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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

幼馴染の息子。

2013年10月27日(Sun) 08:27:53

「あの・・・男子の血でも、いいんですか?」
やって来たのは、十代の男子。
がたいは大きいけれど、身体ぜんたいの雰囲気はふわあっと弛んだ感じ。
色白で大福もちみたいな四角い顔のまん中に、小心そうにちまちまと整った目鼻が寄せ集まっている。
顔だちは、親父の沼尻そっくりだった。
美形というわけではなかったけれど、おおらかそうな人柄が、顔つきや態度のすみずみにまで、にじみ出ている。
ゆったりとした・・・というよりは、のろまな印象の動作。
律義な・・・というよりは、おどおどとした言葉づかい。
太り気味の身体つきは、お袋譲りの白い皮膚に蔽われていて、
半そでのワイシャツから覗いた二の腕も。
濃紺の半ズボンからむき出しになった太ももも。
ひざ小僧の真下までぴっちりと引き伸ばしたハイソックスに包まれたふくらはぎも。
むっちりとした、噛みごたえのようさそうな柔らかい筋肉を帯びている。

親父の沼尻は、幼馴染だった。
吸血鬼と人間とが共存するこの街で、おなじ学校に通っていて。
俺が喉をカラカラに渇かすと、「しょうがねーな」って言いながら。
サッカー用のストッキングに包まれた、丸太ん棒みたいにごつごつとした脚を、気前よく差し伸べてくれた。
試合を控えたときなどは、「ちょっとだけ待ってくれよな」と2時間ほど待たされて。
靴下気違いと陰口叩かれた俺のために、泥だらけになったストッキングをわざわざ履き替えて、
待ち合わせの公園まで、試合に疲れた足を運んでくれた。
武骨なカーブを描くサッカー用ストッキングの縦じまに、昂ぶりを覚えながら食いつくと。
鎧のような筋肉の歯ごたえに、思わず「硬てぇ・・・」とか、勝手なことを洩らしていた。

沼尻のお袋の首っ玉にも飛びついたことがあったし、彼女ができたときにも、連れてきてくれた。
それがいまのあいつの、女房だった。
結婚とほとんど同時に都会に出た沼尻が、年ごろになった子供たちを連れて戻ってくると。
相も変わらず喉をカラカラにしている俺を見かねて、「うちのトシヤなら」って、自分の息子を差し向けてくれた。
それが、自分の親父の幼馴染の吸血鬼だという俺の前でおどおどしている、この太っちょな少年だった。
自分の跡取り息子の血を吸わせるなんて、ひどい親だと思うかもしれないが。
この街の平和はそういうことで成り立っていたのだから、だれもが多かれ少なかれ手を染めていることだった。
むしろ周りの者たちは、沼尻のしたことを、「相変わらず仲好いんだね」と片手間に口にしただけだった。


「べつにそんなに、身構えるこたぁ、ない。ふつうにしてりゃ、すぐ済ませるさ」
びくびくしているトシヤに、俺は余裕綽々と応えていた。
「ふつうに・・・って、言われても・・・」
落ち着きを失くしている少年に、俺は仕方なく、そこの机についてきょうのおさらいでもしたらどうだ、とすすめた。
勉強は、できるほうだときいている。
少年は学生鞄から教科書とノートを取り出すと、不承不承だったけれども大人しく自習をはじめた。
家でも従順な息子に、ちがいなかった。
長時間身の入らない勉強に時間を費やさせるのは気の毒だったので、俺もそうそうに、俺の役目を果たすことにした。
机に向かっている少年の後ろから迫って、肩を抱き、反対側の首すじに、髪の毛のすき間から指を添わせる。
ビクッとして身をこわばらせた少年を、そのまま身動きも赦さずに・・・首すじに咬みついた。

あう・・・っ!
さいしょのひと咬みは、とてもたいせつなのだ。
それで苦痛しか感じないのと、ウットリしてしまうのとでは、あとあとあとに違いが出てくる。
咬む側の技量にもよるが、咬まれるほうの資質の問題でもある。
―――どうやらこの子には、素質がありそうだった。
俺は、ひさびさにありつく若い子の生き血に夢中になって、少年の肩にむしゃぶりつくと。
ピチピチとした活きの良い血液を、チューッと音を立てて、勢いよく吸い上げていた。

こわばる四肢が力をなくして、身構えた姿勢がじょじょに崩れてゆく。
眩暈にクラクラとしたらしいトシヤは、頭を抱え、しきりに弱々しいうなり声を洩らして、
血を吸われるのを厭うように緩慢に身体を揺らしながら、机のうえに突っ伏していた。
俺は机といすのあいだにもぐり込むようにかがみ込んで、
半ズボンのすそからむき出した、少年の太ももを牙で狙った。
男の子にしてはきめ細かい皮膚が、ツヤツヤとした輝くような白さを滲ませている。
吸いつけた唇の下でしなやかな肌が弾み、その下に秘められた血管をめぐるかすかな脈動が俺をワクワクとさせた。
静かに埋め込んだ牙に、意識の遠のきかけた少年が、ふたたびうめき声をあげた。

「すみません・・・ちょっと横になっても、いいですか?」
トシヤに言われるまでもなく、俺はすぐ傍らのソファに、少年を導いた。
ソファを蔽っている深紅の布には、もういく人の血潮が沁み込んでいるのだろう?
そのなかにはかれの両親のそれさえ織り交ざっているのだと、まだ教えるには早そうだった。
俺は少年をうつ伏せに寝かせると、濃紺のハイソックスを履いた足許に、容赦なく牙をきらめかせる。
「すまないね、きみ。ちょっと悪戯させてもらうからね。きみ達が学校に履いていくハイソックス、お目当てにしてたんでね」
「あ・・・はい・・・」
あらかじめ親から言い含められていたのか、少年はけだるそうに身じろぎをしただけだった。
すらりと伸びたふくらはぎに沿うように、リブ柄のハイソックスの縦じまが、ゆったりとしたカーブを描いている。
しっとりと落ち着いた濃紺。
真新しい生地は、かすかな光沢をよぎらせていた。
しなやかなナイロン生地のうえから、俺はむぞうさに唇を圧しつけると。
ヒルのようにぬるぬると這わせていって、粘っこいよだれをじわじわと、しみ込ませてゆく。
少年のふくらはぎの筋肉が嫌悪にこわばるのを、靴下ごしに唇で感じながら。
俺はふたたび、餓えた牙をハイソックスのうえから突きたてていった。
侵した皮膚のすき間からあふれ出る血潮に、ぞんぶんにい唇を浸して。
歓喜にむせ込んだ喉を、心地よくゴクゴクと鳴らしていった。



それ以来、トシヤは週に2回、俺に血を吸われにやって来た。
色白のおどおどとした顔立ちに、躊躇と遠慮とを滲ませながら。
勉強もあれば、部活もある。そのあいだに時間を工面して、逢いに来る。
それから数時間はきつい貧血で立てないほどになるような行為に時間を割くのは、決して容易なことではない筈だった。
けれども彼は、親から厳しく言われているのか、指定した日時をたがえることはなかった。

「ごめんなさい。きょうは、履き古しなんです。いいですか?」
遠慮がちな上目遣いの目線をビクビクさせながら、トシヤは俺の機嫌を窺ってくる。
「学校の購買にも在庫がなくって。きょう、母が新しいのを買いに行ってくれてるんですけど、間に合いそうもなくって」
おずおずとした言い訳をしながら、本能的な後ずさりだけはつい出てしまう少年を。
俺はいつものように、肩を掴まえて抑えつけてゆく。
「たまにはいいじゃないか。履き古しも意外に味があるもんだぜ」
「なんか、マニアですね・・・」
トシヤは珍しくちょっと笑って、白い歯をみせた。
「うふふふふふっ。きょうもたっぷりと、よだれをしみ込ませてやるからな」
ソファに腰をくつろげたトシヤは、黙って俺のほうへと、肉づきのよいふくらはぎを差し伸べてくる。

ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・くちゃ・・・くちゅうっ。
シンと静まり返った二人きりの部屋のなか。
露骨な舌なめずりだけが、少年の足許にまつわりつく。
「ああ・・・もぅ」
トシヤはたまりかねたように、声を洩らした。
「噛んで下さい。どうぞ、僕のハイソックス、噛み破っちゃってください!」
制服の一部を辱められるのが、とても愉しいんです・・・と、少年は告白した。
「よろしい。望みどおりにしてやろう。きみが俺に頼み込んできたから、してやるんだからな」
「ハイ、もちろん小父さんは悪くありません。僕ヘンタイだから、お願いしちゃったんです・・・」
らちもない問答の交わされるなか、少年の履いているハイソックスは好色な唇や舌にいたぶられ、よだれに浸され、縦じまをいびつにねじれさせ、しまいにびりびりと破かれてゆく・・・

「あの・・・」
俺に組み伏せられてうなじを抉られながら。
トシヤはおずおずと、口を開いた。
「こんど・・・妹の制服着てきてあげましょうか・・・?」
え・・・?
俺は訝しそうにトシヤを見る。
トシヤの妹の香奈枝は、兄と同じ学校に通っている。
ブレザーは男子と同じく濃紺だったが、スカートはグレーだった。
後ろから男女を見分けるには、半ズボンの濃紺とスカートのグレートが目印になっていた。
濃紺のハイソックスは、男女共通・・・
彼の提案に俺は、「面白そうだね」と応えて、笑んだ口許をそのまま彼の首すじに圧しつけた。
アアアアア・・・ッ!いつもの悲鳴が、広い洋間につんざいた。


「ヘンですか?ヘン・・・ですよね?」
トシヤは戸惑いながら、洋間にあがり込んでくる。
腰から下にはいつもと違うグレーのスカートがユサッとそよいで、
ハイソックスはいつものよりも、すこしだけ寸足らずだった。
「よく妹さんが貸してくれたな」
「彼女には、ちゃんと言いましたから・・・」
俯いて口ごもっているのは、女子の制服を着ている自分が部屋の姿見に映ったのから目線をはずしたいかららしかった。
俺はにんまりと笑うと、トシヤの手を引いて、姿見のまえに連れていった。
「あっ、それは・・・っ。こ、困りますっ!」
さいきんにしては珍しくうろたえるのが面白くって、俺はわざわざ、やつを姿見の正面に立たせてやった。
「ほら、まっすぐ前を視るんだ」
しきりにかぶりを振って恥ずかしがるトシヤも、俺の命令には逆らわない。
おずおずと顔をあげ、まっすぐと自分の女学生姿に目を注いでいった。
「どうだね?似合うだろう?妹さんの制服。きみはいま、香奈枝になったんだ」
「あ、はい・・・そうですね・・・」
俺に応える声色が心持ち、トーンを和らげてきた。
「言って御覧。”お願いします。香奈枝の血を吸ってください・・・”」
「お願いします。香奈枝の血を吸ってください・・・」
少年は言われたとおり、復唱した。
すっかり香奈枝の口調になっていた。ひとりでに、あとのセリフがトシヤの口をついた。
「兄貴の血より、きっと美味しいとおもいますから」
いつになくキッパリとした語調が、香奈枝そのものだった。
姿見のまえ、俺はトシヤの・・・いや香奈枝の首すじに食いついていた。


いつになく激しい行為のあと。
トシヤはぼう然として、あちこち赤黒いシミをつけてしまったブラウスを、しきりに拭っていた。
ずり落ちた丈足らずのハイソックスを引っ張りあげては、噛み痕の数を確かめて。
「こんなに噛んで・・・いつもよりしつこかったですね」
口を尖らせながらも、俺にされるがままにハイソックスを片方ずつ、足許から引き抜かれていった。

香奈枝のやつ、吸血鬼に逢うのが怖いらしいんです。
だから僕がいくら勧めても、いっしょに来ようとしないんです。
それなら香奈枝の身代わりに、僕が咬まれてきてやるからって。
そういったら、制服を貸してくれたんです。
でもやっぱり、このかっこで道を歩くの、恥ずかしかったなあ・・・

俺はトシヤの後ろに回って、両方の肩に体重を乗せた。
「重たい・・・」
うめくトシヤに、俺は言った。「きみから獲た血で、重くなったのさ」。
「こんどから、香奈枝の制服を着て登校するといい」
少年はビクリと身を震わせたが、なにも答えようとはしなかった。

翌日の夕方のことだった。
俺を訪ねてきたべつの少年から、トシヤが女子の制服を着て登校してきたことを聞かされたのは。
その少年は、俺にしたたか血を吸われて喘ぎながら、うわ言みたいに上ずった声で教えてくれたが。
決してトシヤをこばかにしたふうは、どこにもなかった。
この学校では・・・必ずしも珍しいことではなかったから。


つぎの指定日に、トシヤは香奈枝を連れてきた。
どういうやり取りがあったのか?
毎日兄妹連れだって、女子の制服で登校する。
女々しい兄をからかって香奈枝が要求したことを。
トシヤはすんなりと受け入れて、その週一週間は、女子として学校に通いつづけた。
その代わり―――僕といっしょに、小父さんのところに行こう。
あくまで吸血体験を勧めつづける兄に、妹はもうかぶりを振ろうとはしなかった。

ぴちゃ、ぴちゃ・・・
くちゅ、くちゅう・・・っ。
兄妹並んで、うつ伏せになって。
おそろいのハイソックスに包まれた二対の足許に、餓えた唇を順ぐりに這わせてゆく。
唇で吸われ、べろを這わされて。
真新しいナイロン生地に濡れたよだれをたっぷりと浸されて。
足許をキリリと引き締める縦じまを、ぐねぐねといびつに歪められて。
そのつど、少年も、少女も、それは迷惑そうに眉を吊り上げ、目許を昏くして。
齢の順に皮膚を破られ、生き血を吸い取られてゆく・・・

父も母も、たどった道を。
さいしょに兄が。
その兄に引き込まれて、妹までもが。
制服姿を辱められながら、理性を侵蝕されてゆく。
「子供たちのハイソックスに、夢中になっていらっしゃるのね」
ふたりの母親が口を尖らせて、俺の裸の胸のなかで抗議をしたのは、夕べのことだったろうか。
「あんたのパンストも、愉しくってしょうがないな」
俺はお返しに、女の足許で裂け目を拡げている肌色のパンストに、もういちど露骨なべろをふるいつけてやった。

嵐が過ぎ去ると、平静な理性が戻ってくるのだが。
嵐の真っ最中には、あられもなく乱れ果てる、母、息子、娘・・・
彼らはどこまで、知っているのだろう?
最愛の家族が、人が変わったように淫靡に身をよじるのを、沼尻のやつが勤務を抜け出してしばしば覗きにくるのを。
「しょーがねぇな」
遠い昔、サッカー用のストッキングを引き上げて、ふくらはぎを咬ませてくれた幼馴染は。
いまでも時おり、奥さんといい勝負のスケスケの薄い長靴下を穿いて、ごつごつとした筋肉質の足許に、俺の牙を受け容れてゆく。
家族と同じ歓びを、共有するために・・・・・・


あとがき
えらく長くなっちゃいました。
所用時間、一時間半。A^^;
どうも駄作が多くて、いけませんな。。

「純情」だった妻。

2013年10月22日(Tue) 08:03:51

一夜にして・・・
夫婦ながら生き血を吸われて。
一夜にして・・・
妻は自分が娼婦と化したことを悦び、
夫は自分の妻が娼婦と化したことに昂ぶるようになっていた。

奥さん、純情なんだよ。
妻をモノにしたのは、わたしよりも年上の、一見顔色がわるく、風采も上がらずの、冴えない男。
口をついたように、妻のことを称賛していた。
初めて咬まれたその夜のうちに女の操まで捨てちゃうなんて、
ご主人からみたら、さぞかしふしだらな妻に思えるだろうけど。
それだけ俺に、夢中になっちゃたというわけ。
そこは、否定しないよね?
わたしはなぜか、くすぐったそうにうなずくばかりだった。

それにさ、半年ものあいだ、俺ひとりで通したじゃん。
いちどモノにした人間の人妻は、自慢し合うのが俺たちの流儀なんだ。
だから2~3度逢って身も心もモノにしてしまうと、俺たちは征服した人妻を、そういうところについれていく。
女どもはそこで、ほんとうの娼婦になるんだな。
ところがさ、彼女は俺じゃなきゃいやだって言うんだ。
ひと頃は、ご主人であるあんたとも、セックスしなかったんだって?
それはさすがに申し訳なくて、あんたとも寝るように説得したんだがね。
いまはもう、ふつうにつづけているでしょう?夫婦の関係。
以前よりも濃いって?そいつはごちそうさま。

奥さんはやっぱり、純情なんだよ。
いまでもご主人を、愛しているって。
でも俺のことも、なおざりにはしないって。
知人の結婚式に1人で行くのは気がすすまないと言ったら、着飾っていっしょについてきてくれて。
俺の名前の横に、俺の苗字で名前を書いてくれたっけ。
あの晩はたしか、ツインルームを手配してくれていたから。
俺は新婦や新婦のお母さんや妹さん達を襲う恒例の儀式には顔を出さずに、
ひと晩奥さんとセックスしつづけていたんだ。
あの日の朝は、礼服をよれよれに着くずれさせて家に帰ったから、あんたもびっくりしたろうな。
ご近所に視られながら帰宅したいから独りで返るっていうから、したいようにさせたけど。
ほんとうは家の玄関をくぐるまで、俺は見届けていたんだ。
口をあんぐりさせたあんたが、あわててなにごともなかったような顔になって、奥さんをねぎらったのは、とても見ものだったよ。
いやもちろん、いい意味でだけどね。

奥さんやっぱり、純情なんだよ。
ひとの生き血を吸う俺みたいなやつのことも切れないし、
ご主人とのまっとうな日常も、死ぬまで続けたいって言うんだ。
だからこのまま、やっていこうじゃないか。
あんたには、迷惑至極の話だろうけど・・・ね。

セックスだけが夫婦ではない。

2013年10月22日(Tue) 07:44:41

初めて抱かれてしまう瞬間、きみはひどく悲しそうな顔をした。
相手は吸血鬼だった。
夫の目のまえで生き血を吸い取られて、ひざから力が抜けてその場にくたくたと姿勢を崩したきみに、
彼は慣れたやり口でのしかかっていって、もういちどとどめを刺すように、きみの血を吸った。
眉を逆立てて身を仰け反らせ、必死で相手をもぎ離そうとするきみ。
けれどもねじ伏せる腕力に、きみのか細い筋肉では、抗すべくもなかったはず。

いよいよ挿入・・・というときに。
きみはわたしのほうをチラッと見て。
目線を合わせてしまったことを悔やむかのように、涙ぐむ。
スカートをせり上げられて。
パンストを片方だけ、脱がされて。
ショーツをつま先まで、すべり降ろされて。
あいつはわたしのほうにウィンクを投げ、憎たらしも、「いただきます」としゃあしゃあと言った。
それから、嫉妬に絡みつくわたしの視線を避けるように、きみの首すじの向こう側へと顔を埋めた。
きみのうなじを這う、ひとすじの紅いしずく。
それは涙の痕のようにチラチラと昏い輝きをたたえながら、きみのブラウスにしたたりを伸ばしていった。

スカートの奥に、ググッと刺し込まれたなにかに怯えるように。
きみは立て膝をして、片方だけストッキングに包まれたふくらはぎの筋肉を、キュッと引きつらせる。
きつく噛み合された前歯の白さが、紅を刷いた唇のすき間からもれて、生々し過ぎるほど光っていた。
ピリピリと震えるまつ毛を濡らす涙が、すべてを喪失したことを告げていた。

そこにいるのは、娼婦だった。
嫉妬に満ちた夫の目線をも省みずに、しきりにお尻を突き出しては、もういちど、もういちど・・・とねだる女。
淑女はたったのひと突きで、雌犬にすり替わった。
大きい・・・大きいわあ。
放恣に弛んだ口許から覗く前歯は、さっきまでの悲しみをかなぐり捨てて、歓びの輝きを帯びていた。
貴婦人の品位に輝いていた肌色のパンティストッキングは、片方だけ女の脚に残ったまま、
ひざ小僧のあたりまでふしだらにずり落ちてくしゃくしゃになって、女が堕落してしまったことを修飾しているようだった。

ご主人は控えめに言っても、6000人に一人の幸運な男だ。
あいつは男として男を称賛する目つきをして、わたしを見た。
妻は緩慢な動作で、血液を奪い取られた手足を動かして、身づくろいをしていた。
虚ろにやつれた横顔には、なんの感情も窺えなかった。
どういう意味だ?
尖った声色をなだめるように、男の声はあくまでも柔らかに、わたしの怒りにおおいかぶさる。
処女の女を嫁に迎えるのは、3人に1人。
自分の妻が夫以外の男を識る瞬間を目にする機会を得るのは、たぶん千人に1人。
あとの2分の1は、なんだというんだね?
聞きたくもない講釈を早く切り上げさせたくて、投げやりに訊くと、あいつはそれさえも真に受けて。
サドかマゾか・・・ということだね。これが2分の1。
マゾだとこういうことでも、悦ぶことができる。
わたしが悦んでいるとでも・・・?
深くは追及しないがね。奥さんの前だし。
あいつは妻をかえりみた。自分の女になった身体を、舐めるように見つめるのを、わたしはどうすることもできなかった。

帰宅直前、背後に立ったあいつに羽交い締めにされて。
相手の意図を知ったときには、すでに遅かった。
わたしの血はぞんぶんに吸い上げられて、身体じゅうに毒が回って、理性を痺れさせられていた。
「きみの血だけじゃ、ちょっと足りない」
残念がるあいつのために、いっしょに家に来なさい、家内を紹介してあげよう・・・と、約束をしてしまっていた。
呪われるべき約束は、忠実に果たされた。
このごろ潤いを増してきた三十代主婦の素肌は、新調したばかりのブラウスを引き裂かれて露わにされて、
深夜の訪客の舌と唇とを、ぞんぶんに悦ばせていた。
感極まった妻が女の操まで惜しげもなくゆだねてしまったからといって、どうして咎めだてすることができるだろう?

「献血、つづけましょ。こんどはあなたの番」
虚ろな声で妻は言い捨てると、ふらふらとした足取りでリビングを出ていった。
「賭けてもいい。由里子は着替えに行った。女の洋服を持ち主の血で浸すのを俺が好むと知ったからだ」
男は得意げにそういうと、さっき街灯の下で試みたように、わたしの首すじをもういちど噛んでいた。
自分の生き血が吸血鬼の喉を鳴らす音を聴くのは、悪くなかった。
妻の生き血が刻一刻と喪われていくのを耳にするよりは。
一夜にして夫婦ながら血を吸い尽くされてしまう。そういうわけではないのだと、直感的に得心した。
「どんな服に着替えてくるか、楽しみだな」
男の言いぐさに、わたしは感情を忘れた硬い頬で、頷きかえしていた。

花柄のワンピースに黒のジャケット。プレーンなストッキングにはかすかだが光沢がよぎり、メイクは心持ち濃くなっていた。
「娼婦の血は、いかが?」
「わしの相手だ。淑女に決まっている。決して娼婦ではない」
あいつは妻に向かって誓うようにそういうと、何度めか、妻の首すじに咬みついていった。
ほっそりとした首すじを輝かせる、白磁のような素肌。
むざんに噛み裂かれてしまうのを、妻は唯々諾々と受け入れた。
引き抜いた牙から撥ねた血が、ワンピースの胸を濡らす。
「あはっ・・・お花が咲いたみたい」
姿見に映る自分の姿に妻が惚れ惚れと見とれているうちに、男は妻の足許にひっそりとかがみ込んで。
つややかな光沢をよぎらせたナイロン生地のうえから、ぬるりと唇を這わせてゆく。
「アラ、いやだ」
妻は顔をしかめたが、早くも膝小僧を抱きかかえられて、身動きできなくなっている。
脚に通した女が娼婦であるのを裏づけるように、妻のストッキングはだらしなくよじれて、皺くちゃにされてゆく。
男は妻の足許にピチャピチャとよだれをはぜながら、それは下品にあしらっていった。


由里子に逢せてくれ。
喉が渇いたとき。女旱りになったとき。
あいつは必ず、わたしを通すことにしているようだった。
「だんなさんは、立てなきゃな」
どこまで本気でそう思っているのか、けれども少なくとも表向きは、あいつのわたしに対する態度は、恭謙そのものだった。
「由里子がそうしろというんだ」そう抜かしながら。

長い黒髪をほどいて、背中にユサユサと揺らしながら。
ベッドのうえで四つん這いになって、豊かなおっぱいをたぷんたぷんとさせながら。
食いしばった白い前歯をむき出しにして、ひぃひぃと喘ぐ妻。
そんな妻を目の当たりに、不覚にも失禁をくり返すわたし。
そんな夜が、幾晩つづいたことだろう?
やがてわたしは、妻がわたしを通さずに男と逢うようになっていたことを知る。

ふたりの交際を認めてやるには、方法はひとつしかなかった。
妻をひと晩、男の家にゆだねること。
夕方、近所の家々から洩れてくる視線を一身に受けとめながら、妻は彼の運転する迎えの車に乗り込んだ。
そして翌朝。
はだけたブラウスに、解いた黒髪。
精液を粘りつけたスカートに、ひざ下までずり降ろされたストッキング。
近所の家々の公然たる視線を一身に受け止めて、妻は我が家の玄関先に立った。
「ただいま戻りました」
黒髪をユサッとさせて、頭を垂れる妻に。
「お帰り。お疲れさま」
何事もないような顔つきで、ご近所にはっきり聞こえる声で妻をねぎらうわたし。

あいつはけっきょく、わたしたち夫婦をどうしたいのか?
妻はそれには答えずに、言った。
「セックスだけが、夫婦じゃないでしょう?」

たまにはわたくしのことを、独り占めになさりたいそうよ。
だからわたくし、あのひとの家の主婦業も掛け持ちするって、約束したわ。
たまには招かれた婚礼の席に、わたくしを夫人代理として隣に座らせたいそうよ。
それで苗字もあのひとの苗字に変えて、肥田百合子って書かせたいらしいの。
そうすればわたくしがあのひとの妻同然だと、周囲に広めるようなものだからって。
それにたまにはあなたの目のまえで、わたくしとセックスなさりたいそうよ。
夫の前で妻を征服するのって、男の夢なんですって。
あなたのまえでわたくし、うんと取り乱して、主人のより大きいわあって、言ってあげるの。
週に1,2度のことだから、許して下さるかしら?

でもわたくしは、あなたの妻です。
ゆう子もいるし、俊太もいるし。なによりも、あなたの妻なんです。
だから別れる気はないって、堂々と言ってあげたの。
あのひと、びっくりしてたわ。身体さえモノにすれば、全部手に入るって思い込んでいたみたい。
でもさいごには、OKしてくれた。
あんたと結婚するよりも、人妻であるあんたを征服することで満足するかな・・・ですって。
あなた、わたくしとこれからも、セックスしてくださるかしら?
それ以上にわたくしのことを、信頼して愛してくださるかしら?
あなたがわたくしをあのひとに譲り渡したこと、わたしはいけないことだと思っていないの。
あなたはわたくしを、ほかのひとにも自慢したかっただけ。
わたくしがあのひとと交わるのをみて、自分が交わったときみたいに悦んでくださることができるだけ。
そういうことで、いいかしら。間違いないわよね?
ねえ、これからセックスしない?
こんなわたくしでも、お嫌でなければ・・・

数分後、わたしは夫婦のベッドで、新婚以来かと思うほどの交歓を愉しんでいた。
夫婦でこんな充実したセックスをしたのは、ほんとうに新婚以来かも知れなかった。
妻は息をはぁはぁとはずませながら、それでもあらぬことを口走るのを、やめようとはしなかった。

あのひとに、感謝しなくちゃね。
あなたもあのひとに、いっぱい血を吸わせてあげてね。
貧血になる手前でも、かまわないから。
だってあなたには、わたくしがあのひとに破らせてあげるお洋服やストッキングを買うお金を、たっぷり稼いでいただかなければならないんですから・・・

新興住宅街。

2013年10月22日(Tue) 04:52:22

「父さん、あそこに建てているお家には、どんな人たちが越してくるの?」
傍らの父親に訊く少女は、まだじゅうぶんに童顔を残していたが、
血色がもっともよいはずの年ごろに似ず、妙に顔色が悪かった。
「ああ、あそこにはな、都会からおおぜいお人が越して来なさるだよ」
少女と同じく麦わら帽子をかぶった彼女の父親は、純朴な言葉つきに内心の安堵を隠しきれないという風情だった。
「そうなんだ。おおぜいねえ・・・軒がいっぱい、並んでるよね。うちらのお家より、ずうっと恰好がいいねえ」
口許から覗く前歯の白さを光らせながら、少女はやや舌足らずな語調にあどけなさを滲ませた。
少女が羨ましがるように、すでに軒や壁までできかかっている家々はこのあたりではほとんど見かけない都会風なたたずまいをしている。
こんなお家に棲んでいるのは、このあたりでは村長さんや病院の院長さん、学校の校長先生くらいのものだろう。
少女の父親は、純朴な声色をかえずに、ちょっとだけおそろしいことを口にする。
「おおぜい越して来なさった都会のかたがたはの、わしらの身代わりに、吸血鬼様たちに血を吸われなさるだよ」
のどかな口調は、さっきまでの世間話のときとまったく、変わらなかった。
少女は波打つ黒髪を、秋めいてきた風の弄ぶままに吹きさらしながら、やはりちょっとだけおそろしいことを滲ませた。
「そうなんだ。そうしたらあたしも、しんどい思いしなくなるかねえ・・・」
少女はニッと笑って、可愛い口許から白い歯をむき出しにした。
顔色のわるい少女は、顔つきや声色のあどけなさに似ず、ひどく痩せこけている。
「でもおまえ、都会のかたがたに夢中になった良作さんや好夫どんにぜんぜん見向きもされずに、血ィ吸ってくれんようになっちゃ、さびしかろうが」
「そうだね。全然血を吸ってもらえないのは、ちょっとさびしい・・・」
少女はちょっと、切なさそうな顔になる。
「せめて毎晩じゃなくて、週に3日くらいのことだったら・・・もっと美味しい血を飲ませてあげられるんだけど」
少女はまるで、貧しい家の姉か母親が、弟や息子にいいものを食べさせたい・・・と願うような目をしていた。
相手の男どもは、だれもが自分の祖父か父親くらいの年配なのに。
「あたしと同じくらいの女の子も、いるのかな。早く仲良くなりたい」
「えぇ相談相手になれるじゃろ」
父親は娘を頼もしげに見返り、目を細めた。


「あー・・・」
黒い影法師のような男にいきなり首を噛まれた浮橋達也は、絶句したままその場にひざを突き、尻もちをついた。
かろうじて街灯はあるものの、たどる家路を照らす灯りは、都会に比べるとはるかにみすぼらしいものだったから。
彼はいったい自分の身になにが起きたのかを自覚するいとまもないうちに、生き血を吸い取られていった。
白のワイシャツが、持ち主の血潮で真っ赤に濡れてゆく・・・

「ただいま。帰ったよ」
疲れきった顔をした達也は、ぼう然となりながらも家のドアをノックした。
「はぁい、ただいま・・・」
ドアの向こうからスリッパの足音を近づけてくる聞き慣れた妻の声が、いつにもなく生気を帯びて耳に響く。
来るんじゃない、逃げるんだ・・・
欠片ほど残された理性は、そんな叫びをあげていたが。
すぐ傍らに佇んでいる、自分の血を吸い取った者への不可思議な共感が、それを圧倒しようとしていた。
自分が吸い取られてしまった血液を、まだふんだんに宿している女。
そう、おまえも自分の生き血で、いま友人になったばかりのこの男の渇きを、慰めてやらなくちゃな・・・

「あなた、あなたあッ・・・」
妻の静江が見慣れたワンピース姿を広いリビングの床にまろばせながら、まだ切れ切れに声を発している。
客間にあげた未知の年配男が、夫と同じ経緯でだしぬけに自分の首すじに噛みついてきたとき、静江は絶句するしかなかった。
「だいじょうぶ、ぼくもさっき、やられたところだ」
背広を脱いだ夫のワイシャツは、みごとなまでに真っ赤に濡れている。
ベーズリ柄の彼女のワンピースが同じように持ち主の血潮に浸るのを、じょじょに拡がるなま温かさで感じながら。
襲いかかってくる事実を否定したげに、静江はちいさくかぶりを振りつづける。
―――クリーニングに出さなきゃいけないわ。
迫る恐怖とは裏腹の、いかにも四十代の主婦らしい、そして場違いな想いに満たされながら、彼女は自分の血が男の喉を鳴らすのを聞いた。
ごくごく・・・ぐびり。
聞えよがしなあからさまな音が、現実感を忘れさせる。
夫は、静江が襲われているリビングの隅っこにひっくり返り、うつらうつらしていた。
帰宅するまではまだ気が張っていたものの、妻が思惑通りの応対を始めたことに安堵したのか、全身から力が抜けるのを覚え、スッと意識が遠くなったのだ。
「やっぱり女の血のほうが、おいしいのかしらねえ」
奇妙な優越感に満たされながら、理性を侵された静江は、のんびりとした面持ちで夫を見返った。
肌色のストッキングを穿いたままふくらはぎを吸われはじめていた彼女は、薄いナイロンの生地ごしにしみこまされてくるなま温かいよだれに戸惑いながらも、
彼が彼女の脚をくまなく舌で愉しむことができるように、時おり脚の向きを変えてやっている。
「少しぐらいいやらしいことされても、今さらあなた妬かないわよね・・・?」
念押しし口調の静江は、なにかを期待するようなウキウキとした目線を、夫に向かって投げる。
達也はそれを肯定するように、「仕方ないじゃないか・・・」といいながら、頷きかえしてきた。


「都会のひとのお家、増えたねえ」
少女の声色に滲むあどけなさは変わらなかったが、
ふっくらとした頬の白さはみずみずしさを湛えていて、この年代の少女ならではの透きとおった色香をよぎらせていた。
「そうじゃのお。おかげでわしらも、助かるのお」
「母ちゃんもすっかり、きれいになったね」
「若返ったじゃろ。毎晩のときはみるかげもない顔つきしとったが」
「父ちゃん最近、毎晩なんだって?」
娘はこましゃくれた口調で、きわどいことを口にする。
「若けぇ娘が、そンなこと言うもんでねえ」
父親はちょっとだけ厳しい顔をしたが、娘がくすぐったそうに肩をすくめると、それ以上の追及をやめた。
「週に2,3度のことだって」
嬉しげに弛んだ目じりのしわが、好色に滲んだ。
「じゃあほかの晩は、母ちゃんは小父さまとしてるの?」
「詳しいことは知らんことになっとる」
「ズルい、ズルい。なみ子も知りたいんだよお」
「なんだ、お前ぇいいことでもあったんか?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
おぼこ娘は自分に矛先が向くと、さすがに羞じらいの色を泛べた。
「お隣の初江ちゃん、夕べ都会の子を自分の小父さまに逢わせに行った」
よその子だけがいい想いをしている・・・そう言いたげに少女は、不平そうに頬をふくらませた。
「お前ぇも、”儀式”を済ませたらな。そういうこともさせられる。もうちぃと辛抱せい。嫁入りまえの身体は、大(で)ぇ事にするもんだ」
娘が「んもう!」とふくれながら父親の背中を甘えてどやすのを、父親はどこ吹く風でそう嘯きながら、娘の非難をかわしていく。


自分のうえにおおいかぶさって、首すじにつけた傷口をピチャピチャと舐めながら舌を鳴らす男の背中に、静江は黙って細い腕をすべらせた。
こうして抱き合ってやると、男はひどく心地よげな顔つきになって、女のうえにさらに長いことのしかかるのだった。
自分の着衣を血潮に浸す体験は、もう数限りなくし続けてきた。
求められるままに唇を重ね合わせると、男が吸い取った自分の血の芳香が鼻腔をついた。
決していやな匂いではなかった。
「妾(わたし)の血、美味しいかしら?」
「こっちのほうも旨いな」
男はキスの応酬で人妻を悩乱させる。
初めての晩と同じようにリビングの床に転がされている夫は、さっきから熱っぽい目をして、妻の饗応ぶりのいちぶしじゅうを見守っていた。
夫に見せつけるように静江はキスをもう一度ねだり、濃い口づけを思わせぶりに交わしつづけた。


都会育ちの静江は、もちろんこんな体験はこの村に来てからが初めてである。
さいしょの嵐が過ぎてから、村人たちが自分を迎える視線が、ひどく暖かなものになったのを感じた。
夫の上司や同僚の奥さんが村のだれに襲われたとか、血を吸われただけじゃなくて、浮気までしちゃっているとか、公民館での集いや娘の学校のPTAで囁かれる井戸端会議での話題には、こと欠かなくなっていた。
さいしょの晩に犯されてしまった静江は、うぶなおぼこ娘のように、夫が連れ帰ってきた相手にぞっこんになってしまったけれど。
いまはもう、いろんな男性に自分の血液を提供するのが日常になっている。
それでもさいしょの半年のあいだ単独の男に入れあげたのは、都会妻たちのなかで、静江が一番長かったという。
最初の男とはいまでも情婦としての関係を持ちつづけているし、夫は情事を期待する妻のためにわざと家を空けてくれる程度には、協力的でいてくれる。
今夜は情夫に無理強いされて、わざわざ家に居合わせているときに妻の情事を見せつけるというたちの悪い趣味に夫をつき合わせてしまっていたけれど。
「困りますな。ほんとうに、困るんですよ・・・」
婉曲な断り文句を気弱に呟きつづけながら、けっきょくのところ夫は情夫の手でロープで身体をぐるぐる巻きにされていき、そんな夫を妻は嬉しげに見守りつづけた。

甘々な交歓の続きは、たいがい痴話げんかになる。
静江の場合のライバルは、たまに都会から訪ねてくる姑―――夫の母親だった。
もうじき還暦に手が届くというのに彼女は気品に支えられた美貌を保っていたし、すこしでも若い血液を提供するために美容にも努めているようだった。
女傑でもあるらしい彼女は夫に話をつけて、この村に棲みついた息子夫婦を訪うときには、夫も同伴でやってくるのだった。
「お義母さまの血よりもおいしくないなんて、けっして仰らないでね」
「あのかたはたまにしか来ないから、歓迎しているだけじゃで」
男は田舎ことば丸出しで、静江の追及に応える。
「でもこのあいだなんか、大層美味しそうに召し上がっていたじゃないの」
「おまけに床上手だでの」
言わないでもいいことを言ったと後悔した時には、憤慨した彼女にさんざん言われたあとだった。
「それよか、珠希ちゃんの血をいつ吸わせてくれるだね?もうあの子も年頃じゃでのお」
「アラ、気になる・・・?」
娘のことになると、静江はやや態度を和らげた。自慢の一人娘だった。
「初穂はわしに摘ませると、夫婦して約束してくれとっとじゃろうが」
「エエもちろんそのつもりよ」
正面きってのキスを、静江は夫の見ているまえで受け止める。
「中学の入学祝いか・・・ねぇあなた」
静江は母親の顔に戻って、夫をかえりみた。
決定権はあなたにもあるのよ、と言いたげに。
「早ければ小学校の卒業式の謝恩会なんか、どう?」
「・・・・・・早いほうがいいだろう」
妻ばかりか娘まで。そんな内心の葛藤にどうせいりをつけたものか、達也の声色は父親らしく穏やかだった。
「また新しいワンピース、買ってね。ほらー、今夜もこんなに台無しにされちゃってえ・・・」
泣きそうな声色を作って夫に甘える妻に、達也もまんざらではなさそうだった。
「ああ、いくらでも買ってやるさ」
「ご主人、いつも済まないねえ」
「いや、どうぞお気になさらずに」
夫と情夫が穏やかに言葉を交わすのを、妻は誇らしげにふたりの顔を交互に見比べていた。
あのひとに濡らしてもらうブラウスや、破いてもらうストッキングを買うために仕事をがんばるから。
夫婦ふたりきりの晩、夫はたしかにそう言ってくれた。
マゾヒスティックな昂ぶりが、そのあと彼女の股間を割ったときの快感を、いまでも忘れることができない。
夫がしきりに、スラックスの股間に浮いたシミを隠そうとするのを、彼女はわざと見て見ぬふりをした。
そして、半裸に剥かれた身体をしならせて、彼女への情夫の情愛の証しである激しい吶喊がくり返されるのを、露骨な吐息をはずませながら、応えてゆく・・・


「こんどまた、都会のひとが越してくるんだって?」
娘は今年で最後になるセーラー服を残り惜しげに見回しながら、麦わら帽子をかぶりなおす。
「そうじゃの。浮橋次長さんの奥さんが身体をこわしなすったからの。その身代わりにの」
「代わりに」ではなくて、「身代わり」だと嘯く父親に、娘はクスッと笑った。
「その次長さんの奥さんをあそこいらの草むらに引きずり込んでいたのは、だーれだ?」
「生意気言うでねえ」
「だってー、あたしももう、おぼこ娘じゃないもの」
毎晩妻の処に忍んでくる吸血鬼は、もと幼馴染じみだった。
「都会妻や娘っこにばかりうつつを抜かしてねえで、うちの娘のめんどうも見てやってくれや」
父親が手を合わせんばかりに頼み込んで、娘の処女を奪ってもらう。
年ごろの娘を抱えた家ではよくある風景だった。
痛い、痛い・・・と泣きじゃくっていた娘が、明け方には泣き止んで、両親のところにおはようを言いに来たときにはひどく決まり悪げだったのを。
目のまえで娘が小生意気なことをぬかすたび、彼はいまでも思い出し笑いとともに二重写しに重ね合わせてやるのだった。
「次長の奥さん、戻ってこれるといいねえ」
「長持ちさせるにゃ、たまには休ませねえとな」
そういうことで浮橋さんとは、話をつけてあるんよ・・・そう言いたげな得意げなようすを、娘はわざと聞き流しにしていた。
「こんど来るお家には、女の子いないのかな」
「おるおる。兄(あん)ちゃんは16で妹は14。あの家に住むもんはうちが面倒見ることになっておるで、お前仲良くしたれや」
「うん、そうする」
少女は無邪気に笑った。


父親の不倫事件に、母は凶暴に毒づいていたけれど。
息子にとってはなんのかかわりもないことだった。
シンヤはそう思って、苛められっこで過ごした都会の学校に、せいせいとした気分で別れを告げる。
横暴だった父親は表ざたになった醜聞のあと地方転勤の宣告を受けて、すっかりしょげ返ってしまったらしい。
クビにならないよう、これでも配慮したつもりだよ・・・まえの上司にはそんなふうに引導を渡されたのだと、得々と語る母親から聞かされても、やはりシンヤは無感動だった。
「こんな片田舎・・・」
夫だけではなく赴任地にまで怒りをぶつけていた母親が、最近は妙に大人しい。
妹ばかりをえこひいきして、しきりにあちこちの家にお招ばれするときに着飾らせるところは、相変わらず驕慢を絵に描いたようなあのひとらしかったけど。
そもそも「片田舎」の奥様方と付き合い始めたこと自体が、ちょっと胡散臭かった。
きょうもふたりは、家をあけている。
つかの間の平和を、シンヤは全身で感じていた。
いまだけだ。いまだけなんだ・・・
彼が身にまとっているのは、妹が都会の中学に履いていっていたハイソックス。
学校の頭文字をあしらったハイソックスは、いまは通学用にも使えなくて、ふだん履きに格下げになっていた。
それをいいことに時おり妹の箪笥の抽斗から持ち出しては、脚に通して愉しんでいる。
男にしては華奢な脚には、ぐーんと伸びるハイソックスが、ひどく似合って映る。
女装趣味を不当なほど嫌悪する母親の目を盗んでの愉しみだった。
その密かな願望を、どこでどうやって嗅ぎ付けたのだろう?
部活の先輩であるその少女は、日焼けした健康そうな頬をツヤツヤと輝かせながら、彼に向かって囁いたのだ。
「あたしので良かったら、こんど貸してあげようか?紺色のやつがいいんだよね?それとも真っ白なのも好き・・・?」
そのときの前歯の白さを、なぜだか忘れられない。
少女の大人びた頬の輝きに魅せられたように、シンヤは黙って頷き、少女もまた、結ばれた黙契に応えるように、黙って頷きかえしてきた・・・


あとがき
珍しく、一時間半近くかかったな。。。
まあ、長いですからねえ。^^;

マネージャーの責任感

2013年10月21日(Mon) 20:53:45

「アッ!ちょっと!やめてくださいッ!」
23歳のOL中延安奈は、背後から抱きついてきた戸村を突き飛ばそうとしたが、
首すじに這わされた唇を取り除けあぐねて、「あうううっ・・・」とうめき声をあげた。
ちゅう・・・っ
血を吸い上げる音が、オフィスの廊下に忍びやかに洩れるが、だれもが見て見ないふりをしている。
おひざを突いてしまったら、穿いているストッキングをびりびりと破いてしまってもいい。
数は少ないながらも吸血鬼を社員に含むこのオフィスでは、そういう暗黙のルールになっていた。
そしてまさに、戸村にしてみれば、安奈の足許をぎらつかせている光沢たっぷりのストッキングが、お目当てだったのである。

バシッ!!

思わぬ方向からの平手打ちに、目がくらんだ。
頬を抑えて振り向いた目線の先に、橋詰雅子の怒色あらわな視線が、もろにぶつかってきた。
「若い子をそうやって襲うのは、やめなさい!」
雅子は戸村の、直接の上司に当たる。
三十過ぎの未婚。いわゆる、「お局さま」になりかけのベテランだ。
「だって・・・」
雅子の血を吸おうとおずおずと申し出て、手きびしく撥ねつけられたことがあった。
そのことを口にしようとしたら、相手もそれは通じたらしい。
「ああ、そうだったわね。でもあたし、侮辱されるのは許せないから」
「死ねっていうんですか・・・」
「そうはいわないけど」
ちょっと口ごもったのは、雅子の生まじめさゆえだろう。
相手がだれであれ、反駁は理路整然としていないと気が済まないたちらしい。
吸血鬼社員たちによる真っ昼間からの不埒なやり口を真っ向から否定する雅子だったが、
さすがに生存権まで冒すようなことまで口にするつもりはないらしい。
「侮辱しなければ・・・いいんじゃない?」
それが難しいんだから・・・
言いかけた言葉を呑み込んだ戸村は、不承不承にその場を立ち去るしかなかった。

喉が渇いた。
喉が渇いた。
きょうじゅうに、なんとかしなければ・・・

来る日も来る日も、だれからも拒絶されるようになったのは。
周囲の女性社員がことごとく雅子の部下で、雅子が戸村をどうあしらったのかはその日のうちに彼女たちの間に広まってしまっていた。
だれもが、戸村の求めをあからさまに拒むようになっていた。

木曜日。
週末までだれの血も吸うことができなければ、いよいよ灰だ。
けれども、女性社員から吸血してもいいことになっている反面、たとえば見ず知らずの通りがかりの人間を襲うことは、社則上禁止されているのだった。
こうなったのも、すべては橋詰マネージャーのせいなのだ。
責任とってもらいますよ。マネージャー・・・
廊下に響くハイヒールの足音の背後を、戸村はぴったり寄り添うように尾(つ)けていった。

「あっ!ちょっと!何するのよッ!?」
果たして雅子は激しく抵抗して、戸村を振り切ろうとした。
ここで振り切られては、あとがない。
なん日も生き血にありついていない戸村の体力は、ほぼ限界に達していたが、それでもしょせんは女と男。
食いついたうなじは、小気味よい咬みごたえがした。

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
ざまあ見ろ。この腕を振りほどけるものなら、やってみろ。もうできないだろう・・・?
力ずくで抱きすくめた身体が、しだいしだいに力を失ってゆく。
それにつれて戸村の猿臂はますます力を得て、意外に小柄な女の身体を、ギュウッと抱きすくめていった。
おひざを突いたら、きみの負け。その肌色のストッキング、びりびりにしてやるからな。
「侮辱だけは・・・厭・・・っ」
いよいよおひざを突いてしまうと、廊下の床に伸べられたふくらはぎに、戸村は嬉しげに唇を吸いつけていた。
「恥知らずッ!」
なんと罵られようが構わない。あんたの息のかかった女どもの身代わりを、きょうこそ引き受けてもらうんだからな。
舌をふるいつけた薄手のナイロン生地が、かすかに皺を波打たせる。
しなやかな舐め心地が、男の舌をよぎった。

「ちょっと待って・・・ひとこと言わせて・・・」
なにを?と思い、ふと唇を放すと。
雅子はぜいぜいと息を喘がせていて、いまの制止のひと声が精いっぱいだったことを、自分の態度で白状している。
「あしたの会議・・・」
「会議って。マネージャー明日有給じゃないですか!」
思わず仕事モードの口調になっている。
「そんなのキャンセルよ。どうしても出てくれって言われて・・・」
上役たちは、自分の都合で、平気で残業を強いたりひとから休みを取り上げたりする。
吸血鬼とどっちが悪い?
思わず自問したことさえ、しばしばだった。

したたかに血を吸い取られた雅子の顔は、蒼い。
あしたの会議に出るということは、きょうだって結局、大残業するつもりだったのだろう。
戸村はもう一度、雅子の首すじに唇を這わせた。
「くう・・・っ!」
後輩社員のしつような吸血を予想して、雅子は悔しげに眉を吊り上げたが、なにかがちがった。
彼女の頬は血色を取り戻し、喪われかけた気力がふたたびみなぎりはじめる。
「どういうことなの?」
戸村は答えない。
「血を戻してくれたの?」
和らいだ口調に、かろうじて応えることができた。
「侮辱するつもりなんか・・・ないですから。だれに対しても」
「そう」
雅子はいつものようにそっけなく、後輩の声色を受け流す。
「デスクに戻るから」
朱の唇から整然と流れる表情のない声色が、戸村の耳に無機質に響いた。

会議の結果は、好調だったらしい。
雅子は上機嫌な顔つきで、子分の女子社員連中に缶コーヒーを配り歩いている。
「あっ、ありがとうございます!」
こないだ襲いそこねた安奈も、嬉しげな声をあげた。
だれもが雅子がきょう有給だったことを、思い出すものはいない。
「はい、あんたにも」
雅子は戸村に缶コーヒーを渡しかけて、「やっぱりやめた」と、缶を引っ込めた。
「こっちいらっしゃい」

オフィスの反対側の打ち合わせスペースで雅子と差向いになるときは、決まってお小言を頂戴するときだった。
「何かやりました・・・?」
あれ以来ほとんど言葉を交わしていない雅子に、これ以上落ち度をできようはずがない。
どこまで不当に叱られるのか?
戸村は蒼い顔にうんざりした感情を露骨によぎらせる。
「侮辱しないって言ったわよね?」
「・・・・・・いつも感謝しか、感じないですけど」
「伝わっていないわよ。そんなこと言ったって」
「そうですか・・・」
「伝わるように、やってみたら・・・?」
「え・・・?」
「練習相手になってあげる」
さりげなく差し伸べられた雅子の脚は、プレーンな色を好む彼女にしては珍しく黒のダイヤ柄のストッキングに包まれていた。
「こういうの、嫌い?」
礼なんか言うつもりないから。あんたみたいなのに借りを作ったら、あとで返すのがめんどうなだけだから・・・
口ごもりながらの言い訳。しかし、いかにも雅子らしい言い訳だった。

「侮辱だ。ぜったい、侮辱しているようにしか思えない」
「そんなこと・・・ないですって・・・」
しがみつくようにして抱きすくめた腕のなか、雅子はけんめいにいやいやをくり返す。
「伝わってこない。感謝の念なんか、ほんとはないんでしょう?」
詰問口調はしかし、いつものそれよりは柔らかだった。
「そんなこと、ありませんって・・・」
戸村の抗弁もまた、いつものような妍は感じられない。
慕い寄せる唇は素肌のうえを甘く這いずって、ちくりと突き刺す牙も、痛みを伝えまいという配慮に満ちていた。
雅子は「厭、厭・・・」と呻きながら足摺りをくり返し、そのたびに破れ落ちたストッキングが、ひらひらと虚空に揺れた。

「ローテーション作ったから。交代で相手させるから」
ぶっきら棒な口調が、戸村を許すと語っていた。
「その代わり・・・あたしに当たったときには、お小言覚悟しなさいよ」
雅子のデスクで盗み見た時間割。たしか週に3回は彼女自身の名前が書かれていたはず。
戸村は苦笑いをしながら、それでも「はい」と素直に応えて、何度目かの不埒な接吻を、彼女の首すじに加えていった。

夕暮れのカップル

2013年10月15日(Tue) 07:45:48

夕闇が迫ってくると、良太の本性があらわになる。
吸血鬼としての本能がしぜんと芽生えてきて、
自分という生き物が内面からそっくり入れ替わってしまうのを感じるのだ。

夜が更けてしまうと、若い人間の生き血を吸うことが難しくなる。
そんな時間に出歩いている男女は、たいがいろくでもないものだ。
そうした人種の血を喫(す)うと、時には身体をこわすことがある・・・
だから、この刻限がもっとも重要なときなのだ。

ふと目に留まったのは、夕暮れの街を歩くカップルの姿。
仲睦まじそうに寄り添うふたつの人影が彼の網膜を刺激したのは、彼女の足許。
デニムのショートパンツからにょっきりと伸びた発育のよい脚は、黒の薄々のストッキングになまめかしく染められている。
気の毒だが、俺の目に触れたのが運の尽きだ。

きゃあーっ!
悲鳴をあげる彼女のまえで、良太はまず男のほうの首すじにかぶりついていた。
不意打ちを食らった彼氏は、手足を羽交い締めにされて、身じろぎもできないままに、
目を白黒させながら、生き血を吸い取られていった。

ふー。
若い血は、やっぱり旨い・・・っ!
眩暈を起こしてその場に尻もちをついた彼氏を背に、良太は彼女のほうへと身体を向ける。

彼女は気丈にも、その場から逃げ出そうとはしなかった。
いい子だ。彼氏のこと見捨てないんだね。
おひざがガクガク震えていて、立っているのもままならないのを見透かしながら、
良太は軽く、彼女の臆病さにフォローを加えてやる。
すぐに楽にしてやるよ。目をつぶっていな。
掴まえた細い肩は、見てくれ以上に弱々しかった。
咥えたうなじの皮膚はひどくなめらかで、恐怖のあまり上ずった息遣いを伝えてきた。

やめろ!やめてくれえ・・・
弱々しい懇願が見あげてくるのをつとめて受け流しながら、良太は女のうなじを咬んだ。
ずぶ・・・
恋人の血に染まった牙が薄い皮膚を突き破って、なま温かい血液がドクドクと溢れてきた。

生き血と引き換えに体内にそそぎ込んだ毒液が、恋人たちの理性を狂わせはじめていた。
幸せな理性崩壊―――良太たちがそう呼んでいるたぐいのものだった。
人間の心の奥底に眠るマゾヒズムを、瞬時に目覚めさせる。
男は自分の女が吸血鬼に支配されるのを目の当たりにすることで、性的昂奮を掻きたてられて。
女は彼氏の目のまえで吸血鬼の意のままにされることに、見せつける快感に目覚めてしまう。

きょうの彼女は、しっかり者らしい。まだ理性が残っているほうだった。
涙ぐみながら懸命にいやいやをするのをなだめすかして、
路上に身を横たえて薄ぼんやりとなってしまった彼氏のまえ、
羞じらいながらすくめる太ももから、黒のタイツをびりびりと噛み破いてゆく。
小気味よく裂き散らしたタイツのすき間から、白い脛をいやというほど露出させてしまうまで。
薄手のナイロン生地のしなやかな舌触りをなんども愉しんだあげく、
彼氏の目のまえで、装いもろとも辱めを加えてゆく。
恋人たちにとってはおぞましいかぎりの、そして良太自身にとっては至福の刻だった。

お似合いだね、おふたりさん。
冷やかす彼に、
もうっ!
むくれて見せる彼女。
血の撥ねたTシャツ、悪くないかもよ。
まじめな口調の彼に、
ほんとう・・・?
ちょっぴり本気になる彼女。
なんでだろう?悔しいけれど、ゾクゾクするんだ。
口ごもる彼氏に、
じゃあ~、もっと見せつけてあげる。
陽気に笑う彼女。
お兄さん、彼女のタイツもっと破いてみてよ。
呼びかける彼氏に、
ま~ぞ♪♪
あくまで愉しげな彼女。

ちっともおかしくなんかないよ、全部おれのせいなんだから。
口ごもる吸血鬼に、
俺の彼女、奪(と)らないでくれよな。
せつじつな顔つきの彼氏は、ついでにつけ加えた。「守り切れなかったやつに、言う資格ないけど」
そんなことないよ。
良太は男を慰めていた。「相手がすこし悪すぎただけさ」
さっきから彼女の素肌を舐めくりまわして・・・正直妬ける・・・
俯く彼氏に、
好きになっちゃったわけじゃない。おれの目当ては彼女の生き血だから。
会話の成り立つ相手に対して、ほんのすこしだけ、嘘をついてやる。
タイツもでしょう?
すかさず彼女が、図星を突いてきた。

時どき逢ってくれると約束したら、無事に家に帰してやるよ。
ああ、よろこんで・・・彼女さえよかったら。
あたしはいいわよ。マゾな彼氏もいっしょでよければ。
見せつけて愉しむの?
そう、見せつけちゃうの。嬉しいでしょ~?
なんとでも言ってくれ~。
自暴自棄になった彼氏に、彼女は容赦なく、追い打ちをかける。
帰りにタイツの穿き替え買ってよね。弁償だよ~。
彼女がタイツをねだった相手は、あくまで彼氏のほうだった。
その代わり、あなたの気に入ったやつ穿いてあげる。
・・・こんどこのひとに逢うときに、見せつける用に。

あはははは・・・
星が瞬きはじめた夜空に、女の笑いはどこまでも虚ろに響いていく・・・


あとがき
こないだたまたま路上で見かけたカップルの姿から、こんなお話が浮かびました。
どこのだれとも知れない、あのお二人さん。
まさかこんな話の主人公にされてるなんて、夢にも知らないだろうなあ。
(^^ゞ

お見合い後の”儀礼”

2013年10月07日(Mon) 07:38:51

1.
わたし、処女なんです。

お見合いの席で二人きりになると、奈津枝さんは唐突に切り出した。

はぁ・・・

なんとも、間の抜けた返事になってしまった。
けれどもわたしの声色にかすかな昂ぶりが秘められているのを彼女は聞き逃さなかったし、
わたしのほうでも彼女が聞き逃さなかった気振りを見せたのを、見逃さなかった。
それくらいに、「処女」ということにある種の反応をしてしまうのは、いまどき古いとわかっていても。
彼女のほうでもまた、「処女」ということにきっと、こわだりを持っていてくれたのだろう。
ところが、つぎに彼女が口にした話は、わたしの理解を越えていた。

でもわたし、処女のままお嫁に行くわけには、いかないんです。

え・・・っ?

こんどははっきりと、わたしは不審と驚きの色をあらわにした。
もう、見逃してもらう必要など、なさそうだった。
彼女はわたしのなかのなにかを見定めて、勝負をかけようとしてきている―――
そんなこと、いままで生きてきた三十年近い人生の中で、まったく初めてのことだった。



わたくしの田舎では、村を出て嫁いでいく娘は、処女のまま嫁ぐことはできないことになっているんです。
もしわたくしが貴男と結婚するとしたら、そのまえに村のだれかに処女を捧げなければならないのです。
すでに、相手も決まっています―――伯父です。

さっきまでここに座っていたひとのこと・・・?

わたしが指さした椅子に座っていた初老の男は、いかにも田舎じみた素朴さを、あっけらかんと滲ませていた。

はい。

うつむいた横顔が、含羞に赤らんでいる。
これ以上いったい、どういう会話を交わせと言うのだろう・・・?


2.
祝言は、11月と決められていた。
あれから話は、とんとん拍子に進んでいったのだ。
わたしたち二人は、あたかも運命づけられたかのように話が弾み、好みも合い、生き方も似ているようだった。
お見合いをしたあのホテルで二人きりで会った時。
奈津枝さんがひっそりと、囁きかけてきた。

あなた、御覧になる・・・?

え?なにを・・・?

わたくしが・・・初めて抱かれるところ。

えっ。

度肝を抜かれたわたしは身体を硬くして、しかし不覚にも、股間の一物まで、硬くしてしまっていた。
どうしてこんなときに、勃つのだろう?
われながら不思議だったけれど、はっきりしているのは―――彼女にそれを、見透かされてしまった・・・ということだった。

御覧になっていただきたいの。せめて・・・

奈津枝さんはそれ以上口にせず、頬を赤らめたあのときとそのままに、含羞を漂わせた。
初めての痛みを覚えるとき、彼女の細い眉はどんなふうにひそめられるのだろう?
このノーブルに整った目鼻だちを、どんなふうにしかめるのだろう?
あらぬ想像がむらむらと沸き起こって、わたしは不覚にもまた、股間を逆立ててしまっていた。



3.
招き入れられたのは、彼女の伯父の家だった。
古びた日本間には、黴臭さに似た古木の香りが充ちていた。
伯父の妻は、もう50は越しているはずなのに、美しいひとだった。
けなげにも身代わりを申し出てくれたのだが、わたしは遠慮をしていた。
都会人としての常識がそうさせたからではない。
彼女が破瓜を遂げるその瞬間を、目にしたかったから。
その彼女はいま、わたしの傍らに、わたしの婚約者として、真っ白なスーツ姿で、楚々とした羞じらいを漂わせてうつむいている。

ささ、こっち来なされ。

伯父が奈津枝さんの手を引いた。
ほっそりとした、白い手だった。
わたしは思い切って、畳に額をこすりつけていた。

どうぞ・・・うちの奈津枝をよろしくお願いします。

奈津枝さんは、びっくりしたようだった。
けれどもわたしの反応は、彼女を不審がらせるよりはむしろ、安堵に導いたようだった。
彼女はおっとりとほほ笑んで、わたしに会釈を返してくる。
伯父は彼女の手を握り締めたまま、

あ・・・いや・・・

と、こっけいなほどうろたえて、けれどもすぐにちゃっかりと、なん度もぺこぺことお辞儀を返してきた。

まったく、うちの人ったら。

改まった着物姿の伯父の妻も、口に手を当てて笑みをこぼした。
来月わたしの花嫁になる女(ひと)は、挙式当日のように緊張した面持ちをして。
口許をきりりと引き締め、眉をあげて。
純白のストッキングのつま先を、次の間にすべらせてゆく―――



4.
熱っぽい交歓が、まだ網膜のすみずみにまで、灼きつけられている。
白のスーツを着くずれさせた奈津枝さんは、振り乱した豊かな黒髪を乳房に絡みつけながら、犯されていった。
その瞬間、伯父の唇にみずからの首すじを愉しまれながら、不精ひげの頬に圧しつぶされそうになった口許を、ハッと開いて。
「ああああ・・・ッ。トシキさん。ごめんなさい・・・っ」
わたしの名前を呼んだのだった。
かりに二人きりの秘め事になったとしても、その瞬間花婿になる人の名前を呼ぶことになっていたという。
彼女はわたしのまなざしをありありと感じながら、それこそしんけんに、わたしの名前を口走っていた。

それからあとのことは・・・とても描けやしない。
いちど侵入を受け容れてしまった奈津枝さんは、しんそこ感じてしまったのだ。
何度も何度もせがんで、わたしの見ている目のまえで、
戸惑いながらもお尻を突き出し、ぶきっちょに腰を使い、
はぁはぁと迫った息遣いに肩をはずませながら、伯父の精液をたっぷりと、そそぎ込まれていったのだった。

ズボンが乾くまでの間、お相手しますからね。

伯父の妻は、落ち着いたものだった。
昂ぶりのあまり不覚にもズボンを汚してしまったのを見て取ると、わたしにズボンを脱ぐように促して、

しばらく、二人きりにしてあげましょうよ。

謎めいた笑みに、大人の媚態を滲ませていた。
手の甲に添えられた彼女の掌は、ひどく柔らかだった。



5.
里帰りのたびに・・・逢うんじゃないかな?

うっつらとした調子でわたしが呟いたのは、都会で行われた結婚披露宴の真っ最中だった。

もう、あなたったら。
両隣りにいる仲人であるわたしの上司に気取られないように、奈津枝はわたしを小突いていた。

そうね。里帰りのたびに・・・そうかもしれないな。
向こうで、機嫌よさそうにコップのビールを干した奈津枝の伯父に、わたしの母がお酌をしている。

あのふたり、お似合いじゃないかしら?伯父は気に入ったみたいよ。

奈津枝は怖ろしいことを、ひっそりと口にする。
そして、わたしの股間にさりげなく手を置いて、そこに昂ぶりがあるのを確かめると。

だいじょうぶ。お義父さまを通すって言っているから。

親父が納得するかな。

貴男だって、納得したじゃないの。

そうだね。じゃあ、さいしょの里帰りの時に、両親も連れて行こうか。

それがいいわ。正月早々、めでたい席になるわよ。

わたしはすぐ傍らにいる奈津枝の腰を引き寄せた。
純白のウェディングドレスの分厚い生地ごしに、豊かな太ももがありありと感じられる。
両脇の仲人はなにかを感じ取ったようだったが、
「お盛んだね」「視ないようにしてあげましょうよ」
そんな配慮が、感じられた。

お義母さまのあとは、上司夫人も捨てがたいかも。
おいおい、、あっはっは・・・
わたしはたまたまビールを注ぎに来た友人と声を合わせるふりをして、妻のアイディアに賛成しかかっている。

短文 夫婦緊縛

2013年10月05日(Sat) 04:44:29

ーその1-
奥さんを縛るとき。

旦那と二人して、鑑賞するとき。


ーその2-
旦那を縛るとき。

旦那のまえで、奥さんを頂戴するとき。



ーその3-
夫婦ともに縛るとき。

縄に魅せられた奥さんにせがまれて、二人の仲を見せつけるとき。



あとがき
まんま・・・ですねぇ。(^^;)