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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

おかえりなさい。

2013年12月27日(Fri) 07:56:48

この玄関のまえで自分の名前を告げるのは、なん年ぶりになるのだろう?
声に応じてすぐに玄関の扉は内側から開かれて―――姿を現した家のあるじは、見違えるほどの白髪頭になっていた。
「よぅ、ケンちゃん。よく来たな。あがれあがれ」
声の張りだけは、以前のままだったが。
苦み走っていたころの面影は、わずかに目鼻の造作に残っているだけで、もはや彼の人生は枯れようとしている。
こちらの顔色をみてすぐにそれと察したのか、けれども京太の声は柔らかな和みを変えなかった。
「ははは、トシ取っただろ?まあ、あがんなさい。オレの血じゃ、旨くないだろうけどな」
こちらに背を向けて居間へと誘う身のこなしには、案外な素早さがまだ残っていた。

「あらぁ~。お久しぶり」
妻の久枝は、自分の加齢のことなど、思いも及ばないらしい。
こちらもかつての切羽詰まった雰囲気は、微塵も残っていなかった。
あのころは・・・吸血鬼である愛人との密会に生命を賭けるほどの緊迫感を漂わせていた頬は、豊かで穏やかな色合いだけをたたえている。
「すっかりもう、ばーさんだろ?今さらひとの女房を食いものにはしないだろうな?」
おどけてみせる京太を、久枝が脇から小突いた。
かつての二人を知る記憶からは、こんなおどけ合うところなど、想像もつかなかった。

「京ちゃん、今年の夏くらいに病気したね」
噛み痕から洩れる血が止まったのを見届けて診立てを告げると、京太は感心したようにこちらを見返した。
「さすがによくわかるね。ああ、内蔵を悪くして入院してね」
「あとの養生が肝心だぜ。でもまだまだイケる」
「お。そうか!?」
成績の悪い生徒が見込みがあると告げられたときのように、京太は生き返ったような声をあげた。

だらりとした表情になって姿勢を崩した夫の傍らで、久枝はしきりと、黒く染めた髪の毛をいじりまわした。
毛先に撥ねた血のりが、気になるらしい。
まえもそんなだったな。初めて襲ったとき、この女は自分の失血よりも、亭主に対する後ろめたさよりも、新調したばかりのブラウスにつけられた紅いシミのほうを気にかけていた。
夫よりも八つ若い身体は、まだじゅうぶんに潤いを宿していて。
張りのある皮膚と豊かに熟れた血潮の芳香が、かつての陶酔をありありとよみがえらせてくれた。
「ふふふ。奥さんまだまだ若いね」
おどけた口調に本音を忍び込ませてやると、グイと身じろぎした女の身体が、色香をゆらりと漂わせた。
「アラ、そお?」
もっと・・・いいのよ・・・
耳もとに囁かれるひそひそ声は、夫の耳にも届いているはず。
京太はことさら、聞こえないふりをしていた。
ねずみ色のストッキングの上を這う唇に、ふくらはぎの筋肉がキュッとこわばった。
力のこもった足首をさらにギュウッと抑えつけながら。
女の足許を染めているなよなよとしたナイロン生地を、舌をふるっていたぶりつづけるうちに。
ああ・・・
女はため息を漏らして、失血をこらえかねたように姿勢を崩した。

ふたたび這わせた首すじから、チュチュチュッ・・・と音を立てて血潮を啜り取ると。
「いいのよ。好きにして」
女はいつの間にか、ショーツを脱ぎ捨てていた。
導き入れられた掌に、繁みの感触がちくちくとした。
「亭主の前でか?」
「いいじゃないの。いまさら」
女の声はまちがいなく、夫の耳に届いているはずだったが。
京太は知らん顔をして、耳かきをつかっている。
じゃあ、すこしだけお邪魔しようか・・・
夫婦の血を吸って逆立ってきた逸物が、にわかに鎌首をもたげ始めていた。

ずぶ・・・
入り口にあてがっただけで。
女はかすかに、身をのけ反らせた。
感度は昔のままらしい。
火柱のように熱した鎌首は、もはやこらえ切れなくなっている。
そのままずぶずぶと、股間の迷宮の奥底へと、突き進んでいった。
太ももを抱いたとき、白濁した粘液がじゅうたんに散っているのが目に入った。
じゅうたんには脱ぎ捨てられたねずみ色のストッキングが、ふやけたままとぐろを巻いていた。

目のまえで女の髪が、ユサユサと揺れている。
あのころはもっと長い髪をしていたが、色つやが昔のままに見えるのは、ありのままなのか、巧みに染められているにすぎないのか。
そんなことはどうでもいい。
目がかすむほどの色情に身を浸しながら、滾る劣情のほとびを、ひたすら女のなかに吐き出しつづけていた。

痛っ!
京太が突然、うめいた。
耳かきを使い損ねたらしい。
「あらあら」「おいおい」
ふたりはあわてて起きあがり、女は夫の脇に寄り添った。
二度三度まぐわいを重ねた男女は、まださめやらぬ熱情を振り払いかねていたし、
夫は夫で気まずそうに小さくなっている。
「大丈夫だよ。擦っただけ」
夫の耳の穴を覗き込んだ女は、古女房の顔に戻って、傷口に軟膏を塗った。

「小父さん!?」
頓狂な声が、リビングの入り口に響いた。
長男の勇作だった。
あのころはまだ、高校生だったが、すっかり大人になっていた。むしろあのころの彼の父親に、本人以上に似ているかもしれない。
「おぉい、美智子・・・」
勇作が呼んだのは、聞き慣れない名前だった。
「長男の嫁ですよ」
京太はちょっとだけ、他人行儀な言葉遣いをした。
「よく言い聞かせてあるから」
勇作はすぐに、幼馴染の声に戻っていた。

「いいのか・・・ね?」
こちらがためらいを覚えるほどの、急な展開だった。
勇作夫婦の部屋は、二階。
その部屋のなかの、夫婦のベッドのうえ。
美智子という名の勇作の嫁は、神妙な顔をしてあお向けに横たわっていた。
わざわざ着替えてくれたのは、黒地にピンクの花柄のワンピース。
俺の好みをそこまで憶えてくれたのか?と思うほどに色鮮やかな、黒のパンティストッキング。
「うちの嫁の務めだって、言い聞かせてありますから」
勇作はさっき噛まれたばかりの首すじを満足そうにさすりながら、若い妻に言った。
「そんなに痛くないから」
以前のようにすんなりと差し伸べられた首すじに咬みついた瞬間、久しぶりに加えられる衝撃に、男はちょっとだけ身をこわばらせたが、ことさらになんでもなさそうな態度をとりつづけていた。
じゃあ・・・遠慮なく・・・
嫁の緊張を早く解いてやろうという親心と、それ以上にこみ上げてくる若妻への好奇心とが、手足の動きを獣じみたものにした。

ァ・・・・・・!
女はその瞬間、かすかな悲鳴を口にしたが。
開きかけた唇は夫の手に覆われて、初めて体感する吸血に、身体を微かに波打たせつづけていた。
うら若い血潮がほんのりと、干からびかけていた血管を潤してゆく。
老夫婦の生き血とも、幼いころから親しんだ壮年の男の血とも異質ななまめかしさを帯びた血潮が、喉を伝って胃の腑に流れ落ちた。
「いかが、お味は?」
勇作の問いに、「けっこうだ」と手短に応えると。
「二人きりにしてもらえるかな」
いつもの怜悧な声色に、戻っていた。
いちど部屋の外に連れ出して、「いいのか?」と訊いたときとは、別人になっていた。
人妻は必ず犯すことにしていたから。
「ああ、ごゆっくり」
勇作はかるがるとそう応えて、若夫婦は一瞬だけ目線を交し合う。
微かに頷く夫に、微かに頷き返す妻。この夫婦には、それ以上の言葉は無用らしい。
心が通じ合っているのを見届けると、勇作の影が部屋から消えたのを見計らって、女のワンピースの裾を、ゆっくりとたくし上げていった。

若い女はさすがに、タフだった。
さいしょの挿入までは、まるで初夜の花嫁のようだった。
ほとんど身じろぎもせず、ひたすら歯をくいしばって耐えていた。
ところがいったん犯した逸物を引き抜くと、女のほうから「もう少しだけ」と、せがんできた。
もとより、否やはなかった。
それからなん度、夫婦のベッドをきしませたのだろう。
廊下から中の様子を窺っている夫の気配をありありと感じながら、勇作がいつもこの嫁の身体のうえで行なっているだろう所作を、そっくりそのまま、というよりも、夫以上にねちっこく、果たしていく。
ベッドを離れた時、若妻はすっかり主婦の口調に戻っていた。
「シーツ、洗濯しなきゃ」

階下におりると、次男坊の健介が、やはり見知らぬ若い女を連れてきていた。
こちらと目が合うと、健介は以前のように人懐こい笑みを返してきて。
「父さん、部屋借りるよ」
そういって、婚約者を促して席を起った。
「このひと、永村美奈子さん。春に結婚するんです」
美奈子と呼ばれた女性は、まだ幼な顔ののこる紅顔をいっそう赤らめながら、丁寧な会釈を送ってくる。
「言い含めてあるのか?」
美奈子のまえでわざと、健介に訊いた。
「義姉さんももう、お相伴にあずかったんだよね?」
「こちらはまだ、処女だろう?」
「あたりまえじゃん」
「じゃ、血を吸うだけだな」
初々しい所作とは別に、女はよほど肝が据わっているのか、こんな露骨な会話にも眉ひとつ顰めずに、無言であとにつき従ってくる。
両親の寝室の前まで来ると、健介は初めて、俺のことを未来の花嫁に紹介した。
「このひと、いつも話してる仲良しの小父さん。つきあい方は・・・わかっているよね?」

「ふつつかですが」
女は軽く頭を下げて、ためらいもなくベッドに身を横たえた。
健介はとうに、気を利かせて座をはずしている。
伸べられた足許を包む肌色のストッキングの光沢が、なんともなまめかしい。
かつて健介のお袋の足許から、この手のストッキングを何度も咬み剥いだのを、憶えていたんだな。
あのころまだ、健介は中学か、小学校の高学年だったはず。
俺は躊躇なく、女の足許ににじり寄って、薄手のナイロン生地越しに、唇をねっちりと、這わせていった。

生ぬるい唾液がしみ込んでくる気配に、女ははっとして、とっさに脚を引こうとした。
俺はその脚を、大根でも引っこ抜くみたいにむぞうさにグイと引いて、濃くなった唾液をいっそう念入りに、女の足許になすりつけた。
あしもとをくまなく唾液で汚してしまうと、ぱりぱりと音を立てて、ストッキングを噛み破ってゆく。
あ・・・
初対面の男の無作法なやり口を非難するように、女は眉をしかめ声をあげたが、俺は無視をして、ストッキングをみるかげもなく咬み剥いでしまった。
すまないね。
手短かに告げると、俺は女にのしかかって、首すじの一角に牙を埋めにかかった。
とっさに俺の肩を摑んだ掌に、力が込められて、わが身から引き離そうとした。
この女、処女のくせに・・・嗜虐心をあおるのが上手らしい。
俺は首すじにガッと食いつくと、
じゅるう~っ。
ひときわ露骨な音をたてて、女の生き血を喰らいはじめた。
あ、あ、あ・・・
女はぼう然となって。
俺は陶然となって。
ひたすら抱き合い、身体をさすり合いながら、夢幻の境地に堕ちていく。
祝言のまえの晩に、奪ってやる。
俺の囁きに女はかすかに、けれどもしっかりと、頷き返していた。

おかえりなさい。よく戻って来たね。

夜の宴席には、見慣れた四人の、少しずつ刻を重ねた顔。
そして新たに加わった若い女が、二人。
そのだれもが、歓迎の色を浮かべてくれている。
最愛の妻を犯しに来た男のことを、長年の朋友のように迎え入れてくれる夫たち。
夫に命じられるまま、唯々諾々と俺に共有されていきながら、じつはひそかな愉しみを見出している、したたかでしなやかな女たち。
ああ、俺はこの街に戻ってきた。
この家庭に、戻ってきた。



2013.12.27 7:18脱稿

悪友の恋人

2013年12月26日(Thu) 07:31:59

勝田は俺の同期だった。
どことなく冷やかな雰囲気を持っていて、人とは一線を画すタイプだったが、
それでいて人当たりは悪くなく、周囲にも気を遣うほうだったので、
敵にまわる者は少なかったし、目だたないながらも仕事はできるほうだった。
四十を過ぎて、いまだ独身。
その理由を社内で知っているのは、たぶん俺だけだろう―――
ヤツは吸血鬼だった。

ヤツに言わせると、吸血鬼には先天的なやつと後天的なやつがいるそうだが、
勝田の場合は後者だった。
子どもの頃、未亡人だった母親ともども血を吸われ、半吸血鬼になったのだという。
半吸血鬼。
それは、ふだんは人間として暮らしながら、時おりこみあげる吸血衝動だけは自力で何とかしなければならないという、彼によれば「けっこう難しい立場」だという。

どういうわけか俺にだけは、つぎに襲う相手や、いま定期的に血を提供してくれているもののことをヤツは教えてくれていた。
「きみとかち合わないようにするためさ」
ヤツはイタズラっぽく笑いながら、そういった。
俺がおなじ社内の順子と付き合っていることを素直に告白したのは、単に仲が良かったからというだけではなく、そういう理由もあったからだ。
「かち合ってくれるなよ」
俺がまじにそういうと、ヤツは笑いながら、「もちろんだ」と応えてくれた。
以来十数年―――
いちど寿退社をした順子は、いまは俺の口利きで、おなじ会社の別部署で、パートとして働いている。

ヤツが襲う相手は、たいがい独身女だった。
「やっぱり処女の血がいいのか?」
と訊く俺に、
「そういうわけでもないけどね」
ヤツの応えはいつも簡潔で、語調さえも内容と同じくらいサッパリとしている。
「人妻の場合は、亭主に知られないようにヤらないとならないからな」
処女の場合はみだりに犯さない、という彼は、逆に相手の女がセックス経験者の場合には、ちゅうちょなく犯すのだという。
「黙らるため?」
俺が訊くと、ヤツは言ったものだった。
「女とひとつベッドになったら、むしろそのほうがふつうなんじゃないかな」

どうしても相手が見つからないときには、俺のところに来た。
「ほかに頼みようがないから」
頭を掻き掻き頼み込みに来るヤツは、「もともとそんなにもてるわけじゃないからネ」と、つけ加える。
そんなことはあるものか。
気づかいのできる男は、必然的にもてるのだ。
ましてヤツの場合は、目だたないときている。
首すじだけではなく、女の穿いているストッキングやハイソックスを咬み破る趣味をもつこの男のために、
俺は仕方なく、所属しているクラブチーム指定のサッカーストッキングを一足、台無しにすることに同意する。
すね毛の生えた丸太ん棒のように太い脚に巻かれた、鮮やか過ぎる色のストッキングに、
ヤツはそれでも、欲情まじりのよだれをしみ込ませてきた。
「よっぽど好きなんだな」
あきれる俺に、
「そこだけは触れないで」
ヤツにしては珍しく、決まり悪げに口ごもっていた。
以来俺はヤツのために、新品のストッキングを一足よけいに、用意しておくことにしていた。

ヤツが襲う相手のことを俺に告げるときは、必ず写真をもってきて。
「今回の狙いは、この子」
って、その写真を差し出すのだった。
備忘用に取っておけ、というわけだ。
社内で浮いた噂の絶えない俺は、しばしばヤツとかち合った。
本命じゃないので、お互い気軽に考えることができた。
俺が過去につき合った女に、ヤツが手を出したこともあれば、
ヤツが昔血を吸っていた女が、俺といっしょにホテルに行くこともあった。
そんな場合も―――女を相手にヤツのことを話題にすることは、もちろんない。
ベッドのうえで秘密を共有する相手よりも、ヤツとの友情のほうが優先したからだ。
そういうわけで、俺は社内の女たちの裏事情をよく知っていたし、
ヤツのほうでも、狙いをつけるまえに、そうした情報を知りたがっていた。

「こんど狙いをつけたのは、この人」
「ああそう」
「知っているんだろ?」
「知らないわけでもないね」
「意地悪言わんと、教えてくれよ」
「しょうがねぇなあ・・・」
2人の会話はいつもこんなふうにして、始まるのだ。


「こんど狙いをつけたのは、この人」
いつものようにヤツが写真を一枚携えてきたとき、
俺はヤツの態度がいつになく神妙だなとおもった。
そのときにはあまり、ヤツの態度には気を留めないで、何気なくヤツの差し出す写真を見て、
さすがに驚かないわけにはいかなかった。
写真のモデルは、ほかならぬ妻の順子だったのだから。

「これがだれだかは、むろん知っているよね?」
「もちろんだ」
いつもらしく、もっといけしゃあしゃあと言ってみろよ。
思わず心の中で、罵っていた。
俺は狼狽とも怒りともつかない感情を、ちょっとのあいだどうすることもできなかった。
「亭主のまえに女房の写真を持ってきて、この女の血を吸いたいなんて、いつもそんなふうにしているの?」
思わず声色が、尖っていた。
「だからといって、隠しておくわけには、もっといかんだろう」
いかにも仕方がない、というヤツの顔つきに、ちょっとだけいつもの気分が戻ってきた。
「どうして順子なんだ?」
ヤツの応えは、虚を突かれるほどストレートだった。
・・・・・・惚れちまった。

順子の職場は俺の事務所からそれほど遠くない出張所で、
たまに姿を現すのは書類の束を持ち届けするときくらいだった。
家では服を構わない順子は、久しぶりに着るOLの制服に「若返ったみたい」とウキウキしていたが、
それは別な効果も持ってしまったらしい。
「昔の順子に惚れなかったのはどうしてだい?」
「初めて顔を見たときにはもう、あんたの彼女だったからな」
「いまではもっと、順子のことを知っているだろう」
「もちろんだ」
ヤツは下手をすると、夫婦のセックスの回数まで知っている。
うかうかと家にあげてしまっているけれど、
いちど招かれたことのある家には、いつ何時でも、ヤツは入り込むことができるから。
「ケツの毛の本数まで勘定できる女に、いまさら惚れるわけ?」
あきれた声をした俺に、ヤツは言いにくそうに応える。
「きみの奥さんだから、惚れたのかもしれない」

友だちの少なかった子どもの頃、仲良しの小父さんがいて、
母親の血を吸いたがる小父さんのために、家に入る手引きをしたことがあるという。
小父さんの腕の中でうっとりとなる母親を覗き見する日常から、どういうわけか離れがたくなって。
差し伸べられた首すじを撫でまわる唇を、ヤツ自身もうっとりと眺めつづけたという。
「お袋の血を美味いと言われるのが、どういうわけか誇らしくってね。
 おれはいつの間にか、お袋のことを小父さんと共有する歓びに目覚めていた」
男どうしがもっとも仲良くなるには、最愛の女性を共有することだ―――ヤツの言いぐさはひどく風変りだったが、俺はなんとなく腑に落ちたような気がして、頷いていた。
「子供たちにだけは、絶対ばれないようにやるなら、赦してやる」
ことさらムッとした感情を目線に込めてそういうと、
「もちろんだ」
いつものそっけない声色が、返ってきた。
狙いをつけた女のことを口にする吸血鬼の、怜悧な瞳がそこにあった。

きょう、順子さんに声をかけた。さいしょだったから、「久しぶり」って声をかけただけ。
きょう、順子さんをお昼に誘った。ついてきてくれたのは、単に俺がおごるって言ったから。 笑
きょう、順子さんを晩御飯に誘って断られた。下の息子さんの塾の迎えがあるんだってね。
きょう、順子さんの帰り道に出くわしたら、怯えた顔をしていた。ヘンな男にあとを尾(つ)けられたって。俺じゃないよ。 笑
きょう、順子さんを家の近くまで送っていった。無料のボディーガードなんだそうだ。

久しぶりに勝田さんにお目にかかったわ。
妻はさいしょの段階で、俺にそういったけれど。
俺がそんなに話題に乗らないとみると、惜しげもなく話を切り上げていた。
以降、ヘンな男に尾けられた話を含めて、妻は俺にはなんにも言わない。
言う必要のないレベルだからなのだろう。

きょう、順子さんとお昼休みに話し込んだ。彼女の事務所の食堂で。15分くらいだったかな。昔話ばかりだった。
きょう、順子さんは黒のストッキングを穿いていた。珍しいね、といったら、法事と掛持ちだと言っていた。忙しいんだね。

いつまでこんなのが、延々と続くのだろう。ヤツが妻の写真を持ってきてから、すでに半月が経っていた。
ヤツのふだんのペースなら、とっくにモノにして、スカートの奥を精液まみれにしているはずだ。
早いとこ、けりをつけちゃってくれよ。これじゃあ蛇の生殺しだ。
そんな気さえ、してくるのだった。
やつの訪問はいつも一過性だった。
亭主にばれそうになったりとか、女の体調が落ちてきたりとか、女が本気になりかけてきたとか、
いろんな理由から、三月も持てばじゅうぶん、長いほうだった。
それでもヤツのたよりは、延々と続いていった。
ある日携帯メールを開けてみて、俺は「おッ!」と声をあげていた。

きょう、順子さんを晩御飯に誘った。「あしたなら」って言ってくれた。一歩前進!

「どうしたのー?なあんだ携帯メール。。。」
ソファの背中から聞こえてくる妻の声にわれに返って、悪りぃ悪りぃと応えたけれど。
あしたの晩の会食なんて、俺にはひと言も言ってない。
それはやましいところがあるから?それともたんに、言い忘れているだけ?
あしたの俺は、新装オープンの準備で泊まりの仕事が入っていた。
「あしたってさあ・・・なんか予定入ってる?」
さりげなく訊いたはずの声が、本人だけにわかるくらいに語尾を震わせた。
「ええー?あなたの夜勤のこと?」
ちぐはぐな答えは、俺にはなんのヒントも与えてくれなかった。

さっき、順子さんとさよならをした。ホントに食事をしただけだからね。

ヤツのメール、やけに正直すぎていた。
ばかげている。ヤツらしくない。
狙った女と夜二人きりになって、キスも交わさないなんて。
しかし・・・俺はいったい、なにを期待していたんだろう?
そう。長年の友情から、つかの間の浮気には目をつぶり、さっさと終わらせてしまうため・・・

ほんとになんにもしなかったのか?

われながら、ずいぶんぶきっちょな返事だと思ったけれど。
おうむ返しにまた、メールが届く。

もちろんだ。ホテルにも寄っていないし、キスさえも。そういえばお酒も、ビンビール一本だったな。

ふたりして、たった一本のビンビールを分け合ったのか。
どうにもしけたデートだな。
ヤツと順子とが、お互いなにも言い出せないで、決まり悪そうにもじもじし合っているのをありありと想像してしまって、俺は却って噴き出していた。

いつもみたいに血を吸っちゃえば、あとはなんでもありだったんじゃないの?
案外と、相手にこと欠かないいいご身分のようだね。^^

さいごに顔文字をつけたのは、文面だけだと尖った感じになって、ヤツが困るだろうと思ったから。
送信してみて、妙なことに気づいていた。
先週も先々週も。ヤツは俺のクラブチームの試合を、見に来ていた。
そのあときまって、チーム指定のストッキングを真新しいのに履き替えるのは、お互い無言の協定になっている。
飢えているとき以外、男の血なんて、目もくれない筈だった。
その夜、返事はとうとう来なかった。

順子の日常が徐々にではあるが、侵蝕されてきたのは、それからのことだった。

きょう、順子さんとまた、晩御飯をいただくよ。
お子さんは塾帰りに夜食を買って帰るんだって。だからその曜日だけは、なんとなかるって。

―――俺は火曜日と木曜日は、意図的に残業することにした。

きょう、順子さんを家に送る途中で、俺の正体知ってる?って訊いた。
お前、話してなかったんだな。
きょとんとしていたので、初めて俺の正体を告げた。(行動で)
首すじの咬み痕は気にするな・・・って言っても、気になるよな。
今晩の満月と、きみの好意に心から感謝。

―――心から感謝などされても、うれしくもなんともないメール。
けれども俺の指は、本人の感情とは裏腹にひとりでにうごいていた。

順子の血、不味かっただろ?

返事はばかに速く、そして手短かだった。

ばか言え!

なんて返事をかえせばいいんだ?俺の手がまだ携帯の画面のうえで止まっているうちに、ふたたび着信音が鳴った。

時どき吸うから。吸いつづけるから。

え?どうしたんだ、あいつ。俺が戸惑っていると、さらに矢継ぎ早にもう一通。

さっきはすまない。貧血にならないように気をつける。彼女も忙しいみたいだから・・・

こんどは俺が、返事をしない番だった。

晩御飯を食べた後、家の近くまで送ってもらって、近くの公園で首すじを咬まれ血を吸われる。

そんなデートをなん度も重ねながら、順子は俺にはそんなこと、おくびにも出さなかった。
主婦というのはこんなふうにして、亭主に浮気を隠すものなのか。
血を吸われているというだけで、まだ妻としての過ちを犯したわけではない。
けれどもヤツと順子にとって、その行為はセックスに匹敵するものなのだと
ヤツから聞いているいままでのいちぶしじゅうと、何事もなかったという態度をおしとおす順子の態度からそれを感じた。
水曜と金曜の朝ごはんの支度をしているときに。
顔色を悪くしていることが、めっきり増えた。
まだ小学生の息子はなにも感じないらしかったが、すでに中学にあがっている娘の視線は、なにを感じ取っているか、知れたものではないと思った。

子供たちには絶対、ばれるなよ。

こんどは俺の方から、メールをした。
少したって、返事がきた。

あしたの晩、順子さんを俺の部屋に連れ込む。
穿いているストッキングの色が黒だったら、OKだと思って って、言ってくれた。

「ああ・・・」
携帯と向い合せに思わずあげた吐息に、なにもしらない同僚が思わず、ふり返っていた。

「あしたは残業入って、遅くなるから」
「深夜のシフトが入ったの。帰りは送ってくれる人がいるから、心配しないで」
順子はいつも、そういって。
デートの夜はまえもって、俺に伝えてくれた。
子どもの手前も、あるからだろう。
しかし家に帰ったとき、じゅうぶん時間があったはずなのに、順子は明日の夜の残業について、俺になにも告げなかった。
あくる朝いっしょに出勤したとき、俺は思わず自分の女房の足許を盗み見た。
ストッキングの色は、肌色だった。
ほっとしたような、少し失望したような。
失望なんて。
どうして感じる必要があるのだろう?
ヤツのため?
そんな義理はないはずだった。
たまの浮気などさっさとすませて、日常に戻りたいから・・・のはずだった。

いま順子さんと、いつもの店で逢ってる。
彼女のストッキングは、黒。

ヤツと逢う直前に真新しいストッキングに穿き替えるのは、
クラブチームの試合後に、俺もヤツのためにしていることだった。

どうしてひと言、言ってくれなかったのだろう?今夜は残業だからって。
それがきっと、順子なりの女の決意というやつなのだと、自分で自分に納得させてみる。
そういえば家から着て出た私服は、去年の結婚記念日に買ったよそ行きのスーツだった。
―――今夜俺の女房は、俺の稼いだ金で買った勝負服を着て、亭主にいわずに男と逢っている。
なにかどす黒いもおのが、ずきり!と、俺の心の奥を刺した。
お母さん遅いねえという娘には、急な残業が入ったみたいだよって、とっさに応えてしまっていた。

至福の一夜に感謝。

たった一行のメールに、俺はいつまでも、ため息をこらえていた。
メールはすぐに、もう一通届いた。

子どもたちのお母さんを奪ったりしないよ。
でも気の済むまで、今夜は放したくない。

俺の指はひとりでに、携帯をまさぐっている。

おめでとう。帰りは明け方でもOK。


順子が帰ってきたのは、明け方近くだった。
ドアを開け閉めする物音と、低いエンジン音が遠ざかっていくのが、ほぼ同時だった。
「ごめんなさい」
順子は唇を噛んで、俺に頭を垂れる。
「帰りの遅いときには、連絡をくれよな」
俺はわざと、とんちんかんな答えを、用意しておいた。

だんなになぐられるなら、なぐられておけ。
だんながしらばくれてくれるなら、あんたもしらばくれてあげなきゃいけないな。

別れ際のキスのあと、そう囁いたのだと教えてくれたのは、ヤツのほうだった。
「そうねえ・・・ごめんなさい。急だったから」
下手な芝居を打つ順子に、「子供たちにはお母さん残業だからと言ってあるから」と告げた時点で、きっと自分の浮気を怒らないと認識したのだろう。
「シャワー浴びる」
言い捨てて浴室に向かう順子の足許は、黒のストッキングが脛が露出するほどに、擦り剥けていた。
裂けたストッキングが、俺の衝動に火をつけていた。
「その前に・・・お仕置きだ」
俺は順子に囁いて、妻を夫婦の寝室に引きずり込んでいた。
久しぶりに触れた股間は、まだ潤いを帯びていた。
衣裳の裏側に隠された事実に、俺はいっそう昂ぶりを深めながら、
ことの発覚を体で感じた順子を組み敷いたまま、なん度もなん度もイキつづけていた。

勝田さんに、ありがとう、って、伝えて下さる?
ヤツの名前が妻の口から出るのは、退職以来久しぶりに会ったという、あのとき以来のことのはず。
けれども俺はなにも訊きかえさずに、伝える、とだけ答えていた。

順子からあんたに、ありがとう、だってさ。
俺がぶっきら棒にそういうと。
ヤツは眩しげに眼を細めて俺の見あげて、

オレからも、ありがとな。

いつものサバサバとした口調だった。
周囲にだれもいないのを見計らうと、俺はヤツをからかいたくなってきた。
「順子の身体、よかっただろう?」
「なんだ、朝から女房自慢か?」
ヤツの口調はいつもと、まったくかわりがない。
ほかの女をモノにするときも、いつもこんなふうにさっぱりとした口調で語るのだ。
時にはもの足りなくなるくらい、淡々としていた。
太ももをしつこく触ると、感じるみたいだな、きみの奥さん。
「ストッキング穿いたままのほうが効果大きいみたいだから、こんど試してみるんだな。」
・・・・・・まるで夫婦の秘密を覗き込まれたような気がして、俺はひどくドキドキしてしまっていた。
「お前にしちゃ、ずいぶん手こずったじゃないか」
「きみの奥さんは、貞操堅固だからね。落とすのに苦労したよ」
ヤツははじめて、にんまりと笑った。
会心の笑みだった。
まるでサッカーの試合でゴールを決めた相手選手が、「苦労させやがる」と苦笑いするような笑みだった。
「してやったり・・・ってか?」
俺は自分の悔しさも忘れて、新しい女をモノにしたと言って照れるヤツをからかう時の、いつもの調子を取り戻していた。
「ふつうは、三月くらいだよな?」
そのあいだなら、ガマンして貸してやる・・・そういってやろうと思った時。
裏腹な返事が、かえってきた。
「末永く・・・よろしく頼む」
おいおい、最敬礼までしてくれるなよっ。
俺はばかみたいに、あわてていた。

きみの奥さんだから、惚れたんだと思う。

ヤツの言いぐさがありありと、よみがえってきた。
そういうことだったのか。
俺のなかに息づきはじめたどす黒いものが、しきりとヤツの過去を反芻させてくる。

お袋が血を吸われたり犯されたりしていると、むしょうに照れくさくて、誇らしい気分になれるんだよな。
相手の吸血鬼にとっても、お袋が最高の女性なんだって伝わってくるから。

しばらく絶句したあと、俺は傍らの鞄に手をやって、なかから紙包みをひとつ、取り出していた。
「自分で持ち歩くつもりだったんだが」
ため息交じりに、鼻先につき出してやる。
「記念品。ゆうべの」
え?なに?
もの問いたげなヤツのまえで、中身を取り出してぶら提げてやった。
「きみのオンナが夕べ穿いていた、黒のストッキング。ほら、やるよ」
ぞんざいに投げられた順子のストッキングを、勝田は怒りもせずに受け取ると。
「つぎのやつは、必ず順子の脚から抜き取って、きみにあげるからね」
ふたりはハハハ・・・と、声をあげて笑った。
昼休みを終えて戻ってきた女子社員たちは、いちようにヘンな顔をして、オフィスででかい声をあげた俺たちをふり返っている。


あとがき
露骨な場面ほとんどなしの心裡描写におわりましたが、ソチラのほうさえもあまり徹底してなかったような・・・
(^^ゞ
淡々と描けたこと、それ以上にさいごまで描き切れたことがよかったかな。 笑

生き血をすっかり抜かれた人妻と 女教師の娘の話。

2013年12月23日(Mon) 02:17:08

1.
そのときどうして、あんなに平静でいられたのか。
自分でもびっくりするくらい落ち着き払って、あとの処置をてきぱきとこなして、
現場の血痕を拭き取り、自室に連れ帰った妻の身体を布団のうえに横たえて
―――それから医師に検屍を依頼し、死亡届を出しに役場に向かっていた。
たぶんそれは・・・吸血鬼に血を吸い取られても、決して死なないと知っていたからなのだろうけれど。
ほんとうにそれだけが、理由のすべてだったのだろうか?


2.
不思議な雰囲気の漂う街だった。
洗練されているようでいて、田舎めいていて。
若いひとが多く活気があるようでいて、死臭が漂うような不景気さも秘めていて。
そんな街にわたしが着任したのは、つい三か月前のことだった。
専業主婦である妻のみずえと、教師をしている娘の菜穂は都会に残り、わたしだけの赴任だったのは致しかたなかったが。
わたしはむしろ、独りの時間を愉しむ機会を得られたことを、内心悦んでさえいたのだった。
女家族たちには秘めていた、後ろめたい趣味。
顔見知りのほとんどいないこの街で、女の姿で真夜中の散歩をするのは、さぞや愉しいことだろうから。


3.
新任地には吸血鬼が棲んでいますが、住民とは平和裡に共存しています。
血を吸われても、死ぬ心配はありません。
たとえ体内の血液を吸い尽くされて一時的に死亡同然の身体になっても、土葬される限りは蘇生できます。
まあ奥さんとかは・・・連れて行かれない方が賢明でしょうな。
わたしを送り出す上司は、ひと事のようにそんなことを教えてくれたが。
たしかかれ自身も・・・この街への赴任経験を持っていた。夫人同伴で。


4.
こっち来るのか?法事の手伝いさせられるぞ。

むしろ迷惑そうに電話口でそう受け答えするわたしに、受話器の向こう側の声は、あくまで強気だった。

だってあなた、そちらにいちども行かないのもおかしいし・・・なんなら法事のお手伝いだってするわよ。
そういうご近所づきあいって、田舎だと大事なんじゃないの?

自分が夫の任地に行くのを阻止しようとする夫の背後になにかの意図を感じたのか、
妻はそういって、いつもの強い気性のままの口調で、押し切ったのだった。
まさか、持参する喪服が自分自身を弔うものになるなどとは・・・夢にも思っていなかったに違いない。


5.
「大変だ、水田さん。奥さんがお寺で襲われちゃってるよ・・・」
教えてくれた同僚は、表向きの言葉つきとはうらはらに、事態を歓迎しているようだった。
口辺に滲んだ笑みが、それを露骨に目だたせていた。
彼もまた・・・帯同してきた夫人を、日常的に吸血の対象にされてしまっている。
これでまた、仲間が増える―――きっとそのていどの感覚なのに、違いない。
妻を襲われている同僚への同情よりも、むしろそちらの感情のほうが濃いはずだ。

法事が行われているはずの寺へと急ぐわたしの足取りも、われながら、さほど切羽詰っていなかったような気さえした。
それくらいに―――吸血鬼に襲われて生き血を吸われるということは、ごくありふれた日常の出来事だったのだ。

寺の本堂に入ったのは、ちょうど”彼”が、妻の血を吸い終えたところだった。
参列していた人々は、逃げ散ってしまったのか、薄暗い本堂の冷たい床に影を写していたのは、妻と”彼”のふたりきりだった。
喪服姿であお向けに横たわった妻を腕のなかにかかえ込んだ“彼”は、妻の首すじにチュウッ・・・と、唇を吸いつけていた。
さいごのひと啜りを、チュチュチュ・・・ッと、露骨な音をたてて吸い終えると。
”彼”はわたしのほうに向きなおり、ひと言だけ言った。
―――ご馳走さん。活きが佳くって、旨い血だった。

妻の表情は、頬をひきつらせたまま、目を見開いたまま、こわばっていた。
前歯をむき出しにした薄い唇は、なんども吸血鬼のいたぶりを受けたあとらしく、乱暴になすりつけられた唾液に濡れている。
凍りついた目鼻だちの下、色の褪せた首すじには、綺麗に並んだふたつの咬み痕が、吸い残した血潮を、まだチラチラと光らせている。
わたしは妻のうえにかがみ込むと、彼女のまぶたを閉じてやる。
ご苦労さま・・・と、いいながら。

五十間近のおばさんの血が、そんなにお口に合ったのですか?

わたしの口調がいつもより、いささか尖っていたのは、さすがにしかたのないことだった。
けれども彼は、慣れた様子でわたしの感情の尖りをやり過ごすと。

齢なんか、関係ないね。気っ風(きっぷ)の良いご婦人だ。熟れた生き血を、気前よくご馳走していただけたよ。

ほつれた後れ毛をあやすように撫でながら、”彼“は妻の蒼い面貌に目を細めつづけていた。


6.
”彼”が女物のストッキングに目がないことは、先刻承知していた。
わたしが彼の趣味に合わせて、勤めに行くときもストッキング地の靴下を履くようになったのは、赴任してすぐのことだったから。
歓迎会の席で隣に座った”彼”に首すじを撫でられて・・・あとは「お定まりのパターン」というやつだった。
ひと晩帰宅を許されずに血を吸い尽くされたわたしは、体内にわずかながら残された血をも、日常的に舐めさせてやることを約束させられていた。
きょうこそは、やすやすと吸わせまい。
そんなことを思っても、むだだった。
―――そのせつは、気前よくご馳走していただいて・・・
くぐもった声色でそう囁かれてしまうと、どういうわけか身体が硬直して、咬まれた痕がズキズキと疼いてくるのを、抑えることができなくなっていた。

その時分には夜中の密かな愉しみとなっていた女装での外出では、“彼”がきまってお供についてくれていた。
ボディガード兼愛人 というわけだ。
わたしたちはしばしば、訪れた公園で恋人同士のように抱き合い、その鋭い牙に首すじを撫でられていた。
濃い色のストッキングに染まった足首を摑まれて、ふくらはぎに這わされた唇の熱さを・・・薄手のナイロン生地越しに感じるのは、決して嫌な感じではなかった。
咬み痕をまん中に、薄手のストッキングに伝線が走って、やがてひざ小僧がまる見えになるほど裂け目を拡げられてゆくのを、わたしはドキドキしながら見つめていた。

勤務中もしばしば彼はやって来て・・・執務中のわたしの足許にかがみ込んできてはスラックスをたくし上げ、薄い靴下ごしに唇を吸いつけて、吸血に耽るのだった。
きょうは、妻の番・・・ということなのだろう。
古くからの馴染みが多いこの街では、毛色の違ったのが紛れ込んでくると、それが男であると女であるとを問わず、“彼”らはきそってその血を獲ようとするのだった。


7.
指先についた妻の血を、下品な手つきでぺろぺろと舐めている彼は、目を細めて血潮の残り香を賞玩している。
しんそこ、妻の生き血が気に入ったのだろう。
このおぞましいはずの光景をまえに、誇らしい気分になってしまうのは、どうしてだろう?
妻の生き血を気に入られた。そんなことが、自慢になるのだろうか・・・
わずかに残された理性とは裏腹に、わたしは歓びと昂ぶりとを、抑えることができなくなってゆく。

”彼“は舌なめずりをしながら、絶息した妻の足許ににじり寄り、
わたしの目のまえでこれ見よがしに、黒のストッキングのふくらはぎに唇を這わせた。
礼装に対する無作法な仕打ちに、わたしはただ、目で、どうぞ、と促しただけだった。
名誉を奪われた女は、こうして衣装までもふしだらに、堕とされてゆく。

むっちりとした脚線を、なぞるように這い回る唇の下。
薄手のナイロン生地が、いびつなよじれを見せてゆく。

くちゅ。くちゅ。くちゅうっ。

いやらしい露骨な舌なめずりの音が、清楚に装われた妻の足許にまとわりついた。

うふふふ・・・ふふふ・・・

”彼”は愉しげに、妻の足許に舌をふるいつけて。
さらに忌々しいことに、わたしの薄い靴下を嬲りものにするときよりもことさらねちっこく、妻の穿いているストッキングをいたぶり抜いてゆく。

ぱりっ。

薄手のナイロンに、裂け目が走った。
真上には、欲情に滾った男の唇。
凌辱に耐えかねたように、伝線が鋭く、太ももからつま先まで、伸びていった。
じりじりと拡がる裂け目から、白い脛が露出してゆく。
まるで妻の堕落を、裏づけるかのように。

ちゅっ、ちゅっ・・・
きゅうっ、くちゅう・・・っ。

黒の礼装ごしに、妻の身体のあちこちに。
想い想いに牙を突き立てて。
身体じゅうから、血潮をむしり取ってゆく。
かすかに残された血潮さえもが、あらかた抜き取られてしまうのを。
わたしはただ、惚けたように見つめつづけた。

どうせ腐っちまうだけだもの。それくらいなら、わしに愉しませてくだされや。
“彼”はそんなことさえぬけぬけと口にしながら、妻の血潮の芳香に、しんそこ惚れ抜いていた。


ええとお名前は・・・みずえさんでよろしかったかな。

名前さえも気に留めずに、妻を襲ったのか。
そこだけが妙に、気分を尖らせたが。

なに、あとで伺えばじゅうぶんだと思ったのでな。
きょうはほんの、お近づきのしるしだけのつもりだったで・・・
こんなに気前よぅしてくださるとは、わしも思わなんだのよ。

男はわたしの気分を和らげようというのか、そんな言い方をするのだった。


8.
床に散った血のりを、たんねんに拭き取って、
”彼”に手を貸してもらって、ぐったりとなった女の身体を、車の助手席にすべり込ませて、
後ろに乗った”彼”の手を再び借りて、部屋に敷いた布団のうえに妻の身体を横たえた。
すぐ隣のわたしの隣室には、いろいろなものが乱雑に、散らかっていた。
妻よりは大きいサイズのスーツやワンピース。LLサイズのパンスト。使用したあとのあるウィッグ―――
見られちまったようだな。あんたの趣味を。
男はほくそ笑んで、そういったが、わたしはなにも答えなかった。

家に招んだ医師は無表情に妻の脈を取り、瞳孔を確かめると、診断書にそっけなく、「失血死」とだけ書いた。
独り提出に行った死亡届は、あっさりと受理された。
わたしがいないあいだ、”彼”は妻に付き添って・・・黒の礼服もろとも、いたぶり抜いていった。
そうさせてやるために気を利かせて、”彼“を妻とふたりきりにしたようなものだった。

がらんとした部屋のなか。
布団のうえに横たわる妻は、漆黒のブラウスから乳房をはみ出させて、
スカートのすそには、吐き散らされた劣情の残滓が、不規則な飛沫を滲ませていた。


9.
弔いには、娘さんだけ招びなされ。
ほかはそんなに、声かけちゃなんねぇ。
だってそのうち、生き返るんだもの。
死んだ死んだと大騒ぎをしたら、奥さんもあとがやりにくかろうさ。

”彼“の勧めに従って・・・わたしは受話器を取って、都会の自宅に電話をかける。
TRRR・・・ TRRR・・・
聞きなれた呼出音が、過去の日常を思い出させてくれて。
いま置かれている状況の異常さを、思い知らせてくれた。
妻と同居している娘にだけは、事情をごまかしようもなかったから。

それが・・・娘までも渦中に巻き込んでしまうことになると予想しながらも。
むしろ、
これでまた、仲間が増える―――先刻だれかが妻に対して感じたままの感情だけが、わたしの理性を支配してしまっていた。


10.
あんたが処女なら、まだ助けようがあるのだが。
母親の亡骸をまえに絶句した娘の菜穂に、囁きかけたのは。
彼女の死亡診断書を書いた医師だった。
分厚い黒縁眼鏡の奥に光る眼は、ことさらに無感情だったが。
なんらかの説得力を感じたのか。あるいは、異常な事態にわれを忘れてしまったのか。
娘は即座に、同意していた。
特殊な方法で献血された肉親の血液が、蘇生に役立つ―――と。


11.
見ないほうがエエですぞ。おためになりは、しませんぞ。
周囲からそんなふうに禁じられることは。
むしろ、そそのかされているのと同じ効果を持った。

隣室から息を詰めて覗き込むわたしのまえで。
学校から直行してきたらしい娘は、飾り気のないグレーのスーツ姿。
姿見に写る自分を見つめる後ろ姿は、どことなく母親と生き写しだった。

わたしの妻で彼女の母親だった女を、初めて垣間見たときに。
”彼“は、わたしにひっそりと告げたものだった。
―――ひと目惚れをした。
と。
そして、母親似の娘を見たときも、おなじ言葉を口にした。
―――ひと目惚れをした。
と。
しいて言えば、ひと言よけいだったかもしれなかった。
―――お母さん似なんだね。血も旨いだろうな。
わたしは無表情に、応えている。
―――あまり吸い過ぎないように。
と。


12.
姿見のなかの娘の顔が、引きつった。
想像のなかで描いた、初めて咬まれた妻の顔と、うり二つのような気がした。
首のつけ根の一角を冒した牙が、ググ・・・ッと力強く、皮膚の奥へと埋め込まれる。
じゅる~・・・っ
妻のときにもまして、生々しい音だった。
はたちを過ぎたばかりの娘の血は、四十女の生き血よりもずっとうら若く、活力に満ちているに違いなかっただろうから。

真っ白なブラウスは、たちまち赤く濡れそぼって、
鏡のなかの娘は、生き血を吸われることよりも、むしろ着衣の変化にうろたえているようだった。
抱きすくめた両腕に、容赦のない力を込めて。
男はひと目惚れした若い娘の生き血を、こよなく愛しつづける。

旨めぇ。旨めぇ。しんそこ旨めぇ・・・
あんたの血は、ええ味をしておるのぅ。

男は妻のときにそうしたように、娘の後れ毛をあやすように撫でつづける。
すでに抵抗の意思を喪失した娘は、ただひたすらに、うなじを咥えつづけられていた。

すこぅし、悪戯させていただくよ。
あんたの服には、あんたの生き血がよぅ似合うでの。

男はわざと、吸い取ったばかりの娘の生き血を、スーツのジャケットに、スカートのすそに、ぼとぼととほとび散らせてゆく。
娘はかぶりを振って、わずかに抗ったが、衣装のシミが拡がるのを妨げることはできなかった。
すくんだ足許を包む肌色のストッキングは、間違いなく母親の装いと同じ運命をたどるのだろう。
ほら・・・もはや足許がふらついて、立っているのもあやしくなってきたみたいだ。


13.
処女だったよ。ご馳走さん。

うそぶく“彼”はそれでも、みずからの獲物になってくれた女への礼儀は忘れないのか、乱れたスカートのすそをたんねんに直しながら、わたしにそう告げた。

きょうのところは、手加減しておいた。
嫁入りまえに疵物にしては、お父さんにうらまれるからね。

たしかに・・・娘は凌辱だけはまぬかれていた。
とはいえ、男の言いぐさはまるで、娘の純潔を汚した男のそれだった。
ずきりと胸を疼かせるのを、”彼“は敏感に察したらしい。
ことのついでのように、ひと言つけ加える。

そうそう。奥さんはあんた以外の男は識らない身体だった。

ぽつりとした呟きがもどかしく、わたしは思わず、訊いてしまっている。

女としても・・・愉しめたかね?

ああ・・・素敵だった。
生き返ったら、またお願いしますよ。

さりげない語調が、むしろ生々しさを帯びている。

どのみち、妻は生き返る。
娘は欺かれ、その血は無駄に流され、無駄に愉しまれてしまった。
けれども今夜と言う夜は、娘にとっても、わたしたち夫婦にとっても、意義深い夜であることに変わりはなかった。
一家全員が、吸血鬼に隷従を誓った夜―――


14.
団らんのテーブルに着いた妻は、いつものようにころころと笑いこけている。

びっくりしたわぁ、もう。
だってあのかたったら、いきなり私のこと掴まえて、首を噛むんですもの。

あら、あたしのときだってそうよ。
ブラウス汚すのが愉しくって、しょうがないんだって。

応じる娘は、誕生祝いに父親が買ってくれた真新しいブラウスを、自慢そうに見せびらかす。

ストッキングもきちんと、新しいのになさいね。
せっかく愉しんでいただくのに穿き古しじゃ、失礼だわ。

はい、はい。わかってます♪

娘は足許の点検にも余念がない。

じゃああなた、あとはよろしくね。

そう、今夜”彼“の棲み処に送り届ける獲物は、娘の番だった。
血を吸われても教師を続けたいと希望した娘は、週末に父親の赴任先を訪れる。
そんな娘を車で送る迎えするのが、わたしの役目。
ときには雨戸ごしに洩れてくる妻や娘の声を・・・わたしは縁側で耳にして・・・禁忌の昂ぶりを覚えている。


15.
ヘンタイ。

すべてを知った娘は、わたしをそういって罵った。
生き返ったばかりの母親にも首すじを吸わせ、噛み痕を抑えながらそういったのだ。

母の蘇生と引き替えに・・・という約束で吸わせた首すじは、無償の善意と受け取られたけれど。
むろんそんなことは、娘の知ったことではない。
自分はただ生き血を愉しまれただけ・・・そう気がついた後もしかし、彼女は”彼“のお邸通いをやめなかった。

パパはヘンタイだけど、赦してあげる。
あたしがパパの車に乗るのは、
あのひとに強いられて行くんじゃないから。
あたしの意思で、行くんだから。
いまのあたしは・・・血を吸われたくってウズウズしている、変態女。
ほら・・・いい眺めでしょ?

娘はそういって、ストッキングを派手に伝線させた脚を、見せびらかした。

パパ、女装が趣味なんだって?
あたしの服、着れるかな?背丈はあたしと、同じくらいだよね?
こんど親子三人で、遊びに行こうよ。おそろいの、黒の喪服着て。
パパがヘンタイしているところ、あたしも見てみたいから。


16.
赴任先にやって来た妻は、さっそくお寺の法事の手伝いに出かけて、
生き血を望まれ、うら若さを愛でられて。
さいしょはむろん、うろたえていたけれど。
やがて気分を落ち着けると、持ち前の気っ風の良さを見せつけて。
せがまれるままに喜捨に応じて、ありったけの生き血を吸い取らせていた。
清楚な黒の喪服に、持ち主の血潮をたっぷりと濡れそぼらせて。
みずからの熱情を誇りながら、情夫を満足させていった。

わたしはわたしで、満足していた。
四十女にすぎないはずの妻の血を、”彼“が気に入って、
吸い尽くすほどに賞玩してくれたから。
妻の魅力を愛でられることは、夫として誇らしい出来事だったから。


それほどまでに妻の生き血が口に合ったというのなら。
夫婦は顔つき合せて、相談して。
妻の弔いをすると偽って、娘を招び出すことにした。
娘は、妻の生き血を伝えている唯一の肉親だったから。

娘はさいしょは驚いていたが。
男の欲情を、聡明にもすぐに理解して。
母親と同じようにもの分かりよく、そして気前よく、
自分の体内をめぐる血液を、男の飲料として提供した。
母親に負けないくらいの気前の良さで、
しなやかな肢体から、うら若い血潮を吸い取らせて。
勤め帰りのスーツも、純白のブラウスも。透明なパンティストッキングまでも。
惜しげもなく、凌辱にゆだねていった。


水田家の記録には、そう記されているという・・・



あとがき
後日談のまとまりが、いまいちだったかな・・・
はっきりと、燃料切れのような気がします。
^^;

2013.12.22 09:55:45初稿
2013.12.23 02:16:00あっぷ

息子のクラブチーム

2013年12月20日(Fri) 07:01:45

・・・母さんは?
ああ、寝室。
学校から戻ってきた息子に、俺は自分の寝室を指さした。
そこに俺の代わりにいるのは、我が家に出入りするようになった吸血鬼―――
首すじにつけられた噛み痕を撫でながら、俺は心地よい貧血感に酔い酔いになっている。
ふーん。じゃあボクの番は、まだ来ないね。
聞き分けよく育った息子は、激しい一戦が行われている寝室を、珍しくもなさそうに一瞥すると、そのまま素直に自分の勉強部屋へと足を向けた。
30分後―――
夫婦のベッドのうえ、うつろに抱き合う俺たちは、息子の部屋からチュウチュウという音が聞こえるのに、薄ぼんやりと聞き入っていた。

血を吸われ過ぎた俺は、半吸血鬼になっていた。
たまに息子から、血をもらうこともあったし。
息子は何気なく、俺に首すじや脚を、吸わせてくれた。
家族から血を吸うのは、よくないのかな。
べつに・・・そんなことないけど。。。
洋間で俺に組み敷かれながら。
息子は俺の腕の中、母親が寝かされている寝台がギシギシときしむ音を、無表情に聞き流していた。

あんた、ハイソックスが好きなようだな。
通りがかった女子高生から血をもらっているのを視られたときに。
吸血鬼は俺に手を貸してくれて、まだ恥ずかしがっているその少女の両肩を抑えつけてくれた。
おかげで―――セーラー服の襟首に走る白いラインに、紅いシミをつけずに血を飲むことができた。
もっともそれ以前に、したたかに咬んだふくらはぎからずり落ちかけた真っ白のハイソックスは、紅くべっとりと濡れてしまっていたけれど。
息子さんの彼女・・・?
いや、まさか。
苦笑に紛らす俺に、吸血鬼は囁いた。
こんど―――ハイソックスの脚をたくさん狙えるところに、連れてってあげる。

フットサルのチーム?
たしかに・・・ね。みんなライン入りのハイソックス履いている。
悪い冗談に俺が苦笑すると、吸血鬼は言った。
あんたはここの、監督だから。
息子のチームじゃないか。
さらに苦笑を深める俺に、
若い男の子の生き血は、活きがよくっていいものだぜ。
ヤツは毒気を吹き込むように、俺の鼓膜を震わせた。
ちょっと旅行に出る。とうぶん奥さんのこと、借りるからな。
そう囁くことも、忘れずに―――

クラブチーム全員の血を吸うのに、まるまる一か月かかっていた。
だれもが交代で貧血になりながら、真新しいストッキングを一、二足、必ず用意してくれた。
チームのユニフォームの一部であるはずのライン入りハイソックスを噛み破らせてくれながら。
ゲームの進め方じゃなくて、組み伏せられ方ばっかり教えられるね。
だれもが俺の腕の中で、くすぐったそうに呟きつづけていた。

息子が高校を卒業するころまでに。
俺は彼らの母さんたちを、ひとり残らずものにしていて、
彼らの幾人かは、同級生の彼女を俺のところに連れてきては、
いっしょに歩く彼女のセーラー服の襟首に走るラインを紅く染められるのを、ひどく自慢するようになっていた。

小父さん、女ひでりなんだ。
奥さんを吸血鬼に寝取られちゃって、
だから相手を欲しがっているんだ。
相手は男でも・・・いいんだってさ。

そんな囁きを交し合いながら。
足どりを並べる少年たちが、きょうも数人。
なかには息子が含まれていることもあったりするけれど。
誰もが分け隔てなく、真新しいフットサルのストッキングの脚を並べて、咬ませてくれて。
それから口々に冗談を交し合いながら、くじ引きをして。
自分たちの彼女を俺に抱かせてくれる順番を、決めにかかっていく。


あとがき
キーを叩くままにお話を描いていたら、こんなふうにすごーくおかしなお話が。
^^;
まあ、いつものことなんだけどね。。。
^^;;

”人妻キラー”

2013年12月20日(Fri) 06:38:53

吸血鬼と人間が仲良くするのは、良いことだ。
好きな人を殺めようとは、だれもが思わないことだから。
人間の側にとっては、自分や家族の生命が危険にさらされないで済むし、
吸血鬼の側からすると、生き血の安定的な供給先を得ることができるのだから―――

吸血鬼の小父さんが夜遊びに来ると、
父さんは笑いながら首すじを吸わせてあげて、
顔色が蒼くなるまで血を吸い取らせてあげていた。
その場にへたり込んだ父さんの目のまえで、つぎに襲われるのは母さんの番だった。
母さんもにこやかに小父さんに接して、父さんとおなじように首すじを吸わせてあげて、
それから三人は、夫婦の寝室に入ってしまう。
独りぼっちで寝るのはつまらないから・・・と、せがんでボクも、仲間に入れてもらえるようになったのは。
も少し年ごろになってからのことだった。

脚を咬みたがる小父さんのために、
母さんは、肌色のパンストを穿いたふくらはぎを差し伸べて、
父さんも、長めのビジネスソックスのうえから、足首を吸わせてあげていた。
紺のハイソックスを履いたふくらはぎから、初めて血を吸われたとき。
ボクは大人の仲間入りをした気分になっていた。

小父さんが母さんと仲良くするの、ケンイチはもっと嫌がるかと思っていたよ。
そんなことないよ。父さんだって、楽しそうだし。
小父さんは”人妻キラー”って呼ばれているんだ。だから母さんのことを、紹介してあげたんだ。
いいね。ボクも結婚するときには、お嫁さんを紹介してあげたいな・・・

そんな親子の会話は、意外に早く実現した。

小父さんは”人妻キラー”なだけじゃなかったね。
やっぱり映画に出てくる吸血鬼みたいに、処女のことが好きなんだね。
セーラー服の襟首を濡らしながら、彼女がウットリとなって生き血を吸い取られてゆくのを見守りながら。
ボクはそんな情景に見とれてしまっていたし、
父さんはボクのことを、でかしたでかしたと言って、背中をバンバンと叩いてくれた。
母さんまでが、小父さんにつけられた咬み痕を撫でながら、若いひとはいいわねえ・・・なんて、羨ましそうに言っていた。

さきに小父さんに、姦(や)らせてあげるんだって?
ウン、そうなんだ。小父さんやっぱり、”処女キラー”だったんだね。
浩美さんの純潔を、さいしょから狙ってたんだってさ。
父さんもそこまでは、してあげられなかったな。
母さんを紹介してあげたのは、ケンイチが生まれたあとのことだったからね。
ダイニングのテーブルの上に組み伏せられた浩美さんが、
宙に浮いた脚をばたばたさせながら、犯されていって。
太ももからひとすじ、血をしたたらせてゆくのを。
ボクたちは目を細めて、見守っている。

きょう―――
”人妻キラー”の小父さんは、
”処女キラー”の本性まで、発揮する。
ボクの婚約者を、お相手に択んで・・・

【三千回記念作品】 昏い白昼夢 ~母と娘の妖しい午後~

2013年12月08日(Sun) 09:14:01

黒い人影が、まるで白昼夢のように。
木枯らしの舞う街かどに、ひたひたとした歩みを刻んでゆく。
男が目ざすのは、かつての親友の家。
齢の離れたその男は、こちらがたいしたことをしてやったわけでもないのに、命を助けられた、としきりに恩に着て、
いつでも来てもらって構わない。
彼はそう言ってくれた。
けれども男は、つねに遠慮し続けていた。
気持ちは嬉しいが、わしがあんたの家に行くということは、どういうことなのか分かっているだろう?
分っているからこそ・・・ですよ。
男はゆっくりとかぶりを振って、彼の切望を振り切った。
けなげにそう応えた男の貌には、それでも家族を心から愛する者の色合いが、濃くにじみ出ていたから。

いまは・・・そんな悠長なことは言っていられない。
ひたすらに、渇いてしまっていた。男を援けるものは、この街にはまったく、居合わせなかった。
男の命を救うことのできるのは、人の身体に脈打つ血潮だけ―――それもきょうの、夜のとばりが降りるまえに相当の量を摂らなければ死に至るという、切羽詰まったものだったから。

なんども通りすぎた道だった。
なんどこの通りを、逡巡しては行き来して、そして通り過ぎていったことだろう?
親友の家族の血をねだるという行為は、それくらいに彼のなかでは禁忌だったのだ。
―――とくに同意も経験もないもののそれは・・・

彼の意思に反して、
彼の足はその家の門前に立ち止り、
彼の指はその家のインターホンを押していた。
表札には「神代 隆 澄江 麻美」と、そこに住むものの名前が記されてあった。

りぃん・ろぉん・・・

切羽詰まった身とはかけ離れたのどかな音が、遠くから聞こえてくるような気がした。

はぁい、どなた?

インターホン越しの女の声は伸びやかで、やはりのどかな響きをもっていた。
まだ晩ご飯の支度には早い、昼下がりというにはやや晩(おそ)い刻限だった。


玄関のポーチに姿をみせたのは、飾り気のないジーンズ姿の、四十半ばの主婦だった。
闊達な人柄のしっかり者だと聞いていた。
化粧気のない顔つきに、力のこもった瞳。活き活きとした表情。
玄関先まで歩みを進める足取りの、キビキビとした身のこなし。
それらは男の求めてやまない活力を秘めたものだった。

「主人の会社のかたですの?初めてお目にかかりますわね?いつも主人がお世話になっています」
神妙なお辞儀さえもが、キリッとしたものだった。
「お手紙を預かっております」
やや古びた紙に走り書きされた筆跡が間違いなく夫のものだと認めて、主婦はその文面に目を走らせた。
女の顔つきからさっきまでのリラックスした陽気さが消え、男を見る目が身構えるような妍のあるものに変わっていた。
「お話はたしかに、伺っておりますが・・・」
けれども主婦の顔には、まだかすかな逡巡が残されていた。
―――どうしても、今なのでしょうか・・・?
そう問いたげな、戸惑いの視線がそこにあった。
携帯の着信音がした。
「失礼」
女はエプロンのポケットにむぞうさに突っ込まれた携帯を取り出すと、すぐにそれを耳に当てて・・・とっさに、日常の態度に戻っていた。
「ああ、あなた?はい・・・はい・・・ええ・・・いらしてます。わかりました。じゃあそうするわね」
キビキビとした切り口上は、この女の身上らしい。男はその態度にさえ自分がいま欲している活力を見出す思いで、惚れ惚れと眺めまわしていた。
「主人から電話でした。あなたのことを、どうかよろしく・・・って。おあがりください。いくらなんでも、ここではなんですから・・・」
女は門におりた錠を開け、玄関のなかへ男を招き入れるために、少しためらいながら男に背中を向けた。

十分ほどもしただろうか?
よそ行きのスーツに着替えた女は、ふたたび男のまえに姿を見せた。
こんな格好で、よろしいですか?
そう言いたげな目色を読み取って、男は鷹揚に頷いた。
活発な主婦であるこの女が、こういうものを着ることは、めったにないようなのが、どことなくぎくしゃくとした着こなしに、見て取れた。
女は夫の意を汲んで、自分に馳走をしようとしている―――彼女の意図が伝わっただけで、彼にはじゅうぶんだった。

「ごあいさつが遅れました。神代澄江、と申します」
女は腰を下ろすと、畳に指をついて、神妙なお辞儀をした。
「わたしどもはこういうものですので、名前は秘することになっています。あえて名乗りませんが、かりに清雄・・・とでもお呼び下さい。私のことはとうに、お耳に入っていたようですね?」
「主人からうかがって、よく存じ上げております。本日は、どうぞお手柔らかにお願いいたします」
出された座布団のうえに無言で端座している男をまえに、澄江はちょっとのあいだ戸惑った。
このあとどうすればよいかまで、聞かされていなかったからである。
澄江はちょっとのあいだ、あたりをきょろきょろと見まわした。
雑に積み重ねられた座布団や、その場に脱ぎ捨てられた衣類。不必要に中身の伸びたボックスティッシュ。
お客を迎えるには、部屋はあまりにも雑然としているように、澄江は感じた。
ガラス窓からは、庭に佇む古びたラティスと、それから格子の嵌った隣家の窓が目に入った。
女は障子戸を締めて、外界からの視界を断った。
むやみと気遣いする必要は、なさそうだった。
男は女の動きに合わせるように、背後から影のように寄り添うと、スーツのジャケットの上から肩を掴まえていた。
あ・・・
女が声を呑むすきに、男は女の着ているジャケットを脱がしにかかった。
無抵抗な上半身から取り去られたジャケットは、部屋の隅に重なっている、脱ぎ捨てられた衣類の上に投げかけられた。
ブラウス一枚になった上体を寒そうに抱え込むと、澄江は言った。
「お手柔らかにお願いしますね」
いつもの澄江には似ず、気弱な声色になっていた。
男は応えるかわりに、女のうなじのつけ根に唇を吸いつけると、つよく吸った。
這わされたくちびるのすき間から覗いた鋭利な牙が、チカリと残忍に輝いた。


一時間後。
神代麻美は黒い鞄をぶら提げて、家路をたどっていた。
無表情な街かどの風景に、白のラインが鮮やかに三本走る黒のセーラー服姿は、しっくりととけ込んでいる。
黒のストッキングを履いた脚を投げ出すように、彼女はずんすんと歩みを進めてゆく。
いつものように大またの、活き活きとした足取りだった。
女の子にしては活発過ぎるその足取りは、小気味よくリズミカルで、薄墨色のナイロン生地に淡く染められたふくらはぎには活き活きとした生気がみなぎっている。

「ただいまー。帰ったよー。」

131207 01 なにも知らずに帰宅した娘。

開けっ放しの玄関から麻美はいつものように声を投げた。
しかしいつも返ってくるはずの元気な母の声は聞こえてこなかった。
出かけているのか?
しかし鍵も掛けずに買い物へ行くような人ではないはず…
そう思いつつ、麻美は何故か胸騒ぎを覚えていた。
とりあえず階上の自室へ行こうと、階段を上がりドアノブへ手を掛けたその時だった。

「おかえり…」

突然背後から消え入るようなかすれた声を掛けられて、麻美ははでに飛び上がった。

「ちょっともうー!いたのー!?びっくりさせないでよー!」

安堵しつつ向けた視線の先には表情も虚ろでひどく顔色の悪い母親がいた。
え?なに?風邪でもひい…
歩み寄りながら、そう言いかけたところで初めて、母の後ろに同じく顔色の悪い長身の男が立っていることに麻美は気が付いた。

父親ではない男が、平然とした顔で我が家の中にいる。
その異様ともいえる光景に混乱し、何一つ言葉も出せずにいる娘をよそに、母がひっそりと口を開く。

「この方にね、あなたを紹介したのよ。」
「えっ、どういうこと?」
「処女の生き血は、それはそれは格別なんですって…。あなた、まだ処女だよね?」
「どうしたのよっ、急にそんなこと・・・処女に決まってるじゃない!」
時ならぬ母親の言葉に、麻美はしどろもどろになりながらも、気強く応えた。
でも待って。処女の血って、どういうこと?
疑惑と共に浮かんだ自問の応えは、母親の口からかえってきた。
「だったら娘を是非…きっと気に入ってもらえますわ…って。」

処女?生き血…?え…?なにを言っているの……?
一体なにが起こっているのか、全く理解できない。
すでに闇に呑まれつつある部屋に音もなく佇む、見知らぬ男と狂った母。
底知れない恐怖と身の危険を感じ、やっと動こうとした時にはもう遅かった。

男は麻美の両肩を掴まえると、白い3本ラインの走る黒いセーラーカラーから覗く白い首筋に牙を突き立てていた。
あいさつ抜きの、唐突な行為だった。

「ぁぐっ!!」

チクリと突き刺す痛痒さが、妙に身体じゅうに響いて、麻美は眉をキュッとひそめた。
首のつけ根のあたりにもぐり込んだその尖った異物は、ぐいぐいと麻美の皮膚を圧迫して突き破り、なま温かい血潮がじわっ…とほとび出るのがわかった。
圧しつけられた唇が、湧いた血潮をチュウ…ッと吸い上げるのを感じて、麻美は飛び上がった。
けれどもしっかりと抱きすくめられた両腕に動きを阻まれて、彼女は立ちすくんだまま血を吸われた。
表情を消した母親は、義務の履行を確認するような感情を取り去った目で、娘が生き血を吸われるのを見守っている。

じゅるっ。じゅるっ。じゅるっ。
汚らしくも忌まわしい音だった。
音が続くとともに麻美の血はじわじわと身体から抜き取られていった。
自分の家であって自分の家ではないような気がした。
周囲にあるのは見慣れた廊下。柱に天井。すぐ目の前には、ドアを開け放ったままのあたしのお部屋・・・それなのに彼女は行動を束縛されて、母の介添えのもと、見知らぬ男に生き血を吸い取られてゆく。
麻美は立ちすくんだまま、全身から力が抜けていくのを感じた。
手から滑り落ちた黒革のカバンが、鈍い音をたてて床に転がった。
男が首筋から口を離すと、支えを失った麻美はその場に尻もちをついてしまった。


…どれほど経っただろうか?
男の口元は暗がりでも分かるぐらいにヌラヌラと麻美の血液で紅く染まっている。

この人、私の首筋に噛みついて血を吸ったんだ…
普通じゃない…まるで……吸血鬼…

息も絶え絶えに母へ視線を投げかけると、母親はうっとりとした表情でこちらを見つめている。
その首筋には、赤黒い二つの噛み傷があった。
噛み傷の周りには、赤黒い血のりがべっとりとこびりつき、そのいくらかは、ブラウスに赤い斑点を散らしている。
母さんがブラウスにスカートだなんて。
いつもとっくりセーターにジーンズの格好しか目にしない母親に妙な違和感を覚えたのは、起伏のなくなった表情と語調のせいばかりではなかった。
吸血鬼に血を吸われるために、わざわざおめかししたの?
けれども麻美に、そんな問いを母に投げている余裕はなかった。
男は、まだ血を吸い足りないらしかった。
尻もちを突いていったん彼女の視界から離れた血塗られた牙が、すぐ目の前に迫っていた。

嫌…いや…と首を横に振りながら、痺れた手足を必死に動かして後ずさる。
しかし男は、彼女のけんめいな努力をあざ笑うように―――いや、あとで語ったところでは、彼女の怯えを救おうとして微笑を投げただけだったのだが―――ゆったりとした動きで麻美に迫った。
通学用の黒のストッキングを履いたの麻美の足元に屈み込むと、夕闇を纏ったように薄黒に染まった脚へと、唇をゆっくりと近付けてゆく。


ひんやりとした床のうえ。
薄々のストッキングを通して、フローリングの床の硬さが、あさみの足の裏を冷やかに浸していた。
薄笑いを泛べた唇が、不埒な意図をただよわせて足許に近寄せられるのがわかっていながら、床に抑えつけられた足首を、どうすることもできなかった。

厭…いや…よして…
母さん、このひとを、やめさせて…

しきりとかぶりを振って懇願をくり返す麻美の努力もむなしく、男の唇はストッキングごしに唇を擦りつけてきた。

待って。

澄江が初めて、相棒の男に言葉を投げた。
けれども彼女が口にしたのは、麻美の期待とは裏腹のことだった。

「娘が怯えておりますわ。初対面なんですから、すこしは手加減なさってくださいな。それに…ストッキングを破っていただくまえには、わたくしのほうが先のはずですわ―――母親として、お手本を見せないと…」

母さんが、あんな薄笑いを泛べるなんて。
ましてスカートのすそをたくし上げて、太ももをちらつかせて男を誘うなんて。
うそー、あり得ないっ。

そんな麻美の心の叫びを知ってか知らずか、澄江はいつになくゆったりとほほ笑んで、つづけた。
「怖がらなくていいのよ、麻美。このかたは父さんの命の恩人なの。だからわたしたちが、ご恩返しをしなくちゃならないのよ。ほんとうはすぐにお礼をしたかったのだけど…それはあなたが年ごろになってからのほうがいいと思ったの。でもそろそろ危ないわ。悪い男の子に誘惑されて、間違いがあってからでは、遅いからね」
「安心なさい。この子はたしかに処女だった。佳い血の味をしている。さすがにあんたのお嬢さんだな」
澄江は憤然といった。
「処女に決まっているじゃないですか!うちの子はまじめなんですから!失礼しちゃうわ」
このへんはいつもの母だと、麻美は思った。けれども、、そのあとがいけなかった。
「娘の血がお口に合ったようで、よかったわ。せっかく吸っていただくんですから、やっぱりおいしいほうがいいに決まってますよね?」
えー、そんな。母さん、なに言ってるの?血を吸われちゃったんだよ、あたしたち・・・
けれども澄江の声色には、よどみがなかった。
「でもストッキングを破られるなんていやらしいこと、この子は慣れていないのですよ。わたくしがお手本を見せて、そのあとにしてください」
澄江は薄茶のフレアスカートから覗く自分の脚を、吸血鬼の目の前に、ゆっくりと差し伸べてゆく。
床を這いながらゆっくりと足許ににじり寄ってくる吸血鬼を前に、さすがの母も息を詰めて男の様子を見守った。
「ストッキングなんか…めったに穿かないんですよ」
噛まれる直前、澄江の口許から洩れた声は、すこしだけ震えていた。

男の唇が、母親の足許に臆面もなく、なすりつけられる。
ちゅう…っ。
唾液のはぜるいやらしい音が、母の耳にも娘の耳にも響いた。
いちど吸いつけられた唇は、すぐには牙を噛み入れようとはせずに、しばらくのあいだふくらはぎを撫でるようにして、這いまわった。
ぬらぬらとした唾液に濡れた唇が、脚の輪郭を撫でるように上下する。
そのたびに、きちんとまとわれた薄手のストッキングは、ふしだらに波立ってゆく。

母さん、ダメだよ。そんなことさせちゃっ。父さんになんて、言い訳するの?
男の吸血行為がどうやらいやらしい意図を帯びていることが、麻美にもわかった。
けれども母さんは、男の唇を足許に受けながらも、ふふん…と得意そうに笑みを泛べただけだった。
自分の穿いているストッキングの舌触りを愉しまれているというのに、男がそうやって彼女の装いを愉しんでいることが却って誇らしい…そんなふうに受け取っているようにさえみえた。
母さんは慣れない手つきでスカートのすそに手をやって、しきりにスカートをたくし上げては、男に太ももまで吸わせてしまっている。
そして、信じられないことさえ、つぶやくのだった。
「二足めだと、すこしは慣れるものですね。さっきはもう無我夢中だったから、知らないうちにびりびりに破かれちゃったものねえ…」

男の唇にひときわ力がこもり、母の履いている肌色のストッキングを、ぶちり!と破いた。
ぱりっ。ぱりぱり…っ。
薄手のストッキングはみるみる裂け目を拡げて、他愛なく破れ落ちてゆく。
母さんはそんな情景さえも、愉しそうな薄笑いをしながら見おろしているだけ。
両脚とも、かわるがわる、ストッキングをむしり取られてしまうと。
澄江はその場に、崩れ落ちた。
いつの間にか壁を背もたれにしていた彼女の身体は、そのまままっすぐに降下して、フローリングのうえに尻もちをついていた。
どうやらつぎは、麻美の番のようだった。


男は四つん這いの姿勢のまま、麻美のほうへと迫ってくる。
だめ…だめ…こっち来ないでっ。
麻美は必死になってかぶりを振った。

131207 02 足許に迫る唇。


高校にあがって初めて脚に通した黒のストッキング。
ぐーんと伸びる薄手のナイロン生地が自分の足許を大人の色に染めるのに目を見張ったのは、つい数ケ月まえのことだったはず。
以来オトナっぽい装いが気に入った麻美は、家のなかでもストッキングを履いていて、麻美はいつもよそ行きだねって、母さんによくからかわれたものだった。
それなのに…それなのに…
なまめかしく染まった彼女の脚は、いまは欲情に満ちた吸血鬼の忌むべき注目に、さらされてしまっているのだった。

こういう評価は…うれしく…ない…っ。
失血で身じろぎがやっとの麻美の脚を、吸血鬼はいともやすやすと掴まえると。
大根を引っこ抜くようにむぞうさに、彼女の脚を引きずった。
あ…!
あわてる麻美は、はだけたスカートに手を当てて、あらわになった太ももを男の視線から隠すのが精いっぱいだった。
男の唇が、ストッキングを履いたままのふくらはぎに吸いつけられた。

母さんと…おんなじように、されちゃうっ。

くちゅっ。

ふくらはぎに唇が吸いつくひそやかな音が、淫靡な湿りを帯びた。

きゃっ。

麻美はちいさく叫んだが、男はかまわずに、生温かく濡れた唇を、ふくらはぎからひざ小僧へと、せり上げてくる。
強引に這わされた唇の下、なよなよとした薄手のナイロンが波打ちながらよじれていった。
粘っこいよだれを、じわじわとしみ込まされながら。

「麻美、よかったわねえ。母さんと同じように、やられちゃうのよ。ほら」
母親はむしろ誇らしげに、自分の足許を見せびらかす。
母さんの脚にまとわれた肌色のパンストが、見るかげもなくチリチリに、剥ぎおとされていた。
夕闇のモノトーンのなかに淪(お)ちようとする風景のなか。
ふしだらに堕落させられた礼装のありさまが、あさみの網膜を狂おしく彩った。

あ、あ、あ…

いつの間にか。
黒のストッキングをくまなく、舐め尽くされていった。
いやだ、こんないやらしいことさせちゃ、いけない・・・
麻美はさいごに残された理性を振り絞って、その場を逃れようともがいた。
「どこへ行こうというのだ?」
男のくぐもった声が、麻美の動きを支配した。
え…。
そうだ。血を吸い取られて惚けてしまった母親を家に残して、いったいどこへ行けるというのだろう…?
「ここにいなさい」
男の命じるまま、あさみはおずおずと頷きかえしてゆく。
少女が抵抗の意思を放棄したと見て取ると、男は初めて同情の潤いを、目じりに光らせた。
「すまないね。ほんとうはここには来たくなかったのだ。来るべきじゃ、なかったのだ」
男の呟きに、母さんが同調した。
「このかたね、死んじゃうところだったんですって。きょうじゅうにだれかの血を吸わないと。ぎりぎりまで、ガマンなさっていたのよ。わたしたち、良いことをしているのよ。お役にたってよかったのよ」
自分に言い聞かせるような語調だった。

ぴちゃ…ぴちゃ…

熱っぽく圧しつけられ這わされる唇が、たっぷり含んだよだれを、なすりつけてくる。
さっきまで同じ制服を着、おそろいの黒ストッキングで足許を染めていたクラスメート達は、いまごろ家でなにをしているころだろう?
難しかった数学の授業のおさらい?晩御飯の支度のお手伝い?
それなのにあたしは、みんなと同じ制服を辱められて、堕ちていこうとしている…
奈々美にちより、それに初子。
みんな、みんなをあたしは、裏切ってしまおうとしている…
抵抗しないということさえもが、男の不埒なやり口に手を貸すことにつながるのだ。
処女らしい潔癖さが、彼女の罪悪感をより色濃いものにしてしまおうとしていた。

けれどもそんな想いとは裏腹に、息荒く制服姿を組み敷いて胸元のリボンをほどきにかかっている男の手を、もはやさえぎることはできなくなってしまっている。

あっ…あっ…また首すじを咬むの?血を吸い取られてしまうの?
けんめいにいやいやをする小首を抑えつけられて。
首のつけ根のあたりに、尖った異物が否応なく刺し込まれてくるのを、麻美はどうすることもできなかった。

ちゅう~っ。

圧し殺すようにつづく吸血の音が、昏く細く、そして深く…麻美の鼓膜を震わせた。

131207 03 生き血を吸い取られて、ぐったり・・・


暖かな血潮が男の唇を濡らし、喉の奥へと含み込まれてゆく…
いつか身体じゅうを支配し始めた無重力状態に身を漂わせながら、あさみは不覚にも、悩乱していた。
いけない…いけない…血を吸われちゃうなんて。
あしたは、苦手な英語の授業がある。宿題もやらなきゃいけないんだっけ。
それにそもそも、麻美の血は、飲み物なんかじゃないのよ。
まして、こんないやらしい吸われかたをするなんて。
いままで真面目に暮らしていたのは、なんのため…?
でも、このキモチよさはなんなの?
身体が溶けちゃいそう…こんな気分に浸ってる場合じゃ、ないはずなのに…
母さんも、このキモチよさを、あさみに教えてくれたがったの…?

旨めぇ。旨めぇ…お前の血は、じつにエエな…
さっきまで麻美の嫌悪の感情を尖らせていたはずの男の下卑た語調が、いやに違和感なく鼓膜に吸い込まれてゆく。

そうよ、あたしはこの小父さまに、血を吸ってもらいたかったんだわ。
だから母さんにお願いして、紹介していただいたの。
処女の生き血を、味わってもらいたくって。
母さんは進んでご自分の生き血を、この小父さまにプレゼントして。
あたしのことも、紹介してくれて。
ストッキングの破らせかたまで、お手本を見せてくれて…
女学生の制服を辱めたいという小父さまのお気持ち、とってもわかる。
おねがい!…もっと麻美を、辱めて。
襟首の白のラインも、真っ赤に濡らしちゃって…
麻美のすべてを、差し出すから…

いつの間にか寄り添ってきた母親が、麻美の制服の二の腕をあやすように撫でさするのに、頷きかえすと。
母親はころころと哂いながら、自分で自分の首すじを撫でた。
吸い取られた血のついた指先が、こんどは麻美の首すじを這った。
その指に自分の噛み痕を撫でられながら。
足許にかがみ込んだ男が、黒のストッキングの脚をさっきからいたぶり抜くのを、男が唇を当てやすいように、脚の角度を変えて、応じはじめていた。
しつように圧しつけられた唇に、一層力がこもって・・・牙がググッと、沈み込んでくる。
なよなよとしたストッキングが恥辱にたまりかねたように、パチパチと音を立ててはじけた。
ストッキングの裂け目が拡がって、足許に帯びたゆるやかな束縛感がじょじょにほぐれてゆくのを―――
あさみもまた、ヘラヘラと哂いながら、愉しみはじめている。
理性を崩したあさみは、どこまでも昏く、堕ちていった…


無償で、わたしたちの血を差し上げるとおっしゃるのね?
きみたちの血を金銭ずくで差し出すほうが、無礼というものだろう?
そうね。それはそうだわ。
生命は保証されてるし、しょうしょうの貧血で済む程度のことだから…よろしく頼むよ。
わかりました。任せてくださいね。麻美もだいじょうぶ。仲良くなれたみたいだから。
それはよかった。あの子のことも気がかりだったんだ。しっかり頼むね。

父さんと母さんの会話。
そういえば何年かまえ、父さんはだれかに命を救われたって言っていたっけ。でも恩返しをしようとしても、受け取ってくれないって。
それならば…あたしたちが恩返しをするのは当然だ。
だって、父さんがいなかったら、あたしたちだって生きて行けたかどうか、わからないんだから。

麻美は吐息を胸の奥に収めると、ひと息深呼吸をして、それからドアを開けた。
おはよう~。
よくできました。いつもの屈託のない朝のあいさつ。
夕べはよく眠れたー?
台所からは、いつもと同じ調子の澄江の雑駁な声。
うんー、くたびれちゃってたから、ぐっすり。
そう。お疲れさんねー。きょう学校いけそう?
そのつもりだけど、うーん、どうかな…っ?
ムリしないでいいのよ。英語のテスト?いいじゃない、そんなもの。あとで取り返せば済むんだから。
珍しく澄江は、物分かりがいい。
そうねー。じゃあ母さん、あたし具合悪いからって、先生に電話入れといてー。

父さんにはナイショよ。
あの晩吸血鬼が立ち去ったあと。
母さんは麻美の腕を掴まえて、しんけんな目つきでそういった。
あなたも見てたでしょう?母さんがあのひとに、なにをされたのか。
あんなことは、だんな様としか、してはいけないことなのよ。
なにも視なかったことにして頂戴。
あのひとたちは、処女の生き血がお好きだから。
処女の操には、むやみと手を出さないの。
でも結婚してセックスを覚えた女には、容赦しないの。
むしろ、そのまま構いつけない方が失礼だと思っていらして…ルールなんだと、こっちがわきまえるしか、ないみたい。
なん回もされたけど…父さんのことが忘れられなかった。
忘れた方が楽だよ…って、教えてもらったけど。そんなの、母さんらしくないものね。ははは。
でももう大丈夫よ。あなたもそのうちに、していただきなさい。
齢が違い過ぎるし、結婚することはできないだろうけど。
ひと晩ふた晩お嫁にしてもらうのは、悪いことじゃないからね。
母さん、応援してるから。


父さんはどこまで、知っているのだろう?
案外全てを察しながら、なにも知らないふりを、つづけるつもりなんだろうか?
夫婦の息の合ったやり取りを目にしていると、何だかそんな気がしてくる。
わかった。それくらい、だいじなひとだということなんだね。
麻美も協力するから…

麻美は黒革の鞄を手に取っていた。
中身は下校してから、替えられていなかったけれど。
鞄を手にして玄関に向かう娘を、母親はたしなめた。
「おやおや、休むんじゃなかったの?」
「学校は休むけど~。黒のストッキング足りなくなりそうだから、スーパーで買ってくる~」
よくできました。あっけらかんとした声色で。
ははは。
母さんの笑い声が後から追いかけてきて、玄関までついてきてくれる。
なにを言いたいのか、すぐに察したらしかった。
父親のいるお茶の間のほうからも、和やかな空気が伝わってくる。
破かれちゃうのは嫌だけど…お愉しみなんだから、破かせてあげなくちゃね。
小声で娘がそういうと。
ついでに母さんのも買って来て。
母さんは一万円札を、握らせてくれた。
そんなに?
そんなに…よ♪
ウン、わかった♪

靴を履いて起ちあがろうとしたときに。
「血がまだついてるよ」
母さんは優しく、首すじを拭ってくれた。

131207 04 小父さまに破ってもらうストッキング、買って来なくちゃ。02




あとがき
「妖艶なる吸血」は、今回をもちまして3000回目の記事掲載となります。
皆さまのお支えがあってのことと、この場を借りまして深く感謝いたします。
なお、今回のお話はモデルとして出演いただいた神代あさみさんとのコラボレーション作品です。
ヒロインの麻美が初めて咬まれるあたりが、彼女に描いてもらった部分です。わかるかな?^^

吸血、寝取られ、近親相姦、女装、同性愛・・・
その他もろもろのマガマガしさを織り交ぜながら、「妖艶なる吸血」はまだまだつづきそうです。
どうぞ今後とも、暖かく見守ってやってください。

というわけで、いつになく改まったあとがきでした。
(^^)
2013/12/8 09:14:01 脱稿
同日 22:00 あっぷ

「あなたの叔父さまに、血を吸われたくなっちゃった」~公然と。そして、秘密裏に~

2013年12月06日(Fri) 08:03:41

あー・・・
いっしょに歩いていたみちるが、ふと足を止めて目を細める。
”発作”が起きたのだ。
つぎに彼女の可愛い唇から洩れる妖しいご託宣に、真沙雄は息をつめて聞き入る。

あなたの叔父さまに、血を吸われたくなっちゃった。・・・連れていってくれるわよね?

真沙雄はごくりと生唾を呑み込んで。ウン、と、頷いていた。
目つきに異様な熱気を帯びて、これも彼女とおなじように、以前よりはすこしばかり色あせた頬を紅潮させて。

真沙雄が年ごろになって、はじめて血を吸われた相手。
それは幼いころからなついていた、実の叔父だった。
若い女の血を欲しがる叔父のために。
さいしょは彼自身が、女生徒の制服を着て相手をするようになって。
両刀使いだった叔父に、初体験までさせられて。
やがて自分のほうから、クラスメイトを紹介していた。
生き血をたっぷりと摂れるような、身体つきの良い女子生徒―――その実彼が好もしく想っていた、彼女にちかい存在だった。

さいしょは素肌を侵されて、どちらかというと憤りにちかい感情さえぶつけてきたみちるだったが。
やがて彼氏の真沙雄を挑発するかのように、叔父との逢瀬に耽りはじめ、
目のまえで彼女の生き血を吸われることにマゾヒスティックな歓びに目覚めてしまった真沙雄と歩いているときに、これ見よがしに、「小父さまに血を吸われたくなった」と、口走るようになっていた。


投げ出された通学鞄が、畳部屋に斜めになって、ひっそりと口金を光らせている。
その向こう、制服のネクタイを弛めたみちるが、ウットリとなって。
飢えた叔父のまえ、ひざまずくようにひざを折って抱きすくめられていて。
首すじに這わされた唇は、ヒルのように妖しくうごめきながら、血潮を吸い取る音をひそやかに洩らしつづけている。

ちゅうちゅう・・・
キュウキュウ・・・

人をこばかにしたような、生々しい吸血の音に。
射精をこらえかねた真沙雄はふすまの陰に身を寄せて、あわててズボンを引き降ろしていた。

隠れちゃだめ。

うつろな目をしたみちるが発した声は、意外なくらいはっきりしていた。

見せて。

逆らいかねた真沙雄はおずおずとふすまの陰から這い出してきて。
グロテスクなくらいに怒張した瑞々しい茎が、どろりと濁った粘液をしたたらせる光景に、
みちるはうっとりと見とれた。
たたみにぼたぼたと、粘液は痕を光らせたが。
叔父は咎めることもせずに、ひたすら甥の彼女の生き血を飲み耽っている。


数日後。
電話のベルがTrrr・・・と鳴ると。
真沙雄はすぐに、受話器を取り上げた。

お前聞いているか?

あいさつ抜きの、叔父の声色は。
どこかからかうようでもあったけれど、秘密を共有する悪童の無邪気さに満ちていた。

みちるがこれから、俺のところに来る。
ただし俺から誘ったんじゃない。
向こうから―――血を吸われたくなったって、いま電話が入ったんだ。

真沙雄は受話器をおくと、飛び上がるようにして着替え始めた。


彼氏にことわってきたのか?

叔父の問いに対して、みちるは無言でかぶりを振る。

内緒で俺に逢っても、かまわないのか?

真沙雄は関係ない。

みちるの呟きは、ぶっきら棒なくらいに無表情なものだった。
じゃ、遠慮なくいただくぜ。

隣室の覗き窓から嫉妬にみちた甥の視線があるのを知りながら。
叔父は遠慮なく、みちるの制服姿に、手をかけてゆく。
無言でジャケットを脱いだみちる。
掴んだ二の腕を包む白のVネックセーターの襟には、紺色のラインが入っていた。
いつも見慣れた制服姿。
みちるはいつものようにネクタイをゆるめて、叔父の牙を迎え入れてゆく。

しくっ。

なにかが股間で、妖しく疼いた。
公然とされてしまう凌辱とは、趣の異なる昂ぶりが。
真沙雄の胸の奥を、淫らに浸す。

ちゅう、ちゅう・・・
ごくっ、ごくん。

吸血の音が、いつも以上になまなましい。
いまではすっかり常習的な献血者になり果てた彼女の母親が耳にしても目を蔽いかねないむざんな吸血の音に、真沙雄は瞳を輝かせて聞き入った。
みちるの目つきさえもが、いつもと違うようだった。
女の何かを賭けているのが、女性経験のない真沙雄にも、ひしひしと伝わってくる。

叔父さま。

叔父の両肩に腕を回したみちるが、うっとりとした上目づかいで叔父を見つめる。
小づくりで可愛らしい唇が半ば開かれて、白い歯並びをみせる。
阿吽の呼吸だった。
ふたりはどちらからともなく、唇に唇を重ね合わせてゆく。
熱く。熱く。それは熱っぽく・・・

あ、あ、あ・・・

自分さえもが体験したことのない、ファースト・キスを。
目のまえでみちるは、叔父と交し合ってしまっている。
みちるは自分の目のないところで、平気で唇を許していって。
叔父は自分の視線があることを知りながら、許された唇をこれ見よがしに受け取ってゆく。
ぴったりと合された、肩と肩。
離れるのまでに、かなりの時間がかかった。

しずかにあお向けになったみちるは、おずおずとセーターに手をかけて。
ずりずりとむぞうさに、たくしあげてゆく。
ブラウスの釦を、ひとつひとつはずされてゆきながら。
こちらの存在に気づいているわけはないのに、目線をまっすぐに、こちらに向けてきた。
虚ろに輝く瞳は、それでもウキウキとした歓びをよぎらせていて。
ブラウスのすき間に手をやって、ブラジャーの背中のホックをはずそうとする叔父を手伝うように、身を半ば浮かせていた。

ほどかれたブラジャーの下から現れた乳房。
初めて目にするそれは、あまりにも眩しくて。
視てはいけないものを視てしまったととっさに感じた真沙雄は、思わず覗き窓から目をそらしたほどだった。
あわててもういちど覗きこんだ窓の奥。
ピンク色をした乳首は、その存在感を主張するように、ピンとそそり立っていて。
ちょうど―――叔父の唇に呑み込まれてゆくところだった。

くちゅ。くちゅ。
むぅ・・・ん。

乳首を舐める聞えよがしな音には、生唾のはぜる音さえ、入り交じっていた。
ああ。ああ。みちるのキスを。乳首さえも・・・
恋人を侵蝕されてゆく歓びに、真沙雄は股間の怒張が最大限になったのを感じた。
じわっ。
ズボンにみるみるしみ込んでゆく、なま温かい間隔に。
彼は思わず傍らのティッシュボックスに手を伸ばす。

あお向けになったみちるは、両腕をだらりと畳のうえに伸ばしていて、抵抗の意思を全く、放棄していた。
恋人のために我が身を守る務めを、まるきり忘れ果てて。
左右の乳首を代わる代わる呑み込んで、クチュクチュいたぶる唇の蠢きに、
心地よげに目を細めていた。



えー、きのうの放課後?
おうちにまっすぐ帰って、おベンキョしてたよ。
だって定期テスト、もうじきじゃない。
まるきり優等生の顔に戻って、夕べの弁解をするみちる。
現場を目の当たりにしていなければ、思わず信じてしまうくらいだった。
けれども騙されていることが、否騙されていることさえもが、いまの真沙雄には快感でならない。
自分のほうから、手をつないで。

きみ、体調はOK?

エエ、だいじょうぶ。色気ぴちぴち~。

ふざける彼女のおでこに、いつものようにキスをすると。

叔父さんのうちに行こ。きみが襲われているところ、どうしても視たくなった。

えっち。

嬉しそうに彼女は応じる。
いっしょに歩く道すがら。
彼女は自分のほうから、身を近寄せてきて。

ずうっと、いっしょだからね。なにがあっても。

さいごのひと言には、深い意味があったのか。なかったのか。

数刻後―――

真沙雄のまえで自分からセーターをずり降ろし、叔父にブラウスの釦をはずされていきながら。
自分に注がれる熱い視線をまともに見返す、熱っぽい視線。
けれどもその視線すら眼中になく。
真沙雄はもっと、即物的なことに、興味をそそられてしまっている。

えっ、えっ、きょうのブラって、フロントホックじゃん。。。

きのうブラジャーをはずすとき、わざと身を浮かせて、背中のホックをはずさせたとき。
フロントホックのほうがお互い楽じゃないのって思ったの。
そんな彼女の心の声さえ、聞こえてくるような気がした。

わっ、乳首舐められちゃう。これ、くすぐったいんだ。ドキドキしちゃうんだ。
きょうは真沙雄の前で、やり遂げちゃうんだ。
もうだれにも、後ろ指差されない。
だって彼氏だって、許してくれるんだもの。
乳首。乳首。恥ずかしいほどピンと反りたった乳首。
はやく、彼の視線から隠して頂戴。よだれで濡らしちゃっても、かまわないから―――
真沙雄ったら、昂奮してるでしょ?いやらしい。
あたしが侵食されるのを見るの、楽しい?
あなたのまえであたし、オトナになってあげる。
帰り道では、しっかりフォローするんだよっ。
思いきり、からかってあげるからね。

そんなみちるの声さえもが、心と心を通して、伝わってくるようだった。

ずうっといっしょだよ、なにがあっても―――

ここへ来る道すがら、彼女が発した囁きが。
なによりもありありと、彼の鼓膜に沁み込んでいった。


あとがき
何回か前に連作した、真沙雄とみちるの物語です。
前作の直後に構想したのですが、なぜかまとまりませんで、いまごろのあっぷになりましたとさ。^^

妻を侵されたあくる朝。

2013年12月05日(Thu) 08:05:35

夕べ遅くに、帰宅したとき。
妻の静江はなぜか、いつもPTAに着て行く一張羅のスーツをまだ、身にまとっていた。

おかえりなさい。

いつになくよそよそしくて他人行儀で。疲れ切ったような声色だった。
よく見ると、顔色がひどく、蒼白かった。
娘も息子の真澄も、ひどく白い顔をしていた。
自分のいない自宅でなにが起きたのか。
一瞬にして、悟らざるを得なかった。
妻はまだ、派手に裂け目を拡げて破れ落ちた肌色のストッキングを、まだ身に着けていた。

落ち着かない気分のまま夕食を終え、子供たちも部屋に引き上げてしまうと。
妻は改まった口調で、夫に告げる。

久しぶりに、お目にかかってしまったの。

え・・・?

真澄のお相手の吸血鬼さんって、あのひとのことだったんですよ。

ああ、そういうことか。

長年連れ添うと。相手の言いたいことが、一言半句でわかってしまうものらしい。
そのあとなにが起こったのか・・・そこはもう、訊くのも野暮な話だろう。

これからどうするんだ?

真澄の彼氏になるんですって。
彼氏なんですもの、うちにもきっと、よく見えられますわ。

しぶしぶだったけれど。
口を開かずには、いられなかった。

あいつにも、女子の制服を買ってやらなくちゃならないみたいだな。

そうですね。

妻はまだ、俯いたままだった。

それにあのかた、真澄ばかりがお目当てじゃないんですのよ。

罪悪感とは無縁の居直りが、女の顔に描かれてあった。
どうしても夫としての体面を保ちたいのならば・・・寛大な夫になるしか、手はなさそうだった。

さいしょは自分の彼氏だった。
男は彼に、ストッキング地の長靴下を履くようにねだり、希望通りにすると、ふくらはぎを吸われつづけた。
きっとそのころから。すでに静江のことがお目当てで。
静江が勤めに出るときに履いているストッキングを噛み破る予行演習を、その婚約者の足許で実践していたに違いなかった。
薄手のナイロン生地の擦れる感覚が妙に妖しく、気づいた時にはもう、虜になっていた。
男は彼に、婚約者の純潔までねだり、彼は願いをかなえてやると、約束させられていた。
約束は「させられた」のか。「してしまった」のか。
いまでもそのあたりは、ひどく記憶が妖しかった。

あなたのいらっしゃらない時間に済ませますから・・・
気を使わせてしまうね。
イイエ、わたくしのほうこそ、申し訳ありません。
珠代のこともきっと、犯してしまうんだろうな。
あの子の結婚が決まりでもしたら、きっと・・・

ふふふ。
夫婦どちらからともなく、含み笑いをして。
お互い表情を改めて、身を近寄せあっていく。
嫉妬までもスパイスにする夫婦の夜は、きっととても長いのだろう。

母を侵されたあくる朝。

2013年12月05日(Thu) 07:55:53

迷わずに、通学路を逸れていった。
クラスメイトの勝巳も、もちろんいっしょだった。
はじめて血を吸われた生徒が夢中になって、しばらく学校に来ないということはよくあることなので。
おそらくだれにも、咎められないだろうということだった。

ウン。ウン。きょうも学校、休むから。〇〇先生に、連絡入れといて・・・
受話器の向こうの母親の声が、いつになく他人行儀に聞こえる。
「そう、わかったわ。連絡入れておきますけど、ほどほどになさいね」
きのうはあんなに、夢中になっちゃっていたくせに。
取り澄ました母親の声色が、却って滑稽なお芝居をしているようにさえ思えてしまう。

このあいだ、この家ではじめて血を吸われたときに。
男は背後から、電話が終わるのをうずうずしながら待ちかねていた。
あのときの、恐怖と期待の入り混じった想い―――たぶん一生忘れることはないだろう。
そしてきょうの場合は、男はずっとなれなれしくなっていて。
電話が終わる前から、真澄の足首を掴まえていて、
黒のストッキング地のハイソックスのふくらはぎを、舌を出してチロチロと舐めつづけていたのだった。

さあ、どうぞ。遠慮なく噛んで・・・
困っている人になにかを恵むような、寛大な気持ちになって、足許を見おろすと。
男は上目遣いにこっちを見あげてきて。
も少し、愉しませろ。
そういって、なおも薄手のナイロン生地のうえから、真澄の脛をいたぶりつづけていった。
傍らでは勝巳が首すじを咬まれて、早くもワイシャツにバラ色の飛沫を撥ねあげている。


夕べは愉しかったなあ。
真澄の足許から引き抜いたストッキング地の長靴下を舌で舐めながら。
男は夕べの想いを反芻しているようだった。
薄手の長靴下は、父からもらったものだった。
はじめて血を吸われた日。
母さんが父さんに僕のことを話して聞かせて。
「きちんとお相手を務めてきたそうよ。褒めてやってくださいな」
そう促されると。前もって用意していたらしい、封を切っていないのを一足、渡してくれたっけ。
ところが今朝家を出るときに、制服の上にさりげなく置かれていたのは、すこし履き古したやつだった。
ということは。
今朝咬み破られて、いま目の前で弄ばれている靴下は、父が勤務先に履いて行ったことのあるもののはず。
いまごろ、真面目に会社で執務しているに違いない父さんの足許を包んでいた履きものが、
いま息子の脚にまとわれて嬲りものにされて、ふしだらなあしらいを受けている。
落差がなんともいえないなあ・・・
真澄はなぜか、股間が不覚にも逆立ってくるのを覚えた。

夕べは大活躍だったんだって?
一戦終えたあとのサバサバとした顔をして、勝巳が声をかけてきた。
そーだよ、真澄くんは姉さんを誘ってうちに来て、処女の生き血を吸わせてくれたんだ。
そのあと家にまであげてくれて、二人してお母さんをまわしてきたんだぜえ。
勝巳の叔父は、自分の自慢をするような口ぶりで、真澄の”活躍”ぶりを披露してくれた。
そんな・・・言い過ぎだよ。
真澄は自分がみんなの前で誇らしげに照れ笑いをしているのに気がついて、不思議な気がした。

姉さんを襲われて。処女の生き血を吸い取られて。
それから母さんまでふたりのまえで襲われて、輪姦までされちゃったのに。
ほんとうだったら父さんの代わりに、怒ったり悔しがったりしなくちゃならないはずなのに。
どうしてこんなふうにされちゃったことが、嬉しいんだろう?

けれども実際には、姉さんが勤め帰りのブラウスに血を滴らせながらチュウチュウやられてしまったのを視て、とてもドキドキしてしまったし、
母さんがいつもPTAの会合に来て行くよそ行きのスーツをだらしなく半脱ぎにしながら、男ふたりと仲良くイチャイチャしてしまうのを目の当たりにして、むしょうに誇らしい気分になってしまっていたのは事実だった。
姉さんの生き血の味を、気に入ってくれたのが、すごくうれしかった。
肌色のストッキングを噛み破かれるとき、姉さんはひどく嬉しそうに、きゃーきゃー騒いでいたっけ。
母さんが良い身体をしているって褒められたのが、息子として誇らしかった。
連れてきてよかったと、心から思ってしまった。
母さんに叱られないことにもほっとしたけれど、着くずれした服を身づくろいしながら、「母さんもまんざら、すてたものじゃないわけね」思わず口走ってしまったのを、とてもほほ笑ましく受け止めていた。

その昔、遠い日に。
結婚を控えた父さんと母さんのまえ。
この男は母さんへの心情を吐露して、同情した父さんは、母さんへの想いを遂げることを許してあげたという。
婚約者のまえで着衣を剥ぎ取られ、身体を開かされて。
父さんがプレゼントするままに、母さんは歯噛みをして羞じらいながら、純潔を精液まみれにされていったそうだ。
父さんもきっと、いまの僕と同じ気分だったのだろう。
これから家族を侵蝕される。いや、すでに犯され抜いてしまっている。
歪んだ歓びが、真澄の胸の奥を、どす黒く衝いた。

父さんのこと考えてるだろ?
勝巳の叔父は、図星をいった。
相手のよっちゃあ、女房を寝取られるのは、悪いもんじゃないんだぜ。
真澄の情夫気取りの相棒も、楽しげに言った。
こいつな、夫婦ながら血を吸われたんだ。
奥さん目当てだって知りながら、さいしょに手本を見せて、酔い酔いになっちゃって。
自分のあとに生き血を吸い取られた奥さんが侵されちゃうのを、尻もちついたまま、ヘラヘラ笑いながら見ていたんだってさ。

うー、思い出してきた。たまんないな・・・おい、勝巳、悪いけど相手してくれよ。
彼が背後のふすまの向こうに行った勝巳に声を投げたとき、
真澄は声を呑んでいた。
「オレ、明日から女子生徒として通学するから」
どこで手に入れたものか、勝巳が身に着けているのは、女子の制服だった。
濃紺のブレザーに、赤とグレーのチェック柄のスカートの下。
真っ白なハイソックスがキリリと、足許を引き締めている。
さ、こっちさ来・・・
勝巳の叔父は兄の跡取り息子であるはずの勝巳を、女子生徒として隣室に連れ込んだ。

・・・うらやましいかね?
ひとり残った男が投げた言葉は、半分以上図星だった。

通学路を逸れた足どり。

2013年12月05日(Thu) 03:17:55

おはよう。
雪田真澄は不意に声をかけてきた同級生の氷室勝巳の顔色をみて、あっと声をあげそうになった。
鉛色の頬は、きのうまでの勝巳とは、まるで別人だった。
それがなにを意味しているかは、この年ごろの男女ならだれでも知っていることだった。
だれもが通り抜ける道。
この街に隠れ住むいくたりもの吸血鬼のひとりに、彼が毒牙にかけられたことを意味していた。

今さらながら・・・と、照れ臭そうに。
勝巳は口許に照れくさそうな笑みを泛べる。
その笑みすらが、鉛色の頬の下では、ちょっと冷笑を含んでいるようにさえみえた。

とうとう、血を吸われちゃったんだ。
えー・・・
絶句するなり黙りこくってしまったのは。
さすがに、おめでとう、とも言いかねたし、かと言って御愁傷さま・・・というのも、さらに気が引けたから。
・・・痛くなかったのかい?
愚問には違いないが、この際真澄がとっさに考えついた反応としては、もっとも常識的なあいさつだった。
・・・うーん、そうだね。痛かったって記憶は、ないかな。
勝巳はふたたび、笑みを洩らす。
いつにない、ミステリアスな笑みだ。
・・・怖くはなかったの?
・・・相手が叔父だったからね、それは平気だったよ。
顔色が変わるほど生き血を吸い取られてしまったというのに、勝巳の足取りはいつになく軽い。
いつも速足の真澄が置いていかれそうになるほどにテンポが速く、リズミカルでさえあった。
どうしてかな、この浮き立つような雰囲気は。
不審に思った真澄は、何気なく勝巳の足許に目をやった。
濃紺の半ズボンの下。
いつもの制服の一部として脚に通している同じ色のハイソックスはそこにはなくて、
母さんや姉さんが穿いているような、薄々のストッキングみたいな生地をした、黒のハイソックスが、脛を蒼白く染めていた。
ひどくなまめかしい色合いに、真澄はいけないものを視てしまったように、目をそむけた。
え?視てもいいんだよ。というか、よかったら視てくれる?だれかに見せびらかしたかったんだ。
当の勝巳は、平気な顔をしていた。
きょうはいっしょに登校するけど・・・途中でお別れするからね。
叔父さんに血を吸ってもらう約束してるんだ。
学校にはもう母さんから欠席の電話入れてあるから・・・


欠席の電話入れなくても、よかったの?
勝巳はさすがに心配そうに、真澄のほうをふり返る。
うーん、そうだね・・・家で心配するといけないから、ちょっとだけ気になってる。
そうだよね。やっぱり連絡しておいた方がいいよ。叔父の家から、うちに電話すればいいじゃん。
ふたりの足取りは通学路を逸れて、勝巳の叔父の家のほうへと向けられている。

うん・・・そう。きょうは勝巳くんと、いっしょだから。学校休むから・・・
母親に電話をかけている真澄の背後で、勝巳は五十年輩の叔父に抱きすくめられ、早くも首すじを吸われ始めている。
その傍らでもうひとり、同年輩の顔色のわるいのが、真澄の電話が終わるのを、今か今かと待ちあぐねていた。
男ふたりを相手に血を吸わせなければならなかったはずの勝巳は、いっしょに行きたいという真澄の申し出を、ひどくよろこんだ。
そして、ストッキング地の長靴下に目を留めつづけるクラスメイトに、さいしょは制服のハイソックスを噛ませてあげるのが基本だから・・・と、自分も昨日は制服の一部である長靴下を吸血鬼の欲望のまえにさらしたことを白状していた。

受話器をおいた真澄のかたわらに、待ってました、とばかりに、べつの吸血鬼がにじり寄ってきた。
あっという間もなかった。
紺のセーターの二の腕を掴まれるや否や、真澄は瞬時に押し倒されて。
あれよあれよという間に、身じろぎひとつできないほどきつく抑えつけられて、首すじに唇を吸いつけられていた。
ちゅう・・・っ。
生き血を吸い上げるひそやかな音が、森閑と静まり返った部屋のなか、なまなましく響いた。


ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
キュウッ、ごくり・・・ごくん・・・
互いに競い合うように。
ふたりの少年の足許から、血潮が抜き去られてゆく。
ひとりは、ストッキング地の長靴下に裂け目を走らせ、蒼白く透き通った脛を滲ませながら。
もうひとりは、制服の一部である濃紺のハイソックスのリブを、ぐねぐねと歪められるのを羞ずかしがりながら。
ふたりは時折互いに視線を交わし、お互いの首すじに一対ずつ点けられた咬み痕に赤黒い血のりが綺麗に輝くのを、認め合っている。
きょうはきみのほうが、おいしい獲物みたいだね。
勝巳はからかうように真澄を見、真澄は照れくさそうに笑いながら、自分の履いているハイソックスに幾度も穴をあけ続ける、父親よりも年上の相手をしきりに見返っている。
ふたりの吸血鬼は、時おり獲物を取り替えっこして、各々の足許にとりつくと。
ユニセックスな感じの漂う少年ふたりの足許を、いやらしく辱めつづけている。
けれども、飢えが収まるにつれ、彼らのあしらいは、気遣いに満ちた愛撫に変わり始めていた。
ボクも、鉛色の顔になっちゃうのかな。
しょうがないね。民田や溝沼のときだって、そうだったもの。
あしたはふたりして、鉛色の顔をして登校するのだ。
そう思うと、真澄はなぜか昂ぶりに震えてしまうのだった。


鉛色の顔をして帰宅してきた真澄を、母の静江はだまって迎え入れた。
登校していった息子から電話を受け取った彼女は、息子の身になにが起きようとしているのかを、正確に把握していた。
すぐに、いっしょだという勝巳の母に、電話をしていた。
ふたりは顔見知りで、いっしょにPTAの役員をやった間柄である。
―――それはそれは、まあ・・・まあ・・・うちの勝巳が息子さんをお誘いしたなんて・・・
―――いえいえ、そういうご事情でしたら、真澄の血が役に立ってなによりですわ。
まるで世間話でもするように、自分の息子たちが血を吸われているという異常な事態を語り終えると。
静江はふっと吐息をついて、すこしくたびれた自分の顔を鏡に映してみた。

ただいま。
敷居をまたいで通学鞄を重たそうにその場に置いた真澄は、顔色こそわるかったけれど、ひどく明るい表情をしていた。
だいじょうぶ?いっぱい吸われたみたいだね。
ウン、美味しい美味しいっていわれて、ついのぼせあがっちゃった。
お風呂に入って、少しおやすみなさい。
そうだね。そうする・・・
下校してきた息子とその母親の、ふつうの会話。
閉ざされた浴室の扉から洩れてくるシャワーの音に、静江はふたたび、ほっとしたような吐息をついた。


濃紺の半ズボンの下は、黒の薄々の長靴下だった。
昨日あれほどあこがれた勝巳とおなじ彩りが、自分の足許を蔽っているのを。
真澄は満足そうに見おろしている。
きょうはひとりきりだった。
ひとりきりで、勝巳の叔父の邸を訪ねていって。
にじり寄ってくる男ふたりの吸血鬼に、制服姿の我が身をさらしてゆく・・・
ひとりの唇が首すじを這い、
もうひとりの唇が薄い靴下を皺寄せる。
ひとりの牙がうなじのつけ根に吸い込まれ。
もうひとりの歯形が、しなやかなふくらはぎを侵してくる。
じわじわと吸い取られてゆく血液が帯びる熱気と活力が、顔色のわるい二人の吸血鬼を満足させるのを。
傷口のうえをヒルのようにうごめく唇のもたらす擦れるような微痛と、時おりあがる随喜の呻きとで、自覚しながら。
真澄はきのうの勝巳のように、ウフフ・・・とくすぐったそうに笑って肩をすくめる余裕を覚えていた。


きみの姉さんのことなんだけど。
ためらいながら話しかけてくるユキヒロ小父さんの顔色は、きのうの朝よりもたしかに、好くなっている。
姉貴が、どうしたの・・・?
改めて訊くまでもなかった。
自分の履いていたストッキング地のハイソックスは、くまなく唇を這わされてみるかげもなく破れ果てて、
いまは男の手の中でもてあそばれている。
姉さんが勤め帰りに穿いている、肌色のストッキング。こんなふうにしたいっていうんだね?
真澄は自分の口からそう言わせたかったという男の意図を察して、わざとのように男の願望を言葉にかえてやっていた。

どうしたのよ?ひとをこんなお家に連れてきて。
駅で45分も待ち続けたかいがあった。
改札を出てきた姉の美智子は、おかえり、と声をかけてきた弟に「ちょっとつきあってくれる?」と言われるままに訪ねてきた邸のなかの、招き入れられた部屋の狭苦しさと見慣れない調度の数々とに、あきらかに戸惑っていた。
もう少し、もうすこしだから・・・
真澄は自分の声がウキウキとはずんでいるのを、自覚した。
そんなに姉が生き血を吸われるのが愉しいのか?と自問しながらも。
姉を罠にはめるというイタズラに、かすかな罪悪感を覚えながらも、
その罪悪感すらもが自分の嗜虐心を逆なでするのを、どうすることもできずにいた。

あらわれたふたりの吸血鬼は、うろたえる姉に無言で迫ると、真澄の目のまえで組み敷いていった。
男の子たちのハイソックスをもてあそんだ唇たちが、姉の白い首すじを這い、肌色のストッキングをブチブチと音を立てて噛み破いていった・・・


もうっ。そうと知っているんなら、はじめからちゃんと言いなさいよね。
頬をふくらませてぶーたれる姉に、真澄は辟易しながらも、肩を並べて夜道を急いだ。
思いっきりハデに引き破かれた肌色のストッキングは、片方はひざ小僧がまる見えになるくらいに裂け目を拡げて、もう片方はひざ小僧の下までずり落ちていた。
ボクのハイソックスより、丈がさがっちゃったね。
生意気を言う弟の頬をつねりながらも羞じらう姉が、いつもより女っぽくみえた。
背後をぴったりと、男ふたりが影のようにつき随ってくる。
姉にも弟にも、ためらいはなかった。
男ふたりを相手に吸血に応じた姉は、自分の身体から血液が吸い取られるのを気丈にも耐え抜いたあと。
ふたたび身を起こしたときに、乱れた後れ毛を掻きやりながら、呟くように言ったのだった。
―――母さんの血も、吸ってもらお。


姉弟の母の静江は、きょうもくたびれた顔をして、鏡の中の自分の顔に見入っていた。
いつもより濃く刷いた化粧が、すこしだけ彼女の面影を若やいだものにしていたけれど。
目ぼしい服といえば、PTAのときに来て行くスーツしか見当たらなかったことを、今さらながら残念がっていた。
濃いグリーンのジャケットに、ひざ丈のタイトスカート。
タートルネックじゃない方が、よかったかしら?と今でも迷っている黒のセーターは、彼女の首まわりをいっそう白くきわだたせていた。
足許を引き締める肌色のストッキングは、いつものとは違って光沢を帯びていて、別人のようになまめかしく見える。
帰りがちょっと遅れるから・・・娘の電話を受けてから、急ごしらえにおめかしをして。
なにもなかったら、ばかみたい。
けれども自分の気遣いが決して無駄にならないことを、彼女はもうじき思い知ることになる。


あなたでしたのね・・・
遠い想い出が、ひとときによみがえっていた。
来てくれた息子さんの顔をみて、もしやと思っていたんです。
クラスメイトの叔父の悪友、という遠い縁故のはずのその男は、真澄のまえではじめて、照れた顔つきをみせていた。
なれ初めは、母がまだセーラー服の女学生だったころのことだった。
以来、胸元を締める真っ白なネクタイを何本、バラ色の飛沫に染めてきたことだろう?
彼に自分を紹介したのはほかでもない、当時の彼氏・・・いまは夫となっている美澄だった。
中学にあがる娘を都会に出したの、意味がありませんでしたね・・・
そんなことはない。いまどきはたちを過ぎて未経験なんて娘、この街では貴重だ。
男はいつか、敬語をかなぐり捨てていた。
瞬時にそういう関係を、取り戻してしまったから。
処女には手心を加えても、既婚の女性を相手にすると、必ず犯す・・・それが彼らのしきたりであり、礼儀だったから。

クラスメイトの叔父と、母自身の初恋の相手とが、代わる代わる母の濃い緑のスカートの奥になまなましい粘液を吐き散らしている隣の部屋で。
顔色をわるくした姉弟は、ジュースで乾杯している。
母さんの旧交復活に乾杯・・・かな?
姉はさばけた口調でそういうと。
あなた、本当はジュースじゃもの足りないんでしょ?
姉は穿き替えた肌色のストッキングの脚を、ピンクのスーツのすそからそう・・・っと見せびらかしてゆく。
悪いね。
真澄はそういった唇のうごきを止めると、そのまま姉の足許へと、かがみ込んでいった。

あなた、彼女ができたらあのひとに、紹介しちゃうんでしょう?
あたしの血は、力水かな?そうね。きっとそうだね・・・
虚ろな声を発する格好の良い唇は、いつか母さんみたいに、男のひとにもててみたいな・・・と、キケンな言葉さえ、口にし始めている。