淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
靴下を破らせる。
2015年10月26日(Mon) 07:52:12
きょうも吸血鬼に吸われるために、わたしたち夫婦は出かけてゆく。
さいしょに襲われるのは、わたし。
過去になん度もそうしてきたように、わたしは妻を守るため、力いっぱい闘い、首すじを咬まれてゆく。
そのあと妻は、わたしに操を立てるために、力いっぱい抗って、やはり首すじを咬まれてしまう。
やめて・・・よして・・・あなたあっ。
そんなうめき声で、わたしの心をかき乱しながら、
スカートの裾を割られ、ストッキングを引き裂かれて、
あらわにされた潔よい処に、赤黒くただれた淫らな肉を、埋め込まれてしまうのだった。
血を吸い取られて尻もちをついたわたしは、スラックスを引き上げられて。
やつのために脚に通すようになった、黒のストッキング地の長靴下に染まった脛を外気にさらし、
妻の穿いているストッキングよりも先に、咬み破らせてしまう。
傍らにいる妻の足許を彩るのは、黒のストッキング。
田舎住まいのやつらにとって、都会育ちの大人の女性が身に着けているストッキングは、憧憬の的らしい。
うひひ・・・うひひ・・・
そんな野卑な含み笑いもあらわに、やつはきちんと装われた妻の足許に、きょうも舌を迫らせてゆく。
きょうも黒のストッキングの脚を差し伸べて、やつに咬み破らせてやっている妻は。
こういうときには、優越感を感じるの。
そういって、はばからない。
わたしも――そういう妻の気持ちが、ほんの少しだけ、わかるようになってきた。
もちろん、ストッキングを破きたがるやつの気持ちも、かなりのていど、わかるようになってきた。
お世話さま。
2015年10月26日(Mon) 07:44:37
お疲れさん。
別れぎわ、吸血鬼はいつもそんなふうに、声をかけてくる。
お世話さま。
わたしのほうも、いつもそんなふうに、礼儀正しくお辞儀を返す。
ばかじゃないの。
妻はそんなわたしを肘でつついて、けんつくを食らわせる。
だって、あたしたちのほうが、お世話してるのよ。もっといばってかまわないんだから。
妻の言い分も、もっともではある。
さっきまでふたりして、わたしのまえで息をはずませ合っていたくせに。
こういうときにはどうにも、吸血鬼につれないそぶりをしてみせる。
傍らで笑っている吸血鬼は、わたしたち夫婦の身体から吸い取った血潮を、まだ口もとからしたたらせているのだが。
そんなことはまったく、おかまいないらしかった。
血を吸い取られても、生命までは奪られない。
そういう確証があるからなのだろうし、吸血鬼のIを得ているという確信も、妻を支えているに違いない。
そう――人妻が吸血鬼に血を吸われると、そのまま犯されてしまうのが、当地でのお約束。。
さいしょに襲われたのは、この村に着いて数日後のこと。
まだ引っ越しのあと始末もつかないようなときにかり出された、法事の手伝いのときだった。
読経の終わった本堂は、乱交の場となり果てていた。
慣れている奥さんたちは、それぞれなじみの吸血鬼のもとに走り、
夫たちは気をきかせて座をはずしたり、自分の妻が引きずり込まれた空き部屋をのぞき見したり・・・
もちろん、あいさつ抜きで挑みかかられたわたしたちに、そんなゆとりがあるわけはない。
わたしは妻を守ろうと必死で闘い、
けっきょくはねじ伏せられて、首を噛まれた。
妻は本能的に貞操の危機を感じ、やはり必死で抗って、
けっきょくはねじ伏せられて、首を咬まれた。
わたしは身体の力が抜け切ったまま、ただ腑抜けのように、
妻がみすみす餌食にされてゆくのを、薄ぼんやりと見つめていた。
ちゅーちゅーと美味しそうに妻の生き血を吸い上げる吸血鬼を、恨めし気ににらむと。
やつは嬉し気にVサインを送り、意味深なウィンクをして・・・妻のスカートを、引き剥いでいった・・・
おおぜいの吸血鬼が、なん人も相手を変えて、都会育ちの人妻と交わるのをしり目にして。
やつは「この人がいればもういい」と言って、仲間からの度重なる交換の要請に応じようとしなかった。
それだけが――妻の身に恥辱を重ねさせたくないというわたしの要望と一致した。
家まで送る・・・というやつの申し出を拒む気力は、わたしたちには残されていない。
真昼間、半裸どうぜんに剥かれた喪服をまだ身にまといながら、
わたしたちは意思をなくしたように、とぼとぼと家路をたどる。
家にあげてはいけなかったのだと、あとで聞かされた。
当家として貴男の訪問を歓迎する――そんな意味にとられてしまうというのだ。
”歓迎”を受けた吸血鬼はふたたびその場で妻を抱き、犯していった。
わたしは、意味不明な昂ぶりを感じながら、もうやつの所業を妨げようとはしなかった。
それ以来。
やつの訪問は、ひきもきらなかった。
わたしは大声をあげ、なぐりつけ、ひざ蹴りを食らわせてやつを撃退しようとし、
やつはわたしのあらゆる攻撃に耐えて、最終的にわたしの首を咬むことに成功した。
咬まれてしまうと、あとはもう――麻酔のようなものだった。
その場でへたり込んだわたしのまえで、やつは観念して立ちすくむばかりの妻に迫って首すじを咬んで、
肌色のストッキングのうえから、ふくらはぎにも咬みついていった。
あとはお定まりの、ベッド・シーン・・・
なん度かそういう訪問をくり返し受けたとき。
やつは落花狼藉の最中に、妻の頭をつかんで囁いた。わたしにも聞こえるように――
どうぢゃ、エエぢゃろ?エエぢゃろ?お前の亭主よりもずっとエエぢゃろ?
いっそ亭主と別れて、わしの嫁にならんか?
それは反則だろう――声をあげたかったが、力がなくなっていた。
「エエぢゃろ?」と言われるたびに、妻は無言でうなずき続けていた。
妻はあえぎながら、応えた――
「あなたのものになります。でも――
セックスはいいけれど、主人と別れるつもりはありません」
そうか・・・
やつはしんそこ、落胆したようだった。
わかった・・・
妻の胸の谷間に顔を埋めたのは、涙を見せないためだった――と。
皮膚に沁み込んだ潤いを感じた妻が、あとでそっとわたしに告げてくれた。
話はすぐに、まとまった。
出かけるのが恥ずかしかったら、来てもらえばいい。
そういうわたしに、小声でそうしますとだけ呟いた妻は。
やがて大胆にも、「私出かけますから。誘われましたから」と、まえの晩に告げるようになった。
妻はわたしの出勤と前後して家を出、やつのところに入り浸る。
スーツに着替えた妻に、「ゆっくりしていらっしゃい」そんなことまで言える余裕が身に着いた。
きっと、やつとの境界線が、きちんと定まったからなのだろう。
視ないで・・・視ないで・・・そう訴えつづけていた妻は。
「あなたのものになります」と誓ってからは、言葉を変えた。
ねぇあなた、視て・・・視て・・・と。
けれども気強い性格は、やつの奴隷に堕ちてからも、変わることはなかった。
「お世話にしてるの、私――」
そう訴えて、やまないのだった。
吸血女装倶楽部。 ~早朝は公園に登校~
2015年10月21日(Wed) 07:32:50
お出かけするときは、軽くルージュだけを引く。
それでじゅうぶん、気分がひきたつし。
だいたい、品行方正な女子生徒というものは、そんなに厚化粧をするわけじゃない。
胸元のリボンをふんわりとさせて。
ミニスカートのすそを、ゆらゆら揺らして。
近くの公園まで、きょうも登校。
時計を見ると、午前五時。
季節柄・・・あたりはまだ、真っ暗。
どうしてこんな時間に、それも「公園に登校」するの?って?
だってわたしは、男の子だから。
公園には、わたしの血をほしがっている吸血鬼が待っているから――
いつものベンチに、お行儀よく腰をおろして。
プリーツスカートをわざとのように、拡げてみせる。
足許は、薄闇にも映える真っ白なハイソックス。
「制服は汚さない」
恩着せがましくそういいながら、ひとの首すじにかぶりつき、
血を撥ねかさないように入念に、ちゅるちゅる吸って。
ひとが薄ぼんやりとなってしまうと、お目当ての足許にやおらかがみ込んでくる。
そう――
やつのお目当ては、ひざ小僧の真下までぴっちりと引き伸ばされた白のハイソックス。
このハイソックスが真っ赤になるまで、吸っていいよ――
それは、わたしがやつの前で許されている、唯一の意思表示。
襲われて血を吸われているときだけ、わたしは本物の女学生になっている。
きょうもやつは、わたしの足許にかがみ込んで来て。
生臭い吐息を、しなやかなナイロン生地ごしに、お行儀悪く吹きかけてくる。
「どうしてそんなに、ハイソックスに執着するの」
ふふ・・・
やつはほくそ笑んで、わたしを見あげる。
「凛々しさと、若さ・・・かな」
そう呟いてふたたび、やつは自分の作業に没頭する。
わたしのハイソックスに。よだれをたっぷりとしみこませるという、いけない作業に。
やつの唾液に、じわじわと侵されながら。
わたしは独り、呟いている。
凛々しさ ね。
それなら、男子のわたしが履いたって、いいわけだ。
わたしを取り囲むブラウスが。ベストが。スカートが。
ふんわりと暖かに、わたしの身体を包み込む。
許された女装に、心がほっと和むとき。
わたしは脚を自分から差し伸べて、やつに言う。
このハイソックスが真っ赤になるまで、可愛がってね――
うわっ。(ブログ拍手)
2015年10月19日(Mon) 07:03:41
珍しく、9つも拍手を頂戴していました。
いずれも、少女や人妻を餌食にする女吸血鬼が題材です。^^
たぶん・・・私んとこのかなりコアな読者のかたの”仕業”です。^^
そうじゃないと、これだけ統一したテーマで、描いた時期もまちまちなモノばかり提示されることはないでしょうから。
これだけやっちゃってくれますと、拍手をもらったお話のあらましを紹介してみたくなります。
以前はよくやっていたんですけどね。
久しぶりに、やってみます。まあ、かんたんに ですが・・・
意外にね。
こういうのって、反応薄かったんですよ。前作のレビュー。
ですんで、いつの間にかめんどうになって、やめちゃったんです。 (笑)
血を吸う従姉 2
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-2793.html
2012年04月09日(Mon) 08:07:40
「1」が近くにあります。さがしてみてください。
吸血鬼になった親戚の娘を犯した男。
見返りに、娘の血を吸わせろと言われて、ついOKしてしまいます。
迎え入れた家庭には、後妻が君臨していて、
吸血少女が狙う従妹は、前妻の娘。
後妻はいやいや、吸血少女を迎え入れるのですが、
前妻の存在を極力消したがる立場からすると、じつは利害が一致している
ーー込み入った設定ですね。 (^^ゞ
女吸血鬼。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-2294.html
2010年12月13日(Mon) 07:08:34
このお話、たしか数分間で描いています。^^
内容は、視てのお愉しみです。^^
さいしょのシーンを描きたくて描いたの、いまでも憶えています。
三人めの看護婦
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-1820.html
2009年07月26日(Sun) 10:04:56
病院を舞台にした、吸血輪廻の物語です。
女吸血鬼も、もとは人間で、襲われて血を吸い取られた過去があるはず。
いまは自分が好んで喰らっている生き血を、自分自身がむしり取られていった記憶。
そんなものを描いてみたくなる時が、よくあるんです。
伝染・伝線。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-1534.html
2008年09月28日(Sun) 06:43:20
吸血行為が伝染病のように広がってゆく。
そんな状況を、ドキュメンタリー・タッチで描いてみました。(大げさです)
ヒロインたちの名前をフル・ネームで書いて、カッコ書きに年齢まで入れると、
それだけでもやけにリアルになるんです。
みちるの場合
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-522.html
2006年09月12日(Tue) 07:55:07
どうやって食いつなぐ? ~連作・四人の妖花たち
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-486.html
2006年09月03日(Sun) 05:56:36
夜通しかけて・・・ ~連作・四人の妖花たち~
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-485.html
2006年09月03日(Sun) 05:28:17
女ともだち♪ その2
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-481.html
2006年08月31日(Thu) 08:01:17
女ともだち♪
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-480.html
2006年08月31日(Thu) 07:51:26
これ、「四人の妖花たち」という連作ものです。
吸血鬼に襲われて、血を吸い取られて死んだ若いOLが、自分も吸血鬼になって生き返ります。
そして、自分の葬儀に弔問に来た親友の帰り道を襲います。
洋装の喪服姿を着崩れさせながら。
ひとり、またひとりと、吸血鬼の毒牙にかかっていきます。
血を吸われるごとに、吸血鬼の数は増えていって、
あるOLは、親友3人に牙を突き立てられていきます。
筆者のお気に入りは、「みちるの場合」です。
血を吸う側と吸われる側とが、愉し気にやり取りしているんです。
「でも、ダメよ。逃がしてあげない」
「こわーい・・・」
なんて、いいながら。^^
供血ノルマ 6
2015年10月18日(Sun) 07:55:21
村は、狩り場になっていた。
なんとかして、ヤツに血を吸わせてやらないと。
俺はけんめいに相手を選び、家に上がり込んでいっては、ヤツにチャンスを作ってやった。
チャンスは一度でよかった。
俺といっしょに上がり込んだ家には、ヤツはいつでも自由に出入りできるのだから。
たちまち、周りの家に住むもの全員が、やつの牙にかかっていった。
上は60代の老夫婦から、下は中学生の少女まで。
若い子にあたったときには、さすがに目を細めていたけれど。
年増女も、決して嫌いではないらしい。
そう、セックス経験のある女には、べつの愉しみかたがあるのだから。
男を積極的に襲うのも、きっとそいつの女房を手に入れたくてそうしているのだ。
邪魔者は味方につけてしまえば、あとでゆっくりヒロインを料理できてしまうのだから・・・
生き血を気に入られてしまうと、血を吸い尽されてしまう。
そうすると、いちどは棺おけに入る羽目になるのだが。
そうなった村のものも、吸血鬼になってだれかを襲い、一定量以上の血を吸うと、真人間に戻ってしまう。
ヤツだけは、身体の出来が、ほかの人間とは違うらしかった。
俺はいちど吸い尽されて。(死なない程度に)
自分の故郷を案内させられて。
さいしょに弔い騒ぎを起こしたのは、女房だった。
さすがに浮気相手をなん人も作るだけの女、吸血鬼のことも引き寄せてしまったらしい。
でも・・・そこまで女房の血を気に入られたことについては、俺も案外と、まんざらではなかった。
女というやつは、自分の好いた男には、なんでも与えたくなるものらしい。
ヤツが自分の母親を見初めたと察すると、女房は父親に話をつけて、
好色な親父を相手に父娘相姦に応じるのを条件に、
永年連れ添った妻が、ときどき娘の家で浮気をすることを認めさせていた。
見合いで結婚をした義母は、夫以外の男を識らなかったらしい。
「母にも、青春が必要なのよ」
女房は白い目で、そういった。
実の両親に対してさえそうなのだから、まして仲の良くない姑に対しては、なおさらだった。
ヤツがお袋のことを餌食にしたがるときには、女房は姑のことを、こともなげに呼び寄せてやった。
「お義母さまだって、お義父さまがもういらっしゃらないんだから、好きにしていいじゃないの」
女房は白い目で、いつもそういう。
傍らでは、かつてはしつけに厳しかったしまり屋のお袋が。
脱げかかった黒のストッキングにふしだらなしわを弛ませながら、
両脚をおっ拡げて、真昼間からひーひーあえいでいる。
きょうはきょうとて、俺の家はハレムのようになっている。
俺の下には、おさげ髪を掻きのけられた娘がいた。
女房は・・・あけ放たれたふすまの向こう、きのうお袋がそうしていたように、
ストッキングを片方ずり降ろされて、ひーひー呻いている。
やつが嬉し気に、呟いている。
きょうの達成率は、まだ50%。
でもわしは、それでもじゅうぶん、満足ぢゃ・・・
【追記:2017.6.6未明】
意外に反響があるので第一話のURLををリンクしておきます。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3189.html「5」から逆戻りにさかのぼるのも、めんどうですからね。
――自分の描いたお話を、「5」から逆戻りしてさかのぼらざるを得なかった管理人より――
供血ノルマ 5
2015年10月18日(Sun) 07:42:42
蒼ざめた顔をした女房が、俺のほうへと迫ってくる。
俺は陶然となって、首すじをくつろげる。
女房は俺の首のつけ根のあたりに食いついて。
ぎゅうぎゅうと強引に、血を吸い取っていった。
もういちど、俺の血を吸い尽してくれ。頼むから。
ヤツにせがんでみたら、そんなことは夫婦で解決しろといわれた。
そう、いちどは吸い尽されたはずの血が、俺の体内に戻ってくると。
俺自身は、血を吸いたいという欲望を忘れかけていた。
けれども・・・娘のうえに身体を重ねてしまった恥知らずな経験は。
いちど足抜けしかかった泥沼に、もういちどまみれてみたいという欲求を、俺の中に消し難く植えつけていたのだった。
墓から舞い戻った女房は、恨めし気に俺を見、ものも言わずに食いついてきた。
脳天が痺れるような歓びに、俺は身をゆだねていった。
こんどは俺が冷たくなって横たわり、
真人間に戻った女房が、悲し気な顔を繕って、弔問客を迎え入れる。
寺の住職は、赤黒い咬み痕を僧衣に隠すようにして。
やはり咬まれてしまった住職夫人に手伝わせて、通夜の段取りを進めていく。
この晩は、ずいぶんと人が集まった。といっても、夫婦が四組。
クフフ。こんどはなん100%かね?
やつは物陰から本堂のようすを見てほくそ笑む。
弔問客は、残らず咬まれていった。
ヤツと、嗜血癖を身に着けてしまった娘と女房に。
子供に咬まれながら、ひーひー呻いている女房に。
だんなを咬んでしまったヤツが襲いかかって、引導を渡す。
べつの夫婦には、住職夫婦が。
ほかの二組の夫婦は、あたかも自分の番を待ち受けるかのように本堂の片隅に立ちすくんで、
逃げるのも忘れて惨劇に見入っている。
やがてそのふた組も、夫婦それぞれ引き分けられて、咬まれていった。
あなた、起きなさい。
女房はひつぎのふたをあけて、俺を出してくれた。
喪服のスカートを脱いだ女房は、太ももを半ばあらわにしたスリップをひらひらさせて、
男のほうへとのしかかった。
相手は学校の先生だった。
先生の奥さんは、俺に懇願するような視線を向けた。
けれども俺は、喉が渇いていた。
とびかかって押し倒すと。
自分の妻の名を呼ぶ先生が、ヒッとひと声叫んで気絶した。
黒のストッキングに包まれた奥さんのふくらはぎは、ひどく柔らかだった。
セックス経験のある女には、もうひとつの愉しみがある。
失血で動けなくなった奥さんは、まだ肩で息をしていた。
のしかかって、スカートのなかに手を突っ込んで、股を開く。
太ももまでのストッキングは、脱がせる手間が省けた。
紫のショーツを足首まで引きずり下ろしてしまうと、
さすがの奥さんも、観念したようだった。
くくくく。だんなさん、悪りぃな。頂くぜ。
よだれをしたたらせてのしかかっていったとき。
女房が俺の鼓膜に、毒液を注ぎ込んだ。
ゆっくり愉しんでちょうだい。
みんなあたしの、浮気相手の奥さんたちなの・・・
供血ノルマ 4
2015年10月18日(Sun) 07:28:44
世帯数数十軒。
ほとんどが顔見知りという、この片田舎では。
ヤツのことは、すぐに広まるに違いなかった。
けれどもヤツにとって、そんなことはどうでもいいことだったらしい。
しゃれっ気のない村だな。どいつもこいつも、スカートなんかほとんど見かけない。
通りに面したガラス窓から道行く男女の品定めをしていたヤツは、どうもそんなことが、気になるらしい。
そうだな。
女たちがスカートを穿くのは、入学式や卒業式、女子の中高生、あとは葬式くらいのものだからね。
俺がそういうと、ヤツはムフフといやな笑いを泛べた。
それが狙いなのさ。
ひとの女房を吸い殺しておいて、ヤツの言いぐさはあんまりだった。
娘はショックで、きょうは学校を休んでいた。
密葬は家族だけで執り行う。
そんな村の風習が、ヤツに幸いしていた。
今夜の通夜に現れるのは。
血を吸われた住職と、俺と娘以外では。
近所に独りで暮らしている、うちのお袋。
それに、やはり近所で夫婦で暮らしている、女房の両親だけだった。
どちらも年寄りだぞ。
咎める俺に。
身近なところを固めないで、どうするんだ。きょうも最低2人だぞ。
ヤツは少しだけ、厳しい顔をした。
年寄りだと、2人でひとり分かな・・・
俺は俺で、わけのわからないそろばんを、薄ぼんやりとはじいていた。
その晩は、ちょっとした饗宴だった。
夕刻に姿を見せたお袋は。
やつの狙い通り、黒のワンピースに墨色のストッキングで足許を透きとおらせていた。
仏前に線香を供えるとき。
娘はなにか言いたげにしていたけれど。
さほど祖母になついていなかったのか、とうとうなにも言い出さなかった。
ヤツがお袋のまえに立ちふさがったのは、仏前からさがろうとするその時だった。
あァ~ッ!
いきなり首すじを咬まれたお袋は、その場で絶叫し、昏倒した。
嫁と仲の良くない姑は、嫁の仏前で喰われるのがスジだろう?
ヤツの言いぐさは、スジが通っていないようで、通っている。
そう感じる目の前で、お袋の穿いている黒のストッキングが、むざんに咬み剥がれていった。
ぐったりとなったお袋を、隣室に寝かしつけると。
入れ代わりに、女房の両親が現れた。
さいしょに義父が。それから義母が、相次いで血を吸われた。
朦朧となった義父のまえ。
義母は和装の喪服の帯をせわしげな指にゆだねて、装いをくつろげられていった。
そう、セックス経験のある女には、もうひとつの愉しみかたがあるのだった。
還暦を過ぎた義母の素肌は、意外につややかに輝いていた。
どういうことなんだね?
身づくろいする妻を俺とを見比べながら、義父は咎めるよりも怯えながら俺に訊いた。
ヤツは隣室に引き取っていた。
引き取っていたんじゃない。お袋と一戦交えている最中だった。
献血しなくちゃ、ならんのです。
どうして?という問いが、自分のなかで湧いた。
けれどもそれはもう、改めて問うまでもなく、俺のなかでは自明の義務だった。
一夜に最低二人。
やつのために、生き血を提供できる人間を連れてくる。
それが俺の務めなのだ。
もういちど、奥さんをごちそうになるよ。
羽交い絞めにされた義父はふたたび首すじを咬まれ、「ああああっ!」と叫ぶ。
血を抜かれてぐったりとなった義父のまえ。
義母は恨めし気に俺を睨み、すぐにあきらめたように、いちど着なおした喪服を、自らくつろげていった。
今夜は達成率150%。なかなかやるな。
お袋と義父母の帰った後。
ヤツはそう言いながら、娘の首すじまで咬んでいる。
これで200%。佳い夜ぢゃ。
娘さんは明日は学校だね?頬っぺが蒼くならないていどに、手加減しておくよ。
娘ははたして、ヤツの気遣いを受け入れるのだろうか。
畳には脱ぎ捨てられた黒のストッキングが一対、蛇のように横たわり、
その傍らには脱ぎ捨てられた白足袋が一足、金色のこはぜを光らせていた。
吸血ノルマ 3
2015年10月18日(Sun) 07:08:27
坊主を呼べ。いや、こちらから出向こう。
ヤツはそう言い捨てると、
顔色を鉛色にした女房と寝息を立てる娘とをそのままにして、
俺を寺まで案内させた。
寺のお内儀は50近かったが、美人だった・・・と、妙なことを思い浮かべながら、
真っ暗ななかのわずかな街灯を頼りに、俺は寺の門をほとほとと叩いていた。
寺のなかにある住職の家は、だだっ広く、寺と同じくらい古びていた。
首すじに血をしたたらせながら、目つきをとろんとさせた住職
急な弔いをするといわれても、さして表情を変えることなく。
ご愁傷さまでしたな、と、俺に言っただけだった。
奥さんと子供がいないようだが・・・と、ヤツは言った。
息子と娘がいるはずだな。
娘は熱を出して寝ている、とだけ、住職はいった。
息子と奥さんは?重ねて問われてーー
おなじ部屋で寝ている、と、住職はいった。
どういうことなのだ?訊きつのる俺に。
そういうことなのさ。と、やつはいった。あまりひとに恥をかかせるもんじゃない。とも。
若いの、この土地では見かけんお人ぢゃが。事情に詳しいのかの?
住職の問いに、血を吸い取ると、いろんなことに詳しくなるのさ、と、ヤツは応えた。
家族に手を出すのは、あとの愉しみに取っておく。
あしたは弔いを、よろしく頼むよ。
ヤツは楽し気にそういって、住職も面白そうに、頷いていた。
きょうは達成率100%。まずまずだな。
ヤツのうそぶきに、俺は本能的に安堵を覚えていた。
供血ノルマ 2
2015年10月18日(Sun) 07:00:08
なんとかしてあいつに、血を吸わせなければ。
それがいまや、俺の日常になっていた。
生まれ育った街並みは、都会に出稼ぎに出た日と変わりなく、寂れたたたずまいに沈んでいたが。
いまの俺にはもう、狩り場という別の場所に思えるのだった。
駅に着いたとたん、やつの姿はフッと掻き消えていた。
入れ代わりに、出迎えに来た女房が、いつも通りのむっつりとした表情で俺を車停めに促した。
久しぶり、という笑みも、元気だった?という気遣いも、とっくになくなった夫婦だった。
代わりにハンドルを握った俺は、いつもの道を帰りながら、ヤツとの最後のやり取りを反芻していた。
女房は認めてやる。でも娘は、かんべんしてくれ。
ヤツはほくそ笑みながら、呟きかえした。
いいだろう。娘はお前の分だ。
なに言うんだよ・・・と、さらに蒼ざめる俺に。
まあ、どのみちお前の好きになるさ。
ヤツは不吉な予言をくり返しただけだった。
家にあがったのは、まだ真っ昼間だった。
俺は女房を掻き抱こうとし、女房は不快げに、俺を払いのけようとした。
留守宅に男が上がり込んだ形跡を、女房の態度でかぎつけていた。
お愉しみのようだな。
ふとわき起こる声色に、夫婦ながらぎょっとして振り向くと。
いつの間にか背後に、ヤツがいた。カギはちゃんと締めたはずなのに。
それからは、お定まりの光景だった。
あァ~・・・
女房は声をあげて男を振り放そうとしたけれど。
すぐに首すじを、咬まれてしまっていた。
昏倒した女を、男ふたりで見下ろして。
ヤツは俺に、物騒な診断結果を告げていた。
さっきまで男と逢っていたな。
めったにスカートを穿かない女房が、珍しく薄茶のスーツ姿だった理由が、ようやくわかった。
わかっているよな?
好きにしろよ。
禅問答のあと、俺はリビングから出ていき、ヤツは女房のうえに覆いかぶさる。
セックス経験のある女には、べつの愉しみかたがあった。
きょうじゅうに最低、二人分の血液が要る。俺も長旅のあとで、喉をカラカラにしていたから、もっとかもしれなかった。
答えに行き着くのに、さほど時間はかからなかった。
ちょうど娘の、下校時間だった。
ただいまぁ・・・
ガタガタと玄関を開けるもの音が、ひどく呪わしく俺の耳に響いたーー
あっ!う、うーんっ!
首すじを咬まれた娘は、黄色のカーディガンの肩をほとび散らされた血に濡らしながら、
顔をしかめて歯を食いしばった。
立ちすくんだ足許にも、ヤツはかがみ込んでいって。
白のハイソックスのふくらはぎに唇を吸いつけると、
チュウチュウ音をたてて、娘の血を吸い取ってゆく。
大の字に倒れたときには、真っ白だったハイソックスは、赤黒い血のりにべっとりと濡れていた。
室内に立ち込める錆びたような芳香が、俺を狂わせた。
ヤツの約束破りを認めてしまうだけ・・・そうと知りながら。
昏倒した娘のうなじを吸おうとして、俺はおさげに結った髪の毛を、せわしげに掻きのけていた。
夕餉はいつもどおりだった。
酔いから覚めた女房はなにかに引きずられるようにして、ふらふらと台所に起って行って。
蒼ざめた顔色に感情の消えた表情のまま、トントンと包丁の音をたてていたし。
娘はむすっとして勉強部屋に引きこもり、いつもより少しだけ熱心に、予習復習に取り組んでいた。
夕餉が終わると。
女房は娘を連れて、ヤツの待つ夫婦の寝間にむかった。
無表情のまま娘の両肩に手を置いて。
それから片手で、娘のおとがいを引き上げた。
ヤツは当然のように、娘の喉笛に、食いついていった・・・
風呂上がりに着替えた空色のブラウスと、赤と白のチェック柄のスカートに、
赤黒い血潮がぼとぼとと、重たい音をたてて撥ねかった。
娘がたたみのうえに膝を折ってしまうと。
女房は娘を抱きかかえて、勉強部屋に敷いてあった布団に寝かしつけて。
ヤツを横目でにらむと、自分からブラウスの襟首をくつろげていく。
俺のことはもう、見えていないかのようだった。
そのまま首すじを咬まれて。
ひざを着いたところを、後ろに回られて、スカートの上からお尻を咬まれて。
さらにうつ伏せになったところを、肌色のストッキングを咬み破られながら、ふくらはぎを吸われていって。
片方脱がされたパンストをぶらぶら揺らしながら、大股に開いた脚をばたつかせながら、ひーひー呻いていた。
その晩ひと晩で、女房は生き血を吸い尽された。
供血ノルマ
2015年10月18日(Sun) 06:34:05
なんとかしてあいつに、血を吸わせなければ。
それはいまの俺にとっては、必須の課題になっていた。
さいしょの出会いは、仕事帰りの夜だった。
後ろからいきなり襲われてーー気がついたときにはもう、道路のうえに寝そべっていた。
しばらくのあいだは、気絶してさえいたらしい。
そのあいだにヤツは、俺の血をあらかた、吸い尽してしまっていた。
顔面が冷えているのが、自分でわかる。そして、寄り目になっているのも。
ヤツは俺のようすをひと目みて、そして言った。
ここで待ってろ。
しばらく経ってからあいつが捕まえてきたのは、スーツを着た若い女だった。
勤め帰りのOLらしい。女は怯えきっていたが、抵抗する意思は失っていた。
首すじからは、紅い糸のような血のりのあとがひとすじーー俺は夢中になって女にむしゃぶりついて、
さっき俺自身がそうされたように、うなじの咬み傷に唇をあて、血を吸い取っていった。
路上に大の字に寝そべった女のうえ。
俺は首すじを吸いつづけ、奴は足許にかがみ込んで、ストッキングをぶちぶちと破りながらふくらはぎに食いついていた。
足りないな?もう少し待ってろ。
なかなか戻ってこないヤツのことを待ちかねて、
俺は仰向けになって気絶したままの女に覆いかぶさって、ひたすら喉の渇きを紛らわせていた。
ばか野郎。死んじまうだろうが。
鋭い囁きが、頭上から降ってきた。
やつが引きずってきたのは、半死半生のサラリーマン。
男だろうがなんだろうが、かまわない。
いまの俺は、ひたすら喉が渇いていた。
3人めは、なんなく捕まえてしまったらしい。
今度は、制服姿の女子高生。
こんな夜遅くまで、ほっつき歩っているのがよくないのだ。
自業自得なんだよ。と、呟いたのは、俺だったのか。ヤツだったのか。
やつは、女の首すじに咬みついて。
俺は、立ちすくむ女の足許まで這いずっていって。
紺のハイソックスを脱がせる手間も惜しんで、ふくらはぎを咬んでいた。
3人もの人間の血が、俺の身体のなかで織り交ざり合いながら、喪われた体温を取り戻していった。
傍らには、呆けたように尻もちをついた三人の男女。
やつはそのひとりひとりのうえにかがみ込んでーー
とどめを刺すのか?と思ったが。どうやらそうではないらしい。
額に手を当てて、なにやら呪文めいたものを唱えている。
一人、またひとりと・・・意識が定かではないながら、かすかにうなずいているのが見えた。
このまま置き捨てにしておけばいい。
気がついたときには、記憶をなくしたまま起き上がって、勝手に来た道をもどるだろう。
お前は・・・
不覚にも喉が渇いていたので、吸い過ぎた。
血を吸う癖がついちまったようだから、俺から離れることはできないぞ。
それからは、毎晩のようだった。
俺は仕事帰りに同じ場所でヤツに待ち伏せされて・・・
それでも帰り道を変えようとは、しなかった。
なにしろ俺だって、喉が渇いていたから。
そしてなによりも・・・まだ独力では狩りはできないのだから。
そんな俺のために、ヤツは獲物を引きずってくれてきた。
獲物を捕まえる能力を高めるために、まず俺の首すじをガブリとやるのは欠かさなかったが。
たまにはお前も、だれか連れてこい。
それが難しいと思うなら、お前の家にだれかを連れてこい。
あとはおれが、勝手にする。
そういうヤツの囁きにほだされたようになって。
俺は仕事仲間を家に飲みに誘った。田舎から珍しい地酒が届いたと偽って。
さいしょは同年輩の男ふたり。
それから、酒好きの若い女が三人で。
どちらの獲物も、ヤツは旨そうに味わった。
女のときは、俺まで昂奮した。
次々に首すじを咬まれ昏倒した女を襲うのは、かんたんだった。
セックス経験のある女は、もっと愉しんでいいんだぞ。
やつは陰湿な嗤いを泛べると、俺は強くうなずいていて・・・
大股をおっ拡げて仰向けになった女たちの太ももの奥に、そそり立ったモノを挿し込んでいった。
男でもいいのか?俺が訊くと。
そのうちわかる。ヤツはうそぶいた。
三日経って、ヤツのねらいがわかった。
さいしょに獲物にしたふたりの男のうち所帯持ちのやつのほうが。
自分の妻を連れて、おずおずと俺の家にやってきたのだから。
セックス経験のある女が相手のときは。
俺にも愉しむ権利が認められた。
せめて武士の情けで見せつけるのはよしにしようと・・・俺はだんなのほうの血を、めいっぱい口に含んでいった。
吸い尽してしまうのでなければ。
ひと晩に2,3人は必要らしい。
もちろんほとんどは、自分で狩ってくるのだけれど。
俺の助力は不可欠だといわれた。
特に仕事のある日は、もっと仲間を誘って来いと言われた。
俺の家で気を失った連中は。
その晩のことはなにもかも忘れているようだったけれど。
ーーあいつの家に招ばれたやつは、つぎの日目が死んでいる。
そんなうわさがどこからともなく立って・・・
どのみち出稼ぎの季節が終わろうという時期だったのをしおに、俺は都会を引き払った。
やつがついて来るといったとき。
くすぐったい戦慄のようなものが脳裏を奔った。
ひと晩に三人も喰えるほど、人はおらんぞ。
にらみ返した俺を、やつはたったひと言で黙らせた。
ーーお前の女房に興味があるんだ。
家族が家族となった日。
2015年10月13日(Tue) 07:45:52
お義父様が、わたしに言い寄るんです。
改まった態度でわたしの前で正座をした妻は、尖った表情でそういった。
都会育ちの生真面目な妻に、やはりこの土地での生活は無理だったのか。
母を早くになくした父を気遣って、
「ごいっしょしましょうよ」
幸せいっぱいの婚約者は、頬を初々しく紅潮させてそういってくれたのだが。
あれから三か月ーー父は無理に押し隠していたこの土地の風習を本性を交えてあらわにしかけていた。
都会から近いようで遠いこの街では。
そういう関係は決して珍しいものではなく、妻も街の婦人会でしょっちゅう耳にしているはずだったが。
「じき慣れる」
いまは父の、そんな言葉を頼るしかなかった。
せめぎ合う息を、鎮めかけて。
わたしはようやく、解放された。
身にまとっているのは、妻のよそ行きのワンピース。
もうじき冬という季節に、季節外れの夏物は、辺りの冷気を遮りきれず、
寒々としたものを着衣のすき間から忍び込ませていたけれど。
子供のころから身をゆだねていた父の熱い抱擁のまえに、
そんなものはすぐさま、雲散霧消していた。
「孝枝さん、なかなか頑強だな。なかなか堕ちん」
そうひとりごちる父に、まあ仲良くやってくださいね、という息子。
「仲良くやる」は、「無難で円満な関係を保つ」という表向きの意味の裏に、べつの意味を含ませていた。
父ならそれが、わかるはず。
わしが孝枝と仲良くなれれば、人前に出せない母さんのことも、表に出してやることができるからの。
そう、死んだことになっている母は、もちろんぴんぴんしている。
若いころに血を吸い尽くされて、ふつうの身体ではなくなってしまったけれど・・・
わたしが妻の服を着て、父といかがわしい関係を結んでいる。
妻にわかるのは早かった。
予想よりも早く、妻が季節外れのクローゼットを開放したからだ。
その翌日から・・・
ないはずの視線が、ふすまのすき間から注がれていた。
わたしはその視線を意識しながらも、父の熱い唇を自分から、むさぼりつづけていた。
夜勤に出かける時だった。
妻は瞋恚(しんい)のまなざしをこめて、わたしに告げた。
今夜、お義父さまの夜這いを受けますから。
父の妻に対する夜這いは、わたしの帰宅でいつもきわどいところでせき止められていた。
初めての夜勤は、その均衡を突き崩そうとしている。
以前の妻なら、その晩一晩だけでも、実家に帰るといいかねないはずだった。
そういう都会の常識と潔癖さを、妻は備えているはずだった。
妻が身にまとっているのは、夏もののワンピース。
一週間前、妻の視線に気づかないふりをして、わたしが父の前で袖を通したもの。
あなたまで、お義父さまの手引きをなさるんですものね。
心底愛想が尽きた・・・そんな態度に一抹の不安を残しながら、わたしは玄関をあとにした。
表向きだけでも「健全な」我が家を目にするのは、これが最後なのだろう。
おかえりなさい。すぐお寝みになる?
一夜明けて出迎えてくれた妻は、いつもと変わらない態度だった。
夏物のワンピースは跡形もなく、普段着だった。
とうとう何事も起きなかったのか。そんなはずはない。
いつも家のなかではパンツルックのはずの妻は、珍しくスカートをつけている。
ああ、シャワーを浴びてすぐにね。
わたしがそういうと、妻はちょっと嬉し気に横顔で笑い、
すぐ着替えの支度をしますね、と、顔色を読まれまいとするかのように、そそくさとその場を起った。
夫婦の寝室に一人で入るとき。
妻は「ごゆっくり♪」といってくれた。
わたしはそんな妻を振り返って、
家のなかでも穿くようになったんだね、スカート。といった。
妻は気の毒なくらい、慌てていた。
やっぱりなるようになったのか。どす黒いものが、胸をよぎる。
けれども妻を責める資格は、わたしにはもちろんない。
最初のうちだけでも決め込んだ妻の素知らぬ顔つきが、妙になまめかしくよみがえった。
せめぎ合う吐息は、父とわたしだけのもの。
妻の身体に満足したふたりは、異種の歓びを求めて、ふたたび枕を交し合う。
昼間は父が。夕食後はわたしが。
代わる代わる、妻の肉体を愉しんでいる。
仲が良いのね。わたし、時間差でまわされているみたい。
妻は照れ隠しに、わたしにディープ・キッスを仕掛けてきた。
わたしはじゅうぶんにそれにこたえて、父さんのとどっちが大きい?なんて訊いてしまっている。
こたえのかわりにくり出された、甘えた平手打ちに満足をして。
わたしは夫婦のベッドを、再び父に譲っている。
いまは父と入れ替わりに、母がーー
息子の嫁を組み敷いて、首すじを咬んで・・・・・・生き血をむさぼっている。
こんなの、アリなの!?
妻は戸惑いながらも、異種の歓びに理性を蝕まれていった。
女ふたりを見つめながらも、ふたりきりにしてやろうといざなう父と、居間に向かった。
フローリングを濡らす粘液は、妻がきれいに拭き取ってくれることだろうから。
母さん、孝枝さんの血を吸い終えたら、お前の血を飲みたいそうだ。
久しぶりに、相手をしておやり。
親孝行がすんだら、母さんのことを好きにして良いから・・・
そういう父さんは、孝枝のことをまた抱いちゃうんだろ?
二対の夫婦入り乱れての夜は、まだまだ長そうだった。
あとがき
ちょっとおぞましいのが、二話続いてしまいました。(^^ゞ
この頃煮詰まっていたんだけど、ぜんぜん考えもしてなかったようなお話がスッと出てくるから不思議です。
息子が身代わりに。
2015年10月13日(Tue) 07:03:52
あんたンとこの息子さん、かわいいな。
血色もよさげだし、こんど貸してくンねぇか?
生き血を飲みたい。
顔なじみになった吉浦さんにそういわれたのは、
この街に赴任して三か月ほども経ったころ。
吸血鬼とひそかに共存しているこの街では。
だれもが吸血鬼に、噛まれてしまう。
だれもが吸血鬼に、家族まで紹介してしまう。
吉浦さんもまた、そういうご一家だった。
子供のころから家に出入りしている吸血鬼に、
妻子ともども献血を続けていて。
吉浦さんはいつも、蒼い顔をしていた。
たまにはいい顔いろになりたいんだよね。
ニッと笑う吉浦さんに、わたしは知らず知らず、頷いてしまっていた。
こんどの土曜に、敬太を連れて行くから。吉浦さんのとこ。
何気なくそういったわたしに、妻は異論を唱えなかった。
この地に赴任してしまえば。
自分だってだれかに血を吸われてしまうことを、彼女もよく心得ていたから。
そうでもしなければーーいまごろはもう、野垂れ死にか一家心中していたところだろう。
妻もわたしも、並外れた浪費家だったから。
ほほー、学校の制服、似合うようになったね。
息子を連れていくと吉浦さんは、ひどくゴキゲンになっていた。
濃紺のブレザーに半ズボン、ひざから下は今どき珍しい、白のハイソックス。
幼稚園か、小学校の低学年みたいだ。
そういって恥ずかしがって、登校するのをためらっていた敬太も。
いまではすっかり、そんな姿になれてしまったらしい。
服装は、人を変えていくものなのかもしれなかった。
じゃ、預かるからね。電話したら、迎えに来なさい。
ちょっと心配そうにわたしを見あげる敬太に、よく相手するんだよ、そう諭して、わたしは家を辞去していった。
電話がかかってきたのは、1時間後だった。
受話器の向こうの吉浦さんの声色は生き生きとはずんでいて、
わたしは妻と顔を見合わせて、敬太を迎えに行くのをさらに30分遅らせてやった。
迎えに行ったとき眠っていた敬太は、眼をしょぼしょぼとさせながら起き上がり、
まるで幼な児のようにして、わたしに手を引かれて家に帰った。
首すじにはくっきりと、紅い咬み跡がにじんでいて。
真っ白なハイソックスにも、バラ色の血を滲ませた、いくつもの咬み跡。
半ズボンのすき間から太ももにしたたる血潮が、そのあと息子がなにをされたのかを報せていたけれど。
わたしも、迎えに出た妻も、そこは本人のためにーーと、気づかないふりをしていた。
シャワーを浴びたあと。
敬太はわたしのところにやって来て、母さんに聞かれたくなさそうな顔つきをして、そっと言った。
お尻にお〇ん〇ん入れられた。そのあとなんだか、気分が変なの。
どうして欲しいんだい?わたしは訊いた。
わかんない。小父さんはまたお出で、って言ってくれている。
「言っている」ではなくて、「言ってくれている」だった。
でも小父さんの家にはまた行ってもいい・・・そうつけ加える敬太にわたしは、好きにするといいよ、とこたえていた。
数日後。
妻はたまりかねたように、わたしに訴えた。
敬太が学校帰りに毎日のように、吉浦さんのところにお邪魔している、と。
あちらもご迷惑なんじゃない?
口先ではそういいながら。
貧血を起こして帰ってくる息子のことが、母親として心配なのだろう。
私、明日敬太の帰りが遅かったら、止めに伺ってきます。
わたしはある予感をよぎらせながらも、妻を止めようとはしなかった。
翌日わたしが勤めから帰ると、妻はいつもどおり台所に立って、
お鍋からは湯気が、手元からはトントンという規則正しい包丁の音があった。
おかえりなさい、早かったわね。
そういって振り向く妻の頬は、別人のように蒼く痩せこけ、瞳は異様に輝いていた。
首すじにはどす黒い咬み痕がふたつ並んでいて、吸い取られた血潮がまだ、チラチラと滲んでいる。
オレンジ色のタイトスカートの下、肌色のストッキングには派手な裂け目が走り、
敬太のハイソックスと同じあしらいを受けた痕を、鮮明に残していた。
わたしはそんな妻の変化に気づかないふりをして、ああ、ただいま、とだけ、こたえた。
帰る道々、真っ白なハイソックスに浮いた紅いまだら模様を気にして周りを気にしていた敬太も、
つぎのときからは躊躇なく、いやむしろ自慢げに、ハイソックスに滲ませた血のりもあらわに学校通いをつづけていた。
妻もまた、吉浦家からの帰り道、息子と同じようにあしらわれた足許を、
派手に破けたストッキングの脚をさらして、家路をたどるようになっていた。
家内をすっかり、モノにされちゃったみたいで。
無言のまま、家族の足どりだけで交わされるやり取りに気まずさを感じたわたしが、思い切って口火を切れたのは。
吉浦さんがさいごまで咬まないでいたわたし自身の首すじに、くっきりとした痕をつけられた直後。
いい身体してますよ、奥さんも、息子さんも。
吉浦さんは屈託なくそうこたえると、ニッと笑った。
いつかどこかで見た笑いだと、わたしは思ったが、いつのことだったか、よく思い出すことができなかった。
くたびれた男の血は、まずいでしょう。さいごまで食指が動かないわけだ・・・
わたしがそう自嘲すると、そんなに捨てたものではないですよ、と彼は言い、「これ息子さん」と、一片の写真を手渡してきた。
てっきり妻の写真かと思った。
敬太は母親似だったから。
そう、写真のなかの敬太は、妻のワンピースをまとい、薄っすらと化粧までしていた。
こんな格好でね、いつも私ンとこに、来なさるんですよ。
それでね、私もそそられちゃって、
この子の血をたっぷり吸い取ったあと、コトに及んじゃう、というわけです。
女みたいに声あげちゃったりしてね、かわいいもんですよ。
さいしょからそれ、狙ってたの?そう訊くわたしに、
決まってるじゃないですか、と、吉浦さんは軽々といい、
やられちゃいましたね、と、苦笑いするわたしに、
まだまだ、ヤッちゃいますよ、と、吉浦さんも笑った。
くたびれてまずくなった血なんかじゃ、ないですから、と、吉浦さんはなおも笑いかけてーー
仰向けになったままのわたしに身体を重ねてきて、こともなげに唇まで重ねてきた・・・
お尻の穴に、お〇ん〇ん入れられた。そのあと気分がヘンなの。
口ごもりながらそういった息子の気持ちが、ふとわかった瞬間だった。
こんど、洋品店にごいっしょしましょう。
ご主人大柄だから、服は別にあつらえたほうがいい。
大きな店だから、きっと好みの服が見つかりますよ。
翌日わたしは、家を出るときに来ていた男の服を脱ぎ捨てて、
ワインカラーのジャケットに、タイトスカート。
濃い紫のブラウスの胸元に、ふんわりとしたリボンをゆらゆらさせて、
足許を染める黒のストッキングには、派手な伝線ーー
そんないで立ちで、家に戻った。
ぴかぴかとしたエナメルのパンプスは、見た目には格好良かったけれど、
始終つま先立ちしながら歩くような感覚は、さすがに閉口ものだった。
ただいま。
さすがにきまり悪げに自分の家に訪いを入れると、
出迎えた妻は一瞬息をのんでーーけれどもそれ以上、なにも言わなかった。
初めて吸われて帰宅したとき、わたしが気づかないふりをしていたように。
敬太は居間で寝そべって本を読んでいたけれど、
ちょっと顔をあげると、イタズラっぽくニッと笑った。
どこかで見た顔つきだと思ったけれど、それがどこなのかは、思い出せない。
お邪魔しますよ。
訪問を予告した吉浦さんは、ほかにも数人の男を従えていた。
みんな、あなたの同類ですよ・・・そういう吉浦さんがなにを求めているのか、それはわたしを含め、妻にも敬太にも察しがついた。
妻は観念したように、よそ行きのスーツ姿のまま、夫婦の寝室にこもった。
男たちも誘われるように、夫婦の寝室に消えた。
閉ざされるドアに視界を遮られる間際まで、
白のストッキングを穿いた妻の豊かなふくらはぎが、ひどく眩しかった。
どたん!ばたん!きゃあ・・・っ。
お定まりのもの音に、わたしと敬太とは顔を見合わせて、苦笑しあった。
服をはぎ取られ、一巡するまでが見ごろだった。
あとはただ、ねとねととした汗を浮かせた裸体が数対、もつれあっているだけだった。
手のあいた男たちは、自分たちだけで交わったりもしていた。
わたしはちいさくかぶりを振って、のぞき穴から身を起こした。
背後にいた敬太は、いつの間にか、妻のワンピースに着替えている。
小父さんが言ってた。
母さんがされちゃっているあいだ、きみは父さんの相手をするんだって。
ちょっと恨めし気な上目遣いに、わたしはまぶたの上に唇を当てて息子を抱き寄せ、
ふたりは静かに絨毯の上に身を沈めた。
唇に唇を重ねると。
歯のすき間から洩れてくるはずんだ呼気が、わたしの目をくらませた。
ドアの向こうのせめぎ合う物音は、いっこうに絶えない。
けれども父と息子とで息をはずませ合っているわたし達には、むしろ心地よい刺激にすり替わっていった。
あとがき
うわー、とんでもないお話になっちゃった。(^^ゞ
親友の婚約者
2015年10月05日(Mon) 07:59:44
広永は、ふたりの様子を面白そうに見比べていた。
ひとりは、長い腐れ縁の吸血鬼。
もうひとりは、自分の婚約者。
「吸血鬼って、ほんとにいるんですねえ」なんて。
婚約者の美樹は、相手をまともに見つめてただ感心している。
知的な輝きを帯びた大きな瞳でまっすぐ見つめられながら、吸血鬼はその視線をまともに見返していた。
これが、お見合いというやつだったのかーー
広永は知っていた。
慣れない都会に出てきて、生き血を獲るあてもなく、もうすでに数日経っていることを。
それでも親友の婚約者をまえに、吸血行為をがまんしていることを。
飢えた目線の目の前に突き付けられた獲物は、24歳の才媛のうら若さを、あざやかすぎるほどに見せつけていた。
あとはただ、ちょっと座をはずすだけでよかった。
どたん!ばたん!
ドアの向こうから漏れる音に耳をふさぐようにして、広永はホテルの廊下を一歩でも遠くとばかり遠ざかっていった。
だいじょうぶ。それ以上のことはしないから。
あんたは大事な親友の婚約者なんだから。
男の言いぐさは、どうやらほんとうのようだった。
美樹はじたばたともがきながら、首すじに突き立てられた牙をどうする牙をどうすることもできなかった。
ズブッ!とめり込んできた尖った異物が、柔肌の奥深くに埋め込まれてーーその刹那感じためくるめく快感はなんだったのか。
親友の婚約者が相手でも、錯覚に理性をしびれさせるようなまねだけはするというの?
男は美樹をソファのうえに押し倒し、むさぼり、またむさぼった。
ひとしきり、嵐が過ぎ去るとーー
男は美樹を助け起こして・・・それでも一度さらけ出してしまった本性は押し隠せなかったらしく、
「これだけは目をつぶってくれ」といって、
美樹の足許にかがみこんだ。
薄手のストッキングに透きとおるふくらはぎに唇を吸いつけられ、ふたたび牙が刺し込まれた。
ちゅう~っ。
脳天がしびれてゆく快感が、ふたたび美樹を支配した。
ストッキングが鮮やかなカーブを描いて裂け目を広げてゆくのを、ただ面白そうに見下ろしている自分がいた。
わしが都会にいるあいだ、また逢ってもらえますか・・・?
男の問いに対する返答がわりに、美樹はストッキングの破けていないほうの脚を、そっと差し伸べていた。
彼に黙って逢ってあげてもいいわよ、と、囁きながら。
いつもは無難な色を選んで穿いているストッキングを、きょうは妖しい墨色に穿き替えていた。
付き添ってくれるのは、未来の夫の広永。
あのあといっぱい、毒づいたものだった。
「いくらなんでも、そういう事情があるのなら、前もって話してほしい」
彼はなんでも、話してくれた。
その結果ーー
披露宴前夜の、今夜になった。
彼女の純潔を勝ち得るのは、花婿の悪友になったのだと。
きみとの初夜は、3人で愉しみたいーーそれが広永の願望なのだと・・・美樹はうっとりとしながら、受け入れていた。
初めて咬まれた日。
彼が毒液を注ぎ込んでくれたのは、いまにしておもえば、とても賢明な行為だった。
あとがき
未来の夫への配慮から、初めて襲ったその時に凌辱までしなかったことが、彼女の気持ちを射止めてしまった。
そんなお話のようです。^^
帽子。
2015年10月05日(Mon) 07:37:34
帽子を落としてしまった。
バイト代をためて買ったばかりの、お気に入りだったのに。
ここは、夕闇迫る薄暗い公園ーー
いつもは足を踏み入れないこの空間を、横切ろうとしたのがいけなかった。
立ちはだかる黒い影に、
まさか、これが噂の吸血鬼・・・?
そう思った時にはもう、真っ黒なマントを身体に巻かれて、息もできなくなっていた。
首すじに牙を突き立てられて、血を吸い取られてゆく感覚に、縮み上がって・・・悲鳴をあげるのさえ、忘れていた。
ふと気がつくと、あいつの姿はない。
幸い、デニムもブラウスもジーンズも、汚れていないようだった。
でも長居は禁物。
こんなところ・・・ほかにもどんなやつが出没するか、わかったものではない。
帽子はあきらめて、早々に立ち去ることにした。
明るいところに出るのが、かえって怖い・・・服についた泥や、手の甲の擦り傷を人目にさらしたくないから。
まるで、レ○プでもされたあとみたい。
失血の度合いは、さほどでもなさそうだったけど。
喪失感に、敗北感と屈辱感が折り重なって、ますます気分が滅入ってきた。
おい。
背後からかけられた声に、びくりとする。
まだいたのか。しつこいやつだ。
と、振り向きざま、黒い影はなにかを投げてよこした。
影はひと言、
「帽子」
と、ぼそっとつぶやいた。
だいじなんだろ?
受け取った帽子を目深にかぶると、返事もせずに踵を返して・・・
ふと思いついたように身を屈めると、足許の石ころを拾っていた。
おっと!危ねぇ。
お礼代わりに二つ三つ投げられた石ころはかなり大粒で、まともに当たったら痛そうなのが。
コントロールよく真正面にきたのを、吸血鬼はとっさに払いのける。
ひどいやつっ!!
少女は捨て台詞の罵り言葉を置いて、小走りに公園の出口を目指した。
しょうがねえよな・・・
ちょっと寂しげなつぶやきが、彼女の耳たぶを打った。
思わず振り向くと、やつはまだこちらを見ていた。
あんたのおかげで、助かった。恩に着る。
男はそう呟いて・・・煙のように姿を消した。
どこをどう歩いたのか、記憶が定かではない。
気がつくと、柄の悪そうな若い男が三人、目の前に立ちふさがっている。
変な場末の路地に踏み込んでしまったらしい。
男どもはにやにやと笑いながら、こっちへと距離を詰めてきた・・・と思ったら。
視界が急に、真っ黒な影に遮られた。
それがあの憎たらしいやつのマントだと気づいた時にはもう、
ならず者どもはとっくに逃げ散った後だった。
家まで送る。
え?
迷惑・・・とっさに思った少女に男はつぶやいた。
張り切り者でばついちのお母さんに、引っ込み思案な妹。そうだよな?
なんでそんなこと知ってるの?
少女はおびえたように、男を見あげる。
あんたから吸い取った血が、教えてくれたーー
これで、貸し借りなしだ。
だがな、こんな方角には二度と足を向けるんじゃないぞ。
少女のなかで、なにか頑ななものが、急速にほぐれていった。
親切なんだね。
助けてもらったからな。
これからも、助けてもらいたいわけ?
そうしてもらえれば、なお助かるな。
憎たらしいやつだけど、悪いやつではないみたい。
少女は息を深く深く吸い込んだ。
彼氏ができるまでなら、いいわよ。
いつもはもう一本、表通りの道を歩いてる。
明日だったらーーそう、学校の制服着ているわ。
お友達に聞いたの。ハイソックスを履いた脚を咬みたがるんだって。いやらしいわね。
あたしの学校、紺のハイソックスなんだよ。
あしただったら・・・新しいのおろして、履いてきてあげる。
帽子のお礼か?
そうね。あとは、助けてもらったお礼。
少女と吸血鬼との助け合いは、しばらくの間続きそうだった。