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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

魔性の少年

2012年12月30日(Sun) 09:08:28

暗くなった公園のベンチに腰かけて、人影がふたつ、恋人同士のように寄り添っている。
影の主は、この間の”解禁日”で馴れ初めたトオルと、四十男の吸血鬼である肥田だった。
トオルは、学校の運動サークルのユニフォーム姿。
もちろん、短パンの下に履いたライン入りの折り返しの入ったリブハイソックスが目当ての肥田のために、家を抜け出してきたのだった。

肥田はいま、独り身だった。
もともとは既婚者として、夫婦でこの街に移り住んできたのだが、
妻を吸血鬼に襲われてしまったのだ。
生命の保証と引き換えに血液を提供する義務を負った妻は、相手の男にぞっこんに惚れ込んでしまっていた。
初めての経験だったのだから、無理はなかった。
吸血鬼もまた、彼の妻に夢中なのを察した肥田は、いっときでいいから奥さんを貸してくれ・・・そうせがまれるままに、いまはやもめ暮らしをしているのだった。
よその街から来たのに、優しいばかりに寂しい暮らしをしている・・・
そんな肥田の身の上に同情したトオルは、”解禁日”に打ち解けて以来しばしばこうして、彼と逢う時間を作っていた。

肥田はさっきから、少年の首すじに唇を圧しつけて、渇いた本能のままに、清冽な血潮をゴクゴクと飲み耽っている。
「ちょっと・・・今夜はしつこいな」
トオルは、気の強そうな頬をプッとふくれさせて、のしかかってくる吸血鬼にちょっとだけ抗った。
その抗いが、新たな欲情を生んだらしい。
男はトオルの首すじから牙を引き抜くと、、こんどは短パンからむき出しになった太ももに、がぶりと食いついていく。
柔らかい筋肉に埋め込まれてくる疼きに、少年はキリキリと奥歯を鳴らして、快感に耐えた。
「待って・・・待ってよ・・・そんなに勢いよく血を吸ったら、ボク死んじゃうよ・・・」
少年の声色は震え、力を喪ってきた。
「これだけは許せ」
肥田はそういうと、鮮やかなブルーのサッカーストッキングのうえから、少年のふくらはぎに唇を這わせてゆく。

なれ初めの時、制服の一部だった紺のハイソックスを、欲情まみれのよだれでしつように濡らしたときとおなじ仕打ちに、少年は妖しい昂ぶりをかんじた。
いちどは引っ込めた脚を、足首を握り締められるままにおずおずと差し伸べて、
ヌラヌラとしみ込まされてくるよだれに、足許をすくめながら応じていって、
しまいにはなん度も、真新しいハイソックスを惜しげもなく、びりびりと噛み破らせて、
若い血潮をどん欲に求める牙を、根元まで埋め込まれてしまったのだった。

ちゅー・・・

静かで重たい響きをたてて吸い取られてゆく血潮が、傷口を通り抜けてゆく感触に、
少年はくすぐったそうに、白い歯を見せていた。


ただいま。
玄関に佇む少年を出迎えたのは、母親の華絵と伯母の紀美子だった。
赤黒いシミをユニフォーム姿のそこかしこに散らした息子の姿に息を呑む母親とは裏腹に、
「あら、あら。がんばったわねえ」
太っちょの伯母はあっけらかんと笑って、若い甥に称賛を投げていた。
まだ乾ききっていない血のりを赤黒く光らせたサッカーストッキングをむぞうさに洗濯機に投げ込むと、
華絵はおずおずと息子に訊いた。
「洗った後は捨てるのね?」
「ううん、小父さんにあげるんだ。・・・欲しがってたから」
答えの内容に含まれた淫靡な意図を、本人は必ずしも理解し切っていなかったが、母親のほうはもちろん、敏感に感じ取っていた。
思わず顔をしかめる華絵に、伯母は開けっ広げに笑った。
「いいじゃないのお。若いうちだけよ、相手にしてもらえるのは」
そうはいいながらこの伯母は、目下失業中の伯父に代わって一家を切り盛りしているのだった。
街に出没する吸血鬼相手の娼婦として。
そうしたビジネスに身を染める主婦たちは意外に多く、隠語で「献血のお仕事」と呼ばれていた。
生命の保証と引き換えに貞操まで要求されるこのアルバイトに、
伯父も薄々はそれと察しながらも、反対しようとはしないらしい。
「理解あるのよ、うちのだんな」
夫の男らしからぬ身の処しかたに、伯母は一定の理解を示しているようだった。
「華絵さんもこんどお招き受けたら、お上手にするといいわよ。愉しんじゃえ愉しんじゃえ」
伯母のあまりの開けっ広げさに、さすがのトオルも決まり悪そうにしていたけれど、
やがて「シャワー浴びてくる」といって、その場を逃れたのだった。


「母さんのよそ行きの服、一着用意してくれない?こんどの木曜、着てくから・・・」
伯母が帰ってしまった後、洗い髪を拭くバスタオルで顔を隠しながら、トオルが言った。
「わかった」
つとめて平静に応えた華絵は、「貴方のたんすのなかに入れておくから」というと、そのまま逃げるようにそそくさと座を起った。

”解禁日”の記憶が生々しく、華絵の脳裏によみがえった。
濃紺の制服の足許に、紺のハイソックスを足首までずり降ろして帰宅した息子。
その後ろには、息子の身体から吸い取った血を口許に散らしたままの男の姿。
ひっ…、と声をあげたときにはもう、すべてが遅かった。
吸血鬼はその家の人間の招きを受けない限り、他人の家にあがり込むことはできないというのに、
息子はいともやすやすと、それをかなえてしまっていたからだ。
通学用のリブハイソックスのふくらはぎに吸いつけられた唇が、
その母親の、肌色のストッキングのふくらはぎの周りを這いまわったのは、そのわずかに数分後のことだった。
しつようないたぶりの末に、やっと解放されたとき―――
華絵は放心状態になって、破けたストッキングを脚にまとったまま、ほかに身にまとうものはなにもなく、
ブラウスもスカートも剥ぎ取られて、
もちろんその下に秘めていたスリップやショーツさえ、裂き捨てられて。
裸体のうえにはたっぷりと、白く濁った粘液をふりかけられた後だった。
「お邪魔しますよ、奥さん・・・」
男はくすぐったそうにそういうと、
まだまっとうな主婦の装いに身を包んでいた華絵のスカートの奥深く侵入を試みて、
結婚十数年にして初めてほかの男を味わう羽目になった貞淑な理性を、こともなげに狂わせたのだ。
あのあと・・・
息子が視ているのもかまわずに、不覚にも乱れてしまった刻一刻。
あのときのことを息子はなにも口にしようとはしないけれど、却ってそうであることで、とろ火に炙られるような責め苦を、彼女は辛辣に味わっていた。


暗くなった公園の街灯の下。
よそ行きに着飾った人影に、飢えた人影がのしかかった。
クリーム色のブラウスに、花柄のスカート。
足許は濡れるような光沢を帯びた、肌色のストッキング。
押し倒された華奢な身体は、フェミニンな装いもろとも草の切れ端と泥にまみれていった。
母さんが、犯される。
母さんが、汚される。
歯を食いしばって吸血に耐えながら、
華絵の身代わりに装ったトオルは、華絵の服もろとも凌辱されてゆくこの行為に、妖しい欲情に眩惑された。
吸い取った血しおを、ぼとぼとと。
ブラウスの胸に、重たい音をたてて、わざとほとばせてくるのを、むしろ愉しげに、受け止めて。
もっと汚して。もっと引き裂いて。
チャッ・・・、チャッ・・・、と、悲鳴のような音をたてながらブラウスを引き裂かれてゆくのを、
共犯者として愉しんでいた。

息子が忌むべき欲望に身をゆだねているころ。
母親はその夫のまえ、三つ指をついていた。
「トオルを迎えに行ってまいります」
「ああ・・・気をつけて・・・」
義姉の紀美子の夫どうよう、夫はすべてを察しているのだろう。
吸血鬼に血液を提供するとき、既婚の婦人はほとんど例外なく犯される・・・というこの街のしきたりを、
夫だけが知らないということは、ないはずだから。


「トオルくん、きみのお母さん、モテモテだよ~♪」
肥田の妻は、派手な真っ赤なワンピース姿で、トオルをベッドに抑えつけていた。
隣室では母の華絵が、肥田の相手をしている最中だった。
母親の血をせがむ吸血鬼の小父さんを宥めるために、身代わりに母親の服を着て相手をしてやったけれど。
けっきょく彼の血だけでは、足りなくって。
見かねた母親が、「代わりに妾(わたし)の血を」と申し出て、ことに及ぶ・・・そんな筋書きだった。
いまごろ隣の部屋で、華絵はスリップ一枚にひん剥かれ、無防備になった貞操を情夫のまえにさらしているに違いない。
「悪い子。お母さんの浮気想像して、勃っちゃったのね?」
肥田の妻は、ほっそりとした指をトオルの股間にさ迷わせ、くすぐるような手つきで若い茎をそばだてた。
「さっ、小母さんにも血を頂戴ね」
つねるような痛みが首のつけ根に走り、トオルはかすかに声をたてた。
吸血鬼のもとから帰宅した肥田の妻は、半吸血鬼になっていた。
小気味よいほどの勢いで吸い出される血潮に、クラクラとした昂ぶりを覚えたトオルは、
すっかり慣れ親しんだ小母さんに、「隣の部屋の様子を視たい」と、おねだりをくり返していた。


「お邪魔いたしました」
じゅうたんの上、三つ指をついて頭を下げる華絵に、
「こちらこそ、お邪魔をいたしました」
肥田が人のわるい笑みで、応えていった。
いっさい、なにも起きなかったていを、取り繕っていた。だれもがすべてを察しているのに。
華絵は此処を訪れたときとはちがうスーツに着替えていて、
すきひとつ見せないキリッとした佇まいで、「なにも起きなかった」ことを強調しているようだった。
息子とふたり、玄関先に立って、黒革のエナメルのハイヒールが、ぴかぴかと硬質な輝きを過ぎらせた。
そのときだった。
無遠慮な手が、華絵の腕をわしづかみにしたのは。

「ちょ・・・ちょっと!息子がおりますのに・・・」
戸惑う華絵はよろけ、かろうじて息子に支えられて、その場に転倒するのを免れた。
けれども息子の腕には、別の意図から力が籠められていた。
「アッ、なにを・・・っ!?」
華絵の両手を後ろ手にねじりあげたトオルは、大人のような薄嗤いを浮かべたまま、
迫ってくる肥田のまえに華絵を立ちすくませていた。
「お行儀のよろしい立ち姿が、なんともそそられるね・・・」
肥田は舌なめずりせんばかりにして、華絵の足許にかがみ込んで。
黒のストッキングに蒼白く透けるふくらはぎを侵すように、唇を這わせてゆく。
肥田の妻は、夫の不埒をとがめるでもなく、むしろ興味津々に、三人の様子を見守った。
場合によっては自分もなかに加わって、華絵の凌辱に手を貸したげなそぶりさえみせている。

「あっ・・・あっ・・・」
そむけたうなじに唇が迫り、むき出された牙が皮膚に埋め込まれる。
息子の肌を幾度も侵した牙が、唇が。
母親の華絵の柔肌にも食い入って、侵蝕してゆく。

「さあ、部屋に戻ろう。母さん」
息子は母親を促すと、ハイヒールの脱げ落ちた黒のストッキングのつま先が、ふたたび敷居をまたいでいた。

「こんどはボク、姉さんの制服を着てみたいんだ。母さんも・・・協力してくれるよね?」
この子が身代わりに着る衣装の持ち主が、どういう運命をたどるのか・・・それを知らない華絵ではなかったはずなのに。
「え・・・ええ・・・」
あいまいに頷く華絵の唇を奪いいたぶりながら。
肥田はトオルのまえ、我が物顔にその母親を抱きすくめる。
「だいじょうぶだよ。この人、結婚前の女の子は、犯したりしないから。犯すのは人妻って、決めてるみたいだから」
暗証するように抑揚のない科白を、愉しげに口にする少年に。
肥田の妻は肩に手を置いていた。
「小母さんにももう少し、血を頂戴ね。それから・・・彼女ができたらぜひ、主人に紹介してあげてね」
「ウン、彼女ができたらやっぱり、小父さんに血を吸ってもらいたいね」
なにもかもを別世界に置き忘れてきたような顔つきで、少年はあっけらかんと笑い、身もだえする母親を縛める手に、いっそう力を込めるのだった。

少年たちの学校帰り

2012年12月30日(Sun) 07:36:22

坊ちゃんたち、ちょっとだけ脚を留めてくれんかの・・・?
背中ごしおずおずとかけられた声に、タカシとトオルは立ち止まって振り向いた。
サークル活動を終えて、すこし遅めの学校帰りだった。
声の主は、顔見知りの近所の四十男三人連れだった。
えへへ。悪りぃね・・・
頭だった男が決まり悪げに頭を掻くと、少年たちはなにもかも心得た顔つきになって、打ち解けた口許から白い歯を見せた。
「わかってます。献血ですよね?」
えへへへへ・・・
四十男たちは遠慮がちにではあったが、照れ隠しに下品な嗤いを浮かべた。
好色そうな嗤いかただった。
秀でた目鼻立ちの少年たちの横顔に、健康そうな頬の輝きが眩しかった。

街では名門とされているその私立学校の生徒たちは、吸血鬼を相手に血液を提供することを義務づけられている。
とくに月の第三木曜は、いわゆる”解禁日”というやつで、
下校してくる制服姿の少年少女たちを、吸血鬼たちは見境なく襲ってよろしいことになっている。
この学校では、女子はセーラー服を、男子はブレザーを制服に採用していたが、
男子の制服も半ズボンが推奨で、その下に紺のハイソックスを履くことになっていた。
男性が圧倒的に数が多い吸血鬼のなかでは、もちろん女子生徒が人気の的であったけれど
ユニセックスな雰囲気を持った紺のハイソックスを目当てに群がる吸血鬼どももまた、けっして少なくはなかったのである。
特定の相手のいる生徒はこの義務を免れることになっていて、そうした生徒たちは目印に、胸に赤いワッペンをすることになっていた。
タカシもトオルも、もちろん経験者であったけれど、まだ特定の相手はいなかったのだった。

「でも・・・頭数が合いませんね」
なにごともはっきりと言うたちのタカシは、ふだんは挨拶ていどにしか言葉を交わさない彼らに対してそういった。
もちろん、二人がかり三人がかりで、ひとりの生徒を襲う・・・という例も、ないではなかったけれど。
「やっぱり一対一のほうが、落ち着いて愉しめるんじゃないですか?」
タカシはトオルと手分けをして、もうひとり相手をしてくれそうな仲間を当たってみることにした。
代わる代わるかけた携帯は、なかなかつながらなかった。
「ヒデキも出ないや」
口を尖らせるトオルに、
「ケイタが塾だって言ってたね?」
確認を取ると、こんどはタカシが携帯をとっていた。
「ああ、ケイタ・・・?きょう身体あいてるかな?塾に行く前にちょっとだけ、奉仕しないか?うん、うん。公園でひとり、待ってるから・・・」

さて、お待ちかねだな・・・
少年たちが血を吸わせてくれる仲間を求めて携帯をかけ合っているあいだに、四十男どもはくじ引きを済ませていて、当たりを取ったふたりのなかで、だれがどっち、と相手の少年までも決めてしまっていた。
「お手柔らかにお願いしますね?」
さすがにちょっぴり顔をこわばらせたタカシをしり目に、
トオルは欲情に満ちた視線のまえに半ズボンの太ももを潔くさらして、
ずり落ちかけていた紺のハイソックスをひざ小僧のすぐ下までピチッと引き伸ばしていた。

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タカシには浅黒く痩せぎすな黒岩という男が、
トオルにはでっぷりと太ったはげ頭の肥田という男が、
のしかかるように迫っていった。
おあずけを食った寺前という冴えない顔色の男は、ふた組の同性のカップルとは距離を取って、所在無げに獲物を待ち受ける姿勢を取った。

「あっ、すぐ噛んじゃうんですね?」
”解禁日”のためにわざわざ新しいハイソックスをおろしたらしいタカシは、
芝生の上に腰をおろし楽な姿勢になって脚を伸ばすと、噛まれてゆく足許をちょっぴり残念そうに見つめた。
太めのリブをツヤツヤとさせた真新しいナイロン生地ごしに、黄ばんだ犬歯が突き立てられて、グイッと埋め込まれてゆく。
そのすぐ隣で、おなじ姿勢をしたトオルは、
「やらしい・・・ですねえ・・・」
頬をこわばらせ口を尖らせていた。
相手の男に、なまの唇をあてがわれ舌まで這わされて、
ふたたびずり落ちたハイソックスはくしゃくしゃにされて、整然と流れるリブをねじ曲げられていった。

ああ・・・
押し倒された芝生の青臭い匂いが、鼻腔を打った。
相手にあぶれて待ちかねていたもうひとりの吸血鬼が、小走りに駆けてきた制服姿の少年に抱きつくようにして覆いかぶさっていくのが、遠めに映った。
遅れてやって来たケイタが戸惑うように立ちすくんで、その場に座り込むいとまも与えてもらえずにハイソックスのふくらはぎを舐められてゆくのを、タカシは面白そうに見つめていた。
うなじのつけ根に、鈍い疼きがズブリと埋め込まれるのを、くすぐったそうに受け流しながら・・・

少年たちは、知っている。
男の子を求める吸血鬼どもが、さらに強欲であるということを。
生き血を吸い取って相手の少年を酔い酔いにしてしまうと、
彼らはまだ血が足りないと主張して、母さんか姉さんを連れてこい・・・そんな要求をするはずだから。
お目当ては、少年たちのハイソックスなんかではもちろんなくて、
その母や姉たちの穿いているストッキングや、スカートのさらに奥を蔽っているショーツだったりするのだから。

縄に魅せられた男

2012年12月30日(Sun) 06:32:25

公園の街灯の、薄明りの下でのことだった。
目のまえを過ぎった唇が、出し抜けにグッ・・・と近づいてきて。
美沙夫の唇のうえに、おおいかぶさってきた。
それはうわぐすりのような唾液に薄っすらとコーティングされていて、
かすかに弾む息遣いを、無理やりに彼の唇の奥へと、もぐり込ませてきた。
相手は男―――
そんなまがまがしさを、忘れさせられた瞬間だった。

どうしたね?べつにたいしたことじゃないじゃないか。
白皙の頬に怜悧な嗤いを滲ませて。
男はあくまでも、淡々としていた。
そうしてもういちど、美沙夫の頬に唇を近寄せると。
耳たぶの真下からおとがいをなぞるようにして。
唾液のうわぐすりを薄っすらとあやした唇を這わせていって。
首のつけ根のあたりにまで、じんわりと迫らせる。
美沙夫の両肩は万力で固定されたようにがっちりと掴まれていて、
身動きひとつ、できなかった。

唇の両端のすき間から、尖った異物がにじみ出るようにあらわになって。
美沙夫の首すじの皮膚を、強引に引っ掻いた・・・と思うと、
唇の左右から突き出された―――明らかに牙と判別できるもの―――は、
ずぶりと皮膚を破り、突き抜けた。

はは・・・
白皙の男は、怜悧な嗤いを絶やしてない。
なにごとも起こらなかったような顔つきで、ハンカチで口許を拭った。
差し出された真っ白なハンカチは、吸い取ったばかりの美沙夫の血で、毒々しく輝いている。
ご馳走になった。意外に若いお味がする。
まるでワインの品評会のような口ぶりで男はそういうと、
きみはこれから、お宅に連れて行ってくれるんだよね?
いとも親しげに、美沙夫に声を投げた。
美沙夫が返事をしかねていると、ふたたび魔性の唇が迫ってきて、彼の耳たぶに毒液をそそぎ込む。
――――この唇が、こんどは奥さんの唇を奪う・・・
重ね合わされた唇に、美沙夫は陶然となって応じていった。
そのなめらかな唇が、あとものの三十分としないうちに、妻の生き血を吸い取ることになると知りながら。


こうこうと照らし出される街灯の下―――
一時間近くも待たされた美沙夫は、背後に人の気配を感じた。
感じたと思う間もなく、伸びてきた猿臂が美沙夫の両肩を捕らえ、抱きすくめてくる。
相手に、同性愛の趣味はない―――
そう確信している美沙夫だったが、二本の腕は熱っぽく彼に絡みつき、
絡新婦の巣が獲物を巻きつけるようにして、がんじがらめにしていった。
目のまえに差し出された、一葉の写真―――
美沙夫ははっとして、不覚にも昂ぶりを覚えてしまっていた。
それは彼の自宅を舞台にした、まがまがしくも妖しい世界が凝縮されていた。
荒縄をぐるぐる巻きにされた、妻の玉枝がそこにいた。

見慣れたよそ行きのワンピースに深々と食い込んだ縄目が、
三十代半ばの熟れた肢体を、むざんなほどに浮き彫りにしている。
振り乱された黒髪の、ツヤツヤとした輝き。
見慣れ尽くしたはずの目鼻立ちが恐怖と陶酔に歪んで、目にしたことのない色合いを滲ませていて。
着衣のそこかしこからチラチラと覗く、真っ白な肌。
きつく縛(いまし)められた足許をよぎる、ストッキングの光沢。

不覚にも、美沙夫は男に股間を握られていた。
恥ずかしいほどの怒張を察すると、男はそつなくスラックスの上から手をすべらせて。
ほど良い愛撫を敬意を込めて加えると。
愉しんでくれると思っていたよ。
薄っすらと浮かべた怜悧な嗤いには、かすかな親しみが込められていた。


ギュウッと縛られた女は、息も絶え絶えになるほどうろたえながら。
自宅の床のうえに転がされた姿勢のまま、その場から逃れようとするでもなく、悶えつづけていた。
洗練された都会ふうのデザインのワンピースを着たまま、
つい先日初めて屈辱を受けたときと寸分たがわず、きつい縄目を受けていて。
着衣を通して柔肌食い込んでくる縄目のきつさが、
女の身体にいままで体験したことのない快感を植えつけはじめている。
じわじわとしみ込んでくるえも言われない歓びに、
女は戸惑い、小娘みたいな羞恥を覚えながら。
迫ってくる唇をまえに、しきりにいやいやをし、顔を背けつづけている。
妾(わたし)はこんなことを悦んではいない。そんなはしたない女ではない。
いかにもそう言いたげに、必死に取り繕う拒絶の姿勢を。
男はやんわりと封じていきながら。
女の耳もとに、囁きつづけていた。

だいじょうぶです。ご安心ください。
貴女の生命まで奪おうというわけではない。
それに、このきつい縄目では、おみ脚を開くこともできますまい。
犯される気遣いさえ、ありはしないのですよ。

殺さない。犯さない。
男はそう断言しながらも、危険極まりない唇を、女の首すじに吸いつけようとする。
きゃっ。
玉枝はとっさに身体をすくめて、不自由な体で後じさりをしようとする。
男は強いて追おうとはせず、「ほほう・・・」と女を見おろして。
昨晩はどうやら、あまり愉しめなかったご様子ですな。
あくまでも言葉遣いだけは、丁寧だった。

女の身体に巻きついた縄は、かすかな身じろぎさえも封じ込んでいて。
身に着けたままの小奇麗なワンピースもろとも、犠牲者をきつく、縛めている。
夫の贈り物らしいよそ行きのワンピースは、不自然に曲がりくねられた華奢な肢体の周りを、洒落た花柄で彩っていた。
奥さまの献血に、感謝―――
男はそういうと、必死に身じろぎを試みようとする女体に身をのしかけていって。
首すじに吸いつけた唇は、怜悧な嗤いを絶やさないまま、牙をむき出しにする。
鋭利な牙はゆっくりと、うなじの豊かな肉づきのうえから突き立てられて。
力まかせに、グイ!と突き入れられた。
ワンピースの襟首に、赤黒い飛沫が散った。
あ、あ、あ、あ、あ・・・
玉枝はおののきながら、喉の奥からかすかな悲鳴を絞り出す。
女の苦しげな喘ぎを抱きすくめた身体で感じながら、男はなおも薄ら笑いを絶やさない。
身もだえする女をじらすように、わざとゆっくりと牙を皮膚の奥へと沈み込ませた。
象牙色をした牙は、淡い血潮をテラテラとあやしたびろうどのような皮膚の奥へと、ゆっくりと吸い込まれていって。
根元まで埋め込んだ瞬間、すべてを厚い唇が覆い隠していった。

ああああああ・・・っ

悲しくも切なげなうめき声が、いつまでも切れ切れに、障子の向こうの隣室まで、洩れつづけていた。


公園の街灯は、いつものように昏い輝きで、男ふたりの頭上に降り注いでいた。
綺麗なおみ脚には、縄をかけないことにしたのだよ。
さし示された写真のなか、大きく股を開いた妻は、
つい先週の親類の結婚式に着て行ったよそ行きのスーツ姿のまま、
自宅の畳のうえで、縄目の恥辱を受けていた。
さいしょのころの戸惑いや苦痛はその面差しからは消えて、
いまはこみあげてくる陶酔と歓びとをあらわにすまいと、必死に押し隠そうとする表情だけがそこにあった。

きょうはいつも以上に、昂ぶってくれるんだね?
それでこそ、こちらもし甲斐があるというものだよ。
苦心して撮ったんだ。遠慮なくたんのうしてくれたまえ。
悪魔の囁きに、美沙夫は知らず知らず、応じてしまっていたが、
応じてしまったことに対するうろたえや自覚すらも、その横顔にとどめられていない。
じかに視たいんだって?よくわかるよ。その気持ち。
でも玉枝は、なんと言うかな?お互い正直になり合えれば、ご夫婦の関係もよりいっそう濃くなるのだけれどね・・・
さりげなく呼び捨てにされた妻の名前にも、美沙夫はほとんど反応を示さなかった。
いいね?きみも奥さんの服を着て、縛られて横たわるんだ。
彼女に視られるのは恥辱だろうから・・・そうだね、隣の間との障子を、少ぅし細目に開けておこうか・・・


あ、あ、あ、あ、あ・・・
聴き慣れているはずの妻の声色は、妖しい翳りを帯びていて。
別人の女のそれと、聞き違うほどだった。
いやじっさい、別人になり果ててしまっているのかもしれない。
今朝も、あなたお帰りは何時?御飯はうちで召し上がる?日常にまみれたやり取りをしたはずの妻なのに。
今夜の妻の衣装は、初めて目にするものだった。
毒々しいほどに真っ赤なスーツに、黒のストッキング。
まるで高級クラブのホステスのようななりに、白い肌と清楚な黒髪とが、むざんなほどに似合っていた。
いつもより厚化粧をした妻は、派手派手しい衣装に取り巻かれて、つとめて別人になろうとしているようすだった。

美沙夫はというと、その妻がいつも着ているワンピース―――初めての縛られた折の、あの花柄のワンピースだった―――を着込まされて、暗いままの隣室に、荒縄をぐるぐる巻きにされて、転がされていた。
妻の服を着せてくれたのは、服の持ち主じしんだった。

あなた?男のくせに、女のひとの服を着たいの?
困った人ね。じゃあ妾(わたし)が、着せてあげる・・・
酔ったような口調の妻は、謡うようにそう言い放つと。
立ちすくむ夫の周りを、チョウのように舞いながら。

どお?スリップ着けると気分変わるでしょ?
とか、
妾(わたし)の秘蔵の、真っ赤なパンティよ。あなたこれ選ぶなんて、いやらしいわ・・・
とか、
すね毛を剃って正解ね。ストッキング似合うわよ、あなた・・・
とかいいながら、

胴回りをサラサラながれるスリップの生地ごしに夫の身体を撫でたり、
思わせぶりな手つきで腰に巻きつけたパンティのひもを、わざとギュウッときつく締めつけてみたり、
薄手のナイロンに覆われたふくらはぎを卑猥な手つきでじわりとなぞっては、妖しい感触を皮膚の奥へと滲ませていったり、

言葉と手つきで、夫の所業を責めつづけていった。

その行為が終わると女は、傍らで影のように佇みつづけていたじぶんの愛人をふり返ると。
献血のお時間よ。
まるで女主人が指図するような口ぶりで、そういうと。
女の衣装のうえから縄目を食いこまされて転がされた夫の目のまえで、
まるでこれ見よがしに、夫以外の男との接吻を、愉しんでいた。

縛られたまま、生き血を吸い取られる。
さいしょはそこまでにとどめられていた行為が、今夜初めて解禁される・・・

女の身体には、もう縄目はなかった。
その縄目は、いま彼女の夫が、まるで身代わりのように身体に食い込まされている。
自由の身になった女は、きゃあきゃあと小娘みたいなはしゃぎ声を立てながら、
狭い部屋のなか、弾む足取りで逃げ惑いって。
わざとのように、追い詰められて、立ちすくんで見せて。
あなた・・・あなたあっ。怖いっ!助けてえっ。
もはや彼女を救い出すすべを持たない夫に、わざとらしく援けを求めて。
かなわぬと見るや、たちまち魔性の猿臂に抱きすくめられて。
ああっ!!
押し殺した悲鳴とともに、ふすまに飛び散るバラ色の飛沫・・・

わざと半開きにされた障子の向こう。
熱演される惨劇のいちぶしじゅうを、目の当たりにさせられて。
けれども美沙夫は、えも言われない昂ぶりの虜になっていた。
妻が身に着けていた衣装越し。
じわじわと食い込んでくる縄目の締めつけが、彼の皮膚の奥深く、感じてはいけない愉悦をしみ込ませてくる。
この縄が。この縄が。妻の身体を縛めたのか・・・
こんなにしなやかなスリップを身に着けて。
こんなに軽やかなワンピースを、着くずれさせて。
こんなに妖しい締めつけをするストッキングに、欲情まみれの唾液をなすりつけられて。
そうして妻は、堕ちていったのか・・・
男の身でありながら、妻の衣装に身をゆだねてしまった彼は、
おなじ誘惑が自分の肉体を、もはや逃れようもなく支配の影を蔽いかぶせてくるのを、避けようがなかった。

しゅ、主人以外の男のひとは、初めてなのよ・・・
さいごのさいごの段階になって、さすがにうろたえた妻の声はかすかに震え、
その声色を、熱い接吻が、どす黒い劣情へと、瞬時にすり替えていった。
恥ずかしいほどあからさまな自宅の灯りの下。
真っ赤なスカートを着けたままの白い脚は、
その足許に、黒のストッキングを淫靡にたるませたまま、ゆっくりと開かれてゆく――――

あうっ・・・あうっ・・・あうっ・・・
娼婦と化した女は、厚い嫉妬に昂ぶる夫の視線もおかまいなく、
いやむしろ、あからさまにさらけ出すのを愉しむかのように、
わざとのように露骨に、腰を振り始めていた。
スカートを脱がされてむき出しにされた臀部の皓(しろ)さを、理性を狂わせた夫の網膜に灼きつけながら。
片方だけ脱がされた黒のストッキングが、畳のうえに蛇のようにくねりながら伸びていて。
部屋のすみに脱ぎ捨てられた黒のパンティが、淫靡な光沢をたたえていた。
夫婦の新たな関係を、祝福するかのように・・・