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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

変♪態♪吸血鬼さんっ♪

2016年01月31日(Sun) 07:18:12

変♪態♪吸血鬼さんっ♪
みすぼらしく薄汚れたコート姿が目をあげると。
そこにはブレザーの制服姿の女の子。
イタズラっぽく笑う口許から、キュートな白い歯が覗く。
幸いこの子は、まだ犬歯が伸びていない。
暖かな人間の血を宿した少女だ。
顔見知りの少女はお顔を横倒しにして、不景気そうな吸血鬼の顔を覗き込んでくる。
喉、渇いているんでしょ~?って、誘惑してくる。

黒のストッキング、履いてきちゃった♪
少女は、薄黒いストッキングでなまめかしく染めた健康そうな太っちょな脚を、吸血鬼に見せびらかした。
真新しい黒革のストラップシューズが、街灯を照り返して、硬質な輝きを放つ。
いつもみたいに、ふくらはぎを咬んで破きたいんでしょ?
露骨な表現で図星を突きまくって顔を寄せてくる少女に、吸血鬼は閉口したように顔をしかめてみせる。
そうだ、俺様は吸血鬼なのだ。もう少し怖れなさい――そんなたしなめるようなしかつめらしい表情に、少女はぷっと噴き出した。
早くしないと、帰っちゃうわよ~。
サッと身を引くそぶりを見せた少女につられて、男はベンチから身を起こしてしまう。
ほら、ほら、引っかかった引っかかった♪
少女は小躍りしながら、なおも吸血鬼をからかいつづけた。

どこで襲う~?あっちの雑木林行こうか・・・
愉し気にはずむ声が遠ざかると――
起ちあがった吸血鬼の隣に座って、新聞に顔を埋めていたもうひとりの中年男が、
新聞を斜めに降ろして、正面に立った人影をふり仰ぐ。

よう。
ちょっといばった声だった。
声は男の子だったが、
さっきの子と同じブレザータイプの女子の制服。
へっへっへっ、びっくりした?
自分の女装姿にびっくりして、ほんのちょっとだけ表情を動かした吸血鬼をまえに、
彼は得意げにその場でくるりと回り、身にまとう自校の女子生徒の制服を見せびらかした。
彼女から借りたんだ。

いっつも手加減してくれて、ありがとな。
彼女が顔色悪くなるまえに、寸止めで血を吸うの我慢してるだろ?
でもさ、彼女がたいはデカいくせに、意外にか細いんだぜ。
おまけにあの性格だろ?弱みを見せたくないっつうか・・・
だから多少気分悪くても、ガマンするわけね。彼女は彼女なりに。
んで、きょうの授業中、とうとう貧血でぶっ倒れちゃった。
早引けして帰った家に見舞いに行ったらさ。
あんたと約束してるから・・・っつうわけ。
バカたれ、寝てろ!っていったけど、あんたのことが心配でしょうがないわけよ。
だから思い切ってこの優輝様が、女装を奮発したってわけ。
少しは感謝しろよな。

吸血鬼にせがまれるまま生き血を提供したがる彼女の身代わりに、
わざわざ彼女の制服着て女装までしてやって来たんだぜ・・・
要約するとそういうことらしいが、本人のウキウキとした態度は、口ぶりを見事に裏切っている。

あんまり男くさいと、ヤだろうからさ。
下着からハイソックスまで、ぜんぶ彼女のおさがり。
あんた、匂いに敏感なんだろ?
ブラもパンツもハイソックスも、あの子にちょっとだけ着けてもらったんだからな。
ちょっぴり寸足らずな紺のハイソックスの脚を、自慢げに見せびらかすと。
吸血鬼は、そこまでさせてすまないね・・・と、われながら従順そのものの態度で、拡げていた新聞紙を折りたたんだ。

さっ、行こ♪
男の子にしては白い顔をあげて、人なつこくニッと笑うと。
異性の恋人同士みたいにわざわざ腕まで組んで、立ち去ってゆく。


こんにちは。
三人不景気そうに雁首を並べていた、さいごの一人の顔をあげさせたのは、柔らかな声の持ち主だった。
ふたりとも、しっかりしてきたわねぇ。
落ち着いた物腰で、おとがいを和らげた彼女は、さっきの男女の母親とは見えないほどに若やいでいた。
なんだ、お前か。
なんだ・・・は、ごあいさつじゃない。
吸血鬼になった夫の隣に腰をおろした彼女は、ホホホ・・・と笑って見せた。

彼女は自分が身に着けた衣装ひとつひとつを指さして、吸血鬼を少しずつ、そそりたててゆく。
よそ行きのスーツ?
真珠のネックレス?
美容院に行ってきちんとウェーブをかけた栗色の髪?
おひざが見えるくらいの、あなた好みの丈のこげ茶のスカート?
リボンをふんわりさせた、真っ白なブラウス?――これって、血が撥ねたら目だつわね・・・
いつもよりヒールの高いパンプスに、てかてか光る紺のストッキング?
男のひとって、ストッキング好きなのね。
いつもお得意様に、破らせてあげてるのよ――
さいごのひと言が、ずっと無表情をとりつくろいつづけている男に、ビクリと身じろぎさせた。
自分以外の男たちと密会を続けているという、妻のさりげない告白に。
つい想像力を、かきたれられてしまったようだ。

女は謡うように、なおもつづける。
でも、よかったじゃない。奥さん若返ったし。
あたし、セックスってあんまり好きじゃなかったの。
そんなことしなくても、信じている男(ひと)は信じられるし。
子供が生まれたら、もうしなくていいと思っていた。
でもね。
あなたの血を吸い尽した人たちが、教えてくれた――
いまではセックスは愉しいし、おしゃれをすると気分も引き立つわ。
さっ、帰りましょう。あなたの家に。
今夜はたっぷり、サービスするわよ。
あなた、吸血鬼になったら人妻狙いになったんですって?いやらしいわね。
あたしよりも魅力的な人妻さん、なん人もいらっしゃるんですんってね。妬けるわ~。

かつての妻に、腕を引っ張られて。
男はしぶしぶのように、起ちあがる。
女はかつて恋人同士だったころの気分に、すっかり舞い戻っているらしい。
亭主の腕にかじりつくように自分の腕を回して、影を重ねるように寄り添ってゆく。
セックスも、まえよりか上手になったわよ。
教えてくれる男(ひと)たちが、大勢いるから♪
あたし、意外にモテるんだよ~。

女はいつまでも、夫に甘えつづけていた。

奴隷化の媚薬

2016年01月30日(Sat) 11:57:55

小父さんも優しくなったねえ。齢とってずいぶん丸くなったんじゃないの?
青年は冷ややかそうにそう言い捨てると、気の毒そうにぼくたちを見た。
言い捨てられた親父は、還暦はとうに過ぎていたけれど。
農家の古強者らしく、陽灼けした逞しい筋肉に、節くれだった掌の持ち主。
さっきまでその掌が、ぼくの彼女の乳房をつかみ、股間を撫ぜていた。
それもわざわざ、縛り上げたぼくの目のまえで――

迷い込んだこの村で、さいしょは親切に食事までもてなしくてれた小父さんは。
食事のなかに忍び込ませたしびれ薬が効いて来ると、態度をにわかにひょう変させた。
この村にはね、俺みたいな吸血鬼が、なん人も棲んでるんだ。
お前ぇも、お前ぇの彼女も、わしの餌食じゃ。悪く思うな。
そう言い捨てると、いきなりぼくの首すじにかじりついて、血を吸いあげた。
彼女は恐怖の悲鳴をあげて飛びのいたけれど、もう遅かった。
しびれ薬の効いた身体はいうことをきかず、真っ白なスカートのお尻をつかまえられ、畳のうえに抑えつけられると。
白くて細い首すじに、分厚い唇を荒々しく這わされていった。
親父の唇には、いやらしく光るよだれが、
彼女はうら若い血をむざむざと吸い取られて――たくし上げられた真っ白なスカートは、禁断の木の実を味わわれてしまうまで、直されることはなかった。

ふたりながら血を吸われ、そのうえ彼女を犯されて。
この青年はそんないちぶしじゅうをよく知っているはずなのに、どうして「丸くなった」なんて、言えるのだろう?
ぼくの疑問はすぐに、彼に伝わったようだ。

彼女を犯されちゃって、気の毒だったね。
でもボクのときは、もっとひどかったんだ。
ボク、この親父の甥っこなんだけどね。
結婚の決まった彼女を連れて、一泊しに来たわけ。母さんにそうしろって言われてさ。
それで、きみと同じように血を吸われて・・・彼女はまだ、処女だったんだ。
きみの彼女と同じようにね。
でも、それだけじゃすまなかった。
僕たちの食べた食事に入れられたしびれ薬には、もっといやらしい効き目もあったんだ。
そう、この親父にずうっと、彼女もろとも奴隷になりたいって思いこんじゃって。
望みどおり、奴隷にされちゃったんだ。
ボクは彼女とめでたく結婚したけれど――そのころにはもう、親父の仕込んだ種が、おなかのなかで大っきくなってた。
子供はもう三人いるけれど、二人目の娘以外は、親父の子なんだぜ?
きみはまだ、嫌な顔をしているね?
親父に飲まされた薬のなかに、奴隷になりたくなる成分は、含まれていなかったようだね。
こんな村にいちゃいけない。
はやく立ち去るべきだし、もう二度と来てはいけないよ。
青年は親父に有無を言わさず、彼女に服を着せ、ぼくたちを納屋から連れ出してくれた。
遠い日の自分の彼女と自分自身をいたわるように。

別れぎわ。青年はいった。
でもボクは、後悔していない。夫婦ながら親父さんに仕えることで、満足してる。
しんそこ毒にやられちゃったんだね。
しんそこ毒にやられちゃうほうが、むしろ幸せなのかもしれないね・・・
最後のひと言は自嘲交じりだったけれど。
愉し気に、足取りも軽く、戻っていった。
こげ茶の半ズボンの下、真っ白なハイソックスが眩しく輝いていた。

ねえ。
彼女は足を止めて、ひたむきな瞳をしてぼくを見あげる。
言いたいことは、すぐに通じた。
もういちど、あの親父の奴隷になりたい。あなたの前で――
そんな恥知らずなこと――女の子のほうから、言わせちゃいけない。
さすがのぼくも、そう感じた。
言葉はびっくるするほどすらすらと出てきた。
ぼくたちも、あの親父さんの奴隷にしてもらおう。
こんどはぼくから、きみを親父さんにプレゼントしたいんだ。
いいわね、それ。あたし、プレゼントされちゃうんだ♪ ――彼女の言葉つきもまた、軽やかだった。

わざわざ逃がしてあげたのに。きみたちも物好きだね。
青年は軽く嘲るように笑って見せたけど。内心は歓迎しているのがよくわかった。
きみと同じハイソックス、履いてみたいんだ――そう願ったぼくの希望を、彼は好意的にかなえてくれた。
この村では、若いひとの血は少ないんでしょう?あたしたち、少しでも協力できないかなって、彼と話し合ったの。
もっともらしい彼女の言いぐさに、うんうんと頷きながら。
親父は彼女を横抱きにして、ブラウスのえり首から逞しい腕を突っ込んで、なかをまさぐっている。
早く抱かれたい。辱められたい・・・って、はだけたブラウスのすき間から覗く谷間が、訴えかけているようだった。

きゃあ~っ、セイジさん、助けてえっ。
狭い納屋のなか。
わざとじたばたと逃げ回り、逞しい猿臂で羽交い絞めにされて。
ブラウスを荒々しく引き裂かれて、おっぱいをわしづかみされて。
彼女はなおも、ああーッ!やめてーッ!って、叫んでいる。
さっきからぼくは、失禁のしっ放し。
佳奈美ちゃんっ!佳奈美ちゃんっ!だめだッ!ぼくの佳奈美ちゃんに、何するんだッ!?
ぼくもわざとらしく、親父さんのやり口を批難しながら・・・彼女がふたたび、スカートの奥まで支配されてしまうのを、いちぶしじゅう見守っていた。

親父さんも丸くなったけど。
いまどきの子たちも、優しくなったんだね。
いつの間にかあのお兄さんが、隣に来ていた。
白のハイソックスを履いた脚をお互いに並べ合ったまま。
ふたりでいつまでも、初々しい花びらが散らされていく光景に見入りつづけていた。

墓場から舞い戻る。

2016年01月30日(Sat) 11:05:42

1.
いったいどれほどの時間が、暗黒のなかで流れていったのだろう?
一瞬のような、永遠のような時間を泳ぎ渡ったあと、わたしは目をあけた。
あたりは見知らぬ風景が、夜の闇の中に埋没している。
よく見ると周囲に佇むものはどれも、墓石ばかりだった・・・


2.
差し出された指先が、わたしの唇をべとーっとなぞる。
指先についているのは、まだぬくもりを帯びた人間の血。
わたしはそれを、夢中で啜っていた。
吸血鬼になってしまった――
いまある意識とさいごに意識があったときのかすかな記憶とが、
信じがたいようなそういう結論を、容易に導き出す。
たしか勤め帰りの路上で男に抱きすくめられ、首すじに食い入るような疼痛が走った・・・記憶はそこで、途切れていた。
自分の指先に夢中でしゃぶりつくわたしの様子に、指先の持ち主はフフフ・・・と嗤う。
いやな笑いかたをする。
わたしがそう思って目をあげると、男はいった。
旨いかね?
無言でうなずくわたしに、男はいった。
あんたの奥さんの血だ。さっき吸い取って来たばかりだ。
とどめを刺すような、強い口調だった。
旨いだろ?
念を押され、不覚にも頷いていた。
死んだのか・・・?
わたしの問いに、男はにんまりと笑みながら、ゆっくりとかぶりを振った。
ひと思いに死なすには、惜しいからな。
なん度かに分けて、美味しくいただくさ。
そうそう。
俺たちは女を襲うときはたいがい、犯す。
あんたの奥さんも例外じゃない。
息を止め表情を凍らせたわたしに、男はなおも囁いた。
好い締まり具合だったよ――


3.
喪服の女というのは、そそられるもんだな。
足許の、あの薄黒いスケスケのパンストも、たまらないよな。
奥さんが喪服着ているうちに、勝負つけようと思ってね。
ここに弔いにきたときに襲ったのが、三日まえだ。
あんたの時と同じように、路上に引き倒して首すじを咬んでやった。
きれいな脚をしているから、舐めまわしてやった。
ストッキングの舌触りが良い感じだから、これ以上は見逃してやるといったら、
次に逢うときもストッキング穿いてきます・・・ってさ。嬉しかったねえ。
あんまりかわいいことをいうものだから、そのまま石畳のうえに抑えつけて、ショーツをむしり取ってやったのさ。
今夜は初めて、お宅にお招ばれした。
出歩いているときに服を破かれるのはたまらないって言うんだ。
俺は正反対の意味で、たまらんのだがね・・・
まあ、あんたの奥さんに恥をかかせるのもなんだから、いうことをきいてやった。
用心深い女だ。娘は他所に預けていたな。ちょっと期待していたんだけどな。
ああ、もちろん否応なくベッド・インさ。
夫婦のベッドの上で、たっぷりと愉しんできた。
家のなかというのは、暖かくていいな。
またしばしば、お邪魔することにしたよ。
娘が学校に行っている間ならいいといってくれたが・・・
いちど俺を家にあげてしまうと、じつはいつでも気の向いたときに出入りできるんだな。
あの女はまだ、気づいていないようだけど――


4.
まだ血が欲しいかね?
男は訊いた。
これほどの話を聞かされながらも、わたしは喉の渇きに抗えなかった。
不覚にも頷くと、男は俺の頬を舐めろといった。
月明かりの下差し向けられた頬は、妻の血潮でべっとりと濡れていた。

妻を犯し、生き血を吸った男から。
ついさっきまで妻の体内に流れていた暖かい血潮を与えられる――
屈辱的な関係ではあったものの、舐め取った血潮のたっぷりとした味わいが、わたしの心を和ませていた。
空っぽになったわたしの血管のなか、妻の血潮が寄り添うようにめぐりはじめるのを、心地よく感じていた。

ククク・・・
男はいやらしく笑った。
こんどはも少したっぷりと、おすそ分けをしてやるよ。
週末、娘さんを連れて、墓参りに来るそうだから――


5.
いやっ!いやっ!いやあっ!!
泣き叫ぶ娘の声が、耳をつんざくなか。
男はセーラー服の胸をまさぐりながら、娘のうなじを咥えつづけた。
悲鳴がやんで、娘の身体から抵抗の力が抜けるのに、さほど時間はかからなかった。
胸元を引き締める真っ白なタイに、バラ色のしずくを転々と散らしながら、
娘は無念そうに、目をつむる。
清楚な制服姿を抑えつけた男は、娘の血を啜りはじめた。
ジュルジュルと、汚らしい音を洩らしながら。

娘の危難を救おうとした妻は、すぐに別の吸血鬼によって引き分けられた。
妻もまた、娘に輪をかけて露骨な劣情にあしらわれていった。
娘が初めて咬まれた瞬間、声をあげたときには、早くも喪服姿をまさぐられ、スカートのすそをたくし上げられていた。
卑猥な指が喪服のうえから這いまわり、悔し気にうつむく妻。
しかしすでにもう、抵抗の意思を喪っていた。
相手の男は、第一の男よりさらに、老いさらばえていた。
梳ったようすのない白髪を振り乱しながら妻の足許に唇をしゃぶりつけると、
はうっ。
ひと声洩らすと、黒のストッキングごしに青白く透けるふくらはぎに、食いついていった。
ストッキングがぱりぱりと裂けて、拡がった裂け目は皮膚を露出させながら、スカートの奥へともぐり込む。
あー・・・
顔をしかめて耐える妻の口許が、いびつな甘苦しさをみせたのは。
いつになく濃く刷いた口紅のせいだけだろうか?
妻は石畳に抑えつけられたまま、ブラウスを引き裂かれ、ブラジャーをはぎ取られ、
はみ出した豊かな乳房をもみくちゃにされ、乳首を逆立てていった。

力なく横たわる妻のうなじに唇を近寄せて、わたしは妻の血を吸っていた。
二人の男がケケケ・・・と下品に笑うのをしり目に、ひたすら喉の渇きを紛らわせる行為に熱中していた。
彼らの言うなりになっていくことに、もはや悔しさを感じていなかった。
仲間ができたことを、彼らなりに歓迎していることを直感していたから。
妻がぐったりとなってしまうと、つぎは娘の番だった。
お父さん、だめっ。近寄らないでっ。
父として接すればいいのか、吸血鬼と見なして忌むべきなのか、娘は明らかに戸惑っていたが。
母親のひと声が、すべてを変えた。
理恵ちゃん。お父さんの言うとおりになさい。
わたしが埋まっていたはずの墓石にもたれながら、娘は恐怖と諦めから、瞼をキュッと瞑った。

お父さん、サイテー。
落ち着きはらった娘の声を頭の上にやり過ごし、わたしは娘の内ももを咬んで、ストッキングを咬み破いていた。
セーラー服の襟首に、血潮を点々と光らせながら。
娘は三人の吸血鬼を相手に、処女の生き血を気前よく振る舞い始めている。
あんたのとこの娘さん、えらいな。
第二の男が、娘の唇を奪った後、わたしにいった。
ご両親に似て、賢いたちだということさ。
第一の男が、セーラー服の襟首から手を差し入れて胸を揉みながら、相棒に応える。
わたしはただ、すまない・・・すまない・・・と、だれに向かってともなく呟きながら、
それでもまだ、娘の足許から黒のストッキングを咬み剥ぐ行為に耽りつづけていた。
またお父さんに買ってもらえばいいわよ・・・ね?
妻は、セーラー服の両肩を羽交い絞めにしながら、そういってまな娘の顔を覗き込む。
娘は戸惑いながらも、ハキハキとした気性のままに、はっきりと頷き返していた。


6.
その日から。
わたしは晴れて、自宅に戻った。
墓場をうろつく吸血鬼ではなく、真人間に戻ったということだ。
若い女の生き血を欲しがる吸血鬼たちに、妻や娘の血を自由に吸わせる権利を、引き換えにして。
幸い・・・死亡届は出されていなかったので、数日間の失踪から無事戻ったというていをとりつくろうことができた。
喪われたはずの血液も、半分は取り戻すことができた。
それは、妻と娘から補われたものだった。
わたしのなかで息づく、女の血は――
新たなものを目覚めさせてくれた。

わたしの血を余さず吸った、あの男は。
わたしの血を「あまり旨くなかった」といって、挑発した。
わたしの妻の血さえ、ほとんど吸い尽したあの男は。
私の妻の血を「いいとこB級だな」といって、ぞんざいにけなした。
B級の血の持ち主は、娼婦の扱いを受けるという。
妻は日ごとに相手を変えて、毎日のように呼び出しに応じてゆく。
生き血を吸い取られる昂奮と、夫を裏切るエクスタシーの餌食となるために。
けれどもそんな妻を、わたしは視て見ぬふりをして、送り出す。
わたしのなかに息づく淫らな血潮が、そう命じるから――

娘の格付けは、まだ先のことになるらしい。
きっとそれは、高校を卒業する前までには、遂げられてしまうだろうけど。


あとがき
冗長になってしまいました。。
 (^^ゞ
以前描いたこのお話の系統ですね。。。
 (一一;)
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3074.html
この記事のリンクをたどると、同じようなお話が出てきます。
 (^-^)

交流。

2016年01月30日(Sat) 06:55:10

放課後の、だれもいない教室で。
そいつはうずくまるようにして、僕を待っていた。
僕は体操着の短パンの下、鮮やかな赤のラインが入ったハイソックスを、きっちり履いていて。
男はまるでそれが目当てだったように、僕の足許にすり寄ってくる。
ふくらはぎを咬んで血を吸う習性を持つ男は、週に2,3度はそんな献血を強いてくる。
生きるためだよね。仕方ないんだよね。
僕は僕自身にそう言い聞かせながら、
男が卑猥な舌づかいで、僕の履いているハイソックスをくしゃくしゃにしてゆくのを、黙って見おろしていた。

男から欲情が去り、僕の脳裏に貧血がわだかまると。
僕はうつろな声色で、訊いてみた。
彼女の血を吸わせてやろうか――?
若い女の子の血が、欲しいんだろ?
どうせみんな血を吸われちゃうんだったら。
彼女には僕と同じやつに、咬まれてもらいたいんだ。

不思議な感情だったけど。
せめてそうすることで、根こそぎ奪われかねない彼女との絆を、保っていたかった。

やつは舌なめずりをしながら、こう答えた。
嬉しいね。安心しな。
俺は彼女を、お前の彼女のまま抱いてやるさ。
純潔も俺に、譲るんだよ。お前の目のまえで、ぐちゃぐちゃに犯してやるからさ。
でもそれは、お前の彼女だから姦りたくなるんだ。
彼女が俺の好みのタイプじゃなくてもね。
お前の彼女を、モノにできたら。
お前との距離がもう一歩、近づくような気がするんでね。

冷酷だが不思議な愛情のこもった科白――
僕はだまって、聞き流した。
返事をするにはあまりにも、心臓がドキドキ、バクバクしてしまったから。

男は続けた。
だがね。
俺はもう少し、強欲になりたいね。
お前の彼女を抱く前に、妹さんを連れてこい。
びーびー泣いたって、容赦はしない。
無理やり抑えつけて、か細い身体から摂れる生き血を、ぎゅうぎゅうむしり取ってやる。
どうしてそんな仕打ちをするのかって?
妹さんなら――あんたと同じ血を身体のなかにたっぷり宿しているからさ。

酷たらしさしか表に出てこない愛情を。
僕はまっすぐに受け止めて、応えてやる。
いいね。
どっちもきみに、支配してもらいたいよ。
ついでに母さんのことも、お願いしていいかな?
嫁の不倫や娘の不始末に、姑や母親は手厳しいものだから。
早めに手なづけといたほうが、いいと思うけど・・・

男は僕のハイソックスを真っ赤に濡らしながら、
お前のお袋の穿いているパンストも、チリチリに咬み散らかしてやると約束してくれた。

一週間後。
すべてを知った父さんは、憔悴しきった顔をして、僕の勉強部屋に現れた。
感謝するよ。
私がする勇気のなかったことを、お前は全部やってくれたから。
そう言って父さんは、一週間くらい失踪して、家に戻ってこなかった。
それは、男が母さんを支配するのに必要な時間だった。
失踪する前の父さんの首すじには、僕がつけられたそれよりも古い咬み痕が、ありありと滲んでいた。
ふたつ並んだ痕の間隔は――たぶんぼくのつけられたそれと、一致するはずだった。

ストッキングを履く女子校。

2016年01月28日(Thu) 08:09:11

良家の出身で、品行方正な少女ばかりが通う、女子校が。
吸血鬼たちの欲望の標的となった。
ひとり、またひとりと血を吸われ・・・
そのうちに教職員さえもが洗脳されて、
生徒たちはやがて、出席番号順に献血を強制された。

通学用に指定された、生地の薄い黒のストッキングは。
少女たちの知性や品性の高さをひきたてていたはずだったが。
しまいには一人残らずストッキングを破かれ脱がされて、犯されていった――

いまでも彼女たちは、黒のストッキングを履いて学校に向かう。
清楚な装いだったはずの黒のストッキングは、いまは少女たちの足許を淫靡に彩って。
男たちの卑猥な唇に、弄ばれる。
けれども少女たちは、校則を変えることを望まなかった。
すこしでも、愉しんでいただけるのなら――
だれもが口々にそう呟いて、きょうも薄黒いナイロンに足許を染める。

吸血鬼たちは、結局なにも変えることができなかった。
処女の生き血を吸い取られても。
嫁入り前まで清くあるつもりだった純潔を奪われてさえも。
相手への奉仕を忘れない彼女たちは、優等生であることをやめなかった。心優しい少女であることを捨てなかった。
彼女たちはきょうも、優し気な笑みをたたえ、笑いさざめきながら。
きょうも小父さまを悦ばせようと、清楚な装いに脚を通して、歩みを進めてゆく――

ライオンに出くわしたウサギ。

2016年01月26日(Tue) 07:52:24

ライオンとウサギが道で出くわしたら、ウサギがライオンに食われるという運命しか訪れないように。
吸血鬼と勤め帰りのOLが夜道で出くわしたら、OLが吸血鬼に生き血を吸われるという運命しかあり得ないだろう。

コツコツとハイヒールの足音を響かせて、一人歩みを進めるそのOLのまえに。
嫁入り前の若い女がもっとも忌むべきそいつは、おもむろに立ちふさがっていった。
えっ!?
両手を口許に押し当てて、かろうじて悲鳴をこらえるOLを。
吸血鬼はこれ幸いとばかりに横抱きにして、近くの公園へ連れ込んだ。
その公園――地元では、「お嫁に行けなくなる公園」なんて、呼ばれている。
処女の生き血は貴重品だから。
彼らの多くはみだりに処女を犯さないとはいうけれど。
やっぱり半々くらいの確率で、処女も侵されてしまうというのが、実情らしかった。

あの・・・あの・・・許してください。見逃してください。
女もいちおうは、懇願するのだが。
希望が聞き取られる可能性は低いのだと、かろうじて残された理性は冷酷に告げる。
なにしろ相手は血に飢えて喉をカラカラにしているのだし、
自分はといえば相手の好みそうなうら若い生き血を、その身にたっぷりと宿しているのだから――
お互いにその事実を確かめ合うのに、ものの数秒とかからなかった。
でも吸血鬼のほうも、老いたりとはいえ紳士のようだった。
女はそこに、わずかな希望を賭けようとした。
そうだ、ここの人たちは、映画で見るような、脳みその欠落したモンスターみたいな獣じゃない。
人の言葉をきちんと話し、昼間はふつうの人間と同じように暮らすという。
たしかい老紳士は、女に話しかけてきた。選択肢を与えるために。
もっともそのどちらもが、女の好みに合ったものとは、限らなかったが。
首すじからと脚からと、あんたはどちらをご希望かね?

アアー。
絶望のうめきを女が洩らしたとき。
背後から遠慮がちに、男が声をかけてきた。
あのう・・・
はい?
吸血鬼も若いOLも、声のするほうをふり返る。
あ、すいません。こんばんは。お邪魔でしたか・・・?
頭を掻き掻き現れたのは、若いサラリーマンだった。
女はちょっとだけ、安堵したのは。彼がおなじ勤め先の顔見知りだったから。
でもこの時点で、彼女はまだ知ってはいない。
勤め帰りにこの吸血鬼に脚を咬みたいとねだられて、いつも穿いている脛の透ける薄い長靴下を、気前よく咬み破らせてしまっていた――なんていうことは。

お邪魔ではないけれど。
言葉を継いだのは、吸血鬼のほう。
ちょうど、食事にかかるところだったんだがね。
ああ、やっぱりそういうことですね。失礼しました。お二人、案外お似合いな感じがしますよ。
憤慨したのは、若いOLのほうだった。
この人は、なんという寝ぼけたことをいうのだろう?
せっかくこの場に居合わせながら、私を助けてはくれないの?
ひどいじゃないですか!!――女が発した叫びを遮ったのは、吸血鬼。
まあ、まあ、ひとの話はさいごまで聞くものだ。
女は、都会から来たばかりのこの同僚の男が、人は好いけれども小心者なのを知っていた。
もうひと言くらいは、チャンスをあげよう。
いま自分が置かれた立場を棚に上げて、女は値踏みするように、同僚を見た。

ああ、ごめんなさい。ご不快ですよね。おわびします。
男はもじもじと、けれども意外なくらい冷静に言葉を返す。
僕がお似合いといったのは――お二人の出会いがあまりにもうってつけ過ぎるからそういったんです。
だって、小父さんは若い人間の血をほしがっているし、若野さんは若いOLなんだし――
この人、変態なんですよ。
長い靴下を穿いた脚に咬みついて、靴下を破きながら血を吸うんです。
そうするのが、愉しくて仕方がないという人なんです。
小父さん、喉が渇いてしょうがないのなら、僕が代わりに相手をしますよ。
でも、若野さんも気持ちに余裕が持てるのなら、すこしだけでも協力してくれると助かるんですが。
この村にいる限り、吸血鬼の毒牙を逃れることは難しい――男は同僚にそういった。
彼女もまた、都会から転属してきたばかりだと知っていたから。
あなたも血を吸われちゃってるの?
恐る恐る、彼女が訊く。
ウン、ついこの間からね。
軽々と、彼が答える。
さいしょは少し痛いけど、すぐになじむよ。
男の言いぐさが、ひどくリアルに女の鼓膜に伝わった。

わかりました。協力します。仕方ないです。
女がしょうしょう投げやりにそういったのは。
男が自分から率先してベンチに腰かけて、スラックスを引き上げていったから。
老紳士は男の動きに合わせるように、彼の足許にかがみ込んで――長靴下のうえから男の脚を咬んだ。
お互いの動きがひとつになって、息が合っているのがはた目にもわかった。
このひと、相当慣れている――
ためらう女の怪訝そうな視線を受け流して、男は薄笑いさえ泛べて吸血鬼の欲望に応じてゆく。
ストッキングのように薄い靴下は、這わされた唇の下でみるみるうちにくしゃくしゃになって、ブチブチと裂け目を拡げてゆく。

だいじょうぶですよ。お隣にどうぞ。
男に促されるままに、女もベンチに腰を掛けた。男とすこしだけ、距離を保って、それでもすぐ隣に、ピンクのスカートを穿いた腰を落ち着けた。
ひざ丈のスカートのすそからは、黒のストッキングに包まれた肉づきのよいふくらはぎが、にょっきりと覗く。
薄手の黒のストッキングに透ける女の脛は、ジューシィなピンク色を滲ませていて。
はた目にもひどく、美味しそうに映った。
欲しがるのも、無理はないよねぇ。
同僚の囁きに、つい頷いてしまったのは――いったいどういうことなのだろう?
吸血鬼を受け容れて、自分の血を吸わせてしまうほど、果たして私は心の寛い人だったの?
あっ、唇が吸いついて来た・・・っ。

わずかな唾液を帯びた分厚い唇が、ストッキングを穿いたふくらはぎを、ヒルのように這いまわる。
生温かくねばねばとした唾液が、薄地のナイロン生地を通して素肌にしみ込むのを、女は歯を噛みしめて我慢をした。
隣の男は寄り添うように彼女の片方の肩に手をかけ、もう片方の手は女の手を励ますように握りしめていた。
掴まえられているみたい――きっとそういう意図もあるのだろう。
そうは思いながらも。
どうやら少し変態のケがあるらしい吸血鬼が、もっとストッキングの舌触りを愉しめるようにと、時折脚の角度を変え始めてやっている。
そんな仕草をするなど、屈辱以外のなにものでもないはずなのに――
ぴちゃぴちゃ。くちゃくちゃ・・・
唾液のはぜるいやらしい音を洩らしながら。
吸血鬼はストッキングを穿いたOLの足許を辱める行為に熱中し、
女は息をつめて、脚に通した礼装をくしゃくしゃにされて、じょじょにずり降ろされてゆくのを見守りつづけ、
男は女に寄り添いながら、ほのかな交情をわきたたせはじめたふたりを、サポートしつづけていた。

どうぞ、咬んでもいいですよ。
女は思い切って、声をかける。
自分の足許にすがりついた白髪頭は、それには応じずに舐めつづける。
女は思い切って、もういちど声をかける。
お願い、ストッキング破ってちょうだい!
傍らの同僚がビクッとするのが、妙に楽しい。
彼が横顔を見つめるのを完全に無視して、
ストッキングを破りながらチクチクと咬み入れられてくる牙が皮膚を冒すのを。
女は小気味よいと感じはじめていた。

彼女、頭の悪いひとでは、ないんだろう?
吸血鬼は男に、話しかける。
女の応えは、ない。
提供可能な血を吸い尽された彼女は、同僚にもたれかかったまま、気を喪っている。
自分のまえで気を失うということは、「血をいくら吸い取ってもかまわない」という意思表示をしたのと同じ。
だから、気絶した相手から血を全部吸い尽してしまうのは当然の権利だし、
仮にそうされても文句は言えないのだ――と、彼らは言い張っていた。
まあ、血を吸い尽されたうえで文句を言うとしたら、すでに吸血鬼になってしまっているわけだけれども・・・
彼らも競争相手をむやみと増やすのは本意ではないので、今夜の彼女が最悪の結末を引き出さずに済んだのも、そういう利害に由来するのに過ぎないのだが。
彼女は頭、悪くはないですよ。むしろ、賢いほうですよ。
よく気の回る同僚なのだ、と、男はふだんの彼女の仕事ぶりを説明した。
ちょっとぶきっちょなところは、あるけどね。
そこはあんたも、ひとのことは言えないだろう。
吸血鬼にそう言いかえされて、「傷つくなあ」とはいったものの。
彼女が気絶しちゃったのは、彼女がばかだからじゃなくって・・・気前が良すぎたか、あんたに同情しすぎたのか、そのどちらかだから――と、同僚のことをかばうことは忘れなかった。

この子は、処女だ。たしかにいい子だぞ。
吸血鬼は吸い取った血を滴らせながら、そういった。
街灯に浮かぶ鉛色の横顔に、撥ねた血潮をテラテラと光らせている。
黒マントの下に着込んだ真っ白なブラウスも、赤黒い血のりを毒々しく、輝かせていた。
あー、あー、せっかくの晴れ着が、台無しですね。
いつものことだ。
吸血鬼は吸い取ったばかりのうら若い血を、手の甲でむぞうさに拭った。
女は、黒のストッキングを半ばずり降ろされながらも、まだ脚にまとっている。
男は女の足許に手をかけて、破れた蜘蛛の巣のように裂けたストッキングを、たんねんに引き剥がしにかかっている。
男が穿いている薄地の長靴下さえ欲しがる相手だった。
彼女の足許からストッキングをせしめる行為をしているあいだに彼女が目覚めないことを、彼はひそかに祈った。
ストッキングを抜き取られた女の脚が、薄闇のなかで眩しく浮かび上がる。
送っていってやれ。
吸血鬼がそういうと、男はもちろん、と、頷き返す。
しかしあんたら、案外お似合いなような気がするな。
若い男はいつかどこかで似たようなセリフを聞いたような気がしたが、あえて深く考えようとはしなかった。

この間招んだ両親は、すべてを知りながら息子の招きに応じた。
父さんは自分の息子と同じ薄い靴下を、久しぶりに穿くんですよといいながら脚に通して、真っ先に血を吸い取られて気絶した。
だんなを見捨てて逃げたりはしないよな?
そう話しかけられた母さんは、恐る恐る頷くと。
若いころそうされていったように、肌色のストッキングの脚をばたつかせながら咬まれていって。
さいごはストッキングを片方だけ穿いた脚を足摺しながら、スカートの奥に割り込んでくる陽灼けした逞しい腰を、どうすることもできなくなっていった。
それを眺めている僕は、久しぶりの親交をあたため合う両親のことを、誇らしく見守りつづけていた――ひと晩じゅう。

そして今は。
もしかすると結婚相手になるかもしれない同僚のOLが、むざむざと吸血鬼の餌食になる手助けを買って出て、
彼女もまた持ち前の気前の良さをみせ、体内をめぐる血液をたっぷりと、血に飢えた男の渇きを癒すためにプレゼントしつづけた。
きっとこの関係は、どこまでも続くのだろう。
彼女のブラウスが公園の泥にまみれ、スカートの裏地やずり落ちたストッキングに初めての血が伝い落ちる日は、そう遠くないような気がした。

オリのなかのウサギ。

2016年01月26日(Tue) 06:56:32

ライオンとウサギがおなじオリの中に入れられたら、ウサギがライオンに食われるという結果しか考えられないように。
吸血鬼と勤め帰りのサラリーマンが夜の無人駅で出くわしたら、人間が吸血鬼に血を吸い取られるという結果しかあり得ないだろう。
その不運な若いサラリーマンは、無人駅の駅舎のなか、接続の悪いバスを待ちくたびれていた。
当地に赴任して間もなかった彼も、このかいわいで吸血鬼が出没することは知っていたので。
待合室のベンチで向かい合わせに座っている黒衣の老紳士が吸血鬼だということは、直感でわかった。
というよりも。
夜とはいえはた目にも目だつ長々とした黒マントを羽織り、顔色は鉛色で、目つきばかりギラギラ光っているやつを見かけたら、それは普通じゃないと受け取るのが常識というものだろう。
やなやつといっしょになっちゃったな・・・こっちのこと、あまり気にしないでいてくれると助かるんだけどな・・・
どんな種類の人間でも、想いは同じです。
けれども残念なことに、この吸血鬼は喉をカラカラにしているようだった。
なにかを我慢したげに、手にした水筒をしきりにいじりまわして、
ふたを開けては中身を飲み干そうとしている様子。
なかに入っているのは、携行用の生き血?
それをもしかすると、飲み干しちゃったということ?
自分がうら若い乙女なんかじゃなくてよかった・・・などと安堵するのは、早計というものだろう。
男の血なんか味気ないなんて贅沢を言っているゆとりは、相手にもあまりありそうになかった。
救いが少しでもあるとしたら――吸血鬼とおぼしきその男は、脳みその欠落したモンスターみたいなやつではなくて、いちおう理性だの知性だのも備えていそうな老紳士にみえること。
けれども見かけと中身がいっしょだなどと、このさい自分に都合の好すぎることは、考えないほうが身のためらしい。
バスはまだか。早く来ないか――この駅ではいつも、30分以上待たされる。
男は持っていた文庫本を、読みふけっているふりをしたけれど。
やはりどうしても気になるのは、向かいの男。
しかもあちらも、どうやらこちらのほうを、チラチラと窺っている様子。
そしてうっかり、目を合わせてしまっていた!

あんた、この寒いのに薄い靴下穿いているんだねえ。
老紳士は唐突に、そんなことを話しかけてきた。
え?
若い男は思わず、自分の足許に目をやった。
ああ、これですか・・・
彼はちょっと言いにくそうに、言い添える。
僕もちょっぴり、恥ずかしいんですけどね。
透ける靴下なんて穿いているの、周りにはまずいませんでしたから。
でもここに赴任することが決まると、父さんがくれたんですよ。穿いてくといいって。
父さん、いま僕が勤めている会社にいたんです。
というか、不景気で済んでのことで就職しそびれるところを、コネで拾ってもらったんです。
そういえば、父さんも若いころ、こんな靴下穿いていたんですよね。
いまどきこんな靴下穿く人いないし、意味よくわかんなかったんですが、
夏場は涼しいし、うちの事務所の男性はたいがい、こういうの穿いているんですよ。
都会では、よほどの年寄りしか、穿いているの見たことないんですがね・・・
いつになく饒舌になっている自分を訝りながら、それでも会話をしていると恐怖を忘れることに、少し安堵していた。
案外、世間話で切り抜けられるかもしれない――と。
けれども見通しは、甘くはなさそうだった。
老紳士は気の毒そうにいった。
そうそう、バスね、急に運休になっちゃったらしいよ。運転手が急病で、代わりがいないんだってね。
え・・・?
男は凍りついたように、老紳士を視た。

そういうわけで、きみはわしに血を吸われるしかないみたいだ。気の毒だったね。
えっ・・・あの・・・あの・・・そんな・・・えぇと・・・
恐怖で腰が抜けてしまったのか、若い男は身動きもできなかった。
気のせいか、ワイシャツの襟首から入り込む冷気が、スースーと肌寒い。
俺もこいつみたいに、冷たく鉛色の肌にされてしまうのか――
にじり寄ってくる老紳士を目のまえに、若い男はみじろぎもできず、拒否の意思を伝えるためにただ激しくかぶりを振るばかりだった。

首すじからは、やめておこう。
きみは初めてのようだし、暴れると血がワイシャツに撥ねるからね。
わしも、派手なまねは慎みたいんだ――
老紳士はそういいながら、若い男の足許にかがみ込むと、スラックスのすそをつかんで、ゆっくりと引き上げていった。
薄い靴下に透ける脛が、じょじょにあらわになってゆく。
濃紺の薄地のナイロン生地は、駅舎の照明を照り返して、微妙な光沢を放っていた。
男ものにしちゃ、ずいぶん色っぽいんだね。
老紳士は、フフフと笑う。
どういうんですかね・・・仰る通りですね。
若い男はかろうじて理性を保った応えを返しながら、ふと思い出す。
このあたりで吸血鬼に襲われるのは、老若男女区別がないけれど、不思議な共通点があることを。
吸血鬼は好んで、脚に咬みつくという。
襲われたのは、サッカー少年や学校帰りの女子高生。
勤め帰りのOLに、買い物途中の主婦、お通夜帰りのおばあちゃんまで。
ライン入りのサッカーストッキングに、通学用の紺のハイソックス。
肌色やねずみ色、濃紺や黒のストッキング。
だれもが老若男女の区別なく、穿いているストッキングやハイソックスを、咬み破られていたという。
この吸血鬼がその本人だとしたのなら――自分の穿いている靴下は、じゅうぶん条件に合いそうな気がした。
そんなことがきっかけで、狙われちゃったのか?
若い男の思惑などとんじゃくせずに、老紳士は薄い靴下のふくらはぎを目のまえに、舌なめずりをくり返している。
あの――血を吸われると、死んじゃいますよね?そのあと吸血鬼になっちゃうんですか?
ばかばかしい。
老紳士はほくそ笑んだ。
口許から洩れる呼気が、薄いナイロンを通して脛に当たる。
そんなことをしたら、エサはなくなる、競争相手は増える、ろくなことはないではないか――
なるほど。若い男は妙に納得した。
そういえば。
襲われた連中はなにひとつ変わりなく、なにごとも起きなかったような顔をして、いつもの通勤通学の車内で、顔を合わせているではなかったか。
迷惑だろうけど、ちょっと愉しませていただくよ。
上目づかいにこちらを見あげる吸血鬼に、もはや逆らうすべはなかった。
あ・・・よかったらどうぞ――
震える声で、思わずそう呟いてしまうと。
すまないね。
有無を言わさぬ強い語気で老紳士は呟いて、薄手の長靴下のうえから、舌を這わせてきた。
ぬめり・・・ぬめり・・・
生温かい舌を、いやらしく擦りつけられてきて。
薄手のナイロン生地はじわじわと、いびつなたるみを走らせてゆく。

気がつくと、もう片方のスラックスも、すそを引き上げられていた。
先に咬まれたほうの脚は、ずり落ちかけた長靴下に、裂け目をいく筋も、走らせてしまっている。
老紳士が愉しんだ痕だった。
なすりつけられた唾液がまだ生温かく、生地に沁みついている。
もう片方の靴下も、舌触りを愉しむようにして、いたぶり抜かれていった。
血を吸うのと。靴下をいたぶるのと。こいつにとってはどちらも、愉しいのだろう。
そう思わずには、いられなかった。
すまないね。悪いね・・・
老紳士は呟きをくり返しながらも、薄い靴下に舌を這わせ、牙をあてがい、咬みついてくる。
チクチクと刺し込まれてくる尖った異物が、いつの間にか快感を帯びた疼きを滲ませるようになっていた。
痛くないぢゃろ?
上目づかいの老紳士に、知らず知らず頷き返してしまう。
口許には、吸い取られたばかりの自分の血が撥ね散らかされているというのに。
むしろそんな光景さえ、眩しく映る。
ああ、どうぞ。こっちからも・・・
男が吸いやすいように、時折脚の角度を変えて、内ももやふくらはぎを、交互に咬ませてしまったりしている自分を訝りながら、若い男は自分も愉しみはじめてしまっていることを、いやでも自覚した。

そういえば父さんも、この街にいたときには顔色が悪かった――ふと思い出した過去の事実。
ほかに行き場はないのか?そうも訊かれたっけ。
仕方ないわねぇ。母さんが眉を寄せて父さんと顔を見合わせたのは、きっとすべてわかっていたからだろう。
この男はかつて、父さんの血を吸ったんだろうか?案外母さんも、吸われていたんだろうか?
仮にそうだったとしても、口の堅そうな老紳士が過去の交友関係を軽々と明かすようには、思えなかった。

悪いね。靴下チリチリにしてしまって。
老紳士は長靴下をみるかげもなく咬み破ってしまったことにはわびを言ったけど。
彼の血を吸い取ったことには、謝罪のかけらもみせなかった。

どうやら、オリのなかのウサギにはならずに済むらしい。
会話の通じる相手。共存できる相手。
都会の冷酷な上司や同僚たちよりも、どれだけましか、知れやしない。
父さんもそう思ったから、この土地に長くいたんだ。
僕が年頃になるまえに都会に戻ったのは、希望してそうしたんじゃない。
たぶん――僕に選択の余地を残したんだろう。
真人間として都会で生きるか。自分と同じように、吸血鬼の奴隷になり下がるのか。
でも彼はもう、いまの気持ちを恥ずかしい選択だとは感じていない。
奴隷じゃなくて――友だちってことでも、いいですか?
いつもの爽やかな目つきに戻って、白い歯をみせる青年に。
吸血鬼はゆっくりと、頷いている。
そのうち、きみの父さんや母さんも、連れてくるといい。
そうですね。それ、いいかもですね・・・
若い男は無邪気に、頷き返していた。
セックス経験のある女性とは、性交渉まで遂げてしまう――
そんな話も、わかっているはずなのに。


あとがき
長いわりに色気のない話で、ごめんなさい。(^^ゞ

世代は移る。

2016年01月24日(Sun) 09:55:17

子供のころに血を吸われて、吸血鬼になった。
父さんも母さんも血を吸わせてくれたけど――それだけではまだ、もの足りなかった。
だってその年ごろは、食べ盛りなんだから。
クラスの子を襲うなら、男の子だけにしなさいね。
いつも僕に血を吸われるたびに、スカートをめくられパンツまで脱がされてしまう母さんは。
恨みを買わないように――と、いつもそうつけ加えていた。
父さんのことは、だいじょうぶだから。相手が息子なら、まだ耐えられるって言っていたから。
破けたストッキングを脱ぎ捨てて、くずかごにむぞうさに放り込むと、あとから取り出して、裂け目を確かめて愉しんでいた僕は、
はやく中学に上がって、周りの女の子たちが黒のストッキングを履くのを、楽しみにしていたけれど。
それはあっさりと、おあずけになった。
その代わり。
クラスの男子たちはだれもが親から言い聞かされていて、協力的だった。

男の子は、だれもが半ズボンにハイソックスを履いていた時代。
だからといってべつに、女っぽいやつなんかいなかった。
だれもがいさぎよく、ハイソックスの脚を差し出して。
きょうはお前に咬まれると思って、履いてきたんだ・・・って、いいながら。
赤のラインが2本入った、ねずみ色のやつとか。
白地にひし形もようの入った、ちょっとおしゃれなやつとか。
なかにはストッキングみたいにスケスケの、真っ白なのを履いているやつもいた。
僕に咬まれるまえには、だらしなくたるませて履いていたハイソックスを、
だれもがきりっと引き伸ばして、見映えがするようにって、教室や廊下やベンチのうえにうつ伏せに寝そべって。
しなやかなナイロン生地のうえから、よだれの浮いた唇を吸いつけて、
その唇の両端からむき出した牙を、ズブズブと埋め込んでいった。

この街では、うんと若いうちに、結婚相手を親が決める。
友だちのなん人かは、そうして決められた彼女を連れて、おずおずと僕の前にやって来る。
女子の履いているストッキング、関心あるんだろ?俺の彼女でよかったら・・・
だれもがそういって、未来の花嫁を僕と二人きりに置き去りにしてくれた。
さいしょはむっつりと押し黙っていた彼女は、
上目づかいで怖々と僕のことを窺って。
足許にすべらせる唇を、うろたえながら避けようとして。
いやらしいよだれの浮いたべろを両脚になすりつけられてしまうころには、もう観念して目をつむって。
しまいには、ブチブチ、ぱりぱりと音を立てて、薄手のストッキングを見る影もなく咬み破られていく。

大人になったころ。
僕にはなかなかお嫁さんは来てくれなかったけど。
子供だけはもう、なん人もできていて。
その子たちが大きくなると、
男の子はサッカーストッキングを履いて、
女の子は学校に履いていく紺のハイソックスを脚に通して、
息をはずませて、僕の家へとやって来る。
父さんや母さんには、黙っていてね。
そういいながら、善意と共に差し出される脚たちに、
僕は淫らな接吻を、くり返してゆく。

やだ。近親相姦になっちゃう。
僕の腕のなかで、なん人の女の子がそういって、口を尖らせたことだろう。
はだけたブラウスから覗く、ピンク色をした乳首を。
くしゃくしゃにたくしあげられた制服のスカートのすき間から覗く、真っ白な太ももを。
息をつめて見守る、婚約者の男の子たち。
じつは半分血のつながった兄妹だと、どこまで気づいているのだろう?
僕はそんな男の子たちのまえ、我が物顔で腰を使って。
少女たちはされるがままに、激しい動きに応えてくれて。
男の子たちはひたすら股間を抑えて、場の雰囲気を愉しんでしまっている――

法事は情事?

2016年01月24日(Sun) 09:34:28

法事の手伝いに来てくれないか?奥さんだけでも。
この村でそんな誘いを受けたなら。
奥さんを姦らせろ――そう言われているのと、同じこと。
けれどもこの村に棲んでいるもので、そんな誘いをむげにするものはいない。

妻だけを行かせる夫は、
いいから俺の視ていないところでやってくれ。
という、ちょっとむっつりな黙認派。
ふたりで出かけていく夫は、
ふたりのアツいところ、のぞき見させてもらってもいいかな?
という、ちょっと助平な公認派。

今週の法事なんだけど・・・ぜひご主人も!
この村でそんな誘いを受けたなら。
お前のまえで女房を姦らせろ――そう言われているのと、同じこと。
けれどもこの村に棲んでいるもので、そんな誘いをむげにするものはいない。

奥さんは股間を疼かせながら。
だんなまで股間をおっ勃たてながら。
お互い言葉もろくに交わさずに、いそいそ寺へと出かけてゆく。

法事は情事――そんな陰口さえたたかれるこの村で。
法事はどこかの家で持ち回りで、毎週のように・・・愉しまれる。

おっ・・・大人をからかうもんじゃありませんッ!

2016年01月14日(Thu) 22:17:57

「おっ・・・大人をからかうもんじゃありませんッ!」
嫌がる久美子叔母さんのひざ小僧を抑えつけて、ボクは叔母さんのふくらはぎにかじりつく。
通勤用のスーツのスカートのすそから覗いた脚は、肉づきたっぷりで、
吸血鬼になったボクの目からみると、熟れた果物と同じくらいの価値がある。
「ダメでしょう。いけないでしょう。私はかりにも、あなたの叔母さんなんですよ!」
久美子叔母さんは気丈にも口で反撃を試みるけれど、ボクには痛くもかゆくもない。
肌色のストッキングを穿いた脚に、なん度も唇をしゃぶりつけちゃっている。
いつも気が強くて厳しい久美子叔母さんのストッキングは鋼鉄製かと思っていたけれど。
意外にもなよなよと頼りなく、女っぽかった。
それがボクのことを余計に昂奮させて、嗜虐心に火をつけた。
べろを下品に這わせてさんざんいたぶった薄地のナイロン生地は、
みるみるよじれ、よだれでぐしょぐしょに濡れて、
破れ落ちてくしゃくしゃになってたるんで、脛からずり落ちてゆく。
「もうッ!嫌ッ!」
叔母さんはヒステリックな叫び声をあげた。

叔母さんは、誇り高いキャリアウーマン。
ブランド企業の管理職をしていて、その収入と肩書と、余計なプライドのおかげで・・・
こないだ離婚して、姉である母さんのいるこの実家に、出戻りになって来ていた。
二階の離れた部屋を占拠して、そこから勤めに出る毎日。
母さんとは違うばりっとしたスーツ姿に、ボクの目が釘付けになったのは、いうまでもない。
久美子叔母さんが家に来た頃は、内気で気弱なボクだったけど。
吸血鬼の小父さんに血を吸われてからは、そうでもなくなってきている。
クラスの女の子の大半は、一度はボクに血を吸われていたし、
そういうのを厳しく取り締まらなければいけない立場の担任の永沢先生まで、足許にまつわりつくボクのおかげで、ストッキングをもう何足もだめにしている。

「こっ、子供のくせにっ!」
叔母さんはそういっていきどおるけど。
半ズボンにハイソックスを履いているからって、子ども扱いしたら大間違いだよ。
ボクは久美子叔母さんの穿いているストッキングをあちこち咬み破って愉しみながら。
わざと音をチュウチュウ立てて、叔母さんの血を吸い取っていった。
叔母さんのふくらはぎは、母さんのみたいに筋ばってはいなかったけど。
けっこう逞しくって、歯ごたえがあった。

足許からチュウチュウ血を吸い取られた久美子叔母さんは、貧血を起こしてぐったりとなる。
大人の女のひとがボクの魔術に屈する瞬間。
これが愉しくて、大人の女をつかまえて、血を吸っているのかも。
でも唇についた久美子叔母さんの血は、ひどくねっとりといやらしく、唇にまつわりついてきた。
識ってる男も、ふたりや三人じゃないな。それも結婚してからもやってる。
そんな子供らしからぬ感想は決して口にしないで、ボクは叔母さんの血を愉しみつづけた。
叔母さんが「もうダメ・・・」と呟いて、ほんとうにぐったりとしてしまうと。
こんどは首すじに、とりかかる。
まだ人を襲うことに慣れていないボクにとって、太い血管の埋まった首すじを咬むのは、まだひと仕事だったから。
相手が抵抗をやめてから、おもむろに咬みつくことにしていた。
血が勢いよく飛ぶので、飲める血の量よりブラウスに撥ねかるほうが多かったりして、もったいないからだ。
叔母さんの首すじは皮膚が厚く、大人の女のなまぐささを感じる。
すっかりノビちゃった叔母さんは、ボクが両方の牙を首すじに咬み入れても、まるきり無抵抗だった。

吸い取った血を口に含んだまま、そのいくらかをわざと、ブラウスの上にしたららせてみる。
叔母さんの血はボクの口許からぼとぼとと落ちて、真っ白なブラウスのうえには持ち主の血で赤黒い花がいくつも咲いた。

はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
叔母さんは肩で息をしている。
母さんが戻ってこないうち、征服しちゃおう。
どす黒い欲望が、はじめて鎌首をもたげた。
ボクのいけない意図を瞬間で察したらしく、力の抜けた腕で必死に抗おうとしたけれど。
ボクはもう、母さんと担任の永沢先生とで、大人の女性の身体を識っている。
抵抗はすぐに止んで、なにも感じまいとして意固地に身体をこわばらせる叔母さんのスカートを、ボクは腰までたくし上げていた。
もどかしい手をもぞもぞさせて、ショーツを足首まですべらせて。
ゾクッとするほど濃い茂みの奥に、狙いを定めると。
ボクは手探り・・・いやちがう、ナニ探りっていうんだろう?
もたげた鎌首をすり寄せて、久美子叔母さんの太ももの奥を、こじ開けにかかった。
「こっ・・・子供のくせにぃ・・・」
悔しそうにうめく叔母さんに、ボクは心の中でつぶやいている。
だから叔母さん、それ反則だって。その言葉は禁句なんだって。
そういうことを考えてるから、ボクが荒れるんだよ。

学校に帰ってから夕暮れまでが、いつもよりずっと、早かった。

夜になって、すごく満ち足りた気分で、勉強部屋でひとりでいると。
ドアをノックする音がした。
母さんだったら、さっき淹れたての紅茶を乗せたお盆を持ってきて。
ついでにエプロンをはずして、一発やらせてくれたあとだった。
だれだろう?と思ってドアを開けると、ネグリジェ姿の久美子叔母さんがいた。
叔母さんは息荒く、ボクに迫ってくる。

いやらしい毒を、あたしの身体に入れたでしょう?
いいわよ、もう。大人の女の味を、ひと晩たっぷり、味わわせてあげるから・・・

セックスはもう、何回となくしちゃっていたけれど。
その晩ボクは、初めて男になったような気がした。

帰り道でのお願い。

2016年01月13日(Wed) 07:44:47

きっ・・・吸血鬼!
道行く女の子はだれでも、彼を視るとそういって立ちすくみ、
まるで申し合せたようにだれもが、両掌で口許をおおった。
そしてだれもが、やはり申し合せたように、口許をおおった掌を合わせて懇願した。
お願いします!きょうだけは見逃してくださいっ!あしたまで、中間テストなんですっ。
男は、またか、と言いたげに口をへの字に曲げ、それでも女の子に道を譲って、帰り道を急がせてやった。
なん人めかの少女だけは、反応が少し違っていた。
白目を光らせて男をキッと見返すと、いった。
通してください。困るんです。
お宅の学校、テストらしいね?
男は冷ややかに、そういった。
はい。
少女は気の強い性格らしい。必要以上に口を開こうとはしなかった。
それでも少女は、約束してくれた。
喉が渇いて困っているんですよね?明日になっても解決しなかったら、声掛けてください。対応しますから。
まだ制服姿のくせに、社会人のようなこましゃくれたことを言う。
男は内心そう思ったが、それでもやはり、ほかの女の子たちと同じように、その少女も通してやった。

一日後。
木枯らしが通り抜ける路を、男は凍えた顔つきでうろついていた。
やはり案の定。
女の子たちはだれもが帰り道を変えたらしく、いつもいくたりとなく見かける制服姿は、まったくみられない。
お人好しもたいがいにしろよな。
自分で自分を嘲って見せるのだが、その嘲りはただ、自分にはね返ってくるだけだった。
コートの襟を立てて、男はきびすを返す。
たぶん今夜こそ、寿命が訪れるだろう。
いいじゃないか。ひとに害毒しか流すことのできない立場だ。
そうなるほうが却って、世のためになるのじゃないか。
世のためになる。
およそ自分にふさわしくない形容を、男はせめてもの虚勢で、鼻で笑ってみる。
そろそろ女学生など、通らなくなる時分だ。
そして、人のそう多くは住まないこの街で、このとおりを勤め帰りのOLが通らないことも、男はよく知っている。

あの。
冷たい闇の向こう側から、声がした。
年若い女の声だった。
その声が自分に向かってかけられるのに、しばらく時間がかかった。
少女は三度、「あの」と口にした。
決して温かみのある声ではない。むしろつっけんどんで、尖った声だった。
三度めは、「気がつかないなんて、ばかじゃないの」と言いたげな響きさえ、帯びていた。
振り向くと――少女の白い顔には、見覚えがあった。
夕べ、ひとりだけほかの子たちとはまったく違う応対を示した少女。
「通してください」とだけ言った、あの気の強そうな少女だった。

きょうは、だれも通らないのね。みんなにすっぽかされちゃったのかしら。
少女はからかうように、男の前を思わせぶりに横切って見せた。
白くて柔らかそうな首すじを、肩まで流れる黒髪のすき間からちらちら覗かせて。
伸びやかで血色のよさそうなふくらはぎを、黒のストッキングにほんのりと透きとおらせて。
きのうはすっぴんだったはずだが――唇には淡く紅さえ刷いているらしかった。
どうやら、そうらしいな。
男は少女の挑発を無視して、意地悪な問いに対する答えだけを口にした。
かわいそうですね。今夜だれかの血を吸わないと、死んじゃうわけ?
朱を刷いた唇から、歯並びのよい真っ白な前歯が、ちらりと覗く。
そうかも知れないな。
男はなおも、乾いた声。
・・・焦っちゃう?
いや・・・それでもいいと思っている。
男はだんだん、投げやりな気分になっていった。
ずいぶん自棄(やけ)なのね。
少女は男の心の奥を見透かすようなことをいう。
世のため人のため・・・ってこともあるだろうからな。
さすがにそこまでは、心にもないことだった。
少女はぴしゃりと言った。
いい加減にしなさい。
男ははじめて、少女の視線をまともに受けた。
それでも、生きなくちゃいけないの。
人を死なせたことないんでしょ?少女はそう、言い添えた。

弟が、助けてもらった。
悪いやからに取り囲まれて、カツアゲされそうになったとき。
助けてくれたのは明らかに、吸血鬼だった。
数日前に襲われて、血を吸い取られたとき、顔を視てしまったから、それとわかった。
あのときの礼だ。
男はそう言い捨てて、弟を自宅の近くまで送ると、踵を返して立ち去ったという。
だからこんどは、あたしがお礼する番。
少女はキビキビとそう告げると、近くの公園へと男を招いた。
自分の冷たい手を握って引っ張る少女の掌が、柔らかく暖かだった。

首すじはやめて。
少女は男を、軽くにらんだ。
髪の毛切ったばかりだから。痕が目だっちゃう。
脚だったら、咬ませてあげてもいい。ストッキング破るの、好きなんでしょ?
少女はからかい口調に戻って、黒のストッキングの脚を半歩前に出して、男に見せびらかした。

ベンチのうえに寝そべろうとする少女の下に、男はマントを脱いで、敷いてやる。
意外に親切なのね。
少女は「意外に」に、力点を置いた。わざとのように。
すんなりと伸べられた足許ににじり寄った男は――その瞬間獣にかえった。

発育の良いふくらはぎの周りに整然と張りつめた薄地のナイロン生地が、いやらしいよだれにまみれた。
うひっ・・・うひっ・・・
男はいやらしいうめき声を発しながら、欲情にまみれた唇を通学用のストッキングの脚になすりつけ、
ピチャピチャ、クチャクチャと、音を立ててなぶり抜いた。
少女はさすがに顔をしかめて、べそを掻きそうになるのを必死にこらえていた。
なん度めか、しゃぶりつけた唇を、強く吸いつけて。
口の両端からむき出した牙を、柔らかなふくらはぎに、おもむろに埋めてゆく。
ブチブチ・・・ッ。
薄手のストッキングが、ちいさな音をたててはじけた。
唇の下で、薄手のナイロン生地に走った裂け目は縦に伸びて、つま先からスカートの奥にまで広がった。
くちゅ・・・くちゅ・・・
唇をなん度も擦りつけながら血を啜るたび、裂け目は太くなり、白い脛を露出させてゆく。
もう片方の脚にも、容赦なく凌辱を加えた。
吸い取った血潮と引き換えに、淫らな毒液をたっぷりと、少女の血管に流し込むと。
男は初めて、少女の身体から顔をあげた。
みじめに打ちひしがれた少女の横顔に、ほんのりと淫蕩な色が浮かぶ。
ククク・・・吸血鬼をばかにすると、こうなるのだ。
吸い取った血を牙から滴らせながら、男はそう思った。
いっぽうで。
わずかながら残った理性が、あとで抱くはずの後悔を警告したが――いまはそんなことは、もうどうでもいい。
血を抜かれ、ぐったりとなった身体を、少女が緩慢に起こそうとするのを、男は手助けしてやった。
気分はどうかね?

すぐれないわ。とても、すぐれない。
失血に蒼ざめた顔を見せまいとするように、少女は男から視線を遠ざけつづけた。
辱められた足許に、薄黒いストッキングがむざんな伝線を幾すじも走らせている。
ひどいのね。
無言の批難を、男は静かな気持ちで受け止めた。
さっきのどす黒い衝動と、見さげ果てた征服欲とは、去りかけている。
家まで送る。
男はぶっきら棒にそういって、少女の手を取った。
握りしめた少女の掌は、公園に入るときとは裏腹に、自分のそれよりも冷え切っている。
気が済んだ?
見あげてくる少女の視線は、夕べと同質の鋭さをたたえていた。

不当に吸い取ったうら若い血液が、男の身体をめぐりはじめていた。
それは干からびていた体内をゆるやかに解きほぐし、いやがうえにも心の奥までも解きほぐしていく。
男が得た体温は、少女の掌にも伝わった。
ぎゅっと握りしめた掌に、呼び返すように、少女の掌もまた、握りかえしてきた。
じゃあここで。
男が立ち去ろうとするとき、少女は思った。
弟もきっと、こうだったに違いない――
「考えてみれば、きょうだいそろって血を吸われちゃったんだね」
軽い毒を含んだ声色。
知性を秘めた冷ややかな響きが、男の耳に心地よかった。

あんたには、俺の毒は効かないらしいな。
半分は敬意。半分は悔しさを隠して、男はいった。
そうでもなかったよ。
少女はふたたび、白い歯をみせた。
こんど、お友だち連れてきてあげる。でも、ひどいことしたら許さないからね。
わかった。感謝する。
それ以上いっしょにいると、なにかよけいなものがこみ上げてきそうだった。
男はきびすを返して、立ち去りかけて。
もういちど、少女のほうを振り向くと――両腕で固く固く、抱きしめていた。
助けてもらった。救ってもらった。感謝するよ――
顔を視ないと素直になれるものだ。
男は自分の卑怯さを、自分で笑った。


この街、吸血鬼に征服されかけてる。
遅かれ早かれきっと、みんな血を吸われちゃうに違いない。
そういえば。
街はずれの通学路に、お人好しの吸血鬼が出没するってきいた。
お願いって手を合わせてお願いすると、見逃してくれるんだって。
それをいいことに、ほとんどみんな逃げちゃってるけど。
どうせ咬まれるなら、そういうひとのほうが、いいんじゃない――?
そんな囁きを、どこかで耳にしたような気がする。
あるいは明日、教室のどこかで。
自分もまた、同じことを。
級友たちに囁いているのかも。
少女はくすっと笑い、唇の端に覗いた、早くも生え初めた牙を、指先でなぶってみた。


あとがき
中途半場に悪堕ちなお話になりました。 ^^;
理性と知性をとどめながらも、そそぎ込まれた毒液にほんのりと支配された少女。
でもやはり、吸血鬼はきっと彼女には頭が上がらないでいつづけるような気がしますね。 ^^;

女事務員の血 -3-

2016年01月11日(Mon) 19:54:11

吸血鬼の侵入を受けるようになってから、事務室の机の配置が変わった。
もともとは、生徒向けの窓口に向けて二列に横向きに並んでいたのが。
室内にカウンターがひとつよけいに配置され、生徒たちからの視界を遮っていた。
血をあやした女子事務員の足許を見られないためである。
事務室の一番奥には、パーテーションでかなり広いスペースが仕切られている。
そこでは、男子生徒が気づいたら、目の色を変えそうな光景が繰り広げられていた。

初川は鈴尾のところにきて、ぶーたれた。
「・・・ったく、お前がよけいなものを引き込むからだぞ。佳奈美がオレとデキてること、みんなにバレバレじゃないか」
バレバレだったのは元からなんだよ・・・という返しを危うく呑み込んで、鈴尾はもっともらしく相槌を打った。
「桑江はちょっと、気の毒だったな」
「ま、同情無用だけどね。いきなり吸血鬼ふたりに犯されたのに、つぎの日ちゃんと出てきたもんな」

すでに血を吸われてしまっている初川も、彼女が血を吸われたり犯されたりすることに、ある程度は寛容になっているようだ。
それはほかの男子事務員たちも同じのようで、
初老の事務長は自分の血を吸い取って昏倒させた男と意気投合して、その日の夕食には彼を自宅に招(よ)んでいた。
一家団欒と夕食の場が、吸血鬼が一方的に人妻や生娘相手にありつく夕餉の場と化したのは、いうまでもない。
事務長のすぐ下の、40代の主査の男も、たまたまその日は結婚記念日だったのだが、
永年連れ添ってくれた妻へのお礼に、情婦を世話する羽目になっていた。
彼らは、セックス経験のある女性には容赦なく、血を吸って抵抗の意思を奪うと、むぞうさに犯していったのだ。

「お前、中屋とはまだだったんだな。ずるいぞ」
中屋は佐恵子の苗字である。お互い、相手の恋人の名前は苗字で呼び合うことにしている。
ずるいというのは、みんなの前で犯されたのが自分の恋人だけだったことを意味するのだろう。
でも、果たして初川の批難をどこまでまともに受けてよいものか。
いま、その佐恵子は、初川の彼女である桑江佳奈美といっしょに、ついたての中にいる。

佳奈美はさっきから、男三人を相手に、くんずほぐれつの真っ最中だった。
首すじや脚やおっぱいまで咬ませては、順ぐりにセックスにも応じていたのだ。
トレード・マークのミニスカートは、きょうは純白だったけれど。
スカートの中身はもっとエッチな色に染まっているはず。
しゃなりしゃなりと穿いてきた光沢入りの透明なストッキングは初手からブチブチと破かれて、いまはそのなごりが足許にまとわりついているだけだった。
廊下の前を生徒が通るたびに、男たちの吶喊がくり返される。
佳奈美は声をあげまいと、必死に歯を食いしばる。
男どもは佳奈美ちゃんの声を聞きたいと、ここを先途と責めたてる。
ばれてしまってはお互いまだ具合が悪い段階だから、じっさいにはすれすれの寸止めである。
声をこらえるぶん、佳奈美の身じろぎはいっそうあからさまになって、それがまた男どもをそそるのだ。

ベテラン女性たちは既婚者だった。
彼女たちはさすがに肝が据わっていて、パーテーションの裏側に引き込まれても、
「若い子といっしょじゃ、気が引けるわよねえ」
とか言いながらも、ブルーの事務服の下にわざと露出の多い服を着込んできて、ばっと見せびらかせて反応を愉しんだりしている。
「あっ、和藤さんのおっぱい、あたしよりも大きい♪」
なんて言いながら、同年輩の同僚とたわむれあっているところなどは、さすがに貫禄といったところなのだろう。

佐恵子は、そのどちらでもなかった。
まだ処女だったので、たとえ佳奈美といっしょに床に転がされても、犯されることはなかった。
相手はほとんどの場合、最初に襲われたあの男だったが、たまに相手がすり替わるときもあった。
男が、女とのセックスを望んだときだった。
そんなときでも、男と入れ替わりに佐恵子の上にまたがる吸血鬼は、彼女を犯そうとはしなかった。
男の目が光っているといこともあったのだろうが、仲間の獲物は決して横取りしないという、彼らなりの仁義もあるようだった。

隣で男に犯されている佐恵子やほかの女性たちを横目で窺いながら。
犯されながらもよがり続ける同僚たちのようすを気配で感じながら。
男に制圧されてゆく自分自身が、いやでも二重写しになってしまう。
いつか自分も、そうされるときがくるのだ――と。
セックス経験のある女性は容赦なく彼らに犯されてしまうわけだし、
佐恵子はもうじき、鈴尾との結婚を控えていた――

               ―――――

学校の事務室が吸血鬼の楽園と化して2週間ほど経ったころのこと。
いつもハイソックスを履いて来る佐恵子が珍しく、肌色のストッキングを穿いてきた。
「お宅の彼女、ハイソックス全部咬み破らせちまったのかよ」
初川が小声で、陰口をたたく。
「あのひとのリクエストだってさ」
たまにはあの薄々のストッキングを穿いてこないかい?と彼に言われたのだ。
「そう」
初川は不機嫌そうに黙った。
中屋はなんでも、話してくれるんだな――不機嫌の向こう側には、そんな羨望がわだかまっていう。
初川の彼女はこのごろ、初川に無断で吸血鬼に逢っているらしい。
彼女たちにも「お得意様」がいて、桑江佳奈美の場合にはさいしょに咬まれた男がその相手のようだった。
たしかに、訪問を受けたときに”ご指名”をもらう頻度も、佳奈美が圧倒的に多い。
セックスのできる若い女子事務員は佳奈美だけだったので、よけいそういうことにもなったのだろうが、
初川のライバルはほぼ決まって佳奈美を指名していた。
佳奈美もまんざらではないらしく、彼に指名をされるときには、パーテーションの向こうから這い出てくるまでの時間が目だって長かった。
いまも、佳奈美はパーテーションの向こうにいる。
初川はそういうときは仕事が上の空になるらしく、神経質そうにチラチラと様子を窺っているのだ。

鈴尾も、佳奈美といっしょにパーテーションの向こう側にいる佐恵子のことを気づかっていた。
いまごろは。
さいしょに鈴尾を制圧してこの事務室への切符を手に入れたあの男が、佐恵子の上にのしかかっているはずだったから。
鈴尾は何を思ったか、スッと起ちあがると、パーテーションのほうへと、近づいていった。
あられもない光景が、目の前に広がっていた。

事務服のジャケットを着たまま、佐恵子はブラウスをはだけられていた。
肩には鋭い爪で断ち切られたブラジャーの吊り紐が、まだ残っている。
男は、むき出しになった佐恵子のおっぱいを、片方を揉みながら、もう片方の乳首を口に咥えている。
唇の奥で器用な舌先が、彼女の乳首をチロチロと刺激しつづけているのは、みなまで視なくてもそれとわかった。
「どうだ?どうだ・・・?」
男の責めになんと応えたものか、佐恵子は目を瞑った顔をそむけながら、歯を食いしばってかぶりを振っている。
横顔は引きつり、長いまつ毛がピリピリと神経質に震えていた。
「あの、ちょっと・・・」
思わず声をかけたのが、いけなかった。
顔をあげた佐恵子は恋人の姿をみとめると、羞恥に耐えかねたのか、パッと顔を両手で覆ってしまった。
「いけませんねぇ」
吸血鬼はこちらをふり返り、鈴尾をたしなめた。
どこまでも冷静な口調だった。
「御覧になったら彼女も、緊張するじゃないですか」
けれども鈴尾は、なにかに突き動かされているかのようにふたりのほうへと近寄ると、彼女の耳もとにかがみ込んで、囁いた。
「もう、構わないから――」

ひと言で、すべてが解凍されていた。
足首まで降ろされたショーツに。スカートの奥に見え隠れするスリップに。ずり降ろされたストッキングに。
吸い取られるのとは違ったことで流された血が、かすかに撥ねた。
淫らな輝きだと、鈴尾は思った。
肌を擦り合わせ、まさぐりを深められることで、佐恵子の感受性はとっくに、開花していたのだ。
彼女が必死に声をこらえたのは、廊下を行く生徒の気配がせわしくなったからだろう。もう昼休みだった。
職場セックスの常習犯になり果てていた桑江佳奈美さえもが、生真面目な同僚の抑制した媚態に、目を見張っていた。
事務室のだれもが、鈴尾の過剰なサービスと佐恵子の初々しい羞恥とに魅了されて。
すべてが果てると、ささやかな拍手が周囲を包んでいた――

               ―――――

「だいじょうぶだよ。結婚は初川とだから」
吸血鬼との行為のあとパーテーションの向こうから出てきた佳奈美は、無邪気に笑いながらそういった。
全裸の身体に、スカートだけ着けて。
ブラジャーをはぎ取られたおっぱいを、誇らしげにぷるんぷるんとさせて。
言われた初川は、目を丸くして凍りついていた。
生徒からまる見えじゃないか・・・
でもこの時分には、もう生徒たちさえもが、侵蝕され始めてしまっていた。
そして、校内で真っ先に陥落したのが事務室だということも、公然の事実になってしまっていた。
「だから、いまさらいいの」
佳奈美は白い歯をみせて初川にそういうと、
窓口のカウンターに群がってこちらに視線を釘づけにさせている生徒たちに、「やっほー♪」と、手を振った。
「寿退社なんですってね。おめでとう」
ベテラン女性のひとりが、佳奈美にまっすぐな祝福をする。
「惜しいねえ。きみにはもっといてほしかった」
本気で惜しがっているはずの事務長は、
「佳奈美ちゃんのときには事務長、いつも覗いてましたよねえ?」
って、べつのベテラン女性に、いつものささやかな愉しみを暴露されてしまっている。
「これからは彼がいっしょうけんめいお仕事がんばっている最中に、彼と浮気に励むから♪」
能天気な佳奈美は、恋人のツボをよく心得ている。
「気が向いたら、パーテーションのなかも使いに来なよ。
 あっ、そうそう。初川のお母さん未経験者だから、引きずり込むといいよ」
いつ果てるとも知れない嬌声の応酬に閉口したのか、初川は「おい」と、鈴尾を小突いた。

「お前んとこ、うまくいってるのか?」
「いってる。イッてる。あいつ、しょっちゅううちに泊まりに来るしさ」
「夜もかよ」
「ウン、あいつが抱かれてるの視てると、つい昂奮しちゃってさあ」
「お前、マゾだな?」
「佳奈美が抱かれるのを見て昂奮してるやつに、言われたかないね」
「まあ、お互いさまだな。でも、人は見かけによらないもんだな。
 あの生真面目な佐恵子が、あいつといっしょのときにはノリノリになるんだもんなあ」
互いの恋人のことを苗字で呼び合っていたふたりは、いまでは下の名前で呼び捨てにしている。
くり返し血を吸われているうちに少量だけ血を吸う癖がついてしまっていた二人は、
相手を取り替え合って、血を吸い合う時間を持つようになっていた。
そう――吸血鬼はセックス経験のある女性の血を吸うときは、身体までも愉しんでしまうのだ。
「けど、佐恵子のこと考えて、妬けない?」
「妬けない妬けない。あいつ、いつでも周りの人を悦ばそうとしんけんなんだ」
「まったく・・・幸せなやつだな」
「初川も、もうじき幸せになるんだろ?」
「そうだな・・・」
初川は窓の外に広がる空を見あげた。
淫靡なことを語るには似つかわしくないはずの、青々とした空。
あの明るい太陽の下で、ふたりの若妻を吸血鬼どもに輪姦させちゃうのも、悪くないな――
あいつら、日光の下でも参らないものな――
ふたりはそんないけないことを思い浮かべて、思わず顔を見合わせて、そしてフフッと笑い合っていた。

女事務員の血 -2-

2016年01月11日(Mon) 18:53:30

つぎの日からは、学校の事務室は真昼間から、吸血鬼たちのあからさまな訪問を受けた。
事務所に勤務するスタッフは、初老の事務長に、鈴尾を含む男子事務員が3人。
ベテランの女子事務員が2人に若い事務員が3人だった。
女子事務員と同じ数の吸血鬼が送り込まれたのは、鈴尾からあらかじめ職場の構成をきいたからだろう。
無断で事務所に入ってくるなり女子事務員たちに好色な牙をむきだした吸血鬼たちを制止しようとした3人の男性は、すぐに別の吸血鬼に制圧された。
3人の吸血鬼は、男子事務員たちの血を事務的に吸い取ると、血の気の失せた彼らはその場に倒れて転がった。
きゃあ~っ!
はなやかな悲鳴があがったが、授業中ということもあって、廊下を通りかかる教職員はいなかった。
若い女子事務員の桑江佳奈美は、ふるえあがって立ちすくんでいた。
さっき若い男性事務員の首すじを咬んで床に転がしたやつが、佳奈美のほうに一直線に向かってくる。
周りの女たちは、全員脚を咬まれていた。
自分を狙って突き進んでくるやつもそのつもりらしくって、佳奈美の恐怖の表情や哀願のまなざしなどには目を留めず、
ひたすら足許だけを見て突進してくる。
ブルーの事務服のジャケットの下は、ほんとうは規則違反な短い丈の真っ赤なスカートだった。
スカートの下からは、発育のよい脚がにょっきりと伸びている。
ねずみ色のストッキングに包まれた脚は、太ももの半ばくらいまで、まる見えになっていた。

アーッ!
彼女は無抵抗なまま、太ももを咬まれた。
真っ赤な血が飛び散って、男の頬を濡らした。
男は女の両脚を抱きかかえるようにして、ストッキングをびりびりと咬み破りながら、血を啜りはじめた。
ねずみ色のストッキングはみるかげもなく裂け目を拡げ、白い皮膚を露出させていった。

夕べ佐恵子を襲った男が、ふたたび彼女のうえに覆いかぶさるのを。
鈴尾は制止ひとつしようとしないまま、ただ茫然と見つめていた。
あれから家に戻り、なおも血を啜り取られながら。
いま自分の首すじを侵している牙が、佐恵子の柔肌を咬んだ。
そんな事実に昂奮を感じているのを自覚してしまっていて。
それ以来おかしくなってしまった感覚を、どうすることもできないでいたのだ。
佐恵子は椅子から起とうともせずに、かがみ込んできた男にされるがまま、ふくらはぎを咬まれていった。
きょうのハイソックスは、空色だった。
空色のハイソックスの生地のうえを、どろりと流れる血が、赤紫に光った。
青の飾り文字のワンポイントが、ほとび散る血潮に塗りこめられてゆくのを見おろす佐恵子の頬に、かすかな苦笑いがよぎるのを、鈴尾は見逃さなかった。
彼女もきっと、理性を冒され始めているのだ――
その行き着く先のことを想像すると、ぞっとするようでもあり、ドキドキするようでもある。

阿鼻叫喚というにはかけ離れたほど弱々しい悲鳴は、やがてかすかな嬌声にすり替えられた。
さっきまで立ち尽くしていたもうひとりの若い獲物――桑江佳奈美の姿がみえない。
机の向こう側に倒れているらしいのが、転がったサンダルでそれと知れた。
どういうことをされているのか、ここからは見えないけれど。
やはり机の向こう側に倒れている同僚の男性である初川が、目を真っ赤に充血させて佳奈美の倒れているあたりに視線を固着させているのをみると、それとなく察しをつけることができた。
――桑江は処女じゃ、なかったんだな。

授業が終わって廊下に生徒が満ちるころには、吸血鬼どもは姿を掻き消していて、
事務室の面々もまた、なにごともなかったかのように机に向かっていたし、生徒の応対を受けていた。
女子事務員たちのストッキングの伝線や、ハイソックスを濡らす赤黒いシミは、生徒たちの目に触れることはなかった――

女事務員の血

2016年01月11日(Mon) 18:30:43

夕暮れの公園で、その男は独りうずくまるようにして、ベンチに腰かけていた。
鈴尾の姿を認めると顔をあげ、「待っていたぞ」と、低い声でいった。
鈴尾は意思を喪ったようにふらふらと男に歩み寄ると、男の隣に腰かけて、スラックスをたくし上げた。
丈の長めの薄い靴下に透けて、白い脛が浮き上がる。
男はベンチから身体をずり落とすようにして地べたに這いつくばり、鈴尾の足許ににじり寄ると、
スラックスの下から覗くふくらはぎに、唇を吸いつけた。
ちゅうっ・・・
ひそやかな音が、薄闇を侵した。

ベンチからずり落ちて尻もちをついた鈴尾の血を、男はなおも吸っていた。
服は汚さないという約束だったのに、首すじに食いついた男は、彼のワイシャツに平気で血を撥ねかしている。
ストッキング地の長靴下に広がった裂けめからは、血の気の引いた脛が露出している。
ずり落ちかけた長靴下を所在なげに引き伸ばそうと、鈴尾の指がもどかしげに足許をまさぐっていた。
「喉、渇いているんですか・・・」
うつろな声になった鈴尾に、男は「すまないね」と言いながらも、なおも鈴尾の首すじを吸いつづける。
あー・・・
鈴尾が顔をしかめた。失血が限界に来たらしい。
男は残り惜し気に鈴尾の首すじから牙を引き抜くと、長い舌を傷口に這わせて、よだれをたんねんになすりつける。
男が分泌する唾液には、失血作用があるらしい。
なすりつけられたよだれは、じゅくじゅくとあぶくを立てながら、鈴尾の血をみるみる凝固させてゆく。

「生命は奪らない約束ですよね?」
すこし切り口上になった鈴尾を軽く受け流して、男はいった。
「仕事場に案内してもらう約束のほうは、どんなだね?」
「ああ・・・いいですよ・・・内諾も取りましたし・・・」
鈴尾は声の調子を落として、言いにくそうに応えた。

夕焼けの名残りが闇に吸い込まれてゆく空に、住宅街の屋根たちがくろぐろと、うずくまっていた。
この街は、吸血鬼の侵蝕を受けはじめている。いや、ほぼ制圧されてしまっている。
うわべだけでも平穏な日常がくり広げられているのは、
応対したものたちが賢明な選択を取りつづけているから。
そう、生命の保証と引き換えに自分たちの血を自由に吸わせるという。

鈴尾は、市内にある私立高校に、事務員として勤めていた。
街に出没する吸血鬼のうわさが出はじめた最初のうちこそ、自警体制が取られようとはしていたけれど。
オーナーである学校長の一族が、実験者である会長夫人が吸血を受け容れてからというもの、学校側の姿勢は正反対に転じた。
会長夫妻にその娘、娘婿である校長、校長の息子夫婦・・・と、だれもが血を吸われてしまった今は、もう陥落寸前といってよかった。
つい先日まで職員室に掲示されていた「吸血鬼から街を護ろう!」というスローガンの描かれたポスターは、もはやどこにも見当たらない。
それどころか、堅物で知られた事務長までもが、
「生徒の血を吸わせるわけにはいかんけれども、きみたちが自主的に協力するぶんには、構わんじゃないか」
などと言い始めていた。
そんな事務長の首すじにも、赤黒く爛れた醜い咬み痕がふたつ並んでいるのを、鈴尾は見逃さなかった。
そして――ひと月ほど前からは、その鈴尾までもが、帰り道を襲われていた。
吸血鬼たちは彼らなりに、学校に侵入するルートを求めていたのだ。

咬まれた鈴尾は、強引に手繰り寄せられるようにして、蟻地獄に堕ちた。
独り暮らしの境遇も、あだとなった。
彼のアパートは吸血鬼の巣窟になり、入れ代わり立ち代わり現れる彼らのために、鈴尾は自分の血液を供給するはめになった。
ふしぎと生命の危険は感じなかったし、彼らが摂取する血の量はさほど多くはなかったので、
たたみに転がされた彼は失血でぼうっとなりながらも、咬み痕に疼く痛痒さを、けっこう心地よく受け止めていたのである。
勤めから戻り、アパートで血を吸われ、大の字になって寝そべりながら余韻に浸っている時間が、彼はけっこう好きだった。

日常的に血を吸われていることは、まだ職場には黙っていた。
けれども、同僚の佐恵子だけには、それを告げていた。
大きな瞳を見開いて、佐恵子は怯えをあらわにした。
けれども、殺される気づかいはないらしい・・・というのを鈴尾の語気から感じ取った彼女は、必要以上に怖がったりはしなかった。
「ひとりでだいじょうぶ?もし具合悪くなるくらいだったら、あたしも協力するから」
とまで、言ってくれたのだった。
ストッキング地の長靴下を穿いた脚に好んで咬みつく・・・ときいてからは、
それまでの素足をやめて、ハイソックスやストッキングを穿いて来るようになった。
ちょうど秋の入り口だったから――彼女のみせたささやかな変化に、違和感を抱くものはいなかった。

勤務先である学校の事務室に男を引き入れる約束をしたのは、先週のことだった。
ふだん感情を表に出さないその男の顔つきが色めきたったのを、鈴尾は容易に見て取ることができた。
「嬉しそうな顔してやがる・・・って、思っているな?」
男は干からびた声色に戻って、そういった。
鈴尾が素直にうなずくと、男は言った。
「仲間がおおぜいいるんだ。協力してくれるお人がいたら、女でも男でも、しんそこ有り難いのだ」
さっきまでふんだんに鈴尾の血をむさぼったはずなのに、男の語尾は渇きに震えていた。

「仕事場に案内してもらう約束のほうは・・・」
男にそういわれたとき、鈴尾はさっき出てきたばかりの事務室を思い描いた。
佐恵子が、まだひとりで残業しているはずだった。
「今からでも、いいかい?」
鈴尾がうつろな声でこたえると、男はちょっとびっくりしたように彼を見た。
「思い立ったが吉日・・・というからな」
男のつぶやきには、実感がこめられていた。
血を吸われることに夢中になった男でも、自分の勤め先や家庭を襲わせるということは、かなりの抵抗感を伴うらしい。
当然といえば当然だが、血を吸った相手の意識をある程度意のままにできる彼らが、その程度の催眠しかかけずにいるのは、ある意味街の人々への好意といってよかった。
すべてを奪いたくない――そういう思い。
けれども、人形になっていな者たちにとって、家族や同僚の血を与えることは、結果としてはかなり高いハードルになっていた。

ふらふらと起ちあがった鈴尾のあとを、男はついてきた。
「きょうは・・・あんたひとりにしてほしい」
鈴尾の要求を、男はそのまま呑んだ。
学校に勤務する事務員を引き込んだのは彼だったから、その程度の抜け駆けは、役得として認められるはずだった。
鈴尾は、事務室には若い女が一人残っているだけだと言っていた。
たぶんそれが、鈴尾にとっては自信のある獲物なのだろう――男はそう、勝手に解釈した。

事務所のドアを開くと、暖かい空気が流れてきた。
ドアの音に振り向いた佐恵子は、そこに鈴尾を認め、ほぼ同時に鈴尾の背後に影のように寄り添う未知の男を認めた。
仕事の手を止めて佐恵子が起ちあがると、鈴尾は「シッ!」と一本指を唇にあてた。
起ちあがりかけた佐恵子は鈴尾のいうことに従って、再び席に着いたが、視線は未知の男から離さないでいた。
「賢そうなお嬢さんだな」
男の囁きに、鈴尾はだまって頷いた。
「あんたたちに協力してもいいって言ってくれている」
「それはありがたい」
低い声のやり取りは、佐恵子まで届かなかった。

男の姿が流れるように、こちらの席に近づいてくる。
相手が危険な意図をもってこの事務所の扉を開けたこと。
頼りの鈴尾さえもが、男の従属下にあること。
どちらもすぐに、察しがついた。
逃げなくちゃ。逃げないと血を吸われてしまう!
佐恵子のなかの理性は、鋭い警告を発しつづけた。
でももう、だめなのよ。彼があのひとを、ここに引き入れてしまった・・・
どんよりとした諦念が、佐恵子の心を占めていた。

「あの・・・どこから吸うんですか?」
血色がよく厚みのある唇から白い歯を覗かせながら、女は目の前でそう口走った。
女の口許からかすかに発する呼気が、若々しい生気を放つのが伝わってくる。
男はごくりと、生唾を呑み込んだ。
「賢いだけではなくて、もの分かりのよいお嬢さんでもあるようだな」
男は若々しい獲物から視線をはずさずに、自分の男奴隷のほうに向かっていった。
「協力してくれるって、言ってくれてるんです」
それが彼女を必要以上に傷つけないための唯一の護符だと言わんばかりに、愚かな男はそうくり返した。
「首すじからいただくんだが・・・ここでそれやっちゃうと、ブラウスや机が汚れるね」
具体的な情景を思い描いたのか、女の顔に恐怖がよぎった。
「安心しなさい。手荒なことはしない。それは鈴尾君がよくわかっている」
男は自分の同僚を襲う機会をくれた鈴尾に引導を渡すつもりでそういうと、
素早く女の足許にかがみ込んで、説明抜きで足首を掴まえた。

ブルーの事務服のジャケットの下、佐恵子は地味なグレーのスカートを着けていた。
スカートのすそからは、健康そうな血色をたたえたひざ小僧がのぞいている。
膝から下は、チャコールグレーのハイソックス。
リブ編みの縦じまが室内の照明を受けて、肉づきの豊かな脚線を浮き彫りにしている。
「靴下の上から咬んでもいいかね?」
佐恵子は男の嗜好を、鈴尾から聞かされていた。
「・・・破けてもいいです」
必要以上に口をききたくなかったのか、与えた答えは簡潔であからさまだった。
満足そうな笑みを含んだ唇が、ハイソックスの生地のうえから、押し当てられた。

ちゅうっ・・・

呪わしい音に、鈴尾は耳をふさいだ。
けれどもその忌むべき吸血の音は、いくら耳をふさいでも、彼の鼓膜へと侵入しつづけ、しみ込んでいった。
事務机のまえに腰かけたまま、佐恵子は気丈にも、背すじを伸ばして、しつような吸血に耐えていた。
チャコールグレーのハイソックスが咬み破られてくしゃくしゃにずり落ちてゆくのを、まばたきひとつしないで、見おろしていた。
片脚だけでは、男を満足させることはできなかった。
もう片方の脚をねだるそぶりをみせる男に、佐恵子はちょっとだけ口をひん曲げると、
それでも勢いをつけてスチール製の椅子を半回転させ、まだ咬まれていないほうの脚を差し伸べた。
ずり落ちかけていたハイソックスを、ひざ小僧の下までぴっちりと引き伸ばすのも、忘れなかった。
女のふくらはぎに再び牙を沈める前に、ちょっとだけ拝むそぶりをしたのは。
たぶん、彼女をからかうためではないのだろう。
しなやかなナイロン生地ごしに刺し込まれてくる鋭利な異物が、さっきよりは緩やかに埋め込まれるのを、佐恵子は感じた。

さいしょのひと咬みは、有無を言わさず強引に。
もう片方の脚に忍ばされた第二撃は、ひっそりと忍び込むように。
さいしょの吸い方は、ゴクゴクと荒々しく。
二度目のそれは、しのびやかにゆっくりと――
咬み痕に滲むじんじんとした疼きを、軽く歯がみをして抑えると。
左右かわるがわる咬みついて来る男のため、佐恵子はスカートのすそを抑えながら、ふくらはぎをさらしつづけた。
鈴尾はとうに、姿を消していた。
立ち去ってしまったわけではない。
佐恵子を独り占めにさせようとして、男に遠慮をして座をはずしたのだろう。
ちょっとだけ開かれた廊下に面した窓ガラスのすき間から、しつような視線があてられるのを、彼女は敏感に察していた。
鈴尾が佐恵子の身に、取り返しのつかないことをさせるわけがない。
そんな確信が、彼女の理性をかろうじて支えている。
自身の失血の度合いを推し量りながら。
男の抱える渇きがじょじょに満たされてゆくのと、
獣のような劣情を抱きながらも、彼女に対してはあくまで礼儀正しく自分に接しているのと、
廊下で待ちあぐねている鈴尾がどんな想いでいるのかということと。
それらすべてを理解できたのは。
いまを少しでも賢明に振る舞いたいという想いが、いちずだったからであろう。

廊下から出てきた男は、ドアを閉める間際に丁寧に会釈をしていた。
彼女が顔色を蒼ざめさせながらもそれに応えているのが、男のようすでわかった。
こちらを振り向いた男は、佐恵子から吸い取った血を、まだ口許に光らせていた。
鈴尾は思わず、目をそむけた。
男は、そんな鈴尾の様子を無視して、いった。
「まだ仕事が残っているから、残業を続けるそうだ。仕事熱心なお嬢さんでも、あるようだな」

賢いお嬢さん。
もの分かりの良いお嬢さん。
仕事熱心なお嬢さん。
どのほめ言葉も、彼女を汚していなかった。
凌辱した女をまえに、わざとほめ言葉で愚弄する手合いとは別であることに、鈴尾はわずかな救いを感じた。
鈴尾の顔つきがすこしばかり和むのを見て、男はいった。
「あんた、えらいな。あのお嬢さんも、えらいな。
 明日から遠慮なく侵入させてもらうが、あのお嬢さんは侮辱しないし、させもしないぜ?」
鈴尾は苦々しげに、やっとの思いでいった。
「彼女は、俺の恋人だ。もうじき結婚する」

わかっていたさ。だから紹介したんだろう?
自分の秘密の片棒を担ぐには、やはりそういうひとじゃないとな。
あんたの勤め先がおれたちの手に堕ちるのは、時間の問題だった。あんたのせいじゃない。
知っているだろうが、おれたちは、セックス経験のある女は、つい犯してしまうんだ。
もちろん、侮辱するつもりじゃない。おれたちなりに、その女を賞賛しているだけなんだがな。
でもあんたら特に男性たちには、評判がすこぶるよろしくない。
だから、「侮辱」という言葉を使ったんだ。
彼女、処女なんだな。もうつきあってだいぶになるってのに。どっちもウブなんだな。
だから彼女は、最悪の事態を免れたんだ。
処女の生き血は、貴重品だ。
ほかのやつらに彼女の血を舐めさせることはあるだろが、あんたの気持ちは大事にするからな。
俺が彼女をほんとうにモノにするのは・・・その愉しみは、あんたらの結婚祝いに取っておくさ。

ひと言ひと言が、胸の奥に妖しく突き刺さった。
これからもきっと自分は、恋人の生き血を吸血鬼たちに提供しつづけるのだろう。
賢くて気づかい豊かな佐恵子が、ハイソックスを咬み破られながら、足許を冒される。
いずれは首すじまでも咬まれて、白のブラウスやブルーの事務服にも、血のりをあやすようになるのだろう。
忌むべき想像に昂ぶりを覚えてしまう自分を、いぶかしく思いながら。
いっぽうで、そんな恥知らずでいびつな衝動がどす黒く頭をもたげるのを、鈴尾はどうすることもできなくなっていた。

カレーライス

2016年01月09日(Sat) 07:38:50

夕風と夜風の境目は、あいまいだけれど。
それはほのかに暖かく、なまめかしい。
薄闇に透けて見える、制服姿。
紺のスカートの下から覗く、真っ白なハイソックスに包まれた、発育の良い脚。
豊かな黒髪に縁取られた白い首すじに咬みついたら、どんなにか歯ごたえがよいだろう?
けれども俺は、そんな少女の舌なめずりをしたくなるような様子を、
目もくれないで受け流す。
なぜって・・・あの娘は、すでに仲間の恋人になっているのだから。
お互いの獲物には、手を出さない。それは俺たちの鉄則だった。

ふと鼻先をよぎるのは、カレーの匂い。
ほのぼのとした温かみを含んだ、香ばしいその匂いは。
家庭のぬくもりを感じさせ、俺などですらふと、人恋しくさせてしまう。
匂いのもとはどうやら、俺が目ざす家らしかった。
訪いもいれずに開け放った玄関。
俺をいちど受け容れてしまった家は、たとえ施錠していたとしても、出入りは自由。
案の定施錠をされていた扉は、なんなく開いていた。
ぱたぱたとスリッパの足音を響かせて現れたのは、この家の一人娘。
結花(ゆいか)という名前のとおり、咲き初めた花びらのようなその頬は、いつもより少し、色あせてみえる。
それはそうだな。夕べまでで三晩つづけて――俺に抱きすくめられたのだから。

下校してすぐに夕食を作り始めたのか、真っ赤なエプロンの下は、まだ制服を着ていた。
足許を引き締めるのは、先刻の少女と同じ、真っ白なハイソックス。
けれども少女の頬は、血を吸う側のこちらさえ気の毒になるくらい、色あせている。
「お願いきょうは堪忍」
少女は俺に向かって、目をキュッと閉じて両手を合わせる。
俺はきつい目で少女を睨んだが、どうやらこの立ち合いは俺の負けらしい。
具合悪そうだな――言いたくもないことを口にする俺に、少女は深々と頭を下げる。
「ほんとうにごめんなさい」
いつも無条件に俺に首すじをゆだねるこの娘が手を合わせるのだから、よほどせっぱつまっているに違いない。
「カレーでよかったら、食べていく?」
罪滅ぼしにもならないことを言う。吸血鬼の俺が、カレーなんか食えるか。
そう言いたいのをこらえて、「呼ばれよう」
俺はひと言そう応えると、少女はほっとしたように、廊下を進む俺に道を譲った。

居間に入ると、この娘の母親が、やはり痩せこけた蒼い顔をして、俺を迎える。
「ほんとうにごめんなさい。わたくしもお相手はちょっと・・・」
みなまで訊かなくてもわかる。三晩続けて少女を抱いた夜、この女の寝室も襲っていたから。
処女はみだりに犯したりはしない。その新鮮な生き血の芳香を愉しむために。
けれどもセックス経験のある女の場合、そうはいかない。それがよけいに、この女の体力を奪った。
娘をかばう母親は、うっとりさせられた三晩のまえも、まるまる一週間、俺に抱かれ続けていた。
「娘には言わないでね」と、母親らしい気遣いをみせながら。

スプーンのなかに満ちたカレールー。俺はひと思いに啜った。
旨い。
まったりとしたルウのなかを、ほど良い大きさに刻まれた肉やニンジンやジャガイモが、仲良くひしめいていた。
どうということもない平凡な味つけ――しかしそれは、俺が血を吸われる前に、最も好んだ味だった。
受け取ったぬくもりは、冷え切った心の裏側にまで流れ込み、血を吸い取った時にほど近い満足感を伝えてくる。
傍らで立ったまま、息をつめて俺を見つめている少女を、「あんたも食えばいい」と、席に座らせた。
少女はほっとしたように、自分のために盛ったカレーを、口に含んでいった。
ていねいに盛りつけられたカレーを、皿を舐めでもしたかのようにきれいに、俺は平らげた。

「ごめんね。ほんとうにごめんなさいね」
自分の血を吸うことを、俺に与えた正当な権利と認めているのか。
少女は立ち去ろうとする俺のまえ、なん度も手を合わせていた。
俺はだしぬけに少女の頭を抱くと、掌を彼女の首すじにすべらせた。
穢れを知らぬ素肌には、かすかなぬくもりを帯びていた。
少女は俺の掌を握ると、ブラウスのボタンを二つ三つ外して、そのまま脇の下へと導いていく。
下品に胸を揉みながら、吸血するときだってある。
けれども俺は、彼女をいたわるように、ブラジャーのうえからそっと輪郭を撫ぜるだけにしておいた。
素肌のぬくもり恋しさに、二度三度と重ねてはしまったけれど――

「ごめんなさい」
そう謝罪をくり返しながら。
少女もその母親も、きちんとした服装に身を包んでいた。
好んでふくらはぎに咬みつく俺を応接するために、ストッキングやハイソックスまで脚に通していた。
もしも俺が強いたなら、無理にもその意に従うつもりなのだろう。
たとえ相手が吸血鬼でも、礼儀知らずな応対はしたくない――そんな母娘の心意気がそこにあった。
「帰る」
さいごまで不安げに、いちぶしじゅうを窺っていた母親に、俺はそっけなくそう言い捨てる。

外に出ると、こうこうとした満月が、冴えた空気に映えていた。
くろぐろと静まり返った住宅街。
吸血鬼の支配に堕ちたこの街の、きょうは何軒の家が、悲鳴や嬌声に包まれるのか。
でも少女の家だけは、安心だ。
獲物を奪い合わない俺たちの支配下で、当の俺が訪問をあきらめたのだから。
今夜は平和な眠りを得るがいい――
獲物になった者をいたわる癖は、いったいいつから俺を蝕んだのか。
人の情けが、すすけ立った心のなかで復活したとでも?
それは誇っていいものか。蔑まれてしかるべきなのか。
それとも――何も考えずやり過ごすのが賢明なのか・・・

さて、と。
考えるのをやめた俺は、足音を消して歩みを新たにする。
活力に満ちた血液をたっぷり持った人間が、通りかかるのを期待しながら・・・


あとがき
新年第一作にしては、かなり時間が経ってしまいました。 (^^ゞ
それも、吸血鬼が女漁りを派手にやらかすような景気の良い?話ではなくて、
体調不良な獲物たちを気遣って、血を吸わないで帰ってゆく・・・みたいなストーリーで。
(^^ゞ
なんともさえない話?
でもきっと、今夜のお月さまはたぶん、柄にもない殊勝さに対するご褒美であったような。
たぶん、そんなお話なんだと思いますよ。
(^_^;)