fc2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

こんぺいとう

2015年07月30日(Thu) 08:09:13

きよみ、どうだったー?
帰ってきた返事は、ストレートだった。
いやらしかったー! ><

ふたりの通う、地元の名門女学校には。
しばしば、いわくつきの賓客が来校する。
彼らは外見上、ふつうの人と変わりはなかったけれど。
一点だけ、ふつうの人間とは決定的に違う習性を持っていた。
人の生き血を吸う――という。
出席番号順に招ばれた第一号は、青田きよみ――庵原ゆかりの親友である。
入学式の日に席が隣になってから妙にウマが合い、以来ほとんど毎日登下校を共にしている。

ハイソックスを履いたふくらはぎに好んで咬みつくという彼のために、
きよみは真新しい白のハイソックスを履いて応対したのだが。
男はきよみをうつ伏せに寝かせると、
荒い息をしながらその足許に這い寄って、いきなりがぶり!とやったのだ。
ちゅーちゅー吸い上げる音が、やらしいの・・・
きよみは身を縮こまらせながら、上目づかいで親友を見た。


おあがり。
ゆかりが前にした勉強机のうえに置かれたのは、小さなおひねりがひとつ。
口の開いたおひねりからは、色とりどりの金平糖が幾粒か、顔をのぞかせている。
甘いものは、お嫌いかな――?
相手はふさふさとした白髪の、老紳士。
このあたりでは見かけないタイプの、彫りの深いハイカラな目鼻立ちをしていた。

いいえ。
ゆかりはやっとの思いでこたえた。
ここは、ゆかりの家。
生徒のほとんどは吸血鬼の応接を学校でしたが、ゆかりの場合はどういうわけか、自宅が選ばれた。
スリッパにつま先の隠れた足許を覆うのは、きよみのときと同じ真新しい白のハイソックス。
両脚ともいつも以上に内またになって、未練がましくもじもじとさせてしまっているのは、潔癖な少女としてはとうぜんのことだろう。
男は武士の情け、とでも思っているのか、そうしたゆかりの逡巡には、気づかないふりをしていた。

失礼なことをお許し願うんだ。ちょっとでもくつろいでもらおうと思ってね。
ない知恵を絞っているのさ。
男は自嘲するように、ふふっと笑った。
前のときには、コーヒーにしたんだが。
その子の手が震えて、カップを落としてしまってね。火傷にならなかったからよかったようなものの――
男の言い草はさりげなかったが、どこか琴線に響くリアルさをもっていた。
飲み物の要らない程度の甘いものって考えて、それで・・・
こんぺいとう?
ふたりの声が同時に重なり、お互いに顔を見合わせた。
吸血鬼は少女に笑いかけている。
ゆかりはぷっとふくれて、そっぽを向いた。
こんなものに、だまされないわよ。
横顔にはっきりと、そう書いてある。

嫌われてしまったか。しかたないね。
でもこれだけは言っておく。
わしはきみに感謝こそすれ、きみのことを決して小ばかにしているつもりはないのだから。
そういう言葉――聞きたかったような。聞きたくなかったような・・・
ゆかりは男の言葉をなん度も反すうしながら、いった。
早く済ませて、お部屋から出てって。
お気に入りのスリッパをつま先から押しやると、未練がましくもじもじとしていた脚のゆらぎが止まった。

男はそろそろと少女の足許にかがみ込んで、
もはやむだ口ひとつたたかずに、白のハイソックスのうえから唇を吸いつける。
素肌からなまの唇をさえぎる厚手のナイロン生地ごしにかすかな唾液がしみ込むのを感じて、ゆかりは潔癖そうに眉をしかめた。
刺し込まれる牙のぶきみさに耐えかねて、少女の口のなかでこんぺいとうががりり・・・と、砕かれた。

真っ白なハイソックスのふくらはぎに、赤黒い血のりがべっとりと沁みて、生々しく光っている。
貧血にちょっと蒼ざめた頬をこわばらせながら、少女は気丈にも、なおも続けられるしつような吸血に耐えていた。
男は少女の上体を机のうえに押し伏せて、肩までかかる初々しい黒髪を掻きのけて、首すじに咬みついている。
うなじに密着させた唇からは、血を抜き取るたびに貪婪な音を洩らしつづけた。
ちゅう、ちゅう、ちゅう・・・
キュウッ、キュウッ、キュウッ・・・
まるでひとを小ばかにしたような音だった。
ゆかりは食いしばった白い歯を口許から覗かせながらも、目を瞑ってなにかを懸命にこらえている。
大柄の男は華奢な少女の身体におおいかぶさっていたが、
どこか母親に甘える幼な児のように、頼りなげに影を寄り添わせていた。

こっちの脚は、魅力的じゃないの・・・?
蒼ざめた頬にうつろな笑いを浮かべながら、ゆかりはまだ咬まれていないほうの脚を差しのべた。
真新しい白のハイソックスが、本人の目にも眩しい。
いいのかね?
ええ、もちろんよ。
吸血鬼はゆっくりと少女の足許ににじり寄り、ハイソックスを履いたふくらはぎに唇を這わせる。
口許に力がこもり、チクッとした痛みが皮膚の奥へともぐり込む。
入れ替わりにじわっとほとび出る血潮が、ハイソックスの生地を生暖かく濡らした。
さっきのくり返しを、少女はじっと見守りつづけた。

男は少女を抱き寄せて、まだ咬んでなかったほうの首すじに牙を埋める。
ちゅう・・・っ。
ひとしきり少女の血を啜り取り牙を引き抜くと、少女はいった。
小父さま、紳士的なのね?
おだやかにうなずいた男に、少女はまたいった。
だけどやっぱり、いやらしい。
少女は男の頬を、軽くひっぱたいた。
蒼ざめた頬に泛べたほほ笑みが、気力を見せたさいごだった。
少女は目を回して、姿勢を崩す。
男はセーラー服姿をさっと抱き取って、ゆっくりと寝かせた。
こわれものでも扱うときのような慎重さだった。
吸血鬼は畳のうえに仰向けになったゆかりの乱れた髪や服装を整えてやると、
もういちどだけ足許にかがみ込んで、ハイソックスの脚を吸った。
それから胸元に手を伸ばし、黒のネクタイをその首周りから抜き取った。
真っ白な夏用のセーラーブラウスには、紅いシミひとつ、撥ねていなかった。
眠りこける少女のおでこに軽くキッスをすると、男は部屋をあとにした。
少女の胸もとから抜き取った黒ネクタイを、だいじそうに懐にして。

応接間では、ソファに腰かけたゆかりの母が、息をつめてかしこまっていた。
廊下と室内で目を合わせた男に、「あの・・・」と、言いよどむ。
まな娘の生き血を吸い取った男を相手に、どんなあいさつをすればよいのだろう?
母親のきまり悪げな逡巡にかたをつけてやるために、男は足早に彼女との距離を詰め、
花柄のワンピースの両肩をソファに圧しつける。
ソファが倒れなかったのは、壁ぎわにしつらえられていたおかげだった。
それを勘定に入れて、男はさっき生き血を吸い取った娘の母親を、壁のあいだに挟み込む。
荒い息遣いがネックレスをした首もとに迫り、あっという間に咬みついていた。
ジュッ、とほとび出た血潮は、少女のときと違って、ワンピースをしとどに濡らした。

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
キュウッ、キュウッ、キュウッ・・・
人をこばかにしたような吸血の音が、しつようにつづいた。
女はそれを、感情を消した横顔で耳にし続け、やがて口を半開きにして白目になって、姿勢を崩した。
肌色のパンティストッキングを、太もものうえから咬み破られるとき。
彼女は童女のようにいやいやをしたが、
いい子で聞き分けるんだ、と囁かれると、やはり童女のように素直に応じ、
薄手のストッキングをぱりぱりと見るかげもなくなるまで、咬み破らせていった。

ククク・・・
男が娘を気絶させたのは、せめてもの情けだったのだろう。
セックス経験のある女からは、容赦なく操をむしり取るのも、彼らの習性だったのだから。
男はゆかりの母をじゅうたんのうえに組み伏せると。
薄い生地のワンピースの胸元を引き裂き、すそをせりあげていって、股間をくつろがせる。
まだかすかに意識を残した女は、身体のあちこちにまさぐりを入れてくる男にこたえるように、
破れたストッキングをまとったままの両脚を、ゆっくりと開いていった――


ゆかり、どうだった?
朝顔を合わせたきよみが気遣うほどに、ゆかりの顔色は悪かった。
ごらんのとおりよ。たっぷり吸われた。
あたしの血がよっぽど、気に入ったみたい。
生真面目なゆかりにしては珍しいほど露骨な言い方だったが、きよみはそのこたえに、まだじゅうぶんに満足していない。
そうじゃなくってぇ・・・
いやらしかったの?あたしのときみたいに、下品にあしらわれちゃったの?
きよみの顔つきは、露骨な好奇心が満ちあふれている。
そうねぇ。
ゆかりは白ぱくれた頬で親友のストレートすぎる好奇心を受け流しながら、呟いた。

思ったよりずっと、紳士的だったよ。
でもやっぱし、やらしかったな・・・

父親の立場。

2015年07月27日(Mon) 07:20:23

気がついたときには、家族全員が噛まれていた。
さいしょに噛まれたのは、息子だった。
同性愛のケでもあるのか?
あとになって吸血鬼本人に訊いたくらいだったが、必ずしもそうではないらしい。
夜道を歩く、紺のハイソックス。
それがやつのねらい目だったというわけだ。
地方の都市らしく、昭和な服装の男女が多い街――そのなかでも、ここの学校の制服は際立っていた。
男子のくせに、半ズボンなのだ。それもいまどきのハーフパンツというものではなくて、わたしが子どものころに穿いていたような、ちょうど女の子のショートパンツに近い丈――来ている本人も最初は恥ずかしそうにしていたが、周りじゅうがおなじ服を着ていたらいい加減慣れるというもの。学校に行くときには紺のハイソックスをまるで女の子のように、グン、と引っ張り上げるのが癖になっていた。

つぎに噛まれたのが、妻だった。
毎晩のようにハイソックスに穴をあけて帰宅する息子の挙動を不審に感じた妻は、夜中の勉強部屋をこっそりと覗いて――息子が飲むために淹れた紅茶はたたみのうえにぶちまけてしまい、代わりに息子の部屋に侵入していた吸血鬼のために、自分の血潮をブラウスにぶちまけるはめになっていた。
女に手の早い連中だった。きっと妻もそのときに――いや、ここではあえて触れまい。

息子をさいしょに落としたのは賢明だった。
息子の手引きで、妻も娘も噛むことができたのだから。
主婦をモノにしたのは賢明だった。
堕ちた息子と娘がひっきりなしに噛み破らせてしまうハイソックスを、夫に気取られぬようにひっそりと調達しつづけていた。
もちろん――吸血鬼のために自分が脚に通して噛み破らせる、あの薄々のストッキングもそのなかに、含まれていた。

相手の男は、わたしのことをよくわかっていた。
だって、昼間はよく気の合う、仕事仲間だったから。
わたしは言った。
この街に赴任するとき、会社のものに言われた。
この街はうちの社の創立者の出身地で、吸血鬼と共存しつづけている街なのだと。
そうして、故郷に錦を飾るため、創立者は自分の会社の社員とその家族の血液を提供するために、ここの事務所を作ったのだと。
どうせ家族もろとも血を吸われてしまうのなら――あんたが一番良いと思っていた――
口にしてしまった後で、案外それが本音だったのだと、気づいてしまった。

仲直りのしるしに――わたし自身も血を吸われた。
男の血じゃ、嬉しくもないだろう?
そう気遣ったわたしに、吸血鬼はかぶりをふった。
もっと切実な問題だ。
親から受け継いだ血を、むざむざと・・・
一瞬そんな想いもよぎったけれど。
つぎの一瞬で押し倒されたわたしは、妻と子供たちの前、飢えた吸血鬼をもてなす手本を示すはめになっていた。
自分の心づくしのもてなしを、ごくごくと旨そうに喉を鳴らして飲み味わわれるということは――思ったほどわるいものではない。
長い靴下に執着し、妻のストッキングを破りつづけた男のために、
ご婦人のものほど、面白味はないだろうけど、とことわりながら。
ストッキング地の紳士もののハイソックスを脚に通して、噛ませてやった。
やつはスラックスのすそを性急にたくし上げると、舌をぬめらせてきて・・・
わたしの穿いている靴下の舌触りを、ねっとりと愉しんだ。
薄い生地越しにしみ込まされてくる唾液は、妻や息子、娘の素肌を辱めた、呪うべき粘液。
けれどもわたし自身も不覚にも、その粘液の魔力に屈してしまっていた。
男は嬉しげに、わたしの靴下をぱりぱりと噛み破っていった。
やつが妻のストッキングや、息子や娘のハイソックスに執着したのも無理はないと思った。
わたしのものでさえ、こんなにみるかげもなくなるほど、愉しむくらいなのだから――

改めて家内を紹介するよ。
きみが家内を映画館やデパートやホテルに連れまわしても、ぼくは不平を言わないからね。

彼がわたしにご褒美をプレゼントする――と囁いたのは、そのときのことだった。
なんのことはない、もともとわたしの所有物だったものを、改めて得たに過ぎなかったのだが・・・必ずしもそうとは言い切れないのだろう。
彼がプレゼントしてくれたのは、実の娘の肉体だったのだから。

パパの好みに合わせたのよ。
図星を刺されて黙ったわたしのまえ、娘はセーラー服姿のまま、モデルのようにくるりと回る。
でも・・・セーラー服なんか着ていると、かえって実の娘だと意識しちゃうじゃないか。
だいじょうぶ。男のひとのことはわかるから。
面と向かって頷いた娘の顔が間近に迫って、息遣いが頬をかすめた。
どういうことだ?おまえもやつに、抱かれてしまったというのか?
声にならない声を、どうやって聴き分けたのか。
娘はわたしの無言の問いに、無言の頷きでこたえると。
信じられないことを、口にした。
でも、あのひと処女は抱けないの。だから、さいしょの相手はお兄さん。
だから、家族でするのも平気・・・
目の前をどす黒い眩暈がよぎり、わたしは恥ずべきことに、実の娘を襲っていた。

パパも血を吸うんだね。
無意識にやり遂げてしまった行為の残り香が、指先にまだ漂っている。
わたしは娘の血の付いた指先を行儀悪く口で吸い、首すじにキスをしながらバラ色の血潮を唇で拭った。
ああ、少しだけね。
兄さんもだから、だいじょうぶだよ。
娘は白い歯をみせて、クスリと笑う。
身内の血は美味しいんだってね。
あたしが相手をしているあいだ、母さんあのひとに犯されているんだよ。
わたしの腕の中で笑う小悪魔は、もろにわたしの心のツボを突いて、わたし自身を勃ちあがらせた。

あたしが相手をしているあいだ・・・
あたしが相手をしているあいだ・・・

いつか吸血鬼は我が家の周囲から姿を消して。
わたしが娘の部屋を訪れる夜は。
入れ替わりに息子が、妻と道ならぬ関係を結んでゆく。
歪んだ家族はいびつな欲情に身も心も焦がす一夜を過ごすと、
ふたたびなにごともなかったかのように、いままでどおりの日常に帰ってゆく。

母さんと妹。

2015年07月27日(Mon) 04:35:32

吸血鬼の小父さんに血を吸われるようになって、もうどれくらいになるだろう?
さいしょはほんとうに、唐突だった。
夜遅い塾帰りを襲われたのだから。
理由はいたって、かんたんだった。
制服の半ズボンの下に履いていた、紺のハイソックス。
そんなものに、小父さんは目を惹かれたのだ。
女の子の履いているやつを連想したんだって。
路上に押し伏せた僕の首すじに、小父さんはがぶりと食いついて――僕の身体から血をひきぬいた見返りに、ウットリとした陶酔を僕にくれた。
血液を吸い取られる代わりに注入される毒液に魅せられてしまったのは、浅ましいほどすぐだった。
僕は小父さんに対する抵抗を完全に放棄して、毎晩のように紺のハイソックスの脚を、夜風にさらした。
身体の中に流れる血に織り交ざる毒液の割合が、じょじょに増えていって。
いつか、両親からもらった血よりも、小父さんからもらった毒液のほうが、上まわってしまったころ。
僕には吸血鬼の気持ちが、わかるようになっていた。
――喉乾いているんだろうなあ――って、思っちゃうと。
真夜中でも服を着替えて、半ズボンの下、紺のハイソックスをひざ小僧の真下まで引っ張り上げていた。
さいしょは不気味なだけだった、僕の血をゴクゴクと飲み耽る、喉の鳴る音も。
――美味しそうに飲むんだなあ――って、思っちゃった。
もっと飲みなよ――って。
片方の首すじを噛んだ牙のまえ、無傷なほうの首すじまで差し伸べていった。

母さんを襲わせたのも、躊躇なしにだった。
勉強部屋に引き入れた小父さんが、僕の血でゴクゴクと喉を鳴らすのを聞きとがめて。
リョウイチ・・・?
紅茶を入れたお盆を提げて、唐突に顔を出した母さんは、つぎの瞬間お盆を取り落し、ギャーって叫んでいた。
小父さんは母さんにおどりかかっていって、初めて僕を襲ったときみたいに性急に、母さんの首っ玉にかじりついていた。
じゅぶうっ。
見慣れた母さんの、着古した薄いピンクのブラウスに、赤黒いシミが不規則にほとぶのを。
ぶっ倒れた大根足にかじりつく、赤黒い唇の下。
母さんの履いている肌色のストッキングが、ブチブチと鈍い音をたてて裂け目を拡げてゆくのを。
僕はただ、面白そうに眺めているだけだった。
そしてその晩、初めて知った――
処女の生き血は、ただ吸い取るだけだけど。
セックスを経験した女の血を吸い取るときは、男と女になっちゃうんだって。
母さんは生き血だけじゃなくって、身体も美味しいんだなあ――って。
しつけに厳しい母さんをいちころにしてしまった小父さんのお手並みに感心しながら、
僕は無意識にオナニーに耽っていった。

妹が襲われたときは、もっと痛快だった。
神経質そうな白い顔を、さいしょは真っ赤にして逃げ回って。
さいごはもともと白い頬を、もっと蒼白にこわばらせて。
きゃあきゃあわめきながら、噛まれていった。
見慣れた真っ白なセーラー服に、バラ色のしたたりが無神経に拡げられてゆくのを。
うつ伏せになったふくらはぎにかじりつく赤黒い唇が、真っ白なハイソックスを舐めくりまわして、よだれまみれにしてゆくのを。
首すじに這わせた唇が、くいっくいっ・・・って、規則正しい音を立てて、妹の生き血を吸い取ってゆくのを。
僕はただ、興味津々に見入っていた。
セックスを経験した女のことは、だれかれかまわず犯しちゃうんだけど。
処女の生き血は舌を転がして味わい尽くしていくんだって。
やっぱり処女の血って、美味しいんだなあ――って。
小父さん、今夜は処女にあたってよかったねえ――って。
しんそこ小父さんに共感してしまっていた。
あのプライドの塊みたいな妹が、自分の着ている真っ白のセーラー服を、惜しげもなくバラ色のしたたりで浸してしまうのを、息をつめて見守って。
潔癖症な妹をいちころにしてしまった小父さんのお手並みに、心から感心しながら・・・
僕は無意識にオナニーに耽っていた。

妹の心に火が点るのは、すぐだった。
お兄ちゃん、小父さんのいるとこ知ってるんでしょ?逢わせて・・・
手を合わせて懇願する妹が、かわいくって。
今夜も濃紺のハイソックスを履いた脚の歩みに、真っ白なハイソックスの歩みを添わせてゆく。
真夜中のデートは、ムードもまたたっぷりだった。
リョウイチ、今夜だったら母さんかまわないのよ。父さんも今夜は遅いし――
勉強部屋に忍び込んできてそんなふうに囁く母さんを、家から連れ出して。
その夜も濃紺のハイソックスを履いた大またの足取りに、真新しいストッキングを穿いたパンプスの歩みが負けじと追いついてきた。
真夜中の情事は、息子の僕が見ていても、ドキドキするものだった。

そう。吸血鬼の小父さんと一心同体になった僕は、小父さんがいつ飢えているのか、すぐに感知することができるのだった。
小父さん、喉乾いただろうな。今夜狙っているのは、処女の生き血かな。それともエッチもしがたっているのかな・・・
あしたはテストなんだよーって渋る妹をなだめすかして、ピンクや空色のハイソックスを脚に通させて。
背中を押すようにして連れ出してやったり。
父さん今夜はお夕食要るんだけど・・・って戸惑う母さんを、じゃあいつもより急ごうよってせかして、黒や紺のストッキングを脚に通させて。
背中を押すようにして、小父さんのベッドに突き落としてみたり。
そんなことがいつか、日常になっていた。

母さんや妹を紹介した僕に、小父さんはご褒美をくれると言い出したのは。
それから半年もしたころだった。

そろそろお前も、血を吸える年ごろだろう――?
体内に残された血液よりも、、小父さんからそそぎ込まれた毒液のほうが上回ったころ。
小父さんは、そんないけない呟きを、僕に洩らしていった。
そうだね。今夜喉が渇いて仕方ないんだ。
僕もそんなふうに、呟き返していた。

いつも小父さんが勝ち獲ている、高価なネグリジェをまとった肉づき豊かなご婦人を、
今夜はあんたが噛むといい。
小父さんは気前よく、自分の獲物を譲ってくれていた。
それが自分の母さんでも、僕はもう躊躇していなかった。
身内の生き血は、舌によくなじむのさ。
小父さんのいけない呟きは、明らかに身に覚えのある口ぶりだった――
そう。
処女の生き血は、吸い取って味わい尽くすだけだけど。
セックス経験のある女の血を吸うときは、男と女になっちゃうんだって。
僕は今さらのように、思い出していた――

やっぱり処女のまま卒業は、よろしくないよな。
自分で犯すのかと思ったら、小父さんはニヤニヤと笑いながら、かぶりを振った。
わしは処女を犯すことはできないんだ。
どうやら妹の部活の後輩をなん人かモノにして、処女の生き血のほうはスペアができたらしかった。
どうすればいいんだい?
空とぼける僕に、小父さんはご褒美をくれるといった。
処女を抱けるときいて、ドキドキしない男の子はいないだろう。
惜しいかな、相手は新鮮味もない自分の妹で、おまけに血を吸われて両目が寄っていたけれど。
初めて耽るセックスというやつに、やたら昂奮してしまって。
見慣れた普段使いのデニムのスカートをよけいせり上げながら、禁じられているはずの太ももの奥を、力まかせにこじ開けていった。
ぐったりと力の抜けた両脚が、まだ白のハイソックスを履いたまま、小父さんの逞しい腰を差し入れられていって――僕だけの女ではいられなくなってすぐに寝取られてしまうのを。
僕はやっぱりドキドキとして、見守っていた。
小父さん、もう一回できちゃいそう。
小声で囁く僕のことを、小父さんはやめさせようとはしなかった。


吸血鬼ふたりに、妻も娘も犯されてしまった、気の毒な男――
小父さんは父さんのことを、そう呼んでいた。
昼間正体をあらわにしないときには、気の合う仕事仲間だった。
けれども父さんは、どこまでも穏やかだった。
夜中正体をあらわにしてしまった小父さんに対しても、気の合う親友でいつづけていた。
小父さんは父さんにも、ご褒美をあげたと言っていた。
そのころからだった。
妹の部屋から、父さんの声がするようになったのは。
父と娘をかけ合わせたんだ。われながら、うまいことするだろう?
得意げにそうつぶやいた小父さんは、漆黒のシルクハットを手に会釈をすると、霧の彼方へと消えていった。
今度会うときには、お互い美女をなん人モノにしているかなあ・・・って。いけないささやきを忘れずに。

僕とのセックスを、愉しんだ後。
妹は制服のプリーツスカートについたシミを、ちょっぴりだけ気にかけながら。
お兄ちゃん、今夜は母さん抱けるよ。あたしそのあいだ、父さんのことお部屋にくぎ付けにしといたげるから。
僕の腕のなか、妹は生意気に、ふふっと笑った。

結婚式場の控えの間

2015年07月16日(Thu) 07:30:29

ここは、某結婚式場の控えの間。
クリーム色の壁や淡いピンクのじゅうたんは、ほかのフロアと共通のもので、結婚式場らしい華やぎを醸し出してはいるものの、
およそ十畳ばかりの狭い部屋のなかは、テーブルひとつにいすがふたつしつらえてあるだけの、簡素というよりはむしろ殺風景なたたずまい。
そこには一対の男女が、にらみ合うような面相で向き合っていた。
ふたりが夫婦でないのは、間に流れる他人行儀な雰囲気でそれと知れる。
女は真っ赤なスーツに黒のブラウス、足許を染める薄手の黒のストッキングが、肉づきのよいふくらはぎを蒼白く透き通らせていた。
男は漆黒の――時代がかった黒マントまで羽織っている。マントの裏地は、真紅――男が欲する生き血の色だった。

女は妍のある上目づかいで、男を睨み、そして言った。
咬むなら早くしてくださる?主人、私があなたに咬まれていること、まだ知らないんですのよ。
男はククク・・・と、獣じみた嗤いを洩らしただけだった。
けれどもこの化け物にも人間の言葉が通じるのは確かなようで、くぐもるような低くスローモーな声色で、こう言った。
いつも、すまんねぇ。あんたには、迷惑をかける。これでもうひと晩、長生きができるというものだ。
女は毒づいた。
いけすかない。長生きなんかしてもらいたくもない。あんたが長生きしたって、そのぶんこううして迷惑をこうむる女が増えるだけなのよ。
そう言いながらも女は、テーブルの上にお尻を乗せ、片方のいすをハイヒールの脚で自堕落に踏まえていった。
咬むんだったら、早くなさい。あの子のカクテルドレス見たいんだから。
まったくだ――男はほくそ笑んで、女のひざ小僧を抑えると、差しのべられたふくらはぎにかがみ込んでゆく。
ちゅっ。
唾液のはぜるなまなましい音が、狭い空間のなか卑猥に洩れた。
圧しつけられた唇の下。
墨色のストッキングにひとすじ、細い裂け目が白く、ツツーッと伸びた。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
女の脚に咬みついた男は、喉を鳴らして血を吸い取ってゆく。
ストッキングの裂け目はじわじわと拡がって、女の脛の白さを露呈させた。
ったく・・・っ。もう・・・っ。
女は忌々しそうに歯噛みをしながら、自分の足許に加えられる恥辱に憤ってみせた。
ひとしきり血を吸うと、男は女の血潮に濡れた唇をもういちど甘えるように、女の脚に擦りつけた。
緊張の緩んだ薄手のナイロン生地が、男の唇の動きに合わせて、ふしだらなしわを寄せた。
破いただけじゃ、気が済まないのね?お行儀悪い。
男が濡れた唇をぬぐったのを見抜いて、すかさず女が悪態をつく。
男は澄ました顔をして、もう片方の脚も頂戴しようか?と、ニヤニヤしながら応じた。

じゅうたんの上は、凌辱の場になった。
新調のスーツを汚すまいと、女は四つん這いになって丈の短いタイトスカートをたくし上げられていった。
ストッキングをひざの下までずり降ろされて、むき出しになった太ももが眩しい。
女のうら若い生気をめでるように、男は女の首すじを吸い、ブラウスに血潮をしたたらせながら、血を啜った。
マントの合間から覗く青白い腰は意外に逞しい筋肉を持っていて、怒張した一物をスカートの奥に忍び込ませると、何度も何度も吶喊をくり返し、礼装の裏地に汚液を吐き散らしてゆく。
そのいくばくかが点々と、ピンクのじゅうたんにシミをつくった。

出てってちょうだい。着替えるんだから。
女はぷんぷん怒って、男を追い出した。
満足しきった男は口許を拭いながら、出がけに鄭重なお辞儀を忘れなかった。
女はそれをわざと無視して、身づくろいにかかった。
破れたストッキングを脱ぐと、しつように咬まれた脚をハンカチで拭い、首周りもおなじようにたんねんに拭った。
拭ったハンカチは丁寧に折りたたんで胸ポケットに差し、傍らの姿見に向かい合って、セットした髪が乱れていないかたんねんに点検した。
ひととおり満足するのに、かなりの時間を費やした。
新郎新婦の入場は、とうに終わったことだろう。
女がバッグを手に部屋をあとにすると、ひと呼吸おいて男がもう一度、部屋を覗き込んだ。
そして、部屋の灯りを消すと、小声で囁いた。

ご主人、もう出てきてもいいよ。
女房が襲われているところを覗きたいなんて、あんたいい趣味しているね。
その趣味に、わしはおおいに敬服するよ。
今夜は、ご夫婦で睦みあうがいい。
人妻を独りにしておくには、危ない夜だ。
披露宴の広間は夜中じゅう貸切で、招び出された女どもがわしの仲間の相手をする場になるでの。
もっともわしは、そちらのほうは遠慮するつもりだが。
代わりにあんたのお嬢さんを、いただくことになっているのでね。
きょうのカクテルドレスを取り寄せて、わしのためにわざわざお召くださるそうぢゃ。
お婿さんには、とうに話をつけてある。
お嬢さんは、正真正銘の処女だ。
前もって、生き血の味で確かめておる。
花嫁の処女喪失を覗きたければ、新床の部屋まで来るがいい。
留守ちゅう、新婦の母親が広間に出向いて、招待客の接待をするのを承知の上ならね。
それともご夫婦で、花嫁が一人前になるのを見届けるかね?
わしとしては、気の強い奥方が参戦されないことを希望するがね・・・

運動部員が狙われる理由。

2015年07月08日(Wed) 08:05:13

学園に侵入した吸血鬼たちのなかでは。
運動部員は、花形だった。
理由はふたつあった。
ひとつには、
筋肉は固くて咬み心地はよくないが、鍛えた血は美味しいこと。
もうひとつには、
運動部員はたいがい女子生徒にもてるので、仲良くなれば彼女を紹介してもらえる確率が高いこと――

アキヤは、しまった、と思った。
三回咬まれてなじみになったのは、父親よりも年配の吸血鬼。
以前は作業員だったのか、いつも薄汚い作業衣姿。
名前を教えてくれないので、いつも「おっさん」で通している。
けれども鍛えられた筋肉はアキヤのそれよりも強力で。
ねじ伏せられるたび、むしょうに羨ましくなっていた。
部室に仲間を引きいれたマネージャーの陽太を笑えない、と思った。
逆に笑われちゃうかも・・・と思ったのは。
実際に、同級生の真奈美を「おっさん」に紹介させてしまったこと。

咬まれたんだね。
まっすぐな瞳を向ける真奈美の声が、澄んでいて。
つい、口走ってしまっていた。
オレと同じ吸血鬼に、いっしょに咬まれないか・・・?
信じがたいことに、真奈美は瞳の色も変えないで、うん、と、素直にこっくりと肯いていた。

しまったなあ・・・
彼女が咬まれるシーンって、ドキドキするんだぜ?
チームメイトのテルオがいつだか囁いたけれど。
じっさいに、ドキドキしてしまった自分が、ここにいる。
けれども「しまった」と思ったのは。
彼女とはもう、深い関係になってしまっている事実。
セックス経験のある女子は、残らず吸血鬼とエッチされてしまう・・・という。
だとすると。
彼女も姦(や)られちまうのか・・・
そこまでは、既定路線として受け止めるつもりでいた。
でもしかし。
オレ、セーラー服の真奈美とエッチしたこと、まだないんだよな・・・・・・
指をくわえて見守るアキヤの目のまえで。
アキヤを力でねじ伏せたあの逞しい猿臂が、華奢なセーラー服姿を抱きすくめていって、
紺のハイソックスの脚を開いてしまった彼女のひざを割り、
濃紺のスカートをもみくちゃにしながら、剥きだされた浅黒い腰を、深々と上下させてゆく――

腹黒なマネージャー

2015年07月08日(Wed) 07:49:45

男子が脚を咬まれるときってさ。
ハイソックスの上から咬まれる率が女子よりずっと高いんだってさ。

部室で物知り顔に言うのは、二年生部員のテルオだった。
半ズボンの下からにょっきり伸びたふくらはぎは、ごつごつとした筋肉質。

毛脛の脚が嫌いなんだろ~?

ユニフォームに着替えはじめていたアキヤが、手を止めて応じた。

そうらしいね。女子だと柔らかいふくらはぎを、じかにねちょねちょ・・・って。

いつも陽気なトモカズが、さらに話題を上乗せする。

だれもまだ、ハイソックス破られてないよな・・・?

さいしょに話題を振ったテルオが、用心深げに一堂を見回した。
どうやらこの部室は、”汚染”されていないらしい。
だれもがそういう心証を抱いた。
吸血鬼の侵入が、いよいよこの学園でも始まっている。
昨日だけでも、女子生徒が3人、男子生徒が2人、貧血で学校を欠席している。

いちど中に入れちまうと、いつでも出入りできるようになるらしいぜ、あいつら。家でも部室でも。

アキヤもいつになく小心そうに、あたりをきょろきょろ見回した。

甘いね。

部室の一番隅っこから、声がした。
さっきから一向に着替えようとしない濃紺の制服姿は、彼がマネージャーであることを意味していた。
二年生の陽太だった。

ほら。

これ見よがしに指先を半ズボンの下のハイソックスの口ゴムにすべらせて。
ハイソックスに皺を寄せてぐにゅっとずらすと、そのまますーっと下にずり降ろしてゆく。
真っ白なふくらはぎにふたつ、赤黒い斑点――明らかに、咬まれた痕だった。

女みたいに柔らかい脚・・・だってさ。
もう遅いよ。ぼくが中に入っちゃったから・・・みんな入り込んでくるからさ。

低い声色を合図にしたように、施錠されていたはずの部室のドアが開け放たれて、
そこには明らかに尋常ではない顔色の男たち――だれもが見慣れない年輩者だった。

このひとたち、きのうこの街に着いたばかりでさ。まだだれの血も吸っていないんだって。
よかったらちょっとだけ、愉しませてあげないか?

立ちすくんだ一同は、だれもがあきらめ顔になっていた。

オレ・・・お袋がもう咬まれてるんです。

迫ってきた吸血鬼に敬語になっているのは、いつも明るいトモカズだった。

い・・・いやらしいですよ・・・これって・・・っ

早くもハイソックスのふくらはぎを咬まれてしまったテルオが、思い切り顔をしかめる。

どうせなら、初体験はユニフォーム姿のほうがいいかな。

自分を納得させるように呟くアキヤは、短パンの下に履いた真っ赤なストッキングを思い切り引き伸ばした。
白のラインがきっちり見えるように丁寧に直す手の下に、飢えた牙が迫っていた。

ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
ごくん。

薄暗い部室のなか。
若い血潮を吸い上げるまがまがしい音が、陰々とくぐもった。
チームメイトが次々と血を吸い取られてゆくのを見回しながら。
陽太はさいごに入室してきた吸血鬼を見返って、面白そうに笑った。

お礼にボクの血を、ぜんぶ吸い尽してもらえないかな?
ボク、むしょうにきみたちの仲間になりたくなったんだ。

行ってまいりますね。

2015年07月06日(Mon) 07:54:44

この街に転入してきて、初めての週末。
「行ってまいりますわね」
黒一色のスーツに身を包んだ妻は、わたしにそう声をかけてきた。
その日妻は、ご近所の法事の手伝いに、招ばれていた。
玄関を後にする後ろ姿――黒のストッキングに透けるふくらはぎを、わたしは惜しげに見送った。
ムザムザと、村の衆の淫らな指で弄ばれて、辱められるとわかっている華奢な身体は、あっという間に曲がり角に消えた。
わたしもいそいそと、身支度を始めていた。妻のあとを追うために。

この街に赴任してきた夫たちは、こうして無条件に、妻の貞操を譲り渡す。
それがこの土地のものとして生きていくための、通過儀礼。
法事の手伝いに招(よ)ばれたと告げた彼女に真実を告げず、そのまま行かせたわたしは、明らかに共犯だった。

落花狼藉の有様だった。
招ばれた女たちは、軽く20人を超えていた。
ほとんどが経験済みの女たち――初体験だったのは、妻ともうひとり、わたしと同時に赴任してきた若い社員の奥さんだった。
漆黒のブラウスをはぎ取られた胸に。
薄黒のストッキングを引き裂かれた脛に。
無数の唇が押し当てられていった。
スカートの裏側には、まがまがしい濁った粘液が、なん人分も織り交ざって、礼装を穢していた――


「行ってまいりますわね」
結婚前でさえ身に着けなかったほどの、丈の短いスカートから
網タイツの脚をにょっきりと覗かせた妻は、きょうもにこやかにわたしのことをふり返る。
「ああ、行ってらっしゃい」
わたしもまた、あっけらかんと妻に応えている。
これから輪姦の渦の待ち受ける場所は、あのお寺の本堂か。それとも納屋か。
草むらに引きずり込まれ、陽の光を浴びながら裸体をさらすことだってある。
きょうは妻はどんなふうにして、夫であるわたしを裏切るのだろう?
ゾクゾクっと総身を走る愉悦を、苦笑いで封じながら。
ムザムザと汚される装いを目に焼き付けると、わたしはいつものように、いそいそと身支度を整えていった。

【業務連絡】残念なお報せ

2015年07月06日(Mon) 07:35:51

弊サイトのリンク先でもある「SMショート・ストーリー」さまが、活動を休止されました。
詳細はコチラ↓
http://smshort.h.fc2.com/smmain.html

SM画像と自作小説のコラボというユニークな企画を七年間続けてこられ、弊サイトとタイ・アップをしたオリジナルストーリーを掲載頂いたこともあるのです。
昭和のエロスが濃厚に漂う世界・・・いつか復活される日を祈りながら、いまはただ
「残念~!!(><)」
と、心から惜しんでおります。

リンクは引き続き残しておきますので、陰ながらの応援をどうぞよろしくお願いいたします。

妻に血を吸われる。

2015年07月06日(Mon) 07:23:51

妻が吸血鬼に襲われて、血を吸われた。
吸血鬼と人間とが友好性裡に共存するこの街では、日常的な出来事だった。
都会育ちで都会の会社に勤め、一か月前この街に初めて赴任してきたわたしたちにとって、もちろんそうではなかったとしても。

「あなたの血が吸いたい」
ある休日の夜、面と向かってそう言われるまで、わたしは彼女の変化に気づいていなかった。
妻はいつものハッキリとした口調で、顔色もかえずにそういったのだ。
一瞬で、なにが起きたのかを悟った。
わたしは無条件に、彼女のために自分の首すじを差し出していた。

つねるような感覚がむず痒く、うなじの一角を冒した。
ゴクゴクと喉を鳴らして、妻はわたしの血を飲み耽った。
渇いたものが欲しいだけむしり取るような、容赦のないやり方だった。
ひとしきり血を飲んだ彼女がわたしを放したとき、ひどい眩暈に襲われた。
彼女は自己嫌悪のこもった昏い瞳で、わたしを見ていた。
「私の中に獣がいる」
彼女はそう、口走った。
――離婚してくださらない?とまで、妻はいった。
だいじょうぶだよ。わたしはやっと応えた。
本社の溝田さんだって、あんなふうに言ってたじゃないか。夫婦の長い時間のなかで、それはたししたことじゃない。
――だから、離婚だけは思い止ってほしい。
彼女の身になにが起きたのか、ほぼ正確に気づいたわたしは、彼女の罪悪感を消そうと躍起になった。

溝田は人事課に勤める、数年上の先輩だった。
わたしの前々任としてこの街に赴任した経験を持っていた。
――仕事なんか、やらなくっていい。そもそも、やるに値するような仕事はあの街にはない。
溝田はあけすけに、そういった。
――あの街は、創立者のふるさとだ。あの営業所は、きみやぼくのようなもののために彼が作った、楽園のようなところなのだ。きみは家族ともども、餌になれ。ひたすら、餌としてあそこにいる連中のために奉仕しろ。なに、想像するよりもずっと、ましな世界だ。あいつらには情がある。ぼくも女房を喰われちまったが、女房のやつはいまでも仲良く、あいつらとつき合っているし、ぼくもそれを認めているし、たまにはいっしょについていったりしているくらいなんだぜ。
溝田の言葉は悪魔のもたらした毒液のようにわたしの鼓膜を侵し、世間なみの理性を痺れさせていった・・・

いったいいつからなんだ?
妻の浮気が発覚した夫のように、わたしは訊いた。
「こっちに来て一週間経った頃からよ」
彼女はもう、悪びれてはいなかった。
なん回咬まれたんだ?
「週に2,3回」
聞かれたことに対する答だけが、簡潔にかえってきた。
相手はどんなやつなんだ?
もっとも怖れた問いにも、彼女は平然としていた。
「しかるべき人」とだけ、彼女はこたえた。

そのしかるべき人というのに、逢ってもらいたい。
彼女のほうからの申し出だった。
向こうがぼくに、逢いたがっているの?
「あのひと、男の血は吸わないわよ」
突き放すような口調だった。
「あのひとに私の血をたっぷり召しあがってもらうために、わたしがあなたの血を吸うの」
イタズラを仕掛けてくるときの、意地悪そうな上機嫌。
妻の黒い瞳が、嬉しげに輝いていた。

あなただったんですね・・・?
迎え入れた自宅の客まで、わたしはほとんどぼう然としていた。
相手は赴任の初日にあいさつに出向いた、街はずれの洋館に棲む男だった。
村長の親友で、街では指折りの旧家の当主だという彼は、日本人離れした秀でた目鼻立ちと、蒼白い皮膚とを持っていた。
いつになく赤みを帯びた彼の皮膚。その裏側には妻の身体から吸い取った血がめぐっているというのか・・・
まがまがしい想像に、嫉妬とともにえも言われぬ昂ぶりを感じた。
妻とこの男とは、わたしの知らない時間を共有している・・・
私は男の生き血は好まない、とだけ、男はいった。
妻に言うとも、わたしに言うともいえない態度だった。
妻はさいしょのときにそうしたように、これ見よがしに牙をむき出して、わたしの首すじに咬みついた。
ゴクゴクゴク・・・
あのときと同じ、あからさまに喉を鳴らして、彼女はわたしの血をむさぼった。
わたしは痛痒い疼きと、自覚し始めた恍惚感に身をゆだねた。

口許に撥ねたわたしの血を、妻は行儀悪く指で拭い取り、その指を唇で吸った。
クチュッ・・・と、下品な響きを洩らして、妻は指先についたわたしの血を吸った。
「視ててくださいね。こんどは私ご奉仕する番だから」
妻はわたしのほうをふり返り、得意そうに白い歯をみせると。ツカツカと客人のほうへと歩みを進めた。
家のなかだというのに、彼女はハイヒールを穿いていた。
真新しいハイヒールはピカピカと黒光りをしていて、肌色のストッキングに包まれたふくらはぎを硬質な耀きで補強している。
ひざから上を覆い隠す花柄のワンピースのすそが、落ち着いた足取りに合わせて静かにそよいだ。
失血で身動きのできないわたしは、客間の冷たい床のうえに転がされたまま、なりゆきを見守るしかなかった。

拡げられた猿臂をまえに、妻はまっすぐに飛び込んでいった。
彼女が身に纏う花柄のワンピースは、去年の結婚記念日にプレゼントしたものだった。
それと知っていて彼女はあの服を選んだのか――なにを訊いても、気の向いたこと以外は軽い含み笑いで受け流してしまう彼女は、いっこうに真相を語ろうとはしない。
猿臂に抱きすくめられた華奢な身体に、男の纏う黒衣が覆いかぶさった。
アップにした髪の生え際に、男は牙をむいて喰いついた。
チクリ、と、音がしたような錯覚を覚えた。
男はそのまま、妻の首すじにあてた牙を、根元まで埋め込んでいた。
赤黒いほとびがぼとぼとと、花柄のワンピースに不規則な水玉もようを拡げていった。

溝田の声が、いまでも耳の奥に響いている。
処女の生き血は貴重とみえて、すぐにどうこうということはないんだけれど。
あの土地の人間が女性をつかまえて血を吸うときにはね。
既婚の女性はたいがい、セックスまでされちゃうことになるんだ。
きみのところも例外じゃないし、ぼくのときだって例外じゃなかった。
だからといってそれ以上、彼らは夫婦の世界に立ち入ってこない。
連中は奥さんのことを、愉川夫人のまま関係しつづけたがるだろうから、きみはもの分かりのよいご主人にならなきゃいけないよ。
ああ、ぼくももちろん、そうしてきたつもりだ。
だからうちの女房が連れ出されるときにだって、ぼくまでお誘いがかかるんだからね。
溝田の言い草は呪縛のようにわたしを縛り、いつか昂ぶらせてさえいた。
行き先を持たない熱い粘液がわたしの股間から迸ってじゅうたんを汚すのを、妻は白い眼で視つづけていた。
引き裂かれたワンピースのすき間から、白い膚をチラチラと覗かせながら。
息荒く迫る男に愛を注がれるために、はずんだ息遣いで応じながら・・・

妻は若返った。
襲われるたびにいままでの服を引き裂かれていって、
そのたびに妻の洋服タンスの中身は、吸血鬼にあてがわれた服に、入れ替わっていった。
だいじょうぶよ。
妻はなんの脈絡もなしに、呟いた。
彼好みの女になったところで、あなたの妻であることに変わりはないわ。
あのひと、人妻を征服するのが好きなの。だから私は、あなたの妻で居つづけるの。
でもそうすることは、あなたの好みに合せていることなんだって、わかってしまった。
あなたも――自分の奥さんが犯されるの、嬉しくて仕方ないんでしょう?

ねえ、今夜も出かけていい?
妻は瞳を輝かせ、わたしの顔を上目づかいで覗き込む。
あなたを裏切りたいの。愉川家の名誉に、たっぷりと泥を塗りたいの。
活き活きとした頬を輝かせ、白い歯をみせつづける彼女のまえに。
送り迎えしてやるよ。
昂ぶりを抑えた声色でわたしはそう告げて、妻は嬉しげによそ行きのワンピースをそよがせる。