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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

丸ぽちゃの少女の初体験

2016年11月30日(Wed) 07:38:23

「2年D組、近藤美幸さん。近藤美幸さん、旧校舎8番教室まで来てください・・・」
校内放送にいわれるまま、近藤美幸は人けのない旧校舎へと足を向けた。
後ろでむぞうさに縛っただけの黒髪に、白い丸顔がよく映えていたが、
それが本人のなかでは唯一の自慢。
丸っこすぎる目も、小さいだけの唇も、もちろんぽっちゃりした体形も、本人はとても気にしている。
この学校で生徒が突然旧校舎に呼ばれる理由は、ただ一つ。
吸血鬼と共存しているこの街の中学校は、彼らの来訪を受け容れていて、
生徒も教職員も、吸血の対象とされていた。
でも・・・
あたしなんかじゃ。
そう、あたしなんかに白羽の矢が立つわけがない。
そんなふうに卑下してしまうのが、美幸のわるい癖だった。

「ア、小父さん・・・」
教室のドアを開いた美幸の視線の向こうには、よく見知った顔。
父の遠縁の関係にあたるその人は、両親よりもずっと年上で。
よく家に出入りしては、母の血を吸っている人だった。
「美幸ちゃんの血が、どうしても欲しくって」
「・・・どうしてあたしなんですか・・・」
クラスにはもっとかわいい子がおおぜいいるのに。
だれとだれが吸われたのか、ちゃんとわかっているわけではなかったけれど。
中二の女子の吸血体験の割合はまだそんなに高くなくって、
5人に1人か2人くらいらしい。
もちろん、かわいい子のほうがずっと、体験率は高かった。
「どうしても、あんたじゃなくちゃいけないんだ」
小父さんは子供のように言い張った。
「母も知っているんですか」
「じつは、お母さんから頼まれた」
「やっぱり・・・」
すこしがっかりしたらしい美幸をみて、小父さんはちょっとため息をついた。
「あ~あ。そんなだから母さん美幸ちゃんのこと心配するんだ。もっと自分に自信をもって」
「言われなくったって、わかってるんだけど・・・」
あくまで暗い美幸の背後に、しかし小父さんは抜け目なく、
退路を断つようにして、しっかり後ろにまわり込んでいる。
チカリ、とひらめく牙の気配に、さすがに美幸はぞっとなる。
けれども小父さんは素早く、美幸の肩を抱いたまま、首のつけ根に牙の切っ先を埋め込んでしまっていた。

ちゅうっ・・・

忘我のひと刻――
数分後。
少女は目つきも顔つきも、見違えるほど大人びていた。
「あとで鏡を見て御覧」
そういう小父さんにむかって、
「ブラウスに血がついてるの?」
と、見当違いな返事をした美幸は、すこし気持ちの余裕が出てきたらしい。
「もっと吸ってもいいわよ」
と、こんどは自分のほうから、脚を差し伸べている。
いつもこのひとが、ストッキングを穿いた母さんの脚に、好んで咬みついているのを知っているのだ。
美幸の足許は、真っ白なハイソックスに覆われている。
濃紺のスカートの丈はひざ小僧の下まであって、ちょっと見にはハイソックスかタイツかわからないくらいだった。
「おいしそうだね」
と、舌なめずりをする小父さんに、
「いけすかない」
と、少女は口を尖らせた。
けれどもいちど狙われた足許を、引っ込めようとはしなかった。
真っ白なハイソックスのふくらはぎに、小父さんの赤黒い唇がもの欲しげになすりつけられてくるのを、
美幸は唇をキュッと引きつらせ息をつめて見おろしていた。

ちゅうっ・・・

ふたたびあがる、吸血の音。
美幸はこんどこそ、貧血を起こして、その場にぶっ倒れていた。
吸血の音はそれでも長いこと、廊下の外までキュウキュウと、断続的に洩れつづけていた。

「ただいま」
「おかえりなさい。アラ、顔色悪いわね」
なにもかも知っているはずの母さんは、下校してきた美幸のことをなに食わぬ顔をして出迎える。
「吸血されたー。ばっちり貧血ー」
美幸にしてはめずらしく、うじうじせずに、ストレートにそういうと。
「しばらく寝るから」といって、母の顔を見ようともせずに二階に続く階段をあがっていく。
母さんは、娘の後ろ姿を、苦笑いして見送りながら小声でつぶやく。
「あらあら、あの子ったら・・・」
真っ白なハイソックスのふくらはぎには、血のりがべっとりと沁みついている。
「今度から、履き替え持ってくように、言わなきゃね」
母さんの呟きはトーンをかえて、娘に呼び掛けていた。
「今夜はお赤飯にするあからね」
「はーい」
意外なくらい、明るい声が、返ってきたのを聞き届けると。
「小父さんに、あとでお礼を言っておかなくちゃね」
と、また呟いていた。

少女が大人への道を一歩踏み出すとき。
母親はお赤飯を、炊くものらしい。


あとがき
登場人物の氏名は架空のものであり、実在の人物とは関係ありません。念のため。

合唱コンクールの朝

2016年11月29日(Tue) 07:11:48

見慣れない制服に黒のストッキングを履いた女学生がおおぜい、後者の外に列を作っている。
そんな情報を聞きつけて、黒い影が群がるように、学校に集まってきた。
ふだんなら。
こういう情報はいち早く、教職員を通じて流されるはず。
はて、いったいどうしてかほどの良い話を黙っていたのか?
教職員どもはあてにならぬ・・・影たちは職員室は素通りをして、
開錠された玄関から空き教室に入っていく見知らぬ乙女たちを求め、あとを追った。

きゃーっ。
教室に悲鳴が花を開いた。
影たちは濃紺のセーラー服の制服姿をつかまえると、いっせいに首すじを吸おうとしたのだから、無理はない。
真っ先につかまえられた、頭だった少女は、けんめいに抗いながら、
「やめてください!待ってください!」
と、身を揉んで叫んだ。
「待て」
影たちの頭の声が響くと、彼らは一滴も吸うことなしに、狼藉をやめる。
すでになん人かは首すじを咬まれ血を吸われ始めていたが、
そんな忘我の境地にあるはずのものたちも皆、獲物と定めた女生徒たちから手を引いた。
得体が知れないけれど規律は正しい一団であることは、少女たちにも伝わったらしい。
見慣れぬ制服の女生徒たちも、それ以上取り乱すことなくいっせいに沈黙する。
「あれを見ろ」
頭が指さした黒板には、几帳面な字でこう書かれていた。

「歓迎 八坂東高校合唱部さま 親善合唱コンクールへようこそ」

そういえば。
きょうはこの学校では、合唱コンクールが開かれる予定だった。
合唱コンクールはこの学校でも力を入れた行事で、どのクラスも数日前から懸命な練習期間に入る。
吸血鬼の側も、女生徒たちがとくに希望しない限り、直前の3日間は彼女たちを襲うのを遠慮していたのだ。
だからこそ――このところよけいに、「女学生欲求」が高まっていたのだろう。
八坂東高校といえば、全国でも有数の合唱で知られた名門校。
どうやら、コンクールの審査中に一曲披露するため、姉妹校として招かれたらしい。
「しまったですな」
影たちのナンバー・2が、間抜けな声をあげた。
危なく、両校の親善に水を差すところだった。
「なしにしてもらいましょうよぉ」
ナンバー・3にいたっては、泣きべそを掻いている。
どうやら、この学校の合唱部の子に、好きな子がいるらしい。
頭は、怯えから立ち直ろうとしている少女たちに、いった。
「悪く思わないでほしい。当校の生徒たちと我々は、仲良しなのだ」
「この学校・・・吸血鬼と仲が好いのですか?」
ちょっとだけ血を吸われかけた少女が、首すじにつけられた咬み痕を掌で隠しながら、疑わしそうに訊いた。
セーラー服の胸元に輝く校章の下には、「副部長」と書かれたバッヂがさげられている。
「この学校の名誉のためにいうが、我々が生き延びているのは、ひとえに生徒さんがたの好意によるものだ。
 だからわしらも、学校の不利益になることは絶対しないことにしている。
 コンクール前の3日間断食をしていたので、見慣れない制服を着たあなた方のお姿を見て、ついてきてしまったというわけだ」
「ここの学校の子たちは、怖がっていないの?」
丸顔の部員は、まだ咬まれていなかったが、この学校の生徒たちとは親しくしているらしい。
他校の友人への気遣いが、まなざしにあふれている。
「死なせない、邪魔をしない、本人の許しなく辱めない。そういう約束になっている」
「わたしたちに害意はないって証明してくださるって仰いましたね?」
これは、部長からの質問。
「たしかに、そう申し上げた」
「では、どうやって証明を?」
その問いにこたえるように頭が一同に目配せすると、
彼らは少女たちの間から身を離し、素直にぞろぞろと教室から出ていった。
「あなたがたのリハーサルを悲鳴に塗り替えるわけにはいかない。皆さんの安全は保証します。ではまた後ほど」
時ならぬ拍手が、少女たちの側から沸いた。
あまりにも潔く引き上げたので、ちょっと拍子抜けした顔つきの子もいる。
「でも・・・後ほど・・・って・・・?」
慎重な性格らしい副部長が、部長を見返す。
部長は生徒たち全員を見返ると、「いいわよ・・・ね?」と囁いた。
全員がしんけんな顔をして、頷きかえす。
みんなの反応に満足したらしい部長は白い歯をみせると、出ていこうとする影たちを呼び止めた。
「あの・・・ちょっと」
振り返る頭に、部長がいった。
「“後ほど”、またいらっしゃる・・・ということですか?それだと、緊張して歌えない子が出てしまいます」
ははは・・・
頭は明るく笑った。手厳しいな、とひとりごちたが、「どうしてもお嫌なら、無理強いはしない」

2時間後。
招待された合唱部員たちは全員、もとの教室に控えている。
控えめな音をたてて開かれた扉の向こうから、影たちがちょっとびっくりしたように、少女たちを覗き込んでくる。
「どうぞ」
部長がおさげ髪を揺らして、彼らをいざなった。
「合唱部の子たちから、くわしい話を聞きました。こちらの部長さんから伝わったと思いますけど、わたしたちも献血のお手伝いをさせていただきます」
リンとした潔い声に、影たちは、ホウ・・・と感嘆の声を洩らす。
「しっかり首すじ咬まれちゃった子もいるのに、だれも制服汚れてないのよね」
副部長が、周りの子たちと笑みを交し合う。「咬まれちゃった子」たちもはにかみ笑いをしながら、部長の笑みに応えていく。
どうやら、部員たちは仲が好いらしい。
「ふだんはうちの学校、ストッキング履かないんですよ。こういう特別な時だけは、申し合わせて履いてくるんです」
「でもまさか、それが吸血鬼の気を引いちゃうなんてね」
「人間の男子だったら、よかったんだけど」
「こら、こら」
無邪気に交し合わされる声色は、だれもがそろってまだ浄い身体の持ち主であることを証明していた。
「みんな黒のストッキング履いてますけど、咬み破ってもいいんですよ。ちゃんと全員のOK取りましたから」
ゆったりと笑う部長は、みんなにお手本を示すように、影たちの頭のまえ、自らの脚を差し伸べた。
では・・・と頭は呟くと、少女の足許に跪き、姫君に忠誠を誓う騎士のように、足許に接吻した。
さいしょは礼儀正しく、そのつぎはややねっとりと、そしてさいごは、しつように。
部長のふくらはぎへの執着が、本性を現しかけたころにはもう、
合唱部員たちと同数の影たちは、それぞれに相手を選んで、身体を寄り添わせてゆく。
さっきは警戒心あらわだった副部長もまた、先刻自分を咬んだ男を相手に、親しみのこもったまなざしを向ける。
「さっきの続き・・・ですよね?」
そして、首すじにつけられた咬み痕を男が容赦なく牙で抉るのを、くすぐったそうに受け止めてゆく。
自分たちを襲おうとした吸血鬼に臆せず質問をした丸顔の部員も、黒のストッキングの足許に舌を這わせてくる吸血鬼の相手をし始めて、
黒のストッキングがパリパリと咬み破られて裂け目を拡げてゆく有様に、目を見張りつづけていた。
隣の子も。またその隣の子も。
ふくらはぎに唇を吸いつけられて、おそろいの黒のストッキングを、他愛なく破かれてしまってゆく。
きゃっ。・・・きゃっ。・・・
少女たちの控えめな悲鳴が、まるではしゃぐように軽やかに、教室前の廊下に洩れた。

約1時間後。
教室に両校の合唱部員が全員顔をそろえると、人いきれで息苦しいくらいだった。
どの生徒も、濃紺のプリーツスカートの下、ストッキングに伝線を走らせてしまっている。
でも彼女たちはそんなことは意に介さず、振る舞われたジュースやお菓子を手に、懇親を深めていた。
さっきまで彼女たちを襲った嵐のことなど、そもそも存在しなかったかのように。
「女子たちは、たくましいですな」
影のナンバー・2が頭にいった。
「惚れちまったりしなかったのか」
「あくまでこの場限りって、約束ですからね」
「あとから戻ってくるような子は、おらんかな」
「たぶん全員、もうここには来ないでしょう」
しっかりした理性を持った子たちばかりでしたからな。
頭も、ナンバー・2と同じ感想を持ったらしい。
「それは奥ゆかしいな」
遠い地に棲む他校の少女たちをたたえながらも、頭はちょっとだけ惜しそうな顔をする。
ほかの影たちも同感らしかった。

都会に戻っていった彼女たちは、姉妹校に棲み着く吸血鬼たちのことを、決して口外しなかった。
そしてだれ一人、吸血されることを目的にこの地に足を踏み入れる生徒は、いなかった。
いちどは獲物を諦めて退場した影たちの潔さに、
彼女たちも彼女たちなりの潔さで応えていった。
自分たちの出番が済むと吸血に応じ、黒のストッキングを破かせるという潔さで。
そして思い切りよく、その場限りの関係を守り通した。
「一人くらいは、戻ってきてほしかったな」
息をつめて見守る仲間たちのまえ。
黒のストッキングの脚を、お手本を示すように真っ先に差し伸べてくれた部長の面影を、頭はまだ忘れていない。


あとがき
引率の先生がいるはずなのに、生徒だけで来たの?とか、
口外されちゃったらすべてがおじゃんになるのに、口止めしなかったの?とか、
そもそもどうして、理性を奪って奴隷にしなかったの?とか、
いろんなツッコミどころがあるのですが。
こういうその場限りの関係というのも、奥ゆかしいなあ、と、おもうのです。

あと、学校名は架空です。
仮に似たような名前の学校が存在したとしても、このお話とは一切無関係です。

父さんが、吸血鬼になっちゃった。

2016年11月27日(Sun) 09:17:30

朝起きると、母さんは黒一色の洋服を着ていて、足許は淡い薄墨色のストッキングに包まれていた。
おはよう。佐紀夫もはやく、身支度なさい。お父さまが吸血鬼に血を吸われて、おなくなりになったの。
え?
青天の霹靂としかいいようのない言葉に反応しかねていると、母さんはぼくを促して、着替えを手伝ってくれた。
学校の制服は、紺の半ズボンに同じ色のハイソックス。
まるで女子高生みたいだと周囲の学校の子たちにからかわれながらの通学は、けっして気分の良いものではなかったけれど。
今はもう、そんなことは言っていられない。
いつの間に、どんなふうにことが運んだのか。
父さんの居間はすっかり片づけられていて、その真ん中には祭壇が作られ、祭壇のうえにはひつぎが乗せられていた。
洋風のひつぎはどことなく、ドラキュラものの映画に出てくる大道具のように、現実感のないものとしてぼくの目に映ったけれど。
母さんは大まじめな顔をして、ぼくに告げた。
お父さまは、吸血鬼におなりになったの。だからこれからは、母さんや佐紀夫の血で、父さんに生きてもらうのよ。
そういうと母さんは、広い畳部屋の真ん中にあお向けになって、胸のあたりで合掌すると、神妙な顔をして目を瞑る。
佐紀夫もそうなさい、と言われている気がして、ぼくも母さんにならって、すぐ傍らで同じようにあお向けになった。
冷え冷えとした部屋のなか。
身近に感じる母さんの気配が、ぬくもりを帯びて伝わってきて、なぜかとっても、どきどきした。
やがて、ひつぎのふたが開く気配――ひつぎのなかの人が起きあがって、足を忍ばせて近寄ってくる。
さいしょに狙われたのは、ぼくだった。
母さんに遠慮があったのか、たんに若い血が欲しかったからなのか、わからなかったけれど。
母さんが先に手本を見せてくれると思い込んでいたぼくは、ちょっとだけあわてた。
あわてた態度が身じろぎになって現れる前に、冷たい掌がぼくの太ももに触れ、意外なくらいつよい力で抑えつけられてしまった。
万事休す。
かさかさに乾いた唇が太ももに圧しつけられるのを感じると、ぼくはビクリ、と、身じろぎをする。
ちくり――と、かすかな痛み。
縫い針で刺されるような感覚が、皮膚の奥深くにもぐり込んでくる。
引きかえに、生温かい血があふれ出て、父さんの唇を濡らすのを感じた。
ちゅうっ。
強い吸引力に、ぼくのすべてが吸いこまれてしまいそうな気がする。
事実、あのときのさいしょのひと咬みで、たぶんぼくはすべてを喪っていた。
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
息子相手なのに、父さんは自分の渇きのままに、ぼくの血を勢いよく吸いあげてゆく。
くいっ、くいっと血潮を抜き取られるたび、ぼくの理性は妖しくふるえた。
小気味よくつづく吸血の音に、鼓膜までもが昂っていた。
半ズボンの中身が勃つのを、父さんに気づかれてしまっただろうか?
けれども父さんは、そんなぼくの態度には目もくれず、
貧血を起こして転がったぼくの傍らに横たわる母さんのほうへとおおいかぶさってゆく。

薄っすらと目をあけると。
無抵抗な黒のストッキングの足許に、父さんは唇を這わせていた。
血を求めて、というよりも、もっとべつなものを欲しがっているのを、男としての本能が察知する。
ヌメヌメとなすりつけられる唇のいたぶりに耐えかねるように、
母さんの穿いているストッキングはしわくちゃにされて、いびつによじれていった。
いつも厳しい母さんが、ふしだらに堕とされてゆく。
そんな感覚に、なぜかゾクゾクと胸が昂る。
何度めか、圧しつけられた唇の下。
ストッキングの薄い生地のうえ、裂け目が閃光のような速さで縦に拡がった。
母さんも、いま自分がされている淫らな仕打ちを自覚していたらしい。
父さんと同じく、裂けてゆくストッキングの足許を、淡々とした目で見おろしていた。
ふたりは目線を合わせ、父さんは白い首すじを狙い、母さんは狙われた首すじを自らくつろげてゆく。
真珠のネックレスを巻かれた首すじに、ぼくたち母子の足許を辱めた牙が突き立つのを、間近に見てしまった。

咬まれた瞬間。
母さんは「ふうっ」と吐息を洩らし、身体を心持ち仰け反らせた。
牙を受け容れた、というふうに、はた目にも見えた。
母さんのたいせつな血が、チュウチュウと安っぽい音をたてながら、父さんに飲み味わわれてゆく。
ぼくはどうすることもできないで、母さんの隣で貧血に呪縛された身体を横たえているばかり。
ふたりの抱擁はしつように結び合わされ、喪服のスカートはいつの間にか、腰のあたりまでたくし上げられてしまっている。
ストッキングのゴムが、あらわになった太ももを、くっきりと区切っている眺めが、ひどく淫らなものに見えた。
それが、ぼくの意識のさいごだった。
吸血鬼の毒が身体じゅうにみなぎるのを感じたぼくは、そのまま昏(くら)い世界に堕ちていった。

「どこまで御覧になったの?」
父さんが再び戻っていったひつぎを横目に、母さんがぼくのことを問い詰める。
どこまで・・・って・・・ぼく達父さんに血を吸われたんだよね?
「そうね。あなたも母さんも。父さんに血を吸っていただいたの。でもその後は?」
その後は?それから先に、なにが起きたの?
ぼくはなにも応えられずに、ただ母さんの笑っていない目を見つけ返すだけだった。

佐紀夫と母さんの血だけでは、足りないわ。心当たりをお願いしましょうね。
ひつぎの中の人に聞こえるように、母さんはぼくにそういった。
実際母さんは、学校のPTAで仲良くしている役員仲間を家に招(よ)んで、父さんに血を吸わせたりしたらしい。
さいしょに友達を襲わせて、息も絶え絶えにした後で、自分も咬まれて。
わたしたち仲間ですからね・・・って、堕ちてゆく。
でもそうしたことは、3人めほどで途切れた。
母さんが顔をしかめて言ったのだ。
父さんたらね、母さんが気絶した後、PTAの人たちにいやらしいことをするの。
だから招(よ)ぶのをやめたわ。
それ、いまさら手遅れなんじゃ・・・
ぼくはそう言いかけて、やめた。
父さんは夜になるとひつぎを抜け出してどこかに消えていったから。
たぶん、母さんの友だちを家から誘い出して、近所の公園あたりで逢引きをしているんだろう。
相手の女のひとのご主人に、銀の弾丸でも打ち込まれなければ良いけれど。
でもこの街の人たちは、みんな顔見知りの仲良しだから。
案外、自分の奥さんが血に飢えた親友のために献血に励むのを、感謝して見守っているのかもしれない。
ぼくだって・・・

PTAのひとたちに、いやらしいことを仕掛けるのはやめてくださいね。
これからは、佐紀夫のお友だちでガマンしてもらいますからね。
ぼくが同級生を家に連れてきて、血の供給源にすることを、母さんはひとり決めに決めてしまったけれど。
美人な母さんを見たくて鼻の下を伸ばしながら家にやってくる男の同級生はけっこういたので、
当分血の補給先に困ることはなかった。
あなたたちの若い血が必要なんですの。わたしもとても助かるし、理解してくれてうれしいわ。
男子たちは母さんのオトナな女のまなざしと話術にケムにまかれて、他愛なくつぎつぎと咬まれてしまっていた。
父さんはそんな男子たちも巧みに篭絡してしまっていて、
息子経由で母親を誘惑する術を、覚え込んでしまったらしい。
母さんは女のカンで、そうした動きを敏感に察知して、酔い酔いにされてしまったぼくの友だちを、お出入り禁止にする。
でも、もう遅いんだよね。
ぼくですら。
自分の彼女を公園に呼び出して、父さんに血を飲ませてしまっているくらいだから。
セックス経験のある女性を相手にするときには、肉体関係まで持ってしまう。
そんな吸血鬼の習性を、ぼくは初めて目の当たりにしてしまった。
彼女とはすでに、そういう関係になっていたから。

父さんはもっともらしく、ぼくにいう。
血統というのは、だいじなものだ。
自分の妻の子が、自分のたねか、よその男の子なのか、見極めるのは難しいからな。
だから母さんは父さんが独り占めすることにした。
お前も、安心して良いのだよ。
生れてくるのがお前の子であれ、父さんの子であれ、うちの子であることに、変わりはないのだから。

父さんの屁理屈を、ぼくはあえて真に受けることにした。
母さんは姑として、嫁の不行儀には寛容でなかったけれど。
自分の友人の人妻たちに手を出すときほどは、ぼくの妻に手を出すときには口うるさくはしなかったから。

成長、もしくは忌むべき連鎖

2016年11月27日(Sun) 08:32:22

「こんにちは。入ってもいいですか?」
硝子戸の向こうから、男の子の声がした。
「ああ、どうぞ」
仲間の一人が、声にこたえる。
声にこたえて、硝子戸がガラリと開いて、その向こうから制服姿の少年が3人、ぞろぞろと入ってきた。
紺のブレザーに半ズボン、同じ色のハイソックス――地元中学の生徒たちが、
折からの寒気に頬を赤くして、部屋にあがってくる。
「ようこそ、きょうの身体の具合は?」
仲間の問いにこたえて、先頭の一人がいった。
「絶好調です!」
それはなにより――部屋にいた三人は顔を見合わせ、笑みを交し合う。
三人が三人ながら、そろいもそろって顔色を蒼くした吸血鬼だった。

一人ずつ相手を選んで、相手の男の子を畳部屋に寝そべらせ、まろばせてゆくと。
あるものは男子にしては白い首すじに、
あるものは半ズボンのすそから覗いた太ももに、
あるものは紺のハイソックスを履いたふくらはぎに、
飢えた唇を吸いつけてゆく。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
ずずっ・・・じゅるっ。
ごく、ごく、ごく、ごく・・・
三人三様の音をたてながら、ひたすら飢えにまかせて、若い血潮を味わっていった。
少年たちは慣れているのか、欲情にまみれて迫ってくる年上の男たちから目をそらしながらも、
無抵抗に身体の力を抜いて、訪れる陶酔に身を任せてゆく。

「おっと、少し吸い過ぎたかな」
少年のひとりが起きあがりざまよろけると、吸血鬼たちはとっさにその少年をかばうように手を差し伸べる。
真智くんの血は、美味しいからねえ。
微妙なほめ言葉に、それでも真智君と呼ばれた少年は照れ笑いを泛べる。
吸血する側も、される側も、ふだんは顔見知り同士の、小さな街。
血を吸う側は少年たちの親たちとも交流がある。
親たちは彼らの所行を見て見ぬふりをすることで、彼らの生存を間接的に手助けしているし、
容赦されていることを知っている吸血鬼たちは、感謝をこめて少年たちの首すじに牙を埋める。
調子に乗って多少吸い過ぎてしまうことはあっても、悪意をぶつけるような襲いかたは決してしない。
まして、死なせてしまうことなどもない。
だから少年たちは安心して、近所の家に遊びに行くような気軽さで、彼らの棲みかとなっている小屋を訪れるのだ。

彼らは学年が進むと、吸血鬼がほんとうに欲しがっているのが女子の血であることを悟ってゆく。
「ぼくはこれから、女子の制服を着て学校に行く」
息子がそう親に告げると、親はなにが起きているかを言外に察して、
地元の制服専門店で、女子の制服をしつらえる。
少年たちの通う学校は男子校だったけれど、かなり以前から女子の制服も制定されていた。

男子校のはずなのに、女子の制服を着ているものが半分を占める、不思議な私立校。
スカートに半ズボンのちがいはあっても、例外なく紺のハイソックスに包まれた足許は、男女の区別がつかないほどだ。
男の子たちはやがて、そのほとんどが、自分の意思で女子の制服を選択するようになって、
放課後、吸血鬼の待ち受ける小屋へと足を運んでゆく。
「ぼくが襲われているのか、ほかの女の子が襲われているのか、時々わかんなくなることがある」
ある少年は、そういった。
事実彼らはそのうちに彼女ができると、それぞれ彼女を伴って、ふたたび小屋を訪れるようになる。
「制服汚されたら、困るんですけど」
男子生徒に伴われた女子生徒たちは、だれもがはにかみながらそういうと、
イタズラっぽく笑いながら、紺のハイソックスの脚を、飢えた唇のまえに差し伸べてゆく。
一時間ほどもすると。
女の子たちは白い顔をして彼氏に連れ出され、そして恋人に囁くのだ。
「こんどはストッキング穿いた脚を咬みたいんだって。いっしょに来てくれるよね?」
優しく睨みあげる女の子の目線をくすぐったそうに受け流して、
でも少年たちは彼女の意向に逆らうことができなくなってゆく。

これを成長と呼ぶのだろうか。たんに忌むべき連鎖と片づけるべきなのだろうか。
きょうもまた、いろいろな想いを抱えた生徒たちが、古びた小屋へと連れだってゆく。

自分の情夫に、母親を手引きした娘。(父親の告白)

2016年11月24日(Thu) 07:51:58

挙式の1週間ほどまえのことでした。
娘の理佐子がいつになくやつれて、蒼い顔で帰宅したのは。
そのときに気づくべきでした。
娘は吸血鬼に遭ったのです。
お相手のタカシくんの家が、家族ぐるみで吸血鬼を受け容れていたと知ったのは、それからあとのことでした。
あとは、芋づる式でした。
妻が吸われ、息子夫婦も吸われました。
とくに妻の血は、ことのほか悦ばれたみたいです。
娘の血が気に入った相手ですから、妻の血もお口に合ってしまったのでしょう。
わたしは、どうすることもできませんでした。

真相を告げてくれたのは、先方のお父さんでした。
タカシくんの母親が吸血鬼に血を吸われるところを、こっそりと見せてくれたからです。
これが自分の奥さんだと、いっそう愉しめますよ。
ご主人の言を強く否定することがなぜかできずに、家路をたどったのを覚えています。
貴男はなにもしなくくていいです。ただ、妨げさえしなければ・・・
そんな囁きを毒液のように鼓膜にしみ込まされて帰宅したわたしは、
いつの間にか首すじに咬み痕をつけられていることに、自宅の鏡を見るまで気がつきませんでした。

手引きしたのはすべて、娘の理佐子。
悪い娘になっちゃったね。
娘は悪びれもせずそういうと、にっこり笑ってわたしのほうへと近寄ってきます。
隣室では長年連れ添った妻が、複数の吸血鬼を相手にうめき声を洩らしつづけています。
そんななかで、どうしてわたしひとりが、理性を保っていられたでしょうか。
娘はブラウスをはだけ、ブラジャーをはずすと、硬直したわたしの掌を、自分のスカートの奥へと誘い込ませていったのです。
タカシくんに悪いじゃないか?
父娘相姦に対する罪悪感は、なぜか感じませんでした。
そういえば。
妻を犯されてしまったことへのショックも、意外なくらいに受け入れることが出来ました。
咬まれちゃうとね、なんでもヘイキになっちゃうんだよ。
娘がそう囁いてきたときにはもう、わたしはいけない交わりをすでに三回も、遂げてしまった後でした。
タカシくんは娘とわたしとの関係を、知っているのでしょうか?
知っているとしたら、どう思っているのでしょうか?
案外平気なものですよ――タカシくんのお父さんの言が、わたしのなかで肯定的によみがえります。
帰宅していたはずなのにずっと姿をみせなかったタカシくんは、帰りがけにだけ顔を見せて、玄関まで送ってくれました。
いつも通りにこやかな表情がそこにありました。
また、いつでも来てくださいね、お義父さん。
白い歯をみせてニッと笑ったとき。
なにかが伝わってきました。

また、いつでも来てくださいね。じぶんの娘を抱きたくなったら・・・
彼の顔にははっきりと、そう書いてあったのです。

おじゃましました。また近いうち、来るからね。


あとがき
前作を、新婦の父親目線で描いてみました。^^

ウェディングドレス姿の母

2016年11月24日(Thu) 06:44:04

挙式の2日前のことだった。
婚約者の理佐子を連れて実家にあいさつに行くと、両親は奥の開かずの部屋で、ぼく達を迎えてくれた。
20年以上住み慣れた家なのに、その部屋にぼくは、まだ入ったことがない。
開かずの間の中は、家具のほとんどないだだっ広い洋間で、いちばん奥にベッドがひとつ、しつらえてある。
ぼくが驚いたのは、そのときの両親の服装だった。
まるで自分たちが結婚するみたいに、父はタキシード。母は純白のウェディングドレス。
「ごめんなさいね、理佐子さん。あさっては貴女が着るはずなのに」
そういって恥じらう母は、かつてアルバムで見た両親の挙式のセピア色をした写真と違和感がないくらい、若やいで見える。
ぼくがそれ以上にびっくりしたのは、その後の母の言葉。
「よく見ておいてね。タカシさん。お母さんあなたたちの前で、吸血鬼に抱かれてみせるから」

一家の秘事を未来の息子の嫁の前で軽々と告げた母は、父に一礼すると、
父は窓を開いて、庭先に佇んでいた黒衣の男を招き入れる。
招き入れられた男は、ぼくもよく知っている、父よりもずっと年老いた紳士。
黒衣の男は白一色の衣装の母に迫って、抱きすくめて首すじを咬んだ。
じつはなん度ものぞき見していた、母の秘め事。
理佐子はぼくの隣で、やはりぼう然として、事の成り行きを見守るばかり。
滴る血潮が、母のウェディングドレスにひと筋伝い落た。
それはまるで、母の涙のように見えた。
けれども母は、そんなぼくの想像とは裏腹に、口許に笑みさえ泛べ、男の貪欲な吸血に応えつづけていった。
やがて貧血を起こしてぐったりとなった母を、吸血鬼はベッドのなかに投げ込んで、
ドレスのすそを無造作に引き上げていった。
ぼく達の隣で固唾をのんで見守っていた父は、二人きりにしてやろう、とだけいって、真っ先にきびすを返してゆく。


部屋を出たとき、理佐子が父を呼び止めた。

お義母様、すごいですね。ご立派だと思います。

父はこちらに背中を向けたまま立ち尽くし、つぎのひと言を待っている。
理佐子は父の期待に応えるように、口を開いた。

お義母様、私にお手本を見せてくれたんですね。
私の時もお願いします・・・って、お義母さまにお伝えください。

ぼくのほうを振り向いた彼女は、柔らかな目線をぼくに送ってきた。

タカシくん、ゴメンね。でもタカシくんの家では、これがふつうなんだよね?
だから私、タカシくんの前で、あのひとに抱かれる。
見ててくれるわよね?
お義父さまやお義母さまみたいないい夫婦に、なろうね?

父は理佐子に柔らかに笑いかけ、理佐子もそれにこたえてゆく。
私も妻の新床を、あのひとにプレゼントしたんですよ・・・と、いいながら。

うちの実家、こういうこととはまだ、ご縁がないんです。
でもできたら、母にも経験させてあげたいです。
そのときはみんな、協力してくださいね?

どうやら理佐子は、この家の良き嫁になるようだ。
そして理佐子の父にとっては、悪い娘になるのかも。
お父さん、かわいそうだね――思わずそう口にしてしまったぼくに、理佐子はいう。

たぶん父も、感謝してくれるんじゃないかな?

理佐子の首すじに、紅い咬み痕がふたつ浮いているのに、ぼくは初めて気がついた。
そのときだった。
どす黒い嫉妬と歓びが見事に溶け合って、ぼくの胸の奥を満たしたのは――

男女ともにライン入りのハイソックスを履いていたころのこと。

2016年11月24日(Thu) 06:11:25

かつて男女を問わず、ライン入りのハイソックスが流行ったころ。
ぼくたちの街に、初めて吸血鬼が侵入した。
ぼくの彼女にも、魔の手が迫った。
吸血鬼に迫られた彼女は言った。
血を吸われるのは仕方がない。でもどうしても吸われたくない時には、見逃してほしい。
ライン入りのハイソックスを履いているときは、遠慮なく襲ってね。
それ以来、女子たちは吸血鬼に襲われても良いときに、ライン入りのハイソックスを履くようになった。
やつらは女子の履いているハイソックスに欲情して、
彼女たちのふくらはぎに咬みついてはハイソックスに血を撥ねかしていった。

同じ運動部にいる男子たちが、そうした吸血鬼の好みに敏感に反応した。
ライン入りのハイソックスだったら、オレ達だって履いている。
みすみす彼女の血を吸われるくらいなら、オレ達が身代わりになろう。
もちろん、身代わりが務まり切れるわけはなかったけれど。
ぼくたちはそろって、ライン入りのハイソックスを履いて、吸血鬼たちの前に立った。
女子と同じように、ハイソックスを履いた脚を咬ませて、若い血を吸い取らせて。
ぼく達は女子と同じ愉しみや歓びを共有する。
そして、女子たちが吸血鬼に抱きすくめられ、血を吸われる光景を見ることにさえ、
いつか湧き上がる歓びをガマンできなくなっていった。

ライン入りのハイソックスを、めったに見かけなくなった現在(いま)。
あの学校の生徒たちは、男女そろってグレーや濃紺のハイソックスを履いて学校に通う。
制服のモデルチェンジもまた、いまも学校に巣食う吸血鬼たちの好みに、意図的に合わせられているのだ。
ぼく達の息子や娘たちも、例外ではない。
だれもがグレーか濃紺のハイソックスを履いて登校し、
血を欲しがる吸血鬼が校内に現れると、それが授業中でも求めに応じるのがルールになっている。

やっぱりオレ達正解だったな。
あのときのキャプテンは今なお、そういって自慢する。
だれよりも先に彼女を作ったあいつは、
だれよりも先に彼女を吸血鬼に襲わせて、
だれよりも先に彼女は大人の女になった。もちろん、初めて血を吸わせた吸血鬼の手によって。
たしかにそれは、致命的なオウンゴールだったかもしれないけれど・・・
少なくともいえるのは、そうすることで本当に困っていた吸血鬼たちを救う結果になったということ。
救われた彼らは学校に平和裏に巣食うようになり、そのためにだれも死なずに共存を果たすことができた。
ぼく達が卒業したあの運動部は、いまでも試合の時、同じライン入りのハイソックスを履いて活動している。
そして時々、グランドで吸血鬼に追い回されるだけの部活を、愉しんでいるという。

母さんは夜汽車に乗って

2016年11月24日(Thu) 05:55:20

母さんは夜汽車に乗って、吸血鬼に抱かれに行く。
そんな夜、父さんはぼくに、母さんの喪服を着せて、いっしょに寝(やす)む。
ぼくは女になり切って、父さんの相手をする。
母さんになり切りながら、吸血鬼に抱かれる母さんのことを想像し、
ぼくは父さんの昂ぶりに、波長を合わせていく。
きっと父さんも同じ想いなのが、素肌をすり合わせることで、伝わってくる。

きっと将来、ぼくのお嫁さんも、吸血鬼のいるあの村に、連れて行くことになるはず。
未来の花嫁が吸血鬼に処女を捧げる寝室のすぐ隣で、
ぼくはやっぱり彼女の服を着て、だれかに犯されていくのだろう。
そんな想像に、むしろ歓びを感じてしまう。いけないぼく――

最低限の愛情

2016年11月23日(Wed) 22:24:52

妻が吸血鬼に襲われた。
生き血をがつがつと飲まれ、荒々しく強姦までされた。
「ひどいことをする」
白目を剥いて横たわる妻をまえに抗議をするわたしに、吸血鬼はいった。
「だが、わしが本気で奥さんに惚れて、奪われるよりはましだろう」
「それはそうだが・・・せめて敬意をもって接してもらうわけにはいくまいか」
「わかった。こんど襲うときには、最低限の愛情をもって接しよう」
食欲と性欲処理と割り切って妻を襲った吸血鬼は、次からは対応を変えていた。
さりげなく妻の通りかかるのを待ち伏せて、礼儀正しく公園に誘った。
妻も目を伏せながらも、従順にお辞儀をし、彼の誘いに従った。
草の褥のうえ、礼装に身を包んだ妻は、
ブラウスをはだけられ、ブラジャーをはぎ取られ、
スカートをたくし上げられ、ストッキングを引き破られて、
髪振り乱しながら、犯されていった。
脱がす手間を惜しんで交接を遂げるため、ひざ小僧の下までずり降ろされた黒のストッキングが、妻が堕落してしまったことを告げていた。

愛情は終生、あなたのもの。
でも熱情は、時々彼のものになるかも。
そんな私を許して――

目を背けながら囁く妻。
きみを護り切れなかったわたしなのに、彼女は切々と、謝罪をくり返す。
彼女を支配する後ろめたさが、彼と遂げる逢瀬でもたらされた悦楽なのだと気づくのに、時間はかからなかった。

11月15日構想。

市庁舎職員の応接 ~都会めかした女~

2016年11月23日(Wed) 22:20:29

こんな狭くて古い街からは、とっととおさらばしたかった。
その直感は、正しかった。
こんな街にとどまったばかりに、俺は正常な結婚をしそびれてしまった。
親のコネで安定した収入を得られるという誘惑に屈して、自ら街から脱出する希望を捨ててから、すでに数年経っていた。
街に吸血鬼が侵入してきて、都会でも味わうことのできない愉しみを体験する羽目になるとは、
つい先週まで思いもよらなかった。

その部署に突然配属された俺は、部屋に入って来た黒ずくめの男に目を見張ると、
――ああ、あんたはまだだったんだな。
その男はそう呟くと、俺と真向かいに近づいてきて、首すじにどす黒い衝撃をぶつけてきた。
気がついたらその場に尻もちをついていて、眩暈のむこうにそいつがいた。
俺はそいつに血を吸われながら、もっと吸ってくれと頼み込んでしまっていた――

吸血鬼と知れた黒影どもは、市役所庁舎でももっぱら、この隔離された空間だけにやって来る。
どうやら俺たちは、吸血鬼から市民を護るための防波堤にされたらしい
――そう感じたときにはもう、その理不尽な方針を、むしろ進んで受け入れていた。
それくらい。やつらの牙に含まれた毒は、俺たち職員の理性を一瞬にして奪ってしまっていたのだ。

隣の席になった関野真美子は、採用年次がひとつ下。
俺が大卒で向こうが短卒だから・・・齢はいくつ若くなるのだろう?
都会に出たら、うようよいそうな。
そして、この街には珍しく。
けばけばしい美貌と、斜に構えたすさんだ雰囲気とを持っていた。
「おいでなすったわね。じゃあ私、お勤めしてくるから」
真美子は蓮っ葉なちょうしでそういうと、
洗練されたスーツ姿をひるがえして、自分のほうへと迫ってくる黒影に、真正面から歩み寄る。
がっちりと抱きすくめられ、うなじを吸われ・・・それらいちぶしじゅうがすべて、俺のすぐ目の前での出来事。
影は、真美子の血を美味そうに吸い取ると、荒縄を巻くように羽交い絞めにした猿臂をほどき、
女の細い肩に手を置いて、隣室へと促してゆく。
そこでなにが行われるか――大人の男なら、だれだってわかろうというものだった。

鎖されたドアのほうへと、恐る恐る足を忍ばせて。
真向いになったドアの向こうの、極彩色の情景を思い描きながら、鍵穴に目をやると。
後ろからそうっ・・・と背中に手を置かれ、ぎょっとする。
「まったくぅ。油断も隙もないわね」
しらっとした冷めた目つきは、都会の女の瞳――部屋の中に消えたはずの真美子が、なぜか俺の後ろにいる。
「夢見てるんじゃないわよ」
薄ぼんやりとした視界の手前で、パーに開いた掌をひらひらさせて、
目のまえでドアのカギを、カチャリとかける。
かけたカギはとたんにはずされ、再び開かれたドアの向こう、真美子はもういちど、しらっとした目を俺に注いだ。
「視たけりゃ、視たっていいんだからね。あほらしいから、開けとくわ」
部屋の奥にしつらえられたソファのうえ、吸血鬼はふんぞり返って、俺のことを面白そうに窺っている。

「きゃ~、愉しんじゃおうよ~♪」
真美子は吸血鬼のひざの上に乗っかると、
千鳥格子の派手な柄のジャケットの襟首をくつろげて、
男の手を自分から胸の奥へと導いていって。
もう片方の手で、同じ柄のタイトミニのスカートのすそを、お尻が見えそうになるまでたくし上げてゆくk。
目の毒だ・・・目の毒だ・・・
俺の理性は、ドアを閉ざしてこのまがまがしい光景から視界を隔てようとしているけれど。
俺の両手は、痺れたように動きを止めて、
俺の両目は、男の見栄やおざなりな理性など軽く裏切って、
きりっとしたスーツ姿を身分から着崩れさせてゆく真美子の応接の、いちぶしじゅう見届けてしまっていった。

「あの人たちさあ、処女は犯さないんだって。
でもあたし、高校の時にもう姦っちゃってたから、職員の女の子たちの前で、真っ先に抱かれたわ」
参っちゃったなァ・・・
かなりすごい体験をしたはずなのに、
それさえも、悪戯を見つかった悪ガキみたいにきまり悪そうに頭を掻き掻き、あっけらかんと笑い飛してしまう彼女は、
来る日も来る日も訪れる吸血鬼のため、他の女子職員たちに交じりながら、
ときには同時に複数の吸血鬼を相手にして、
だれよりも積極的に相手を誘って、
他の女子職員のお手本みたいに、真っ先によがり声をかしましくたてるのだった。

「ねぇ、あたしと結婚しない?」
出し抜けな問いかけにぶっ飛びそうになった俺に、
「本気なんだけどさあ」
都会の女めかした瞳には、話題をそらさせない真剣味がこめられていた。
どうして俺なんだよ・・・?
言いかける俺に、女はどこまでも素直じゃなかった。
「ひとに知られたくない秘密を、あんたがいちばんよく知ってくれちゃっているからさ」

結婚しても、あのひとたちは来るからね。
新居に遊びに来るからね。
そしたら悪いけど、あたしあのひとたちの相手するから。
お義母さんが咎めたって、ダメ。
むしろ、ごいっしょしたいわ。
だってそのほうが、話がはやいもの。
ほんとはね。
お義母さんを手籠めにしたがってる吸血鬼がいるの。
お義父さんには、あたしが話をつけるから。任しといて。
ぜったい、ぜったい、家内安全、夫婦円満、間違いなしよ。

そんなはずが、あるはずがない。
なん人もの吸血鬼に新妻の血を吸われ、ことのついでにモノにされてしまう日常――
けれども俺は、彼女の問いに頷いてしまっていた。
この街では、都会にはない世界がたしかにある。
間違いなく、存在する・・・


あとがき
9月3日製作、本日翻案脱稿。

ぼくは同級生の人気者。

2016年11月21日(Mon) 07:19:06

周東、お前の血を吸わせろよ。
きょうも休み時間になると、同級生の吸血鬼たちは、ぼくの血を欲しがって群がってくる。
担任の先生も、見て見ぬふり。
だって先生も放課後には、彼らを自分の家にあげて、奥さんの血を吸わせているくらいだから。
都会から転入してきた教え子が血を吸われるくらいは、ごく当たり前のことみたいだった。
ナオキくんは、ぼくの足許ににじり寄ると、
半ズボンの下に履いている紺のハイソックスのうえから、唇を吸いつけてきたし、
ハルオくんは、ぼくを後ろから羽交い絞めにして、
首すじにぬるりと、舌を這わせてくる。
タカオくんはシャツをはみ出させて、ぼくのわき腹を。
キョウタくんは半そでシャツからのぞいた二の腕を。
立ち尽くしたぼくを取り囲むと、みんな思い思いに咬みついて、じゅるじゅると音をたてて血を啜る。

眩暈を起こしてその場に尻もちをついてしまうまで、やめなかった。
尻もちをついたぼくに、みんなは「ありがとな」「ごちそうさま」「おいしかった」口々にそうお礼を言って、
さいごにナオキくんに頭を撫でられて、解放される。
ほかの三人はぱたぱたと足音を立てて走り去ったが、ナオキくんだけは戻ってきた。
だいじょうぶかよ?といって、ぼくが起ちあがるのに手を貸してくれる。
家までついていってやるからさ。
そういって付き添ってくれるのは、半分は親切心。でももう半分は、はっきりちがう。
家にあがってく?
ぼくはナオキくんをもてなしてやる気になって、そういった。
ナオキくんもくすぐったそうに笑い返して、うれしいな、と、こたえた。

ナオキくんのお目当ては、母さんの生き血。
血を吸われるようになったぼくは、ぼくの血を吸ってくれる友だちに、母さんを紹介していた。
さいしょに吸血鬼の友だちを四人、家にあげたとき。
母さんはお紅茶を淹れてくれたけど。
彼らの目当ては、もっと濃い赤い液体――
母さんはみんなに取り囲まれて、押し倒されて。
きゃあきゃあと小娘みたいにはしゃぎながら、血を漁り取られていった。
いつもしつけにきびしい母さんが、
ブラウスをはだけて、ブラジャーをむしり取られて、
スカートのすそから太ももをあらわにのぞかせながら、
ぼくの仲良し相手に、生き血をチュウチュウ吸い取られてゆくのを、
ぼくは目を見張って立ち尽くして、いちぶしじゅうを見届けてしまっていた。
ゾクゾクとした歓びに目ざめてしまったのは、そのときだった。
脚好きなナオキくんはそのときも、いつもぼくの履いているハイソックスを咬み破くときとおなじように、
母さんの脚から肌色のストッキングをむしり取っていった。

父さんも時々、お友だちを連れて帰ってきて、母さんのことを襲わせている。
ぼくも父さんの目を盗みながら、父さんの友だちと入れ代わりに、ぼくの友だちを送り込む。
とくにナオキくんは、ぼくの母さんのことをとても気に入ってくれたみたいだった。
母さんは貧血に顔を蒼ざめさせながらも、ぼくの友だちの相手をしてくれた。
ナオキくんもそういうときは、母さんに手加減をしてくれて、
足りない分はぼくの首すじを咬んだり、ハイソックスを咬み破ったりして、お腹を満たしていく。
このごろは、そんなふうに母子ながら血を吸い取られることが、むしょうに嬉しい。
母さんの血とぼくの血が、彼らのなかで仲良く織り交ざっていくのを想像するのが、むしょうに愉しい。
きっと、そのうちに、ナオキくんたちが年頃になって色気づいたら、
ぼくの母さんを相手に、筆おろしの儀式を済ませるのだろう。
「だいじな瞬間だから、周東の母さんと姦りたい」
そんなふうに面と向かって言われても、ぼくはただ、くすぐったそうに笑い返すだけ――
ひょっとしたら、ぼくの筆おろしも、母さんが相手をしてくれるかもしれなかったから。


あとがき
もしかするとこのお話のヒロインは、前作の奥さんと同じ人かもしれません。
旦那様からも息子さんからも紹介されつづけたら、すごい貧血になっちゃいそうですが。(笑)

煙草

2016年11月18日(Fri) 07:36:23

血ィ、吸われなすったね?
独り煙草を吹かしていると、初老の男が通りすがって、そんなふうに声をかけてきた。
エエ、まあ・・・
わたしがあいまいに返事をすると。
まぁ、この街のモンはたいがいそうだから・・・
と、さりげなくマフラーをずらしてみせる。
赤黒い咬み痕が、綺麗にふたつ並んでいるのを認めると。
見ず知らずだったその男に、不思議な親近感がわいてきた。
あんた、もともとこの街のモンじゃなかとね?
男がわたしの顔を覗き込む。
去年越してきたばかりです。
ああ・・・やっぱりね。
男はそういう顔をすると、「都会の会社さんにお勤めされとるね」とだけ、いった。
どうやらわが社は、この街では有名な存在らしかった。
そうすると、ご家族で来られとるんじゃね?
たたみかけるよう男はいう。
エエ、女房と息子がいるもんで・・・
じゃ、奥さんももう、咬まれておりなさるね?
図星を突かれたわたしは、ごくたんたんと、開き直っていた。
だからここで、煙草を吹かしているんですよ。
そう。妻の生き血を目あてに情夫が上がり込んできたときは、
私は気を利かせて座をはずし、いつもこの公園で煙草を吹かすのだ。
吸い切った煙草を放り捨てて踏みにじると、
それじゃあもう一本。
男はさりげなく自分のポケットから煙草を出して、わたしにすすめた。
まるで、「座布団一枚」と、言われた気分だった。
ちょっとだけ躊躇して、結局煙草を受け取ってしまっていた。
男はわたしの隣に腰かけて、自分も一本取り出して、火をつけた。
よくまあ、物好きに、この街に来なさったね。
都会にいられなくなったからですよ。すべて承知のうえで、こっちに来たんです。
清水の舞台から飛び降りる思いで・・・とは、よくいったもの。
舞い降りてきたこの街は、はたして地獄なのか天国なのか。
この街に棲む不特定の吸血鬼に、夫婦ながら血を吸われ、
妻は日常的に浮気をして、それを認めさせられている。
そんな日常の裏側を抜きにすれば、この街での暮らしは決して悪くはなかった。
勢いよく吸い込んだ紫煙の香りが、すがすがしいほど焦げ臭く、肺腑に満ちる。
ふと気がつくと。
男はわたしの手を握りしめ、自分の掌に握りしめたものを、わたしの掌へと移動させる。
一万円札だった。
うちに来たいなら、これはいらない。
わたしは男にお札を返すと、男はばつの悪そうな顔をした。
でも、そうまでしてくれるあんたの顔をつぶすつもりはないから。
わたしがそういうと、男は納得した顔になった。
ウチ妻、どこかでお目に留まったんですか?
わたしがいうと、
すでに友達が三人、奥さんのお世話になっている。
だったらなおさら、わたしがこんなことで小遣い稼ぎなどしないたちだとわかってくれてもよさそうなのに。
ねだられるままに煙草を一本おすそ分けすると、男はいった。
煙草代は受け取ってくれるよね?
――わたしは自分の女房を、たったの百円で売り渡していた。

自分が知り合った男を、妻に引き合わせ、襲わせる。
そんな行為に面白味を覚え始めたのは、ごく最近だった。
さいしょに妻を抱いた男が、わたしに無断で妻のことをまた貸しし始めたとき。
さすがに抗議をしたわたしに、彼は言ったものだった。
あんたもそうして構わないんだから。
無茶苦茶な理屈に、なぜか納得してしまったわたしは、その晩行きずりの男に声をかけ、妻を抱かせてしまっていた。
妻はわたしがひき込んだ男なら、どんな老爺でも、どんな醜男でも受け入れて、
素直に服を、脱がされていった。
わたしが視たいというとさすがに恥ずかしがったけれど、拒否することはしなかった。
あしたもきっと、わたしはこの公園に煙草を吸いに来る。
そして、わたしの評判を聞きつけている誰かが、わたしの妻を目あてに、わたしの隣で煙草をすすめてくるのだろう。

嫁としての務め。

2016年11月16日(Wed) 08:13:18

夫の目の前で吸血鬼の支配を受けることで、嫁の務めを果たしている――
そんな自覚がありながらも。
白昼堂々と新居に上がり込んできて身体を求めてくる吸血鬼に、紗栄子はきょうも身を固くしていた。
結婚したら止すって、言ったじゃない!
そんな紗栄子の抗議は、もちろん無視されて。
恥かしい・・・恥ずかしいです・・・っ
そんな紗栄子の訴えに、もちろん耳を貸さないで。
男は紗栄子の服を一枚、一枚、はぎ取ってゆく。
紗栄子が自分との逢瀬のために着こんだ正装だと自覚している態度だった。
そう、新妻なのに、本人の自覚とは、裏腹に。
自分の衣装を、無意識にもてなしてしまっている。
紗栄子はきちんとした服装で吸血鬼との逢瀬に臨み、都会ふうの衣装を惜しげもなく破らせてしまっているのだった。

そんな紗栄子に、出勤したと偽って家に居続けていた達樹は、熱い視線を注いでいる。
紗栄子が嫁の務めを果たしてくれていることに。
嫁の務めを果たすつもりで、吸血鬼の劣情を満足させてしまっていることに。
達樹の嫁でありながら、吸血鬼とのエッチを悦んでしまっていることに。
達樹は、夫としての歓びを自覚しはじめてしまっている。
ボクたち夫婦、どんな夫婦になってしまうのだろう?
一瞬そんな想いも兆したけれど。
父さんだってうまくやっているんだ。
いまごろ父のいない夫婦の寝室で、昔なじみの吸血鬼に抱かれている母のいる母屋を見つめながら、達樹はそう思う。
夫婦ながら奴隷になることと引き替えに、奴隷の歓びを得てしまった。
代々そんなことをくり返しているヘンな家だけど。
ボクはこの、ヘンな家のことが、好きだ――

処女の生き血。人妻の生き血。

2016年11月16日(Wed) 07:53:09

だいじょうぶ。きみが処女のうちだけだよ――
婚約者の達樹は、たしかにそういった。
吸血鬼が好むのは、もっぱら処女の生き血。
それは、紗栄子も決して嫌いではないドラキュラ映画でも、「お約束」になっていた。
だからこそ、達樹にいわれるままに、彼が幼い頃から懐いていたという年上の男に、血を吸わせてしまっていた。

献血だと思って、ガマンして。うちの家系の習慣なんだ。
そうよ、習慣なの。習慣。いまから彼の家の家風に、慣れておくの。
そんなふうに自分に言い聞かせて、彼の見守る前息をつめて、吸血鬼に抱かれていった。

さいしょのうちこそ、戸惑ってしまったけれど。
やがて、夢中になっていた。恥を忘れてしまうくらい。
彼の目の前で脚を吸われて、穿いているストッキングをびりびりと破かれながら吸血されることに、
紗栄子はいつか、ショーツを濡らしてしまうほどの昂ぶりを感じるようになっていた。

誘われるままに、吸血鬼とふたり、ホテルにお泊りをして。
その晩のうちに、処女を捧げてしまっていた。
隣室から、達樹が覗いていると知りながら。
婚約者の目の前でストッキングを咬み破らせることで自覚した快感は、ついにそこまで育ってしまっていた。

吸血鬼に抱かれるようになって、ふと思う。
このひと、処女じゃなくなっても、血を吸うわけ?
そういえば、達樹の母親も、達樹の父親に紹介された吸血鬼に血を吸われている――確かそんな話聞いたっけ。
そうね、きっと、そう。達樹のお嫁さんだからこそ、あのひとよけいに発情するのよ。
でも、もう手遅れね。
達樹はあたしが抱かれてしまうことを納得しているし、
あたしは達樹のまえで見せつけてしまうことに、快感を感じはじめている。

あたしたち夫婦、どんなふうになっちゃうのかしら?
吸血鬼の腕のなか、ふとそう思いながら。
さきのことは考えてもしょうがない――紗栄子はそう思い直すと、
「もっと!もっとォ!」
と、叫んでいた。
未来の花婿の視線を、小気味よく意識しながら・・・

お泊りにはまだ、早いかも?

2016年11月16日(Wed) 07:42:39

吸血鬼にホテルに誘われた紗栄子は、とっさにそう思った。
初めて襲われてひと月経っていたし、
そのあいだになん度吸血されたか、本人にも記憶が定かではない。
そんな関係になってしまったけれど、いまだに純潔は守り通していた。
紗栄子はふつうの会社のOLで、ちゃんと婚約者だっている。
吸血鬼を紗栄子に引き合わせたのも、じつはその婚約者、坂上達樹だったのだ。
うち、そういう習慣になっているから――
クールな目もとに翳を漂わせながら、ごくしぜんな態度でそういった彼。
身内同然のひとだから、献血してあげてほしい――そう言われるままに、彼の家に出かけていって、その場で吸血された。
さいしょに彼が、「お手本」を見せてくれた。
意外にしなやかな彼の首に絡みつくのを目のまえに、とっさに感じた。
このふたり、できている。
それが、世間でいう同性愛の関係なのか、もっと違うなにかなのかまではわからなかったけれど。
ふたりのあいだには他者が入り込めない関係があるのをかいま見てしまうと、
紗栄子は大胆になってしまっていた。
初めての子にあんなにからむのは、ボクも初めて見た。
そういう達樹の横顔が、いつになく赤みを帯びているのを、紗栄子は見逃さなかった。

二人きりで、ホテルに泊まらないか。
吸血鬼がそう囁いたのは、達樹のまえだった。
達樹に聞かれないよう声を低めたのを、紗栄子は敏感に感じ取る。
え・・・?でも・・・
金曜の夜、ホテル〇〇で待っている。男は一方的にそう囁いて、立ち去っていった。

いま、紗栄子は男とふたりだけで、ホテルの一室にいる。
犯されてしまってもおかしくない状況に自分から飛び込んでしまった自分の大胆さが、どことなく心地よい。
男はすぐにのしかかってきて、紗栄子の首すじを咬んだ。
あ――
脳天が痺れるような快感に、紗栄子は自分の置かれた立場の危うさを忘れた。
そのままごくごくと、生き血をむさぼらせてしまっていた。
いつになくしつように、大量に吸い取られる血液の量に、紗栄子は自身が吸血鬼になったような快感を覚えた。
ふと気がつくと。
閉ざされた隣室から、熱い視線が注がれていた。
だれだか、わかる。きっと、そう。
視線の主が達樹なのだと、紗栄子は直感した。

お前に内緒で呼び出したら、彼女来るかな。
どうかな。それはボクにも、わからない。でも、身持ちの堅い子だよ。
もちろん、そうとわかっているから誘惑するんだ。
誘惑するのは自由だけど・・・ボクにもみる権利があると思う。
権利というか、義務だね。
そうか。義務か。・・・じゃあ、行かなくっちゃならないね。
ああ、賭けに成功したら、たっぷりと見せつけてやるよ。
じゃあ、覚悟して出かけよう。
覚えておいて。きみの婚約者だから、誘惑して愉しめるんだ。俺が賭けに勝ったら、責任取ってちゃんと結婚するんだぜ?
達樹はくすぐったそうに、ウフフ・・・と、笑った。

はぁはぁという荒い息遣いが、うつ伏せになった足許に、無遠慮に吹きかけられてくる。
親友の未来の妻に対しては、あってはならないあしらいだった。
けれども紗栄子は、足許を気高く透きとおらせたストッキングを纏ったまま、劣情に満ちた唇を、吸いつかせてしまう。
達樹の熱い視線が見守るなか、勤め帰りのストッキングはみるかげもなく、咬み破られていった。

素敵――
吸血鬼の猿臂に囚われながら、紗栄子は声をあげていた。
達樹さん、達樹さん、ごめんなさい・・・あたし、ひと足先に大人になるわね・・・
自分の呟きに達樹がどれほど昂っているのか、ドアを通してありありと伝わってくる。
紗栄子は一瞬目を瞑り、情夫と婚約者とを、もういちど心の天秤にかけてゆく。
そして、かすかにうなずくと。
ハイソックスみたいにひざ下までストッキングをずり降ろされた脚を、自分からゆっくりと開いていった――

残念・・・

2016年11月14日(Mon) 14:33:48

長らく閲覧していた「妻物語」というサイトが、しずかに閉幕しました――
http://hpcgi3.nifty.com/tumamono/chat/2shot30/2shot.cgi

主にチャット目あてで伺っていたのですが、ココは客層もよかったんですよ。
もちろん、いろんな方がいらっしゃいましたが・・・
なかには、「妖艶」を紹介したかたもいらっしゃいますし、メールのやり取りをした方もいらっしゃいました。
もっとも。
伺った体験談を、ココで紡いだお話を作るときに参考にしたことは、ほぼありません。
でも、大なり小なり、影響を受けているかもしれませんね。

興味深かったのは。
「妖艶」のプロットをお話したかた(よほどお話がノらないと、そこまでの話題は出しませんでしたが)がこぞって、
「私の体験とよく似ている」とか、
「本当は昔、お母さんに夜這いをする人のことを目撃したのでは?」とか、
そんなことを言われることがよくありましたっけ。
するものもされるものも、心の奥深くにある願望・衝動は似通っているものなのでしょうか。

◆11月14日 しるす

寝取らせ話。 ~ホストの彼。~

2016年11月08日(Tue) 07:06:04

同性愛にハマってしまいました。
ふたりでいるときのわたしは、女の姿になっています。
勤め先のベテランOLが着ているようなスーツ姿で男に抱かれ、
スカートの奥が粘液でぬらぬらになるくらい、愛し抜かれているんです。
相手はわたしよりずっと年上の、ベテランのホスト。
パトロンの女性にはこと欠かず、収入はわたしよりもはるかに上。
だから衣装代もクリーニング代も、ホテル代も・・・いっさいが彼持ちです。
女にはこと欠かないけど、女になってくれる同性にはこと欠いている。
“両刀使い”の彼の、口癖なのです。

そんな彼が、ある晩わたしに囁きました。
きみの奥さんを征服したい。
わたしは夢中で、頷いていました。
自分のもので彼の気に入るものならなんでも、歓んで彼に捧げたかったのです。

結婚して二十年ちかくになる妻とは、このごろすっかりご無沙汰でした。
あらいざらい話したわたしに、妻は言いました。「いちどだけよ」
そしてある週末に、わたしたち三人は、彼の家で初めての夜を過ごしたのです。
彼はわたしの服を脱がせると、丁寧な手つきでわたしの手首にロープを巻きつけました。
そして、ロープのもう一端を、ベッドから離れた柱に巻きつけたのです。
これで、ベッドのうえで彼が、わたしの妻にどんな狼藉に及んでも、わたしの手は届きません。
そのうえで、彼は妻のことを、自分のものにしていったのです。

開業医の奥様や社長夫人をつぎつぎとモノにしていった彼のことですから、
ただの素人女に過ぎない妻は、あっけなく陥落していきました。
わたしに接するときとおなじ熱烈さで彼は妻との交接をなん度もくり返し、
すっかり妻を手なずけ、飼い慣らしてしまったのです。
「つぎはいつにする?」
「主人の空いている日なら、いつでもいいわ」
ふたりきりのベッドのなか。
たしかに「いちどだけよ」と約束したはずの妻は、夫婦の約束をあっさりと反故にしていました。

服を脱がされた理由は、再び服を身に着けた妻にロープをほどかれたとき、やっと気がつきました。
激しい射精で、足許までしたたかに濡らしてしまっていることに、やっと気がついたのです。

それからは週末ごとに、三人での逢瀬がつづきました。
わが身をホストの情婦にすり替えた妻は、素人めかしくこぎれいなふだん着やよそ行きのスーツに身を包み、
わたしの目の前で服をはぎ取られ、荒々しく犯されていったのです。
四つん這いの恥ずかしいかっこうで、排泄行為のように露骨なセックスに、妻はすっかりイカされてしまったのでした。
妻のつぎは、わたしです。
妻の目のあることもはばからず、女の姿になったわたしは、無我夢中で彼にしがみつき、
さっき犯した妻に接したときと同じだけの熱量を、全身に感じつづけていったのでした。

妻はわたしに黙って、彼に逢うようになりました。
「家庭はこわさない」という約束を彼は守ってくれましたし、
彼女もまた、「ホストの妻になるつもりはない」と言っていました。
まき散らすほどの金を持った人妻を飽きるほど愛人に抱えている男が、
いまは妻との時間を、もっとも大切にしているようでした。
「あちらは、よそ行きのセックスなんだよ」と、彼はよく言います。
「あちらのセックスが高級レストランのフランス料理なら、
 あんたの奥さんは心づくしの手料理なんだ」とも。
素人妻の素人ぶりが、彼にとってはたまらない魅力だったのです。
そしてさいごに、言うのです。
「素人妻ならどこにでもいるけれど、きみの奥さんだからこそ犯したかった」

妻とのいとなみが少しずつ頻度をあげていったのは、
妻が彼の愛人になってからしばらく経った頃からでした。
わたしも彼とおなじように、両刀使いになり果てていたのです。

寝取らせ話。 ~村はずれの納屋は、「処刑小屋」。妻を”処刑”してもらった男の話~

2016年11月07日(Mon) 06:53:32

うちは複数派なんですよ。
さいしょがね、もう輪姦だったんです。
懇親の酒盛りの場が、妻に対する懇親の場に早変わりしたのです。
村の男衆が、よってたかって、わたしのことをふん縛ると。
まるで見せしめの処刑みたいに、妻に群がっていって、
ブラウスを引き裂き、ブラジャーをはぎ取って、スカートをまくり上げると、
けだものが獲物を分け合うみたいに荒々しく、踏みにじっていったのです。
でも夫婦双方とも、昂奮しちゃいましてね。
妻はそれまで、エッチは嫌いなほうだったんですが。
わたしのまえで、もの凄く乱れちゃって。
嵐が過ぎた後、夫婦で相談して、もういちどこちらから、納屋に出向いて行ったのです。
そこは、「処刑小屋」って呼ばれているのだと、あとから知りました。
先に赴任してきた人は、わたしたち夫婦が納屋での懇親会に招かれたってきいただけで、あとどうなるかを知っていたんですね。
知っていながら、黙っている――でもきっと、わたしもあとから来た人に対しては、同じ態度をとるでしょうね。

妻が初めて“処刑”された納屋では毎晩のように、お互いの奥さんを取り替え合って、仲良く?姦り合っているというんです。
そのなかにわたしたちはおずおずと顔を出して、
ときどきでいいから、女ひでりのときとかでも、してもらえませんか・・・?
って、恐る恐るお願いしたら。
暖かく迎え入れてくださいました。(笑)
その夜の納屋には、女はいませんでした。
わたしたちがきっとやって来ると見込んで、待ち受けてくれていたそうなのです。
すっかり、読まれてしまっていましたね。(苦笑)

妻はそのときも着衣だったのですが、
きちんとした服を着ていくのが礼儀だって、よそ行きのスーツを着ていました。
都会妻のスーツ姿に、彼らもぞっこんになっちゃって。
もう、亭主の前だろうが、おかまいなしなんですよね。 (汗)
やはりあの晩と、同じように。ケダモノが獲物を平等に分け合うみたいに。
みんなで代わる代わる妻の肉体をむさぼりまして。
わたしはそれをずうっと見届けるんですよね。
妻を一方的に侵されているという、男としてはかなり恥ずかしい立場だったはずなのですが。
きみは村に貢献しているのだって言われて、そんなものなのかな?って、思っちゃって。
妻も同意見でした。わたしたちは夫婦で村に貢献しているんだって。
彼らもね、もっと愉しみたいらしくって。
自分の男っぷりを、だんなに褒められるのが嬉しいっていうのですよ。
だからね、ひとりひとり、感想を言わされたりなんかして・・・
さいしょはさすがに照れましたが、そのうちふつうにいえるようになりました。
さすがですね!ぼくのなんかより、ずっと大きいですね。
とか、
妻がこんなに乱れるの、初めてですよ。恥ずかしい女房を持って、幸せですよ。
とかね。
しまいに、あんたも恥ずかしがってないで、すればいい。自分の奥さんなんだからって、すすめられて。
とうとう、輪姦の輪の中に加わってしまいました。
みんなして、共同で妻を犯し合いながら、共犯同士の関係というか、一体感というか、
そんな共感みたいなものを感じ合うようになってしまって・・・
妻の肌を共有し、おなじ穴に一物を埋めた関係というか、うまくいえないんですけどね。
そんなわけで彼らとは、うまくやっています。
いまでは妻のことを「処刑」してもらう行為は、夫婦の営みのなかでも大事な一部分なんですよ。

寝取らせ話。 ~地元の男衆たちは、抱かせてくれるというのですが・・・妻のことが気になって仕方のない夫~

2016年11月07日(Mon) 06:45:28

さいしょはもちろん、抵抗ありましたよ。
お互いの妻に通い合う風習があるなんて、赴任前には聞かされていませんでしたからね。
でも、いちど潔く?差し出しちゃうとね。
不思議と癖になっちゃいましたね。うちの場合。
もしかすると、そういうわたしの性癖を熟知したうえで、赴任させられたのかもしれません。
わたしの勤め先の男性社員は全員、妻や恋人を地元の男衆に寝取られてしまっているのですが。
そうしたことに対する苦情が出たことは、いちどもありませんからね。

自分の奥さんを差し出した場合、おれたちの女房を抱いても構わないんだぜ?
ひととおり、妻の貞操を男衆たちと分かち合った後、そうは誘われたんですが・・・
やっぱり家内のほうに、気が行ってしまうんです。
それも相手の奥さんに、失礼な話じゃないですか。
通過儀礼のようなもので、ひととおりはご厚意に甘えた――彼らの奥さんを、ひと通りセックスを済ませた――のですが。
やっぱり家内のようすが、気になっちゃいましてね。
まだ彼らが自宅から立ち去らないうちに、家に戻るのです。
もちろん二人には声をかけずに・・・物陰から、熱く息をはずませ合うふたりのようすを、こっそり覗いているんです。
初めて差し出したときには、息が詰まって目を回してしまったはずの光景なのに。
いまでは、妻がヒロインを演じるポルノ映画でも鑑賞するように。
わたしの目を意識しながらも、肉体の快感に克てずに息をはずませてしまう家内のことを、
夫であるにもかかわらず、昂ぶりながら・・・いちぶしじゅうを見届けてしまっているのです。
いまでは、一方的に犯してもらっています。そのほうがわたしも、妻も、ときめくことができるので。

寝取らせ話。 ~親友の手引きで妻を襲われた夫と、親友の妻を手引きして襲わせた男~

2016年11月07日(Mon) 06:34:15

夫婦ながら血を吸われました。
さいしょに吸われたのが、わたし。
わたしのほうは、一滴残らず吸い尽されちゃったんです。
どうしてか・・・?って、それはあとになってからわかりました。
やつは、家内のほうがお目当てだったんです。
たまたまわたしの血を吸う前の週、家内の姉の血を吸いまして。
それがどうやら、お口に合っちゃったらしい。
それで家内の血も吸うことになった。いい迷惑ですね。(笑)
で、邪魔な旦那には消えてもらう・・・というようなことだったのでしょう。
わたしのほうはあっけなく、チューチューとひと息に吸い取られちゃいました。
ごく事務的にね、あっけなく。それでもうお陀仏。ジ・エンドです。
家内ほうは、わたしのお通夜の晩に、喪服姿で吸われました。
ええ、衣装のほうも、愉しみだったそうです。
家のなかに入るには、あらかじめ自分も招待されなければ入れないという、厄介なルールがあるそうですが。
そこは、わたしの友人が使われました。
坂谷というその男は長年の友人だったのですが。
彼のところも夫婦ながら吸われちゃっていて、弱みを握られていたんですね。
それでおめおめと、自分の奥さんの仇敵に取り持つために、
未亡人になりたての家内のところに手引きをしたというわけですな。
エエわたしも、ひつぎのなかから内証で引き出されまして、見届けさせられる羽目になりました。
自分で引き込めばよかっただろうって?まだそのときには、そんな気分にはなっていなかったのですよ。
そこは、坂谷にやってもらうことにしました。

吸血鬼を前にした家内は、やはり吸血鬼になりたてのわたしの目にも、とても美味しそうに見えましたね。
ヴェール付きの帽子をかぶった頭から、黒のストッキングのつま先まで、満艦飾の喪服姿。
まだ夏の時分でしたから、黒ずくめの洋装の喪服は重苦しく映りましたが、
ストッキングは薄々で、かっちりとした喪服のスカートによく映えました。
坂谷は、吸血鬼氏をよくたしなめてくれましてね。
発色のよい黒ストッキングになまめかしく染まった家内の足許に生唾を呑み込む吸血鬼に、
「奥さんはあんたをそそるためにあれを穿いているんじゃない、ご主人を弔うためなんですよ」
って、言ってくれていましたが。もちろんやつの耳にまともに入るわけはありません。
やつの不確かな記憶力では、坂谷のやつは、
「たっぷりとした肉づきのおみ脚ですね。ストッキングを穿いたまま辱めてあげると良いですよ」
ってそそのかしたことになってるんです。(苦笑)
どうやら、自分のつごうの良いようにしか、記憶しないことにしているみたいですね・・・

エエ、家内はもう、まな板の上のコイでした。
たちまちつかまえられて、首すじをがぶり!です。
立ち尽くしたままチューチュー血を吸い取られていって、その場で貧血を起こしておひざを突いちゃいました。
おひざを突いて姿勢を崩した・・・ということは、やつにいわせると、
残りの血は好きなように愉しんじゃって構わないという意思表示のあらわれだ、というんです。
勝手な話でしょう?
かわいそうに家内は、四つん這いの姿勢のまま、愉しみ尽くされちゃったんです。
黒のストッキングのふくらはぎに、ぞんぶんに舌をふるいつけられて・・・
足許をガードする淡いナイロン生地が、パチパチとかすかな音をたてて咬み破られていったとき、
家内はあまりの情けなさに歯がみをして、声を忍んですすり泣きをしていました。
エエ、わたしのほうはもう、意思を喪失させられてしまっていて・・・
家内のことを護ってやることもできずに、物陰で立ち尽くしているだけでした。

既婚の婦人を相手にやつが思いを遂げるとき、なにをどうするか?はご存知ですよね?
家内も、例外ではありませんでした。
いちど咬まれてしまうともう、やつの意のままにされちゃって。
わたしの写真のまえで、わたしのことを弔うための装いを、こともなげにむしり取られていったのです。
色白の裸体は黒の着衣によく映えるのだ・・・と、身に沁みて知りましたね。あの晩に・・・

それがやつと家内との、なれ初めでした。
ほどなくわたしは蘇生させられ、いちど死んだことさえうやむやになって、
いまでも彼女の亭主として我が家でふんぞり返っています。
もちろん、やつが訪れる夜は、その地位を譲り渡されてしまうのですが・・・
でもそういうときは、無償で譲り渡すことにしています。
奪ったあとは与えるのが、やつのモットーだそうで。
やつのおかげで、わたしは自分の好みの女を公然と誘惑する権利を得ていました。
もちろん最愛の家内をモノにされてしまった身の上としては、埋め合わせには程遠いのですが・・・
まだしも、多少は溜飲が下がるというものです。
あの坂谷も。
家内のことを手引きしたご縁で――「ご縁」というのも妙ですが――
自分の奥さんのことを、吸血鬼として真っ先に餌食にすることを承諾してくれました。
エエ、正直、美味しかったですね。彼の奥さんはまだ若かったし。
彼の視ている前でやらせてもらったのですが。
その時初めて、亭主のまえで女房の生き血を吸い取ることの痛快さを思い知りました。
いまでは・・・やつに家内を襲わせてやってよかったな、と、思っています。



いつもながら強引だなあとは、思ったんです。
なにしろ、ご主人の血を吸い尽しておいて、その血がまだ胃の腑に満ちているはずなのに、
奥さんの喪服姿にそそられた・・・って、言うんですよ。
お前も手伝え、と言われて、いちどはお断りをしたのですが――だって相手は、親友の奥さんでしたから――結局、手引きをさせられるはめになりました。
亭主の血を吸い尽した以上、彼女の血を吸う権利があるっていうんです。
まったく、無茶苦茶な理屈ですよね・・・
もっともうちの場合も、まずわたしが彼に吸われて、それから妻の番でした。
知らないうちに恥をかかせるのは気の毒だから、すじを通してわざわざお前に案内させたのだ・・・と、本人は大きな顔をしていますが。
血を吸われて貧血を起こし、理性を喪わさせられてふらふらになったわたしは、
招待者がいなければお目当ての獲物が住む家に侵入できないという彼のために、
彼を伴って帰宅したのです。
妻はちょうど、よそ行きのスーツ姿でした。
そう、浮気帰りだったんですね・・・いまにして思えば。
玄関から上がり込むなり、やつは妻にむしゃぶりついて、細い首すじに咬みついていったのです。
キャーとひと声悲鳴をあげると、妻は他愛なく、あっけなく、戸惑うわたしの目の前で、チュウチュウと生き血を吸い取られていきました。

妻の身持ちのほどは、いちいち彼が解説してくれました。
「お、お、奥さんほかの男もたっぷり識ってるね?・・・勤め先で二人。ご近所と二人。
なかなかお盛んなようだよ。ま、このルックスなら、モテるよね?
ご主人、どこまで知ってたの?どこまで許してるの?
みんなご主人よりも、だいぶ年上のようだね。・・・
立場を守ってくれる役員さんとかも、いるようだね。・・・
自分の若さを武器に、打算やそろばん勘定で相手を選ぶのは、ちょっと不誠実じゃないかね?・・・
ご主人は生まれの良さと大人しい性格で選んで、相手の男たちは地位とおカネで選んだんだね?・・・
わしもご主人よりはだいぶ年上だし、わしの世界ではそこそこ実力もあるから、愛人の資格ありだね?
勝手なことを言い尽していくうちに、妻は貧血になって、敢え無くその場に昏倒。
あとはもう、吸血鬼のおもちゃです。
舌なめずりをする卑猥な唇を、肌色のストッキングを穿いた脚になすりつけられて、
高価なストッキングに裂け目をいく筋も拡げられながら、咬まれていったのです。
はい、あちらのほうのお愉しみも、とうぜん・・・
わたしは指をくわえて、視ているハメに遭ったのです。

そんな弱みもありましたから、未亡人の喪服姿に目の色を変える彼のために手引きをするくらいは、わけなくやらされてしまったのです。
趣味のわるいことに、彼はあらかじめ親友のことも目を覚まさせておいて、隣室からいちぶしじゅうを見届けさせたりしたものですから、
「やっぱり止しましょう。お気の毒です」
「黒のストッキングは、あなたが咬み破って愉しむために穿いているわけじゃない。ご主人を弔うための装いなんです」
「奥さんにとってあなたは、夫の仇なんですよ。わきまえてください」
思いつく限りの制止をしたのですが、むしろわたしの表現が、彼のことをよけいにそそってしまったようです。
わたしの妻のときと同じように、親友の奥さんもまた、喪服姿のまま他愛なく、彼の餌食になっていったのでした。

今夜は奥さんを、独り占めさせてもらうよ。あんたは・・・坂谷くんのところに泊めてもらうとよい。
坂谷くんの奥さんは、若いぞ。初めて血を吸うにはふさわしい相手だぞ。
おためごかしな彼の言いぐさで、妻の運命も決まりました。
わたしはすべてを諦めて、親友を我が家に誘ったのでした・・・

そこでの惨劇?は、いちいち描くまでもないでしょう。
死んだはずの夫の親友を目のまえに、妻はすべてを察してわたしに言いました。
「きょうはリビングで寝んでください。くれぐれも、こちらのお部屋を覗かないでくださいね」
婦人としての苦情をわたしの胸に突き刺すと、妻は伏し目になってひと言、「どうぞ」というと、
彼のことを夫婦の寝室にいざないました。
「うちの家内も、こんなふうになるのかな」
一瞬夫の顔に戻った親友はそれでも、「悪いがご馳走になるよ」とだけ言い残して、妻と二人、夫婦の寝室に消えました。
それからの懊悩の一夜――わたしはみすみす、妻の浮気相手の一人に、親友を加えてしまったのでした。

エエ、いまではもう、恨みも敵意も貸し借りもありません。
彼が家に帰りはぐれてやってくる夜は、
わたしはひと晩じゅう家の外で煙草をふかすか、リビングのなかをうろうろしながら、妻の肉体を譲る一夜を過ごすのです。


あとがき
しょうしょう、ややこしい設定ですね。
喪服妻を目のまえによだれを垂らす吸血鬼と、その様子を見守るご主人の気持ちを描いてみたいだけだったんですが・・・
(^^ゞ