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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

咬まれた痕は、咬まれた者同士にしか、見えないらしい。

2016年06月30日(Thu) 07:48:12

初めて咬まれた夜のこと。
家に帰った僕を迎えたのは、父さんだった。
その時初めて、父さんの首すじについた咬み痕に、僕は気がついた。
父さんも僕の首すじにつけられた咬み痕に、じーっと見入っていた。
咬まれた痕は、咬まれたもの同士にしか見えないということを。
僕はその時、初めて知った。

父さんは半ズボンを履いた僕の足許に目をおろして。
真っ白なハイソックスにべっとりと着いた血のりをみとめると。
母さんが帰る前に、脱いでいなさい。父さんは母さんをこれから迎えに行くから。
これは二人だけの秘密・・・ということを言外に滲ませて、
あとはいつものような仏頂面に戻って、ジャケットを羽織って家から出ていった。
この街に棲みついて、まだいくらも経っていないころ。
妻を襲われたくない夫たちは、夜道を歩く妻のエスコートを必ずすることになっていた。
いつものようににぎやかな雰囲気をまき散らしながら居間に戻って来た母さんは、
僕の首すじの咬み痕に気がつかなかった。

翌朝、出勤時間を早めた父さんは、僕と一緒に家を出た。
家が遠くなって、誰にも聞かれないのを見はからって、父さんは言った。
ほんとうは、父さんが母さんのことを連れていかなくちゃいけないんだけど、さすがにちょっとなあ・・・
じゃ、僕がするから。
生き血を欲しがる吸血鬼に母親を引き合わせるという行為を、
自分でもびっくりするくらい気軽に、引き受けてしまっていた。

気分が悪くなっちゃって。
いま、フジノさんのお宅にいるんだ。
電話に出た母さんは、僕のついた嘘を真に受けて、
敷居の高い家みたいだから、ちゃんとスーツ着て迎えに来てね。
息子のそんな風変わりな要求を、なんの疑いも抱かずに承知した。
僕を迎えに来た母さんは、いつもより半オクターブは高いよそ行きの声になって、
自分の血を吸おうとしている小父さんに礼儀正しいお辞儀をして。
黄色いスカートの下からにょっきり覗く肉づきのよいふくらはぎを、
そうとは自覚せずに見せびらかしていた。
脚に通してきた真新しいストッキングを、咬み破られるために穿いてきたのだとわかったときにはもう、
その場に押し倒されて、首すじを咬まれて、
僕のときよりもいちだんと速いペースで、生き血をチュウチュウ吸い取られてしまっていた。

もう~、どうして母さんにあんな嘘をつくのよっ。
言葉は叱っていたけれど、声色はもう、怒ってはいなかった。
女の人が穿いているストッキングを咬み破るのが大好きな小父さんに迫られた母さんは、
肉づきたっぷりなふくらはぎに、もの欲しげな唇を吸いつけられて。
ぱりぱり、ブチブチ、かすかな音を立てながら。
小父さんのために穿いて来たおニューのストッキングを、惜しげもなく咬み破らせてしまっていた。
そのまま、“征服”されていった母さんのことを、僕はずっと忘れない。
ふすまが細めに開いた隣室から、犯されてゆく母さんのことを、父さんが熱っぽく見つめていたことも――

ええーっ!?ケイくんのウソつきっ。
言葉は怒っていたけど、声色は決して、怨んではいなかった。
それから数年後のことだった。
僕が婚約者の綾香さんを、小父さんに紹介してしまったのは。
母さんのときとおんなじ経緯で、綾香さんは首すじを咬まれ、
スーツのジャケットをバラ色の血潮でびしょ濡れにさせて、
てかてか光るストッキングを、惜しげもなく咬み破らせていった。
その場で犯されてしまったのさえ、母さんのときといっしょだった。
嫁と姑、ふたりながらモノにしてしまった小父さんは。
父さんと僕のまえ、得意げに笑いながら。
妻をみすみす寝取らせる父親と、
婚約者をムザムザと汚されるその息子とを目のまえに。
スーツに着飾った女ふたりを、代わる代わるに犯していった。

バブル時代の婚約。

2016年06月30日(Thu) 07:27:57

彼女は、親が決めた結婚相手だった。
そういうの、バブルのころにはもう、流行らなくって。
でもボクの未来の花嫁も、やっぱり流行らないタイプの女の子で。
ついでにいうと、あんまり可愛いルックスの子でもなかったけれど。
やっぱり生涯の伴侶という重みは大きくて、
ボクのなかではじゅうぶん、大きな存在になっていた。

子供のころからボクが懐いていた吸血鬼の小父さんは。
案の定、ボクの彼女に横恋慕をして、
ロコツなくらいもの欲しげな顔をして、彼女のことを欲しがった。
NTRなんて言葉がなかった時代――
でも明らかに、そんな時代でも。
そういう願望は・・・多くの男の子が持っていた。

いいよ。キミさえ理解してくれるなら。俺は勝手に襲うから。
小父さんはそんなふうに、協力を渋るボクにはそういったけれど。
わざわざ襲う場所と刻限を予告してきたのは――ボクにも来いと言っているようなものだった。
ワクワクする気分を抑えかねたボクの足どりは、フワフワと浮ついて、
まるで地面に足がついているような気がしなかった。

勤め帰りの夜道を襲われた彼女は、
さいしょのうちこそ両手で口許を抑え、逃げ回り、追い詰められて、
激しくかぶりを振って、哀願をして。
さいごに首すじを、がぶりとやられてしまっていた。
うら若いバラ色のしずくを純白のブラウスに撥ねかせながら、
生き血をチューチュー吸い取られてゆく彼女を目のまえに、
ボクはドキドキ、ズキズキと胸わななかせ、
さいごに半ズボンを濡らして失禁していた。

その場にあお向けに抑えつけられたまま、
首すじから景気よく血を吸いあげられてしまった彼女は、
ふたたび起きあがったときにはもう、別人になっていた。
もの欲しげな唇を足許に吸いつけてくる小父さんのことを、もう拒もうともしないで。
ボディコンのスーツからにょきり覗く、エナメルのハイヒールに縁どられた恰好の良い脚を、気前よく投げ出すと。
あのころの女の子ならだれでも穿いていた、あのテカテカ光る肌色のストッキングを、
惜しげもなくブチブチと、咬み破らせてやっていた。

あのころの女の子は、処女を捨てるのをなんとも思わなかった。
新婚初夜の床で、ボクに差し出されるはずだった純潔は、
その場で小父さんの手で、他愛もなく汚されていった――

あのときの昂奮は、いまでも胸の奥に、とぐろを巻いている。
行ってくるわね。
きょうも勤めに出かけてゆく妻は、一見地味なスーツ姿。
それは小父さんがもっとも好む装いだった。
脚に通したストッキングは、あのころみたいなツヤツヤとした光沢は帯びていないけれど。
透明なナイロンは、四十女の足許を、妖しく彩っている。
ボクは視て視ぬふりをして、妻を「勤め」に送り出す。
献血という慈善事業といわれる「勤め」へと、彼女はいそいそと出かけてゆく。
結婚前に、ボク以外の男に処女を惜しげもなく与えた妻は。
其処でおおぜいの男たちを相手に、貞操を惜しげもなく、汚し抜かれて帰ってくる。

或子爵家の崩壊

2016年06月21日(Tue) 06:17:22

大きなボストンバックを両手に抱え、敏江は追われるように家を出た。
きのうまでは平穏に暮らしてきた家。
古風で気位の高い姑の、多少厳格な圧制があるにしても、自分が理屈抜きで折れることで、かろうじて家族の平安を支えることができた家。
そんな家を彼女は失うことになる。

他行先で引き留められて遅くなった帰り道を吸血鬼に襲われて、
生き血を吸いとられたばかりか、あまつさえ凌辱まで受けてしまったことが、敏江の生活を一変させた。
舅や姑の怒りをかい、夫さえかばう側には立ってくれなかった。
それどころか、報せを受けた実家までもが、体面を気にするあまり、彼女の里帰りを拒んだのだ。
帰る家とてない、行き先のない旅路に彼女は就くことを余儀なくされた。

見上げれば、鉛色をした空からは無情の雪。
その雪のなかを行き倒れるまて歩み続けるしかないのか。
悲嘆を通り越して感情をなくした彼女は、見送る人のない門出を独りとぼとぼと歩き始めた。

婚家だった家の門が、時おり振り返る視界から消えたとき。
目の前をひっそりとした人影が遮った。
この感覚――思い出した。彼のおかげで妾はすべてを喪ったのだ。
きっと睨んだ視線を軽く受け流して、男は慇懃に会釈した――奥さま、きょうはどちらまでお出かけかな?

お出かけですって?お出かけですって?
みなまで言えずに敏江は不覚にも嗚咽を洩らした――自分の操を劣情のままに奪い、こんにちの非運を招いた男にれんびんをかけられるなど、恥辱の上塗りに過ぎないはずなのに!
しかし男の態度はどこまでも変わらない。
敏江がこうして住み処を喪うことまでもあらかじめ予期していたかのように。
「奥さまがこうなった理由の大半は私にあるようだ。責任をとらせていただこう。ついていらっしゃい。ほかに行くところもないご様子だから」

あてがわれた一室は広々としていて、家具調度まで行き届いていた。
ボストンバックの中身はあたかも予定されていたかのようにすんなりと、それら調度のなかに吸い込まれていった。
滞在費はいっさい、男がめんどうをみてくれるという。
仇敵同然の男の好意など受けるわけにはいかないと言っても、聞き入れてもらえなかった。
男は言った。
「その代わり、奥さまのお情けをいただきたい」
と。
それがなにを意味しているのか、大人の女性ならわからないわけはなかった。
まして一度は「お情け」を受けてしまった身――
男がわざわざ立場を入れ替えて、献血を求める言い回しをしてきたことが、敏江の自尊心をかろうじて救っていた。
敏江は男に、無言の承諾を与えた。
夫に仕えて二年。親どうしの決めた縁組みで、さして愛情豊かとはいえない夫だった。
それでも一生添い遂げる覚悟で敬意を尽くして仕えつづけ、心の支えとしてきたはずだった。
そんな夫さえ、世間体と実母の機嫌を憚って彼女を見放した。
もはやここで生きていくしか、途はないのだ。

吸血鬼は意外なくらい、敏江に敬意をもって接した。
敏江の部屋に現れると手の甲に接吻をし、それからおもむろに首すじを咬んだ。
初めてのときのような荒々しい振る舞いは見せずに、上質のワインを賞玩するようにして敏江の血を嗜んだ。
敏江が貧血を覚え身体をふらつかせると危なくないようにと支えてくれて――それからやおらベッドに押し倒していった。
そして明け方にいたるまで、敏江を愛しつづけるのだった。

身体の調子が思わしくないときには、あえて敏江を酷使しようとはしなかった。
広い邸内には、敏江と同じような女たちが、なん人も囲われているらしい。
当面の欲求はべつのだれかを相手に選ぶことで、満たしているようだった。
むろん嫉妬など感じなかった。
奴隷ではない代わり、妻や愛人にされた実感も乏しかったから。
恐らく自分は、彼の特殊な嗜好を満足させる対価として、制約はあるものの恵まれたくらしぶりという優遇を受ける関係なのだと、敏江は理解した。

外部への連絡は自由だったし、外出を禁じられた覚えもなかった。
けれども敏江はどこにも連絡を取らなかったし、出かけようとも思わなかった。
婚家からばかりか実家からも縁を切られた女が、今更どこに行くというのだろう?

唯一違和感を覚えるのは、すっかり自らの専有物にしてしまったはずの敏江を、彼がいまだに「奥さま」と呼びつづけていることだった。
それが奇妙な背徳感を敏江に覚えさせた。
自分はまだ婚家の真名川子爵家の人間で、子爵夫人のままこの邸に留め置かれ、生き血を弄ばれ貞操を冒されつづけている――そんなあらぬ錯覚に敏江は戸惑い、そして乱れた。
吸血鬼を自室に迎えると、彼から性急にせがまれる献血行為は受け入れてもそのあとに必ず求められる淫らな振る舞いを、拒み通そうとするのがつねだった。
子爵夫人としての誇りもあらわに、凌辱という不名誉からわが身を守ろうとする――飢えた牙と同じくらい容赦なくつき入れられてくる、あのなにもかも忘れて敏江を夢中にさせてしまう淫らな硬い筋肉の棒を、股間の奥ふかくにまで受け入れてしまうまでは・・・

数ヵ月が過ぎ、敏江は意外な人の訪問を受けた。
かつての夫、真名川子爵だった。
引き合わせてくれたのはほかならね吸血鬼自身だった。
敏江のことが忘れられず、両親との縁を切り家を棄ててきたという。
子爵家は弟が嗣ぐことで決着をつけ、再び二人で暮らしたい――と。
いちでは喪った、平穏で常識的な日常の記憶が、敏江の胸を一息に満たした。
やはり妾が心から望んでいたのは、人並みな暮らしだったのだ。
「あなたのことを奥さまといいつづけた訳がわかったかね?」
吸血鬼は微笑んでいた。
血を吸いつづけていればわかる。どちらの世界が似合いなのかと。あんたはやはり、人の世界に生きるべきなのだ・・・

でもー敏江は反芻する。わたし、元どおりには戻りきれない。
吸血鬼は子爵をみた。あんたはどうなのかね?というように。
「ここの執事をさせていただこうと思うのだよ。ほかに仕事ということをしたことがないのでね。なにもかも、一から教わろうと思っている」
敏江は値踏みをするような目でかつての夫を見、そしてゆっくりと頷いた。
「このかたに召されているときだけは、子爵夫人であることを忘れてもよろしいですか?」
「お前はどこにいてもわたしの妻だ。たとえこの方の腕のなかでも・・・」
熱に浮かされたように不徳を語る夫の首すじに、ひっかき傷のような痕を認めた敏恵は、夫の真意を理解できたような気がした。
同じ痕を持つもの同士の連帯が、夫婦のあいだを初めて行き来する。
夫は話しやめなかった。彼は吸血鬼に言った。妻の生き血を吸い操を汚した、仇敵であるはずの男を相手に。
「妻が貴方のお目に留まったことを誇りに思います。
 このひとの操を初めてむしりとった、貴方の男ぶりにも敬意を表します。
 その証しに、わたしの家の名誉を汚す権利を、子爵夫人の貞操もろとも、謹んで進呈いたします。
 貴方がお望みになるのならいつでも、夫婦のしとねを悦んで明け渡すでしょう。」
世間体のすべてを振り落とすことができた夫を、敏江は眩しげに仰ぐ。
すべては決まった。
かつての夫は再び、敏江の夫としてこの邸に住み込み、自分のすべてを支配する男のために奉仕する。
おそらくは。
夫の前で抱かれる日常が、待ち受けているのだろう。
そのときには誠心誠意、汚される子爵夫人を演じるのだ。
そうすることが吸血鬼に歓びをもたらし、おそらくは夫にも・・・べつの歓びを与えるのだと。
敏江は本能で察していた。

数か月後。
子爵家は投手の不行儀により爵位を剥奪された。
どういうルートを通じてか、現当主が吸血鬼と友好関係を結びその夫人を捧げたといううわさが、上流階級の社交界に広まったのだ。
新当主である夫の弟が、婚約者である華族令嬢を伴って邸を訪れたのは、そうしたころだった。
未来の花嫁の純潔な血を捧げるために。
兄嫁の身体的負担を軽減するために。
まことしやかな文句を口にする子爵の弟の首すじにも、夫や敏江が帯びているのと同じ引っ掻き傷が浮かんでいた。
新当主の婚約者はその夜、羞じらいながらも吸血鬼の腕に抱かれていった。
花婿の面前での破瓜の儀式が厳粛に熱っぽく執り行われたのは、いうまでもない。
そして、その一週間後。
あの厳格な姑までもが、夫に伴われて吸血鬼の軍門に降った。
三人の女たちのなかで、夫のまえでの行為をもっともあらわに羞恥したのは、もっとも年配の姑だった。
すでに吸血鬼の情婦となった嫁たちは、羞じらいに満ちた姑の振る舞いを、嬉し気に見守る。
これからは、妾たちの不義密通も、黙認されるのだ――そんな安心感が、ふしだらに堕ちた女たちを満たしていた。

いま、吸血鬼館は表向き、元子爵家として近隣に通っている。
吸血鬼は家を彼らに譲り、自らはその邸の奥まった離れに棲まいながら、表向きは以前と同じ権勢を帯びた貴族の血すじを、陰で支配している。
おそらくはこれがもっとも平穏なありかたなのだと、邸に棲むだれもが自覚していた。

吸血鬼の部屋から辞去すると、敏江は姑と行き会った。
齢がらには不似合いに派手な柄の着物に袖を通した姑は、ふた回りも若く、嫁の目にも映る。
姑はにこやかに言った。
「わたくし、これからお招(よ)ばれなのですよ。貴女も――そうね、近々ご実家と仲直りできるとよろしいわね。
 その気になればいつでも、仲介の労を取らせていただきますからね。
 なにしろいちばん怒っていたわたくしが、貴女とあるじ様との仲を認めているんですもの。
 仲直りできないわけが、ございませんわ。
 貴女のお母様も、一日でもよりお若いうちに、お血を味わっていただけると、よろしいわね・・・」

街に棲む吸血鬼のための教本

2016年06月21日(Tue) 05:52:56

吸血鬼と人間とが共存するこの街に、新たに棲みつくようになった者のために編まれた教本の一部が、このほど入手された。
内容は断片化されているが、その一部をここに掲載する。


血が欲しくなったのに提供相手が手近にいないときには、それが午後9時以降であれば街に出て、道行く婦人を襲っても良い。
その時間帯に外出する婦人たちは、途中で吸血鬼に遭遇する可能性を正しく認識している。

彼女たちは、自らの体面を守るため一応の抵抗を試みるはずだが、優しくねじ伏せて飲血に耽るがいい。
個人差はあるが、三口半で相手の婦人は理性を喪失するという。
抵抗が止んだら、それは自分の体内をめぐる血液を気のすむまで摂取されても差し支えないという意思表示と見なしてよい。

ただし、どれほどひどい渇きを覚えていても、一人の婦人から摂取する血液は致死量を超えてはならない。
この街の住人たちは、我々の存在に対して寛容であり、共存しようとしている。その好意を無にしてはならないし、
好意的な血液供給者を失うことは我々にとっても不利益となる。

血液を提供した婦人に対して性欲を覚えた場合、彼女がセックス経験者であれば、その場で犯してもよい。
この街の夫たちは、自分の妻が吸血鬼を浮気相手に選び自分を裏切ることを承知している。
人間と吸血鬼両者が友好裡に共存するために、こうした関係を結ぶのはむしろ適切な行動とみなされよう。
妻を凌辱されたくない夫なら、みすみす彼女に夜道を歩かせたりはしないだろうから。

吸血行為に応じた婦人たちが着用しているストッキングやソックスは、欲望のおもむくままに自由に噛み剥いでしまって差し支えない。相手が厭がっても、手をゆるめることなく、容赦のないあしらいをするべきである。
貴殿の支配に屈したあとは、むしろ貴殿の熱烈なる求愛の行為に、むしろ感謝するはずである。

彼女たちが着用していたストッキングを脱がせて持ち帰る行為は、貴殿がその婦人と継続的に交際することを欲していると受け取られる。
また、彼女を襲った場所に放置せずに自宅まで送り届けた場合、妻を迎え入れた夫に感謝を表明されることがある。
夫のなかには、妻を襲った吸血鬼との末長い交際を望むものもいる。
特定の吸血鬼と交際する婦人は、ほかの吸血鬼からの凌辱を免れるという、我々のルールを知っているからである。
夫たちの希望をかなえた場合、彼は貴殿が自分の妻を相手に欲望を成就させることに理解と協力を惜しまないであろう。

初体験談

2016年06月14日(Tue) 05:24:46

初めて血を吸われたのは、学校でした。
その日の放課後、担任のN先生に保健室に呼び出されたのです。
たまたまいっしょにいた晴代さんにその話を聞かれて、「それきっと、吸血鬼の呼び出しだよ」と言われゾクッとしました。
「貧血で具合が悪くなったりする子もいるから、最初は保健室なんだって」
そう教えてくれた晴代さんはすぐに、「よかったね、おめでとう」と、言ってくれました。
他の子はほとんど咬まれてしまっているなかで、私はまだだったからです。
保健室にはいっしょに行ってあげる、あたしも約束してるから・・・と言ってくれた晴代さんは、きっと親切のつもりでそうしてくれたのだと思いますが、私が感じたのは、「逃げれなくなっちゃったなあ」という気持ちのほうが強かったです。
保健室にはN先生はいなくて、晴代さんは廊下で待ち合わせていた吸血鬼の小父さまと落ち合うと早々に、「じゃね」と言って、そそくさと行ってしまいました。
晴代さんが特定の人に血をあげているのは知っていましたが、相手の小父さまを見たのは初めてでした。
背広を着ていて、父と同年代くらいの、ふつうの男の人でした。
「友美ちゃんのお相手も、このひとくらいだよ」
晴代さんは別れぎわ、そう教えてくれました。
保健室には養護の先生がいましたが、いつになくそっけない態度で、「あちらですよ」と、白い衝立の向こう側を指さしました。
私は恐る恐る、衝立の向こうにお邪魔しました。
待っていたのは、やはり背広を着た、白髪頭の痩せ身の男性でした。
顔色が悪く、父よりも年上にみえました。
「よろしく」
男の人は、大きな目で私を見あげて、そう仰いました。
私も恐る恐る、「よろしくお願いします」と、答えました。
「原友美さんだね?話はお母さんから聞いているから」
どうして母のことが出るのか?私にはよくわかりませんでしたが、母の名前が出たことで、ちょっとだけ安堵を感じたのを憶えています。
男の人は腰かけていたベッドから起ちあがると、「寝なさい」といって、場所を譲ってくれました。
私は指さされたベッドにどうにか腰を落ち着けましたが、思い切って寝そべることがどうしてもできません。
男の人のまえで横になることが、ふしだらな感じがしたからです。
その人――小父さまとお呼びします――は、腰かけたままの私のすぐ隣にふたたび腰をおろすと、やおら腕を伸ばして背中に回し、私の肩を抱き寄せました。
めんどうな気遣いはいっさい省略するというのでしょうか。
思わず抵抗すると、小父さまは仰いました。「逃げられないから」。
その言葉が、私の行動を大きく制約したような気がします。
私はただただ、べそを掻きながら、「血を吸うのはやめて」と言いました。
「私はあなたの血をあてにしてここに来た」
セーラー服のままギュッと抱きすくめられた私は、もうどうすることもできなくなっていました。
どうやって彼に咬まれたのか、よく覚えていません。
私を身動きできないようにして、小父さまは牙をむき出すと、情け容赦なく、力づくで食い入らせてきたのです。

ごくっ・・・ごくっ・・・
私の血が露骨な音を立てながら飲み味わわれていくのがわかりました。
欲しがってる。欲しがってる・・・
ただそれだけがありありと、肉薄してくる厚い胸板や抱きすくめてくる力強い腕の力から、伝わってきました。
あと、首すじに吸いつけられた唇の強さからも。
ベッドに抑えつけられた私は、ただただ圧倒されながら、血を吸い取られていったのです。

私がぐったりとなってしまうと、小父さまはスリッパを脱がせて私をベッドに投げ込むと、うつ伏せに転がしました。
なにをするのかは、お友だちから聞いて知っていました。
脚を咬むんですよね。ハイソックスのうえから。
さっきのようにいきなり咬みついたりしない代わりに、小父さまは舌を這わせて私の履いているハイソックスをいたぶりました。
とても屈辱的な感じがしましたが、どうすることもできませんでした。
「すまないね。あんたには感謝するよ」
小父さまはまじめな口調でそう仰ると、やおら牙を突き立てて、ハイソックスを咬み破りながらふくらはぎを咬みました。
両脚とも代わる代わる、何度も何度も咬まれて、ハイソックスにじんわりと生温かい血がしみ込んでいくのを感じました。
とてもとても、屈辱的な感じがしました。
けれどももう、どうすることもできないで、半ば痺れた頭のなかを霧のようなものが渦巻くのを感じながら、「血を吸われちゃう・・・血を吸われちゃう・・・」と、呪文のように呟きつづけていました。

ひとしきり血を吸うと、小父さまは手を取って、私の身体を起こしてくれました。
「だいじょうぶかね?」
顔を覗き込んでくるのが、気を使ってくれているのがわかるのですが、でも顔をまともに視られるのがひどく羞ずかしくて、私はずっと下を向いていました。
養護の先生はもう、いらっしゃいませんでした。
私たちは灯りのついたままの保健室を出て、小父さまはジャケットを脱いで冷えた私の身体から外気を遮ってくれました。
このままいつまでも甘えるわけにはいかない――そう思いまして、「だいじょうぶです、一人で帰れますから・・・といって、まだ顔をそむけつづけていました。
「お友だち、待っててくれたみたいだね」
小父さまの声に顔をあげると、美智子さんや晴代さんの姿が、下駄箱のほうに見えました。
待っていてくれたらしいお友だちの影を見て初めて、涙が滲んできました。
「悪いが、退散するよ。きょうはありがとう」
「あ・・・いえ・・・」
へどもどとしたご返事しかできなかったのだけは、いまでも悔やまれます。

家に戻ると母が迎えてくれました。
血の付いたハイソックスに気がつくと、母は「見せて御覧」と言い、「派手にやられたね」と言いながら、髪をなでてくれました。
また涙が出そうになりましたが、かろうじてこらえると、「シャワー浴びてくる」と言って母の脇をすり抜けました。

翌朝――
気分は意外なくらい、普段通りの私に戻っていました。
いつものように朝ご飯をいただき、いつものように制服の袖を通して、ハイソックスだけは真新しいのをおろして、家を出ました。
きょうも小父さまが来る――なんとなく、虫が報せたのです。
いまなら思います。
私の身体じゅうの血が、小父さまに飲まれたがって――ざわざわと騒いだのです。
一時間目は家庭科でした。Y先生は私のことを呼ぶと、「旧校舎の3階のB教室に行ってらっしゃい」と、小声で指示を下さいました。
どういうことだかすぐにわかった私は、みんなのほうにさりげなく一礼をして教室を出ました。
みんなも私のごあいさつがどういうものなのか、察してくれたようです。さりげなく軽い挨拶だけを返して、すぐに実習に熱中し始めてくれました。

指定された教室に入っていくと、小父さまはこちらに背中を向けて、空き教室のなかでひとり、窓の外を御覧になっていらっしゃいました。
私の足音を聞きつけてこちらを振り向くと、私はお辞儀をして中に入り、すぐに小父さまのほうへと歩み寄ります。
「きみのハイソックスをまた、イタズラしてみたくなってね」
小父さまは朗らかに笑いました。
言っていることはひどいけど、いじましい感じはしませんでした。
私も不思議なくらい明朗な気分になって、言いかえしました。
「いけない小父さまですね。母に言いつけようと思います」
「口止め料に――きのうよりもたっぷりと、吸ってあげよう」
血を余計に吸い取られることが、どうして私に対する口止め料になるのか。
それは、教室の床に押し倒された私は、すぐに知ることになりました。
したたかに血を吸われた私は、貧血に蒼ざめた頬を横に振りながら、小父さまに言いつづけていたのです。
「だめ・・・だめ・・・もっと・・・吸って・・・」と。

20年ぶりの帰郷。

2016年06月07日(Tue) 07:42:49

暗がりの支配する小部屋のなか。
13歳の瀬藤怜奈は、老婆に抱きすくめられて、
すんなりと伸びた首すじを、いまは惜しげもなく飢えた唇にあてがってしまっている。
キュウキュウ・・・キュウキュウ・・・
うら若い血潮を刻一刻と吸い出されてゆくというのに、
少女の白い頬は怜悧な輝きを秘めていて、
自分の体内から血液を吸い出されてゆく音を、耳で愉しんでいるかのようにさえみえた。

老婆が唇を少女の首すじから放すと、
少女はちょっぴり残り惜し気に眉を顰めて、老婆のことをじっと見つめた。
「あたしの血、美味しい・・・?」
頷く老婆の唇には、吸い取った血がチラチラと光っている。
怜奈は魅入られたように、老婆の唇を自分の指でなぞり、自分の血の付いた指をそのまま、唇で吸った。
錆びた香りが、少女のピンク色の鼻腔に満ちた。
「ククク。まだそなたには、きつい味わいぢゃろうえ」
老婆はしんそこ嬉し気に、薄闇に輝く少女の黒髪を撫でた。
少女には、自分の血の味が苦かったらしい。
「わからない~」
といって、顔をしかめて老婆を見返った。
「いま少し、エエかの?」
老婆のもの欲しげな目線がハイソックスを履いた足許に注がれるのを感じると、
「好きにして」
少女は頬ぺたをふくらませ口を尖らせながらも、素直にその場にうつ伏せになって老婆の目のまえにハイソックスのふくらはぎをさらした。
ククク・・・
老婆の含み笑いはいっそう卑猥さを帯びた。
そのまま白のハイソックスのふくらはぎに唇を吸いつけると、
クチュ・・・クチュ・・・と、いやらしい音を立てて、少女の脚を舐めはじめた。
しなやかなふくらはぎに帯びられたナイロン生地の舌触りを愉しむように、
くまなく少女の足許に唾液をよぎらせると。
こんどは牙をむき出して、そのままグッと咬み入れた。
真っ白なハイソックスに、バラ色のほとびが不規則に散った――


怜奈はこれでよかったのでしょうか?
妻の淑恵(としえ)の囁きにまだ母親の情愛のぬくもりがよぎるのを、袴田は後ろめたそうに目を背けた。
だからこの村には、連れて来たくなかったのだ。
生まれ育った村は、捨てたつもりだった。
親兄弟も結婚式には招ばず、以来いちども足踏みをしようとしなかった村――
よんどころなく訪れることになったのは、娘の怜奈にくり返しせがまれたからだった。
「あたし、お父さんの生まれ故郷を見てみたい。できればずっと、棲んでみたい」
小娘の無邪気なさえずりと聞き過ごしていたのに、それが度重なるにつれ、妻からも同じ言葉が漏れてきた。
妻のそれは、世間体に対する申し訳なさからくるものだった。
「いちどもお邪魔していないんですよ。私気が咎めてしょうがないの」
挙式の相談をして以来、夫婦の間での唯一のわだかまりが、袴田の実家についてのことだったのだ。
けれども、怜奈の願望はそうした大人の計算とは無縁の、というか、次元のちがうものだった。
ふたりに責めたてられるように帰郷を迫られた袴田は、とうとう実家への電話をかけるため受話器をとった。
受話器をとったのが妻と娘の留守中だったことに、ふたりはなんの不審感も抱かなかったようだが――そこで交わされたやり取りは、ただならないものだった。

「こんどそちらに帰るから」
「そう?ずいぶんだし抜けなんだね」
「迷惑かな?」
「そんなことあるわけないだろう。村をあげて歓迎さ。淑恵さんいくつになった?怜奈ちゃんは?」
袴田は、悪魔に魂を売り渡すような気分で、妻と娘の年齢を告げる。
「淑恵は三十六で、怜奈は十三だ」
「十三歳かね。縁起のいい数字だね。婆さん悦ぶよ」
いちばん聞きたくない科白だった。
けれども、怜奈があれほど言いつのるのだ。もう逃れようはない――袴田は観念した。
自分から受け継いだ血を秘めた少女は、やはりもとのさやに収まろうとするのだと。
狂った本能に違いはなかったが、きっとそれは正しいのだと、袴田は観念した。
妻は・・・そう、なにも知らない妻はどうなのだ?
娘がそれとは知らず本能で覚っていることさえ、都会育ちの妻は夢にも思わぬこと。
けれどもあの村にひと晩でも宿をとれば・・・都会人の理性など一夜の夢のように虚しく消えうせてしまうことも袴田はわかり抜いていた。
村に着いた怜奈は、かつて袴田自身の血を吸った老婆を目にすると、「お婆ちゃん♪」と親しく懐いた。
ところどころ赤黒いシミの浮いたみすぼらしい着物をまとう老婆は、
よそ行きのスーツに身を包んだ都会の少女とひどく不つり合いにみえたのに。
そんなことなど意にも介さずに、少女は老婆の手を引かんばかりにして、母親の隣からいなくなった。
母親が止めるのも聞かないで。
広い実家の片隅の小部屋に連れ込まれた少女が、どんな目に遭うのか。
けれども彼女は、それをとうぜんのことのように迎え入れ、きっと許すのだろう。
世間並みのあいさつを嬉々として交し合う、なにも知らない妻を横目に、
袴田は独り、じりじりとしながら刻の移るのを耐えた。


つぎはお前の番だよ。
さすがに淑恵の頬は、引きつっていた。
ふすまひとつへだてた向こう側にいるのは、まな娘の血を吸った老婆。
それが、いまは自分の生き血を目あてに息をひそめているという。
身にまとう薄汚れた着物を、娘を咬んだときに浴びた血しぶきに濡らしたまま――
もう、どうすることもできないのですね・・・?
助けを求めるような妻の瞳をまともに見返して、袴田は囁き返す。
こうするよりないのだよ。
怜奈はまだ、老婆といっしょにいる。
とうに気を喪って、その身をめぐるうら若い血液を、がつがつと喰らわれながら。
娘を救うには、自身が身代わりになるしかない。
さっきは、兄嫁が身代わりになってくれた。
けれども彼女もまた、怜奈を連れ出すことはできず、真っ蒼な顔をして部屋からさ迷い出てきたのだった。
義兄や義父母の厳しい視線から無責任に逃れるには、淑恵は世間体に縛られすぎた女だった。
怜奈は自分の血が教えてここに来た。
だがこの女もまた、世間体という化け物にそそのかされて、この村に引きずり込まれたのだ。
袴田は妻を愛していた。けれどもこのときばかりは、無同情に妻の背中を押していた。
「行きなさい」
袴田自身も久しぶりにつけられた首すじの痕に、えも言われない衝動を疼かせていた。
老婆の干からびた血管を満たすために、妻を行かせたい――そんな異常な熱望が、袴田を支配していたのだった。
そうすることで、妻もたぶんすんなりと、自分たちの同類になり果ててくれる・・・

おっ、お許しを・・・ッ!
部屋の隅に追い詰められた淑恵は、とっさにブラウスのえり首を掻きよせた。
そのしぐさが、さらに老婆の劣情をそそっていた。
くひひひひひひひっ。早ぅ、血をよこせぇ・・・
そううめいて化け猫のようにとびかかる老婆のまえ、都会育ちの人妻はひたすらに無力だった。
がぶっ。
ふすま越し、妻が咬まれる音が聞こえたような気がした。
袴田はふすまを細目に開けた。
抱きすくめられた妻のまとっている空色のブラウスが、首すじから噴き出る血潮に、みるみる赤黒く染まってゆく――――
異形の光景に、袴田は老婆の行いを妨げようとする手を凍りつかせた。
かつて――老婆が母親の首すじにかぶりついた光景を目の当たりにした記憶が、ありありとよみがえっていた。

ああーッ!
ぎゅうぎゅうと強引に血を吸いあげられて、絶望的な叫びをあげる妻。
20年まえ、母もまた、首っ玉にしがみついてくる老婆を拒み切ることができずに、おなじ色の悲鳴をあげていた。

めくれあがった濃紺のスカートのすそから覗く、肌色のストッキングに包まれたひざ小僧。
老婆の皺くちゃの手の甲が、ギュッと閉ざされたひざ小僧を割って、さらに奥へと忍び込む。
母のときもそうだった。あのとき母は、スリップを着けていた。いまの妻には、それがない。
すそにレエスもようのついたスリップをたくし上げながら、老婆は母を犯しにかかるように、卑猥なまさぐりを股間に擦り込んでいった。

はうっ。
太ももに食いつかれ、ストッキングをびりびりと咬み破かれながら、妻は歯噛みをしながら吸血に耐えている。
はやく、いまのうちに、怜奈を連れ出して・・・!
妻の想いはそこにあるはずなのだが。
当の怜奈は首すじにつけられた咬み痕を指先でもてあそびながら、母親の受難をじいっと見つめている。
怜悧な視線。しかしその冷たい観察の奥に、小気味よげな満足感がわだかまっているのを、袴田は見逃さない。
それは、目のまえで自分の母親が吸われたときに自分が感じたものと、同じだったから。
自分の体内をめぐる血潮とおなじ血が。
お婆ちゃんを、愉しませている。気に入ってくれている。
やっぱり引き合わせてよかった。母さんの血は、お婆ちゃんに吸わせてあげるために、母さんの身体のなかをめぐっているのだ――おなじ思いをきっと、怜奈は共有しているに違いない。女らしい、もっと冷血な想いを秘めて。

ママったら、とても楽しそう・・・
そうよ、血を吸われるのって、愉しいわ。
身体じゅうが、むず痒くなっちゃうの。
だからママも、ガマンできなくなっちゃったのね。
あたしには厳しいしつけをするくせに、自分はこんなにはしゃいじゃったりするのね?
そうよ、もっとはしゃいで、はしゃぎ過ぎて血を全部、抜き取られちゃうといいわ。
それから、あたしも知らないようなやりかたで、うんと辱められるの。
パパがかわいそうな気もするけれど・・・でもパパもきっと、愉しんじゃってるに違いないから。
恥知らずなのよ、あのひとだって・・・

いつの間にか、部屋には男どもの呼気が満ちていた。
父に兄、そして子供のころ袴田を弟ぶんにしていた、年上のあんちゃんたち。
それらがいっせいに、服をはぎ取られ太ももや乳房までもあらわにして乱れ狂う妻の肢体に、いっしんに目線を注いでいる。
老婆がその場を譲るように女を放すと、入れ替わりに男たちが半裸の淑恵に群がった。
ひとりが淑恵の頬に平手打ちをくれ、べつのひとりが肩を抑えつけ、さらにひとりが脚を抑えつけ、ついでにストッキングのふくらはぎに唇をねぶりつける。
いちばん最初に妻が相手をしたのは、父だった。
そうだね。母さんが襲われるのを手伝ったのは僕だったから。
父さんがいちばんさいしょに淑恵のうえに馬乗りになるのは、理に適っているよね・・・

妻が犯される――なのに勃ってしまっている。
恥ずかしいはずの欲情が、かえってすべてを忘れさせた。
鎌首をもたげる茎の剛(つよ)さに満足を覚えながら。
それ以上に怒張をあらわにした父の一物が、妻のまとうスカートの奥に侵入するのを、袴田はドキドキしながら見入っていた。
身体じゅうから抜き取れたはずの血が戻ってきて、心臓の鼓動をドクンドクンと痛いほど伝えてくる。
あうううう・・・っ。
股間に受け入れた吶喊の激しさに。
恥知らずな粘液を目いっぱい嫁の奥深く吐き散らす魔羅の硬さに。
断末魔のようなうめきをあげつづける妻。
食いしばった歯のすき間から洩れる吐息に、淫らなものが混じるのを、袴田はみた。
歯並びの良い白い歯も、嫁を飼いならそうと躍起になった父の舌になぞられて、淫らな輝きを帯びていた。

入れ代わり。立ち代わり。
だれもかれもが、淑恵のうえにまたがった。
袴田が提供した都会育ちの人妻の肢体は、すみずみまであますところなく、たんのうされた。
ふと見ると、かたわらに怜奈がいた。
秀でた眉を寄せて、強いられた乱交に本能で応えはじめる母親の肢体を、冷たく輝く瞳で見つめつづけている。
ママ、楽しそうだね。
そうだね。
パパも、愉しんでいるのね?
そうだね・・・
やっぱ、里帰りにはお土産がいるよね。
だね。
怜奈もママも、いいお土産なんだね。

わたしと淑恵の娘は、もの分かりのよい子に育っていた。
その母親も、男たちの腕のなか、もの分かりのよい人妻になり下がっていった。
帰郷した初めての夜。
わたしは家族の一員として再び迎えられ、
彼らを家族の一員として、新たに受け容れることになる・・・

公開処刑。

2016年06月07日(Tue) 06:32:33

ひい―――ッ!
妻の金切り声が、あたりに響き渡った。
ここは街の中心街に位置する広場。
頭の上は雲ひとつない空。真昼間だった。
広場に拡がる石畳の上には六畳ほどの畳が敷かれ、
妻はその狭い空間のなかで、立ちすくんでいる。
怯える目線の真向かいにいるのは、薄汚れた老婆。
みすぼらしい着物は、もとの色すらよくわからないほどに垢じみていて、
そのうえあちこちに、かつては血しぶきだった赤黒いシミを点々と散らしている。
そう、この老婆は、吸血老婆。街を支配する長老のひとり。
それがいま、意地悪げな目つきに底知れない欲情をあらわにたたえ、
ヨタ、ヨタ・・・とおぼつかない足取りで、一歩一歩、妻を追い詰めてゆく。
先に血を抜かれたわたしは、解放されきったその六畳間からすこし離れた場所で、
きつい縛(いまし)めの荒縄にぐるぐる巻きにされて、転がされていた。
択ぶほうを間違えた――夫婦ながら後悔した現実を、目の当たりにしていた。

「面白―いっ!」
「奥さん、美味しそ~」
「ダンナも哀れでいいねぇ」
周囲には、群れ集う見物人。吸血鬼の支配に狎れた、この街の住人たち。
それらが皆、吸血老婆の味方になって。
無責任な好奇心をむき出しに、これから妻の身に降りかかる受難を予想して視線を集中させる。
それらのなかには、着任したばかりの事務所に勤める上司や同僚の姿も交じっていた。
もしかするときょう、妻を輪姦する権利を手にしたかもしれない、男たち。
そう。
わたしたちは、この街の住人として認めてもらうための、二者択一を迫られたのだ。
吸血鬼に支配されて半吸血鬼に堕ちた男たちに弄ばれながら血を吸われるか。
それとも、街を支配する長老の誰かに身をゆだねるか。
吸血鬼が人妻の血を吸うとき、相手をした女は必ず、抱かれてしまうという――
せめて、もうひとつの恥辱は避けたい。
そんな想いから、夫婦一致で老婆を選んだのだった。
相手が女だったら、もういっぽうの恥辱だけは回避できるのだろうと。
その結果が、きょうの“公開処刑”だった。
六畳ぶん置かれた畳の傍らには、見世物小屋のような下品なたたずまいの立て看板。
そこには、雑な字ででかでかと、こうあった。

清楚な人妻、公開処刑! 街のみんなで見守ろう。


一週間前。
都会のビル街の一角にある、勤務先の本社。
わたしたち夫婦は、表情が見えないほど分厚いメガネをかけた人事担当者のまえ、恐縮し切っていた。
「で・・・借金がかさんで、日常生活が困難になったと?」
「あ・・・はい・・・わたしのギャンブル癖と、家内の浪費癖が重なりまして・・・」
「それで、なんとか会社の力で借金を棒引きにできないか?というわけですね」
「・・・」
「ずいぶんと、ムシの良いご希望ですね」
表情を消した人事担当者の口調が淡々としているぶん、
自分たちの身勝手さが、よけいにありありとあぶり出されるようで。
それでも「会社が何とかしてくれそう」という想いだけで、わたしたちはうわべの恐縮を取り繕っていた。
「性格検査は、ご夫婦ともに適格と判断されました」
1000問にも及ぶ問診と、血液検査。あれが性格検査だったのか。
「あとは、柳原さんと奥さん、ご本人の意思だけです」
「ええ、それはもう・・・」
「追い詰められているだけで、苦し紛れの選択をしないほうがいいですよ」
メガネの向こうの目が、初めて同情をたたえてわたしたちを覗き込んだ。
「いえ、それはもう、会社には迷惑をかけるわけですので、どんなことでも」
会社が迷惑をすべてひっかぶってくれる。こちらはなんの犠牲も払わずに。
そんなムシの良いことを夫婦ともに肚にわだかまらせながら、
わたしたちは酔ったように理性の抜けた耳で、相手が淡々と言い連ねる条件に聞き入っていた。

これから、遠方の街に赴任してもらいます。
あなたがたは行方不明になって、連絡が取れない――周囲のかたがたには、そういう連絡をします。
ですからいちど赴任されたら、街を出ることは禁じられます。
失踪宣告がされれば、戸籍も消えるでしょう。そのあたりの手続きは、会社に一任してください。
赴任先では家も与えられ、給与も支払われます。
通常の給与体系からはずれますので、今までの五割増です。
業務はとくにこれといって、ありません。出社して、事務所で一日過ごして居ればそれでよろしい。
事務所の抱える得意先のところで暇をつぶしても良いし、その気があれば帰宅も自由です。
「じゃあさいしょから、勤務しなければいいじゃないか」――ふとそう思ったわたしの気持ちを見透かすように、人事担当者は言った。

その場の成り行きで、貴男も身の処しかたがわかるはずです。

どういうことですか――?
わたしは訊いた。
男は冷ややかに横を向いて、口にした。

業務はないと言いましたが、厳密にはひとつあります。
でも、なにもしないで良いのです。
献血を要求されたときに応じていただく。これだけです。
貴方が赴任される街には、吸血鬼が棲んでいるんです。

吸血鬼などという文句は、追い詰められたわたしたちには、絵空事にしか聞こえなかった。
まさかそれが、公開処刑につながるなどと――


かん高い歓声と嬌声。
そのなかに、わたしたち夫婦は、離れ離れに置かれていた。
わたしは、血を抜かれて冷え切った身体を、靴下一枚以外一糸まとわぬなりにされて。
妻は、清楚に装うその身を、老婆の卑猥な視線にさらされつづけて。
純白のブラウスに真っ赤なフレアスカート。
見覚えのあるその衣装は、ユリともバラとも独身時代に讃えられたその魅力に、ピッタリと寄り添っている。
けれども、妻の品格を引きたてているはずの衣装は、老婆の劣情をそそるだけだった。

ウォ――ッ!!
獣じみたうなり声をあげて、老婆は妻にとびかかる。
とっさに飛びのこうとした脚は恐怖にひきつって、畳のうえに吸いついたままだった。
老婆は妻を羽交い絞めにすると、容赦なく首すじに牙を突き立てて、
突き立てた牙をガブリ!と喰い入れたのだ。

ジュッ!
鈍くて重たい音が血しぶきとともにあがり、
撥ねた血しぶきは純白のブラウスをみるもむざんに点々と染めた。
ああああッ!
恐怖のうめき声さえ引きつらせ、妻は羽交い絞めにされたまま、生き血をぎゅうぎゅうとむしり取られてゆく。
じゅるっ・・・じゅるっ・・・
クチャ・・・クチャ・・・
汚らしい音とともに啜り取られる、妻の血潮――
グレーのストッキングに包まれた脚を踏ん張り、畳のうえでわが身を支えるだけで精いっぱいの妻――
時折随喜のうめきをあげながら、三十六歳の人妻の生き血に酔い痴れる、醜い老婆。
なんという光景だろう!
それらを目の当たりに・・・わたしはいつか絶頂を自覚した。
そう、夫婦のベッドのなかでしか覚えたことのないあの歓びを、
不覚にも妻を目のまえで虐げられることで、あらわにしてしまったのだった。

「あッ、ご主人、勃ってる!勃ってるッ!」
無責任な群衆がわたしの不始末に気づいて、それを容赦なく暴露する。
「おおっ、ほんとだ、昂奮しちゃってるよ。ばかだねー」
「でも俺、ダンナの気分わかるわー」
「なに抜かすんだ、このド変態!」
無責任な声はさらに無責任な声を呼んで、理性と誇りを壊されたものを渦に巻き込む。

わたしに浴びせられる嘲罵すら、妻の耳には届かない。
グフッ・・・グフッ・・・
血にまみれた白ブラウスごし、老婆は妻の胸を揉みしだきながら、
大の字に倒れてしまった妻のうえにおおいかぶさり、
まるで淫したように、妻の生き血を飲み耽る。
首すじだけではない。
胸元にも、二の腕にも、わき腹にも。
着衣のうえからいたるところに、老婆の牙はあてがわれた。
男が女を弄ぶように、くまなくしつように、
飢えた唇がヒルのように妻の五体を弄ぶ。

白のブラウスはユリの花が踏み躙られるようにして引き裂かれて、
ブラジャーの吊り紐は引きちぎられて、
あらわになった乳首をしゃぶられて。

あーれー・・・

大昔の映画のヒロインのような叫びをあげて、
妻は自分の血で血浸しになりながら、畳のうえを転げまわる。
しっかりとした肉づきのふくらはぎが、目のまえでグレーのストッキングになまめかしく染まっている。
疲れ切ったわたしの目にさえ一瞬欲情をよぎらせた足許が、老婆の目に触れないわけはなかった。
ククククククッ。
ふくらはぎに吸いつけられた唇が、けしからぬ意図を帯びているのを、妻は本能的に悟ったらしい。
アッ、やめてください・・・ッ!そんな・・・ッ!
必死の懇願を無視して、老婆は唇に力を籠めた。
ストッキングがパチパチと音を立てて裂け目を拡げ、
擦りつけられた唇が、チュウッと圧し殺したような音をあげる。
「ああああああっ・・・」
妻は両手で顔を覆い、失血と恥辱に耐えつづけた。
わたしは目が眩み、その場で仰向けに倒れ伏した。
横目にかすかに視界に入った妻も、大の字になって。
ただひたすらに、老婆の食欲を満たしつづけていた。

血を抜かれて干からびた血管が、身体の奥で唸り声を洩らしていた。
血が・・・欲しい。身体を潤す血が・・・欲しい。
目のまえで老婆は、生きた餌にありついている。
豊かな肢体から、むしり取られてゆく血潮。
清楚な衣装のうえに、ふんだんに撥ね散らかされてゆく血潮。
なんという絶景。至福の光景・・・
そう、わたしはいつの間にか、老婆と気持ちをひとつにしていた。
もっと飲んでほしい。
妻の若々しい血潮を、想いぞんぶん賞玩してもらいたい。
心の奥底からあふれ出てくる衝動を、わたしはもう、どうすることもできなくなった。
昏い衝動が、わたしの理性を闇に堕とした―――


もう、よろしいでしょうか・・・?
柳原瑞恵は、自分のうえにのしかかる老婆に、上目づかいで問いかけた。
可愛い目をするのう。
老婆は組み敷いた生き餌と目を合わせ、ほくそ笑んで応えた。
まだまだじゃあ。
老婆の言いぐさに、瑞枝は「あらぁ・・・」と照れた。
ヒッヒッヒッ。久しぶりにありつく、都会育ちの人妻ぢゃ。
たっぷり可愛がってやるぞぃ。
老婆の言いぐさに、瑞枝はくすぐったそうに身体を揺らす。
あい。
瑞枝はうっとりと老婆を見あげ、裂けのこったブラウスをさらに揉みくちゃにされるのを、小気味よげに受け入れた。


周囲の男たちは見境なく、手近な女に襲いかかっていた。
吸血鬼もいれば、そうでないものもいる。

髪を振り乱し随喜の声をあげながら生き血を吸い取られる妻のかたわらで、
妻を襲っているのが勤め先の同僚だと知りながら、
夫は自分が組み敷いた女学生の、セーラー服の襟首から覗く白い肌に夢中になっている。

べつの青年は、親友と婚約者が戯れ合うすぐ傍らで、
かねて目をつけていた妹を犯していた。

自他ともに認める愛妻家といわれた柳原の同僚は、
自分の妻に息荒く迫る男たちのため、妻の肩を抑えつけてその劣情に応えさせ、
自らも妻に加えられる輪姦の渦のなかに交わっていた。


皆さん、すごいんですのね・・・
瑞枝は相変わらずうっとりと、老婆を見つめる。
老婆は瑞枝を広場の隅に引きずっていって壁に背中をもたれかけさせ、
さっきからしきりに瑞枝の脚に唇を這わせ、
グレーのストッキングを咬み破るのに熱中している。
瑞枝は自分の穿いているストッキングにふしだらな伝線が走り無造作に拡げられるのを、
面白そうに見つめながら、老婆の吸いやすいように脚の角度を変えてやっている。
主人、正気を喪っちゃいましたね~。
自らも理性を喪失していることに気づかないでいるくせに、
遠くから自分を見つめる夫の視線に宿る黒い歓びを見抜いてしまっている。
あたし・・・どうなるのかしら・・・?
もちろん、男どもの餌食ぢゃわい。
老婆は遠慮ないことをいう。
いずれもいずれ、お前の亭主の勤務先のやつらぢゃ。
仲良う相手するがええ。
なに?さいしょの約束?
そたらもん、いまの状態の旦那が、覚えておるはずはなかろうが。
愉しんじまえ。よがってしまえ。

老婆にそそのかされるまま。
つい先日、他人行儀なあいさつを交わしたばかりの夫の同僚たちが目の色を変えてのしかかってくるのを、
瑞枝は平然と受け止めていた。
裂けたストッキングを穿いた脚をこじ開けられて。
せり上げられるスカートの奥、恥知らずな性欲が鎌首もたげて迫ってくる。
主人以外のひと、初めてなんですよ・・・
そんな瑞枝のつぶやきに耳も貸さずに、最初の男はたけり狂った自分の一物を、瑞枝の奥深く埋め込んでいた。


妻が・・・妻が、堕ちてゆく。
わたしの目のまえで、瑞枝がわたしの同僚たちを相手に許しはじめてゆくのを、
わたしはどうすることもできずに、見守るばかりだった。
大の字にされて、奪い尽されて、
それから四つん這いにされて、飼い慣らされて。
しまいに泥まみれにされて、隷属させられてゆく――
そんな一連の儀式を、この街では「懇親の交わり」と呼んでいる。
そう。この場は男と女が慣れ親しみ睦みあう場。
妻の生き血を提供し、おおぜいの男に睦まれてしまった夫は、ほかの人妻を襲う資格を勝ち得るという。
妻のうえに群がっている男たちもきっと、自分の妻や娘を提供させられ狂わされた、わたしの同類――
狂った光景を灼きつけられたわたしの狂った瞳は、ただいっしんに、
わたしの同類たちが妻とひとつになってゆくのを、ただひたすらに熱っぽく、
劣情にまみれたただの男として、たんのうし切ってしまっていた。

つぎにこの街に現れる夫婦は、どこのだれなのか。
その人妻の貞操を共有する権利は、わたしにももたらされている。
けれどもいまは・・・ただひたすらに、妻への受難を愉しみたい。悦びたい。
空しい抵抗をくり返していた妻の手足が、いまは悦楽を帯びて、
自分に恥辱を与える男どもの背中を恥知らずに抱きとめてゆくのを、
夫婦関係が崩壊したことさえ小気味よく感じてしまっている私は、網膜に鮮やかに刻みつけてゆく――