淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
いやはや。
2017年01月24日(Tue) 07:46:08
いくつ描いたっけ?
ほとんど、今朝思い浮かんだお話ばかりです。
一話だけ、昨日の朝描いてちょっと直したのがありますが。
こういう朝も、ありますね。
ああ、きょうも、すとれすの多そうな一日になりそうです。。。
お話のかいせつを、すこしだけ。(あっぷした順です)
「ケーキ屋の娘」
学校帰りの制服の上からエプロンをした少女が、お母さんのお店をかいがいしく手伝ううちに、店には異様な老婆が現れて・・・
先日女吸血鬼を描いてほしいというリクエストがあったのが頭に残ったのか、お話のすじ書き同様まったくだしぬけに出現しました。
(汗)
「タウン情報 町営スポーツ施設・・・」
夕べネットサーフィン(死語)していたら、バレーボール用のオーバーニーソックスのページが目に留まりまして。
それがかすかに、記憶に残っていたみたいです。
「タウン情報 ひっそりと広まる女装熱」
冒頭のお父さんのひと言は、以前から思い浮かんでいて、ぜひ作品化しようと思っていたのです。
女装者が認知され、ふつうに暮らせたり恋愛できたりする世の中は、柏木のなかではひとつの理想です。
「サッちゃんと母親と」
まんまなタイトルですね。
気になる女の子が体育館で吸血されたのを、ゾクゾクしながら視てしまった少年のお話です。
自分も血を吸われ、お母さんまで吸われてしまうのは、ここではお約束のようですな。
「純白のドレスの追憶」
昨日朝のメモに、ただ一行。
「ヨーロッパ宮廷の白いドレス」。
これ以外ひと言も描けずに放置しました。(笑)
でも、こういうのが描きたかったのです。
ウィーンかロンドンあたりの上流貴族の社交界をイメージしました。
ケーキ屋さんに現れた女吸血鬼はみすぼらしい老婆でしたが、
こちらは妖艶な貴族令嬢として血を吸われ、そのままの若さを保っているようです。
ほかにきのうの朝のめもにいわく、
「娘が同級生を自分と父親のために家に招待する」
作品化できそうにありませんので、メモだけ載せておきますね。
(^▽^;)
純白のドレスの追憶
2017年01月24日(Tue) 07:35:52
もう、大昔のことだけれど。
あたしが青春時代を過ごしたのは、ヨーロッパの某国の宮廷社会。
そこではね、処女の子は純白のドレスを着て、社交界デビューするの。
あたしもそうしたなかの、ひとりだった。
子爵令嬢だったのよ。
母はとても美人で、宮廷でも浮き名を流したひとだったから。
あたしが深窓でそだれられているうちから、まだあたしのことを見もしない殿方がわれもわれもと、求婚を殺到させたの。
それで、17でデビューすることになったのよ。
父はきれいに着飾ったあたしのことを、遠くから心配そうに見つめていたわ。
きっと、娘に悪い虫がつきやしないかと、気になったのね。
でも、結果はもっと、悪い虫がついてしまったの。
そう。
初めて人前で、細い肩をまる見えにさせて、
そらぞらしい外気と、騒々しい喧騒と、昂るようなシャンデリアの眩きの下、
あたしは夢中になってた。
いつの間にか黒い影が傍らから寄り添って、周囲の視界からあたしのことを遮っていったのも、うかつにも気づかずにいた。
それは、処女がもっとも忌むべき相手だったわ。吸血鬼だったの。
たしかに、そう――伯爵と名乗っていらしたわ。
そのかたはあたしを、廊下に呼び出して。廊下の隅の小部屋に引き入れて。
ドキドキするような冷たい瞳を輝かせて、
お互いの瞳を吸い取るように見つめ合って、
顔と顔とを、近寄せあっていた。
その瞬間まで、若い殿方と思っていたその人が、じつは老いさらばえた老人だとわかったときには、
唇と唇とが、触れ合いそうなほど顔を近寄せあっていた。
唇で受け止めようとした唇は、あたしの肩先に這わされて、
チクリ――と、冷たい感触を、あたしの薄い皮膚に滲ませてきた。
ググッと突き入れられる疼痛と、それに応じるようにあふれ出る鮮血のぬくもり――
あたしはそのまま陶然となって、生き血を吸い取らせてしまっていたの。
きっと、気前の良い子だと思ったことでしょう。
その夜その小部屋から出ることのできぬまま、
あたしは身体じゅうの血を、一滴あまさず、そのかたに差し上げてしまったの。
冷たく横たわるあたしを目にして嘆いた両親は、その翌晩にはもう、
あたしと、あたしの血を吸ったあの方との毒牙にかかって、こちらの世界に移り住んでくれていた。
ね?わかるでしょ。
この病はね、伝染するの。
あなたもあたしを視てしまったということは――もう伝染(うつ)っちゃっているわね。
え?ヨーロッパの宮廷に憧れるんですって?
純白のドレスにも憧れるんですって?
もっとそのころのことを教えてほしい。勉強したい、ですって?
そうね。あなたもいま、純白のドレスを着ているものね。
かわいいわ。あなた。ドレスもとっても、よく似合っている。
でも、ダメよ。見逃してあげることはできないわ。気の毒だけど。
あなた、ここであたしに血を吸われて、肌を透きとおらせてしまなければいけないのだから。
そうよ。一滴余さず、味わってあげる。
若いひとの生き血にありつけるのって、なん十年ぶりかしら。
そう、あなたのお父様・お母様のお若いころ以来だわ。
そのころはまだ、ストッキングを穿いた若いお嬢さんが、ふつうにいらしたけれど。
いまの若いひとって、ストッキング穿かないのね。つまらない。
でも、正装するときにはさすがに、脚に通すことになっているようね。
あとであなたが気を喪ったら。
純白のドレスのすそを、腰まで引きずりあげて、
ピンク色に透きとおる脚から、純白のストッキングを咬み破いてあげる。
びりびり、ブチブチ・・・ッて、思い切り見苦しく。はしたなく。ふしだらに!
ウフフ。
そんな仕打ちを受けてもあなた、気づかないのよ。もう、気づけないのよ。
だって。
そのときにはもう、あたしの奴隷になって、白目を剥いて気絶しちゃっているんだもの。
でも・・・そこは選ばせてあげてもいいかな。あなた、かわいいから♪
正気のまま生き血を吸い取られ、花嫁衣裳を辱めてもらいたい?
そんなふうにして、生きながら血を吸い取られて、あたしの奴隷に堕ちていきたい?
それも、楽しそうね。そうね、きっと楽しいわ。
結婚を控えているから、やめてください、ですって?
甘いわ、あなた。
だから、妬ましいの。だから、憎らしいの。
あたしだって。あたしだって。17で吸われたのよ。
恋の楽しみも、キスの快楽も知らないで。
だからあなたにも、そうしてあげる。
ね?あなたの若さで、あたしのことを慰めて。
たったひと晩で、かまわないから。
つぎの日の夜は、あなたのお通夜になるわ。
みんな黒のストッキングを穿いて、若くして亡くなったあなたのことを悼むの。
どう?嬉しい想像でしょ?いまから、ゾクゾクするでしょ?あたしに血を吸い取られたくって、たまらなくなって。
じゃあ、そろそろいただくわ。
美味しく、美味しく、いただくわ。
怨むなら、百年以上まえにあたしのことを襲ったあのひとのことを怨んで。
あたしは、あなたに恋しただけ。
だから、あなたの若い血を、身体じゅうに宿してあげる。
人生初めてのキスを、女のあたしから・・・・・・。
ちゅうっ。
――目が覚めたとき、枕元に置かれた手鏡に映した私の首のつけ根に、赤黒い歯型がありありとついていた。
きょうは、お見合いの日。
ああ、血が欲しい。うら若い女の血が欲しい。
きょうのお見合いの相手には、きれいなお母様と年頃の妹さんがいるという。
どこにお連れすればいいの?
命令してください。お姉さま・・・
サッちゃんと母親と。
2017年01月24日(Tue) 07:07:45
幸田貴志は公園で、吸血鬼に遭遇した。
走って逃げれば、逃げられなかったわけではない。
その吸血鬼は脚が悪く、貴志の脚力なら、振り切って逃げることができるはずだった。
けれども彼は半ズボンに紺のハイソックスの制服姿を、ベンチから起たせようとはしなかった。
じいっと見つめる目と、目。
相手はゆっくりと、近づいてきた。
逃げないんだね?
男は訊いた。
父親よりもずっと年上の、白髪の男だった。
貴志が逃げなかったのは、男に見覚えがあったからだった。
そしてその時のことが、どうしても気になったからだった。
体育館の倉庫で、サッちゃんの血を吸っていた人だよね?
ああ・・・そうだが。
見られていたんだな、と、男は呟いた。
夢中になって吸っていたからな。不意を打てば、きみは彼女を救えたかもしれなかったぜ。
貴志はかぶりを振った。
でも、サッちゃんは逃げるつもりがなかったみたいだから。
押し倒された少女の顔は、吸血鬼の肩に隠れて見えなかったけれど、
甘いうめき声は、いつものサッちゃんからは想像のつかないものだった。
ただ、立膝をした真っ白のハイソックスのふくらはぎが、ひどく鮮やかに網膜にしみ込んだ。
わざわざそのためにおニューをおろしたらしいハイソックスは、眩しい白さに輝いていたが、
ところどころ血が撥ねて、丁寧に咬まれたらしい痕は、特に毒々しく染まっていた。
だから、わしの愉しみを邪魔しないでいてくれたのだな。
そういうことになっちゃうね。
貴志はちょっと、悔しそうだった。
サッちゃんが好きなんだね?
問いには答えずに、貴史は訊いた。
サッちゃんの血を、吸い尽すつもりなの?
そんなつもりはない。それに彼女はもう、半吸血鬼になっちゃったからな。
え・・・
さすがに貴志の顔色が変わった。
ぢゃが、人の生き血を吸えば、真人間に戻れる。
サッちゃんは、僕の血を吸ってくれるかな・・・
たぶんね。
わしがそう仕向けるさ・・・と、吸血鬼は顔で答えた。
じゃあ、小父さんに吸われても構わないや。
貴志は紺のハイソックスの脚を、黙って吸血鬼のほうに差し伸べる。
サッちゃんが血を吸われるところをいつも覗いていた貴志は、
いつも彼女が学校に履いて行く真っ白なハイソックスを咬ませてしまっているのを知ってしまっていた。
すまないね。
吸血鬼は貴志の足許にかがみ込み、ハイソックスのうえから飢えた唇を吸いつけた。
サッちゃんのハイソックスを破り、素肌を咬んだのと同じ牙が、
自分のハイソックスも咬み破り、鈍い疼痛を滲ませてくるのを、貴志は感じた。
約一時間後。
貴志は蒼ざめた顔をして、家路をたどる。
連れの男はさっきまで吸い取っていた貴志の血を、まだ口許にしたたらせていた。
すれ違っていく通行人たちは、それと気づいていながらも、見て見ぬふりをしてやり過ごしていく。
この街では、吸血鬼たちは存在を認知され、昼日中から堂々と闊歩しているのだった。
息子さんが具合を悪くしていたのでね。お連れしたのですよ。
玄関に出てきた貴志の母親は、来客の正体をひと目で知って、蒼ざめたけれど。
蒼ざめた息子がそれでも穏やかな表情をしているのを見て取って、すぐに決意を固めたらしい。
「どうぞ」とひと言だけ言って、男が敷居をまたぐのを許していた。
吸血鬼は、肌色のストッキングに包まれた貴志の母親の足許から、もの欲しげな視線をはずそうとしなかった。
畳部屋に寝かされた貴志は、わざと開かれたふすまのすき間から、
リビングに押し倒された母親がストッキングを破られながら犯されていくのを、ドキドキしながら見守った。
凌辱される母親の姿を目にしたことでもたらされた昂ぶりが、貴志の血の気をじゅうぶん取り戻していたけれど。
あのとき、白のハイソックスの脚を切なそうに足ずりしながら血を吸われるサッちゃんを助けなかったのと同じように、
母親がストッキングを片方だけ穿いた脚をゆらゆらさせながら腰を振って応じていくのを、複雑な視線を送りながら見つめ続けていた。
タウン情報 吸血鬼を受け容れた街に新現象――ひっそりと広まる女装熱
2017年01月24日(Tue) 06:57:19
「来週から、女子の制服を着て学校に行きなさい」
高校二年生のとき、岸村裕美さん(仮名)は父親からそう言い渡され、面食らった。
翌日母親に付き添われて町内の制服販売店に行って採寸してもらい、
数日後にはできあがったばかりの女子の制服を着用して登校するようになったという。
受け入れ側の学校は、事前に父兄からの届出を受理しており、担任を通じて周知もされていたため、
同級生をはじめとした学校関係者は、女子の制服を着用した裕美さんを違和感なく受け容れたという。
「うちの学校の制服はブレザーだったので、まだ違和感は少なかったと思います。
セーラー服の学校の子は、登校初日の緊張感がハンパじゃなかったみたいですよ。
でも、私のときも、スカートの下がスースーして、慣れるのに何日もかかりました」
裕美さんは、笑いながらそう語る。
女子の制服を着用して登校する男子生徒は、同校ではそれほど珍しくないという。
街は数年前から吸血鬼と共存を開始しており、女性の家族や知人の身代わりとなるために女装をする男性が増えたためである。
市内に三店舗ある制服販売店にもこうした現象は認知されており、男子生徒が女子用制服の採寸をするための試着コーナーを設けているところもある。
制服販売店を経営して30年になる「尾釜制服店」の店主(55)は、
「数年前、それまで売れ残っていた大きい子用の制服の在庫が一掃されて大助かりだったのですが、
その後も注文が相次ぎ、問屋さんにも事情は話せず困りました」
と笑う。
斜陽化著しかった呉服店も、息を吹き返しつつある。
「この数年、成人式のお振袖を着たいという男性が目だっています。特に赤や紫など、普段は着られない色が好まれているようです」
創業百二十年以上という「須木物和装店」の店主(70)も、そういって目を細める。
「いまの若い人は、いいですね。私のころには考えられなかったことです」
レンタルよりも買取が圧倒的に多いのは式後に恋人の吸血鬼に振り袖姿を披露し、血を吸ってもらうからと言われているが、
日常も好んで婦人物の和服に身を包む男性が増えるなど、
「家族の身代わりに吸血されるため」という本来の意図を越えたかかわり方をするケースも増えてきたようだ。
最初に取材した裕美さんは言う。
「私は男女どちらでもありそうな名前だったので不自由していませんが、明らかに男の名前という人は、名前を変えちゃう人もいるようですよ」
最初は「息子を生んだはずなのに」と嘆いたという両親は、自身も吸血を体験してからは裕美さんの立場に理解を示すようになり、
誕生日には婦人物のスーツをプレゼントされることもあるという。
市内の企業にOLとして勤務する裕美さんは、近々市内に住む20代の男性とお見合いをする。
「いまでも正式な場での着付けは、母に見てもらっているんですよ」
と恥じらう裕美さん。良縁に恵まれることを記者も願っている。
タウン情報 町営のスポーツ施設、服装規定を大幅に改訂。
2017年01月24日(Tue) 06:29:37
町営ゴルフ場の「地水カントリークラブ」は、創立以来初めて服装規定を改訂すると発表した。
内容は、男女ともにハイソックスもしくはストッキングを着用するというもの。
先日来吸血鬼に解放された同ゴルフ場には、プレー中にも多数の吸血鬼が出没するようになり、
被害を受けるプレー客が続出するようになった。
若い人が好んで襲われる傾向が高いほか、同ゴルフ場では被害者の服装に共通点があることを発見。
ハイソックスを着用したプレーヤーがほぼ全員襲われるという結果が出た。
失血でプレー中に調子を崩すケースが相次いだことを理由に、スコアの公平性の観点から、
プレーをするものは全員、ハイソックスの着用が義務づけられた。
「これで健全で公平なプレーが期待できます」と、同ゴルフ場の支配人(50)はほほ笑む。
最近は、男性客のあいだでもストッキングを着用してプレーする客が増えたという。
女性が好んで襲われることを警戒した夫たちが女装をして妻を守ろうとしたというのがきっかけというが、
「ひそかな願望の成就」として利用されるケースも少なくないらしく、
「そういうお客様はことのほかご機嫌でお帰りになります」(同)と、
町内では一風変わった風景が目になじみつつあるようだ。
去る18日、町立体育館で行なわれた中学校対抗のバレーボール大会では、
同じ理由から選手は全員オーバーニーソックスの着用が義務づけられた。
当日は会場側の制止が功を奏し、全試合とも貧血を起こす選手もなく、滞りなく実施されたが、
試合後選手は全員、吸血行為に応じたという。
「あくまで生徒さんの自発的な献血行為と聞いています」(体育館関係者)というのが公式見解で、
父兄を含め被害届はいっさい、出されていないという。
「実はうちの息子も参加していましてね。つきあっている彼女とおそろいのオーバーニーソックスを着用して献血したんですよ」
上記の体育館関係者は、そう明かす。
試合後の献血行為は、きわめて友好裡な雰囲気で行われているようだ。
「このごろ、白のソックスが目だって売れなくなりました」
体育館併設の売店では、黒地のオーバーニーソックスの販売が倍増し、白地のものは半減したという。
もっとも、咬まれた後の履き替え用に買われるケースも多く、
「血のシミをみせびらかしたい」というコアな需要も生まれてきたことから、ニーズは一様ではないらしい。
今後の成り行きが注目される。
ケーキ屋の娘 (女吸血鬼)
2017年01月24日(Tue) 06:01:48
平日の午後のケーキ店の店頭は、いつものように客がまばらだった。
水川貴代美(50、仮名)はきょうも、閉店の時間を気にしながら、
「きょうの売上はいまいちね」と、心のなかで呟いていた。
娘の千代(14、仮名)は、学校帰り。
制服のうえにエプロンをつけて、いつものようにかいがいしく母親の手伝いをしていた。
三角頭巾といっしょにかすかに揺れる黒髪が、子供ばなれしたつややかさに輝いていた。
「人手がふたりも、いらなかったわね」
貴代美は心のなかで、もういちど呟いた。
定期試験は、再来週のはず。
これなら試験勉強でもさせてやればよかった・・・などと思っていると。
不意の来客は黒い影をおおいかぶせるようにして、ショーウィンドー越しに母娘を見つめていた。
もの欲しげな舌なめずりは、母親の視界に入らなかったけれど。
殺気を帯びた雰囲気は、ガラス窓を通してひしひしと伝わってきて、
貴代美は思わず店外に目を向けた。
客人は自分の母親よりもよほど齢のいった老婆だった。
身に帯びたみすぼらしい着物には、ところどころ、赤黒いシミが点々と散っている。
そのシミの正体を貴代美は、ひと目で察していた。
この街は、吸血鬼と同居しているのだった。
「いらっしゃい。ケーキをお求めですか?」
貴代美は通りいっぺんの笑顔を見せて、客人に近づいた。
娘と客人とをへだてるように、わざわざ大まわりをするようにして。
「甘いものは好きだから、ケーキもいいのだけれど」
老婆は思ったよりも上品な声色で母親にこたえ、目はいっしんに、娘のほうへと注がれている。
娘の千代は出来たてのケーキをショーケースに移している最中で、作業に夢中になってこちらを振り向かなかった。
老婆は「イチゴのショートケーキを」と頼むのと同じ気軽な口調で、いった。
「あのお嬢さんの生き血が欲しいわ」
あの・・・あの・・・
貴代美は立ち尽くし、口ごもる。
14年間精魂尽して育ててきた娘だった。
もちろん、彼らが思ったよりも友好的なことは、知っている。
自分の身体で、知っている。
けれども、娘だけはなんとか、そういう体験をさせずに済ませて、いずれは都会の大学にでも進学させようと考えていた。
「お気の毒だけれど」
老婆は貴代美の未練な態度にとどめを刺すように強い口調でいった。
「この街からは逃げれないわ」
思ってよりも意地悪な目つきではないのが、かろうじて救いだった。
けれども老婆の瞳はギラギラと異様に光り、若い女の生き血にしんそこ飢えているのがありありと伝わってくる。
こんな獣じみた欲望のまえに、初心な娘をさらせるものか――貴代美は屹(きっ)と、老婆を睨んだ。
老婆の視線が、ふと和らいだ。
「ごめんなさいね」
間合いをはずされた貴代美が絶句するあいだ、老婆は謡うようによどみなく、呟きをつづけてゆく。
男のひとに吸われるよりも、よくはなくって?
皆さん、処女の生き血は貴重だから、むやみと辱めたりしないけれど。
その点は、しつけが行き届いていますからね。
でもそうはいっても、年頃の娘に男の身体がのしかかるんですよ。
お母さんだって、気が気じゃないでしょう?
その点私ならだいじょうぶ。
あなたの血の味だって、いかほどのものか、知っているし。
だからこうして、訪ねてきているんだし。
あんまり怖くしないから。
千代ちゃん怖がらせたら、可愛そうだものね?
小さいころから、優しい子だったものね?
だから私が本性見せたら、怖がって気絶しちゃうものね?
安心して。
私だって若い子の生き血を口に含んだら、どんな気分になるかわからないけど。
これだけは、約束してあげる。
あの子の生き血を、たんねんに美味しく、味わってあげるから――
老婆の囁きは微妙な周波を伴って、貴代美の鼓膜を圧してゆく。
いけない、術中にはまってしまう・・・そう感じたときにはもう、手遅れだった。
囁きの声は痺れ薬のように鼓膜にしみ込んで脳幹に伝わり、
貴代美の理性のありったけを、麻痺させてしまった。
母親は残された意識を振り絞って、訴える。
「せめて、私が身代わりに――」
「ありがとう」
老婆は貴代美を引き寄せて、首すじを咬んだ。
かすかな疼痛と淡い眩暈が、貴代美を襲った。
お店の床を踏みしめる足許が、ぐらぐらと揺れる。
「でもね」
老婆は貴代美の変化を愉しむように顔を覗き込みながら、いった。
「きょうは、若いお嬢さんじゃないとだめなの」
わかってくれる?老婆の顔には、懇願の色があった。
その場にうずくまった貴代美は、かすかに肯くと、眩暈を振り払うように勢いよく起ちあがった。
「千代ちゃん、こっちに来てぇ」
母親は声を張りあげて、娘を喚(よ)んだ。
「はぁい」
控えめで穏やかないつもの声で、千代は母親の声に振り向いた。
張りのある若やいだ声色に、みずみずしい黒髪。
それに、活きの良い血潮をたっぷりと含んだ、白くて細い首すじ――
貴代美はふと、自分自身も渇きを覚えた。
「こちらのお婆さまがね、喉がからからでいらっしゃるの。
あなたの生き血を吸いにいらしたの。
きょうはお店のほうはいいから、ちょっとの間家に戻って、あなたお相手してあげて」
さっきまでの必死の抵抗はどこへやら、貴代美は嬉々として娘にそう言いつけた。
千代の顔色はサッと蒼ざめ、老婆を見た。
みすぼらしく薄汚れた浅黄色の着物は、襟足に点々と赤黒いシミを散らしている。
そのシミの正体をひと目で察した処女は、怯えて立ちすくむ。
「だいじょうぶ。怖くはないの。あなたもしっかり、体験するのよ」
母親の見当はずれな励ましに、娘は健気に肯くと、エプロンをはずして二人の女に背を向ける。
通用口の向こうは、住居になっていた。
そこへ戻って応接する、ということなのだろう。
「こんにちはぁ、ハイ、ショートケーキを4つですね?」
働き盛りのはずんだ声が、店頭から伝わってきた。
いつもの和やかな声に、これからまな娘が血を吸われるという悲壮感は、欠片も感じられない。
「あなた、処女?」
老婆の問いに、大きな瞳がまっすぐに応えた。
「ホホホ。頼もしいわね」
手の甲を軽くあてた口許には、バラ色のしずくが散っている。
さっき吸い取られた母親の血が、老婆の頬を濡らしているのだ。
「お母さんもね、よく識ってるの。だから安心してね」
それで若い娘が安心して首すじを吸わせるのかと疑問に思うようなことを口にしつつ、
老婆はもの欲しげな表情もあらわに、千代に迫ってきた。
「あ・・・あのっ・・・」
切羽詰まった声は、おおいかぶさってくる老婆に圧倒されて、消え入るように震えた。
カサカサに乾き色褪せた唇が、真っ白なハイソックスを履いた千代のふくらはぎに、ねっとりと這わされた。
飢えた牙が素肌を食い破り、深々と埋め込まれるのを感じ、千代は眩暈を起こしてその場に崩れた。
カサカサな唇を濡らす自分の血が、ハイソックスの生地に生温かく、じんわりとしみ込んでゆく。
足元を抑えつけて喉を鳴らす老婆が、ひと口ひと口、丁寧に血を啜り取り、
千代の生き血をそれは美味しそうに味わっているのを、彼女は感じた。
30分後――
カナカナカナ・・・と、秋の虫が虚ろな鳴き声を響かせている。
真っ白なハイソックスを赤黒いシミでしたたかに濡らしたまま、
千代は自分の勉強部屋で大の字になって、白目を剥いて口を半開きにしていた。
意識はかろうじて保っていたが、理性は宙に浮いている。
首すじにも深々と、二本の牙を埋められた痕がくっきりとつけられ、
周りには吸い残された血のりが、チラチラと輝いている。
脚は両方とも、ご丁寧にあちこちと咬まれていたし、
そのあと押し倒されて、首すじを咬まれたのも、おぼろげに憶えている。
ゴクリゴクリと、それは美味しそうに、老婆は彼女の生き血を飲み耽っていった。
なんだか素敵――
思わず頬をほてらせて、相手をしてしまっていた。
その頬のほてりがじょじょに冷めていき、身体の芯が冷たくなってきても、
少女は自分の身に秘めた若い血液を啜り取らせる行為を、やめられなくなっていた。
もっと・・・とせがむ少女をなだめすかして、
「また今度ね」
老婆はそういって、立ち去っていった。
襟足に撥ねた血を、ヌラヌラと光らせたまま。
お婆さまのお着物を、汚してしまってごめんなさい。
いつものように控えめな声で詫びる少女の髪を撫で、老婆はいった。
「そうね。あなたのしたこと、とても無作法だわ。こんどお仕置きをしてあげなくちゃね」
「は・・・ハイ。いつでもお仕置きしてください」
「じゃあ、また今度ね。指切り」
老婆の差し出した枯れ木のような小指に、少女はみずみずしい指をからめてゆく。
指切り げんまん うそついたら 針千本 飲~ます♪
お婆さまが飲むのは、針なんかじゃないわ。
あたしの血を美味しく飲んでくれて、ありがとう――
翳りゆく視界のなか、吸血鬼の影がぼやけてゆく。
少女の理性は、昏く堕ちていった。
あとがき
女吸血鬼のリクエストを受けたせいか、女吸血鬼が描けてしまいました。 (^^ゞ
もっと短くまとめるつもりだったのですが、
最近になく情景の細部までもが脳裏に浮かんできまして、収拾がつかなくなったのでした。(笑)
柏木のところに出没する女吸血鬼は、多くの場合みすぼらしい老婆なんですよ。
このお話では比較的上品ですが、ふだんは下品で卑猥で、アブないやつなのです。 ^^;
見返り。
2017年01月11日(Wed) 08:06:45
吸血鬼に、妻の血を吸わせることを余儀なくされたとき。
家を訪ねてきた妻の吸血相手は、手土産に現ナマを、携えてきた。
わたしは言った。
「妻に売春をさせる気はない。なにも受け取らないよ」
彼女と同等の見返りなんて、わたしにとってこの世にあるはずがないのだから・・・って。
男は感に堪えたようにわたしを見ると、
「せめて、寝酒だけは受け取ってほしい。苦痛に感じるのなら、少しは気分がまぎれるだろうから」
毒を含んだ甘美な酒は、妻とわたしの頭のなかを、ほんの少しだけすり替えてくれた。
「なによりの見返りだったよ」
妻が初めて襲われて2、3日経って、ふたたび喉をカラカラにして彼がやって来ると、
わたしはそういって彼を快く迎え入れていた。
情夫つきの婚約者
2017年01月11日(Wed) 07:59:22
お見合いの席で、彼女は言った。
「私、もう処女じゃないんです。
ちゃんと男がいるんです。
結婚してもたぶん、その人とのお付き合いを続けると思います。
そんな女と、結婚したいとは思いませんよね?
この縁談。できれば貴男のほうから、お断りになってください」
お見合い写真に添えられた佐知子という彼女の名前は、
清楚な面差しをたたえる顔写真と良くマッチしていたけれど。
彼女の告げた穏やかならざる告白もまた、容貌との落差とは裏腹に、
その繊細な目鼻立ちと不思議にしっくりと重なっていた。
僕は言った。
「もしかして、お相手の男性は吸血鬼ではないですか?」
彼女は驚きに、目を見開いた。
ふつうの人には見えないといわれる首すじの咬み痕が、僕にははっきりと見えたのだから。
「友だちに、吸血鬼がいるんです。
子供のころから面白半分に血を吸わせてやっていて、
“お前が結婚するときには、お嫁さん紹介してくれ。できれば処女の生き血を吸いたいな”
なんて、言われているんです。
友だちの嫁さんのほとんどは、あいつの餌食になっているんですよ。
だから僕もたぶん、あいつにやられちゃうんだろうなあと思っていて、
それでつい、結婚が遅れてしまっているんです。
ああ、でも、もしも僕たちが結婚したら、貴女の彼氏と、僕の友だちと、吸血鬼同士で競争になっちゃいますね」
「だいじょうぶだと思います。あの人たち、仲間どうしでけんかはしないことになっているみたいだから」
よどみなくそう応える彼女に、僕は同じ種類のマイノリティ同士が感じるような共感を覚えた。
お相手の吸血鬼氏に、逢わせてもらえませんか・・・?という僕の問いに、彼女はちょっと嬉しそうに頷き返した。
想像した通り、彼女のお相手は、彼女のお父さんよりも年上の、老紳士だった。
初対面のときの彼女がみせた穏やかな雰囲気が、彼女を支配している男の気配をそれとなく、にじませていたのだ。
老紳士を前に、僕は自分でも思いがけないことを口にした。
「SМが本当に好きという人は、パートナーに縄をかけるときも丁寧に縛るそうですね」
思わず口を突いて出たそんなぶしつけな言葉を、紳士は穏やかに受け止めてくれた。
「あなたは適切な表現をよくご存知ですね」
私どもはSМはやりませんが、吸血行為というのは、それに近いものなのかもしれません。
もちろん、栄養の摂取という切実な部分もあるけれど。
私たちはしばしば、純粋な愉しみとして、パートナーの血を吸いますからね。
紳士はそうつけ加えた。
たしかにそうだろう。彼らはSで、僕らはMだ。
そして、SとMとは、またとない取り合わせで、ウマが合う。
僕はつづけて言った。
「彼女が一生独身でいることを、貴男は望んでいらっしゃるのですか」
「そんなことはない。彼女には、ぜひ幸せな結婚をしてほしいと望んでいる。
けれども彼女のほうが、頑として拒んでいるんだ。
私との関係が知れてしまって、それで平気でいる夫はいないだろうと。
彼女のお母さんは、離婚歴があるんだ。
お母さんもわしに血を恵んでくれていて、それが最初のご夫君にばれてしまったのでね。
いまのご主人は、わしらにも理解のあるお人だから、ご主人もわしと仲良くしてくださるのだよ」
母親にできることが、娘さんにも可能だと良いのだが・・・
吸血鬼という陰にこもった役柄とは裏腹に、少なくとも表向きだけは地震を肯定的に生きているようにみえたその老人は、
初めて悩ましい表情を泛べた。
まるで、まな娘の行く末を案じる年老いた父親のように、僕の目には映った。
相手は吸血鬼で、僕自身もその身に血を宿した人間。
なのに相手は獣にはならずに、こうして会話が成立している。
このひとは、僕の友だちと同じ種類の存在だ。僕ははっきりと、そう感じた。
「ほかの吸血鬼と対象が被った場合、どうしているのですか」
紳士はにっこり笑って言った。
「わしらは仲間うちでは争わない。代わりばんこにやるよ」
彼女とは、輪姦の場で知り合ったらしい。
詳しくは話してくれなかったが、用心深い良家の娘がふと見せた隙に巧みにつけ入って、
初心だったころの佐知子さんのことを、仲間数人で分かち合ったらしい。
それでもそのなかでは、彼がまっさきに彼女のスカートの中に手を入れたのだ、と、誇らしげに語り、
彼女は紳士の隣で、そんな子供じみた自慢話を、くすぐったそうな含み笑いを泛べて聞いている。
初体験の記憶から、悪しき感情はすべて消し去ることができているのだろう。
図に乗った彼は、さいしょに娘をいただいて、それから母親を狙ったのだという。
「だって、娘の血が旨ければ、当然母親にも興味を持つものだろう?」
紳士の大真面目な言いぐさに、僕は思わず吹き出してしまったが、そんな非礼を紳士は笑って受け流してくれる。
「でも、ご主人はそんな関係を許してくれなかったんですね?」
「そうだったね。本当に残念だった。相手の女を離婚させてしまうのは、吸血鬼としては失格なのだ」
そんな理屈、初めて聞いた。
けれども彼がその離婚を心から悔いているのは、態度を見てわかった。
「ま、いまのご主人にめぐり会えて彼女は幸せになったのだから、それはそれでよいとしているし・・・」
紳士はちょっと含み笑いをして、それから言った。
「もっと嬉しかったのは、前のご主人が前非を悔いて、わしのところにやって来て、再婚相手を紹介してくれたことかな」
前妻を幸せにしてくれたお礼と、わしと後悔をさせたおわびをしたいから、喉が渇いたときにはうちに来てくれと誘われたというのだ。
「もちろん、ありがたく頂戴した。ご主人のまえでね」
佐知子さんがさすがに、「かわいそうだわ、お父さん」と言うと(そう、彼女の実の父親のことなのだから)
「そんなことはない。わしが新しい奥方がはしたない声をあげるまで放さなかったら、
ファインプレーだとほめて下さったんだぞ」
老吸血鬼は、娘より若い佐知子さんに向かって、まるで子供が意地を張るような態度で言い張ったけれど。
さりげなく使われた敬語にも、妻を二人までも寝取った相手に対する敬意と親しみが滲んでいた。
それにしても、「前非」なのだな、と、僕は思った。
「あのときは逆らってしまって、悪かったね」
佐知子さんのお父さんは、そんなふうに言って、前妻を征服した彼の旧悪を、自分の前非にすり替えていったのだろうか。
彼の老吸血鬼に対する態度が、僕の未来と重なったような気がした。
僕は覚悟を決めて、口を開いた。
もっともそんな構えをする以前に、言葉のほうがなにかに引き寄せられるように、するすると出た。
「彼女との結婚を望んでいます。
彼女は貴男との交際を続けることを希望していますが、僕はかなえてあげようと思います。
貴男が信用できる男性だと感じたからです。
僕の新妻を支配する権利を、貴男に差し上げます。
未来の坂上夫人の純潔を勝ち得た男性に対して、敬意を払いたいのです」
感に堪えたような佐知子さんの視線を頬に感じながら、僕はつづけた。
「でも、お願いがあるんです。僕には子供のころから血を吸わせている親しい友だちがいます。
たぶん彼も、僕の妻となる女性の血を欲しがると思います。
佐知子さんに彼を近づけることを、許してください。
貴女にも――僕の幼なじみのことを、好きになってもらいたい」
「きみは友だち思いなんだね」
老紳士は目を細めた。
「きみのお友だちの身になれば、いまのきみの言葉がどれほど嬉しいことか・・・同じ吸血鬼として、きみの態度に感謝する」
彼は自分自身の独占欲よりも、同族の幸せを優先する男らしい。
吸血鬼になる前には、彼自身自分の血を吸った相手に、妻を差し出したのではないか?ふとそんな想像が、頭をよぎる。
「わしより若いとなると、食欲も旺盛だぞ。だいじょうぶかな?」
老紳士はまな娘をからかう老父のような目をして、彼女にいった。
「セックスもタフかも知れない・・・」
そう言いかけてあわてて口をふさいだ彼女を前に、男ふたりは声を合わせて笑った。
「どうやらきみとは、仲良くやっていけそうだ」
紳士は僕の肩に手を置いた。
「私もそう感じます・・・それともうひとつだけ」
「なんなりと、言ってごらん」
「彼女のことを、まだ処女だと思いたいのです。
僕の婚約者の佐知子さんを、改めて貴男に紹介します。
彼女の夫として、僕は佐知子さんが坂上家に入る資格があるかどうか、知りたいと思っている。
だから、血を吸うことで彼女の身持ちを確かめて欲しいのです。
佐知子さんが処女だと言ってくださったら、私は貴男に処女の生き血を差し上げたことになります。
そして――僕の未来の花嫁の純潔を、改めて貴男に差し上げたいのです。
吸血鬼の理解者として、最良の贈り物を差し上げたいので。
それから、同じことを僕の友だちにもしてあげるつもりでいるんです」
「きみはなかなか、友だち思いなんだな」
紳士は目をしばたいた。
「その友だちのなかに、どうやらわしも入れてもらっているみたいだね」
もちろんですよ、と、僕はいった。
紳士の棲む街で挙げられた僕たちの婚儀は、盛大なものになった。
もちろん、淫らな意味で。
新婦は新郎のまえ、おおぜいの吸血鬼のために純白のウェディングドレスを精液に浸す羽目になったし、
もの慣れた新婦の母親はもちろんのこと、
もの慣れない新郎の母親までもが、永年守ってきたはずの貞操を、婚礼の引き出物がわりに蹂躙されてしまった。
もっともの慣れないはずの僕の父が意外に泰然としていて、
「よく見ておきなさい。
しっかり者のお母さんのお行儀の悪いところなんて、なかなか見れないんだから」
なんて、僕に耳打ちすると、母が新しい恋人に夢中になれるように、自身は悠然と座を起っていったのだ。
花嫁を寝取られるというある意味最悪の災難を悦びに変換出来る能力は、父の遺伝かも知れないと、初めて思った。
じつは前の晩、あらかじめ呼び寄せられた僕の両親は、次々と紳士の毒牙にかかって献血を強いられていた。
彼の持つ毒液の魔力も相まって、彼と意気投合することのできた父は、その最愛の妻の貞操を、こころよく譲り渡していた。
“免疫”を喪失した母もまた、きゃあきゃあと小娘にたいにはしゃぎながら、しっとりと装った黒留袖を、露骨にたくし上げられてゆく。
父の勤め先の人たちも、なかなかだった。
妻以外の女性に手を出す特権を持てるのは、自分の妻を差し出した男性だけ・・・というルールがすぐに行きわたると、
彼らのうちなん人かは、同伴の夫人が晴れ着姿を着崩れさせて祝いの舞を乱れ舞うことに即座に同意してしまった。
夫たちの同意をいいことに、身持ちの正しい奥方も、そうでない奥方も、いちように手荒にあしらわれ、
首すじを咬まれたあげく、犯されていった。
三人も立て続けに経験してしまうと、たいがいの人妻たちはひと声悩ましいうめきを洩らし、悲鳴を喜悦の嬌声に変えていった。
父の上司と同僚は、かねて母に目をつけていたらしい。
自分の妻の貞操と引き替えに、父が見ている目のまえで、黒留袖を着た母を羽交い絞めにして、襟足から卑猥な掌を差し入れてゆく。
父は、「ごゆっくりどうぞ」と声をかけて、妻の受難を許容する雅量をみせていた。
その場限りというのは怖いもの。
参列者に伴われた良家の夫人の実に半数以上が貞操を喪失し、
その見返りを受けた夫たちは意中の女性の晴れ着をはぎ取り、淫らな祝い酒に酔い痴れていったのだった。
佐知子さんの実父さんも、参列していた。
彼はいまの奥さんのことも紳士に譲り渡していたので、淫らな宴への参列資格はじゅうぶんにあったのだが、あえてそうした輪からは遠ざかっていた。
見返りを求めない態度に、むしろ潔さが漂っている。
「奥さんを二人も、あのひとに差し出したそうですね」
僕が称賛のまなざしを向けると、彼からも同じ種類の視線が返されてきた。
「きみだって、自分のお嫁さんの純潔を、なん度も捧げているそうじゃないか。
こんど、うちの春代もそんなふうにして、彼らにもてなすことにしてみるよ」
彼の足許では、黄色の着物を着込んだいまの奥さんがみんなに転がされていて、
着物の下をはね上げられて豊かな太ももをあらわにしている真っ最中だった。
あとがき
きのうの朝おもいついたお話を、読み直してあっぷしました。
さいしょはタイトル通り佐知子さんがヒロインなのですが、
後半になると花婿のお母さんや佐知子さんのお父さんが大活躍?してしまいました。
(^^ゞ
とくに佐知子さんのお父さんは、べつにお話を創ってみたい気がしています。
期待せずにお待ちください。^^
ちょっぴり解説。
2017年01月10日(Tue) 06:43:13
「母さんは、賢夫人と呼ばれている。」
堅実な専業主婦が、吸血鬼に血を吸われる日常になじんでいって、
相手の吸血鬼の欲望を満たしながらも、自分の身体にも過度な負担がかからないように、
「過不足なく」、己の血液を摂取させる。
そんなしっかり者の奥さんを描きたくなってキーを叩きました。
「あとのお掃除が大変」のくだりは描きながら思いついたのですが、いかにもしっかり者ぽくなって気に入ったところです。
妻が初めて犯された後、夫が彼女のことを許し、交際を認めてやるシーンは、いつも不自然にならないか気にしているのですが、今回は比較的うまくいったと自画自賛しています。
血を吸う音にさえ好意をこめるほど執心されてしまっては、夫としても手の施しようがなかったのかもしれませんが。
「村に帰る。」
自分の血を欲しがっている吸血鬼の村に帰って、相手から手放しの歓迎を受けた少女が、
照れ隠しに「貧血起こしたら、学校行かなくてもいいんだよね?」と相手に訊く場面がさいしょにイメージに浮かんで、作品化しました。
さいしょのとき、「夏なのに」と渋る娘にハイソックスを履かせたのは、たぶんお母さんです。
都会育ちらしい彼女はすっかり村になじんで、都会にいるころから夫の郷里でのバカンスを、しっかり愉しんでいたふしが感じられます。
ヒロインの少女は、都会の学校では浮いた存在で、もしかするといじめに遭っていたのかもしれません。
建前だけご立派な日常よりも、たとえ相手が吸血鬼でも思いやりをもった相手のほうが居心地がよい――彼女はきっと、そんな風に感じたのでしょう。
「法事の手伝い」
このプロットは、なん度描いても飽きません。 (笑)
ブラックフォーマルが好きだからかも知れませぬ。^^
さいしょは、いっしょに村に越してきた近所の主婦といっしょに吸われ、並べて犯されるシーンを描きたくて始めたのですが、
お話としてまとまりそうだと思ったのは、さいごの義父のくだりです。
生れた子供はだれの子でも分け隔てなく育てる、とは言いながら。
彼女はやっぱり、その家の子にこだわったようです。
義父の子でも夫の子でも、この家の子であることに変わりはない――
そう割り切った彼女は、薄々は父親との関係を察しているらしい夫の、それとなくの協力もあって、
義父との愛人関係に積極的に応じていくようになります。
しきたりを越えたところでも密会してしまうことで、彼女は一種の開放感も味わったはず。
そんなところも、描いてみたいところでした。
法事の手伝い
2017年01月10日(Tue) 06:16:42
「いっしょに行きましょ。法事のお手伝い」
お隣の敏子さんは、そういってひっそりと笑う。
「そうね。ごいっしょしましょ」
声がウキウキと昂るのを抑えることができないのは、ちょっとはしたないかな?と、自分で思う。
洋装のブラックフォーマルのスカートのすそをひるがえして、夫のところに舞い戻ると、私は言った。
「法事のお手伝いに行ってきますね」
「ああ、気をつけて。皆さんによろしくね」
夫はいつものように、優しく穏やかに送り出してくれた。
法事の手伝い――それはこの村では、卑猥な意味が隠されている。
そこに集まるのは、村に棲み着いている吸血鬼たち。
手伝いと称して呼び集められる私たちの役目は、彼らの餌食になることだったから。
「黒のパンスト、お好きみたいね」
二度目の手伝いのとき、連れだって歩いた敏子さんは、そう呟いた。
敏子さんに言われるまでもなく、肌の透ける黒のストッキングに染まったお互いの脚を、私たちはどちらからそうするともなく、見比べ合っていた。
敏子さんの脚は、すらりとしてきれいだった。
「ただ太い。とにかく太い」
そういって卑下する私を、敏子さんはむしろ羨ましがった。
「だけど、いっぱい吸ってもらえるじゃないの」
夫同士が、同じ勤め先。
同じ時期に転勤で、この村に来た。
そして同じ日に、法事の手伝いにかり出されて、
同じ部屋で男たちに取り囲まれて、めいめい違う相手に、首すじを咬まれていった。
その場で姿勢を崩し、ひざ小僧を突いてしまうと、負け。
狭い畳部屋にふたり並べられて、代わる代わるのしかかってくる相手に、犯されてしまった。
お互い、片脚だけ脱がされた黒のストッキングを、ひざ小僧の下までずり降ろされたまま、
脚をばたつかせながら、決して侵入を許してはいけない男の体の一部に、股間をえぐられていった。
「きょうのことは、内証にしておいてやるよ」
男たちは恩着せがましくそういうと、それでも裂けたブラウスや脱ぎ捨てられたストッキングを拾い集めてくれた。
着せてくれるのかと思ったら、めいめい嬉しそうにせしめて、持ち帰られてしまった。
敏子さんにも、私にも、一人ずつ男性がついて、家まで送ってくれた。
乱れ髪に、ジャケットを羽織っただけの、おっぱいまでもがまる見えの上半身。
スカートの下は、みじめなくらいに白く映えた、むき出しのふくらはぎ。
黒革のパンプスに、ノーストッキングのつま先がごつごつと居心地悪く収まっていた。
夫は私の様子を見ると、すべてを察した顔になって。
自分の妻を犯した相手にお礼を言って、私のことを引き取ってくれた。
夫はなにも言わないままに、今度法事の手伝いをいわれてどうしても厭だったら断りなさい、と、言ってくれた。
家族ぐるみで村にとけ込むのが仕事の一環――そう聞かされてきた私にとって、頼まれごとを断るという選択肢は、あり得なかった。
三日後に再び法事の手伝いがあったとき、私は夫には告げずに、出向いていった。
新調した洋装のブラックフォーマルのお金は、私を家まで送ってくれた彼が、持ってくれた。
初めて私に迫り、私を犯した人だった。
私に夫以外の身体を体験する歓びを、教え込んでしまった男だった。
敏子さんとは幸い、ウマが合った。
そのせいか、法事の手伝いのときには、いっしょに組まされることが多かった。
私たちはいつも、同じ部屋に呼びこまれ、男たちに迫られて、血を吸われ、犯されていった。
破られると知っていながら、私たちは真新しい黒のストッキングを脚に通して、出かけていった。
男たちのために馳走するつもりで穿いて行ったのだろう?って、仮に夫に責められても、私はきっと頷き返してしまっただろう。
それくらい・・・男たちの息遣いの渦に巻かれることに、なじんでしまっていた。
乱交の渦の中でも、相性というものはやはりあるらしい。
いつか、敏子さんにも私にも、現れる確率の高い男性がなん人か、できるようになっていた。
そのなかに、私を初めて犯したあの人が含まれていることを、なんとなく居心地よく感じてしまっていて。
そう感じてしまっている自分に気づいて、どきりとすることがよくあった。
ここは夫の生まれ故郷だった。
故郷をきらって都会に出た夫は、不景気のあおりを受けて、結局故郷に頼ることになった。
それで、いまの勤め先に落ち着いたのだ。
だから、私と交わる男たちのなかで、夫と昔から顔なじみだという人は、なん人もいた。
「マサルのとこのお嫁さんだろ?うわさにはきいていたけど、別嬪さんだな。あそこの具合もいいんだって?」
彼らは親しみを込めた口調でさりげなく、それでもしっかりと露骨なことを口にして、
私に一物を咥えさせたり、はしたないことを言わせたりするのだった。
主人のよりも大きいわあ。もっとヤッてえ・・・イカされたいのっ。とか。
みんな顔なじみだから、気安く交わることができる。そんな雰囲気がここにはあった。
まったくのよそ者だった敏子さんさえ、私と同じように仲良くなっていた。
ふたりはお互いに、礼服のスカートの裏地に、複数の男たちからほとばされた粘液を光らせながら、家路についた。
ガマンできなかったのは、息子が私の痴態を見たがることだった。
さいしょのときから、私とは別に寺に呼び出されていて。
敏子さんと並べられて犯されるのを目にした息子は、どうやら病みつきになってしまったらしい。
それ以来、母さんのことが心配だといっては寺に来、私が血を吸われたり侵されたりするのを、半ズボンの股間を抑えながら見守っているという。
夫と同じように、この子もまた、村の人の血が脈打っているのだ。
お寺の本堂の薄暗がりで、折り重なってくる男たちのなかに、義父の姿もあった。
義父は好んで私と逢いたがる男たちのかなに、含まれていた。
さいしょの時も、なん人めかの相手が義父だった。
「うちの嫁だから、順番は遠慮したのだ」
あるとき問い詰めると、義父は悪びれもせず、そう応えたものだった。
けれどもそのじつ、私にご執心だというのは、たぶん私のうぬぼれではないはず。
夫のいない夜、義父は私にお酒の相手をさせて、ついでにベッドの上でのお相手も、強いてくる。
義母は若いころから村の長老に気に入られていて、家を空ける夜が多かった。
だからお前は、わしを親だと思って、孝行しなければならない――そんなしかつめらしい言いぐさを言い訳にしなければならないほど、義父は不器用な男だった。
その不器用さにほだされて、私は親孝行に応じることにした。
どういうわけかそういう晩に限って、夫は夜勤だと言って、家を空けていたから、私たちの逢瀬は気軽に遂げられることが可能だった。
村のしきたりを離れた家のなかという狭い空間で、
義父と私は身体の関係を重ねていった。
義父は必ず、私の中に子種をそそぎ込んでゆく。
もしかするとあいつ(夫)は、俺の子じゃないかもしれないからな――
そんなことはない。あなたたちはそっくりよ。
義父の胸の中での私のつぶやきを、たぶん義父は知らないでいる。
この村では、だれの子をはらむかわからない。
けれども、いちど宿したお子は、大切に育てなければならない。
この村は、子供を愛する土地柄だった。
義父の子ならいい。そう私は思う。
この家の子であることに、変わりはないのだから・・・と。
村に帰る。
2017年01月10日(Tue) 05:32:34
パパのふるさとだというその村に初めて行ったのは、中学2年の夏だった。
都会の家に帰るとき、あたしは貧血でめまいを起こしていた。
だって、その村には吸血鬼がいたから・・・
村の人たちは、吸血鬼と仲良く住んでいて、お互い助け合っている感じだった。
同じクラスでもいがみ合っている都会とは、ぜんぜん違う雰囲気だった。
なにがどこにあるのかもいちいち人に聞かないとわからない、勝手の違うところだったけど。
終始あたしは、気分良く過ごすことができた。最近こんなに気分がよかったのは、いつだっただろう?って思うくらいに。
ただ、その人と会うときだけは、災難だった。
首すじを咬まれるのを怖がったあたしに、パパの幼なじみだというその小父さんは、優しかった。
たたみの上にうつ伏せになってごらん。悪いけど、ハイソックスをイタズラするのだけは、目をつぶってくれるかな?
小父さんはあたしをなだめて寝かしつけてしまうと、ハイソックスを履いたふくらはぎに、にゅるりと舌を這わせてきた。
夏なのにどうしてハイソックスなの?ってママに訊いても、笑って答えてくれなかったけれど。
その日あたしがハイソックスを履いたのは小父さんのリクエストをママが好意的にかなえたのだと、そのとき知った。
チュウチュウと血を吸いあげられる音を聞いているうちに、眠たくなってきて。
あたしはついウトウトと、してしまった。
吸血鬼といっしょにいるときにウトウトしちゃいけないんだって、そのときには知らなかった。
気がついたときには、制服のスカートは履いていたけれど、パンツはしっかり脱がされていて、
おっぱいをまる出しにしたまま、あたしは小父さんとひとつになっていた。
経験したことのない痛みを、太ももの奥にジンジンと感じながら。
あんまり乱暴にしないでって、あたしは心から懇願していた。
都会に戻って新学期が始まって、あたしはますます学校がいやになった。
そんなとき。
ママがひっそりと、囁いてきた。
パパのふるさとにいたあの小父さまが、もういちどまーちゃんに逢いたがってるの。
あたしは瞬間的に、こっくりとうなずいていた。
ママはたたみかけるように、あたしに訊いた。
ずっと行きっきりになっちゃっても、まゆみは耐えられる?
だいじょうぶ。今よりはいい。
あたしはそう、答えていた。なんのためらいもなく。
あの村に棲んだらあたし、いつでも小父さまに血を吸わせてあげられるんだよね?
小父さま、あたしの血を気に入ってくれたんだよね?
だれかに肯定されたい――そんな思いがこみ上げてきた。
ママはそんなあたしを優しく抱きしめて、言った。
あのひとね。まあちゃんのすべてが好きなんだって。きっとそうなんだよ。だから本性を、すぐにさらけ出したんだよ。
村には、ママが仲良くしている男の人がなん人かいるらしい。
昼間っからキスしてるの、視ちゃったもの。
パパも薄々知っているみたいだけど、それでもお引越しに反対しないのは、
男の人たちがママのことを、真面目に好いているからなんだって。
小父さまもきっと、真面目につき合ってくれるに違いない。
葉っぱが色づいてきたころ、パパは村役場に転職して、あたしたち一家は村に引っ越した。
ひさびさに逢った小父さまは、あたしを見ると嬉しそうに目を細め、
人目もはばからずにいつも逢っていた裏の納屋へと、あたしのことを連れ出した。
貧血になるのはヤだよ。
あたしはわざとむくれてみせて、
貧血になるくらい、かわいがってあげるよ。
小父さまはからかうように、そう応じた。
貧血のときは、学校行かなくてもいいんだって?
ここなら友だちも、すぐできるさ。まあちゃんみたいないい子だったら特にね。
小父さまはどこまでも、親切だった。
さあ、あたしも小父さまが望んでいることを、してあげなくちゃいけない。
これだけは好きだった都会の学校の制服を身に着けた身体に、
あたしは小父さまの逞しい腕を、巻きつけられるままになっていった。
母さんは、賢夫人と呼ばれている。
2017年01月10日(Tue) 04:49:09
【賢夫人】
けんふじん。
しっかりした、賢い夫人。
朝。
父さんの寝室とは別の部屋から出てきた母さんは、みじかく「おはよう」というと、
朝ご飯の支度をするため、すぐに台所に立ってゆく。
紫とグリーンのしま模様のタートルネックのセーターを着て、ジーンズのすそからは白とねずみ色のしま模様のソックスが覗いている。
たしか夕べ、客人の泊まるあの部屋に入っていくときは、よそ行きのライトブルーのスーツに、ふんわりとしたタイのついた真っ白なブラウスを着て、
脚にはチャコールグレーのストッキングを穿いていたっけ。
ほとんど前後不覚、モーローとなった記憶なのに、なぜだか母さんの服装だけは、しっかり憶えている。
セミロングの黒髪は寝ぐせとはちがう乱れ方をしていたけれど、それを指摘するのはやめておいた。
以前同じ愚を犯したとき、「よけいなことを言うんじゃないの!」って、こっぴどくドヤされたから――
そう。
あの部屋に半月ほど前から滞在しているのは、父さんの親しい知人だと名乗る男。
歓迎をしたその晩に、彼の正体が吸血鬼だということを、身をもって思い知らされていた。
男ふたりからしたたかに血を吸い取って、ふらふらにしてしまうと。
不意の来客のためにわざわざ着替えたよそ行きのスーツ姿のまま、
立ちすくんだまま両手で口を抑えて、かろうじて悲鳴をこらえていた母さんのことを、彼は自分の寝室に引っ張り込んだ。
その後母さんがなにをされたのか――とてもひと言では、言いきれない。
這うようにして追いかけた部屋のまえ、ドアを半開きにすることまでは、かろうじてできたけれど、
父さんも僕も、そこから一歩たりとも、中に入ることはできなかった。
そのかわり、まるで返り討ちにでも遭うように。
部屋の中で遂げられた彼のお愉しみのいちぶしじゅうを、
息子も夫も、瞼の裏に灼(や)きつける羽目になったのだ。
あれよあれよという間に抱きすくめられて、首すじをガブリ!とやられてしまった母さんは、
あっという間にいちころだった。
気絶してうつ伏せに倒れた足許に男は這い寄って、母さんの脚を吸っていた。
肉づきのよいふくらはぎから、肌色のストッキングを咬み剥がれてゆくありさまを、父さんも僕も、息をつめて見守るだけだった。
そのあと男は、はぁはぁ息をはずませながら、まるで飢餓に苛まれた者がやっとご馳走にありつくような顔つきをして、
母さんの身に着けていたブラウスをはぎ取り、スカートをたくし上げて、コトに及んでいったのだ。
そんなこと――エッチなビデオのなかだけのことだと、思い込んでいたはずなのに。
こうこうと照り渡る灯りの下で、母さんの身の上にあからさまにおおいかぶさっていったのだ。
ひざ下まで脱がされたパンストを片脚だけ穿いたまま、
母さんはひと晩じゅう、男を相手に強制された浮気に夢中になっていった――
「家庭が崩壊するかと思ったわ」
大きな瞳で見つめられると、息子の僕ですらどきりとする。
けれどもそんなことには全然無自覚な母さんは、すぐに目線を転じて彼を見た。
「ところかまわず襲うのだけは、やめてくださいね。お部屋が汚れると、あとのお掃除がたいへんなの」
自分の血を吸った吸血鬼を相手にこともなげにそう言ってのける母さんは、すっかり主婦の顔に戻っていた。
初めての夜のあと、開けっ放しになった夫婦の寝室から、それとなく漏れてくる気配と声に、
失血で空っぽになりかけた頭のなかで、知覚と理性とを総動員させて、僕は全神経を集中させていた。
母さんは父さんのまえ、正座して俯いて、時々ハンカチで目許を拭っていたけれど。
父さんにいろいろと囁かれると、「わかった。じゃあ申し訳ないけどそうするわ」と言って・・・
あとは、父さんに肩を引き寄せられるままになっていた。
吸血鬼とのセックスは凝視してしまった僕だったけれど、ふたりのそのあとのことは視るのを遠慮して、スッと二階に上がっていくだけの理性を取り戻していた。
どうやら僕の家庭は崩壊しないで済むらしいことに、ひどく安堵を覚えながら、眠りに落ちていった。
父さんが、すべてを許すのと引き替えに、
母さんが当分うちに滞在するという吸血鬼の相手をすることを承諾したのを、二人の態度からあとで知った。
初めはもちろん、しぶしぶだった。
貧血で気絶してしまうことも、しょっちゅうだった。
けれども僕たちに対する男の態度は終始一貫友好的で、
寝室で母さんと接する時ですら、おおむね紳士的な態度を貫いていた。
もちろん、セックスの最中は、昂奮のあまり母さんのことを必要以上に虐げてしまうことはあったけれど・・・
気絶した母さんの身体にのしかかって、よそ行きのブラウスやワンピースにバラ色のしずくを撥ねかせながら母さんを襲っているときも。
流れる血潮を惜しむように、素肌の隅々にまで唇を這わせて、それは美味しそうに吸い取っていた。
もちろんそれは、母さんの素肌を愉しみたいという、卑猥な欲求の表れでもあったはずだけれど。
母さんの血を吸いあげるチュウチュウという音にさえ、好意がこもっているようにさえ聞こえた。
忌まわしいはずの音にさえ好意を感じることができたのは。
メインディッシュである母さんが襲われるまえ、僕たち親子が相手をして、したたかに血を吸い取られて理性を奪われてしまうせいもあったのだろうけれど。
正気の時でさえ、彼と気分よく接することができたのは。
きっと、そうした力ずく以外のなにかを、僕たちが感じることができるようになっていたから。
男ふたりは、彼の渇きを補完するため、母さんよりも先に血を吸われた。
僕たちがぶっ倒れてしまったあと、さいごに母さんのことを寝室にひき込んで、じっくりと料理してしまうのだ。
そのうちに母さんも、コツを覚えてしまったらしい。
毎晩気絶していたはずの母さんは、さいごまで目を開けたまま、男の相手を果たすようになった。
気絶したまま犯されてしまっていたのも、自覚しながらのセックスになっていったということでもあるけれど――
そういう生々しい表現を、息子の立場でしてしまうのはちょっと気が引ける程度には、僕の理性はまだ残されている。
自分の喪う血液の量が、なんとなくわかるようになった・・・あるとき洩らした母さんの呟きは、本音だったかもしれない。
相手が満足するだけの量の血を与えたうえで、自分の受けるダメージも限られるように。
彼女は自分の体内をめぐる血液を、相手に過不足なく摂取させることができるようになった。
それだけ、吸血鬼のあしらいに長けてしまった――ということなのだろう。
彼女は僕たちに栄養のバランスのとれた朝ご飯や晩ご飯を用意するように、彼にも好物を惜しげもなく愉しませることができるようになっていった。
相変わらず、よそ行きのスーツやワンピースを身に着けて、気前よくはぎ取らせてやりながら。
彼女はどこまでも堅実な主婦であり、賢夫人としての評判を崩すまいと振る舞ったのだ。
評判の賢夫人とうたわれた母さんは、家族と彼しかいないわが家でも、立派に賢夫人を演じつづけた。
「将来結婚するときには、母さんのような人を嫁にしなさい」
最近父さんは、そんなことをよく口にする。
たまたまそれを耳にした母さんは、「いやぁよぉ、そんなこと言ったら」と、柄にもなく照れていたけれど。
どうやら父さんにとって、それは本音らしかった。
「よかったら、父さんがいい娘を紹介してやろうか?」
思わず頷いていた僕は、明日お見合いをする。
きっと・・・我が家の秘密を知った家のお嬢さんで、我が家に棲み着いた客人をもてなすすべも、それとなくわきまえているのだろう。
彼女が提供できるのは、彼にとって究極の好物である、処女の生き血。
婚約期間は、見合い結婚としては異例なくらい、長引くに違いない。
そしてその娘が、晴れて僕の花嫁になったとき。
僕はきっと、言い含めてしまうのだろう。
「相手が満足するまで、お相手するように」
って――
武家の妻女の密通譚
2017年01月07日(Sat) 07:26:45
千丈(ちじょう)藩の若い家老である屋良瀬平太夫の妻女田鶴女(たづめ)が、使用人の甚助と太兵衛によって犯された。
田鶴女は恥辱のあまり自害を試みたが、夫の平太夫はそれを止めた。
田鶴女は手練れの年配男である両名にたらし込まれてしまい、以後は平太夫の目を盗んで両名を密会に及ぶようになった。
しかしこれは夫平太夫の内意であり、妻女は夫の内意を汲んで心ならずも武家の妻女の貞操を身分卑しき両名の自由にさせたのである。
平太夫は幼時より、両名のものと衆道(しゅどう、男色)の契りを結んでおり、
同じ藩の息女であった田鶴女との祝言の後は、新妻の肉体を両名に譲り渡す密約を交わしていた。
甚助と太兵衛の両名は、平太夫がお城に出仕した後を見はからい、田鶴女を納屋に誘い出すと、ためらう田鶴女から懐剣を奪い狼藉に及んだ。
武家の子女として厳しい訓育を受けた田鶴女であったが、その厳しい束縛を受任し続けてきた反動からか、
その初々しい肢体にあらゆる手練手管をしみ込まされるや、婦女として覚え込んではならない快楽にめざめてしまい、
ついに武家の妻女としての自制心を喪うに至った。
数か月を経ずして田鶴女は、夫の在宅中にも納屋への誘いに従うようになった。
夫が書見をしているすぐ向かいにある納屋で、両名による寵愛を代わる代わる、ないしは同時に受け容れ、婚家である屋良瀬家の家名を辱めた。
平太夫の母は存命であったが、嫁が使用人たちとくり返し冒す不義密通を咎めようとはしなかった。
自身も両名のものに凌辱を受け、これを日常的に受け容れてしまっていたため、嫁の不行儀を責めることができなかったのである。
嫁と姑はしばしば、平太夫の在宅にもかかわらず、自邸の納屋でいっしょに犯された。
甚助と太兵衛は「枕を並べて討ち死にでございますなあ」とからかいつつも、二人の婦女を愛してはばからず、
平太夫もまた、視て視ぬふりをして、身分ちがいの情交を妨げようとはしなかった。
すでに嗣子平之進を得ていたためである。
その後、御一新により武家は零落、屋良瀬家もその例外ではなかった。
しかし、暇を出された甚助と太兵衛はその後もかつての主家に出入りして、一家の糊口を養うに資を貢いだのである。
主家の零落とは反して、詳細を発揮した彼らは十分、裕福になっていたためである。
やがて平太夫は早世、平之進が家を嗣いだ。
とはいえ、すでに屋良瀬家には嗣ぐべき資産もなく、田鶴女は太兵衛に再嫁した。
甚助は妻帯していたが、太兵衛は長く寡夫だったためである。
太兵衛の「太」の一字は、先代の平太夫(早世した平太夫の父)から授かったものだったが、
彼は代々の主君の妻女の貞節を汚し、なおかつ若夫人であった田鶴女さえもその夫の死後にありがたく拝領したという仕儀となった。
太兵衛は田鶴女の夫となったものの、彼女を独占しようとはせず、甚助が田鶴女の肉体を目あてに家に通ってくるのを許した。
もともと両名は若いころより、互いの女房のもとに通い合い、通じ合っていた間柄であった。
御一新後も互いに事業を興した両名は仲の良い朋輩で、裕福になった後もこのように睦まじく暮らしたのである。
平太夫の忘れ形見である平之進は、太兵衛に養われて成長した。
母の田鶴女は太兵衛の家に入ったが、平之進はその後も屋良瀬の姓を捨てず、父のあとを継いだのである。
田鶴女の若いころからの素行からして、平之進の出生についても一応疑われるべきである。
しかし、田鶴女は息子について、「父上に生き写しです」と強弁をくり返していたし、強いて彼女の主張を覆そうと試みるものはなかった。
おそらく彼女の言い分は正しいのである。
平之進は祖母や母の不義密通の濡れ場を見て育ち、その影響は自らが旧主の息女幸姫(さちひめ)を娶った折露顕する。
彼は「親には孝養を尽くすもの、これは当家のしきたりである」と新妻に言い含め、甚助・太兵衛の両名に、初夜の新床を汚すことを許したからである。
花嫁は老いさらばえて節くれだった指でその玉の肌を冒され、
恥辱に歯を食いしばりながらも身分ちがいの一物を代わる代わる受け容れてゆき、忍耐強い婦女であることを自らの行いによって立証する。
卑賎の生れである両名は、ついには殿様の姫君とまで乳繰り合う栄誉に浴し、長く屋良瀬の家と行き来を続けたと伝えられている。
あとがき
しかつめらしい文言を使用してお話を描くと、不思議なエロさが漂いますね。 ^^;
少年の得た自由
2017年01月05日(Thu) 08:11:30
息子さんの血が旨いから、母親のあんたの血もきっと旨いぢゃろうて。
ぢゃからわしは、息子さんにお家にあがらせてもらったのぢゃよ・・・
野卑な言葉遣いもあらわに迫る老人のまえで怯える人妻は、まだぎりぎり三十代。
干からびた老人の体格と対をなすように、小ぎれいなワンピースに包まれた肢体の豊かさが、息子の目にもなまめかしい。
少年は母親を危難から救い出す努力も忘れて、
母親の白い首すじに牙が突き立ち真紅のしずくがしたたり落ちる光景を、
ただただ見惚けてしまっていた。
ボクのときよりも美味しそう・・・
見当違いな嫉妬に胸を焦がしながら、少年は自分の母親がみすみす生き血を吸い取られてゆくのを、ウットリとした目つきで見届けた。
じゅうたんの上、くたりと姿勢を崩した母親に、吸血鬼はなおものしかかり、容赦なく血潮をむさぼった。
「ひいぃ・・・」
しつけの厳しいお母さんの怯えた声に、不覚にも少年は失禁し、制服の紺の半ズボンの股間を濡らした。
気絶した母親の、ストッキングを穿いたふくらはぎに、男はねっとりと唇を吸いつけ、よだれを塗りつけてゆく。
正気であれば、決して受け容れることのできない恥辱のはずなのに。
生き血を味わわれてしまった女は悔しそうに歯を食いしばったまま気を喪って、男の思い通りに、薄手のナイロン生地をくしゃくしゃにされていった。
ストッキングの伝線をワンピースのすその奥にまで走らせた女は、股間に白く濁った粘液を吐き散らされたまま、白目を剥いてあお向けに横たわる。
その向こうで、こんどは少年が自分の番を待ち受けて、伸ばした首すじをすんなりと、差し伸べてゆく。
ずぶ・・・
さっき母親を咬んだのと同じ牙が自分の首すじに埋まるのを、少年は嬉しそうに受け入れた。
「ホラーじゃん」
ワイシャツに派手に飛び散った血のりを鏡で見ながら、少年は面白そうに笑った。
吸い取ったばかりの血潮を、わざとほとび散らせてくる吸血鬼の下で、シャワーを吹きかけられたときみたいに、思わずきゃあきゃあとはしゃいでしまった。
「きびしいお母さんも思い通りになっちゃったから、これからはおおっぴらに愉しめるね」
「そうだね。これからもよろしくね。吸血鬼さん」
少年は男の目あてを見透かすように、ずり落ちた紺のハイソックスをひざ小僧の下までピッチリと引き伸ばした。
「いつも学校に履いて行くハイソックスに穴をあけたら、お母さんに叱られるかな」
「どうだろ・・・」
ふくらはぎを咬ませながら、少年は横たわる母親を見た。
母親の穿いている肌色のストッキングは、男の欲情のままに、みるかげもなく咬み破られてしまっている。
「あのね、お願いがあるんだけど・・・」
「え?」
「母さんのこと襲うとき、ボクも部屋にいて構わないかな。邪魔したりしないから・・・」
少年の声色が妙に昂っているのを、男は聞き逃さない。
「父さんにも、ナイショにしておくから・・・」
「いい子だ」
男はそういうと、差し伸べられた足首をつかまえて、少年のふくらはぎをもう一度咬んだ。
血で濡れたハイソックスに生温かいシミが拡がるのを、少年は含み笑いをして受け流していく。
きっとこの子は、自分の母親が目のまえで犯されたことに、昂奮を感じてしまったのだろう。
「女と男が仲良くするようすを視ておくのは、大事なことだ」
「そうだよね・・・だいじなことなんだよね・・・」
少年は震え声で応じ、男に押し倒されるまま姿勢を崩した。
半ズボンを脱がされてあらわになった腰周りが、ドキドキするほど寒々しかった。
股間にめり込んでくる、剛(つよ)い一物は、さっき母を犯したもの。
おなじモノを体験してしまう禁断の歓びに、少年は理性を喪失した。
凌辱の愉しみに目ざめた少年は、自分を組み伏せている吸血鬼の背中に、ためらいながら腕をまわしていった。
管理人の囁き。(ごあいさつ)
2017年01月04日(Wed) 08:09:59
柏木です。今年もよろしくお願いします。
どうやら仕事はじめのまえは、すとれすがあっぷしてくるみたいです。
というわけで、久々に大量あっぷになりました。 (^^ゞ
「美味しすぎる残念賞」は、けさ。
「ベースキャンプ」と「路上で襲われたOL」は、年明けそうそう。
「究極のエロビデオ」は、昨年の年末ころの着想です。
どうにかまとまったので、まとめてあっぷしました。
愉しんでいただけたら嬉しいです。
(^^)
究極のエロビデオ
2017年01月04日(Wed) 08:04:18
「またこんなの隠し持って!!!」
夫のコレクションのエッチなビデオを手に、佐代子は潔癖に叫ぶ。
傍らでそれを見ていた男は、そっと佐代子に囁いた。
「どんなに気に入らないものでも、ご主人のものを勝手に捨てたりしたらいけませんよ。
私に好い考えがあります」
「アラ・・・どんな?」
夫と同じ男である来訪者の言にあまり期待しない口調で佐代子は言い捨てると、
「お紅茶淹れますね」
といって、席を起った。
ウェーブのかかったセミロングの栗色の髪が、軽くハミングをしながら遠ざかってゆく。
誘われるように、男も席を起った。
ポケットに手を入れてカメラを自分の映る方角に置き、足を速めて若い人妻との距離を縮める。
伸びた両手が背後から、佐代子の両肩を掴まえた。
「エッチなビデオ、全部捨てましたよ」
佐代子の夫は目を充血させて、男からの贈り物のDVDの光芒が支配する画面に見入っている。
「あんたがくれたこちらのほうが、グッと刺激的なので・・・ほかのものでは昂奮できなくなってしまいましたから」
「お気に召して、なによりでした」
「いえいえ、うちのほうこそ」
夫は初めて画面から目を離し、男に真正面からお辞儀をしてみせる。
「妻の生き血がお気に召して、なによりでした」
画面に映っているのは、押し倒されたじゅうたんのうえ、首すじを咬まれながら喘ぐ佐代子の姿。
「あ、ちょっと待って――いいところなんで」
夫はふたたび、DVDの画面に目をくぎ付けにする。
画面のなかの佐代子は、着ていた花柄のワンピースのすそに手を突っ込まれ、しわくちゃにされてたくし上げられていく。
「女の血を吸うときって、いつもこんな感じなんですか」
画面に目を離さず、虚ろな声で夫が呟く。
「エエ。もちろんそうですよ――礼儀としてね」
「そうですよね。あくまで礼儀上・・・ですよね・・・?」
「エエ、あくまで礼儀です」
「じゃあどうぞ。妻が貴男のことを待ってますから」
画面のなかで悶える妻に、夫は昂奮して視線を食い入らせる。
妻は夫のいやらしい趣味に、終止符を打たせることに成功する。
吸血鬼は悩める人妻を征服に成功し、平和裏に欲望を成就させる。
三人が三人とも、おいしい想いをする。
それを、三方一両得と呼んだとか呼ばなかったとか。
路上で襲われたOL
2017年01月04日(Wed) 08:00:30
路上をつんざく悲鳴の主は、勤め帰りのOLだった。
街をふらつく吸血鬼の、恰好の餌食になったのだ。
ウフフフ・・・いい子だ。おとなしくおし。
男はOLを道ばたに追い詰めて抱きすくめ、首すじにクチュッと唇を吸いつけた。
ちゅうっ・・・
自分の血を吸いあげられる音にOLはビクッと身をすくませて、それきり大人しくなっていた。
あんた、処女だね?血が美味しいね。
そんな囁きを耳にしたときにはもう、気づかないうちに路上にあお向けになっていた。
男はなおも首すじから唇を離そうとせず、うら若い血をチュウチュウと、それは美味しそうに吸い取ってゆく。
頭がくらっとしてきた。
貧血が、身体のすみずみまでをけだるくして、忌まわしい唇から肌を遮ろうとする努力を衰えさせてゆく。
いけない。いけない・・・このままじゃ、血を全部吸い尽されてしまう!
女は焦り、恐怖し、嫌悪しながらも、男の好意を遮るすべを喪っていった――
数分後。
路上に静かに横たわる女は、ただ従順に、男の渇きを満たすため、わが身をめぐる血液を提供しつづけていた。
吸血鬼に襲われてモノにされてしまった女は、求められるまま血を吸い取られる義務を負う。
どうやらそれは、この街の暗黙のルールらしい。
ふたたび目ざめたとき、女は自分の生命がまだ尽きていないことを訝しんだけれど。
男は顔をあげ身を起こして、女を立たせ、服に着いた泥をはたき落としていた。
「感謝する。あんたのおかげで、生きのびることができそうだ」
「死にたくないッ!」
いまさらのように叫ぶ女に、男はいった。
「俺もまったく、同感なんだ」
ふたりはしばしの間、お互いをにらみつけるようにして、見つめ合った。
「・・・そういうことなんですね」
「・・・そういうことなんですよ」
クスッと笑おうとして、眩暈にそれを遮られた。
男はとっさに、女を支えた。
「家まで送ろう」
「いいわ。送り狼になってほしくない」
「あんたの家は、見当がついている」
「え・・・?」
「血を吸っている間に、大概のことはわかってしまうんでね」
そういうものなのか・・・女はぼう然として男を見つめ、いつの間にか自分が住んでいるアパートの玄関の前に佇んでいるのに気づいた。
「あがってください」
「そのほうが賢明だ」
男はそういうと、勝手知ったる我が家のように彼女の家に上がり込み、どこから取り出したのか、ビニールシートをだだっ広い洋間に敷いた。
「この上に寝るとよい」
女は自分の着ているスーツが血浸しになっているのに、やっと気づいた。
「部屋が汚れるからね」
男はそういいながら、女の服をはぎ取ってゆく。
「悪いが、きょうのかけっこの賞品がわりにいただいておくよ」
男は女の裸体を自分の視線からさえぎるために、またもどこから取り出したのか、大きな布を女の身体の上に被せた。
びろーどのようなしんなりとした感触が、女の旨の奥にかすかな安堵をもたらした。
「今夜はこのまま、寝てしまうがいい。明日はどうせ休日で、デートの予定もないのだろう?」
図星を刺されて女はひと言、「ばか!出ていって」と言った。
懇切な介抱のお礼に罵り言葉をもらった男は肩をすくめ、それでも言われたとおりに部屋から出ていった。
純潔までも奪われることがなかったことに安堵を覚えながら、女は眠りに落ちていった。
「また来たのね?」
「俺は死にたくない」
「私も死にたくない」
「同意できるか?」
女はかぶりを振って、後ろを向いて駆け出した。
着地点は、街はずれの公園だった。
「格好の場所だね」
「ばか」
女は組み敷かれながらも、立膝をして抵抗した。
それでも、首すじを咬まれるのを防ぐことは、できなかった。
「ごほうびをいただくよ」
この前の夜と同じように、男はストッキングを穿いた女の脚に唇を這わていった。
薄いナイロン生地の舌触りを愉しむように、なんども舌をぬめらせると。
悔しそうに顔をゆがめる女の目の前で、これ見よがしにストッキングを咬み破り、脚線美を牙で侵してゆく――
「ストッキング、お好きなの?」
「ああ」
応えもそこそこに、男がまだ自分の足許に執着しているのを見つめながら、女はいった。
「今度の夜、また穿いてきてあげる」
「ありがとう。こんどはアダルトな黒を期待しているよ」
女はいつものように、「ばか」とだけ、いった。
ベースキャンプ
2017年01月04日(Wed) 07:29:11
何年ぶりかで、血を吸われた。
都会に出てきてからは、無縁の悦楽だった。
封印していたはずの快感が身体のすみずみにまで行きわたって、
終わるころにはもう、自分から身体を離すことができないまでになっていた。
相手は幼なじみのリョウタ。
もちろん同性である。
身を起こす間際にもう一度、首すじに這わされた強烈な口づけに、思わずときめいてしまっていた。
これからしばらく、きみのところをぼく達のベースキャンプにさせてもらうよ。
一方的な言いぐさに、すぐに頷いてしまっている。
「妻は巻き込みたくないな。何も知らないんだ」
「そうか」
リョウタは案外と素直にそういうと、
「無理強いはしないから」
と、あまりあてにならない約束をしてくれた。
約束はむろん、その晩のうちに破られた。
泊めるだけで構わないといわれ、三人分の布団を急きょ母の家から調達した妻は、
それでも来客への心遣いなのか、綺麗にお化粧をし、よそ行きのスーツまで着込んでいた。
もちろん、幼なじみたちの、絶好の餌になってしまった。
死に化粧とならなかっただけ、マシと思わなければならなかった。
過去にはそうした時代もあったのだと、親たちから聞かされてはいたけれど。
吸血鬼と共存するようになって久しいこのごろでは、血を吸われて死ぬということは、絶えて聞いたことがなかった。
「ちょっとたばこを買ってくる」
そういって外出した十数分のあいだに、妻はあっけなく、狩られてしまっていた。
血を吸い取られ輪姦を受け、洗脳されてしまった妻は。
客人たちの世話を頼むというわたしに、ホッとしたように最敬礼する。
都会の女を狩りに来た吸血鬼たちは、あの街の出身者の家をベースキャンプに指定する。
居合わせた妻や娘は否応なく、血液を提供することを強いられて、
夫や父親たちは、彼らの滞在中妻や娘をその支配下にゆだねることに同意させられる。
「無理強いはしないから」
という彼の約束が正しかったことを、ぼく達夫婦は、自分たちから証明してやることにした。
好奇心にとりつかれて、血を吸われてみたいとせがむ妻の願いをかなえるため、
夫に依頼された彼らは、妻をウットリさせてくれたのだった。
ぼくはぼくで、久しぶりにやって来た彼らにせめてものもてなしをするために、
たばこを買うのにかこつけて、妻を襲うための時間を作ってやったことにした。
もしかすると、ほんとうにそうだったのかもしれないと、あとで思った。
血に飢えた彼らのため、ぼくはうら若い人妻の生き血を毎晩、捧げることに同意した。
出勤するわたしを見送る妻は、よそ行きのワンピース姿。
このあとすぐに、彼らへの餌として惜しげもなく破かせてしまうのだろう。
それだのにウキウキしている妻は、いままでとは別人だった。
吸血鬼のベースキャンプ。
その家に住まう主婦は、獲物のないときの客人に、自らを獲物として差し出してゆく――
美味しすぎる残念賞
2017年01月04日(Wed) 06:42:27
夜道をパタパタと駈け去る足音がきこえた。
足音の主の後ろ姿を見送る男は、追いかけることもできず、立っていることもおぼつかないようすで、
薄ぼんやりと佇んで、その後ろ姿を見送っていた。
逃げられちゃったね。
イタズラっぽい声が、男の背後でクスッと笑う。
振り向くとそこには、真冬には珍しい半ズボン姿の少年。
首すじには、彼がつけた咬み痕が、まだくっきりと浮いている。
「我慢し過ぎたみたいだ」
男が本来の能力を発揮できなかったのは、人から血を吸い取るという行為を、遠慮し過ぎたためらしい。
「ぼくのせいかな」
「そうかもね」
「じゃあ、お礼をしなくちゃね。今夜のヒロインに逃げられちゃった残念賞をあげるから」
少年はこともなげにそういうと、「ついてきて」とだけ、みじかくいった。
「そのまえに」
後ろにまわり込んだ吸血鬼が自分の足許にかがみ込むのを気配で察すると、
少年は傍らの電柱に身体をもたれかけ、ハイソックスを履いた脚をピンと伸ばした。
ねっとりと吸いつけられる唇に力が込められて、
口の両端から覗いた牙が、しなやかなナイロン生地ごしにズブリと刺し込まれるのを、少年は感じた。
ドアの開かれた家のなかは、暖かだった。
「連れてきちゃった」
少年の背後にいるのが吸血鬼と知りながら、お母さんは、やはり首すじに咬み痕をつけられてしまっている。
「まあ、まあ」
お母さんはまるで少年の友だちを家にあげるような気やすさで、男をリビングへと招き入れた。
「あれ、いらしたの?」
少年の妹が、ギョッとしたように男を見つめ、そして兄のことを軽く睨んだ。
「おや、みえられたの?」
少年の父は、困ったような笑みを泛べ、それでも起ちあがると男を手招きして、自分の座っていたソファをすすめた。
「んもう!おニューのハイソックスおろした日に限って、来るんだからっ」
少女は案内した自分の勉強部屋のすみに追い詰められながら、男に首すじを差し伸べていた。
抱きすくめられて圧しつけられた唇から、チュウッという音が露骨に響いた。
半開きになったドアの向こう、お兄ちゃんが息をつめて、妹の受難を見守っている。
いけない趣味だ、と、少女は思ったけれど。
あえてドアを閉めることも、悲鳴をこらえることもしなかった。
「ああああああっ・・・」
息のはぜる音を交えながら、少女の呻きは随喜の色を深めていった。
「お父さん、たばこ買いに行っちゃった」
いつの間にかよそ行きのワンピースに着替えたお母さんに、吸血鬼はものも言わずに迫っていって。
リビングの外の廊下から覗いている視線を意識しながらも、お母さんは首すじに吸いつけられてくる唇を、避けようとはしなかった。
さっき、まな娘の生き血を吸い取ったばかりの唇が熱く押し当てられるのを、お母さんは息をはずませて受けとめる。
男は、お母さん以上に息を荒げて、迫ってきた。
数分後。
じゅうたんの上にうつ伏せになって倒れたお母さんに男が馬乗りになって、スカートの奥に熱情こめてなにかを発散してゆくのを、
少年はやはり、息をつめて見守りつづけていた。
半ズボンの股間がテントのように張りつめているのを見たものは、だれもいない。
「逃げたらダメだって、彼に言われた」
ぶっきら棒にそう呟いて、男を睨むように見つめたのは、あの日後ろ姿をみせた少女。
傍らにいる少年は、やはり半ズボン姿で、少女をかばうように佇んでいた。
四人家族全員の血液を吸い取って、すっかり精力を取り戻した男は、自信満々、雪辱戦を挑もうとしていた。
「まさか、あのときのわしの失敗を取り替えそうとして、この娘とつきあうようになったわけじゃあるまいな?」
念を押すような口調で間抜けな質問をする男を、少年は軽く笑っていなした。
「でも、あのときのことが話題になったのがきっかけになったのは、確かだよ。感謝のしるしに、こうして連れてきてやったんだからね」
「あたしも、咬まれてみたくなった」
少女の声色には、少年に教え込まれた通りを棒読みするようなぎごちなさがあった。
「残念賞だけじゃなくって、優勝も獲得できちゃったようだね」
少年はあくまでも、父親よりも年上のその男をからかうことをやめようとしない。
数分後。
じゅうたんのように綺麗に刈りそろえられた芝生のうえ、少女は仰向けに倒れていた。
首すじにはまだ、男のしつような唇が貼りつけられている。
キュウキュウと露骨な音をたてて、少女の血が吸い取られてゆくのを、少年は愉しそうに見守った。
「この子の血、美味しい?」
「処女だな、この子は」
「ウフフ。気に入ってくれて、よかった」
少年は満足そうに白い歯をみせ、爽やかに笑う。
好んで人をつかまえて血を吸う本能を備えてしまった男と。
好んで身内を逢わせ、血を吸わせる歓びに目ざめてしまった少年。
少年の目の前で愉悦をあらわにすることを覚えてしまった少女は、ふたりを少しでも愉しませようと、悩ましいうめき声を洩らしつづける。
姫はじめ。
2017年01月02日(Mon) 06:09:14
訪客を報せるインターホンに出た嫁の初美が戻ってくると、おずおずとしながら訪客の来意を告げた。
「あの・・・姫はじめだそうです」
「あら。あら」
とにこやかに応じるのは、なん十年も連れ添ったわたしの妻。
「なん人いらしたの」
妻の問いに、嫁は答える。
「3、4人いらしているみたいです」
「まあ、まあ」
妻は面白そうに相槌を打って、腰かけていたソファからそそくさと起ちあがる。
「じゃあ、女性軍みんなで、お相手しなくちゃね」
そうして妻は、わたしや息子、居合わせた妹夫婦までも見回して。
「吸血鬼さんが、大勢いらしたわよ。姫はじめをなさりたいそうよ。うちのおなご衆、総動員ですよ」
あがり込んできたのは、だれもが顔見知り。
それは隣のご主人だったり、息子の幼なじみだったり、彼らの妻の交際相手だったりする。
そしてひとりとして、自分の妻を吸われていないものはいない。
幸いにして家族全員がその身に血液を宿しているわたしたちの義務は、彼らのために女の生き血を提供すること。
わたしたちは素知らぬ顔をしてリビングに戻り、女たちは全員、隣室の客間にかしこまって、男たちを出迎える。
きゃあ・・・。
あれえ・・・っ。
女たちの短い悲鳴は、聞こえなかったふりをするのがルール。
自分の妻の声を聞かされる男どもはいたたまれなくなり、一人また一人と、自室へと消えてゆく。
都会から新年のあいさつに来た娘婿は、宿泊のためにあてがった二階に上がりかけ、
ちょっとだけためらってから戻って来て、
吸血の行われている部屋のまえに立つと、ひっそりとふすまを細目に開ける。
この街に生まれ育ったわけでもないのに、もの分かりのいい男だった。
注意してみると、娘婿とは反対側のふすまも、そっと細目に開いている。
ふすまの裏側では、立膝でしゃがみこんでいる息子が、ジリジリとした視線をそそぎ込んでいる。
息子の視線の彼方にあるのは、さっきまで小さくなってしゃちこばっていた新妻の初美。
去年の秋に、結婚したばかりだった。
この街で祝言をあげれば、娶った妻はたちまち吸血鬼の餌食になって、あげくの果ては寝取られてしまう。
そんなしきたりを知りながらも、この街での挙式を選択した息子。
他所から嫁いでいた女の血で、幼なじみたちの喉の渇きを助けてやりたい。
そんな殊勝な言葉の裏に、寝取られる歓びに目ざめてしまったものの“渇き”を感じてしまったのは。
父親のわたしが、そうした嗜好を息子と共有していたからだろう。
遺伝をもたらしてしまったのかと悩むわたしに、心優しい嫁は健気に、息子やわたしたちの嗜好を受け容れると囁いてくれた。
もしかすると妻同様、不倫の愉しみに目ざめてしまっただけかもしれなかったけれど。
いまは息子同様、妻たちには頭が上がらないでいる。
獲物を取り換え合って、情痴に耽る吸血鬼の下にいるのは、母親や新妻、それに妹――
こんな状況に感じることができるのは、いまはこの街では羨望を呼ぶ徳目になりつつあった。
「終わりましたよ」
何事も起こらなかったような顔をして、部屋から出てきた妻は。
ほつれた髪をさりげなく整えて、家事に戻っていく。
いずれも妻同様、スカートの裏を濡らした娘と嫁とを公平に指図して、
今夜のお雑煮の用意に、取りかかっていった。