淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
やはりコチラは、テキストサイトですんで・・・ (^^ゞ
2014年05月25日(Sun) 08:15:56
久しぶりに、お話を三つも、連続あっぷしました。
ちなみに今朝のお話は、思い浮かんだ順番とは真逆の順序であっぷしました。
さいごにあっぷしたお話が、いまいち焦点ぼけしてしまっているかも知れないのは、そのせいです。
苦笑
今年になってから、才能の枯渇に拍車がかかりまして。
なんと、入力画面じか打ちの従来のスタイルを取れなくなって、かなりのものが、下書きをしたものになりました。
といって、作品の質は向上したというよりも、どちらかというとグレードダウンしているような・・・
ーー;
そういう理由でブログを閉めたり断筆宣言をしたりするつもりはないのですが、
あまりにキレが悪いと、あっぷそのものがどーしても、おっくうになりますね。^^;
先般は、画像をメインにしたものをふたつほど、あっぷしました。
テキストサイトが画像に頼るのは堕落である・・・などという持論は、じつは持論としてあるのですが。
(ちなみにご承知のとおり、ビジュアル系のサイトのほうが、カウンター値とかは桁違いに取れるんです)
そのいっぽうで、お話を具現化したような画像を集める・・・ないしは自分で撮る・・・という行為にもまた、情熱を感じるところでもあるのです。
今後は画像系のお話も、たまにあっぷすると思います。
画像とお話とが呼び合うような、力のあるものを描けるといいと感じております。
愉しんでいただけたら、幸いです。
画像の提供を頂いた女装子さん、サイトの運営者さま等々・・・には、日々感謝の念を新たにしていることを、さいごにつけ加えさせていただきます。
嫌われものたちの祝婚歌
2014年05月25日(Sun) 08:06:31
き、吸血鬼・・・っ!
ひとりの少女がそういって、声を引きつらせると。
や、やだあっ・・・!
もうひとりの少女も声をあげて、その場を逃れようとした。
無駄な抵抗だった。
逃走の試みは、手慣れた追及をまえにあっさりと望みを絶たれて。
少女たちはつぎつぎと首すじを咬まれて、おそろいの制服姿をこわばらせていった。
あーっ。
片方の少女があげた絶望的な叫びに、咬んでいるほうの男が残念そうに目を瞑る。
けれどもその唇はヒルのようなしつような蠢きを停めることはなく、
舌なめずりさえしながら、ほとび出る血潮を口に含んでゆく。
力尽きた少女たちは、思い思いの姿勢で倒れ臥して。
顔色に生気を取り戻した男たちは、吸い取った血をしたたらせながら、
倒れた少女たちのうなじやわき腹、太ももや二の腕と、思い思いに咬みついていった。
そりゃ、嫌われるよなあ・・・オレたち。
やっぱり、そうだよね。嫌われるよね。
でもどうしても、若い女の子の血が、要るんだよね・・・オレたち。
そうさ、そうじゃないと、死んじゃうんだもの。
ふたりの吸血鬼は、制服のブラウスを血に染めて気絶したクラスメイトたちを見おろして、
手の甲で口許を拭いながらも、残念そうな声色を交し合う。
いくら吸血鬼でも、同級生の女の子に嫌われるのが寂しいことに、変わりはないのだ。
吸血鬼と共存するこの街で、吸血の習慣のある男子がそうでない女子を襲うのは、日常茶飯事だったし、
狙われた女子生徒は必ず、吸血に応じることになっていたから、
たとえ嫌々であっても、彼らは容易に、血を獲ることができるのだった。
吸血鬼は人を殺(あや)めない。人は吸血鬼を拒まない。
両者のあいだで交わされた、ぎりぎりの妥協点だった。
その恩恵にあずかりながらも・・・ふたりの若い吸血鬼にとって、年頃というのはやはり、悩む季節であるらしかった。
ああ・・・
ひとりが目覚めると、
うーん・・・
もうひとりもまた、われにかえっていた。
若いということは、回復も早い・・・ということなのだろう。
ふたりの少女は、さっき自分たちの血を吸ったばかりの男子たちをみて、
ヒッ・・・と声をあげ、抱き合わんばかりにして後ずさった。
だいじょうぶ、だいじょうぶだから・・・って!
荘野カオルの血を吸った飯浜浩太が、弁解するように手を振ると。
いや・・・ってゆうか・・・すまなかった。
姫川百合香の血を吸った鬼塚竜希が、目を伏せた。
お前、彼氏いるだろ?
飯浜浩太がそういうと。
だからって、なによ。
気の強い荘野カオルは蓮っ葉な口調で、男の好奇心をはね返した。
お前、処女だったんだな?
鬼塚竜希がそういうと。
そういう話は・・・
おとなしい姫川百合香が目を伏せて言葉を切ると、竜希も黙りこくってしまう。
悪いけど、もう少しだけつきあってくれ。
男子ふたりが、どちらからともなくそういうと。
いっぺんで済ましなさいよね。
荘野カオルは憎まれ口をたたき、
少しだけですよ。
姫川百合香は羞じらいながら、求められるままにうつ伏せになってゆく。
真っ白なハイソックスのふくらはぎに、少女たちは圧しつけられる唇がなまぬるい唾液をしみ込ませて来るのを感じて、
ひとりは悔しそうに歯噛みをして、
ひとりは嫌悪のあまり目を伏せていった。
竜希が姫川百合香とつきあい始めたのは、それがきっかけだった。
週1なら、いいわよ。
おずおずとそう告げる彼女の来訪は、週2になり、週3にもなった。
月、火、水・・・と家に来た彼女が、また次の日も来ようとするのを察して。
身体だいじょうぶか?と声をかける竜希に、
そういうひとだから、OKしてるの。
百合香はそういって、きょうも真新しいのをおろして履いてきた白のハイソックスを、恋人に咬ませるために引っ張りあげていた。
彼氏のOKもらった。
彼氏が予備校のときと、サッカーのときは、逢ってあげるから。
でも、バイトのときは、だめだからね。
働いてるのに、悪いじゃん。
荘野カオルは浩太を、浩太の親友だという彼氏のところに引っ張っていって、三人で話し合ってすべてを決めた。
かわりになぐっていいよ。
彼氏のパンチでできた浩太のぶざまな青タンに、カオルは声をたてて笑った。
彼女ができるまで、あたしが養ってあげる。早くいい女見つけなさいよ。
制服は汚したら、ダメ。
あくまで厳しくはねつける少女の首すじに、浩太はそれでも臆面もなく、唇を吸いつけてゆく。
ほんとうに・・・血が好きなんだね。
カオルの目線にかすかな同情が滲んだのは。
親友の彼女の血を吸ってはいけない という自制と彼が闘いながらも本能にねじ伏せられてゆくのを、じかに感じ取ったからだった。
紹介されたカオルの友達は、みんないい子ばかりだった。
とくにおすすめされた子は長い黒髪の美人で、彼女だけはなん度も回を重ねて血を吸った。
(ということは、ほかの子とは一回限りだったことも意味していた)
けれどもなんとなくしっくりこないものを、浩太は感じていた。
彼女のほうから断ってきた・・・そうカオルに聞かされても、予期したことが起こったという感慨しかわかなかった。
彼女、言ってたよ。浩太はほんとうは、あたしのことが好きなんじゃないかって。
迷惑だからね。あたしにはちゃんと、彼氏いるんだしっ。
きつ過ぎる語尾が装われたものだということを、男女どちらもが、気づいていなかった。
数年後。
婚約、おめでとう。
浩太は独り、カオルのまえで拍手していた。
ばっかじゃないの?あんた。
カオルはどこまでも、浩太のお人好しさをはね返してゆく。
竜希と百合香だって、結婚するんじゃない。あんただけだよ、あぶれてるの。
わかってる。
おれはずうっと、それでいいから。納得してるから。
すべて悟りきってしまったような浩太の言い草に、カオルは目をそむけつづけている。
あたしが子供産むときは、逢ってあげられないんだからね。
そのときは百合香の血をくれるって、竜希が言ってくれた。
両方同時だったら、まじ困るじゃない!子供生むのが。
カオルは相手を徹底的に追い詰めてしまったと気がつくと、ひと言「ごめん」とだけ、いった。
でも、百合香のことを竜希くん譲ってくれるっていうの?
うん・・・
うちのだんなみたいなこと、するんだね。というか、そういうふうにさせちゃえるんだね、浩太って。
カオルは想いにふけるように、なにかを考え込んでいるようだった。
たぶんあなた、優し過ぎるんだよ・・・
独りごとのように口走った言葉を、彼女はどこまで意識して紡いだのだろう・・・?
彼氏に、OKもらった。
結婚してからも、逢ってあげるから。
そう、ありがと。
くどくど言わなくなったのは、カオルの感化だろうか?浩太のもともと持っている、気遣いからだったのか?
で・・・きょうは血を吸うの?吸わないの?
吸う。
わかった。
カオルは男のような声で応じると、なん年も咬まれてきたふくらはぎを、そっと差し伸べた。
新しいパンストなんか、穿いてくるんじゃなかった。と、なおも毒づくのを忘れなかったけれど。
うなじに顔を近寄せる浩太をにらみつけて、カオルはいった。
それから。
先週、彼と初エッチしたから。
そう。おめでとう。
おめでとう?
カオルは眉をあげ、にらむ目線をさらにきつくする。
きみたち吸血鬼って、セックスしたことのある女の血を吸ったら必ず犯すんだったよね?
睨みあげる目線に、男は目じりを和ませた。
そうしてふたりは、どちらからともなく、唇を近寄せ合い、重ね合わせて、吸い合った。
いつまでも。いつまでも・・・
ご注文は、何になさいますか?
2014年05月25日(Sun) 07:31:18
ご注文は、何になさいますか?
茶色の制服に身を包んだ若いウェイトレスは、茶髪のポニーテールを振り振り、お客の注文を待った。
ぼくの注文は・・・きみ。
男はいともあっさりと、不可解なことを口にした。
え・・・わたくし・・・ですか??
怪訝そうなウェイトレスの腕をとると、男はやおら立ち上がり、うむを言わさず女をプライベート・ルームへと引きずり込んでゆく。
あああああ・・・っ!
とざされた<Private>と書かれた扉の、向こう側。
絶叫の声のあるじがさっきのウェイトレスだと、だれもが察しながらも。
ほかの客は無表情にナイフとフォークをあやつり、
ほかのウェイトレスたちも無表情に、お客の注文を取ったり料理を出したりしている。
街はずれの、小ぎれいなレストラン。
どこにでもありそうな店内の、ありふれた光景―――
あの・・・ご注文は・・・
新顔らしいべつのウェイトレスが、まだ悲鳴の消え切らない店内で、新来の客におずおずと話しかける。
ああ、俺の注文は、あんた。
男はむぞうさに、そう応えた。
えっ・・・私・・・ですか??
新顔のウェイトレスはアッと叫んだが、すぐに二の腕を掴まれて。
先刻のウェイトレスとまったく同じように、強引に引き立てられていって。
<Private>と書かれた扉は、またしても無感情な音をガチャリとたてて、とざされた。
下火になりかけた悲鳴に、新たな悲鳴が重なった。
あの・・・結婚してるんです。きょうのことは黙っていてもらえませんか?
一人めのウェイトレスが、ためらいがちに相手に告げる。
茶色のタイトミニの制服をまくり上げられて、まだお尻をあらわにした格好のまま。
もう一回姦(や)らせれば、約束守ってやるよ。
じゃあ・・・
瞬時に成立した取引に、女はこんどは自分から、操を捨てる動作に移ってゆく。
片脚に絡みついていたショーツを脱ぎ捨てて、裂けたパンストをいさぎよく破り捨てて。
突き出したお尻に沈み込んでくる逞しい臀部に、あがった悲鳴は甘い震えを帯びていた。
あの・・・彼氏いるんです。ナイショにしてくださいね。お願い!
手を合わせて懇願する二人めのウェイトレスに、男は口も利かずにかぶりを振った。
まだまだ・・・といわんばかりに、女のうえにのしかかって。
猛り立つ魔羅を見せつけるようにして、女に咥えさせると。
しゃぶれ、とだけ、いった。
クチュ・・・クチュ・・・
ためらいがちにあがる音に、男はいった。
ふふん。慣れてやがるな。
そう誘われちゃ、黙ってらんねぇな。すべりもよくなったし、たっぷり喰らわせてやるからな・・・
ヒーッと叫ぶ女の唇を呑み込むように、強圧的な唇が覆いかぶさった。
つぎの勤務は、いつだい?また来てやるよ。
男どもは異口同音に、そういうと。
女たちは素直に、自分のローテーション割りを口にしてゆく。
旦那、僕の知り合いでね。
彼氏、俺の友達なんだ。
そんな言葉を、どこまで信じていたのか・・・
けれども夫や彼氏に会ったあとの二人は、きょうも元気に仕事に励む。
姉妹のように、茶髪のポニーテールを振り振り、ヒールの音を響かせて。
お目当てのお客の前にすすみ出ると、いつものように口にする。
ご注文は、何になさいますか・・・?
乗っ取られそうになった血すじ。
2014年05月25日(Sun) 07:15:23
お前だけが、頼りだからな。
父さんはしばしばぼくに、そういった。
弟のいないところで・・・
子供ができちゃう。子供ができちゃう。
そんなことを口走りながら母さんが、他所の小父さんに抱かれていたのを・・・ぼくはおぼろげに、記憶している。
あのときできたのが、弟のイツキだった。
イツキはふだんはおとなしい子だったけれど、時おり兄のぼくにも、凶暴性を発揮した。
だってイツキの本当の父さんは、吸血鬼だったのだから。
吸血鬼の小父さんは、母さんのことを好きになって。
無理無体に迫って来たのが、さいしょだったらしい。
父さんはそのころのことは、あまりあからさまに語りたがらなかったけれど。
母さんはそのうちすすんで、小父さんの相手をするようになって。
父さんもそのうち仕方なく、夜中に出かけてゆく母さんのことを、とめなくなっていた。
家のなかにまで上がり込んで、小父さんが母さんとセックスするようになったころ。
ぼくはちょっぴりだけ、そうしたことの意味がわかる年頃になっていた。
幾久しく・・・
幾久しく・・・
お互いの両親がそろって、向かい合わせに座る他人だった夫婦に頭を下げる。
そんな儀式の帰り道、彼女と連れ立って歩くぼくのまえに、イツキはひどくしんけんな顔をして、立ちはだかった。
首すじの咬み痕は、妖しい疼きでぼくの理性をやすやすと封じ込めて。
スーツ姿の彼女はイツキに組み敷かれて、ぼくの前だというのに、ひぃひぃと声を洩らしていた。
随喜に満ち溢れたその声色を、ぼくは忘れることができなくなって・・・
毎週のように逢瀬をせがむ弟のために、
毎週のように彼女を家に招(よ)びつづけて、
毎週のように彼女は、弟に犯されながら。
子供ができちゃう。子供ができちゃう。
そういってすすり泣いて、
そのくせ必ず、口にするのだ。
ああ・・・もっと・・・っ・・・
華燭の典からほどなくして、彼女は隠していたお腹のふくらみをあらわにすることになって・・・
吸血鬼の血すじは、ぼくの家を乗っ取ることに成功した。
幾久しく・・・
幾久しく・・・
そういって頭を垂れるぼくたち夫婦のまえに置かれた座布団には、だれも座っていない。
そのかわり、ほかの人たちは皆、そろっていた。
二十数年まえ、おなじ光景からはじき出されていた弟のイツキも。
妻の両親と夫婦交換をする間柄になったうえ、献血の輪にも巻き込んでしまった、ぼくの両親も。
母さん意外に、義母も妻をも愛人に加えてしまった、あのいけない小父さんも。
きょうは、一族の和解の席。
そう、目のまえで末永い幸(さち)を誓い合ったふたりは、兄妹の間柄だった。
ごめんね。初めてのものも奪(と)られちゃって。
イツキくんの子供まで、生んじゃって。
でも、子供はもうひとり、必ず作ろうね。
タカシが男の子だから、こんどは女の子がいいね。
タカシが好きになっちゃうような、かわいい女の子がいいね。
髪をふり乱した妻は、そういいながら。
吸い取られた血しおをあやしたブラウス姿のまま、ぼくに抱きついてきた―――
これでいいですよね?もういいかげん・・・おあいこということにしてくれませんか?
ぼくの懇願に、いまは穏やかな顔つきになったイツキも小父さんも、ひっそりとうなずき返してくる。
人間同士の子供は、人間に生まれて。
吸血鬼との交わりで生まれた子供は、人間である兄や妹の血で、自らを養って・・・
新たな恋人たちの間から生まれる子供たちは・・・はたしてどういう契りを結んでいくのだろうか。
13回めの逢う瀬 ~女子学生・奈子の冒険~
2014年05月23日(Fri) 23:38:18
遅いなあ、小父様ったら。
奈子は独り呟きながら、公園のベンチのあたりをうろうろしていた。
浅い春の日は、まだ短かい。
まだ六時まえだというのに、そろそろ陽が翳りはじめていた―――
愛用の薄茶のカーディガンは、いつ小父様が来てもいいように、脱いでいた。
ブラウス一枚の胸もとに、陽が翳るにしたがって増してくる冷気が、そらぞらしいほど肌寒くなる。
どうして寒い思いをしてまで、ブラウス一枚なのか?
小父様にいつ襲われても、いいようにするためだ。
そう、奈子は小父様に襲われるために、待ち合わせている。
小父様は、真っ白な制服のブラウスに、吸い取った生き血をチラッと撥ねかすのがお好き。
かつては恐怖に蒼ざめるばかりだったホラーなやり口に、小父様独特のお洒落心を見出すようになったのは、いつのころからだっただろう?
公園で待ち合わせている小父様とは・・・街に出没する吸血鬼のことだった。
奈子は、高校二年生。
初めて襲われたのは、一年生の夏休みが終わるころだった。
この公園で独り、来るあてがない男の子を待ちぼうけているときに、小父様がやってきたのだった。
初めて経験したキスは、首すじに喰い入ってくる牙。しかし、その牙の鋭利な切れ味に、もともとマゾッ気のあった奈子は、いっぺんで参ってしまったのだった。
小父様、いいよ。もっと噛んで・・・
奈子の思いがけない囁きに、小父様はちょっとびっくりしていたけれど―――奈子の望み通りに、首すじをなん度も噛んでくれていた。
真っ白なブラウスを、撥ねた血でびしょびしょに濡らしながら―――
ママにばれちゃうよ。
紅いまだら模様をにじませたブラウスに、困った顔をした奈子をなだめすかして。
だいじょうぶ。小父様がいっしょについて行って、お母様に謝ってあげよう、と。
小父様は親切にも、奈子にそういって―――その日は人妻の生き血をさえ、モノにしてしまったのだった。
以来奈子のママは、まな娘の共犯者になって。
吸血鬼の小父様が濡らしてしまうための奈子のブラウスや、咬み破って愉しむためのハイソックスを、いつも余計に用意してくれていて。
娘が日常的に吸血を受ける愉しみを、かげながらサポートしてくれているのだった。
そう。奈子のブラウスやハイソックスは、小父様のために用意したおもてなし。
きょうもハデに噛んでもらって、小父様に愉しんでいただくの。
ブラウスの襟首に這い込む冷気に首をすくめながら、奈子は身体の芯をほてらせて、小父様を待ちわびていた。
早かったな。
遅かったじゃない。
あらわれた小父様と正反対のことを言って、ふたりは声を合わせて笑っていた。
嘘、嘘。
口をとがらせる奈子に、小父様は含み笑いで応えていた。
5時半の約束だぞ
えっ?だってもう・・・あれ・・・?
奈子の腕時計の針は、5時25分を指していた。
待ち合わせの約束時間を早めにカン違いするほど、奈子は血を吸われたくってウズウズしている・・・というわけだね?
冷やかす小父様にひと言も言いかえすことができなくって。
奈子は、「もう」って、もう一度口をとがらせただけだった。
さて・・・と。さっそくいただこうか。
ウフフ。と洩らした含み笑いは。
男の切実な渇きが、まざまざと伝えて来て。
怖いけど・・・いいよ。
奈子はひっそりとした声色で、応えてゆく。
ベンチに腰かけた奈子は、おとがいを気持ち仰のけて、目を瞑る―――
小父様が隣に腰を降ろしてきて、奈子の肩に腕を回した。まるで、恋人同士のように。
獣じみた呼気が肩先の髪をかすかにそよがせ、うなじに熱く降りかかる。
欲しがってる。欲しがってるぅ・・・
奈子は胸を震わせながら、わが身を覆い隠さんばかりにしてのしかかってくる猿臂に、自分から身を擦りつけていった。
にゅるっ。
小父様の唇は柔らかで、熱い。
ぬるぬると生温かい唾液が、とてもいやらしい。
もっと・・・もっと奈子の首すじを愉しんで。
うわ言のような震え声が、惚けたように半開きになった口許からこぼれ落ちた。
それに応えるように。
カリリ・・・
鋭利な牙が力まかせに、喰い入ってきた!
奈子は思わず、悲鳴をあげて、目を見開いた。
目のまえに。
満開の桜がいっぱいに、ひろがった。
遠慮会釈なく、奈子のひそかな悲鳴など、おかまいなしに。
小父様はゴクゴクと、喉を鳴らして。奈子の血潮を、啜り取ってゆく。
強引に奪われる感覚が、脳天まで響くようなどす黒い歓喜で奈子を貫き、痺れさせた。
あーっ、血を吸われちゃう。生き血を吸い取られちゃう・・・っ。
くずおれそうになる身体をがっちりと支えてくれる腕に身をゆだねながら、奈子はなん度もなん度も、うめきつづけた。
ふと―――
スカートのなかに、小父様の掌を感じた。
それは奈子のショーツの周りから、たいせつな秘所を、くまなくまさぐりつづけていた。
さすがにショーツのなかにまでは、手を入れてこなかったけれど。
うら若い娘から血を吸い取っているとき、昂ぶりのあまり・・・ということで片づけてしまうには、あまりにも露骨でしつようなやり口だった。
吸血の愉悦のあまり・・・お互いに気づかないふりをしていたけれど。
奈子は黙ってまさぐりを受けつづけ、ひそかに股間を熱く濡らし始めてゆくのだった。
小父様は奈子の身体を、求めている―――そう実感するようになったのは、逢瀬を重ねてどれくらい経ってからだろうか?
奈子の体調を考えて、小父様が奈子の生き血を求めてくるのは、月に1~2回だった。
その間合いの長さを待ちきれなくなって、奈子のほうから小父様にもっと逢う頻度を増やして・・・とおねだりをしたのは、年明けになってからだった。
冬服を汚すのをためらう小父様は、奈子のブレザーやカーディガンを脱がせて、ブラウス一枚のうえから、奈子の首すじを狙うのだった。
あまり頻繁に逢っては寒かろう?
秋から冬へと季節が移ってくるにつれ、寒そうにブラウス姿をさらす奈子を気遣う小父様に、
寒くても平気。奈子、強いから。
奈子は言下に、そう応えていた。
小父様は、処女の生き血が好みだった。
初めて逢ったとき、もうなにが起きていてもおかしくない年頃の奈子が処女だということを、吸い取った血の味で識って。
小父様の寵愛は、そのとき決まったかのようだった。
処女じゃない子はね、お仕置きに、その場で犯して、あげく生き血を一滴残らず吸い取ってしまうのだよ。
しばらくは処女でいなさい・・・そういうつもりで小父様は、奈子をそんなふうに、脅かしていた。
たしかにこの街では、年になん人か、年頃の少女が姿を消すといわれている。
奈子は小父様の言い草を、無邪気に信じていた。
怖い・・・怖いっ!血を吸われるぅ、血を吸い取られちゃうっ・・・って、いつも小声で囁きながら、自分と小父様の双方を、声色で昂ぶらせるようになっていた。
13回逢えば、生き血を全部、吸い尽されてしまう。
それ以前でも、処女を奪われてしまえば、その場で生き血を一滴残らず吸い取られてしまう。
小父様から聞かされているそんな生態が、一線を超えるという行為に走ることを、彼女に躊躇させていた。
奈子はスカートのすそをつかみながら、スカートの奥を指で穢してゆく小父様の誘惑に、耐えつづけた。
こんどは、いつにする?
別れ際、囁きかけてくる小父様に。
あしたにしよう。
蒼ざめた頬を輝かせて、奈子は囁きかえしていた。
あした?早過ぎはしないか?
そんなことない。奈子は強い子だから。
その明日が13回めになることを、奈子も、小父様も、ちゃんとわかっていた。
翌日―――
クラスメイトと別れた奈子は、いちど家に戻ってブラウスを着替えハイソックスを履きかえると、いつものように公園に向かった。
小父様に襲ってもらうときは、真新しい制服に着替えるのが奈子の習慣だった。
いつものように送り出してくれるママにバイバイをして、制服のスカートのすそを夕風にひるがえして、いつもの公園に向かう。
見慣れた街路樹。通いなれた通学路。
これがこの道を歩く、さいごかもしれなかった。
けれども奈子に、悔いはなかった。
あたしが血を全部吸い尽されて、冷たくなって公園に横たわっていたら。
パパもママも、きっと悲しむことだろう。
けれどもその代わり、奈子の熱情を秘めた血潮は、さいごの一滴まで、小父様のものになる。
奈子は小父様のなかで、永遠に生き続ける―――
いつもより遅い時間に待ち合わせたので、あたりはすでに薄暗かった。
小父様、どこ?
問うまでもなかった。点りはじめた公園の照明のかなたに、彼女のもうひとつの生命である人影が、こちらに正対していたから。
おいで。
言われるままに、奈子は小父様の胸に身体を投げかけた。
背中にしっかりとまわる、逞しい腕―――
この腕がほどかれる前に、あたしはたぶん、意識をなくしてしまっている―――
不思議と、恐怖はなかった。
奈子はいつものようにおとがいを軽く仰のけて、目を瞑る。
咬まれた瞬間、いちど瞑った目を、思わず見開いた。
きょうは、特別な日―――
その日を彩る桜の花びらが、奈子の視界いちめんに、広がっていた。
二日続きの吸血なのに、意外なくらい、身体も意識もしゃんとしていた。
尻もちをつくようにしてベンチに腰かけた奈子は、ハイソックスの脚にいやらしく舌なめずりをしながらよだれをしみ込ませてくる小父様に、にこやかに応じていって。
小父様がふくらはぎのあちこちを吸いやすいように、時おり脚の向きを変えてやったりすらしていた。
ハイソックスを両方とも咬み破られてしまうと。
スカートのなかに、いやらしい掌が、さ迷い込んできた。
ショーツのうえからまさぐる掌は、あきらかに欲情している。
パパ、ママ、自慢していいと思うよ。パパとママからもらった奈子の生き血は、なん百年も生きながらえてきた吸血鬼の小父様のお口に合っているんだから・・・
ぼうっとなってくる理性に歯止めをかけようとけんめいになりながら、奈子は身体が傾いてくるのをどうしようもなくなっていった。
頭を埋めた草地は、若草のむっとするような匂いに満ちていた。
鼻腔に流れ込む草の匂いにむせ返りながら、奈子はブラウスにほとび散らされてゆく血潮にうっとりと見入っていた。
指先をすべらせると、バラ色の血潮がかすかに指を染めた。
自分の血に染まった指を、奈子は咥えてみた。
ツンと鼻を衝く芳香に、奈子はうっとりとした。
血を全部吸い取られちゃったら、吸血鬼になるのかしら?
薄ぼんやりとそんなことを考えたけれど、やはり恐怖は感じなかった。
むしろ、
犯されてしまう。
そのことのほうにこそ、注意力のすべてが集中しているといえた。
恐怖も、昂奮も、期待も、ドキドキ感も。
ブラウスをまさぐる掌が、いっそう荒々しくなって―――小父様は奈子のブラウスを剥ぎ取っていった。
あ、あ、あ・・・
そらぞらしい冷気が、むき出しになった肩を、二の腕を、侵蝕していく。
けれども初々しい昂ぶりを帯びた素肌はカッカと火照っていて、そんなものはものともしてないようだった。
あれだけ血を吸われちゃったのに・・・あたしったら元気!
どうして元気なの?それは奈子が、いやらしいから・・・?
思わず奈子は顔を真っ赤にして、自分のことを上から抑えつけている小父様を見あげた。
瞬間、ディープ・キッスが降ってきた。
初めて・・・かも・・・っ。
いつも首すじを咬まれるだけだった。
それが、唇と唇とを真正面から重ね合わせて、吸われている。いや、お互いに吸い合っている!
さいしょは錆くさい血の香りしかしなかった。
けれども、せめぎ合う唇と唇とは、べつの芳香をかもし出していた。
淫らなエキス―――だれに教わったわけでもないのに、そんな表現が奈子の脳裏に浮かんだ。
奈子は自分もスカートの奥へと手をやると、自分の手でショーツを足首まで引きずりおろしていた。
脛の途中までずり堕ちたハイソックスを引っ張りあげる余裕も与えられずに、ふたたび組み伏せられた奈子は、股間に剄(つよ)く逆立った熱い肉茎が迫って来るのを感じた。
ああ~、犯されるっっ。奈子、犯されちゃうっ。
血を吸われて死ぬ覚悟をしてきたはずなのに、犯されるという事実の前に奈子は立ちすくみ、縮みあがってしまっていた。
愉しむとか、応えるとか、そんな心の余裕はもう、どこにもなかった。
ただひたすら、小父様の背中にしがみついたまま―――
痛い。すっごく!痛いっ!
なん度も股間をえぐられていった。
ずぶずぶ と。
埋め込まれたり。引き抜かれたり。
そのたびに。
スカートの裏に、血が撥ねるのを感じていて。
太ももはもう、居心地の悪いほど、汗と血潮と、小父様の情熱の体液とで、どろどろになっていた。
はぁ、はぁ、はぁ・・・
血を吸われるよりも、よっぽどたいへん!
奈子はなん度も声をあげかけて、そのたびに小父様にディープ・キッスの口止めをされて。
激しくかぶりを振りながら、けっきょくのところなにもできないままに、ただ股間のせめぎ合いだけで、小父様に応じるばかりだった。
はぁはぁ。。。
ふぅふぅ。。。
100メートル全力疾走?いや、300メートルかも知れない。
草地に横たわる奈子は、剥ぎ取られたブラウスを胸にかけられた格好のまま、しばらくは強い眩暈を消せないでいた。
どうだね?一人前の女になった気分は?
顔を覗き込んでくる吸血鬼に。
奈子はひと言、
ばか。
と応じていった。
汚されちゃった・・・疲労と虚脱感とが、そんな屈辱的な敗北感につながりかけるのを。
奈子のなかでかま首をもたげたマゾッ気が、すかさず打ち消していた。
小父様、愉しめた?
白い歯をみせる奈子に、
言わせるな。
小父様はもういちど、奈子の唇をふさぎにかかった。
愉しかったら・・・もっと汚して。
奈子のひと言は、小父様の情念を決定的に燃え上がらせていた。
小父様、奈子を心ゆくまで犯して。
それから奈子の生き血を、一滴残らず吸い取って。
奈子はかまわないから。それでも嬉しいから・・・
事果てて起ちあがった奈子のまえに、満開の桜が咲き誇っていた。
綺麗―――
照明に照らされた桜は、妖しさをさえ秘めながら、だれ観る人もない公園の一隅で、ひっそりと華やかに咲き誇っている。
奈子のようだね。
小父様が後ろから、奈子の肩を抱いてくる。
そうだね・・・
てらいもなにもなく、奈子は素直に、うなずいていた。
さあ小父様、奈子を咬んで。
奈子の生き血を、気の済むまで愉しんで・・・・・・
数か月後。
おなじ公園に現れた奈子は、新調したばかりのピンクのワンピに身を包んでいた。
こんばんは、エッチな小父様。
こんばんは、いやらしいお嬢さん。
ふたりは以前と同じように、逢瀬を重ねつづけていた。
奈子はもう、死んじゃったんだ。死んじゃったら、どんなことも羞ずかしくないだろう?
小父様に囁かれてから。
奈子は小父様の望むことを、なんでもしてしまっていた。
小父様に咬み破られた真っ白なハイソックスに、血を撥ねかしたまま登下校したり。
授業時間中に呼び出しを受けて、奥の秘密の教室で吸血とセックスのレッスンを受講したり。
奈子の体調がいまいちなとき用に、お友だちをなん人か、紹介してあげちゃったり。
小父様を家に招(よ)んで、ママとふたりで母娘丼を実現させてあげたのは、さすがにパパには内緒になっている。
まったくもうっ、死んじゃったなんて、嘘でしょう?
おや、ばれたかね?
小父様は痛くも痒くもない、と言いたげに、奈子にからかい口調で応じてくる。
奈子に恥ずかしいこと、いっぱいさせたくて、嘘ついたんでしょう?
そこまでわかっておれば、合格点だな。ちゃんと高校も、卒業できるだろう。
んもうっ!
小父様の肩をひっぱたいておいて、奈子はひとりごちていた。
大好きだよ、小父様。
死んでいても死んでいなくても、小父様の望むこと、奈子はなんでもしちゃうんだから。
そういえばママも、あたしと同じ日に初めて咬まれたのに。
もちろん処女じゃなかったから、セックスまでされちゃったのに、ふつーに生きてるものねえ・・・
いまごろ気づいたことがたまらなくおかしくなって。
いぶかしげに顔を覗き込んでくる小父様を尻目に、奈子はきゃっきゃ、きゃっきゃとはしゃぎ笑いをつづけるのだった。
2014.05.02原案
あとがき
いつも当ブログにお越しいただいている女装子「奈子」さんをモデルに、小説を描いてみました。
末尾にそう描くまで、柏木さん、彼女できたの~?なんて勘違いしてくれる人が一人でもいらしたら、この企画は成功♪(*^^)vということで。
(^^)
公園に憩う、一女子高生のつぶやき
2014年05月07日(Wed) 07:18:56
学校帰りの公園で、独りぽつんとくつろいでいたら・・・
あー、吸血鬼の小父さんが、やってきた!
悪いひとぢゃあ、ないんですけどね。。。 A^^l
若い女の子の生き血が、大好きだってだけで。
えー、街の人たちと共存している関係上、死ぬほど吸い尽しゃ、しないのですが・・・
でもね、ちょっとだけ困るのは・・・
えっ、アタシご指名・・・?
えーっ、ほんとにあたし~???
災難~! (>_<)
迷惑~! (>_<)
あーっ、でもしょうがないか・・・
いくら吸血鬼だって、死んじゃったりしたらかわいそうだもんね。。。
生命がだいじなのは、どちらもいっしょ☆
じゃっ、用意しないと・・・
新しくおろしたばかりなんだよ、このハイソックス・・・
イヤラシイ目で、視ないのっ☆☆☆
あーん、もう。やだー。
わざわざハイソックス履いてる上から咬むのよ。ふくらはぎ・・・
ハイソックス破けちゃうじゃん~。
・・・てゆうか、破くのが好きなんだよね。
はい、はい。破かせてあげますとも・・・新しいの一足、アウトになっちゃうケド。
ケナゲなあたし。。。
あっ、忘れてた・・・
舐めるのも、好きなんだったよね? しつこいんだー、これが。(>_<)
舌触りがたまらないんだってさ。。。
あんたにあげるから、好きなようにしなさいよ。もぅ。
あんまりしつっこく、じとーってやらないで・・・ねっ☆
あとがき
ちせつな絵で、ゴメンなさい。 A^^;
ちょっとした遊びごころ ということでw
「奥さんのことは、ご心配なく」by妻の彼氏
2014年05月07日(Wed) 05:38:26
連休も終わって、単身赴任の任地に戻る日が来た。
「気をつけてね」と、妻。
「奥さんのことは、ご心配なく」と、リョウタくん。
リョウタくんは、結婚前からの妻の交際相手。
処女をゲットしたのも、もちろん彼のほう。
「ああ、よろしくね」
ぼくはリョウタくんとハイタッチして、ふたりは白い歯をみせて笑い合った。
閉めたドアの向こう側。
さあ、愉しんじゃおうっ。
妻の声が、はずんでいた。
すべてを容認している関係とはいえ・・・この瞬間だけは、寂しいな―――と思ったとたん。
携帯の着信音が鳴った。
ディスプレーを覗くと、発信人は妻。
「愛しているからね。チュッ」
ですと。
決してからかい文句などではなくて。
これもまた彼女の、真摯なまでの本音であるのは、ぼくもリョウタくんも認めるところ。
「愛しているからね」
妻の声色までがまざまざと、胸の裡によみがえる。
あらかじめ用意していたメッセージを送信したとたん、
妻は携帯を手放して。
さっ、愉しもうっ。って。
息を弾ませていることだろう。
わたしからの返信が届いたランプが点滅するのもお構いなしに。
「彼氏によろしく」
独り取り残されたメッセージを妻が読むのは、あくる朝・・・?
熟成 ~美味になってゆく血~
2014年05月06日(Tue) 09:13:15
悪かった。ありがとう。恩に着る。
肩で息をしている恵太郎に、男は云った。
冷たい声色は生来のものらしかったが、声の響きには真実味が伴っている。
恵太郎はなにか言おうとしたが、声にならず、ただゼーゼーと荒い息を洩らすだけだった。
男の口許には、さっきまで吸いつづけていた恵太郎の血が、生々しく散っている。
夕方の散歩道を襲った男の正体は、吸血鬼だった。
そういうものが出没するとは、聞いていたけれど―――
恵太郎がそのうわさを軽視したのは、半分は本気にしなかったからでもあるが、半分は男が襲うのはもっぱら女の子だと聞いていたからだった。
唯一の失策はといえば―――ショートパンツにサッカーストッキングを履いていた恵太郎の服装にあったのかもしれない。
スポーツ音痴な彼がサッカーストッキングなんかを履くのは―――たんにハイソックスが好きだったから。
どうやらその好みは、不幸にも男と共通してしまったらしい。
男は、通学途中の女子学生にしばしばそうする・・・といわれるように、恵太郎のふくらはぎに噛みつくと、真っ白なサッカーストッキングにバラ色のしずくを散らしながら、生き血を啜ったのだった。
こっち側もいいかい?
さいしょに咬まれた首すじと、そのあと食いつかれたふくらはぎの傷を抑える少年に、男がしつようにも、もう片方の脚をねだったとき。
恵太郎はおずおずとだが、まだ咬まれていないほうのふくらはぎを、吸血鬼のほうへと差し伸べてやっていた。
たるんでずり落ちかけたサッカーストッキングを、わざわざ引き伸ばしたうえで。
ふたたび吸いついてくる唇が、しなやかなナイロンの舌触りを愉しんでいるのをありありと感じながら、
くまなく舌を這わせて来る吸血鬼が吸いやすいように、時おり脚の向きを変えてやっていた。
すまないな。ありがとう。恩に着る。
おかげで・・・今夜かぎりで死なずとも済みそうだ。
男は、本心から感謝を伝えているようだった。
ようやく心のゆとりを少しだけ取り戻した恵太郎は、訊いた。
女の血しか吸わないんじゃなかったの?
男はにんまりと笑みながら、余裕たっぷりに答えていた。
そうだね。ふだんはね。でも、死ぬか生きるかというときに、そんなぜいたくは言っていられない。
それにあんたの血、男にしちゃ案外と、いい味だったぜ?
恵太郎がその男と”再会”を遂げたのは、それから数年後のことだった。
刻限は真夜中―――家族が寝静まったのを見計らって、家を出てきたときだった。
夕方の習慣だった散歩を、どうしてそんな時間まで繰り下げたのか。
恵太郎はそのとき、釦が反対についているブレザーにブラウス、真っ赤なミニスカートの下には、真っ白なハイソックスを履いていた。
不思議だな。
抑えつけた少年からひとしきり生き血を吸い取ったあと。
男はふと漏らした。
数年まえのときも、少年が苦情を訴えず、吸血事件がおおごとにならなかったのは。
男がいつも真剣だから―――なのかもしれない。
あのときは生命の危機にさらされていたし、いまは少年の血の味の変化を、まじめにいぶかしがっている。
どういうこと?
恐怖も忘れて、少年は訊ねた。
きみの血、ますますいい味になっている。
恵太郎は、ふと納得がいくような気になった。
女の子に近づけば近づくほど、血の味が彼の気に入るようになるのだ―――と。
むしょうにハイソックスを履きたがっていたあのころ、彼のその素質は、明らかになりかけていた。
そして今―――人にはいえないコアな趣味に夢中になってしまった彼のなかで、”女”の部分は明らかに影を濃くしている。
小父さん、ハイソックスが好きなんだね。
ああ、汚しちまって、わるかったな。
いいんだ―――小父さんなりに、愉しんでくれてるみたいだから。
恵太郎は尻もちをついたまま、女の子がそうするように、はぐれあがったスカートを直しつけると。
たるんでずり落ちた白のハイソックスを、ひざ小僧の下まで引っ張りあげて―――ひと言、洩らしていた。
せっかく履いてきたんだから、気の済むまで愉しんで。
足許に擦りつけられてくる唇の熱さを実感しながら。
恵太郎はこれからの秘密の散歩に、心強い連れができかけているのを、予感していた。