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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ガラス戸の向こう側

2014年12月27日(Sat) 07:29:15

真夜中に、自分の部屋にいて。
ガラス戸の向こう側に人がいたら、不気味ですよね―――?

でも、この街ではそういうことが、よくあるんですよ。

ぼくはそういうときには、まず「こんばんは」って、声をかけるようにしています。
そうすると向こうからも、「こんばんは」って、返してくるんです。
今夜の声のぬしは、蒼白い顔いろをした、中年の小父さん。
喉、渇いているんですね・・・?って訊くと。
こっくりと、うなずき返してきます。
ぼくはガラス戸の鍵を開けて、深夜の来客を迎え入れてやるんです。

男の血じゃ、つまんないでしょうけど。よかったら―――
パジャマの胸の釦をふたつ三つ外してやると。
いえいえ、悪いですね・・・って。お礼まで言われて。
それから、咬みついてくるんです。
首のつけ根にチクッとした刺激。
それから・・・脳天が痺れるような吸いかたをして。
ぼくのことを、酔い酔いにしてしまうと。
思わず、口走っているんです。

ほんとうは、母の血が欲しいんですよね?

って。

言いにくそうに、もじもじと、小父さんは口ごもりながら呟きます。
じつは今夜、女房が浮気の真っ最中でね・・・こんな話、子供のきみにしちゃ、いけないな。
いや、そんなことないですよ。
ぼくは、そうこたえてあげるんです。
ぼくだって、今自分のしていることの意味を、分かっているつもりですから―――

夫婦の寝室をノックすると。
両親はとっくに、もの音で目を覚まし、起き出しています。
父さん?父さん?
ああ、なんだい?
妻の貞操が危機を迎えていると察しながら、父の声色はどこまでもおだやかです。
母さんに、お客さん。
ぼくはよどみなく、そう答えます。
初めて父さんにそんな受け答えをしたときには、あれほど俯いて、口ごもっていたのに―――
ああ、どうぞ。いらっしゃい。
父はのどやかにそう声を投げると、おい、母さん・・って、母のほうをふり返ったようでした。

ドア越しに母を促しているのを感じ取りながら。
傍らの男性が昂ぶりに息をはずませ始めているのを、ぼくはちょっぴり複雑な気分で耳にします。
ああ・・・すまないね。きみ。
すぐにそれと察したらしくぼくを気遣う小父さんに、どうぞお気づかいなくって返していきます。

ドアを開けて、父と母が並んで顔を出しました。
母はもう、よそ行きのスーツに着替えていて、肌色のストッキングまで穿いています。
よかったら、お部屋でどうぞ。
ここでされると、あとの匂いがたまらんな。
じつはこっそりと妹の血を吸うようになった父さんにとって、血の匂いは刺激が強すぎるみたいです。
じゃあ、いつものように、お客間で・・・
母はゆったりと笑うと、永めのスカートのすそを持ち上げるようにして、自分の血を吸いに来た男に、軽く会釈をします。
薄いストッキングのつま先が、冷え冷えとした夜更けの廊下のフローリングの上をすべるように歩むのを、
父もぼくも、薄ぼんやりと見つめています。

ちょっとお部屋を片付けてきますね。
母は客間を整えるのに、お父さんも手伝ってくださいな、といって、廊下に小父さんを僕と二人きりに取り残します。
パジャマのズボンを脱いだ脚には、中学から始めた運動部のユニフォームに使っているハイソックスを履いていました。
男ものじゃつまらないだろうけど・・・咬みますか?
この街の吸血鬼は、丈長の靴下を履いた脚を、好んで咬むんです。
母もそれと察して、新品のストッキングを脚に通したに違いありません。
皮膚にしっくりとくい入る厚手のナイロンの束縛感に、生温かい濡れが加わるのを。
ぼくは立ちすくんだまま見おろして、小父さんがぼくの血に夢中になって、チュウチュウと音を立てるのに聞き入っていました・・・


あら、あら。息子のほうも、お口に合ったようですね。
妻は柔らかな声で侵入者を軽くたしなめると、男はえへへ・・・と笑い返してきた。
邪気のない、むしろ親しみを込めた態度だった。
血を吸い終えられた息子は、リビングに面した廊下のうえ、大の字になって仰向けに倒れている。
ひざ小僧まで伸ばしたソックスは片方は脱がされ、もう片方も脛の途中までずり落ちていて。
そのどちらもが、真っ赤なシミに濡れていて。
男がどれほど息子の血に執着したのかを、察しないわけにはいかなかった。
開かれた股間が半透明の液体に濡れているのは・・・見なかったことにして。
息子の若い身体から血を吸い取ったその男が、
いままた妻の血まで吸い取ろうとするのを―――すすんで客間に招き入れていた。

妻は神妙な面持ちで、客間のじゅうたんの上に仰向けになっていた。
お父さんには、ちょっと刺激が強すぎるわね?
客間では二人きりにしてほしい・・・そう言いたいらしかった妻を。
ふたりの望むとおり、二人きりにしてやった。
後ろ手に締め切ったドアの向こう。
男が獣のように息を弾ませて、妻におおいかぶさる気配を、ありありと感じてしまって。
わたしは不覚にも、股間を逆立ててしまっていた。

ズズ・・・ッ。じゅるうっ。
妻の生き血を、喉を鳴らしてむさぼる音が荒々しく・・・
被虐の歓びに目覚めてしまったわたしのことを、いやおうなくかきむしる。
足許に転がっている息子のように。わたしも気絶したくなってきた。

一時間後。
客間の片隅に転がされた妻のスーツ姿は。
真っ白なブラウスに、撥ねた血潮を毒々しく光らせたままになっていて。
荒々しい食事に精いっぱいおつきあいしたのを、いやでも見せつけてくれている。
そのブラウスが大きくはだけて。
引き裂かれたブラジャーが、黒々とした乳首を見え隠れさせていたり。
足首近くまで丈のあった長めのスカートが、太ももまでせり上げられて。
息子の股間に光っているのとおなじ粘液にまみれていたり。
進入したお宅では、ご主人のまえで、奥さんのことをくまなく味わったと見せつけることが、
この街の来訪者たちの、礼儀とされているのは、とうに心得てしまっているけれど。
破けたパンストから覗く脛の皮膚の生々しさが、私を更なる昂ぶりに、かきたてていく。

ふと気がつくと。
ズボンを足首まで、ずり降ろされていた。
昂奮させちゃいましたね。
男は苦笑いしながら、不覚にも逆立ててしまったわたしの股間に唇をあてがってきて。
分厚い唇のなか、それを根元まで呑み込んでゆく。
いいですよ、吐いちゃってください。お礼のしるしです。
一物をほおばりながらそれだけのことを言うと、男は敏感になった先端を器用に舐めて。
容赦なくわたしを、吐き出させてしまっていた。
袋までたんねんに舐められて、不覚にももう一度―――
妻が薄目をあけてやしないかとふり返って。
惚けたように口を半開きにしたままの横顔をみとめると。
わたしもまた、男の一物を口に含んでやった。
妻をなぶり抜いたそれは、まだ猛々しく赤黒く逆立っていて。
それをためらいもなく、わたしは咥えていって。
妻の秘部に吐き散らされたその粘液を、自分の喉で受け止めてゆく。


男の靴下なんか、愉しくないですよね?
そういいながら伸べられたご主人の脚は。
男にしてはすんなりと伸びたふくらはぎを、ストッキング地の長靴下に覆われていました。
臆面もなく這わせた唇に。
薄地のナイロン生地のしなやかな舐め心地が面白くって。
気がついたらくまなく、なぶり抜いてしまっていた。
お気に召したようですね?
見抜かれた・・・と思いつつも、恥ずかしくはなかった。
私はご主人のふくらはぎを、むしろ熱っぽく舐めつづけていた。
紳士用の長靴下にしては不似合いなほど、つややかな光沢が。
室内の照明を照り返して、毒々しく輝いていた。

妻を初めて吸血鬼に抱かせた夜。
私も良識的な夫たちと同様に、妻の仇敵を受け容れたけれど。
こんなにも上手に相手ができたかどうか、心もとなかった。
ご主人の身体から吸い取った、働き盛りの血潮は。
奥さんから頂戴した熟れた血潮と。息子さんからたっぷり抜き取った、若々しい血液と。
三者三様に、私のなかで、織り交ざってゆく。
ひとつの家族を支配する―――
加虐の欲情をふつふつと、身体じゅうに滾らせて。
私はご主人、奥さん、息子さん・・・と、ふたたび順繰りと、首すじに喰いついていった。


おはよう―――
妹の加奈子が、しらっとした顔でぼくを見ていた。
もう、登校の時間なのか。
セーラー服の胸もとの白いリボンが、濃紺の制服に映えるのが目に沁みた。
今朝も、朝ごはんなしで学校に行くんだな。
ちょっぴりだけ同情してチラと目線をむけると、
妹は抜け目なく、バターの塗られたトーストを手にしていた。
お茶の間の片隅で、血の沁みたハイソックスをひざ小僧のあたりまで引っ張り上げながら。
ぼくはぞんざいに、ああおはようって、いい加減な返事をした。

ぼーぜんとなっている父の目のまえで、夜明けからずうっと母さんの両太ももを抱いていた小父さんは。
濃紺のセーラー服姿の前、半裸に剥かれたえび茶色のスーツ姿を投げ出すと。
目を細めて妹に迫っていった。
ああ・・・いちおう処女だもんね。でもまだ子供だよ。
よせやい、というように、ぼくは小父さんにぞんざいな声を投げていた。
止めたい気持ちも、ちょっぴりあったのは、白状するけれど。
妹にはそんな想いまでは、通じなかったらしい。

なにさ、あたしだって、もういいかげんオトナなんだから。
誇示するようにこちらに踏み出したふくらはぎは、薄っすらとした黒のストッキングに覆われている。
母さん、光沢ぎらぎらのやつ、穿いてたんだねー。じゃああたしのなんか、面白くないかな。
ぶっきらぼうに呟く妹の声を、かいくぐるようにして。
小父さんは四つん這いになったまま、ましらのようなすばしこさで、妹の足許に唇を迫らせてゆく。

通学用の黒のストッキングを、ぱりぱりと喰い向かれてゆくのを。
んもぅ・・・っ。
妹はふくれ面をして見おろしながら、口をとんがらせていた。
滲んだ裂けめから浮き上がる白い脛に、ひそかに欲情した自分を恥じながら。
欠席の電話、入れとこうか・・・?
ぼくがおもわず、そういうと。
ちゃんと学校には行きなさい。
父さんだって、これから勤めに出るんだから。
父親の顔に戻った父さんは。
いつの間にか着替えた背広姿を、玄関に向けてゆく。
じゃああたしも、学校行くわ。
破けたストッキングをそのままに、革靴をつっかけようとして、。
さすがに母にたしなめられると。
妹はおさげを揺らしながら二足めを履いて。
薄黒く染まった発育のよい脚を放り出すようにして、のしのしと通学路に向かって行った。

ほら、あなたも出なさい。
照れ笑いしている母さんが、意図していることを見透かしたぼくは。
俺、やっぱ休むわ・・・って、わざと母さんを困らせてやって。
でも母さんは母さんで、ちっとも騒がず・・・
いつの間にか着替えた真っ赤なスーツ姿を、夫婦の寝室に滑り込ませてゆく。
情事の現場に塗り替えてしまうつもりの自室に踏み入れた、肌色のストッキングのふくらはぎが。
どういうわけかひどく、ぼくをそそっていった―――

信じてる。信じてるから・・・

2014年12月18日(Thu) 18:39:00

「信じてる。信じてるから・・・」
縄村朋美は呪文でも唱えるようにそう呟きつづけながら。
学校帰りの制服姿を、自ら襲わせていった。
白のハイソックスの足許ににじり寄る、黒い影は、少女の足首をつかまえると、
しっかりとした感じのするナイロン生地に包まれたたっぷりとしたふくらはぎに、唇を吸いつけてゆく。
がりっ・・・と。力まかせに噛まれたときは。
さすがに少女も、顔をしかめたけれど。
濃紺のプリーツスカートのうえから、すぼめた膝を抑えながら。
なにかをこらえるように、歯がみをした。

大丈夫。あたし知ってるから。
あなたに襲われて、気絶しちゃったこともなん度もあるのに。
あたしの血を吸い尽さないで、生命を助けてくれたことを。

少女は心のなかで呪文を唱え、
男は吸い出した若い血潮を通して、彼女の心の奥を正確に読み取ってゆく―――

数刻・・・
少女は肩で、息をしていた。
セイセイと小刻みにはずませる肩を、男は恋人のように、じっと抱き支えていた。
このごろ、飲み方が荒っぽい。
それはお互いに、感じ合っていた。
激しく求められることに、少女はもう抵抗を感じていない。
むしろ歓びと誇りさえ、感じているのだった。
男の胸中は、もう少し複雑だった。
自分の身体のなかに、何が起きているのかを。わかっていたから。

吸血鬼ひとりを養うのには、七人の人間が要るという。
血を吸い尽されてしまったとき、相手の吸血鬼から聞かされたことだった。
それを、ひと月のうちに目星をつけなければならないという。
そうでないと、自分を信じてついてくるようになった者から、よけいに奪うことになって。
相手を死なさなければならないはめになりかねないから・・・と。

信じてるわ。
そう囁いてくれる少女の言葉がふと重荷になりかけたとき。
俺が生きるのをやめればいいのか・・・?とさえ、自問しかけていた。

妻は、すでに吸血鬼の所有物になっていた。
邪魔者になった夫は、妻に裏切られるようにして、
人もあろうに妻を寝取った間男に生き血を吸い尽されてしまったのだった。
半吸血鬼と化した妻は、いまは自分の女友だちを呼び寄せて、情夫の渇きを飽かしめている。
けれどもそんな妻も、かつての夫に悪いと思ったのだろうか。
自分の妹夫婦を呼び寄せたときには、夫に機会を与えたのだった。
なにも知らずに招かれた妹と義弟、それにふたりの娘。
酒に酔わされた義弟は、邪悪な牙に真っ先にかかって、スポーツで鍛えた生き血をむさぼられて。
酔い酔いになった夫にすすめられるがままに、その妻も真っ赤なワンピースに、己の血潮を浸していった。
怯えきったふたりの娘たちは、まだ幼かったけれど。
思った以上に従順に、伯父の牙が自分たちの血をあやしていくのを、拒み切れずになっていった。

あとふたり。
前妻の心づくしを味わい切ったあと。
男は再び、街にさ迷い出ていた。
学校帰りで遅くなった少女が、自分の目の前を横切ったのは、そんなときだったのだ。


信じてる。信じてるよ―――
少女は死の翳を漂わせながら、まだ呪文を呟きつづけている。
このまま死んでしまっても良い。
そうとさえ、思っているかのようだった。
そうはさせまい。俺が死んでしまった方がまし・・・
そう思いながらも、男はせりあがってくる欲情を、どうすることもできないでいる。

少女の唇が、ふと歌うような呟きを口にした。
妹を呼んであげる―――と。

もしもし?まあちゃん?今出てこれる?
え?お夕飯のお手伝い?まだ早いじゃん。ちょっとだけ、出てきてくれる?
姉の誘いに何の疑念も持たないらしい妹娘の、切れ切れな声が、くすぐったく鼓膜を刺す。
吸血鬼が求めてやまないピチピチとした生気が、はしばしに感じられた。
十分とかからなかった。
真っ赤なミニスカートの下、にょっきりと伸びた黒のストッキングの脚が、夕闇の向こうにもの問いたげにたたずむまでに。


きゃーっ!
逃げまどう少女が行き止まりの路地に追い詰められて、電信柱にくぎ付けになるのに、そう時間はかからなかった。
朋美は崩れそうになった姿勢を、腕と背中で支えながら、うっとりとした目線をおくって。
妹の真奈美が首すじを咬まれて、キャッとちいさく叫ぶと、身じろぎもならず抱きすくめられてゆくのを。
面白そうに、見守っていた。
数日前の自分を、見ているようだったから。

美味しいよね?まあちゃんの血、美味しいよね?
ちゅうちゅう、ゴクゴク・・・いい音立てちゃって。
あたしがご馳走しきれない分は、まあちゃんからもらってね・・・
あっ、ひざが折れそう・・・そう、優しく救い上げて頂戴ね。
お気に入りの紺のセーター、血で濡れちゃうけど・・・はじめての記念なら、まあちゃんも赦せるわよね?

どうやら話が通じたらしい・・・
男は妹を抱き支えながら、こちらへと促して。
真奈美はべそを掻きながらも、しっかりとした足取りで、姉のほうへと歩み寄っていった。

ごめんね、まあちゃん。
ウン、だいじょうぶ。
痛かったー?よくガマンしたね。
お姉ちゃん、ハイソックス真っ赤・・・
まあちゃんも、脚を咬んでもらったら?黒のストッキングせっかく履いてきたんだから。
えっ・・・?えっ・・・?
この人、女の子の靴下破くの好きなの。つきあってあげて。
エエ、エエ、そうするわ。本当はあたし、咬ませてあげてきて履いて来たの。
そうこなくっちゃ♪

しつような吸いかたに、辟易しながら。
真奈美は広がる闇空を、見あげていた。
真新しい黒のストッキングに走る裂け目はもう、ひざ小僧までまる見えになるほど、拡がっていたけれど。
もう、いくら破かれちゃっても、かまわない・・・
そんなことをごくふつうに、感じてしまっている。

ねえ。
うん?
母さんのことも、紹介してあげようよ。
そうね、あたしもいま、それ言おうと思ってた。
あたしたちの血が美味しいんなら、母さんの血も美味しいよね。
未亡人なんだし、父さんも赦してくれるよね?
ねえ、どうする?いま行ってみる?まあちゃんもお夕飯のお手伝いあるっていうし。
そのまえに、済ませちゃわない・・・?

口々に言葉を重ね合わせる少女たちの言い草を、くすぐったくうけとめながら。
これで七人目か。
姉妹のうら若い血潮に濡れた唇を、満足げに撫でつけていた。
真奈美が親しげに、笑いかけてくる。
家出てくるときね、母さん紺色のスケスケのパンスト、穿いていたんだよ・・・

母さん、ごめんね。あたしのあとは、お願いね・・・

2014年12月17日(Wed) 07:47:51

16歳の友近優紀は、セーラー服の胸もとの白いリボンを揺らしながら、人っこひとりいなくなった学校の廊下を歩いていた。
古びた木造の廊下が、ひと足歩むごとにギシギシときしむのにも、もう耳が慣れてきた。
ここは片田舎の学校―――”村”と呼ばれる世界は排他的だときいていたけれど。
都会から越してきた優紀のことを、周囲はむしろ歓迎してくれているようだった。
担任は初老の女教師。
それがどういうわけか、きょうにかぎって優紀のことを職員室に呼び出して、長い長いお話を始めたのだった。

うちの学校には「接遇」と呼ばれる授業があること。
そこでは女の子が昔ながらに女らしく振舞うことが義務づけられること。

そんなとりとめのないことを、しっかりとした口調で、けれどもくりごとのようにとりとめもなく、彼女は訥々と語っていて・・・そのうちに、校内の誰もが下校してしまっていた。

いけない、塾に遅れちゃう。

優紀が教室のドアを開いてなかに入ろうとした時―――
白のハイソックスの足許を、ハッとすくませていた。
見馴れない男がうっそりとうずくまるようにして、優紀の席に腰かけていた。
四十代くらいの、顔色のさえない中年男だった。

悪いね。きょうからきみの血を吸わせてもらうことになったんだ。

この村には吸血鬼が棲んでいるというから、気をつけなさいね。
そんなばかなと聞き流していた両親の言い草が、ありありと記憶に蘇る。
優紀の頭から、血の気が引いていた・・・・・・

相手がこんなおっさんでは、不服なのかな・・・?

男の呟きが、自分の首すじに迫ってくるのを感じながら。
優紀は金縛りにあったように身じろぎひとつしないで、佇みつづけていた。
白三本のラインが走るセーラー服の襟首を、がっしりと掴まれたとき。
担任の女教師の囁きが、耳の奥に蘇る。

あなたの礼儀正しさが、求められるのですよ。

首すじにふきかかる吐息が、ひどく凍えているように、優紀は感じた。
優紀は目を瞑り、うなじをスッと仰のけていた。
首のつけ根に硬い異物が圧しつけられて、グイッと喰い込んできた・・・・・・


いったいどれほどの時間が経っただろう?
数時間ということは、ないはずだ。
表はまだ、明るいのだから。
案外、ほんの数分間のことだったかもしれない。
首すじにちくりと刺し込まれた男の犬歯が、生温かい自分の血をチューっと吸い上げるのを、
恐怖と戸惑いの想いを抱えながら、聞き入っていた。
教室の天井に這う古びたシミを、薄ぼんやりと眺めながら・・・

ふたたび廊下に出たとき、向こうから小さな影がひとつ、こちらに歩み寄ってきた。
担任の女教師だった。
彼女はいつものように、ゆったりとほほ笑んでいた。
男は礼儀正しく、優紀の傍らに立ったまま会釈をした。

どうやらうまくいったようね。
おかげさまで。

そうか、この男とわたしを二人きりをするために、先生はわたしのこと呼び止めたんだ・・・
女教師の謀りごとに、けれども優紀は腹立たしさを感じていない。
担任の先生の視線が、自分の足許に注がれるのが、くすぐったかった。
男に求められるまま、気前よく咬ませてしまったふくらはぎ。
白のハイソックスには、派手な赤い飛沫が、散っていた。

お似合いよ。

ゆったりとほほ笑む先生に、「ええ」とか、「はい」とか、しどろもどろのあいさつになってしまったのだけが、ちょっぴり不覚だった。


ただいま・・・
玄関のまえ、いつものように声をかけようとして。
優紀は自分の声を、引っ込めていた。
彼女は母にドアを開けてもらうことをやめて、鍵を取り出して玄関のドアを開けた。
物音に気がついて優紀の母親が玄関に出てきたときに。
連れの男はもう、敷居をまたいでしまっていた。

おろおろとする母親に、優紀は棒読みのように呟いている。

母さん、ごめんね。
吸血鬼の小父さんなの。
家にあげちゃうと、どうなるか知っているよね?
いつでも好きなときに、うちに出はいりできるんだったよね?
罰として、まずあたしが血をたっぷり吸われるの。
あたしの番が済んだら、あとは母さんお願いね。

戸惑うように娘を見送った母親がしたことは、
招かざる客を力づくで押し返すことでも、
自分が身代わりになるから娘を話してほしいと懇願することでもなくて、

娘の勉強部屋から、「アッ」というちいさな叫びがするのと。
どうやら従順に身を横たえてしまったらしい娘のうえに、チュウチュウとなまなましい吸血の音が覆いかぶさるのと、
男の満足げなうめきと、どうやら夢中になってしまったらしい娘の「もっと・・・もっと・・・」という繰りごととを、
しっかり自分の耳で聞き届けると。

グリーンのタートルネックのセーターを、真っ白なブラウスに。
くたびれた紺のジーンズを、よそ行きの黒のフレアスカートに。
履き古したソックスを、真新しい肌色のストッキングに。

おもてなし服に、着替える行為だった。

勤め帰りの夫を迎えるとき。
妻も娘も、襟首を汚した服を着たままで。
娘は白のハイソックスを真っ赤にして、
妻は肌色のストッキングを、ひざ小僧があらわになるほど咬み破られたままでいて、
精液のしたたり落ちるスカートを揺らしながら、台所に立つことだろう。
すべてを心得た夫は、気づかないふりをして。
なにごともなかったように、夕餉の食卓に着くのだろう。
自分の妻と娘とが、すでに食されてしまったことを、むしろ誇らしく胸に刻みながら。