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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

彼女ができたら、わしに咬ませろ。  6 ―午後の公園での、若いふたり―

2015年05月25日(Mon) 07:50:13

ひとに視られながら血を吸われるのって、羞ずかしい・・・
初めてそんなことを感じた。
まして視ているのは、三日前に婚約したばかりの翠(みどり)さんだったのだから、なおさらだ。
それでもボクは――
首すじにねっとりと這わされる小父さんの唇に、いつもみたいにドキドキしちゃって。
そんなようすを翠さんに気取られまいと、必死になってしかめ面をつくりつづけていた。

ああ・・・っ。
太くて尖った牙を首すじに埋め込まれたとき。
思わず口走ってしまったうめき声。
きっと、随喜の色がありありとにじみ出ていたんだと思う。
そのあといつもみたいに、小父さんは半ズボンを履いたボクの足許にかがみ込んで来て。
紺のハイソックスごしに、唇をヌメヌメ、舌をチロチロと這わせてきて。
厚手の生地にしわが寄るほどにつよく吸いつけられた唇に――
ボクはもういちど、アアーッ!って。うめき声をあげてしまっていた・・・

貧血を起こして尻もちをついて、その場にへたり込んだボクのまえ。
翠さんは、傍らの樹に背中をもたれかけながら、いつまでもじーっと見つめつづけていた。
理科実験の観察をするときみたいな、感情の読み取れない怜悧な瞳が。
却ってボクの罪悪感をつのらせ、羞恥心をあおっていた。

――翠さんに、仲良しの小父さん紹介するから。それから・・・小父さんへの応接のし方、お手本をお見せするから・・・
かすれた声色に無言でうなずいた翠さんを連れて、ふたりきりで訪れたいつもの公園。
陽射しはまだ明るかったのに、敷地のなかにボク達以外の人影はなかった。

ボクの身体から吸い取った血をしたたらせながら。
小父さんは得意満面、翠さんのほうへとゆっくりと迫ってゆく。
とっさに走らせた怯えの感情を、翠さんは気丈にも打ち消して、もとの無表情に戻ってゆく。
半歩だけ後ずさったすぐ後ろには、幹の太い老木が、退路を塞ぐように立ちはだかっていた。

ククク。わかるね?小父さんのしたがってることが・・・
剥きだされた牙にあやされたボク血が、チラチラと輝いているのがみえた。
翠さんはじいっと、ボクの血のついたその牙を、見つめている。
睨むような強い目線に、呪文のように不気味で凄みのある小父さんの誘い言葉が、ゆっくりと重なってゆく。
きみの若い血で、わしの渇きを満たしていただく。

お好きにどうぞ。

投げやりで吐き捨てるような声音に、嫌悪感がにじみ出た。
細くて白い首すじをピンとそそり立てると、
肩まで伸びた黒髪と、制服の襟首を引き締める純白のリボンとが、かすかな動きに合わせて揺れた。

小父さんは翠さんの後ろに回り込んで――
翠さんはボクと向かい合わせに立ちすくんでいて――
背後から忍び寄る牙が、髪の毛を掻きのけられた首すじに、チクッと突き立てられてゆく。
ぁ・・・。
かすかな声が、ちいさな唇から洩れた。
声を洩らしたのを不覚と感じたのか。
翠さんはそれきり、かたくなに唇を引き結んで、押し黙ってしまった。
小父さんは容赦なく、翠さんの肩先に牙を埋めた。

じゅっ!
うなじに圧しつけられた口許からこぼれたバラ色のしずくが、セーラー服の襟首を走る白のラインに散った。
両肩をしっかりと抱きすくめられて、身じろぎひとつできない。
そんな翠さんを手中にした小父さんは、いつもボクに向けてくるいやらしい欲情をまる見えにさせて、
ゴクゴクと喉を鳴らして、翠さんの生き血をむさぼりはじめた。

きゅうっ、きゅうっ、きゅうっ、きゅうっ・・・
押し殺すような吸血の音が。血を吸い取られてゆく翠さんのしかめ面が。
ボクを魅了して、昂ぶらせる――
ああ、翠さんの血って、やっぱり美味しいんだ。そんなに美味しいんだ・・・

意思を喪って姿勢を崩したセーラー服姿を抱き取って、傍らのベンチにうつ伏せに横たえると。
紺のハイソックスのふくらはぎのうえに、鋭利な牙が無慈悲な耀きをひらめかせた。
いかにも良家の子女風な、ひざ小僧のすぐ下までぴっちりと引き伸ばされた、真新しい濃紺のハイソックスが。
ボクのときと同じように、欲情もあらわに、情け容赦なく喰い剥かれてゆく――


未来の花婿になるはずのヒロアキくんが、吸血鬼に首すじを咬まれて、目のまえでへたり込んでしまったとき。
やっぱり。でも予想以上に、頼りない・・・
翠は怜悧に、そんな観察をした。
吸血鬼にひとが襲われるようすは、自分の両親のそれでなん度も目にしてきたとはいえ。
初めて吸血されるという予感が確信に変わりつつある状況のなかで、自分でもびっくりするほど冷静だった。
あんなに短時間で伸びてしまったら・・・あの男があたしの身体からむしり取る血の量は、決して少なくはないはず。
そんなことすら、とっさに計算してしまっていたのだから。

あなたが頼りないから、あなたのお嫁さん、血を吸われちゃうのよ。
あなたがすすんでこんな男に遭わせるから、あなたのお嫁さん、堕落しちゃうのよ。
どちらかというと潔癖症で、プライドの人一倍高かった自分。
それが、いまや恥知らずの吸血鬼をまえに、無防備な身をさらしている。
すぐに訪れるだろう屈辱の刻が、なぜかひどくいとおしく感じられるのは、なぜ――?
ひとは過度の屈辱に接すると、己の精神的均衡を保つため、それが却って快感のように思えるのだと。
目のまえでママを吸血されたり犯されちゃったりしているときのパパが、そのいい例だった。
そんな狂気の翳が、ついにあたしにも降りかかる・・・・・・

翠は目をあげて、もういちどヒロアキのほうを視た。
ヒロアキはほとんど、放心状態らしかった。
惚けたように半ば開いた唇のすき間から、歯並びのよい白い歯を覗かせている。
若くて健康な白い歯は、いま緑の肌に埋められようとしている犬歯の黄ばんだ不潔さとは対照的だった。
欲しがっている。あたしたちの清さと若さを・・・
そんな想いがひらめいた瞬間、肩先に異物が食い込んでくるのを感じた。

じゅっ。
重たい音をたてて撥ねた血がセーラー服の襟首を濡らすのを、翠は感じた。
制服を汚される。
それは、血を吸い取られるよりも屈辱的だったけれど。
むしろ緑は、歓びを覚えていた。
婚約者のまえで、処女の生き血をむしり取られる。
制服姿を辱められながら――

14歳のいままで気位高く生きてきた少女が、いま奴隷に堕ちようとしていた。

婚約者のまえで、こいつに辱められる。
けれどもあたしは、あたし自身が辱めを受けることで、目のまえのヒロアキさんを、辱めている・・・
倒錯した想いが、少女の脳裏にマゾヒズムと同量の加虐的な歓びを、植えつけていった。

意識がもうろうとなりながらも。
ベンチに横たえられるまでは、はっきりと記憶にある。
あいつに咬ませるために履いてきた、真新しい紺のハイソックス。
男は無作法にも、足許をキリリと引き締めるハイソックスに、よだれまみれの唇をなすりつけてきて。
しなやかなナイロン生地ごしに、牙を埋めてきた。
制服の一部であるハイソックスを、他愛なく咬み破かれてしまいながら。
さっき同じようにしておそろいのハイソックスを咬み破らせていったヒロアキのことが脳裏に浮かんだ。
あたしはいま、おなじ歓びを味わい始めている――
記憶が彼方に行ってしまう直前、そんな確信が、翠の胸を妖しく浸した。

彼女ができたら、わしに咬ませろ。 5  ―― 帰るわ。 ――

2015年05月21日(Thu) 07:35:39

空き教室のなかは照明もなくて薄暗く、空気は冷え冷えとしていた。
ふつうの経室とは違って、たたみが敷き詰められていて。
長いこと使った感じのしない教卓や生徒用の机といすとが2、3組、教室の隅にひとまとめにされているのが、ひどく殺風景にみえた。
そのたたみの上で。
ボクと半井とは、うつ伏せの姿勢で身体を並べて、視線を交わし合っている。
濃紺のハイソックスを履いたふたりの足許には、それぞれひとりずつ。
自分の親たちよりも年配の男の吸血鬼がうずくまって、唇でボクたちのふくらはぎをさっきからしつように、吸いつづけていた。
チュウチュウ・・・キュウキュウ・・・
あからさまな音をたてて血を吸い上げられるたび、ボクたちは顔をしかめて、むず痒い痛みをくすぐったそうに耐えていた。

2人組の吸血鬼は、親密な間柄らしい、時おり獲物を取り替えあって、
相方が贔屓にしている男の子の血を偸(ぬす)み取ってゆく。
ボクの相手は、ボクの両親の血を吸っているあの小父さん。
半井の相手はたぶん、一夜にして家族全員の血を愉しんだという、噂の怪人に違いなかった。

うー、貧血だよ。そろそろ勘弁してよ。
さきに音をあげたのは、半井のほうだった。
オイオイ、コラエ性ガナインダナ。オ友ダチニ悪イジャナイカ。セッカクオ愉シミ中ナンダカラ。
たしなめたのは、半井の相手のほう。
オ愉シミ中・・・って、愉しんでいるのは一方的にそっちじゃないか・・・って、言いたかったけど。
言えないなにかを感じ始めている自分に、とっくに気づいてしまっている。

俺たちにかまわず、友達同士の会話ってやつでも仲良く楽しんだらどうなんだ?
ボクの小父さんも、いつものくぐもった声でそんなことをいう。
俺たちが聞いていようが聞いていまいが、そんなことどうだっていいはずじゃないか・・・
それはそうだよね。ボクたちのあいだに、秘密はないはず。
心の奥底の願望まで、吸い取られた血潮を通して、すべて読み取られてしまっている関係なんだから。

で・・・きみ何てこたえたの?その翠さんっていう子に・・・?
半井の問いに、ボクの意識はびっくりするくらいすぐに、先週の記憶の世界に舞い戻っていた。


家のしきたりだから、私のこと咬ませるの?
それとも、自分のお嫁さんが咬まれるのが嬉しくて、吸血鬼に貢献するの?

どっち・・・?

呟くような低い声は、隣室の親たちの耳にも届かなかったはず。
ボクも同じように、低い声色になっていた。
自分でも信じられないこたえが、するすると自分自身の口から洩れてきた。

お嫁さんって、だいじなひとだよね?
小父さんもボクにとっては大事な人で・・・その小父さんがボクのだいじなひとの血を気に入ってくれたら・・・って、想っちゃうわけ。
ヘンだよね?
嫌だったら・・・破談になっても・・・それはしょうがないから・・・

どんなに恥ずかしい欲求の告白であったとしても。
正直なことを口にするのって、どうしてこんなにも、気持ちがすっきりするものなのだろう?
相手の感情を計算に入れるだけのゆとりもないままに、ボクは自分の心の奥が透きとおってゆくのだけを感じていた。
たくまず洩らしてしまった自分の想いに陶然となったのは、ほんの半秒ほどだっただろうか。

帰るわ。

翠さんは、周囲に聞こえるようなはっきりとした声で、そういった。
隣室の親たちがビクッと、彼女の声に反応した。
ソファから立ち上がった彼女の脇に、翠さんのお母さんが気遣わしげに歩み寄る。
それに続いて翠さんのお父さん、ボクの両親が、応接間の入り口に立ち尽くして、いっしんに翠さんに視線を集めていた。

翠さんは、いままでとはがらりと違う人懐こい笑顔を作って――こんなにもかんたんに、このひとは笑顔を作れるのかって思うくらい――そのまなざしをボクに向けた。

週明けから、ヒロアキさんのいる学校に転校します。
こんど会うのは学校ですね。
クラスの子とも仲良くしなくちゃいけないから、しばらく落ち着かないけれど。
こんどお逢いできるのは、どこになるかな・・・

では・・・と、少女はきちんとお辞儀をして、さすがにきまり悪そうに、両親の先に立って部屋を出ていった。
潔い後ろ姿だった。

彼女ができたら、わしに咬ませろ。 4  ―― どっち・・・? ――

2015年05月21日(Thu) 07:07:06

ははは。オレもとうとう・・・
いつも連れだって登校している半井のやつが、いつになく照れ笑いをして、頭まで掻いている。
どうした・・・?といいかけたボクも、思わずにやりとしてしまっていた。
いつも長ズボンだった半井の太ももが、濃紺の半ズボンから眩しく露出していた。
オレの脚筋肉質だから・・・体育の時間以外はカッコわるくてひとに見せらんないよ。
そんなふうに言っていたふくらはぎも、濃紺のハイソックスに包まれて、かっちりとした輪郭が好ましく映った。

どういう心境の変化?
ボクが水を向けると。
半井はせきを切ったように、語りはじめた。
金曜の夜、一夜のうちに家族全員が咬まれてしまったことを。

相手は親父の取引先だったんだ。
それがなにかのはずみで、吸血鬼になっちゃってね。
さいしょに親父が咬まれて、家族の血も飲みたいっていう取引先の社長にせかされて、その足でうちに連れて来て。
玄関先でお袋が咬まれて、ベッドのうえでちゅーちゅーヤラレちゃって。
階下からへんなうめき声がするなあって思っていたら。
そのひと、二階の勉強部屋まで上がり込んで来て、オレのことまで咬んで。
オレが血を吸われているあいだ、お袋は寝ていた妹を起こして。
わざわざ学校の制服に着替えさせて。
あいつもストッキングとか、ハイソックスとか、好きらしくって。
しぶしぶ紺のハイソ履いた妹に、
破けたパンスト穿いたままのお袋が、こんなふうにさせてあげてねって、自分の脚見せびらかして。
うーん・・・
自分が咬まれたときよりも、妹が紺ハイソ咬み破られながらちゅーちゅーやられるのを見ているときのほうが、昂奮したなあ。

言葉を短くしゃべっているぶん、よけいに想像力をそそられた――
そういえば半井の妹さんって、けっこうかわいかったよな・・・

背後から、舐めるようなしつような視線が、ねっとりとからみついてくるのを感じた。
おそろいのハイソックスを履いた脚を並べて登校する後ろ姿を、
小父さんは欲情の入り混じった眼で、どこからか盗み見しているみたいだった。


先方のお母さんに連れられて、彼女が初めて公式にボクの前に現れたのは。
おなじ週末のことだった。
ちょうどあいつが、制服を新調するために、吸血鬼の女にされたお袋さんといっしょに地元の洋品店にいた時分だったはず。
さらりと流れる黒髪に、広いおでこ。お行儀よく取り澄ました小づくりな目鼻立ちは、こないだすれ違ったときそのままだった。
薄いピンクのカーディガンに、空色のブラウス。真っ赤なスカートの下、真新しい白のハイソックスが初々しい眩しさを放っていた。
ふたりきりにされたのは、30分ほどだった。
部屋を移して歓談する両親たちが、背後の気配でボクたちのようすを窺っているのが、ボクにさえありありとわかった。
30分のあいだ、ふたりはほとんど押し黙ったままだった。
いきなりお見合い相手を・・・っていきなり引き合わされたって。
遊びのわかる大人ではないボクたちのあいだで、スムーズな会話が成立するわけがなかった。
如才のない半井だったら、こんなときどうするかな・・・とかって。
場違いなことばかりが、頭のなかを駆けめぐっていた。

翠(みどり)さんという名前を持つその少女は、
30分のあいだ、じっとうつむきつづけていて。
ちいさな朱の唇を、終始不機嫌そうに引き結んで、押し黙っていた。
気の強い子なのか。かたくなな子なのか。たんにボクに関心がないだけ・・・?
何とか和やかな座にしたいと願うボクの、空回りする焦りのむこうに、失望と劣等感とが顔を出しかけたとき。
時間切れ数分に迫ったそのときに、やっと口をひらいたのは――翠さんのほうだった。

あなたのお嫁さんになるひとは、吸血鬼に咬まれる運命だって本当・・・?
俯いていた顔をにわかにもたげて、ひたとこちらを見据えてくる目は、尖った視線をもっていて。
話題を逸らさせないしんけんさで、いっぱいだった。

ウン、残念ながら、そうみたい。
ボクはおずおずと、そうこたえた。
うちのしきたりなんだって。父さんも母さんも咬まれているし、
ヒロアキのお嫁さんになるひとのことも、咬んでもらおうね・・・ってことになっているから。

そう。
翠さんの呟きは、放心したように低かった。
現実を受け入れたような、大人びた諦めが、そのまま声の響きになったみたい。
で・・・あなたは。
いちどうつむけかけた顔をふたたびあげて、ボクを見据えた瞳に籠っていたのは、
諦めなんかよりも、はるかに強い感情だった。

家のしきたりだから、私を咬ませるの?
それとも、自分のお嫁さんが襲われるのが嬉しくて、吸血鬼に貢献するの?
どっち・・・?

さいしょの尖った声色とは裏腹に。
なぜかさいごのひと声だけは、ひどく柔らかな響きを含んでいた―――

彼女ができたら、わしに咬ませろ。 3  -遭遇ー

2015年05月19日(Tue) 08:01:10

道の向こうから歩みを進めてきたその少女は、ボクのことなどまるきり無視して、そのまま通り過ぎていった。
長い黒髪をツヤツヤとさせて。
広いおでこが透きとおるように白くって。
ツンと取り澄ました可愛い鼻のすぐ下に、お行儀よくおさまっている小ぶりな唇が、ひどく赤くって。
そんな可愛らしい容姿の持ち主はでも、そっけなさ過ぎるくらいに透明な無表情のまま、ボクのことを完全に無視していた。
お見合い写真で、顔を識っているはずなのに。

あの子なの・・・?
おずおずとそう訊くボクに、
あの子だ。
小父さんは低い声で、返してきた。
すれ違った少女との間合いが十分取れたのを背中で確かめてからの応えだった。

ずいぶん冷たい感じのする子だね。
ボクの声は心なしか、上ずっている。
あの子のママも、わしは喰いものにしているからな。
小父さんはぬけぬけと、そんなことまで口にした。
そのひとに感謝するんだぞ。お父上を説き伏せて、お前との見合いを承知させたんだからな。
わかった。
ボクはみじかく、応えていた。

もうひとつ、どうしても訊きたいことがあった。
けれども言い出せなくって、ただもじもじとするばかりだった。
訊くには、勇気の要ることだったから。
小父さんはボクの気分を見透かすように、耳たぶに唇を近づけた。
また吸われるのか?と思ったくらいの距離感だった。
本能的にのぼせ上ったボクに、小父さんはいった。
なにか訊きたいことを隠しているだろ?
図星を刺されて、声色もろとも棒立ちになっていた。

あの子のことも、咬んだの・・・?
小父さんの応えは、意外にも否だった。
愉しみに取ってあるんだ。
どうして?
きみが自分の許嫁として、わしに紹介するからな。
え?ぼくが・・・?というのは、このさい愚問なのだろう。子供のボクにさえ、それはわかった。

きみの婚約者を汚したい。
ただの美少女を汚すよりも、きみの彼女として汚すほうが、面白そうだから。

ずいぶん意地悪なんだね。
ボクはそう言いかけて、すぐに言葉を飲み込んだ。
それくらい――ボクのことが好きだってこと・・・?

わかっていうじゃないか・・・
小父さんは小声でそういうと、ボクの肩をちょっとだけ抱き寄せて、それから掻き消えるようにしていなくなった。
気がつくともう、夕闇が迫っていた――


すれ違った少年のことを、少女は冷たく意識の外に追い出そうとしたけれど――すぐにその努力を放棄した。
隣にいた老紳士がママの愛人であることも、よくわかっていた。
だって、ママは悪びれもせずあのひとのことをあたしに紹介したし、
いまでは日常的に挨拶をしたり言葉を交わしたりしていたから。
すれ違いざまチラと振り向くと、半ズボン姿の少年のハイソックスがすこしずり落ちているのが目に入った。
なんとだらしのない。
一瞬そんなふうに思ったけれど。
見落としそうなくらいに微細な異状を見届けていたのは、日常が教えてくれた情景だからだろう。
ふくらはぎの肉づきのあるあたりに赤黒く塗れた痕に、気がつかないわけにはいかなかった。

少女は自分の足許を見おろした。
薄いピンクのコーデュロイのタイトスカートの下は、
ひざ下までぴっちりと引き伸ばした、白のハイソックス。
ちょっとおしゃれをしたい気分のときによく履いている、ストッキング地のやつだった。
あいつに迫られて咬み剥がれたら、きっとひとたまりもないだろう。
そんなまがまがしい想像に自分を重ね合わせてしまいつつある今が、ひどく厭わしい――

取り澄ました白皙がかすかに赤らんで、
強情に引き結んだ朱の口許に力がこもり、
かすかな歯ぎしりを、カリリと響かせた。

彼女ができたら、わしに咬ませろ。 2 ―日常風景―

2015年05月19日(Tue) 07:42:05

はじめに
前作のつづきです。
しょーもない前段がやたら長くなりました。
面白くなかったら、読み飛ばしてくださいませ。 笑



お早よっ!よく続くね・・・
後ろから追いついてきた同級生の半井が、ボクの肩を派手にどーん!と叩いてきた。
ボクの制服は、濃紺のブレザーと同じ色の半ズボンに、ハイソックス。
今年になったから選択制で採用された、新しいタイプのやつだった。
「なんか女みたい」だとか、
「男が太ももさらすなんて、ヘン」だとか、
そんな陰口をたたくやつもいたけれど。
4組の田中が新調第一号の生徒として新しい制服をしゃなりしゃなりと着こなしてくると、
クラスでも1~2名ずつ、ぞろぞろと追随するやつが出てきた。
いまではどの学年のどこのクラスでも、数人はこのスタイルだった。

お前ぇ、脚きれいだからいいよな。もしかして、女子の制服でも似合うんじゃないの?
冷やかすように言う半井は、案外本気でそう思っているようだった。
なぜかどす黒い矢が心臓に突き刺さるような衝動をおぼえて、内心どきりとする。
ンなこと、すっかよ・・・
ボクは内心のドキドキを押し隠しながらそう言ったが、幸い半井はそれ以上追及してこなかった。

教室から小父さんに呼び出されたのは、午後の授業中だった。
びっくりしたことに、担任経由での呼び出しだった。
教室を出るボクに、先生は言った。「きょうの授業はもういいから」――
失くしてしまう血の量を想像して、ボクは思わず――ウットリとしてしまっていた・・・

太ももにはくっきりと、きのう咬まれた痕がまだ赤黒く滲んでいる。
だれも気づかないのか、故意に触れないのか・・・教室にいるあいだ、だれもそのことを気にする様子をみせなかった。
半ズボンのすそから覗く咬み痕もあらわな太ももに、小父さんはククク・・・と下品な声色で嗤った。
クヒヒヒ。たっぷりと味わってやるぞい。
小父さんはわざと下品にそういうと、ボクの背後にまわった。
首すじにつけられた傷は、長めの髪に隠れていた。
髪の毛を掻き退けて、、小父さんはむぞうさにボクのことを咬んでいた――

ひざから力が抜けてその場にクタリと尻もちをつくと。
おひざを突いたら、負って言ったよな・・・
嬉しそうに息をハァハァさせながら、ボクの足許にかがみ込んでくる。
真新しいハイソックスが陽射しを照り返して、太めのリブをツヤツヤとさせている。
そのうえから、クチュ・・・ッと音を立てて小父さんの唇が吸いつけられてくる。
唾液のはぜるいやらしい音に、ボクはさっきから、ドキドキしつづけていた・・・

整然と流れるリブ編みが、そこだけちょっといびつに歪んでいた。
濃紺の生地にふたつ開けられた穴ぼこから、血の滲んだ素肌が覗いている。
吸血はまだつづいていた。
仰向けに組み敷かれたボクの視界に入るのは、立て膝をしたふくらはぎだけ。
首すじに這わされた唇は、キュウキュウ、キュウキュウ・・・と、さっきからおいしそうに、ボクの血を吸いあげつづけていた。
ボクはおそるおそる、呟いていた。
もう片っぽの靴下も、咬み破ってくれない・・・?

身を起こした小父さんは、やけにスッキリとした顔をしていた。
ボクの身体から吸い取った血をむぞうさに手の甲で拭うと、こんどは血のついた手の甲を、ボクのポケットからさぐり出したハンカチでギュッと拭った。
さっき、きみの母さんを犯してきた。
人妻を強姦するのは愉しいな・・・
小父さんの言い草は毒を含んだ針のようにボクの鼓膜をつついたけれど。
血の気の失せたボクの脳裏は理性さえもぼやけてしまっていて・・・
母さん、案外まだ吹っ切れてないのかな・・・
なんて、思っちゃっている。
ボクも父さんや母さんみたいに、小父さんに血を吸われてみたい。
おずおずと言い出したボクに「あなたが協力的だと母さん助かるわ」なんて、言っていたくせに――


ただいま。
なかの様子を予感しながら、おずおずとドアを開けて家に入ると。
室内は薄暗く、無人のようにひっそりとしていた。
廊下に鞄を置いてリビングに入ると、ふだん両親の寝室とを隔てているふすまが半開きになっていて、
仰向けに大の字になっている両脚がみえた。
思わず寝室を覗き込むと、そこに母さんがいた。
肌色のストッキングはところどころ、むざんな裂け目を拡げていて。
花柄のスカートのすそに光っている粘液は、なるべく見ないようにしたけれど。
気絶している母さんの口許に散った唾液だけは、いつまでも網膜に残って――ボクを苦しめた。


ただいま。
無表情な声色に、無表情な白い頬。
スッと伸びたロングの黒髪を、こ揺るぎもさせないで。
少女はリビングへと脚を踏み入れた。
青系のチェック柄スカートのすそだけが、意思を持ったように表情を帯びて、少女の足取りに合わせてゆらゆらとそよいでいる。

来客があったらしいのは、なんとなしの気配でわかる。
そしてその来客がまだ立ち去っていないのも、少女の敏感な五感が感じ取っている。

壁ぎわにしつらえられたソファの向こうは、夫婦の寝室だった。
来客はきっと、そこにいる。
ママもきっと、いっしょにいる。
少女は壁越しの情景を見通すように黒い瞳をこらしていた。

ああ・・・っ。
かすかな呻きにわれに返ったように、少女はふっと頬をふくらませる。
やっぱり。
母さんは犯されている。あのひとに――
腰を下ろしたソファの柔らかさが、ひどくいとわしく感じられた。
目を落とした足許は、黒のストッキングを履いた脚。
大人の輪郭を帯びはじめたふくらはぎが、なまめかしい薄墨色に染められていた。

さいしょのころは、ふつうのナチュラルな色のストッキングだった。
けれども、1ダースも破かれたころからだろうか。
ママはあのひとと逢う時は、黒のストッキングを脚に通すようになっていた。
あたしが学校に履いていくのと同じ色の、黒――
いまはふしだらによだれまみれにされ、むざんに咬み剥がれているはず。
いつかあたしも、そんなふうに――

きのう見せられたお見合いビデオが、まだテレビのうえに置かれていた。
知性と品性のあふれるノーブルな顔立ちの少年は、画面のなかで紺のハイソックスの脚を放恣にばたつかせながら、ママの愛人と戯れていた。
ビデオのうえには、少年の写真が見開きになったアルバムも添えられていた。
少女はアルバムをじっと見つめていたが、とうとう手に取ろうとはしなかった。
父ではない男が母の身体から起きあがる気配を背中で感じると、
少女はスッと起ちあがり、二階の勉強部屋に通じる階段にスリッパの音を重ねていった――

彼女ができたら、わしに咬ませろ。

2015年05月12日(Tue) 07:37:04

小父さんは血走った目をしてボクの首すじに舌を這わせ、そして言った――

彼女ができたら、わしに咬ませろ。

いやだ。いやだ。そんな・・・・・・っ――

声にならない叫びをあげるボクに、否応なく食い込んでくる尖った牙。
紺のハイソックスの脚をばたつかせながら、ボクはいつも以上に声をあげ、昂ぶっていた・・・


画面に写っているのは、狭い密室のベッドのうえの光景だった。
その画面いっぱいに、濃紺の半ズボンからにょっきり覗いた太ももが、大胆にくねりつづけていた。
濃紺のハイソックスに包まれた脚は、女子のようにしなやかだった。

脚の綺麗なひとなんですね。

控えめな声色を発する少女の唇は、小さくて朱い。
白皙の頬になんの感情もよぎらせず、人形のように無表情。
切れ長の目が、ビデオ録画の画面狭しと乱れる少年の昂ぶりを、じいっと観察していた――

このひとのお嫁さんになるのですよ。あなた。

それでもいいかしら――?
いたわるような母の目線に応えずに、少女は冷たく取り澄ました顔だちを崩そうともせずに。
ゆっくり、深々と、頷いている・・・・・・

イイ気なヤツ・・・

2015年05月07日(Thu) 07:26:38

家の近くを歩いていると、妻の彼氏と行き会った。
「悪りィです。〈^人^) これから奥さんに逢うんですけど、〇ンドーム切らしちゃってて・・・」
ふつうこういうときに、そういうものを、ダンナに買わせるものかいな・・・
家を目指して背を向けるアイツのために。
当時街なかでもひっそりと佇んでいた「明るい家族計画」と銘打たれた自動販売機を前にする。

「悪りィです。(^人^) ガマンできなくなって、先ヤッちゃいました。。。(^^ゞ 」
照れ笑いするアイツに、ふくれ面の妻。
「せっかくですから、これ・・・ダンナさん使うと良いですよ」
そんなよけいなお世話まで、やかれるものかいな・・・
彼氏の代わりに〇ンドームを使いはじめた私。

妻の妊娠が発覚したのは、その数か月後のことだった。
(-_-;)


あとがき
こういうまぬけなお話、時々描いてみたくなるんです・・・