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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

来診/往診。

2012年08月24日(Fri) 07:48:58

ピンと伸ばした妻の首すじに、傍らから近寄せられる唇を。
わたしはじいっと、見つめていた。
すでに噛まれてしまった痕が、さっきからジンジンと疼いている。
血潮を引き抜かれていったあの心地よい感覚を、妻も覚え込んでしまったのだろうか?
彼女は蒼白な横顔から表情を消したまま、埋め込まれる牙をそのまま、受け容れていった。

きゅう・・・っ
吸いつけられた唇から、血潮を吸い上げるときの、押し殺すような音が洩れた。
それは何度もしつようにくり返されて、しなやかな三十代の女の肢体から、まだ若さを帯びた血潮を奪い取ってゆく。
きゅうっ。きゅうっ。きゅうっ・・・
横抱きに抱きついてくる吸血鬼に、思うさま生き血をむしり取られていきながら。
妻はさいごまで、無表情だった。

さて、もう少し愉しませていただこうかな?
黒衣の男はにんまりと唇を弛めて、初めて打ち解けた表情になっていた。
わたしがおずおずと、スラックスをたくし上げると。
紳士用の長靴下の、太めのリブのうえから、彼は唇を押し当ててきた。
わざとのように舐りまわす唇の下。
縦にしんなりと流れるように浮き彫りになったリブを、ぐねぐねと折り曲げていって。
さいごにカリリと噛み入れてきた疼痛の周りに、濡れる血潮のなま温かさが滲んできた。

わたしが身体の力を抜いて、ソファに倒れ込むのと。
やつが肌色のストッキングを履いた妻の足許ににじり寄るのとが、いっしょだった。
あなた・・・
さすがに耐えかねたように目で訴える妻に応えるように、わたしは身を起こすと。
どっちの肩を持つのかね?
人のよくない笑みに引き込まれるように、わたしは妻の両膝を、スカートのうえから抑えつけている。
透きとおる薄いナイロン生地ごしに吸いつけられた唇が、妻のふくらはぎをしつようになぞり始めて。
行儀よく脚に通されたストッキングを、くしゃくしゃになるほどいたぶりつづけていった。


ふたりとも、来週また来てください。
まるで医師が来診日を告げるときのような事務的な口調が、密室のなか冷ややかに響き渡った。
妻はやはり表情を消したままこくりと頷いて、わたしもそれに倣うように、ゆっくりと頷いていた。
わたしの足許は、スラックスの陰に隠れていたが。
肌色のストッキングをいいように食い剥かれた妻のふくらはぎは、紺のスカートの下でまる見えになっている。
妻はいつものように、臆面もなく。
ふしだらに堕とされた脚を、帰り道に行き会う人の目線に曝していくのだろう。

なに、いやらしい意図はありません。献血だと思ってください。
ただ、血液が欲しいだけなのですから―――
眼鏡の奥の目を、冷やかすように光らせながら。
夫婦の足許に代わる代わる屈み込んで、必要以上の辱めを加えてゆく。

こんな日常が続いて、もうどれくらいになるのだろう?
奥様の場合、今週は往診もさせてもらいましょうか?
眼鏡の奥の瞳に、冷ややかな輝きを宿しながら。
彼は念を押すように、わたしの顔を覗き込む。
そうですね。ぜひお願いします。
日取りが決まりましたら、お教えしますよ―――

その日妻は、きっといつもより着飾って、往診の医師を迎えるのだろう。
そこで犯されるであろう過ちを、たぶん正常な治療行為として受け止めてしまうであろうわたし―――
妻もまた、「献血ですよ」そういって、ことの本質にあえて触れようとはしないのだろう。
そうしておそらくは、わが身をめぐる血潮で、彼のけしからぬ劣情を、満たしていくのだろう。
脚にまとわれるストッキングに、妖艶な裂け目を滲ませながら・・・

稚ない生贄。

2012年08月24日(Fri) 07:46:38

詩織ちゃん、いいわね?
ユウスケ叔父さまにお目にかかったらね、ハイソックスを履いたまま、脚を噛ませてあげてちょうだい。
おニューのハイソックス、叔父さまのためのご馳走してあげるのよ。
ママにそう言い聞かされながら、妹の詩織は無表情に黙りこくっていた。
よそ行きの黒のワンピースをまとった詩織は、いつもより大人びてみえる。
虚ろな視線は、真新しい白のハイソックスの足許に注がれていた。
そんな妹の様子をぼうっと見ていたボクにも、母は鋭い声を向けてきた。
連れて行くのは、お兄ちゃんの役目。あなたしっかりね。
ママはにらむような目つきをして、きりっとした目線を、ボクには厳しく注いでくる。
これから訪れようとしている街はずれの叔父の家には、ママに何度も連れて行ってもらっていた。
濃紺の半ズボンの下に履いた、おなじ色のハイソックスを。
好んで人の生き血を吸うようになった叔父さんに、噛み破らせてやるために―――

妹が叔父に初めて襲われたのは、先月のこと。
離れのなかの薄暗い狭い部屋のなか。
衝動のままに押し倒された妹は、ほとんど無抵抗に、首すじを咬まれていった。
ピンク色のデニムのミニスカートの下にむき出しになった素足を、ばたつかせることもないままに。
こんどはしぃちゃんのも愉しみたいね。
そのあとボクの脚からいつものように、濃紺のハイソックスを咬み剥いでいった叔父は、目を細めてボクにそういった。
目じりのしわに、ボクにもそれとわかるくらい、卑猥な感情をにじませて。

長い靴下を咬み剥ぎながら血を吸うのは、叔父さんのいけない趣味だった。
過去にはママも、何度となく・・・肌色のストッキングを叔父に噛み破らせてしまっていた。

その日詩織はふたたび、叔父のために血を流した。
長いまつ毛をした目じりからは、切れ切れな涙さえ、流しながら。
こないだとおなじようにうなじを咬まれたときに、おめかししていった黒のワンピースの肩先が汚れたのが、悲しかったらしかった。
血を穢される―――稚ない詩織には、まだそんな感情さえ、湧かないのだろうか?
服をよごされるという直接的なことのほうが、よほどこたえるみたいだった。
だとすると、真っ白なおニューのハイソックスを真っ赤なシミで彩る行為は・・・
ボクが胸をずきりとさせたときにはもう、ソファに腰かけたまま、少女は強欲な唇を足許に這わされていって、
ふっくらとした丸みを帯びたふくらはぎの輪郭を、無理無体に侵されていた。

ちゅうちゅう・・・キュウキュウ・・・
くいっ・・・くいっ・・・
咬みつく部位を変えながら。
足首を抑えつける手つきも、変えながら。
肩を撫でさすったり。二の腕をなぞったり。
まだ薄い胸にさえ、露骨に手をあてがったりしながら。
叔父は実姉の愛娘を相手に、吸血行為に耽っている。

夕べも、三日まえも。
先週の週末にもボクに対して冒した行為。
まったくおなじことを、おなじ経緯でしているだけなのに。
それが妹の身体に重ねられてゆくのを目の当たりに、ボクはわけもわからず、ジリジリとしていた。

嫉妬というやつだよ。
ずばりと見抜かれて、却って腹が立った。
そのころにはもう、詩織はソファのうえ、すやすやと寝入ってしまっていて。
だらしなくずり落ちかけたおニューのハイソックスはところどころ赤黒いシミを撥ねかしていた。
詩織のハイソックスが、よほど気に入ったらしい叔父は、
メッシュ柄の白無地のナイロン生地のうえ、なおも意地汚く唇を吸いつけて皺を波打たせ、くしゃくしゃになるまでもてあそんでいく。

ボクのときでも、そこまでしつっこくはしなかったよね?
咎めるボクの言いぐさを、横っ面で受け流して。
叔父は勝手なことを、囁きかけてきた。

坊主にもそろそろ、彼女ができるだろう?
気になる子ができたら、うちへ連れておいで。
きょうの詩織ちゃんみたいに、ハイソックスをくしゃくしゃにしてあげるから。

ぞくり・・・
股間に走る昂ぶりを、叔父は目ざとく認めたらしく。
半ズボンのうえ、手をあてがって、逃がさんぞ、という目つきでボクの顔を覗き込む。
ウン。
しどろもどろに頷くと。ボクはひどく不覚なふるまいをしてしまったような気がして、俯いていた。
羞ずかしがることはない。
きみのお父上も、きみと同じように。
きみの母上をわしの腕に預けたのだから。

婚約者つきの女こそ、獲(と)りがいがあるというものだからね・・・
きみも、わしにその愉しみを、与えてくれないか・・・?

ひさしぶりに

2012年08月23日(Thu) 07:09:12

連作となりました。 笑
まだいささかは、お話の種が残っているみたいです。

やや濃いめの話ですが、過去話と同工異曲かもしれません。
最後のお話のスポーツ少女は、ちょっと気に入っています。
じつは・・・ほかにふたつほど掻きかけたのですが。
本日のあっぷは、見合わせにしておきます。
あんまりいちどにご披露すると、焦点ボケになりそうですからね。

とはいえ・・・はたしてこのブログ、いまはどれほどの方がまともに読んでくださっているのでしょうか?
常連で遊びに来て下さった方のコメントが途絶えて、はや久しくなりました。

試合帰りの少女。

2012年08月23日(Thu) 05:44:42

ただいまーっ!
玄関先に響く、威勢の良い少女の声。
試合?勝ったよっ。うん、4-0で!
しばらくのあいだ、母親相手に早口で試合のようすを告げていた声が、唐突にボリュームをあげた。
えーっ!来てるのっ!? ぎゃー。
百年の恋もいっぺんで吹き飛ぶような、すごい声だった。
けれども人の生き血に渇いた喉は、そんな行儀の悪い叫びにさえ反応するほどに、
活きのよい若々しさを求めつづけていた。

シャワー浴びる?えっ?そんな余裕ないって?
しょうがないなぁ・・・
露骨に舌打ちをしながらも、少女の足音はこちらに、ずんずんと近づいてきた。

こら、どしどし歩くのは、やめなさい。
女の子らしくしてたらね、試合に勝てないのっ。
勝って帰ってくると、強気な性格がさらに強くなるらしい。
母親似の鼻筋の通った面差しが、ひたむきに輝いていた。
コチラに歩みを向けるまえの、ほんのちょっと逡巡したあいだに、
この娘はソックスだけは履き替えたらしい。
濃いブルー一色のユニフォームはところどころ泥を撥ねかせていたけれど、
白のラインが三本鮮やかに横切るストッキングは、真新しくて、太めのリブをツヤツヤと輝かせていた。

ユニフォーム悪戯されるなんて、ほかのやつだったらビンタだよっ。
少女はふくれ面を作りながらも、真新しいストッキングのつま先をこちらに向けて、自分から腹這いになってゆく。
待て、その前に・・・
俺は少女の身体をあお向けにひっくり返すと、うなじのつけ根に唇を吸いつけた。
夏の陽射しを受けて小麦色に灼けた健康な皮膚が、まだ熱気を帯びている。
半袖のユニフォームの両腕を力を込めて抑えつけると、
きりっとした肉づきをしたうなじの一角に、がりりと食いついていた。
うっ。
少女はビクンと身体をすくめ、背すじをピンと反らして噛み入れてくる牙を迎え入れた。
抱きすくめると意外に華奢な少女の身体は、全身がばねになっているようにしなやかで、
激しかった試合の余韻からか、かすかにはずんだ息遣いが豊かな胸を上下させるのが、ユニフォーム越しにありありと伝わってくる。
口のなかにほとび散った血潮の熱さが、俺の胸を心地よくくすぐった。

ごく、ごく、ごく、ごく・・・
喉を鳴らして娘の生き血を嚥(の)んているあいだ。
台所ではそ知らぬ顔をした妻が、お皿をカチャカチャさせながら、洗い物をつづけている。

いい?ほかのやつだったら、ビンタなんだよ。
少女はもう一度、父親に向かってふくれ面をすると、
それでも気前よく、真新しいストッキングのふくらはぎを、見せびらかすように投げ出した。
悪りぃな。
同年代の悪童になり下がった気分で、四つん這いになって。
ふくらはぎに帯びたしなやかな肉づきに、もの欲しげに唇を這わせてしまう。
しっかりとした生地の裏側にまで、欲情にまみれた唾液をたっぷりとしみ込ませてしまっていた。

あー。
爪先で畳をまさぐるカリカリという音を、いちだんと急調子にしながら、
少女はふくらはぎを噛まれてゆき、彩り豊かなバラ色の体液を、ゴクゴクと飲み耽られてゆく。
処女の生き血が放つ芳醇な香りに、吸血鬼の本能を目覚めさせてしまった俺は、目を眩ませてしまっていた。


遠くでシャワーの音がする。
ブラウスにスカート、素足の妻は、台所仕事を片付けると、こちらに寄り添うように近づいてきて。
あの子もねぇ。そろそろ彼氏ができるころでしょうに・・・
衝動のままに覚え込んでしまったいけない習慣を、さりげなく咎めてくる。
あの子が、お友だちか後輩を紹介するって言ったら、耳を傾けてあげて。
そろそろ、大人の女にしてあげなくてはね。
気のいい子だから、あなたのための代役を、きっと見つけてくれるでしょうからね・・・

膝枕から見あげる視線に、白い横顔だけをさらしながら。
俺に年頃の娘を与えてくれた女は、昔ながらに清らかに笑みつづけている。

太っちょな許婚

2012年08月23日(Thu) 05:09:45

太っちょな晴美が、こちらに向かって歩いてくる。
いつものように背すじを伸ばして、しずしず、ゆったりと。

なるほど、あの娘があんたの恋人か。
肉づきがよくて、歯ごたえのよさそうな肌をしてをるの。
生き血もたっぷりと、摂れそうぢゃ。

老人はもの欲しげにほくそ笑んだが、僕に対する侮蔑の感情はかけらもない。
もともと女には―――というよりも、女の生き血には、だらしのない男なのだ。
彼にとっては娘くらいの年恰好の母さえも、やすやすとその毒牙にかかっていた。
そのあとには僕の姉まで、あろうことか母の手引きで襲われていた。
姉のことは母が、母のことは父が手引きをするほどに、
わたしたち家族は、この老人となじんでいたのだった。

父(てて)ごとおなじように気前よく、彼女の生き血を振る舞ってもらえるのかな?
それとも。
わしがあんたの血を吸い尽くして、あんたが彼女を襲うのかな?
どちらがええか、決めさせてやろう。

僕はためらいながらも、こたえていた。

彼女と相談するよ。

老人は目を細めて、無言で頷いただけだった。
自分の正体を目のまえで明かされることに、恐怖を覚えないらしい。

どっちにする?
そんな選択を迫られても、彼女はもちろん目を丸くするだけで、すぐに答えは返ってこなかった。
くりっとした瞳を輝かせて、少女の視線がまるで値踏みをするように、老人と、僕とに、等分にそそがれる。

どうしても血を吸われるのなら、牧夫くんにあげたいけれど・・・
でも牧夫くんが吸血鬼になるのは、あたし嫌よ。

晴美はいつもの口調に戻ると、はっきりとそういった。

あんたの負けだな。
老人はもの欲しげな薄嗤いをいっそう濃くすると、制服のブラウスを着た晴美の肩をつかまえていた。
早くもなれなれしく巻きつけられる腕に、華奢な両肩をすくめながらも、晴美は気丈に口許を引き結んでいて、懸命な目線で訴えかけている。
ほんとうは、あなたにあげたいの・・・

よく輝く瞳がそういっているようで、僕は老人を押しのけるようにして、晴美をかばった。
やっぱり僕が先に噛まれるから。
それが順序というものだな。
老人は獲物と自分のあいだにいきなり割って入った僕のことをとがめようともせずに、細い目で僕を見た。
正確には、僕のうなじのつけ根に、もの欲しげな視線を這わせていた。

どちらも血を吸われないで済ませる・・・ってわけには、いかないんだよね?
恐る恐るという口調で、晴美はムシのよいことを提案した。
ウン、それは無理だ。
老人と僕と、ふたりながらおなじ言葉を口にすると。
あっはっは。
老人は乾いた声で、笑っていた。
すまないね。
老人は晴美に、そういった。
静かで穏やかな声色だった。
この子はずうっと、わしを見て育ってきたから。わしの立場がよくわかるのだよ。

晴美はちょっとだけ俯いて。それから引き結んだ口許を、意を決したように開いていた。
牧夫くんのあとでいいから・・・あたしも小父さまに噛まれてあげる。


ひどいなぁ。
砂地のうえにあおむけに倒れたまま、重たい貧血でけだるくなった身体を、僕はやるせなく揺すりつづけていた。
僕の首すじから抜き取られた血の量は、かなりのものだったはず。
老人はそっけないほど事務的に僕の血を吸い取ると、その場に僕を転がして、
後ずさりする制服姿を、ゆっくりとした足取りで、追い詰めていった。
それは嬉しげに、にんまりとした笑みをぶら下げて・・・

初めて咬まれたとき。
ひいっ・・・という、忍びやかな呻き声。
怯えたようにすくめた、制服の肩。
豊かなうなじから滴る、バラ色の血潮―――
それはあまりにも、鮮烈な風景だった。

ちゅうちゅう・・・キュウキュウ・・・
人をこばかにしたような、あからさまな吸血の音を洩らしながら。
老人はまだ、晴美のうえに覆いかぶさったまま、十六歳の少女のうら若い血潮を飲み耽っている。
抑えつけられた腕は、力なくだらりと砂地の上に這い、少女は唯々諾々と、わが身をめぐる血潮を抜き取られつづけていた。
立て膝をした脛がこちらを向いていて、スカートのすそをまくりあげられた腰周りが、晴美の顔から視界を遮っていた。
真っ白なハイソックスがずり落ちかかっていて、ふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたりには、赤黒いシミがべっとりと貼りついている。

そんな光景を、嫉妬に狂った僕の網膜に思いぞんぶん灼きつけると。
老人は少女を立たせ、自分も何ごともなかったように、ズボンの膝に着いた砂を、パッパッと払っている。
ブラウスの背中についた泥を僕が払ってやるのにも気づかないように、晴美は抜け殻みたいにぼうっとなって、ただ老人のことを見あげていた。
視線のまえにあるのは、ついさっきまで彼女の素肌に這わされた、ヒルのように膨れ上がった唇。
吸い取った血潮の活きのよさには不似合いなくらい、不健康に赤黒く爛れていた。

時折愉しませてもらうよ。
老人は僕たちどちらに向かってともなくそう言い捨てると、こちらに背中を向けて、いつものようにひっそりとした足取りで歩み去ってゆく。
方角は老人の棲み処ではなくて、僕や晴美の両親が棲む街中だった。

どっちに行くんだろうね?
晴美はまだ、予防接種のあとみたいに、噛まれた首すじをハンカチで抑えている。
たぶん、晴美の家だと思うよ・・・
そうだね。帰るのちょっと、待ってみる。
さすがに自分の母親が毒牙にかけられるのを見るのは、気が進まないのだろう。
彼女は僕の家のほうへと、足取りを向けた。

あら、いらっしゃい。
晴美がお気に入りの母は、笑み崩れんばかりにして彼女の手を取っていた。
冷えた水羊羹、あるのよ。食べてって。到来物で悪いけれど・・・
そういって招じ入れる後ろ姿に、僕は気づいてしまっていた。
ショートカットの髪の毛の生え際に刻印された、ふたつ並んだ噛み痕に。
肉づきたっぷりな腰周りに巻いた薄茶のスカートのお尻に不規則に撥ねた、赤黒い斑点に。

血液の補給源にされた女ふたりは、お茶を間に向かい合って、何ごともなかったような顔つきで、世間話に興じ合っている。

山村の診療所にて

2012年08月23日(Thu) 04:42:47

朴朗がわれに返ったのは、硬い寝台のうえだった。
素早く目線を動かすと、すぐわきの寝台に妻の初恵が横たわっているのが目に入った。
ありがたい、どうやらふたりとも、死んではいないらしい。
安堵を覚えた五体に、じょじょに体温が戻ってきた。

気がついたようだね?
頭の上からそそがれたのは、自分よりやや年上の中年男の、穏やかな声色だった。
見あげた目線のまえにある顔は、よく光る切れ長の目に、鼻筋の通った精悍な顔。
あごにはいちめんの濃い髭を生やした、実直そうな四十男。
そのあご髭に囲まれた薄い唇が、稚気を湛えた笑みを含んでいる。

男はどうやら、医師らしい。
ずんぐりとした身体に白衣を着、古めかしい聴診器をさげている。
彼の背後には背の高い白い薬棚。
デスクには拡げられたカルテと、アルミのトレー。
トレーのうえには、射った後のものらしい注射器が2、3本、乱雑に置かれていた。

あんた、吸血鬼に狙われたね?
医師はずばりと、そう言った。
奥さんも襲われている。おっと・・・ご夫婦と決めつけるのはどうかな?
身分証がおなじご苗字だったのでね。
失礼だったが、山道で倒れているのをここまで運んでくる途中、そこは拝見させてもらったよ。
お差し支えあったかな?

いや・・・差し支えはありません。
救っていただき、感謝します。
寝台に寝そべったまま、男は自分のなまえを復唱するように、辻巻朴朗、と名乗った。
こちらは妻の初恵。
目で紹介した女は、寝台のうえ、まだ血の気を失って気絶したままだった。
わたしは38、家内は36。夫婦で医者をしております。
そう、同業者のようだね。
朴朗の答えを聞き流すようにいったん背を向けた白衣が、ふたたびこちらを振り向いた。
コーヒーを二杯、手にしていた。
ちょうど淹れたてができたところです。いかがですか?
手にしたカップの温もりが、指に心地よく伝わった。

ご夫婦ならば、話しておこう―――奥さんは乱暴されている。
語尾をみじかく切ったときだけ、医師の目はちょっと鋭くなった。
夫の態度を見極めるように。
と、おっしゃいますと・・・?
下半身から精液が検出されたということです。
医師の言いぐさは、あくまで事務的だった。
冷ややかな言葉の端に、行きずりの吸血鬼に妻を乱暴された外来にものに対する、さりげない思いやりが籠められているのを感じると。
朴朗は肩をそびやかして、医師を見た。
わるい旦那です。

あんた、この村に来るのは、初めてじゃないね?奥さんはともかくとして・・・
そうですね・・・隠し立てしても仕方が無いでしょうから、いいましょう。
今夜夫婦ながら献血をした相手は、わたしの生命の恩人なのです。
ほほう・・・濃いあご鬚が和みをよぎらせると、朴朗はとつとつと話しつづけていた。
まるで話のほうからひとりでに、口をついて出てくるようだった。

登山の途中で足を踏み外して転落をして、気絶してくれた時に助けてくれたのがそのひとなのです。
じゅうぶんな手当てをされて動けるようになったとき、その人は初めて自分の正体を明かして、わたしはその欲求にこたえてやりました。
こんどは妻を連れてくる・・・そう約束をして、わたしは村を離れたのです。
家内に事情を告げたのは、隣村に取った宿のなかででした。
夫の生命の恩人に、献血に応じるつもりで彼女はついて来てくれたのですが・・・
さすがに怖かったのでしょう。そのときにはなだめるので大変でした。
たぶんいまはもう・・・牙に慣れた身体にされてしまったのだと思います。
妻の白い寝顔に注ぐ目線は、優しいぬくもりに包まれていた。

ご夫婦どちらとも、喪った血液の量は致死量よりはるかに少ない。
奥さんの失血のほうが多いところを見ると、相手は男ですかな?
さばけた笑い声はからからと乾いていて、朴朗もわれ知らず、笑い声を合わせていた。
―――と、言いたいところですが・・・相手は女だ。
自分の推測をずばりと口にするとき、医師には目つきがするどくなる癖があるようだった。

相手が女だときいて、奥さんは引っ込みがつかなくなったんだろう。
旦那を吸血女に取られると、勝手にそう思ったんだろうな。
けれども実際に面と向かうと、奥さんは恐怖の方がさきに立ってしまって。
あんたは奥さんを身体で愛しながら、吸血女にさいしょに奥さんの血を振る舞った。
奥さんの血を腹いっぱい吸い取った吸血女は、あんたに噛みついた時にはじゅうぶん満腹していて、ダメージの少ないあんたのほうが、先に意識を取り戻した。
そういうことだね?
得意げな顔つきは、憎めない稚気を放っていた。
意地を張る相手でもなさそうなようすに、朴朗は思わずうなずいてしまっている。

申し訳ない。
医師は軽く、謝罪の意思を表した。
あれは私の女房なのだ。
えっ。
さすがに朴朗は、吃驚して目線をあげた。

おなじ村に棲む吸血鬼に噛まれてね。いまはいちおう、こういうことになっている。
遠くの机に伸びた手が取ったのは、葉書の半分ほどの大きさの額縁入りの白黒写真。
写真の主はたしかに、見覚えのある女の顔だった。
墓場からさ迷い出た女房を私はかくまってやり、血を吸わせてやった。
母もそのころはまだ健在で、父に気兼ねをしながらも、見かねて時々血を分けてくれたのだった。
新たに吸血鬼になったものの面倒は、まず近親のものがみることになっているのでね。
けれどもそれだけでは、足りなかったらしい。
夜な夜な家からさ迷い出るようになった彼女は、そのうち家を出て行って・・・戻ってくるのは、いまでは月に一、二度になってしまった。
織姫と彦星よりは、二十倍くらい幸せだね・・・って、あいつは云うのですよ。
医師はそれまでの冷静さを忘れて、真っ暗な窓の彼方にぼんやりとした目線を送っていた。

この村にはそんなにおおぜい、吸血鬼がいるのですか?
ああ、村の住民の一割くらいはそうだよ。
むぞうさな返事に、朴朗は目線を凍りつかせた。
なに、だいじょうぶ。みんな節度は守るやつらだからね。
なりたての未熟者には教える立場の吸血鬼がつくし、ベテランはおなじ村に棲む仲間を死なせるようなへまはやらないのさ。

ときにあなた、いつも奥さんの写真を持ち歩いていないかね?
ああやっぱり、そうなんですね?
どうしてそんなことを訊くのか?朴朗がそう訝ると。
医師はすぐには質問に答えずに、逆に問い返しをしてきた。
休みを一週間とって、この村に来た?
女房とそう、約束したのだね?
なるほどね・・・
医師はしんみりとした顔で、暗い窓辺に向かい合ったままだった。

つぎにおもむろに口を開いたとき。医師はまだこちらに背中をみせたままだった。
あんたの相手が女房だということは、噛み痕をみてわかったよ。
私が首すじに持っているのと、おなじサイズだったからね。
もし家内があんたたち夫婦との時間をそんなに長くとったとしたら、理由はひとつしか思い浮かばないな。
かくいう私も、吸血鬼になる一歩手前なのだよ。
時折、血を吸いたい衝動に駆られてね。
村でたった一軒の医者がそんなことになってはまずかろうと、あいつなりに気遣ってくれたのだろう。
彼女は今夜も、現れる。いや、あんたの様子からすると、明日かあさっての晩くらいかな。
そのころには、奥さんも恢復しているだろう。
私に血を吸われても、平気なくらいにね。
ほんとうは私、母の生き血を吸いたかったんだと思います。
いちどもかなわなかった、願望にすぎないのですけれどもね・・・
なにしろ母は、飢えている女房の相手をするので、精いっぱいでしたから。
女房はそのことを、私に対して申し訳ないと思いつづけていたようでした。
それでね―――
医師は少し言葉を切ると、稚気のあふれた声色であとをつづけた。

あなたの奥さん・・・どういうわけか私の母とよく似ているんですよ。

ジャンパースカート

2012年08月21日(Tue) 08:11:09

おはよう~!
濃紺のジャンパースカートの丈長なすそを揺らしながら、綾子が声をかけてきた。
風にたなびく制服のすそを、腰のあたりで抑えながら。
俺に気がついて歩み寄ってくるときも、綾子は歩くスピードを変えたりはしない。
クラス一のしっかり者といわれた気丈な性格そのままに、
自信たっぷりにゆったりと、歩みを進めてくる。

綾子は俺の、婚約者。
親同士の決めた結婚で、高校を卒業したら、その春に式を挙げることになっている。
この村では、かなり若いうちに縁談が起きる。
十五を過ぎたころには、十中六、七の生徒は、すでに結婚相手が決まっていた。
縁談の相手が同級生の綾子だと母親から聞かされたとき、俺はそう悪い気はしなかった。
しっかり者を嫁にするのは、人生が安定するような気がしたから。

いつも張りのある声でおおっぴらに「おはよう」を口にする綾子が、ちょっときまり悪げにしているときがある。
そういうときには正直なもので、決まって「おはよう」の語尾のトーンが、かすかに落ちるのだった。
今朝がそうだった。
そういう日に限って、綾子はいつも、黒のストッキングを履いていた。
そんな朝が、週に二、三日は,決まってある。

この学校の女子生徒が黒のストッキングを履くのは、卒業式や入学式など、正式な行事のある時だった。
どちらも冬場のことで、夏の制服と合せることは、ふつうはないはずだった。
キリリと引き締まったふくらはぎを持つ綾子の場合、薄黒のストッキングは決して暑苦しい印象にはならなかった。
むしろすっきりと浮き上がる白い脛が、凛とした涼しささえ感じさせていた。
わるい眺めではない。そんなけしからぬ感想を知ってか知らずか、そんな朝綾子はいつも照れくさそうにしていた。
理由は・・・じつは暗黙の諒解になっている。
俺の親類すじに当たるある家の子が吸血鬼になったので、血を与えに通っているのだった。

その子は俺たちよりも、五、六歳年下で。
まだ稚気を満面にたたえた、利発な少年だった。
あいつじゃ、しょうがないな・・・
俺がそう苦笑いをしたのは。
綾子が生き血を吸い尽くされてしまうわけではないと知っていたからでもあるし、
親同士がその家のあるじと仲が良かったせいでもあったし、
けれどもなによりも、幼いころからなじんでいたその少年に、敵意をもちようがなかったからだった。
少年の名前は、タケルといった。

「おはよう」を告げた少女は立ち止った俺に追いつくと、ちょっとのあいだ歩みを止める。
薄黒く染まった足許を見られたいような、見せてはいけないような。
かすかな逡巡が、伝わってくる。
俺は何食わぬ顔つきで、しれっと言ってのけていた。
うん?黒のストッキング、似合うね。きょうもタケルに噛ませてやるの?
いつも自信たっぷりで堂々としている男勝りの少女が、真っ赤になってふくれ面をした。
もうっ。そういうこと言わないのっ!
俺は綾子のうろたえようがおかしくって、笑いをこらえることができなかったけれど、
「いけない想像、あちら様にも失礼よ」
大人びたたしなめ方をする綾子に敬意を払って、「すまないすまない。失礼だったね」と、すぐに旗を巻いている。

この村の吸血鬼は、首すじ以外に、好んで脚に噛みつく習慣を持っていた。
年上の女学生が自宅の座敷に上がり込むと、
稚気の抜けないタケルは、彼女の手を引いて自室に招き入れて、
彼女の着けている丈長のジャンパースカートのすそをするするとたくし上げて、
黒のストッキングのふくらはぎにむぞうさに噛みついて、
なまめかしい薄手のナイロン生地を、みるかげもなく噛み剥いでしまうのだった。

気丈なうえに潔癖な綾子を、どうたぶらかしたものか・・・
綾子はそういうときにはおとなしくうつむいて、
大人びた制服姿を惜しげもなく、稚拙でイタズラっぽい少年のまさぐりにゆだねていくのがつねだった。


きょうは、俺もついていこうかな。
放課後、待ち合わせるともなく待ち合わせた校門の前、俺はぬけぬけと綾子にそういった。
「いけないわ」
綾子はいつもそういって、俺のけしからぬ申し出を辞退するのだったが、
その日に限ってはちょっともじもじとして返事をためらった挙句、
「ウン、やっぱりついて来て」
柄にもなく口ごもりながら、OKをくれたのだった。
気の強そうな切れ長のめもとを、かすかな羞じらいがよぎるのを、俺は見逃さなかった。
「その代り・・・リョウタもあたしと一緒に血を吸われるんだよ」
羞じらったつぎの瞬間、綾子は面目を取り戻していた。
イタズラっぽい上目づかいで俺を見あげ、両手で俺の利き腕をしっかりとつかんでいる。
放さないわよ、というように。

ちぇっ。けっきょく俺は、添え物か・・・
貧血にうごきの鈍った身体を、畳のうえに芋虫のように揺らしながら。
目のまえで吸血されてゆく許嫁を、目の当たりにさせられていた。
「じゃあお兄ちゃん、始めるよ」
そこまでは、子供のころにいっしょにイタズラをしに近所の農家に忍び込んだ時と、変わらなかった。
そういう時決まって俺たちの背後に現れて、三つ編みに結ったおさげをいからせるようにして悪さをたしなめていた少女は、
折り目正しい制服にしわを寄せながら、素肌を少しずつ、あらわにされていった。

ブラウス、血で汚したらいけないよね?
綾子の着ているジャンパースカートの肩先を、うなじに食いついて滴らせた赤黒い飛沫で赤黒く濡らしたくせに、そんな言いぐさをして。
少年は少女の肩に手をかけて、白のブラウスを剥いでいく。
張りつめたブラジャーの吊り紐が、むぞうさに引っ張られて、断ち切られた。
あ・・・っ。
さすがに狼狽して、あらわになりかけた胸を両手で覆い隠そうとすると、
そのすきに少年は、ジャンパースカートのすそから控えめにのぞくふくらはぎに、唇を這わせていった。
清楚な黒のストッキングは、稚気の満ちたよだれをたっぷりとしみ込まされて、
ヒルのように飢えた唇のむぞうさなまさぐりの下、
張りつめた薄いナイロン生地が、パチパチとかすかな音を立てて、はじけてゆく。

その先に、なにが待ち受けているのか・・・
三人が三人とも、すでに察しをつけていた。
稚ない三人が三人ながら、大人の男女になる日。
この屋敷の家人たちは、わざとのようにだれも居合わせなかった。

すらんぷ?

2012年08月20日(Mon) 08:00:22

描けない描けないと思っていたら、一話描けちゃいました。
(^^ゞ
出来の良し悪しは、べつとして。 苦笑
案外、そういうものらしいです。

さいごに拍手をいただいてから、ほぼ二週間。
さいごにコメントをいただいてから、ほぼ一か月。

今月も下旬となったのに、この記事数の少なさは、ブログ始まって以来です。
ま・・・気長にイキましょう。(^^)

障子の向こうの逢瀬

2012年08月20日(Mon) 07:58:10

ねっ。似合うかしら?
小父さまのおねだりどおり、ストッキング履いてきちゃった。
夏の制服に黒のストッキングなんて、変ですよねっ?

三つ編みのおさげが揺れる肩先は、鮮やかな純白のセーラー服。
ノリコさんはいつも僕に向けるのとおなじ爽やかな眼差しで、相手の男に笑みを向けている。

ヨウイチさんにはナイショにしてきたの。
裏切っているつもりはないけれど、気を悪くするでしょう?

そう。
ノリコさんは婚約者である僕にも黙って、叔父の繁蔵に逢いに来ているのだ。

繁蔵叔父は、吸血鬼だった。
処女の生き血欲しさに、昔は姉である母を襲って、生き血をねだり取っていたという。
その叔父が・・・いま僕の婚約者のピチピチトした肢体に、眩しげな視線を投げかけている。

無邪気な少女はきゃっ、きゃっ、とはしゃぎながら、
薄黒のナイロン生地でなまめかしく染めた足許に、飢えた唇が吸いついてくるのを、
それは面白そうに、見守っていた。


ね?
ヨウイチ兄ちゃん、ボクの言ったとおりでしょ?
まるで宝物のありかを告げるように目を輝かせた少年は、
無邪気な声色を僕の耳もとに吹き込んできた。
声色が無邪気であればあるほど、鼓膜に沁み込まされた毒気は濃厚だった。

父さんが、ノリコ姉ちゃんを呼び出しているんだ。
きっと、血を吸っちゃうんだと思うよ。

そんなふうに囁いてきたときとおなじくらいきらきらした目線には、
害意のない無邪気さがあるだけだった。
無邪気であればあるほど、彼の放つ毒気は罪深かった。


あっ、ダメよ。ダメ・・・
ストッキング噛み破っちゃったら、恥ずかしくてお家に帰れない・・・

足許に迫る唇のしつようさに、ちょっとうろたえながらも、ノリコさんはまだ愉しげだった。
ストラップシューズの足首を、ギュウッと掴まれて。
薄いストッキングにしわが寄るほどつよく、唇を圧しつけられて。
赤黒く爛れたような唇の端から覗く舌は、滾るような唾液をナマナマしくぎらつかせていた。
きっとそこまでは・・・彼女の視界にも入っていないに違いない。
潔癖な年頃の少女には、あまりにも不慣れなはずの淫らさだったから。


えっ?どうしても破るの?うーん、困ったわ。
ウン、わかった・・・
その代わり、暗くなるまでいっしょにいてくださる?
夜目ならきっと、わからないだろうから・・・

相談はすぐに、まとまったらしい。
細目に開いた障子の向こう。
ぴったりと這わされた唇の下。
薄手のナイロンストッキングは、チリチリとかすかな音をたてて弾け、裂け目を拡げていった。

ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
少女の生き血を吸い上げる、おぞましくも妖しい音が。
薄暗くなった密室から、ひそやかに洩れつづけてくる。
僕は両耳を抑えつづけていたけれど。
その音はたち悪く、ひとの理性を侵蝕するように、僕の鼓膜に沁み込んでくるのだった。


父さん、美味しそうだね。
お姉ちゃんも、キモチよさそうだね。
そうなんだよ。血を吸われるとだれでも、ウットリとなっちゃうんだ。
ヨウイチ兄ちゃんも、試してみるかい・・・?

え・・・?
振り返るいとまもなく、少年は僕におどりかかってきた。
虚を突かれ、畳のうえに手もなく組み敷かれた僕に、彼の小さな体が意外なくらいの重さを持ってのしかかってくる。
少年の柔らかい唇が、うなじのつけ根に、むぞうさに吸いつけられた。
唇に浮いた唾液が、なま温かかった。
いかにも子供っぽい、稚拙なやり口だったけれど。
十も年上の僕を黙らせてしまう魔力を、少年である彼はすでに持ち始めていたのだった。

僕の二の腕を両方とも、ギュウッとつかんだまま。
痛いほど圧しつけられた唇の両端からむき出された鋭い犬歯が、
慣れたようすで、皮膚を突き刺してくる。
皮膚を破って尖った異物を埋め込まれるのを感じながら、
僕は不覚にも、彼の背中に両腕を回してしまっていた。


ちゅうちゅう・・・
キュウキュウ・・・
障子一枚へだてて、将来を誓い合った若い男女が、吸血鬼の親子に生き血を吸い取られてゆく。
さっきよりも幅の開いた障子のすき間ごし、
大胆になった女学生の身じろぎが、切れ切れに覗いた。
くねった脚にまとわれる黒のストッキングが、制服の一部とは思えない淫靡さで輝いていたし、
衝動的な腰さばきに、重たげな濃紺のプリーツ・スカートが、すをを乱していた。
純白のセーラー服の肩先に乱れかかる黒髪は、どきりとするほど艶やかで、
濃紺のえり首に走る白のラインは、どこまでも清純だった。

逢瀬を重ね合う男女のように、叔父はノリコさんのうなじに、なん度も唇を這わせつづけ、
ノリコさんもまた、己の身をめぐるうら若い血潮で、男を供応しつづけていった。
はぁ・・・はぁ・・・
ふぅ・・・ふぅ・・・
おぞましい共同作業は、ふたりの息遣いを、それはリズミカルに重ね合わせていって。
不覚にも股間を熱してしまった昂ぶりを、僕は稚ない従弟に探り当てられてしまっている。


ノリコ姉ちゃんはね。
ほんとうは、父さんの娘なんだ。
ノリコ姉ちゃんのお母さんが嫁に行く前に、父さんに誘われて押し倒されちゃったんだ。
だからね。父さんとノリコ姉ちゃんとは、父娘なんだよ。
だから、ヨウイチ兄ちゃんとも、いとこどうし。
結婚してからも、みんなで仲良く暮らそうね・・・

少年の囁きは、狡猾だった。
そう。僕たちの新婚生活は、いきなり不倫と近親相姦で、彩られることになるのだろう。

不思議なことに、さらに開いた障子の向こう。
重たげな制服のプリーツ・スカートは、キリッとアイロンのきいたひだを折り曲げていて。
くしゃくしゃにされたまま、ノリコさんの太ももの豊かさを浮き彫りにする。
その太もものすき間に割り込んだ、叔父さんの毛むくじゃらの逞しい足腰に迫られて。
ノリコさんはゆっくりと、脚をひろげてゆく。
引き裂かれた黒のストッキングは、ひざ小僧のあたりまでずり降ろされていて。
濃紺のスカートと剥ぎ降ろされた黒のストッキングのすき間から、
きれいに透きとおった太ももを、白日の下に曝け出していた。

不倫の慰謝料 計算ソフト

2012年08月12日(Sun) 06:06:53

かなりご無沙汰になりました。

そのあいだ、入力画面の履歴を示すサイト名が変わりました。
いままでは、「blog〇〇.FC」となっていたのが、「control.blog・・・」になっています。
一時は表示されないのかと思って、心配していました。 笑
旧表示もつい先週までは、「3週間前」のところに載っていたのですが。それもすでに見ることはできません。
それくらい長いこと、放置していました。
(^^ゞ

しょっちゅう覗いては、いたんです。
けれどもどういうわけか、お話を全く描くことができませんでした。
なんどか”魔”の訪れはあったのですが、印象が薄く、お話を結ぶまでにいたりませんでした。
心が健康な証拠?
どうなんでしょうねぇ・・・。 (^^l)

少なくとも・・・ビジュアルに逃げてはいけない、という気はしています。
どうも文章力が、衰えるようです。


さて、本題です。

こんなものを見つけました。
「不倫の慰謝料計算サイト」
http://right.boo.jp/form_02.htm

ソースはこちら↓
「安田雑学」http://www.otona-magic.net/contents/0059.html

真面目な意図・・・というか、きわめてシリアスな目的のために作られたものをねたにするのはちょっと気が引けるのですが、柏木家の場合は?とおもいやってみました。
変数は、

①不倫の交際期間、
②請求される側の年収、
③肉体関係の回数、
④不倫を原因とする既婚者側の離婚、
⑤有責配偶者の浮気相手への虚偽について、夫婦関係について

・・・となっています。

※⑤について 不倫相手に自分が既婚であるかどうか告げているか?という設問です。
「交際当初、婚姻は破たんしていると言った」「交際当初、未婚と偽った」「交際途中まで未婚と偽っていた」「交際後、既婚と知ってすぐに別れた」

①・・・10年以上(最大値)
由貴子さんと柏木氏とはすでに結婚十年以上、中学生か高校生くらいの男女の子供がいます。
由貴子さんと吸血鬼との不倫関係は、ふたりの結婚前。そしていまもって継続しています。

②・・・100万未満(最小値)
相手は吸血鬼ですから、収入なんてありません。 笑

③肉体関係の回数・・・20回以上(最大値)
ふとした過ちかどうかをみる設問のようですが、不倫が日常化していた由貴子さんは、週に何回も愛されてきました。

④・・・離婚しない(離婚の意思の有無という、二社選択。当然、しない)
はい、とーぜんです。
こんな事情にもかかわらず夫婦仲は良好、もちろん別居等もありません。

⑤・・・虚偽はない(最小値)
由貴子さんを吸血鬼に紹介したのは、柏木氏本人です。
自身の許婚であると告げて、処女の生き血を吸わせたのがなれ初めでした。^^;

こういう状況で慰謝料請求などあり得ないのですが。 笑
ためしに、計算ボタンをぽちっとやってみました。

結果。

2,808,000円!

おおっ!年収のない人に(人なのか?)なんと巨額の請求額!!
というか、請求額じたい存在することが不思議です。
おそらく、状況のいかんを問わず既婚女性に手を出すとこれくらい高くつく ということなのでしょう。
良い子の皆さん、りあるな世界で不倫をすると、こういうことになるのですよ。(^_^;)
気をつけましょう☆


ただね。
ちょっと不思議なんです。
夫婦関係を「問題なし」から「家庭内別居」に変更すると、請求額が減額されるんです。
この場合だと、2,246,400円。
ちょっと不思議。
もともと設定がヘンなので、計算しようがないのかもしれませんね。 苦笑

ついでにいうと、吸血鬼さんがものすごい財産家で、土地や株の配当なんかでわさわさおカネが入るとすると。。。
年収2000万以上としてみました。
この場合だと、12,168,000円!

当初の設定の、じつに4倍以上です。
奥さんの貞操の代価は、不倫相手の財産状態にも左右されるみたいですね。^^

小母さんの血、ゴクゴクしたい・・・

2012年08月01日(Wed) 08:07:00

俊夫さん、四丁目の洋館をご存じね?
こんどの週末、母さんお招ばれしているのよ。
皆さん内証にしていることなんだけど・・・
あそのこ家の子、人の血を吸うのよ。
ほんとうの父親は、吸血鬼なんですって。
あのお邸にお招ばれすると、血を吸わせてあげなきゃならないの。
母さんもその子に、血をあげることになってるの。
あなたも、いっしょに来る?

運命というものでしょうか?
そんな不思議な誘いに、ボクはなぜだかすんなりと、ウンと頷いていたのです。
そして週末のボクは、まるで新入学の小学生みたいに、
濃紺のブレザーにショートパンツ、赤と黒のラインが入ったねずみ色のハイソックスというイデタチで、
母さんといっしょにそのお邸にお邪魔したのでした。

応対に出たのは、その子のお母さんでした。
母さんよりもすこし年上のそのひとは、花柄のロングのワンピース姿。
淑やかで上品そうなひとでした。
栗色の髪を頭のてっぺんで結い上げてあらわになった首すじには、赤黒い咬み痕がつけられていました。
むぞうさにつけられた咬み痕に、ボクはちょっとのあいだぼうっと見とれてしまって、
脇腹をそっと、母さんに小突かれていたのでした。

生命の保証はあるから、平気よ。
具合が悪くなった時のために、お医者様も看護婦さんつきで待機しているの。
きょうみたいに来客がないときには、看護婦さんの血を吸うこともあるそうよ。
母さんは他人事のように、そんな説明をしてくれました。
乾いた声で、淡々と。
あ、来た来た・・・
小さな足音が踊るように近づいてきて、ドアが開くとそこには、ボクよりもずうっと年下の男の子が佇んでいたのです。

まだ幼稚園か、小学校にあがりたての年頃でしょうか?
背丈の伸び切っていないその子は、真っ赤なワイシャツにデニムのズボンを履いていました。


小母さんの血、ゴクゴクしてもいいの?


稚ない声色でも、口にしたのは忌まわしいことでした。

さあ、どうぞ。好きなだけ飲んで構わないのよ。

母さんはにこやかにそういうと、ソファに腰かけたまま両手を広げ、その子を迎えてやりました。
しつけの厳しい母さんが、よその子にこんなにやさしく振る舞うのか?
かすかな嫉妬がきざしたのは、たぶんそういうことだったのでしょう。

少年は母さんに近づくと、
スカートを履いた膝の間を割るようにして母さんに身体を密着させて、
唇で、母さんの首すじをさぐっていきます。
獣のように、速い動きでした。
少年の唇は赤黒く、爛れたように膨れ上がっていて、まるで子供らしくない感じがしました。
その唇が、母さんの白い素肌に吸いつき、這いまわって。
唇の端からむき出された尖った牙が、豊かで柔らかい肉づきをした母さんのうなじに、まるで予防接種の注射針のように吸い込まれていったのです。

ぁ・・・

噛まれた瞬間。
さすがに母さんも、声を洩らしてしまいました。
それでもすぐに気を取り直すと、不覚にもうめき声をあげたのを羞じるように口を噤んで。
あとはひたすら、少年の欲望に自らの血をゆだねていったのです。

ちゅうちゅう・・・
キュウキュウ・・・
ごく・・・ごく・・・ごくん。

少年は貪婪な音をたてて、母さんの生き血を吸い取っていきました。
眉をピリピリとナーヴァスに震わせながら、吸血されてゆく母親―――
白いブラウスがほとび散る血で赤黒く浸されるのも構わずに、
母さんはその子の肩を抱いて、いっしんに吸血に応じています。
そんな姿をついウットリと眺めてしまったのは、いったいどういうわけだったのでしょう?

小母さんのパンスト、なよなよしてて面白いね。
少年はそういいながら、母さんのふくらはぎにも唇を添わせてゆきます。
母さんの穿いている肌色のパンストは、少年の唇の下でいびつなしわを寄せて波打っていきます。
ああ、いいのよ。よかったら噛み破って御覧になる?
そんな不埒なことをされてもなお、母さんは優しく応対を続けていったのでした。
いびつにねじれた薄手のナイロンは、むぞうさに圧しつけられた唇によって、
他愛もなく破かれ、チリチリに裂き落されていったのです。

待って。それ以上したら、母さん死んじゃう。
代わりに僕の血を吸いなよ。
思わずボクが割って入った時、母さんはへらへらと笑いながら、ソファの下にすべり落ちて、尻もちをついていました。
吸血行為を止められた少年はちょっと不平そうにボクを見あげましたが、
すぐにボクの足首を掴まえると、「いいの?」と訊きました。
いいよ、母さんのパンストみたいにしても。
自分でもびっくりするほど、なんのためらいもありませんでした。
じゃ、お兄ちゃんのハイソックス、真っ赤にしてあげるね。
吸い取ったばかりの母さんの血を口許に光らせたまま、少年は無邪気に笑ったのでした。

貧血になったボクたち母子が解放されたのは、それから小一時間も経ってからでした。
互いに互いの身体を支え合うようにして家路をたどるボクたちの足許は、
剥ぎ堕とされた肌色のストッキングに、ずり落ちたねずみ色のハイソックス。
どちらも持ち主の血の赤黒い飛沫に染まっていました。
道行くひとたちはなにも見なかったように通り過ぎていきましたが、
きっと、近所の評判にはなったことでしょう。

それからのことでした。
ボクが学校帰りにしばしば、少年の邸を訪れるようになったのは。