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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ばっ、ちーーーん!

2012年07月31日(Tue) 08:14:54

両親が吸血鬼に襲われた。
それは、あっという間の出来事だった。
相手の吸血鬼は、わたしと妻が棲みついたこの村の住人だった。
祖父母が孫の顔を見に来ると聞きつけると、人妻に目のないあいつは、妻のつぎにわたしの母を所望した。
断ることはむろん。。。許されなかった。

あっけないほど、他愛がなかった。
さいしょに父が咬まれ、血を吸われて卒倒すると。
両手で口を抑えて立ちすくんだ母は、スーツ姿のまま吸血鬼に抱きすくめられて、首すじを噛まれていった。
わたしたち夫婦が初めて姦(や)られたときと、おなじ経緯で。
薄っすらぼんやりになってしまった父のまえ、
母はためらいながら、スカートの裾をまくり上げられて。
ずり降ろされたストッキングをふしだらにたるませた両脚を、おずおずと開いていった。

母は、優等生だった。
自分の貞操と引き換えに、ふたりの命乞いを聞き届けてもらうと。
ぞんぶんに愛された挙句、ふたたび逢う約束にさえ、応じていって。
涙を目じりにためたまま、身づくろいを済ませると。
ふつつかでございました。
相手に丁寧にお辞儀をして。
申し訳ありませんした。
長年連れ添った夫に、深々と頭を下げた。

意気揚々と吸血鬼が去っていった後。
母は穏やかにほほ笑みながら、わたしのところに身を運んできて。

ばっ、ちーーーん!

目もくらむような、平手打ちだった。

おまえは、取り返しのつかないことをした。
母として、赦せない。

いったんは引き締めた口許を、それでも母はすぐに緩めて。

けれども、女としては、感謝する。

口をへの字に曲げて、荷物をまとめると、
父にはひと言、「帰りましょう」そう告げて、汚辱を体験した場に背を向けた。

父とわたし、男ふたりはぽかんとして顔見合せて。
上気した父はわたしを見て、こういった。

ま・・・男として、感謝する。
嫁さんと、うまくやりなさい。

まぁ・・・まぁ・・・
戸惑う妻が、玄関に立つのを制した母は。

真理子さんも、御苦労が多いわね。
なにもなかったような落ち着いた物腰で、嫁をねぎらうと。

ときどき寄らせてもらいますからね。

そう囁いて、起っていったという。

以来しばしば、連れだって。
この夫婦は村を訪れるようになっている。
来るたびに、母のスーツを新調する費用で、頭を悩ませるのが。
たぶんわたしに課せられた、ペナルティなのだろう。


あとがき
おっかなくもさばけたお母さまのお話でした。
(^^ゞ

いくつ描いた?

2012年07月31日(Tue) 08:01:36

久しぶりの、連続あっぷになりました。
さいごのひとつは別のお話ですが、
「ある人妻と家族の記」というおなじタイトルの一連の作品は、ひとつづきのお話です。
6連発か。 笑
寝取られ嗜好のあるかた限定ですが、よろしかったらお立ち寄りくださいね。^^
人妻美智子の悪妻ぶりが、なかなか際だっておりますぞ。^^;

夫婦の生き血。

2012年07月31日(Tue) 07:59:18

ある夫婦は、俺を相手にしたときに。
互いに相手を呼び合って、泣き合いながら、血を吸い取られていった。
並んで仰向けになって、それでもギュウッと握り合った掌を、放すまいとしていた。
俺は夫の首すじから血を抜き取り、つづいて細君の首すじから同じ経緯で血を吸い取った。
腹具合は、上々だった。
仲の良い夫婦の血潮は、胃の腑のなかでもよく織り交ざるらしい。

べつの夫婦は、俺を相手にしたときに。
やはりお互いをかばい合いながら、血を吸われていった。
仲のよくないことで有名だった夫婦なのに。
さいしょはキリリと痛んだ胃袋が、いつの間にかよい具合になっていった。

お前たち夫婦の血を吸ったら、腹をくだしたぞ。
俺の血を吸い取った吸血鬼に、そんな苦情を言われてどれくらいになるだろう?
夫婦げんかの絶えない家庭だった。
俺が静かになってしまった傍らで、初めて浮気を愉しむ機会を得た女房は。
亡き夫の傍らで、よがり声をあげつづけていたという。

夫婦向き合って、ためらいながら。
女房は俺の首すじに、唇を吸いつけて。
俺は俺で、女房のふくらはぎに咬みついて。
女房は俺にストッキングを噛み破られると、「エッチ」といって、非難した。
俺が血を吸い尽くされた後、自分がどれほどエッチだったのか、俺が知らないとでも思っているのか?
しきりに相手の血を吸い合うようになって。
俺たち夫婦は初めて、相手の血を美味しいと思うようになった。

ふすまが出し抜けに開いた時、隣室の主の血潮で頬をべったりと濡らしたあの男は、
ご両親は仲がいいのだな。
浴衣の襟元を真っ赤にした父は、惚けたように大の字になって。
情夫好みに洋装に装った母は、古風なブラウスをバラ色に濡らし、黒のスカートのすそは白く濁った粘液に濡らしていた。

ふつつかでした。
母ははだけたブラウスの胸元をかき合せて、気丈にお辞儀をしていたし。
ときどきお出で。
父は片手をあげて、自分の妻を犯した男を送り出していた。

どこのご夫婦を襲いますか?
妻が耳元でささやくと。
俺はためらいもなく、こんど式を挙げる息子の相手の両親を名指しする。
きっと。。。お味の相性もよろしいことでしょうね。うちの夫婦と違って。
フフンと嗤う妻。
けれどもお互いの血を漁り合う日常に、お互い知らず知らず、焦がれはじめていた。

ある人妻と家族の記~解決になっていないかもしれない結末について~

2012年07月31日(Tue) 07:22:11

~ミチオの手記から~

週末は咲田さんが、我が家を訪問する日です。
そういう時には必ず、まえもって連絡があるのです。
あらかじめご主人の了解を得てからのほうが、やはり適切でしょうから・・・
咲田さんはどこまでも、冷静な人です。
人当たりの良さはどんなときにでも、変わることはありません。
では、お邪魔しますよ。
玄関にあがるとき。そして、夫婦のベッドにあがるとき。
彼は同じ挨拶を、紳士的な口調で重ねてきます。
どうぞ、よろしいように・・・
わたしはいつものように彼の手を取って、その手を妻の手に重ねてやります。
スリップ一枚の妻は、夫婦のベッドのうえ正座をして待機していて、
お行儀よく重ね合わせた手の甲で、スリップの裾を抑えるようにして、太ももにあてています。
ベッドに上り込んだ彼は、わたしの目のまえで妻と唇を重ね合わせますと、
お互いの睦まじさを見せつけるように、しつようでねちっこい接吻を愉しみ始めます。

いちおう、縛らせてもらいますよ。
夫の目のまえで見せつけるというけしからぬ趣味の持ち主である貞操泥棒は、かつてはそういって、わたしのことを縛りつけたものですが。
信用していないみたいで、お嫌でしょうね。
あるとき以降、戒めを解いてくれたのでした。
けれどもロープはいまでも、欠かせない三人共通の玩具です。
妻を縛る時もありますし・・・わたし自身、服の上からギュウッと縛られるあの感覚が病みつきになってしまって・・・あえて縛っていただくときもあるのです。

こんなまがまがしいことを・・・かつては想像もしたことがありません。
けれどもいまでは、まるでポルノ女優の名演技にでも見入るようにして、見慣れた服を着くずれさせながら媚びを売る妻の痴態から、目が離せなくなっているのです。
あなたはいつも、手際がよろしいですね。
わたしが冷やかし半分にそういったのは、夫婦のベッドを横目にして、ふたりの熱い情事に目をやりながらのことでした。
そう、彼のセックスはいつもスマートで、格好良かったのです。
それでいて、肝心のところは、まるで飢えた獣のように獰猛で、卑猥きわまりないものでした。
美智子はこんなふうにしてやると、悦ぶんだぜ?
彼の言いぐさのままに交わした夫婦のセックスで、妻が新婚のころのような陶酔をうかべたときには、パートナーとしての満足と、夫としての淡い嫉妬とが、たまらないほど交錯したものでした。

手際がいい。
わたしがそう褒めると、彼は柄にもない照れ笑いを泛べます。
このひと照れ屋なのよ。
男ふたりのやり取りに、妻はそういって笑いました。
ええ、夫以外の男のまえだというのに、スリップさえ脱がされた全裸の格好のまま。

彼の照れ笑いには、理由がないわけでもありません。
奥さんの華絵さんを吸血鬼氏に手籠めにさせたのも、じつは彼自身だというからです。
妻には、愛情のかけらも感じていませんでした。
けれどもあの安ホテルの一室で・・・あなたはご存じないか・・・目のまえで妻を征服されたとき、不覚にも失禁してしまったのですよ。
いちおう縛りますね・・・っていわれて、スーツのまま縛られて。なぜかスラックスだけ、脱がされたのです。
ええ、びゅうびゅう射精しているところを、妻に視られちゃったのですよ。
色男も、かたなしでしょう?
洗練されたエリートだった彼がこんな無様なことをためらいもなく口にするようになったのは、秘密を共有するもの同士の気安さからでしょうか?
いちおう縛りますね。
そういえば彼がそういうときには決まって、スラックスだけは脱がされるわたしでした。

ときどきね。もはや七十をとっくに過ぎた父が、嫁の関係である華絵の部屋を訪ねているのですよ。
母がいなくなってからずっと、華絵に執心だということがわかりましてね。
老いらくの恋を愉しませてやるのも、親孝行なのかもしれませんね。
奥さんと義父とのそうした関係を語る時も、彼はいつものように、淡々としているのでした。

私だけいい思いをするのもなんだから・・・と。
奥さんの華絵さんとの逢瀬も、彼は認めてくれたのですが。
やはりわたしには・・・そういう器用なことはできないようです。
たぶん・・・いえ、きっと。
わたしは妻一人を守りつづけて、時おり目のまえで犯される妻の痴態を愉しむ日常をくり返していくのでしょう。
そう、たとえ挿入される一物がわたしのものではなくても、それは間違いなく夫婦の交わりだと思うので・・・

わたしたちに歪んだ愉しみといびつな性関係を与えた吸血鬼氏は、いまどこにいるのでしょうか?
わたしたち夫婦の血を吸い、妻の情夫氏の細君まで堕としてしまった、腕利きの悪魔。
案外と・・・それは私たちの描いた、幻影に過ぎなかったのかもしれません。

一方的に寝取られている夫婦生活というものも・・・そう悪いものではありませんよ。
あなたもいちど、だれかに囁いて見て御覧になりませんか?
家内の生き血を、吸ってください・・・と。

ある人妻と家族の記~夫である、半吸血鬼ミチオの場合。

2012年07月31日(Tue) 07:00:43

あんたは、ひどい人だ。
歯ぎしりをして悔しそうに俯いているのは、あの女の夫だった。
すでに死んだはずの身―――それが帰宅を妨げているというのは、ミチオ自身の生まじめさのゆえだろう。
わたしは家内を、わたしだけのものにしておきたかった。
だから、わたしの血と引き換えに、家内も連れ去ってくれるよう、あなたに頼んだのだ。
いったいなんのために、こんな境遇に落ちたというのでしょう!?
一人の男としての怒りと悔しさを思い切りよくぶつけてくるミチオに、俺は初めて共感のようなものを感じていた。

あんたはえらいな。いや、冷やかしじゃなくて、そう思うよ。
けれどもあんた、美智子の浮気を止める気は、もうないんだろう?
面と向かって妻の名前を呼び捨てにされる気分は、どんなものだろう?
じぶんの妻の名前をわざと呼び捨てにしたとき、やつはちょっとだけ、頬をこわばらせた。
けれどもやつの言葉の勢いは、留まるところを知らなかった。

いったいどんなふうに、事態を収拾するというんです?
わたしは半吸血鬼になってしまった。家にも帰れない。
妻はあいつの公然たる情婦に堕ちてしまった。
そしてあいつの奥さんは、今や公然とあなたに抱かれている。
こんな関係が、許されるというのですか!?

男がいきり立てばたつほど、俺はのほほんとした顔つきになっていくのを、どうすることもできなかった。
しょうがねぇだろ。なるようになったんだから。
俺がぽつりと本音を漏らすと、男は言いつのった言葉を初めて、つんのめらせていた。
あとは、あんた次第だよ。
とどめを刺すように俺はそういうと、男に冷やかに背を向けていた。

夫を弔う法事の帰り。
妻が自身の清楚な喪服姿を、爛れた情事のるつぼに、ためらいもなく叩き込んでしまうのを。
まるで自分のことなど忘れ果てたような妻が、情夫と手に手を取り合うのを。
それほどに深い関係に堕ちた情夫をもちながら、吸血鬼相手の路上でのセックスに励んでしまうのを。
なにもかも視てしまった。
男はそう、訴えるのだった。
俺は小気味よげにそのありさまを観察して、そして最後につぶやいたのだ。
すべて・・・あんたの思い通りに、収まったんじゃないのかな?

ある人妻と家族の記~浮気相手の愛人の奥さんの場合 2

2012年07月31日(Tue) 06:53:20

愛されているのね?愛されて・・・いるんですよね?
女はあらぬかたに視線を惑わせながら。
ベッドのうえでひたすら、乱されてゆく着衣のふしだらさを気にかけていた。
女が身にまとうのは、漆黒の礼服。
俺に血を吸われて果てた男の法事に、故人の妻の愛人とその妻は、神妙な面持ちで列席して。
そのかえり道に、俺の投宿する場末の安ホテルに立ち寄ったのだった。
もちろん、喪主である故人の妻も、前後して現れた。
いまごろ隣室では、置き捨てられた夫の遺影のまん前で、未亡人は己の情夫とあられもなく乱れあっているのだろう。
そしてこの部屋では―――
邪魔者扱いされた正夫人が、夫公認の情事に、自ら堕ちていこうとしていた。


まあ・・・なり行き上しかたないですよね?
妻の貞操が喪われた報せに接しても、男はあくまでも淡々としていた。
賢婦人という形容がふさわしいあの気高い妻に対しては、もう愛情のかけらも残っていないのだろうか?
血を吸われた妻が、ことのついでにと凌辱まで受けた経緯を俺から聞かされながら。
彼は顔色ひとつ、変えなかった。
ボクには彼女がいますから。
そういって振り返った美智子未亡人は、もう夫のことなど忘れ果てたと言わんばかりに、情夫と手に手を取り合っている。
その場に華絵夫人がいなかったことは、彼女のために幸いだっただろう。


ミチオさんの法事の帰りに、どうです?
水を向けてきたのは、男のほうからだった。
俺にいなやはなかった。
彼が夫人同伴で、ホテルで待つ俺のことを訪問する。
法事の後始末をつけた美智子がホテルに現れるまで、古びたベッドを軋ませながら、俺は華絵を辱めた。
不思議な男だった。
ひまなんで、お邪魔してもいいかな?
いったんは美智子と待ち合わせた隣室に引き取った情夫殿は、そういって部屋のドアをノックした。
悪いけど、縛らせていただくよ。
俺の言いぐさに、唯々諾々と、スーツのうえからロープを巻かれながら。
羞じらい目をそむけながら、夫の前で辱めを受けようとする妻のことを、じいっと凝視していた。
漆黒の礼服を乱された女が、ベッドのうえ四つん這いになって。
スカートのすそを揺らしながら受け容れつづける吶喊に、思わず声を洩らしても。
男は微動だにせず、巻かれたロープをほどこうと身もだえすることもせず、
目のまえで堕ちてゆく妻の痴態を、深い視線で見守りつづけた。

愛されているのね?そうよね?わたくし、愛されているんですよね?
俺の腕のなか、夫の前で凌辱を遂げられた貴婦人は、あらぬことを口走りながら、
逆立った一物を咥える という。
さいしょは強要された、夫にさえしたことがないという行為に、自分からねだるようにして、しゃぶりついてきた。
ふたたびドアがノックされたとき、彼の妻は黒のスリップにストッキング、それさえも着くずれさせて、髪を振り乱しながら大またを開いているさい中のことだった。

部屋を変わりませんか?
男はぶっきら棒にそういうと、俺の返事も待たずに自分の妻のうえにのしかかった。
ヒュ~♪
俺は低く口笛を鳴らすと、あっさりその場を譲って、未亡人が待つ部屋へと足を向けた。
男ふたりは全裸のまま、ホテルの廊下を行き来した。


ほんとうは、マゾなんですよ。あのひと。。
支配欲は人一倍つよいくせに、マゾなのよ。
美智子未亡人は俺に向かって、そう訴え続けていた。
じゅうたんの上四つん這いになった女は、屈従のポーズを続けながら、俺の吐き出す濁液で、身体の奥底まで濡らしていった。
主人もマゾだったのです。
もちろん結婚した当初は、そんなことわかりようもありません。
けれどもわたくし、だんだんと飽き足らなくなっていったのです。
その時目のまえに現れたのが、主人の仕事の関係でご縁のできた、あのひとだったんです。
主人を出張に行かせた留守に上り込んできて・・・なにもかも奪われてしまった時。
わたくし、初めて燃えたんです。
もう・・・大きな子供だっている齢だったのに。
それ以来、やめられなくなっちゃったんです。
情事を隠しつづけるのが苦しくなって、夫が邪魔になってきて・・・子どもたちから父親を奪ってしまいました。
わたくし、勝手な女ですよね?

ふふ。
俺はほくそ笑みながら、女の耳もとに、彼女の知らない事実を告げてやる。
あの男。血を吸われて絶息する間際、俺に言ったんだぜ?
家内の血を吸ってくださいってね。
え・・・?
女は怪訝そうに、俺のほうを振り返った。
俺はよどみなく、続けていた。あの夜のことをありありと、思い出しながら。
そうして、あの男の手の届かないところに、あんたを連れて行きたい・・・てね。
美智子未亡人は目を大きく見開いて、ふうっ・・・と、ため息をついた。

ある人妻と家族の記~浮気相手の奥さんの場合

2012年07月31日(Tue) 06:28:53

だいじょうぶよ。なんの障害もないわ。
あのひとだって、自分の奥さんがそうなるのを、望んでいるんだもの。
すんでのことで路上に屍を曝すはずだった女は、血色を喪った頬を妖しく輝かせながら、
なおも毒液を、俺の耳もとに注ぎ込んでくる。
あのひとの奥さんを襲って。血を吸って。
浮気相手の奥さんくらい目ざわりなものは、この世にいないんだから―――

いちおう俺は、犠牲者の亭主にあらかじめ逢っておきたいと言った。
え?それは・・・
女はすこしためらいはしたが、すぐに思い直したらしい。
ターゲットを誤りなく堕としてしまうには、やはり身内の持つ情報が決め手だと考えたのだろう。
女というのはつくづく、怖ろしい生き物だ。

三人で逢ったのは、あのホテルのロビーだった。
はじめて面と向かった情夫殿は、さすがになかなかの風采だった。
さいしょに毒牙にかけたこの女の夫は、誠実な醜男だったが、
それとは正反対に、目の前の情夫殿は、不誠実な美男子だった。
なにしろ・・・人妻をひとり堕落させ、いまはまた邪魔になった自分の妻を処理しようというのだから。

コーヒーを勧められた俺がやんわりと断ると、「ああ、それはそうですよね」と、男は照れ笑いを泛べた。
笑うと存外、無邪気な顔をする男だった。
俺はちょっとした親近感を、覚えていた。
ぶきっちょで誠実そうな夫にないものを、女はこの男に求めたのだろう。
なにしろ肩の凝らない男だった。

奥さんは働いているの?
いや、専業主婦ですよ。
家族はほかにいないの?
娘と息子がいるけれど、独立しちゃってもう家にはいないなあ・・・若いひとがいなくて、残念でしたねぇ。
そういって男は、俺や情婦のことを笑わせた。
すべてが洗練されていて、手際が良かった。
長年連れ添った妻を吸血鬼の毒牙にかけることへの罪悪感など、微塵もそこにはなかった。
騒ぎになるとまずいから、自宅は避けたい。
行動範囲の狭い彼女のことは、仕事関係の結婚式という名目で、夫自身が連れ出す。
場所は俺が投宿している場末のホテルで、急な宿泊でそこしか取れなかったという言い訳は、夫のほうでする。
彼女から聞きましたよ。あなた、服フェチなんでしょう?
家内は齢ですが、着飾ればそれなりに見映えはするんですよ。いまさら女房自慢でも、ないですけどねぇ。
ははは・・・乾いた声で嗤うと、男は言った。
せめて最後くらい、ウットリさせてやってくださいよ。
社会通念上必要とされるなにかの手続きを淡々と進めるかのような、小気味よいほどの段取りのよさだった。


両手で口許を抑えながら、恐怖で真っ蒼になった女は、密室の壁ぎわに追い詰められていた。
いっしょにいた夫が立ち去るのと入れ違いに吸血鬼の訪問を受けた女は、相手の意図をすぐに知ることになった。
この街は、人間と吸血鬼とが共存する街―――
目じりを血走らせ口許から欲情の滾った唾液をしたたらせた目のまえの男の意図は、説明をうけなくても察しがついたのだった。
五十をすこし過ぎたばかりのその女は、たしかに彼女の夫が自慢するように、なかなかの女ぶりだった。
栗色に染めたショートカットの髪に囲まれた色の白い丸顔は、
二重瞼に縁取られた魅力的に輝く大きな瞳と、秀でた鼻梁を備えていた。

生き血を吸われているあいだ。
姿見に写る貴婦人は、黒のロングスカートのすそを心持ち乱して、
茶系統の花柄のブラウスを、婦人のたしなみを喪わない程度に着くずれさせて、
激しくかぶりを振りながら咬まれた首すじから、深紅の血潮をたらたらと滴らせて、
細くてノーブルな眉を、神経質にピリピリと震わせていた。

う、ふ、ふ、ふ・・・
押し倒したじゅうたんの上。
恐怖に引きつる女の目のまえで、俺は口許を弛めると。
吸い取ったばかりの血潮を口許からわざと滴らせて、
こぎれいなブラウスの上に、ぼとぼととほとび散らせてやった。

死ぬのは仕方ありません。でも、女の誇りだけは、とっておいてくださいませ―――
古風な女がしおらしく願ったことは、遺憾ながら俺がもっとも期待していた美味しいご褒美になるはずのものだった。
すまないが、ご期待に沿うことはもう難しいと思うね。
無慈悲に言い放つと、女は悔しげに横を向いた。
俺は彼女の頬に、深い深い接吻を埋めた。
しつこ過ぎます。
女としての苦情を受け流すと、手指を女のブラウスのすき間にすべり込ませた。
この女の旦那が言外に許容を含めた役得を、したたかに得るために。
あっ、いけません・・・
女の制止はますます、油に火を注いでいった。
女の唇を奪いながら、ブラウスの下でブラジャーを剥ぎ取って、豊かな乳房にまさぐりを深めてやる。
いや・・・いや・・・
女の目じりは、涙に濡れていた。
彼女の夫やその情婦とは裏腹な、廉潔な倫理観の持ち主らしい。
嗜虐癖をあおられるようにして、俺は女の肢体を虐げていった。

ひざ小僧のあたりまでずり降ろされた、黒のストッキングを。
じゅうたんの上座り込んだ女は、立て膝をして、虚ろな目をしてひき上げてゆく。
ふしだらにたるんだ薄地のナイロンは、いまいちどきりりとした張りを取り戻して、
女の足許をなまめかしく染めた。
俺は女の足首を掴まえると、ストッキングのうえからふくらはぎを吸った。
吸いつけられた唇に、女は厭うような視線を注いだが、それでも身づくろいする手を止めなかった。
ふくらはぎを這いまわる唇の下。
グイッと刺し込まれる牙に、薄地のナイロンがかすかな音をたてて裂けて、
涙の痕のようにほろほろと、縦に伝線を拡げていった。

ある人妻と家族の記~本人・美智子の場合

2012年07月31日(Tue) 05:59:51

じゃあね。またね。
ああ、また声かけるから。
愛してるわ♪
俺もだよ♪

クサい科白は、はたからきいているといっそう、白々しいものだ。
ホテルから出てきたふたりが別れを惜しむのを、俺はじりじりしながら待ち焦がれた。
女が単独でそのホテルに来たのは、夕刻というにもまだ早い刻限だった。
法事帰りの女は、ブラックフォーマルに身を包んでいたが、
清楚な装いに隠された肢体は豊かで、そして淫らな血潮を秘めていた。
足許を蒼白く透きとおらせている墨色のストッキングが、まるで淫売が脚に通す商売道具の網タイツのようにふしだらに、俺の目には映っていた。
男がやはり単独でそのホテルの玄関先に消えたのは、午後六時を回ったころだった。
勤め帰りらしい彼は、ドブネズミ色のスーツを着ていた。
そして、夫を弔うための装いは、男を悦ばすための小道具になり下がった。

たがいに背を向けて足音を遠ざからせていくふたりのうち、俺は女のほうを選んでいた。
なにしろ―――こんかいのていたらくの依頼人は、女のほうだったから。

行く先を遮るように、ぬうっ・・・と現れた俺に、女は「ひっ!」と悲鳴を飲み込んで立ちすくむ。
俺だよ、俺だ。
なにもかもわけ知りなのだ・・・と言いたいのもあからさまに、俺は親しげに女に顔を近寄せた。
あっ、こんばんは。
女はぶきっちょによそよそしく、俺にむかって改まった会釈を返した。
このたびは。
俺がそらぞらしく、悔みをいうと。
どういたしまして。
さっきまで弔問客にそうしていたそのままに、女は儀礼的なお辞儀をしてくれた。
じゃあ、お礼をはずんでもらわなくちゃな。
俺のくだけた言い方に、女は息を呑んで立ちすくむ。

カッカッカッカッ・・・
ヒールが路面に響かせる硬質な足音に、俺は音も立てずに距離を詰めてゆく。
肩ひもを振り回すように提げつづけた黒革のショルダーバッグさえ投げ捨てて、女はその場を逃れようとしたけれど。
投げ捨てたバッグが路面に落ち着くころにはもう、黒の礼服の両肩を、俺に抱きすくめられてしまっていた。
漆黒のワンピースから覗く肩先に飢えた唇をしゃぶりつけると――――
俺はかねての予定通り、深夜の路上を吸血の場に変えていった。

あーっ。あーっ。あぁ~っ。
女は路面を這いずり回って逃れようとしながら、
肩を掴まれては首すじを噛まれ、
脚を掴まれてはふくらはぎを吸われ、
漆黒のワンピースがしとどに濡れそぼるほど、濃いバラ色に染めて。
黒のストッキングを脛が露わになるほど、噛み剥がれて。
低い声でなんども呻きながら、俺に生き血を吸い取られていった。
淫らな女の生き血は、旨い―――
俺は久しぶりにありつく女の生き血に、すこぶる満足を感じていた。

わ、わたくしを殺すとおっしゃるの?
上流夫人らしい女は、それでも礼儀正しい言葉づかいだけは、棄てずにいた。
あっぱれだと感じた俺は、称賛のしるしにもういちど女のうなじを噛んで、
飛び散る血潮の帯をワンピースに横切らせてやった。
淫らな芳香を放つ血潮は、俺を魅了するにじゅうぶんだった。
逆立ったペ〇スを目にした女は、それでもまだ自分のほうにも分があると心得たのだろう。
心にくいほど誘い上手なところを、見せていた。
路上で犯されちゃうのね?こんなの、初めてよ・・・

ワンピースの上半身を持ち主の血潮で彩ってやったのと同じくらい濃く、
下半身は白く濁った粘液で、しとどに濡れそぼっていた。
びゅうびゅうと勢いよくほとび散らせた精液は、女を骨の髄まで、汚し抜いていた。
寝静まった街の路上で、礼服を半裸になるまではぎ取られた女は、
ひーひーとあからさまな随喜の声を響かせて。
視られてたって構わない。もっとしようよ。
イタズラを愉しむ少女のように、白い歯をみせて俺を誘いつづけていた。
女が毒矢のような言葉を放ったのは、そのときだった。

あのひとの奥さんを、襲ってくれない?

あのひと・・・?
訊き返すまでもなかった。
自分の浮気相手の、奥さんのことだった。

ある人妻と家族の記~夫・ミチオの場合

2012年07月31日(Tue) 05:40:34

吸血鬼と人間が共存する街―――といっても、そこには一定のとっかかりが必要だ。
だれか一人を襲って腑抜けにしてしまい、あとは芋づる式に供血者の輪を広げてゆく。
それが俺たちのやり方なのだ。
げんに俺だって・・・そういう輪の端っこにいて、とある吸血鬼に血をプレゼントしてしまったのだから。

その人妻は、美智子という。
もちろん、仮の名前と思っていただいてけっこうだ。
その美智子をもう少しで毒牙にかけようとしたときに。
女は正体を明かさない俺のことをあらかじめ見通していたかのように、言ったのだった。
―――夫の血を吸っていただけないでしょうか?
と。

え・・・?
訊き返した俺は、もう本性を隠すのは野暮だとばかり、あとはなんの説明もしようとはしなかった。
夫が邪魔なんです。この世からいなくなって欲しいの。
血を吸われて死ぬのって、ウットリしてそのまま逝けるそうですね。
まぁせめて・・・楽に死なせてあげたいわ。
女の言いぐさは恐ろしいものだったが、俺にいなやはなかった。
だって女はさいごにつけ加えたのだから。
お礼はわたしの血―――ということで、いかがでしょうか?って。

深夜の路上で、美智子の夫・ミチオは、髪を振り乱し息せき切って逃げ惑った。
けれども勝負はもちろんのこと、あっけなくついてしまったのだった。
首すじをがぶりとやられた彼は、そのまま動けなくなってしまい、
貪欲な俺の唇にちゅーちゅー飲(や)られながら、じょじょに身体の力を抜いていった。
楽な仕事だ―――そう思いかけたとき。
男は息荒く、しかし低い声で言ったのだった。
最後のお願いです。うちの家内の血を吸ってください!

え・・・?
意外な言いぐさに、俺はぽかんと口をあけ、間抜けな顔つきになって男に訊き返した。
あんたの奥さんの血を吸って、いいと言うんだな?

エエ、エエ。あの女は悪魔です。いえ、悪魔に魅入られてしまったのです。
あいつは浮気してます。相手は近所の男です。
わたしが死ぬのなら、妻も道連れにして・・・そう、あの男の手の届かないところにいっしょに連れて行きたいのです。

男の言いぐさは、もっともだった。
あんたの奥さんのことはよく識っている。必ずそうしよう・・・
俺がそう応えてやると、男は満足そうに、苦しい息の下、みじかいお礼を洩らしてくれた。
礼には及ばない。お前の女房は美人でいい身体をしているからな。
知らなかったのかね?
吸血鬼が女の血を吸うときは、犯してやるのがならわしなんだぜ?

俺があからさまに、あんたの女房を犯す・・・と告げてやると。
男は悔しそうな顔をして・・・そしてなぜか、くすぐったそうな笑みをよぎらせた。
それが男の死に顔になった。
四十代の男は、その身体から働き盛りの血を全部抜かれて、あの世とやらに旅立とうとしていた。

夜道の女学生と吸血鬼

2012年07月25日(Wed) 07:30:16

その夜、初子は夜道を急いでいました。
お母さまにお使いを頼まれた後、すっかり遅くなってしまったのです。
お使い先は、お母さまのお友だち。
還暦すぎの、それは淑やかな感じのおばさまでした。
文学少女な初子はおばさまのお宅の並みいる蔵書に圧倒されて時を過ごして、気がついたらもう真っ暗だったのです。



だ、だれ・・・!?
初子はとつぜん立ち止まると、声をあげて後ろを振り返りました。
なにか、黒いおぞましい影のようなものが、迫るように追いかけてくるような気がしたのです。
けれども彼女の視界に見えるものは、平和に寝静まった街なみばかり―――
慣れない夜の闇に怯えてはしたない声をあげてしまったのが羞ずかしくって、初子は両手で口をふさぐと、
ああ、びっくりした☆
低い声でつぶやくと、ふたたび家路をたどり始めたのでした。



けれども、初子の感覚は、間違っていなかったのです!
清楚なセーラー服姿の背後に蠢く黒い影は、
ふたたび姿をあらわにしてじわじわと距離を詰めてきて。

もし・・・

ひっそりと声をかけながら、初子の肩を掴まえたのです。
白のラインが三本流れる、濃紺の襟首を乱されて。
え・・・?
初子が何気なく振り向くと、そこには欲情もあらわな吸血鬼が・・・!

ああっ!なにをなさるんですっ!?
怯えきった初子の声は、くろぐろとした闇に包まれた家々には届きませんでした。
逃げ惑う彼女は、たちまち抱きすくめられて。
必死の抵抗もむなしく、とうとう首すじをがぶり!と、噛まれてしまったのです。

あ・・・あ・・・あ・・・
チュウチュウと不気味な音をたてて生き血を啜られながら、初子は力の抜けた身体がじょじょに傾いてゆくのを感じました。



硬いアスファルトの路面にひざをつき、とうとう姿勢を崩してしまう初子―――
「た、助けてえっ!」
そこにはもう、旧家の令嬢の誇りも、学園きっての優等生の矜持もありませんでした。

ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
欲情に満ちた吸血の音が、セーラー服姿に覆いかぶさって。
家路をたどる少女は、哀れ純潔な血潮を深夜の路上に散らしていったのでした。



チリリリリリン・・・
京極家の電話のベルが鳴ったのは、その時分のことでした。
はい・・・はい・・・京極です。アラ綾瀬さん?
きょうはうちの初子がお邪魔しておりまして・・・
エッ、もう帰った・・・?



そうですか・・・それは嬉しい限りですわ・・・
初子の母である京極夫人は、口許に妖しい笑みを泛べると、受話器を置きました。
よかったわ。これであの娘も、ようやく一人前ね。
京極夫人の耳の奥には、さっき奥さまから吹き込まれたお礼の言葉が、深々と刻み込まれていたのでした。

ええ、お嬢様が辞去されたあと、うちの主人たらもぅ、
目の色変えてしまいましてね。
なにしろ主人ときたら、吸血鬼でございましょう?
処女の生き血には、それはもう、目がないのですよ。
お羞ずかしいことですが、もう滑稽なくらい、そそくさと出かけてまいりましたわ。
いまごろはきっと、お嬢様も・・・主人の毒牙にかけられておいでですわ。
お宅にお戻りのころにはきっと、血を吸われる歓びに目覚めてしまっていて・・・主人とつぎに逢うお約束など、なさっていることでしょうね。
そう・・・ちょうど娘時代の貴女のように・・・



そのころ―――深夜の路上では・・・
くすくす・・・くすくす・・・エヘヘ。うふふふふっ。
路面を這うように、少女のくすぐったそうな忍び笑いがつづいていました。
そう、初子は目ざめてしまったのです。
吸血鬼に生き血を吸い取られるという、おぞましくも妖しい歓びに。



そう、お母さまも貴男に、血をあげていらしたのね。
帰りが遅いからって、叱られる気遣いも、ないんですのね?
じゃあいいわ。もっと初子の血を、吸ってちょうだい。
母娘二代、ご奉仕するのね♪

えっ、脚を咬みたいの?
嫌だわ、ストッキングを脱がなきゃいけないわ。
嫁入りまえの娘の、することじゃないわ。
脱がないでいいの?やだ、ストッキング破れちゃう。
エッ?噛み破りたい・・・ですって?
そんなの・・・やですわ・・・あっ・・・あっ・・・ダメよ、そんなに強く唇吸いつけちゃ・・・
嫌。厭・・・イヤん・・・

ストッキングを伝線させておうちに戻っても、お母さまはお咎めにならない。
安堵し切った少女の含み笑いの下。
おじさまのいやらしい唇を吸いつけられた黒のストッキングは、びりびりとお行儀悪く噛み剥がされていったのでした。


【あとがき】
すでに夏も盛りになってきましたね。
きっと真夜中でも、ひざを突いたアスファルトの路面は、まだ火照るように熱いはず。

供血デイサービス

2012年07月25日(Wed) 06:17:06

1.昼下がりの訪問客

エンジン音を轟かせて、一台のワゴン車が古びた邸のまえに留まった。
おじいちゃん、デイサービスさんいらしたよ。
ハンドルを握っていた中年の男はそういって、庇の下からこちらへは出てこようとしない老爺に声をかけた。
助手席には三十代半ばと思しき、小奇麗に装った婦人が、にこにこと笑って座っている。

デイサービスの女子職員の服装は、決められるともなしに決まっていた。
無地の純白のブラウスに、紺のスカート。
ストッキングの色は任意だったが、なぜか肌の透ける黒を穿く婦人が目だっていた。
彼女もまたその例外ではなく、渇いた砂利道に降ろした黒川のパンプスにおさまった足の甲は、墨色のナイロンになまめかしく染められている。
デイサービス、という言葉の響きから想像されるような野暮ったさ、飾り気のなさとはかけ離れた、洗練された装いだった。

じゃあ、お迎えは五時でいいですね?
運転席の男は、女子職員に事務的に確かめると、邪魔者はすぐに立ち去らなければならないとでもいうように、ふたたびエンジンを轟かせて走り去っていった。

ふたりきりになると、老爺はいともおだやかに、
「お初めてですかな?ささ、こちらへどうぞ」
物柔らかに指した掌の先は、奥の間になっていた。
庇の下から垣間見える邸のなかは人けがなく、中は昼間とは思えないほどに薄暗かった。

はるばる都会から、よう来なさったのう。
老人は遠来の婦人をねぎらいながら、お茶を入れた茶碗をちゃぶ台に置いた。
だいじょうぶですよ。いちおう、経験者ですから。
婦人はおっとりと、けれどもはっきりした口調でそういった。
そうですか―――
老爺の態度が一変したのは、それからだった。

節くれだった掌に強引に腕をつかまれて、婦人は引きずられるようにして、隣室に連れ込まれると。
あらかじめ展(の)べられていたせんべい布団のうえ、乱暴にまろばされた。
ふふふ。わかってるの・・・?
は・・・はい。
さすがに怯えを見せる婦人の両肩を抑えつけると、男はぬらぬらと濡れた唇を裂くように開いた。
唇の両端からは、人間離れして尖った犬歯が覗いていた。

ガッ!
力任せに思い切りぶっつけるようにあてがわれた牙が、婦人のうなじに埋め込まれた。
バラ色の飛沫が、畳の上にぱらぱらと散った。
犠牲者の婦人の首っ玉をつかまえながら、男は物欲しげな唇を傷口にあてがうと、せわしなく蠢かせる。
ピチャピチャと下品に、舌を鳴らしながら。
きゅうっ・・・きゅうっ・・・
じゅるっ・・・ごくん。
汚らしい吸血の音が、昼間も薄暗い部屋に満ちていた。

デイサービスの女子職員は、約束の五時きっかりに、迎えのワゴン車に乗り込んでいった。
蒼白な頬に表情をなくした目鼻立ちを貼りつかせるようにして。
別れぎわ、きちんと行儀よく邸のあるじと挨拶を交わした彼女は、
帰宅してもその場で起きたことをあからさまに夫に告げることはないのであろう。



2.行き会った婦人たち

おや、あれは××さんの奥さんたちだね。
君藤与志和(よしかず)はそういって、同僚の春田を振り返った。
ああ、そうだね。
春田の声色は、いつになく乾いていた。
あちらから足取りを向けてくる数人連れの婦人たちは、そろって白のブラウスに紺のスカート。
足許には申し合わせたように、黒のストッキングをまとっている。
おい、きみの奥さんもいるじゃないか。
ああ、そうだね。
春田はまたも、渇いた無関心な声で応じるのみだった。
彼は夫人と目交ぜを交わすと、もうそれ以上は婦人たちにかかわりたくない、というかんじで視線をそむけて、その場を足早に通り過ぎた。
もしかして・・・?
与志和はぞくり、とした。
あれがうわさに聞いた、供血ボランティアというものなのだろうか?
何を隠そう、彼の妻の孝枝もまた、そうしたボランティアのお勤めを始めたばかりだった。

この村にはね、吸血鬼と平和に共存するという決まりがあるんだ。
地元の顧客のなかにも当然、血を吸う習慣のあるご一家が含まれるし、
そうした人々に対して偏見を持ってはいけないことになっている。
したがって赴任した諸君は、まずは奥さんを、供血ボランティアに入会させなければならない。
着任そうそう、彼の上司は淡々とそういった。
それが、ごくふつうのことであるかのように。
ちょうど彼の背中越しの窓の向こう、走り始めた白のワゴン車には、ボディに大きく「供血デイサービス お申し込みは00-0000へ」と書かれていた。
あの車両には、妻が乗っているのだよ。
上司はやはり淡々と、与志和にむかってそういった。

いなやはなかった。
もともとそういうことを聞かされた上での赴任だった。
仕事らしい仕事はなく、そのくせ月給は通常の倍額。
ローンに押し潰されそうになった家計を抱えた彼は、妻と相談のうえ躊躇なく、その奇妙な転勤の誘いに乗ったのだった。
献血と思えばいいのね。
主たる吸血の対象とされる妻のほうが、むしろもの分かりがよかったのは。
ブランド物の服やバッグで、大枚をはたきつづけた生活を此処でも続けられるということへの気安さが感じられた。
彼女がこの道に入ったのは、アルバイト感覚のような割り切りがあった。
夫もいちおうは、血液提供者に加えられるのだが。
もちろん吸血鬼たちにとってのお目当てが、その妻や娘であるのは、だれにいわれないでも明白なことだった。

もちろん夫として、自分の妻がほかの男とふたりきりで逢って、相手に組み敷かれ、じかに肌を吸われながら吸血されるなどということに、おぞましさをかんじないわけではない。
一抹の嫉妬や疑念も、生じないわけではなかった。
けれども妻はそうした夫の懸念を一笑に付して、「だいじょうぶよ」といって取り合わなかった。
やがてステディな関係の男性ができて、妻はその男のもとに通い詰めるようになった。
もちろん、血液を無償で提供するために。
「心配しないでね。いい齢のおじいちゃんなんだから」
妻はあくまでもにこやかだった。
そう、あからさま過ぎるほどに―――



3.運転手

すまないですねぇ。じつは運転手が急病になってしまいまして・・・

供血ボランティアの職員が恐縮しつつ、事務所で勤務中だった与志和のもとを訪れたのは、連れ立って歩くボランティアたちのなかに同僚の妻を見出した日から二、三日経ってからのことだった。

与志和の想像通り、あのとき彼女たちは、妻の孝枝とまったくおなじ務めを果たすために目的地に向かうところだった。
笑いさざめきながら歩みを進める彼女たちは、まるで淫売のような華やかさを身にまとっていた。
熟れた人妻の色香をいっぱいに漂わせて、まるで一面に花が咲くような風情だった。
ボランティア仲間と同行することもあるという妻もまた、夫の知らない処であのような雰囲気を漂わせているというのだろうか?
あれ以来―――与志和のなかに妻に対する不思議な感情が芽生え始めている。

運転台に乗り込むと、孝枝はひどくびっくりしたような顔をしていた。
そんな妻のようすをいっさい無視して、与志和は感情を消した乾いた声で、助手席の婦人ボランティアに訊いていた。
目的地は・・・どこですか?

行き着いた先は、村はずれの老爺の邸だった。
傾きかけた古い邸は、老爺の独り住まいということだった。
やあ、いつもすまないですねぇ。
老爺は建物の庇からこちらに出てくることはしなかったが、頭にかぶった帽子を取って禿げた頭を見せながら、ボランティアを送り届ける運転手にも、愛想のよい会釈を投げてきた。
ほころんだ口許から、ところどころ抜けた不ぞろいな歯を覗かせたが、与志和の想像するような鋭利な犬歯は窺えない。

いえいえ、どういたしまして。
ボランティアさん、お連れしましたよ。
デイサービスの運転手が顧客にいつもそうするように、老爺に愛想よく応対すると。
与志和はあくまで事務的に、孝枝に訊いた。

お迎えは、何時にしましょうか?

そうですね・・・夜の十時すぎにお願いしますわ。

孝枝もまた、覚悟を決めたらしい。
通常の婦人ボランティアが運転手に告げるような、事務的な口調だった。

えらく遅いではないか・・・与志和の胸の裡に、どす黒いものが渦巻いた。
脳裡には、妻の要望と符合する記憶がよみがえった。

木曜の晩は、デイサービスのお仕事のたな卸しで遅くなるの。
悪いけど、夜はどこかで済ましてきてくださいね。

そういえば孝枝は、たしかそんなことをいっていたはずだった・
月末でもないのに、たな卸し・・・
そんな夜がいままで、幾晩あったことだろうか?


4.覗く。

妻を車から降ろしてしまった後も、彼は立ち去りかねていた。
いいね?奥さん降ろしたら、一目散に逃げるようにして、事務所に戻ってくるんだぞ。
上司には確かに、そう耳打ちされていたはずなのだが・・・

夫の方など見向きもせずに、古い邸の玄関の奥へと消えていった妻―――
いまごろ組み伏せられて、純白のブラウスをバラ色に染めながら、献血に励んでいるのだろうか?
ゾクゾクしてきた。たまらなくなってきた。
われ知らず彼は車を降りて、邸の庭先に回っていた。
意思を喪ったものが、ひとりでに手足を動かして衝動に走るようにして。

敷地のなかは、シンと静まり返っていた。
棲む人は、あの老爺のほかにはいないのだろう。
広々とはしているが手入れもされず荒れ果てた庭先には、名前も知らぬ蝶が数羽、極彩色の翅を羽ばたかせながら、夏草のあいだを音も立てずに漂っていた。
蝶の群れを払いのけながら、与志和は雨戸を締め切った縁側へと歩み寄っていった。
雨あがりの露に濡れた夏草を、かき分けるようにして。

よく見ると、雨戸が一枚、すき間をのぞかせている。
なかは暗がりのようだったが、与志和は予感するものを感じて、吸い寄せられるようにしてすき間を覗き込んだ。


ブラウスにスカート姿の孝枝を迎え入れた老爺は、好々爺のように目を和ませ頬をゆるめていたが。
素早く玄関の扉に手をかけて、婦人ボランティアにいわくありげな視線を送りつづけてくる運転手の視界から彼女を隔てていった。
ギイィ・・・と錆びついた音を軋ませて扉を閉めてしまうと。老爺はすでに命令口調になっていた。

さ、奥に入りなさい。

節くれだった手で孝枝のブラウスの肩を掴まえると、ギュッと握られた握力の強さに、孝枝はかすかによろめいた。
わかっているぞ。あれはあんたの旦那だな?
耳もとに吹き込まれるなま温かい呼気に、孝枝は無言で頷いている。

ほれ。
せんべい布団が一枚だけ敷かれた寝所に向かって、孝枝の背中をつよく圧すと、
ブラウス姿はよろよろと力なくよろけて、布団のうえに四つん這いになっていた。
ククク・・・
老爺は野卑な含み笑いを泛べると、自分も四つん這いになって、孝枝の足許ににじり寄ると、黒のストッキングの足首を掴まえていた。

ぬるり・・・と這わされたのは、なま温かい唇の感触だった。
そいつは軟体動物のようにうねうねと、粘液をしたたらせながら、もの欲しげに蠢きはじめていた。
薄手のパンティストッキングごしにヌメヌメと這いまわる唇が、ぬらぬらとしみ込ませてくる唾液に、孝枝は心ひそかな慄(おのの)きを覚えた。

うひひひひひっ。表で旦那が、待っておるというに。ふしだらな嫁じゃの。
下卑た囁きが耳もとをかすめたかと思うと、力強い両腕に肩を抱きすくめられ、布団のうえにねじ伏せられていた。
やつ、牙が生えていないかとじろじろ見ておったな。
欲情したときにだけあらわになる牙を、老爺ははじめてあらわにすると。
孝枝は観念したように、目を瞑った。
ガッ・・・
首のつけ根に衝撃が走ると、ブラウスのえり首がなま温かく濡れるのを感じた。

じゅるり・・・じゅるり・・・
抱きすくめた両腕から伝わる孝枝の身もだえを小気味よげに愉しみながら。
老爺は孝枝をあやすように愛撫しながら、強引な唇を白いうなじに吸いつけて、生き血を啜り取ってゆく。
干からびた身体を潤すための養分を摂取する・・・というほんらいの目的とははなれた、卑猥な劣情をあらわにして。
うひひ・・・くくく・・・
時折含み笑いを洩らしながら、身じろぎする人妻を抑えつけて。
老爺は孝枝のうなじを吸い、また吸った。
すり寄ってくる身体をけんめいに隔てようとする細い腕を折るようにしてのしかかると、
吸い取った血をあやしたままの唇を、女の唇に重ねてゆく。
うぅ・・・うぅ・・・ううっ。
息苦しそうな呻きを洩らしながら、孝枝はかぶりを左右に振って老爺の唇を裂けようとしたが、呪わしい劣情をあやしたかさかさの唇は、都会育ちの主婦の潤いを帯びた唇のあとを、しつようにつけ回してきた。
不覚にも奪われた唇に、幾度となく饐(す)えた息をかがされるうちに。
孝枝は抵抗を忘れ、身体の力を抜いた。
まるで催眠に堕ちるようにして―――

覗き込んだ薄闇に目が慣れると、そこにはからみ合いもつれ合う、ふたつの身体があった。
まるで本物の夫婦のようにしっくりと交わった二体の身体は、ふしだらな行為を闇に埋めるようにして、熱っぽいせめぎ合いをくり返す。
もはや制止することさえ忘れた与志和は、妻のボランティアの実態を目のまえに、只我を忘れて見つめつづけることしか、できなくなっていた。

あっ・・・あっ・・・
切れ切れにうめき声を洩らしながら、せんべい布団のうえから転がり落ちた孝枝は、夢中で畳のうえを這いずり回っていた。
切なげな呻きの端々に、セクシュアルな愉悦が滲んでいるのを、認めないわけにはいかなかった。
吸血行為がしばしば性的快楽を伴うことを与志和に教えた上司は、こうなることを知っていたのだろうか?
与志和もまた、自分の首すじにつけられた、どこの誰とも知れない吸血鬼に噛まれた痕を、知らず知らず疼かせていた。
着任そうそう、真っ暗にされた事務所の一隅で咬まれた痕だった。
忘れかけていた微かな痛みが、つよい疼きとなってよみがえる。
抗いがたい性的な疼き―――
与志和はかすかに唇を震わせたが、それは意味のある言葉をなさなかった。
自分の父親ほどの老爺を相手に、大胆な痴態をあらわにする妻を目の当たりにして、
与志和はただ、声を失っていた。


5.赦しの夜。

妻のああいうところを、覗くものではありませんよね?
軽い非難を込めた言葉を吐いて、彼女は助手席に乗り込んだ、。
夏草の露に濡れたズボンに、孝枝の冷ややかな視線が刺すように注がれていた。

行きましょう。
車内の人となった妻に、完全に主導権を握られている、と与志和はおもった。
肩を接するほどにふれあってくる人いきれが、妙に身近に感じられた。
では、戻りますよ。
彼は運転手の事務的な口調に戻ると、車のエンジンをかけた。
今夜は直帰でもかまわんのだよ。
お昼前、婦人ボランティアを載せた車に乗り込む与志和に、そんな言葉を投げた上司は、こうなることを見越していたのだろうか。


直接戻った自宅の寝室は、着替える間も惜しんでの濡れ場となった。
いきなり両肩を抱いて、首すじに圧しつけられた唇に、孝枝は「アラ」と声をあげ、けれども決して抗おうとはしなかった。
さっきおじいちゃんに噛まれたのとは、反対側ね・・・
孝枝の脳裡は冷ややかなくらい、理性を保っていた。
むき出しにされる無器用な性欲に、孝枝はどこまでも従順に、そして献身的に応えてゆく。
あれを見てしまった夫との、初めての夜―――
妻としてどう振る舞えばいいのか、考え抜いての所作だった。

ひとしきりの嵐が過ぎ去ったあと―――
布団のなか枕を並べての痴話喧嘩は、ごくおだやかなものだった。
夫婦は互いの手を取り腕を擦り合わせ、脚をからめ合いながら、相手の言葉に己の応えを重ね合わせていた。

これからは仕事がんばるぞ。
きみの穿いていく黒のストッキング代を、稼がなくちゃいけないからね。
首すじを咬まれたら、ブラウスも台無しになっちゃうんだろう?血で濡れて。
月々の洋服代、倍額にしてかまわないから。

そうね、お願いね。
あなた、いっぱいお金、稼いでね。
わたしそのお金で、あのおじいちゃんを悦ばせるためのお洋服買いますから。

ふたりははじめて、心行くまで唇を合わせた。
あとはもう、語るべきことでもないのだが。
切れ切れな記憶のなか、思い浮かんだ言葉の切れ端を、書き抜いておこう。

わたし着飾って出かけるわ、あのひとの愛人にしてもらうの。
あなた、いっぱい嫉妬して♪

ああいいとも、妬けるな。ほんとうに妬けちゃうな。
君と彼とは、じつにお似合いだよ。
ボクのよりも大きいチ〇ポで、きみはいつも貫かれて、あんな声をあげちゃうんだよね?

そうよ。あなたしっかりしなさいよ。奥さん寝取られちゃって、情けないわね。

ウン、恥ずかしいね。とても情けないね。
一家の恥だ。
でもどういうわけか・・・なんていうか・・・彼にきみを抱かれちゃうことが、ボクには誇らしい感じがするんだよな。
彼、きみの身体をすみずみまで、それは美味しそうに味わっていっただろう?

アラ、いやらしい。男のひとたちって、どうしてそんなことしか考えないのかしら?

こんど伺うときには、もういちど運転手になりたいね。彼にもきちんと、ご挨拶をしておかないと。なんだか仲良くなれそうな気がするんだよ。

そうね、仲よくね。
旦那と浮気相手、あたしはどちらも大好きなのよ。

でもきみを離婚したりはしないからね。
きみはぼくの夫人として、、あの爺さんに抱かれて辱しめられつづけるんだ。
それがボクが君に与える罰。わかってくれるね・・・?

わたしの妻孝枝は、きょうもデイサービスのお勤めに出かけて行った。
黒のストッキングのふくらはぎを、朝陽にピチピチと、それは淫靡に輝かせながら・・・

夏服の少女

2012年07月24日(Tue) 07:39:21

小父さまっ。小父さまあっ。
呼んでも声が届くはずもない彼方から。
少女は大きく手を振りながら、こちらに向かって駈けてくる。
セーラー服の白い夏服が青葉に映えて、清々しい。
濃紺のスカートを大またでさばきながら駈けてくる少女を見ながら、
男は屋根のひさしからこちらには、身を乗り出そうとしなかった。

お待ちになった?
息せき切って玄関に佇む少女を、男は穏やかに声を洩らして招き入れる。
少女は黒の革靴を脱ぐと、つま先を玄関に向けて、土間にきちんと並べ直す。
しつけの行き届いた家に育った娘らしい。
ひんやりとした板の間の上。
薄手の黒のストッキングのなか、白い足指がなまめかしく映えた。

あら、お行儀悪い・・・
少女がいまにあがり込むや否や、
男はやおら少女の足許ににじり寄って、黒のストッキングのふくらはぎに唇を吸いつけようとした。
あ・・・ダメ!
少女の制止も聞かず、男は少女のふくらはぎに唇をクチュッと這わせ、重たげなプリーツスカートを揺らした。

ストッキングに包まれた少女の脛は、真夏の太陽の光を浴びて熱く火照っていた。
汗ばむ直前の皮膚が、男の欲情を掻きたてていた。
なよなよとした薄いナイロンの妖しい舌触りを覚えながら、男はしつように少女の脚をまさぐった。
ぅ・・・
少女は悩ましく、眉を寄せる。
ふしだらな下にいたぶられてよじれるナイロン生地が脛の周りを擦れる微妙な感触が、
初々しい素肌に、妖しい疼きをしみ込ませていったのだ。

ちゅうちゅう。。。
きゅうきゅう。。。
ひとをこばかにしたような音をたてて、男は少女の脚を吸いつづける。
彼女の脚をなまめかしく染めた墨色のナイロンを、ふしだらにねじりまわしながら。
やだ・・・そんなに愉しいの?
少女は当惑しながらも、男の仕打ちに対して決して嫌悪の情を浮かべていない。
ひとしきり男の激情が通り過ぎるのを待つと。
ねじれて波打ったストッキングをきちんと直して、こういった。
おニューなのよ。でも小父さまに愉しんでもらうためにおろしたんだから、遠慮なく噛んでね。

彼女がこんなことを口走るようになるまでに、どれほど飼いならしたことだろう?
男は自分の毒液が少女の身体の隅々にまで行きわたっているのを満足げに確認すると。
少女を促して畳の上に腹ばいにさせて、黒のストッキングのふくらはぎを、また吸った。
あ・・・やだ・・・
少女は眉を寄せ、爪を立てて畳をカリカリと引っ掻いた。
くすぐったくて、たまらないらしい。
慕いよるように這わされた男の唇に、いちだんと力が籠められて・・・
劣情に満ちた唇の下、薄手のナイロン生地がパチパチと音をたてて裂け目を拡げていった。

もう・・・
ところどころ裂け目を浮かべた黒のストッキングのすき間から。
露出したひざ小僧が、いちだんと白くひきたっていた。
うふふふ。どうかね?
どうかね?じゃないわ。まったくだわ。
少女はわざと口を尖らせて、それでもストッキングを脱がせにかかる男に、脚をゆだね放しにしている。
信頼しきった、無警戒な態度だった。

もう気が済んだ?
少女はやおら立ち上がると、革製の学生鞄のなかから、紙包みを取り出した。
紙包みの中身は、ストッキングの穿き替えだった。
これは穿き古しですからね。
そう断ると、家に帰る道々恥ずかしくないようにといいながら、白い脛に薄いナイロンをひき上げていった。

うひひひひひっ。
ふたたび劣情を掻きたてられて、男が足許にふるいついてきたとき。
少女は「もう」とふくれながらも、足首を握られたまま、
脚を通したばかりのストッキングを再び、びりびりと破かれてしまう足許を、むしろ面白そうに見おろしていた。
どうして二足も破くのよっ。
少女は男が、噛み剥いだあとのストッキングをせしめてお土産にする趣味を心得ている。

どうしても、二足要りようなんでね。
男がほくそ笑むと、少女は得心が行ったようだった。
左千夫さんね?小父さまにこんなことお願いしたの。
彼女が口にしたのは、先月結納をあげたばかりの許婚者の名前だった。

わたくし、吸血鬼の小父さまに血をあげているの。
それでもよろしかったら・・・という、彼女の恐る恐るの申し出を。
少女にぞっこんだった青年は、ふたつ返事で承諾したのだった。
仕方ないわね。
少女は軽くため息をつくと、さして深刻そうな顔もせずに、
ふたたび畳に腹ばいになって、脚を伸ばしていった。

いっぱい噛んでね。
左千夫さんがゾクゾクしちゃうくらいに。
白い歯を見せてウフフ・・・と笑う少女は、どこまでも汚れを知らず、無邪気だった。

地味?

2012年07月24日(Tue) 06:39:22

真夜中の公園の照明は弱々しくて、やって来た相手の服の色がかろうじて見分けられるほどだった。

オレンジの袖なしシャツに、ひざ下丈のグレーのスカート。
濃紺のストッキングに、うす茶色の革のパンプス。

どういう組み合わせだよ?
先に待っていた少年が、あきれたような声をあげる。
しょうがないだろ。お袋の箪笥の抽斗あさったら、こんなのしか取ってこれなかったんだから。
相手の声色も、ほぼ同年代の少年のものだった。

まぁ・・・いいか。
余裕で許す少年に。
まあいいかはないだろ?
女装の少年が、まぜ返す。
そうだな。わざわざ来てくれたんだものな。
最初の少年は、素直に謝った。

いいぜ。好きにしなよ・・・
女装の少年は、思い切りよくベンチに腰かけて。
それから、濃紺のストッキングの両脚を、丸太ん棒のようにむぞうさに投げ出した。
悪りぃな・・・
さいしょの少年は、女装の少年の足許にかがみ込むと、
濃紺のストッキングのふくらはぎに、いきなり食いついた。

あっ・・・
女装の少年はひそやかなうめきを洩らしたが・・・
小気味よげな愉悦を伴っているのを、吸血鬼の少年は聞き逃さない。
飢えた唇の下。
少年の脚の輪郭を淡く彩る濃紺のナイロン生地が、ぱりぱりとかすかな音をたてて、はじけていった。

この洋服の持ち主・・・いつ連れてきてくれるんだい?
口許に散った血のりを拭おうともせずに、さらなる獲物をねだる親友に。
女装の彼は「ははは・・・」と、乾いた声で嗤った。
もう、来ているみたいだよ・・・きみの後ろ。

振り返ると、そこにはすらりとした上背の女が佇んでいた。
いま餌食にしたばかりの少年と、よく似た面差しを持っている。
こういうことだったのね?
ゴメン、ゴメン。
悪戯を見つかった息子は、母親に照れくさそうに謝っている。

ゴメンよ、おばさん。
素直に謝る息子の悪友に、母親は穏やかに応対した。
カズくんの血だけじゃ、足りないのよね・・・?
黒のタイトスカートの裾から伸びる、たっぷりとしたふくらはぎは。
淡い光沢を帯びた漆黒のナイロンに、包まれていた。

足許にふるいついてくる吸血鬼から目線をそらし、母親は息子を軽くにらむ。
さいきん、どうも黒のストッキングばかり目減りしてたのよね。
ぬるぬるとしみ込まされてくる淫らな唾液を足許に感じながら、
母親は息子どうよう堕ちる愉しみに耽りはじめていた。
きっとこの子は、わたしのまえで男になるに違いない。
密かな予感を覚えながら、夫の顔をつとめて忘れるようにした。

痛っ。
あっ、ゴメン。
いいのよ。つづけて・・・
じゃあ遠慮なく・・・
重なり合うふたつの影を。
息子は手を伸ばし、そうっと引き寄せていった。

男の血なんて、おいしくないでしょう?

2012年07月22日(Sun) 07:32:23

男の血じゃ、おいしくないですよね?
その彼はくり返し念を押すように、俺に何度もそう訊いた。
いや、そんなことはない。
俺はそう言いながら何度となく、彼の首すじに食いついていた。

人の生き血にありつくのは、ひさしぶりのこと。
村の顔役にあてがわれた獲物におおいかぶさって、ひたすら喉をごくごくと鳴らしていった。
連れてこられた彼は、都会から赴任してきたばかりだったが、ひたすら無抵抗に、飢えた吸血鬼のために血液を提供し続けてくれたのだった。

ワイシャツ、汚れちゃいますね?
意外に冷静な彼は、職場に着ていくはずだったワイシャツのえり首を、しきりに気にかけていた。
脚から吸うこともあるんだが・・・毛むくじゃらなふくらはぎは、好みじゃないのでね。
ストッキングに包まれたご婦人のおみ脚・・・というのなら、願ってもないんだがね。
何気なくそういった俺に、彼は納得したようにうなずいていた。

つぎに連れてこられたとき。
彼は、自分からスラックスのすそをひきあげて。
男ものじゃ、つまらないでしょうけれど―――
そういいながら、ストッキング地の長靴下に濃紺に染まったふくらはぎを、見せびらかすようにさらけ出した。
ほほぅ。サービス精神旺盛なんだな。
冷やかすように、そういうと。
営業職なので・・・つい相手のことを考えちゃうんですよ。
彼は仕方なさそうに、苦笑していた。

ぬるり・・・と這わせた唇の下。
彼が心づくしに履いてきた薄手の長靴下は、ひどくいい舌触りをしていた。

そんな訪問が、何度つづいたことだろう?
知りませんでした。お招きするのがすじだったんですね。
何度目かの逢瀬のあと、彼はそういうと。
独り住まいの社宅にはじめて、引き入れてくれたのだった。
まめな性格らしい。
逢いに来るときにさえ、穿き替えの靴下を何足も用意してきた彼の部屋は、ひどくきちんと片づけられていた。
男ものでは、飽きませんか?
彼はそういいながら、ぬるりとした光沢のよぎる長靴下を、きょうも脛いっぱいに引き伸ばしていった。

どうやら、わたしの血だけでは、足りないようですね・・・
別人のようにやつれ果てた男は決心したように、呟いた。
都会に置いてきた家内と娘を、呼びましょう。
貴男はひとをあやめることはお好きでないようですから、まだ安心できそうなので―――
俺は感謝のしるしに、きょうも俺のために履いてくれた長靴下を咬み破ると、
しっかりした歯ごたえのするふくらはぎを深々とえぐっていって、
彼の皮膚の奥深く、狂おしいほどの疼きをしみ込ませてやっていた。

一週間後―――
彼の娘は、勉強部屋で、大の字になって。
制服のスカートの下、黒のストッキングに派手な裂け目を走らせていて。
彼の妻は、台所でうつ伏せになって。
しつように咬まれたねずみ色のストッキングから、白い脛を露出させたまま、持ち主の血で濡れたワンピース姿をさらしていた。

男の血なんて、おいしくないでしょう?
彼はいまでも、念を押すようにくり返している。
なに、そんなことはない。あんたの血は旨いのだよ。
あんたがいるから、すべてが愉しめるのさ。
人妻を押し倒すのはだんなの目のまえでって、俺は決めているんだから。
それに、あんたの気に入りの長靴下は、女もののストッキングとは違った色気があるからね。

女学生の足許によせる想い。

2012年07月18日(Wed) 07:17:45

制服姿の女学生の足許に、唇迫らせて。
黒のストッキングを噛み剥ぐときは。
良家のお嬢さんと、すこしばかり近づきになったような気がする。

その瞬間、ぁ・・・とちいさく叫んだ女学生は。
少しだけ悲しそうな視線を、自分の足許に注ぎながら。
ひっそりと呟くのだった。
あなたに噛ませてあげるために、履いてきたわけじゃないのに・・・と。

すまないね。
心ばかりの謝罪をつぶやきながら。
少女の足許をなまめかしく染める薄いナイロンを、びりびりと噛み破いてゆく。
彼女は息を詰めて、自分の足許に加えられる辱しめを、ひたむきに見つめている。
それは、相反する意思の通い合う共同作業。

脛が露出するまで噛み剥いでしまうと、少女はそろそろと、ベンチから立ち上がる。
帰るわね。そろそろ晩ご飯だから・・・
また明日。そう言いかけて。
彼女は自分の言葉の意図するものを自覚して、羞恥に染まる。

じゃあまた明日。
俺は彼女の応えを追認するように、軽く手を振って応えてやる。
また明日・・・
少女もまた、ためらいながら。小手をかざして応えてくれる。
夕暮れの帰り道。
家まで人知れずエスコートする俺を、セーラー服の後ろ姿は気づいているのだろうか。

半吸血鬼。

2012年07月18日(Wed) 06:56:33

半吸血鬼になるのは、かんたんだ。
いつもより少しばかりよけいに、血をあげ過ぎちゃえばいい。
重たい貧血になって、しばらくのあいだはふわふわしているけれど。
気がついたら、血が欲しくなっている。
もちろんお葬式なんか、出さなくっていいんだよ。

吸血鬼の小父さんが、お祝いにって見せてくれたのは。
ボクが初めて小父さんに血を吸われるときの、記念撮影。
いつの間にこんなの撮っていたんだろう?って思ったけど。
初めて襲われちゃったの、小父さんの家だったんだよね。

ボクは赤と紺のしましまもようのTシャツに、真っ白な半ズボン、白のショートソックス。
小父さんの好みのハイソックスだったらよかったのにって、今でも思う。
たぶんそんなことお構いなしに襲っちゃうほど、小父さんものどが渇いていたんだろう。

戸惑い逃げまどい、抵抗するボクのことを。
小父さんは慣れた手つきでねじ伏せ、うなじを仰向けていく。
あーあー。小父さんの思うツボだね。
録画を観ながら苦笑して小父さんを振り返ると。
もっと御覧・・・小父さんももう、画面から目を離せなくなっている。
いよいよ首すじを咥えられちゃったときにはもう、あやされている感じだった。
がぶり!と噛みつく瞬間は、いつ観てもゾクゾクしちゃう。
あのときの快感が、よみがえるみたいで。

ボクの血を、喉を鳴らして美味しそうに飲み耽る小父さんは、すごく幸せそうだ。
ボクももちろん、幸せだった。
美味しそうに飲まれてしまうと、ボクはいつだって舞い上がっちゃうんだ。
美味しく吸い取ってもらえて、よかったね。
パパもママもそういって、ボクのことを祝福してくれた。
ふたりとも・・・同じサイズの噛み痕を、首すじに絶えず滲ませている。

半吸血鬼になって、血を吸うものの気持ちがわかるようになると。
自分が血を吸われているときだって、「おいしそう」って思えるようになってしまう。
もっと飲んで・・・もっとたっぷり吸い取って。
そんなことをつぶやきながら、つい身もだえしてしまうボク。
そういうボクの頭を撫でながら。
坊や、いい吸血鬼におなり。
小父さんはそう囁くと、ボクのうなじをもうひと噛み、ずぶりと牙でえぐるのだった。

隣の街

2012年07月09日(Mon) 07:18:34

隣の街といえども、油断はならない。
吸血鬼という存在に対して心を開いている街など、ありはしないのだから―――

人けのなくなった夜更け。
ふとすれ違った少年は。
街灯に照らしだされた面差しに、ありありと驚愕の色を浮かべていた。
不思議だ。
この子には、ひと目で相手を見抜くことができるのか?
半歩踏み出しただけで、彼はちいさな声で、「血を吸わないで」と言ったのだ。

本能的に歩み寄った数歩のあいだに、俺は少年を抱きすくめていて。
本能的に抵抗をみせた少年は、とっさに俺を隔てようとした腕を引っ込めた。
不可解な行動に、俺はふと手を止めて。
「どうしたんだ?」
そう訊かずには、いられなかった。
この街に漂う、一種独特の親近感と空疎感とが、俺をそうさせたに違いなかった。
少年の応えは、いちいち納得のいくものだったから。

この街には昔、吸血鬼が棲んでいたんだ。
吸血鬼は見境なく人を片っ端から襲って、血を吸って命を奪っていったんだ。
ぼくの兄さんも、そうした一人だったんだ。
生き返った兄さんは、ボクの血を欲しがったけど。
父さんも母さんも、かたくなに首を横に振るだけだったんだ。
兄さんはそのまま、家に入ることもできずに、翌朝干からびた姿で、ほんとうに死んでいた。
けれどもまだ、家族の身近で死ねた兄さんは、倖せだったに違いない。
だって、多くの吸血鬼たちは、肉親の手で杭を打たれて滅ぼされてしまったのだから。

兄さん・・・兄さん・・・
泣きむせぶその子のまえで、俺も涙せずにはいられなかった。
大きな代償を払って吸血鬼との縁を断ったこの街に、俺の居場所はない。
渇いた喉と飢えた胃袋、絶望的な心を抱えて、俺は少年に背を向けた。
血を吸わないの?
問いかける少年を無視して通り過ぎようとしたら、
彼は小走りに駆け寄ってきて、通せんぼをした。
兄さんの代わりに、ボクの血をあげる。
精いっぱいの勇気を振り絞って、彼はそう囁いたのだ。

人けのない公園には、街灯ひとつ点されていなかった。
その闇のなかで、俺はクチュクチュと舌を鳴らしながら、少年の血を飲み耽る。
不当利得を得てしまったような後ろめたさは、久しぶりに味わった人の生き血への快楽が、うまいことごまかしてくれていた。
すまない。すまないね・・・
俺は何度も少年に礼を言いながらも、首すじを吸い、ハイソックスのふくらはぎに唇を這わせていった。

殺さないんですね。
そういう無知で横暴な種族は、真っ向対立して滅ぼされてしまうからな。
おっと、言い過ぎた。
彼の愛してやまないい兄を誹謗しかねない言葉つきを、俺は飲み込もうとしたけれど。
いいんだよ。
少年は寛大に、そういった。
共存できそうだね。ボクたち―――
一週間後、事態は少年のいうとおりになっていた。

家族のだれもが、血を吸わせなかったことを悔いていた。
そういう家族は、この街に多いようだった。

だれもがあなた方に応じるとは思いません。
けれども、飢えている人を施すことで慰めを見出すものは、案外いると思います。
少年の父親はそういうと、俺が首すじを噛みやすいようにと、神妙に頭を垂れていた。
酔い酔いになった彼は、長年連れ添った妻が、俺の手で組み伏せられるのも淡々と見守りながら、
悩乱してスカートを乱してゆく妻の不貞をさえ、寛大に許していったのだ。

以後、しばらく経って。
いくたりかの吸血鬼が、この街を訪れるようになっていた。
少年は、俺との逢瀬をいちばんに想っていて。
もうなん足めかになるハイソックスに血のりを光らせながら、まるで恋人同士のように唇をねだっている。
兄さん・・・兄さん・・・
そう呟きながら。


追記
7月13日 07:29新稿

村についての報告文 ~行きずりの既婚男性たち~

2012年07月09日(Mon) 05:57:15

吸血鬼を友人に持つということは、相手に自分の妻を襲う権利を与えることを意味する場合が多い。
とくに、村に棲みついている人々~家族を同伴して都会から赴任してきた者たちを含む~については、これは常識といっていい。
あくまで吸血鬼の側からは、血液提供者への無理な働きかけは行わない。
妻子を巻き込みたくないと言えば、その意思は尊重されるのである。
しかし多くの場合、血液を提供するとむしょうに、家族のことを紹介したくなるものらしい。
都会から赴任してきた家族の場合、さいしょに噛まれるのは夫・・・というケースが非常に多いのだが、それはおそらく家族を奪われる苦痛や家族を売るという良心の呵責から夫をまぬかれさせるために行われるといわれている。

では、家族を伴わない者たちの場合はどうか?
都会からの赴任者を抱える村内の事務所では、赴任者は必ず妻や娘を伴って赴任することが内規となっているが、
それ以外にも一時的な出張者が少なからず村を訪れる。
そうした男性たちにも、誘惑の手は忍び寄る。
多くの場合はその場限りの関係に終わるが、なかには意気投合した男性同士が、いかがわしい約束を交わすケースがある。
出張者たちは自分を友人の毒牙にかける約束をして、家族の待つ都会の家へと帰宅していくのである。
こうした男性たちのリピート率はかなり高く、じっさいにかなりの確率で、再訪時には夫人を帯同しているといわれている。
人妻を吸血の対象とする場合、その夫が協力者であることは、吸血鬼にとってなによりも好ましい状況であることはいうまでもないし、そうした機会がみすみす無にされるということは、まずあり得ない。

噛まれた都会妻たちの多くは再訪率が高いという。
多くは夫に伴われて村に滞在し、その間夫は気に入りの村の女を相手に供血行為に耽り、しばしばその隣室で、彼の妻は村の男性を相手に貞操を喪うことになる。
ふすまを隔ててお互い愉しい一夜を明かした後は、多くの夫婦は互いの体験を話題にすることなく、帰途につくといわれている。
こういう関係の多くは、彼らの娘まで波及することはない。
都会に戻る行程の間にわれにかえった彼らは、子供だけは守ろうとするようである。
そうなるのは、妻を守るという本能よりは子供を守る本能のほうが強いからだろうといわれている。
(以下欠)

柏木作品、SM小説サイトに登場! ~「服屋の女房」 リニューアル~

2012年07月02日(Mon) 18:57:33

朗報です!(*^^)v

先日来御懇意を願っているがんこじじい様のサイト・

SM Short Storyさま

に、柏木作品がふたたびあっぷされました!
http://smshort.h.fc2.com/smstory212.html

原作はこちら↓
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-2143.html

制作の裏話はがんこじじい様のブログ、「HP「SMショートストーリーの舞台裏」」に書かれております。
こちら↓
http://smshort.blog46.fc2.com/blog-entry-519.html

ちなみに、SM Short Storyにおけるデビュー作「ポートレイト」は、こちら↓
http://smshort.h.fc2.com/smstory211.html
(柏木の原作には、こちらのページからも入れます)


何か月か前に、柏木作品のなかでいくつか、SM小説に仕立てられそうなお話を・・・というオファーを頂戴し、心当たりの数作を見ていただいたのですが、そのなかでおめがねにかなったお話がこちらでした。

「舞台裏」にも書かれてありますが、文章は原作より多少改変しております。
柏木の原作にがんこじじい様が加筆をして下さり、それを柏木がみてさらに書き改めて・・・というやり取りをしました。
もっとも悩みどころだったのは、原作を観ればわかるように、多少説明不足の感が否めないところ。
柏木ワールドを描き慣れてしまったからでしょう。
「吸血鬼が夫の血を吸い、その意思を意のままにして、その妻を誘惑するときの手引きをさせる」
とか、
「さいしょは抗っていた貞淑妻がだんだんと堕ちてゆき、そのありさまを目の当たりにした夫が、不覚にも性的昂奮を覚えてしまい、抜けられなくなってゆく」
とかいったようなプロットは、そうそうそこらへんにあるものではございませんし、初手からなじまれるものでもありますまい。

このときの夫の心理状態は?縛られたときの妻の気持ちは?吸血鬼が意図しているのは、いかなる関係?
というあたりを、さほどくどくない表現できちんと説明する必要がありました。

やっぱり人様に見てもらうというのは、いいことですね。
自分の文章の弱点が、かなりわかったような気がします。



がんこじじい様のサイトに掲載される小説には、そのお話にマッチしたSM画像が添えられます。
「原作を見たときから使う写真は頭にあった」といわれる通り、まるでこのお話を予期していたかのような画像に、原作者の柏木もグッときました。
ヒロインの衣装は、喪服にも見えますし、そうでないようにも見えます。
その最たるところが、網タイツでしょう。
喪服なのにどうして網タイツを穿いているのか?そのあたりも改作版にはしっかりと描き込みました。
吸血鬼もののお話にがんこじじい様がSMの要素と画像を加え、
加筆部分と画像に触発された柏木が、さらに三人三様の心理を描き込んでゆく。
コラボレーションの理想のようなことをさせていただきました。

この場を借りて、本作を見事にレベルアップさせてくださったがんこじじい様に、厚く御礼を申し上げます。

それにしても。
吸血鬼ものもSMの一分野・・・というご卓見、まさにわが意を得た思いであります。
(^-^)

”その日”―――三人姉妹の嫁ぎ先

2012年07月02日(Mon) 04:09:54

看護婦をなさっていた、上のねえ様は。
その日、看護婦としての正装に、白のストッキングをお召しになって。
控えめに朱を刷いた薄い唇を、目だたぬほどにいつもより硬く引き締めて、お出かけになった。

隣町のデパートにお勤めの、次のねえ様は。
その日、改まったときにだけ脚を通す、ねずみ色のストッキングをお召しになって。
いつもお転婆に笑う丸ぽちゃの白い頬を、ちょっぴりこわばらせて、お出かけになった。

おふたりは、おふたりながら。
清いままのお身体では、お帰りにならなかった。

首すじに滲ませた赤黒い咬み痕を。
用心深く帳をおろすように肩先に流した黒髪を、こっそりと引き上げて、かあ様だけに、お見せすると。
きょうは疲れているから・・・と。
なにもお話しにならないで、お部屋に引きこもってゆかれるのだった。

婚約をしてらした、ふたりのねえ様は。
”その日”からすこしのあいだ、日取りを置いて。
予定通り、祝言を挙げられた。
あの日に逢ったのがそれぞれのにい様ではなかったのだと。
ねえ様たちが苗字を変えられてだいぶ経ってから、聞かされた。



初美さんは、お早いのね。
かあ様はそれはにこやかに、ほほ笑まれた。
キヨシさんなら、よく知っているだろうから、安心だよ。
とう様もすこし笑みを引きつらせながらも、どこか安堵していらっしゃるようだった。
わたくしのお相手は―――かあ様の齢のはなれた弟だった。

よく拝見するのだよ。
あからさまにじいっと見つめるのは、お行儀の良いことではないけれど。
いずれ・・・お嫁に行くときには、お婿さんとすることなのだから。
もう、なん年もまえのこと。
かあ様に逢いに、おじ様がいらしたときに。
年頃になったわたくし達を呼び寄せたとう様は。
出かける支度を整えたあと、上のねえ様にそう、耳打ちをなさっていた。

とう様のお出かけになったあと。
洋装の訪問着を着込まれたふたりのねえ様に肩を並べて。
三つ編みセーラー服のイデタチだったわたくしは、
一人前の女のような顔つきをして。
庭先の離れに足音を忍ばせると、
わざと半開きになった、ふすまのすき間を覗き込んで。
おじ様に背を向けて、羞じらいながら。
着物の帯を解かれてゆくかあ様のことを、息を詰めて見守りつづけていた。

初美さんは、かあ様に似てらしたから。
おじ様は昔から、貴女にご執心だったのですよ。
だからあなたは・・・だれとの縁談にも応じないで、おじ様のために取っておいたのです。
かあ様はそれは嬉しげに、わたくしにそう、おもらしになった。



択ぶまでもないわね。”その日”にあなたが履いていくストッキングの色は。
そう。
ふたりのねえ様がお勤めに出るようになってから訪れた”その日”は。
わたくしにはまだ、女学生でいるうちに、訪れたのだから。
”その日”、わたくしの足許を染めるのは。
卒業式など改まったときにだけ学校に穿いていく、黒のストッキング。
いつになく薄い、墨色の生地が、肌を透きとおらせる艶めかしさに。
わたくしは言葉少なになるほど、ドキドキしてしまっていた。

幾久しく・・・
幾久しく・・・
わたくしの隣には、かあ様が。
おじ様のお隣には、とう様が。
それぞれ、親の役柄で付き添って。
簡素な挨拶の儀式が済むと、ふたりは床の間のあるお部屋から、ひっそりと出ていかれた。
肩を並べて、心持ち俯きながら。

おじ様は、照れてなにも仰ることが出来なくなって。
わたくしに無言で寄り添われると、両の肩をお抱きになって。
気丈にしているつもりが、不覚にも息をはずませてしまったわたくしを。
ひしと抱きすくめて、うなじに咬みついてきた。
おどおどとしたいつもの態度は、かなぐり捨てていた。

たたみの上に横たえた、黒のストッキングのふくらはぎに。
おじ様は唇を吸いつけていらして・・・
薄いナイロン生地を嬲るようにして。唇を、そして舌までを・・・這わせていらした。
求められるまま、セーラー服を着くずれさせながら。
わたくしはいつか、食いしばった歯のすき間から洩れる吐息を、荒くしていった。



嫁いでゆかれた、ふたりのねえ様は。
お嫁に行かれてからも、”その日”をともにした吸血鬼に、お逢いになっていらっしゃるという。
そのようにする晩は、それぞれのにい様にそれとなくお伝えするために。
黒のストッキングを、お召しになるという。

お婿のいない、わたくしは。
事実上の夫になられたおじ様のため、毎日黒のストッキングに脚を通す。
生涯独身を強いられる見返りに、ひとりを守ることを許された女。
きょうもおじ様は、嫁(ゆ)かず後家と呼ばれるわたくしを訪って、
夜更けの寝室の窓辺に、ひっそりとその身を忍ばせてくる。

仲良し三人組の、吸血初体験

2012年07月01日(Sun) 19:46:46

聞いた?
うん、聞いた・・・
どうするの?
だって、放課後呼び出されるんでしょ?先生に・・・
だけど・・・怖いよ・・・
怖くたって・・・ママに言われてるんだもの。
だって~・・・(泣)

そろいの三つ編みを揺らしながら。
肩寄せ合って囁き合う、仲良しの三人組み。
話題にあがった、「先生」は。
すべてをしっかり、耳に留めながら。
教え娘(ご)たちの背後を、すう・・・っと気配もみせずに通り過ぎる。

この学園には、秘密のしきたりがある。
学園のオーナーが親しんでいる吸血鬼の一族が、入れ代わり立ち代わり来校して。
そのたびに、女生徒たちの生き血が、饗されるという。

入学した女生徒たちは、順ぐりに呼び出されて、血を吸われる。
父兄もあらかじめ了解ずみだというその奇習を、少女たちが体験する順番は・・・じつは出席番号順なのだという。


境さん、坂上さん、阪本さん。
放課後、奥の13番教室に残ってくださいね。
謡うように告げる妖子先生の朱の唇が、ドキドキするほど輝いていた。

やっぱり~。出席番号順だよう~。
どうしよ~?やっぱ怖いよう~っ。
でも・・・でも・・・逃げちゃったらやっぱりマズイよ。。。

肩寄せ合った三つ編みたちは、怯えて立ちすくみながらも。
だれが先頭を切るというわけでもなしに、指定の教室に脚を向けてゆく。
おそろいの紺のハイソックスを、ひざ小僧のすぐ下まで、ぴっちりと引き上げて。

ああ~ッ!
ひいいいっ。。
瑤子とみなみは、すぐにつかまえられて。
映画で見るみたいに、首すじをがぶり!と噛まれちゃっていた。
あっ・・・待って・・・こ、怖いっ。
怯えて後ずさりをする秀子のことを。
初老の吸血鬼は薄笑いをしながら、距離を詰めてくる。

おっ、お願いっ!

秀子は思わず、手を合わせていた。

見逃して・・・くれるって・・・無理ですか・・・?

珍しい娘さんだな。

男は薄笑いを消さずに、呟いた。

両手を合わせて頼まれるなんて、初めてだ。まあ、気持ちはわかるよ。

わかるんだったら・・・お願い。お願い。あたし死にたくないんです・・・

きみの同級生で、だれか亡くなった子でもいるのかね?

男はあざ笑うように、少女を目で射すくめた。

いえ・・・だれも・・・

死なないんだよね?

強い声色といっしょに手が伸びてきて、夏ものの白のセーラー服の二の腕を掴まえた。

あっ。

縮みあがる秀子に、

きみだけオリちゃ、友だちに悪いだろ?

目のまえで血を吸われ、姿勢を崩していくクラスメイト達が、視界に入ると。
少女は抵抗する力を、喪っていった。

ああーっ!

みなみを抑えつけていた吸血鬼は、首すじに埋めた牙を引き抜くと、
真っ白な制服のブラウスのうえに、吸い取ったばかりのバラ色のしずくを、
たら~り・・・たら~りと、これ見よがしにしたたらせていった。



うなじのつけ根が、まだじんじんと、疼いている。
遠慮会釈なく咬みつかれた痕には、妖しい痛痒さが渦巻いていて。
もっと・・・もっと・・・
われをわすれて秀子は、そう呟きつづけていた。

失礼するよ。

男は秀子のハイソックスを片方、引き降ろすと。
少女の目のまえでむき出した牙を、見せつけるようにして、ふくらはぎに咬みついてゆく。
ちゅー・・・
血を吸い上げられる音が、それは心地よげに、少女の鼓膜をついた。
傷口を通り抜けてゆく血液のぬくもりが、ひたすらいとおしかった。
パパやママから受け継いだ血が、飢えた吸血鬼の小父さまを和ませている・・・
秀子はとろんとなった目つきで、自分の脚にかぶりつく吸血鬼の横顔を、面白そうに見おろしている。

ヘンタイ。ハイソックス噛み破るのが好きだなんて。
瑤子は口を尖らせながらも、足許でおねだりをくり返すごま塩頭の吸血鬼のため、
ハイソックスをピンとひざ小僧のすぐ下まで引っ張り上げて、ふくらはぎに唇を這わされていった。
いやらしい・・・
毒づく声に、にんまりと笑みながら。
ハイソックスのうえから吸いつけた唇の端からチカリと滲ませた牙を、注射針のように刺し込んでゆく。

ああいうふうにしたいの?
クラスメイトが、自分の父親よりも年上の吸血鬼を愉しませはじめてゆくのを目の当たりに。
秀子もまた、自分の相手に囁きかけていた。
ウフフ。ご賢察どおりだね。
わかったよ・・・
秀子は男の子のように呟くと、クラスメイトがそうしたように、紺のハイソックスをキリリと引き伸ばしていった。



だいじょうぶ?
ウン、平気。
まだ痛いの?
痛痒い・・・かなっ。
けっこう、キモチよかったりして・・・
みなみったら、やらしい~っ。

そろいのお下げ髪たちは、肩寄せ合って。
ひそひそ声を交わしながら、校門をあとにする。
真っ白なセーラーブラウスの襟首は肩には、赤黒いシミ。
脛の半ばまでずり落ちたハイソックスには、さりげない咬み痕。
瑤子とみなみは、「傷を視られるのが恥ずかしい」と、おさげ髪をほどいてうなじを隠してしまったけれど。
秀子はサバサバと、三つ編みを揺らしながら、咬まれた痕をさらしていった。

いいじゃん、あたしたちもう、経験者なんだから。
ほかの子にも、自慢できるよね?

秀子の言いぐさに、しまり屋の瑤子はプッと噴き出して。

そうね。タ行以下の子には、自慢オッケーだよ。
少女たちは初めて、はしゃいだ笑い声をはじけさせて。
そうしていつものように、おしゃべりに肩を揺らし合って家路をたどる。
制服に点々と撥ねた血潮など、気にも留めずに。


あとがき
さいごの一行が描きたくて、描いたという説も。 笑
血を吸われたくないと懇願する少女とコミュニケーションを試みる年輩吸血鬼も、個人的にはツボです。^^