淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
なにかが、変わる。
2012年06月30日(Sat) 16:29:34
なにかが、変わっていた。
折原がそれに気づいたのは、村に移り住んで半月ほど経ってからのことだった。
都会の喧騒を逃れるようにして、田舎暮らしを選んだことを、
妻の貴枝も、息子の勇貴も、娘の舞までもが、よろこんでいたけれど。
ふと気がつくと、なにかが変わっていた。
いったいなにが・・・?
しばらくのこと、気づかなかったが。
だれもが食事というものを、摂らなくなったのだ。
そのくせ団欒の刻となると、二人ずつ組みになって部屋を抜け出して、
しばらくするとまた、戻ってきて。
何食わぬ顔をして、途切れたりはずんだりの家族の会話に加わるのだった。
あるとき、妻と息子が出て行ったとき。
トイレに行くふりをして、尾(つ)けてみた。
ふすまのすき間から覗いた、息子の勉強部屋のなか。
声をあげそうになった。
母親は息子のため、ブラウスのタイをほどいて、うなじを吸わせ、
息子は母親のため、ひざ丈の長靴下をゆるめて、ふくらはぎを吸わせていた。
互いに互いの頬ぺたを拭ったあとのハンカチは・・・赤黒い血に浸されていた。
・・・!
声をあげそうになった口許をふさいだのは。
いつの間にか背後に忍び寄っていた娘。
パパったら、邪魔しちゃダメじゃない。せっかくママと兄さんが愉しんでいるのに。
舞にも・・・愉しませてね。
瞬間、首すじに這った娘の唇からにじみ出た尖った異物が、うなじの皮膚に食い込んできた。
呆然となってすごした、翌日いっぱい。
彼は勤めにも出ず、独り夫婦の寝室で死人のように横たわっていた。
それほどまでに・・・娘はしつように、彼の身体から血を摂ったのだった。
パパ優しいね。喉の渇いた舞に、いっぱい吸わせてくれた♪
リビングから洩れてきた娘の声色は、いつもと同じように、無邪気だった。
夕刻近く、玄関先でがたがたと物音がした。
だれかが、訪ねてきたようだった。
妻は迎え入れた人を、リビングに案内をして。
ええ・・・主人おりますけど、かまいませんわ。
そんなことを、言っているようだった。
恐る恐る・・・足を忍ばせて。
もの音ひとつしなくなったリビングを盗み見ると。
妻はじゅうたんのうえ、大の字に仰向けになっていて。
腰までたくし上げられたスカートから、黒のストッキングになまめかしく染まった太ももが、にょっきりと覗いていて。
その太ももの、いちばん肉づきのいいところに、訪問客の男が、こちらに背を向けて唇を這わせていた。
ただたんに、吸っているのではなくて・・・咬みついているのだと、すぐにわかった。
ちゅうちゅう・・・きゅうきゅう・・・
人をこばかにしたような、あからさまな音を立てて。
妻の生き血が、吸い取られてゆく。
それなのになぜか、折原は金縛りにあったように、脚に根が生えたようになっていて。
そのくせ、いちぶしじゅうから目を離せなくなっていた。
見たわね、あなた。
客人が帰ってしまった後,妻は静かにそういったけれど。
言い訳ひとつしない折原を、それ以上追及もせず、
自分が夫のまえで身体を許してしまったことに対しての、謝罪も説明もしなかった。
だって、ふつうのことですもの。
妻の声色は、いつものようにおっとりとしていた。
この村を出よう。このままじゃ家族全員が、吸血鬼になってしまう。
折原は家族にそう訴えたけれど。
だれもが耳を貸そうとしなかった。
え?父さん、それふつうのことじゃない。
息子は友だちとも血液の交換をしているし、若い女の血を欲しがる知り合いの小父さんのため、母親や妹を連れて行くこともあるんだと、ちょっぴり誇らしげに語るのだった。
なにかが、変わっていた。
いったいなにが、変わったのだろう?
そういえば周囲に,都会で住んだころの顔なじみが、増えたようだ。
あまり正確な記憶はないが・・・家族ぐるみで招(よ)んだんだと思う。
そのうちのひとり、母方の叔母は、もういい齢なのだけれど。
折原は首を伸ばして、叔母の首すじを吸っていた。
叔父の目のまえであったけれど、叔父は叔父で、折原の妻とのやり取りに夢中になっている。
このごろ好んで穿くようになったガーターストッキングの太ももを、お尻まであらわにして。
妻は畳のうえ、すでに喘ぎはじめていた。
な?どうってことないだろ?叔母さん。
折原の言いぐさに、「あっ、やっとわかった」叔母は両の掌を合わせて、得心がいったように朗らかに笑った。
なにがわかったのか、そのへんは判然としないけれど。
夫が甥の嫁を相手に励みはじめるのを横目にしながら、
黒のパンストの奥の奥までまさぐり入れられてくる甥の手を、もうこばみかねているのだった。
きのうまでは、血を吸われるのを嫌がっていた叔母は、
身体をくねらせて、腕を突っ張って、迫ってくる甥の身体を隔てようとしていたのに。
早くもひざをくずして、夫の傍らで―――近親どうしの性交まで、遂げようとしている。
唇になじんだ叔母の生き血は、どこまでもなまめかしくって。
どうして吸血をあんなに忌んでいたのか、いまとなってはもう、思い出せない。
明日訪問するのは、初めて妻の血を口にしたという、近所の年配男。
やもめ暮らしの長いその男の家の表札には、戸主の名前に寄り添うように、貴枝という名が書き加えられた。
家内の血は、美味かったかね?
そんなおぞましい問いさえも、こともなげに口にできるようになると。
打ち解けないことで有名だったその朴訥な男が、別人のように目じりに人懐こいしわを寄せて。
ああ、やっぱり生き血は若けぇ女のもんに限るな・・・
口許を撫でる手つきが卑猥だと、折原までもがつりこまれて笑ってしまうのだった。
都会のひとたちは、どうして人の生き血を愉しみ合わないのかしらね。とても不思議だわ。
そんなふうにうそぶく妻に。
初対面でもすぐに仲良くなれるのにね。
そんなふうに娘も応じて。
こんど小父さんに、お見合い相手を襲わせてあげるんだ。
そんなふうに息子までもが、自分の母親や妹、そして自分自身の血を吸った男に、恩恵を与えようともくろんでいる。
そして、いまは折原までもが―――
都会の友人たちをしきりに、夫婦同伴で呼び出すようになっていた。
村の暮らしとユニークなならわしに、なじんでみませんか・・・?
あとがき
このお話は、舞方さまのところで見かけたこちらのお話に想を得てつくってみました。
レイ・ブラッドベリ「金色の目」
http://masatomaikata.blog55.fc2.com/blog-entry-2743.html
初めてだったんですよ~娘の場合。
2012年06月28日(Thu) 07:39:44
初めてだったんですよ。
穏やかにほほ笑む母親の足許で。
ひと晩じゅう制服姿だった娘は、勉強部屋の畳の上。
大の字に脚を開いたまま、あお向けに倒れて気絶していた。
真っ白なハイソックスは片方、すねの半ばまでずり落ちて。
太ももから伝い落ちたバラ色のしずくに、じくじくと浸されていた。
気付け薬を、かがされて。
我に返った娘は、ハッとして母親を見あげて。
お父さん、悦んでいらしたわよ。
母親の言いぐさに、ホッとしたように微笑んで。
着替えてくる。
失血で動きの重たい身体を、のろのろと起き上がらせた。
シャワー浴びてらっしゃい。
母親の言葉を背に、夢見心地のまま部屋を出て。
降りていく階段の頭上から、「キャー」という悲鳴が、きこえてきた。
いまごろ母親は、ワンピースを剥ぎ取られているのだろう。
夕べもそうやって、娘に手本を見せてくれたのだった。
制服は破かないで・・・
手を合わせて懇願する娘の希望を容れて・・・男はセーラー服をくしゃくしゃにしながら、純潔をむさぼり尽くしていった。
たるんだストッキングを、ひざ小僧の下までずり降ろしたまま。
夫人は乱れ髪に手をやって、しきりに撫でつけようとしていた。
夫の目にさらされた痴情の果てを、決まり悪げに取り繕おうとして。
いいんじゃないか?
献血を受け入れた夫は、それとなく・・・ではあるけれど。
上司から耳打ちをされていた。
直接素肌に唇をあてて、血を吸うんだぜ?
それから先は、覚悟するんだね。
法事帰りに、夫婦ながら連れ込まれた納屋のなか。
彼は最愛の妻の貞操を、見ず知らずの男に提供するはめになった。
自分よりも齢が上の野良着姿に、清楚な黒の礼服を蹂躙されながら。
夫婦にとって、記念すべき一夜になった。
朝帰りした両親のことをふしんがらずに、娘が登校していくと。
夫婦と間男の営みが、邸のいちばん奥まった夫婦の寝室で、
娘の目を盗んで、繰り広げられていた。
夫の前で、夫人の身体をもてあそびながら。
ごま塩頭の野良着姿は、夫のほうを見もせずにこういった。
お嬢さん、いい身体しているぜ?
立ち去った夫の影。
浴室から娘が出る気配。
きゃ~っ。
ひと声あがった悲鳴に、夫人はちょっと身を固くしたが。
どたんばたんという騒音がすぐに止むと、情夫の身体の下でふたたび、大人しくなった。
村の男衆は、服を着せたまま母娘丼を。
都会の男は、全裸の姿で近親相姦を。
それぞれ好みの趣のまま、性の愉楽に溺れていく―――
納屋からの帰宅~「初めてだったんですよ」~
2012年06月28日(Thu) 07:25:57
初めてだったんですよ。
納屋の入り口で、旦那が照れくさそうに薄笑いをして佇んでいる。
手にしているのは、奥さんの着替え。
服の持ち主は平作の下で、半裸に剥かれて喘いでいた。
旦那の首すじには、赤黒い噛み痕。
奥さんの首すじにも、ふたつ、旦那のそれとおなじ間隔でつけられている。
夫婦ながら理性を喪って、妻の貞操喪失という記念すべき夜を、心から祝う気分になっている。
都会育ちのあの夫婦だが。どうにも往生際が、悪くてね。
村の長老が目を細めて指差したのは。
その夜の法事の席でのことだった。
村の表通りにある、その事務所には。
都会育ちのものばかりが、赴任してきていて。
吸血鬼の棲むこの村での、だいじな献血要員にされている。
それを薄々知りながら、だれもが妻や娘を伴って、赴任してくるのだが。
家族の血を吸わせる などという行為は。
実際には二の足を踏むことが、ほとんどだ
それで、村の長老が、縁結びをする。
あのご一家には、やもめ暮らしの四十男。
あちらの新婚夫婦には、還暦過ぎの狒々爺さん。
だれもが妻や娘を供血相手として取り替えあう風習のある、この村では。
都会育ちの夫婦ものは、まず一方的に妻を差し出す羽目になる。
法事が終わろうとするとき。
振る舞い酒の席を辞去しようとする夫婦を、平作と名乗る男が引き留めた。
五十がらみの、やせぎすの男は。
農作業に陽灼けした頬を、てかてかと好色に、光らせていた。
がぶり!
奥さんのまえでいきなり、旦那の首っ玉に噛みついて。
きゃあ~っ!
両手で頬を抑えて叫ぶ、奥さんのまえ。
ごくごくごくごく・・・働き盛りの血を、ひと息に飲み干していった。
男の血も悪くないけど・・・つぎは奥さんの番だぜ?
迫ってくる平作に、奥さんは頬を引きつらせて睨みながら。
知らず知らず、黒のストッキングの脚を後ずさりさせて。
ふすまに肘が当たって、退路はそこで絶たれていて。
がぶり!
旦那と同じ経緯で、首すじに食いつかれて。
ワイシャツを真っ赤にしてへたり込んだ旦那の前で、
漆黒のブラウスを、深紅の血潮で彩っていった。
さあ、来るんだ。
強引にひかれた手を、引っ込めようとしたけれど。
へっぴり腰のまま、スカートを揺らしてたどる、廊下の果て。
理性をなくした旦那は、しおしおと。
脱ぎ捨てられた奥さんのジャケットをぶら提げて、あとをとぼとぼ、従(つ)いてゆく。
連れ込まれたのは、お寺のすぐ隣の納屋だった。
いくつも並んだ納屋の、いちばんむこうから。
ヒイー!とひと声、女の悲鳴。
いまから夫婦を襲う惨劇が、ひと足早く、始められていた。
なぁに、恥ずかしがるこた、ねぇ。あちらも、旦那がいっしょだぜ。
男の言うなりに、夫は妻のまえ、泥交じりの荒縄を、ぐるぐる身体に巻かれていった。
辛かったら、あっち向いてな。
納屋の入り口に転がされた旦那は、さいしょのうちこそ目をそむけていたけれど。
あなた、見ないで・・・見ないで・・・
奥さんのそんな呻きが、かえって呼び水になったように。
知らず知らず視線を、礼服を脱がされてゆく熟女の肢体に注いでいった。
熱情が果てたのは、もう真夜中過ぎのことだった。
いちばん向こうの納屋から切れ切れに洩れてきた悲鳴も、いまはなりをひそめている。
初めてだったんですよ。
夫人を凌辱した村の衆に。
夫はやんわりと、非難を込めた。
ああ、そうなんだってな。ありがてぇ。
ぶっきら棒な語調のなかに、舌なめずりを隠さない。
男は旦那を縛る縄を解いてやり、手を取って旦那を助け起こした。
おめでとう。
すまねぇな。
がっちり交わした握手に、奥さんは顔をそむけたままだった。
ギュッと握り返された掌に。
痛いなー。あんたやっぱり、力持ちだねぇ。
―――この腕力で、家内をねじ伏せたんだね?
言外に込められた非難を、男がくすぐったそうに受け流していると。
着替え、取ってきて。
奥さんは顔をそむけたまま、そういった。
ああ、そうだね。その恰好じゃ、外歩けないね。
優しく声をかける旦那に、甘えるように。
あなたの好みの服、ひとそろい・・・お願いね。
もういちど男に抱かれたい―――露骨にそうは言えない女のプライドを、
まだ奥さんは、持ち合わせていた。
衣装選びに、二時間かかった。
そのあいだふたりは、納屋のなかでいっしょだった。
何ごともなかろうはずはない。
そうと察していながら、旦那の帰りは遅かった。
理性が戻りかけた旦那が「しまった」と気づいて、
妻の着替えを手に、足早に現場に戻ったとき。
全裸に剥かれた人妻は、束ねた髪をむぞうさにほどいて、
お嬢さんみたいに長く垂らした黒髪を、ユサユサ揺らしながら。
仰向けになった男の下半身のうえ、またがりつづけていた。
あー。
大仰に手で目隠しをした旦那は。
指と指のすき間から、目だけいたずらっぽく覗かせて。
視たくない光景だねぇ。
ふたりの熱いまぐわいを、のどやかに笑って、受け流していた。
ここはオトナに、ならなくちゃな。
男は交尾をつづけながら、目交ぜで奥さんの顔をみろという。
額に汗をうっすらかいて。
品のよい薄い唇から、白い歯をにじませて。
ちょっとひそめた眉が、ピリピリとナーヴァスに、震えていた。
三十分後。
もう一着、着替えをお願いできるかな・・・
さすがに照れた奥さんは。小娘みたいに口ごもって。
はい。はい。
旦那は嬉しそうに、家へと足を向けていた。
「帰り道は、ゆっくりな」
人の悪い笑みを浮かべる男に、合わせるように。
「お洋服選び、ゆっくりね」
組み敷かれた裸体の主も、ちょっぴり大胆になっていた。
花柄のワンピースは、びりびりに引き裂かれて。
脱ぎ捨てられた黒一色の喪服のうえ、華を添えていた。
旦那が結婚記念日に、妻に買い与えたものだった。
紫のスーツに着替えた奥さんは、黒のストッキングをむぞうさに引き上げながら。
こんどは、だぁめよ。
服に欲情したようにしがみついてくる男を、なんとか振り放そうとして、軽くもみ合った。
続きは、うちでどうですか?
夫の言いぐさに、男も女も動きをとめて。
名案ですね。
初めて、身体に着いた藁を、とり始めた。
帰り道は、もううす明るかった。
あちらの納屋からは、野放図に伸びた白い脚が、屋外にまではみ出している。
帰りは平気かな。
うそぶく旦那に。
こっちの心配なさいよ。
奥さんは早くも、紫のジャケットの下に着込んだ黒のブラウスを。
襟首から侵入したまさぐりに、波打たせ始めていた。
途中行き会った、顔見知りの夫婦。
ご主人は、奥さんの身に着けていた喪服を、両手に抱えていて。
奥さんは、黒のスリップ姿もしどけない、みだれ髪。
スリップの吊り紐は、片方が切れていて。
おっぱいも片方、まる見えになっていた。
目が合ったとき、ちょっぴり会釈を交わして。
あとはお互いがお互いを見ないよう、さりげなく帰り道を分けてゆく。
そういえばあちらも、ご夫婦に男一人の三人連れだった。
いちど吸血鬼を、家にあげてしまうと。
あとは何度でも、彼の訪問を拒むことはできないことになる。
そうと知りながら、旦那はあえて口にしたのだった。
「続きは、うちでどうですか?」
いいわ。あなたの奥さんのまま、犯されつづけるわけね?
ひとりの女を、男ふたりで共有したい。
そんな夫の願望を、奥さんはすんなりと許していた。
夜が得意なのよね?昼間は苦手なのよね?
でも農家だから、耐えれることは耐えれるのよね?
それでもやっぱり、暗いところのほうが、お好きなのよね?
じゃあお仕事の合い間を、妾(わたし)が慰めてあげましょう。
旦那もいいって、言ってくれているし♪
きょうはお部屋を、真っ暗にするわ。
きのうは一日野良仕事だったから、きょうは陽の光を浴びてはいけないのよね?
いいでしょう。うちで一日、かくまってあげる。
夏もののスーツ。二、三着愉しませてあげるから。
お洋服代?旦那にたっぷり、稼いでもらうわ。
「あなた、きょうは会社休んだら?」
夫人の顔つきは、新婚のころのようにウキウキと華やいでいた。
都会の人妻目録
2012年06月28日(Thu) 07:25:01
ひなびた田舎の風景には場違いな、小洒落たモダンな洋装で。
しゃなりしゃなりと歩みを交わす、都会育ちの女たち。
村のものたちは表向き慇懃に、会釈を投げてゆくのだが―――
夜のとばりがおりるころ、彼女たちの邸宅は夜這いの現場と化していて。
清楚で上品なワンピースも。
値の張りそうなブランドもののブラウスも。
持ち主の身体から、むぞうさにはぎ取られてゆく―――
人妻目録。
そう名づけられたカタログに、目を通すことができるのは。
都会の人妻のもとに通うことを許された、血を吸う嗜好の持ち主たち。
人妻の生き血を提供する習慣を得た夫たちも特別に、自分の妻のだけは、見せてもらえることになっている。
うわ・・・
だれもが自分の妻のページでは、ひと声呻いて。
相手の男はそうした旦那たちの狼狽に、いとも嬉しげにほくそ笑む。
書いてあることが、半端じゃないんだから―――
「だんなのまえでHもOK」
―――身に覚えのある夫は、ただ照れくさそうに、ニヤニヤと笑うだけ。
「家のまえでのアオカンが好き」
―――どうりでご近所がこのごろ、愛想よくなったわけだ。
口をあんぐりとあけて、あきれ返った夫は、なぜかしみじみと、納得していた。
「輪姦マニア。8人までだいじょうぶ。」
―――デスクに突っ伏して、頭を抱えたご主人。「3人までって約束だったんだけどな・・・」
思いのほかもててしまった奥さんを、叱ることもできず。ほめるわけにもいかず・・・
「つごうがつけば、娘も連れてきてくれる」
―――えっ、みさとまで・・・?絶句したお父さん。むしろ娘のほうに興味もあらわ。
「潔癖症。パンスト破りに嫌々応じる風情が絶品。」
―――「たしかにそう・・・かもね」同好の間男を得ることになった旦那は、にんまり笑ったあと。
「昔はミス〇〇だったんですがねぇ。いまじゃキャバレーの女みたいに、パンスト破りの対象なんですものねぇ・・・」
遠い目になっていた。
理解のある夫たちの反応は、じつにくすぐったい。
女装の織姫。
2012年06月18日(Mon) 06:58:15
喉が、からからに渇いていた。
あれ以来―――人の生き血にありついていなかったから。
いけないことと、知りながら。
俺は奈子のアドレスに、メールしていた。
奈子は、女装子。
マイナーなもの同士、お互いを理解できる数少ないパートナー。
奈子が指定したのは、夕暮れ刻の公園だった。
ちょうどその夜が同窓会という奥さんの、送り迎えをする用があると言っていた。
ふだんは女装、できないの。妻がいるから。
でもこの晩だけは、なんとかなりそう。
まるで女装の織姫ね・・・
承諾のメールの文面からは、フフフ・・・と笑う奈子の声色まで、聞こえてくるようだった。
薄暗がりで、ふつうの者なら足許の覚束ないはずの空間で。
俺は自由自在に、背の高い草をかき分けて、奈子の姿を求めている。
都会のど真ん中にあるというのに、
それほど遅い時間というわけではないというのに、
この公園は人けがほとんどなく、道を行き交う車のヘッドライト以外では、遠くに見えるコンビニがの灯がほぼ唯一の光源だった。
それでいて・・・ひっきりなしに行き交う車の立てる喧騒に。
俺はすこしだけ、辟易していた。
奈子もいまごろは、世間に隠れた仮の姿になっているころ。
きっとここから間近いどこかで、おなじ車のエンジン音を、びくびくしながら耳にしているのだろう。
その日は曇りだった。
教わった東屋の屋根の下。
佇む心細げな人影が、俺の渇きに火をつけた。
奈子・・・?
背後からだしぬけにかけた声に、彼女はぎくりとしてこちらを振り向くと、
ホッとしたように頬をゆるめて、気持ちに余裕ができると礼儀正しいあいさつまで、返してくれた。
ゴメンね。制服着てこれなかった。
そういって謝る奈子は、カジュアルな服装だった。
白地の長袖のTシャツには、黒でポップな感じの絵があしらわれ、腰周りはグレーのデニムのミニスカート。
ボーイッシュなスタイルが、ばっちりと決まっていた。
タイツしか持ってないけど、貴方の好みに合わせてなるべく薄いやつ履いてきてあげたんだよ。^^
これから襲われて血を吸われる女の子…というノリではない。
むしろ吸血鬼の襲撃を、いっしょになって愉しんであげる…そんな雰囲気に、冷え切っていた胸の奥にじわりと湿ったものが湧き上がる。
じゃあ…始めるぜ?
う…うん。
足許に屈み込んで唇を近寄せると、さすがに奈子は怯えたように、茶色の革靴の脚をすくめていた。
ぬるり…
しなやかなナイロン生地のうえ。
這わせた唇のあとを、唾液が濡らしていった。
こんなにしみ込ませても、よかったのか?
一瞬そんな想いがよぎったものの、差し伸べられる脚のしっくりとした舌触りに魅せられて、もうそんなことは考えられなくなっていた。
ぬるり…ぬるり…
ヒルのように這わされる唇を、奈子はくすぐったがって、
「やだ…もぅ…」
ひめやかな非難の囁きが、頭上に切れ切れに、降ってくる。
上質の革靴にくるまれた足首は、薄手のタイツに透けていて。
さながら良家のお嬢さんが夕方の散歩に家を出てきた…あたかもそんな風情だった。
これ破ったら、困るんだろう?
あっ、気がついた?
急いで家を出てきたらしい奈子は、服の用意もそぞろだったらしい。
帰りはズボンに穿き替えるとしても、しつような俺のいたぶりを受けたタイツは、
きっとつま先にまで、裂け目をにじませてしまうだろう。
でも…いいよ。タイツ破るの、愉しいんでしょう?
奈子の好意は嬉しかったが、奥さんに真相を暴露される可能性は、あえて作りたくはなかった。
―――今夜は、太ももをじかに吸いたいな。
えっ…
奈子の声色が、昂ぶりに震えていた。
おそるおそるずり降ろしたタイツから、あらわにされた太ももは。
純女のそれと見まごうほどに、白かった。
俺は四つん這いの姿勢のまま、奈子の後ろに回り込んで。
ひざ裏のすこし上のあたり、肉の豊かなところをめがけて咬みついた。
あっ…
引きつった声をのみ込んで、喉を鳴らして血を飲み耽る俺の兇暴さを、奈子は立ちすくんだまま耐えていた。
ごくごく…ちゅうちゅう…
きゅうっ。きゅうっ…
わざとのように、聞こえよがしな音を立てて。
ピチピチとした活力を秘めた奈子の血は、俺の喉のその奥の、心までをも潤していった。
数日後のことだった。
駅で待ってる。
メールが着信したのは、真夜中ちかくのことだった。
すぐ来て。あなたなら、来れるよね?
矢継ぎ早にもう一通のメールが来たのと同時に、俺はパソコンの電源を落としていた。
その駅は、夕闇にうずくまる住宅街の谷間に埋もれるようにして。
塗りつぶされたような夜の闇を、こうこうとした照明で切り裂いていた。
公共の場であるべきこの空間は、すべてを羞ずかしいほどあからさまに、露出させている。
こんな明るいところに身をさらすのか…?
電車がくるまでのあいだは、ほとんど人の行き来がないの。
だから、見られる心配はないわ…
スッと寄り添った俺に振り向きもせず、奈子はよどみなく呟いている。
紺のベストに、白のミニスカート。
均整のとれた脚を彩るのは、黒のオーバーニー。
マットな生地にかすかに帯びた、妖しくもなまめかしいナイロンの輝きは。
初めて逢ったとき気前よく破らせてくれたのと、同じものらしい。
靴は数日前水辺の公園で逢ったときと同じ、茶色の革靴だった。
吸血される愉しみに、はまっちゃったようだね。お嬢さん。
俺が冷やかすと、奈子はそれを真に受けて。
そうなの。さっきから血を吸われたくって…あたしウズウズしているの。
やはりよどみなく、謡うように応えてきた。
じゃあ、いただくぜ。
足許に屈み込む俺に、
靴下、咬み破ってもいいよ。きょうは妻を迎えに行かなくてもいい日だから。
愉しげな許容の言葉が、頭上に降った。
均整のとれた肉づきをした脚に、ツタのように腕をからめながら。
這わせていった唇を、真新しいナイロン生地のしなやかな感触が、浸していった。
公園での逢瀬のあと、奈子のなかでなにかが変わった。
女装の身を臆面もなくさらして、献血に耽る善意の女装子―――
俺と彼女は、いったいどこへと行き着くのだろう…
あのひと
2012年06月16日(Sat) 06:17:12
一日休んだつぎの日。
出勤したわたしのところにやってきた同僚が、ひそひそ声で話しかける。
―――吸血鬼の訪問を受けたんだって?
よく知ってるね。
―――相手ははす向かいの、セイジさんだろ?
どうして知ってるの?
―――奥さんが血を吸われるところ、ちゃんと見たかい?
見たさ。いやでも。
―――そのあと侵されちゃったんだろう?
・・・。
―――羞ずかしがることはないさ。ここでは名誉なことだとされているんだもの。
いまごろまで、家にいるよ。
―――それはよかった。おめでとう。じつはね、ボクのところも・・・
同僚は言葉を一層ひそめて、こういった。
―――おんなじやつが、うちの女房を食べているんだ。
―――たぶんキミのところと、代わりばんこだろうね。
―――いっぺんに血を吸うと、身体に障るだろうからって、女房のスペアを探していたんだ。
―――そういうわけだから、まぁよろしくね。
・・・・・・。
・・・・・・。
以来、さして仲の良くなかったその彼とは、親しく行き来する間柄になっている。
騙され損ねて。
2012年06月15日(Fri) 05:36:39
吸血鬼が罠にかけられそうになったとき。
お芝居なんかでは、おとり役の女性はこうつぶやくのだろう。
―――お気の毒ね。ばかな吸血鬼さん。
そうしてクールな横顔に、軽蔑の混じった笑みを、冷ややかによぎらすのだろう。
夕べの少女の対応は、そんな想像とはかけ離れたものだった。
学校帰りに襲って、若い生き血をたっぷりとめぐんでくれたその少女は。
週末の夜、その公園で待っている・・・と、囁いてくれた。
彼女以外に、血を獲られるあてがなくて。
恋人か妹に逢いに行くような気分だったのが・・・いっぺんに消し飛んだ。
唇を近寄せていったその女(ひと)の表情は、さいしょに求めたときよりも、切羽詰った顔をしていたから。
甘美な陶酔から抜け出すのには、ひと苦労だった。
それからどうやって、悪意に満ちた重囲から逃げ出せたのか、さすがの俺にも記憶がない。
ほとぼりが冷めたころ。
俺はもういちど、その少女の前に立つ。
部活で遅くなった学校帰りを、妨げるように。
「げっ!」
少女らしからぬ反応に、俺は冷やかにほくそ笑んでいた。
きっとこの女には、いまの俺は悪夢にしかみえないのだろう。
―――このあいだの礼をさせてもらう。
俺はそっけなくそう呟くと、少女の首っ玉を抑えつけ、ぐいとこちらに近寄せた。
ごめん・・なさい・・・生命・・・だけは・・・助けてっ・・・!
なにムシのいいことほざいているんだ?
ひとのことを罠にはめて、灰にしちまおうとしたくせに。
俺が少女の耳もとに「殺さない」と囁いたのは。
無用の抵抗を封じ込めるためだったはず。
がぶりと食いついた首すじからほとぶ血を。
真っ白な制服のブラウスに、遠慮なくふりかけてやった。
ちゅ、ちゅう~っ・・・
聞こえよがしな吸血の音。
これ見よがしな血しぶき。
少女はくたくたと力なく、傍らのベンチに尻もちをついて。
ただひたすらに、俺の栄養補給に、強制的につき合わされている。
ざま見ろ。
侮蔑の入り混じった目つきの持ち主は、ほかならぬ俺のほうだった。
俯いていた少女は、自分の発する言葉を、ひと言ひと言確認するようにゆっくりと、こういった。
もういちど、逢ってくれる・・・?
ゴメンだね。
命がけで逢いに来るほど、あんたは魅力的じゃない。
女としては・・・
相手がいくら吸血鬼でも、いちばん言ってもらいたくない言葉だっただろう。
望まれてもいないのに、無分別に迫った俺。
相性の有無さえ見抜けずに、自分勝手に相手を選ぼうとした俺。
少女はただ、とうぜんの保身を図っただけ。
そんなことは言われないでも、よぅくわかっている。
すべてに目を背けたくって、俺は少女に背を向けた。
二度と、振り返りはしなかった。
ここは俺の来るところじゃない。
出直そう・・・
あとがき
なんだかいつになく、そっぽを向いたお話になっちゃいました。
こういうお話を描くときって、自分がどういうときなのだろう・・・?
詩織里の献血。
2012年06月14日(Thu) 05:30:08
~はじめに~
stibleさまの「着たいものを着るよ」というサイトさまをご存知ですか?
http://manndokusai.blog77.fc2.com/柏木お気に入りのサイトさまです。
ときにはフェミニンに。ときにはユニセックスに。
ときには男女取り混ぜた装いなのに・・・違和感はまったくなく、妖しい魅力漂う世界。
その魅力はもう、言葉ではたとえようがありません。
時おりお邪魔している柏木は、こちらのサイトさまから享けたインスピレーションで、お話をいくつか描いております。
リンクを貼らせていただいたこともございます。(むろんご本人にはお話したうえで)
最近アップされたある記事に目が行き、そして。。。いままで以上に目を離せなくなりました。
いつも30分~1時間くらいでお話を仕上げてしまう柏木にしては珍しく、数日かかりまして、一編のお話を創りまして。
描いたお話を添えておそるおそる・・・stibleさまご本人に、画像使用の許可をお願いしたのです。
ふつうの神経では、できるお願いではないはず・・・なのですが。
そうしたらなんと!そっこーで、OKの返事が来ました。
つつしんで、記事の画像を使用させていただきます。
ご快諾をいただきましたstibleさまに、この場で厚く御礼申し上げます。
本記事にアップした画像の著作権は、stibleさまご本人にあります。
このブログにあるほかの画像と同様、
複製・無断転載等は固くお断りいたします。なにか問題がありましたら、画像は削除いたします。あらかじめご了承ください。
なお、stibleさまは決して吸血フェチではございません。
撮影された画像の意図も、柏木の作り話とはなんらかかわりはございません。
お話の内容は柏木の一方的な好みによるものですので、念のため・・・
それではお話の、はじまり、はじまり・・・
―――詩織里の献血―――
ちょっぴり、気の毒だと思うけど。
あの小父さまはもう長いこと、パパの大の仲良しなんだ。
いちどでいいから、逢ってあげてくれないか?
そういうパパの、首すじにも。
初めてだとちょっぴり羞ずかしいし、痛いかもしれないけど。
慣れちゃえば案外、愉しめちゃったりもするのよ。
明日はそんなに心配しないで、学校行きましょうね。
そういうママの、首すじにも。
ふたつ綺麗に並んだ噛み痕が、どす黒い痣のようにしみ込んでいる。
そのすぐ真上の、おとがいに。
しいて屈託のない笑みを泛べてくれていたとしても…どうしたって作り笑いに見えてしまう。
詩織里は華奢な肩を心細げにすくめて俯きながら、両親の説得を横顔で聞いている。
男の子なのに、女子としての教育を受けている彼女―――
通っている女学校の制服姿が、色白で華奢な身体つきを、女よりも女らしく、惹きたてていた。

彼女の通う学校は、良家の子女にしか門戸を開放していない、名門中の名門校。
けれどもその伝統の裏側には、昏(くら)い習わしが秘められていた。
創立者の一族と懇意にしている吸血鬼の一族が、入れ代わり立ち代わり女学校に現れて。
彼らの渇きを飽かしめるため、女学生たちの多くは、不公平のないよう、出席番号順に呼び出されていた。
詩織里の在籍するクラスは、最上学級と呼ばれていて、そうした無差別な吸血行為からは免れていたけれど。
特別な賓客が来校したときには、妖しく時として淫らな選択の視線に、真っ先にさらされることになっていた。
そうした日常に、ようやく気づき始めたころ―――
この女学校で無償であてがわれる若い生き血を目当てにした彼らのひとりが、詩織里を見初めて・・・とうとう白羽の矢を立てられたのだ。
―――パパの大の仲良しなんだ・・・
嘘ではないのだろう。
だって、初めて家に招いた彼のことを、気に入って。
その場で意気投合して、妻や娘のストッキングを履いた脚を咬ませるまえに・・・って。
彼の好みに少しでも応えようと、紳士用のストッキング地のハイソックスをわざわざ履いて。
ママのまえでお手本に・・・って、わざとふくらはぎを咬ませていったのだから。
―――初めてだとちょっぴり羞ずかしいし、痛いと思うけど・・・
嘘ではないはずだ。
だって、血を吸い取られてわれを喪ったパパの、焦点の合わない目線をまえに、夫とおなじように血を吸われるのをあれほど嫌がって。
脚をばたつかせて、抵抗したのに。
いちど咬まれてしまうと、そのおなじ脚を。
こんどは小娘みたいにはしゃぎながらばたつかせて、ストッキングがちりちりになるまで、咬み破らせていったのだから。
おなじことを・・・詩織里にもしろというの?
厭わしい・・・おぞましい・・・
両腕で胸を掻き抱いた詩織里は、若い血潮が全身をめぐる感覚を、初めてのように実感した。
この身をめぐる、うら若い血を―――
喉をからからにした小父さまの、飲み物に提供しろというの・・・?
安心をし。そう・・・っと優しく、引き抜いてくれるわ。
詩織里の耳もとに、唇を近寄せて。
ママはそういって、娘を安心させようとした。

翌日の一時限めが、はじまるまえのことだった。
詩織里さん、詩織里さん。
赤い縁のメガネをかけたハイミスの担任が、彼女のことを呼んだのは。
いつもは苗字で呼ぶ詩織里のことを、きょうにかぎって名前で呼んだ。
クラスメイトたちは、いちように顔を見合わせて。
お行儀よく結ったおさげ髪を、かすかに揺らし合って。
こちらをチラチラと窺いながら、ひそひそと囁いている。
先生がお名前で呼ぶときって・・・アレの時よね?
そうよ。詩織里ちゃんかわいそうに・・・とうとう血を吸われてしまうんだわ。
だってあの子、男の子なんでしょう?
ご指名があったんですって。なにもかも承知のうえで・・・
へぇ~、いいなあ・・・
さいごに羨望の声を洩らしたのはきっと、経験者の子なのだろう。
クラスのだれもが、彼女の正体を知っていて。
それでもうわべは、女の子として接してくれて。
けれども時折注がれるのは、女の子ならではの意地悪な視線―――
こちらを窺うひっそりとした目線たちが、制服の背中に痛かった。
踏みしめた廊下の木の板が、ミシミシとかすかな音をたてる。
学園のいちばん奥まったところに佇む、古い木造校舎。
真新しい鉄筋コンクリートの本棟とのつなぎ目を境に、そこは別世界になっていた。
毎週クラスメイトのなん人かは、いつも見慣れた白のハイソックスの代わりに、
肌の透ける薄手のストッキングで、脛をお姉さんみたいになまめかしい墨色に染めて、
呼び出されるとその日のうちは、ずうっと帰ってこなかった。
そんなふうにクラスメイト達をのみ込んでいった廊下に、
詩織里は独り、墨色に染めた脚で踏み入れてゆく。
女の子の制服で初登校した、あの入学式の日。
陽の光に目映く照らされた白タイツの足許を、誇らしげにおおっぴらにさらしながら。
微妙な顔つきをした両親の視線をよそに、おおまたに歩みを進めていった。
どういうわけか、そのときの記憶が脳裏をよぎる。
みじめな気持は、不思議としなかった。
―――慣れちゃえば案外、愉しめたりもするのよ。
昨夜のママの囁きが、胸の奥によみがえってきた。

がらり・・・
空き教室のドアを開けると。
そこにはいちめんの、深紅のじゅうたん。
このじゅうたんの上、なん人の同級生がまろばされ、そして血を吸い取られていったのだろう?
このじゅうたんの色・・・もしかして、みんなの血がしみ込んだ色?
詩織里はじいっと、足許の深紅を見つめた。
よく来たね。
何度となく、パパといっしょに家に遊びにきた小父さまが。
いつものように朗らかな低い声で、詩織里を迎えた。
ああ・・・この小父さまに、あたし血を吸われるんだ。血を吸われちゃうんだ・・・
すでに厭わしい気分は、ほとんど消えていた。
上履きに黒のストッキングという、ちょっと不自然な取り合わせは。
少女の決意の表れだった。
パパやママからいただいた、たいせつな血を差し上げるのだから。
プレゼントは、きれいな包みでくるまなくちゃね。
わが身をめぐる、暖かい血潮の気配―――
詩織里の胸をひたひたと浸し始めたのは、渇きをけんめいにこらえて、しいて笑みを作っている優しい表情。
血を吸われるのは、厭だけど・・・愉しませてあげちゃおう。あたしの血。
横たえた脚を、詩織里はいとおしそうに、なでさする。
すりすり・・・サリサリ・・・
薄手のナイロン生地が擦れる、かすかな音。
しなやかな手触りの向こう側にある、たしかな温もり―――
少女はよどみなく、呟いている。
似合うかしら?
小父さまのために、履いてきたのよ。
街を歩くとき目だって、とても羞ずかしかったけど。
だから小父さまの好きなように、愉しんで。
せっかくだから・・・破く前にたっぷり、辱しめて頂戴・・・

~ご注意およびご案内~
やや画質を落としてあります。
本物をご覧になりたいかたは、↓どうぞこちらにお越しくださいませ。
「着たいものを着るよ」 制服スカートに薄地黒タイツ
http://manndokusai.blog77.fc2.com/blog-entry-960.htmlなお冒頭に申し上げましたように、stibleさまのワールドと柏木ワールドは、必ずしも一致いたしません。
念のため再度、申し添えておきます。
男に唇を吸いつけられるとき。
2012年06月10日(Sun) 07:55:12
吸血鬼と秘密裏に共存しているこの村を訪れて、三か月―――
なじみになった年輩の男衆のもとへ。
妻に隠れて家を抜け出し、血を吸われに出かけるようになって、すでにひと月が経過していた。
若い女の血を吸いたい。奥さん連れてきてくれねぇか?
そうせがまれて、断りきれなくなりかけたころ。
スラックスの下、ひそかに忍ばせたのは。
箪笥の抽斗から無断で持ち出した、妻のストッキング。
黒なら目だたないだろう・・・そんな期待は見事に裏切られて。
歩みを進めるたびに、蒼白く透けた足首が、やたらと目についた。
男のまえ、スラックスをたくし上げて。
これで勘弁してくれないか?
そう言った時。
男は目を輝かせて、わたしの足許にしゃぶりついてきた。
てろてろと舐めつづける、よだれまみれのべろの下。
妻のストッキングが、ふくらはぎの周りを妖しくよじれていく。
足許に、唇をつよく、吸いつけられたとき―――
妻に欲情している―――
そんな想いが、微妙な嫉妬を生んでいた。
それから数日後。
とうとう彼を、家にあげてしまって・・・
その晩妻は、めでたく彼と、内証の祝言を挙げた。
妻が彼の馴染みになって、どれくらいたったことだろう。
それでも彼は、夫婦を代わりばんこに呼び出して。交代で生き血を吸い取った。
貧血になった妻が、ぐったりと自宅のベッドに憩う夜。
わたしは彼との逢瀬を”愉しんで”しまっていた。
働き盛りの生き血を求めて、うなじをさ迷う唇は。
以前と変わらず、熱っぽかった。
首すじに、唇をつよく、吸いつけられたとき―――
この唇が、妻の素肌を吸ったのか。
この腕が、妻の裸体を抱きすくめたのか。
そんな想いが、湧き上がってきて。
わたしはわけもなく、のしかかってくる彼の背中に、腕を回してゆく・・・
妻と一体になった男。
妻を共有している男。
妻を日常的に犯す男。
もっと与えたい。
もっと奪われたい・・・
吸い上げられてゆく血潮に想いを込めて、彼の唇の奥へと送り出す。
愛情表現
2012年06月06日(Wed) 07:28:27
ばたん!どしん!ずどん!ぐゎっしゃーん!
二階から聞こえるもの音に、来客はびっくりして顔をしかめた。
いや、にぎやかですみませんねぇ。
お父さんはのんびりと笑いながら、来客にお茶を勧めた。
ほんにまぁ、娘もお転婆なもので・・・
お母さんも苦笑しながらお辞儀をすると、お盆を抱えて台所へと戻ってゆく。
どうやらもの音の出どころは、長女の勉強部屋からのようだった。
もうっ!嫌っ!近寄らないでっ!
この家の長女ユリは、ヒステリックに叫びながら。
本棚の本といわず、机のうえの筆箱といわず、傍らに置かれた革製の通学鞄といわず、
もう手当たり次第に、相手にものを投げつけていた。
ものを投げられている相手は、場違いなくらい時代がかった黒マントを羽織っていて、
胸元には深紅のリボンタイ。
見るからに吸血鬼とわかる扮装をまとっていた。
至近距離で投げつけられるいろいろなものは、もちろんその多くが彼に命中するのだが、彼はマントで顔を蔽い、大小さまざまな飛び道具を時には払いのけ時には身をひるがえしてよけながら、じょじょにユリとの距離をせばめていった。
手を伸ばせば届くほどの距離に迫った吸血鬼に、ユリは初めて怯えの色を浮かべ、
「キャーッ」
少女らしい悲鳴をあげていた。
「やっと静かになりましたね」
ため息交じりにお母さんがそう言うと、
「ああ、まったくだね」
苦笑交じりにお父さんも、返事をする。
「いったいどういうことなのですか?」
来客が遠慮がちに、訪ねると。
「まぁ、知らぬが花ということにしといたほうがいいと思うがね・・・」
さすがにお父さんは、口を濁した。
薄いピンクのカーディガンに、黒髪を三つ編みに結った少女は。
淡いグレーのチェック柄スカートの下、いつも学校に履いていく薄黒いストッキングの脚を、たたみのうえににょっきり伸ばして。
肉づきのよいふくらはぎに、それは旨そうに唇を吸いつけた吸血鬼は、
脛の蒼白く透けるなまめかしい黒ストッキングを、唾液でびしょびしょに濡らしていった。
少女は悔しそうに歯噛みをしながら、それでも吸血鬼の不埒なやり口を留めだてしようとはせずに、
むしろストッキングを履いた脚を彼が愉しみやすいように、すんなりと伸ばしてやるのだった。
「一種の・・・愛情表現ですな」
言いにくそうにお父さんは、来客に解説した。
いたずらに辱しめられたくはないけれど、許さないというほども冷たい気持ちはないものだから。
お気に入りの黒のストッキングを咬み破かれる代わりに、さんざんにものを投げて溜飲を下げているのでしょう、というのだった。
ほら。聞こえるでしょう?でも、聞かなかったことにしてくださいな。
声をひそめるお母さんが見あげる天井ごしに。
「ああ~ッ」
うわべは無念そうでも、それは気持ちよさそうな声が、かすかに洩れてくる。
しいて重ねられてくる唇を、避けかねて。
少女は幾度かかぶりを振って拒んだすえに、接吻に応じていって。
これ以上は、ダメよ。
純潔を差し上げるの儀式は、カズヤさんのまえで済ませるお約束ですからね。
そこだけは意地でも譲るまいと、けんめいに声色を押し殺して。
婚約者のまえで純潔を散らされる儀式を遂げることを、改めて誓うのだった。
夫やいいなずけのまえで操を立てようという、せめてもの意地なのでしょう。
台所に洗い物に立ったお母さんを見送りながら、お父さんは来客に向かってぽつりと言った。
未来の姑はもう、襲われ済みですからね。
あれが襲われる時にはね、この洋間にお皿やしゃもじが飛ぶんですよ。
割れないお皿を選り分けて投げるんです。
さすがに堅実な主婦ですなあ。
のんびりと、淡々と言い放つ夫は、「あなたそれでもガマンできますか?」と来客を振り返った。
来客は、ユリの未来の花婿だった。
「どうして僕の前で・・・なんでしょうね?」
ひっそりやってしまえば、貴方に対する犯罪になるというのですよ。
なんにも体験できないでしょう?
初めて犯されるときの羞じらう顔とか。
痛そうに洩らすうめき声とか。
身を固くして相手を受け入れておいて、じょじょに慣れて腰を使いはじめるようになるひょう変ぶりとか。
じぶんで姦(や)るのも、ひとに姦(や)られちゃうのも。
視る角度が変わるだけ・・・そういうことで、ご納得いただけませんかな?
義父の言いぐさに、若い男は照れ臭そうにうなずいている。
どうやら僕も、お父さんとおなじ趣味みたいです。
“儀式”はたしか、来週ですよね?わざわざ僕の予定に合わせて日取りを決めていただいて、ありがとうございます。
愉しみに・・・してますね・・・
密室の侵入者を前に、度を失った少女。
2012年06月05日(Tue) 07:31:16
「えっ!?・・・どうしてここにいるっ!?・・・どうやって入ったっ!?」
両手で口許を抑えて驚愕する、制服姿の少女のまえ、だしぬけに現れた吸血鬼は、意地悪そうにほくそ笑んでいる。
用心深く道を変えて下校した少女は、無事に家にたどり着いてほっとひと息ついたばかりだったのだ。
教室のどこかから聞き耳を立てているらしい吸血鬼を欺くために、「帰りに公園の花を見ていくね」と、嘘の予定を聞こえよがしに友だちに喋ってみたり。
欠席するはずの体育の授業のあいだ、教室に居残って自習をせずに、みんなの見学をしてみたり。
路地裏に立った黒い影を出し抜いて自転車を全速力で走らせたり。
勇気と知恵は、少女に安全な帰り道と無事の帰宅を約束したばかりのはずだったのに。
でもげんに、目のまえにあいつはいる。
それも、絶対安全なはずの自宅のリビングに!
引っ越してきたこの街は、人間と吸血鬼とが、仲良く共存していた。
父親の勤務先のOLは、全員定期的な献血に応じていたし、
留守を守る人妻は、陽の光が平気だという吸血鬼を、真っ昼間から招待する。
まして女学校は、かっこうの血液提供場所だった。
そんな雰囲気にも、次第に慣れて。
両親が血を吸われていたのも薄々知っていたし。
いつかは自分も血を吸われるのだという自覚は、すでに彼女のなかで育ってはいたものの。
「やだっ、ちょっと待って・・・心の用意ができてないっ。」
目のまえの光景を打ち消すように片手を振って、少女は懇願をくり返した。
そんな少女の気持ちをすべて察したように、吸血鬼はなおも隔たりを詰めてくる。
リビングの入り口と、対面のソファとの距離感は、いつの間にか。
アンチークな書棚の隅と、そこから手を伸ばせば胸に触れるほどの近さに狭まっていた。
少女の背丈よりも高い本棚と壁とに挟まれるようにして。
とっさの声も出なくなった少女は、喉の奥で悲鳴をこらえている。
知恵比べに勝ったご褒美は、遠慮なく頂戴するよ。
薄笑いを泛べた唇が、少女のうなじに触れて・・・唇の両端から覗いた鋭利な牙が、なめらかな皮膚を突き刺した。
ああッ!!
絶望的な叫びをあげる少女を抱きすくめると、侵入者は咬みついたままの牙をずぶり!と、根元まで、少女のうなじに埋め込んだ。
つけられた傷口からばら色のしずくがしたたり落ちて、セーラー服の白い襟首を浸した。
あ・・・あ・・・あ・・・
引きつったうめきを洩らしながら、少女は背にした本棚にもたれかかりながら、姿勢を崩していった。
そのあいださえ惜しむように、吸血鬼はチュウチュウと音を洩らしながら、少女の生き血を吸い上げてゆく。
お願い殺さないでっ。
言うべき言葉を口にすると、少女は返事も待たずに気を失った。
腕の中でだらりとなったセーラー服姿は、体重を増したようだった。
その何分の1かは、獲られる血の重さ。
う、ふ、ふ、ふ・・・
吸い取った血潮を牙にあやしながら、吸血鬼は少女の顔を愉しげに覗き込んで。
やっと念願かなって、処女の生き血にありつけた。
ボーイフレンドができてからでは、遅いからね・・・
静かになった少女の耳もとに、そう囁くと。
なおもほくそ笑みながら、笑み崩れた唇を、まだ咬んでいないほうのうなじに吸いつけていった。
じゅうっ。
重苦しい音とともに噴き出た血潮が、真っ白なセーラー服の胸のうえ、ぼとぼととほとび散る。
あとは、押し殺すような、吸血の音―――
半開きになったドア越しにリビングでの惨劇を覗くのは、少女の両親。
娘の受難を前に、彼らの口調はごく冷静だった。
あんなに吸われちゃって・・・どうやらお気に召したようね。まゆみの血。
ああ、気に入らないはずはないさ。きみとぼくの娘だもの。
あら、よかったの?あたしの血だけじゃ足りなくなったってご相談した時、あんなに渋っていらしたのに。
そりゃあ、妬けるさ。きみをモノにしたあの男が、母娘丼を狙っているっていうんだもの。
さいしょから、まゆみの血がお目当てだったみたいよ。処女のうちに吸わせてあげることができて、よかったわ。
あいつ、だいじょうぶかな。だいぶ顔色が悪いぜ?
アラ、あたしなんかあれくらい、いつものことだわ。すこし休めば大丈夫よ。
きみの回復が早いのは、血を吸われたあとあいつとセックスするからだろう?
アラ失礼ね。娘の純潔を守るために、身を挺しているのよ。
それはそうだ。でも、きみもワルだね・・・
あらいやだ。ホホホ・・・
のどかな声色のやり取りの向こう。
しつような吸血にわが身をさらす少女は、リビングのじゅうたんの上仰向けのままうなじを吸われ、
うつ伏せにひっくり返されて、ふくらはぎを吸われた。
脚に通していた黒のストッキングを履いたまま唇をなすりつけられて。
少女の脛をなまめかしく墨色に染めた薄手のナイロンは、むざんに裂け目を拡げていった。
足許を包むゆるやかな束縛感がほぐれていくのがわかるのだろうか?
少女は悔しげに唇を噛んで、けれども理性を半ば酔わされかけてしまった彼女は、
素足に剥かれてゆく凌辱から、脚を引き抜こうとまでは、しなかった。
知恵比べに、負けちゃった。
罰ゲーム、させられちゃった。
みるかげもなく噛み破られたストッキングからひざ小僧を露出させながら、
少女は謡うように、呟きつづけている。
愉しみ始めたようだね。
そうね。
きみといっしょだね。
そうね。
いずれ純潔も、あいつに奪(と)られちゃうんだろうか・・・
そうね。そのときは・・・あなた父親として、見守ってあげてね。
ああ。きみのときに、夫として見守ったように・・・ね。
彼らの胸中は、娘を売ったという背徳感とは無縁である。
だって、娘の生き血が好まれたことを、いまでは誇りに感じているのだから。
女学校の日常 ~ストップウォッチ~
2012年06月05日(Tue) 07:00:42
~はじめに~
先日あっぷをした「女学校の日常」の一風景です。
ここは深夜の教室。
大多数の生徒はすでに帰宅していたが、なん人かの生徒たちはまだ、居残りを命じられていた。
深夜に訪れる来校客に、若い女性の生き血を提供するために・・・
真っ暗な廊下には、教頭先生と担任の女教師。
そのすぐ傍らに、体操着姿のふたりの生徒。
教室のなかには灯りが薄暗く点されていて、制服姿の少女がふたり、来校客の相手をしている。
来校した吸血鬼は二人。その二人の相手をするのに、人数分の少女があてがわれたのだ。
こういう饗応は、何度やっても慣れるものではないらしい。
少女たちは戸惑い怯えながら、黒髪をふり乱しながら教室のなかを逃げ回り、吸血鬼どもは彼女たちを手慣れたやり口で、獲物たちを追い詰めていった。
体操着の少女たちは、怯えるクラスメイトの姿を目にして、面白そうに白い歯を覗かせた。
「やるやる♪」
「遙香ちゃん、つかまっちゃうね♪」
「あっ噛まれちゃった♪」
「痛そう~♪」
遙香ちゃんと呼ばれたおさげ髪の少女は真っ先にセーラー服の肩をつかまれて首すじを咬まれ、「ひいっ」と悲鳴を洩らしてのけ反っていた。
真っ白な夏用のセーラーブラウスにバラ色の飛沫がほとび散り、濃紺の襟首に走る白のラインも赤黒く塗りつぶされていった。
「あー、優香ちゃんも、絶体絶命♪」
「優香ちゃん、肌きれいだよね♪」
口々に声をはずませる少女たちの声の向こう、もうひとりの少女もやがて、セーラー服の肩を捕まえられて、ショートカットの黒髪を揺らしながら、猿臂に巻かれていった。
首すじを咬まれた三年生の徽章をつけた少女は、「きゃあっ」とひと声悲痛な叫びを洩らすと、その場にひざを突き、四つん這いになり、さいごに教室の床にうつ伏せになった。
いっしょに血を吸われたべつの少女は、とっくに気絶して、苦悶の声を洩らしつづけるクラスメイトの傍らで仰向けになっていた。
ふたりの吸血鬼はなおも少女たちの身体におおいかぶさって、キュウキュウとあからさまな音を立てながら、しつような吸血に耽っている。
静かになったクラスメイトの傍らで切なげなうめき声をあげつづける少女も、とうとう声を失った。
失血のあまり、絶息したのだ。
血の気のない鉛色の頬の下、相手の男はなおも少女を抑えつけて、細いうなじに牙を埋めつづけているし、
もうひとりの獣は、うつ伏せに伸びた黒のストッキングのふくらはぎにとりついて、薄手のナイロンごしに唇を這わせながら、制服の一部である薄い靴下を、不埒にもブチブチと噛み破っていった。
優理ちゃん、2分37秒。
遙香ちゃん、4分16秒。
ストップウォッチを手にした体操着姿のふたりの少女は、担任の先生を振り返ると、二人の同級生が噛まれてから気絶するまでのタイムを、無表情に告げた。
「優理ちゃんはきのうに引きつづきだから、早かったね。」
生徒たちと理科の実験結果を見守るように、教師たちの声色も冷静そのものだった。
どうします?まだ吸わせます?
さすがに気がかりそうな声を教頭先生に向けた担任の先生は、四十代の女教師。
そうですね。もう少しなら大丈夫でしょう。
冷ややかな応えをかえす教頭先生も、
「ではそうしましょうね」と体操着の教え娘たちを顧みる女教師も、
首すじにあからさまな噛み痕を、赤黒く滲ませているし、
「じゃあこれから、美術の課題もやっちゃいますね」
と、画用紙に鉛筆でデッサンを走らせる体操着の少女たちもまた、
細いうなじを覆う初々しい肌に、どす黒い痣をふたつ、毒々しく浮かび上がらせていた。
あ、あ、あ・・・
気絶した少女の片方が、たまりかねたように無意識な声を発した。
お約束ですよ・・・
担任の女教師が、さすがに気がかりそうな声を投げると、
制服姿の少女たちにおおいかぶさっていた獣どもは顔をあげ、
そして犠牲者たちのうえから未練たっぷりに起きあがった。
それでもまだ喉が癒えないのか、あたりの床を浸した血だまりを、なおも意地汚く舐めつづけている。
ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・
静かになった教室に響く舌なめずりの露骨な音に、体操着姿の少女たちは、
「きれい」
「おいしそう」
と、口々に囁きながら、同級生たちを襲った惨劇に、面白そうに瞳を輝かせる。
ほら、あなたたちも行きなさい。
女教師は生徒ふたりの背中を押すと、教室の扉をがらりと開いた。
「えっ!?」
「きゃあっ」
新たに投げ込まれた生贄に、二匹の獣は目を輝かせて飛びついて。
両手で口許を蔽う少女たちの首のつけ根に、相次いでがぶりと食いついた。
「きゃあ~っ!!」
「い、痛あいっ・・・」
ふたりの少女が絶息して、さっき血を吸い取られたクラスメイトたちのすぐ隣にひざを突いてしまうのに、二分とかからなかった。
3分44秒と、4分55秒。
ふたりの少女から取り上げたストップウォッチを、冷静に読み取る女教師。
堀井くんは、さすがに陸上部だね。
きょう一番長くがんばった体操着の少女に対して、教頭先生が賞賛の呟きを洩らしている。
「4人の家族に、連絡を取ります。引き取っていただかないと、ひとりでは帰れませんから」
赤い縁のメガネをキラリと輝かせて、女教師が無表情に背中を向けようとしたとき。
教頭先生は彼女の背後からいきなり抱きついて、
「あれ!なにをなさいます!」
さっきまでの冷静さをかなぐり捨てて声を荒げる女教師を、強引に教室のなかへと追いやっていった。
「家族への連絡なら、私がするよ」
冷ややかな薄哂いをした上司に、応えるように。
「ぎゃあ~っ!」
女教師の悲鳴は、優雅さとたしなみを少々欠いているようだった。
ウン、大丈夫。ひとりで歩けるよ。
いちばん長く吸血に耐えた陸上部の少女は、勤め帰りに学校に立ち寄った父親に支えられながら、それでも気丈に立ち上がった。
紺色のブルマーの下、白のハイソックスにはべっとりと、赤黒い血のりを光らせている。
タクシーすぐ来るからね。
おだやかな声色の母親に髪を撫でられながら、いちばん早くにのびてしまった制服の少女は、両手で顔を蔽ってうつむいていた。
血を吸われたのがショックだったのかね?
いいえ、先生からタイムを聞いて、がっかりしているんですよ。でも昨日もですからねぇ。
母親の声はあくまでも柔らかく、テストの点数が悪かった娘をかばうような口調だった。
菅野くんは、美人だからね。もてる女は大変だな、おい。
教頭先生も笑いながら少女の肩をぽんとたたいて、肩をたたかれた少女は、顔を蔽いながらかすかにうなずいている。
ハハハ・・・
教頭も母親も、少女の反応にあっけらかんとした笑い声をあげている。
深夜の学園。
迎えのタクシーやマイカー。歩いて帰る母娘。
三々五々に散っていくと、教頭先生は半開きになった空き教室の扉の向こうを覗き込む。
塗りつぶされたようないちめんの闇のなか。
かすかなうめき声が聞こえてきた。
教え娘たちが黒のストッキングやハイソックスを噛み破られたおなじ床のうえ。
担任の女教師は知性的なガーター・ストッキングの脚を拡げた格好で、
代わる代わるのしかかってくる吸血鬼に、性の奉仕をつづけている。
容色のやや衰えた頬を、淫靡に輝かせながら。
あしたはどうやら、学級閉鎖のようだね。
血を吸われて欠席届を出した女子生徒は、16人。
担任の先生も失血のため、欠勤。
それとも、残りの子たちだけでも集めて、来校客の相手をさせようかな?
不埒な劣情を満たされて随喜の声をあげる獣たちを闇の彼方に透かして見ながら、教頭は優しそうな微笑を泛べていた。
来春になったら・・・菜穂も進学するからな。
すっかり年ごろになったまな娘の名前を、口にしながら・・・
応援。
2012年06月01日(Fri) 08:05:15
1. 下校途中で
お・・・っ、お願いっ。きょうは見逃して。あした試合なんですっ。
両手を合わせて懇願する、制服姿の女子生徒に。
吸血鬼は黙然と、立ち去ろうとした。
けれども彼の両脚は、根が生えたように動かなかった。
どうしても血が欲しい・・・
その本能が。
制服の裏から透けてみえる若くてピチピチとした女子生徒の肢体をまえに、
彼の動きをくぎ付けにしてしまったのだった。
ちょ、ちょっと待ってよ!
吸血鬼の背後から投げられた声は、目の前の女子生徒と同世代の女の子のものだった。
息せき切って駈けてきた彼女は、吸血鬼と同級生の間に割り込んできて。
両腕を目いっぱい拡げて、友だちを守ろうとした。
ダメよ、彼女は。あした大会なんだからっ。
体調崩したら、うちの学校負けちゃうじゃないっ。
女子生徒の懇願を容れて、本能を抑えて立ち去ろうとした彼だった。
同級生の叱声に、文句なく姿を翻そうとした。
ほら、今のうちに逃げなさいよっ。
う、うん・・・
素早く言葉を、交わし合って。
同級生の子を逃がした彼女は、なおも胸を張って、吸血鬼のまえに立ちはだかる。
待って。
背中を見せた吸血鬼に、少女は気丈にも、声をかけている。
どうしても、血が吸いたいの?
ああ・・・。
男の声色は、しんそこ渇き切っていた。
ガマン・・・してたの?
そう。
弱みを見せまいとして帽子を目深にかぶった男の顔を、上目づかいに覗き込んで。
少女はなおも、問いを続ける。
でもどうせ、だれかを襲うんでしょう?
それならあたしを、襲いなさいっ。
その子が彼女のチームメイトだったら、あたしたち困るから。
もうこらえ切れなくなった男は、彼女にしがみつくようにして。
身体を折って少女のまえにかがみ込むと。
ハイソックスを履いたままのふくらはぎに、かじりついていった。
真っ白な靴下が赤黒く染まるのを、少女は歯噛みしながらこらえている。
2.試合の日
炎天下だった。
実力が伯仲したもの同士の競り合いに会場全体は熱狂し、
熱狂した生徒たちのまえ、チアリーダーは汗を振り飛ばしてカラフルなポンポンを握っている。
そのなかに、夕べ同級生の選手を助けた少女を見出して。
吸血鬼は目深にかぶった帽子から、驚いた眼をのぞかせた。
しつような吸血に耐えた、丈夫な体。
あのときの失血の翳を、激しい動きをする少女の肢体は、かけらもとどめていなかった。
オレンジ色のユニフォームのチアリーダーたちが、おおぜいこちらに向かって歩いてくる。
「勝った!」「勝った!」
お揃いのユニフォーム姿をはずませて、嬉しげな声が飛び交うなか。
少女はちょっぴり蒼い顔をして、みんなのいちばん後ろからついていった。
「あら涼子、元気ないね?くたびれた?」
チームメイトのひとりが涼子に声をかけ、みんなは歩みをとめた。
血色のよいピンク色の脛が、白のナイロンハイソックスの透ける生地に、眩しく映えている。
「ううん、だいじょうぶ。でもきょうは先に帰るね」
「んー。きょうはご苦労さまっ。帰り道気をつけてね」
ストッキング地のハイソックスに彩られた脚たちは、そろって街へとつま先を向けた。
観てたの?
ひとり立ち止まった少女は、そのままの姿勢で、
人のいないはずの通りで呟いた。
傍らに漂っていた薄ぼんやりとした影が、みるみる人の姿になると。
よくわかったね。
昏(くら)い声色が、少女の鼓膜を浸した。
応援だとは、知らなかった。
知っていたら・・・血を吸うのをやめた?
ほかを当たったろうね。
やっぱりあたしが身代わりになって、よかった。
でもあんたも、応援だったんだろう?
そうよ。あたしの仕事、応援なんだもの。
身をもって友だちをかばった彼女は、疲れ切った顔をしながらも誇らしげだった。
顔、蒼いぜ?
うん、わかってる。
今夜はよく休めよ。
そうする・・・けど、今夜は血は要らないの?
ほかを当たるさ。
吸血鬼が目線を転じた先には、連れ立って歩くチアリーダーたちが、まだ視界にあった。
試合に勝ったお祝いに、あの子たちのハイソックスをなん足か、噛み破らせてもらうのさ。
フフフ・・・と、ことさらたちの悪い含み笑いを泛べてみせた。
この!浮気ものっ。
少女が投げた石は、虚空に消えた吸血鬼の影を、通り越していた。
3.衣替えの朝
おはよー!
きょうから、夏服だねっ。
陽を浴びたみんなの白い制服が、ことさらに眩しくみえたのは。
きょうが衣替えの日だったからにちがいない。
こちらに向かって手を振るクラスメイトたちのほうへ、涼子は全速力で駈けて行った。
結衣?きのうは勝ったね!おめでとっ。
ありがとっ。
ハイタッチをした少女は、涼子がおとといかばった同級生だった。
あっ、元気になったね!夕べ顔色わるかったから、みんな心配してたんだよっ。
声は元気にはずんでいるけれど。
結衣を除くだれもが、ちょっとずつ顔色がわるかった。
夕べみんなに、なにが起こったのか・・・それはあえて問わないことにしているけれど。
言わぬが花・・・と思っていた雰囲気は、だれのが叫び声で、あっさりくつがえされてしまった。
あっ!また来たっ。
指さす方角に、あの黒い影をみて。
少女たちは「キャー」と声をあげて、縮みあがる。
さて、きょうはだれを襲おうかな?
例によってたちの悪い含み笑いを泛べる吸血鬼に。
少女たちは口々に、非難をこめた。
えっ?えっ?みんなこれから、学校なんだよっ。
朝から血を吸うのは、よそうよ~。
夕べあれだけ、相手してあげたじゃない~。
真っ先に狙われたのは、結衣だった。
きみが一番、体調よさそうだね。きょうは試合ないだろう?
口許からあからさまに見せつけられた牙に、震えあがって。
迫られた少女は鞄を頭にあげて、みんなの周りをぐるぐると逃げ回って。
さいごにセーラー服の肩をつかまれて、首すじを噛まれちゃって。
撥ねた血で襟首の白いラインをよごしながら、泣き笑いをしている。
もうっ。新しい制服汚れちゃうじゃないっ。
くすくす。きゃあきゃあ。
血を吸われる少女を取り巻いて、はしゃいだ声の少女たちは、ひとりまたひとりと、捕まえられて。
真新しい夏服に、バラ色のしずくを散らしてゆく。
どうやら衣替えの日は、欠席する生徒が多くなるらしい。
あとがき
うーん、文章のキレが、いまいちですねぇ。
数日がかりで描いていた前作をあげてから二度寝したのですが、短時間にぐっすり眠りました。
寝起きは文章のキレがよくなるはずなんですがねぇ。。。
女装子たちの夜。
2012年06月01日(Fri) 05:26:34
奈子は、女装子。
セーラー服が、大好きで。
いつも夜の公園で、お散歩している。
自宅からちょっぴり離れた、その公園は。
夜は真っ暗になるけれど。
いけない女学生にとって、その闇は。
願っても得られない開放感を、与えてくれる。
今夜の奈子は、どきどきしていた。
だって・・・今夜は独りじゃないんだもの。
ずうっとメル友だった、初子さんと。
とうとう初めて、逢うことになっていたから。
いつもの駐車場には、車一台、停まっていなかった。
奈子はいつものように、ドアを開けて、周囲をひとわたり見まわしてから、
黒のオーバーニーに革のローファーの足を、地面につける。
昼間よりは肌寒さを交えた暗い外気のなか。
今夜のために新しくおろしたオーバーニーのしなやかな履き心地が、足許をキュッと引き締めていた。
いつもは、、誰かいないかとびくびくしながらそうするのに。
きょうは、人影が見られないことがちょっぴり拍子抜けをして、車を降りた。
どこに車停めたのかな?初子さん。
ひたひたと歩く、夜道の両側は。
この地域ならどこにでもあるような、ひなびた住宅街。
どんなに暗くても、すれ違ったら相手がわかるかもしれない、そんな道幅だった。
だれにもすれ違わないだろうか?
そんな臆病心と。
だれかにすれ違ってみたい。
そんないけないイタズラ心と。
今夜はどちらのほうが、まさっているのだろう?
このすぐ間近に、仲間がいる。
その事実が、いつも臆病な奈子を、ちょっぴり大胆にさせていた。
公園に着いた。
入口のすぐ手前まで迫った家々は、ちょうど日陰の側になっていて。
西陽をきらう家々の窓ガラスは、どの壁たちにも少なくて。
おまけに、時間も時間だったから…灯りも、ほとんど宿っていないのだった。
公園の向こう側は、川だった。
静まり返った闇の向こう、かすかなせせらぎが聞こえてきた。
あたりはいちめん、塗りつぶしたような闇―――
ああいけない。忘れるところだった。
奈子は胸ポケットにしまい込んでいたライターを、二三度点けたり消したりした。
初子さんと示し合わせた、目印の灯り。
ちかくにいてもだれがだれだかわからないこの空間で。
女装という後ろめたいはずの服装のまま、
奈子はちょっぴり、露出の快感を覚えている。
頬や二の腕、ミニスカートから覗いた太ももを。
ひんやりとした夜風が、心地よく撫でてくる。
奈子さん・・・?
ちょっと躊躇するような声だった。
齢よりはすこし、若い声色だった。
本物の女子学生と比べたら、はるかに年上の奈子だったが。
初子さんはもっと、年上のはず。
どういうわけか、相手が年上のほうが安心できる奈子だった。
そのための安堵感と、“女どうし”の連帯感が、奈子をすこし、リラックスさせてくれた。
初子さんは、顔をマスクで隠している。
奈子はかわいいから、そこまでしなくても女学生で通ったけれど。
あまりにも男顔だから・・・としり込みをする初子さんは、マスクをはずさないことを条件に、やっと逢ってくれたのだった。
暗いと…話しやすいですね。
男にしては、高めの声。けれどもへたな作り声よりは、よほど落ち着いた声だった。
ええ、そうですね。
奈子はドキドキしながら、相手の投げてきた言葉に、応えを重ねていった。
お互いどちらからともなく、女言葉で話していた。
初子さん、黒のストッキング似合うわね。脚がきれいだと、うらやましいわ。
いままでメール交換で、お互いの写真は見ていたけれど。
初めて見る初子の脚は、写真のとおりすらりとしていた。
毛の手入れが大変。
クスリと笑う初子に、「そうね」と、奈子も白い歯を見せていた。
そういう奈子さんも、紺のハイソックス似合うね。
あっ、これ黒なんだ。暗いからよく見えないのね。黒のオーバーニー。丈が合わないから。
初子さんは、黒のストッキングが好きだけど。
丈の長めのハイソックスも、好みらしい。
いつも脛の半ばで留まる丈の紺ハイソで満足していた奈子だったが。
きょうは初子の好みに合わせて、ひざ下ぴっちりまで、長い靴下で覆っている。
ほんとうは、初子さんとおそろいの黒のストッキングにしようかと思ったのだけど・・・
履きなれないし、破けちゃうと困ると思って、慣れたオーバーニーで、キメてきたのだ。
脚が長く見えて、いいよ。
奈子の心遣いを察したらしい初子は、嬉しげにそういった。
初子の声色が翳りを帯びたのは、そのすぐあとのことだった。
どうしてあなたを呼んだか、わかる?
え・・・?
ちょっと小首をかしげたのは。
初子の声が、ちょっとなまめかしく耳に響いたからだ。
なにかをこらえているように、初子は紺のセーラー服の胸を、小刻みに上下させている。
あたしね。ほんとうは、吸血鬼なの。
今夜は、奈子さんの血を吸いたくて、呼んだのよ。
・・・・・・。
一瞬絶句した奈子だったが。
すぐに活き活きとした女学生が、彼女のなかによみがえった。
あっ、そうだったの?いいよ。あたしの血でもよかったら・・・
自分でもびっくりするくらい。すらすらと。
奈子はよどみなく、初子の求めに応えていく。
相手が吸血鬼だという、現実ばなれした告白と。現実を通り抜けた服装が。
奈子をそうさせたのかもしれない。
え・・・?
こんどは初子が、だまる番だった。
ふつうのひとじゃないって、思っていたんだ。なんとなく。
奈子を選んでくれて、うれしいわ。
いつか奈子は、ほんとうに。
ずうっと以前から、初子に血を吸ってもらいたいと思っていたような気分になっている。
どうして丈の長い靴下おねだりしたか、わかる?
あなたのふくらはぎを、噛んでみたいのよ。
首すじ噛んだら、だいじな制服汚れちゃうでしょう?
そうなんだ。
奈子はすなおに、納得した。
噛んだ痕をオーバーニーで隠して帰れば、目だたないかも。
初子は早くも、ベンチに腰かけた奈子の足許に、屈み込んでくる。
まって・・・
ふくらはぎに唇を吸いつけようとする初子のために、黒のオーバーニーをずりおろそうとした奈子の指を、初子がそっと抑えていた。
このまま噛みたい。
いいかしら・・・?
奈子は一瞬緊張したが、すぐにふうっ・・・と息をついた。
初子は自分の欲情を、正直にさらけ出そうとしている。
ねぇ。
なぁに?
パンツおろしても、いいかな・・・?
ウン、いいよ。
初子はまるで幼馴染のイタズラを許すような、打ち解けた笑いを浮かべていた。
初子さんはどういうわけか、パンツに関心を示さない。
もっぱら、ハイソックスかストッキング。
だから今夜も、初子のために。
わざわざ新品をおろして、履いてきたのだ。
初子さんのための装いだから、初子さんに愉しませてあげなくっちゃ。
奈子は初めて血を吸われる恐怖も忘れて、脚をぐーんと伸ばしてみた。
おひざまでおろしたパンツの開放感が、奈子に恐怖を忘れさせた。
奈子の脚、かっこ悪いでしょ?筋肉質で・・・
うぅん、そんなことないよ。
それに・・・肉づきのいい脚のほうが、血をたっぷり摂れるんだもの。
きゃっ!初子さん、怖いっ。
どきりと胸を弾ませる奈子は、吸血されることをもう、怖がってはいなかった。
しなやかなナイロン生地のうえから、早くも牙でチクチクやり始めた初子に、
「あっ…あっ…やだっ…」
飢えた吸血鬼に襲われる女学生は、ちいさな悲鳴を洩らしつづける。
オーバーニーソックスの足許から唇を放した初子は、はしゃぐ奈子のようすを時折上目づかいで窺っては、ふたたび唇を吸いつけてきた。
奈子ちゃんのオーバーニー。いい舌触りだね♪
いかにも吸血鬼な初子の言いぐさに。
きゃっ。くすぐったいっ。
奈子もまた、ほんとうの女学生のように、脚をすくめてはしゃいでみせる。
初子さん、奈子のオーバーニー、噛み破る前にたっぷり愉しんでね♪
ツヤツヤとしなやかなナイロン生地に、よだれをたっぷりしみ込まされながら。
奈子はうっとりと、星空を見あげた。
ああ、噛まれちゃう。初子さんに、噛まれちゃう。
噛まれて血を吸われちゃう。奈子も吸血鬼になっちゃう。
どきどき。どきどき。
いまこうして、高鳴る胸の鼓動を支えている血液も、初子さんの唇を通して彼女の体内に引き抜かれてしまうのだろう。
ふたたび密着してきた唇は、ヒルのようにしつようで。
妖しい粘液に似た唾液を、しなやかなナイロンごし奈子の皮膚にしみ込ませてきた。
かりり・・・
足許をゆるく締めつけるナイロン生地ごしに、硬くて尖った異物が、食い込んできた。
じわっ・・・と滲む生温かい血潮が、オーバーニーソックスのふくらはぎを濡らす。
ああッ。
さすがにひと声、ちいさな悲鳴を洩らしてしまった。
奈子ちゃん、かわいい♪
顔をあげてニッと笑った初子の唇に、吸い取ったばかりの奈子の血が、きらきらと輝いていた。
きれい・・・
奈子はうっとりと、笑い返していた。
ちゅうちゅう・・・ちゅうちゅう・・・
どれほど血を吸い取られたのだろう?
初子さんは、奈子の両脚にかわるがわる噛みついてきて。
ごくごく、ごくごく、喉を鳴らして奈子の血を飲み耽っていった。
献血よ、献血。
奈子の血を欲しがっているお友達に、優しい奈子は献血しているの。
時折湧き上がってくる恐怖感をなだめるため、奈子は自分で自分に言い聞かせて。
けれどもそんな必要は、初めのうちのことだった。
自分をあくまでも女学生として遇してくれる初子に、奈子はすっかり、ほんものの女学生になり切っている。
ローファーの足首を捕まえようとする初子をまえに。
奈子は脚を差し伸べたり引っ込めたり、きゃっ、きゃっ・・・とはしゃぎながら、
初子相手の吸血に応じていった。
明け方―――。
失血のあまり、さすがにぼうっとなった奈子に、初子はささやいた。
あなた。もう吸血鬼になっちゃったわ。
え・・・?
ふと口許に手をやると、唇の両端から覗く尖った異物が、指先を刺した。
あっ、痛っ!
あわてて飛び上がる奈子に、初子はくすくす笑っていた。
ほら、牙が生えちゃったでしょ?あなた吸血鬼になっちゃったの。もう初子の仲間よ。
あー、そうなんだ。
だいそれた事実を突きつけられても、奈子のなかに深刻な感情はなかった。
初子さんの牙ほど、長くないよね。
うん。奈子さんの牙、可愛いよ。これから人を襲うたびに、切れ味がよくなるからね。
だれを襲っちゃおうかなっ?うふふふっ。
職場の女性やかえり道でよく見かける女学生のことを思い出して。
奈子はほんものの少女のように、おどけて肩をすくめてみせた。
でも・・・あたしなんかに、本当に人の血を吸えるのかな・・・
口許に牙が生えたことと貧血で頭がぼうっとなっている以外、奈子の身体にとくに変化はない。
アニメやエロゲーに出てくるみたいに、眼がらんらんと輝いているわけでもなければ、毛むくじゃらになってしまったわけでもない。
奈子の疑問も、もっともだった。
あなたの体内には、まだ血が残っているわ。
だからあなたはこれからも、うわべはふつうの人間として生きるの。
ふつうにご飯も食べられるのよ。ここのお米、おいしいじゃない。
初子はクスリと笑った。
残りの血は、いまは吸わないで…時々初子が愉しんであげる。
血を抜かれて冷え切った奈子の身体に、なにか別種の暖かいものが、めぐり始めていた。
よかった。これからも初子さんに、血を愉しんでもらえるの?
奈子をあなたの、奴隷にして。あたし献血に励んじゃうから。
アブノーマルかもしれないその感情はしかし、与える立場のものだけが持ち得る情愛なのかもしれない。
そうだね。血を吸うのは、たまにでいいんだよね。
でも初子さん、ときどき奈子の血も吸ってね。
こんどはお気に入りの紺ハイソ、初子さんに破らせてあげる。
初子はくすぐったそうに、笑っていた。
奈子の申し出に、それは嬉しそうだった。
血のりを帯びた唇が、ひっそりと言葉をつむぎ出していく。
お礼に初子の血もあげるわ。
あなたもう、血を吸えるのよ。
うそだとおもったら、初子の血を吸ってみて。
ひざ丈のプリーツスカートの下。
初子のふくらはぎは、薄手のストッキングに、なまめかしい墨色に染まっている。
え・・・?でも悪いよ。ストッキング破けちゃうよ。
ううん、いいの。奈子さんには特別に、破かせてあげる。
だってあたしも、奈子のオーバーニー破っちゃったんだもの。
奈子のなかで、いままでにない渇きの衝動が、妖しく衝きあげてきた。
そうだね。おあいこだね。じゃ、あたしも初子さんのストッキング、噛み破らせてもらうね。
うん、初子のストッキング・・・破って頂戴。
初子は目を瞑り、奈子の牙を待った。
ドキドキ昂ぶりながら、初めて吸いつけた唇の下。
なよなよと薄いストッキングは、他愛ないほどもろかった。
薄いナイロン生地越しに感じた皮膚のぬくもりに、奈子はたちまち欲情を覚えて、
見境なく、噛みついていた。
ストッキングはみるかげもなく破れ、それでも飽き足らず奈子は初子のストッキングをびりびり破きながら、
さっき初子にされたように、左右の脚に代わる代わる唇を吸いつけて、血を吸った。
初子さん、おいしい。美味しいわ・・・
あたし・・・イケないコトに、はまっちゃいそう。
うわごとのような囁きをくり返しながら、なおも足許に屈み込んで、黒のストッキングを唇で凌辱しつづける奈子の髪の毛を、初子はいとおしげに撫でつづけていた。