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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ユニセックス。

2016年03月31日(Thu) 07:51:49

妻の貞操と引き替えに。
吸血鬼にあてがわれたのは、男子生徒とその家族。
わたしが教諭を務めるその学校では、
男子も半ズボンの下、女子と同じハイソックスを履く。
男女の生徒が入り乱れる教室では、脚たちに男女の区別はほとんどなかった。

少年は、初体験を済ませたばかりだった。
相手は、わたしの妻を吸った男――
人の血を吸うなんて、あんたも初めてだろうから。
お互い不慣れだと、良くないケガをするからな。
もっともらしい言いぐさだったが、間違いではないのだろう。
彼はわたしに感謝されながら、わたしの同性の恋人の純潔を奪っていった。

わたしに初めて求められたとき。
少年は大きく目を見開いて、「先生が・・・?」とだけ、いった。
「そう」とわたしが言うと、「よろしくお願いします」と言って、素直に頭を下げていた。
母さんはすでに、毒牙にかかっていたから。
自分も時間の問題だと、感じていたらしい。
わたしは教え子の首すじをいとおしげに抱き寄せて、咬んでいた――

きょうも少年は、保健室にやって来て貧血を訴えて。
わたしも気鬱を訴えて、保健室にやって来る。
年老いた養護教諭はすべてを察しながら、座をはずす。
少年がうつ伏せになる、掛布団のないベッドににじり寄って。
濃紺のハイソックスがぴっちりと引き締める足許に、わたしは牙を忍ばせてゆく。
枕を掴まえる少年の掌に力がこもるのを横目に、
わたしはググ・・・ッと、牙を埋める。
至福のひと刻――
愛の交歓に、男女の別はないことを、わたしは少年の身体を通して、識ってしまった。

調和 2

2016年03月31日(Thu) 07:45:26

理不尽だと思いこんでいた。
いくら全財産を失ったからと言って。
いくら社会的信用のすべてを失ったからと言って。
かろうじて与えられた生存の場で、献血を強いられるとは。
いや・・・其処で風習として行われている献血は、ふつうのやり方の献血ではなかったから。
新天地でわたしは、妻の貞操まで喪うはめに陥っていた。

新しい勤め先から帰宅した晩。
妻は見知らぬ男たち3人に、手籠めにされていた。
取引先の工場主に血を吸われて帰った夜。
わたしはその光景を、ただ茫然と眺めているだけだった。
ひそかな昂ぶりさえ、股間に滾らせながら。
妻はそれ以来、慣れ初めた男たち3人の餌食に、進んでわが身を提供するようになっていた。

勤めに出ている間。
男を取りつづける妻。
男たちは妻の肢体に群がって、
吸い取った血潮をブラウスにしたたらせ、
はぎ取ったブラジャーを奪い合い、
めくれ上がったスカートの奥に秘めた処を、深々と愉しんでゆく。
その情景を。
勤めに出たはずのわたしは、昂ぶりながら見つめていて。
やがて侵入する男たちもまた、吸血鬼に支配されていて、
自分の妻子を提供している事実を知ると、
同じ昂ぶりを共有するものとして、
留守宅を彼らにすすんで、明け渡すようになっていた。

いまでは・・・
新たな転入者の新居に通い詰めているわたし。
これを彼らは、”調和”と呼ぶ。

転入、おめでとう。
きょう、あなたのお宅に伺って奥さんを犯すのは・・・もしかしたら、私 かもしれないですね。

調和。

2016年03月31日(Thu) 07:36:08

血を吸われるなんて、理不尽だと思っていた。
少なくとも、不自然だと思っていた。
転入許可の条件として、校内に来賓として訪れる吸血鬼に、血液を無償で提供することが条件に入っていたことも。
制服が半ズボンに、女の子みたいに紺のハイソックスを着用することが義務づけられていることも。
PTAの席では母さんも血を吸われて、吸血鬼の愛人にされちゃったことも。
いちいち理不尽だと思っていた。

自分から吸われに行くなんて、非常識だと思っていた。
身体がムズムズするのも、咬まれた痕がジンジンと疼くのも。
気がついてみたら、ボクをひいきにしてくれる吸血鬼の目のまえで手を合わせて、
お願いだから血を吸ってくださいって懇願しているときだって。
引き抜かれた血液と引き換えにあいつがボクの身体のなかに注入した毒液のせいだけだと思っていた。

身体も心も、調和していく。
週1回の吸血の義務は、週2~3回の愉しみにすり替えられて。
家に戻るとたいがいくり広げられている母さんの情事は、
のぞき見をする後ろめたさと半々の、やっぱり愉しみにすり替えられていた。

こんどはきみの彼女を紹介してくれる番だぞ。
そう囁く小父さんに。
ボクは精いっぱいのしかめ面を作って、応えている。
紹介するだけだぞ。なんにもさせないぞ。
彼女だって、身持ちの正しい子なんだから。
お前なんかの自由にされないぞ。
彼女の純潔をかけてもいいから・・・って。

旨い。

2016年03月30日(Wed) 08:05:23

旨い。

失血で倒れ伏したわたしの首すじにもういちどかがみ込んできて、男はわたしの血を吸った。
男のあんたの血ですら、旨い。
きちんとした生活態度の賜物だ。
男の称賛は、本心からのものらしい。

気絶寸前まで吸われて再び床に転がったわたしを放り出すと、
男はまたも妻のほうへとにじり寄る。
どうすることもできないまま、妻は再び血を吸われていった。
薄いピンクのブラウスを、バラ色の血潮でしっとりと湿らせながら。

奥さんの血も、上質だ。
男は称賛をやめない。
それからすぐに、傍らに倒れ伏している娘の制服姿に這い寄って、
紺のハイソックスのふくらはぎに唇を吸いつけると、ちゅーっ、と、吸った。
どうすることもできないまま、娘も再び血を吸われていった。
むき出しの太ももに、紅いしずくを景気よく撥ねかせながら。

娘さんの血も、素晴らしい。
処女だね?真面目ないい子だ。
それに、とっても優しい。
わしを相手に惜しげもなく、若い血をめぐんでくださるんだから。
娘はプイッとそっぽを向いたが、頬に滲みはじめた愉悦は、隠しきれていなかった。


すまないが、奥さんをいただくよ。
男は背中でそういって。
妻のブラウスをはぎ取ると、むき出しになったおっぱいのはざ間に、顔を埋めた。

旨い。旨い。とっても、旨い。

・・・・・・
・・・・・・

そんなに美味しいっていわれちゃあ、ねえ。
妻はまんざらでもなさそうだ。
これだけ美味しいっていわれちゃあ、な。
わたしもまんざらではない気分だった。

美味しい、とてもありがたい、そう感謝しながら血を吸われちゃうと。
も少し飲ませようという気に、ついなってしまうのは。
やつが血液と引き換えに血管に注入した毒液のせいだとわかっていながら。

もう少しくらいなら、いいわよねえ。
そうだねえ。
わたしたち夫婦は満足そうに目をつむり、
娘も表面上は嫌そうな顔をとりつくろいながら、もう片方のハイソックスを、惜しげもなく咬み破らせてゆく。

旨いと言われたら、やっぱりうれしいもの・・・ですよね??

不味い。 2

2016年03月30日(Wed) 07:57:38

不味い。
不味い。
どいつもこいつも、どうしてこんなに不味い血をしているのだ!?

男は怒っていた。
不当な怒りだと思ったが、どうすることもできない。
きょうは甥の婚礼の日。
挙式が終わったあと見知らぬ男に家族もろとも別室に招ばれたわたしは、まっさきに咬まれた。
それから妻が。そして、娘までも。

つぎつぎに首すじを咬まれた妻と娘は、
身じろぎ一つできないほど血を吸い取られたわたしの前、ふらふらとその場に倒れ伏して。
男はそれでも、許さなかった。

スーツ姿の妻の足許に這い寄ると、肌色のストッキングに包まれたふくらはぎに唇をあてて、
ちゅーっ。
制服姿の娘のチェック柄のスカートの下、白のハイソックスに包まれたふくらはぎに、唇を這わせて、
ちゅーっ。
それはそれは小気味よく、生き血を吸い取っていった。

そこまではよかった。(決して良くはないのだけれど・・・)
そのあとやつは、言ったのだった。

不味い。と。

妻も娘も、血を吸われたことよりも、吸われた血を不味いといわれたことのほうが、悔しそうだった。

数刻後。
男は用意していた車にわたしたちを乗り込ませ、自分は最後列に陣取って、運転手にゴーを命じた。
わたしたちの向かったのは家ではなく、立派なマンションの一室。
やがて数日後、そこには家財道具が運び込まれてきた。
もとのアパートは解約したという。
きみたちはここで暮らすのだ。
あてがわれた一室には、豪奢な日常が待っていた。

これだけ良いものばかり食べさせられたら、血も美味しくなるわよね。
妻は血色のよい頬を輝かせ、以前よりも十歳は若返っていた。
娘も親に隠れて吸っていたタバコをやめて、やはりみずみずしい肌を輝かせていた。
順ぐりにやつに呼ばれ、血を吸われセックスにまで応じさせられる日常――
けれども誰もが、不幸せになっていなかった。

夫であり父親であるわたしですら――
日夜くり返される、妻と娘が主演のリアルなポルノドラマに、鍵穴を通して食い入るように見入ってしまっている。
誰もが幸せになったのなら、それでいいんじゃない?
妻はそういうと艶然とほほ笑んで、やつの好みのけばけばしいスーツに着替え、きょうも浮気に出かけてゆく。

不味い。

2016年03月30日(Wed) 07:49:06

不味い。
男の放った第一声は、はなはだ無礼だった。

家のなかにさ迷い込んできたその吸血鬼に、
夫婦ながら首すじを咬まれて。
血を抜かれて身じろぎひとつできなくなった、わたしの前。
抑えつけられた首すじに、やつはがぶり!と食いついて。
ひとしきり妻の生き血を吸い取った挙句、そう言ったのだ。

吸血鬼は人妻の血を吸うと、例外なく犯すという。
夫の目のまえで遂げられた屈辱の儀式を、妻は歯噛みして耐えた。


くやしいったらないわっ。もうっ!
あんなにひとの血を吸い取っておいて、「不味い」だなんて!
妻はプンプン怒って、半裸に剥かれた身を起こし、
身づくろいを、というよりもシャワーを浴びに浴室に駆け込んだ。
犯されたことなど、犬に咬まれたほどでもないらしかった。


それから妻の精進が始まった。
エステサロンに通ったり。
スポーツジムに通ったり。
血が美味しくなる・・・と思われるあらゆることに手を出して。
ある晩勤め先から、嬉々として帰宅してきた。

やったぁ~!美味しいって言わせたっ!
飛び跳ねるばかりにしてはしゃいだ妻の首すじには、新たな咬み痕が。
真っ白なブラウスに、バラ色の血をしたたせたまま。
スケスケのパンストを、ブチブチに咬み破られたまま。
でもそんなことは、惜しくもないらしい。
美味しいって言わせたっ!
美味しいって言わせたっ!
はしゃぐ妻の背後には、あのとき妻をモノにした、あの男が。

もう少し、お邪魔をするよ。夜道を歩く奥さんが、あまりに魅力的だったのでね。
こないだのひと言は、謹んで訂正させていただく。
はい、どうぞ。
妻の名誉回復に機嫌を直したわたしは、つい応じてしまっていた。
なにかがおかしい――そう感じながらも。
じゃあごゆっくり。
わたしはそういって、書斎に戻る。
帰宅そうそうの妻のスーツ姿を土間に抑えつけ、のしかかってゆく吸血鬼に、妻を独り占めにさせてあげるため。

家庭訪問 出席番号一番 青柳紀子

2016年03月27日(Sun) 09:27:17

出席番号一番の、青柳紀子の家を訪ねたのは、今回が初めてだった。
貧しいおうちだから、視られるのがやなんです。
そういって血を吸われに来る彼女は、いつも自分から、俺の屋敷を訪れる。
制服代が痛い。
そんな言葉を親から聞いてしまっては、
気苦労の多い生真面目な出席番号一番としては、ちょっとやりきれない想いも抱えたのだろう。
俺は少女の願いを聞き届けて、その代わり俺の頼みも聞いてもらった。
たまにでいいからさ。着てもらいたい服を、買ってあげるから。
その服を着て、襲われに来て。
少女は生真面目な顔を崩さずに、いいわ、と、いってくれた。

自前の服も、趣味は悪くなかった。
けれどもかけがえのない服たちを血で濡らしてしまうと、少女は時折べそを掻いた。
そのたびに、俺は一着余計に服を買ってやる。
自分で買いたい服を買っても、いいのだから――と。

そんなしまり屋の青柳紀子が、俺を家に招んでくれた。
俺のほうから一方的に願ったのを、彼女がようやく容れてくれたというわけだ。
きみのお部屋できみを抱きたい。
そんな言葉の意味、きみはどこまで理解しているのかな。

ピンポンを鳴らすといきなり、親が出てきた。
それも、男親のほうだった。
卒業式の時すれ違ったから、顔に見覚えがあった。
ちょっとやせぎすで見るからに貧相な男――この少女の父親とは思えない。
青柳紀子の血を初めて吸ったあと。
招き入れた空き教室に倒れた少女たちを、親に引き取らせたときのことだった。
母親のほうは、ほかの親たちと同じように、心配そうに教室を覗き込んでいたのに、
この男だけは、不景気そうな顔つきで、表情一つ変えずに突っ立っていた。

あんた、あんときのあんただね?
男は不快そうに首を振り、そういった。
そのせつは。
俺もぶっきら棒に、そう応える。
娘の血を吸いに来たんだね?
そうです。
歯に衣着せぬ言いぐさに、俺もわざと悪びれずに、応えてやる。
じゃ、あがんなさい。
意外にもの分かりのよい対応に面くらいながら、俺は青柳家の敷居をまたいだ。
まがりなりにも、一軒家だった。
けれどもどことなく古ぼけていて、かび臭い。
年頃の少女が家に招びたくない気持ちも、わからないではなかった。

お母さんはお留守ですか。
俺が訊くと、
べつの吸血鬼のところに行っている。
応えの内容のわりに乾いた声は、救いなのか投げやりなのか。
わしも出かけるから――べつの吸血鬼のところに。
ズボンのすそから覗く足首は、肌の透ける薄い靴下に覆われていた。
この男も、吸血鬼の協力者なのか。
ちょっとだけ、親近感がわいた。
男はそんなこっちの気持ちなど頓着なしに、いった。
あまりむごく扱わんでくださいよ。まだ育ち盛りの子なんだから。無理させないで。
初めて親らしい言葉を口にすると、男は返事も聞かずに俺に背中を向けた。
やっと出ていった・・・と思ったら、引き返してきて、いった。
それと、娘に服買ってやってるようだが、要らん気遣いせんでくれ。
うちはうちで、ちゃんと養ってるんだから。
そういう気負いも、まだ残っていたのか。
自分の着てもらいたい服、着てもらってるだけですから。
そんなんならいい。
男はもういちど、ぶあいそな顔つきとは裏腹なもの分かりの良さを見せ、こんどはほんとうに、家から出ていった。

ふり返ると、青柳紀子がそこにいた。
紺地に白の横じまもようのブラウスに、デニムのスカート。
真っ白なハイソックスの足許が、眩しかった。
さっきから二人のやり取りを聞いていたらしい。クスクス笑っていた。
父はああいう人だから、会わせたくなかったんだけど。
素敵なお父上じゃない。
俺はそういうと、少女の肩をなれなれしく抱いた。

あたしだけ、首すじ咬んでもらえなかったね。
卒業式の数日後。たまたま出くわした道すがら。
生真面目なこの子らしい鋭い声の詰問を俺に浴びせると。
ちょっと、太すぎるのかな・・・
少女らしい気遣いをみせたのが可愛くて。
制服のブラウスを汚すまいと気遣ったと知ると、
きょうのブラウスなら汚してもいいから、と。
その足で、俺の邸に足を踏み入れたのだった。
生真面目な出席番号一番は、俺のねぐらにも、一番乗りを果たしたのだった。

紀子の部屋は四畳半と狭かったけれど、
いたるところに女の子の風景があり、匂いがあった。
古びた学習机に、洋服ダンス。
画鋲の穴だけが開いた壁には、男性アイドルのポスターを貼っていたらしい。
わざわざはずしたのは、俺に対する気遣いからか。
憧れのアイドルに、血を吸われているところを見せたくなかったからか。

「こんどの学校も、出席番号一番みたいなの」
少女は困ったように、そういった。
また気苦労がはじまるね。俺がそう言ってねぎらうと。
「いいの。慣れてるから」
少女はすねたように、でもなにかを悟り切ったように、そう応える。
「俺の牙にも、慣れたかな」
ぬけぬけという俺に。
「それは~。いつまで経っても慣れたりなんかしないから~」
言葉と裏腹な甘ったるい視線を振りあげて、少女は愛嬌のある上目づかいになっていた。

女の子の匂いがぷんぷんする部屋で。
俺は紀子と、向かい合わせになる。
咬んで。
卒業式のときには、言えなかった囁き。
中学のころ、ファースト・キスを果たしたときみたいにドキドキしながら、
俺は肉づきの豊かな首すじに唇を這わせ、牙を埋めてゆく――


あとがき
登場人物の名前は、すべて架空であり、実在する人物とは全く関係ありません。悪しからず。

卒業式の季節ですね。

2016年03月27日(Sun) 08:45:21

毎年この季節がやって来ると、身体がムズムズとくすぐったくなってくる。
そう。親黙認で、年頃の女の子たちの血を吸い始めることのできる時期――卒業式シーズンだった。
謝恩会の日程はあらかじめ、ベテランの女教師である京子先生が教えてくれる。
この先生のお世話になって、もうなん年になるだろうか?
京子先生は知り合ったころとまったく変わらない、表情を消した白い顔をして俺のところにやってきて、今年はいついつです、と、必要最小限のことだけ呟き去ってゆく。
俺はただ、その日に学校に行けばいいだけ。
入るのはいつも、裏口からだった。
表門はもちろん、きょうの佳き日のために着飾った女の子と、そのお母さんたち。
この学校に出入りする吸血鬼にはいろんなやつがいて、もっぱらお母さん目当ての人もいるくらいなのだが、俺はもっぱら少女狙い。
少女専科といわれているらしい。なんかいやらしいな。いや、やっぱり、いやらしいのか・・・
それはさておき、首尾よく”裏口入学”を果たすと、いつもまっすぐに体育館を目指ししていく。
会場の設営で忙しく立ち働いていた京子先生は、ねずみ色の地味なスーツに、きょうだけは真っ赤なコサアジュを胸元につけ、そこだけが華やかだ。
俺の姿をみとめると、薄化粧を刷いた頬をちょっとだけ引き締めて、細い指を伸べて空虚なパイプいすたちの並びの、最後列を指定した。
本音をいえば、厳粛な卒業式は退屈なだけなのだが――いちおう血を吸わせてくれる子たちに敬意を表し、俺は教職員席の末席に座る。

うちのクラスの生徒たちですからね。
京子先生はこっそりと、俺に呟く。
すでに俺の同類項たちがかなりの人数入り込んでいることが、気配でわかる。
顔見知りのやつなどとは、周囲に気づかれないよう会釈を交わしたりする。
獲物がだぶらない配慮は、学校側としてはお手のもの。
もっとも俺たちも、同類項同士で獲物を奪い合ったりはしない。
そこだけは、真人間だったころよりも、ずっとまともになっている、数少ない部分ではある。

卒業証書の授与が、粛々と進む。
チェック柄のスカートや半ズボンの下、ハイソックスやタイツの脚たちがお行儀よく、列をつくり、順ぐりに舞台につづく階段を上り下りしていくのを、俺はうっとりと眺めていた。
京子先生のクラスの番が来た。
 あおやぎのりこ
 あきもとかなえ
 いざわたかこ
 うのまさよ
うぅん。京子先生が軽く咳払いをする。
そこまでということなのだろう。
今年は四人。上出来だ。
一瞬目線の合った俺は、精いっぱいの感謝と満足とを瞳にあらわしたが、
そこはベテラン教師らしく、京子先生は気づかなかったふりをしてさりげなく視線をはずしてゆく。
出席番号5番以降は、べつの吸血鬼に捧げられるのだろう。
女の子の相手は、特定の吸血鬼とは限らない。
「よりどりみどり」と呼ばれる会合は、謝恩会の流れでそのまま居残った卒業生とお母さんたちが、やはり居残った吸血鬼たちに追いかけまわされて、だれかれ言わず食いつかれていくという。
ちょっと乱交パーティーみたいな雰囲気で、面白いからどう?と仲間に誘われたこともあったが、どうも落ち着かない席のようだから、俺はなかに入ったことはない。
あるとき京子先生にそういうと、いかにももっとも、という顔で応じてきて、
「あなたには私がちゃんとした子を世話してあげますから」とだけ、いった。
職業意識にあふれた、落ち着いた自信に支えられた物腰。
いったいこのひとはどうしてこうも、俺によくしてくれるのだろう。

俺の獲物になる女の子たちが、ひとりひとり壇上に呼ばれ、しずしずと歩みを進めてゆく。
どの子も少女ばなれした、落ち着いた物腰で、卒業証書を受け取ると、校長先生に礼儀正しく一礼して、さがってゆく。
壇上に登っていく後ろ姿で、服装や身体つき、それに髪型を。
壇から降りてくるときに顔だちや胸のふくらみ具合、どんなたちの子なのかを。
ドキドキ、ワクワクしながら、盗み見てゆく。
あおやぎのりこは、真新しい濃紺一色の中学の制服。
あきもとかなえは、薄いピンクのカーディガンに、赤と白のチェック柄のスカート。
いざわたかこは、ワインカラーのとっくりセーターに、こげ茶のスカート。
うのまさよは、紺のブレザーに青系のチェック柄のスカート。
どの子もきっと、めいっぱいのおめかしなのだろう。
今年は全員、タイツだった。
去年の子たちは、タイツの子が一人。あとは白、黒、淡いブルーと色とりどりのハイソックス。
あの不揃い感もたまらなかったが、そろいもそろっての黒タイツというのもなかなかそそられる。
親たちは、帰り道を襲われる――と知りつつ、娘のおめかしを手伝っているはず。
すまないね。手塩にかけたお嬢さんたちを毒牙にかけてしまうなんて。
いつものようにジワジワと疼いて来た牙を、唇ごしにそっと撫ぜる。

謝恩会がたけなわを過ぎ、ざわついた人の群れから一人また一人と立ち去るものたちが出はじめると、宴は急速に終わりに向かった。
残った子たちの大半は、俺のような指定されたお相手がいない。
さりげなく残っている同類項たちは目を光らせて、どの子が良いか・・・と品定めをしているところだろう。
京子先生は相変わらず表情を消した、この佳き日にはふさわしからぬほどの愛想のない顔つきで、(たんにいつもと変わらないだけなのだが)、教え子四人を引率して、俺の前にやってきた。
この子たちね。
京子先生は俺に軽く会釈をすると、女の子たちに向かっても、この人ですよ、といって、受け持ちのクラスの女子たちをぐるっと一瞥した。
おだやかなようで、笑っていない。
こういう先生のまなざしの威力は、子供たちにもストレートに伝わるのだろう。
四人の女の子たちはゴクリと唾をのみ込んで先生を見、それから俺を見つめた。
これから自分の血を吸おうとしている男に、どういうあいさつをしていいのかわからないまま、おずおずとお辞儀をしかけてくる女の子たちに、俺はゆったりと礼を返してゆく。

京子先生は俺と四人の教え子を、旧校舎の片隅にある空き教室に”引率”した。
火の気のない、寒々とした教室だった。
照明もついていなかったが、先生は「灯りはつけないでくださいね」とクギを刺すようにいうと、配送を終えた郵便配達のように淡々と、教室から出ていった。
まだまだあとなん組か、”配送”をしなければならないのだろう。
俺ははじめて、少女たちとさしで向かい合う。
女の子という種族は、意外に剄(つよ)い生き物だ。
さっきからずっと、俺のことを観察し尽していたらしい。
どうやらあまりひどい目には遭わずに済みそうだという心証が得られたらしく、
期待と不安の入り混じった空気は、むしろ柔らかだった。
「よろしくお願いします」
先頭の子がそういうと、ほかの子たちもそれにならって口々に、不揃いな「お願いします」のあいさつをしかけてきた。
先頭の子は、出席番号一番のあおやぎのりこチャン。
活発そうな赤い頬に、精いっぱいの気負いが感じられる。
あおやぎのりこチャンは、仕切り屋らしい。
出席番号一番というのは、意外に重責だ。
「前へならえ」とか、「気をつけ、休め」とか、真っ先にやらされる機会が多いのだろう。
「こちらこそ、よろしく」
俺が初めて口をきると、なにが「よろしく」なのかが女の子たちにもいきわたったのだろう。一瞬の緊張が、四人のあいだをよぎる。
硬くなりかけた空気に負けまいとするように、口を開いたのは、出席番号二番、あきもとかなえチャン。
「タイツの脚が好きなんですか?」
質問の中に含まれたいやらしい部分を、まだ自覚していない口調だった。
その真っ白な部分を、いますぐ俺の色に染めてあげるからね――それこそイヤラシイことを胸に秘めながら、俺はこたえる。
「先生に教わったの」
「ハイ」
これは、全員からの答え。
必ずしもそうではないのを、京子先生は熟知しているはず。でもまあいいや、そういうつもりでタイツを指定したのだろうから。それとも、だれかと間違えているのか――
あの手落ちのない京子先生がねえ・・・俺はもっともらしく押し黙るあの白面の表情を思い出して、思わずフフフ・・・と口許をゆるめる。
俺の顔つきの変化を敏感に読み取ったのか、「ゴキゲンさんなんですね」と、出席番号三番のいざわたかこがほほ笑む。
四人のなかで一番内気そうな少女だったが、打ち解けたら愛嬌のありそうな可愛い子。
さっきからずっと黙っている出席番号四番のうのまさよは、いかにもしっかり者という雰囲気だった。

結局、出席番号順に、黒タイツの脚を咬ませてもらうことにした。
「予防接種みたいだね」
女の子どうし、そんなことを口々に言い交わすと、四人はさりげなく行列を作ろうとした。
俺は、まあそんなに堅苦しくするのはやめようよ、といい、イスを四つ並べて、彼女たちを座らせた。
端から順にいただくからね、と、いうと、女の子たちはシンとなって、神妙に頷き返してきた。

折り目正しい濃紺のプリーツスカートは新品で、すそから覗くふくらはぎを包んだ黒タイツも、おろしたてのものらしい。
息をつめて見おろしてくる少女の足許にかがみ込むと、少女のほうは見ずに、「制服は汚さないようにするからね」とだけ、いった。
少女はそれで、ちょっと安心したらしい。
あとできいたら、親たちはそんなに裕福ではなく、制服代も痛いといっているのを小耳にはさんでしまったらしい。
いくら出席番号一番でも、そこまで苦労性にならなくていいのにな。
いまでも、いつも気張って真新しい黒タイツを履いてきてくれるこの子の脚を咬むときには、いつもそう思う。
彼女の履いている黒タイツは、しっくりと唇になじんで、俺はもうたまらなくなって、思わう行儀悪く舌をなすりつけてしまっている。
ピチャピチャと音を立てて、よだれをじゅくじゅくと泡立てているのに、彼女はぴくりとも動かない。
ほかの子たちに与える影響を思いやっているのだろう。
タイツの下の皮膚は、きっと鳥肌だっているはずだった。
かわいそうになったので。
口許から牙をむき出すと、いちばん肉づきのよいあたりに、がぶりと食いついた。
「・・・ぁ!」
喉の奥からしぼり出したうめきに頓着なく、じわじわとあふれ出てくる生温かい血潮を、夢中になって含みつづけた。
しまり屋のあおやぎのりこチャンは、仕切り屋としての務めも立派に果たした。
「だいじょうぶだよ、だいじょうぶ」
さすがに蒼ざめて見つめてくるクラスメイトたちにそう言いつづけながら、
彼女はイスの背もたれにゆだねた背中を、ずるずると滑り落としていった。
床に尻もちをついてしまった彼女をそっと抱きしめ、「ありがとう」というと、蒼ざめた彼女のことをそっと床に寝かしつける。
スカートをちょっとめくって、まっ白なスリップのすそで唇を拭うと、
俺はさっそく、次の子にとりかかる。

あきもとかなえチャンは、薄いピンクのカーディガンに、赤と白のチェック柄のスカート。
このお洋服だと、白のハイソックスもに合いそうだね・・・と俺がいうと、
おしゃれな子らしく、「わかる?」と言いたげに微笑み返してきた。
さすがにクラスメイトがひとり、貧血を起こして倒れたばかりだったから。
彼女の頬もすこし、蒼ざめてはいたけれど。
黒タイツを履いたやせ身の脚を、気丈にも伸ばして誘いかけてくる。
そういう誘いには、めっぽう弱い――俺はかなえチャンの足首を掴んで床に抑えつけると、さっきみたいににゅる・・・っと唇を這わせて、
さっき以上にしつっこく、女の子の脚をねぶり抜いてゆく。

かなえチャンは寝顔も可愛かったから、首すじにもキスをしてやった。
つづいて出席番号三番、いざわたかこチャン。
ワインカラーのとっくりセーターに、こげ茶のスカート。
どちらかというと卒業式にはカジュアルな感じがしたけれど、そういう子はけっこうおおぜいいたのだった。
セーターもスカートもじつはブランドものだということを、俺はとっくに見抜いている。
「きみ、首すじから咬んでもいい?」俺がいうと、
「そうしたいんですか?」と問い返してきた。
意外に自己主張の強そうな子だ。
「ドラキュラ映画のヒロインみたいじゃん」俺がいうと、
「それなら・・・してもいいです」
大人しそうに見えながら、気負いすぎるほど前向きな意思表示を、はっきりと伝えてくる。
この子はきっと、発展家になるだろう。
差し伸べられた首すじはすんなりと伸びやかで、皮膚にはかすかな潤いとぬくもり。
唇が触れると、ゾクッと身をこわばらせたが、有無を言わせず咬みついていた。
半ば本気をこめた抱擁のなか、血を啜り取られながら、少女はうっとりとなって身体の力を抜いていった。
手鏡をかざして、お気に入りらしいとっくりセーターのえり首に血がついてないのを確かめさせると、
少女は感謝の微笑みを泛べて、黒タイツの脚を自分から差し伸べてきた。
さいごに独り残ったうのまさよチャンに、「怖くはないし、むず痒いだけだからね」と声をかける余裕をみせた。

「さいごになっちゃったね」
俺がそう声をかけると、「いちばんおいしくないかもしれないわよ」と、少女は控えめなことをいった。
うのまさよチャンは、無口なしまり屋。
紺のブレザーに青系のチェック柄のスカート。その下に履いているタイツは、どうやら高価なものらしい。
ひと目でそんなことまでわかってしまう俺も俺なのだが。
裕福な家で育ったらしいまさよチャンの服は、だれよりも洗練されていて、見映えがする。
京子先生がこの子で切ったのも、たぶん頭数以外の意味があったに違いない。
「じゃあ、ためしてみるかね?」
自分の血がいちばんまずそう・・・そんな可愛いことを言われてしまっては、弁護したくなるのも当然ではないか。
まさよチャンはちょっと根暗で憂鬱そうな横顔をちょっと曇らせて・・・でもはっきりと頷き返してきた。
「きみも、最初に首すじを咬んでみたい子のようだね」
「どうしてそういう区別をするんですか」
「なんとなくだよ、なんとなく・・・」
「そうなんですか」
口数の少ない子が、あえて会話を続けたがっている。
きっとそうやって、恐怖を忘れようとしているのだろう。
俺はこの子に、早く恐怖を忘れさせてあげなければならない。
抱きすくめた肩はか細く、量は採ってはいけない気がしたけれど。
かじりついた首すじの皮膚のなめらかさは、そんなことを一瞬で吹き飛ばしてくれた。
ごくごく・・・ごくごく・・・
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
せきを切ったような劣情にわれながらあきれ果てながら、
なにもかも諦めきったらしい無抵抗な身体から、初々しい血潮をひたすらに、啜り取っていった。
すっかり俺のモノになり果てた少女は、いった。
「タイツ、愉しんでくださいね。せっかく履いてきたんだし」
破くまえにしっかり舐めろ。
そんなことを言う子なのだ。末恐ろしい。
でもいまは、俺に手なずけられて、天使は奴隷に堕ちようとしている。
スカートの奥に手を突っ込んで、太ももをまさぐりながら。
真新しい青のチェック柄のプリーツが、不自然に波打つほど露骨に、撫でつけながら。
俺は少女のタイツをいたぶり抜いて、しなやかな生地の舌触りをくまなく愉しんで。
少女がかすかに頷いてくれると、咬みついていった。

質素な家に育って、仕切り屋でしっかり者の制服姿。
おしゃれで可愛い、ピンクのカーディガンに赤と白の派手なチェック柄のスカート姿。
一見地味めな発展家の、ワインカラーのとっくりセーターにこげ茶のスカート姿。
無口なしまり屋で、奉仕精神いっぱいの紺のブレザーに青のチェック柄スカート姿。
どの子も顔を蒼ざめさせて、教室の床のうえに転がっている。
出席番号一番、青柳紀子。
出席番号二番、秋元香苗。
出席番号三番、井沢孝子。
出席番号四番、宇野昌代。
この子たちの秘めた血潮の香りを反芻しながら、俺はゆっくりと身を起こす。
教室のドアをちょっとだけ明けて、
ひっそりと佇む人影に、ひっそりと声をかける。
「親御さんたちを、呼んでください。ごちそうさまでした」
「あなたが一番、長かったわよ」
京子先生の咎める視線が、いつになく優しい。
「卒業、おめでとうございます」
風変わりなあいさつもあったものだと自分で思いながらも、俺は先生のまえ、深々と頭を垂れた。


あとがき
長かったんで、一時間ちょっとかかってしまいました。
(^^ゞ

おわび。

2016年03月27日(Sun) 08:44:21

前作はどうしても、続かなくなってしまいました。
(^^ゞ
兄弟のどちらに、ヒロインの純潔をゲットさせようかと。(笑)
まあそんなわけで、気が向いたらまた描きますが、いったんは打ち止め・・・ということで。