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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

面白そうだから・・・

2014年06月30日(Mon) 07:07:16

あのー、吸血鬼さんたち、ですか?

おずおずとではあったが、明るい声色だった。
周囲の魔性を塗り替えてしまうほど、あっけらかんとした。

振り向いたものは皆、魔性のものたち―――
それでもその少女は、憶する様子もなかった。
その態度に、吸血鬼たちのほうが、警戒の色をよぎらせるほどだった。

ツインテールに結んだ、長い長いおさげ髪。
白のブラウスに、紺色のリボン。
赤とグレーのチェック柄のスカートに、白のハイソックス。
スカートのすそから覗くのは、噛みごたえのよさげな、むっちりとした太もも。
おなじくらいたっぷりとしたふくらはぎは、ひざ小僧のすぐ下まで引っ張り上げた白のハイソックスにくるまれている。

少女はどこまでも、無邪気に笑う。

あたしの血、吸ってくださるかたって、いませんか?

え?
にわかに色めき立つ吸血鬼の一群を、少女はにこにこ笑いながら眺めている。

きみ、自分の言っている意味、わかってるの?

かしらだった男が、そういうと。
ほかのものたちもいちように、頷き合っている。

死んじゃったりしないってきいてるんだけど・・・そうなんですよね・・・?

少女はそこだけは、ちょっぴり心配なようで・・・さすがにちょっとだけ、語尾が震えていたけれど。

ああもちろん、そういう女の子大歓迎さ。

若い男の吸血鬼の応えに、ぱっと笑いをはじけさせる。

あー、よかった♪

きみ、変わってるんだねえ。

そうか知ら。

だって、自分から血を吸われたいなんて女の子・・・たまにはいるか。

少女とは親ほども違う年頃のおっさん吸血鬼は、自問自答しちゃっている。
自爆するなよなー・・・と、皆がどっと笑った。
人間と吸血鬼とが仲良く共存しているこの街で。
彼らも差し迫った飢えや渇きとは、無縁のようすだ。
さもなければ、少女が公園に入るやいなや、喉笛を喰い破られていただろうから。

でも、どうしてそんな気になった?

かしらが少女に話しかける。
少女は白のハイソックスの足許に注がれる視線を敏感に感じ取り、得意そうに見せびらかしながら。
それでもちょっとだけ、もじもじとした。

うーん、なんとなく・・・楽しそうだから。

うむー。
だれかが低くうなって、だれもがちょっとだけ、考え込んだようだった。
「なんとなく」で、処女を捨てる子は多いけれど。
それとおなじ「なんとなく」で、吸血鬼に首すじを咬ませようとする女の子だっている・・・ということだろうか。
ふだんは表向き、普通の人間として暮らしているものが、ほとんどだったから。
だれもがすでに咬まれてしまった自分の娘や妹のことなんかを、思い浮かべていたにちがいなかった。

じゃあ、決心は固そうだな。

かしらが確かめるように、少女の顔を覗き込むと。

ウン、決心固い・・・と思います。

少女は楽しそうに、白い歯をみせた。
しょうがねぇな・・・かしらはちらっとそう、つぶやいたみたいだった。

喉渇いている奴、いる?といって、たいがいは仲良しの人間いるんだよな。

かしらが仲間のうえに、目線を一巡させる。
そして言い忘れた・・・というように。

そのまえに、この子の知り合い、いる?

と、訊いた。
いちばん後ろのほうから、おずおずと手が挙がった。

あー、眉原さん、だったっけ?

相手が年上だったので、かしらは彼のことを「さん」付けで呼んだが、どうやら彼のランクはまだ、よほど低いようだった。
ほら、前出なよ・・・と仲間に尻をたたかれるようにして、渋々前へと引き出されてくる。
目のまえに引き出された男を視て、こんどは少女が両手で口許を抑えていた。

えー・・・タカシおじさん吸血鬼だったの?

タカシと呼ばれたその年配男は、どうやら少女とはかなり近しい間柄らしい。
頭を掻き掻き、「オレなり立てだから・・・ほかの人にはまだナイショ」と、助けを求めるように少女を視た。

うん、わかった。しー・・・だね?

少女はイタズラっぽく、可愛い唇に指を一本立ててみせる。
ピンと反り返ったふくらはぎに、街灯に照らし出された白のハイソックスが眩しい。

じゃああんた、この子の面倒みなよ。

エエんですか?わしなんかで・・・

お嬢さん、初めてなんだろ?そういうのは身内に頼むものなんだぜ?それとも相手が知り合いじゃ、嫌かい?

かしらの言い草に、少女は神妙に聞き入っていたが。
「嫌じゃない」ひと言そう呟くと、タカシのまえに大またで歩み寄って、きちんとお辞儀した。

お願いします。

ほかの吸血鬼どもは興ざめしたように、それぞれ思い思いに、仲良しの人間の待つ住宅街へと消えていった。
かしらはさいごまでそれを見届けていたけれど。
「おっさん、ラッキーだね。今夜はいいごちそうにありつけたじゃない。しっかりやんなよ」
と、こぶしで軽く、タカシの肩を叩いて、これもまた近くの大きな家を目ざして消えていった。
ぞんざいな口調は、きっと少しだけ、うらやましかったからだろう。
「仲良くなったら、その子をここに連れて来て、みんなにご披露するんだぜ」
そんなえぐいことを言って退場するかしらを、少女は手を振って見送っている。

ふたりきりになって向かい合ったふたりは、ちょっとだけ無言で、もじもじしていたけれど。
少女のほうから再び、男の手の届くところまで、大またに歩み寄ってきて。
もういちど、「お願いします」と、頭を下げた。
ツインテールのおさげ髪が、ユサッと揺れた。
タカシは少女の手を引っ張って、ベンチに座るよう促した。

腰かけたふたりは顔を見合わせると。
少女のまっすぐな視線に、男は後ろめたそうに視線をそらし、
そらした視線を向けた少女のブラウスの襟首に、唇を近寄せた。
胸もとを引き締めていた紺のリボンを素早くほどくと、少女はブラウスのボタンを二つ三つはずしている。

刹那―――
男の牙が少女の首すじに埋め込まれ、少女ははっとなって息を呑んだ。

くちゅ・・・くちゅ・・・ごくん。

生々しい音を立てながら自分の血を啜りはじめた男の、力づくの腕に巻かれながら。
少女は目を見開いて応じていたが。
やがて状況に慣れてしまうと、ふ・・・っと表情をゆるめて。
まるで姉が頑是ない弟をあやすようにして、男の背中を撫でつけてゆく。

ごく・・・ごく・・・ちゅううっ・・・

よほど飢えていたのか・・・ただいっしんに少女の血を飲み耽る吸血鬼に抱かれながら。
少女はさすがに顔を蒼ざめさせていたけれど。
牙を引き抜かれて。
その拍子にブラウスの襟首に散った血に、「汚した」って、口をとがらせて。
昂ぶりからか、息を荒くしている男に、「まだいいよ」と、促している。

足許にかがみ込んだ男が、左右の太ももを、かわりばんこに咬みついてきた。
少女は、チュウチュウと音を立てて血を吸いあげるのを、面白そうに聞き入っていて。
白のハイソックスのうえからなおも唇を吸いつけられて、
咬み破られたハイソックスに、バラ色のシミが生温かく滲ませると、さすがに「あー・・・」と声をあげた。
年頃の少女らしく、洋服を汚されることにだけは、敏感だった。

すまないね。すまないね・・・

男はそういいながらも、なおももう片方のふくらはぎに唇を吸いつけていって、
少女の履いている白のハイソックスに、ふたたび派手なシミを拡げてゆく。

あー・・・

少女はふたたび、とがめるような声をあげたけれど。
男は応えるかわり、牙をさらに深く、食い込ませていった。


「ほんとうに約束守るなんて・・・あんたも義理堅いんだな」
深夜の公園。
かしらはポケットに手を突っ込んだまま、タカシと連れの女たちに目をやった。
「お母さんまで、連れてきたのか」
「彼女一人じゃ、心配だっていうもので・・・」
男はおずおずとそう応えたけれど。
まえのように、ゆとりのない感じは、もう微塵もなかった。
予想以上の戦利品を仲間のところに持ち込めたことに、誇らしそうなようすだった。
かしらの背後には、仲間が数人いた。
だれもが、新入りの男の手柄を、悦んでいるようだった。
自分たちが分け前にありつける・・・そんな嬉しさはもとよりのことだったが。
仲間の成長ぶりを祝う気持ちのほうが、大きかったかもしれない。

あの夜、出かけていった娘の帰りを待ちわびていた母親は、
顔見知りのタカシに連れられて戻ってきた娘を引き取ると。
真っ赤なまだら模様を散らした娘のブラウスとハイソックス、それにタカシの口許を見ただけで、すべてを察した。

まあまあ・・・彼女はあきれたように娘を見、娘は悪戯がばれたときみたいに、舌を出して笑って応えた。
相手が知ってる人だったから、まだよかったわ。
母親の言い草は、世間的には見当違いだったかもしれないけれど。
遅れて出てきたガウン姿の父親までが、「着替えたら早く寝なさい」とだけ言い渡してすぐに引っ込んだのをみると、
この家ではふつうに受け入れられる見解のようだった。

娘と一緒に現れた母親は、白地に黒の柄の入ったワンピース姿。
肌色のストッキングに黒のパンプスの脚を一歩踏み出して、
「娘を1人で夜歩きさせるわけには、いきませんから」
気丈にもそういって、胸を張る。
「いいお母さんだね」
娘と男とに、等分にいいながら。
母親の値踏みを目でしていったのは、さすがに本性を思わせるものだった。

じゃあありがたく、お相伴にあずかるね。

向かい合わせのベンチのうえ、あお向けになった女ふたりに、
吸血鬼どもは順ぐりに、のしかかっていって。
あるものは、ネックレスに囲まれたうなじを。
あるものは、濃紺のリボンを巻いた襟首を。
あるものは、柄もののワンピースのわき腹を。
あるものは、ヒダスカートのすそをまさぐりながら、白のハイソックスのふくらはぎを。
あるものは、肌色のストッキングをブチブチと咬み裂きながら・・・
漂うほろ苦い芳香に、本性をむき出しにしながら、いずれ劣らぬ柔肌に牙を埋めてゆく。

気絶してしまった娘の隣。
ベンチをおりた母親は、ワンピースを着くずれさせて、きちんとセットしてきた栗色の髪を振り乱して、
大人の女性としての応対までも、遂げてゆく。

すまねえな。

お礼ですよ。

あの家に居ついたのか

ご主人が、理解のあるひとだったので・・・

そいつは、よかったなあ・・・

かしらはしんそこ嬉しげに、星空を見上げた。
女たちがきゃあきゃあと声を洩らしている地上とは裏腹に。
星達は静かに、青く冷たい輝きで、夜空を彩っていた。



あとがき
吸血鬼などとはなんのご縁もないような、白のハイソックスの少女が、「面白そうだから」というわけのわからない理由で、惜しげもなく生き血を吸わせてしまう・・・そんなプロットを描いてみたくて。
あとは娘を迎え入れた母親の、見当違いな安堵のし方なんかも、描いてみたくて。
ほとんどなにも練らずに、描いてみました。
やはり反応というものがありますと、創作意欲と言うのは燃え上がるようです。 笑

米良夫人の述懐

2014年06月29日(Sun) 08:35:52

見も知らぬ夫のライバルの名前を出されて。
あいつよりも上に行きたい・・・なんて言われたって。
そんなもの、実感が伴うわけがない。
だからどうなの?そんな反撥を、妾(わたし)は露骨に顔に出したことさえあったけど。
どうやら鈍感なあのひとには、通じていないみたい。
あとにしてみればあのころの主人は、出世欲に目がくらんでいたのかも。
あなたの夢は、わたしの夢。
そんなこと・・・
ドラマの世界のなかだけのことだって、妾はいまでもそう思う。
妻と夫はどこまで行っても、同床異夢。
あのひとは妾のことを、いったいどれほどわかっているというのだろう?

田舎に出ることになった。創立者の出身地にある事務所だ。
閑職ではあるけれど、一度経験すると昇進に有利なのだ。
はい、それはもう、わかりますとも。
けれどもそのあとの言い草は、何・・・?

その土地には淫らな風習があって、土地の男衆はむやみと人妻を抱きたがる。
転勤で移り住んだ家のものたちも、例外ではない。
だからきみも、あの土地に移り住んだら。
見ず知らずの男に、犯されるかもしれない。いや、たぶんきっと、犯される。
それも日常的に、姦られてしまう。
相手は単独ではなくて、複数のことだってある。
そのうえ相手が吸血鬼だったりしたら、血を吸い取られるかもしれない。
でもちゃんとした協定があって、致死量まで吸われることはないから安心・・・だなんて。
いったいあなた、何を考えていらっしゃるの・・・?
きみは俺が出世できなくてもいいのか?って、仰いましたよね・・・?
そんなもの。
じゃああなたは自分の奥さんが、意に沿わない相手に抱かれても平気でいられるの?
あなたの緻密な計算のなかに、妾の気持ちって、どれくらい入っているのかしら?

さいしょの相手は、もう唐突だった。
婚礼の手伝いに出たときのこと。
村長の甥御さんの婚礼だから、それなりの格好をしてきてくれ・・・主人にそう言われて。
さいしょは着物にしようかって、思ったくらい。
どうしてスーツにこだわったのか・・・そう、あの男たちの好色な視線は、妾の都会ふうの服装にまで注がれていたから。
そう。主人は妾がスーツ姿のまま襲われるのの、まさに片棒をかついだのだ。

さすがに気に入りの真紅のスーツは控えたけれど・・・
代わりに着ていったスーツは、真っ白だったはずなのに。
妾の血潮で、真紅のまだら模様に染められて・・・
新調したばかりのその一着は、そのまま妾をものにした男の戦利品として、引き渡してやるほかはなかった。
息も絶え絶えになりながら。
自宅に運び込まれる担架のうえ。
失血のあまり薄ぼんやりとなった頭は思考力を喪っていて。
不安定に揺れる揺りかごのなか・・・蜘蛛の巣みたいに他愛なく引き破かれた肌色のストッキングが、足許にまだまつわりついている感触が、ただむしょうにうっとうしかったのだけ憶えている。

二度目にお目にかかったとき。
そのひとは、おずおずと蹲るように・・・慇懃に頭を下げて。
それでも妾の生き血を、臆面もなく求めつづけた。
真っ赤なスカートの下。
肌色のパンストのうえから、くり返しあてがわれる唇は。
こないだのように、すぐに咬みつく様子はなくて・・・ただひたすら、愛撫するように、キスでも愉しむみたいにして。
薄手のナイロン生地の舌触りを、確かめつづけていた。

ストッキングがお好きなのかしら。
すこし心のゆとりを取り戻した妾が、男にそう話しかけると。
男はビクッと顔をあげて。
ちょっと恥ずかしげに目を伏せて、低くみじかい声色で、「すみません」とだけ、いった。
そのときのことだった。妾のなかに、なにか黒いものがスッと、入り込むのを感じたのは。
いいのよ。
妾の声色は、ちょっと冷ややかだったかも。弁解するように、つけ加えてやった。
お好きなように、してくださいな。このあいだみたいに、咬み破っていただいても差し支えございませんから・・・

せめて言葉を丁寧にしようと努めたのは。
相手に対する怖れとかではなくて。
せめて自分を高く持していたい・・・そんな気分があふれてきたから。
あなたが抱くのは、レディなのよ。
ですからせめて、マナーくらいは守ってちょうだい。気遣いまでは、望めなくても。

妾の願望は、男にすぐに、伝わったみたいだった。
おずおずと伸ばした手は、妾の手を取って。
まるでこわれものを扱うような慎重さで、手に取った妾の掌を、目線の高さまでおしいただいて。
まだ血塗られていない唇を、手の甲にそっとあてがってきた。
乾いた手の甲に、男の唇にほんのりと帯びられた唾液が、じわりと滲む。
首すじからでも、エエでしょうか・・・?
男の田舎言葉を、妾は初めて、好ましいと思った。

ずぶっ・・・ずずっ・・・じゅうっ。
畳のうえに仰向けに転がった妾のうえ。
のしかかってきた体重が、息苦しいほど迫ってくるのを、無意識に拒みつづけながら。
首すじに吸いつけられた唇が、ヒルのようにうごめきまわって。
鋭利に裂いたうなじの皮膚からほとび出る血潮を―――ただいっしんに、啖らいつづけてゆくのを。
妾は淡々とした気持ちで、受け入れて。
甘えるように慕い寄ってきた男の上背を、まるで母親のように、抱きしめていた。
ほとんど同年輩、いや彼のほうが妾よりも、主人よりも、すこし上―――
そんな年齢差も。都会妻に田舎の貧農というステータスの隔たりも・・・
なにもかもが、そこにはなくて。
ただあるのは、求める男と、支配を許す女。二個の肉体がはずみ合わせる息遣いがあるばかりだった。

気に入りの真っ赤なスカートの裏地を、男の精液にしとどに濡らしながら。
妾はまるで娼婦のように、そのスカートを大胆にたくし上げて。
肌色のパンストに包まれた太ももを、見せびらかしてやっていた。
男は妾の太ももを、押し戴くように両手で撫でさすって・・・
薄地のストッキングのサリサリとした感触が、すっかり敏感になってしまった皮膚に、じわりじわりとしみ込んできた。
パンストのうえから、唇を這わされて。
さっきみたいに、よだれをべっとりとなすりつけられながら、舌触りまで愉しまれて。
挙句の果てに、口許から覗いた尖った犬歯に、パチパチと音を立てて、咬み破られてゆく・・・

あー・・・

妾は両手で目隠しをして。
男に迫られる歓びを照れ隠しするのに、けんめいだった。


二度三度と、男との逢う瀬は重ねられた。
主人はさいしょのうち、満足そうだった。
妻を政略結婚の道具にしてでも・・・そんなにまで会社での地位ってあげたくなるものなのだろうか?
女の妾には、たぶん永遠に、わからない。
妾はというと、でも決して不満ではなかった。
ほとんど途絶えかけていた夫婦の営みのすき間を、男の熱烈な愛撫が―――露骨な劣情を籠めてではあったけれど―――妾の身体の寂しさを満たしてくれていた。

さいしょは主人への、仕返しのつもりもあった。
夫婦に家でいるときでさえ、迎えに来る情夫をまえに。
奥さんを連れてかれちゃって、それをぼう然と見送る主人。
部下の奥さんの素行調査だとかなんとかいって、
妾が目のまえでラブホテルに連れ込まれてしまうのを、見守る主人。
黒くテカテカと輝くストッキングは、主人の網膜を、どんなふうに染めたのだろう?
それは、法事の手伝いに招ばれたさい、なん人もの男に押し倒されたとき以来、やみつきになっていた装いだった。

貧血でふらふらしながら帰宅した夜。
主人の帰りを出迎えずに、血の付いたワンピースのままわざとリビングで仰向けに寝っ転がって、おかえりなさいを言ったこともあった。
さすがに主人はあきれ果てたような顔をして。
熱心なのはいいが、たいがいにするんだね。
ちょっとため息交じりにそういうと。
待ってなさい・・・呟くように言い捨てて。
ぬるま湯でよく絞ったおしぼりを持ってくると。
ソファのうえに妾を横たえ、ひざまくらをさせながら。
はだけたワンピースのすき間から覗く、血と汗をあやした素肌を、拭ってくれた。
ほわっとしたぬるま湯の温もりが。ごく自然な手つきで、素肌のうえをくまなく行き交っていって。
妾はいつか、深い眠りに落ちていった。

彼からプロポーズを受けたのは、そんなころのことだった。
うちにきませんか?
ご主人、夜遅いんでしょう?
貴女が夕べ朝帰りしても、気づかなかったりしたんでしょう?
たしかに貴女は、ご主人の出勤時間に合わせて、朝の支度に間に合うよう、午前4時にお帰りになったのだけど。
それならうちに、来ませんか?
いっそのこと、苗字も私の苗字を差し上げましょう。
その代わり貴女は都会妻の身分を捨てて、ご主人が栄転した時には、別れてしまえばいいんです。

そんな彼の申し出に。
きっと、抱かれ始めたすぐのころなら、迷うことなく応じていたかも。
けれども妾の返事は、妾自身が驚くくらい、はっきりしていた。

それはやっぱり、できかねます。

そうですか・・・

男はそれ以上、言い募ることをしなかった。

どうしてだか、わかる?

教えてください。

妾が主人のところにい続けたからといって、あのひとが感謝してくれるわけじゃないと思うの。
でも、妾がいなくなったらあのひと、きっとしょげ返っちゃうからよ。

自分でも思ってもみない、理由だった。
けれどもきっと、それはほんとうの気持ちなのだろう。
言ってしまった後、胸の奥から澱みやわだかまりが一掃されて、気分がすっきりしたから。
そう、ぬるま湯で絞られたおしぼりで、汗をぬぐい取られたみたいに―――


あのひとに、越してきてもらうことにしたから。

ふだんは妾のことなどなおざりな主人が、不意に声をかけてきたと思ったら。
言葉の意味が唐突過ぎて。さいしょはなにを言われているのか、まったくわからないほどだった。

きみに家から出ていかれるくらいなら、彼にいっしょに棲んでもらった方が、わたしとしては嬉しいので・・・ね。

主人はあくまでも、妾のほうには目を向けずに呟きつづける。
自分の妻がほかの男の支配を受け入れてしまった という。
男の沽券にかかわるような事実を、あくまでも認めたくないといっているように、妾にはみえた。

妾は貴男に、感謝していますよ。尊敬もしていますよ。

かたくなにそびやかされた主人の背中を包むように、穏やかな声色になっている。妾はそう感じていた。
なんとかして、失われた夫の威厳を取り戻させてあげたい。初めてそんな気分になっていた。

彼にも言いましたの。妾は主人なしには生きていけませんもの・・・って。

真っ赤な嘘に、主人はまんざらでもなかったのかもしれない。「そう?」と、はじめて妾のほうを視た。
今まで見たこともない、とぼけた味のある瞳の色をしていた。
妾がほかの男を識ることで、主人も妾も、どこかで成長したのかもしれない―――そんな気が、ちらっとした。

あのひと、きみのことが本当に、好きなんだな。
半年もここにいたら、両手の数ほど男を識ってるはずなのに・・・きみときたら・・・

みなまで言わなかったのは、主人らしからぬ気遣いだった。
そう、妾が識っている男の数は、他の奥さんに比べると、そんなに多くはない。
それはあの方の情愛の深さなのだと、ずっと前からわかっていた。
たぶん妾は、主人から得られなかったものを、此処で初めて得ることができたのだ。

でもあのかた、うちにお招(よ)びしたらきっと、妾のことをあなたの前でも抱くわよ。
それでもいいのかしら・・・?そういうときだけは、二人で出かけようか?
越してきてくださるとしたら、生活の準備もあるし・・・そんなことも、きちんと決めておいた方がいいわね?

主人が、震える声で、いった。
たぶんそれは、屈辱のあまり・・・とかではなくて。
牡(おす)の昂ぶりを抑えきれないための声色だったはず。

いいじゃないか。きみのことを彼と分け合うわけだから。お互いゆずり合えばすむことだ。
かりに彼がきみを愛しているところをぼくに見せつけたい・・・って、いわれても。
よろこんで応じる心づもりだよ。
黙っていて悪かったが・・・今までも何度となく、そうしてきたことだからね。
きみたちは、じつに相性の良いカップルだ。
彼はわたしたちのこと、さいしょから目をつけていたみたいだけど・・・適切な選択だったね、お互いのために。
最愛のひとは、ひとりである必要はないのだと・・・このごろようやく、得心がいった。
わたしは妻の貞操を奪われたけれども、それと引き換えに、妻の愛人という心強いパートナーを得ることができた。
それから、都会への栄転の打診があったけど・・・今回は辞退したからね。
これからはせいぜい、きみが彼に破らせてあげるワンピースやストッキング代を稼ぐために、一生けんめい働くとするさ。

わかったわ。

妾も艶然と、頷いている。

じゃあ彼がこの家に来たら、妾は米良夫人兼、あのかたの娼婦・・・ということで、よろしいのですね?

イタズラっぽい、かわいいほほ笑み。
新婚以来、忘れていたかも。
その妾の笑みに引き込まれるようにして・・・主人の両の腕(かいな)が、妾をゆっくりと、包んでいった。

米良課長の呟き。

2014年06月29日(Sun) 01:46:32

女房は昔から、赤い洋服が好みだった。
この村に来てからは、その手の服を着る機会は、格段に増えている。
夫を二人持つ身になったため・・・その事実を前に、夫たるものは赤面・汗顔の至りであるはずなのに。
この村ではそう言うことは、どうやら自慢に値することになっているようだった。

当地に妻や娘同伴で赴任してくるものはたいがい、なにか後ろ暗い背景を背負い込んでいて。
都会にいられなくなった者たちが、そのほとんどを占めている。
最近わたしの部下として赴任してきた早田課員にしたところで・・・深くは訊いていないけれど、おそらくそういう立場におかれたはずだった。
わたしの場合・・・すこし事情が違っていた。
同期の中ではトップを走る、エリート社員と目されていたのだから。

わたしが当地の風習を知りながら、妻を伴い赴任することを願い出たのは。
それが出世の早道だったから。
社の創立者の出身地であるこの村の事務所勤務を経ると、都会に戻れるものは大概、ワンランク上の処遇にあずかれる。
わたしにしてからが・・・ここの課長を経たあとは、本社の課長待遇のポストが待っているはずだった。
そのために妻の身持ちが多少汚れたところで・・・なにほどのことでもない。そんなふうに軽く、考えていたのだった。
人並み外れた昇進の陰には、内助の功が欠かせないはずではないか。

真っ先に女房を狙ったのは、幸か不幸か吸血鬼だった。
この村には、人の生き血を嗜む者が何人となく、巣食っているといわれている。
その実数は―――村の長老さえも知らない。
当地に着任後いくばくもない、ある日。
婚礼の手伝いに招(よ)ばれていった女房は―――その日に限って気に入りの真紅のスーツではなく、オフホワイトのスーツだった―――その身にまとった純白の装いを、自らの血潮で真紅に彩る羽目になったのだった。

つい前日のことだった。
かねて女房に狙いを定めていた吸血鬼の来訪を、勤務先で迎え入れたのは。
赴任のあいさつは長引いて打ち合わせのようになり、打ち合わせはさらに尻が長くなって、宴席に場を移していた。
その宴席で、いつになく酔いの早かったわたし―――いや、ここの地酒はひどく酔いが早くにまわるのだ―――は、問答無用に首すじを咬まれていた。
年輩男の血なんか、不味かっただろう・・・?
軽口でそんなことを訊けたのは、よほど後日のことだったが。
すでに妻を征服していた吸血鬼は、
なに、喉が渇いた日にゃ、なんでもありになるんでさ。
と、陽灼けした頬を磊落にほころばせたのだった。

旦那の生き血を先に吸ったのは。
彼らのあいだでは、礼儀作法に属することでもあったらしい。
その場でわたしは彼と意気投合したことになっていて、
わたしのほうから妻を襲ってほしいと願い出た・・・という事実が、直ちに捏造されていた。

自宅で寝込んでいたわたしは。
青息吐息の女房が担ぎ込まれてくるのをぼう然と見守っていて。
さいごに部屋に入ってきた男―――わたしの生き血を喫った男―――が、妻の血を口許にべっとり光らせたままでいるのを視、なにが起きたのかをすぐにさとった。

「女房のこと、あんたが襲ってくれたんだな。礼を言うよ」
あり得ないあいさつ―――けれどもそれが、そのときのわたしにとっては、うそ偽りのない真情だった。
どうせ女房を襲われてしまうのなら。
気心の知れた相手のほうが、まだしもというものだった。

赴任を前に言い含めていた風習の存在を、女房はさいしょは不得要領に、やがていかにも気が進まないというような、煮え切らない様子になっていたので。
わたしは彼女の態度に、すっかり苛々していたのだった。
だんなの出世のために、身を粉にすることを拒むのか・・・?
そんな横暴な感情だけが、そのころのわたしを支配していたから。
煮え切らない女房のやつのことを、彼が引導を渡してくれた―――
むしろ自然に、感謝の念が沸き起こっていたのだった。

いちど血を吸われた女房が、好みの真っ赤なスーツやワンピースを身にまとって、頻繁に出歩くようになったのを。
わたしはむしろ、当然のこととして受け止めていた。
着込んでいった服を破かれたり血で汚されたりした後に、彼女の生き血をすっかり気に入ってた情夫殿が代わりを買い揃えてくれることも。
むしろ当然のことだと、思っていた。
高価な服を汚したのだから、弁償するのは当然だから。

そんな高慢な考え方が、すり替わっていったのは。
いつのころからだっただろうか?

都会からきた人妻は、血を吸われると。
ほぼ例外なく、その場で犯されてしまうという。
うちの女房の場合も、例外ではなかった。
もっとも50歳を超えた夫婦のあいだで、そうした夜の営みはすっかり、おろそかになっていたから・・・嫉妬の念もむしろ、ごく軽く済ませていたのだが。
毎日のように真っ赤な服を身にまとい、黒のストッキングを輝かせた脛をあらわに街を闊歩する女房を横目に見ているうちに・・・別の感情が湧いてきた。
娼婦のように着飾った女房は、髪を黒く染め、メイクを入念に、ばっちりと決めるようになって。
だれもが女房を、連れまわしたがるようになっていた。

けれども吸血鬼氏は、女房に執心なようだった。
もちろん、相手は彼一人だけというわけにはいかず、それなりのことはあったようだったが。
都会から赴任してきた社員の妻たちが、多くの場合複数・不特定の相手を持つのに比べると、妻が相手をする男の数は、グッと限られていたのだった。
そして、いつも女房のかたわらに寄り添う吸血鬼氏は、自らの男振りも、いちだんと輝いていくようになっていた―――

奥さんに、プロポーズしたのですよ。
吸血鬼はわたしの血を吸ったあと、うっそりとそう告げた。
え・・・?
言っている意味がよく呑み込めず、わたしが訊き返すと。
ですから、奥さんにプロポーズしたんですよ。
え?女房を?あんたが女房と結婚するというのかい?
寝耳に水の事だった。

けれどもね。
男の声色は、女の愛情を勝ち得たとは思われないほどに、陰々滅々、うっそりとしたものだった。
断られちゃったんですよ・・・
ほー・・・
思わず漏らした声色は、ナーヴァスになっている男の気分を意外なくらい傷つけてしまったしい。
様変わりするほどしょげてしまった吸血鬼氏に、
言い過ぎたかな?すまなかったね。
さすがのわたしも、謝罪のひと言くらいは、口にしないではいられなかった。
とはいったものの。
わたしから女房を奪おうとした男の意図が粉砕されたからと言って。
彼のことをことさらに慰問する義理はないはずだったのだが。

彼女はきっと、わたしの妻でい続けることで、未来の重役夫人を目指す道を択んだのだろう。
そんなふうに浅はかなことを、想像していると。
あんたの考えていること、いちいち見通しなんですよ。
男の声色は、なおもいっそう、うっそりするのだった。

あのひと、言ったんですよ。
妾(わたし)がい続けたからと言って、あのひとが感謝してくれるということはないんだけど・・・
妾(わたし)がいなくなったらあのひと、きっとしょげ返ってしまうわ・・・ってね。

虚を突かれたわたしは、一言もなく、答えを返せずじまいだった・・・

それから1年―――ー
あの子も結婚、わたしも結婚・・・
女房のやつは、小娘みたいにウキウキしながら。
例によって真っ赤な服に身を包み、息子の婚礼の最終準備に余念がない。
都会で挙げられるはずの、息子の結婚式。
父親と同じ会社をことさら就職先として選ぶ必要はなかったはずなのに。
息子はエリート社員の二世として、まるでプリンスのようにもてはやされて。
ミス〇〇部と名指しされた女性と、このたび社内結婚のはこびとあいなったのだ。

花嫁になる女性はむろんのこと、両親も同伴で村に来ている。
兄嫁はまだ新婚3か月。おめでた続きというわけだ。
ほかにも数名、30代から40代の妻を同伴した親族や。
花嫁の妹を含めて10代の少女も数人、婚礼の客として招待されている―――

夕べ。
花嫁の両親は初めて、この村の風習を身をもって識った。
父君はもの分かりのよい紳士で、この土地で妻を寝取られることが栄誉と見なされるべきものだということを、すぐに察したようだった。
長年連れ添った夫人が、まるで別人のようにひーひー喘ぎ声をあげながら、折り重なって来る男たちの誘惑に屈してゆくのを淡々と見届けると、おなじ寝取られ仲間になったわたしと、カチンとグラスを合わせたのだった。

同時に妻も―――
きょうから村では公式に、情交相手の苗字を名乗る。
同居同然に我が家に居候している吸血鬼は、息子の嫁の血を吸って。
息子のまえで、女にしてしまったとか、してしまわなかったとか―――

苗字が変わってしまっても。あなたといっしょに居ることにかわりはないですからね・・・
女房はくり返し、そう強調するけれど。
息子と同時に華燭の典を張って、周囲にも都会の親族にまでもご披露するという構想は、むしろわたしから望んでのものだった。
情夫と女房との交情が、いかに深まったとしても。
彼女が去っていかないという確信を覚えたときに。
60年近く独りでいたという吸血鬼氏の寂しさを、初めて察する気になっていた。

一生家族でいるといい。
なんならわたしが都会に栄転したら、いっしょに都会に来るといい。
本場の都会女たちの生き血を、たっぷりとゲットできるだろうからね・・・

わたしの言い草を、女房の情夫はくすぐったそうに受け流して。
女房をものにしてからは、すっかり和やかになった目鼻立ちを、いっそうほころばせてゆくのだった。

勝手な裁判員たち。

2014年06月27日(Fri) 08:02:09

町立の家庭裁判所があるなんて、きいたことがない。
ましてそのなかで、裁判員制度があるなんて、さらに初耳だ。
とにかくなによりも、うさんくさいのは・・・
裁判長がほかならぬ、妻を初めて犯したあの長老であることだった。
それがまた、滑稽なくらいにもったいぶった顔つきをして、いちばん上座に御成りになっている。

被告席には室田さんが、いつにもまして神妙な顔つきを、引っ込み思案にうつむけていて。
証人の席には、妻の素子。
そして訴えた覚えのないわたしが、なにを間違えてか原告席に座らされていた。

会場である公民館の座敷の入り口には、模造紙を貼り合わせた幕が、れいれいしく掲げられている。
いわく、
「早田夫人貞操侵奪・交際強要・家庭内公然猥褻事件審理会場」

なんという、おどろおどろしい審理内容であることか。
村長に命名された審理の名称といい、村の顔役の一人である住職の手になる墨黒々と記された字体といい、
おどろおどろし過ぎて、かえってそれ自体が冗談であるかのようにさえ、映るのだった。

―――それで、今回の訴えの主旨について、ご説明願います。
長老は威厳たっぷりにそっくり返って。いつになく仰々しい口調で開会を告げる。
つい、きのうのことだった。
我が家にお出ましになって、夫婦のベッドのうえ妻のスカートの裏地を精液まみれにした挙句。
股をおっ拡げて仰向けになったままの妻を背に、お尻をぽりぽり掻きながら、
情婦の脚から引き抜いた肌色のパンストをぶら提げて、意気揚々と引き揚げていったのは。

検事役は、この村では珍しく、四大出のエリート若旦那。
銀ブチ眼鏡を理知的に光らせて、そつなく応対する。
はい、本件は、被告人室田良平58歳が、近くに住む会社員早田雅夫さん43歳の妻素子さん38歳に対して性的暴行を加えたうえで自己の愛人となるよう強要し、あまつさえ夫である早田さんの面前で日常的に夫人の凌辱に及んでいるという案件です。
れいれいしい言葉を連ねながら、我が家の恥をあばき立てている彼も―――ああ、やはり四大卒で小学校教諭を勤めているインテリの奥さんを、村じゅうの男たちのおもちゃに提供している人物である。

―――被告人はその事実を、認めますか?
長老は下品に顎をしゃくる。
いや、威厳というか、貫録らしきものは、あるといえばあるのだが・・・
まったくもって、裁判官らしい知性のかけらもない。

室田氏は気の毒なくらいおどおどしながら、こういった。
―――はい、事実を全面的に認めます。
おいおい、それって、まるで、素子が娼婦あつかいされているのを認めているみたいじゃないか・・・
いまのわたしとしては、むしろそっちのほうを抗議したい気持ちになっていた。

では、証人の発言を求めます。
長老の声色は、あくまでももったいぶって訥々としている。
妻の素子が居ずまいを正して、背すじをしゃんと伸ばしていた。
彼女はこの裁判なるものを、すっかり真に受けているらしい。

証人は起訴事実を認めますか・・・台詞を棒読みにしているみたいな長老の問いに応える妻―――

がつがつしてるときも、あるんです。
服破かれちゃったりするんです。そういうときには。
でも室田さん稼ぎがいいらしくって。代わりを買ってくれるんです。
ただし、とっても下品な服なんです。
あの・・・マイクロミニっていうんですか?お尻が隠れるくらいしか丈のないミニスカートとか。
こないだなんか、ショッキングピンクのマイクロミニに黒のストッキングで、街の商店街をいっしょに歩かされたんですよ・・・

素子は伏し目がちになりながら。
控えめに紅を刷いた薄い唇から洩れる声色は、あくまで控えめでありながら。
それでもひどく露骨なことを、言い募る。
そう、言葉の内容とは裏腹な、淡々と口調で である。

検事気取りのインテリ若旦那が、肩をそびやかして共感の意をあらわした。
そりゃあ、共感するだろう。
我が家とまったく、同じ立場であることは。この場に居合わせるだれもが周知の事実なのだから。

そう、それはけしからんね。まさしく犯罪行為だ。
ご主人はさぞや、無念だったことだろうし・・・
奥さまにとっても、貞操を守り抜くことができずに汚されてしまったということは・・・生涯の屈辱であったろうとお察ししますよ。

ことさらに、人の傷口を抉るような言い回しをするのは・・・意図的なのか無意識なのか。

インテリ若旦那の言に重々しく頷いたのは、お隣のご主人。

まったくもって、けしからん。
夫のあるご婦人を汚すとは・・・
ご夫婦がそれでもむつまじくされていらっしゃるのは・・・
ご主人の雅量と奥方のご主人に対する敬愛の念が、そうさせるのでしょうな。

いやいや。
それはお宅の話でしょう?
そういいたくなるくらい。
お隣もまた、ほぼ毎晩のように・・・奥さんに夜這いをかける男どもが、列をなすほどの盛況ぶり。

その・・・ご主人のまえで犯されるときって、どんな気分になるんですか。

つけ加えられた質問に、生唾を飲み込む気配を感じたのは・・・きっと錯覚ではなかったはず。

ええ、そうですね・・・
素子は相変わらず、伏し目がち。けれども声色は、揺るぎがない。

小気味よくって。

え・・・?
インテリ若旦那と隣のご主人とが、にわかに聞き耳を立てた。
けれども妻は、むしろサバサバと、得意げに頷いている。

小気味よい?ほほう・・・
隣のご主人は、大仰に相槌を打つ。

それは、ご主人に対して・・・ですか?
インテリ若旦那も、興味津々というのが手に取るようにわかるほど。

そうですね・・・主人に対してもそうですが、なにか自分を解放しきっちゃっているみたいで・・・

ご主人のこと、軽蔑しているの?
だれかがもっとも忌むべき質問を、妻に投げた。

いいえ、そんなことありませんわ。主人には感謝してますし、愛してます。

称讃のどよめきが、声にならない声になって、万座に満ちる。

えーと、さいごに・・・ですが。
隣のご主人が、さらにつづけた。

原告であるご主人に質問します。
奥さまが交際を強要されているとの件に関してですが・・・その事実に間違いはありませんか?

虚を突かれるような、タイミングに、わたしは案に相違して、しどろもどろになっていた。
上ずった声色は、わたしの意思をどこまで反映していたのだろう。
いや、あるいはそれは、わたしの心の奥底に澱んでいた、真の願望だったのかもしれない。
わたしはよどみなく、こたえていた。

―――いえ、室田さんと家内との交際は、わたくしのほうから申し出て、お願いしているものなのです。

声にならない声がまた、万座に満ちた。

それでは、判決、判決。
まったく村の長老が「判決」なんて言ってみたところで、八百屋の親父が店先であげるかけ声と、大して変りはしないのだった。

被告人、室田良平。
右の者と早田夫人素子との交際は、適切な関係であることを認定する。
原告であるところの早田雅夫は、夫人素子と被告人との間の、現在の如く適切な交際を継続するのを、公認しなければならない。
原告は、被告人が原告の家を訪問し、原告の妻との性行為を欲するときには、必ずこれを許容しなければならない。

おごそかに告げられた判決文に、わたしは、よろこんで同意します、とだけ答えると。
万座から拍手が上がっていた。
長老も、検事のはずのエリート若旦那も、たんなる野次馬のお隣のご主人も。
素子までもが、拍手に加わっている。
室田さんは恐縮しきって、周囲のだれからと言わず、しきりにぺこぺこと頭を下げていたし、
途中で拍手をやめた素子は、情夫殿に悠々と片手を預け、手の甲にべったりとぶきっちょな接吻を受け止めている。

そうと決まれば、さあさあ・・・
長老はさっそくのように、皆を引き立てた。
奥方に愛人ができた旦那は、ひと晩まわりのもんに祝ってもらう権利があるのですぞ。
あらかじめ用意されているらしい宴席に向かうのに、わたしはひき立てられるようにして座を起たされる。
むろんそれは、訴訟ごとのあとの若いのしるしに、室田さんと素子とを、ふたりきりにするための方便だった。

お二人のお邪魔にならぬようにのう・・・若いもんは、うらやましいのお。
室田どん、素子さんと乳繰り合うのもエエが、たまにはわしにも貸してくだされよ。
長老が露骨なことを言って、目を細める。

座敷を出るときふと振り返ると、素子と目が合った。
「留守をよろしく」
「はい、かしこまりました」
きちんと挨拶を返す素子の背後には、室田さんがひっそりと控えていた。
わたしが会釈を投げると、室田さんは気の毒なくらい恐縮しきって、なん度もなん度も頭を下げてきた。

「早田さん、このあたりの男衆は、だれもあんたのこと笑ったりはせんはずだよ」
お隣のご主人が、うまい間合いを取って言い添えてくると。
「そうですねえ。おなじ憂き目をみない亭主は、このあたりじゃ本当に、まれですからねえ」
エリート若旦那もまた、さらに深掘りしたようなことを、言い添える。
「たいがいこれが、悦んでいるんだよなあ。ヘンな話・・・女房に男ができてるってのに」
ほかのだれかも、二人に応じて、自分の妻が「モテて」いることを自慢げにさらけ出す。

婚姻関係だけでは縛られない、男女の情がもつれ合う土地―――
だれもが相手を信じ切っているからこそ、差し出したり、交換したり、一方的にプレゼントしたり・・・そんなことが日常風景のようなさり気なさで、取り交わされている土地・・・
素子はきょう、土地の女になって。
わたしもたった今、土地の男衆に加えられてゆく―――

室田さんとの交流

2014年06月27日(Fri) 06:18:31

妻の素子は、いつもよく尽してくれる。
いや・・・室田さんと関係ができてからというものは、以前にもまして、まめまめしく尽してくれる。
けれども。。。
わたしの留守中自宅には、室田さんが通い詰めているという。
そして妻も、わたしが寝入った後は、室田さんの家に通い詰めているという。
すべては・・・ご近所の口さがない衆が、気軽に教えてくれたこと。

あの。
おずおずと声をかけるわたしに。
はあ・・・
室田さんも、不得要領に応えを返す。
家内のことなんですが・・・
あ、はい・・・
室田さんもその話題は、とてもぶきっちょな対応しかできない。
もともと人づきあいが苦手な人・・・と、妻からは聞いているけれど。
ほんとうに気の毒なくらい、おずおずとした態度である。
彼の卑屈な様子に、かろうじて口火を切る勇気を見出して。
わたしは渾身の気持ちを込めて、お願いしてみた。
家内のこと、わたしから奪(と)上げないでいただけますか・・・?
ええ、ふだんのおつきあいのことは、とやかく申し上げることはしませんから。

奥さんを取り上げるだなんて・・・
むしろ室田さんは、困惑のてい。
しながい職工のわしが、都会のエリートサラリーマンの旦那さんに、そんなことできるわけないです。
珍しく、長い言葉を口にした。
その言葉の意味に、内心ほっとしながらも。
室田さんは嬉しそうに、にやあっと笑う。
でもね。
今こうしているように・・・
だんなの前で奥さんとお〇こするのって、しんそこ愉しいんですワ。

いや、きっと。
わたしにひとを咎める資格なんて、たぶんない。いや、きっと、ない・・・
ぐるぐる巻きに縛り上げられて。
よそ行きのスーツをはだけながら犯されてゆく妻を目の当たりに、
さっきからしきりに勃起と射精をくり返す、情けない姿。
良いじゃないの。
むしろ妻のほうが、サバサバと振舞っていた。
貴男がそれで、いいんなら。
わたくしも・・・あなたに見せつけながら姦られるのが・・・好き。
妻のひと言が、ぐさりと胸に喰い入った。

三人三様の心持ちで。
愉しんでしまっている、不義な日常―――
きょうも室田さんは、わたしのまえで。
妻の素子を、わが物顔に抱きしめて。
彼の情婦は眉を寄せ、あられもない声をあげながら。
夫のまえで、はしたなく乱れ抜いてゆく・・・

連れまわされる妻。

2014年06月26日(Thu) 07:59:37

吸血鬼の棲むこの街では。
なにかと祝い事が多くある。
女たちを着飾らせるための晴れの場を、ことさら多く作り出そうとしているほどに。

そんななか、会社の取引先の新社屋落成イベントに行かされたときのこと。
来訪者芳名帳に記名をしようとして、数十人の先客の名前に何気なく目を走らせると。
見覚えのあり過ぎるほどある、ふたつの名前が、仲良く寄り添っていた。

室田良平
早田素子

仲良く、というか。 よそよそしく、というか。
街で出会ったときのふたりの様子をほうふつとさせるような距離感が、そこにあった。
わたしは記名を済ませ、言づけものを届けると。
そそくさとその場を、離れていた。

来訪者芳名帳に、おなじようなたたずまいを見つけたのは、それから2週間後。

室田良平
   素子
妻の苗字は空欄になっていて、どちらとも取れるような微妙な書き方に変化していた。

そして決定的だったのが、さらに1か月後―――

室田良平
室田素子

とある結婚披露宴の席でのことだった。
室田夫人として出席した妻は。
宴のさなかに始まった、恒例の乱交の渦のなかで。
ひたすら戸惑いながら、おおぜいの男たちの輪姦の輪のなかに、とり込まれていったという。

決してほんとうに奪われることはない・・・とはきいている。
米良課長の夫人は、愛人相手に、結婚披露宴までやってあげたときいている。
同僚の菱村などは、自分の父親くらいの年輩になる奥さんの愛人と、同居しているという。
夫婦そろって、この街から離任していっても。
一夜の娼婦として妻だけが舞い戻り、男たちに奉仕していくこともあるという。
果たして奪われずに夫の為に残される部分は、どれほどのものになるというのだろう・・・?

妻の浮気調査。

2014年06月25日(Wed) 08:10:40

出かけるよ。
米良課長が早田に声をかけたのは、妻が村の男たちの手に落ちてから、一週間ほど経ったころだった。
早田の上司である米良は、白髪交じりの首を振り振り、周囲に聞こえるように、「出張、出張!」とくり返した。
行く先も告げずに早田を連れて事務所を出た課長は、社用車の運転席に乗り込んで、みずからハンドルを握った。
車に乗ったふたりが出向いたのは、隣町の目抜き通り。
ところどころシャッターの降りた商店街の一隅は、すでに撤去された店の跡地が、駐車場になって広がっている。
その駐車場に、フロントガラスから通りが見えるような位置に停車すると。
すこし、ゆっくりしてこくや。
課長は運転席の背もたれを倒して、あーあと声をあげる。
それから早田に向かって、ちょっぴり抜き差しならないことをいった。

きょう出てきたのはね。きみの奥さんの浮気調査。


商店街の人通りは、まばらだった。
のんびりとした足取りの、地元の人たちに交じって。
いくたりか、都会ふうに着飾った女性が混じっていた。
彼女たちは例外なく、男といっしょだった。
連れの男たちは、着飾った女性とは不釣り合いに粗末ななりをしていて、
毛玉のついたセーターを着ていたり、野暮ったく日焼けのしたジャケットを着ていたり。
野良着のものや作業衣のものまでいた。

みんな、当社の社員のご夫人たちだよ。

課長はそう、言い放った。
駐車場の正面は、派手なピンク色の建物で、けばけばしいネオン管の看板には、「旅館 丸花」と描かれていた。
昼ひなかから、浮気に励むんだから。どちらもご熱心なことだよね。
上半身を抱き合うように絡みつけた男女がまたひと組、ホテルのドアの向こうへと姿を消してゆく。
女はそこそこの年輩だったが、髪を真っ黒に染めていて、
真っ赤なワンピースにむき出しの二の腕が白くなまめかしく映えていて、
すそから覗く足許は、濃いめの黒のストッキングが、てかてかとした光沢をよぎらせていた。

ほぅら、お見えになった。
課長が指さすかなたにたたずんでいるのは―――妻の素子だった。

きょうの相手は、あの五十男。
室田というその男は、早田の留守宅にしげしげと通い詰めているという。
仲良くなったご近所の衆が、口をそろえてそういうのだから、
室田と素子との親密さは、たいそうなものなのだろう。
腕を組んでぴったりと身を寄せ合っているふたりは、どうみても仲の良い不倫カップルだった。

ふと、素子が目をあげて―――早田と目が合った。
あ、と、いう表情に、室田もすぐにそれと察して・・・慇懃なあいさつを投げてくる。
早田はそれに対してさりげなく目で応えると、
ふたたび妻と目を合わせた。
チラと投げてくる妻の視線は、悪びれもせず、後ろめたそうでもなく・・・
たまたま出かけた先で夫と出会った妻の、ふつうの視線にすぎなかった。
早田が軽く手をあげると、素子も白い歯をみせて笑った。
一対の男女は早田からホテルの前で歩く向きを変えて、
早田に背を向けると、手を取り合うようにして、ホテルのドアを開けた。
ロビーの暗がりに踏み入れる素子の足許は、黒のストッキングに白い脛を滲ませている。

いいのか・・・?
米良課長の呟きに。
よろしうどうぞ・・・ってとこ、ですかね。
苦笑いを交えて、早田がこたえる。
うまくやっているようだね。
そうですね。
円満なようなら、なによりだ。課員の日常は、上司としても気になっていたんだよ。
「上司」というところに力点を置いて、米良課長はちょっとだけ黙りこくった。

じつはね、きょうの浮気調査の対象には、米良夫人も含まれていたのさ。
え?と訊きかえす早田に、米良は照れ臭そうにいった。
さっきホテルに入っていった、真っ赤なワンピースの女。あれ、うちの女房なんだよ。

おきれいなかたですね・・・と言いかけた言葉を、早田は呑み込んだ。
そのおきれいな妻を日常的に奪われている上司の心中を察したからだ。
なに、うちも特に、差し支えはないんだよ。
早田の心を読んだらしい米良は、肩をそびやかしてつけ加える。
うちの女房、モテるらしいぜ。ご近所jの衆から聞き込んだんだけど、男がもう、片手にあまるほどいるんだそうだ。
自分の妻のモテっぷりを語る米良は、ちょっぴり得意げにみえた。
早田は眩しそうに上司を見あげ、そして妻が情夫といっしょに消えていったホテルの入り口に、もういちど目をやった。
室田さん、素子をよろしくね。
いまごろはもう、スーツ姿を着くずれさせて首すじを吸われているであろう素子の姿を想像して、ズボンの中がこわばるのを感じながら、早田は「運転代わります」と、あくまで事務口調で上司に告げた。

二泊三日のフル・コース

2014年06月25日(Wed) 07:38:57

あごひげをピンと逆立てた、その老齢の男は。
野良着のようなざっくばらんな身なりで、早田夫妻のまえに現れた。
この村に早田が赴任してきて、三日目の土曜のことだった。

「奥さんには、フル・コース、体験してもらうえべな」
田舎ことばまる出しの老爺は、人懐こくわらったけれど。
フル・コースの意味をじゅうぶん理解していた夫妻は一瞬息を呑んで、
特に妻の素子は、白い頬を引きつらせた。
「フル・コース」という言葉は。
村じゅうの男と交わりを遂げる。
そう言う意味だと、言い聞かされていたから。

人事課の人間が、表情を消した顔でおごそかに朗読した社則の一説を、早田はいまでも覚えている。
「当事務所は、当社と生産地を結ぶための重要な拠点である。
当事務所に赴任する社員は、夫人の帯同をを必須とし、
地域に密着した経営を実現するべく、当地の住民と家族ぐるみの懇親を深めるよう努められたい。
そのための一手段として、社員の妻は必ず当地の男性と性的関係を結ぶことを義務づけられる」
・・・・・・。
夫人同伴のうえ告げられた条件に、ふたりはこのときも息を呑んだけれど・・・
都会に居られない事情を負った彼らに、選択の余地はなかった。
「身体の浮気はせざるを得ないみたいだけど・・・心の浮気はしませんからね」
気丈にもそう告げた夫人の言葉も、早田にはあまりなぐさめにはならなかった。

「だんなさん、ご自分のこと甲斐性無しだなんて、間違っても思わんことですぞ」
あごひげの老爺は、早田の心のなかを見通したようなことをいった。
「大事なご令室さまを、わしらにくださるんじゃ。そのお志、決して無駄にはなりませんでの」
妻の素子は、この村の長老である老爺の屋敷に三泊する。
そのあいだ、夫である早田の行動は自由である。
自宅から通勤をつづけるもよし。
村にいたたまれないようであれば、都会に残したマンションにひっそりと戻っているもよし。
「屋敷に覗きにこられても、よござんしょ」
老爺は好色そうな頬を、陽気にゆがめた。
「そいから、奥さんの最初の相手は、わしがつとめることになっておるでの。当日はよろしゅう」
あっけにとられた夫婦を背にして、老爺はそそくさと起ちあがった。


当日、早田はいつものように、午前九時に出勤していった。
この事務所では朝が遅く、夕方が早い。
そう言う意味では、非常に安気な職場であった。
妻の素子もはやり、よそ行きのスーツに着替えていて、
感情を消した顔つきで、朝餉の給仕をしてくれた。
「しばらく留守になりますから」といって買い置きをされた食料が、まだ台所のすみに山積みになっている。
整理はわたしがやるから・・・早田は事務的に、そう応じていた。
素子が着ているのは、もうなん年もまえに、娘の小学校の入学式のために買ったスーツだった。
まだ二十代だったときのそのスーツは淡いピンク色で、齢を重ねた素子の輪郭にはあまり、しっくりきていなかった。
なにか言いかけてやめた夫を、素子が促すと、
夫は言いにくそうに、言った。
「そのスーツ、ちょっと派手すぎないか?」
妻もまた、こたえにくそうに、こたえた。
「なるべく若作りして来いって言われたの・・・」
夫は複雑な気分で、妻に背を向けて自宅をあとにした。


無音の三日間が過ぎた。
三日目の夕方、定時の五時に退勤した早田が帰宅すると、素子はすでに先に戻っていた。
すでによそ行きのスーツではなくて、ふだん着ている地味な色合いのワンピース姿だった。
「おかえりなさい」
いつになく深々と、謝罪するようなお辞儀をしたのがとってつけたようだったが、
それ以外はなにも変わりない、ふだんどおりの素子だった。
あるいはそう振舞うように、言い含められてきたのか―――
そう思わせるほど、素子の態度はふだんどおりで、
三泊したもののなにも起らなかったのでは?とさえ思わせるほどだった。

風呂からあがってくつろいだ気分になった早田は、うっかり口をすべらせていた。
「どうだったの?」
「ええ・・・まあ・・・」
ちょっと言いよどんだ素子は、意外な言葉を口にした。
「そこそこ、愉しかったわよ」
え・・・?
ぎくりとする夫の気持ちなど、斟酌なしに。
「お昼前に三人。夕方までに三人。夜通しかけて三人。二泊三日でしたから・・・」
相手をした男の頭数を指折り数える妻の横顔が、どこか自慢げに見える。
「えぇと、全部で24人のかたと関係したわ」
夫を振り向いた素子はその瞬間目を見開くと、襲いかかって来る夫を、意思をなくしたように受け止めていった。


どうですじゃ。
あごひげの老爺がふたたび自宅に現れたのは、その翌日のことだった。
上司に会社を休むように言われた早田は、会社の指示のままに老爺を家にあげていた。
妻を真っ先にモノにしたという、いまわしい男だったが、会社の指示には逆らえなかった。
老爺はざっくばらんな態度で、鍵の閉まっていないドアをあけて、「もぅし、ごめんくだされ」と、訪いをいれてきた。
素子に案内されるままにひょこひょことあがりこんでくる老爺のようすは、人懐こいようにも、ふてぶてしいようにも感じられたが、
「いらっしゃい」
と、あくまで紳士的に迎え入れざるを得なかった。

「きょうはね、奥さんの感想を拝聴しに来たとですよ」
老爺は禿げあがって広くなった血色のよいおでこをてかてかとさせながら、そういった。
感想・・・?
いぶかしげに首を傾げる早田の傍らで、素子はなにもかもわかったという素振りをする。
いつの間にか妻は、よそ行きのモスグリーンのスーツに着替えていた。
三泊した妻のところに毎日夕方に着替えを届けさせられたけれど。
そのいずれとも違う、見慣れない柄のスーツだった。

そうですね。さいしょの方はやっぱり、印象的でした。
ほほぅ、そいつはどうも。
自分のことをよそよそしく「さいしょの方」と言われた老爺は、照れ臭そうに得意げに、頭に手をやった。

それからはもう夢中で・・・あまり記憶はないのですけれど。
素子は眉を寄せて、記憶をたどろうとしている。
その小さな頭のなかに、どんな記憶が封印されているのか・・・
いま妻の脳裏には、目に見えない忌まわしいものが渦巻いている・・・
消すことができないほどはっきりと刻印されたものが・・・
妻が帰宅した晩、ひと晩じゅうまぐわいつづけた妻の身体は、
淫らな務めをつづけさせられた疲れを全く見せることなく、ひどく若やいでいた。

そうですね。二日目のお昼の直前にお相手したかたは、とてもお上手でした。
淑やかな口許に、たくまず浮かぶかすかな笑みに、早田は淫らなものを嗅ぎつけていた。
あれ以来、いままでと変わらない日常をつづけてきた妻。
けれどもそれは、もしかしたらそっくり偽りだったのか・・・?
「愉しかった」という記憶を、もしかしたらひたすら押し隠していただけなのか・・・?

あー、あいつですかな。
あれは村一番の好きもんでしてな。だれもがあいつはええと申しますでの。
老爺は呵々と笑った。
わしの女房も、あれにはいちころだったんですぞ、とまでつけ加えて。
寝取ったほうが上だとか、寝取られたものが甲斐性がないとか、わしらはそんなこと気にしませんのでな。
何気なく口にしたその言葉は、間違いなく自分に向けられたものだと・・・早田は虚を突かれたような気分だった。
ほんとうに・・・この老人は彼の気分を手に取るように見抜いている。

そのほかにはだれぞ、お覚えよろしき殿御はおりましたかの?
さいしょの浮気相手。村一番の床上手。どちらもがいかにももっともな存在だった。
けれども素子は、なおも記憶をたどるように、もうひとりの男を指名した。
お暇する日の、朝いちばんのかたでした。
齢は主人より、すこし年上のお方でしょうか・・・?

58歳独身。職工をなりわいとしている、いかにもみすぼらしい男だった。
老爺に伴われて現れたその男は、自分がまぐわった女の夫をまえに、ひどくおどおどしていた。
まったくもって・・・あいすまんことで・・・
あっしがお邪魔したんは、おっしゃるとおり最後の日ですだ・・・
なんちゅうか、ほんにもったいないことで・・・
たどたどしい言葉が気の利かないタイミングで、ぽつりぽつりとつぶやかれる。
無学でもあるらしいこんな男のどこに、素子は惹かれたというのだろう・・・?
怒りや嫉妬よりも、むしろいぶかしさのほうが先に立っていた。

そういうのがご縁ちゅうもんですだでの。
老爺がまたもや、早田の胸中を見抜いたようなことをいう。
しどろもどろの弁明?をつづける男は、なにやらわけのわからない言葉をだらだらと口にし続けていたが。

奥さまは、へぇ・・・たいそうえぇ身体しておりやして・・・
そう言いさして、にたーりと、笑った。
早田の顔を、まともに見つめて。

俺はこんなとき、どんな態度を取ればいいんだ・・・?
思わずひっぱたいてやろうとした手を、妻がいち早く封じていた。
そうだ、社則では、「地域に密着」をうたっているのだった―――

ちぃとそのへんを、ひと廻りして来ませんかの・・・?
なぞをかけるように老爺が早田にそういうと。
五十男は強くかぶりを振っていた。
いんにゃ、だんなにゃあいちど、見せつけといてやりてぇのぉ。

素子、手ぇ貸せ。
男はぞんざいに早田夫人にそう指図をし、素子は男のいうなりに、夫の片腕を封じていた。
背後にまわった老爺は早田のことを羽交い絞めにし、身じろぎしようと懸命な早田に、男は手早く荒縄を巻いていく。

ああっ・・・ああっ。。。ああ~っ。 あ・な・た・あっ。

サテンのブラウスから片方だけあらわにされた乳首を、チロチロと舐められて。
派手なショッキングピンクのスカートをたくし上げられて。
ひざ小僧の下までずり降ろされたパンストを、まだ片方だけ脚に通したまま。
くしゃくしゃになったスカートの奥に沈み込んだ、逞しい臀部をまともに受け入れて。
ずっこん。ずっこん。
そんな音さえ聞こえるのではというほどの、すさまじい吶喊だった。
そのたびに、素子は細越を上下させて、あえぎ声をあげつづけた。

あ、な、た、あ・・・・ ごめんなさいっ!

目のまえで組み敷かれてゆく素子が張り上げる声は、いったいどこまで本気なのだろう?
二人してぐるになって、おれに見せつけようとしている―――
たぶんそんな直感も、間違っていないはず。

老爺もまた、ギラギラした目つきでまぐわう二人を見つめつづけて。
まだズボンを着けてはいたが、合間に相伴にあずかろうとしているこんたんは見え見えで、
ズボンのうえから露骨な手つきで、せんずりをこいている。
うひひひひ・・・やっぱり人妻は、えぇのお・・・

うーん、うーん・・・と、唸りながら。
早田ですらが、妻の痴態を悦びはじめていた。
荒縄を巻かれた早田の裸体は、かくしようもないほど火照っていた。
むくむくとひとりでに鎌首をもたげたペ〇スが、恥ずかしいほどピンとそそりたっている。
奥さんよう、あんたのダンナ、勃っちまってるぞお。
老爺が卑猥な声を、素子に投げると。
さすがに素子は羞ずかしそうに、目をそむけた。

老爺が素子に好みの男性を訊いたあの日さえも。
自分の目のまえで素子に挑みかかってゆくのを、とめることができなかった。
あのときのモスグリーンのスーツが、老爺からの贈り物だとは、あとで素子本人から聞かされたことだった。
では、きょうの派手で下品な身なりは、この五十男の趣味なのか?
貞淑だった都会妻には不釣り合いな、まるで娼婦のような服が、妙に似合ってみえた。

似合っている・・・
ふとしたつぶやきを、だれもが聞き逃さなかった。
そうじゃそうじゃ、女房の浮気は、亭主にも愉しむ権利があるんじゃよ・・・
老爺の囁きが、まるで毒液のように、早田の鼓膜を浸していた。

夫までもが加わった、輪姦の席。
素子はうわ言のように、呟き続ける。
あなた・・・・あなた・・・許して・・・っ。
早田もうわ言のように、くり返す。
ちく生・・・ちく生・・・こんちく生・・・っ。
自分の科白とは裏腹に、彼が昂奮し切っていることを。
妻は咎めもせず・・・
妻の情夫たちも、からかいもせず・・・
ひたすら、肉と肉とをすり合わせることに、熱中しきっている。

早田邸の畳が、多くの男の精液に濡れた夜―――
地域に密着した家族ぐるみの懇親が、新たに生まれていた。

札付きの義父 ~緊縛家族~

2014年06月24日(Tue) 07:58:13

知人の紹介で、見合いをした。
見合い相手の女性は、色が浅黒く、目じりのハッキリとした美人。
派手な柄をしたスーツがよく似合っているのと同じくらいに、しょうしょう品がないのが気になったけれど・・・
なによりもその発散するフェロモンの虜になってしまっていた。

気がついたらもう、披露宴だった。

父親が札付きであることも、
彼女がその札付きである実の父親とも付き合っていて、週に2回は寝ていることも、なんの苦にもならなかった。

新婚妻に外泊をおねだりされては、送り出す日常。
けれども父親のしつけがよいのか、夫の休日には彼女は必ず家に戻っていて、いつも夫婦で一緒に過ごしていた。

父親が、自分の情婦にしてしまった娘を婿に譲ることのできた本当のわけに気づいたのは、ほんの偶然からだった。
そう、結納の席ではじめて顔を合わせた母に、ひと目惚れしていたのだった。
父がいなくなってから数年たった母は、齢相応よりは若くみえた。
母親は、嫁の不義の相手と知りながら・・・いともかんたんに、堕ちていった。

送られてくるのは、妻と母の緊縛写真。
義父には、そういう趣味があるようだった。
けれどもわたしは、送られてくるたびそれらの写真に目を輝かせていた。
義父と同じ趣味に歓びを見出す自分を、認めないわけにはいかなかかった。

きっちりと結わえられたローブを、見覚えのあるよそ行きスーツに食い込ませながら。
歯を食いしばっている横顔。
恨みがましく見あげる上目づかい・・・
女たちのふだんは見せないそんな表情に、ついうかうかと引き込まれてしまって・・・
しきりに自慰をくり返しているわたしがいた。

あんた、女装するんだって?
受話器を通して囁く義父の声色は。
わたしのなかの”女”を目覚めさせるに、じゅうぶんだった。
母や、実の娘である妻までが堕ちていった理由が、あの声色を耳にした瞬間、どうりで・・・と思えてしまっていたから。
つぎの日わたしは、会社を休んで義父のところへ出かけていって。
好みの喪服姿で、荒縄をギュウギュウと四肢に食い込まされていた・・・
このおなじ縄に・・・妻も母も、巻き込まれていったのか。
息詰まるほどの圧迫感に耐えながら、わたしはなぜかその荒縄にさえ、親近感を抱いていた。

男とは初めてなんだが・・・案外と締まりのいいものなんだな。
半裸に剥かれて放心状態のわたしのかたわらで。
タバコをくゆらせる横顔は、ちょっとびっくりした表情をよぎらせていた。
あんた、時々付き合ってくれ。雅恵には俺から話しとくから。
義父の言うなりにこっくりとうなずくしぐさが、我ながら女のように従順だった。

それ以来―――
お誘いは、わたしのところにも舞い込むようになっていた。
むしろ、女ふたりが置き去りにされたかのようだった。
長女はともかくとして、待望の長男がわたしの子であったのは。
きっと、身をもってそういう機会を作ることができたからなのだ・・・と、いまでも思う。


いまでも結婚当時とおなじくらい、円満で堕落にまみれた日常が、ごく穏やかに、過ぎてゆく。

すっかりおばあちゃんになった母は、それでも義父との付き合いをつづけていて。
膚と膚とをすり合わせるのを生きがいにしていたし。

人妻フェロモン満々の妻も、実の父と寝るのを楽しみにしている。
男ふたりを相手にしても、旺盛な性欲にはますます磨きがかかるようだった。
いずれ息子の相手もするのだ・・・と、妙なところで張り切っている。

こうしているわたしも、スカートをはくたびに。
その奥深く食い込まされてくる肉棒の疼きに、脚の震えをかくせないし。

じつの祖父に抱かれる歓びを知ってしまった娘さえ、セーラー服姿で祖父の家の門をくぐっているという。
卒業祝いに処女喪失を・・という妻の希望は、もっと早くにかなえられて。
じゃあ卒業祝いは縄遊びね・・・という第二希望も、もっと早くにかなえられて。
わたしの画像のコレクションも、妻の顰蹙をよそに増えていった。
娘が母娘丼の味を知るのも、きっと卒業式よりよほど前になりそうだ。


あとがき
近親相関・不倫公認・女装・同性愛・・・いけない話が一気呵成にデキてしまいました。
^^;

どちらに軍配? 町内の中学校で供血活動啓発ポスターが話題

2014年06月20日(Fri) 07:49:21

吸血鬼が棲む街の広報誌に掲載された記事から―――



町立A中学の校内には、同じ絵柄で正反対の趣旨のポスターが二枚並んで話題を集めている。
先月から学校側が掲示したポスターの趣旨に疑問を抱いた生徒会が、同じ絵柄を学校側から借り受けて制作した。

テーマは、校内に出没する中高年男性の吸血鬼に関するもの。同校は数年前から吸血鬼の来校を公式に受け入れており、女子生徒を対象とした血液の提供を父兄の承諾のもと行っている。このため、女子生徒の多くは吸血鬼への献血に自主的に参加している。昨年度には、血液提供者が市内の中学校で最多となったため、「供血行為モデル校」として市から認定を受けていた。





学校側が制作したポスターは、来校する吸血鬼に向けて、女子生徒に対するマナーの尊重を訴えたもの。かねてから、女子生徒が吸血される際に着用している制服やハイソックス・ストッキングを汚損されるとの苦情が父兄の間からあがっており、そうした父兄の意向に配慮した内容となっている。
絵柄はベンチのうえで脚を横たえてふくらはぎを吸わせている女子生徒が、ハイソックスを唾液で汚されて困っている、というもの。同校の校庭にあるベンチで実際に献血行為を行っている際に実写されたものとされているが、プライバシーに配慮して当事者たちの顔は伏せられイラストになっている。ベンチの上で四つん這いになっている女子生徒は明らかに自発的に吸血に応じているが、ハイソックスを着用した脚をいたずらされて困っているという表情に描かれていて、「血を吸われるのはかまわないけれど、服を汚されちゃうのは・・・」(同校の一年生女子)という一部の女子生徒の声を反映しているとされている。

一方、これに対して、吸血鬼に好意的な女子生徒たちもいる。彼女たちはポスターの絵柄を借り受けて、生徒の顔のイラストとメッセージを変えることで、正反対の意図をポスターに表現した。学校側のポスターが来校した吸血鬼向けとなっているのに対して、このポスターのメッセージは、同じ女子生徒たちにあてたものとなっている。生徒会の委任を受けてポスターを直接制作した「吸血鬼同好会」の会長桜田輝子さんは、「汚されちゃうのをむしろ嬉しいと感じる子もいるんです」という。「制服やハイソックスを汚されるということは、それだけその子の服が気に入っているという証拠。だからお約束のある日は、みんなわざわざ新しいハイソックスをおろして履いてくるんですよ。吸血鬼の小父さまたちから、履き古しのリクエストがない場合は、ですが」と、月平均5~6回は吸血を受け入れているという女子生徒たちの本音を代弁する。「来校してくる吸血鬼は、皆さん顔見知りの男性ばかり。ふだんはとてもお世話になっている方もいます。せっかくですから、わたしたちの学校で行われている供血行為をひとつの交流の場として大事にしていきたいと思っているんです。ポスターは、わたしたちの親友や同級生、後輩にあてたメッセージ。ですから自分たちのふだんの会話・同じ高さの目線で編集しました」。自身も複数の吸血鬼を交際相手に持つ17歳。「将来はイラストレーターになるのが夢」と、きょうも絵筆をふるう。

風紀委員長の水崎紗都子さんは、「当校の生徒は今年度のスローガン“わたしたちの若さが街を救う”を主体的に実践して、博愛の精神で日々献血活動に励んでいます。大人の男性が相手ですから、そこにいかがわしいイメージはどうしてもつきまといがち。でもわたしたちは健全・快活をモットーに処女の生き血を求める小父さまたちへの接遇に励んでいますので、家族も安心して娘を登校させているんですよ」と、献血行為の健全さと安全性を強調する。「わたしたち十代の女子の血液は、活力があって栄養価も高いことを理科の授業で学んでいます。勉強熱心な子ほど献血にも一生けんめい取り組んでいて、交際相手の小父さまの数も多いんですよ」。
そういう水崎さんのお父さんも、吸血鬼として日夜街を徘徊しているという。「父に直接献血したことはありませんけれど・・・血を欲しいって言われたら、躊躇なく血を吸わせてあげると思います。お友だちはもう何人も紹介しているんですよ。でもいきなり街なかで襲われたら、やっぱり逃げちゃうかな」と笑う。

教室前の廊下に2枚掲示されたポスター。あなたが軍配をあげるのは、学校側のポスター?それとも生徒のポスター?

老いらくの恋 続

2014年06月10日(Tue) 07:55:52

帰郷していく男は、お別れの名残りにと。
妻の着ているスーツをねだった。
娘さんに着てもらって、貴女を慕うことにしたいから。 と。
そう。
嫁と舅との関係は、孝行息子の黙認のもと、いまもつづけられていたのだった。

京香がお好みなら、きみに目を留めても不思議はないのかも・・・
ふとそう思って振り返る横顔は、娘とうり二つの輪郭をもっていた。

ふた月ほど経って。
男はふたたび、わたしたちの夫婦のまえに現れた。
スーツを返しに来た・・・という男に、
もう飽きちゃったんですか?と、屈託のない妻。
帰りには、夏物のスーツをお借りできますね?と、男。

妻はその日、わたしに外出をすすめて・・・
自分自身も、いそいそと出かける支度をはじめていた。
男の持ってきた、えび茶色のスーツの袖を通して。

尾行しているのも。されているのも。
互いに分かり合っている、ほどほどのへだたり。
自宅からはすこし離れた、目だたぬところにあるラブホテル。
ゲートをくぐるまえ、妻はふと、わたしのほうをふり返る。
感情を消したふたつの視線が、穏やかに交わり、そしてそらされてゆく・・・

男が妻の肩を抱いて、ホテルのロビーへと脚を向けた。
肩に置かれた掌が、ひどくなじんでみえたのは。
娘との情事にいく度も、このスーツが使われたから・・・それだけの理由に過ぎないのだろうか?

3時間後。
着替えをもって呼び出されたわたしのまえ。
妻は何事もなかったように、出かけていったときそのままのいでたちで、
彼に付き添われて、ホテルのロビーを背にしてきた。
ふたりは手をつないではいず、ほどほどのへだたりを持っていて。
それが夫に対する気遣いなのだということは、
二個の身体から通いあう、目に見えない紐のようなものが、それとわからせてくれていた。

真新し過ぎる妻のストッキング。
男は手に持っていた薄い布きれをわたしに手渡して。
「きょうの戦利品は、あなたのものですよ」
いつも妻の足許から抜き取ってせしめてゆくはずの、裂けたストッキングが。
不思議な柔らかさとぬくもりを、わたしの掌に、じんわりとしみ込ませてくるのだった。

老いらくの恋

2014年06月10日(Tue) 07:47:07

「老いらくの恋というわけです。どうかおおめにみてやってくだされ」
穏やかな声で、妻への求愛を口にする、その男性は。
わたしよりひと廻りほど年上の、着物の似合う紳士だった。
彼は、娘の嫁ぎ先の―――義理の父親にあたる男性だった。

なれそめは、娘の祝言の夜のこと。
婚礼を控えたまえの晩。
ひとり呼び出された娘は、嫁入りまえの汚れのない身体を。
義理の父親となるその男性に、思う存分想いのままにされていた・・・

婚礼とは名ばかりの、じっさいには乱交パーティーだった。
花嫁は列席した男性全員と性交を要求されて。
放心状態の娘は、白無垢の下前をはね上げられて。
息をつめて見守るおとなしそうな花婿のまえ、おずおずと自分から、脚を開いていった・・・

義理の兄を相手に、不倫のIに耽る娘をまえに。
その男性はさりげなく、わたしと妻の傍らに控えていて。
そっと妻の手を取ったのだった。
周囲の落花狼藉をまえに、わたしたちだけが難をまぬかれるのは、もはや不可能だった。
妻は謝罪をするように目を伏せて、わたしは意味もなく、頷きつづけていた。

それからひと月経った、ある日のこと。
単身上京してきたその男性は、さきのことばを呟いたのだった。
「老いらくの恋です。どうぞおおめにみてやってくだされ」
その日、だまって部屋を出ていったわたしの背後で。
長年連れ添った最愛の妻は、べつの男の所有物となっていた。

娘をモノにされる。

2014年06月10日(Tue) 07:07:01

娘に手を出されるのに比べれば、妻のばあいなどはまだまだ手ぬるいものだった・・・そう思えるようになりました。
うちの場合は家内と相談して、娘のほうもお願いしたのですが。
それとは真逆の順序を踏まれたかたも、もちろんいらっしゃいます。
勤務先の同僚が、まさにそうでした。
家庭教師としてご家庭に入り込んだ吸血鬼に、まずお嬢さんをたぶらかされて。
それからお母さんである夫人も、巻き込まれて行かれたのですが。
「こんなふうに行ってしまうと、妻に申し訳ないのですが。
 妻のときは、それほどのショックはなかったですね・・・」
そんなふうに淡々と、語られるのです。

そうですね。うちの場合は、家内のほうが先でした。
その後家内を通して、相手の男性のかたからご相談を受けました。
娘さんもそろそろ、お年頃ですね・・・というわけです。
さて、困りました。
そんなに器量よしの娘ではありません。
けれども正真正銘、処女の生き血なのよ・・・って、家内は申しますが。
それよりもなによりも。
娘を自由にされてしまう・・・というのが、どうにも抵抗を感じてしまい、仕方がなかったのです。

意外にも、娘の相手をするというのは、家内のお相手の男性とは別人でした。
この村には似つかわしくないほど大きな病院の、院長だったのです。
院長は、家内のお相手にやはり夫人をたぶらかされてしまっているという間柄で・・・
いわば、兄弟のように近い関係だ と、あのかたは仰るのです。

院長は、ロリコンなんですよ。
いつも奥方を頂戴しては、妬きもちをやかせてしまっているもんでね。
たまには、良い想いもしてもらいたい・・・というのが本音なんですな。

自分の愛人の夫へのご褒美に、ひとの娘をまた貸しするというわけですから、あつかましい話です。
けれとも私たち夫婦は情けないことに、その話についうかうかと乗ってしまったのでした。

ロリコンの中年男に、年端もいかない娘を・・・と、じりじりする日々が続きました。
(もっとも娘にいわせれば、「あたしなんか真性ロリコンのひとからみたら、ただのおばさんよ」って言うのですが)
じっさいに引き合わされた院長は、意外に内気そうな、礼儀正しい紳士でした。
吸血鬼に妻を犯されている。
そう顔に描いてあるような、ちょっと根暗な表情に、自分自身を見るような気がしまして・・・
家内とふたり、顔見合わせて。
「このかたなら、いいわね」
家内はひと目で、娘の相手をするという院長を、気に入ったようでした。

ええ・・・そういうわけで。
院長は娘の家庭教師になった、というわけです。

ほんとうのSM愛好者は、礼儀正しい紳士の仮面をかぶっている・・・ということを。
かくしてわたしは、娘の体験を通して知った・・・というしだいです。
ええ、いずれは娘婿と呼ばれる男に、娘をモノにされてしまう未来が待っているわけですから。
それが少しばかり早まって、相手がひとの生き血を好んで口にする、コアな嗜好の持ち主というだけなのだと・・・
いまはそうやって、割り切るようにと思っています。

羞じらいながら、制服の黒のストッキングを脱ぎ捨てていった少女は。
いまは病院の看護婦の、純白のストッキングに足許を妖しく輝かせて。
欲情をたぎらせつつ来院する患者さんの介抱に、いまは充実した日々を過ごしています・・・

親善試合に招(よ)ばれる少年たち

2014年06月09日(Mon) 07:13:52

ええ、そうですね。
女の子のお話はしましたが、男の子はどうなるのか・・・というおたずねですね。
たしかにそちらを語らないのは、片手落ちかも知れないですね。

当地の男子と赴任者の娘さんとの交際は、とても歓迎されますが。
逆はほとんどないといわれています。
その代わり、男の子はたいがい、サッカー・チームに入れられます。
昔からこの村には、ふたつのチームがありまして。
吸血鬼の子たちのチームと、そうでない子たちのチームです。
当地では人間も吸血鬼も、分け隔てなく近所づきあいをしていますから。
こういう場で慣れ親しみながら、互いに追いかけっこに興じる習慣を身に着けることになっているみたいです。
吸血鬼のチームの子は、試合の途中で喉が渇いて来ますと、平気で相手チームの子を引き倒してしまうのです。
そういうことはまったく珍しくないらしく、そうしたことで試合が中断されることはまずありません。
ラインの外側でもつれ合って血を吸い吸われると、すぐにプレーに復帰するのです。
もちろん・・・人間チームの子はその時点で、へとへとになりますが。 笑

吸血鬼チームが勝つと、そのあとは祝勝会です。
祝勝会には、負けた人間チームの子たちも出席するのですが。
自分の母親や妹を連れて来ることになっています。
ええ、お祝いを持っていく・・・というわけですね。
そういう形で、なん人ものお母さんが、息子の友達やその父親相手に、初吸血を果たすんです。
髪の毛をふり乱しながら組み敷かれて、嬌声をあげる母親を視て・・・
男の子たちは、異常な昂奮を植えつけられてしまいます。

人間チームが勝っても、けっきょくはおなじようなことになります。
吸血鬼の子たちは、お祝いに駆けつけるのです。もちろん手ぶらで。 笑
それで、人間チームの子のお母さんや妹の生き血で、相手チームの勝利を祝うのです。
母親や妹たちが、顔なじみの同級生やその父親に組み敷かれてゆくのを見せつけられながら・・・
人間の男の子たちは、いけない昂奮を教え込まれていって・・・
やがて自分の恋人や花嫁を、親友に紹介するようになっていくんです。

わたしは、息子たちの感覚に同感を覚えます。
ええ。。。人間の父親たちも、おなじようなことにうつつを抜かしているわけですからね・・・

法事に招(よ)ばれる少女たち

2014年06月09日(Mon) 06:59:41

この村にはね、吸血鬼が棲みついているんですよ。
ええ、そんな話―――もちろんだれも本気にはなさらないでしょうから。
出まかせのつくり話として、聞いていただいてもけっこうです。
いっそそのほうが・・・こちらも話しやすかったりしますからね。

村には都会の会社の事務所が一軒、ありまして。
ええ、ほかでもないわたしの勤め先なのですが。
当地に赴任するにあたっては、妻や娘の帯同が義務づけられているのです。
どうしてか・・・ですって?
当地に来る前に、おおむね聞かされてはいるのですよ。
この村に棲む吸血鬼たちに、都会の女たちの生き血を、安定的に供給するために・・・です。

だれもがたいがい、唯々諾々とその条件を呑みます。
ここに辞令をもらうような人は、それなりの事情を抱えている場合がほとんどですから・・・
事情は事前に通告されるのですが。
そういうことに不平を鳴らしたり、不同意のものは、ほとんどいません。
赴任者は厳選されますのでね・・・

赴任してひと月以内に、ほとんどの女性が、吸血鬼の毒牙にかかります。
ええ、人妻も生娘も、見境なしに・・・です。
けれどもそのあとの事情は、多少異なります。
セックスの経験を持つ女性は、ほとんどことごとく。
その場でセックスを強いられます。
娘のまえで性教育をするはめになったお母さんも、ふたりや三人ではないということです・・・
娘さんでも、性体験のあるひとは・・・やはりその場で犯されてしまいます。
ですから母娘ながらそうされてしまうと、娘の身持ちの善し悪しが、母親にすっかり知れてしまう・・・というわけです。
セックス経験のない娘さんは、その場で犯されることはありません。
処女の生き血は、やはり根強く珍重されていますから―――
なん度か生娘の身体のまま、生き血を愉しまれることになるんです。

身持ちのよい真面目な娘さんは、はじめのうちこそ吸血行為に嫌悪を示したりしますが。
やがて自分の受ける苦痛と引き換えに、供血することが相手に奉仕することにつながるということを教え込まれますと、
すすんで血液の提供に励む子も、あらわれはじめます。
そういう女子には、当地で育った少年がアタックをするようになるんです。
現地の男子と赴任者の娘さんとの交際は、とても歓迎されます。
もしもめでたく?村の少年が都会の少女から純潔をプレゼントされることになったら・・・
ええ、そうですね。
身持ちのよかった生真面目な少女もまた、フリー・セックスの仲間入りをすることになります。

訊いてみたことがあるんですよ。そうした少年に。
きみ、せっかく作った彼女がきみの伯父さんやお父さんに抱かれちゃうの、嫌じゃないの?ってね。
―――いちどモノにされた娘は、相手の少年の身内の年輩者を、ことごとく相手にしなければならないので―――
けれどもその少年は、くったくなく笑って答えました。
仲良しの小父さんに大事なものをあげたくなるのって、ふつうじゃない?
未来のお嫁さんを自慢できるのも、ちょっと誇らしいかもね・・・と。
それに・・・(ここでちょっと彼は口ごもりました)彼女がほかの男のひとに好きなようにされちゃうのって、なんかドキドキするんだよね・・・

さいごのひと言には―――いえ、少年の意見の多分ほとんどに―――わたしも同感です。
彼はいまではわたしの娘婿であり、
彼の父親は家内がもっとも親しくしている愛人の一人におさまっておりますから・・・

法事に招(よ)ばれる人妻たち

2014年06月09日(Mon) 06:43:03

当地では、妻が法事の手伝いに招(よ)ばれたら・・・
たいがいは、姦(や)られた!(>_<) と思って間違いないようです。
けれどもこれは、予防方法のないような仕儀でありまして。
と申しますのも、当地に赴任する社員はすべて、妻や娘を帯同することが義務づけられているからです。
そのうえ、赴任後おおむね一か月以内には、ほとんどすべての人妻が、法事の手伝いに招かれてしまうのです。

いちど招かれてしまうと、どういうわけか病みつきになってしまうようです。
さいしょはきまり悪げに口ごもっている人が、むろん多いのですが。
やがて、夫のいない平日の昼間にお寺に招ばれるようになって。
それはいそいそと漆黒のスーツに着替えて、出かけていって。
肌の透けるストッキングのつま先をお寺の本堂にすべらせながら、
黒一色のスーツに映えた白い素肌をさらしてゆくようになるのです。

大変遺憾なことながら・・・
どういうわけかそういう日にかぎって、社員の出社率が大きく減ります。
まあ―――ひまな事務所ですからね。業務に支障をきたす・・・なんてことも、ありはしないのですけれど。
会社を休んだ夫たちは。
妻に知られないようにお寺に行って、
どういうことになっているのかを確認せずにはいられなくなるみたいです。
ええもちろん。
別々に帰宅する夫婦のあいだでは、なにごともなかった空気が流れるようです。
夫が、その場で目撃したことを妻のまえで話題にすることも。
妻が、その場でなにが起きたのかを夫に報告することも。
そのいずれもが、ほとんどないということです。

うちの家内ですか?
ええもちろん、出かけていくんですよ。
土日のお招(よ)ばれとなりますと、さすがに行先を告げて出かけていきますが。
正直に行先を聞かされることは、五回に一度くらいのものでしょうか。
あとは・・・亭主に知られないように、こっそりとです。
ええ、わたしもね。人のことなど、いえないのですよ。
そういうときには、ついついと。
熱に浮かされたようになって、家内に知られないようにあとを追うのです。
そういう晩の夫婦の営みは、なぜかとても激しいものになりますし。
家内も・・・そういうわたしの態度に、まんざらではないみたいです。
独身時代には高嶺の花で、ようやく射止めた良家の令嬢が。
村の狒々爺ぃやみすぼらしい労務者たちの、性欲のはけ口にされて。
きちっと装った礼装をはだけられて、素肌をちらちらさせながら犯されてゆく光景から・・・むしょうに目が離せなくなってしまうものなのですよ。