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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

親友の娘

2008年10月31日(Fri) 07:36:55

親友の娘と通じる・・・ということは。
かなりエロチックなものが漂うものだ。
かりに私が、吸血鬼ではなかったとしても。

家庭教師として招かれた、その家庭は。
暖かで心おだやかな人たちの暮らす、この世の楽園。
わたしは娘に勉学を教え、
娘が登校していくと、その母親と恋人になる。
一夜だけの契り。生き血を啜るだけの関係。
けれどもそれは、かぎりなく発展していって。
それなのに彼は、見て見ぬふりを、決め込んでくれていた。

あるとき少女は、すっかり娘らしくなったおもざしに、
思いつめた瞳を、うるませながら。
想いを決めたように、目の前のベンチに腰かけて。
母とつきあうのは、やめにしてください。
かわりにわたしの血を、さしあげますから。
真っ白なハイソックスのふくらはぎを、
そっと私に、差し伸べてきた。

日に日にやせ細っていく母親の健康を案じたらしい孝行娘は。
雨上がりの公園で、初めて私のものになっていった。
初めて過ごす夜。
私は黒のタキシードに身を包み、
家の庭先から、娘の部屋の窓を窺う。
真夜中に、ぽっと灯りが点るとき。
鍵のかかっていない窓を、力をこめて押し開く。

たいせつな行事には、制服を着用するように。
厳しい校則を律儀に守ったまじめな娘は、
紺のプリーツスカートの足許を、
履きなれない黒のストッキングに、蒼白く滲ませていた。
かすかな物音。
秘めようとする声。
それらすべてを、壁の向こうの住人達は、なにひとつ聞き漏らすまいとしていた。

娘に通い、妻に通う。
生き血を啜るだけの約束が。
いつか、どこまでもエスカレートしていって。
娘は別れ際、母の寝室を窺う私のようすをさっするたびに。
行かないで。
甘えるように、すがりついてくる。

けれどもきみは、ひとの妻。

2008年10月31日(Fri) 07:02:38

甘えるように、唇を重ねて。
すがるように、装いを乱して。
悪戯するように、髪をほどいて。
そそるように、胸をまさぐって。

けれどもきみは、他人(ひと)の妻。
どんなにぴったりと寄り添って、
蛇のようにしつっこく、身体をからみ合わせても。
ひとたびベッドを離れてしまえば、
べつの立場が、待っている。

そそくさと、身づくろいをして。
化粧直しに向かう鏡の向こうには、
取り澄ました、見知らぬ貴婦人の顔。
おれは思わず後ろから抱き締めて、
化粧を刷いた頬に、無理やり頬ずりをして。
もういちど、ネックレスをはずしてやりたくなる。

けれどもそこは、お互いにオ・ト・ナ。
こみ上げる衝動を、ぐっとこらえて。
ご主人の待つ平和な家庭に戻ってゆくきみのことを、
ただ、後ろ姿を目で見守るだけ。
楚々としたワンピース姿の、足許は。
真新しいけど地味なストッキングを装っているけれど。

脱がせた時の黒のストッキングは。
まだおれの掌の中、くしゃくしゃにつづら折りになったまま。
あのときとおなじ、妖しく毒々しい輝きを放っている。

ご家族は、お連れになるのですか?

2008年10月30日(Thu) 07:52:09

ご栄転ですね。でも、お引っ越しなんですよね。
ご家族は、お連れになるのですか?
単身で、行かれるのですか?
できれば・・・お連れになったほうがいいと思いますよ。
さもないと、人事に”手配”されてしまいますよ。

手配。
おだやかならぬ表現なのだが。
内容も、ただならないものだった。
単身赴任者の留守宅は。
ひそかに人事部に登録されていて。
近くに住居をあてがわれたべつの単身赴任者にあてがわれる・・・という。
そんな”制度”が、ほんとうに実在するのかどうか。
真相を知るものは、だれもいない。
よし、知ってしまったところで、それを口にするものは、だれもいない。

このオフィスの、だれかが。
自分の留守宅に、通ってきて。
妻を我がもの顔に抱き、娘までも誘惑する・・・
さすがに、耐えられない想像だった。
わたしはちゅうちょなく、妻子を連れて赴任することにした。

いっしょに赴任が決まった男は、わたしよりもずっと年配なのに。
再婚でもらった若い奥さんと、前妻とのあいだにもうけた娘とを留守宅に残してきた。
ただでさえ、難しい関係なのに。
案の定、留守宅にはべつべつの男が、通ってくるようになったという。
「それで、よかったのですよ」
男はあきらめきったような、面白がっているような、複雑な笑みを浮かべながら。
まるでひとごとのように、自分の妻の情事を語る。
もともとね、妻にはご執心の男性がいたのです。
おなじ職場で、目を光らせていて。
だから面と向って、いってやりました。
留守を守る家内が、心細がっている。きみ、相談相手になってくれないか?ってね。

おなじ難を逃れた・・・だなんて。
ほっとするわけには、いかなかった。
いま、妻のもとに通ってくるのは、ほかでもないその男。
やっぱり独り寝というのは、さびしいものですな。
交代の夜勤。
それが、通ってくる日程とそっくり重なっていた。
わたしが在宅のときには、娘の勉強部屋さえ忍び込んでくる彼なのだが。
妻も、娘も。
おもしろそうに、目まぜを交わし合いながら。
きょうは、私が先。
口尖らせて、おどけ合って。
わたしの目の前、今夜の順番を、くじを引いて決めようとしている。

椿の花びら

2008年10月29日(Wed) 07:28:30

夜勤明けがもの憂いのは、きょうにはじまったことではない。
朝の勤務を交代するまでの間、わたしはぼんやりと外の風景に見入っていた。
どこか寒々と、透きとおった街の景色を。
交代者であるその男は、いつも顔色悪く、職場の隅でひっそりしているあの男。
それがきょうにかぎっては、ばかに生き生きと張り切ったようすであらわれた。
かなり込み入った仕事をかかえて、でてきたはずなのに。
けれどもその理由を知っているわたしは、半分は鬱々として。
半分は、なにか説明のつかないときめきを覚えながら。
男にわざとらしく、声かけている。
―――よう、今朝はばかに顔色がいいじゃないか。
男は悪びれもせずに、照れ笑いを浮かべながら。
―――ええ、ご馳走さま。
なんて、
しゃあしゃあと、応えてきた。
―――おかえりになったら、奥さんに届けてもらえませんか。
―――お庭にきれいに、咲いていましたから。
男が手にした透明の更には、薄く水が張られていて、
なかには毒々しいほど紅い、椿の花―――。
―――こいつがいちぶしじゅうを知っている、というわけだね?
―――やだなぁ。
男は少年のようにはにかみながら、頭に手をやって、気の毒なほど照れていた。
―――お荷物にならなきゃ、いいんですが。
―――なに。お気づかい無用だよ。わたしの家はこのすぐ近くなんだから。
すぐ近く。
いちぶしじゅううを視ていたのは、椿の花ばかりではない。
言外にそんな意味を含ませたのが、男にはちゃんと伝わったようだった。
―――ご馳走さまでした。
男は神妙に、ひと言告げると。
そそくさとわたしの前から遠ざかって、もう仕事の世界に入り込んでいる。

男と入れ替わりに、妻のもとに戻るわたし。
きっと・・・彼女の情夫に対するほどには、露骨な言葉を投げてはいけないのだろう。
まだ残っている昂りの余韻のままに、いっとき妻を愛し抜いて。
それから深い眠りに落ちるであろうわたし。
手にしたガラスの器のなか。
椿の花びらは、なにも知らないかのようにして。
水の上をすべるようにして、可憐な風情をゆらゆらとさせている。

ホテル

2008年10月26日(Sun) 08:15:53

ふた組の、年恰好も似通ったカップルだった。
お互い訳あり顔をして、視線をちらちらと交わし合いながら。
人目を避けるように、足早に。ホテルのロビーに足を踏み入れた。
陳腐で古びたロビーは、どこか仰々しく造られていて。
無表情な和装の老女が一人、することもなさそうに薄ぼんやりと。
すすけた顔つきで、佇んでいるだけだった。

ツインルームを…ふたつ。
頭だった男が、真っ先に進み出て。
ちょっと上ずった声色で、そう告げると。
老女はぞんざいに帳面を放り出し、名前と住所を書くように横柄に顎をしゃくった。
およそ客に対する態度ではなかったけれど。
男はそんなようすにこだわるには、ゆとりがなくなっていたらしく。
突き出された帳面に、書き入れはじめていた。
妻らしい四十がらみの女が、ちょっと気遣わしそうにして。
夫の肩越しに書き入れられた名前をのぞき込んで。
それが偽名であるのを見て取ると、ちょっと安堵したように連れのカップルを振り返った。

ギイィィィ・・・ガタン。
恐ろしく型式の古いエレベーターは、老女とおなじくらいに、ぶっきらぼうにドアを開け放って。
不快な油臭さから、四人を唐突に解放した。
燭台のように昏(くら)い灯火が、居並ぶようにして。
赤黒くすすけた絨毯の廊下を、音もなく照らしつづけていた。
手近な部屋のドアノブを、ひったくるようにして。
頭の男は、部屋番号もろくろく確かめずに、ドアを押していた。
ギィ・・・ッ。
なかの暗闇を、確かめると。
男は妻ではないほうの女の肩を、つかまえて。
邪慳な手荒さで、薄紫のスーツ姿を暗闇のなかへと押し入れていた。

女のあとを、追うようにして。
男はつかつかと、部屋のなかにまで踏み入れると。
ためらうように立ちすくむ薄紫のスーツの女を、こんどはベッドの上へとまろばした。
つづいて入ってきたふたりの男女は。
男の邪慳なあしらいなど、気にするふうもなく。
「房代さんっ!」
「キョウイチさんっ!」
つかみかかってくる男を払いのけようとして、
かえって猿臂に巻かれていった。
鋭い音をたてて、女のブラウスが引き裂かれると。
ベッドのうえであお向けになった女は、
「あああっ、シンジさんっ・・・」
泣くようなうめき声をあげて、のしかかってくる男にすがりついていた。

むさぼるように。食い尽くすように。
男ふたりは、互いの妻を取り換え合って。
横目でちらちらと、己の妻のなれの果てを窺いながら。
はじける劣情を、相手の妻に吐き散らしてゆく。
薄紫のフレアスカートも。
黒のタイトスカートも。
ひとしく、荒々しく、たくし上げられて。
いずれ劣らぬ太ももの輝きを、室内の照明に映しながら。
引き裂かれたストッキングを、ふしだらにずり落していった。

ククククククク・・・
天井から湧き起こる声に、ふた組の男女はまだ気づいていない。
乳房を吸い吸われながら。
女は悶え、男は昂る。
性欲の宴が、絶頂に達したころ。
乱れた男女の聞こえないところで、笑み声は意味を持つ言葉になっていた。
乱れよ。乱れよ。乱れ抜くのじゃ。
妾(わらわ)は歪んだ男女の劣情で、己を養いおるもの。
こと果てたすえには、おのれらひとりひとり、喰ろうてやるぞえ。
半開きになったドアから洩れる室内の明かりが、
廊下にひっそりたたずむ老女の着物のすそを照らしている。
廊下の昏さで、表情こそうかがえないものの。
明かりに照らし出された着物のすそは薄汚れていて。
化け猫のように生々しい息を吐きながら。
ロビーの帳面に書き置かれたふた組の男女の名前を、
ひとつひとつ、ペンで塗りつぶしていた。
狂ったようにけたけたと、笑いこけながら。

和室を支配しているのは、ひっそりとした闇。
飾り気ひとつないせんべい布団のうえ。
真っ赤なネグリジェ一枚の女は、大の字になった身を長々と横たえていて。
傍らの男は、逞しい腕で、女の両肩を抑えつけていた。
女は手足をだらりとさせて、全身の力を抜いていて。
のしかかってくる黒い影を待ち受けていた。
むやみと抑えつける男の気遣いは、無意味なものになっていた。

女は、心持ちおとがいを仰のけて。
自分の肩を抑える男の顔を見定めた。
いまわのきわという、だいじなときに。
付き添ってくれたのが、夫のほうだと認めると。
女は満ち足りたように、薄っすらとほほ笑んで。
重ねられてくる唇に、器用に応えていった。
束の間の口づけと、入れ替わりに。
女にのしかかった黒い影は、ふたりのあいだに入り込むように、かがみ込んできて。
女の首筋に、唇を這わせると。
ちゅうっ。
唾液のはぜる音を、卑猥に洩らしながら。
白いうなじに、食いついていた。
ちゅう~っ・・・・・・。
女はとっさに、身をのけぞらせ、
整ったおもざしを、思いきりゆがめながら、すこし悶えた。
けれども肩を抑える夫の掌の力は、ゆるむことがなく、
女の抗いも、みじかいあいだのことだった。
ちゅ――――――――・・・
長い音だった。
握りしめた掌の下。硬直したように引きつったこわばりが、じょじょに薄れてゆく。
男は力をゆるめながら、それでも女の両肩に、手を添わせつづけている。
女の体温を、確かめるようにして。

しばらくのあと。
女が力なく、手足をだらりとさせて、静かになると。
身を起こした影は、付き添いの男を気の毒そうに見やって、ゆっくりとかぶりを振っていた。
夫はうつろにかぶりを振って、相手の態度に応えると。
妻の両手を、抱きよせるようにして、胸の上で組み合わせて。
片手で伏し拝むようにして、妻の亡骸を礼拝した。
影は邪慳に男を小突きながら。部屋から引きずり出していった。
しずかに横たわる骸だけが、あとに残された。
ひっそりとした闇に堕ちた女は、束の間の眠りに就いている。

赤黒くすすけたじゅうたんの上。
昏い灯火のみちびくままに。
男はふらふらと足取りを進め、そのぴったりすぐ後ろを、黒影が声押し殺して歩んでゆく。
和服姿の黒影は。男をふたたび小突くようにして。
開け放たれたドアから洩れる、客間の照明に、男の影をさらしていった。

さっきまで繰り広げられていた倒錯の宴のなごりが、そこかしこに残っている。
乱れたシーツ。ずり落ちた掛け布団。
ぬらぬらとそこかしこにほとび散った体液。
脱がされたパンティストッキングは、しわくちゃにふやけたまま、
椅子の背もたれにだらりと垂れ下がっていた。
ぼう然としたまま残されていた、もうひと組の男女は。
廊下を伝わってくる足音に、はっとなって。
男のほうは、棒立ちになるように、立ち上がった。
女のほうも、立とうとしたけれど、立つことはできなかった。
引き裂かれたブラウスに、黒のタイトスカートを着けたまま。
女は椅子のうえ、ぐるぐる巻きに縛りつけられていた。

戻ってきた相棒が、蒼ざめた頬をさらすのを見て。
残されていたほうの男は、ためらうように声かけようと試みて。
上ずった声が、意味不明なつぶやきを洩らす前に。
妻の最期を看取った男は、黙ってゆっくりと、かぶりを振った。
「こっちは、済んだよ」
事務的な声色が、縛られた女の鼓膜を冷酷に突き刺した。
とつぜん、しゃくりあげるようにして泣き伏した女のおとがいを。
夫はこじ開けるような手荒さで、もちあげて。
睨むような眼で、和服の老女を見据えると。
どうぞ・・・
声だけは鄭重に、女のうなじをさらけ出した。

う、ふ、ふ、ふ・・・
老女は、化け猫のような吐息を、しきりに洩らしながら。
化粧を刷いた頬に添えられた男の手の下に、すべり込ませるようにして。
枯れ木のように節くれだったかさかさの指先で、女の顔の輪郭を、なぞっていった。
なめらかなうなじを、なでるようにくつろげて。
形相すさまじく、牙をむき出して。
がぶり!と食いつくまねをして。
女がハッと身をすくめ、後じさりしようとすると。
ククククク・・・
あざけるように、顔覗き込んで。
ゆっくりおし。
童女をあやすような声色を洩らすと。
そろそろと、女の足もとにかがみ込んでいって。
黒のタイトスカートのすそから覗く、肉づき豊かなふくらはぎに。
肌色のストッキングのうえから、唇を吸いつけてゆく。
かすかに、くしゃっと引きつれたナイロンの表面に。
男ふたりは、顔見合わせて。
女を抑えようとも、老女を手助けしようとも、
思案のつかない、うつろな目つきを交わし合いながら。
冷酷な音をたてて血潮を吸い上げられてゆく音を、
鼓膜に狂おしく、浸していった。

恋塚ヒサエ 57歳。 死因 失血病
地元の訃報記事は、たった一行で片づけられていた。
ヒサエなる女性が、どんな家に生まれ、どこの女学校に通って、
どんな試験に合格し、どんな職業を持ち、
どんな男と結婚したのか。どんな子供を育てたのか。
夫との愛情は。知人親せきとの交わりは。
そんなことは、なにひとつ、触れられていなかった。
すべては吸い出された一条の血潮とともに、はかない抜け殻になっていた。

訃報記事の載った新聞を、無造作にとりのけて。
黒の礼服姿のその若い男は、連れの女を振り返ると、行列に加わるよう促した。
女は濡れるような黒い瞳に、華やいだ若さを封じ込めたように、控え目だった。
まだ結婚はしていないようだが、齢よりも落ち着いて見えるのは。
清楚な喪服のせいばかりでは、なさそうだった。
夫婦でも恋人同士でもなさそうなふたりは、ちょっとだけ顔を見合わせると。
おなじように黒の礼服をまとった男女が、ひっそりと形作った無機質な行列に。
黒のスーツの背中と、ひとすじに垂らした長い黒髪が、溶け込んでいった。
「このたびは・・・」
形ばかりの会釈をすると。
男は女を促して、白髪を交えた喪主の視界から身を避けるようにして、行列から抜け出していた。

なんだかいやな予感がするんだよ。姉さん。
着席している黒い人たちは、女の比率が高かった。
老いも若きも、女たちは黒いスカートの下、濃淡それぞれな黒の靴下に、脛を蒼白く透きとおらせている。
姉と呼んだその人も、すらりとしたふくらはぎを、なまめかしい墨色に彩っていたのだが。
さすがに姉弟ともなると、そんなところには視線が行き届かないものらしい。
若い男はうろうろと、視線を迷わせてだれかを探していたが。
やがてひと組の男女をみとめると、軽く手を振って、相手に気づかせて、姉のことも促していた。

「大変だったね」
ちょっと見ない間にやつれ果て、白髪の数まで増えたような母親を気遣うと。
「ええ、まぁ・・・」
あいまいな応えが、かえってきた。
「いっしょだったんだろ?あのひとたちと」
「そんなこと、この席で訊くものじゃないわ」
さすがに姉が、弟をたしなめた。
思い出したくないのだろう・・・と、とおり一遍な誤解に納得をすると。
弟のほうは父に向って、今夜ひと晩泊って、それからすぐに姉を連れて都会に帰ると告げていた。

式のおわったあと。
手にしたハンカチをしきりに目元に当てていた若い女性は。
喪主である父親を、うながして、ふたりきりになった式場から出ようとした。
がたり。
入口に向かったふたりの背後、唐突な物音がして。
女がいぶかしげに、振り向くと。
遺影に生き写しの整った面ざしに、恐怖の色を浮かべていた。
いつの間にかひらかれたひつぎの前、佇んでいるのは、死に装束のままの母だった。
ほつれて乱れた、ぼさぼさの黒髪。
血の気の失せた、薄い唇。
なによりも。
さいごに逢ったときとは裏腹な、刺すように冷たい視線が、娘を釘づけにした。
硬直したように立ちすくむ、黒のストッキングの足首を。
かさかさの掌が、素早く握りしめていた。
「あっ・・・っ!な、何を!」
娘が抗い声をたてたのは、むしろ父親に対してだった。
迫ってくる母から逃れようとする動きを、封じるように。
両肩を強く、抱きかかえられていた。
かさかさに乾いた唇が、うるおいを求めるようにして。
ストッキングをねじりあげながら、強くしつように、圧しつけられていった。
きゃあああっ。
飛び散るような悲鳴を耳にしたものは、親たちのほかにはだれもいない。

「聞いたかね?」
「エエ、聞きました」
房代はハンカチで口許を拭うと、制服姿の少女をやっと放してやっていた。
濃紺のセーラー服に、プリーツスカート。
初々しい脛によく映えた黒のストッキングは、縦にあざやかな伝線を走らせている。
「お行き。生命があったのが、幸運だと思うのよ」
房代の捨て台詞に、少女はおびえたような眼を投げて、
うなじを抑えながら、そそくさとその場を逃れていった。
あの晩、肌色のストッキングの足許を吸われながら、かろうじて一命はとりとめたものの。
うなじを酷く侵した傷痕は、まだ生々しくて。
いつも結わえた髪をほどいて肩までおろさないことには、娘や息子の目をさえぎることはできないほどだった。
濃いめのストッキングに装った足許にも。
なぶり抜かれた痕が、ほのかに透けて見えていた。
夫が自分の足許に手をやって、愉しげに傷痕に触れてくるのを。
女はほろ苦い笑みで見おろしていた。
「このまま都会に、帰らせるのか?」
夫の問いに、
「まさか・・・」
妻は横顔をむけて、そっぽを向いていた。
―――あとはすべて、あなたが仕切って頂戴。
冷たい頬に描かれてある妻の意思を読み取ると。
いいんだね?
ちょっと言いたげにした夫に。
「喉がからからの人が、おおぜいいるのよ」
妻は無慈悲な言葉を、投げてくる。

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
生き血を啜るもの音が、狭い部屋のなかにこだました。
喪主だった男は、白装束の下敷きになって。
さっき娘の血を啖った唇に、我が身をめぐる血を浸していた。
そのすぐ傍らで。
薄汚れた着物をまとった老女が、彼らふたりのまな娘を組み敷いていて。
先日吸い尽くした血とおなじ色香を秘めた血潮に、酔いしれている。
娘は抗いすらも、忘れて。
ただ、もう、夢中になって、老女にすがりついていて。
己の秘めた生命の源泉を、貪婪な渇きのまえ、惜しげもなくさらしていた。
黒のブラウスの肩先を。
豊かな黒髪が、まるでそれ自体が生き物のように、ユサユサと揺れていた。

じゃあ、行ってくるよ。
ガチャリとドアをあけると、夫のシンジは妻の房代をかえり見た。
房代は、かさかさに乾いたおもざしに、まだ若やいだ色香をしのばせながら。
頼もしげに、夫のほうを見やっている。
夫に伴われた娘は、無表情に母親に一礼して。
父親の先に立って、迎えの車の座席に身を引き入れている。
スカートの裾からのぞいた脚は、てかてか光沢の浮いたストッキングに彩られていて。
都会ふうに洗練された装いを、いっそうひきたてている。
待ちわびている老女の着物の裾が薄汚れているのは、なぜなのか。
一家のだれもが、知っていた。
わたしの血も、おばあさまの着物の裾に・・・
もうそれ以上何もいわず、娘は蒼白い唇を引き結ぶ。

ふたりが行ってしまうと。
「母さん」
呼びとめた息子は、蒼白い頬のまま。
「彼女、もうじき着くよ。母さんに真っ先に、紹介するね」
差し出されたのは、ノーブルな笑みを浮かべた都会の若い娘の写真。
なにも知らない無邪気な笑みが、凍りつくのに。
あと三十分と、かからないはず。


あとがき
前作、舞踏会の後編のつもりだったのですが。
どうやら違うカップルのようですね。

舞踏会

2008年10月25日(Sat) 17:33:57

ゆるやかで淫靡な調べ漂う、広間のなか。
着飾った男女の一対がいくつも行き交い、揺らぎ、旋舞を繰り返す。
「おっと、失礼」
「いや、こちらこそ」
ところ狭しと舞ううちには、肩が触れ背中が合わさりすることは、ざらにある。
けれどもどのカップルも、よほどの踊り巧者らしく、
組んだホールドを崩すことも、舞いのテンポを狂わすこともほとんどなく、
なにごともなかったように、己の舞いに戻ってゆく。

「おや、またですね」
「いやいや失礼」
おなじ曲のなか、さすがに三度も背中を触れ合わせると。
男ふたりはかえって恐縮しきったように、顔見合わせる。
折よく、曲がちょうど終わったところだった。
ははは・・・
ふた組の男女はさわやかに笑い合いながら、
席もお近くだったんですね・・・
純白のテーブルクロスのかけられた丸テーブルに戻ってゆく。

乾杯。
さすがに何曲もぶっつづけで踊りつづけると。
息もはずみ、うっすらと汗さえ滲んでくる。
女ふたりは着飾った服の下、スリップに染みてくる汗を感じながら、
化粧くずれしないていどに、互いに互いの額にハンカチをあてていた。
今夜は、どちらから?
すぐ近くに、家があるのですよ。
そうですか。うちは身内がこちらなもので・・・
何気ないやり取りが、とても初対面と思えないほど呼吸が合っているのは。
おなじ場を共有したものどうしの、わだかまりのなさからだろうか?

酔いが心地よく、まわってきた。
礼儀正しいことばのやりとりは、、いつか軽妙なほぐれをみせている。
旋舞曲は相も変わらず流れつづけ、男女の舞いは行き交いつづけていたけれど。
もう四人は、そちらのほうには目もくれなかった。
若いほうの女の、かっこうの良いバストに目をやった初老の紳士は。
お若い方は、うらやましいですね。
さりげなく相手の女性を称賛すると、
奥様ですか?オトナですね。
若いほうの男性も、蒼のストッキングに透けた年配の婦人の足首に、しんそこ見入っている。
脱がしてみたいね。
男ふたりが、どちらからともなくそう口にすると。
アラ。
女ふたりは、顔見合わせて。
せっかくおめかししてきたのに・・・ねぇ。
男どもはどうしてこうも、性急なのか。
趣向を凝らした装いや、いつもよりグッとひきたつメイクに目がいかないのか・・・と。
甘い非難をこめて、それぞれのパートナーを優しく睨む。
若さにはずむ、形のよいふくらはぎを包むのは、
光沢きらめく、薄手のナイロンストッキング。
格調高く透きとおる白皙の横顔をいっそうノーブルに輝かせているのは、
きらめく銀のネックレスと、濃い紫のロングドレス。
とっさにうまい言葉を選びかねた若い男性のほうを、愉しげにうかがう老紳士は。
脱がせてこその、装いだよ。
息子ほどの年頃の男性が照れ笑いを返してくるのを、おだやかな笑みで受け止めていた。

ゆったりとした調べは、この狭い部屋にまでも漏れてくる。
女ふたりは、額にうっすらと汗を浮かべて。
舞曲に合わせるともなく、はずれるともなく。
しどけなく乱した装いから、いずれ劣らぬ柔肌を惜しげもなくさらしながら。
互いに相手を取り替えあって、あえぎ、うめいて、身をのけぞらせている。
年配の婦人は、蒼のストッキングをひざまでずり降ろされて。
肉づき豊かな白い太ももを、大胆にさらけ出していて。
ドレス姿を組み敷いた若い男は、じぶんの恋人が真っ白なスカートをはぐりあげられて、
てかてか光る肌色のストッキングに裂け目を走らせているのを、横目にしながら。
心地よい嫉妬のまま、熱い帆と美を婦人の貞潔にそそぎ込んでゆく。
永年連れ添った妻が、若い男の力ずくの肉薄に圧倒されて。
淫らな吐息を洩らすのを耳にしながら。
昂りをいっそうつのらせて、抑えつけた若い獲物を虐げてゆく。

宴果てるころ。
三々五々散ってゆく男女は、いつかべつの男女と立ち交じりながら。
ふた組、三組・・・と、頭数を増やして、闇のかなたへと消えてゆく。
近くに家を持つものは、連れを伴って帰宅をして。
そうでないものは、館の一隅、庭先、はては帰り道の草むらへと、
ところかまわず、なだれ込んでゆく。
密室で情けを交わしあったさっきの男女は。
なにごともなかったかのように、装い直していて。
若いほうの女性が礼儀正しく、老夫婦にお辞儀をしている。
ぺこんと下げた頭のうごきにあわせて、肩に垂らした長い髪を揺らせるのを。
老夫婦は眩しげに、見つめていた。
素敵なお嬢さんねぇ。
年配の婦人は、今宵夫のパートナーをつとめた若い女を、しんそこ気に入ったらしい。
若い男性は、自分の識らないなにかを恋人に教え込んでしまったしい老紳士に、
尊敬のまなざしを惜しまない。

お近づきのしるしに。
手渡した紙袋におさめられているのは、さっきまで彼女の足許を彩っていた薄衣の、なれの果て。
老紳士の手によって引き裂かれたままに、たくされたのは。
今夜己の恋人のうけたあしらいに対する称賛と許容のしるし。
では、私めも。
老紳士が送り返した返礼は。
婦人の身に着けていた、蒼のストッキング。
踊りのさいちゅうからちらちら注がれた視線に。
さいしょから家内のこと、狙っていたね?
マザコンなんです。このひと。
若い女は、父親に対するような甘えと媚をこめながら、口を尖らせた。

では・・・まいりましょうか。
老夫婦の向けた足取りに、若いふたつの影がつづいた。
口もとには、あたりさわりのない世間話。
踏みしめる砂利の音をも、忍ばせて。
これから迎える長い夜の第二幕に、向かってゆく。
新たに装われた黒のストッキングに、足許を淫靡に輝かせながら。

兄嫁になるひと

2008年10月22日(Wed) 04:48:20

家族のなかで、さいしょに血を吸われた男の子は。
自分の家の女家族たちを、ひとりづつ誘い出して。
愛すべきその侵入者に、紹介する役目を与えられていた。

母親のときは。
黒一色の、礼服姿。
たたみの上に、まろばされて。
ツヤツヤと輝く、薄墨色のストッキングのふくらはぎに、
飢えた唇をぬらぬらと吸いつけられて。
エッチに輝く蒼白いふくらはぎから、引きはがれるようにして。
薄いナイロンは、パチパチと音をたててはじけていった。

彼女のときは。
真っ白なスーツのすそから覗く、黒のオーバーニーハイソックスの脚を狙われて。
追い詰められた壁を背に、ずるずると姿勢を崩していって。
ふくらはぎの破れ目から、白い素肌をさらけ出しては、
もう・・・・って、口尖らせて。
それでも肩にかかる長い髪の毛を、自分からかきのけて。
うなじに吸いつく唇に、くすぐったそうに顔しかめつづけていた。

妹のときは。
セーラー服の足もとに、通学用の黒のストッキング。
圧しつけられた唇の下。
ふくらはぎに、めりめりと裂け目を滲ませて。
ゆっくりと、身体を傾けていって。
さいごにぺたんと、その場に尻もちをついていた。

兄貴は眠そうな顔つきをして。
首のつけ根のあたりを、けだるそうに引っ掻きながら。
俺から勧める気分には、なれないけれど。
どうしても・・・って、言うんなら。
お前エスコートしてやって、くれないか?って。
チャンスを作ることにだけは、同意してくれた。

義姉になるはずの、そのひとは。
おしゃれなモノトーンのワンピースに、装っていて。
サンダル履きの足もとは。
つやつやとした薄いナイロンの光沢が、巻きつくように包んでいた。
わざと・・・穿いてきたの?
不覚にも洩らしてしまった、ぶしつけな質問に。
かよ子さんはおっとりと笑いながら、そうよっ、って。応えてくれた。

あー・・・
広いえり首を、侵すようにして。
あいつはかよ子さんの首筋に、牙突き立てていって。
ボクの彼女のときよりも、いっそう大胆に。
ワンピースのえりを、バラ色に浸していった。
かよ子さんは、その場で尻もちをつきながら。
指先で、軽く額を抑えていて。
足許にさ迷う、不埒な唇の行方を見まいとするように、
終始うつむきつづけていた。

ほんとうは、兄さんのほうがよかったんじゃない?
帰る道々、つい尋ねてしまった無遠慮な問いに。
そんなことないわよ。
あのひとも、見たくなかったんだろうけど。
わたしだって、見られたくはなかったんだもの。
似た者どうし、だったのだろうか?
別れ際、かよ子さんはおっとりとほほ笑んで。
あなたがいてくれて、心強かったわ。
ボクのことさえ、ねぎらってくれたのだった。

大胆に引き裂かれたストッキングごしに、
白い肌を露出させたまま。
自分で運転して帰る。
かよ子さんはみじかい言葉で、そういうと。
もうそれ以上のお伴は、断って。
さっさと運転席に、乗り込んでいった。

家族のあいだに、影法師のように入り込んできた侵入者は、
あるときは、父を。
べつのときには、ボクのことを。
そして堅物の兄さえも、苦笑いさせながら、
順ぐりに、女どものうら若い血潮を愉しんでいった。
やがてボクは晴れて彼女と結婚して、子供までできて。
男の子、女の子、そのあと生まれた二男坊は。
ほんとうは、父親のちがう子供だった。
義弟になった人も、吸血鬼になだめすかされて。
わざと騙されつづけていて。
新婦の新床に、悪友のことを招待してしまっていた。

兄とかよ子さんは、正式に結婚しないまま。
浮き立つ年代を通り越していて、
それでも吸血鬼は、かよ子さんを誘い出し、ときには彼女のマンションにまで、通って行った。
兄がいないときには。
ふたり仲良く、恋人どうしのように、連れだって。
ふつうの人間どうしの恋人のように、美術館や庭園見物を楽しんで。
ホテルに行って。
どれだけ密会を重ねたことか、わからないくらいなのに。
かよ子さんは、まだ処女だった。
処女の生き血に、ご執心なのかしら?って。
妻も妹も、ちょっとだけ羨ましそうに漏らしたけれど。
ほんとうに好きなのは、きっとかよ子さんのことなんだろう。
兄貴もそれと知りながら、処女の生き血を吸わせつづけているのだろう。
ボクは自分の観察に、自信を持っていた。

従妹のゆかりを、紹介してやると。
あいつは嬉しそうに、バラ色のワンピースの少女に近づいていって。
たぶらかしてしまった親たちが、うっとりと見つめる目の前で。
初々しい首筋を、侵していった。
少女が打ち解けて、吸血鬼のけしからぬおねだりに、すこし羞じらいながら、
ワンピースの下に秘めた太ももを、ストッキングを履いたまま吸わせるようになったとき。
兄はかよ子さんと、正式に結ばれた。

月足らずの、子供だった。
彼の子なのよ。でも、産むわ。
”彼”というのが、どちらのほうを指すのかを。
あえて口にはしなかったけれど。
彼女はゆったりと、ほほ笑みながら。
男の子なの。
大きくなったら、お嬢さんや、お兄ちゃんの彼女と仲良くさせてあげてね。
ひどくイタズラッぽい声色で。
ボクや妻、妹夫婦に囁くのだった。

ただいま 3

2008年10月21日(Tue) 07:35:44

ホホホ・・・ホホ・・・
女ふたりは、互いの夫を取り替えあって。
情夫の腕のなか、くすぐったそうな笑み声をくぐもらせている。
わたしの腕には、彼の妻。
彼の腕には、わたしの妻。
いつから、こんな関係に堕ちたのだろう?
かつてその男は、勤め先の同僚だった。

彼の家の息子が、ことの発端だった。
いつの間にか、我が家に通ってきて。
妻の、娘の、息子の婚約者の首筋に。
順ぐりに、唇を吸いつけて。
理性もろとも、血を抜き取っていくのだった。
わたしの知らないうちに。
いや、じつは知ってしまったあとに。
さえぎるもののいなくなった我が家は、吸血鬼の草刈り場。
血の奴隷に堕ちた女たちは。
その身をめぐる血潮で、今宵も情夫たちを慰めていく。

娘の部屋には、ふたり。
息子の部屋には、四人。
血に飢えたものたちが、影を重ね合っていって。
ひっそりとした音を洩らしながら、啜りつづけている。
廊下まで洩れてくる物音に、わたしは苦笑しながら。
べつの訪問客たちを、導きいれて。
夫婦の寝室を、開け放っていた。

相手の奥さんのほうが、若かった。
三歳若いという、彼の奥さんは。
とうの昔に、狂わされていて。
夫の前、挑発するように素肌をさらして。
わたしの唇に、含ませていった。
経験の少ないわたしの妻は、さすがにちょっとためらって。
ためらいつつも、素肌を剥かれて。
男の唇に、吸われていった。

さあ・・・ほかのものたちにも。
背後に寄り添う黒影に、促されて。
わたしはその場をべつのものに譲って。
妻の情夫も、自分の場をべつの影と入れ替わっている。
輪姦されるように。
重ね合わされる、いくつもの唇―――。
今夜も、長い夜になりそうだ・・・。

ただいま 2

2008年10月21日(Tue) 07:26:46

妻のしずえも。娘のミカも。
息子のマサルさえも、堕とされて。
ひっそりと家に出入りするようになった、あの忌まわしい影は。
わたし以外の家族さえも、なんなく屈従させていた。
生まれ育って、物心ついたころ。
すでにそいつは、母の寝室に出入りを繰り返していて。
夜更けにおおっぴらに通ってくる彼のことを、父はにこやかに迎え入れていて。
邪魔をしては、いけないよ。
でも、覗きたければ、好きにしなさい。
母さんはこれから、あのおじさんと仲良くするのだから。
よどみない父の言葉に、なんの疑念も感じないで頷いていた。
ほんとうの仲良しには、自分の妻を引き合わせて。
夜、ふたりきりにしてやることが。
なによりの好意の証しなのだと。
なんの疑問も感じないで、思い込んでいた。

都会に移り住んで、恋をして。
恋の果実を、生まれ故郷に持ち帰って。
そこではあの男が、寸分変わらぬ年かっこうで、待ち受けていた。
すでに年老いた両親は。
そろそろあなたの番ですね・・・
おだやかにそう、頷いていた。

あのときと、おなじように。
男はひっそりと、我が家にとけ込むように入り込んでいて。
真っ先に手なずけた息子に、手引をさせて。
妻を堕とし、娘を惑わせていた。

男がひっそりと、通ってくる夜。
わたしは息をつめて、庭先に佇んで。
物音だけで、すべてを察して。
濃い闇に溶け込んだ熱情に、心焦がして愉しんでいる。

連れ込み宿 待ち合わせる男

2008年10月21日(Tue) 07:17:00

乾いた砂ぼこりの舞う道に。
その男は寒そうにコートの襟を立てて、人待ち顔に佇んでいて。
こっちと視線が合うと、なぜか照れくさそうに会釈を返してきた。
どなたかと、待ち合わせですか?
さりげなくわたしが問うと。
ええ・・・ちょっと。
気まり悪げに、口ごもって。
しきりに時計を気にし始めた。
お邪魔になる、頃合いですかな?
なおも意地悪く、わたしが問うと。
いえ、いえ。あと十五分くらいですよ。
男はすこし、落ち着きを取り戻して。
むしろ開き直ったように、にやにやと笑いかけてきた。

道行く人もまばらな、昼間の繁華街。
そろそろお勤めの時間が近づいた、プロフェッショナルな女性たちが。
ふたり、三人・・・と行き交い始める、いかがわしい街かどに。
男ふたりが、寒そうに。
肩をすくめて、佇んでいる。

きれいな脚ですな。
ストッキングが映える季節になりましたな。
ウフフ・・・あの女性の脚、なかなかですな。
あちらもなかなか、捨てたものではありませんね。
派手な化粧に、鮮やか過ぎる装いの女たちを。
わたしたちは冷やかすように、品定めを重ねてゆく。
この街でいちばんの女が、もうじき来ますよ。
男はしんそこ嬉しげに、さぐるような視線を投げてきた。
ほんとうに佳い女は・・・もっと地味めに装うものですね。
ひそひそ声が、さりげなく。
わたしの胸を焦がしていた。

男とは、顔見知りのような、ちがうような。
単身赴任をしたわたしの留守宅に、いつのまにか影を交らせて。
妻を、娘を、息子の彼女を。
つぎつぎと、毒牙にかけていった男。
単身赴任の明けの、いまになっても。
妻には、ことさら執心で。
いつもひっそりと、呼び出して。
妻の装うパンティ・ストッキングを、週にいちどはなぶり抜いている男。

お互いに、知っているような。知らないような。
この街で、はじめて顔見知りになったような。
ずっと昔から、心を許し合っているような。
妻をはさんで、妻とは深いかかわりを結びあっているその男は。
世の男性のなかで、いちばんかかわりの深い男にはちがいなかった。
そろそろ来ますよ。
男が目配せでそう伝えると。
わたしはそそくさと、手近な路地にしけ込んでゆく。

道の向こうから現れた女は。
いつも娘のPTAのとき着ていく、地味な深緑のワンピースに身を包んでいて。
サンダル履きの脚には、なまめかしい薄黒のストッキングに、素肌を透きとおらせていた。
無言でていねいに、一礼すると。
女は身を隠すようにして、男に寄り添って。
男はさりげなく、妻の肩に腕を回している。
ツタのように絡まった腕は、こと果てるまで解かれることはない。

タダで見ることも、できるんですよ。
男はたまに、こちらの気持ちを見透かしたように。
イタズラッぽく笑いかけては、そんなふうにそそのかすのだが。
わたしはいつも、ゆっくりとかぶりを振って。
寄り添うふたりとは、すこし離れて、あとを尾(つ)けて。
その、古びた宿に足を向けてゆく。

都会の片隅に、ひっそりたたずむその家は。
いくたりの男女を、飲み込んでいったことだろう。
屋根の下、燃え盛った情念を。
黒ずんだ古木の裡に秘めつづけている。
ふたりの消えた門前で、わたしはふとなつかしく、その家のたたずまいに見入ってしまう。
古木に秘められた情念の、そのいくばくかは。
妻の血潮をあやしているはずだから。
連れ込み宿。
人がそう呼ぶ古宿に。
妻はひっそりと、消えていった。

覗き部屋 お一人様 三千円。
むぞうさに書かれた文字を、なぞるように指さすと。
ひとりで現れた客人に、宿の老女は納得したように頷いて。
楚々とした立ち姿で、わたしを家の奥に導いていった。

むさぼるように。結びつくように。
しつように絡み合う、男女のまぐわい。
妻はわたしに隠れて牝となり、男はおおっぴらに牡と化していた。
わたしが覗いていると、男は勘づいていて。
もしかすると、女のほうも勘づいているかもしれなくて。
けれども焔のような吐息を交わし合う男女は、恥を忘れ果てていて。
あらぬ痴態に、淪(しず)んでいった。

おかえりなさい。
ああ・・・ただいま。
気まり悪さなど、露ほども覚えずに。
妻は迎え、わたしは家の敷居をまたいでいる。
いつもと変わりない日常のやり取りが。
あの場の惑いを、幻に変えてゆく。
どこまで、知っているのだろうか?
どこまで、愉しんでいるのだろうか?
お互い探り合う、無意識の葛藤。
そんな惑いさえもが、なぜか愉しくて。
こんどの外出はいつ?
さりげなくそんな問いを投げている。

ただいま。

2008年10月20日(Mon) 05:51:13


ただいま。
夜更けの玄関に響くのは、我ながら冷え切った、うつろな声。
家に戻ってくるのは、何日ぶりだろう。
仲良しのYくんと、公園で逢って。
Yくんの友だちだという吸血鬼のおじさんに、引き合わされて。
まるでペットに餌でもやるような、あたりまえの態度で。
Yくんはハイソックスを履いた脛を差し出して、おじさんに吸わせてやって。
くしゃくしゃにずり落ちたねずみ色のハイソックスに、赤黒いシミをにじませながら。
ボク、きょうは体調よくないんだ。マサルも協力してくれるよね?
って。
言われるままに、脛を差し出したとき。
きょうのハイソックスは、おニューだったんだっけって。
見当違いな心配をして・・・

がらりと開いた引き戸の向こう。
おかえり。
含み笑いを浮かべた声は、家族のものではなかった。
ククク・・・
あのときと、そのつぎの日と。
その日の晩と。
発育し切っていない身体からすべての血液を吸い出すには。
たった三回のチャンスでじゅうぶんだった。
おじさんが今、口もとからしたたらせているのは。
ママの生き血?それとも妹のミカちゃんのぶん?

そういうボクだって、もうこのあいだまでもボクではない。
透きとおってしまった血管に、血はほとんどめぐっていない。
空っぽの血管は、さっきから、ずきずき、ずきずき、疼きつづけていて。
血が欲しい・・・本能の叫びのまま訪れた我が家は、
温かい血液を宿した人間どもの住処にしか映らなかった。
お前のぶんも、とってあるよ。
ボクをもう、身内と心得きったおじさんの声に。
ありがとう。
ボクは無表情に、こたえていた。


公園で逢った、そのつぎの日の夜。
ボクは失血で、ふらふらしていた。
きょうもおじさんは、学校帰りにボクのことを捕まえようとして。
ちょっと待って・・・そう言っただけなのに、素直に道を開けてくれた。
すぐ戻ってくるから。
目で伝えた言葉を、おじさんはすぐに信じてくれた。
校庭で暴れているうちに、泥の撥ねたハイソックスを、真新しいのに履き替えて。
数分後には、夕暮れ刻の公園に戻っていた。
真新しいハイソックスを履いたまま差し出した脚を、おじさんに吸わせてやって。
つねるようなかすかな痛みの下、滲むように埋め込まれる牙が。
破けてくしゃくしゃにたるんだハイソックスに、なま温かいシミを広げるのを。
面白そうに、見おろしていた。

マサルのハイソックスも、愉しいが。
きみのママのストッキングも、面白そうだね。
フフッ・・・
人のわるそうな笑みを浮かべるおじさんに。
ボクもおなじくらい、ダークな微笑を返している。
おなじ色をした笑みを、つぎに交わしあったのは。
その日の真夜中、家の庭先に忍び込んできたおじさんを、
雨戸をあけて、引き入れるときだった。

ひたひた・・・
ひたひた・・・
足音を忍ばせて、たどるのは。
ママの寝室に通じる廊下。
いま履いている、薄い靴下は。
パパのタンスの引き出しから勝手に拝借した、通勤用のハイソックス。
ストッキングみたいに、薄いのがいいんだ。
ボクは勝手にそう思い込んで。
パパがたまーに履いている、ストッキングみたいに薄い紺色のやつを。
ママの目を盗んで、引き出していた。
脛の周りを、ぴったり貼りつくナイロンが。
いつものハイソックスよりも、いちだんとなめらかに、ボクの足もとを締めつける。

坊やはここで、待っているんだよ・・・
おじさんはほくそ笑んで、そう言ったけれど。
ボクはゆっくりとかぶりを振って。
まだ起きていたママに、おじさんのことを引き合わせたのだった。
真夜中なのに。
ママはなぜか、お出かけのときみたいにおめかしをしていて。
ワンピースのすその下、ストッキングまで穿いていた。


うっ・・・
抱きすくめてくる吸血鬼の背中を。
ママも、しがみつくようにして、抱きしめて。
立てた爪が、マントに食い込むほどに、強く強く・・・震えながら。
ボクの身体からおじさんが吸い取ったバラ色の液体を、しずかに音をたてて啜り取られてゆく。
いまは、あの夜の再現。
倒れて折り重なった影ふたつ。
ボクは開けっ放しになった隣室に、たたずんで。
あの夜とおなじ、薄い靴下を履いたまま。
足もとに冷え冷えとしみ込んでくる冷気に、足の裏をさらしながら。
畳のうえのパントマイムを、飽きることなく見つめていた。
しだいしだいにたくし上げられてゆく、バラの花をあしらったロングスカートから。
まるで、お芝居の幕が開くようにさらけ出されてゆく脚は。
薄々の黒のストッキングに、包まれていた。

ほら、お前の番だよ。
おじさんはむぞうさに、ボクとママとを鉢合わせさせて。
ママはとがめるでもなく、けだるそうにそっぽを向いて。
噛みなさい。
無言でそう、伝えてきた。
おそるおそる、唇をあてた、むき出しの肩先は。
切れた下着の吊りひもが、まだだらりと引っかかったままだった。

うどんみり。うどんみり。
どこでそんな言葉を、覚えたのか。
量感のある血液に、むせ返りながら。
ボクは甘えるようにして、なんども唇を吸いつけていった。
ボクと同じ血。とてもなつかしい血。
初めての晩。うっとりしちゃったママを抱きしめたおじさんは。
さすがは、マサルくんのお母さんだ。佳い味だ。佳い血をお持ちでいらっしゃる。
片頬を冷酷に透きとおらせながら。
もう片方の頬は、吸い取った血のりをべっとりと光らせていた。

フフフ。やっぱりお口に合ったようだね。
おじさんは、得たりとばかりほくそ笑みながら。
黒のストッキングを履いたママの足首を捕まえて。
唇をぬるり・・・と、這わせていった。
ちゅうちゅう・・・ちゅうちゅう・・・
物音ひとつしない、畳の部屋で。
煌々と明るい照明の下。
競い合うように・・・ふた色あがる、吸血の音。
ママは一滴でも多く、ボクによけいにくれようとして。
うなじをかしげて、身を寄り添わせてきた。


わたしの血が、口に合うのなら。
今夜はサエコおばさまの処に、いらっしゃい。
おばさまは、おじさまを亡くされたあとだから。
だれにも迷惑は、かからないから――

ママのうつろな声に、引かれるようにして。
さまよい出た、夜の街。
ふらつく足取りは、家に入るまえとかわらなかったけど。
さっきは、餓えで。
いまは、酔いしれて。
天地ほど違う心地を、かかえていた。

ママから、連絡を入れておくから。
にたりと笑んだママの視線を、背中に感じながら。
ボクはけだるい気分で、ずり落ちた靴下を直していた。
ボクの体内にすこしだけ残されていた、ママとおなじ血を欲しがって。
おじさんは、薄い靴下をくしゃくしゃにしながら、唇をしゃぶりつけてきた。
ストッキングは、面白いんだね。
肌の透けるナイロンが、びちびちとかすかな音をたててはじけていって。
紺色に染まった脛が、あらわになるのを。
ボクはへらへらと笑いながら、見つめていた。

真夜中の道にさまよい出たとき、
真っ暗に寝静まったおばさんの家に。
じりりりりん!って、電話の音が響いたのだろうか。


首尾よく血を抜き取らせて、家族の血さえも与えたものは。
ごほうびに、吸血鬼にしてもらえる。
まず飢えを癒すのは、家族の血。
血の奴隷に堕ちた家族は、ほかの仲間たちにもあてがわれて。
その代りに、吸血鬼になったものは、べつの一家を割り当てられる。
多くは、家族の見知りの家―――。
その家のご主人も、奥さんも。
お嬢さんも。息子も。
息子の彼女までも。
どこまでモノにできるのかは、その吸血鬼のウデしだい。

サエコおばさんは、黒一色のスーツ姿でボクのことを出迎えた。
病気になっていなくなったおじさんを弔うための装いも。
ボクには食欲をそそられる装飾品にしか映らなかった。
なにも知らないサエコさんは、ママにおねだりされるまま。
「きちんとした服装」で、ボクのことを出迎えてくれて。
だしぬけに襲いかかったボクに、なんなく畳のうえにねじ伏せられていった。

ママより年上のサエコさんの首筋は、色白で、気品があって。
でも、まだ噛むことに慣れていないボクの牙には、ちょっぴり硬かった。

長々と伸びた、黒のストッキングの脚。
ボクは舌なめずりをして、這い寄って。
真夜中の客人を正装で迎えた、サエコさんの好意に甘えるようにして。
歓迎のしるしを、想いのままに愉しんでいた。
ぬるりとなめらかなナイロンのうえ、べろを垂らして、ゆっくりとあてがっていって。
白い脛を、鏡のように映し出した薄い生地を。
くしゃくしゃになるまで、波立てていった。


やらしい・・・なぁ。
妹のミカは、母親譲りのうつろな声をして。
ベッドのうえ、制服のまま腹ばいになって。
真っ白なハイソックスのふくらはぎを、吸わせてしまっていた。
ヒルのように吸いついた、唇の下。
鮮やかなバラ色が、無地のハイソックスに大胆な柄を描いていた。
寝そべるミカちゃんに、おおいかぶさるようにして。
ボクも・・・うなじを吸っていた。
ミカちゃんの血は、暖かくて、初々しくて、活きがよくって。
ボクがもう喪ってしまった、人間らしい懐かしいぬくもりが、まだ残っていた。

ずり落ちたハイソックスを、むぞうさな手つきで直しながら。
ミカちゃんは、こっそりと囁いたものだった。
お友だちのユウコちゃんを、襲ってあげて。
ユウコちゃんも、美人だけど。
ママはもっと、美人なんだよ。


勉強部屋の片隅に、追い詰めて。
吸いつけた唇の下、ねじれていったハイソックスは。
妹とおそろいの、真っ白なやつだった。
校名のイニシャルを飾り文字にした縫い取りを、覆い隠すようにして。
制服の一部になっているハイソックスを、堕としていった。
縦にツヤツヤと伸びた、太めのリブを。
ねじれるほどに、ねじり抜いて。
悲鳴も出ないほど怯えきったユウコちゃんは、
しまいに力の抜けた体を、ふらつかせて。
その場にぺたりと、尻もちをついていた。
あとはもう、思いのまま―ー―。
なみの身体つきをした、14歳の少女の体内に残された血液の量を。
ボクは頭のなかで正確に測りながら、もう片方のハイソックスにも、赤黒いシミを滲ませる。

とんでもない家庭教師だった。
教える科目は、血を吸われるときの逃げ方、応じ方。屈従するときの礼儀作法。
学校の成績のよいユウコちゃんは、とてももの覚えがよかった。
ママのストッキングも、愉しいだろうね?
囁くボクに、ニッと笑って。
ママがお部屋に入ってきたら、あたしがドアを閉めて、さりげなくママの後ろにまわり込んで・・・
先生に指された優等生が暗誦するように、きれいな声ですじ書きをつぶやきつづける。
カチャカチャ・・・
お盆に載せたティーカップの音が、ドアの向こうから近づいてきた。


ユウコさん。
こんど先生を、お迎えするときには。
ママみたいに、ストッキングをお履きなさい。
いつも学校に穿いて行くやつで、かまわないから・・・
ユウコちゃんのママは、うなじに紅い痕を滲ませたまま。
ボクの望むとおりのことを、娘に告げていた。
モノトーンのワンピースの下、きっちりと装われた肌色のストッキングは。
ボクのいたずらの前に、他愛なくびりびりと破かれていって。
娘と隣り合わせに、尻もちをついたときには。
くもの巣みたいに見る影もなくなって、脛の真ん中までずり落ちていた。

力の抜けた細い腕が、さっきから。
破けたストッキングの切れ端を、自堕落に引っ張っている。
お父さんに、なんて言い訳しましょうか?
言い訳言葉は・・・ね。
まるで愛人みたいに、後ろから寄り添ったボクは、囁きかえしている。
今夜忍んでくる男のひとが、考えてくれるよ。
ユウコのパパと、いっしょにね。
アラ・・・ワンピースまで汚してしまっては、だめよ。
ユウコのママは、ころころと笑いながら。
ひどくもの慣れたあしらいで、娘のまえ、自ら乳房をあらわにしていった。


ほら。
勉強部屋に顔を出したパパは、入口に突っ立ったまま。
ボクのほうに、無造作に投げてよこした。
たたみの上に落ちて、長々と伸びたのは。
黒光りのする、薄手の長靴下。
これからは、パパのたんすをあさるんじゃないよ。
ニコと笑って、背中を向けた。
夫婦の寝室からは、うめき声が洩れてくる。
覗きは悪趣味だよな?って、いいながら。
ボクたちふたりは、ママがヒロインのポルノグラフィーを、
オトナの男になって、たんのうするようになっていた。

あの晩のことかね?
あれはね。父さんが仕組んだのだよ。
うちはもともと、そういう家だから。
ママは都会の人だから。
なにも知らないまま、村に来ちゃったし。
そろそろ・・・どうかね?って、すすめられて。
引き込まれていったのだよ。

お前があのひとと、仲良くなれたのは。
たぶん、血が教えたのだろうね。
そういえば。
初めて噛まれた瞬間よぎったのは。
ボクの血をぞんぶんに、あなたの体内に取り入れて!
本能が教えた、衝動のような誘惑のまま。
ボクはお砂場で、尻もちをついいていたんだっけ。


これからお邪魔するお宅はね。
パパのライバルの家なんだ。
ご家族全員、都会育ちなんだけど。
もう・・・おじさんの手が入っている。
特別の好意だって。
ご主人だけは、たぶらかしちゃったけど。
あとは、したい放題なんだって。

お前のウデしだいで。
奥さんも、お嬢さんも、息子も、息子の彼女も・・・
さあ、どこまで堕とせるかな?


あとがき
連鎖反応的に、恐ろしく長くなりました。A^^;

むさぼるように。

2008年10月19日(Sun) 09:49:01

踏みしだくような接吻だった。
仰のけられたおとがいを、かいくぐって。
深々と圧しつけられた唇の熱情に。
彼女は身を反り返らせるようにして、耐えていたけれど。
唇の裏側に秘められた鋭利な牙は。
びろうどのような彼女の皮膚を、切り裂いて。
冷酷なまでの正確さで、太い血管を食い破っていた。

ごくり・・・ごくり・・・
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
じゅるじゅるじゅるっ。
清楚な装いに、きりりと束ねられた長い髪。
彼女が漂わせる初々しくもさわやかな風情とは、不似合いに。
男は汚らしい音を洩らしながら、吸血行為に耽りつづける。
月明かりの下、蒼白く輝く頬が。
苦痛と屈辱をけんめいにこらえる、しなやかな背すじが。
真っ白なタイトスカートから覗いた、てかてかと光るひざ小僧が。
徐々に弛緩していって、影を崩してゆく。

引き抜いた。
思いきり。
冷たく輝く牙の切っ先から、吸い取った血潮がたらたらとしたたった。
ぐったりとなった女は、樹に背中をもたせかけたまま、うつむいている。
男がなにか、囁くと。
女は初めて、目をあげた。
首すじをしたたり落ちる、ひとすじのバラ色の痕が。
ブラウスの襟首に、這い込んでいた。
終始べそをかいていた彼女は、もう泣いていなかった。
ほのかな笑みが、うっすらと妖しく・・・頬をよぎっていた。

せめぎ合う、呼気と呼気。
重ね合わされた唇は、いちぶのすき間も見せないで。
かすかに揺れ合う体と体を、結び合わせるように、密着し合っていた。
いちどだけ許された口づけを、いともあっさりとかち獲た男は。
こちらをちらりと盗み見て、憎たらしい流し目を得意げに送ってくる。
もういちど、唇を強くつよく、吸い合って。
ひめやかで生々しい呼気がここまで漂ってくるかのように。
見せつけるようにして、奪ってゆく。

男が視線で、要求すると。
女は乱れ髪を背中に追いやって。
ブラウスのリボンをほどいてゆく。
ブラジャーの肩ひもが覗くほど、自分からえり首を押し広げて。
あらわになった胸元の一角、乳房のつけ根のあたりに。
牙を沈められていった・・・
まつ毛を震わせながら見上げる、陶然としたまなざしは。
あらぬ方をさまよって、焦点を喪っていた。

失血のあまり、草地に尻もちをついた女を抱き起こして。
ベンチに座らせた足許を、要求すると。
女はひどく恥かしがって、いやいやをしたけれど。
重ねられてくる唇をちょっと避けたはずの脚は、ストッキングに唾液をなすりつけられるままになっていった。
肌色の薄い生地のうえ。
ぬらぬらと染みついた、銀色の唾液。
男はわざとのように、それをすり込んで。
女は咎めるように、口をとがらせる。

ご馳走さま。
女が行ってしまうと。
やつはわたしのほうへと、歩み寄ってきて。
処女だった。それにしても、いい女だな。
まだ残り惜しげに、女の立ち去った方角に目を向けていた。
きみの婚約者だから、欲しくなった。征服したくなった。
奪るつもりはない。盗み取らせてもらおう。
男のいうなりに。わたしは無言でうなずきながら。
胸の奥でとぐろを巻く、衝動のような欲情をこらえかねていた。

こんどは黒いやつを穿いてこい・・・そう命じたのだ。
明日のデートで、女が黒のストッキングを穿いてきたら。
盗られた・・・そう思うんだな。
男の予告どおり、彼女は薄墨色のナイロンで、足許を透きとおらせていた。

その日は、共通の友人の結婚式だった。
新郎がそっと、耳打ちをした。
彼女を先に、帰らせろ。
30分くらいゆっくりしてから、あとを尾(つ)けるんだ。
行先はどうせ・・・きみにはよくわかっているんだろう?
忌まわしい影のようなあの男は、今日いちばん幸せなはずのこの友人に紹介されたのだ。
それまで、することがないって?
僕の部屋のまえで、立ち話でもつきあってくれないかな?
ちょっとのあいだ、手持ち無沙汰なんだ。
きみの彼女を襲うはずのあいつに、嫁さんの初夜をプレゼントしなくちゃならないんでね。

ひどく鮮烈だった。
ホテルの部屋の、半分開け放たれたドアの隙間の光景は。
今夜ひと晩、借りているんだよ。
親友の説明を聞くまでもなく。
花嫁は純白のウェディング・ドレスのまま。
うなじを噛まれ、血をしたたらせて。
さいごに重たいドレスのすそを、引き上げられて。
牙のように鋭くそそり立つ赤黒い肉塊の侵入を、許していった。
羞ずかしそうに、目を伏せながら。

わたしも、あんなふうな初夜を迎えるのだろうか?
肌寒い風吹き抜ける、公園のベンチ。
彼女はショルダーバックをのせた膝をすくめて。
下劣きわまる男の舌に、清楚な黒のストッキングに装った脚をなぞらせてしまっている。
ひざ小僧のすぐ下のあたり、肉づきのよさそうなふくらはぎに。
男は性急に、唇を吸いつけて。
ひときわ強く、食いつくと。
女は身をのけぞらせ、足首を緊張させて。
その足首を握りしめ、抑えつけられて。
唇の下に上下に走るストッキングの裂け目を、さいしょは無念そうに。
やがて、面白そうに。
さいごに、くすぐったそうな声さえ洩らしながら。
見つめつづけていった。

ふしだらに広がった伝線が、彼女の素肌を露出させるように。
逢う瀬を重ねるたびに、着衣の乱れはふしだらになって。
てかてか光る肌色のストッキングの脚を、見せびらかすように、さらけ出しながら。
もう・・・つつしみも気品も、かなぐりすてて。
太もものつけ根のあたりさえも、噛ませてしまっている。
いつしか私は影のように、彼女の後ろに佇んで。
彼女が暴れないよう、姿勢を崩しすぎて、地べたに倒れこまないように。
さりげなく肩を抑え、隣に腰かけてひざ小僧を抑えてやって。
ストッキングの脚を、愉しませてやるようになっていた。

当日は、白のストッキングだね?
ええ、光沢入りのやつにするわ。
あいつ、廊下で待ちぼうけをしているあいだ、ずっと覗きこんでいたぜ。
あなたも、見ていてくれるわよね?
ああ・・・喜んで。
彼女が純潔を捧げる相手は、わたしのあるじ。
彼が犯し、わたしが見守る。
それはきっと、忘れられない夜になるに違いない。

女先生 2

2008年10月14日(Tue) 08:02:52

愛野さん、蒼原さん、伊佐木さん。
きょうはこの三人ですね?
夕子はシックな黒のスーツ姿。
あとにつづく三人の教え娘は、おそろいのセーラー服に、おさげ髪。
時折お互い目配せし合っていて。
黒の靴下におおわれた脛を、見せあっている。
こういう集いに初めて招かれた伊佐木智恵子は。黒のタイツ。
けれどもほかの二人は、寒々とした外気に、肌の透けるストッキングの脚をさらしていた。
行く先に待ち受けるのは、処女の生き血に恋い焦がれるものたち。
けれども少女たちは臆面もなく、歩みを進めていった。

後ろで結わえただけの地味な髪形をした夕子は、教え子たちの先導役。
これも、薄々の黒ストッキングに脛を透きとおらせている。
教え子たちの制服の一部であるタイツやストッキングと比べて、ひときわきわだっているのは。
成熟しきった女の脚線と、それをふちどるツヤツヤとした光沢。
くすくす。ウフフ・・・
取り澄ましている黒タイツの少女をのぞいた二人は、ひじつつき合いながら。
時おりくすぐったそうな囁きをもらしていた。

翌朝のことー―ー
あら、伊佐木さん。顔色悪いわね。
夕子は智恵子を呼び止めると、教え子の白い顔を気遣わしそうにのぞきこんだ。
どうしたのかしら?そう、きっと寒いのね。
昨日まで厚手のタイツに覆われていた智恵子の足もとは、薄手のナイロンに装われて。
みずみずしい素肌を、蒼白く滲ませていた。
寒いのに、薄手のストッキング。似合うわ。
優しげな目鼻に、ちょっと意地悪そうな笑みを含ませて。
夕子が立ち去ると、智恵子はお行儀悪く、うなじのあたりを引っ掻いている。
昨日のなごりが、まだバラ色のしずくをあやしていた。

教え子たちがその身に宿す、処女の生き血。
教師の立場を利用して、親たちさえも説き伏せて。
闇夜の仲間のために、惜しげもなく饗する女。
けれども生贄になる少女たちにそそぐ彼女の視線に、いたわりや同情はない。
堕ちてゆきなさい。
冷酷に宣言された言葉の下。
怯える少女たちはまたひとり、制服のすき間を毒牙で侵されてゆく。
夕子はいちぶしじゅうを、愉しげに見届けると。
冷たくなった初々しい頬に、初めて愛らしい接吻を重ねてゆく。
吸血鬼たちの手先になって、恥じないのは。
初めて捧げた処女の生き血が、ほかならぬ自身のものだったのだから。

女先生

2008年10月14日(Tue) 07:58:33

雑木林に、連れ込まれて。
手近な太い樹に、縛りつけられて。
ダークグレーのスーツのすき間、覗いた胸元。
純白のブラウスのボウタイを、ほどかれていって。
牙をむき出し、本性をあらわにした黒い影は。
がぶり・・・っ!
そのまま夕子の素肌を噛んでいた。
ちゅう、ちゅう、ちゅう、ちゅう・・・
吸血鬼など信じない夕子でも。
相手が自分の血を吸っていることに、もはや疑いは持てなかった。

夕子先生!夕子先生ッ!
かなたから、自分の名前を呼ぶ声がする。
助かった・・・と自覚できたのは。
すがりつくように重苦しくおおいかぶさっていた人影が、自分から引き離され、そらぞらしい外気に包まれた時だった。
もみ合う男たちの片方は、おなじ学校に勤務する空村教師だった。
黒い影の男は、ちっと舌打ちすると、あきらめもよいらしく、風のようにさっと姿を消していった。

緩められた縄目に、安堵の情がわくと。
涙がぼろぼろと、こぼれてきた。
噛まれたうなじが、ひりひりと痛む。
ご丁寧に足元をくまなく噛んでいったあとは。
裂けた肌色のストッキングが、ひざ下にうっとうしく、からみついたままだった。
空村教師は、手にしたハンカチで傷口を手早く拭うと、
行きましょう。ここは危ない。
迷路のような雑木林の奥深さから、夕子を救い出してくれたのだった。

独り暮らしのアパートには、火の気がなかった。
だいじょうぶ・・・力をこめて強調する夕子をなだめすかして、空村は彼女をソファに寝かせると。
消えていた生気を取り戻すように、部屋を明るくし、暖かくよみがえらせてゆく。
すみません。すっかりお世話になっちゃって。
いえ、当然のことですから・・・
このあたり、吸血鬼が出没するのですが。
なぜかどこにあたっても、取り合ってくれません。
へんに騒ぎ立てたりしないで、他言無用にする方が無難ですよ。
泣き寝入りにするのは、気が進まなかったけれども。
空村のそんなすすめに、夕子は素直にうなずいている。

や、やだっ!
追い詰められた壁ぎわで。
ピンクのスーツ姿を抱きすくめられて。
夕子はけんめいに、あらがっていた。
このあいだと、おなじやつだった。
表ざたにならなかったのを、いいことに。
またもや夕子を狙ったのだ。
やめて・・・やめて・・・
けんめいにかぶりを振りながら。
仰のけられたおとがいの下。
太く鋭い異物が、皮膚をちかりと侵すのを覚えた。
きゅうっ。ごく・・・ごく・・・
すべてがこのまえの、くり返しだった。
ああ・・・気が遠くなる。
夕子はいつか陶然として、壁にもたれかかったまま姿勢を崩していった。
「危ないっ!」
空村がかけつけたのは、そのときだった。
この!
憎悪に満ちた鉄拳が、男の背中にぐさりと突き刺さる。
男はあわてて飛び退くと、
ちっ、と舌打ちして、やはりあきらめよく、さっと影を隠していった。

ストッキング、破けていますよ。
空村の指摘をうけるまでもなく。
黒のストッキングにあらわに描かれたカーブは、白い脛を恥ずかしいほど露出させていた。
歩けますか?
空村は夕子をいたわりながら、彼女の家の方角へといっしょに歩きはじめていた。

いつか、空村に依存する心が、芽ばえてきた。
空虚な都会生活をきらって、赴任してきた田舎町。
けれどもそこで彼女を待ち受けていたのは、吸血される・・・というまがまがしい体験だった。
空村はいつもどこからかあらわれて、あわや・・・というときに彼女を救ってくれた。
顔色悪いですね。このまま寝ちゃった方が、いいですよ。
幼な児を寝かしつけるように、彼女に布団をかけると。
空村はアパートのドアを閉めた。
新聞受けを通してチャリンと落される鍵の音に安堵して。
夕子はいつか、心地よい眠りに落ちている。

アパートの階段を降りてきた空村に。
黒い影が、寄り添ってきた。
もう少しくらい、いいじゃないか。
ダメだよ。
断言する空村に、影は怨じるようにうめいたが。
立ち止まった彼のズボンをたくし上げると、薄い靴下のうえから唇を這わせ、
おもむろに吸血の音を漏らし始めた。

やめて・・・やめて・・・
追い詰められたガレージのなか。
破かれる用心に、このごろは目立たない肌色のストッキングばかり穿いている脚が。
つま先立ちするほどに、恐怖していた。
恐怖・・・なんだろうか?
一瞬かすめた、疑念。
なぜか?そう・・・彼女はワクワクしていたのだ。
追い詰められ、抑えつけられて。
肌を食い破られ、生き血を貪られる恐怖。いや、愉悦―――。
このごろは、空村の出現が少しでも遅いことをさえ願いはじめていた。
力まかせに、組み敷かれて。
ブラウスの胸を、荒々しくまさぐられて。
容赦なく食い入ってくる牙に、彼女はひいいいっ!と、悲鳴をあげている。

ふと、気がつくと。
足許に吸いついた、なま温かい唇―――。
暴漢はまだ、彼女のうえにのしかかって。
うなじをちゅうちゅうやっている最中だった。
それとはべつの唇が。
さっきから、肌色のストッキングを穿いた夕子の足もとをいたぶっている。
執拗に圧しつけられてくる唇は。
あたかもストッキングをなぶり抜くのを愉しむように。
薄いナイロンの生地をじりじりとねじりあげ、よだれをしみ込ませてきた。
だれ・・・?
問うよりも先に、唇から洩れた牙が、彼女のふくらはぎを侵していた。
もう、ダメ・・・
理性を突き崩された彼女は、歓楽のるつぼに落ちる間際、気絶した。

いいな?夕子の処女はわしがいただくぞ。
わかっているさ。しきたりだものな・・・
そんな会話が、昏く堕ちた意識のかなたから、聞こえてきたようだった。

やめろ!やめろ!夕子さんを放せッ!
樹に縛りつけられた空村は、夕子を組み敷いた暴漢に、激しく罵声を浴びせていた。
憤慨しているように響く声が、昂りをこめて上ずっていることに。
居合わせただれもが、気づいていた。
ここは、空村の家。
柱に縛りつけられた空村のまえ。
まずその母親が、喪服に包んだ裸身をあわにし、
それから妹が、制服姿を堕とされていった。
さいごに夕子が、純白のスーツの肩先に、バラ色の血潮を滲ませると。
だれもが、「ほうっ」っと。
無言のため息を交えていた。

いいの?いいの?わたし、ほんとうに犯されてしまう・・・
さいしょからすべてが、彼女を見染めた空村の描いたシナリオだった。
けれども彼に惹かれてしまった夕子は、そのまがまがしい意図に、むしろ協力的な態度さえとっていた。
いまはその、最高潮―ー―。
腰までたくしあげられた純白のタイトスカートの奥。
未来の花婿のまえ、べつの男の臀部が迫ってくる。
怒張した肉の牙が、彼女の純潔に襲いかかる。
だれもが、その目撃者。
けれども夕子は、羞恥心をあらわにはげしくかぶりを振りながら。
もうーーー愉悦の衝動を隠すことができなくなっていた。
忌むべき体液の熱いしたたりが、太ももに散った。
周囲にすりつけられ、彼女を焦らしながら。
そいつはじりじりと、近寄せられてくるのだった。

襲われちゃったときの、用心ですよ・・・

2008年10月14日(Tue) 07:22:09

久しぶりに、妻とセックスした。
ちょっと待って。
ベッドに入り込んでくる前に。
やおら避妊薬を取り出したのには、驚いた。
そんなもの・・・いつも飲んでいるの?
わたしに問われて初めて、妻ははっとして。口ごもって。
「エエ、だって・・・」
襲われちゃったりしたときの、用心よ。
子供できちゃったら、困るじゃない。
私だって、一応若いのよ・・・
さいごにクスリと笑いかけて、恋人どうしのころのように腕の中に入り込んできた。
子供が年頃になるくらいになった、そんな年代でも。
女はそこまで、用心するのだろうか?
ちらとかすめた疑念は、なぜか異常な昂りに直結していた。

えっ?
だって。襲われたりしたら、困るじゃない。
パンストなんか穿いていたら、破かれちゃうから。
出がけに妻は、わざとスカートをたくし上げて。
黒のストッキングのガーターを見せびらかした。
目のやり場に困るくらい白い太ももが。
ガーターで区切られた下、なまめかしい薄墨色に染まっている。
ばたん・・・目の前で閉ざされたドアに、わたしはしばしぼう然としていた。

ああ、これね。
襲われちゃったときの、用心ですよ。
女性の身だしなみなんですよ。
殿方にスカートめくられても、幻滅されないように。
セクシィで毒々しいほど刺激的な、ショッキングピンクのひもパンティ。
脱がされるより・・・ほどかれるほうが楽しいのかね?
ふるえる手で、ショーツを引きずりおろすと。
さぁ、どうかしら・・・
妻の横顔は、謎めいた微笑に染まっていた。

その服装。
襲われちゃったときの、用心なのだね・・・?
自宅の寝室をなぜか、他人の部屋ようにのぞき見しながら。
わたしは独り、昂っている。
ベッドのうえ、半裸の妻ともつれ合っているのは。
見知らぬ年配の男性。
それはそれは、おいしそうに。
白い肌を、すみからすみまで、舐め尽くしている。
舐め尽くされ、しゃぶり尽くされてゆく妻は。
淑やかに装ったワンピースを、しどけなく振り乱して。
いつかのように、黒のガーターの太ももを、さりげなく露出させていた。
不意のお客様でも、恥ずかしくないように・・・
いつもこぎれいに、装う妻。
夫をまでも、洗脳するなんて。
きみの用心。完璧だね。

しみ込まされてゆく。

2008年10月13日(Mon) 04:34:05

しみ込まされてゆく。
後ろから、羽交い絞めにされて。
うなじをつかまれた妻は。
赤黒くただれた飢えた唇を、白い肌にねっとりと這わされて。
もの欲しげにすりつけられ、ヒルのように這いまわる唇に。
脂ぎったよだれを、皮膚の奥にまでしみ込まされてゆく。

しみ込まされてゆく。
しとやかに装った、黒のスーツ。黒のストッキング。
蒼白く透ける脛を、薄いナイロンのうえからなぞるように。
あてがわれる舌が。唇が。
幾度も幾度も、よだれをなすりつけるようにして。
じわり・・・じわり・・・と、侵していって。
しつように圧しつけられる唇の下。
淡い墨色のナイロンが、ねじれ、ゆがんで、くしゃくしゃになって。
耐えかねたように、チリリと裂け目を滲ませるまで、重ねられてゆく。

しみ込まされてゆく。
侵された皮膚の下。
あの男がそそぎ込んでいった毒液は。
いつか妻の理性までも、浸潤して。
逢瀬を繰り返し、重ねさせてゆく。
けれどもあらかじめ、やつから告げられたわたしは。
見え透いた嘘をついて出かけてゆく妻を、気をつけて・・・と、送り出して。
心ずきずきと疼かせながら、後ろ姿を見守るばかり。
歩みを進め、遠ざかってゆく。黒のストッキングのふくらはぎは。
つややかに透きとおった墨色の包装に、妖しいてかりをよぎらせてゆく。

しみ込まされてゆく。
あとを尾(つ)けて、たどり着いた古屋敷の奥。
じゅうたんのうえ、組み敷かれた妻は。
形ばかりの抵抗のすえ、あきらめたようにため息をして。
黒のストッキングの脚を、ゆっくりと開いてゆく。
スカートをせり上げながら侵入する、男の腰は。
たくましい筋肉を、臀部に滲ませていて。
ガーターに区切られた、白い太ももの奥。
冷酷なまで正確に、秘められた処をさぐり当てる。
怒張の先端を、わたしだけに許された潔い場所に沈みこませていって。
下に組み敷いた華奢な肢体をのけぞらせ、狂わせる。
スカートの奥、放出されてゆく、白く濁った毒液は。
妻の血液と、交わり合って。

しみ込まされてゆく。しみ込まされてゆく。
うら若い血液に。折り目正しい理性に。清楚な装いに。高雅に輝く白い肌に。
どす黒い欲情を秘めた、唾液を。精液を。
淫らな女に変えられてゆく妻。
変えることを愉しんでいる、黒い影。
浸潤されることを歓びに変えられてしまった、わたし。
かすかな物音。あえぎ声。
薄い闇に支配された三つの人影は。
妖しい劣情を、三つどもえに交わらせてゆく。

危険物を、持ち込まないでください。

2008年10月13日(Mon) 04:33:27

「このバスは、○○経由、××行きでございます。危険物を、持ち込まないでください」
繰り返されるアナウンスを少ない乗客がぼんやりと耳にしている、昼下がり。
その若い男は、いったんぶらりと車内に上がり込んだものの。
エンドレスのアナウンスに、閉口したようにかぶりを振って。
とぼとぼと肩をすくめて、下車していった。
バス通りを歩きはじめた男のことを、二、三の乗客がふしぎそうに目で追ったけれど、
やがて無関心に視線をそらしていった。

バスはとっくに、追い抜いていった。
乾いた路上に、砂ぼこりを残して。
男は汗を拭い拭いして、無情なほどに陽の射す路を歩きつづけた。
村はずれの家にたどり着いたのは、ものの一時間も経ったころだっただろうか。
古ぼけた木造の一軒家の引き戸は、開けっ放しになっていて。
奥の方から、人の声が伝わってきた。
若い娘とその母親のものらしい声に、男はぎょろりと目をむいて。
薄暗い室内を、見通そうとした。

きゃーっ!
娘のほうが、甲高い声で悲鳴をあげる。
けれどもいちばん近い人家でも、わずかに屋根だけが視界に入るほど離れていて。
男はむろん、意に介さない。
男の腕に抱かれたブラウス姿の中年の女は、うなじから血をしたたらせながら。
息も絶え絶えに、あえいでいた。
男はもういちど、女のうなじに唇を寄せて。
若い女がおびえるほど、これ見よがしに。
その母親の血を、キュウキュウと音をたてながら、吸って見せた。
女学校の制服姿の少女は、黒タイツのひざから力が抜けたようになって。
たたみのうえに、腰をぺたんと落としてしまっている。
力強く足首をつかまれて、ひっくり返されて。
少女は脚をもちあげられて、引きずられながら、倒れた母親の隣に引き据えられている。

にゅるっ。くちゅう。ちうぅぅぅぅ・・・っ。
かわるがわるいたぶられてゆく、黒タイツのふくらはぎ、肌色のストッキングのふくらはぎ。
女ふたりは、似通った面ざしを薄ぼんやりとゆるませて。
呆けたようになって、脚を吸われつづけていた。
まず母親の身に着けていた薄々なストッキングが、スカートの奥にまで伝線を走らせて。
頑強だった娘の黒タイツも、裂け目に脛の白さを滲ませた。
「こ、殺さないでっ!」
怯えたようにあがる女たちの声に。
男はクククククッ・・・と、くぐもるような陰湿な笑いで応えると。
―ー―だいじょうぶ、生命までは奪るつもりはない。だがもうすこし、愉しませてもらうぞ。
歩きすぎて、喉が渇いたもんでね・・・。
男はうそぶきながら、母親の喉笛に唇を当てて。
ごくり、ごくり・・・と、女の血を呑みこんで。
ズボンをむぞうさにひざまでおろすと、息を呑む娘の目のまえで。
むぞうさに母親のスカートをたくし上げ、腰を沈ませると。
必死でかぶりを振る女の頬に散った涙を吸いながら、太ももの筋肉をぎゅっと緊張させていた。

娘が受話器を、握りしめている。
―ー―お前、友だちはいないのか?活きのよさそうなのをひとり、ここに呼び出せないのか?
男に迫られるまま、電話をかけて。
けっきょく、こちらから出かけていくことになった。
この家とおなじように、母親もいっしょだとわかったからだった。

壁を背にして、尻もちをついたまま。
少女は指先についた友だちの血を、行儀悪く舐め取っていた。
白目をむいて気絶したクラスメイトは。
着物姿の母親が、すぐ傍らで裾を割られているとも知らないで。
あざやかに伝線した黒のタイツをまだ身に着けたまま。
大の字になって、制服姿を横たえている。
うなじにつけられた、二対の痕。
自分でつけたほうの一対に、少女はもういちど指先を伸ばして。
バラ色に輝くしずくを、からみつけていった。

お姉さんも、いるんだよ。
ねぇ。どんなかっこして、お勤めに行ったの?
娘の友だちに、責めるように問われた母親は。
白のスーツにボーダー柄のブラウスといういでたちを言わされたうえ、
肌色のストッキングにてかりがあることまで、告げさせられていた。
夕刻。
そのまま居座ったひと組の男女に挟まれて。
勤め帰りのOLは、きゃーっ!ってひと声叫んで。
悲鳴と引き換えに理性を喪失した女は、意地汚くあてがわれてくる唇の下。
てかてかとした光沢を滲ませたストッキングがしわ寄せられよじれていくのを。
ただ面白そうに、目で追っているだけだった。

「運転手さん。音、止めてくれねぇ?」
初老の乗客に求められるまま。
運転手は無表情に、車内のアナウンスを切った。
「危険物を、持ち込ま・・・」
乗客は得意げに自分の妻を振り返ると。
女は困ったように微笑みながら。
スカートの上から抑えた太ももを、ほんのちょっぴりすくめてみせる。
ちりちりに破かれた、グレーのストッキングごし。
飢えた唇を迫らせた男は、なおもしつように女の血を啜りつづけている。
女の隣では、女とよく似た若い娘が、制服姿のまま尻もちをついていて。
真っ白なハイソックスに、ところどころ赤い斑点を散らしている。

凌辱ごっこ

2008年10月09日(Thu) 07:38:18

サダオ やめろ!やめろ!やめろおっ!彼女を放せ!
ユ ウ ダメだね。きみのユカリは、俺がいただく。
ユカリ やだっ!サダオさんっ!こっちを見ないで!
ユ ウ う・ふ・ふ・ふ。かわいいエモノだ。さぁ、今夜かぎりでお前は俺の女になるんだ。
ユカリ 厭、厭、厭、イヤッ!離れてくださいッ!
サダオ ユカリ・・・ユカリ・・・いうこと聞いちゃダメだ。早くここから立ち去ってくれ~。
ユ ウ 縛られたきみを置いてか?そんなこと、ユカリにできるものか。(あざ笑いながら、ユカリの唇を吸う)
ユカリ ああっ!ウウゥ・・・
     (ねじ伏せられるようにして吸われた唇が、ゆっくりと吸い返し、せめぎ合ってゆく)
サダオ あ・・・あ・・・おおおおっ!
ユ ウ このあと、どんなふうにされているんだ?
ユカリ 髪の毛つかまれて、おち○ち○咥えさせられて・・・
サダオ ユカリッ!そんなこと、言うんじゃない・・・
ユ ウ うふふふふふっ。こんなふうにだね? きょうは俺が代わりをつとめてやる。
サダオ だめだっ、やめろーっ!
ユカリ あ、ぐ、う・・・ぅ・・・うん・・・っ
ユ ウ ユカリは男のお○ん○んが好きなんだろ?
ユカリ (無言でうなずく)
ユ ウ 俺のモノも、いい味だろう?
ユカリ (ためらいながら、うなずく。ユウのものをくわえたまま)
ユ ウ サダオのやつより、念いりに舐めるんだぞ。
ユカリ (激しくうなずく)
サダオ ああああああぁ!
ユ ウ サダオもさっきから、嬉しそうだね?
サダオ ・・・・・・!
ユ ウ  彼女を堕とされていく気分は、どうだい?
サダオ ・・・・・・。
ユ ウ 正直に言うんだ。
サダオ ゥ・・・昂奮します。
ユ ウ サダオも、俺とユカリの仲を祝ってくれるんだよな?
サダオ ああ・・・ああ・・・おめでとう。ふたりとも・・・
ユカリ うれしい・・・うれしい・・・サダオ、素敵だよ。
サダオ ユウさんのやつは、ボクのよりもいいのかい?
ユカリ (無言でうなずく。激しく)
ユ ウ そーら、もっと隅々まで舐めるんだ。お前はもう、俺の奴隷なんだからな。
ユカリ (かいがいしく奉仕するように、ねぶりつづける)
サダオ ああ・・・ああ・・・ああ・・・ボクのゆかりが、犯されちゃう・・・っ
ユ ウ サダオは喜んで、ユカリを俺にブレゼントするんだよな?
サダオ う・・・ウン。
ユ ウ 俺は遠慮したのに、どうしてもユカリを犯してほしいって、お前のほうから願ったんだよな?
サダオ う・・・ウン。
ユ ウ 友情の証しに、最愛の恋人を俺の性欲のはけ口にさせてくれる約束だったよな?
サダオ (憑かれたように)そうだ。そうだよ。ユウは最高の親友だから、たいせつなユカリを辱め抜いてもらいたいんだ・・・
ユ ウ では、のぞみどおりにしてやろう。遠慮なく・・・
サダオ ああああああ!
ユ ウ うれしそうだな
サダオ (無言でうなずく)
ユ ウ お前の心がけに免じて、ユカリを取り上げることはしない。
     ユカリはお前の恋人で、未来の花嫁。その代り、陰では俺の奴隷。いいね?
サダオ ありがとう。きみの心づかいに感謝するよ。
ユカリ ユウ様!もうわたし、ガマンできないっ!
     (はげしく倒れこむ二人。サダオはぞくぞくしながら見守る)
ユカリ きゃあ~っ!サダオさん、助けてぇ・・・

片方の男の精液が、むなしくシーツを濡らすあいだ。
もうひとりの男は彼の恋人に、おなじ色の体液を流し込み、しみ込ませてゆく。
あたりはいちめんの、極彩色の闇・・・・・・


後記:だいぶあとになってから、続編描きました。あわせてお愉しみくださいね。(2010.2.2)
「屈託のない恋人」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-1983.html

息子の嫁

2008年10月09日(Thu) 07:10:09

始まっているようですね。
自宅の玄関のまえに、たたずんでいると。
そっと影のように寄り添うようにして、息子のシンヤが声をかけてきた。
隣家にも届かないほどの、ひっそりとした声が。
夜分の冷気を投影して、蒼白い焔のように、白い息を浮き上がらせた。
ああ。ちょうど景子さんの番みたいだ。
うふふ・・・
自分の妻が犯されているというのに、シンヤはくすぐったそうに肩をすくめただけだった。
窓の外、かすかに洩れてくる声は、昂りに震えている。
愉しんでいる・・・ようですね。
見えるはずもない窓の向こう側に向けた視線が、濃い翳りを帯びていた。

漆黒のストッキングに包まれた白い脚が、ゆっくりと歩みを進めている。
息子の嫁と二人きりで歩くのは、もしかしたら初めてかもしれない。
あくる朝、深い眠りから覚めた妻と嫁とは、
いつものようにいそいそと、夫たちのために朝餉を用意していた。
おのおの・・・首筋に赤黒いしずくをまだ光らせたまま。
息子が勤めに出て、妻がどこかへと出かけていって。
そうすると、嫁の景子は、耐えかねたように声忍ばせて。
夕べのかたのところへ、連れて行ってください。
矢のように吹き込まれた声色に、消しがたい情念が滲んでいた。

よく来たね。
男はふたりを招き入れると、ゆったりとしたソファに深々と腰をおろして、
ふたりにも、すぐ傍らのソファをすすめていた。
真っ赤なじゅうたんの上。
黒のストッキングごし蒼白く滲んだ皮膚を、男は食い入るように見つめている。
では・・・
だれから口火を切るともなく、身を動かしていた。
襲うもの。襲われるもの。手助けするもの。
三者三様、影絵のように息の合った立ち回りは。
まるですべてを打ち合わせたかのように、しっくりと溶け合っていた。

ほかの男に、嫁を犯させる―ーー
自分の妻のときとは違ったまがまがしさに、ゾクゾクとした衝動がせりあがる。
首筋を噛んで女を黙らせ、剥ぎ取ったブラウスからむき出しになった白い胸を、賞玩するように唇を這わせる。
ぴちゃぴちゃと唾液のはぜる音を交えながら、男はひたすら、うら若い肢体をいつくしみはじめている。
シンヤ・・・
かすかに震える唇が、若い夫の名を呼んだ。
不自然なほど折り曲げられた脚線を、黒のストッキングの光沢が妖しくなぞっている。
外の光を鏡面のようにメタリックに照り返ししたナイロン生地の下、昂りに彩られた女の肌があった。
欲情がぞくり・・・と、鎌首をもたげた。

いつの間にか、男ふたりは影をすり替えていた。
腕のなかにいるのは、息子の嫁。
それがまるで、愛人どうしのように息を弾ませ合っていて。
長い黒髪を波打たせ、ピンと張りつめた乳房をはずませ、白い脚を広げて。
だれはばかることなく、痴態にふけっている。
こうなることを、望んでいたのか・・・お互いに。
許されざる関係。
その深い隔たりを飛び越えて。
己のものになった女の唇をとらえ、吸い、また吸った。
毒液に酔い、むさぼり尽くすようにして。

開け放たれたふすまのかなた、隣室ではさらにまがまがしいパントマイムが繰り広げられている。
出勤していったはずの息子。どこへともなく外出していった妻。
そのふたりが、ひとつになって―ー―
おなじ血を、交えあっている。
許されざる交歓に耽る、二対の男女。
とうに影を消した吸血鬼は、どこかから覗きほくそ笑んでいるにちがいない。

いろんな話がごっちゃになって

2008年10月06日(Mon) 07:41:50

時々あるんです。
いろんなお話が、頭のなかでごっちゃになって。
もつれあい、からまりあって。
たいがいそういうときは、お話ができあがらなかったりするんです。
今回は。
ややごーいんに♪まとめてみました。
ぜんぜんモノにならないよりは、マシなのかなって。
いかがでしたでしょうか・・・

六等賞のふたり

2008年10月06日(Mon) 07:37:34

約束だ。
かけっこで一等になったほうが、孝江と付き合えるんだぜ?
まだ童顔の残る男の子たちは、まるで子供のように指きりげんまんをしていた。
クラスでいちばん美人の孝江を、同級生のユウタと張り合って。
けれどもミチオは、どこか浮かない顔をしていた。
どうしたの?元気ないよ?
隣の席の里美が声をかけてくるのも、ほとんど上の空だった。

パン、パン、パァン・・・
短距離走の最後のひと組がゴールインすると。
さいごに撃ち残した弾を、撃ちつくすように、けたたましい音が校庭に響き渡った。
一等賞の旗を手にした孝江が、もう片方の手をつないでいるのは。
残念ながら、ミチオのほうではない。
ユウタは意気揚々と、顔をあげて。
まるで戦利品を見せびらかすように、孝江とつないだ手を勢いよく振りつづけている。
傍らで、ミチオの気分をそれとなく察しながら。
残念だったね。
遠慮がちに声をかけてきたのは、六等賞の旗を持っていた里美。
あろうことか競技の直前、足をくじいてしまったのだ。

ちっ。
心のなかで、舌打ちしながら。
けれどもミチオは、しょうがないなぁ・・・と、潔いあきらめの境地に入っている。
見てしまったのだ。
姿の見当たらなくなったふたりを探して、踏み入れてしまった体育館の裏。
そのいちばん隅っこに、ふたりは身体を重ね合わせていた。
白い体操着の下、絶妙なカーブを描いた孝江の胸は。
初々しく、ぎこちなく、はずんでいた。
頭に巻いた赤の鉢巻きが。
いつも長い黒髪に隠れたおでこを、いさぎよいほどあらわにして。
少女は陶酔の中、あえいでいた。
孝江のうえにおおいかぶさったユウタのやつは。
白くて細いうなじに、唇を吸いつけていて。
じゅるじゅるじゅる・・・っ
かすかな音をたてて、孝江の血を吸っているのだった。

孝江が、ささやいている。
いいんだよ。もっと吸って。
あたしの出番は、終わったから。あとは、あなただけ。
絶対、一等賞を取ってね。
足をくじかなくたって、勝負はとうに決まっていたのだ。

オイ、やるじゃないか。
競技に出場した全員が、退場のために起立したとき。
ほんんわずか乱れた列をかいくぐって。
ミチオはユウタの肩をどやしつけた。
全部見ちゃったぞ。
口には出さないでも、そう言っていることが。
親しいふたりには、すぐ通じ合っていた。
照れくさそうに笑いながら、
すまねぇ。
謝ることなんか、ないさ。
ミチオはもう、清々しい笑みを取り戻している。
振り向くと、里美がまだ気遣わしげに彼のほうを見つめていた。
泣きそうな顔で彼の横顔を窺う少女の頬が、美しく光っていた。
六等賞の旗を持った彼女は、もう片方の手をだらりとさせている。
ちょうど、一等賞の女の子が、彼氏としっかり手をつないでいるのとは、裏腹に。
ためらいながら、そっと差し出す掌を。
彼女の手が、しっかりとつかまえていた。

吸血鬼って、ほんとにいるんだね?
えっ?やっぱり、そうなんだ・・・
制服に着かえたふたりは、校庭を歩きながら。
はじめて二人きりで歩くのを、それとなく意識しあっていた。
さっき握り合っていた手は、また引っ込めあっていて。
きまり悪そうに、後ろ手でもじもじとさせている。
やっぱりユウタくんのうちって・・・?
そう。
ある晩突然に、家族全員が血を吸われて、吸血鬼になった。
そんなうわさが、教室の隅でとぐろを巻いていた。
でも、友だちだからね・・・
あのふたり、まだ清いつきあいらしいわね。
処女の血が、いいからかな・・・
そうみたい。
女の子が意味ありげにわらうと、どうしてこんなに謎めいた顔つきをするのだろう?
ひとりでに、口をつくようにして。
ユウタに、きみの血をあげてくれないかい?
えっ・・・?
血を吸われるだけなら、いいよ。
オレは物陰から、ふたりのことを見ているから。
さいごにゴールインしようよ。
お互い、六等賞だったから。
そうだね。
でもきっと、孝江ちゃんも、物陰から覗いているんだよ。
だいじょ~ぶ
浮気なんて、しないから♪
いつの間にか握り合った手を、里美は乱暴に振りながら。
イタズラッぽい笑みを輝かせて、恋人を見あげていた。

試合のあと 4

2008年10月06日(Mon) 07:15:46

あの日のことが、忘れられない。
吸血鬼の子たちとの試合のあと。
おなじグラウンドのうえ、組み敷かれていった、さと子。
ユニフォームの白のスカートから、腰までさらけ出しながら。
顔なじみの吸血鬼の子に、汚されていった。
試合中は、ひざ下ぴっちりだった黒のハイソックスは。
白のラインが三本、きりりと横切っていたけれど。
逃げ惑うとき、押し倒されたとき、脚をばたつかせて暴れているうちに。
くしゃくしゃにたるんで、ラインがねじまがっていった。
すぐ隣には、さと子の親友のみどりが、紺のジャンパースカートの制服姿で。
血のしたたった脚を、大きく広げていて。
足首までくしゃくしゃにずり落された白のハイソックスにまで、
伝い落ちた血をしみ込ませてしまっていた。

すっかり征服されちゃったさと子は、腰を激しく振りながら。
吸血鬼の男の子に、後ろから突っつかれるままに。
しなやかな体の動きを、ひとつにしてしまっていた。
四つん這いの姿勢のあと、もういちど、組み敷かれたとき。
タカシははじめてふたりに近づいて、
すねの途中までずり落ちたさと子のハイソックスを、
ぴっちり上まで引き伸ばしていた。

すまないね。
ありがとう。
どうだった?
おいしかった。
男の子ふたりのやり取りに、さと子はつま先まで真っ赤になって。
もうっ!って拗ねながら、ふたりのことをひっぱたいていた。
さよなら・・・
またね・・・
さと子が差し出した掌を、タカシが握りしめて。
ふたり、言葉少なに家路をたどる。
肩を並べて立ち去っていく人間の恋人たちを。
吸血鬼の子は、切なさそうな目で見送っていた。

あのとき、酷いほど濃かった夏空は。
いまは抜けるほど透きとおる、秋空に変わっている。
きょうは、学校じゅうが白一色のユニフォームに包まれた運動会。
息はずませてゴールで立ち尽くすタカシの肩を。
さと子が勢いよくどしん!とどやしつけていた。
すごいじゃない。一等賞。
校内で足のいちばん速い男子が競うさいごの組。
陸上部のあいつにも負けなかったのは、すごく価値のあることだった。
けれどもタカシのなかでもっと価値のあることは―ー―。
一等賞を取ったら、あとで体育館の裏で待ってる。
そういうさと子の囁きだった。

親たちのころは。
一等賞のごほうびは、口づけだったりしたという。
まだ、純情な時代だったのだろう。
けれども、いまはー―ー。
すべてのプログラムが終了し、閉会式もおわったあと。
体育館の裏には、ひと組、ふた組。いや、もっと・・・
同じような約束をした男子女子の組み合わせが、思わせぶりな足取りで、行きつ戻りつしている。
みんな考えてること、いっしょだなぁ。
そういえばあの日さと子の隣で処女を捨てたみどりまでもが。
かろうじてびりを免れた噂の優等生の子と、しんみり肩を並べていた。
行こ。
さわやかに笑って、さと子は自転車置き場に足を向けた。

どこ行くんだよー!?
タカシの叫び声を背中に聞き流して。
少女が自転車をとめたのは、あのグラウンド。
吸血鬼の子たちが棲む村にほど近い此処に来たのは、あの日以来のことだった。
人っ子ひとりいない、しーんとしたグラウンドを、ふたり見渡して。
うーーーん。
タカシは知らず知らず、うなっていた。

さと子が捕まえられたのは、あのへんだっただろうか。
グラウンドの隅っこに、引っ張っていかれて、そこで組み敷かれて。
彼が汗を流したおなじ地面に、初めての血を散らしたさと子。
背中を向けた彼女の肩を、ピンク色をしたユニフォームの細いストラップがぴちっと張り詰めて。
しなやかな小麦色をした筋肉に、かすかに食い入っている。
いいんだよ。
ポニーテールの黒髪の向こうから、かすかに震える声。
きっとさと子は、ことが終わったあのときみたいに。
顔を真っ赤にしているのだろう。
震える掌が、おずおずと。
さいごにがっちりと。
肩ひももろとも、少女のことを捕まえていた。

来て・・・
けだるげに囁く少女の頬を、唇で吸いながら。
あのときのことが、走馬灯のようによみがえってくる。
彼女があのとき初めて経験したことを。
タカシはまだ体験したことがなかったのだった。
あいつ、どんなふうにしていたっけ。
四つん這いにしたのは、ヤッちゃったあとだったよな・・・
記憶のすべてを、総動員して。
けれども手探りの覚束なさは。
若い衝動が、解決してくれていた。

いちど、しただけだもん。
おわったあと、さと子はそんなふうにふくれて見せたけど。
未経験なのか、たっぷり味わってしまったのか。
そんな見きわめが、タカシにつくはずもなかった。
ただ・・・女の子のスカートの裏側が熱く湿って柔らかいことを。
やわだと思い込んでいたか細い下肢が、意外なくらいにねばり強いことを。
あきれるほどに、思い知ってしまっていた。
短い白のスカートからちらちらする太ももを盗み見ると。
どこ見てるのよー!
男の子みたいな叫び声が、グラウンドにこだました。

よかったね。
ああ・・・よかったね。
ほんとうに、よかtった・・・
ほんとうに、そう思う・・・?
ああ。やっぱり友だちだもの。
父さんも、あの子のママと仲良くしたんだって?
ナイショ・・・だぞ。
もう・・・タカシも知っているさ。
そうかもね・・・
去っていくふたりを、人知れず見守っていたのは。
あの日にいい思いをした少年と、その父親。
でも父さんのときは、もっと純情だったんだ。
もらったのはキスだけだったんだからな。
うそ~。
祝言のまえの晩に、連れてきてくれたけど・・・な。
あははははっ。
さっきまでひどく大人びた翳をよぎらせていた少年は、はじめて年相応の笑い方をした。
たったふた月のあいだ、面変わりするほどに大人びてしまった少年は。
やっぱりあの日のように、去っていくふたりが見えなくなるまで、切なげに見送りつづけていた。


あとがき
8月のはじめに描いた同名のお話の、続編のような、違うような・・・(笑)

試合のあと 3

2008年10月06日(Mon) 06:39:29

小麦色の肌から吸い出した血は、熱くて濃かった。
試合のおわった後のグラウンド。
負けた人間チームの応援に来ていた女の子たちは。
一人のこらず、餌食になった。
さっきまで彼氏が駆け回っていたグラウンドを。
チアリーダーの子たちは、白のスカートをなびかせて。
一般生徒の子たちは、濃紺のジャンパースカートをひるがえして。
逃げ惑う。

けれども一人、またひとりと。
足首をつかまれ、肩を羽交い絞めにされて。
泥のうえに、押し倒されて。
血を吸う少年たちに、うなじを噛まれてゆく。
ライン入りのハイソックスを、ずりおろされて。
真っ白なハイソックスを、ずりおろされて。
脱がされて地べたに落ちた色とりどりのパンティを、泣きそうな顔で見つめながら。
太ももに、破瓜の痕を伝い落していく。

戦利品だ、エモノだと。
野蛮なことばを交わしながら。
早く早くと分け前をせがむ仲間と、順番を入れ替わって。
モノにした女の子を、取り替えあって。
友だちになったばかりの人間の男の子たちに、見せつけてゆく。
堕とされてゆく少女たちの彼氏たちは。
男の子同士、照れくさそうに、目をそむけ合い、目配せを交わし合って。
汚されてゆく恋人が、そのうち夢中になってゆくありさまを。
興味津津遠くから見守りつづけている。
悲鳴や叫び声が、切ないあえぎ声に変わるころ。
いつか人間の少年たちも、凌辱の場に立ち交じって。
彼女の手首を抑えたり、間男くんたちと交代で、あえぐ唇を吸い合ったり。
たんなる衝動から始まった凌辱を、友情の証しに変えていってしまう。

大人たちの目の届かない、グラウンドのなか。
儀式は暗くなるにつれ、高ぶりを深めてゆく。

吸血バー

2008年10月05日(Sun) 23:33:38

紫煙のくゆらぐ、薄暗い店内。
けだるく寄りかかりあった男女のあいだに、割って入るようにして。
ククク・・・よろしいですかな?
振り向く視線の先、ほくそ笑んでいるのは。
異形の雰囲気をたたえた、黒衣の影法師。
背中に流した漆黒のマントは、お約束どおりの真紅の裏地。
カウンターの上に置かれた赤い札を確かめると。
思い入れたっぷりに、男のほうへと囁きかけた。
彼女さんを、お借りしますよ?

男が無言で、相手をふたりのあいだに割りこませると。
影法師はにまにまと笑んだままの唇を、女の白い肌に近寄せる。
胸ぐりの深い黒のワンピースの襟首を、かいくぐるようにして。
四角く区切られたなめらかに白い胸元に、紅い唇が吸いついた。
彼氏さん、妬かないようにね・・・
これ見よがしに刺し込まれてゆく、鋭利な牙を。
男は息を呑んで、見つめつづけていく。

ぎゅっ。
二の腕越しに、抱きすくめる掌に。
女はキュッと身をのけぞらせて反応した。
ちゅっ、ちゅっ・・・・・・ちゅっ。
はじけるような、吸血の音に。
周囲の客は気づいていないのか、見て見ぬふりをしているのか。
ぐいっ・・・
引き抜かれた牙からしたたる紅いしずくで、肩先を濡らしたまま。
女は陶然と白眼をむいて。
しばしのあいだ、天を仰いでいる。
スキッとしたらしい、爽快感さえ頬に滲ませて。
女はイタズラッぽく、男をかえりみた。

そろそろとかがみ込んで、足もとににじり寄る影法師に。
蹴とばすようなそぶりで、笑いかけて。
女はアミアミもようの黒のストッキングに包んだ脚を、むぞうさに投げていた。
ぬるりと這う舌が、アミアミを濡らすのを。そしてぱりばりとはじけさせるのを。
女のパートナーは、目を血走らせて、盗み見ている。

からめ合うように合わせられた、グラスとグラス。
退廃的な金管の調べが、時折鋭く耳をつんざくなか。
グラスのなかを、赤い美酒がゆったりと波打った。
マントの男は、むこうのボックス席に腰かけたべつのカップルの間に割り込んで。
恋人のまえ、きゃあきゃあと声あげてはしゃぐ女の肩先に、食いついていた。

****************

コツ、コツ、コツ、コツ・・・
夜更けの路上。
ハイヒールの音が無機質にこだまする。
破けたアミアミの靴下を脱ぎ捨てて、あの影法師にくれてやって。
おなじ柄の、真新しいやつを、脚に通している。
公園の真ん中をうねりながら横切る、石畳。
不気味な影絵となって浮き上がる木立の合間から現れた影法師が。
口許を手で押さえ立ちすくむ女の行く手を、さえぎっていた。

きゃあーっ。
闇にこだまする悲鳴。
首筋にねぶりつけられる、餓えた唇。
店内でのつづきを、もっと強烈に再現して。
影が影に、寄り添うようにして。
姿勢をくずれさせてゆく。

****************

また・・・襲われたらしいな。
ええ、あの店の客の女性ばかり、狙われているんですって。
知っているかい?
え・・・?
もっと過激なオプションも、あるらしいぜ?
・・・・・・。
無言になったカップルを取り巻くのは、複数の影たち。
いずれもあの店で見かけたドラキュラばりのマント姿。
女はちょっとだけためらって。
ふふっ。
人知れず、笑みをよぎらすと。
濃い闇をバックに、白いスーツ姿をさらけ出すようにして。
誇らしげに、眉をあげて。
首筋や脇腹、そして足もとに唇を吸いつけてくる異形の影に。
わが身をゆだね、身を折ってゆく・・・

赤い札は、店内で血を吸うだけ。
青い札は、帰り道を襲われるオプション付き。
そして黒い札は・・・
襲う相手が複数になる、輪姦プラン。
男は狂気に蒼ざめた頬を、震わせながら。
純白のスーツを泥だらけにしながら、脚を開いてゆく恋人を。
一挙手一投足たりとも、見逃すまいとして。
乱れたタイトスカートの裾からあらわになったガーターに、独り昂りを抑えきれなくなってゆく。
黒い札を、握りしめたまま・・・