女に見えたのは、ぴちぴち輝く小麦色の肌のせいばかりではないだろう。
目深かにかぶった帽子の下。
てらいや翳りなどとは無縁の笑み顔が、いっしんにこちらを見つめている。
帽子にはさまれて不ぞろいになった、真っ黒に鮮やかな前髪。
男の子みたいに秀でたまゆ毛。
きらきらとした、黒い瞳。
笑んだ口許からこぼれる、健康そうな白い歯。
瞳の奥に輝く開放的な明るさに釣り込まれるように、笑いかけると。
エヘヘ。
イタズラっぽいはにかみ笑いをして、身体をねじり、甘えるような視線を、彼氏のほうに向けていた。
なんだよ・・・
彼氏のほうも、照れたように笑って、照れ隠しに彼女のお尻を、黄色いミニスカートの上からどやしつける。
陽射しの匂いのする、笑みの交錯―――。
吸血鬼の冷え切った皮膚の裏にまで、明るい陽射しを射し込んできたみたいだった。

試合終了。
人間の男の子たちが、どやどやとグラウンドから出てゆくと。
入れ替わりに女の子たちが、おずおずとお互い目配せしあいながら。
おそろいのライン入りのハイソックスを履いた脚を、恋人たちとその悪友たちがルールにのっとって踏み荒らしたグラウンドのなかに、踏み入れてくる。
紹介された彼女は、黒い髪をツヤツヤと輝かせて、みんなのいちばん後ろに隠れるように佇んでいる。
だれにも、奪られるものか。
女の子たちのなかから、きゃあっと声があがったのを合図のように。
ほかの吸血鬼仲間とおなじように、ダッシュしていた。
クモの子を散らすようにほうぼうに駈け去ろうとする女の子の背中、背中、背中。
ノースリーブの肩に黒髪を揺らしながら、ぶきっちょな走り姿をつかまえて。
さっきまで彼氏が駆け巡っていたおなじグラウンドに、押し倒してしまっていた。
はずむ肢体のすみずみにまでめぐる、急調子な鼓動に、狂おしいくらい目をくらませて。

やだっ、やだっ、やだぁ・・・
黄色いユニフォームを、泥まみれにしながら。
女の子はかぶりを振って、吸いつけられてくる唇を避けようとしている。
両腕で、彼女の肩と二の腕を、押さえつけて。
ひざで、ミニスカートのすそを、踏んづけて。
小さい頃、虫捕りでつかまえた蝶ちょの羽根を、広げるように。
いつものお得意の、展翅板状態。
ふと顔をあげて、遠くの誰かを捜すと。
組み敷いた女の子の向けたのとおなじ、まなざしの彼方。
相手チームのユニフォーム姿が、陽焼けした顔に照れ笑いを浮かべていた。
気取ってVサインをしてやると。
おなじサインが、返ってきた。
彼女のほうへは、おどけた投げキッスまで、送られてきた。
覗き込んだ少女の顔は。
健康そうな小麦色の頬によく映えた白眼を、恥ずかしそうにそむけていて。
むき出しの首筋が、さぁ噛んで・・・と言いたげに、なめらかな輝きをよぎらせていた。
あとでご馳走させられるはずのハイソックスを汚すまいとして、
脚をかばうように立てひざをしつづけているのが、むしょうにかわいかった。

わりぃな。
噛みつくまえ。
もういちど、彼氏のほうにまなざしを投げると。
お手柔らかに。
うんと向こうで、おどけたように両掌を合わせていた。
潤んだ唇が、怯えて引きつる首筋を、くわえるようにして。
ちょっぴりうるうると、なめらかな皮膚のうえをすべらせると。
グサリと牙を、突きたてていった。
うら若く健康な、生娘の血が。
乾いた唇を、喉を、心地よく濡らしていった。

痛かった?
ん・・・だいじょうぶ。
女の子は凛と言い放つと。
立てひざをしていたひざ小僧を、引き寄せて。
たるんでずり落ちていたハイソックスを、むぞうさに引っ張りあげると。
思う存分、舐めさせてくれた。
遠くから。
じりじりとした視線が、痛いほど注がれてくるのを、横っ面でうけ流して。
女の子を促して、芝生の上にうつ伏せにすると。
リブの浮いたハイソックスごし、ピンク色をしたふくらはぎが、じんわりと滲むように透けていた。
しなやかな肉づきに沿って、ゆるやかなカーヴを描いたリブの上。
唇を吸いつけると、汗の薫りが、かすかに鼻先をよぎる。
ハイソックスごし、柔らかなふくらはぎが、キュッと引きつった。

ごく、ごく、ごく、ごく・・・
おもうさま、飲んでしまった。
首筋から。胸許から。ふくらはぎから。足首から。
彼女はだんだん、慣れてきたらしい。
低く鼻を鳴らしながら、応えてくれる。
ぴちぴちと輝くむき出しの太ももに噛みついたときには、
きゃああっ、と、声をあげて。
語尾がかすかに震えたのは、きっと演技ではなかったはず。

あくる朝。
ほつれた髪を、お互いに見やりながら。
犯しちゃった?
うん。ありがとね。
先週、話をつけたとき。
見返りに一回だけ・・・って、いわれて。
いさぎよく受けた彼のパンチが、頬っぺたにまだ疼くような痛みを埋めている。
彼女は・・・?
気遣わしげな顔つきに。
だいじょぶだよ。
交し合った声に、彼氏はほっとしたみたいだった。
おそるおそる姿を現す彼女の気配を背中に感じながら。
ふたりのあいだのへだたりを、みずからとりのけてやると。
ちょっとのあいだ、顔見合わせて。
さいしょははにかんだように、視線をそむけあっていたけれど。
だまって差し伸べられた彼氏の腕に巻かれるように。
制服姿がしおらしく、あとにつづいてゆく。
また、来てね。こんどは三人で、愉しもうね。
むぞうさに投げた声に。
彼女は「もうっ!」って、咎め笑い。
彼氏はニヤリ・・・と、はにかみ笑い。
きっと来週は。
体育館のマットのうえ、汗だくになって過ごすのだろう。


あとがき
前作「試合のあと」の、続編です。
あちらが総論、こちらが各論・・・なわけないか。(^^ゞ

試合のあと

2008年08月07日(Thu) 07:00:01

まえがき
暑い夏ですね。A^^;
スポーツの夏ですね。(^^)/
ちょっとさわやかに?迫ってみました。(笑)


親善試合が、おわったあと。
吸血鬼の男の子たちのお目当ては、応援に来てくれたチアリーダーの女の子たち。
人数はろこつなくらい、彼らの頭数に合わせられていた。
毎年夏に村で開かれる試合のあとは。
人間の男の子たちが何事もないように着替えをしているあいだ。
決まって、グラウンドいっぱいに鬼ごっこがくり広げられる。
きゃーきゃー叫びながら逃げ惑う女の子たちは。
足の遅い順、運動神経の鈍い順、運の悪い順に、袖なしのユニフォームからむき出しになった肩をつかまれて。
一人、またひとり・・・と、組み敷かれていって。
人間の男の子の学校から来た子たちは、赤。
吸血鬼の子たちのために応援に来た、姉妹校の子たちは青。
それぞれおそろいの、色鮮やかなユニフォームを、泥んこにして。
子どもっぽくむぞうさにあてがわれた、まだ稚なさののこる唇に、せいいっぱいの身もだえをしながら。
チカリとむき出された牙に、陽射しにほてった小麦色の皮膚を、破られてゆく。
おそろいのしましまもようのハイソックスは。
激しい振りつけのあと、ちょっぴりずり落ちて、汗ばんでいて。
圧しつけられた唇の下。
太めのリブを、くしゃくしゃにゆがめながら。
ゆっくりとバラ色のシミを、広げていった。

夜。
集められた大広間には。
まるで修学旅行みたいに居並んだ、紺と白の制服姿。
おそろいの紺のベストにプリーツスカート、白のブラウス姿の村の学校の女の子たちは、
姉妹校の子たちのセーラー服姿を、眩しそうに見つめている。
さっき吸われたふくらはぎから。
汗ばんだしましまもようのハイソックスを脱ぎ捨てて。
(記念に欲しがった男の子に、気前よくあげちゃった子もいるようだ)
だれもがおそろいの、黒のストッキング。
夏だから。
ちょっとでも、涼しげに・・・って。
どの脚もじんわりと透けて、白い脛をなまめかしく浮き上がらせている。

やだー。
えっち・・・
女の子たちは、口々に。
足許に迫ってくる吸血鬼の子たちを咎めながら。
ひとり、またひとり・・・と。
たたみの上に、まろばされていって。
重たいプリーツスカートをたくし上げられた太ももに。
なよなよと頼りない薄手のナイロンごし、
ぬるぬるとしたよだれをあやした、なまの唇を這わされて。
友だちどうし、顔見合わせて。
くすくす笑って、はにかみながら。
身に着けたままのスカートの下、
びりびりとたあいなく、破かれてしまってゆく。
人間の男の子が、ひっそりと電気を消すと。
きゃー。
だれかがひと声、叫んだものの。
あとはただ、熱っぽい闇―――。

虫の鳴き声もかしましい、あばら家の外。
人間の男の子たちは、時おりちらちら後ろを振り返りながら。
ジィジィと鳴く虫の声に、うるさそうに顔しかめつつ。
ばたつかせる脚が、たたみを蹴る音。
時おり洩れてくる、切なげなうめき声。
激しい身もだえを伝える、衣擦れの音。
そうした音たちのなかに、自分の彼女のそれを聞き分けようと耳をすませている。

熱っぽくはずんだ村の夜更けは、しずかに刻を重ねながら更けてゆく。

夢遊病?

2008年08月07日(Thu) 06:57:17

妻が夜更けに、こっそりと出かけてゆく。
それも決まって、水曜の夜。
まるで意思をなくしたように、頭を心持ちかしげた姿勢で。
わたしが寝静まったのを、顔覗きこんで、確かめて。
おもむろにブラウスに袖を通し、いつも黒のロングスカートを腰に巻きつけて。
街灯ばかりがともる、真夜中の路を。
とぼとぼとした足取りに、あわせるように。
ロングスカートのすそは、ひらひら、ひらひら、視界の彼方の闇に呑み込まれてゆくまで、しずかに揺れている。

妻が足を向けるのは、街はずれの公園。
そこだけは大きな街灯が周囲を照らし出していて。
きれいに刈り込んだ芝生がいちめんに、昼間よりも鮮やかに広がっている。
その灯りの範囲に区切られた、ぎりぎりの境界の。
ひっそり茂った木立ちの傍ら。
ベンチに腰を下ろして待ち受けていた人影は、妻の姿を認めると。
スッと身を起こして、妻に席を譲ろうとする。
妻はゆっくりと、かぶりを振って。
男が座っていたベンチのうえ、ハイヒールの脚を片脚乗せて。
ロングスカートのすそを、思い切りよくサッとさばいて。
こうこうと照らし出す街灯の下。
太ももの周り、てかてか輝くストッキングの光沢を見せつける。

男はいまいちど、女の足許ににじり寄って。
ベンチの上に乗せられた足の甲を片手で抑え、
もう片方の手で、ふくらはぎを撫しながら。
赤くただれた唇を、ねっとりと這わせてゆく。
ぬらりとてかる、肌色のストッキングのうえから、なぞるように。
ぬるり、ぬるり・・・ぬるり、ぬるり・・・
なん往復も、くり返し。
薄手のストッキングが波打つほどに、しつように。
ヒルのような唇を、眼を細めながら這わせてゆく。

足許に加えられる凌辱を、女は艶然と見おろして。
しまいには男のなすがまま、
ブチブチと音を立てて、噛み破らせてゆく。
惜しげもなく、というほどに。
いさぎよく、と思えるほどに。
脚を包んだ礼装を、みるかげもなく引き破らせてしまうと。
女ははじめて、気が済んだ・・・という面持ちで。
礼装を凌辱した唇に、ゆっくりと手の甲を与えてゆく。

ふと、男が振り向いた。
瞳にこもった異様な力に気おされて。
わたしたちはしばし、視線と視線とをからませていた。
ひそかな祭儀のようなパントマイムに、魅せられたように。
不覚にもいつか、昂ぶりを覚えていて。
それを見透かすような眼が、あざけりひとつ浮かべずに。
女にわからぬよう、鄭重な礼をかえしてきた。
わたしがひっそりと、頷くと。
影はふたたび、女の足許に絡みついていって。
女は嫌がりもせず、
もう片方の脚にまで、おなじ凌辱にさらしていった。

おかしいわねぇ。
悪い夢でも見たのかしら。
翌朝、ダイニングの椅子の背中にむぞうさにかけられたストッキングをぶら提げて。
ハデに裂けた痕を、眼でなぞるように確かめながら。
妻は軽く頭を抑え、貧血を訴える。
週に一度の祭儀。
妻はわたしに隠れて、家をさ迷い出、
わたしは妻に隠れて、あとを尾けてゆく。
ひと刻交わされる、熱い接吻。そして、凌辱―――。
妻はどこまで、気づいているのだろうか。

怪人の隠れ家

2008年08月04日(Mon) 07:23:39

正装した妻の背後に迫る怪人は。
シックな調度とも、棲む人の装いとも、いかにもマッチしないグロテスクな姿。
2メートルはある体長で、抱きすくめると。
下品な極彩色をした粘液まみれの猿臂のなか。
華奢な礼装姿を呑み込んでしまう。
白のブラウスに、くい入るように。
透明な吸血チューブを、ぐるぐると巻きつけて。
もだえる妻は、ブラウスごし乳房を浮き彫りにしながら。
首筋に迫らされた吸血管の先端を、指先でもてあそびながら。
自分の手で、ぶすりと突き刺してしまっていた。

ふやけた顔つきの妻は、横抱きにされたまま。
束ねた長い黒髪を、じゅうたんまでぶらりと垂らしていた。
あとは・・・わかっているだろうな。
それだけは・・・よしてくれ。
震えた声の拒絶を、あざ笑いで受け流すと。
おまえの体面は、じゅうぶん取り繕ってやったぞ・・・・と、
こちらの本心を見透かすようなことを言って。
夫婦の寝室に待つ無表情な戦闘員三名に、この家の主婦を投げ渡していた。

乱れたシーツのうえ、戦闘員たちによる凌辱がづづいている。
もうガマンできない・・・切なげにひと声、洩らしたうめきが呼び水になって。
着崩れした礼装を、惜しげもなく破り取らせながら。
妻は凌辱の渦のなかに、巻かれてゆく。
淫らな血ほど、採血に適している。
怪人の声には、姿に似合わぬ深い響きがあった。
かわるがわる、犯されながら。
首筋には、吸血管を突きたてられて。
透明なチューブを、真っ赤に浸しながら。
妻はまつ毛をナーヴァスに、震えさせながら。
戦闘員たちの腰が股間に沈み込むたび、随喜のうめき声をガマンできなくなっていた。

そう、ここは怪人の隠れ家。
昼間は旧家の邸宅でも。
夜になると一転、不夜城になりかわる。
占領された邸宅は、怪人たちの饗宴の場。
初めての夜のリプレイに、わたしは危うい想いに胸を焦がしている。


あとがき
解放された罪なき市民たちが。
血管の奥深くそそぎこまれたマゾヒスティックな本能を呼び覚まされて。
退治されてしまったはずの怪人を、家にかくまって。
家族の血で、養いつづけて。
初めて襲撃された夜のリプレイをくり返されながら。
妖しい歓びに目ざめてゆく。
そんなプロット、お気に入りなのです。^^

特別なお客様

2008年08月04日(Mon) 06:48:07

お母様には、、お目どおり叶いません。特別なお客様をお迎えです。
女中頭のきわが、鄭重に頭を垂れる。
小柄な着物姿に、真っ白な髪。
ほっそりとした身体つきが弱々しくさえ映る年バイの女中頭。
相手が若主人であるとはいえ、一歩も退かない断固とした態度が、頭を垂れた小柄な体つきに輪郭から、ありありとにじみ出ていた。
そう・・・
少年はちょっぴり口をすぼめて、それでも聞き分けよくまわれ右をした。
階上の書斎で、お父様がお待ちでございますよ。
いつもの気さくな声色にもどったきわに、振り向きもせずに頷いた少年は、
けだるそうに俯きながら階段をあがっていった。

書斎のドア越しお父様にただいまを告げると、とおりいっぺんなおかえりが、無関心そうな背中からかえってくる。
勉強部屋に戻ると、留守中とどいたらしい新刊の学習雑誌が、
これを読みなさいとばかりに、机のまん中においてあった。
少年はそれを取り上げると、無関心にぱらぱらとめくって、すぐじ自堕落に放り投げた。
まっ更になった机の上に、真っ白なハイソックスの脚を載せる。
そんなお行儀のわるいこと。
お母様が見ているまえでは、決してしないことになっていたのだが。

あぁ・・・
部屋の隅っこから、だれかの声がする。
ななめ下の、声のしたほうをじいっと凝視した少年は、いすから飛び降りて、
長い廊下越し書斎のようすが変わっていないのを確かめると、
足音を忍ばせて階段をおりた。
きわは、どうやらべつの仕事に自分をかり出したらしい。
とざされた母の部屋から少年をへだてる空間に、邪魔者はいなかった。

充血した目は一点を見つめたままクギづけになっていて。
手はしぜんに、半ズボンの股間に伸びていた。
ひざ小僧まで伸ばしたハイソックスの脚をもじもじさせながら、
少年はそれでも、ドアの隙間から見える光景から目を離せないでいた。
いつもきりりと装った母が。
漆黒の洋装を着崩れさせて、白い胸をあらわにしている。
豊かな乳房に這わされた男の手は、指を埋めるばかりに、もっちりとした肌をとらまえている。
母ははぁはぁと苦しげな息遣いに肩を震わせながら、
ひそめた眉にも、食いしばった口許にさえも、愉悦をありありと滲ませていた。
薄墨色のストッキングが、ふしだらにずり落ちて、くしゃくしゃになってたるんでいた。
息子の靴下がちょっとずり落ちていても厳しく叱る母親は、そこにはいない。

ぽん、と肩の上に置かれた掌に、ぎょっとして振り向くと。
父は蝋人形のように、白い顔をしていた。
こっちへ来なさい。
犯罪を見つけられたようにすくんでしまっていた少年を、父親はとがめない。
覗いたの。初めてでは、なさそうだね。
素直にこっくりと、頷くと。
父は「落ち着くよ」といいながら、まだ飲んだことのないコーヒーをすすめてくれた。
苦い薫りのする湯気がけむったくて、少年はちょっとむせ込んだ。
ははは・・・
乾いた声で笑いながら、父はひと言囁いて、部屋から立ち去った。
―――ばれるとお母様に、お叱りを受けるからね。
そうか、ばれなきゃいいんだ・・・

ひとつひとつ外されてゆく、ブラウスのボタン。
少しずつせり出してくる、胸元の白い肌。
きちんとセットした髪を、惜しげもなく振り乱して、あられもなく恥らう横顔。
白くほっそりとした脛をいつも清楚に透きとおらせている薄墨色のストッキングが。
貪欲な指にまさぐられ、欲情たぎる舌になぶり抜かれる。
あぁ・・・
ベッドのうえで寝返りをくり返しながら。
むき出しの太ももに、熱い粘液で浸している。
少年は時を経て、大人びた青年に成長していた。

婚約者の真央さんは、お昼すぎから家に招ばれていた。
けれどもお昼すぎはおろか、夕陽が空を淡く染める時分になっても、あらわれない。
いつも日傘を差して、古風な花柄のワンピースに装われた華奢なシルエット。
それが門前に現れないかと、わずかな音にも耳を澄ませていたのだが。
どちらへおでかけですか?
女中頭のきわが、あとを追いかけてきた。
職務に忠実なこの老女は、たとえ相手が館のあるじだったとしても。
自分の目論見に反する行動をとるものには、しつこいほどの追及を投げてくる。
青年は癇癖のある細面を、いつになくいらだたせて。
好きにさせてくれないか?
いつものように、素直には。行き先も用件も、告げようとしなかった。
けれども老女は正確に、若主人の行き先を察していた。
真央さまですか?真央さまでしたら、ご面会はかないません。
今夜、特別なお客様をお迎えになるのですから。
思わず口をすべらせてしまった老女は、めずらしく狼狽をあらわにして、後ずさったけれど。
青年は、老女をそっと行く手から押しやると、だまって帽子をかぶり、玄関に足を向けた。
顔色ひとつ、変えないで。

特別なお客様。
そのひとの来訪が告げられると。母はいつも、小娘のようにはしゃいでいた。
父はひっそりと書斎にこもり、訪客が辞去するまで、姿をあらわすことはなかった。
いま―――そのときの父の役割を果たそうとしている。
不義にあたります。あのかたをわたくし、裏切っているのです。羞ずかしい・・・
いつもの花柄のワンピースを、しどけなく着崩れさせて。
うら若い令嬢は、姑とおなじ行為に耽っている。
熱中しはじめている・・・その証しに、透きとおるほど初々しい肌は、生気に満ちたばら色に染まっていた。
お嬢さん。
素肌をおがませていただくのは、はじめてではないが。
突き刺すのは今宵が・・・初めてですな?
露骨な囁きに、羞じらいながら俯いた瓜実顔に、淫靡な輝きがよぎるのを。
少年のころにかえった青年は、いちずな視線で見つめつづけている。

特別なお客様。
今宵はどちらのお宅に、お邪魔するのでしょうか―――。