fc2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

身代わりに穿かされて・・・

2013年01月04日(Fri) 05:06:37

学校の制服の、紺の半ズボンの下。
パパがいつも勤めのときに穿いていく、紺のストッキング地の長靴下を脚に通していって。
ぐーんと伸びるナイロン生地が、ボクの脛を染めたとき。
なぜだかむしょうに、ドキドキした。
ちょっぴりだけど、大人に近づいたような気がしたから。

吸血鬼の小父さんに、脚を噛ませてあげるのが。
このごろとても、愉しくって。
学校に履いていく制服用の紺の長靴下は、ぜんぶ噛み破らせちゃっていた。
手持ちのやつが、なくなると。
パパの代わりに履いて御上げなさい。
ママはそういって、パパの箪笥の抽斗から、薄い靴下を抜き取ってくれていた。

もぅ・・・貧血だよ・・・
勤めから帰ったパパが、貧血になって寝込んでいるあいだ。
小父さんは薄い靴下を穿いたボクのふくらはぎに、息荒くのしかかってきて。
よだれのたっぷりと浮いた唇で、パパの長靴下をべっとりと濡らす。
薄いナイロン生地ごし、這わされてくる唇に。
ずきずきと胸を高鳴らせるようになったのは、いつのことからだったろう?

パパに続いて、貧血を起こした姉さんの身代りに。
女子学院にいつも履いていく真っ白なハイソックスを、取り出して、
あなた、よかったらスカートも穿いてみる?
ママはふふふ・・・と、イタズラっぽく笑う。
え・・・恥ずかしいほどうろたえたボクは、ママの術中に嵌ったように。
否応なく前に置かれたチェック柄のプリーツスカートに、おそるおそる脚を入れていった。

似合うわ。どこから見ても、女の子よ。
ママのおだてに乗ったボクは、ボタンが左前のブラウスを着て。
左胸に姉さんの通う学校の校章が縫い取られたブレザーを身に着けて。
胸元にふんわりとくる、あのうっとりするような真っ赤なリボンまで、ギュッと締めて。
ひざ小僧の真下までぴっちりとくる真新しいハイソックスに、ドキドキ胸をはずませながら。
だれかが待ち伏せをしている通学路、さっそうと歩みを進めていった。

飢えた唇を、意地汚く吸いつけられた、ふくらはぎの周り。
姉さんの通う学校の頭文字が縫い取られた白のハイソックスには、あのぬるぬるとしたよだれをたっぷりとしみ込まされて。
紺の縫い取りのすぐ下のあたり、欲情に満ちた牙を、グイッと埋め込まれていって。
あうううっ・・・
あげたうめき声までが、女の子みたいに高かった。

白は目だって、恥ずかしいなぁ・・・
道行く人が、ひとり残らず。
赤黒いシミがたっぷり撥ねた、姉さんのハイソックスの足許を。
チラチラ盗み見ながら、すれ違ってゆく。
その好奇に満ちた視線が、くすぐったくて。
ボクは思わず、胸を張って歩いていた。

今朝のお食事は、姉さんとふたりきり。
夜勤明けのパパは、白河夜船で。ママは貧血を起こして、ぶっ倒れていて。
夕べ、パパがいないのをいいことに。
吸血鬼の小父さんは、ママの生き血を吸い取るだけじゃ、飽き足らなくて。
すそのひらひらする真っ白なスカートを穿いたママを、ベッドに寝かせると。
腰がまる見えになるくらいまで、スカートをくしゃくしゃにたくし上げ、自分もズボンを脱いでいた。
「子供は見ちゃダメ」
ママはおっかない顔をして、目だけこちらを向けてきて。
太もも丈の黒のストッキングのゴムに、ママの腰周りがさらに白く映えるのを。
やっぱり眩しげに、盗み見ちゃっていた。

姉さんは、意地悪そうににんまりとほほ笑みながら。
ねぇ、貴方きょうはママの身代りよ♪
学校には、黒のストッキング穿いていこうね♪
きちんと畳まれて用意された制服の半ズボンのうえに置かれたのは。
封を切られたパッケージから取り出されたばかりの、真新しい黒のストッキング。
薄っすらと透ける生地が、いつもの制服のうえ、まるでヘビのように、とぐろを巻いていった。

え・・・?さすがにそれは、まずいですよ・・・
はにかむボクに、姉さんはあくまで意地悪そうな笑みを近寄せながら。
いまさら、恥ずかしいもなにもないじゃないの。
穿き方がわからないんなら、姉さん教えてあげる。
ほっそりとした指先を、ストッキングの口ゴムに器用に指し入れて。
つま先を合わせ、足首を包んで、脛にぐーんと引っ張りあげる。

ああ・・・ボクの脚が、女になってゆく。
パパの通勤用の、薄い靴下のときも。
姉さんの通学用の、白のハイソックスのときも。
もちろんボクが学校に履いていく、紺のハイソックスのときよりも。
グッとくる眺めに、ついウットリとなっちゃって。
「ほら見なさい」と言いたげに、姉さんが得意気にボクの顔を覗き込んでくるのさえ、気がつかないくらいだった。

道行く人の視線が、いつも以上に気になっている。
だれもがなにごともなかったように、すれ違っていくくせに。
足許を舐めるように這わせてくる、視線、視線、視線・・・
制服の紺の半ズボンの下。
薄っすらとなまめかしい黒ストッキングの脚を、お行儀よく革靴に収めるようにして。
なよなよとしたナイロンの触感を、冷え冷えとした外気にさらす。
ひと足ひと足・・・歩みを進めるたびに。
歯がゆいほどに頼りなげな締めつけ感が、微妙なよじれを伴って。
ボクの脚の輪郭に、じわりと疼きをしみ込ませる。

たぶん今朝も、学校まではたどり着けない。
近道をして横切るあの公園を、無事に通り抜けることができないことになっているから。
植え込みに引きずり込まれて。
通り過ぎていく通行人たちの衆目にさらされながら。
こんどはママのストッキングを白日の下に曝して、噛み剥がれてゆくことになるはず。
裂けたストッキングのすき間から覗く白い皮膚に、小父さんはいつも以上にしつっこく。
唇をキュウキュウと鳴らすのだろうか?
しつこく這わされる唇に、ウットリとなって。
周囲の視線に、ドキドキとして。
昂ぶりのあまり、革靴を濡らすほどに失禁してしまうボク自身を思い描いて。
道の途中、とうとうこらえ切れなくなって、道端にしゃがみこんでしまっていた。

連れてこられた少女

2013年01月03日(Thu) 11:39:07

「まだ、幼すぎやしないか?」
俺は思わず目をむいた。
相棒が連れてきた少女は、それほどまでにまだ、幼すぎる年恰好だったから。
いい家の子女なのか。ただたんに、だれかのお古を借りているだけなのか。
ぱりっとした濃紺のブレザーに、Vネックの襟首に紺色のラインの入った純白のセーター。
青と紺のチェック柄のプリーツスカートの裾から覗く細い肢は、真っ白の真新しいハイソックスがひざ小僧のすぐ下まで覆っていた。
もっともらしい姿をしてはいるものの、あきらかに吸血対象の年齢の最小限になるかならないかの、年端もいかない少女。
それでも俺の正体を言い含められて連れてこられたものか、口許からうっかり覗かせてしまった鋭利な牙を、怖がりもせずに見入っている。
「しょうがないですよ。だんな。」
相棒は言い訳がましく、もろ手をあげて肩をすくめて見せた。
「喉をからからにした吸血鬼殿にわが子の生き血を提供してくれようってほど気前の良い親御さんなんて、どこ探したってなかなか、おりはしないですからね」

事業の破たんや不景気で、身売りをするものさえ珍しくないご時世だった。
代々俺の家に仕える家系に生まれたこの相棒は、俺の性癖をもちろんのことよく心得ていて、
そうした困窮した家を見つけては、幾ばくかの金を払って俺の相手を買って出る女を見つけてきてくれるのだった。
どう言い含められたものか、送り込まれてきた女たちはとても従順で、もちろん多少の抵抗は試みるのだが、しょせんは金に縛られている身を大人しくゆだねるしかない立場の身の上だった。
それでも、ことさら処女の生き血にこだわればこういうことになると、俺もわかっていなかったわけではない。
ただ、年に一度は処女の生き血に牙を浸さなければ、生きていくことのできない身体だった。
「まるまると肥えたのを連れてきますワ」
相棒は安請け合いをして夜の巷へと繰り出していったが、折り返しに連れてこられた少女は見るからに痩せっぽちで、いくらも血を摂れそうになかったのだ。
「だいぶん、話が違うようだな」
俺はわざと見くだしたような態度をとったが、やつにはさっぱり、こたえなかったようだ。
「じゃ、お愉しみを始めてくだせぇ。朝までには帰してやる約束なんでね」
血が足りないと自分の女房や娘を襲われると、こちらの手のうちを知り尽くしている相棒は、今夜は久しぶりに自宅に戻るつもりらしかった。

「あたしじゃだめですか?」
え?
あまりにも低い位置から投げられた声に、俺は虚を突かれて、声の主を視線で求めた。
「あたしじゃ、いけないですか?」
想いのほか、せつじつな声色だった。
貧弱に伸びたひょろ長い手足を痛々しそうに眺める俺に応えるように、年端もいかない目鼻立ちが、まっすぐこちらを見つめていた。
「いや、そんなことはない」
虚を突かれたことを蔽い隠すように、俺は虚勢を張ろうとしたが、少女はそんな俺の思惑を知ってか知らずか、
「だいじょうぶですから。怖くありませんから。・・・痩せっぽちでもの足りなかったりしたら、ごめんなさい」
少女はそういって、立ったまま目を瞑る。
仰のけられたおとがいの下、白くて細い首すじがむしろ、痛々しく映った。

俺はふと身をかがめ、少女のまえに跪いていた。
こんなまねをするのは、なん年ぶりのことだろう?
まして、連れてこられた生贄を相手にこんなまねをするのは・・・
「今宵貴女を、レディとして迎えよう」
古めかしいやり方で手の甲に接吻をした俺に、ふわっと笑いかける気配を感じた。
見あげてみると少女は無邪気にほほ笑んで、白い歯を見せている。
「プリンセス、って呼んでくれなくちゃ、いやぁよ」
自分の遇され方を理解したことで、少女はやっと、自分らしさをすこしだけ、取り戻したらしい。
「はい、プリンセス」
俺の方がむしろ硬くなって返事を返すのが、我ながら可笑しかったが。
それでも俺は少女に向かって恭しく頭を垂れ、それから目にもとまらぬ素早さでか細い身体を抱きかかえ、お姫様抱っこをして、隣室のベッドへと放り込んでいた。

「ご覚悟は、よろしいな?」
ふたたび迫らせた顔に、少女は神妙な顔つきで肯くと、さぁ、どうぞ・・・と言わんばかりに目を瞑る。
おとがいの下迫らせた牙は、ほっそりとした首すじには気の毒なほど、太い。
けれどももう俺は本能のおもむくままに、昂ぶりの頂点に達した牙を、ずぶりずぶりと、少女の柔らかいうなじの肉に埋め込んでいった。
しなやかな皮膚の、もっちりとした噛み応え。
あふれ出る血潮の、生気に満ちた芳香。
十代の少女がその身体のうちに育んだ健康な血潮が、干からびた血管のすみずみにまでめぐっていく快感に、俺はなにもかも忘れて、酔い痴れた。

キュウッ、キュウッ、キュウッ・・・
ズズッ・・・じゅるじゅる・・・っ
汚らしく貪る音に臆することなく、少女は俺の吸血に応え、耐え抜いていった。
か細い身体に、渾身の気力をみなぎらせながら。

朝が迫っていた。
俺は少女を起たせ、少女はけだるそうに髪の毛を振りながら、けなげにも身を起こしてきた。
「平気かね?」
罪滅ぼしにしか過ぎないはずの気遣いに、少女はまっすぐとした視線で応えてきて、
「ウン、平気」
血の気の失せた頬に、意地っ張りなくらいの生気をみなぎらせてみせる。
解放する前に犠牲者の記憶を消すのは、俺の役目。勿論そんなことは、朝飯前のことだった。
この子は今夜のことも、俺のことも忘れてしまうのか―――
いつになく、名残惜しかった。
ふと、少女が瞑っていた目を開いた。
「あたし、小父さんのこと憶えているよ。だいじょうぶだよ。だれにも話さないから・・・」
催眠をかけようとして振りかざした手を、俺はなにかに強く制されるように、止めていた。

相棒に付き添われて去ってゆく小さな影が視界から消えるまで、俺は残り惜しげに見送っていた。
そんなことは、ここしばらくないことだった。
俺はあの子に、記憶を消す術を使えなかった。
もしかすると少女はそれでも、周囲のものに喋らされてしまって、この隠れ家にも、追っ手の手が伸びるかもしれない。
そのときはまた、そのときだ・・・
俺は自分の未熟さをほろ苦く呑み込みながら、ふと少女の言葉を反芻していた。
「だいじょうぶですから。怖くありませんから・・・」
あれはもしかすると、俺をなだめる声だったのか・・・
記憶に浮かび上がる少女の顔だちは、さいしょに接したときのか細い印象ではなく、まるで姉のように気丈な優しいほほ笑みに満ちていた。

支配された西洋館

2013年01月03日(Thu) 11:33:59

魅力的な夫人。寛大そうな夫君。利発そうな令息に、大人しそうな令嬢。

夫人の手作りの料理に、さいごは紅茶まで振る舞われて。
辞去するとすぐ、男は言った。
「今夜もういちど、お邪魔する。お前も手伝え」
あれほどにこやかに接し合っていた人たちを、早くも今夜襲おうというのか?
ネックレスの清楚な輝きに縁どられた夫人の首すじに、やつが獣のように食いついて血を啜る場面を、わたしはすぐに想像した。
それは彼がわたしの妻にしたのとおなじ所業として、二重写しになったのだった。
「大(で)ぇ丈夫だ。やつらも薄々、気づいているって。この街に棲みついて二週間もたてば、吸血鬼様の訪問を受けるってことをな」
そう。それはそのまま、わたしたち夫婦のたどった運命でもあった。

もちろんのことだったが、昼間のときとは裏腹に、ジョーンズの邸は暗がりに支配されていた。
「夫婦は一階。子供たちは二階だ。俺はだんなと女房をやる。お前ぇには子供をやらしてやるよ」
活きの良い血に、たっぷりとありつけるぜ・・・
やつの言いぐさはしかし、すでにわたしの心の奥深く根ざすようになった第二の本能を、的確にくすぐったのだった。
人の寝静まった真夜中にはふさわしくない騒々しいもの音がにわかにあがる階下を背にして、わたしは二階に通じる長い階段を、ひと息に昇りつめた。

開いたドアの向こう、窓際のベッドには、少年の影。
「来たんだね」
トニーと呼ばれる少年は、白い頬でこちらを向いた。
―――やつらも薄々、気づいているって。
やつの言いぐさを裏打ちするように、少年は昼間の服を着込んでいた。
白のブラウス、濃紺の半ズボンに、おなじ濃紺のハイソックス。
半ズボンとハイソックスのすき間から覗く太ももは、月の光に照らされて、白い膚をいっそうツヤツヤと光らせていた。
階段ごし、悲鳴がふた色、つぎつぎにあがるのと、そのどちらもがすぐになりをひそめてしまうのを。
少年は無表情に、じいっと聞き入っていて。
「パパやママもやられちゃったんなら、ボクだけ逃げても意味がないよ」
ぽつりとそう呟くと、
「どこから吸うの?」
自分のほうから、ブラウスの襟首をくつろげていた。
「ひとつ、頼みがあるんだ。ミーナだけは、怖がらせたりしないでね」
「それは、きみ次第だね」
わたしの言っている意味を、利発な少年はすぐに察したらしい。
「ウン、わかったよ」
そういって、なんの抵抗も示さずに、首すじをこちらに振り向けていた。

ふさふさとした金髪の頭を押し頂くようにして、すんなり伸びた首すじに唇を近寄せる。
もう、喉が、胃袋が、たとえようもないほどに昂ぶったどす黒い衝動にわなないていて、
性急にかぶりつくことの愚かさを知りながらも、こらえることはできなかった。
むき出した牙を首すじに突き立てると、そのままずぶずぶと、もぐり込ませていった。
十代の少年の柔らかな皮膚は、それは心地よい噛み応えだった。
「あ・・・」
トニーはさすがにかすかに声をあげ、とっさにわたしの身体を引き離そうともがいたけれど。
それはわたしが帯びた嗜虐心を逆なでして、即座にねじ伏せられてしまうことで忌むべき征服慾を満足させただけだった。

ズズッ・・・じゅるうっ。

むざんなくらいナマナマしい音を立てて、わたしは少年の血を啖った。
若い生命力を秘めた芳香にただ惑溺して、陶然となった数分、数十分。
ふたたび起きあがったとき、少年もつられるようにして身を起こしたけれど。
「貧血・・・」
額に手をやって、「ちょっと勘弁」と言いたげに、拒絶の掌を拡げていた。

わたしは少年の恢復を待ったが、それは意外なくらいすぐのことだった。
「だいじょうぶ。ちょっとのぼせただけみたい」
トニーは女の子みたいに華奢な造りの口許をせわしなく動かして、「ボクはだいじょうぶ」と、なんども強調した。
欲望に負けてついかがみ込んだ足許に、少年は視線を落としたけれど。
紺のハイソックスのふくらはぎに再び近寄せられてくる唇を避けようとするでもなく、
ハイソックスを履いたまま唇を這わされ、突き立てられた牙がしなやかなナイロン生地の向こう側へと通り抜けるのを、顔をしかめて見つめるだけだった。
「ミーナの脚にも、そうするつもり?」
「・・・避けられないんだ」
自分でも意外なくらいに、申し訳なさそうな口調だった。
まだわたしのどこかにも、寸分くらいの理性は残っていたらしい。
「小父さん、ついこないだまで普通の人だったんだろ?」
少年はむしろ気遣うようにわたしを見つめると、「絶対死なせちゃだめだからね」と念押しするように言うと、ベッドに腰を下ろしたまま顔を抱えて俯いたわたしの側をすり抜けるようにして、隣室に走っていった。

トニーが妹のミーナを連れて再び現れるのに、数分かかった。
ためらう妹をなだめすかして連れてきたのだろう。
それまでのあいだ、時折切れ切れにあがる階下からのうめき声がひとつの効果を持ったのは、ほぼ間違いなかった。
そのうめき声は、回を重ねるたびに、苦痛よりも随喜を色濃く滲ませていたのだが、果たして幼すぎる彼らがどこまでそれを察したのか、いまでもわからない。
「階下にいるのは、ほんとうに怖い小父さんだから。いまのうちに、ボクを噛んだのと同じ優しい小父さんに噛まれちゃったほうが、楽だよ」
少年はそういって、妹を促したのだという。

恐る恐る引き上げられた、ピンクのスカート。
殿方でスカートのすそをあげるなどという教育は、節度をきちんと弁えた賢明な主婦らしいあの母親からは、きっと受けていないはずだった。
妹がかろうじてその姿勢を取り得るまでに、少年は自分でお手本を示すために、
ずり落ちかけていた紺のハイソックスを引き伸ばして、わざとわたしに噛ませてみせた。
「ほら、なんでもないだろ?ちょっぴりくすぐったいんだぜ?」
努めて明るく、そんなふうに言っていた。
少年の血の味からすると、その妹の血もきっと、健全な知性と生命力を秘めた味がするのだろう。
ストラップシューズの足首を床に軽く抑えつけ、少女の目線からは牙が見えないようにしてかがみ込むと。
白のタイツにおおわれたか細いふくらはぎに、わたしはゆっくりと、牙を降ろしていった。
脚をすくませたまま受け容れた牙を、容赦なくグイッと埋め込みながら。
白タイツのしなやかな舌触りに、タイツの向こう側の柔らかな肉づきに、ほとび出る血潮の生気を帯びた味わいに、わたしは獣の本能を満足させてしまっている。

床に尻もちをついた姿勢のまま、兄のベッドに頭をもたれかけさせて、少女はうつらうつらするように、半ば気を喪いかけている。
生命がけの献血が、よほどこたえたらしい。
「やっぱり女の子の血が目当てだったんだね?吸い過ぎだよ、小父さん」
少年はわたしのことを咎めながらも、なおも自分の首すじに唇を吸いつけようとするわたしを、拒もうとしなかった。
少年の身体から吸い取った血液が、しなやかに喉を通り抜け、胃の腑に居心地良く澱んでいた。
明るく、心優しいたちの生まれつき。清潔な日常。質素だが行き届いた生活水準。
そうしたもののすべてを、彼の血はわたしの本能にじかに伝えてきた。
わたしの胃の腑のなかで兄の血潮と仲良く織り交ざったその妹の血も、わたしをうっとりさせるのにじゅうぶんだった。
「大きくなったらまちがいなく、別嬪になるね」
思わず呟いたわたしを、
「そんな下品なこと言わないでよ」
少年はまるでわたしよりも年上の兄のように、笑って咎めている。

階上からこちらへ上ってくる足音に、少年はちょっぴり眉をひそめた。
「彼・・・母さんになにをしたの?」
「だいじょうぶ。死なせてはいないはずだから」
「それはそうだけど」
言いさしたそばから姿を現したのは、噂の主だった。
「うまくやったようだな」
「ああ、なんとかね」
「お嬢ちゃんは貧血かね?」
「年齢制限ぎりぎりだからな」
度を越して吸い過ぎたわけではない・・・と、とっさに言い抜けするのを見抜いた彼は、にんまりと嗤った。
その嗤いかたが、気に入らなかったのか。
少年は起って彼の正面に立つと、いきなり横っ面をはり倒した。
目にもとまらぬ勢いだった。
張られた彼も、目の当たりにしたわたしも、手をあげた本人までもがぼう然としていた。
少年はすぐに気を取り直すと、
「母さんになにをした?」
切羽詰まった口調だった。
「まだこの子は若い」
わたしはトニーのために、弁護した。
「ああ・・・そうだな」
張られた頬をさすりながら、彼は少年のことを怒りもせず、もういちど張り手を食うまいと距離を置きながら、弁解するような声色でこたえた。
「母さんはどこまでも、レディだったぜ。父さんに訊いて御覧」
「そう信じていいんだね?」
少年の目は、なおも険しかった。
「ミーナはきみのことを、嫌がっている」
少年の主張を、彼はすんなりと受け容れた。
「きみの意向を尊重しよう」

邸を辞去するのは、ぎりぎり夜明け前だった。
身づくろいをしているらしい母親は顔を見せなかったが、子供たちが無事なのを確かめた父親は安堵したようにふたりを抱き寄せた。
「あんたのとこも、こういうことだったのかね?」
彼はわたしを見てそういった。
「おおむね、どこも違いはないと思いますよ」
「奥さんとはいまでも・・・いっしょに暮しているの?」
「夫たるもの、寛大でなければなりませんからね」
「なるほど」
彼は苦笑して、わたしに握手を求めてきた。
「こちらとは打ち解けるのに時間がかかりそうだが・・・あんたは子供たちの好い遊び相手になってくれそうですな」

理性もろとも前身の血を吸い取られてでくの坊のようになった夫は、夫婦のベッドで自分以外の男を相手にしている妻を目の当たりに、ただ苦笑いをしているよりなかったのだろう。
覚え始めた血の味を確かめるため、首のつけ根に滴る血潮を、時折指先で舐め取りながら。
昼間はお紅茶を淹れた客人のために、もっと濃い赤い液体を気前よくご馳走する妻の裸体を、ただの男としてたんのうしてしまったはず。
けれども賢明な夫なら、おそらく彼女となんらかの折り合いをつけて、それ以上子供たちを泣かせるような行動はとらないはずだった。

帰り際。
トニーは脱いだハイソックスを片方だけぶら提げて、「記念に」といって、わたしの掌に押しつけた。
「穴のあいたやつだけど。もう片方は、ボクなくさずに持っているから」
ミーナも兄に倣って、白のタイツを片方、わたしのまえにぶら提げた。
ふくらはぎのあたりに赤黒いシミがついているのを、父親も、遅れて顔を出した母親も、見て見ぬふりを決め込んでいる。
「子供たちの遊び相手になってくれるらしいよ」
さっきと同じことを、夫は妻を顧みて言い、妻もまた「よろしく」と、短いながらも気持ちのこもった会釈を投げてきた。

「けっきょくあんたの、独り勝ちか」
さっきまでの尊大な態度をかなぐり捨てて、やつはげんなりとした顔をしてそういった。
「わざとそうしてくれたんだろう?」
やつはくすぐったそうに、笑っただけだった。

新年の御挨拶まわり

2013年01月03日(Thu) 11:18:33

本家の宅を両親といっしょに辞去した初子は、母親を振り返ってこういった。
「お邸のおじ様のところにごあいさつに伺いたいの。・・・よろしいかしら?」
母親はちょっと困ったような顔をして父親を見、父親が素知らぬ顔をして前へ前へと歩みを進めていくのにつられるように当惑げに数歩あとにつき従ったものの、好い加減にはからえとの内意だろうと独り合点をして、言いつくろうように娘に応えた。
「もう晩い刻限ですから、あまり長居をしたら失礼ですよ。貴女も年ごろなのですから、行いには気をつけてね」
「ハイ、お母様」
旧家の習いで、母娘といえども礼儀を重んじる、折り目正しい家だった。
初子ははた目には他人行儀ともみえるほど丁寧な一礼を母親に、そして逃げるような足取りの速さで間遠になった父親にもおなじ一礼を投げ送って、独り道を変えた。

遠ざかってゆく娘の、セーラー服の襟のラインが闇にとけるころ、夫に追いついた初子の母は、ひっそりと呟いた。
「あの子も、大人になろうとしているのでしょうね・・・」
父親は妻のそんな囁きにも、応えを返さなかった。

行き着いた先は、街はずれの古びた邸だった。
新年の賑わいとは裏腹に、すでに灯りは消えて、その邸は闇に埋もれていた。
鬱蒼と茂る庭木が、葉を落とした太い幹を黒々と拡げて、建物への視界を遮っている。
黒のストッキングの脚を大股に開いて玄関に歩み寄った初子は、思い切りよくブザを鳴らした。
それは近代的な邸宅である初子の家が備えたインタホンなどという洗練されたものではなくて、雰囲気もなにもない「ブー」という殺風景で無感情な音を立てるだけの仕掛けだった。
人通りの絶えた闇夜に、ブザの音はいつも以上に響き、初子はその音に縮み上がるように、それまでの思い切った挙措を凍りつかせた。
「お入り」
かすかな声色が邸の奥から洩れるのを確かめると、初子はそう・・・っと古びた木製の門の扉を開け、なかへ脚を踏み入れた。
開かれた門からは玄関の灯りの頼りなげなくゆらぎが一瞬覗き、またすぐに閉ざされた門によって遮られた。

施錠されていない無人の玄関を、訪いも入れずに初子はあがり込んだ。
じつはこの邸は、「吸血鬼屋敷」と称されていて、街では知る人ぞ知る家であったのだが、
訪いを入れた少女は、すでになん度もこの邸に訪問を重ねているらしいようすだった。

築数十年を経たこの邸は、和洋折衷で、部屋のいくつかは和室になっていた。
射し込む月明かりだけをたよりに真っ暗な室内を迷うことなく初子がたどり着いたのは、
一階のもっとも奥まった広い和室だった。
床の間には古びた掛軸がかかげられ、和室の一隅にしつらえられた大きな香炉からは烟が揺らぎ、一種妖しげな淫靡な芳香を漂わせていた。
「こんばんは、おじ様」
初子はつとめて明るい声で、こちらに背を向けて掛軸に見入っている人影に、声をかけた。
人影は無応答だったが、初子はひざ下まで丈のある制服のプリーツスカートを器用にさばいて正座をすると、改まった口調になって、
「新年のごあいさつに、おうかがいしました」
母親から教わりたてらしい、ぎこちない手つきで三つ指をついて、深々と頭を垂れた。
「よう来たな」
老人は初めて少女に横顔を見せた。
干からびきったような細面。
深い皺を刻んだ皮膚の下、若いころはさぞやと思うほど秀でた目鼻立ちが、まるで苔に埋もれた王宮のように埋没していた。
老人は値踏みするような目つきで少女を見、少女はさっきまでの勢いはどこへやら、ひどくしおらしくなってしまって、顔を赫らめしばらく口ごもっていたけれど、
「ふつうのひとが齢を取るところ、おじ様は今夜、若返りたいんですものね・・・?」
なぞをかけるようなことを言った。
まるで暗誦してきたような、抑揚のない声色だった。
「よう言った」
老人は満面の笑みを泛べると、素早く初子の背後にまわり込んだ。
いったいどうやってこんなに素早く移動することができたのだろうかと疑うくらい、獣のようなすばしこさであった。
「きゃっ!」
いきなり抱きすくめられて、初子は思わず声をあげた。
白のラインが三本走るセーラー服の襟首に縁どられた白い首すじに、腥(なまぐさ)い吐息をかけながら、老人は節くれだった両の掌で、少女の両肩をまさぐりはじめる。
濃紺の長袖のうえからもの欲しげに食い込む指はかさかさに干からびていて、長く尖った爪がその切っ先を鈍く光らせていた。
「クフフ。そなたのうら若い生き血、ありがたくいただくぞ」
うなじに唇を近寄せてくる老人に、初子はけんめいな声で言った。
「学費を出していただいているお礼でこうするわけではないのですからね。
 おじ様の苦衷に同情して、心づくしとして差し上げるのですからね」
金銭づくでもなく、なにかと引き替えでもない。
これから受ける屈辱を、せめて無償の善行に引き替えたいという感情が、あらわになっていた。
老吸血鬼は、いとももの分かりよく、少女の願いを容れていた。
「わかっておる。今宵のそなたの恵みに、心から感謝する」
そういうとカサカサに乾いた唇の両端から鋭利な牙をむき出しにして、
黄ばんだ切っ先をズブズブと、少女のうなじに埋め込んでいった。
「ああああッ…」
少女は眉をキュッと吊りあげ、哀切な悲鳴を口許から忍ばせた。
とっさに硬くした上体を、吸血魔の猿臂が、がんじがらめに抱きかかえている。
うら若いうなじに吸いつけられた唇はヒルのように少女の皮膚のうえを這い、
かすかに飛び散ったバラ色の飛沫が、制服の襟首に走るラインにかすかに撥ねて、チラチラと輝いていた。

ちゅうっ・・・
しずかな、そしてむごい音が、セーラー服姿におおいかぶさった。
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
ナマナマしくあからさまな吸血の音が重なるにつれて、初子の上体はじょじょに傾いていって、やがて吸血魔のあやすような両手に寝かしつけられるようにして、たたみの上に横たわった。
「クフフフフフッ」
吸血魔はにんまりとほくそ笑むと、こんどは黒のストッキングを履いた足許へと、かがみ込んでゆく。
薄手のナイロン生地に薄っすらと透けたピンク色のふくらはぎが、もの欲しげに這わされる唇の下、ジューシィに活き活きと輝いている。
初子はまだ、意識があるらしい。
ストッキングを破ろうとする「おじ様」にむかって、批難するような目線を投げたものの、
それ以上抗いをみせることもなく、観念したように目を瞑った。
不埒なまさぐりを重ねてくる手指に、黒のストッキングをみすみす、ふしだらによじれさせていった。
「愉しませてもらうぞ、娘ごよ」
薄れてゆく意識の縁でそんな声を聞いたような気もするが、さしもの初子も悩乱してしまったらしく、そこからの記憶は定かではない。

ふと目を開けると、頭上に室内の灯りがこうこうと点されていた。
初子は和室の真ん中に大の字になって、あお向けに横たわっていた。
逢瀬を遂げたあとの室内には、そこかしこに、深紅のしずくが散っている。
ついさっきまでわが身をめぐっていた血潮のあとを無感情に眺めると、さっきからずうっと足許にかがみ込んでいる「おじ様」の姿をみとめた。
「おじ様」
呟くようなちいさな声に、男は敏感に反応した。
「目が覚めたかね?」
「あー・・・」
起きあがろうとした初子はすぐに眩暈を覚え、またもとのとおりにあお向けになってしまった。
「無理をするでない」
振り返った男の口許には、初子の身体から吸い取った血潮が、バラ色にチラチラと輝いていた。
「ずいぶん吸ったのね」
批難を込めて顔をしかめる少女に、男は素直に「すまないね」といった。
けだるそうに立て膝をした初子は、さりげなく自分の足許に目をやった。
意外にも黒のストッキングはまだ破かれてはおらず、柔らかな灯りを受けてツヤツヤと照り返していた。
「目のまえで破ってみせようと思うてな」
「やぁだ・・・」
初子ははじめて、ふだんの闊達な声に戻っていた。
ごく親しい友だち以外には、おじ様にしか見せない顔つきだった。
「いやらしいわ」
すくめてみせた脚にはしかし、それまでにたっぷりいたぶられた証拠に、なすりつけられ「おじ様」の唾液が生温かく、くまなくしみ込まされていた。
「しょうがないおじ様ね。いいわ。特別に許してあげる」
厳めしい顔だちにかすかに照れくささを見せた「おじ様」に、初子はちょっとばかり優越感を取り戻すと、
そろそろと身じろぎをして、こんどはうつ伏せに身を横たえていった。
「嫌だけど、噛ませてあげる。おじ様大好きよ」
少女がむしろウキウキとした顔つきで目を瞑ると、おじ様は尖った牙をあからさまにむき出して、少女のふくらはぎに埋め込んでいった。
ぶちぶち・・・っ。
圧しつけられた分厚い唇の下。
薄手のナイロンがかすかな音をたてて、はじけ散った。
少女の足許を薄っすらと染めるナイロン生地のうえを走る伝線が、つつ・・・っとつま先まで走り、
欲情にまみれた唇をクチュクチュとしつッこくなすりつけられるたびに、裂け目はじょじょに、拡がっていった。
ストッキングをむぞうさにブリブリと破かれてゆくにつれて、足許にまとわりつくような緩やかな束縛がほぐれてゆくのを感じながら、初子はイタズラっぽい笑みを口許に滲ませて、うふふ・・・フフフ・・・と、くすぐったそうに笑いこけていた。
邸の玄関をくぐったときに感じていた切羽詰った義務感も、無垢な素肌に辱めを受けることに対する羞恥心も、もちろんまだ感じはしていたものの、潔癖に張りつめた緊張感をここまで妖しく解きほぐされてしまうと、むしろそれらは禁忌を破ることを愉しい刺激にすり替えてしまうためのスパイスとなって、初子はいままで感じたことのない妖しい悦びと昂ぶりに浸されてゆくのを感じていた。

破けたままのストッキングを履いた脚を夜風にさらして家路をたどる初子を、吸血魔が家のまえまで送っていったのは、言うまでもない。
なれなれしく肩に置かれる手のひらを時おり払いのけながらも、セーラー服の襟首にちょっぴり滲んだ赤黒いシミについて母親にどんな言い訳をしようかと、そればかりが念頭にあるだけだった。