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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

初対面

2012年04月29日(Sun) 08:16:05

この村では、どこの奥さんがどこのだれの相手をするのかが、だいたい決まっています。
村では指折りの旧家の息子であるわたしなども例外ではなく、それは結婚する前から決められていました。
村に棲みついた吸血鬼を、三人も相手しなければならないのです。
母は二人。妹も、中学に上がってからはずっと、ひとりかふたりを相手に、血を吸われつづけていたのです。
そういうことですから、跡継ぎ息子の結婚は、我が家では喫緊の課題、というわけでした。

花嫁候補に選ばれたせつ子さんは、ねずみ色の格子縞のスーツに身を固めて、ご両親に連れられて初めて家にやってきました。
礼儀正しく、明るい性格で、申し分のない花嫁でした。
なによりも、吸血鬼たちの食欲を満足させるに十分な、豊かな肉づきの体つきをしていたのです。
ご両親も、そういう我が家の事情を知って、娘をわたしに嫁がせるおつもりなのです。
かれらの家は、直接吸血鬼の相手をする家ではありませんでしたが、事情はよく心得ている家の方々だったのです。

その場で結納が交わされますと、座に加わっていた吸血鬼氏に、お披露目がされます。
せつ子さんは、わたしに謝罪するような視線を投げますと、
座布団のうえで座りなおして、ふつつかですが・・・と、三つ指をついて応接しました。
透きとおる肌色のストッキングに包まれた豊かなふくらはぎが、眩しかったのをよく憶えています。

ええ、もちろん。
その場で初吸血が、おこなわれました。
一同が退去しますと、わたしだけが隣室に残されまして。
ちゅうちゅう・・・ちゅうちゅう・・・
いやらしいほど露骨な音が洩れてくるのを、耳をふさぐことも許されずに、小一時間ほども、聞かされつづけていたのです。

ショウイチさんが隣にいてくださったから、心強かったですわ。
せつ子さんは母にそういって、にこやかに笑いながら、首すじにつけられた咬み痕を指さしました。
アラ、綺麗ね。よくお似合いですよ。
母は同性としての称賛をせつ子さんに投げかけますと、わたしのほうを振り返って。
身持のよろしい娘さんだって、仰っていらしたわ。
処女の生き血がお好みですから、祝言までは間違いがあってはいけませんからね。
母の顔に戻ってはいるものの、後れ毛のほつれを隠せない母。
そう、花嫁を襲ったあと彼は、夫婦で居合わせた母を襲って、そちらの望みも達していったのでした。

つぎは、せつ子さんの番ですよ。
同性同士、つうじるものがあるのでしょう。
せつ子さんはそのときだけは、わたしのほうは見もせずに、「ええ」と応えただけでした。

妻の貞操 宅配サービス(夫同伴つき)

2012年04月29日(Sun) 08:01:13

RRRRR・・・
受話器を取ると、聞き馴染みのする年配の男の声でした。
―――だんなさん、悪りぃけど・・・女ひでりなんで、かあちゃん貸してくれないか?
露骨な問い合わせに顔をしかめながらも、わたしはおうむ返しに訊きました。
―――母でしょうか?家内のことでしょうか?
男はちょっぴり口ごもって、
―――ん・・・若奥さん。
それでもはっきりと、家内のほうを指名したのです。
―――隣のご隠居とふたりで、待ってますから。
こういうときにはいつもなのですが、遊びにおいでよ、というくらいの軽い感じの口調なのです。
―――迷惑ですね。わたしとしては。
そうくぎを刺しながらも。
―――家内に代わりますから・・・
そう応えてしまっている、わたし。

電話。
聞き耳を立てている家内に、わたしは受話器を差し出します。
―――エエ、ああ、はい。はい。
戸惑いながらも応対する家内の声が、さいしょのころよりも落ち着いているのは。
状況になれてしまったから?それとも男たちと肌を合わせることに、ひそかな快感を覚えるようになったから?
わたしが限りなく戸惑っているのを背に、家内は平静に応対を続けます。
―――そういうことなら、こちらからお伺いしますわ。うちには義母もいますので。
家内は受話器を置いて、わたしのほうに向きなおりますと。
―――お伺いすることにしました。あなた、エスコートしてくださるわね?
おっとりと小首をかしげるふくよかな笑顔に、抗しがたいものを感じます。

栗色に染めた髪を頭の後ろにキリリと束ね、軽く化粧を刷いた妻。
白のブラウスにうす茶のカーディガン。こげ茶色のタイトスカートの下は、黒のストッキング。
お気に入りの茶色のパンプスに、薄手のナイロンに透けるつま先を収めると、
―――行きましょ。
妻は散歩に誘うようなさりげなさでわたしに声をかけ、
―――ちょっと二丁目のご隠居さんのところにお伺いしてきますね。
離れにいる母にまで、まるで届け捨てをするように、声をかけていきました。

―――だんなさん、いつもすまないね。
―――迷惑なんですよ。ほんとうは。
本心をおり交ぜて、顔をしかめるわたしに。
(わかっていますから。^^)
そう言いたげな態度で、電話の主である良介さんは気さくにわたしたち夫婦に席を進めます。
―――ゴムだけは、ちゃんとつけてくださいよ。
そういうわたしに、そりゃそうだな、と、頭に手を当てておどけています。
きっと今回も、その約束は守られないのでしょう。

お隣のご隠居の平作さんも、にこやかな好々爺。
家内もすでに、何度となく、お相手をつとめてきた男性です。
―――やぁ、すっかりいい日和になりましたな。
平作さんはにこにこ笑いながら、家内にも丁重なお辞儀を投げてきます。
―――いつぞやは、どうも。
―――いえいえ、ふつつかで。
家内もそつのないこたえを、返していって。
―――晩御飯の支度もありますから、そろそろ始めましょうか?
周囲の気遣いに満ちた雰囲気を吹っ切るように、切り出しました。

―――だんなさん、悪いねぇ。あんたに悪気はないんだけど。
―――あんたのかあちゃんの身体、じつに具合がええんだよなぁ。
―――あ~、あんなにずこずこ姦られちまって。奥さんよがってますぜえ。
―――茶色のスカート、たまんねぇな。精液塗りたくってやるからな。
家内は着衣のまま、太もも丈の黒のストッキングも着けたまま。
代わる代わるのしかかってくる年配男たちの相手を、腰を揺すりながら応じていました。
時折眉をしかめ、時には歯をむき出して。
快感なのか。苦痛なのか。
それは、当人いがいには、うかがい知ることのできないものでした。

息荒く重ね合わされてくる唇にも、拒むことなく応じていって。
もっと股を開け というように、両ひざを押し拡げられると、柔軟に応じていって。
そつない応接。
まさにそんな感じの交接に、くり返しくり返し応じていくのでした。
四つん這いの姿勢で、スカートを着けたまま、後ろから挿入されていって。
はぁはぁ・・・はぁはぁ・・・
せめぎ合う息遣いが、わたしまでも妖しい悩乱に引きずり込んでいこうとするのです。

ストッキングのゴムを、白い太ももに色あざやかに滲ませながら。
毛むくじゃらの逞しい脚に、ストッキングを穿いた脚を絡みつけて。
陽灼けした筋肉に覆われた、丸太ん棒のような腕のなか、引きつる頬をペロペロと舐められて。
荷物を背負ったみたいな分厚い背中に、肉づき豊かな二の腕を、おずおずとまわり込ませて。
強引に奪われた唇を、せめぎ合うように、自分からも合わせていって。
熱っぽい情交に、わたしは不覚にも、パンツを濡らしてしまっていたのです。

―――どうってことはねぇ。あんたの愛するかあちゃんを、おら達も大好きだってことだからよ。
粗雑な口ぶりでしたが、彼らの言うことはきっと、ほんとうなのでしょう。
ほつれた後れ毛を撫でつけながら、家内は身づくろいを済ませると。
さいしょにあいさつした時とおなじように、
―――ふつつかでございました。
冠婚葬祭に来てくれた遠来の親戚に応接するときのように、ていねいに畳に三つ指ついてお辞儀をする妻。
わたしもあわてたように、妻のすぐ隣に正座して。
―――お楽しみいただけましたでしょうか?
ばかね。
そう言いたげな隣からの視線を受け流して。
―――すっかりたんのうしたよ。またこんどね。
のうのうと応えるお相手に。
今度は家内のほうが、
―――どうぞご遠慮なく、お声をかけてくださいね。
さっきわたしに投げてきた、閃くような反感などおくびにも出さず、
それはにこやかに応えていくのでした。

辞去した後の、かえり道―――
―――晩御飯の支度、早くしなくちゃね。
なにごともなかったような、妻の声でした。
だいじょうぶなの?覗き込むようにするわたしの視線を、わざと避けながら。
―――いつもあちらにお伺いしているのって、どうしてだかわかる?
謡うように訊いてくる声に、わたしはこたえを返しかねておりますと。
―――風に当たると、気分が変わるでしょう?
家内はさばさばとそういうと、わたしの前に立って、歩いていきます。
背すじをしゃんと伸ばして。
きりりと結い上げた髪を、リズミカルに揺らしながら。


あとがき
今朝は好調?^^
それとも、単なるすとれす過多?^^;
ひと寝入りして起きたら、また描けちゃいました。(^^ゞ

休日の中学校。

2012年04月29日(Sun) 06:28:11

家内とふたりの娘を連れて。
よそ行きのスーツや制服姿で、足を向けたのは。
下の娘の通う、中学校。
休日は投票所としてくらいしか開放されない体育館は、ごみごみとした人いきれが充満していた。

十代男子
十代女子
未婚男子 四十代まで
未婚女子 三十代まで
既婚女子 四十代

などなどと書かれたプラカードのまえ。
すでに十数人ずつは、居並んでいた。
たしかに投票所みたいな雰囲気ではあった。
目的を考えるとむしろ、予防接種かも知れなかったが。

わたしが並んだのは、既婚男子 四十代。
妻が並んだのは、既婚女子 四十代。
娘たちはセーラー服の襟首をそろえて、十代女子の行列に加わっていった。

いつの間にか、家族ばらばらになって。
わたしが通されたのは、狭い空き教室だった。
こんなところで、すみませんね。
顔見知りの吸血鬼は、親しげに笑いかけながら。
わたしのスラックスを、たくし上げていった。

エヘヘ。いつも悪いですね。
たまらないんですよ。ストッキング地のハイソックス。
破っちゃっても、かまいませんか?
好きにしたまえ。
わたしが淡々と応えると。
男はやおらかぶりついてきて、
ストッキングを穿いた脚を好んで噛む吸血鬼のために履いてきた薄地のハイソックスは。
ぱりぱりとかすかな音をたてて、他愛なく破れていく。

貧血・・・だね。
額を軽く手を抑えると。
あー。いけませんね。やり過ぎたかな。
男はわたしをソファに寝かせ、介抱するふりをして、こんどは首すじを噛んでくる。
しばらく診たてをするように、噛み入れた牙を皮膚の下に沈めたまま、
脈を測るふうをしていたが。
ウン、だいじょうぶ。だんな平気ですから。
そういうとやおら、首すじに、もういちど咬みついてきた。

痛痒い疼きをこらえかねていると。
男が囁いてきた。
お待たせしている間にね。
奥さんのこと、噛んできたんですよ。
いい肌してますね。血もおいしかった。
そのうえに―――

男は言いさすと、もっと危険な言葉で、わたしの理性をいびつにさせた。
きみのまえで、きみのワイフとファックしたい―――
あっちにいるんだ。呼んでくれないか・・・?
目のまえで妻を凌辱して、羞じらう妻を愉しもうとする男の不埒なこんたんを、
わたしは小声で、呪いながら。
それでも妻の名を、口にしてしまっている。

初子、お相手してあげなさい。

一家供血。

2012年04月29日(Sun) 06:17:21

これが、奥さんのやつ。
男がポケットのなかから、肌色のストッキングを一足引っぱり出して、目の前にぶら下げる。
家内の脚から脱がせたらしい。
ふやけたようにしわくちゃになったそれは、だらりと垂れさがり、あちこちに赤黒いシミを拡げていた。

これが、お嬢さんに脱いでもらったほう。
男はポケットの中からもう一足、黒のストッキングを引っぱり出して、これも目のまえにぶら下げる。
娘は、学校帰りだった。
知的で清楚な翳りで娘の足許を染めていた薄手のナイロンも、やはり家内のとおなじように、
だらりとふしだらにつまみあげられた指の下、だらりと力なくぶら下げられている。
色こそ目だたなかったものの、あちこち咬み破られた痕が、そこかしこに滲んでいる。

さ、こんどはあんたの番。
男がわたしの足許にかがみ込んできたのに合わせて、
わたしの手はひとりでに動き、スラックスをたくし上げていた。
足許をうっすらと染める、ストッキング地の黒のハイソックス。
紳士用なのに、照明の下ぎらつく光沢が、やけに毒々しい。

うふふふふふっ。
男はくすぐったそうにほくそ笑むと、ハイソックスのうえから、唇を吸いつけてきた。
くちゅっ。
生暖かい唾液を帯びた柔らかい唇が、薄いナイロン生地ごしに、グッと力を籠めてくる。
ストッキング地のハイソックスの舌触りを愉しむように、しばらくの間にゅるにゅると。
撫ぜるように舌を、這わせてくると。
吸いつけた唇に、いっそう力を込めて。
ぱりり・・・
ぶちぶちっ・・・
かすかな音をたてて、ハイソックスを噛み破っていった。

案外、あんたの靴下を破くのが、いちばん愉しいかもな。
男の勝手な言いぐさも上の空で、失血に頭がぼうっとなったわたしは、
ぼんやり滲んだ天井の木目を、焦点の合わなくなった目で見あげつづけていた。

じゅうたんの上にうつぶせになって。
なおもしつように唇を吸いつけてくる男に、ハイソックスのふくらはぎを愉しませながら。
目のまえに投げ捨てられた妻のストッキングが、視界に滲んでいる。
ところどころ裂けた薄手のナイロン生地に、ねばねばと光る粘液の淫らな輝きが、絡みついていた。
妻の身に起こったことを想像し、思わず勃起を感じると。
男はそれを察したように、呟いた。
お嬢さんもそろそろ、潮時だね―――

好きなようにしなさい。
娘の婚約者の生真面目な顔を思い浮かべながら、わたしは苦笑いを浮かべている。
彼が、エスコートすることを承諾したんだね?
ああ。
肯定のしるしに、彼はふたたび鋭利な牙を、わたしのふくらはぎに淪(しず)めてきた。

このごろは。(管理人のつぶやきです 笑)

2012年04月26日(Thu) 07:31:02

発作的にあっぷしないときがある。
目覚めたときにお話が浮かんでも、
あるていど描き進んで、夜家に戻ってきてから見直して、あっぷしたりしている。
下書きを描いちゃっても、その日にあっぷしたくない気分のときがあって、
そういうときにはあっぷしたい気分のときまで、とまっていたりする。
そもそも、下書きというものを描くようになった。
(いままでは入力画面に、じか打ち)

あっぷに慎重になった?
いえいえ、決してそんなことはない。
相も変わらず、不出来なお話も増殖を続けている。
それに、描き方を変えたからと言って、お話の質が上がったわけでも変わったわけでもない。(たぶん)

いまもそんなお話がふたつ。・・・出番を待っている。
なに。出番が来たからって・・・反応があることはめったにないのですが。
(^^ゞ

贈り物には、リボンをつけますか?

2012年04月25日(Wed) 08:03:09

贈り物には、リボンをつけますか?
エエ、たっぷり巻いてください。
はい、ギュウッと縛ってみてください。

そう。
縄師な親友のために用意した今夜の贈り物は、わたしの妻。

嫁を縛ってみてくれないか?
わたしの依頼を、ふたつ返事で引き受けて。
とつぜんの申し出に、妻は「イヤねぇ・・・」っていいながら。
それでもまんざらでもなさそうに、ブラウスの上から縄を巻かれていった。

だんなさんも、縛っちゃおうね♪
彼はノリノリで、わたしにまで縄をかけてゆき、
わたしもついノリノリになって・・・
目のまえで妻がヒロイン演じる凌辱劇を、たっぷりたんのうしてしまった。
不覚にも、昂ぶりついでに粗相しているところまで、妻にばっちり見られながら・・・

最愛の妻の貞操をプレゼントするとき。
リボンの代わりに縄を巻いて。
真っ赤なスカートの奥に秘めた宝物を、むざむざ進呈してしまった夜―――

贈り物には、リボンをつけますか?
あなたがその夜を迎えるとき―――どんな色のリボンで、奥さんの晴れ着姿を縛るのでしょうか?

キミ。来月から転勤だよ。^^

2012年04月25日(Wed) 07:58:33

キミ。来月から転勤だよ。^^
奥さんはおいていくといい。
単身赴任してもらいたいね。
留守宅にはボクが時々お邪魔して・・・
キミの弘子さんを、誘惑させてもらうからね♪

そんな上司の言いぐさに。

ええ、どうぞ・・・というか、ぜひお願いします。

なんて。
マゾッ気あらわに口にしてしまったわたし。

妻の弘子はたった二か月で、陥落。
(-_-;)
無償で提供した人妻は、わたしの妻のまま、浮気な日常を愉しんでいて。
亭主であるわたしは、ずうっと赴任地で。
メルマガまがいに送られてくる上司からの報告書に、
ドキドキ、ゾクゾクしながら、読みふけっている。

山奥の花見

2012年04月25日(Wed) 05:55:15

山奥の村の、そのまたさらに奥は。
吸血鬼の棲まう、桃源郷。
春ともなると、村よりもさらに一段時期の遅れた桜が、
それは見映えよろしく、咲き誇る。

彼らに受け入れられた、限られた人たちは。
赤、青、緑、紫と。
色とりどりの敷物をかついで、花見に訪れる。
うららかな好天の下、咲き誇る花を愉しむために。

おや、いらっしゃい。
さあ、どうぞ。
着飾った村の衆に、口々に迎えられるのは。
上品な老女だったり。気さくそうな好々爺だったり。
なかにはしょうしょうお下品な、禿げ頭の親父もいたりもするが。
だれもが仲良く、酒を酌み交わし始めるのだった。

あんたの酒は、うまいね。
気さくな好々爺は、しきりに盃を重ねながら。
真っ白な敷物のうえ、いちばんよいところにどっかとあぐらをかいていて、
照れているのか、酒がまわっただけなのか。
ひろいおでこを、それは気持ち好さげに、ほてらせている。
もっとうまい酒が、あるんじゃろ?
なぞをかけるような問いに、まだ若い旦那さんは、ちょっぴり気後れしたように。
花見には場違いな紋付き留袖姿の若奥さんをかえりみて。
そうですね。いちばんうまい酒をご披露しますか。
頃合いをみてそそくさと、座を起ってゆく。

あとはわたしたちで、だいじょうぶですよ。
四十年配の奥様は。いかにも慣れた様子で微笑んで。
真新しいセーラー服姿の娘の掌を、濃紺のスカートのおひざのうえで、しっかりと握りしめている。
じゃあ、酔い覚ましにちょっと、そこらへんをひと周りしてくるか。
ご主人は腰をあげるとすぐさま靴をつっかけて、
真っ赤なじゅうたんの上から立ち去ってゆく。
あとで・・・ね。
奥様と訳ありげな目配せを、交し合いながら。

えっ?えっ?こんなにおおぜい、いらしたんですか?
そうよ。みな様あなたのことがお目当てだったのよ。
わたしは添え物・・・そういいたげに、手酌をするのはお姑さん。
つい先週挙式したばかりの新妻をお披露目するには、うってつけの場だったはず。
まわりじゅう、もの欲しげなおじ様たちに取り囲まれてしまった花嫁のご主人は、とっくに座からはなれている。

白の敷物は、ここに来るのは初めてという奥さんを。
赤の敷物は、桜並木にネッカチーフをそよがせる娘さん、それにそのお母さんを。
青の敷物は、嫁と姑を。
鮮やかな色合いごとに、意味が含められていて。
木立のすき間から花見の様子を覗きながら、品定めに興じた吸血鬼どもは。
それぞれお目当ての女がいる敷物のうえ、あがりこんでゆく。

おい、おい。奥さんお盛んだねぇ。
すこし離れた小高い丘のうえ。
ここにも桜は咲いているけれど。
座を起ったいっかのあるじや、その息子たちは。
軽い酩酊を、明るい艶語にかえて。
じゅうたんのうえに組み敷かれてゆくお互いの妻たちの痴態を、眺め合っている。

去年のきょうのことなんですよ。うちのやつがはらまされたのは。
ほら、あの爺さまそっくりに笑うでしょう?
傍らのご主人が抱っこしている可愛い赤ちゃんは、何も知らぬ顔をして、にこにこ穏やかに笑っている。
愛想よくにぎにぎをする手を握り締めて微笑んでいるわたし。
都会育ちの頑固な姑は、今年は舅同伴で村を訪れて。がんばって紋付を着込んできたし。
すっかりここの風習になれた妻は、まえもって約束していたあいつのために、ピンクのスーツ姿をさらしていたし。
紫のじゅうたんには、黒の紋付もピンクのスーツも映えるらしい。
わざと白のセーラーを着てきた妻の妹は。
太もも丈の黒のストッキングの脚をばたつかせながら。
まくりあげられたスカートから覗く白い太ももを、紫の敷物に映えさせていった。

花を眺める女たち。
華を愉しむ吸血の衆。
そして、散らされる花びらに興じる、その夫や息子たち。
頭のうえを吹きすぎるのは、眠りを誘うほどゆったりとした、春の風―――

吸血されている少年のファンレター

2012年04月23日(Mon) 06:55:23

ボクの血は、おいしいですか?
しっかりあなたの栄養分に、なっていますか?
吸い取られたばかりのボクの赤い血が、あなたの血管に脈打っているなんて。
想像すると、ちょっとどきどきしちゃいますよね?

いつものあの調子で、威勢良く喉を鳴らされちゃうと。
まだまだ度胸の足りないボクは、すぐに失神しちゃうけど。
でも・・・ボクが気絶しているあいだに、あなたが大好物の生き血をたっぷり愉しんでくれているのだとおもうと、なんだか嬉しいです。

こんなふうに感じられるようになって・・・すこしは進歩できたかな?
まえは血を吸われるのを嫌がって、あなたと長いこと追いかけっこをしていましたからね。
鬼ごっこも好きだって、あとで伺って。
こんどはわざと、逃げてみましょうか?さいごはつかまっちゃうというお約束で。

貧血の状態にもう少し慣れてきたら、もっと長い時間起きていて。
血を吸われる感覚を、もっと愉しめるようになりたいです。
少しでも長いこと、ボクも愉しみを共有したいから。

ボクがいつも学校に履いていく、紺のハイソックス。
いつも舐めたり噛み破ったりしますよね?
男もののハイソックスにこんな使い道があるなんて、知りませんでした。
制服の一部を侵されるようで、なんか刺激的です。
愉しんでもらえているみたいなので、もっと噛ませてあげたいです。
うんとハデに破いてもらって、けっこうです。
母も認めてくれていますので^^
明日も靴下噛み破らせてあげるからっていうと、血を吸うの手加減してくれるんだ。母にはそういってあります。 笑
だから母はため息しながらも、毎日のように、ボクに新しいハイソックスを履かせてくれるんです。
息子の延命策だと、思っているみたいですよ。^^
母も安心、あなたは愉しい。ボクもドキドキ・・・いい関係ですよね?

母も、ボクの紹介がきっかけで、あなたに襲われるようになって。
自分の穿いているストッキングまで噛み破られちゃって。
ボクの感じた快感を、やっと理解してくれたみたいです。
だからときどき、「ゆうクンひとりじゃ、心配だから」って。
ボクと連れ立ってふたりして、あなたのところに伺えるようになったんです。
親子で破けたストッキングや血のついたハイソックスの脚を盗み見合いながら帰宅するの、ちょっと照れくさいですけど・・・
でも、家族の公認を得られると、なにかとラクですね。
クラスのみんなにも、おすすめしたいです。

親密度。

2012年04月23日(Mon) 06:11:43

小父さんと三人で逢ったアノ日以来。
ゆう子さんとの仲は、以前と比べて目だって親密なものになっていた。
打ち解け方がふだんとはまるきりちがってきて、
周囲からは「やっぱりしちゃうもんだねぇ」って、ヘンな賛辞をもらっていた。

それでもボクは、知っている。
ゆう子さんがボクにも言わないで、小父さんと逢っているということを。
週に二回までならOKだよ。
そんなふうに許したボクに、ゆう子さんはくすぐったそうに笑い返して。
毎日逢っちゃうかもよ^^
なんて、かえしてきて。

ボクに報告があるのは、三回まで。
けれどもじつは、毎日逢っている。
逢引の予定を小父さんに教わって、
昂ぶりを鎮めるのがたいへんな、学校帰り。
「ゴメンね。これから塾なの」
そういってゆう子さんは、きょうもボクのことをしなやかに裏切ってゆく。


あとがき
日常的に裏切っても、親密・・・なんて、いけないですか?^^

ゆう子さんとの帰り道

2012年04月23日(Mon) 06:07:41

わかれぎわ小父さんは、ボクたちふたりの手を握り合わせてこう言った。
仲良く手をつないで、帰るんだぞ。
ボクは小父さんに照れ笑いを返して、ゆう子さんも同じようにはにかみながら、髪を揺らして挨拶を投げた。

はた目からみたらきっと、ボクがゆう子さんを犯したようにみえるだろう。
だって連れ立って歩く彼女の履いている真っ白だったハイソックスには、
太ももから伝い落ちる赤黒いしずくを、点々と滲ませていたから。

ふたりきりになったとき。
  またされちゃっても、平気?
ボクがそう訊くと。
ゆう子さんは掌をぎゅっと握り返しながら、応えてきた。
  またしてもいい?エヘヘ。
夕陽に映えた照れ笑いが、とてもかわいかった。

許婚の純潔をプレゼントする。

2012年04月23日(Mon) 05:37:47

隣に組み敷かれたゆう子さんが、セーラー服のリボンをほどかれてゆくのを横目に見て、
ミサホはちょっぴり、悔しいような気がした。
自分のためのプレゼントを、だれかに開けられちゃうような気がしたから。

村に関する報告文~「御紹介状」という古文書について~

2012年04月22日(Sun) 23:24:37

一、「御紹介状」と当村旧家本澤家

同村の古寺には、「御紹介状」と称する大量の書状が残されている。その一例を示すと、概ね次のようなものである。


当村御居住 しやるろ 殿

本澤氏当主三郎 謹んで記す

当家内儀たよ女儀 参拾弐歳
右の者相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候

某年某月某日(筆者により伏せ字)


ここにみる「本澤氏当主三郎」とは、本澤家の当主ではなく「本澤三郎」なる人物でもないことが明らかである。なぜなら某年当時の本澤家の当主は「三郎」という名前ではなく、同家にも「三郎」と呼ばれる人物は存在しないからである。
本澤家で当時「たよ女(たよめ)」という名前の婦人を娶っていたのは××という男子であり、彼は本澤家の三男であった。たよ女がこの年三十二歳だったことは、同村の戸籍謄本により明らかである。

この書状は、「しやるろ」なる人物に宛てて書かれているが、これが同村に居住した「シャルロー」と呼ばれる異国生まれの吸血鬼であることも明らかにされている。
すなわちこの書状は、本澤家の三男である××が、自らの妻たよ女を同村に居住する吸血鬼のもとに遣わして、吸血させるという内容のものなのである。
妻に対する吸血行為を「きけつ」という一見するかぎり意味不明瞭な言葉に置き換えていることから、書状の意図を秘する意図がみえることは、内容のまがまがしさからも十分納得がいく。
一方たよ女に関する生命の安全の保障も求められており、それがこの人妻から血液の提供を受けた吸血鬼によって忠実に遵守されたことが、以下の記録で確認される。

本澤家当主三郎内儀たよ女儀、目出度相媾事祝着至極と存候、向後五ヶ日に一度この儀を相遂ぐべきの由本夫より重ね重ね懇望あり
(ほんざわけとうしゅ さぶろうないぎ たよめ ぎ、 めでたく あいあうこと しゅうちゃくしごくと ぞんじ そうろう こうご ごかにちに いちど このぎを あい とぐべきのよし ほんぷより かさねがさね こんもう あり)

ここに「媾」とあるのは文字通り、性的関係を意味するのであろう。すなわちたよ女の本夫本澤××は、妻が血液の提供相手と情交することを寛大にも容認してしまっているのである。

吸血鬼とその血液提供者との間の性的関係が本夫によって容認され、そうすることが本夫にとって理想的対応であると見做されたのは、このように、じつに人間・吸血鬼両者が平和裡に共存するようになったごく初期から知られているのである。


たよ女とシャルローとの関係が成就された某年の直後、古寺の記録には次のような記録がある。

本澤家当主内儀 還暦法要成就の儀、弥栄(いやさか)
執行沙老

この「当主内儀」とあるのは、たよ女の本夫××の実母にあたる婦人であろう。
同村戸籍謄本によると、彼女はこの年数えで六十歳となっている。
ここに「法要」とは字義通りにとらえるべきではなく、もっと特殊な解釈を要するようである。同寺の記録で同じ時期に「法要」とある例は多数散見されるがたとえば次のようなものがある。

柳沼御一家相集い法要、御母堂ナラビニ令室きけつの衆に応接すること懇ろなり、令嬢また羞じらひつつも初めてきけつセラル、

「きけつ」が吸血行為を、「懇ろ」な「応接」が性的関係を結ぶことをさすのは、容易に察することができよう。この家は姑・嫁・娘が三人ながら複数の吸血鬼による吸血をうけ、ないしは情交を遂げたのである。


話題を戻すと××の母堂が体験した「法要」とは、吸血行為ないし貞操の喪失、おそらくはその双方だったものと想像される。
「執行沙老」とあるのは、シャルローの当て字であろう。彼女の相手が三男の嫁の情夫であることを示している。
すなわち、嫁と姑は、同じ吸血鬼の毒牙にかかったのである。

還暦にも達するこの本澤家当主の夫人ともあろうものがかような災厄を余儀なくされた理由は、何に求められるべきだろうか?それを推測するための有力な手掛かりは、やはり冒頭の「御紹介状」のなかに求めることができる。すなわち母堂が堕落を余儀なくされた日付より一週間後のものである。


本澤氏当主正嫡 謹んで記す
当家内儀テルノ儀 参拾九歳
身を慎むこと厳にして、当家に嫁してより未だ二夫にまみえず、
相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候
某年某月某日(筆者により伏せ字)

冒頭の「御紹介状」とほぼ同文である。
察するに、本澤家の母堂は自ら身を汚すことによって、長男の嫁にほんらいの義務を果たすよう促したのであろう。まことにこの「当主内儀」は、賢夫人の誉れ高い婦人であった。

その約一ヶ月後、別の機会におこなわれた「法要」における貞操喪失者のなかに「当家二郎内儀」の名前を見出だすことができる。
三男・長男につづいて次男の嫁までもが、乱交に近い状況のなかで吸血鬼との情交を結んだのである。

「当主正嫡内儀」や「当家二郎内儀」がこのような仕儀に至った背景は、別に求めることができる。
本澤家の男子五人のうちこの年までに成人したものは四人、妻帯するものは三人であった。
すなわちこれらのことが起こった翌年、四男の??が同村の医師沢内善吾郎長女なみ十七歳と婚姻しているのである。

「当家二郎内儀」の「御紹介状」には、以下のとおりである。


当家二郎内儀ヤエノ儀 参拾七歳
かねて懇望を蒙ること度々ながら、当家にては適当な女子を供するあたはず、徒らに日を重ねること無面目の至りこの度漸く一女を供するものなり
相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候
某年某月某日(筆者により伏せ字)


恐らく「当家二郎内儀」のヤエノは、近く婚姻するうらわかい花嫁の身代わりに、人身御供とされたもののようである。

この婦人の表記が「当主二郎内儀」ではなく「当家二郎内儀」とあるのは、この次男がまだ実家に居住していたものを意味するようである。
どのような事情から三男が兄より先に独立し、その嫁が真っ先に「きけつ」されたのか知るすべはないが、本澤家の婦人たちは異国生まれの単独の吸血鬼によって、三男の嫁→当主の嫁→長男の嫁→次男の嫁の順番に吸血され、相前後して貞操喪失に至ったことが一連の記録から判明する。


二、「きけつ」される婦人の夫たち

この種の書状が数多く存在することはかなり以前から知られていたが、なんらかの強迫ないし洗脳行為を伴うものであろうとされてきた。
しかし目覚ましい進展をみた最近の研究では、この見解はほぼ否定されていると言ってよい。
それは、侵される嫁たちの夫の応対によって裏付けられている。

ごく内々に閲覧することを許された当家の長男の日記によれば、姑の指嗾によって姑や義妹の情夫に献血する習慣を持たされた彼の嫁本澤テルノは、以後毎週最低二回は血液提供の勤めを果たしている。
(註:指嗾=しそう=そそのかすこと。)
こうした機会は多くの場合夜間に持たれ、子息らを寝かしつけた妻は「そそくさと手早く身繕いをし、通夜にでも赴くが如くヒッソリと(同日記)」自宅を後にし、そうした妻を夫もまた「無言で目を合わせずに(同)」送り出したのだった。
消極的態度ながら夫によって許容された吸血行為は深夜に及び、しばしば翌朝に至ることがあった。ある晩の日記には「当夜御奉仕の為妻テルノ出立、着替え持参」とあり、翌日の日記には「早暁妻帰宅」と、こともなげに記されている。
生命の保障をされている以上、ひとりの婦人から獲られる血液の量には、おのずから限度がある。それにも拘わらず応接が終夜に及びなおかつ彼女がそのたびに生還を果たしているということは、どうしたことだろう?場合によっては帰宅直後に姑に従って朝餉の用意やその他の家事を果たし、主婦としての多忙な日常を過ごしているのである。
夫によって「着替え持参」と手短かに書き込まれた一文は、まことに示唆に富んでいるといえよう。

本澤家の長男は、時期をほぼ同じくして妻を望まれた次男の相談を受けている。
「最愛の妻を売り渡す心地」に悩む弟を諭して、「最愛の者を分かち合うは遠来の客人に応えるに最良なる礼遇」であり「己が婦の吸血され痴情に惑ふを目の当たりにするは一見恥辱と思はるるも、さはがら妖しく酩酊するに似たる想ひあるを告白せざるべからず」と、妻を征服される妖しい歓びをさえ告白し、弟にその妻を吸血に委ねることを奨めている。
事実長男の夫人が貞操喪失に至ったのは、この相談に応じた二日後のことであった。
さらにその一週間後、「当家二郎内儀ヤエノ」が某所で行われた「法要」で吸血され、貞操を喪失している。


三、禁断の古文書群

上記の文書群は、もとより非公開のものとされている。
古寺に伝わる「御紹介状」は、旧家の夫たちが自分の妻を吸血させるため、親しい関係にある吸血鬼にあてて書いた書状。
各旧家に伝わる「日記」は、血を吸い取られ征服されていく妻たちの動向を記した、符牒交じりの秘記。
そのいずれもの閲覧を許されるには、おなじ体験を経なければならない。
読者の賢察にゆだねることとなるが、いま一通、ごく最近に書かれた「御紹介状」を披露して、この稿をとじたい。


当村御居住 本澤甚六 様
当家内儀喜美恵儀 参拾壱歳
身を慎むこと厳にして、当家に嫁してより未だ二夫にまみえず、
相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候
某年某月某日(筆者により伏せ字)

註:此処に喜美恵とあるは、筆者の令夫人の名の如し。都会風の名前が同書簡内に交じりたること、恂に以て悦ばしきことと覚え候。

雨の情景

2012年04月22日(Sun) 22:58:32

花曇りの空を、雨滴がびたびたと、唐突に濡らしはじめた。
ばたばたばたばた・・・
乾いた地面を打つ大粒の雨がたてるかすかな砂埃で、あたりが薄っすらと煙たくなる。
白の頭巾に割烹着姿の女が屋内から駆け出してきて、あわただしく洗濯物を取り込んでいった。
二往復、三往復・・・
さいごの洗濯物を取り込んで、濡れはじめた頭巾を頭から取り去ったとき―――
背後から伸びた黒い影が、だしぬけに女を押し包んだ。

あ・・・っ!
女はちいさく叫び、とっさに逃れようとしたが。
すぐに傍らの納屋に、引きずり込まれてしまう。

あっという間の出来事だった。

納屋のなかに敷かれた藁のうえ。
女は脚をばたつかせながら、組み伏せられていって。
もの慣れたやり口で突っ張る両腕を取り除けられつぃまうと、
もの欲しげな唇を、もううなじに這わされてしまっている。

あっ・・・あっ・・・

女はなんどもみじかく叫び、けれどもかなわないとみるとすぐに、大人しくなった。
きゅうっ・・・きゅうっ・・・
押し殺すような吸血の音に女は身をよじったが、影は女を放さなかった。
雨脚が、はげしくなった―――

つかの間のにわか雨は、すっかりあがっている。
女は脱いだ頭巾でうなじのあたりを拭いながら、ふらふらと屋内にあがりこんだ。
居間に入ると夫と目が合って―――女は小娘みたいにどぎまぎして、あわてて目線をそらしてしまった。

なんだ、噛まれちまったのか。
えー、やられちゃった。(^^ゞ
女は照れ隠しに威勢よく、手に持っていた頭巾を洗濯機に投げ込むと、すぐにずたずたと荒々しい足音を立てて、階段をあがっていった。
だんなが顔をあげて、雨上がりの庭をふと見ると。
黒影が低く口笛を吹いて、男の注意をひいた。

こら。
傍らのちゃぶ台に取り残されていた箸置きをだんなが投げると、
影はそれを素早くキャッチして。
陶器でできた箸置きを割れないように縁側にそっと置くと。
もう、姿を消している。

梅雨どきは、もうすぐ―――
だんなはうさん臭げな目線をちらと庭先に投げると、もうそれ以上は追及しないで、
ものぐさそうな手つきで、キセルに煙草をつめてゆく。

遠景。

2012年04月16日(Mon) 07:46:03

広々と拡がる田んぼを、小高い丘の上から見おろしていたら。
おなじ学校の女子が三人、セーラー服の襟を並べて、下校してくるのがみえた。
ささやかな生垣を背にした、白い一本道。
濃紺のプリーツスカートのすそを揺らして歩みを進める足許の、
ぴかぴか光る真新しい革靴と、白のハイソックスが、むしょうに眩しかった。

ふわり・・・と、なんの前触れもなく。
少女たちのまえに立ちふさがるともなく佇む、三つの影。
あら。
少女のひとりが声をあげると。
まあ。
まあ・・・
連れのふたりもそれに応じて、影たちにぴょこんとお辞儀をした。

通してくださる?
血をくれるなら。
言葉つきはおだやかだったが。
互いのやり取りは、都会のものが聞いたら腰を抜かすだろう。

えー?
戸惑うように声をあげ、両手で口を抑えるひとりを、
頭だった少女が「こらこら」と、たしなめるようにして。
「エエ、けっこうよ」
三人を代表するように、返事をした。

仲良く三人並んだ少女たちの、白のハイソックスに包まれたふくらはぎを。
三つの影は、もの欲しげに見おろして。
少女たちは目引き袖引き、
「どうする?」
「へいき?」
「やだー、きょう履いてきたの、おニューなんだよ~」
なんて。
まんざらでもない声色で、相手のようすを窺っている。

ひとりが頭だった少女のまえにかがみ込んで、
革靴の足首をつかまえると。
少女は胸を張るようにして、ハイソックスのふくらはぎに吸いつけられる唇を受け入れた。
それと同時に。
ほかのふたりにも、魔手が伸びて。
「あっ」
「きゃあっ」
ハイソックスのふくらはぎに、唇を吸いつけられていった。

「やだ~、どうしよう」
真ん中の少女が立ちすくんだまま、両手で口を蔽っている。
髪の長い子は、血を吸われるのは初めてらしい。
友だちふたりが、しり込みする彼女を励ますように、左右から支え合って。
「純子初めてだもんね。最初に噛ませてあげようよ」
笑いさざめく少女たちの声は、どこまでも無邪気。

「あ~♪」
くすぐったそうに肩をそびやかす少女のハイソックスに、バラ色のシミが広がると。
「きゃー」
「おめでとう♪」
同級生に祝福を送ったふたりもまた、ハイソックスの足許に飢えた唇を這わされて。
真っ白な生地を、バラ色に染めてゆく。

スカートのすそをひるがして。
ひとり、またひとりと、貧血を起こして座り込んでしまうと。
男どもは彼女たちにのしかかっていって、
とうとううなじまで、噛んでしまった。

ちゅうちゅう・・・
きゅうきゅう・・・
ごく・・・ごく・・・

三人三様、あからさまな音をたてて。生き血を吸い上げて。
少女たちは手足をじたばたさせながら、いつの間にかのしかかる影たちの背中に、腕を回していった。

そんな風景を、ボクはのんびりと遠目に眺めていて。
受難の三人の女学生のなかには、ボクの稚ない婚約者も含まれていた。
もう、首すじに噛み痕をもらっていた彼女は、時折友達を交えながら。
こんなおイタに、嫁入り前の身体をゆだねている。

あいつの牙は、キモチいいものな。
ボクはひとりそう呟くと。
ズボンのなか、ひざ下まで引き伸ばしたハイソックスに隠れた噛み痕が。
ズキズキ、じんわりと疼くのを、くすぐったそうに耐えていた。


あとがき
逃げようとすれば逃げられそうな状況なのに。
好奇心に満ちた瞳を輝かせて、ひとり、またひとりと。
みすみす白のハイソックスを、飢えた唇に汚されてしまう乙女たち。
萌えます。
いつものとおりの、ヘンな発想に過ぎませんが。(^^ゞ

血を吸う従姉 3

2012年04月14日(Sat) 18:35:49

純白のスカーフをたなびかせて、章子が行く。
ひところ締めていた、従妹の血で染めた深紅のスカーフは。
すでに1ダースほども、そろったころ。
けれども彼女が締める純白のスカーフは。
なにごともなかった以前のように、夕映えの街に揺れている。

おじゃましますね。
夫婦の居間のふすまが、半開きになると。
章子はよく輝く黒い瞳で、叔父を射すくめた。
叔父様、入っていい?
拒否されるわけもない、という声色だった。

いらっしゃい、章子お姉さま。
さほど美しくもなく、悧巧そうでもない華絵が、ほんのり笑う。
しいて言えば肌の白さと初々しさ、それに良家で育てられた娘らしいおっとりとした挙措が、取り柄だろうか。
まえもって来意を告げていたこともあって、華絵は自校のセーラー服を着けていた。
喉渇いた。血を吸うね。
用件を手短かに告げると、華絵はふたたびほんのりとした笑みをたたえて頷き、目を瞑る。
畳の上にぺたんと尻もちをついた姿勢のまま、おとがいを仰のけると。
章子は従妹の首すじを優しくなぞり、豊かな黒い髪をかきのけると。
大きく口を開いて、牙をむき出した。
ああっ。
絶え入るような声を洩らして、華絵は牙を埋められてゆく。

ふたたび居間に、もどったとき。
章子の胸許を、かざるのは。
吸い取った従妹の血で、深紅に濡れたスカーフ。
やはり・・・家のなかでは、少女はスカーフを染める営みを、欠かさないらしい。

スカーフ、交換したの。似合うでしょ?
静かに仰向けになった従妹の胸元から抜き取ったスカーフを、少女は自慢げに叔父に見せびらかした。
また、華絵の血を吸ったのか。
顔をしかめて目を背ける叔父のおとがいを。
厳しい力のこもった指先が、ぐいと振り向けた。
おいしかったわ。華絵ちゃんの血。
叔父様が汚しても・・・変わらなかったわ。あの子の血の香り。
こんどは、叔父様の番よ。あなたの血なんか、おいしくないけど・・・
血を吸われるのが、愉しくなっちゃったんだよね?
い、いや・・・
あわてて否定しようとするのをさえぎって、章子は顔を間近に近寄せた。
素直になろうね。叔父様。
耳元に近寄せた唇の発する囁きが、男の耳たぶを妖しくくすぐった。
お・い・し・か・っ・た♪

首のつけ根に食い込んだ姪娘の牙が、ひどく疼いた。
惣蔵はうめきながら、生き血を吸い取られてゆく。
たんなる食欲充足のための吸血。そうわかっていながらも。
視界を遮る眩暈(めまい)が、いつか彼の理性を変えていた。

きょうはあたしの彼氏が、この家に来るの。
叔父様が拒否っても、たぶん華絵ちゃんが引き込むわ。
もう逢っているんだもの。あたしの紹介で。
小気味好げに謡う、愉しげな囁きに。
男はほろ苦い哂いで、応えてゆく。

―――――――

それは、数日ほどまえのこと。
お招ばれした従姉の部屋で。
華絵は初対面の吸血鬼をまえに、久しぶりの恐怖を味わっていた。
えっ・・・?えっ・・・?章子姉さま、あたし男のひとは怖い・・・っ。
戸惑い怯えながら、それでも後ろから羽交い絞めにする章子姉さまの腕を振りほどくことはできなかった。
左右に身をよじるたび、従姉の腕に力が込められて。激しかった身もだえが、その振れ幅を狭めてゆく。
みずみずしい健康な血潮を秘めた少女の身もだえを、吸血鬼はうれしげにほくそ笑んで見つめている。
そうして哀れな犠牲者の両肩をグイと捕まえると。
怯える目の前で見せびらかすように、鋭い牙をあらわにした。
あ、あ、あぁ~っ・・・
身じろぎもならぬほど勁(つよ)い力で抑えつけられたまま、少女はうなじに吸血鬼の牙を埋められてゆく。

ごくり・・・ごくり・・・ごくり・・・
従姉のときとおなじ、野太いほどにあからさまな、獣じみた吸血の音―――
引きつっていた少女の頬は、いつしか弛んで、
やがてくすぐったそうに白い歯さえ見せていた。
ね・・・キモチいいでしょう?あなた、あたしと同じ経験をしているのよ・・・
従妹の耳もとで、謡うように囁きながら。
生贄の身体を抑える力をゆるめた章子は、うっとりとなった従妹の白い頬を、嬉しげに覗き込んでいる。
バラ色の頬が蒼白く萎びて、体温を喪ってゆくのを。それは面白そうに。

おいしい?ねぇ、おいしい?あたしの自慢の従妹よ。
この子なら、遠慮しないでいいわ。あたしの奴隷なんだもの。
ゆっくり愉しんで。たっぷり飲んで。

章子は謡うように、親ほど齢の離れた情夫を、煽ってゆく。

初々しい皮膚の柔らかさを、確かめるように。
男は、うなじに。胸に。なんども思い思いに食いついて。
少女の胸許を引き締める純白のスカーフを赤黒く染めてしまうと。
ふたりは気絶した少女の制服をいじりまわしながら、そうっとスカーフを解いてゆく。
持ち主の胸許から取り去られたスカーフに、男は恭しく接吻を重ねると。
むぞうさにポケットのなかへと、詰め込んだ。

ははは。お土産ね。
じぶんもいくたびとなくせしめたスカーフを、情夫も共通のコレクションとして採取するのを。
章子はまるで、プリクラを集め合う友だちのように、打ち解けた笑いで見守っていた。

―――――――

そいつが・・・きょう華絵の血を吸いに来るのか?
そうよ。歓迎してくれるわよね?
あ、ああ・・・
もはや、逃れようもなかった。
叔父様だって、いい思いなさったのよ。
姪を犯して、実の娘の純潔までいただいちゃったんだから。
章子はうそぶきながら、叔父から吸い取った赤黒い血のりを、むぞうさに手の甲で拭った。
良家の令嬢が、まるですさんだ娼婦のようなぞんざいな口調で告げる、自分の所業。
ひとつとして間違いのない事実に、男は言葉を返すすべを持たなかった。
いい思い。
いい思いには、ちがいなかった。
実の娘を含む良家の令嬢をふたりも、汚し抜く習慣を得てしまったのだから。
それでも姪娘の容赦無げな言いぐさは、まだしも―――だったかもしれない。
姪娘を犯すために実の娘の吸血を許したという、もっとも罪深い所業に、彼女は目をつぶってくれたのだから。

―――――――

娘の血を吸わせた男はやがて、その妻をも吸血の魔手にゆだねる羽目になる。
なさぬ仲である継娘の華絵が堕ちることは望みながらも、自らは内心、吸血鬼に成り果てた姪娘を嫌悪していた妻。
それがいま、処女の血しか吸わないとばかり思い込んでいた女吸血鬼をまえに、危機に陥っている。

いやあっ。放して。放しなさいッ!
ふすまごしに聞こえてきた悲鳴は、すっかり家に寄りつかなくなったはずの妻のものだった。
えっ・・・?
惣蔵は立ち上がろうとして、下半身裸の華絵のうえから起きあがろうとしたが、
ひどい眩暈を感じ、くたくたとその場にへたり込んだ。
悲鳴はなおも、続いている。
妻が初めて、姪娘によって吸血されたときのことだった。

自分が華絵を犯しているあいだ、一家の運命を情欲のるつぼに投げ込んだあの小娘は、妻の生き血を目当てにウキウキと待ち受けていた。
悪食(あくじき)にはちがいないけど―――叔父様の血よりはましね。
少女のこともなげな言いぐさに、股間に恥ずかしい疼きを覚えたことは、だれにもえいない。
―――黙っててあげるのよ。
心のなかに現れた章子の幻影が、ひっそり嗤いながら、叔父の理性に食い入った。
―――でも、黙っていなくてもいいように、あたしが叔母様を、黙らせてあげる。
悲鳴の主がどういう目に遭おうとしているのか、容易に想像がついた。
そして妻の突然の帰宅の理由も、すぐに察しがついた。

眩暈を覚えてへたり込んだ惣蔵は、もういちど娘のうえから起きあがろうとしたが、こんどはべつの障害が彼の意図をくじいた。
毛むくじゃらな脛に、少女の柔和なふくらはぎが、蛇のようにからみついていた。
娘の顔をはっと見おろすと。
父さん、もっと・・・
色が白いだけが取り柄の華絵が、ゆるやかに笑んでいる。
もっと、しようよ。母さんのことは放っておいて、あっちで愉しませてあげようよ。
ほんのりとした微笑の裏に、いままで娘のなかにみたこともない淫靡なものがよぎるのを見て、男は不覚にも、欲情した。

やめてっ!厭っ!痛いっ!こらっ!!
ふすまの向こうでは、妻がまだかしましい声をあげつづけていたけれど。
どうやら早くも、肌を侵されはじめているらしい。
堕ちるのはもう、時間の問題だった。
惣蔵は娘のセーラー服の襟首を押し広げ、まだ薄い胸に顔を埋めた。
両の太ももをくつろげた少女は、逆立って怒張する一物を、すんなりと受け容れてゆく。
小心で猥雑な志の持ち主は、自滅するように娘の身体のうえへと、自ら堕ちた。
華絵に誘われるまま、その無器用な手つき腰つきに引きずり込まれるようにして。
白く濁った劣情を股ぐらの奥に吐き出してしまうと。
・・・・・・はぁ。っん・・・。
満足しきったような娘のうめき声に、妻の叫びが重なった。
ひい・・・・・・っ
それっきり、ふすまの向こうの叫びは、ぴたりとやんだ。
ごく・・・ごく・・・きゅう・・・きゅう・・・
妻の生き血を啖らう毒々しいもの音が、男の理性を消した。

―――――――

そんなふうに。
妻を姪娘に吸血されたときでさえ、惣蔵を襲った異形の歓びは、ひととおりのものではなかったというのに。
きょうは華絵じしんが引き込む男の吸血鬼が、娘の血を飲むのだという。
血を飲む相手が異性であることに、惣蔵は強いてこだわろうとしたが。
そしてそれを遮ってはならない・・・と、姪娘は小賢しげに囁くのだった。
あたしたちに、任せてね。叔父様はそのあいだ・・・そうね、気絶していて頂戴。
目の前で、無邪気に笑んだ口許から、鋭利な牙がむき出しになる。

あの心地よい眩暈が、理性も平衡感覚も狂わせている。
独りきりで放置された畳部屋のなか。
ふすまに手をかけるまでの、ほんの数十センチの移動が、ひどく大儀に感じられた。
ようやくふすまに手をかけて、惣蔵はやっとの思いで、細目に開く。
驚くべき光景が、彼を待ち受けていた。

目の前に折り重なる、黒のストッキングに包まれた三対の脚。
左右が、制服のプリーツスカート。真ん中が、花柄のワンピース。
真ん中のワンピースの主の足許を彩る墨色のストッキングは、高価なものらしい。
左右の二人のそれよりもいっそう、つややかな光沢をよぎらせている。
戸惑う足許に、皆の視線が集中していた。
薄い黒のストッキングに包まれた妻の脚は、吸血鬼ではない惣蔵の目にもおいしそうに映った。

さあ、噛んで。あっ、そのまえに、よく舐めて。
叔母様のストッキング、それは舌触りがいいのよ。
章子の声だった。
あろうことか、娘の血を吸いに来た招かざる客に、妻の脚を吸わせようとしているらしい。
いけないことを教えるときの章子の口許は、いつも蠱惑的な輝きを帯びている。
姪と継娘とに、両側から羽交い絞めにされながら。
妻は章子とその情夫とを、罵りつづけていた。
およしなさい。およしなさいったら!何するのッ!?よくも、よくもこんな恥知らずなッ!
女は蓮っ葉に罵り散らしていたが、継娘の吸血を最初に提案するという恥知らずをしでかしたことは、全く頭にないらしい。
ほら、ほら、おいしいよ・・・
嬉しげに声を飲む章子の見おろす視線の先。
唾液に濡れた唇が、妻の足首をチロチロと舐めはじめていた。

華絵さん、放して。放してちょうだい!
章子が言うことを聞かないと見て取ると、こんどは華絵に矛先を向けていたけれど。
華絵はいつものように、焦点の定まらない目でほんのりと笑み返してくるばかり。
黒のストッキングを穿いた継母の足許にちゅうっ・・・と、男の唇が這わされるとひと言、
―――おいしそう。
心からうらやましそうに、呟いたのだった。

華絵さん・・・
ショックを受けたように叔母が黙ると。
章子は叔母の着ているワンピースを、そろそろとたくし上げてゆく。
ワンピースに引きずられるようにして、淡いブルーのスリップまでもがあらわになったが、
章子はそのスリップごと引き上げていって、
むっちりと輝く太ももを、男の前にさらしていった。

いけない。いけない。志津江が食われちまう・・・
惣蔵はあがき、もだえたが、襖を開こうとする手の指は、いたずらに虚空を引っ掻くだけだった。
あぁー・・・
妻の志津江がおもてをのけ反らせて目を瞑り、眉を寄せて歯を食いしばる。
足許に屈み込んだ男の背中に視界を遮られていたが、ふくらはぎを噛ませてしまったのは間違いなかった。
きゅううううううっ。
人をこばかにしたような吸血の音が、志津江の足許から洩れた。

ひとしきり、志津江の血を吸い取ると。
男は噛んだ足許から身を放し、手の甲で口許を拭った。
派手に破けたストッキングの裂け目に、みだらな唾液と吸い残された血潮とが織り交ざり、、てらてらと薄手のナイロン生地を濡らしている。
もうひと口。
そういって促したのは、意外にも華絵のほうだった。
お義母さま、もうちょっと吸わせてあげようよ。
耳元でささやく継娘を憎々しげに睨んだ志津江は、ふたたび苦痛に目を瞑った。
男がさっきとおなじところに、食いついたのだ。

もうちょっと・・・吸わせてあげようよ。
華絵がふたたび、継母にそう囁いたとき。
志津江は部屋の隅っこで尻もちをついていて。
首すじといい、胸元といい。
二の腕といい、脇腹といい。
もうなん度も、したい放題に噛まれていた。
はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
失血に息を弾ませながら。
それでも志津江には、吸血をやめさせるすべはなかった。
着衣もろとも辱しめを受けながら、すべてをこの招かざる訪問客のために饗する羽目に陥っていたのだ。
花柄のワンピースのあちこちには、持ち主の血が赤黒く光っていて、
バラの花をあしらったワンピースに、不規則な柄もようを描いていた。
志津江叔母様のワンピースには、血が似合うよね?
章子が覗き込むように、従妹の顔を覗き込むと。
そうね。もっとなん着も、こんなふうにしてもらいたいわね。
華絵は天真爛漫な笑みをたたえて、従姉に応じてゆく。
ねぇ、お義母さま。もうちょっと・・・吸わせてあげようよ。
華絵の言いぐさに、志津江は言葉こそ返さなかったけれど―――初めて頷いていた。

あぁ。
惣蔵の胸の奥に、絶望がどす黒くしみ込んだ。
ずぶ・・・
牙を埋める音が、きこえるようだった。
妻は自分から胸を拡げて、ワンピースごしに豊かな乳房のつけ根を噛ませていた。
ちゅうちゅう・・・ちゅうちゅう・・・
生々しい吸血の音に、少女たちは歓声をあげる。
だれもが、志津江の受難を悦んでいた。
そしてもしかすると、志津江本人までもが。
いまや、随喜の色を口許に漂わせ始めているではないか。

若い女の血に飢えた吸血鬼が、兄嫁の、姪の、娘の、そして妻までも毒牙にかけて。
彼の一族を侵食し支配してしまうのを。
みすみす、覗き見する立場に置かれていた。
兄はどうやって、長年連れ添った兄嫁がこの男に貞操を譲り渡すのに耐えたのだろう?
嫁入り前の娘が純潔を散らされることは、なんとも思わなかったのだろうか?
いや・・・いや・・・
その問いの切っ先は、惣蔵自身にかえってくるものだった。
なんの罪悪感もなく、娘を吸血にゆだねた男。
それと交換条件に、恥知らずにも姪娘の身体を求めた男。
そうではなかったか・・・
―――愉しんじゃえばいいじゃない。
耳の奥で、鼓膜が妖しく震えた。
章子の声だった。
いつだか姪が、小賢しく微笑んで、面と向かって言った言葉だった。
心底を見透かすようなことを・・・そのときは怒りだけだったものが。
いまは、その怒りがえもいわれない妖しい歓びに返還されようとしている。
望んで得た若い妻、志津江が、いままさに吸血鬼に強姦されようという、まさにそのときに・・・

そう。
自分よりも年配の侵入者は、あきらかに志津江の身体に欲情していた。
さっきから吸血のために、志津江の首すじに牙を埋めながら。
片方の手で、栗色に染まった髪の毛を指に巻きつけてもてあそび、
もう片方の手では、ワンピースの裾をめくりあげて、薄黒いパンストに包まれた淡いブルーのショーツのなかに指をさまよい込ませていた。
その指どもが、いけない誘惑を彼女の股間にしみ込ませてゆくのが。
股間に張りつめた三角形の淡いブルーの生地が、いびつに歪んでいくことでそれと知れた。
きっとやつは、志津江を殺すまい。
殺さずにもっとべつの手段で、この熟れた人妻を辱しめようとするに違いない。
妻と娘の生命が助かってよかった。
いまはもう、そう思うしかないだろう。

仰向けに抑えつけられた志津江は、さいごの理性を振り絞って、激しくかぶりを振っていた。
夫の視線を、明らかに意識していた。
はぎ取られたワンピースからむき出しになった両肩は、室内の灯りを受けてなめらかに輝いて、
だらしなく腰のあたりまでずりおろされた花柄もようの高価な装いと、好対照をなしていた。
引き裂かれたパンティストッキングは、まだ志津江のひざ下に残っていたが、
足首を抑えつける姪娘の舌と唇で、むざんないたぶりを受けていた。
しわくちゃになって波立つ薄墨色のナイロンが、ふしだらによじれていった。
おかーさま、髪の毛綺麗ね。
華絵は能天気な声をあげて、継母の両腕を、ゆったりと抑えつけていた。
あたしもこのおじ様に、食べられちゃったの。
おかーさまもきっと、このおじ様のお〇ん〇ん、気に入ると思うわ。
おっとりとした口調で、途方もなく露骨なことを口にすると。
少女はさっき受け口で受け入れた吸血鬼の一物を思い出すように、
片方の手で口許を拭った。
もう・・・両手で抑えつけている必要がないほど、貞操堅固だったはずの熟妻の抵抗は弱まっていた。

いっしょに、堕ちようね。
継娘の囁きに志津江は頷いて。
息を詰めて見守る夫の前、ゆっくりと脚を開いていった。

問診票  ~「血を吸う従姉」 異伝~

2012年04月11日(Wed) 07:37:55

氏 名   北堀河 敬介
年 齢   15歳

学 年   中学三年

血液型   O 型

学内の吸血鬼の存在を知ったきっかけは?
      友人の紹介(同級生)

吸血に応じる気分になった理由を書いてください
      刺激を求めるため。

きょうの体調は、吸血されても差支えはありませんか
      差し支えありません

希望する吸血喪失量
      おしるし・軽い貧血程度・気絶するまで・マックス
      (おしるし、に○印)

脚に噛みつくとき、靴下の上から噛んでも差し支えはありませんか
      噛み破らせてあげるため、ハイソックスを着用してきた
      ハイソックスを着用しているが、靴下は破らないでほしい
      (噛み破らないでほしい、に○印)


問診票を手にした少女は、整った目鼻立ちをしていて。
そのくせひどく、頬が蒼白かった。
あの頬ぺた、見たかい?きみの血で、バラ色にしてあげるんだぜ。
敬介を此処に連れてきた慶徳は、さっきから。
敬介の二の腕を、痛いほどつかんでいた。
まるで、この場から逃がすまい・・・とするように。

初心者ね?
少女の問いに、少年ふたりは肯いて。
あ でもボクは、初めてじゃないですよね?
慶徳は座の空気をほぐすように、わざとひょうきんな声色をつくっていた。
そうね。あなたはなんども、あたしにハイソックスの脚を噛ませてくれたわね。
二通の問診票に目を通しているあいだ。
唇を引き結んで、ほとんどにこりともしなかった少女は。
座を和ませようとする慶徳の意を汲んだように、ちょっとだけ打ち解けた笑みを漏らす。

少女の足許は、濃紺のプリーツスカートの下、真っ白なハイソックス。
少年たちは、自校の制服―――濃紺の半ズボンに、紺のハイソックス。
都会の一隅にあるその名門校は、お坊ちゃん学校で有名だった。
いや、一点不正確なところがあった。
敬介は制服どおりの紺のハイソックスだったけれど。
慶徳のほうは、うす茶色の生地の、女の子みたいなひし形もようのやつを履いていた。
あなた、制服のハイソックスぜんぶなくしちゃったのよね。あたしになん度も逢って。
少女は慶徳をとりなすように、そういって。
少年は照れくさそうに、エヘヘ・・・と、笑いを返しただけだった。

じゃ、おなじみのあなたから。
少女があごをしゃくると、慶徳は傍らのベッドに横になった。

養護教諭はこの時間、わざと自分の持ち場を離れている。
校長紹介の来賓の、お愉しみタイムを確保するために。

手加減してくれよ。
慶徳はさすがに、ちょっと気後れした声になって。
それでもベッドのうえ腹這いになって、ひし形もようのハイソックスのふくらはぎをくつろげた。
平気よ。わかってるじゃない。
少女はすこし邪慳なだいどでそういうと、もう飢えを隠すゆとりさえなくして、
ためらいもなく少年のふくらはぎに唇を吸いつけた。

ギュッと握りしめた足首のあたり、ハイソックスの生地がかすかにしわを寄せて。
赤や紺のひし形もようの上を這いまわる唇は、ヌルヌルと唾液をしみ込ませていった。
そんな光景を初めて目にする敬介は、「お手本」と称する友人が吸血を許していくところを、ただ声を失って見守るばかり。
噛むわよ。
少女はひと言、そういうと。
相手の返事もまたずに、口の両はしの牙もあらわに、食いついた。
あ・・・
足許に牙を埋められた少年の呻きは、思ったよりも低かった。

ちゅー。
少女は落ちかかる黒髪を片方の手で抑え、もう片方の手で少年の足首を握り締めながら、
赤黒いものがほとび散った唇をしきりにうごめかせて、同年代の男の子の生き血を飲んでゆく。
ちゅー。ちゅー。ちゅー。
事務的なくらい、他愛のない、人をくったような吸血の音。
ね?怖くないでしょう?
息を詰めて立ちすくむ同年代の少年をまえに、少女はこともなげに問いかけた。
口許や頬に、彼のクラスメイトの身体から吸い取ったばかりの血を、赤黒く光らせながら。

促されるままに、ふらふらとたどり着いたのは。
鉛色の顔をしたクラスメイトが眠りに落ちた、すぐ隣のベッド。
ご両親公認なのよ。彼。だから靴下汚しちゃっても平気なわけ。
そういう少女のハイソックスも、よく見るとふくらはぎのあたりに、かすかな赤黒いシミを帯びている。
ははは。
見咎めるような少年の視線に気づくと、少女は男みたいに笑った。
気にしないで。食物連鎖よ。
生物の授業みたいなことを言いながら、少女はベッドのうえの少年に、腹這いになることを強いてゆく。

いただくわ。
少女は息をはずませて、腹這いになった少年の足許ににじり寄る。
ハイソックス越し、彼女の呼気の熱さがしみ込んできて。
あっ、噛んだら駄目だよ。ボクは公認じゃないからね。
敬介は、念を押していた。
わかってるわよ。
少女はくどい念押しに、邪慳な返事を返すと。
濃紺のハイソックスを、むぞうさにずり降ろした。
敬介は、ひんやりとした冷気が、あらわになったふくらはぎを刺すのを感じた。
むき出しになったふくらはぎを、熱い呼気がふたたび蔽った。

かりり・・・
尖った異物が、皮膚を破って食い込んでくる。
じわっとあふれ出る、熱いしずくを。
少女は人が変わったような貪婪さもあからさまにして、
チロチロと舐め、さらに牙を噛み入れた。
太い血管が破れたらしい。
あっ・・・
敬介が声にならない声を漏らすのもかまわずに。
少女はぐいぐいと、あふれる血潮を飲んでゆく。

あっ、あっ、あっ・・・
むしり取られてゆく血の量の多さに、敬介はただ、うろたえていた。
少女は獣のように、傷口を吸い、また吸って。
ごくごくと喉を鳴らして、敬介の血をむさぼってゆく。
たしか・・・たしか・・・問診票には、「おしるし」に○をつけたはずだった。
そんな敬介を憫笑するように。
隣のクラスメイトはただ、鉛色の頬に奇妙な薄嗤(わら)いを浮かべていた。
ベッドの下に、問診票が一枚、落ちている。
敬介の筆跡だった。
おしるしに○をつけたはずなのに、その○印は二本線で消されていて、マックスにすり替わっていた。
えっ。
隣でお手本を見せるように、マックスのところに勢いよく○印をつけた慶徳。
その○印とおなじ、勢いの良い○印だった。

視界が、薄ぼんやりとなってくる。
いったいどれだけの血を、むしり取られてしまったのだろう?
身体のなかが、空っぽになってしまったようだった。
まるで無重力状態のように、ベッドから身体がふわふわと浮き上がるような気がした。
いい気分でしょ?
少女の顔が、目の前にあった。
吸い取ったばかりの敬介の血が、頬にべったりと、貼りついている。
女の子の顔を、あなたこんなふうにしたのよ。
あたしは、あなたの希望通りにしただけなのよ。
さあ、代償を払ってもらうわ。
少女の顔が視界から消え、うなじのつけ根に新たな疼痛が滲んだ。
あー。
思わずあげた声が、けだるい澱みをもっていた。
その声は、自分でも信じられないほど、愉悦に満ちたものだった。
無理してかっこつけなくっていいのよ。気持ちよさそうな声あげちゃって♪
少女の言いぐさを躍起になって否定したかったのに・・・もうその力は、残されていなかった。
彼女の行為をやめさせようとする努力は、とうの昔に放棄されている。

ちゅうちゅう・・・ごくごく・・・ごくごくっ。ぐびっ。
下品な音をたてて、敬介の血を吸い尽くしてゆく少女。
気に入っちゃったのよ。あなたの血。いいでしょう?いいんでしょう?
身体のあちこちに噛みついてくるまえに、少女は謡うように、少年に問いかける。
そのたびに少年は、けだるそうな笑いとともに、かすかな頷きを返していった。

緩慢に伸びる腕が、足許に伸びてゆく。
初めて噛まれた傷口を隠すように、その手は紺のハイソックスをひざ小僧のあたりまで引き伸ばしていった。
噛み破ってもらいたくなったのね?
少女は無邪気にクスリ、と嗤って。
じゃあ、遠慮なく愉しむわ。
魔性の唇を、ハイソックスのうえから這わせていった。
ふくらはぎをキュッと締めつけるしなやかなナイロン生地ごしに、ヒルのようにあてがわれた唇が。
制服の一部を辱めるように、わざと唾液をしみ込ませてきて。
少年は吸血女の吸いやすいように、じょじょに脚の角度を変えてゆく。
うれしいわ。
少女がやや多弁になったのは。
ふたりの少年から獲た若い血液が、凍りついた気分を和ませたからだろうか。
遠慮しないで・・・好きなようにして・・・
少年は気前よく、少女の望むまま―――紺のハイソックスを、なん度も噛み破らせてやっている。

もう少しだけ、寝かせて。
目が覚めたら、うちに来なよ。
ガールフレンドができたって言ったら、ママも妹もびっくりするだろうから。
パパはとっくの昔に、家を出ちゃったし。
ママにはまだ、彼氏はいないみたいだし。
中学にあがったばかりの妹も、ボーイフレンドはまだみたい。

すでに、彼を悪魔に引き合わせた慶徳は、養護室を去っていた。
吸血女と差向いになった敬介は、問診票に書かれていないことまでしゃべっている。
唇がひとりでに、動いているようだった。
若い女がふたり、ね―――
母親39歳 妹13歳 吸血行為未経験―――
ほっそりとした指が器用に、問診票を書き加えてゆく。
少女は可愛い口許から、白い歯をイタズラっぽく輝かせながら、
同年代の少年に、無邪気に笑いかけている。
あたしの身内に、血を欲しがっているおじ様がちょうど二人いるの。
汚しちゃっても、構わないかな・・・?


あとがき
どうやらこの吸血女は、前作「血を吸う従姉」に登場した章子のようです。
少年もので趣が違いますが、異伝ということでご理解ください。^^

血を吸う従姉 2

2012年04月09日(Mon) 08:07:40

深紅のスカーフをたなびかせて、章子が行く。
純白のそれは、純潔の証し。
けれども章子の胸許のスカーフは、深紅。
まだ稚なさの残る従妹から吸い取った、うら若い血潮の色―――
そのスカーフを胸にして訪(おとな)いを入れる、都会の洋館。
そこが、犠牲者の少女の棲み処だった。

いらっしゃい。
顔つきをこわばらせて、美人の叔母が出迎える。
なさぬ仲の継娘を襲いに来た、継娘とおなじ年恰好の少女をまえに。
叔母は露骨にも、薄気味悪げな目つきをあからさまに尖らせる。
ああ、よく来たね。
叔母の後ろから声を投げてくる叔父は。
いちどだけ犯した姪娘に、明らかな負い目をみせていた。
そんな夫のようすに、嫌悪と侮蔑を込めた視線をチラと返すと。
叔母は章子の手を取るようにして、「さ、さ。どうぞ」と、
継娘の血を吸いに来た少女に、家の敷居をまたがせる。
吸血女は、薄気味悪くとも。
招かざる客の求めるところは、叔母のなかでは決して歓迎されないものではない。
継娘の受難はいずれ、夫の前妻がかつてこの世に存在したという証しを消し去ることにつながるだろうから。
奇妙な利害の一致にほくそ笑みつつも、スリッパひとつ出す気遣いのない叔母を。
章子はほとんど無視して、その脇をすり抜ける。
薄暗い板の間の上。
脛が蒼白く透きとおらせた黒のストッキングが、涼しげに映えた。
そんな姪娘の足許を、じいっと見つめる叔父の視線には。
歪んだ劣情が秘められていた。

ようこそ、章子姉さま。
華絵はいつものうっとりとした、夢見心地の視線のままで。
勉強部屋の隅っこの畳の上、制服姿で座り込んでいる。
手前に流した脛を彩るのは、従姉とおそろいの黒のストッキング。
章子姉さまのこと見ならって、薄いの履いちゃった♪
少女は無邪気に、薄々のストッキングの脛のあたりをつまんで、ぴんと弾いてみせた。
華絵ちゃんは、いい子ね。
章子は無邪気な従妹の肩を軽く抱いて、おでこに軽いキッスをした。
あは・・・
照れる少女に背を向けて。
ドアを閉めてなかから鍵をかけ、外からの干渉のいっさいを斥けると。
それまで淑やかに振舞っていた章子は、目の色を変えて。
獣のように四つん這いになって、素早く荒々しく従妹に迫っていって。
黒のストッキングの脛に、いきなり唇を這わせてゆく。

あ・・・ん・・・
あいさつ抜きのふしだらな行為に戸惑いながらも、
華絵は悩ましそうな視線を力なく、辱しめられてゆく足許に落とすだけ。
ぴちゃ。ぴちゃ。くちゅ。くちゅ・・・
強引になすりつけられる従姉の唇の下。
少女の足許を清楚に彩る黒のストッキングは、みるみるねじれ、ほつれ始めていった。
吸いつけられてくる章子姉さまの唇の下。
自分の装った礼装が、ヌルヌルとした唾液で辱しめられ、貶としめられてゆくのを。
華絵は黒い瞳をくりくりとさせて、面白そうに見おろしている。

あからさまに血をねだる従姉を相手に、華絵はうっとりと頷いて、目を瞑ると。
柔らかなうなじの肉に、鋭い牙を埋められてゆく。
チクリと刺し込まれる痛痒さに、華絵はくすぐったそうに白い歯をみせた。
這わされた口許からこぼれ出るバラ色のしずくが、チラチラと妖しい翳りを湛えながら、
白のラインが三本鮮やかに走る、セーラー服の襟首の奥へと、すべり込んでゆく。
ぎゅうっと掴まれた両肩に、濃紺の生地の深いしわが浮き彫りになった。


華絵は日に日に、やつれてゆく。
それほど美しくもなく、悧巧そうでもなく、クラスのなかでも目だたない存在であるこの少女の変化に、周囲のものはほとんど、注意を払わなかった。
ただでさえ痩せっぽちだった身体つきが、いっそう細身になったようだった。
色が白いだけの顔の丸みさえ、ひと周り萎んだようになって。
豊かな黒い髪がいっそう、目だつようになっていた。

ふっくらしていた頬に、強引に擦りつけられるようにして。
従姉の尖った顎を、圧しつけられながら。
その身に秘めたうら若い血潮を、ぐいぐい、ぎゅうぎゅうと貪られてゆく音を。
惚けたような微笑を浮かべて、うっとりと聞き入って。
焦点の定まらない意思不定な視線で、あらぬ方に泳がせていた。

喉渇いた。血を吸うね。
むぞうさに言い放つ章子が、華絵を乱暴に壁に抑えつけて。
相手の少女が無抵抗なことをいいことに、
自分の長い髪の毛を背中にうるさそうに押しやると。
尖った牙をチカリと光らせて。
少女の首すじを、キュッと口に含んでゆく。
縫い針を埋め込まれるようにして、うなじを侵されて。
さすがに一瞬、ひくっ・・・と身をこわばらせたけれど。
華絵はそれでも、従姉の腕のなか。
夢見心地な目つきのまま、生き血を吸い取られていった。

章子姉さま、華絵の血、美味しいの?美味しいの?
華絵のこと、汚してね。辱しめてね。愉しんでね。
あたしは章子姉さまの、忠実な女奴隷なんだから―――

あらぬ呟きを、舌足らずな口調で。
華絵は謡うように、虚ろな声でくり返す。

喉をからからにさせた従姉に、毎日のように呼び出されて。
そのたびに受話器を置くと、両親のほうは振り返らずに。
「行ってくる」
継母にいうともなく、父親に告げるともなく、華絵は感情を消した声色だった。
いつも制服に着替えて、ふらふらとさまよい出るように自宅を出て、
従姉の待つ場所へと、歩みを進める。
親たちは、そんな娘の振る舞いに、見て見ぬふりをしていた。

脚を咬まれた痕を、黒のストッキングの伝線もあらわに帰宅することもあれば、
紺のハイソックスの内側に隠して、なにごともなかったような顔をして下校してくるときもあれば。
真新しい白のハイソックスを履いてくるように言われて、公園でふくらはぎをねだられて。
真っ白な生地が紅いシミに染まるのを、さすがにちょっとためらったものの。
まだ明るい街なかを、赤黒いシミをべっとりつけたハイソックスのまま、家路をたどることさえあった。
そのたびに。
華絵の歩みはじょじょに、覚束なくなっていって。
足取りのふらつきのままにユサユサと揺れる黒髪のそよぎを、日に日に深くしていくのだった。


華絵を死なす気か?
降り注いでくる叔父の、怯えたような声色を。
章子は表情を消したまま、返事もせずに受け流す。
華絵の血が、そんなに旨いのか?
そう問われたときだけは。
―――美味しいわ。
やはり表情を消したまま、応えていった。
ふたりは着衣のまま、下半身だけをむき出しにしていて。密着させていて。
叔母の目を盗んでの交尾を、狎れ合った牡牝のように、交し合っていた。
乱された濃紺のプリーツスカートのひだが折れ曲がっているのも、さして厭わしそうではなくて。
床に散らばった長い黒髪さえも、女の艶をひけらかしているようだった。

これで、三度めね。
貸しを作ったような口ぶりは、対等の男女のようだった。
少女の華奢な身体つきを圧しつぶすばかりに肥えた叔父の身体を。
章子はこともなげにはねのけると。
素早くセーラー服の胸元を、元通りに引き締めている。
惣蔵は、娘の血がたっぷりとしみ込んだ深紅のスカーフを、薄気味わるそうに見つめていたけれど。
章子はわざと、非難のこもった叔父の視線を無視した。
叔父様がわたしを汚したぶん、あの子の喪う血の量が増えるのよ。
華絵ちゃんの生き血で、汚れを祓っているんだもの。
無表情に透きとおる声色が、却って言葉の毒々しさをひきたてていた。
帰るわね。
いつもの公園で華絵が待っているから、襲うわ。
魔女の声色が、見送る男を棒立ちにさせていた。


ただいまあ。
いつものような浮ついた声色で、ドアを開け閉めする娘を。
家のなか独りきりだった惣蔵が出迎えた。
妻は章子のことを怖がって、すっかり本宅には寄りつかなくなっている。
惣蔵も妻に与えたマンションに入り浸ることが多くなり、
華絵はしばしば、親たちの予告なしに、独りきりの夜を家で過ごすことが多かった。
時には―――従姉が窓辺に佇んで、ひと晩じゅう彼女の血をねだりつづける愉しい夜も、しばしば訪れるのだったが。

華絵。
珍しく父に名前を呼ばれた少女は、なぁに?振り向きざま頬をよぎったのは、いつもの虚無的な微笑だった。
ひざ下までぴっちりと引き伸ばされた、真っ白なハイソックスには―――忌むべき赤黒いシミが、撥ねていた。
それを目にした瞬間、惣蔵の理性はあとかたもなく、吹き飛んでいた。
あっ、なにするの・・・!?
驚いたような華絵の声は、重ねられてきた唇にふさがれて、途切れていた。

冷ややかな嘲りを帯びた微笑みだった。
娘とおなじ年恰好の少女をまえに、惣蔵はひどくおどおどしていた。
実の娘まで、犯したんだ。
ふふっ。
章子は、皮肉な笑いを吐き捨てた。
華絵ちゃん、いい女だった?
口ごもる惣蔵に。
正直に言いなさいよ。
刺すような口調で、姪は問い詰めた。
―――ああ、いい女だったさ。
そう。
章子はちょっと黙って。なにかを窺うような視線を周囲に配りながら。
べつに叔父様のしたこと、悪いって言っているわけじゃないのよ。
意外なことを、口にした。
定期的に愉しめばいいじゃない。父娘なんだから。あの子きっと、スケベだよ。
イタズラっぽい笑いに釣り込まれそうになった叔父の顔が、すぐに引きつったのは。
もの分かりのよかった章子の言いぐさのあとに出た背徳的な提案に、恐れをなしたからか。
それとも、自分を手玉に取ろうとしている姪のなかに、共犯者を見出したからか。

叔母さまを黙らせるのは、かんたんよ。
ほんとうは・・・華絵ちゃんは処女のまま、あたしの血を吸った吸血鬼さんに紹介してあげるつもりだったの。
それができなくなったからには、代役がいるわ。
代役は、叔母様にお願いするわ。
あのひとったら、熟れた人妻も好んで召し上がるのよ。
あたしのママも・・・いまはあのひとの奴隷なんだもの。
叔父様がわるいのよ。華絵ちゃんを犯したりするから。
悪いけど、叔父様にも協力していただくわ。


華絵は父親に抱かれている。
妻の不在中の性欲を満たすために。
決まって木曜の放課後、華絵はまっすぐ帰宅して、制服のまま実の父親に肌を許している。

かなくぎ流の男文字に、視線は怒りに震えて。
女は新聞受けに入っていたその紙切れを、握りつぶしていった。

やだ。やだ。パパったら、もぅ。痛くしないでよ・・・
ドアの向こう側。
華絵の声が、切れ切れに洩れてくる。
大人の男女のやり取りが、まだ似つかわしくない稚ない声色だった。
時折りはじける、くすぐったそうな笑いに、叔母は怒りを引きつらせた。
ドアノブに手をかけたとき。
彼女はびくっと、身をすくめる。
首すじを撫ぜる、冷たい指先―――
それが彼女を、魔法のように凍りつかせた。

入っちゃダメよ、叔母様。
蒼白い頬をした姪娘が、無邪気な白い歯をみせていた。
白い歯の両端の、尖った牙まであらわにして。

な、なによ・・・
叔母は章子に向き直ると、なにかを強弁しようとして、
突然ぎくりとしたように身をすくませて、黙りこくった。
やっと戻ってきてくださったんですね。ご自宅に。
揶揄するような声色に、侮辱を覚えたものの。
齢よりも若作りなスカートスーツに装った身体が、恐怖にこわばっている。
あちらのマンションには、わたし行ったことがないんです。
いちど招ばれた家じゃないと入ることができないって、叔母様ご存じだったのね?
でもこの家は、あたし出入り自由だから・・・叔母様のことをどうにでもできるわ。

や、やめて・・・っ!
思いのほか強い力に、その場に組み敷かれながら。
女は悲鳴をあげていた。
けれども妻の悲鳴に反応すべきこの家のあるじの気配は、ドア越しに感じることができなかった。
実の娘の若い肉体に、惑溺しきっているのだろうか?
身じろぎひとつできないほど強く抑えつけられたまま。
迫ってくる鋭い牙をなんとか避けようと、女は激しくかぶりを振りつづける。

叔母様。あたし、喉が渇いているの。あれ以来、華絵ちゃんの血を吸うのが怖いの。
味が変わっちゃっているような気がするんだもの・・・

章子のかわいい唇が、脂の乗り切ったうなじに、じわりと吸いつけられた。

あ、あ~っ!!
血を吸い上げられる感覚に、叔母は恐怖し、戸惑い、懊悩した。
赤黒く澱んだ熟女の血潮を、少女は旨そうに啜りつづける。
ひいい~っ!
恐怖もあらわに悶えつづける叔母の身じろぎを、抱きすくめた腕のなかに感じながら。
章子は性悪な人妻の生き血を、情け容赦なくむしり取る。
いい気味。でも叔母様の血、意外においしいわね。
姪の囁きに、なぜか女は素直な顔つきで肯いて。
もういちど這わされてくる若い唇を、ブラウスの胸元を自らおし拡げて、受け止めていった。
こみ上げてくる快感に、こんどは眉を切なげに、翳らせながら―――


あとがき
「血を吸う従姉」。
今朝の段階で、拍手がすでに4つ―――
拍手が5を超えると、十分多いと見なされる弊サイトでは、異例の速さです。
そんなわけで、つづきを描いてみました。^^
5日にあっぷした第一話と併せて、お愉しみください。^^

ブログ拍手♪  ~血を吸う従姉

2012年04月05日(Thu) 23:41:22

夕べのいまごろあっぷしたばかりのお話に、拍手を頂戴しました。
(*^^)v

「血を吸う従姉」です。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-2789.html

オールドナンバーに拍手やコメをいただくと、「おや、こんなところも読んで下さる人がいるんだな」と、感激もあらたになるものですが。
描いたばかりのものにリアクションがあるというのも、とてもうれしいものですね。
(どちらも嬉しいと言いたいらしい)

とくにこのごろは正直申し上げて、あっぷの数も以前ほどではなくなりましたし、
コメントも絶えて久しい現状となりますと、
「やっぱり描く能力が落ちてきたのかなあ」と感じずにはいられません。
ところがこの数日来どういうわけか、”魔”の囁きがかしましくなりまして。
濃いお話が続いております。

「クリーニング店の女房」
では、下町ふうの街に棲む中年夫婦の性愛を。
「対照的な姉妹」
では、おませな妹に控えめな姉を配し、質素な姉の意外なほどの性への聡さを。
そして、「血を吸う従姉」
では、わが身を爛れた性にゆだねてでも従妹の血を欲する若い女吸血鬼の欲望を。

いろいろ描いてみたのです。^^

ばらしてしまいますと、「血を吸う従姉」の構想は古くて、
もう、どれくらい前だろう?
もちろんブログなど立ち上げるまえからのものでした。
記憶するかぎりでも、二十年くらいはさかのぼるものです。
はたちくらいのころからひっそり描きためていたものを、ある時期に全失したそのなかにあったお話なのです。
とはいえ、全体の構想こそ記憶にあるものの、ディテールはあらかた、意識のかなた。
ほとんどが完全なリライトです。

年上の従姉に同性愛的な慕情を抱く、白痴美の少女。
その少女の生き血を目当てに、己の身体を人身御供にさらしてまで、処女の血を求める女吸血鬼。
実の娘を吸血鬼の毒牙にさらすのと引き換えに、親戚の娘を犯す恥知らずな中年男。

このあたりの構想は、当時のままですが。
少女と暮らす母親が後妻だということとか、
いとこ同士が逢瀬を遂げるきっかけが、姪娘に対する凌辱願望を持つ夫となさぬ仲の娘を吸血鬼に襲わせたい妻との利害が一致した結果だというあたりは、描いた時点で考えました。
例によって、キーをたたきながら。 笑

あっぷは夕べの今ごろですが、八割がた描きあげたのは、昨日の朝のことでした。
もうちょいであっぷ・・・というところまでこぎつけながら、出勤時間間近となって思いとどまり、
夜帰宅してから、かなりの部分を直してからあっぷをしたのでした。
相当昔のお話を、なんとか甦らせたこと。
いちど描きやめたものをその日のうちにとりかかり、あっぷにこぎつけたこと。
どちらも私にしては、珍しいケースです。

文字通り幻の一作・・・という思い入れのあったものが、陽の目を見てすぐに評価を得た・・・というあたり、ちょっとうれしくなり蛇足なかいせつを描きました。

縄の痕

2012年04月05日(Thu) 08:00:42

体育の時間は、いつも欠席。
だって・・・お友だちに縄の痕が、ばれてしまうんですもの。

欠席中は、教室で自習。
担任の××先生はいつも、口止め料と称して、わたしをスリップ一枚にして教室の床に転がして。
夕べつけられた縄の痕を、さらに深めてしまわれる。
薄いスリップ越し。
ぎゅう…っと締めつけてくるロープのきつさが、いつの間にか身体になじんでしまったわたし。
衣替えになるまえに。
いちど、セーラーの冬服の上から、縄を巻いていただこう・・・


あとがき
半煮え・・・ですね。^^;

リサイクル♪

2012年04月05日(Thu) 07:42:42

履き古して、つま先に穴のあいちゃったハイソックスの使用法について。

アウトドアで逢う吸血鬼さんに、噛ませてあげる。
革靴履いたままだと、ばれないもんねー。
でも、やたら靴を脱がしたがる小父さんのときには、ばれちゃう。(^^;
んもう!そこまでこだわるなよっ♪

血を吸う従姉

2012年04月05日(Thu) 00:00:28

純白のスカーフをたなびかせて、章子が行く。
濃紺のセーラー服に、黒のストッキング。
ごくふつうの女学生と映る彼女は、吸血鬼になったばかりの十七歳。
少女らしからぬ無表情と、ちょっと蒼ざめた頬だけが、彼女が常人ではないことをほのめかしているものの、
そのほかは何らふつうの少女と変わらない。
実際、つい二週間まえまでは、ふつうの少女だったのだから。

やあ、いらっしゃい。
表向きはにこやかに迎えてくれた、叔父夫婦。
父親に、弟のところに行きなさい、そういわれて訪れた親戚の家は、都会の洋館だった。
齢よりも若作りな叔母も、いかにもあいそよく迎え入れてくれたけれど。
その実吸血鬼になったという親戚の娘に対して、警戒心ありありのていだった。
以前から―――そんなに親しいつきあいではなかった。とくに叔母とは。
その叔母は、あくまで親しげに、章子に語りかけてきた。
章子ちゃん、吸血鬼になっちゃったんですって?でも全然わからなかったわ。

あら、いやよ。叔母さんは遠慮しとくわね。
ふわりとした水玉もようのスカートをひらひらさせながら、叔母はわざとのように夫の後ろへと身をひるがえしてゆく。
でもあなた、処女の生き血がお好みなのよね?
そう、章子が血を吸いに来た相手は、この家の娘―――彼女にとっては従妹にあたる、十四歳の華絵だった。
華絵は叔父と、亡くなった叔母とのあいだの娘。
いまの叔母にとっては、なさぬ仲の関係だった。
きっとまま娘がうとましくて、わざとあたしに血を吸わせるんだ。
―――行けばわかるさ。
言いにくそうにそういった父の曇った顔が、いまさらながらに思い出された。

華絵ちゃんは―――?
章子が問うと。
あら、あら。ごめんなさい。華絵さんはまだ学校なの。ごめんね。じゃあ叔母さん、ちょっと買い物に行ってくるから。今夜は戻りませんから、あとはお好きなように―――
あくまで叔母にとって、華絵は自分の娘などではないらしい。
「華絵さん」という他人行儀な呼び方で、彼女はあからさまにそう告げていた。
いかにもうきうきと、愉しげに。継娘の将来を売り渡すと。
女は無責任に、背を向けた。

叔母がそそくさと、出ていくと。
叔父の惣蔵と、ふたりきりになった。
妻がいなくなると、それまで口数の少なかった叔父の態度が、がらりと変わった。
あんた、わかっているのかい?娘を売り渡す気分なんだぞ?
いかにも小心者のサラリーマンらしい惣蔵は、卑屈な表情のなかに鬱積した昏さをもっている。
娘を奪われる―――そういう悲痛さとはまた、ちょっと異質な感情が流れているのを、章子は敏感に見て取った。
今回の話、女房はひどく乗り気だったんだがね。
―――アラ、いいじゃない。章子さんが吸血鬼になったなんて。これもなにかのご縁だから、ねぇあなた。あの子に、華絵さんの血を吸ってもらいましょうよ。
こともあろうに本人のまえで、恥知らずな女はそういったという。
むしろ父親にとって意外だったのは、華絵の態度だった。
色が白いばかりが取り柄の華絵は、そんなに悧巧そうでもなく、美しくもなく。
だまって両親の会話を聞くともなしに聞きながら、ほとんどは自分で作った食事をつづけていたけれど。
おもむろに顔を上げると、おずおずと、言ったのだという。

章子お姉ちゃんのためになるなら、あたし血を吸われてもいい。

叔父の口から口伝えに華絵の肉声を耳にすると、章子のなかでピクン!と、感情が波だった。
どす黒いような、生温かいような。後ろめたいような、有頂天になりそうな。ひと言ではいえない感情だった。
―――かわいそうな華絵ちゃん。追いつめられちゃったんだね。
片方でおなじ年ごろの少女に対するそんな憐憫を感じながらも。
少女が身に帯びた新しい本能は、べつの息吹も吹きかけてくる。
―――ナンテ好都合ナノカシラ。自分カラアタシノ牙ニカカリタイ・・・ダナンテ。
引き結んだ唇の奥に隠した生え初めの牙が・・・・・・声をあげたいほど露骨に、ずきずきと疼いた。

聞いているのかな?
叔父の声がちょっぴり、尖っている。
え・・・?
顔をあげた章子のまえ、惣蔵は小太りな身体をめいっぱい、そびやかしている。
こっちは、手塩にかけたまな娘をあんたにくれてやろうというのだぞ。
「手塩にかけた」だなんて。叔父様にそんなことを言う資格があるのかしら。
親戚とはいえ、その「まな娘」を。
むざむざと、吸血鬼のもの欲しげな毒牙にかけようとしているんだから。
しかし叔父のいうことは、どうやらそういうことではないらしい。
恥知らずな男は、十七歳の姪娘のまえで、いい放ったものだった。

わしにも、あんたに分け前をねだる資格があると思うんだがね。

思わず息を呑み、潔癖そうに頬を引きつらせる―――
予期した通りの姪の反応に、にんまりとほくそ笑むいやらしい中年男が、すぐ目の前にいた。

章子はすでに、処女ではない。
処女の生き血をたっぷり愉しまれて、もうじき吸い尽くされちゃおうという晩に。
夜な夜な彼女を訪問してくる男のために、章子は処女を散らしていった。
そう。ちょうどいま着ているセーラー服に。
真夜中というのに、男を悦ばすために、わざわざ着かえて装って。
どうせ犯されるなら、少女としての正装を選んだのだった。
以後しばらくのあいだ、少女はうっとりとなって、吸血鬼にもてあそばれるままになっていたし、
彼にそそのかされるまま、実の父親の性処理の相手すらつとめたことがあった。
そのすぐ隣の部屋で。吸血鬼に犯される母親が、随喜の声をあげているのを。
もっと罪深い近親相姦という禁域を冒した少女は、じぶんの冒している背徳を棚にあげて、いとわしげに眉を寄せつづけていた。

ひたすら身を固くして、一方的な行為を受け入れる章子に対して、
惣蔵はこれでもかとばかり、劣情を募らせた。
耳たぶにあたる熱っぽい息遣いは、饐えた中年男の不健全な濁りをにじませてくるだけだったけれど。
逆立った異物を突き立てられる内またを、それでも生理的に熱くほてらせながら、少女は行為に応じていった。
親戚の娘を犯す―――
その行為の異常さに酔い痴れるように。
惣蔵はセーラー服の少女を犯し、辱しめつづけていった。
目をつむった章子が想うのは、ただひとつ―――
無責任な親たちによって気前よくあてがわれるはずの清冽な血潮の持ち主が、もうじき下校してくる・・・ただそのことだけだった。

華絵は寄り道をせず、まっすぐ家に帰ってきた。
自宅の玄関の前だというのに、みずから服装検査をするように。
胸元のリボンの結び目を、ほっそりとした指先で軽く直して。
襟首がめくれあがっていないか、背中に手を伸ばして探り寄せて。
プリーツスカートのひだを、指を目いっぱい伸ばした掌で、さらりと撫でつけて。
黒のストッキングにひきつれがないか、脚をくねらせながら、じいっと目を凝らして点検をして。
りぃん・ろぉん・・・
鳴らしたインターホンに、なかの空気がこわばるのを、華絵はちょっと小首をかしげてドアの向こう側の反応を待った。

惣蔵はあごをしゃくった。
股間の濡れが、まだお互いに収まっていない。
こういうときにも、逃げるのね。おじ様―――
少女は怜悧に、この小心そうな中年男を軽蔑と憐憫の目で見つめると。
おじさまはもう、隠れていて頂戴。
できればもう、出て行って!
身づくろいもそこそこに背を向ける叔父の背中を押すようにして、裏口から押し出していた。
そうして、自身のセーラー服をさっと撫でつけて手早く身づくろいを済ませると、従妹の待つ玄関へと向かった。
ドアの脇のすりガラス越しに、自分よりもすこしだけ背丈の低い少女の影が、息を凝らして待ち受けている。

玄関を開けてくれたのは、章子姉さんだった。
遊びにくるたび、きょうだいのいない華絵は、いつも実の姉のようになついてたけれど。
きょうもまた、そのいつものように、
「あ~、章子姉さんだ~」
あまり頭のよくなさそうな、蓮っ葉な目鼻をゆるませて、能天気な声で従姉を出迎えた。
章子は挨拶抜きで、従妹を引っ張り込んでいた。

やだ!なにするの!?
聞いているでしょ?あたしのこと。
ええ、ええ。聞いているわ。でも章子姉さんお願い。怖くしないで・・・
華絵の哀願はもっともだったが、章子は喉をからからにしていた。
まして、華絵の父に踏みにじられた屈辱の刻が過ぎたばかりだった。
吹きつけるような復仇の衝動と、灼けつくような渇きとが、章子に激しい行動を強いていた。
章子は有無を言わせず従妹を、彼女の勉強部屋に引きずり込むと、部屋のなかから鍵をかけた。
これでよし・・・と。
獲物を狙う女吸血鬼は、ちかりと冷たい微笑みを浮かべていた。

聞いているのね?あたしのこと。
おなじ問いをもういちど、年端のいかぬ従妹に発すると。
ええ・・・ええ。
ちょっと涙目になりながらも、華絵はけなげにもこくりと頷きを返してきた。
じゃあ、あたしに血を吸われても、かまわないっていうのね?
ええ・・・ええ。
気の利かないたちの少女は、ただおなじ答えをくり返すばかり。
あなた・・・処女?
大胆すぎる質問に、華絵はこくりと頷いた。
エエ・・・処女。
「処女」という言葉を自分でくり返すと、初めて華絵はスイッチが入ったように、よどみなくつぶやいた。

章子お姉ちゃんが吸血鬼になったってパパに聞いて。
あたしの血を吸ってもらいたいってパパとママにお願いしたの。
あたし、章子お姉ちゃんになら、血を吸われてもかまわない。
よろこんで、お姉ちゃんの奴隷になるわ。

豊かな黒髪がセーラー服の襟に、ふぁさっとかかる。
章子は三つ年下の従妹に、はじめて娘くささを感じていた。

じゃあ、そこに座るのよ。
章子の指差したのは、部屋の隅っこの畳のうえ。
ええ、いいわ。
華絵は黒ストッキングのつま先を浮足立たせるようにして、指されたところに足を運ぶと。
自分から、きちんと正座をして、従姉を見あげた。
脚を崩して。
ええ、こうかしら?
スカートの裾からのぞく脛が、黒のストッキングに蒼白くにじんでいる。
なまめかしく染めた足許に、屈み込んできた章子の唇が、すかさず吸いつけられた。

きゃっ。

華絵がくすぐったそうに声をあげ、姿勢を崩す。
そんな華絵の腰周りに腕を回して、章子は行為をつづけていった。
ちゅうちゅう・・・ちゅうちゅう・・・
初々しいふくらはぎを淡い薄墨色に染めた薄地のナイロンが、圧しつけられた唇の下しわを波打たせ、白い皮膚の周りでよじれてゆく。
憧れの章子姉さんの唾液がストッキングにしみ込んで、自分の足許を濡らすのを。
華絵はうっとりとした目で、見降ろしていた。

女学生の誇り、あなたにはないの?
え・・・?
華絵はいった。
女学生の誇りは、あたしにもあるわ。
かすかな昂ぶりが、応えを返す華絵の息遣いをはずませていた。
制服を着たままイタズラされそうな今、あたしも女学生の誇りを感じたわ。
だれだって、汚されなくない・・・って思うでしょ。
お姉ちゃんがあたしの誇りを辱しめたいのなら。
あたしも女学生の誇りを持つわ。
女学生の誇りを章子お姉さまに辱しめてもらうのが、あたしの歓びなの。
つぎの瞬間。章子の胸を、どす黒い衝動がつきあげた。

ぁ・・・
章子が、華絵の首筋に、噛みついている。
華絵はおとがいを仰のけて、従姉の行為に応えていた。
ちゅー・・・
つよくつかまれた肩に、章子の指が食い込んでいた。
学校帰りの少女は、身動きもならず、十四歳の処女の生き血を吸われつづけた。
華絵はうなじをふらふらとさせ、そのつど従姉のしつような唇で吸いつづけられて。
しまいに白目をむいて気絶して、ひっくり返った。
それでもなお、華絵のセーラー服の両肩は解放されることはなく、
ただ飢えた女吸血鬼の渇きを、飽かしめるだけだった。
お行儀悪く喉を鳴らして自分の血を飲み耽る章子の髪を撫で、指先でもてあそびながら。
華絵は吸血されているあいだ、どこまでも能天気に、微笑みを絶やさなかった。

ほ、ほ、ほ・・・
起きあがった章子は、吸い取ったばかりの血を口許にあやしたまま、随喜の笑み声をあらわにしていた。
声にも表情にも、人間ばなれした妖気をにじませながら。
身を売ってまで獲た、処女の生き血。
おなじ血統の少女の生き血は、彼女の喉になじんでいた。
女はうら若い従妹の素肌に唇をあてがい、吸いまた吸った。
華絵ちゃん、うれしいわ。あなたの青春を、ぜんぶちょうだい。
あたしがたっぷり・・・味わってあげる。
あたし喉渇いたの。これからは華絵ちゃんの血で、渇きを癒すわ。

気絶して倒れた華絵のセーラー服の胸元から、純白のネッカチーフをむしり取った。
記念にもらっておくわ。
少女はそう呟きながら、むしり取ったネッカチーフを口に含んだ。
吸い取ったばかりの少女の血潮が、バラ色のシミとなって、ネッカチーフにしみ込んでゆく。
むしり取られたネッカチーフに、持ち主の血潮をしみ込ませながら。
章子はいつまでも、喜悦のうめきを洩らしつづけていた。


(4/7追記)
このお話についての簡単なかいせつを、おなじ日にあっぷした下記記事に描きました。
併せてお愉しみください。
「ブログ拍手♪ ~血を吸う従姉」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-2792.html

ブログ拍手♪

2012年04月03日(Tue) 08:10:25

今朝、二時間ほど前かな。このお話に拍手を頂戴しました。
「通学前の儀式~スクールストッキングを履いた姪~」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-2358.html

通学用の黒のストッキングの足許にイタズラをしかける、ちょい悪な吸血鬼の叔父。
いけすかない、って口をとがらせながら、それでもストッキングの脚を差し伸べてゆく姪娘。

ひところ入れ込んだシリーズの、ひとつです。
おひまなときにでもどうぞ。^^

対照的な姉妹。

2012年04月03日(Tue) 08:08:03

対照的な姉妹だった。

姉は、いかにもしっかり者の優等生タイプ。

妹は、長い長い黒髪をおさげに結っていて、おませなタイプ。

姉は、制服なのかというほどに地味な、白のブラウスに紺のスカート。
ひざ小僧のすぐ下までたっぷりと丈のある白のハイソックスは、
ふくらはぎの両側に縄もようの浮き出た、古風な折り返しのあるやつだった。

妹は、襟首にフリフリのついた、おしゃまな花柄のワンピースに、
まだ○学生のくせに、ラメの入った肌色のストッキングを穿いていて。
オトナっぽくテカテカと光る脛を、それは自慢そうにみせびらかしていた。

姉は黒い瞳で、黙りこくってじいっと俺を見ていたけれど。
妹はくりくりとよく動く眼が、からかうように笑っていた。

姉娘が俺にむかってひと言も発しなかったのは、もっともなことだった。
吸血鬼と人間とが同居するこの街で。
俺がこの家に、自由に出入りを許されたのは。
出張がちの父親が気前よく、OKをしてくれて。
その妻がほぼ公然と、俺の愛人になったから。
そう。
いちど吸血鬼を家に招き入れてしまうと。
あとはいつでも、家族の女たちの血を吸いに、自由に出入りができることを意味していたから。
母親は俺に、娘ふたりを引き合わせると。
人間の愛人と逢うために、さっさと出かけてしまっていた。

小父さま、ママの愛人なんでしょう?
口ごもる姉をしり目に、さいしょに声を放ったのは、妹娘のほうだった。
○学生のくせに、ずいぶんとおませな言いぐさだった。
そういうことは、言葉に出していうものじゃないのだよ。
さすがに俺が、たしなめると。
姉娘のほうも、そうよ、と言いたげに、妹のほうへたしなめるような視線を送っていた。

家庭教師、なんですよね?
妹娘の声色は、ちょっぴり神妙に変化していた。
あくまで優等生な姉の態度に、ちょっと気圧されたみたいだった。
でもそこはやっぱり、お茶目な少女らしかった。
わざとらしく小首をかしげ、
長い長いおさげ髪をやっぱりわざとらしく、ワンピースの胸まで垂らしながら。
かわいい白い歯をみせて、言ったものだった。
血を吸われるお勉強・・・ですよね・・・?
そう。
若い女の血に飢えた、吸血鬼のまえで―――

靴下履いたまま脚に噛みつくって、ほんとう?
無口な姉になり代わって、やり取りはずうっと、妹娘が主役だった。
せっかくおろしたおニューのストッキング、破けちゃうじゃん。
お芝居みたいにわざとらしく、不平そうに口をとがらせていたけれど、
そんなことは先刻母親からきいて、承知のうえで装ったはず。
それが証拠に、彼女が着ているワンピースも、
血の吸われ初めのお祝いに、母親が娘を都会の百貨店に伴って、わざわざ買い与えたものだった。
女の子の服も、お愉しみなのね。やらし~♪
少女はあくまでウキウキと、両手で口をおおっていた。

お姉ちゃんより、先なんだよね・・・?
姉娘がちょっぴり恨みがましく、はじめて口をひらいたのは。
きゃっ、きゃっ、とはしゃぎながら脚をたばたつかせる妹が、
俺に足首をつかまれて、もの欲しげな唇やべろを、なすりつけられて。
おニューのラメのストッキングの薄い生地に、よだれを濡らしていったころ。
ァ・・・。
さすがに初めて噛まれた瞬間は、さすがの妹娘も声を途切らせて。
ちゅーちゅーと血を吸い上げられる音を耳にしながら、
貧血におとがいを仰のけてしまっていた。
あはっ・・・
おどけようとした声色は、初めて覚える軽い恐怖、そして密かな喜悦を滲ませていた。

ストッキングを派手に伝線させて。
ワンピースのフリフリの襟首に、赤黒いシミをべっとり滲ませて。
花柄に覆われた華奢な体のあちこちに、バラ色のしずくを点々と滴らされて。
妹娘は呆けたように口を半ば開いて、絶息していた。
その傍らで、姉娘は軽い嫌悪に唇を引き結んだまま、
清楚な白のブラウス姿を、俺のまえにさらしていた。
妹の血を吸い取った唇は、まだその血に濡れているというのに。

血の着いたままの唇を、姉娘の素肌に這わせようとすると。
それまで大人しかった姉娘は、態度を変えて。
唇の接近を激しく拒んだ。
理由はすぐにわかった。
俺のお行儀の悪さが、どうしても気になったらしい。
俺は仰向け大の字に寝そべっている妹娘に近寄って、
彼女のワンピースの裾で、口許の血を拭い取った。
あくまで尖った視線を送りつづける姉娘のまえで、
妹娘のワンピースの裾を赤黒く汚しながら、丹念に口許を拭っていった。

・・・わたし、地味でしょう?
ふたたびにじり寄った俺に、妹娘は初めて、本音をのぞかせた。
勝手におしゃれをして、勝手にまくしたてて、勝手に静かになってしまった妹に、
一見終始押されていたようすの姉娘だったが。
俺は彼女の手首を握り、耳元に唇を近寄せて。
―――うそをつけ。
そう言ってやった。
娘のかすかな震えが止まり、大きく見開いた黒い瞳が俺の横顔をとらえるのを、
俺はわざと横っ面で、受け流していた。

首すじから、どうぞ。
観念して目を瞑った姉娘は、意外に長いまつ毛をしていて。
そのまつ毛は、小刻みにピリピリと震えていた。
彼女が首すじを、のぞんだのは。
ストッキングを穿いた妹の足許に吸いつけられる俺の唇が、
いやらしさをたぎらせているのを見て取ったからに違いない。
献血だって、母に言われていますから。
少女は目を瞑ったまま、自分に言い聞かせるように、そう呟いた。

尻もちをついた少女を、壁ぎわに引きずっていって。
その壁ぎわに背中を、もたれかけさせた姿勢のまま、にじり寄っていって。
妹娘よりは発育のすすんだ、それでもまだまだ華奢な両の二の腕を、ギュウッと抑えつけて。
縮こまった首周りと、ブラウスの肩のあいだに頤をめり込ませるようにしてやると。
懸命に気持ちを落ち着けようとしている少女の切なげな息遣いが、伝わってきた。
これ以上おののかせるのは、俺の本意ではなかったから。
俺は事務的なくらいむぞうさに、少女の首すじを噛んでいた。

唇のすき間から洩れてくる暖かい血潮は、
歯茎にねっとりと絡みついてきて。
妹の生き血にもまさる清冽な芳香で、俺の鼻腔を満たしていった。

ハイソックスのふくらはぎを噛まれるときには、
やだ。いやです。どうしてもそうしなければならないの?
姉娘は彼女には珍しく多弁になって、あからさまに羞じらっていた。
ハイソックスの舌触りを愉しまれながら、ナイロン生地ごと皮膚を噛み破られるという行為に、
本能的に、いやらしさを覚えたらしかった。
あんたの感覚は、正解だよ・・・
おしゃれな服を自分の血で汚すという行為に、イタズラ心しか自覚しなかった妹に比べれば。
彼女の感性は間違いなく、年頃の娘のそれだった。
あくまで羞じらいを隠さずに、ためらいつづける少女の足首を抑えつけると。
縄柄のハイソックスのふくらはぎに、わざとゆっくりと唇を吸い着けていって、
しっかりとした舌触りのする、厚手のナイロン越しに、牙をじわじわと滲ませていった。
しみ込んでゆく血潮のべっとりとした感触に、少女はますます羞じらいを、深めてゆく―――

それからの姉妹も、対照的だった。
妹娘の交友は派手で、俺以外にも、なん人もの吸血鬼に、血を吸わせていった。
いろんな人に、愉しんでもらうのよ。
あたしがまだ、ショジョのうちに♪
そんな言いぐさのまま、彼女はクラスメイトの父親に、姉のボーイフレンドに。実のおじに。
○学校の卒業式の謝恩会に履いていったおニューのハイソックスを、赤黒いシミでべっとりと濡らして帰宅して。
セーラー服の下、足許を初々しく染めた黒のタイツを、穴だらけにさせて。
お気に入りの夏服に、初めて袖をとおしたときに。
実のおじを相手に割かれた股ぐらから洩れた血で、濃紺のプリーツスカートの裏地を濡らしていった。

姉娘は、俺以外の相手を、拒みつづけていた。
貧血症なんです。
俯きがちにそういう姉は、本人の説明とは正反対に、その健康さを提供する血の量で示してくれた。
いつも、制服と見まごうほどに地味なブラウスに、紺やねずみ色のスカートを履いて俺の相手をして。
いやいやながら差し伸べる足許を蔽っているのは、ほとんど例外なく、無地のハイソックスだった。
なんの面白味もなさそうなモノトーンの装いに、
俺は発情しつづけて、そんな俺のことを、少女は羞じらいながらも受け容れつづけていった。

密かに願懸けをしたという体育大会で、成績が二着におわったとき。
彼女は珍しく、ライン入りのハイソックスを履いてご馳走してくれて。
初めて制服を着て相手をしてくれたのは、卒業式の夜だった。
胸元を引き締める白のネッカチーフをバラ色に染めた彼女は、
俺のまえでは初めて脚を通した黒のストッキングを、びりびりに噛み破られながら、
いままでにないほどの昂ぶりを、背すじを仰け反らせてあらわにしていった。
勤めに出るようになると、グレーやこげ茶のスーツの下、
ようやく穿きなれるようになった肌色のパンティストッキングの脚を、
やはりためらい、羞じらいながら、差し伸べてきて。
そう、二十一になるまで、処女の生き血を愉しませてくれた。

中学のときの体育大会で、どんな願懸けしたかご存知?
彼氏も作らずに、俺にばかり逢って。
そんな俺の腕のなか、女は周囲の薄闇に語りかけるように囁いた。
―――いや・・・
そんなことを忘れかけていた俺のことを、ちょっとだけ上目づかいに睨むと、
女はそれ以上俺を責めようとはせずに、話に戻っていった。
あのとき一等賞を取ったら、あなたのまえで初めて制服を着て。
処女をあげよう・・・って思ったの。
俺の反応が過大でないことに安堵した女は、いつもの羞じらう口調に戻っていて。
わたしだって、気持ちが浮つくときはあるのよ。
いい終えたとき、女はより強い抱擁を全身に感じていた。
初めての衝撃が身体の芯を貫くまで、その抱擁は解かれることがなかった。

いまは俺の苗字に変わった女は、ここでこうして回想録を打っているあいだにも。
ひっそりと俺の傍らに腰を下ろして、
淹れてくれたお茶を差し出すタイミングを測っている。
お茶を飲みほした後。
自分の生き血を愉しまれることを予期した女は、
艶めかしいこげ茶色のストッキングで、足許を彩っていた。

ひさびさに~リンクサイトさまのご紹介~

2012年04月02日(Mon) 21:56:27

弊ブログと相互リンクを結んでくださるという、ありたがいサイトさまが、久しぶりに現れました!
つい先日、ほんの偶然で発見したサイトさまなのですが。
淫らな迷宮にさまよい込んで、つい刻を忘れてしまいました。
その名もずばり―――

SM Short Story
http://smshort.h.fc2.com/smmain.html

柏木好みの昭和の色香漂う不朽の名画の数々に彩られた、桃色絵巻!
極彩色に彩られた女と男の情念が、縄のように絡み合う・・・いや、縄によって結ばれる。
そんな夢幻の境地に誘ってくださる、真夜中の玉手箱 でございます。^^

弊ブログに遊びに来て下さる数少ない奇特な方がた、ぜひご照覧あれ。^^

クリーニング店の女房

2012年04月02日(Mon) 08:08:18

吸血鬼と公然と同居を始めた、とある街での出来事です。


街のクリーニング店は、多くの場合は集配専門で、いまどき、自前でクリーニングをしているところはとてもすくない。
ところがこの街の大通りに面したその大きなクリーニング店は、いまでもカウンター越しに並ぶアイロン台から、熱気がぷんぷん漂い流れてくるのだった。
昭和四十年代から抜け出してきたような、陳腐な街並みの一角だった。

店先にぶらりと現れたその男は。
痩せ身で干からびていて、血の気のない蒼い顔をしていて。
濁ったまなこでしばらくのあいだ、カウンターの向こうで大汗かいて作業をしている中年の夫婦を見つめていた。
らっしゃい。
親父がぶっきら棒に、声をかけると。
表情のない、意外に整った口許から、聞き取りにくいほどの低い声が漏れてきた。
え?
相手が思い切り小声なのが気に食わない、というように、親父が大仰に耳に手をあてがうと、
男はもう一度、おなじ言葉をつぶやいた。
―――奥さんの血が飲みたい。用意させてくれ。
・・・ゥ。
さっきまで威勢よく、乱暴なほどに体を動かして。
周りに汗を振り飛ばしながら、LLサイズのワイシャツ相手に取っ組み合うように、ひっくり返しとっくり返してアイロンをあてがっていた逞しい身体が、一瞬凍りついたように立ちすくむ。
けれども親父は、こういう挨拶を受けるのは初めてではなかったらしい。
招かざる客に応える代わり、やはり大汗かいて作業を続けている連れ合いのほうを振り向きざまに、
―――オイ、お前に客だ。血を吸いに来たってよ。
さっきまでと同じように荒っぽくぶっきら棒に、支度をしろや、とあごをしゃくった。
太っちょのおかみさんは、頭に結わえた頭巾をむしり取ると、むしり取った頭巾で広いおでこに浮いた汗をグイッと拭い、頬ぺたをふくらませて親父を睨んだ。
もともと頬骨の張った顔をしていたから、不平そうに見えたのはそうではなくて、たんなる労働の疲れが表情に浮いただけだったのかもしれない。
女は旦那そっくりのぶっきら棒な目色でカウンターの向こうの男を値踏みするように見つめると、
―――だいぶ、喉渇いているみたいだね。
ちょっと同情するようにつぶやくと、ふたたび旦那に睨むような視線を返して、
―――あいよ。
とだけ言うと、たすき掛けにした着物姿をひるがえして、引き戸の向こうへとそそくさと消えた。

シュウシュウ・・・シュウシュウ・・・
アイロンの放つさかんな蒸気のかすかな音が、残ったふたりの男の間に流れた。
女の身づくろいを待つあいだ。
吸血鬼は腕組みをして、帽子を目深にかぶったまま表情を消していたし。
クリーニング店の主人もまた、さっきまでと同じように大汗をかきながら、お客の服をアイロン台に組み敷くようにして、シュウシュウとアイロンを這わせつづけた。

できたよ、用意。
ふたたび引き戸をがらりと開けたおかみさんは、見るからに着慣れないスーツ姿。
新品らしい真っ白なブラウスの胸許のタイを、きゅうくつそうに結び合わせて、
太っちょのウェストにいっぱいいっぱいの緑のスカートの腰を、ぐいぐいと手直ししていた。
二階でさぁ・・・
太っちょのおかみさんは、頬骨の張った横顔に、感情ひとつ示さずに、男へとも旦那へともなく、引き戸の奥の階段のほうを指差した。
ほら、階上(うえ)にあがんな。
親父はやはりぶっきら棒に男にそういうと、階段を軋ませてゆく男女のほうへは目もくれずに、アイロン台の傍らで汗を振り飛ばしてゆく。

ぎし・・・
天井がかすかに軋んだのを、親父は明らかに聞きとがめたようだったけれど。
それには目もくれず黙々と、女房のぶんまでアイロンかけに精を出しつづけた。

小一時間もしただろうか。
ふたたび開いた引き戸の向こうに立ったのは、あの痩せ身の男。
干からびていた頬には、色つやを帯びていて。
帽子からはみ出してしょぼくれたように伸びていた白髪まで、ピンとはずんでいるようだった。
口許にちょっぴり浮いた赤いしずくが、女の身体から吸い取ったばかりの生気を秘めて、チラチラと輝きを帯びている。
親父は男の口許を見ないようにして、「血、ついてるぜ」と他人事のようにうそぶいて。
男はああ・・・と気づいたように、手にしたハンケチで彼の妻から吸い取った血を拭い取ると。
―――いくらだね?
ハンケチのクリーニング代を訊いていた。

遅れて出てきたおかみさんは、別人のようにやつれた顔をしていて、頬骨の張ったいかつい顔までがひと周り小さくなったように見えた。
上半身は、ブラジャー一枚。むき出しの肩は意外なくらいなめらかな色つやを放っていて。
もっちりとした柔らかな筋肉に覆われた白い腕を惜しげもなくさらしながら、手にしたブラウスを洗濯物の山のなかに放り込んだ。
肩先にべっとりと、赤いシミが着いていた。
落とすのに時間かかるね。
あくまで業務的な口調に、ああ、そうだな、と、親父も業務的に応じていった。
しつような吸血を受けた後らしい。女は体までも痩せこけたようになっていて、
ぴっちぴちだったスカートのウェストを、ずり落ちないようにと抑えつづけている。
緑のスカートのお尻に黒っぽくにじんだシミを見咎めた親父は、「見栄張るなって」といいながら、女房の腰周りを解いてやると、肌色のストッキング一枚の太ももを寒そうにすくめた女をしり目に、スカートも洗濯物の山へと投げ込んだ。
うちはクリーニング屋だからよ。
親父は妙に、自慢気だった。
スカートをほうり上げるとき。
手にした女房のスカートを、親父はちょっとだけふしんそうに見つめて。
おかみさんはそのあいだ、やはりちょっとだけきまり悪げに、目をそらして。
裏地にべっとりついた粘っこい透明なものに気づかないふりをして、親父がスカートを洗濯物の山のいちばん上の、血の付いたブラウスの上へと放り投げると、
おかみさんはまたちょっとだけ、ほっとした表情を見せた。

「パンストはどうしようもねえな」
おかみさんの太い脚にはあちこち、噛み痕が浮いていて。
肌色のパンストは、見る影もないほどびりびりに破けていた。
ストッキングを脱がす手間も惜しんで、女の脚を噛みつづけたらしい吸血鬼は、ほくそ笑みながら口許を撫でていた。
「脱げ。みっともねぇから」
親父にいわれるままに、おかみさんはパンストを脱ぎ捨てると。
男はちょっとだけもの欲しげな色をよぎらせて。
すぐに気づいた親父は、女房にあごをしゃくって。
女房は、ほれ、と言うようにして、指先でつまんだパンストを、汚いものでも投げ捨てるように、男のほうへと放り投げた。
ふやけたパンストがふわりと宙を舞って、男の掌に掴み取られると。
「ナイスキャッチ」
親父がからかうように、おどけた声をあげた。
男は照れ笑いを返しながら、おかみさんのパンストをむぞうさにポケットに突っ込むと。
ハンケチはいつでもいいよ、と言い置いて、がらりと店のガラス戸を引いた。

くすんだ街の風景に埋没するように、男の陰が消えると。
ブラとパンティだけになった女房は、さすがに肌寒そうにしていて。
ふたたびアイロン台へとやろうとした目が、もう弱っていた。
―――無理すんねぇ。
親父は軽く舌打ちをすると、よろけかけた女房を抱き支えて、
そのまま引きずるように、奥の部屋へと連れ込んだ。
ほんの休憩のときに座り込むその畳部屋は、引き戸を閉められることもなく。
脚だけ土間におりたおかみさんの太っちょな脚だけがはみ出ていて。
しばらくのあいだ、じたばたと居心地悪そうに、白い太ももを上下させていた。

裸電球の照らす、殺風景な作業場のなか。
客足はぱったりと、途絶えていた。