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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

町工場の兄弟 4 ジュンの家。

2016年02月27日(Sat) 11:25:00


いいよ。トシヤとも、初キス済ませたから。
目をつむって差し出された唇に、欲望のまま熱い吐息を含ませてしまうと。
女はいともあっさりと、その行為のくり返しに応じてきた。
うふっ。一歩前進♪ トシ、悪く思うな。
男としての勝利を得る味は、相手が弟の婚約者であっても変わりはない。
いや、むしろ増幅するとは、思ってもみなかった。
俺はこの女を、モノにしたい。
最近つのりはじめてきた想いが、いま爆発寸前まで、昂りつつあった。
それでもそのいっぽうで。
せっかく初めてできた女を、弟から奪ってはならない。
そんな想いもまた、兄としては当然ある。
どっちなんだよ――自分で自分に突っ込んでおいて、答えがみつからない。


俺のキスが強烈だからって、トシヤとの想い出も忘れてくれるなよな。
いい気な言いぐさを、「当り前じゃない」と、手厳しくはね返しながら。
それでも手慣れたキスが求めてくる強さに、不覚にも夢中で応えてしまっている。
やっぱりこのひと、女殺しだ。
弟の婚約者という縛りがあっても、お互いにこれなのだ。
妹の加奈がいともかんたんに堕ちたのは、無理もない。
ついでに乳首も舐めさせて。
つい悪のりをしてしまっては、「ダメ!」と拒否されているあたりが、この男らしいけれど。
そのあとに性懲りもなく、スカートのなかに手を入れてこようとしてきた。
かろうじて自制して振り払ったけれど。
順序が逆だったら、もしかしたらショーツを脱がされてしまっていたかもしれない。
それをねらって、わざと順序を間違えてきたのか。
問いただしたところで、まともな答えが期待できないのはわかり切っていたので、
敏恵もまた、愚問を投げかけることは控えていた。

脱がされてしまったパンストは、初手からネチネチといたぶられて、あちこち穴だらけにされていた。
穿いてたらかえって、みっともないだろ。トシにも見られたくないし。
そんなもっともらしい言いぐさにつられて、つい脱ぎ捨ててしまったのだが。
あいつ、私のショーツまで狙っていた。
気づいたのは、スカートのすその取り合いをかろうじてはね返したあとだった。
本気で狙う気だったら・・・まんまとせしめられていた。
それなのに。やつはわざと失敗をして、戦利品はパンストだけで満足するつもりらしい。
いったいどうして?
女たらしのくせに、露骨に欲しがったり、さりげなく手を引いたり。
そんな矛盾し合った行動の裏に、弟に対する逡巡を見抜くのは、そう難しいことではなかった。

ありがとうございました。
こっちが恥ずかしくなるほどばか丁寧に、義姉になるはずの女に、ジュンはいつも最敬礼をする。
弟には面と向かって礼を言いにくいから、あんたからうまく、伝えといて。
ジュンはそういうと、敏恵を解放した。
あのばか丁寧な最敬礼。慇懃無礼なわけじゃない。そんな器用な男じゃない。
たぶん半分は、弟への謝罪で頭を垂れているのだ。
そんなもの、すぐにうやむやにするに決まっているのに。
でもたぶん、このひとは私を犯しても、弟への想いは忘れないはず。
たった30分足らずの吸血プレイに応じるなかで、女はそこまでのことを感じ取ってしまっていた。



婚約者が忠実なのを、トシのために祝いたいね。
枕元においた寝酒を引っかけると。
ジュンはふたたび、敏恵の胸に顔を埋めてくる。
いままで敏恵の胸元を覆っていたブラウスは脱ぎ捨てられて、部屋の隅っこにきちんと折りたたまれていた。
ここは、ジュンの棲むアパート。
想像していた通り、たたずまいは古くさくてみすぼらしく、
部屋のなかも、これまた思った通りの散らかり具合。
わずかに畳の覗いた床にハンドバックを置いて、あきれて周囲を見回していると。
後ろからいきなり、抱きついて来た。

裏切らないようにしよう。トシくんのこと、裏切らないようにしよう。
必死でそう言い募るうちに、相手がいったん手をゆるめかけたのを、敏恵は感じた。
だいじょうぶだから。二人きりのときには、さいごまではしないから。
その囁きを信じて、こちらも身体の力を抜いたのは。
半分は、この男の弟想いの部分に、信頼を寄せたから。
半分は・・・欲望に逆らえなくなりかけてきたから。認めたくないけど。
けれども、ブラウスを脱いだのは、自分のほうからだった。
「乳首を舐めたい」とふたたびせがまれて、とうとう断り切れなくなっていた。

きょう、兄貴の家を訪れることは、あらかじめトシヤにも告げている。
というか、トシヤがわざと、敏恵を兄貴のところに行かせたのだ。
加奈ちゃんがずっと具合悪くって、兄貴も「ノドカワ」だから。
でもきょうは工場にお客が来て、支払いとか契約とかで立て込んじゃって、そういうことに使えないし。
ふたりのこと信じているから、行ってきて。

もしもかりに、私がこのひとの信頼を裏切るようなことをしてしまっても。
たぶんこのひとは、許してくれてしまうだろう。
でもそれは、あまりにもムシの良すぎる不当利得なのだと、敏恵は自分に言い聞かせた。
そのギリギリの落としどころが、「乳首舐め」?
だれの乳首とも、ひと味ちがう。いや、ふた味はちがう。
そんな勝手なことをほざいて舌なめずりをする男は、ジュルジュルと聞こえよがしな音をたてて、敏恵の乳首を吸った。



契約で来店をしたお客は、急ぎの用を控えているとかで、手早く手続きを済ませると、
ポンコツになった車を置いて、代車のエンジンをふかしてそそくさと走り去った。

ジュンは意外に顔が広く、ときどきこういう客を拾っては、工場に新たな収入をもたらしてくれる。
兄貴は仕事人としてはどうしようもなかったが、弟の律儀な仕事ぶりは評価されて、
すこしずつではあるけれども、お客がつくようになってもいた。

お疲れさまでした。
お茶出しを頼んだ加奈は来客のためか、いつもよりいいカッコをしている。
真っ白なニットに、ピンクのミニスカート。ショートの黒髪も、美容院に行ったばかりらしく、きちんと整えてくれていた。
姉の敏恵はいつも、都会のオフィスか街なかの大通りに似合いそうな、キリッと隙のないスーツかワンピース姿。
それにくらべると加奈はもっとカジュアルで、ふんわりとした感じの服装を好むようだった。
そのふんわり感が、いまのトシヤには癒しにさえ感じられる。

張り切り過ぎじゃない?お客さん、15分で帰っちゃったよ。
初対面の客を苦手とするトシヤも、十分気張り過ぎていたのか、拍子抜けした安ど感が満面に出ていた。
余りのコーヒーでごめんなさい、といって淹れてくれたコーヒーも、とびきり旨かった。

コーヒーぐらいで、ごめんなさい。
小さな声を重ねて、加奈が言う。振り向くと、申し訳なさそうな顔をしていた。
そう、いまごろ兄貴は、自分のねぐらに敏恵をひき込んで、コーヒーよりももっと熱い飲み物に、舌鼓を打っているはず。
シンコクに考えないほうがいいよ、とだけ言って、トシヤは仕事に戻ろうと工具に手を伸ばす。
その手に、白くて小ぶりな掌がおずおずと重なって、工具を持とうとする手を止めさせた。
もう少し、いいじゃないですか。コーヒー、もう一杯淹れますから。
あんまり飲んだら、茶腹になっちゃうよ。
笑って取り合わないでいたら、加奈は不意に悲し気な目になって、こんどはトシヤのまえに立ちふさがった。
ジュンがごめんなさい。
あまりシンコクに構えるなって。そう言おうとしたら、加奈がいきなり抱きついて来た。

どうやって受け止めたものか――ただいえることは、それはまずい。マズイよ・・・
持っている理性を振り絞って、抱きついて来た腕を振りほどく。
落ち着いて!
加奈に対するのと同時に、自分にもそう、言い聞かせる。
もっともっと、ややこしいことになっちゃうぜ?
ただでさえおれ、ヘンなヤツだから。
きみの姉さんのこと兄貴に襲われると、変に昂奮するんだ。ぜったい・・・変だよね?
ヘンなヤツなんだから、おれにあまりかかわらないほうがいい。
トシヤは自分を「ヘンなヤツ」と片づけることで、加奈との間合いを作ろうとした。

加奈は姉譲りの大きな瞳を見開いて、トシヤを見る。
怜悧で美しい姉の瞳の色とは別な、もっと穏やかで優しい色が、そこにあった。
それ、姉からききました。あたし、変じゃないと思います。
姉を愛しているからそう感じるんだって。うらやましいかもしれません。
でも、女の側だと、そうは感じられないんです。
姉にジュンを取られちゃうみたいで――あたしはたぶん、素直に姉貴孝行は、できそうにない。

おれは、兄貴に婚約者を犯されかけている。そういう意味では被害者だけど。
でもおれなりに納得して、状況を受け容れてしまっている。
でこのひとは、うちの兄貴に血を吸われたうえに、実の姉と浮気までされてしまっている。
状況を黙認しているおれだって、このひとから見たらどう映っているのか・・・
いつも軽い足取りで気軽に工具を取り、お茶を淹れたり買い物してきてくれたり、
みんなへの愛をさりげなく、行動で表してくれる人――
無邪気な明るさの裏側に、こういう心理が隠れていたのか。
やっぱりおれは、なんにもわかっちゃいない。これじゃ兄貴と変わらない。女をただ無自覚に、傷つけているだけの男――
しみじみとした後悔が、胸をかんだとき。

シンコクに考えないほうがいいよ。

はっと前に向き直ると、加奈はイタズラっぽくほほ笑んでいた。
だいじょうぶですよ。ふだんはいい子にしていますから。
でも時々ね、言ってみたくなるんです。そういうときには、つきあってやってくださいね。
あのひとたちがいないとき限定になると思うけど――

なにごともなかったように給湯場へと背中を向ける彼女の、ミニスカートの下から覗く生足が眩しかった。
あっ、それと。
加奈はいきなり振り向き、トシヤの視線が自分の後ろ姿に注がれているのを確認すると、
そんなことはあっさりと黙殺をして、いった。
ガマンできなくなっちゃったら、あたしのこと犯してくださいね。
こんど、いつか、きっと。

町工場の兄弟 3 初キス。

2016年02月27日(Sat) 09:56:58


視てたでしょ?
視てないって。
ウウン、視ていた。
だから、視てなんかいないって。
だって。
敏恵が上目づかいに、トシヤをにらむ。
この目つきは、無敵だった。勝てたためしがない。
そんな不吉な予感は、確信になって上塗りされた。
だって、擦りガラスに頬ぺた貼りつけて視てたじゃない。
敏恵の首すじには、兄貴が吸い残したバラ色のしずくが、まだしたたり落ちていた。

言いかえすこともできなくて、ちょっと目をそらそうとしたら。
目をそらさないで。
そんなつぶやきが聞こえたような気がして。
ふと見返した目と目とが、不意に近づいた。
近づいて近づいて・・・二対の唇が、重ね合わされていた。
お互いにぶきっちょなのだ。
もしかして、敏恵さんも初めてだったのかもしれない。
不器用に重ね合わされた唇は、いちど離れて、お互い離れがたいようにさ迷い合って。
ふたたび重ね合わされた――こんどは、結び合わせたように、しっくりと。

お兄さんには、血を吸われて、肌も舐められちゃってるのに。
あなたとは、キスもまだだった。
初めてのキスくらい――あなたといっしょに済ませとかないと。けじめつかないし。
おいおい、そこで「けじめ」かよ。マジメすぎるじゃん。
思いかけたのを、すぐに振り払った。
重なり合いかけた想いから気を散らすのが、もったいなさ過ぎたから。
うまい言葉が、思いつかない。
けれども、初心な男は初心な男なりに、もっとも適切な返しをいれた。
もういちど。
それだけで、じゅうぶんだった。
ふたりはさらに身を近寄せあって、結び合わされた唇と唇とで、熱い息をはずませ合った。

むこう視ないで。
いま、あなたの兄さん、加奈のこと押し倒してる。
懲りねぇ兄貴だな。まったく。
いいのよ。あのふたり、夫婦になるんだから。
腕のなかで抱きしめた身体は、意外にも頼りなげでか細かった。

お兄さんね。あたしにキスせがむの。
貴男とまだだから、それはダメって、断りつづけたんだよ。
いい子にしてたから、ほめてちょうだい。
小さな女の子が親のまえで胸を張っているみたいだ――そう思うとくすぐったいほどほほ笑ましかったけれど。
いっぽうで。
おれと済ませたってことは・・・兄貴とも近々、するってことだよね?
問うてはならない問いを、恋人の横顔に投げかけていた。
敏恵の横顔はいままでみたどの時よりも柔らかく、か弱げにほほ笑んでいた。
もういちど振り向かせて、キスを重ねることしか、ぶきっちょな彼にはできなかった。

結び合わせた唇をほどくと、女はイタズラっぽく笑った。
こんどお兄さんにせがまれたら、断り切れなくなっちゃいそうで。

初キスを済ませたから、そんな気分になったのか。
断るのが限界に来たから、トシヤを受け容れたのか。
たぶん二番目のほうだろう、と。トシヤは自分に都合のいいほうで、受け取った。



よくがんばったね。
クッションがばかになった古ぼけたソファからフラフラと起きあがる妹を、
姉は気丈に励ましていた。
敏恵の血を吸って、それだけでは足りなかったらしい。
キスを拒んだ敏恵がトシヤの腕のなかに甘え込んだとき、
トシヤの兄のジュンは、加奈をひき込んでいた。

引かれた手を、わざと邪慳に振り払って。
もうっ、イヤっ。
姉さんのあとだなんて・・・と言いつのろうとする口を、熱いキスでふさいだときにはもう、加奈は夢見心地になっている。
わきの下に腕を入れたら、くすぐったがって笑った。
ミニスカートのなかに手を入れてパンツを引き下ろしたら、エッチ!といって、なおも笑った。
まくりあげたTシャツの下、ノーブラの胸にむしゃぶりついて、ピンク色の乳首を舌でくすぐってやる。
いつもならけらけら笑うはずの加奈が、めずらしく歯を食いしばって横顔を見せている。
姉さんとどっちがいいのよ?
そう訴えているようにも見えた。
俺にぞっこんなのと、女としての嫉妬とは、別次元で同居し合うものらしい。
めんどくさいことを考えるのが、しんそこめんどくさいらしいジュンは、
かまわず女の顔をこっちにねじ向けると、
必殺の熱い吐息を喉が灼(や)けるほど、そそぎ込んでやっていた。
忘我の刻は、こうして過ぎた。

ずいぶん吸われちゃったんだね。だいじょうぶ?
あんなにすごいの、ひとりで抱えたら大変だよ。
姉さんの言いぐさは、実体験がこもっているだけに、加奈の耳にも生々しい。
忘れようとしていた嫉妬が、またチロチロと埋火になった。
わかってる。ひとりで抱えきれるわけないって。
だから、姉さんが来てくれた時には、頼もしかった。
でも――そんなにすごかったの?
敏恵は妹の嫉妬心に、あまり気づいていない。
すごかったよぉ。ひと咬みされただけで、姉さんだって舞い上がりそうになった。
そう。
微妙に顰めた声色にかまわず、敏恵は妹の服に着いた血を、せっせと拭き取っていく。
あんなひとに抱かれたら、もっとすごいんだろうね。
敏恵の言いぐさを断ち切るように、加奈は口を開いた。
だったら、姉さんがあのひとと結婚すれば?

わかってるよ。言いたいこと。
姉は冷静になると、白目がやけに目だつ。
いまもそうだった。
さっきまでの世話好き姉さんの面貌は消えうせて、妹のことをしっかりと見つめ返していた。
あたしのが優等生だったし、大学にも行ったし。一流企業にも、ほんの少しだけど勤めた。
でもね。そんなの関係ないじゃん。
あの人は、あなた向きよ。決してあたしじゃない。
あたしはたぶん――
トシヤくんと結婚して、たまにジュンと浮気するのがちょうどいいのかも。
ぽつりとつぶやく姉の本気な横顔に、加奈は息をのむ。
いつも冷静で、頭がよく、しっかり者の姉。
いつも絶対にかなわない、高くて遠い存在だった姉。
その姉がいま、加奈と同じ高さで、同じ男のことで戸惑い悩んでいる。
トシヤさんいいひとだし、裏切ったらかわいそうだよ。
加奈も姉と同じ低い声色になって、姉を諭していた。
もしも姉さんがジュンと仲良くなっちゃったら、あたしもトシヤさんとどうにかなっちゃうかも。
でも――いままでみたく、仲良くしてね。
ウン、そうだね。
交し合ったほほ笑みは、互いに邪気のなさを察し合う。
じゃ、指切りげんまん。
しみじみとなりそうになったのを、事務室の外の騒音が掻き消した。
おーい、頼むぜ!手伝うのはいいんだけどよお。車壊さないでくれよなー!
なんの気まぐれか、ジュンがトシヤの仕事を手伝おうとしたらしい。
そして案の定、弟の邪魔をしただけに終わったらしいことに、姉も妹も、ぷっとふき出していた。
ぐーたらな兄貴が急にそんな気になったのは、姉妹の話題が深刻になりかけたときだったと、賢明な姉だけは気づいている。



初めての夜、おれといっしょにいてくれるって、言ってたよな?
工場の隅っこに呼び出すとき。
トシヤはジュンや加奈に聞かれたくないことを話す。
そんな呼吸が、ようやくわかりかけてきたとき。
トシヤのお願いはやっぱり、ストレートだった。
おれも一緒にいるから・・・先に兄貴に抱かれてくれないか?
どうしてもお前の彼女を征服したいって言われて・・・なんだかゾクゾクきちゃったんだ。
あたしのこと・・・好きなんだよね・・・?
見開いた大きな瞳を、トシヤはまともに見返している。
愛しているから、そうして欲しいんだ。
こんどは敏恵が、はっとする番だった。
そういう好きになり方って、あるんだね・・・
うつろにこぼれた言葉が、ぽつんと薄闇のなかに佇んだ。
お、おかしいよね?おれってさ・・・
俯いて口ごもるトシヤに、敏恵はスッと身を寄り添わせる。
甘えるように回した両腕のなか、切なげに求めてくる唇に、敏恵は安堵しながら応じてゆく。
わかった。
あなたが望むのなら、そうする。
でも、お兄さん強烈だから・・・
あたしが夢中になっちゃっても、許してね。
さいごは笑ってごまかしたけど。
わかった。罰だと思って我慢する。
照れ笑いが潔さにみえたのは、たぶん錯覚なのだろう。
おれ、仕事戻るわ。兄貴の相手、してやって。加奈ちゃん顔色悪そうだから。
さりげなく工具を片手に、車の下へともぐり込んでいく。
そこでいったい、なにを視ようとしているのか――本気で修理に取り掛かるには、持ち込んだ工具が足りないのも、わかるようになっていた。

夕暮れ時になるのに、事務室は灯りを落としていて、薄暗かった。
敏恵を抱きすくめ、はずんだ息を首すじに吹きかけてくるジュンをまえに、
敏恵はゆうゆうとブラウスの胸元をくつろげ、スリップの吊り紐を見せつける。
ブラウス、血が撥ねても構わないですからね。
白のブラウスだといつも手加減をしてくるジュンは、そういうときだけはぐーたらでもいい加減でもない。
弟の恋人の血を吸うのも、心の奥底では少しだけ、気が引けているのだろう。
熱い息遣いと一緒に耳もとに吹きかけられるのは、かなり心のこもった謝罪のセリフだった。
わ、悪りぃ、いつも、わ・・・っ、悪りぃなっ。
昂奮すると口ごもるの、お兄さん譲りなんだね。
さっきのあなたも、そうだった。
ジュンの腕のなかでトシヤを想いながら、敏恵はニッと白い歯をみせる。
痛い思いして、せっかく血を吸わせてあげるんだから、少しくらい夢中にさせてちょうだいね――
荒々しく求めてくる唇に、惜しげもなく唇を奪わせてやって。
いつか敏恵も夢中になって、タイトスカートのすそを抑える掌を、相手の背中にまわしていった。

≪後記≫
これもすぐに続編を描きました。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3277.html
止まらんな・・・

町工場の兄弟 2

2016年02月27日(Sat) 07:57:28


こないだの言いぐさが、妙に耳にこびりついている。

あたし、まだ処女なんですからね。初めての夜は、トシヤくんと過ごすから。
それまであたしに、手を出したりなんかしないでね。

弟のトシヤのやつのフィアンセになった、元OLの女。
ことの始まりは、ディスコでつかまえた、この女の妹がきっかけだった。
パンクな格好で踊っていたから・・・いかれた子だとばかり、思っていた。
だから踊っている最中に首すじを咬んで、思いっきり喉の渇きをうるおしていた。
案外純情で生真面目な子だとわかったのは。
弟と二人でやっている小さな修理工場に毎日やって来ては。
寂しそうに日がな一日、待ち続けていると聞いてから。
ちっくしょう。まずいな。俺は女から女に渡り歩くのがモットーなんだ。
おぼこ娘だということは、血を吸ってわかったが。
一人の女に縛られるには、俺の食欲はせっぱ詰まって強すぎる・・・

実質弟がひとりでやってる修理工場に、その子の姉貴がかたき討ちにと怒鳴り込んできて。
勇ましい姉さんにつかまって、すっかり困り果てていた弟までも、巻き込んで。
どたばたの修羅場のあげく、急転直下、俺は妹と。弟は姉と、婚約が成立した。
そのすぐあとにいわれたのが、冒頭の科白。
まったく、勘のいい女ってやつは、始末が悪いぜ・・・



トンテンカンと器用に金槌をあやつっているときは、夢中になってヤなことをすぐに忘れる。
そんな自分の傍らで。
兄貴が連れてきた妹娘は、デニムのショートパンツから、恰好の良い生足をさらして、
わけがわかっていないなりにも、道具をさがして持ってきてくれたりして、けなげに張り切ってくれている。
道端に可愛く咲いた、たんぽぽの花のような女。
ぐーたらな兄貴とは、大違い。
そのぐーたらな兄貴はさっきから、事務所で書類と格闘している気難しい姉さんを相手に、口説いている真っ最中らしい。
自分の婚約者が、兄貴にくどかれている。
そんな感覚が、まだしっくりとこないのは。
絶賛修理中の車の下からいきなり引きずり出され、シャツにかぎ裂きを頂戴した初対面からこのかた、
汗だく油まみれの自分に、洗練されたスーツをばりっと着こなす敏腕OLが自分の相手になるということに、まだ実感がわかないからだろう。

兄貴の女癖は、きょうに始まったことじゃない。
吸血鬼になる以前からずっと、あんな感じだったし。
どうにも憎めない性格で、だれもかれもがなんとなく、兄貴のささいな悪行やつまみ食いは、見て見ぬふりをするのがマナーみたくなっちゃっている。
おれも・・・いかにもしっかり女房になりそうな姉娘――未来の自分の花嫁――を兄さんが口説くのは、見て見ぬふりを決め込むつもり。
そうなんだ。
兄貴は処女の生き血が、大好きだった。
だからいま隣にいる可愛いこの娘のことも、すぐには犯さなかったんだ。
気の強い姉娘と初めての夜を過ごす権利を、兄弟どちらが勝ち得るかは別として。
そんな兄貴のため、婚約者の処女の生き血はよろこんで進呈するつもりでいるのだから。
兄貴が彼女の首すじを咬むくらいのことは、とっくにアリだと思っていた。
影と影とが重なり合うところだけは、そっぽを向いておけばいい。



いちどだけだよ。
敏恵はむーっとして、トシヤを睨んだ。

そう、言いそびれたが、姉娘の名は敏恵、妹のほうは加奈という。
そんなに齢が離れているわけじゃないのに、名前の響きの古さ新しさは、ふたりの性格と同じくらい、きわだっている。
長女が生まれ、次女が生まれるまでの数年間に、どうしてこんなふうに違ったふうな名前を思いつくようになるんだろう?
ひとごとながら、不思議に思える。
その敏恵のほうが、いま婚約者のトシヤと向かい合って、熱烈交際中という表向きとは裏腹な仏頂面で、恋人のはずのトシヤのことを、むーっと睨みつけているのだ。
それはそうだろう。
珍しく、「敏恵さん、話あるんだけど」と、誘い出したトシヤが、工場の隅っこで囁いたお願いに、ものに動じないはずの姉さんは大きな瞳をなおさら大きく見開いてしまったのだから。
――兄さんに、処女の生き血を飲ませてあげられないかな・・・?

無理ッ!無理。あのひとだけはゼッタイ、むりっ。
さいしょは顔をくしゃくしゃにしてうつむいて、頑なに肩をすくませてそう口走っていた。
いつもは冷静なくせに、いったん感情が昂ると、なりふりかまっていられなくなるらしい。
持って回った言い方のほうが傷つけてしまうかと思い、つとめてストレートに言ったつもりが、かえって裏目に出てしまった。
気の強い女の癇の虫というやつは、計測不可能なんだ。
女慣れしていないトシヤは、またひとつ経験を積むことになる。

それはともあれ、なんとか女をなだめなくちゃならない。
言うに事欠いて余計なことを口走り、そのやっかいな後始末をするはめになったことにおろおろしながらも、
こっちに背を向けて羞じらいつづける敏恵のことを、(意外とかわいいじゃん)と感じてしまっている自分がいる。

おれと結婚するのは――無理じゃないの?
無理なわけないでしょう。決めたことなんだから。
後半のひと言はよけいだったが、気の強い女はどこまでも、律儀で生真面目らしいから。
そこは割引して、聞き流してやる。
きつい言葉を浴びせられても被害を最小限度にとどめる心の工夫は、さすがにトシヤもできるようになっている。
――ありがとう。
しぜんと、そんな言葉が出た。
かりそめにも、大学出の才媛OLが、こんなみすぼらしい町工場に嫁に来てくれるというのだ。
兄貴とは似ても似つかぬぶきっちょで、一生独身でもおかしくないと自覚していたトシヤには、天から降って来たような展開だった。
お礼のひと言くらい言ってみたって、罰は当たらないだろう。
けれども敏恵は、トシヤに「ありがとう」といわれて、急にしゅんとなっていた。

どういたしまして。

言葉だけは気丈に作ったけれど、かたくなにすくめていた肩が、ちょっぴり震えている。
ああ、この人はやっぱり、生真面目なんだ。
妹の加奈のことを「純情」といっていた姉さんも、やっぱり純情だったのだ。
妹の婚約者で、おまけにいけすかない女たらしの吸血鬼でもある兄貴の相手をして、自分から血を吸わせるなんて。
それをよりにもよって、未来の夫にそんなお願いをされちゃうなんて。
心が千々に砕けても、とうぜんのことだったんだ。

あなたのことは、おれが一生、守ります。決めたことなんだから。
意趣返しのつもりはなかったけれど。
つい洩らしてしまった後半に、せっかくの決めセリフがフイになった。
決めたことって――もう。
言い出したのは自分なんだと、さすがに自覚が伴ったらしい。
敏恵は俯いたまま、サンダルの脚を自堕落にぶらぶらさせる。
真っ白なサンダルはおしゃれで、都会を歩いてもおかしくないくらい恰好よかった。
てかてかとした革製のストラップが、肌色のストッキングに包まれた足首に、グッと食い込んでいる。
おれには、もったいないくらいの女性(ひと)――
思わず後ろから、肩を抱きとめていた。
ばか。
優美なウェーブを描いた豊かな黒髪に隠れた顔をわざと見ないように目線をそらしたのは、
初心なトシヤにしてはあっぱれな態度だった。

この狭い工場で、4人で一緒に暮らしていたら。
いろんなことがあるだろう。
兄貴は女たらしの吸血鬼。
そんな兄貴にどこまでもついていくという加奈のひたむきな純情さをもってしても、その食欲と性欲とは、補いきることはできないはず。
といって、外でのつまみ食いもほどほどにしないと――とは、明らかに感じているらしく、このごろはすっかり、盛り場に出没する機会を意図的に減らしているのが、近くにいるだけでよくわかる。
無理してるな、兄貴――
ここを牢屋にしちゃったら、いけないよな。
トシヤがいつも感じるのは、がみがみと口うるさい義理の姉――トシヤを通せば義妹といえなくもないが、お互いにとってそんな気分はみじんもない――に、兄貴がいつも負けかかって、みるからに煙たそうにしていることだった。
敏恵の存在が兄貴のなかで重たいだけだったら、いつか兄貴は敏恵も加奈までも置き捨てて、ここを出ていってしまうに違いない。
せっかく兄貴のために立ち上げた小さな工場も、そうなってしまったらトシヤのなかでも無意味になる。
だから、敏恵さんにも兄貴のことを受け容れてもらいたいんだ。
あんな兄貴だけど、許してやってくれないかな・・・

兄さん孝行したい気持ちは、わからなくもないけれど。
工具の詰まった木箱に腰をおろしながら、敏恵は仏頂面に戻っている。
やくざな木箱の上、茶色に白の水玉もようのワンピースが、明らかに不似合いに映った。
でもね、あたし気が強すぎるでしょ?さすがに自分でも、これじゃいけないって思ってはいるの。
もっと打ち解けてほしい・・・って、あなたの気持ちはよくわかった。
でも、かりにも自分の婚約者を、危険な男と二人きりにさせることだっていうのだけは、わかっておいて。
ウン、わかった。じゃあいちどだけ・・・
トシヤはそう応えてはみたものの――
いかに気の強い敏恵が相手でも、生き血の味が気に入ってしまったら、
二度や三度じゃ終わらないのが兄さんだって、わかりすぎるほどわかっちゃっている。



わかってるって。
あんたはかりにも、トシヤの婚約者――未来の花嫁なんだから。
それにそもそも、加奈の姉さんなんだから。
犯したりなんか、しないって。
兄さんは顔赤らめて力説する。
それをすぐかたわらで耳にしながらも、トシヤは自分でもびっくりするほど、冷静だった。

おれを好いてくれているのも、ぶきっちょなおれのことをいつも案じてくれているのも、決して嘘じゃない。
けれども、どうしようもない女好きだというのも、もちろんほんとうだ。
彼女はむーっとして兄さんのことを睨みつけ、そして言った。
じゃあいちどだけ。
どっかで聞いた言葉だなあって、そのときは軽く考えていた。
ボクは思わず、言い添えていた。
ぼくにとって敏恵さんが大事なひとだっていうことだけは、忘れないで。
作った仏頂面のやり場に困るほど敏恵が内心の感激を抑えかねているのを、トシヤはわざと受け流したけれど。
そんなセリフももしかしたら、しんそこ抱いた危機感の表れだったのかも知れない。



逢瀬は、ちっぽけな事務室で交わされた。
加奈はちょっと出かけてくるといって、ショルダーバック片手に工場から出ていった。
さすがに、自分の彼氏が姉さんの血を初めて吸うという状況と、同居する気にはなれなかったらしい。
ついていってやったほうがいいのか?ちょっぴりだけためらったトシヤは、かろうじてその場に踏みとどまった。
オレはあのひとの婚約者なんだから。自分でそう、言い聞かせた。
視ないでちょうだい。恥ずかしいから・・・そういって声を尖らせる敏恵も、じつは不安でたまらないらしい。
咬まれちゃったら、すぐなのにな。
その後の展開をわかりすぎるほどわかってしまっているトシヤとしては、内心いたたまれない気分ではあったけれど。
言い出しっぺのおれが、逃げ出すわけにはいかないよな、と。
すべての後始末を引き受けるつもりになっていた。

ものの5、6分。
気持ちのうえでは、ほんの一瞬でしかなかった。
擦りガラス越し、2人の影が重なって。
兄貴の唇が、たしかに敏恵の首すじに吸いついた・・・ように見えた。
内心、ずきり!とするものを抑えきれなくなって、トシヤは思わず股間を抑えた。
どうして自分がそんなことをしてしまったのか、自覚できなかったけれど。
たまらなくなっちゃったのは、間違いなかった。
兄貴が女を事務室に引きずり込んで、両肩を抑えつけ、首すじを咬んで、相手を夢中にさせてしまう。
そんな光景、いままでなん度目にしたことだろう?

いつもなら。

またかよー。たいがいにしろよな。事務所汚れるし、匂いもつくじゃんかよー。
おれのやってるコトったら、まるでエッチのあと始末じゃんよー。

そういってぶーたれながら、勝手に夢中になっている二人を追い出して、
血の撥ねた床をモップ掛けしたり、そそくさと後始末に励むのがいつものことだったけど。
きょうの兄貴の獲物は、おれの婚約者なのだから――
さっきから、ぞくぞく、ぞくぞく、慄(ふる)えがとまらない・・・
ワンピースの肩を、我が物顔に抱きすくめる、むき出しの猿臂。
のしかかってくる兄貴を少しでも近寄せまいと、か弱く突っ張った細くて白い腕。
エンジ色のワンピースに乱れかかった、ゆるやかにウェーブした黒髪のつややかさ。
「血が撥ねても目だたないから」と、そんな色を選んだあたりにも、敏恵の賢明さがあらわれているだけに――そこがトシヤとしてもたまらない。
なによりも。
黒髪を掻きのけられあらわにされた白い首すじに、ぴったりと密着する、兄貴の唇――
その一点が、てこになって。
あの気丈で誇り高い敏恵のすべてを、塗り替えてしまう光景に。
トシヤは擦りガラスに頬ぺたを圧しつけるようにして、見入ってしまっていた。

彼女を束縛していた猿臂が、急にほぐれた。
敏恵は男を振りほどくと、よたよたと事務所から逃れ出た。
擦りガラスに頬ぺたを圧しつけていたトシヤは、それを視られまいとして、あわてて頬ぺたをガラス窓から引き離す。
それと同時に、敏恵が腕のなかに入ってきた。
人目もはばからず抱きついて来るなど、この女にはあってはならないことだった。
自分のしたことにわれにかえって、さすがに敏恵は身を離したけれど。
掴まえたままのトシヤの両ひじに、痛いほど力を込めて。

びっくりした。びっくりした。衝撃強すぎる・・・

息遣いも荒く、なん度もそうくり返していた。
白い首すじに滴るバラ色のしずくが、吸い残されてしまったのを恨むかのようにしずかにうなじを伝い落ち、
女の気づかぬ間にエンジ色のワンピースのえり首を、濃く染めていった。



いちどだけだよ。
敏恵が睨みつけている相手は、もちろん兄貴。
請求書と領収書の整理が一段落するのを待ってから口説き始めるようになったのは、
兄貴としては進歩したつもりなんだろう。
もうっ。いけすかないっ。
傍らで様子を見ていた加奈が、プンとむくれてそっぽを向いて、
4つ分のコーヒーカップを、ひとりで片づけにかかる。
口ではすねてみせるけれど。
兄貴にぞっこんなのは、かわいそうなくらいにバレバレで。
文句を言いながらも、尽くしちゃっている。
今だって。
自分がいたら姉さんを口説くの遠慮するだろうなって気を使って、怒ったふりをして座をはずそうというのだろう。
こんなにいい子がいるのに、なんなんだよ。
そんなふうに愚痴ってみたところで、はじまらない。
兄貴の必要とする血の量は、ひとりの女で受け止めるには、あまりにも負担が重すぎた。
コーヒーカップをお盆に載せて、加奈がツンツンしたふりをして退場すると。
つぎに気を利かすのは、おれの番なのだろう。
じゃ、おれ仕事戻るわ。
背後の気配に未練を残しつつ、俺はいかれた車のほうへと無理に自分を引っ張っていく。
じゃあ~、いちどだけ・・・
兄貴はおれに気を使ったつもりでも。
女の肩に手を伸ばすタイミング、いつもちょっとだけ、早すぎるんだよな・・・

そもそも、だいたい、その「いちどだけ」っての、きょうだけでなん回誓い合うんだよ?
いかれた車の下は、いまでは便利な隠れみのだった。
気になる恋人の危機を、トシヤは仕事をするふりをして、いつもここから息をひそめて見守っていた。
敏恵は兄貴に求められるまま、ストッキングを穿いた脚を恐る恐る、差し伸べてゆく。
ねずみ色のタイトスカートはひざ上丈で、引き締まった太ももがお行儀よく収まっている。
上品なはずの肌色のストッキングが、どことなくいやらしく映るのは・・・たぶん気のせい。きっと、気のせい・・・
部屋の照明を照り返して、薄いナイロン生地がテカっているだけじゃないか。
その薄々のストッキング越し、兄貴の唇がじんわりと、敏恵のムチッとしたふくらはぎに、吸い寄せられる。
吸いつけられた唇の下、ストッキングにキュッと引きつれが走り、そしてメリメリと裂けてゆく・・・

知的なOLの象徴みたいな、気品のある足許を 惜しげもなく辱めさせてしまいながら。
ウットリとなった敏恵は、そんな自分を気取られまいと、ひたすら天井の照明とにらめっこしている。
俺がいると羞ずかしがって、決して許そうとはしない吸血を。
俺の目がないと本人が思い込んでいる場所では、「じゃあいちどだけ」という呪文をかけられると、あっさり許すようになっていて。
さいきんは、夢中になってしまっている横顔を、隠そうとしない。
気取られていないと思いこんでいるのは、本人だけだった。

気が強くて、プライドが高くて、男たちを寄せつけなかった女は。
血をあげているのは、慈善事業なんですからねっ。
愛してるのは、トシヤくんのほうなんですからねっ。
そんな言い訳を口にしながら――いや、彼女の名誉のために言い添えれば、どちらも本心には違いない――首すじに這わされてくる唇を、もう拒もうとはしていない。
息せき切って、せっぱ詰まったうめき、もだえ――
視て見ぬふりをすることができている周りの連中は、なんて大人なんだろう。
気がついたら、またも股間に手をやってしまっていることに苦笑いを泛べながら。
俺も加奈ちゃんと同じくらいには、オトナにならなくちゃな。
そう思いこんで、工具を握る。

処女の生き血は、兄さんの大好物だから。
きょうも、婚約者の敏恵と二人きりにさせてやって。
加奈が顔色を蒼ざめさせている日は、兄さんにたっぷりと、栄養を摂らせてやるんだ。
兄さんが大好物なのは、処女の生き血なんだから。
きっと、兄さんが敏恵さんを犯すことはないはず。
妹よりおくてなのを恥じる姉は、吸血鬼を兄に持つおれの希望を入れてくれて。
きょうも吸血鬼のお目当てを、望まれるままにたっぷりと、提供して。
善意の婚約者の存在のおかげで、おれはまたきょうも、兄貴孝行をする。
こんな日常が、いつまで続くのだろうか?
考えてみれば・・・妹のほうの加奈は、とっくに女にされちゃっているのだ。

初めての夜は、トシヤくんと過ごすんだから。
敏恵の希望は、いまでもそうに違いない。
けれども――
兄貴に直接望まれても、きっとそういって相手の欲望を斥けてくれるに違いないのだけれども。
もしも兄貴が、おれにそのことを望んできたら・・・
そのときおれは、もうひとつの兄貴孝行を、果たしてしまうかもしれない・・・

あー。
不覚にも洩らした声は、事務室から筒抜けになった。
トシヤは思わず工具を取り落し、きょうの作業をあきらめた。
集中できないのは、いかれちまった車に悪いからな――
いかれた車の下。
いかれちゃいかけている恋人が、兄貴を相手に遂げる逢瀬を。
いつかおれ自身が、愉しみはじめてしまっている――



敏恵に感じるまっとうな愛情も。
兄貴に感じるまっとうな愛情も。
ふたりが交し合ういけない関係のかもし出す、妖しい雰囲気も。
トシヤのことを支配し始めている、兄貴に過度に貢献したいという衝動も。
どれも・・・ほんとうのトシヤの一部分であることに・・・違いはなかった。


≪後記≫
続きはこちら。

http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3276.html
どういうわけか、とまりませんねぇ。 A^^;
結論はほぼ見えちゃっていて、コチラの読者のみな様ならご賢察のとおりの展開ですが。。。

スナックのお姉さん。

2016年02月26日(Fri) 07:28:55

夕べスナックに行ったらね。
さっきまで黒のスケスケのストッキング穿いていたお姉さんが、肌色のに穿き替えていて。
あれ?穿き替えた?
って、訊いてみたら。
知らないうちに伝線してたんだって。
太ったのかなあ・・・って、笑っていたけど。
じつは、ちょっと席を外したすきに、お店の外で吸血鬼に咬ませていたのかも。^^
あっ、じつは咬んだの俺だったりして。^^

破けたパンスト、もらってくればよかったなあ。 ^O^

町工場の兄弟

2016年02月25日(Thu) 07:11:43

いかれた車の下に這いずり込んで、
工具片手に真っ黒になって手探りをしていたトシヤは、
カンカンと硬い音を立てて駆け寄ってくる足音を耳にした。
だれもいないちっぽけな工場の、兄貴はエントランスなんてしゃれた言葉を使うけど、
その実ただの開口部に過ぎないところに一瞬佇むと、
人の気配を察してすぐに、硬いハイヒールの駆け足は、こっちへと矛先を向けた。
あわてて車のバンパーの下から顔を出すのと、女の手が彼を力任せに引きずり出すのとが、同時だった。
あまりのタイミングの良さに、ずるりと車の下から這いずり出た瞬間、
なにかをひっかけたのか、時間の節約と引き換えにシャツには無同情なかぎ裂きができた。
アッ、ごめんなさい!――くらい言っても、罰は当たらないよな・・・
と思ったときにはもう、見慣れない美貌の持ち主の悪罵が、頭上からガンガンと降りそそいでいた。

妹はどこ?
純情な子なのに食い物にしてっ!
ちゃんと責任取ってくださいッ!
でもあなたなんか、義理の弟として認められないわッ!

ちょっと待ってくださいよ。
車の下の真っ暗闇に慣れた目をしょぼつかせながら、トシヤは言った。
それ、兄貴のことでしょう?

美貌に似合わずそそっかしい女は虚を突かれたように、えっ!?と目を見開いて、トシヤを見た。
アッ、ごめんなさい!
女はやっと、トシヤが期待した通りの言葉を口走る。
けれどもそのあとのひとことは、まったく余計だった。
弟さんだったのね。どうりで、似ているけれどちょっとやぼったい・・・

やぼったくって、すみませんね。
頭を掻き掻きトシヤは、車の下から這い出てきた。
女は、相手の男のみすぼらしいシャツにできたかぎ裂きが、自分の狼藉に起因してできたものだということも念頭にないらしく、
思いっきりぶつけた怒りの鋭鋒が見当はずれのところに落下してしまったことに気勢をそがれたことを、ひたすら悔しがっていた。

兄貴のことですよね?
いつも違う女の人連れて、出歩っていますからね。
どこまでわかってるか知らないけれど、妹さん、兄貴とはてきとうなところで別れたほうがいいですよ。
女好きだし、浮気性だし、おまけに吸血鬼なんだから。
たいがいの女の子がね、ディスコとかで知り合って、暗闇の中で血を吸われたことにも気づかないままのぼせちゃうんだって、兄貴いつも言ってますから。
そんな不用心な女のほうにも、問題はあるだろうって。
兄貴がいいかげんなほうにも、問題は大ありなんですけどね、本人、どこまでわかっているのか・・・
まあ・・・ね、兄貴も気の毒なんです。
吸血鬼になっちゃうとどういうわけか、子供ができなくなるんですよね。
兄貴、子供好きだったですからね。
でも、それいいことに、人間だったころ以上に、遊んじゃってるみたいなんです。
女の子のことも、子供に負けず劣らず、好きだから。
やけになってるんだったら、ちょっとかわいそうな気もするんで・・・
弟としてはもっぱら、こうして押しかけてくる女の人をなだめてお引き取り願うのが役回りになってるんですけどね。
でも、お姉さんがかたき討ちに来たのは、さすがに初めてだなあ・・・

妹はどこにいるんです?
人違いを素直に謝るには気が強すぎるらしいお姉さんは、
よそ行きのスーツ姿のオーラを、場違いなみすぼらしい町工場のなかで無自覚にめいっぱいひけらかしながら、
そんな自分の場違いさにも気づかずに、トシヤを問い詰めた。

えーと・・・
わかりますよ。そっくりですよね。大きい目とか、ふさふさした黒い髪の毛とか。
ストレートで、短くしてるでしょう?色が白くって、でも大人しそうな人ですよね?
兄貴のこと訪ねてきては、いつもいなくって。
寂しそうに半日、そこのベンチに座って待ってたことがあったっけ。
あのときはちょっと、かわいそうだったな。
遠い目になったトシヤの思いやりの深い低い声色に引き込まれたように、女はトシヤの横顔に見入っていた。
ふと振り返る顔と視線があって、女はあわてて目をあさってのほうに向ける。
そんなやさしそうなこと言って・・・あなたも実は吸血鬼なんじゃないの?
ア、おれは違います。兄弟では片方しか、なれないらしいんです。
だから、いつも貧乏くじです。
彼女もできないし、作ったってどうせ、兄貴に摂られちゃうのがオチだろうし。
たしかに――このさえない風采ではそれもありだろう。
人の好さそうな困り顔に、女はちょっとだけ、同情を感じた。
吸血鬼になるのと引き換えに、この人の兄は兄弟の幸せのあらかたを、持っていってしまったようだ。

あっ!
遠くから若い女の声がした。
声は、狭い工場のなか、不必要に大きく響いた。
開口部だけがやたらと多い工場のなかは明るく、声の主がだれなのか、トシヤにも女にも、すぐにわかった。
トレーナーにジーンズのラフな格好でも、それを着ているのが可愛い女の子だと、おしゃれにしか映らない。
そんなお手本みたいな少女は、姉とそっくりな顔つきで、
ケンのある美貌から気の強さを引いて善良さとか弱さとを足し算するとそうなるというくらい、似通った面立ちをしていた。
彼女の細い肩に我が物顔に腕を回した男は、さらに大きな声で、「わっ!」と叫んだ。
街でひっかけた女の子のこうるさいお姉さんに、明らかに見覚えがあるようだった。

こんな男と早く別れて、家に帰ってらっしゃい!父さんも母さんも心配してるわよ!
お姉ちゃんあたしのことに口出ししないでって、あれほど言ってるでしょ?
好きな人と一緒にいて何が悪いの?
だまされてるのに、まだ気がつかないの?あなた本当に世間知らずなんだからっ!
変に知恵を回すより、あたしは好きな人を好きなだけ信じるタイプなのっ。
・・・
・・・
(以下略)

あーあ、修羅場だよ。
姉妹できゃあきゃあ騒いでいると、耳元がガンガンしてくる――
ふだん聞きなれた工具の立てるけたたましい騒音のほうが、数等ましだ。
トシヤはまったく閉口していたが、兄貴のほうは逆にこんなのは慣れっこらしく、
そのぶん工場の作業の汗臭さ油臭さには閉口するタイプの男だった。

どうするよ。
兄貴もさすがに困り果てて、こっちを見る。
おれのこと見たって、なんにも解決なんかしないじゃないかよ。
トシヤもわざと顔をしかめて、騒ぎのもとを作った兄貴の、救いを求めるような視線をはじき返す。
ところが騒動は急転直下、意外な結論に到達していた。
兄貴は責任を取って、妹娘を嫁にもらう。
妹娘は工場を手伝い、兄貴の病気には多少、目をつむる。
(というか、本人はさいしょから、それでいいと感じている)
しっかり者の姉娘は敏腕OLとしての取り柄を生かし、工場の経理や事務を手伝いながら、妹夫婦のお目付け役として、居座る。
そのままでいるのもなんだから、ついでに弟のトシヤと結婚する。

おい、ちょっと待ってよ。どうしてそこにおれまで入るワケ?
トシヤの抗議は、一蹴された。
あなたも責任取りなさい、って、一喝されて。
でも、おれ嫁さんもらったって、どうせ兄貴にとられちゃうんだぜ?
兄さんに私がよろめくと思う?
さあ・・・それはどうだか・・・
さすがにへらへらっとなってしまったトシヤに、姉さんはなおも、たたみかける。
でも、もしそうなっちゃっても、あなた兄さんのこと許しちゃうんでしょう?
そうだね。兄さんとなら、自分の嫁が浮気しても許してしまうと思う。
しぜんと口をついて出てきた弟の言いぐさに、さすがの兄貴がしんみりとなった。
けれどもすでに、
(姉貴のほうも案外、イケるじゃん)
なんて思いはじめてしまっている、救いようのない兄貴のことだから、
きっと“病”のとばっちりがこの気丈な姉にまで及ぶのはもう、時間の問題だっただろう。

じゃあ決まり決まり!・・・ということで、このどたばたはどうやら、唐突な大団円を迎えたらしい。
トシヤから工場の説明を受けている妹娘は、弟の発する善良な雰囲気をしっくり受け止め始めている。
その傍らで、ふたりきりになった姉娘と兄貴は、どうやら同い年のようだと自覚し合っていた。
ねえ。あんたさぁ・・・
性懲りもなく“病状”を発揮し始めた兄貴に、お姉さんはくぎを刺した。
あたし、まだ処女なんですからね。初めての夜は、トシヤくんと過ごすから。
それまであたしに、手を出したりしないでね。
睨みつける大きな瞳が、本人の自覚とは無関係に、魅惑的な輝きをたたえていた。

≪後記≫
続編描きました! (^^)/
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-3275.html
しっかり者のお姉さんと、ジダラクなにーさんが、どうなることかと気になって・・・。
(^^ゞ

大丈夫だよ。

2016年02月22日(Mon) 07:50:10

大丈夫だよ。
妻はいつものように笑って、ドアの向こうに消えた。
真っ赤な口紅を鮮やかに刷いた小ぶりな唇から覗いた白い歯だけが、記憶に落ちた。
急いで駆け寄ったドアには、早くも錠がかけられていた。

耳を当てたドア越しに、ヒッ・・・と息をのむ妻の声。
重なり合ったふたつの身体がかもし出す、気配、音。
鮮明な想像のなかで抱き合ったふたりはじょじょに姿勢を崩していって、
尻もちを突き、横たえられて、ブラウスをはぎ取られていった。
それ以上はもう、聞く勇気がなかった。
脳裏にわだかまる貧血に鈍麻されたわたしは、のろのろとソファへと向かい、身をゆだねた。
さっきまで咬みつかれていた首すじには、痺れるような鈍痛がしみ込んでいた。
あの貪欲さで、いままさに妻の血を貪られている――
嫉妬とも怒りともつかぬ感情と、それからわけのわからない帰属感とが、わたしを支配した。
帰属感?
そう。妻はわたしと同じ体験をくり返そうとしている。
そして、やつの体内でわたしと妻の身体から吸い取られた血液は、ひとつになる――

2人が部屋から出てきたのは、2時間後だった。
さいしょに男が。それから妻が。
半開きのドアの向こうから、男につき従うようにして姿を見せた妻は、
きまり悪そうな伏し目がちになって、
男とドアとのすき間をすり抜けるようにして、わたしのほうへと歩み寄る。

血を吸われちゃった。
イタズラを見つかった子供のように、彼女はへへへ・・・と笑う。
白目が瞳の黒さにひきたって、いっそう怜悧に輝いている。
指さされたうなじの一角に、視線が吸い寄せられる。
ショートカットの黒髪の生え際のあたりに二つ、紅い咬み痕が綺麗に並んでいた。
吸い残された血潮が、チラチラと妖しい輝きをたたえている。

姦(や)られちゃったけど、大丈夫だよ。
あなたのことを一番、愛しているから。

妻は瞳に怜悧な輝きをたたえたまま、巧みに感情を隠していた。

立てるかね?

気づかわし気に身をかがませてきた吸血鬼に、妻はほっそりとした手を預けた。
そうして、引っ張り上げられる力よりもしっかりと、自分の脚で起ちあがった。
スカートから覗くひざ小僧から下は、まとわれた肌色のストッキングがみるかげもなく破れている。

知ってる?脚からも吸うのよ、このひと。
パンスト代がばかにならないわ。

妻は主婦の顔に戻って、自分の身に狼藉をはたらいた男に、苦情を言った。
パンスト代もばかにならない。
咬み破られるパンストは、一足だけでは終わらない――ということか。
妻も、暗にそれをわたしに告げたかったのだろう。

このひととお付き合いするたびに、こういう目に遭うんだわ。
あなた、私のパンスト代しっかり稼いでね。

ドSなことを言うなあ・・・
わたしはとぼけた苦笑を作って、妻に応じた。
三人三様のそらぞらしい笑いが、リビングに満ちた。
これで和解が成立した・・・ということなのだろう。
わたしはふたたび吸血鬼に首すじを与え、
朦朧となって横たわったソファのまえ、
妻は娼婦と化して、淫らな舞いを見せつけてくれた。

こんどは、主人のいないときにしてくださいね。
私連絡しますから――

吸血鬼と、携帯のアドレスを交換し合う妻。
相手の男はわたしたちよりも10歳以上年上の、さえない男やもめだった。
もちろん、黒マントなんか来ていない。
よそ行きのスーツ姿の妻とは明らかに釣り合いの取れていない、ラフなふだん着姿。
はだけたブラウス、吊り紐の切れたブラジャーのすき間から乳房をチラチラと覗かせながら、妻は吸血鬼相手に、和気あいあいと言葉のやり取りを愉しんでいる。
男は自分の情婦にした人妻のスカートのなかに手を突っ込んで、さぐりはじめた。
なにを始めるのか?そう思ったら。
パンストのゴムに手をかけて、ひきおろそうとしているらしい。

あいつらね、モノにした人妻のパンストを欲しがるんですよ。

同僚のひとりは、事前にそんなことを教えてくれた。
いまにして思うと、彼もきっと、目のまえで妻のパンストをまんまとせしめられてしまったのだろう。

やらしい。絶対!やらしい。
そういうの主人のまえでやらない約束でしょう!?

妻の悪罵は、吸血鬼の頭上にさえ、容赦なく浴びせかけられた。


以後も、やつの訪問は継続しているらしい。
妻はそんなことはおくびにも出さず、
今までのように、何ごともなかったかのように、
家を切り盛りし、出勤するわたしをにこやかに送り出す。
夫を送り出した後は、きっと娼婦の顔になる。
化粧を厚く塗りなおし、携帯をとって、男を呼び寄せる。
血に飢えた男は、夫婦の寝室で妻をつかまえ、首すじを咬んで血を啜り、
それからベッドに押し倒し、パンストをむしり取ってゆく――

男やもめをかこっていた吸血鬼は、欲望の対象を手に入れたし、
妻は主婦の座を維持したまま、夫が黙認する不倫を、公然と愉しんでいる。
わたしはといえば――
面子を保たれ、だれにも嘲られることもなく。
行為の継続とともにしみ込まされた、いびつな感情に支配をされて。
妻の貞操をほかの男に譲り渡す快感に目覚めてしまい、
勤務時間中に職場を抜け出しては、わざと施錠のされていない自宅に戻り、
半開きのドア越しに、息をはずませ合うふたりを見つめ、
よそ行きのスーツの奥深く突き入れられる股間の牙に妻が我を失うさまを、見届けていく。

妻は不倫を自分の身体で愉しみ、わたしは目で愉しんでいた。

わたしの前では、しっかり女房。
情夫の前では、娼婦。
女はやはり、魔物なのか・・・
魔物の本性を覗かせる妻は、自らの欲望を人知れず満たしながら、きょうも貞淑妻を演じ続ける。

「枠」。

2016年02月19日(Fri) 05:45:13

入学直後に応接をした吸血鬼は、自分の父親よりも年上だった。
濃紺の半ズボンに、同じ色のハイソックス。
そんな制服姿で、旧校舎の空き教室に呼び出しを受けて。
表情を消した担任に引率されるまま、教室の扉はとざされていった。

二人きりになったとき。
ごま塩頭のその男は、顔見知りだった。
目を細めて値踏みをするように、アツヤの仕種や顔つきをひとしきり観察すると。
やおら腕を伸ばしてアツヤの肩をつかみ、引き寄せた。
思ったより逞しい猿臂に、引き込まれるまま抱きすくめられて。
気がついたときにはもう、首すじを咬まれてしまっていた。

ひとしきり血を吸いあげられて。
軽いめまいを振り払おうとしながらも、頭を抱えていると。
教室の床に、腹這いになるように言われて――
こんどは、紺のハイソックスを履いたふくらはぎに、唇を吸いつけられていた。

ひとしきり行為が済むと。
男は血の滴ったままの唇を、アツヤの唇に圧しつけてきた。
自分の血の、錆びたような芳香に、むせ返りながらも。
いつの間にか自分のほうから応じるようになってしまったことに、気がついていた。
男はアツヤの半ズボンのチャックをおろして、
むぞうさに手を、突っ込んできた。
咥えられた分厚い唇の向こう側。
不覚にも吐き散らしてしまった若い粘液を、男はさも旨そうに、啜り取ってゆく。

毎年ね、わしはこの学校で、「枠」を持っているんだよ。
学年が変わるたびに、「枠」に入る子も原則入れ替わるんだ。
サッカー部で、2人。
ラグビー部で、3人。
文化部枠は、あんた1人だ。
ほかにもなん人となく、血をくれる若いひとがいるおかげでね。
わしのようなもんでも、生き永らえさせてもらっとる。

文化部なんかより、運動部の男子のほうが、パワー摂れるでしょ?
自ら発してしまったきわどい質問で、自分が行為にすっかりなじんでしまったことを自覚して。
アツヤは少しだけ、頬を赤らめた。
頬が赤らむ程度には、早くも回復していることが。
目のまえのこの老人が自分たち生徒に求める”若さ”というものなのだと。
眩し気に細めるまなざしを前に、いやでもそう、自覚させられる。
文化部の男子には、知性的な彼女がおるからの。
男の言いぐさに、アツヤは顔をさらに赤くする。
そう。
親の決めた婚約者ができたのは、入学直前の春休みのことだった。
同級生のヤスヨさん。
おさげ髪をきりっと結わえた、評判のしっかり者だった。
わしは二刀流じゃ。
女子のハイソックスも咬むと愉しいのを、よぅ知っておる――
アツヤはちょっとだけ戸惑って、ためらって。
けれどもすぐに、なにかを決心したような、くっきりとした顔つきになった。

もっと飲みたいの?
アツヤのしんけんなまなざしを、男はまともに見返していって、こたえた。
ああ、嬉しいね。

教室の床に、こんどは自分から腹ばいになっていって。
まだ咬まれていないほうのふくらはぎを、そっと差し伸べる。
よだれをたっぷり含んだ男の唇がなすりつけられるのが、
そのよだれを、入学したての真新しいハイソックスにじわじわとしみ込まされてゆくのが、
なぜだかむしょうに、小気味よかった。

ヤスヨさんの履いている紺のハイソックスも、こんなふうにいたぶられちゃうんだね。
僕はそういうことを、前もって経験させられているんだね。

彼女を寝取られる気分は、どうかね・・・?
そうだね。悔しいけど・・・恥ずかしいけど・・・悪くないかもしれない。
相手が小父さんだったら・・・歓迎しちゃっても・・・いいかな・・・?

1週間後、アツヤはヤスヨを同じ教室に連れてきて。
さいしょは嫌々に。やがて積極的に。
ヤスヨもまた、処女の生き血を啜り取られるようになっていた。
セーラー服の襟首を走る、白のラインに紅いしたたりを散らせながら――
ヤスヨが初めての過ちを犯すところは、卒業前までとっておく。
ふたりの卒業祝いに、わしが奪うところを覗かせてやるからな。
身体を結ばれた男ふたりは、そんないけない約束で、指切りを済ませていた。

男の吸血鬼に、血を吸われる。

2016年02月15日(Mon) 07:01:46

ここは、街はずれにある古い洋館の大広間。
ボクはじゅうたんの上、うつ伏せになって。
あの男に生き血を、吸い取られている。
もう・・・なん回めになるだろう?

わが母校は崇高なる人類愛を標榜して、
街に出没する吸血鬼を受け容れた。
通学するおおぜいの男女生徒の血液を、彼らに無償で提供することで、
人と吸血鬼との共存を図ろうというわけだ。
学校の意図は、成功しているんだそうだ。
だって、ほとんどの生徒が血を吸われたというのに、生徒の死亡例が皆無だからだ。

男の吸血鬼は、好んで女子生徒を襲った。
それが人情というものだろうから、気持ちはわかる。
彼女の麻利絵さんまでが毒牙にかかったときは、さすがに悔しかったけれど――
だからといって、どうすることができるわけでもない。
首すじに咬み痕をつけた彼女は、自ら望んでお相手と密会を続けている。

麻利絵さんの血を吸っているやつが、ボクのことを襲ったのは。たぶん偶然だ。
でも、その事実を知ったとき――なぜかむしょうに、嬉しかった。
ヤツの体内で、ボクの血は彼女の血といっしょになる・・・そんなふうにも思えたし。

いまヤツは、ボクの首すじに唇を当てて、
チュウチュウといやらしい音を立てて、血を吸っている。
麻利絵さんのときにもきっと、そうしているのだろう。
心地よげに目を半ば瞑りながら吸いあげてゆくのが、傍らの姿身に映っている。
首すじの次は、脚だった。
そろそろとふくらはぎに這い寄って、
紺のハイソックスのうえから、ヤツはボクのふくらはぎに牙を立てる。
そう――ボクがいま身にまとっているのは――女子の制服。
そのほうが気分が乗るから・・・とせがまれて、
学年がひとつ下の妹のやつを、無断で拝借している。
ハイソックスは何足、穴をあけてしまっただろう?
ボクは素知らぬ顔をしていたけれど、妹のやつはきっと、気づいているに違いない。

吸血は性行為だという。
彼女も時々、そんなことを口にする。
ゴメンね・・・って、いいながら。
彼女はイタズラっぽく笑って、ボクの顔を盗み見る。
キミ以外のひとと、浮気してるみたい。でも許してね。
言っている内容はシリアスなのに、きみの口調はどうしてそんなに愉し気なんだい?

吸血が、性行為だとしたら。
たまたま自分の血を吸う吸血鬼が男だと、どういうことになるのだろう?
男に血を吸われた男子は、かなりの確率で同性愛に目覚めるという。
女子の制服を着ながら、息をはずませちゃって・・・
ボクもそんなひとりに、なってしまうのだろうか・・・?
ゴメンね・・・と囁く彼女の幻影に。
ゴメンな・・・と応えてしまっているボク――
彼女とはきっと、長続きするに違いない・・・。

意地悪な継母 紳士な吸血鬼

2016年02月15日(Mon) 06:58:39


昔の女学生みたいに、黒のストッキングを履いて。
町はずれのお邸に、週に一度お邪魔することになった。
処女の生き血を、吸われるために――



私は、もらわれっ子。
両親が急にいなくなって、叔母夫婦に引き取られた。
そこには一歳年下の女の子がいて――ことあるごとに、差別をされた。露骨なくらいに。
たまたま通っているのが同じ学校で・・・だから、今までと同じ学校に通わせてもらえたけれど。
街が吸血鬼の支配を受け容れて、血液の提供を義務づけられてしまうと。
叔母は躊躇なく、私一人を指名した――

毎週行くのよ。そこで血を吸われておいで。
麻由を行かせるわけにはいかないから、あなた一人で行くのよ。よくって?
よくって?もなにも・・・断れるはずはなかった。
すべては、この人たちに握られてしまっているのだから。

その日だけは、みんなが登校する朝に、私だけが行先を違えていた。
紺のハイソックスを通した脚が向かうのは、街はずれの古びたお屋敷。
吸血鬼は、そこに棲んでいるという。

お入り。
訪いを入れた私を、それは冷ややかに。
その老人は昏(くら)い瞳で、じいっと見つめてきた。
恥ずかしくなるほどまっすぐに、見つめてきた。
これが私の血を吸う相手――忌まわしい想いを抱えながら、私は相手の視線を見返していた。
男の無表情からは、冷ややかな欲望しか伝わってこなかった。
こんなひとに・・・父さんと母さんから受け継いだ血を、啜られるのか――
いまさらながら、無念さがこみ上げてきたけれど。
私は悔しさを押し隠して、おじゃまします、とだけ、いった。

“儀式”は、すぐに済んだ。
紅茶でも飲ませてやろうかと思ったけれど。
わしがいくらもてなしてやったところで、あんたのほうで落ち着かんぢゃろう。
だから、さっさと済ませようか・・・
男はそういうと、私を狭いお部屋に連れ込んで。
じゅうたんの上に、腹ばいにさせた。
いきなり首すじは、怖いぢゃろうからな。
下手に動かれて仕損じると、制服が台無しになるでのう。
男の言いぐさはひどくリアルで、制服を汚してしまう――という身近な恐怖に、私は素直になるしかなかった。
代わりの制服を買ってほしいという私に、叔母がどんな顔をして対するのか。
そんな想像のほうが、血を吸われる恐怖よりも身近に思えた。
男の口調が少しでもからかい言葉だったら、私は耐えられなかっただろう。
けれども男は淡々と、呟くだけだった。

男が狙ったのは、ふくらはぎだった。
男の呼気が、足許をよぎった瞬間――さすがに恐怖に震えた。
けれどもつぎの瞬間、太ももと足首とを静かに抑えつけられて――
男は、ハイソックスを履いたままのふくらはぎに、唇を吸いつけてきた。
聞かされておらなんだか。許せ。わしの愉しみぢゃ・・・
男はそう言うと、さも愉し気に、私のハイソックスをよだれで濡らしはじめていた――
校名のイニシャルを飾り文字にあしらった、制服のハイソックスを・・・
いいようにもてあそばれて――
いままでの学校生活までも、けがされるような気がして。
恐怖と屈辱に身を固くして、私は男の不埒なあしらいに耐えていた。
やがて。
圧しつけられた唇の両端から覗いた二本の牙が、ハイソックスのうえからあてがわれて。
ふくらはぎのあたりを、チクチクと刺して、うずめ込まれていった――

チュウチュウと音を立てて吸いあげられる、私の血――
父さんと母さんからもらった血を、こんなふうに辱められるなんて。
私は人知れず涙にくれながら、脚を咬まれつづけていった。
決して相手のまえでは、涙を見せまい。そう誓いながら。

ひとしきり、私の身体から血を吸い取ると。
男は身を起こし、私の身体をじゅうたんの上にころがして、やおら首すじに咬みついて来た。
もう、どうにでもされてしまえ――
自棄になった私は、血を吸い取られてゆくあいだじゅう、目を見開いて天井を視つづけていた。
牙を引き抜くとき。男は意外なことばを、口走った。
すまないね。ありがとう――と。
節くれだった大きな掌で、頭を撫でてくれさえした。

起ちあがろうとしたが、手足に力が入らない。
その場にすとんと、ぶざまに尻もちをついた私のことを、男は手を引いて、助け起こしてくれた。
すこし、ゆっくりしていきなさい。いきなり動いてはいけない。
お紅茶を淹れてあげよう。もう、むたいなことは、しないから。
血を吸っているとき以外、男はむしろ親切だった。
少なくとも、叔母よりは。
叔母は私の受けている危難など気にも留めずに、いまごろはきっと、洗濯物やアイロンかけに熱中しているはずだ。

来週も、水曜に来なさい。こんどはあんたの、妹さんの番だね?
叔母が予期した通りのことを、男は私に訊き、私は叔母に言い含められた通りのことを、答えていた。
イイエ、来週も私です。
そうすると、妹さんはいつ来るのだね?
毎週、私がお相手します。
妹をかばっているいいお姉さんに、見えただろうか?
ちょっとだけ、不安に感じた。



わしに逢いに来るときには、黒のストッキングを履いて来なさい。
脛の透ける、薄いやつをね。
きっとお母さんが、用意してくれるはずだから。
わしがあんたの脚を、どんなふうに愉しむか――もうじゅうぶんに、わかったろう?

男のおぞましい頼みごとを、断るすべなどなかった。
叔母でさえもが、私の背中を押して。
早く行きなさい。あちらがお待ちかねなんでしょう?
ストッキングなら、何足でも用意してあげるわよ。
そういって登校を急かす叔母の白い顔には、皮肉な笑みが秘められていた。

――アナタ、ソンナ嫌ソウナ顔シチャッテ。
――本当ハモウ、アイツノ毒気ニ当テラレテ、愉シンジャッテイルンジャナイノ?
――親タチニ似テ、イヤラシイ子ネェ・・・

薄いストッキングの脚で、街を歩くとき。
通りかかる人たちの視線が、気になっていた。
薄いナイロン生地ごしに、スースーとそらぞらしくよぎる冷気が、その想いを増幅させた。
黒のストッキングの女学生なんて、今どきほとんどいないはず。
紺のハイソックスの同級生たちと肩を並べながらも、彼女たちがいちように、私の足許を見ないようにしているのを、私は気配でありありと感じてしまっていた。
麻衣ちゃんが、黒のストッキング履いてる。
それがどういうことを意味するのかを、みんなわかってしまっていたから――

週に一度訪れる私に、男はむしろ優しかった。
処女の生き血を啜られるという、おぞましいばかりのはずの想いをしに来た私を気遣って。
暖かい部屋に招き入れ、
ゆったりとしたソファに、くつろがせてくれて。
香りのよいお紅茶を、淹れてくれた。
叔母と私との関係は、もうすっかりわかっちゃっているみたいだった。
なにも言っていないのに。すべてを察してしまっていた。

家には早く帰りたくないのだろう?だったら夕方まで、此処にいるといい。
あんたの昼食は用意する。なんなら、勉強も教えてやろうか?
男は怖ろしく博学で、おまけに教え上手だった。
私はお屋敷に来るのが怖くなくなり、むしろ楽しみにするようになった。
さいしょのうちこそ、血を吸われたりしなければ、もっと良いのに・・・と思っていたけれど。
男がせつじつに血を求めてくるのをむげにする気にはなれなくなって。
脚に通した黒のストッキングを、みるかげもなくなるまでチリチリに咬み剥がれてしまうのだった。
そのうちに。
彼が好む黒のストッキングを、ウキウキとして脚に通して、
素肌を咬まれるのはもちろんのこと、大人びた装いをしわくちゃになるまで舐めつづける行為すら、さほどいとわしいものに感じられなくなっていた。

あなた、変わったわねえ。
黒のストッキングを履いて出かけてゆく私をみて、叔母は怪しむようにこちらを窺う。
そんなことないです。行ってきます。
交わされる会話はいつも、チクリチクリとした嫌味で終わる。
そんなやり取りは、早く切り上げたかった。
若い身体から血を吸い取って、私を蝕んでいるはずの男のほうが、ずっと私に対して親身に接してくれた。
顔色のよくないときには、自分の欲求を我慢して、まったく血を吸わないときさえあった。
そういうときには私のほうから、指定外の日に連絡を取って、埋め合わせをした。
ふだん着のスカートの下に、黒のストッキングを履いて。
その時分には、もう――黒のストッキングで街なかを行き交う女子は、前ほど目だたなくなっていた。
クラスの子たちのなかのなん人かは、私と同じ黒のストッキングを履いて、
それぞれべつのお相手の棲む家を、訪問するようになっていた。

ここの家に住みたい。いつかせつじつに、そう願っていた。
理不尽な差別とかえこひいきとか、そんなもののない世界に。
このひとはたしかに、血を吸うけれど。
ストッキングやハイソックスの脚が大好きな、変態さんだけど。
ずっと私のことを気遣ってくれ、大事にしてくれる。
血を吸っちゃうくせに、身体の調子の心配まで、してくれる――
わずかな身の回りの品だけ持って、いつかこのお屋敷に“亡命”したい。
私はひそかに、そう願い始めていた。



あたし、ついていったらダメ?
ひとつ年下の従妹が、そういって私の横顔を窺ったのは。
叔母の留守のときのこと。
自分の母親が見せつける、露骨なえこひいきを、彼女は決して快く思っていないのは。
申し訳なさそうな顔色でいつも察していたし、
叔母のいないところでは、2人は意外に仲が好かった。

いつもお姉ちゃんだけで悪いと思ってるし・・・それにこのごろお姉ちゃん、楽しそうだし。
あたし、ひとりで置いてかれちゃってるみたいで。
家のなかではもっぱら主役の従妹だったけれど。
学校では、引っ込み思案な性格である彼女のための活躍の場は、ほぼなかった。
しっかり者の万年学級委員である私のことを知っているクラスメイト達はだれもが、
「ほんとうに姉妹なの?あっそうか・・・」
と、勝手に納得するしまつだった。
そのなかのなん人かは、私と同じように血を吸われるようになっていたし、
なかには2人ほど、曜日を変えて同じお屋敷に通い詰めている子もいた。

あたしも連れてって・・・そうせがむ従妹に、
そんなこと言ったら、お母さんに叱られちゃうよ――
従妹に向かってのときだけは、叔母のことを「お母さん」と呼んでいた。

「進展」は、意外にすぐに訪れた。
来ちゃった。
さきに学校に行ったはずの従妹が、目の前にいる。
私と同じ黒のストッキングを履いて、男の棲むお屋敷の門の前で。
公園のおトイレで、履き替えてきたの。
そういう従妹に、
さいしょのときは、ハイソックスでもよかったのよ。
私の苦笑に合わせるように、従妹はイタズラっぽく白い歯をみせた。



行ってきます。
黒のストッキングを履いて出かけていく私に、叔母は横っ面でこたえた。
行ってらっしゃい、なんて、もちろん言ってくれない。
聞こえた・・・といわんばかりに、うるさそうに顎をちょっとだけ上向けて応えるだけ。
そんな態度にも、もう慣れた。
行ってきま~す。
私より一歩おくれて、従妹がリビングを覗き込んだ。
叔母は別人のようににこやかな顔になり、「気をつけてね」と、従妹のほうだけを向いて――ぎょっとして目をむいた。
あなた・・・その脚・・・
従妹の脚は、姉の目にもなまめかしい、薄黒のストッキングに透けていた。

いったい、どういうことなのよっ!!
問い詰められたのは、私だった。
答えは即座に、叔母の背後から返ってきた。
いっ・・・いつの間に??
仰天した叔母のまえ、男がうっそりと、立ちはだかっている。

あんたのお嬢さんは大人しいようで、なかなかの発展家だな。
学校に履いて行くハイソックスも咬んでみたいとねだったら、夕べお招きを受けたというわけさ。
なあに、心配しなさんな。ほんの少し、軽い貧血ていどにしか、吸っていないから。
でもね、いちど招かれた家には、こちらは気が向けばいつでも、入り込めるのでね。
だからこうやって、お邪魔をした。
お嬢さんが、「お姉ちゃんとおそろいのストッキングで家を出たい」って宣言したから、きっとひと悶着すると思ってね。
お母さん、あまり世話をやかせなさんな。
こちらがその気になったなら。あんたの首すじを咬むのは造作のないこと。
それに、処女には遠慮をするが、ミセスの女性の場合、べつの愉しみもできるのがわし達だからね。
もっとも・・・あんたがそちらをお望みでも、わしとしては願い下げだがね。
姉娘のほうは、いただいていく。
あんたに養育する資格はないからな。
ただし、学費は全額、払ってやりなさい。
どうせ、この子の親からせしめた財産が、おつりがくるほどあるのだろう?

二の句も告げずにいる叔母に
とどめを刺したのは、従妹だった。
あたしも、お姉ちゃんといっしょに暮らしたい。

その後私たち姉妹がどうなったか?
それは、ここまで読んでくれた皆様の想像のままに。
でも今私は、とても幸せです。
愛する人と、ひとつ屋根の下で暮らしていて。
私はそのひとのすべてを許し、受け入れていて。
そのひとは私の献身を、心から感謝してくれているから。

姉妹のハイソックス

2016年02月15日(Mon) 06:33:11

ハイソックスを履くと、気分がひきたつ。
そういって姉さんは、その日も出かけていった。
女子生徒が出歩くような刻限では決してない、真夜中に――
翌朝姉さんは、蒼ざめた顔を仰向けにして、公園で倒れているところを発見された。
真っ白なハイソックスを、赤黒い血のシミでべっとりと濡らしたまま・・・

気分がハイになるから、ハイソックスっていうのかな。
そんなことを薄ぼんやりと考えていた私。
その日も真っ白なハイソックスを脚に通して、家路をたどっていた。
姉さんが倒れていたの、ここだっけ。
もう、一週間になるけれど。想いはだんだんと鮮やかになるばかり。
気がつくと、公園の門の前で足を止めていた。
だれかが手招きしている。
そんな気配を感じて踏み入れた公園の土は、妙にしっとりとしていた。

ククク。カンの良い娘ごぢゃ・・・
男はそういって、うつ伏せになった私の足許でほくそ笑んで、
笑み崩れた口許を、ふくらはぎに近寄せてくる。
気がついたら、そう――公園のベンチのうえに、腹這いの姿勢にされていた。
わしの手招きに、すぐ応じるとはな。おぉ、あんたのことは見かけたことがあるぞ。
三日まえに血をめぐんでくれた娘ごの、妹ごぢゃろう?
そうです。そうなんです。姉を失ったかわいそうな妹なんです。だから、見逃してください。
あなたがほんとうにカンの良いひとだったなら。そんな私の心の叫びを聞いたはず。
けれども男はそんな想いを軽々と受け流し、
あの娘の妹なら、血の味も良いぢゃろう。馳走になるぞ。
そういって、ひざの裏と足首とを抑えつける掌に、ぎゅっと力を込めてくる。
ハイソックスのふくらはぎに、化け猫みたいに生臭い息がかかった。
くちゅっ。
男はハイソックスのうえから、私の脚を舐めはじめた。

にゅるっ・・・にゅるっ・・・にゅるっ・・・
ナメクジかヒルみたいに、ハイソックスのうえを這いまわる唇と舌が。
明らかに、真新しいナイロン生地のしなやかさを、愉しんでいる。
私は声をあげることもできないで。身じろぎすることすら、できないで。
ただ歯がみをしながら、男の仕打ちを、じいっとガマンしていた。
ククク。
三日まえの娘ごも、あんたみたいにカチカチになって、わしに愉しませてくれたのさ。
エエ子ぢゃったのぅ・・・
いい子だったら。いい子だったら。どうして姉さんのこと、助けてくれなかったの!?
心でそんなふうに叫びながらも――
むき出されたいやらしい欲情のまえ、私はハイソックスの脚を伸べることをやめなかった。
というか、強いられつづけていった。

やがてむき出された牙が、ふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたりにあてがわれ、
ずぶっ・・・、と。
食いついてきた!
尖った異物がハイソックスの生地ごしにめり込んで、皮膚を破った。
ぬるっ・・・と滲み出てくる血を、男は素早く啜り取った。
あてがわれる分厚い唇を、なま温かいと感じた。
その唇に力が込められて――
私の体内を流れる血液は、チュウチュウといういやらしい音といっしょに、吸い取られてゆく。
脳天が痺れるのを感じて、私は焦った。
あっ、あっ、あっ・・・
声にならない声をあげながら。
私はただひたすらに、血を吸い取られていった。
たぶん、姉さんのときと同じように――

傍らの横顔は、懐かしい面差し。
ほんの3日間しか顔を合わせなかったのに、なんという懐かしさだろう。
そのひとは、可愛い小ぶりな唇を私の首すじに近寄せてきて、
男がつけた咬み痕をなぞるように、生えかけたばかりの牙を埋めてきた。
ほら、あんたもお飲み。
男に親し気に肩を抱かれ、耳元でそんなふうに、促されると。
童女のような素直さでこくんと頷いて。
その冷たくなった唇を、容赦なく私の首すじを咬んできた。
つねられるような痛み。
両方の二の腕を、ブラウスのうえからぎゅっとつかまれる感触。
その両方に抱かれるようにして、私は素直になってゆく。
傷口に当てたちいさな唇をチュッと鳴らして・・・姉さんは私の血を吸い始めていた。

チュッ、チュッ、チュッ、
チュッ、チュッ、チュッ。
規則正しい音をたてて、姉さんは几帳面にたんねんに、
私の首すじ、胸元、手首と。
いろんなところに唇を当てて、私の血を吸った。
スカートをまくられ、パンツを脱がされて、お尻まで咬まれたときは、さすがに恥ずかしかったけど。
それでも私は素直に、姉さんの欲望に従っていった。
空っぽになった姉さんの血管を、私の血が代わりにめぐる――
そんな空想が、妙にうれしくって。
抱き起こされた私は、たえちゃんのハイソックスも、破かせてね――そういう姉さんの命令に、コクンと素直に、うなずいていた。

ハイソックスの脚、咬ませてあげるとき。
小父さまったらすごく嬉しそうになさるから。
あたしも一度、やってみたかったの。
いま、どんな気分・・・?
恐る恐る訊く私に、姉さんは尖った犬歯もあらわに、ニッと笑った。
愉しいよ。
そうなんだ。
私も素直に、そう応じた。
真っ白なハイソックスを、血のりでべっとりと濡らしながら。

おうちに、帰れないのかな。
父さんと母さん、私たちが二人ともいなくなったら、さびしがるだろうな。
でも、いいよ。気が済むまで吸って。
姉さんに吸われるなら、本望だから。
そういう私に、姉さんは、いやいや・・・とかぶりを振って、男のほうをふり返る。
姉さんのことは、おうちに帰してあげるよ。
あなたから、血をもらえたからね・・・
姉さんはそういって、嬉しそうに笑った。
私の血で、口許をヌラヌラと光らせたまま。

戻ってきた姉さんに、父さんも母さんも、おお悦びをした。
小さな街だったから。
周りの人たちはだれもが、姉さんのことを「なし」に、してくれた。
ふたりともそれから美しく成長して――いまはお互いに、大きな子供を抱えている。
あの日々は夢だったのか?いや、そんなはずはない。
姉さんの首すじには、私だけに見える咬み痕がある。
私の首すじにも、姉さんだけに見える咬み痕がある。
お互いにそちらのほうからは視線を避けながら、
私たちは日々の暮らし向きや子供の学校のことなんかを話題に、洗濯物を畳んだりなんかして暮らしている。
ふと、姉さんが呟いた――
うちのまゆみがこのごろ、帰りが遅いのよ。
そう。
私も言った。
うちの絵美も、遅いのよ。
もしかして。
私たちは顔を見合わせ、お互いの顔にイタズラっぽい笑みを見つける。
ハイソックスの脚、咬まれてちゃったりしていない・・・?


あとがき
過去に吸血された記憶というのは、結婚前の初体験の記憶の暗喩なのかもしれません・・・
妹だけが姉の、姉だけが妹の、過去を知っている――
でも、姉妹のハイソックスの味比べをできた吸血鬼が、妙にうらやましい気がします。^^

女学院だより 吸血鬼に捧げた純潔 ~婚約者よりも吸血鬼を選んだ、あるお嬢様の選択~

2016年02月06日(Sat) 12:57:15

S女学院高等部3年の島村加奈さん(17、仮名)は、開業医を父に持つ女学生。色白の小顔にショートカットの似合う、華やかな感じの少女である。卒業後は両親の決めた婚約者である、町立病院でインターンとして勤務する男性・Aさん(28)との結婚を予定している。
「私たち、齢の離れたカップルなんです」と恥じらう美少女も、すでに処女ではない。未来の夫となる男性への欲望に純潔を捧げた――というのが親族の間での評判だったが、真相はそうではないらしい。「初めてのお相手は、いつも学校に私の血を吸いに来る吸血鬼さんだったんです」と、彼女はイタズラっぽく肩をすくめた。
加奈さんの純潔を勝ち得たその吸血鬼・Bさんは、50代の独り暮らし。加奈さんの父親(48)よりも年上である。吸血鬼という立場を深刻に自覚するあまり、人づきあいから遠ざかり孤独に暮らしてきたという。たまたま加奈さんの婚約者であるAさんの勤務する町立病院に患者として入院したのが、Bさんの人生を変えるおおきなきっかけとなった。町が吸血鬼との共存化の方針を打ち出し、吸血鬼への医療サービスに門戸が開かれた際、悪化した持病を抱えるBさんは初めて町立病院への入院を許可されたのだ。
BさんはS女学院の血液提供サービスも受けており、加奈さんの応接を受けた経験があった。Aさんの親身な診療態度に打ち解けたBさんは、雑談の中でAさんが加奈さんと婚約中であることを知った。後ろめたさを感じたBさんは、入院前に加奈さんの血を日常的に吸っていたことを告白。そんなBさんの治療に、Aさんが献身的な治療を続けたことから、Bさんとカップルとの距離感は一気に縮まった。「持病を持つ吸血鬼の患者の治療には、若い女性の生き血が最も有効な滋養分といわれています。Bさんの治癒を早めるためには、相性の良い彼女の血液を投与するのが全治につながる近道だと感じました」というAさんは、加奈さんを病院に呼んで献血治療も行ったという。
男女交際には寛容ながらも、「卒業までは身を清く保つ」というのが、同校の教育方針。そうした中、処女の生き血を好む吸血鬼たちに門戸を開いた同校は、「絶好の狩り場(同校顧問を務める吸血鬼)」とさえ、いわれている。Aさんの追認のもと、加奈さんはBさんとの逢瀬を積極的に重ねるようになった。直接素肌を吸わせる行為を伴う献血は、やがてエスカレートしていった。「男女の関係になるのは、目に見えていました。でも、未来の花嫁の純潔をみすみす食い物にされてゆくというのに、どういうわけか昂奮を抑えきれなかったんです」Aさんはそう、述懐する。加奈さんの母親も、「(だれに純潔を捧げるかは)あなた自身が決めること」と、娘の背中をそっと押した。「Aさんの騎士道精神には、私も感心したんです」と、加奈さんの母親・瑞枝さん(仮名)は語る。「Aさんが加奈のことを気に入り、愛してくださっていることはよくわかっていました。だから、彼がそういう選択――婚約者のセックス相手としてBさんを受け容れるという――をしたことには、よけい価値があると思うんです」自身も開業医である夫君の承諾のもと、Bさんとの性的関係を持っているという瑞枝さんは、「同じ女性として娘のことを誇りに思うし、娘婿の理解ある態度も素晴らしいと思っています」と語る。
青春の場である学校を不倫ドラマの前舞台に変えてしまった加奈さんは、今秋Bさんとの結婚式を控えている。

女学院だより~彼氏がいても、吸血鬼の応接に励む日常~

2016年02月05日(Fri) 07:55:46

「つきあっている彼氏がいるんです。だから、吸血鬼さんに応接するときに首すじを咬ませちゃうとき、いつも彼のことを考えちゃいます」と恥じらうのは、S女学院高等部1年の野中郁代さん(仮名)。同じクラスの彼氏には、野中さんがいつ応接しているのかまで、筒抜けになっているという。同校は、女子校でありながら少数の男子生徒の入学を受け容れる、ユニークな存在だ。校内での男女交際には寛容な校風だが、お互いに卒業までは身を清く保ちあうというモラルの高さも評判だ。男子は概して「おとなしい印象で、優しい性格の子が多い」といわれている。野中さんの彼氏である高島晴希君(仮名)もそうした一人だ。「来校者の人に彼女が指名されたとわかると、やっぱりふつうの気分ではいられません。彼女が呼び出された空き教室の窓を校庭から見あげながらつい、“今ごろなにをされているんだろう?”って、つい考えちゃいますよね」いっしょに取材に応じてくれた彼は、率直な“想い”を語ってくれた。「でもね、彼女が頻繁に指名を受けると、誇らしい気になるのもうそではありません。魅力がなかったら、あまり指名されないですからね」
吸血鬼との共存を方針とする同校では、おもに女子生徒が当番で献血に応じている。同校独自の、「接遇」という教科では、クラスの女子全員が血を吸われるという。また、不意の来校者に対しては、クラス順・出席番号順に生徒たちが応接に当たっている。もっとも、野中さんの場合は少し例外に属している。
「さいしょはほかの子たちと同じように、授業や当番で応接していたんです。でも、来校者の中にどうしても私・・・という方が出てきて・・・彼と相談して、受け入れることにしました」そういう相手が現在、3人いるという。「どの方も、父より年上なんですよ」野中さんは肩をすくめて笑った。
「いやらしいことも、されちゃいます。胸を触られたりするのはいつものことですし、パンツの中に手を入れられることも、よくあるんです。そういうときには、テストのこととか必死に考えています。うっかりほだされちゃうと、どこまでもつけ入られちゃう子もいますからね」彼氏が席を外したとき、野中さんはこっそりと教えてくれた。
卒業までは、「身を清く保つ」よう指導されているが、「処女のまま卒業できる子は少ない」と、野中さんは断言する。多くの場合、応接経験の深い吸血鬼に犯されてしまうという。
純潔を捧げるのを彼氏にするか、馴染みの吸血鬼3人のうちのだれかにするのか――を、野中さんはまだ、決めていない。「彼が言うんです。“僕の見ているまえでしてくれるのなら、いっしょに初体験をしたことになるのかも”って。それも一理あるかな、と」真面目な性格でも知られる彼女はそれでも、「だれが相手でも、たぶん泣いちゃうと思うし、もしかすると感じちゃうかもしれない」――少女たちにとって思春期は、恋の季節でもある。

女学院だより~捧げるのは、父と母から受け継いだ大切な血~

2016年02月05日(Fri) 07:53:57

「父と母から受け継いだ大切な血を、下品な音を立てて吸い取られることにはまだ抵抗があります。でも、彼らにも生きる権利はあると思う」そう語るのは、S女学院高等部二年の笠島紀子さん(仮名)。笠島さんの通うS女学院は、街に出没する吸血鬼との共存を望み、来校する吸血鬼のために生徒の血液を提供する方針を表明したことで知られる。「最初は泣いてしまう子もいました。でもいまでは全員、彼らに対する応接に慣れています」笠島さんはにっこり笑う。えくぼの浮かぶ頬がまだ初々しい、チャーミングな女学生だ。「新入生の子たちは担任の女性教師や上級生が介添えをして、彼らへの応接が決して怖くないことを教えます。初めて咬まれるときにはやっぱり怖かった話などをすると、気分の落ち着く子が多いんですよ」中等部に入学した生徒はほぼ全員が、夏休みまでに初体験を済ませるという。
中等部の1年生を対象にした学校側のアンケート調査によると、初めて咬まれたときには「怖かった」と回答した生徒が40%強いたのに対し、アンケート調査時の9月の時点では、「恐怖を感じない」生徒が60%、「快感を覚える」生徒が30%強と、ほぼ全員の生徒が吸血されることに対して嫌悪の情を抱いていない。快感を覚える生徒の比率は学年を追うにしたがって高まり、笠島さんのクラスのほぼ全員が「快感を覚える」と回答している。吸血鬼への応接を拒否しないことが入学の条件となっていることもあって、保護者の理解もすすんでいるという。
吸血鬼との交流を深める生徒の多くは、複数の吸血鬼に対して応接を経験している。来校者向けの献血が「接遇」という同校独自の教科のなかで行われ、突然来校した吸血鬼への奉仕もクラス順・出席番号順に実施されるためだ。
「かわいい子だけに集中したら、かわいそうですよね?襲われる子も、襲われない子も。だから機会は平等なんです。そのうちに、自分のことをかわいくないって思っている子も、しぜんとかわいくなってくるんです」こんな言葉も、女子生徒ならではの実感が伝わってくる。「実はあたしも、容姿には自信が持てなかったんです」笠島さんははにかんだように笑った。
「礼儀正しいしっかりした子で、来校者のかたがたの評判も良い生徒」と評価するのは、担任の田島紀子教諭。同じ「紀子」という名前だったので、入学後すぐになじんだ笠島さんを、初体験から指導してきた。「潔いがきっぱりしている」というのが来校者たちの共通した印象だという。「だれよりも素直に首すじを差し出すし、初めて黒のストッキングをびりびり破かれながら脚を咬まれたときも、泣かないんです。でも、いやらしいことをしかけられると、きっぱりと断るんです。潔癖な子なんですね。それなのに、“共存するにはお互いに理解と努力が必要”だといって、ストッキングを破りたがる吸血鬼には、だまって脚をさし伸ばしてあげるんです」。「制服のうえから胸を触られるのはしょっちゅう」と、笠島さんも肩をすくめる。「でも、中等部の2年くらいのころからは、あるていどのことは仕方がないと、割り切れるようになりました」母親のアドバイスもあり、急な応接に備えて真新しいストッキングの履き替えを手放したことがない。
「将来は看護婦になって、吸血鬼向けの病院に勤務したい」という笠島さん。いまは「学生時代により多くの吸血鬼に応接し、両親から受け継いだ血を愉しませ、奉仕する」ことを目標にしている。

3人の浮気相手。

2016年02月05日(Fri) 03:56:09

お隣の庄輔さんが、お洋服を買ってくださるの。
ご近所の鉄治さんのところに、お手伝いに行くの。
ご町内の富蔵さんと、仲良くしてくるわ。

出勤まぎわ、めかしこんだ妻はそんなふうに言って、きょうの浮気相手と行き先を告げてくる。
お互いに秘密は作らない。
彼らのルールは、そういうことになっているようだ。

3人の中で、結婚しているのは庄輔さんだけ。
わたしたちがこの村に移って来るまでは、その庄輔さんの奥さんのところに、ほかの2人が夜這いをかけていたらしい。
そんなふうにして、庄輔さん宅がふさがっているときに。
気を利かして座をはずした庄輔さんが、我が家にさいしょに迷い込んできた。
男の身体といえばわたししか識らなかった妻を、初めて堕とす権利を得たのは。
自分の奥さんをほかの2人に提供してきたご褒美だったらしい。
妻が庄輔さんと御馴染みになると。
やがて庄輔さんは、ほかの2人に妻を引き合わせるようになった。
3人の話を綜合すると、どうも、そういう順序になるらしかった。

わたしを含めた男4人で、2人の人妻を共有する日常――けれども夫たちにとって、思ったほど居心地はわるくなかった。
そもそもわたしは、ふだんの昼間は出勤してしまって家にはいない。
3人の男たちの訪問を、妻は代わる代わる受けることになる。
唯一の妻帯者の庄輔さんは、3Pがお好きならしく――奥さんを求めてほかのだれかが家に来ると、ふたりして自分の奥さんを愉しむことにしているらしい。
あぶれたほうのもうひとりが、わたしの妻を犯しに来るのだ。
おかげで頭数が、ちょうどよい割り振りになりました――と。
庄輔さんは時折、身もふたもないような感謝の仕方をしてくる。

わたしより7歳年上なだけの鉄治さんは3人の中ではいちばん若く、
もっともパワフルに女たちを求めてくる。
彼の力強さはね、ちょっと閉口ものだよね。
立場がもっとも近い庄輔さんも、さすがにそんなふうに苦笑いをするけれど。
求め方もいちばんせっかちで、あいさつ抜きで腕を引かれることもあるという。
隣の敷地の納屋のなかにいきなり引きずり込まれて、入り口から脚だけにょっきりと覗かせて・・・そのままの様子で2時間ほどもたわむれあっているのを、視て見ぬふりをしたことがある。

還暦をとうに過ぎたはずの富蔵さんなどは、まだまだお盛んで・・・
わたしが帰宅した後ですら、わたしに直接、「奥さん貸してくれ」と・・・素朴すぎるほど正直に、女ひでりを訴えてくる。

そんな勝手な男どもを。
妻は苦笑しながら応接し、夫の前で胸をまさぐられ、スカートをたくし上げられて、押し倒されてゆく。

あなた、ごめんなさいね。きょうもあなたを、裏切ってしまうわ。
あしたもお2人ほど、予定があるの。
ちょっとだけ・・・娼婦してくるわね。
すみません。むこう向いていらして――感じちゃってるの。

彼らが立ち去ったあと、さいごに訪れる嵐を期待しながら。
わざと挑発的な呟きだけを、わたしに与える妻――
今夜もまた・・・彼らはわざと、わたしが帰宅するのを見はからって我が家を訪れる。
夜更けにドアをたたく音。
わたしの背中で、いそいそとよそ行きのスーツに着替える妻。
女日照りの男衆たちを家に招き入れるため、わたしは夜這いを受け容れるために扉の鍵を開ける。
長くて熱い夜になりそうな予感に、うち震えながら――

もしもし・・・?

2016年02月04日(Thu) 07:43:25

もしもし・・・?
受話器のむこうから伝わってくる声は、勤め先の同僚のもの。
ふと違和感を感じたのは、電話のかかって来た、午前二時という刻限のせいだった。
どうしましたか?緊急の連絡でしょうか?
怪訝そうなわたしの態度が、すぐ先方にも伝わったようだ。
どうもすみません。こんなお時間に。もうお寝(やす)みでしたよね?
素直に謝る声色は、本人の人柄まで伝えてきて、声を尖らせたこちらを恐縮させた。
いや失礼――こちらもまだ、起きてましたから・・・どうしたんですか?
あわてて声色を改めると。
彼はちょっと言いにくそうに、ことばをついだ。
いや・・・ちょっと眠れなくって。だれかと話したかったものです~。
ご迷惑ですよね?と、たたみかける声に、そんなことはありませんよ、と、相手を受話器の向こうに落ち着かせようとしていた。
いったいどうしたんですか?
いやぁ・・・
彼は言いにくそうに、ふたたびことばをついで。そして言った。
嫁が夜這いを受けてる真っ最中でしてね・・・

この村は、社のオーナー社長の出身地。
さして仕事があるとは思えないこんな山奥に事務所が作られたのには、理由があった。
故郷に錦を飾りたい。
そんな社長の願いをこめて立ち上げられたこの事務所には、
都会にいられない理由を抱えた者たちだけが、選ばれて転任してくる。
そう、厳密な性格検査を経て、守秘義務付きで。申し分のない待遇と、引き換えに――
ろくに仕事らしい仕事のないこの村の事務所での、ほぼ唯一の業務。
それは、妻や娘の肉体を、好色な村の男衆たちに提供すること  だった。

どうやら彼は、就寝直後に訪問を受けて、
あんたの嫁を抱きたい。女ひでりでね・・・
そんな勝手なことを、なんの悪気もなく口にする男を家にあげて、夫婦の寝室を明け渡したようだ。

パジャマ一枚で、風邪ひかないか・・・?
そうしたわたしの気遣いは、どうやら無用のものらしい。
だいじょうぶ――ガウン羽織っているから。
そのガウンは、夜這いの相手の手土産だという。
風邪ひいたらいけないでしょ?
彼の奥さんもまた、そこは主婦らしく。
夫の健康管理には、気遣いをしているようだった。
ガウンまで渡されちゃあね、気を利かしてやるより、しようがないじゃないか――

こういう夜は、たいがい朝までいるんだよな。今夜は寝不足だな。明日俺が会社にいなかったら、休暇届けよろしくな。
妙なことまでたのまれながら、わたしはただ、うんうんと相槌を打つだけだった。
ところで、そちらもそろそろ、寝るんだろう?
同僚の問いに、わたしも待ってました、とばかりに、応えていた。
うちも同じような状況でね・・・相手、3人なんだ。

ウチの女房、モテるからさ・・・
まんざら、負け惜しみではない。
素直なもので、若いほど、見てくれが良いほど、男はつくものだ。
それがいま、上がり込んできた男3人を相手に、太くそそり立ったものを代わる代わる、スカートの奥へと受け入れている。
ウチは子供がいるから、寝静まってからが本番なんだ。
子供たちは彼らに、なついていた。
機嫌よく遊んでくれるのは、早く疲れさせて寝かしつけるため・・・そんなことまではむろんあの子たちには、まだわかるまい。
覗いたらダメよ。
そんな妻の言いぐさに素直に従うには、わたしは誘惑に弱すぎた。
充血した目と火照った頬とをもてあましながら、受話器を片手に天井を見あげる。
ウフフ。3人ですか。いいですね。うらやましい・・・
立場が同じと知った同僚は、少し気持ちを落ち着けたらしい。
お互いの妻たちがベッドをきしませる、隣の部屋で。
長い長いやり取りが、始まっていた――

好ましくない状況。

2016年02月04日(Thu) 04:27:24

いつも勤め先まで、わたしの血を吸いに来るその男は。
きょうにかぎって、朝現れた。
吸血鬼のくせに、夜も昼もないものか――そんな問いは、このさい愚問のうちに属するのだろう。
彼らは血に飢えないかぎり、街の人たちとおなじように暮らしていた。

出勤前のことだった。
玄関のあたりから、あわただしい雰囲気が伝わってきて。
まだエプロンをしていた妻が招き入れたのは、あの男だった。

すいません。喉乾いて、ガマンできなくなっちゃって・・・

正直すぎる言いぐさだが、どこか憎めないのが彼らの特徴・・・いや特技かもしれなかった。
わたしは、しょうがないんですね・・・とかいいながら。
ソファに腰かけて、目をつぶってやる。
足許ににじり寄って来た男は、わたしのスラックスのすそを引き上げて。
彼の好みに合わせて穿いた、ストッキング地の靴下のうえから、にゅるっと唇を這わせて来る。

ちゅーっ・・・と、血を吸いあげられて。
頭をふらつかせ、ソファに横倒しになってしまうと。
わたしに代わって会社に病欠の連絡をした妻は、いつの間にかエプロンをはずしていた。

エプロンのままでも、よかったのに。

男はそういいながらも、妻の背後に回り、首すじを咬んだ。

う・・・っ。

羽交い絞めにされて立ちすくみ、顔をしかめながら吸血に耐える妻。
吸い取った血潮に頬を染めた男の横顔が、好色そうににやけていた。

男が朝から訪ねてくるとき。
それは夫たちにとって、まことに好ましくない状況。
その場に倒れ込んだ妻は、ストッキングを咬み破かれながらふくらはぎをなん度も咬まれ、
じゅうたんの上、横倒しになってしまうと。
ソファのうえで横倒しになった私の目のまえで、切なげなうめきをあげる。

朝からポルノは、ないだろう?
やんわりとたしなめるわたしに、男はしゃあしゃあと、返してくる。
朝からポルノ。いいご家庭だね・・・

ああ。まったくだよ。

貧血にラリッた頭を抱えながら。
それでも妻のようすから、目が離せない。
半裸に剥かれながら犯されて、身もだえをくり返す妻は。
男の腕のなか、すっかり飼いならされてしまっていた。

両刀遣い。

2016年02月04日(Thu) 04:15:17

この街に棲む吸血鬼は、首すじと同じくらい好んで脚を咬む――そうと初めて知ったとき。
息子はサッカーストッキングの脚を咬まれ、
娘は通学用の紺のハイソックスの脚を吸われ、
妻までもが、薄手のストッキングを1ダースも破かれていた。

わたしに隠れて吸われていることに、皆罪悪感を持っていたらしい。
生命の保証と引き換えに自由に血を吸わせ、互いに共存する――
そんなルールを知らされたわたしは、
同意と和解のしるしに、自分から咬まれてくれと妻からせがまれていた。

長い靴下を履いた脚を咬みたがるようだから。
彼の好みに合わせて穿いた、ストッキング地のハイソックス。
濃紺の薄い生地に透けた脛は、紳士ものにしてはなまめかしい光沢に包まれていた。

腹ばいになったわたしの足許にかがみ込み、スラックスを引き上げて――
咬まれる前にいやというほど舐められた。
薄手のナイロン生地の舌触りを、あきらかに愉しんでいた。

血を吸われたあと・・・犯されてしまうの。
妻のしどろもどろの告白に、あいまいに頷いてしまっていたわたしは――
やみつきになるのだ――と、痛感することになる。

靴下の舌触りをくまなく愉しんだあと、男はいった。
ほんとうは、あんたのこともお目当てだったのさ・・・

男は、両刀遣いだった。